とある少女の救済神話 【完結】 (カリーシュ)
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裏ルート:一章 最弱の魔法少女
裏ルート:第1話


―見滝原市

 

sideキュゥべえ

 

「……確かに、それだけの『因果』がある存在なら、一度で十分なエネルギーが確保出来るね」

 

 

とあるビルの屋上―

 

他の個体からの『連絡』―異常に高い魔法少女の素質を持った少女を発見した、と言う内容が共有される。

不幸な事にその少女を確認した個体は殺されたようで、距離の関係で、巴マミからグリーフシードを回収する役割を担っていたボクが次の観測手として指定された。

 

「この町は『ワルプルギスの夜』の進行ルート上にある。 その少女に対する情報が少ないのは問題だけれど、一般的な第二次性徴期の少女の感性なら簡単に誘導出来、る……」

 

『連絡』している最中だというのに、それを途絶えさせる程の異常な光景が目に入る。

 

 

 

 

 

 

――星が(・・)堕ちてきていた(・・・・・・・)

 

 

 

 

―『上位存在』の計算では、この惑星に堕星が起きるのは数百年後の筈―

 

 

計算違い? あり得ない。

 

急な軌道変化? 可能性は少ない。

 

 

「…ま、関係無いか。 この惑星が滅んだとしても、精神疾患を患(感情を持)った種族は他にも存在する」

 

わざわざこの惑星を守ることで消費するエネルギーを考慮すれば、行動を起こす事は無駄にしかならない。

 

先ほど確認された『鹿目まどか』を利用するにしても、計測可能な限りでの落下速度を考慮すれば、時間が足りない。

 

ならばボクらがすべき事は、あの星の観測でしかない。

 

 

 

 

 

 

 

――観測すればする程、異常な隕石だった。

 

「……直径、質量、共に非常に小さい。 だと言うのに、大気圏で燃え尽きない……?」

 

既存の科学的視点から、『未確認物質』の可能性が発生する。

 

他の個体との視覚共通を利用して、『上位存在』にデータを転送――

 

 

「―いや速過ぎないかい?!」

 

 

さっきまでは夜空の点だったのに対して、今ではハッキリとした落下地点を計算が可能な程接近している。

 

ちなみに計算結果は―

 

ここ(見滝原市)。 しかも、丁度このビル。

 

発生する被害は、速度が光速を超えている時点で計算不可能()

 

こうしている間にも、さらに近づいて…………?

 

 

「……卵?」

 

 

肉眼での視認が可能な程接近した事で、明確な形状を観察することが出来る。

 

その形状は正しく、楕円形の、卵のような形だった。

 

 

 

 

 

 

―ズガァァァァァァァァァァァァァアアアン!!!

 

 

 

「キュっっ!?!?」

 

その『卵』が、ボクがいるビルの屋上に着弾した。

爆発音や衝撃波が周りにある物を薙ぎ払い、鉄筋コンクリートに深いヒビを刻む。

 

―が、それだけ(・・・・)だ。 想定していたような大破壊は起きない。

 

 

 

「………一体、何がどうなっているんだい? 訳が分からないよ」

 

コロンブスの卵のように、少し斜めってこそいるが直立する物体に近づく。 どういった原理なのか、空気熱から計算すれば、その物体の表面温度は非常に低かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――この時、もし、『ソレ』に近づかなければ――

良くも悪くも、未来は大きく変わっていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故なら、『ソレ』の中身は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボク達ですら知ることが出来なかった、外宇宙からの異物だったのだから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ピ、シ

 

「……キュ?」

 

物体の表面に、一筋のヒビが入る。

それに続き、滑らかだった表面が、部分的に、線状に凹み―

 

 

ピシピシピシピシピシピシピシピシピシピシピシピシピシピシッッッ

 

 

―まるで、翼で包んだような形に変わり―

 

 

 

―ズ、ズズズ―

 

 

 

 

 

ゆっくりと、『殻』がズレる。

 

『殻』は、正しく『翼』で、内包されていた『ソレ』が、確認出来る様になる。

 

 

 

 

 

深い緑色の髪。

 

病的なまでに白い肌。

 

黒いワンピース。

 

第二次性徴期前の小学生の様な華奢な体型。

 

 

 

地球人の少女に似た外見の『ソレ』が、膝を折り、丸まった状態で現れる。

殻は、ある程度縮小―それでも数メートルある―して、骨を組み合わせた様な翼として、『ソレ』の背中から生えていた。

 

 

「……一体、これは………?」

 

 

恐る恐る、2、3歩近づく。

瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【―ォォォォオオアAAアアアアアアアァァァaァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァaァァァァァァァァァァァァaァァァァァァaaァァァaァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアAァァァaァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアAアアアアアアアアアアAAアアアアアAアアアアアアアアアアアAアアアアァァァアアアアAアアアアアアアアアアアアアアアaァァァァァァaァァァァァァァァァAAAAAアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ソレ』が咆哮する。

丸まった両足は勢いよくビルを蹴りつけヒビを致命的なモノにし、腕を翼を、盃の様に広げて。

 

 

……一頻り咆哮した『ソレ』は、腕をダランと垂らし、翼は虚しく空を掻く。

 

ゆっくりと、けれどハッキリと開かれた瞳は、深海の様に蒼く、黒く、碧く―

 

 

 

 

 

 

 

――一条の光すら無いほど、濁った瞳だった。

 

 

 

 

 

 

 

あの『目』は、見たことがある。

 

魔法少女が魔女に変わる寸前。

 

ソウルジェムが、グリーフシードへと切り替わる直前の――それを更に酷くしたもの。

 

 

更に、ボクらに付随された能力が、ハッキリとした結果を出す。

 

――魔法少女としての高い適性。 それも、『鹿目まどか』すら超えるほどの。

 

優先順位が切り替わる。

 

目の前の『コレ』を魔法少女にして、これ程までの『絶望』のエネルギーを回収出来れば、それだけでノルマを軽々と上回る程のエネルギーを入手出来る。

 

そうと決まれば、先ずは相手を探らないと。

 

 

「……君は、一体――?」

 

【…………………aa?】

 

 

濁った瞳が、ボクを見据える。

 

何故か、それだけで、

 

 

【…………………キュゥべえ?」

 

「?!?!」

 

 

瞳に、光が射した。

深海の様な色の瞳はそのままに、歳相応の『目』でボクを見つめ返してくる。

 

「……て事は、ここはまどマギんトコか。 つかビルヤバ。 どーなっとるんコレ?」

 

どーなっとるん? はボクの台詞だ。

 

翼を何度かはためかせ、細かな砂利を払う様な仕草をしたあと、ビルの縁まで歩いて行く。

 

 

――ボクが『キュゥべえ』だと知っている以上、恐らく魔法少女のシステムを知っているだろう。 問題はどこまでかということだk

 

「おーいそこの詐欺師の鑑」

 

「全部知ってるって台詞だよね、それ」

 

「? ま、いいや。 ここどこだい?」

 

……明確に狙って落ちて来た訳じゃなさそうだね。

 

「……ここは地球、日本の見滝原市。 と言ってもキミに意味が理解出来r―

……あれ?」

 

一瞬目を離したら、消えていた。

慌てて少女の立っていた縁から下を覗くと―

 

 

 

―ガシッ

 

 

 

……がしっ?

 

「はい確保ー」

 

「………え? 飛ん、えぇぇ!?!」

 

翼を羽ばたかせて飛んでいた。

その形状(骨の塊)でどうやって揚力を得ているんだい!?

 

「気合と根性とその他諸々」

 

「アバウト過ぎる!?」

 

「―ところでキュゥべえや?」

 

ボクを両手でしっかりホールドしたまま、更に上昇する。

 

少女の態度と行動に、感情が存在しないハズのボクの中に、漠然とした嫌なモノ(不安)が広がる。

 

 

 

 

 

「―絶叫系、特にフリーフォールって好きかい?」

 

「……………はい?」

 

言うが早いが、ゴゥッッ!! と凄まじい音を立てながら急降下……っ!?!?

 

 

「シ○キ・ウ○ゥンドゥの目がぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

「それ絶対駄目なヤツぅぅぅぅぅ!? ていうかそれ言いたかっただけだよね!?!?」

 

しかもこれの何処がフリーフォール(自由落下)?! 思いっきり地表に向けて羽ばたいてるよね!?!?

 

「ボケーっとしてると舌噛むぞー」

 

「はぃっっイダァ!?!?」

 

今度は急上昇。 まるで向きだけ180度変えた様に急に切り替わった所為で、思いっきり舌を噛んでしまう。

 

「か・ら・の〜――

急降下ぁっ!!!」

 

「ぎゅっぶいぃぃぃぃぃぃぃ!?!?」

 

今度は螺旋状に回りながらの急降下ぁ――

もう辞めてぇ……!

 

「フハハハハハ! あなたが吐くまでっ! タ○テラごっこを辞めない!

逝くぞ〜、急・上・昇!!」

 

「きゅっぷいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー、楽しかった!」

 

「」

 

……ボクが解放されたのは、あれから10分後の事だった。

人間で言う半規管と前庭に相当する部分を思いっきり揺さぶられ、けれど取り込んだ物体と言えばグリーフシードくらいしか無く、それが原因で戻すことも出来ず、失神してようやく止まったらしい。

 

けれど、未だその犯人はボクの腹部の下にいる。

……正確に言えば、ボクが彼女の頭上に乗せられている、だけど。

 

「……ね、ねぇ、キミ。 一体何の為にあんな事を―」

 

「へ? さっきキュゥべえ答え言ってたジャン」

 

「ホントにさっきの台詞を言いたいが為にボクは巻き込まれたのかい!?」

 

「いや、絶叫系なんだから悲鳴を上げてくれるいけn、じゃ無くて客がいないと」

 

「今完全に生贄って言いかけたよね?!」

 

「気にするな!」

 

「気にするよぉぉぉ!?」

 

アハハハハハ(・・・・・・)、と歳相応の笑い声を上げて、深夜の街を歩く。

 

こんな外見の少女がこんな時間帯に歩けば、当然下心のある人間が近づいてくるのは当然―

 

「ねぇk

『ドゴォッッ!!』

―っっ???!!?」

 

 

………当然なんだけど、こっちの方が異常者だったね。

 

「話しかけられた瞬間に股間に向かって蹴り上げは酷いと思うよ?」

 

「一撃で昇天させたんだから、まだ慈悲深い方ジャン」

 

「まぁ、確かに一撃で気絶してはいたけど――」

「感触的に多分片方潰れたケド」

 

「鬼!? 悪魔!? 鬼畜過ぎる!?」

 

「いやさ、こんなか弱い幼女をこんな大人数で囲う方が鬼畜だと思うケド?」

 

「キュ?」

 

言われてやっと気がつけれた。

近くの物陰から、さっきこの少女に瞬殺されたヒトと似た様な人種が、十人単位で屯ろしていた。

 

……全員、青い顔をして股間部を抑えていたのは、言うまでもないだろう。

 

「さて、さぁて」

 

ボキバキと指の関節を鳴らしながら、そんな一団に近づく少女。

 

何をする気だい? 想像は簡単だけれど。

 

「妖怪『首置いてけ』改め『タマ置いてけ』が猛威を振るうだけジャン♪」

 

「……慈悲は?」

 

「ナイ」

 

うん知ってた。

 



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裏ルート:第2話

sideキュゥべえ

 

 

少女の『タマ置いてけ(カツアゲ)』がひと段落ついた所で、ボクらはネカフェに転がり込んだ。

 

ちなみに代金は、少女が狩ってきたタマ(財布)からである。

 

「……ところでさーキューべー。 アンタ、私と一緒にグータラしてていいワケ?」

 

「おかしいな、ボクはキミに無理矢理連れまわされた記憶があるよ?」

 

「タワ○ラごっこの後は捕まえてた覚えが無いよ?」

 

ジュースをストローでちぅーと飲みながら器用に喋る少女。

 

「いやさ、キュゥべえって、脅迫同然の迫り方で女の子を魔法少女にする契約を結ばせていとも容易く行われるえげつない奇跡の代償で絶望させて感情エネルギーを貪るのがお仕事っしょ?」

 

「そうだよ」

 

「ワォ即答」

 

実際、『騙した』だとか『裏切った』とか言われるけれど、キミたちの確認不足が招いた事態だよね? ボクらは聞かれた事(・・・・・)には正直に答えているというのに。

 

「……いやいや、故意の不告知でキュゥべえの方が罪に問われるからな? クーリングオフ期間作れよ」

 

「それだとエネルギー回収効率が落ちるんだよ。

そうだ、ねぇキミ。 キミには叶えたい夢とか、無いのかい?

あるのなら――

 

ボクとk「いーよー」

最後まで言わせてぇぇぇ!?

 

……………へ?」

 

あっさり肯定の返事が返ってくる。

 

「………本当にいいのかい? そこまで魔法少女について知っていて、それでも契約を結んでくれるなんて、初めてのケースなのだけれど?

それほど、キミはその『願い』を叶えたいのかい?」

 

「あー……その願いの件なんだけどさ。

………キープって出来る?」

 

「『キープ』………?」

 

「先送りってこと。

実は記憶の――エピソード記憶ってヤツ? が一部吹っ飛んでるっぽくてね」

 

言いながら、指先で頭をトントンと叩く少女。

 

「その吹っ飛んだ範囲で、何か、強烈に、『忘れちゃいけないハズのナニカ』がある筈なんだよ。

アンタの『奇跡』は、その『ナニカ』を思い出した時の為に取っておきたいんだ」

 

「………まあ、そういうことならいいよ」

 

「言ったな? 言質とったからな? 奇跡は契約の時限定とか後から言うなよ?」

 

「言わない。 ボクは正直だからね」

 

「正直モンは自分でンなこと言わないよ」

 

言ってる間に『契約』を完了させる。

彼女の魂を『ソウルジェム』と呼ばれる宝石状の物に置き換え、将来的に魔女になる少女―

 

 

『魔法少女』へと変えていく。

 

 

「――はい。 契約は完了したよ」

 

「………あり? 煌びやかな変身シーンとかは?」

 

「魔法少女の個体的特徴は叶えた奇跡に影響される。 だから、キミの場合は『魔法少女のタマゴ』という状態が近いね。 魔法そのものは使えても、あらゆる面で通常の魔法少女に劣るし、固有能力も存在しない」

 

「それが『先送り』の代償ってか?

ま、いいか」

 

そして、ボクに向かって手を伸ばして―

 

「言い忘れてたけど、私は『クト』。 これから宜しく頼むよ」

 

「こちらこそ。 キミからグリーフシードを回収する係に決定された訳だしね」

 

その手に、前足を乗せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………後から考えてみれば、この『契約』は、ボク(・・)にとっての悪魔――いや、『邪神の契約』になった訳だけれど…………

このタイミングで気づけという方が無理だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさーキューべー」

 

「なんdきゅっぷいぃぃぃ!?」

 

ゴスッ!!

 

いきなり頭部に手刀が炸裂する。

 

「何するのさ!?」

 

「……なんとなく? アハハハハハハ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………結局その後、スイッチが切れた様にミノムシ状態で爆睡したクトに付き合って、ネカフェの個室で一夜を明かした。

 

 

その朝。

 

 

「――ふぁ〜ぁ。 オハヨーキュゥべえ」

 

「ハイハイおはよう。 女の子がそんなだらしない顔したら駄目だよ?」

 

「うるへーアンタは私の妹か? マジでカワイイからな!?」

 

「その妹さんと契y

「殺す」

まさかのガチトーン!?」

 

ネカフェを後にして、公園の水飲み場で濡らしたハンカチで顔を拭う少女に、ふと気になった事を問う。

 

「……そう言えばキミ、昨日宇宙から堕ちて来てたよね? なのに順応早過ぎないかい?」

 

「え? 宇宙?

………あ、そういう事か。 色々あったって事で」

 

意味の分からない事を呟きつつ、ボクを肩に乗せたまま昨晩の様に街を歩くクト。

スタイル的には、某電気ネズミを連れたトレーナーに近い。

 

「んー……なーなーキュゥべえ? そっちの情報網で良い具合の場所ってある?」

 

「良い具合の場所……?」

 

「流石に毎日ネカフェ泊まりは確実に補導されるしさ。 早い話アジトが欲しい」

 

「ふむ………」

 

良い具合の場所、か…………

 

「……隣町の廃教会はどうd

「無理心中からのバーニング(炎上(物理))やらかしたヤバイリストトップクラスの事故物件なら無しの方向で」

ワガママだなぁ」

 

「ンな所に住むとか幾ら残機とSAN値があっても足りんわ」

 

「ざんき? さんち?」

 

「気にするな!」

 

結局、魔女を探すついでにいい感じの所があれば、そこを拠点にする、ということで落ち着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………のだけれど。

 

「…魔女、居なくね? キュゥべえの言ってたレーダー(ソウルジェムの反応)以外にも、私の方でも気配探ってるけど一体もヒットしないとかあり得るの?」

 

拠点には廃アパートの一室を選び(無断)、クトがまた『タマ置いてけ』で小遣いを荒稼ぎして、細々とした雑貨を買い込んで――と、大分動き回っているのに、一度も魔女と遭遇しない。

 

「……元々、この辺り一帯はマミの縄張りだからね。 オマケに最近この街にやって来た正体不明の魔法少女(・・・・・・・・・)もいるし。 粗方狩り尽くされているのかもしれない」

 

「oh、マジすか」

 

その場で綺麗なorzポーズを決めるクト。

 

「……しょうがない。 明日また出直すか。 部屋の掃除とかしたいし」

 

「それもそうだね。 ソウルジェムの穢れは、普通に生活する分にはあまり溜まらないし」

 

「それな」

 

他愛も無い会話を続けながら、ボクらは帰路に着くのだった。

 



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裏ルート:第3話

sideキュゥべえ

 

「では、今日は部屋の内装を決めたいと思う」

 

「如何したんだい藪から棒に」

 

部屋に放置されていたボロテーブルに両肘を突き組んだ手で口元を隠した格好(ゲンドウポーズ)のクトが、そう切り出してきた。

 

「そうだ、デパートに行こう」

 

「頼むからマトモな言語を喋ってもらえないかな」

 

「大丈夫だ、問題無い」

 

「もう嫌だこのヒトぉぉぉぉ!!!」

 

同行を拒否したら強制連行された。 解せぬ。

 

 

 

 

 

〜少女(?)移動中〜

 

 

 

 

 

―ミタキハラデパート

 

「さて、さて。

……ぶっちゃけノープランで来たんだけど、なんか欲しいモンある?」

 

「濁りきったキミのソウルジェム、或いはグリーフシード」

 

「どストレートだなオイ」

 

相変わらずの電気ネズミスタイルでデパートを散策する。

ボクらは普通の人には見えないから、独り言を呟いている様に見えるクトに怪訝な眼が向けられる事はあれど、実際なら衛生上の理由で確実に呼び止められるだろう生鮮食品コーナーにも平気で入れる。

 

……最も、スーパーで買ったのは全て冷凍食品だったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえクト、ここには家具を買いに来たんだよね?」

 

「正確に言えば、その中でも小物類とついでにメシ、オマケでレンジだね。 流石にソファーやら布団やらは手持ちの金じゃ買えん」

 

「それはいいんだ。

ボクが気になっているのは―」

 

ビシッと、周りの商品を指差す。

 

「―ならなんでペットショップコーナーに来たのかって事だよ?!」

 

非効率的、非効果的、非衛生的と無駄の多いガラスケースでの生体販売所に、各種動物用のフードやら玩具やらが陳列されている空間。

 

そこが、買い物袋(冷食純度100%)を下げたクトが訪れた所だった。

 

「え? ペットには適切な運動、食事、躾が必要だろ?」

 

「キミはボクの事を一体なんだと思っているんだい?!」

 

「そーいや、『インキュベーター』なんてジャンルのペット無いもんなぁ。

…………外見からしてネコ用でイケるか?」

 

「シャァァァラァァァァプッッッ!!! ネコ?! ナンデネコ!?!? ボクらは地球外生命体だから!! 食事は取り込んだグリーフシードから漏れ出るエネルギーだけで充分だし、躾だって思考レベルとしてはそこらの一般人以上にはあるから!!」

 

「ま、そん位なきゃ詐欺なんて出来ないからな。 じゃあとりまトイレ砂だけ買っといてやるよ」

 

「なんにも分かってないぃぃぃぃ!?!?」

 

トイレ砂だけでなく、何故かマタタビの袋まで手に取ってレジに向かい始める少女。

 

これはマズイ、何とかしてクトを止めないと、数時間後にはマタタビまみれになる未来しか――

 

 

 

「…………………………キュゥべえ、行くよ」

 

「ま、待ってくれ、マタタビは――

―え?」

 

……クトが袋を元の棚に戻した後、早歩きで店を出る。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと!?

一体何が―」

 

話しかけて、顔を見て、

 

後悔した。

 

 

 

 

 

――何故ならそこにいたのは、夢と希望を振りまく少女などでは無く、

 

 

 

 

 

 

 

歪みきった嘲笑の表情の、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ミィィィィツゥーーケタァァァァ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クト(悪魔)だったのだから。

 

 

 

 

 

―っっドゥンっっっ!!!

 

 

 

「キュっっ!?!?!?」

 

少女の皮を被った『ナニカ』が、地面を踏みつける。

それだけの動作で、周りの景色が線に見える程のスピードに到達する。

 

「み、みつ、見つけたって、何を!?」

 

逆風が口腔を蹂躙して非常に喋りにくいというのに、平然と答えが返ってくる。

 

「何をって、魔女以外あんのかねぇ! オマケにすぐ近くに人の気配まである! 数は4!」

 

「!? ど、どうやって―」

 

見ていた限り、デパートに到着してから、クトは一度たりともソウルジェムを見ていない。

なのに一体、どうやって、それも周りにいる人数まで把握したんだ!?

 

咄嗟に、付近にいる同族と同調する。

 

 

 

 

――見つけた。 って、

 

「クト、人間の方は大丈夫! こっちで魔女を確認したら、他の魔法少女と会敵する直前だよ!」

 

その魔法少女は巴マミか(・・・・・・・・・・・)?!」

 

「なんでそれを気にするんだい?! ちなみに答えはイエス――きゅぶいぃぃぃぃぃぃ!?!?」

 

ボクの返事を聞くと同時に、さらに加速……?!

あれでまだトップスピードじゃ無かったのかい!?

 

 

 

『立ち入り禁止』の張り紙がされたドアをスピードを落とさないよう跳び膝蹴りで破壊して侵入、そのまま薄暗い空間を数瞬の間突き進み、突然急上昇して天井付近の鉄骨に着地する。

 

「お、おえぇぇ……」

 

「おいおい大丈夫けー?」

 

急発進、急加速、急上昇、急停止という、平衡感に全く優しく無い4点セットを受けて気持ち悪くなったボクを労わるクト―

 

 

………キミは平気そうだね。 考えてみれば、自分の出せるスピードに自分が重大な影響を受ける筈が無いか。

 

吐き気が少し楽になった所で聞く。

 

「……どうして、魔女の結界にとび込まなかったんだい? 入り口が分からないわけでは無いだろう?」

 

「ん? あー、えっと………

キュゥべえ、あんさん逃げといた方がいいかも」

 

「?」

 

これまでの彼女じゃ考えられないほど、肩に乗ったボクをゆっくりと降ろす、と―

 

 

バツっっっっ!!

 

 

冷食の袋を1つ、音速すら超える速度であらぬ方向に投げ飛ばす。

当然ビニールパッケージは剥がれ、こぼれ出た食品が散弾のように鉄骨を打ち据える。

 

「……………」

 

「クト? 一体何を―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―チャキッ

 

僅かな金属音が、背後で鳴る。

 

「動かないで」

 

「………銃口突きつけられちゃ、動きたくても動けんがな」

 

ノロノロと両手を挙げたクトの両足の隙間から見ると、1人の少女が拳銃を押し付けていた。

 

―キミは、確か、

 

「暁美ほむら? こんな所で何をしているんだい?」

 

「―あぁ、あなたもいたわね」

 

空いていた片手に銃器が現れ、ボクに狙いをつけ―

 

「ナイスじゃんキュゥべえ!」

 

「!? くっ」

 

集中が逸れた瞬間、クトが足払いでほむらの体勢を崩す。

無理矢理向けられた2つの銃口に対し、首を絞める様に正面から腕を伸ばすも、バックステップで回避される。

 

「チッ、引っ込んでなさい、この素人――っ?!」

 

「ハッ! どっちがトーシロジャン!!」

 

再度銃口が向けられるも、銃弾が発射されることは無い。

 

「―な、何で、」

 

PvC(魔女狩り)ばっかしていてPvP(対人戦)は能力頼みのゴリ押しってか?! ンなんじゃ勝てるモンも勝てないわなぁ!!」

 

一瞬で距離を詰め、左手を素早く振り抜いて拳銃を弾き飛ばすと、そのまま右手で首を掴み、拘束する。

 

この間、約5秒。

 

 

「!! グッ―」

 

「おおっと危ない」

 

悪あがきの蹴りが放たれるも、少し姿勢を変える―具体的に言えば、ほむらの首から下が、足場の鉄骨よりも下にくる様、首を掴んだまま座り込んだ。

 

「あんま抵抗しない方がいいぞ。 この高さからただ落ちただけなら兎も角、無理に逃げようとすれば叩き落とす。

ま、その前に、このまま握力全開にすりゃそれで片がつくな」

 

「……なにが、目的よ」

 

首を、特に気管を掴まれている影響からか、苦しそうに問う。

 

「なーに。 ただ質問に答えてくれりゃいいのさ。 別に嘘ついても構わんから何かしら反応プリーズ」

 

「……さっさと、聞けば」

 

「おぉーうツンツンしてますなー。

んじゃ質問。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―今、何回目(・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 

「―――っっ?!?!?! 一体、何のこt」

 

「あ、おkおk察した。 じゃ、色々事情がメンドいモン同士、お茶でもいかが?

―向こうも手遅れ(・・・)っぽいし」

 

クトがチラリと見た先では――

 

 

 

結界の内側の対象を撃破した金髪の魔法少女が連れた生物が、2人の少女に、こう言った所だった。

 

 

 

「あのね、僕と契約して―

魔法少女になってほしいんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―………チッ」

 

引っ張り上げられたほむらが、小さく舌打ちをする。

 

「客観的に見て、どーよキュゥべえ?」

 

「…………あれで即決する子もいるんだよねぇ」

 

「ま、良くも悪くも中二っつーこったな。

で、デートの誘いの返事は? 暁美ほむらちゃん?」

 

「…………………分かったわよ」

 

 

 

 

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、同デパートのファストフードコーナー。

 

ほむらがよくあるセットを注文したのに対して、クトはフライドポテトばかり大量に注文して一気飲みしていた。

 

「―ポテトはのどごしっ!!」

 

「普通に食べなさい、意地汚いわよ」

 

ふぇひふぅ(出来ぬぅ)!!」

 

「………はぁ」

 

お互い自己紹介すらしていないのに、もう溜息が出ていた。

 

「……それで。 貴女一体何者よ? 私がこれまでやり直してきた時間軸に、貴女は影も形も無かったわ。 だと言うのに、貴女は私を知っている」

 

「神です」

「馬鹿にしてるのかしら?」

 

クトのボケにノータイムで切り返すほむら。

 

「ボクとしても、真面目に答えて欲しいな。 キミは余りにも異質過ぎる」

 

「異質?」

 

首を傾げるほむらに、彼女の異常性を伝える。

 

 

 

宇宙から物理法則を無視して落下してきたこと。

 

失った記憶にあるらしい絶望を祓うために、奇跡を『先送り』にした、最弱の魔法少女であること。

 

完全に人間の域を超えた身体能力に、出処が不明の情報を持っていること。

 

 

 

「……さっぱり分からない、ということが分かったわ」

 

「それで、キミは一体何者なんだい?」

 

じっと、ポテト飲料化計画を進行させるクトを見つめる。

 

「…………私が何者か、ねぇ。

――ンなもん、私の方が知りたい」

 

「「は?」」

 

予想外の答えに、目が点になる。

 

「いや、答えだけなら幾らでも用意出来るさ。

人間、神、出来損ないの魔法少女、宇宙人、タマ置いてけ、旧支配者―

ま、敢えて自己評価するなら、」

 

1泊空けて、紡ぎ出された答えは、

 

 

 

 

 

「―私は『クト』だ。 それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

 

「………結局、答えになってないじゃない」

 

「なら話を超シンプルにしようか、『時間遡行者』(暁美ほむら)

 

ほむらの身体が一瞬震える。

時間遡行者………成る程、彼女の情報元は過去の時間軸なのか。

 

「…………貴女、何処まで、」

 

「メンドいから答えん。 先ずは目的をスッキリさせよぉか。

あんたは『鹿目まどかを助けたい』。

私は『記憶を取り戻したい』。

ここまではおk? おkなら思考パートに入るけど」

 

「…………続けて」

 

「現状、やり方が分かってんのは『鹿目まどかを助ける』方法だ。 連中につきまとうインキュベーターと魔女を皆殺しにすりゃいいんだからよ」

 

「ボクの目の前でそれを言うかい?」

 

「アンタは殺さねぇよ。 どうせグリーフシード回収の為の個体は残しておかないとだからな」

 

「そのやり方には問題があるわ。 インキュベーターは無限に湧くし、魔女だって『ワルプルギスの夜』がいる」

 

一瞬、クトが考え込むような仕草をする。

 

「………ほむら。 命大事にで、巴マミと佐倉杏子、場合によっては美樹さやかも込みで、悪プリンのヨーグルト相手にどれ位保つ?」

 

「悪プリンのヨーグルトじゃなくて『ワルプルギスの夜』よ。

………そうね、ひたすら防御と回避に徹すれば――1時間弱は保つわね」

 

「上々。 それだけありゃ充分だ。

……あと、ダメ元で聞いておく。 ソウルジェムの方は?」

 

「……これまでの経験から言って、最後まで保った事は一度も無いわ」

 

「………………………、か」ボソッ

 

「? 何か言ったかい?」

 

き……だの…う…り――

ダメだ、聴き取れなかった。

 

「なんでも無い。 じゃあ次に考えるのは、味方の脱落防止だな。 魔女の出現ポイントって抑えてんの?」

 

「……いいえ。 絞り込む事は出来ても、具体的な場所までは」

 

「じゃあ『お菓子の魔女』を先制で潰すのは無理か………

まあそっちは、まどかに交代で張り付くなりなんなりするとして、問題は美樹さやかと佐倉杏子だな」

 

「……佐倉杏子は巴マミが死なないと、この町を訪れる意味が無くなる。 美樹さやかは、」

 

「何処ぞのヘタレ相手に奇跡を―

……あ、ええこと考えた」

 

ニヤァと、クトが歪んだ笑みを浮かべる。

 

「………嫌な予感がするのだけれど?」

 

「嫌な事思いついたからね。フフフ…………

―『鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス』」

 

「………?!?! ま、まさか貴女―」

 

ほむらの顔が驚愕に染まるが、クトは、止まらない。

 

「佐倉杏子は巴マミが死なないと表れない。

美樹さやかはヘタレの怪我を治す為に奇跡を使う。

だったらよぉーぉー――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――2人ともブッ殺しちまえばよくね? マミとそのヘタレ」

 



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裏ルート:第4話

sideキュゥべえ

 

 

―ジャキィッ!!

 

 

マグナム弾を発射可能なリボルバーの銃口が、クトの額を狙う。

 

「オイオイ、魔法少女を一撃で仕留めるなら、ソウルジェムを狙わなアカンよ」

 

「………………………貴女、今自分が何を言ったか、分かっているの?!」

 

「モチのロンで」

 

「ッッ!!!」

 

ほむらの表情も変わる。

驚愕から、失望に。

 

「………………………ソウルジェムを出しなさい。 貴女は、危険過ぎる」

 

「実力的にも性格的にも、大人しく従うと思うか? ぶっちゃけ今現在ほむらの生殺与奪権は私の手の中なんだけど? あ、ジュースもーらいー」

 

「……………………クッ」

 

銃を収めたほむらが、眼光だけでヒトを殺せる程睨みつける。

 

「……………何が目的よ?」

 

「都合の良い手駒の入手。 安心しな。 鹿目まどかは魔法少女にさせないし、ワルビアルのヨットもキッチリ潰すから。 それならいいっしょ?」

 

「……………ワルとヨしか合ってないわよ。 ワルプルギスの夜、よ」

 

「さいで。 行くよ、キュゥべえ」

 

いつの間にかポテトを完食していたクトが、席を立つ。

 

「指示はテレパシーで送る。

………………オマケだ。いい言葉を教えておくよ」

 

「………何よ」

 

クトが立ち止まって、それでも振り返らずに言う。

 

 

 

「『常識に囚われてはいけない』。 私たち(・・・)と付き合うなら、あらゆるモノを疑え。

だが、探るな。理解するな」

 

 

 

そして――

 

 

今度こそ、クトはほむらから離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜少女(?)移動中〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―廃アパート クトの部屋

 

 

「クト。 一体何のつもりだい?」

 

「? 何が?」

 

暁美ほむらとの接触後、道中立ち寄った古本屋で買った小説を読み始める直前のクトに声をかける。

 

「さっきの暁美ほむらとの会話だよ」

 

「あぁ、最後の台詞?」

 

「それに関しては聞かないでおくよ。 探るな、と言っていたしね。

ボクが聞きたいのは、キミの目的さ。

さっきの会話で、キミは暁美ほむらの得になることしか口にしていない。

鹿目まどかの救済についてばかり話すし、キミは、キミ自身のメリットについては一言も口にしないばかりか、むしろ彼女の道しるべに成りきっていた」

 

具体的には、巴マミの存命と上条恭介の手の治療。

 

「魔法少女には、魔女と闘うという目的の為、自分だけでなく他者の身体を治す魔法は多かれ少なかれ存在する。 手の治療に関しては、程度にもよるだろうけど、わざわざ奇跡を使うまでも無い。

巴マミは、わざわざ死なせずとも、強引な方法で何処かへ捕えておいて死んだという噂を流せばいい。 その為に『殺す』なんて過激な表現をしたのだろう? 結界の内側で死亡すれば死体が残らないから、確かめようも無いしね。

ワルプルギスの夜に対しては、おそらく、キミ自身が単独撃破するつもりだろう。 方法は想像もつかないけれど」

 

「………………」

 

「沈黙は肯定と見なすよ。

更に、キミの目的である、記憶の復活。

これについては、ハッキリ言ってウソなんじゃないかい?

キミの本当の目的は分からないけれど、その話が始まる前に、キミはほむらに憎悪、或いは警戒される相手になった。 嫌う相手の為になる行動を意図的にする人間は少ないからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………世の中っつーのは、理不尽だよな」

 

「? クト?」

 

ヒビの入ったガラスの外を見る少女。

 

「本当に、本気で叶えたい夢があるのに、実現する能力の無い奴の横を、能力があっても夢を持たない奴が平然と追い抜き、他人の夢や希望を潰す。

………………………私だって、昔は――」

 

「……………クト。 今のキミには、全能の神になれる程の才能がある。 ボクらなら、それを叶えr

「ならやってみろよ」

………クト?」

 

こちらを見ずに、異常なまでの憎悪(・・)が含まれた声が響く。

 

 

 

「気安く『全能』を名乗るな

 

気安く『奇跡』を口にするな

 

気安く『命』を扱うな

 

気安く『理解者ヅラ』するな

 

 

―インキュベーター。貴様に一体、何が分かる?

この宇宙の、何を理解している?」

 

ここまで言って、クトはこちらを横目で見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞳には、

 

 

絶望が

 

 

悲嘆が

 

 

狂気が

 

 

後悔が

 

 

 

負の感情がごちゃ混ぜになり、渦巻き、最初の夜(・・・・)に比べれ(・・・・)ばマシと(・・・・)いう程度(・・・・)には濁った目だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………キミ自身が呪いを振りまく存在になっている。 なのに、どうしてキミは、」

 

「魔女になっていないかって?

理由は2つ。

さっきはギャグとして流せれたけど、私は神だ。 元人間やら前に『邪』がつくやら、余計なモンは色々あるけどな。

 

もう1つは、私は、赦されてない(・・・・・・)からだ。

赦されるまでは、私は、私でなければならない」

 

「………赦されてない、から……?」

 

クトが、また窓の外を見る。

 

「…………誰に、どんな理由で赦されればいいのか。

ソイツを思い出せないのは本当だ。

先送りの奇跡は、その為の手段の1つでしか無い。

魔法少女の救済は、それまでの『暇潰し(・・・)』。

――結局私は、どうしようも無い『悪者』ってワケよ」

 

また振り返ったクトは、目こそ何時も通りだったが―

 

 

 

――自虐的な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

そして、何故か、ボクは、

 

 

そんな表情は似合わない、見たく無いと思った(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、「やる気失せた。 夜になったら起こしてー」と何時もの調子で言ったクトが、毛布に包まってさっさと寝入ってしまい、その後昼寝が日課となるのであった。

…………いやなんでさ?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数日後

 

いつも通り(?)、クトが昼寝している最中に、ボクの同族――別個体のインキュベーターが部屋を訪ねて来た。それも、複数。

 

「………何をしに来たんだい?」

 

「簡単な事さ」

 

そして、その内の一匹が。

 

ボクとクトの関係を、永遠に決める言葉を放った。

 

 

 

 

 

 

 

「――不要となった個体の処分と、膨大なエネルギーの入手さ」

 

「……………え?」

 

 

 

理解出来ない。

処分? 一体何故?

 

 

「君は、精神疾患を患っている」

 

「僕らの目的は、エントロピーを凌駕する人間の感情エネルギー」

 

「彼女のソウルジェムは既に限界だ。 放置するだけで、何時決壊してもおかしくない」

 

「最凶の魔女となる可能性を孕む存在は、さっさと魔女にさせればいい」

 

「僕らの体内には、宇宙延命とする為のエネルギーに変換する前のグリーフシードがある」

 

「そして、何も穢れの移行は、ソウルジェムからグリーフシードの一方通行では無い」

 

「この先、敵対行動をとる可能性を持つ個体の処分と、簡単に手に入るエネルギーの入手」

 

「これ程までの好機を逃すなんて、狂っているとしか言いようが無いよ」

 

 

 

「……………ボクは、」

 

彼らの言い分は理解出来る。

確かに、最短で、最小の労力で、ノルマを軽々と上回る程のエネルギーを入手出来る。

 

 

 

 

 

だけど、それは正しい事なのか?

 

 

 

 

 

呆然と、周りを見る。

 

何体かは、クトからソウルジェム――既にドス黒く染まった、彼女自身の魂――に、穢れきったグリーフシードを近付け。

 

残りは、エネルギーを無駄にしない為か、ボクを捕食しようと間合いを取っている。

 

 

 

 

 

「…………ボクは、」

 

 

効率を考えるだけなら、彼らは圧倒的に正しい。

ワルプルギスの夜を待つまでもなく、同等かそれ以上の魔女が解き放たれれば、近隣の魔法少女は戦って死ぬか、逃げることしか出来なくなる。

この街を、場合によっては惑星を守る為には、鹿目まどかが魔法少女になるしか無く、高確率でそのまま魔女化するだろう。

 

更に、予測でしかないが、最初期の宇宙に存在していたエネルギーの総量、さらにソレを大幅に上回る程のものが手に入る。

 

 

 

 

 

頭では分かっている。

 

 

 

 

 

 

 

なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは間違っていると、思ってしまう(・・・・・・)ボクがいる。

 

 

 

 

 

 

 

「――ダメだ!!」

 

気がついたら、クト側にいた個体を弾き、ソウルジェムを確保していた。

 

「………正気かい? 一体何の為に人間を守るのさ?」

 

「………彼女は、『この宇宙の、何を理解している?』と言った。

ボクらには、まだ知らない事がある。

それを知る前に、彼女を殺すことは出来ない」

 

「訳が分からないよ。 所詮、それは彼女の妄想でしか無い」

 

「仮に事実だとしても、余りあるエネルギーを解明に回せば、確実に真実に辿り着ける」

 

「それすら分からないなら、君は完全に狂っている」

 

 

 

 

 

 

 

「………ならもう、それでいい。

ボクは、狂った。 それでいい」

 

 

ボクは、この数日の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

―『ところでさーキューべー』

 

『なんdきゅっぷいぃぃぃ!?』

 

ゴスッ!!

 

いきなり頭部に手刀が炸裂する。

 

『何するのさ!?』

 

『……なんとなく? アハハハハハハ!』―

 

 

 

 

 

………今にして思えば、あれ以来、妙な感覚が時々あった。

 

それに、最初のフリーフォールごっこ。

あれも、ボクの反応を見ていたような気がする。

 

付け加えれば、暁美ほむらとの戦闘時、そして会話。

 

戦闘時は、ただ集中が逸れただけでなく、撃った際の反動に対処している時に襲えばもっと確実だったし、

会話時も、ボク経由で情報が漏れるにも関わらず、ボクを処分することも遠ざけることもなかった。

その時は『グリーフシード回収の為』と言っていたけれど、それならボクに拘る必要は無かったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………クト。

もしかしたら、キミは本物の神様で、ボクに心を作ってくれたのかい?

ボクに、チャンスをくれたのかい?」

 

 

インキュベーターの群れが飛びかかってくる。

 

 

アッサリとソウルジェムを奪われてしまう。

 

 

 

 

 

「っ―クト!? 起きてくれ!!

まだ、キミの答えを聞いていない!!」

 

 

 

 

 

ソウルジェムに、グリーフシードがコツンと当てられ、

 

 

「クト!? っ――」

 

 

穢れが、ソウルジェムに吸収され、

 

 

 

 

 

絶望の使者が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――オイオイ、こりゃ一体どーゆー状況ジャン?」

 

ガシッ!

 

懐かしい感覚が、ボクの頭を鷲掴む。

 

 

「………キュ?」

 

「!?!? 馬鹿な、どうして―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてソウルジェムが(・・・・・・・)濁りきっているのに(・・・・・・・・・)自己を保っていられる(・・・・・・・・・・)?!?!」

 

そのまま定位置――肩の上に乗せられる。

 

 

 

 

 

 

 

『「――クト!?!?」』

 

 

 

 

 

 

 

「………一口に『神』つっても、色々あんだよ。

創る事に特化した『創造神』。

壊す事に特化した『破壊神』。

それとは別に、調和に特化した神、戦いの神、命の神、運命の神―

 

 

――そして、私は、」

 

 

収納していた骨翼を広げ、宣言する。

 

 

 

 

 

「―絶望と狂気を司る『邪神』、『cthulhu』。

ンなモノホンのバケモノが、今更魂が穢れきった程度(・・)で別モノになるか?

 

――舐めるなよ、下等種族。

答えは『否』だ」

 

 

インキュベーターが確保していたソウルジェムが虚空に消え、クトの一部―右胸部に現れる。

 

 

それに続いて、彼女の服装にも変換が現れる。

 

 

 

踝まで届くほど長い裾のワンピースは縮み、ミニスカートになり。

 

 

靴は安物のスニーカーから、小洒落た、けれど何故か、寂れた港町を連想させる色のローファーに。

 

 

腰には、ベルトのように、髪と同じ深緑色のリボンが巻き付き。

 

 

肩からは、足首まで届く、彼女のソウルジェムの様な色の(ドス黒い)ロングコートを羽織り。

 

 

首元には、水の様なマフラーが巻かれ、その長い両端は羽衣の様に漂う。

 

 

 

 

 

 

 

「――さて、さて、さて。

こっから先は、希望(狂気)をばら撒く撲殺少女(・・・・) クト☆マギカによるR-18(虐殺)タイムだ。

 

………教えてやるよ。

魔女なんつぅ紛い物じゃねぇ、ホンモノの『バケモノ』ってヤツをなぁっっ!!!」

 

 

そういって、飛び出す少女の横顔は―

 

 

 

 

 

やはり、何処か自虐的に見えた。

 



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裏ルート:第5話

sideキュゥべえ

 

 

「……もう終わりか、呆気ない」

 

場所は変わって、魔女の結界。

 

グリーフシードの1つが孵化し、その内側に逃げ込んだインキュベーター、おまけに使い魔にまで虐殺の限りを尽くしたクトの、マトモな第一声がそれだった。

 

 

……いやホント、ラリってるじゃないかと思うような奇声発声大爆笑は勿論、

「逃げる淫獣はただの淫獣だ! 逃げない淫獣はよく訓練された淫獣だ!!」とか、

「粉砕☆玉砕☆大・喝・采!!」とか、

「爆殺!! しまーす☆」とか、

「アタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタホワッチャァァァァアアアア!!」とか、

「ヒィヤッッッハァァアァァァァ!! キル!ゼム!!オォォォォォゥル!!!」とか、

「WRYYYYYYYYYYYYYYY!!」とか、

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄、無駄ぁあっ!!」とか、

「野郎オブクラッシャァァァァァア!!」とか。 他にもあるけど割愛。

 

そんなこんなで、追加で孵化した魔女に関しても、結界を張る隙すら与えず撲殺していた。

 

 

 

 

 

………もう全部キミ1人で良いんじゃないかな?

 

「……キミの戦闘能力に文句は無いけど、魔法少女なんだから魔法を使おうよ」

 

「え? 使ってるよ?」

 

「………本当に? 魔法(物理)は無しだよ」

 

「…………」バッ

 

全力で目を逸らされた。 キミの中で魔法ってどんなイメージなのかな?

 

「さ、さーて結界のヌシでもシバきに行くかね!」

 

「あからさまに話題をそらせたね」

 

「気にするな!」

 

「もうそれ何回目だい? いい加減飽きたよ」

 

「(・ω・)」ショボン

 

「無駄に器用だね?! どうやって発音したのさ?!」

 

「ε-( ´▽`)へ」フッ、ヤレヤレ

 

「殴りたいこのドヤ顔!!」

 

尻尾で叩いたらアッサリ吹っ飛んでった。 戦闘力乱高下し過ぎじゃないかな!?

 

 

 

 

 

閑話休題(そんなこんなで)

 

 

 

 

 

それだけ強いから、道中襲ってくる使い魔やら狩り損ねのインキュベーターを問題も躊躇いも無く撲殺しながら、テクテクと結界の最深部まで進んでいく。

 

「そーいやキュゥべえさ、一応同族の連中片っ端からブラッドフィーバーしてんだけど、止めないの?」

 

「ブラッド…ああ、血祭りね。

……正直、気持ち悪さはある。

ボクらインキュベーターは、多様な環境に適応する為にワザと一部の遺伝子配列を変えてあるとはいえ、星にいる本体のクローンなんだよ」

 

「……無双すんの辞めるか?」

 

クトが、ボクの顔を覗き込んで―心配して、聞いてくる。

 

「……いや、いいんだ。 ノルマが達成されれば、ボクらクローンは処分される。 感情エネルギーに依存するボクらは、魔法少女のシステムが無ければ、飢死する。 どちらにせよ、ボクらの命はとても軽い」

 

「………あんまそういうこと言うなって。 一応どうにかする考えはあるからよ」

 

「……ありがとう。 気持ちは受け取っておくよ」

 

そうこうしているうちに、魔女のいる場所まで辿り着く。

 

見上げれば、縫いぐるみのようなソレが、こちらを見下ろしていた。

 

「――さて、さて。

切り替えていきますかぁ!!」

 

ギチィィィッッ!! と、クトの両手に恐ろしい程の力が込められているのを確認して、慌てて飛び降りる。

 

 

 

 

 

直後―

 

 

 

 

 

魔女が、地面に叩きつけられてバウンドした。

 

 

 

「………相変わらず規格外だね」

 

「ファッヒャッヒャヒャッヒェッホォォォォォォォウウウウウウwwwww!!!

クトちゃんオリジナルぅ!! 必殺!! ルナティックリバーススラムゥゥゥゥゥ!!!」

 

跳ね返ってきた魔女を再度殴り飛ばし、今度は壁に叩きつける。

 

跳ね返る。 逆の壁に叩きつける。

 

跳ね返る。 天井に叩きつける。

 

跳ね返る。 別方向の壁に叩きつける。

 

跳ね返る。 漂っていた巨大なお菓子に叩きつける。

 

 

 

……途中無理矢理脱皮させて本体をフルボッコにする等、この一方的かつ徹底的な蹂躙は、魔女の空間に存在するもの全て(ボクとクトを除く)を破壊するまで続いた。 きっとこういうのを、いとも容易く行われるエゲツない行為って言うんだろうな。

 

「ちっがぁぁぁう! 特に理由も無い暇を持て余した神の遊び(暴力)がシャルロッテを襲う!! が正解じゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

「どーでもいいよぉぉぉぉぉぉぉおお!?!」

 

 

―ズドォォォォォォオオォォオォオオオン!!

 

 

トドメに頭頂部(多分) が殴られ、地面に派手に叩きつけられる。

 

 

それと同時に、クトによる暴力の音が止んだからか、魔女の空間の外側から複数の人間の足音が聞こえる。

 

メンバーは……暁美ほむら、巴マミ、鹿目まどか、美樹さやか、インキュベーター。

 

そんな5人組を見たクトの感想は、

 

「―あり? お揃い……って訳でも無いけど、どうした?」

 

―と、想像していたより普通だった。 絶対嬉々として襲いかかると思ってたのに。

 

『オイ待て酷くね?』

 

『アレ? キミ、テレパシー使えたの?』

 

『ノリと勢いで。 それより、ちょっち隠れてな。 ほむほむ除く3名の殺気パネェ。 道中の愉快なオブジェがお気に召さなかったらしい。 オマケに嫌な予感もする』

 

『……あー、ハイハイ』

 

魔女(過去形)に隠れて、様子を伺うことにする。

 

……アレ? この挽肉魔女、ギリギリで生きてるね。 手加減上手だこと。

 

 

「……えっと、そこの貴女? これはどういうことかしら?」

 

頬を引きつらせながら、マミがクトに問う。

……まあ、気持ちは良く分かるけど。

 

「………私にもことの顛末が教えてくれないかしら?」

 

次いで、警戒心MAXの暁美ほむらも話しかける。

 

「お? ほむらちゃん、久しぶり。 ことの顛末っつても、私も成り行きでこうなったんだけど………」

 

訳が分からないと肩を竦めるクト。 確信犯の間違いだろう。

 

「実は―

「マミ! ほむら! そいつの言葉に耳を貸しちゃ駄目だ!!」

……淫獣、まだ生き残っとったんかい」

 

彼女たちと行動を共にしていたインキュベーターが声をはりあげる。

 

……ここまで来れば、クトの感じた『嫌な予感』を、ボクも感じ取れる。

 

「……キュゥべえ? それって、どういう―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―彼女は魔女(・・・・・)だ! 胸元のグリーフシード(・・・・・・・)を見て!!」

 

 

「「「「なっ!?」」」」

「………ファッ?」

 

思い出してみる。

 

 

彼女のソウルジェムは真っ黒け。

 

 

濁ったソウルジェムは、形状もグリーフシードに似てくる。

 

 

さらに言えば、クトの今の格好は、インキュベーター、使い魔、魔女の返り血で真っ赤っか。

 

 

 

結論。

 

確かに魔女に見えなくもない。 と言うかヒト型の魔女が居たら、間違い無くあんなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―騙したわね!?」

 

「―さっさと斃させて貰うわよ!!」

 

「ゑゑゑ!?」

 

リボルバーの銃口2つに、大量のマスケット銃を向けられ、流石のクトも驚く。

 

ドォンドォンドォンドォンドォンドォン!!

ドッグォォォォォォォン!!

 

「ちょ、お待ち、ノォォォォォォォ?!?」

 

即発砲。 44マグナム弾と魔力弾が雨霰とクトに降り注ぐ。

 

「っおい待てほむらぁ?! マミは兎も角、そっちまでインキュベーターの台詞をさらっと信じんのかよ?!?」

 

「うるさい! 最初から怪しいと思っていたのよ!!」

 

「デスヨネーコンチキショー!!」

 

弾幕の嵐をひたすら避け続ける。

そりゃもう、後ろに目が付いてるんじゃないかっていう程避ける。

 

「っさっさと当たりなさい! 貴女に勝ち目は無いわ!」

 

「だが断る!! そもそもこの程度の密度の弾幕に当たっとったら恥ずくてウチの妹に会えんわぁ!! リアル弾幕ごっこ経験者舐めんなよーギラスっっ!?!?」

 

言ったそばから弾が直撃する。

ヒトは今みたいなのをフラグと言うのか。

 

「えっと、ほむらちゃん? 今の人?話しかけてたけど、良かったの?」

 

「……それは、」

 

「気にすることは無いさ。 おそらくあの魔女は、そうやって油断を誘って不意打ちするのが目的だろう」

 

「いやアンタが言うなよ淫獣」

 

インキュベーターの解説に、ロングコートの少女がツッコ―

 

「「―なっ?!?!」」

 

「へーいお嬢さんs、今ブッ放すと中々に悲惨なことになるぜ痛い痛い?!」

 

「このっ、離れろっ!!」ドコドコ

 

いつの間にか復帰したクトが美樹さやかの隣に立って腕に絡みついていた。 で、当然バットで殴られていた。

 

「さやかさん!? 今助けるわ!」

 

「早めにお願いしますコイツマジで離れない!! 蛸か何かか!?」ゲシゲシ

 

「……え? なしてバレたし??」

 

「……はぇ?? 蛸?」

 

「イエス! アイム、オクトパース!!」

 

「…………ごめんね、ちょっと頭叩き過ぎたみたい」

 

「ちょっと待てその憐れむ様な視線は何?!?! なんか心にクルものがあるんですケド?!?!」

 

 

 

 

 

 

 

「―いい加減にしなさい!!」

 

ドゥンッッ!

 

さやかがツッコミ、クトは絡みつき、マミがリボンで引っ張る、gdgdになった場に、1発の銃声が響く。

 

「今度はなんじゃい? 私は今ピッチピチのJC(女子中学生)の柔肌を堪能するのに忙s

「離れろ変態っ!?」

ありがとうございますっ!?!」

 

今度はバットがアッパー気味にアゴにキマり 、流石のクトも吹っ飛んだ。

すかさずマミがリボンで拘束、口径が完全に大砲のソレと無反動砲の砲門が突きつけられる。

 

「……何か言い残すことは?」

 

「君たちは騙されている。 具体的には私は魔女じゃ無いっ」

 

「処刑することには変わら無いわよ女の敵」

 

「詰んだっっ!?!? 待て、話をしよう! 話せば分k

「『ティロ・フィナーレ』!!」

「死に晒しなさい」

ぃやな感じいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ………―」

 

魔法少女2人による大火力の攻撃で、空の彼方まで吹き飛ばされていくクト。

ご丁寧に、フェードアウトして逝った場所には、1つの星が煌いた。

 

 

……………

 

 

『おーい、無事かい?』

 

『割と』

 

予想通り、アッサリ答えが返ってくる。

マミの最高火力に平然と耐えてることに今更ながら軽く驚きながら、魔女の影から状況を窺う。

 

マミたちは何時までも解除されない結界に警戒して、ほむらは何やら考え込んでいる。

 

「……魔女は斃したのに、どうして―」

 

「さっきの魔女がまだ生きているか――別の魔女に結界を張らせているか、ね」

 

……クトが普通に魔女扱いされているね。 どちらかと言えば、確かに魔女に似ているけども。

 

『――キュゥべえ、聞こえるー?』

 

『今度は何だい?』

 

『丸くなっといてー。 言い直せば対ショック姿勢ー』

 

『?』

 

取り敢えず、言われた通りに丸くなる。

 

 

次の瞬間、

 

 

()()()()()()()()()()()が、

 

「―巴マミっ! 魔女の残骸の注意しなさ―」

 

 

 

 

 

「――え?」

 

グチャァッッ!!

 

 

 

―巴マミを、頭から丸呑みにした。

 

 

同時に、パァンっっと言う音と共に結界が消えたと思うと、手が死角からボクの身体を掬い上げて、急激なGがのしかかってくる。

 

「―キュぶっっ?!?!」

 

Gに押し潰されないようしながら、視線を上げていくと―

 

気絶した巴マミ(・・・)を担いだクトが、骨翼と自在に動くマフラーで、まるでトンボの様に空中を駆けていた。

――って、

 

「巴マミ?! ど、どうして―」

 

「んなもん私が回収したからに決まってんジャン!」

 

「でもさっき魔女に呑まれてたよね?!」

 

「その辺の説明は後でする! 遠視出来そうな淫獣()は潰しておいたとはいえ、ほむほむとガチの追いかけっこは分が悪過ぎる!」

 

翼が2対あることで、スピードを維持したままの方向転換を連発するクト。

 

ふと見上げた空は、いつの間にか暗くなっていて、

 

 

 

あまりの超スピードに、全ての星が流れ星に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オロロロロロロロ」

 

「前フリ無しでキュゥべえが汚い虹作った?!」

 



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裏ルート:第6話

sideキュゥべえ

 

―何処かの廃屋

 

 

「―で? キミは一体、どんなカラクリを使ったんだい?」

 

気絶中のマミとボクを抱えたクトが、あの超スピードのまま駆け込んだ廃屋で―

 

 

足が腐りかけている椅子にマミを座らせ、手早く屋内の安全確認を済ませてきたクトに真っ先に聞いたのは、あの結界のなかでの事について。

 

「おり? 理由を聞かれると思ったんだけど?」

 

「もう『クトだから』で納得することにしたよ」

 

「ふは、そりゃ助かる。

―で、カラクリ、ねぇ」

 

クトが片手で椅子を引き寄せ―それも足が痛んでいたのか、背もたれ側の足が2本ともバッキリと折れ、渋々といった具合に背もたれ部分を下敷きに座った。

 

「……そもそも、根本的な話として、私が人間じゃないのは分かってる? 魔法少女って意味じゃなくて」

 

「ただの人間に航空力学を無視出来る骨の翼が生えているとは思わないさ」

 

「分かってるならおk。

じゃあ私の種族―神だ何だと言ったけど、正確には『cthulthu』、宇宙人の一種だな。 この種族の特性っつうか特徴―」

 

「ごめん、く―なんだって? それに、ボクらインキュベーター以外の地球外生命がこの惑星に降り立った記録はあれど、その中にキミの様な存在はいなかったよ?!」

 

「そりゃそうだ。 基本的にcthulthuは一体しか居ない(・・・・・・・)か、そもそも存在しない(・・・・・)んだから。

ついでに言えば、居ると仮定しても地球に降り立ったのはざっと数億年前の話だし、余程のキチガイでも現れない限り奴さんは海の底で夢の中だ」

 

「?!?! わけがわからないよ! キミの話には矛盾が多過ぎる!!」

 

発音不可能な種族名。

 

正体不明の、一体しか居ない筈の種族。

 

そんな存在が、居るわけがない! 一体しか居ないなら、それは最早種族では無い!

 

それに、彼女は『その種族は海底で眠っている』と言った。

なら、ボクの目の前にいる―宇宙から堕ちてきた、この少女は一体何だというんだ?!?

 

「だから私は『クト』なんだよ。 他の『cthulthu』との線引。 境界線。 見分ける為の目印みたいなもんだ。

2体いることについては、まぁ、一時的な例外みたいなモンだと思ってくれ。

……そろそろ話を戻していいか?」

 

「…………………分かった。 頼むよ」

 

髪を指先で弄んでいるクトに、話の続きを促す。

 

「『cthulthu』には、種族的特徴として『精神干渉能力』が備わってるんだ。 そいつを応用すれば、幻影の1つや2つ、簡単に生み出せる。

―こんな風にな」

 

クトが指を鳴らした瞬間―

 

 

 

突然現れたライオン(・・・・・・・・・)が、ボクに向かって突進してきていた!

 

「ゴガオォォォォォォォォオオォォォォオオオ!!」

 

「う―うわああぁぁぁぁぁぁああああぁぁあああ!?!?」

 

思わず目を瞑ってしまう。

 

が、衝撃や痛みは、何時までたっても来ない。

 

 

恐る恐る、目を開けると―

 

 

ライオンが、ボクらの周りを前回りで転げ回っていた。

 

 

「……………なにこれぇ???」

 

「だから言ったジャン。 幻影だって」

 

クトのセリフが区切りだったかの様に、ライオンの幻影が消え去る。

 

 

「つまり、あん時起こったことは簡単。

1、キュゥべえたちがお菓子の魔女の幻影に気を取られているスキに、向こうのインキュベーターを始末。

2、マミが丸呑みにされる幻影に合わせて当身で気絶させて攫って、キュゥべえも抱える。

3、本物のお菓子の魔女のグリーフシードを掻っ攫って結界を破壊。

以上、死の運命にあった魔法少女を救う為の3ステップでしたー」

 

「……………………………………」

 

呆れてモノも言えない、というのは、きっとこういう感情なのだろう。

 

さも簡単そうに言った手順は、原理としては幻影系の能力さえあれば可能だろうけど、実行するのに必要な能力が尋常じゃ無い。

 

1秒にも満たないうちに、離れた場所にいるインキュベーターを殺し、ベテランの魔法少女に気づかれずに接近、気絶させ、更に魔女からピンポイントでグリーフシードを抉り取る。

 

予め瀕死だったり、幻影に気を取られていて無抵抗とはいえ、これだけの事を一瞬でやってのけたのだ。

 

それにあの魔女の幻影だって、ただ単純にそう見えただけでなく、行動によって発生する(聴覚)と、大質量の移動に伴う風圧(触覚)まで再現されていた。

 

「……………………キミみたいな存在を『理不尽(チート)が服着て歩いている』って言うんだろうね」

 

「褒め言葉だな。

それよか、これからの事を考えるぞ。 なんせ魔女呼ばわりされたからな。 対話だけで上手くいくとは思えんし、ほむほむとの話もただの確認作業になっちまったし」

 

言われてみて、クトの格好を見直してみる。

 

魔法少女の変身を解いた少女(?)の服装は、黒のワンピースにスニーカー。

黒尽くめなお陰で返り血はそこまで目立たないけれど………

 

 

血生臭い。 すっっごく臭い。

 

 

それに、ソウルジェムのこともどうにかしないと。

 

心が読める訳じゃ無いから正確な精神状態は分からないとはいえ、ソウルジェムそのものは、いつ本当に魔女になっても可笑しく無いほど黒く染まり、形状も完全にそれだ。

 

視線で気がついたのか、クトがさっきの魔女のグリーフシードで穢れを取ったけれど…………

 

ソウルジェムが、すぐさま限界まで濁った。

 

 

「………キュゥべえ、これって、」

 

「グリーフシードによる浄化が追い付いていないという事は、その穢れはやはり精神的なものだね。 キミの不思議そうな顔を見る限り、失われた記憶が関係しているようだけど。

ボクとしては、ヒヤヒヤするからどうにかして欲しいのだけれど?」

 

「と言われてもねぇ………

そういやキュゥべえ、このグリーフシードに穢れじゃなくて、綺麗な魔力を注いだらどうなるんかね?」

 

「それは根本的に不可能だよ。 魔法少女の魔法は、形を持って初めて顕現出来る奇跡。 純粋な魔力そのものとして取り出すことは出来ない」

 

「ふーん………」

 

手の中でグリーフシードを弄るクト。

 

 

 

 

 

 

 

『―キュゥべえ、一芝居打つから、話を合わせろ』

 

「??」

 

クトがチラリとマミの方を見る。

 

―成る程、意識が戻ったけれど、状況から判断して気絶したフリをしている、といった所かな?

