Digimon/Grand Order (LAST ALLIANCE)
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Fighter(特異点F 炎上汚染都市 冬木)
第0話 転生する聖騎士


予告を投稿したばかりですが、プロローグが完成したので投稿します。
FGOとデジモンのクロスオーバー小説となります。
見てみると、Fateとデジモンのクロスってそう多くないんですよね……
FGOやFateシリーズの細かい設定が抜け落ちたりする事もありますが、その時は暖かく指摘して下さい。今回からルビ機能を使い始めました。今まで存在を知らなかったです(汗)
それでは新しい小説をお楽しみ下さい。
ちなみに前作を知らない人でも普通に読めるようになっているので、ご安心下さい。

p.s.予告編を投稿したばかりなのに、UAの伸びが凄いです。『Fate』シリーズの人気、流石としか言えません。パワーバランスには注意しますので、Fateファンの皆さん、デジモンファンの皆さん、ご安心下さい。

p.s.立香君の設定を見て、不自然な所に気付いて修正しました。数合わせで訓練受けていないのに召喚の詠唱言える訳ありませんよね……





 とある世界に1人の人間がいた。何処にでもいるような青年。名前は八神一真。彼は普通の人生を送っていたが、1体の悪魔―ディアボロモンに当たり前の日常を破壊され、悪魔によって命を落とした。

 しかし、彼はとある聖騎士―オメガモンと一体化する事で命を繋いだ。ディアボロモンを倒した事で、彼の新しい人生と日常が始まった。“電脳現象調査保安局”にスカウトされ、そこから戦いの日々に身を投じた。

 

―――僕の命はオメガモンに助けられた。本来だったら死んでいた僕は、オメガモンに全てを捧げなければならない。そして戦わなければならない。戦えない全ての人々の命と日常を守る為に。

 

 脅迫概念にも似た思いを抱えながら、一真は戦い続けた。最初に挑んだのは“デジクオーツ”事件。“デジクオーツ”と呼ばれる異世界。そこに迷い込んだデジモン達は人間の心の闇や欲望を使って自らの力を増幅させ、人間界で様々な事件を起こして来た。

 迎えた最終決戦。全員の力とオメガモンの活躍によって、“デジクオーツ”を造り出した全ての黒幕―クオーツモンを倒した。しかし、その時にオメガモンの特殊能力を使った代償として、一真の身体と精神が“デジモン化”してしまい、完全なデジモンとなってしまった。

 次に挑んだ“世界樹大戦”。『電脳世界(デジタルワールド)』の神様―イグドラシル。2つある人格の1つ、マキ・イグドラシルがデジモン達の殺戮を『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に命じた。人間界を崩壊させ、デジタルワールドと統合して新たなる世界を作り上げる計画―『NEOプロジェクト・アーク』の遂行を推し進めた。

 人間界とデジタルワールドを守る為に、オメガモン達は戦った。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を悉く打ち破り、マキ・イグドラシルとの最終決戦を迎えた。

 その最終決戦で、マキ・イグドラシルが“千年邪神”と呼ばれているミレニアモンと一体化していた事が明らかになった。最終的にミレニアモンと戦って勝利し、ミレニアモンこと秋山千冬を説得した事で戦いは終わった。デジタルワールドに平和を取り戻すと共に、オメガモン達は再び人間界を救った。

 しかし、その代償は大きかった。一真の人格と精神が完全に消え失せた。それでも直ぐに消え失せた訳ではない。“世界樹大戦”が終わって数日後。一真は自分の家で沢山の人間やデジモン達に囲まれている。

 

「皆……頼むからそんな悲しい顔しないでよ」

 

 デジタルワールドの神様―ホメオスタシスの膝枕の上で、一真は悲しい顔を浮かべながら全員に呼び掛けるが、彼らの表情は変わらない。

 自分達の仲間であり、英雄たる人間が死のうとしている。既に分かっていた事だが、彼らは受け入れる事が出来ない。彼の死を受け入れたくないのだから。

 

「世の中……どうにもない事だってあるんだよ?」

 

―――なぁ皆笑ってくれよ。でないと心残りをしたまま僕はいなくなってしまう。それだけは嫌なんだ……

 

 もうどうしようもないのか。そう思った誰かが尋ねようとすると、一真の言葉を聞いて静かに口を閉じた。彼らは既に分かっている。八神一真がもう少しでこの世からいなくなると言う事を。彼の命はそこまで消耗していた。

 それは一真も同じだった。自分が死ぬ事を受け入れているのに、周りが受け入れてくれない。彼らは前に進む事が出来ない。彼らにこの世界を託す事が出来ない。

 

「オメガモン、いるかい?」

 

―――あぁ、いるぞ?

 

「今までありがとう。君がいなければ僕はとうの昔に死んでいたし、色んな人々やデジモン達に出会う事もなかった。本当に感謝している。人間として生き、人間として死ぬ。デジモンとして蘇り、そしてまた死ぬ。奇妙な人生だったけど、これもこれでありだな……」

 

 最後の時が近付いている事に気付いた一真。彼はオメガモンに感謝を伝える。オメガモンがくれた命が、何時の間にか多くの物をもたらした。

 一真とオメガモンが紡いだ絆は本物であり、彼らが歩んだ道もまた本物だ。共にいた時間は僅かだったが、そこには確かな絆があった。

 

「オメガモン。君は人間達と共に、そしてデジモン達と共に生き続けてくれ。そして僕が叶えられなかった理想を叶えて欲しい。人間とデジモンが共存できる世界の実現を。今までありがとう。また会おうね……」

 

 オメガモンに自分の願いと理想を託し、今までの感謝を述べると、一真は目を閉じた。それと共に地面に落ちる右手。安らかな表情を浮かべながら、八神一真は息を引き取った。

 人間界とデジタルワールド。途中で人間でなくなり、自分の命を燃やして2つの世界を救った英雄。彼らは多くの仲間と両親に看取られ、この世から去っていった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 全てが真っ白に染まった世界。そこに一筋の純白の光がやって来た。その光は八神一真の姿を形成していく。彼は周囲をキョロキョロと見渡しながら、死んだ時を思い出す。

 彼は転生者と言える存在。自分の世界でディアボロモンに襲われて一度命を落とし、ホメオスタシスの力でオメガモンと一体化し、自分の世界に転生した。

 人間界とデジタルワールド。そこで2つの大きな戦いを経験したが、最初の戦いで“デジモン化”し、最後の戦いで人間としての完全な死を迎えた。

 オメガモンとしての力を引き出して向上させていく度に、八神一真と言う存在は死に一歩ずつ近付いていった。途中で肉体と精神が死んだが、精神は辛うじて維持出来た。

 しかし、最後の戦いで精神が消滅し、完全な死を迎えた。その事に関して言えば後悔はない。自分が選び、突き進んだ道なのだから。

 

―――後の世界はオメガモン達に託した。絶対に僕の理想の世界を創っていくだろう。例えどんなに道のりが険しく、時間が掛かったとしても、オメガモン達なら必ずやり遂げて見せる。僕の出番はここまでだ。後は皆に任せて眠るとしよう。

 

「ここにいましたか、一真さん」

 

―――ホメオスタシスさん……僕の世界で何かありました?

 

 彼の理想となる世界の実現。それを皆が必ず叶えてくれると信じながら、一真は自らの死を受け入れて深い眠りに付こうとした。

 しかし、それを妨げるように1人の女性の声が空間に聞こえて来た。茶色のおかっぱ頭をした美女。デジタルワールドの神様、ホメオスタシス。

 

「貴方のいた世界ではオメガモンが八神カズマと名乗り、デジタルワールドの復興に取り組んでいます。先の大戦で数多くのデジモン達が消え去り、世界の至る所が荒れ果てていますから……」

 

―――そう言えばそうでしたね。復興の事を皆で話していましたけど……結局何も出来なかったなぁ。ところでホメオスタシスさん、僕はどうなるんですか?

 

「貴方の魂はあの世に逝く事も、輪廻転生で第三の人生を歩んだり、他人に生まれる事も出来ません。貴方は人間の魂を失ったので……」

 

―――あぁ~そうだった……何てこった!

 

 一真は全てをオメガモンに捧げた結果、文字通り消滅する未来を待っている。オメガモンの力を引き出そうと、自らを差し出した結果、オメガモンは生前よりも凄まじい力を使えるようになり、そのまま引き継がれた。

 しかし、その代償に一真は“デジモン化”して人間としての肉体を失い、最後の戦いで人間としての精神や魂を失ってしまった。

 

「ですが、貴方はオメガモンとなった人間。魂の中に宿るオメガモンのデータを使えば、貴方をオメガモンとしてもう1度転生する事が出来ます。でも、そうなった場合は人間ではなく完全にオメガモンになりますけど……」

 

―――それは仕方ないです。でも……仮に転生しても僕を受け入れてくれる世界はあるのでしょうか?

 

「実はこの世界に来ている途中、滅びに向かっている別世界を見ました。それを見て私は放っておけないと思い、貴方に助けを求めました。ここに来たのも貴方に伝える為です」

 

―――な、何ですと!? それは見過ごせません!

 

 一真のいる空間に向かう途中、ホメオスタシスは滅ぼうとしている別世界を見た。そこは人間界なのだが、神様として世界の滅亡を見過ごす事が出来ず、消滅している一真をオメガモンに再度転生させ、その世界に送り込もうと考えた。

 その提案に一真は乗るしかない。自分の知らない世界が滅亡しようとしている。それを見過ごす勇気も無ければ、度胸もない。助けを求める声があれば直ぐに駆け付ける。それが一真と言う聖騎士だ。

 

―――ホメオスタシスさん。僕、行きます。僕の力が少しでも誰かのお役に立てるのなら、僕はどんな事をします!

 

「ありがとうございます。それでこそ一真さんです。オメガモンになった後、今まで使えた力は普通に使えます。貴方は貴方の力で戦えるのです」

 

―――ありがとうございます。ホメオスタシスさん。皆に伝えて下さい。僕は別の世界で戦っている。だから皆も負けるなと。

 

「はい。一真さんも負けないで下さいね」

 

 一真の目の前にいたホメオスタシスが消えると、彼の真上から突如として光が満ち溢れ、一真の身体を包み込むと共に身体を変えていく。

 その光の中で人格と身体が変わり始めた事を感じつつ、その空間から一真は別世界に向かっていった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 とある人間界。冬木市。そこは周囲を山と海に囲まれた自然豊かな地方都市。地名は冬が長いことから来ていると言われているが、実際には温暖な気候でそう厳しい寒さに襲われることは滅多に無く、非常に暮らしやすい場所でもある。日本でも有数の霊地であり、質の高い霊脈を幾つも抱えている。

 その冬木市は今では焼け野原となった。大災害が来たのだろう。見渡す限りの廃墟に変わり果て、映画で見たような戦場となった都市。

 戦場となった冬木市には1人の男性がいた。青い瞳に黒髪の青年―藤丸立香。彼の所に無数の骸骨兵が近付いている。スケルトン。死して尚動き続ける骸骨兵。このままでは殺される。戦う力のない自分では。

 右手に刻まれている赤い模様、令呪を見る。ここで英霊召喚を行う事を考えたが、即座に却下する。本当ならば召喚用の魔法陣を敷き、英霊を呼ぶ為の触媒を用意しないといけない。しかし、今はそんな時間はない。それに詠唱も分からない。

 立香はマスター候補だが、数合わせの一般枠である為、訓練らしい訓練は全く受けていない。その為、召喚のやり方や詠唱も全く分からない。状況が状況だった為、仕方ないが、今はそういう事を言っている暇はない。

 

(もう駄目だ……)

 

―――諦めるな!

 

 どうにもならない現実に絶望した立香は全身の力が抜け、地面に崩れ落ちてしまう。そんな彼に襲い掛かる骸骨兵の集団。その様子を見た立香は自分の死を受け入れ、目を閉じようとした。

 しかし、周囲一帯に若い男性の声が響き渡ると共に、突如として真上に金色に輝く巨大な光の卵が出現した。一体何が起きたのかと思い、上空を見上げる立香と骸骨兵達。彼らの目の前で、次第に光の卵が消滅していく。

 光の卵の中から姿を現した者が立香の目の前に降り立ち、立香と向かい合う。全身を震わせながら、一生懸命声を絞り出す立香。目の前に立っている聖騎士。何処からどう見ても一級品ではない。超が付く一級品。静かに立っているだけで凄まじい威圧感とオーラを放っている。

 

「あ、貴方は……」

 

「聖騎士オメガモン。召喚に従い参上した。問おう。君が私のテイマーか?」

 

 全身を純白に輝く聖鎧で覆い、背中に内側が赤色で、外側が白いマントを羽織り、右肩に金色の三本の突起が付いているアーマーを装着し、右手が蒼い狼を象った籠手を付け、左肩に紋章を象った黄金の盾を装備し、左手が黄金の竜を象った籠手を付けた聖騎士。

 その聖騎士の名前はオメガモン。八神一真が転生したデジモンであり、人間界とデジタルワールドを救った英雄。

 オメガモンは立香を見下ろしていた事に気付き、聖騎士らしく片膝を付いて頭を垂れた。そして青年に問い掛ける。自分を呼んだのかを。若い男性の声色でありながら、威厳のある声を以て。

 この出会いから運命が始まった。それはオメガモンの人理修復の戦い。その始まりを告げる出会いだった。

 




LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。

・一真が息を引き取る場面

前作の最終回で亡くなった八神一真君。彼の死に際から物語が始まりました。
詳しい事を知りたい方は前作を読んで下さい。

・神による転生

本来だったら死ぬ筈でしたが、ホメオスタシスの頼みによって異世界を救いに行く事になりました。でも魂は消えかけで戦う力も無い。
そこで魂と肉体を再構築し、オメガモンになる事で転生しました。
生前はオメガモンの人格に戦いを任せ、必要に応じて能力を引き出す等のサポートをしていましたが、今度は自分の力で戦わないといけない状況となりました。
なのでこれから登場するマシュさんと立場・境遇は同じです。

・オメガモン登場シーン

実はここが一番悩みました。何処で登場するのかを悩みました。
一応物語に準拠する形になるので、序章の第1節からスタートになります。
でも内容的に言えば、アニメの『First order』を見た上でこの場面にしました。
(立香君が一人ぼっち→敵兵に囲まれてピンチ→英霊召喚するけど誰も来ない→でもオメガモンが来てくれた)
最終的にこの流れに落ち着きましたが、登場する所は『僕らのウォーゲーム』っぽくしました。そして台詞もアルトリアさんの台詞をオマージュしました。

裏話はここまでになります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

骸骨兵を蹴散らしたオメガモンと、聖騎士を知っている立香はテイマーとパートナーデジモンの関係を結び、共闘する事を決めた。
そこにやって来たのは立香の後輩、マシュ・キリエライトとフォウと言う小動物。
彼らとの出会いがもたらす物とは?

第1話 動き出す運命




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第1話 動き出す運命

土曜日に予告と第0話を投稿しましたが、物凄い反響(今までにない)を頂いたので、内心戸惑っています。Fateの人気を垣間見ました……(汗)
この小説は基本的にシナリオの区切りの良い所まで書いて、区切ると言うやり方を取っています。今回は第1節:燃える街から、第2節:霊脈地へまでの内容となっています。
原作に準拠していますが、台詞は所々を変えたり、地の文にしたりしています。
何処から何処までやれば良いのか分からないので、何かアドバイスがあればお願いします。
今回は後書きに簡単なQ&Aコーナーを設けました。この小説の方針を主に書きました。


 人間界とデジタルワールド。2つの世界を救った八神一真。彼は最終決戦で命を燃やし尽くし、戦いを終えた数日後にこの世から去った。

 魂が消滅しているのを待っていた所に、デジタルワールドの神様ことホメオスタシスがやって来た。彼女は一真に別世界の危機を救って欲しいと頼み、彼の魂と肉体を再構築してオメガモンとして転生させた。

 別世界の地方都市、冬木市。そこで敵兵に襲われた藤丸立香は触媒と魔法陣無しで英霊召喚に挑み、英霊の代わりにオメガモンを召喚する事に成功した。

 

「聖騎士オメガモン。召喚に従い参上した。問おう。君が私のテイマーか?」

 

「オメガモン……!? 俺は英霊を呼んだ筈なのに、そんな英霊なんている筈がない……!」

 

 舞い降りた聖騎士の名前はオメガモン。白亜に輝く流麗で細身の聖鎧を身に纏い、右手が蒼い狼の頭部を象った手甲、左手が黄金の竜の頭部を象った手甲となっている。白兜で表情は伺う事が出来ないが、穏やかな様子で立香の目を見ている。

 威風堂々とした佇まいをしながらも優しい声で尋ねる聖騎士。その場にいるだけなのに、圧倒的な威圧感と存在感、そしてオーラが放たれている。それらに圧倒されながらも、立香はオメガモンを見る。

 

「そうなのか? 私は君の声を聞いて召喚に応じたのだが……どうやら私が間違えたみたいだ。私は英霊ではない。死んではいない。いや人間として死んだから英霊と言えなくもないか……」

 

「えっ!? いや、そ、そうなんだ……ってちょっと待って。オメガモンって言ったよね? 何か何処かで見た事があるようで、聞いた事があるような……」

 

 立香は目の前のオメガモンの姿を見ていると、何処かで彼の姿を見た事があると思い、腕組をしながら考え込む。

 21世紀の日本都市部に近い生活環境の中で暮らしていた立香。彼は思い出す。かつて自分が過ごしていた平和の日常の事を。数秒後に彼は思い出した。脳裏に焼き付いた映像を。記憶の奥底に眠っていた勇姿を。

 かつて小さい頃に両親と一緒に映画館で観た映画。その終盤で登場し、圧倒的な強さを見せつけたデジモン。それがオメガモンだった。

 

「オメガモン……オメガモン!? オメガモンってあれだよね!? 『僕らのウォーゲーム!』で初登場したすっげぇかっこ良くて強いデジモンか!?」

 

「ム? どうやら君は私の事を知っているみたいだな……」

 

「知っているも何も……俺、小さい頃に『僕らのウォーゲーム!』を家族で観て、その時からずっとオメガモンのファンなんだ。まさかこうして出会えるとは思ってもみなかったから……嬉しいんだよとても。ってそんな事よりも……オメガモン。前を見て」

 

 オメガモンが背後を振り返ると、そこには骸骨兵の集団が今にも攻撃して来そうな雰囲気となっている。1体1体から殺気を感じるが、オメガモンはそれに動じる事はない。

 何となく状況が分かった。彼は敵に襲われて助けを呼ぼうと何かしてみたが、その助けとして自分が来た。その敵が目の前にいる骸骨兵の集団だったと言う話だ。

 

「改めて説明するけど、俺は目の前の敵に襲われてて、俺一人じゃどうにも出来ないから、英霊を呼ぼうとしたんだ。でも英霊召喚のやり方が全く分からない俺じゃどうにも出来なかった……そんな時にオメガモンが来てくれた。オメガモン。頼む! 戦ってくれ!」

 

「任務了解。これより戦闘を開始する」

 

 カチャ、カチャという金属音を鳴らして骸骨兵の集団と対峙するオメガモン。人間で言う心臓、もとい電脳核(デジコア)が鳴動した。光の奔流のような純白の力が全身を貫き、脈打ち、活性化させながら頭に戦闘情報が流れ込んで来る。

 生前で経験した戦闘と1つとなり、聖騎士の戦闘をサポートする。時間の流れが緩やかになり、引き伸ばされていく。奥義を使うと言う選択肢もあるが、それでは面白くない。何しろ転生してからまだ時間が経っていない。戦闘に慣れなければならない。

 転生して訪れた世界を救う為に。オメガモンとして戦う。戦えない人々の為に。救いを求める誰かの為に。

 

(さぁ待ち望んでいた戦場だ。気を引き締めていこう!)

 

 立香の目の前でオメガモンが消失した。正確に言えば、消失したのではない。消失したと思わせる程の超スピードで移動し、相手が反応するよりも前に、目の前にいた骸骨兵に向けて右拳を叩き込む。

 その一撃で骸骨兵は木っ端微塵に粉砕され、同時に巻き起こった衝撃波が周囲にいた骸骨兵達を薙ぎ払い、吹き飛ばしながら破壊していく。

 別方向から斬り掛かって来る骸骨兵。その斬撃を黄金の竜の頭部を象った左手の籠手で受け止め、そのまま手刀を叩き込んで返り討ちにする。

 

「(成る程。身体の感覚はこういう所か……我ながら凄まじいな。人間とは比べ物にならないくらいだ。ならば攻撃の方はどうかな?)ハアアァァァッ……!」

 

 目の前から押し寄せて来る骸骨兵達。それを見ながらオメガモンは身体能力の手応えを感じると、今度は繰り出す攻撃の感触を確かめようとする。

 低く唸るような裂帛の気合と共に、オメガモンの右手に蒼く煌めく絶対零度の冷気が宿り、左手に橙色に輝く灼熱の火炎が宿る。その冷気は世界を停める程に鮮烈で、火炎は全てを焼き尽くす程に苛烈。

 

「『ダブルトレント』!!!」

 

 オメガモンは必殺奥義名を叫ぶと共に、両手を地面に突き付けた。次の瞬間には轟音が鳴り響き、火炎の輝きと冷気の煌きが静寂を瞬く間に消し去る。

 周囲一帯を満たす橙色の輝きと蒼い煌き。超高温と超低温。相反する2つの巨大な力を骸骨兵のみならず、周囲一帯を蹂躙していく。

 地面は焦げ、瓦礫が凍結する。お互いに激突した火炎と冷気は水蒸気爆発を思わせる爆風を巻き起こし、更なる破壊の爪痕を刻み付ける。

 

「す、すげぇ……」

 

―――生前は何気なく使っていたが、こうして実際に使ってみると本当に凄いとしか言えないな。人の身に過ぎた力だこれは……

 

 目の前に広がるのは見るも無残に広がる大地。つい先程までは建物や瓦礫、骸骨兵達がいたが、オメガモンが放った『ダブルトレント』によって一瞬で消滅した。

 立香は唖然となり、オメガモンは冷や汗を掻いた。それ程までに凄まじい破壊の爪痕を冬木市に刻み付けた。最早技の領域を超え、天災の領域に足を踏み入れている。それ程までに圧倒的な破壊であり、力による蹂躙だった。

 

「(どうやら迂闊に奥義は使えそうにないな……体力はそこまで使わないが、溜めが必要になる。グレイソードやガルルキャノンを普段は使いながら、必要に応じて今のような奥義を使う戦術で行こう)戦闘終了。敵兵の反応なし」

 

「お疲れ様! すげぇよオメガモン!」

 

「君の助けになって何よりだ。ところで君の名前を聞いていなかったな……」

 

「俺は藤丸立香。よろしく、オメガモン」

 

「あぁ、こちらこそよろしく。立香君」

 

 周囲を見ながら敵の『波動(コード)』を感じない事を確認し、肩の力と張り詰めていた緊張感を抜き、オメガモンは戦闘終了を告げて立香の所に戻った。

 立香はオメガモンに労いの言葉をかけ、自己紹介をしてお互いに握手を交わす。普段は相手を“~殿”と呼んでいるが、立香の事は“君”付けで呼ぶ事にした。その方が合っていると判断したのだろう。

 

ーーーーーーーーーー

 

「無事だったんですね先輩」

 

「マシュ! そっちこそ無事だったのか!?」

 

「はい。ですが想定外の事ばかりで混乱しています。先程敵兵に襲われましたが、何とかなりました。先輩は?」

 

「俺も襲われたよ。逃げられなかったから英霊を召喚しようと思ったけど、やり方が分からなくて……それでもう駄目だと思ったら来てくれたんだよ。オメガモンが。オメガモンのおかげで俺は助かったんだ」

 

「オメガモン……あの騎士の姿をしている人ですか?」

 

「人じゃなくて、デジモンと言う種族なんだ。説明は後でするよ。オメガモン。彼女はマシュ。俺の後輩だ」

 

 オメガモンと立香の目の前に姿を現したのは1人の少女。紫色の鎧に身を包み、右手に身の丈もある十字架型の盾を携え、片目を前髪で隠している。彼女の名前はマシュ・キリエライト。立香の事を“先輩”と呼んでいる。

 立香とマシュは再会を喜び合った。お互いに先程の骸骨兵に襲われたが、どうにかなったみたいだ。立香がオメガモンに助けられた事を伝えると、マシュは少し離れた所で敵が来ないかどうか見張りをしているオメガモンに目を向ける。

 その言葉に頷いた立香がオメガモンに向けて声を張り上げる。その声に反応したオメガモンはカチャ、カチャという金属音を鳴らしながら、彼らの所に歩み寄った。

 

「私はオメガモン。立香君の助けに応じた聖騎士だ。よろしく」

 

「私はマシュ・キリエライトです。よろしくお願いします、オメガモンさん」

 

『あぁ、良かった! やっと繋がった! もしもし、こちらはカルデア管制室! 聞こえるかい!?』

 

 オメガモンとマシュがお互いに自己紹介をしていた時、立香の制服のポケットから電子音が鳴り始めた。電子音が鳴っている物は一体何なのか。それを確認しようと、立香はポケットから1つのアイテムを取り出した。

 それは腕輪の形をした通信機。光っているボタンを押すと、電子画面からホログラムが映し出された。ホログラムに映し出されているのは好青年にも、優男にも見える青年。彼の名前はロマニ・アーキマン。カルデアの医療部門のトップを務めている。

 

「こちらAチームメンバー、マシュ・キリエライト。特異点Fにシフト完了しました」

 

(Aチーム? 特異点F? シフト完了? 何の事だ? 少し話を聞いてみよう)

 

 マシュはロマニと通信機越しに会話をしている。その内容はオメガモンにとって、初めて耳にする単語ばかり。単語の意味は全く分からないながらも、状況を掴もうと注意深く聞き耳を立てる。

 どうやらこの世界は自分がいた人間界でも、デジタルワールドとも違う世界のようだ。改めて自分が異世界に来た事を感じながらも、オメガモンは会話を聞いている。

 

「同伴者は藤丸立香1名。心身共に問題ありません。レイシフト適応、マスター適応共に良好です。彼を正式な調査員としての登録をお願いします」

 

『そうか……やっぱり藤丸君もレイシフトに巻き込まれたのか。コフィンなしでレイシフトして無事だったのか……それは素直に嬉しいよ。でもねマシュ……君が無事なのは嬉しいけど、その恰好は一体どうしたんだ!? 破廉恥過ぎるよ! 僕は君をそんな子に育てた覚えはないんだけど!?』

 

(レイシフト……どうやら彼らはこの場所で異変が起きている事を知り、調査しようと送り込まれたのだな。でも何かが起きた。そういう事なのかな?)

 

「これですか?……これは変身したんです。カルデアの制服では敵兵を倒せないと思ったので。……Dr.ロマン。私の状態をチェックして下さい。そうしたら状況が理解して頂けると思います」

 

 マシュとロマニの会話を聞きながら、オメガモンは彼なりに現状を分析する。立香とマシュはこの場所で異変が起きている事を受け、調査する為に派遣された。

 しかし、何らかの事態が起きてマシュは変身している。それにしても、ロマニの言葉は正しく聞こえる。マシュはスタイルが良く、胸も大きい。その上ヘソ出し。破廉恥と言われても反論する事が出来ない。

 

『君の身体状況を? わ、分かった……おっ? おおっ!? うおおぉぉぉぉぉっ!? す、凄い! 身体能力、魔術回路……全てが向上している! これは人間ではない! サーヴァントだ!』

 

「はい。サーヴァントその物です。経緯までは覚えていませんが、私はサーヴァントと融合した事で一命を取り留めました。今回の特異点Fの調査・解決の為、カルデアでは事前にサーヴァントが用意されていましたが、そのサーヴァントは先程の爆発でマスターを失い、消滅しかけていました」

 

(成る程……この世界の異変はあらかじめ察知されていて、事前に対策チームを編成していた。でも何らかの事態……いや何者かの介入によってその対策チームが機能しなくなった……そう考えた方が良いのかな?)

 

「消滅する直前、彼は私に契約を持ちかけました。英霊としての能力と宝具を授ける代わりに、この特異点の原因を突き止めて欲しい、と」

 

『そうか……英霊と人間の融合、デミ・サーヴァント。カルデア六つ目の実験……それがようやく成功したんだ』

 

(デミ・サーヴァント……英霊と人間の融合!? この世界でも私と似たような存在がいたのか……)

 

 マシュとロマニのやり取りを聞いていたオメガモンは理解した。ロマニが立香とマシュの仲間であり、医療分野を専門としている事に。

 更にこの場所での異変は事前に察知されていて、対策チームを派遣する筈が、どういう訳かそれが出来なかった事も。

 一番衝撃を受けたのはデミ・サーヴァントの存在。英霊と人間の融合。かつて人間だった自分はオメガモンと融合し、最終的に死を迎えた。今はオメガモンとなって転生したが、マシュも同じような運命を辿るかもしれない。

 似た者同士として彼女を助けたい。いや助けなければならない。自分のような経験を誰かにもして欲しくない。その強い思いがオメガモンにあった。

 

『マシュ、君の中に英霊の人格はあるのか?』

 

「いえ……彼は真名を最後まで告げずに、私に戦闘能力を託して消滅しました。ですので、私は自分がどの英霊なのか、自分が手にしているこの盾がどのような宝具なのかが全く分かりません」

 

『そうなんだ……でも不幸中の幸いだ。召喚したサーヴァントが必ず協力してくれるとは限らないし……けどマシュがサーヴァントになったのなら話が早い。何しろ全面的に信頼出来る。ところでそちらにいる騎士はどちら様?』

 

「オメガモンです。俺が敵に襲われてた時に来てくれました」

 

『オメガモン? 初めて聞く名前だね。えっ!? 藤丸君、君は何時の間にサーヴァントを召喚していたのか……いやこれはサーヴァントじゃない。英霊でもない。別の何かだ。まぁ後で話を聞くとして……どれどれ……って凄いじゃないか! 神霊と言える力を持っている! 良し! 戦力的には最強無敵の切り札だ! サーヴァントじゃないって所が良いね!』

 

 ロマニがオメガモンを解析して“神霊”と断言したのを聞き、マシュは目を丸くさせる一方、立香は納得するように頷いた。

 オメガモンはデジタルワールドにおける神霊クラスの実力者だが、人間界とデジタルワールドを救った英雄でもある。この世界の常識やシステムに当てはめると、“神霊”に該当するようだ。本人は複雑そうな顔をしている。

 型月世界における神霊は2種類ある。太陽や月といった天体や嵐、地震といった自然現象を信仰の対象とした“元からあった物が神に昇華した事例”と、初めは人間よりだったが、様々な要因で人間から逸脱し、信仰の対象になった“神として生まれ変わった事例”の2種類が存在する。オメガモンの場合は後者に類似している。

 

『藤丸君。そちらに無事にシフト出来たのは君達だけのようだ。そして本当に済まない。何も事情を説明しないまま、こんな事になってしまって……分からない事だらけで不安になったり、心配すると思うけど、どうか安心して欲しい。君には既に強力な味方がいるから』

 

(やはり思った通りだ。立香君は新米マスターで、マシュさんは駆け出しデミ・サーヴァント。ここは私がしっかりしないと駄目みたいだな……)

 

『サーヴァントは頼もしい味方である反面、もちろん弱点もある。それは魔力の供給源となる人間、つまりマスターがいないと消滅してしまうという事。現在データを解析中だが、今の所分かっているデータによると、マシュは君のサーヴァントなんだ』

 

「俺がマシュのマスター……ですか?」

 

『そうだ。つまり藤丸君。君がマシュのマスターと言う事になる。君が最初に契約した英霊が彼女と言う事になる。当惑するのも無理はないよ。君にはマスターとサーヴァントの説明をしていなかったから……』

 

「ドクター、通信が乱れています。途絶するまで残り十秒です」

 

『……そうか。ついさっき予備電源に替えたばかりだから、まだシバの出力が安定しないな……分かった。ここから2キロ程移動した先に霊脈の強いポイントがある。そこに向かって。そこから通信をすればこちらからの通信が安定する。くれぐれも無茶な行動を控えるようにね!』

 

 そう言い残すと、通信機の電子画面に映し出されたホログラムが消失した。つまりカルデアにいるロマニとの通信が途切れたと言う事になる。

 取り敢えずやる事は分かった。今いる場所から2キロ先にある霊脈の強いポイントに向かう事。その後はもう1度ロマニとの通信を試みる。

 

「……はぁ。いつもドクターはここぞという所で頼りになりませんね……」

 

「キュー。フー、フォーウ!」

 

「そうでした。フォウさんもいたんですね。応援ありがとうございます。どうやらフォウさんも一緒にレイシフトしたみたいです」

 

 そこに現れたのはフォウと言う名前の小動物。狐と羊を足して二で割ったような外見をしており、リス、ネコ、ウサギ等の要素を兼ね揃えている不思議な動物。

 カルデアを自由に散歩すると言う特権を持っている。立香とマシュ以外には懐かないらしいが、オメガモンを興味深そうに見つめている。

 

「このフォウと言う生き物は?」

 

「カルデアの仲間です。名付け親は私です。特に理由はありませんが、直感でフォウという単語が浮かびました」

 

「それは鳴き声を聞いてから付けたよな!?」

 

「細かい事は気にしてはいけません。あ、フォウさんの事をドクターに報告し忘れました……」

 

「キュ、フォウ、キャーウ!」

 

「……ドクターなんて気にするな? そうですね。フォウさんの事は次の通信で報告しましょう」

 

 フォウはオメガモンに懐いたのか、彼の白兜をペタペタ触り始める。聖騎士が小動物とじゃれながら突っ込みを入れると、マシュはそれを笑顔で受け流した。

 その数秒後にフォウの事を報告し忘れた事を思い出して表情を曇らせると、フォウの一声で次の通信の時に報告する事を決めた。

 

「先ずはドクターの言っていた座標を目指しましょう。ところでオメガモンさんはサーヴァントではないんですよね?」

 

「あ、そうだ。オメガモン。俺はデジヴァイスとかそういうのはないけど、君をパートナーデジモンとしてカルデアに迎え入れたい。どうかな……?」

 

「つまり君が私のテイマーになるという事だな? 分かった。そちらの世界の常識に従おう。“郷に入っては郷に従え”と言うからね」

 

 マシュとマスターとサーヴァントの契約を結び、オメガモンとテイマーとパートナーデジモンの契約を結んだ立香。自分を助けてくれた恩人であり、憧れのヒーローと共に戦いたいのだろう。

 その意志を汲み取ったのか、オメガモンは了承した。この世界に来た以上、この世界での常識やルールに従わなければならない。その所の分別は付いている。

 

「話が終わった所でドクターの言っていた座標に……」

 

「その件で提案がある。実は私は空を飛ぶ事が出来るのだが……もし良ければ君達2人を乗せて行こう。座標さえ教えてくれれば問題ない。位置さえ分かれば後はどうにかなるから」

 

「えっ!? オメガモンさん、空を飛べるんですか!?」

 

「あっ、そうだった! 忘れてたよ! オメガモン、君が空を飛べる事を!」

 

 今いる場所から2キロ離れた所にある霊脈の強いポイント。そこに向かおうとしている立香達に、オメガモンが提案をする。自分が飛行出来ると言う利点を活かし、2人を乗せて移動すると言う内容だ。

 聖騎士が飛行出来る事に驚くマシュと、提案に快く応じる立香。ここから2キロ歩くのは時間と体力がかかる。そう考えても、オメガモンの提案は魅力的だ。これに応じない理由がない。

 

「ではお言葉に甘えて……よろしくお願いします」

 

「お願いします!」

 

「了解した。流石に今の大きさだと2人を乗せる事は出来ない。少し少し身体を大きくするから待っていて欲しい」

 

 今のオメガモンの身長は3メートル程。流石に立香とマシュを乗せて飛行するのは不安があるのか、身長を巨大化させる事を告げる。

 単独飛行はまだしも、誰かを乗せての飛行は初めてとなる。オメガモンの言い分にも一理ある。全身に力を溜め込んで解き放ち、身長を10メートル程に巨大化させる。その様子に立香は目を輝かせ、マシュは言葉を失った。

 

「おおっ……!」

 

「何と……!」

 

「さぁ向かおう。案内よろしく」

 

 片膝を付いて立香とマシュを肩に乗せると、オメガモンは2人に自分の身体にしっかり捕まるように促した。途中で落ちて怪我されたらどうしようもない。

 飛行経験のない2人に気を遣い、転生してから初めてとなる飛行経験。オメガモンは低空飛行で、かつ安全速度でマシュの案内に従いながら、ロマニが伝えたポイントに向かっていった。

 

ーーーーーーーーーー

 

(オメガモンでいるのも不便だな……生前みたく周りに気を遣わないといけない上に、戦いは周りを巻き込んではいけない。……不満を言っても仕方ない。でも何でサーヴァント、もとい英霊で呼ばれなかったのか? 神霊と言っていたが、何か関係があるのか?)

 

 右肩にマシュ、左肩に立香を乗せながら安全速度で低空飛行しているオメガモン。幾ら初めての飛行で慣れていないとは言っても、思っているよりも上手く飛行出来ている。やはり生前にオメガモンと一体化していた経験が役立っているようだ。

 飛行している最中も『波動(コード)』を放ち、敵襲に備えながら生存者を探す事を忘れない。この異変の手がかりを掴む為にも。

 そんな中、内心で独り言ちるオメガモン。彼は先程の『ダブルトレント』で刻まれた破壊の爪痕を覚えている。あのような攻撃を連射出来るのは嬉しい限りだが、周囲一帯を巻き込む為、そう簡単には使用する事が出来ない事を感じている。

 これは生前人間界で戦った時と同じなのだが、今回は猶更気を付けなければならない。何故なら仲間と共に戦わないといけないからだ。これまでは単独で戦闘を行っていた為、このようなスタイルは久し振りとなる。

 神霊に分類され、何の制約を受ける事もないみたいなのは喜ばしい限りだが、こうして見ると、やはり英霊で呼ばれた方が良かったのかもしれない。しかし、それだと弱体化して本来の力を発揮出来ない。それもそれで困る。

 

「先輩。もうすぐでドクターに指定されたポイントに到着します」

 

「早いな~やっぱり空を飛べるって良いなぁ~ありがとう、オメガモン」

 

「礼には及ばないよ。しかし生存者がいないのが辛いな。もしいたら一体何があったのかを聞けるのだが……」

 

「はい。見渡す限りの廃墟です。事前に読んでいた資料とは全く違います。資料によると、冬木市は平均的な地方都市だと書いてありました。2004年にこのような大災害が起きたと言う記録はありませんが……」

 

(2004年か。私がいた時代から10年以上前……割と最近だな。あの時は学生だったが、まさかあの時はこうなるとは思うまい……)

 

 もう少しでロマニが言っていた霊脈の強いポイントに到着する。そんな時にオメガモンは周囲をキョロキョロと見渡しながら、生存者に1人も出会っていない事を嘆くと、マシュもそれに頷いて答える。

 2004年1月30日。これが今の特異点の時間。オメガモンは2017年の世界から来た。つまり、13年前の別世界にやって来たと言う事になる。

 

「大気中の魔力濃度も異常です。これではまるで古代の地球にいるみたいです」

 

「一体何があったんだろう……?」

 

「キャアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「今のは!?」

 

「女性の悲鳴です。行きましょう、先輩! オメガモンさん!」

 

「何だか嫌な予感がするぞ……しっかり捕まれ!」

 

 突如として聞こえて来た悲鳴。それは女性の声だった。しかも前方、自分達が向かっている場所から聞こえる。表情を引き締めるオメガモン達。

 オメガモンはマシュと立香にしっかり捕まるように言うと、加速し始める。悲鳴が聞こえた場所に直行する為に。

 

「何!? 何なのよ!? 何で私ばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの!? もう嫌! 助けて! 助けてよレフ!」

 

「ウオオオオォォォォォォーーーーー!!!!」

 

 聖騎士達の目的地。そこでは1人の女性がスケルトンの集団に襲われていた。魔力を高密度に凝集させ、魔弾を放って1体ずつ骸骨兵を倒していくが、ジリ貧となっている。

 そこに裂帛の気合を上げながら突進して来たのは純白の流星。それは肩に立香とマシュを乗せたオメガモン。聖騎士は左肩に装備している黄金の聖盾―ブレイブシールドΩを突き出し、シールドアタックを繰り出す。

 超合金で出来ていて、超質量の聖盾が凄まじい勢いと共に激突して来た。その威力と衝撃は言葉に出来ない程、凄まじかった。この一撃で骸骨兵の集団は一撃で粉砕され、女性を助ける事が出来た。

 

「間に合った……」

 

「オメガモン、ナイス!」

 

「オルガマリー所長!?」

 

「あ、貴方達!? あぁ、もう、一体何がどうなっているのよ!?」

 

 間一髪で女性を救えた事にオメガモンは安心し、そんな聖騎士の活躍を労うように立香は聖騎士にサムズアップする。

 オメガモンの肩から降りたマシュはその女性を知っているのか、驚きの声を上げる。それは女性も同じなのか、驚愕と混乱に満ちた声を上げた。

 その女性の名前はオルガマリー・アニムスフィア。魔術師の名門アニムスフィア家の当主であり、『人理継続保障機関フィニス・カルデア』の所長を務める女性。立香とマシュの上司と言える。

 

「お怪我はありませんか、所長」

 

「平気。大丈夫よ。助けてくれてありがとう……え~と……」

 

「私はオメガモン。立香君のパートナーデジモンだ」

 

「オメガモン……と言うのね。私はオルガマリー・アニムスフィア。カルデアの所長。助けて頂きありがとうございました」

 

「いや、礼には及ばないよ」

 

 オメガモンから放たれる威風堂々とした雰囲気と、圧倒的なオーラ。それを目の当たりにして高位の存在だと気付いたのだろう。

 オルガマリーは丁寧にオメガモンにお礼をすると、オメガモンは苦笑いを浮かべながら答えた。やはり何処の世界に行っても、自分はこのような扱いなのだろうと割り切った。

 

「それ以上に貴方! 貴方よ! 私の演説に遅刻した一般人!」

 

(やはり一般人だったのか……私の事を知っている時点で、何となく感じてはいたが)

 

「何でマスターになっているの!? サーヴァントと契約出来るのは一流の魔術師だけなのよ!?」

 

(魔術師……この世界には魔術師がいるのか。アルファモンが見たらどう思うのだろうか……)

 

 オルガマリーの声を耳障りと思いながら、オメガモンは独り言ちる。自分が生きた世界にいる盟友、アルファモン。彼女は魔法剣士なのだが、人間の魔術師がいるこの世界を見たら果たしてどう思うのだろうか。

 そして話を聞く限り、立香は本来サーヴァントと契約出来ない事が分かった。何故なら彼は一流どころか、魔術師ではない。かつてのオメガモン、八神一真と同じ一般人。

 ようやく自分がこの世界に召喚された理由が分かった気がする。自分と同じ一般人の藤丸立香と、英霊と人間が融合したデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライト。彼らの力になる為に、この世界が自分と言う存在を欲したのかもしれない。

 

「アンタなんかがマスターになれる筈ないじゃない! マシュにどんな乱暴を働いてマスターになったの!?」

 

「そこまでにしてもらおうか、オルガマリーさん」

 

 オルガマリーの追及は続く。立香が視線を泳がせ、マシュが困惑する中、オメガモンは立香を守るように立った。

 白兜から見える空色のつぶらな瞳からは若干の怒りが見える。それが分からないオルガマリーではない。直ぐに追及を止めた。

 

「貴女は言い過ぎだ。例え彼がマスターの資格が無くても、本来ならサーヴァントと契約出来ないとしても、現実としてマシュさんのマスターとなった。それ以上彼を侮辱すると言うのならば、このオメガモンが断じて許さない。主君への侮辱は聖騎士として見過ごす事は出来ない」

 

「いえ、そんなつもりじゃ……ごめんなさい。言い過ぎたわ」

 

「今は過去の事を言っている暇はない。この事態を切り抜けてから思う存分言いたい事を言えば良い。……ところで一回状況を整理しよう。そちらの話も聞きたいから」

 

「そうね。私も貴方から聞きたい事が色々とあるし……」

 

 オメガモンの提案を受け、オルガマリー、立香、マシュの3人で情報整理と状況把握を始めた。立香はオメガモンの召喚や、マシュのデミ・サーヴァントへの変身を話した。

 立香とマシュはレイシフトに巻き込まれ、冬木市に転移してしまった。他に転移したマスター適性者はいない。オルガマリーが冬木市で合流出来た唯一の人間。

 

「そういう事だったのか……だが、どうして立香君と所長が転移に成功したのか?」

 

「共通項があるのよ、私達には。コフィンに入っていなかった。コフィンはレイシフトする時に使うカプセルみたいな道具。レイシフトする時はそのコフィンに入らないとなんだけど、生身のままでもレイシフト自体は出来る。……成功率は激減する代わりにね」

 

「そうなのか……そのレイシフト用の設備がカルデアにあるのだな?」

 

「そうよ? コフィンにはブレーカーがあって、レイシフトが95%を下回ると自動で電源が落ちるようになっている。だから彼らはレイシフトを行っていない。そう考えるとここにいるのは私達だけ……と言う事になるわね」

 

 カルデアにある設備の話を聞きながら、オメガモンはコクコクと頷く。現状はあまり良いとは言えないが、少なくとも悪くはない。

 しかし、今はまだ分からない事が多すぎる。冬木市で起きた異変や、カルデアと言う組織がどのような所なのかが。

 

「藤丸立香。緊急事態と言う事で、貴方とキリエライトとの契約を認めます。ここからは私の指示に従ってもらいます。先ずはベースキャンプの作成。こういう時は霊脈のターミナル、魔力が収束する場所を探しましょう。そこならカルデアとの連絡が取りやすいの。さて……この街の場合は……」

 

「このポイントです、所長。レイポイントは所長の足下です」

 

「えっ!? あ……そ、そうね、そうみたい。分かってた! 分かってたわよ、そんな事! マシュ、貴女の盾を地面に置きなさい」

 

(果たしてこの所長で大丈夫なのか……?)

