IS-Greedy beast- (reizen)
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第1章 欲望、渦巻くままに
#1 知識不足の留年生活、開幕


最近思うんですよ。息抜きに小説を書くのは息抜きになっていないって。

……でも気が付いたら書いているんですよね。何でだろ。




DQBクリアしたけどフリービルドモードでこれと言って作りたい物が出てこないので簡単な探索以外は何もしていない。


 もし、神という存在でもいるならば俺は生涯その存在を恨むかもしれない。それが今年17になる高校生の4月初日に抱いた本音だった。

 そもそもこれからの学園生活は死亡率99%はマークされるであろう高難易度。一体何がどうなっているのかというと、俺ともう一人以外は全員女なのである。話によると用務員は力仕事がメインであるものの数が少ないことから男がいると言う話だが、交流する可能性は限りなく低いだろう。

 というか、希少性のある俺に未だに女があてがわれないのはどういう了見だ? そろそろ美女の10人や20人相手させられてもおかしくないはずなんだが………。

 

(それはともかく………暇だなぁ……)

 

 教室で大人しく待っているが、さっきから誰も話しかけてこない。俺は時期が時期だからか本来存在しないはずの31人目として窓側最後尾の絶好ポジションに陣取っているが、さっきまで前にいた女子もどこかに行ってしまったので話し相手がいない。俺が好きなゲームも一応はあるが………

 

(……ゲーム、するか)

 

 でも正直なところIS関連のゲームってたまに本業じゃない人も声を当てているから嫌いなんだよな。何で声優を使わないのか疑問だ。それに、狩りゲーのように機体を大きなカスタムできる仕様じゃないのがさらに残念だ。

 まぁ、今はそんなことはどうでもいい。たぶん……いや絶対に重要なことじゃない。

 どうでもいい思考を止めると、狙ったのか誰かが教室に入ってきた。………制服を着ていないが、もしかして生徒だろうか? 冗談ではなく、そう感じさせそうな雰囲気を放っている。

 その人が教室を軽く見回し、数えると安心した風に言った。

 

「全員揃ってますね。じゃあ、SHRを始めますよ」

 

 それを聞いてようやく全員がその女性を「教師」と認識し急いで席に着く。俺もそうだがその女性が教師にはとても幼く見える。……よく言えば、とある部分の主張が凄いけど、この教室内にもその教師に劣るとは言えかなり大きい胸を持っている奴がいたが、そいつにはあまり話しかけないようにしよう。顔を見たくても胸を見ている可能性が高いからな。

 ゲームを直してIS学園の説明を聞く。山田真耶と名乗った彼女は「それではみなさん、一年間よろしくお願いしますね」と締めくくったが生徒たちは俺も含めて誰も返事しなかった。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと……出席番号順で」

 

 少し諦め気味にそう言った。所謂賽を投げた状態だろう。

 出席番号順……というか狙ったのか端から自己紹介をしているが、その間に俺は勉強することにした。

 しばらくして……

 

「織斑君……織斑一夏君!」

「は、はいっ!?」

 

 何かを考えていたのか、山田先生に呼ばれた織斑だがしばらく返事をしなかった。もしかして、「この空間やべぇ。女いすぎ」とか思っているのだろうか?

 

「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる? 怒ってるかな? ごめんね、ごめんね! でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑君なんだよね。だからね、ご、ごめんね? 自己紹介してしてくれるかな? だ、ダメかな?」

 

 こ、腰ひっく!!

 IS―――インフィニット・ストラトスが発表されて10年が経った。女にしか動かせないそれが原因で女たちは調子に乗りはじめた。俺の義母もその手のタイプで、俺がIS学園に入学すると聞いたその日にひと悶着があって今では連絡すら取り合っていない。今頃有能な家政婦でも雇っていることだろう。

 織斑は山田先生を宥め、自己紹介をすると宣言。山田先生が観劇して涙を流しているようだが………彼女はどうしてあんな感じなのだろうか?

 

(いくら何でも怯えすぎ……なのか……?)

 

 まぁどれだけ考えたところで彼女の過去がわかるわけでもなし。織斑の自己紹介に耳を傾ける。

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 それだけだった。いやまぁ、この状態でまともな自己紹介をしろと言われたところでできるとは思っていない。………どうやらそう思っているのは俺くらいなもので、女子たちは続きはまだかまだかと期待の眼差しを向けていて、織斑は妥協案がないかと周囲を見回して探る。あ、今フラれた。

 そして今度は俺と目が合ったので、俺はサムズアップして返した。

 

「………い……」

「「「………い?」」」

 

 まさかここで某特撮の下級兵の鳴き真似でもするつもりか? 勇者だな。…と感心すると織斑は大きな声で叫ぶように言った。

 

「以上です!!」

 

 見事に他の生徒をこかせた織斑。やるなぁ。俺にはそんなユーモアなんてないから自己紹介が正直不安になってきた。

 

「あ、あのー………」

 

 止めてやれ、山田先生。いくら何でもこの環境でそれ以上は流石に辛い。………と思っていたら、織斑が攻撃された。織斑は恐る恐るという風に後ろを向いてから―――

 

「げぇっ!? 関羽?!」

 

 また叩かれたが、今のは流石にしょうがないだろう。一応美人に対して「関羽」って…………そう言えばそんな名前の女がいたっけ? 何かの漫画だったけど忘れた。

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けて済まなかったな」

「い、いえっ。副担任ですから、これくらいはしないと……」

 

 気のせいか、山田先生は織斑先生と呼んだ女性に気があるようだ……え? レズなの? もしかして教師同士で夜な夜なあんなことやこんなことが行われているの?

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言う事はよく聴き、よく理解しろ。できない者にはできるまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言う事は聞け。いいな」

 

 なんという暴君っぷりだ。こんな暴君に付いて行く奴なんて早々いるわけがな―――

 

「キャーッッ!! 千冬様! 本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

 ………これが訓練された信者か……。

 ちょっと………いや、かなりヤバい奴らだな。正直引く。

 

「………毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 

 どうやら本人も乗り気……いや、もしかしたら心からウザがっているのかもしれない。

 だがそれは彼女らにとってはさらなる火種でしかないようで、

 

「きゃあああああっ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがらないように躾をして~!」

 

 ま……まともな奴がいない……。

 俺はクラスメイトのその発言に心から引いていた。何だこいつら、正気か?

 

「で?」

 

 その一言でパタッ、という擬音が似合うくらいに声援が止んだ。スゲェ。

 

「挨拶も満足にできんのか、お前は」

 

 と、織斑に厳しく言った織斑先生……あれ? もしかして親戚か何かか?

 

「いや、千冬姉、俺は―――」

 

 容赦なく出席簿を振る織斑先生。ん? 千冬姉? 姉?

 

「織斑先生と呼べ」

「……はい、織斑先生」

 

 どうやら姉弟のようだ。何それ、出来レース?

 じゃあこの状況って割と本気で孤立無援じゃね? やっぱ切り札は最後まで取っておくべきだな。

 周りが織斑姉弟の関係性を今知ったようだが、知らなかったのか。もしかして情報操作でもしていたのか?

 

(………ん?)

 

 何故か俺の方に視線が集中している。何故だ。

 

「そろそろSHRも終わりだが、ちょうどいい。桂木、自己紹介しろ」

 

 たぶんその「桂木」は俺のことなんだろうが、確認ために誰のことかと探しておこう。

 

「お前だ、桂木悠夜。それとこのクラスに「桂木」はお前以外にはおらん」

「あ、そっスか」

 

 立ち上がってすぐ、間髪入れずに自己紹介をした。

 

「桂木悠夜です。これまでISの勉強をあまりしなかったので1つの上の年齢でありながらみなさんと勉強することになりました。ですがあまり気負いせず接していただけると助かります。一年間よろしくお願いします」

 

 我ながらうまくできたと思う。たださっきからちらほらと「普通だ」というコメントが来ているけど、ISを動かせるという点を除けば俺は普通の人間なんだっての。

 

「………まぁいいか。どこかのバカよりはまともだったからな」

 

 おい担任。アンタも何を期待しているんだ。

 

「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で身体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。良くなくても返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」

 

 なんという鬼畜っぷりだ。これが今の世の中の女の代表格なのだから恐れ入る。

 俺は正直、1年も持つかなと不安になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直、今は少しイラッとしている。

 たぶん山田先生は俺に気を遣って聞いてきたのだろうが、俺は少ない期間ながらキッチリ前半部分ぐらいは勉強してきたんだ。2か月近くあっても大して勉強しなかった馬鹿と一緒にされるのは本気でムカつく。そして織斑、何でテメェは「信じられない」という顔で俺の方を見ているのかねぇ?

 

「織斑、入学前の参考書は読んだか?」

「……………あぁ……古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 殴られて当然だと思った。

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」

 

 そう言えば、小さくだけど「必読」ってあったな。

 

「後で再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」

「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと……」

 

 確かに分厚かったな。俺も軽く流したが、実際理解したのは半分の10分の1程度だと思う。

 

「やれと言っている」

「………はい。やります」

 

 あれだな。織斑はたぶん常日頃から鬼に虐げられていたんだな。可哀想に。……とか思いながら俺は笑みを浮かべているけどな。

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった()()を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

 

 そんな正論が織斑に向かって言われる。どうやらモンド・グロッソというISの世界大会で優勝したことのある織斑千冬でもISを兵器として認知しているようだ。

 

「………貴様、『自分は望んでここにいるわけではない』と思っているな?」

 

 まぁ俺は少なくとも生きるためにここに入学したから関係ないな。

 

「望む望まざるに関わらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな」

 

 うっわ辛辣だなぁ。

 まぁでもこれは仕方ないだろう。人の在り方として、平和に解決するならば集団に融け込むしかない………とはいえ、それは果たして悪意ある行為によって集団から弾かれたものに対して納得させられるかはまた別だけど。

 

(………ま、無理だろうな)

 

 そう。まずそういう人間に辛辣な言葉を浴びせた時点で敵意を持ち、殺意を持つだろう。しかも言うのがなんと織斑千冬―――自分たちを陥れた奴らの代表格と言ってもいい人間だ。そんな奴にそのようなことを言われたら、間違いなく罵声しか飛ばない。

 そしてあの女はおそらくそれを理解していない。もしこの少女たちの中に父子家庭でつまらない理由で父親を陥れられていたら、間違いなく今ので敵意を持ったと言える。

 

(結局、俺には関係ないんだけどな)

 

 この思考は所詮、余裕がない男のたまの息抜きの手段だ。

 

「え、えっと、織斑君。わからないところは授業が終わってから放課後教えてあげますから、頑張って? ね? ねっ?」

「はい。それじゃあ、また放課後によろしくお願いします」

 

 そんな普通のまともなやり取り……と思ったんだが……。

 

「ほ、放課後……放課後に二人きりの教師と生徒……。あっ! だ、ダメですよ、織斑君。先生、強引にされると弱いんですから………それに私、男の人は初めてで………」

 

 山田先生は重度のゴミらしい。教師と生徒の禁断の関係を授業中に妄想するとか………というか、俺のことはスルーですかそうですか。

 

「で、でも、織斑先生の弟さんだったら―――」

 

 ―――バキッ!!

 

 俺の手元でシャーペンが粉々になった。

 全員が俺の方に注目する。粉々になったの、結構お気に入りだったんだけどな………。

 

「失礼。お気になさらず、授業を続けてください」

「は、はい!」

 

 いざという時のために持ってきていた袋に残骸を放り込む。そして俺は心中で山田先生に対して思った。

 

 ―――無駄乳をぶら下げた年増が発情してんじゃねえよ、気持ち悪い




「どうせまたぶっ飛んだ設定で異能力者なんだろ?」と思った方、大丈夫です。異能の方にはぶっ飛んでいないので。もっと言えば悠夜君はぶっ飛んでいないので。


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#2 その仮面は崩れ落ちる

 俺がシャーペンを粉砕した後の休み時間、探し気味に勉強をしていると近付いてくる影があった。

 

「あの、桂木悠夜さん……で合ってますよね? 俺、織斑一夏です。これから一年間、よろしくお願いします」

「………お、おう」

 

 突然現れて敬語でそう言った織斑に俺はド肝を抜かれていた。

 

「どうしました?」

「いや、大ポカやらかした奴と同一人物とは思えなかっただけだ。改めてよろしくな、織斑」

「俺のことは一夏で良いですよ」

「そこまで馴れ馴れしく接するのは苦手なんだ。俺が認めれるなら名前で呼んでやるよ」

 

 たぶん一生呼ばないだろうが。

 

「それよりも織斑、お前とあのボインポニーテールとは一体どういう関係だ?」

 

 前の休み時間、織斑は俺のところに一度来ようとしているがその途中でボインポニーテールな生徒に無理矢理どこかに連れられていたので引き合いに出してみた。付き合っていたらキレそうだ。

 

「ぼ、ボイン………? あ、もしかして箒ですか? ただの幼馴染ですよ」

 

 その幼馴染が俺たちの会話を聞いていたのか凄く殺気を出しているけど大丈夫だろうか。

 それに気付かない織斑は、何故か俺に気遣う様子を見せながら尋ねた。

 

「………ところで桂木さん、その頬ってどうしたんですか?」

 

 ……ああ、これか。

 大きな湿布を貼られているからか、やはり目立つようだ。

 

「ちょっと色々あってな。具体的には部屋を片付けている時に重い荷物を持った状態で階段から落ちたんだ」

「そ、そうなんですか!? ……大丈夫ですか?」

「気にするな。ここだけ直りが遅いだけだから」

 

 最初は顔も腫れていたけどな。

 なんて会話をしていると、誰かがここに近付いてきた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

「へ?」

「………何だ?」

 

 男子二人で微妙に接しにくい雰囲気になっていたところに誰かが割って入ってきた。………思いっきり苦手なタイプだな。

 ISが出てきてからというもの、男を酷く扱う女が多くなった。たぶん今割って入ってきた女もその手のタイプだろう。お近づきにはなりたくないが、何せ俺たちの現状は本当に特別だからな。今後も増えていくだろう。

 

「まあ! なんですの、そのお返事。私に話しかけるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではなくって?」

「…………」

 

 織斑が黙りこくった。どうやらこいつも苦手のようだが俺は俺で今にも殴りたくなってきている。

 

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

「わ、わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを?! ……あなたはどうなんです?」

 

 今度は俺に話を振ってくる。期待されても知らないものは知らないけどな。

 

「さぁな。だが今の男の7割はそんなもんだぞ。ましてやISに関心ゼロの織斑はともかくISの技術にしか興味がない俺は日本の候補生すらもいちいち覚えちゃいない。他国となればなおさらだ」

 

 それがある意味当たり前だ。

 例え知っていたとしても、精々ISスーツの露出の多さに興奮するエロいオッサンに思春期な中高生程度。俺は義理の母と妹がISに携わっているが、不仲だし基本的にはそこまで会話しない。

 

「……あ、質問良いか?」

 

 オルコットが俺に反論しようとしたところで織斑が声をかけると、

 

「ふん。下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

 たぶんこいつの親はロクデナシなのかもしれないとふと思った。

 

「代表候補生って、何?」

 

 まさかの質問に俺たちの会話に聞き耳を立てていた他の奴らがこけた。

 

「あ……あなたっ!? 本気で仰ってますの?!」

「おう。知らん」

「…………………」

 

 ………単語から想像したらわかるだろ? もしかしてこいつは「考える」という事をしないのだろうか?

