黒髭物語 (biwanosin)
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ただただキモい

何話になるか分からない
オリジナル特異点やるのが確定してるから設定が大丈夫か分からない
オリジナルサーヴァントも出すけど設定的に行けるか分からない
そして、なにより

黒髭がちゃんと気持ち悪いか分からないのが最大の問題である!


始まりの印象は、最悪だった。

見た目は小汚い。半裸なのはまあちゃんと鍛えられている体だったからいいとして、しかしその見た目が小汚い。髪とか髭とか、もうこれはねえだろって思わずにはいられなかった。

もうその時点でげんなりとしていた私としては、もう口を開くのを待ちたくもなかったのだが、相手がそんなことを気にしてくれるはずがない。さあコイツは初対面で何を言うのか。その内容次第では評価を上向きに更新してもいいかななんて思ったところで。

 

『おやおや、これはこれは奇遇ですな。デュフフフ。黒髭、参上ですぞー!緑は敵ですぞー!』

 

これである。下向き修正せざるを得なかった。緑は敵とか言われても誰のことだその緑って、となるしかない。そんなツッコミをしながら、うん?と何かが引っ掛かった。その正体を自分の中で探っていると、『黒髭、参上ですぞー!』の一文が頭をよぎる。黒髭、すなわちエドワード・ティーチ。海賊とかの方面に全然興味の無い私でも知っているその名前、海賊の代名詞、最も有名な海賊。それが、これか、と。絶望すら抱いた。海賊が好きな人が知ったらと考えると合掌せざるを得なかった。そんな思考のもとつい無言で合掌したら『おやおや、もしやマスター、拙者のファンでしたかなー?だったらー、普段は絶対にしてないんですけどー、サインとかハグとかサービスしちゃおっかなーwwww』とか言い出したので反射的に令呪で『黙って』『頭を床にめり込ませろ』と命じてしまったが、私は悪くない。なのにドクターには怒られた。解せぬ。しかも変質者のサーヴァントには気にしない心の広さを見せつけられた。ますますイラついてきた。

 

そして召喚で来たのがそんなサーヴァント(変態)だったため、また英霊の生前の力を再現できるだけの素材がカルデアになかったためにフランスやセプテムには連れていかなかった。もちろんメインの理由は前者である。さすがに私情だけで一切素材を渡さないでいたらロマンとかダヴィンチちゃんとかに怒られてしまうので適度に渡していくが、まあ連れていくことはないだろう。だって変態である。一体何の役に立つというのか。変態だぞ変態。

 

とか思っていたら、まさかのオケアノスで敵側に黒髭である。さすが黒髭、敵でも味方でも気持ち悪いとは恐れ入った。

 

 

 

 =○=

 

 

 

マスターからかなり嫌われたらしく、召喚されてからほとんどやることがない。エドワード・ティーチ、通称黒髭はそんな生活を送っていた。

もちろん、何もしなくていいというわけではない。特異点攻略のためマスターとマシュが色々とやっている間、彼は別行動で素材回収に励んでいた。

様々な英霊を召喚できるよう、独自に開発されたカルデアの英霊召喚システム。マスターの紡いだ縁があれば本来召喚できないような英霊すら召喚しうるそのシステムは優れていたが、召喚の幅を広げた分のツケは存在する。それが素材だの種火だのである。

格落ちした状態でサーヴァントを召喚し、召喚後に手を加えることでその力を全盛期のものへと移行させる。サーヴァントによっては生前以上に強くなることもあるらしいが、まあそれはいいだろう。

なんにせよ。黒髭は、そういった素材を回収していたわけだ。

 

当然、彼としても不満はあった。最初のあれがダメだったと言われても、それが黒髭と言う男であり、エドワード・ティーチという海賊である。人理を救うためにと呼び出しをかけられそれに応じたのだから、それくらいは許容してほしい。

それ以前に、彼は海賊である。それを小間使いのように扱うマスターに対して不満がないはずがない。だって海賊だぞ、海賊。自由を求め、死と隣り合わせの海へ出た大ばか者の集団、そのトップだ。不満がないなんぞありえない。そんな彼はその日のノルマ量の回収が完了し、ダヴィンチちゃんへそれを届けていた。同室にいたロマンが悪いねと本当に申し訳なさそうに言い、ダヴィンチもそれに続く。黒髭はそんないつも通りのやり取りに対して、鷹揚にも、いつも通りに返した。

 

『いえいえ、構いませんぞー。むしろ美少女に完全無視アーンド放置プレイ、その上で顎で使われるこの状況、ゾクゾクしてきますなーwwww』

 

………………………………………………………………………………

まあ、うん。一応マスターよりも年上であるのだし、スタッフが多くいるこの部屋では緊迫した雰囲気に満ちている。そんな空気をちょっとでも軽いものにしようという気配りも含まれている……はずだ。

そうして彼はその場から去る。向かうのは自分に与えられた部屋、マスターやマシュ、女性スタッフの部屋からマスターの意向によって離されたその部屋は完全防音であり、監視カメラの類も存在しない。すなわち、彼だけの空間。大男はベッドに腰かけた。誰からも邪魔されず干渉されないこの空間であれば、彼の本音も、

 

『いやーっと今日の分のノルマが終わったことですし!アニメの続きが見れますなー。あ、ちょっと待った、今一瞬スカートの中映った!巻き戻し、コマ送り……っしゃー!お宝発見ですぞー!!』

 

………………………………………………………………………………

えっと、うん。ちゃんと不満を抱いている……はずである。

そして、そこから日曜朝の女児向けアニメマラソンを開始して6時間後。

 

『すまない黒髭、緊急事態だ!管制室まで来てくれ!』

『えー。拙者、今忙しいのですがー』

『思いっきり後ろからプリ○ュアのOP聞こえてきてるんだけども!?』

 

むしろ呼び出しに対して不満そうにするとは、黒髭、どういった了見だこのヤロウ。

 




次回、オケアノス
期待はするなよ!
更新時期もな!

