弊カルデアの日常・・・? (しろけむり@マスター)
しおりを挟む

最新話
■■■「守ってくれてありがとう」


あの事件(CBC2019)以降、週に1度程度のペースだが、空き部屋を用いてバーが開かれるようになった。

非常に残念なことに、某数学教授はこのカルデアに召喚されておらず、

エミヤがつまみやお酒、ソフトドリンクの提供をしている。

クーフーリンや坂本龍馬、アキレウス、謎のヒロインXXなどが常連客である。

 

閑話休題。

 

そんなバーに普段はこない客が二人。他の客はどうやらいないようだ。

それに、片方は眠っているのか、黒い布が掛けられていた。

そこに滅多に訪れない客が一人。

 

「おや、いらっしゃい。貴女が来るのは珍しい。」

「ええ、普段は来ないのですが、今日なら主も許してくれるでしょう。」

「変わらず酒は出せないが構わないかね?」

「はい。」

 

聖女、ジャンヌダルクだ。開店日に顔をオルタと共に出して以来、

一度も来なかったが、今日に限りとはどういうことだろうか。

そんな疑問をエミヤは抱くが、聞くことはしない。

 

「ここに来るとは珍しいですなぁ。ジャンヌ殿。」

 

寝ていない方の人影・・・呪腕のハサンが、宝具の発動していない

右手で器用にワイングラスの中身を飲んでいた

 

「マスターの国では、明日から新しい時代になるそうです。

永い戦いの成果が、わかりやすい形になったのですから。そのささやかな祝杯です。」

 

そういいながら、眠っている人影。マスターの頭を撫でる。

 

「貴女には世話になった。どんな相手であろうと、殿としてマスターを最後まで守ってくれた。」

 

「いえ、それでしたら、特異点Fからマスターのそばにいたあなたも十分立派です。」

 

いやいやそこまででは。そこまでなのです。

と二人が言い合っているところに、エミヤが話しかける

 

「あなた達に私は頭が上がらないのだがね。

さて、こんな夜だ。一つサービスをしてあげよう。

ノンアルコールのカクテルだ。」

 

二人の前に差し出されたのは

深淵を思わせる黒色の/太陽を思わせる緋色の。マスターの髪色であるカクテルだった。

 

「見よう見まねだがね。それなりにおいしいとは思うが。」

 

「いや、十分おいしいですぞエミヤ殿。」

「ええ、とても、おいしいです」

 

呪腕のハサンがぽつりぽつりと呟いていく

 

「ああ、不思議と思い出が蘇ってくるようですなぁ。」

 

「ええ、あの永い永い戦いの軌跡が脳裏に浮かぶようです」

 

目をつぶり、想起するはあの燃え盛る町から始まった、過去は神代まで遡る

8回もの聖杯戦争

そのすべてを勝ち抜いたのは、隣に座る年若く、平凡な子供だ。

 

「本当に。この日を迎えられてよかった。」

「ええ、本当に。報われるようだ。」

 

二人は自然とマスターを撫でている。

その双肩にかかっていた物は自らの比ではない。

 

「むにゃ?あれ、呪腕先生?ジャンヌ?」

 

「お目覚めになりましたか魔術師殿。」

「おはようございます。マスター。とは言ってももう深夜ですが」

 

「二人にね、言いたいことがあったんだ。

最初(特異点F)から今まで、ずっと一緒に戦って、近くで守ってくれてありがとう。」

 

「それが私たちの役目ですから。」

 

それだけ言うと再度マスターは眠りに落ちた。

ずり落ちかけた万能布ハッサンをかけなおし、呪腕のハサンがマスターを抱える。

 

「それでは、私はここで。良い夜を。ジャンヌ殿。」

 

それだけを言い残し、呪腕のハサンは去っていく

 

「あれ、彼はお代払ってませんが」

「彼が飲んでいたのは白湯でな。マスターはお代なしにしている。

よって彼らに食事代はかからないのだよ。」

「そうだったんですか。では、私もこれで」

 

財布からジュース代をだし、エミヤに手渡す。

 

「今日はこれで店じまいとするかな。」

 

過去(現在)の自分は何をしているだろうか。そんなことを思いながら店を片付けていく。

遠い遠い地で新たな時が刻まれるだけだが、カルデアにとってはこの上ない報酬であった。

 




呪腕先生の右手でお姫様抱っこされたい(願望)

呪腕先生は序章から3章まで
ジャンヌは4章から今まで
弊カルデアの殿として、起用されてきました。
5月4日が弊カルデアが人理修復を始めてから2年になり、
明日、5月1日には元号が変わり、これは、人理修復を成し遂げたカルデア
そしてマスターからしてみればまさに、新時代を迎えられた。
人理修復の成果がわかりやすい形で残ったのでは・・・?
ということでこんなものを書いてみました。

こんな作品ですが、感想と評価をお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1話目~
静謐のハサン「マスター、私と添い寝してもらえますか」


バレンタインデーに因んで、甘いお話をどうぞ。


『人理保証機関カルデア』

現在カルデアは、魔術王の企みを阻止し、人理を修復し終わりサーヴァント達は座に帰るかと思いきや、

カルデアは相も変わらず人理修復前の混沌の様相を保ったままだった。

ワイワイガヤガヤとした食堂、「QPがないから」と言う理由で放置されているエミヤ×2と、

このカルデアの古参タマモキャットが切り盛りしている中、列を横切る陰があった。

その陰は誰かを探しているようだった。

しかし、探し人は見つからなかったのか食堂の列に並び直し、エミヤAから夕飯を受け取る。

その後はマシュの隣に座って、夕飯を食べる。

そして食器をエミヤBに返し、また誰かを探し始める。

余談だが、エミヤと同じ理由でジークフリート×4も放置されている。

 

~ダウィンチ工房~

所変わってマスター藤丸立香(男)は微少な特異点(贋作イベント)での縁を頼りに

ジャンヌオルタを召喚しようとしていた際に召喚された(すり抜けた)ダウィンチちゃんと会議を重ねていた。

微少な特異点(イベント)を含め、様々な特異点を巡って入手した14個の聖杯の使い道についてだった。

 