 

「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら………」

「いや、馬鹿なことを言われた手前何とも言えないけどよ、テレビはあるから。織斑がおかしいだけだから」

 

 とは言ったものの、俺の周りに代表候補生がいなければ俺も織斑と同じようになっていたかもしれない。そもそも俺の環境じゃIS雑誌の写真集なんて無駄ページだったか。

 

「桂木さん、代表候補生って何ですか?」

「わかりやすく言えば国家代表になるかもしれない奴ら」

「そう! つまりエリートなのですわ!」

 

 間違っていないが、自称するのはどうかと思うけどな。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なんですのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

 

 実はこれはマジである。

 国家代表候補生は確かに少なくはないが、だからと言っても各県に10人いるかどうかなので俺たち男が代表候補生と同じクラスになる確率はかなり低い。

 ………まぁ、今となっては俺たちと同じクラスになる方がはるかに確率が低くなったが。

 

「そうか。それはラッキーだ」

「………バカにしていますの?」

 

 流石に織斑に分かれって方が無理だろ。

 

「大体、あなたISについて何も知らない癖によくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的差を感じさせるかと思っていましたけど期待外れですわね。そちらの方は多少はできるようですが、所詮織斑さんにちょっと付け足した程度。増してや初日から顔を腫らしてくる人に大した期待できませんか」

 

 まぁ確かにダサい格好ではあるな。

 とは言え、オルコットのような女にどうこう言われる筋合いはない。

 

「おい、いくらなんでもそれは―――」

「いいさ。想像をするのは人の自由。そんな小さなことでとやかく言い争ったらそれこそ切りがない」

 

 面倒事はもういいしな。

 だがオルコットは俺を睨んでくる。どうやら俺の態度が気に食わなかったようだ。

 

「ふん。まぁでも? わたくしは優秀ですから、あなた方のような人間にも優しくしてあげますわよ」

 

 なお、下落する株は止まらないが。

 

「ISのことでわからないことがあれば、まぁ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから!」

 

 「唯一」という部分を強調したオルコット。そうか。倒したのか。

 

「入試って、あれか? ISを動かして戦うってやつ?」

「それ以外に入試などありませんわ」

「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

「………俺は筆記あったけどな」

 

 何せ俺は1つ上なんでね。まぁ見事に試験に落ちたわけだが。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

 俺の言葉はスルーされたようだ。酷い話である。

 ところで織斑、今のは地雷原に特攻したのか?

 

「ま、まさかあなたも教官を倒したと言いますの!?」

「…………いや、負けたな」

「ま、まぁ当然ですわね。所詮素人が教官に勝てるわけがありませんわ」

 

 そりゃそうだろ。どうせ織斑もまぐれか何かで勝てただろうし。………というかそもそも、

 

「あの試験って、百戦錬磨の教官に対してどうやって立ち向かうかの試験だろ。大半が素人で適性値が高い奴らが順に選ばれる試験なんだから勝ち負けを素人にこだわらせるのはそもそも間違いだし」

「え? そうなんですか?」

「そりゃあ素人がそう簡単に教官を倒せるわけがないしな。だから、教官に勝ったとしても加減を誤った可能性もあるし、一概に凄いとは言えない」

「そ、そうなのか………まぁ考えてみれば、俺が戦った教官も壁に激突して気絶しましたしね」

「それこそ数合わせだろうよ。噂じゃ女でもIS適性がなくてまともに動かせないって人もいるらしいし」

「顔はよく見えなかったですけど、もしかしたらそうかもしれませんね」

 

 と、男2人で盛り上がっていると敢えて放置したオルコットが怒りを露わにしていた。

 

「……あ……あなたたち―――」

 

 そこでチャイムが鳴り響き、時間切れになった。

 

「くっ……! また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

「また後って……次放課後だが?」

 

 聞いていないのか、それとも無視したのかオルコットは自分の席に戻る。

 

「じゃ、じゃあ自分はこれで………」

 

 織斑も空気を読んでか……もしくは姉にビビッてか自分の席に戻って行った。

 

「それでは、この時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 これまで2回ほど授業が行われたが、そのどちらも山田先生が行っていたが今回は織斑先生が担当らしい。山田先生もノートを持っていることからかなり重要かもしれない。………まぁ、内容が内容だけに俺もちょっと気になる授業だけど。

 

「………そうだ、その前に5月に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

 ふと思い出したように言った織斑先生。何故それを今思い出してしまったのか。……ちょっと楽しみだったのに。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席………まぁ、クラス長とか委員長とか言われる役職だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからよく考えて選べ」

 

 仕事内容を説明されて「うわっ、面倒だ」と思ったのは俺だけではないはず。

 だが俺や織斑は貴重な男性操縦者。経験するに越したことはない………が、それはあくまで女子が俺たちに優しくて対抗戦を「捨てる」ならばの話である。

 

(………確かパンフレットに「各イベントごとに豪華賞品をプレゼント」とか書いてなかったか?)

 

 もしそれがデザート関係ならば、まずオルコットを選ぶべきだろう。さっきはああ言ったが、入学試験もとい入学試合で相手を倒したのは十分評価に値する。それにあれだけプライドが高いなら間違いなくやりたがるだろう。

 

「はい! 織斑君を推薦します!」

「私もそれが良いと思います!」

 

 …………………まぁ、真の論点は俺がどれだけクラス代表になるのを回避することだしな。ぶっちゃけ、本人が良いなら構わないし、俺じゃなければ誰だっていい。

 

(………当人は全然状況を理解できていないみたいだけどな)

 

 とはいえ、そろそろ気付くだろう。自分が推薦されていることに。

 

「では候補者は織斑一夏。他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」

 

 そう言って俺を見るのはどういうことだろうか?

 偶然ならばまだ良いが、わざとならば一大事。俺、面倒事は嫌いなんだけどな。

 

「お、俺!?」

 

 立ち上がった織斑。その反応は……どうやら今まで本当に気付いていなかったようだ。

 

「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」

「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな―――」

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

「い、いやでも―――じゃ、じゃあ、俺は桂木悠夜さんを推薦しま―――」

 

 改造エアガンを出して織斑の頭部に狙いを定めようとした時、とある少女は机を叩いた。

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 パソコンと一体になった机を叩いてオルコットが立ち上がった。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえと仰るのですか!? 実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿共にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのだって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 今ならたぶん大魔術を100発ぐらい撃てるほど悟っているかもしれない。それほど前の暴言を前にして俺は無心にいられるんだからきっとそうだろう。

 

「良いですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

 だが逆にオルコットは自分が選ばれなかったのか怒りで周りが見えていない。さっきから日本人が何人か怒りを露わにしているということに気付いていないのだ。

 そして彼女は、とうとう言ってはいけないことを言った。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけない事自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」

「―――イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一マズい料理で何年覇者だよ!」

 

 ついで織斑も言っていた。あの馬鹿。黙っていればオルコットは自滅して国に戻って悲惨ルートまっしぐらだと言うのに。まさか心中するつもりか。まぁ、個人的にはそれも良いがな。

 

「あ………あっ、あなたねぇ!! わたくしの祖国を侮辱しますの?!」

 

 先にしたのはお前だろと笑いそうになったが何とかこらえる。

 

「決闘ですわ!」

 

 黙る織斑。少し反省の色も見せていたが、決闘だと言われて闘志が湧きあがったようだ。

 

「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

 

 流石は単細胞。まずは言葉で心を折って殺意を湧かせた上でボコボコにすると言う方法は取らないようだ。

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い―――いえ、奴隷にしますわよ」

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

「そう? まぁなんにせよちょうど良いですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

 

 素人相手に実力を示したところでただの笑いものだけどな。

 なんて考えていると、織斑は馬鹿な事を言った。

 

「で、ハンデはどのくらいつける?」

「あら、早速お願いですの?」

「いや、俺がどのくらいハンデ付けたらいいのかなーと」

 

 いや、お前さっき「真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」とか言ってなかった? なんて思っているとクラス中から笑いが起こった。

 

「お、織斑君、それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

「織斑君はそれは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」

 

 ―――哀れだな

 

 そんな感想しか持てなかった。どいつもこいつも、自分が本当に強いと感じている。確信しているのだ。男が相手でも女である自分たちが勝てる、と。

 まぁ別にその考えを完全に否定する気はない。彼女らがどんな考えを持とうかなんて彼女らの勝手。それを否定する必要はない。

 確かに今の社会は女より男が弱いのは常識だがな。

 

「………じゃあ、ハンデはいい」

「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろわたくしがハンデを付けなくて良いのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて、日本の男子はジョークセンスがあるのね」

 

 そんなセンスがあるのは織斑くらいだろうよ。それを―――ジョークで終わらせられるのは、な。

 

「ねー、織斑君。今からでも遅くないよ? オルコットさんに言って、ハンデ付けてもらったら?」

「男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデは無くていい」

「えー? それは代表候補生を舐め過ぎだよ。それとも、知らないの?」

 

 ……そもそもISを知らない奴が代表候補生の実力を知っているわけないだろうに。

 俺は下らない現状をつまらなく感じて欠伸を噛み殺しながらすると織斑先生がまとめ始めた。

 

「さて、話は纏まったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコット、そして桂木はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を―――」

「先生、今俺の名前も入っていましたけど、間違いじゃないんですか?」

 

 これまで関わらないようにしていたというのに。

 

「オルコットに遮られたとはいえ、織斑が推薦していたからな。それに、これはクラス代表を決める戦いでもある。ならば参加する義務はあるだろう」

「いや、義務はないでしょうよ」

 

 せめて「権利」程度だろ。そもそも俺は喧嘩を売られたわけじゃないし、今回のことに関してはひたすら無関を貫いたんだから。

 するとオルコットが口を開いた。

 

「全く。あなたという方は本当に小さいですわね。もう既に決まったことに対して文句を言うなんて。まるで今の男の代表ですわね」

 

 その言葉に反応し、ある者は俺の陰口を言い、ある者は小さく噴き出した。

 

「ともかくだ。お前の言い分は後で聞く。ではこれより―――なんだ、まだあるのか?」

 

 俺が挙手したことに気付いた織斑先生。1日も持たなかったが、まぁ仕方ないか。

 

「そうですね。質問を変えさせていただこうと思いまして」

「何?」

「では織斑先生、もう一度お聞きしますが―――どうして俺がガキの茶番に付き合わないといけないんだ?」

 

 途端に空気が固まった気がしたが、俺にはどこかのドSな女将軍のような能力は持っていないから気のせいだと思うことにした。



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#3 桂木悠夜の科学者理論

 ―――どうして俺がガキの茶番に付き合わないといけないんだ?

 

 その発言が馬の空気を悪くしたのはわかったが、だからと言ってこっちも引く気はない。

 

「こっちとしてはせっかくの新天地だし少しは譲歩してやろうと思ったが限界だな。でだ、織斑先生。言葉の意味が理解できないようならもう一度言ってやろうか?」

「………いや、言葉の意味は理解している。だが何故だ? クラス代表になれば少しで周りにアドバンテージが―――」

「生憎俺はリーダー気質じゃねえし、そもそも尻軽共を調教するほど暇じゃねえよ」

 

 アドバンテージ? 何それ美味しいの?

 織斑をクラス代表にする理由はまぁ理解できなくはない。容姿端麗でかの有名なブリュンヒルデの弟という事ならば今後の活躍も期待できるだろう。それに俺は整備科志望だし操縦技術なんて少し覚えていれば問題ないくらいだ。

 

「ちょっと! 私たちが尻軽ってどういうことよ!?」

「オルコットの発言に散々イラついていたくせに織斑がハンデの話をした時にあっさり手の平を返した奴を尻軽と言って何が悪い? むしろ、とっくの昔にハンデを背負っているのにさらにハンデを負おうとしているその姿勢に敬意を称するべきだろうよ」

 

 つまり馬鹿にしているんだけどな。

 

「お、織斑さんがハンデを負ってるですって!?」

「何だ自称エリート、気付いていなかったのか? そもそもISで戦う事自体がハンデを負っているじゃねえか。だがまぁ、オルコットは「素人にISで喧嘩を売った代表候補生」として汚名を着るからある意味対等か?」

 

 そう言うとオルコットはまるで今気付いたような顔をした。

 

「………それは………」

「それともあれか? 今の内に調子に乗りそうな男を潰しておこうという算段か? 確かにブリュンヒルデの弟を手駒もしくは手籠めにしていれば後々有利だろうしなぁ?」

「だ、黙りなさい! わたくしはそのような考えで行動しているわけじゃ―――大体、ここはIS学園。物事をISで片付けるのは一般的ですわ!」

「貴族目線で一般を語らないでくれませんかねぇ? にしても貴族の問題解決方法って物騒だな。小さな揉め事でIS使った代理戦争かよ。簡単な話し合いで済むって言うのにわざわざ一般市民を巻き込んで周囲を破壊するんだぁ。俺、貴族に生まれて来なくて良かったぁ」

 

 完全な煽り。一部ブーメランがあるがオルコットを煽るには十分だろう。

 

「………黙りなさい。今まで何も言わなかった弱い男の癖に!」

「そうよ! 突然喋ってあーだこーだって言ってさ!」

 

 ワイのワイのとテンションを上げる女たち。だから俺は黙らせるためにおもむろに窓を開け、前の席に座る女子の服を掴んで外に投げ捨てた。織斑先生までもまさかそんな行動に移るとは思わなかったようで驚きを露わにする。

 

「弱い男、ねぇ。全くもってお笑い草だ」

 

 なお、今俺たちがいるのは4階。そこから人間が落ちたらまず死ぬだろう。ま、ちゃんと手は打ってあるから問題ない。

 

「臆病だなんだって言うけどさ、それの何か悪いの? 危機的状況を回避したいと言う精神行動なんだから何もおかしくないだろ。そもそも臆病ならそれはお前ら女だろう? わざわざ同じ人間を相手にISという兵器を持ち出さなければ威張ることもできないんだ。それを臆病と言わず何と言うんだ? もしそうじゃないって言うんだったらさ―――」

 

 ―――裏稼業の奴らに裸で特攻しに行けよ

 

 ま、流石に俺もできないけどさ。そもそも俺は一般人。ただ、ちょっと想像力が高いだけのだ。

 

「それよりもだ、桂木。貴様は今自分がしたことがどういうことかわかっているのか?」

「だったら下をよく見てみろよ。ちゃんと生きてる」

 

 全員が窓側に寄って来たので壁を使って回避。俺が放り投げた奴は俺が予め仕込んでおいた超強度ワイヤーによって空中で停止し、壁に叩きつけられる前に同じタイミングで仕込んでおいたクッションが起動して受け止められていた。今も自動で壁で制服が破けてないように間に透明なシートを挟んで上げている。

 

「あ、そいつを殺したくなければ俺が開けた窓を動かすなよ」

 

 忠告すると殺しの片棒は担ぎたくないのか、一斉に離れていく。

 しばらくして俺に投げ捨てられた女子は上の窓に到着した。

 

「………許さない。覚えておきなさい! この復讐はいつか絶対に―――」

 

 引き上げられた生徒は俺に向かって悪態を吐く―――が、エアガンを額に突きつけられたことで黙った。

 

「ちなみにこれって改造エアガンでさ、当たっても死にはしないけど―――物凄く痛いよ?」

 

 腰を抜かす生徒を見てエアガンをしまおうとしたが、後ろから振り下ろされた出席簿を防いだ。

 

「没収だ」

「別にどうぞ」

 

 そう言って俺は織斑先生にエアガンを渡そうとしたが、あることを思い出して少し避けてからちゃんとセーフティをセットして渡した。

 

「それと桂木、先程の暴言や行動は問題に問われる。その奉仕として今度の試合に出ろ」

「断る権利は?」

「ない」

「じゃあ、条件を提示させてもらいましょうか」

「その権限も―――」

 

 俺は織斑先生の足を踏んで止めた。

 

「……貴様」

「なぁに。別にアンタの身体に触れようとか、オルコットにこれまでのことに関してその賠償を請求する気はさらさらありませんよ。それにだ―――どうせ効いてないだろ? そもそもこれはアンタの我儘から始まった出来事。ならば嫌がる奴には出す条件として何か言う事を聞くのは交渉の基本だぜ」

「それは今回の件を不問に―――」

「デモンストレーションを不問にする阿呆がどこにいる? それとも、3年前に玉座を捨てたことで話す術を忘れたか? ランプの精は3つも願いを叶えるんだ。女であるアンタは5つ……いや、オルコットに1つ負担させてやることで4つを叶えるのは妥当だよなぁ? 無理だとは言わせねえぞ、ブリュンヒルデ……いや、ブリュンヒルデだったものと言った方が良いか?」

