ヨーソローファイトでアイしてる (『シュウヤ』)
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ヨーソローファイトでアイしてる

とある部屋に、三人の女子高生が集っていた。

「私達はスクールアイドルなんだよ!」

バンッと机を叩いたのは穂乃果。

「えーっと……うん、そうだよね」

面倒事に巻き込まれる未来しか見えなかったが、目の前で熱く発言されれば曜は無視する訳にもいかない。

「おっと、何事?」

愛は逆に、楽しそうな匂いを嗅ぎつける。ガタガタと座っていた椅子を近付け、机に身を乗り出す。

「スクールアイドルなんだから、スクールなアイドルしないとだよ!」

「……何、スクールなアイドルって……」

「さあ?」

「いや、自分の発言には責任持ってよ……」

「いやー、愛さん的には分かるよ? 最近愛さんアイ活できてないもん。あいだけに!」

「おお、愛ちゃん流石のダジャレ!」

「それで、穂乃果ちゃんはどうしたいの? スクールアイドルの活動をしたいって事?」

このままでは話が進まないと察した曜は、無理矢理話題を戻す。

「そうだよ! いきなりライブとは言わないけど、何かやろうよ! せっかく三人いるんだし!」

「あ、もう巻き込まれてるんだ私……」

薄々分かってはいたが、当然のように人数にカウントされた事実を認識する曜。

「とは言っても、ここでできる事は限られてるんだしシュミレーションでもしようじゃない。スクールアイドルは、趣味なんだし!」

「おおっ、愛ちゃんいい事言う〜!」

さり気なく放り込まれたダジャレはスルーして、曜は腕を組む。

「でもシュミレーションって言っても、何ができるの? ダンスとかなら、普段の練習でもやってるよね」

「いや〜、ここはやっぱり、MCだと愛さん思うワケよ。え、無視できないよね?」

「なるほどなるほど! じゃあせっかく三人いるんだし、それぞれの思うMCをシュミレーションしてみようよ!」

こうなった穂乃果が止められない事は、曜でも知っている。

「まあでも、μ'sを作ったリーダーなんだし、ちゃんと考えてるよね……」

曜が自分の考えが甘いと悟るのは、数分後である。

 

 

 

 

「くぅ……っ、凄い風だよ……!」

「雪も凄いし……かなりの吹雪だよ!」

「愛さん達、遭難しちゃった感じ?」

「でも、諦めちゃダメだよ! どんなに苦しくても、諦めなければ必ず道は拓けるから!」

「でももう、全然前も見えないよ……。こんな時期に、雪山に登らない方が良かったんだよ!」

「そんな事ない! 限界まで自分を追い込むからこそ、新しい自分と出会えるんだよ!」

「こう寒いと、愛さんのダジャレでも暖まるのはちょーっと厳しいかも……。凍るど、みたいな?」

「さあ、曜ちゃんに愛ちゃん! これを持って!」

「これって……シャベル?」

「これで何するの?」

「作るんだよ! ここで寝泊まりする為には、家が必要でしょ?」

「でも、こんなシャベル一本じゃ何も……」

「そんな事ない!」

「⁉︎」

「穂乃果達のライブを楽しみにしててくれる人がいるなら、こんな所で立ち止まってる場合じゃないんだよ! 穂乃果達は行かなくちゃいけない! だから作ろう! カマクラを!」

「穂乃果ちゃん……」

「そうと決まったら、早速やりますか」

「え、愛ちゃん?」

「ほのほのの言う通りっしょ。こんな寒さにアタシらが負けちゃったら、ファンの人を楽しませるなんてできないでしょ?」

「た、確かに……。よし、やろう! 協力してカマクラを作って、最高のライブにしよう!」

「「「おーっ!」」」

 

 

 

 