「これを争って町が作られたり、大戦が起きてるんだけどなぁ。」

 

「まさか、そんなことあるんですか?」

 

乱雑に積み上げられた聖杯を見ながら話をする。

 

「おや、もうこんな時間か。そろそろ、寝た方がいいんじゃないか?」

 

時刻は既に22時をまわっていた。

食堂は既に閉まっている。

 

「そうですね。じゃあ、俺は大浴場に入ってから寝ますね。

お休みなさい。ダウィンチちゃんも根を詰めすぎないでね。」

 

「お休み、マスター。」

 

~ダウィンチ工房と大浴場間~

 

「さすがにもう入る人はいないか。」

 

独り言をこぼしながら大浴場へ向かう。その後をつける影があるとは知らずに・・・

 

「この位の時間にあそこにいくとロマ二がいたんだよなぁ・・・」

この人理修復で唯一の帰らぬ人となったロマンを思い出す。

 

大浴場にたどり着き

男湯に入る。大浴場入り口で貸し出されるバスタオルと男性用浴衣をもって男湯側の脱衣所に入る。

影は()()()()()()をもって女湯側の脱衣所に入る・・・が、浴衣に着替えてすぐに出てきて、

男湯の暖簾を潜り、男湯の入口付近の影に身を潜める。

 

一方その頃

立香はカルデア制服を脱ぐと竹でできた篭の中に入れる。

 

人一人いない大浴場を独占できることに優越感を得る、

しかし、眠気も有り湯船には浸からず身体を洗い、謎の視線を感じながら、頭も洗う。

脱衣所に移動し、寝巻き替わりの浴衣に着替え、男湯から出てくる。

 

再び、男湯の暖簾を(今回は中から外にだが。)潜りぬけたところで()()()()突進を受ける。

 

「ぐっ!?」

 

立香は呻き声をあげた後、背中に手を回して

抱き着いて居る少女を前に回す

前に回された少女、静謐のハサンは上目遣いで懇願する。

 

「マスター、私と添い寝してくださいませんか?」

 

「ああ、良いけど、何で・・・?」

 

悲しきかな、元人類最後のマスターはこの程度の誘惑では揺るがぬ精神性を取得していた・・・。

しかし、少年である事は変わりないので、声に嬉しげな雰囲気が滲み出ている。

左手で、静謐を抑え、右手で頭を撫でる。

 

「マスター、その、こそばゆいです・・・。」

 

「ああ、嫌だった?ごめんね。」

 

そう言って撫でるのを辞める。

 

「いえ、止めて欲しい訳ではなくて。その・・・」

 

「冗談だよ、ごめんね。」

 

また撫で始めつつ、マイルームに向かう。

 

マイルームに着き、静謐をベットに誘導する。

立香と静謐、二人で一つの毛布に包まる。

静謐が微笑む。

 

「私は生前も、この体だったのでこうして意中の殿方と同衾するのが夢だったのです。」

 

立香はその言葉への返答の変わりに強く、静謐を抱きしめる。




感想、評価どしどしください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セイバーオルタ「私に聖杯を更に5個使わせてやろう」

今回は主人公の性別の指定はないです


「マスター。話がある。」

 

そう話しかけてきたのはアルトリア・ペンドラゴン[オルタ]セイバー。

略してセイバーオルタだった。

話しかけられたのは午前中に周回が終わり、

立香がノウム・カルデアの食堂にてエミヤ手製の洋食Bセットを食べている時だった。

 

「何かな?オルタ。」

 

タマモキャットお手製のチーズバーガーセットをトレーに乗せてセイバーオルタが目の前の席に座る。

 

「いやなに、私の本気を見せてやろうと思ってな。」

「本気?どういうこと?」

「突撃女に聖杯を5個使ったらしいが、私に更に5個使わせる価値があると教えてやる。そう言っているんだ。」

 

そういってチーズバーガーを一口。

 

「ああ、そうだ。私を倒せたら、褒美をやろう。

無理難題をこなした殿下に良い褒美を与えるのは王の務めであろう?」

 

そう言ってコーラを一口。

そのまま完食し、トレーの返却口に向かう。

 

「午後2時に第四シミュレーターに来い。」

 

出入り口で叫ぶとそのままほかの部屋に向かう。

現在時刻は午後0時半。

1時間半のうちにサーヴァントの編成を決め、声をかけてこないといけない。

少しだけ冷めてしまったスープを飲みながら、頭の中で編成を考え始める

 

(取り合えずマーリンとジークフリートさんかな。後はアーチャーが一人くらい欲しいなぁ。)

 

 

 

サーヴァントのいる階層に降りてきた立香。

真っ先に向かうはキャスターの区画。

 

「マーリンいるー?」

 

・・・反応はない。ある程度覚悟していたことだ。なぜならば、最近マーリンが周回作業を嫌がるのだ。

これではカルデアの夢火を使った意味がないじゃないか。と一人ごちりながら、マーリンを探す。

見つからない。おそらく幻術を使ったのであろう。

 

「今回は多分高難易度なんだけど」

「早く言ってくれればよかったのに。」

 

周回ではないことを告げると、幻術を解いて姿を見せる。

 

ちょろい(確信)

 

「1時45分に第四シミュレーターなんだけど」

「大丈夫だよ。任せてくれたまえ。」

 

一人目を確保し、次に向かうは共同遊技場。

中央には大型モニターと炬燵があり、そこに目的のサーヴァントがいた。

 

「巴さん。ちょっと今いいかな?」

「はい。なんでしょう。」

「実は、かくかくしかじかで。」

「なるほど、実に興味深いのですが、その時間だとすでに所用*1がありまして」

「そうか。無理行ってごめん。」

「お力添えできず申し訳ありません。」

「こっちが無理言っただけだし。ごめんね。じゃあまた。」

 

(これは不味い。火力が足りるか怪しいのに・・・)

(先にジークフリートに会いに行こうか。)

 

セイバー区画の一室。ジークフリートに割り当てられた部屋を訪ねる。

 