ぶっちゃけ就活に卒論に忙しいんだよ!!
癒やしをよこせコラー!

と言いたくなるくらいには疲れてます。まる。


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海賊は愚者へ告げる

よう、こんな底辺駄文書きの更新を読んでくれる趣味の悪いテメエら。愛してる!
そしてクッソ待たせてホントごめんな!7ヶ月か!?正直自分でびっくりしてる!
感想くれた人もいたのにこの体たらくは本当にどうしようもないけど、うん。なんか忙しいから許してくれるとホント、助かります。

具体的には次回投稿もまた間が空くと思うけど、ホント、うん。ごめんなさい。


起こった事態はこうだ。

まず、敵側のボスをやっているのが黒髭であると判明した。次にマスター藤丸立香が一切の考えなく、突撃を命令したのだ。

ドレイクがその気持ち悪さに攻撃を命令するのとはわけが違う。海上戦のノウハウもない一般人が、自分の知っている黒髭だけを参考にして攻撃を命令したのだ。当然、ロクなことにならない。その戦線は、最悪の形(敗走)という結末に終わった。本当に、面白味もなく、意外さもないほどに、当然の結末であった。

乗り込んできた敵兵を海へ突き落し、一定数の犠牲も出しつつ。ヤケになって騒ぎ出したマスターを気絶させて。躊躇うことなく尻尾を巻いて逃げ出した。

 

これが、敗北の様子。特別書き綴ることもなく、これだけで語り尽くすことが出来てしまう情報事項。

故に続けて、敗走後のことを語るとしよう。とはいえ、これも特別なことはない。極めて当然のことが言い渡されただけだ。

言い渡したのは、不可能を成し遂げた女フランシス・ドレイク。言い渡されたのは、人類最後のマスター藤丸立香。言い渡された内容は、頭を冷やして来い。

ただその一言を告げ、ドレイクは船を補強する材料を取りに行く。船員は今できる範囲で船の補強作業を行い、特異点で出会ったサーヴァントは迷うことなくドレイクについていった。

ただ一人。マシュだけはどうしたものかとオロオロしていたのだが。立香がドレイクについていくようにと言ったことにより、躊躇いながらも補強材料を集める作業に向かう。

 

さて、これより語られるのはほんの一幕。

ある一人の人間が、ほんの少し、変わった瞬間である。

 

 

 

 =○=

 

 

 

負けた。敗北した。惨敗した。

本当に、どうしようもなく、あの黒髭に負けたのだ。

ドレイク曰く、元々のスペックで負けているらしい。だから、あの場で負けたのは当然の結果なのだとか。

 

「まぁ、だからって私のせいなのは変わらないよね」

 

ここまではっきり負けてしまえば、それも分かる。今回の敗北の、被った被害の原因として私が入っていないわけがないのだ。

私の印象だけで、黒髭……エドワード・ティーチという海賊を甘く見ていた。そんなはずないのに、だ。

 

通称黒髭。エドワード・ティーチ。あるいはエドワード・サッチ。偽名の可能性が高いその名前は、世界で最も有名な海賊として知られているものだ。そんな存在が、ただ気持ち悪いだけの存在であるはずがない。どうしてそれだけ名前を残しているのか、どうしてここまで有名になったのか。―――どうして、これまでであった英霊たちと同じように座に登録されたのか。それを考えれば、当然のこととして分かるべきことであった。

一つ、深呼吸をする。その後、周囲を確認する。船から離れてきたし、ドレイクさんたちが行ったのとは逆の方向へ向かってきた。周りには誰もいない。覚悟さえ決まってしまえばその行為へ移るのは難しいことではないけれど、誰かに見られているところでやるのはちょっとためらわれた。

 

「ダヴィンチちゃん、聞こえてる?」

『……ああ、聞こえてるし見てるよ。大丈夫かい?』

「あー、そっか。そっちからは見えてるんだよね」

 

今思い出した。さて、どうしたものか……

もういいか。うん、大丈夫大丈夫。このことを弄ってくるような人はカルデアにはいないはずだ。

 

「黒髭、こっちによこしてもらってもいい?」

『……ああ、勿論だとも』

 

さーて、いっくぞー!

 

 

 

 =○=

 

 

 

カルデアから特異点へ召喚され、マスターの前に現れた黒髭。彼の視界に真っ先に飛び込んできたのは、自身のマスターであるはずの存在の土下座である。当然、何をしているんだコイツとあの黒髭が冷静になった。真顔になった。これはこれで一つの事件だろう。

 

そして。そんな黒髭に対して土下座したままマスターが語ったのは。

この特異点でこれまでに起きたこと、その全てである。

誰と出会い、誰と敵対し、誰に敗北し、今どのような状況であるのか。

 

この時、彼女は一つの幸運に恵まれた。それは、彼女が語ったのが「現状」ではなく、「この特異点で起こったことを時系列順に」であったことだ。もし仮に前者であったのなら、海賊黒髭は何のためらいもなく自身のマスターを撃ち殺していただろう。

情けない姿を躊躇いなく晒すマスターなど、見捨てることにためらいはなかったのだから。

 

しかし、彼女が出会った存在、その名前が黒髭にそんな思考を与えなかった。

黒髭は。

冷酷にして無慈悲。バカを演じる天才にして、たった今隣で語り合った存在を切り捨てることすら躊躇わない、相対する全てを震え上がらせる大海賊、エドワード・ティーチは。

弱く、情けなく、愚かしいマスターの懇願を受け入れた。

 

目の前に転がる醜態をさらす肉塊への感情など、その存在の名前一つで翳み消える。

 

