スクスタクエスト〜空と海と大地と呪われしYAZAWA〜 (『シュウヤ』)
しおりを挟む

第1話

森の中に、開けた場所があった。薪が積まれていたり、切り株があったりと誰かが目的を持って森を切り拓いた場所だった。

その切り株の一つに、少女が腰掛けていた。地図を持って、これからのルートを確認している所だった。

「ふむふむ、これがこうなって、こうだから……真っ直ぐ行けば何とかなるよね!」

あまり大丈夫そうではなかった。

そこへ、

「おーい、穂乃果ちゃ〜ん!」

「そろそろ出発しようじゃん?」

別の誰かから声がかかった。

穂乃果がそちらを振り向くと、二人の少女が手を振っていた。

「うん、じゃあ休憩終わり! 曜ちゃんに愛ちゃん、行こう!」

穂乃果は勢いよく切り株から立ち上がると、

「あれ? あの二人は?」

辺りをキョロキョロと見渡した。

「私ならここにいるわよ」

すぐ近くの茂みから、さらに別の声が聞こえてくる。

現れたのは、人間とおばけキノコを足して二で割り損ねたようなモンスターだった。遠目から見れば人間に見えるが、近付くと頭がキノコだったり、そこから小さなキノコがツインテールのように生えていたりと、不気味な様相をしていた。大きさも、一メートル程度しか無い。

「で、出たな魔物!」

思わず剣を構えそうになった穂乃果に、

「私だっつってんでしょ」

キノコ人間は疲れたようにツッこむ。

「あ、なーんだにこちゃんかぁ〜」

「……アンタ、わざとやってないでしょうね」

「そんな事ないよ! 穂乃果がにこちゃんを見間違えるわけないじゃん!」

「数秒前の発言に責任を持ちなさいよ!」

拳を震わせて叫んだにこに、

「ま、まあまあ」

曜がなだめる。

「その見た目も、多分無くはないかなって思う人もいるかもしれないからさ?」

「中途半端なフォローは、余計に相手を傷付けるってのを覚えときなさい」

げんなりしたにこは、

「……で? もう一人は?」

この場にいないもう一人の姿を探す。

「にこにーと同じように、どっか隠れてるんじゃないかと思うわけよ」

そう愛が答えた直後、ガサガサと茂みが揺れる。

「おっ、噂をすればじゃない?」

全員がそちらに視線を向けると、

「!!!」

「!!!」

「!!!」

青い身体をした魔物、スライムが三体飛び出してきた。

 

[スライムが現れた!]

[スライムが現れた!]

[スライムが現れた!]

 

「うわっ、スライムだ!」

 

[スライムのこうげき! ミス! 穂乃果はダメージを受けない!]

 

穂乃果はスライムの体当たりを左腕で防ぎながら、背中の《兵士の剣》を抜く。その横では、曜が《石のおの》、愛が《ブロンズナイフ》を構える。

「に、にこは戦えないから任せたわよ!」

にこは三人の後ろに引っ込み、成り行きを見守る。

「もービックリしたじゃん!」

穂乃果は憤慨しながら、スライムに駆け寄ると剣を振り下ろす。

 

[スライムAに8のダメージ! スライムAを倒した!]

 

その一撃でスライムは力尽き、ひっくり返って光の粒子となって消えた。

「流石は穂乃果ちゃん。私も負けてられないね!」

 

[曜のこうげき! スライムBに7のダメージ! スライムBを倒した!]

 

曜も斧を振るい、スライムを一体仕留める。

「愛さんも負けてられないね!」

 

[愛のこうげき! スライムCに7のダメージ! スライムCを倒した!]

 

愛も短剣を振るって、最後のスライムを屠る。

 

[魔物のむれをやっつけた!]

 

特に問題なく、スライムを倒した穂乃果達。武器をしまうと三人でハイタッチする。

「ふう……いきなりで驚いたけど、弱っちい敵で良かったわね」

何もしていないにこは額を拭うと、

「それより、一体どこに行ったのよ」

改めて辺りを見回す。すると、

「呼んだかにゃ?」

「うひっ⁉︎」

背後から、唐突に声がかかる。

「凛ちゃん!」

そこに立っていたのは、猫の耳と尻尾、そして少し生えた三本ずつの髭を持つ凛だった。

「どこ行ってたの?」

「ちょっとそこまで、散歩をしてたにゃ」

「なーんだ。姿が見えないから、心配しちゃったよ〜」

「そろそろ、出発しようって言ってた所だったんだよ」

「了解にゃ! 早く、にこちゃんの呪いを解く手掛かりを探しに行こうにゃ!」

「って、凛ちゃんはいいの? 凛ちゃんも呪いにかかってるんだけど……」

曜の言う通り、にこほど人間離れはしていないが凛も充分人間とは異なる容姿である。

「ん〜、この見た目、猫さんっぽくてちょっと気に入ってるの。にこちゃんみたいにキノコじゃないし!」

強調された後半のセリフ。

「まっっったくよ! 何でにこがキノコなのよ!」

「まあまあ、ちょいと落ち着こうじゃないキニコちゃん」

「誰がキニコだ!」

 