 

『把握した。 何時でもいいよ』

 

『そいじゃ。

3、2、1、』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideマミ

 

 

…………………ぅ、ん…………??

 

―………ここは、?

確か、私は………………

 

 

目が覚めると、そこは何時もの部屋じゃ無い――見知らぬ場所だった。

 

ボヤけた頭で、記憶を辿っていくと―

 

 

 

……………そうだ。 私、魔女に負けちゃったのね………じゃあ、ここはあの世………?

その割には埃っぽいっていうか、薄汚れているような気が―

 

 

 

「―――――とし―――ない―」

 

「―ーん……」

 

妙に聞き覚えのある声が聞こえ、ふとそちらを見ると――

 

肩まで伸びた深緑の髪に、黒尽くめの服装。

 

服装こそ違うけど、間違い無い。 私と暁美さんで斃した魔女だ。

 

魔女は、未だ私が近くに居る事にも気がつかずに、何故か居るキュゥべえと会話をしていた。

 

なんとなく(・・・・・)気になったから、耳を澄ませて聞くと―

 

 

 

 

 

「―折角回収したこのグリーフシード、どうせならなんか有効活用したいな。 そういやキュゥべえ、ソウルジェムの濁りって、ほっといたらどうなるんだ?」

 

 

これは、あの魔女の声。

魔女にしては珍しい、マトモな会話が可能なのね。

思考も―グリーフシードが魔法少女にとって重要なものと分かって奪ったのかしら?

 

 

 

「まず第一に、使用する魔法が弱くなるね。 この時点で普通の魔法少女にとっては致命的な問題だからその先を知ることは少ないのだけれど、ソウルジェムが濁りきるとグリーフシードに変化、絶望の感情エネルギーを放出して魔女になる(・・・・・)のさ」

 

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え???

 

 

あんまりな内容に、頭の中が白くなる。

 

―キュゥべえ、今言ったのって、ウソ………よね……………??

 

そんな私の願いも虚しく、恐るべき事実が次々と明らかになっていく。

 

 

「じゃあ何か。 魔法少女は揃いも揃って魔女のタマゴってか。なにそれこわい」

 

「この国では、成長途中の女のことを少女って、呼ぶんだろう?

なら、やがて魔女になる存在は、『魔法少女』と呼ぶべきだと思うけど?」

 

 

……………

 

 

「………ぁー、うん、ソウデスネ。 流石(?)インキュベーター(孵卵器)

なんでそんな事を?」

 

「ふむ。 キミはエントロピーという単語を知っているかい?」

 

「後日談とかその手の奴か?」

 

「それはエピローグ。

エントロピーと言うのは、エネルギー変換時に於けるロスのことさ。 例えば、木を1本育てるのに必要なエネルギーと、その木を燃やして得られるエネルギーでは、育てる方に圧倒的なエネルギーが必要なんだ。

この宇宙のエネルギーが尽きれば、文字通り世界が滅んでしまう。 そこでボクらが目をつけたのは、そんなエントロピーの法則すら凌駕する、感情エネルギー―

特に、第二次性徴期の少女の希望と絶望のエネルギーが、最も適しているんだ。

幾ら宇宙の為とはいえ、人類の数が無駄に減るのも困るだろう? だから、最少の犠牲で済むように、該当対象にのみ、本人の同意を得たうえで宇宙の礎となってもらっているのさ」

 

 

…………よ。

 

 

「本人の同意っつうと………

魔法少女の契約か。 でも契約する前にンな話は聞かなかったぞ?」

 

「第二次性徴期くらいの少女は昔から、大の為に小を切り捨てる事を嫌ったからね。 だからと言って、こっちもはいそうですかと引き下がる訳にはいかない。 魔女という分かりやすい悪役を用意して、それを狩る『正義の味方』という設定で上手くいって以来、そのまま続けているのさ」

 

 

………そよ。

 

 

「成る程ねぇ。

そういやキュゥべえ、契約の時の奇跡って、何かしら誘導してたりすんのか? このグリーフシードがソウルジェムの時の記憶をチョイと覗いてみたら、最悪のタイミングで契約を持ち掛けられてたんだけど?」

 

「ある程度はね。 彼女たちの願いを叶える為にもエネルギーは必要だし。 それに、歪んだ奇跡の対価―

必ず訪れる絶望の事も考えると、こちらが巻き込まれないよう、さらに他の魔法少女も絶望に追い込めるよう調整出来るようにしたいからね」

 

 

………うそよ、

 

 

「うわぁ、エグ。

じゃあ、ソウルジェムって何?

契約の時は魔力庫みたいな扱いだけど」

 

「変異させたキミたちの魂そのものさ。 魔力を使って磨耗したり、絶望すると濁っていく。

キミも大切にしておくれよ? 100メートル以上離れると肉体を操作出来なくなる」

 

 

……うそよ! 早くウソだと言って!!

 

 

「つまり――

魔法少女(希望)は、最終的には魔女(絶望)になるってことか」

 

「その通りさ。 希望と絶望はバランスを取り合う。 運命というのは、本当によく出来てるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ふふっ。

 

 

 

ウふふフフふふふふうフフウふうフふふフフウふフうフうふふフうフフフウふフうふうフフフウフフうふふふふふウふフフうフふフウフふふうふフフフふ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideキュゥべえ

 

 

『………えっと、クト?

あれ(マミ)は大丈夫なのかい? なんか、黒いオーラみたいなのが出てるんだけど?』

 

『………素直過ぎるっていうのも困りモンだな。 全部事実とはいえ、コロっと信じて即絶望て』

 

ほぼマミに聞かせるのが目的の確認作業――途中でも分かりやすい反応があったけれど…………

 

 

終わったら、マミの気配がスゴイことになってましたマル。

 

 

『………よしキュゥべえ。 ちょっちと言わずソコソコ離れてろ。

つうか――

 

 

 

 

 

逃げろ』

 

 

 

 

 

―パァンッッ!

 

 

フラリと、幽鬼のような動きで立ち上がったマミが神速で変身、

一瞬で顕現させたマスケット銃をクトに向けて撃った。

 

「っ―

……む?」

 

ギシッ!

 

着弾した弾丸から伸びたリボンがクトに巻きつき、その行動を阻害していく。

 

パァンパァンパァンパァンパァン!!

 

更に至近距離で弾丸が喰い込み、リボンによる拘束が完成やいなや、大砲クラスのマスケット銃が召喚される。

 

「―これで、終わりよ!!

『ティロ・フィナーレ』っ!!」

 

 

―ドッッゴォォォォオオン!!

 

 

零距離で、凄まじい威力の砲撃が炸裂し、爆煙が視界を覆う。

 

 

 

 

 

―煙が晴れれば、当たり前のように、

 

 

「……………」

 

 

無傷(・・)のクトが、立っていた。

 

 

「!?!? な、何で………

何で死なないのよ?!?!」

 

「……………」

 

再度、大口径マスケット銃の引き金が引かれる。

 

何度も、何度も。

 

 

「『ティロ・フィナーレ』、『ティロ・フィナーレ』、『ティロ・フィナーレ』、『ティロ・フィナーレ』、『ティロ・フィナーレ』、『ティロ・フィナーレ』、『ティロ・フィナーレ』、『ティロ・フィナーレ』、『ティロ・フィナーレ』、『ティロ・フィナーレ』ェェェェェェェェェェ、ェ、ぇぇ………」

 

その全てに、クトは耐えた。

流石に無傷とはいかず、服の一部は千切れ飛び、何箇所か痣ができ、皮膚の所々から出血しているが、それでも堪え続けた。

 

「………………うぅ………」

 

「………………」

 

疲労からか、それとも効果の無さに諦めたのか、その場に座り込んでしまう。

 

そうなってから、初めてクトは、行動をおこした。

 

 

 

 

 

 

 

(彼女にしては)優しく、マミの頭を抱いた。

 

 

「―っ!?! 離しなさいよ、このっ、魔女!」

 

当然拒絶し、クトが突き飛ばされる。

 

 

その時に見えた、マミの顔は―

 

 

 

涙目(・・)で、嗤って(・・・)いた。

 

 

 

「…………マミ、」

 

「黙りなさい! 私は、みんなを、魔女から守る魔法少女で、―

 

――でも、魔法少女は、魔女を生み出す存在でしかなくて、――

 

――なら、こんな魔法少女(石コロ)、みんな死ぬしかないじゃないっ!!」

 

―ブワッッ!

 

通常サイズのマスケット銃が召喚され、それが頭に――

 

 

 

 

 

マミのソウルジェム(・・・・・・・・・)に突き付けられる。

 

トリガーが引かれ、撃ち出された弾丸は、―

 

 

 

グジュッッッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――強引に銃口をひったくったクトの手にめり込んだ。

 

 

 

 

 

「…………………………なんで。

なんで助けたのよ?! 貴女は魔女でしょう?!」

 

「あの時も言ったけど、私は魔女じゃない」

 

「じゃあ貴女の胸にあったグリーフシードは何よ?!」

 

「アレが私のソウルジェムだ。 ベテランさんや、今まで斃してきた魔女で、表皮にグリーフシードが露出してた個体っていたか?」

 

「っ―」

 

言葉につまり―

すぐに笑みが浮かんだ。

 

「………そうよ。 ――そうよ! 貴女たちがウソをついt」

「じゃあ試してみるか? そっちのソウルジェムも限界っぽいからな。 5分もしないで真実を実体験出来るぞ」

 

そして、その笑みも凍りつく。

 

「………………………冗談、よね?」

 

「グリーフシード、使うか? さっき私の奴から吸ったから割とギリギリだけど」

 

クトが、血塗れの手とは逆の右手の上でグリーフシード――通常なら、インキュベーターが回収するレベルで穢れが溜まっているモノ――を転がすと、それをひったくったマミが変身を解いて、急いでソウルジェムから穢れを取る。

取れた穢れは五分(5パーセント)程度が限界だったようで、直ぐに『パキッパキ』という音が響き出す。

 

「―っ、魔女が――」

 

「ハイハイ下がってなっと。 今度は遊ばずに1発で仕留めるよ」

 

「……………は? 貴女、何言って、」

 

 

パキンッ!

 

 

『――――――――!!』

 

 

グリーフシードから、見覚えのある魔女が孵化s

「乙。 次回に期待だな。

『バスターインパクト』ッッ!!」

 

 

ドゴォッッッッッ!!!

 

 

「………………………………………

はぇ??」

 

 

マミがポカンとした顔をする。

ま、気持ちは分かるよ。 魔女が現れたと認識した頃には、たった一発の正拳突きで撃破されてるんだから。

 

「お〜い、マミさんや〜? グリーフシードもっかい入手出来たけど使うか?」

 

「……………貴女の分は?」

 

「変身してないし、魔法使って無いし、結界張る前に潰したから、その辺の魔力使用もゼロ。 というか私の場合根本的に使う意味が無い」

 

「……………………………………………………使わせてもらうわね。

………っ!?―」

 

グリーフシードを拾ったマミが、驚愕の表情をする。

 

「? どうした?」

 

「………………分かったわよ。 貴女は魔女じゃない。 信じるわ」

 

「? そりゃドーモ?」

 

マミの手元には、―

 

綺麗なグリーフシードと、グリーフシードに見えるソウルジェムがあった。

 

……成る程。 自身のソウルジェムもクトと近い状態になったから、信じざるを得なくなったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、ソウルジェムの穢れが完全に取れた後、隙を見て逃げ出そうとしていたけれど、

「どうせならクリーンな状態で持ち運ぶか!」

と、クトが再度魔女を孵化させ、今度は一撃死させず、摑んだ状態で地面に押し付けたまま、

「回転はぁぁぁぁあっ! ロマンだぁぁぁぁぁあ!

『ローリングドライバー』ァァァァァ!!」

と、ゴリゴリと死ぬまで回転し続けたのを見て、何を思ったか若干目を輝かせていたマミがいた。 わけがわからないよ。

 



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裏ルート:第7話

sideキュゥべえ

 

―マミの部屋

 

 

「……それで? 話ってなにかしら?」

 

クトが三度目の虐殺を済ませた後―

 

取り敢えず安全だと判断したのか、ボクを呼び寄せてから、「ちょっち話があるんだけど、いいか?」

と交渉(?)したことで、マミの部屋まで戻って、第一声がそれだった。

 

「うむ、その前に1つ。

マミは魔法少女のシステムを、どれ位理解してる?」

 

「………貴女たちの、さっきの会話の内容程度よ」

 

「じゃあ話は早い。

マミ、」

 

クトは、とびっきりの笑顔で、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私と組んで(契約して)、ダークヒーローになってよ!」

 

「……………………………………………………はい?」

 

こんなことをのたまうのであった。

 

 

 

………って、いうか、

 

「本来のボクのセリフをパクらないでほしいな」

 

「ツッコミ所違くね?

まあいいや。 ならば言い換えよう。

――変身!」

 

ビシッ!っと、足を肩幅に開き、左手は突きの溜めのように握り込んで腰の部分に。

そして右手は、指先まで伸ばしきった状態で、身体の中心線をクロスするようにしていた。

 

分かり易く言えば――アレだ。

 

いつかの昼過ぎに、ボクがクトの心の闇の一部を見る前。

その時にクトが読もうとしていた小説(ラノベ)の表紙に描かれていた、銀髪アホ毛のキャラのとっていたポーズそのものだ。

 

そのポーズのまま、右手の薬指にはまった指輪形態のソウルジェムから、暗い碧と深緑の光(というか、質量を持った闇?)が溢れ出し、クトを覆い隠す。 ソレが内側から弾け飛ぶと―

ロングコートにマフラーを巻いた(魔法少女の姿の)クトが、ドヤ顔で立っていた。

 

「――邪教に染まりし撲殺少女 クト☆マギカ、只今降臨!

星辰が揃いし夜に深淵の闇は封印から解き放たれ、中途半端な暗闇は狂気にまみれた断末魔をあげながらのたうち回る他なくなるだろう!クククッ!

 

「…………………………」

 

ああ、マミもポカーンとしちゃって。

それよりキミ、やってて辛くないかい? とってもイt『ァ"??』ハイ黙ってます。

 

「では、再度問おう。 死の運命にあった光の魔法少女 巴マミ!

運命に抗いし道無き道を踏破するため、私の元へ―

共に窮極の混沌の中心(ダークネビュラ)へと行かぬかね?!」

 

ビシィッ! っと、これまた何処かで見たことあるポーズを決めながら、更には精神干渉を応用した能力で天井にプラネタリウムを―

それも、地球からでは絶対に観測出来ないの星空が、投影されていた。

 

 

「………………幾つか、いいかしら?」

 

「なんなりと答えよう、選ばれしヒトよ」

 

「………貴女の言う『闇』は、一般人に対してどういった対応をするのかしら?」

 

「私の存在は、決して万人に受けわせぬ。 世の中には無知は罪とほざく愚か者も居るが、同時に知らぬが仏という諺もある」

 

ふむふむと頷くマミ。 なんでこれで会話が成立するんだい? わけがわからないよ。

 

「………貴女の目的は?」

 

「ククッ! 邪神の気紛れに理由を求めるか、ヒトよ。

強いて挙げるならば、お前の友が、私に救いを求めた。 故、私はその範囲は確実に救うと決めた。 それまでの事だ」

 

「そう、分かったわ。

 

 

 

 

 

 

――それで? 私は何をすればいいのかしら?」

 

「了承した!?」

 

突然クトがイタイ言動を始めたと思ったら、気がついたらマミが仲間になっていた。

な、何を言っているのかわからないと思うけど、ボクにもわからない。

ただあれは、幻覚とか、催眠術とか、そんなちゃちなものじゃない。

もっと恐ろしい、邪神の力の片鱗を味わった気分だよ……!

 

「……そっちも大概ネタに走るようになったな」

 

「誰のせいだと思ってるんだい?

それにしてもマミ、もうちょっと熟考してもいいんじゃ―」

 

「いいのよ。 彼女(クト)が魔女でも、敵対する魔法少女でもないなら、それだけで共闘する理由としては充分よ。 何より、クトは私と同じ匂いを感じるわ」

 

匂い………

あぁ、ティロフィナ仲m(中二by)

タァン!

 

 

「………キューベーキューベー、女の子の読心術舐めないほうがいいぞ? 特定の分野限定とはいえ、お辞儀さんの開心術を平然と上回るからな」

 

………短銃が出てくる前に聞きたかった事実だね。

それとクト、お辞儀さんって誰だい?

 

 

「ま、匂い云々は1度水平線の彼方まで投げ飛ばすとして、組むメリットはそれだけじゃないからな」

 

「「?」」

 

「………オイ待てベテラン、まさかそれだけの理由で決めたんじゃないだろうな?」

 

「し、失礼ね! それ以外にもちゃんとした理由があるわよ!」

 

「あーハイハイ『正義の味方』ね。

………話を戻すぞ」

 

変身を解き、座り直してから改めて話し始める。

 

「まずこの街の魔法少女全体の問題として、ハッキリいって数が多過ぎる。 2週間しない内に襲来する『ワルプルギスの夜』相手には寧ろ足りないが、それとこれとは話が別だ」

 

「多過ぎる? 私と貴女、暁美さんの3人だけじゃないかしら?

それに『ワルプルギスの夜』?

どうしてそんな大物がこの街に現れるって分かるのかしら?」

 

「魔法少女の数は、マミが死んだと誤認したインキュベーターが呼ぶ佐倉杏子と、美樹さやかも参加するだろうからな。 計5人になる。

ワルプルギスは、――すまん、信じてくれとしか言いようがない」

 

「5人の魔法少女………グリーフシードの供給、足りるかしら?

それに、誤認したインキュベーターって、じゃあそこにいるキュゥべえは?」

 

「あれは特別。 ちょっち事情があってな。

で、問題は、やっぱりグリーフシードの量だ。 譲り合いになっても奪い合いになっても、どちらにせよロクなことにならない。 一応手は考えて無い訳じゃ無いけど………」

 

クトが珍しく言い淀む。 どうしたんだい?

 

「……解決策は2つ。

1つ目は、根本的に魔法少女の数を増やさない。 美樹さやかの契約を全力で妨害する。 佐倉杏子には盛大に遅刻してもらう。

ただ、ただでさえ戦力不足だってのに、そこから更に戦力を削るような行為はなぁ………」

 

「……何で美樹さん限定の話をしているのかしら? 鹿目さんや、それ以外の子が魔法少女になる可能性は?」

 

「鹿目まどかが魔法少女になった時点で負け確だから。 何せまどかを助ける為だけに時間遡行やらかしてる人がいるしな。 それ以外は……

キュゥべえ?」

 

「エントロピーを凌駕する程の因果が絡んだ人材は、この街にはもうその2人しかいない。 遠方の魔法少女が現れない限り、追加は無いと考えていいだろう」

 

「ま、来たとしても、そっちまで面倒見る余裕は無いな。

で、2つ目だけど………

私のソウルジェムをグリーフシードとして扱う」

 

「………は? それじゃあ、貴女が魔女に―」

 

「それなら大丈夫だ。 なんでかよく分からんけど、限界極っきわでキープするよう出来てるっぽいから。

――それに、仮にヤバくなったとしても、私は『邪神』だぞ? この程度の呪いなら幾らでも抑え込めるわ」

 

ケラケラと笑うクト。

 

「………えっと、クト? 流石にそれは冗談じゃ、」

 

「こればっかりは冗談じゃないんだなぁ」

 

バサッと、普段は収納しておけるらしい骨翼を展開する。

 

「……………………………………………………へ?」

 

「言い忘れてたけど、私、魔法少女になる前から人間じゃ無いから。 ガチのバケモノだから」

 

「」

 

フリーズするマミ。

骨翼でゆったりと部屋の空気を掻き混ぜるクト。

 

うん、こう言うのを未知との遭遇って言うんだなー。

 

 

 

 

 

「…………………くぁwせdrftgyふじこlp☺︎£☆♪€Σ@€♡!?!?!?!?!?」

 

「人間の言葉でおk?」

 

「そもそもどうやって発音したのさ?」

 

テンションがハイになったのか、泡を吹きながら両腕で机をバンバン叩き始めるマミ。

これには流石のクトも若干引いていた。

 

「……お〜いマミさんやー………?」

 

 

 

 

 

―ガシッ!

 

 

 

 

 

「………嫌な予感」

 

「デジャビュだね」

 

テンションの上限が壊れたままのマミに両肩をガッチリホールドされたクト。

今更のように冷や汗が出てるけど、もう遅い。

 

ゆっくりと、深く息を吸ったマミの口から飛び出したのは――

 

 

 

「―人型宇宙人って実在したのね!

いつどうやってどうして地球に言語はどうやって習得したのかしらそもそも基本的な外見は人間そっくりね環境が似た星から来たのかしらそれとも変身憑依ねえ種族はなんて言うの母星はなにか特殊な能力とかあるのかしらそっちの言語はどんな感じ他の個体は食文化はしかもその翼骨っぽい何かで出来てるけど軟骨部分は何も無いのに繋がっているかのように浮いてるわねどうやっているのかしら?!?!?!?!」

 

「ひっ!?」

 

鼻息荒く目を爛々と輝かせながら、ここまでノンブレスで言いきった。

クトも今度は若干と言わず、思いっきり引いていたが、両肩を掴まれているから逃げられなかったようだ。

 

「………と、取り敢えず、一旦落ち着こうk

「これが落ち着いてなんていられるもんですか!!!!!

観れば観るほど人間そっくりね細部や内臓器官ってどうなっているのかしら外見からしてやっぱり雌個体なの今までの魔女との戦いで武器を使わず純粋な力だけでねじ伏せていたけど筋肉とかどうなっているのかしらそれともなにか私たち魔法少女にも使えない魔法かしらああぁ聞きたい事は一杯あるのに口も頭も追いつかないwtrあえzいkrwtsnstmnnこtえtとりま脱げぇぇぇ!!!!!」

 

「ヒェェっ!?!? ちょ、おま、きゅ、キュゥべえ、ヘルプ! ヘルプ!!」

 

完全にイッちゃっ(暴走し)てる状態でクトのワンピースに手をかけるマミ。

クトも予想外過ぎて対応仕切れないのか、必死に手を伸ばしてきたけど――

 

「………クト。 そうなったマミは、もう、どうしようもないんだ。

ま、頃合いを見て戻ってくるよ」

 

そう言って、部屋を後にする。

 

 

中から、

「このっ、裏切り者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!

え、ちょ、マミさ、そこはっ――

う、うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――」

 

って感じの、クトの素の悲鳴というある意味珍しいものが聞こえてきたけど、無視することにした。

 

 

取り敢えず、合掌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―3時間後

 

そろ〜りと、マミの部屋の前まで戻る。

耳を澄ませて………

 

 

 

よし、あの精神衛生に悪過ぎる音は聞こえないね。

 

コッソリ部屋に侵入………リビングには居ないようだね。 何処かに出かけたのかな?

 

……いやな予感がするけど、一応、他の部屋も確認しておこう。

 

ドアを開け……? 何か引っかかってるね。

これは……服?

それも、黒のワンピーs――

 

 

 

 

 

……………よし、出よう。 今すぐこの部屋から脱出するんd

「……キュゥべえか?」

 

「キュっっ?!?!

く、くくくクトかい?」

 

真っ暗な部屋の中から、起伏を感じられない、平坦な声が聞こえてくる。

だというのに、なぜか恐ろしいものを感じる。

 

地雷原を歩くような気持ちで、奥に進むと………

 

 

クトは、マミと一緒に布団に包まっていた。

 

 

ただし、どうみても事後の状態で、一切の光を失った目だったけど。

 

 

「………その、クト? 大丈夫…そうには見えないけど、無事、かい?」

 

その返答は、

 

 

 

「……………………女同士っていうのも…………アリ、なんだな…………」

 

といったものだった。

 

 

「……クト? 戻ってくるんだ!

クト!? クトォォォーーーーっ!!?」

 



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裏ルート:第8話

―マンション 付近

 

 

sideキュゥべえ

 

 

『うぅぅ………昨晩はお愉しみ(玩具)にされた………』

 

「ごめんなさい、ついテンションが上がっちゃって……」

 

「まだ言ってるのかい?」

 

あの悪夢から一夜明け、翌日、放課後。

 

途中でマミの暴走によって強制終了してしまった話し合いを続けるべく、学校の通学路をマミの肩に乗ったままついていく。 ちなみにクトは、行きは一緒に居たけど、学校が始まってからは、『試しておきたいことがある』とかで別行動。

……キミの能力、精神干渉というより神経干渉じゃないかい? 目の前にいた筈の人物が瞬きする間に消えるって、中々に心臓に悪いよ。

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

何か考えがあるらしくて、マミはいつも通り学校に通うことになったけれど……

 

 

「……それで? 一体何を企んでいるんだい?」

 

『知ってるだろうけど、私は今、あの場にいた魔法少女には魔女だと思われてるワケじゃん。 でもって、幻影術で投影したお菓子の魔女とかの効果でマミも死んだと思われてるじゃん』

 

「結論を3行で頼むよ」

 

『その認識をぶち壊す。

インキュベーターの信用暴落。

そこでマミが介入。

これで、私の、私たちの勝ちだっ!』

 

「最後の一文いるかい? なんでわざわざ4行にしたのか、わけがわからないよ。 そして思ったより作戦が浅いね」

 

『手は幾つか思いつくんだけど、繋げるのがなぁ……』

 

つまり、脳筋(深い考えは無い)ってことだね。

 

「………聞くだけ聞こうか。 他にはどんな手が?」

 

『ソウルジェムの穢れ、物は試しで重曹で擦ったら時間は掛かるが取れたぞ』

 

「「…………………はぁぁぁ!?!?!?」」

 

『今漂白剤でも実験中ー。 いやー、ほっといても即濁るソウルジェムってこういう時に便利だなww』

 

「ちょ、キミ、自分の本体を洗剤で洗ってるのかい?!?!」

 

そもそもソウルジェムの濁りを洗剤で取ろうっていう発想そのものが間違ってるよ!? 取れることも驚きだけど!?!?

 

「……私、今までなにやってたのかしら………」

 

「ほ、ほら、きっとクトだけっていう可能性も

シャルロッテ(グリーフシード)に穢れ移してからでもイケたから、多分大丈夫だぞ』

クトォォォ!?!? どうしてキミは平然とトドメを刺すんだい!?!?」

 

「う、ふふふ………」

 

ガックリとorzしたまま笑い始めるマミ。 どうするのさコレ?!

 

 

『さて、さて。

――あ、ヤベ、漂白剤だとソウルジェムがっ! ソウルジェムそのものがががががががが』

 

「ちょ、クト、こんな状態のマミをどうすればいいのさ!?」

 

………………………

 

 

 

に、逃げたぁぁぁぁああ!?!?

 

帰ったら無限ティロ・フィナーレの刑にしよう(マミが)。 そうでもしなきゃこの激情は収まらn―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え?? 巴………マミ……???」

 

「――ほむらちゃん、待って………

……………え? マミ、さん??」

 

ギクッ!

 

この声は、……………

暁美、ほむら………?! それに鹿目まどか!?

 

声が聞こえてきた方向を見ると、まるで幽霊でも見たような表情の2人がいた。

 

………あれ? そう言えばマミの反応が無い気が―

 

 

 

「………うふふ………重曹………

魔法少女に………NaHCO3……」

 

まだショック受けてるぅぅぅぅぅぅう!?!?

 

しょうがない、これは使いたくなかったけれど………!

 

『マミ、この場面を乗り切ったらクトの秘密をおs』

ガバァッッ!!

 

 

………人間の知識欲を舐めていたようだね。

それとクト、すまない。 またマミの玩具になっておくれ。

 

『……ねぇキュゥべえ? この状況、軽く詰んでないかしら?』

 

『……言えてるね。 どうするんだい? ちなみにクトは音信不通になったよ』

 

勝利(?)条件は、

・穏便に撤退。

或いは、

・彼らをこちら側に引き込む(ただし明らかに信用されてない)。

 

敗北条件

魔法少女の脱落。 それを避けたとしても、話し合いの機会が皆無になることが確定するのもまずい。

 

 

うん、普通に難しいね。

 

 

『………これはもう、アレね』

 

あっ、とってもやな予感。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――あはは☆ なるようにな〜れっ♪』

 

『頼むから正気に戻っておくれ?!?!』

 

ああ!? なぜか瞳が渦巻いてるし!?

 

『もうっ! なにも怖くないっっ!!』

 

『それ死亡フラグだからぁぁぁぁぁあ!?!?』

 

あぁぁ……い、胃がぁ………

 

 

 

 

 

 

 

「………なんで、あなたは、死んだはず、―」

 

向こうもショックから立ち直ったのか、つっかえながらも言葉を紡ぐ。

 

これに対するマミ(暴走中)の返答はっ?!

 

「――うふふ。 暁美さん?」

 

あ、終わった(ボクの胃が)。

これはマミ(暴走中)じゃない、マミサン(暴遭中)だ。

 

「―一晩で随分鹿目さんと仲良くなったみたいね。 妬けちゃうわ」

 

「っマミさん……」

「ダメよまどか、様子がおかしい!」

 

ごもっとも。 現在発狂中だよ。

 

「状況的に考えて……魔女(クト)の仕業ね?

その化けの皮を剥がしなさい。 人の死をなんだと思っているのっ!?」

 

……あー、これは、

 

『マミ、どうやらクトがなんらかの方法でキミに化けたと思ってるみたいだ。 どうするんだい?』

 

『大丈夫よ、私にはティロ・フィナーレ(魔法)があるっ!』

 

『もうやだこのバーサーカー会話が成立しない。

あの大砲擬きでどうするっていうのさ?!! あと(魔法)ってなにさ?!?』

 

『クトがティロ・フィナーレ(物理)打てるからよ!』

 

『ただの右ストレートの間違いだろう!?!』

 

あぁ……せめてツッコミがもう1人欲しい………ボケは2人もいらないし片方はいろんな意味で規格外だし………

 

 

 

 

 

ところで、なにか忘れてるような?

 

 

 

 

 

 

 

「………聞いているのかしら、あなたたち………っ!?!」

 

あ、そうだそうだ。 暁美ほむらと鹿目まどかだ。

 

「勿論、聞こえているわ」

 

「……なら、さっさと元の姿に戻りなさい」

 

「元の姿ねぇ……

勘違いしているようだけど、私は巴マミ本人よ?」

 

「……………………」

 

ほむらも、マミが本物だとは思っていたみたいだね。

 

ただ、彼らの視点でそうだと仮定すると――

 

「―じ、じゃあ、マミさんは無事で、ちゃんと生きてるってことですよね!?」

 

「ええ。 ちょっと危なかったけどね」

 

……よかった。 思ったよりマトモに会話が進んでいる。

このままいけば、もしかすると――

 

 

 

 

 

 

 

「―ウソね。 あの状況であなたが生還できる可能性は、0よ」

 

 

………キミはどっちの味方だい、暁美ほむら!?!

 

 

「……ほむら、ちゃん?」

 

「巴マミ。 あなたのことはもう調べてあるわ。 当然、戦い方も。

――マスケット銃(単発銃)に、リボンを使用した拘束魔法。 これが、あなたの主な攻撃手段。

たったこれだけで、あの状況を、誰にも気が付かれずに(・・・・・・・・・・)打開することは不可能よ」

 

「………じゃあ、今ここにいる私は何なのかしら? 足ならあるわよ?」

 

「………どうせ聞いているのでしょう、クト。 さっさと現れないと―」

 

一瞬で魔法少女に変身するほむら。

 

あ、とってもやな予感(本日二度目)。

 

 

 

 

 

 

 

「――巴マミが死ぬわよ?」

 

 

次の瞬間――

 

ボクらは、発射済みの対戦車榴弾に囲まれていた。

 

 

「――ほむらちゃん!?!?」

 

「クっ――」

 

暁美ほむらが変身した時点でマミも変身し始めていたけど、間に合わない。

 

あこれ、少なくともボクは死んだなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私、これでも『ヒーローは遅れてやって来る理論(御都合主義)』ってあんま好きじゃ無いんですけど?

まあその塊な奴が言っても説得力無いのは分かってんだけどさ」

 

 

ドゴガガガガガガガガガガガガ――――――――ッッッ!!!

 

 

滑り込んできた影が、その背中から生える二対の翼で、的確に榴弾を撃墜していく。

 

 

一対は、布がはためく様な動きで斬り刻み、

 

一対は、その骨翼の先端が指の様に蠢き、弾き、貫き、叩き潰し、

 

打ち漏らした弾は、その側面を掴んで他の弾に投げつけ、誘爆させる。

 

 

こんなふざけた芸当が出来るのは、ボクが知る限り、たった1人だけ。

 

 

「………やっと現れたわね――

――クト!」

 

「脅しといてやっともポッドもないだろ。 悪りぃけど、この後ちょっち予定あるんだ。 やるなら私も相手するぜい?」

 

割と伸縮自在な骨翼を大きく広げ、身構えるクト。

 

「……一応警告しておくぞ。 幾らブッ飛んだ能力持っていようが、火力は手持ちの兵器に依存しているアンタじゃ私にマトモなダメージを通すことは出来ないし、それでなくても2対1、オマケにそっちはパンピー(鹿目まどか)を連れてるときた」

 

「………敵の言葉を素直に信じるとでも?」

 

クトの背後に瞬間移動したほむらが、両手に持った大型拳銃を頭部に突きつける。

 

『『クト!?』』

 

『大丈夫だから、声かけたら直ぐに移動出来るように変身解いといて。

さて、さて、――』

 

「……デザートイーグル.50AE、か。 ベレッタ(M92FS)といいリボルバー(M29)といい、良い趣味してるな」

 

「あなたに褒められてもなにも嬉しくないわ」

 

「まそりゃそうか。

で? 撃たないのか?」

 

「――どうやって巴マミを生き返らせたのか、説明しなさい」

 

「わざわざ最強のマグナムオートを出しといてそれk」

 

ゴリッという音が、クトの後頭部から響く。

 

「……分かったから、銃口を降ろせ。 地味に痛い」

 

「…断るわ」

 

「あ、そ。

っつてもねぇ……生き返らせたって、そもそも死んでない人に使う言葉じゃないと思うがな」

 

「……………続きを喋りなさい」

 

「いちいち頭を小突くでない。

……私は魔女じゃなくて魔法少女だって言ってるのに、話聞かなかっただろ? それで1人ずつゆっくり言い聞かせようと思って、まず近くにいたマミを拉致った。 それだけだ」

 

「…………………あなたが仮に魔法少女だとして。 なぜソウルジェムが濁りきった状態で放置しているのかしら?」

 

「これでももう今日だけで3回くらい汚れを落としたんだけどな? コレについては寧ろ私が聞きたい」

 

「………信用出来ないわね」

 

「ごもっとも。

取り敢えず、一旦引いてくれないか? 私としても、無駄な戦闘は避けたい」

 

「…………………………………………………チッ。

さっさと行きなさい」

 

「どーも」

 

拳銃を下ろしたほむらをそのままに、クトがこちらに歩み寄ってくる。

 

 

「――マミさん!」

 

「? 鹿目さん?」

 

移動を始める直前、縋るような目をした鹿目まどかが、マミに声をかけてきた。

 

「また………また、魔法少女体験コースに、連れて行って、くれますか………?」

 

「!

――えぇ、もちろん!」

 

「……………マミ、保護者サマ(暁美ほむら)がマジギレしそうだから今日はやめてくれ。 本気のアレを生け捕れとか、私でもキツい」

 

冷や汗を垂らしているクトの視線を辿れば………

視線で人を殺せるなら、殺人ビームがバンバン出まくってそうな目つきの暁美ほむらがいた。

 

「……怖っ?!」

 

「……右に同じく。 マミ、行くよ」

 

「分かったわよ」

 

 

 

 

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 

 

 

 

「――それで、どこへ向かってるんだい?」

 

「特にどこへも」

 

「? さっきは予定があるって、」

 

「あれほむほむから逃げる為のウソな。 ――っ!? なんか寒気が……?

ま、まあいいや。 実験結果についても話したいし、どっか適当な所でお茶しない?」

 

実験………あぁ、ソウルジェムの穢れが洗剤で落とせた件か。

 

「それなら、この近くにス○バがあるわよ」

 

「……金、足りるか?」

 

「大丈夫よ」

 

「……最近の中学生パネェ」

 

 

 

 

 

〜さらに少女移動中〜

 

 

 

 

 

 

―某コーヒーチェーン店

 

 

「そいじゃ、取り敢えず結果だけ言っていくぞー。

まずソウルジェムの穢れ。 石鹸程度だと効果無かったし、逆に漂白剤みたいな強酸性の洗剤だと、穢れこそ落ちるけど身体の方にまで悪影響が出る。 ま、コスパ面から見ても重曹一択だったな」(家庭用漂白剤は、塩素系はアルカリ性、酵素系は中性だったはず。酸性はトイレのサンポール)

 

「……因みに、その悪影響って?」

 

「魂が物理的に真っ白になります。

多分普通のソウルジェムでやってたら頭がパーになるな、あれは」

 

若干引きつった笑みを浮かべながら、コーヒー(一番安い奴)のコップを傾けるクト。

 

「……それで、他には? まずは、なんて前置きしたなら、他にもあるんでしょう?」

 

「あぁ、私が回収したグリーフシード、どうにかしてソウルジェムに戻せないか試してたんだ」

 

そう言ってから取り出したのは、お菓子の魔女のグリーフシード。

 

「結論から言うぞ。

……多分、成功する」

 

「「…………………はぁぁぁ!?!?」」

 

もうやる事なす事無茶苦茶だよキミ?!

 

「………えっと、どうやってやったんだい?」

 

「んー……

こう、きゅっとしてどかーん的な?

適当に弄ってたら浄化され始めたから慌てて止めたんだよ。 浄化しきったとしても入れ物(肉体)が無いからな」

 

「わけがわからないよ!?!?」

 

思わず絶叫。 幾らなんでも規格外過ぎる!?

 

「………そんなことよりキュゥべえ。 カウンセリングって出来るか?」

 

「え? ある程度なら出来ると思うけど?」

 

「じゃあマミのことよろしく。 私にゃ無理だ」

 

「へ?」

 

振り向いて、マミの方を見ると―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私……今まで、街の平和を守る為って、人を………」

 

――俯いて、肩を震わせているマミがいた。

 

「……あ、そっか。 グリーフシード=ソウルジェム(魔法少女)が確定したからか」

 

「昨日の夜は、多分自己防衛かなにかで、無意識の内に考えないようにしてたんだろうな。 それを改めて突きつけられて…………か」

 

席を立ったクトが、マミのソウルジェムから、クトのソウルジェムに穢れを移し続ける。

 

「………取り敢えず、思いっきり泣け。

周りの目と耳は誤魔化しておく」

 

効果を分かりやすくする為か、ドーム状の透明な膜が、席ごとボクらを覆う。

 

膜が床に到達する頃には、ハンカチを目元にあて、涙を流しながら、何かを呟いていた。

 

 

「………クト、」

 

「分かってる。 心を覗ける私が、傷心の1つも分からないとでも?」

 

「違うよ。

――絶対に、インキュベーターを止めよう。 ボクらが、決着をつけるんだ」

 

クトは、少し驚いた顔をしていた。

 

「………どうにかするアテはあるのか? インキュベーターの駆逐は現実的じゃない。 1人救済する間に、新しい魔法少女が増える。 イタチごっこになるぞ」

 

「………キミに、頼みがある」

 

クトも『その考え』に辿り着いたのか、眉を潜める。

 

「………鹿目まどかを使う気なら、私は反対だ」

 

「違う。 キミだ。 キミの魔法少女としての才能――絡んでいる因果は、鹿目まどかすら上回る」

 

「……………………キープした願い、か。

だが、『絶望』はどうする? その願いだと、元魔法少女は全滅、とか起こりうるぞ」

 

「それも含めて願えばいい。

ただし、どう足掻いてもキミには特大の絶望が襲いかかる。

魔女の強さは、元となった魔法少女の強さに比例する。

………キミが絶望に負ければ、確実にワルプルギスの夜よりも強大な魔女になる」

 

「……………………………………………………」

 

無表情のまま、硬直するクト。

 

やがて、マミとクトのソウルジェムをテーブルに置き、離れていく。

 

「!? クト、ソウルジェムは――」

 

「外の空気を吸ってくるだけだ。

……………その話、少し、考えさせてくれ」

 

そう言って、膜を通り抜けると、そのまま店の外へ出て行ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―結局、ボクらがクトに合流したのは、マミの元にまどかからの電話がかかってきた後だった。

 

その内容は、――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―魔女の口づけがついた大勢の人がいる。―

 



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裏ルート:第9話

―見滝原市 上空

 

 

sideキュゥべえ

 

――やあ! みんな大好きキュゥべえだよ!

 

 

……え? なんでこんなハイテンションなのかって?

それはねえ………

 

 

 

 

 

「――クト! あそこ! あの廃工場よ!」

 

「オゥケェイ! ハッハァアテンションプリーズ只今から当機は堕ちるぜちゃんと掴まれよ振り落とされっぜはい3、2、急降下ぁぁぁぁぁあああ!!」

 

「キャアアアアアアアアアア!!」

 

「もうヤダこの人たちぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!」

 

高度数百メートルからのレール無しジェットコースターを味わってるからだよ!! テンション上げないとやってられないよ!!

命綱はマミのリボンだけだしっ!!

当の本人は超ハイテンションだしっ!!

おかげで魔法に集中してないせいか、イマイチ安定してないしっっ!!!

 

そもそもクト!! なんでわざわざこんなところまで上昇するかな?!

というかキミはマトモに数を数えられないのかいこの脳きn

「ハイちょっちアクロバット入りまーす!!」

 

「キュギャァァァァァァァァァァアアア!?!?!? も、もう高いところヤダぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 

〜少女絶叫中〜

 

 

 

 

 

―廃工場

 

 

「―ほい到着!」

 

「……生きてる………はは、生きてる………はは、ははは! 生きてる! 無事生還出来た! あぁ、生きてるって素晴らしい! この世の全てに感謝を! 奇跡万歳! 魔法万歳!!」

 

「照れるぜ褒めるでない」

 

「キミには言ってないよ邪神っっ!!!」

 

「大袈裟ねぇ」

 

「キミは一度高度200メートル弱からのバンジージャンプを体験すべきだよ!! その範囲なら中点にソウルジェムを置けば意識保てるから!!!」

 

ゼェハァ荒れる息を整えながらツッコむ。

なんでキミたちケロリとしてるんだい?! というかマミは高山病とか大丈夫なのかい!?

 

「キュゥべえ、世の中にはな、

奇跡も魔法もあるんだよ!」

 

「そうだったぁぁぁああ!!」

 

 

 

 

 

「――さて、そんなことは銀河の彼方へギガンティックスローし(ブン投げ)ておいて。

まどかが助けてを求めてるんだろ!

速攻で片付けるよ!」

 

「……キミの場合、本当にワンパンで十分だからシャレにならないんだよね」

 

壁を壊して侵入するつもりか、クトが拳を押し当てて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………マミ?」

 

「―っ、ご、ごめんなさい……

私、戦えない………」

 

……さっきまでのテンションがウソのように、震えて、座り込んでいた。

 

「……………ごめんなさい。 でももう私、人を傷つけることなんて――」

「マミ」

 

クトが、振り返らずに話しかける。

 

「………このままだと、まどかは死ぬぞ?」

 

「……」

 

「…まどかだけじゃない。 この中には、魔女に操られている人が大勢いる。

このまま放っておけば、全員、死ぬ」

 

「……なら、魔女はそのままに、その人たちだけ助ければ、」

 

「……マミ。

……………少し前のことを思い出そうか。

 

私はあの晩、『ダークヒーローになってよ』って言った。

……なんでダークヒーローって言ったか、分かるか?」

 

「………?」

 

「――『ヒーロー』は、見ず知らずの人も含めて、みんなを助けなきゃならない。

確かにカッコいいし、誰にだって出来ることじゃない」

 

クトは、だがな、と続け、

 

「――私に言わせりゃ、んな責任なんぞクソくらえ(・・・・・)だ。

絶対的な正義は無い。

100%の正しさなんてのも無い。

正義っつうのはな、常に勝った者が決めることだ。

負ければ、それまで。

ただ死ぬだけならまだマシ。

死してなお、嘲られ、利用され、後ろ指を指され、汚され……………」

 

「……………」

 

クト……? キミは、一体………

 

「………己の正義を貫き通すには、どんな形でもいい。 勝て。

でもって、自分の望みを叶えて、幸せになってから死ね。

万人に受け入れられる必要は無い。

自分の守りたいものだけ守れるようになれ」

 

「…………………」

 

クト、キミは、どんな過去を――

 

 

フラリと、マミが立ち上がる。

 

「……クト。 私は、みんなの平和を守る魔法少女になるって決めたのよ。

なら、私は、それを貫き通す。

人も救う。 魔女だって救ってみせる!

――力を貸して、クト!!」

 

……彼女は、振り向かない。

 

「……それが、マミの答えか?」

 

けれど、骨翼が、その鋭い先端を見せつける。

 

 

だけど、マミの答えは、

 

 

 

 

「――――ええ!!」

 

 

 

 

 

力強いものだった。

 

 

 

 

 

 

「……そうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――上等だ! 後でへこたれんなよ!!」

 

クトは、獰猛な笑みを浮かべて振り向き、

 

「――『ツェペシュ(串刺せ)』っっ!!!」

 

鋭利な骨が、壁ごと内側の魔女と使い魔に突き刺さり、貫通し、縫い止める。

 

「グリーフシードさえ残っていれば、後はどうにでも出来る! やっちまえ、マミ!!」

 

「任せなさい! 『ティロ・――」

 

一瞬で変身したマミが、必殺技を、決める。

 

 

「――フィナーレ』っっ!!!」

 

 

ズッッドォォオンッッッ!!!

 

 

 

魔砲の一撃が直撃した魔女は一瞬で崩壊し、そこにはボロボロに粉砕された壁だった残骸とグリーフシード、呆然としている鹿目まどかが残った。

 

 

「――鹿目さん! 無事!?」

 

「え? あっ、はい!!」

 

マミがまどかを保護して、奥にいる被害者の様子を見に行っている間、グリーフシードをポーチに入れるクト。

 

「…………頼むから、自分を疎かにする正義にはなるなよ、マミ」

 

「……随分と彼女に肩入れするね」

 

「………昔、憧れてた奴に、何処となく似てるのさ。

……さてと。 こりゃ私もいっぺんソウルジェムピカピカにするかな? 広範囲探知するのに、自前の能力だけじゃちとツライからな」

 

「……道理でソウルジェムを使わずに魔女の居場所が正確に分かるワケだよ」

 

「ふはは。

じゃ、取り敢えず、―」

 

ギチィィィッッ! と、手に力が込められ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――開幕ブッパするには相手が悪かったなぁ、美樹さやか(・・・・・)ぁ!!」

 

ゴキィィィィィンッ!!!

 

「――っ!? くっ!!」

 

拳と剣がぶつかり合い、異常な音が響く。

 

「オイオイ、最近の中学生はいきなり切り掛かるのか! 随分とアグレッシブだな!」

 

「初戦闘の相手がアンタだとしても! マミさんの後を継いだあたしは、負けられないんだよ!!」

 

返す刃を骨翼で受け流し、掌を下腹部に押し当て――

 

「――『発勁』!」

 

ズドンッッ!!

 

「!? ぐ、あっ!?」

 

轟音をたてて、美樹さやかの身体が数メートル吹き飛ぶ。

 

「マミの後を継ぐねぇ! 本人が聞いたら勝手に殺すなって言われっぞ!」

 

「うるさい! 魔女のアンタになにが分かる!?」

 

「よしあの孵卵器野郎共マジで〆るっ!!」

 

剣と拳、骨翼が、かなりのペースでぶつかり合う。

美樹さやかは本気で殺しにかかってるけど、………クトは遊んでるね。

 

まあ、技術、能力、手数、経験、全てに於いて圧倒的優位に立つクトからしてみれば、新米魔法少女を下すことなんて、朝飯前だろうね。

 

 

ガギィンッッ!!

 

「あっ!?」

 

そうこうしている内に、クトのアッパーがさやかの剣を弾き飛ばす。

 

「――私の勝ちjy

「なにやってるのよこのバカっ!?」

ぁんきるしゅたいんっ!?」

 

ドゴォッ!!

 

……と思えば、マミの容赦ない飛び蹴りが炸裂、近くの花壇に頭から突っ込んでいた。

 

「うぇ!? マミさん!? ナンデ!? えっ、ホンモノ!? 生きてる!?」

 

「えぇ。 心配させちゃったわね。 でも、大丈夫よ!」

 

「マミざん"〜!!」

 

「さやかちゃん、魔法少女になったの?!」

 

「おう! どう? 似合う?」

 

 

 

 

 

……女子中学生3人は置いといて、花壇の反対側に周る。

 

「……気分はどうだい?」

 

「…………アレだな。 首だけの剥製って感じだ」

 

ズルズルと、葉っぱと小枝に塗れながら、上半身を引き出す。

 

 

 

「――っ! まどか、下がって!

マミさん、一緒にあの魔女を斃そう!」

 

「え? えっと、」

 

「………まぁいいや。 軽く揉んでやっから、2人でかかって来い」

 

殺気立つさやかと戸惑うマミを、汚れを払いながらクトが見据える。

 

「えっ!?」

 

「……随分ナメた口きくじゃん?」

 

「ハッ!

――3分だ」

 

黒い魔法少女に変身すると同時に、ゴキ……ベキ……という謎の異音が、クトの全身から、響く。

 

「な……何が、3分なんだよっ!?」

 

「3分――

それだけあれば、あんたら2人をブっ飛ばすには、手加減してても充分だ」

 

2人を――特に、美樹さやかを睨みながら、宣言する。

 

「………な……

なめんじゃないわよ……っ!」

 

さやかが一気に距離をつめる――

 

が、

 

 

―ズドンッッ!

 

「!? う、わ、」

 

クトがその場で地面を踏みつけることで発生した揺れに足を取られた隙に、クトが一瞬で背後に周る。

 

「基本スペックがダンチだから、ある程度はしょうがないにしても、あんたには足りないものが多過ぎる。

まずはスピード」

 

さやかが剣を横に振るのを上体を仰け反らせて避け、戻る動きで頭突く。

 

「!? つぁ―」

 

「次にガード」

 

怯んだ隙に襟を掴み、そのままバックドロップを決める。

 

「!?!? グッ――らぁっ!!」

 

「パワーも足りんな」

 

密着した状態での肘打ちがクトの眉間に突き刺さるも、微動だにしない。

 

「あとマミにも言えることだけど、全く連携出来ていない」

 

「?! ぐぁっっ!!」

 

「!? 美樹さん!?」

 

マミの銃撃も、さやかを武器の様に振り回すことで弾丸を防ぎ、更には展開されていた大量のマスケット銃も薙ぎはらって、次の一手を遮る。

 

「このっ、離せっ!!

―あぐっ!?」

 

「技術も無い。 素人が慣れない武器持つとか、自殺行為だぞ?」

 

なんとか両手で剣を振るうも、裏拳でアッサリ弾かれ、そのまま足元に叩きつけられる。

 

「やっぱり貴女、強いわね!

でも、これならどうよ!!」

 

「――!」

 

地面から伸びたマミのリボンが、クトに巻き付く。

が―

 

「―フンッ」

 

ブチィ!!

 

「!?!? うそっ!?」

 

それすら一瞬で引きちぎり、展開しかけていた砲門を容赦無く蹴り上げる。

 

とっさにバックステップで距離を取ったマミに追撃しようと、クトが距離を詰め――

 

「―はあああああああっっ!!」

 

「おらよっ!」

 

背後からさやかが斬りかかるのを、後ろ蹴りで弾き返し、マミには肘打ちが刺さり――

 

「な、めるなぁぁぁぁあっっ!!!」

 

「!?」

 

――しかしさやかは蹴りを受け止め、そのまま剣を振り下ろした。

 

「――ッ!!」

 

クトはバク転で回避、そのままサマーソルトで蹴り上げるも、それをさやかが上体を反らせて避け、さらにその動きに合わせて切り上げる。

 

「とった!!」

 

「思い上がるな、人間!!」

 

……けれど、邪神(クト)はそんなに甘くない。

 

切り上げを骨翼で受けながすと、着地と同時に地面スレスレの回し蹴りでうつ伏せに倒れ込ませ、それに合わせて膝蹴りを顔面にブチ込み、仰向けに勢いよくひっくり返す。

 

ゴツッッ!!

 

「ガ……ッ!?」

 

「――トドメだ」

 

ドゴンッッッッ!!

 

踵落としが鳩尾にめり込む。

 

「ぐっ…………ぅ………」

 

「美樹さん?!

『ティロ・―」

 

「ソレは一発逆転にはチャージが長過ぎる」

 

トン―

 

クトが、マミの首筋に軽く手刀を当てる。

――本気なら、首を引き千切れるぞ、という意味を込めて。

 

 

 

 

 

 

 

「………分かったわ、降参よ。

もうちょっと手加減しなさいよ。 結構痛かったわよ?」

 

「悪い悪い」

 

「あと、美樹さんにはちゃんと謝っておくこと!」

 

「えー、向こうから突っかかってk

「クト?」

…………あい」

 

端から見れば、仲のいい姉妹に見える漫才をスルーして、気絶しかけのさやかの方を見る。

 

 

「さやかちゃん……? さやかちゃん!?」

 

「ぅ………まどか、私、いきなり負けちゃったよ……」

 

「……あー、さやか?」

 

気まずそうに、クトが歩み寄る。

それを見て、まどかがさやかを庇うような素振りを見せる。

 

「……………私、そんなに魔女に見えるか?」

 

「……魔女っていうより、悪魔に見える」

 

「Σ(゚д゚)?!?!」

 

ガックリと項垂れるクト。

………うん、まあ、自業自得だね。

 

「…………と、取り敢えず、美樹さやか。

その…………………悪かったな」

 

「………次は、絶対、勝つ」

 

「ん、楽しみにしてる。

―あ、そうそう。

足りないだらけだったけど、光るモンもあったから、伝えておく。

――成長速度と、反応速度」

 

「……?」

 

「私のマトリックス避け――あれ、実践してみるとバランス取るのがスゲェムズイんだよな。 アレをアッサリ吸収するし。 あと、最後の斬り上げ。 正直、あの蹴りで決まると思ってたからな。

それと、途中、私の一撃を耐えたガッツも良かった。

………頑張れよ。 あんたなら、私を斃せる」

 

そこまで言うと、クトは、さやかたちから離れた。

 

 

 

 

 

 

「……………クト、あの励まし、何処までが本気だい?」

 

大分無理矢理感があったようn

「全部」

 

「はぁ!?」

 

顔を覗き込めば―

 

時折見る、嘲笑するような自虐的な笑みではなく、

――心の底から楽しそうな笑みが、あった。

 

「特に反応速度。 あれは磨けば一級品になるな」

 

「……………クト、彼女の願いは、」

 

「分かってる。 反応速度(それ)とは相性の悪い、癒しの願いだ。

……ま、終わった事を言っても仕方がない。 帰るかぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでクト、私の良かったところは?」

 

「1番は火力だな。 そもそもマミは結構強いから、私からダメ出しする点は無いな。

……単騎での戦闘力は、だけど」

 

「…………それって、」

 

「やっぱり連携が下手。 マミの特徴は超火力の一撃必殺なんだから、集団戦だと諸刃の剣だぞ、それ」

 

「………貴女、前にティロ・フィナーレを喰らって無傷じゃなかった?」

 

「…………………………グハッ?! あの時のダメージがっ?!」

 

「それは大変ね、包帯代わりにコレを使うといいわ」

 

「………あの、マミさん? このリボンはなんでせうか??」

 

「縛り方の実験台の確保よ」

 

「顔が何処ぞの新撰組一番隊長ソックリなんですがそれはっっ!?!?」

 



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裏ルート:第10話

sideキュゥべえ

 

―マミの部屋 夕方

 

 

「ただいまー。

……寝てるのね」

 

学校の帰りに乗っていたマミの肩から飛び降り、リビングの窓際で鼻ちょうちんを膨らませながら爆睡する(外見は)幼女の傍に座る。

 

 

 

マミは中学生としての生活があるのに対し、クトは、文字通りソラ(宇宙)から落ちてきた少女だ。 当然身分証の類も無く、学校も無い。

本人曰く、やろうと思えば能力で誤魔化すことも出来るらしいけど……

ま、気紛れな性格のクトのことだ。 まずやらないだろうね。

 

そんなこんなで、マミが動けない日中、特に昼は町内パトロールで魔女狩りをして、余った時間で簡単な家事や趣味に没頭するという、だらけた生活を送っていた。

 

「はぁ………クト、起きておくれ」

 

「ぃぁー…………ぃぁー………」

 

「………」

 

当然といっては何だけれど、声をかけた程度じゃ、この堕落幼女は目を覚まさない。

 

最初の頃は、いっそ見事なまでに膨らんだ鼻ちょうちんを割ったり、額に水滴を垂らすとか、クトのリアクションを楽しめるような起こし方をしていたけれど、最近は、もっと別の方法で起こすことにしている。

……だって、

 

「あー手が滑ってクトの紅茶にトウガラシの種がー(棒)」

 

「what?!」

 

狸寝入りなんだもん。

 

キッチンから聞こえてくるマミの棒読み台詞に跳ね起きてツッコミを入れるクト。

 

「クト、おはよう」

 

「…………くーすー」

 

「なんでキミがそこまで惰眠を貪るのを好むか分からないよ」

 

「午後の陽気」

 

「納得したよ」

 

「オイマテマジか」

 

もはや日常の一部とかした応酬をしていると、マミが紅茶とお菓子を持ってくる。

 

「――! 今日はカップケーキか!」

 

「キミ、性格の割にはかなりの甘党だよね」

 

「どういう意味じゃん??」

 

言いながら、クトがケーキに手を伸ばすと――

 

「クト?」

 

「……あー、うん、」

 

マミに窘められ、照れたように指先で頰をかく。

 

「………お、おかえり、マミ」

 

 

 

 

 

……………青春だねぇ。

 

「………青春、違くね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケーキを食べ終え、ポットの紅茶も半分になった頃。

 

「――クト、今晩暇かしら?」

 

「基本年中暇でっせ。 一応、変異した方の魔女は撃破済みだし」

 

床に置いてあるポーチを軽く叩くと、中から僅かに硬い物がぶつかる音がする。

 

「美樹さやかと魔女退治ツアー、だろ。 使い魔から成長したタイプを確認した場所はメモってあるから、そこから追えばいいさ」

 

「………悪いわね」

 

「いいってことよ。 誰かの絶望する顔見て愉悦る程、性格歪んでないし」

 

魔法少女にとって必須のグリーフシードすら、クトという特大のイレギュラーと、マミのような正義感のある少女の前には、別のモノ――

 

絶望に負けてしまった被害者、という存在になる。

 

グリーフシードに穢れを押し付け、インキュベーターに取り込ませるというのは、考えようによっては『殺人』となる。

もちろん通常ならグリーフシードをソウルジェムに戻す事は不可能だし、ましてやそれは、魔法少女にとっては生命線ともいえるモノ。 そこまで考えが至ったとしても、そういうものと割り切るしかない。

 

だけど、クトには、そんな『仕方ない』を真正面から握り潰す理不尽性がある。

 

ソウルジェムを、誰も想像出来なかった、というか思いついてもやらないような方法で浄化し、

 

魔女との命懸けの戦いも片手間で制し、

 

挙句、グリーフシードすら浄化可能という、まさしく『理不尽』。

 

 

 

……うん、改めて思い返すと、完全なまでに『ぼくのかんがえたさいきょうのまほうしょうじょ』だね。

敢えて問題点を挙げるとすれば、性格が若干、いや、かなり似合わない点だろうね。

 

「……おい、今ソコソコ失礼な事考えてなかったか?」

 

「気のせいだろう。 それよりも、予定は決まったかい?」

 

「先送りって事がな。 元魔法少女か使い魔成長かを見分ける方法が私の能力頼みな以上、下手にさやかに魔女を斃すなとはいえんし、かといって、ほっといて後から後悔っていうのもマズイからな。 暫くはつきっきりって事になったよ」

 

「成る程ね。

ところで、彼女についているだろうインキュベーターはどうするんだい?」

 

「今日は保留。 纏まってるのを無双するならともかく、一匹二匹だけ潰すっていうのもなぁ」

 

「幾らでもいるからねぇ」

 

ポーチに入っていたグリーフシードを小さな金庫にしまい、軽くなったポーチを腰に巻く。

 

 

 

「そいじゃ、飛ぶz

「歩きで行こう!? 頼むから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――結局ボクの懇願は無視され、飛んで美樹さやかの家に向かった。

 

現在、出待ち中とのこと。

 

「………バカと煙は高い所になんとやらと言うけど、キミの場合、周りを巻き添えにして急上昇するから迷惑なんだよね」

 

「え? じゃあ低空飛んでソニックブームで街薙ぎながら移動するのか?」

 

「根本的に飛ばないという選択肢は?」

 

「飛べる翼がある以上、選ばないな」

 

「―それより貴女、音速で飛べるの?!」

 

「おう。 衝撃波の処理が面倒だから、普段はしないけど」

 

「今度いいかしら?!」

 

「………低温やら爆音やらでロクな環境じゃないぞ? というか私がヤダ」

 

「えっ」

 

そうこうしているうちに、さやか

 

――ではなく、鹿目まどかが現れる。

 

「――あ! マミさん! クトちゃん!」

 

「あら? 鹿目さん、どうしたのかしら?」

 

「私、さやかちゃんの事が心配で……マミさんも、あの時、死んじゃったと思ったから、怖くなっちゃって……」

 

「大丈夫よ。 私もいるし、今度は切り札(リーサルウェポン)もいることだし」

 

「ヤバくなったら肉盾にされそーな予感」

 

「アイテム→使用で、全自動かつ問答無用で敵をワンターンキルする盾だね、分かるとも。 メタル狩りにもってこいだよ」

 

「なして例えがドラ○エ?」

 

 

「……………えっと、なにこの面子??」

 

あ、美樹さやか。

……………と、インキュベーター。

 

「まどか、このメンバーの中で君が一番弱い。 足を引っ張らない為にも、僕と契約して魔法少女n

「やったらオブジェ(血祭り)な」

……さやか、いきなり目の前に魔女がいるけど?」

 

開口一番に契約と、クトの排除にきたか。

さやかからは、クトが魔女だというイメージは拭えてない。

すわいきなり戦闘かと、いつでも逃げれるように足に力を入れて――

 

「あー……それなんだけどさ、キュゥべえ。 クトって、本当に魔女なの?」

 

「そうだよ」「違うよ」

 

「???」

 

そっか、彼女にとっては、ボクらは同じ『キュゥべえ』だからね。

 

「……………そういえば、なんでクトはそのキュゥべえ以外を『インキュベーター』って呼ぶのかしら?」

 

「ソウルジェム、エントロピー、グリーフシード、孵卵器(インキュベーター)

 

「……………分かったわ」

 

「「???」」

 

さやかとまどかは、全く理解出来ていないようだった。

それもそうか。 彼女たちは、魔法少女の実態を知らないんだから。

 

「……このままだと会話が進まなそうだから、取り敢えず今日は、ボクのことを『ジュゥべえ』と呼んでおくれ」

 

「……分かった。 それで、キュゥべえ。 クトが魔女って、本当なの?」

 

「当たり前じゃないか。 君には彼女の胸部にあるグリーフシードが見えないのかい?」

 

「そうなんだけどさ。 魔女っぽくないというか、なんというか……」

 

「君はそんなあやふやな理由で彼女を信用するのかい? 訳が分からないよ」

 

うぅむと腕を組んで唸るさやか。

 

 

 

 

 

 

 

「……………クト。 あたしたちを襲わないって、約束出来る?」

 

「おう。 約束しよう」

 

「……………ん。 ならあたしは、あんたを信じる」

 

「さやか!? 君は魔女に背中を預けるというのかい?!?!」

 

「うん。

………言い訳するみたいだけど、不意打ちもダメ、真っ向から戦ってもダメなら、一先ずは逃げなきゃだし」

 

「正しい判断だ。 勝てると思ったら、またおいで。 相手になろう」

 

「………」

 

邪魔者(クト)の排除に失敗したインキュベーターが、真顔のまま硬直する。

 

………あれでまだ、まどかを魔法少女にする事を諦めてないのだから驚きだよ。

 

「――よし! 行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜少女探索中〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―裏路地

 

 

ほぼ元の景色のままの、不安定な結界を見つけ、侵入する。

 

「……使い魔の結界ね」

 

「楽に越したことはないですよ、初心者なんだし」

 

「――あっ! あそこ! 使い魔が!」

 

まどかの指す方を見れば、"クレヨンで描かれたようにデフォルメされた小さな飛行機からはえた生首がボールで遊んでいる"という、字面にするとホラー以外の何ものでもない使い魔が漂っていた。

 

「よっしゃ!