 

 オメガモンが心配そうに見守る中、マシュは盾を置いて召喚サークルの設置の準備に入り、カルデアとの通信を試みた。

 カルデアにいるロマニとの通信に成功した。カルデアにある召喚実験場と同じような空間の中で、早速ロマニとの通信を始めた。話すのは所長のオルガマリーだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

『もしも~し! よし、通信が戻ったぞ! 3人共お疲れ様! 空間固定に成功した。これで通信も出来るようになったし、補給物資だって……』

 

「はぁ!? 何で貴方が仕切っているのロマニ!? レフは? レフは何処? レフを出しなさい!」

 

『えっ? えぇっ!? しょ、所長、生きてらしたんですか!? あの爆発の中で!? しかも無傷!?』

 

(爆発の中? 無傷? まさか彼女は既に……やっぱりか)

 

 ロマニの言葉に何かを引っ掛かりを覚えたのだろう。オメガモンは目を細めながら、オルガマリーを横目で見る。

 どうやらロマニがいる場所で大爆発が起きたのだろう。普通なら大怪我を負ったり、最悪の場合死んでいる。しかし、所長は無傷で生きている。

 試しにオメガモンはオルガマリーの『波動(コード)』を探ってみたが、何か様子がおかしかった。最悪の可能性だった。オルガマリーの肉体は既に死んでいると。彼女が存在出来ているのは理由がある。

 

「どういう意味ですか!? いいからレフは何処? 医療セクションのトップの貴方がどうしてその席にいるの!?」

 

『……何故と言われても僕も困る。自分でもこのような役目は向いていないと自覚してるけど……』

 

 ロマニの話によると、自分は本来仕切る人間ではないのだが、彼以外に指示を下す事が出来る人材がいないとの事。現在生き残っているカルデアの正規スタッフは20人未満。ロマニが作戦指揮を任されているのは、自分よりも上の階級者がいないから。

 オルガマリーが出すように言っている人物―レフ・ライノールは、管制室でレイシフトの指揮を取っていた。爆発の中心地にいた為、生存の確率は限りなく低い。

 

「そんな……レフが……? いえ、それよりも待って! 待ちなさい! 待ってよね! 生き残りが20人未満!? じゃあマスター適正者は!? コフィンはどうなったの!?」

 

『47人全員が危篤状態です。医療器具も足りません。何名かは助ける事が出来ても、全員は恐らく……』

 

「直ぐに凍結保存に移行して! 蘇生方法は後回しよ! 死なせないのが最優先だから!」

 

『あぁ、そうか! 思い出した! コフィンにはその機能がありました! 至急手配します!』

 

 ロマニがオルガマリーの指示に従って動き出すと、マシュは本人の許可なく凍結保存を行う事を許可した事に意外そうな表情を見せた。

 本来ならば犯罪行為だが、状況が状況だ。何より本人達の許可が取れない。命を落とす可能性が高い。所長として責任を負う事より、人命を優先したと言える。

 

「……死んでさえいなければ後でいくらでも弁明できるわ。とてもじゃないけど47人の命は私には背負えない! 死なないでよ! 頼むから! あぁもう……こんな時にレフがいてくれたら……!」

 

 その後、ロマニが戻って来て再び通信でのやり取りが始まった。彼は現時点で分かっているカルデアの損壊状況を一通り報告した。

 カルデアのレイシフトルームが爆破され、47人のマスター候補者達は瀕死の重傷を負った。これだけでもかなりの大事だ。

 しかし、現実は非情だった。カルデアは機能の8割を失っており、残っているスタッフは20人未満。残されたスタッフでは出来る事に限りがある。

 ロマニの判断でレイシフトの修理、カルデアスとシバの現状維持に動いている。外部との通信が回復次第、補給を要請してカルデア全体を立て直す。それが当面の動きだ。

 

『……報告は以上です』

 

「はぁ……ロマニ・アーキマン。安心は出来ないけど、私が戻るまでカルデアを任せます。先ずはレイシフトの修理を最優先で行いなさい」

 

『えぇっ!? 所長……そんな爆心地みたいな場所、怖くないんですか!?』

 

「私だって今すぐ戻りたいわよ。でもレイシフトの修理が終わるまでは時間がかかるんでしょ? 今の所この街にいるのは低級な怪物だけだと分かったし、神霊のオメガモンとデミ・サーヴァントのマシュがいれば、例えサーヴァントが現れても大丈夫だから。これより藤丸立香、マシュ・キリエライトを探査員とし、オメガモンを協力者として特異点Fの調査を行います」

 

 事故等のトラブルはどうであれ、与えられた手段と状況下でどうにかしようとしているカルデアの皆。彼らの言葉を聞いている内に、オメガモンは無意識ながらこの世界で足掻き続ける人々を守りたいと言う気持ちが芽生えた。

 オルガマリーはロマニに立香達と共に冬木市、特異点Fの調査を行う事を話す。とは言えど、現場にいるスタッフが未熟な為、異常事態の原因と発見に専念する事になった。解析・排除はカルデアが復興した後に行う流れだ。

 

『了解です。健闘を祈ります、所長。これからも短時間なら通信は可能です。緊急事態になったら、遠慮なく連絡をお願いします。此方も何かあったら通信します』

 

「分かったわ。通信を切ります。そちらの仕事をこなしなさい」

 

 オルガマリーはロマニとの通信を切った。ここで救助を待つと言う考えもあるが、そういう訳には行かない事情が彼女にはあった。

 カルデアに戻った後、次のチーム選抜にどれだけの予算と時間がかかるのか。人材集めと資金繰りも直ぐには出来ない。今回の不始末の責任として何らかの処罰が待っている筈。

 そんな事になったら身の破滅だ。手ぶらで帰る訳には行かない。彼女には誰もが認める成果が必要となった。

 

「先ずはこの街を探索しましょう。この異変の原因が何処かにある筈だから」

 

「そうですね……所長。移動するならオメガモンに乗って下さい。彼は空を飛べるので」

 

「えぇっ!? そ、そうなの!? なら……お邪魔させてもらおうかしら」

 

「了解。では……」

 

 オメガモンはもう1度全身に力を溜め込んで解き放ち、自分の身体を巨大化させた。その様子に唖然となったオルガマリーは、恐る恐る聖騎士の身体に乗った。彼女を見て苦笑いを浮かべる立香とマシュ。聖騎士は微笑ましい様子で見守る。

 彼らを乗せて低空飛行を行い、冬木市を探索し始めるオメガモン。狂った歴史の原因を探す為に。この特異点の異常を解明する為に。

 




LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。

・オメガモンの事を知っている立香

この作品では、立香君はオメガモンの事を知っている設定にしました。
彼にとって、オメガモンとは憧れのヒーロー。
これがオメガモンの苦悩を招く事となりますが、それはまた別の話です。

・オメガモンの強さ

実はこの作品で一番悩んでいる所なのです。
最強物にしたくないのでバランス調整をしているのですが、召喚された経緯が経緯なので、英霊ではない状態に。
しかも設定とか色々準拠したら、神霊扱いになるよな~というかならないとおかしいよなと考えて今の形に落ち着きました。
もしアドバイスがある方がいたら、遠慮なくお願いします。
ただし暖かいお言葉でお願いします。暖かい言葉ですよ?

・自重する事にした攻撃

経験もあって使いこなせない訳ではありませんが、改めてデジモンの必殺技の威力の凄まじさを見せ付けられました。これ以後、オメガモンは自重します。
余程の事がない限りは。相手が強かったり、事態がイレギュラーでない限りは。

・テイマーとパートナーデジモン

デジモンと言えば、やっぱりテイマーとパートナーの関係。
最初は君付けですが、いつかは呼び捨てになります。いつかは。

・似た者同士

人間とデジモンが一体化していたオメガモンと、人間と英霊が融合したデミ・サーヴァントのマシュ。共通点はありました。
自分が迎えた終わりが訪れないよう、オメガモンはマシュの支えになろうと頑張ります。

裏話はここまでになります。ではここからQ&Aコーナーに移ります。

Q:この小説の方向性は?

A:最強物にはしません。活躍はしますけど。主人公が皆と協力しながら戦うので、それぞれに見せ場を与えます。ただシナリオには本来登場しないサーヴァントも出す予定です。

Q:オメガモンの立ち位置は?

A:先述しましたが、実は今でも凄く悩んでいます。強過ぎるのも良くないし、かと言って弱いのも良くないので。
なので間を取って仲間と連携して敵を倒したり、どうしようもない時にのみ力の一端を使う方針にしています。特に獅子王戦ではガチで行く予定です。

Q:他のデジモンは出しますか?

A:敵デジモンは出ます。味方は出ません。その方がバランスが取れるので。予定では特異点のラスボスと関係したデジモン(いなければ悪魔や魔王系)を出します。

以上になります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、作品の質を向上させるようなアドバイスや、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。それが執筆意欲に繋がります。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

冬木市を探索するオメガモン達。
そこに襲い掛かるのは聖杯の泥に汚染されたサーヴァント、もといシャドウサーヴァント達。初めてのサーヴァント戦に苦戦するオメガモンとマシュ。
そこに駆け付けた1騎のサーヴァント。彼の目的は?

第2話 サーヴァントとの戦闘




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第2話 サーヴァントとの戦闘

毎日のようにお気に入り登録数が伸びていて、本当に驚いています。
その中での第2話投稿です。タイトルを変更しました。
今までのタイトルだとありきたりで、地雷小説に思われている事に気付いたので、アニメをリスペクトした上で『デジモンアドベンチャー』まんまっぽくしました。
今回は第3節:大橋を調べるから、第7節:大聖杯を目指せまでの内容となっています。
章タイトルはアニメにタイアップしたロックバンドの曲を付けています。
変更しましたけど、今回は『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の第2期の2クール目のオープニング、『Fighter』にしました。

※後で予告を削除します。


 立香、マシュ、オルガマリーの3人を乗せ、低空飛行で冬木市を探索しているオメガモン。彼らは冬木市の探索を行いつつ、時には骸骨兵の集団を倒していたが、ここでちょっとした問題が起きていた。

 その問題とはオメガモンが今回の異変について全く知らない事だった。それを知ったオルガマリーは説明を始める。協力者たる聖騎士が何も知らないのは流石に良くないと思ったのだろう。何故立香達マスター候補生がカルデアに集められたのか。それをオメガモンは静かに聞き始める。そして演説中に居眠りをしていた立香も。

 2015年。『人理継続保障機関カルデア』によって、人類史は100年先までの安全を保証されていた。しかし、近未来観測レンズ“シバ”の観測結果によると、人類は2017年で滅び行く事が証明されてしまった。何の前触れもなく、何が原因かも分からないまま。

 カルデアの研究者達が調査した結果、“シバ”によって西暦2004年の日本にある冬木市に今までにはなかった、”観測できない領域“が観測された。カルデアはこれを人類絶滅の原因と判断し、レイシフト実験を国連に提案して承認された。

 レイシフトとは人間を霊子化させて過去に送り込み、事象に介入する行為。過去への時間旅行だが、誰にでも出来る訳ではない。優れた魔術回路を持ち、マスター適性のある人間にしか出来ない。本来ならば彼らがサーヴァントのマスターになる筈だった。

 

「説明ありがとう。そちらの事情は大体把握した。ここが過去の世界で、この場所は冬木市だと言う事は貴女に会う前に把握している。だが……過去を変革して良いのか? 現代に何かしらの影響を及ぼすと思うのだが……」

 

「貴方の心配は分かるけど、そこは問題ないわ。ここはこれまでの観測記録に無かった場所。つまり突然出来た穴だから、本来の時間軸と独立しているの。前後の辻褄合わせを考える心配はないわ」

 

「そういう事か。それなら通常の時間旅行より安心安全に出来る上に、歴史改変を行っても時間改変でどうにかなると言う事だな?」

 

「貴方が物分かりが早いのね。分かりやすく言うと、この特異点は人類史と言うドレスに染み付いた汚れのような物。その汚れを綺麗にする事が私達の使命」

 

 まだ関わって少ししか経っていないが、オルガマリーはオメガモンとの信頼関係を築き始めている。先ずオメガモンが神霊であり、自分を助けてくれた事。

 聖騎士の口調が若い男性の声で、威厳のある物なので、気軽さと聖騎士らしさが同居している事。聖騎士らしく威厳がある中で物腰が柔らかくて穏やかで、丁寧な人格である為、所長も信頼を置きつつある。

 

「ところでサーヴァントとはこの世界で一体どういう物なのだ? 私と立香君はパートナーデジモンとテイマーの関係だが、それと近い物と考えた方が良いのかな?」

 

「それも分からないのね……良いわ。このまま教えるわ。まぁ貴方の言った関係に近いと言えば近いわね……」

 

 オルガマリーはオメガモンにサーヴァントについて説明を始める。サーヴァント。魔術世界における最上級の使い魔。人類史に残った様々な英雄、偉業、概念。それらを霊体として召喚した物。

 例え彼らが実在した英雄だったり、実在しない英雄だったとしても、“地球で誕生した情報”である事には変わりない。地球に蓄えられた情報を人類の利益となる形に変換する事、それが英霊召喚だ。

 過去の遺産を現代の人間が使用するのは自然であり、それを使って未来を残すのが生き物の本能でもある。立香は人間以上の存在であると共に、人間に仕える使い魔と契約している事になる。だからサーヴァントと呼ばれている。

 

「そういう事なのか……つまり過去の英雄を使い魔にしたのがサーヴァントで、彼らと契約して使役するのがマスターと言う事だな?」

 

「そうよ。そしてサーヴァントにはクラスがあって、英雄達の逸話や能力によって色々と変化する。英雄その物を霊体として完全再現するのは難しいのよ。何しろメモリに限界があるから。だからその英雄が持つ一部分を固定化する必要がある。それがクラス。大体7種類に分類されるわ」

 

 サーヴァントのクラスは7種類ある。剣士(セイバー)槍兵(ランサー)弓兵(アーチャー)騎兵(ライダー)魔術師(キャスター)凶戦士(バーサーカー)暗殺者(アサシン)。どんな英霊であれ、必ず何かしらのクラスになって召喚される。

 中にはマシュのような盾兵(シールダー)みたいなエクストラクラスもある。どんな物にも例外は付き物だ。

 

「クラスがあるにはもう1つ理由があるの。サーヴァントの正体……英雄としての名前、もとい真名を隠す為でもある」

 

「そうか。英雄達は強い反面、有名だから弱点も知れ渡っているのか。例えばジークフリードで言う背中とか、アキレウスで言う踵みたいな感じで」

 

「理解が早くて助かるわ。だからサーヴァントはクラス名で名前を隠すの。真名を知られなければ、正体や弱点を知られる可能性は先ずないから。後もう1つ理由があって、サーヴァントが持つ切り札で真骨頂。その英霊が持つ奇跡、存在が具現化した物。それが宝具と言うんだけど、その宝具が分かればサーヴァントの真名も知られてしまう。それを防ぐ為なの」

 

―――何だか色々と複雑と言うか、難しい話ばかりだな。でも理解して吸収しないと、この先大変だから頑張ろう。私はこの世界に関する知識が何もないから。

 

 オルガマリーからサーヴァントについて簡単な説明を受けると、今度はカルデアについて説明を受ける。『人理継続保障機関カルデア』。正式名称は『人理継続保障機関フィニス・カルデア』。

 人類史を長く、強く存続させる為に魔術・科学の区別なく、研究者達が集まった研究所であって観測所。魔術だけでは見えず、科学だけでは計れない世界を観測し、人類の決定的な絶滅を防ぐ為の各国共同で成立された特務機関。

 カルデア設立の出資金は各国合同となっているが、その大半はロンドンの魔術協会もとい時計塔のアニムスフィア家が出資している。名目上は研究施設だが、その重要性から内部規律レベルは軍隊と同等。

 

(何やら所長も大変だな……せめて私が相談役になったり、居場所になれれば)

 

 その後はロマニからの通信でオルガマリーの事を聞く事になったが、オメガモンは彼女の立場の事を考えて彼女の力になりたいと思う様になった。

 元々は立香と同じくマスター候補の一人だったが、3年前に父親が亡くなって学生であるにも関わらず、カルデアを引き継ぐ事となった。そこから毎日が大変となった。何しろアニムスフィア家の当主となったのだから。

 カルデアを維持する事で精一杯だったのに、小型の疑似天体―疑似地球環境モデル・カルデアスに異常が発見された。

 今まで保証されていた筈の百年先の未来が視えなくなり、協会やスポンサーから非難の声が山のように届いた。一刻も早く事態を収束させなければ。今のオルガマリーはその脅迫概念で動いている。

 

「それにしても、資料にあった冬木市とこの冬木市はあまりにも違い過ぎますね……」

 

「一体この街で何が起きたのかな?」

 

「歴史が僅かに狂ったのか……それとも何かが起きたのか。いや起きているのか。そこまで私にも分からないわ。でも分かっている事が1つあるの。それは……」

 

 その後はオルガマリーが再びカルデアについて説明する。カルデアスという地球モデルで未来を観て、ラプラスという使い魔で過去の記録を集計する。

 公にならなかった表の歴史、人知れず闇に葬られた情報を拾って観測するのがラプラス。それによる観測によって、2004年のこの街で特殊な聖杯戦争が確認されている。

 

「と言う事は……この街はサーヴァント同士の争いによってこうなったか、聖杯その物に異変が起きたか、或いは何者かによる介入があったかのどれかだな。考えられる可能性としては」

 

「本当に貴方の勘は鋭いわね、オメガモン」

 

「そうかな? これでも鈍い方だと思うのだが……」

 

 冬木の聖杯戦争のシステムはシンプル。7人のマスターがそれぞれ競い合い、最後の勝利者が聖杯を手にする勝ち残り戦。

 カルデアがこの事実を知ったのは2010年。オルガマリーの父親であり、カルデアの前所長―マリスビリー・アニムスフィアはそのデータを使って召喚式を作った。それがカルデアの三番目の発明―守護英霊召喚システム・フェイト。

 

「ここで7騎のサーヴァントが競い合い、セイバーの勝利で終わったと記録にあったわ。街は破壊される事なく、聖杯戦争の事は誰にも知られる事なく終わった筈なんだけど……オメガモンの言う通り、サーヴァント同士の争いか、聖杯の異変か第三者の介入によってこの有り様になった。どうやら特異点となった事で結果が変わったようね……」

 

「この異変が人類史に影響をもたらし、100年先の未来が視えなくなった。俺達の使命はこの異変を修復する。何処かに歴史を狂わせた原因があると……そういう事ですね?」

 

「その通りよ。それを解析・排除すればミッション終了。私達はカルデアに戻れるわ……ところでマシュ。貴女は宝具を使えないのよね?」

 

「はい。融合してくれた英霊が誰なのか分かりませんし、その英霊が持つ切り札たる宝具の性能を発揮出来ません」

 

 サーヴァントには宝具と呼ばれる固有技能・武器がある。英雄達が持っているそれぞれの伝承、或いは偉業にちなんだ切り札。アーサー王ならエクスカリバー、ジークフリードならバルムンクと竜の血を浴びて得た無敵の肉体。

 マシュの場合は宝具その物は使える。しかし、出力は低下しており、真名解放による真価を発揮する事が出来ない。そもそも武器たる十字型の大きな盾が一体何なのか分からないのだから。

 

「マシュの宝具の事は俺がマスターとしてどうにかしないとだな……」

 

「ッ! 悪いが直ぐに私から降りて欲しい。何者かの『波動(コード)』を感じる。しかも先程の骸骨兵とは違う、もっと強力な反応だ……!」

 

 低空飛行している最中、オメガモンは前方から何者かの『波動(コード)』を探知し、表情を引き締める。

 この世界に来てから戦って来た骸骨兵とは違う反応。もっと強力な力を宿している。異変の原因の手掛かりになるかもしれない。

 

「まさか……サーヴァント!?」

 

「マシュ、同じサーヴァントよ! 何とかなるでしょう!?」

 

「……はい。最善を尽くします……!」

 

 目の前にいるのはサーヴァント。バイザーで視界を封じた妖艶な美女だが、黒いシルエットをしている。どういう英霊なのかは分からない。

 同じサーヴァントたるマシュが戦おうと盾を構えるが、彼女が戦う事を怖がっている事に気付いたオメガモンが前に進み出る。カチャ、カチャと言う金属音を鳴らしながら、マシュの隣に並び立つ。

 

「私も戦う。2対1の戦闘は騎士のやり方に反するが、生憎私はそのような事は気にしない」

 

「オメガモンさん……!」

 

「頼んだよ、オメガモン! マシュ!」

 

 身体の大きさを2メートル程に縮小しているオメガモン。彼はマシュとの共闘を自ら名乗り出た。彼もサーヴァント戦は初めてなのだが、自分が戦うしかないと腹を括る。

 かつての自分と同じだったマシュと立香の力となる為に。この世界を守る為に。オメガモンは敵サーヴァントとの戦闘に挑もうとしている。

 

ーーーーーーーーーー

 

「お覚悟を……!」

 

「行こうマシュさん!」

 

「はい、オメガモンさん!」

 

 邪悪な気配を漂わせるサーヴァント。彼女が右手に鎖付きの短剣を握り、左手で鎖を掴む一方、オメガモンは構えを取り、マシュは身の丈もある十字架型の盾を構える。彼らが敵サーヴァントとの間合いをゆっくり取る中、先にサーヴァントが仕掛けて来た。

 マシュに向けて鎖付きの短剣が放たれる。目にも止まらぬ速さで迫り来る短剣に対し、マシュが反応する。手にしている盾で短剣を防ぎ、返す刀で突進を開始してシールドバッシュを叩き込む。

 

「やぁっ!」

 

「クッ!!」

 

 マシュの怒涛の攻撃の前に敵サーヴァントが防戦に追いやられる中、オメガモンはメタルガルルモンの頭部を象った右手の籠手から黒光りする大砲を展開し、敵サーヴァントに照準を合わせる。

 体内に貯蔵している絶対零度の冷気を砲身の内部で砲弾の形に圧縮し、凝縮した絶対零度の冷気を蒼く煌めく冷気弾として撃ち込んだ。

 

「マシュさん、一旦離れろ!」

 

「は、はい!」

 

 オメガモンの言葉を聞いたマシュがその場から飛び退くのと、絶対零度の冷気弾が発射されたタイミングは一緒だった。

 敵サーヴァントは咄嗟に砲撃を回避するが、冷気弾が身体を掠めた事でその部分が瞬く間に凍結していく。冷気弾が着弾した場所は瞬く間に凍結し、氷の世界と化した。

 

「そんなっ……!」

 

「今だマシュさん!」

 

「はい!」

 

「怒りましたよ……!」

 

 自分の身体が凍り付いた事に驚愕する敵サーヴァント。その隙を見逃すオメガモン達ではない。マシュは盾を構えながら追い打ちをかけようとしたが、その直前に敵サーヴァントがとある行動に出た。

 両目を覆い、視界を封じていたバイザーを外し、今まで見せなかった両目をマシュに見せた。その両目から不気味に輝く赤い光が放たれ、マシュは咄嗟に盾を目の前に突き出した。何かの攻撃が来ると思ったのだが、実際には違った。

 

「ッ……これは!」

 

「マシュ!?」

 

「まさか……私の魔眼に耐えられるとは。石化すると思っていましたが……」

 

「魔眼……石化? マシュ分かったわ! あのサーヴァントの真名が! あれはメドゥーサよ!」

 

『メドゥーサ!?』

 

 マシュは凄まじい重圧を掛けられたように、地面に片膝を付いてしまった。オメガモンと立香が驚く一方、敵サーヴァントは表情を歪めた。

 本来ならばマシュを石化させたかったのだが、魔力のパラメーターがBと中々高かった為、そう上手くはいかなかった。

 その上、オルガマリーに真名を言い当てられてしまった。敵サーヴァントはメドゥーサ。ギリシャ神話に登場するゴルゴン三姉妹の末妹。見たものを石にする蛇の怪物として描かれていた。

 

「気は乗りませんが、貴方達も石になりなさい」

 

「させるか!」

 

 メドゥーサが立香とオルガマリーを石化させようと魔眼を輝かせるが、彼らを庇うようにオメガモンが彼女の前に立ち塞がる。

 立香達は石化を免れる事になるが、オメガモンは少なからず魔眼による影響を受ける。そう思われたが、何故かオメガモンの身体は石化する事も無ければ、凄まじい重圧がかかる様子が一向に見られない。

 

「私の魔眼が効かない……!? 貴方はサーヴァントではない。何者ですか?」

 

「ただの聖騎士だ!」

 

 オメガモンは英霊で無ければ、魔力を保有していない。しかし、純白の聖鎧による加護と、神霊の格の魂、そして生前の戦いで築き上げて来た実力によって無効化している。

 目の前にいる聖騎士には石化の魔眼が通用しない。そう悟ったメドゥーサは、凄まじい重圧で動けないでいるマシュに標的を変える。未だに動けないでいる彼女に向けて鎖付き短剣を飛ばそうとするが、それは出来なかった。

 

「私の、負け……ですね……」

 

「私ではなく、彼女を先に攻撃しようとしたのが敗因だ」

 

 マシュに攻撃すると言う事は、オメガモンから攻撃を喰らうのと同じ意味だ。聖騎士はガルルキャノンを構えると共に砲身の内部に絶対零度の冷気を集束させ、砲弾の形に凝縮して蒼く煌めく冷気弾をメドゥーサに向けて撃ち込んだ。

 攻撃を繰り出そうと思っていた時に攻撃が放たれた。咄嗟に回避しようとしたメドゥーサだったが、絶対零度の冷気弾の速度が彼女の速度を上回り、蒼く煌めく冷気弾が直撃した。

 自らの敗北を悟りながら、瞬間凍結していくメドゥーサ。一陣の風が吹いた瞬間、彼女は粒子レベルにまで分解され、そのまま消えていった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ハァッ……何とか勝てましたね……」

 

「あぁ。お疲れ様……と言いたい所だが、休んでいる暇はない。こちらに近付いて来るサーヴァントの反応をまた確認した。しかも2騎いる……!」

 

 本来であれば、冬木市では聖杯戦争が行われていた。7騎のサーヴァントによる殺し合いが、何らかの理由で狂った。マスターのいないサーヴァントがいてもおかしくない。サーヴァントの敵はサーヴァント。

 そのサーヴァントの反応を探っていた所、マシュ達を見付けて戦闘に突入した。しかし、先程のメドゥーサは英霊ではなく、亡霊に近かった。

 

「見付ケタゾ、新シイ獲物!」

 

「あれはアサシンのサーヴァント……! じゃあもう1体は……」

 

「サーヴァントデハナイ気配ヲ感ジルガ、御首ニハ違イナイ……」

 

「ランサーのサーヴァント……!」

 

 オメガモン達の前に現れたのは2騎のサーヴァント。白い髑髏の仮面に黒いマント、黒い布で覆われた棒のような右手と不気味な外見をしているアサシン。厳つい姿をした僧兵のランサー。

 先程はオメガモンとマシュの連携で1騎のサーヴァントを倒す事が出来たが、今度は2騎のサーヴァントと戦わなければならない。そう悟って雰囲気に飲まれるオルガマリーとマシュを励ますように、オメガモンは声を張り上げる。

 

「とある兵士が言っていた。“獲物を前に舌なめずりをするのは三流のやり方”と。お前達のような悪霊に負ける私達ではない!」

 

「そうだ! 俺は絶対に諦めない!」

 

「良いねぇ、気に入った。逆境の中でも諦めないその勇気。それに見た事ない騎士さんよ、お前はすげぇ物を持っている」

 

「誰だ!」

 

「何者? 見りゃ分かんだろ。キャスターのサーヴァントだ」

 

 オメガモンの言葉に頷くように立香も声を張り上げる。聖騎士が2騎のサーヴァントと戦おうとしたその時、何者かがオメガモン達の所に歩み寄って来た。

 彼はキャスターのサーヴァント。青いローブを纏ったケルトの魔術師。他のサーヴァントと違い、正気を保っており、オメガモン達に味方しようとしている。

 

「構えなそこのお嬢ちゃん。腕前じゃあ奴らに負けてねぇ。番狂いも夢じゃねぇ。坊主がマスターかい? 指示を任せる」

 

「分かった! オメガモンはランサーを、マシュとキャスターはアサシンを!」

 

 立香の指示を受けたオメガモンはランサーと、マシュはキャスターと共闘してアサシンと戦う事となった。

 単独でのサーヴァント戦は初めてのオメガモンと、何やら曰く付きのキャスターと共闘するマシュ。彼らの戦いが始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「むぅん!」

 

 聖騎士と僧兵の戦い。最初に動いたのはランサーだった。手にした薙刀を構えながら突進を開始し、間合いを詰めて全力で薙刀を振るう。

 狙いはオメガモンの首。一撃必殺。必ずこの一撃で仕留めると言う意志が込められた攻撃だったが、オメガモンは身を屈ませて攻撃を避ける。

 そして両足で地面をしっかりと踏み締めながら上半身を回転し始めるオメガモン。ウォーグレイモンの頭部を象った籠手となっている左手。そこからグレイソードを出現させながら一気に振り上げる。

 

「ぬっ!」

 

「終わりだ!」

 

 右斬り上げによって弾かれた薙刀。これでランサーは無防備となり、胴体はがら空きとなった。その隙を逃すオメガモンではない。返す刀でグレイソードを振り下ろし、僧兵を一刀両断して戦いを終わらせた。

 目の前で粒子となりながら消滅するランサーを見て、戦闘が終了した事を確認すると、オメガモンは背中に羽織っているマントを翻し、マスターの所へと戻っていった。

 

「シャアッ!」

 

「はあっ!」

 

「はっ!」

 

 同じ頃、アサシンとマシュ&キャスターの戦いも始まっていた。先手を取ったのはアサシン。黒塗りの短剣―ダークを弾丸として投擲する

 ノーモーションから繰り出された攻撃。それに対し、キャスターは手に携える杖を構えてルーンによる遠隔攻撃を放ち、魔弾を迎撃していく。

 魔弾とルーンが激突して爆発が起きる中、マシュは爆炎と黒煙を掻い潜り、アサシンとの間合いを詰め、携えた盾で殴り掛かる。

 アサシンは暗殺者。お世辞にも戦闘力は高いとは言えない。正面での戦闘より、暗殺・諜報活動を得意にしている。幾ら戦闘に不慣れなマシュが相手でも、百戦錬磨のキャスターの援護があれば猶更だ。

 

「アンザス!」

 

「これで、倒れて!」

 

「こんな、はずでは……!」

 

 キャスターの火炎弾の直撃を喰らうと共に、体勢を崩したアサシン。追い打ちをかけるようにマシュの攻撃が入り、霊核を破壊され、粒子に変わりながら消滅していった。

 ランサーとアサシンの2騎のサーヴァントとの戦闘。キャスターの助力のおかげで、オメガモン達はピンチを抜け出す事が出来た。

 

ーーーーーーーーーー

 

「あ、あの……ありがとうございます。危ない所を助けて頂いて……」

 

「おぅ、お疲れさん。この程度は貸しにもならねぇから気にするな。それより自分の身体を心配するんだな」

 

「ひゃん!」

 

 ランサーとアサシンの2騎のサーヴァントとの戦闘終了後。自分を援護してくれたキャスターにマシュがお辞儀をすると、キャスターは笑顔で答える。

 この程度は気にするな。兄貴分らしい懐の広さを見せたと思いきや、唐突にマシュの体を触って来た。誰がどう見てもセクハラとしか言えない。

 マシュは顔を真っ赤にしながらキャスターから離れる一方、若干の怒りを覚えたオメガモンがキャスターに静かに歩み寄る。

 

「おぉ、中々良い体してるじゃねぇか! 役得役得っと」

 

「おいお前、私の仲間に随分な事をしているではないか」

 

 笑みを浮かべるキャスターの後ろからガシャン、と言う音が聞こえて来た。キャスターがゆっくり振り返ると、自分の後頭部に黒光りする大砲を突き付けられている事に気付く。

 白兜からは伺えないが、空色のつぶらな瞳から怒りを見せているオメガモン。若干険しい表情を浮かべている聖騎士を見て、キャスターは冷や汗を掻き始める。

 

「あ、あの聖騎士さん? 何で俺に物騒な物を押し付けているんだ?」

 

「何故? 理由は簡単だ。お前が私の仲間にセクハラをしたからだ。そういう事は自分の妻や恋人にするものだろう?」

 

「ま、まぁそうなんだが……」

 

「スキンシップのつもりでやったと信じたいが、相手は嫌がるかもしれないぞ? 気を付けてくれ」

 

「お、おう……済まねぇな」

 

 言葉を言い終えると、オメガモンはガルルキャノンを戻した。相手を怒っているようでいて、それとなく諭しているように見えた為、キャスターは申し訳なさそうに頭を下げた。

 その一幕を見ていた立香とオルガマリーは苦笑いを浮かべながらも、キャスターから詳しい話を聞く事にした。初めて出会ったまともな英霊。この異変に関して何かしらの情報を持っている筈と信じて。

 先ずは自分達の状況を話した。立香がマスターとして現地調査を行っており、マシュがサーヴァントとなっている。オメガモンは立香のパートナーデジモンとなっている。

 

「そこの聖騎士さんはオメガモンと言って、デジモンと言う種族なのか。道理で俺達サーヴァントとは違う気配を感じたし、神霊の力を持っていてもおかしくねぇな」

 

「キャスター。貴殿はこの街で起きた聖杯戦争で召喚されたサーヴァントで、唯一の生存者なのか?」

 

「まぁな。負けていないと言う意味ならな」

 

 キャスターがオメガモンの質問に答えながら、冬木市で起きている異変について話し始める。冬木市で起きた聖杯戦争は何時の間にか別の物にすり替わっていた。

 経緯はキャスターにも分からない。街は一夜で炎に覆われ、人間はいなくなり、サーヴァントだけが残った。

 そんな中、セイバーが聖杯戦争を再開させて大暴れを始めた。そしてランサー、アーチャー、ライダー、アサシン、バーサーカーが倒された。キャスターは生き残る事が出来たが、セイバーによって倒されたサーヴァント達は全員真っ黒い泥に汚染された。

 そして彼らは骸骨兵と共に何かを探し始めた。それにキャスターも含まれている。彼を倒さない限り、聖杯戦争は終わらないのだから。

 

「説明ありがとう。つまり、残っているセイバーを倒せば、この街の聖杯戦争が終わると言う事だな? この状況が戻るかどうかはさておき……」

 

「貴方はセイバーを倒したいけど、一人じゃ勝ち目がないから私達と協力したいって事ね……」

 

「その通りだ。悪ぃなぁ。俺がランサーとして召喚されていれば、セイバーを一刺しで仕留めていたんだがな……でもやっぱ俺にはキャスターは合わねぇな。冬木の聖杯戦争でキャスターなんてやってられねぇぜ、全く」

 

 キャスターはオメガモン達の為ではなく、自分の目的で動いている。それが偶然にもオメガモン達と一致していただけだ。

 キャスターのように、英霊の中には複数のクラス特性を持つ者もいる。例えば、ギリシャ神話で有名な英雄―ヘラクレスはキャスター以外の全てのクラス特性を持っている。本人が最も力を発揮する事が出来るのはアーチャーのクラスだが。

 キャスターの場合、ランサーの適正もある。ただ本人が一番好きで、本業だと言い張るのはランサーみたいだが。

 

(槍を使えて、魔術も使える……誰だろう? きっと真名が分かれば、物凄い英雄なのだろう)

 

「サーヴァントの鉄則として、自分の時代以外の事情には深く関わってはいけない。あくまで戦いに協力するだけだ。アンタらはこの異常を調査したい。俺はこの聖杯戦争を終わらせたい。利害は一致している。どうだ? ここはお互いに手を組まねぇか?」

 

「私もそうしたいけれど、貴方のマスターは誰になるの?」

 

「そりゃあそこの坊主一択だろ。この街限定の契約だが、よろしく頼むぜ?」

 

 こうして、キャスターがオメガモン達一行の仲間入りを果たすと共に、立香と契約を果たした。冬木市の異変を調査・排除するまでの間だが。いわば客将扱い。

 やはり現地にいるサーヴァントが仲間にあるのはありがたい。戦力の増強もそうだが、詳しい事情を聞く事が出来る。

 

「後は目的の確認だな……アンタらが探す物は間違いなく大聖杯になる。大聖杯ってのはこの土地のいわば“心臓”みてぇな物だ。特異点がある場所と聞かれれば、それ以外考えられない。だが、大聖杯にはセイバーが居座っている。奴に汚染された残りのサーヴァントもな」

 

「ライダーとランサーとアサシンは倒したから、アーチャーとバーサーカー?」

 

「アーチャーは俺がいればどうにかなる。バーサーカーはセイバーでも手を焼くが、近寄らなければ襲ってこねぇから無視するのもありだな。案内は俺がする。突入のタイミングは坊主に任せる」

 

 オメガモン達はキャスターの案内を受けながら、大聖杯を目指す事となった。早速オメガモンが巨大化して、立香、マシュ、オルガマリー、キャスターの4人を乗せる。

 そこから低空飛行で移動を開始するが、オメガモンが飛行出来る事と身体の大きさを自由自在に変える事が出来る事を知り、キャスターが驚いていたのは言うまでもない。

 

 




LAST ALLIANCEです。
今回は特に裏話をするような事がないので省略します。手抜きじゃないです。

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あたたかい感想とか前向きなコメント、作品の質を向上させるようなアドバイスや、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。それが執筆意欲に繋がります。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

宝具が使えないマシュを特訓し、大聖杯がある場所に突入するオメガモン達。
門番ことアーチャーと戦うオメガモン。その思いとは?