 

 

 

その後一行は、近くの街トラペッタへ到着した。

「はー疲れたわ。早く宿で休みたいわね……」

街へ入ってすぐ、にこは宿を探す。

「穂乃果達は、この街にマスター・ライラスって魔法使いがいるはずだから情報を集めてくれる?」

「その人誰なの?」

「にこ達に呪いをかけた、あのドルマゲスに魔法を教えた師匠らしいわ。ドルマゲスの行方を知ってるかもしれないのよ」

「ふーん。で、その人どこにいるの?」

「……いや、だからそれを探してくるんでしょうが」

どこまで本気で言っているのか分からない穂乃果のセリフに、にこは呆れる。

「とりあえず、酒場にでも行ってみよっか」

「お〜いいねえ。ちょうど何か飲みたかったんだよ〜」

「お酒はダメだよ?」

宿はにこと凛に任せて、穂乃果達三人はひとまず酒場を目指す。

 

 

「ここかな?」

ジョッキの看板がかかった建物を発見すると、穂乃果は喧騒が漏れるドアを開ける。

店内には十人弱の客がいたが、チラリと穂乃果達を見やると興味はそれっきりだった。

「これ、どうすればいいんだろう……?」

「とりあえず、マスターに聞いてみようかな?」

「やっぱ酒場には、色んな情報が入ってくるからね〜。マスターは情報通だと思うよ」

三人はカウンターに立つ酒場のマスターの元へと向かう。

「あれ、誰かと話してるね」

話しかけようと思った穂乃果だったが、どうやら先客がいた。

「……なあ希さんや、ヤケ食いはやめようよ」

「ええやん、減るもんやないし」

「いやいや、うちの食材は減ってるよ。あとアンタの懐具合もね」

「それで何か、問題あるん?」

「大アリだよ。アンタの当たらなくなった占いなんて、1ゴールドの価値も無いんだよ」

「なぁ〜にぃ〜? いつからウチの占いが当たらなくなったんや。そんな事ないで!」

「……まあ、それならそれでいいよ。でももしちゃんと占っていたら、昨日の火事は防げたんじゃないのかい?」

「……そんなん、ウチの知った事やない」

「まったく……そのせいでマスター・ライラスも行方不明だっていうのに」

「……ウチは帰るで」

希と呼ばれていた少女は、ふてくされたように立ち上がると酒場を出て行った。

「どうしたんだろう?」

「さあ……」

事情が分からない三人は、気にはなるが首をひねるしかない。

それから改めて、酒場のマスターに話を聞く。

「さっきの話で、何となく分かったんじゃないかな。昨日マスター・ライラスの家が火事になってね。本人は行方不明になっちゃったんだよ」

「そ、そうだったんですか……」

「あの、それで、さっきの人は一体……」

曜の質問に、マスターは小さく息を吐く。

「彼女はこの街の占い師の希っていうのさ。昔はどんな探し物でも百発百中の凄腕占い師だったのさ。……それが今じゃ、あんなに落ちぶれちゃってね」

「何か理由とか、あったりする感じ?」

「さあねぇ。本人は何も言わないし、占い自体もパッタリやらなくなっちゃったし」

マスターからの話は、そこまでだった。

丸テーブルを囲った三人は、顔を合わせる。

「どうする?」

「色々気になる事はあったけど、ひとまずマスター・ライラスに関する情報はゲットできたね」

「とりあえず、一旦にこにーの所へ報告に戻る感じでいいんじゃない?」

そうだね、そうしようと三人は頷き、立ち上がった。その時だった。

「た、た、た、大変だぁっ!」

青年が一人、血相を変えて酒場へと転がり込んできた。当然、店内全員の視線はそちらへ向く。

青年は一拍呼吸を整えると、

「ま、魔物だ! 魔物が街へ入ってきたんだ!」

大声で言い放った。

 

 

店内は騒然。その多くが野次馬精神だったが、バタバタと店から出て行く。

「ま、魔物だって」

「と、とりあえず行ってみよう!」

「だよね。もしかしたら、退治を手伝えるかもしれないっしょ」

愛は、腰の短剣を確かめる。

三人は頷くと、町民のあとを追った。

 

 

 

 