「ジークフリート。居る?」

「ああ」

 

ジークフリートが部屋から出てくる。ジークフリートの奥に見える扉からはきれいに整頓された部屋と

メディアが作成したと思われるジーク君の人形を抱いたジーク君が見える。

 

「急にごめんね。時間大丈夫?」

「ああ、彼とは今別れるところだったんだ。」

「ジーク君もごめんね」

「大丈夫だ。もうここを去る予定だったのでな」

「で、実は、かくしかで。」

「それは大変だったなマスター。振り回される大変さは知っているのでな。」

「俺が協力できるならさせてもらおう。」

「ありがとうジークフリート。1:45に第四シミュレータにきてね。」

 

そう告げると、立香は足早に去り、

階層を上がって食堂に戻る。

机を拭いていたに声を掛けられる

「どうしたのだ?ご主人。間食にはまだ早いと思うぞ。それともキャットの昼食が食べたくなったのか?」

「キャット。実はエミヤに用があって。」

「なるほど。確かに先ほど黒い騎士王に喧嘩を売られておったな。キャットの包丁捌きを見せてやろうぞ。」

 

タマモキャットは数歩下がると、どこから取り出したか3本程度の包丁をジャグリングし始める。

 

「いや、エミヤに用があって。」

「うむ?料理長か?呼んできてやろう」

 

テーブル拭きも途中にキャットはキッチンへ向かう

 

「料理長、我らがご主人が呼んでいるわん。」

「ん?ああ、ありがとう。包丁でジャグリングするのはやめてもらえないかな。」

「投げ銭はニンジンでいいぞ。」

 

カウンターの向こうで額に手を当て、ため息をついているエミヤが見える。

しゃがんだかと思うと数本のニンジンをキャットに手渡す。

 

「ああ、マスター。そちらに向かおう。」

 

エプロンを解きながらエミヤがカウンターから出てくる。

 

「で?用事は何かな?マスター。ある程度察してはいるが。」

「まあ、察しの通りセイバーオルタなんだけど。」

「それなら問題はない。何時に向かえばいい?」

「1時45分位かな」

「そうか。それまでに向かおう。」

 

その後、立香は二人のサーヴァントを誘った後、シミュレータに向かう。

 

 

 

時刻は1時50分。

参加するサーヴァント達に作戦を伝え、準備も終わった。

準備室にアナウンスが入る

 

「10分前だから部屋のロックを開けるよ。

中でアルトリアペンドラゴンオルタが待機しているよ。

使用可能時間は2時から30分ほどだね。」

 

扉の左にある電子ロックが[LOOK]から[OPEN]へと変わり、

扉の下部にあるランプが赤から緑へと変わる。

 

「行こうか。」

 

扉の先にはグランドオーダーの最初期。ファーストオーダーにて見た、

冬木の大聖杯。それが安置されている地下の大空洞だった。

セイバーオルタが真正面にいる。

セイバーオルタは本気の現れなのか、バイザーをつけている。

「来たか。」

 

「ああ!」

 

「行くぞ!マスター!」

 

上段に剣を構える。黒い光が聖剣を包む。

 

「エミヤ。ジークフリート!令呪をもって命ずる。宝具を開帳せよ!

マーリン。二人にスキルを!」

 

「了解。マスター  『I am the bone of my sword… 』」

 

「行くぞ。マスター  『邪悪なる竜は失墜し…』」

 

マーリンの援護もあり、エミヤが先に宝具を発動する。

 

 

「『無限の剣製(アンミリデット・ブレイド・ワークス)』」

 

同時に周囲の風景が平原と、墓標のように剣が突き刺さった風景へと変化する。

 

オルタを囲むように数多の剣が投影され、連続して襲い掛かる。

 

「はぁっ!『約束されし勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』」

 

おそらく、魔力放出と風王鉄槌の複合技。一つ残らず剣の向きが変えられ、

魔力放出によって無理やりではあるが、体を一回転しながら薙ぎ払うように宝具が展開される。固有結界外にいたマスターたちには被害がなかったが、

エミヤには、少なくない被害があった。

ローアイアスによって減衰されたとはいえ、聖剣の一撃をくらったのだ。無理もないことだろう。

しかし、本来想定されていない動きというのは必ずしも隙を生む。

 

「『幻想大剣・天魔失墜(バル・ムンク)』」

 

マーリンの『英雄作成』によって強化された『幻想大剣・天満失墜』がオルタに直撃する。

 

「ぐうぅっ」

 

魔力放出により、無理やり回避するが、完全にはよけきれず、セイバーオルタの右半身に直撃する。

剣を構えなおし、ジェット噴射の勢いでエミヤと切り結ぶ。

 

無尽蔵に近い魔力を持つセイバーオルタの魔力放出によって勢いのました剣戟は、エミヤ*2の二刀流という利点を完全に潰したものだった。

もちろんただやられるままとはいかない。

ジークフリートも攻撃に参加する。

ジークフリートが切りかかるのを見て、

エミヤが下がる。

ジークフリートが接近。

エミヤが固有結界で多少なりともこちら側寄りに舞台を整え、

後方射撃を行う。

本来の想定通りの状況になったところだった。

 

「ジークフリート。」

「何かな。騎士王」

 

キィン!と硬質な音がなる。ジークフリートの切り上げにオルタの剣が跳ね上げられる

 

「貴様の剣は、何度も見ている」

 

セイバーオルタが笑みを浮かべる。何度も戦線を共にしているが故の弱点。

隙をカバーして動くことが多いが故にセイバーオルタはジークフリートの隙を熟知している。

 

上段から再び、切り下ろす。今度はセイバーオルタが宝具を開帳しながら。

 

「『約束されし勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』」

 

「後は頼んだ!『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』」

 

0距離からの宝具を受けたジークフリートはダメージが限界に到達したのか、シミュレータから離脱する。

しかし、置き土産と言わんばかりに、バルムンクと悪竜の血鎧を爆発させる。

 