第3話 宝具と思いと


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第3話 宝具と思いと

昨日第2話を投稿しましたが、第3話を投稿します。
後2、3話で序章、もとい特異点Fは終わります。
今回は文字数少なめ(1万字未満)ですが、第8節:マシュの特訓から第10節:大聖杯目前までの内容が中心となっています。
第一特異点からは本当なら出ない英霊(ヒロインXとか)が結構出るので、楽しみにしていて下さい。


「マシュ、どうかした?」

 

「はい。情けないですが……」

 

 立香、マシュ、オルガマリー、キャスターの4人を乗せ、低空飛行で大聖杯がある所に向かっているオメガモン。その道中、マシュは顔を俯けている。

 マシュは自分の悩みを打ち明ける。これまで骸骨兵やサーヴァントとの戦いで充分な経験値を積む事は出来た。しかし、まだ宝具を使う事が出来ない。自分を欠陥サーヴァントと自虐的に言うのだから。

 

(英霊と人間が融合したデミ・サーヴァント……英霊の切り札、それが宝具。それをあっさり使えるようになったら、英霊達の面目が立たないのも分かるよ)

 

 かつては八神一真と言う人間だったオメガモン。生前もオメガモンとなって戦っていたが、その時はオメガモンの人格があったからどうにか出来た。

 今は自分一人でどうにかしないといけない。幸い、これまで使っていた力や動きを再現可能である上に、生前の経験がある為、上手い事カバー出来ている。

 

「それは問題ねぇと思うぜ? 英霊と宝具は同じもんなんだから。お嬢ちゃんはサーヴァントとして戦える。もうその時点で宝具が使えるようなもんだ。なのに使えねぇって事は、魔力が詰まっているだけだ。吐き出させるに限る。オメガモン、ちょっと寄り道して良いか?」

 

「マシュさんに宝具を使えるように特訓するんだな? 良いぞ!」

 

「済まねぇな」

 

 オメガモンはキャスターの言葉に頷きつつも、自分が情けなくなって来た。聖騎士となり、ホメオスタシスの使命を受けて転生した世界。自分の出身世界と色々と異なる世界。普通ならば有り得ない展開。

 未知の世界と新たなるシチュレーションに慣れている最中なのだが、マシュは自分よりも条件が悪い中で戦い、弱音を全く言わない。彼女の根性が凄い以上に、自分自身の不甲斐なさに苛立ちを感じる。もっと上手く戦えるとオメガモンは思い込んでいる。

 

「お嬢ちゃん、構えな」

 

「えっ?」

 

「宝具を使えるようになるには、戦うのが一番だ。俺は遠慮なしで立香を殺す。サーヴァントの問題はマスターの問題。お嬢ちゃんが立てなくなった時、テメェも死ぬ」

 

「マシュ……全力で戦うんだ! 味方だからって容赦するな!」

 

「マシュさん。これは君が乗り越えるべき試練。自信を持て。君は強い。その強さを魅せてやれ!」

 

 立香と契約しているサーヴァントはマシュ・キリエライト。キャスターは今回限りの協力者。オメガモンは異世界から来た客将。立ち位置が微妙で、どう行動すれば良いのか悩んだが、自分が為す事に薄々気が付いた。

 これから立香はマシュと共に戦い続ける。様々な困難に立ち向かう。それは分かる。自分がいれば如何なる敵に遅れは取らない。そう言い切れる自信はあるが、それは果たして彼らの為になるのだろうか。聖騎士は否と考える。

 

 ―――この世界で起きた異変はこの世界の住民で解決する。

 

「武装完了……行きます!」

 

「たまには知的に行きますか!」

 

 それがオメガモンの理想であり、その為の協力は惜しまない。自分が主役になってはいけない。手本になって良いが、間違っても前に出過ぎてはいけない。そうなると、彼らは自分に依存して堕落してしまう。それだけは絶対に避けたい。

 だからオメガモンは見守る事に徹した。目の前でマシュとキャスターの戦闘が始まる。先に動いたのはマシュ。彼女は盾を構えながらキャスターとの間合いを詰めていく。

 しかし、それを許すキャスターではない。ルーン文字を刻み、灼熱の火炎弾を放ってマシュを牽制する。更に強力な火炎攻撃を繰り出し、徐々に追い詰めていく。

 

「キャスターは本気でマシュを……!」

 

「あぁ。キャスターからその意志が感じ取れる」

 

「止めなくていいの?」

 

「これは彼女の試練だ。越えなければ前に進む事は出来ない。ここで朽ち果てるか、宝具を使えるようになって前に進めるか……それは彼女次第だ」

 

 オメガモンはマシュとキャスターの戦闘に介入しない。何故なら自分の役割を理解しているから。立香達を見守りながら手助けし、時には良き方向へと導く。それがこの世界でのオメガモンの役割。

 かつての自分もそうだった。生前自分がなったオメガモンは秘奥義を封じられていた。自分と一体化した事で、使えるようになった。使いこなそうと、強くなろうと、オリジナルに近付こうと思った。だから自分を鍛えつつ、様々な相手と戦って経験を積み重ねた。

 強くなろうと前に進み続けた結果、八神一真は人間でなくなり、そして亡くなった。今はオメガモンとなり、新しい世界で戦っている。その結果に後悔はしていない。立ち止まらず、手を抜かず、前に進み続けた結果に訪れた結果だからだ。

 だからこれからも前に進み続ける。いつまでも異世界だからと言って慢心してはいけない。次の戦いが正念場となる。自分が希望の光となり、立香とマシュを照らして輝けるように。彼らは必ずやり遂げる。オメガモンはそう信じながら目の前の戦闘を見守る。

 

「そろそろ仕上げと行くか……我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社……倒壊するはウィッカー・マン! オラ、善悪問わず土に還りな!」

 

「あっ……!(守らないと……使えないと……私は先輩の足手まといになってしまう! 偽物でも良い! 今だけでも良い! どうか私に力を!)」

 

 キャスターが宝具を発動すると共に、現れたのはウィッカー・マン。無数の細木の枝で構成された巨人。火炎を身に纏っており、大きさは本来のオメガモンの身長はある。

 全長十数メートルの燃え盛る巨体。それを目にしたマシュは恐怖に震えながらも、自分と融合した英霊に願う。宝具を使えるようになりたいと。今だけでも良い、貴方の事を教えて欲しいと。

 

「ハアアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 ウィッカー・マンの剛腕とマシュの盾が激突し合い、轟音が鳴り響きながら凄まじい衝撃波が巻き起こり、周囲一帯を丸ごと薙ぎ払う。

 もう片方の剛腕が振るわれる。盾兵を押し潰そうと、巨人の力が凄みを増していく。その時、巨人の攻撃を受け止めているマシュの盾が光り輝き、正面に巨大な結界のような物が展開された。

 

ーーーーーーーーーー

 

「私……宝具を展開出来たんですか……?」

 

「ヒュウ。何とか一命は取りとめると思ったが、まさか無傷とはな……褒めてやれ立香。アンタのサーヴァント、お嬢ちゃんは間違いねぇ。一級品の英霊だ」

 

「先輩……オメガモンさん。私、今……!」

 

「あぁ。おめでとう、マシュ!」

 

「凄かったぞ! よく頑張った!」

 

 宝具を展開し、ウィッカー・マンの攻撃を正面から防ぎ切ったマシュ。彼女と共に喜びを分かち合うオメガモン達。真名を会得する事は出来ず、自分と融合した英霊の事も分からないが、今はそれで良い。

 大事なのはここからだ。戦いはまだ始まったばかりで、マシュはスタートラインに立っただけだ。立ち止まらずに前を見て突き進む。簡単な事だが難しい。それでもマシュは出来るとオメガモンは信じている。何故なら自分の仲間だから。

 

「宝具の真名は……そうね。『疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』なんてのはどうかしら?」

 

「は、はい! ありがとうございます、所長!」

 

 特訓が終わり、宝具を使えるようになったマシュ。オメガモンは再び巨大化して立香、マシュ、オルガマリー、キャスターの4人を乗せて低空飛行で移動を開始する。

 キャスターの案内とロマニのサポート。オメガモンはそれらに従いながら柳洞寺へ向かい、そこから地下の洞窟に突入した。

 大聖杯は洞窟の奥にあり、少しばかり入り組んだ所となっている。この洞窟は半分天然で、半分人工の洞窟。魔術師達が長い年月をかけて拡げて来た地下工房。

 その大洞窟の中を進んでいる最中、キャスターがセイバーについて話し始める。何度も戦っているが、中々歯が立たないセイバーのサーヴァントについて。

 

「奴の宝具を見れば誰だって真名が分かるし、正体に突き当たる。他のサーヴァントが倒されたのも、奴が強いのもそうだが、宝具があまりにも強力だった。王を選定する岩に突き刺さった剣。その2振り目。お前さん達の時代でも有名だろうさ」

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』……騎士王と誉れの高いアーサー王の剣」

 

「(まさかこの世界でアーサー王と戦うとはな……)何者だ!」

 

 オメガモンがいた世界では、パラティヌモンと言う名前のデジモンがいる。彼女はアーサー王が転生したデジモンで、全ての聖騎士型デジモンの原型となった聖騎士王。

 後にアーサーパラティヌモンとなったが、その強さはオメガモン以上だ。何の因果なのか、聖騎士は騎士王と再び剣を交える事となった事に運命を感じたが、キャスターの話を続けるように何者かの声が響き渡った。

 

「相変わらず聖剣使いを守っているのか、てめぇ」

 

「守っている覚えはないがね。つまらん来客を追い返すくらいの仕事はするさ」

 

 オメガモン達の目の前に現れた1騎のサーヴァント。浅黒い肌に赤い外套を纏った白髪の男性。彼がセイバーを守るアーチャーのサーヴァント。

 アーチャーは涼し気な様子でキャスターの視線を真っ直ぐ受け止めながら、皮肉めいた言葉に応える。まるで悪友みたいな雰囲気だ。

 

「つまり門番みてぇな物か。何からセイバーを守っているかは知らねぇが、ここらで決着を付けようや。永遠に終わらないゲームなんざ退屈だろう? 良きにせよ、悪きにせよ、先に進まないとな」

 

「どうやら事のあらましは把握しているようだな。対局を理解しても自らの欲望に熱中する……魔術師になっても変わらんな。文字通り叩き直してやろう」

 

「ハッ、弓兵が何を言いやがる。行くぞオメガモン、お嬢ちゃん。俺の詠唱時間を稼いでくれよ?」

 

「心配するな、キャスター殿。貴殿が魔術を使う前に終わらせる!」

 

「武装完了……行きます!」

 

 アーチャーとの戦闘が始まった。前衛はオメガモン。後衛はキャスターとマシュ。先に動いたのはオメガモンからだった。

 背中に羽織っているマントを翻しながらアーチャーとの間合いを詰め、ウォーグレイモンの頭部を象った手甲からグレイソードを出現させ、目にも止まらぬ速さで斬りかかる。

 それに対し、アーチャーは手に携えていた黒い弓を消滅させた。両手に二本一対の陰陽の夫婦剣―干将・莫耶を出現させ、オメガモンが繰り出した強烈な唐竹斬りを受け止める。

 

「双剣使いのアーチャーか……面白い!」

 

「アーチャーだからと言って、弓しか使わない訳じゃない。そういう事だ!」

 

 目を細めながら楽し気に声を張り上げるオメガモンと、吠えながら聖騎士を跳ね除けるアーチャー。彼らは甲高い金属音を響かせる剣戟を開始した。

 そのオメガモンを援護しようと、マシュとキャスターが攻撃を繰り出そうとしたが、それに気付いたアーチャーが一石を投じた。大量の剣を一斉に出現させると共に射出し、マシュとキャスターを牽制する。

 

「おのれ……!」

 

「はぁっ!」

 

 更に大量の剣が一斉射出され、地面に突き刺さると共に次々と爆発していく為、マシュとキャスターはオメガモンの援護に向かう事が出来ない。

 仲間のピンチに苛立ちを覚えるオメガモンの懐に入り、アーチャーは干将・莫耶を振るって聖騎士の胸部を斬り付けるが、純白の聖鎧には傷一つ付いていない。

 

「何……!?」

 

「多少の衝撃を感じたが、傷やダメージは受けていないらしい」

 

 オメガモンが身に纏う聖鎧は高純度“クロンデジゾイド”を精製して造られた。並大抵の攻撃では傷一つ付けられない。それこそ一撃で都市や国と言った広範囲を消し去ったり、オメガモンと同等の実力者でない限りは。

 一度距離を取ったアーチャーは干将・莫耶を構え直し、オメガモンもグレイソードを構え直す。数秒の睨み合いの後、アーチャーが口を開いた。

 

「お前はサーヴァントでも無ければ、英霊でもない。初めて見る奴だな。何の為にこの世界に来て、何故戦う?」

 

「神様に頼まれたからだ。この世界に訪れる厄災を消し去って欲しいと。この世界の未来と、この世界で生きる全ての人々と日常を守る為に私は戦っている」

 

「何だと?」

 

「私は正義の味方ではない。己の信念を貫く為に戦う聖騎士だ。本当に理想が叶うかどうかも分からない……例え今は目の前で起きている事で手一杯でも、私は絶対に諦めない! 屈したりしない! 理不尽で世界を蝕もうとしている邪悪には絶対に!」

 

 オメガモンの嘘偽りのない真っ直ぐな言葉と信念。それを聞いた誰もが胸を打たれたようにハッとなった。つぶらな空色の瞳から放たれる純粋な思いをアーチャーは感じ取った。

 しかし、それがアーチャーを怒らせたようだ。オメガモンには救いたいと願う明確な誰かがいない。その在り方が如何に歪で醜悪としか思えなかった。

 

「私は1人の青年を救えなかった……彼が生きる日常や、帰るべき場所も、彼自身の命も……何もかも! だから今度こそ全てを失わせたりはしない! 守りたいと願った物全てを!」

 

「ならば理想を抱いて溺死しろ!」

 

 オメガモンが言ったのは生前の自分自身。ディアボロモンによって本来の日常と命を奪われた。聖騎士と一体化して転生した時、かつての自分は既に消え去っていた。

 自分が戦わないといけないと言う脅迫概念と共に走り続けた。それが苦痛だと思う事も、破綻していると気付く間もなかった。それでも2つの世界と、そこに生きる皆を救えた事を感じ取り、彼は息を引き取った。自分の生き方に後悔はしていない。

 アーチャーの干将・莫耶がそんな聖騎士目掛けて振り下ろされるが、オメガモンはメタルガルルモンの頭部を象った右手の籠手で受け止める。

 

「理想と共に心中するつもりはない。私は戦って生きる! もう二度と全てを失わないですむように!」

 

 二度と生前のような事にならないように。誰かを悲しませないように。オメガモンは強い意志と共に干将・莫耶を跳ね除け、アーチャーを弾き飛ばす。

 体勢を立て直して着地するアーチャーに追い打ちをかけるべく、オメガモンは右手からガルルキャノンを展開する。照準を合わせながら砲身の内部で生命エネルギーを消滅エネルギーに変換・凝縮し、砲弾の形に圧縮して撃ち出した。

 

「『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!!!」

 

「ウオオオオォォォォォーーーーーー!!!!!」

 

 アーチャーは光で出来た七枚の花弁が展開して青いエネルギー弾を防ぐが、その際に花弁を2枚破壊された。一枚一枚が古の城壁と同等の防御力を持つと謳われていて、投擲武器や、使い手から離れた武器に対して無敵という概念を持つ概念武装。

 その隙にオメガモンはアーチャーとの間合いを詰め、大上段に掲げていたグレイソードを勢い良く振り下ろす。

 砲撃から唐竹斬りに繋げた連続攻撃。『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』の花弁を次々と破壊し、残る2枚となった。しかし、オメガモンの攻撃はまだ終わっていない。

 

「どうやらお前の剣と銃はこの守りを突破出来なかったみたいだな」

 

「それはどうかな? 私の攻撃はまだ終わっていない」

 

 オメガモンがグレイソードを構えると共に、刀身から太陽の灼熱が放射されていく。万象一切を灰塵に帰す輝きと熱量を併せ持っている。

 アーチャーは花弁に魔力を注ぎ込んで防御力を底上げしようとするが、それよりも前にオメガモンは返す刀でグレイソードを振り上げ、『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』の花弁の全てを破壊すると共に、アーチャーの全身を太陽の灼熱で焼き尽くす。

 太陽の灼熱で焼き尽くされ、グレイソードの左斬り上げを喰らったアーチャー。そのまま吹き飛ばされ、壁に激突して崩れ落ちる。致命傷を受けて無事でいられる筈がなく、身体が光の粒子となっていく。

 

「見事だ……自分が信じた道を貫き通す意志と力の強さ、存分に見せてもらった。私の負けだ。せめて名前だけは知りたい……」

 

「私はオメガモン。かつて人間だった、ただの聖騎士だ」

 

「オメガモン……か。何処かで聞いた覚えがある。機会があれば味方として会いたいな……さらばだ」

 

「また会おう、アーチャー。次は仲間として会えると良いな」

 

 光の粒子となって消滅したアーチャーに、次に会った時は仲間として一緒に戦いたいと告げたオメガモン。微笑みを浮かべながら、優しい声色だった。

 これでセイバーを守る門番がいなくなった。アーチャーを倒して一息付いたオメガモンは巨大化し、立香達を乗せて移動を始めた。

 

ーーーーーーーーーー

 

「そろそろ大聖杯だ。ここで一休みするか」

 

 キャスターの提案で、セイバーとの決戦前に一休みする事となったオメガモン達。ここまで長いようで短かったが、立香はマスターとして一番必要な物を持っている。

 魔術回路とかマスター適正の話ではない。運命を掴む天運と、それを目の前にした時の決断力。とは言えど、一般人である為、休憩が必要となったのはご愛嬌だ。

 顔色がいつもより良くない。使われていなかった魔術回路がフル回転しており、脳に負担をかけている。それに加えて、精神的な問題もある。突然のサーヴァントとの契約。いきなり大役を任された事による重圧。立て続けに予測不可能な事が起こった。無理もない。

 マシュが蜂蜜の沢山入った暖かい紅茶を用意し、オルガマリーは何故か隠し持っていたドライフルーツを全員に振る舞い、決戦前の腹ごしらえを済ませた。

 

「オメガモン……アーチャーとの戦いで言っていた話、あれは本当だったの? 青年を救えなかった話は」

 

「そうだ。私は元一般人のオメガモンだ」

 

『ッ!?』

 

 オメガモンは立香達に正直に生前の事を全て明かした。かつて自分が八神一真と言う名前の一般人だった事。社会人として平和に過ごしていた時、ディアボロモンの襲撃に遭って命を落とした事。オメガモンと一体化して復活し、そこから戦いが始まった事。

 数々の戦いの中で特殊能力を使用した結果、クオーツモンとの最終決戦でデジモンとなった事。邪神ミレニアモンとの最終決戦で特殊能力を使用して戦いに勝利した数日後、沢山の仲間に見守られながら息を引き取った事。

 人間の魂が消滅した事であの世に逝く事も、輪廻転生で第三の人生を歩んだり、他人に生まれる事も出来なくなった。しかし、魂の中に宿ったオメガモンのデータを使い、オメガモンとして転生する事が出来た。

 転生させてくれたのはデジタルワールドの神様、ホメオスタシス。彼女から滅びに向かっている世界を助けて欲しいと頼まれ、この世界にやって来た。

 

「失望したか? 私はかつて人間だった聖騎士。しかも人間と言う種族ではない。デジモンだ。君達と共に戦っている私はそういう種族なのだ」

 

「失望はしないよ。だってオメガモンはオメガモンだから……俺が憧れたヒーローである事に変わりない。俺達を守って戦ってくれたじゃないか!」

 

 拒絶される事前提で全てを明かしたオメガモン。自分は元人間のデジモン。英霊やサーヴァントとは異なる存在。自分が歩んだ道のりはこの世界に生きる人々には理解出来ない。

 そう思っていたが、立香は拒絶しなかった。目の前にいるオメガモンは本物だ。自分を助けながら敵を倒した。例えそこに至る過程がどんな形だとしても、彼は本物の聖騎士。そう信じている。

 

「私は貴方の思いを知ったわ。かつて自分が取りこぼした物を知っているから、それが何なのか分かっているから、貴方は守りたい物の為に戦える。貴方は本物のヒーロー。例え大多数の人間が偽物と言っても、私は本物と胸を張って叫ぶわ」

 

「オメガモンさん、私は貴方の事を少しだけ知りました。貴方は2つの世界を救った凄い聖騎士だと。だから胸を張って下さい。例え偽物だとしても、世界を救ったと言う事実は本物ですから」

 

「アンタのやった事はすげぇ事だ。胸を張れ。かつての自分を知っているから立香の為に戦っているんだろ? その心を忘れんな」

 

「皆……ありがとう」

 

 オルガマリー、マシュ、キャスターも同じだった。オメガモンが掲げる信念と、それに込められた思いを知ったから。彼らはオメガモンの事を仲間だと思っている。時間はまだ短いが、共に歩んでいる事には変わりない。

 休憩を終えて再び洞窟の奥へと向かっていくオメガモン達一行。大聖杯とセイバーが待っている。そこが最終決戦の場所となる事は目に見えている。

 




LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。

・王道ではないオメガモン

オメガモンに個体名を付けるとすれば、”アストレイ”になるでしょう。
王道ではない。普通ではない。そういう意味を込めて名付けたいです。

・聖騎士が戦う理由

自分がかつて取りこぼした物を守る為。当たり前の日常。帰るべき日常と場所。
立香君はかつての自分になろうとしている。だからそうならないように導き、代わりに戦う。それが聖騎士の戦う理由です。

・仲間って良いね!

やっぱり支えてくれる仲間って良いですね。
最強物でなくしたのは、あくまでRPGである事を意識しているからです。
仲間がいるから戦える。仲間がいるから安心出来る。

以上になります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、作品の質を向上させるようなアドバイスや、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。それが執筆意欲に繋がります。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

ついにセイバーとの最終決戦に突入したオメガモン達。
その激戦を終えて現れたのはレフ・ライノール。
彼の口から語られる真実とは!?

第4話 聖杯と真実



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第4話 聖杯と真実

感想で「オメガモンがかっこいい!」という記述がありましたが、本当に嬉しい限りです。
僕自身はオメガモンをかっこ良くさせるつもりはありません。
ただ皆のイメージのオメガモン(神々しい程に美しく、圧倒的に強い)を再現できるよう、頑張っているだけです。
今回も文字数少なめ(1万字未満)で、第11節:グランドオーダーの特異点解決までの内容が中心となっています。カルデアでの話は次回に回します。




「これが大聖杯……」

 

「そしてセイバーもいる」

 

 洞窟の一番奥の場所に到着したオメガモン達一行。目の前にあるのが大聖杯。超抜級の魔術炉心。大聖杯はアインツベルンと言う錬金術の大家が制作した。魔術協会に所属しない、人造人間(ホムンクルス)だけで構成された一族。それがアインツベルン。

 オメガモン達の前にいるのはセイバーのサーヴァント。アーサー王。セイバーオルタ。漆黒の重厚感のある鎧を身に纏い、生気を感じさせない青白い肌をし、金色の髪と瞳をしている少女の姿をしている。膨大な魔力を身に纏っている。

 彼女は右手に黒い聖剣を携え、大聖杯を守るようにして立っている。オメガモン、キャスター、マシュの3騎が前に一歩踏み出す。

 

―――凄まじい魔力だ! 彼女がアーサー王なのか!?

 

 オメガモンは目を細める一方、白兜の中では笑っている。強敵と戦える歓喜なのか。それとも真っ向勝負が出来る相手だからなのか。

 伝説とは性別が違うが、何らかの事情があって男装していたのだろう。男性ではないと王様にはなれなかったから。オメガモンの世界におけるアーサー王のように。

 

「私の世界でもアーサー王は女性で、しかもデジモンに転生して仲間となった。こういう事は私の世界だけなのかと思っていたが、まさかこの世界でもそうだったのか……」

 

「そうかよ。アンタの世界も面白そうだな。見た目はかよわいが油断するなよ? あれは筋力ではなく、魔力によるパワーの化け物だからな。一撃一撃はすげぇ重い。油断すると上半身ごと吹き飛ばされる」

 

「面白い。相手が強ければ強い程燃えて来る。奴を倒せばこの特異点の異変も解決されるのだろう?」

 

「あぁ。後はお前さん達の仕事だ。何が起きるか分からないが、出来る仕事をやんな」

 

「ほぅ……面白いサーヴァントがいるな。それに神霊の聖騎士もいる」

 

「何!? テメエ、喋れたのか!? 今までだんまり決め込んだじゃねぇのか!?」

 

 オメガモンとキャスターが話し込む中、セイバーオルタはマシュとオメガモンを見て、面白いと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。

 その様子を見たキャスターは驚いた。初めてセイバーオルタが話した所を見た。それに対し、セイバーオルタは肩を竦めながら答える。

 

「何を語っても見られている。故に案山子に徹していたが、面白い。その宝具と聖騎士は面白い」

 

「面白いのは貴女もだろう、アーサー王。可愛らしい女性が騎士王だったとは……事実は小説より奇なりと言ったものだ」

 

「フッ、中々言うではないか。構えるが良い、小娘と聖騎士よ。その力が真実かどうか、この剣で確かめてやろう!」

 

―――いきなり宝具を解放するつもりか!

 

「ここは私に任せて下さい! 宝具、展開します……!」

 

 セイバーオルタは右手に握る漆黒の聖剣を両手に持ち直し、下段に構えながら先制攻撃への準備に入った。聖剣から光を飲み込む闇が満ち溢れる。

 それを見たマシュが前に進み出る。自らの盾でセイバーオルタの攻撃を防ぎ、道を切り拓こうとしている。彼女は自分の役割が相手の攻撃を防ぎ、味方の攻撃をアシストする事と理解している。サッカーで言うディフェンダー、もしくはゴールキーパー。

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!!」

 

「『疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』!!!」

 

 セイバーオルタが聖剣を振り上げると共に漆黒の奔流が放たれ、マシュが構えている十字架型の盾が光り輝く。それはほぼ同時だった。彼女の盾から光の壁が形成され、セイバーオルタの必殺奥義を防ぎきった。

 キャスター以外の5騎のサーヴァントを葬った攻撃。それを防ぎ切った。その事実に立香とオルガマリーが喜ぶ中、オメガモンが動き出す。背中に羽織っているマントを翻し、セイバーオルタに向けて突進を開始する。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ほぉ、今の一撃を防ぐとはやるものだな。次は貴様だ、聖騎士!」

 

「なっ!? また宝具を……!」

 

「まずい! オメガモン、気を付けろ!」

 

 再び黒い聖剣を下段に構え、刀身から光を呑み込む漆黒の闇を放射し始めるセイバーオルタ。それを見たオルガマリーが驚き、立香が声を張り上げる中、オメガモンはウォーグレイモンの頭部を象った手甲からグレイソードを出現させる。

 ウォーグレイモンの頭部の目の部分が光り輝くと共に、グレイソードの刀身から太陽の火炎が放出される。触れる物全てを焼き尽くす熱量を持ち、その輝きで相手の目を眩ませる事も可能な太陽の火炎。

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!!」

 

「ウオオオオォォォォォォーーー!!!!!」

 

 再び放たれた黒く染まった極光。それに対抗するのは太陽の火炎。オメガモンはグレイソードを左斜め上に斬り上げ、袈裟斬りから灼熱の斬撃を放つ。

 同時に放った攻撃が2騎の中心で激突し、せめぎ合いながら大爆発を引き起こす。爆炎と黒煙が巻き起こり、破壊の衝撃波が拡散される中、オメガモンは爆炎と黒煙を隠れ蓑に使い、一瞬でセイバーオルタとの間合いを侵略した。

 

「何!?」

 

「ハアアァァァッ!!!!」

 

 オメガモンは刀身から太陽の灼熱を発するグレイソードを以て、勢いと高揚感と共にセイバーオルタに斬りかかる。

 突然の奇襲を予測出来ていたが、余りの速さに反応が追い付かなかったのか、セイバーオルタは黒い聖剣でグレイソードを受け止め、聖騎士との斬り合いに突入する。

 視認する事が困難な速度。敵の眼を眩ませる太陽の灼熱。その2つの要素を兼ね揃えた灼熱の斬撃によって、セイバーオルタは徐々に防戦一方に追いやられる。

 

「す、凄い……あのアーサー王を押している!」

 

「オメガモン、すげぇ……!」

 

「このまま行けば勝てる……!」

 

「いやセイバーだって負けちゃいねぇ。ここからだ」

 

 セイバーオルタ相手に優勢に立っているオメガモン。マシュ、立香、オルガマリーは聖騎士の勝利を確信する中、キャスターは一人冷静だった。

 彼の言う通りだ。セイバーオルタはここで終わるような相手ではなかった。最優のサーヴァントであり、騎士王なのだから。

 

「目障りだ!」

 

「ッ!!」

 

 突如としてセイバーオルタの全身から凄まじい魔力が放出され、聖剣の刀身に漆黒の極光が纏われた。その状態から繰り出された剣閃がグレイソードを弾き飛ばし、オメガモンを後退させる。

 突然のパワーアップは彼女のスキルにある。Aランクの魔力放出。武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事で能力を向上させるスキル。いわば魔力に寄るジェット噴射だ。今のセイバーオルタはロケットみたいな物だ。

 後退したオメガモンは右手を前に突き出してガシャン、と言う音と共にガルルキャノンを展開する。同時に横にホバー移動を開始する。

 洞窟の内部に存在するエネルギー。それを砲身の内部で集束すると共に砲弾の形に圧縮させ、凝縮したエネルギー弾を3発立て続けにセイバーオルタに向けて撃ち込む。

 

「喰らえ!」

 

「蹂躙してやろう!」

 

 セイバーオルタは聖剣を薙ぎ払って3発の青いエネルギー弾をかき消し、返す刀でオメガモンに斬り掛かる。漆黒の極光を刀身に纏わせたまま、先制攻撃として放った一撃と同等の威力を持った斬撃を以て。

 咄嗟に背中に羽織っているマントで防御してダメージは受けなかったものの、衝撃までは無効に出来なかった。洞窟の壁まで吹き飛ばされ、壁に激突した衝撃を背中に受けながら、地面に倒れ込んでしまう。

 

「グァッ!!」

 

『オメガモン(さん)!』

 

「キャスター!」

 

「任せとけ!」

 

 優勢に立っていた筈が、瞬く間に劣勢となったオメガモン。心配するように立香が声を張り上げる中、目の前にいるセイバーオルタは再び聖剣を下段に構える。

 止めを刺されそうなオメガモンを見て、心配そうな声を上げるマシュとオルガマリー。立香がキャスターに向けて声を上げると、キャスターは手に携えた杖を構えてルーン魔術を詠唱する。

 

「消えるがいい!」

 

「ぐああっ!」

 

 騎士王目掛けて放たれる火炎弾。それをセイバーオルタは聖剣の一閃でかき消し、返す刀で聖剣を薙ぎ払い、キャスターを攻撃する。

 咄嗟に防御用のルーンを刻んでダメージを受けずに済んだが、それでもキャスターもオメガモンと同様に洞窟の壁まで吹き飛ばされた。これでオメガモン同様、キャスターも少しの間動けなくなった。

 

「これで残るは小娘だけとなった……マスターの方を片付ければ自然と小娘は終わる」

 

「私のテイマーに……手を出すな!」

 

 セイバーオルタはマシュと立香を倒そうと黒い聖剣を構えるが、その直前にオメガモンが立ち上がり、一瞬でセイバーオルタの目の前に姿を現した。

 同時にグレイソードを大上段から振り下ろし、セイバーオルタの攻撃を中断させる。何が何でも自分のテイマーを守ろうとするオメガモンの意志。それが空色のつぶらな瞳から感じ取る事が出来た。

 

「足掻くな、聖騎士よ。貴様の敗北は明白だ」

 

「戦う気力がある限り、負けたとは言わない!」

 

 オメガモンとセイバーオルタの鍔迫り合い。それは聖騎士の方に軍配が上がった。空色のつぶらな瞳を輝かせ、太陽の火炎を発するグレイソードを最後まで振り下ろし、セイバーオルタを吹き飛ばす。

 グレイソードを構え直すと共に刀身から発している太陽の火炎を一度消し去り、刀身に自身の生命エネルギーを注ぎ込んだ。グレイソードに刻まれている『オールデリート』のデジモン文字が黄金に輝き、刀身から純白の聖光が発せられる。

 

「騎士王よ、一つ良い事を教えよう。人間は時として神を超える力を発揮する! その力の一端が私だ!」

 

 オメガモンは純白の輝きを放つグレイソードを構え、セイバーオルタとの間合いを詰めて斬りかかる。純白と漆黒。対照的な輝きを放つ2振りの聖剣がぶつかり合う。

 元々オメガモンは平和を望む人々の強い願いと意志によって、ウォーグレイモンとメタルガルルモンが合体して誕生したデジモン。『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』のように、人ではなく星に鍛えられた神造デジモンと言っても良い。

 

「ふざけるな! 貴様のような紛い物が私に勝てると思うな!」

 

「紛い物? 私は確かに紛い物かもしれない。だが掲げる信念と振るう力は本物だ。世界中の人々の思いと希望を背負う私は、藤丸立香のパートナーデジモンとして、1体の聖騎士として負ける訳には行かない!」

 

 オメガモンに押されているとは言えど、セイバーオルタは強力なサーヴァント。黒い聖剣から闇の極光を放出しながら、聖騎士の繰り出す斬撃を真正面から受け止める。

 先程までのオメガモンであれば、セイバーオルタが繰り出す闇の極光を受け止めきれず、吹き飛ばされていただろう。しかし、今のオメガモンは違う。

 聖騎士の心に宿る熱い思いが、『電脳核(デジコア)』と相互作用を引き起こした。空色のつぶらな瞳が輝くと共に、純白の聖光が闇の極光を一刀両断した。

 

「何だと!?」

 

「『オメガソード』!!!」

 

 遂にセイバーオルタの間合いを侵略したオメガモン。大上段に掲げたグレイソードを振り下ろし、純白の聖光と共に繰り出した唐竹斬りで漆黒の騎士王を一刀両断した。

 特異点の最後の敵。言わばラスボス。セイバーオルタを倒す事に成功し、オメガモンは背中に羽織っているマントを翻し、立香達の所へと戻っていった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「凄いよ~凄すぎるよオメガモン!」

 

「まさかあの騎士王を真っ向勝負で倒すなんて……」

 

「やりましたねオメガモン!」

 

 セイバーオルタとの戦闘後。自分達の所に戻って来たオメガモンを労う立香達。立香はオメガモンの事を褒め称え、オルガマリーは驚き、マシュは喜ぶ。

 光の粒子に変わりながら消滅し始めているセイバーオルタ。彼女は自分の所に歩み寄ったキャスターと話をしている。

 

「フッ、どうやら知らぬ間に私も力が緩んでいたみたいだな。最後の最後で手を止めるとは……聖杯を守り通すつもりだったが、執着にこだわり過ぎて負けてしまった。結局、例えどう運命が変わったとしても、私だけで同じ結末を迎えると言う事だな……」

 

「何だと? どういう意味だそりゃあ。テメエ、一体何を知っていやがる?

 

「貴方も何れ分かる、アイルランドの光の御子よ。『聖杯探索(グランドオーダー)』はまだ始まったばかりだ……」

 

「オイ待て! それはどういう……クソッ! ここで強制送還かよ!?納得いかねぇがしょうがねぇ。後は任せたぜ! もし次があるなら、その時はランサーのクラスで召喚してくれ!」

 

 そう言い残すと、セイバーオルタとキャスターは光の粒子となって消滅していった。騎士王は何やら意味深な言葉を残し、キャスターは次はランサーのクラスで呼ぶように伝言を残した。彼ららしい消滅だったと言える。

 セイバーとキャスターは消滅した。不明な点は数多いものの、任務完了となった。セイバーが異常をきたしたのも、冬木市が特異点になったのは水晶体、もとい聖杯が原因だ。それを回収しようとマシュが一歩前に出ようとした時、何者かが水晶体を回収した。

 

「いや、まさかここまでやるとは思わなかったよ。イレギュラーの介入があったとは言え、計画の想定外であり、私の寛容さの許容外だ。48人目のマスター適性者。全く可能性を感じられないと言って、見逃した私の失態だよ」

 

「レフ教授!?」

 

 彼の名前はレフ・ライノール。『人理継続保障機関フィニス・カルデア』の顧問を務める魔術師。オルガマリーが口にしていたその人物だ。

 穏やかな好青年であり、近未来観測レンズ“シバ”を制作し、カルデアの発展に貢献してきた。その人物が一体何をしに来たのか。マシュが驚く一方、オメガモンは警戒するように目を細める。彼の中に宿る邪悪な『波動(コード)』を感じ取った。

 

『レフ!?レフ教授だって!?彼がそこにいるのかい!?』

 

「うん?その声はロマニ君かな?君も生き残ったんだな。すぐに管制室に来てくれと言ったのに……私の指示を聞かなかったのか。どいつもこいつも統率の取れてないクズばかりで吐き気が止まらないよ。人間というものはどうしてこう、定められた運命からズレたがるのかな?」

 

「ッ! マスター、下がって下さい! あの人は危険です! あれは私達の知っているレフ教授ではありません!」

 

「あぁ……そのようだな」

 

「レフ! あぁ、レフ! 生きていたのね! 良かった……貴方がいなくなったら」

 

 レフから発せられる邪悪な『波動(コード)』。それを探知したのはオメガモンだけではない。マシュの動揺に戦闘態勢に入る。立香に下がるように伝え、盾を構える。

 しかし、オルガマリーは違った。協力者であり、全幅の信頼を置く相手たるレフが来た事に喜び、彼に駆け寄ろうとするが、それをオメガモンが制止した。

 

「駄目だ所長! 彼に近付いてはいけない!」

 

「オメガモン!? どうして……」

 

「彼はもう貴女が知っている人間ではない……邪悪な存在に成り果てた、いや元から邪悪な存在だった魔術師だ!」

 

「オルガ、君も生きていたのか。爆弾は君の足元に設置していたのに、まさか生きてたなんて……」

 

「爆弾!? まさか所長は……!」

 

「そうだよ。君の気付いた通りだよ……彼女は死んでいる。肉体はね。この場所に転移したのは彼女の残留思念と言う事になる」

 

 オルガマリーがレイシフトの適性が無いのに、マスター適性が無いにも関わらず、特異点レイシフトする事が出来た理由。それは彼女が肉体がない残留思念だから。肉体は既に死んでいるが、精神はまだ死んでいない。

 これはレフ・ライノールの仕業。事前に管制室の、オルガマリーの足元に爆弾を設置して爆破し、管制室を破壊しただけでなく、47人のマスター適性者やカルデアの職員、そしてオルガマリーを殺した。

 皮肉にも、死んだ事で初めて心から望んだ物を手に入れた事となったオルガマリー。カルデアに戻ったら間違いなく死亡する。カルデアに戻った瞬間に意識が消滅するからだ。

 

「お前だったのか……カルデアを爆破し、多くの人々を手にかけたのも!!」

 

「その通りだ。最後に今のカルデアが一体どうなっているのか、それをお見せしよう……そして絶望と共に死ぬが良い」

 

 立香の怒りを平然と受け流し、レフが見せたのは今のカルデアの状況。カルデアスが真っ赤に燃えている。まるで太陽のように。そこには人類の未来を示している青色はない。

 そしてレフが右手の人差し指をオルガマリーが向けた瞬間、突如として彼女の身体が宙に浮かび上がり、カルデアスに取り込まれてしまう。

 超密度の情報体。次元が異なる領域。魔術師とは言えど、只の人間に過ぎない彼女が取り込まれたら一体何がどうなるのか。それを予測する事が出来たオメガモンは素早く動き出した。レフを確実に抹殺し、オルガマリーを助ける為に。

 

「絶望と共に消え去るのはお前だ、レフ・ライノール!」

 

「何!? グアアアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「今のは奥義ではない。ただの剣圧だ。お前が瀕死においやったマスター適性者と、命を落としたカルデアの職員の分の落とし前を付けさせてもらったぞ」

 

 オメガモンは即座にグレイソードを出現させ、大上段から振り下ろして青白い刃の形をしたエネルギー波を飛ばした。レフは咄嗟に右手を前に突き出して魔術防壁を作り出すが、世界を滅ぼせる聖騎士の力には無意味だった。

 魔術防壁は一瞬でかき消され、青白い刃のエネルギー波によって右腕を切断された。肩から大量の血が流れると共に激痛に顔が歪み、苦痛に満ちた叫び声を辺り一面に響かせる。

 その時にレフの左手から水晶体が手放されたが、それを見たマシュが素早く駆け抜けて水晶体をキャッチし、マスターの所に戻る。

 その隙にオメガモンはカルデアスに飛び込み、オルガマリーを助けに向かう。太陽、ブラックホールと同様の領域。人間が触れれば分解されるが、オメガモンは人間ではない。デジモンだ。全身に伝わる激痛を物ともせず、オルガマリーの右手を掴む。

 

「オメガモン!?」

 

「助けに来たぞ! 必ず助けるからもう少し耐えてくれ!」

 

「何!? カルデアスに飛び込んだ!? だ、だがこのままだとお前も分解されるぞ!!」

 

「分解? ハッ、笑わせるな! 私を本当に分解させたくば、本物のブラックホールと太陽を持ってこい!」

 

 レフの言葉を笑い飛ばしながら、オメガモンはオルガマリーの右手を掴んでカルデアスから助けようとする。

 しかし、オルガマリーはオメガモンに自分を捨てるように言った。聖騎士と言う存在の大きさと大切さを理解しているから。

 

「私の事は良いから貴方は生きて! 立香君とマシュの為に、人類の為に、この世界の為に!」

 

「断る! 言った筈だ……私は生前全てを失った。当たり前の日常も、歩むべき人生も、そして自分の命も! だから誰かが悲しんだり、大切な物を失ったりするのを見たくない!」

 

 オメガモンの真剣な瞳と共に言われた言葉。それを受けたオルガマリーの心に一筋の光が灯った。心から信頼していた人に裏切られても、カルデアスの内部に取り込まれても、目の前の聖騎士は自分を助けようと、命を投げ出そうとしている。

 生前に失った物を二度と取りこぼさないよう、自分と同じ思いをする者が出ないようにする為に。聖騎士は自分を助けに来た。

 それに比べて自分はどうなのか。誰にも褒められていない。認められていない。何もしていない。それにも関わらず、助けようとしている聖騎士がいる。その事実が彼女の心を勇気づけ、オメガモンの右手を掴む力を授けてくれた。

 

「ハアアアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 オメガモンは『電脳核(デジコア)』を鳴動させ、自らが持つ力を発動させる。オルガマリーの右手を掴んでいる右手。そこに自らの生命エネルギーを注ぎ込み、オルガマリーに分け与える。

 カルデアスは“高密度霊子の集合体”であり、オルガマリーは残留思念の状態となっている。肉体は滅んでいるが、精神は滅んでいない。

 それを利用してオルガマリーの精神のデータを解析し、自身の生命エネルギーとカルデアスが持つ膨大なエネルギーを使い、彼女の肉体の再構築を始める。

 生前は八神一真と言う人間であり、オメガモンと言うデジモンだった。この特性を利用し、デジモンの姿から人間の姿に戻る過程を応用し、オルガマリーの肉体の再構築に成功した。

 

「所長!」

 

「オルガマリー所長!?」

 

「大丈夫。カルデアスの力を利用し、私の生命エネルギーと共に所長の身体を再構築させ、魂を定着させた。今は疲れて眠っているだけだ」

 

「す、凄い……!」

 

「やっぱ凄ぇやオメガモン……!」

 

 カルデアスから飛び出し、地面に危なげなく着地したオメガモン。彼の左手にはオルガマリーが眠っている。マシュと立香が駆け寄り、オルガマリーの無事を喜ぶと共に、オメガモンが成し遂げた奇跡を喜び合う。

 オルガマリーが欲しがっていた物。それは理解者だった。彼女に生命エネルギーを分け与えている時、偶然オメガモンは彼女の歩んだ人生を見てしまった。自分が理解者になろうと思いながら、レフと対峙する。

 

ーーーーーーーーーー

 

「私はレフ・ライノール・フラウロス。お前達人類を処理する為に派遣された。お前は何者だ?」

 

「フラウロス……ソロモン七十二柱の魔神の一体か。私はオメガモン。デジタルワールドを守る聖騎士だ」

 

「何!? オメガモン……オメガモンだと!? まさかあの方が最も恐れているデジモンが来たと言うのか!?」

 

「(あの方……誰だ? 私の名前を知って動揺した所を見ると、恐らく同じデジモンだろう。それこそ『七大魔王』か?)お前の主の所に戻ったら、そこにいるであろうデジモンに伝えておけ。“お前が一番恐れている聖騎士が来た。腹を括れ”と。これは私、オメガモンからの宣戦布告だ!」

 

「おのれ……お前がいなければ全ては順調に進んでいた所を!」

 

「フン。残念だったな。お前の主と思われるデジモンが来た時点で、私の介入は決まっていたような物だ。私を倒したくば、お前の主であろう魔王型デジモンを連れて来い。それこそ世界を単独で滅ぼせる力を持った魔王を。所長の思いを踏み躙り、カルデアの人々の命を奪ったお前を絶対に許しはしない」

 

 オメガモンによって右腕を一刀両断され、目的の結晶を奪われたレフ・ライノール・フラウロス。オルガマリーを消滅させようとしたものの、オメガモンに妨害され、肉体を再生されてしまった。最早踏んだり蹴ったりである。

 凄まじい怒りと憎しみで顔を歪ませるが、聖騎士の名前を知った途端に動揺した。それを見たオメガモンは自分がこの世界に転生された理由を薄々感じ取った。黒幕は恐らく『七大魔王』で、対抗する為に自分が呼ばれた。そう解釈した。

 レフが姿を消し去ると同時に大空洞が音を立てながら崩れ始めた。地響きが鳴り響き、天井から破片が降り注ぐ。

 空間が安定しない。ロマニがレイシフトを開始させるが、それが間に合うかどうかさえも分からない。そうなるとやる事は決まっている。

 

「皆、私の所に集まれ!」

 

 大空洞が崩壊している中、オメガモンはマシュ、立香、オルガマリーを背中に羽織っているマントで覆い包みながら、右手から蒼く煌めく絶対零度の冷気を発すると、地面に打ち付けて自分達の周りに絶対零度の氷壁を展開した。

 全てを瞬間凍結される絶対零度の冷気。それで自分達を覆い包み、氷結世界を作り上げる事で空間を安定させ、レイシフトしやすいようにする。そのオメガモンの考えは成功し、彼らは無事にレイシフトに成功した。

 




LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。

・オメガモンVSセイバーオルタ

セイバーとオメガモンの戦闘は互角でしたが、セイバーのエクスカリバーは”神霊レベルの魔術行使を可能とする”とあったのと、ラスボスという事もあって強めに設定しました。

・紛い物と本物

このオメガモンは本物かと聞かれたら、恐らく偽物だと思います。中身の話では。
ですが信念と力は本物です。ジーク君がなったジークフリートみたいな感じです。

・聖騎士の行動理念

本編でこれからもくどい程出ますがこれが真実です。
二度と自分のような思いをする人が生まれない為に、オメガモンは戦い続けるのです。

・所長復活!