 

 

 =○=

 

 

 

さて、こうして英霊黒髭が合流したわけなんだけど。その後の顛末についてはざっくりすっ飛ばしてしまおうと思う。

いや、語ってもいいかとは思ったんだけどね。誰かの物語というものは、きっとそういうものではないんだ。君たちが知っている過程について、改めて私が語る必要はない。多少の差異はあろうとも、起こる結果が同じである以上語るようなことはないんだ。こことは違う場所、違う世界。そこでifを語った時のように。語るべきは「君たちの知らない過程」と「起こった結果」の2つだけ。それが私の役割であり、私の趣味なんだから。

 

というわけで、だ。その後の顛末について、簡潔に語ってしまおう。

カルデア一行とフランシス・ドレイク一行は無事的黒髭を撃破し、その場で裏切ったヘクトールによって敵サーヴァント黒髭消滅、と言ったように起こって言った結果は、君たちの知る正史とまるで変わらない。簡潔すぎるって?だって全て語っても面白くないだろう?呼び水の下、どうぞ君のたどった軌跡を思い出してほしい。

 

さて、それでは皆様お待たせいたしました。これより語るのは、起承転結における「結」。場合によっては、結よりも後の出来事。

平和な場所で行われる、命がけの作業のお話だ。

 

 

 

 =○=

 

 

 

「……何やってるでござる、マスター?」

「いや、見ての通りだけど」

 

第三特異点オケアノスを修復して。カルデアに戻ってきた私がしたことといえば、再びの土下座である。

ひとまず、私の中で。あの時の土下座は『協力をして欲しい』という土下座であって。許してもらえたとは、微塵も思っていないのだ。

だから、彼の部屋を訪れて土下座をしている。だから、ここから口をつく言葉がある。

 

「貴方を召喚したとき抱いた感情。私はこれを否定するつもりはありません」

 

これは、どうしようもない事実。というかそもそも、コイツ意図的にそれを演じているだろう。

 

「ただ、それでも」

 

それでも、まだ頭は上げない。

謝ることがあるのは、どうしようもない事実なんだから。

 

「ただの一般人でしかない私の印象で、あのように扱ってしまって。本当に、申し訳ありませんでした」

 

ただの素人でしかなく。ただの一般人でしかなく。ただの子供でしかない。

特殊な出生もなく、特殊な能力もなく、特殊な経歴もない。

本当に、ただの凡人。非日常に招待されて浮かれて。魔術という超常の世界で無駄に気を張って。人類最後の希望だなんてもてはやされて調子に乗っただけの、ただの人間なのだ。

 

そんな人間が底を覗けるほど、人類史に名を刻んだ英霊という存在は、甘くないというわけだ。

何なら、こっちが覗かれていたのだろう。それでもやってこれたのは、ひとえにこれまでに出会った英霊がまるで気にしなかったか人格者であったためだろう。人類史がかかっているのでは仕方ない、という感情もあるかもしれない。

 

「この件について、望むのなら。私に払えるものなら、どんな代償でも払う」

 

だが、だ。この海賊黒髭が、そんな考えを持っているとは思えない。場合によってはあっさり私を殺せる人間だ、と教えてくれたのはあのドレイクだ。

 

「だから―――」

 

そして。この大海賊の力は身をもって体験したし、身をもって体感した。

 

「だからどうか、その力を貸してください」

 

その力は、この旅路に。人類史を救うために、必ず必要になる。

 

「貴方の知恵、経験を私達に貸してください」

 

なら、私なんかの頭でいいのならいくらでも下げよう。

 

「貴方の力を、私に貸してください」

 

私程度の人間が醜態をさらせばいいのなら、いくらでも晒そう。

 

「私が許せないのなら―――この旅路の後、殺してくれて構いません」

 

私の命でこの力を得ることが出来るのなら……どうしようもなく体は震えるけれど、それも差し出そう。

 

「だから、どうか……私たちを、助けてください」

 

ここにきて、私はようやく。人類史を救うという言葉の意味と、英霊という存在の大きさを知った。

 

 

 

 =○=

 

 

 

二度目の土下座である。そしてふざけて返したら、真面目な返答が返ってきてしまった。

さてどうしたものか。とりあえず銃を取り出しながら考える。

弾が込められていることを確認して、みっともなく下げるその頭に照準を合わせた。

とりあえず引き金を引こうとしたところで、指が止まってしまった。止まってしまっては、仕方ない。原因は分かっている。

 

再び、銃をしまった。

 

「正直、飽きたら殺してやるつもりだったさ」

 

そして。こうなっちまった以上、本音を語るしかないだろう。椅子を引っ張って座り、未だに這いつくばるマスター(肉塊)へ視線を投げる。

 

「ああそうさ、オレは殺してやるつもりだった。何ならついさっき、呼び出された時にでもそうするつもりだったンだよ」

 

それなりに本気の殺意が漏れているのだろう。身動き一つする気配もない。これすら感じ取れないのなら……まあ、前言撤回して殺しただろう。

いや、殺さなかったかもな。それほどに、あれは衝撃的だった。

 

「尊敬していた。黒髭が、誰より焦がれた海賊だった」

 

結局、口をつくのはその感情だけだ。

だから、それ以外の感情を忘れてしまっていただけなのだ。

 

「太陽を落とした女。世界一周を成し遂げた星の開拓者。生前から誰よりも憧れた女に出会えただけじゃねぇ。その船に乗り、旅をした。船を並べ、同じ敵へ挑んだ。そして―――」

 

ここまでなら、耐えられたかもしれない。だが、これは駄目だ。これだけは、耐えられなかった。

 

「そして、オレの船に。オレが舵をとる船に、フランシス・ドレイクが乗った。あのフランシス・ドレイクが、だ」

 