酒場を出た三人は、すぐに街の広場に人だかりを見つけた。

「あっちだ!」

穂乃果は背中の剣に手を回しながら、慎重に駆け寄る。だが、

「ん……? あっ、マズいよ穂乃果ちゃん!」

「こりゃ大変だ。ほのほの走って!」

曜と愛が慌てた様子で穂乃果を急かした。

「え、何⁉︎ どうしたの⁉︎」

思わずつんのめった穂乃果の目に飛び込んで来たのは、

「何なのよいきなり……」

「うわっ、化け物だ!」「こっちを見たぞ!」「何というおぞましい見た目!」「こっち見るな!」

キノコ人間に近いにこが、町民に囲まれている景色。その雰囲気は、和やかには見えない。

「出て行け!」「怪物は街から出て行け!」「そうだそうだ!」

そして、石を投げ始めた。

「ちょ、ちょっと⁉︎ 何すんのよ!」

顔を庇うように背中を丸めたにこの前に、

「こらー! にこちゃんに何するにゃ〜!」

凛が飛び出す。

「凛……」

「あら、これは可愛らしい猫人間だね」「どこから来たんだい?」「さっきの魔物の後だから、余計に可愛く見えるね!」

「へっ? そんな事言われると、照れるにゃぁ〜」

そう言いつつまんざらでもない凛に、

「…………ちょっと」

にこは低い声を出す。

そこへ、

「にこちゃん、大丈夫⁉︎」

穂乃果達が人混みを掻き分けて駆け寄った。

「大丈夫じゃないわよ! とりあえず、一旦この街から出るわよ! あと凛、後で話があるわ」

にこは逃げるように、街の外へと通じる門へと駆け出した。

「わわ、にこちゃーん!」

慌てて、穂乃果達もあとを追う。

「にこちゃん、可哀想にゃー」

一応、凛も。

 

 

 

 

トラペッタの街から出てすぐ、

「まったく、この超絶可愛いにこにーに向かって、化け物ですって⁉︎ 何様のつもりよ!」

案の定、にこは大激怒。

「ま、まあまあ。呪いのせいだから、ね?」

「にこちゃんが可愛いのは、私達が知ってるから」

「うんうん、愛さんが言うんだから間違いないよ!」

三人が必死でなだめて、なんとか冷静を取り戻すにこ。

「……で? マスター・ライラスは見つかったの?」

「それが……」

穂乃果は、酒場でのマスターの話を話す。

「行方不明って……。居場所は分からないの?」

「街の人は、誰も知らないみたいだよ」

「そうなのね……。まあ、いないなら仕方ないわ。元々、用があるのは呪いをかけたドルマゲス張本人なわけだし、また手がかりを探しましょ」

にこは組んでいた腕をほどくと、

「じゃ、もうこんな街とはおさらばしてさっさと行きましょ。マスター・ライラスがいないなら、ここにいる意味も無いわ」

出発の準備をする。

「お待ち下さい!」

そこへ、背後から声がかかった。

「ん?」

振り向いたそこには、穂乃果達と同じか少し上くらいの少女の姿。

「誰?」

「さあ……」

「私は、ユリマといいます。占い師希の助手をしています」

ユリマと名乗った少女は、小さくお辞儀。それから、

「実は、あなた方にお願いがあるんです」

「お願い?」

街を訪れてから一時間も経っていないよそ者に、何をお願いするというのか。

「ていうか、今のにこを見て何とも思わないの?」

先ほど、トラウマを植え付けられたばかりのにこ。何よりもそこが気になった。

ユリマはその質問には答えず、

「夢を、見ました。人でも魔物でもない者が、やがてこの街を訪れる。その者達が、そなたの願いを叶えるであろう、と……」

「それはまさしく、にこちゃんの事にゃ!」

「あんたも似たようなモンでしょうが!」

理不尽な現実ににこが叫び、

「……それはもういいわ。で、にこ達を夢に見たって、どういう事?」

「えっと……。詳しくお話しするので、私の家に来てくれませんか? 待ってますから!」

ユリマはそう言うと、街の中に戻って行った。

「何だろねー。ちょっと気になる事言ってたけど」

「希さんの助手って言ってたよね。さっき酒場にいた、あの人の事だよね?」

「んー気になるなぁ。にこにー、どうする?」

愛がにこに視線を送ると、

「人を見た目だけで判断しないその精神、気に入ったわ。話くらいは聞いてあげようじゃない」

何やら不敵な笑みを浮かべていた。

「と、いうわけで穂乃果達、ちょっとあのユリマってコの話聞いてきなさい」

「にこちゃんはどうするの?」

「私はここで待ってるわよ。また街に入って騒がれたら嫌だし」

にこはヒラヒラと手を振る。

「うん、分かった」

「じゃあ、ちょっと行ってくるね」

「あとでちゃんとあげるからね〜」

「待っててにゃ」

「……ちょっと待ちなさい」

流れるように歩き出した凛の肩を、にこは掴む。

「アンタも留守番よ」

「えー何でー? 凛は別ににこちゃんと違って嫌われてなかったもん」

「にこだって嫌われてなんかないわよ! 魅力に気付かれなかっただけよ!」

「物は言いようにゃ」

「何ですって⁉︎ とにかく、騒ぎになったら困るでしょうが! アンタも充分人間離れしてるんだし、大人しくここで待ってなさい!」

「ぶー、にこちゃんの意地悪〜」

頬を膨らましながらも腰を下ろした凛と、にこに向かって、

「じゃあ、待っててね〜」

穂乃果達はトラペッタの街へ戻った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話

茶番を織り交ぜつつ、ドラクエっぽさが出せたらなと思ってます。
※今回から、文末に各キャラクターのレベルと装備を記載します。


ユリネに案内された民家に入った三人の目の前には、幾何学な模様を描く絨毯に頑丈そうな丸テーブル。そしてその上に置かれた、大きな水晶玉。

「ほ〜、いかにも! な部屋だねぇ」

愛が感心して呟くと、ユリネは小さく笑って椅子に座った。

「お話、しますね。……私が助手を務める占い師の希さんは、とても有名な占い師でした。世界各地から、探し物を求めて連日人が殺到していました。希さんは、それを百発百中で言い当てていたんです」