本編では序章で亡くなりましたが、ここでは生存しました。
やり方はオメガモンの生命エネルギーの付与と肉体の再構築。
生前の自分の特性を応用させました。人間であり、デジモンだった頃の。

・黒幕のデジモンは?

本編でも言及しましたが、『七大魔王』の誰かです。
出来ればゲーディアが持つ大罪に関係している魔王にしたいです。

以上になります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、作品の質を向上させるようなアドバイスや、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。それが執筆意欲に繋がります。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

カルデアに帰還したオメガモン達一行。
ロマニとオルガマリーから告げられる事実に立香はある決断を下す。
そして待ちに待った英霊召喚。果たして誰が現れるのか?

第5話 聖杯探索の開始



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第5話 聖杯探索の開始

実はこの小説のストックは幾つか溜まっていて、こうして連続投稿が出来る時があります。
今回はカルデアでの話が中心です。英霊召喚に事情説明。
そろそろ本編の続編(何のこっちゃ)も書き始めたいので、投稿ペースを落とそうかなと思います。


「此処は……何処だ?」

 

「おっ、目を覚ましたようだね。良し良し。元気そうで何よりだ。」

 

 オメガモンが目を覚まし、最初に目にしたのは白く無機質な天井。上半身を起こすと、目の前に広がるのは真っ白い景色。どうやら何処かのお部屋にいるらしい。

 後頭部のある枕の感触から自分はベッドで寝ていたと気付かされると、オメガモンの顔を長い黒髪の絶世の美女が覗き込む。

 

「おはよう、そしてこんにちは。意識はしっかりしているかい?」

 

「おかげ様で。ところで此処は何処で、貴女は何者なんだ? 取り敢えずサーヴァントなのは分かるのだが……」

 

「成る程。所長の言う通り冴えているね。私はダ・ヴィンチちゃん。カルデアの協力者で、召喚英霊第3号。ここはカルデア」

 

「ダ・ヴィンチ!? まさか、貴女かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチなのか!? いやでも……貴女は女性と言うより『モナ・リザ』ではないか!」

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチ。ルネサンス期に誉れ高い万能の天才芸術家にして発明家。文明の発展に数多の影響を与えた、人類史に名を残す有数の天才。

 本来は男性なのだが、生前の作品の“女性”を再現している。その女性は有名な『モナ・リザ』。まるで絵画が実体化して歩いているような物だ。

 

「うん。まぁ君の言いたい事や聞きたい事は分かるけど、話は後にしよう。管制室に行きなさい。待っている人がいるよ?」

 

「ありがとう。では失礼する」

 

 オメガモンはダ・ヴィンチに教えられ、管制室に向かっていく。カチャ、カチャと言う金属音を鳴らしながら。

 管制室に入ると、立香とマシュが出迎えてくれた。立香はカルデアの制服を身に纏い、マシュは眼鏡をかけ、パーカーを着ている。どうやらこれが普段着のようだ。

 

「おはようございます、オメガモンさん。無事で何よりです」

 

「ありがとうオメガモン。助かったよ……」

 

「おはよう2人共。無事で何よりだよ」

 

「再会を喜ぶのは良いけど、全員揃った所で話をするわ。その前に立香、ミッション完了。お疲れ様。全て押し付ける形になったけど、事態を乗り越えた。心からお礼を言いたいわ」

 

「あぁ、そして話はここからだ。現実と向き合わなければならない」

 

 オルガマリーが姿を見せた後、カルデアの復旧に追われていたロマニの話が始まった。マシュが回収した水晶体は聖杯だった。カルデアスは依然として赤いまま。外部との連絡が取れず、カルデアから外に出たスタッフは戻って来ない。

 レフの言う通り、既に人類は滅んでいる。カルデアスが深紅に染まっている時点で、未来が焼却された。カルデアはカルデアスの磁場で守られている。外部との通信が取れないのは通信機の故障ではなく、受け取る相手がいないから。

 カルデアの内部の時間が2016年を過ぎれば、この宇宙から消滅してしまう。今は崩壊直前の歴史に何とか踏み止まっている状態。まるで宇宙空間に浮かぶコロニーのようだ。

 

「シバを復興させて過去の地球の状態をスキャンしてみたんだけど、冬木の特異点は消えた。でも未来は変わらない。他にも原因があると僕らは仮定したその結果がこれだ」

 

 ロマニが見せたのは何かが狂った世界地図。新たに発見された、冬木市とは比べ物にならない程の時空の乱れ。過去を変えれば未来は変わるが、ちょっとやそっとの過去改竄では未来を変えられない。

 歴史には修正力がある。例え少数の人間を救う事が出来ても、その時代が迎える結末、決定的な結果だけは変わらないシステムとなっている。

 これらの特異点は人類史におけるターニングポイント。現在の人類の在り方等を定めた究極の選択点。それらが崩されると言う事は、人類史の土台を崩されると言う事となる。この特異点が出来た時点で未来は決定した。人類に未来はない。

 

「でも私達は違う。この場所はまだその未来に到達していない。私達だけがこの特異点を修復する事が出来る。崩れた特異点を元に戻すチャンスを掴もうとしている」

 

「つまりこの7つの特異点にシフトし、特異点を修復して歴史を本来の形に戻す。それが人類を救い、世界を守る手段と言う事ですね?」

 

「そうだ。でも僕らには力がない。マスター適任者は立香君以外は凍結。サーヴァントはマシュだけ。マスター適性者48番、藤丸立香。人類を救いたいなら。2016年から先の未来を取り戻したいのならば。君はこれからたった1人で、この7つの人類史と戦わなければならない。その覚悟はあるか? 君はカルデアの、人類の未来を背負う力はあるか?」

 

 ロマニの問いに立香は押し黙る。状況は最悪だ。マスターは自分しかいない。サーヴァントも半人前のマシュだけ。相手は7つの人類史。歴史その物との戦い。

 自分だけが生き残った。自分一人だけの戦い。大役を自分に押し付けられようとしている。しかし、自分しか出来ない。自分にしかやれない大仕事。泣き言は許されない。

 現実を突き付けられ、どうすれば良いのか分からず、俯く立香の肩を優しく叩くオメガモン。自分を見上げる立香と目が合うと、彼を勇気づけるように大きく頷いた。

 オメガモンは分かる。かつての自分も同じだった。自分しかできない。自分がやらなければならない。泣き言は許されない。逃げることも許されない。そんな戦いを経験して勝利したものの、代償として命を落とした。

 だから目の前にいるテイマー、もとい立香の為にこの世界に来た。彼のパートナーデジモンとなった。その答えが見つかった気がした。

 

「ロマニ殿。貴方は言った。“たった1人で、この7つの人類史と戦わなければならない。その覚悟はあるか? 君はカルデアの、人類の未来を背負う力はあるか”と。今ここで立香君にその問いを投げかけるのはどうかと思う。彼は一般人。元々平和な日常で暮らしていた人間。貴方は彼にしか出来ないと言って、責務を押し付けようとしているのではないか? それは無責任な大人の考えではないのか?」

 

「……確かに君に言う通りだよ、オメガモン。でも彼しかマスターはいないんだよ? それは分かるよね?」

 

「ならば問おう。誰がマスターでないと7つの人類史と戦えないと言った!? 誰がマスターでないとカルデアの、人類の未来を背負う力はないと言った!? 私は宣言する。例え藤丸立香がマスター適性が無い一般人だとしても、生き残った最後のマスターだとしても、必ず人類史に打ち勝つ事が出来ると! 彼が最後まで諦めず、勝利に向かって突き進む意志がある限り! 7つの人類史とそこに待ち受ける強敵はこの私、“終焉の聖騎士”オメガモンが戦う。私のテイマー、藤丸立香の為に! そして戦えない全ての人々の為に!」

 

「オメガモン……!」

 

 オメガモンの宣言。戦えない立香の代わりに戦う。その強い意志。それを感じ取り、立香の瞳から涙が零れ始める。目の前にいるのは本物のオメガモン。かつて両親と共に映画を観て、そこから憧れてファンになった聖騎士。

 パートナーデジモンになってくれたのも嬉しいが、自分の為に戦ってくれる事が何より嬉しかった。自分の事を誰よりも理解し、その上で戦ってくれる最強にして最高の相棒。その思いが伝わった。

 

「凄いな……君は本物の聖騎士だ」

 

「かつての私も立香君と同じだった。元一般人のデジモンだった。人類とデジモン。2つの種族の未来を背負い、2つの世界を救う為に戦った。2つの種族と世界を救う事は出来たが、その代償に私は命を落とした。だから立香君の剣となり、銃となって戦う。私のような経験をさせない為に」

 

「そうだったのか……僕は特異点でのやり取りは聞けなかったけど、君が物凄く強くて高潔な聖騎士なのは分かった。立香君。こんな最強で最高の聖騎士を従えている君はどうする?」

 

「俺に人類を救えるかどうか、人類史と戦えるかどうか分かりません。戦う力はないけど、目の前の現実から逃げ出す勇気もありません。俺は戦います」

 

 オメガモンの宣言に勇気付けられたのか、立香は戦う事を決めた。英雄になりたい訳ではないが、英雄と共に戦いたい。それは誰もが一度は抱く願い。

 大人の道具として利用される事になるのは分かっている。一般人に全てを託すと言う異常事態。それでも立香は前に進む事を決めた。自分は1人じゃない。オメガモンと言うパートナーデジモンがいるのだから。

 

「ありがとう。そしてごめんなさい。君に大変な仕事を押し付けて……でも君とオメガモンの言葉でこの世界の運命は決定したわ。予定した通り、人理継続の尊命を全うするわ。目的は人類史の保護・奪還。探索対象は各年代と、原因と思われる聖遺物たる聖杯。戦う相手は歴史その物。多くの英霊や伝説と戦うでしょう」

 

「これは挑戦であると共に、過去を冒涜する行為でもある。僕達は人類を守る為に人類史と戦うから。でも生き残るには、未来を取り戻すにはこれしかない。……例えどんな結末が待っていようと」

 

「カルデア最後にして原初の使命。作戦名は人理守護指定・グランドオーダー。魔術世界における最高位の使命を以て、未来をこの手に取り戻しましょう!」

 

 オルガマリーの言葉に全員が頷いた。ここから先は人類を守る為に永きに渡る人類史を遡る、運命との戦いに突入する。

 中心となるのは立香とマシュ、そしてオメガモン。様々な時代。様々な場所。7つの特異点を巡る長い旅が始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「所長、身体の調子は大丈夫か?」

 

「おかげ様で大丈夫よ。何か今までより調子良いかも。身体の疲れや、心の痛みとか前より感じなくなったわ。貴方の力のおかげかしら?」

 

 ミーティングが終了した後、オメガモンはオルガマリーに身体の調子を尋ねると、彼女は微笑みながら答える。

 冬木市の特異点にいた時は精神エネルギーのみで存在していた所長。レフによって管制室に設置された爆弾。それが彼女の足元に仕掛けられていた為、肉体的に一度死亡したが、オメガモンの力のおかげで蘇生する事が出来た。

 

「多分そうかもしれないな……こればかりは私にも分からないが」

 

「オメガモン、ありがとう。私は本当ならあの時死ぬ筈だったけど、貴方に助けられてもう1度生きるチャンスを与えられた。貴方が繋いだこの命を大切にするわ。本当にありがとう」

 

「どういたしまして。私は立香君のパートナーデジモンだが、このカルデアにいる職員でもある。もし何か力になれるのなら何でも頼んで欲しい。何か私に手伝える事はないか?」

 

「手伝える事……そうね。じゃあ早速色々と頼もうかしら」

 

 オルガマリーの頼みを受け、早速オメガモンが動き出した。先ずは爆発と火災によって機能が大幅にダウンしたカルデアの復旧。職員達が寝る間も惜しんで復旧を進める中、オメガモンは瓦礫撤去や荷物運びを率先して手伝った。

 瓦礫撤去や荷物運びのような力仕事。それは力持ちのオメガモンが加わったおかげで、予定よりも早く進んだが、聖騎士の本領が発揮されたのはカルデアのシステムや電子機器等の修理といった所だった。

 オメガモンはデジモン、言わばデジタルモンスター。その関係からか、電脳機器にはかなり強い。破壊された機械の修理やシステムの立ち上げ、バックアップの保存等の一通りの処理で意外な本領を発揮した。

 そして不眠不休で頑張るカルデアの職員達を労う為、エプロンを自作した上で食堂でカルデアにある食料を使って料理を作り、カルデアの職員達皆を喜ばせた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 それから数日後。カルデアの復旧の目途がある程度付くと、オルガマリーはオメガモン達をとある部屋に案内した。

 その部屋にあるのは『守護英霊召喚システム・フェイト』。2004年に完成したカルデアの発明の一つであり、冬木市で行われた聖杯戦争での英霊召喚を利用し、カルデアの前所長にしてオルガマリーの父親―マリスビリー・アニムスフィアによって作られた召喚式。

 英霊とマスター双方の合意があって初めて召喚出来るのだが、使用する物はデミ・サーヴァントとなったマシュの宝具たる十字の大盾。これを触媒に用いて召喚サークルを設置し、特異点を修復して得たカードを使って召喚する。

 

「このカードを置いて……と。これで準備は良いんですよね?」

 

「えぇ。それじゃあ始めましょう」

 

 立香が置いたカードはセイントカード。英霊のクラスの絵が描かれたカードだが、誰が召喚に応じるのかは分からない。今回置いたカードは4枚。セイバー、ランサー、アーチャー》、ライダー。

 今後7つの特異点を回りながら修復する事になるのだが、現状では戦力が足りない。オメガモンやマシュが弱いのではない。単純に数が少ない。戦力は多い方が良い。そう考えたオルガマリーの発案で、英霊召喚の儀式が行われようとしている。

 サーヴァントの召喚を行うのはマスターたる立香。英霊召喚は通常の魔術儀式より簡単だが、同時に極限の神秘でもある。落ち着きながら大胆に行かなければならない。

 4枚のカードを1枚ずつ並べ、その上に聖晶石を乗せて準備完了。英霊召喚システムとカルデアの電力が唸りを上げる中、英霊召喚が始まった。

 凄まじい魔力が集束しながら眩い輝きを放つ中、オメガモン達の目の前に4騎の英霊が姿を現した。無事に英霊召喚は成功した。

 1人は青い装束を身に纏い、右手に紅い魔槍を携えた男性。オメガモン達を見て笑顔を浮かべる。1人は浅黒い肌をし、赤い外套を身に纏った白髪の男性。周囲を見渡し、現状を把握した。1人はバイザーで視界を封じた妖艶な美女。バイザーを外して良いかどうか悩んでいる様子。最後の1人は常に凛とした空気を纏い、髪を後ろで結い上げ、青と銀の甲冑を着た見目麗しい少女剣士。

 

「すげぇ……!」

 

 立香が感嘆に満ちた声を上げ、オルガマリーもその威容に目を奪われる。4騎のサーヴァントが一同に集結している。聖杯大戦ならまだ分かるが、同じ目的の為に手を取り合いながら共に戦う事は先ず有り得ない。

 最初に口を開いたのはランサーのサーヴァント、クー・フーリン。この面々の中で立香達と短期間ではあるものの共闘した中だ。

 

「よぉ。久し振りだな、坊主。ちゃんとランサーで召喚してくれて嬉しいぜ!」

 

「ランサーで呼ぶように頼んだのは誰だよ?」

 

「ハハハ。あの時はキャスターの俺だったな。おっと、自己紹介してなかったな。俺はクー・フーリン。今後ともよろしくな!」

 

「俺は藤丸立香。よろしく!」

 

 ランサーの真名はクー・フーリン。アイルランド神話『アルスター伝説』に登場する大英雄。セイバー、ランサー、ライダー、バーサーカー、キャスターの適性を持っているが、本人が一番好きで得意なのはランサー。

 クー・フーリンと立香が握手を交わす一方、オメガモンが残り3騎のサーヴァントとの交流を開始していた。

 

「メドゥーサ……あぁ~あれか。姿が変わる前なのか」

 

「はい。この体は、アテナの呪いにかかる前の姿です。いつ怪物化するか私にも分かりません」

 

「その時は私達で止めるよ。だから今だけは力を合わせて欲しい」

 

「物好きなのですね、貴方は」

 

「ありがとう。最高の誉め言葉だよ」

 

 ライダーの真名はメドゥーサ。有名なのは蛇の髪と石化の魔眼を持つ怪物の姿なのだが、今は呪いをかけられる前の姿をしている。

 反英雄、正確に言えば英霊に敵対する魔物に近い存在だが、“かつて美しかった者”としての側面がある為、英霊として召喚する事が出来た。

 

「さて次は……こうして会って話すのは初めてだな、アーチャーのサーヴァント」

 

「驚いたよ。まさか英霊になって子供の頃に憧れたヒーローに会えるなんて……」

 

「……と言う事は私の事を知っているのか?」

 

「あぁ、俺はエミヤ。君に憧れたただの英霊さ、オメガモン」

 

「そうか……どうやら私はこの世界ではそこそこ有名みたいだな。ならば期待に応えられるように頑張らないと」

 

「お互いに頑張ろう」

 

 アーチャーの真名はエミヤ。かつての記憶は殆ど失っているが、オメガモンの事は何故か覚えていた。それは子供の頃に『僕らのウォーゲーム!』を観た事があるから。

 子供の頃に憧れたヒーロー、もといデジモンに出会えた事を嬉しく思い、微笑みながらオメガモンと握手を交わす。

 その正体は人々を救う為に世界と契約し、その死後“抑止の守護者”となったとある平行世界の衛宮士郎の未来の姿。“正義の味方”になる事を目指し、たどり着いた先の果て。辿りうる可能性の一つ。

 オメガモンは改めて決意する。立香とエミヤ。彼らのように自分を知っている者達の為に、彼らが期待している自分で在り続ける事を。本家本元のオメガモンに勝るとも劣らないイメージを保ちつつ、大活躍をしてみせると。

 

「最後は貴女だ、セイバー。いやアーサー王と呼ぶべきか」

 

「アルトリアと言います。先の戦いでの武勇、お見事でした」

 

「ありがとう。私の世界にもデジモンとなったアーサー王がいる。彼女には勝てなかったから、悲願の1つが叶えられたよ」

 

「成る程。貴方の世界は面白い世界なんですね……」

 

 セイバーのサーヴァント。彼女はアーサー王。アルトリア・ペンドラゴン。『アーサー王伝説』に登場するブリテンの伝説的君主。選定の剣を引き抜き、不老の王となった騎士王。

 冬木市の特異点で戦った時の記憶を持っている為、オメガモンの実力を認めている。真っ向勝負で自分を倒せると言い切る程。

 

「所長、この後の時間は大丈夫か? 私ことデジモンについて説明したいのだが……」

 

「良いわよ? 貴方の事を知る上で必要になるだろうし……会議室に案内するから付いて来て」

 

 全員はオルガマリーの案内に従い、部屋から出て別の部屋に入室した。そこは会議室のように広く、丸くて大きなテーブルが中央にある。椅子も沢山の数がある。

 ご丁寧にホワイトボードもある。自分以外の全員が座ったのを確認すると、オメガモンはこの世界に生きる人々と英霊に自己紹介と、デジモンの紹介を始めた。

 

ーーーーーーーーーー

 

「はい。では改めて自己紹介すると共に、デジモンについて紹介しよう。私の名前はオメガモン。人間ではなく、デジタルモンスターと言う種族。私達や人間達はデジモンと呼んでいる」

 

「デジモン……初めて聞く種族です」

 

「そんな種族がいたなんて……世界は広いな……」

 

 ホワイトボードに黒いペンで書きながら、オメガモンはカルデアの皆と英霊達に説明を始める。先ずはデジモンの説明から。マシュとロマニは感心するように頷き、立香は目を輝かせ、ダ・ヴィンチは興味津々そうに聞いている。

 レオナルド・ダ・ヴィンチ。カルデアの技術部を統括する、技術局特別名誉顧問であり、技術部のトップ。非常に奇天烈でクセの強い性格だが、決して冷酷な人物ではない。デジモン達に個人的な興味はあるが、解剖したり、実験したいと言う邪悪な思いは抱いていない。

 

「デジモン達は人間と違って多種多様な姿をしている。ドラゴンや恐竜、天使、悪魔。私のような騎士の姿をしている者もいる。デジモンと言う種族の特徴は世代がある事。中には世代がない個体もいるが、大半のデジモンには世代がある。世代が一段階上に上がる事を進化と呼んでいる」

 

「デジモンと言う生物の世代は幾つあるのですか?」

 

「大体は5つだ。幼年期、成長期、成熟期、完全体、究極体。中には幼年期をもう1回経験する個体もいれば、アーマー体や超究極体等の様々な世代がある。私は最終段階の究極体の中で、2体の究極体デジモンが合体した合体究極体。実質超究極体扱いされている」

 

 アルトリアの質問にオメガモンは答える。デジモンの特徴たる進化。それに興味を見せているアルトリアに対し、聖騎士は質問に丁寧に答える。

 オメガモンの言葉に頷くように立香が補足説明を入れて確認を求めると、オメガモンは微笑みながらそれに頷いた。

 

「オメガモンはウォーグレイモンとメタルガルルモンが融合した聖騎士なんです。右腕がメタルガルルモン、左腕がウォーグレイモン。であっているよね、オメガモン?」

 

「あぁ、ありがとう。立香君とマシュさんはマスターとサーヴァントの関係だが、私と立香君はパートナーとテイマーの関係。だから魔力とかそういう心配は必要ない。私は単体で動く事が出来る」

 

 オメガモンは自分やデジモンの事を知っている立香の気持ちを尊重し、彼のパートナーデジモンになっているが、何気にパートナーデジモンになったのは初めての経験。内心ではかなり喜んでいる。ましてやそれが自分に憧れている一般人なら猶更だ。

 そして魔力等の心配が一切ない為、単独で普通に戦う事が出来る。これから回る7つの特異点において重要な戦力となるだろう。この世界では神霊扱いされているからだ。

 

「と言う事はオメガモンも今の姿になる前の姿があったのですか?」

 

「あぁ。だが私の場合は少々事情が違う。普通のデジモンはデジタマと言う卵から生まれるのですが、私の場合はそうではない。立香君が説明した通り、人々の平和を願う強い意志と願いによって、ウォーグレイモンとメタルガルルモンが合体して誕生したデジモン。生まれた時から今までずっとこの姿のままだ」

 

「そうなのね……そう言えば、オメガモンは身体の大きさを自由に調節していたけど、あれは能力なの?」

 

「究極体になると、出来る事とやれる事の幅が広がる。例えば身体の大きさを調整する能力。私は普段20メートルくらいの大きさなのだが、冬木市に来た時は2、3メートルくらいだった。状況に応じて自分で調整出来る。身体の大きさを調節していたのは移動手段としてだったが……」

 

「ず、随分と大きいんですね……」

 

 女性としてはかなり身長の高いメドゥーサが驚く程、本来のオメガモンの身長は高い。普段は20メートル程で、分かりやすく言えばマンションの5階~7階に該当する程の大きさとなる。今は人間と同じサイズに縮小しているが、それでも不自由はない。

 オメガモンの分かりやすい説明を誰もが聞く中、ロマニと所長とダ・ヴィンチの3人はメモを取っている。これから新しく来る英霊やメンバーの為だ。

 

「デジモンにとって、正直身体の大きさはあまり関係は無い。大きいデジモンもいれば、小さいデジモンもいる。でも小さいからと言って油断してはいけない。人は見かけによらない。それはどの種族にも言える」

 

「成る程な……1つ聞きてぇけど、デジモンは何処に住んでいるんだ?」

 

「デジモンはデジタルワールドと言う異世界に住んでいる。この世界のような人間が暮らしている世界……我々はこれを人間界と呼んでいるが、そこから流れ込んだ情報やデータに伴って発展して来た。デジモン達は流れ込んできたデータを使って独自の社会を形成しているが、中には人間界の神話・伝説の中に存在するグループをモチーフにした軍団や勢力がある」

 

「オメガモンが所属している『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』もそうだ。円卓の騎士をモチーフにしているそうだ」

 

「エミヤ殿の言う通りだ。だからアーサー王はある意味生みの親に当たるな……」

 

 オメガモンの言葉を聞いたアルトリアは赤面する。自分達円卓の騎士がまさかオメガモン達の生みの親になるとは、思ってもみなかったのだから。

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』。ネットワークセキュリティの最高位、或いは守護神と呼ばれている13体の聖騎士型デジモン。予言書の中に登場する存在であり、デジタルワールドに重大な災厄が起こった時に予言に導かれて集結する。

 しかし、彼らは絶対的な“善”ではない。彼等がデジタルワールドの秩序を維持する為に必要と判断すれば、時には大量破壊や大量殺戮等を行う時がある。

 更にそれぞれの思想も異なっており、自分達が信じる“正義”に従って行動している為、それを巡って内乱が起きる事もある。

 

「もう1つ質問。デジモンは普段何やっているんだ?」

 

「平和に暮らしている者もいれば、戦っている者もいる。デジモンは野生の本能による闘争心が強いから、至る所で戦いが繰り広げられている。日常茶飯事なのであまり気にするな」

 

「成る程な。デジモンと言う種族は俺達英霊より強いのか?」

 

「それは一概には言えないな……技の威力や効果が異なるからな……でも純粋な威力の話で言えば、完全体の時点で攻撃力は核兵器クラスになっている。分からない人は小さな島の1つが一発で消滅する威力の攻撃が連続で放てると考えてくれ」

 

「何よそれ!? それより一段階上の究極体は化け物じゃないの!? 上位クラス、最上位クラスの英霊でないとまともに戦えないわよ!?」

 

「流石に英雄王や施しの英雄になると、普通に戦えるとは思うけど、問題はマスターがいる事なんだね。マスターがいなくて、単独で戦える状態なら究極体デジモンと余裕で戦えると思うけど、こればかりは分からないな……」

 

 英霊とデジモンの両方と戦った経験持ちのオメガモン。彼は純粋な攻撃力で言うと、デジモンの方が上だと考えた。そもそも規模が違い過ぎる。

 英霊の宝具は多種多様な効果を持っているが、デジモンの必殺技や特殊能力は過酷な環境や壮絶な戦争の中で生き残り、勝利する事に特化している。

 中には一撃で世界を滅ぼしたり、星を粉砕するような攻撃を繰り出す者もいる。しかし、こればかりは一体どうなるのか分からない。何しろオメガモンですら答えに悩んでいるのだから。

 

「取り敢えず説明はここまでにするよ。そろそろお昼の時間になるので、食堂でご飯を食べよう」

 

 オメガモンの説明がちょうど良い所で終わった事で、一度ミーティングを終えてお昼休憩に入る事となった。

 ここでエミヤが大活躍を見せた。何故なら彼は家事の達人。家庭料理をはじめとする家事一般に長けており、手馴れた様子で家事を取り仕切っていた。彼が作る料理が家庭的でとても美味しく、この日の朝食を作ったオメガモンも感嘆していた。

 カルデアの職員達も絶賛し、エミヤはカルデアの食堂の料理長に任命された。満更でもなさそうな様子だったのは言うまでもない。

 

「凄い……同じ食材を使ってここまで美味しい料理が作れるのか」

 

「シロウ! お代わりです!」

 

「ってアルトリア殿!? もうお代わりなのか!?」

 

「知らないのですか、オメガモン。シロウの作る料理は至高なのです」

 

「あぁ……うん。それは同意するよ」

 

 聖騎士の隣で食事しているアルトリア。気が付けばご飯は3杯目。かなり山盛りに盛られた筈が、何時の間にか無くなっている。

 彼女の異名は腹ペコ騎士王。オメガモンも驚くほどの食べっぷり。その理由は彼女の時代の料理事情にある。彼女の故郷のブリテンでの料理は、ただ材料を磨り潰しただけの料理とはとても言えない代物だった。

 そしてエミヤの事を“シロウ”と呼んでいる事については、あまり触れないようにしている。エミヤの本名が“衛宮士郎”である事は分かったが、一体どういう関係で何があったのかはいつか聞く事にした。

 まだ関わって日が浅い為、個人の事情でとやかく言いたくはない。それでトラブルを起こしたくない。それがオメガモンの本心だった。

 第1特異点に向かう当日までの間、カルデアにいる面々はそれぞれの時間を過ごしていた。ある者はカルデアの復旧に携わり、ある者はマイルームでのんびり過ごしたり、ある者はキッチンの設備を充実させたり、ある者は体育館で汗を流し、ある者はレクリエーションルームで遊んだりした。

 




LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。

・立香君の立ち位置

スマホゲーだからスルーしている人もいるとは思いますけど、冷静に考えてみれば結構ヤバいです。自分しかできない。自分がやらなければならない。泣き言は許されない。逃げることも許されない。そんな辛くて逃げ出したい戦い。
それに挑もうとしている(中には挑んでいる人もいますけど)彼は、本当に凄いと思いますが、大切な物を失おうとしています。書いていて辛くなりました。

・オメガモンの宣言

かつての自分を知っているから、立香君の力になろうと決めたオメガモン。
この信念のブレない所が聖騎士なのだと思いたいです。

・英霊召喚

今回来たのはアルトリア、クー・フーリン、エミヤ、メドゥーサ。
これから増えていきますが、カルデアの一日みたく彼らの日常を書いてみようと思います。何だか面白そうなので。

・デジモンの説明

正直デジモンとサーヴァントが戦ったらどうなるかは分かりません。
一応究極体=上位・最上位クラスの英霊と言う解釈ですが、この小説では基本的にデジモンVSサーヴァントはありません。

以上になります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、作品の質を向上させるようなアドバイスや、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。それが執筆意欲に繋がります。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

第1特異点に到着したオメガモン達一行。
そこは百年戦争末期である西暦1431年のフランスだった。
死んだはずのジャンヌ・ダルクが蘇り、竜の軍勢を率いて街々を滅ぼしているという事態を相手に、オメガモン達は初めての人理修復に挑む!

第6話 2人の聖女


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Thunderclap(第1特異点 邪竜百年戦争 オルレアン)
第6話 2人の聖女


 今回から第1特異点編に突入しますが、変更点は何と言っても敵デジモンの登場です。
先に言います。ボスのジャンヌ・オルタは竜の魔女。つまり竜系デジモンが出ます。
ちなみに究極体デジモン(オメガモンと釣り合わないから)です。

今回は第1節:百年戦争の地から、第3節:ジャンヌの謎の話が中心です。
では第1特異点でのオメガモン達の活躍をお楽しみ下さい。




「おはようございます、先輩。そろそろブリーフィングの時間です」

 

「おはよう、マシュ。おかげ様でよく眠れたよ……ってこんな時間なのか!? 急ごう!」

 

「はい、急ぎましょう!」

 

 第1特異点にレイシフトを行う当日。立香の自室。マシュが来た理由は立香を起こす為だ。彼女の服装はデミ・サーヴァントの者。紫色の鎧に身を包んでいる。

 立香は4騎のサーヴァントが召喚されてからはトレーニングに打ち込んだり、ボードゲームやテレビゲームで交流を深めたり、サーヴァントのマスターとして仕事に励んだ。

 疲れと第1特異点に向かう事への不安や昂りもあって、深い眠りに付いていた立香。ベッドの近くに置いてある時計を目にすると、既にブリーフィングが始まる時間になっていた。慌てて飛び起き、着替えを済ませてマシュと共に自室から出た。

 

「おはよう、立香君。よく眠れたかな?」

 

「はい、眠れました。遅くなってすみません!」

 

「いや気にする事はないよ。それじゃあブリーフィングを始めよう」

 

 朝食を取ってから中央管制室に入る。マスターを出迎えたのはロマニ。他にいるのはオルガマリー、オメガモン、アルトリア、エミヤ、クー・フーリン、メドゥーサ。

 早速始まったブリーフィング。オルガマリーの口から改めて説明されたのは、自分達がやらなければいけない事。先ずは特異点の調査と修正。その時代における人類史の決定的なターニングポイント。人類史における決定的な出来事。特異点に向かい、その正体を調査・解析して修正する。

 次に聖杯の調査。特異点の発生には聖杯が関係していると推測されるが、聖杯は願いを叶える魔導器の一つ。膨大な魔力を持っているが、レフは何らかの形で入手し、悪用していると思われる。聖杯で無ければ時間旅行や歴史改変は出来ない。

 特異点を調査する中で聖杯の情報を手に入れる。そして見つけて手に入れるか、最悪の場合は破壊する。それが聖杯に関する事案だ。

 そしてもう1つは召喚サークルの作成。レイシフトして特異点に向かった後、霊脈を探し出す事だ。補給物資等を転送する場合、召喚サークルの存在が必要不可欠となる。マシュの宝具を使えば、触媒となって起動する。そうすれば自由にサーヴァントを召喚する事が出来るようになる。

 

「この場合は、その場所や時代に近しいサーヴァントになるけどね」

 

「出来れば早いうちに全クラスをマスターしたいわね。じゃあ今回のレイシフトに向かうメンバーを発表するわ」

 

 オルガマリーが今回のレイシフトで向かうメンバーを発表する。マスターの立香、サーヴァントのマシュ、パートナーデジモンのオメガモン。彼らは基本メンバーだが、そこに今回は2騎のサーヴァントが加わる。

 同行するのはアルトリアとエミヤ。アルトリアはレイシフト先で待ち受けるであろうシャドウサーヴァント戦の強力な戦力。エミヤも同様だが、前衛のアルトリアとは違い、後方支援担当であり、マスターの護衛も兼ねている。

 

「今回はオメガモン用のコフィンも用意してある。レイシフトは安全かつ迅速に出来る筈だ。特異点は7つ観測されたけど、今回は最も揺らぎが小さい時代を選んだ。向こうに到着したら、こちらからは連絡しか出来ない。先ずはベースキャンプを作る事。その時代に対応してからやれる事をやろう。健闘を祈るよ」

 

『アンサモンプログラムスタート。零子変換を開始します。レイシフト開始まで後3、2、1……』

 

 いよいよ始まった第1特異点へのレイシフト。アルトリアとエミヤは霊体化し、立香、マシュ、オメガモンはコフィンの中にそれぞれ入ってレイシフトに備える。

 コフィンの中に入った聖騎士が目を閉じると、身体がふわりと浮かびながら分解され、何処かに吹き飛ばされる感覚が走った。聖騎士にとって初めての経験だった。

 オメガモンはクオーツモンの体内でデータ粒子に変わりながら、一度消滅されかけた経験持ち。このような経験には全くの抵抗がない。

 

『全行程完了(クリア)。グランドオーダー、実証を開始します』

 

(行くぞ……皆!)