数回もんどりうった後に、セイバーオルタが立ち上がる。

パキリ。バイザーが割れて落ちる。

鎧も、前面にかけて大きく破損し、腹からは血を流している。

しかし、一度鎧を魔力へ還元し、再度魔力を鎧として纏う。

そんな隙を見逃すはずもなく、セイバーオルタとジークフリートが切り結んでいる最中に用意し、

二人の周囲に突き刺したいくつもの投影宝具をエミヤが爆発させる。

 

「喰らえっ!『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』!!」

 

先ほどとはランクの差こそあれど、数はその差を覆す。

爆発を魔力放出の伴ったジャンプでかわす。

もちろん無傷とはいかない。脚部周辺の鎧の破損状態は特に酷く、そこでなくとも、ほとんどが破壊されている。

魔力放出の伴ったその行動は壊れた幻想の爆発の範囲外に逃げることとしては大正解だっただろう。

しかし、エミヤは近接戦を主体としているがゆえに忘れられがちなのだが、彼は弓兵である。

故に、上空に飛び上がることは彼にとって格好の的である。

放たれた()は、バル・ムンク。竜を倒すにはこの上ない()であろう。

事実その矢はセイバーオルタに突き刺さる。

が、そのようなもの無いも同然だと言わんばかりに、風王鉄槌と魔力放出。

序盤で防御に使ったそれを、此度は移動のために使う。

 

「よくやったぞ弓兵。受けるがいい『約束されし勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!」

 

避けることができない距離からの宝具。

 

「後は頼んだぞ。マスター」

 

ジークフリートの後を追うように、エミヤもシミュレータから退場する。

 

エミヤの固有結界が解ける。二人の戦果は上の上。

もっと削れないと立香は思っていたのだ。

さあ、第二ラウンドだ。

 

 

周囲の風景が変わる。灰色の丘から霧の中へと。

魔力放出で霧をどかす。

この霧は不味い。そう直感が言っている。

ダウィンチには特異点fの対セイバーオルタ戦を再現するよう言った。

()()()()()()()()()()()()()

立香はそこまで想定していなかっただろう。

ここまで都合のいい事態になるとは。

 

暗黒霧都(ザ・ミスト)』ジャック・ザ・リッパーの宝具である。

恐ろしいのは、この宝具により、『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』の宝具の効果が

最大限発揮されることであろう。

 

(対魔力で防げるか?)

そんなことを考えながら周囲の警戒を続ける。

直感に従い。突き刺すように剣を振る。

 

「ぐっぅ」

 

当たった感触がある。しかし、この接触により、情報抹消が発動したのか、

セイバーオルタは彼女関連の事象を忘れてしまう。

 

直感が告げた方向を薙ぎ払うように宝具を開放する。

 

「『約束されし勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!」

 

その方向とは真逆。自身の背後から幼子の声で詠唱が聞こえる

 

「私たちは、炎、雨、力、殺戮をここに。『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』!」

 

体が吹き飛ぶ。

魔力放出で無理やり体制を整え、

姿を現したジャックに突っ込む。先ほどの攻撃を治すために、鎧は魔力に還元した。

無尽蔵に魔力があるとは言え、最大出力は決まっているのだ。

しかしここでまた、判断ミスをする。

宝具を開帳せずに切りかかる。

もちろん耐久が低いサーヴァント相手なら問題ないのだが、

二つほど勘違いをしていた。後はマーリンしかいないと。そして、マスターは遠い位置にいると。

 

「ガンド!」

 

セイバーオルタの動きが止まる。そして、

 

「オーダーチェンジ!」

 

目の前の幼き暗殺者が入れ替わる。

 

「最後の令呪をもって命ずる。()()()()()()()()()()()

 

目の前のサーヴァント。紅閻魔が宝具を発動する。

葛籠に閉じ込められ、上へ吹き飛ぶ。

 

「ああ、私の負けだ。マスター。」

 

 

 

はっきり言ってギリギリの戦いだった。

もしも、エミヤが早々に脱落したら。もしもシミュレーションの設定が夜ではなかったら。

そんな綱渡りの上での勝利だ。

[アナウンスだよー。第四シミュレータ稼働終了するよー。]

無機質な部屋へと戻り、脱落したエミヤとジークフリート、セイバーオルタもいた

セイバーオルタが口を開く

 

「とりあえずご苦労だった。」

 

「ところでご褒美って何ですか?」

 

「まずはサーヴァントたちにだ。」

 

セイバーオルタが一人一人にポチ袋を手渡す。

 

「中身はQPでちか。」

「お年玉。というやつだ」

「ありがとうございます。」

「感謝が言えるのはえらいな。」

 

セイバーオルタはジャックの頭を撫でる。

 

「アルトリア?なんで私だけ1QPなんだい?」

「貴様にはそれで十分だろう?」

 

マーリンを適当にあしらい、マスターに向き直る。

 

「マスターは今晩マイルームに行こう。そこでだ。」

 

セイバーオルタが笑みをこぼす。それはジークフリートに見せた凶暴なものではなく、優しいものだった。

 

 

時刻は既に夜9時。

大浴場に入ってから部屋に戻ると、ドレス姿*3のセイバーオルタがベットに腰かけている。

 

「どうかしたか?マスター。夜に行くと言っただろう。」

「いや、まさか先に来ているとは思わなくて」

「まあいい。ほら、来い。」

 

セイバーオルタが膝をポンポンと叩く。

 

「ゑ?」

「わからないのか?膝枕をしてやると言ったんだ。」

 

おずおずと頭をのせる。戦闘時とは違い短いスカートの為、ひんやりとした柔肌が頬に触れる。

 

「ゆっくり眠るといい。疲れているだろう。」

 

頭を撫でられる。

 

「うぁ・・・」

 

脳みそが溶けそうだ。風呂に入って火照った体には彼女の冷たい体温がちょうどいい。

 

「おやすみだ。マスター。」

 

その言葉に返すことができぬまま意識が落ちる。

*1
スマッシュサーヴァントの大会

*2
筋力D

*3
最終再臨絵




目が覚めたら隣で寝てたとかなんとか。
流石絆10だぜ・・・
感想、評価どしどしください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