「へ〜、凄いんだねぇ希ちゃんって!」

「でもある時から、そんな占いが全く当たらなくなってしまったんです。当たらない占いなんて意味ないとばかりに、客足も途絶えて……」

大変そうなんだなぁ、と穂乃果はぼんやり考える。

「それで、私達へのお願いって? その、当たらなくなっちゃった希さんの占いと何か関係が?」

「はい! ……多分、この水晶玉がただのガラス玉になったからで……」

ユリマがそこまで話した所で、

「何の話をしてるんや」

正面のドアが開いて、件の希が入ってきた。

「あ、え、えっと……」

気まずそうに微妙な顔をする穂乃果に、望みは顔を向ける。

「アンタら……さっき酒場におったな。占いならせえへんよ。何か困ってるんなら、他を当たって欲しいんや」

億劫そうに話すと、

「希さん!」

「……ウチはもう寝る」

ユリマの声を聞こえなかったフリをして二階へ上がってしまった。

「……ごめんなさい」

ユリマは失礼を詫びると、

「でも、占いが当たらなくなって誰よりも困っているのは希さん自身だと思うんです! どうか、どうか協力していただけませんか……?」

どうする、と一応二人へ振り返る穂乃果。だが、その表情は返答を待つつもりなどなさそうだった。それを分かっていたのか、曜も愛もすぐに頷く。

「勿論! 穂乃果達で良ければ!」

穂乃果の力強い肯定に、ユリマの顔がパッと明るくなる。

「本当ですか⁉︎ やっぱりお告げ通りだわ! そのお告げによると、ここトラペッタから南、大きな滝の下にある洞窟に水晶が眠っているようなんです」

穂乃果は周辺の地図を取り出すと、ユリマに場所を示してもらう。

「この街道を真っ直ぐ進むと、突き当たりにある洞窟ですね。どうか、よろしくお願いします」

「任せてよ!」

 

 

 

 

「……ふうん。占い師の水晶玉探し、ねぇ」

にこ達の所に戻った穂乃果達は、事の顛末を話す。

「ま、いいんじゃないの? もう引き受けちゃったんだし、今さら断るわけにもいかないでしょ? それに、」

にこは一度言葉を切ると、小さく笑う。

「その希って占い師の力が本物なら、ドルマゲスの手掛かりを占ってもらえるかもしれないじゃない?」

「おお、にこちゃん頭いい!」

本気で目を輝かせた穂乃果に、

「……いや、普通思い付くでしょ」

にこは照れを通り越して呆れた。

「そうと決まれば早速出発ね。目指すは滝の洞窟よ」

 

 

 

 

トラペッタから続く街道。その道中にも、当然魔物がいる。

 

[スライムがあらわれた!]

[しましまキャットがあらわれた!]

 

先ほども倒したスライムと、白と茶色の縞模様の大きな猫。

「あ、ちょっと可愛いかも?」

「魔物だよ⁉︎ そんな呑気な事言ってる場合じゃないよ⁉︎」

曜がツッコミを入れる隙に、しましまキャットは攻撃態勢に入る。

 

[しましまキャットのこうげき! 穂乃果は2のダメージをうけた!]

 

「いったーい! やっぱり可愛くない!」

勝手に憤慨した穂乃果は、剣を構える。

 

[穂乃果のこうげき! しましまキャットに7のダメージ!]

 

「流石に、スライムよりはタフだねー」

 

[愛のこうげき! しましまキャットに6のダメージ! しましまキャットを倒した!]

 

二撃目には耐えられなかったのか、しましまキャットは後ろに吹っ飛び倒れた。

「よーし私も!」

曜も斧を横薙ぎに振るい、スライムを攻撃する。

 

[曜のこうげき! スライムに7のダメージ! スライムを倒した!]

[魔物のむれをやっつけた!]

 

「洞窟に向かう前に、少し鍛えた方がいいかもね〜。この辺の敵は弱いけど、洞窟には手強い相手もいるかもしれないし」

穂乃果に“やくそう”を手渡しながら、曜が提案する。

「そっか〜。ドンドン進みたかったけど、曜ちゃんがそう言うならそうしよっかな」

「アタシも進みたいけど、ほのほのは突っ走りすぎだもんね」

「うっ……気を付けます」

楽しそうに愛に言われては、穂乃果は従うしかない。

「じゃあ気を取り直して、ガンガン進もう!」

「……アンタ、話聞いてた?」

元気に右手を突き上げた穂乃果に、にこは呆れた視線を送る。

 

[リップスがあらわれた!]