 

 コフィンの中に入っている立香、マシュ、オメガモンの姿が消失して第1特異点へとレイシフトしていった。

 この世界でのオメガモンの戦いが本格的に始まる。人類の未来への挑戦も始まる。人理修復の長き旅が幕を開けた。そのスタート地点は1431年のフランス。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ここは……」

 

「……ふぅ。無事に転移出来ましたね」

 

「皆無事か?」

 

「あぁ。おかげ様で」

 

「大丈夫です」

 

 オメガモンが目を開くと、そこには広大な青空と大地があった。その美しい景色に圧倒されながら、この場所に吹いている風や土の匂いを感じる。

 どうやら無事に転移する事が出来たようだ。マシュの話によると、前回のレイシフトは事故による転移だった。今回はコフィンによる正常な転移だった為、身体状況も問題ない。

 立香の呼びかけに応じたのはアルトリアとエミヤ。全員レイシフトに成功したが、この時代に来たのは彼らだけではなかった。

 

「フィーウ! フォーウ、フォーウ!」

 

「フォウさん!? また付いて来てしまったのですか!?」

 

「運命共同体だな……色んな意味で」

 

 何時の間にかフォウもこの時代に来ていた。どうやらオメガモン、立香、マシュのコフィンのどれかに入り込んだのだろう。彼らのどれかに固定されている為、皆が帰還すれば、自然にフォウも帰還する事が出来る。

 時間軸の座標を確認し、1431年のフランスに到着した事を実感したオメガモン達。現在は百年戦争が行われているが、この時期は戦争の休止期間となっている。

 

「……!? 皆、上を見るんだ!」

 

『ッ!?』

 

『よし、回線が繋がった! 画像は粗いけど、映像も通るようになった!』

 

「ドクター、ちょうど良い時に! 今から映像を送りますので解析を!」

 

 オメガモン達が見上げているのは光の輪。衛星軌道上に展開された何らかの魔術式。眩く輝きながら、途轍もない熱量を放っている。途轍もないのは大きさもだ。北米大陸の大きさと同じくらいはある。

 そんな時にロマニからの通信が届いた。正にナイスタイミング。狙っていたと言わんばかりだ。マシュはロマニに上空の光の帯の映像を送り、解析するように頼む。

 

『これは……! ロマニ、あの時代にそんな物があった記録は?』

 

『ありません。間違いなく未来消失の原因となる手掛かりになります。こちらで解析しましょう』

 

『立香達は現地の調査に専念して。先ずは霊脈を探して。話はそこからよ』

 

 上空の光の輪はカルデアにいるロマニとオルガマリーに任せるとして、オメガモン達は早速動き出した。周囲の探索、この時代にいる人間との接触、召喚サークルの設置。あらなければいけない事は沢山ある。

 先ずは周囲の探索から。ここがフランスの何処なのか。一体何があったのか。そういった事を調べる必要がある。どうしたものかと立香が考えていると、何かに気が付いたアーチャーが話し掛けて来た。

 

「マスター。この場所から少し移動した所に小さい砦がある。しかも戦いで傷付いている。何かあったのだろう」

 

「あぁ。そこに兵士と思われる人間の『波動(コード)』を複数探知した。行って話を聞くべきだと思うのだが……どうする立香君?」

 

「分かった。先ずはその砦に行って、話を聞いてみよう。と言う訳でオメガモン……よろしくお願いします!」

 

 立香が頭を下げてオメガモンに頼むと、オメガモンは全身に力を溜め込んで巨大化を始めた。初めて見るオメガモンの特殊能力。話に聞いていたが、直接見るのは初めてなアルトリアは口を開け、エミヤは苦笑いを浮かべる。

 聖騎士が自分の身体に乗るように促すと、アルトリアは恐る恐るオメガモンの身体にしがみ付き、その場の雰囲気を和ませた。微笑みを浮かべたオメガモンはその場から飛び立ち、砦がある場所へと向かい始めた。

 

「凄いです……身体を大きく出来るだけでなく、空を飛べるなんて。初めての経験です」

 

「私の背中のマントは防御と飛行を両立させるアイテムなんだ。ところでエミヤ殿、君は凄いな……遠くを見渡せるとは。流石はアーチャーのサーヴァントと言った所か」

 

「何、それくらい貴方も出来るだろう。それに相手の気配を探知したり、相手の情報を解析するなんて反則も良い所だよ」

 

「そう言えばそうだな……英霊の真名を解析するのに役立てそうだ。ありがとう、エミヤ殿。1つ良い勉強になった」

 

 エミヤの所有スキルの1つ。B+ランクの鷹の瞳。千里眼の亜種。視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上、遠方の標的捕捉に効果を発揮する。

 今回は遠くを見渡して何処に何があるのかを確認する事に役立てた。オメガモンの能力の1つ、『電脳解析《デジタル・アナライズ》』と併用すれば、かなり有効となる。

 徒歩だけでかなりの時間がかかる距離だったが、オメガモンのおかげで5分も経たない内に砦に到着した。オメガモンから降りたエミヤ達はお礼を言うと、身長を縮小したオメガモンは照れ臭そうに微笑んだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「砦に到着したのは良いけど……酷いなこれ」

 

「あぁ。砦としての機能を失っている。先の戦争でこうなったのか、或いは別の何かでこうなったのか……少し調べてみる必要があるな」

 

「確か戦争の休止期間なんだろう? 何があったのかな?」

 

 立香の言葉に全員が頷いた。中身はボロボロ。外壁は何とか無事だが、砦と呼べる物ではない。雨風を凌ぐ事は出来るが、敵に攻め込まれたらどうしようもなさそうだ。

 オメガモンが内部の反応を探知してみると、砦の中には人間がいる事が分かった。負傷兵ばかりだ。今は休戦中の筈なのに、一体何が起きているのか。

 

「おかしいですね……確か1431年にはフランスのシャルル7世がイギリスのフィリップ3世と休戦条約を結んだ筈なのに……」

 

「中にいる兵士から話を聞いてみよう。さて……この中でフランス語を話せる人はいますか!?」

 

 フランス語を話せるのはエミヤとオメガモンのみ。オメガモンが行けば怪しまれる事間違いなしなので、代表してエミヤがフランスの兵士に話を聞く事となった。

 戻って来た弓兵の話。それは兵士達は戦う気力がない程疲れている事、シャルル7世は魔女の炎に焼かれて死んだ事、ジャンヌ・ダルクが“竜の魔女”として復活した事、イギリスがフランスから撤退した事だった。

 

「ありがとう、エミヤさん。でも何でフランス語を話せるの?」

 

「生前にフランスに来た事があって、その時に覚えたのだよ……まさか英霊になっても役に立つとは思ってもみなかった。しかし驚いたな……救国の聖女が魔女になっていたとは」

 

 エミヤが溜息を付くのも無理もない。ジャンヌ・ダルク。彼女は世界的に有名な英雄。百年戦争の後期、イギリスに征服されかけていたフランスを救う為に立ち上がった女性。

 17歳の頃にフランスを救う為に立ち上がり、僅か1年でオルレアンを奪還する事に成功したのだが、イギリスに捕縛されて異端審問にかけられた後に火刑に処せられた。

 1人の少女の思いが世界を変えた。彼女は最高級の英霊だが、一体何が起きたのか。思わず考え込む立香だが、そうはいかなかった。

 

「ッ! 敵の反応を確認! 立香君、指示を!」

 

「了解! アルトリアさんとマシュは前衛、エミヤさんとオメガモンは後衛で援護だ。間違えても誤射しないでね、特にオメガモン!」

 

「安心しろ。私の狙いは百発百中。如何なる敵も逃しはしない!」

 

「頼んだよ!」

 

 オメガモンが探知した反応。それは少量の魔力による人体を用いた骸骨兵の集団。聖騎士の声にサーヴァント達は戦闘態勢を取り、目の前にいる敵兵と対峙する。

 雑兵を蹴散らすように、斬り込み隊長の如く突進するアルトリア。彼女は両手に聖剣を握っているが、刀身は不可視となっている。Aランクの魔力放出のスキルを活かし、スケルトンの軍勢を薙ぎ払っていく。

 マシュもアルトリアに負けじと、両手に握る身の丈もある十字形の盾を振るって骸骨兵の集団を撃破している。戦い方に慣れて来たのか、トレーニングのおかげなのか。動きに迷いが無く、次々と敵兵を蹴散らす。

 彼女達を援護するのはオメガモンとエミヤ。エミヤはアーチャーらしく、弓矢を使って確実に骸骨兵を狙撃していく。

 オメガモンはガルルキャノンを展開し、集団となっている個所を集中的に狙い、瞬く間に軍団を全滅させる。彼らのおかげで砦に押し寄せた敵兵は瞬く間に全滅した。

 

ーーーーーーーーーー

 

「今度は違う敵の気配を探知!……大型で速い! あれはドラゴン!? この世界にいたのか!?」

 

『ギャオオオォォォォォォーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

「違います! あれはワイバーンです!」

 

 骸骨兵を倒したのも束の間、オメガモンは更に砦に迫り来る敵の反応を探知した。大型で素早い相手。それはワイバーン。別名は飛竜。ドラゴンの亜種であり、最下級の竜種。ドラゴンから次々に生み出される。

 15世紀のフランスに存在しない筈のワイバーン。押し寄せている飛竜と戦おうとオメガモン達が身構えたその時、1人の女性の声が砦に響き渡る。その女性は長い金髪を三つ編みに纏め、軽装の鎧を身に纏い、大きな旗を携えた1人の女性。

 

「そこの御方! どうか、武器を取って共に戦って下さい! 私と共に続いて下さい!」

 

「ワイバーン相手は人間には荷が重い……ここは私が務めよう。アルトリア殿、いけるか?」

 

「もちろんです。ところでオメガモン……ワイバーンのお肉は焼いたら美味しいと思いますか?」

 

「どうだろうな……私には分からない。それなら試してみるか?」

 

「えぇ。試してみましょう」

 

 オメガモンは身体をワイバーンと同サイズに巨大化させ、左肩にアルトリアを乗せると、物凄く悪い笑みを浮かべながら彼女と話を始めた。

 その笑顔は横から見ていた立香ですら若干怖がる程だった。あの笑顔は悪巧みを考えている。元々はアルトリアの発言が原因なのだが、それにオメガモンが悪乗りした事となる。

 背中に羽織っているマントを翻し、その場から飛び立つオメガモン。アルトリアはワイバーンを見上げながら、聖騎士の左肩を足場にして跳び上がり、不可視の聖剣を振るって1体のワイバーンを斬り伏せる。

 突然の奇襲を前に回避行動や迎撃を行う前に斬撃を喰らい、墜落を始めるワイバーンを足場に使い、アルトリアは次のワイバーンに襲い掛かる。ここでも魔力放出のスキルが大活躍している。後は倒した飛竜を足場に使って移動し、別の飛竜を倒してまた足場に使って移動する。その繰り返しだ。

 青白い魔力と共に移動する騎士王。蝶のように舞い、蜂のように刺す。そのヒット&アウェイの戦い方を体現しているようだ。

 

―――まさか我が盟友、デュナスモンが宿す力となっている生物と戦うとはな……

 

 目の前にいるワイバーンの軍勢と相対しているオメガモンは自分の盟友の事を想い、苦笑いを浮かべる。

 飛竜の能力を持つデュナスモン。騎士道・武士道精神が強く、忠義や信義、礼儀を重んじる聖騎士。竜の様な強靭なパワーと、高純度のクロンデジゾイド製の竜鎧で無双の強さを誇る彼がいたらどうなるのか。それは気になるが今は戦いだ。気を引き締めていこう。

 オメガモンはウォーグレイモンの頭部を象った左手の手甲からグレイソードを出現させ、ワイバーンの軍勢に向けて加速していく。

 

「ハァッ!!」

 

「凄い! やっぱすげぇよオメガモン!」

 

 グレイソードを横薙ぎに振るってワイバーンの腹部を斬り裂く。聖剣を突き出して喉元を刺し穿つ。刺突で心臓を貫く。一撃必殺。最小限の動きを以て確実に飛竜を仕留めていき、気が付けば地上に墜落していくワイバーンが増えていった。

 エミヤも矢を放ち、オメガモンとアルトリアをアシストする。彼らの見事な連携と高い実力に立香は感嘆の声を上げ、マシュも彼らに憧れると共に共に肩を並べられるようになりたいと決意を新たにする。

 全てのワイバーンを倒して周囲一帯の敵の反応が無い事を確認すると、オメガモンはアルトリアを左肩に乗せて地上にゆっくりと着地した。

 

ーーーーーーーーーーー

 

『凄いよオメガモン! 空中戦と身体の大きい相手は君に任せれば怖い物知らずだね!』

 

「ありがとう、ロマニ殿。ところでそこにあるゴマ饅頭は?」

 

「それは私が用意したゴマ饅頭です」

 

「えっ!? 管制室にお茶と一緒に置いてあったからついうっかり……」

 

 ワイバーンとの戦闘を終えた後、オメガモン達はロマニと通信を取っていた。ロマニが食べているゴマ饅頭。それはこの特異点から帰還した後、ささやかな労いとしてマシュが用意していた物だった。もちろん立香の為に用意していた物だ。

 それを知ったオメガモンとエミヤの顔が青くなる。食べ物の恨みは怖い。彼らはそれを知っている。エミヤの場合はアルトリアが関係しているのだが。

 

「マスター。カルデアに帰ったら、今登録したエネミーに峰打ちを見舞わせます」

 

「止めてあげて!?」

 

「貴女は……いやお前は! に、逃げろ~! 魔女だ! 魔女が出たぞ~!」

 

 オメガモンがガルルキャノンから絶対零度の冷気弾を撃ち出し、ワイバーンの死骸を冷凍保存していると、兵士達は自分達を鼓舞した少女を魔女呼ばりし始める。

 そして魔女と呼んだ少女から逃げて行った。その様子を見て悲しそうな表情を浮かべる少女と、遣る瀬無い表情を浮かべているオメガモン達がその場に残った。

 

「失礼する。貴女のお名前は?」

 

「サーヴァント・ルーラー。真名はジャンヌ・ダルクです」

 

『ジャンヌ・ダルク!?』

 

「詳しい話は後にしましょう。先ずはこちらに来て下さい」

 

 少女の名前はジャンヌ・ダルク。“竜の魔女”として復活した聖女がどうしてここにいるのか。誰もが驚く中、ジャンヌはオメガモン達を何処かに案内した。

 そこは砦から少し離れた森の中。オメガモン達が簡単に自己紹介を済ませ、自分達がこの世界に来た目的を話すと、ジャンヌも自分の事を話し始めた。

 どういう訳か本来与えられるべき聖杯戦争に関する知識が無く、ステータスもランクダウンしている。それに加えて、ルーラーのクラススキルの“真名看破”や、対サーヴァント用の令呪を使う事も出来ない。イレギュラーな召喚に、ジャンヌは驚きながら戸惑っている。

 

「そうなんですか……この世界で一体何があったんですか?」

 

「私も数時間前に現界したので詳しい話は分かりませんが……」

 

 マシュの質問に答えるように、ジャンヌは話を再開させる。現在分かっているのは、この世界にもう1人の自分、もといジャンヌ・ダルクがいる事。そのジャンヌがフランス国王のシャルル7世を抹殺し、オルレアンで虐殺を行った事。

 同じ時代に同じ真名のサーヴァントが2体召喚された。これはイレギュラーとしか言えない。聖杯戦争の記録を調べれば、同時召喚の事例はあるかもしれない。

 シャルル7世はこの世界はおらず、オルレアンはもう1人のジャンヌ・ダルクに占拠された。これはつまり、フランスと言う国家が崩壊した事を意味する。

 歴史ではフランスは人間の自由や平等を謳った最初の国であり、この在り方が確立する事が少しでも遅れれば、文明の停滞に繋がる。もしそうなっていたら、この世界も今頃は中世と同じような生活をしていたかもしれない。

 

「そういう事だったのか……」

 

「私はサーヴァントとして万全ではなく、正直自分を信じられないでいます。オルレアンを占拠したもう1人のジャンヌ・ダルクにワイバーン……あの竜達を操っているのはもう1人の私なのでしょう。どうやって操っているのかは分かりません。生前の私はそんな事思いつきもしませんでしたし、何より出来ませんでした……」

 

「あのワイバーンはこの時代にいる筈がありません。竜を召喚するのは最上級の魔術。ましてやこれだけの数になると……」

 

(恐らくあのワイバーンを召喚し、使役しているのはもう1人のジャンヌになる。そして彼女は聖杯を持っている……と言う事は間違いなくサーヴァントを召喚している筈だ)

 

 ジャンヌの話にアルトリアが相槌を打っている隣で、オメガモンは内心で考えている。彼はワイバーンを召喚したのがもう1人のジャンヌで、彼女が聖杯を持っていると考えた。

 竜を召喚するのは最上級の魔術。現代の魔術師では不可能であり、この時代の魔術レベルでも難しいと思われる。それが出来るのは神代の魔術師か、聖杯のようなアイテムを持っている人物だけだ。

 そう考えると、もう1人のジャンヌが聖杯を使ってワイバーンを召喚し、使役している考えに辿り着く。その考えには筋が通る。

 そして聖杯を持っているとしたら、間違いなくサーヴァントを召喚している筈だ。それくらいの事はしていてもおかしくはない。

 

「私の目的はオルレアンに向かい、都市を奪還する。その為にもう1人のジャンヌ・ダルクを排除する事です。主からの啓示はなく、その手段は見えません。しかし、ここで目を背ける事は私には出来ません」

 

「俺達が知っている貴女だ……例え手段は見えなくても、仲間ならここにいます。俺達と貴女の目的は一致しています。俺達は貴女に協力したい。貴女が掲げた旗の下で共に戦いたい。お願い出来ますか?」

 

「はい! こちらこそお願いしたいです! どれ程感謝しても足りない程です。ありがとうございます、立香。私は1人で戦う物だとばかり思っていました。でも例え相手が魔女と呼ばれている私であっても、こんな頼もしい方々がいるのなら恐れる事はありません」

 

 立香とジャンヌが握手を交わした事で、彼らは協力関係を結ぶ事が出来た。どうやらジャンヌが火刑に処されてからまだ時間が経っていないようだ。今はもう1人のジャンヌ・ダルクを見定め、彼女を倒せば良い。

 暫くは斥候に徹する事を決めたのは理由がある。目的はシンプルだが、達成するのが困難だからだ。まだまだ此処は見知らぬ土地であり、何より拠点がない。今は何より情報を集め、下準備を行う時だ。準備に徹するしかない。

 それからもう1人のジャンヌ・ダルク、もとい“竜の魔女”がどんなサーヴァントなのかを調べなければならない。そして戦力の充実。協力者・案内人が欲しい。

 

「ジャンヌ。私達の他にサーヴァントの反応はありましたか?」

 

「……申し訳ありません。ルーラーが持っているサーヴァントの探知機能も今の私には使う事が出来ません。通常のサーヴァントみたいに、ある程度の距離にならないと、知覚する事が出来ません」

 

「そうですか……でも大丈夫です。私達には全自動万能探知機がいるので!」

 

「それに飛行による移動も可能だ! 私達を乗せてくれるぞ!」

 

「しかも神霊だから余程の事がない限りは大丈夫だ!」

 

「皆、頼むから私を物扱いしないでくれ……」

 

 本来、ルーラーのサーヴァントは10キロ四方に及ぶサーヴァントに対する知覚能力を持っている。しかし、今のジャンヌはそれを失っている。

 それでも立香達はそれをカバーする能力の持ち主がいる。アルトリアとエミヤと立香がオメガモンの両肩をバシバシ叩くと、オメガモンは悲しげな声を出した。

 

「フフッ、賑やかな方々ですね。では明日の早朝に出発しましょう。立香さんは人間なので、眠った方が……」

 

「そうだな……ならば今の内に夕食を食べよう」

 

「オメガモン……まさか君は」

 

「あぁ、持って来たぞ? 先程倒したワイバーンを」

 

―――このワイバーンを料理し、最高に美味しい料理を一緒に作ろう。

 

 オメガモンが持って来たのは先程倒したワイバーンの死骸。それを冷凍保存した物。左手から橙色に輝く灼熱の火炎を発し、1体ずつ解答すると、エミヤに視線を向ける

 その視線に呆れながらも笑みを浮かべ、エミヤはオメガモンと共にワイバーンのお肉を使った料理を作り始める。とは言っても本当に簡単な丸焼きなのだが。

 

「良し。作るぞ。ワイバーンの焼き肉!」

 

「オメガモン、凄い張り切っているな……」

 

「あぁ。まさかこういう一面があるとは思ってもみなかったな……」

 

 まさかこのオメガモンが意外にも料理上手とは誰も思わないだろう。彼らとは対照的に、アルトリアとジャンヌは目をキラキラ輝かせている。

 手順は簡単。オメガモンがグレイソードでワイバーンを次々と一刀両断していく。これで食べやすい大きさにカットされた。後はエミヤが塩と胡椒で味付けをし、串に刺して焚き火で焼く。これで完成となる。

 

「おっ、思っていたよりイケる!」

 

「美味しいです……!」

 

「こういう時、白飯と焼き肉のタレが欲しくなるな……」

 

「そう思うよなぁ、立香君。実は持って来てたんだな~!」

 

「オメガモン、グッジョブ!」

 

 オメガモンが何処からか取り出したのは炊飯器と焼き肉のたれ。しゃもじとご飯茶碗も用意しており、全員の分を盛ってから再び食べ始める。

 予想外にワイバーンの焼き肉が美味しく、しかもご飯に合っていた。それでいて数日分の食料を賄う事が出来た。発案者のアルトリアはエミヤに褒められ、赤面したのは言うまでもない。その様子を誰もが優しく見守っていた。

 その美味しさにアルトリアは白飯をお代わりしたのだが、ジャンヌも同様にお代わりを要求した。これにはオメガモンのみならず、エミヤですら驚いた。

 実はジャンヌも大食い属性持ち。食欲の塊のような野卑な兵士達に引けを取らなかった程の健啖家。2人の大食い属性持ちによってあっという間に白飯が無くなり、2人から文句を言われたのはご愛嬌。

 この日は森の中で野宿をする事になった。オメガモンとアルトリアとエミヤの3人が見張りを担当し、立香とマシュは明日に備えて深い眠りに付いた。ジャンヌもステータスのランクダウンに伴い、早めに休むように促された。

 

「オメガモンさん……何か考え事をしていますね?」

 

「あぁ。貴女の方こそまだ眠っていなかったのか……明日の出発は早いのだろう? 私の事は大丈夫だから早く眠るんだ。」

 

「マシュさんから聞きました。貴方がここではない別の世界から来たデジモンと言う種族で、人類とデジモンの世界と未来を守る為に戦ったと……そして元人間で、戦いの果てに命を失ったと」

 

「そうか……私の事を聞いたのか。私は大した存在ではないよ。この世界の事も、サーヴァントの事も、何もかもが分からない。新鮮で未知の体験だ。今はこの状況に慣れるよう、頑張っている所なんだ」

 

「それは私もです、オメガモンさん」

 

 ジャンヌは内心に秘めた苦悩を話し始める。自分の召喚が不完全だからか、それとも、本来の自分が数日前に亡くなったばかりなのか。今はサーヴァントの新人の感覚を感じているとの事。英霊の座には過去や未来は存在しないのに。

 今の自分ではその記録に触れる事は出来ない。だからサーヴァントとして振る舞う事が難しい。まるで生前の初陣のような気分を感じる。救国の聖女としての自分を期待されても、応えられるかどうか分からない。

 

「……そうか。実は私のテイマーの立香君と、彼のサーヴァントのマシュさんも同じなんだ。彼らも今回が初陣みたいな物だ。立香君は一般人のマスター。マシュさんはデミ・サーヴァント。人間と英霊が融合した存在。英霊の力を完全に発揮できる訳でもないが、そんな彼女を立香君は信頼している。きっと“強いから”戦っているのではなく、出来る事をやろうとしているだけだと思っている。だから私は彼らの助けになりたいと願っている。それは貴女も同じだ。私の力が誰かの助けになれるのなら、聖騎士として本望だよ」

 

「ありがとうございます。貴方に話したからか、少し気が楽になりました」

 

「どういたしまして。ジャンヌ殿。一つ貴女に聞きたい事がある。貴女は自分が歩んだ人生を後悔した事はあるのか?」

 

 オメガモンの問いは彼の心が如実に出ていた。理解出来ない。分からない。何故ジャンヌ・ダルクが英霊になれたのか。確かに生前の功績だけを見ればなる事は出来る。しかし、報われない人生を送って来た為、怨霊や悪霊になってもおかしくない。

 事実、ここではない別の世界では怨霊や悪霊となったジャンヌ・ダルクもいる。真っ当な人間ならば、世を憎み、人々を恨み、世界を憎悪してもおかしくない。

 

「私は貴女の最後を知っている。信じていた物に裏切られ、全てを失い、非業の最期を遂げた事も……だからこそ貴女に聞きたかった」

 

「貴方を含めた皆、誰もが私の最期を無念と言います。復讐を望んでいると、救いを望んでいると誰もが考えています。ですが、私が駆け抜けた生涯には、私だけが知る事が出来る満足があります。誰にも共感を得られる物ではありませんが、少なくとも私は己の人生に一片の後悔を抱いていません。だって、私が歩んだ道は間違いじゃなかったですから」

 

「そうか……そうなのか……そうだな」

 

 ジャンヌの嘘偽りのない答え。オメガモンはそれを聞いて唖然となった。目の前にいる少女は同じ人間なのか。同じ人間だったのか。信じられない。有り得ない。これだけの事をされたにも関わらず、何も恨んでいない。復讐を望まない。

 背筋が寒くなるのを感じていると、今度はジャンヌがオメガモンに質問して来た。その質問に答えようとすると、オメガモンはエミヤとアルトリアを呼んだ。

 

「そういうオメガモンさんこそ、どうして今まで戦えたんですか? 国どころか、世界規模の話。全ての人類とデジモンを守る為、世界を守る為に戦うなんて……私には想像が出来ません。ましてや、自分が死ぬ事を分かっていながらも……どうして戦えたんですか?」

 

「私は貴女のような強い心はない。ちょうど良い。エミヤ殿、アルトリア殿。ちょっと来て欲しい。私の前世を話したいから」

 

 オメガモンは3騎のサーヴァントに自分の真の姿を話し始める。かつて自分は八神一真と言う名前の一般人だった事。平和な生活を送って来た時、ディアボロモンの襲撃に遭って一度命を落とした事。オメガモンと一体化して復活した事。

 デジモンとの戦いを経る内にオメガモンの力が増大し、それに伴って完全なデジモンとなった事。特殊能力を使用した結果、肉体が死亡し、精神が焼き切れて魂が消滅した。ホメオスタシスによって、オメガモンとなってこの世界に転生した。

 今の自分はオメガモンだが、一般人だった特異な存在。だから自分は在り続けなければならない。立香とエミヤが憧れ、期待を寄せるオメガモンとして。その為に人間らしさを隠していたが、アルトリアとのやり取りでうっかりボロが出てしまった。

 

「私は全てを失った。人間としての人生や日常、帰る場所等の大切な物を。その代わりに得た物は本当に欲しかった物ではなかった。だから私は戦う。立香君やマシュさんの為に。かつて失った物を守る為に、これ以上誰かの大切な物を失わせない為に……失望しただろう? 聖騎士だの、デジモンだの、神霊だの言っていた存在が実は一般人で、この世界での戦いが初陣だったと……笑えないよな? いやいっそ笑い飛ばしてくれ……偽物のオメガモンを。紛い物の私を」

 

「いえ、私は貴方の事を笑いません。貴方は勇気を持って私達に自分の事を打ち明けた。貴方を偽物とは思いません。貴方のおかげで救われた人間やデジモン、世界や未来があるのですから……貴方は間違いなく本物のオメガモンです。私はそう思います」

 

「私も失望していない。むしろ自分から話してくれて嬉しかった。貴方も俺と同じだったから……」

 

「同じ? どういう事だ?」

 

 今度はエミヤが自分の過去を話し始める。彼の本名は衛宮士郎。第4次聖杯戦争の終盤で発生した冬木大災害で天涯孤独となり、自分を救ってくれた衛宮切嗣の養子となる。

 切嗣の“正義の味方”になると言う理想を受け継ぎ、第5次聖杯戦争に巻き込まれた彼は、セイバーことアルトリア・ペンドラゴンを召喚して第5次聖杯戦争の勝者となった。

 その後世界の危機を救って遂には英雄と呼ばれたが、自分の行為に対して何の見返りも求めない姿勢が人々の恐怖を買い、裏切られ続ける日々の末に、自分が助けた筈の人物に罪を被せられた後に処刑された。

 理想を追い続けたその生涯は最後まで報われることなく、多くのものに裏切られてきたが、誰一人恨むことはなかった。死後は英霊の力で更に多くの人を救う事を望んだが、それは自分の望んだ役割ではなかった。

 信念も遂に磨耗し、かつての理想に絶望した彼に訪れた救い。それはかつて経験した第5次聖杯戦争に召喚された事。そこで自分が抱いていた理想は間違っていなかったと言う答えを得て、英霊の座に戻っていった。

 

「オメガモン。貴方の話を聞いて安心したのは、正体を知れた事よりも、俺と同じだったと言う事が分かったからだ。これから共に歩んでいける。俺が憧れていた聖騎士は、俺と同じような過去を持った仲間だった。そう思えたから、俺は貴方と盟友になれる。そう確信できた」

 

「ありがとう。だからか……アルトリア殿と仲が良いと思ったらそういう事だったのか……」

 

「あぁ。ちなみに昔から大食いだったのだよ……おかげで食費が……」

 

「分かる! あれだけの食べっぷりを見れば苦労していたと分かる! そりゃエンゲル係数も凄い事になるよ!」

 

「分かってくれたか同志よ!」

 

「私は大食いではありません!」

 

 お互いの過去話をした事で、仲良くなったオメガモンとエミヤ。友情の証として握手を交わした2人の漢。カルデアに戻ったらランサーを加え、何かしらのグループを作るつもりでいる。

 その様子を優しく見守るアルトリアとジャンヌ。今までオメガモンが一歩引いていたから中々話しにくかったが、彼の正体を知る事が出来た為、ようやく本当の意味で分かり合う事が出来た。そう思えたからだ。

 その後にジャンヌは眠り、オメガモンもエミヤに促されて眠った。時には皆を乗せる移動手段、時には勇ましく戦う聖騎士として八面六臂の活躍を見せるオメガモン。

 この世界に来れて本当に良かった、新しい友達や仲間に出会えて良かったと思いながら、目を閉じて深い眠りに付いた。その寝顔を優しく見守るエミヤとアルトリア。彼らの事を満天の夜空が見守っていた。

 




LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。

・オメガモンと相性の良いサーヴァント

基本誰とでも仲良く出来ますが、好み(男性として)なのはジャンヌさん、剣式さん、ランサーアルトリアさんです。本人から聞きました。

・ワイバーンのお肉

大食い属性のアルトリアさんとジャンヌさんがいる為、ついやらかしました(汗)
オメガモンが弾けました。彼はハジケリストでもあります。

・聖騎士と英霊のやり取り

今回の小説では、オメガモンと英霊が色々な事を話して信頼関係を構築していく事に焦点を当てています。ここから先もこういう場面が出ます。

・演じ続けなければならない苦悩

オメガモンの悩み。それは皆が期待し、求め続ける偶像であり続ける事。
それを演じ続けられるかどうか。これから先も出て来る問題です。
でも仲間がいる限り、彼の悩みは大丈夫でしょう。

以上になります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、作品の質を向上させるようなアドバイスや、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。それが執筆意欲に繋がります。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

オルレアン奪還とジャンヌ・オルタ打倒に向けて動き出したオメガモン達。
彼らはジャンヌ・オルタと相対した。
その時現れた謎の王妃とは!?

第7話 百合の王妃



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第7話 百合の王妃

周1投稿が当たり前のようになりましたが、それでもこの小説は続いていきます。
そう言えば『デジモンアドベンチャー tri』の予告でオメガモンの新形態が出るらしいですが、設定と詳細が分かり次第、この小説でも出していきたいと思います。
来月からFGOの第2部が本格的に始まりますが、書ければ書きます。




 うっすらと朝の日差しが木々の間から差し込んでいた頃、オメガモン達は目を覚まして朝食を食べ始める。カルデアから送られて来た食料を使ってオメガモンとエミヤが料理を作り、一日のエネルギーを補給した。

 先ずはこの森を抜けてオルレアンに向かう。直接乗り込むのは無謀だから、周辺の街や砦から情報を仕入れ、戦力を整えてオルレアンに突入する。方針が決まると、オメガモンは巨大化して立香達を乗せて移動を始める。

 低空飛行ではあるものの、その速さは尋常ではない。立香に気を遣って普段より遅くしている。それにも関わらず、徒歩や馬車よりも早い。未知の体験にジャンヌが目をキラキラと輝かせる中、あっという間に近くの街―ラ・シャリテに到着した。

 

「ここで何かしらの情報が得られなかった場合、更にオルレアンに近付かなければなりません。なるべくそうならないように願いたいです」

 

「そうですね……今の私達で彼らに打ち勝てるかどうかが分からない以上、攻め込む訳には行きませんし」

 

「でも正直焦っています。もう1人の私はどう考えても正気ではありません。そんな怪物が人を支配して何をするのか……」

 

 ラ・シャリテで情報収集を行うのはジャンヌ、アルトリア、エミヤ、マシュ。オメガモンは立香の護衛役。見た目で現地の人々と関わって問題を起こしたくない。本人も仕方ないと割り切って周囲の風景を眺めた。

 青い空に白い雲。広大な青空はいつ見ても心地良い物だ。踏み締める大地の感触もとても良い。自分の足で立ち、自分の目で眺める景色は最高だ。人間の時は都会暮らしだった為、このような景色はあまり見る事がなかった。何処か新鮮に思える。

 優しく笑っている風も、鼻に届く匂いも、背後から聞こえる街の賑やかさも全て真新しく思えるのは、余程都会暮らしが馴染んでいたからなのか。

 

「ッ! 此方に近付いて来る巨大な反応を探知! 速度から推測すると、これはワイバーンに乗っている! サーヴァントが5騎来るぞ!」

 

「何だって!? 皆、情報収集は一時中断! 戦闘態勢に入ろう!」

 

 オメガモンが立香に報告したと同時に、敵が姿を見せた。青空を覆い尽くす無数のワイバーンの軍勢。砦で戦った数とは比べ物にならない。

 立香の指示を聞いたアルトリア、エミヤ、ジャンヌ、マシュの4騎のサーヴァント。彼らが集結して空を見上げていると、その先頭の飛竜の上に5騎のサーヴァントが乗っている事に気が付いた。

 

「これで分かった。敵は聖杯を持っている」

 

「聖杯を?」

 

「昨日ジャンヌ殿から聞いた話で予測はしていた。竜を召喚するのは最上級の魔術と。あれだけの数のワイバーンを召喚し、使役出来るのはかなり難しい。それにサーヴァントを召喚していたとなると……やっぱり聖杯を持っていたのか」

 

「5騎のサーヴァントにワイバーンか……Dr.ロマン。念の為にマイルームに待機しているランサーを呼んで下さい。相手のクラスが分からない以上、前衛で戦えるサーヴァントは多い方が良いので。いざという時に召喚します」

 

『了解! だいぶマスターっぽくなったね』

 

「はい。これでも勉強やトレーニングに励みましたから!」

 

 町の広場に降り立った5騎の敵サーヴァント達。上空には無数のワイバーンがいる。サーヴァントの数なら1騎足りないこちらが不利だが、オメガモンがいるから戦力差を埋める事は出来る。

 ロマニと通信を行ってクー・フーリンを召喚出来るように準備を行うと、5騎の敵サーヴァントを見る。立香はこの特異点に来るまでの間、とにかく勉強とトレーニングに励んでいた。勉強家な一面が見えた。

 相対する2人の聖女。片方は善で、もう片方は悪。何事にも負けない光を持つ白い聖女と、絶対に消えない憎悪を抱く黒い聖女。まるで鏡移しのようだが、所々違う所がある。白い聖女が持つのは神を戦える旗で、黒い聖女が携えているのは竜が描かれた旗。

 

「何て事なの。まさか、まさかこんな事が起きるなんて……フフッ。アハハハハハハハッ!!!!!」

 

「あれがもう1人のジャンヌ・ダルク……!」

 

「それに4騎のサーヴァントを従えている……!」

 

 もう1人のジャンヌ・ダルク。彼女は“竜の魔女”として蘇り、復讐の念に染まった黒い聖女。反転したジャンヌ。ジャンヌ・オルタ。

 彼女の周りには4騎のサーヴァントがいる。クラスや真名は分からないものの、一目見ただけで分かる。強力な相手であり、一筋縄では行かないと。

 

「ねぇ、お願い! 誰か私の頭に水をかけて! まずいの! ヤバいの! 本気でおかしくなりそうなの! だってそれぐらいしないと、あまりに滑稽で笑い死んでしまいそう!」

 

「おかしいのはお前の方だ、黒ジャンヌ。いやジャンヌ・オルタ。何故この街を襲おうとした? いやこの街だけじゃない……この国その物を。お前がジャンヌ・ダルクと言うなら、どうして今まで守って来た物を破壊しているんだ?」

 

「何ですか、そこの聖騎士。……あぁ、ジルが一番警戒しろと言っていた奴ね。良いでしょう。その答えは簡単。フランスを滅ぼす為ですよ。全ての悪しき種を根本から刈り取る為に」

 

「何だと?」

 

 ジャンヌ・オルタはオメガモンの事を一番警戒していると言いながらも、質問にはきちんと答える。反転しているものの、オリジナルの真面目かつ律儀な部分は残っているようだ。

 フランスを救う価値がないから破壊する。自分を騙し、裏切った人々を救っても意味はない。主の声も聞こえないという事は、この国に愛想をつかしたという事。

 それに対し、オメガモンは反論する。関係のない、何の罪もない人々を巻き込んで良い理由にはないと。騙され、裏切られる痛みや苦しみは分かるが、だからと言ってやって良い事と悪い事はある。

 

「だからと言って……何も関係ない人々を消す必要はないじゃないか! 彼らが何をした! 何も関係ない人々を己の復讐の為に巻き込むな!」

 

「いえ、その必要はあります。人類が存続する限り、私の憎悪は収まらない。このフランスは沈黙する死者の国にする。それが私の救済方法です」

 

「そんな物は救済じゃない! 自分以外に誰もいない、かつて守ろうとした人々もいない、あるのは血と死体しかない……そんな世界にする事が救済と言えるのか!?」

 

 オメガモンこと八神一真。彼が最後に戦った相手はミレニアモン。彼女はデジモンに対して外道な事や、非人道的な事をし続けた人類に絶望し、自らが邪神となった。

 そして、人類とデジモンが本当に共存できる世界を築き上げようとした。手段は間違えていたが、理想は正しかった。

 しかし、ジャンヌ・オルタの場合は違う。彼女の言う救済はただの復讐。自分を裏切り、見捨てたフランスを滅ぼす事。それが聖騎士にとって我慢出来なかった。

 

「私はフランスに復讐出来れば、それで良い。何も知らない奴が口出しをするな! ワイバーン達よ、あの聖騎士を喰らい尽くせ!」

 

『ギャアアアァァァァァァァーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

「喰らい尽くされるのはお前達の方だ!」

 

 ジャンヌ・オルタが旗を掲げてワイバーンに指示を下すと、空中で待機していたワイバーン達が一斉にオメガモンに襲い掛かる。

 迎え撃つ聖騎士の瞳が輝くと同時に、オメガモンの姿が一瞬消失した。そう誰もが思った次の瞬間、ワイバーン達が全員地上に墜落した。

 

『ッ!?』

 

「な、何……!? 何なの……!?」

 

 何が起きたのか分からず、困惑している全員の目の前でオメガモンが地上に降り立つ。その円らな空色の瞳が告げる。街に住んでいる人々には手を出させはしない。フランスを滅ぼさせたりはしない。何故なら彼らは人間であり、守りたいと願う日常があるからだ。

 攻撃を繰り出す前に全て狩り尽くされた。他でもない聖騎士の手に寄って。血や肉が飛び散らず、何が起こったのか分からないまま、飛竜の軍勢は全滅した。

 

―――まさかあの一瞬で全てのワイバーンを仕留めたのか!? やっぱすげぇよ、オメガモン……

 

 立香は気付いた。オメガモンが一瞬の間に全てのワイバーンを仕留めていた事に。そうでないと説明が出来ないからだ。

 オメガモンは自分が撃ち出した砲撃より速く動く事が出来る為、無数の砲撃をあらゆる場所から撃ち込んだとしても、それが一瞬だったと言う出鱈目としか言えない身体能力を持っている。

 

「クッ……! ならばあの聖女から先に潰してしまいましょう。バーサーク・ランサー! バーサーク・アサシン!」

 

 オメガモンの実力の一端を見せ付けられた事で、ジャンヌ・オルタはオメガモンよりも先にジャンヌを倒す事を決めた。あの聖騎士を倒すのは別の相手でなければならない。そう考えたのだろう。

 ジャンヌ・オルタの命令を聞いて前に進み出たのは2騎のサーヴァント。バーサーク・ランサーと、バーサーク・アサシン。

 バーサーク・ランサーは闇に溶け込みそうなほどに黒い貴族服を着た王で、バーサーク・アサシンは茨を思わせるドレスを纏い、仮面をつけた淑女。

 

「よろしい。では血を戴くとしよう」

 

「いけませんわランサー。私は彼女の肉と血、臓を戴きたいもの」

 

「強欲だな。魂はどちらが戴く?」

 

「貴方に譲ります。名誉や誇りで美貌は保てると思って?」

 

「良かろう……馳走に預かるとするか」

 

「セイバーはあの黒い男性を、アーチャーはもう1人の女性を!」

 

 バーサーク・ランサーと、バーサーク・アサシンの相手。それはアルトリアとエミヤの2騎のサーヴァント。立香の指示を受け、彼らは前に進み出る。

 アルトリアはバーサーク・ランサーと戦う為に両手で不可視の聖剣を握り締め、エミヤはバーサーク・アサシンと対峙しながら、両手に陰陽二振りの短剣―干将・莫耶を構えたその時、何者かの声が響き渡る。

 

「優雅ではありません」

 

『ッ!?』

 

 4騎のサーヴァントが戦おうとしたその瞬間、ガラスの薔薇が何処かから放たれ、4騎のサーヴァントの中心で爆発した。

 巻き起こる黒煙と爆炎。咄嗟に後退した4騎のサーヴァントが周囲をキョロキョロと見渡していると、そこに1人の少女が現れた。

 

「戦いも、思想も、主義もよろしくないわ。貴女は美しいのに、憎悪と血に染まっている。例え善であれ、悪であれ、人間はもっと軽やかに在るべきじゃないかしら。そう思うでしょう、そこの聖騎士さん」

 

「あっ、あぁ……そうだな。ところで貴女は?」

 

「私はマリー。マリー・アントワネット」

 

「何!? かの有名なフランス王妃ではないか!」

 

「我が愛しの国を荒らす竜の魔女さん。貴女は私が来てもまだ狼藉を働く程邪悪なのですか?」

 

 天真爛漫なアイドルみたいに可愛らしい少女。彼女の名前はマリー・アントワネット。ハプスブルク家の系譜にあたるフランス王妃。王権の象徴として愛され、祝福されて生きながら、王権の象徴として憎まれ、貶められて亡くなった女性。