絶頂とは、まさにあの感情を言うのだろう。誇りも命も全て海においてきた海賊としてはあってはならないことに、あらゆる欲望が、あの一時消えてしまったのだ。

 

「その原因がテメエだってんなら……あぁ、いいさ。許してやる」

 

そう決めた。この海賊黒髭が、そう決めたのだ。

どうしようもない悪党とはいえ、自分ではっきり決めたことをたがえない程度のプライドはある。故にそう決めて、そう告げて。そのまま体の向きを変える。殺意は、もう完全に消え去った。

 

「というわけでマスター、今後も協力しますから部屋を出て行ってくださいますかな?拙者―、早くアニメの続きを見たいでござるからしてwww」

 

資料室でゲットした戦利品を手に、普段通りの態度でそう告げる。もうこの話は終わったのだと、はっきり示すために。

と、それを感じ取ったのか。マスターも顔を上げて。

 

「……姉姫?」

「おやおや、これは意外。マスターこっちも知ってる人でしたか。いやー、拙者最近姉物にはまっておりまして」

「ふーん……推しは?」

 

と。視線を先ほどまでの態度からは考えられない、対等な立場であると宣言するモノにして問うてきた。

これは……拙者には、分かる。コイツ、ただ物ではない。

 

「……それは、どっちのだ?」

「そんなの、どっちもに決まってる」

 

交わされたのは、たったそれだけの短いやり取り。しかしお互い、それだけで全てを感じ取り……強く、固く。手を握り合った。

 

 

 

 =○=

 

 

 

「本当に先輩は大丈夫なのでしょうか、特異点から帰ってきてからずっと黒髭さんの部屋にいますが……」

「んー……まあ、彼女なりに何か思うところがあったんじゃないかな、とは思うけど」

 

特異点で怒っていたことを何一つ知らないマシュは心配しているが、ロマンは特異点での彼女の行動を全て知っている。その立場からすれば、彼女が黒髭の下へ向かったことは驚くほどのものではない。

まあそれでも。医師という立場としては、口を出さないわけにはいかなかったのだが。

 

「ここですね。……黒髭さん、失礼します。ここに先輩が来ていると思うのですが……」

 

ロックがかかっていなかったからだろう。扉は自然に開き……その惨状をあらわにした。

 

それは、一種の地獄なのだろう。2メートルを超える男と一般的な体格の女。その二人が床に正座して、モニターに映し出される映像を見ている光景など、的確に表す言葉が存在しない。

 

「あ、マシュ。どうしたの?」

「い、いえ、その……戻ってこられないのでどうしたのかな、と」

「あー、そう言えばもうそんな時間でござるなー」

「いやー、早いねー」

「それで、その、お二人は一体何を……」

「「姉物のアニメをマラソンしてる」」

 

一瞬でマシュの脳は容量オーバーを起こした。

 

「いやー、しかし。やっぱりこれは至高の作品と言わざるを得ないよね」

「ホントでござるなー。他の要素を全て取っ払っうという、一見して凶行でしかない選択。しかしそれを完璧にコントロールし魅せるこの在り方」

「この芸術は間違いなく、あの人にしか構成できない……いやー、うん」

「「本当に素晴らしい」」

 

そんなマシュへと何のためらいもなく突きつけられる新たなる情報。この二人は何の容赦もしない。

 

「お、姉姫じゃないか。懐かしいな、一巡だけだけどボクも見たことあるよこれ」

「あ、ドクターも知ってるんだこれ」

「うん。まさかのヒロインは姉のみ、しかもその人数が10人越えっていうキャラが薄まってしまいそうな構成なのに、全てのヒロインのキャラがたっており、しかも『姉』であるが故っていう一品だろう?」

 

その言葉が全てだったのだろう。藤丸立香とエドワード・ティーチはもう1つクッションを取り出し、ドクターの席を準備した。何のためらいもなく、自然な動作で彼はそこに座る。

残されたのは一人、脳の容量オーバーを起こしているマシュだけである。

 

「あ、あの……」

 

と。ちょうど終わったのか円盤の取り換えを行っているタイミングでようやく復帰して、口を挟んだ。

 

「そもそも、『あねもの』とは何なのでしょうか……?というか、お二人はいつの間にそこまで仲良く……?」

 

そんなマシュの疑問は他所に。立香と黒髭は視線をかわす。

そこに言葉はなく、そんなものを優に上回る情報のやり取りがあった。

 

『どうする?』

『引きずり込む』

『オーケー、取ってきてくれ』

『任された』

 

すっと立ち上がった黒髭は部屋を出てどこかへ向かい、立香はマシュの手を取って自分の隣に座らせる。

 

「え、その、先輩?」

「大丈夫、マシュ。姉物が何なのかは、すぐに分かるから」

「いえ、できるなら説明をして欲しいのですが……」

「見た方が早いよ、今黒髭が『ぼくあね』を取りに行ってるから」

「いえ、ですから……」

「大丈夫、面白さは保証する。34話くらいだし」

「それは結構な量なのでは!?」

 

驚愕を隠せないマシュをよそに黒髭が帰ってくる。その手にあるのは何枚もの円盤と飲み物、スナック類、軽食。完璧な布陣である。

この後。当然のこととして四人で一作のアニメを見続ける。ダヴィンチちゃんはそれを把握していたものの必要なことだろうと止めなかったため、なんの邪魔も入ることなく見続けるのだった。

 

余談であるが。マシュもばっちりはまりましたとさ。

 

 

 

 =○=

 

 

 

さて、何ともしまらない終わり方をしたものだけど。これで彼女と海賊の物語、その序章が終わったわけだ。

あれだけのわだかまりがあったというのにアニメ程度で解決してしまうなんて、と納得できない諸兄もいることだろう。だからここで、はっきりと述べさせてもらおう。

 

まず、一つ。黒髭はフランシス・ドレイクという存在との関わりにこの上なく感謝してしまっている。結果として、いくつかのハードルが下がってしまったのだ。生前からどうしようもないほどにあこがれた存在というのは、それくらいの大きさは持っている。むしろその程度ないのであれば、彼にとって彼女はその程度の存在だったということになってしまうわけで……それは、望むところではないだろう?