 

 何かを察した顔をする。というかようやく気付いたのか。さっきのはすべて「(お前ら)よりも技術力と力は上だ」と証明するものに過ぎない。

 

「………何が望みだ?」

「まぁそれは追々、だ」

「待ちなさい。何故わたくしがあなたの言う事を聞かなければなりませんの!?」

「じゃあ俺との勝負方法を変えるか、もしくは俺の参戦自体をなかったことにしたらどうだ? そうすれば俺からの条件を無しにしてやっても構わない。まぁ、代表候補生様がまさか俺から出される条件に怯えて尻尾を巻いて逃げるなんて真似はしないだろうがな」

 

 オルコットは反論の手立てを失ったようで黙ってしまう。

 

「………それで、条件というのは……?」

「俺が試合当日で提案したことを無条件で受け入れることだ」

 

 その言葉に全員が驚き、唖然とする。中には小さく「変態」と呟く奴もいるが、まぁ良いだろう。

 

「どうした? 臆したのか? どのような条件を出されてもただ勝てば良いだけの話。それとも、俺と戦うことに自信がないと? まぁそれも良い。今すぐお前が織斑先生に抗議して俺の出場を無くせばいい。本来、それをするのが代表候補生としてのお前の役目であり、それをしなかったが故に俺の前の席の奴が死にかけたがな」

「それはあなたが勝手にやったことでしょう!?」

「そうだな。だがその原因はお前らが煽ったことだろう? だから俺は見せてやっただけだ。「ISを持たない女なんて弱い男でも簡単に殺せる」という証拠をな」

「でも殺していませんわよね?」

「死んでほしかったのか?」

「そ、そうじゃありませんわ!? ただ―――」

「なるほど。では今度は誰を殺そうか。なぁに。高が一人死んだところで子孫繁栄になんら影響はない。例え貴様が死んだところでいずれ財産が別の奴に渡るか国に寄付して下らないことに使われるのがオチだろうよ」

 

 その存在が死んだところで精々ちょっとした復讐心と悲しみが生まれる程度。世界規模で見れば億単位いる人間の中でたった1つの命が消滅した程度でしかない。

 それにだ。極論で言えば歳の差があれど初潮を向かえた少女でも子どもは作れるんだ。既に0歳から15歳の少女が確認されている時点で子孫繁栄には何の影響もない。

 

「何度も言うが、この状況はお前ら女が招いたことだ。これに懲りたら今後余計なことはしないようにな」

 

 そう言って俺は席に着く。クラスのほとんどからヘイトを集めたが、授業はかなり駆け足気味に進んだこと意外は平和だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桂木さん、少し話が―――」

「何だ織斑。似合わないシリアスな雰囲気を出してくるな」

「大事な話なんです。その、3年前のモンド―――」

 

 織斑の眉間にペンを突き立てて黙らせる。

 

「織斑」

「………何ですか?」

「この際だから言っておくが、さっきはああ言ったが俺はお前の姉が成した偉業を否定する気はない。例え3年前の大会の時に何があったとしても、だ。というかどうでもいい。そんなことよりもだ」

 

 俺はパーティゲームの一つであるウォーノを出して織斑を誘った。

 

「これでもして遊ぶか。本来なら勉強しなくてはいけないが、今日は今日で疲れただろう?」

「……それはそうですが。でも―――」

「ああ。もしかして条件のことか? 安心しろ。俺は年上には興味がない。よってお前の姉に身体だけの関係を強要する気はない。いや、マジで。というか冷静に考えてみろよ」

「何がですか」

「年上の身体って古臭いって感じがして嫌だろ」

 

 顔を引きつらせる織斑。俺は気にせず紙とペンを織斑に渡した。

 

「これは?」

「せっかくだ。ただやるのはつまらないし、何か軽めな罰ゲームを考えよう。終わったらバレないように紙を負ってこの箱に入れれば良い」

「わかりました」

 

 俺たちはそれぞれ罰ゲームを考えて箱に入れる。そしてゲームを始めたが、

 

「俺の勝ちだ」

「つ、強すぎません?」

 

 このゲームは場と呼ばれるものが存在し、一番上に置かれているカードと同じ色か同じ数字が合えば場に出せるというゲームだ。今回は俺と親友の零司がやっている特別ルールを採用せずにやったが、それでも弱かった。

 

「たまたまだ。それに俺は駆け引きが苦手だ………さて、引け」

 

 罰ゲームが入った箱を差し出す。ちなみにそれぞれ5枚ほど書いたが、果たしてこいつは何を引くだろうか。

 

「……よし、これだ! …………桂木さん」

「何だ? どんな罰ゲームが出た―――流石は織斑。やってくれる」

「やってくれるじゃないですよ?! 何を書いているんですか?!」

 

 織斑が引いたのは、「1年1組の教室の最前列の左端(窓側)に座る女生徒のおっぱいにダイブして顔を埋めて揉みしだく」というものだった。

 

「本来なら、俺が負けた時の保険として入れたものだがな。よくやった織斑。骨はお前の姉が拾ってくれる」

「しかも千冬姉に丸投げ!? って、最初から箒の胸を狙っていたんですか!?」

「そうだな。今時珍しいだろう? あれだけの重りを持っていて綺麗な背筋をしている女子など早々いない」

「………桂木さんって、かなり変態ですよね?」

「否定はしない。というかそもそも、これが人として正しい在り方だ。はっきり言って、同性同士の子どもの作り方が判明していない今という状態で過度な女尊男卑なぞヒト族が消滅するだけだ」

「そして色々と考えてぶっ飛んでいますよね。まるで束さんみたいだ」

 

 どうやら俺と同じ思考を持った奴が他にもいるようだ。何それ怖い。

 

「遅くなってすみません。二人とも………どうしたんですか、織斑君!? 顔が真っ赤ですよ!?」

「確かに遅いな。勉強がまた進んだぞ。あ、ちなみに織斑の顔が赤いのは思春期特有の興奮だ」

「えっ!?」

「ちょっ、桂木さん!!」

 

 照れる織斑と山田先生。そう。俺たちが残っていたのは教師共に教室に残っておくように言われたからだ。

 

「それで山田先生。俺たちを残した理由って一体なんですか?」

「えっとですね。寮の部屋が決まりました」

 

 やっとか。

 これまで俺はホテルで暮らしていたから解放された気分だ。

 

「あれ? 俺の部屋はまだ決まっていないんじゃなかったですか? 前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど」

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な措置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです。……織斑君、その辺りのことって政府から聞いてます?」

 

 なるほど。おそらく俺と織斑の部屋が別なのってその辺りに理由があるかもしれないな。渡された時に見えたがここで敢えて指摘すまい。

 

「そういうわけで、とにかく寮に入れるのを最優先したみたいです。一か月もすればそれぞれ個室の方が用意できますから、しばらくは相部屋で我慢してください」

「俺たちに個室を用意してくれるのか。贅沢だが有り難いな」

 

 パンフレットからの情報だが、あの規模ならばベッドが一つないだけでかなり良さげな工房になる。

 

「それで、部屋はわかりましたけど、荷物は一回家に帰らないと準備できないですし、今日はもう帰って良いですか?」

「あ、いえ、荷物なら―――」

「私が手配をしておいた。ありがたく思え」

 

 というかそもそも、機体を持っていない奴を簡単に外に出すと言う発想があったのがおかしいだろう。

 

「ど、どうもありがとうございます………」

「まぁ、生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう」

「ん? 織斑先生、織斑はエロ本を持っていないんですか?」

「流石に年齢的にアウトだ」

「仕方ない。後でエロゲーを貸してやろう」

「年齢的にアウトだと言っているだろう!」

「自作したものをプレイすることに何か問題でも?」

 

 まぁ、させるのはアウトだろうけどな。だが事実上の女子校に通うならそれなりに耐性を付けておく必要はあるだろう。

 

「じゃ、じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は6時から7時。寮の一年生食堂を使ってください。ちなみに各部屋にはシャワーとバスユニットがありますが、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、お二人は今のところ使えません」

「え? 何でですか?」

 

 そうだそうだ! 改善を要求する!

 

「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」

「アホは貴様らだろう? 別に同じ時間に入らずとも、時間をズラして入らせるとは考えなかったのか? まさか女子が入った後に入って湯水を呑むかもしれないという変態的な思考をしたならば―――俺がその場で引導を渡してやらんでもない」

 

 はっきり言ってそんなことを考えられることこそ気持ち悪い。何故見ず知らずの奴の者を呑まねばならんのか。

 

「そうは言ったがな。聞き入れん奴もいる。特に桂木、お前がそうすると考えている者が数多くいた」

「…………そうか。是非そんな奴らは―――この世から消えてもらいたいな」

 

 怒りを露わにしてそう答えてやった。

 

「ま、まぁ、えっとそれじゃあ私たちはまた会議があるのでこれで。二人とも、ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃダメですよ!」

「そうだな。今日は馬鹿共の相手をして疲れたから真っ直ぐ帰るか」

「そうですね。ところで先輩、さっき言っていたエロゲ? 何ですが―――」

「幼馴染モノもちゃんと抑えてあるぞ?」

「違います!」

 

 どうやら織斑はエロに対する耐性はない様だ。



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#4 美しき同居人は……

 寮に着いた俺たちはそれぞれの部屋が違うのでお互い分かれたが、俺は地図を見落として迷っていた。

 

(……途中で曲がったのがマズったな)

 

 ナビを起動してこれまで通った場所と周囲の構図をセンサーで探知すると、何かが吹き飛ぶ音が聞こえた。

 

「―――って、本気で殺す気か! 今の躱さなかったら死んでるぞ!」

 

 織斑の声。近い様だ。

 とりあえず声の方に向かうと、織斑という珍獣が女子という檻に囲まれていた。

 

「か、桂木さん! 助けてください! このままじゃ箒に殺されてしまいます!」

「箒? ああ、お前の幼馴染か」

「そうです!」

 

 ………一体何をしたんだ、織斑は。

 しかし木製ドアを破るとは尋常じゃないな。ん? これは木刀で貫いたのか?

 跡をなぞっているとドアが開かれ、ドアが開く。

 

「……はい―――」

 

 俺の姿を見た瞬間、箒と呼ばれている奴は俺に木刀に振るう。それを回避して振り上げられて動きが鈍った木刀を掴んだ俺は体勢を少し崩している箒を引っ張って足で身体を持ち上げて投げ落とした。しっかり受け身を取るところをみるに、どうやらかなり鍛えられているようだ。

 

「な、何するんですか!?」

「それはこちらのセリフだ。突然木刀を振られたら誰だって倒しにいくさ。まぁ、織斑だと思ったら突然顔を腫らした男だから驚くのはわかるが、それならば可愛い悲鳴を上げるべきだろう」

 

 そっちの方がまだマシだ。いや、ホント。

 

「………大体、何で木刀でドアを貫く必要がある。それとも何か? 織斑がお前の入浴中に入ってきて、女だと思って出てみれば織斑でほとんど全裸な上に織斑が同居人と聞いて恥ずかしさが規定値を超えて八つ当たりか?」

「何故わかった!?」

「何故合ってるんだ………」

 

 割と適当に言ったんだけどな……。

 

 

「まぁともかくだ。これは当人たちの問題だ。俺はこれ以上関わる気はないからまずは話し合え。ああ、それと」

「何だ? まだあるのか?」

「流石にドアをどうにかしないとレズに覗かれる可能性があるぞ」

 

 そう忠告した俺は自分の部屋に向かった。途中、既に俺の話を聞いている奴らが俺を睨んで来たが、スルーした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鍵に書かれている番号とドアにつけられている番号を3回ほど確認する。よし、間違いない。

 ロックを解除してドアを開けると、そこには信じられない光景があった。

 

「おかえりなさい。ごはんにします? お風呂にします? それとも、わ・た・し?」

 

 なるほど。最初からこの手で来るか。面白い手だ。

 だが残念だったな。ここで織斑のような常人ならば間違いなく慌ててドアを閉めるか慌てふためくだろうが、生憎俺はこの程度の展開なんて慣れている。

 

「そうだな。今日は疲れたし先に風呂に入らせてもらうか」

「わかりました」

 

 どうやらすでに風呂は出来上がっているらしい。風呂に入る準備を整えた俺はバスタオルと着替えを洗面所に置いて風呂道具を中に入る。これから女子と暮らすのだからまずはシャワーを浴びよう。

 

(……………ふっ)

 

 床に敷かれている風船のマットは予想外だったな。

 

(とりあえず退けるか)

 

 先に身体を洗うつもりだったから風呂場すべてを敷くマットは流石に邪魔だ。椅子に座ってボディソープをタオルに付けて泡立てていると、さっき裸エプロンで現れた奴が乱入してきた。

 

()()を流しに来たわ」

「ありがとう。じゃあ頼む」

 

 タイミングが良いな。おそらく俺の行動から計算したのだろうか。

 

「じゃあ、失礼して」

 

 素早く立った俺は椅子を蹴り飛ばす。襲撃者と化したその女は上に飛んで回避し、ユニットに移った。

 

「死ね!」

 

 狙いはまごうことなく俺の心臓。肉を切らせて骨を断つ方法は使えない。だから、最小限移動して左脇で相手の腕を挟んで無理矢理ユニット内に飛び込んだ。鼻は摘まんで口は口で塞ぐ。どうせキスは慣れているだろうから―――舌を入れても構わんだろう?

 通常、人は鼻か口で息をする。その両方を奪った相手はジタバタと暴れているが構わず殺しにかかる。普通、ナイフを背中に挿そうとするが、ユニット内のお湯の中に入った時に封じさせてもらっている。

 すると、異変が起こった。

 急にお湯が俺たちの間に空気ができたのだ。すぐにそいつから離れて体勢を立て直している女に容赦なく腹部に蹴りを放つが水のバリアが阻んだ。

 

「す、ストップ! ストップ!」

「断る!」

 

 腹部にバリア。だが他はどうだ?

 口に拳を入れようとするが、水が俺に纏わりついて離れない。

 

「……はぁ……はぁ……ごめんなさい。でも試験は合格よ」

「クソッ……ISか」

「そう。あなたはISに対して無力。だから私が―――」

 

 ―――カッカッカッ

 

 襲撃者に3つの固定具が装着される。ちなみにそれは電子パターンを解析して乱す効果があり、俺を捕らえていた水が落下した。

 

「えっ? ちょっ!?」

「俺が最も好きなことは自分が強いと粋がっている女に対して「No」と断ることだ。そしてさらに心を折った上で肉体を支配し、完全な奴隷に落とすこと。さぁ、逆転劇の始まりだ」

 

 そう言って俺は襲撃者に近付き、顎を持つとその女は叫んだ。

 

「これは織斑先生に頼まれてやったことなの!!」

「……………ほう」

 

 涙目になっている襲撃者。バスタオルが少し落ちそうになっているので、洗濯ばさみを出してバスタオルの位置を少し上げて固定させ、襲撃者を放置してIS学園に電話をかけた。最初に出たのが山田先生だったので織斑先生に変わってもらう。

 

『何だ?』

「今しがた同居人に襲われて、そいつがアンタの名前を出したが?」

『何?』

 

 初耳のようだな。という事はブラフか。

 

『更識に変わってくれ』

「それは無理だな。今そいつは固定していて風呂場から一歩も動けない状態だ」

『ど、どういうことだ!?』

 

 本気で驚いている。そんなにか?

