高嶋叶吾は勇者である (宇津田)
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結城友奈の章
プロローグ・第1話


初投稿なので誤字などお見苦しい箇所がたくさんあると思います。
この作品は、「結城友奈は勇者である」を基にしたオリジナル主人公が出てきます。注意してお読み下さい。
納得頂けた方はどうぞ楽しんでいってください。


 

 

プロローグ

僕を助けてくれたあの子。

あの子が今、苦しみ、もがき続けている。

あの子が入院している部屋に入ると、出迎えてくれる表情はいつも固く、視線は常に目の前の病室の壁に向かっている。

あの子がいつも向けてくれた笑顔をもう一度みたい。

あの子が咲かせていた周りの笑顔をもう一度みたい。

そのために

僕は

勇者になった。

 

第1話

僕は小学生のときに髪の色が周りのみんなとは違うことでいじめを受けていた。

クラス全員に無視されたり、暴力を振るわれたり、学校によって様々なものを体験した。

僕は人見知り、根暗な性格だったのでいじめをしてくる連中に言い返したり、やり返したりすることは怖くてできなかった。

僕の髪は、生え際から先端に向かって半分の所までは黒色なのだが、半分を過ぎた所から先端までが少し黒色が混ざった赤色(赤暗色から黒色を半分ほど抜いた感じ)の色をしている。

自分でみても不気味に感じてしまう色なので、周りからみれば気味悪がられるのも仕方ないことであると感じた。

両親は、髪の色関係なく僕を愛していると話してくれたが、それでも学校でのいじめは僕の心を蝕んでいき、元々の性格に拍車をかけていき、同世代の子とはうまく話せなくなっていた。

いじめを受けるたびに小学校を転校し、何度目かの転校で訪れた小学校で、僕のことを助けてくれたあの子に出会ったんだ。

転校したさきで、いつも僕は周りの子たちと話すのが怖くなってしまい、話しかけに行くことができなくなっていた。

当然クラスの子たちも、僕の髪の色を気味悪がり話しかけに来てくれる子なんていなかった。

いつもと同じように気味悪がれ、いじめを受けるのだろうなと僕は考えていた。

しかし、あの子は違った。

「こんにちは!」

話しかけてきたその子は、とてもきれいな赤い髪の毛で、髪を頭の後ろで結んでいる。春なのに半袖半ズボンで元気いっぱいに動き回るイメージが強い子だった。

僕とは違い毛が全て真っ赤に染まっており、とてもきれいでみとれてしまうほどだった。

「こ、ここ、こんにちは・・・」

親以外の人と会話をするのは慣れていないのでへんな話し方になってしまい、僕は顔を赤くしてうつむいてしまった。

「私は結城友奈、よかったら学校の中を案内させてほしいな。任せて、私案内には自信あるから」(ガッツポーズ)

「でも、あまり僕と話したりしていると君もクラスの友達とかに嫌がらせされちゃうかもしれないよ・・・」

「大丈夫!みんなとお友達になればいいんだよ!もし高嶋君をいじめるようなやつがいたら私が退治するから!」

結城さんは笑顔で宣言した。

それが僕とあの子、結城友奈との出会いだった。

 

学校の案内をしてもらった後、結城さんのおススメスポットの桜の木が咲き誇っている場所に案内してもらったり、久しぶりに楽しい時間を親以外と過ごした。

「ね、ここすごいでしょ。地元の人だと有名な場所なんだけど高嶋君は引っ越してきたって言ってたから知らないと思ってここに来たんだ。桜きれいだよねー」

「うん、すごくきれいだよ。こんなにたくさん咲いてる桜見たのははじめてだよ。来てよかったと思う」

「喜んでもらえて嬉しいよー!私桜好きだから毎年絶対見に来るようにしてるんだ。夜にはライトアップされて昼間とは違う景色が見れるんだよ」

「いいなー、夜の桜も見てみたいけどお父さんやお母さんが、夜に出歩いてはダメだって言われてるからな・・・」

「もしよかったら今日の夜お父さんとお母さんとここで花見する予定なんだけど高嶋君もどうかな?」

「えっ・・・僕もいいの?邪魔になっちゃうと思うよ・・・髪の色みんなと違って変だし」

「私も家族も髪の色なんて気にしないから大丈夫だよ!高嶋君の髪の色カッコいいし!」

「僕の髪がカッコいいの・・・?」

「そうだよ!目的に向かって燃えている感じがして、私は好きだよ」

そんなことを言われたのは初めてだったので、僕は泣き出してしまう。

「た、高嶋君どうしたの!何かあった?どこか痛いの?」

「う、ううん。髪のことで褒められたのが初めてだったからうれしくて・・・」

「私は高嶋君の髪、好きだよ。絶対嫌いにならないから。だから泣かないで」

僕は自分の髪を呪いだと考えていた。

親にも褒められたことのなかった髪を、他人に褒められるとは思ってもいなかった。

まるで自分が初めてこの世界にいてもいいのだと感じられた瞬間だった。

それから、結城さんと話していると家がほぼご近所さんだったことが分かったので一緒に帰ることになった。

(一緒に帰ったりするのは友達がすることだよね?もしかして結城さん、僕のこと友達だと思ってくれてるのかな。でも僕みたいなのと友達でいいのかな・・・)

僕は今までいじめられてきたので友達がひとりもいない。

なので友達とはどうなるのかも分からない。

だから勇気を出して結城さんに言った。

「ゆ、結城さん!あの・・・」

「ん?どうしたの?」

「よかったら僕と、その・・・友達になってくれませんか!!」

このようなこと言ったのは初めてなので僕は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

だめだったらどうしよう・・・、僕は性格暗いし友達になってくれないかも・・・

頭の中が暗い考えでいっぱいになる。

けれど、結城さんは笑顔で元気な声で

「うん!私たちは友達だよ、よろしくね!」

と答えてくれた。

小学5年生の春、僕の人生の1つ目の運命の出会いだった。

 

つづく

 

 




読んでいただきありがとうございます。
不定期で投稿していくと思います。
よろしくお願いします。


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第2話

突然だけど、結城さんはスキンシップが少し、いや結構過剰であると僕は思う。

学校ではクラスメイトに話しかけることに抵抗がある僕を、手をつないでクラスメイトの会話に混ぜようとしてくれたり、何か嬉しいことがあれば抱き着いてきたり、体で表現することが多い子なのだ。

僕自身、友達がいなかったので、友達同士がどれぐらいのスキンシップをするのか知らなかったので、このようなものなんだなー、ぐらいにしか感じていなかった。

逆に初めてできた友達がこんなにも仲良くしてくれてうれしいと考えていた。

しかし、男の子と女の子が一緒にお風呂に入るのはさすがに違うような気がするのは気のせいなのかな・・・

今僕と結城さんは、結城さん家のお風呂に一緒に入っている。

結城さんの家は僕の家の後ろでとても近くだったことが、初めて一緒に帰ったときに分かった。

なので、家族ぐるみで結城さんのご家族と仲良くしてもらっている。

僕の両親は、大赦勤めで朝早くから夜遅くまで仕事をしているし、休日に仕事に行くことも多い。

当然、僕が家で一人のことが多いので、そういうときに結城さんの家にお邪魔していたりするのだ。

僕としては初めての友達の結城さんと長く一緒にいられるのでとてもうれしい。

今日も両親の帰りが遅いので結城さんの家で夕食をごちそうになってしまった。

結城さんのご両親に申し訳ないので今度何かお礼をしなければ・・・

と考えていたら、結城さんがいきなり

「きょう君も一緒にお風呂入ろうよ!」

いきなりこの子は何を言ってるんだ!僕男の子なんだよ!

僕は何も言えずにアワアワしていると、強引にお風呂場に連れていかれてしまい、結局一緒に入ることになってしまった。

結城さんの身体は女の子なのに結構筋肉質な身体をしており、さすがお父さんに武術を教えてもらっているだけはあるなと思った。

あまり胸とかは見ないようにしないと・・・

そんなことを考えつつ、結城さんの身体を直視しないようにお風呂のイスに座り、ドキドキしつつ髪を洗っていると

「お背中流しますよ~!」

「ひょわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「背中流すの上手だってお父さんに褒められたんだ。任せて!」

「と、友達同士でお風呂に入ったりするの?!」

「女の子同士ならよくあるよ」

「僕、男の子なんだけど・・・」

「大丈夫!私は気にしないよ。もしかして、きょう君は嫌だった?」

「ぼ、僕は嫌じゃないよ・・・」

「ほんと!よかった~。やっぱり友達と仲良くなるには裸の付き合いが大事だしね」

どこでそんな言葉を知ったんだろう?

もう考えることはやめよう・・・

そんな話しつつ結城さんは背中をタオルでごしごししたあとシャワーで流してくれる。

「結城さん、背中洗うの上手だね~。気持ちいいよ」

「褒めて貰えてうれしいよ。さ、身体冷えちゃうから湯船に入ろ?」

考えることを放棄した僕は素直に従って一緒に湯船に浸かる。

「そうだ、きょう君、私のこと苗字じゃなくて、名前で呼んでほしいな」

「えぇ!」

友達が結城さん以外にいない僕はまだ下の名前で呼び合う友人なんていないので僕にはハードルが高すぎるよ・・・

裸の付き合いをしている時点で恥ずかしがることではないような気がするけれど。

「私、親友には下の名前で呼んでほしいんだ。嫌かな?」

そのように言われると、僕の心の中では恥ずかしさよりうれしさが何倍にも膨れ上がる。

自分には友達は今のところ一人しかいない。

その友達に親友と思っていられている。

これ以上うれしいことはない。

目の前にいる『親友』に最大限の感謝を込めて、その子の名前を呼ぶ。

「ゆ、友奈ちゃん」

「!やっと名前で呼んでくれるようになったんだね、きょう君!」

友奈ちゃんがよろこんで抱き着いてくる。

「ゆ、友奈ちゃん、あんまりくっつくと・・・」

肌と肌が触れ合い、鼓動が早くなっていく。

お湯に浸かっている状態なので、緊張のあまり、のぼせてしまい・・・

「あれ、きょう君、どうしたの?きょう君!?」

 

 

 

そんなこんなで友奈ちゃんと出会ってから楽しい日々を送っている。

人見知りで髪の色が他とは違う僕でも、友奈ちゃんが普通に接してくれるお陰で今回の学校では特にいじめなどは起こらず、学校でも楽しく過ごすことが出来た。

男なのに友奈ちゃんに力で負けてしまう僕は、友奈ちゃんのお父さんに武術を指導されたり、裁縫や料理が得意なので友奈ちゃんに料理を振る舞ったり、友奈ちゃんのぬいぐるみを作ってプレゼントしたり、学校以外でも充実した生活を送っていた。

楽しい時間は過ぎるのが早く、僕たちは小学校を卒業し中学入学を控えた3月下旬に、また新たな出会いがあった。

 

友奈ちゃんの家のお隣に急遽大きな和風屋敷が作られ、その家に僕たちと同い年の女の子がいる家族が引っ越してきた。

友奈ちゃんはもう挨拶を済ませて、得意の町案内をしたらしい。

僕も連れていってもらった桜の名所では、その子も息を飲むほど感動していたという。

今日も友奈ちゃんはその子と出掛ける予定らしいけど、何故か僕も一緒に行くことになっているらしい。

「友奈ちゃん、待って、まだ心の準備が・・・」

「きょう君は初めて会う人のときは、いつもおんなじこと言ってるよ」

「大丈夫、東郷さんは少し奥手な所があるけどとってもいい子だよ。きょう君も友達になれるよ!」

「僕、友奈ちゃん以外とはあまり話せないし、初めて会う人とは緊張しちゃってダメなんだよ・・・」

「私の直感だと、東郷さんときょう君は結構話せると思うよ。最初の一歩が肝心なんだよ」

「で、でも・・・」

「あ、東郷さん!おーい!」

友奈ちゃんが手を振る先に、車椅子に乗った女の子がいた。

髪は綺麗な黒色で、足はすらっとしていて、顔だちも同年代とは思えないほど大人びている。

まるで日本人形が目の前にいるかのようで、大和撫子という言葉が似合う女の子だった。

第一印象が大事だと思うが、そんなの僕には当然無理で挨拶すらなにもせず、友奈ちゃんの後ろで隠れていた。

「おはよう!東郷さん!」

「おはよう。結城さん」

2人を見る限り、数日の間で距離が近くなっていると思われる。

さすが友奈ちゃん、友奈ちゃんのスキンシップで溶けないコミュニケーションの壁はない。

「ほらきょう君も挨拶しないと」

「うぅ・・・」

緊張しながら、そして勇気を出して、言葉を振り絞る。

「おお、おはようございます。結城さんのお友達の、高嶋叶吾と言います。よ、よろ、よろしくお願いします」

「あなたが、結城さんが話していた人なのね」

「友奈ちゃんから何か聞いていたんですか?」

「ええ、裁縫と料理が得意で、よく人見知りでもじもじしているから女の子みたいなお友達がいるって」

「お、女の子みたいって・・・少しショックです」

友奈ちゃんの方を見ると、ご近所の方といつの間にか世間話をしていた。

「あとね、気遣いができる男の子だって聞いてるわ。私の名前は東郷美森と言います」

「私、両足が不自由で、もしかしたら迷惑をかけてしまうかもしれないけど、友達になってくれますか?」

「っ!はい!こちらこそよろしくお願いします!」

僕は、また新しい友達ができた。

そのことがうれしくてつい涙が出そうになったけど。

僕と東郷さんは、中学校に入学してから、『結城友奈ファンクラブ』を設立したり、歴史について語り合うほどの親友になっていくことは、まだこのときは知らない。

 

 

 

 

そして中学入学と同じ時期に、大赦からの命令で、僕は1つのお役目を果たしていくことになる。

 

 

 




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第3話

「友奈ちゃーん、朝だよ~」

声を掛けつつ友奈ちゃんの身体を揺さぶる。

友奈ちゃんは朝起きることが苦手なのだ。

目を覚ました後はシャキッといつもの元気いっぱいの友奈ちゃんになるのだが、寝ぼけている時間が長いので、早く起こさないと遅刻になってしまう。

「友奈ちゃん、今起きないと朝ごはん食べる時間なくなっちゃうよ」

「んぅ~、あと5分だけ~」

「それさっきも言ってたよ」

「授業初日で遅刻するのは、さすがにまずいよ~」

「きょう君も一緒に遅刻すれば怖くないよ~」

そう言いつつ友奈ちゃんは僕の手を引っ張り布団の中に引きずり込もうとする。

中学生になっても、力では友奈ちゃんに勝てない僕は簡単に友奈ちゃんが寝ているベッドの上に倒れてしまう。

そこにすかさず友奈ちゃんが掛け布団を僕にもかけてくる。

つまり今友奈ちゃんと一緒の布団に入ってしまっている。

目の前には寝ぼけた顔をしている友奈ちゃんがいて、お互いの鼻が触れ合いそうになる近さだった。

恥ずかしくて早く布団から逃げ出そうとすると

「んふふ~、きょう君あったか~い」

友奈ちゃんが後ろから抱き付いてくる。

友奈ちゃんは仲が良い相手とは、抱き付いたり、手を握ったりのスキンシップが多く、約2年も家族ぐるみでの付き合いがある僕は、当然抱き付かれたり、手を握ったりなどのスキンシップは毎日のようにある。

お風呂も週に1回ぐらいの頻度で一緒に入ったりするが、まだこのスキンシップには慣れない。

今も友奈ちゃんに後ろから抱き付かれて顔を赤くしてしまう。

「友奈ちゃん、そろそろ起きないと本当に遅刻するよ」

目を合わせるのは恥ずかしいけど、体の向きを変えて友奈ちゃんに向き直る。

そして友奈ちゃんの脇腹を思い切りくすぐる。

「うひゃあ!あははははははははははは!」

友奈ちゃんは脇腹が弱いので、朝どうしても時間が無いというときの切り札なのだ!

友奈ちゃんの身体あったかいし、やわらかいなあ・・・

はっ!ヘンなこと考えちゃだめだよ!

「友奈ちゃん、目覚めた?」

「はー、はー、う、うん、大丈夫だよ」

「じゃあ、僕は1階で待ってるから制服に着替えてね」

「オッケー!」

目が覚めた友奈ちゃんは早い。

数分で支度を終え、1階のリビングでご飯を急いで食べる。

僕はご飯を食べる友奈ちゃんを眺めている。

急いでいるときでも、ご飯をおいしそうに食べる彼女を見ていると、心がポカポカしてくる。

そして家の前で待っている東郷さんと合流し、友奈ちゃんは東郷さんの送迎車に乗り2人は一緒に登校する。

友奈ちゃんは東郷さんの身の回りの世話をすることが多いので、車での登下校を学校から特例で許可が出ている。

僕には許可が下りなかったので2人を見送ってすぐに自転車で学校に向かう。

学校に着けば同じクラスなので2人とはすぐに会えるのだが、友達と一緒に登下校出来ないのはちょっとだけ寂しいかな・・・

 

 

 

初回の授業は、大体その授業の内容や評価方法などの説明でほとんどの時間が終わるのであまり疲れを感じることもなくその日の授業は終わった。

ホームルームが終わったらすぐに2人の所へ向かう。

帰る準備をして昇降口へと向かっていると、すれ違う他のクラスの子とも友奈ちゃんは挨拶をしていた。

本当に友奈ちゃんは凄い。

コミュニケーション力の高さや持ち前の明るい性格などでいろんな人と友達になってる。

僕には到底真似できない。

僕の考えていることが顔に出ていたらしい。

「きょう君、そんな顔してちゃダメだよ。笑顔じゃないと幸せが逃げちゃうよ」

「僕そんなにひどい顔してた?」

「うん。きょう君は人と話すのが少し苦手なだけで、思いやりの心が他の人より強くて、気遣いの出来る優しい人なんだから少しは自信を持っていいんだよ!」

「でもそれは、以前逃げるために身につけた術みたいなもので、自信なんて持てないよ」

友奈ちゃんと出会う前の僕は、いじめや嫌がらせなどをされないように自分を目立たせないようにしたり、周りの人間の空気をできるだけ読む努力をしていただけだ。

結局どこでもいじめはされていたのだが。

逃げるために身につけた術なんて、ただの恥であると思ってしまう。

しかし彼女は僕の考えを否定する。

「今の生活できょう君自身や周りの人のために役に立っているのなら、誇っていいことだよ。その経験で今の優しいきょう君がいるんだから」

「う、うん」

その言葉を聞いて泣きそうになる。

僕の人生を肯定してくれる人がいる。

それだけでとてもうれしいことなのだから。

校門前に着いて、送迎車が来るのを待っている間、友奈ちゃんと東郷さんがどの部活に入部するか話し合っていた。

来週から仮入部の期間なのでそれで話していたのだろう。

「ねえ、きょう君はどの部活に入部するの?運動部?文化部?」

「僕は帰宅部でいいかな。特にやりたいことはないし」

「ええ~!せっかくの中学時代を帰宅部で終わらせるのはつまらないよ!」

「そうだ!3人一緒の部活に入ればいいんだよ!絶対楽しい中学時代が作れるよ」

「きょう君も東郷さんも料理が上手だし、みんなでクッキング部とかいいかも!」

「いいと思うわ、結城さん」

「でしょ!他にも色々部活はあるし、来週がたのしみだよー!」

部活の話をしていると送迎車が着いたので、2人とはそこで別れて自分も自転車に乗り帰宅する。

今日も両親が遅くに帰宅する日なので、友奈ちゃんの家で夕食を一緒に食べてお風呂に入る。

さすがに中学生になっても一緒にお風呂に入るのは色々まずいと思うのだが、友奈ちゃん自身と友奈ちゃんのご両親が特に気にしていないので今もお風呂に一緒に入ることにしている。

あと一緒にお風呂に入ることを断ろうとすると友奈ちゃんがとても悲しい表情になるのでやめられないというのもあるし、僕自身も友奈ちゃんと一緒のお風呂は、心がポカポカし暖かい感じがしてやめることが出来ない、という理由もある。

そしてお風呂を上がり、自宅に戻る。

新しい学校生活で疲れていたらしく、その日はすぐに寝てしまった。

 

 

 

次の日は休日だったので休みたかったのだが、朝早く大赦の車が家の前に止まり、神樹様のマークの仮面をつけた人が訪ねてきた。

「高嶋叶吾君かな?」

仮面をしていたので分からなかったが、声を聞いて男性だと分かった。

「は、はい。父と母でしたらまだ仕事から戻ってきていないのですが・・・」

「今日は君に用があって迎えに来たんだ。これから一緒に来てほしいところがあるんだ。ご両親の許可も頂いている。一緒に来てもらえるかな?」

「ぼ、僕がですか?」

「そう、君にやってほしいお役目があるんだ。ちなみに、君に拒否することはできない。拒否するとご両親に何か影響が出るかもしれないしね」

そのことを聞いて僕はただ受け入れるしかできない。

「わ、分かりました。今から準備します」

朝早くから脅されて車に乗ると、神官に仮面と大赦の方が羽織っているローブを渡される。

「朝早くから済まない。こちらも急いでいてね。私の名前は三好春信、これから君が担うお役目の担当者だ」

「あ、あの、僕はこれからどのようなことをさせられるのでしょうか?」

「その仮面とローブを身につけてとあるお人と会って、お話をして欲しい」

「ぼ、僕初対面の人と話すのはとっっっっても苦手なんですが・・・」

「大丈夫、特に難しい話をしろと言っているわけではないよ。君の学校での話をしたりすればいいんだよ。君の友達の話とかをね」

それは世間話をしろということなのかな?

でも僕にはそれでもハードルが高いよ・・・

そんなことを考えていると大橋の近くにある大赦本庁の病院に着いた。

僕はその病院の特別病室まで連れていかれる。

扉の近くに立つと中から大きな声が聞こえてくる。

「ねえ、なんでわっしーのことを教えてくれないの!友達が今どんな暮らしをしているのか知りたいのはダメなことなの!ねえ!」

女の子の声だった。

「もう一度説明するけど、今部屋の中で怒鳴っている女の子とお話をしてあの子の怒りを鎮めてほしい。いきなり連れてこられてわけが分からないと思うが、部屋の主の怒りを鎮められるのは君しかいないんだ」

「な、なんで僕なら部屋の子の怒りを抑えられるんですか?」

「詳しい説明は私からは出来ない。さあ、部屋に入ろう」

部屋のドアが開かれ中に入ろうとする僕の足が止まってしまう。

部屋の中央に置かれたベッドといる部屋の主らしき女の子とその周りに頭を下げている神官が数人いることはまだいい。

人の形をした紙が壁にたくさん貼られており、病室の白い壁が見えない。

ベッドがある正面には部屋にどうにか収まる大きさの鳥居があり、ベッドの周りが神社やお寺などで見るような木製の手すりのようなもので囲われている。

ベッドの真上は白熱灯のような白い明かりが灯っているが、他の場所は明かりが無い。

部屋の主の女の子が祀られているようにも見えるけど、僕には腫れ物の扱いを受けているように見えた。

足が動かない僕を三好さんが手を引っ張って、女の子の前まで連れていく。

僕が鳥居をくぐった後に部屋にいた神官たちは僕と三好さんを残して出ていってしまった。

「園子様。我々ではお力になれないので今後のお話し相手を連れてまいりました」

「私の怒りをぶつける身代わりを出すということは、大赦は何も私には話さないってことかな~?」

「上層部はその考えでしょう。我々からお話しすることは禁止されておりますので。しかし彼は園子様の知りたいことを教えてくれるでしょう」

「・・・・・・」

「我々お付きの神官にはこの程度のことしかお手伝い出来ませんが、何卒ご容赦下さい」

そう言うと三好さんはお辞儀をして部屋を出ていってしまった。

部屋に2人になってしまい、沈黙が続く。

友奈ちゃんに、挨拶は大事!と教え込まれているので勇気を振り絞り言った。

「お、おおお、おはようございます!」

2回ほど噛んでしまったがなんとか挨拶はできた!

ほっとひと息つく。

「うん、おはよ~」

女の子は先ほどの怒りを感じさせない挨拶を返してくれた。

「私の名前は、乃木園子って言うんだ~。あなたの名前は?」

「ぼ、僕は、高嶋叶吾と言います」

 

 

 

乃木園子との出会いは、将来僕を勇者になるのを手助けしてくれる人物で、僕にとって2つ目の運命の出会いだった。

 

 




感想ありがとうございます!
感想があるととても意欲が変わるものなのでとても驚きました。

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第4話

今回は友奈ちゃんが全く出ません。また、シリアス気味です。注意してお読みください。
また今回スマホからの投稿ですので変な箇所があるかもしれないです。

ちなみにこの回は中野サンプラザから投稿です。
ということは今日は・・・
正解は本文のあと!



 

「さっきはごめんね~、見苦しい所を見せてしまったね~」

「い、いえ、気にしないでください」

「高嶋だから、たかっきーでいいかな?」

「へ?もしかしてそれ、あだ名ですか?」

「うん、高嶋君のあだ名はたかっしー!」

僕は友奈ちゃん以外の人には基本名字で呼ばれているので、あだ名をつけられ、その名で呼んでもらえるなんて経験したことが無い。

あだ名を付けられるなんて仲が良い人同士でしかしないものだと思っていたのでこんな所で経験するとは思わなかった。

まだ友達でもないただの他人だけど、それでもあだ名を付けて貰えて僕はとてもうれしかった。

「はい!そのあだ名でぜひ呼んでください!」

「たかっしー、良い食いつきだね~。いいよいいよ~」

「とりあえず、色々お話ししようか。そこにある椅子に座ってね」

ベッドの脇に折り畳み椅子が立てかけてあり、それに僕は座る。

「僕は名字で呼べばいいですか?」

「園子とか、そのっちとか、好きに呼んでくれていいよ~。出来たら名前で呼んでほしいかな~」

「いきなり下の名前で呼ぶのはちょっと・・・」

友達でもないのに下の名前で呼ぶのは馴れ馴れしい感じがするし、名字で呼ぼうかな。

「大丈夫だよ~。私たちはもう友達だよ!出会いは最悪だけど、これからで挽回だよ~!」

まるで僕の心を読んでいるような発言にぽかんとしてしまう。

「仮面を付けていて表情は分からないけど、たかっしーの動きで大体はわかるよ~。さっきは腕を組んで頭を傾けていたし、私と春信さんが話してたときなんて足が震えてたでしょ~?」

「あ、足が震えていたのは緊張のせいですよ・・・」

僕の考えていることは読まれやすいのかな・・・

衝撃の事実にショックを受ける。

そんな僕に乃木さんが

「たかっしーはショックかもしれないけど、表情や顔に出やすいってことはたかっしーが素直なことなんじゃないかな?」

「自分の心に嘘がつけないから素直なんだよ。それって素敵なことだと思うよ~」

「他人を思いやれる優しい人なんだよ〜、たかっしーは」

出会ってまだそんなに時間が経っていないのに、友奈ちゃんとほとんど同じ結論に達した、目の前の女の子に僕は驚いた。

「だからね〜、まだ会ってから時間が経ってないけど、素直で優しい人だと感じたから、私はあなたと友達になりたいと思ったんよ〜」

「ぼ、僕なんかと友達になりたいんですか?」

そう言ったあと、僕は思い出す。

今はフードをしているから乃木さんには見えないが、僕の髪は普通の色をしていない。

髪の毛を見れば、気味が悪いと感じ、嫌がらせや暴言を吐かれるかもしれない。

僕は友達を作りたいと思っているのに、友達を作ることが怖い。

仲良くなった人に裏切られるのが怖いんだろう。

そんな僕の不安を読み取った乃木さんが

「私と友達になるのはダメかな〜?・・・やっぱり、こんな包帯でぐるぐるの怪しい子とは友達になりたくないよね・・・」

実は今付けている仮面は、足元はよく見えるように多くの穴が空いているのだが、正面には少しの穴しかなく、乃木さんの姿がよく見えていないのだ。

彼女のことをきちんと見たいと思い、仮面とフードを外した。

確かに目の前の女の子は手や顔の左目と口以外は包帯が巻かれていた。

見たときは驚いてしまった。

彼女も僕の髪の毛を見て、驚いているようだった。

けれど、僕は髪の毛のせいで見た目は難ありな人なので、何かしらの事情があり、それで今の状態を強いられているんだろうと納得することが出来た。

そして彼女の目は、寂しくて何か縋れるものを探しているような目をしていた。

まるで、いじめられていたときの僕の目に似ていると感じた。

昔、友奈ちゃんが僕を救い出してくれたように、目の前の女の子の助けになりたいと感じた。

友奈ちゃんがいないと、友達すら作れない。

友奈ちゃんがいないと何もできない僕でも、目の前の女の子の助けになりたいと感じたから、勇気を振り絞り、自分の心の殻を破る一歩を僕は歩み出す。

「僕、髪の毛の色が他の人と違ってこんな変な色をしているんです。それが原因で、友達も2人しかいないです。そ、そんな僕とでも友達になってくれませんか!」

まるで告白してるみたいだなあ・・・

「うん!私からも宜しくお願いします!」

乃木さんが笑顔でそう言った。

友奈ちゃんやったよ!

僕初めて一人で友達作れたよ!

「それじゃあ、乃木さんのこと、園子ちゃんって呼ばせてもらうね」

「うん、いいよ〜!久しぶりに友達に名前で呼んでもらえて、嬉しいな〜!」

「園子ちゃんも友達少ないの?僕なんかより人とぐいぐい話せそうなのに」

「私、よく周りとズレてるって言われてて今までで友達は2人しかいなかったんだよ〜。今はたかっしーも入れた3人だ〜!」

「他の2人の友達と今は会っていないの?」

そう言ったとき、園子ちゃんは目を細めて悲しげな表情をしていた。

「2人とも今は遠くの場所にいてね、今は会えないんだ〜」

「ご、ごめんなさい。変なこと聞いちゃって・・・」

「ううん、気にしなくていいよ〜。たかっしーが謝ることじゃないから」

園子ちゃんはそう言って、少し重くなってしまった空気を変えるために違う話を振ってきた。

「たかっしーのご両親は大赦で働いているんだよね?」

「そうだよ。どんな仕事をしてるかよく分からないけど」

僕はお父さんとお母さんが大赦でどんな仕事をしているのか知らない。

大赦の仕事は、神樹様に関係している仕事がほとんどなので教えることは出来ないと説明されていた。

この世界を維持してくださってる神樹様に関わることなので、部外者に情報が漏れた際に、神樹様に危害を加えようとする人が出るのを避けるためらしい。

そんなことを思い出しつつ返事をしたら園子ちゃんから驚くことを聞かされる。

「そうなんだ〜。じゃあ、たかっしーは本物の高嶋家の一族なんだね〜。私、他の五家に連なる名家の人とは会ったことないからちょっと興奮してるんよ〜!」

うん?

僕が歴史上有名な名家の子孫?

そんなこと親から一度も聞いたことがないんだけど・・・

僕が驚きでポカンと口を開けていると、園子ちゃんは頭に、?マークが出るような表情をしていた。

「もしかして、たかっしーは知らないの?」

「う、うん。お父さんやお母さんから聞いたことないよ」

「そっか〜。じゃあ歴史の勉強の復習も兼ねて、昔の話をしよっか〜」

園子ちゃんはそう言って、三好さんに旧世紀の終わり頃から始まっている年表を持ってこさせた。

「旧世紀末の西暦2015年の夏に、死のウィルスが世界中に蔓延したことは分かるよね?」

「うん。世界中の人々が死んじゃっていくなかで、四国の周りに神樹様が防御結界を張ってくれたお陰で、四国には死のウィルスが入ってくることはなかった」

「うん、そうだよ。そんな混乱した四国をまとめ上げて、今ある大赦の大まかな部分を作った方々が、乃木家、上里家、高嶋家、伊予島家、土居家の五家なんだ〜」

「うん。知ってるよ。だけどなんで僕はがその五家の1つの高嶋家の子孫なんだと園子ちゃんには分かるの?一般の人でも乃木や高嶋の名字の人なんて沢山いるよ」

そう、僕のクラスでも名字が高嶋が2人、乃木が3人、土居が1人といった感じで何人も五家の名字の人が多いのだ。

だというのに何故僕が五家の高嶋家の子孫だと言うんだろう?