 まさかの人物の登場に敵味方問わず、誰もが驚く中、マリーはジャンヌ・オルタに質問をする。その問いが無意味だと分かっていても。

 

「黙りなさい。貴女がこの戦いに関わる権利はありません。先ずはあの鬱陶しいお姫様を始末なさい!」

 

「お前の相手は私だ。マリー殿ではない」

 

「ッ……!」

 

 ジャンヌ・オルタがマリーを倒すようにサーヴァント達に指令を下すと、させないと言わんばかりにオメガモンが前に進み出る。

 右腕から展開したガルルキャノンの照準をジャンヌ・オルタに合わせ、サーヴァント達を睨みながら視線で告げる。一歩でも動けば大将を攻撃すると。これにはサーヴァント達も迂闊には動けなくなった。

 

「分が悪いわね……撤退するわ。オメガモン、次は必ず貴方を倒す」

 

「いつでも相手になる。その時は全身全霊でお相手しよう」

 

 このまま戦闘を行っても無意味であり、こちらが不利だ。そう考えたジャンヌ・オルタは直ぐに撤退する事を決めた。自身の能力でワイバーンを召喚して騎乗すると、ワイバーンは飛び上がり、そのまま飛び去って行った。

 4騎のサーヴァントは霊体化してその場から離脱していったが、オメガモンはジャンヌ・オルタの能力に目を細めた。“竜の魔女”の二つ名の通りに竜を使役する能力を持ち、ワイバーンの群れを自分の手足のように操る。極めて厄介な特殊能力だ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「どうにかなりましたね……それにしてもオメガモンさんは凄いです。一瞬でワイバーンの大群を全滅させるなんて」

 

「ありがとう。でもあれはウォーミングアップに過ぎない。一々驚いていたら先が思いやられるぞ?」

 

 オメガモンの行動は“殺一警百(シャーイージンパイ)”と言う言葉と同じ効果をもたらした。一人の部下を殺し、百人の敵に警告するという意味の中国の諺。

 この場合はワイバーンの軍勢を全滅させ、聖騎士の実力を見せつける事でジャンヌ・オルタに心理的重圧をかけた事になる。

 

『砦から近くの森に霊脈の反応を確認したよ』

 

「ありがとう、Dr.ロマン。マリーさん。よろしければご一緒しませんか?」

 

「マリーさん……ありがとう! とっても嬉しいわ! 今の呼び方、耳が飛び出るくらい可愛かいと思うの!」

 

「そ、そうですか……」

 

 天真爛漫なマリーのペースに押されつつも、立香達は巨大化したオメガモンに乗り、強い霊脈が探知された森に向かう。この時にもう1騎のサーヴァントと出会った。

 黒服に身を包んだ音楽家―ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。18世紀の人物で、世界有数の天才作曲家にして演奏家。

 世界史に名を残す程の偉人に出会えた事にオメガモンは狂喜乱舞した。聖騎士の正体を知っているジャンヌ、アルトリア、エミヤは優しい雰囲気で見守ったのは言うまでもない。

 森の中に入った立香達一行。召喚サークルを設置してカルデアとの通信・報告を試みると、オルガマリーが通信に出た。

 

『そっちの様子はどう?』

 

「今の所は問題ありません。現地にいるサーヴァントと合流し、今はオルレアンに向かっています。ジャンヌ・オルタ……黒いジャンヌを倒す為に」

 

『報告ありがとう。そう言えば、立香君に教えていない事があったから説明するわ』

 

 オルガマリーが説明を始めたのはサーヴァントの相性。例えばセイバーはランサーに、ランサーはアーチャーに、アーチャーはセイバーに強い。ライダーはキャスターに、キャスターはアサシンに、アサシンはライダーに強い。いわばじゃんけんみたいな物だ。

 バーサーカーは全てに強いが、攻撃される時は全てに弱い。一部のサーヴァントは例外だが、基本はこのようなルールとなっている。それでも最後に物を言うのはサーヴァントのスペックなのだが。

 オルガマリーとの通信を終えた後はお互いに自己紹介をした。マリー・アントワネットのクラスはライダー。召喚された理由は不明で、マスターがいない。フランス繋がりで、ジャンヌ・オルタへの抑止力として召喚されたのかもしれない。

 モーツァルトのクラスはキャスター。事情もマリーと同じだ。英雄と呼ばれる事に実感が無ければ、キャスターのクラスで呼ばれた理由も分からない。恐らく魔術を嗜んでいたからだと本人は推測している。

 

「貴女は聖女ではないのよね? それなら私はジャンヌと呼んで良い?」

 

「えぇ、勿論です。そう呼んで戴けると、何だか懐かしい気がします」

 

「ありがとう。なら貴女も私をマリーと呼んで。貴女が聖女ではないただのジャンヌなら、私も王妃ではないただのマリーになりたいの」

 

 自分は聖女ではなく、一度も自分を聖女と思った事はないと言い切ったジャンヌと、そんな彼女と名前で呼びたいマリー。

 マリーはジャンヌを聖女として尊敬しているが、彼女の心情を知って友人になりたいと提案して来た。その提案をジャンヌは了承し、彼女達は時代を越えた友達となった。

 

「良いな……友情って良いな。なんかマリーさんを見ていると、とても世界史で勉強した事が嘘のように思えて来るよ。“パンがなければケーキを食べればいいじゃない”……だっけ? あれ本当に言ったとは思えないよ」

 

「あの名言のケーキは、俺達の知っているケーキとは違うと聞いた事があるよ」

 

「あっ、その言葉なんだけど……ごめんなさい。それ、私が言った言葉じゃないみたいなの。言った記憶がなくて……どうしても思い出せないの」

 

「はい!?」

 

「何だと!? 歴史家、仕事しろ!」

 

―――パンがなければ、ケーキ(お菓子)を食べればいいじゃない。これはマリー・アントワネットの台詞として名高いが、実際には別人の発言だったという説がある。

 ジャン=ジャック・ルソーの著作『告白』が出典元になっているのだが、この時は“王女の誰か”が言った言葉をルソーが思い出した為、一体誰が言ったのかが名言されていない。

 そもそもルソーが『告白』を執筆した当時、マリーはまだ9歳でオーストリアにいた。この言葉が革命期前後のフランスで、貴族を糾弾するための材料として引用された。そしてそれがマリーが言った事になった。

 ちなみに“ケーキ”は日本語の意訳であり、正確に言えばブリオッシュというフランス発祥の菓子パンを指している。ブリオッシュは卵黄とバターを多量に使った黄色い生地が特徴。マリーはこれを好きだったらしい。

 ちなみに当時のブリオッシュの値段はパンより安かったので、本来は“(高価な)パンがないのなら、(安価な)ブリオッシュを食べれば良い”という意味の言葉だったと思われるが、歴史家によって捻じ曲がった形で伝わったと考えれば良いだろう。

 その後、立香達がマリーとモーツァルトに自分達が来た理由を話すと、2人は真剣な顔をしながら話を聞いていた。

 

「話は分かりました。フランスだけでなく、世界の危機なのですね。形は違えど、これも聖杯戦争と言う訳ですね……」

 

「マスター不在で召喚されたと分かった時は危険な音しかしなかったけど、予想以上だなこれは。あの時相対したサーヴァントは5騎。今分かっているサーヴァントは合計11騎。オメガモンを入れれば合計12騎になる。これは多過ぎだよ」

 

「既に7騎の法則は形骸化していると考えた方が良さそうですね。流石に無制限と言う事はありませんが……」

 

「サーヴァントの数が7騎以上でも不思議な事はない。確か……15騎のサーヴァントが争った聖杯戦争もあったらしい」

 

 エミヤが言ったのは聖杯大戦。14騎ものサーヴァントが2つの陣営に分かれてぶつかり合うという、大規模化した聖杯戦争。

 同じ陣営に属する他の組との連携が求められるチーム戦であり、サーヴァント同士の関係が密接で、相性が良い者を組ませた場合、遥かに格が上の敵でも打倒する事が可能だ。

 

「私達が召喚されたのは英雄のように、彼らを打倒する為なのね! この世界でやっとやるべき事を見付けられた気がしたわ!」

 

「でも相手は強敵だ。ジャンヌとマシュ、アルトリアにエミヤ、オメガモンに立香は戦いに慣れているとしても、僕とマリーは汗を流すタイプじゃない。頭数はともかく、戦力は……う~ん、正直どうだろうね」

 

「モーツァルト殿の言い分は正しい。何より敵の戦力を把握出来ていないし、相手のサーヴァントの真名が分からない。もう少し情報収集に勤しむ等、慎重に動くべきだ」

 

「オメガモンの言う通りです。ルーラーのクラス能力の真名看破は失われていますが、分かった事があります。彼らは皆、『狂化』を付与されています。属性や伝説の有無に関係なく」

 

「『狂化』……そう言えばバーサーク・何とかと言っていたな」

 

 バーサーク・サーヴァント。彼らはジャンヌ・オルタによって召喚された。元々このスキルはバーサーカーのクラススキル。理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿す事が出来る。弱いサーヴァントを強化したり、元々強いサーヴァントを強化する事も出来る。

 その反面、理性や技術・思考能力・言語機能を失い、現界のための魔力を大量に消費するようになる。それに加えて全てのクラスに強いと言う相性持ち。反則としか言いようがない。

 

『オメガモン。君の考えていた通りだ。黒いジャンヌ……ジャンヌ・オルタは聖杯を持っている。だからサーヴァントを召喚してバーサーカー状態にしたり、ワイバーンを自分の手足のように使役出来る。そう考えた方が良さそうだ』

 

「えっ? 聖杯を求めて戦うのが聖杯戦争なんでしょう? 相手はもう聖杯を手に入れているなんて……」

 

「そうでないと説明が出来ないし、筋が通らない。でもマリーさんとモーツァルトさんが呼ばれた理由は分からない……いや待てよ? この世界では聖杯戦争は行われていない。そうだよね、マシュ」

 

「はい。それなのに聖杯を持っているサーヴァントがいる……つまり聖杯が抑止力になっていると言う事ですか? あのバーサーク・サーヴァントはジャンヌ・オルタが召喚したと」

 

「だと思うんだけど……相手が強ければ強い程、反動は大きくなるみたいに。……ごめん。俺じゃよく分からない」

 

 全員で議論する中、分かった事がある。先ずはマリーやモーツァルトのように、この国の何処かに彼らのようなサーヴァントが召喚されている可能性がある事。

 それは希望であると共に、絶望でもある、必ずしも味方ばかりとは限らないからだ。それでも探してみなければならない。出来るだけ早く行動するべきだ。ジャンヌ・オルタ達が彼らを見付けるよりも前に。

 ジャンヌのサーヴァント探知機能が失われている今、オメガモンとロマニの探知機能が頼りだ。ルーラーを凌駕出来るかどうかはともかく、それに勝るとも劣らない距離をカバーする事は出来る。

 

「そうと決まったら少し休みましょう! 皆さん。疲れているでしょうし」

 

「そうですね、マスター。暫くお休みください。私達が見張りますので」

 

「ありがとう。お言葉に甘えてゆっくり休むよ」

 

 立香とマシュが仮眠を取り、残りの面々で見張りを始めた事で周囲は静寂に包まれる中、オメガモンは『波動(コード)』を放ち、敵サーヴァントが来ないかどうか見張り番をしている。無意識で出来る為、半分休んでいるような物だが。

 正直、野宿するのはカルデアに来てから初めての経験となる。今までは自宅のベッドで寝ていたが、今はそういう贅沢は出来ない。背中に羽織っているマントを毛布替わりにしているが、時々自宅のベッドが恋しくなってしまう。

 

ーーーーーーーーーー

 

「敵サーヴァントの反応を確認。数は1騎。マスターを起こそう。戦闘態勢だ」

 

 森の中で休んでいる立香達一行。夜も更けて来た頃、オメガモンが自分達に近付いて来る敵サーヴァントの反応に気が付いた。

 それを聞いたアルトリア達が武器を構え、マシュが立香を起こしていると、そこに1騎のサーヴァントが現れた。それは露出度の高い修道服と、籠手が目を引く聖女。バーサーク・ライダー。

 

「こんばんは、皆様。寂しい夜ね」

 

「あ、どうも。こんばんは。どちら様でしょうか?」

 

「ご丁寧にどうも。私は聖女たらんと己を戒めていたのに、今では壊れた聖女の使いっ走りとなった者よ」

 

「あれ? 狂化されているのに喋れる……ランクの問題かな?」

 

「貴方がマスターかしら? 中々鋭いわね。私達は彼女のせいで理性が消し飛び、凶暴化しているのよ。今も衝動を抑えるのに必死で困っているの」

 

 ラ・シャリテでも顔を見せていたが、戦う事は無かったバーサーク・ライダー。彼女は狂化の影響を受けつつも、強靭な精神力で衝動を抑え込んでいる。

 しかもジャンヌ・オルタの命令に背いている。と言うのも、立香達一行がジャンヌ・オルタを倒せるかどうかを試そうとしているからだ。

 

「だから私は貴方達の味方にはなれない。警戒していないと、後ろから攻撃してくるようなサーヴァントを味方にはしたくないでしょう?」

 

「仲間に慣れると思ったのに……でもどうしてここに?」

 

「貴方達を監視する事が私の役割だったけど、最後に残った理性が貴方達を試すべきだと囁いている。貴方達の前に立ちはだかるのは“竜の魔女”。究極の竜種を従えた、災厄の結晶。私を乗り越えられなければ、彼女を倒す事は出来ない。私を倒してみなさい。私はマルタ。さぁ出番よ大鉄甲竜タラスク!」

 

 バーサーク・ライダーの真名はマルタ。悪竜タラスクを鎮めた、一世紀の聖女。竜種に騎乗したという逸話持ちのドラゴンライダー。

 彼女が召喚したのは大鉄甲竜タラスク。ローヌ川近辺の森に住んでいた半獣半魚の竜であり、“旧約聖書”に記されるリヴァイアサンの仔。角を生やした巨大な頭、鋭いトゲを持つ亀の甲羅、六本の脚、蠍のような長い尾といった特徴を持っている。

 タラスクが高速回転しながら襲い掛かって来るのに合わせ、オメガモンが駆け出した。タラスクと同じ大きさに巨大化すると、左手の籠手から出現させたグレイソードを横薙ぎに一閃し、竜を弾き返して戦闘に突入する。

 

「タラスクは私に任せろ!」

 

「分かった! 頼んだぞオメガモン! あの聖女さんは……」

 

「私が行きます!」

 

「ジャンヌさん……頼みます!」

 

 ジャンヌはマルタと正対し、そのまま戦闘に突入する。生まれた時代は違えど、同じ聖女。これは正しく聖女対決。

 他の面々は周囲を警戒しながら2つの戦いを観戦する。立香はオメガモンを信頼している為、聖騎士の勝利を確信している。なのでオメガモンに全てを任せてジャンヌの方に専念し、もう一方の戦いを観る。

 

ーーーーーーーーー

 

「ハアアァァァァァーーーーー!!!!!」

 

 裂帛の気合を上げながら、オメガモンはグレイソードを連続で振るう。鋭いトゲを持ち、鉄壁の城塞の如き硬さを持つ甲羅に力強い斬撃が直撃する度に、タラスクの表情が苦痛と衝撃によって歪んでいく。

 生前マルタにステゴロで説伏されたことから常に悲しそうで、困ったような顔をしているタラスク。そんな顔をしていようが、いまいがオメガモンには関係ない。

 ここでタラスクを倒し、マルタを超えなければ、ジャンヌ・オルタを倒して第1特異点を修復する事が出来ない。そう思っているからだ。

 

「グオオオォォォォッ!!!!!」

 

 しかし、タラスクだって負けていない。生前はローヌ川に潜み、船を沈めては人々を喰らい、討伐に訪れた戦士達の刃や矢を固い甲羅で悉く弾き、火を吐いて彼らを焼き尽くした逸話持ちの竜だ。このような場面はこれまで経験してきた。

 近接戦闘が得意な相手には距離を取って挑めば良い。そう考えたタラスクは身体を回転させ、オメガモンとの間合いを空ける為に蠍のような長い尾を振るう。

 

「そう来たか……だが甘いぞ!」

 

「ガアアアァァァッ!!!!!」

 

 オメガモンは跳躍する事でタラスクの攻撃を躱し、そのままタラスクを飛び越え、体を反転させながらガルルキャノンを展開した。

 周囲一帯の大気中に存在するエネルギーを砲身の内部に集束させ、砲弾の形に凝縮させてガルルキャノンから撃ち出す。その数は3発。怒涛の三連射。

 聖騎士の連射砲撃を喰らったタラスク。苦痛に満ちた叫び声を上げながら、爆発で発生した黒煙と爆炎の中に姿を消していく。

 着地したオメガモンが油断なく構えを取っていると、黒煙と爆炎を切り裂いて灼熱の火炎が放たれた。タラスクの口から放たれた攻撃。

 

「効かないな!」

 

 オメガモンはグレイソードを横薙ぎに構えて一閃し、灼熱の火炎を青白い剣圧でかき消すが、その間にタラスクが次の一手を仕掛けて来た。

 突如として凄まじい速度で回転を始め、目にも止まらぬ勢いでオメガモンに襲い掛かって来た。一番最初に繰り出した攻撃。大鉄甲竜・灼熱大回転撃。何処かの二足歩行の亀の姿をした地球の守護神に似たような攻撃方法。

 

「ハアアアアァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!」

 

 雄叫びを上げながら左肩を突き出し、装備されているブレイブシールドΩでタラスクの攻撃を防ぎつつ、押し返そうとするオメガモン。

 左肩に凄まじい質量と勢いを感じるが、左肩に装備している聖盾の守りは揺らがない。流石は最強硬度を誇る聖盾だ。

 両足でしっかりと地面を踏み締め、体重をしっかり乗せると共に前方移動を行い、突進を開始してタラスクを弾き飛ばした。

 地面に叩き付けられ、倒れ込んだタラスク。そろそろ戦いを終えようと思い、オメガモンはガルルキャノンの照準をタラスクに合わせ、砲身の内部に蒼い煌きを放つ光を集束し、砲弾の形に凝縮させて撃ち込む。

 

「勝負あったな……」

 

 ガルルキャノンから撃ち込まれた青い光の波動弾。その直撃を喰らい、大爆発の中に消えていったタラスク。目の前にいた相手の『波動(コード)』が消失した事を確認し、戦闘終了を確認した。

 両手の武器を戻したオメガモンはカチャ、カチャという金属音を鳴らしながら、仲間の所へと戻っていった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「そこよ!」

 

「クッ!」

 

 オメガモンとタラスクが激戦を繰り広げているのと同じ頃、ジャンヌとマルタは戦いを開始していた。最初に仕掛けて来たのはマルタからだった。槍のように長い十字架の杖を掲げて祈ることにより、十字架を輝かせて爆発させる。

 何が起きるのか考えるよりも先に、ジャンヌはその場から飛び退いてマルタの攻撃を躱した。彼女の保有スキルの1つ、Aランクの啓示。“天からの声”を聞き、それに従いながら行動する。ジャンヌはマルタとの間合いを詰めていく。

 それをさせまいとマルタは十字架を掲げて攻撃を続けていると、突如としてジャンヌは旗を丸めて槍の形にして地面に突き刺した。

 棒高跳びの要領で跳び上がり、上半身を捻りながら自然落下の勢いを上乗せし、ジャンヌは旗をマルタに向けて振り下ろす。

 

「そこですっ!」

 

「やるじゃない……でもね! 甘いわよ!」

 

「……ッ!?」

 

『何!?』

 

 ジャンヌの攻撃を十字架で受け止めたマルタだったが、何を思ったのか、突然十字架を手放し、その場から飛び退いた。

 立香達が驚く中、上半身を振り被って強烈な右拳をジャンヌに叩き込んだ。腹部に鋭く、重い一撃を受けたジャンヌの動きが止まる中、見逃さないと言わんばかりにマルタの怒涛のラッシュが繰り出される。

 マルタは聖女として落ち着く前は道具を持たず、主の加護を宿した拳で竜を説伏する武闘家だった。それを思い出したマシュが立香に教えると、立香は冷や汗を浮かべながらジャンヌを見る。彼女が立ち上がり、最後に勝つと信じて。

 

「負けるな、ジャンヌ殿! 戦う気力がある限り、まだ負けたとは言わない!」

 

「オメガモン……」

 

「タラスクが……!?」

 

 マルタの怒涛のラッシュを受け、崩れ落ちながらも旗を支えに立ち上がろうとしているジャンヌ。彼女に聖騎士からのエールが届いた。

 それはタラスクとの激闘を終えたオメガモン。戦う気力がある限りはまだ戦える。まだ彼女が掲げた旗は折れていない。勝負はまだまだこれからだ。

 得意のインファイトに持ち込もうとするマルタに対し、ジャンヌも駆け出す。右腕が襲い掛かる中、両手に握る旗を突き出した。交差する右拳と旗。その時間は一瞬。決着は刹那の間に付いた。

 

「ここまでのようね……」

 

「マルタ……」

 

「手を抜いていないわ、馬鹿。これで良かったのよ。全く、聖女に虐殺させるんじゃないってぇの」

 

 勝者はジャンヌで、敗者はマルタ。突き出された旗の先端が胸部に突き刺さり、霊核を破壊していた。右拳はジャンヌの顔の目の前で止まった。

 仲間が勝った事に安心する立香達だが、同時に狂化しても精神を維持しながら、自分達を試そうとしてきたマルタに感謝の気持ちを抱く。

 

「最後に一つだけ教えてあげる。“竜の魔女”が操る竜に、貴方達は勝てない。そこの聖騎士は例外だけど。あの竜を倒す答えを見つけたければ、リヨンに行きなさい。かつて都市だった所よ」

 

「かつて都市だった所?……まさか!」

 

「えぇ、貴方の考えていた通りよ。昔から竜を倒すのは聖騎士でもなければ、聖女でもない。 竜を倒すのは“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”だから」

 

 マルタが伝えたかった事。それはジャンヌ・オルタこと“竜の魔女”が使役する竜に勝つには、“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”の存在が必要不可欠という事だった。

 伝言を残した彼女は微笑みを浮かべながら消滅していった。タラスクに内心謝罪すると共に、次は真っ当な召喚をされたいと願いながら。

 

「聖女マルタも逆らえないとは……召喚された事に加え、狂化されては仕方なかったのかもしれません」

 

「本来なら会話が出来ない筈だが、彼女は自らの意志で話し掛けた。我々の目的地は決まったな。リヨンに行き、“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”に関するヒントを探す。マスター、行けるか?」

 

「エミヤさん。行けるかじゃないよ。一緒に来やがれって奴だ。オメガモン、皆でリヨンに行こう。善は急げだ!」

 

「了解した、立香君! マルタ殿の為にも!」

 

 立香達一行のやる事は決まった。リヨンに向かい、マルタが伝えた“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”を探す事。それが今の彼らの目標だ。

 オメガモンは直ぐに巨大化して全員を乗せると、その場から飛び立ち、ジャンヌ達フランス組の案内を受けてリヨンに向かっていった。

 

 

 




LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。

・主人公なのに……

オメガモンの見せ場は意外と少なめです。
でもボス戦になると大幅に増えます。仕方ないですよね……

・マリーさん好きに

シナリオ読んでいて、マリーさん大好きになりました。
外見は可愛いけど、中身が美しい。流石は王妃。

以上になります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、作品の質を向上させるようなアドバイスや、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。それが執筆意欲に繋がります。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

竜殺しを探しに動き出したオメガモン達。
色々な英霊と出会う中、物凄く違和感しかない英霊と出会う事に!?
一体何トリアなんだ!?

第7話 謎のセイバーX



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第8話 謎のセイバーX!?

か~な~り久し振りの投稿です。
今回は第7節から第8節までになりますが、本来は登場しない”あのサーヴァント”が登場します。さて一体何トリアなんだ!? 



 次の日。リヨンの情報を集めようとオメガモンは一度地面に降り立ち、マリーとエミヤが街の人々に聞き込みを行った結果、様々な事が分かった。

 目的地たるリヨンは少し前に滅ぼされた。自分達が今いる街は、リヨンから逃げて来た難民が住み着いている。今のリヨンには地獄から来たような化け物がいるとの事。

 それまでリヨンでは大剣を持った騎士がワイバーンや骸骨兵を蹴散らしていたが、複数のサーヴァントとの戦闘の末に行方不明になった。

 そのリヨンに到着したオメガモン達が目にしたのは、かつて美しい街だったリヨンと徘徊するリビングデッド。生きる屍。

 街の住民の変わり果てた姿に心を痛めつつ、このような外道な行いをした“竜の魔女”への怒りを燃やしながら、オメガモン、アルトリア、エミヤの3人はリビングデッド達を斬り伏せていった。

 

「これで終わったかな?」

 

「否、それはまだだ。私はファントム・オブ・ジ・オペラ。“竜の魔女”の命により、この街を私の絶対的な支配下に置きに来た」

 

 リビングデッドの掃討を終えたのを確認した立香が一息付くと、彼の目の前に1騎のサーヴァントが現れた。呪わしい異形の顔を、髑髏仮面で隠した怪人。

 明らかに敵としか思えないサーヴァント。オメガモン達が立香達を守るように前に進み出たのに合わせ、ファントム・オブ・ジ・オペラが名乗りを上げる。

 ファントム・オブ・ジ・オペラ。19世紀を舞台とした小説『オペラ座の怪人』に登場した怪人。或いはそのモデルとなった人物。

 

「そうはさせるか! アルトリアさん、エミヤさん! 頼みます!」

 

「死力を尽くしてくるがいい!」

 

「期待に答えるとしよう」

 

「歌え……歌え我が天使。『地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)』!!!」

 

「目には目を。歯には歯を。音楽には音楽だ! 聴くがいい! 魔の響きを! 『死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』!!!」

 

 立香の言葉に応じて、アルトリアは不可視の聖剣を、エミヤは両手に握る干将・莫邪を構える一方、ファントムは宝具を発動させる。

 ファントムの隣に出現したパイプオルガンに似たような形をした巨大演奏装置。それは彼が殺した人々の死骸を組み合わせて作り上げた物。異形の発声器官から放たれる自分の歌声と併せて演奏し、立香達に不可視の魔力攻撃を放射する。

 ファントムの宝具に対抗するのはモーツァルト。彼が指揮棒を振りながら演奏するのはもちろん宝具。死の直前、死神に葬送曲の作成を依頼されたという伝説に由来される魔曲。

 魔曲が不可視の魔力攻撃の威力と勢いを抑え込む中、オメガモンはメタルガルルモンの頭部を象った右手の手甲からガルルキャノンを展開し、照準をファントムに合わせながらエネルギーの集束を始める。

 

「これで終わりだ!」

 

「二度……二度、と……」

 

 撃ち出された青いエネルギー弾が直撃し、内包されていた生命エネルギーが炸裂。青いエネルギーに呑み込まれながら、ファントムは光の粒子に変わりながら消滅していった。

 戦闘が終わって一息つき、オメガモンがガルルキャノンを戻したのと同時に、立香が着ている制服の内ポケットから電子音が鳴り響く。その電子音は通信装置の物だ。

 

『やっと繋がった! サーヴァントを上回る超巨大の生命反応を探知した! これは……竜種だ!』

 

『皆逃げて! 凄い速度で迫って来てるから! しかもサーヴァントが3騎いるわ!』

 

 立香が通信に出ると、ロマニとオルガマリーが立香達に逃げるように告げる。サーヴァントを上回る超巨大の生命反応と、3騎のサーヴァントが迫って来ているからだ。

 どうすれば良いのか。逃げろと言われても時間がない。何処に逃げれば良いのか分からない。何処にも逃げ場はない。

 しかも相手は竜種。ドラゴンこと西洋の竜であり、竜を模した魔獣。幻想種と同様に“魔獣”、“幻獣”、“神獣”の全ランクに存在し、その中で最優良種と謳われる幻想種の頂点。

 

「私が竜の相手を務める。その間に皆は“竜殺し《ドラゴンスレイヤー》”を探すんだ。この街にあるお城から微かではあるものの、サーヴァントの反応を感じる。そこに“竜殺し《ドラゴンスレイヤー》”がいるはずだ」

 

『ッ!?』

 

 オメガモンの提案に誰もが驚愕し、目を丸くした。無茶としか言いようがない。相手は竜種だ。幾ら聖騎士が規格外だとしても、単体で挑むのは自殺行為だからだ。

 しかし、オメガモンは倒すとは言っていない。時間稼ぎをすると言っている。本人は倒せる上に倒す気でいるが、流石に空気を読んで足止めに徹するつもりなのだろう。

 既に覚悟は決まっている。竜殺しは自分の仕事ではない。竜殺しはそのサーヴァントの仕事。だが足止めくらいなら許される。デジモンたる自分なら。オメガモンとなった自分なら出来る。やれる。大丈夫。その自信があった。

 

「頼む。そこに行ってサーヴァントを探して欲しい。ここは私に任せろ。皆は皆にしか出来ない仕事を果たせ」

 

「分かった……オメガモン、俺は君を信じる!」

 

「先輩!?」

 

「ここはオメガモンに任せよう。誰が何を言おうと、俺はオメガモンを信じる! オメガモンが時間を稼いでいる間に、俺達で“竜殺し《ドラゴンスレイヤー》”を探すんだ! それがマルタさんの、オメガモンの思いだ!」

 

「私も同意見だ。オメガモンなら必ずやってくれると信じている!」

 

「頼みましたよ、オメガモン!」

 

 オメガモンが言った場所に向けて走り出す立香達。彼らを見送り、オメガモンは敵が来るであろう方向に視線を向ける。

 何があっても皆を死なせない。理不尽な死は許さない。自分は2度死んだ。ディアボロモンに殺され、オメガモンとして復活した後は人間としての死を迎えた。

だから誰にも死んで欲しくない。皆が生きて共に笑い合うその日まで、自分は世界の守護神で在り続ける。そして運命と戦う。戦えない全ての人々の為に。

 

「誰がいるのかと思えば、この前の聖騎士1人だけですか」

 

「1人? 違うな。私は1体だ。だが1体に在らず。1体と1人だ!」

 

「何を言うかと思えば訳の分からない事を……滅びなさい!」

 

「滅ぶのはお前の方だ! 邪竜もろとも滅ぼしてやろう!」

 

 オメガモンの言った1体と1人。1体は自分であり、1人は八神一真の事だ。彼はオメガモンと一体化する事で命を救われたが、戦いの中でオメガモンの能力を限界まで引き出した代償に、人間として完全に死んでしまった。肉体だけでなく、精神までも。

 転生したオメガモンは人間の姿になる事が出来る。その姿は八神一真を模しているが、かつての自分を忘れてはいない。その聖騎士と邪竜の戦いが始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「焼き尽くせ、ファブニール!」

 

「ウオオオオォォォォォォーーー!!!!!」

 

 竜種―ファブニールの口に灼熱の火炎が見えた。膨大な熱量が周囲一帯を覆い尽くすと共に、ジャンヌ・オルタの命令と共に放たれる。全てを焼き尽くす。竜のブレス。

 それに対し、オメガモンはファブニールと同じ大きさに巨大化した。そしてウォーグレイモンの頭部を象った左手の手甲からグレイソードを出現し、横薙ぎに構えると共に一閃する。聖なる剣閃によって、ファブニールのブレスは瞬く間に四散された。

 

「嘘……でしょう……ファブニールの炎を……腕の一振りでかき消した!?」

 

「私の番……と言いたいがどうやら間に合ったようだな。真打ちの登場だ」

 

「久しぶりだな、ファヴニール。二度蘇ったのなら、二度滅ぼすまでだ!」

 

「ファブニールが怯えている!? あのサーヴァント、まさか……!」

 

「蒼天の空に聞け! 我が真名はジークフリート! お前をかつて打ち倒した者だ!」

 

 オメガモンの隣に並び立ったのは1騎のサーヴァント。灰色長髪の端整な顔立ちで、胸元と背中が大きく開いた鎧に身を包んだ長身の青年。

 ファブニールがそのサーヴァントを見て怯えるのも無理もない。彼の真名はジークフリート。“ニーベルンゲンの歌”に謳われる英雄。ネーデルランドの王子であり、邪竜ファヴニールを打ち倒した伝説持ち。

 ジークフリートは凄まじい魔力が発せられる大剣を大上段に掲げ、ファブニールに向けて振り下ろす。宝具が開帳され、伝説がここに再現されようとしている。

 

「行くぞ! 『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』!!!」

 

「クッ……ファブニール、躱しなさい!」

 

(凄い……!)

 

 ジークフリートが振り下ろしたバルムンク。その大剣から放たれたのは半円状に拡散する黄昏の剣気。目にしたオメガモンですら驚く威力を内包しているが、ファブニールはそれを上空に跳び上がる事で躱した。

 そのまま飛び去っていくファブニール。何とか退ける事に成功した事を確認すると、ジークフリートはその場に崩れ落ちた。

 

「……! 済まない。これが限界だ。奴が戻って来ない間に逃げてくれ」

 

「今の内に撤退しましょう、皆さん!」

 

 ジャンヌの言葉に全員が頷くと、オメガモンは巨大化してジークフリートを含めた全員を乗せ、その場から飛び立った。

 同じ頃、ジャンヌ・オルタはファブニールに乗ってオルレアンに戻っている。その内心では考え事をしている。これからの戦略の事を。

 先の事を考えると、ファブニールを酷使する訳には行かない。天敵となるジークフリートと、それ以上の力を持つオメガモンがいるのだから。しかし、ジャンヌ・オルタは不敵な笑みを浮かべている。自分にはファブニールを超える切り札、皇帝竜がいる。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ファブニールのような巨大な反応ではないが、サーヴァントの反応を2騎確認!」

 

 追って来るワイバーンやゾンビの軍勢をガルルキャノンから撃ち出す砲撃で、悉く粉砕していくオメガモン。彼がサーヴァントの反応を察知すると、前方に2騎のサーヴァントが現れた。バーサーカーとアサシン。

 バーサーカーは黒甲冑を身にまとった騎士。アサシンは黒の外套を纏った青年。立香達はオメガモンから降りると、2騎のサーヴァントと戦う為に身構える。

 

「Aurrrrrrrr!!!!」

 

(何だこのサーヴァント……気配が読めない!)

 

「野郎……!」

 

「まぁ、何て奇遇なんでしょう。貴方の顔は忘れた事はないわ、気怠い職人さん?」

 

 オメガモンが何度も目を凝らしてみても、バーサーカーの漆黒の甲冑は常にぼやけ、時には霞み、二重三重にぶれて見える。幻覚なのだろうか。視覚だけでなく、能力にまで影響を及ぼしている。バーサーカーは自らの素性を悟らせない何かを持っている。恐らくは彼の固有スキルだろう。

 一方、アサシンと相対したモーツァルトは表情に苛立ちを浮かべ、マリーは笑顔を浮かべる。どうやら顔見知りのようだ。

 

「それは嬉しいな。僕も忘れた事など無かったからね。懐かしいお方。白雪の如き白いうなじの君。そして同時に、またこうなった事に運命を感じている。やはり僕と貴女は、特別な運命で結ばれている、と。そうだろう? 処刑人として一人の人間を二度も殺すなんて、絶対に有り得ないと思うんだ。」

 

「生前のみならず、今回もマリアを処刑するつもりか……シャルル=アンリ・サンソン。どうやら本気でいかれてたって事か」

 

 モーツァルトが見抜いたバーサーク・アサシンの真名。それはシャルル=アンリ・サンソン。パリにおいて死刑執行を務めたサンソン家四代目の当主。彼は四代目にあたる。

 暮らし向きは貴族並みに優雅で極めて豊かだったが、その職業故に蔑まれることも多々あり、若きシャルルは苦悩していたという。

 国王と王妃を敬愛し、彼らが治める国民をこよなく慈しんでいた。処刑することによって培った最先端の医療技術を、貧しい人々に無償で提供することも行ったという。その為、彼の副業は医者だった。

 フランス革命が起きた時も処刑者としての仕事を押しつけられた彼は、やがて最愛のフランス国王ルイ十六世と、その妃マリー・アントワネットの処刑に立ち会うこととなる。だからマリーの事を知っている。処刑に立ち会ったのだから。

 

「人間として最低品位の男に、男女の関係を語られるのは不愉快だね。アマデウス。君は人間と言う生き物を汚物だと言った。僕は違う。人間は聖なる物で、尊い物だと考えている。だからこそ、処刑人は命に敬意を払う。僕とお前は相容れない」

 

「クッ……!」

 

「セイバー!」

 

「ありがとうございます、シロウ」

 

 サンソンとモーツァルトが睨み合う中、バーサーカーとアルトリアは斬り合いを行っている。バーサーカーは手にしている木の枝で何度も斬り掛かり、アルトリアを防戦一方に追いやっている。

 そこにエミヤの援護が入る。手にした双剣で木の枝を受け止め、返す刀で斬り掛かると、バーサーカーはバックステップで後退する。

 今はオメガモンがワイバーンの軍勢を掃討し、ジャンヌがフランス軍を援護し、マリーとモーツァルトがサンソンと、アルトリアとエミヤがバーサーカーと戦っている。

 

「守っている相手に散々な言われようですね、聖女様。彼らが呑気に見物出来ているのは、ワイバーン達を貴女と聖騎士が引き付けているのに」

 

「貴女は……!」

 

 そこに現れたのは茨を思わせるドレスを纏い、仮面をつけた淑女。バーサーク・アサシンのカーミラ。ジャンヌを嘲笑いに来たようだ。

 敵サーヴァントの襲来に表情を険しくさせるジャンヌだったが、この時から戦いの様子が変わった。オメガモンが単独で相手をしたワイバーンの軍勢を、フランス軍も掃討し始めた。要はオメガモンの援護を始めた事となる。

 

「Aurrrrrthrrrrr!!」

 

「その様子だと私を知っているみたいですね……拾った物や武器で敵を退け、変装が上手な騎士は貴方しかいません。ランスロット卿、貴方はまたバーサーカーで召喚されましたか」

 

「ランスロット卿!? 彼がバーサーカーで!? しかもまたって……!?」

 

 アルトリアの言葉に答えるように、バーサーカーの黒い靄状の魔力が消え失せ、漆黒の甲冑の細部をアルトリアに見せていく。

 そして鞘込めのまま持っている黒い剣の柄に手をかけ、ゆっくりと引き抜く。それがバーサーカー、もといランスロットの宝具。『無毀なる湖光(アロンダイト)』。絶対に刃が毀れることのない名剣。

 立香が驚愕するのも無理はない。本来であれば、ランスロット卿はセイバーやライダーといったクラスで召喚されるべきだ。しかし、ギネヴィアを巡る葛藤で狂気に陥った事が多々あるので、バーサーカーのクラス適正は妥当としか言えない。

 ランスロット。円卓の騎士の中でも最強と謳われた“湖の騎士”。しかし、王妃ギネヴィアとの不倫の恋がキャメロットを破滅にまで導いてしまった。まさしくアーサー王伝説の負の象徴たる人物。“裏切りの騎士”という烙印を押された。

 

「アルトリアさん……かつての仲間と戦いにくいなら遠慮しないで下さい」

 

「セイバー。マスターの言う通りだが、君は昔の私と出会って大切な事を教えられたのだろう? 迷う事はない。俺が援護する」

 

「シロウ……分かりました。私は自分の思いを正直に伝えようと思います」

 

 かつて、アルトリアは別の時間軸でバーサーカーとなったランスロット卿と戦った事がある。『第四次聖杯戦争』の時の話だ。

 当時は色々な事があって答えを見出せず、ランスロット卿を倒す事しか出来なかった。しかし、『第五次聖杯戦争』で衛宮士郎と出会い、答えを見つけて今に至る。大切な人と出会えたから今の自分がいる。

 

「ランスロット卿、私は貴方を許します。かつての私は優しすぎた。過ちを犯した家臣を罰することが出来なかった……本当に裁きを受けるのは私でしたから。でも私は貴方を罰します。それは貴方が同じ理想を抱き、それを叶えられなかった事に対する弱さではない。バーサーカーとなって現実から目を背け、狂い続ける事しか出来ない貴方を罰します」

 

「アルトリアさん……」

 

「私のせいでこれ以上誰かを苦しませたくありません。ランスロット卿、本気で来なさい。円卓最強と謳われたその力……見せてもらおう!」

 

 アーサー王とランスロット卿の剣戟が始まった。先制したのはランスロット卿。アルトリアとの間合いを詰め、下段に構えたアロンダイトを勢いよく振り上げる。

 それを大上段から振り下ろしたエクスカリバーで受け止めると、地面が粉砕され、轟音が巻き起こり、衝撃波が拡散されていく。

 横薙ぎに振るわれたアロンダイト。それを左下から振り上げるエクスカリバーで弾き、返す刀で斬り掛かるが、ランスロットはそれをアロンダイトで弾き返す。

 

(あぁ、そういう事だったのですか。戦う事でしか語り合えない事もある……そういう事もあるのですね)

 

 アルトリアはそう思いながら大上段からエクスカリバーを振り下ろすと共に、魔力放出を上乗せしてアロンダイトを弾き飛ばし、返す刀で黄金の聖剣を一閃する。

 その斬撃がランスロットの漆黒の甲冑を斬り裂き、致命傷となった。光の粒子に変わりながら消滅を始めるランスロット。彼はアルトリアに向けて手を伸ばす。

 

「王よ、私は……」

 

「ランスロット、私は貴方を許します」

 

 アルトリアは微笑みながらランスロットに言葉を送ると、ランスロットは一筋の涙を流して静かに消滅していった。

 味方のサーヴァントが1騎消滅した。その事実に歯噛みしながら、カーミラはサンソンと共に生き残っているワイバーンに乗って撤退していった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 放棄された砦に到着し、一休みする事となったオメガモン達。ジークフリートの傷は思っていたよりも深刻で、傷と言うより呪いに近いレベルだった。