 

そして、二つ目。これが大きいのだけど、まあ完全に心を許しているわけではないのだ。それはここで行われたことではなく、この後行われていくことなのだから。

しかしまあ、これもやっぱり同じことで。結果が同じになることである以上、語られることはない。何のためらいもなく飛ばさせていただくので、そのつもりでいてほしい。

 

魔の霧に覆われた死の世界、ロンドンを超え。

再現された神話の戦争舞台、イ・プルーリバス・ウナムを超え。

新生された愚王による領域、キャメロットを超えた。

 

では次は?当然の流れをたどるのであれば、神秘けぶる最後の世界。魔獣と人間による戦争の世界、バビロニアへと向かうことになるのだが……それでは、意味がない。

このまま二人は第七の特異点を修復し、最後の特異点を修復して世界を救いました、なんてシナリオが許されるはずがない。なにせそれは、当たり前の経路を当たり前にたどっただけの、運命に乗っかっただけの物語なのだから。そんなものに、この場で語るだけの価値はない。

 

さあ、この世界ゆえの特異性を語ろう。海賊たちが次にたどる特異点を。彼女たちが8度目に体験する特異点を。

 

それは、これまでに発生した中で最も小さな特異点だ。

それは、本来特異点となるような歴史はない特異点だ。

それは、とある復讐者(アヴェンジャー)のなりそこないが現れただけの特異点だ。

それは、彼女たち最後の冒険を繰り広げる特異点だ。

 

AD.???? 神造禁忌御子 淡島

 

哀れなできそこないは、その命を終える。

 




控えめに言って、やったとは言えない第三特異点オケアノス。
そして「あれ?陸しかないのにどうやって黒髭戦うの……?戦い方はあるけどどうやって……?」となったが故にとばされたロンドン、イ・プルーリバス・ウナム、キャメロット。

うん、これはあれだね。言い訳のしようがないくらいには駄作だ。
というわけで皆さん。次回から始まるオリジナル特異点はそれなりにちゃんと書きます。
って言うか、普通に書きます。本文中でも触れたように大変小さい特異点なのでまた短いのは間違いないのですが、頑張るつもりです。サブタイトルっぽいのをつけると「原初の海賊」ってなる感じの神造禁忌御子・淡島。まだストーリーが3割も構成できてないけど書きます!


……書けるのか、これ?


そもそも今回の話の中で書いた黒髭、3割も再現できてない気がしますし。なんか違うんだよなー、コイツ。でも自分の実力ではこれ以上再現できる気がしない……ドレイクが、ドレイクが欲しい……この話を書くためにも、あの幕間が読みたい……黒髭が海賊してるって聞いたんだよ……海賊黒髭なんだよ……








それはそれとして卒業研究のストレス発散に萌えが欲しい。10月から始まるアニメ、「俺が好きなのは妹だけど妹じゃない」には期待大ですね。妹好きの皆、見ような!


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神造禁忌御子 淡島 ①

注意事項
1:これはオリジナル特異点の物語です
2:本特異点にはオリジナルサーヴァントが登場します
3:2に伴い、独自解釈が混ざります
4:本特異点は、極小特異点です
5:本特異点は、歴史へ影響を及ぼしうるものではありません


「というわけで、特異点だ」

「どういうわけだってばよ」

 

 円卓の騎士、女神ロンゴミニアド、人間ベディヴィエール、神の化身ファラオ達、暗殺者の語源たる異端者たち。そんな存在達が彩っていた特異点を突破したのはつい先日のことであり、そこで得られた情報から最後の特異点を特定しようとしているのではなかったか。

 

「もしかして、もう第七特異点が特定できたのですか?」

「いや、そっちの特定はまだなんだ。紀元前、神代へシバの焦点を合わせる作業は思ったより難航していてね」

 

 と、マシュの質問へロマンが答えた。すなわち今回特定された特異点は魔術王ソロモンによって作られた人類史の根幹たる7つの特異点ではなく、何かの折に発生してしまった特異点か、こちらの妨害を目的として作成された特異点か、あるいは……

 

「ハロウィンとかのあのバカ騒ぎだったら、私は今すぐ逃げるよ」

「さて、特異点の詳細説明に移ろうか」

「オイ、こっちの目を見て答えろよロマン」

「先輩、その口調は女性としてどうかと思いますので……」

 

 マシュに止められてしまっては仕方ない。問いただすことはあきらめ、話の続きを聞く方針へ変更する。

 

「とまあ濁してはみたけれど、正直あんな感じのバカ騒ぎではないと思うよ。何せ今回観測された特異点は、時代としては神代のものだ」

「神代……ってことはやっぱり、第七特異点?」

「しかしそうと思える要素が何一つない」

 

 と、ダヴィンチちゃんはモニターの前で肩をすくめる。

 

「時代背景としては紀元前800年ごろ、場所は日本の淡島周辺と来ている。日本における神代真っただ中ではあるけれど、だからといって人理に対して影響を及ぼすだけのことが起こっているはずもない」

「バカ騒ぎだと考えられないのは?」

「この時代に対して介入してのけるだけの人物だよ?バカ騒ぎのつもりでやっていたとしてもバカ騒ぎなんて呼べるはずがない」

 

 なるほど、道理だ。本人がどんなつもりであったのだとしても、それがこっちにとって冗談にならないのであれば大事、普通に特異点として処理するしかない。

 