タマモキャット「おやすみなさいなのだな。ご主人。」

主人公の性別は定義してないです


食堂で紅閻魔お手製の料理を食べたのち、食堂にて午後の予定を確認していた。

午前中はサーヴァント達の運用に関する報告書の作成や、バベッジやケイローン先生等による数学の授業。

玉藻の前やジル・ド・レィ(セイバー)、による実際の歴史の授業。

果てには神代のキャスターを筆頭にした魔術の授業等。

最も、最後の項目はめぼしい成果は出ていないのだが。

 

閑話休題(そんなことは置いといて)

 

「ご主人。のどかな昼下がり、縁側でキャットとお昼寝などいかがかな?」

 

珍しくメイド服のタマモキャットに唐突にそう声をかけられる。

 

「どうしたの?キャット」

「最近ご主人は、バレンタインにワンダーランド(プリズマコーズ)といろいろ重なっておつかれに見えるのだ。

なので、ねこの日に因んでキャットとお昼寝をしようと思うのだ。」

 

そう言えば今日は猫の日だったか。

最近はサーヴァントが増えてきたのもあって、人理修復序盤の頃は出来ていたキャットとの時間も少なくなってきたし、この機会に休むとしよう。

 

「いいよ。でもどこでやるの?」

「そこは抜かりないのがキャットなのだな。シミュレーターで再現できるそうなのだ。

ダウィンチはキャロットで買収した。」

「じゃあ行こうか。」

「そうだな。二人だけ、というのも乙だが、マシュもご主人に振り回されてお疲れのご様子。仲良く3人で日向ぼっこからのお昼寝としよう。」

「じゃあ、マシュを呼んでからシミュレーターに向かうよ。」

「ご主人、またあとで会おう。」

 

マシュを探す。

まずはマシュの部屋・・・いない。

次にホームズの部屋・・・いない。

うむむ。マシュならどちらかにいると思ったのだが。

一人思案し、次へ向かう。

ダウィンチちゃんに尋ねてみる

 

「マシュなら定期健診が終わったら図書室に向かったよ。」

「ダウィンチちゃんありがとうございます。」

「今度何かお礼してくれよ・・・なんてね。」

 

ダウィンチちゃんのおかげでマシュのいるところがわかった。

図書室へ足を運ぶ

 

扉を開けて、少し奥へ進む。

予想通り、コナンドイルや、アガサ・クリスティー、江戸川乱歩などのミステリーが並ぶ棚でハードカバーの本を

数冊抱えながらさらに物色していた。

 

「マシュ。」

「せっ先輩!?どうしてこんなところに?」

「キャットがね、一緒にお昼寝しようって。」

「それは、先輩もですか?」

「もちろん。」

「では、すぐに!」

「一回その本、借りてこようか。」

 

二人で司書代理を務めている殺生院キアラに本の貸し出し処理を頼む。

「くれぐれも、本を折ったり、痛めたりなさいませんよう。最も、マシュさんならそんなことはしないと存じ上げておりますが。」

 

二人で分けて持ち、えっちらおっちらと運んでいく。

マシュの部屋には入れてもらえず、扉の前で待つことになったが、それはそれ。

二人でキャットの待つシミュレーターに向かう。

 

ウィーン、ガショーンと扉があく。

中にあったのは爽やかな風が吹き、2月らしからぬうららかな陽気に包まれた日本家屋と草原だった。

 

「ご主人。待ちくたびれたぞ?」

「ごめんごめん。」

「しかし、時間をかけてくれたおかげでこんなものが用意できた」

 

キャットが差し出したお盆の上にはお茶と

 

「これは・・・お団子ですか?」

 

桜、白玉、ヨモギと三食団子が6本。きれいに積み上げられていた。

 

「三人で、これを食べながら疲れをいやそうではないか。」

「キャット、ありがとう。」

「報酬にニンジンをいただこう!さて、今回はマシュに、ご主人の膝をやろう。キャットは謙虚故な?

キャットはご主人が近くにいるだけでいいのだ。」

 

その言葉に合わせて膝を叩く。

 

「先輩いいのですか?」

「おいで、マシュ。」

 

膝の上に心地よい重さが乗っかる。隣ではキャットがお団子をつまみながらうとうとしている。

こうやって三人だけで集まるのはいつぶりだろうか。

そんなことを思いながらマシュの頭を撫でる。

ああ、なんだか眠く・・・。

 

「おやすみなさいなのだな。ご主人。」

 

 

 

気づくとそれは赤く夕焼けで染まり、

薄手の毛布が自分とマシュにかかっていた。

周囲にはもうキャットがいない。

もしかしたら最近疲れているのを見抜かれてしまったのだろうか。

このお礼はいつか返さねば。

ただ、せめてマシュが起きるまでは、こうしていようとおもう。




感想、評価どしどしください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

マシュ「先輩、ありがとうございます。」

ひな祭り


「ひな祭り・・・ですか?」

 

我らが後輩マシュが、会議室で質問を投げる。

 

「ええ、女の子の健やかな成長を祈って色々、例えばひな人形を飾ったりする行事ですよ。」

 

日時は二月二十四日、一週間後には、ひな祭りが迫った日。

玉藻の前を筆頭に紅閻魔、エミヤ[アーチャー]等が立案、実行に移すこととなった、

カルデア全体を巻き込んだひな祭り。

玉藻の前、清姫、茶々が飾り付け、エミヤ、頼光、両儀式[アサシン]が調理、紅閻魔、立香が全体指揮といった内訳で行うこと

となり、その会議に、普通の女の子としての意見を求め呼ばれたマシュ。

総勢9人態勢で行っている会議が食堂で行われていた。

 

「後はちらし寿司とかだな。というか対象は誰なんだ?マシュはともかくとして、他にいるか?」

「幼いサーヴァントもいるじゃないですか。ジャックにバニヤン、アビーとか。」

「まあ、サーヴァントが成長しないのはともかくとして、少なくともマスターには日常を忘れてほしくないからな

 

(やだ、エミヤがイケメンすぎる・・・)