[プークプックがあらわれた!]

 

穂乃果達が対峙したのは、緑色の体色をした、大きな唇を持ったナメクジのようなモンスターに、角笛を持った下半身が羊の人型モンスター。

「よーし、倒しちゃうよー!」

シャリン、と剣を抜いた穂乃果。

 

[プークプックはひつじかぞえ歌を吹き鳴らした!]

[穂乃果は眠ってしまった]

[曜にはきかなかった]

[愛にはきかなかった]

 

「えへへ……もう食べられない……」

「ちょちょ、穂乃果ちゃーん⁉︎」

「勢いが滑っちゃったね〜! スリーップだね!」

「ちょっと強引じゃない⁉︎」

流れるような出来事に、ついつい曜は双方にツッコミを入れる。その隙を突いて、

 

[リップスは曜の顔を舐めまわした!]

[曜はとりはだが立ってしまった!]

 

「うひゃっ⁉︎ 気持ち悪いっ」

不意を突かれた曜は、身震いで攻撃どころではなくなってしまった。

「それなら私が!」

唯一動けた愛が、剣閃を煌めかせる。

 

[愛のこうげき! リップスに6のダメージ!]

[プークプックのこうげき! 穂乃果に3のダメージ! 穂乃果は目を覚ました!]

 

プークプックの持っていた笛を目の前で吹かれ、

「…………はっ!」

夢の中だった穂乃果は頭を振った。

「うむむ……! よくもー!」

 

[穂乃果のこうげき! リップスに6のダメージ! リップスを倒した!]

 

「曜、大丈夫?」

曜をチラリと見ながら、愛は短剣を振る。

「うん、私ももう大丈夫!」

曜も復活したのか、斧を構えて振り下ろす。

[曜のこうげき! プークプックに8のダメージ! プークプックを倒した!]

「魔物のむれをやっつけた!」

 

武器をしまった穂乃果は、清々しい笑顔で一言。

「さあ、この調子で行こう!」

「……こんなのに戦闘を任せるのが、不安でしょうがないんだけど」

危なっかしい戦闘を見ていたにこが、不安を漏らす。

「じゃあにこちゃんも戦えばいいにゃ。トラペッタの街に武器屋あったよ」

「いや、私武器とか使った事ないし。近衛兵だった穂乃果達に任せるしかないのよね……」

「文句の多いお姫様にゃあー」

「うっさい。そもそも姫なのはアンタの方でしょ」

「そうだけど、凛堅苦しいの苦手だし〜。こうやって猫ちゃんみたいになれて、のんびり幸せだにゃあ〜」

「呪いにかけられたってのに、危機感ないわね……」

「にこちゃんのキノコも、とっても似合ってるにゃ」

「ケンカ売っとんのかおのれは」

 

 

 

[くしざしツインズがあらわれた!]

[いっかくウサギがあらわれた!]

 

続いて現れたのは、赤と緑の横に連なったパプリカのようなモンスターに、額にツノの生えたウサギ。

「うっ……ピーマンは苦手……」

「いやモンスターだから!」

くしざしツインズのフォルムに拒絶反応が出たのか、穂乃果は若干身を引いた。

「苦手を克服してこその、ほのほのっしょ!」

すかさず飛んだ愛の激励に、

「そ、そうだよね! ピーマンなんて怖くないっ!」

ちょっとだけ強気になる穂乃果。

「ありがと、愛ちゃん」

「いーのいーの。ほのほのチョロいから」

「……それ、本人には言わないであげてね?」

「分かってる……よっ、と!」

 

[愛のこうげき! いっかくウサギに6のダメージ!]

[いっかくウサギのこうげき! 曜に3のダメージ!]

[くしざしツインズはルカ二をとなえた! 穂乃果の防御が8下がった!]

[曜のこうげき! くしざしツインズに6のダメージ!]

[穂乃果のこうげき! くしざしツインズに7のダメージ! くしざしツインズを倒した!]

 

「よーしピーマン克服したぞー!」

高らかにガッツポーズをする穂乃果。

「いやまだ戦闘終わってないからね⁉︎」

「てかほのほの、さっき敵に何かされたよね?」

「あーうん、何だろ? ちょっと力が入りにくい気がする」

穂乃果が首を傾げていると、攻撃が飛んでくる。

 

[いっかくウサギのこうげき! 穂乃果は5にダメージ!]

 

「うわっ、強い!」

「ダメージが増えてるね……。さっきの呪文はそういう事なんだね」

「痛いぞこらー!」

 

[穂乃果のこうげき! いっかくウサギに8のダメージ! いっかくウサギを倒した!」

[魔物のむれをやっつけた!]