――くらえっ!」

 

変身を終えたさやかが飛ばした斬撃が、使い魔を――

 

 

バチィッ!

 

 

 

「!? 弾かれた…!?」

 

 

「――ちょっとちょっとー、何やってんのさアンタたち。

あれ使い魔だよ? グリーフシード持ってる訳ないじゃん?」

 

丁度十字路になっている場所の左側から、槍を持った赤い少女が歩いてくる。

 

「…魔法少女?」

 

「やっと来たね、杏子」

 

「――あっ、逃げちゃう!」

 

使い魔が、いつの間にか逃げ出していた。 流石に、4人もの魔法少女が集中した場所からは逃げる程度の習性はあるみたいだね。

 

「追わなきゃ――」

「だから、やめろっつーの。

――!?」

 

少女(杏子)が、さやかの行く手を阻む様に槍を向けるけれど―

 

その穂先は、いつの間にか掴まれていた。

 

「………アンタ、なんのつもりだ?」

 

「かわいい後輩を見守る先輩だよ。

さやか、追え。 こいつは私が抑えておく。 マミ、一応ついて行ってやってくれ。 キュ…ジュゥべえ、離れとけ」

 

「ありがと! まどか、行くよ!」

 

逃げていった使い魔を追って、さやかとまどかとマミが、少女の横を通って行く。

 

「……クト、佐倉さんは、」

 

知ってる(・・・・)。 怪我させねぇよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――さて、さて。

最近の魔法少女は随分と物騒になったな?」

 

「………あぁ、そうか。 アンタが噂のコウモリ野郎(どっち付かず)ってか。 それに――」

 

少女の視線が、僅かに揺れる。

通り過ぎて行った少女を追うように。

 

「……マミは死んだって聞いたんだがな」

 

「あの通り、ピンピンしてるよ。 アテが外れて残念だったな」

 

「……………」

 

「……………」

 

少女とクトの、槍を掴む力が段々強くなる。

 

「………いい加減離せよ、チビ」

 

「………格上に対する言葉使いとは思えんなぁ、あんこ(・・・)ちゃん?」

 

「あ"ぁ"?

――上等じゃねぇか。 どっちが上か、ハッキリさせようか!!」

 

ガキンッ!

 

槍を手放すと、魔法で新たに槍を生成、再度突き出す少女。

それに対して、クトは手元で槍を回して持ち直し、突きを防ぐ。

 

「――これで終わりか?」

 

「――っ! テメェ、いい加減にしろっっ!!」

 

少女が矛先を滑らせて斬りかかろうとするが、それに気がついたクトは更に槍を回して振り払う。

距離が空くが、少女は直ぐさま槍の柄を分裂させ、多節棍でクトの持つ槍の枝分かれしている部分に巻き付く。

「――ん?」

「っらぁ!!」

少女が槍を振る動きに合わせて、クトの手から槍が奪われる。

更に追撃され、矛先が、棍が、連撃でクトを襲う。

その全てを、両手だけで弾き、逸らし、防ぐ。

「チッ! さっさと死ねこのチビ!!」

「誰がチビだクソアマ!!」

 

ゴギィィン!!

 

槍による薙ぎ払いと手刀がぶつかり、もう一度距離が空く。

 

「………クソ、しぶといチビだな」

 

「ケッ! 言ってろ、もう手は見えた。 あんたじゃ私にゃ勝てねぇよ」

 

「あ"……? ざけてんじゃねぇぞ!!」

 

少女が、槍を袈裟斬りに振るい―

 

 

 

ギィンッ!

 

 

「!? なっ――」

 

「……ハッキリ言ってやろうか?

私の勝ちだ」

 

――骨翼が、それを受け流す。

 

 

「――魔女がっ! 正体表しやがったな!

――っ!?!?」

 

少女が槍を振るうも、その軌道上には既に骨翼が囲うように展開されたことで満足に動かせず、

そのまま壁に縫い付けるように、けれど傷つけないよう、少女の輪郭をなぞるように先端が突き刺さる。

 

「………まだ、やるか? 佐倉杏子」

 

「!? アンタ、どこかで会ったか……?」

 

「……………私の方が聞きたいよ、んなこと」

 

コスッ、という小さい音と共に、骨翼が壁から外れる。

 

「――で? どうする? 私なら幾らでも付き合えるぞ?」

 

「………マミが生きてるんなら、この街はアイツの縄張りだ。 大人しく帰るとする

「それは困るな」

………あん?」

 

槍こそ構えていないけれど、一切の油断無く、軽く腰を落とす。

 

「二週間しないうちに、この街をワルプルギスの夜が襲う」

 

「…………なぜ分かる?」

 

「……………私があんたの名前を知ったのと、同じ手だ」

 

「答える気は無いってか?」

 

「そうだな………

私と同じように、ワルプルギスの夜の襲来について口にする奴がいる。 そいつから聞き出したらどうだ?」

 

「……………考えておくよ」

 

軽快な音を立てて、杏子が離れていく。

 

 

 

 

 

 

「…大したジャンプ力だこと。 あれで飛べないってんだから驚きだ」

 

「ボクとしては、魔法少女に飛行能力が無いのは喜ばしいことだよ」

 

「それ、単にあんたが高い所嫌なだけだろ」

 

クトと杏子の話し合い(?)が終わったのを見計らって、物陰から顔を覗かせる。

 

「――そういえば、マミたち、大分時間がかかってるね」

 

「ん? ん〜……

……この感じだと、使い魔が逃げた先で魔女にバッタリ、だな。 あの魔力の感じだと、私が昼に使い魔殲滅した(戦力削った)奴だから余裕だろ」

 

「………便利だね、その能力。 魔法少女からサトリ妖怪にジョブチェンジしたらどうだい?」

 

「だから私は邪神だって」

 

軽口を叩きながら、ボクらは夜の街を走る。

 



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裏ルート:第11話

sideキュゥべえ

 

―見滝原市 裏路地

 

今日も、マミたちは美樹さやかと一緒に出掛けるつもりらしく、どうせならとハブられたクトの暇潰し――魔女退治に付き合う事にした。

 

まあ、結果は言わずもがな、

 

 

 

 

 

 

 

と言いたかったんだけれどね。

 

 

 

 

 

「テメェはっ!! 一々ヒトの武器盗らねぇと戦えねぇのかよこのチビ!!」

「あンだとコラ?! この大いなるクトちゃんさまが手加減して槍縛りでやってやってんだから噎び泣けゴルァッッ!!」

 

ガッガキゴギゴガボキドゴガスズガギリドガゴシャメキゴカキュブッ――

 

 

………そういえば、佐倉杏子もボッチで、尚且つ暇潰しで魔女狩りとかしそうだなぁ。 今更気がついても後の祭りなんだけどさ。

 

 

因みに事の経緯は、

 

クト、魔女を半殺し中→杏子乱入、「テメェか! 最近使い魔だけブッ殺しまわってるってるバカは!?」発言→クト、安定の挑発→槍で切り掛かる→武器をゴ・ウ=ダツ、戦闘開始→激化。魔女は巻き添えくらって消し飛んだ。ついでに杏子といたインキュベーターも塵になった。←今ココ!

 

 

 

――ゴッギィィィィンッッ!!!

 

「っ?!? しまっ―」

 

杏子の槍の柄――正確には、多節棍の連結部が切断され、そのままの勢いで穂先が杏子の首を――

 

 

 

「―――っ、と」

 

……切り裂かずに、直前で止められる。

 

 

 

「………テメェ、なんで止めた?」

 

「私としては、遊び相手に杏子は丁度いいんだよ。 だからこんなふざけた理由で脱落すんなってこと」

 

「あぁ!? 遊び相手だ?!」

 

「ん? おう。 さやかはまだ素人だし、ほむらはピーキー過ぎる(初見殺しだ)し、マミはルール有りだと私が瞬殺されるし。

そういう意味なら、杏子は丁度いいんだよな。 程よく強いし、私も槍の練習出来るし」

 

あー………あれは素で言ってるね。

ほら、杏子も肩が震えてるよ。 主に怒りで。

 

「…………なめやがってぇ…………っ!!」

 

「よっと」

 

杏子が隙を突く形で槍の先端部を投げつけるけど、アッサリ避ける。

 

「上等だテメェ………ぜってぇ負かしてやる……っ!!」

 

「お、やる気出てきたか! さて、もいっちょやりますかぁ!」

 

……殺る気の間違えだろう。 ま、いいや。

 

『クト、終わったら声かけてくれ』

 

『フルバーストォ!!

―あ、いいよー』

 

………うん、ボクは何も見ていない。

クトが杏子に叩きつけた槍から、爆発が起きたなんてふざけた光景も、なんかクトの持つ槍がちょっとずつ変わってきてる光景も見えない。

 

見えないったら見えない。

 

 

 

 

 

………さて、クトとも別れた訳だけど、どうしよう。

あんまり離れるのも不安なんだよね。 前に一度、インキュベーターの群に殺されかけた訳だし。

……だからって、あの戦場に戻るのもなぁ。 クトがそれとなく誘導してた(魔女とインキュベーターはそれで消し飛んだ)とはいえ、ハイになったクトが周りを気にしなくなる可能性もあるし……

 

 

 

 

 

「おーい、終わったぞー」

 

「あれ? 思ったより早かったね?」

 

「石突きでカチ上げ喰らわせたらブッ飛んで、そのまま逃げやがった」

 

「………生きてるのかい?」

 

「大丈夫だろ。 ちゃんと自分の足で走ってたし」

 

そういう問題じゃ無いと思うな。

 

あとクト、その槍……というか、

突撃槍(ランス)かな? どうしたの?

 

「あんこからパクったのを私の魔力で再構成した」

 

「………なんというか、随分変わったデザインだね」

 

元となった佐倉杏子の槍は、十字架状の穂先に、多節棍にもなる長い柄が特徴の十文字槍だった。

 

けど、今クトの右手に握られてるのは、冒涜的で禍々しい、名状し難いナニカの爪と思われるモノを模しているだろう三角錐の長い矛先に、それこそ剣として振るうことも可能なんじゃないかと思うほど短い(と言ってもクトの片腕程度はある)柄。

 

「………キミの芸術センスは、その、大b、いや、少しばかり、変わってるね」

 

「? こんなもんだろ。

そもそも杖や観賞用なら兎も角、殺傷能力を重視する武器に相手を感動させるような装飾なんていらんし。 寧ろビビらせるくらいで丁度いい」

 

あ、流石にその辺は分かっていてそのデザインなんだね。

 

「再構成したって、よく魔力が保ったね」

 

「さっきウッカリぶちのめした使い魔野郎のグリーフシード使って、濁るまでのタイムラグの間でやった」

 

「成る程。 それなら、極短時間であれば魔法を使えるというわけだね」

 

「そゆこと。 そいじゃキュゥべえ、ちょいとテキトーなトコから色々パクリに行くぜい」

 

「そのテキトーと色々って、具体的にはなんなのさ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜人外物色中〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―見滝原市 土手

 

 

「――いや〜、大量大量! こんだけあれば暫くは困らないぜ!」

 

「…………えっと、く、クト? 本気でソレ(・・)を使うのかい?」

 

ボクが震えながら指すのは、クトのランス。

 

「そりゃ造ったからには使うさ。

え、なんかミスってる所あった?!」

 

「いや、どこも間違えてない、設計通りに出来てる。

………………強いていえば、発想そのものが間違えてる」

 

「じゃあ問題無いな」

 

季節外れの鼻歌――クリスマスソングとして有名な『もろびとこぞりて』、でも何処か狂ってる(・・・・)――を歌いながら、工具(盗品)をポーチ(盗(ry)にしまっていく。

 

彼女が造り上げてしまったゲテモノが、その真価を発揮する日が来ない事を祈ろう――として、そういえば丁度よく実験台ワルプルギスの夜がいることを思い出して、思わず目が遠くなる。

 

………この街に未来はあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ん?」

 

思わず星を眺めていると、ランスを眺めて愉悦に浸っていた(やっぱり芸術センスおかしい)クトが、急に遠くのビルを睨んだ。

 

「クト、どうしたんだい?」

 

「…………………もう(・・)かよ、クソっ」

 

ガチャッと、ランスがクトの左腰に無理矢理固定され、更に能力によって隠される。

 

「……………キュゥべえ、先に帰ってろ」

 

「??? え、ちょっと、――」

 

次の瞬間、

彼女は、音も無く消え去っていた。

 

 

 

その後、マミと合流することには成功したけれど………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その晩、クトが帰ってくることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌朝

 

―マミのマンション

 

 

……マミの朝は遅い。

学校がある平日や予定のある日なら兎も角、休日は昼前までゴロゴロしているのは珍しいことじゃ無い。

 

昨日の夜更かしもあって、ゆっくり寝ていたのに、

 

 

 

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

 

 

無粋な連続チャイムが響き渡る。

クトなら鍵の有無なんて無視して入ってくるから、わざわざチャイムを鳴らしている時点で違うだろう。

 

 

「ふぁ〜………はいはい、今いくわ〜」

 

まあ、無視する訳にもいかないから、マミが眠そうな目を擦りながら対応してるけど。

 

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピn

 

ガチャ

 

 

扉が開くと、鬼気迫る表情の佐倉杏子と暁美ほむらがいた。

 

「……そんなに連打しなくても大丈夫よ。 それで? 2人共、休日の早朝になんの用よ?」

 

「――マミ! クトは?! あのチビは?!?!」

 

「えっ」

 

「巴マミ、説明している暇はないわ! 一刻も早くあの悪魔を――」

 

「ちょ、ちょっと!! 落ち着きなさい!! クトなら、昨日から帰ってないわ!!」

 

「「なっ――!?」」

 

「……取り敢えず、入ったら? 2人とも、髪がボサボサだし…………

なんかこう、血っぽい匂いがするわよ?」

 

なるほど、クト関連で何かトラブルがあったんだね。

 

因みに彼らが連れていたインキュベーターは、クトが仕掛けたトラップで人知れず無音で始末されていた。

 

……取り敢えず、無断で跳ね板を設置するのは辞めようか。

部屋にすら入れずに犠牲者が綺麗な放物線を描いて墜落していくのが、閉まる直前の扉の隙間から見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その後、交代でシャワーを借りた2人から、昨日の出来事を伝えられる。

 

痛みを感じず、四肢を吹き飛ばしても断面の骨すら使って襲いかかってくる『狂人』。

 

その狂人が口にしていた、謎の呪文。

 

その呪文に含まれていた『くとぅるー』と、クトが言った『cthulthu(クトゥルフ)』との類似性。

 

 

「……それで。 何か知ってるかしら?」

 

「まず、クトがヒトじゃないのは知ってるわ。 本人から聞いたし、身包み剥いで羽がホンモノなのも確かめたし」

 

「………よくそんなのと生活する気になったな。 アタシにゃ無理だ」

 

「言動や姿が人にそっくりだから、慣れると気にならないわよ。

それで、『くとぅるふ』?

………先に聞いておくけど、唯の夢って可能性h

「「ないっっ!!」」

………そう」

 

そう言ったマミは、スマートフォンで何かを検索して、

 

「――これが、『クトゥルフ』よ」

 

突きつけた画面には、大海に浮かぶ石造りの島に佇む、緑色の、蛸に似た触腕を無数に生やした頭部に、巨大な鉤爪のある手足、コウモリのような飛膜のある、歪で醜い竜にも、巨人にも見える怪物が映っていた。

 

……あれ? 全く似てないね。

 

 

「……それと、貴女たちの話に出てきた狂人。 この邪神が語られる物語に出てくる『狂信者』まんまよ。

TRPGのリプレイでも見て、夢に出たんじゃないの?」

 

マミがジト目で2人を睨む。

 

まぁクトは、頭のネジが何本か足りないのを除けば、外見は病弱そうな、何処か暗い雰囲気を持つ少女だからね。

 

あの何が何だか分からない醜悪モンスターと同一とは考え辛いね。

 

「………そんなハズは……」

 

「……佐倉杏子。 昨日のビルに、もう一度向かうわよ。 ついて来てくれるわよね、巴マミ」

 

「…………………いいわ」

 

「!? 正気かよ?! アイツらとの追いかけっこはもうコリゴリだ!」

 

「追いかけられるんじゃないわ。

――私たちが、追いかけるのよ」

 

「で、でもなぁ――」

 

「佐倉さん、知ってるかしら? 一度巻き込まれた事件を途中で放り出すのはフラグなの。 クローズドサークルモノでも、『こんな所にいられるか! 意地でも脱出してやる!』って言ったキャラは、その直後、無惨な遺体で発見さr」

「よぉし殺るぞぉ!!」

 

「佐倉杏子、字が違うわ」

 

そのままワイワイとだべりながら出掛ける3人。

 

 

……さてと、ボクの方でも調べておくとするか。

 

一番手っ取り早いのは、本人に直接聞く事なんだけど、念話は返答が無かったし。

 

 

 

 

 

………そう言えば、美樹さやかと鹿目まどかはどうしてるんだろう。

彼らはこの事態を知らない筈だし。

 

物は試しで彼らに念w

『キュゥべえ、今どうしてるー?』

 

「クトォ?! 今どうしてるはコッチの台詞だよ!?」

 

……念話を送ろうとしたら、まさかの本人が向こうから送ってきたよ。

 

『今はさやかンとこに転がり込んでっから心配せんでいいぞぃ。

あ、マミには内緒でヨロ』

 

「内緒でヨロって……まあいいや。

――ところでクト、聞きたい事があるんだけど?」

 

『なんぜらホイ?』

 

「………君は、一体何者なんだい?」

 

『…………………』

 

クトの明るい声が、質問と同時に途絶える。

 

 

 

『………杏子とほむらか。 一晩でそこまで辿り着くたぁな』

 

「やっぱり、彼女達を襲った狂人について、何か知ってるね?」

 

『…………………あぁ。

――一応、言っておく。

襲われたら、死にたく無かったら、逃げろ(・・・)。 全力で』

 

「………クト、君は一体、」

 

『彼奴らは、私が片付ける。 アレは私の、私だけの獲物だ。 絶対に手を出すな』

 

そう言うと、念話が切られる感覚があった。

 

 

………クト、君は一体、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何と戦って(・・・・・)いるんだい(・・・・・)

 



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表ルート:一章 最強の魔法少女
表ルート:第1話


―ミタキハラデパート

 

sideほむら

 

 

 

 

 

―少し前を白い生物が駆ける。

必死そう(・・)に、銃口から逃げて。

 

 

けれど、逃がさない。

 

 

手にしたベレッタM92Fから9ミリパラベラム弾が連続して吐き出され、その生物を追い詰める。

 

 

運が良いのか、それとも悪いのか、弾は標的を捉える事なく端々に当たるだけで、その逃亡を止めきる事が出来ない。

結果として痛ぶることになっているが、別に何とも思わない。

 

 

 

――ビシッッ

 

「あ!?」

 

1発が、その生物の前足の先を穿つ。

それによって走れなくなったのか、恐怖に怯えるような表情をする(・・・・・)

 

 

「あ、わ、た、助け、」

 

「………」

 

感情の無い言葉を無視し、正確に狙いをつける。

 

 

アレら(・・・)に心は無い。

 

アレら(・・・)にかける言葉も、慈悲も無い。

 

 

拳銃のトリガーに掛かった指に、銃口をブラさないよう、ゆっくりと力を込めて―

 

 

 

 

 

 

「――ほむらちゃん、ダメっ!!」

 

 

「!? まどか!?」

 

弾道上に、何よりも守りたい少女が割り込んでくる。

咄嗟にトリガーから指を離して――

 

「――まどか、今だっ!」

 

ブシュゥゥーーーー!!

 

「! チッ!」

 

更にその間に、消火剤がばら撒かれる。

 

数瞬、完全に視界を覆った粉塵が収まる頃には――

 

 

インキュベーターも、2人の少女も消え去っていた。

 

更に悪い事に、使い魔程度のものとはいえ、結界が張られ始める。

 

「クッ、相手している場合じゃないのに………っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――遠くに金髪の魔法少女を確認して、一先ず彼女たちの安全を確信すると、結界から脱出する。

 

インキュベーターによる情報の部分的開示によって、私の印象は最悪だろうし、この先どうすれば――

 

 

 

 

 

「――ぃぃぃぃぃぃぃ――」

 

 

 

 

 

「? この声って……」

 

間違えなく、インキュベーター。

結界の外側なのに聞こえてくるのは、連中の個体数の多さを考えれば不自然では無いけれど――

 

「――なんで悲鳴?」

 

直感的に、近くの剥き出しの鉄骨の陰に隠れる。

 

直後。

 

 

バキィッッッッ!!!

 

 

吹っ飛ばされたドアが反対側の壁に叩きつけられて粉になり、下手人が姿を表す。

 

 

肩まで伸ばしたクセのある深緑色の髪に、黒のワンピースを着た、白い肌の小学生位の少女。

 

そして、肩にはインキュベーター。

 

 

その少女は使い魔の結界を一瞥するやいなや垂直に跳ね、天井付近の鉄骨に着地した。

 

停止した事で、顔が確認出来るが―

 

 

 

これまでのループで、一度も見た事が無い。

 

けれど、インキュベーターと行動を共にしているという事は、そういう事だ(・・・・・・)

 

 

「……新しい魔法少女? でも、一体何故こんな時に――」

 

鉄骨の陰から再度様子を伺おうと、首を覗かせると――

 

 

――ヒュッ パァンッッ

 

 

「………ほむ?」

 

何かがすぐ横を通り過ぎ、砕け散った。

 

 

――居場所がバレてる!? どうして!?

 

 

正体不明相手に出し惜しみしている場合では無くなり、盾を操作して時間を止める。

 

灰色の世界を走り(途中、漂うビニールから、投げつけられた物体は冷凍シュウマイだったことが分かった)、投擲直後のポーズのまま硬直した少女の背後をとる。

 

脅しの意味も含めて、大口径のM29を後頭部に突き付けてから、時間停止を解除する。

 

 

「動かないで」

 

「………銃口突きつけられちゃ、動きたくても動けんがな」

 

…………!?

 

特に驚いた様な素振りも無く(・・・・・・・・・・・・・)、ノロノロと両手を挙げた少女に対する警戒を強める。

 

「暁美ほむら? こんな所で何をしているんだい?」

 

「―あぁ、あなたもいたわね」

 

そのインパクトで半分程忘れていたインキュベーターに対し、空いていた左手にM92Fを握り、狙いをつけ――

 

「ナイスじゃんキュゥべえ!」

 

「!? くっ」

 

集中が僅かに逸れた瞬間、少女が足払いを仕掛けてくる。

身体の一部が触れている以上、下手に時間停止するワケにもいかず、無理矢理2つの銃口を向けるも、少女が首を絞める様に正面から腕を伸ばして来るので、バックステップでの回避を余儀無くされる。

 

「チッ、引っ込んでなさい、この素人――っ?!」

 

「ハッ! どっちがトーシロジャン!!」

 

トリガーを引く、が――弾が出ない。

一体、どうして―

 

「―な、何で、」

 

「PvCばっかしていてPvPは能力頼みのゴリ押しってか?! ンなんじゃ勝てるモンも勝てないわなぁ!!」

 

一瞬で距離を詰められ、左手1本で両方の拳銃を弾き飛ばされると、そのまま右手で首を掴まれ、拘束される。

 

「!! グッ―」

 

「おおっと危ない」

 

咄嗟に蹴りを放つも、少し姿勢を変えられ、吊るされる。

 

「あんま抵抗しない方がいいぞ。 この高さからただ落ちただけなら兎も角、無理に逃げようとすれば叩き落とす。

ま、その前に、このまま握力全開にすりゃそれで片がつくな」

 

「……なにが、目的よ」

 

血管こそ避けられているが、気管を掴まれて、息が詰まる。

早く、外さないと……!

 

「なーに。 ただ質問に答えてくれりゃいいのさ。 別に嘘ついても構わんから何かしら反応プリーズ」

 

「……さっさと、聞けば」

 

「おぉーうツンツンしてますなー。

んじゃ質問。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―今、何回目(・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 

?!?!?!?! ループに、気がついている………!?!?

 

「―――っっ?!?!?! 一体、何のこt」

 

「あ、おkおk察した。 じゃ、色々事情がメンドいモン同士、お茶でもいかが?

―向こうも手遅れ(・・・)っぽいし」

 

少女がチラリと見た先では――

 

 

 

憎きインキュベーターが、ワザとらしい笑みで、2人の少女にこう言った所だった。

 

 

 

「あのね、僕と契約して―

魔法少女になってほしいんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―………チッ」

 

少女の手によって足場(鉄骨)に自分の足で立つことが出来、悪い状況に舌打ちする程度の余裕は確保出来た。

 

「客観的に見て、どーよキュゥべえ?」

 

「…………あれで即決する子もいるんだよねぇ」

 

「ま、良くも悪くも中二っつーこったな。

で、デートの誘いの返事は? 暁美ほむらちゃん?」

 

インキュベーターその2と会話していた少女が、こちらに話を振ってくる。

 

………彼女は、何故か、こちらの事に詳しい。

ループについて口にした時点で、私の答えは決まっていた。

 

「…………………分かったわよ」

 

 

 

 

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、同デパートのファストフードコーナー。

 

私がよくあるセットを注文して、少女はフライドポテトばかり大量に注文して丸呑みしていた。

 

「―ポテトはのどごしっ!!」

 

………パフェなら聞いた事あるけど、ポテトで喉越しって………

 

「普通に食べなさい、意地汚いわよ」

 

ふぇひふぅ(出来ぬぅ)!!」

 

「………はぁ」

 

少女の名前すら聞いていないのに、気がついたら溜息が出ていた。

 

「……それで。 貴女一体何者よ? 私がこれまでやり直してきた時間軸に、貴女は影も形も無かったわ。 だと言うのに、貴女は私を知っている」

 

「神です」

「馬鹿にしてるのかしら?」

 

つい拳銃に手が伸びかける。

人の目もあるんだし、我慢我慢。

 

「ボクとしても、真面目に答えて欲しいな。 キミは余りにも異質過ぎる」

 

「異質?」

 

妙な事を言ったインキュベーターが、彼女の異常性を口にする。

 

 

 

曰く、宇宙から物理法則を無視して落下してきた。

 

曰く、失った記憶にあるらしい絶望を祓うために、奇跡を『先送り』にした、最弱の魔法少女である。

 

曰く、完全に人間の域を超えた身体能力に、出処が不明の情報を持っている。

 

 

 

「……さっぱり分からない、ということが分かったわ」

 

「それで、キミは一体何者なんだい?」

 

じっと、ポテトをジュース同然のペースで飲み続ける少女を見つめる。

 

「…………私が何者か、ねぇ。

――ンなもん、私の方が知りたい」

 

「「は?」」

 

予想外の答えに、目が点になる。

 

「いや、答えだけなら幾らでも用意出来るさ。

人間、神、出来損ないの魔法少女、宇宙人、タマ置いてけ、旧支配者―

ま、敢えて自己評価するなら、」

 

1つ、ここ数日恐れられている都市伝説の名前が混じっていたのを聞き流し、少女から紡ぎ出された答えは、

 

 

 

 

 

「―私は『クト』だ。 それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

 

「………結局、答えになってないじゃない」

 

ただの自己紹介だった。

 

「なら話を超シンプルにしようか、『時間遡行者』(暁美ほむら)

 

身体が一瞬震える。

時間遡行者………これで、少女―クトが、ループについて知っているのは確定。

 

「…………貴女、何処まで、」

 

「メンドいから答えん。 先ずは目的をスッキリさせよぉか。

あんたは『鹿目まどかを助けたい』。

私は『記憶を取り戻したい』。

ここまではおk? おkなら思考パートに入るけど」

 

「…………続けて」

 

「現状、やり方が分かってんのは『鹿目まどかを助ける』方法だ。 連中につきまとうインキュベーターと魔女を皆殺しにすりゃいいんだからよ」

 

「ボクの目の前でそれを言うかい?」

 

「アンタは殺さねぇよ。 どうせグリーフシード回収の為の個体は残しておかないとだからな」

 

不穏な会話に横槍を入れてきたインキュベーターを無視し、問題点を指摘する。

 

「そのやり方には問題があるわ。 インキュベーターは無限に湧くし、魔女だって『ワルプルギスの夜』がいる」

 

一瞬、クトが考え込むような仕草をする。

 

「………ほむら。 命大事にで、巴マミと佐倉杏子、場合によっては美樹さやかも込みで、悪プリンのヨーグルト相手にどれ位保つ?」

 

「悪プリンのヨーグルトじゃなくて『ワルプルギスの夜』よ。

………そうね、ひたすら防御と回避に徹すれば――1時間弱は保つわね」

 

「上々。 それだけありゃ充分だ。

……あと、ダメ元で聞いておく。 ソウルジェムの方は?」

 

「……これまでの経験から言って、最後まで保った事は一度も無いわ」

 

「………………………、か」ボソッ

 

「? 何か言ったかい?」

 

………?

今何か、口走ったような―

 

「なんでも無い。 じゃあ次に考えるのは、味方の脱落防止だな。 魔女の出現ポイントって抑えてんの?」

 

「……いいえ。 絞り込む事は出来ても、具体的な場所までは」

 

「じゃあ『お菓子の魔女』を先制で潰すのは無理か………

まあそっちは、まどかに交代で張り付くなりなんなりするとして、問題は美樹さやかと佐倉杏子だな」

 

「……佐倉杏子は巴マミが死なないと、この町を訪れる意味が無くなる。 美樹さやかは、」

 

「何処ぞのヘタレ相手に奇跡を―

……あ、ええこと考えた」

 

ニヤァと、クトが歪んだ笑みを浮かべる。

 

「………嫌な予感がするのだけれど?」

 

「嫌な事思いついたからね。フフフ…………

―『鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス』」

 

「………?!?! ま、まさか貴女―」

 

戦国時代の第六天魔王・織田信長の遺した短歌―

直前まで人死にによる因果関係について話していただけに、最悪の予想が浮かぶ。

 

「佐倉杏子は巴マミが死なないと表れない。

美樹さやかはヘタレの怪我を治す為に奇跡を使う。

だったらよぉーぉー――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――2人ともブッ殺しちまえばよくね? マミとそのヘタレ」

 

 

そして、その予感は、的中した。

 



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表ルート:第2話

sideほむら

 

 

―ジャキィッ!!

 

 

撃鉄が上がっているM29の銃口を、クトの額に押し付ける。

 

人の目が集まるような感覚がするが、今は気にしていられない。

寧ろ、場合によっては今ここで時間を巻き戻すことすら視野に入れる。

 

「オイオイ、魔法少女を一撃で仕留めるなら、ソウルジェムを狙わなアカンよ」

 

「………………………貴女、今自分が何を言ったか、分かっているの?!」

 

「モチのロナウドで」

 

「ッッ!!!」

 

薄く笑った表情で、ネタを挟みながら、何処までも軽々しく『死』を口にする。

 

敵になるにしろ味方につけるにしろ、彼女はここで対処しなくては。

 

「………ソウルジェムを出しなさい。 貴女は、危険過ぎる」

 

「実力的にも性格的にも、大人しく従うと思うか? ぶっちゃけ今現在ほむらの生殺与奪権は私の手の中なんだけど? あ、ジュースもーらいー」

 

「……………………クッ」

 

大人しく銃を収める。

―確かに、今の私では勝てない。

 

だからと言って、対ワルプルギスの夜用の対戦車榴弾を使うのは―

 

「……………何が目的よ?」

 

「都合の良い手駒の入手。 安心しな。 鹿目まどかは魔法少女にさせないし、ワルビアルのヨットもキッチリ潰すから。 それならいいっしょ?」

 

………最低限、私の目的を達成するにあたっての協力は取り付けられた、と考えていいのかしら?

 

「……………ワルとヨしか合ってないわよ。 ワルプルギスの夜、よ」

 

「さいで。 行くよ、キュゥべえ」

 

いつの間にかポテトを完食していたクトが、席を立つ。

 

「指示はテレパシーで送る。

………………オマケだ。いい言葉を教えておくよ」

 

「………何よ」

 

少女が立ち止まって、それでも振り返らずに言う。

 

 

 

「『常識に囚われてはいけない』。 私たち(・・・)と付き合うなら、あらゆるモノを疑え。

だが、探るな。理解するな」

 

 

 

そして――

 

 

今度こそ、クトは私から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数日後

 

 

「『常識に囚われてはいけない』、ね………

どういう意味かしら?」

 

見慣れた魔女を手榴弾と拳銃弾で瞬殺し、グリーフシードのストックを確保しながら、未だ答えの出ない問いについて考える。

 

常識なら、数回目のループで消し飛んでいる。

そもそもの話として、魔法少女そのものが一般的な常識からかけ離れた存在だし………

 

 

ピョン

「―暁美ほむr」

 

バスバスバスッ!

 

飛び出てきたインキュベーターを、変身を解く直前だったので憂さ晴らしついでに射殺する。

 

「――いきなり何をするのさ? 数を増やすのにもエネルギーを使うのだから、余り無駄使いしたく無いのだけれど?」

 

「なら今すぐ地球から出て行きなさい」

 

直ぐさまもう一匹湧いてくるが、話が進まないので見逃す。

 

「まあいいや。 じきに僕らは、無限と言っても良い程の莫大なエネルギーを入手出来るのだから」

 

「………? それはまどかのことを言っているのかしら?」

 

「半分は正解だ」

 

半分は? これまでのループで、インキュベーターはまどかばかりに集中していた。

 

………他に、まどかと同程度の資質を持った少女がいる?

そうだとすれば、最も可能性が高いのは――例の少女。

 

「……なら、その残り半分は好きにすればいいわ。 私は、まどかさえ無事なら、それでいい」

 

話は終わったと、狙いをつけて―

 

 

 

 

 

「――将来的に、確実に『ワルプルギスの夜』を超えるだろう魔女を生み出すグリーフシードの元に、巴マミが向かった」

 

「? それがどう、し――

………まさかっ?!」

 

インキュベーターの頭を鷲掴み、銃口でど突く。

 

「答えなさい! まさか、まどかも一緒にいるんじゃ――」

 

ループで巴マミはほぼ毎回、魔法少女の先輩として、まどかたちを連れて魔女と戦っていた。

 

「気になるなら一緒に来るかい? 僕もこれから向かう所だしね」

 

「…………………チッ、妙な動きをしたら、殺すわよ」

 

「それは少し困るね」

 

屋根の上を走るインキュベーターを、変身したまま追いかける。

 

位置関係こそこの間と同じだけれど、今は銃撃は無い。

 

まどか―――お願いだから、無事でいて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―廃アパート

 

 

結果として、まどかは無事だった。

より正確に言うならば、危険が迫るとしたら、これからだが。

 

 

 

和気藹々と魔法少女についての説明をしながらの巴マミと鉢合わせしてしまう。

出来ることなら、先に仕留めておきたかったのに!!

 

「―あら? 暁美ほむらさん?」

 

「げ、転校生」

 

「あ、キュゥべえがもう一匹?!」

 

 

 

「……巴マミ。 あなた、一般人を連れたまま戦うつもり?」

 

「ええ、そうよ。 生まれたての魔女が相手なら問題無く斃せるし、仮に手こずったとしても、彼女たちを守りながらでも勝てるわ」

 

「………素晴らしい自信ですこと」

 

油断無くこちらを警戒するマミに対し、皮肉を言うことしか出来ない。

 

純粋な戦闘能力なら、マミは私を遥かに上回る。

 

ここは大人しく引き下がるしか無い――

 

「――待ってくれマミ。 彼女は僕が呼んだんだ」

 

「……キュゥべえ?」

 

………余りにも予想外の方面からの援護に、一瞬本気で驚く。

 

「今回の魔女――実は、もう既に別の魔法少女が乗り込んでいたのだけれど、その子と連絡が取れなくなったんだ。

状況から言って、犠牲になった可能性が高い。 マミの実力を信用してない訳じゃ無いけれど、今回は共闘してくれないかい?」

 

「そうね………分かったわ、急ぎましょう。 暁美さんもそれでいいわね?」

 

……正直、怪しすぎる。

地理的に考えれば、このあたりで魔女と戦闘になるとしたら、佐倉杏子か正体不明(クト)だろう。

けれど、佐倉杏子はまだ風見原だろうし――

 

だとしたら、クト?

 

……何にせよ、私に断るという選択肢は無い。

 

「………分かったわ。 油断しないで」

 

そして、魔女の結界に一歩足を踏み入れれば――

 

 

 

 

 

―巨大なお菓子(・・・)が、目に映った。

 

 

 

 

 

「―っ!?」

 

――『お菓子の魔女』

奇しくも、それは警戒すべき魔女の一体の結界だった。

 

 

けれど…………

 

 

あの魔女が、ワルプルギスの夜すら超える程強くなるのかしら?

手榴弾5、6発で爆殺出来るあの魔女が?

 

 

 

――使い魔一匹出ない道を歩いていく。

先に来たという魔法少女が全滅させたのかしら?

 

 

 

 

 

………進んで行くうちに、その魔法少女が佐倉杏子であるという線は消えたけれど。

 

 

 

「…………うわぁ、なにこの現場。 どこのホラー映画よ」

 

「………っ」

 

「鹿目さん、大丈夫?」

 

 

道を進むと、大量のインキュベーターの死骸が転がっていた。

あるものは首と胴を引き千切られ、あるものは頭蓋を潰され、あるものは口から裏返ったハラワタを飛び出させ、あるものは真っ二つにされ、あるものはどう殺ったか血塗れのボールにされ、あるものは……etcetc。

更に、何故か大量の未使用(・・・)のグリーフシードまで落ちている。 でも何故?

 

 

「……転校生、一昨日くらいにキュゥべえのこと殺しかけてたけど――」

 

「これをやったのは私じゃないわ。 そもそも、私なら銃殺が爆殺する」

 

殺し方で気がついたけれど――

全て、素手で殺ってるわね。 どれ程の力が必要かはさて置き。

……じゃあ、その魔法少女って、クトのこと?

 

 

――だとしても妙ね。

彼女は、佐倉杏子を呼び出す為に巴マミを始末することさえ考えていた。

なのにお菓子の魔女と戦闘している?

 

一体どういう事かしら……?

 

 

 

 

 

 

 

――更に結界を進む。

インキュベーター殺戮現場はあの一箇所だけだったようで、ポツポツと2、3体転がっていることはあれど、さっきのような血の海は無かっt

 

 

――…ズドォォォォォオン…………

 

 

 

「!? マミさん! 今のって、」

 

「ええ! まだ誰か戦っているわ! 急ぎましょう!」

 

割と近くから衝撃音が響く。

 

走り出した彼女たちの背後を念の為守りながら、結界の最深部――魔女の居場所へ雪崩れ込むと――

 

 

 

 

 

 

 

「―あり? お揃い……って訳でも無いけど、どうした?」

 

魔法少女の格好(?)のクトが、魔女を撲殺した直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……えっと、そこの貴女? これはどういうことかしら?」

 

頬を引きつらせながら、マミがクトに問う。

……まあ、気持ちは良く分かる。

 

魔女の居場所はほぼ破壊の限りを尽くされ、クト本人も大量の返り血を浴びて、只でさえ白い肌が一層強調されている。

一番原型を失っているのが魔女本体で、なにをどうすればそうなるのか、全体隈なくボコボコに陥没していた。悲惨だ。

 

 

「………私にもことの顛末が教えてくれないかしら?」

 

「お? ほむらちゃん、久しぶり。 ことの顛末っつても、私も成り行きでこうなったんだけど………」

 

本気か演技か、訳が分からないと言いたげに肩を竦めるクト。

 

「実は―

「マミ! ほむら! そいつの言葉に耳を貸しちゃ駄目だ!!」

……淫獣、まだ生き残っとったんかい」

 

私たちについて来ていたインキュベーターが声をはりあげる。

 

「……キュゥべえ? それって、どういう―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―彼女は魔女(・・・・・)だ! 胸元のグリーフシード(・・・・・・・)を見て!!」

 

「「「「えっ!?」」」」

「………ファッ?」

 

慌てて振り向く。

 

彼女の右胸には―

 

 

 

 

 

 

―確かに、真っ黒なグリーフシードが埋まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―騙したわね!?」

 

「―さっさと斃させて貰うわよ!!」

 

「ゑゑゑ!?」

 

両手に持ったマグナム銃の狙いをグリーフシードに固定する。

マミも大量のマスケット銃を展開、流石のクトも驚いたようだ。

 

ドォンドォンドォンドォンドォンドォン!!

ドッグォォォォォォォン!!

 

「ちょ、お待ちくだ、ノォォォォォォォ!?!」

 

警告無しで即時発砲。 44マグナム弾と魔力弾が雨霰とクトに降り注ぐ。

 

「っおい待てほむらぁ?! マミは兎も角、そっちまでインキュベーターの台詞をさらっと信じんのかよ?!?」

 

「うるさい! 最初から怪しいと思っていたのよ!!」

 

「デスヨネーコンチキショー!!」

 

『インキュベーターがもたらした情報』という点で確かに引っかかるが、彼女の危険性は既に分かっている。

彼女が魔女であれ何であれ、処理出来るうちに殺しておくべきだろう。

 

「っさっさと当たりなさい! 貴女に勝ち目は無いわ!」

 

「だが断る!! そもそもこの程度の密度の弾幕に当たっとったら恥ずくてウチの妹に会えんわぁ!! リアル弾幕ごっこ経験者舐めんなよーギラスっっ!?!?」

 

ヒョイヒョイとまるで上から見えているかの様に弾を躱していたが、時間を止めて散弾で球体状に囲み、吹き飛ばす。

 

「えっと、ほむらちゃん? 今の人?話しかけてたけど、良かったの?」

 

「……それは、」

 

「気にすることは無いさ。 おそらくあの魔女は、そうやって油断を誘って不意打ちするのが目的だろう」

 

「いやアンタが言うなよ淫獣」

 

クトすら心配する心優しいまどかの問いに答えるインキュベーターにツッコミを入れるクト。

でも成る程、淫獣とは言い得てmy………

 

「「―なっ?!?!」」

 

「へーいお嬢さんs、今ブッ放すと中々に悲惨なことになるぜ痛い痛い?!」

 

「このっ、離れろっ!!」ドコドコ

 

まるで最初からいたかのように、クトが美樹さやかの隣に立って腕に絡みついていた。 で、当然のようにバットで殴られていた。

 

「美樹さん!? 今助けるわ!」

 

「早めにお願いしますコイツマジで離れない!! 蛸か何かか!?」ゲシゲシ

 

「……え? なしてバレたし??」

 

「……はぇ?? 蛸?」

 

「イエス! アイム、オクトパース!!」

 

「…………ごめんね、ちょっと頭叩き過ぎたみたい」

 

「ちょい待てその憐れむ様な視線は何?!?! なんか心にクルものがあるんですケド?!?!」

 

…………………

 

「―いい加減にしなさい!!」

 

ドゥンッッ!

 

さやかがツッコミ、クトは絡みつき、マミがリボンで引っ張り、まどかが可愛らしくオロオロする、一部を除いてグダグダに成りつつあった場に、1発の銃声を響かせる。

 

「今度はなんじゃい? 私は今ピッチピチのJC(女子中学生)の柔肌を堪能するのに忙s

「離れろ変態っ!?」

ありがとうございますっ!?!」

 

今度こそバットがアッパー気味にアゴにキマり 、今度こそクトが吹っ飛んだ。

すかさずマミがリボンで拘束、口径が完全に大砲のソレに合わせて、奮発してスティンガーの砲門を突きつける。 後方確認――よし、誰もいないわね。

 

「……何か言い残すことは?」

 

「君たちは騙されている。 具体的には私は魔女じゃ無いっ」

 

「処刑することには変わら無いわよ女の敵」

 

「詰んだっっ!?!? 待て、話をしよう! 話せば分k

「『ティロ・フィナーレ』!!」

「死に晒しなさい」

ぃやな感じいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ………―」

 

2人による大火力の攻撃で、空の彼方まで吹き飛ばされていくクト。

ご丁寧に、フェードアウトして逝った場所には、1つの星が煌いた。

………靴の裏に鏡でも仕込んでいたのかしら。

 

 

 

 

 

 

 

……………あれ? 『吹き飛ぶ』?

 

しまった! あれじゃあ死亡確認出来ない!

マミたちも、何時までも解除されない結界に警戒する。

 

「……魔女は斃したのに、どうして―」

 

「さっきの魔女がまだ生きているか――別の魔女に結界を張らせているか、ね」

 

――でも、後者だと説明がつかない。

他の魔女に結界を張らせたにしては、使い魔を殺し過ぎている。

お菓子の魔女本体も死ん、で――っ?!

 

 

待って、どうして私は、お菓子の魔女がもう死んでいると判断出来た?!

――死体を見た(・・・・・)からだ。

 

でも、普通の魔女は死んだらどうなる?

――結界ごと(・・・・)消滅する(・・・・)

 

つまり、考えうる答えは?

 

 

 

 

 

 

 

――『お菓子の魔女』は、まだ生きている!!

 

 

「―巴マミっ! 魔女の残骸の注意しなさ―」

 

急いで振り向けば、

 

 

魔女が、いつの間にか復活して、

 

 

 

 

 

 

 

「――え?」

 

グチャァッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―マミを、丸呑みにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァンっっ

 

「――っ!?!?」

 

魔女を仕留めるべく、盾を操作して時を止めようとすると、軽い破裂音と共に結界が消えた。

 

まどかとさやかも放り出された様で無事だったけど―

 

 

 

 

 

 

 

――その場に、巴マミの姿は、無かった。

 



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表ルート:第3話

sideほむら

 

――巴マミが脱落して、次の日の放課後。

 

幸いにも、まどかは学校に来ていた。 少なくとも、心が折れてそのまま廃人――という事態にはならなかったようね。

 

……前のループで一度、あったのよね。 だから、出来れば巴マミも救いたかったけれど………

 

 

もう過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がないわ。 このまままどかが契約しないように注意して、ワルプルギスの夜を斃す準備を始めないと――

 

…? まどか、そっちはあなたの家の方角じゃあ――

………マミの部屋があるマンションの方角、ね。

 

 

 

 

 

〜少女尾行中〜

 

 

 

 

 

まどかがマンションから出てきたのを見計らって、声をかける。

 

「――自分を責める必要なんてないわ、鹿目まどか」

 

「え……

ほむらちゃん!?」

 

「話があるの。

――私の忠告、聞き入れてくれたのね」

 

 

 

 

 

マミのマンションは、学校からまどかの家とは逆の方角にある。

図らずも、マミが普段通っていただろう道を歩いていく。

 

「私が……もっと早くにほむらちゃんの話を聞いてたら、マミさんは……」

 

「気に病む必要はないわ。 それで巴マミの運命が変わったわけじゃない。

――けれど、あなたの運命は変えられた。

1人が救われただけでも、私は嬉しい」

 

「………

……ねぇ、ほむらちゃんはさ。 昨日みたいに……人が死ぬところ、何度も見てきたの?」

 

「えぇ、そうよ。

数えるのも………諦めるほどにね」

 

……この会話も、何度目か。

まどかを騙しているという罪悪感にさえなまれながらも、疑われないよう、演技を続ける。

 

「マミさんが死んじゃった事、誰も気付かないの?」

 

「巴マミには、遠い親戚しか身寄りがいない。 失踪届が出るのは、当分先でしょうね。

――向こう側で死ねば、死体だって残らない。 彼女は永久に行方不明のまま……

魔法少女の最後なんて、そんなものよ」

 

……ましてや、魔女になってしまえば、ね。

 

 

「……酷過ぎるよ。

マミさん、皆の為に、ずっと独りぼっちで戦ってきたのに、誰にも気付いて貰えないなんて。

寂し過ぎるよ……」

 

「元々そういう契約で、私たちはこの力を手に入れた。 誰の為でもない、自分自身の祈りの為に戦い続けるの。

誰にも気付かれなくても、忘れ去られても……

それは仕方のない事よ」

 

 

「私―――マミさんの事、忘れない」

 

「そう言ってもらえるだけ、巴マミは幸せよ。 羨ましいほどにね」

 

……話は、終わった。

早くイレギュラーへの対策を考えないと、それにグリーフシードの確保も――

 

 

 

 

 

「ほむらちゃんの事だって忘れないよ!

昨日助けてくれた事……絶対忘れたりしないから!」

 

…………………まどか、

 

でも、私は………

 

「…………………

覚えてるわけ………ないじゃない」

 

「……?」

 

「ごめんなさい、何でもないわ。

私、先に行く……」

 

 

今までのループに無かったまどかの言葉に、涙が浮かぶ。

振り切るように走り出すと、少し前の道に、なぜか両手を地面につけて項垂れている、特徴的な金髪縦ロール(・・・・・・)の髪型の少女、が―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え?? 巴………マミ……???」

 

「――ほむらちゃん、待っ、て……

……………え? マミ、さん??」

 

うそ、どうして、

巴マミは、死んだはず、どうしてorzって、え?? え???

 

それに、なにか呟いて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………うふふ………重曹………

魔法少女に………NaHCO3……」

 

ますます意味が分からないわ?!?! なんで魔法少女に炭酸水素ナトリウムなのよ?!?!

 

 

巴マミに憑いているらしいインキュベーターが、なにか話しかけるような仕草をすると――

 

ガバァッッ!!

 

「「っ!?!?」」

 

いきなり立ち上がるし! もう何処からツッコめばいいのよ?!?

 

 

 

 

 

 

 

「………なんで、あなたは、死んだはず、――」

 

なんとかマミ生存、重曹発言、ゾンビモーションのショックから立ち直って、話しかける。

 

「――うふふ。 暁美さん?」

 

………ただし、向こうはキャラが崩壊していたけれど。

 

「―一晩で随分鹿目さんと仲良くなったみたいね。 妬けちゃうわ」

 

「っマミさん……」

 

「ダメよまどか、様子がおかしい!」

 

巴マミは、元から厨二病を患っていた傾向があったけれど、今は特に酷い。

この、過去のループで一度も無かったことは、おそらく――

 

「状況的に考えて……魔女(クト)の仕業ね?

その化けの皮を剥がしなさい。 人の死をなんだと思っているのっ!?」

 

例のイレギュラーが関わっているとしか、思えない!

 

その事を問い詰めると、何やらインキュベーターと目配せ……

 

「………聞いているのかしら、あなたたち………っ!」

 

「勿論、聞こえているわ」

 

「……なら、さっさと元の姿に戻りなさい」

 

「元の姿ねぇ……

勘違いしているようだけど、私は巴マミ本人よ?」

 

「……………………」

 

……姿形はマミそのもの。 言動も、少しおかしいが、あり得ないと断言するほどじゃない。

ということは、まさか――

 

「―じ、じゃあ、マミさんは無事で、ちゃんと生きてるってことですよね!?」

 

「ええ。 ちょっと危なかったけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―ウソね。 あの状況であなたが生還できる可能性は、0よ」

 

――死人を、蘇らせた………っ?!?

 

 

 

「……ほむら、ちゃん?」

 

「巴マミ。 あなたのことはもう調べてあるわ。 当然、戦い方も。

――マスケット銃(単発銃)に、リボンを使用した拘束魔法。 これが、あなたの攻撃手段。

たったこれだけで、あの状況を、誰にも気が(・・・・・)付かれずに(・・・・・)打開することは不可能よ」

 

「………じゃあ、今ここにいる私は何なのかしら? 足ならあるわよ?」

 

 

……わざわざ死者を蘇らせたのなら、なんらかの狙いがあるはず。

なら、誘き出してやるわ……!

 

「………どうせ聞いているのでしょう、クト。 さっさと現れないと―」

 

時間を止め、一切の容赦無く、大量のパンツァーファウストとRPG-7をばら撒く。

 

 

―停止、解除。

 

 

 

「――巴マミが死ぬわよ?」

 

 

次の瞬間――

 

ざっと100発程の榴弾が、巴マミとインキュベーターに迫る。

 

 

「――ほむらちゃん!?!?」

 

「クっ――」

 

慌てて変身し始めたようだけど、遅過ぎる。

仮に間に合ったとしても、マスケット銃を顕現させるのにかかるタイムラグを考慮すれば、迎撃は不可能。

 

だから、彼女を守るためには――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私、これでも御都合主義ってあんま好きじゃ無いんですけど?

まあその塊な奴が言っても説得力無いのは分かってんだけどさ」

 

 

 

――バケモノが、出て来るしかない。

 

 

 

 

ドゴガガガガガガガガガガガガ――――――――ッッッ!!!

 

 

双翼の魔女が、その二対の翼で、的確に榴弾を撃墜していく。

 

 

一対は、布がはためく様な動きで斬り刻み、

 

一対は、その翼の先端が指の様に蠢き、弾き、貫き、叩き潰し、

 

打ち漏らした弾は、その側面を掴んで他の弾に投げつけ、誘爆させる。

 

……随分とメチャクチャね。 あれを無傷で切り抜けられた以上、私1人では厳しいわね。

 

 

「………やっと現れたわね――

――クト!」

 

「脅しといてやっともポッドもないだろ。 悪りぃけど、この後ちょっち予定あるんだ、やるなら私も相手するぜい?」

 

絶望を象徴する魔女らしく、骨で形作られている翼を大きく広げ、身構えるクト。

 

「……一応警告しておくぞ。 幾らブッ飛んだ能力持っていようが、火力は手持ちの兵器に依存しているアンタじゃ私にマトモなダメージを通すことは出来ないし、それでなくても2対1、オマケにそっちはパンピー(鹿目まどか)を連れてるときた」

 

「………敵の言葉を素直に信じるとでも?」

 

確かに、榴弾の雨は防がれた。

なら、それ以下の小ささで迫る、しかも0距離で放たれる銃弾ならどうかしら?

 

時間を止め、一番威力のある拳銃を盾から二丁引き抜き、右胸に輝くグリーフシードにつきつけ――

 

 

………あの身体能力相手に、正面に立つのはマズイわね。

それに、正直にこのグリーフシードが急所だとも思えない。

 

………ここは素直に、背後から後頭部を狙いましょう。

 

―停止、解除。

 

 

「……デザートイーグル.50AE、か。 ベレッタ(M92FS)といいリボルバー(M29)といい、良い趣味してるな」

 

「あなたに褒められてもなにも嬉しくないわ」

 

「まそりゃそうか。

で? 撃たないのか?」

 

「――どうやって巴マミを生き返らせたのか、説明しなさい」

 

……場合によっては、やり直しの手段が増やせる。

このループで、決着をつけられる!

 

「わざわざ最強のマグナムオートを出しといてそれk」

 

銃口でど突く。 今私が聞きたいのは、そんなどうでもいい事じゃないわよ!

 

「……分かったから、銃口を降ろせ。 地味に痛い」

 

「…断るわ」

 

「あ、そ。

っつてもねぇ……生き返らせたって、そもそも死んでない人に使う言葉じゃないと思うがな」

 

「……………続きを喋りなさい」

 

「いちいち頭を小突くでない。

……私は魔女じゃなくて魔法少女だって言ってるのに、話聞かなかっただろ? それで1人ずつゆっくり言い聞かせようと思って、まず近くにいたマミを拉致った。 それだけだ」

 

………確かに、ここまで人間に酷似していて、知能がある個体は初めて見るけど……

 

「…………………あなたが仮に魔法少女だとして。 なぜソウルジェムが濁りきった状態で放置しているのかしら?」

 

「これでももう今日だけで3回くらい汚れを落としたんだけどな? コレについては寧ろ私が聞きたい」

 

 

「………信用出来ないわね」

 

「ごもっとも。

取り敢えず、一旦引いてくれないか? 私としても、無駄な戦闘は避けたい」

 

……ここは、退くべきかしらね。

相手の情報が足りない以上、危険はつきまとうし。

なにより、まどかがいる。 コイツがまどかに襲いかかった時に、護りきれる自信が、無い……

 

「…………………………………………………チッ。

さっさと行きなさい」

 

「どーも」

 

銃口を下ろすと、小さな足でテクテクとマミの方へ歩いていく。

 

………考えてみれば、あの子、本当に魔法少女だとしたら、小学生くらいの歳よね。

 

……………彼女が魔法少女であることも考慮して動こうかしr――

 

 

「――マミさん!」

 

「? 鹿目さん?」

 

「また………また、魔法少女体験コースに、連れて行って、くれますか………?」

 

「!

――えぇ、もちろん!」

 

 

 

………前言撤回。

 

 

あの魔女、いつか絶対殺す!!!

 

折角まどかが魔法少女になる事を諦めていたのに!!

これを狙ったのね、あの悪魔ァっ!!!

 

「……………マミ、保護者サマがマジギレしそうだから今日はやめてくれ。 本気のアレを生け捕れとか、私でもキツい」

 

「……怖っ?!」

 

「……右に同じく。 マミ、行くよ」

 

「分かったわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほむぅぅ!! ほむぅぅぅぅっ!!!」

 

「……えっと、ほむらちゃん? 荒ぶってるけど、どうしたの?」

 

「――ふっ。 大丈夫よ、まどか。

ちょっと各種手榴弾と爆薬と対物ライフルの調達を心に誓っただけよ」

 

「ほむらちゃん、戦争でも始めるの?!?」

 



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表ルート:第4話

sideほむら

 

巴マミの生存(?)が確認出来た翌日、放課後。

 

イレギュラーの存在による、大幅な過去のループとズレた部分を確認するため、まどかをストーキング尾行する。

 

美樹さやかが魔法少女になってしまったのは、かなり痛い。

もしまどかが、このまま魔法少女になるようなことになれば……っ!!