 ジークフリートの話によると、彼は比較的早い段階で召喚されていた。マスターもいなくて放浪していた時、リヨンが襲われているのを見て、助けに行った。しかし、複数のサーヴァント相手はきつかった。

 その中の1騎―マルタがお城に匿ってくれた。傷は治らず、誰かに助けを求める事も出来なかった。その傷は相当高位の洗礼詠唱でないと、解呪出来そうになかった。ジャンヌ単独では解呪出来ない程だ。

 

「ジークフリートには複数の呪いが掛けられています。複数の呪いを一気に解呪するには、聖人が後1人必要です」

 

「聖人がもう1人必要か……でも聖人がそう簡単に召喚されているのかな?」

 

「可能性はあるな……確かジャンヌ・オルタが聖杯を持っているのならば、抑止力として聖人が召喚されている可能性はある。探してみても良いと思うのだが……」

 

「ならば探すしかないか……」

 

 砦での一休みを終えると、オメガモンは再び飛行を始める。もう1人の聖人がいないと、ジークフリートにかけられた呪いを解呪する事が出来ない。

 オメガモンが聖人がいるであろう場所を探知しながら飛行していると、難しい顔をしているジャンヌが話し掛けて来た。

 

「オメガモン。私は生まれてから神の啓示を受けて走り出し、後ろを振り返る事なく進んできました。死して英霊となり、ルーラーとして召喚されました。その事は当然のように受け止めていますが、“竜の魔女”と言う言葉には何一つ身に覚えがありません。彼女は一体何者ですか?」

 

「……私にも分からない。私は未来を視る事は出来るが、それは戦闘限定。しかも能力を発動しないと視る事が出来ない。だが考えられるとしたら、何者かが聖杯を使って造った偽物。君が亡くなってまだそんなに経っておらず、百年戦争も終結していない今、君の死を受け入れたくない何者かによって造られたとしたら……?」

 

「成る程。でもその人物は一体?」

 

「それが分からないのだよ……」

 

 オメガモンとジャンヌが話をしているのと同じ頃、彼らはティーエルと言う街に到着しようとしている。刃物の街の様子を見るに、まだ崩壊している訳ではない。

 この街に2騎のサーヴァントがいる事を聞いて接触を図ろうとしたが、突如として街から炎が上がった。嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。それでも行ってみよう。そう思った立香達はティエールの中心部に入った。

 

「……何これ?」

 

「出来れば無視したいのだが、そうはいかないか……」

 

「このっ! この、この、このっ! ナマイキなのよ! 極東のド田舎リスが!」

 

「うふふふふ。生意気なのはさて、どちらでしょう。出来損ないが真の竜であるこの私に勝てるとお思いで? エリザベートさん?」

 

 オメガモン達が目にしたのは2騎のサーヴァントの戦闘。頭部には角が2本、お尻には先が割れた竜の尾のような物があるフリフリの衣装に身を包んだ美少女。緑髪の幼い白拍子風の格好に竜の角が生えた少女。

 初めて見るサーヴァントで、2騎共に美少女。一体何があったのか。少しの間見守る事にしたが、その内容は思っていたより低レベルだった。

 

「うーーっ!ムカつくったらありゃしないわ!カーミラの前にまずはアンタを血祭りにしてあげる!この泥沼ストーカー!」

 

「ストーカーではありません。“隠密的にすら見える献身的な後方警備”です。この清姫、愛に生きる女です故」

 

「アンタの愛は人権侵害なのよ!」

 

「血液拷問フェチのド変態に言われたくありませんね!」

 

「良い加減にしろ!!」

 

 エリザベートと清姫。2騎のサーヴァントによる苛烈な戦闘と言い争いを止めたのは、意外にも立香の大声だった。

 突如として聞こえて来た大声にエリザベートと清姫が手を止めて立香の方を見ると、立香は全身からオーラのような物を出しながら2騎に歩み寄る。

 

「シロウ……マスターからオメガモンのようなオーラが視えます!」

 

「何時の間に出来るようになったんだ?」

 

「私に影響されたみたいだな……良い事だ」

 

「済まない。俺には良い事のようには思えないのだが」

 

「2人共、そこに正座!」

 

 立香の全身から放たれているのはオメガモンを模したオーラ。強大なパートナーデジモンと一緒に居たからか、或いは元々の才能なのか。それは分からないが、オメガモン張りの貫禄と威厳を以て、立香はエリザベートと清姫に向けて声を張り上げる。

 目の前にいるのは一般人。普通ならば瞬殺出来る筈の相手が物凄く怖く見える。2騎のサーヴァントは言葉に従い、おとなしく正座をする。

 

「さっきから聞いていればうるさいなもう……君達はサーヴァントなんだろう? 子供みたいな低レベルな喧嘩して恥ずかしくないのか? それに街中で喧嘩をするな! 町の人々に迷惑をかけるな!」

 

『すみませんでした……』

 

「分かればよろしい。話は変わるけど、一つ聞きたい事がある。俺達は事情があって聖人を探しているんだけど、何か知っている事はない?」

 

「聖人? この国に広く根付いた教えの聖人ならば、一人心当たりがあります。ゲオルギウスと言いますが、こちらでは有名な聖人だと聞いています。残念ですが、西側に向かいました。エリザベートに出会う前に会った事があります」

 

「情報ありがとう。西側か……思っていたより遠くはないな。実は俺達は“竜の魔女”を成敗しようと味方を集めてオルレアンに向かっている。味方は少しでも多い方が良いと思うけど、もし味方に加わってくれれば今回の件は帳消しにする。どうする?」

 

 ゲオルギウス。聖ゲオルギウス。聖ジョージとして名高き聖人。聖剣アスカロンを持ち、ドラゴンを退治した逸話が有名。そのゲオルギウスがいれば、ジークフリートにかけられた複数の呪いは解呪される事間違いなしだ。

 立香はエリザベートと清姫に提案をして彼女達を仲間に加えてオメガモンに乗り、ゲオルギウスがいるであろう西側にある街に向かった。そこでゲオルギウスに会って話をした所、快く了承してくれた。

 彼らがいる街はジャンヌ・オルタとファブニールに一度襲撃されたが、ゲオルギウスのおかげで何とか凌ぐ事が出来た。街の人間はたった今避難完了した所だ。タイミングはちょうど良かった。

 

「ッ……! まずい! ジャンヌ・オルタとファブニールが近付いている! 街の外側で迎え撃つ!」

 

 オメガモンがジャンヌ・オルタとファブニールが近付いている事を告げると、ゲオルギウスとジャンヌにジークフリートの呪いの解呪を任せ、残りの面々と共に街の外側にある広大な草原に向かった。

 これで街への被害を気にする事なく、思う存分戦う事が出来る。ジャンヌ・オルタとファブニールへの迎撃準備をしていると、マリーの目の前に、サンソンが姿を現した。

 

「サンソン、やっぱり来たのね」

 

「来たとも。処刑にはする側も、される側にも資格がある。君を処刑できるのは僕だけだ。君も実感しているだろう?」

 

「え~と、ちょっと待ってね、サンソン。貴方が素晴らしい処刑人である事は知っているわ。確かに残忍で冷酷で非人間だけど、貴方は決して罪人を蔑まなかった。深い敬意を持ってギロチンの番人をしていた貴方を、私は確かに信頼しています。でも貴方が私を処刑出来る資格があるのはおかしな話じゃないかしら?」

 

「おかしくないとも。僕は処刑人の家に生まれ、処刑の事だけを教え込まれた。それは妥協や心構えの話……何より殺し方に拘った。処刑の技量だよ。良い処刑人は罪人に苦しみを与えない。それは当然だけど、僕はその先を目指した」

 

 サンソンの生前を知っているマリーは彼の変貌に戸惑っていた。バーサーク・サーヴァントとして召喚されて思考が歪められていたのを含めても、彼女にかなり過激なアプローチをしている。これは弁解できない。

 生前に最も敬愛していたマリーに対してだけ感情を爆発させてしまう事もあるが、最早これは救いようがない。

 

「快楽だよ。死ぬほど気持ち良いと思える快楽。僕はそんな斬首を心掛け、生涯最高の一振りが君に向けた斬首だった。だからこれは運命だ。どうしても君に会って尋ねたかった。僕の断頭はどうだった?」

 

「貴方が本気で私に敬意を表しているのは分かったわ、サンソン。でもごめんなさい。二度度目の口付けは受けられないわ」

 

「うん、知ってる。だから、次はもっと上手くやれる。だからこそサーヴァントとして召喚された。君にもう一度、最後の恍惚を与えよう!」

 

「止めろ!」

 

 サンソンは罪人を断ち、また救うその刃を抜き放ち、マリーに斬り掛かる。それをオメガモンが制止しようと駆け出す。

 目の前で大切な仲間が失われようとしている。自分の命より仲間を重んじるオメガモンらしい行動だったが、彼の心配は杞憂に終わった。何故ならサンソンの刃はマリーによって弾かれたからだ。

 

「そんな馬鹿な!? 僕が打ち負けた!? あの時から何人も殺し、何倍も強くなったのに!?」

 

「残念ね、サンソン。再会した時に言ってあげれば良かった。……あの時、既に貴方との関係は終わっていた。貴方の刃は錆びついていた。貴方はこの間違ったフランスで多くの人間を殺す度に、殺人者としての切れ味を増した」

 

 殺人者と処刑人は違う。かつて処刑人だったサンソンは今では殺人者となった。人を殺す事が上手くなればなる程、処刑人から遠のいていく。殺人者に近付いていく。

 バーサーク・アサシンとして召喚された時点で、サンソンは変わってしまった。かつての面影を失っていた程に。

 

「違う! 嘘だ! そんな事はない! 君が来ると信じて、腕を磨き続けた! もう1度君に会って、もっと上手く首を刎ねて、最高の瞬間を与えられたら……僕は君に許してもらえたと思っていたのに!」

 

「もう、本当に憐れで可愛い人なんだから。私は貴方を許していない。だって、私に許される必要は何処にもないのだから」

 

 その言葉を聞いたサンソンは突然消滅した。命を失ったのではない。戦意を失った。オメガモンが何処か切なそうな様子でマリーを見ていると、彼らの目の前にファブニールが降り立った。

 マリーを庇う様に前に立つオメガモン。ファブニールから降り、地面に着地したジャンヌ・オルタ。彼らは睨み合う。

 

「これで3人目。見込んだ者から脱落するのは、皮肉ですね」

 

「あぁ。戦場ではまともな奴から死んでいくのがルールだ。最後まで残っているのはお前が一番嫌っている吸血鬼の2騎かもしれないぞ?」

 

「ごきげんよう、“竜の魔女”さん。随分と遅いご到着なのね?」

 

「サーヴァントを数騎仲間に入れた程度で、私に勝てると? 私にはファブニールを超える切り札があるのよ?」

 

 オメガモンはジャンヌ・オルタの発言に眉を顰めた。ファブニールを超える切り札。恐らくそれは自分に対する抑止力。

 デジモンにはデジモンで対抗するのが合理的だ。ならば誰が召喚されたのか。聖騎士が考えている目の前で、ジャンヌ・オルタは話を続ける。

 

「フランスに殺された貴女が。ギロチンに掛けられ、嘲笑と共に首を刎ねられた女がフランスを守る? 理解出来ませんね」

 

「確かに私は処刑されたわ。嘲笑されたし、蔑まれたわ。でもそれがフランスを殺し返す理由にはならない。私は民に乞われて王妃となった。民なくして王妃はない。だからあれは当然の結末だった。彼らが望まないのなら、私は自分から退場する。それが国に仕える人間の運命。私の処刑は、次の笑顔に繋がったと信じている」

 

「マリー殿……!」

 

 マリー・アントワネットの思いに胸を打たれたオメガモン。歴史の教科書に書かれた王妃ではなく、フランスと言う国の為に在り続けた1人の女性。それが本当のマリー・アントワネットの姿だった。

 確かに生前には悲劇があり、悲しみはしたが、彼女は決して民を恨みはしなかった。愛する家族が死に、自分が忘れ去られたとしても、それが愛する民の笑顔に繋り、国は永遠にあり続ける。彼女の生き様はそれを伝えようとしている。

 

「(そうだ……例え私と言う人間が亡くなっても、それが人間とデジモンの笑顔に繋がり、世界の未来を明るく照らしている。マリー殿、貴女は大切な事を私に思い出させてくれた。お礼を言うよ、ありがとう)この国の未来を、これからの世界をお前が焼き尽くそうと言うのなら……このオメガモンがそれを阻止する! フランスと言う国の、マリー殿の愛する場所を守る為に!」

 

「オメガモン! ありがとう!」

 

「礼には及ばない。来い、ジャンヌ・オルタ! 邪竜もろともここで消し去ってくれる!」

 

「黙れ! 貴方達の方こそ、ここで消し去ってあげましょう!」

 

「待てえええぇぇぇぇぇぇい!!!!!!!」

 

『ッ!?』

 

 オメガモン達とジャンヌ・オルタの戦闘が始まろうとしたその時、突如として何者かの声が聞こえて来た。

 アルトリアに似ている声だが、何処か違う声。その声が何処から聞こえたのか。一体声の主は誰なのか。そう考えながら誰もが周囲を見渡していると、大きな岩の上に1騎のサーヴァントが立っている。

 黒い帽子に短パン、青いジャージの上着とマフラーが特徴的な女性。何処かで見たような顔をしているが、誰も思い出す事が出来ない。

 

「力と力のぶつかり合う狭間に、己が醜い欲望を満たさんとする者よ、その行いを恥じと知れ!人、それを……“外道”と呼ぶ!」

 

「あ、貴女は誰だ!?」

 

「貴女に名乗る名はない! 謎のヒロイン……X!!!」

 

『名乗ったァァァァァーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!』

 

 そのサーヴァントの真名は謎のヒロインX。ジャンヌ・オルタの言葉に“名乗る名前は無い”と言っておきながら名乗った。これには誰もが突っ込みを入れた。

 オメガモンやマリー、ジャンヌ達ですら素の性格を忘れる程の突っ込み。どうやら彼女は独特の雰囲気を発する事が出来るみたいだ。

 

「セイバー!」

 

「み、味方なのか……!?」

 

「クッ! こうなったら一時撤退です!」

 

 何処からともなくエクスカリバーを召喚して握り締め、ファブニールに斬り掛かる謎のヒロインX。その姿に立香は圧倒されているが、何処からどう見ても彼女は味方だ。

 ビームを纏うエクスカリバーの二刀流。素早さと手数で勝負する戦い方に、流石のファブニールも圧倒されている。これはまずいと悟ったジャンヌ・オルタが命令を下すと、ファブニールはその場から飛び立っていった。

 

「誰かは知らないけど、助けてくれてありがとう。名前は?」

 

「コードネームはヒロインX。昨今、社会的な問題となっているセイバー増加に対応する為に召喚されたサーヴァントです」

 

『セイバー増加……!?』

 

「私以外のセイバー死ね!」

 

 嫌な予感を感じたオメガモン達一行。彼らの予想は正しかった。翡翠色の瞳は新たなる獲物―アルトリアを見定め、再びビームを纏うエクスカリバーを握り締める。

 アルトリアの背筋を悪寒が突き抜ける中、謎のヒロインXはアルトリアとの間合いを詰めて斬りかかる。振り下ろされる2本のエクスカリバーを受け止めようと、不可視の聖剣を構えるが、何時まで経っても振り下ろされる事は無かった。

 

「オメガモン!?」

 

「私の仲間に斬り掛かるとは、随分と良い度胸だな……!」

 

「あれっ? コスモ時空の法則とか関係なしに殺される気配が濃厚なんですけど……」

 

「面倒な事になったな。世界が大変なんだ。味方である筈の英霊が世界の危機を前にして、どうしてこんな所で争わないといけないんだ?」

 

 振り下ろされた2本のエクスカリバー。それを受け止めたのはオメガモン。左手となっているウォーグレイモンの頭部を象った手甲を以て、謎のヒロインXが繰り出した斬撃を防御し、弾き返した。

 オメガモンから放たれる殺気に謎のヒロインXが震え上がっていると、聖騎士は溜息を付きながら謎のヒロインXに話し掛ける。その言葉に立香達が頷き、自分が悪かった事を悟った彼女は謝罪した。

 

「……済みませんでした。私情に巻き込んでしまって……お詫びと言っては何ですが、その世界を救うのに協力させて下さい」

 

「いや、分かってくれれば良いよ。でも協力してくれるのは嬉しいな、ありがとう。これからよろしくね」

 

「しかし、これでかなりの数の戦力となったな。何だかここにいる皆を見ていると、勝てない相手はいないと思えてくるよ」

 

 謎のヒロインXが仲間に加わり、改めて見るとかなりの数のサーヴァントが揃った事となる。マシュ、アルトリア、エミヤ、マリー、モーツァルト、ジャンヌ、ジークフリート、清姫、エリザベート、ゲオルギウス、謎のヒロインX。

 これにオメガモンを加えると、合計で12騎のサーヴァントが揃った事となる。オメガモンの言う通り、勝てない相手はいないと豪語出来る。

 

「あぁ、そうだねオメガモン。良し! 皆、明日オルレアンに攻め込もう。目指すはファブニールと“竜の魔女”の打倒。行きますか!」

 

 オメガモンの一言を聞き、味方の顔を1人ずつ見てから立香は宣言した。明日にオルレアンに攻め込み、一気に勝負を終わらせると。その宣言に全員が頷いた。

 その夜。野営地で夕食を取り、それぞれが思い思いの夜を過ごす中、星空を眺めているオメガモンの所にマシュが来た。

 

ーーーーーーーーーー

 

「おや、マシュさん。明日の決戦で眠れないのかな?」

 

「いえ、実はオメガモンさんに聞きたい事があって……」

 

 マシュがオメガモンに相談を始めた。その内容はモーツァルトとの会話。その中で彼が言った“人間は好きな物を自分で選べる”と言う言葉。それがマシュには分からない。

 言葉の意味は分かる。でも“選ぶ”と言う行為が分からない。好意を持つべき物は道徳的に正しく、否定するべき物は社会的に悪い物。それがマシュの考えだった。

 

「そうか。なら……君は正しいと思う?」

 

「それは……多くの命を救い、多くの命を認める事でしょうか?」

 

「それもそうだが随分と大雑把だな……ならば、もし私や立香が間違えていたとしたら?」

 

「……その間違いを正します」

 

「そうだ。それで良い。その思いを忘れないで欲しい。答えるのに少し悩んだのは迷いや不安があるからだと思う。マシュさん。貴女は自由を得たばかり。自分の好きなように生きて、好きな事が出来る。何処にだっていける。何にだってなれる。そういう貴女が羨ましい……オメガモンとなり、聖騎士の生き方しか出来ない私に比べれば、貴女は眩しく見えるよ……」

 

 オメガモンが星空を見上げる眼には、様々な感情が渦巻いている。マシュへの羨望。過ぎ去った日々の回顧。もう二度と戻れない日常と世界に馳せる思い。

 マシュはそんなオメガモンを見上げる。この聖騎士は一体どういう思いを抱えているのか。何故自分を羨ましく思うのか。

 

「選ぶ事は成功する時もあれば、失敗する時もある。その恐ろしさに足がすくみ、これから形成される自分の在り方に迷い悩む。それは当然だよ。私だって、それこそオメガモンになる前……人間だった頃もそうだったから」

 

「私はその……外の世界を知りませんでした。ましてや、デジモンと言う種族が存在するのも貴方に出会えて初めて知りました」

 

「それは良かった。でも何かを好きになる資格がないと思ってはいけない。何かを好きになるのは資格なんかではない。義務……でもないな。権利だ。そうだ。マシュさん。貴女の手には真っ白い切符が握られている。色んな電車に乗れ、色んな所に行ける権利が貴女にある。それを忘れないで欲しい」

 

 オメガモンはマシュに大切な事を教えた。例え彼女が戦う為だけに造られたとしても、何かを好きになる義務はある。自由はないかもしれないが、義務はある。

 かつての自分もそうだった。ディアボロモンに襲われ、オメガモンとなるあの日までは何処にでも行けて、何にでもなれた。しかし、あの日から自分の運命は大きく狂った。彼女にも自分と同じ思いをしないで欲しい。その思いがオメガモンの根幹にある。

 

「何を愛し、何を憎み、何を思うか、何を考えるか。それは自分自身で決める事。他人の言いなりになったり、周りに合わせる必要もない。それで良いんだ。何時の時代、何処の世界でも同じ人間はいない。多くの景色を見て、多くを学ぶ。そうやって人生と言う名前のキャンパスを描いていく。貴女が世界を作るのではない。世界が貴女を作る。その中で貴女にしか作れない世界を作れば良い」

 

 そして成長した時は自分が作った世界を乗り越えていく。自分がいたと言う証を残す為に。そうやって皆は生きている。

 オメガモンが守った世界と未来は多くの人々に希望を遺したが、一部の人々に悲しみを遺した。その一部の人々は自分の仲間や家族だ。

 

「人間は誰しも素晴らしいとは言わない。醜いし、汚らわしい人もいる。だがそうやって世界は成り立っている。この悲しくも美しい世界を一緒に守っていこう」

 

「はい!」

 

 オメガモンの言葉に笑顔を浮かべながら頷くマシュ。世界に作られた彼らは世界を広げ、その中で成長していく。多くの物を世界から受け取り、その後に返せば良い。

 それでも世の中、殆どの場合は公正な評価と相応の結末が待っている。それを受け止めなければならない。例えそれがどんな結果だったとしても。そう思ったオメガモンとマシュは、仲良く皆の所へと戻っていった。

 

 




LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。

・ヒロインXの口上

皆大好きロム兄さんです。個人的にヒロインXは好きです。
ヒロインXオルタことえっちゃんも好きです。

以上になります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、作品の質を向上させるようなアドバイスや、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。それが執筆意欲に繋がります。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!



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第9話 邪竜墜つ

今回は第9節から第13節、「第1特異点」の事実上の最終回です。
次回は出会った英霊達を召喚する話になります。

投稿し始めたのが去年の3月で、終わるのが今年の1月なので1年近く間を空けてしまって大変申し訳ありませんでした。
合間を使いながら少しずつ投稿していくので、今後も投稿ペースはかなり落ちると思います。それでも良い方はよろしくお願いします。


 翌日の朝。野営地で作戦会議が始まった。オメガモン達の中で軍勢を率いた経験者はアルトリアとジークフリート。2騎のサーヴァントであり、セイバーのクラス。最高級の英霊。

 アルトリアはアーサー王だから当然だが、ジークフリートはかつて一軍を率いた経験持ち。彼らを中心に作戦会議が進む。

 

「我々の人数は少なく、相手の人数は多い。しかし、敵の殆どは我々より弱い。数で優る敵と、質で優る我々。こういう時は正面突破か、背後からの奇襲が望ましいです」

 

「だが、我々の居場所は既に知られている。つまりは正面突破しかない」

 

「ワイバーンの軍勢は私が消し去る。ファヴニールはジークフリート殿達にお願いしたい。他の皆は敵サーヴァントや敵の軍勢を蹴散らして欲しい」

 

 アルトリアとジークフリートの話に頷きながら、オメガモンは空中戦は自分に任せろと言わんばかりに、ワイバーンの軍勢を担当すると自ら言い出した。

 聖騎士のお願いするような言い方に誰もが頷いた。威風堂々とした高圧的な言い方をして来るかと思えば、意外にも腰が低い。異世界の人々と触れ合うのに気を遣っている所が分かる為、オメガモンへの評価は高い。

 

「俺がファヴニールを倒せるかどうかが戦いのキーポイントになるだろう」

 

「そうね……ところで悪いけど、私は敵サーヴァント担当にして欲しいわ。どうしても倒さないといけない相手がいるの」

 

 エリザベートが言った“倒さないといけない相手”。それはカーミラ。その名前は残忍で血を追い求めた彼女の生涯を表した変名であり、真の名はエリザベート・バートリー。

 味方のエリザベートは若い頃で、敵のカーミラは怪物になった存在。ややこしい話だが、厄介な敵サーヴァントを担当してくれるのは嬉しい話だ。

 

「私は“竜の魔女”を相手にする事になりますね……」

 

「良し、皆。準備は出来たね? 行くぞ!」

 

 それぞれが自分が担当する敵の確認を終えると、立香の号令と共に動き出す。その前に必勝の円陣を組み、写真撮影をしたのは秘密だ。

 巨大化したオメガモンに乗り、オルレアンに向かって進撃を始める立香達。第1特異点を修復する最終決戦が幕を開けた。

 

ーーーーーーーーー

 

 本来の大きさに巨大化し、立香達を乗せてオルレアンに向かって飛行しているオメガモン。彼が目にしたのは空を覆い尽くす程のワイバーンの軍勢だった。

 バーサーク・セイバーがオルレアンに向けて進軍しているオメガモンを見付け、ジャンヌ・オルタに知らせて来た。それを受け、フランスにいる竜を総動員して来たと言う事となる。これが最終決戦だ。

 

「皆、降りてくれ。ワイバーンの軍勢はこのオメガモンに任せてもらう!」

 

「頼んだよ、オメガモン!」

 

 オメガモンは徹底してサポート役に回っている。確かに冬木市の特異点では前線に立っていたが、今回はどちらかと言うと、活躍は控えめとなっている。

 味方の数が多いのと、彼らを信頼している為だ。仲間と共に居れて、共に戦える。こんなに嬉しい事はない。だからこそ皆を信じて戦える。

 立香達を地上に降ろし、そのまま飛び上がったオメガモン。目の前にいるのは無数のワイバーン。右手からガルルキャノンを展開し、左手からグレイソードを出現させ、飛竜の軍勢に向かって突撃を始める。

 

「さぁ、今まで暴れられなかった分満足させてもらうぞ!」

 

 この特異点に来てから満足いく戦いが出来なかったオメガモン。彼は獰猛な笑みを白兜の奥で浮かべながら、ガルルキャノンに大気中のエネルギーを集束させ、砲身の内部で砲弾の形に凝縮させる。

 そしてワイバーンの軍勢に向けて撃ち出す。青いエネルギー弾はワイバーンの軍勢の一部に直撃すると、破壊エネルギーを拡散させながら周囲にいる飛竜を呑み込んでいく。

 更にグレイソードを薙ぎ払い、青白い三日月型のエネルギー波を放つ。剣圧だけで飛竜を一気に殲滅していくオメガモン。その進撃は止まる事を知らないが、ふと何かに気付いた聖騎士は、地上に向かって声を張り上げる。

 

「サーヴァントの反応とこれは……デジモンの反応!? 真っ直ぐこちらに向かっている!」

 

『デジモン!?』

 

 オメガモンが探知したのはサーヴァントだけでなく、デジモンの反応。今まで姿を見せず、存在すら分からなかったデジモンの存在。

 何故この世界にいるのか。誰が何の為に呼んだのか。それは分からないが、自分達の敵である事はオメガモンには分かる。

 

「デジモンは私が抑える! 皆はサーヴァントを!」

 

「分かった!……って言ってる傍から来た!」

 

「殺してやる! 殺してやるぞ! 誰も彼も、この弓矢の前で死ぬがいい!」

 

 立香達の目の前に現れたのは1騎のサーヴァント。バーサーク・アーチャー。翠緑の衣装を纏った野性味と気品を併せ持つ少女。

 明らかに強制的に狂化されている。本来であれば、ジャンヌ・オルタの下に付くようなサーヴァントではない。狂わせて従わせる。サーヴァントだって生きている。自分の意志がある。それを無視したやり方に憤りを立香が覚える。

 

「私にお任せを。『力屠る祝福の剣(アスカロン)』!!!」

 

「素早く!」

 

 バーサーク・アーチャーが放つ無数の矢。それを防ぐのはゲオルギウスの宝具。アスカロン。あらゆる害意と悪意から持ち主を遠ざける無敵の剣。

 敵を倒すという意味の“無敵”ではなく、いかなる敵からも守るという“無敵”。守護の力を反転させることで、あらゆる鎧を貫き通す剣にもなるが、今回は本来の守護の力を持つ剣として力を発揮する。

 ゲオルギウスが無数の矢を防いでいる間に、謎のヒロインXがバーサーク・アーチャーに向けて駆け出す。エクスカリバーの二刀流を以て、バーサーク・アーチャーを瞬時に防戦一方に追いやる。

 

「おのれ!」

 

「星光の剣よ。赤とか白とか黒とか消し去るべし! ミンナニハナイショダヨ! 『無銘勝利剣《ひみつかりばー》!!!』」

 

 謎のヒロインXの宝具が発動した。黄金の聖剣と漆黒の聖剣から繰り出す怒涛の連続斬撃。ブオンブオンと小気味よい重低音が響かせる中、バーサーク・アーチャーを撃破した。

 厄介でどうしようもなく損な役回りだったと自嘲したバーサーク・アーチャー。邪竜を倒して欲しいと立香達に告げると、彼女は光の粒子に変わりながら消滅していった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 対峙する立香達一行とジャンヌ・オルタ達。ジャンヌ・オルタはジャンヌの事を自分の残り滓と言って嘲笑う一方、ジャンヌは自分の事を残骸ではないと言い切る。

 同時にジャンヌ・オルタの事を自分ではないと言った。その言葉の意味と隠された真意に誰もが訝し気な表情を浮かべる中、ジャンヌ・オルタは不敵な笑みを浮かべる。

 

「この竜を、竜の大群を見るが良い! 今や我らの故国は竜の巣となった! ありとあらゆる物を喰らい、このフランスを喰らって不毛の土地にする! それでこの世界は破綻し、この世界は完結する」

 

「そうはさせない! 俺達がこの竜の大群を消し去る! この世界を終わらせはしない!」

 

 やがてこの世界は竜同士が争い、お互いを捕食し始める地獄と成り果てる。それが真の百年戦争。邪竜百年戦争。その開幕を宣言したジャンヌ・オルタと、それを阻止しようとする立香達一行。

 しかし、突如としてファブニールに砲弾が直撃して大爆発が巻き起こった。一体誰の攻撃なのか。全員が砲撃が撃ち込まれた方向を見ると、そこには純白の鎧を身に纏う戦士がいた。

 

「撃って撃って撃ちまくれ!ここがフランスを護れるかの瀬戸際だ!!」

 

「ジル……!」

 

「恐れる事も、嘆く事も、退く事もない! 人間であるならば戦え! 何故なら我らには聖女が、王妃が、聖騎士がいる!」

 

「どうやらフランスはまだ終わっていないみたいだな……決着を付けるぞ、ジャンヌ・オルタ!」

 

 ジャンヌ達の戦いは決して無駄ではなかった。彼女が選んで歩んだ人生。誰かを守る為に戦った。例え終わりが綺麗でなかったとしても、それで良かった。

 例え見捨てられても、裏切られても、売り飛ばされても。自分が守ったフランスが未来に繋がった。それで良かった。

 

「ファブニール! 聖女を、軍を、祖国を! 全て燃やし尽くしなさい!」

 

「済まない。奴の相手は彼らではない。この俺だ。三度貴様と相まみえるとはな……別の世界では違う形で繋がったかもしれないが、邪悪なる竜、ファヴニールよ! 俺は此処に居る! ジークフリートは此処に居る! 我が正義、我が信念に誓って、貴様を必ず黄昏に叩き込む!」

 

「我がサーヴァント達よ、前に出ろ!」

 

「やぁ君達! 元気そうで何よりだよ! シュヴァリエ・デオン。此度は悪に加担するが、我が剣に曇りはない!」

 

「堕落し、破滅した姿を晒すのは恥ではないが、敗北が何よりの恥だ。聖杯を求め、傀儡にこの身を貶めても、余は不死身の吸血鬼を謳おう。……それが虚構であろうと、余にはそれしか残されておらぬのだからな」

 

 ファヴニールが口から火炎を放とうとすると、それを阻止しようとジークフリートが立ち塞がる。背中に収めている鞘からバルムンクを引き抜き、両手で握り締めて構えを取りながら。

 バーサーク・セイバーの真名はシュヴァリエ・デオン。バーサーク・ランサーの真名はヴラド三世。デオンの相手は謎のヒロインXが、ヴラド三世の相手はアルトリアが務める。ワイバーンの軍勢はオメガモンとフランス軍が担当している。

 立香達一行とジャンヌ・オルタ達の真っ向勝負が始まったのと同じ頃、オメガモンは新手としてやってきたデジモンと相対していた。

 

「成る程。お前が相手か……インペリアルドラモン」

 

 オメガモン達の目の前に姿を現した1体のデジモン。その名はインペリアルドラモン。“皇帝竜”の異名を持つデジモン。背中に翼を生やした四足歩行の巨大な竜。

 ファヴニールを凌駕する大きさとパワー、そして威圧感。その威容を目の当たりにしても、オメガモンは全く動じる事なくインペリアルドラモンと対峙する。

 

「お前の相手はこの私だ。来い」

 

「グオォォォォォォォォーーーーーーー!!!!」

 

 先に攻撃を仕掛けたのはインペリアルドラモン。背中に装備している巨大な砲塔からオメガモンに向けてエネルギー弾を連射するが、オメガモンは素早く横に移動しながらエネルギー弾の連射を回避していく。

 それと同時にガルルキャノンの照準をインペリアルドラモンに合わせ、一瞬の溜めを作った後、インペリアルドラモンに向けて青色のエネルギー弾を発射した。

 青いエネルギー弾は途中で爆裂して無数の小型エネルギー弾となり、あらゆる方向からインペリアルドラモンに襲い掛かる。

 

「グアアアアアアァァァァァァッ!!!!!」

 

「ハァッ!!」

 

 オメガモンが撃ち出した爆裂エネルギー弾を喰らったインペリアルドラモンが苦痛に満ちた叫び声を上げる中、オメガモンはグレイソードの剣先をインペリアルドラモンに向けると、突撃を開始する。

 一瞬で間合いを詰め、グレイソードから連続斬撃を繰り出して確実にダメージを蓄積させていく。

 途中でインペリアルドラモンがオメガモンを追い払おうと右手の爪を振るうが、オメガモンは左手で受け止めてから斬り下ろし、間合いを取ってガルルキャノンを構える。

 

「『ガルルキャノン』!!!」

 

 ガルルキャノンから発射されたのは青い光の奔流。それに呑み込まれたインペリアルドラモンは青い光の粒子に分解され、そのまま消滅していった。

 戦いを終えたオメガモンは敵を倒した事に安堵しつつも、ある一つの違和感を覚えた。それはインペリアルドラモンの強さ。自分より格下だが、こうも簡単に倒せる相手ではない事は分かっている。

 一体何がどうなっているのか。この人理焼却にデジモンが関係している事は分かった。自分はそれを阻止する為に呼ばれた。では黒幕は一体誰なのか。新しい謎と疑問が出来た事を感じつつも、オメガモンは地上に降りて行った。

 

ーーーーーーーーーー

 

「そんな馬鹿な……」

 

 オメガモンが地上に降り立つと、ジャンヌ・オルタは呆然となっていた。ファブニールはジークフリートによって、カーミラはエリザベートに、デオンは謎のヒロインXに、サンソンはアマデウスに、そしてヴラド三世はアルトリアによって倒された。

 頼みにしていたファブニールとインペリアルドラモンを失い、サーヴァント達の大半も消滅し、ワイバーンの軍勢も壊滅状態。これで実質ジャンヌ・オルタは追い詰められた状態となった。

 

「お戻りあれ、ジャンヌ! 先ずは退却して態勢を立て直しましょう」

 

「ジル!」

 

「ジル……!」

 

「まさか……!」

 

 ジャンヌ・オルタの隣に1人の男性が現れた。彼は幾重にも重ねたローブと貴金属に身を包み、眼を広く剝いた異相をした長身の男性。彼はジル・ド・レェ。

 その男性を知っているジャンヌは驚き、アルトリアは警戒するように睨む中、ジャンヌ・オルタとジル・ド・レェはワイバーンの軍勢と共に退却していった。

 

「立香殿。ジル・ド・レェが聖杯を持っているのならば、また別のサーヴァントを召喚するに違いない。ここは追撃に出よう」

 

「そうだね……今がチャンスだ。全員、ジャンヌ・オルタがいるお城に攻め込むぞ!」

 

『了解!』

 

 オメガモンの進言を聞いた立香は追撃に出る事を決めた。そして巨大化したオメガモンに全員が乗り、ジャンヌ・オルタ達の後を追いかけていく。

 ファブニールとインペリアルドラモンは倒され、ワイバーンの軍勢も壊滅状態。このチャンスを逃す理由はない。そう判断した立香達が城に突入すると、海魔の軍勢が出迎えた。

 

「この程度の雑兵で私を止められると思うな!」

 

 オメガモンはガルルキャノンから絶対零度の冷気弾を撃ち出し、無数の海魔を一瞬で凍結させ、通過する事で発生した衝撃波で氷解していった。

 そのままジャンヌ・オルタの所に向かっていると、目の前に1騎のサーヴァントが立っている。それはジル・ド・レェだった。

 

「ジル……!」

 

「おやおや、お久し振りですな。まさかこのオルレアンに乗り込んでくるとは……正直に申し上げます。感服いたしました」

 

「御託は良い。そこをどいでもらおうか」

 

 ジャンヌとの再会を喜びながらも、ここまでの進撃を率直に褒め称えるジル・ド・レェ。それに対し、オメガモンはジャンヌ・オルタを止める為、一秒でも早く、前に進みたがっている。その為、殺気立った目でジル・ド・レェを睨み付ける。

 しかし、ジル・ド・レェはオメガモンの殺意と言葉に全く動じる事なく、逆に彼らを睨みながら大声を上げる。

 

「しかし! しかしだ! あぁ、聖女とその仲間達よ! 何故私の邪魔をする!? 私の世界に土足で入り込み、あらゆるモノを踏み躙り、あまつさえジャンヌ・ダルクを殺そうとするなど!」

 

「その答えは簡単だ! お前の行いが間違っているからだ!」

 

「ジル。彼女は本当に私なのですか? ジャンヌ・ダルクなのですか?」

 

「何と許せぬ暴言! 聖女とて怒りを抱きましょう! 聖女とて絶望しましょう! あれは確かに紛れもないジャンヌ・ダルク。その秘めたる闇の側面その物!」

 

 ジル・ド・レェが告げた事実。それはジャンヌ・オルタ、もといもう1人のジャンヌ・ダルクの正体。それは彼女の暗黒面を具現化した物だった。

 その事実に立香達が驚く中、オメガモンが前に進み出た。そして立香とマシュとジャンヌに顔を向けながら、彼らに先に行くように促した。

 

「立香殿、マシュ殿、ジャンヌ殿。貴殿達は先に行け。あのジャンヌ・ダルクを倒して来い。何、心配するな。直ぐに追いつく」

 

「オメガモン。私もご一緒させて下さい。あの英霊は前に聖杯戦争で戦った相手。私の経験が役に立つはずです」

 

「ありがたい。ならばお言葉に甘えよう。エミヤ殿、ジークフリート殿、護衛を頼む。後は任せたぞ!」

 

 アルトリアは第四次聖杯戦争でセイバーとして召喚されたが、ジル・ド・レェもキャスターのサーヴァントとして召喚された。

 その時に色々と嫌な経験をしたが、戦闘経験もある為、戦い方や攻略法を知っている。その為、ジル・ド・レェの足止めを務める事をオメガモンに頼んだ。

 それを受け入れないオメガモンではない。同時にテイマーの身を案じてエミヤとジークフリートに護衛を依頼すると、ジル・ド・レェとの戦闘に突入した。

 彼らの戦闘を一瞥した立香、マシュ、ジャンヌ、エミヤ、ジークフリートはジャンヌ・オルタのいる所へと向かっていく。

 

ーーーーーーーーー

 

「貴女に1つ伺いたい事があります。極めて単純な問い掛けです。貴女は、自分の家族を覚えていますか?」

 

 ついにジャンヌ・オルタの所へと辿り着いた立香達。ジャンヌ・ダルクとジャンヌ・オルタ。2人の聖女が相対すると、最初にジャンヌ・ダルクが口を開いた。

 それはマリーとの会話を経て、ずっとジャンヌ・オルタに聞きたかった事。それは自分の家族を覚えているかどうかと言う事。物凄く簡単な内容にジャンヌ・オルタだけでなく、立香達ですら目を見開いた。

 

「例え戦場の記憶がどんなに強烈であろうと、私はただの田舎娘としての記憶の方が、遥かに多いのです。例え貴女が私の闇の側面だったとしても、あの牧歌的な生活を忘れられる筈がありません。いえ、忘れられないからこそ……裏切りや憎悪に絶望し、嘆いて憤怒したはず」

 

「私は……」

 

 ジャンヌの問いかけに答えられないジャンヌ・オルタ。その様子を見てジャンヌは気が付いた。ジャンヌ・オルタの正体に。

 彼女は自分と同じ記憶を共有していない。聖女として戦場に立つまでの生活を覚えていないのだから。

 

「記憶がないのですね……」

 

「それがどうした! 例え記憶がなかろうが、私がジャンヌ・ダルクである事に変わりはない!」

 

「確かにその通りです。記憶があろうがなかろうが、それは関係ないです。でもこれで決めました。私は哀れみを以て貴女を倒します!」

 

 立香達の目の前で始まったジャンヌ・ダルクとジャンヌ・オルタの戦い。彼女達は普段使っている旗ではなく、左腰に帯びている剣を以て戦った。その勝負は一瞬で決着が付いた。

 力量差があったのではない。ただの一撃で勝負が決まった。勝者はジャンヌ・ダルク。彼女が突き出した剣の切っ先がジャンヌ・オルタの胸を貫いていた。

 

「そんな馬鹿な……有り得ない……嘘だ……だって私は聖杯を所有していて……」

 

「だから負けない、と言いたかったのだろう? ジル・ド・レェから全て聞いたよ。お前は本来存在しない筈の英霊だと」

 