「実は大赦にはねある規則があって、五家の子孫以外はその名字を名乗ることは許されないっていうのがあるんだよ〜」

「これは大赦設立時からある規則でね、五家を神聖視する人が多くて作られたものなんだ」

「そんな規則があるんだ・・・」

「うん。だからたかっしーが、五家の高嶋家の子孫だと分かったんだ〜」

「僕、親から何も聞いていないよ・・・」

「多分だけどね〜、たかっしーの両親はたかっしーが周りの人に利用されるのを防いでいたんだと思うよ?たかっしー素直だからすぐ騙されちゃいそうだし」

「た、確かに・・・」

「そもそも、普通の人は信じてくれないだろうし、痛い子扱いされちゃうね〜」

こんな所にも両親の気遣いがあるとは知らず、申し訳なく感じてしまう。

「そんな訳で、私はたかっしーが五家の高嶋家の子孫だと分かったんよ〜」

「説明ありがとう、園子ちゃん」

「いいえ〜。そういえば、たかっしーは学校でどんなことしてるの?」

「僕は、今中学校に入学したばかりで、あまり話すことなんてないよ?」

「たかっしーのお友達はどんな子がいるの?何人いるの?」

園子ちゃんが目を輝かせながら聞いてくる。

まるで目がシイタケみたいだよ・・・

「ぼ、僕は、園子ちゃんもいれて3人いるよ。普通の人がより全然少ないと思うけど・・・」

「数なんて関係ないんだよ、たかっしー。その友達がどれだけ大切な人なのかが大事だと思うよ〜」

園子ちゃんの言葉と目がまるで経験を物語っているように真剣なものになっていた。

彼女の2人の友達はとても大切な人達だったんだろうな、と僕は思った。

3人目の友達の大切な人になれたらいいなぁ・・・

「うん。そうだね。ありがとう園子ちゃん。大切なことを教えてくれて」

「気にしなくていいんよ〜。で、どんな子達なの?」

「えっと、一人目は、結城友奈ちゃんっていう子でね、髪は真っ赤で、周りを誰でも笑顔にしてしまうぐらい元気のある子なんだ。身長は僕と同じくらいなんだ」

「うんうん。それでそれで〜?」

「でね、僕は友奈ちゃんに出会って、沢山、救われたんだ。だから、僕にとってとても大切な人なんだ・・・」

「たかっしー、結城さんに惚れてるね〜」

「ええっ⁈そ、そうなのかな・・・?」

園子ちゃんがニヤニヤしながら話してくる。

僕、恋愛のことなんて分からないよ・・・

まだ友達が3人目出来たばかりなのに・・・

僕の思考がショートしかけていると園子ちゃんが話を変える。

「結城さんのことはまた何か進展があったら教えてね〜。それでもう1人はどんな子なの?」

「2人目は、東郷美森さんっていう子なんだ。まだ友達になったばかりで、ほとんど何も知らないんだ」

そのとき園子ちゃんの表情が消えた。

考えるのをやめたみたいに感情が空っぽになった目を僕に向けて。

園子ちゃんみたいなほわほわしていて柔らかい雰囲気を纏っていた彼女の表情がいきなり変わったので僕は驚いた。

「ど、どうしたの園子ちゃん⁉︎」

「ううん。なんでもないよ〜。それで外見とかは?」

「う、うん。東郷さんは、髪が真っ黒で、体全体が大人びていてね、まるで大和撫子みたいな子なんだ。事故の影響で、車椅子に乗っているよ」

「そうなんだ〜。2人とも魅力的な子たちだね。私も友達になりたいよ〜」

「2人とも優しくて、面白いから園子ちゃんもすぐに友達になれるよ。もしよかったらここに今度2人を連れてこようか?」

「それは出来ないことなんだよ。高嶋君」

そこで年表を持っていた三好さんが話に入ってきた。

「なんで駄目なんですか?僕は今ここに来ているのに・・・」

「君は先程園子様から説明があったように、五家の血を受け継いでいる人間なんだ。その2人では家格の不釣り合いで、ここには連れてこられない」

「そんな・・・」

「いいよ、たかっしー。いつもこんな感じで大体は断られちゃうんだ。だから次来るときに2人の写真を見せてもらいたいな」

「でも・・・」

「今までは対等で話せる人がいなくて寂しかったけど、今はたかっしーがいるから寂しくないよ。だからね、またここに来てくれるかな?」

園子ちゃんが少し悲しい目で見てくる。

友達をこんな所でいつも1人にさせるなんて僕には出来ない。

だから彼女と約束する。

「うん。絶対僕はまたここに来るよ。園子ちゃんに会いにくるから」

僕の出来る限りの笑顔で彼女を見た。

 

 

その後はお昼ご飯を挟みながら園子ちゃんとボードゲームやトランプなどをして遊んだりした。

園子ちゃんは両手が動かせないらしいので、お付きの巫女さんに代わりに駒を動かしてもらったりしていた。

遊ぶときは人数が多いほうがいいと園子ちゃんの提案で、三好さんと、お付きの巫女さんも一緒にゲームを楽しんだ。

そして、夕方になり僕は自宅に帰ることになった。

「たかっしー、また来てね」

「うん。また来るからね」

そう返事をして僕は園子ちゃんの部屋を後にした。

送迎の車の中で三好さんが話しかけてくる。

「今日は本当に助かった。お付きの神官、巫女を代表して礼を言わせてもらうよ」

「いえ、僕はただ新しく出来た友達と遊んだだけですから」

「君には週に1回、園子様の所に来てもらいたい。学校が休みの土日のどちらかで迎えを出すので良いかな?」

「はい。僕はそれで構いません。あと1つ聞いてもいいですか?」

「私で答えられることならば」

「どうして園子ちゃんはあんなに酷い怪我をしているんですか?事故での怪我ですか?」

人が事故ではどうにも違和感がある怪我をしているように感じたので質問をしてしまった。

「それには答えられないな。この質問は君自身が園子様に直接聞くほうがいいと思うよ」

「そうですか・・・」

「あと質問にはなるべく答えたいとは思うが、知りすぎると君が危険になる可能性もある。覚悟を決めて質問したほうがいいよ」

大赦の内情を知ることは死ぬ可能性がある、と三好さんは言った。

このあと特に何も話さずに自宅に着き、疲れていたので僕はすぐに寝た。

長い1日だったから、早く友奈ちゃんに会いたいなぁ・・・

 

 




正解は、満開祭り3があります!
作者は昼、夜の部どちらも参加します。
もしかしたら読んで下さってる方ともすれ違うかもしれないですね。

感想や誤字などありましたら報告お願いします。


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第5話

投稿遅くなってすみません。
リアルが忙しかったのと、ゆゆゆいでの赤嶺ちゃんと友奈ちゃん、この作品のオリ主の三角関係の妄想ばっかしていたらこんなことに・・・

そして友奈ちゃん、誕生日おめでとう!!
作者は一生、友奈ちゃんについていきます。

友奈ちゃん、愛してるよ!



園子ちゃんの所に行ったのが土曜日で今日は日曜日なので今日も学校は休みなのでいつもより少し遅くに起きる。

着替えて居間に行くと両親の置き手紙があった。

昨日のお役目のことで三好さんから話があるらしく大赦本庁に行くと書いてあった。

特にやることがない日はいつも友奈ちゃんの家にいく。

小学6年生の頃からの習慣みたいなものである。

友奈ちゃんの家に行き、友奈ちゃんの両親と挨拶をする。

友奈ちゃんの両親は買い物で午前中は出掛けると言っており、僕は快く留守番を引き受ける。

今日は特に予定もないし、昨日のことで頭がパンクしていたので友奈ちゃんのぬくもりを感じていたいと思っていた。

友奈ちゃんの両親が出掛けるのを見送った後、寝ている友奈ちゃんの所へ向かう。

「友奈ちゃん、入るよ」

ノックをしてドアを開ける。

友奈ちゃんはベッドの上で小さな寝息を立てながら眠っている。

「友奈ちゃん、風邪引いちゃうよ」

ベッド際まで近づき、はだけている掛け布団をかけ直す。

ベッド際でそのまま座り、その後は友奈ちゃんの幸せそうな寝顔を眺める。

「ん~、もう食べられないよ~、きょう君・・・」

友奈ちゃんが寝返りを打ちながら寝言を言っている。

しかも友奈ちゃんの夢の中で僕は出てくるらしい。

夢の中でも友奈ちゃんと一緒にいられていることに嬉しくなって軽く顔がニヤけてしまう。

そして友奈ちゃんの寝顔を眺めるだけでは終わらない。

そう、寝ている間に友奈ちゃんのほっぺたをぷにぷにするために友奈ちゃんの部屋に来たのだ!

小学生の頃に、友奈ちゃんが起きないのでほっぺたをぷにぷにしたときがある。

そのときに味わったほっぺたの弾力、ほっぺたから指に伝わる体温、間近で友奈ちゃんを感じられることに喜び、そのときからずっと続けている習慣である。

流石に学校がある日とかは時間がないのでやらないけど、休みの日には急ぐ必要がないので触らせてもらっている。

ちなみに僕が友奈ちゃんのほっぺたを触っていることを友奈ちゃんは知っている。

僕から友奈ちゃんに対してスキンシップをすることは少ないので、僕が密かにスキンシップを取っていたことを知るとなぜか涙目で

「きょう君が自分からスキンシップをしようとするなんて・・・きょう君成長したね~」

と話していた。

友奈ちゃんはスキンシップをするのもされるのも好きで、僕からのスキンシップについては喜んでいた。

そんなわけで本人の許可も得ているので早速友奈ちゃんのほっぺたをぷにぷにする。

友奈ちゃんが痛がらないように、優しくほっぺたに触れる。

人差し指と中指で少しの力で押していく。

柔らかい感触を指で感じる。

そして友奈ちゃんの体温を感じる。

友奈ちゃんのほっぺたをぷにぷにしている僕の顔はきっとニヤついているのだろう。

でも大丈夫!

この家には僕たち以外の人はいないし、友奈ちゃんは眠っているから見られる心配はない。

友奈ちゃんのほっぺた柔らかいな〜

 

 

友奈ちゃんの寝顔を眺めたり、ほっぺたをぷにぷにするのを交互に行い、1時間ほどすると友奈ちゃんは起きた。

「ん〜、あ、きょう君だ〜。おはよう〜」

そう言いつつ友奈ちゃんは上体を起こして僕に抱きついてくる。

「うん。おはよう、友奈ちゃん」

早口に返事をする。

いまだに僕は友奈ちゃんに抱きつかれたりするとドキドキしてしまい、鼓動が早くなる。

でも友奈ちゃんに気付かれるのは恥ずかしいのでなるべく冷静に振る舞う。

けれどやっぱり僕の考えていることは分かりやすいらしく、友奈ちゃんに

「そんなに緊張しなくていいんだよ~」

と背中を手でポンポンされながら声をかけられる。

「今日もほっぺた触ってたの?」

「うん。友奈ちゃんのほっぺた触ると、こう、なんていうか安心できるんだ・・・」

「そっかー。きょう君が好きでやっていることだから私が起きてるときとか何時でもいいんだよ?私は嫌じゃないし」

「そ、それはちょっと恥ずかしいよ・・・」

一段と顔が赤くなるのを感じる。

「恥ずかしがるきょう君可愛いよ~」

そう言いつつ友奈ちゃんが抱きしめた状態で頬ずりをしてくる。

「ゆ、友奈ちゃん、くすぐったいよ~」

友奈ちゃんに抱きしめられながらいくつか話をしたあとに一緒に朝食を食べる。

「う~ん、おいしー!」

友奈ちゃんの輝く笑顔を見ながら尋ねる。

「友奈ちゃんは今日は何か予定でもあるの?」

「何もないよー。きょう君は?」

「僕も特に予定はないよ」

「じゃあ今日は家でのんびりしていよっか」

「うん。そうだね」

朝食を食べた後は友奈ちゃんの部屋で別々なことをして過ごす。

友奈ちゃんは趣味の押し花を、僕も趣味の裁縫で東郷さん人形を作っている。

東郷さんの誕生日が近いので誕生日プレゼントとして贈る予定なのだ。

「友奈ちゃんは東郷さんにどんなプレゼントを贈るの?」

「私は桜の押し花を贈るつもりだよ」

友奈ちゃんらしいプレゼントだと思う。

「きょう君は人形を作るの?」

「うん。僕が一番思いを込められるのが裁縫だから。大事な友達の誕生日プレゼントは全力を尽くさないと何か申し訳ない気持ちになるんだ」

「きょう君は裁縫上手だから東郷さんも喜ぶよ!」

「喜んでもらえたらいいな。友奈ちゃんの押し花も東郷さん気に入ると思うよ」

そんな話をしつつ黙々と作業を行っていく。

友奈ちゃんは物事に集中すると周りを気にせず作業に集中することができるのでその技を生かして押し花づくりをしていた。

僕も話が得意ではないので黙々と東郷さん人形を作っていく。

昼頃に友奈ちゃんの両親が帰宅し、4人一緒に昼ご飯を食べる。

昼ごはんの後も作業を続ける。

日が傾き始めたあたりで僕の作業は終わった。

僕の全てを出し切った人形が完成し、満足しつつ友奈ちゃんの方を見る。

友奈ちゃんも押し花を作り終わったのか、ベッドに背中を預けてうたた寝していた。

このままでは風邪を引いてしまうかもしれないので、友奈ちゃんをお姫様抱っこしてベッドに寝かせる。

掛け布団をきちんとかけて、友奈ちゃんの寝顔を見る。

寝ている時も笑顔なので、見ているこっちも元気が出る。

友奈ちゃんの寝顔を見ていると僕も眠くなってきてしまい、ベッドに寄りかかる態勢で寝ることにした。

 

 

「あ、きょう君起きた!おはよう!」

友奈ちゃんの顔が僕のことを覗き込むように見ている。

気が付くと僕は何故か友奈ちゃんに膝枕をされていた。

「へ?ゆ、友奈ちゃん、これは・・・」

「きょう君が私のことベッドまで運んでくれたんだよね?そのお礼だよ」

そう言いつつ友奈ちゃんが頭を撫でてくる。

「きょう君の寝顔を見られたから私は幸せだよ~」

恥ずかしくなって顔が真っ赤になる。

今の僕の顔は湯気が出そうなほど暑い。

そんな顔を見られたくないので両手で隠してしまう。

「あ、ご、ごめんねきょう君。嫌だったかな・・・」

友奈ちゃんが悲しそうに言う。

「あ、いや、嫌じゃないから安心して。逆に、友奈ちゃんのことを近くで感じられて嬉しいよ・・・」

緊張や恥ずかしさなどで逸らしそうになりながらも、友奈ちゃんの目を見ながら自分の思いを告げる。

「えへへ~、嬉しいなー!」

友奈ちゃんは一瞬きょとんとした後、ほっぺたを赤くして花のようなきれいな笑顔で話す。

「もう少しこのままの態勢でいいかな?」

「うん!いいよ!」

友奈ちゃんとの生活は、僕の心を幸せで満たしてくれる。

ずっとこのまま友奈ちゃんと一緒にいれたらいいな。

 

 




いつも感想ありがとうございます!
そして前回、初めての評価ありがとうございます!
素人が書いたものなのに読んで下さりありがとうございます!

作者の励みになりますので感想などありましたら、どしどし送ってください。


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第6話

お久しぶりです。宇津田です。
投稿遅くてすみません。
毎週連続3日徹夜していたらこんなことに・・・

今回は友奈ちゃん出てきますが、ラブラブしません。
普通にストーリーが進む感じです。
ではどうぞ


 

慣れない中学の授業を受けつつ、放課後に部活の見学や体験入部をしていたが、しっくりくる部活が無く僕達はまだ入る部活が決まっていなかった。

「友奈ちゃん、チアリーディング部に誘われたんでしょ?」

「そうなの?友奈ちゃん色んな所から誘いがきて凄いねー」

コミュニケーション力、運動神経ともに抜群の能力を持っているから友奈ちゃんは色々な部活から誘いがくるのだ。

さすが友奈ちゃん。

「入らないの?」

「押し花部からの誘いだったらな~」

「そんな部活存在しないでしょ?」

「あまり部活とかで押し花部って聞かないしね」

「そだねー」

3人で部活を探すために校内を歩いていると上級生らしき人に声をかけられた。

「あなたたちにお勧めの部活は、ほかにあるわ!」

「「「?」」」

「あなたたちにお勧めの部活は、ほかにあるわ!」

知らない人に声をかけられたことにドキドキしながらも友奈ちゃん達が話を進めていく。

「何故2回も?」

「どちらの勧誘なんですか?」

「あたしは2年の犬吠埼風。勇者部の部長よ」

「勇者部?」

「そんな部活あったけ?」

初めて聞く部活の名前に首をかしげる僕と東郷さん。

しかし、友奈ちゃんだけは違う反応を返す。

「なんですかそれ。とってもワクワクする響きです!」

「えっ・・・」

「友奈ちゃんはカッコイイのとかが好きだからね」

「分かる~?フィーリング合うねー!」

犬吠埼先輩が説明用のチラシを僕たちに渡してくれた。

「勇者部の活動目的は、世のため人のためになることをやっていくこと」

「各種部活の助っ人とか、ボランティア活動とか」

「世のため人のためになること~」

「うん、神樹様の素敵な教えよねー」

「といってもあたしらの年頃はなんかそういうことしたいけど恥ずかしいって気持ちあるじゃない?」

「そこを恥ずかしがらずに勇んでやっていくから勇者部」

「なるほど、あえて勇者というケレン味のある言葉を使い皆の興味を引くことで存在感を確立しているのね」

「あ、いや、そこまで深く考えてないって」

東郷さんの変なスイッチに反応してしまったらしい。

東郷さんはよく色々なことに対して深読みすることがあり今回もそらが発動してしまったらしい。

気にしないでおこう。

「私、憧れてたんですよね、勇者って言葉の響きに。かっこいいなって」

「その気持ちがあれば、君も勇者だ!」

「おおー!勇者!」

「凄いところに食いつくのね。でもなんだか友奈ちゃんらしい」

「僕も友奈ちゃんらしいと思うな」

友奈ちゃんは人が苦しんでいたり辛いところを見るのが凄く嫌いだから人助けをすると以前話していた。

だから勇者という人助けや困難に立ち向かっていく人を指す言葉に惹かれるのは友奈ちゃんらしいと思った。

「で、どう?3人揃って勇者部に入部しない?楽しい青春が君達を待ってるぞ〜」

先輩の手が、おいで〜、おいで〜と手招いている。

先輩が誘ってきたときに友奈ちゃんが戸惑った表情になった。

1人で盛り上がって話を聞いてしまっていたからだろう。

友奈ちゃんが盛り上がって話を聞いていた部の勧誘を僕は断るはずがない。

「2人はどうかな?楽しそうな部活でいいなって思うんだけど・・・」

「私も楽しそうだと思うからこの部活でいいと思うわ」

「僕は2人がいいと思った部活なら大丈夫だと思うよ」

友奈ちゃんがいる場所が僕の居場所だから。

心の中でそう考えながら笑顔で答えると友奈ちゃんがとびきりの笑顔で宣答える。

「結城友奈、勇者部に入部します!」

それに合わせて僕達も返答する。

「私も勇者部に入部します」

「ぼ、僕も勇者部に入部します」

「よし!一気に3人確保!」

「それじゃあ、立ち話もなんだし、我が部の部室に案内するわ。ついてきて」

案内された場所は家庭科準備室。

ここが勇者部の部室だった。

部屋自体は大きめだが準備室の為、部屋の中は荷物などであまり空いているスペースが無いようだった。

「ちょっと中はごちゃごちゃしてるけど気にしないで。適当な椅子に座ってねー」

「これは片付けのしがいがあるわね」

東郷さんがやる気のある表情で言った。

確かにこれは一度掃除とかしたほうがいいかもしれない。

「掃除はまた今度でいいわ。あとはいこれ、入部届。今週中に担任の先生に提出してね」

「活動は来週の月曜から本格的に始めるわ。今週は部室を掃除したり、どうやって依頼を受けるか考えたりする感じでのんびりやっていきましょ」

「質問なんですけど、もしかしてこの部活は一からのスタートなんですか?」

東郷さんが質問する。

掃除の件や依頼の受付の事などの話を聴くとそう考えても不思議ではない。

「そうよ!よく気づいたわね。この部活は正真正銘、出来立てホヤホヤなのよ!」

「聞き覚えがない部活と思ったら一からのスタートだったとは」

「全部これからなんだよね」

やっぱりそうだったんだ。

でも一から皆で何かを作ったり、行ったりすることはあまり経験したことないから楽しそうでいいかも。

「そうだ、勇者部のホームページを作って、そこに依頼を受け付けられるようにするのはどうでしょうか?」

「いいアイデアだと思うけど、私インターネットとか詳しくないからホームページ作れないわよ」

「その点に関しては大丈夫です。私がインターネットに少し詳しいので私が作成します。ただ学校の許可などが必要になるのではないかと」

「そうね。学校の許可は私が取るから進めて貰ってもいいかしら?」

「了解です」

東郷さんが先輩に敬礼をする。

それを見て苦笑しながら思い出したように先輩が話した。

「そういえば、貴方達の名前を聞いてなかったわね。ここで自己紹介してもらおうかしら」

「さっきも言ったけど、私は、犬吠埼風。2年生よ。よろしくね」

「結城友奈って言います!1年です!よろしくお願いします!」

「東郷美森と申します。よろしくお願いします」

「た、高嶋叶吾です。よよ、よろしくお願いしま、す」

また自己紹介で噛んでしまった・・・

僕が1人でショックを受けている間に先輩は気にせず話を進めてくれた。

助かります・・・

「それじゃあ、他にも色々決めていきましょ」

初めて入部した部活は勇者部。

立ち上げられたばかりの部活での活動は不安があるけど、友奈ちゃん達が一緒だからきっと大丈夫。

 

入部した次の週から勇者部は本格的に活動を開始した。

とはいってもまだ依頼がきていないので今日は川のゴミ拾いを行うことになった。

「3人が入ってくれたお陰で、勇者部の戦力は4倍に膨れ上がったといっても過言ではないわ!ゴミ拾いは人がいるに限るしね」

先輩が空き缶をゴミ袋に入れながら話す。

東郷さんは車椅子なので川の中に入ることができない。

なのでその間に勇者部のホームページの更新などをしてくれていた。

「あ、この間立ち上げたホームページにさっそく依頼がきています」

「ナイス宣伝東郷!」

もう依頼がくるなんて、どんな宣伝をしたらくるのだろうか・・・

「友奈ちゃんは陸上部から、私は将棋部から、高嶋君と風先輩はまだ依頼はきてないですね」

「よし、頑張るぞ~!私は勇者になる!」

「さっそく空いている日を予定で埋めておきますね」

「お願いね、東郷」

「はい。任せて下さい」

「それじゃあ、まだ依頼の指名がきてない私と高嶋は当分市内の清掃活動を行うわよ」

「わ、分かりました」

僕と先輩だけで活動するのか・・・

良い人だとは思うんだけど、2人きりで話せたりするかな・・・

うん、きっと出来ない。

頑張って少しでも話せるようにならないと。

緊張するな・・・

 

 

次の日は早速依頼がきた友奈ちゃんと東郷さんはそれぞれの目的地へと向かっていき、残った先輩と僕は学校の周りからゴミ拾いを始めた。

「さあ、じゃんじゃん拾っていくわよー!」

「は、ははははい」

友奈ちゃんが一緒に居ないといつもの口下手に拍車がかかってしまい、変な返事になってしまう。

先輩は話しながらゴミを拾っていく。

「そんなに緊張しなくていいわよ。私の妹も人見知りで話すのが苦手でねー。だから無理して話そうとしなくていいわよ。ゆっくり私に慣れてくれればいいから」

「は、ひゃい!・・・す、すみません」

「いいのよ、高嶋が頑張って話そうとしてるの分かるから。高嶋話そうとするときに覚悟を決めた表情になるしね」

「僕そんな顔してたんですか・・・」

自分の新たな真実に驚きつつ返事をする。

「友奈や東郷とは仲が良いからそんな顔してなかったわよ。多分馴染みがない人と話すときに出てるんだと思うわ」

てことはクラスメイトに話しかけられたときにもそんな表情をしていたのかな?

おおう、なんてことを・・・

髪の色のせいもあるけど、クラスメイトが近寄ってこないのは多分表情や口下手なせいもあるのだろう。

毎回覚悟を決めた表情で話してくるやつなんて嫌だろう。

これじゃあクラスメイトで友達なんて出来ないよ・・・

1人で頭を抱えていると先輩が話しかけてきた。

「口下手な所とかはこれから直せるわよ。勇者部だと嫌でも人と沢山関わっていくからね。ちょうどいい会話の練習場所になるわよ」

「僕なんかに直せますかね?」

「直せるわよ。まあ、あまり気負いせず気楽にやっていきましょ。何事も楽しく、よ」

「はい。が、頑張ってみます」

「それじゃ、まずは近隣の皆さんや歩行者の方に挨拶から!こんにちはー!ほら高嶋もやる!」

「はは、はい!こここ、ここんにににちは!」

「そう!それでいいのよ。気持ちが込めてあれば十分よ!その調子!」

「はい!」

そんな感じで先輩とも少し距離を縮められた日だった。

 

 

「悩んだら相談っと」

「こうゆう五つの誓い、みたいなのいいですね」

「なんか引き締まる感じするっしょ!」

「残り一つはどうしますか?」

「最後だからビシッとしたいよね」

「為せば成る、為さねば成らぬ何事も。とかどう?上杉鷹山さんのお言葉」

「よ、よーざん?ちょっと難しい言葉のような・・・」

「なせば大抵なんとかなる。とか?」

「それならバッチリ分かるー!」

「よーし、じゃあ決まりね!」

「皆で何を書いてるんですか?」

先生に呼び出されてしまって遅れてきた僕は、部室に入ると3人で何か書いていたので書き終わるのを待っていた。

「いい質問ね。これは、勇者部五箇条!あるといいかなーと思って作ったのよ」

「は、はぁ・・・」

不思議なことをしているような気がするけど、友奈ちゃん達が楽しそうだし、いっか。

「風先輩!読み上げてみていいですか?」

「いいわね!途中から来た高嶋に聞かせるわよ」

「はい!」

「了解です」

僕のために読んでくれるらしい。

「「「勇者部五箇条ひとーつ!」」」

「「「挨拶はきちんと」」」

「「「勇者部五箇条ひとーつ!」」」

「「「なるべく諦めない」」」

「「「勇者部五箇条ひとーつ!」」」

「「「よく寝て、よく食べる」」」

「「「勇者部五箇条ひとーつ!」」」

「「「悩んだら相談!」」」

「「「勇者部五箇条ひとーつ!」」」

「「「なせば大抵なんとかなる」」」

「この部は出来たてだから、何か規則とかあったらやりやすいかなーって思って作ったのよ」

「勇者部五箇条、いいですねー!」

友奈ちゃんがとても喜んでいる。

カッコいい物やヒーローに憧れているから喜ぶのは当然だろう。

「勇者部部員はこの五箇条に沿った志で活動すること!いいわね?」

「はい!」

「了解です」

「わ、分かりました」

この部活に入ったことが正解なのかは今は分からない。

けれど、友奈ちゃんが笑顔でいてくれるならそれだけでいいかなって思う僕だった。

 




毎度感想や評価ありがとうございます!
作者の干からびた心が潤います!
なので是非、感想などありましたら送って頂けたら嬉しいです!
次回は中学一年の主人公君のプロフィールを書きます。
なので多分早いと思います。
ゆっくりとお待ち下さい。


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主人公プロフィール①

今回は主人公君の中学1年生時点でのプロフィールです。
基本的にプロフィール回では、主人公君のことと周りの関係や設定などを書いていきます。
学年や、大きな出来事のときにプロフィール回を挟みます。
書いた設定と変わることがありますので、ご了承ください。
内容ランダムで書いてあります。ちょっと読みにくいかもです。
俺は友奈ちゃんとラブラブした所だけ読みたいんだ!
という人は多分読まなくて大丈夫かと思います。


高嶋叶吾(たかしまきょうご)

神世紀287年1月19日生まれ。

出身地は香川県坂出市。

身長149センチ、体重46キロ、実は友奈ちゃんより身長が低い。

趣味は料理と裁縫。友奈ちゃんにご飯を作って食べてもらうのが大好き。

髪は根元から半分辺りまでは黒色、中間から髪の先っぽまでは赤色で、友奈ちゃんみたいな髪の色をしている。

髪は何度か黒色に染めたことがあるが、数日で元の黒色と赤色の半分半分に戻ってしまう。

友奈ちゃんに会うまでは学校でいじめられており、転校を繰り返して小学5年の春に出会う。

中性的な顔立ちをしており、女装が似合う。

性格は、内気でオドオドしている。友奈ちゃんが側にいると相槌を打つぐらいは出来るが、親しく無い人と一人で話すのは上手く出来ない。噛んだり、無言になってしまう。

考えていることや思っていることが表情や身体に出ている。

本人は無意識だが、よく指と指をツンツンしたりしている。

現在の友達の数は、友奈ちゃん、東郷さん、園子ちゃんの3人。男の子の友達はいつ出来るのだろうか・・・

友奈ちゃんとは何も気にすることなく話すことが出来るが、東郷さん、園子ちゃんとはまだ壁がある模様。

風先輩とは多少距離が短くはなったが、話すときはまだ緊張してしまう。

クラスメイトからは、友奈ちゃんととても仲が良いので悪い奴ではないが、変な所(髪、態度、外見)があり近づき難い存在と認識されている。

そのため、今の所主人公に対するイジメは起きていない。

クラスの一部の人間からは、友奈ちゃんととても仲が良いため、嫉妬を買ってしまっている。

大赦の五家の1つの高嶋家の血筋である。

両親は大赦の中枢部で仕事をしているため、帰りが遅かったり、帰ってこないときもある。

主人公を大赦のことに巻き込まないために、血筋の話や仕事の話を本人にはしてこなかった。

両親は園子ちゃんの件で大赦に関わらせてしまったことに後悔している。

イジメも原因の1つであるが、大赦内部での権力争いに主人公を巻き込まないようにするために各地を転々とするように転校をしていた。

 

小学校のときにイジメを受けていたため友達がおらず、友達という存在に憧れており、友達が増えることにとても喜びを感じる。

友奈ちゃんが一番最初の友達で、そもそも友達の数がとても少ないので、友達との付き合い方がよく分かっておらず、友奈ちゃんが自分にしてくるスキンシップ(手を繋ぐ、お風呂に一緒に入る、抱きつくなど)を周りも行なっていると認識している。

 




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第7話

お久しぶりです。作者の宇津田です。
投稿期間が空いてしまいすみません。
今回は東郷さん回です。
この作品はメインヒロインが友奈ちゃんでは?という疑問は考えちゃダメですよ!主人公君には勇者部のみんなと仲良くなってほしいので。




真夏になる少し手前の時期に僕達の学校では期末テストがある。

今日は東郷さんの家で、友奈ちゃん、東郷さん、僕の3人でテスト勉強をしていた。

「なんでテスト前に課題を沢山出すんだろう」

友奈ちゃんが、机に突っ伏しながら言う。

「友奈ちゃん。勉強しないとまたテストの点数が前みたいに酷いことになるわよ」

「うっ・・・はい」

そう、前回の中間テストで友奈ちゃんはあまりよろしくない点数を取ってしまった。

今回のテスト勉強は東郷さんの発案で行われることとなったのだ。

「大丈夫よ友奈ちゃん。分からない所は私が教えるわ。一緒に頑張ろ?課題が終わったらぼた餅作るから」

「東郷さんのぼた餅⁉︎やったー!頑張ります!」

東郷さんが上手く友奈ちゃんのやる気を引き出した。

さすが東郷さんだ。

「じゃあ僕も、友奈ちゃんが課題が終わったら友奈ちゃんがしてほしいことするね」

「本当?何でも?何個でも?」

「う、うん。僕が出来ることならいいよ」

「頑張ります!」

そう宣言し友奈ちゃんは課題に向き合って解き始めた。

うん、友奈ちゃんのやる気が出たなら良かった。

僕も課題をやらなくちゃ。

東郷さんはもう課題を終わらせていたので、友奈ちゃんにつきっきりで勉強を教えていた。

なるべく自分で解くようにしてどうしても分からない時は僕も東郷さんに質問した。

僕達の中で一番勉強が出来るのが東郷さん。

パソコンや和食や和菓子など出来ることがとても多い。

そして何より他の人と普通にコミュニケーションを取れている。

まさに完璧人間だ。

何故そんな人が僕と友達なのだろうか?

少しぼーっとしているといつの間にか勉強以外の考え事をしてしまっていた。

「高嶋君、手が止まってるよ?」

「あ、そ、そうだね。あはは、やらないと」

変なことを考えないようにと僕も集中して課題を解いた。

 

 

 

僕と友奈ちゃんの課題が終わる頃には夕食の時間に近くなっていた。

「終わったー!」

「お疲れ様、友奈ちゃん。夕食が食べられないと困るから少しだけぼた餅用意するわね」

「やったー!東郷さん大好き!」

東郷さんのぼた餅は美味しいからつい沢山食べそうになってしまう。

それを見越してのことだろう。

「じゃあ、用意してくるから2人とも少しだけ待っててね」

「はーい」

「うん」

そう言って東郷さんは台所へ向かった。

「で、友奈ちゃんは僕に何をして欲しいの?」

「あ、覚えててくれたんだ。忘れられてるかなって思ってたよ」

「僕は友達との約束は破らないよ」

もちろん、友奈ちゃんのお願いなら何でもするよ。

と、心の中で答えて友奈ちゃんの話を聞く。

「でね、きょう君。2つお願いがあるんだ」

「どんなこと?」

「えっとね、1つ目はきょう君に膝枕してもらいたいな」

友奈ちゃんが少し顔を赤くして見つめてくる。

多分恥ずかしいのだろう。

恥ずかしがっている友奈ちゃんは珍しいと思った。

てか友奈ちゃん可愛い!

というかこれは僕にとってはご褒美だよ!

だって友奈ちゃんの顔を間近で見られるんだよ!