 

「……もうこうなったら、近寄るインキュベーターを片っ端から血祭りに上げるしか無いかしら……」

 

ある程度距離を置きながら、慣れた手つきで米軍基地から死ぬまで借りている双眼鏡を覗く。

 

 

 

 

 

………美樹さやかと一緒に、原っぱへ。

ループ通りなら、美樹さやかは上条恭介のいる病院へ、まどかは美樹さやかと私を協力させようとする。

 

……あ、さやかが離れたわね。

それじゃあ、まどかに会いに行きましょう。

 

 

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 

 

―喫茶店

 

 

………ここにまどかと来るのも……何度目なのかしらね。

 

「―それで、話って何?」

 

「あ、あのね―」

 

次の台詞は、『さやかちゃんとね、仲良くしてあげてほしいの』

……考えてみれば、私ってば同じミスをしてる(さやかの魔法少女化を止めない)のよね。

魔女化する事を考慮すれば、いっそのこと――

 

 

 

「――魔法少女と魔女って、どうやって見分ければいいの?」

 

「…………………ほむ?」

 

魔法少女と魔女の見分け方………

一目瞭然だったから、考えたことも無いわね。

 

「………クトのことかしら?」

 

「うん。 昨日、クトちゃん、マミさんと一緒に私の事を助けてくれたの。

その後、クトちゃんが、さやかちゃんとマミさんと戦って……」

 

「……」

 

巴マミが美樹さやかと共闘?

………てっきり、巴マミはもうあっち側だと思っていたけれど………

 

「……さやかちゃんは負けちゃったんだけど、その後、クトちゃんがさやかちゃんのこと褒めて……

……クトちゃんは、魔法少女なのかな。 それともキュゥべえの言う通り―」

 

「………どうでしょうね」

 

私の考えとしては、彼女は魔女だと思う。 ソウルジェムがあそこまで濁りきった状態で自我を保つのは不可能。

 

……だけど、クトのことを魔法少女だと言えば、まどかのインキュベーターに対する不信感を与える事ができるわ。

 

「……確かめてくるわ。

彼女が、魔女か、魔法少女か」

 

「えっ?! で、出来るの?!」

 

「………えぇ」

 

――方法は、あるにはある。

彼女のソウルジェムを肉体から100メートル以上離して、生命活動が停止すれば、彼女の魂は本物。

 

それから溜まった穢れを移して、彼女のソウルジェムを浄化できれば、確実。

 

………ただ問題は、どうやってソウルジェムを肉体から離すか、ね。

 

バックとかにしまっているならいいけど、文字通り肌身離さず持っていたら、実力行使で奪うのは難しい。

 

………だけど、やるしか無いわね。

イザとなったら、頭部を爆散させればいいわ。

 

「……行ってくるわ」

 

そうと決まれば、急ぎましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………街に繰り出したはいいけれど、アテが無いわね」

 

クトは、今回のループで初めて現れた存在。

当然、行動パターンは把握出来ていない。

 

「……………マミのマンションに張り込めば、チャンスがあるかしら?」

 

……いえ。 私がループしている事さえ知っていたクトなら、おそらく、――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―夜

 

 

「――見つけたわよ、クト」

 

「………よく分かったな、暁美ほむら」

 

やっぱり。

 

美樹さやかの住む家(・・・・・・・・・)を張り込んだら、一発ヒットね。

 

「……あなた、昨日、美樹さやかと戦ったそうね」

 

「あぁ、模擬だけどな。 いいスジしてるよ、アイツ」

 

「………単刀直入に言うわ。 ソウルジェムを貸しなさい」

 

「……………断ったら?」

 

「………………奪うまでよ」

 

盾から、バレットM82を引き抜く。

 

「………アンチマテリアルライフル、か」

 

「流石のあなたでも、コレの弾丸を素手で反らすなんて無理よ。

………ソウルジェムを渡しなさい。 私も、あなたが魔法少女である方がいいのよ」

 

「そうだな。

 

 

 

 

 

 

 

だが、断る」

 

「そう」

 

ドッッゴォンッッッ!!!

 

強烈な反動が身体を突き抜け、放たれた弾丸は――

 

 

 

――クトの頭蓋を、吹き飛ばした。

 

「……魔法少女はソウルジェムさえ無事なら、肉体を幾らでも再生出来るわ。 それこそ、脳だってね」

 

頭部の上半分が消し飛んだ身体のソウルジェムに、手を伸ば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――悪いね。 コレでも私、『原典』だと核攻撃喰らって平然としている種族なんでね」

 

――伸ばした手を、掴まれた?!

 

「くっ――離しなさい!!」

 

ドッッゴォンッッッ!!! ドッッゴォンッッッ!!! ドッッゴォンッッッ!!!

 

一応ソウルジェムのある上半身を避け、下半身に0距離で12.7×99ミリNATO弾が炸裂する。

 

両足は消し飛び、骨盤は木っ端微塵になり、

 

それでも、掴んだ手が、離れない。

 

「このっ、バケモノ!!」

 

「私がバケモノ……?

違う。私は邪神だ!! ふははははははははははっ!!」

 

「チッ!」

 

バレットを手放し、M29で両腕と、ついでに煩い口を吹き飛ばす。

 

「……っ、これで、やっと――

…………………………え???」

 

自分で生み出した惨劇に、一瞬目を逸らし、改めてソウルジェムを取ろうとしたら――

 

 

 

 

 

 

「………身体が、無い???」

 

よく見れば、血も、脳漿も消えていた。

あるのは、弾痕だけ。

 

 

………考えてみれば、彼女は常にインキュベーターを一体連れていた。

それがいなかったということは、もしかして――

 

「さっきのクトは、ニセモノ………っ!?」

 

 

 

……仕方がないわ。 今夜は諦めて、当初の予定通り、美樹さやかと佐倉杏子の殺し合いの妨害をしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

……間に合う、わよね?

 

 

 

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 

 

 

 

「……こっちね」

 

魔法少女が取り逃した魔女を追う時、あらかじめ把握してある魔力は見分ける事が可能。

そして、慣れれば、その対象を魔法少女にすることも可能。

 

美樹さやかの魔力を追って、裏路地を進んでいく――

 

 

 

 

 

「…? 魔女の結界……?」

 

いつもなら、美樹さやかが使い魔を狩ろうとするのを、佐倉杏子が止めていたのに。

 

 

 

結界の内側に侵入して、状況を確認してみれば、さやかとマミでコンビを組んで、魔女と戦っていた。

 

クトは、いない。

 

 

……それにあの魔女、確か、使い魔の数が特徴で本体は弱かったはず。

 

なのに、やけに使い魔の数が少ない。

 

 

 

……先にクト(誰か)が、あらかじめ使い魔を殺して(環境を整えて)から、初心者に戦わせる――

 

 

「………考え過ぎね。 それより、佐倉杏子を探さないと――」

 

「呼んだかい? もう1人のイレギュラーさんよぉ」

 

――!?!?

 

背後を、取られた―?!

 

「魔女の結界があるから入ってみれば、他の奴に先を越されてるわ、コソコソ隠れてる奴がいるわ………

全く、この街はいつの間にこんなに魔法少女が集中する所になったのかねぇ」

 

「………もう1人の、ということは、会ったのね。

あのバケモノに」

 

「あぁ。 自称魔法少女の羽だけ骸骨野郎だろ?

ワルプルギスの夜の件についても聞いてるぞ。 納得のいく説明があるんだろうな?」

 

「…………………」

 

「……黙りか。 ま、私にとってはどうでもいいことだけどな」

 

「……? 何故かしら?」

 

ワルプルギスの夜クラスの魔女が相手なら、戦力は1人でも多い方がいい。

特に、佐倉杏子程のベテランなら。

 

「だってそうだろ? 割に合わないんだよ。 何人もの魔法少女で奴を斃そうが、落とすグリーフシードの数はたかが知れてる。 魔女を斃した後は奪い合いってか?

それに、ここはアタシの縄張りじゃない。 アレと戦う理由もないんだよ」

 

「…………確かに、正論ね。

なら、私の取り分のグリーフシードを全てあなたに渡すとしたら?」

 

「……なんでそこまでアレに拘る?」

 

「…………………」

 

「……はぁー、また黙りか」

 

―佐倉杏子が、離れていく。

何とかして引き止めないと――でも、どうやって、――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――グリーフシード無しでのソウルジェムの浄化方法、なんてどうだ?」

 

「「っ!?!?」」

 

く――クト?!

 

「……‥…幻影か?」

 

「お、分かるか。 そういや杏子の固有能力は……………改良点だな」

 

「………?」

 

「この身体は、分身ってコト。 ニンニンって奴? 本体はあっち」

 

クト(自称分身)の指差す方を見れば、

ちょうどまどかに寄る使い魔をクト(自称本体)が骨翼で全て叩き潰したところだった。

 

「……なら、さっき私が撃ったのも、」

 

「もちろんニセモノ。 血の匂いがしない時点で気付こうよ」

 

……………そういえばそうね。 うっかりしてたわ。

 

「……おい。 それより、さっき言った事は本当なんだろうな?」

 

「ソウルジェムの話か? 勿論。

情報の公開条件は、『ワルプルギスの夜の撃破』」

 

「……分かったよ。 アタシも参加する」

 

「ドーモ」

 

……………結果として、今回はクトに助けられたわね。

本当に、敵なのか味方なのか、分からない奴n

「じゃ、ほむら! 情報提供ヨロシクゥ!」

 

「………ほむぅ?」

 

「? 私、アレの出現ポイントも攻撃パターンも知らんぞ」

 

……………言いたい事は分かるけど。 言いたい事は分かるけどっ!

私のループについて知ってるくらいなら、そっちの情報についても知ってるでしょう普通?!

 

「『普通』に真っ向から喧嘩売るのが私なんで」

 

「…………顔に出てたかしら?」

 

「そーさねー」

 

 

………あ、結界が消えたわね。

 

 

「作戦会議の場が決まったら知らせてくれよ! んじゃ!」

 

そう言うと、瞬きする間に音もなく消える。

 

「………アイツ、何者だよ?」

 

「………私が聞きたいわよ、そんなの」

 



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表ルート:第5話

sideほむら

 

 

今日も私は、機械的に魔女を探し、狩る。

 

 

 

 

 

ループでの流れから言って、もうそろそろ魔法少女の実態が、

 

奇跡と魔法(偽りの希望)の陰に隠された呪いと現実(絶望)が顔を覗かせる。

 

幸い、現段階での犠牲者は0。 それどころか、私にもインキュベーターにも制御不能のクト(ジョーカー)まで場に出てる。

 

 

「……しっかりしなさい、暁美ほむら。 正念場はここからなのよ」

 

……美樹さやかの魔女化。 そこから転がり落ちるように退場する佐倉杏子。

その段階までマミが生き残っていたケースもあったけれど、彼女も発狂し、死ぬ事になった。

 

 

 

 

 

「真実といえば………彼女はどこまで知っているのかしらね」

 

私が時間遡行者であるや、目的を見抜き、更には共闘する魔法少女を言い当てた、骨翼の少女。

 

――彼女は、どうして魔法少女の運命を受け入れたのだろう。

 

 

確か、彼女の願った奇跡は、『失ったエピソード記憶の一部を取り戻した後に叶える』というものだったはず。

 

……なぜ、記憶を思い出す事を含めて願わなかったのだろう。

 

キュゥべえに、叶えることが不可能だと言われたのか。

 

最初から部分的記憶喪失なんて嘘なのか。

 

 

――或いは、

 

 

 

 

 

「………確か人間の脳は、強烈過ぎるトラウマからの自己防衛反応として、記憶を失うことがあったはず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無意識の内に、思い出す事を拒んでいるのか(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

だとしたら、彼女のソウルジェムの状態にも、一応の説明が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――やあ、暁美ほむら。 難しい顔をしているけど、どうしたんだい?」

 

「………あなたたちを絶滅させる方法を考えていたのよ」

 

「それは恐ろしいね」

 

……相変わらず、人の神経を逆撫でする事が得意な連中ね。

 

「……なんの用よ?」

 

「なに。 君達風に言えば、勝利宣言というヤツさ」

 

「!? なんですって?! まさか、まどか――」

 

あの子――契約してしまったというの?!

 

「残念だけれど、鹿目まどかはまだ魔法少女になっていないよ」

 

「………何をしたの。 まどかに、何をっ!?!?」

 

「そう怖い顔をしないでくれよ。

僕らはまだ、鹿目まどかには手を出していないし、美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子にも何もしていない」

 

「……そう、ならよかっ――」

 

――何かしら? この、とてつも無く嫌な感じ。

 

 

気付かない内にとても大切な、歯車を奪われ、壊されたような気分は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――僕らがどうにかしたのは、君さ。 暁美ほむら。

いや――時間遡行者、と言った方がいいかな?」

 

「―――」

 

息が、

 

 

 

 

 

止まった。

 

 

 

 

 

「………まさか………………まさか………………っ!?!?」

 

インキュベーターは、やつらに似合わないような喜色の声色で、

 

こう、言ってのけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――君の盾にある砂時計の砂は、もう、どうやっても流れない。

寧ろ好都合なんじゃないかい? 時間停止の制限が無くなったのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言っているのか、わからなかった。

 

 

 

 

 

ただ、真っしろにそまっていくあたまで、わかったことは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――もう、じかんを、まきもどすことはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウソよ……………ウソよ、ウソよ、ウソよ、ウソよ、ウソよっ!!!」

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

 

何度も、

 

何度も、

 

何度も

 

何度も

 

砂時計を、反転させる。

 

 

 

 

 

 

 

なのに、

 

 

 

 

 

砂時計の砂は、動かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウソよ、ウソよ、ウソよ、ウソよ、ウソよ、ウソよ、――」

 

「想定以上にあっさり壊れたね。 本来なら絶望を与えるのは魔女の役割なのだけれど、なにせクトのスペックが彼の言葉通り(・・・・・・)なら、どんな状況下でも、それこそ鹿目まどかが魔女化しようが全てをひっくり返しかねない。

だからと言って、既存の戦力では彼女を追い詰めることは出来ても、止めを刺すことが出来ない。

仕方なく僕らが動いて、周りから潰すことにしたのさ。

……って、もう聞いてないね」

 

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

時間を止める。

 

 

 

 

 

何度も、

 

何度も、

 

何度も

 

何度も

 

何度も、

 

何度も、

 

何度も

 

何度も

 

何度も、

 

何度も、

 

何度も

 

何度も

 

何度でも。

 

 

 

 

 

でも、

 

 

 

 

もう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時が戻る事は、無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………どれくらい、そうしていたのか。

 

 

 

ふと気がつけば、夜の街を当ても無く彷徨っていたらしい。

ソウルジェムを手に取ってみれば、8割ほど黒ずんでいた。

 

身体に染み付いた流れ作業で、グリーフシードに穢れを押し付ける。

 

「………っ」

 

――頭を、切り替える。

 

 

 

時間を巻き戻す事が出来なくなった以上、このループが、最後のチャンスということだ。

幸い、時間停止の制限が無くなったから、戦闘や武器の調達にも遠慮無く能力を使える。

 

 

 

「………このループで、

 

まどかを、助けてみせる」

 

 

 

彼女から、魔法少女の運命から救う。

 

 

私の願いは、それだけ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ワルプルギスを斃して、どうする?

 

あのインキュベーターの事だ。

例えワルプルギスの夜を乗り越えたとしても、その次が無いとは限らない。

 

 

 

その『次』が来た時、

 

 

 

 

 

 

 

私に、何が出来る?

 

 

 

 

 

 

もしかしたら、私がこれまでやってきたことは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全て、無駄だったんじゃ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―っ、辞めにしましょう。 そんな先の事を考えても仕方無い。

それより、ワルプルギスの夜を打倒するまでの事を考えないと――」

 

 

 

 

 

――ガッ、ガギィ、ガキッガッギリッ――

 

 

 

 

 

……金属音?

 

…………………この音、まさか、

 

 

慌てて音源に向かう。

 

屋根を飛び越えたり、一本道は時を止めたりして、最短時間でたどり着いてみれば――

 

 

美樹さやかと佐倉杏子が、戦っていた。

 

どれだけ戦い続けたのか、非常に高い再生能力を持つ美樹さやかが満身創痍で、佐倉杏子でさえも消耗していた。

 

 

「ちっ――」

 

 

時間、停止。

 

 

剣先と矛先の向きを強引にズラし、停止解除後には2人とも路地の壁に激突するように調整する。

 

 

―停止、解除。

 

 

「!? うわぁっ?!?」

「!?―っつあ?!」

 

美樹さやかは壁に頭から突っ込み鈍い音をたて、佐倉杏子はブレーキこそかけていたが、止まりきれずに槍を壁に叩きつけて勢いを殺していた。

 

 

「……テメェか。 何しやがったっ!!」

 

直ぐさま復帰した杏子の突きを時間停止で背後に立つ事で避ける。

 

「な、何だ?!」

 

 

……? 佐倉杏子の受けたダメージ、痣や擦過傷が殆どね。

少なくとも、剣による切傷じゃない。

 

「……随分と変わった魔法だな、アンタ」

 

「――佐倉杏子、その怪我、どうしたのかしら?」

 

「あぁ!? あのチビにやられたんだよ!!」

 

チビ………クトの事ね。

雰囲気で誤魔化されるけど、彼女の身長は小学生並だし。

 

それは置いといて、彼女が他の魔法少女と戦闘?

以前の美樹さやかとの戦闘は、まどかの話を聞く限り戦闘というより遊びらしいけど……

 

「彼女があなたを襲ったのかしら?」

 

「……………」

 

「………佐倉杏子?」

 

「チッ! アタシから吹っかけたさ! ハナっから遊ばれてたみたいだけどな! これで満足かテメェ!!」

 

「そこまでは聞いてないわ」

 

まさか………八つ当たりで美樹さやかと戦ったのかしら?

 

「……佐倉杏子。 最近は魔女の出現数が減っている。 無駄な争いは避けるべきよ」

 

「……それくらい、分かってる」

 

吐き捨てるように言うと、変身を解いて去っていく。

 

 

……そういえば、美樹さやかがやけに静かなような気が……

 

 

「」

 

「……気絶してるわね。

――起きなさい、美樹さやか」

 

うつ伏せに倒れていた彼女をひっくり返し、頰をペチペチ叩く。

 

「ぅん…………………転校生?」

 

「……私には暁美ほむらという名前があるのだけれど?」

 

「……………そうだ、あいつ――?!」

 

跳ね起きた美樹さやかが、周りを見渡し――直ぐに怪訝な顔をする。

 

「……あれ? あいつは?」

 

「佐倉杏子なら、何処かに行ったわ」

 

「そっか。

……………ねぇ、転校生。 ソウルジェムを綺麗にしておくのって、そんなに大事なことなの?」

 

「………争いに勝つ事に拘るなら、そうね。 経験や才能も肝心だけれど」

 

「……だからって、他人を犠牲にするなんて……!」

 

……本来なら、昨日の晩行われていたやり取りがあったのかしら。

 

 

 

 

 

魔法少女の在り方としては、佐倉杏子の方が正しい。

美樹さやかでは務まらない。

 

優しさは甘さに繋がるし、蛮勇は油断になる。

なにより、どんな献身にも見返りは無い。

 

あのバケモノ(クト)ですら、その辺りは弁えているだろう。

 

「それに、あいつは………っ!!」

 

………大方、上条恭介について何か言われたのね。

 

――佐倉杏子に、彼女に手を出さないよう言っておくべきね。

 

 

 

 

 

 

 

学校の日直だった巴マミと合流する、と言った美樹さやかと別れ、佐倉杏子を探す。

 

魔力反応を追っていけば、彼女が入り浸るゲームセンターにたどり着いた。

 

店内をぐるっと見回り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何処にも居ない??」

 

 

もう一度、魔力反応も確認しながら、ぐるっと見回る。

 

 

……入れ違いになったのかしら。 寧ろ反応が離れていくわね。

 

 

反応を追って、店の外に出る。

 

 

 

 

そのまま探し回れば、川近くの廃ビルから反応があった。

 

一瞬、魔女を狩っているのかと思ったが………

 

 

 

魔女の反応は無い。

 

ならここが彼女の拠点かと思ったけれど……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――なぜか、とても嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

本能が、この場から全力で逃げろと叫ぶ。

 

 

 

 

 

この先にある光景を覗き込めば、二度と戻れないと。

 

 

 

 

 

 

 

……知らぬ間に流れていた汗を拭い、震える身体を抑えて、廃ビルに侵入する。

念のため、予め変身しておく。

 

 

一階………何も無い。

エレベーターは、ワイヤーが切れて、底でひしゃげていた。

 

 

 

二階、三階、四階と確認していくと、徐々に、血の匂いが漂ってくる。

 

 

 

急いで階段を駆け上がり、最上階へ足を踏み入れると――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――クソっ! 今日は厄日だっ! 何なんだよ、お前らホント何なんだよっ!?!?」

 

 

佐倉杏子が、全身から血を流している一般人たち(・・・・・)と戦っていた。

 

「佐倉杏子!? 何をしているの!?!」

 

「?! ほむら!?」

 

振り返ったその顔は、驚愕の表情が張り付いていた。

 

「あなた、幾らグリーフシードが大切とはいえ、一般人にまで手を出すなんて――」

 

「違うんだほむら!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――逃げろ(・・・)!! 今すぐに(・・・・)!!」

 

 

 

「………は?」

 

………佐倉杏子?

 

なんで、あなたが追い詰められている(・・・・・・・・・)ような声を出すのかしら?

 

 

 

 

 

背後から殺気を感じて咄嗟に回避すると、錆びたノコギリの刃が振り下ろされていた。

 

振り下ろした相手を見ると、日曜大工の道具なんて持った事がなさそうな、線の細い女性。

 

「――なっ?!」

 

その事にも驚きだけど、何より、驚いたのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――魔女の口づけが、無い(・・)――?!?!」

 

 

いつの間にか私たちを囲む彼等の首筋を確認しても、誰一人として、特徴的な痣が見当たらない。

 

 

「………佐倉杏子、何があったの?」

 

「……ゲーセンでガキが1人、目の前でこいつらに攫われてな。 つい追いかけたら、このザマさ。

それとほむら。 こいつらを人間だと思わない方がいい」

 

「何を言ってるの? ただの誘拐犯のグループじゃない」

 

「相手してれば分かる! 来るぞ!!」

 

正面を見れば、錆びたノコギリの他に、カッターナイフや金槌、ささくれだった木片等、簡単に入手できる武器を愚直に振り回し、雄叫びをあげながら彼等が突っ込んでくる。

しかも適当に振り回すから、互いに傷つけ合っていた。

 

「全く、面倒ね」

 

対象の時間を停めたままだと極僅かな介入しか出来ないから、小刻みに時間停止と解除を繰り返し、片っ端から気絶させる事にする。

 

先ずは目の前のスーツ姿の男性。

特殊警棒で、後頭部を手加減して殴る。

 

ゴリ、という手応えを確認して、時間を停め――

 

 

 

「――うごあああああああああ!!」

 

「?! なっ、」

 

咄嗟に屈んで目の荒い(鬼目の)金属ヤスリを避ける。

 

しかもその一撃は、後ろにいた別の人の腕を服ごと抉り、

 

 

 

 

 

 

 

 

――痛み一つ訴える事なく、2人揃って手に持った工具を振り下ろしてきた。

 

 

「!?!? 止めなさいあなたたち! その怪我で、なんで動けるの……?!」

 

 

真横からの殺気に対し、転がって避けて――

 

 

 

その光景に、絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――腕が折れ、骨が飛び出ている。

 

その折れた骨の先端で攻撃してきていた!!

 

 

『『『う――ごああああああああああ!!』』』

 

「――っ?!?」

 

まるで痛みを感じていないかのような動きをする彼等の攻撃を、死に物狂いで避ける。

 

出来る事なら逃げ出したいが……

 

全方向を囲まれているうえ、このビルは天井が低い。 ジャンプして飛び越えるのは、高さが足りない。

 

時間停止中は、私が触れたモノの停止も解除されてしまうから、魔法も使えない。

 

 

それに、今気がついたけれど――

 

 

彼等の手にある武器は、命を奪うより、どちらかといえば、治りにくい傷を付けることに優れている。

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

避けきれなかった攻撃を、武器を叩き落として迎撃するも、――

 

 

「うごああああああ!!!」

 

「!? がっ!」

 

そのまま首を絞められる。

 

魔法少女の力で、手加減無しで腹部を蹴りつけるけれど――

 

 

「!?!? なん、で、効かな、」

 

 

明らかにナニカを蹴り壊した感覚があったのに、気絶することも、痛みに悶えることもなく、人間とは思えないような馬鹿力で首を掴まれる。

 

 

「――ほむら!? くっそぉぉぉおお!!!」

 

佐倉杏子が槍を振るい、その両腕を切断する。

 

そこまでやって、なんとか脱出出来る。

 

「ゲホッゴホッ! や、やり過ぎよ、あなた――」

 

「アレを見てまだ言うか!?!」

 

彼女の指差す方を見れば、

 

 

 

 

 

 

 

さっきまで私の首を締めていた男が、その両腕から血が吹き出ているにもかかわらず、噛み付いてきた(・・・・・・・)

 

「ひっ――」

 

「いい加減にっ―――しやがれぇっっ!!!」

 

佐倉杏子がその眉間を蹴り飛ばすと、槍を投擲して、強引に退路を作る。

 

 

「――逃げるぞ!」

 

 

その道を、全力で走る。

 

時間停止の事も、本来なら私たち魔法少女が常人より身体能力が優れているのも忘れ、全力で走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………体力を使いきって立ち止まる頃には、件のビルは遥か遠くにあった。

 

「はぁっ、はぁっ、おいほむら、無事か?、はぁっ、」

 

「幸い、怪我は無いわ。

それより、なんだったのかしら、彼等」

 

「んなもん、アタシが、聞きたい」

 

幸い、無意識の内にも目立つ道を避けていたのか、場所は裏路地。

 

多少非現実的な話をしようと、周りの目を気にする必要はない。

 

 

「……なんだったんだろうな、アイツら」

 

「魔女の口づけも、魔力の痕跡も無いなら、普通(?)の狂人という事になるけど………

だとしてもアレは異常ね。 全く痛みを感じた様子が無かった」

 

「痛みが無いにしろ、骨が飛び出てたり腕や足が吹っ飛んでるのに平気な顔して襲いかかってくるヤツなんているのかよ?!」

 

彼女が堪らずといった具合に叫ぶ。

気持ちは分かる。 私も、ただの悪夢だと思いたい。

 

けれど、鼻にこびりついた血の匂いが、

首に残る、鈍い痛みが、それを、否定する。

 

 

「………兎に角、対策を考えましょう。 あんな連中がいるのなら、それこそ夜間の魔女狩りも危険――」

 

 

 

 

 

――突然、絹を裂くような悲鳴が響き渡る。

 

佐倉杏子と顔を見合わせ、その現場に急ぐと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきのビルにいた、私に最初にノコギリで切りかかってきた女性が、別の女性を執拗に切りつけていた。

 

その度に、被害者の女性は悲鳴をあげ――回数を重ねる毎に、弱々しくなり、

 

 

 

 

 

最後には、絶命して、悲鳴が、永遠に、途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

「……………うそ、」

 

「……こ、こんな所にいられるか。

おい逃げるぞ」

 

後退りして――ネチョ、という音と共に、何かに、ぶつかる。

 

 

 

自分の事ながら、まるで錆びたブリキ人形のような動きで、泣き出す直前の表情の佐倉杏子と目を合わせ、そのまま振り返ると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきの、両腕の無い男が、ナニカを呟きながら立っていた。

 

 

「…………うそだろ…………は、ははは……………」

 

「あ、あああああ…………!!」

 

咄嗟に佐倉杏子の手をとり、疲れ切った身体に鞭打って走る。

 

目の前の現実から逃げるように。

 

あの男の呟きから、逃げるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"――ふんぐるい むぐるうなふ

くとぅるー るるいえ うがなぐる ふたぐん"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!!!"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――この時の私たちは、分かっていなかった。

 

 

突如として、世界に湧き出た、その存在を。

 

この世界が、どんな存在の争いの火中に迷い込んだのかを。

 

 

 

 

 

――私たちの逃走劇は、終わらない。

 



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裏ルート:二章 穢された正義
裏ルート:第12話


sideキュゥべえ

 

クトからの短い念話を終えてからしばらくして、少し疲れた様子のマミたちが帰ってきた。

 

「それで、ビルの方はどうだったんだい?」

 

「中には入れなかったけれど、狂人だった1人には会えたわ」

 

「襲われたのかい?!」

 

「その人は正気を取り戻していたから大丈夫よ」

 

……今朝の話を聞く限り、正気を取り戻していたらいたで大変な事になってそうだけど。

 

「巴マミ、雑談もいいけれど、そろそろ……」

 

「……そうね。

キュゥべえ、クトと1番長い間行動を共にしているのは、あなたよね?」

 

「彼女が降って来たその時から一緒にいたけれど、それがどうかしたかい?」

 

「……なら、『クトゥルフ』という単語に聞き覚えは?」

 

「あるよ」

 

ほむらからの質問に、普通に答える。

クトから口止めされているのは、今彼女が何処に居るかという点だけだからね。

 

「!? 誰から聞いたの?!」

 

「クトからだよ。 あの時は……」

 

お菓子の魔女との一件の前後で聞いた事を全て伝える。

 

 

「――クト以外の『クトゥルフ』は、この世界に存在するか否かすらハッキリしない地球外生命体。 仮に存在するとしても、太古の昔に海底に封印され、今でも眠っている。

種族的能力として、精神に干渉することが出来る。

これが、ボクが彼女から聞いた『クトゥルフ』についてだ」

 

「……マミ、」

 

「原典の『クトゥルフ』とほぼ全て一致するわね」

 

いつの間にかマミが本棚から取り出してきた、『クトゥルフ神話TRPG』というタイトルの本のとある1頁を睨んでいるマミが、その説明を補足する。

 

「クトゥルフは、ゾスから眷属を引き連れて来た異星人だし、海底の封印も、ルルイエに封印されているという設定と一致するわ。 精神への干渉も、何らかの事情でルルイエが浮上したときに、感受性の高い子供や芸術家が狂死するという描写から分かるわ」

 

ピタリと一致する。

 

姿形の変化も、本によれば自由自在に変化可能との事だし。

 

本来の姿が数十メートルの体高の怪物がその身体能力を保ったまま人間サイズまで縮んだのなら、人類の限界を遥かに超えたあの馬鹿げたパワーにも納得出来る。

 

 

ほむらも同じような答えにたどり着いたのか、

 

「彼女は、『本物』かもしれないわね」

 

と呟いていた。

 

 

「佐倉杏子とキュゥべえ。 あなた達は鹿目まどか達と合流してほしい」

 

考えを纏めたらしいほむらが、班分けを提案する。

 

「そいつは構わねぇけど……アンタたちはどうするんだ?」

 

「巴マミと、クトについてもう少し探ってみるわ」

 

「―分かったわ。 それじゃあキュゥべえ、クトのことをお願いね」

 

「まずは探す事から始めないといけないけどね」

 

 

「佐倉杏子。 間違っても余計な戦闘は避ける様に」

 

「分かってるよ。 アレの面倒くささは知ってるからな」

 

 

 

 

 

〜少女別行動中〜

 

 

 

 

 

「さてと。 おいキュゥべえ、何処かアテはあるか?」

 

「彼女はアレでも魔法少女だ。 多少事情が特殊とはいえ、グリーフシードを求めて魔女を狩るんじゃ無いかな」

 

クトはグリーフシードの浄化が無意味だけれど、さやかと行動を共にするなら彼女のバックアップの為に現れるだろうからね。 魔女との戦闘は確実だろう。

 

「んじゃいつも通り魔女を探すとするか」

 

杏子が魔力反応を追って、魔女と出くわしたらしばらく様子を見て、何も起こらないなら魔女を狩る。

 

それを3回程繰り返しても、彼女たちには会えなかった。

 

 

 

 

 

狂人との邂逅確率を下げる為、上から探す事にして、今は高めのビルの屋上。

 

「クッソー。 マジで何処にいるんだ?」

 

「さぁ?」

 

途中それとなくさやかの家に寄ったけど、魔法少女の気配は無かったし。

 

「クトの能力は精神干渉だ。 幻覚や幻影を見せる事が出来るから、実際は何処かですれ違っていたりしてね」

 

「それは無いな。 アタシの目は誤魔化されない」

 

……杏子の能力も幻影系だ。 だからこその言葉なんだろうけど。

 

「油断や慢心は禁物だよ。 クトが事実『クトゥルフ』なら、あっちの能力は持って生まれたものだ」

 

「……アタシは信じねぇぞ」

 

そういえば、杏子の家は元々十字教だ。 狂気神話という代物がどれだけ異端な存在かは、三人の中で1番把握出来るだろう。

 

 

「……風が強くなってきたね」

 

「ちっ。 何かかっぱらうついでに場所かえるぞ」

 

そう言って立ち上が――

 

 

 

 

 

 

 

ドゴグシャァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

「!?!? な、なんだっ?!?」

 

突然、轟音と共に一つ隣のビルの屋上が崩壊する。

 

クレーターを中心にヒビ割れが全体に走り、建築物そのものが倒壊しない方が不思議な状態――

 

「―おい! 逃げるぞ!!」

 

「きゅぶっ?! きょ、杏子? 一体―」

 

そこまで言いかけて、やっとその場の異常性に気がつく。

 

クレーターが発生するということは、そこに叩きつけられた『ナニカ』がいるという事だ。

なのに、その姿が見えない。

 

けれど、どこか背筋の凍る様な、ジャラジャラという鎖の様な音が響く。

 

 

 

 

 

【――GoooooOOOoooooooooOooooooOooooAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!】

 

 

 

 

 

爆音。

そうとしか表現出来ない様な、魂を、世界そのものすらを震わせるような咆哮が響き渡る。

 

「な、あ、あれは一体……?!」

 

「…………………………は、」

 

「――杏子?」

 

ボクの首根っこを掴んでいた手の力が抜け、杏子が膝を着く。

 

「―――は、ははは、アハハハハハハ!! もうわっかんねぇよ! なんだよ、なんだってんだよ!?! アハハハハハハハハハハ!!!」

 

「杏子?! どうしちゃったんだい!? 杏子?!?」

 

そのまま瞳孔の開いた目で笑い続ける杏子。 本当にどうしちゃったんだよ?!?

 

そうしてる間にも、姿を見せないソレが――

 

 

 

 

 

――ズガッッ!!

 

 

【!?! VOooooooooooooo!!】

 

「――じゃぁかぁしぃぃわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

すぐ目の前に槍が突き刺さり、大質量の物体同士が衝突した様な轟音に混じって、咆哮と、聞き覚えのある絶叫が響く。

 

「――クト!?」

 

「後だ! すっこんでろ、ザコがッッ!!!」

 

コンクリートに深々と突き刺さったランスを強引に振り回すと、鈍い音と共に、かなりの大きさの物体が空を切る音が聞こえる。

 

「クト! アレはなんなのさ!? それに杏子がおかしくなったんだ!!」

 

「あ? チッ! ルゥァッッ!!」

 

ランスを上空に蹴り飛ばすと、未だワライツヅケる杏子の頭に手を当て、

 

「―SOUL SINGING(魂の歌)!」

 

一瞬の間を置いて杏子の意識が無くなる。

 

「!? い、今のは!?」

 

「理解するな。 それより、早くマミたちと合流しろ! 中々面倒な事になった!!」

 

初めて見る、クトの鬼気迫る表情というものに圧倒されている間に、衝撃波と共に何処かに飛んで行ってしまう。

 



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裏ルート:第13話

sideさやか

 

「――さ! 今日も1日、頑張るぞー!」

 

今日は日曜日! さぁ! 朝から張り切っちゃうぞー!

 

「さやかちゃん、1人で大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫! 1人じゃないし」

 

「?」

 

えっと、念話念話っと――

 

『クトー』

 

「はいはいっと」

 

私の隣の景色が歪んで、そこから女の子が出て来る。

 

「クトちゃん!? ていうことは、マミさんも近くにいるの?」

 

「いや、今は別行動中。 ほら、最近の夜は物騒っしょ?」

 

「それって裏路地の連続殺人のこと? ニュースで見たよ」

 

「ソーナンス。 という訳で、私は特訓係兼護衛ってとこだな。 向こうも残りの魔法少女3人で固まってるだろうし」

 

――そう、正体不明の魔法少女(?)クトが、昨日の夜突然転がり込んできた。

 

なんでも近い内にヤバイ魔女が出て来る可能性があって、その為にあたしに特訓をつけることにしたらしい。

 

最初こそ、そんなことしなくてもあたしは十分戦える!って息巻いたけど、

まぁ、うん。

 

ソッコーで負かされたあと、「私でも戦えない程の相手が出て来る」と言われて、納得した。

 

……ていうか、クトが勝てない魔女って、冗談抜きで世界が終わるんじゃ?

 

「フラグだからその先はいけない。 さて、まずは移動しようか」

 

 

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 

 

―場所は変わって、裏路地。

魔女の結界の内側。

 

「はあぁぁぁぁぁぁああっ!!」

 

そこらじゅうにセーラー服が吊るされてるワイヤーが張り巡らされてる中で、スカートに腕(足?)の生えた使い魔をすれ違いざまに切り裂きながら、中心に浮いてる何処となく蜘蛛っぽいセーラー服の塊の魔女(委員長の魔女)に向かって突っ走る。

 

「っ―邪魔!!」

 

魔女が机や椅子を投げつけてくるのを弾き飛ばして、剣の間合いに入ったタイミングで両手で剣を握って、思いっきり上段に構えて―

 

「これで―――終わりっっ!!」

 

―ザンッッ!!

 

ハッキリとした手応えの後、魔女が真っ二つになったのが見えて、グリーフシードを落とす。

 

それと同時に結界が解かれて、元の景色に戻る。

 

 

「さやかちゃん! 怪我は無い!?」

 

「ノーミス完勝! さやかちゃん大勝利ー!」

 

「これこれ、慢心するでない」

 

すぐさままどかとクトが駆け寄ってくる。

 

「さて、評価タイムだけど――

良い方と悪い方どっちから聞きたい?」

 

う、悪いトコあったか〜。

 

「じゃあ、悪い方からで……」

 

「ほいよー。

まず聞くけど、魔女と戦う時、何処で戦ってる?」

 

何処でって……

 

「魔女の結界の内?」

 

「そう。 言い換えれば連中のホームグラウンドだ。 つまり?」

 

「……こっちの方がずっと不利?」

 

「正解。 あっちは罠や雑魚敵を配置し放題だし、自分にとって有利な地形にする事だって出来る。

例えば、そうだな。

さやかが魔女の立場なら、どんな所で戦いたい?」

 

「うぇ?! そんなこと想像したくないけど……」

 

えっと、あたしの武器は剣。 魔力さえあれば幾らでも作り出せる――

 

……………剣、か。

 

「……空を飛んだり、遠距離攻撃が出来る相手と相性が悪いから、剣を振りまわせる程度には狭いスペース?」

 

「だろうね。 そう考えると、さっきの魔女は遠距離攻撃(投擲)と使い魔の物量で押し切るタイプだから、広いスペースで、回避ルートや行動可能範囲を狭める為に足場はロープだけっていう構造だったでしょ。 ああされると、近接型はさやかがやってたみたいに強行突破するしか手が無くなる。

相手が弱かったから良いものの、下手したら不味かったんジャン?」

 

「うぐっ?! じゃあクトならどうするのさ!?」

 

剣しか持ってないのに、あれ以外にどんな手g

 

あらかじめ剣を大量に生(飛び道具が無いなら手持ちのモ)産からの全投影連続層射(ンをブン投げれば良いじゃない)

 

「即答?! そしてエゲツない!!」

 

「ま、安全第一ならな。 それに私なら面倒がって結界ごと叩っ斬る」

 

「超脳筋!?!」

 

「フハハハ!

で、もう1つポイント」

 

「まだあるの?!」

 

「悪いトコはこれで終わりだからモチっと辛抱。

雑魚に仕事丸投げするタイプの敵は、大抵その雑魚連中が無限湧きするか再生持ちの事が多いからな。 今回は無限湧きっぽいから別にいいけど、再生型なら剣ブッ刺してそのまま放置ってのも手だぞ。 回復阻害出来るから」

 

「そしてまた攻撃がゲスい!?」

 

なんか………言ってることが正しいのはなんとなく分かるんだけど。

あたしの想像してた正義の味方の戦い方と、違うような………

 

「そんなあなたにレッドマンの視聴をオススメします」

 

「いやアレはダメなヤツ!!!」

 

「なして? アレだって巨大ヒーローモノだよ?

…………………一応

 

「言っちゃったよ?! この人自分で一応って言っちゃったよ?!!」

 

「じゃあチャー研で」

 

「もっとアウトォ!!」

 

ネタが通じずにポカーンとしているまどかを置いてけぼりに、全力でクトにツッコむ。

 

何故だろう、魔女との戦いより疲れた気がする。

 

「そいじゃ、良かったトコだな。

ソウルジェムの浄化でもしながら聞いとくれ」

 

「あ、忘れてた」

 

変身を解いて、少し濁っていたソウルジェムの黒ずみをグリーフシードに移す。

 

「さやかのいいトコは、相手を怖がらないって点だな」

 

「え? それって当たり前の事じゃ無い?」

 

「ノンノン。 これがかーなーりー大事。 ビビってると相手の動きに過剰反応して寧ろ隙だらけになるし、腰がひけるから攻撃の威力も減衰する。 目を瞑るなんて以ての外。

……そう考えると、さやかってかなりブッ飛んでるよな」

 

「? 何処が?」

 

クトがジト目で見てくる。

 

「いや、普通の女子中学生は、いきなり異形のバケモノとバッタリ会ったら、悲鳴あげて逃げるだろJK(常識的に考えて)。 なに思いっきりタマの取り合いやっちゃってくれてんの? 私のあの時の苦労は…………ブツブツ」

 

「おーい?」

 

クトが座り込んでブツブツ言い始めた。

……心なしか、背後に『ドヨーン』って字が見える気がする。

 

「――と・に・か・く!」

 

「!?」

 

うわ復活早!?

 

 

「あんたは、私に無い才能を持ってんだ! 行き過ぎは慢心その他に繋がるから誇れとは言えないけど、胸張れ!!」

 

私の背中をバシバシ叩きながら、笑顔でこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あの後、剣を連続で投げつける練習をする為に、橋の下、目立たない場所でドラム缶を的に片っ端から投げてる。

 

……ただ、

 

「―てぃっ!」

 

スカッ

 

「とりゃ!」

 

スカッ

 

「うらぁぁっ!」

 

スカッッ

 

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………プッ

 

「笑うなぁぁぁぁぁ!!」

 

全然当たらないぃ……

 

「いや、悪い悪いww」

 

「そんな笑うなら、あんたは当てられるんでしょうね!?」

 

「おー。 ちょっち貸してみ」

 

そう言って、突き出された剣を受け取ると、手に馴染ませる様に軽く上に投げて、浮かばせる(・・・・・)

 

「………ん ? え? ちょ、ちょっと待って?!?」

 

「別に投げ方は指定して無いだろ? 根本的にハンドガードがしっかりしてる剣は投擲には向かないし」

 

「」

 

「うわぁ……」

 

そ、それならそうともっと早く言ってよ?!?

 

「スマンスマン。

ほいっと」

 

ズガンッ!!

 

勢い良く射出された剣がドラム缶に突き刺さり、そのままドラム缶を横倒しにする。

 

………やっぱあんたって、ほんと規格外だね。

 

「フ、褒め言葉だな」

 

「だからさらっと心を読むなと――

さやか! まどかっ!!

………へ?」

 

クトがいきなりあたしとまどかを突き飛ばす。

 

何をするの、と口を開こうとして、

 

 

 

 

 

――グシャッっと、重いモノが落ちる音が聞こえる。

 

 

音がした方を見ると、赤い人型のナニカが、――

 

 

「くぅ……」

 

「この声……ほむらちゃん?!」

 

「まどか、止まれ!!」

 

まどかがほむらに駆け寄ったのをクトが制止する。

 

「―!? チッ、この感じ……

さやか! ほむらを診てやってくれ! 後、絶対にまどかから離れるな!!」

 

それだけ言い残すと、何処からかランスを取り出して、飛翔する勢いのまま何処かへ消える。

 

「おい、転校生! 何があった?」

 

「……だから、私は、ほむら………」

 

生きてはいる……!

 

回復の魔法をかけると、息苦しそうだったのが安定する。

 

「ぐっ………さやか、まどか……?

――クトはっ?!」

 

「えっと、なんかよく分かんないけど、なんかを追いかけてった!」

 

「? それより、ここは危険よ! 早く逃げないと」

 

変身を解除して、足を引きずり気味になりながらも歩き始める。

 

「ほむらちゃん、まだ、」

 

「今は逃げるのが先よ。 急いで――」

 

 

 

 

ドッゴォォォォンン!!!

 

 

 

 

「きゃぁっ!?」

 

少し離れた所に、何かが墜落したような爆音が響く。

 

クレーターが出来るほどの衝撃だったらしく、ぽっかりと空いた凹みだけが地面に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【――GYAGOAAAAAAaaaaaaaaAAAAaaaaaaaaAAAAAAAAA!!!

 

「ひっ!?」

 

「まずい…っ!!」

 

虚空から、『ナニカ』の咆哮が轟く。

 

 

「――逃がすかゴルァ!! 『スティンガー』!」

 

真上から『ソレ』に対してクトが槍の穂先を突き出すも外れたらしく、根元まで刺さる。

 

「!?!! くっ、お前ら、逃げ――」

 

 

ドンッ!

 

「!? う―」

 

何を言っているのか聞こえる前に『ナニカ』に突き飛ばされる。

 

「あ――」

 

「させるかってんだよっっ!!」

 

クトには見えているのか、翼を羽ばたかせて凄まじい勢いで飛んでいく。

 

不可視の魔女?! なんて厄介な……!

 

「―それより、まどか! 転校生! 無事!?」

 

「私は大丈夫だよ! でも、ほむらちゃんが、ほむらちゃんが―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――息をしてないの!!!」

 

「…………え??」

 

駆け寄って、テレビでやるみたいに手首に指を当てる。

 

 

……脈が、無い。

 

「うそ、だよね? やり方が間違ってるからだよね?!?」

 

胸の部分に耳を当てて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何も、聞こえなかった。

 

「……………うそ、こんな、こんなことって、――」

 

 

「―――へぇ、あんな存在もいるのか」

 

聞き覚えのある平坦な声が後ろから聞こえてきて、振り返ると、

 

「…キュゥべえ?」

 

「改めてどうしたんだい? 僕の顔に何かついてるのかい?」

 

「なんで、―」

 

そんな平然としてられんだと怒鳴ろうとして、

 

「キュゥべえ! ほむらちゃんを、助けて……っ!」

 

「僕には無理だよ。 あんな高速で飛び回る情報概念体に対して有効打そのものが無い。 彼女を取り戻す(・・・・)事は不可能だ」

 

「そんな………そんなのって……」

 

「何か勘違いをしているようだけど、ほむらはまだ生きているよ?」

 

「「………え?」」

 

だって、脈は止まって、

 

「ほむらは、あの怪物が攫っただけじゃ無いか」

 

「なに言ってるんだよ。 転校生はそこに――」

 

「分かってないね。 だから、彼女の本体ははさっきの怪物が攫ったと言っているじゃないか」

 

―思考が、止まる。

 

キュゥべえがなにを言っているのか分からなくて、

 

 

「君たち魔法少女が身体をコントロール出来るのは、せいぜい100メートル圏内が限度だからね。 まぁ、今回ばかりは運が無かったね」

 

「100メートル? 何のこと? どういう意味なの?!」

 

それでも、何故かその先の台詞が予感出来て。

 

 

 

 

 

「―そこにあるほむらの肉体は、ただの抜け殻なんだって。 ただの人間と同じ壊れやすい身体のままで、魔女と戦ってくれなんて、とてもお願い出来ないよ。 君たち魔法少女にとって、元の身体なんていうのは、外付けのハードウェアでしかないんだ。 そして本体としての魂には魔力を効率よく運用出来るコンパクトで安全な姿が与えられている。

魔法少女との契約を取り結ぶ僕の役目はね。 君たちの魂を抜き取って、ソウルジェムに変えることなのさ」

 

「な…………っ!? 騙していたの、あたしたちを?!?」

 

「騙してなんかいないさ。 僕は『魔法少女』なってくれってきちんとお願いした筈だよ? 実際の姿がどんなものかの説明は省略したけど」

 

眉一つ動かさずしゃあしゃあと語るキュゥべえ。

 

 

 

 

 

―パァンッ!

 

 

 

 

 

破裂音と同時にキュゥべえの頭が消し飛ぶ。

 

「……美樹さん」

 

「………マミ、さん」

 

銃声のした方を見れば、うっすらと煙を吐くマスケット銃と紫色の宝石の様な、ほむらのソウルジェムを持ったマミさんがいた。

 

そのままソウルジェムをほむらに握らせると、死んでいたはずのほむらがすぐに起きる。

 

「………

……………迷惑を、かけたわね」

 



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裏ルート:第14話

sideキュゥべえ

 

あれから一夜明け。

 

杏子のことが心配になったのと、ほむらから、今日は高確率でさやかが杏子と行動を共にするからと見張りを頼まれたのもあって、杏子を追う事にした。

 

最初はその言葉を疑ってたんだけどね。 何故なら今日は月曜日だ。 昨日あんな事があったばかりだから塞ぎ込みたくなるのは分かるけれど、普段の生活リズムを維持するというのは、精神を安定させるのに良いのだから。

 

 

 

……だと言うのに、ほむらの予想通り合流しちゃったよ。 サボりかい。

 

 

移動する彼らをコッソリ追い、辿り着いた先は、風見野市にある廃教会。

 

 

 

 

 

……佐倉杏子の嘗ての家、だ。

 

 

 

 

 

……………入るのは、やめておこう。

別に、内側に居らずとも、見守るだけなら十分だしね。

一度ほむらからの念話が来たくらいで、あとはただ待つだけの時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――幸いにも、今日は狂人にも、怪物にも会わずに済んだ。

 

けれど、少しずつ大きくなる感情の一部、多分『勘』にあたる部分が、ハッキリとした警告をあげている。

 

 

 

――このままでは、全てが手遅れになると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――事態が動いたのは、翌日だった。

 

 

 

 

 

杏子はほむらたちの方でどうにかする事にしたらしく、ボクは3人の話が終わるまでの間(今日中にどうにかするとほむらは言っていた)、今度はさやかとまどかを見守ることになったんだ。

 

 

『―それじゃあ、頼んだわよ』

 

「ハイハイ。 これから魔女狩りに行くところみたいだし、いざとなったら、助けてくれよ?」

 

『善処するわ』

 

わーありがたい(棒)

 

っと、目を離しちゃダメだね。

 

 

 

見れば、丁度さやかがマンションから出てきたところみたいだね。

 

それに誰かが近付いてる足音もする。

 

 

 

 

 

 

「――今日の魔女退治も、ついて行ってもいいかな」

 

「……まどか」

 

「さやかちゃんに一人ぼっちになってほしくなくて、来ちゃった」

 

「……なんで、そんなに優しいかな。 あたしには、そんな価値ないのに……」

 

 

さやか……今朝より精神が不安定になってる。

 

 

 

 

 

「………あたしね、今日、後悔しそうになっちゃった。 あの時、仁美が助からなければって、ほんの一種だけ、思っちゃった……

最低だよ……正義の味方、失格だよね……

仁美に………恭介取られちゃうよ……

……でもあたし…………なんにもできない。

だってもう死んでるんだもん。 ゾンビなんだもん……

こんな身体で抱きしめてなんて言えない。

キスしてなんて、言えない………」

 

 

涙を流しながら、本心を吐露するさやか。

……おそらく、この先にあるモノが、彼女の望んだ『奇跡』の代償なんだろう。

このまま進めば、確実に彼女は『堕ちる』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――しばらくして泣き止んだけれど、あの状態での戦闘は危険だ。

一応、連絡を入れておくとしよう。

 

『ほむら。 さやかたちが出かけた。 かなり精神的に追い込まれている』

 

『分かったわ。 こっちも杏子との話が丁度終わった所よ。 そっちと合流するわ』

 

『早めに頼むよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――で、こういう時に限って、あっさりと魔女が見つかるもんだから嫌になるよ。

 

場所は工場の一角。

 

全てがモノクロと化した世界で、一本の坂道の頂点に祈りを捧げるポーズの魔女が居て、先端が鋭く尖ったその髪が触手の様に漂う。

 

使い魔が見当たらないからまどかはある程度安全だけど、接近しなければならないさやかには不利な相手だ。

 

実際、苛烈な攻撃を防ぐので精一杯で、本体に攻撃出来ていない。

 

 

「――くッ!?」

 

そうこうしている内に片手を封じられ、それを解こうともがいているその背に多数の矢が迫る。

 

「さやかちゃん! 危ない!!」

 

「う―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――誰に手を出している、影風情が」

 

 

ゴッォオオオオオオオン!!!

 

 

振るわれるは、禍々しい鈍い輝きを放つランス。

唯の人なら持ち上げられるかすら怪しいソレが、魔女の触手を容易く消し飛ばす。

 

「―クトちゃん?!」

 

「ワリ、遅くなった。

たくっ、次から次へと」

 

邪神(少女)がランスを頭上で回転させ、質量に速度が追加されていく。

 

「さあ、何発耐えきれる?」

 

「……邪魔しないで。 1人でやれるわ」

 

「おい、無理すん―」

 

「はぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

剣を両手で構えたまま魔女に突撃するさやか。

当然迎撃され、首や頭部、腹部に触手が突き刺さる。

 

「さやかちゃぁぁん?!?」

 

「―ッ! 言わんこっちゃない!」

 

速度が低下し始めていたランスを構え直して―

 

 

 

 

「……………は………あはは……」

 

「………おい、さやか、まさか」

 

再度突っ込むさやか。 先程と同じ様にその身体に触手が突き刺さるが、剣の攻撃は届いている。

 

 

 

 

 

 

 

「……あはっ、あははは!

その気になれば、痛みなんて、完全に消しちゃえるんだぁ……

ふふ……あっははははははは、ぎゃはははははは!

ぅああああああああああ!!」

 

「………もう、やめて………」

 

「……………こんな、どうすればいいんだよ………」

 

 

 

 

 

白と黒だけで構成される世界に、狂気を孕んだ笑い声と生々しい肉を叩き切る音が響き渡る。

それは、魔女が消滅するその時まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ハンッ! やり方さえ分かっちゃえばこっちのもんだね。 これなら負ける気がしないわ」

 

「……さやか。 それ、本気で言ってんのか……………?」

 

魔法で一瞬で治癒したとはいえ、血塗れのさやかにクトが話しかける。

 

「は? 本気に決まってるじゃん。 どうしたのさ、クト」

 

「…………………もういい。 分かった」

 

 

ガシャンと、ランスが手から滑り落ちる。

 

 

「さやかちゃん……」

 

「なに震えてんのさ。 帰るよ、まどか」

 

「―――1つだけ聞かせろ、さやか!」

 

 

まどかたちに背を向けたまま、クトが叫ぶ。

 

 

「お前の掲げる『正義』はなんだ!? 美樹さやかァ!?!」

 

「…………………」

 

 

さやかは、何も答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おい、キュゥべえ」

 

「……やっぱり気が付いていたのか」

 

「ったりめーだ。 私を何だと思ってる」

 

「……旧支配者、クトゥルフ」

 

「ッ……………分かってるなら説明不要だ。

まどかを追え。 ほむらたちがこっちに来てるのは分かってる」

 

「………分かった」

 

彼女たちを追い、工場の敷地を後にする。

 

 

 

 

 

――少女の八つ当たり同然の魂の叫びは、雨に掻き消され。

 

1人の魔法少女の終わりの時は、刻一刻と、近付いていた。

 



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裏ルート:第15話

sideキュゥべえ

 

さやかがまどかと離れ、メチャクチャな魔女狩りを始めてから、あと数時間で丸一日が経過する。

 

幾らソウルジェムを砕かれなければ死なないとはいえ、身体を動かすのは魔法少女も普通の少女も変わらず、摂取した栄養だ。 魔力で代用することも可能だけれど、通常よりも消耗が激しくなる。

彼女はあれから、ほぼ不眠不休で戦い続けている。 色々と限界だろう。

 

けれど、今彼女に声をかけることは出来ない。 出たら確実に切り刻まれる。

 

 

さやかは、今、かなり追い詰められている。

 

 

余裕なんて無いはずなのに、彼女が夢見た『正義の味方』である為に、使い魔すら全滅させている。

 

 

 

 

 

「――うぉああああああああッ!!」

 

現に今だって、はぐれた使い魔を真っ二つにしている。

 

「うぅ……」

 

がくりと膝をつくさやか。

 

……それにしても、昨晩斃した分以外は何故か魔女と邂逅せず、なぜか使い魔ばかりだ。 ソウルジェムの穢れが溜まって魔法が劣化しているのに問題無く勝てているとは言え、とても『幸い』とは言えない。

 

「くっ………次の魔女を、探しにいかないと………」

 

 

 

 

 

「――何時まで意地を張るつもりだ?」

 

ブワッと風が吹き、さやかの前に最強の少女が着地すると、黒い宝石が放られる。

 

「ほれ、グリーフシードだ。 そろそろ身体すら満足に動かせなくなるぞ」

 

 

『回収は頼むぞ、キュゥべえ』

 

『……今度から分かっているときは、先に声をかけてくれるかい?』

 

『善処はする』

 

あ、絶対やらないな。

 

 

 

 

 

「……あんた、何を考えてるのさ」

 

「? どういう意味だ?」

 

異常を感じて、出て行こうとした足を止める。

 

「……あんたってさ、嘘つきだよね」

 

「……………」

 

 

クトは、何も言わない。

 

「あんた、いつもどっか、遠くを見てる。 あたしたちを見てない。

本当はさ、今だって全然別のこと考えてるでしょ。 誤魔化しきれてないよ、それ」

 

「…………………………………………………………………そうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―残念だ。 この手は使いたくなかったよ」

 

「っ!?!」

 

気温が一気に低下し、息が詰まるような感覚が発生する。

 

グワッと、骨翼が広がり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ギチッ!!

 

「っ!?」

 

その骨翼に鎖が巻きつき、動きを封じ込める。

 

「何やってる!? さっさと逃げろ!!」

 

「杏子?! テメッ……!?」

 

「……………っ!」

 

さやかが反対方向へ走り出す。

クトが追おうにも、翼だけでなく身体にも鎖が巻かれる。

 

「おのれぇ――っ?!」

 

「フン! マミのリボンは引き千切れたらしいけど、コイツならどうだ!」

 

その僅かな間にも、更に伸ばされた鎖がクトを拘束する。

 

「っ――この程度の小細工なんてェ……ッ」

 

「?! 本性表しやがったか! でももう動けねぇだろ!!」

 

二重、三重、四重と鎖が巻きついていき――

 

 

「――ッ!―――」

 

「―しゃっ! これでアタシたちの勝ちだ!!」

 

「……佐倉杏子。 その団子状の塊は何かしら?」

 

衝撃の光景で気がつかなかったけれど、いつの間にかほむら来ていた。

いや、時間停止かな?

 

「あのチビだ。 さやかの奴を襲おうとしてたからな! 不意打ちで全身グルグルにしてやったぜ!」

 

「……なにやってるのよ、あなた」

 

呆れた表情のほむら、でも何処か安堵している様子だ。

 

「……内側にダメージを与える方法は?」

 

「無い―けど、このまま固定して海に捨てちまえばいいだろ。 コイツ、元々海底にいたんだろ?」

 

「………発想が危ない人のそれよn」

 

 

 

―ギチィッッッ!!!

 

 

 

……もっとも、その表情はすぐに凍りついたけどね。

 

「!!」

 

「ウソだろ?! 指一本動かせないハズ――」

 

2人は繭を警戒してる、けど、多分あの2人は幸運だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――地面にうつる影。

 

2人の影に対し、繭の影。

その影では、繭を何本もの触手が破り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゴグシャァァァァァッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに、現実でも繭が破られる。

 

鎖の破片を散乱させながら、翼の生えた緑髪の少女が浮かぶ。

 

【………………】

 

俯いたその顔が僅かに上げられ――

ドゴンッッ!!!

