自分だけ? (爽架)
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自分だけ?

「おっはよー!」

1人部室で本を読んでいる静けさを破り、勢いよく扉の開く音と共に部室に駆け込んできたのは穂乃果だった。

「穂乃果、扉を勢いよく開けるのはいけないとあれほど注意したでしょう?」

「そうだった~ごめんごめん!」

穂乃果はそう言って笑いながら自分の向かいの席に座った。

「全くもう…」

穂乃果が席についたのを見て、ひとつため息をつき本に目を移す。

「まだ海未ちゃんだけ?」

穂乃果は鞄を置いて両手で頬ずえをつき尋ねた。

「そのようですね」

「ふーん」

私の返事に納得したのか穂乃果は暇そうに私から別の場所へ目線を移した。

冷静を装っている私だが、穂乃果と二人きりと意識すると心臓がドキドキと高鳴った。

あぁ、恥ずかしい…。

気にしちゃダメ、と思い本に集中しようとした時、じっと見つめられているのを感じた。

ふと穂乃果の方を見るとバチッと目が合ってしまった。

「な、なんですか?」

恥ずかしさを隠し尋ねると穂乃果が口を開く。

「海未ちゃんってほんと綺麗な顔してるよねぇ。綺麗な黄色の目とかさらさらの髪とか羨ましいなぁ」

まじまじと自分を見つめながらそう語る彼女はとても純粋で可愛らしい。

だがそれよりも恥ずかしさと照れくささでどうにかなってしまいそうだ。

「ちょ、ちょっとそんなに見ないでください…!」

私が少し声を荒らげると穂乃果はガタッと立ち上がり机に手をつき上半身を机に乗り出して私に近づいた。

「?!」

「真っ赤な海未ちゃん可愛い。そんなに恥ずかしいの?」

穂乃果は少し悪戯そうにじっと見つめた。

彼女の視線に耐えきれず思わず本で顔を隠す。

「そんなに近づかないでください…!」

顔が熱くて爆発してしまいそうだ。

「海未ちゃん可愛い~!もっと見せてよー!」

なおも面白がって構ってくる彼女に困り果てていた時、ガチャっと扉が開く音と共に聞き覚えのある声がした。

「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、何してるの?」

本から少し顔を出し、声のした方を見ると部屋に入ってすぐのところできょとんとした顔で立ち止まっていることりの姿があった。

「助けてくださいことり…」

そう小さく呟くとことりは察したらしく少し笑って穂乃果の隣に座った。

「もーほのかちゃんまた海未ちゃんを困らせてるの?」

クスクス笑いながらそう言ったことりに穂乃果はぐっと顔を寄せる。

「だって海未ちゃんが可愛いからいけないんだよ!」

「私のせいですか?!穂乃果が無意味に近づいてくるから…!」

そう言い訳しつつも目の前の穂乃果とことりの近さに少し胸が傷んだ。

「ダメだよ~海未ちゃんは恥ずかしがり屋さんだから近づくと照れちゃうんだから」

「だってそこが可愛いんだもん~!」

目の前で笑い合う2人は本当にキラキラしていて仲良さそうだ。

いつも3人でいる時も2人は大抵隣で私は向かいに座ることが多い。私自身が避けているのもあるが2人はスキンシップも多い。

そういう時、何故かふと悲しくなる。

「海未ちゃん?」

じっと下を向いて考えながら固まっていたからか、穂乃果に顔をのぞき込まれた。

「あっ、ごめんなさい。何でもないんです」

そう断ると「そう?」と言ってまた穂乃果はことりと楽しく談笑を始めた。

私は仲間に入ろうとせず本に目を移したが私の集中は2人の会話の方にある。

「さっきね、海未ちゃんは目も黄色で綺麗で髪もさらさらだよねー!って話してたの!」

「確かにそうだね!」

「でしょ!?」

2人の会話の話題が私であると分かり、バッと本から顔を上げた。

「海未ちゃん聞いてたの?」

顔を上げたことに驚いた穂乃果にそう聞かれ、つい恥ずかしくなってしまう。

「き、聞いてたも何もこんな近くで話されたら嫌でも耳に入ります!」

そう言い訳すると、穂乃果とことりが私の方に向き直った。

「海未ちゃんも一緒に話したいなら話そうよ!3人で話した方が楽しいよ?」

「海未ちゃんはことりたちと話すよりも本の方が好き?」

ことりに真剣にそう聞かれ、慌てて反論する。

「そんなことはないです!ただ、2人は仲が良すぎるというか、キラキラしすぎてて入れないというか…。あなたたちは私によく可愛いとかキラキラしてるとか言いますが、私よりも2人の方がずっと可愛いですしキラキラしています…!…ただ、私だって2人のようにもっと近い距離で話したいと思っていないわけでは…2人の距離の近さと私とでは違いますしなんだかずるいというか…」

私は恥ずかしさで語尾をごにょごにょと誤魔化す。すると穂乃果とことりは顔を見合わせた。

「なん、ですか…?」

おずおずと尋ねると、2人は笑顔になってこちらを向いた。

「やっぱり海未ちゃんは可愛いね!」

「そうだね!」

「は、はぁ?!意味がわかりません…」

ニッコリと笑ってそう言う2人の意味が分からず混乱する。

「つまり穂乃果たちの仲の良さに嫉妬してたってことでしょ?」

穂乃果は楽しそうに尋ねた。隣でことりもうんうんと頷く。

「べ、別に嫉妬してたわけでは…!ただ私も仲間に入れて欲しかっただけで…!!」

「それって同じことじゃ…?」

「ううぅぅ…」

ことりに図星をつかれて慌てたせいで余計に墓穴を掘ったことを後悔する。

「も~海未ちゃんはしょうがないなぁ!私たち2人は海未ちゃんのこと大好きだよ!」

「うん!」

「そ、そういうことではなくて…」

咄嗟に口にしようとしたがこれ以上なにか言おうとするとまた墓穴を掘ってしまいそうで口を噤んだ。

確かに2人の仲の良さに嫉妬していたのは事実だ。それに大好きと言われて嬉しくない訳でもない。

「海未ちゃんは?」

穂乃果にじっと見つめられそう聞かれるとまた顔が熱くなった。

「ふふ、海未ちゃんって本当にすぐ顔が赤くなるね。可愛い」

ことりに笑われて、いてもたってもいられなくなり、咄嗟に声を荒らげた。

「わ、私だって穂乃果とことりが大好きです!」

「じゃあ3人で両想いだねぇ!」

「そうだね~」

のほほんとした穂乃果とことりの雰囲気に、恥ずかしさや照れくささも忘れてしまう。

そんなところも好きなんだと思う。

「はぁ…。穂乃果、3人なら両想いではないと思いますよ」

「あ!いつもの海未ちゃんに戻った!」

「戻るもなにも私はいつも通りです。ほら、穂乃果、ことり、みんなが来る前に今日のメニューもう一度確認しますよ」

「「はーい!」」

 

◆◇◆

 

穂乃果とことりだけ、なんて考えていたのは自分だけだったのかもしれないと思いながら笑う海未ちゃんが、2人に一番想われていることに気づくのはまだ当分先のお話。

 

Fin.




読んでくださりありがとうございました


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