「えっと、本当にそれでいいの?なんていうか、友奈ちゃんのご褒美になっていない気がするけど・・・」

興奮している自分を落ち着かせるために確認をしてみる。

「以前にね、私がきょう君に膝枕したときあるよね。その時にきょう君が気持ちよさそうな顔して寝てるから、膝枕って気持ちいいのかなーって思ったの」

「そ、そうなんだ。友奈ちゃんがいいなら僕は大丈夫だよ」

友奈ちゃんの答えに僕は恥ずかしくなり、友奈ちゃんから顔を逸らす。

「2人で何を話してたの?」

ちょうど東郷さんがぼた餅を持って戻ってきた。

「東郷さんのぼた餅ー!」

友奈ちゃんがぼた餅を見た瞬間飛びついていった。

「ダメよ友奈ちゃん。まず手を拭かないと」

そう言って東郷さんは友奈ちゃんにお手拭きを渡す。

友奈ちゃんは素早く丁寧に手を拭き、ぼた餅を食べ始めていた。

「んー!やっぱり東郷さんのぼた餅は美味しいよ!和菓子は東郷さんのじゃないと美味しいと感じないよ〜」

「大丈夫よ友奈ちゃん。責任は取るから」

そう言って東郷さんは友奈ちゃんへ最上級の笑顔を向けていた。

出会った時では考えられない。

さすが友奈ちゃんだ。

東郷さんとそこまで親密な仲になるとは。

2人を微笑ましく見ていると東郷さんが僕にもお手拭きとぼた餅を渡してくる。

「ほら、高嶋君も見てないで食べて」

「うん。ありがとう」

僕も東郷さんお手製のぼた餅を食べる。

うん、美味しい!

どうやったらこんなに美味しくなるのだろうか?

今度作り方を聞いてみようかなて・・・

と考えていたら食べ終えた友奈ちゃんがさっき話していた続きを話し始めた。

「あ、そうだ!きょう君への2つ目のお願いなんだけどね、東郷さんにも手伝って欲しいんだ」

「私?」

「うん。ダメかな?」

「私が手伝えることなら協力するわ、友奈ちゃん」

「やったー!ありがとう東郷さん!」

「友奈ちゃんのお願いならいくらでも手伝うわ」

それは僕も同意だね。

でも東郷さんも一緒に僕は何をするのだろうか。

少し心配になってきた・・・

「友奈ちゃん、僕は何をすればいいのかな?」

「良い質問だよきょう君!それはね、きょう君に女装して欲しいんだ!」

「・・・」

うん?

「友奈ちゃん、もう一回言って」

「きょう君に女装して欲しいんだ。それが2つ目のお願いだよ」

「じょ、女装⁈」

なんと斜め上のお願いが来てしまったよ・・・

「確かに高嶋君は素材が良いから女装いけると思うわ」

そして東郷さんも賛成してしまった・・・

まあ、友奈ちゃんのお願いなので僕には断る選択肢などない。

「友奈ちゃんがそれでいいのなら僕は反対しないけど、女装が似合わなくても変なこと言ったりしないでね」

当然、友奈ちゃんはそんなこと言わないだろうけど、何事も初めてやることに不安になることはしょうがないだろう。

「きょう君に変なこととか傷つくことなんて言わないよ。安心して」

「うん。分かった」

友奈ちゃんが優しい笑顔で見つめてくる。

恥ずかしくて目を逸らしてしまうが、ちゃんと返事はする。

そしてそこからは2人が服の話では盛り上がっていたので、僕は半分話が分からなかったので勉強して待っていた。

その後は夕食の時間帯だったので僕と友奈ちゃんは帰ることとなり、友奈ちゃんを家まで見送って僕も家に向かう。

僕の家は友奈ちゃんの家の真後ろなので、ぐるっと回らなければならないので少し面倒くさいと感じてしまう。

僕の家も友奈ちゃんや東郷さんの隣にあったらいいのにな〜、と考えていると端末が震えた。

確認してみると東郷さんからで、東郷さんの家に僕が忘れてしまった教科書があるとのことだった。

すぐに向かうと連絡し東郷さんの家に引き返した。

 

 

 

「ごめんね、東郷さん。手間をかけてしまって」

「気にしないで。これぐらい手間ではないから」

東郷さんの家に向かうとすぐに東郷さん自身が出迎えてくれた。

車椅子だから移動に手間が掛かるのにとても申し訳ない。

「高嶋君、今から時間ある?」

「僕は大丈夫だよ。どうしたの?」

「少し話をしない?」

東郷さんが僕に?

なんだろう?

不思議に思いながら返事をする。

「うん、いいよ」

「じゃあ、私の部屋に来てもらっていいかしら」

「うん。分かった」

東郷さんの後を追い、部屋に入る。

そして先ほど座っていた場所に座る。

東郷さんは僕の前に来て、じっと僕の目を見てきた。

探るような、そして何かを警戒している冷たい視線を感じて僕は昔を思い出してしまった。

好奇心や警戒心、恐怖などを感じさせる視線を向けられて過ごしていたあの頃を・・・

まさか友達と思っていた人に向けられるとは思わなかったので鮮明に思い出してしまい、身体が震えてしまう。

「あ、あの・・・僕が、な、何かを、してて、してしまったのなら、謝ります。だから、許してください。おお、お願いします・・・」

口がうまく言葉を発してくれない。

最後の方は声が小さくなってしまい、聞こえていないかもしれない。

怖くてボロボロと涙が出てしまう。

東郷さんの視線を直に見ることが出来ず、顔を見て伏せてしまう。

「た、高嶋君、どうしたの⁉︎」

「その、とと、東郷さんの目が、こわ、くて・・・」

「私の目?」

それだけで東郷さんは理解したらしく、話しかけてきた。

「ごめんなさい。高嶋君を怖がらせるつもりではなかったの」

「怒ったりとかは・・・」

「もちろんしていないわ。大丈夫よ、顔を上げて?」

恐る恐る顔を上げるといつもの優しい表情の東郷さんが僕の横にいた。

先ほど感じた視線も今は感じさせない目をしていた。

「ご、ごめんなさい。泣いたりしちゃって・・・」

「高嶋君は気にしなくていいわ。元は私のせいだから」

「それでね、高嶋君に聞きたいことがあるの。変なことを聞いちゃうから嫌だったら答えなくてもいいからね」

「うん。分かったよ」

顔を拭いながら返事を返す。

いったいどんな事を聞かれるのだろうか・・・

「高嶋君って、同性愛者なの?」

・・・・・・・・・・え?

「今なんて?」

「高嶋君は同性愛者なの?」

はひゃ〜〜〜〜〜。

僕が同性愛者?

てことは東郷さんからみて僕は男の人が好きな人だってこと?

いったい何がどうすればそんなことになるの⁉︎

てかまだクラスの男子ともまともに話せていないのに・・・

 

 

それから理由を聞いてみた。

東郷さんは、同学年の女子より、その、男の僕が言うのはあれだけど、胸が大きい。

それが原因で学校での男子の視線が胸に釘付けになるらしく、それがとても嫌だという。

僕も似たような経験を今もしているのでなんとなく分かる気がする。

東郷さんは嫌だけれど、仕方のないことだと割り切って学校生活を送っていた。

そこで1つの問題が起きた。

身近にいる男子、僕のことだけど、僕が友奈ちゃんや東郷さんと一緒にいるのは東郷さんの考えでは他の男子みたいに下心があるからだと思っていた。

僕は昔相手の表情から空気を読もうとすることが多かったので、今でも話すときはもちろん何もしていなくても相手の顔を見ていることが多い。

そのことが問題の原因となった。

僕が胸を直視することはない、話すときはきちんと相手の顔を見て話してくる。

東郷さんは他の男子とは違う僕のことをとても不気味に感じた。

そして同時に不思議に思ったらしい。

なぜ彼は他の人と違うのか、と。

そして考えついたのが、僕は同性愛者で異性には興味がないのではないか、と。

東郷さんは凄い発想をしているなー。

とりあえず誤解を解かないと。

「東郷さんあのね、まず僕は同性愛者じゃないよ」

「高嶋君いいのよ、人には人の数だけ愛があるのだから」

「てか僕まだ恋愛とかよく分からないからどうしようも出来ないよ」

そう、僕は恋愛というものがどういう感じのものなのか分かっていない。

「じゃあどうして高嶋君は私の胸を見ないで話せるの?」

男女で話す内容ではないと思うんだけどな・・・

「えっと、まず僕の昔の話をしなくちゃいけないんだけど、長いよ?」

「大丈夫よ。お願い」

それから僕の過去にあった出来事を話した。

イジメを受けていたこと、その時に身についた癖のことを。

「そんなことがあったのね。ごめんなさい、私のせいで嫌なことを思い出してしまったでしょ?」

「仕方ないよ。東郷さんに悪気があったわけじゃないし。気にしなくていいよ」

「だからね、僕は同性愛者ではないよ。分かってもらえたかな?」

「ええ、納得できたわ。私自分の考えを決めつけてしまう所とかあって、本当にごめんなさい」

「もう解決したことだし気にしなくていいよ」

気にしなくていいと言っているのに東郷さんは暗いままだ。

話題を変えるために今度は僕が質問してみることにした。

「そうだ、東郷さんに聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「何かしら?もしかして護国関係のことかしら?」

「ちょっと違うかな・・・。東郷さんはなんで僕と仲良くしてくれるの?僕のことが気持ち悪かったのなら僕とはあまり関わらないようにすればよかったんじゃないの?」

こうして直接聞いてくるということは僕との関係を切りたくないからだと感じていたからだ。

「確かに高嶋君と距離を取れば手っ取り早く済んだとは思うわ。でもね、高嶋君の学校とかでの様子を見ているとね、優しくて思いやりのある人だと分かったのよ。話しかけたりするのが苦手でも周りの人のために何かしようとしていたりするのを見たことあるわ」

「でもあまり人のためになっていないけどね。する勇気も途中でなくなっちゃうし、失敗することがほとんどだし・・・」

「何かしようとすることが大切なのよ」

東郷さんが笑顔で言う。

「それにね、私が車椅子で過ごしているのに高嶋君は一度も理由を聞いてこなかったじゃない?そのことも高嶋君が気遣いのある人なんだなって感じさせてくれたのよ」

「それは東郷さんもだよ?僕の変な髪の色のこと何も聞いてこなかったじゃん?」

「私は高嶋君に会う前から友奈ちゃんに話を聞いていたから何も聞かなかったのよ」

気遣い屋さんな友奈ちゃんならあるだろう。

「ちなみに友奈ちゃんはなんて言ってたの?」

「優しくて、恥ずかしがり屋で、内気だけど相手を思いやれる、とてもいい子だって言ってたわ」

自分の事についてなので恥ずかしくて顔が赤くなっていくのが分かる。

「あとね、恥ずかしがってる所がとっても可愛いって言ってたよ」

「も、もう友奈ちゃんは何言ってるの?!」

そんなこと聞いてしまうともっと恥ずかしくなってしまい顔を東郷さんから逸らしてしまう。

「友奈ちゃんの言ってた通りね」

東郷さんが笑顔で頷く。

その後真面目な表情になった東郷さんが言った。

「私高嶋君にひどいことを聞いてしまって傷つけてしまったと思うけれど、これからも仲良くしてくれる?」

僕自身はあの質問であまり傷ついていない。

逆にこんな誤解で友達を失うほうがショックで泣いてしまうだろう。

「うん!こちらこそよろしくね、東郷さん!」

この日から東郷さんとも話すことが多くなり、僕の学校生活はもっと楽しくなっていった。

 




読んで頂きありがとうございます。
前回誤字報告してくださった方ありがとうございます!
そしてこの作品なんとお気に入り数50超えました!ありがとうございます!
皆様が読んでくれるお陰でこの作品は続いています。次回ものんびりお待ちいただけたら幸いです。


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第8話

お久しぶりです、作者の宇津田です。
毎度毎度投稿遅くてすみません。
今回は主人公が女装します。男が女装するのが嫌いな人はブラウザバックしてください。
あと今回東郷さんが作者の妄想でキャラ崩壊していますので注意してください。



どうしてこんな状況になったのだろうか。

女装させられている僕は黒を基調とした服で袖口やスカートの端っこが所々白の部分もある。

スカートや袖がフリフリで、確かゴスロリ?っていう服を着て、頭には黒色のネコミミをつけている。

こんな格好恥ずかしいし、スカートから出てる足がスースーして落ち着かないよ・・・

そんな感じの僕は今友奈ちゃんに膝枕をしてあげている。

スカートの丈が短いので友奈ちゃんの髪が足の肌に当たってくすぐったい。

けれど身近で友奈ちゃんのことを眺められるし、頭を撫でることも出来るしいいことだらけなので、服のことなんかも忘れていられそうだった。

膝枕をしてもらっている友奈ちゃんは寝ているから。

だけど今日は僕と友奈ちゃんの2人だけではないのだ。

「友奈ちゃんの寝顔可愛いわ!ああ、友奈ちゃん!友奈ちゃん!」

僕と友奈ちゃんの隣には東郷さんがいて、しきりに写真を撮っている。

てかまずその鼻血を止めようよ東郷さん・・・

 

 

 

学校の期末試験が終わり、僕らは無事に夏休みを迎えていた。

中間試験で危ない点数を取っていた友奈ちゃんもどの教科も合格点を超えていて、夏休みの夏期講習に行かなくて済むことに喜んでいた。

今日は僕が以前友奈ちゃんに約束した女装をするために東郷さんの家に集まることになっていた。

友奈ちゃんはもう東郷さんの家にいて東郷さんと2人で準備をすると言っていた。

なので僕は1人で東郷さんの家に向かっている所だ。

準備が必要ってことは、何着も着せられるのだろう。

絶対女装なんて僕には似合わないよ・・・

東郷さんの家のインターフォンを押すと友奈ちゃんが出てきた。

「おはよう、きょう君!」

「おはよう、友奈ちゃん。楽しそうだね」

友奈ちゃんの顔を見れば分かる。

とっても笑顔だからだ。

友奈ちゃんが笑顔だと僕も嬉しいので笑顔になる。

けれど今日は少し顔が引きつってしまう。

だって女装だよ?

女の子が着て似合う服を男の僕が着るんだよ?

不安しかない・・・

友奈ちゃんと一緒に東郷さんの部屋へ向かう。

部屋にはとても笑顔な東郷さんがいた。

「おはよう、来たのね高嶋君」

「おはよう、東郷さん」

東郷さんのベッドの上には何着か服がある。

あれを全て着させられるのだろうか・・・

結構な数ある気がするんだけど・・・

「それじゃあ、まずこれを着てみて」

友奈ちゃんが部屋に置いてあった紙袋を僕に渡す。

「これって学校の制服?」

「うん、そうだよ。私が着てるのだよ」

「僕と友奈ちゃん身長ほとんど同じだもんね」

うん?

待ってこの服友奈ちゃんがいつも着ているものってことは友奈ちゃんの匂いがするのでは・・・

「隣の部屋が空いてるからそちらで着替えてもらってもいいかしら?」

「うん。分かったよ」

「私も着替えるの手伝うね」

「え!?大丈夫だよ!」

着替えを手伝ってもらうのは恥ずかしいからちょっと・・・

「でもきょう君、女の子の服着るの初めてだよね?いきなり1人で着替えるのは難しいかもしれないよ?」

「た、確かにちょっと自信ない・・・」

「だから私が手伝うね」

体を見られるのは慣れないので恥ずかしいけど1人で着替えられなくて後になって友奈ちゃんを呼ぶのも申し訳ないので手伝ってもらうことにした。

けれど制服は簡単に着替えることが出来た。

上着はそのまま着れば問題ないし、スカートもホックを止めてチャックを上げればそれで終わりだった。

「あ!きょう君ちょっと待ってて!」

そう言って1度部屋を出て戻ってきた友奈ちゃんが持っていた物はなんと女の子の下着だった。

「はい!きょう君。これも履いて?」

ファッ⁈

「え!これを僕が履くの⁉︎」

「うん。大丈夫!サイズは合ってる筈だから!」

違う!そこじゃないよ聞きたいのは!それも気になるけど!

「サイズはこの前きょう君のお家にお泊りした時にね、きょう君の下着のサイズを確認したんだ。その、ごめんね。勝手に見たりしちゃって・・・」

「大丈夫だよ、怒ったりしてないから。それで、どうして下着も?」

「女装だと下着も履くのかなって東郷さんに聞いたら、それは当然よって言われたんだ。それとね、私がきょう君が履いている所を見たいんだ」

照れた表情で言われたら断れないよ・・・

「あと、これ私のとお揃いだから一緒に履きたいな・・・」

是非履きます!

友達とお揃いの服を準備する。

友達が少ない僕は経験したことが無かったのでとっても嬉しい!

たとえそれが下着だとしても僕は喜んで履くよ!

「わ、分かったよ。でも友奈ちゃんは外で待っててね」

でも人前で履くところを見せるのは流石に恥ずかしいので、友奈ちゃんには部屋の外で待ってもらう。

女の子の下着を軽く見つめ、覚悟を決めて素早く履き替えた。

うーん、女の子の下着は結構ぴっちりとしてて男が履くとキツくて辛い・・・

男特有の股間にある物体が下着でぴっちりしてて違和感が凄い。

友奈ちゃんにお願いされた時以外は履かないようにしよう。

友奈ちゃんを部屋の外で待たせているので急いで変な所がないか確認して部屋を出る。

「友奈ちゃん、お待たせ」

話しかけている時も股が気になって足をモジモジさせてしまう。

「全然待ってないよー・・・」

何か友奈ちゃんの反応がおかしい。

ボーっとこちらを見ている。

「ど、どうしたの?何処か変なところあった?」

「ううん。ただ、照れてるきょう君が可愛いなーって思ったの」

照れてるというより、股が気になっちゃうから足をモジモジさせているだけなんだよ、とは流石に言えないよ・・・

「でも私の予想通り、きょう君は女装似合ってるよ!可愛いよ〜」

「わっ!ゆ、友奈ちゃん!」

友奈ちゃんが抱きついてきてほっぺたに頬ずりしてくる。

僕は友奈ちゃんに喜んで貰えただけで幸せだよ〜

「それじゃあ、東郷さんに見せに行こ!」

そういえば、東郷さんのことを忘れてたよ。

てかいきなり友奈ちゃん以外の人に見せるのは心の準備が!

「ま、待って友奈ちゃん!まだ心の準備が・・・」

「よーし、深呼吸しよっか。吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー」

「すーはー、すーはー・・・」

「落ち着いた?」

「まだ、ちょっと自信が・・・」

「大丈夫!きょう君の女装が似合っていることは私が保証するよ!」

友奈ちゃんがそこまで言ってくれるのだ、覚悟を決めろ僕!

「よ、よし、行こっか?」

「うん!」

友奈ちゃんに手を引かれて東郷さんの部屋に戻る。

「結城友奈、ただ今帰還しました!」

「も、戻りました・・・」

「お帰りなさい、2人とも。・・・高嶋君似合ってるわね。」

「でしょ!私の予想通りだよ!」

「流石友奈ちゃん」

2人で盛り上がっているのを眺めていると、東郷さんの膝には高そうなカメラが置いてあることに気づいた。

「東郷さん、そのカメラは?」

「これであなたの事を撮るのよ、高嶋君」

「えっ!写真撮るの?」

「もちろんよ。今の高嶋君可愛いのだから写真に収めない方が勿体無いわ。もちろん、友奈ちゃんが世界で一番可愛いけれど」

褒められたりすることに慣れていない僕は顔が赤くなる。

友奈ちゃんが世界で一番可愛いのは同意するけど、僕の写真なんか撮ってどうするのだろうか?

「東郷さんに写真を撮ってってお願いしたの私なんだ。きょう君の女装した姿の写真が欲しくて」

友奈ちゃんが少し照れた表情で言う。

「友奈ちゃんが欲しいならいいよ」

友奈ちゃんが欲しいなら僕に異論はない。

「それじゃあ、早速撮っていきましょ。まだ高嶋君が着る服は沢山あるのだから」

着させられる服が沢山あるということに内心驚きで始まった撮影会であった。

色々なポーズをさせられて写真を撮っていく。

もちろん友奈ちゃんとのツーショットもあった。

「きょう君似合ってるね〜。私と比べても女の子に見えるよ。」

「そ、そんなことないよ」

褒められたので照れながら返事をする。

すると友奈ちゃんが少しトーンを下げて言った。

「もしかして私って女の子っぽくない?・・・」

突然そんなことを言い出した友奈ちゃんに僕は少し声を大きくして返事をした。

「そんなことないよ!友奈ちゃんはちゃんと女の子だよ!僕なんかより服とか着こなせてるし、仕草とか可愛いし、とにかく僕より女の子出来てると思うから大丈夫だよ!」

言ってて途中から恥ずかしくなって顔が赤くなる。

「ありがとう、きょう君」

友奈ちゃんが笑顔で頭を撫でてくる。

ああ、恥ずかしいけど幸せ・・・

「高嶋君、やるわね・・・」

東郷さんがそんなことを言っていたけれどどういう意味なんだろう?

そんな感じで進んでいった撮影会も最後の一着となった。

「これで最後よ高嶋君。この服ちょっと着づらいから友奈ちゃんに手伝ってもらってね」

「うん。分かったよ」

東郷さんが一言断るくらいなのだから仕組みが分かりにくい物でも入っているのだろう。

友奈ちゃんと一緒に部屋を移動し服を出す。

「なんかすっごいフリフリな服だね・・・」

夏に着るには暑そうな、黒を基調とした袖やスカートの端っこが所々白の生地を使ってある服だった。

「そういう服をね、ゴスロリって言うんだよ」

「へー、ゴスロリって言うんだ。初めて見たよ」

「あとね、確か一緒に着けるのがあったと思うよー。これと、これとこれ!」

そう言って友奈ちゃんが渡してきたのは網タイツとネコミミが付いたカチューシャ、それと下着のデザインが施されたものだった。

網タイツとカチューシャは分かるけど三つ目のこれは何?

「友奈ちゃんこれ何?」

僕は手に持ちつつ聞いてみる。

「それね、ガーターベルトって言うんだよ!」

「へー、どこに付けるの?」

「腰の所にだよ。じゃあ今着てる服を脱いでもらっていいかな?」

腰に付けるってことは友奈ちゃんに下半身をまじまじと見られるってことだよね?

さっきまでは袖を通すのを手伝ってもらってたりしてもらってただけだから下着を見ることは少なかったと思う。

でも今回はガーターベルトを友奈ちゃんに着けてもらわないといけないから必然的に友奈ちゃんが僕の腰回りを見るってことになる。

は、恥ずかしい・・・

「あ、あんまり見ちゃダメだよ・・・」

「うん、分かった。なるべく早く終わらせるね」

友奈ちゃんが笑顔で了承してくれる。

「まず先に網タイツ履いてもらえるかな?」

「はい、履き終ったよ」

「じゃあ着けていくね」

友奈ちゃんがてきぱきとガーターベルトを付けてくれる。

「ここを止めてっと。きょう君網タイツがきつくなったりしてない?」

「きつかったりしないよ。大丈夫」

「よかった~。私ガーターベルト着けたことなかったからちゃんときょう君につけてあげられるか心配だったんだ」

「じゃあ東郷さんに教えてもらったの?」

「そうだよ。ゴスロリとガーターベルト、網タイツ、ネコミミの組み合わせは至高って言ってたよ」

じゃあこの服のリクエストは東郷さんなのか。

あまり考えないほうがよさそうだ。

そしてゴスロリも着て、ネコミミのカチューシャも着けて準備万端。

足がズボンで覆われたりしていないのですーすーしてすごく気になる。

「わ~!きょう君似合ってるよ!今日の服の中で一番可愛い!」

「そ、そうかな・・・えへへ」

友奈ちゃんに褒められるのは嬉しいな~

体をもじもじさせているとあることに気付いた。

「あれ、友奈ちゃんちょっと顔が赤くない?具合が悪い?大丈夫?」

友奈ちゃんの顔色が少し赤いのに気づいたので聞いてみる。

「だ、大丈夫だよ!どこも具合悪くないし、熱もないよ!」

そう言って僕の手を友奈ちゃんは自分自身のおでこに持っていく。

友奈ちゃんに触れることで顔が赤くなってしまうが気にしない、気にしない。

「た、確かに熱はなさそうだね。でも具合が悪くなったりしたら言ってね」

「うん、分かった!」

そうして東郷さんの部屋に戻った。

 

『きょう君の下着姿がえっちだなって思ったりしてるとか、男の子のきょう君が女の子の服や下着を着ているのを見てるとなんかこうゾクゾクって背徳感?を感じてるなんて言えないよ・・・』

 

 

「高嶋君、スカートの中見てもいい?」

「駄目だよ!」

部屋に戻ったら東郷さんの第一声がこれだった。

「いきなりどうしたの!?気でも狂ったの!?」

「高嶋君の女装姿が可愛くてつい言ってしまっただけよ。気にしないで」

「鼻血を出しながら言われても困るよ・・・」

会話をしながらでもすごい勢いで写真を撮ってる東郷さん。

車椅子は友奈ちゃんに押してもらっていて僕の周りをぐるぐると回っている。

二人の息がぴったりでどの角度から取りたいとかも友奈ちゃんは分かるらしく東郷さんは友奈ちゃんに指示などをせずずっとカメラを覗いている。

ちなみに東郷さんの鼻にはティッシュが詰め込まれている。

「高嶋君、次は猫のポーズよ!」

「何それ?」

「こう手をグーの形にして、このようにして構えるのよ」

東郷さんはそう言って顔の前に猫が顔をかくような感じで両手を持ってきた。

「そんな感じでやればいいの?」

「そうよ。出来れば猫の鳴き声付きでお願い」

「え・・・」

「私も出来たら聞きたいな、きょう君」

「ゆ、友奈ちゃんが言うなら・・・」

恥ずかしさがマックスな状態なので顔がとっても赤くなっているのが手で軽く触れて分かる。

こういう時はぱぱっとやってしまうに限る。

「に、にゃ~・・・」

「「・・・・・・」」

「あ、あの二人とも?」

何か反応をしてほしい。

恥ずかしくて死にそうだから!

そう思っていたら友奈ちゃんが近づいてきて頭を撫で始めた。

「い、いきなりどうしたの、友奈ちゃん?」

「きょう君が可愛くてつい」

友奈ちゃんには喜んでもらえたようでなにより。

東郷さんも鼻に詰めていたティッシュが真っ赤に染まっていたので満足してもらえてそうだ。

「そうだ!今のきょう君に私膝枕してもらいたいな。駄目かな?」

そういえばテスト前に約束した膝枕をまだしていなかった。

「いいけど、この格好で?東郷さんもいるよ?」

「今のきょう君の姿でして欲しいんだ」

「二人とも私のことは気にしないで!写真を撮るだけで邪魔はしないから!」

東郷さんが気迫のこもった様子で言ってくるので友奈ちゃんの要望通りに行おう。

床の上に正座をしてみるといつもより足を覆う布の面積が少ないのでひんやりとした感覚が伝わってくる。

太ももの所のスカートのしわを直して友奈ちゃんに声をかける。

「いつでもいいよ、友奈ちゃん」

「はーい!」

元気な返事をしながらこちらに来る友奈ちゃんの体にはタオルケットがかかっていた。

「寝る気満々だね」

「こんなに可愛いきょう君に膝枕してもらえる機会なんてあまりなさそうだからたっぷり堪能するためだよ」

「僕は全然いいよ。さ、おいで」

「失礼しまーす」

友奈ちゃんの頭が太ももにのっかる。

スカートの長さが結構短いので友奈ちゃんの髪が直に足に当たるのでくすぐったかったりする。

「ここから見るきょう君もいいね~」

「そうかな、えへへ」

友奈ちゃんの頭を優しく撫でる。

「ん~、気持ちいいよきょう君」

「ありがとう、友奈ちゃん。お休み」

「うん、お休み~」

そのまま少しの間頭を撫で続けていると友奈ちゃんの寝息が聞こえてきた。

うん、いつ見ても友奈ちゃんの寝顔は可愛いな~。

そういえば東郷さんが静かだけどどうしたんだろう?

ふと気になって周りを見ると車椅子から降りてカメラを持った状態で器用に両手を使い這いずって僕たちの近くまで来ていた。

てか無音で近づいてくるの怖いからやめてもらえますか?

「東郷さんいつの間に・・・」

「私は友奈ちゃんの寝顔を撮るためならどんな苦難でも乗り越えてみせるわ」

「東郷さんの執念は凄いね・・・」

「ありがとう」

「あと鼻のティッシュ変えたほうがいいよ」

この後はとても不思議な光景が続いた。

僕と友奈ちゃんの周りを東郷さんがずっと写真を撮りながら這いずり回っているのだ。

僕自身こんな格好で沢山の写真を撮られているので当然恥ずかしい。

そして東郷さん自身は友奈ちゃんの寝顔を見れたことで声自体は友奈ちゃんに配慮して小さいけどとても興奮していて正直怖い。

「友奈ちゃんの寝顔可愛いわ!ああ、友奈ちゃん!友奈ちゃん!」

ああ、友奈ちゃんの寝顔が見れたり良かったこともあるけど早くこの状況が終わって欲しいと感じる僕だった。

「高嶋君も友奈ちゃんの寝顔の写真いる?」

「もらいます。全部下さい」

 

 

 




いつも感想や誤字報告ありがとうございます!
このあとにすぐ作るつもりなのですが作者の活動報告のほうで主人公に着せたい女装服を募集します。
皆さんが男の娘に着せたい服をリクエストしていただけたら作者の妄想もはかどりますのでどしどし書いていって下さったら幸いです!


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第9話

今回は投稿早く出来ました。
今回は8話の後日談みたいなものなので文量が少ないです。



 

撮影会から数日後、僕は東郷さんの家に写真をもらいに行っていた。

東郷さんの家のインターフォンを押すと東郷さんの母親が出迎えてくれて、東郷さんの部屋に向かう。

東郷さんはお茶の準備をしてくれているということで部屋でそのまま待つように言われ、東郷さんの部屋で一人待つことになった。

待っている間勝手に人の部屋を見るのは悪いと思い、座ってぼーっとして待っていると机の上に僕に渡す写真らしき袋と隣に『友奈ちゃんアルバム』と書かれたアルバムが置いてあった。

友奈ちゃんという言葉につられてしまった僕はそのアルバムを開いてしまった。

へー、東郷さん友奈ちゃんと沢山の写真撮ってるんだ。

うん、友奈ちゃんはやっぱり可愛いな~。

東郷さんが写真撮るのも上手なんだろうな。

そう思いつつアルバムをめくっていく。

すると友奈ちゃんと東郷さんのツーショットが少なくなっていき、友奈ちゃん一人の写真、そして最後のあたりは友奈ちゃんの足だけが写っている写真やスカートの中がギリギリ見えそうな写真などがあった。

もしかして最後のあたりの写真は盗撮なのでは・・・

「それを見てしまったのね高嶋君」

「ひっ!」

気づいて後ろを振り向くといつの間にか膝にお茶やぼた餅が置いてあるお盆を載せた東郷さんがいた。

音を出さずにどうやって部屋に入ったの東郷さん・・・

「あ、ご、ごめんね東郷さん勝手にアルバム見ちゃって!」

「いいえ、大丈夫よ。お茶とぼた餅を準備したから少しお話ししましょうか」

「ありが、とう、東郷さん・・・」

正直写真を貰ったらすぐさま帰ろうと思ったけど、東郷さんが準備してくれたのだから頂かないと失礼だ。

でも絶対アルバムのことについて何か聞かれるよ。

どうしよう・・・

ひとまず何も考えないようにしよう。

東郷さんが持ってきてくれたお茶とぼた餅を机の上に持っていき、いつも座る場所に座る。

東郷さんが準備してくれるお茶は渋みが少なくて飲みやすいんだよねー

流石東郷さん。

「ねえ、高嶋君。あのアルバムを見てどう思った?」

「うへぇ⁈ど、どうって?」

いきなり本題ですか・・・

「私、勝手にアルバムを見られて怒っているわけじゃないの。高嶋君があのアルバムを見てどう感じたのかを聞きたいの」

「えっと、友奈ちゃんは可愛いなーとか、二人ともたくさんの写真撮ってるなーとかかな」

「アルバムの最後のあたりにある足だけ写っていたりするのに関してはどう感じたのかしら?」

「ええっと、それは・・・」

その事について聞くの!?

触れないようにしたのに!?