 

「すべて話す必要はないだろう。それで、アンタが同居人に俺を襲うように言ったのか? もしそうじゃないなら―――」

『そうじゃないなら?』

「証拠映像もあるからそれを政府―――いや、IS委員会にでも提出して大量の媚薬を送ってもらうことにしようか。たった一人の人生を潰して学園の生徒たちが安全になるんだ。ならば問題ないだろう?」

『待て桂木! 早まるな! 今すぐそっちに向かうから大人しく待っててくれ!』

「それをして俺にメリットでもあるのか?」

『わかった。私が何でも言う事を聞くから―――』

「じゃあ同居人を俺の物に―――」

『そればかりは本当にどうにもできないから止めてくれ!!』

 

 流石にブリュンヒルデにもできないことはある、か。

 

「まぁ良いだろう。ではこれは貸しにしておいてやる」

『……頼む』

 

 電話を切り、とりあえず今は―――同居人の拘束をさらに強化しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………信じられん」

 

 織斑先生が同居人の惨状に唖然とする。どうやらかなりの手練れだったようだが、こうなっては手も足も出ないだろう。が、ここでは敢えてボケておく。

 

「その言い草は酷いな。これでも我慢はしたんだぞ。まだ手は出していない」

「そういう問題ではない。何者だ、貴様は」

「親父と親友が天才というだけの一般人だ。それ故に少し恩恵を受けているだけで、大したものじゃない」

 

 ただ暴力から身を守るには暴力しかなかっただけ。………後は中二病だな。

 

「ともかくだ。更識の拘束を解除してやれ」

「………復讐とか言って襲って来る可能性もあるが?」

「その時は私が何としてでも止めるが、こいつの場合はそれはない」

「………そうか。それを聞いて安心した。拘束箇所を選ぶためとはいえ股を少し開いたり、舌を噛み切って死なないようにパンツを入れて猿轡を噛ませたり、目隠ししたり、反応が面白かったから太ももを突っついたりしたけど、止めてくれるなら問題ないな」

「自業自得だ! もう一度言おう。自業自得だ!!」

「むしろ太ももを突いただけで終わらせた俺の理性を褒めるべきだろ! 本当だったらR-18ルート………いや、妊娠ルートまっしぐらの所をそれだけで終わらせたんだぞ!」

 

 本当だったら欲望のままにしても良かったんだ。それを……それをなんとか抑えこんで。風邪をひかないように体を拭いてタオルを巻いて上着もかけてあげたんだ。だから今はそんなにあられな姿じゃないのに。

 

「…………いや、そういう問題じゃない。ともかく降ろすぞ」

「……待ってろ」

 

 まずは首、それから足を取って手首のを取る。これですべて解除できた―――が、

 

「…………」

 

 無言で浮かべる笑みがとても怖かったです。

 

 

 

「で、一体何が目的だ?」

 

 服を着せた俺は椅子にベッドに座って尋ねる。

 

「私はあなたの護衛に来たの」

「その護衛が俺を試したのか。自分がどれだけ動けば良いのかを試すため、か」

「そうね。護衛って言っても私は生徒会長という立場上、どうしても離れる必要は出てくる。だから、実力をはっきりさせてって思ったんだけど………」

「まさか自分のISが封じられるとは思わなかった、と?」

「………ええ。でも―――」

 

 どうやらバレているみたいだな。

 

「………そうだ。あれはたまたまうまくハマっただけのこと。実際、外で使っても効果はないしな」

 

 そもそも普通、ISの使用は外でやるもんだし、あれは試作機だしな。今回は本当に上手く行っただけだ。

 

「って言うか護衛なら必要ない。ISを寄越せばそれで良いだろ。どうせ女の乗り物だし大した期待はしていないさ」

「………それでも手続きに時間がかかる。だから更識を、と思ったわけだ」

 

 なるほどね。実際、俺も零司からもらっていた選別を使わなかったら危なかった。

 

「………OK、わかった。まぁ俺としてもISに詳しい奴がいてくれる方がありがたいからな」

 

 俺の知っている方とは違いはある。そういう意味では教師がいるのはありがたい。

 

「ところで桂木、お前はISを持っているのか?」

 

 織斑先生にそんなことを言われて俺は目を点にした。

 

「は?」

「……そうね。私もずっと気になっていたの。桂木君、あなたはあの武装をどうやって出したの?」

 

 更識を拘束した奴のことを言っているのだろうか?

 

「………量子変換技術って、一般していないのか?」

「そうだな。まだISの技術の範囲でしかない。だからこそ、持っている事自体が問題になってくる」

「親父が死ぬ前に残していた設計図とキットを元に作成しただけだよ。だから今じゃこの技術は俺ぐらいしか使えない。………だがまぁ、俺以外に一人使っている奴がいるが、そいつの情報を売るつもりは毛頭ない」

「………そう。でも大丈夫なの? もしその子のことが知れ渡れば狙われるんじゃ―――」

「すでにその界隈じゃ有名だし、武装は俺以上に持っているからな。そうそうねぇよ。それにアイツ、俺以上の人嫌いだから護衛とか逆に嫌いそうだ」

 

 ただでさえ俺という存在がいなくなったからな。もしかしたら研究員としてきた人間を全員を追い出して………いそうだな。

 

「そうか。では私は帰らせてもらおう。後は二人で楽しむと良い」

 

 帰る時にまるで初々しいカップルでも見るかのように訳ありな顔をしていく織斑先生を殴りたい衝動に駆られたがここは我慢しておく。

 部屋を出て行ったことを確認した俺は、改めて同居人になる更識に向きあ―――あれ? どこ行った?

 

「お待たせ。ごはんできたわよ」

 

 先に飯のようだ。時間を見ると6時過ぎているし、頃合いと言えば頃合いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 就寝前。実力を買われて悠夜の同居人なった生徒会長の更識楯無は、勉強をほどほどにして先に寝た悠夜にそっと近づく。

 

(………相変わらず、可愛い寝顔ね)

 

 ふと、彼女は昔一緒にいた記憶を思い出した。

 

 小さい頃の楯無は今とは違ってとても臆病な少女だった。髪と目の色が異質だったという事もあり虐められる日々が続いていたある日、一人の少年が楯無に話しかけてきた。

 

「一緒に遊ばない?」

「え……?」

 

 唐突に言われた楯無は呆然とした。しかも状況的に言えば虐められている最中にである。

 

「だってさ、君もこいつらみたいなのと遊んだってつまらないでしょ? だったら俺と遊ぼう?」

「……………うん」

 

 楯無を頷くと、おそらく楯無にぶつけようとした雑巾が少年の顔にぶつかる。

 いじめっ子たちがその光景を見て笑ったが、当人にとってはそんな事態じゃない。

 

「きったねぇ!」

「今日からこいつは「おぶつマン」だ!」

「おいおぶつマン! 汚ぇからどっか行けよ」

 

 それを聞いた少年は笑みを浮かべて楯無を連れて教室から出て行った。

 

 

 

 授業開始のチャイムが鳴る。楯無は戻ろうとするが、少年がそれを止めた。

 

「別に帰らなくてもいいよ。小学生レベルの勉強なんてすぐに追いつくから」

「でも………」

「それに俺たちがいないことで今頃先生が探し回っているからおあいこだよ」

 

 実際その通りだった。

 担任の教師は慌てふためき、手が空いている教師に捜索を頼んでいた。

 

「ねぇ………ちゃん」

「なに?」

 

 少年は楯無に抱き着く。そして優しく頭を撫でて小さく言った。

 

「しばらくこのままでいさせて」

 

 そう言われても楯無は呆然としていた。何せこんなことなど家族以外には一度もされたことがないからだ。

 しばらくすると頭を撫でられなくなり、少年は寝息を立てていた。

 

(………どうしよ)

 

 抱き着いたまま寝てしまった少年を引き剥がそうとするが、服を強く握りしめて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 見つかった二人は怒られた。

 家族に話が行くと聞き、楯無はどんよりとなったが少年は平然としている。少し恨みつつあったが、これから受ける授業の教科書を開くとそこには落書きがされていたのだ。

 

「どうしたの?」

 

 泣きそうになっている楯無を見て、少年は近付いてきて中を見ると、すぐに離れていく。そして、自分の教科書を持って現れた。

 

「これ使いなよ」

 

 そう言って楯無と自分の教科書を入れ替えた少年はそのまま席に戻る―――と見せかけて現れた教師を見て服を引っ張った。問題と関わることを嫌がった素振りを見せたが、教科書を見せたことによって唖然とした。

 そのクラスで虐めが発覚すれば、教師たちはできるだけ穏便に済まそうとする。

 教師は親を呼び出して事情を説明して子どもを怒らせる。そして怒られた子どもは怒りの矛先を少年に向けた。

 少年は虐められた。楯無は何度か止めようとしたが、少年に言われてただ見守っていた。

 

 ―――そんなある日、事件が起こった

 

 上級生たちがしていた組体操を真似て彼らも真似をし、一番重いところに少年を配置させたが少年は倒れて総崩れとなった。そのことに激怒したリーダー格の男が少年を「ちゃんとしろよ、へぼ!」殴ったのである。

 これだけならば怒りに身を任せて殴った………というだけで終わるだろう。言い方が酷いが、本来ならそこで少年が我慢すれば終わるはずだった。

 

「あ………う…………」

「何か言った?」

 

 少年は、とうとう切れた。

 そもそも少年はこれまでずっと虐められていたのだ。所々怪我をしていたが、父子家庭でありその父親はあまり連絡が付かない状態にあったのだ。運が悪いことに、少年の親戚は誰一人いない。

 だから今まで抗議する人間がいてもすべて少年が諫めてきたのである。

 

 ―――この日のために

 

 キレた少年はリーダー格の少年の口に雑巾と牛乳を口一杯に入れて、ガムテープで閉めた。しかも動こうとすれば常に股間を蹴るという行動に出たのである。

 少年を止めようとした者もいたが、椅子が近くを通れば誰だって黙ってしまう。

 

 そして少年は、リーダー格の少年を倒してその上で跳ね始めた。

 

「何度も嫌だって言ったよね? その結果がこれだよ、お馬鹿さん」

 

 とうとうリーダー格の少年は吐き、辺りに汚物を撒き散らした。少年は案の定回避し、わざとらしく言った。

 

「おいブタ。ここは人間様の部屋だぞ。吐くなよ」

 

 そう言って少年は蹴った。ひたすら蹴った。邪魔する奴は―――容赦なく汚物の中に入れた。

 これは、ある日の悲惨な小学生たちの思いで。楯無は引いたが、本当はざまぁみろと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………確か、あの時は凄いことになったっけ)

 

 やれ施設に入れるべきだとか喚く大人たち。少年は反省文を書かされたが、それを教育委員会に提出して虐めが露見。さらに一部がマスコミに流れて大きな騒ぎに発展した。

 もっとも、それによって楯無は女子校に通わされたが、しばらくはその少年と―――悠夜と文通をしていた。

 

「…………ごめんね」

 

 彼女の口から出たのは謝罪。何故なら彼女は途中で文通を止めたから。理由は彼女が普通の人間と違うからである。

 

 ―――暗部

 

 特に楯無の家は関東の中でもかなりの利き腕であり、男が生まれなかったこと、そしてISが世に出たことによって楯無が家訓を継ぐことになった。実際「楯無」というのも襲名であり、本名でない。

 だからこそ会うのを、これ以上関わるのを止めようと思ったのだ。

 

(………本当は、色々なことをしたいんだけどね)

 

 だが今となってはそれは叶わない。それに、表舞台で有名になった今の悠夜にとって楯無は邪魔になる可能性が高い。

 やがて時間になったこともあり楯無はベッドに入って電気を消した。



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#5 似合う似合わないは問題ではない

さて、タイトルは何を示唆しているでしょうか?





※財布は犠牲になったのだ。最新ゲーム機という犠牲のな。


 眼が覚めたら4時半頃。俺は服を着替えてランニングをした後にシャワーを浴びてもう一度寝る。そして起きたら朝食の時間だ。

 着替えた俺は早速食堂を覗くと既にかなりの席が埋まっているようだ。

 

(………にしても、護衛の割にはかなり早くいなくなるな)

 

 まぁ大して期待はしていないが、更識楯無は昨日の今日で「仕事があるから先に出る」と言って部屋を出た。外から悲鳴が上がったけど死体がなかったので気にしないことにしたが、あれは一体なんだったんだろうか?

 

「なぁ……」

「………」

 

 そして俺の前では痴話喧嘩をしている二人。織斑一夏となんとか箒さんである。何故「なんとか」とか言っているのかって? 姓を知らないからさ。

 この二人、席がないからって俺のところに来てはさっきからこんな調子である。

 

「なぁって、いつまで怒ってるんだよ」

「………怒ってなどいない」

「顔が不機嫌そうじゃん」

「生まれつきだ」

 

 とまぁこんな感じのやり取りがされているが、状況がわからない俺には織斑が固い壁を押したり引いたりしているようにしか見えない。

 

「箒、これ美味いな!」

「………………」

 

 同じメニューを食べているが、さっきから会話が続いていない。大丈夫か、こいつら。

 

「どうやら同居人とは上手く行っていないようだな、織斑」

「………ええ。まぁ」

「…………貴様には関係ないだろう」

 

 そう言って俺を睨む箒さん。なるほど。そういうことか。

 

「おい箒、相手は年上なんだし、ちゃんと敬語をだな―――」

「ふん。このような下賤な男に敬語を使う気になれん」

「箒!」

「落ち着け織斑。そんなことよりだ―――お前はちゃんとダイブしたのか?」

 

 それを聞いた織斑が固まる。箒さんはわかっていないようだ………ということは。

 

「やってないのか?」

「い、いや、それは無理ですよ! もっとマシな奴はなかったんですか!?」

「後入れたのは、「山田先生を押し倒す」と「織斑先生をぶん殴る」だったかな」

「まともなのがない?! って言うか何で千冬姉をぶん殴る!?」

「だってそっちの方が面白そうだし」

「面白そうとかって理由で決めないでくださいよ!! 仮にもあれでも結婚前の女性なんですからね!?」

「そう言えばお前の姉貴って男いねえの?」

「……………さぁ。そう言えば聞いたことありませんね」

 

 俺と織斑は真剣に考える。いや、本当にあの女が男に惚れている姿なんて………考えただけで気持ち悪い。

 

「お、織斑君、桂木……さん。隣いいかな?」

 

 変な想像をしていると誰かが話しかけてきた。さっき俺のさん付けに時間がかかったのは、おそらく俺が嫌いだけどとりあえず付けとけみたいな感じだろう。

 

「ああ……別に良いけど」

 

 そう言うと一人は苛立ち、3人はガッツポーズをした。目的達成という所だろう。

 すると一人だけこっちに来て俺の席に座る。

 

「ああ~っ、私も早く声かけておけば良かった……」

「まだ、まだ二日目。大丈夫、まだ焦る段階じゃないわ」

「昨日の内に部屋に押し掛けた子もいるって話だよー」

「なんですって!?」

 

「……マジで?」

 

 周りの騒ぎ声に聞こえた言葉を確認すると、織斑は頷いた。なんというか……ご愁傷様?