「というわけで迷惑をかけてしまうけれど、異常事態だ。特異点の規模は最小クラスであり、今は第七特異点のことがある。こちらが損傷を受けてる可能性があるから無視してしまおうかとも思ったんだけど……」

「いやいやいや、それは駄目でございますよー」

 

 と、足元から声が。

 

「いいですか、皆さん。船ってものは、小さな穴一つで沈没する……それどころか、小さな違和感一つでも放置すれば確実に沈没するまで行くもんです。大仕事の前だからこそ、とっとと払拭してしまうべきでしょう」

「とまあ、生前の経験に基づいたのであろう大変含蓄あるお言葉をいただいたわけなんだけど……」

 

 そして、ダヴィンチちゃんが私の足元へ視線をやる。それでようやく視認していいものだと判断したのか、この場にいる全員の視線が私の足元に。仕方がないので私も、嫌々ながら足元へ視線を送る。

 両手足を拘束して、簀巻きにして、目隠しをして、腰の部分にロープを付けてここまで引きずってきた黒髭の姿が、そこにあった。

 

「えっと、どうしても気になるから聞いてもいいかな?」

「はいどうぞ、ロマン」

「たしか君たち、昨日の夜仲良くアニメマラソンなんぞしてたよね?」

「はい、時に共に涙を流し、時に激しく議論を行い、時にキャラクターの言葉にできない心情を憂い。この世全ての創作、その未来に幸あれと……そう願う時間を過ごしていました」

「うん、まさかそこまで深く濃厚な時間を過ごしていたとは想定外だった」

 

 この黒髭、世の創作に対する思いがものすごく強い。そんな塊と肩を並べ、作品を視る……そう過ごしている間に、私にも移ってしまっていた。

 

「で、まあ、うん。じゃあなんでそうなってるの?」

「や、なんか幼い顔つきの女性スタッフをストーキングしてたから、犯罪者を野放しにしちゃいけないと思って」

「よくやった」

 

 当然の結果として、褒められた。とはいえ特異点へ向かうのであればサーヴァントをこのままにしておくわけにはいかない。目隠しを外し、手枷足枷を外す。簀巻きに使ったものは使い捨てのものなので、もうそのまま引きちぎってもらった。

 

「あー、ちょいキツメ美少女であるマスターにこうして扱われるのも、中々……」

「ねえ黒髭、せめてもう少しでいいから、海賊黒髭としてカッコいいところを残してくれないかな?そろそろ黒髭の持つ英霊としての価値を完全否定しなきゃいけなくなるんだけど」

「そこはほら、拙者、親しみやすい海賊をモットーにしておりますからなぁww」

「最凶最悪の海賊が何を言ってるんだ……」

 

 親しみやすさ、なんてものはこの黒髭に存在しない。今でこそお互いに肩を組んでバカ騒ぎできるようになったし、先ほどのように扱っても冗談としてお互い笑い飛ばせる関係になったものの、笑顔で部下を殺せるような海賊だ。これが親しみやすいのであれば世の反英霊は99%誰もが笑顔になる英霊である。

 

「はぁ……まあいいや。黒髭、いける?」

「どーせ行けないって言っても行くって言うのがマスターでしょう?ほら拙者サーヴァントですから、マスターの命令には従うしかないですし―」

「黒髭がそんな愁傷な心掛けを持ってくれていたのなら、私たちはあんなに特異点で苦労してないと思うんだけどなー」

 

 もちろん戦闘面での苦労ではなく、日常的な面での苦労である。この黒髭、とことん女性ウケが悪い。男性ウケも悪い。この見た目にこの口調だから仕方ないとは思うし一切同情しないのだけど、そのせいでこっちに苦労が回ってくるのだけはどうにかしてくれないだろうか。

 それでも海賊黒髭、エドワード・ティーチの名前を出せば向うの対応も変わってくれるのでまだマシなのかもしれない。アーラシュやカルナのように名前を出す前から普通に接してくれる人もいるけど、それは稀な例なので期待しない。してはいけない。

 

「まぁ、いいんだけどね……今回は黒髭、活躍できそうだし」

「そうでございますなー。なにせここ、どう見ても海ですし」

 

 海を移動する以上、その手段は黒髭の宝具であるアン女王の復讐号になるだろう。特異点に召喚される英雄がどれだけ詳しいかにも左右されるけれど、知っているのなら旗を見て真名を察してくれるだろうしそうじゃなくともあれだけの規模の宝具だ。味方になってくれる英雄も黒髭のキモさを許容してくれるはず。してくれるといいな。してほしいなぁ。

 伝承だけは一人前なのに、なんでこんなに本人がこれなんだろう。そのせいで無駄な苦労が増えてる気がするのだけども。

 

「まあいいや。頼りにしてるよ、黒髭」

「お任せください、マスター。この黒髭、高ぶって参りましたぞー!wwwwwww」

 

 とりあえず、あれだな。特異点の状況がつかめるまでの間はいつも通り、黒髭が女性サーヴァントにセクハラするのを防ぐのが、マスターとしての私の仕事だろう。

 

 

 

 =○=

 

 

 

「おー、いいねぇ。海は広く、風は気持ちいい。良きかな良きかな」

「拙者としても、久しぶりに船を出せたのは助かりますなー。ここしばらくは砲台だけばかりでござったし」

 

 と、マスター・藤丸立香とサーヴァントライダー・黒髭は水平線を眺め呟く。無限に広がる大海原と言うのは、それだけで心躍る光景だ。

 

「今回は」

 

 と、そんな二人の下へマシュが口を挟む。

 