「あの写真って危ない角度で取られてるのが多かったけどもしかして盗撮だったりするのかな?それだと結構まずい気がするんだけど・・・」

「確かに危ない角度で撮っているのはあるわ。けれどね高嶋君、あれは結果的には友奈ちゃんの為を思ってやっていることなのよ」

「どういう事?」

「友奈ちゃんは他人を気遣うあまり自分のことは言わないことがあるの。それは高嶋君も分かるわよね?」

「うん。分かるよ」

確かに友奈ちゃんは周りの人を大切にするので自分のことを後回しにしてしまうことがある。

「以前ね、勇者部の活動のときに友奈ちゃん小さい怪我をしていたことがあるの。でも部活を優先しちゃったの。それで怪我したことも忘れていたことがあってね。人のためになる事を自分から進んでやるのは友奈ちゃんの良いところなんだけど、自分のことも気遣ってってその時言ったの」

「そんなことがあったんだ・・・」

「それ時から友奈ちゃんが怪我したりしてないか、無理をしてないかなってことであのような写真を撮っていたの」

「そうだったんだ。ごめんなさい東郷さん。変に疑ったりして」

「気にしないで、高嶋君。普通誰が見てもそう考えたりすると思うわ」

「ありがとう、東郷さん」

「それでね、高嶋君。ここから相談なんだけど、よかったら高嶋君も友奈ちゃんの写真を撮らない?」

「え?僕が?」

「ええ。二人で撮れば一人が気づかなかったことにも気がつけるじゃない」

「確かにそうだけど、僕写真撮るの東郷さんみたいに上手くないよ?」

「大丈夫、カメラの使い方は教えるし、なにより心が込めてあればそれで十分よ」

「そ、そうかな・・・」

「あと撮った写真を自分の物に出来るわよ」

「やります!」

「そう言ってくれると思ったわ。高嶋君は私に似てるわね」

「僕と東郷さんが?何処が似てるの?」

「秘密よ」

そのあと東郷さんからカメラの使い方を教わったり、アルバムの写真を見ながら友奈ちゃんのことについて話したり楽しい時間を過ごせた。

アルバムの写真も焼き増ししてくれるということだし、撮った写真は東郷さんから写真屋さんに頼んで現像してくれるので至れり尽くせりだ。

「それじゃあ、高嶋君。明日から沢山友奈ちゃんの写真を撮るのよ!」

「了解であります!東郷隊長!」

「あ、それと高嶋君。多分今日か明日あたりちょっと大変なことが起きるけど頑張ってね」

「へ?どういうこと?」

「家に帰れば分かるわ」

東郷さんの言葉は家に帰ると本当に分かった。

何故か毎日残業三昧の両親の帰りがとても早かったので、何かあったのかなっと思ったら何故か両親が僕の女装している姿の写真を持っていた。

僕が驚いていると両親が説明してくれた。

なんと東郷さんのご両親も大赦で働いており、僕の両親と付き合いがあるのだとか。

それで東郷さん本人から親を通じて僕の両親に撮影会の事が伝わったのだ。

そして僕の両親は服代とカメラ代を支払う事で写真を得ることが出来たのだと話した。

結構新品の服が多かったりカメラをくれるなんておかしいとは思ったけどまさか僕の両親からお金が出ていたとは思わなかったよ・・・

説明を聞くのはよかったけど、明日は両親共に無理矢理休みを取ったので僕に女装しろと言ってきた。

「でも家に女の子の服は無いよ?」

だから女装なんて出来ないはず。

そう思っていたがなんと今日の帰りに東郷さんの家から服を全て持ってきたと言う。

まあ、確かに僕の親のお金で買った服なので僕のこと家にあるのは間違いではない。

「僕の女装なんて見たって父さんと母さんは面白いと思わないと思うよ?」

「私子供は娘も欲しかったのよ〜」

母の言葉に父も首を上下にブンブン振っている。

結果、両親に押し切られ女装することになってしまった。

 

 

 

「でね、そんなことがあったんだよ。東郷さん酷くない?」

「流石わっしーって感じだねー。わっしーは策士だからねー」

今日は土曜日なので園子ちゃんの所に来ていた。

今は昼ごはんを食べ終わってのんびりとお話しをしている所だ。

「でもたかっしーの女装、私も見てみたいな〜」

「流石にここには服がないから出来ないよ」

「春信さーん。服あるー?」

「こんな事もあろうかと服の準備は出来ております」

「でも流石にサイズとかが」

「全て高嶋君のサイズになっているよ。諦めなさい」

「・・・」

「じゃあたかっしー、衣装チェンジの時間だー!イェーイ、ドンドンパフパフー!」

僕は何処でも女装させられる運命らしいです。

でも僕が何かをする事で身近な人が喜んでくれるのなら女装してもいいかなって思いつつあるのであった。

 

〜東郷美森視点〜

高嶋君が帰ってから私はこの前の高嶋君が女装した写真を見ていた。

「やっぱり友奈ちゃんと高嶋君似てるわ」

学校では友奈ちゃんは笑顔でいることが多いが、高嶋君はその逆であまり笑顔になることが少ない。

表情の違いがあることであまり周りには気づかれていないのだろう。

そう、友奈ちゃんと高嶋君は外見が似ていると私は思う。

身長もほとんど変わらないし、髪の色だって高嶋君の赤色の髪の方は友奈ちゃんの髪の色の濃さが全く同じなのだ。

目つきとかも二人とも笑顔の時の写真で比べてみると似ているのだ。

「もしかして二人は血縁関係でもあるのかしら?」

でも二人からそのような話は聞いたことない。

外見は奈ちゃんを中途半端にしたのが高嶋君みたいだと感じる。

「もしかして高嶋君のご先祖様に友奈ちゃんみたいな人がいたとか?」

血縁関係がないのに似ているなんて不思議だと私は感じた。

 

 




いつも感想などありがとうございます!
ちなみに園子様の出番が少ないと思っている方がいるかと思います。
実は主人公はこの作品のままで、新たに別作品として園子様ルートを書こうかと思っています。
私の投稿スピードがとても遅いので本当に実現するかは分かりませんが宣言することは出来ますのでしちゃいました。
あと服のリクエストを作者の活動報告で行なっていますのでどしどし応募してくださったら嬉しいです!


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第10話

今回は文化祭編です。
文量が多いので前編と後編に分けます。



 

夏休みが終わり、季節は秋になった。

秋といえば、文化祭の季節。

僕達が通っている讃州中学は文化祭で一番人気のあったクラスと部活にはそれぞれなんと人数分の豪華うどん店の無料券が貰えるのだ!

そんなわけで今僕達のクラスは出し物を何にするかで放課後の時間を使い教室で話し合っていた。

「だからお化け屋敷の方が人気が出るって言ってんだろ!」

「喫茶店の方が人を集められるわ!」

男子側はお化け屋敷、女子側は喫茶店という派閥に分かれておりどっちをやるかで言い争っている最中だ。

友奈ちゃんと東郷さんはなんとか折衷案を出してはいるがどちらかが案を否定してしまうので、何も決まらずにただ時間が過ぎていく。

ああ、早く決まらないかなー。

え?僕も話し合いに参加しろだって?

この学校でまともに話せる人が居ないのにどうしろと?

なので僕はただぼーっと話し合いの行く末を見守っているのだ。

お茶が美味しい。

のんびりとしていたらそこで動きがあった。

「友奈ちゃん、ちょっと」

東郷さんが友奈ちゃんとヒソヒソと何かを話している。

そしてその後こちらを見て二人とも笑顔で親指を立てている。

あっこれは僕が巻き込まれるパターンですね・・・

まずい、部室に逃げる準備をしなければ。

急いで荷物をまとめていると、友奈ちゃんの声が聞こえた。

「みんな、コスプレ喫茶にしようよ!」

「はあ?コスプレ?」

「さっきも似たような案が出たけどボツになったろ?」

男子側からは否定的な意見が出ている。

「コスプレ喫茶なら集客率が見込めるわ」

そこからは東郷さんのプレゼンの時間だった。

「学生が様々な衣装を着ているのだから来校者の方々の目も引くしクラスメイトの友人にも来てもらえるわ」

「でもそれだけだと他のクラスと似たような感じになるんじゃない?」

女子からも人が集められるのか疑問の声が上がる。

「だから今回はとても人目を引く人を用意するの」

「例えば?」

「わたしが考えているのは一人目は友奈ちゃんね。友奈ちゃんは可愛いし元気あるから人を集めるのには向いているわ」

クラスの女子全員が頷く。

当然僕もだけど。

てそんなことしてる場合じゃない早く教室から出ないと。

「そして可愛さは友奈ちゃんには劣るけどインパクトを兼ね揃えた人がもう一人いるわ」

誰だそれ、とクラス中がザワザワし始める。

友奈ちゃんと東郷さんがこちらを見ているので誰かは察しがついた。

多分僕なのだろう。

「みんなは気付いていないかもしれないけど、それは高嶋君よ!」

一斉にクラスのみんなの視線がこちらを向く。

「あ、あの、えっと・・・」

一人からの視線には慣れてきたけど複数の視線にはまだ慣れていない。

人と話すことが苦手な僕なら尚更そうだ。

「あいつが?何も話さない不気味な奴が?」

「高嶋君が、ねえ・・・」

ほら、気味悪い視線で見てくる人が多い。

だから僕は目立ちたくないんだ!

みんなの視線に一歩後ずさる。

すると友奈ちゃんと東郷さんが僕の隣までやってくる。

「みんなはきょう君の凄さが分かってないだけだよ!」

「そうね、友奈ちゃん。だから今から高嶋君を着替えさせてくるから少し待ってもらってもいいかしら?それでみんなが納得するぐらい高嶋君が素晴らしければコスプレ喫茶でいいわよね?」

「おう、いいぜ!」

「いいわよ」

そして僕に了承を得ずにまた女装されることになるらしい。

 

 

服は勇者部の部室にあるので一度部室に行くことになった。

「で、東郷さん。今回も東郷さんの計画通りなのかな?」

「計画通りというか、今回このような形にしたのは友奈ちゃんが提案したのよ?」

「友奈ちゃんが?」

「ごめんね、きょう君。私が東郷さんに相談したの。きょう君に色んな人と話せるようになって欲しいなって」

「それで今回クラスのみんなに高嶋君の素晴らしさを認めてもらえれば話せる人も増えると思ってこうしたのよ」

「凄い荒療治だね・・・。東郷さんらしいよ」

「あら、ありがとう」

「褒めてないよ。でも、僕の為に二人ともありがとう」

僕の為に色々と考えてくれたのだ。

頑張って話せる人を増やせるようにしよう。

部室に着くと部長がいた。

「あら、あんた達クラスの出し物決まったの?」

「まだこれからなんですよ、風先輩」

「じゃあなんで部室に来たのよ?」

「これから高嶋君に女装してもらうんです。それの結果で出し物がきまるので」

「あー、噂の高嶋の女装か。本当に似合うの?」

部長は友奈ちゃんが僕の女装姿を自慢するので知っている。

「大丈夫です!私が保証します!」

「友奈ちゃんがそう言っているので多分・・・」

「女装するあんたが自信持たないでどうするのよ。二人は自信満々じゃない。二人を信じてあんたも胸を張ればいいのよ。気楽にいきなさい」

「部長・・・」

うどんと女子力の亡者の部長が凄い良いことを言っている!

「あんた今失礼なこと考えてるでしょ」

「いいえ、何も」

「高嶋君、早く着替えましょう」

「うん」

東郷さんの所に行くと東郷さんの膝の上に紙袋があった。

「今回の服はもしかしてスカートの長さ短いかな?学校で短いのは着たくないんだけど・・・」

「大丈夫よ。今日の服は清楚系だからスカートの丈は長いわ」

「あとこの服のお金は?」

「もちろん高嶋君のご両親からよ。ちなみにこの服は私と高嶋君のご両親の意見で決まったのよ」

父さん、母さん、知っていたのなら言ってよ!

袋から出すと長袖のスカートの長さが長く、色は黒で前面のスカート部分にはフリフリのエプロンがついている。

背中側の腰の所には大きい白のリボンが付いている。

胸の所にはボタンがあり、今まで着させられてきた物で一番地味だった。

「これはね、メイド服というのよ!」

「メイド服?」

「そうよ。給仕するときに着る服ね」

「僕としてはスカートが長くてよかったよ」

「流石にスカート丈が短いのは先生などに怒られてしまうと思ってやめたわ。奥の場所をカーテンで仕切れるようにしたからそちらで着替えてもらっていいかしら?」

いつのまにか奥の空間の荷物置き場の所にカーテンがあり仕切れるようになっていた。

学校で僕を女装させる気満々じゃないですか、東郷さん・・・

「きょう君着替えるの手伝うよ」

「ありがとう、友奈ちゃん」

友奈ちゃんと一緒にカーテンの向こう側に行き、手伝ってもらう。

「え?高嶋は友奈に着替えてる所見られていいの?」

「二人はお風呂も一緒に入るらしいですよ。羨ましい!」

「え?」

外で何か話しているけど気にしない。

着ることには慣れてきたので友奈ちゃんには後ろが変になっていないかなどを確認してもらう。

「うん!大丈夫、完璧だよ!」

友奈ちゃんのOKも出たので東郷さん達のいる所に戻る。

「ああ、これは確かに凄いわね。友奈が興奮しながら自慢するのも分かるわ」

「そうですよね!きょう君似合ってますよね!」

「うん、似合ってるわ。初対面の人から見たら男だと分からないんじゃない?」

「そ、そんなに似合ってますか?」

「ええ、これならクラスの奴らも納得すると思うわよ」

いつも家族や友奈ちゃん達にしか見せていなかったので他の人の評価がこんなにも高いなんて思わなくて驚いた。

「友奈ちゃん、風先輩、高嶋君、まだまだこれからよ」

東郷さんの方を見るといい笑顔をした東郷さんが髪の毛の束を持っていた。

「東郷さんそれ何?」

「これはね友奈ちゃん、ウィッグよ!」

「東郷あんた、本格的ねー」

「ウィッグって何?」

「簡単に言えばカツラみたいなものよ。これはハーフウィッグね。友奈ちゃんや高嶋君みたいな短髪の人にこれを付けて見た目を髪の長い人にするの」

「流石東郷さん!物知り!」

「ふふ、ありがとう友奈ちゃん」

「それを僕につけて、髪を長くするの?」

「そうよ。さあ高嶋君、そこの椅子に座って」

「はーい」

僕の女装の幅は広がることを知らないらしい。

最近は友奈ちゃん達や家族から女装させられることが多いので着慣れてきてしまっているから自分自身の抵抗も少ない。

もう全て東郷さんに任せよう。

「高嶋君は髪が短いから纏めないでこのままつけましょう。ちょっと髪に触るわね」

「いいよ」

東郷さんが軽くブラシで髪を梳いてくれる。

人に髪を梳いてもらうことなんて男だとそんな機会がないので少しむずがゆい感じがする。

「それでこの一番上のコームを留めてっと。クリップで側面留めるから痛かったら言って頂戴」

「うん」

てきぱきと東郷さんがウィッグを付けてくれる。

「本当はフルウィッグにして髪の色を揃えるのもいいかと思ったのだけど高嶋君の髪は赤と黒のインパクトがあるからそれを今回は推していくわ。高嶋君らしさがないとつまらないもの」

「髪の色は統一してもいいんしゃないかな・・・」

「私はきょう君の髪の色好きだし、なんていうかゲームの出てくるキャラクターみたいでカッコイイよ!」

友奈ちゃんらしい褒め方で笑ってしまう。

友奈ちゃんがそこまで言ってくれるのなら信じよう。

「出来たわ。さすが高嶋君ね。似合っているわ」

「ほんとに似合ってるわね。凄いわー」

「うん凄いよきょう君!私の妹に欲しいくらい!」

友奈ちゃんが求めてくれるなら僕は妹になるよ!

「ゆ、友奈ちゃんが欲しいなら僕は・・・」

そのとき誰かに腕を掴まれた。

「高嶋君、抜け駆けは許さないわ・・・」

何故か東郷さんが不機嫌になっていた。

どうしてだろう?

「ほらあんた達、早く教室に戻らないといけないんでしょ。早くそっちを片付けて依頼にいくわよ」

「はい!きょう君の素晴らしさを伝えてきます!」

「そうね、早く教室に戻りましょう」

そっか、この姿をクラスのみんなに見せるのか・・・

僕が緊張で顔が強張っていることに友奈ちゃんが気づいたらしく手を握ってきた。

「大丈夫だよ、きょう君。私と東郷さんが一緒にいるから」

「ええ、不埒な者には成敗を」

東郷さんが物騒な事を言ってるけど、それで少し緊張が解れる。

「二人ともありがとう。行こう」

教室に戻ると当然みんなの視線がこちらに向く。

けれど教室を出る前に感じた気味悪いものではなく、あいつ誰?みたいな疑問を含めた視線が多かった。

「みんなお待たせー!彼が高嶋叶吾君でーす!」

「ど、どうも」

緊張で引きつった笑顔になってしまったが、人と話すことがほとんどない僕が笑顔を取れるだけマシだろう。

「はあ!?そいつ女だろ?高嶋はどこだよ?」

クラス中からそんな言葉で溢れかえる。

凄い、本当に女の子だと思われてる。

東郷さんの技術は凄いなー。

「みんな、髪を見て。高嶋君の髪は赤と黒だったでしょう。今はウィッグをつけてるから髪が長いけど黒色の髪があるでしょ?彼は本当に高嶋君よ」

東郷さんの言葉によってクラスのみんなの考えが変わっていくのが話し声などで分かる。

こういうときどうしていればいいのかなーっと考えていると数人の女子が近づいてきた。

「高嶋君、服似合ってるよ!何処でウィッグとか揃えたの?」

「もしかして下着も女性用のをつけてるの?」

「えっと、その、服は東郷さんにしたほうが分かると思います」

「ええ。質問は私が受けるわ」

女子の質問責めを東郷さんに任せる。

最初は数人で話していたのに東郷さんが詳しく説明しているとクラスの女子全員が東郷さんの周りにいた。

そして女子のみんなで話が盛り上がっていくので、巻き込まれないようにゆっくりとその輪から外れていく。

それに気付いていた友奈ちゃんも一緒に輪から外れてくれていた。

先程の約束を憶えていてくれるなんて本当に友奈ちゃんは優しい。

「男子の方にも話を聞きに行こっか?」

「そうだね。早くコスプレ喫茶に決めちゃおう」

男子が固まっている方に二人で向かう。

「ねえねえ、きょう君似合ってるでしょ!これなら文化祭でも一位取れるよ!」

「まあ、確かにな。てか本当に高嶋か?髪以外でぱっと見て分からないんだけど」

「は、はい。高嶋です。本物です」

「あー。高嶋の声だな。てか女装似合いすぎだろ」

「そ、そうですかね」

「髪とかどうなってんの?触ってもいいか?」

「きょう君に触るのはダメだよ。髪をセットするの大変だからね」

まさか友奈ちゃんから断るとは思わなくて驚いた。

友奈ちゃんは他人に対してきっぱり断ることは少ない。

僕自身もあまり関わりの無かった人にいきなり触れられるのは嫌なので正直助かったと思ってる。

その辺りも気遣い屋さんの友奈ちゃんだと僕の考えていることも分かって断ってくれたのだろう。

「お、おう。そうか」

「で、男子はどうかな?コスプレ喫茶でいいかな?」

「結城と今の高嶋なら人を呼び込めそうだからな。いいんじゃないか。何より俺たちは美味いうどんが食べたいからな!」

それに周りの男子も賛同する。

女子は東郷さんが纏めているだろうからこれでこのクラスの出し物は決まりだ。

出し物が決まってからは怒涛の勢いで準備が進んでいった。

というか僕と友奈ちゃんは文化祭当日の客の呼び込みという大仕事があるので準備には駆り出されることがほとんどなかった。

てか僕の場合は女装に磨きをかけろとクラスのみんなに言われ放課後は女装で学校を過ごすことになってしまった。

東郷さんは女子の仕草を真似出来るようになれば申し分ないと言われているけど文化祭までさほど時間がないのに難しいよ。

東郷さんは僕の作法指導と喫茶店の裏方の総指揮を執っているのでとても忙しいがとても生き生きしていている。

東郷さんは足が不自由なのでみんなと一緒に楽しめていてよかったな、と感じていた。

「高嶋君、女装しているときは自分を演じるようにするのよ」

「仮面を着けているように想像すると演じれたりするわ」

「高嶋君!下を向いてはダメよ!笑顔で前を見て!」

このように東郷さんの厳しい指導を乗り越え、文化祭当日になった。

最初は人を多く呼び込むために友奈ちゃんと一緒に校内を歩いて宣伝することになった。

「私達のクラス、コスプレ喫茶店をやってまーす!美味しいぼた餅とお茶はいかがでしょうかー!」

「休憩の際には是非お立ち寄り下さい」

周囲からとても注目を浴びている。

友奈ちゃんも一緒にメイド服を着ているので可愛いので友奈ちゃんを見ている人も沢山いるだろう。

けどそれだけではない。

だって僕の持っている看板に、この人は男ですって書いてあるからそりゃあ注目を集められるよ!

「きょう君凄いよ!声も出てるし、笑顔も完璧だよ!」

「まあ、あれだけ東郷さんに鍛え上げられたから出来てないと後で叱られるからね・・・」

二人で校内を一周して教室に戻ると教室の前には多くの人が列を作っていた。

「わー。すっごい人がいるね・・・」

「こ、これ人足りてるのかな?」

厨房の中を覗くと東郷さんがせっせとぼた餅を作っていた。

「東郷さん、沢山ぼた餅作ってるね」

「私以外の人にぼた餅は任せられないわ」

「東郷さんのぼた餅は美味しいからね!みんな作ってみても東郷さんのぼた餅の味にはたどり着けなかったからね」

「それでね、今厨房はなんとか人手が足りているんだけど列を整理させる人などが足りていないらしいの。どっちかにそちらの手伝いに回って欲しいの」

「分かった!私が行くね」

「友奈ちゃん、お願いね」

「任せて!」

「「いってらっしゃい」」

「いってきまーす!」

そう言って友奈ちゃんは厨房から出ていく。

「僕はこのまま宣伝に行ったほうがいいかな?」

「ええ。高嶋君はそのまま校内を12時まで回ってきて頂戴。その後は休憩と自由時間ね。友奈ちゃんと自由時間をかぶせるとこのクラスの目玉二人がいなくなってしまうから出来ないの。ごめんなさい」

「ううん。しょうがないよ。なによりうどんのためだしね」

「ありがとう。それと回るの高嶋君一人で大丈夫?」

東郷さんは僕が一人で回って周りの視線に一人で耐えきれるのか?ということを言っているのだろう。

「大丈夫だと思う。だってあれだけ東郷さんに鍛え上げられたんだもん。任務達成してみせます、隊長!」

ビシッと敬礼すると東郷さんが笑う。

友奈ちゃんと東郷さんが僕の成長する場を準備してくれたんだ。

僕はそれに応えられるようにしないと!

「今の服装で敬礼はやっちゃダメよ。似合わないから。引き続きよろしくね」

「うん。行ってくるね」

「ええ。いってらっしゃい」

そう言って僕はまた校内を回っていくことになった。

 

 

東郷さんの前ではカッコよく言ったけど、実際にやってみるとなかなかに辛い。

一人からの視線には慣れてきたけれどやっぱり大多数からの視線に一人で耐えることは難しいらしい。

汗がいつもより尋常じゃない量が出てるし、笑顔が引きつってしまっている。

せめてクラスメイトの誰でもいいから誰かに頼んで一緒に来てもらうべきだった。

とりあえず人目が少なそうな所に移動して休もう。

看板を持ちつつのろのろと移動していると声をかけられた。

「あれ、おーい高嶋ー!」

「あ、部長。どうしたんですか?」

「私のクラスは展示系だから暇なのよ。てかあんた顔色悪いわよ。どうしたの?」

「ちょっと人の視線に酔ってしまったみたいな感じです。なので今からどこか人がいないところに行くつもりです」

「私もついていくわよ。具合が悪い部員を放っておけないわ」

「えっ・・・。でも部長の自由時間が・・・」

「大丈夫よ。展示だから誰もクラスの奴なんて残ってないから交代もないのよ。だから二日間全て自由時間なのよ。さ、部室に行くわよ。そこなら誰も人いないしね」

「すみません・・・」

「謝らなくていいわよ。こういう時はお礼でいいのよ」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

そうして部長とともに部室に向かい休憩することになった。

「ほい、水」

「ありがとうございます」

「てかあんた顔が真っ白よ。本当に大丈夫?」

「少し休めば大丈夫だと思います」

「分かったわ。でも体調が治らないなら保健室に行きましょ」

「はい」

「てか樹ぃ~。知らない人だからってずっと隠れてちゃダメでしょー」

「え?今ここに他の人いるんですか?」

「いるも何も高嶋と出会った時からずっと一緒にいたわよ」

「え!」

「ずっと私の後ろに引っついてたのよ。ほらあいさつしなさい」

「ここっこ、こんにち、ちわわ。いい犬吠埼樹です。お姉ちゃんが、おおお世話になってますす」

部長と同じ金髪の髪の色をしていて、まだ幼い印象を感じさせるのが目の前にいる犬吠埼樹さんだった。

 

 




いつも感想ありがとうございます!
服のリクエストを受け付けてますのでどしどし応募お待ちしております!


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第11話

文化祭編が前半と後半で終わらせるつもりだったのですが、まだ続きます。


「犬吠埼ってことは部長の妹さんですか?」

「そうよ。私の愛しの妹よ!」

「お、お姉ちゃん恥ずかしいよ・・・」

「ちなみに今は小学6年だから来年この学校に入学することになるわ。そして勇者部に入部させるわ」

「私の部活もう決まってるんだね・・・」

そういえば以前人見知りの妹がいるって話してた。

「部長が以前話してた妹さんですよね?」

「そうよ」

「えぇ・・・。お姉ちゃん何を話したの?」

「色々とね。うちの妹がどれだけ可愛いのかを!」

「お姉ちゃん、やめて・・・」

部長、溺愛しているなー。

「あ、僕高嶋叶吾といいます。中学一年です。よろしくお願いします」

そう言ってお辞儀をする。

挨拶は大事だからちゃんとしないと。

「あれ?あ、あの、高嶋さんって男の人じゃ・・・」

僕が男だと知っている?

そっか。

部長が勇者部の話をしているんだろう。

でも今この姿だと女性だと思われてしまう。

「あっ、ご、誤解させちゃいましたね。僕男です」

宣伝用の看板を見せつつ説明する。

「え、えええええ!男の人なんですか⁈どうして女の子の服を着てるんですか⁉︎」

「僕のクラスがコスプレ喫茶をしているんです。それで僕はこの格好をしているんです」

よかった、年下の子と一対一でなら話せる。

少し心に余裕が出来てくる。

「凄いです!髪とか伸ばしてるんですか?」

「これはウィッグを付けてるんだよ。男で髪を伸ばす人なんてそんなにいないと思うし」

「ウィッグってなんですか?」

「地毛にクリップとかで髪を留める物のことだよ」

多分だけどこの子はきっかけがあれば相手に話しかけられるんだ。

今だって僕の女装に興味があって話しかけてきているのだから。

僕の場合はきっかけや話題があっても相手が話しかけてくれないと話す勇気も出ないし話が一度途切れてしまうと、話しかけていいのか、何を話そうかなど色々悩んでしまい全然だめなのだ。

多分部長はこの子の人見知りを直すために勇者部に入れるのだろう。

友奈ちゃんの人とすぐ仲良くなれるコミュニケーション技術や東郷さんの話し方や仕草には品があるので見ているだけで参考になる。

それが身につくとはいえないけど・・・

それに勇者部の活動は人と関わることが圧倒的に多い。

それらも考えてのことだろう。

ひとまず僕は彼女の人見知りが発動しない相手になれるようにしよう。

話に受け答えをしていると犬吠埼さんがはっとしたように話すのをやめおどおどし始めた。

「ど、どうかした?」

「あ、あの私ばっかり色々聞いたりしてしまったごめんなさい」

とっても申し訳ない表情で謝られてしまった。

「あ、謝らなくて大丈夫だよ。僕もその、人と話すのが苦手で話しかける勇気がないんだ。だから沢山話しかけてくれて嬉しかった。だからまた次会う時も話しかけてくれたら嬉しいな」

「あ、ありがとうございます!」

「相手を気遣ったりすることは大切だけど、気にし過ぎると僕みたいに話しかける勇気すらなくなっちゃうからあまり考え過ぎないほうがいいよ」

「わ、わわ分かりました」

真剣な表情で頷く犬吠埼さん。

「人見知りやあがり症はゆっくり直していけばいいと思うよ。無理して治そうとするとさっきの僕みたいになっちゃうかもしれないから」

「分かりました!」

真面目だな、と感じてると部長が話しかけてきた。

「高嶋も顔色が戻って来たからそろそろ行くとしましょう」

「そうですね。僕も宣伝に戻らないと」

「いやあんたはさっき具合が悪くなってたのにまだやるの?あんたのクラスまでまず行くわよ」

「いやでも申し訳ないですから・・・」

「あんたが何処かで行き倒れるほうが迷惑だわ。そういえば具合が悪くなった原因が人に酔ったって言ってたけど、人が多くて酔ったの?それとも視線に酔ったの?」

部長は僕の具合が悪くなった原因をある程度予測しているらしい。

よく周りの人を観察しているのだろう。

「視線に敏感になってしまって具合悪くなってしまったんだと思います」

「そう。なら私達が一緒にいた方が視線を減らせると思うから行くわよ。あとその看板は文字が見えないように持ちなさいよ。格好だけだと女子だと思われてあまりジロジロと見られることもないだろうし」

「はい・・・」

ああ、僕はダメだなぁ。

人に迷惑かけてばっかだ。

友奈ちゃん達の期待には答えられなかったし・・・

「まあ、今回は東郷のスパルタも悪いからあまり気に病んじゃダメよ。挑戦することが大事よ。なるべくあきらめないってね」

部長が笑顔で言う。

「そうですよ。高嶋さんがさっき言ったようにゆっくりやればいいと思います」

さっき言った自分の言葉がそのまま返ってくる。

そうだよ、落ち着いてゆっくりやればいい。

出来なくて焦ることもあるだろうけど、落ち着いてやらないと失敗ばかりしちゃうだろう。

「二人とも、ありがとうございます」

「無理してる顔じゃなくなったわね。よろしい!さあ、行くわよ」

そうして三人で校内を移動することになった。

先程よりぐっと視線が減ったのでとても楽になった。

「高嶋さんは初めて女装したときはどんな理由だったんですか?」

「友達にご褒美として女装して欲しいって頼まれたの。まさかあの時だけかと思っていたんだけど、今も続けているとはね・・・」

「そのお友達の気づきは素晴らしいと思います!」

「そ、そう?」

「はい!」

犬吠埼さんと僕が話しているのを部長は優しく見ていた。

犬吠埼さんと話していたら僕のクラスの前まで着いていた。

今も列が長く続いていた。

ふうっと一息つくと部長が言った。

「それじゃあ私は東郷に高嶋のこと話してくるから二人で待っててもらっていいかしら?」

「え?今回のこと東郷さんに言うんですか?それだと後で怒られちゃいますよ、僕・・・」

多分東郷さんは怒らないだろう。

東郷さんはスパルタだけど優しいから。

というか友奈ちゃんや東郷さんに心配をかけたくない。

「あんたねー、出来ないことは出来ないってこと周りに伝えないと周りの進行に影響が出てくるのよ。今回は文化祭で東郷は裏方の指揮をしているんだから言わないと迷惑よ。きちんと言えば東郷は考えて対応するだろうから、あまり気にしない」

「は、はい・・・」

「樹も待ってもらっていい?」

「うん。高嶋さんがいるから大丈夫だよ」

「分かったわ。それじゃあ行ってくるわ」

二人で待っている間は当然話題は女装に関してだった。

犬吠埼さんが似合うからと化粧することを鼻息荒く勧めてくる。

多分これからも女装することになるのだから東郷さんと犬吠埼さんの組み合わせで女装の幅が広がるのだろうなーと考えていると、部長が戻ってきた。

「樹。私達はここに並んでお昼にしましょう。高嶋は東郷の所へ行ってね」

「と、東郷さんはなんと?」

「それぐらい自分で聞きなさい。ほら行った行った」

恐る恐る厨房に戻ると友奈ちゃんと東郷さんの二人がいた。

「きょう君!風先輩から聞いたよ!大丈夫?」

友奈ちゃんが近づいてきて僕の顔や手などを触って具合の確認をしてくる。

「くすぐったいよ友奈ちゃん。でも、その、ごめんね。上手く宣伝出来なくて・・・」

「大丈夫だよ!まだあんなにも混んでるんだからきょう君の宣伝は効果あったよ!」

「そうよ。高嶋君は頑張ったわ。それよりも私が高嶋君のことを見抜けなかったのがいけないの。ごめんなさい」

東郷さんが頭を下げてくる。

「と、東郷さんが謝ることはないよ!僕も自分のことなのに東郷さんに教えてもらっただけでいきなり出来るって思い違いしちゃったし・・・」

二人で謝り合いをしていると友奈ちゃんが間に入ってくる。

「二人とも今日は失敗しちゃったけど明日もあるし大丈夫だよ!今日はこんなにお客さんも来てくれたし失敗にもならないって!」

笑顔で友奈ちゃんが話す。

「なせばたいていなんとかなる!だよ。二人とも」

「ええ。そうね友奈ちゃん」

「うん。分かった」

そうだ、文化祭は明日もある。

みんなの役に立つことを考えよう。

「ちょうどお昼だから高嶋君はご飯を食べていって頂戴。高嶋君のお昼ご飯は準備できてるから。その後高嶋君は自由時間だから最後までどこか行ったりしても大丈夫よ」

「分かったよ。ちなみにご飯は何?」

「ぼた餅よ」

「私も?」

「そうよ」

「やったー!」

そう言って友奈ちゃんは東郷さんが用意したぼた餅に飛びついていた。

流石に僕も厨房で一緒に食べると狭そうなので場所を変えることにした。

二人とも僕が一人で移動することを心配していたが、もう大丈夫。

僕みたいな人間なら何処が人が少ないかは部長達と移動した際に目星はつけていた。

その場所はこの学校の屋上だ。

文化祭の日に屋上にいる人なんていないだろう。

みんな友達や家族と学校を回っている人がほとんどなのだろうから。

そして屋上に着いてみると予想通り誰もいなかった。

入口の壁に寄りかかって座る。

ふう〜。

誰もいない所で休むと気を使う必要が無くなるから楽でいい。

少し目をつぶって休もう。

 

 

 

あれ、目をつぶってしまったらそのまま寝てしまったらしい。

コスプレ用に付けていた腕時計を見ると14時過ぎを指していた。

約二時間近く寝てしまったけど、一人で文化祭を見ることなんて出来ないのでこのままここで時間を潰そう。

そういえば、パックに入れたぼた餅をまだ食べてない。

食べようと思って隣に置いてあるパックの方を見ると何かピンク色の物体がぼた餅を食べていた。

なにあれ?