 ちなみに俺の部屋には一人である。なお、そいつは更識が対応すると消えた。

 

「うわ、織斑君って朝すっごい食べるんだー」

「お、男の子だねっ」

「俺は夜少なめに取るタイプだから、朝沢山取らないと色々きついんだよ。……っていうか、女子って朝それだけしか食べないで平気なのか?」

 

 新たに現れた女子たちの分を見て織斑が尋ねる。それは聞かない方がいいんだけどなぁ。

 

「わ、私たちは、ねぇ?」

「う、うん。平気かなっ?」

「お菓子よく食べるし!」

 

 俺の隣にいる女子が元気よくそう言った。正面に座る織斑が爺臭そうな事を考えてそうな顔をしている。

 

「………織斑、私は先に行くぞ」

「ん? ああ。また後でな」

 

 気が付けば篠ノ之は食事を終わらせており、素早くどこかに行ってしまった。

 

「織斑君って、篠ノ之さんと仲が良いの?」

「お、同じ部屋だって聞いたけど……」

「ああ、まぁ、幼馴染だし」

 

 ……それ、あんまり気安く言わない方が良いだろ。

 もし篠ノ之が質問攻めにされたら逆ギレして相手を一方的に潰すイメージしか湧かない。

 

「え、それじゃあ―――」

 

 何かを聞こうとした女子の声をなんと織斑先生が遮った。

 

「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よく取れ! 遅刻したらグラウンド10周させるぞ!」

 

 その言葉に織斑の会話に聞き耳を立てていた奴らは急いで食事に戻った。まぁここのグラウンドって1周だけでも5㎞あるし、気持ちはわからなくもない。

 

(………それにしても、()()()か)

 

 まさかなと思いながら俺も食事を進めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イケメンとは、得ばかりではないようだ。

 2時限目まではもちろん、3時限目の時点でさらに追い込まれた織斑は女子たちから質問攻めされていた。しかも有料。やったね織斑。その金を巻き上げられるよ。

 

(………そして篠ノ之は遠くから静観………いや、動けよ)

 

 そこは華麗に攫えよとは思う。昨日のひと悶着で女子から接触がない俺にとって二人がどうなるかは昼ドラ気分で見ている。

 

「千冬お姉様って自宅ではどんな感じなの!?」

「え? 案外だらしな―――」

 

 織斑が殴られたけど流石に同情できねえわ。自業自得だ諦めろ。

 

「休み時間は終わりだ。散れ」

 

 まだ5分程あるけどな。それにしてもだらしないのか。今度あの女の部屋のチェックでも―――

 

「桂木、もし余計な事を考えているなら―――死ぬことになるぞ?」

 

 できなくはないが、命は大事に。俺は素手で裏系の事務所を何十個も潰して回る化け物じゃないからな。

 

「ところで織斑。お前のISだが準備まで時間がかかる」

「へ?」

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

 

 ああ。そう言えばそんな話をしていたな。俺のは発覚した時期が時期だからまだ準備できていないとかなんとか。

 

「せ、専用機!? 1年の、しかもこの時期に!?」

「つまりそれって政府からの支援が出るってことで……」

「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」

 

 ……やはり女子でも専用機って憧れるのか。でもさぁ、ISの専用機持ちって大体は国からの支給品で結果を出さないと切られるんだぜ? その点、まだどこにも所属がないロボットのならそう簡単には切られない。後は、わかるな?

 なんて一人で馬鹿な事を思っていると、織斑の前にオルコットが現れた。

 

「それを聞いて安心しましたわ。クラス代表の決定戦、わたくしとあなたとでは勝負は見えていますけど、流石にわたくしが専用機、あなたが訓練機ではフェアじゃありませんものね」

 

 …………いや、お前………。

 オルコットの発言に俺は心から引いた。

 

「お前も専用機ってのを持ってるのか?」

「ご存じないの? よろしいですわ! 庶民のあなたに教えて差し上げましょう」

 

 自信満々に言うオルコット。そんなことよりも俺は声を大にして突っ込みたいことがある。

 

「このわたくし、セシリア・オルコットはイギリス代表候補生。そして現時点で専用機を持っていますの」

 

 …………それって、いざって時に切り捨てられるとかって理由じゃないのか?

 

「世界でISは467機。その中でも、専用機を持つ者は全人類の中でもエリート中のエリートなのですわ!」

「よ、467機……? たった……?」

 

 織斑。驚くところはそこじゃない。

 

「って言うかそれ以前に、オルコットは素人相手に専用機で戦うつもりだったのかよ。やっぱこれ茶番じゃねえか」

 

 小さくガッツポーズしたが、空気は凍った。

 

「し、仕方ありませんわ! わたくしにはとても重要な―――」

「あー、はいはい。わかってますよオルコットさん。どーせアンタは怖がりでビビりで素人相手にも専用機を使わないと戦えないんですね。かわいそ……ぷっ」

 

 オルコットは顔を赤くして俺を睨む。

 

「だ、大体あなた、昨日と言い今日と言い、碌に喧嘩もできずにただ殴られるだけのサンドバッグの癖に図々しいですわ! 口だけで何もできないんですの!?」

「そのとーり。だから俺はアンタの後ろでさっきから見下ろしている鬼に対して何にもできないんですわ」

「へ?」

 

 オルコットの脳天に出席簿がめり込んだ気がした。

 

「さっき私は言ったはずだが?」

「………わ、わたくしは―――」

「何だ?」

「い、いえ、何でもありませんわ……オホホホホ……」

 

 軽く笑って俺の方を睨みながら自分の席に移動する。

 

「オルコットが先程言った通り、ISは467機しかない。そのこともあって本来ならIS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられないが、お前の場合は状況が状況なのでデータ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」

「……な、なんとなく……」

 

 たぶん織斑は今言われたことをそのまま頭にセーブしているかもしれない。

 

「え? じゃあ桂木さんにも専用機が?」

「いや、桂木の場合は動かした時期が時期だからな。それにだ………桂木が希望した機体は技術不足で作成が難しいという話だ」

「ちょっと待ってください! まさかあの程度のことで音を上げるんですか!?」

「………あの程度、か。BT兵器にマルチロックオンシステム、さらには可変機構を要求するなど無茶な注文にも程がある」

 

 いや、待て待て待て。おかしいだろ? 何でどれもできていないんだよ。

 

「な、何ですって!? 織斑先生、この男がそれらを要求したというのは本当ですか!?」

「………本当だ。おいオルコット―――」

 

 まさかの技術不足と言われた俺は頭を抱えていると、急に机が叩かれた。

 

「あなたふざけていますの!? よくそんな無茶を言えましたわね?!」

「至極真面目に聞いたが? しかし流石は女が先導するクソ機体共だ。黒鋼1機すらまともに作り上げられないなんてありえねえよ。そんなんでよく女が優れているなんて言えたわ。個々じゃ女が優れているかもしれねえがロマン力は圧倒的に足りてねぇじゃねえか」

 

 俺は過去にSRs―――スーパーロボッツという自分たちの技術で作り上げたプラモと設定でデータを作り上げて戦うゲームの大会に優勝している。その時の機体の名前が「黒鋼」だ。

 実はその機体にはある意味未来を映し出す凶悪なシステムが搭載されているが、流石にそれは要求しなかった。

 

(………やっぱり整備科志望して正解だな)

 

 確かに俺は凡人だが、仮にも天才の息子で天才の親友なんだ。俺の環境が伊達だと言わせてたまるか。

 

「あ! あの! 先生! 篠ノ之さんってもしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか!?」

 

 悪くなった空気を戻すためか、1人の女生徒が織斑先生に尋ねた。

 

「そうだ。篠ノ之はアイツの妹だ」

 

 驚くオルコット、そして教室は湧いた。どうやら篠ノ之があの篠ノ之束博士の妹だという事が珍しいらしい。

 

(………でもなぁ)

 

 それは当人にとっちゃはっきり言って迷惑だ。だから―――

 

「あの人は関係ない!」

 

 叫ぶ気持ちは心から理解できた。

 

「………大声を出して済まない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」

 

 そう言って篠ノ之は窓の外に顔を向ける。これ以上はこいつらと関わり合いたくないという意思表示だろうか。

 正直、その気持ちはわかる。たぶん、これまでの価値観を大きく変えたから俺よりも恐ろしい目に遭っているのだろう。

 

(………ある意味、似た者同士か)

 

 そう思いながら、俺は織斑先生が山田先生に進行を渡したのを聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルコットがまた織斑の方に言ったが、俺はわざわざ自分から狩られに行く趣味はないので先に食堂に向かった。しばらくすると織斑が篠ノ之の手を握って現れたのが話題になった。

 

「桂木さん、一緒に座っても良いですか? その、箒もいますけど」

「別にいい。あと織斑」

「何です?」

「俺は篠ノ之に詮索するような趣味はないぞ。確かに篠ノ之束がしたことは偉業と言えば偉業だが、だからと言って妹を通じて姉に機体を作れと頼む気は毛頭ねえよ。安心しろ。…………まぁ、仮に―――仮に篠ノ之の姉の背が低くて甘え上手で抱きしめたくなるほど可愛いというならやぶさかではないがな。紳士の嗜みとも言っていい」

 

 むしろ失礼だと言っておこう。

 2人は引いてはいるが、どこか安堵したような雰囲気を出す。

 

「そう言えば箒、ISのこと教えてくれないか? このままじゃ来週の勝負で何もできずに負けそうだ」

「…下らない挑発に乗るからだ、馬鹿め」

 

 それに関しては大いに同意する。

 

「まぁ、織斑って簡単なことですぐにキレるよな。オルコットの発言なんて然るべき場所に送れば即刻本国に強制送還した後に全財産没収されて路頭に迷って獣たちに回されるルートなんて簡単に構築できたのに」

「…………貴様はそう言うのが好きなのか?」

「言っておくが、ロリ系は実年齢が大人ならそういうルートに行くが、基本的に俺は紳士だからしても頬にキスぐらいだぞ?」

 

 そこは勘違いしてもらっちゃいけない。

 ロリコンは未成熟な子どもに手を出そうとする犯罪者予備軍という認識が強いが、正しきロリコンは精々見守る程度であって性的暴行を加えることはまずしない。むしろ、同士討ちなんて何のその。最悪とあるボールすら破壊する。

 

「とまぁ、話は脱線したが……織斑、言っておくが篠ノ之は―――」

「ねぇ。君って噂の子でしょ?」

「篠ノ之はISに詳しくないぞ」

 

 わざわざ俺の言葉に被せてくるとはいい度胸だ。潰そう―――と思って振り向くと3年生だった。

 

「……はぁ、たぶん」

 

 おい織斑。適当にあしらえよ。篠ノ之の機嫌が悪くなったぞ。

 

「代表候補生の子と勝負するって聞いたけど、ほんと?」

「はい、そうですけ―――」

「織斑」

 

 織斑の意識をこちらに向けさせると、3年の女は俺を睨んだ。

 

「どうせこの女はお前に「ISを教えてあげる」という話をしに来たが、止めておけ」

「何でですか!? とても良い人じゃないですか!」

「……甘いな織斑。現実の女は男のある部分にのみ忠誠を誓わない奴以外は基本的に下心しかない」

 

 誓ったところで下心しかないがな。

 

「は? 何言ってるのよあなた―――」

「そもそもおかしいとは思わないか? 何故この女はわざわざお前にだけ話を持ち掛けてきたんだ? メリットがあるからに決まっているだろう。だとすれば―――ターゲットは織斑千冬かお前自身だろうよ。「教えたんだから代償を払え」とか言って後から色々と要求してくる」

 

 そう言うと織斑は頬を引き攣らせた。

 

「そ、そんなわけ―――」

「織斑。現実を見ろ。そして篠ノ之とその女のおっぱいを見比べてみろ―――篠ノ之の方が大きいだろ?」

「大きさなんて関係ないわよ!?」

 

 その意見に関しては同意しよう。だがな、それとこれとは話が別だ。

 

「というわけだ、先輩。とっとと帰って黒幕の乳でも吸ってな」

「ふざけんじゃないわよ! 大体何なのよあなた! あなたには関係ない―――」

「聞いたか織斑。俺はちょっと口が回るだけの哀れな子羊という名の被害者Aだというのにこの言われようだ。織斑姉弟とオルコットのせいで茶番でサンドバッグを演じさせられると言うのに………なんて酷い女なんだ!」

 

 そう言われると、女は何も言えなくなる。

 もしここで口を開いて余計な事を言ったら織斑からの信頼はなくなってしまう。つまり八方塞がりなのだ。

 

「きょ、今日はこれで!」

 

 そう言って先輩はどこかに消えてしまう。それを確認した俺は篠ノ之にウインクすると、篠ノ之はため息を吐いた。

 

「………今日の放課後、剣道場に来い。腕が鈍っていないか見てやる」

「え? ……いや、俺はISの事を―――」

「見てやる」

「………わかったよ」

 

 ………織斑よりも先に篠ノ之に女性らしさが必要なんじゃないかと思ったとある昼休みだった。




そう、合図に気付かせるのが重要である。


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#6 一周回ってやはりエロ

 放課後、織斑と篠ノ之は一足先に剣道場に向かったが、俺は俺。クラスの兄貴分としてやるべきことがあるのだ。

 

「織斑先生、これ、ネット入力じゃ無理なんですか?」

「………気持ちはわからなくもないが、ISが貴重だという証拠だ」

「デスヨネー」

 

 実際、ISの管理はかなりシビアだからなぁ。無断使用禁止とかあるのだから、これをスポーツとして扱っている今の国はおかしいとしか思えない。

 

「ところで、何故織斑の分も申請を出した? お前とアイツは敵同士だろう?」

「特に理由なんてありませんよ。ただ行くならついでにって思っただけです」

 

 通るかどうかわからないんだ。だったらしておいても問題あるまい。というか実験の一つでもあるしな……俺と織斑ならどちらを優遇するという。

 

「じゃあ、俺は行きますね」

「ああ」

 

 さて、とりあえず織斑に報告はしておくか。

 

 

 

 

 

 剣道場に足を運ぶと人だかりができていた……が、手合わせは既に終わっていた。

 

「どうしてここまで弱くなっている!?」

 

 そんな叫び声が外まで聞こえた。

 食堂での会話から織斑が経験者だっていうのは察していたが、どうやら篠ノ之が想定していたよりも織斑は弱かったようだ。

 

「じゅ、受験勉強をしていたから、かな?」

「……中学では何部に所属していた?」

「帰宅部。三年連続皆勤賞だ」

 

 爽やかな笑顔でそう答える織斑だが、残念ながらそれは逆効果だと言わざる得ない。

 

「鍛え直す! IS以前の問題だ! これから毎日、放課後3時間、私が稽古を付けてやる!」

「え、それはちょっと長いような……って言うかISの事をだな―――」

「だから、それ以前の問題だと言っている!」

 

 ………そろそろ突っ込んでおくか。

 

「あー、しの―――」

「情けない。ISを使うならまだしも、剣道で男が女に負けるなど……悔しくはないのか、一夏!」

「そりゃ……まぁ、格好悪いとは思うけど……」

「格好? 格好を気にすることができる立場か! それとも、なんだ。やはりこうして女子に囲まれるのが楽しいのか?」

 

 少し待とう。ここで口出しはマズいと俺の本能が叫んでいる気がする。

 

「楽しいわけあるか! 珍動物扱いじゃねえか! その上、女子と同居までさせられてるんだぞ! 何が悲しくてこんな―――」

「わ、私と暮らすのが不服だと言うのか!!」

 

 とりあえず止めよう。そうしないと織斑が死ぬ。

 

「落ち着け篠ノ之。お前はすぐに血が頭に昇り過ぎる。少し冷静になれ」

「黙れ! お前は引っ込んでいろ! これは私と一夏の問題だ!」

「………そうか」

 

 俺は篠ノ之を胸を掴んで揉みしだく。今回は緊急事態故に片方のみを揉んだが、ちゃんと揉む時は両方を揉んであげよう。

 

「き、さまぁッ!!」

「織斑、借りるぞ」

 

 竹刀を蹴り上げてつかみ取り、俺の頭に振り下ろされる竹刀を回避した。

 

「そう言えば、高校からは「突き」はアリだったな」

 

 首元に竹刀を向けると、篠ノ之は攻撃を止めた。

 

「くっ………」

「生憎、剣の扱いは少し心得ている。剣道は防具が邪魔で苦手だがな」

 

 中二病真っ盛りの時は何を思ったのか独学で剣とか銃とかの特訓していたからなぁ。今考えると本当に何を考えていたのかわからないが。

 

「落ち着いたか、篠ノ之」

「………ああ」

「織斑だって悪気がないんだ。とは許せないから間を取って―――これで殴れば良い」

 

 そう言って俺は篠ノ之にハンマーを差し出した。

 

「こ、これは………」

「その名もクエイクハンマー。地面を思いっきり叩くと震度10クラスの大地震を起こすことができる。それで織斑を叩け」

「そんなことできるか!」

 

 いや、剣道経験者の攻撃も似たようなものだぞ。とりあえずハンマーを消して、と。

 

「大丈夫か、織斑」

「……スゲェ。箒をあんなに簡単に抑えるなんて………」

「もっと本格的には潰すよりも恥部を攻めた方が効果的だぜ」

「いえ、そのやり方はいいです」

 

 そんなことをすれば織斑がすぐに終わってしまうからだろう。

 だが実際それが効果的だ。奴らも奴らで弱い男に攻められなんとも言えなくなる。

 

 とりあえず俺は2人から状況を聞き、織斑が弱くなっているという話になった。それで篠ノ之の主張に繋がったわけだが―――

 

「篠ノ之、流石に今後の放課後すべてはマズい」

「ですが、一夏は剣道経験者です。銃よりも効果的です」

「それはそうだ。だから―――剣道ではなくチャンバラをしてもらう」

 

 そう言うと篠ノ之の視線が鋭くなる。まぁ剣道をしている者としてはあまり確執を汚すようなことはしたくないだろう。

 

「文句を言いたい気持ちはわかる。でもこれは織斑がオルコットに勝つための特訓なんだ」

「しかしだな……」

 

 さらに文句を言おうとする篠ノ之を織斑から少し引き離して言った。

 

「篠ノ之、良いことを教えてやろう」

「何だ?」

「人は疲れすぎたら起きない。だから、その隙にベッドに潜り込んでやりたい放題してやれ」

 

 途端に篠ノ之の顔は赤くなった。

 

「き、ききき……気付いて……」

「当然だ。むしろお前の態度は察しが悪い奴でも大体気付く。だからな―――一緒に織斑が動けなくなるまで虐め抜こうではないか」

「はい!」

 

 こうして俺は篠ノ之との間に歪んだ友情を芽生えさせた。

 

「!? なんか、寒気がしたぞ………」

 

 織斑がなんか呟いていたけど、無視だ無視。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして一週間が経過した。

 俺の指示通り、日曜日は8時には寝かせて朝も寝かせると授業が付いて行けないことで頭を悩ます程度で概ね回復したようだ。

 

「………なぁ、箒」

「何だ、一夏」

 

 二人の関係もすっかり元通り。だが篠ノ之は上手くできなかったようだが、早い内に決着を付けなくては後からだと面倒なことになる。

 

「ISの事を教えてくれる話はどうなったんだ?」

「いや、それくらい勉強しろよ」

「帰ったらシャワー浴びて倒れてましたけど?!」

 

 でも体力は付いたのだから別に構わんだろう?