等と立香が

「わっ私は、とてもいいと思います。」

「ええ、それならよかったでち。」

「私に何か手伝えることはありませんか?」

「だめでち。マシュはお祝いされる側。手伝うことは許しまちぇん!」

「はい・・・」

 

その後はトントン拍子で話は進み、三月二日は早めに食堂を閉め、準備を進めることとなり、

マシュは、飾り付けや料理は紅閻魔から禁止令が出たが、立香と共に少女系サーヴァント達に送る招待状

の作成を行うことのみ、紅閻魔からしぶしぶ許可が出た。

 

「先輩、ここはどう書けばいいんでしょうか。」

「そこはね、えっとねー」

 

等と、玉藻の前監修の指示書を目で追いながら、

各サーヴァントごとに内容が少し違う招待状を作成すること1時間。

午後5時に全7通*1を書き終わった。

 

封筒に手紙を詰めながらマシュと話す。

「これで七人分ですね。誰から渡すんですか?」

 

一つ目指示書には「マスターのお好きにどうぞ」とだけ書かれていた物。

 

「それはだれへのですか?ジャックさんでしょうか。」

「いいや。マシュへだよ。」

「いや、私は文献でみた対象年齢とは遠く離れていて」

「それでも、君が大事にされているのは変わらないし、紅閻魔ちゃんが言ってたのはそういうことだと思うよ。」

 

あの時こそそこまで言わなくてもとは思ったが、恐らく、マシュの未熟さに気づいていたのだろう。

エミヤもああいっていたが、確かにマシュには経験が足りない。普通の女の子としての物が。

玉藻の前がマシュを会議に誘ったのも、マシュなら自分でひな祭りについて調べるだろうと予測したから。だと思う。こればっかりは予測でしかないが。

 

そっとマシュの頭を撫でる。

「そういうわけで、マシュ、日本文化で申し訳ないけど、君の成長を願わせてくれない?」

 

うつむいてしまった。紫色の髪から真っ赤に染まった耳が出てきているが。

「・・・ありが・・・とう・・・ござい・・・・・・ましゅ」

ぷしゅーと蒸気が出ている姿を思わず幻視してしまう。

 

少し落ち着くのを待つこと数分。

 

「すいません。」

「大丈夫だよ。さあ、行こうか。」

 

真っ赤な耳は見なかったことにして、手を引いて米ルームを出る。

そこからは迅速だった。

一人当たり5分程度で渡すことができた。

そして、三月三日

 

昼、マシュに誘われ、一緒に食堂へと向かう。

そこには、豪華なひな壇。

そしてあわただしくひな祭り限定メニューを振る舞うエミヤ、紅閻魔、タマモキャットたちの姿。

 

「先輩。私、もっと先輩のお役に立てるように頑張りますね。」

「もう十分なんだけどね。」

「先輩。ありがとうございます。」

 

*1
ジャック ナーサリー 茨木童子 清姫 ふーやーちゃん バニヤン マシュ




脚注分のサーヴァント達の分欲しいですか?

感想、評価どしどしください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閉鎖電脳学園カルデア

エイプリルフールははっちゃけたかったんだ。
などと供述しており・・・。
タイトルで全落ちですが一応学パロ注意
今回はぐだ男(男主人公)です


…………意識が浮上する。体を起こそうとして異変に気付く。

そこは見慣れた無機質なマイルームではなく。

どこかの学校の寮のような生活感あふれる部屋だった。

天井は体を起こして手を伸ばせばぶつかってしまうほど近く、すぐに二段ベッドであることがわかった。

 

(どうしようか、強制レイシフト(レムレム)したのか?すぐに協力出来るサーヴァントを探さねば。)

 

幸いにも似たような経験があったので直ぐにすべきことが分かった。

そして…下のベットにいるのは誰なのか、身を乗り出して確認する。

 

そこにいたのは、安らかな顔で眠りにつくマシュの姿だった。

 

(?????????あれー?ここにいるのは男のサーヴァントだと思ったんだけどなー?)

 

そんな混乱に襲われていると頭に声が響く。

 

『これはひょんなことから男女同室となってしまった貴方とマシュの甘酸っぱく、ほろ苦い青春の物語・・・。』

 

そんな言葉とともに数多のイメージと聞きなれたマシュの声がが頭の中に投射される。

放課後、真っ赤な夕焼けに照らされた河川敷で隣を歩く制服姿のマシュ。

『先輩。今日はどうします?』

休日、ともに町に繰り出す私服姿のマシュ。

『先輩!向こうのカフェで一旦休憩しましょう!』

図書館で勉学に励むマシュ。

『先輩。ここ、どうなすればいいのかわからないです。教えてくれませんか?』

そんな、同じ学校に通っていたなら見れたであろうマシュとの景色。

最後には・・・

夜、ベットに押し倒されたマシュ。

『先輩・・・。来てください。』

そのどれもが、自分の視点辺りからの景色で・・・。

 

意識がイメージと声から解放される。

体勢はベットの上に胡坐を掻いていて覗き込んだままではなかったことに安堵する。

ポタリ。太もも辺りに液体が垂れる。

下を向くと赤い点が二つ。

枕元においてあるスマホのインカメラを使って顔を確認する。

予想通り鼻血がでていた。とりあえず鼻を抑えながら、太股に垂れた分を拭き取る。

数分後、鼻血が止まったあたりで下のベットからごそごそと音がした。

どうやらマシュが起きたようだ。

ベッドを降りてマシュに挨拶する。

マシュの寝間着はカルデアで偶に目撃できるもこもこなフォウくんの着ぐるみパジャマだった。

「マシュ。おはよう。」

「先輩!?起きてたんですか。いつもはまだ寝ているのに。」

「今日はなんだか目が早く覚めてね。」

「今日が日曜日だからですかね・・・?」

 

あはは、うふふと笑いあう。

マシュがパチリと手を叩いていう。

「さて、先輩。朝の支度を済ませてしまいましょう。」

 

私服に着替え、スマホのアプリで今日の予定を確認する。

(今日の予定はなし・・・。ついでにこの町の地図でも入ってないか確認しよう。)