外見は牛っぽいんだけど何か羽のようなものが生えてる?

てかこんな生き物見たことないんだけど・・・

普通よく分からないのを見たときは叫び声を上げるのかなと思ったけど、隣で堂々とぼた餅を食べているのを見ているとそんな気も起きなかった。

でもよく見ると可愛いかも・・・

よくそんな小さい手で物が持てるな〜。

そんな事を考えながらじーっと見ているとその生き物は僕が起きたことに気づいてこっちを見てきた。

僕が見ていることに気づいたら驚いたりするのかなっと思ったけど少し僕を見た後またぼた餅を食べ始めていた。

結構な勢いでぼた餅を食べているのでお腹が空いているのだろう。

だから僕も何も言わずに少しの見た後、また目をつぶった。

もしかしたら僕が見てる幻覚かもしれないし。

 

何かお腹に寄りかかるような物の重さを感じて目を開ける。

すると先程見た幻覚の生き物が膝の上に丸まって僕のお腹に寄りかかるように寝ていた。

しかも暖かい。

流石にこれにはびっくりした。

だってよく分からなくて可愛い生き物が僕に懐いてくれてるんだよ!

触らないわけがない。

頭や体を撫でてみるとすべすべの肌触りをしていてもちもちとした弾力を持っていた。

触り心地もいいとか完璧!

でも友奈ちゃんには劣るね。

そんなことを考えて触っていると顔をこちらに向けてきた。

「ご、ごめんね、起こしちゃって」

なんと言葉が分かるらしく首を横に振る。

そしてそのまま僕の膝の上から浮かび上がる。

と、飛んでる!

「すごい・・・。羽みたいなのがあるかもしかしたらと思ったけど本当に空飛べるんだ・・・」

呟くように言うと目の前のその子はドヤッと誇らしげな表情になる。

「そうだ。ねえ、君の名前は?」

その問いには残念そうな表情で首を横に振る。

この子は声を出すことが出来なさそうなので、自分で言えないという意味で首を横に振ったのだと思う。

「じゃあ僕が何か名前をつけてもいいかな?」

すると嬉しそうな表情で首を縦に振る。

「じゃあ空飛んでるけど牛っぽいから牛さんでいいかな?ちょっとそのままな感じだけど・・・」

友達のあだ名をつけたりしたことなんて無いのでいい案が思いつかない。

てか牛って種族名だよね・・・。

センスなさすぎだよ僕・・・。

僕の安直すぎる命名でも牛さんは嬉しいらしく喜んだ表情で顔の周りを飛んでいる。

「じゃあで決まりだね。よろしくね」

そう言うと僕の頭の上に乗ってきた。

さりげなく撫でつつ疑問に思ったことを聞いてみた。

「そういえば牛さんはどこから来たの?」

それを聞いた牛さんは屋上の真ん中にある神樹様を祀っている祠まで飛んでいき、その横で僕の方に振り向く。

「その祠から来たの?」

軽く首を縦に振る。

「それどうやって帰るの?」

祠の周りを見ても何も見当たらない。

牛さんの方を振り向くと牛さんの体が少し光っていた。

それに合わせて祠も少し光っていた。

そして牛さんは祠に吸い込まれるようにして消えていった。

「なんだったんだろう・・・」

この四国は神樹様という数百の神様が集って恵みを下さったり、ウイルスで四国の人が死なないように結界を張ってくださっていたり、未知な現象が多い。

なので牛さんも神樹様に関係する生き物なのだろうと思った。

でも今まで見たことない生き物なのにどうして不気味だとか気持ち悪いとかの気持ちを僕は抱かなかったんだろう?

逆に可愛いとか好感を持って接していたと思う。

色々考えているとまた目の前にある祠が光り始めて、牛さんが出てきた。

「うわ!お、驚かさないでよ。ていうか自由に出入りできるの?」

それに対して牛さんは頷く。

「じゃあまた今度何か食べ物を持ってくるね」

そう伝えると牛さんはまた頭の上に乗っかってきた。

多分喜んでいるのだろう。

そういえば今何時だろう?

腕時計を見ると16時を少し過ぎていた。

不味い!

今日は15時で文化祭は終わりだから僕が教室にいないと解散できないんじゃ・・・。

「牛さんごめんね。今から急いで戻らないと!」

牛さんを頭から持ち上げ顔の前に持ってきて話す。

そこまでしたら自分から飛んでくれた。

僕が持ってきたお茶とぼた餅が入っていたパックを持って急いで戻る準備する。

「また今度来るから!」

牛さんに向かって大きく手を振って屋上を後にした。

 

 

教室に戻ると友奈ちゃんと東郷さんが待っていた。

他の人は解散できたらしい。

僕のせいでクラスの人を待たせるのは申し訳なかったので少しホッとした。

けれど友奈ちゃんには心配され、東郷さんには叱られてしまったので反省だ・・・。

帰る準備を整えて教室を出ようとした時にふと思った。

今日屋上で体験したことは多分神樹様に関係することだ。

だから大赦関係者に言ったほうがいいのかもしれない。

まあ、僕も大赦関係者ではあるんだけど詳しくないしね・・・

「きょう君、帰ろー!」

「友奈ちゃん、東郷さん、先に行ってて。僕ちょっと電話してから向かうから」

「分かったー」

二人が教室から出たことを確認して登録してある連絡先に電話をかける。

「もしもし、高嶋君かい?」

「あ、はい、もしもし、三好さんですか?いまお話しても大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だよ」

「あの、今日学校で不思議な体験をしたんですけど・・・」

三好さんに屋上で体験したことを話す。

「これって僕が幻覚を見たとかですかね?」

「いや、心当たりがある」

「ほ、本当ですか?」

「けれど何故君なんだ?色々と条件が合わない。それに・・・」

「も、もしかして僕マズいものを見てしまったのでしょうか?」

「いや、人間に対して害意をもたらす生物ではないから安心して欲しい」

「それならよかったです」

とりあえず危ないことに巻き込まれたとかではないらしい。

「それで学校に通っている君にお役目をお願いしたい」

「園子ちゃんとは別ですか?」

「そうだ。学校に通う日は毎日屋上に行ってその生物と会ってほしい。生物の食費は当然大赦が負担する」

「僕としてはなるべく行くつもりだったので問題はないです」

というかそこまでして僕と牛さんを仲良くさせたいらしい。

三好さんの考えがよく分からないけど僕としては問題ないから了承した。

「あとご両親には私から話をしておくから、もしかしたらご両親は今日家に戻らないかもしれない」

「はい。分かりました」

そんなに時間のかかることなのかなー、と考えながら電話を切り、教室を後にした。

 

〜三好春信視点〜

何故彼に精霊が見えるのだろうか?

以前行われた勇者適性の全国調査では男女関係なく行ったはずだ。

基本神樹様は純真無垢な女の子を勇者として選ぶので男の子を調査する必要は無いのだが万が一のことも考えて男子も調査したが勇者適性がある男子は確かいなかったはずだ。

だが彼に精霊が見えているということは勇者適性はあるということだ。

精霊との仲が深まることでもしかしたら彼が勇者に選ばれる可能性もない訳ではないと思う。

勇者候補を増やすことは悪いことではないはずだ。

またバーテックスが侵攻してくるのはそう遠くはない。

急いで準備を整えなければいけないのだ。

子どもを戦わせることはとても辛いが、人類存続のため仕方のないことなのだ。

 

 

 




感想や評価、誤字報告などいつもありがとうございます!
次回なのですが、作者が9月から忙しくなり下手をしたら来年の投稿になってしまうかもしれないです。
投稿速度が不定期ですみません。
のんびりとお待ち頂けたら幸いです。


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第12話

次の投稿は年末か来年かもと言ってましたが、なんとか出来ました。


二日目は東郷さんが僕の配置を考えてきてくれた。

今日は僕を教室からは動かさず、接客をさせるらしい。

接客は何人もやる人がいるので僕だけに視線が集中することを防げるし、僕が何かミスをしたり相手と上手く話せない時にはフォローしてくれる人がいることになったので昨日よりは安心だ。

そして女装しているのが誰なのか、というのをクイズ形式にして集客をするらしい。

当てた人にはこの喫茶店の料理を無料にするという景品もある。

友奈ちゃんは今日も宣伝を主に行うことになったので別々だ。

そんな感じで準備をして二日目も開始した。

昨日の宣伝の効果があったのか開始直後から人が押し寄せ、最初からとても忙しい状態が続いた。

「ねえ、この中で女装してる男子は誰なの?」

「あ、あの、えっと・・・」

注文を受けることは出来るけどいきなり話しかけられると上手に話せることが出来ないのでアワアワしてしまう。

そんな僕の状況に気づいた谷さんがフォローに来て代わりに話をしてくれる。

話が終わり、二人でテーブルから離れる。

「あの、谷さん。ありがとうございます。助かりました」

「別に大丈夫だよー。私達『仲間』なんだから。さあ、このまま働きましょ」

「は、はい」

谷さんは笑顔でそう言って他の場所に向かう。

すぐにフォローしてくれるとかカッコいいよ谷さん!

まあ、谷さんは女の子だけど。

谷さんにフォローされながら接客をしているといつの間にかお昼時を過ぎていた。

お昼時を過ぎれば僕は昨日と同じように自由時間になる。

なので荷物が置いてある隣の教室に向かい、僕と牛さんのお弁当箱を持って外に出ると意外な人達がいた。

「ああ、高嶋君、ここにいたのか」

「あれ、三好さんと上里さん?それに父さんと母さんも。どうしたんですか?」

廊下には三好さん、上里さん、僕の両親の四人がいた。

「文化祭での君を撮ってこいと園子様に頼まれたんだ。それと例の屋上に後で一緒に向かいたんだがいいかい?」

「はい、大丈夫ですよ。この後行くつもりだったんで。あ、皆さんまだお昼ご飯食べてないですか?僕のクラスの喫茶店で何か食べませんか?」

「そうだね。私達はまだだから君のクラスに入ろうか。御三方それでよろしいですか?」

上里さんと両親が頷く。

よし、お客様ゲットだ!

お昼時を過ぎたのであまり教室は混んでいなかったのですぐに席に着くことが出来た。

しかし三好さんと上里さんが大赦の仮面とローブをつけているのでクラスメイトのみんなが不気味に思って近づいてこない。

流石に接客を頼むのは申し訳ないので僕がすることにした。

両親に僕がちゃんと出来ることを見せないとね!

「皆さん何を注文します?僕が持ってきますので」

両親は焼きそばを頼んだ。

「私はこのぼた餅と緑茶のセットを」

「上里さんはどうしますか?」

聞くと上里さんはメニュー表で三好さんと同じのを指した。

上里さんはあまり話す人ではない。

以前理由を聞いたら、面倒臭いから、と言っていた。

話すのは疲れるので上里さんの気持ちは分かる。

「じゃあ料理を持ってくるんで、少し待ってて下さい」

そう言って厨房に入り、料理を作ってくれる人にメニューを伝え、ぼた餅担当の東郷さんにも伝える。

「あの、高嶋君。あの大赦の方々は?」

「僕がちょっとお世話になってる人達だよ。あんまり気にしなくて大丈夫だよ。食べたらすぐ出るから」

「ええ。分かったわ。料理はすぐ準備するわね」

「うん。お願い」

厨房の人達が準備してくれた料理をお盆に載せてテーブルに戻る。

「はい。出来ましたよ」

「ありがとう」

「叶吾がこんなことまで出来るようになるなんて・・・!」

「そうね、あなた・・・」

「ちょっと恥ずかしいからやめて・・・」

親が感動しているのが恥ずかしくて親は気にせず三好さんに話しかける。

「というか三好さんと上里さんは大赦の服装で来るのはやめて欲しかったです」

学校だと悪目立ちしちゃっているんだけど・・・

「これでも園子様のご命令でここに来ているんだ。大赦関連だとこの服装で動かないといけないんだ」

そう言って三好さんは仮面を指差す。

「大赦って本当に大変な所ですね・・・」

大赦は神樹様関連の仕事を主にしているので守秘義務は多そうだし、偉い人は仮面とローブを着ていないといけないとか面倒だ。

僕の考えが分かったのか三好さんは肩を竦める。

両親達が食事をしているので僕も自分のお弁当と東郷さんのぼた餅を食べる。

食事中は両親とあまり話さない上里さんが僕の女装に関して盛り上がっていたので無視して一人静かに食べていた。

うーん、東郷さんのぼた餅はやっぱり美味しいや。

昨日は牛さんに全部食べられちゃったから食べたかったんだよね。

でも牛さんの分も残しておかないと。

そういえば、三好さんや上里さんは仮面をつけているのにどうやって食べるのかなーっと思って様子を見るとお箸と自前のストローを使って仮面を外さずに食べていた。

器用だなー。

そして食事を済ませたので屋上に向かうことになった。

「じゃあ呼び出してもらっていいかい?」

「はい。と言っても来るか分かりませんからね」

来てくれない可能性もあるので三好さんにそう言う。

「牛さーん!来たよー!ご飯もあるよー!」

そう言った直後祠が昨日のよう光る。

そして光終える頃には祠の横に牛さんが飛んでいた。

「こんにちは、牛さん。また来たよ」

声を掛けると僕に近寄ってきて頭の上に乗ってくる。

可愛いなーと思いながら撫でていると、三好さんが質問してくる。

「今君の頭の上に昨日話したのがいるのかい?」

「はい、そうですけど?」

僕の返事に両親の表情が曇る。

あれ?

僕変なことでもした・・・?

「上里さんは?」

「見えてます。本当にいますね・・・」

上里さんは驚いた声で三好さんに返事をする。

そして僕の頭の上を凝視している。

もしかして僕と上里さんしか牛さんは見えてない?

「あの、三好さんや父さんや母さんは牛さんが見えないんですか・・・?」

「そうだね。君と上里さんに見えているものは私達には見えない」

三好さんは返事をしてくれるが、両親が表情を曇らせたまま返事をしてくれない。

「あの、もしかして僕何か変なことしちゃいましたか・・・?」

「いや、君は悪くない。少しご両親と大事な話をするから高嶋君はドアの方で色々してもらってもいいかい?」

「はい、分かりました」

両親の表情から何か大事な話をするのだろう。

しかもこの屋上でということは僕と牛さんについてだろう。

本当は僕のことなら僕も話に入ったほうがいいのだろうけど、僕には首を突っ込んで責任を負う覚悟など怖くてない・・・。

ただ黙って言う事を聞くのは楽だし責任も発生しない。

だから今回もなるべく知らないふりをして言う事を聞くだけだ。

こんな僕だから園子ちゃんは過去に何があったのかを教えてくれないんだろうね・・・。

 

 

そんな事を考えながらドアが開いたときにぶつからないような位置で牛さんのご飯の準備をする。

「あっそうだ。牛さん素手でご飯を食べるからお手拭きを持ってきたよ」

声を掛けつつ牛さんの手、というか前足?を拭いていき、準備が完了する。

「はい、どうぞ」

紙のお皿にお弁当の中身を出して牛さんの前に置く。

そして牛さんは何も気にせず凄い勢いで食べ始めた。

なんか食べ物食べてる牛さんって話しかけている牛さんと雰囲気が違うような気がするんだよねー。

話しているときは表情がコロコロ変わるんだけど、食べ物を食べているときはこう、ぼへーっとした表情なんだよね。

もしかして中の人格が違かったりして。

牛さんが食べ終わってから片付けをしたり、撫でたり、お話をしていると三好さん達が話が終わったのかこちらに来た。

「話は終わったんですか?」

「ああ。それじゃあもしよかったらここで写真を撮らせてもらってもいいかな?周りには部外者もいないことだし」

「大丈夫ですよ。牛さんも一緒に写らない?牛さんとの写真欲しいし」

牛さんが笑顔で頷いてくれる。

「三好さん。後で僕にも写真貰えますか?」

「勿論だ。明日は振替休日で園子様の所に来るつもりなのだろ?それまでには用意しよう」

「早いですね・・・」

早く写真を園子ちゃんに見せたいんだろう。

三好さんらしい。

「それじゃあ、私が撮りますね」

上里さんがそう言ってカメラを構える。

それに続いて両親もカメラを取り出す。

「父さんや母さんも写真撮るの?」

「息子の写真は何枚あっても親は嬉しいのよ」

それに続いて父も頷く。

先程の暗い表情が無くなっていつもの二人に戻っているのに少し安心し、屋上での撮影会が始まった。

 

撮影会が終わる頃には文化祭も終わりを迎えていた。

あとは教室にも片付けをして解散だ。

出し物の順位は休み明けに発表なのでお楽しみである。

クラスのみんなで頑張ったから一位だといいな・・・。

家に帰り、ぐで〜としていると友奈ちゃんからお風呂のお誘いがあったので友奈ちゃんの家に向かうことにした。

「きょう君二日間お疲れ様!」

「お疲れ様、友奈ちゃん」

最近は少しだけ一緒にお風呂に入ることに慣れてきて、背中を洗いっこしたりしてる。

「友奈ちゃん背中洗うの本当に上手いねー。気持ちよくて眠くなるよー」

「きょう君いっつもそれ言ってるよー」

「だって本当のことだし」

「えへへ、ありがとう」

友奈ちゃんの力加減が絶妙で睡魔が襲ってくるのだ。

「次は僕が洗うね」

「うん。お願い」

友奈ちゃんと場所を交代して、座っている友奈ちゃんの後ろに回り背中をゴシゴシする。

「きょう君も上手だよ〜。気持ちいい〜」

「僕はまだまだだよ。友奈ちゃんには負けるよ」

「えー、そんなことないよ」

初めて背中を洗おうとしたときは恥ずかしさや緊張などで上手く出来ずバランスを崩して友奈ちゃんの背中にぶつかってしまったことがある。

その頃に比べれば上達しただろう。

「はい、終わったよ」

友奈ちゃんの背中にお湯をかけ、声を掛ける。

「きょう君ありがと!」

「どういたしまして」

そして二人で湯船に浸かる。

以前は向かい合わせで入っていたけど、最近は友奈ちゃんが入っている上に僕が乗る形で湯船に浸かっている。

その方がお互い足を伸ばせて楽だし、僕が、その、友奈ちゃんの胸とかを見たりしないで済むしね。

ちなみに僕が上なのは友奈ちゃんより身長が低いからである。

それに僕が下だと色々まずい事があるからである。

湯船に浸かりながら文化祭の話をする。

僕と友奈ちゃんは別々で動いていたので友奈ちゃんが何をしていたのかなど興味がある。

友奈ちゃんが楽しそうに話しているのを聞いているだけでどんな感じだったのか想像ができるし、僕も笑顔になる。

ふと、友奈ちゃんが話をしなくなる。

「友奈ちゃん、どうしたの?」

「あのね、きょう君は嫌じゃなかった?」

「何に対して?」

「その、ね、私が東郷さんに相談してそれでクラスの出し物できょう君が注目を集めることになっちゃって、迷惑だったり嫌な思いをしなかったかなって」

「確かに最初はクラスのみんなから良い視線で見られてなかったから嫌だなとか思ったりしたよ。でも文化祭当日に頑張ってたらそんな風に見られるのも減ったし、結果的にはクラスの一部の人と少し話せたし良かったって思ってるよ」

「ごめんね、きょう君。そんなことになっちゃって・・・」

「友奈ちゃんのせいじゃないよ。それよりも僕もごめんね、友奈ちゃんや東郷さんの期待に応えられなくて。全然人と話せるようになってないよ・・・」

「きょう君は悪くないよ。私が悪いよ」

二人してしばらく謝り合うのをやめない。

「あ、僕友奈ちゃんに言いたいことあるんだ」

「え?なに?」

「いつも僕の為と思って色々してくれてありがとう。迷惑かけてごめんね」

「きょう君のことで迷惑だと思ったことはないよ。私の親友だもん」

「ありがとう。僕ね、今回のことでもっと色んな人と話せるようになりたいなって思ったんだ。だからね、友奈ちゃんにはそれを手伝ってもらってもいいかな?」

そう言って僕は友奈ちゃんに寄りかかる。

「勿論だよ、きょう君」

友奈ちゃんは優しく答え、僕のお腹辺りに腕を回してきて抱きついてくる。

誰かと触れ合うのはあったかいなぁ・・・。

 

 

休みが明けて学校に行くと文化祭の人気順位が張り出されていた。

あれだけ頑張ったので僕達のクラスが一位を取っていた。

嬉しさもあるけど何より安心した。

これで一位を取れてなかったら僕の女装の意味がない。

教室に入るとクラスのみんながこちらを見てくる。

ぼ、僕何かしたっけ?

顔を下に向け席に着く。

友奈ちゃん達はまだ階段を上がっている最中なので誰かに聞くことも出来ない。

でも嫌な視線ではないんだよね・・・

「いやー、今回の文化祭の一位は高嶋君のお陰だね」

「あ、谷さん。それに山本さんと長谷川さんも」

僕の所に来たのはこの前初めて女装を教室で披露したときにすぐさま話しかけて来た三人だった。

「みんなそれで高嶋君のこと見てるのよ。話しかけるきっかけが無くて誰も話に来ないのよ」

「そうだったんですね」

いつも友奈ちゃんや東郷さん以外と話したことなんてほとんどないから確かにそうだと納得する。

「高嶋君、文化祭でも女装凄く可愛かったです!また機会があれば高嶋君の女装を見せて欲しいです!」

長谷川さんが興奮しながら話しかけてくる。

「き、機会があれば・・・」

友奈ちゃんや女装した僕を見る東郷さんに近いオーラを感じる。

長谷川さんには注意しよう。

谷さん達と話していたら他にも話しかけてくる人達がいた。

内容は女装のことだったり、文化祭での頑張りに対する褒め言葉だったり、色々あった。

昔の僕だとクラスの人達と話せているなんて考えもしなかった。

でも今本当に実現しているんだ。

ああ、僕は幸せだな・・・。

「高嶋君どうかした?」

涙が出そうになって下を向いたら谷さんが心配したのか話しかけてくる。

「高嶋君どうかした?」

涙が出そうになったので下を向いて目をこすっていたら谷さんが心配したのか話しかけてきた。

「大丈夫ですよ」

そう返事をする。

友奈ちゃん達が教室に来たら驚くだろうな。

そんなことを考えながら周りのクラスメイト達と話すのだった。

 

 

 

〜三好春信視点〜

今回の適正値の検査を担当したのは土居家と伊予島家であった。

高嶋家が一般職員の扱いになってからも土居家と伊予島家は懇意であったはずだ。

もし今回の検査で改ざんがあったのなら高嶋君の両親が土居家と伊予島家に頼み込んだ可能性がある。

その考えで私は動いた。

高嶋君の両親を呼び直接今回のことを聞いてみた。

最初ははぐらかされたが、高嶋君が学校の屋上で体験したことを話すと、驚きそしてこれ以上はぐらかしても意味がないと感じたのかすぐに自白した。

自分達の一人息子を危険な戦いに参加させたくないのは分かるが個人の感情が優先出来る状況ではないのだ。

神託では来年の春頃から侵攻が再開するとなっている。

急いで戦いの準備をしなければならないのだ。

そして今日撮った写真を園子様に見せに行く。

「うん。本当に精霊が居るね〜」

「左様でございますか」

「牛みたいな外見をしてるね。えっとね〜、牛鬼って名前だって」

「流石園子様、お詳しい」

「半分神様だから、必要なことは神樹様が教えてくれるんよ〜」

「助かります」

「でも、やっぱりたかっしーは勇者としての適正があったんだね」

「園子様は分かっておられたのですか」

「たかっしーの髪が赤い部分があるよね。私からは薄く光ってるように見えてるんだ。あれは勇者の力に近い雰囲気があるんだよ。でもこの前の適正検査では引っかからなかったから、あれれ〜って思ってたんだ」

「まさか土居家と伊予島家、そして高嶋家がそこまでするとは考えもしませんでした」

「その件はもう忘れよ。こちらから一方的に脅しただけなんだし」

「かしこまりました」

「それにしてもたかっしーの女装はどんどん磨きがかかっていくねー。流石わっしー、いい趣味してるね〜」

そう、大赦の上層部は、これ以上何かあれば園子様を高嶋家、土居家、伊予島家へ差し向けると脅しにかかった。

ただの人間が、神の力を得た勇者相手に勝てるはずがない。

それにより高嶋家、土居家、伊予島家を黙らせることにしたのだ。

そして高嶋君は勇者候補として頭数に入れられてしまった。

今回園子様が脅すことに賛成されたのは、現在讃州中学には、適正値が最高値の結城友奈、勇者と巫女の素質を兼ね備えた東郷美森、そしてこの二人よりは低いが高い適正を持つ犬吠埼風、来年には入学してくる犬吠埼樹の四人がいる。

この四人だけでも勇者として選ばれるのはほぼ確定だろう。

そしてそこに、結城友奈とほぼ同等の適正値を持つ高嶋君を勇者候補として認めることで選ばれた際の人数を増やし、少しでも彼らの生存率を上げたいのだろう。

我々に出来ることはそのようなちっぽけなことしかないのだ。

何故子どもに命を賭けた危険な戦いをさせなければならないのだろう?

我々大人が代わりに生贄になって戦いたい。

しかし、それを神樹様は認めようとしてくれない。

何故なのだ・・・。

 

今はただ、小を捨てて大に就く。

これしかないのだ。

 

 




いつも感想やお気に入り登録などありがとうございます!
次回はいつ投稿出来るか分かりませんが、多分プロフィール回かもしれないです。
そろそろ主人公達は中学2年なので。

そして、服のリクエストをくださった渚のグレイズ様、リクエストの服を着た回が当分先になってしまいそうです。
本当にすみません。なるべく早く投稿出来るように頑張りますのでのんびりお待ちいただけたら幸いです。


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第13話と主人公プロフィール②

最初は、次の章で主人公が書いている日記です。
その後にプロフィールがあります。
今回はすごく短いです。



人はなんで死ぬ可能性が出てくると何かしらの形にして生きていた証を残したくなるんだろうか。

誰かに生きていたと知ってほしいから?

身近な人に自分がいたことをずっと覚えていてほしいから?

僕の場合は後者だ。

僕が戦いに行くことを知っている人は少ない。

だからもし、別れの挨拶をする前に死んでしまった場合に備えて今日から日記をつけることにした。

と言っても思ったことを書いたりするだけなんだけどね。

友奈ちゃんは桜、東郷さんはアサガオ、部長はオキザリス、犬吠埼さんは鳴子百合、三好さんはサツキ。

花言葉もどれもぴったしだし、みんなによく似合っていると思う。

僕につけられた花はチチブイワザクラ。

まだ四国より外の世界があったころに咲いていた花らしく、一部の地域でしかなかった花だとか。

何故そんな花を僕につけたのかというと、神様方が、神に直訴しにくるアホは珍しいからという理由だった。

この花には珍しいため花言葉もなかった。

花言葉がないのも理由らしい。

でもこの花はとても綺麗だ。

だからこの花に恥じないよう戦い抜こう。

 

敵は十二星座がモチーフとして名前がつけられている、バーテックス。

十二星座なので十二体攻めてくる。

それを今回、僕一人で満開や精霊の補助なしで戦わなくてはならない。

正直戦いの途中で僕は死んでしまうだろうと思う。

だから、僕が生きた証をこの日記に残します。

出来たら友奈ちゃんに読んでもらって、僕のことを忘れないでほしいな。

 

神世紀300年 9月30日

 

 

 

「何を書いているの?」

「日記ですよ。僕の大切な人に覚えていてほしいために書いているんです」

「そっか」

僕のとなりにいる人はそのまま何も喋らない。

今回の戦いはとても危険なものだと理解しているから、話すのは慰めになると感じているのだろう。

でも死ぬとしても僕は絶対、助けに行くよ。

待っててね、友奈ちゃん。

 

 

ここから下は主人公のプロフィールとか設定です。

時期は中学2年4月です。

身長は友奈ちゃんより少しだけ低いぐらい。

あまり伸びない身長に絶望中。

周りからは背が低いほうが女装が可愛いのでそのままで、と思われてたりする。

文化祭の後から学校の生徒が主人公の女装に目をつけて、中学2年生の4月現在、勇者部の活動でも指名がくるぐらい人気になった。

部活での指名がくるようになってからは色々な人と関わるようになったので多少、人見知りや内気な性格が変わりつつある。

牛鬼の所に行って食べ物をあげることが学校が休みの日にも行っているので日課になっている。

学校が休みの日に行くときは生徒にバレないように園子ちゃんの所に行く、大赦の仮面とローブなどをつけているので、学校のバックに最近は仮面とローブが入れっぱなしだったりする。

部活での指名の時に大体が女装での指名なので女装することに慣れてしまった。

今では男子の服装を着ることの方が少ない。

クラスメイトとも普通に話せるようになってきている。

友奈ちゃんとは今もよくお風呂に入ったりしている。

当然、友奈ちゃんとはとっても仲良し。

友奈ちゃんに対しては、楽しい生活に出会わせてくれたことに感謝しており、恩人と思っている。

なので自分が友奈ちゃんに恋をしていることに気づいていない。

東郷さんには、友であり、友奈ちゃんの写真を撮る仲間であり、友奈ちゃんを狙うライバルと思われている。

主人公はそんなに深く考えていない。

園子ちゃんとは何も変わらず平行線のまま。

部長とは、ノリについていけない時もあるが上手く付き合いが出来ている。

文化祭で登場した、谷、山本、長谷川の女子3人は、東郷さんが作った『友奈ちゃんファンクラブ』の会員である。

3人とも東郷さんから渡されているインスタントカメラで友奈ちゃんのことを撮影したりしている。

1年の夏休みが終わったあたりにファンクラブは作られており、東郷さんが会長、主人公は副会長、他3人は会員である。

しかし、主人公はこのファンクラブのことに気づいていない。

東郷さんは近頃主人公の女装姿も盗撮し始めており、なかなかにヤバい人になりつつある。

主人公は自分が勇者候補者であることは知らない。

 

 




感想や評価など、いつもありがとうございます!
やっと物語が進んできました。
ちなみに次の章は、勇者の章ではないです。


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第14話

臨地実習が忙しい!
小説書く時間が無いので投稿遅くてすみません。
そういえば私、大学生です。


あれから少し時間が経ち、僕達は中学2年になった。

去年の文化祭のあとから勇者部を通して僕への依頼が急増して、毎日を忙しく過ごしていた。

しかも依頼のほとんどが女装で来て欲しいとか、この学校の人は変態が多いのかな?

でも、頼られて嬉しい僕は、出来る限り依頼をこなしていった。

そしてそのために女装することに慣れていってしまった。

今では恥ずかしがらずに服を着こなすことが出来る。

慣れって怖いね。

今年はなんと勇者部に新入部員がいる。

そう、文化祭で会った犬吠埼樹さんだ。

部長に連れてこられて入部することとなった。

部長は犬吠埼さんが勇者部に馴染めるか心配していたけど、友奈ちゃんや東郷さんが上手く犬吠埼さんが話せるように話題を出していたので問題はなかった。

新入部員も入り、順調な勇者部と僕達。

でもそんな楽しい日々は、この時から少しずつおかしくなっていった。

 

 

友奈ちゃんは勇者部の文化祭での出し物を昨日から考えているらしく、今日の授業中ずっと考えているらしい。

それを東郷さんに気付かれたらしい。

「あっ、なんでもない!」

友奈ちゃんが授業中なのに大きな声で東郷さんに返事をしている。

「結城さん」

「は、はい!」

先生に呼ばれてそのまま叱られていた。

何を考えていたんだろ?

そう思っていると誰かの携帯が鳴り始める。

聞いたことがない音だな・・・。

「え!私の?」

その音は友奈ちゃんと東郷さんの携帯からだった。

そして友奈ちゃんは携帯のことでまた注意を受ける羽目になっている。

でも友奈ちゃんと東郷さんの着信音とかこんな音だっけ?

そう思っていたら、なんと友奈ちゃんと東郷さんがいきなり教室から消えた。

え・・・・・・・・・・・?

目の前で起きた出来事に頭がついていかない。

「ゆ、結城さん?東郷さん?」

先生もいきなり起きた出来事に驚いている。

クラスメイトのみんなもそうだった。

驚いているためか誰も何も言葉を発さない。

そして先生は友奈ちゃん達を探しに教室を出た。

教室にいる僕達は教室で待っていろと言われた。

少し落ち着いてきたのかみんな話し始めた。

「結城と東郷さ、いきなり消えたよな?」

「あれなんだろ?」

そんなことを話していた。

僕自身も少し落ち着いてきた。

友奈ちゃんと東郷さんがいきなり目の前から消えた。

こんなことを出来るのは誰?

考えるんだ。

友達がよく分からないことに巻き込まれてるんだ。

どうにかしようとしないと。

こんな摩訶不思議なことを出来るのは、この世界では神樹様しかいない。

牛さんのような不思議なことがあるんだ。

神樹様に呼び出された?