 

「そもそも事の始まりはお前とオルコットなんだ。激しい大立ち回りをしたとはいえ、巻き込まれた俺が手伝ってやったんだから後はお前の努力次第だ。それを文句を言って篠ノ之のせいにするのか? ええ?」

「そ、それは………」

「可哀想に。なんだったら今日から織斑と住まずに俺と住めばいい。大丈夫。俺は優しくて激しいし、飽きさせはなしない。精々15歳か16歳の母が誕生するだけだ」

 

 セットが崩れないように優しくなでる。篠ノ之は顔を引きつらせるだけで止まったが、織斑が文句を言った。

 

「それは流石にマズいでしょ!?」

「何を言うか、お前は。戦国時代とか、むしろ昭和の戦争時の貴族同士だったらそれが普通だったんだぞ。それにだ、篠ノ之だったら良い母親になってくれそうだとは思わないか? 主に胸とか」

「そ………それは……そうかもしれませんけど……」

「…………」

 

 あ、篠ノ之の顔が赤くなった。

 3人で談笑をしていると、自動ドアが開いて山田先生が入ってきた。

 

「お、織斑君織斑君織斑君!」

「山田先生、落ち着いてください。はい、深呼吸」

「は、はいっ。すーはー、すーはー」

「はい、そこで止めて」

「うっ」

 

 存外、こいつもSのようだな。

 

「見ろ篠ノ之、織斑の奴、山田先生だったら勝てるからって遊んでいるぞ」

「不謹慎ですね」

「しかもさっき視線が明らかに胸だったな」

「……………」

「それ以上大きくなっても気持ち悪いだけだから落ち着け」

 

 大体、今の時点で身体のバランスが良いからそれ以上大きくする必要はない。

 

「………ぶはぁ! ま、まだですかぁ?」

 

 山田先生で遊んだからか、織斑が殴られていた。

 

「目上の人には敬意を払え、馬鹿者」

「千冬姉」

 

 それによってまた叩かれたがいつもの日常だ。止める方が馬鹿らしい。

 

「そ、それですね! 来ました! 織斑君の専用IS!」

「織斑、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ」

「この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えてみせろ、一夏」

 

 約二名ほど無茶を言っているなぁと思いながら俺は流れに身を任せた。

 

「え? え? なん―――」

「「「早く!!」」」

 

 3人に急かされて織斑は出てきた機体に向かう。それを見て俺は先にピットから出て行こうとした。

 

「待て桂木。貴様はここに残れ」

「………え?」

 

 あれ? 俺はてっきり「公平にするために別の場所に行っておけ」と言われるかと思ったが。

 

「なに。お前は訓練機で奴らは専用機。ならばそれなりの平等さは必要だろう」

 

 ……確かにそれもそうだな。

 機体スペックで言えば結局はその人間用にチューンされた機体の方が上だしな。聞いた話じゃ、同じ機体でも訓練機として使うよりも専用機として運用する方が戦いやすいそうだ。

 

「だが断る」

 

 まぁ俺はだからと言って奴らの言いなりになる気はないが。

 

「悪いが女の乗り物とはいえISは兵器でありロボだ。俺は織斑よりも人が操縦する機体との戦い方は心得ている。観戦は必要ない」

 

 そう言って俺はピットを出る。織斑が少し寂しそうに俺を見ていたが、無視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 量子変換技術はとても便利なものだ。

 必要なものを選別するという手間はあるが、たくさん買ったところで荷物が鮮度を保たれた状態で保存される。

 

 だからこそ俺はバイト先でも高評価を受けることがあった。特にピザ屋のバイトでは重宝していたしされていた。

 

(どこでもこんな極楽エリアを作り出せるって言う意味では本当に便利だよね~これ)

 

 更衣室でテントを出して出番が来るまで時間を潰していると、テントの上部に設置されているセンサーから報告が入る。更識だ。

 

(………開けるか)

 

 さっきまで開いていたウインドウを閉じてテント周辺に張っていたバリアを解除すると、数秒してから更識が入ってきた。

 

「……………ねぇ、あなた一体何者なの?」

「何者って言われても「ISを使えるだけの高校生です」としか答えるしかないんだが? これはすべて親父が使ってたものをパクっただけだし」

 

 まぁ、テントの中に入ったら1kの広さがあったら誰だって驚くはな。

 なお、こういうものを使えるのは家族でも俺だけだ。死亡日前日に俺宛てに届いて、義母にも義妹にも見せていない。

 

「褒めるべきは俺じゃなくて親父だよ。一体どんな技術を使えばこんなものを作れるのやら………」

「…………そう」

 

 俺がベッドに座っていたからか、更識はまるで誘っているのか俺の隣に座る。

 

「……更識、お前」

「何よ」

「せめて隣座るなら半裸で―――」

 

 ビンタされそうになったが、手加減してくれたのかなんとか回避できた。

 

「…………昔はまだ大人しかったわよ」

「何か言ったか?」

「別に。何も」

 

 何かを隠す更識。まぁ本人が話し気がないなら別に良いや。

 

「でも大丈夫なの? これからあなたが戦うのは代表候補生。素人と戦うのと訳が違うのよ?」

「………さぁな。やってみなきゃわからないだろ、そればかりは」

 

 結局、俺も織斑もISでの訓練はできなかった。

 たぶん織斑はこれから専用機が来るから余計な癖を付けてほしくなったから、そして俺は単純に貸したくなかっただろう。だが織斑千冬が動くならば、訓練機とはいえ機体は貸し出される。

 

「だから更識、一発やらせて」

「殴っていいかしら?」

「冗談だっての、冗談。そんなに怒らなくていいじゃん」

 

 俺は両手を挙げて降参のポーズを取って更識を宥めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が彼に最初に抱いたのは、「変わった」ということだった。

 男らしくなった。同時に狡猾で残虐性が増えたとすら思う。

 

(………やっぱり、文通を止めたのがまずかったかな……)

 

 私があることがきっかけで暗部の長になると決めた日、「普通の女の子」としてのすべてを捨てた。

 今までの友達との交流はもちろん、妹も敢えて突き放してISに関わらせないようにと思った………結果的には代表候補生になって専用機はまだ作られていないけど専用機持ちになっている。

 

 そして今度は、私の憧れの人との再会。……最初は少し嬉しかったけど、でもかつての思いは段々と冷めてきている。

 

(……違う。これで良いのよ)

 

 悠夜君が私の事を忘れているようなのはショックだったけど、今の立場ならむしろありがたい。もし彼が私のことに気付いたとしてもすぐに離れる。

 

(………本当に、損な役回りね)

 

 好きな人と幸せな家庭を築くことすら難しい。たまに妹の立場が羨ましくなるほどだ。

 でも、私が犠牲にならないと………あの子があんな目に遭うのは嫌だ。

 

「………ねぇ、桂木く―――」

 

 気が付くと私は彼にお姫様抱っこされていた。

 

「……どういう状況?」

「テントを消すと家具もすべて消えるんだ。敢えて言わなかったのはこういうチャンスがあるから」

 

 …………私は、彼が好きだ。

 揺らぐ気持ちもある。拒絶したい気持ちもある。でも本当は……普通の人生を歩めたならとずっと思う。

 

「あ、そうだ―――」

 

 ずっと顔を伏せていると、彼は私の顎を掴んでキスをした。

 私の頭は突然のことに限界を迎え、為されるがままに舌を絡めさせられる。

 

「!?…!?」

「じゃあ、大ボスを気取った雑魚ボス狩りに行って来る。美味しい料理を作って楽しみにしてくれよ、()()

 

 ―――カタナ

 

 そう呼ばれた私は、不思議は幸せな感じがした………って、ちょっと待って。

 

(い……いつから気付いていたの!?)

 

 今までずっと「更識」って呼んでいたのに、突然本名で呼ばれて私さは嬉しさ半分驚き半分と言った感じで呆然とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直、ISでのまともな戦闘はこれが初めてだ。

 相手は代表候補生。勝てるかどうかなんて保証はない。だけど……いやだからこそ燃えるんだ。

 初見相手に攻略本は見ないだろう? 今の気分はそんな感じ。すべてがシークレットだからこそ楽しみでもある。

 

「待たせたな、桂木。今度はお前の番だ。相手はオルコットと戦ってもらう」

「へぇ。という事は織斑は負けたんですか?」

「そうだ」

「で、でも惜しいところまで行ったんですよ! あの一発が当たっていればもしかしたら勝てたかもしれないです!」

 

 山田先生にそう言われて思わずのけぞる。おっぱいが当たってセクハラ扱いされても困るからな。

 

「へぇ。やるじゃん織斑。完全な素人にしては上出来だ」

「…すみません、桂木さん。桂木さんにもせっかく手伝ってもらったって言うのに」

「気にするなよ。負けたもんは仕方ねえし………それに言ったら俺なんて最初から試合を捨ててっからな。なんせ専用機相手に訓練機だぜ? こんなもん茶番でしかねえよ」

 

 大げさに笑って見せると、織斑も篠ノ之も心配そうにする。

 

「話はそれくらいにしろ。桂木、すぐに準備をしろ」

「ん? オルコットの方は既にOKですかい?」

「そうだ。先程済ませて既に出場している。で、機体だが―――」

 

 既に用意されている機体を見て俺は笑みを浮かべる。だが、俺はそれを無視して既に着替えたISスーツの上に着ていた白いパーカーを脱ぎ捨てた。当然、捨てられたパーカーは粒子になってどこぞへと消えた。

 

「おい待て。どこに行く!」

「そういえば、俺はまだアンタに何も願っていなかったな」

 

 足を止めて織斑千冬を見る。そして、4つの内の2つの願いを言った。

 

「1つはこの試合は一般的な試合としての目線から見てアンタが危険だと判断するまでは続けろ。そして2つ目は、これから騒ぐ大人共を黙らせろ。ああ、それと織斑に俺とオルコットの試合を見せても構わない。どうせ織斑が試合を見たところで、俺に勝つ要素は0以下しか存在しない」

 

 そう言って俺はそのまま中の方に向かう。俺の姿を見つけたオルコットは嘲笑を浮かべた。

 

「準備が終わったのかと思ったら、ISはどうしましたの? まさか、このわたくしに恐れをなして早々に降参でもしに来ましたの?」

 

 どうやら彼女は俺に勝った気でいるようだな。それは俺もだが。

 

「良いですわ。なら日本式でDoGeZaというものを見せてくださいまし。それならばわたくしもこれまでの言動を許して差し上げ―――」

「そう言えばオルコット、お前は俺と織斑に言ったよな。「本来ならばわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡」だとか「幸運」だとか、な」

「それが一体どうしたというのです? 実際そうでは、ありませんか。なんならもう一度―――」

 

 自慢げに言うオルコットの言葉を遮るように敢えて大声で笑った。

 

「それは去年までの常識だろう。ああ、確かにすごいことだろう。代表候補生という身分で既に専用機を持っている。誰もが羨むその存在に、本来ならお前に票が集まり、クラス代表になったのはお前かもしれない。だがな―――所詮口では「男は弱い」と言いつつも男が女を求めているように女もまた男を求める。だから、もう諦めろ」

 

 その意図がわからないのか、オルコットは口を開けて固まる。

 

「お前は例えクラス代表になったところで「織斑千冬の弟の方が良いのに空気が読めない奴」とハブられ、ならなくても「男に無様に負けた自称エリート(笑)」と笑われるだけだ。いや、これも増えるな。「何の価値もない男の性を発散させるための肉壺」って言うのがな」

 

 それを聞いたオルコットは拡大を使わずとも顔を赤くしていることがわかった。

 

「…………ふっ。そこまで言うなら自信が終わりですのね?」

「ああ、あるさ。そして貴様に呑ませる要求をこの場で言おう。俺が勝ったらお前とお前の大切な女の友人を俺の性奴隷にする。この要求は俺を試合に出させる絶対的条件で、撤回できないものとする」

 

 その言葉によって観客がざわめく。というか、何でこんなに人が入っているんだ? まぁいいけど。

 

「ふ、ふざけないでくださいまし! よくそんな非人道的な事を要求できましたわね!?」

「何か問題でも? そもそも、素人と戦う時点で貴様の行為こそ非人道的だろう? ISのように高等な操縦技術を要するもので戦わせるなんて普通ならば考えられない。だから言ったんだよ。あそこで俺の出場をお前が取り消せば、貴様が大衆の面前で負けるという状況を作らされないで済んだんだからな」

 

 俺は首にあるものをかける。そして、自身の身体を浮かべた。

 

「………あなたは、まさか既に―――」

「ああ。持ってるぞ。俺は俺が認めるISを持っている」

 

 装甲が次々に顕現されていく。その度に俺は何かが装着されていく感触を味わい、興奮していた。

 

「さぁ、バトルの始まりだ。そして、第一回SRsのワールドオープンで優勝したこの俺に喧嘩を売った自らの愚かさを呪え」

 

 試合開始の合図が響く。オルコットはすぐさまライフルを展開して俺に攻撃するが、オルコットが撃った時点で俺はその場にいるわけがなかった。

 

「くっ!? な、何ですの?! ………変形……している!?」

「常識外か? だがそれはISのみだ」

 

 オルコットの後ろから近接ブレード《ディスブレード》で攻撃する。当然、オルコットの後ろに回った時点で変形して人型に戻った。

 

「糧となるが良い、セシリア・オルコット。そして光栄に思え。俺と我が愛機「破鋼(はがね)」の礎になれることをな!!」

 

 一度攻撃してから当たったからと喜ぶのは愚の骨頂。俺はすかさず2撃目を入れにかかった。




はい。初っ端からチーターな悠夜君でした。
そして今回の機体もかなりネタが多いです。《ディスブレード》の元ネタも知る人ぞ知る奴です。ヒント:憑依させる迷子 七大兵器の風要素