[穂乃果は火炎斬りを覚えた!]

[穂乃果はホイミの呪文を覚えた!]

[曜はかぶとわりを覚えた!]

[愛はポイズンダガーを覚えた!]

 

「お、何かちょっと強くなった気がするよ!」

「敵を倒していけば、その分経験値になるもんね」

「これは、戦いが楽しくなりそうじゃん?」

「よーしまだまだ強くなるぞー!」

と案の定先へ進もうとした穂乃果を、

「ちょっと待ちなさい」

にこが制した。

「どうしたのにこちゃん。トイレ?」

「そういうデリカシーの無い発言やめなさいよ……」

げんなりしたにこは、気を取り直す。

「そろそろ暗くなるわ。今日は一旦街に戻って、休んだ方がいいわよ」

「えー何で? 穂乃果はまだまだ頑張れるよ!」

「そういう訳にもいかないわよ。いい?」

「夜になると、より強くて凶暴なモンスターが出てくるにゃ!」

「……そういう事。つまり、」

「夜はゆっくり休んで体力を回復して、朝になったらまた出発すればいいにゃ!」

「…………。焦っても仕方な「焦って怪我するよりいいにゃ!」…………アンタわざとやってるでしょ!」

むんずと凛の猫耳を鷲掴みにするにこ。

「やーにこちゃんやめるにゃ〜」

やれやれとそんな二人を眺めながら、

「じゃあ、にこちゃんのお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「にこは何も言ってないでしょ。言ったのはこっちの猫」

「いやいや、にこにーの気遣いは心に染み渡ったよ」

「流石はにこちゃんだよねっ! 優しい!」

全てを理解した目、少しからかいの入った目、純粋な目に見つめられ、

「……あーはいはい。騒がれたら嫌だからにこはもう街には入らないけど、アンタ達はゆっくり休んできなさい」

にこはそっぽを向いて手を振った。

 

 

 

 

翌日、目的の滝の流れる洞窟の入り口にやってきた一行。

「ここがそうみたいね」

にこが流れる滝を見上げながら口を開く。

「私と凛はここで待ってるわ。基本的に戦力外だし、邪魔にならないようにしなきゃよね」

ちょっとだけ寂しそうにする穂乃果。

「なんて顔してんのよ。さっさと水晶探し出して、戻ってきなさいよね」

にこは穂乃果の額を、指で小突く。

「……気を付けて行ってきなさいよね。負けたりしたら承知しないんだから」

「にこちゃん……」

穂乃果は、隣の曜、愛の顔を順番に見つめ、

「うんっ! 行ってくる!」

大きく頷いた。

 

 

・穂乃果

LV6

どうのつるぎ

たびびとの服

皮の盾

バンダナ

ーーー

 

・曜

LV7

石のオノ

布の服

皮の盾

皮のぼうし

ーーー

 

・愛

LV6

ブロンズナイフ

布の服

皮の盾

皮のぼうし

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話

流石に全モンスター登場は尺が長すぎたので、独断と偏見でモンスターを絞っていきます。今後このモンスターは出して欲しいなどありましたら、コメント下さい。


滝の洞窟へ入った穂乃果達三人。

「わー、やっぱりちょっと薄暗いね」

「ちょっとジメジメしてるしね〜」

「ほいお二人、松明。辺りを照らすには明かりが必要だからね」

意外と奥まで続いていそうな洞窟を、三人は慎重に進んでいく。

「洞窟には、さっきまでと違うモンスターもいるだろうから気を付けないとね」

曜がそう呟いた直後、暗がりから何やら影が飛び出してきた。

 

[ドラキーがあらわれた!]

[メタッピーがあらわれた!]

 

大きな口のコウモリに、ずんぐりした機械仕掛けのような鳥のモンスター。

「ちょっと可愛いかも?」

「穂乃果ちゃん、昨日もそう言って攻撃されてたよね……」

「はっ、そうだった。もう騙されないぞー!」

「誰も何もしてないけどね……」

曜の呆れ声など知らず。穂乃果は剣を振りかぶる。

 

「穂乃果のこうげき! ドラキーはひらりと身をかわした]

 

「えっ⁉︎ 避けられた!」

 

[ドラキーのこうげき! 穂乃果は1のダメージを受けた!]

 

「そんなに強くない! これなら大丈夫そう!」

反応に忙しい穂乃果。

 

[メタッピーはピオリムを唱えた! メタッピーのすばやさが6ふえた! ドラキーのすばやさが8ふえた!]

 

そして今度は、敵の俊敏さが増す。

「とりあえず、片方だけでも!」

 

[曜はかぶとわりを放った! メタッピーに10のダメージ! メタッピーの防御が6下がった!]

 

曜はくるりと空中で一回転すると、メタッピー目がけて斧を振り下ろした。

 

[愛のこうげき! メタッピーに12のダメージ! メタッピーを倒した!]

 

「むむ、私も負けてられないね!」

 

[穂乃果はかえんぎりを放った! ドラキーに15のダメージ! ドラキーを倒した!]