ということはもしかして大赦の人がこの事態の説明に学校に来ていたりする?

大赦なら何か知っているだろう。

教室の窓から門を眺めてみる。

僕の予想が当たったらしく、大赦の印がついている車が門の前に止まっている。

なら説明しに来た人にこの事態を聞くのがいいだろう。

自分の机の横のバックから大赦の仮面とローブを出して身に纏う。

「た、高嶋君、どうしたの?」

僕の隣の席のクラスメイトが声をかけてくる。

その声が聞こえたのか他のクラスメイトとこちらを見てくる。

話している時間も惜しい。

口があるあたりに指をもってきて、しーってやる。

クラスメイトがいきなり変な服装しているからみんな静かになる。

そのまま僕は教室を出る。

とりあえず、先生たちがいる教室に向かおう。

他の教室の人に気づかれないように静かに向かう。

職員室のドアの窓から中を覗くと、先生方と教頭先生が何か話している。

ここに大赦の人がいないなら用はない。

次に居そうな所は校長室かな?

目標を定めて移動する。

校長室の前まで移動してドアに耳をぴったりとつけて中の音が聞こえるようにする。

すると校長の声だと思われる声と聞き覚えのある声が中から聞こえてくる。

校長と三好さんが話してる?

何を話しているのか聞こうとすると、話がちょうど終わったところらしく、足音がドアに方に向かってくる。

気づいた時には遅く、ドアにくっついていた僕は開いたドアにぶつかってしまった。

「げふぅ!」

「誰だ!」

ドアが仮面をしている顔面にぶつかったのでとっても痛くて悶絶してしまう。

「い、痛い・・・」

「もしかして高嶋君か?」

「この格好しているのによく分かりますね。顔が痛い・・・」

「この学校でその恰好をしているのは君しかいないだろ」

「言われてみればそうですね」

よく考えてみると確かにこの学校でこの服装が出来るのは僕しかいない。

「それで、三好さんに僕は用があるんです」

「大体の用件の察しはつく。場所を変えよう」

三好さんが大赦権限で僕を学校から連れ出して病院に向かう。

「病院に来る必要はあるんですか?」

「ある。というか君が求めている答えの一つがある」

「・・・。もしかして友奈ちゃんと東郷さんがいるんですか?」

「その二人と別にもう二人いるがね」

「誰が他にあの現象に巻き込まれたんですか?」

「君の知っている犬吠埼姉妹だ」

「部長と犬吠埼さんが?」

「そうだ」

「どうして僕以外の勇者部のメンバーがいきなり消えたりしたんですか?」

「それについては答えられない」

「どうしてですか?」

「今回のことは国家存亡に関わる一大事なのだ。関係者でもない君に話せるわけがない」

「でも・・・」

「これでも君にはまだ譲歩して話しているんだ。君たちの学校には、大赦のお役目ということまでしか説明していない。これは君の今までの大赦への貢献から考えてのことだ」

「説明できるところまで説明してくれそうってことは僕に何かやらせたいことがあるんですか?」

「君も察しがつくようになってきたのか。君にはお役目につく結城友奈、東郷美森、犬吠埼風、犬吠埼樹の精神的支援をしてもらいたい」

「精神的支援って、僕カウンセラーとかみたいなことは出来ませんよ」

「そんな大層なこと私も期待していない。彼女達と時間を共にすることで日常での安らぎを彼女達に与えてほしい」

「カウンセリングよりも難しい気がしますよ・・・。とりあえず今までのように一緒にいればいいんですね?」

「そうだ。彼女達が戦いによって精神的に不安定になっているときも一緒にいて支えてほしい」

「勇者部のみんながどんなに変わっても僕はずっと一緒にいるつもりなので大丈夫ですよ」

仮面をつけているけど、笑顔で答える。

そうだ。

こんな変な僕と最初から仲良くしてくれてたのは勇者部のメンバーだけだ。

だから僕から離れることはない。

みんなが辛い時は僕が支える番だ。

「そう決めているのならいい。さあ、病院に着くぞ」

病院に着き、三好さんについていく。

 

 

三好さんについていくと大きな窓がある部屋に着く。

その窓からは隣の部屋を見ることが出来る。

隣の部屋に友奈ちゃん達がいた。

みんなで何か興奮しながら話している。

「よかった・・・」

みんな無事だったんだね。

友奈ちゃん達は一切こちらを見たりしない。

隣の部屋からはこちらの部屋が見えないらしい。

友奈ちゃんを眺めていると、右手に包帯が巻かれていることに気づいた。

「三好さん。みんなは本当に無事だったんですよね?」

「命に別状はない。怪我はしているだろうが」

「怪我をするようなことをさせているんですか?」

「そうだ」

「中学生に危ないことをさせているんですか大赦は!なんの為に⁉︎」

「国難の為だ」

「どうして大人がやらないんですか!」

「純粋無垢な女の子でなければならないんだ。出来るなら我々大赦の人間がやっている」

「でも・・・」

そこで僕の視線が三好さんの握りしめて震えている拳を見つけた。

「三好さんも僕と同じ考えなんですか?」

「何故子どもにこの国を背負わせる戦いを強いなければならないのか、とは思っている。だが私に弱音を吐く権利は無い。彼女達を戦わせているのは大赦だから。しかも当事者に彼女達やその友人の君の方が私より何倍も辛いはずだからね。私は君達のことを影から支えることしか出来ない」

「三好さん・・・」

三好さんや大赦の人は感情を隠すことが上手い。

だから何を考えているのか分からなかったけど、僕と同じ考えをしている人が大人にもいて僕は安心した。

「だから、君には彼女達のことを支えて欲しいのだ。彼女達だけではいつか心が折れてしまうかもしれないからね」

「分かりました。出来る限りのことはお手伝いします。それと、さっきは八つ当たりのようなことをしてしまってごめんなさい」

「いや、いいんだ。君や彼女達は怒る権利がある。いきなりこのような事に巻き込んでしまったのだからな。さあ彼女達に会うぞ」

「分かりました」

「あと君はここでは話すのは禁止だ」

「了解です」

何か理由があるのだろう。

でもそんなことより友奈ちゃん達と会うのが大事だ。

あとこの仮面とローブをつけた状態で話すのは驚かせる事になるから嫌だしね。

二人揃って部屋の中に入る。

「勇者様。御自宅までの送迎車が準備できました」

「あ、はい。分かりました。ほらあんた達行くわよ」

「犬吠埼様方は私が御自宅までお送りさせて頂きます。結城様と東郷様にはこちらの者に送らせます」

話すことを禁止されているので首を縦に振って了承する。

「私達はこのまま歩いて帰れるんで大丈夫ですよ」

友奈ちゃんが送迎を断ろうとする。

「いや、あんたは手を痛めてるんだから東郷の車椅子押すのも一苦労でしょ。だからこのまま送ってもらえばいいじゃない」

「左様でございます。今日は戦われたのですから無理をなさらないで下さい。学校への説明はしてありますので、今日は皆様御自宅でゆっくりとお休み下さい」

「分かりました。よろしくお願いします」

断り続けるのも失礼だと感じた友奈ちゃんが了承をした。

怪我をしている友奈ちゃんに東郷さんの車椅子を押させる訳にはいかないので僕が代わりに押して、車の所まで行き乗り込んだ。

車の中では友奈ちゃんが東郷さんに話しかけていたが東郷さんからはあまり返事をしていなかった。

友奈ちゃんからの話にあまり答えないなんて東郷さんらしくない。

今回の件と関係があるのだろう。

友奈ちゃん達の家に着いたら話しかけよう。

「送ってくれてありがとうございます!」

友奈ちゃんが運転手の人にお辞儀をする。

僕もそれに合わせてお辞儀をする。

僕達三人を下ろして車はすぐに出発していった。

「あの、私達の家ここなんでもう大丈夫ですよ?」

友奈ちゃんに言われて思い出す。

まだ僕だってことを伝えていない。

「友奈ちゃん、東郷さん、ごめんね。実は僕なんだ」

そう言って仮面を外す。

「え、ええー!きょう君だ!どうして⁈」

「高嶋君・・・。一体どうして?」

「病院だと話すのを禁止されてたから僕だよって言えなかったんだ。本当にごめんね」

「全然大丈夫だよ!でもどうしてきょう君がその服とか着てるの?」

「僕も大赦のお手伝いをしていてね、その時に着たりしてるんだ」

「私達とは別のお役目なの?」

「うん。でも僕のは人と毎週話をしに行ってるだけだから。友奈ちゃん達のお役目とは全然違うと思う」

「そう・・・」

「それでね、これからは友奈ちゃん達のお手伝いもするようにって言われてるんだ。だからね、何かして欲しいこととかあったら言ってね」

「きょう君が色々手伝ってくれるなんて心強いよ!」

「そうね・・・。私今日は帰るわ」

「あっ・・・。東郷さん・・・」

そう言って東郷さんは家に帰ってしまった。

友奈ちゃんは追いかけるのを躊躇っていた、ら

「その、東郷さんが元気ないのはお役目をしてからだよね?」

「うん。多分東郷さんだけさっきの戦いで戦うことが出来なかったことを気にしてるんじゃないかな」

「そうなんだ・・・」

敵がいて、友奈ちゃん達がそいつらと戦っているらしい。

なんでそんな危ないことを友奈ちゃん達がしなければいけないんだろうか?

「でもきょう君が理由を知ってるみたいでよかった!」

「ある程度しか知らされてないけどね。でも僕が知っててなんでよかったの?」

「だって何か困ったことがあったらきょう君にも相談できるし、考えるなら一人でも多い方が良い案も出るかもしれないし。何よりきょう君が理由を知って近くに一緒に居てくれるだけで力が出るんだ」

友奈ちゃんらしい理由だ。

でも力になれているのなら僕も嬉しい。

「友奈ちゃんの力になれて嬉しいよ、僕は」

「きょう君はいつも私やみんなの力になってるよ」

友奈ちゃんが笑顔で手を握ってくる。

恥ずかしくて顔が赤くなるが、聞きたいことがあるので、友奈ちゃんの顔を見る。

「そうだ、友奈ちゃん右手は大丈夫?包帯が巻いてあるけど・・・」

「あ、これはね、敵を殴った時にちょっと痛めただけで今はそんな痛くないよ」

「本当に?無理したりしてない?他に怪我してない?」

「本当に大丈夫だよ。そうだ!一緒にお風呂入ってる時にきょう君が私の身体見ればいいんだよ!背中とかは私も分かんないし」

ゆ、友奈ちゃんから身体を見ていいと許可が⁈

でも流石に不味い気が・・・。

「じゃ、じゃあ後ろは僕が見るから前は友奈ちゃんが確認してね」

「はーい。じゃあ帰ろっか」

「うん」

 

 

その後は一緒にご飯を食べたり、お風呂に入ったり、のんびりと過ごした。

でも僕の中ではやっぱり心配だったので、今日は友奈ちゃんの家に泊まることにした。

「今日は本当に疲れたよ〜」

「お疲れ様、友奈ちゃん。本当に」

「ありがとう、きょう君」

今僕と友奈ちゃんは一つの布団で一緒に寝ている。

ちょっと狭いし恥ずかしいけど、お互いを近くで感じられるので僕は好きだ。

因みに提案したのは勿論友奈ちゃんだ。

「でも本当にきょう君が理由を知ってくれてて助かるよー」

「ざっくりとしか知らされてないけどね」

「理由を知ってるか知らないかでその人に何をしてあげられるかって大きく変わると思うよ」

「そうかな?」

「そうだよ」

「じゃあ、僕にしか出来ないことを探して、みんなを手伝うね」

「うん!よろしくね」

そこから沈黙が続く。

「あの、友奈ちゃん。まだ起きてる?」

「どうしたの?」

言う決心が今まで決まらなかったけど、どうしても言っておきたいことが僕にはあった。

「あのね、友奈ちゃん達がやってるお役目がもし辛かったら逃げてもいいと僕は思うんだ。だからね・・・、無事に帰ってきて・・・」

友奈ちゃんの顔を見て言う。

僕はただ友奈ちゃん達の無事を祈る事しか出来ない。

そんな自分が嫌になって途中から泣きながら話してしまっていた。

「大丈夫だよ。私達は絶対に戻ってくるから」

友奈ちゃんが、優しい笑顔で僕を抱きしめてくれる。

「絶対だよ・・・。無理しないでね・・・」

「うん。絶対」

そのまま頭を友奈ちゃんが優しく撫でてくれる。

その気持ち良さに僕はそのまま眠ってしまった。

 

 

次の日の放課後、僕は部活の依頼を受けて部室にいなかったから分からなかったけど、友奈ちゃんから敵が来たと聞いた。

東郷さんも帰る時にはいつも通りになっていたし、東郷さんの悩みは解決したんだろう。

今回は誰も怪我することなく終わってよかった。

みんな無事に帰って来れるように。

神樹様、みんなをお願いします。

 

 




次回はまた主人公と友奈ちゃんだけの回にしよっかなぁと思います。
なので物語は進みません。
作者の投稿スピードが遅いので、もし物語を早く進めて欲しいとかありましたら、感想のほうに書いて頂けたらそうしようと思います。


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第15話

おはようございます、宇津田です。
お久しぶりです。
今日は内容少ないですが、主人公と友奈ちゃんの2人しか出ません。
服のリクエストをして下さった渚のグレイズ様ありがとうございます!
今回の主人公の服はリクエストによるものです。


「あのね、きょう君。また着て欲しい服があるんだけど、いいかな?」

友奈ちゃんが後ろから聞いてくる。

今友奈ちゃんと一緒にお風呂に入っている。

お湯の温度が丁度良く、部活の依頼で疲れていた僕は眠かったのでウトウトしていた。

そのため特に考えず返事をしていた。

「ん〜?友奈ちゃんのお願いならなんでもするよー」

「やったー!じゃあ今度の日曜日に来て欲しいな」

「いいよー」

確かに友奈ちゃんのお願いなら出来る限り何でもする。

でもこの時だけは、友奈ちゃんにどんな服を着たりするのか確認しなかった僕自身を後で呪うことになるとは思いもしなかった。

普通の服じゃないときは相応の心の準備が必要だから。

 

 

「友奈ちゃーん。おはよう、来たよー」

インターホンを押し、声を出す。

すると、元気いっぱいな友奈ちゃんがドアを開け、出迎えてくれる。

「おはようきょう君、いらっしゃい!ささ、上がって上がって」

友奈ちゃんに手招きされ家に入る。

「今日はお父さんとお母さん出掛けてるんだー」

「友奈ちゃんのお父さんとお母さん本当に仲がいいよね」

「娘の私でもたまに話しかけづらい雰囲気の時があるんだよね。すっごいラブラブだよ」

友奈ちゃんの両親はとても仲が良く、休日には二人で出掛けることもよくある。

友奈ちゃんは、一人になることが嫌だということはなく、逆に気兼ねなく家に友達を呼べて楽しいと話していた。

「でね、今日はこれを着て欲しいんだ。ちょっといつもと違うから着にくかったりするかもしれないから、手伝って欲しいときは呼んでね」

「うん。分かったよ」

いつもと違うという言葉に疑問を感じつつ、紙袋を受け取り、友奈ちゃんの隣の部屋に入る。

今日着る服はなんだろうなあ。

紙袋の中から取り出してみると、女子用のスクール水着と黒のストッキング、そしてウサ耳が出てきた。

ウサギの尻尾はすでに水着に取り付けられていた。

なんというか、今まではゴスロリや清楚系って東郷さんが言っていたのを中心に着ていたから女装に慣れてきていたけどこれは女装というか仮装じゃない?

露出が多いから恥ずかしいし!

てか昨日のうちにどんな服なのかちゃんと確認しておけばまだ心の準備ができていたのに・・・。

昨日の僕馬鹿!

でも、友奈ちゃんのお願いだから着ないと。

今日は友奈ちゃんしかいないから他の人に見られる心配もない。

友奈ちゃんしかいない。

そう考えれば恥ずかしさも少なくなる。

女子用のスクール水着を着るのは初めてで、着方に悩みつつなんとか水着を着る。

友奈ちゃんを呼ぶときは自分で考えてどうしても分からない時だけだ。

だって着替えているのを見られるのは恥ずかしいから・・・。

ストッキングは何度か履いたことあるし、ウサ耳は頭に付けるだけなので水着以外には手間取らず身につけることが出来た。

部屋に置いてある姿見で今の自分を確認する。

うーん。

あんまり似合っていないと思うんだよなぁ。

今回はスクール水着だから腰に巻く布地がなくて、落ち着かない。

他の人から股間の膨らみが見られるのが恥ずかしくて嫌なのだ。

まあ、今は友奈ちゃんしかいないし、慣れれるように頑張ろう。

「友奈ちゃん、着替え終わったよ」

友奈ちゃんの部屋にノックをして入る。

「待ってたよー、きょう君・・・」

友奈ちゃんが部屋に入ってきた僕を見る。

するとみるみると顔が赤くなっていく。

「友奈ちゃん、顔が赤いけど大丈夫?」

友奈ちゃんが立ったまま止まっているので、心配になり友奈ちゃんに駆け寄る。

「友奈ちゃん、大丈夫?具合悪い?」

前に立っても反応がないので顔の前で手を振っているが反応がない。

「ゆーうーなーちゃん。大丈夫?」

友奈ちゃんのほっぺたを両手ではさんでこねこねする。

「ふあ!?だ、大丈夫だよ!きょう君!」

「本当に?具合が悪いのを隠したりしてない?」

「してないよ。ちょっとその、きょう君が可愛くてぼーっとしちゃってただけだよ」

友奈ちゃんが慌てて具合が悪いのを否定してくるがその内容に驚かされ、友奈ちゃんを心配していた時には忘れていた恥ずかしさを思い出して顔が赤くなる。

「その、この格好似合う?」

「すっごい可愛い!すっごい似合ってる!ウサ耳と水着の組み合わせが最高!誰にも見せたくない!」

とても興奮して話す友奈ちゃんを見て恥ずかしさと照れによって顔の赤さが最高潮になる。

「自分でだと似合わないかなって思ってたけど友奈ちゃんがそう言ってくれると嬉しいな」

「本当に似合ってるよ。可愛くて照れてるきょう君のことが大好きだよ」

そう言って僕に抱きついてくる。

「う、嬉しいよ。でも僕以外の人に言ってすると誤解されちゃうから注意しないと駄目だよ?」

「どうして?」

「え、えっと、もしその人が恋愛的な意味で友奈ちゃんに好かれてると思われるとありもしないうわさや誤解に繋がるかもしれないし」

「そうだね」

僕の苦し紛れの言い訳を素直に聞いてくれる。

僕はただ、誰かに褒められたり喜んでもらえたりしたいのだ。

今言った言い訳だって友奈ちゃんの好意をなるべく僕だけに向けて欲しいから言った苦し紛れの言い訳だ。

まだ僕には恋愛的な意味での好きと友情的な意味での好きの差が分からない。

でも今友奈ちゃんが僕に向けている気持ちは好意に変わりないはずだ。

それを僕は出来るならずっと独り占めしたい。

だからそうなるようになるべく声を掛けたりする。

そんな自分に自己嫌悪を感じながら友奈ちゃんの頭を撫でる。

 

 

「それで、今日も写真を撮るの?」

「今日は撮らないよ」

「あれ?確か東郷さんにいつも撮った写真を渡してたよね?その分はいいの?」

今回もこの衣装は東郷さんが手に入れて友奈ちゃんに渡したはずだ。

東郷さんは友奈ちゃんに服を渡す引き換えに写真を渡すことになっていたはずだ。

「今回は大丈夫だよ。東郷さんから許可は貰えてるから」

今の状態を見せびらかしたいとは思わないので写真を撮らなくて済むならありがたい。

「じゃあ、今日は何からする?」

「恒例の膝枕で!」

いつも写真を撮り終わった後に友奈ちゃんは女装させた僕にいつも膝枕をさせる。

僕の姿を色々な角度から見て楽しんでいるらしい。

いつものように友奈ちゃんのベッドの端に座り、ふと太ももを軽く叩いて友奈ちゃんを呼ぶ

「それじゃあどうぞ」

「はーい」

友奈ちゃんの髪がストッキングの上から太ももに触れ、くすぐったくて変な声が出てしまった。

「どうしたのきょう君?」

「髪が足に触れたのがくすぐったくて」

「タオルを足に敷く?」

「大丈夫だよ。すぐ慣れるから」

そのままどちらとも話さずに静かな時間が過ぎていく。

ただじっと眺めているのもいいけど、やっぱり暇なので手櫛で友奈ちゃんの髪を整えていく。

友奈ちゃんの髪はサラサラで、髪と髪の間を通る指に伝わる感触が気持ちいい。

真っ赤な髪が部屋の明かりで綺麗に光っている。

綺麗だなっと思いながら髪を整えていると、顔を横にしていた友奈ちゃんがこちらを見てくる。

「どうしたの?」

「きょう君を見たいなーって思って」

「あの、ほどほどにお願いします」

そのままじーっと見てくる友奈ちゃんに耐えられなくなり、僕は何か他の事をするように提案した。

「それじゃあ、耳かきをして欲しいな」

「耳かき?僕上手じゃないよ?」

「きょう君にして欲しいんだ」

「そう?分かった」

こんな感じで友奈ちゃんの頼みをドンドンこなしていった。

「写真を撮るときのポーズを色々見たいな」

「はーい」

「じゃあ僕がご飯の給仕をしてみるよ。こういう服装の人はお金持ちの執事とかやってるって本に書いてあったし」

「お願いします!」

戦いで疲れた友奈ちゃんを癒したい一心で、僕からも出来ることを提案してドンドン行っていった。

そして気がつくと夕方になっていた。

「今日はありがとう、きょう君」

「いいえ。友奈ちゃんの役に立てたなら僕は嬉しいよ」

そう、友奈ちゃんの役に立てたならそれ以上に嬉しいことはない。

「そうだ、水着のお金を友奈ちゃんに渡さないとね。いくらしたの?」

友奈ちゃんから渡される服は東郷さんが請求してくる料金を友奈ちゃんが立て替えているのだ。

だから友奈ちゃんにお金を渡さないといけないのだ。

「今回はお金払わなくて大丈夫だよ。その代わりになんだけど、この水着私が貰ってもいいかな?」

「僕はいいけど、お金は大丈夫なの?」

「うん。この水着東郷さんが間違えて買っちゃったらしくてね、それを私が貰ったんだ」

「そうだったんだ。東郷さんが注文間違えることあるんだね」

念入りな東郷さんが間違えることあるんだ、と不思議に思いながら朝来た服に着替えて友奈ちゃん家を後にするのだった。

 

 




読んで下さりありがとうございます!
読んで下さった方なら思っているかと思いますが、作者の妄想力が不足していて主人公と友奈ちゃんのシチュエーションが思いつきません。
なので服のリクエストと共にシチュエーションも募集します。
エッチなことは主人公が行えないのでそれ以外でお願いします。
詳しくことは活動報告に書きます。
次回は今話の友奈ちゃん視点になります。



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第16話

お久しぶりです、宇津田です。
実習が終わったのでまたぼちぼち投稿していきたいと思います。

キャラクターの心情を書くの下手なので読者の皆様の妄想で補ってもらえると助かります。


私がきょう君のことを好きだと気がついたのは文化祭が終わって少し経ってからだった。

文化祭で人気者になったきょう君は勇者部を通しての依頼がとても増え、毎日依頼をこなしていくことになり、きょう君はとても忙しくなった。

だから学校帰りに遊ぶ時間が減ったり、きょう君と一緒にいる時間が減ってしまった。

その時から私は、何かモヤモヤしたものを感じていた。

この気持ちは何なのか?

私は親友の東郷さんに相談した。

「それはね友奈ちゃん。嫉妬よ」

「嫉妬?」

「ええ。多分友奈ちゃんは、高嶋君の女装姿が私達だけのものではなくなったことに対して感じているのではないかしら?」

「そう、なのかな?」

「きっとそうよ。高嶋君の女装はとても似合っていて独り占めしたくなるもの。私も文化祭の後から高嶋君の女装姿が他の人から人気を得て依頼で引っ張りだこになってる状況にちょっと嫉妬してるのよ」

「東郷さんもなんだ」

「ええ。だから友奈ちゃんも嫉妬しているのだと思うわ」

「確かにそうなのかも」

「でしょ。だからね、その気持ちを少しでも無くすために友奈ちゃんも高嶋君の写真を沢山撮りましょ?写真が増えると落ち着くのよ」

そう言って東郷さんは私にカメラを渡してくる。

「そうなんだ。じゃあ私も写真を撮ろうかな。あ、でも私写真撮るの下手だよ?」

「大丈夫よ。今から私が手取り足取り教えるから」

東郷さんが笑顔で言う。

東郷さんが教えてくれるなら私にも出来そうだ。

「本当?じゃあ私も始めようかな」

「友奈ちゃんならとても良い写真が撮れるわ」

そんなことで私もきょう君の写真を撮り始めたけど、心の中のモヤモヤが薄れたり、消えることはなかった。

「うーん。どうしてこのモヤモヤは消えないんだろ?」

一人お風呂の中で考える。

今日はきょう君と一緒にお風呂に入っていない。

今日も部活の依頼でヘトヘトになっていていたから、家に誘うのが申し訳なくて誘わなかったのだ。

きょう君なら誘うと頑張って来てくれると思うけど、あんなに疲れているのだからゆっくりと休んで欲しい。

最近はきょう君と一緒に居られる時間が少なくなってちょっと寂しいな・・・。

きょう君と居るときはこのモヤモヤも消えるんだけどなあ。

そこまで考えて、あれ?と思う。

もしかして私、東郷さんに言われたことに対して嫉妬していないんじゃないかな?

だってきょう君の女装が他の人に認めてもらえて嬉しいし、学校でも女装したきょう君が見れるし、私にとっては良いことしかない。

それに、私がお願いをすればきょう君はどんな衣装でも着てくれる。

お願いした時の衣装のきょう君は私や東郷さんや身近な人しか見ることがない。

そう考えると女装に対して嫉妬しているとは考えにくいと思う。

それで、きょう君が一緒に居る時にはモヤモヤが消える。

もしかしてきょう君が他の人といる時間が増えて、私と一緒に居られる時間が少なくなったことに嫉妬してる?

そうなのかな?

だってきょう君が他の人ともっと話せるように色々したのは私と東郷さんだ。

その結果を私は喜んだ。

だってきょう君は人のことを思いやれる優しい人だから。

それを皆に知ってもらえて嬉しい。

なのに、きょう君が他の人と仲良くなってそれを良く思っていないかもしれないなんて、友達としてなんて嫌な存在なんだろう。

この日はそのまま考えていても考えが纏まることはなかった。

 

 

「多分それ、嫉妬で合ってるわよ」

「え?本当ですか?」

悩んでいた日から数日後、風先輩と一緒に浜辺のゴミ拾いをしにきていた。

きょう君は演劇部、東郷さんは将棋部からの依頼で一緒じゃないので風先輩に相談することにしたのだ。

また東郷さんに相談すると、この前東郷さんの言っていたことを疑ってしまうのが嫌だったから風先輩を選んだのだ。

「ていうか、私は友奈が高嶋のこと好きだと思っていたわよ。あんなにベタベタして、お風呂まで一緒に入ってる仲なのに」

「きょう君のことは好きですよ?」

「私が言ってるのは愛とか恋愛的な意味でよ」

「ええ!?そうなんですかね・・・」

「友奈は高嶋と一緒にいてドキドキしたり、嬉しかったりしない?」

「手を繋いだり、抱きついたりした時にあります」

「それよ。他に何か感じたりしないの?」

「あと、こう、犬みたいで可愛いなって思ったりします」

「高嶋は友奈に対して犬みたいだしね、分かるわ」

「高嶋はどうか分からないけど、その感じなら友奈は高嶋のことが好きだと思うわよ。あと、男子で抱きつく相手は高嶋だけなんでしょ?」

女子には友達とかに抱きついたりするけど、男子で私が手を繋いだり、抱きついたりするのはきょう君だけだ。

もしかして本当にきょう君のことが好きなのかな?

そう意識すると顔が赤くなっていくのが分かった。

「ほら、自分でよく考えると思い当たる節があったじゃないの」

「は、はい・・・」

「そういう風になるってことは、友奈が高嶋のことが好きなのよ」

「そう、ですね・・・」

考えると私、きょう君に対してとっても恥ずかしいことしてたよね?

あー!私のバカバカバカ!

「あー、友奈。もうここはいいから今日は帰りなさい」

「え?でもまだやる所が・・・」

「あんたのその様子じゃあもう今日は役に立たないわよ。それより早く家に帰って考えを纏めなさい。その状態で高嶋に会ったら大変なことになるでしょ」

確かに今の状態できょう君に会うと恥ずかしさで変なことをしてしまいそう。

風先輩の言葉に甘えて、家に帰った後、じっくりと考えた。

「私は、きょう君のことが好きなんだ。もし付き合ったら何をしたりするんだろ?」

手を繋いだり、デートとかかな?

でもきょう君とはよく手を繋いだり、一緒に出かけてるから何か他に恋人同士でしかしないことはあるかな?

ずっと考えていると1つ思いつく。

「キ、キスとか、かな・・・」

きょう君とキス・・・。

きょう君、キスしようとしたら顔を赤くして、目をつぶって、少し震えて、でもするのが楽しみだからずっと待ってそう。

それで、お互いに手を繋いで、ゆっくりと・・・。

「私本当にきょう君のことが好きだ」

顔が赤いまま、ゆっくりと言葉にして確認する。

その日は、きょう君から貰った私ときょう君の人形を抱きしめながら眠った。

 

 

私の心の中の気持ちに気付いたあの日から、私はきょう君と2人きりになれる時間を増やすことにした。

休みの日にきょう君を家に呼ぶときはお父さんとお母さんには出掛けてもらい、きょう君と2人で過ごしたり、依頼の時にはなるべくきょう君と組めるよう風先輩にお願いしていた。

そして2年生になってからお役目というちょっと大変なことも増えたけど、家族や友達、そしてきょう君のためなら私は頑張れる!

今日は新しいきょう君の服を東郷さんにお願いしていたので、東郷さんの家に取りに来たんだ。

「いらっしゃい、友奈ちゃん。これ、この前に頼まれた衣装よ」

「ありがとう、東郷さん!こういうのどこで売ってるの?」

「企業秘密よ」

東郷さんが口の前に指を持ってきて、しーっの形をする。

そして東郷さんがいつものお願いをしてくる。

「それでね、友奈ちゃん。今回も写真をお願いしていいかしら?」

きょう君は女装しているとき、東郷さんが写真を撮ろうとすると私の後ろに隠れるようになってしまった。

理由を聞くと、きょう君が女装をしているときの東郷さんは、目が怖いらしい。

そうなのかな?

ちょっとテンションが高いだけだと思うんだ。

それからは、きょう君を女装させて写真を撮るときは私1人でやっている。

「んー。今回はダメかな」

「そ、そんな!?」

だって今回の衣装を着ているのを私以外の人に見られたくないから。

でもそれだといつも衣装を頼んでいる東郷さんに申し訳ない。

何かいい案はないかなー・・・。

あっ、そうだ!

「じゃあ、私がこの衣装を東郷さんの前で着るよ!それでどうかな?」

「友奈ちゃんが私1人の前で、ウサ耳を着けて、スク水に黒ストを着てくれる・・・」

「わあ!と、東郷さん、鼻血が出てるよ!」

東郷さんに近くにあるティッシュを持っていく。

東郷さんが自分で鼻にティッシュを詰めながら話しかけてくる。

「ゆ、友奈ちゃん。それを着て、色々ポーズもしてもらえるのかしら?」

鼻が塞がっていて、今は口で呼吸をしているせいか東郷さんは息が荒い。

「それぐらい、お安い御用だよ!任せて」

「ぐふ・・・」

「とと、東郷さーん!」

幸せそうな表情をして東郷さんは気絶してしまった。

なんでか東郷さんはとっても興奮していたけど、どうしてなんだろう?