 

「!? がっ――」

 

杏子が壁に叩きつけられる。

影を見れば、彼女に向かって触手が伸びていた。

 

「また不可視――うっ!?」

 

一瞬で距離が詰められ、魔法を使うことさえ出来ずに首を掴む。

 

【AAAaaaaaaaaaaaa――――】

 

「ぐ――あ――」

 

容赦無く締め上げられる。

杏子は触手で抑えられ、ボクも重圧で動けない。

 

 

「ぐ、く、とぉ……」

 

どれだけの握力なのか、ほむらの手が力なく垂れ――

 

 

【――aaaaaaaaぁaaぁぁぁぁ、あ、あああ、ぁ、あ?」

 

「――かはっ!! げほっ ごほっ!!」

 

首を絞める手が緩み、ほむらが倒れて咳き込む。

 

それがきっかけだったかのように影が戻り、杏子を押さえつけていた触手も消え、物理的な重さを持った空気も霧散する。

 

 

「……………っ、私は、また――」

 

ボクらは解放されたとはいえ、逃げるように飛び立つ彼女を追う人は、誰も、いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あの後、なんとか回復した彼女たちのあとを追う。

会話を拾った限りだと、マミがさやかの魔力痕を見つけたらしく、今辿っているとのことらしい。

 

そして、クトが完全に敵となったことも。

 

 

確かに、あの殺気はさやかの事を殺しにかかっていたし、直後の戦いとも言えない様な蹂躙も、魔法少女相手にしては加減が無かった。

 

 

 

……でも、最後に感じた、

 

アレは、一体……………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideマミ

 

「……予想より、遅くなっちゃったわね」

 

美樹さん、昨日からずっと休んで無いのよね……

 

私が魔法少女の真実を知った時は、絶望も何もかも全て吹き飛ばしてくれる、私より小さな女の子がいてくれた。

 

あの子がいなかったら、あの事実に耐え切れる自信が無い。 そもそも、知ることが出来たかすら怪しかったと思う。

 

 

「……私ったら、何も出来てないわね」

 

もし、ソウルジェムの秘密が明るみになった時、何か気の利いたことを言えていれば。

 

もし、美樹さんが契約するのを止めていたら。

 

もし、デパートで初めてあの子たちに会った時、魔法少女について隠していれば。

 

 

……今言っても仕方の無いことね。

 

 

 

 

 

魔力反応を追っていくと、暗い駅に着く。

 

ここで見つかるといいのだけれど……

 

 

 

 

 

 

 

改札を通り過ぎて、周りを見ながら走る。

 

人が不自然にいない気がするけど、だからこそ、思いっきり走れる。

 

これだけ反応が強ければ、近くにいるはず――

 

 

 

 

 

――いた!

 

「やっと見つけたわ!」

 

ホームに設置されている椅子に俯いて座る美樹さん。

 

『暁美さん! 佐倉さん! 美樹さんを見つけたわ!』

 

『場所は!?』

 

『○○駅よ!』

 

『そこなら5分とかからず行けるわ。 そこから動かないで』

 

『分かっているわ』

 

念話で暁美さんたちに声をかけてから、美樹さんの隣の席に座る。

 

 

「さぁ、帰りましょう? 皆心配しているわ」

 

「……すいません、手間かけさせちゃって」

 

「? らしくないわよ。 美樹さんはもっと元気じゃないと」

 

「……そうですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――別にもう、どうでもよくなったから」

 

「――ッ?!?」

 

その眼には、只々、深い闇が、映っていた。

 

それをみた瞬間、殺気にも近い、とてつもない寒気が背筋にはしる。

 

「結局あたしは、一体何が大切で、何を守ろうとしていたのか。

なにもかも、わけ分かんなくなっちゃった」

 

淡々と、平坦に、言葉が紡がれる。

 

嫌な気配がして、美樹さんの手元を見ると、

 

 

 

 

 

 

 

――穢れに満ちた、ドス黒い、悲嘆の種(グリーフシード)

 

 

 

 

 

「み、美樹さんは、平和を守ろうと、頑張ったじゃない!」

 

「……確かにあたしは何人か救いもしたけど、その分心には恨みや妬みが溜まって、一番大切な友達さえ傷つけて……………」

 

 

――これは、もう、私じゃ、止められない。

 

 

でも、あの子(・・・)にはもう、頼れない。

 

 

「誰かの幸せを祈ったぶん、他の誰かを呪わずにはいられない。 あたしたち魔法少女って、そういう仕組みだった」

 

「っ、そんなこと――」

 

 

見ていられない。

 

お願い。 誰か――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―あたしって、

 

 

ほんとバカ」

 

 

 

 

 

――ピシッ

 

 

 

 

 

崩壊が、始まる。

 

 

「美樹さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―誰か、助けて

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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裏ルート:第16話

(グロ注意)







sideキュゥべえ

 

マミからの念話を終えると、時間停止を駆使してあっと言う間に行ってしまうもんだから、置いて行かれたボクは懸命に足を動かす。

 

「はぁ。 インキュベーターの個体数と情報伝達能力を活用したシステムから切り離された弊害が、ここまでキツイとはね。 ま、面倒臭さを感じられるって事は、いいことだと思っておこう」

 

 

……インキュベーターで思い出したけれど、本当に一匹も見かけないな。

 

さっきのエネルギー波、アレは間違いなく魔女化した時に発生するものだ。

普通ならあのエネルギーは回収されるものだけど、ある種の衝撃波として広範囲にばら撒かれるなんて、どう考えてもおかしい。

 

エネルギーを回収しなかった?

効率房のインキュベーターが?

 

あり得ない。 何らかの事情で回収しなかったと考えるのが妥当か?

 

 

……情報が少な過ぎる。 もう直ぐ着く頃だし、目の前の事態に――

 

 

 

 

 

『――いあ くとぅるー ふたぐん!』

 

『いあ いあ くとぅるー ふたぐん!』

 

 

虚ろな眼、意味不明な唄、手には凶器の群衆――

 

成る程、これがほむらたちが言っていた『狂人』か。

 

幸い、特に四肢を欠損している訳でもないし、生理的嫌悪感もそれ程では無い。

映画とかのゾンビよろしく、入り口付近でたむろってるだけだから、駅構内への侵入は容易そうだね。

 

さてと、ダクトは何処だったかなっと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……それにしても、延々といあいあうるさいなぁ。

 

やっぱりと言うべきか、駅の内部も狂人だらけだ。 それしか出来ないのか、唄を呟きながら、ひたすら下り線ホームに向かって歩いていくだけ。

 

問題があるとすれば、

 

 

 

 

 

―ドグギギギギギギギギギッ!!

 

 

 

 

 

重量のある金属塊を擦りながら振り回すような音。 それに混じって、発砲音なども聞こえる。

 

また戦っているのかい!?

 

しかも、狂人が歩いていってるもんだから、押し返され、血塗れで倒れている。

 

「あそこは通れない、というか通りたく無いね」

 

仕方なく、汚れるのを我慢して端の排水溝を歩く。

ホームまで登って、覗k―

 

 

グシャァッ!!

 

「キュッぷ!?」

 

直ぐ上にコンクリートの塊が激突して木っ端微塵になる。

 

見れば、ランスと引き千切ったのか断面が歪んでいる看板を二刀流で振り回すクトを杏子が何時もの十字槍で捌き、ほむらとマミがそこに銃撃を加えていた。

 

「っ!」

 

銃弾を鬱陶しく思ったのか、看板をマミに向かって投げとばす。

 

即座に迎撃され、僅かに生じた隙を狙って槍が突き出されるのを頭部で受け血が吹き出し、さらに散弾銃の連射でランスを持っていた右腕が吹き飛ぶ。

 

「―ぅるぁぁぁぁぁ!!」

 

ソウルジェムが入ったポーチを狙った追撃を、コンクリートの地面を踏み抜いて蹴り上げ、強引に盾代わりにして防ぐ。

 

視線が途切れ、その間に僅かに浮遊。

右腕を一瞬で再生し、両手で天井の軸を掴むと引きちぎり、双槍にする。

 

「なんつー回復力だよおい!?」

 

「削りきるまでよ。 魔力そのものは少ないわ!」

 

「―ッ!」

 

魔力で編まれた槍とただの鉄骨ではまともな勝負にならず、あっさりと双槍が二つに切り裂かれる。

 

宙を舞う二本のうち、一本は杏子に、もう一本は狂人の昇ってくる階段の天井部に蹴り出される。

 

天井に向かった方は突き刺さるけど、杏子への方は銃声とともに弾かれ、多節棍を使った立体的な軌道で矛がクトの首を狙う。

素早い側転で一閃を躱し、近くに落ちていたランスの柄を踏みつけて跳ね上げることでマミの銃弾を防ぐと、骨翼でほむらを襲う。

 

「その攻撃は、もう何度も見たわ!」

 

届く前に姿が掻き消え、眼と鼻の先に手榴弾が現れる。

 

爆発。 閃光。

 

直前に咄嗟で手榴弾を掴んでいたらしく、左手は骨が露出するほどズタズタになる。

 

「……痛いな」

 

「!?」

 

ブチィ、と己の腕を肩から引き抜き、指先から二の腕の部分を喰らうと、そのまま引き抜く。

持ち手の部分にのみ肉が残り、赤く、白い骨が現れる。

 

「な?!?」

 

「た、食べちゃった……っ?!」

 

余りにもグロテスクな光景に怯んでいる隙に、骨を投げ捨てると、右手でランスを掴み取り、再度一瞬で再生させた左手を突き出して掴みに行く。

 

「っ、それも、見たわ!」

 

ほむらが紙一重で躱し、超近距離で顔面に散弾を叩き込む。

血が飛び散り、硝煙を吐きながら後ろに吹っ飛び――

 

「――足らん。 足らんなぁ………!!」

 

異様な空気が場を支配する。

 

片目は潰れ、蒼白くも端整な顔立ちは見る影も無くなり、口は耳まで裂ける。

 

「っ――いい加減、止まりなさい!?!」

 

榴弾が炸裂し、血に混じってピンク色のナニカがぶちまけられ、再び倒れる。

 

「まだ、まだまだ――」

 

「暁美さん、もうやめて! やり過ぎよ!!」

 

「うっ……」

 

瞳孔が開ききった眼で榴弾砲(グレネードランチャー)に弾を込め直すほむらをマミが止め、杏子は気分が悪そうに口を押さえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――は、クハハハハハッ! ママナラネェナ!! クギャハハバハハハハ!!!」

 

 

ぞっとする、パンドラの箱の蝶番が軋むようなワライゴエが響く。

 

そちらを見れば、頭部の半分以上を失い、極彩色の液体を断面から垂れ流す、人のカタチをした、ナニカが、立っていた。

その口が、足が動くたびに杯状の頭蓋骨から脳漿や髄液が溢れ、片方残った眼球がギョロリと蠢めく。

 

 

「!?!?!」

 

「」

 

「あ、ああぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

震える指で引き金を引かれた榴弾は、見当違いの方向に飛び、建造物の一部を吹き飛ばす。

 

「……ド処ヲ撃ッテイる? 私は此コダぞ? クハハハ――」

 

ブォンとランスが振り回され、その風圧で3人とも体勢が崩される。

 

『―いあ いあ くとぅ――』

ズガンッ!!

 

「……煩イ」

 

こびりついた血で滑ったのか、階段の天井のランスが突き刺さり、今度こそ崩落する。

鉄筋コンクリートの雪崩がホームに入り込んでいた狂人すらを巻き込み、完全に遮断する。

 

「……? 煩ワしいナ」

 

そう呟くと、自分で崩壊した頭部を千切り、落ちたソレを踏み潰す。

 

それが合図だったかのように、首の断面から、グチュグジュと傷一つ無い頭部が生えてくる(・・・・・)

 

 

 

 

 

「ば、化け物――」

 

「何を今更。 最初からそう言っているだろう?」

 

全身を己の血と脳漿で染めた紅のドレスの少女が、歪んだ笑みを浮かべる。

 

「――あぁ、それだ。

『恐怖』。 『狂気』。

いい、イイゾ!!

さア――

 

 

 

 

 

私を、殺してみせろ!!!!」

 

 

骨翼が空を割いて一気に距離を詰め、その銃口を掴む。

 

「!? こ、来ないで!!」

 

「クハ、逃げてどうする? 最初の威勢はどうした? フハハハハ!!」

 

心臓部に銃口をめり込ませると、震えるその手を押さえ付け、強引に引き金を引かせる。

 

バコンッとくぐもった音がなり、背中側から肉片が飛び散る。

 

「ごふっ!

……グブ、どうだ? 恐怖はこうやって払え。 でなければ何度でも蘇るぞ?」

 

「あ――」

 

今度こそ限界だったのか、ほむらが気絶する。

 

 

 

 

 

 

 

「クク……………あ"ー?」

 

まるで映画で描かれるようなベタなサイコパスのように首をカクっとしながら、周りを見渡す。

 

その視線は、頭蓋が吹き飛んだ状態で動いた時点で気絶したマミを通り過ぎ――

 

 

 

 

 

 

 

「――其処か」

 

「ひぃっ!?!?」

 

完全に腰が抜けて、槍に縋り付くことしか出来ていない杏子を捉える。

 

 

ジャリ、ザリ、と、色々な意味で鉄分塗れの床を踏み、一歩一歩近付く。

 

……うん。 かなり、いや今すぐボクも気絶したいくらい怖いね。

今ボクが隠れてる場所が、丁度杏子が座り込んでる所のすぐ側なもんだから、自分の方に来ている様に見える。

 

 

「く、来るにゃぁっ!!!」

 

後退りするも、ここは地ごk……間違えた、狭い駅のホーム。

すぐに退路が無くなり、背中が壁にぶつかる。

 

「クハ、噛んでるぞ? 何時もの気丈さは何処へ行った?」

 

数歩で追いついた怪物が、その肩を掴む。

 

「!?! やめ、離せぇっ!!」

 

少しでも距離を置こうと、両手を突き出し、その手は空をきる。

 

「へ…………………?!?!」

 

前を見るな、と叫べたらどれだけよかったか。

 

その手は、ポッカリと開いた胸部の穴を通り、反対側から出ていた。

 

「う、うわ―――」

 

「おや? そういや塞ぎ忘れていたなァ」

 

急いで引き戻すも、まるで狙ったかの様に再生した部位に飲まれる。

 

「?!? いや、離せ、離して!!!」

 

両手を必死に引き抜こうと藻がき、案外すぐにズボっと抜け、て――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お?」

 

――その手には、管が繋がり、脈動する、心臓が、

 

「――う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!?!」

 

咄嗟に投げ捨てようとするも、筋肉が強張っているのか、離すことができず、

 

 

 

グチュッ

 

 

 

「ひぅ――」

 

ソレを握り潰してしまい、そのショックでか気絶した。

 

 

……つまり、これで、全滅した。

 

 

 

 

 

まるで肉食獣が獲物を品定めするかの様に辺りを見渡す、と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ごふっ」

 

吐血して、倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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裏ルート:第17話

sideキュゥべえ

 

 

 

――クトが、吐血して、倒れた。

 

 

 

………へ? なんで??

 

 

「ごふ、ごほっ! ったく、ホントに儘ならないなぁ。 死にたい時に死ねず、生きたい時に限ってこのザマたぁ……」

 

倒れ伏したまま血を吐き出し、そうボヤく。

その姿は、さっきまであった殺気や恐ろしさは霧散し、今にも消えそうな、弱々しい少女でしかなかった。

 

 

「……と、ここまでやったんだ。 やる事は、きっちり、やりますか」

 

ゆっくりと立ち上がり、気絶した3人のポケットを探る。

 

 

取ったのは、グリーフシード。

 

 

そのままヨロヨロと歩き、瓦礫からランスを回収すると、その場を後にする。

 

 

 

 

 

………もしかして、ボクがいる事に気が付いてない?

 

 

 

 

 

そのまま側溝を伝って、クトを追う。

ドアを幾つか通ると、すぐに魔女の結界に到達した。

 

この魔力反応は………さやかの、だね。

 

 

何のためらいもなく侵入していった彼女に、物陰に隠れながらついて行く。

 

「……さやか。 今回はチャラにしてやるが、神をコキ使った代償は、本来高いんだぞ? ったく」

 

そして、人魚の魔女の部屋に着くと、

 

 

ほむらたちから奪った分と、クトが元々持っていたらしいグリーフシードの限界を超える量の穢れが、

 

 

 

 

 

クトのソウルジェムから、移される。

 

 

 

パキパキと魔女が孵化し、広い部屋を圧迫する程の数が現れる。

物陰から伺えるだけでも、軽く15は超えてる。

 

「………借りるぞ、■■■。

さやか、お前こういうの好きだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――身体は腐肉で形作られる(I am bone of the dark.)

 

 

 

 

 

ゆっくりと、垂直に挙げられたランス。

 

左手に握られたソウルジェムからは、美しい白い閃光が発生する。

 

 

 

 

 

血潮は憎悪、心は狂気(Hate is my body, and mad is my blood.)

 

 

 

幾多の世界を超えて不滅(I have made over thousands death.)

 

 

 

 

 

言葉が紡がれるたび、ランスに膨大な量の魔力が込められる。

 

 

 

 

 

ただの一度も希望は無く(Unknown to desire.)

 

 

 

ただの一度の救いも無い(Nor aware of salvation.)

 

 

 

咎人は常に独り、屍の前で嘆き続ける(Have withstood pain to moan unlimited corpses.)

 

 

 

 

 

超過したエネルギーがオーバーフローを起こし始め、ランスを囲うような渦を発生させる。

 

 

 

 

 

 

 

「────けれど(yet)

 

 

 

その願いは未だ潰えず(The wish never end.)

 

 

 

その身体は、(Her whole body was)

 

 

 

それでも、(still )

 

 

 

 

 

悪趣味な装飾が消え去り、純白に金のラインが疾る、素直に美しいと言える刀身が露わになる。

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――"終わりなき幻想"("Forever Fantasy")を求める!!!!

 

 

 

 

 

 

 

――ランスが振り下ろされ、魔力の奔流が魔女を一体残らず、呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………閃光が収まったのを確認すると、クトのいた所を見る。

 

まず目にはいったのは、蹲り、血反吐を吐くクト。

 

次は、散乱する大量のグリーフシード。

 

 

そして――

 

 

 

 

 

 

「……やっと、ゴホっ、やっとだ。 ゲホ、ゴフッ、やっと、追いついたぞ…………」

 

 

 

 

 

魔力が結界の外にまで影響を及ぼしたのか、破壊された扉、

 

その部屋の内側に横たえられている、

 

 

 

 

 

――美樹さやかの、遺体。

 

 

 

 

 

「……余計な、手間、かけさせやがって」

 

グリーフシードの1つ――元、さやかのソウルジェムだったそれを拾い、胸に抱く。

 

 

 

 

 

「……頼むから、上手くいけよ。

――MINTDTRANSFER(精神転移)!!」

 

 

グリーフシードが、青い光を放つ。

少しづつだが、確かに浄化され、

 

 

 

それと比例するかの様に、クトのソウルジェムが凄まじい勢いで濁っていく。

 

「――っぐぁ………!

やっぱり、それ用の呪文じゃねえ分、負担、ヤッベぇ……ゴフッ!!」

 

口からドス黒い血が溢れる。

 

ソウルジェムは限界ギリギリまで濁るが、グリーフシードは未だ浄化しきらない。

 

 

「さやかぁ――戻ってこい!!!

テメェの居場所は、ンな暗い場所じゃねぇ!!!

私は、もう、――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――友達(・・)を死なせたくないんだよっ!!!

MINTDTRANSFER(精神転移)ィッッ!!!」

 

 

ダメ押しの魔法で、

 

 

 

 

 

ついに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―グリーフシードが、青く透き通る、卵状の宝石に、

 

 

 

 

 

ソウルジェム(・・・・・・)に、戻る。

 

 

 

 

 

「……はは。 はっははははは!!

見たかバブルスライムモドキィ!!

だぁれが鏖殺兵器だ!! 私はやったぞ!! 私hゲフゴホゴフっ!?」

 

血を噴水の様に吹きながらも、穢れ1つないソウルジェムを掲げて笑う。

 

「ケフ、ゲフっ。 し、シメだ」

 

這いずりながらも、さやかの手に穢れのないソウルジェムを握らせる。

 

「………………ぅ………」

 

僅かにだが、胸が上下する――呼吸が、確認出来る。

 

ほ、本当にグリーフシードを浄化したのかい?!?」

 

「?!?! きゅ、キュゥべえ?!」

 

「あ」

 

どうやら、驚きのあまり声が漏れたようだ。

 

「こ、これは、あの、そゲフォの、い、何時から見て、ゴホッ」

 

何故かアタフタし始めるクト。 その表情は、本気で焦っている。

 

「クト? キミこそ、今のは一体――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―いあ いあ くとぅるー ふたぐん!』

 

『―いあ いあ くとぅるー ふたぐん!』

 

「「!?」」

 

狂人たちの声が、すぐそこから聞こえる。

 

「チッ! ガチでウゼェ!!」

 

「あれはキミの信者だろう?!」

 

「勝手に発狂し始めんだから私の意志じゃねえよ!! つかほっとくと脳ミソやら心臓やらキ○タ○まで捧げてくる連中が信者とか、寧ろこっちの方が超迷惑だ!!」

 

「ファッ!?」

 

壁に手をついて立ち上がると、部屋の外に向かって歩き出す。

 

「キュゥべえ! もう直ぐほむらたちが目を覚ます! 迎えに来てもらえ!」

 

「あの狂人たちはどうするのさ?!」

 

「私が引きつける。

それと、キュゥべえがここで見たことは、秘密にしておいてくれないか?」

 

パキ、パキと割れ始めた黒いソウルジェムを握り、そう言い放つ。

 

「!? まずはソウルジェムを浄化しないと! グリーフシードはこんなに――」

「キュゥべえ」

 

見上げれば、振り返ったクトが、こちらを力強い目で見ていた。

 

「……私は、クトゥルフだ。 邪神だ。

悪は、人の手によって打ち取られなければならない」

 

「……クト? 何を言って――」

 

「キュゥべえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――今まで、ありがとう。

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さよならだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side■■

 

「――クト! 待ってくれ!! クト!!」

 

背後から、小さな相棒の呼ぶ声が聞こえる。

 

でも、もう、後戻りは出来ない。

 

 

 

私のソウルジェムは、いつ魔女を生んでもおかしくない。

今は、その決定的タイムリミットを騙し騙し延ばしているだけだ。

 

ただ、奴等を引きつけて離れるのに必要な分以外の魔力供給を切る。

 

 

視界はボヤけ、

 

いあいあ(おお主よ)としかほざけない連中の声はシャットアウト、

 

ランスとソウルジェムを握る感触すらあやふや。

 

 

『――― いあ ―とぅ―――』

 

【っ! この私を放って何処へ行く気だ!!】

 

視界の端でほむらたちの方へ行こうとする一団を、神威を織り交ぜた一声で繋ぎ止める。

 

 

――パキ、ピキキ……

 

 

………やっぱり、こっち関連の力は消耗が激しいな。

 

 

 

 

 

足に力が入らなくなる。

 

杖代わりの槍で何とか立ってられるけど、もう、一歩も歩けない。

 

 

「……はっ! 私みたいなクソッタレには、お似合いの場所だな、おい」

 

もう耳こそ聞こえないが、大方いあいあくとぅるー(おお主よ!ようやく我らの願いを)なんちゃらかんちゃら騒いでんだろ。 さっきっからちょくちょく水っぽいなんかがかかってんだよ。 なんだこれ? 血か? 涎か? ピー液か? 普通に全部ヤダなぁ。

 

 

 

 

 

―自分の身体すら支えきれなくなり、倒れる。

手からソウルジェムが零れ落ち、転がる。

 

トロトロした動きで狂信者どもが助け起こそうとするが、ハッキリ言わせて貰えば、『さわんな』だな。 ぶっちゃけ無意味だし。

 

 

 

 

 

――パキィッッ!!

 

 

 

 

 

ソウルジェムがグリーフシードへと変異し、魔女が羽化する。

 

 

………死んだのに意識あるって、すげーデジャビュ。 前にも似たようなこと無かったか?

そしてこんな状況下でこんなコメントが出るあたり、私のバーサーク(思考鈍化)っぷりも中々だな。

 

 

 

 

 

 

 

魔女()の触手が、僅かに意識の残る私の抜け殻を絡め、その身に取り込む。

 

 

 

それと同時に、ずっと、ずっと待ち望んでいた感覚が、(魔女)の身を貫く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、剣/刀だった。

 

それは、矢/槍だった。

 

それは、拳/蹴だった。

 

それは、盾/鎚だった。

 

それは、弾/砲だった。

 

 

幾重もの武器が刺し、斬り、打ち、穿ち、貫き、撃ち。

 

私の命を絶とうと、この身を削る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………それで、いい。

 

 

 

我は『cthulthu』。

 

存在そのものが悪である物。

 

この身は、光の元に討ち取られる。

 

ここは、英雄の墓場にして、私の処刑台。

 

 

ここが、私の、最期の場所。

 

 

 

 

 

…………………それで、いい。

 

 

助けは、要らない。

 

ただ、眠るだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――だというのに、見滝原に来てからの記憶が駆け巡る。

 

 

 

 

 

……私は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………私は、―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【■■■◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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表ルート:二章 歪んだ悪
表ルート:第6話


sideほむら

 

 

――足元すら見えない暗闇を走る。

 

周りの風景は全く見えないのに、何故か、迫り来る人影はハッキリと見える。

 

 

――全員、あのビルにいた狂人たちだった。

 

 

 

線の細い女性が、

 

スーツ姿の男性が、

 

学生服の少女が、

 

よぼよぼのお爺さんが、

 

砂場で遊んでいそうな男の子が、

 

 

その手に、凶器を持って。

 

 

 

ノコギリ、ヤスリ、ワイヤー、カナヅチ、ナイフ、ガラス片、スパナ、カッター、ハサミ、鉄パイプ、クギ、鎌、ドライバー、松明、栓抜き、缶切り、ペン、スコップ、ビニール袋、杖、ツルハシ、傘、シャベル、木片、バット、バーナー、鉛筆、錆びた包丁、折れた骨、歯、削った爪、―――

 

 

 

 

 

逃げる私。

 

迫る彼等。

 

 

 

あの呟きが、叫びが、聞こえる。

 

 

 

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!"

 

 

"――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!!!"

 

 

 

 

 

 

 

「いや!! 来ないでっ!!」

 

 

耳を塞いで走っていると――

 

 

 

目の前に、見覚えのある、ピンクの髪をツインテールにした少女が倒れていて、

 

 

「………まどか? まど――」

 

 

その身体に、無慈悲にノコギリの刃が振り下ろされる。

 

 

「あ――」

 

 

よく見れば、彼女の身体は、真っ赤に染まって、

 

 

「あああああああああああああああああ」

 

 

また走りだす。

 

しかし、考えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

――なんでこの場には、私しかいない?

 

 

佐倉杏子は?! 美樹さやかは?!?! 巴マミは?!?!?!

 

 

 

 

 

 

 

―ふと、振り向いた。

 

――振り向いて、しまった。

 

 

 

 

 

 

 

そこには、倒れ伏し、全身を血で染めた、佐倉杏子が、美樹さやかが、巴マミが、

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 

 

 

 

そして、その彼等の傍に立ち、凶器で、その遺体を傷付け続けているのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂人と同じ笑みを受けべ、

 

狂人と同じ文句を呟く、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――わたし(暁美ほむら)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

腕を強い力で掴まれる。

 

あの時避けたノコギリの刃が、迫る。

 

もう私には、それを避ける事は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――い、起きろ! ほむら? ほむらっ!!」

 

「――はっ?!」

 

……目を覚ますと、泣き出すのを堪えているような表情の佐倉杏子が、私の肩を揺さぶっていた。

 

「や、やっと起きたか! アタシは、アタシはてっきり………ぐすっ」

 

「……………ここは、………」

 

周りを見渡すと、至る所に町の地図や、ワルプルギスの夜の情報が紙媒体で貼られている部屋。

 

 

………思い出した。 昨日、佐倉杏子の手を掴んだまま自分の部屋に駆け込んで、窓と扉に即席のバリケードを作って、そのまま寝落ちしたんだった。

 

「……じゃあ、さっきのは、夢――」

 

「……すごい魘されてたぞ。 大丈夫か?」

 

「……あなたこそ、目が真っ赤よ」

 

言い返して、ソウルジェムを確認すると――やはり、大分濁っていた。

 

まあ、魔法少女の変身を維持したまま長時間全力疾走した事を考えれば、こんなものだろうけど。

 

グリーフシードで手早く浄化し、京子にも浄化を促す。

 

それで気が抜けたのか、一気に全身の力が抜け、

 

 

 

 

 

 

 

――カリカリカリカリ………

 

 

「「!?!?」」

 

窓のバリケードから聞こえてきた音に、飛び上った。

 

「まさか、アイツら?!」

 

「おおおおお落ち着きなさい佐倉杏子!! バリケードを退かした瞬間に、いえいっそこのまま全力砲撃をぶちかませば――」

 

「いやアンタが落ち着け! そんでロケランしまえ! 部屋ごとブッ飛ばす気か!?」

 

 

盾から取り出したRPG-7を巡って一悶着した後、無関係だった場合も考えて、バリケードを退かした瞬間に槍とショットガンを突きつけ、奴らなら即排除。 手加減無しの殺す気で掛かることにした。

 

 

 

 

 

「――覚悟はいいか?」

 

「………いつでもいいわ」

 

「それじゃ、

――それっっ!!」

 

バリケードが退かされ、穂先と銃口が突きつけられたのは、――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やれやれ。 これはなんの騒ぎだい?」

 

「……キュゥべえ?」

 

憎きインキュベーターだった。

 

 

………普段なら即排除だけれど、今回は見逃そう。

 

断じて、安心し過ぎて力が抜けたからではない。 断じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それで、なんの用よ」

 

「2人のソウルジェムが急速に濁っていく反応があったからね。 何事かと思って来てみれば、バリケードの所為で入れないし」

 

「………そうね。 あなたにも話しておくべきかしら」

 

「?」

 

いつも通りの無表情なインキュベーターに、昨日の出来事を伝える。

 

 

謎の狂人たちについてと、謎の文句について。

 

 

「………なるほど。 災難だったね」

 

「………一応聞いておくわ。 あれは魔女とは無関係なの?」

 

「無関係だね。

ただ………」

 

インキュベーターが珍しく言い淀む。

 

「? 何か知っているの?!」

 

「………彼等が口にしていたという言葉。 そのなかで、近い発音の単語をしっているんだけd」

「「教えろ(えなさい)!!!!」」

 

「そう言うと思っていたよ。

ただ、僕が知っているのは、本来発音不可能な単語だ。 その言葉を無理矢理発音した場合に近いというだけで、手がかりであるとは限らn

「「いいから!!!」」

……どれだけ怖かったんだい??

ま、まあいいや。 その単語は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くとぅるふ』、或いは、『くーるー』。 これらが、その文句の中では『くとぅるー』に近い発音の単語だ」

 

 

「くとぅるふに、くーるー……?

聞いた事も無いな」

 

京子は首を傾げる。

 

ただ、私は、

 

「…………………………何処かで、聞いたような覚えが………?」

 

「マジか!? 思い出せるか?!」

 

「ちょっと待ってて。 今やってるわ」

 

 

………あれは、確か、私がまだ入院していた頃。

 

何かの本で読んだような……………

 

確か、タイトルは、………………………………

 

 

 

 

 

 

 

……………それ以上は思い出せないわね。 なんとなくだけど、当時の私には難解で、読んでる途中で放り投げたような気がするわ。 こんな事なら、ちゃんと読んでおけばよかった。

 

 

「………何かの、本に書いてあった。 それしか思い出せないわ」

 

「本、か。 そういやキュゥべえ、アンタどこでこの単語を聞いたんだ?」

 

確かに、気になるわね。

そこから情報を得る事も可能だし。

 

「………君たちの話を聞く限り、知らない方が幸せだろうけど、本当に知りたいのかい?」

 

「ええ。 アレをどうにかしない限り、見滝原に平和は訪れないわ」

 

「………僕は警告したからね。

 

 

 

 

 

――クトだ。 彼女が、自分がその『くとぅるふ』だって」

 

「……………………」

 

「…………………………マジ、かよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―絶望と、ちょいとした理由で狂気を司る『邪神』、『くとぅるふ』』

 

 

彼女は、確かに、そう言ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ヤバい、マミ!!

アイツ、クトと一緒に、」

 

「急ぎましょう!!」

 

バリケードをさっさと退かすと、変身して窓から飛び出る。

 

 

どういう事か、説明して貰うわよ。

クト!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜少女爆走中〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―マミのマンション

 

 

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピn

 

ガチャ

 

「……そんなに連打しなくても大丈夫よ。 それで? 2人共、休日の早朝になんの用よ?」

 

壊さんばかりの勢いでチャイムを連打すると、眠たげな表情の巴マミが出てくる。

 

「――マミ! クトは?! あのチビは?!?!」

 

「えっ」

 

「巴マミ、説明している暇はないわ! 一刻も早くあの悪魔を――」

 

「ちょ、ちょっと!! 落ち着きなさい!! クトなら、昨日か(・・・)ら帰っ(・・・)てない(・・・)わ!!」

 

「「なっ――!?」」

 

 

血の気が引くのが、自分でも分かる。

 

 

まさか、本当に、昨日の件にクトが――

 

 

「……取り敢えず、入ったら? 2人とも、髪がボサボサだし…………

なんか、血の匂いがするわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その後、交代でシャワーを借りながら、昨日の一件と今朝の情報を伝える。

 

途中から、クトが普段連れているインキュベーターも混ざっていた。

……この個体、やっぱり他のインキュベーターと比べて、表情豊かね。 今だって、寝惚けた顔で何とか体勢を保っているように見える。

 

 

「……それで。 何か知ってるかしら?」

 

「まず、クトがヒトじゃないのは知ってるわ。 本人から聞いたし、身包み剥いで羽がホンモノなのも確かめたし」

 

「………よくそんなのと生活する気になったな。 アタシにゃ無理だ」

 

「言動や姿が人にそっくりだから、慣れると気にならないわよ。

それで、『くとぅるふ』?

………先に聞いておくけど、唯の夢って可能性h

「「ないっっ!!」」

………そう」

 

そう言ったマミは、スマートフォンで何かを検索して、

 

「――これが、『クトゥルフ』よ」

 

突きつけられた画面には、大海に浮かぶ石造りの島に佇む、緑色の、蛸に似た触腕を無数に生やした頭部に、巨大な鉤爪のある手足、コウモリのような飛膜のある、歪で醜い竜にも、巨人にも見える怪物が映っていた。

 

……正直、クトとは似ても似つかない。

 

 

「……それと、貴女たちの話に出てきた狂人。 この邪神が語られる物語に出てくる『狂信者』まんまよ。

TRPGのリプレイでも見て、夢に出たんじゃないの?」

 

疑惑の視線が私たちを貫く。

当たり前だ。 私だって体験していなければ信じなかっただろう。

 

「………そんなハズは……」

 

「……佐倉杏子。 昨日のビルに、もう一度向かうわよ。 ついて来てくれるわよね、巴マミ」

 

「…………………いいわ」

 

「!? 正気かよ?! アイツらとの追いかけっこはもうコリゴリだ!」

 

「追いかけられるんじゃないわ。

――私たちが、追いかけるのよ」

 

「で、でもなぁ――」

 

「佐倉さん、知ってるかしら? 一度巻き込まれた事件を途中で放り出して逃げるのはフラグなの。 クローズドサークルモノでも、怯えて密室に引き篭もったキャラは、その後、無惨な遺体で発見さr」

「よぉし殺るぞぉ!!」

 

「佐倉杏子、字が違うわ」

 

何にせよ、怯えて縮こまるだけよりはマシね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜少女警戒中〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……問題のビルに到着、したまではよかったけれど……

 

「………」

 

「………」

 

「まあ、そりゃそうよね」

 

ビルの周りには、黒字で『KEEP OUT(立ち入り禁止)』と書かれた黄色テープが張り巡らされ、青いビニールシートが入り口を覆っていた。

そして、そこらじゅうにいる警官(・・)

あとオマケで野次馬と報道陣。

 

軽く聞き耳をたてるだけで、様々な憶測が飛び交っているのが分かる。

 

 

 

『――ビルの中で、カルト連中が集団自殺を図ったらしい。』

 

『――いや違う。 連続殺人鬼のアジトだ』

 

『――昨日まではいつも通りだったのに、どうしてあの人が―』

 

『――路地裏でも殺人事件があったらしい』

 

『――終末の兆しだ。――バカ言え、宇宙人の実験場だ』

 

 

 

……取るに足らない喧騒の中で、ある一つの情報が、意識を、揺さぶる。

 

 

 

 

 

『――緑の髪をした、黒いワンピースの女の子がいたらしい―』

 

 

 

 

 

「……巴マミ。 聞き取れたかしら?」

 

「ええ。 これは調べないと駄目ね」

 

「? ? ?」

 

イマイチ聞き取れ無かったらしい佐倉杏子を置いて、野次馬に聞き込みをしている警官に目をつける。

 

「……今、事の詳細を知っているのは警察ね。 巴マミ、演技力に自信は?」

 

「ふ――任せなさい!」ドヤァっ

 

「…………………やっぱり私がやるわ」

 

なんでよ?! という叫びと、展開に置いてけぼりにされた人の顔に書いてある?をスルーして、近付いてきた警官に向き直る。

 

 

軽く深呼吸――問題無い。 数々のループでまどかをつき離さざるを得なくなった時に身につけた演技力、その目に焼き付けるといいわ、2人とも!!

 

 

 

 

 

「――君たち、この辺の子かい? 悪いんだけど、あのビルについて、何か知ってるk」

「あ、あの! 私の友達を見かけてませんか?! 昨日から見てないんです!」

 

「」

 

両手を胸の前で組み、精一杯涙目で『心配なんです!』と訴えんばかりに上目遣いで見る。 ちなみにメガネはかけている。

 

「――はっ?! え、えっと、その友達っていうのは、どんな子だい?」

 

「これ位の身長で、緑色の髪の毛の女の子なんです! 昨日は珍しく黒い格好をしてました!」

 

「!! そ、その女の子、何処に住んで――」

 

ヒット。 昨日のビルには、今言った特徴の狂人はいなかった。

なら目撃されているのは、十中八九、クトね。

 

欲しい情報は手に入った。 後は適当にはぐらかして、逃げるだけね。

 

「ありがとうございました! さよなら!」

 

「あ、ちょ、君?!」

 

ポカンとした顔でフリーズしている2人の手を強引に引っ張り、角を曲がって直ぐの細い路地に隠れて、追跡をやり過ごす。

 

 

「ふぅ、これで一安心ね」

 

「」

 

「」

 

「……いつまで固まっているつもりなのかしら? 佐倉杏子、巴マミ?」

 

目の前で手を振ってみる。

 

「…………………わっ、―」

 

あ、巴マミは反応した。

 

 

「わ?」

 

「――私の暁美さんが、あんなに可愛いハズがないっ!!」

 

「誰があなたのものよ?!」

 

思わずツッコム。

 

その声で意識を取り戻したのか、佐倉杏子も復活した。

 

「…………………可愛いは正義、か…………」

 

「鉛玉ブチ込んででも正気を取り戻させてあげましょうか?!」

 

ただし、何故かアルカイックスマイル(悟ったような微笑み)でだったが。

 

「「冗談(だ)よ、冗談」」

 

「はぁ……………胃薬でも買おうかしら……………」

 

私の友達は、まどかと胃薬だけ…………

 

……虚しくなるから辞めておきましょう。

 

「………それよりも、どんな形であれ、クトがこの一件に関わっているのは間違いないわ。 ソウルジェムで魔力反応を追えば――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――君たち、さっき警官に話しかけられた子よね」

 

「「――っ!??」」

 

後ろから、話しかけられた。

 

見たところ一般人だから、それだけなら特に気にしないけれど――

 

 

この女性、昨日、あのビルにいた……!

 

「あ、ちょ、ちょっと待って! 君たち、その緑色の髪の子の友達なんだよね!!」

 

「――っええ、そうよ」

 

「だったら、伝えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――"助けてくれて、ありがとう"って!」

 

 

「……………は?」

 

 

想定外の言葉に、思わずポカンとする。

 

よくよく考えてみればこの人は、あの呪文を呟く以外は雄叫びと唸り声しか出せなかった時と違って、まともな会話が出来ている。

 

……どういう、ことなの………??

 

 

 

 

 

 

 

――詳しく話を聞いてみると、

 

「……信じてもらえないと思うけどさ。 昨日、突然頭の中に、変な映像が流れ込んで来たんだよ。

内容は………覚えてないけど。

それで気がついたら、自分でも訳のわからない言葉を叫びながら、カナヅチを君たちくらいの子供に振り下ろしかけてるところでね。 手首を掴まれて、止められてたんだ。

後ろを振り向いたら、緑色の髪の小学生くらいの子が、『ゴメンナサイ』って何度も呟きながら、カナヅチを私から取り上げてね。 その後、その子がゴニョゴニョなんか呟いたと思ったら、いきなり意識が無くなって、目が覚めたら家だったんだ」

 

……との事だった。

 

「………全てあなたの夢だったという可能性は?」

 

「いや、無いね。 カナヅチなんて変な物振り回したっぽいから、手にタコが出来てるし、枕元に、『あなたは誰も、傷つけてない』って紙があった」

 

「……………」

 

昨日あなたに襲われたんですけど、という言葉は飲み込む。

 

「………分かったわ。 必ず伝えておく」

 

「………そうか、悪いね」

 

そう言って、その女性は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――一先ず、情報を整理しましょう」

 

場所は変わって、喫茶店。

 

「整理っつっても、訳わからんの一言で済んじまいそうだけど……」

 

「そう言う訳にも行かないわ。 今この瞬間も、街の住人が危険に晒されているもの」

 

特に、まどか。

インキュベーターや美樹さやかがいるから、今この瞬間に命が奪われている可能性は低いでしょうけど。

 

 

「まず、狂人についてまとめましょう。

彼らは痛みを感じず、四肢を失っても襲うのを辞めない。

狂人となるきっかけは、『謎の映像』が関わっている可能性がある。 狂気を解くことも可能だけれど、方法は不明」

 

「……大体、そんなものね」

 

「なーマミ、狂人って、さっき言ってた『狂信者』と似てるんだろ? そっちはどうなんだ?」

 

「基本的には、現実の宗教でも時々問題になっている過激なカルト系信者と同じよ。 物語の中では、彼等神格が太古の昔に連れてきた眷属の血筋がそういった狂信者を束ねてるんだけど、そういった存在は外見が人間離れしてるから、一目見れば分かるわ」

 

「じゃあ、手掛かりは無い、か……」

 

「なら、あの呪文については?」

 

「長い方は、『ルルイエの館にて、死せるクトゥルフ夢見る内に待ちいたり』という意味よ。

短い方は………簡単に言えば、一種の讃美歌ね」

 

「うえ、あんな気色悪ぃ讃美歌なんてあんのかよ………

つーか、さっきからちょくちょく出てるくとぅるふって、小説に出て来る化け物なんだろ?」

 

「ええ、そうよ。

初出は1926年。 ある1人のパルプマガジン作家が書いた、のちのホラージャンルの先駆けとなったと言っても過言ではない作品。 タイトルは、」

 

「……思い出したわ。 『クトゥルフの呼び声』」

 

「そう、それよ!」

 

「……何にしろ、作り話なんだろ?

あの連中(狂人)やクトとは無関係だろ」

 

「問題はそこなのよねぇ」

 

……昨日の狂人は、実在していた。

 

だというのに、彼等の口にしていた台詞に、クトの言葉。 それらが指し示すのは、実在しないモノ。 フィクションの存在。

 

普通に考えれば、私たちの聞き間違いで、クトの言葉はインキュベーターが私たちを混乱させる為に嘘をついた、と考えられる。

けど………

 

 

 

 

 

 

 

「……『常識に囚われてはいけない。 私たちと付き合うなら、あらゆるモノを疑え。

だが、探るな。理解するな』」

 

「? 暁美さん、それは?」

 

「……私が、最初にクトに出会った時、去り際に言われたのよ。 ただ、どう考えても意味が矛盾して……」

 

疑え、と言いながら、探るな、理解するなと言う。

なら、疑ったまま信じろと?

 

「……キュゥべえなら、何か知ってるかしら?」

 

「インキュベーターが?」

 

「ええ。 といっても、普段クトが連れているキュゥべえね」

 

「ああ、あの妙に顔つきが違う奴か?」

 

「私が知る限り、クトと1番付き合いが長いのはあのキュゥべえよ。 もしかしたら、何か知っているかも。 一度、部屋に戻りましょう」

 

手探りとはいえ、方針は決まった。

 

あのイレギュラーの謎へと続く、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――魔法少女の闇が可愛らしく思える程の、遥か昔に仕掛けられた、狂気が隠れる謎への。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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表ルート:第7話

 

sideほむら

 

 

狂人たちの襲撃も無く、無事に部屋に辿り着く。

クトが件のキュゥべえを回収しているかもしれなかったけれど、杞憂だったようね。

………もっとも、いつかのような幻影の可能性もあるけれど。

 

 

「それで、ビルの方はどうだったんだい?」

 

「中には入れなかったけれど、狂人だった1人には会えたわ」

 

「襲われたのかい?!」

 

「その人は正気を取り戻していたから大丈夫よ」

 

「巴マミ、雑談もいいけれど、そろそろ……」

 

「……そうね。

キュゥべえ、クトと1番長い間行動を共にしているのは、あなたよね?」

 

「彼女が降って来たその時から一緒にいたけれど、それがどうかしたかい?」

 

「……なら、『クトゥルフ』という単語に聞き覚えは?」

 

「あるよ」

 

サラリと、問題の言葉を聞き覚えがあると言う。

 

「!? 誰から聞いたの?!」

 

「クトからだよ。 あの時は……」

 

 

――詳しく聞いてみれば、今朝インキュベーターから聞いた、『お菓子の魔女』の結界内での戦闘の直前の宣言と、もう1つ。

 

その結界内での戦闘の後、巴マミを攫った手段のネタバラし(やはりというか、幻影能力がタネだった)の際に聞いたらしい。

 

問題は、その内容。

 

 

「――クト以外の『クトゥルフ』は、この世界に存在するか否かすらハッキリしない地球外生命体。 仮に存在するとしても、太古の昔に海底に封印され、今でも眠っている。

種族的能力として、精神に干渉することが出来る。

これが、ボクが彼女から聞いた『クトゥルフ』についてだ」

 

「……マミ、」

 

「原典の『クトゥルフ』とほぼ全て一致するわね」

 

本棚から取り出してきた、鈍器としても充分な分厚さのある本(クトゥルフ神話TRPG)のとある1頁を睨んでいるマミが、その説明を補足する。

 

「クトゥルフは、ゾスから眷属を引き連れて来た異星人だし、海底の封印も、ルルイエに封印されているという設定と一致するわ。 精神への干渉も、何らかの事情でルルイエが浮上したときに、感受性の高い子供や芸術家が狂死するという描写から分かるわ」

 

また情報が一致した。

 

内容が内容なだけに、『過去に同じ本を読んだイタイ魔法少女の厨二設定』と言ってしまえばそれまでだけど……

 

 

 

あの異常な身体能力。

 

奇跡を先送りにした契約による無色の魔法少女にも関わらず存在する、幻影術。

 

突如として現れた狂人、そして彼等が口にしていた、狂気の賛美歌。

 

 

 

 

 

…………認めたくは無いけれど、

 

「彼女は、『本物』かもしれないわね」

 

 

……そもそも、小説に描写された邪神と、魔法少女。

何も知らない一般人からしてみれば、どっちも同じように『存在しない筈のモノ』だ。

私達(魔法少女)が存在する以上、『邪神』が存在しない理由はない。

 

 

 

 

 

………とすると、私達がすべき行動は、

 

「佐倉杏子とキュゥべえ。 あなた達は鹿目まどか達と合流してほしい」

 

「そいつは構わねぇけど……アンタたちはどうするんだ?」

 

「巴マミと、クトについてもう少し探ってみるわ」

 

狂人を相手にする以上、本来なら非情になれる杏子の方が適任だけれど、本当に件の邪神絡みだった場合、私たちでは予備知識が足りない。

 

「―分かったわ。 それじゃあキュゥべえ、クトのことをお願いね」

 

「まずは探す事から始めないといけないけどね」

 

 

「佐倉杏子。 間違っても余計な戦闘は避ける様に」

 

「分かってるよ。 アレの面倒くささは知ってるからな」

 

 

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 

 

―さて。

 

こうやって行動を起こしたはいいけれど、どう行動するのが正しいか、分からないわね。

 

マミの知識や本の内容は、あくまで参考。 アテにし過ぎれば、足元を掬われる可能性だってある。

 

どうすれば――

 

「……暁美さん? 顔が怖いわよ?」

 

「…………巴マミ。 あなたはさっきの話、どう感じたかしら?」

 

……じっとしていてもどうしようもない。 まどかたちに危険が及ぶ以上、例え罠だと分かっていても進むだけ。

 

「…私個人としては、クト=クトゥルフって考えるのは無理があると思うわ。 あの子には、他人を思いやれる『心』がある。 他者を破滅に追い込んで歓ぶような存在じゃないわ」

 

「………だと良いけれど」

 

問題はクトだけじゃない。

インキュベーター、それにワルプルギスの夜だっている。

 

さやかにソウルジェムの秘密が知られれば、魔女化は避けられない。

 

 

――ちらりと左手首を見る。

 

時を巻き戻すことの出来なくなった盾のつく、左手を。

 

 

 

 

 

――もはや、やり直しは出来ない。

 

 

邪魔をするなら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―例のビルを中心に人通りの少ない道を敢えて通る。

 

まだ明るい時間帯なのもあるのか、未だ狂人は見かけない。

地道に探し続けるけれど………やり方を変えるべきかしら。 マミには高所からの捜索をを頼んであるとはいえ、ここまで手掛かりすら無いなんて……

 

 

 

 

 

――ジャララララ………

 

 

 

 

 

………………? 何かしら、今の?

鎖の音?

 

「……佐倉杏子?」

 

音のした方へ歩いても、其処には、誰もいない。

 

「……気のせい、かしら?」

 

空耳だったと判断して、その場を離れ――

 

 

ドゴッッ!!

 

 

「!? がっ!?!」

 

背中に重い衝撃がぶつかり、壁に叩きつけられる。

 

「くっ――」

 

相手の姿は見えないけれど、狂人の可能性を考えて時間を止める。

 

次の瞬間には見慣れた灰色の世界に変わる。

 

「…さてと、今度は一体何処の誰よ?」

 

テイザー銃(撃てるスタンガンのような物)を構えて、後ろを――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャラジャラジャラ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?! な、なんで?!?」

 

私しか動けない筈の世界に、今度はハッキリと鎖の音が、いや、それだけじゃない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【――HAAAAAaaaaaaaaa………】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その息遣いを聞いただけで、まるで身体が彫刻になってしまったかのように動けなくなる。

 

一体なんで?! どうして?! どうやって?!?

 

 

パニックになっている間に足首に鎖が巻きつき、そのまま凄まじい力で振り回される。

 

裏路地なんていう狭い空間で人間大の物体を振り回せば、当然、其処らじゅうに叩きつけられる。

 

 

「がっ! ぐっ! あっ! 痛っ! や、やめっ! 助けっ!」

 

『暁美さん?! 何があったの? 暁美さん!?』

 

頭の中にマミの声が響く。

 

「マミ、こっちにっ! 来てはっ! いけな――あああああああっっ!!!」

 

振り回すだけに飽きたのか、『ソレ』は、私を鎖で容赦無く引き摺る。

 

細かい凹凸のあるアスファルトで削られ、全身打撲でボロボロの身体から血が滲み、その部位を庇おうとすれば他の部位に裂傷ができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっ! ああああああああああっっ!! くぅ……」

 

最早何も感じなくなった頃、また何処かに叩きつけられた様な衝撃が身体を貫く。

 

 

 

 

 

 

 

「――おい、転校生! 何があった?」

 

「……だから、私は、ほむら………」

 

さやかの声が聞こえてきた様な気がして、思わずそう呟いてしまう。

 

この怪我だと………流石に…………

 

 

……………? 痛みが、少し、楽に――

 

目を開けると、心配そうな表情のまどかとさやかが目に入る。

 

まどかのそんな表情も可愛い

――って違う!

 

あの不可視の怪物、ソウルジェムの魔力探知に一切引っかからなかった。 おそらく、アレが話に聞く『神話生物』という存在なのでしょうね。

 

だとすると、クトは、本当に――

 

「ぐっ………さやか、まどか……?

――クトはっ?!」

 

「えっと、なんかよく分かんないけど、なんかを追いかけてった!」

 

あの怪物を追ったのかしら? それなら好都合。

 

「? それより、ここは危険よ! 早く逃げないと」

 

変身を解除して、足を引きずりながらも歩き始める。

 

「ほむらちゃん、まだ、」

 

「今は逃げるのが先よ。 急いで――」

 

 

 

 

ドッゴォォォォンン!!!

 

 

 

 

「きゃぁっ!?」

 

少し離れた所に、何かが墜落したような爆音が響く。

 

クレーターが出来るほどの衝撃だったらしく、ぽっかりと空いた凹みだけが地面に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【――GYAGOAAAAAAaaaaaaaaAAAAaaaaaaaaAAAAAAAAA!!!

 

「ひっ!?」

 

「まずい…っ!!」

 

虚空から、『ソレ』の咆哮が轟く。

 

 

「――逃がすかゴルァ!! 『スティンガー』!」

 

真上から『ソレ』に対してクトが槍の穂先を突き出すも外れたらしく、根元まで刺さる。

 

……? クトはあの怪物と敵対しているということ?

 

「!?!! くっ、お前ら、逃げ――」

 

 

ドンッ!

 

「!? う―」

 

何を言っているのか聞こえる前に『ナニカ』に突き飛ばされて、

 

 

 

 

 

 

 

―ソウルジェムを、奪われる。

 

「あ――」

 

意識が遠のき、視界が暗くなって―

 

助けて、まど――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――え。 起きてよ。 ねえってば!」

 

「ほむっ?!?」

 

急に肩を揺さぶられ、意識が戻る。

 

「いや、ほむってなに? まだ寝ぼけてるの?」

 

「そーなのかー」

 

「いやその返しはおかしい」

 

眠気を頭軽く振ることで払って、手の甲でツッコミを入れてきた■■■に目のピントを合わせる。

 

「……? 私の顔に何かついてる?」

 

「……いや。 なんか、永い夢を見ていたような気がしてな」

 

「??」

 

コテンと首を傾げる■■■。 カワイイなあもうっ♪

 

「っと、ご飯の支度ができたから呼んできてってお兄ちゃんに言われてたんだった! それに今日は折角パパたちも帰ってきてるんだから!!」

 

「ダニィ!? イソガネバー」

 

「ちょ?! もー! 家の中ではしるなー!」

 

小走りだったからか、廊下への扉を開けた時にはもう追いつかれてた。

ま、ワザとだけどね!

 

「■■■! どっちが先にリビングに着くか競争じゃー!」

 

「オッケー! じゃあおっ先ー」

 

「手のひらクルックルッ?!」

 

そして即抜かされる。 ふぬおおおおお! 年長者として負けられん! 外見年齢は大差無いケド!

え、大人気ない? 知らんな!!

 

「ぶるあぁぁぁぁぁ!!」

 

「おおお!? って、床ミシミシ言ってるぅぅぅぅ!?!」

 

ボケとツッコミの応酬をしながら廊下を翔ける。

 

ああ――

 

「楽しいな――」

 

「ん? いきなりどうしたnいっちばーーん!!」

 

「ばぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁぬぁぁぁぁぁぁ!!」

 

余計な事を考えまくっていた所為か、タッチの差で負けた。

ウギィ〜!

 

「あっはっは! これで■■のデザートは私の物よ!」

 

「ふぁっ?! は、初耳なんスけど?!?」

 

「だって今決めたもん」

 

「あぁぁぁぁんまぁぁぁりだぁぁぁぁぁぁ!

せ、せめて半分で! お慈悲を! お慈悲〜」

 

「しょうがないなー■■ちゃんは」

 

クスクスと笑う■■■。 こ、小悪魔や! 小悪魔がいる!

 

 

 

 

 

「―――そういえば、さっき『楽しいな』とか言ってたけど、本当にどうしたの?」

 

「ん? ああ。 今こうして、■■■たちとこうやって笑って過ごせるってことかな。 私は、まぁ自分で言うなって話だけど、この間までロクな人生じゃなかったからね」

 

「イキナリ話がディープに?! シリアスとか似合わないよ?!?」

 

(・ω・)(ショボンヌ)

 

「…………それにしても、『楽しいな』、か」

 

立ち止まる■■■。振り返って見ると、何故か目元に影が出来ている。

 

「■■■? どうした?」

 

「………ねぇ。 楽しいって言うならさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ドウシテ、ワタシタチヲ、コロシタノ??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――目が醒めると、まどかとさやか、それにマミが私の顔を覗き込んでいた。

 

手の中には、紫色の卵型の宝石。

 

……状況から見て、ソウルジェムの秘密は知られてしまったようね。

 

「………

……………迷惑を、かけたわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それにしても、さっきの光景は、いったい…………………??

 

 

 

 

 



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表ルート:第8話

sideほむら

 

 

――あの怪物に襲われて(?)から一夜明け。

状況は、お世辞にも良いと言えるものでは無かった。

 

まどかとさやかと杏子は、魔法少女の真実の一部を知ってしまい。

 

『怪物』の正体は、魔女では無いということしか分からず。

 

オマケにクトも、件の怪物を追っていったまま行方不明ときた。

 

「……クトならスリーアウトチェンジとか言い出しそうね」

 

「まだストライク止まりよ」

 

「それでもバッターチェンジよね」

 

 

場所は私の部屋。 書き込みでかなりカラフルになった町の地図を私とマミで挟む。

 

「……状況を整理し直してましょう。 まず魔法少女。 佐倉さんはどんな具合かしら?」

 

「一応問題なさそうよ。 流石に真実の方は堪えたみたいだけれど、そこまで心配していないわ。

それより気になるのは、キュゥべえから聞いた、怪物に邂逅したタイミングでの杏子の反応よ」

 

「考えやすい可能性としては、SAN値の減少による狂気の発症だと思うけど……」

 

「目が覚めた後は大丈夫そうだし、時間そのものも短いから、もう治っていると判断してもいい、だったかしら」

 

「ええ。

………問題は、美樹さんよね」

 

「……このまま放っておけば、魔女になりかねないわ」

 

「……佐倉さんのことといい、随分と自信を持って言うのね。 根拠は何かしら?」

 

「………もう少し、時間をちょうだい。 まだ決心出来ないのよ」

 

「………そう」

 

……私は、怖いのだ。

問題無さそうとはいえ、発狂したマミにマスケット銃を突きつけられたトラウマが、私の勇気を削る。

 

 

「――それで、『怪物』の正体ね。 手掛かりは『不可視』と『鎖の音』。 けど不可視の方は、それ用の魔術もあるからヒントにならないわね。 それで、鎖の方だけれど………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――検索したら、ヒットするにはしたのよ。 鎖を扱う邪神が、一種だけ」

 

「! それで、どうだったの!?」

 

「………それが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ヒットしたのは、『アフォーゴモン』。 時間神よ」

 

……時間、神?

 

――冷や汗が、垂れる。

 

 

「簡単に言えば、時を止めたり、時間軸を行き来する能力があるとされているわ。

暁美さん。 貴女の魔法って、」

 

「……察しの通り、時間停止よ」

 

私が答えると、マミがなるほどと小さく呟く。

 

「クトが貴女の事を『初見殺し(ピーキー)』と言った理由がよく分かったわ」

 

「……話を戻しましょうか。 私たちを襲ったのは、そのアフォーゴモンでいいのかしら」

 

「それもおかしいのよね。 アフォーゴモンの本来の攻撃手段は火炎状の雷光で、鎖を使うのは、その神性の怒りに触れた者を拘束する時だけなのよ」

 

「……こっちも分からず、か」

 

只でさえ魔法少女の事だけで手一杯なのに、こっちに関して言えば、情報量が絶望的に少ない。

……もう、どうすればいいのよ?! なんで、絶対にミス出来ない今回に限って、こんな連中が――

 

「……暁美さん、怖い顔になってるわよ。

まずは、解決出来る事からやっつけちゃいましょう」

 

停滞しつつあった会話が、流れ始める。 ……やっぱり、この人には勝てないわね。

 

「……佐倉杏子ね」

 

彼女は確実にこちら側に引き入れておきたい。

 

「……ソウルジェムの話はしたのよね」

 

「………ええ」

 

ということは――

 

『キュゥべえ、今何処かしら?』

 

『風見野市にある、廃教会だよ』

 

『なら佐倉杏子も一緒ね』

 

『……どうして分かったんだい?』

 

『あの教会で起きた火事の件なら知っているわ』

 

『廃教会なんてそうそう無いから特定出来たのか』

 

……杏子とじっくり話が出来るのは明日でしょうね。

 

「巴マミ。 明日の放課後、佐倉杏子を連れて此処へ来て」

 

「分かったわ」

 

 

 

解決出来る事からやっつける。

今1番目処が立っているのは、何の皮肉か対ワルプルギスの夜だ。

その為にも、杏子を死なせてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌日 放課後

 

「――それで、アタシに話って何だよ」

 

「まずは、一昨日の一件についてよ。 あなたはあの怪物と会ったのよね?」

 

「あー、そのことなんだけどな。

実は、よく覚えてないんだ」

 

「覚えて、ない……?」

 

「正確には、会ったことそのものは覚えてるけど、どんな奴だったかを思い出せないって感じだな」

 

そんな都合のいいことって――あり得そうね。

 

魔法やそれに近いものを使えるのは、魔法少女と魔女だけじゃ無い。

ソレの扱う魔術を、私たちの物差しで測るのはやめたほうがよさそうね。

 

「……まあいいわ。 ついでで聞いただけだから。 本題は、ワルプルギスの夜についてよ」

 

「そういえば、この町に来るんだよな。 ったく、チビとその愉快な同類といい、ワルプルギスといい、この町はロクなことが無いな」

 

「……それは否定しないわ。

そのことについてなのだけれど、逃げるなら今よ。 只でさえ危険な伝説級の魔女と戦わなくてはならないのに、神話生物も如何にかしなければならないわ」

 

「ハっ! そう言われてアタシが逃げると思うか?」

 

八重歯をむき出しにして、笑う。

 

「――アタシは、逃げない」

 

「……そう。 なら良いわ」

 

「また貴女と戦えるわね。 よろしくね、佐倉さん!」

 

「あ、ああ」

 

そういえば、元々杏子はマミとコンビを組んでいたのよね。 魔法に対する意識で決別したらしいけど。

そんな彼女が、まだワルプルギスと戦う理由――

 

教会でのさやかとの会話があったなら、彼女を意識して決意を固めたのかしら。

 

 

 

 

 

――ただ、私は、クトだけでなく、彼女も、処理するつもりだけど。

 

 

 

 

 

失敗は、許されない。

 

神話生物が襲いかかってくる遠縁と思わしきクトは言うまでもなく。

 

ループでの杏子の主な死因は、人魚の魔女(さやか)を相手にしての自爆。

 

ならば、私が、さやかにトドメを刺せば、彼女の自爆は防ぐことが出来る。

 

 

……今まで、何度も、見殺しにしてきた。 今更、彼女に手をかけることを躊躇う理由なんて――

 

 

「――おいほむら! 早いとこ話を始めてくれ!」

 

「え?! え、えぇ、そうね。 ワルプルギスの出現予測は――」

 

自分自身が、段々とズレテイクのを感じながらも、頭を切り替える。

 

ワルプルギスの夜そのものは、かつて一度、私とまどかで斃せている。

攻撃パターンはある程度知っているし、私自身の実力も上がっている。 それに、杏子もマミもかなりの実力者。

 

今度は、間違いなく、勝てる……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――途中、情報元を疑われながらも、ワルプルギスの攻撃パターンを一通り伝え、一息ついていると、

 

『ほむら。 さやかたちが出かけた。 かなり精神的に追い込まれている』

 

キュゥべえからの念話……このインキュベーターはどうするべきかしら?