無事、町の地図と、学校に関する情報を入手できた。

どうやら電子通貨が広く普及しており、スマホさえあれば大丈夫なようだ。

それとは別で自分自身のパーソナリティも入手できた。

名前も誕生日も性別も元のまま。高校2年生だった。

マシュは壁にかかっているリボンの色から見るに、どうやら1年生のようだ。

 

着替えシーンは見ないようにベットの上で壁を眺めている。

 

「先輩。もうこちら見ても大丈夫ですよ。」

 

マシュから声がかかりマシュの方を向く。

マシュの服装は、カルデアでは最もよく見る服装だった。

 

(マシュの服装はいつも通りか。それにしても、やっぱりマシュは可愛いなぁ。」

「そっ、そんな可愛いなんて・・・。」

「あれ、くちにでてた?」

「はい。それはもうしっかりと。」

 

顔を赤く染めながらか細い声でいう。

 

「じっじゃあ、朝食、食べに行こうか。」

 

声が詰まってしまった。恥ずかしい。

 

マシュの手を引いて、先ほど叩き込んだ地図を頼りに、寮の食堂へ向かう。

扉を開けて、思わず数秒絶句する。

わいわいがやがやとした風景は普段の日常と変わらないのだが、

食品の注文列が凄い長いのだ。

思わずマシュと顔を見合わせてしまう。

 

「仕方ないですね。」

「並ぼうか。」

 

最後尾に並ぶと、二人は前に並んでいる人物から声をかけられる。

前に並んでいたのは、望月千代女、くノ一のサーヴァントだった。

 

「む、藤丸殿にキリエライト殿。おはようございます。」

「おはようございます、望月さん。」

「おはよう・・・望月・・・さん」

 

普段はちよちゃんと呼んでいるせいか望月さんと呼ぶときに少々詰まってしまった。

 

「今日は列が長いですね。」

「普段二人はもっと遅いから知らぬと思うが、このくらいの時間だとこれが普通でござるぞ?」

 

思わずマシュと顔を見合わせて苦笑いしてしまう。

 

「二人は普段からそうでござるが・・・。もう少し人目を忍んではどうでござろうか。」

 

はぁ、とため息とともにそんなセリフを吐かれて、ちよちゃんは前に向き直ってしまった。

 

そこからマシュとの他愛のない話で時間を潰して、ようやく順番が来た。

 

「おはよう。藤丸君にキリエライトさん。

今日のおすすめは和食Aか洋食Bセットだが。」

 

エミヤが応対しているようだった。

隣を見てみると、メニュー表とにらめっこしながら何にするか悩んでいるようだ。

 

「キリエライトさんはいつも通りなら洋食Cだったと記憶しているのだが。藤丸君はたしか和食Bが好みだったな。」

 

マシュが虚を突かれたような表情に一瞬なったような気がした。

 

「えっ?あー・・・。偶には自分の好みとは違うものが食べたくて。」

「そうか、じっくり考えると良い。では、藤丸君は何に?」

「おすすめの和食Aでお願いします。」

「私も同じのでお願いします。」

 

受け渡し所ではタマモキャットが受け渡しをしているようだった。

奥には小さな体をせわしなく動かしながら和食の調理をする紅閻魔が見えている。

 

「ふむ。藤丸とキリエライト二人とも和食Aであっているな?」

「うん」「はい」

 

トレーに盛られた和食セットが二つカウンターに並んでいる。

 

「では召し上がれなのだな。」

 

ひとつづつ渡される。

二人で並んで開いている席を探す

 

「先輩。あそこの席が空いていますよ。」

「え?あ、ホントだ。」

「頼れる後輩の観察眼ってやつです。」

 

マシュがふふんと胸を張る。

向かい合わせに座り、ともに手を合わせる

 

「「いただきます。」」

 

焼き鮭に少し醤油をつけ、頬張る。

思わず、目を見開く。

まるで自身の好みが把握されているように思えるほど、おいしかったのだ。

続けて白米も口に放り込む。

成程。これが頬が落ちるおいしさなのか・・・

と、ある種の納得を得る。

 

「先輩。和食Aセットおいしいですね。」

「ん?ああ、そうだね。凄い塩気が丁度いい。」

 

思わず放心してしまい、マシュに声を掛けられてからの反応が遅れてしまう。

 

「先輩?大丈夫ですか?」

「おいしくてね、味を噛み締めていたんだ。」

「卵焼きも絶品ですよ。」

 

と、二人で話しながら朝食を食べ進める。

 

数十分後、

 

「「ごちそうさまでした。」」

 

「おいしかったね。」

「そうですね。」

 

おいしいご飯を食べたからか、それとも彼女とともに食べたからか、その両方か、

自然と笑みがこぼれてしまう。

 

「じゃあ、お皿返してきちゃうね。」

「お願いしますね。先輩。」

 

トレーにお皿を重ね、食器返却所までもっていく。

棚の向こうにエミヤが見える。

 

「ごちそうさまでした。」

「おいしかったか?」

「はい。絶品でした。」

「なら良かった。」

「では、失礼します。」

 

席には座っておらず、入口近くでマシュは待っていた。

自室に戻りがてら今日の予定を相談する。

 

「今日はどうしますか?」

「街に出て、色々見て回ろうと思うんだけど、どう?」

「いいと思いますよ。何使って行きますか?」

「せっかくだし、徒歩で。」

「今日見たいな天気ならピクニックとかでもいいかもしれません。」

「流石頼れる後輩。魅惑的な提案を・・・。」

 

ふむ・・・。と思案する。まあいいかと結論付ける

 

「そうしようか。エミヤ・・・さんにキッチン借りられるか聞いてみようか。」

「では私はレジャーシートを探してきますね。」

「だめそうだったら連絡するよ。」

「わかりました。先輩。」

 

今歩いてきた道を引き返す。

食堂の前にはエミヤが看板の内容を書き換えていた。

その内容は

 

『本日限定:お花見セット1500QP』

 

ここでも金銭の単位はQPなのかと思いつつ

食堂に入る。

先ほどとは違い、まばらにしか人は居らず、注文列にならんでいる人は居らず、

セルフのドリンクを飲んでくつろいでいるようだった。

 

「エミヤさん。お花見セットが欲しいんですけど。」

「何時ごろに寮を出る予定かな?