 そこに現れたのは聖杯を手にしたオメガモン達。それを見てジャンヌ・オルタはジル・ド・レェが倒された事を悟る中、オメガモンはジャンヌ・オルタについて話し出す。

 全てジル・ド・レェから聞き出した内容。ジャンヌ・オルタは聖杯を使い、ジル・ド・レェが造り出した存在。彼の願望の具現化。

 

「彼はジャンヌ殿を蘇らせようと心の底から願ったが、聖杯に拒絶された。だから信じる聖女を、焦がれた聖女を造ったと」

 

「そうだったのね……知らない方が良かった事もあったのね……」

 

 オメガモンの話を聞いて自嘲気味に微笑むと、ジャンヌ・オルタは消滅していった。その様子をジャンヌ・ダルクは複雑そうに見届け、オメガモンに先を話すように促した。

 話はまだ終わっていない。ジル・ド・レェがジャンヌ・オルタを造り出した理由が分かったが、彼の思いが分からないからだ。

 

「でも……例え聖杯で私を蘇らせる事が出来たとしても、私は彼女のようにはなりませんでしたよ?」

 

「それは話しました。ですが……そこで彼の思いを知る事が出来ました」

 

 オメガモンの代わりにアルトリアが話し出す。確かに生前のジャンヌは裏切られ、嘲笑されたりもした。無念の最後を迎えたと言っても過言ではない。

 しかし、彼女は祖国を憎む事も無ければ、恨む事も無かった。それでもジル・ド・レェは祖国を恨み、憎んだ。何故なのか。それはジャンヌ・ダルクを殺した祖国を許さないと聖杯に願ったのだから。

 

「そうだったのですか……彼が恨むのも、聖杯で力を得て国を滅ぼそうとしたのも分かります。でも……その思いを知ったとしても、私はジルを止めます。私は裁定者《ルーラー》のサーヴァント。右も左も分からなかった私を信じ、この街を解放までしてくれた。例え今がどうであれ、私はあの時のジルを信じていますから」

 

「その言葉を……彼に伝えたかったです」

 

「はい。私は最後の最後まで絶対に後悔しません。私の屍が誰かの未来に繋がっている。ただ、それだけで良かったのですから」

 

『良い感じになっている所大変申し訳ない! 聖杯の回収を完了した! これから時代の修正が始まるぞ! レイシフト準備は整っているから、直ぐにでも帰還してくれ!』

 

 ジャンヌとアルトリアの話が良い感じの雰囲気を出していると、ロマニからの通信が入った。聖杯の回収を把握した事で、時代が元通りに復元されていく。

 もう別れなくてはならない。もう行かなければならない。何故なら立香達にはまだまだやるべき事があるからだ。そしてエミヤとアルトリア以外の英霊も消滅し始めた。

 

「もう行かれるのですね……」

 

「ありがとう、皆。そしてまた会おう」

 

「絶対に召喚してみせるから、その時まで待っていて!」

 

 寂しそうな顔をするジャンヌを安心させるようにオメガモンは微笑み、立香は力強く拳を握ると、彼らも同様に消滅していった。

 短いようで長かった第一特異点での戦いは終わった。様々な出会いがあり、様々な戦いがあった。そして歴史が正しい姿へと修復され、特異点の1つが修復されたのは言うまでもない。

 

ーーーーーーーーー

 

 カルデアに帰還したオメガモン達一行。光が収まり、意識がはっきりとしてきた。ゆっくりと目を開けてみると、自分達がコフィンの中にいる事を実感する。

 そして左右をキョロキョロし、自分達は無事にカルデアに戻って来た事を認識した。視界に広がるのはカルデアの管制室の天井。

 コフィンを出た一行を待っていたのはオルガマリーとロマニとダ・ヴィンチ、クー・フーリンとメドゥーサ。彼らは皆笑顔を浮かべている。

 

「お帰り。そしてお疲れ様」

 

「初めてのグランドオーダーは無事に遂行されたわ。本当によくやったわ。補給物資も乏しく、人員もいない中、最高と言える成果を残した」

 

「だいぶ疲れているようだから休んでね? 最新の記録では無事に修復は完了しているから」

 

「了解した。立香殿とマシュ殿は先に部屋に戻ってくれ。クー・フーリン殿、メドゥーサ殿。2人は疲れているから付き添いをお願いしたい」

 

 ロマニは立香達の帰還を労い、オルガマリーは彼らの活躍を称え、ダ・ヴィンチは休むように促した。彼ららしい立場と対応だ。

 彼らの話を一通り聞いたオメガモンは頷くと、立香とマシュに部屋に戻って休むように促し、クー・フーリンとメドゥーサに付き添いを依頼した。

 その内容に首を傾げる立香とマシュが、クー・フーリンとメドゥーサと共に管制室から出ていくと、オメガモンは真剣な表情をしながら、オルガマリーとロマニとダ・ヴィンチに報告を始める。

 

「報告がある。特異点でデジモンが出現した。しかも究極体……インペリアルドラモン」

 

『ッ!?』

 

 オメガモンの報告に誰もが息を呑んだ。エミヤとアルトリアはデジモンが出現した事は知っていたが、それが誰なのかは分からずにいた為、名前を聞いて唖然となった。

 インペリアルドラモン。古代に存在した究極の古代竜型デジモン。他のデジモンとは存在や能力の面で一線を画しており、強大なパワーを宿している為、制御するのは至難の技であり、扱い方によっては救世主にも破壊神にもなってしまう。

 必殺技は『メガデス』。着弾点から半径数百メートルの全ての物を完全に消滅させる、超質量の暗黒物質を発射し、全てを暗黒空間に呑み込んでしまう恐ろしい技。

 

「で、でもオメガモンは倒したんでしょう?」

 

「あぁ倒した。それに嘘偽りはない。だが問題と疑問が幾つか出て来たのも事実だ……」

 

 オメガモン曰く、自分が戦ったインペリアルドラモンはそこまで強くなかったとの事。本物と戦えば勝利はするが、手こずる事間違いなし。

 そして疑問は何故デジモンが特異点にいるのかと言う事。これに関しては少し考え込んだエミヤが答えを出した。

 

「恐らく今回の人理焼却を目論んでいる黒幕とは別に、この事態にデジモンが関与していると私は思う」

 

「だろうな。十中八九『七大魔王』だ」

 

 『七大魔王』。悪魔・暗黒系のデジモン達の頂点に立つ7体の魔王型デジモンの総称。七つの大罪をモチーフにしている。

近年の研究で、そのあまりに強大な力から全ての平行世界に存在させることで力を分散させてると言う事実が明らかになった。それ程までに恐ろしい力を持ったデジモン達。

 

「恐らく黒幕はルーチェモン、バルバモン、デーモンの三択だ。それ以外は有り得ないと思って良いだろう。残りの4体は私と互角以上の力は持っているが、黒幕を務める力はないと思う」

 

 ベルフェモンは常に眠っている為、余程の事がない限りは自分から動く事はない。リリスモンは直接的な戦闘力は低いものの、策略が合わされば恐ろしい敵となる。ただ黒幕になるかどうかと聞かれると、その可能性は低いとオメガモンは判断した。

 リヴァイアモンは身体が大きい上に、普段は何をしているのかが分からないと言われている。しかし、ベルフェモンとリヴァイアモンの厄介さをオメガモンは理解している。自分単独で止めるのは難しいと考えているからだ。

 ベルゼブモンはそもそも策略や黒幕といった事を嫌う為、最初に選択肢から外れるレベルだ。故にオメガモンはルーチェモン、バルバモン、デーモンの三択と言い切った。

 謎が謎を呼ぶこの人理焼却の一件。果たして黒幕は誰なのか。今回の件に関与しているデジモンは誰なのか。不確かなままオメガモンの戦いは続いていく。

 




LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。

・敵デジモン登場!

今回の特異点では、竜繋がりでブラックインペリアルドラモン(ドラゴンモード)を出しました。しかし、聖杯でコピーしただけなので、オリジナルよりは弱いです。
これから先も敵デジモン(コピー体)も登場しますが、意外なデジモンが敵として出る事もあるかも!?

・ラスボス候補

ルーチェモン、バルバモン、デーモンの三択。誰が正解でしょうか。

以上になります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、作品の質を向上させるようなアドバイスや、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。それが執筆意欲に繋がります。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!



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英雄 運命の詩(Apocrypha/Inheritance of Glory)
第10話 Dive Into Apocrypha


皆さんお久し振りです。『Digimon/Grand Order』も更新再開します。
今回は第1特異点のエピローグから、アポクリファとのコラボイベント『Apocrypha/Inheritance of Glory』の第1節までの内容となっています。
暫く更新しない間にストーリーやイベントが進行しましたが、この小説は第1部で完結になります。それ以降はしません。と言うより出来ない内容にさせます。

それとこれから書いていく内容は特異点→イベント2つ挟む→特異点の繰り返しです。
なので登場する英霊によってやるイベントが前後したりしますが、それはそれで楽しんで頂ければ嬉しいです。




 第一特異点の修復が終わってから数日後。オメガモン達は『守護英霊召喚システム・フェイト』の前に立っている。

 マシュの宝具たる十字の大盾を触媒に用いて召喚サークルを設置し、特異点を修復して得た、セイントカードを使って召喚する。流れは前回と一緒だ。

 英霊のクラスの絵が描かれたカードを今回は何枚置いて召喚する。今回はセイバーが2枚、ランサーが2枚、ライダーが2枚、キャスターが2枚、バーサーカーが1枚、アサシンが2枚、ルーラーが1枚。合計15枚だ。

 

「何だろう……大体召喚される英霊が誰なのか薄々予測出来ている自分がいるよ」

 

「今回の召喚は一通り全てのクラスは揃うみたいだな……14騎の英霊か。カルデアも賑やかになって、私も忙しくなるな」

 

 立香は15枚のカードを1枚ずつ並べ、その上に聖晶石を乗せながら苦笑いを浮かべると、それにエミヤが頷きながら答える。

 英霊召喚システムとカルデアの電力が唸りを上げ、凄まじい魔力が集束しながら眩い輝きを放つ中、オメガモン達の目の前に15騎の英霊が姿を現した。今回も無事に英霊召喚は成功し、その光景に誰もが息を呑んだ。

 

「サーヴァント・ルーラー。ジャンヌ・ダルク。またお会いできて、本当に良かった!」

 

「ヴィヴ・ラ・フランス! お久し振り♪」

 

「やぁまた会ったね! 戦闘はともかく、キミの人生を飾る事だけは約束しよう!」

 

「あの時は敵だったから改めて名乗るよ。私はシュヴァリエ・デオン。フランス王家とキミとを守る――白百合の騎士」

 

「今度は味方としてここに参った。暫しの間、お邪魔するとしよう」

 

 1人目はルーラーのサーヴァント。旗を携えた、信心深く清廉で善良な少女。真名はジャンヌ・ダルク。一緒に戦った仲間と再会する事ができ、誰もが幸せになりそうな笑顔を浮かべている。

 2人目はライダーのサーヴァント。マリー・アントワネット。ダイヤモンドを象ったような大きな帽子を被り、天真爛漫な見た目の少女。

 カルデアに来た初めてのキャスター。彼の真名はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。黒服に身を包んだ音楽家であり、かの有名なモーツァルトその人だ。

 第一特異点では敵だった英霊もやって来た。ルイ十五世が設立した情報機関『スクレ・ドゥ・ロワ』のスパイ。羽帽子を被った可憐な男装の剣士、シュヴァリエ・デオン。

 闇に溶け込みそうなほどに黒い貴族服を着た王。ワラキア公国の王であり、当時最強の軍事力を誇っていたオスマン帝国の侵攻を幾たびも退けたヴラド三世。

 

「あら。過去の自分と一緒に召喚されるなんて、これも運命というやつかしら。サーヴァント、アサシン。カーミラと呼びなさい」

 

「サーヴァント、アサシン。シャルル=アンリ・サンソン。召喚に応じ、参上しました」

 

「約束を叶えてくれてありがとう、マスター。サーヴァント・ライダー。ただのマルタ。共に世界を救いましょう」

 

「セイバー、ジークフリート。召喚に応じ参上した。また共に戦う事が出来て嬉しい」

 

「ライダー、ゲオルギウス。召喚に応じ、推参しました。よろしくお願いします」

 

 茨を思わせるドレスを纏い、仮面をつけた淑女。残忍で血を追い求めた彼女の生涯を表した彼女の真名はカーミラ。

 黒の外套を纏った青年の真名はシャルル=アンリ・サンソン。パリにおいて死刑執行を務めたサンソン家四代目の当主。

 露出度の高い修道服と、籠手が目を引く聖女のクラスはライダー。真名はマルタ。悪竜タラスクを鎮めた、一世紀の聖女。

 セイバーと名乗った英霊はジークフリート。灰色長髪の端整な顔立ちで、胸元と背中が大きく開いた鎧に身を包み、大剣を背にする長身の青年。『ニーベルンゲンの歌』に謳われる万夫不当の英雄。

 ライダーの真名はゲオルギウス。聖ゲオルギウス。聖ジョージとして名高き聖人。聖剣アスカロンを持ち、ドラゴンを退治した逸話が有名。一度だけ相手の攻撃を無効化するベイヤードという馬に騎乗する。

 

「アナタが新しいマネージャー? よろしく! 大切に育ててね♪」

 

「サーヴァント、清姫。またよろしくお願いしますね、マスター様」

 

「……コードネームはヒロインX。昨今、社会的な問題となっているセイバー増加に対応するために召喚されたサーヴァントです。よろしくお願いします」

 

「お招きに与り推参つかりました。不肖ジル=ド=レェ。これよりお側に侍らせていただきます」

 

 頭部には角が2本、お尻には先が割れた竜の尾のようなものがあり、フリフリの衣装に身を包んだ美少女。真名は美しい吸血鬼カーミラのモデルの一人であり、600人以上の娘の生き血を浴び、己の美貌を保とうとした悪女。

 緑髪の幼い白拍子風の格好に竜の角が生えた少女。カルデアに来た最初のバーサーカー。「清姫伝説」に登場したヒロインこと清姫。真砂の長者、清次の娘として生を受ける。

 アホ毛が突き出た黒い帽子に短パン、青いジャージの上着と青いマフラーが特徴的な女性は謎のヒロインX。英霊の座とは異なる、原典という重力から解き放たれた宇宙的世界観の未来世界『サーヴァント界』から来た英霊。

 幾重にも重ねたローブと貴金属に身を包み、眼を広く剝いた異相をした長身の男性。ジル・ド・レェ。十五世紀の人物で、フランスのブルターニュ地方ナントに生まれた貴族にして軍人。

 

「合計15騎か……多いな」

 

「これからまだ増えると言う事を考えるとね……」

 

 合計15騎の英霊がサーヴァントとしてカルデアに召喚された。これで全てのクラスは出揃ったが、これから先も増える事を考えると、果たしてカルデアの施設で間に合うかどうか心配になって来た。

 その後は第一特異点修復の記念と、召喚された英霊達の歓迎会を兼ねた飲み会が行われた。エミヤとオメガモン、クー・フーリンとマルタ達が作った色々な美味しい料理が目の前に広がるが、食事の前にオメガモンから注意事項が伝達された。

 

「え~カルデアに来た以上、ここのルールには従ってもらおう。その内容はシンプル。英霊同士の殺し合いは何があろうが禁止だ。生まれた時代や国が違えば、性格や価値観の違いは当然あるだろう。喧嘩までは許そう。ただし訓練室でやってくれ。ここにいる間は我々は仲間だ。もしこのルールを破れば、それなりの処罰を下す。私自身もルールを破れば処罰を受ける故に、皆も気を付けて欲しい」

 

 オメガモンの注意事項が終わり、全員が食事を始めた。食堂に移動した後、エミヤ達が振舞った料理は予想以上に大好評だった。アルトリアだけでなく、ジャンヌもお代わりを要求する程に。

 その様子を少し離れた所で眺めながら酒を飲んでいるオメガモンの所に、同じく酒を飲んで上機嫌なクー・フーリンがやって来た。

 

「よぉ、オメガモン。お前は混ざらなくて良いのか?」

 

「今はカルデアの一員とは言えど、元々私は別世界から来たイレギュラー。しかもデジモンだ。あまり関わるのもどうかと思っただけだ」

 

「気持ちは分かるけどよ、何か勿体ねぇな。出しゃばらずに空気読むのもそりゃ大事だぜ? でもよ、騒げる時に騒ぐのも必要だと俺は思うんだがな……」

 

「貴殿の言う通りだ。そうさせてもらおう。そうだな……折角だから聞きたい事を聞こう。貴殿は聖杯戦争に参加した事があると言っていたな? 何か願いはあったのか?」

 

「俺か? そんなのねぇよ。ただ強い奴と戦いたいだけだ。お前さんはどうだ?」

 

「願いか……もう既に叶っているよ」

 

 クー・フーリンの問いに答えたオメガモン。彼は目の前で楽しそうにしている立香とマシュを見て、満足そうな表情を浮かべた。

 その様子を見たクー・フーリンは押し黙った。恐らくこれは自分には分からない何かがある。そう察して持っていた飲み物を一口飲む。

 

「私の願いは皆と共に過ごす事。泣いて笑って色んな事を経験し、ただ普通に過ごす。たったそれだけだった。それも今では叶わぬ夢となったがな……」

 

「叶わぬ夢……?」

 

「いや、私がオメガモンとなったあの日から普通に過ごしていた日常は終わり、非日常の中で生きる事となった。それは立香殿も同じだ……まぁ、いつか私の事は話すよ。まだ皆の事を知らないし、そこまでの信頼を築けていない。今の願いは残り全ての特異点を修復し、今回の黒幕を消去する事。ただそれだけだ」

 

 オメガモンの事を知っているアルトリア、エミヤ、ジャンヌは複雑そうな表情を浮かべていたが、ここで事態が少し進んだ。その日の夜に立香が夢でオメガモンの過去を見た。

 サーヴァントは夢を見る事はない。あくまで契約しているマスターの記憶を夢で見ることがあるだけだ。しかし、どういう訳か、テイマーたる立香がパートナーデジモンと共にオメガモンの過去を見てしまった。

 オメガモン、もとい八神一真。彼は何処にでもいるような青年だった。しかし、ある時ディアボロモンの襲撃に遭って瀕死の重傷を負った。その時にオメガモンとなり、ディアボロモンを倒した事で彼の戦いが始まった。

 そして戦いが進んでいくと共に、ある一つの場面で夢から覚めた。立香は一体オメガモンに何があったのかが気になり、確認する事を決めた。オメガモンは一体どのような過去を持ち、何の為にこれまで戦って来たのか。

 

ーーーーー

 

「あの……オメガモン、一つ聞きしたい事があるんだけど、良いかな?」

 

「立香殿か……大丈夫だが急にどうした?」

 

「昨日夢で見たんだ……オメガモンの過去を」

 

 翌朝。オメガモンが食堂で朝食を美味しそうに食べ終え、少し休んでいると、立香から話を持ち掛けられた。

 夢で自分の過去を見た。その事実を聞いた途端、オメガモンの表情は固まると共に、静かに目が細まっていく。

 

「私の過去……か」

 

「マシュから聞いていたんだ。マスターとサーヴァントは夢を通じて記憶を共通する事があると。多分だけど、オメガモンと俺はパートナーとテイマーの関係だと思うんだ。恐らく似たような関係だから有り得たのかな……」

 

「成る程。そう言う事か。それなら仕方ないな。一つ聞くが、これは他の皆もか?」

 

「いや……俺だけみたいだ」

 

 オメガモンが周りを見渡すと、食堂にいる英霊達は食事をしたり、雑談に花を咲かせていた。どうやら殆どの英霊が知らないみたいだ。

 いつかは立香に話さなければならないと思っていたが、まさか早い段階で訪れる事になるとは全く考えていなかった。オメガモンは溜息を付くと、立香に自分の過去について話す事を決意した。

 オメガモンは元々人間だった。八神一真と言う名前の青年。ある日、ディアボロモンに襲われて瀕死の重傷を負い、オメガモンと一体化する事で甦った。ディアボロモンを倒した事で戦いが始まった。

 “電脳現象調査保安局”と言う組織に所属し、最初は“デジクオーツ”と呼ばれる異世界と人間界を往復する毎日を過ごした。そこに迷い込んだデジモン達は人間の心の闇や欲望を使って自らの力を増幅させ、人間界で様々な事件を起こして来た。その事件を解決する為、“デジクオーツ”で戦っていた。

 最終決戦で “デジクオーツ”を造り出した全ての黒幕―クオーツモンを倒した。全員の力とオメガモンの活躍によって。しかし、その時にオメガモンの特殊能力を使った代償として、一真の身体と精神が“デジモン化”してしまった。

 それから暫く経ったある日、『電脳世界(デジタルワールド)』の神様―イグドラシル。2つある人格の1つ、マキ・イグドラシルがデジモン達の殺戮を『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に命じた。人間界を崩壊させ、デジタルワールドと統合して新たなる世界を作り上げる計画―『NEOプロジェクト・アーク』の遂行を推し進める為に。

 人間界とデジタルワールドを守るべく、オメガモン達は戦った。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を悉く打ち破り、マキ・イグドラシルとの最終決戦を迎えた。

 その最終決戦で、マキ・イグドラシルが“千年邪神”と呼ばれているミレニアモンと一体化していた事が明らかになった。最終的にミレニアモンと戦って勝利し、ミレニアモンこと秋山千冬を説得した事で戦いは終わった。デジタルワールドに平和を取り戻すと共に、オメガモン達は再び人間界を救った。

 しかし、その代償は大きかった。一真の人格と精神が完全に消え失せ、八神一真は沢山の仲間達に見守られる中で息を引き取った。

 

「そっか……なぁ、オメガモン。君は過去を変えたいと思った事はない?」

 

「ないな。だがどうしてそんな質問を?」

 

「ないと言ってもさ……本当は普通に生きたかったと言っているような気がしてね……」

 

「確かに。私は人間のまま生き、人間のまま死にたかった。それは事実だ」

 

 オメガモンは正直に話した。本当はオメガモンになりたくなかった。戦いたくなかった。一般人として生き、一般人として死にたかった。それは事実。

 同じ人間を殺した事はない。デジモンも殺した経験もない。確かにデータに初期化した事はあった。それでも殺したも同然。白兜の中ではかなりの葛藤があり、己の必殺奥義はどうしても使わなければならない場面にしか使わないと決めた。

 剣を振るう。大砲を撃つ。それだけで大半の敵を倒し、大都市一つを壊滅させられる。そんな恐ろしい力をどうして振るう事が出来るのだろう。何も考えず使えるのは正気の沙汰だ。デジモンになった時点で、自分は人間ではなくなった。“人間の姿をしたデジモン”に落ちぶれてしまった。

 

「でもデジモンになった時点でそれは無理だった。私の道は一つしか無かった、戦う以外しか私には道が無かった。それでも幸せだった。沢山の仲間に恵まれたから。確かに人間だった頃の生活に戻りたいと言う思いは無いと言えば、それは嘘になるだろう。ただ……」

 

「ただ?」

 

「あの時笑顔で死んだ自分に、後の世界の事を皆に託した自分に嘘を付きたくない。だから過去を変えたいとは思わない。いや考えようとしなくなった」

 

 オメガモンも八神一真と言う人間だった頃の、普通の生活に戻れれば戻りたいと言っている。それでも過去を変えたいと思わないのは、死ぬ間際に後の世界を託した皆に、笑顔で死んでいった自分に正直でいたいと言う思いがあったから。

 この時、立香はオメガモンがデジモンではなく、八神一真と言う人間に見えた。この時にオメガモンが浮かべた笑顔が真実だった。

 

ーーーーー

 

 

 第一特異点を修復した後、第二特異点を観測するまでの間。立香とオメガモンは様々なサーヴァントと交流を深める中で、彼らが参加した聖杯戦争での経験談や苦労話を聞いたりして勉強していた。

 この日はジャンヌ・ジークフリート・ヴラド三世の3騎のサーヴァントから色々な話を聞いていたが、その中でジャンヌが『裁定者(ルーラー)』である事に疑問を抱き、彼女から『ルーラー』と言うクラスの事を聞く事になった。

 

「そうですね……『ルーラー』と言うクラスはどんな物かと言うと、簡単に言えば聖杯戦争の管理を行うクラスになります」

 

「と言う事は聖杯によって召喚されるのか……聖杯戦争の時になると必ず召喚される。そういう事なのか?」

 

「いえ、それは違います。通常の聖杯戦争で召喚される事は先ず有り得ません」

 

「? どういう時に召喚されるの?」

 

 マシュも一緒に話を聞いているが、主に英霊達の話を聞いて質問するのは立香とオメガモン。彼らは英霊や聖杯等の必要最低限の知識すらない状態。それを見かねたオルガマリーが頼み込んだのもある。

 

「大きく分けて2つの場合に召喚されます。一つ目は聖杯戦争が非常に特殊な形式で、結果がどうなるか分からない時。儀式の中枢の聖杯がルーラーを召喚しようと判断した時ですね」

 

「それが先程話していた『聖杯大戦』……か」

 

 『ルーラー』と言うクラスの説明を受ける前、オメガモンと立香は『聖杯大戦』の説明と過去にあったケースの話を聞いていた。

 14騎ものサーヴァントが2つの陣営に分かれてぶつかり合うという、大規模化した聖杯戦争。それが『聖杯大戦』。

 バトルロワイヤルな聖杯戦争とは違い、団体戦である事が特徴である為、普通の聖杯戦争では実力を発揮できないクラスのサーヴァントが活躍したりするのが醍醐味の1つ。サーヴァント同士の関係が大切になる事から、相性が良い者を組ませると遥かに格が上の敵でも打倒することが可能な事もある。支援に特化した者や集団戦闘で補正がかかるスキルを持つ者が真価を発揮する事だって大いに在り得る。

 しかし、チーム戦ではあるものの、聖杯を手にするのは一組と言う法則は変わらない。その為、片方の陣営が残ったら次は味方同士で戦わないといけなくなる。

 

「もう1つの場合は聖杯戦争の影響で、世界に歪みが出る可能性がある時。現在の聖杯戦争はマスターになった者達が英霊をサーヴァントとして使役し、戦う方式になっていますが、マスターになるのは大抵魔術師です。彼らは魔術の秘匿を第一に考えている為、世の中に混乱を招く事態を引き起こす事は滅多にありません。もしあったとしたら災害として処理されます」

 

「災害の一言で片づけて良いのかな……?」

 

「まぁ本来であればあってはいけませんが、そうせざるを得ない時もあります。聖杯は万能の願望機として機能するので、それが世界中に広がるのはあってはいけません」

 

「確かにな……何でも叶う魔法のランプが実在すると聞けばそれこそ、国家間での争いが起きる事が目に見えている」

 

「願いを叶える者が聖人君子ではなく、我欲の為であっても構いません。ただ問題なのは世界の崩壊を招く程の願いを抱いている者が聖杯戦争を利用し、己の願いを叶えようとする事です。その場合にルーラーは聖杯戦争によって世界の崩壊が理論的に成立すると見なされた時点で召喚され、聖杯戦争のシステムを守る役割を与えられます」

 

(まるでアルファモンみたいだな……)

 

 ジャンヌの説明を聞いたオメガモンは独り言ちながら、生前共に戦った盟友―アルファモンに思いを馳せた。

 アルファモン。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員であるが、彼ら自身を抑える役割を持つ存在。聖騎士でありながら、聖騎士への抑止力的な存在だと言われている。

 

「ところでルーラーのスキル……“対魔力”は分かるけど、“真名看破”と“神明裁決”って何? どういうスキル?」

 

「“真名看破”は直接遭遇したサーヴァントの真名・スキル・宝具……とにかく全ての情報を素早く把握出来る能力です。“神明裁決”は召喚された聖杯戦争に参加している全てのサーヴァントに2回まで令呪を行使できる能力です」

 

「流石に『裁定者』だけあって、スキルが豪華で実用的だな……」

 

 その後は特にする事も無かった為、立香は一旦昼寝を取る事にした。その隣でオメガモンも電池が切れたロボットのように眠りに付いたのは言うまでもないだろう。

 

ーーーーー

 

「オ、オメガモン~! 助けて~!」

 

「立香殿、私に掴まれ!」

 

「あ、ありがとう……オメガモン」

 

 立香とオメガモンは不思議な夢を見ていた。彼らは大海原に向けて真っ逆さまに墜落していると言う世にも奇妙としか言えない夢を。それでも高所から落ちている感覚、それこそバンジージャンプをしているようなリアリティーを感じている。

 オメガモンは2mくらいの身長を5m程に巨大化させる事で立香を自分の左肩に乗せると、体勢を直して大海原の上で佇む。その姿と風景の美しさに立香は息を呑んだ。

 

―――応じよ。我が呼び掛けに応じよ。

 

「この声は……」

 

「頭の中で響いている……」

 

「気が付いたな、カルデアのマスターよ。そして……人ならざる聖騎士よ。私がお前達を呼んだ者だ」

 

 オメガモンと立香の目の前に現れたのは邪竜。その名はファヴニール。かつて第一特異点で戦った敵だが、彼らの前に現れたファヴニールは何かが違う。

 かつて戦ったファヴニールからは殺気や敵意が感じられたが、目の前にいるファヴニールからはそれらが全く感じられない。これは一体どういう事なのか。不思議に思いながら、オメガモンと立香は目の前に現れたファヴニールを見る。

 

「今汝達がいる場所は夢だが、夢ではない。余が聖杯を使って汝達を夢と言う形で召喚した。今の汝達は精神体みたいな物だ。今はカルデアで昼寝をしている筈だ」

 

「と言う事は俺達の力が必要な案件なんだね?」

 

「その通りだ。今、この世界は危機に瀕している。汝達の力が必要だ。名乗るのが遅くなったが、我が名はファヴニール。かつて人類の奇跡を奪い去った邪竜だ」

 

『人類の奇跡を奪い去った……?』

 

 オメガモンと立香がファヴニールの言葉に違和感を覚え、その言葉の意味が分からずに顔を見合わせていると、ファヴニールは言葉を続ける。

 

「我々が今いる場所は“世界の裏側”だ。裏側と言うより、海の向こうと言うべきか……幻想の獣がいるような場所だと思ってもらえると良いだろう。そちらのいる世界は人の理によって成り立っている人間の世界だ。ここはそこから外れた世界だ」

 

(人間界とデジタルワールドみたいな感じか……意外と近い所があるな)

 

「分かりにくいとは思うが、人理と言う布が星全体を覆う事で貴方達の世界は成り立っている。だが、その布が世界を覆う前に幻想種と言う存在が退避してきた」

 

「だが今は人理焼却の一件でこちらの世界に幻想種が出てきている。ワイバーンや貴殿と同じファブニールを現時点で確認している。この世界が危機に瀕している理由は人理焼却の一件が関係しているのか?」

 

「違う。原因は俺が持ち込んできた大聖杯にある」

 

『何だと!?』

 

 目の前にいるファブニールが大聖杯を持ち込んだ。その事実に驚くオメガモンと立香は目を見開くのを見ながら、ファヴニールは更に話を続ける。

 

「そちらの世界で大聖杯がどうなったのかは知らない。だが、俺の時は大聖杯を世界の裏側に運ばざるを得なかった。表側にあると色々不都合な理由があったからな……ところがその大聖杯はとある宝具の余波を受けて半壊してしまった」

 

「それでこの世界に持ってきたんだ……でもそれがどうして世界の危機に?」

 

「正直に話そう。何もしていないのに壊れたんだ。記憶が曖昧でよく覚えていないが……問題は半壊した大聖杯の内側で、極小の規模だが“聖杯戦争が行われているらしい”。しかも一万を超える程の数が今まで行われている。最初は2騎だったのが途中から4騎、今では7騎が揃った」

 

「嘘だろう!? もう立派な聖杯戦争が行えるレベルじゃないか!」

 

「成る程……幾ら半壊したとは言っても、大聖杯の中にかなりの数の聖杯戦争を行える魔力が残っていたのか。問題なのは誰が何の為に行ったのかだが……」

 

 ファヴニールの説明に立香は驚き、オメガモンは目を細めながら真剣に考える。聖騎士の言葉に相槌を邪竜は打つ。

 

「聖騎士殿の推察通りだ。何者かが大聖杯にクラッキングを仕掛け、大聖杯を手に入れようと企んでいる。このままだと大聖杯は暴走し、世界が破滅してしまう。更に言えばこの大聖杯は預かり物で、俺や別の誰かが使う訳には行かない。大聖杯は大切に保管しなければならない。でないと世界が大変な事になってしまう……その上でお願いしたい。どうかこの世界を一緒に救って欲しい」

 

「やってみるよ。俺に何が出来るか分からないけど……」

 

「承知した。このオメガモン。貴殿の剣となり、銃となりて必ずやこの世界を救ってみせる」

 

「感謝する。それでは一緒に付いてきて欲しい。大聖杯の内部へと侵入する」

 

 ファヴニールの背中を追いかけるように、立香を乗せたオメガモンは飛翔を始める。その最中に立香とアイコンタクトを交わし、一緒にこの世界を救う事を誓い合った。

 

ーーーーー

 

「予想通りトゥリファスが再現されているな……それに“赤”のアサシンの空中庭園も」

 

「空中庭園……“赤”のアサシンの宝具? あれが?」

 

「どう見てもアサシンではなく、キャスターと言われないと納得出来ないが、何か事情があるのだろう。いずれ分かる話だ」

 

 大聖堂の内部に突入したファヴニール達。彼らが到着したのはトゥリファス。そこは『聖杯大戦』の舞台となった、ルーマニアにある小さな街。

 立香が自分達の真上にある空中庭園を見上げると、オメガモンは目を細めながら首を傾げる。アサシンではなく、キャスターの宝具と疑いたくなるのも無理もない。

 

「それにしてもここまで世界が正確に組み上がっていたとは……一体何が狙いなんだ?」

 

「う~ん……俺はよく分からないけど、過去にここであった聖杯戦争? なのかは知らないけど、何か強い願いを抱いて参加したマスターかサーヴァントが願いを叶えられず、どうしてもと思って……なのかな? そしたらどうして大聖杯の中で再現出来るようになったのかが説明出来けど……」

 

「そうだな……きっと召喚したサーヴァントと余程仲が良かったり、似た者同士だったのだろう。サーヴァントが大聖杯に魔力として吸収された際、それが大聖杯の内部に残ったと考えれば……あくまで仮定の話に過ぎないがな」

 

「今はここで議論しても仕方ない。下を見て欲しい。竜牙兵とゴーレムが湧いて出てきている」

 

 ファヴニールが真下を見ると、そこには敵の下級兵士と思われる竜牙兵とゴーレムが続々と出てきた。敵が来た事を察知して迎撃するつもりとしか思えない。

 

「この程度なら造作もない。焼き払おう」

 

「そうだな。私は少し離れよう」

 

 オメガモンが離れた事で彼らに余波が来ない事を確認したファヴニール。彼はブレスを吐いて竜牙兵とゴーレムを焼き払った。

 第一特異点では強敵として立ちはだかったファヴニールが今は味方となっている。頼もしいとしか言えないその姿に、オメガモンと立香は内心頼もしく思っていた。

 

「ッ! ファヴニール殿!」

 

「なっ!? サーヴァントか!」

 

「私から離れ……グアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 何処かから何者かが攻撃を放ってきた事を感知したオメガモン。彼はファヴニールを守る様に立ちはだかり、背中に羽織っているマントで攻撃を防ごうと試みる。

 マントで攻撃を防いだものの、完全には防ぎきれず、真っ逆さまに地上に向かって墜落を始めた。

 

「オメガモン!」

 

「ファヴニール殿……感謝する」

 

 地上に向けて墜落している途中で、ファヴニールが追いついた事に気付いたオメガモンは左手の乗せた立香をファヴニールに移動させるが、それが精一杯だった。そしてそのまま真下にある森の中に轟音と共に墜落した。

 

ーーーーー

 

「大丈夫かオメガモン?」

 

「オメガモン!」

 

「大丈夫だ立香殿……背中のマントで攻撃を防ごうとしたが、完全には防ぎきれなかった。あれは最上級の英霊の一撃だった……」

 

 墜落したオメガモンの隣に着地したファヴニール。その背中から降りた立香が駆け寄る中、オメガモンは地面に激突した際に発生した衝撃と激痛から立ち直りつつ、表情を歪ませて立ち上がる。

 

「先程の光は『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』……“赤”のランサー、カルナの宝具だ」

 

「カルナ!? あの英雄王と同等の英霊が参加していたの!?」

 

 オメガモンが喰らった一撃の名前は『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』。“赤”のランサーことカルナが持つ一度きりの最強宝具。

 それを聞いた立香は驚くのも無理もない。カルナは英雄王と同等の力を持った破格の大英雄であり、一説に寄ると、宝具とスキルの使用に制限を課した状態でなお最強クラスのサーヴァントと互角以上に渡り合う、桁外れの戦闘力を誇るとされている。

 それこそ万全状態ならばオメガモンと戦っても互角以上に渡り合い、下手をすれば勝利してしまう程の実力者。

 

「そのカルナと言う英霊はそこまで強いのか?」

 

「えっ? オメガモン……知らないの?」

 

「済まない……どうもデジモンに関わる以外の英霊には疎くてな……私は大丈夫だ。攻撃を喰らったが、空も飛べて戦える。多少ダメージを受けただけだ」

 

「今のはサーヴァントではなかった……サーヴァントが英霊に昇華された者を疑似的に再現した物と定義するならば、あれは不完全で何と言えば良いか……そうだ。ゾンビやメカに近い」

 

 オメガモン達に攻撃を仕掛けたのはサーヴァントであって、サーヴァントではない“何か”による物。戦闘能力こそはサーヴァントだが、感情や論理的思考が無い。それだけの違い。

 

「だが世界が小さくなったとは言っても、宝具を完全再現しているのは驚いたな……」

 

「ッ! 敵が来るぞ! ファヴニール殿、マスターを連れてここから離れろ!」

 

「オメガモン!?」

 

「私は殿を務める。君達が逃げる時間を作る。速く!」

 

 サーヴァントの反応を察知したオメガモンはファヴニールに立香を乗せて逃げるように促すと、ダメージを受けているオメガモンを見捨てられないと言わんばかりに、立香が心底心配そうな顔を浮かべながら聖騎士を見る。

 その表情を見て申し訳なく思いながらも、オメガモンはファヴニールにここから離れるように声を張り上げつつ、背中に羽織っているマントで敵が放つ宝具を苦しそうな表情を浮かべながら防ぐ。

 

「速く逃げろ! グアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「オメガモン!」

 

「まさか『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』まで再現されていたのか!」

 

「おや、どうやら賓客のようですね」

 

 しかし、それも限界が訪れた。半円状に拡散する黄昏の剣気までは完全に防き切る事が出来ず、攻撃を受けたオメガモンは吹き飛ばされると共に大木を十数本巻き込みながら、もんどりうって倒れて沈黙してしまう。

 悲痛な声を上げる立香を乗せたファヴニールが飛び立とうとしたその時、彼らの目の前に広大な森のような清冽な気配を持った青年が姿を現した。

 

「貴方は……」

 

「えっ? 知り合い?」

 

「管理者よ、共に行きましょう。マスター。貴方の名前を聞かせて下さい」

 

「立香。藤丸立香です」

 

「よろしいですか、立香。先ずはミレニア城塞へと向かいます。我が名はケイローン。指揮をお願いします」

 

 青年―ケイローンと共に森を離れたファヴニール達。途中で竜牙兵の集団と戦闘になったが、ファヴニールの前では敵ではなく、あっという間に蹴散らした。

 ケイローン。ゼウスの父クロノスと、島の女神ピリュラーとの間に生まれた彼は多くの大英雄達を育て上げ大成させてきた、ケンタウロス族の“大賢者”。

 あらゆる知識に精通し、その穏やかな性格と教え方の巧みさからギリシャにおいて彼に教えを受けた英雄は数知れない。有名な英雄はヘラクレス、アキレウス、イアソン、アスクレピオス、カストール等々。

 

「どうにか救出出来て良かったです……」

 

「ケイローン、オメガモンがまだ……」

 

「心配いりません。オメガモンと言う彼はライダーのサーヴァントが救出しています。今のうちに撤退を。夜が明ければ彼らは撤退します。正確に言えば消滅ですが」

 

「後はライダーがオメガモンを救出してくれるだけか……」

 

 ケイローンに案内される形でミレニア城塞に到着した立香達。彼らは朝が来るまでの間、束の間の休息を取る事にした。

 




LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。

・英霊の召喚

一応特異点の修復後、イベントの終了後にまとめて召喚する感じになります。
今回はかなり多めでしたが、時と場合によって多少ばらけます。

・オメガモンの願い

『仮面ライダー4号』に登場した仮面ライダー555こと乾巧みたいな感じですが、これはこの作品の終盤でも再登場する願いなので一応伏線(?)みたく張りました。
この作品では人間の魂が消滅してオメガモンになりましたが、様々な出来事を通じて人間らしさを取り戻していくお話にしていきたいです。

・アルファモン

今回の話で単語だけ出しましたが、第六章に敵として出す予定です。
第六章は色々な意味でクライマックスなので、出し惜しみなくやります。
アーラシュやハサン先生が個人的にお気に入りです。

・何故初イベントがアポクリファなのか?

今月誕生日を迎えた事と祖父の死を受けて、これからの人生だったり、夢の事を考えていた時にふと「イベントやるならアポにしよう」と思ったからです。
夢や願いの事に触れている印象が強いので……

・オメガモンの知識

 正直に言うと、オメガモンは英霊の知識はけっこう穴があります。デジモンに関係しているギリシャや北欧神話等は詳しいですが、インド神話は全然みたいな感じで……

以上になります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、作品の質を向上させるようなアドバイスや、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。それが執筆意欲に繋がります。

次回は第2節~第3節になるかと思います。敵デジモンは決めています。
それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!












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