……ここ数日、何故かあの個体以外見かけないし、穢れの溜まったグリーフシード処分用として生かしておきましょうか。

 

『分かったわ。 こっちも杏子との話が丁度終わった所よ。 そっちと合流するわ』

 

『早めに頼むよ』

 

念話を切り上げて、マミと杏子にその事を伝える。

 

 

 

 

 

――私は今度こそ、まどかを守り切ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 

 

 

 

――キュゥべえの誘導に従って、着いたのは、工場の一角。

 

この辺りで出る魔女……影の魔女(エルザマリア)ね。

 

あの魔女の力を考えれば、正気を保ったままのさやか(・・・・・・・・・・・・)なら敗北している可能性が高い。

 

 

……ただ、あの魔女の魔力は感じられない。

その代わり、あるのは――

 

「……この魔力反応は、クトのよ」

 

 

人の姿をとり、何故か魔法少女の契約を結んだ、神話生物。

マミはアレの事を気にしているみたいだけれど――

 

「……いくら敵対しているような素振りだったとはいえ、相手は私たち魔法少女とも違う、正真正銘の化物よ」

 

盾からミニミ(マシンガン)を取り出し、初弾を装填する。

 

「!? 暁美さん、クトは、」

 

「アレはクトゥルフで、あの狂人たちが崇めているのもクトゥルフ。 極め付けは、連中の神話の総称は、『クトゥルフ神話』。

……処分する方が、私たちにとって安全よ」

 

「……言えてるな」

 

狂人を思い出したのか、僅かに青ざめた顔で杏子が同意する。

 

変身こそしているけれど、未だマスケット銃を構える様子の無いマミを置き去りに、槍を携えた杏子と、扉を蹴り開けて進む。

 

 

 

相手は、直ぐに見つかった。

 

 

 

壁の方を向いたまま、床に落としたランスを拾う事もなく、只々呆然としている、黒尽くめの儚い少女。

 

今にも消えそうだった存在感が、私たちを捕捉することで、いつものソレへと変わる。

 

 

「………随分と遅かったな。 魔女ならさやかが狩ったぞ」

 

「……」

 

「……黙りか。 その感じだと、さやかの方を追うつもりはなさそうだな」

 

念話で、杏子に今目の前にいるのが幻影か本体かの確認をとり、コレが本体だという答えが返ってくる。

 

 

「……マミはどうしてる? 黙って出てきたから、ちょっち心配でな」

 

「あなたが知る必要の無い事よ。

――死になさい」

 

トリガー引きっぱなしで、フルオートによる鉄の雨が少女の形をしたソレに突き刺さる。

 

あっという間にハチの巣になる、が。

その怪我は、弾丸が貫通するそばから再生して、一向に斃れる気配が無い。

 

「おいおい、ご挨拶だな。 魔法少女を仕留めたいならソウルジェムを狙えと――」

 

「あなた、魔法少女以前に化物でしょう」

 

「確かにそうだけどさ……」

 

銃撃と会話によって、アレの意識は完全にこっちへ向いた。

 

 

 

残弾が心許なくなって――

 

「――そこだッ!!」

 

「!? 杏子―っ」

 

アレのソウルジェムの正確な位置を探っていた杏子が、腰のポーチを切り裂く。

 

零れ落ちて来たのは、真黒なソウルジェム(グリーフシード)

 

「―っ! 上手く読心めないと思ったら、テメ、」

 

杏子の本来の固有能力は、アレに近い『幻術』。

 

そして、本来自身の思考を不特定多数の他者(・・・・・・・・)の精神に叩き付けるクトゥルフなら、

意識していない相手の思考を読む(・・・・・・・・・・・・・・・)のは不得手じゃないかという想像からでた即席の作戦だったけど、上手くいった!

 

「貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

「――――――っ!!!」

 

杏子の槍が、ソウルジェムに突き刺さる。

 

 

 

 

 

キンッ、と小さな音をたてて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

槍が、弾かれる(・・・・)

 

 

「「「……………はっ?!?」」」

 

恐る恐る、転がるソウルジェムを見ると、

 

 

「……うそ。

き、傷一つ無いなんて………っ!?」

 

衝撃のあまり呆然としていると、目の前をアイボリーの影が通り過ぎ、ソウルジェムを奪われる。

 

 

 

「いやいや、なんで………

――ッ、そういうことかよ」

 

ソウルジェムを握ったまま骨翼を大きく広げる。

 

「待ちなさい!! クト――」

 

直後、突風が私たちの全身を強く打つ。

 

目を開けると、そこにソレの姿は無く、

 

天井には、巨大な穴が開いていた。

 

 

 

 

 



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表ルート:第9話

sideほむら

 

 

「……早く、見つけないと」

 

まどかの美樹さやかを心配する言葉を躱し、放課後になって直ぐに美樹さやかを探し始める。

 

杏子とマミも協力してくれているけど………

何としても、一番に見つけたいわね。

『処理』する時の手間も、後の言い訳も楽だから。

だからこそ、まどかには検討違いのエリアを探してみるようにそれとなく言ってある。

 

 

時間を小刻みに止め、過去に何度も美樹さやかが魔女化した駅を中心に路地裏を周る。

 

 

 

 

 

「………ここにもいない」

 

それなりに離れた場所を確認して、頭の中にある地図にバツ印を付ける。

 

時を止め――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゾクッ!!

 

 

「っ――!?!」

 

ワルプルギス並みの殺気が辺りを包み込む。

 

「まさか、もう魔女に?!」

 

慌てて時を止め、殺気を感じた方向へと駆ける。

 

 

 

 

 

灰色の世界を走りまわっていると、妙な物が視界に映る。

 

近付いてみると――

 

 

「……何やってるのよ」

 

多節棍の鎖で巨大な球体を造っている杏子がいた。

 

…………いやほんとに何やってるのよ? しかもガッツポーズしてるし。

 

 

 

 

 

時間停止を解除する。

 

 

「……佐倉杏子。 その団子状の塊は何かしら?」

 

昨日の時点で私の魔法(時間停止)について言ってあるからか、特に驚いた様子も無く、安堵した表情で振り向く。

 

「あのチビだ。 さやかの奴を襲おうとしてたからな! 不意打ちで全身グルグルにしてやったぜ!」

 

「……なにやってるのよ、あなた」

 

でも、あの化物の行動を制限出来たのは大きいわね。

先にこっちから片付けましょうか。 アレが相手なら杏子も邪魔しないし、丁度いいわ。

 

「……内側にダメージを与える方法は?」

 

「無い―けど、このまま固定して海に捨てちまえばいいだろ。 コイツ、元々海底にいたんだろ?」

 

「………発想が危ない人のそれよn」

 

 

 

――ギチィッッッ!!!

 

 

 

鎖の封印が揺れ、軋んだ音が響く。

 

「!!」

 

「ウソだろ?! 指一本動かせないハズ――」

 

杏子は新しく生成した槍を構え、私は両手に持ったマグナムで狙う。

 

 

僅かに間が空き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゴグシャァァァァァッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに、封印が破られる。

 

鎖の破片を散乱させながら、翼の生えた緑髪の少女が浮かぶ。

 

【………………】

 

俯いたその顔が僅かに上げられ――

ドゴンッッ!!!

 

「!? がっ――」

 

杏子が壁に叩きつけられる。

そちらを見れば、めり込んでいる訳でもないのに、壁に張り付いたまま動けなくなっている杏子がいた。

 

「また不可視――うっ!?」

 

一瞬で距離が詰められ、咄嗟に盾を操作しようにも一瞬で首を掴まれる。

 

【AAAaaaaaaaaaaaa――――】

 

「ぐ――あ――」

 

力が込められる。

杏子は何かで抑えられ、助けは期待出来ない。

 

 

「ぐ、く、とぉ……」

 

で、デパートの時は、手、加減、してたのね、この、馬鹿力……

 

い、意識、が――

 

【――aaaaaaaaぁaaぁぁぁぁ、あ、あああ、ぁ、あ?」

 

「――かはっ!! げほっ ごほっ!!」

 

前触れなく急に手の力が抜け、解放される。

 

それがきっかけだったかのように杏子を押さえつけていたナニカも消える。

 

 

「……………っ、――――」

 

そして、また、逃げられる。

狂気の邪神が、放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あの後、なんとか回復した私たちは、マミから美樹さやかの魔力反応を見つけたことを伝えられる。

 

ただ、クトが完全に敵となったことを伝えた時は、少し取り乱していた。

 

 

あの殺気はさやかの事を殺しにかかっていたものらしいし、さっきの戦いとも言えない様な蹂躙も、魔法少女相手にしては今までと比べて、加減が無かった。

 

 

 

……でも、最後に感じた、

妙な違和感の様なものは、一体……………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――連絡のあった方へ向かっていると、しばらくして、再度念話が届く。

 

『暁美さん! 佐倉さん! 美樹さんを見つけたわ!』

 

『場所は!?』

 

『○○駅よ!』

 

『そこなら5分とかからず行けるわ。 そこから動かないで』

 

『分かっているわ』

 

……面倒な事になったわね。 美樹さやかを始末すると、確実に疑われてしまう。 ワルプルギス前にそれはマズイわ。

 

だからと言って放置すれば、確実に魔女化する。

マミはあの怪物から聞いていたらしく、心を整理する時間があった訳だから、今回は大丈夫そうだけど、杏子がどんな反応をするのか。

 

それにまどかだって、美樹さやかの蘇生を願って契約してしまうかもしれない。

 

 

 

 

 

………何にしても、まずは合流しないと。

 

「佐倉杏子、私の手を取りなさい。 時間を止めて行くわ」

 

「お! 昨日言ってたあれか」

 

しっかりと手を繋いだのを確認してから、盾を操作し、世界を灰色に染める。

 

「さ、行くわよ」

 

「お、おう。

……なんか、寂しい世界だな

 

うるさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もはやトラウマになるほど見た場所に着き、時間停止を解除する。

 

「ここに、さやかが……」

 

「そうね。 さっさと行きましょう―――ッ?!!」

 

途轍もない負のエネルギーが吹き荒れる。

 

……間に合わなかったようね。

 

 

「お、おい! 何なんだよ、今の?!?」

 

「今のは、―――っ?!?」

 

「? 何で黙って――ひっ!!」

 

 

不自然に人のいない駅前の通り。

 

 

ぽっかりと空いた、魔女の結界とも違う異様の空間に、『呪文』が、響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!』

 

『――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!』

 

 

 

 

 

「狂人――逃げるわよ!」

 

立ち止まったままの杏子の手を引いて、急いで魔力反応を辿る。

 

焼け石に水でしょうけど、道中閉められる扉は全て閉め、時間を稼ぐ。

 

 

 

 

 

ホームに駆け込むと、――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―お願い、やめて! 美樹さん! 目を覚まして!!」

 

人魚の魔女の攻撃を防ぎ続けるマミ。

 

「!? おいマミ! さやかの奴はどうなってるんだ!!!」

 

「!! 佐倉さん、」

 

「!? マミ、前を――」

 

マミが杏子の方を向いた隙をついて、剣が振り下ろされ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――やっぱり、間に合わなかったか」

 

ドゥンッッ!!!

 

榴弾が爆発した様な音がすると、振りかぶられた大剣が弾かれる。

 

この、声は――

 

 

 

 

 

「「「――クトっ!?!」」」

 

「……………」

 

先端から煙を吹くランスを肩に担ぎ、少女の皮を被った化物が再び姿を表す。

 

 

「………DOMINATE(支配)

 

そう一言呟くと、魔女が一瞬震え、大人しくその場を後にする。

 

「!?!? い、今のは?!?」

 

「ッ――どうだっていいだろう。 それより、時間が無いから、端的に言う。

 

 

 

 

 

 

 

――お前らの持ってるグリーフシードを、一つ残らず寄越せ」

 

「!?」

 

「そう言われて、はいそうですかと渡すと思うのかしら?」

 

時間が無い――ワルプルギスが来るまでの時間かしら? 露骨に戦力を削りに来たわね。

 

「……思っちゃいないさ。 なに、大ポカやらかした私の所為さ」

 

? 何を言って――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私はクトゥルフ。

邪神にして旧支配者。

狂気を司りし邪教の司祭」

 

 

ボソボソと何かを唱え始める。

 

少女の陰がゾワリと蠢き、実体を持つ。

 

 

「――私が求めるは、絶対の『力』。

叡智を潰し、希望を除け、

絶望の扉を抉じ開ける『力』」

 

 

 

その触手が怪物を覆い、膨大な瘴気が辺りに漏れ出る。

 

 

 

「――故、この身は破滅を招く物。

破壊でしか己の願いを叶えられぬ物」

 

 

触手が消し飛ぶと、以前魔女の結界の内側で見た、魔法少女の格好の少女が。

 

踝まで届くほど長い裾のワンピースは縮み、ミニスカートになり。

 

靴はスニーカーから、寂れた港町を連想させる色のローファーに。

 

腰には、ベルトのように、髪と同じ深緑色のリボンが巻き付き。

 

肩からは、足首まで届く、ドス黒いロングコートを羽織り。

 

首元には、水の様なマフラーが巻かれ、その長い両端は鞭の様にしなやかに浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「―――さあ。

覚悟はいいか? 魔法少女(探索者)よ」

 

 

 

 

 



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表ルート:第10話

(グロ注意)











sideほむら

 

「――フンッ!!」

 

ドゥンッッ!!!

 

片手で持ち上げられたランスの先端で爆発が起こり、熱と衝撃による砲撃が、背後にあった支柱を容易く吹き飛ばす。

 

「相変わらず無茶苦茶ね!?!」

 

「まだ手を隠してたのかよ?!」

 

 

「え?! クトの武器ってガンランスなの?! え? え?!」とパニクってるマミを放置して、化物に飛び掛る。

 

「らあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「……無駄だ」

 

先に杏子の槍が襲うけれど、あっさりとランスに絡め取られる。

即座に多節棍に切り替え、逆にランスに巻きつくことで動きを制限しようとするも、

 

「……小細工が」

 

軽々と杏子ごとランスを振り上げ、

 

「っ!? うわっ!!」

 

地面に叩きつける。

杏子はギリギリで手を離して離脱には成功するも、多節棍は潰され、魔力の粒になって消滅してしまう。

 

 

 

「これでも喰らいなさい!!」

 

射線上にクトだけを捉えた瞬間に時間を止め、後のことは考えない様にして対物ライフルの引き金を引きまくる。

 

さらに怪物の背後にC4を設置し、ボタン一つで起爆できる様にする。

 

「停止、解除!」

 

何発もの鉛の塊が容赦なく牙を剥き、ソレの身から肉を剥ぎ取る。

額を穿ち、頬の肉を吹き飛ばし、心臓を貫き、細い四肢に風穴を開ける。

 

トドメに爆風が背中を打ち付け、うつ伏せに倒れる。

 

「暁美さん!? やりすぎよ!!」

 

「巴マミ、相手はゾンビなんて目じゃ無いような化物なのよ」

 

確かに普通の魔法少女なら、さやかのような回復特化でもなければ死んでいるか、あとはトドメを刺すだけだろう。

 

 

 

 

 

――そう、普通(・・)なら。

 

 

 

 

 

「――く、は。

く、ククククク、クゥハケケケケケケケケァハハハハハハハ!!!」

 

爛れた皮や脳漿をボロボロと零しながらも、立ち上がる。

 

「フゥー、フゥー…………ああ、そうだ。 それでいい……」

 

傷ついた部分を軽く揺らすと、既に再生済みの身体が内側にあるかの様に肉が浮き出て、一瞬で傷が治る。

 

 

「……さあ、リスタートだッ!!」

 

ドゴン、と鈍い音をたてて地面に亀裂が走る。

 

見れば、両足がめり込んで――っ!?!

 

 

直勘にしたがって咄嗟に屈むと、すぐ真上で小さな手が空を掴んでいた。

背筋を冷たい汗が流れる。

あの勢いで掴まれていれば、そのまま握りつぶされてもおかしくなかった。

 

「……避けたか。 流石だ」

 

「それは、どうもっ!!」

 

超至近距離まで接近していた怪物の顎の下から撃ち抜くようにDEを発砲するが、上体を素早く起こすことであっさりと躱される。

 

「――うるぁっ!!」

 

「! っと」

 

追撃で槍が振り下ろされるが、倒立の要領で上がった足で蹴り弾かれ、防がれる。

 

着地した怪物は、ランスを剣のように振りかぶりながら未だ躊躇うマミへと突進する。

身の危険を感じたマミがランスにリボンを巻きつけて引き千切るまでの時間差によって生まれた隙を使い、連撃を最低限の動きで躱していく。

 

「!? クト! どうしてこんなことを、」

 

「言ったハズだ。 私はクトゥルフ。

決して人と相入れることなど出来ないっ!!」

 

大振りな武器では埒が明かないと思ったのか、リボンに引っ張られるままにランスを手放し、私にやるように片手で掴みかかる。

 

「くっ!」

 

首を傾けてその一撃を紙一重で躱すと、怪物の身体の小柄さが幸いしたのか、その勢いのままでマミの背後へ突っ込んでいき、休憩室を崩壊させる。

 

「……クト…………っ!?」

 

「!?!」

 

「うおっ!!」

 

私たちの顔面を狙ってコンクリの塊が飛んでくる。

マミは半歩ズレて軌道上から逃げ、私は手に持っていた銃を盾に防ぎ、杏子は槍で弾く。

 

「……まだだ。 この程度では神話生物は終わらん!!」

 

自販機の商品取り出し口を掴み再度突進する怪物の身体を私がサブマシンガンで押し留め、マミが自販機を撃ち壊す。

 

「チッ! フンッッ!!」

 

武器を失った怪物は地面を踏み締め、低高度でタックルを杏子にしかける。

 

「杏子! そのままクトを抑えてなさい!!」

 

「うぇえ!? おい、無茶言うな――うお!?!」

 

ジャンプで一撃を躱した杏子に一時的に相手を任せる。

 

「巴マミ。 手を貸しなさい」

 

「……どういう意味かしら?」

 

ハッキリとした確証は無いけれど……

 

「――おそらく、アレは弱っている(・・・・・)

さっきの掴みかかりは、これまではあんな風に踏みしめるようなタメは無かったし、こちらの攻撃だって、受けてもほぼ無傷だったわ。 なのに、今は9ミリ弾ですらダメージを与えられる」

 

特に攻撃の予備動作については、ついさっき出来ていたことが出来なくなっている。

 

「……油断を誘っている可能性は?」

 

「時間が無いと言ったのはアレよ。 それに、真向から蹂躙出来る筈の相手が油断するのを待つ理由が無いわ」

 

それでもあの馬鹿力は健在なのか、拳を振り抜いた衝撃波で体制が崩れた杏子に迫る蹴りを、腱を撃ち抜くことで援護する。

……やっぱり、防御力が落ちてる。

 

 

今なら、殺せる。

 

 

「杏子が抑えている隙に、十字に撃つわよ」

 

「でも―――」

 

未だ怪物を信じているらしいマミが、躊躇う様子で―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!』

 

『――いあ いあ くとぅるー ふたぐん!』

 

 

 

「「「「――っ!?!?」」」」

 

 

すぐ近くから、狂人の呪文が聞こえる。

 

……私たちに残された時間も無いようね。

 

――仕方ない。

 

「巴マミ。 あのままアレを放置すれば、あんな犠牲者を出すことになるわ」

 

「!? で、でも、クトがやったと決まったわけじゃ――」

 

 

 

 

 

 

 

「―――誰が、この場に来いと言った、案山子(カカシ)どもがァッッ!!!」

 

いつの間にか拾っていたらしいランスを振り下ろし、衝撃波と、それによって飛ばされた礫でホームに入りかけていた狂人を吹き飛ばす。

 

 

……決定的、ね。

やっぱり、狂人とクトは繋がっている!

 

「巴マミ!」

 

「――ああもう! 分かったわよ!!」

 

周囲にマスケット銃が生成されるのを見て、私も移動する。

 

時間を止めず、マグナムで援護射撃を加えることで、満身創痍一歩手前の杏子が離脱する隙を作る。

 

 

「くっ、マミ! 回復頼む!」

 

「させるか――ヌゥッ?!」

 

杏子が下がるやいなや、ショットガンに持ち替えて容赦なく散弾を浴びせる。

 

「――ルウゥああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

銃撃から逃れるように跳ね、天井の骨である細い支柱を掴むと、強引に引っ張り、盾にする。

 

リロードの為にも銃撃を止めると、すぐさま跳ね降りて看板を掴んで武器にしてしまう。

 

オマケに着地した瞬間に足元にあったコンクリ塊を杏子の方に蹴り飛ばした。

 

「っぶね!」

 

グシャァッ!

 

幸い、狙いが甘かったのか、少しズレたところで粉微塵になる。

 

怪物がそちらに気を取られた僅かな隙に杏子が槍を携えて突っ込み、私とマミで銃撃を加える。

 

「っ!」

 

銃弾を鬱陶しく思ったのか、看板をマミに向かって投げとばす。

 

即座に迎撃され、僅かに生じた隙を狙って槍が突き出されるのを頭部で受け血が吹き出し、仰け反った隙に散弾銃の連射でランスを持っていた右腕を吹き飛ばす。

 

『杏子! ソレの防御力は下がってるわ! 今ならソウルジェムを砕けるかもしれない!!』

 

『っ! 分かった!』

 

「――ぅるぁぁぁぁぁ!!」

 

杏子のソウルジェムが入ったポーチを狙った追撃を、コンクリートの地面を踏み抜いて蹴り上げ、強引に盾代わりにして防ぐ化物。 まだそんな力があるの?!?

 

こちらの視線が途切れた瞬間に浮かび、右腕を一瞬で再生して、両手で天井の軸を掴むと引きちぎり、双槍にする。

 

「なんつー回復力だよおい!?」

 

「削りきるまでよ。 魔力そのものは少ないわ!」

 

「―ッ!」

 

魔力で編まれた槍とただの鉄骨ではまともな勝負にならず、さっきの自販機同様あっさりと破壊される。

 

宙を舞う二本のうち、一本は杏子に、もう一本は狂人の昇ってくる階段の天井部に蹴り出される。

 

天井に向かった方は突き刺さるけど、杏子への方は私が弾き、多節棍を使った立体的な軌道で矛がクトの首を狙う。

素早い側転で一閃を躱し、近くに落ちていたランスの柄を踏みつけて跳ね上げることでマミの銃弾を防ぐと、骨翼が私を襲う。

 

「その攻撃は、もう何度も見たわ!」

 

その先端が届く前に時間を止め、避けるついでにピンを抜いた手榴弾をお見舞いする。

 

―停止、解除。

 

 

 

爆発。 閃光。

 

直前に咄嗟で手榴弾を掴んでいたらしく、左手は骨が露出するほどズタズタになる。

 

「……痛いな」

 

「!?」

 

ブチィ、と己の腕を肩から引き抜き、指先から二の腕の部分を喰らうと、そのまま引き抜く。

持ち手の部分にのみ肉が残り、赤く、白い骨が現れる。

 

「な?!?」

 

「た、食べちゃった……っ?!」

 

余りにもグロテスクな光景に怯んでいる隙に、骨を投げ捨てると、右手でランスを掴み取り、再度一瞬で再生させた左手を突き出して再度掴みに来る。

 

「っ、それも、見たわ!」

 

紙一重で躱し、超近距離で顔面に散弾を叩き込む。

血が飛び散り、硝煙を吐きながら後ろに吹っ飛び――

 

「――足らん。 足らんなぁ………!!」

 

狂人とも違う、異様な空気が場を支配する。

 

 

『ソレ』の片目は潰れ、蒼白くも端整な顔立ちは見る影も無くなり、口は耳まで裂ける。

 

「っ――いい加減、止まりなさい!?!」

 

その悍ましさに思わずグレネードランチャーを使ってしまい、血に混じってピンク色のナニカがぶちまけられ、再び倒れる。

 

「まだ、まだまだ――」

 

「暁美さん、もうやめて! やり過ぎよ!!」

 

「うっ……」

 

さらに叩き込もうとに弾を込め直していると、マミが止めてくる。

邪魔しないで!! アレは、私が、殺して、殺シテ、コロシテ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――は、クハハハハハッ! ママナラネェナ!! クギャハハバハハハハ!!!」

 

 

ぞっとする、パンドラの箱の蝶番が軋むようなワライゴエが響く。

 

そちらを見れば、頭部の半分以上を失い、極彩色の液体を断面から垂れ流す、人のカタチをした、ナニカが、立っていた。

その口が、足が動くたびに杯状の頭蓋骨から脳漿や髄液が溢れ、片方残った眼球がギョロリと蠢めく。

 

 

「!?!?!」

 

「」

 

「あ、ああぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

発射された榴弾は、見当違いの方向に飛び、建造物の一部を吹き飛ばす。

 

「……ド処ヲ撃ッテイる? 私は此コダぞ? クハハハ――」

 

ブォンとランスが振り回され、その風圧で体制が崩される。

 

『―いあ いあ くとぅ――』

ズガンッ!!

 

「……煩イ」

 

こびりついた血で滑ったのか、階段の天井のランスが突き刺さり、今度こそ崩落する。

鉄筋コンクリートの雪崩がホームに入り込んでいた狂人すらを巻き込み、完全に遮断する。

 

「……? 煩ワしいナ」

 

そう呟くと、自分で崩壊した頭部を千切り、落ちたソレを踏み潰す。

 

それが合図だったかのように、首の断面から、グチュグジュと傷一つ無い頭部が生えてくる(・・・・・)

 

 

 

 

 

「ば、化け物――」

 

「何を今更。 最初からそう言っているだろう?」

 

全身を己の血と脳漿で染めた紅のドレスの邪神が、歪んだ笑みを浮かべる。

 

「――あぁ、それだ。

『恐怖』。 『狂気』。

いい、イイゾ!!

さア――

 

 

 

 

 

私を、殺してみせろ!!!!」

 

 

骨翼が空を割いて一気に距離を詰め、銃口を掴む。

 

「!? こ、来ないで!!」

 

「クハ、逃げてどうする? 最初の威勢はどうした? フハハハハ!!」

 

心臓部に銃口をめり込ませると、血や体液でぬめった手が私の手を抑え、強引に引き金を引かせる。

 

バコンッとくぐもった音がなり、背中側から肉片が飛び散る。

 

「ごふっ!

……グブ、どうだ? 恐怖はこうやって払え。 でなければ何度でも蘇るぞ?」

 

「あ――」

 

その濁った深海のような瞳が、恐怖に引き攣る私の顔を写し―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――らちゃん! ほむらちゃんっ!?」

 

「――――はっ!?!」

 

目が覚める。

 

「や、やっと目が覚めたんだね!」

 

「……まど、か?」

 

目の前には、涙目の少女。

一体、なんで『こんな所』に――っ!!!

 

「まどか! 怪我は無い?! 変な人に追いかけられなかった?!」

 

「へ?! う、うん。 私は大丈夫だよ。

それより、ここで何があったの?!」

 

問われて、節々が痛む身体で辺りを見渡すと、そこら中に血や肉片が飛び散り、地面には穴や亀裂、陥没した跡が残され、支柱が無くなった所為か天井は一部崩落していた。

 

 

あの怪物や狂人は、影も形も無い。

 

 

「……色々、あったのよ。 それより、佐倉杏子と巴マミは?」

 

「呼んだかしら?」

 

振り向くと、回復し終えたのか、綺麗な格好のマミがいた。

 

「佐倉さんはまだ寝てるわ。 特に大きな怪我をしていなくて良かったわ」

 

「そう……」

 

直ぐに使えるようポケットに入れていたグリーフシードを探ると、空っぽだった。

 

「……巴マミ、」

 

「私のも取られてたわ。 佐倉さんのも」

 

「くっ………!」

 

つまり、あの怪物は私たちに『ワルプルギスで詰め』、とでも言ってるのかしら!

 

幸い、盾に入れておいた分は無事だった。 3人分をフルで賄うのは無理でも、取り敢えずの補給はなんとかなりそうね。

 

 

 

「佐倉杏子が目を覚ましたら移動するわよ。 じきに人が来るわ」

 

「え? さやかちゃんは!?」

 

「「…………え?」」

 

「だって私、さやかちゃんがいるって、クトちゃんに聞いてここに来たんだよ?!」

 

「なっ……!!」

 

あの、悪魔!! なんて置き土産を―――

 

「………鹿目さん、落ち着いて聞いて。 美樹さんは、」

 

「巴マミっ!! やめなさいっ!!!」

 

「だって、どうすればいいのよ!?! この子は美樹さんの友達なのよ? 知る権利があるわ!!」

 

「それでも、よ。 知ればまどかは確実に契約してしまうわ!」

 

「でも、――」

 

駄目だ、埒があかない。

武器こそ出て来ないけど、マミの精神は今とても不安定だわ。

 

このままじゃ―――

 

「ほむらちゃんもマミさんも落ち着いてよ! なにがどうなっているのか、全然分かんないよ!?」

 

「いやー、ホントに。 あたしもなにがなにやら」

 

「「鹿目さんと美樹さんは黙ってて!! ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………え???」」

 

まどかの隣を見る。

 

何故か涙目のキュゥべえを肩に乗せ、呑気な顔で突っ立ってる美樹さやか(・・・・・)が見える。

 

「……どうやら魔法に失敗したようね。 ちょっと待ってもらってもいいかしら」

 

視力を補助している魔法を解除して、再度魔法をかけ直す。

 

ポカーンと目が点になってるマミを見て、「よかった、よかった!」と涙ぐんでるまどかに抱き着かれて照れてるさやか(・・・)を見る。

羨ましい。 パルパル。 間違えた、ホムホム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?

 

「うわ、うるさ!? 転校生、急に大声出してどうしたのさ?」

 

「『どうしたのさ』じゃないわよ!! なにサクッと復活してるのよ?! 私があれこれ考えてたのあっさり無駄にしないでよ!! 無駄になった方がいいけど!! 覚悟とか色々あったのに!! ていうか復活するなら最初からそうしなさいよだったらこんな、こんな、こんな………」

 

「あー、ほむら?」

 

「なによ!?!」

 

照れ臭そうに頬をポリポリと掻くさやか。

 

「………その、ありがとうね」

 

「……………………は??」

 

「いや、ほむらってさ、今までは何もかも諦めた目をして、空っぽの言葉を喋ってたけど、

今はちゃんと、ここにいる」

 

「っ!!

………そう、ね」

 

ループの中で真っ先に失われた、さやかの、私への純粋な笑みが、

そこに、あった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ところでさ、クトは何処なの?」

 

感慨に浸っていると、アレの存在が話題になる。

 

「……………何故かしら?」

 

「なぜって、ここにいないの、あとクトだけじゃん。 あいつにも酷いこと言っちゃったし、謝りたいなって、」

 

「……クトは、」

 

言うべきか、言わざるべきか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――彼女なら、君の魂と引き換えに魔女になったよ」

 

「「「!?!?」」」

 

瓦礫の上から、感情を感じさせない声が聞こえる。

 

「なっ――どういう事だよ!?」

 

「そのままの意味だよ。

そこの二人は隠し通しておきたかったみたいだけど、魔法少女の最期は、死だけじゃない」

 

「っ黙りなさい!!」

 

拳銃でインキュベーターを撃っても、すぐさま次のインキュベーターが現れる。

 

 

 

そして、最悪の形で、

 

魔法少女の最後の真実が、明らかになる。

 

 

「――ソウルジェムが濁りきる時、

魔法少女は魔女となり、君たちが奇跡をもたらした分、呪いをばら撒くんだ。 キチンとバランスのとれた良いシステムだろう?」

 

「……………うそ、」

 

「じゃあ、記憶の無い間、あたしは、」

 

まどかとさやかが、信じられないと言った表情をする。

 

「そう言う意味では、クトが魔女化したのは君たちにとっては大きな痛手だろうね。

だってそうだろう? 彼女は大きな絶望を消し去る代わりに、怒りや憎悪、狂気でもってバランスをとり続けたんだ。 まあ、どちらにせよ、限界は近かったようだけどね」

 

「!? 怒りや憎悪って、まさか、」

 

「そのまさかさ。 彼女の本心としては、君たちに刃を向けるのはとても心苦しかっただろうね」

 

 

つ、つまり、

 

 

 

 

 

わざと嫌われる為に何度も襲った(・・・・・・・・・・・・・・・)!?

 

 

「そもそも彼女の魂は、契約した時点で99%濁っていたんだ。 それを強引に、君たちの魔法とは別の『魔術』で押し留め、蓋していたんだ。

魔法少女や魔女の相手をするだけなら、彼女の素の身体能力故に魔力消費は非常に少なかっただろうけど、そこの個体に精神疾患を引き起こしたのを始めに、何度も魔術を行使して『蓋』にヒビが入り、さやかの魂を元に戻すために魔術を行使したのが切っ掛けで、ソウルジェムが濁りきったんだ」

 

「う、うそだ。 そんな、」

 

さやかが青白い顔をして、膝をつく。

 

「……待ちなさい、インキュベーター。 あなたの言っている事が事実だという証拠は無いわ」

 

「確かに物的証拠は無いね。

僕らが彼女の感情エネルギーを回収した時、その膨大な量故に混ざった彼女の記憶の内容を言っているだけだし」

 

「なら、なんで今それを言ったのさ?!」

 

さやかの肩に乗っていたキュゥべえが、声を張り上げる。

 

「クトは最後まで『悪』でいるつもりだった! さやかを戻した事だって、ボクは口止めされた!!

キミがクトの記憶を見たのなら、なぜ黙っていなかった?!」

 

「それは簡単な事だよ」

 

 

一切の感情を込めず、淡々と、

 

 

「――僕らは、そんな『願い』を聞いていないからね」

 

「っ!!!」

 

「それじゃ僕は失礼するよ」

 

それだけ言い残すと、白い尻尾が瓦礫の向こう側へと消え去る。

 

 

 

 

 

「………」

 

重い空気が流れるなか、さやかがふらりと立ち上がる。

 

「……何処に行くの?」

 

「………クトを、助けに行く」

 

「ムダよ! 魔女を戻す事は出来ない!」

 

「じゃああたしはどうなのさ!!」

 

涙を浮かべたさやかが、叫ぶ。

 

「……クトは、あたしを助けてくれた。 あんたがたった今、無理だって言った事を実現してみせた!!」

 

「それは、クトだったから出来たのよ」

 

確かに、実例はある。

 

問題は、その方法だけれど。

 

 

「……キュゥべえ。 クトの使っていた『魔術』は、私たちにも使えるのかしら」

 

邪神の白い使い魔は、首を横に振る。

 

「っ、でも可能性は、」

 

「断言出来るけど、無理だよ。

トドメを刺す事が、ボクらに出来ることだ」

 

「そ、そんな――」

 

さやかが、悔しそうに唇を噛む。

 

 

「……キュゥべえ、私が契約すれば、」

 

「ダメだ。 彼女の思いを踏み躙る事になる。

仮に出来たとしても、クトは魔法少女の秘密を全て知っていた上で契約したんだ。 恐らく、契約しなかったらしなかったで大きな問題があったんだと思う」

 

まどかがとんでもない事を提案するけれど、キュゥべえによって却下される。

 

 

 

 

 

「……取り敢えず、魔女の様子を見に行きましょう。 もしクトの意識があれば、希望があるわ」

 

「「!!」」

 

「!? マミ! そんなこと言って、」

 

「あり得ない話じゃないわ。 あの子の正体だって、最初は半信半疑どころか全く信じていなかったでしょ?」

 

「それは、――」

 

何も言い返せず、黙ってしまう。

 

………そう考えたら、本当に魔女化した状態で自我を保ってる様な気がしてきたわ。

 

 

「……クトの正体って、変な翼は生えてたけど、私たちと同じじゃ」

 

「いえ。 実はあの子はね、

クトゥルフだったのよ!」

 

「ファッ!? クトゥルフって、あのtrpgの!?」

 

少し調子の戻ってきた様子のさやかが、マミの言葉にオーバーに反応する。

 

 

 

………あれ、そういえば、

 

「杏子はどうしたのかしら?」

 

「……………忘れてたわ!!」

 

マミの絶叫に慌ててソウルジェムを確認すると、

下の階に、魔法少女の魔力反応があった。

 



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『夢見るままに待ちいたり』
共通ルート:第1話


むかしむかし、あるところに、ひとりの、こころやさしいおんなのこがいました。


おんなのこは、いじわるでわるいかみさまのせいで、すきなひとを、たいせつなものを、こわしてしまいました。

かなしんだそのおんなのこは、ひーろーさんたちに、たすけてと、さけびました。

ひーろーさんたちは、わるいかみさまを、こらしめようとしました。

そこでわるいかみさまは、そのおんなのこをつかって、ひーろーさんたちをみなごろしにしてしまいました。

そのおんなのこは、―――



――今も、幾千万のセカイを彷徨い続ける







side??

 

黒い空から、紅い雫が雨となって垂れる。

 

死骸が散乱し、蹂躙され、

 

それでもなお、戦いは終わらない。

 

 

【――VOOOOooooooooooooooooooooooooooo!!!

 

『――――!?』

 

『―――!!』

 

双剣でもって切り掛かるソレを殴りつけ、半身を消し飛ばし、死体が1つ増える。

 

その刹那、追随するように左右から音すらを置いていく拳と剣撃が襲う。

 

『『―――、―――!!!』』

 

ooo……………oAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!

 

拳を受けながら捻り、そのまま蹴りを繰り出せば掴んだ腕だけを残し消える。

 

『―――!?! ――』

 

GOAAAAAAaaaaaaaaaaaaaa!!!

 

背後の剣の主に爪を振るう。

凌ぐ隙すら与えず、その一振りでもって剣を両断し、首を刎ねる。

 

断面からは血の代わりに焔が洩れ出るが、首に喰らい付き、ゴリガリと咀嚼する。

 

『――――!!!

―――――――!!!!』

 

既に満身創痍のソレが、その力無き拳を握り、

 

『!?!? ―――』

 

それに気がつき、触手でもって払う。

 

OOooooo……………GOAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!

 

立ち上がれぬソレに一歩で追いつき、

 

 

ソレの心臓を、一撃で破壊する。

 

 

『?! ―、――』

 

OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!

 

 

最後のソレの死が確定し、勝利の咆哮が世界を揺らす。

 

 

空間は軋み、悲鳴をあげ、

 

肉眼では見えぬほど矮小な存在ですら、恐怖に絶命し、

 

大地は死に絶え、蝕まれ、

 

空は呪われ、吸うもの総てを害する。

 

 

 

 

 

『―、―、――』

 

ソレは、その右手をあげ、

 

 

 

しかし、その手は、届かず、

 

 

 

 

 

――――地に、堕ちた。

 

 

 

 

 

OOO、vOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!

OO、OOOOooooo、oo、oooぉぉぉぉぉぉ、ぉ、あ?】

 

地獄の主を除く総ての命が等しく否定され、あらゆるモノを喪った咆哮は、次第に慟哭に変わる。

 

【………あ、あぁ、ああああ、」

 

死神はその惨状に恐怖し、後ずさり、ナニカに躓く。

 

 

 

 

 

ソレは、上半身を喪った身体だった。

 

ソレは、四肢をもがれた身体だった。

 

ソレは、腹部に噛み跡のある身体だった。

 

ソレは、全ての関節を逆に捻られた身体だった。

 

ソレは、口から腸を溢した身体だった。

 

ソレは、ソレは、ソレは、ソレは、ソレは、ソレは、ソレは、ソレは、ソレは、ソレは、ソレは、ソレは、ソレは、ソレは、ソレは、ソレは

 

 

生けるものの光は無く、

 

 

 

 

 

そして、死神は、誰がソレをやったのかを理解した。

 

 

 

 

 

自身の爪は隙間に血肉が入り込み、

 

拳や脚には、重いものを打った感触が残り、

 

口元は血塗れ、腹は不自然に膨れ、

 

「!?! うお、え、ぅぇげえええぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

そこまで考えて、胃の中身を吐き戻す。

それだけでは飽き足らず、自身の腹を殴る事で腸の中身すら排出しようとする。

 

胃液は赤く染まり、所々白いモノや金属片が混じっていた。

 

コロリ、と、白いモノの1つが転がり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が合った。

 

 

 

 

 

「―――?!?!?!」

 

『ソレ』は、眼球だった。

 

「あ、あ、あ、」

 

周りを見渡せば、

 

 

目に映るは、亡者の瞳。

 

 

 

その1つ1つが、身を呪う。

 

怒りが、憎しみが、嘆きが、

 

 

 

 

 

―どうしてこうなった? ―どうして俺/私は死んでいる? ―どうしてお前だけが生きている? ―誰がコレをやった?

―痛い ―熱い ―寒い ―助けて ―助けて

 

 

 

―お前の、所為だ

 

―お前の所為だ。

お前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だ

 

 

「ああ、ああぁ、あああああああ!!!」

 

爪が、拳が、何度も振るわれる。

 

総てを知る者によって、決して死ぬ事の出来ぬ身体を幾度と無く切り裂く。

 

 

四肢は取り払った。 脳は抉った。

心臓は潰した。 背骨を粉微塵にした。

 

 

だが、死ねない。

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

オマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダ!!!!!!

 

 

「あああああああああAAあああAAAAAAAAああああAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!】

 

 

 

 

 

絶望と狂気に囚われ、その身の死を渇望しながらも、次の地獄への転移が始まる。

薄れ行く理性と意識のなか、無意識に翼で自身を包む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私は誰も、傷つけたく無い』

 

『私はこんな力、望んで無い』

 

『私は、バケモノなんかじゃ無い』

 

『私は――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side杏子

 

「……………」

 

魔女の結界の内側。

 

使い魔が一体もいないその場では、ある1人の人生が凝縮され、まるで罪状を並べたように、展示されていた。

 

 

 

 

 

――最初の願い(原点)は、子供っぽい、

けれど誰もが一度は考えそうなものだった。

 

 

 

 

 

『―――――――――――――――力が。 最強の力が欲しい』

 

 

一体どんな経緯でその望みを持ったか、叶える存在に出くわしたかは分からなかった。

 

 

けれど、その『願いを叶える存在』は、インキュベーターですらドン引くだろう程の屑だった。

 

 

 

言葉巧みに騙すなんて事はせず、

 

 

一切の選択権を奪い、

 

 

容赦なく歪めた願いでもって叶えた。

 

 

 

 

 

最初は、問題無かった。

人生は大きく変わり、原始の地球で力の元に絶望する事はあれど、新しい希望()ができ、

翼の白骨化という代償はあれど、天敵をその力でもって撃破した。

 

 

 

 

 

問題は、その後。

 

 

 

 

 

更に世界を超えた先で、その力で全てを解決しようと、あらゆる事件に介入しようとした(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――結果は、悲惨なものだった。

 

 

身に宿した力ゆえ、近付いただけであらゆる生命が狂い、気がついた時には手遅れだった。

 

 

狂人どうしの殺し合いを止めようと、涙を流しながら飛び込み、

 

 

 

けれど、ただなんとなしに腕を振っただけで命が奪われ、

 

 

 

魂を守ろうと魔術を使えば、その全てが相手の心を壊し――

 

 

 

「――だぁぁもう! 見てられるか!!」

 

見てるだけでソウルジェムが濁りそうな『記録』を、槍の一閃で切り裂く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あぁ、アイツは、アタシと同じだったんだな。

 

 

誰かの幸せを祈ったのに、その『誰か』を壊してしまった。

 

 

 

違ったのは、その後。

 

 

 

アタシは、自分の為だけに魔法を使った。

 

 

アイツは、それでも誰かの幸せを祈り続けた。

 

 

 

 

 

最初は、さやかを助けてくれた礼を言うだけのつもりだった。

 

「…………それだけだったのにさ」

 

魔法少女の正体は、ゾンビの様なものだった。 今更その行き着く先が魔女だと示されても驚かない。

 

 

 

 

 

見覚えのある顔が写った『記録』がある所まで来た。

 

 

"ピンク色の髪を、両サイドで結んだ少女"

 

"剣を構える、青い髪の元気そうな少女"

 

 

『私は、―――』

 

 

"金髪ツインドリルの、マスケット銃を構える少女"

 

"赤い髪をポニーテールに結んだ、槍を携えた少女"

 

 

『私は、やっぱり、――』

 

 

"黒髪の、銃口を向ける、少女"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――"バケモノ"だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

いとも簡単に、魔女の居る最深部への扉に辿り着く。

 

「……ま、流石にそう楽にはいかねぇか」

 

 

 

扉の隙間から泥が染み出し、醜悪なヒトガタになる。

 

人に近いのは大まかなシルエットと背丈だけで、全身ヌラヌラとしたタールの様な色で、目鼻は無く、牙と爪が異様に発達している。

 

 

 

 

 

《ゴプコポ………ゴォアアアアアアア!!》

 

「―――そこを、どけぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideほむら

 

杏子の魔力反応を追って、クトの魔力で構築されている結界に入る。

 

魔女の結界にしてはシンプルな一本道で、両サイドの壁に写真の様な物が置かれている。 書き込まれている赤字の内容からして、クトの視点でしょうね。

 

「……キュゥべえ、この魔女の性質は分かるかしら?」

 

………私は、見ない様にする。

後で概要を聞けば十分だろうし、まどかの前で、マミみたいに「ごめ"んなざい、人外呼ばわりしぢゃって、悲しがったわよ"ね」みたいな状態になるのは、ちょっと抵抗がある。

 

「……性質は『虚実』。 所々魔力以外の技術で構築されてるみたいだから、ボクたちの知識や常識は当てにしないほうがいいね」

 

「つ、つまり!?」

 

「本当に自意識があるかもしれない。 でも魔女のままでいるから、そうだとしたら何か問題があるんだと思う」

 

「何があろうと、助け出すだけさ!」

 

少し赤くなった目を擦って、前を向くさやか。

 

ふと『記録』を見る。

 

 

 

 

 

『――今回も、ダメだった。

 

『狂気の波動』を抑えきれない。 殺した。

 

私を狙った連中が、彼奴らを人質に取った。

殺した。

 

彼奴らの1人に攻撃された。 身を守ろうと腕を上げただけで、皆死んだ。 ナンデ?????』

 

書き込みのある写真には、高校生くらいの白い制服の少女たちに、1人の男子と、見覚えのある少女が写っていた。

 

 

 

 

そして、それを覆う様に、写真に写っていた人物一人一人の死体が写されていた。

 

 

 

 

 

 

 

――奥へ進めば進むほど、『記録』は増える。

 

 

 

自然発生する狂人を抑えようと、魔術で自らを縛る。 時間稼ぎにしかならなかった。

 

 

自身を狙う者が表れる。 一般人に紛れても、誰とも会わずに深海に引き篭ろうとも、必ず襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

次第に、少女(クト)の意識が邪神(クトゥルフ)に呑まれていくようになった。

 

 

狂気に染まり、殺戮を止められなくなる。 死体は際限無く惨たらしくなり、最早原型を留めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――最終的に、自死を考え始めた。

 

 

自傷し、神に挑み、英雄に挑んだ。

 

 

己を封じる魔術の全てを使って構築した結界の内側に、理性ある内に彼らを呼び込む事には成功した。 己の全てを話し、万全の状態だった。 寧ろ、殺さず救うことすら出来たかもしれないと思うほど。

そこには、確かな希望があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……結果は、全滅だったが。

 

 

 

 

 

「………こんなのって……あんまりだよ………」

 

「………うぷっ

 

「……………」

 

 

 

 

 

「………ようやく、分かったよ」

 

「……何よ」

 

肩に乗ったキュゥべえが、小さく呟く。

 

「何で宇宙から降ってきたクトが、あんなに人間を理解していたか。

堕ちてきた時の、絶望の深さが、どれほどだったか。

『探るな、理解するな』の意味。

………そして、なぜ彼女が魔法少女になったのか」

 

 

 

 

 

そして、『記録』は、見覚えのある少女を写す。

 

「……ほむらちゃん、これって、」

 

「……………」

 

壁一面に書き込まれた、『私は化物じゃない』『私を殺して』の赤字。

 

 

そして、最後には、疲れたような文字で、

 

 

 

 

 

『―――私は、やっぱり、"バケモノ"だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よぉ、遅かったな」

 

「! 杏子!」

 

巨大な扉にもたれかかる佐倉杏子。

足元には、タールで作ったヒトガタの使い魔が鎖で簀巻きになっている。

 

「クトはその先かしら?」

 

「おう。 ヤバそうだったから待ってたんだよ」

 

「…? もう見てきたのかしら?」

 

「ああ。 アレは多分、チビの意識があるな」

 

「!! それなら、助けられるかも、」

 

「………どんな算段があるかは知らないけど、多分無理だ」

 

「!? どうして?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――使い魔が魔女を攻撃している(・・・・・・・・・・・・・)

コイツみたいなホラゲーに出てきそうな奴らが、アタシを無視してひたすらにな。 あれなら放っとくだけでグリーフシードになる」

 

「………死にたがり、ね」

 

 

彼女なら寧ろ、トドメを刺されることを望むでしょうね。

 

 

時々見た、クトの笑顔を思い出して。

 

その裏に隠れていただろう、決して口に出さなかった嘆きを想像して。

 

 

 

 

 

「……私がやるわ。 時間を止めている間に近付いて、爆破を――

待って!!

……まどか?」

 

「クトちゃんは、そんなこと、願ってないよ!! 助けてって叫んでる!!」

 

両目に涙を溜めて、叫ぶ。

 

「……まどか、クトは自分を殺させようと、」

 

「そう考えてるかもしれない!! でも、本音は違うよ!!

キュゥべえ!!」

 

「キュッ!? な、なんだい?」

 

「クトちゃんは、さやかちゃんを助けたことも隠そうとしてたんだよね?」

 

「う、うん」

 

「ならやっぱりそうだよ!! クトちゃんは、助けを待ってる!!!

だって、本当にクトちゃんが死にたがっているなら、ここがあることはおかしいよ(・・・・・・・・・・・・・)!!!」

 

「………そっか。 本当に『悪』になりきりたければ、嘘でもこんな『記録』を残したりしないわ!」

 

「「「「!?!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………助けよう」

 

さやかが、ポツリと言う。

 

 

「今まで、何人ものあたしたちより凄い人たちが試して、失敗したことだけど、

 

でも、あたしたちに希望が無いわけじゃない」

 

扉に、手を当てる。

 

 

 

「……私も賛成よ。

謝りたいこと、言ってあげたいこと、聞きたいこと、いっぱいあるもの」

 

扉に、手を当てる。

 

 

 

「……私も行く。

私には、呼びかけるくらいのことしか出来ないけど、

それでもクトちゃんは、私たちの大切な『友達』だから」

 

扉に、手を当てる。

 

 

 

「……アタシもやるよ。

グリーフシード無しでのソウルジェムの浄化方法、まだ聞いてないしな」

 

「ツンデレ乙」

 

「重曹で擦れば落ちるわよ?」

 

「う、うっせー! 誰がツンデレだっ!! てか重曹?! なんで重曹?!?」

 

扉に、手を当てる。

 

 

 

「……ボクも行こう。

彼女には、大きな借りがある。

それに、こんな結末、ボクは嫌いだ。 感情が芽生えたばかりのボクでも、これだけは断言出来る」

 

扉に、手を当てる。

 

 

 

 

 

「……………私は、」

 

クトのことを、どう思っている?

 

 

『正体不明』、『化物』、『怪物』、『悪魔』、………

 

 

「………私には、クトを助けに行く資格なんて、」

「あるさ」

 

見慣れない、感情の篭った赤い瞳が、私を見上げる。

 

「クトは、特にキミに悪印象を植え付けようとしていた。 キミがクトを殺す時に躊躇わないように。

逆に考えれば、キミは、そうでもしないと引き金を引けないと思っていたということだ」

 

「そんな、私は、」

 

「だって、キミだって皆を救おうとしたんだろう?」

 

「―――」

 

……私、は……………

 

 

 

 

 

 

 

――腕を、伸ばす。

 

「……私も、やるわ」

 

これは、最初で最後の、『最高のハッピーエンド』のチャンス。

 

 

 

なら、誰かの笑顔の為に戦う、私たちにとっての、エンディングを目指そう。

 

 

 

 

 

 

――5人と1匹で、扉を押し開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――『終わり』が、『始まる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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共通ルート:第2話




ーーただ哀しむことしか出来なかった、心優しい『少女』は、もう、居ない


そこに居るのは、感情(狂気)と、感情(憎悪)と、感情(絶望)に溺れる『邪神』






sideほむら

 

 

――扉を開けた瞬間、冒涜的としか言い表せない寒気が全身を包む。

 

 

 

黒い空。

 

 

草木一本生えない不毛の大地。

 

 

至る所に墓標の様に突き刺さる、古びた武具。

 

 

中央部には銀杯が鎮座し、赤黒い液体が溢れる。

 

 

杯に乗せられているのは、蛸の様な『ナニカ』。

 

 

 

そして、それに群がる、黒い影。

 

 

 

 

 

「……ここ、まるで、お墓だね………」

 

「クトにしてみれば、本当にそうなんでしょうね。 彼女が殺めた人たちの

――――そして、クト自身の」

 

 

まるで肯定するかのように、使い魔が魔女に張り付いていた部位から赤黒い血が噴き出る。

 

人の胴ほどの太さのある触腕が断ち切られ、地に堕ちると溶け、地に染み込む。

 

 

「!? あれが、魔女を攻撃する使い魔」

 

「ああ。 ………やっぱり違和感あるな」

 

多くの魔女の結界とは違い、明確に『死』を連想させる光景に怯む。

 

 

 

 

 

「――ここで怯えていても、何も変わらないわ。

行くわよ!!」

 

「それもそうね!」

 

周囲に大量のマスケット銃を浮かべて突っ込んだマミに合わせて、私も盾に収納しておいた対物ライフルを構える。

 

 

「援護射撃よろしく!」

 

「おい、病み上がりで無理するな!?」

 

一歩出遅れてさやかと杏子が飛び出し、迎え撃ってくるだろう使い魔を処理しようと、スコープを覗いて――

 

 

 

 

 

「ティロ・ドッピエッタ!!」

 

「はぁぁぁぁぁっっ!!」

 

「チッ、いくら何でもどうなってんだ?!」

 

 

魔弾が、斬撃が、槍の一閃が、使い魔を屠る。

 

だと言うのに、使い魔はこちらをチラとも見ない。 一心不乱に魔女を攻撃する。

 

 

「それならそれで好都合。 一方的に殲滅するまでよ。

まどか、これつけときなさい」

 

「きゃ!?」

 

米軍基地からパクった特殊なイヤマフをまどかにつけさせると、使い魔の頭部に当たる部分に弾丸を撃ち込む。

 

泥の塊の様な物が飛び散るけれど、その穴は一瞬で埋まってしまう。

 

「あの使い魔も規格外だね。 通常の魔女の使い魔なら、魔女に成長している程の魔力が流れてる。 戦力的には、あれ全部が魔女だと思った方がいい」

 

「くっ、どれだけいるのよ。

マミ、さやか、杏子! 聞こえていたわね!」

 

「ええ! なら、レガーレ・ヴァスタアリア!! からの――」

 

リボンが広範囲の使い魔に巻きつき、――

 

「――ティロ・ボレー!!」

 

 

大量の魔弾が降り注ぐ。

 

使い魔の集団を容赦なく抉り、その多くを消し飛ばす。

 

 

「よし! だいたいの強さは掴んだわ! これなら――」

 

グヂュリ、という音がする。

何事かと、そちらを見れば、

 

 

「!?!?」

 

「ひっ?!」

 

魔女の頭部に、1つの眼球が浮かび上がる。

血涙を流しながら、私たちを順繰りに眺める、荒れた海のような碧い瞳。

 

「く、クトちゃん!! 分かる、私だよ!! 私たちは、あなたを――』

 

【――ooo―――】

 

 

ギチギチと目玉が蠢き、

 

 

マミの方に、固定される。

 

 

 

 

 

――いや、違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――マミに倒された、使い魔(・・・)を見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【―――OOOOOoooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!

 

 

 

幾つもの鐘を大砲で打ったような、地の底にまで轟そうな咆哮が響き渡る。

 

触腕が絡まり合い、根元から切り落とされると、かなりの数の使い魔を巻き込んで、最初に切断された触腕のように溶ける。

 

 

「〜〜〜っ!! 何がしたかったんだよ、コイツ?!」

 

「分からないわ。 でも様子がおかしいわ!! 油断しないで!!」

 

「りょーk――」

 

 

パァンッ!

 

 

くぐもった銃声がなる。

 

でも私は撃ってないし、マミも発砲していない。

 

じゃあ、いったい誰が……?

 

 

「……一体、どこから、」

「――さやか? おい、さやか?!」

 

杏子の悲鳴のような叫びが響く。

 

手近な使い魔に弾丸を叩き込みつつ、横目で見て、

 

 

 

 

 

 

 

――目を見開く程驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかの身体は、マミへの返事を言いかけたまま止まっていた。

 

特有の色の違いこそあるけれど、私だから分かる。

 

あれは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さやかの時間が、止まっている(・・・・・・)!?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《――■■、■■■■■■■■■■■!!》

 

 

ゴポリ、と、使い魔ごと触腕が溶けた泥から、人影のようなナニカが立ち上がる。

 

手には、細長い棒状の物体。

 

「あれが原因ねっ!」

 

素早くレティクルの中心に合わせ、引き金を絞る。

 

轟音と共に鉛玉が発射され、直撃する。

 

 

 

 

 

《………■■? ■■■■■■■■■?》

 

「なっ!? 効いてない?!」

 

こちらを見ながら首を傾げる影。

ピチャピチャと泥を垂らしながら、今度は短い棒の先端を自身に向けると、

 

パァンッ!

 

「!? なっ?!」

 

「自分を撃ったの!?」

 

ダメージは無いのか、平気そうな様子で両腕をダラリと垂らすと、

 

一瞬でスコープから姿が掻き消える。

 

「!? な、一体何処に、」

「――!? キャァ!!」

 

マミ?!

 

銃口ごと向き直れば、強化された視力でも目で追いきれないほど早いスピードで、人影がマミに襲い掛かる。

マスケット銃を交互に撃つことで応戦しているけど、追いつけていない。

 

「くっ、レガーr」

「■■、■■■■■◾︎!!」

 

魔弾を潜り抜け、泥をまき散らしながら、古式の長銃と短銃(・・・・・・・・)から連続で弾丸が放たれる。

 

「!? ま、まさか――」

 

何かに気がついたらしいマミが、リボンを自身に巻きつけて引っ張るという荒っぽい方法で銃撃を躱す。

 

 

「――ぁい!! ってえ?! ど、どうなって、」

 

「美樹さん! この人の相手は私がやるわ!! 貴女たちはクトをっ!!」

 

映画顔負けのガンカタを影相手に繰り広げながら、ハイスピードで戦場を移すマミ。

 

 

 

「チッ、やっかいね!!」

 

さやかが無事に復帰したけれど、私たちのなかでトップクラスの火力を持ったマミが離脱したのは痛い。

 

一体一体が魔女に匹敵するあの使い魔を倒すには、各個撃破するにしても多少なりとも時間がかかる。 反撃してくるような様子は、マミと戦っている個体以外は無いけれど、数が尋常じゃない。

 

「っもう!!」

 

盾の収納魔法を操作、種類問わず幾つもの無反動砲や対戦車榴弾砲を並べる。

 

時間を止め、その間に撃って――

 

《――■■■◾︎!!》

 

「!? う、嘘でしょ!?!」

 

マミと撃ち合っていた筈の影が、私に古式銃の銃口を向ける。

 

咄嗟に手に持っていたAT4をそちらに向けて撃つも、アッサリ迎撃される。

 

「どうなってるのよもうっ!?!」

 

《■■! ■■■■■■■■■■!!》

 

ミニミを引き抜き、フルオートの反動を強化された腕力で押さえ込みながら、一気に近づく。

 

恐ろしい事に、毎秒15発前後を吐き出す軽機関銃を相手にしているというのに、その超スピードを活用して一切被弾していないのだ。

 

こんなの、どうやって対処しろっていうのよ?!?!

 

 

 

パァンパァン!!