その時間に間に合うように用意しておこう。」

「それがどこに行くかも未定で・・・。」

「そうか。なら地図アプリを起動してくれ。

どうせキリエライトさんと二人だろう?

ならおすすめがあるんだ。」

 

言われるがままに地図アプリを起動し、エミヤに見せる。

エミヤのわかりやすい説明とともに地図上に経路が表示されていく。

数分後一通りの説明が終わった。

 

「これで説明が終わったが大丈夫かね?」

「ありがとうございました」

「12時につくとしたら、大体11時半くらいに出れば間に合うだろう。」

「じゃあ11時20分位にセット受け取りに来ますね。」

「では先に料金をいただこう。」

 

丸い支払いデバイスを提示される。

スマホをその端末の上に置き、代金を支払う。

 

「よし。ではこの引換券を持って11:20前後にここに来てくれ。」

「わかりました。」

 

白い半券を渡される。

そこには、『藤丸 11:20』とだけ書かれていた。

 

そこからは早かった。

マシュにエミヤから聞いたこと、お花見セットを注文したことを伝え、

マシュからは、無事レジャーシートを発見したことを伝えられる。

 

「この服装で行くのもあれだし着替えちゃうね。」

「じゃあ、私も着替えます。」

 

互いに背中を向き合って着替える。

シュルシュルと衣擦れの音が聞こえてきたが、鋼の精神で振り向きたい欲を抑えて着替える。

つい最近買った外出用の服を取り出す。

タグをはがしたりしながら着替え終わったところで、マシュから声がかかる。

 

「先輩こっちは終わりました。」

 

後ろを向くと、そこには、純白のワンピースを身にまとったマシュが立っていた。

その美しさに声が詰まる。

何も言えずにフリーズしていると、マシュから不安げな声が聞こえる。

 

「あの、似合って・・・ますか?」

「うん。とても綺麗だよ。似合ってる。」

 

そんな陳腐な言葉しか出なかった。

黒髭によく、『本当に良いものにあった時、人は語彙が喪失するのですぞ。』

と言われていたが、その意味を漸く理解した。

彼女の美しさを言い表す言葉が見当たらない。

 

「ありがとうございましゅ・・・。」

 

照れて真っ赤に染まった耳も、最後に噛んでしまって思わず下を向いて顔を手で覆っている状態も。

ただひたすらに可愛い。

 

閑話休題

 

10分程で語彙は再生し、マシュの顔も元の白さを取り戻していた。

 

「そろそろ出発しようか。」

 

準備も終わり、マシュが大きな麦わら帽子を被って手持無沙汰にしているのを見て提案する。

 

「そうしましょう。先輩。」

 

レジャーシートの入ったカバンを持って、食堂に向かう。

食堂には早めの昼食を食べている人がちらほらいるだけで、ガランと空いていた。

受取所に向かい、半券をエミヤに渡す。

 

「しっかり完成している。」

「ありがとうございます。」

「では、お花見を楽しんできたまえ。あと、夕食時でも構わないからランチボックスは返却するように。」

「「行ってきます。」」

 

二人で挨拶して、寮を後にする。

スマホの地図アプリを頼りつつ進む。

晴天の元歩くことおよそ30分。

そこは開けた公園で、休日だというのに人は居らず、広々としていた。

 

更に奥の方に一際大きな桜があった。

その木のもとにレジャーシートを広げランチボックスを開ける。

中身は一口サイズのサンドイッチがたくさん入っていた。

 

「凄いですね。」

「おいしそうだね。」

 

そんな会話をしながら、水筒のお茶を紙コップに注ぐ。

マシュに一つ渡し、昼食を食べ始める。

 

「「いただきます」」

 

ミックスサラダ、BLT、たまご、カツサンド等々。

定番のサンドイッチを少しづつ食べていく。

 

「先輩。これおいしいですよ。はい、あーん」

「え?あ、あーん」

 

等とカップルらしくいちゃついたりしながら食べ進めていく。

互いに最後の一個を食べ終えた頃、

 

「先輩、楽しいです。」

「そう?なら良かった。」

 

こてん。とマシュが肩に頭をのせてくる。

心地よい重さが肩にかかる。

突如、一際強い風が吹く。

その風に吹かれてか、この二人を祝福するかの如く

白く、淡く咲いた桜が二人にふわふわと降り注ぐ。

 

 

 


 

 

 

ふと、眠くなる。

こんな人気のない公園だ。少しくらい昼寝してしまっても問題ないだろう。

すとん、意識が落ちる。

 

 


 

 

目を開けると、そこに広がるのは晴れ渡る晴天・・・などでは無く、

白く無機質な見慣れたダウィンチ工房の天井だった。

頭が拘束されている。

ダウィンチちゃんに声を掛けられる。

 

「どうだったい?魔術と科学の交差したVR恋愛ゲームは!」

 

その一言で、レムレムする前の記憶が蘇って来る。

 

「ダウィンチちゃんにフルダイブのVRゲー出来たって言われてやったんだっけ。」

「そうだね。でも本来の仕様とは一つ、違うところがある。それは何だと思う?」

「いやわかりませんよ。」

「ヒントは右手と右側だね。」

 

そういえば右手が温かいような?

 

「ほら、ロックを解除してあげた。見てみるといい。」

 

がちゃんと音を立てて頭の拘束が外れる。

右手を離さないようにしながら右側を覗く。

そこにはきれいな、このゲームの中で真っ先に見た顔。

 

マシュがすやすやと眠っていた。

 

「あの、ダウィンチちゃん、まさか。」

「そのまさかさ!ほかの人物は全員高度に再現されたNPCだがマシュだけは中身が入っていたぞ!」

 

うああ、など情けない声をあげながら左手で顔を抑える。

そのぬくもりが惜しいのか、マシュが起きるまでは、と。

右手はしっかりと、マシュの左手を握り、離そうとはしない。




学園(寮)
来年のエイプリルフールはリベンジしたい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。