「……っていうのはどうかな!」

「何だったの今の……」

ドヤッ。と謎の自信顔を向けてくる穂乃果に、シュミレーションに付き合った曜は若干疲弊。

「“雪山で遭難しても諦めずに、最高のライブをする為に頑張る!”っていう感じ」

「もうMCですらなかったような……」

ツッコミ所すら分からない穂乃果のアイデアに、曜はコメントをする気にもならない。

「そうかなぁ、アタシは結構好きだったけど?」

愛は椅子を揺らしながら、ニカッと笑顔を向ける。

「あくまでシュミレーションなんだし、深く考えなくていいんだってば。どんな困難が襲って来ても諦めないって心意気が伝わって来たじゃん?」

「それは、そうかも……」

うまく丸め込まれた気はするが、反論は論破されてしまったので矛を引っ込めるしかない。

「じゃ、次はアタシかね〜」

愛は勢いつけて立ち上がると、自信に溢れた笑顔。

「愛さん的には、やっぱりMCって曲と曲の繋ぎでしょ? 一番意識するのはそこじゃないかなって思うんだよね」

「おお、凄くそれっぽい!」

 

 

 

 

「はーいみんな〜、聴いてくれてありがと〜! ここからは、愛さんお得意のダジャレ百連発、行っちゃうよ〜!」

 

 

 

 

「うん、ちょっと待ってね」

すぐに、曜からストップがかかった。

「ちょいと、まだ一つも言ってないよ?」

「いやいや、愛ちゃんさっき自分で“MCは曲と曲の繋ぎ”って言ったよね?」

「うん、そうだよ」

「ダジャレを言うにしても、百個は多くない?」

どんなベースで言うのかは分からないが、明らかに一曲よりも長い時間を使いそうだ。

「はいはい! 穂乃果もダジャレなら知ってるよ!」

「穂乃果ちゃん、話がややこしくなるからちょっと静かにしてて欲しいな?」

そんなお願いを聞き入れる穂乃果ではない。

「布団が吹っ飛んだ!」

素晴らしいテンプレ。

「そんな誰でも知ってるような……」

「いいね!」

「いいの⁉︎」

グッと親指を立てた愛は、

「奇をてらったダジャレよりも、シンプルな方が意外とウケが良かったりするんだって! いや〜、ほのほのはダジャレの本質を良く分かってるよ!」

「ホントに? 嬉しい!」

謎の意気投合からの握手を交わす二人を傍観しながら、

「……何だろう、もう私じゃ止められる気がしないよ……」

心でホロリと涙を流す曜。

「ねえ、曜ちゃんは?」

「へ?」

「曜ちゃんは何か、持ちダジャレ無いの?」

「何その、持ち芸みたいな言い方……。それに穂乃果ちゃんのは、持ちダジャレって言っていいの……?」

「ねー無いのー?」

「あ、これ話通じないヤツだ……」

曜は何かを諦めながら、

「えーっと……そう言われても、咄嗟にうまいダジャレなんて思い付かないよ……。えーっと、えーっと………………」

曜はしばらく悩むと、不意に閃いた様子で、

「アルミ缶の上にあるミカン!」

沈黙。

騒がしかった部屋が、一瞬静寂に包まれる。

「い、今のナシ!」

慌てて発言を撤回しようとするが、

「ふーむ、確か曜ちゃんってミカンが大好きなんだよね?」

「つまり、自分の好物をアピールしつつ、テンプレを守りながら繰り出された高度なダジャレという事か……。これは愛さん、一本取られた!」

二人はアホな解釈を始めてしまう。

「それはもういいから!」

失言を真面目に拾われてしまい、曜は顔を真っ赤にしてワタワタ手を振る。

「よーし、じゃあ今のアイデアを基にして次のMCをやってみよう! きっと大成功間違いなしだよ!」

「愛さん十八番のダジャレは、本番まで温存しておきますか〜。あ、どうせならアタシも好物のぬか漬けをアピールしようかな? おばあちゃんをステージに呼んじゃうとか、面白そうじゃん!」

「特別ゲストってヤツだね! 愛ちゃんナイスアイデア!」

羞恥の曜など放置し、どんどん話を進める穂乃果と愛。

「…………よ、よーし、こうなったら、もうどうにでもなれだよ!」

色々諦めて開き直ったのか、曜は立ち上がると拳を握った。

「私も二人みたいに、全力ではしゃいでMCやるよ!」

「おおっ、その意気だよ曜ちゃん! そうと決まったら、早速相談に行こう!」

穂乃果は勢いよく部屋のドアを開け放つと、廊下を駆け出した。曜と愛もすぐ後ろに続く。

「ファイトだよっ!」

 

 

「ヨーソロー!」

 

 

「アイしてるー!」

 

 

 

 

 

 

 

その後、三人の考えたMC案は、

「馬鹿なんですか?」

海未に一蹴されたとか。



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