 

 

両手から銃弾が放たれる。

 

背後にまどかがいるから避けるわけにはいかず、盾で受け止める。

 

その衝撃で魔法が解除されたのか、時間が正常に流れ出す。

 

 

 

「!? くぅっ!!」

 

チッ! やっぱり私がよくやるように、マミをあらかじめ銃弾で囲ってたわね!!

 

 

もう時間停止は使えない。 この影が真っ直ぐに私を撃ちに来たから良かったものの、先にさやかや杏子の方に行っていたら、もっと大変なことになってたわ。

 

 

「さやか! マミの回復を頼むわ!」

 

「へ? う、うん!」

 

さやかを妨害しようとする影に対してスパスの12ゲージ散弾を喰らわせる。

 

衝撃で多少なりとも怯ませる事には成功するも、やはりダメージが通ってる様には見えない。

 

「暁美さん! 彼女(・・)の相手は私がやるわ!」

 

《■◾︎! ■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■◾︎!!》

 

首をグリンと回し、短銃の射線がマミを捉える。

引き金にかかる指が見えたのか、銃口ごと躱すように倒れこみながら魔弾を撃つ。

 

《■■■■■■■■■■◾︎!!》

 

「ああもう! この件については全部喋ってもらうわよ!!

暁美さん、美樹さん! 貴女たちはクトの方に集中して!!」

 

「無茶よ、マミ!!」

 

「いいのよ。 悪いとは思ってるけど、だって私、今、――」

 

 

両手のマスケット銃を影に突きつけ、叫ぶ。

 

 

「――とっっっても、ワクワクしてるもの!!」

 

「は?!?」

 

銃撃だけでなく、銃身やストックを使った殴り合いまで交えて戦闘が白熱していく。

 

 

「マミさん、どうしちゃったの?!」

 

「……取り敢えず、ほっときましょうか」

 

…………相手も待ちくたびれているようだし、ね。

 

 

 

 

 

 

再度魔女の触腕が絡まり、使い魔を巻き込んで溶ける。

その数、3。

 

使い魔の半分以上がそれで消えるけど、あの溶けた跡からは、あの影のように強力な使い魔が現れるでしょうね。

 

「!? クトちゃん!? どうしてこんなことするの?!?」

 

「きっと、力付くでボクらを結界から追い出すつもりだね。 あの使い魔の攻撃、かなりセーブされてる」

 

「手加減されてるって事かしら?」

 

「そもそもあの魔力濃度なら、純粋なエネルギーとして爆発させるだけでこの空間にいる魔法少女を全員即死させられるよ」

 

「ええええええ!?!」

 

 

 

「……その割には遠慮が無い気が、ああ。 まだ憎まれたがっているのね」

 

 

ポイッと、さっき撃ったAT4の筒を投げると、一瞬で蜂の巣にされる。

 

《■■■■■■■■? ■◾︎■■、■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■》

 

「何言ってるか全然分からないわね」

 

今度は拳銃持ちが相手ね。

いえ、連射能力と妙に大きなサイズからしてサブマシンガンかしら?

 

 

チラッと確認すると、杏子は有角のメイスを持った影を、さやかは槍を扱う影を相手にしているようね。

 

 

 

 

「1人につき一体……やるしかないようね」

 

《■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。 ■■■■、■■■■■■■■■■■■■■。 ■■■■■》

 

Vz61(スコーピオン)を引き抜くと同時にコッキング。

 

 

「――まどか、下がってなさい」

 

《■■、■■■■■■■■■■。 ■■、■■■■■■■■■■■■■》

 

 

 

 

 



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共通ルート:第3話




生けるモノよ、思い出せ

嘗ての旧き『支配者』を



神よ、畏れよ

オノレが生み出した『邪悪』を







sideマミ

 

「……啖呵を切ったはいいけど、やっぱりちょっと不利ね」

 

魔女が喚び出した強化版の使い魔の銃撃を半歩横にズレて躱す。

耳元を銃弾が通り過ぎ、反撃にマスケット銃の銃口を向けるも、その頃には短銃が私を狙っていてそちらの対処を優先せざるおえない。

 

 

――手加減されているとはいえ、さっきまでは互角だったのに、追いつけなくなっている。

 

 

 

短銃の銃身をこちらのバレルで弾き、お返しにリボンを飛ばす。

バク転での回避。 それに合わせて距離を開ける。

 

 

《■■、■■。 ■■■■■■■■■■■■◾︎》

 

ゴポゴポと口が開き、言葉になっていない言葉が紡がれる。

 

その間に修復魔法で傷を塞ぐ。

完治させる程の隙は、無い。

 

 

泥を徐々に落としながら、銃による応酬が続く。

古式銃とマスケット銃が入り乱れ、何度も弾丸が掠る。

 

 

 

 

 

く、このままじゃジリ貧ね。

決定打が、無い………

 

ティロ・フィナーレは溜めが長過ぎるし、レガーレもスピード不足。

 

だからといって、応援が来るまで粘るのは無し。 私のプライドが許さないっていうのもあるけど、私の予想が正しければ、彼女相手に数の暴力は効果が薄い。

 

なら、一か八か―――

 

 

1発の弾丸を頭部に撃ち、銃はいつも通り背後に投げ捨てる。

銃撃は屈んで回避され、長銃が向けられるの。

 

 

よし、かかったわね!!

 

 

「――レガーレっ!!」

 

《■■◾︎!?》

 

突き出された古式銃の銃身に自ら踏み出して距離を詰めてリボンを巻きつける。

 

すぐに手を離し、古式銃が宙を舞う。

 

《■■■■■■■■■■■■◾︎。 ■◾︎、■◾︎。 ■■■■■■■■――■◾︎?!!》

 

そして、その銃身を空中で固定する。

 

「その反応。 やっぱり落ちたのを回収するつもりだったのかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あの長針(・・)

 

《■◾︎◾︎!!!》

 

焦ったように長銃を縛るリボンを短銃で撃ち抜こうとするのを、銃弾で弾く。

 

彼女がリロードしている隙に再度距離を詰める。

マスケット銃の生成は、ない。

 

《■■■■■?!》

 

「ふっ!!」

 

ハイキックで盾にした腕ごと胴体を蹴り抜く。

大きく吹っ飛んだことで、今までの比じゃない程の泥が剥がれ、ツインテール(・・・・・・)が露わになる。

 

 

「………一ファンとしては、サインをねだるべきかしら?」

 

《――キ■。 ■れはわ■■しの■■フでもあり■■■■◾︎》

 

それがキッカケだったように、泥がボロボロと崩れる。

 

 

《■たくしと■まし■■、折■彼女の■■■■アから■放され■と思っ■らこんな状■で■■■◾︎。

いっ■のこと、■っても■っ■方があ■■たいですわねェ。

――勿論、全力で抵抗は■せて■らい■■が》

 

短銃が垂直に挙げられ、影が吸い込まれる。

 

《――一の■(■レ■)

 

そして、自分を撃ち抜く。

ダメージは無く、パッと見では何をしたのか分からないでしょうね。

 

その間に完全に傷の修復を済ませ、ワンアクションでマスケット銃を生成出来るように魔力塊として周りに浮かばせる。

 

 

《――さ、■りま■ょう》

 

「……やっぱりもったいないわね」

 

ゴウッと加速された動きで距離が詰められる。

短銃の銃身をマスケット銃の銃身で抑え、もう片方の銃口を槍のようにつきだす。

当たり前のように避けられるのを、手の中でグリップをクルリと回し、銃口で直接打つ。

 

《中■の発想■すわ。 でェ、もォ。

そ■だけで■、わた■しの■■は、》

 

ダァンッ!!

 

《!? な◾︎!?》

 

親指で(・・・)引き金を引き、魔弾が彼女の背中にめり込む。

 

「貴女の銃と違って、私のは魔力から直接創り出しているのよ。 多少の融通は利くわ」

 

《■き過ぎ■ゃあ■ません■と!?》

 

屈んでからのバックステップで距離を取ろうとしてるけど、いくらスピードがあっても、動きが分かっているなら狙うのは難しく無いわ!

 

待機させてたマスケット銃を全て展開、

 

「――これで、私の勝ちよ!!」

 

 

――一斉射撃!!

 

 

 

《ッ!! ■々々◾︎帝(ザ◾︎ァ■■ェェ◾︎■)!!!》

 

大地からボロボロの時計盤が現れ、その魔弾の大半を受け切る。

 

けれど、元々の劣化にトドメを刺されて崩壊し、貫通した弾が運悪く短銃を持つ右腕を貫く。

 

《……や■り、勝■■とは■■ませ■■■■》

 

自身の武装を失い、あっさり降伏する。

 

その表情はどこか、最初から諦めているようで――

 

 

 

 

 

「………ね。 今度会う機会があれば、ネコカフェに行きません?」

 

《……………■い?》

 

ポカンとした表情。

少しして、クスクスと笑いだす。

 

 

《……そう■■わね。 今■、■会があれば。

 

 

 

 

 

――■■■頼みますわ。 彼女も、■たくしと同じ■■、騙され■い■の■■か■》

 

「約束するわ。

さようなら――――■■■■」

 

 

手向けになるかわ分からないけど、

 

 

 

 

 

私の全力のティロ・フィナーレで、彼女を消し飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side杏子

 

 

《■◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!!》

 

「単調すぎるな!!」

 

メイスというか、ハンマーと言った方が正確だろう武器を振り下ろすのを防ぐ。

 

弾き返し、槍の穂先で一閃――

 

 

 

 

 

 

 

――出来なかった。

 

「!?! チッ! 重すぎんだろ……!!」

 

身体のデカイ魔女の体当たりを無理に防いだ時みたいに、弾けない。

しっかり受け止めたもんだから、受け流そうにも、バランスを傾けた瞬間潰されかねない。

 

「さーて、どうするかな、っと?」

 

《■◾︎◾︎◾︎◾︎――》

 

圧倒的有利な状態だった筈なのに、急に押す力が弱まる。

 

様子を見れば、再度メイスを叩きつけようと、思いっきり振りかぶって――

 

「うわぁぁぁ!?!」

 

《■■■■■■◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!!》

 

 

――ドッグォンッッ!!

 

 

地面が陥没し、クレーターになる。

 

「………パワー強過ぎだろ、おい……」

 

タラリと垂れる冷や汗を拭い、槍を構え直す。

 

幸い、動きそのものはトロい。 威力こそ高いけれど、隙は大きい。

 

 

――ほら来た!

 

《■◾︎……》

 

「遅い!!」

 

横に振りぬいた所で垂直にジャンプして、槍を巨大化させて落下エネルギーに質量が加えられて、オマケで十字になっている部分に足をかけて、穂先を蹴り出す。

 

アタシが今出せる全力の攻撃。 これは簡単に片がつく――

 

 

ドスッと身体に突き刺さり――

 

 

《――■■■◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!!》

 

ズルリと、槍が引き抜かれる。

 

「?!?! き、効いて、無い………っ?!」

 

頭に生えてる角で突くつもりなのか、頭突いてくるのをなんとか受け流し、奴がこっちに振り向くまでの間に槍を創り直す。

 

 

「……傷そのものは出来てるんだ。 完全に効いてないわけじゃ無い。

斃せるまで連発するか? いや、あんな大技、いくら何でも対処されるか。 ん?

………………おい、おいおい、おいおいおい?!? どうなってんだよソレ?!?」

 

いつの間にかメイスを握り直していた奴が、さっきと同じようにその武器を大きく振り被る。

 

違うのは―――その武器が、紫電を纏っていること。

 

 

《――『■■■―――■■』◾︎◾︎◾︎◾︎!!》

 

「ヤベッ!!?!」

 

直勘にしたがって全力で逃げる。

 

奴は、柄の先を地面に突き刺し――

 

 

 

 

 

――バチバチバチバチバチバチッッッ!!!!

 

 

 

 

 

まるで大木の様に電撃が降り注ぎ、拡散する。

 

 

「ぐぁっ………!!」

 

距離で威力が変わるのか、そこまでデカイダメージは受けてない。

 

でも、何発も喰らったら分からない。

至近距離なんて論外。

 

 

「だったらっ!!」

 

槍の柄を分解、多節棍に切り替える。

掬い上げる様に穂先を飛ばし、メイスを振り回して弾こうとするのを魔力を通して操り、上手い具合に躱させる。

 

さらにアタシもアイツの周りを駆けて、穂先だけじゃなく、棍でも打つ。

 

《――■■■■◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!》

 

攻撃が当たらず、殆ど効いてないとはいえチマチマと攻撃され、イライラするのか段々動きがメチャクチャになる。

 

そして――

 

 

 

 

 

 

 

――ジャリッッ!!

 

 

《■■◾︎??!》

 

メイスが周りに漂う鎖に絡まり、動きを阻害する。

強引に焼き切ろうとしたのか、鬱陶しい穂先ごと吹き飛ばそうとしたのか、メイスに再度電気が流れ――

 

 

バチバチバチバチッッッ!!!

 

 

《!?!? ■■■◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!!》

 

「……色々と残念過ぎんだろ。 アダ名はバーサーカーで決まりだな。 パワーあるし」

 

巻きついた鎖に通電、メイスから流れた電撃が奴を襲う。

効くかどうかは賭けだったけど、上手くいったな!

 

 

 

 

 

 

 

水分を含んだ泥が電気で弾け、ポロポロと崩れ落ちる。

 

《■■◾︎◾︎◾︎………

■■■■■■■■■■◾︎!!!!》

 

バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッッッッッ!!!!

 

「……おい? 何やってる?」

 

ダメージを受けるのは分かっている筈なのに、更に電圧が上がる。

 

泥の表面が泡立ち、小爆発が連続で起こる。

 

 

 

《ウ■■オォォ◾︎◾︎◾︎◾︎ォ◾︎◾︎ォ◾︎◾︎◾︎!!!》

 

「ひ、人?! いや、違う……?」

 

 

一際大きな爆発で泥が大きく剥がれ、赤い髪の女性が見える。

ただ、額には金色の角、耳がある所にはガラスビーカーに似た何か。

 

 

その薄い青の瞳と一瞬目が合う。

 

 

《■ァ?

――!! ヴォ◾︎ォ◾︎◾︎ォ◾︎◾︎◾︎!!!》

 

「なっ!?」

 

泥が蠢き、内部が露出している部分を覆おうとする。

 

「っさせるか!!」

 

《!??》

 

それを防ごうと、表面を削るよう槍を振る。

 

 

 

「ったく! 何やってんだよ、アタシはよぉ!?!」

 

ただ、何となく。

 

 

 

 

 

何となく、泥に覆われてるコイツが、他人じゃないような気がして。

 

 

 

 

 

まるで自分自身が悲鳴をあげているようで、放っておけなかった。

 

 

 

 

 

穂先の返しで引っ掛け、引き剥がす。

 

「よしっ! これで、――

《!! ■メッ!!》

――?!」

 

辺りに撒き散らされた泥がいつの間にか集まって、意思があるかの様に襲いかかる。

 

「このっ、」

 

多節棍で打ち払おうにも、スライム状の敵にはあまり効果がなく、アタシに覆いかぶさろうと広がってくる。

 

「っやろ、く、来るな――うぉ?!」

 

《――ニゲ■◾︎!!》

 

バーサーカーがアタシを掴んで遠くに投げる。

 

 

 

「――あでっ!! テメ、どんな馬鹿力でブン投げ、て――」

 

文句でも言ってやろうとしたら、素人目に見ても異常な閃光が輝く。

中心には、アイツの持ってたメイス。

 

不思議と、アイツの考えが頭に浮かんで――

 

 

「……おい、何考えてるんだ?! よせ、やめろ!!」

 

 

でも、アタシの叫びは虚しく響いて、

 

 

 

 

 

《――わ■■と、■◾︎しょ■、こい。………『磔■の(ブ■ス■◾︎ド)―――雷■(ツ■ー)』◾︎ィィ◾︎◾︎ィィィィ!!!」

 

 

 

 

 

さっきの一撃の比じゃない程の雷が堕ち、掻き消される。

飛び散った泥を正確に焼き焦がし、身に纏っていた泥すら蒸発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そんなのを撃って、使用者が無事なワケがない。

 

 

「………なんの、冗談だよ」

 

 

爆心地としか言いようのない場所の真ん中にポツンと立つ、先の膨らんだハンマーのようなメイスが、唯一の応えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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共通ルート:第4話



最早『ソレ』を縛るモノは何も無い

封印は既に意味を成さず、星辰が揃う夜


『狂気』が

『絶望』が

『苦痛』が

『厄災』が

『混沌』が

『嘆き』が

『懺悔』が

『憎悪』が

『憤怒』が

『悲哀』が

『怨嗟』が

『恐怖』が

『終焉』が

世に溢れる


そこで『邪神』は、独り、静かに、嗤う(涙を流す)







sideほむら

 

バラララララララララッ!!

 

狙いをロクに付けずに発砲。 セレクターは当然フルオート。

 

《■■■■■■■■■■■》

 

身を屈めて、超低空バックステップで距離を離されるのを、トリガーを引ききったまま追う。

 

まずは、まどかを巻き込まない様に場所を変えないと――

 

 

弾が切れた瞬間、手早くリロードしながら反撃に備えて相手を注意深く観察する。

目に見える武器は、左手のサブマシンガンらしき銃。 種類は不明。

 

 

《……■■■■■■■。 ■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■…………》

 

 

なぜか撃たずに更に距離を開ける使い魔。

 

近距離戦闘は苦手なのかしら?

 

 

一気に踏み込み、銃口を突きつけ―

 

キンッ

 

「……そういう訳でもないようね」

 

《……■■■》

 

いつの間にか右手に握られていたナイフで、銃口を逸らされる。

 

力の向きに逆らわず、その力も利用して横に跳ぶ。

 

 

ここで初めて、相手の銃が動く。

一瞬で上がった銃口から弾が連続で吐き出される。

 

 

時間停止――は、ダメ。

 

 

「くっ!!」

 

今まで相手の攻撃を避けるのに能力を多用していた所為か、咄嗟に判断出来ず盾で受け止める。

 

 

叩き込まれる衝撃を堪え、何とか相手を視界に入れる。

 

反動で暴れる銃からは泥が剥がれて、その銃身が露わになる。

銃の後上部に円柱―おそらくマガジン―がついている、珍しい形の銃。

 

……見たことない形ね。 少なくとも自衛隊・米軍が使っている種類ではないし、安さに特化した不良品(コピー銃)でもないようね。

 

 

スコーピオンのバレルの先端を盾の下に押し当て、引き金を引く。

 

こちらの反撃に素早く反応しサイドステップで躱されるのが、銃そのものを投げつける。

 

《!?》

 

グリップの底を打つける事で防いでる間に盾に手を入れ、新しくスコーピオンを引き抜く。

 

《! ■■■■■■■■?!》

 

ナイフを腰周りに収刀した右手が、まるで困惑しているかのように漂う。

 

その隙に投げ飛ばしたスコーピオンに飛びつき、ついでにマグ(マガジン)も換える。

 

《……? ■■? ■■■■■■■■■■■■、■■■■■■?

――『■■』■◾︎!》

 

今更慌てた様子の使い魔に、一気に全弾を叩き込むつもりで撃つ。

 

回避動作も出来ていない。

 

よし、もらった――

 

 

 

 

 

《――■■■■■(■■■■■■■)――■■■(■■■■■■■)!》

 

「?!? なっ――

まさか、こいつも時間系の能力を?!?!」

 

使い魔が、急にこれまでの二倍の速度で動き(・・・・・・・・)始める。

あっと言う間に射線からは逃げられ、肩周り(ショルダーホルスター)から巨大な拳銃が飛び出――

 

『――止めるんだ、ほむら!!』

 

「!?! キュゥべえ?! いきなり何よ?」

 

『あの銃は絶対に撃たせちゃ駄目だ!! 抜いた瞬間、異常なエネルギーの流動を感知した!! あの銃撃が着弾した想定の影響をざっくりと演算したけど、掠ってもキミが死にかねない!! 外しても、結界に与えるダメージが未知数だ!!』

 

「!? あのバカ!! 使い魔になんて武器持たせてんのよ?!?」

 

幸い、抜銃そのものが使い魔にとって思わずといったものだったからか、何故か元々入っていた弾を別のものに再装填していた。

 

『……あ、あれ? 異常流動が、収まった……?』

 

「危険なのは弾丸みたいね。

……どちらにせよ、喰らいたくはないけど」

 

弾丸の再装填の時、弾倉を変えるのではなく、銃身の根元で折って、そこから弾を1発入れていた。

 

 

大型ハンドガン並の大きさで、中折れ式の装填、尚且つ装填数は1。

私の知っている限り、該当するのは、一部のソードオフショットガン、グレネードランチャー、それと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――競技用拳銃(コンテンダー)

 

 

 

 

 

競技用拳銃だとしたら、警戒するのは構造の単純さ故の高精度の精密射撃と、高い耐久性。

銃の種類によっては、それこそ大口径ライフル弾が飛び出してきてもおかしくない。

 

そんな銃の顎が、こちらを見据える。

 

「っ!!」

 

慌てて両手のサブマシンガンを投げつけ、伏せる。

 

 

 

――ッダァンッッ!!!

 

 

 

金属塊を2つ貫いて、死神の鎌が頭上を通り過ぎる。

 

……か、貫通したってことは、散弾とか、スラッグじゃないわね。

間違いなく、競技用拳銃。

 

 

弱点は、再装填に時間がかかること。

 

一気に勝負を付けようと、AT4を出し――

 

 

ガガガガガガガガガガガガガガッッ!!

 

「キャッ!!」

 

さ、サブマシンガンを忘れてたわ……

 

今の掃射でロケランは破損。 撃ったら暴発するわね。

 

 

今の隙に相手はリロードを済ませているでしょうね。

 

分かっているだけで敵の武器は、競技用拳銃一丁、サブマシンガン一丁、ナイフ、後は正体不明の加速術。 おそらく、時間系魔法。 相手の実力を考えれば、まだ手札を隠してる。

 

 

 

どの手を打つ?

 

サブマシンガン――繰り返しは時間だけで十分よ。

 

マグナム――サブマシンガン相手に撃ち負ける。

 

ショットガン――倍速回避→コッキング中に拳銃でズドン、で負けるわね。

 

マシンガン――加速持ちにはショットガン以上に避けやすいでしょうね。

 

グレネードランチャー――論外。 ショットガンと同じ運命を辿るわ。

 

ナイフか警棒での近接戦――練度からして、一瞬で負ける。

 

 

……そうだわ!! この手なら――

 

 

 

油断なくこちらに拳銃の銃口を向けたまま躙り寄る敵。

 

私の足元には、使用不可能のロケラン。

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の手には、手榴弾。

閃光でも煙幕でもなく、破片を撒き散らすマークⅡグレネード。

 

 

親指でピンを弾き、ポイッと、足元に捨てる。

 

 

《――?!? ■◾︎、■■■◾︎!!

■■■■■(■■■■■■■)――■■■(■■■■■■■■)◾︎!》

 

敵が再度加速する。

逃げるのを確認する前に、急いでその場に伏せる。

 

マークⅡはその特性上、爆発より外殻が飛び散ることによる殺傷能力が優れている。

近距離での回避は実質不可能。

だけど、私の足元には、金属製の盾が転がっている。

いざとなれば、一瞬だけ時間を止めて破片の軌道の隙間に潜り込めばいい―――へ??

 

 

 

《■■■■――■■■■◾︎!》

 

 

 

な、なんで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――自分からこっちに来てるのよ?!?! しかもさっきより倍は早いし?!?!

 

コツン、と手榴弾が地面に当たる音がするのと、使い魔が金属塊を踏み越えるのは同時だった。

 

 

 

――ドッドッガァァァンッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……い、今の爆発は、一体………?

 

手榴弾は何度も使ったことがあるけど、あんな強い爆発は起きないはず。

 

焦げ臭い匂いに顔を顰めつつ、思わず瞑っていた目を開けると、視界は真っ黒。

 

重い物がのしかかっている感じがしたから、退ける、と、――

 

 

「…………………え? えっ、え???」

 

 

そこにいたのは、血を流す、男の人(・・・)

 

魔法少女姿のクトが着ていたような、黒のロングコートは爆風の影響で見るに堪えないほどボロボロ。

 

所々、見覚えのある『泥』がスーツに付き、蠢いている。

 

 

「……この泥、使い魔の中身は人ってこと?

それに…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――この人とは何故か、初対面じゃない気がする。

 

 

 

 

 

ふと振り返ると、細かい金属ゴミと化した、AT4。

 

「……うっかりしていたわ。 まだ中身のあるランチャーを捨てるなんて」

 

 

視線を落とす。

 

 

「……なんで、私を助けたのかしら? 私は魔法少女。 爆風で死ぬ可能性は少ないわ。 結界から追い出すことを目的とするなら、貴方は逃げるべきだったはず」

 

《―――》

 

 

 

 

 

――男の人は、応えず。

 

ただ疲れ切った顔の遺体が、転がるだけだった。

 

 

 

 

 

 



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共通ルート:第5話




――けれど、『邪神(少女)』は思い出す


嘗て、彼女が救おうとした者がいたことを

嘗て、彼女を救おうとした者がいたことを







sideさやか

 

動画とかみたいに、身体の中心に剣を構える。

 

相手は、クトと同じくらいの身長。 なのに、あたしの身長より大きな槍を片手で構えてる。

 

《………》

 

余裕の表れか、手招きしてるし。

 

 

「――っ、はぁぁぁぁぁッ!!」

 

一気に距離を詰める。

何故か反応しない使い魔に向けて、剣を振る。

 

 

よし、まずは一撃――

 

 

 

 

 

――スカッ

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

……なんで? なんで、剣が当たらな――

 

《■■■■■■■■■■■■。 ■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■》

 

「? 何言ってるか分かんないけど、負けるもんか!!」

 

1発が当たらないなら、数を増やすまで!

 

左手にも剣を作って、バツ字に斬りかかる。 これなら、

 

《■■■、■、■■■■■■》

 

 

ッブォンッッ!

 

 

「!? は、はや、」

 

でっかい槍がブレたと思ったら、剣に叩きつけられる。

 

丁度交差したところで当てられたみたいで、ダメージこそないけど、後退させられる。

 

 

その間に使い魔は、追撃するでもなく、口元の泥を引き剥がしてる。

 

あたしは、眼中にないってわけ!?!

そう怒鳴ろうとして、

 

 

 

 

 

 

 

《■◾︎――フゥ。

これで通じる?》

 

「!?!?」

 

うそ、なんで、なんで、

 

《驚くような点があった? あなたから見れば、わたしは初対面――いや、どうでしょうね。 顔は知っているかもしれないわね》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――なんで、あたしと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――声が、同じなの?!?」

 

《あら、そんな些細な事で驚いていたの?》

 

さ、些細なことって……

 

《そんな事より、あなたにはやるべき事がある筈よ。

そう――

 

 

 

 

―――わたしを、斃すという『運命』が!!》

 

 

バサッッ!!

 

 

背中の泥を吹き飛ばし、悪魔のような翼が姿を表す。

 

「っ、」

 

《緩いわ。 本気を出しなさい!》

 

上段に斬りかかるも、翼を一度羽ばたかせるだけで強烈な風が吹き荒れて、飛ばされないように堪えるので精一杯。

 

《その程度? いいえ。 あなたはわたしではないけれど、わたしはあなたよ。 それとも、ただの勘違いだったかしら?》

 

「っ、なめるなぁッ!!」

 

両手の剣を、投げつける。

 

回転しながら迫った剣は、

 

 

《つまらないわね。 あまり巫山戯るようなら、潰すわよ》

 

 

当たる前に、1発の光弾で弾かれる。

 

 

……これじゃあ、どうしようもない。

 

 

なら考えろ。

 

マミさんならどうする?

 

杏子ならどうする?

 

ほむらならどうする?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――クトなら、どうする?

 

 

 

 

 

 

 

「――! 試す価値は、ある!!」

 

右手に出した剣の柄を握りしめて、魔力を流す。

 

 

《……ふぅん。 何か思いついたようね》

 

「うん。 降参するなら今だよっ!!」

 

《冗談!》

 

魔力を流す。

流し込んだ魔力は、もう完成している剣の内側を流れて、外側に溢れる。

 

外に出た魔力は、空中で固まって、新しい刀身を精製する。

 

 

 

 

 

――あたしの『剣を生み出す』魔法は、手に直接か、地面に生えるようにしか取り出せない。

マミさんみたいに、空中にいっぺんに出すことなんて出来ない。

クトみたいに、宙に浮かばせることなんて出来ない。

 

だったら――

 

 

 

《……成る程。 一種の蛇腹剣ね》

 

「あんたは見た感じ、早くて、武器()を持ってるってことは遠距離は苦手。 でもあたしには、遠距離武器は無い。 だったら、」

 

《リーチを長くした、と。

………くふっ、ははは、あははははははは!》

 

突然大笑いし始める使い魔。

 

《確かにわたしは早いわ。 でも遠距離戦は不得手では無い。 寧ろそっちがメインかしら。

それにわたしは、力も強いし、近距離戦も得意よ? 多少小細工を弄した所で、わたしには勝てないわ》

 

「……簡単に言えばリアルチートじゃないですかヤダー」

 

……ダメだ、考えれば考えるほどドツボにハマる。

 

少なくともマトモにやりあったらマズイってことは断言出来る。

 

《……待ち草臥れた。 そろそろこちらから行くわよ?》

 

「!!? も、もう当たって砕けろ!!」

 

真っ直ぐに空中を突進して、右手を振り下ろす使い魔。

なんとか防ごうと、両手で握る剣で受け止める、けど――

 

 

「うぐ、ぐぐぐぐぐ………」

 

《ほらほら、まだ片手よ? どうするのかしら?》

 

「ちっくしょー!!」

 

刃に直接触っているどころか、力までかかってるのに、そのまま押し切られそう………ッ!

 

「う――あああああああああああっっ!!」

 

《お? いいわよ、その調子その調子》

 

剣を滑らせて、前に倒れこんでなんとか受け流す。地面に激突した手は、簡単に手首まで埋まって、どれだけの力が込められていたのか、暗に示してた。 当然、蛇腹剣は壊れてた。

 

 

《それ、次よ!》

 

「?!! うっ!!」

 

左手はさっきと同じ振り下ろしで、右手で横に薙ぎ払うように構えられる。

 

直撃は受けちゃいけない、だからって防ごうにも両手で受け止めてやっとだし、避けるにも相手の動きが――

 

 

ギギィィィンッッ!!

 

 

「!!? ぐぁっ!」

 

片手づつに持った剣を盾にして、致命傷だけは防ぐ。

それでもあたしは吹っ飛ばされる。

 

「ま、まだまだ………っ!」

 

《まだまだ、ね。 そろそろ手札が無くなってきた頃じゃなくて?》

 

剣を杖にして、立ち上がる。

 

どうすれば、どうすれば――

 

 

相手は慢心して、こっちの様子を見てる。

……槍は、どこに行ったの?

気になって、辺りを見渡す。

 

刃毀れして、錆びて、黒い汚れがこびりついた剣やら刀やら槍が、まどかの言うとおり、お墓みたいに突き立ってる。

あいつの持ってた、紅い槍は、無い。

 

 

槍が無いなら、あいつの武器は、あの身だけ。 なら、

 

「これなら、どうだッ!!」

 

弾幕なら!!

 

 

地に剣が突き立っているイメージをして架空の柄を握ると、すぐに投げつけるって動きを、何度も繰り返す。

そこら中にモデルがあるんだから、ミスしようがない!!

 

 

《このわたしに弾幕戦? あっははははは!!》

 

相手は防ぐことも弾くこともせず、剣を避け続ける。

 

「はぁぁああああああああ!!」

 

《単調、単純よ!

弾幕というのは、こういうのをいうのよ!!》

 

剣の雨を潜り抜けながら、その両手から大きな紅い光弾が幾つも放たれる。

 

「え、ちょ、それなんてチート?!」

 

《あら、こんなのeasyよ?》

 

「基準がおかしい!!」

 

動きはそこまで早くないから、なんとか走って避ける。

追っかけてくるってわけでもないし、案外簡単かも――

 

《後方注意よ》

 

「前言撤回! どこが簡単だぁ!?!」

 

狭い空間を跳ねるゴムボールみたいに、ある程度の距離を進むと向きが突然変わる。

しかも変わる方向が、追っかけてきてるじゃなくてランダムっぽいから、尚更やりにくい!

 

……これって、時間が経てば経つ程詰むやつじゃ。

 

「だ、誰か、助けて――」

 

あ、視界が真っ赤になって――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ティロ・フィナーレ!!」

 

横からのレーザー砲が、紅い光弾を掻き消す。

 

「――今の弾幕、その翼………貴女は『記録』にいなかったわよね。 私の予想、外れたのかしら」

 

「マミさん!!」

 

とても頼りになる、1つ年上の先輩がライフルを構えて、そこにいた。

撃っては捨て、撃って捨てで残りの光弾を処理すると、改めてあたしの隣に立つ。

 

「マミさん、あいつ、変なんです! 私と声が同じで」

 

「そうなの? やっぱり何かしらの共通点が……いやでも、もしそうだとしたら……」

 

《―――来い》

 

マミさんが何か考え込んでいると、使い魔の手の光弾が伸び、槍になる。

 

「あら? 随分流暢に話せるのね。 私が相手をした彼女は、随分喋りにくそうだったわよ」

 

《そう。 それで、あなたはわたしを愉しませてくれるのかしら?》

 

「ええ」

 

……やっぱり、マミさんってすごいな。 あいつにあんな自信満々に――

 

『美樹さん。 ちょっといいかしら?』

 

『?! は、はい!』

 

急に、あいつと睨み合ってるマミさんから念話が来る。

この距離なら直接の方が早いんじゃ…?

 

『……他の子に念話で話しかけてみてくれないかしら』

 

『はい! えっと――』

 

きっと、何か考えがあってのことなんだろうな。

 

『キュゥべえー。 聞こえるー?』

 

……………

 

 

…………………あ、あれ?

 

 

『キュゥべえ、まどか?』

 

 

…………………………

 

 

『杏子? ほむら?!』

 

な、なんで返事が、

 

 

ま、まさか、みんな、

 

 

『だ、誰でもいいから返事をして!! まどか! ほむら! 杏子!』

 

「――うるさい! いきなり大声で呼ぶな!」

 

………きょう、こ?

 

「無事だったの?!」

 

「どういう意味だよ!?」

 

《……そんな。 精霊に英霊だぞ?! なんで、こんな、》

 

なにやら驚いている使い魔を放って、マミさんが声を張り上げる。

 

「……もしかして。

ちょうどよかったわ。 佐倉さん! 暁美さんに今のことを伝えて!!」

 

《ッ!! させるかッ!!》

 

慌てた様に槍が飛ぶけど、すぐに撃墜される。

 

「さ、美樹さん! やりましょう!!」

 

「はいっ!

っでも、あたしにはあいつに通用する攻撃が、」

 

「大丈夫よ。

だって、彼女を斃す必要は無い(・・・・・・・・・・)んだから」

 

「? ?」

 

「そうよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――クト」

 

 

―――え?

 

 

「ええええええええ?!?」

 

 

 

 

 



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共通ルート:第6話






世界は、とても醜く、残酷で


だからこそ、『(ヒーロー)』は、強く、美しく、輝く




――そして、邪神のチカラを持った『少女』は歩み出す







sideさやか

 

 

使い魔に槍を突きつけられた状態のまま、硬直するマミさん。

ライフルを撃つどころか、作り出してすらいない。

 

「ちょ、ちょっと待ってよマミさん!

だってクトは魔女になってて、こいつは使い魔で、」

 

「根拠ならあるわ。

――武装、能力、そして、声。

これらは、魔女の一部分と使い魔を代償に現れた、強化版の使い魔と私たちに共通する特徴よ。

そして彼らは、『記録』に描かれていたわ。 あなたを除いて、ね。

最初はただの偶然だと思った。 けど、その前提で周りを見渡した瞬間、それは確信に変わったわ。

 

 

――墓の様に突き立つ武器。

――首だけとなって、銀杯に乗せられた邪神。

…………この場所(結界)は、『記録』にある者たちの墓場にして、あなたが自身を罰する、処刑場。

だとすれば、墓の主でも、罪人でもない人物がいる事は有り得ない」

 

《……………くだらん》

 

槍がわずかに揺れ、タメるように魔力が篭る。

 

 

「……くだらない?」

 

《そうだ、くだらん。

例え私が違ったとしても、そうだとしても、

お前たちが私を斃さねばならない事に変わりは》

「否定はしないのね」

 

《……だから、どうしたというのだ。 私が何であれ、》

 

ハァと、マミさんが困ったようにため息を吐く。

 

 

「何で私たちがクトを斃さなきゃいけないのよ」

 

《……何を言っているの? あなたの目の前にいるのが何か、分かっていないの?》

 

「何って、決まっているでしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――とっても強くて、思いやりがあって、

そのクセ不器用な、私の相棒よ」

 

――エネルギーの収束が止まる。

分かりやすいくらいポカンとして、見えてる口もマヌケっぽく開いている。

 

 

《……何を、言って、だって、私は、》

 

「確かにあなたは、わざとではないとはいえ、大勢の人を死なせてしまった。 私たちも怖い目に会ったし、疑いもしたわ。 純粋に破壊と狂気を振りまく、魔女より恐ろしいナニカだと」

 

《そうだ。 私は、人では無い!》

 

「あら、そんなこと言ったら私たちだって魔法少女(ゾンビ)よ」

 

《違う!!》

 

槍の柄を握り潰しながらの叫びは、どこか偉そうな雰囲気を纏った声は掠れて、もっと子供っぽくなってた。

 

 

《魔法少女は人外なんかじゃない!!

魂は、形が、質量がありながら、形の無いモノ。 ソウルジェムを砕かれれば死ぬなんて、そんなもの、脳や心臓を抉ったら死ぬのと同じ。 体の再生だって、一般人相手にだって効果がある。

だから、だから、》

 

言葉を探しながら、必死に否定する。

もう誰かのマネをする余裕なんてなくて、その言葉が本心からでたものだって分かる。

 

 

「……クト、帰りましょう?

あなたなら、自力で魔女から戻れるでしょう」

 

《………》

 

コクンと、頷く。

 

よかった。 これで、またみんなで一緒に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【――でも私は、そっちにはいけない】

 

「「?!!!」」

 

な、なんで!?!

 

「クト、なんで来れないの?!」

 

【……ここは、私の処刑場。

私の罪を償う場所。

そして、嘗て私を受け入れてくれた連中(正義)が眠る場所でもある。

例え私が私を赦しても、連中が私を赦さない】

 

クトの意識を示すかのように、離れたところにいて、ただ攻撃を受けているだけだった魔女の触手が殺到して、クトを吞み込む。

 

本来の魂の持ち主を取り込んだからなのか、蛸に見えていた魔女の姿形が大きく変化し始める。

 

 

 

 

 

何処となく緑がかっていた触手は、タールで無理矢理スライムを作ったみたいな質感になって、

 

人でいう顎の部分からしか生えていなかった触手が、顔のパーツのある前面をのぞいて、覆い尽くす。

 

顔も、巨大な1つの眼球に埋まる。

 

 

 

 

 

【―――VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!

 

 

 

 

 

………なんで。

 

「なんで、あんたは、そこまでして死にたがるの!!

なんでそんな風になっちゃったんだよ?!」

 

 

あたしの問いかけには、

 

誰も、答えてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideほむら

 

 

……厄介な事になったわね。

 

 

変化を遂げた魔女の触手に銃弾を浴びせる。

さっきまでは使い魔の群れが相手だったのに、マミたちが説得に失敗してからは、積極的に攻撃してくるようになった。

相変わらず時間停止は意味をなさないし、ホンット厄介ね。

 

「まったく、なにが『私に全部任せなさい』よ。 よけい悪化してるじゃない」

 

「……いや、なんとなく分かるよ。

アイツは、探してるんだよ」

 

「は?」

 

まどかを挟んだ隣で使い魔を薙ぎ払った杏子が、焦げた布の様な物を握り締めながら続ける。

 

「自分を救ってくれる、誰かを。

ヘタに力を持って、誰かが伸ばしてくれた腕を払っちまったもんだから、半分くらいヤケになってんだろ。

こんなことしでかしたんだから、私はこんなヤツなんだって、自分で自分を信じてないんだ」

 

「……………だから、処刑場」

 

 

念話の応用でマミたちの会話を聞いていたから、その単語が浮かぶ。

 

 

「……そんなの、おかしいよ。

だって、クトちゃんのせいじゃないのに、自分を責めるなんて……」

 

「……」

 

自己犠牲の精神の恐ろしさと美しさは、とてもよく分かる。

それでも、何度も救おうとした友達すら助けられてないのに、初回での挑戦なんて、無理だったんじゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――たく、魔女を真っ二つにしたら中からソウルジェムが出てきて復活! とか、そういう愛と勇気が勝つストーリーにならないもんかな。

アイツだって、そういうのに憧れてただろうに」

 

 

 

 

 

 

 

 

……愛と勇気が勝つストーリー、ね。

 

…………悪く、ないわね。

 

 

 

 

 

彼女が絶望する理由は、自身の能力や力で他者を殺してしまったことが原因だったはず。

かなり暴論だけど、逆に言えば、

彼女を斃せば(・・・・・・)正気に戻せる(・・・・・・)かもしれない。

 

自らを悪者と名乗ったその望みは、自らの敗北。

 

制御不能な絶対的強者ゆえに、己を抑えてくれる誰か(敗北)を求める。

 

 

そうであるなら―――

 

 

 

 

 

「――予定を変えるわ。

あの魔女は、斃しましょう」

 

「でもそれだとクトちゃんが、」

 

「大丈夫よ。 きっと助けられるわ。

……賭けになるけど」

 

『どういう事かしら?』

 

「彼女の願いを半分叶えるのよ。

そんなに罰せられたければ、心行くまで叩くまでよ。

――ただし、死ぬことだけは、許さない」

 

「そんなことが出来るのかい?!

相手はあのクトだよ!?」

 

「……なら、もっといい案があるかしら?」

 

「………」

 

力無く、首を左右に振る。

 

 

 

 

 

「……ほむらちゃん。 無茶だけは、しないでね。

ちゃんと、帰ってきてね!」

 

「……大丈夫よ、まどか」

 

フゥワサと、髪を払う。

 

 

 

「――私は、私たちは、そんなに弱くないわ。

だって私たちは、」

 

不安げな表情のまどかから目を離して、コワレタ少女に向き直る。

 

永く忘れていた、最初の羨望を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私たちは、正義の味方(魔法少女)だもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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共通ルート:第7話






――その身は『憎悪』で造られている

――その魂は『狂気』で染まっている




――――ならば受入れよう




世界が命を奪うなら、少女が奪う

世界が心を弄ぶなら、少女が弄ぶ



『邪神』が全てを破壊する

『邪神』が全てを蹂躙する

『邪神』が全てを陵辱する







sideほむら

 

 

『正義の味方、ね。 いい響きだわ』

 

『それで、あたしたちはどうすればいいのさ?』

 

「正気に返るまでショックを与え続ける。 それだけよ」

 

「ハッ! アタシ好みのシンプルな答えだ。 ゴチャゴチャ考えるのは後回しってか?」

 

「ええ。 あれだけの頑固者、説得するにはコレ(・・)が、手っ取り早くわ」

 

ノッてきたのか、周囲の使い魔を薙ぐテンポが上がり、サクッと殲滅し終える。

マミとさやかとも合流して、こちらの準備は完了。

 

 

「―――行くわよっ!!」

 

時間を止める。

魔女の時がしっかりと止まっていることを確認して、周囲に榴弾砲を展開。 それらを片っ端から魔女に向けて撃ち放つ。

 

――停止、解除!

 

 

 

着弾と共に轟音・爆発が起こる。

ワルプルギスの夜ですら衝撃で吹き飛ぶそれが、魔女の体表を焼き、触手を千切る。

 

 

「これも喰らいなさい!!」

 

爆煙が晴れるのを待たず、壁のように大量に顕現したマスケット銃から放たれた魔力弾が、その肉に食らいつく。

 

 

 

 

 

【――NAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaa!!!】

 

ジタバタと、本体から離れた触手が畝る。 絡まり、溶け落ち、形が崩壊していって――

 

 

「――!? 暁美さん、危ない!」

「ッ?!」

 

咄嗟に跳び退ると、目と鼻の先を紙一重で剣が振り下ろされる。

 

《■■■、■■■■。 ■■、■■■◾︎■■■■■■■■!》

 

 

また使い魔!?

マミの推測が正しければ、私たちの誰かとの共通点があるらしいけど、今度は誰よ?! 剣繋がりでさやかかしら!?

 

汚れた黒曜石の様な、くすんだ紫色の直剣の、魔法少女でもそう簡単には出せないような速度の切り上げが襲い掛かる。

避けるには時間が足りず、盾で受け流すも、想像以上に重い一撃で後方に吹き飛ばされる。

 

あんな細腕の何処にそんな力が――

……そういえば、似たような奴がいたわね。

 

 

 

《■■■■■■■■■、■■、■■■■■■! ■■■■■■■■■■!》

 

刀身に青白い光を纏わせて突っ込んでくる。

そのスピードはかなり早い、けど、どっかの自称悪に比べれば遅い。

 

 

時間、停止!

 

 

「――今度は、上手くいったわね」

 

今回の使い魔は時間停止の影響を無効化することなく、完全に止まる。

巨大化させた槍を魔女に蹴り込む杏子を横目で確認しつつ、マグナム弾を雨霰と使い魔に撃ち込む。

 

 

――停止、解除。

 

 

《?! ■■◾︎◾︎!!》

 

 

驚いたのか、僅かに揺れるも、すぐさま剣を振り、銃弾を防ぐ。 って、どんな反応速度よ?!!

それでも流石に全弾は防ぎきれなかったようで、所々泥が抉れ、中身が見える。

 

 

 

――紫の服で身を包んだ、肌が。

 

 

 

 

 

やっぱり、中身は人間(?)なのね。

 

突きを再度受け流しながら、盾に入れた覚えのある武器の中から有効そうなものを探す。

 

「――ほむら! 今助けに、」

 

「私は大丈夫よ。 それよりさやか、前っ!!」

 

「うわ危なっ?!」

 

言われて気がついたのか、これもまたボロボロな一対の中華剣で切り掛かる小柄な使い魔の斬撃を、双剣でかろうじて防いでいた。

ああもう、私もそんなに余裕が無いのに!

 

時間を止めて、こっちの使い魔には手榴弾の土産を置いて、さやかと鍔迫り合いをしている使い魔を処理――

 

 

 

《■■◾︎■、■■■……?!》

 

「もう、またなの?!!」

 

動きは鈍いけど、動いてる!!

 

慌てて停止を解除。

背後の爆発は一旦傍に置いて、目の前の使い魔(小)の側頭部に50.A.Eを叩き込む。

 

《◾︎!? ■◾︎■■■!!》

 

今度は当たり、使い魔の体勢が崩れる。 よし、このままなら

「ほむらっ!!」

 

「ッ?!」

 

さやかの剣の鋒から同じ形の刀身が連なって伸びて、鞭のようにしなりながら、私の背後に迫っていた使い魔を切りつける。

 

「へへ、後ろに注意!ってね」

 

「……助かったわ。 ありがとう」

 

背中を預けながら、目前に自然体で佇む使い魔(小)にマグナムの銃口を向ける。

ダメージは無かったのか、泥が剥がれた跡は、無い。

 

「……」

 

チラリと見れば、杏子とマミも使い魔との激しい戦闘の真っ最中だった。 援護は期待出来そうに無いわね。

 

 

「……なんか、こうやってほむらと共闘するのって、微妙に違和感あるなぁ」

 

「悪かったわね。 私とで」

 

「いやいや、そうじゃなくて!

新鮮っていうか……懐かしいっていうか? そんな感じがするんだよね」

 

「………そう」

 

背中どうしを密着させて、それぞれの敵を睨む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私もよ。 とっても、懐かしい」

 

「? なんか言った?」

 

「なんでも無いわ」

 

 

《■◾︎■……■■■■■■◾︎■■◾︎■■■■■■■■?》

 

何故か、何処か苦笑しているような気配を使い魔(小)が発したと同時に、

 

 

「行くわよ」

 

「オッケー! うりゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

《■■◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!!》

 

《『■■(■■■■)■■(■■)』!!》

 

私たちは、ぶつかりあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideキュゥべえ

 

 

 

――ドゴォッッ!!

 

 

 

「ひっ!?」

 

……ボクらは、激化していく戦いを、ただ眺めていることしか出来ない。

丁度よく、岩からそのまま削り出したような斧のような大剣の陰に身を隠すことには成功したけど、例に漏れずボロボロで、魔法や銃弾が当たるごとに大きな音を立て、今にも壊れそうだ。

 

 

 

「……ねえキュゥべえ。 ほむらちゃんたち、大丈夫だよね?」

 

「……多分、命は無事だろうね」

 

音を探って、安全を確認してから外を覗く。

すぐ側で使い魔2人の斬撃をさやかが受け止め、ほむらが弾を撃つ。 でも使い魔の方が技術が上なのか、さやかを相手取って尚銃撃を弾く余裕があるみたいだ。

少し離れた所でも、マスケット銃と古式銃(火縄銃)が入り乱れ、鋭い爪を振り回す大量の使い魔を槍が薙ぐ。

 

その最奥に、血涙を流しながら、静かに戦闘を眺めている魔女が。

その醜悪な巨体を形造っている魔力量だけでもおそらくワルプルギスの夜に匹敵しているのに、更には未知の『魔術』があわさり、最早どれだけ強力な魔女になっているのか、検討もつかない。

意図してなのか偶然なのか、特に動く様子はない様子なのがせめてもの救いか。

 

 

「……でも、状況が悪い上に不利な事に間違いは無い。 ここは一度引くべきだろうね」

 

「…………」

 

俯いてしまったまどかを放置して、周囲を警戒する。

通常のも強化版の使い魔もこっちを見ていないのを確認する。 よし、誰もいないな。

さて、出口を探さないと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ねえキュゥべえ。 私なら、どんな願いでも叶えられるんだよね」

 

 

 

………は、い??

まさか、

 

「ダメだよまどか! それじゃあ根本的な解決にはならない! 魔女化を戻しても、すぐに逆戻りだ!」

 

「だったら、クトちゃんが死なせちゃったひとたち、みんなを蘇らせるって願いなら?!」

 

「それは――」

 

案としては、悪くは無い。

結果がどうであれ、本人たちの言葉であれば、クトを説得出来るかもしれない。

………その故人が、唯の人間であるなら、だけど。

 

ただでさえ対象となる数が多いうえに、平行世界どころの話ではない、異界の住人ときた。

ハッキリ言えば、まどかの因果線の数でも叶え切れるかどうか怪しい。

仮に叶ったとしても、余りにも条理に反した願いだ。 皺寄せ(絶望)がどれ程のものになるか、想像出来ない。

 

 

「……それは、ダメだ。 不安要素が多過ぎるし、なにより、」

 

 

 

 

 

――ボクはもう、魔法少女を増やしたく無い。

 

 

 

 

 

 

 

「……でも、それじゃあ私はどうしたらいいの?

みんなが傷付いて、苦しんでるのに、私だけ隠れてるなんてできない!!」

 

「そんなのボクだって同じだよ!」

 

弾かれた弾や撥ねた泥が岩剣に当たる音をBGMに言い争う。

 

……まさか、ボク(インキュベーター)が契約を断る側にまわるとはね、なんて事を頭の片隅で考えていると、視界の下の方で、何かが蠢いた気がした。

 

 

 

 

 

……いや、『気がした』じゃない。

ボクらが影だと思ってたこれって、『泥』じゃないか!?!

 

「まどか! 急いでここから離れるんだっ!! 早くっ!!」

 

「へ? それってどういう……

――きゃぁっ?!?」

 

さっきまで確かに地面があったのに、急に足元が底無し沼になったかの様に足が沈んでいく。

助けを求めようにも、あの激戦じゃあ寧ろ彼女たちがやられる。

ど、どうすれば?!?

 

「お、おちおお落ち着くんだ!! 圧力を分散すれば沈むスピードを抑えられる――キュッ?!?」

 

スボッと泥から引き抜かれる。

ほむらたちが間に合った、なんて訳ではなく、当然のように引き抜いたのはまどかだ。

 

「い、一体何を考えて、」

 

「――キュゥべえだけでも、逃げて!!」

 

「キュッぷいっ?!?」

 

そのまま、泥の外側まで投げ飛ばされる。

コントロールに失敗したのか、引金を引いたら確実に暴発しそうなほど劣化した対戦車ライフルの肩当てに激突する。

 

「〜〜っ! まどか!?」

 

「――間に合って、良かった……」

 

沼ではあり得ないスピードで沈み、もう肩まで呑まれている。

 

 

そして、彼女は、

 

 

 

 

 

「お願い、みんなを――」

 

「まどか!? まどかぁぁぁぁぁああ!!!」

 

 

 

 

 

――完全に、沈んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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共通ルート:第8話






だからヒトよ、『邪神』を憎め

だからヒトよ、『邪神』を呪え



『破滅』は、その掌に

『終焉』は、その掌に


『邪神』は、止まらぬ







sideまどか

 

 

……

 

 

…………? ここは、どこ………?

 

 

たしか、私は――

 

 

 

 

 

右も左も、上も下も無くなって、フワフワとした場所を漂う。

ひとりぼっちで、何も見えないくらい真っ暗な所なのに、自然と安心する。

 

「……ここは、どこなんだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【――キュゥべえごと取り込んだと思ったんだがな。 所詮、模造品だったということか】

 

「!! クトちゃん――

――っっ?!?」

 

じんわりと、小さな女の子が暗闇から浮き出てくる。

その体を、何本もの、白い、腕の骨が掴んで離さない。

 

「く、クト、ちゃん。 そ、それって、」

 

【? ああ。 概念的なものだから、本物じゃないよ。

………最も、いっそ本物だったらどれだけよかったか、て代物だがな】

 

クククと、片頬だけ釣り上がげて嗤う。

 

 

【それで、ここが何処かだっけか?

ファンタジーな答えとSFチックな答え、どっちがいい?】

 

「えっと、じゃあ、ファンタジーな方で」

 

【私の心を『世界』として映し出した場所だな】

 

「………ここが、心?」

 

さらりと、なんでもない様に告げられた内容に驚く。

この、何もない場所が?

そんな、そんなの、寂しすぎるよ!

 

【これでもだいぶ落ち着いたんだぞ? なにせ、私の願いが漸く叶うんだ。

―――これでやっと、死ねるんだ】

 

「そんなこと言わないでよ!!」

 

【……………はぁ】

 

ため息を吐いて、肩を竦める。

骨がたてる軽い音が鳴り止むのを待ってから、ゆっくりと、喋り出す。

 

 

【……私はもう、疲れたんだ。

自分の力に。 自分の狂気に。

存在してはいけないモノが消える、たったそれだけのことで、何人もの報われない連中の怨みを晴らせるんだ。

………もう、いいだろう】

 

疲れ切った、いつも元気で何処か皮肉げなクトちゃんとは思えない表情の女の子が、そう零す。

 

 

【……だからさ。 戻すから、ほむらたちに伝えてくれ。 早く、結界から出るんだって】

 

「………分かった」

 

【そうか。 よかった、安心し――】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ぜっったいに、いや」

 

【……は?

………状況、分かって言ってんのか??】

 

いきなり、叩きつけるような重荷が、私の全身にぶら下がるような感じがする。

 

【いますぐ全員半殺しでつまみ出してもいいんだぞ??】

 

「っ――大丈夫、だよ。

クトちゃんは、そんなこと、しないもん」

 

【………】

 

 

息も絶え絶えに、そう言うと、無言で私の喉元に槍が突きつけられる。

 

 

 

【……何度だって、言ってやる。

私は、『クトゥルフ』。 時代人種問わず、問答無用で、人類の敵だ。

絶対的な悪だ。

………分かったならもう、帰ってくれ】

 

 

――槍が引っ込められると、重荷が取れる。

それに、どこかに引っ張られるような感じがする。

 

 

「……ねえ、クトちゃん。

そんなにいうなら、ひとつ、きかせて」

 

【………】

 

 

引き寄せられる感じが消える。 いいってことなのかな……?

 

クトちゃんの顔を真っ直ぐに見つめて、

ずっと気になって、聞きたかった『それ』を、言った。

 

 

「……クトちゃん。 そんなにいうなら、なんで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――泣いてる(・・・・)の??」

 

 

 

【……………は? 泣いてる?

この、私が??】

 

 

心外だとでも言いたげな反応で、目元を触るクトちゃん。

そこには、暗いなかでも輝く、澄んだ粒が。

 

 

【あれ? 変だな。 なんで止まらないんだ? なんで、なんで、――】

 

 

拭っても拭っても、涙は止まらなくて。

むしろ、どんどん溢れてくる。

涙だけだったのが、だんだん嗚咽もまざってくる。

 

 

【そっ、そうだ! やっと死ねるんだっ! だからこれは、そう!

嬉し涙だ! そうじゃなきゃ、

そうじゃなきゃいけない!!】

 

「………クトちゃん」

 

 

ビクッと揺れて、ゆっくりと、海の色をした瞳が、私を見据える。

その動きには、余裕さとか、大胆不敵さのない、

迷子の、怯えて、それでいて縋るような雰囲気だった。

 

 

「………みんな、待ってる」

 

【もう何も言わないで!! 何も分かってないのに!!

あの時の私の絶望をッ!!

私がどれだけ後悔したのかを知らないのにッ!!!】

 

「………そうだね。 私は、なんにも知らない。 魔法少女の秘密だって、ついさっき知ったばっかりだよ」

 

【ッ――なら尚更!! 私のことなんて、放っておいてよっ!!

私はいちゃいけないの!!

私は、なにかを壊すことしか出来ないの!!!】

 

「そんなことないよ」

 

【――――ぇ??】

 

 

驚いた様子の、なにを言われたのか分かってないような、少しまぬけっぽい顔が映る。

 

 

「だってクトちゃんは、私たちを助けてくれた。

さやかちゃんを魔女から戻して、

マミさんの命を救った」

 

【それは、私じゃなくても出来たことだし………】

 

「そうかもしれない。

でも、やってくれたのは、他の誰でもない、クトちゃんだよ」

 

【………それでも、このまま放っておいたら、私は『クトゥルフ(狂気)』に呑まれる。

そうなったら、全部、無かったことになるより酷いことになる】

 

「だったら私たちを頼ってよ!

全部1人で抱え込まないで!!」

 

【そんなこと出来ない!! 私は、強過ぎるんだから。 望んじゃいなかったこの力は、世界そのものすら片手間で砕いちゃう。

それなのに、それを誰かに受け止めてなんて、言えるわけないよ!!!】

 

「それでもだよ!!!」

 

【まどかが言わないでよ!!!

宝具も魔法も、能力も天使も無いのに!! 気軽にそんなこと言わないでよっ!!!

―――っ?!? ご、ごめ、】

 

「……よく分からないけど、そうだね。 私には、クトちゃんを止める力はない」

 

【ぅ、ぁ、あ、】

 

「……だから、私に出来ることは、これだけ」

 

【っ?!?!】

 

 

犬歯を剥き出しにして怒ったのは驚いたけど、すぐに悲しそうな顔になったクトちゃんを抱き締める。

ゴツゴツした骨があたって少し痛いけど、はっきりと、クトちゃんの、少し冷たい温もりを感じられる。

 

 

【い、一体、なにを、】

 

「今の私に出来ること。

なにも知らない私じゃ、クトちゃんの悲しみを分かってあげることは出来ない。

なんの力もない私じゃ、クトちゃんの力を受け止めてあげることは出来ない。

だから、こうさせて?

私に出来るのは、クトちゃんを受け入れて、包み込んで、信じることだけだから。

それにね。 さっき人類の敵って言ってたけど、それは間違ってるよ」

 

【………?】

 

 

小さな私の腕にもすっぽりと収まってしまう女の子に、

1番伝えたかったことを、伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私も、ほむらちゃんも、

さやかちゃんも、杏子ちゃんも、

マミさんも、キュゥべえも。

みんなみんな、クトちゃんの味方だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【……うそだ。 だって、あれだけ怖がらせた。 あれだけ傷付けた!

恨んでないはずがない!! 怖れていないはずがない!!!

まどかは怖くないの?! 自分を一捻りで殺せる化け物が柵も檻も無しに目の前にいるんだよ?!】

 

「うん」

 

【なんで?!?】

 

「信じてるから」

 

【ッ――……………でも、もう、遅いんだ】

 

 

ズリ、ズリ、と、クトちゃんが離れる。

妙な違和感を感じて見たら、

腕の骨が、何処かへ引き込む様に、クトちゃんを引っ張っていた。

 

 

【……私の能力が暴走した魔女が、本体である私を取り込もうとしている。 今の状況だって、クトゥルフ(能力)にこびりついた人間だったころの魂が、性懲りも無く足掻いた結果なんだ。

長くは持たない】

 

「そんな、そんなのってないよ!

あんまりだよ!!」

 

 

必死に引っ張るも、踏ん張る場所が無くて、上手く引けない。 それどころか、私まで引き込まれる。

 

 

【手を離せ、まどか。

私と来ちゃいけない】

 

「やだ! 絶対離さない!!

それより、どうしたらクトを助けられるの?!」

 

【………………そうだなぁ】

 

 

諦めきった目で、僅かな間、思案する。

 

 

【………今現在展開している、私の魔術と魔法。 何らかの方法で纏めて全部ブッ壊せば、ワンチャンあるかもな】

 

不可能だけどな、と締めくくる。

 

 

「なら大丈夫! きっと、なんとかなる!!」

 

【……無理だって言ってんだろ。

私の知る限り、実現可能なのはたった数人。 そして、その全員を、私は殺したんだ】

 

 

そ、そんな……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………あれ?