「黒髭さんがいてくれて助かりましたね。まさかレイシフト先に陸地が見られず、海の真上に落とされるとは」

「あれは本当にひどい。ドクター、どうなってるの?」

『いやぁ、本当に申し訳ないとは思ってるんだよ?』

 

 などと、説得力の欠片もない声。

 

『ただこう、レイシフト前はよく掴めず、日本であることしかわかってなかったんだ。海があるだろうと予想はしていたけれど、それがまさか、』

「目で見える限り、点々と島があるだけとはなぁ」

『日本の歴史に照らし合わせると』

 

 と、次はダヴィンチちゃんが口を挟む。

 

『日本と言う国がまだできていない、イザナミとイザナギの時代ではないかと疑いたくなる状態だね』

「そこまでの神代にしては、それらしいものもない。いたって普通の海でございますよ?」

『うん、まさにその通り』

 

 海の蛮族黒髭の言葉だけでも十分ではあったけど。

 

『レイシフト先が紀元前であることは間違いない。しかし、その世界からは神代の要素は観測されていない。故に、これは仮定の話になるのだけど』

 

 魔術的観測結果は、その事実を補強してくれる。

 

『まあいつもの通り。これは聖杯によるものじゃないかな、と』

「そもそも特異点だし、聖杯はあるよね」

『うん。そして、この特異点からは常に薄くではあるが魔力が観測されている。種類としては、冬木のアーチャー。彼の宝具が一番近いかな』

「あー……固有結界、だっけ」

 

 自らの心象風景を現実に上書きするとか、本来は悪魔が持っていたものだとか、まあ色々と習った記憶はある。理解はしていないが。

 

『何にせよ、だ。聖杯の力でもって、この世界を上書き……いや、上塗りし続けている、という可能性があるわけだ』

「こーんな海だらけの世界を、となると。拙者の同業者ですかな?」

「その可能性はあるかもね。というか、海が心の風景って時点で他を考えづらいかも」

「海賊、商人、漁師、開拓者……いずれにせよ、海を渡り続けた人物である、と」

『んー、それも考えづらいかもよ?』

 

 と、再びの忠言。

 

『それこそほら、黒髭くん』

「はいはい、なんでございましょう?」

『君が英霊となり、宝具を獲得するとして、だ。その船以外の選択肢はあるのかな?』

「まあ確実にありませんな」

 

 即答である。

 

「そこまでなんだ?」

「まあ、はい。自分に置き換えてみると、船以外はありえませんなぁ。しっかしそうなると、海を描くのは誰になるのやら」

「……それこそ、これが心象風景なら。この風景から持ち主を特定することもできるのでは?」

 

 とは、マシュの意見。なるほど、言われてみればその通りだ。

 

『うーん、発想はいいんだけど、難しいかもしれない』

 

 しかし、万能の天才はやんわりと否定する。

 

「それはまたどうして?」

『それがこの世界、おそらく無理矢理に上書きしたからだろうね。現実と心象が混ざりあっているようなんだ』

 

 ロマンの言葉に、この世界のいびつさを感じる。何とも中途半端な世界だなぁ。

 

「……まぁ、でも」

 

 なんて結論を出して。マスターとして、方針を口にする。大丈夫、間違っていればカルデアの人達が指摘してくれるし、海特有の見落としも黒髭がいる。百点満点の答えはこの後、皆と協力して出せばいい。今いるのは、マスターとしての意見だけ。

 

「とりあえず、大した陸地が無い以上、このままアン女王の復讐号で船旅。協力してくれるサーヴァントを乗せつつ、原因を探る」

 

 協力してくれる現地のサーヴァント探しは、必須だ。思い出すのはキャメロットでのこと。令呪二画分の魔力を渡し、その上で大分無茶をして魔力供給を続け空を駆けたアン女王の復讐号。甲板には私たちの他にもハサン達をはじめとするサーヴァントを乗せて攻め込んだあの時……百貌の性質もあって、この船は円卓の騎士が放つ宝具すら耐えきるだけの城攻めを成してくれた。

 おかげさまで特異点修復後しばらく私は倒れていたわけなんだけど……今回は空を走るわけでもないし、大丈夫だろう。

 

「で、食料は魚か、チマチマある島を調査しつつ調達する……って感じで、どうかな?」

『うん、いいんじゃないかな。食料に関してはカルデアから送ることもできるし、気にしなくても大丈夫』

「それではそれではー!」

 

 と、方針の決定と共に黒髭がハイテンションになった。いやな予感しかない。

 

「黒髭海賊団の新メンバー探しに出発ですぞー!デュフフフフwwwwwwww。美少女幼女サーヴァントはどこですかなー!!」

 

 蹴り落とした。

 一切の躊躇いなく、船から海へ、全力で蹴り落とした。大丈夫、これくらいは本当に許される仲になっている。

 

「あ、マスター。あちらに小島が」

「ナイスマシュ。ほら黒髭、早く上がって来い。行くよ」

「えー、何この拙者に厳しい世界」

 

 自業自得だろう。

 




待たせたな!
多分また待たせる!!(オイ)




はい、と言うわけで最近ボイスチェンジャーで遊ぶことにハマった作者でした。
あれ凄いね。無料のソフトでもむっちゃ声かわるし、声以外の音を通しても面白い。


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神造禁忌御子 淡島 ②

やっちゃったゼ☆


「ええいクソ、なんだこれは!特異点へ召喚されたと思ったらマスターも聖杯もない野良サーヴァントだと!?この私をもてなす姿勢も見せないとはどういうことだ!」

「よし黒髭、怪しいサーヴァントだ。今すぐ処理するぞ」

 

 なんか見覚えのある金髪がいたので、即座にサーヴァントへ指示を出す。真名しかわかっていない相手だが、伝承から考えても戦闘能力があるとは思いづらいし、有ったとしてもそれは海の上だろう。マシュもいるし、うん。いけるいける。