[魔物のむれをやっつけた!]

 

「おっ、やるじゃん穂乃果ちゃん!」

「えへへ〜!」

ハイタッチ。からの穂乃果はVサイン。

「よーし、このままジャンジャン行こうじゃん!」

「「おー!」」

 

[バブルスライムがあらわれた!」

[いたずらもぐらたちがあらわれた!]

 

半分液状と化した緑色のスライムに、スコップを持ったモグラ。

「あのスライム、身体に悪そうな色してるねぇ……」

「モグラの方も、悪そうな目つきしてるよ?」

「何にせよ、倒せば問題ないっしょ!」

 

[愛はポイズンダガーを放った! いたずらもぐらAに5のダメージ! いたずらもぐらAは猛毒におかされた!]

[曜のこうげき! いたずらもぐらAに8のダメージ!]

 

「じゃあ、穂乃果はこっち!」

 

[穂乃果はかえんぎりを放った! バブルスライムに12のダメージ!]

[いたずらもぐらAのこうげき! 曜は2のダメージを受けた!」

[いたずらもぐらBは全身に力をためた! いたずらもぐらBのテンションが5上がった]

[バブルスライムのこうげき! ミス! 穂乃果はダメージを受けない]

[いたずらもぐらAは猛毒のダメージを受けた! いたずらもぐらAを倒した!]

 

「時間差攻撃ってやつだね! 愛ちゃん凄い!」

「ちょっと違うような……まあいいか」

「右のモグラが、ちょっと危ない気がするし一斉攻撃しよう!」

テンションを上げて大ダメージを狙ういたずらもぐらに三人のこうげきが襲う。

 

[穂乃果はかえんぎりを放った! いたずらもぐらBに14のダメージ!]

[愛のこうげき! いたずらもぐらBに9のダメージ! いたずらもぐらBを倒した!]

[曜はかぶとわりを放った! バブルスライムに12のダメージ! バブルスライムを倒した!]

[魔物のむれをやっつけた!]

[曜はホイミの呪文を覚えた!]

[愛はメラの呪文を覚えた!]

 

順調に洞窟を進んでいく三人。下へと降りる階段と、そこの前に立つ男を発見。

「いやあ、滝を見に来たらたまたまこの洞窟を発見したんですよ。絶対に何かあると思って入ってみたんですが、思ったより複雑でしてねぇ。しかも、強そうな魔物が奥の通路を塞いでて。もう散々です」

「強そうな魔物?」

「何だろうね? ちょっと気になる」

「水晶はその先にあるのかな? だとしたら、頑張り所って事になるじゃん」

特に忠告を聞き入れる事なく、穂乃果達は階段を下る。狭い通路を少し進むと、左右から滝が流れる開けた場所に出た。そしてその先に、朽ちかけた木の扉が見えた。

「扉の前に何かいるよ?」

近付いてみると、大きな木のハンマーを持ったモンスターだと分かった。それが扉の前で仁王立ちをしている。

「うーん、こっそり通り抜けるのは無理そうだね……」

「でも水晶は無さそうだし、進むしかなさそうだね」

「すんなり通してくれそうにないなぁ……」

念の為穂乃果はホイミを唱えて、HPを回復しておく。

そしてモンスターへと歩み寄る。

「ほほう、このオレさまに近付くとは。お前、ちょっとは度胸があるようだな」

案の定素通りはできず、目の前まで来た時に横柄な声をかけられた。

「えーっと……」

その態度っぷりに、流石の穂乃果も若干腰が引ける。

「ふっ、分かっているとは思うが……この先に進みたくばこのオレさまを倒す事だ。どうだ? そこまでの度胸はあるかな?」

予測はできた事態に、曜が不安そうに穂乃果に声をかける。

「ど、どうしよう……」

穂乃果の額に一筋冷や汗が流れたが、

「……やろう。だって、ここで引き返すわけにはいかないもん!」

「ほのほのなら、そう言うと思ったよね」

愛は楽しそうに、短剣に手をかける。

その反応を見たモンスターは、

「そ、そうか。お、お前は確かに、度胸があるようだな。と、いう事は腕にも自信があるのだな……?」

何やらしどろもどろ。

おやと首を傾げる穂乃果達。

「…………………」

しばらく黙るモンスター。

「む、むう…………………………」

なんとも言えない沈黙が流れ、

「……よ、よし! その度胸に免じてわ今回は通してやる事にしよう。気を付けて行くのだぞ」

モンスターは道をあけた。

「え…………」

それは想定外だった穂乃果は、気の抜けた声を出す。

「えっと……通っていいの?」

思わず訊いてしまう曜。

「な、何だ? もしかしてお前達、“本当は弱いのでは?”とか思ってるんじゃないだろうな? そんな事は断じてないぞ! 今回は特別なんだ! よーく覚えておくようにな」

「まあ、通してくれるんならいっかね?」

三人は拍子抜けして顔を見合わせたが、一応感謝して奥へと進んだ。

 

 

 

 

[びっくりサタンがあらわれた!]