機体詳細は次回に乗せる予定です。


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#7 華麗なる戦いは第2ラウンドへ…

 試合は誰もがセシリアの有利になると思っていた。

 そりゃそうだろう。いくら(彼女らにとって)変な大会で優勝していても、所詮はただのゲーム。素人の悠夜に勝ち目なんかない。そう思っていたのに、だ。

 

「どうしたどうした! 俺はここだぜ!」

 

 明らかにセシリアは悠夜の機体スピードに翻弄されていた。

 

「へへんだ。当たらねえんでやんの」

 

 セシリアの攻撃を次から次へと避ける悠夜。

 人型から鳥のような戦闘機へ。そして戦闘機から人型へと素早く変形する悠夜。これまで見たことがない相手ということもあるだろう。

 そしてセシリアは自身の機体名と同じ武装を飛ばす。

 

「行きなさい!」

 

 それを視認した悠夜は戦闘機型へと変形してすぐさま上空へと逃げる。セシリアもビットの操作範囲から出さないように後を追った。

 だが悠夜はその場で反転し、突っ込んでくる。

 

「わたくしのことを甘く見―――!?」

 

 セシリアが構えた時には既に悠夜は後ろへ飛んでいる。しかしそれはまるで―――スピードを出し過ぎて止まれないそれの動きだった。

 セシリアも素早く反転し、悠夜を狙う―――が、

 

 ―――ゾワッ

 

 急に悪寒を感じたセシリア。自分の胸が後ろから掴まれていたのだ。そんなことをする不作法な相手は一人しかいない。

 しかし、セシリアが悪寒を感じたその隙が命取りだった。悠夜はビットが停まった隙を逃さず、ミサイルを飛ばしてビットを爆発させた。

 

 ブルー・ティアーズには4基の遠隔操作ビットと2基のミサイルビットが装備されている。

 4基のビットは先程の一夏との試合でも壊されたが、それはセシリアのある弱点を突かれた作戦で、しかも1基ずつ破壊された。しかし今のは4基ほぼ同時である。

 その状況で彼女の思考はある答えを導き出したが、胸を揉まれたことによって変な感覚を覚えさせられた。

 

「ふむ……さしずめDと言ったところ……いや、Eか?」

「さ、さっきから何をしていますのあなたは!! この変態!!」

「否定はしない……が、そこで口が出る辺り流石だな」

 

 言われたことが理解できなかったセシリアだが、次に言われたことによって納得させられた。

 

「確か、胸の部分だったよな? 心臓があるのって」

「…………あ」

 

 ―――ドンッ!!

 

 セシリアに激痛が走る。そして心臓を撃ったことによって絶対防御が発動してシールドエネルギーが一気に消費された。

 

 ―――ドンッ!!

 

 2撃目。セシリアは衝撃の強さに意識が飛んだが、

 

 ―――ドンッ!!

 

 3撃目で意識を強制的に戻される。

 

「ガッ!? ………ゴホッ!…ゴホッ! ……あ…あなたという人は―――」

 

 そして、試合終了の合図が鳴った。

 セシリアは自分が今何をしていて、どうするべきだったかを思い出す。

 

「……………そんな………何で……」

「まぁ、心臓に直接内蔵式小型バンカーを食らえばそりゃ潰れるだろうよ。ってことでご苦労さん。どうせ何人かはイギリスにいるんだろ? 数日は待ってやるからちゃんと呼べよ、マイスレイブ」

 

 悠夜は不気味な笑みを浮かべてさっきまでいたピットに戻る。

 

「………織斑先生」

「桂木、わかっているだろうな」

「さぁ。でもま―――」

 

 悠夜の後ろをラファール・リヴァイヴを装備する教師が取ったが、すぐさまその教師たちは悠夜の攻撃で吹き飛ばされた。

 

「生憎私は女性に対して手加減するような趣味は持ち合わせちゃいないんですんで、全員殺して良いですよね?」

「調子に乗ってんじゃないわよ、男ふぜ―――」

 

 ―――ドンッ!!

 

 鼓膜が吹き飛びそうな音が千冬を襲う。悠夜に対して発言した教員の機体が一瞬で機能停止に追い込まれ、何の躊躇いもなく頭に脚部装甲を乗せた。

 

「じゃあな。恨むなら自ら戦おうとしない世界覇者を恨みな」

「待て」

 

 千冬の制止に悠夜は足を止める。

 

「何です? ああ、もしかして不意打ちは男らしくないとでも言うのですか? 止めてくださいよね、そう言うの」

 

 悠夜の目の色が変わった。

 虚ろになり、茶色のままの瞳からは何故か光が映らない。

 

「人間とはそういうものでしょう? 特に今の世界なんて女がちょっとでも変なことを言ったら男の立場を怪しくなる。そんな状況でまともな手段なんて取るわけないでしょう?」

「そういうじゃない。こちらは降伏する」

「………アンタらの身体はいらないよ?」

 

 年上は精々1つ程度だと既に決めているからな。

 

「そういうことじゃない」

「なら良いけど、先にそっちがISをしまったらね」

 

 すると各々悔しそうに俺を睨みながら機体を降りる。どうやら最初からそれは決まっていたようだ。

 

「だが、事情聴取はすることになる。どこでその機体を手に入れたのか、とかな」

「解放してこれまで通りにしてくれるならねぇ」

「安心しろ。ただ私の心労が増えるだけだ」

「どうせ委員会とかいう気取ったクソ共の相手だろ? それくらいだったら俺も手伝うよ」

「いや、いい。面倒になるだけだ」

 

 あ、これあれだ。俺が引っ掻き回すことがバレている奴だ。

 ISが俺が踏んでいる女以外終わったのでその場から移動する。当然、移動の際はISは解除した。

 

「…………するんじゃなかったな」

「ん? どうしたんですか?」

「ああ、ちょっとな。生徒が外で待機している。たぶんその機体絡みだろう」

「うっへー。面倒だな」

 

 とはいえ、その状況を考えていなかったわけじゃない。むしろ確信していた。

 

「ま、こんなところで油を売っていても仕方ないでしょ。行きましょ、ちっふー」

 

 全力で回避する。あっぶな。もう少しで何かが吹き飛ぶんじゃないかってぐらいな圧を感じた。

 

「次にそんなことを言ったら殺す」

「なんかすみません」

 

 もしかしたら昔にそんな呼ばれ方をしていて、ちょっとトラウマ……とかだったりして。

 外に出ると、案の定というか迫ってきた。IS学園に入学する奴らって何故か知らないが容姿は整っている奴しかいないから事情を知らない奴が見れば幸せな光景かもしれない。

 

「織斑先生、今回の事は一体どういうことですか!」

「何故桂木が専用機を持っているんですか!」

「おかしいでしょう! こんなの!」

 

 いや、全然おかしくねえよ。むしろ必然だ。

 だが興奮してその辺りのことは忘れているらしい。

 

「―――黙れ」

 

 本当、こういう時って結構楽だよな。たった一言で全員を黙らせたよ。

 全員が織斑千冬に対して恐怖を抱く。俺はまさしく虎の威を借りる狐状態だな。なんて思っていると俺の顔に石が飛んだ。

 気付いた俺は咄嗟に反応―――だがまぁ、所詮強いのはISとかだけなので普通に当たった。

 

「今誰がや―――」

 

 咄嗟に織斑先生の口を塞ぐ。それがまた嫌がらせであり、投げたと思われる方向を見て言ってやった。

 

「ま、これが特別と非特別の差だってことだ。どれだけ石を投げようが物をぶつけようが、お前ら女はこうも簡単に相手にされないし憧れの織斑千冬にすら触れられない。どれだけ自分たちが上だと言っても、俺の方が圧倒的に特別であり希少な存在に変わりない。その他大勢の米粒風情が、専用機すら勝ち取れない雑魚共が喚くな。いや、喚いたっていいか。所詮、負け犬の無様に吠えて負けたことをアピールするしかない哀れな生き物だし」

「桂木、貴様という奴は………」

「だって事実だし。それに俺はこいつらのように施されるのを待つのではなく勝ち取ったんだ。さえずる雛鳥みたいな奴らと一緒にされるのはごめんだね」

 

 言われたことが理解できなかったのか、それとも俺があまりにもアレなので相手にするのも馬鹿らしくなったのか、ともかく俺と織斑千冬はアリーナを去って校舎内の会議室に移動した。

 

「でだ、あの機体は一体どこで手に入れた?」

 

 俺たちよりも少し遅れて知らない教員が現れて調書を取っているのを一度見てから話す。

 

「場所はたぶん女権団の研究施設か軍事施設じゃないか? 詳しくは知らないけど、そこから機体を奪った」

「………何?」

「だってそうしないと死ぬし」

「ちょっと待て。一体どうしてそんなところにいた!? そんなことをすればお前は下手すれば―――」

「死ぬね。………まぁ、最初から話すしかないか」

 

 一応の身内の恥を晒すようで嫌だったが、こうなることはわかっていたしいっそのこと話すか。

 

「たぶん知ってるけど思うけど、俺が小4の時ぐらいに親父が今の母親と再婚したんだけど、その親が女権団に所属していて、しかも幹部だったんだよ」

 

 それから俺はIS学園に来るまでの経緯を軽く話した。

 ISを動かしたことで親には施設に入れと言われたが本格的な勉強のために留年覚悟でIS学園に入学すると言ったこと。それが口論に発展して、結局は義妹の乱入によってそのまま分かれた後に誘拐されてひたすら殴られたこと。隙を見て武器を奪って逃げだし、ISを奪って逃走。その間に2機のISを撃退して逃亡したことをだ。

 

「………そうか。だからお前は最近まで顔が腫れていたわけか」

「そ。喧嘩で顔を腫らしたと思った? 残念。割と命が危なかったです」

 

 あの時は本当に肝が冷えたからな。むしろ生きていることが凄いと思う。……あれ? 考えてみれば俺って元々はここまでエロかったわけじゃないから……もしかして保存本能でも働いているのか?

 

「なるほど。だがわからないことがある。何故隠していたISを今になって出した? 別に命が危ないとかではないだろう?」

「普通のISじゃ満足できないって言うのが一つ、そしてあのISならば俺ならばオルコット相手に勝てることができるという確信があったからだ」

「その根拠は?」

「これだよ」

 

 空中にあるファイルを出して該当するページを開ける。予め付箋を貼っているからどこかというのはすぐにわかった。

 

「………死神「破鋼」、またもや完勝……これは何だ?」

「俺が優勝したゲームのインターネット対戦での記事だよ。ISが出てからというもの、男たちはこっちに逃避する奴らが多くてな。まぁ、あれだ。こっちで慣れていたからこそ、もしかしたらと勝機がある方を使ったわけだ」

 

 ……他にも整備したいとか、隠したままじゃまともに練習ができないというのもあるが。

 

「わかった。最後に確認するが、私たちに一度預けて―――あ、いや、アレだ。事情は把握しているし、何もデータを抽出しようとかそういうわけではない。学園では専用機持ちには学園用の識別コードを持っていてもらっているんだ」

「………それってアレか? 有事の際にどこの誰かが襲われているか確認するための奴?」

「そうだ。去年までは多少のいざこざはあれど、そこまで大きなことは発展していないと聞く。だが今年はお前と織斑がいるため、面倒なことが起こるかもしれないと考えている者も少なからずいるわけだ」

 

「お、織斑先生、いくら何でもそれは―――」

「いや、こいつはおそらく既に知ってしまっている。むしろ隠し立てしている方が協力は得難い」

「よくご存じで」

 

 実際、何も知らないよりかは知っている方が楽に決まっている。

 

「ま、そういうことだ。とりあえず聴取はこれで終了とする。すぐに登録に行くぞ」

「わかりました」

 

 早速その足で俺たちは破鋼を登録しに行った。

 

「あ、そうだ織斑先生」

「何だ」

「俺、勝ったしクラス対抗戦でも負けた奴を奴隷にしかしないから、クラス代表辞退しても良いよね?」

 

 心からため息を吐かれた気がするけど、気のせいだと思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 めでたしめでたし………という風にはいかないようだ。

 

「さて、説明してもらいましょうか?」

「実は動かしたその日に女権団に―――」

「ああ、そっちじゃないわ。いつから私に気付いていたかってことよ」

「え? そりゃ最初からに決まってるだろ。風呂の時に口を塞いだのも知らない女だったら普通しないって―――」

 

 そう説明するととても怖かった記憶しかない。

 なんとか宥めたが、それでも微妙な関係になったわけで………。

 

「あれ? オルコットは?」

「さぁ……。そう言えば来ていませんね」

 

 いつもならとっくに教室にいるというのに、今日は珍しくいない。

 

「オルコットなら今日は休むそうだ」

「突然現れるとか、おたく、忍者?」

「アホなことを言っている暇があるなら席に着け」

 

 ………たぶんこれ、ゲームならば選択肢が出る奴じゃないか?

 言うなればこれはヒロイン救済イベント。普段はちょっといけ好かない奴でも、死なれたら目覚めが悪いから。

 

「桂木、どこに行く」

「ルートが見えたから回収してくる」

 

 そう言って俺は教室を出てオルコットの部屋に行こうとしたが、あることに気付いた。

 

「ところで、オルコットの部屋番号ってどこ?」

「…………1452だ」

「サンキュ」

 

 さて、進撃するとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1452室に着いた俺はドアを開けた。どうやって開けたかと言うと、ピッキングである。

 

「失礼しますよ~」

 

 中に入ると、朝だというのにとても暗いので電気を点ける。

 

「……だ……誰……」

「いつもニコニコ這い寄る混沌、桂木悠夜ですよ~」

「ヒッ!? こ、来ないでくださいまし!! 嫌ですわ!!」

 

 早速の拒絶。まぁ、あれだけ酷い目に遭わせて今更ってのはないだろう。それでもしますが!