 

「あの、マスター……」

 

 と、そんな判断で命令を下しているとマシュからの一言。

 

「確かに彼は怪しく疑わずにはいられませんが……先ほどの発言から察するに」

「特異点へのカウンターでしょうなぁ」

 

 続ける形で黒髭からも。なんてこった、そっち側なのか。

 

『まぁ、確かに』

 

 そして、さらなる発言が管制室から。

 

『海と言う場において、彼がカウンターに選ばれることは極めて有効な手だ。本人の性格はともかく、ね』

 

 うーむ、ここまで言われてしまってはもう、認めるしかないのか……

 

「あ、お前たち!」

 

 と、何とか現実逃避できないかと考えているとお声がかかってしまった。これはもう、逃げようがないな。

 

「いつまでこの私を、イアソンを待たせる!特異点だぞ!?とっとと来ないか!」

 

 やっぱサメの餌にしようぜ、コイツ。

 

 

 

 =○=

 

 

 

 私が変わるきっかけとなった特異点、オケアノス。そこでの最後の戦いは、それはそれは苛烈なものだった。海上を駆る三隻の船。内2つ、海賊の物が砲撃を続けつつ接近し、乗り込んだ。黒髭は躊躇うことなくタックルをかまし、前蹴りに鉤爪にとケンカ殺法。最後には至近距離で砲台を召喚しヘクトールを撃つ等、まあ優雅さの欠片もない野蛮な戦いであったわけだが。そんな攻め方をされた敵方のリーダーが、彼。ギリシア神話における金羊の皮を巡る物語で有名なアルゴー号の船長・イアソンである。

 ……まぁ、残念なことに「ヘラクレスは最強!」、「メディアに肉柱にされた」という二つの印象が強すぎるのだけど。

 

 

 

 =○=

 

 

 

「全く、何故私がこんな野蛮な船に……」

「あのねぇ」

 

 アン女王の復讐号に乗り、そうぼやくイアソンに対し。つい耐え切れず口を出す。そうでなくとも仮契約を交わす身、コミュニケーションは大切だ。

 

「確かに髭ほったらかしだったりする連中の船だけどさ。気さくでいいやつらだし、何より船は結構なものだよ?」

「あぁ、そこは認める。この船は性能面でも功績面でもかなりのものだろうさ」

 

 おや、素直ですこと。

 

「だが、私が乗るに足るだけの品性があるとは到底思えないね。アルゴー号を出した方がよっぽどいい」

「魔力消費半端ないでしょ、戦闘時以外は却下です」

 

 神代の船とか……あの王女メディアが動力源になって動かしていたような船とか、どんな消費魔力なのか考えたくもない。ふざけるな。

 

「ふん、まあいい。それで、今回の目的はこの特異点の修復だったな?」

「うん、そんなところ。そこまで大きな特異点でもないから、放置って手もあったんだけど」

「打てる手を打つに越したことはない。小さな問題を放置してどれだけの影響を及ぼすか、考えたくもないね」

 

 この辺りは、黒髭と同じ意見。正反対なようで二人とも海に生きた男である、ということなのだろう。いやはや、どうしたものか。

 

「あー、クソ」

 

 と、一人問答をしているとイアソンの方がめんどくさそうに頭をかきむしり。

 

「聞きたいことがあるんだろ?とっとと聞きなよ」

「……隠せてなかった?」

「バレバレだっての」

 

 いやー、うん。さすがは英霊、こっちの考えなんて御見通しか。

 

「じゃあ、単刀直入に。私たちは貴方を信頼してもいいの?変なこととか、考えてない?」

「少なくとも、しっかり協力してやるつもりだよ」

 

 信頼するかは勝手に決めれば、と。そんな感じで即答されてしまった。

 

「オケアノスでのことだろ、どうせ」

「まあ、うん」

「だったらあの場であったことも、それなりに覚えてるんだろ?」

 

 それなりにどころか……あの特異点での出来事は、ほんの小さなものまで含めてすべて覚えている。

 

「つまりは、そういうことだよ。あのメディアが、私の望みをあの手段で叶えようとしたんだ。それはつまり、それしか選択肢が無いか……少なくとも、聖杯を使う中では一番可能性があったんだろ」

「だから、もう聖杯に期待はしてない?」

「私の収める国が無い中で王になったって意味がない。だったら、人類史のことを考えもするさ。癪だけどね」

 

 ほー、へー、ふーん。

 

「メディアのこと、むっちゃ信頼してません?」

「信用だ、信頼じゃない」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で、そう告げる。

 

「あの魔女の恐ろしさは身をもって知ってるし、それ以上に能力の高さも知ってる。それだけのことだ」

「……だから、やっても無駄だって分かってるし、協力してくれる、と?」

「あぁ、人類史に選ばれた英雄として、精々協力してやるさ」

 

 だから嫌なところをついてくるな、と言われてしまった。でも、彼は協力の意志を見せてくれている。今だって勝手に船を出すこともできるのに、文句を言いながらアン女王の復讐号に乗っている。トドメに、英雄として、なんて言葉だ。

 ……彼に習って、信用くらいはしてもいいかもしれない。

 

「そういうことなら、よろしくね」

「あーはいはい、よろしくよろしく」

 

 生返事をして、再び海を眺めるイアソン。大丈夫そうだと理解してマシュ達のところへ戻ろうとして、途中で振り返る。

 

 中でくつろぐのではなく、外で海を眺める。そんな背中になるほどなぁ、と納得して。私は皆のところへ戻った。

 




はい、と言うわけで。出しました。他に適役思いつかなかったんで


彼に関して、注意事項を


1:情報が少なすぎるので、彼の言葉とか諸々は私の解釈で行っています
2:宝具周りは私の独自解釈で出します

以上


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