 

クトちゃん(・・・・・)が死なせち(・・・・・)ゃった人た(・・・・・)ちの武器って(・・・・・・)結界にある(・・・・・)んだよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もしかして、魔女の結界にある? クトちゃんを救う方法が」

 

【無理だ。 あの武具は全て劣化して使えなくなってる。

……例外としては、本人が握った場合は一部機能が戻r…………………】

 

ピタッとフリーズする。

 

 

 

【……………ぁ―――――いや、でも、まさか、んなご都合主義なんて、今更起こるわけが、】

 

「クトちゃん」

 

笑顔と泣き顔がぐっちゃになったクトちゃんが、こっちをみる。

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おかえり」

 

【……………私に、応える権利は、】

 

「あるよ。 だから、

―――行こう、クト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――1発の銃声が、響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ゴゴ ゴ ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

!? な、何?!

この場所が急に揺れ始める。

 

「何が起こってるの?!」

 

【……究極の御都合主義だろ。 ったく、カラクリ仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)は私の専売特許だと思ってたんだがな】

 

肩を竦めて、また槍を取り出す。

 

 

【……まどか。 よく聞いてくれ。

今からコイツを持って結界に戻るんだ。 私はここで魔女()を抑える。 この槍を、魔女の乗ってる銀杯の根元に刺すんだ】

 

「えっ?!」

 

足元から光が溢れ出して、クトちゃんの顔が見えなくなる。

 

 

「クトちゃん!? クトちゃんも一緒に、」

 

【私は大丈夫だ。

――なに、結果だろうとはいえ、私を処理しようとしてた奴に後押しされちゃ、私ももう一度くらい、夢を見てみようと思えるさ。

……………それが嘗て憧れた相手なら、尚更、な

 

 

光が私の全身を包んで、―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――気がついたら私は、結界の内側に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 



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共通ルート:第9話






――だから、光よ


その独りぼっちの『少女』を、

己の浅はかさと罪の意識に歪んだ『少女』を、救い出せ

『光』と『闇』

『生』と『死』

『正義』と『悪』

『創造』と『破壊』

『奇跡』と『呪い』

『希望』と『絶望』

『少女』と『邪神』


二つに引き裂かれた少女に、祝福を

運命すらを狂わせる少女に、救済を







sideほむら

 

 

 

 

 

――左右から、まるで互いに引き寄せあっているように迫る双剣、それも3対を魔力を籠めたマグナム弾の銃撃で弾くと、背後から迫る刺突を絡め取って防ぐさやかに向けて放たれた矢を盾で防ぐ。

 

「こなくそぉぉぉぉぉっ!! とぉりぃやああぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

「さやか、まだなの?! この使い魔、2体揃って銃撃が効きにくいから、あなたが頼りなのよ!!」

 

「そう言われても、さやかちゃんも大ピンチなもんでぇっっ!!」

 

両方ともただ撃つだけじゃ平然と銃弾を剣で防ぐし! 私が今相手取ってるちっちゃい方は弾に魔力を付与しないと当たってもダメージ無いし!!

私は魔法を時間操作に全振りしてるから、やりにくいのに!!

 

それに、さっきから念話で呼び掛けているのに、まどかとキュゥべえが応えないのも気になるわ。 見に行きたいけど、――

 

 

《■■■■! ■■■■■■■■■■■■?!》

 

「くっ!!」

 

もう幾つ目か分からない、ボロボロの中華剣の連撃を銃身を機構や弾の籠ったマガジンまで食い込ませて使用不能にして、動きの止まった一瞬の隙を突いて蹴り飛ばす。

 

強引に距離を開けると、何処からともなく取り出した弓矢の射撃が飛んでくるし! ああやりにくいわ!!

 

 

「ほむぅぅぅぅぅっ!! ほむぅぅぅぅぅっ!!」

 

「ほ、ほむら、落ち着いて! 色々と台無しになってるから!?」

 

 

 

 

 

《――■■■、■◾︎■■■■■■■■◾︎》

 

《……■■■。 ■■■■■■■■■■■、■■■■■■。 ■■■■■■!》

 

《■◾︎■■!》

 

何か考えでもあるのか、直剣を装備している方の使い魔が小さい方をかばうように立つ。

 

 

「……さやか、」

 

「分かってる。 デカい方を引きつければいいんでしょ?」

 

「えぇ」

 

「うし、それじゃもいっちょがんばりますかぁ!!」

 

2本の軍刀を交差させて直剣の一撃を防いでいるさやかを背に、使い魔に真っ直ぐ突っ込む。

至近距離で散弾を叩き込めば――

 

 

■■■■(■■■■・■■)!!》

 

 

使い魔もただでやられる訳では無いようで、周囲に何本もの剣が浮かび、その切先が私に向けられる。

 

でももう、今更止まれない。

この一瞬で、決める!!!

 

 

「はぁ――ああああああああああああああああああっっ!!!」

 

《◾︎■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■◾︎◾︎!!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【―――OoaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!】

 

「!!?」

 

魔女が突然、咆哮する。

血を流すだけだった単眼は閉じられ、黒い触手には新たに生えた深緑の触腕が絡みつき、潰していく。

想定外の事なのか、使い魔の動きすらも止まる。

 

い、一体、何が起きて――

 

 

 

 

 

 

 

「――ほむらちゃん! さやかちゃん! よかった、間に合ったんだね!」

 

「まどか!?

―――まどか?!?」

 

危険な場所に来てしまった、大切な友達を守ろうと注意を割いて――その手に持っているモノに、思わず二度見してしまう。

 

そ、その突撃槍は、

 

 

「――クトの槍?! どっからとってきたの?!」

 

「クトちゃんに手渡されたの!」

 

「はぁっ?! ちょっ、タイム! どゆこと?!」

 

 

ナイスよさやか、よく聞いてくれたわ!!

 

 

「それが、私もよく分かんなくて……

あ、でも、この槍を魔女の乗ってる銀杯の根元に刺せばいいみたいだよ!」

 

「? ? ?

ほむら、意味分かる?」

 

「さっぱりよ。

――ただ、風向きが変わったことは分かるわ」

 

ショットガンを盾にしまいながら、そう応える。

 

 

 

 

 

「――ヒィ、ヒィ、 や、やっと追いついた……

まどか、ボクの足は短いんだから、置いてかないd――

きょ、強化版の使い魔?!」

 

「多分大丈夫よ。 ねぇ」

 

《■、■■■■■■■■■■■◾︎■◾︎◾︎■■■》

 

同じく剣を虚空に溶かした使い魔が、歩み寄って―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投擲した剣が、使い魔とも違う、錆臭い怪物の眉間に突き刺さる。

 

《■■、■■■■■■■!》

 

《■、■■■■■■■■、■◾︎■■■■■■■》

 

「……そうね。 急がせてもらうわ」

 

なんとなく、『さっさと行って終わらせてこい』みたいな事を言われた気がしたから、返事をする。

 

《……!

――■■、■■■。

■■、■■■■■◾︎■■■■■■■■◾︎■?》

 

「……ええ。

それじゃ、行くわよ!!」

 

追加で湧き出てきた怪物を使い魔に任せて、私はまどかをお姫様抱っこして駆ける。

背後でキュゥべえを肩に乗せたさやかが何やら騒いでるのは無視する。

 

「ちょ、ほむらちゃん?! 私、自分で走れるよ?!」

 

「こっちの方が早いし安全だわ」

 

「で、でも――」

 

うんヤッパリマドカハカワイイワマドカマドカマドカマドカマドカマドカマドカ(若干SAN値喪失中)

 

 

 

 

 

 

 

「――あら、随分と仲良しね」

 

「おいほむら?! ちょっと瞳孔開いてるけど大丈夫かよ!?」

 

途中、同じく使い魔と戦っていたマミたちと合流する。

 

………まどか??

 

 

「ぷしゅー」

 

「ま、まどかぁ?!」

 

こんなに顔を真っ赤にして、こんなに動悸が激しくなって!

毒物反応に近いものがある気が――槍の影響=クトの所為ね! おのれクトォ!!

 

「いや流石にそれは無い」

 

 

 

 

 

「――で、どういう状況よ?」

 

「それが――」

 

方法は不明だけれど、クトと接触出来たまどかが、クト本人から渡された突撃槍を持っていたこと。

まどか曰く、その槍を杯に刺せば、なんとかなるらしいことを、伝える。

 

「つまり……どういうことだ?」

 

「そんなの私が聞きたいわよ。

でも、ゆっくり考える時間は無いようね」

 

 

――視界の一部、空間に直接ノイズが幾つも走り、そこから強烈な錆の匂いが漂う。

やがて使い魔とは全く異なる『ナニカ』が、滲み出てくる。

 

 

 

「……魔女から魔力供給を受けてない。 クトとは完全に無関係な存在だ!」

 

「みたいだな。 アタシたちも襲われたよ」

 

「そんなに強くなかったから、囲まれなきゃ簡単に倒せるわ。 一応気をつけてね」

 

あ、使い魔が見当たらないと思ったら、斃されてたのね……じゃなくて。

 

「なら任せていいかしら」

 

「ええ!

それじゃ鹿目さん、クトをよろしくね」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

――銃声が鳴り、鎖が擦れる音がする度に異形の叫びが響くのを背に走る。

 

行き先を塞ぐように魔女の触手が振り下ろされるけれど、優先的に触腕に潰されていく。

 

「……いける。 いけるよ! この調子なら、」

 

「……だといいわね――ッ!?」

 

 

 

 

――ドガガガガガガガガガガッッ!!!

 

 

 

 

直感的に横っ飛びに跳ねると、翡翠色の鎖が鞭の様にしなりながら降り注ぎ、地面を抉る。

また邪魔ね!!

 

 

「!! 結界に揺らぎ――それもアフォーゴモンが現れた時のものに近い。

間違いなく神話生物だ!」

 

チッ、最悪のタイミングで最悪の邪魔が現れたわね。

 

仕方ないわ。 なんとかやり過ごさないと――

「ほむら! まどか! 行って!!」

「!? さやか?!」

「さやかちゃん!!」

 

僅かに焦燥している間に、さやかが1人で飛び出してしまう。

 

「無茶よ、戻りなさい!!」

 

「ッ、ヤダねっ!!」

 

鎖鞭に長く伸びた剣が絡み、一瞬でもぎ取られるもすぐさま新たに剣を現界させて構える。

 

 

「あたしはもう逃げない! ただ目の前で起きることを眺めてるのはもういやだッ!

あたしはあたしらしく、シンプルに、

救い(正義)を邪魔するコイツらを、たたっ切る!!」

 

「あーもう! ボクだってやってやる! 幸い魔術の跡は見えるから、不可視の攻撃が来たらボクの指示に従って!」

 

無茶だわ!

敵は恐らくアフォーゴモン。 さやかの実力じゃ瞬殺されてしまう。

私が参戦しても勝てない相手なのに!

 

「さやか――」

 

「ッ――早く、行けぇぇぇぇぇぇええ!! はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

一閃を躱し、地面に突き刺さった鎖を足場に、神話生物に向けて駆け上がる。

 

くっ、こうなったら私に出来るのは、一刻も早くこのバカ騒ぎを終わらせることね!!

 

 

「まどか、飛ばすわよ。 しっかり掴まってて!!」

 

「う、うん!」

 

幅広な大剣を適当に一振り見繕って、ちょっとオーバーな量のC4を下敷きにして蹴り倒す。

すぐさま起爆。 剣で爆風を受け、波に跳ね飛ばされたサーファーの様に宙を進む。

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!? こ、こんなの、聞いてないよぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

「―――よし、上手くいった……!!」

 

 

 

若干賭けだったけど――魔女の目の前に滑り込むことに成功する。

 

同時に、翼の生えた、人間を軽く数人吞み込めそうなほど巨大な醜悪な顔面の蛇が複数体、ノイズと共に現れる。

 

「チッ、いい加減しつこいわよ!!」

 

まどかを優しく降ろすと、盾からM60(マシンガン)を引き摺り出して、腰だめに持つ。

 

「――さ、蜂の巣になりたいやつから来なさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideまどか

 

 

――魔女の乗ってる銀杯に触れるまで走る。

 

近付いていくと力強く脈動する槍の先っぽを表面に押し付けて、力一杯押し込む。

まだ自分を許し切れてないのか、上手く刺さらないで、小さな傷しかつけられない。

 

 

「……ねえ、クトちゃん。

クトちゃんはさ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――正義の味方に、なりたかったんだよね」

 

応えるみたいに、槍が一瞬、強く光る。

 

 

 

 

 

 

 

――『あらゆる絶望を、敵を、悲劇を壊す力が。 最強の力が欲しい』

 

それが、『記録』にあった、クトちゃんの最初の願い(原点)

 

 

 

 

 

「――なら、泣かないで。 終わりになんて手を伸ばさないで。

これまでの希望を信じてきたその時間を、忘れないで、最後は笑顔でいてほしい。

 

 

 

――希望を抱く事は、その夢は、

間違いなんかじゃ、ないんだから!!

 

 

 

 

 

――あなたが覚えている限り、あなたはひとりぼっちなんかじゃないんだから!!!!

 

 

 

 

 

だから、だから――

 

 

 

 

 

スルリと槍が杯に刺さると、ガラスが割れる音がする。

 

結界が金色にヒビ割れて、白い、淡い、温かいものが地面から溢れ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あなたの夢見る理想郷を、叶えてよ!! クト―――!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Story to the "Hero"
ルート:第1話


sideほむら

 

 

 

 

 

 

 

―――目が醒めると、妙に見覚えのある天井。

 

………ここって確か、マミの部屋、よね。

 

 

不思議と痛む節々を軋ませながら上体を起こすと、雑魚寝している部屋の主を始めとした4人+1匹の姿が視界に入る。

 

 

……? なんで皆、ここに集まっ、て―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうだわ。 クト!」

 

いない。

咄嗟に時間を確認すると、あれは昨夜の出来事になっていた。

 

まさか、失敗したんじゃ―――

 

 

 

 

 

「ソウルジェムの反応は、

………?」

 

微風が頬を撫でる。

窓を確認すると、一箇所だけ、カーテンがたなびいている。

 

そっと近付いて、窓を開けると、

 

 

 

 

 

「………クト?」

 

「…………………………」

 

 

未だ日が昇らない、明け方の空を眺める少女の姿があった。

ベランダの柵に寄りかかる彼女の隣に立ち、同じように地平線を眺める。

……日が昇りきるまで、後5分ってとこかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………なんで、今回なんだよ

 

 

しばらくして、ボソリと、口が開く。

 

 

「………鍵は前回の時点で揃っていた。 戦力も前回の方が潤沢で、準備も万全だった。

なんで、なんで、彼奴らは死んだんだろうな」

 

 

――言葉と共に、眥から涙が溢れる。

 

 

「………何が足りなかった? 何が違った?

一騎当千の人外集団と、魔法少女4人に一般人1人、地球外生命体が1匹。

なんで私は助かってしまった?

なんで彼奴らが失敗した?!」

 

「クト………」

 

鼻を啜り、涙を手で拭ってから、再度、口が開く。

 

 

「……ほむらたちに言うのが間違っていることは分かってる。

彼奴らは失敗して、ほむらたちは成功した。 結果は、変わらないし、問答したところで、死者は帰ってこない。 ならすべきなのは、その結果を喜ぶことだ。 分かってる。

分かっ、てる……………ッ」

 

 

ベランダの手すりが悲鳴をあげ、小さな破砕音が鳴る。

隙間からは赤い液体が滲み、溝を伝って、手すりの無事な部分に赤い線を引く。

 

 

「………でも、考えてしまうんだ。

あの時、何をすべきだったのか?

何と言うべきだったか?

……………あの時(・・・)、私は、

自身の死を、素直に受け入れるべきだったんじゃないか?」

 

 

 

 

 

「――そんなことは無いわ」

 

外見年齢相応に顔をくしゃくしゃにした少女が、振り返る。

 

「あなたがいたから、救われた人はいたはず。

あなたがいたから、助けられた命があったはず。

絶望した記憶しか遺っていなかった『記録』のなかでさえ、笑いあっていた記憶は、確かにあったのだから」

 

「でも私は、その全てを自分で壊した。

私が!! この手でっ!!!」

 

「………はぁ」

 

指輪として小さな手にあった、半分程濁っていた無色透明のソウルジェムをグリーフシードで浄化してあげながら、

おそらく彼女がなんども聞いて、

そして、忘れてしまっただろう、その言葉を口にする。

 

 

「クト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ありがとう。 助けてくれて」

 

 

 

「……………なんで、そんなに優しいんだよ」

 

「あなたの気持ちが、少し分かった気がしたから、かしら。

私も、幾たびものやり直しの中で、だんだんとまどかとの心のすれ違いが広がっていった。 言葉がずれていって、微笑んでくれることが減っていった。

だから、あなたが嫌われるために動いた時の、心の悲鳴は、想像出来る」

 

 

 

『――本当はこんなこと、したくない』

 

『――全てを話して、楽になりたい』

 

『――なんで、上手くいかないの。

私はあなたを、助けたいだけなのに』

 

 

マミと敵対し、さやかに嫌われ、まどかには信用されなくなってしまった、

そんなループに迷い込んでしまった、私の想い。

 

 

 

 

 

「……………」

 

「………そういえば。

私は、暁美ほむらよ」

 

「? ………なんのつもりだ?」

 

穢れを吸ったグリーフシードをしまうと、右手を少女に差し出す。

 

 

「始めにあった時、あなたがさっさと私の名前を言ったから、自己紹介し忘れてたことを思い出したのよ。

――友達(・・)なのに、自己紹介無しなんて変でしょう?」

 

 

勇気を振り絞って、その2文字を言う。

………まぁ、自己紹介云々は最初の頃のループ時にまどかとさやかから言われていたことだけど。

 

 

少し顔が赤くなってる自覚があるから、少女の顔を見れずに目をそらせていて、反応が分からない。

 

ほむぅ、スベったかしら………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふふ。

クククックククク………

――あっはっはははははは!!」

 

「……?」

 

笑い声が、響く。

心の底から可笑しいと思っている、明るい声色の笑い声が。

 

 

「最狂の殺戮種を、友達、か。

なんのジョークだよ、どっかの成金でももうちょっとギャグとして成り立ってるシャレを言うぞ! ぶっはははははははははは!!!」

 

 

一頻り笑うと、ガッチリと手を取る。

 

 

 

 

 

「―――クトだ。

余計なモン(骨翼やら能力やら)があるが、こう見えて元人間だ。 姓は………八雲でいいか! ふははははははは!」

 

 

 

――昇った朝日が、私たちを照らし、透明なソウルジェムが反射で輝く。

もう、闇は晴れたのだと、伝えるように。

もう、夜は明けたのだと、証明するように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それじゃあ、私はそろそろ部屋に戻るわ」

 

「ほいよー、私はコレ如何にかしてからにするわ。

……ったく、いろんな意味で後悔先に立たずだなこりゃ、どすっかなー」

 

ひしゃげ、乾いた血がこびりついた手すりにため息を吐くクトを置いて、窓ガラスをスライドし――

 

「ちょ、早くどいてよ!」

「無茶いうな! 上が重いんだよ!」

「煩いわよ! これでも体重は減ってるんでsあぅっ!」

「ぐべらっ!? ひ、ひははんなぁ(し、舌噛んだぁ)〜!」

「キュビャァァァ! お、おお落ち――グフッ!!」

 

「……………はっ??」

 

 

下から、まどか、杏子、マミ、さやか、キュゥべえが覗いていて、慌てて逃げようとして軽くカオスだった。

 

 

「……あ、あなたたち、なんで、いつから、」

 

「な、なにも見てないよ?!

ほむらがお礼言ったとことか、友達って言った瞬間に顔が赤くなってたとことか、ホンット見てないから!!」

 

「さやかぁぁぁぁぁ?!?!」

 

パニクってまるっと全部喋ったさやかを、杏子がガンガン揺らす。

 

 

 

 

 

………ふふ。 つまり、私の恥ずかしい場面は全部見られたってことよね……………?

 

 

「――そんなの、

皆サクッとやっちゃうしかないじゃない!!」

 

「オイマテほむら!! その『や』の部分の字は何だ?! 今スゲーやな予感がしたんだけど?!?

つか目のハイライト戻せぇ!!」

 

「うふふ……

どうしたのかしらまどか。 大丈夫よ?」

 

「どうしよう、ほむらちゃんの言ってること、本当だって、思えない」

 

「ここで原作名台詞無駄打ちしちゃう?! 普通もっとシリアスな場面で使うセリフだよね?! 今思いっきりギャグパートだよね?!」

 

「―――るせェェェェェ!! しかも色々とメタすぎるわァァァァァァァ!!!」

 

「「「「「ぎゃーーす!!」」」」」

 

 

結局、下の部屋から床ドンされるまで、馬鹿騒ぎは続いた。

 

 

 

 

 

 

 

――その間、異形の少女から笑顔が絶えることは、無かった。

 

 

 

 

 



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ルート:第2話

sideほむら

 

 

 

 

 

――空を覆う暗雲を睨む。

強く吹く風が、全体的にヒラヒラした魔法少女の衣装を靡かせる。

 

 

「……ついに、ここまで来たのね」

 

「感慨深そーだな。

……ま、そりゃそうか」

 

 

前には、前衛のさやかと杏子、クトが、

 

後ろに振り返れば、後衛のマミが、確かに、そこにいる。

 

今までではとても実現出来なかった、最高の状態。

不安要素すら限界まで減らした、最適な状況。

 

 

 

―――いける。

 

 

今回こそ、ワルプルギスの夜を。

1人も欠けさせずに、倒す。

 

そして、この永い夜を、終わらせてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――雲が僅かに晴れると、頭に直接、舞台の幕が上がるイメージが叩き込まれる。

 

古風な紙に描かれた数字が、舞台の始まるまでの時間を、何処までも残酷に、正確に、刻む。

 

 

 

 

 

――バキボキと、手の骨を鳴らし、詠唱の長い魔術の下準備の呪文を小さく口ずさむ。

 

 

 

 

 

 

――⑤――

 

 

 

 

 

――盾を操作して、大量の榴弾砲をいつでも撃てるように並べる。

 

 

 

 

 

――④――

 

 

 

 

 

――両手槍が顕現し、柄の内側に潜んだ鎖が、僅かに擦れる音をたてる。

 

 

 

 

 

――③――

 

 

 

 

 

――刃を重ねた、特殊な剣を右手に携え、左手には只ひたすらに頑強にした軍刀を握る。

 

 

 

 

 

――②――

 

 

 

 

 

――周囲に大量のマスケット銃が浮かべ、更に未顕現の武装を魔力塊として展開する。

 

 

 

 

 

――①――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――アハ、アハハハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハ』

 

 

上下逆さまに浮かぶ、伝説の魔女。

 

甲高い笑い声をあげながら、その暴風で巻き上げたビルや大型車両を撒き散らす。

 

 

 

 

 

――時間、停止っ!!

 

 

カチリと時間が止まり、片っ端から榴弾砲の引き金を引く。

神話生物との戦闘で誘導式の物は相当数消費してしまい、一々狙いをつけなければならない。

 

けれど、いつもより早いペースで榴弾が打ち上がっていく。

 

「……やっぱりあなたって、規格外よね」

 

呆れた目で、隣でトリガーハッピーしてる少女を見る。

 

「何を今更。

……冗談ともかく、私もビックリだよ、ホント。 クッケケケ(・・・・・)

 

『私と同じような盾』を左手首につけたクトが、ため息半分に笑う。

 

 

それを聞きながら私は、つい先日の出来事を思い出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1週間前

 

 

 

「――能力の封印をしたい? どういう事よ、クト」

 

対ワルプルギスの夜の作戦を練っている最中、思い出したように「あ、そーいえば」みたいなノリで言い出した内容は、『今ある能力を封じる』といったものだった。

 

 

「どうって、まんまそのままだけど?

……今は問題ないが、私が(邪神)である以上、何時狂気に呑まれるか分からないからな。 早いうちに片付けた方がいいだろう」

 

「あー……確かにそれはそうよね」

 

「でも、方法が分かんないんだよ。

こっちの魔術は一通り試したけどダメでな」

 

ヤレヤレと肩を竦める。

 

 

「……魔法で人間としての肉体を1から再構成するっていうのはどうだい? 明確なイメージがあれば出来るハズだよ」

 

と、キュゥべえ。

 

 

「お、じゃちょっち試してみるか。

……………む〜〜」

 

ソウルジェムを手に、唸る。

 

「……イメージするのは、常に最高の私。

具体的には身長160くらい、BWHは90――」

「欲望ダダ漏れじゃねーか?!?」

 

スパーンッ!

 

ハリセンでツッコミが炸裂する。

……あと杏子? 幾ら平常時はグリーフシードの心配をする必要がなくなったとはいえ、わざわざハリセンを魔力で編むことは無いでしょう。

 

 

「……あの調子じゃまず上手く行かなそうだね。 代案を考えるとするか」

 

「そういえば、なんで魔女になった時に自我が保てたの? あたしなんて記憶も無いんだけど」

 

それは私も気になるわね。

 

「イタタ……それが私にもよく分かんないんだよね。 想像としては、この肉体に(人間の魂)が入った時点で混ざってた邪神の魂()の方だけが魔女化してたとか?」

 

「うっわ、私わたしでややこしぃ!」

 

ま、確かにちょっと違う気がするわね。

 

「んじゃ二重人格とか?」

 

「魂1つじゃん」

 

「じゃあそもそも魔女化してなかったとか!」

 

「その可能性も微レ存なのが怖いな」

 

「あれは間違い無く魔女の結界だったよ」

 

「そんなことよりおうどんたべたい」

 

「あ、私作れるよ」

 

「「「MA☆JI☆DE!?」」」

 

 

あああ、話がマッハで脱線していくぅ……

 

 

あ、それとまどか、私の分も頼むわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえクト、封印系は一通り試したのよね? その一通りっていうのは何処まで試したのかしら?」

 

「? まあ旧支配者なら確実に抑えきるどころか圧死するレベルまで試したけど」

 

「ブフォッ?!」

 

さらっと自殺試しました発言が出る。 だいぶマシになった(?)とはいえ、やっぱりクトとの会話は心臓に悪いわ……

 

「ふーん………

――なら逆に、その封印を破れる邪神は?」

 

「そんなの聞いてどうするんだ??

えぇっと」

 

記憶を探りながらなのか、指を折りながらブツブツと幾つかの名前を上げる。

 

「ハスター〆てセラエノ押し入ったり、クz――……ゴm――……旧神2分の5殺しにして色々パチったモンも使ったから……

私が知ってる限りで、所謂ツートップは確実、人類絶対ぶっ殺すマン(ヤマンソ)――はギリ無理か? ビッ○(シュブ=ニグラス)は潰したことあるから無理、ニャルでワンチャン、以上だな」

 

「………ぇぇ、旧神オーバーキルするクトゥルフってなに?? それに外なる神も斃してるし」

 

【あんな過去の栄光に縋り付くことしか出来ない老害共なんぞに負けるかっ!!

シュブは、うん。 ……色々タイミングが悪かった」

 

 

個人的に恨みでもあるのか、語気が荒くなる。 2分の5って、どう考えてもやり過ぎでしょうに。

 

 

 

 

 

「………うーん。

ね、美樹さん。 ちょっといい?」

 

「? なんですか?」

 

何やら小声で相談するマミ。

さやかの顔色が僅かに青くなったけど、何と言ったのかしら?

 

 

やっぱり美樹さんもそう思うわよね。

………ねえクト、試してみて欲しい手があるんだけど」

 

「なんじゃらほい??」

 

「それは、―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――『アザトース』の封印式を試してみてほしいのよ」

 

ゴブフォバッッッ?!?!

ぎ、気管にズトレードに"はいっ!!」

 

相当驚いたのか、啜っていたうどんの麺でむせた。 慌てて飲んだ水も変な所に入ったらしく、さらに七転八倒してるし。

 

 

 

 

 

〜少女悶絶中〜

 

 

 

 

 

「ゼフュー、ゼフュー、……

で、アザトースの封印? 専用のならあるけど、それがどうしたんだよ」

 

空間に浮かぶ赤黒い波紋から吐き出された、革張りの表紙の奇妙な本をパラパラめくりながらジト目で聞き返す。

 

 

「この前見た、貴女の魔女化した時の姿なんだけど……一時だけだったけど、その外見がクトゥルフというよりも、アザトースに見えたのよ。

それに、あくまで司祭のクトゥルフが旧神を斃せるっていうのもおかしな話よ。 ブライアン・ラムレイ系ならクトゥルフは神話最強の邪神として扱われているし」

 

「またマイナーな設定を……

まぁ、なら力の本質は別にあるってことか。

――んじゃ、物は試しでやってみっか!」

 

指先の皮を噛み千切り、滲んだ血を頁に擦り付けると、半透明の黒い魔法陣が広がり、壁をすり抜ける。

 

「さて、さて。

魔力は充分。 SAN値、は無視。

ちと不安な点はあるけど、まぁ、なんとかなるだろ。

………――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

――呟くように、細く息を吐く様に、呪文を唄う(・・)

 

 

 

 

 

静かに染み渡るその音色には、なんの意味が込められていたのか。

どんな意図があったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それを知るのは、ずっと、後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精密に描かれた魔法陣が閃光を放ち始め、クトの立つ中心部に向けて集束して―――

 

ダメだ、これ以上は眩しくて見ていられない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――もう目を開けていいぞ」

 

疲れた様子の声に従って目を開くと、輝きを失った魔法陣が本に吸い込まれていた。

その足元には、ヒビ割れた、充血したように赫い線が走るドス黒いソウルジェムのようなものが。

 

 

「……上手くいったのかしら?」

 

「マミたちの予想が正しければな。 こっち系統の呪文は手順が簡単なものが多いけど、その分成功と失敗のラインが厳しいし、ミスった時の被害がエゲツないからな」

 

「うへぇ」

 

流石に誰も手を出さず、クトがそのナニカを摘む。

 

「ふむむ………」

 

「………どう、かしら?」

 

回したり、ひっくり返したりして色々な角度から眺めていると、急に握り潰さんばかりに力を込める。

 

次の瞬間、膨大な魔力が膨れ上がって―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あー、ビンゴだなこりゃ。

ここまで単純な話なら、もっと早く気付けよ私ェ………ゥェェ………」

 

 

私たちはまた、無限の武器の突き立つ地獄に立っていた。

……orzしてる魔法少女姿のクトを、中心に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あれから、意気消沈して「リスカしてー」としか言わなくなったクトを強制的に再起動して(1度気絶させて叩き起こして)、マミの部屋に戻った。

 

「それで結局、上手くいったってことよね?!」

 

「みたいだな。 つっても100%完全に封印出来た訳じゃない。 回路やらがぐっちゃになって治癒に集中していた分を切除したって感じだな。

……あの弾丸の傷元通りに戻せるって、チート過ぎだろおい

 

手の中で転がされている、黒いソウルジェムの形をしたナニカをチラリと横目で見る。

 

 

「つまり、もうあなたが狂うことはないのよね」

 

「自爆でこれ以上狂うことはないな」

 

「? 『これ以上は』?」

 

「……SAN値は寝れば回復するもんじゃないんだよ」

 

「」

 

だからいきなり死んだ魚の目になるのやめなさい。

 

 

「……で、聞きたいのはそんなことじゃないだろ、ほむら。 読心()まなくても顔に出てるぞ」

 

「……………あなたの問題が解決したのは喜ばしいことだわ」

 

「そーだな。

ちなみに今の私が呪いのアイテム(ドス黒いソウルジェム)無しに魔法少女になっても戦力は低いぞ。

なんせクトゥルフは物理特化だからな。 ワルプルギス相手じゃ相性が悪い」

 

「………何が言いたいのよ」

 

「………」

 

ポリポリと頬を掻いて、困ったように小さくなった翼をはためかせて、頭を仰け反らせて唸って、

 

「ハヨ言え。 3行」

 

「今の私は戦力外。

故絞りカス使って能力の部分復活。

アイデア無いんで下さい」

 

「あ、ちゃんと3行で纏めるんだ。 絶対4行いくと思ってたのに」

 

「」

 

銃口を向けて脅すと、危惧していた応えが返ってくる。

 

「能力を戻すって、じゃあ狂気はどうするのさ?!」

 

「だから部分復活なんだよ。 経験則だけど、1割程度なら自力で抑えきれる。

それに、――」

 

 

言うかどうか一瞬逡巡して、

 

 

 

「――私の贖罪は、まだ終わってない。

戦うにも、世界を越える(・・・)にも、力の一端は必要だ。

………命1つ救えない、あやふやな『全能(最強)』なんかじゃない。 明確な『力』が」

 

「……………」

 

何処か痛々しい、真面目な顔でそう呟く。

その瞳の裏には、あの地獄が映ってる気がした。

 

 

 

「……なに、前みたいに自殺してそれで終いだとは考えないよ。

今度こそ私は、ハッピーエンドを掴むんだ」

 

「―――分かったよ、クトちゃん。

任せて! さやかちゃん、マミさん! 手伝って!」

 

「おーし、頑張っちゃうぞー!」

 

ふんすと張り切ったまどかたちが、2人を引き連れて別の部屋に移る。

 

 

 

 

 

 

 

「………あのメンツ、大丈夫だよな? なんかすっげぇ不安なんだけど? やべぇ早まったか??」

 

「………」

 

「?」

 

言いたいことは分かるわ。

中2(マミ)夢見る少女(まどか)悪ノリ(さやか)だものね。

 

……………うん。

 

 

 

「……強く生きなさい。 どんなオチでも、あなたはあなたよ」

 

「ヤメロォ、そんな目で私を見るなァ!!

あァァァんまりだァァアァ!!

 

大げさに嘆く幼女。

ま、散々梃子摺らされたんだから、これくらいは、ね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おーい、出来たぞー!

……って、なにやってんの?」

 

2時間程で、まどかたちが帰ってきた。

なにやら書き込まれたノートを掲げて真っ先に部屋に入ったさやかが見たのは、

 

 

 

 

 

「……私、いつから虚○ランサー(幸運E)になったんだろ。 槍か? クトゥルフネタか?」

 

「」チーン

 

「ちょうど良かったわ、助けてちょうだい。 どうすればいいのか分からないのよ?!」

 

トランプでボロ負けして灰になった杏子と、虚ろな目でメタ発言をするクト。

そして、私の傍に山と積み上げられたお菓子と物体X。 なんとかの猟犬用の犬笛とか、意味不明なモノを賭けられても困るんだけど!

 

 

「うわ、なにこの山?

で、なにがあったのさ??」

 

「……最初は杏子が暇潰しにトランプを出したのが始まりだったのよ」

 

「ほむほむ。 それでそれで?」

 

「………負け込んだ杏子が、『なんか賭けようぜ! そっちの方がやる気出る』って………」

 

「あっ(察し。

オチは察したけど、それでどうなったの?」

 

「……1人勝ち、しまくっちゃったのよ」

 

「ワーオ。

……取り敢えず、貰っといたら?

安全だけ確認して」

 

「分かったわ」

 

その後、クトから貰ったモノの山の約8割は本人に返却(強制)されたわ。 「ティンダロスの手綱とか干将・莫耶とか洞爺湖とか、何考えてるのよ?!」とマミに叱られてたわね。

本人は涎垂れてたけど

 

なお、「正しく使えば害無いどころか便利なのに」とはクト談。

 

 

 

 

 

「――で、どんな具合になったのよ?」

 

お説教から解放されたクトが突っ伏しているのを放置して、ノートの中身を覗き込m――

 

 

 

 

 

…………………なに、これ?

 

 

「ま、まどか、これ、は?」

 

「クトちゃんの魔法少女設定集!」

 

「どれどれ………

……………メアリー・スー全開だなオイ

 

そこに書かれていたのは、どっからそんなネタが滲み出たのかと問い詰めたくなるような設定集(黒歴史化待った無しの内容)

 

 

「ていうか、なんで笑い方まで指定してるんだよ?! 『クッケケ』とかただの怪しい奴じゃねえか!?」

 

「え? かわいいじゃん」

 

「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………本当に、あの『力』といい笑い方といい、よく受け入れたわね」

 

「まあ本人の笑い方が『ウェヒヒヒ』だからねぇ。 それにこれくらいじゃないと詰みかねない……っと、こんなもんか?」

 

ワルプルギスの夜を発射された榴弾が囲う。

 

――停止、解除!

 

 

世界が色を取り戻すと、幾重にも重なった爆発がその巨体を吹き飛ばす。

 

 

「さやか! 杏子!」

 

「おっけーお任せぇっ!!」

 

「わーってる!!」

 

青と赤の魔法少女が距離を詰める。

 

反撃としてビル郡が落下してくる、が、

 

 

「させると思うか?

切り替え(クラスチェンジ)、バーサーカー!!」

 

黒と紫を基調としたものから、黒と一色の衣装に切り替わり、その小振りな骨翼が風を含む。

 

 

「――CREATE BARRIER OF NAACH=TITH(ナーク=ティトの障壁)!!」

 

呪文が唱えられると、巨大な半透明な壁が空を覆う。

落下するビルは勿論、ワルプルギスの暴風を壁が遮る事で宙に浮きっぱなしだったあらゆる人工物が堕とされる。

 

 

 

 

 

 

―――さて。

 

 

「決着を、つけましょうか」

 

 

杏子から念話での合図と同時に、使い魔用程度にまで威力を抑えて設置したC4爆弾のスイッチを、押した。

 

 

 

 

 



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ルート:第3話

sideほむら

 

 

――爆発でダウンしたワルプルギスに向けてガソリンタンクを突っ込ませて追撃する。

爆風が地面を抉り、その巨体が半分程埋まる。

 

『アハ、アハハハハハハハ!』

 

「っ! マミ、今よ!」

 

「えぇ!」

 

その埋まりかけのワルプルギスを、四方八方から伸びるリボンが絡んで抑える。

 

 

――ワルプルギスの夜は、撃墜しない限り常に浮き続ける。

私やマミの様な遠距離攻撃手段を持たないと、飛べる等一部の例外を除けば、攻撃すらままならない。

 

なら、ガリバーよろしく地面に縫い付ければいい。 そうすれば、大質量の押しつぶしは使えなくなるうえに、侵行を食い止める事だって出来る。

リボンの拘束を破る可能性は、

 

 

 

 

「!? ちょ、早すぎよ!!」

 

「ハイハイ、ロードローラーだッッ!!」

 

早速突破仕掛けたワルプルギスを、ロードローラーを投げ付けて押し潰して抑え、更に衣装を黒一色から赤が混じったものに変化させ、槍の雨を降らせて縫いつける。

 

 

「よし、今だ!!」

 

「たぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「クケッ! ラジャラジャっとォ!!」

 

動きが鈍り、無駄に巨大な的と化した魔女に向けて、十字槍が、軍刀が突き刺さる。

 

更に無限の魔弾が降り注ぎ、巨体を構成する歯車が軋み、欠け、破損し、しまいには轟音を立てて砕け散る。

 

 

よし! これなら、勝てる!!

 

 

 

 

 

――だがそこは最強の魔女。 そうは問屋がおろさない。

 

ワルプルギスの夜から噴き出した触手が使い魔に変化する。

 

オマケに風が一気に強くなる。

 

 

 

……この、感じは。

 

――この、風は!!

 

 

 

 

 

「――ワルプルギスが本気を出し始めたわ! 注意してっ!!」

 

 

何度も感じた、

 

ひっくり返った状態のワルプルギスの夜が、反転した(上下正しくなる)、第二形態!

 

 

 

いとも簡単に拘束を引きちぎり、超低空飛行のまま魔弾を降らせ始める。

 

くっ、やっぱり厳しい――

 

 

 

 

 

『アハハハハハ――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――じゃあかぁしいわ西洋版百鬼夜行ぉ!!!

 

風を斬る轟音と、爆音が発生すると共に、魔弾が迎撃される。

 

慌てて振り向けば、切先から煙を吐くランスを半分に折り、弾を籠める少女が。

 

 

キッと浮かぶ巨体を睨むと、怒声で指示を出し始める。

 

 

「さやか、杏子! 奴が浮かべる瓦礫に飛び乗れ! 足場になるし圧死も防げる!

マミ! 足を止めるな! 弾は貫通重視! ティロフィナは合図を待て!

ほむら! 雑魚をやるぞ!!」

 

衣装に黄色を混ぜたクトが、マスケット銃を手に使い魔の群に突撃する。

 

 

「――っ! ま、待ちなさい!」

 

 

慌ててサブマシンガンを片手に突っ込むと、ストックで使い魔を撲殺する姿が目に映る。

 

 

「オラオラオラオラオラァ!! どしたぁ、私の影の方が断然根性あったぞ!!」

 

「ちょっとクト! 『計画』はどうしたのよ?!」

 

「問題なしッ! いまざっと、80、パーセントォッッ!!」

 

フルスイングで使い魔の首を吹っ飛ばす少女の背後にいた使い魔を撃ち抜く。

 

 

さて(・・)さぁて(・・・)

ド派手に行きますかぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideキュゥべえ

 

 

――祈るように見つめるまどかの肩に乗ったまま、彼らの様子を伺う。

 

 

黒い塊と化している使い魔の大群を内側から減らす舞を。

 

 

瓦礫から瓦礫へと跳ぶすれ違いざまに、台風の目であるワルプルギスを斬りつける煌めきを。

 

 

降り注ぐ魔弾を的確に処理し、魔女の歯車を削る閃光を。

 

 

 

 

 

「……キュゥべえ。

みんな、大丈夫だよね? ちゃんと、帰ってくるよね?」

 

「……あぁ。 多分、

――いや、絶対大丈夫だ」

 

 

 

 

 

が、現実は、何処までも残酷だった。

 

 

 

 

 

――最初に綻びが生じたのは、意外にも杏子だった。

 

そもそもの話、超大型魔女であるワルプルギスの夜に対して人の扱う武器は、小さ過ぎる。

 

そして、二刀流での防御を主軸に立ち回るさやかと違い、只でさえ不安定な足場のなか、杏子は武器を巨大化させてダメージを与えることに集中していた。

 

 

それらの要因が不幸にも合わさり、足元を掬われた杏子が、強風に揉みくちゃにされながら落下していく。

 

 

「!?!? 杏子ちゃん!!」

 

くっ、急いで念話を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideほむら

 

「クト!」

 

「了解! 伏せろ!!」

 

キュゥべえからの念話を聞いてそれをクトに伝えると、言われた通り急いで身を伏せる。

 

音でそのことを確かめたのか、ランスのマガジン部を掴んで引き金を、って、

 

「クッケケケケケ!! フルバースト(暴発砲)!!」

 

 

わざと榴弾を暴発させることで、ランスの隙間から圧縮された爆風が周囲の使い魔を吹き飛ばし、さらに砲門が向いていた方角の敵は、文字通り消し飛んでいた。

 

 

――そう、丁度杏子が落ちてくる方角が。

 

 

「ほむら! ゴー!!」

 

「分かったわ!!」

 

 

――時間、停止!

 

 

杏子の元に走――

 

 

 

 

 

「……ちょっと高くないかしら?」

 

落下している途中で時間を止めたから、とても手が届かない。

 

さて、どうしようかしら。 また爆風を利用して飛ぶ?

 

 

…………………いえ、もっといい方法があるわね。

 

 

 

 

 

灰色の世界で、動きが完全に止まっている少女に触れる。

 

「――とぉ? どったよほむら?」

 

「杏子のところまで打ち上げてほしいのよ」

 

「私はロケットエンジンか何かか?!」

 

文句を言いながらも、黒一色の衣装に変わったクトが突撃槍を地面と水平に構え、その刀身に乗る。

 

 

「――せぇーーーのぉーーー!!

おるぅぁあああ!!!」

 

そのままフルスイング。

正確なコントロールで文字通り打ち出された私は、空中で止まっている杏子をキャッチ、ビルの壁に着地すると、フックショットを外壁に撃ち込む。

 

「!?! ほ、ほむら?!」

 

「注意しなさい。 いくら魔法少女でもあの高さで頭から落ちたら面倒よ」

 

具体的には、

頭部破損→ソウルジェム使用不可→運が悪ければその隙にソウルジェム破壊

で死にかねないわ。

 

それより、さやかの援護に行かないと!

 

停止、解除!

 

 

『アハ、ハハハハハハ! アッハハハハハハハ!』

 

 

頭を上にしたワルプルギスが、高笑いを響かせながら、魔力弾を放出する。

 

っ、迎撃を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ブワッ!!!

 

「!?! な、何が?!」

 

急に吹いた突風が魔力弾を押し流し、何にも当たらず地面に堕ちる。

 

弾かれるように骨翼の少女の方を見れば、その装いが完全に変わっていた。

 

 

 

黒一色のワンピースはフリルが散りばめられたドレスになり、所々青色のラインが入って、

 

 

スカートの部分は、前面に白い布が当てられ、大小様々な大きさの歯車(・・)の刺繍が施され、

 

 

 

そう、まさにその格好は、

 

 

 

 

 

「――チャージ完了!!

さぁ、夜明けの時間だ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――『ワルプルギスの夜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

――まどかが広げたページに書かれた『設定』。

 

その内容は、使いこなせば正しく『全能』とも言えるようなチートじみたものだった。

 

 

 

 

 

「……『理解・記憶した現象を、再現する能力』?

どゆ意味?」

 

「んっとね。 何かいい案が無いかって考えている時に、あなたの結界での攻撃パターンを思い出したのよ」

 

「……私が留めておいてしまった死者の魂をベースに、使い魔を召喚した事を言っているのか?」

 

「……………ええ」

 

真面目なトーンになったクトの返答に気不味くなったらしいマミの言葉を、まどかが引き継ぐ。

 

 

「クトちゃんは、償いの為に、また色んな場所に行っちゃうんだよね?

だから、こうしたの!」

 

「………『だから』?」

 

 

 

 

 

 

 

「赦せば、赦すほど――

『その人たちが力を貸してくれる』。 これは、そんな力」

 

 

 

 

 

「………」

 

「クトちゃんに残る力だと、クトちゃんの周りの狭い場所にしか干渉出来ないみたいだから、こんな風にしたんだけど………どうかな?」

 

可愛らしく首を傾げるまどかに対して、俯くクト。

表情が読めないわね。 当然、どう思っているのか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

「………ク、ケけ、け……?

 

………?

 

唇の端から、僅かに笑い声のようなものが聞こえた気がしたような?

 

 

 

「……ク、けけけ……

こ、こんなんで、いいかな……?」

 

「―――!」

 

それは、肯定の言葉。

 

後ろを向いて悔やむことばかりしていた少女が、しっかりと前を向いて踏み出した、一歩目の足音だった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

――無風の中、ワルプルギスの夜を『再現』した少女が、浮かび上がる。

 

 

「――さぁ。 古くさい悲劇は閉幕だ。

これより上映するのは、ハッピーエンドの物語。 抱腹絶倒、大団円で終わる喜劇!

幕を上げろ! スポットライトではなく、プロジェクションマッピングの電源をつけろ!

そう、私が――

 

―――この私こそが、喜劇の舞台装置なのだから!!!」

 

 

 

その言葉を合図に、追い風が吹く。

 

 

 

使い魔は全てカラフルな紙吹雪となり、

 

浮かぶ建造物は、面白おかしいマスコットに変えられ、重さを感じない動きで緩やかに着地する。

 

 

 

『アハ?! アハハハハハハハハハハハ!?!』

 

 

「残念ながら、バッドエンドを押し売りするアンタはクビ!

今この場を盛り上げる舞台は私!

――つーわけだ! 決めちまえ!!」

 

「ほむらちゃん!」

 

 

?!?!! ま、まどか!?!

 

 

デフォルメされたユニコーンの背に乗って連れてこられたのは、私が守ると誓った少女。

 

 

「なんのつもりよ?!」

 

「この舞台の『主人公(ヒーローとヒロイン)』は、私みたいなポッと出のバグ(オリ主)じゃねぇ!

だから、派手に決めてこい!!

私に、最高の喜劇を見せてくれ!」

 

 

抵抗するワルプルギスが魔力弾を放っても、即座に打ち上げ花火で迎撃し、1発たりとも地表に到達させない。

それどころか、色取り取りのナイフや歯車、フラフープがワルプルギスを滅多打ちにしている。

 

 

 

 

 

「――ほむらちゃん」

 

「………まどか」

 

 

魔法少女ではない(・・・・・・・・)、私の大切な、友達が、歩み寄ってくる。

 

 

私の手にあったのは、何の偶然か、

嘗て、まどかと一緒にワルプルギスを斃し、

 

――そして、まどかのソウルジェムを撃った銃。

 

 

 

まどかが、私の右手に手を重ねる。

 

「…………」

 

 

 

 

 

――2人でリボルバーを握り、トリガーに指をかける。

 

周りではマミが、杏子が、さやかが、

魔砲を、槍を、剣を構え、その全てがワルプルギスに向けられている。

 

 

「なにイイトコ2人占めしようとしてんのさー。 あたしも混ぜてよね!」

 

「いいわね、こういうの。 実は憧れてたのよ!」

 

「……ま、偶にはいいだろ」

 

 

 

 

 

……………みんなで一緒に、か。

 

 

 

 

 

――人差し指に、力を加える。

 

音を置いていく速度で鉛弾が発射されると、砲弾が、剣群が、槍が、魔女に殺到する。

 

その巨体に比べれば、あまりにもちっぽけで、

 

それでいて、闇夜に浮かぶ星のように、輝く一閃が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ワルプルギスの夜を、貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――アハ、アハハ? アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――』

 

ボロボロと歯車が零れ落ち、その巨体が小さくなっていく。

 

見上げるような巨体から、車両程度に、

 

トラック程度から、人間大に、

 

 

人形サイズに縮み、

 

 

 

 

 

グリーフシードだけを痕跡に残し、

 

伝説の魔女は、この世界から、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

他のみんなが歓声をあげて沸き立つなか、私は、今はもう晴れた、魔女のいた空を見上げる。

 

 

「――よ。 どうした?」

 

「………斃した、のよね。

まどかを、護れたのよね」

 

「………あぁ。 そういうことか」

 

クトが私の手を持って、私の向いている方向を変えると、4人の少女が代わりに視界に入る。

 

「ほむらの願いは、たった今、今度こそ、完全に、叶えられた。

 

 

―――お疲れ。 よく頑張ったな」

 

 

 

 

 

 

「ぁ―――」

 

視界が涙で歪む。

もう何がなにやら分からなくなりながらも、

それでも、ずっと護りたかったものの温もりからだけは、手を離さなかった。

 

 

 

 

 



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『とある少女の救済神話』

 

 

 

 

――ワルプルギスの夜を斃してから、一ヶ月。

 

ほむらが願いの内容を語ったり、重曹浄化の事実を広めるのにようつべに垢作ったらマミがバーチャル面に呑まれたり、今更現れた他の地区の魔法少女との一件もあったりと、濃密な時間を過ごせた。

 

 

 

 

 

――でも、それも、今日まで。

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

 

私以外、誰もいない、マンションの屋上。

 

縁に腰を下ろして足を投げ出してプラプラ揺らしながら、眼下に広がる夜の街並みを眺める。

 

 

 

 

 

――しばらくすると、小さな足音が聞こえてくる。

その足音の主は、私の真後ろまで歩いてくると、その場で止まる。

 

 

 

 

 

「……………クト」

 

「………思ったより早かったな、キュゥべえ」

 

立ち上がり、縫い付けてもらったポケットに手を突っ込みながら振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

「…………………」

 

互いに見つめあったまま、動かない。 言葉すら発しない。

 

 

 

――少し強めに吹いた風が私の髪を揺らす。

流れるままに放っておいたのが収まる頃になって、ようやく、キュゥべえが口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――考え直してくれないか。

こんな時間、こんな場所に、ボク1人だけを呼び出したってことは、そういうこと(・・・・・・)なんだろう?」

 

「ま、な」

 

 

首元から、翡翠の鎖で繋がった2つのソウルジェムを取り出す。

 

 

白いのは、『人間』としての私の魂。

 

黒いのは、『邪神』としての私の魂。

 

 

「……………それでも、私は行かなくちゃいけない。 あいつらの死を無意味なものにしたくないし、大切な妹に、私の夢を預けっぱなしだ」

 

 

脳裏に浮かぶのは、罠に気が付かずイキっていたバカな私でさえ姉と慕ってくれた、金髪の少女。

 

 

「……………クト、」

 

「……んなシケた顔すんなよ。 合わないっての。

――それよりキュゥべえ。 契約を果たしてもらうよ」

 

 

今までずっと先送りにしてきた、願いを叶える権利を行使する。

 

 

「………クト。 ボクにもうそんな力はない。 インキュベーターが地球から撤収した時点で、奇跡はなくなっているんだよ」

 

「知ってる。 私を一体、何だと思っているんだ? クッケケケ」

 

大分慣れてきた、というか諦めがついてきた笑い声が口の端から漏れる。

 

 

「じゃあ、こんなボクにどんな奇跡を願うのさ」

 

「なに、んな大層な願いじゃないさ。

ただ、――」

 

僅かに(邪神の力)が混じる白いソウルジェムはそのままに、黒いソウルジェムを鎖から引き千切り、魔術で創り出した殻に包むと、

 

 

 

――それを、キュゥべえに放る。

 

 

 

「――あいつらが。

『まどかたちが、幸せに生きられますように』。

それが、私の望む願い」

 

慌ててソウルジェムをキャッチするのを、見届ける。

 

 

「こ、これは、」

 

「私の、邪神としてのソウルジェムだ。

……預かっていてほしい」

 

「預かってほしいって、キミ自身の魂だよ?!」

 

「だからこそ、だ」

 

狼狽するキュゥべえをそのままに、ガンランスを留め金から外し、魔力をまわす。

 

 

「ソウルジェムがこの世界にある限り、私は死ねない。 言うなれば命の絞りカス(アンデット)だ。

………だから、いつか、必ず。

私の魂を受け取りに戻ってくる。 約束だ。

私が、私を許した時に。 必ず!」

 

 

矛先を掲げると、膨大なエネルギーがその僅かな一点に集中、収束し、空間に穴が開く。

 

 

「クト!!」

 

「………さよならだ」

 

 

骨翼を意識することで、随分と軽くなった身体が浮かばせ、そのまま『穴』に向けて進む。

 

 

 

 

 

……出来ることなら、最後に、

あいつらに、会いたかったな。

 

 

 

でも、それは出来ない。

会ってしまえば、この決心が鈍って立ち上がれなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

………だから、私は、―――――――っ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろから、何かを投げつけられたのを察知。 頭部の真横を通ったところで掴み取り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それが何なのかを把握した瞬間、頭が真っ白になる。

 

これ、は、――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あなたの覚悟は分かってる。 止めたりはしないわ。

……約束、守りなさいよ。 破ったら、それで撃つわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ベレッタM92FS。 それも、かなり改造されているもの。

 

 

 

 

 

 

 

「……………ほむら!!!」

 

意識が復帰してすぐに振り返っても、そこには、誰も、いなかった。

 

ただ、屋上へと続く唯一の扉がある床には、確かに、水滴が垂れた跡があった。

 

 

 

 

 

「………あぁ、約束しよう。

私は、必ず!!

この世界に、帰って来る!!!!!」

 

そして、私は、

 

世界の裂け目へと、飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あれから、どれだけの世界を渡り歩いたんだろうか。

 

 

 

 

 

ある時は、魔法使い同士の戦争が確約された世界に、学校の生徒として入り。

 

 

ある時は、不老不死を求める老人を発端に生み出された兵器を回収してまわったり。

 

 

ある時は、運命(シナリオ)に叛逆する魔物を保護したり。

 

 

ある時は、遠い宇宙で、力の一方に属し、クソジジイに色々仕込まれ(意味浅)たり。

 

 

ある時は、3重の壁に囲まれた世界で、正義とは何かを考えさせられたり。

 

 

ある時は、人類同士と、その立ち位置にいたかもしれない生命体との三つ巴の戦争にちょっかいを出したり。

 

 

ある時は、惑星を壊せる連中がゴロゴロいる中を割と本気でビビりながらも、何故か共闘するはめになったり。

 

 

ある時は、ある時は、ある時は、ある時は、ある時は、ある時は、ある時は、

 

ある時は、ある時は、ある時は、ある時は、ある時は、ある時は、ある時は、―――

 

 

 

 

 

救えた命があった。 殺した命があった。

 

 

墓場に突き立つ武器が増えた。 墓場に突き立つ武器が減った。

 

 

 

 

 

 

 

――幾つもの地獄を越え、

 

 

――幾つもの理想を叶え、

 

 

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

そして、―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――墓が4つまで減った時。

 

気がついたら私は、始まりの世界の土を踏んでいた。

 

 

誰の模倣か、発動した遠見の術式で4組の主人公たち(ヒーローとヒロイン)を眺める。

 

 

 

 

 

――紅白の巫女にしばかれている、青髪の少年。

 

 

――金髪の魔法使いに振り回されている、自称根暗な武偵。

 

 

――早速吸血鬼姉妹の鬱を斬り捨てた、黒衣の剣士。

 

 

――今日も今日とて不幸を嘆く、特異な右手をもつ少年と、半生半死の少女。

 

 

 

 

 

………やがて紅い霧が発生し、それを察知したメンバーが動き出したのを見て、私の原始の夢が動き出したのを感じ取る。

 

 

「始まった、か」

 

 

ふとそんな事をポツリと呟けば、何かを邪推したらしい妹がたじろいだ。

 

 

「ん? どった?」

 

「……顔に出てたかしら?」

 

「読心術。その程度の思考なら大声で喋っているかのよーによく分かるよ」

 

「……貴女ならやりかねないわね」

 

「嘘です。読心などしたこともないしやり方も知らん」

 

 

これは両方嘘だな。 というか、自分の精神状態に関係なく冗談が出るって………まあ便利っちゃ便利だからいいか。

 

 

「……何の役に立つか分からない能力を集めるのが趣味だったと記憶しているけど?」

 

「それを言っちゃぁお終いだよ。感情が読み取れるのは事実だけどね」

 

「知ってるわよ。貴女と何年付き合ったと思って?」

 

「それもそうか」

 

 

一旦会話が途切れる。

が、この理想郷の創始者として、まだ言いたいことがあるみたいだな。

 

 

 

 

 

「……ところで、幻想郷の結界の異常は?」

 

 

おや、そっちが来たか。

 

 

「私がやった――いや、やっていることだけど?」

 

「……」

 

 

あれま、黙りこんじゃったよ。

てか黙った時に扇子で口元隠す癖如何にかしたら? だから胡散臭いとか『永遠の17歳(笑)』とか言われるんだよ。

………私が言えた事じゃないけどさ。

 

 

「なに、適当なタイミングで戻しておくよ」

 

割と武力に全振りしちゃってる私と違って、頭のいい妹が何やら考え始めたのを察して、適当なタイミングで異変が戻るよう、式に加えておく。

 

 

 

 

 

 

 

――さて、さぁて。

それじゃあ、紡いでいくとしようか。

 

 

「さあ、4人の英雄達?この私をどうやって止める?」

 

 

 

救済への祈りの神話の終局を。

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――私による、英雄の為の舞台(英雄伝)を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――to be continued……

 

 

 

 




――むかしむかし、あるところに、ひとりの、こころやさしいおんなのこがいました。



おんなのこは、いじわるでわるいかみさまのせいで、すきなひとを、たいせつなものを、こわしてしまいました。

かなしんだそのおんなのこは、ひーろーさんたちに、たすけてと、さけびました。

ひーろーさんたちは、わるいかみさまを、こらしめようとしました。

そこでわるいかみさまは、そのおんなのこをつかって、ひーろーさんたちをみなごろしにしてしまいました。

そのおんなのこは、―――










――今も、幾千万のセカイを彷徨い続ける


ただ哀しむことしか出来なかった、心優しい『少女』は、もう、居ない


そこに居るのは、感情(狂気)と、感情(憎悪)と、感情(絶望)に溺れる『邪神』


生けるモノよ、思い出せ

嘗ての旧き『支配者』を



神よ、畏れよ

オノレが生み出した『邪悪』を


最早『ソレ』を縛るモノは何も無い

封印は既に意味を成さず、星辰が揃う夜


『狂気』が

『絶望』が

『苦痛』が

『厄災』が

『混沌』が

『嘆き』が

『懺悔』が

『憎悪』が

『憤怒』が

『悲哀』が

『怨嗟』が

『恐怖』が

『終焉』が

世に溢れる


そこで『邪神』は、独り、静かに、嗤う(涙を流す)





――けれど、『邪神(少女)』は思い出す


嘗て、彼女が救おうとした者を

嘗て、彼女を救おうとした者を



世界は、とても醜く、残酷で


だからこそ、『(ヒーロー)』は、強く、美しく、輝く




そして、邪神のチカラを持った『少女』は歩み出す



その身は『憎悪』で造られている

その魂は『狂気』で染まっている




――ならば受入れよう




世界が命を奪うなら、少女が奪う

世界が心を弄ぶなら、少女が弄ぶ



『邪神』が全てを破壊する

『邪神』が全てを蹂躙する

『邪神』が全てを陵辱する



だからヒトよ、『邪神』を憎め

だからヒトよ、『邪神』を呪え



『破滅』は、その掌に

『終焉』は、その掌に


『邪神』は、止まらぬ





――だから、(ヒーロー)


その独りぼっちの『少女』を、

己の浅はかさと罪の意識に歪んだ『少女』を、救い出せ

『光』と『闇』

『生』と『死』

『正義』と『悪』

『創造』と『破壊』

『奇跡』と『呪い』

『希望』と『絶望』

『少女』と『邪神』


二つに引き裂かれた少女に、祝福を

運命すらを狂わせる少女に、救済を





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