 

「まぁまぁ、落ち着きなさいな。俺は普段は紳士だから手荒な真似はしませんよ~」

「し、紳士ならば試合中にあんなことはしませんわ!!」

「あれは勝負だし仕方ない」

「嫌ですわ!!」

 

 これは困った。

 にしてもデカいベッドだな。天蓋付きベッドだけじゃなくて壁紙とかも変わってら。

 

「オルコット、少し話をしよう」

「嫌ですわ!」

「仕方ない。襲うか」

「それも嫌ですわ!! もう帰ってくださいまし!!」

 

 嫌よ嫌よも好きな内。とはいえ、確かに今は分が悪いか。―――と考えて引くわけがないだろう。

 こうなったら無理矢理落ち着かせようとすると、誰かの声が俺の耳に届く。

 

「―――相変わらず、女性の扱いがなっていませんわね、桂木悠夜」

「!? そ、その声は!? 魔法少女(マジカル・ガール)チェルシー・ブラ!?」

「そう。私は英国から舞い降りた天使。マジカルガール―――なわけないでしょうが!! それに何故「ブラ」で止めたんですかねぇ?」

「そう、あれは5年前のことだった。俺たちの世代では珍しくブラジャーを付けていたチェルシーのあだ名は「ブラ」となり、当時はやっていた魔法少女と掛け合わせて「チェルシー・ブラ」という愛称が学校中に広まったのである。ま、広めたのは俺だけどな」

「………なるほど。やはりあなたが犯人だったのですか」

 

 にしても久々に会ったな。……いや、会うとすら思っていなかったが。

 

「ちぇ……チェルシー……」

「お嬢様」

「ごめんなさいチェルシー。わたくし、あなたを……あのケダモノに………」

「いいえ、お嬢様。桂木悠夜は口ではああ言っていますが、本当はお嬢様のお身体にも私の身体にも興味はあっても手を出すことはまずありません。ヘタレですので」

 

 おい。何言ってんだアンタ。

 

「あなたが欲しかったのは、これでしょう。英国貴族の名家メイド服&執事服コレクション」

「流石だな。そうそう、これが欲しかったんだよ」

 

 流石は英国メイド。俺が欲しがるものをちゃんとわかっている。

 そう。俺はオルコットとかそのメイドとかは全く………とは言わないが、欲しいのはこっちの方なのだ。

 

「…で………ですがわたくしは胸を………」

「それは作戦上のことでしょう」

「そうそう。どうしても欲しかったからな」

 

 いやぁ、これでコスプレの幅が広がるってもんよ。

 

「………じゃ、じゃあわたくしとチェルシーをもらうっていうのは……」

「もちろん嘘。まぁ、少々頭に来たから虐めてやっただけだ。だからまぁ、気にせずまた来いよ。って言うか今すぐ着替えろ」

「………さ、流石に殿方を前に着替えるのは―――」

「いや、出ては行くから」

 

 そう言って俺は外に出ると、少してチェル………もといチェルシーが出てきた。

 

「着替えの手伝いはしなくて良いのかよ?」

「ええ。それくらいはお嬢様もできるわ。……お嬢様が色々と迷惑をかけたようね、ユウ」

 

 昔に呼んでいた愛称で呼んでくるチェルシー。どうやら今はそういうことらしい。

 

「まぁそこは許してあげて。彼女は3年前に両親が亡くなって遺産目当てで親類が迫って来たから周りが信じられなくなったのよ。例外は私くらいかしら」

「………そっか。で、その親類のほとんどが男でなおさらってところか」

「相変わらずの洞察力ね。………ところで」

 

 俺は咄嗟に飛んできたナイフを弾いた。

 

「お嬢様の胸を揉んだとは、どういうことかしら?」

「気持ち良かった、と言っておこう」

 

 俺の爪には伸縮自在の鋼並の強度を誇る爪が仕込まれている。というかそれがなかったら明らかに死んでいただろう。

 俺とチェルの学園寮内でハードな戦いが行われたが、それはオルコットがチェルを止めたことで終わった。




前回と同じように、悠夜とチェルシーは顔なじみという設定にしました。大体小学校でもこんな感じです。




・桂木悠夜
留年して1年からやり直した16歳。かなりの変態だがヘタレであり、できてもキス程度という致命的な欠陥を抱えている。
主に下ネタを使って相手を潰すことを好み、敵とみなした相手には容赦ない攻撃を繰り出す。
楯無、チェルシーとは小学校時代に付き合いがあり、チェルシーとは規模は小さいが大体言い争っていた。

明らかに異常な技術力を保有しているが、それはすべて彼の父親から譲り受けたもので彼が作ったものではない。

基本的に年下の女子には優しいが、それは悠夜は本当の妹というものを知らないため。セクハラしているのは敵か箒のように胸が大きいだけでなく身体のバランスも整っている事自体が珍しいから。なので、胸が大きいということを知らない本音に関しては一度もセクハラをしていない。

※なお、セクハラは犯罪である




・破鋼
悠夜が作成したプラモを元に作られたIS。武装は一部を除いてほとんど同じであり、装甲のデザインに至っては拡大したかとすら思わせる程である。
セシリア戦では半分遊びでしており、すべての武装を見せたわけではない。


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#8 IS学園の授業風景

 オルコットはあの後、一週間前のことを謝りクラス代表を織斑に譲ることを表明した。元々頭のネジが緩んでいる集団だから案外あっさりと受け入れた………一名を除いて。

 

「な、何で俺がクラス代表なんだよ!?」

「落ち着け織斑。今はまだ慌てるところじゃない」

「慌てるところですよ!!」

 

 全く。少しは落ち着いてもらいたいところだ。

 

「良いか織斑。お前は弱い。実戦経験が圧倒的に不足している………だから、お前はクラス代表に選ばれた」

「それなら別にオルコットに勝った桂木さんでも良いじゃないですか!!」

「甘いな。俺の場合は―――セクハラをするかもしれないという事で出場停止だ!」

「アウト!! もうこの人アウト!!」

 

 まぁ、自重しろと言えばできなくはない。その代わり刀奈と毎日一緒にあんなことやこんなことをしないと気が済まないが。

 

「冗談だ。流石に俺もやり過ぎたとは思っている」

「良かった。桂木さんが反省してくれているんだ。だったら―――」

「周りがいるからできないなら、2人だけでするべきだったなって」

「反省するのはそこじゃないですから!!」

 

 にしても織斑のツッコミは様になったな。これも俺のボケのおかげか。

 

「それにオルコットは初日に色々な暴言を吐いてしまったから反省のために自重するという話だからな。必然的に織斑しかいなくなるんだ。それにこれは、何も俺一人の決定じゃないんだ」

「じゃあ、誰が―――」

「実は山田先生に頼んで密かに投票したんだが、やはり織斑の多かった」

「結局投票かよ!?」

「な? ぶっちゃけ戦う必要とか全くなかっただろ?」

 

 にしてもこいつ、弄ると面白いな。

 

「仕方あるまい。貴様らが如何にも戦うという雰囲気を出していたのだからな」

「それにオルコットの言い分もあながち間違いじゃないからなぁ。結局はクラス最弱の織斑になってしまったが、まぁ頑張れ」

「ご心配なく。わたくしが二人っきりで適切な指導をして差し上げますわ!」

「え? それなら俺は桂木さんに教えてほしいんだけど……」

 

 織斑に背を受けたオルコットは泣いてしまったので俺がフォローする。この野郎、ギャルゲーに置いてあるまじき行為……いや、実際正解ではあるんだけど、それでもちゃんとフォローはするべきだろう。

 

「わたくし、女性としての魅力がないのでしょうか………」

「大丈夫。それはないから」

 

 もし俺が刀奈の事が好きじゃなかったら従者共々やっているかもしれない。何をというのはやぶさかだぜ。

 

「オルコットに桂木、そろそろ座れ。続きが話せないだろう」

「へいへい」

 

 とりあえずオルコットを席に連れて行き、俺も座る。織斑がクラス代表になって他の連絡がされたけど、俺は次はどうやって織斑を弄ろうかということしか頭になかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらおう。織斑、オルコット、桂木。試しに飛んでみろ」

 

 クラス代表を決める戦いが終わって2年。俺たちは順調に技量を身に着けて行った。………いや、まだ1週間と少ししか経ってないか。うん。経ってないな。

 どうでも良いことは置いといて、俺は破鋼を展開した。

 

「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで1秒とかからないぞ。現に桂木は約0.3秒で展開している」

「あんな出鱈目な人と一緒にされては困ります!」

「出鱈目っておい……」

 

 近くでオルコットも頷いているし。あれ? もしかして俺に味方がいない?

 ともかく、なんとか展開し終えた織斑。全員が展開できたことを確認した織斑先生は―――

 

「よし、飛べ」

 

 まるで犬にフリスビーを取りに行かせるような物言いで言った。少し癪に思いながらも俺は遅れて上昇する。

 

『何をやっている。スペック上の出力ではブルー・ティアーズよりも白式の方が上だぞ』

 

 流石に破鋼には負けるようだ。オルコットが顔を引き攣らせているのは決して気のせいではないだろう。

 

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。自分がやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ」

「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。何で浮いているんだ、これ」

「……そういう織斑にとっておきの言葉を送ってやろう」

「何です?」

「考えるな。感じるんだ」

「どうせそんなことじゃないかと思いましたよ! って言うかまさか、桂木さんはそれで早く動いているんですか!?」

「よくわかったな。じゃあ逆に聞くが、お前は有名なアニメの戦闘シーンで「どうしてあいつら、常識的に考えてあり得ないくらい滞空しているんだろう?」とか思ったことあるか? 思ったとしても「そういうもんだ」と思うだろ? それと一緒だ。それに元々破鋼は「高機動惨滅型」として考えられていた機体だからな。ヒットアンドアウェイや一撃離脱、それを連続で相手の行動を観察した上でタイミングを図りながらダメージを食らわせる簡単な戦闘パターンだ」

「………なるほど。前回の出鱈目なパターンは―――」

「適当に動きました」

 

 空中で膝を抱えて泣くという貴重なシーンを平然とやってのけたオルコット。あの敗北、彼女にとってどれだけ悔しかったのだろうか。

 

「まぁまぁ。あの時は負けたって言ってもどこぞの金ぴか慢心王並みに慢心してたし、仕方ないって。それに俺みたいな素人とは違ってオルコットは知識も豊富なんだから、これからも織斑の指導に精を出してくれたらいいさ」

「そ、そうですわね! 一夏さん、よろしければまた放課後に指導してさしあげますわ! その時は、その………二人きりで―――」

 

 オルコットが地味に俺をハブって誘っていると、下から地声ではなく通信機で篠ノ之の声が俺たちに届いた。

 

『一夏っ! いつまでそんなところにいる! 早く降りて来い!!』

 

 そして織斑先生に殴られる篠ノ之。涙目になりながら山田先生にインカムを渡している。………舐められすぎだろ、山田先生。

 

『3人共、急下降と完全停止をやって見せろ。目標は地表から10㎝だ』

「了解です。ではお二人とも、お先に」

 

 オルコットは加速しながら地上に向かう。かなりスピードを出しているが、それでも華麗に停止して織斑先生から褒められていた。

 

「んじゃ、俺も」

 

 今度は織斑が行った。オルコットと同じように加速するが何故か止まらずにそのまま地面に激突した。

 

『馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする』

『……すみません』

 

 項垂れる織斑。素人だししょうがない。それに昨日はその練習をしようと言っているのに美人2人が喧嘩してなかなかできなかったらかならぁ。

 

『情けないぞ、一夏。昨日私が教えてやっただろう』

『え? あの擬音ってそういうことだったのか?!』

『……ほう』

「篠ノ之、そこを動くなよ!」

『桂木さん? 一体何を―――』

 

 2人が降りたところから少し離れた俺はそこから下降を始めた。そのまま地上10㎝の所まで移動してすぐに変形して飛鳥形態になって滑空。織斑がいるところに迫ると全装甲を消して回転しながら飛び出し、織斑の上に降り立った。

 おもちゃの弓と矢を出して構える姿をし、

 

「恋のキューピッドのポーズ」

 

 そう言って織斑先生の方に向ける。ちなみに意味はない。

 

「………言いたいことはあるか、桂木」

「滑空場所、そして織斑の頭上から10㎝だから問題ありません。偉い人はそれがわからんのですよ!!」

 

 全力で殴られたので軽く2、3mは飛んだ気がする。

 

「真面目にやれ」

「はーい………」

 

 真面目にやらないと人は死ぬからね。今もできると思って頑張りました。

 その端では誰も俺の事を心配してくれず、オルコットと篠ノ之が喧嘩をしていたので出席簿で叩かれていた。

 

「だいじょうぶ~?」

「うん。まぁね」

 

 一人だけ心配してくれる人がいたので撫でる。もちろん撫でる時は濡れタオルを展開して砂を拭っている。

 

「織斑。武装を展開しろ。それくらいなら自在にできるようになっただろう」

「……………」

「ん? どうした?」

「いえ、地獄の日々を思い出しただけです」

 

 織斑が俺に聞いたのが悪い。

 というのも、俺が武装を自在に展開できるのを見て教えてほしいと寄って来た織斑に「瞬時に出せなかったら腕立て10回」と言った。最初の頃は余裕でこなしていったが、時間が経つにつれて苦しくなっていったのだ。当然だ。最初に測ったタイムより遅いたびに10回させたんだから。

 

「ほう。0.3秒か」

「次は他の格好に挑戦するか」

 

 全力で首を振る織斑。もう俺との特訓はコリゴリらしい。

 

「なら桂木、貴様は―――言うまでもなかったか」

「当たり前じゃないですか」

 

 日頃から物の出し入れしているんだもの。

 

「オルコット、武装を展開しろ」

「はい」

 

 返事をするとすぐに左手を肩の高さ、そして横に付き出す。どこかの鍵型の剣を持つ奴らみたいに平然と武器を出した。右手も遊ばせることなく弾倉をセットし終えている。

 

 ―――もっとも、その構えには問題があるが

 

「流石だな、代表候補生。ただしそのポーズは止めろ。攻撃と反応した桂木がお前の胸を揉みしだこうと狙っているぞ」

「か、桂木さん?!」

「全く。一体誰に向けて攻撃する気だい、君。それとも欲望のままに揉みしだかれたいというのかい?」

 

 ニヤニヤしながら接近する。全力で俺から離れるオルコット。

 

「あのポーズのままでは味方を撃つ恐れがある。ましてや今回のことでその脅威が増しただろう? 直せ」

「わかりました。全力で矯正しますので桂木さんを止めてくださいまし!!」

「桂木」

「わかりましたよ」

 

 大人しくさっきの位置に戻ると、織斑先生はオルコットに近接武装を出すように言ったが、何故か慌てる。その理由はすぐにわかったが。

 

「まだか?」

「す、すぐです。―――ああ、もうっ! 《インターセプタ―》!」

 

 武装名を叫ぶオルコット。教科書には初心者用と書かれているけど、教科書の著者はロマンを理解していないと思った。

 

「……何秒かかっている。お前は、実戦でも相手に待ってもらうのか?」

「じ、実戦では近接の間合いに入らせませんわ! ですから、問題ありません!」

「そうか。ではすぐにオルコットと桂木で試合をしてもらおう。桂木、揉みしだいて構わん」

「わたくしが間違っていましたわ!!」

 

 ちょっ、どれだけトラウマになっているんだコイツ?!

 

「わかったならすぐに近接武装を展開できるように練習しておけ」

「はい!」

 

 教師ですら俺をこんな扱いか。俺、織斑先生には興味ないんだけどなぁ……。

 

「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑はグラウンドを片付けておけよ」

「うっ………」

 

 まぁ、自業自得だな。

 俺もなんとか無事にできたし、今日はさっさと去ろうか。

 

「か、桂木さーん………」

 

 俺に縋ろうとする織斑。しかし俺は織斑に笑顔を向け、

 

「ガンバ!」

「桂木さんの薄情もの!!」

「自業自得というものだ」

 

 そう言って手を振って俺は去る。篠ノ之の姿はないようだ。何をしているんだ、アイツは。

 こういう時に手伝って2人きりになって距離を縮めるというのに。

 

(……まぁいいか)

 

 俺がここで焦ったところで仕方ないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になってからしばらく経ち、辺りが暗くなってIS学園内の街灯が明かりを灯す。

 その頃になってボストンバッグを肩にかけた少女が駅から歩いてきた。

 

「ふうん。ここがそうなんだ………」

 

 お洒落な校門を眺めながら入ったその少女。時間も遅いこともあって校門前に待機しているはずの警備員には捕まらない。だが、今回はそれが裏目に出た。

 

「本校舎一回総合事務受付………ってどこにあるのよ!!」

 

 少し歩いたが少女の目的の場所が見当たらない。業を煮やしてISを展開しようとした時、急に肩を叩かれたため、少女は弾くように飛んで反転する。

 

「誰?」

「―――驚かせてごめんなさい。まさかそんな反応をするとは思わなかったわ」

 

 汗に濡れたシャツ。ポニーテールをシュシュでくくっているがそれでも肩の下に伸びている髪。ショートパンツにサイズが合わなっていないのかさらに脛辺りまで伸びたスパッツに―――可愛らしい顔。身長は高いがそれでも気にしない人はいないだろう。

 

「もしかして、ここの生徒かしら?」

「ええ。今はトレーニングを終えて帰るところだったのけれど、途中で騒がしかったから興味本位で覗いてみたんだけど」

「ちょうど良かったわ。本校舎一階の総合事務受付ってどこにあるのか教えてくれない?」

「良いわよ」

 

 快諾した長身少女に付いて行く小柄な少女。長身の割にはスレンダーな体型をしているという感想だが、それでもモテそうだと思ったその少女は自分との差にコンプレックスを抱いた。

 

「着いたわよ」

「あ、ありがとう」

 

 走りながら去っていくその少女。次会う時はどうしてそんなになったのか聞いてみたいと思ったが―――翌日に会えることは彼女はまだ知らない。



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