その後起きた東郷さんが、今回お金はいらないと言ってきた。

「本当に大丈夫?結構お金かかってそうだけど・・・」

「大丈夫よ、元はとったから!いや、これからとるのだけれど」

「?」

「でも、もしお金が必要だったら言ってね。きちんと払うから」

「ええ。ありがとう、友奈ちゃん」

東郷さんの言っていることはたまによく分からないけど、今回はお金を払わなくていいらしい。

東郷さんから衣装ももらったので、あとはきょう君に聞いてみるだけだ。

 

 

「あのね、きょう君。また着て欲しい服があるんだけど、いいかな?」

学校から帰り、私の家で一緒にお風呂に入っているときに聞いてみた。

学校や外だと人に聞かれてしまうから、きょう君が気にしちゃうと思う。

だから絶対2人きりになれる、お風呂のときに聞くことにした。

「ん〜?友奈ちゃんのお願いならなんでもするよー」

湯船に一緒に入ってからきょう君は、体に力があまり入っていない。

今日も部活の依頼で頑張っていたから、疲れて眠いんじゃないかな。

気の抜けた返事になってるし。

顔がお湯につきそうになるので、きょう君のお腹に回してる両手で私の体にきょう君の体を寄せる。

「やったー!じゃあ今度の日曜日に来て欲しいな」

「いいよー」

そう返事するきょう君の顔がまた下がっていき、お湯に顔がつきそうになる。

「きょう君、そろそろお風呂から上がろう?寝てるよ」

「ん~?寝てないよ~・・・」

ウトウトしているきょう君は、中々起きないからちょっと強引に起こすことにしている。

「もー、仕方ないなあ。こちょこちょこちょ〜」

「ひゃっ、あははははは!ゆ、友奈ちゃん、ダメだよ!」

「お風呂でウトウトしてるきょう君がいけないんですよー」

「お、起きた、起きたからやめて!」

「ほんと〜?」

「本当!」

きょう君の目が覚めたのでここでやめる。

これ以上きょう君が寝ないように身体を密着させて耳元で囁く。

「もう、ダメだよ。お風呂でウトウトしたら」

「う、うん。ごめんね」

「ううん。こっちこそごめんね、くすぐっちゃって」

横からきょう君の顔を見ると真っ赤になっていた。

一緒にきょう君の胸元に手を当てると心臓がドキドキしていた。

うん、これだけドキドキしていたらもうウトウトすることはないかな。

「そろそろお風呂上がる?」

「そうしよっか」

 

 

お父さんとお母さんに次の日曜日を空けてもらえるようにお願いして、きょう君と二人きりで過ごせるように準備をしていく。

きょう君がうちで女装してくれる時はなるべく2人で過ごせるようにしている。

だってきょう君の女装を最初に見て独り占めしたいから。

お菓子とかを準備すれば、きょう君を出迎えられる。

そして来たきょう君に今日着てもらう服を渡して着替えてもらう。

水着とストッキング、ウサ耳は絶対似合うと思うんだよねー。

そう考えながら待っているときょう君が着替えて部屋に戻ってきた。

「待ってたよー、きょう君・・・」

振り返りながらきょう君を見る。

顔を赤くして、手足をモジモジさせているきょう君が可愛い。

それだけだったらいつものことだけど、今日は違かった。

頭につけているウサ耳がピコピコ動いている。

か、可愛い!!

なんで耳が動いてるの⁈

いったい何処で東郷さんは手に入れたんだろ?

その二つが合わさって、可愛さが最強になっているきょう君を見て自分の顔が赤くなっていく。

「ゆーうーなーちゃん。大丈夫?」

ずっと返事もせずきょう君を見ていたので、心配になったきょう君がほっぺたを触ってくる。

「ふあ!?だ、大丈夫だよ!きょう君!」

いつの間にかきょう君の顔が目の前にあり、私の目を見るようにしていた。

「本当に?具合が悪いのを隠したりしてない?」

「してないよ。ちょっとその、きょう君が可愛くてぼーっとしちゃってただけだよ」

きょう君は私が具合が悪いんじゃないかと心配しているので慌てて否定する。

というかきょう君顔が近いよ!

きょう君の顔が近いのもあってドキドキしていく。

と、とりあえず他の話にしよう。

そう考えていると、きょう君が顔を赤くしながら聞いてきた。

「その、この格好似合う?」

そんなの当然似合ってるよ!

「すっごい可愛い!すっごい似合ってる!ウサ耳と水着の組み合わせが最高!誰にも見せたくない!」

そう言うと照れながらもきょう君は嬉しそうに笑ってくれる。

「自分でだと似合わないかなって思ってたけど友奈ちゃんがそう言ってくれると嬉しいな」

「本当に似合ってるよ。可愛くて照れてるきょう君のことが大好きだよ」

心から君のことが好きだよ、きょう君。

 

 

因みに私が東郷さんの前できょう君が着た服を着たら何度も鼻血を出し気絶してしまい、とんでもないことになってしまうのだった。

 

 

 

 




いつも感想ありがとうございます!
また評価もありがとうございます!

余談ですが、結城友奈の章で主人公君と友奈ちゃんが結ばれると世界が滅びます。


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第17話

あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。
今年のこの作品の目標は、主人公を勇者にするです。
投稿ペースが遅いのでいつになるか分かりませんが、私は投稿しますよー!

時系列が分かりにくいですが、最初の部分は以前の日記の次の日です。


病棟の廊下を歩いて東郷さんの病室に向かう。

朝早く面会時間にはなっていないが、園子ちゃんの所に行くときに着る服装でナースステーションに名前を言えば通してくれることになっている。

こういう時だけ大赦の権力が役に立つなんて腹が立つ。

東郷さんの病室の前にも立ち、仮面を外してドアをノックする。

「はい、どうぞ」

返事を確認してドアを開ける。

部屋は個室だけど私物はほとんど見当たらない。

身体に異常がないから退院が近いからだろう。

「おはよう、東郷さん。朝早くからごめんね」

「事前に連絡をもらっていたから大丈夫よ。それで話は?」

「話したいことが色々あるんだけど、体調は大丈夫かな?」

「ええ。熱とかはないわ」

「以前から動かなかった足や戦い機能を失った左耳や右目は段々機能が戻ってきた?」

「ええ。左耳と右目は段々と。足もリハビリ中よ。でもこれは話と関係あるの?」

「一応確認しときたくて」

そう、本当に確認しときたかっただけだ。

散華した身体機能はもう二度と戻ってこない。

今回は神樹様が神の力を用いて、皆の散華した身体機能を新しく作り直して与えている。

だからリハビリなどをしてまた自分の物にしていく必要があるのだ。

これで誰か一人でも散華した機能が新しく与えられていなかったら神様を殴りに行かなくちゃいけなかったから本当によかった。

「でもよかった、皆身体の機能が戻ってきてて」

「・・・えぇ、そうね」

「友奈ちゃんのことは聞いてる?」

「ええ・・・。でもまだこの目で見ていないわ」

「じゃあ、会いに行く?」

「私が行っていいの?皆から止められているけど・・・」

「僕が一緒だから大丈夫だよ」

「・・・。なら、会いに行くわ」

「じゃあ話もそこで一緒にしようか」

東郷さんに車椅子に乗ってもらい、友奈ちゃんの病室まで一緒に行く。

部屋を出てから東郷さんは何も話さなくなった。

どんどん顔色が青白くなっていく。

「東郷さん、顔色が悪くなってきてる。部屋に戻ろうか?」

「友奈ちゃんに会わせて・・・。お願い・・・」

僕の方を振り返り、ハンドルを握っている僕の手を掴んできた。

東郷さんの手はとても冷たかった。

絶対無理をしているのが様子で分かる。

けど東郷さんの目は諦めていなかった。

だから僕はそのまま東郷さんを病室に連れて行った。

友奈ちゃんの病室のドアをノックして入る。

ベッドの上には虚ろな目をした友奈ちゃんがいた。

「ゆう、な、ちゃん・・・。友奈ちゃん!!」

友奈ちゃんを見た東郷さんが車椅子から立ち上がり、ベッドまで駆け寄っていく。

まだリハビリ中なので足が上手く動かず転んでしまう。

「東郷さん!大丈夫?怪我はない?」

「友奈ちゃん・・・。友奈ちゃん・・・」

「友奈ちゃんはすぐそこにいるよ。でも東郷さんが怪我をすると友奈ちゃんも悲しいと思うから、無茶なことはしないで」

「ごめんなさい・・・」

東郷さんに車椅子に戻ってもらい、友奈ちゃんのベットのそばに寄せる。

「友奈ちゃん、返事をして・・・」

友奈ちゃんに声をかけながら東郷さんは友奈ちゃんの頬に手で触れる。

だけど、友奈ちゃんから返事はない。

「やっぱり、だめなのね」

そう言って東郷さんは涙を流す。

「私の、私のせいで!!」

東郷さんはそう言うが僕はそうじゃないと思う。

東郷さんの横に椅子を持ってきて隣に座る。

「東郷さんのせいじゃないよ」

「何も知らないあなたが何を言うの!!」

僕の大赦での扱いは、勇者部皆の手伝いをしたり、何か困ったことがあればそれを大赦に伝えたりするとかの雑用係みたいなものだ。

でも今の僕は違う。

「全部、知ってるよ。最後の戦いであったことも、散華のことも、今の僕は全部知ってるよ」

「え・・・。ど、どうして知っているの!?勇者と大赦の一部の人しか知らないはずなのに・・・」

今回の東郷さんがしたことやそれで起こったことは勇者と大赦の中でも上層部の人たちしか知らない。

なぜ僕が知っているのか、それは――――

「東郷さん。僕ね、皆と同じ勇者になったんだよ」

「え・・・」

 

 

 

三回目の戦いが終わったあと、転入生が僕達勇者部2年生組のクラスに編入してきた。

「三好夏凜です。よろしくお願いします」

自己紹介を聞いて思ったことがある。

もしかして三好って名字だから大赦の三好さんと親戚だったりするのかな?

あまり三好って名字聞かないしね。

そして今クラスで自己紹介している彼女こそが僕を除いた勇者部皆のお役目の助っ人らしい。

僕は皆と一緒に戦えないから話を聞いて様子を聞くことでしか戦いの様子は分からない。

友奈ちゃんの話では、三好さんはとても強いと言っていた。

人数が増えたことで戦いも有利になるはずだ。

これで皆の怪我とかが少なくなってくれればいいなあ。

 

放課後になって三好さんは勇者部の部室に来た。

多分お役目の話をするんじゃないかな。

「転入生のふりなんてめんどくさい。でもまあ、私が来たからには安心ね。完全勝利よ!」

東郷さんが疑問に感じたことを質問したりしている。

ある程度話が終わると三好さんがこっちを見る。

「ていうかどうしてここに関係者じゃないやつがいるのよ。出ていきなさい」

三好さんが僕に対して言う。

ちょっと高圧的で怖い・・。

「あ、あの、い、一応僕も、関係者です」

「はあ?あんたが?」

信じてもらえてない・・・。

なんて説明しようかあわあわしていると、部長が代わりに説明をしてくれる。

「高嶋はね、私達のお役目のことを何となく知っていて色々手伝ってくれてるのよ」

「は、はい。そうなんです」

大赦の三好さんからは皆からお役目のことについて聞いてはいけないと言われているけど、友奈ちゃんがよく僕に話をしてしまうので所々知っている。

僕から尋ねて聞いてるわけじゃないから大丈夫大丈夫。

多分。

「部長。もしお役目のことでお話するなら、僕は別の場所に行きます」

「そうね、これから詳しい話をするから高嶋には部室を出ていてもらおうかしら」

「分かりました」

「本当にごめんね、いつも話をする時は部室を出てもらっちゃって。大赦も高嶋にはお役目のことを全部教えてもいいのにね。私達のことを手伝ってくれてるのに」

「大赦も不必要に情報を広げたくないんじゃないですかね。じゃあ僕は屋上に行きます」

「分かったわ。後で連絡するわ」

「お願いします」

皆がお役目のことについて話をする時は、聞いてはいけないことになっているので部屋を出ているのだ。

「じゃあ牛鬼も一緒に行こ。ご飯もあるよ」

いつの間にか僕の頭の上に乗っている牛鬼に声をかける。

すると手で僕の頭を二回叩いてくる。

最近分かったけどこうやる時は分かったって意味がある。

皆に声をかけ、部屋を出る。

お弁当の入った手提げを持ち屋上のドアを開いた。

屋上についたら社の隣に座り、お弁当箱を5個出してすぐ食べれるように準備していく。

お弁当箱は3つは小ぶりで、2つは大きめのにしてある。

「牛鬼、食べていいよ」

牛鬼に声を掛けると頭から離れてお弁当の前に座り食べ始めた。

友奈ちゃん達がお役目を始めた頃、社に行っても牛鬼に会えないことが続いた。

会えない日が続いたので心配してたけど、友奈ちゃんと牛鬼が一緒にいるのを見かけて安心した。

その時に友奈ちゃんに牛鬼のことを聞くと、お役目の手伝いをしてくれているとのことだった。

「友奈ちゃんのこと、よろしくね」

そう言って牛鬼の頭を撫でると、のほほんとした顔を向けてくる。

もう牛鬼はかわいいなあ。

さあ、他の皆も呼ばないと。

社の正面に立ち、扉に向かって覗き込むようにして言った。

「ご飯持ってきたよー」

言ってから少し離れると、社が光りだしてそこから新たな精霊が出てくる。

「こんにちは、皆。もう牛鬼は食べ始めてるから皆も食べていいよ」

社から出てきたのは、義経、雪女郎、輪入道、七人御先だった。

義経、雪女郎、輪入道は小ぶりのお弁当を食べ、七人御先、牛鬼は大きめのお弁当を食べている。

七人御先は名前の通り7体いるから大きなお弁当を食べるのは分かるけど、それと同じ量のお弁当を食べる牛鬼ってすごいよね・・・。

精霊の皆がご飯を食べている間に、社の掃除を始める。

掃除って言っても濡れ雑巾で社を拭くだけなんだけどね。

これも僕のお役目の一つだから、丁寧にやらないと。

精霊のことは、上里さんから教えてもらった。

牛さんの名前が牛鬼だってことも。

素質があると精霊が見えることも。

一体こんな僕にどんな素質があるんだろうなって思う。

そんなことを考えながら掃除をしていると、頭の上に牛鬼が乗ってくる。

「お弁当食べ終わったの?友奈ちゃんからもらってるビーフジャーキーもあるよ?」

そう言って手提げからビーフジャーキーの袋を出すと、牛鬼はそれに向かって飛びついていった。

「本当にビーフジャーキーが好きなんだね」

掃除もある程度終わり牛鬼にビーフジャーキーをあげていると、屋上に三好さんが来た。

「高嶋、もう話は終わったから部室に戻っても大丈夫よ」

「あ、あの。わざわざ呼びに来てくれたんですか?」

「か、勘違いするんじゃないわよ!あんたの仕事ぶりを見に来ただけよ!」

もしかしてわざわざ話が終わったことを伝えに来てくれたのかな?

三好さん、優しい人な気がする。

さっきは怖かったけど。

ふとそんな考えが思い浮かぶ。

「ていうかなんであんた精霊と一緒にいるのよ!勇者でもないのに」

「ああ、僕精霊が見えるんですよ。素質があるみたいで」

「へー。男でも適正値が高い奴いるのね」

「適正値、ですか?」

「あんた、適正値のことも知らないの?」

「一応僕は皆さんのお役目について詳しいことを聞いちゃいけないことになっているんです」

「まあいいわ。それじゃ、私は伝えたから」

「あ、はい。ありがとうございます」

とりあえず、話が終わっているなら部室に戻ろう。

「皆もう食べ終わった?」

精霊達がいる方を見て、声を掛ける。

精霊達はお弁当を食べ終わって敷物の上で寝っ転がっていた。

うん、かわいい!

「僕そろそろ戻らなくちゃいけないんだ。皆はお腹いっぱいになった?」

そう言うといつの間にか頭の上に乗っている牛鬼以外の精霊達は、寝っ転がっているのをやめて宙に浮かぶ。

義経や雪女郎は僕の前で頷くような動作をしてくれる。

輪入道や七人御先は特に何も動作をしない。

皆、満足してくれたようだ。

満足していない時は、義経や雪女郎は頷いてくれないし、輪入道や七人御先は身体にくっついてくる。

お弁当箱や敷物を片付けて精霊達に声を掛ける。

「また明日も来るね。時間は何時になるか分からないけど」

そう言うと牛鬼を除いた精霊達は、社に近づく。

そして社が光り輝き、輝きが終わると牛鬼以外の精霊は居なくなっていた。

「じゃあ僕達も部室に戻ろう」

荷物をまとめて部室に戻る。

すると今度の日曜日に子ども会のレクリエーションを行うことを、犬吠埼さんから説明を受けた。

「分かりました。僕折り紙が上手くないから練習してきますね」

「はい。高嶋先輩、よろしくお願いしますね」

犬吠埼さんと話をしていると、東郷さんが会話に加わってくる。

「高嶋君、その日はもちろん女装で参加するわよね?」

「え?な、なんで?する必要ないよね?」

「高嶋君の依頼での正装が女装だからよ!」

「そ、そうだったっけ?いつ決まったのかな?」

東郷さんが熱のこもった視線で僕を見てくる。

ちょっと怖い。

東郷さんの視線を感じ続けるのに恐怖を感じた僕は、友奈ちゃんの背中に隠れる。

「高嶋君、大丈夫よ。私は怖くないわ。ほら、こっちへおいでー」

東郷さんがゆっくり手招きしてくる。

益々怖くなって友奈ちゃんにピッタリとくっつく。

「子ども会だときょう君の女装は必要ないんじゃないかな?」

僕のことを見かねて友奈ちゃんが助け舟を出してくれる。

「ゆ、友奈ちゃんがそう言うなら・・・」

そう言うと東郷さんは部室のパソコンの前まで移動して勇者部のホームページの更新を始めた。

「友奈ちゃん、ありがとう」

「そんな。東郷さんはきょう君の女装姿に夢中だから、違う時に女装してあげてもいいと思うな。私も一緒にいるから」

「うん、分かった」

友奈ちゃんが一緒なら東郷さんも変な事を言いだしたりしないだろう。

た、多分。

『さりげなくきょう君に女装してもらえる機会をゲット!やった!』

 

 

そして、予定の日曜日になった。

しかし集合時間になっても集合場所に三好さんが来ない。

友奈ちゃんが電話してみたけど、電源が切られているらしく、三好さんが電話に出ることは無かった。

「もしかして夏凜ちゃん、具合が悪くて来れないんじゃないかな?」

友奈ちゃんが心配そうに言う。

三好さんはクラスでの様子を見ていても真面目な人だと思う。

だから休むなら一言連絡すると思う。

「もし具合が悪くて寝込んでいるならちょっと心配ね。あいつ一人暮らしだから」

「え?そうなんですか、風先輩?」

僕達が知らない事を部長が言った。

「一体何処でそんな事を知ったんですか?」

「職員室で聞いたのよ」

それは、盗み聞きというのでは・・・。

「高嶋、細かいことは気にしない」

「わ、分かりました」

「でも、夏凜さんが来てくれないとお誕生日を祝えないよ」

犬吠埼さんが言うように、今日は三好さんの誕生日なのだ。

だから三好さんには内緒で、誕生日会を今日参加する子ども達と一緒に行う予定だった。

だけど、その本人が来ていない。

どうしようかと考えていると、友奈ちゃんが言った。

「じゃあ子ども会が終わったら、夏凜ちゃんのお家に行こうよ!そしたら誕生日会を行えるよ」

「友奈ちゃんは夏凜ちゃんのお家の場所が分かるの?」

「あ、そういえば私、夏凜ちゃんのお家の場所分からない・・・」

「私が知ってるから大丈夫よ」

「お姉ちゃん、夏凜さんのお家の場所知ってるの?」

「あいつが出した入部届にきっちりと書いてあったわ」

「その手がありましたね。私も何かあったらやってみます」

東郷さんが変なことを言っているが気にしない。

「それじゃあ子ども会が終わったら、夏凜の家に行って誕生日会をするわよー!勇者部ファイトー!」

「「「「おー!」」」」

 

子ども会が終わった後に三好さんの家に行くと、木刀を持った三好さんが出迎えてくれた。

具合は悪くないとのことだったので、皆安心した。

「わーーー!!!、み、みみみ、見るなーーー!!!」

今は三好さんの家で誕生日会を行っている。

皆楽しく話している。

この調子なら三好さんも皆と打ち解けられるだろう。

部員も増えて、これからが楽しみだ。

 

 

 

 




いつも読んでくださりありがとうございます!
やっと勇者部全員登場させれました。

次回は短めですので多分、投稿は早い、はず・・・です。


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第18話

今回2000文字も書いてないのですが、区切りをよくしたいので、ここで投稿します。



「え・・・」

隣に座っている東郷さんが驚いた表情をする。

「ど、どうして高嶋君が勇者に・・・」

「驚くよね、男が勇者になってるなんて」

「違うわ!大赦からは敵が襲ってくるなんて聞いてないって風先輩が言っていたわ。また私達は戦わなくちゃいけないの?高嶋君まで巻き込んで・・・」

「東郷さん達はもう戦わなくて大丈夫だよ。これからは僕一人で戦うから」

「高嶋君一人・・・。そんなの無理よ!死んでしまうわ!」

「勇者は僕一人だけど、心強い味方が他にも居るから大丈夫だよ。それに今、皆は勇者に変身するための端末を持っていないから戦えないよ」

「大赦に頼めば届けてくれるわ」

「それは無理だよ。友奈ちゃんを除いた四人は大赦の信頼を失っているから」

「そんな・・・。どうしてまた敵が・・・」

理由は簡単だ。

一瞬理由を言うのに戸惑いを感じるが、ここで言わないと東郷さんにきちんと向き合っていないと思った僕は言った。

「東郷さんが最後の戦いで壁を壊したよね。それが原因となって、バーテックスの再生速度がとてつもなく早くなってるんだって。だから近いうちにまた攻めてくるんだって」

「わ、私のせいじゃない・・・。私のせいで、また戦いが・・・。どうしてこうなってしまうの?」

そう言うと東郷さんは、顔を下に向け、泣きながらごめんなさい、ごめんなさいと繰り返すようになってしまった。

泣かないで、東郷さん。

僕は皆に笑顔で過ごしてもらいたいから勇者になったんだ。

東郷さんの手を握り、目を合わせ、僕の思いを伝える。

「今回敵が攻めてくることは東郷さんが原因かもしれない。でも散華の事とか大事な情報を言おうとしなかった大赦が悪いと僕は思う。だってそれで結果的にこの事態を引き起こしてしまったから。だからね、東郷さんは悪くないよ」

まあ、西暦の頃の人類が一番悪いと思うけど。

「それに僕が東郷さんと同じ立場だったら、同じことを考えていたかもしれない。皆がこれ以上傷つかずに済む方法として正解の一つだと思うからね」

「だからこれ以上自分を責めないで、東郷さん」

「たか、しま君・・・」

東郷さんがゆっくりと顔を上げ、目を合わせてくれる。

涙は止まっていた。

「それにね、今回敵と戦うことは悪いことだけじゃないんだよ。だって友奈ちゃんのことを助けに行けるから」

「え?そ、それはどういうこと?だって友奈ちゃんはここに居るわ」

「うん。身体はここにあるよ。でも魂は今別の場所にいるんだ。それを今回の戦いの時に、僕が直接そこに行って、ここまで連れて帰ってくるよ」

「本当に?」

「本当だよ。僕を信じて」

「信じるわ。だってあなたは私にとってかけがえなの無い親友だもの」

「僕もだよ。それじゃあ、僕はそろそろ行くね。訓練して戦えるようにならないと」

そう言って僕は席を立ち、ドアに向かう。

「高嶋君!」

ドアの取っ手を掴むと東郷さんが声を掛けてくる。

「友奈ちゃんをお願い。それと、高嶋君も無事に帰ってきてね」

「絶対友奈ちゃんと一緒に帰ってくるよ。じゃあ、またね」

病室を出て、仮面をつける。

そして病院を出る。

入口の近くに黒塗りの車が停まっている。

そして一人の大赦の人間が車の脇に立っていた。

事前に聞いていた迎えの人だろうと僕は思い、声を掛けた。

「僕の迎えの方ですか?」

「はい。訓練場所までお連れしろと受けております。お乗りください、叶吾様」

そう言ってその人は、車のドアを開けてくれる。

「ありがとうございます。でも僕のことは名字で呼んでください。あなた方に下の名前で呼ばれるのは苛つきますので」

「失礼しました、高嶋様」

僕を乗せた車は走り出した。

訓練場所となっている、勇者部で合宿したあの砂浜へ。

 

 

 

 

今日は戦いの時に、精霊達が展開していたバリアを出せるよう、防御の訓練をした。

初めての訓練だし、ちゃんとした変身をしたことがなかったので変身出来るか心配だったけど、問題なく出来てよかった。

最初はバリアを出せる練習だから痛い思いをしなくてよかったけど、バリアの硬度を上げる所からが大変だった。

何度かは瀕死になったし。

怪我を治しては怪我をして。

身体は痛くて辛いし、力をコントロールするために精神的に疲れる。

でもこれに慣れていかないと、バーテックスとの戦いには勝てない。

頑張らないと。

明日は攻撃の練習だ。

早く寝ないと。

 

神世紀300年 10月1日

 

 

 




いつも読んでくださりありがとうございます!
お気に入り登録や評価などもして頂きありがとうございます!
主人公の服やシチュエーションのリクエストを随時、作者の活動報告で受け付けてます。
気軽にリクエストしてくれたら作者が喜びます。

次回は一期の初回特典のゲームの内容をやっていきます。


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第19話

ハーメルンよ、私は帰ってきた!


勇者になって3日目。

今日は攻撃の練習をした。

昨日みたいに上手くいかず、今日は何度も腕がボキボキになった。

昨日は瀕死になったけど、直ぐに意識を失ったから長い時間痛みを感じていない。

けど今日は意識がずっとあったから逆に痛みを長く感じていて辛かった。

訓練をするようになってからは、勇者部の皆で合宿で泊まった旅館に泊まっている。

早くから訓練を出来るようにするためだ。

そして今日から僕の両親も訓練の場所にいて、様子をずっと見ていた。

春信さんに聞くと、僕のことが心配だから来てくれたと言っていた。

両親は、僕が怪我をするのを見て、泣いていた。

でも、僕が訓練をしていない時は笑顔で接してくれる。

僕に気を遣ってくれている。

 

 

本当は訓練しているのを見せたくなかった。

僕がボロボロになっているのを見て悲しむと思ったから。

そしてその通りになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親不孝者で、ごめんなさい。

 

 

 

神世紀300年10月2日

 

 

「高嶋君、先程戦いがあった」

今日は依頼が無かったので、部活も無くなった。

なので友奈ちゃんと東郷さんと後で遊ぶ約束をして、家に帰り着替えをしていると、携帯に電話が掛かってきた。

そう、大赦の三好さんからだ。

「み、皆は無事ですか?」

最近は戦いが無かったから安心してしまっていた。

皆のことが心配になり声が震えてしまう。

「怪我の程度は不明だが命に別状はない。だが念のために数日検査入院になると思う」

「そうですか・・・」

皆生きているんだ。

良かった・・・。

皆の話を聞く限り、お役目は敵と戦い、撃退することだと思う。

当然命の危険もあると思う。

それを無事に乗り越えられたのなら、本当に良かった。

「彼女達の様子を見に行くなら明日にしなさい。今日は彼女達は疲れているだろう。それに今日は大赦の関係者が多く出入りしていることもある。明日の夕方に行きなさい」

僕の考えを先回りして三好さんが言う。

「分かりました。何か気をつけた方がいいことはありますか?」

「病院では園子様に会う時の服装で過ごすこと。仮面もずっと付けているように」

「友奈ちゃん達と話したりする時もですか?」

「そうだ。それが守れないなら君は病院には行かせない」

「・・・分かりました」

友奈ちゃん達と会う時もあの服装じゃないといけないのか・・・。

女装よりも嫌だよ。

「君の帰宅後に自宅に車を回すから、準備が出来たら連絡してくれ」

「分かりました」

直ぐに会えないのは残念だけど、明日の夕方には会える。

そう、明日なんて直ぐに来る。

お見舞いに持っていくお菓子とかを買ってこないと。

 

次の日、急いで家に帰り、三好さんに連絡する。

連絡して数分で自宅の前にいつもと同じ黒塗りの車が止まる。

昨日の内に持っていくものはまとめてあったので、それらを運び病院に向かった。

車の中で三好さんが質問してくる。

「色々あるみたいだが、具体的に何が入ってるんだ?」

「お菓子とか飲み物とかですよ。あと煮干しです」

「・・・。そうか」

ふと、前から気になっていたことを僕も聞く。

「そういえば勇者部にいる三好さんって、三好さんの妹さんですか?」

「夏凛のことかい?そうだが」

「そうだったんですね。名字が同じで、大赦関係者だったのでもしかしてと思って」

「うちの妹は可愛いだろう?ちょっとツンな所もあるけどそれがとてもいい!」

「そ、そうですか・・・」

何故か兄妹なのか確認しただけなのに三好さんは自分の妹自慢を始めてしまった。

そして病院に着くまで妹自慢をする三好さんの話が続いた。

病院に着くと三好さんも一緒に行くと言った。

「私は彼女達に近寄る怪しい輩の排除も仕事であるんだ。君の話には割り込んだりしないから安心してほしい」

「僕は全然気にしないんで大丈夫ですよ」

「それと、私のことは春信でいい。夏凛のことも名字で呼んでいるのならその方が分かりやすい」

「分かりました」

そんなやり取りをしながら、病院の中に入り、エレベーターに乗る。

「高嶋君」

エレベーターの中で春信さんは言った。

「夏凛を除いた4人に何かしらの身体障害が起きているらしい」

「え・・・」

「私も自分で確認したわけではないからそれぞれ何処に起きているのかは分からない。だが何かしら日常生活に影響があるものだと聞いている。それだけは覚悟をしていてくれ」

三好さんを除いた4人は身体障害が起きている・・・。

「そ、それは治るんですか?」

「原因は長時間の戦闘によるものだと聞いている。だから時間が経てばいずれ治ると聞いている」

「そうですか。良かった・・・」

僕は横でホッとしていて気づかなかった。

春信さんが血が出るほど拳を握っていることに。

 

「彼女達は仲が良いからデイルームから先に見てみようか」

春信さんの提案に賛成して一緒にデイルームに向かう。

デイルームがある場所に近づいていくと、勇者部の皆の声が聞こえてくる。

話せる程度には無事なんだね。

皆の声が段々大きくなるにつれて、僕の歩く速度も速くなる。

早く皆に会いたい。

デイルームの入り口まで来た所で、春信さんが肩を掴んでくる。

「どうしたんですか?」

「少しの間、デイルームが君達だけで貸し切りに出来ないか、看護師に尋ねてくる」

「そんなこと出来るんですか?」

「ここは大赦の運営している病院だから無理ではないだろう。少しここで待っていてくれ」

春信さんらしく色々気を遣ってくれているは。

今度何かお礼しないと。

デイルームの入り口の横で立って待っていると、ふと思った。

今の服装だと、周りの人の視線を集めちゃうんじゃ・・・。

廊下には今の所人は居ないが、余り視線を集めないようにしようと、壁にくっつくことにした。

ローブと壁の色が同じ白色だからいけるはず!

壁にペタ〜っとくっついていると、春信さんではない声から名前を呼ばれた。

「きょう君?」

その呼び方で僕を呼ぶのは一人しかいない。

友奈ちゃんだ。

デイルームの入り口を見ると、病衣を着た友奈ちゃんが居た。

どうして友奈ちゃんは僕が居ることが分かったの?

でも今返答していいのかな?

色々悩んでいると、今度は後ろから呼ばれた。

「高嶋君、待たせたね。許可がもらえたから入って大丈夫だ。仮面も中でなら外していい」

「本当ですか!ありがとうございます!」

春信さんにお礼を言い、友奈ちゃんに向き合う。

「やっぱりきょう君なんだ!来てくれたんだね!」

そう言った後、友奈ちゃんは春信さんの方を見て言った。

「きょう君を連れてきてくれてありがとうございます!」

「私は何もしておりません。それと、私が声をかけるまでデイルームは貸し切りにしてあります。それまで皆様でお楽しみ下さい」

「はい!ありがとうございます!きょう君、中に入ろ!」

友奈ちゃんは僕の手を取って、デイルームの中へ連れて行く。

「ワァオ。友奈が言った通り、本当に高嶋が来てたのね」

「高嶋君、お見舞いに来てくれたのね」

「はあ?大赦の職員の格好をしたこいつが高嶋なの?」

デイルームに入ると部長、東郷さん、三好さんが声をかけてくる。

『高嶋先輩来てくれたんですね』

犬吠埼さんはスケッチブックに字を書いて僕に見せてくれる。

もしかして声が出ない?

皆を見渡すと、部長は左目に眼帯をしている。

「ぶ、部長。目はどうしたんですか?犬吠埼さんも声が出ないんですか?」

春信さんからあらかじめ聞いてはいたけど、実際に目の当たりにすると、声が震えてしまう。

「ああ、これはね、戦いの疲れで私は片目が見えなかったり、樹は声が出ないのよ。でも時間が経てば治るってお医者様に言われたわ。だからあんたは悲しそうな雰囲気を出さない」

「す、すみません。他の三人は何ともない?」

「結城友奈、大丈夫です!」

「私も問題ないわ」

「私も特にないわね」

春信さんの間違いかな?

でもよかった、皆無事で。

ほっとしたら、涙が出てきてしまう。

「み、皆無事でよかった・・・。うっ・・・ぐす・・・」

「ちょ、ちょっとあんたなんで泣いてるのよ!?」

三好さんが慌てた様子で声をかけてくる。

「だ、だって皆が無事だって知れたらほっとしちゃって・・・」

仮面を外して目をこすっていると、友奈ちゃんが近づいてきて僕のことを抱きしめた。

「ごめんね、きょう君。心配させちゃって。あと、ただいま」

「うん、お帰りなさい友奈ちゃん、皆」

僕が持ってきたお菓子を皆で食べながら、色々な話をした。

皆は勇者部が僕一人になってしまっていることに心配していた。

僕が一人で出来そうな依頼は受けていること、ホームページの更新は分からないので放置していることを伝えた。

「いやー、高嶋は本当に成長したわね。人見知りなのに、今では一人で依頼をこなしに行くなんてね」

「い、いえ。僕はまだまだです。一日に一件依頼がこなせるかどうかなので」

「なーに言ってんのよ。十分に成長してるわよ」

部長が褒めてくれるので照れて顔が赤くなっていく。

「あ、ありがとうございます・・・」

「ま、まあ、あんたにしては頑張っているんじゃない?」

「三好さん・・・。あ、ありがとうございます!」

「べ、別に褒めてるんじゃないから!」

三好さんまで褒めてくれるなんて、嬉しいな〜。

「そういえば、友奈はなんで高嶋が来たことに気づいたの?」

部長が友奈ちゃんに質問していた。

僕も気になっていた。

一体どうやって気づいたんだろうって。

「それはですねー。きょう君の匂いで分かったんです!」

「ぼ、僕の匂い?」

僕は変な匂いがするのかな・・・?

自分で手や服の匂いを嗅いでみるが、特に匂いは感じなかった。

「高嶋って変な匂いがするの?」

そう言うと部長は、僕の隣に来て匂いを嗅いでいた。

「ぶ、部長!恥ずかしいんでやめて下さい!」

『お姉ちゃん、いきなり人の匂いを嗅ぐのは失礼だよ』

「ああ、ごめんごめん。でもアタシには独特な匂いみたいなのは感じなかったわよ」

部長と犬吠埼さんと話をしていると、いつの間にか僕の後ろに来ていた東郷さんが大きな声で言った。

「私も高嶋君の匂いを嗅ぎたいわ!」

「ど、どうしたの東郷さん⁈鼻息荒いし⁈」

「最近高嶋君の女装が生で見れていないせいで発作が!」

「そ、そうなんだ・・・。そんな発作があるんだね・・・」

「きょう君は知らないけど、東郷さんはたまにこうなるよ」

友奈ちゃんからよく分からない補足があった。

正直知りたくなかったけど・・・。

まあでも、皆お役目を頑張ってくれてるから、何かご褒美みたいなものを用意するのもいいかもしれない。

「それじゃあ皆さんには、僕から何かご褒美を用意しますよ。でも僕一人で出来ることになってしまうんですけど」

僕がそう言うと三好さんを除いた4人が盛り上がる。

『私は高嶋先輩の着せ替えをしたいです』

「樹を眺めてるのが一番いいけど、高嶋の女装も目の保養になるからアタシもご褒美としめ着せ替えを所望するわ!」

「お二人がそれでいいなら僕はいいですよ」

「はーい!私はきょう君と一緒にお出かけしたいでーす!」

「もちろん、僕はいいよ。友奈ちゃん」

三人に返事をしていると鼻息の荒い東郷さんが僕の服を掴みながら言った。

「それなら私は今その権利を使うわ。高嶋君、貴方の髪の匂いを嗅がせて!さあ早く!」

「分かった!分かったから!」

東郷さん、腕の力が凄く強いから引っ張られると僕は負けてしまう。

危うく東郷さんに捕獲される前に近くにある椅子を持ってきて、東郷さんの前に座る。

「はい、どうぞ」

「では早速」

東郷さんに向けて出した僕の頭を、東郷さんは優しく両手で掴んで匂いを嗅いだ。

こんなにじっくりと匂いを嗅がれると恥ずかしいよ・・・。

「あらこの匂いは、友奈ちゃんのリンスと同じ匂いね。高嶋君友奈ちゃんと同じものを使っているのかしら?」

「そうだよ。友達とお揃いの物を使ってみたくて一緒のにしてるんだ」

友達とお揃いって同じことを体験してて、そのことについて話が出来るからとっても良いことだと思うから。

「友奈ちゃんが高嶋君が来たのに気づいたのは、リンスの匂いじゃないかしら?友奈ちゃん、確か匂いにも鋭敏だから」

「ピンポンピンポン!東郷さん大正解!」

「友奈ちゃんと高嶋君のことだから分かるわ」

僕のことも分かるんだ・・・。

「だって高嶋君、友奈ちゃんとお揃いのものが沢山あるじゃない。それで分かるのよ」

僕の考えもお見通しだった。

「それで入口の方からリンスの匂いときょう君が居そうだな〜って思って見に行ったらきょう君がいたんだ」

「友奈は鼻がいいのね」

「いや〜それほどでも〜」

皆に会え、楽しく話していることでこの時の僕は春信さんの言葉をあまり意識していなかった。

だけど、友奈ちゃんと東郷さんにも身体の異常は出ていた。

 

 

 

友奈ちゃんの異常については、東郷さんを除いた四人の退院後初めての学校の時に気づいた。

僕と友奈ちゃん、クラスメイト数人でお昼ご飯を食べていた時だった。

三好さんはお昼ご飯の時間になったら何処かに行ってしまっていたので、三好さんは居なかった。

あれ?

友奈ちゃんのお箸の動きがいつもよりゆっくりだ。

クラスメイト達は気づいていない。

だってほんの少しだけ、いつもよりゆっくりなだけだから。

これに気づけるのは友奈ちゃんのご両親と僕、東郷さんしかいないと思う。

この感じだと具合が悪いのと違うと思う。

今日は皆退院したばかりで、部活もないし友奈ちゃんと二人きりで帰るから、そこで聞いてみることにした。

「友奈ちゃんまだどこか調子が良くない?」

「ん?全然!私は元気だよ」

「でも、今日のお昼ご飯食べるのいつもより遅かったよね?」

少しの間が空いた後、友奈ちゃんは返事をした。

「きょう君と東郷さんには敵わないなあ。・・・。あのね、私最後の戦いの後から味を感じなくなっちゃったんだ」

え・・・。

どうして・・・。

「風先輩の眼や樹ちゃんの声も一緒なんだけど、長い時間の戦いの影響で、身体の何処かに機能が落ちちゃってるんだって。先生からそう説明があったんだ」

友奈ちゃんの返事を聞いて春信さんの言っていたことを思い出す。

そうだ、春信さんが三好さん以外の四人に身体の何処かに異常が出てるって言ってたじゃないか!

「そ、それで友奈ちゃん達の身体の機能は治るの?」

「時間が経てば戻るって先生も言ってたよ」

春信さんと同じことを友奈ちゃんは言う。

二人とも同じことを言っているから本当だろう。

「ねえ、友奈ちゃん。味を感じないのは辛くないの?」

いきなり変な質問をしてしまった。

だって友奈ちゃんは自分が辛いことでも笑顔で話すようにしているから。

周りの人を気遣って笑顔でいるんだろう。

でも、辛いなら僕には話してほしい。

友奈ちゃんの助けになりたいから。

友奈ちゃんは僕の質問にすぐ答えた。

「辛くないよ。だって味を感じなくなったことで皆の事を守れたから。いつかは分からないけど、先生に治るって言われてるしね」

「そっか・・・」

この時僕は、友奈ちゃんに頼りにされていないように感じて寂しかった。

 

 

 

友奈ちゃんから話を聞いた夜に東郷さんから電話があった。

「もしもし」

「こんばんは、高嶋君」

「東郷さん、どうしたの?」

「友奈ちゃんの様子がいつもと違うことには気が付いたかしら」

「味を感じないってことだよね?」

「そうよ。流石高嶋君ね。それでさっそく本題に入るのだけど、高嶋君は大赦の関係者で私達の身体の異変について知っている方と話すことは出来る?」

そうだ。

春信さんは三好さん以外の4人に何処か異常が出ていると言っていたはずだ。

じゃあ東郷さんも何処か身体に異常があるってことだよね?

「東郷さんも何処か身体が変なの?」

「私は左耳が戦いの後から聞こえなくなったわ」

「そうなんだ・・・」

「そう落ち込まないで、高嶋君。右耳だけでも友奈ちゃんや高嶋君の声は聞こえるから!」

「そ、それならよかった・・・」

いきなり息を荒くした東郷さんに驚いていると、すぐにいつもの東郷さんに戻り話を続けた。

「話を戻すけど、高嶋君は私達の身体の異常について知っている人と話すことは出来そうかしら?」

皆の身体のことについて知っていそうな人を考える。

皆の身体のことについて知っているのは、春信さんぐらいしかいないかな。

もしかしたら大赦に深く関わってる園子ちゃんも何か知ってるかも。

でもここで疑問が浮かぶ。

「でもどうして?皆のは休めば治るんだよね?そこまで詳しく調べなくてもいいんじゃないのかな?」

だってお医者様がそう言っていたと友奈ちゃんから聞いたのだから。

でも東郷さんの考えていることは違った。

少し間を置いてから東郷さんは話し始めた。

「高嶋君あのね、私は長期間の戦いが原因で今の身体機能の異常が発生しているとは考えていないわ」

「え・・・。そうなの?」

東郷さんは何かしらの情報からそのような推測に至ったと話してくれた。

僕自身本当は、皆のお役目のことについては聞いてはいけないことになっている。

それを東郷さんは理解して簡単に僕に伝えようとしている。

「まだ確定ではないから他の皆には伝えてないわ。高嶋君には協力してほしくて伝えたの」

「そ、そうなんだ」

返事をしてはいるが、僕の頭の中では考えが纏まっていない状態だ。

もし大赦側が、皆の身体の異常の原因が別にあるとしたら何故本当のことを伝えないのだろうか。

何か理由があるのだろうか。

そんなことを考えていると東郷さんが質問してきた。

「高嶋君は、私の言っていることを信じてくれるの?」

「だって皆のために動いているのに、それを疑うなんてことはしないよ」

皆のためを考えて色々動いているのを咎めたりするのは違うと思う。

もし間違っていたり、心配のし過ぎであればそれに越したこともない。

「僕は皆の身体の異常について知っている人に話を聞いてみるね」

「ええ、お願い」

その後今日の友奈ちゃんの学校での様子や学校での話をして電話は終わった。

原因がどんなことでも、皆の身体が早く治ってくれますように。

自宅にある神棚にそう考えながらお祈りした。

 

 




お久しぶりです、宇津田です。
前回の投稿から半年以上経ってしまいすみません。
就活・国試対策・臨地実習・卒論の4大課題を行っていたら時間が経っていました。
今回は少しづつ書いたので文章が変だったりすると思います。
お許しを!

また前回で、初回特典の内容の辺りを投稿すると言っていましたが、ストーリーを先に進めたいのでアニメ6話の内容になっています。
内容が変わってしまいすみません。

そしてシチュエーションのリクエストなのですが、どうしても私の執筆時間が足りないので、リクエストのほうは一旦保留とさせていただきます。
リクエストしてくださったゲート様、渚のグレイズ様、本当にすみません。


次回もいつの投稿になるのかは分かりませんが、のんびりとお待ちして頂けると幸いです。


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第20話

お久しぶりです。
合宿前半です。


今日は力を使った移動の練習をした。

昨日はイメージを強く持たずに力を使ったから反動で身体が痛かったけど、今日はイメージを強く込めて力を使ったからか反動で身体が痛くなることはなかった。

でも一回遠くまで跳ぶイメージをして足を動かしたら、浜辺から浜辺の端にある山の中まで跳ぶことになってしまった。

初日に防御の練習をしていたから、両足の骨折だけで済んだ。

その後は上や横に跳ぶ距離を少しずつ伸ばす練習をした。

空を飛んでいるような練習だったので僕は楽しかった。

今の所、勇者になって初めて楽しいと感じた時だ。

 

 

早く勇者部の皆で遊びたいな。

 

 

神世紀300年10月3日

 

 

 

 

勇者部は今2泊3日の合宿に来ていた。

僕以外の五人へのお役目のご褒美として大赦が運営している旅館に招待されたのだ。

けれど、僕の分も合わせて6人分の旅館を手配したと連絡があったと部長が言った。

何故僕も含まれているんだろうと思い、部長に尋ねたが理由は知らないとのことだった。

なので春信さんに聞いてみると、僕自身のお役目のご褒美も含まれているとの事だった。

そういうことで僕達は、午前中に旅館に到着したので、荷物を預けて今は泳ぎに来ていた。

僕は学校の水着に、日焼けをしたくないので上には薄手のパーカーを着ていた。

男の僕は着替えがすぐに終わったので、パラソルやシートを敷いたりして準備をしていると、皆が着替えてやってきた。

「きょう君お待たせー!」

そう言って友奈ちゃんが僕の近くまで走ってくる。

「全然待ってないから大丈夫だよ。友奈ちゃんその水着似合ってていいと思うよ」

「本当?ありがとう!」

友奈ちゃんに少し遅れて他の皆が来た。

今日東郷さんの海用の車椅子を押しているのは大赦が派遣してくれたライフセーバーさんだ。

海の中でも東郷さんが安全に過ごせるようにとの配慮だった。

「おっ待たせー」

「お待たせしました」

「またせたわね」

「高嶋君!どうして女物の水着ではないの⁈」

開口一番に女装に関してとは・・・。

1人だけ違う言葉に呆れつつ返事をする。

「そんなに待ってないので大丈夫ですよ、皆さん。・・・知らない人ばかりの所で男の僕がビキニで居るのは流石に恥ずかしいよ、東郷さん」

「何を言っているの?高嶋君は男の娘じゃない。それならば以前買った友奈ちゃんとお揃いの水着を着ないでどうするの!」

「え?僕は男の子だよ?」

「そうよ、男の娘よ!」

「「???」」

東郷さんと2人で首を傾げてしまう。

話が噛み合わないでいると、部長が止めに入ってくれる。

「いや東郷、流石にここで女装させるのはやめなさい。部長命令よ」

「そんな殺生な!」

「させたいなら合宿が終わって帰ってからにしなさい。その方が東郷もカメラとかあっていいんじゃない?」

「確かに・・・。流石風先輩です」

あれ、結局僕は帰ってから皆の前でビキニを着なくちゃいけないのかな?

でも今着なくていいのならと了承してしまった。

だって友奈ちゃんが隣で目を輝かせているから断れない・・・。

皆で飲み物などを準備し終わると、部長と三好さんは泳ぎの速さを競うために海に飛び込んでいった。

そして友奈ちゃん、東郷さん、犬吠埼さんの3人は仲良く話しながら海に入っていく。

僕はカナヅチなのでシートが引いてある所に座って皆を見送り、飲み物と一緒に買ったカキ氷を食べていた。

シロップはレモンだ。

勇者部の皆と居ると1人になることは少ないので、ふとお役目の事について考えた。

皆の話や様子からお役目はひと段落したのだと思う。

でも春信さんからそのような事は聞いていないので、まだ皆のお役目は続くのではないかと僕は考えていた。

お役目なんて早く終わって欲しいと思っちゃうけど・・・。

それと僕が行なっている、精霊の皆へのご飯を食べさせる事にどういう意味があるのかな?

そもそも友奈ちゃん達が戦っているのはどんな相手なんだろうか?

勇者部の皆と一緒にいるから話を聞いてしまうことはあるけど、何も聞いちゃいけないことになってはいるから、よく分かっていないのだ。

僕は友奈ちゃんや皆と出会ってから、友達が沢山増えたり、クラスメイトや周りの人ともお話を簡単にすることが出来るようになった。

皆には返しきれない恩がある。

まだ友奈ちゃん達のお役目が続くのであれば、もっと僕は皆の役に立てないかな?

そんなことを考えながらかき氷を口に運んでいく。

僕に皆の役に立てる力があればなあ・・・。

 

かき氷を食べ終えて少しした後、波打ち際まで行き友奈ちゃん達を見守ることにした。

波が足の下にある砂を運ぶ感覚がくすぐったくて気持ちいい。

そう思いながら友奈ちゃん達を見ると、僕に気づいた友奈ちゃんと東郷さん犬吠埼さんが手を振ってくる。

気づいた僕も3人に手を振り返す。

部長はテンションが高かったし、三好さんも部長の誘いに乗るぐらい楽しんでいるみたいで良かった。

最後のお役目が終わってから皆元気がなかったので、この合宿を通して元気になって欲しいなあ。

「ねえねえそこの君、よかったらご飯一緒に食べない?俺たちが奢るからさ」

友奈ちゃん達を眺めていると、後ろから知らない男性3人に話しかけられた。

高校生ぐらいの人達だ。

「あの・・・。僕に何か用ですか?」

「だから俺たちと一緒にご飯食べようよ。君みたいな可愛い子と話をしたくてね」

これって東郷さんに気を付けてねって言われた、ナンパなのかな?

でもナンパは異性に対してするものって聞いたけど、なんで僕?

それに初対面の人と話すのは緊張して駄目なんだけど・・・。

色々考えていると1人が近づいてきて、僕の手首を掴んでくる。

ひいい!知らない人に手を掴まれた!

「あ、あの!知らない人にご飯を買ってもらうのは申し訳ないです。な、なのでだ、大丈夫です」

「いいからいいから。ほら行こうよ」

断ってみたけど相手が引く気はなく、そのままぐいぐい引っ張られてしまう。

わわわわ!

「や、やめてください!」

なんで断ってるのに強引に連れて行こうとするの!

誰か・・・。

「あのー。私の彼氏に何か御用でしょうか?」

そう声をかけてきたのは友奈ちゃんだった。

急いで泳いできたのか息は上がっている。

「はあ!か、彼氏ってことは男!?」

「はい。彼は男の子ですよ」

息を切らしながら僕のことを淡々と説明していく。

友奈ちゃんの話を聞いた3人は慌てふためく。

「貴様ら何をしている」

そこに大赦の服装をした人が、僕の手を掴んでいる人の肩を掴む。

というかこの声は春信さん?

「な、なんだよ、大赦の奴まで」

「こちらにいらっしゃるのは大赦の中でも重要なポジションにいる御方だ。貴様ら下衆共が気安く話しかけてよい御方ではない。失せろ!」

春信さんらしき人が一喝すると、3人は走ってどこかに行ったのであった。

 

「きょう君大丈夫だった?怪我はない?」

「うん、友奈ちゃんありがとう。でもよく気づいたね」

「さっきの人達がきょう君に近づいていく所が見えたから急いで来たんだ」

「そうなんだ。あれ、友奈ちゃん顔赤いけど大丈夫?」

「急いで泳いできたからまだ顔が赤いんだよ!大丈夫大丈夫!」

『さっき無意識にきょう君のこと彼氏って言っちゃった!でもきょう君は気づいてないみたいだしこのまま話を変えよう!』

「後ろにいる人はきょう君の知り合いかな?」

そうだ、僕を助けてくれたのは友奈ちゃんだけじゃない。

夏の浜辺では暑そうな、いつもの服装をしている人の方に向き直り声をかけた。

「すみません、お礼もすぐに言わずに友達と話してしまって。助けてくださってありがとうございます。僕の間違いでなければもしかして、春信さんですか?」

「まあ仮面をしていても声でばれてしまうか。そうだよ、私だ」

「やっぱり。それでここで何をされてるんですか?そのカメラもどうされたんです?」

いつもの服装に加えて何故か左手には高そうなカメラを持っていた。

けれども質問されたくなかったのか、顔を少し背けられてしまう。

しまった!!

聞かれたくないことだったんだ。

「やっぱり何でもないです!助けてくれてありがとうございました。もう僕たちの方は大丈夫ですよ」

「そ、そうかい?分かった。近くにはいるから何かあったら呼んでくれ」

「はい、分かりました」

そう言い残すと春信さんは走って岩陰の方へと向かっていった。

「もしかしてあの人って夏凜ちゃんのお兄さん?」

「そうだよ。あれ、友奈ちゃんは三好さんにお兄さんがいることって知ってたっけ?」

「うん。きょう君のお父さんとお母さんとこの前会ったときに夏凜ちゃんのお兄さんにお世話になってるって聞いたから、もしかしたらと思って。でもどうせなら夏凜ちゃんに会っていけばいいのになあ」

「春信さん、三好さんと会いたくないみたいなんだよね」

家庭の事情がありそう。

 

~三好春信視点~

まさか夏凜の写真を撮りに来ていたら、彼がチンピラ共に絡まれるとは思わなかった。

まあ少し見ただけでは男だと気づかないのも無理ないか。

仕草もまるで女そのもののような振る舞いをしているしな。

彼の周りにも気を配りつつ、夏凜の写真を沢山取らなければ。

最近は夏凜の写真を撮る機会も無かったしな。

夏凜も転校してから楽しそうで何よりだ。

 

 

~高嶋叶吾視点~

「そこの者よ。私の手と足となり城を作るのじゃ」

「ははぁー」

こんな感じで東郷さんと遊びつつ砂の高松城を作ったり、スイカ割りなどをして遊んでいるとすっかり夜になった。

そして旅館に戻るとご飯の準備が出来てるとのことで、すぐに食事となった。

「「おーー!」」

カニやお刺身の盛り合わせなど豪華な内容で、皆で驚いてしまった。

「ここは大赦絡みの旅館だし、お役目を果たしたご褒美ってことじゃない?」

旅館の方や料理の質から、皆が達成したお役目はとても凄いことだったんだなと改めて感じた。

でも友奈ちゃんは今味覚を感じない。

だから美味しそうな料理を楽しむのは難しいんじゃ・・・。

そう思い友奈ちゃんの方を見る。

「このお刺身のコリコリとした歯ごたえ、たまりませんね!」

いくつか料理を食べ、触感を楽しんでいた。

「もう友奈ちゃん、いただきますが先でしょ」

「あぁそうだった、ごめんごめん」

「あらゆる手段で味わおうとするとは」

「色々敵わないわね、友奈には」

本当に友奈ちゃんには敵わないな。

楽しくご飯を食べ終わると、次はお風呂だ。

ここからは別行動なので、隣の自分の部屋に戻る。

お風呂の準備をしているとウトウトしてくる。

疲れて眠い・・・。

せめてお風呂に入るまでは・・・頑張らないと・・・。

 

~結城友奈視点~

今日はきょう君も疲れてるし、もしかしたらお部屋に戻ってそのまま寝ちゃってるんじゃないかなと思い、お風呂に行く前にきょう君のお部屋に行ってみた。

私の考えは当たってて、お風呂の準備の途中で畳に座ったまま眠ってしまっているきょう君がいた。

「きょう君、お風呂に入ったほうが身体もすっきりして眠れるよ?」

身体をゆさゆさしながら声をかけても反応は無し。

きょう君1度寝ちゃうとそのまま朝まで寝ちゃうことが多いんだよなぁ。

どうするか考えながらついきょう君のほっぺたをムニムニしてしまう。

ああ、この肌触り、柔らかさ、触覚から伝わってくる全ての情報が最上級だよ‼︎

「う〜ん。誰〜?僕の顔触ってるの?」

「うわぁ⁈きょう君起きてたの⁉︎」

目は瞑ったままだけど声を出すきょう君に驚いてしまう。

「あれ〜?友奈ちゃんどうしたの、僕の部屋で?」

「えーっとね、きょ、きょう君がもしかしたらお風呂に入る前に寝ちゃってるんじゃないかなって思って来たんだ」

「ん〜さすが友奈ちゃん。もう僕のことなんでも知ってるね」

「きょう君のことなら私はなんでも知ってるからね。それでお風呂はどうする?お部屋にあるで入る?それとも大浴場に行く?」

「明日の朝にシャワー浴びるからこのまま寝る〜」

「でもシャワー浴びないと肌荒れしちゃうよ。そうだ!それなら私とお風呂入ろ?それならきょう君もお風呂入るでしょ?」

「え?うーん・・・。友奈ちゃんがいいなら・・・いいよぉ」

「決まり!それじゃあ私が準備とかするからきょう君は寝てて大丈夫だよ。お風呂場に着いたら起こすから」

「分かったぁ〜」

返事をするときょう君は寝息を立て始める。

まだ眠りが浅い間にパパッときょう君の服一式、バスタオルを準備する。

お風呂なんて数え切れないほど一緒に入ってるから、どの服を準備すれば良いのか分かるんだよね。

準備を終わらせて外で待っている皆に声をかけ、手伝ってもらうことにする。

「ありゃー、高嶋寝ちゃったのね」

「だらしないわね、これでも男子なの?」

「高嶋君は男の娘よ夏凜ちゃん!!」

「最近東郷の言ってる男の娘ってのは何なの?」

「夏凜、そこに突っ込むと・・・」

「よくぞ聞いてくれたわ夏凜ちゃん!!男の娘というのはね、~でね」

「こうなるから、今度からは気を付けてね・・・」

「悪かったわ・・・。まさかこうなるとは・・・」

三人が話している横を通って樹ちゃんが荷物を持ってくれる。

「ありがとう、樹ちゃん」

樹ちゃんにお礼を言って私はきょう君をおんぶする。

皆も準備が出来ているから、一緒にお風呂場に向かう。

「それで高嶋はどうするの友奈?その状態で一人でお風呂に入れないんじゃないの?」

「そこはちゃんと考えてあります風先輩!確か旅館の説明の時に家族風呂があるって女将さんが話してたので、きょう君と一緒に入ろうかなって思ってます」

私の話を聞いて夏凜ちゃん以外の三人が納得したのか頷く。

「え?友奈が高嶋の着替えとかを手伝ってるのは知ってたけどお風呂も一緒に入ってるの?!それは駄目でしょ!!」

「え?何で駄目なの夏凜ちゃん?」

「えっと、それはその・・・」

「きょう君とはいつも一緒に入ってるから大丈夫だよ?」

「いやいやそういう問題じゃないでしょ!!」

「夏凜あきらめなさい。友奈と高嶋にとってはいつものことなのよ」

「えぇ・・・」

「そうよ夏凜ちゃん。二人の間に入ることは無粋よ」

「東郷も何を言ってんの・・・」

『夏凜さんも慣れますよ』

「樹まで・・・。勇者部は違う意味で駄目だわ・・・」

夏凜ちゃんがショックを受けている間に大浴場に着いた。

家族風呂の場所は大浴場の隣にある。

「それじゃあ私ときょう君はこっちに行くね。東郷さんごめんね、お風呂一緒に入れなくて」

「気にしないで友奈ちゃん。高嶋君の寝顔が見れただけでお釣りが返ってくるぐらいだわ」

そう言うと東郷さんはきょう君を見ながら鼻息を荒くしている。

ちょっと怖いよ東郷さん・・・。

「東郷は私に任せて大丈夫よ友奈。ほら鼻息を荒くしていないで行くわよ」

「ああ待って!!寝顔の写真はまだ撮ったことが無いんです!!せめて脳内に保存できるまで眺めさせてください!!」

「はいはい行くわよー」

東郷さんの身の回りのことは風先輩に任せて大丈夫そう。

まず脱衣所できょう君のことを起こさないとな。

 

 




活動報告に簡単な近況を載せましたので、気になる方は見て頂けると嬉しいです。
感想や誤字報告などいつもありがとうございます!
次回の投稿も未定ですが、のんびりとお待ちいただけると助かります。


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銀ちゃん生存ルート
第1話


お久しぶりです。
正規ルートが全然進んでいないのに、IFストーリーが書きたくなったので並行して書きます。

序盤は大赦に勤めているとある男視点からです。


ある時ふと、変な考えが頭の中で思い浮かんだ。

少女が神樹様のお気に召し勇者になれるのであれば、まるで少女のような容姿・振舞いであれば男子でも勇者になれるのではないのか、と。

18歳になってすぐに購入したエッチなR18のゲームの主人公が、先ほど述べた特徴、所謂『男の娘』であり自分がとても気に入ってしまった影響のせいもあるだろう。

 

一度火が付くと止めるのも難しく、変なテンションでノリノリな私は1日で計画書にして当時の上司に提出してしまった。

内容に目を通した上司は顔を引きつらせていたが、この時の大赦はいつ天の神からの襲来が来るのか、勇者の数は足りるのかなどのことで戦々恐々としていたこともあり、私が提案したとてつもない計画書が了承されてしまった。

 

計画の大まかな内容としては、『神樹様に男の娘の素晴らしさを伝え、勇者の素質のある男子も勇者として選ばれるようにする』である。

計画の了承がされた翌日より、私は神樹様の元を訪れ、アニメやゲームなどを用いて神樹様に男の娘の素晴らしさを伝えた。

まあ私自身は神樹様の思いを直接感じることは出来ないので、いつ頃目標達成となるのか分からないのが難点であった。

 

神樹様の元を毎日尋ねて半年ほどが経った頃、神樹様からの神託が上里家の巫女様を通じて計画の成功を知る。

神樹様の神託は言葉ではなく、景色や映像などをを巫女様や神官様に見せることで思いを伝えるそうだ。

今回では、とても可愛らしい男子が変身する映像が神託で見られたとのことだった。

 

まさか本当に成功してしまうとは考えてもいなかった。

勇者の数が増えれば戦力も増し、戦闘による死亡率も低下すると考えれば良いことだ。

だが戦地に赴く少年少女の数が増えるのも嬉しいことではない。

男子ではなく成人を勇者にしてもらえるよう計画すれば良かったのになあ・・・。

自分のねじが外れた時の馬鹿さ加減に怒りと呆れを感じつつ、敵の襲来が当分先であることを祈るしかない。

 

 

 

 

 

 

私が間抜けなことをしてから2年ほどが経ち、私は20歳になった。

あの間抜けな計画の功績により私の大赦での地位は一気に上がった。

今では一般職員へと自ら降格した高嶋本家の穴埋めのお役目を担えるほどだ。

高嶋本家が担っていたお役目は、旧世紀の武器の管理、勇者システムの改良だ。

旧世紀の武器の管理といっても、撮影用に貸し出しをしたり、盗みに来る輩がいるための警備の統括などである。

 

正直言ってさほど難しいお役目ではない。

勇者システムの改良に関しては、高嶋家以外の4家の名家も協力して行っているので私は関与していない。

お役目もこなしつつ、趣味にも手を抜かず、悠々自適に日常を送っていた。

けれどここから少しずつ私の日常は崩れ始めていく。

 

「お呼びでしょうか、お館様」

「だからね、お館様と呼ばないでよ。もう私はただの一般職員なんだから」

「私がそうお呼びしたいだけです。おきになさらず」

「本当に君は頑固なところがあるな。まあいいが」

「それで本日はどうされたのですか?最近は私をご自宅に呼ばれることもなかったではないですか」

 

私がお館様と呼んでいるのは、高嶋本家現当主のことである。

と言っても今いる自宅は一般的な広さの一軒家。

使用人はおらず、家族3人で静かに暮らしている。

過去にご子息のことで親族と問題になり、お怒りになったお館様は、ご家族と共に出奔しようとした。

 

しかし乃木・上里家の仲介により、今まで本家とされていた者、分家、その他親族はお館様とその家族への接近を禁止することを条件で、一般職員として現在も大赦で勤めている。

大赦の上層部は、よっぽど高嶋家の血筋を絶やしたくないらしく、お館様と揉めていた残りの本家の人間を分家の扱いに降格させるほど怒っていたそうだ。

そのことで高嶋本家は3人しかいないのだ。

 

お館様は、私が上位の地位の役職についてから気を遣ってかあまり声をかけてくれる頻度は少なくなっていた。

それなのに自宅にまで招いて話したいこととは何だろうか?

 

「実は、叶吾が学校でいじめにあっているんだ」

「いじめ、ですか。確かに叶吾君の容姿は目立ちますね。それに神樹館での親の地位などでスクールカーストは簡単に決まりますしね。お館様は現在一般職員。いじめの対象となる条件は揃っていますね」

「そうなんだ。それで叶吾は今不登校になってしまっているんだ」

「それは・・・。学校側は何か対策はして下さらないんですか?」

 

「学校側に相談したが、真面目に対応してくれていないんだ」

「所詮大赦に勤めている子供が通うための学校ですから、一般職員の子供に対しては対応が雑なんですね。腐ってやがる」

「良い先生方もいるさ。それで君に頼みたいことなんだが、叶吾の家庭教師をしてみないか?」

「私が、ですか?ですが家庭教師ならもっと教えるのが上手な方もいらっしゃると思いますが。それにいっそ転校も視野に入れるのは出来ないのですか?」

 

「転校しても叶吾の容姿だと、またいじめの対象になってしまうと思うんだ。だから籍だけ神樹館のままにして家で勉強してもらえれば良いと私と妻は考えているんだ。学校なんて辛いなら無理してまで通う必要なんて無いと思うからね。それに今の叶吾は元々の人見知りといじめの影響もあって初対面の人と同じ部屋にいることすら難しいんだ。それで初対面ではない君に頼みたいんだ」

「そうですか。お館様が色々考えてのことなら私はお引き受けします」

 

「本当か!ありがとう!」

そう言うとお館様は席を立ち、こちらに向かってお辞儀をしてくる。

「お館様、頭を上げてください!お館様の頼みであれば私は引き受けますから」

正直に私に教師役なんて務まるのか心配だが、お館様の頼みである。

頑張らねば!!

 

 

 

 

「久しぶりだね、叶吾君」

家庭教師として初めてお館様の自宅を訪ねた際、最初のうちは親がいたほうが安心できると思い奥様も同席して頂いたが、奥様にの右腕に抱きついたままこちらを見つめてくる状態だった。

「私を覚えているかな?確か1年ぶりくらいだと思うんだが」

私の声を聴いて言葉での返答はないが、頷きで返事をしてくれた。

 

ただやはり、元来の人見知りといじめの影響で両親以外の人間とコミュニケーションをとるのは怖いみたいだ。

返事が無いときがほとんどで、あったとしても『はい』や『いいえ』頷きや首を横に振るモーションしかなかった。

初日はコミュニケーションをうまくとることが出来ず、簡単な顔合わせだけで終わってしまった。

う~ん、どうすれば子供と仲良くなれるかねえ・・・。

 

 

 

 

 




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