だいぶ洞窟も奥まで進んだ頃、赤い身体に青いズボンを履いたタップダンスのように飛び跳ねるモンスターと対峙。

「ノリノリだなぁ。踊りたくなっちゃう!」

「戦闘中だから、思ってもやらないでよ?」

曜がそう注意を促した直後、

 

[びっくりサタンは誘う踊りを踊った! 穂乃果はつられて踊ってしまった!]

[穂乃果はつられて踊っている!]

 

「ええー⁉︎」

あまりにも完璧な流れに、曜は思わず声を上げてしまった。

「Let’s go! 変わんない世界じゃない do I do I live〜!」

「しかもちょっとノリノリだし……」

「オリジナリティ求めて歌まで歌っちゃうなんて、流石ほのほの」

「感心してる場合じゃないよね⁉︎」

「…………はっ!」

「あ、戻った」

ようやく我に返ったのか、攻撃どころではない穂乃果。

 

[曜はかぶとわりを放った! びっくりサタンに11のダメージ! びっくりサタンの防御が8下がった!]

[愛のこうげき! びっくりサタンに15のダメージ! びっくりサタンを倒した!]

[びっくりサタンをやっつけた!]

 

「いや〜ついつい楽しそうなダンスしてたからつい……」

たはは、と気まずそうに笑う穂乃果。

「気を付けてよね〜」

「ほのほのらしくていいじゃん」

曜も愛もそれを責めたりはしない。敵の行動なので割り切っているかもしくは、穂乃果だからと諦めているかどちらか。

 

 

 

 

さらに奥へと続く階段を下ると、そこは一本道だった。

最奥部では一際大きな滝が流れ落ち、その滝の前に何か輝く球体があった。

「あっ、ねえあれじゃない? ユリマちゃんが言ってた水晶って」

「ホントだ、それっぽい。ホントにあったんだね」

「ユリマっちも、占い師の才能あるのかもね〜」

ともかくこれでお願い達成だと三人が水晶に手を伸ばすと、

「どぉ〜りゃあ〜!」

「うひゃっ⁉︎」

何かが滝の中から飛び出してきた。

「ふぁっふぁっふぁっ! 驚いたじゃろう? わしはこの滝の主、ザバンじゃ!」

額に大きな傷を持った赤い半魚人のようなモンスターは、そう名乗った。

「わしは長い間待っておった。お前で、何人目になるかのう……。今度こそ、今度こそと思いながらかれこれ十数年……。長い歳月であったなぁ」

「えっと、何がです?」

話が見えない穂乃果達は、話は通じると判断しそう訊ねる。

「前置きはこれくらいにしておこう。……いいか、正直に答えるのだぞ」

睨みをきかせながら言葉を紡ぐザバンに、穂乃果は息を飲む。

「お前が、この水晶の持ち主か⁉︎」

「違うよ」

正直な穂乃果は、正直にノータイムで即答。

「なんと、また違ったか……。ならばゆくがいい。この水晶の持ち主を、わしはまた待つ事にしよう」

そう言って、ザバンは滝の中に消えていった。

「え、行っちゃった……。この水晶、持って行ったらダメなのかな……?」

穂乃果は困惑しながら、相変わらず目の前に浮かぶ水晶を眺める。

「あのザバンってモンスターの持ち物でもないみたいだし、いいんじゃない?」

「でも他に持ち主がいそうな口ぶりだったよね?」

「でも十年以上持ち主が現れてないんだし、いいんじゃないかな?」

「うーん、じゃあいっか」

三人はそう結論付けて再び水晶に手を伸ばす。

「どぉ〜りゃあ〜!」

「また出た!」

すると、ザバンも再び姿を現す。

「なんじゃ、またお前か? やはり、お前がこの水晶の持ち主か?」

「違うよ」

再びノータイム即答。

「ならばゆくがいい。持ち主以外に用は無い」

そして再び滝に消えるザバン。

「……これ、このままだときりが無いんじゃ……?」

「水晶は、あのザバンがしっかり見張ってるみたいだねー。こっそり持っていくのは無理っぽいかな?」

三人は少し相談すると、

「……うん、そうしよっか」

「仕方ないよね」

「ちょっと怒った感じだったから、どうなるかね〜」

三度、水晶に手を伸ばす。

「なんじゃ、まだいたのかお前達。本当にこの水晶の持ち主じゃないんだな?」

やはり現れたザバンに、

「いやー、実はそれ穂乃果が落としちゃって」

大根役者もビックリな棒読みで穂乃果が答える。

そもそも十年以上前だったら、私達まだ子供だなぁと思い至り嘘に不安を覚えた曜だったが、

「おお! おお! ついに現れたかこのうつけ者め!」

当のザバンはそんな事はお構いなし。

「いやというほど懲らしめてくれるわ!」

怒りに震えて大声を上げた。

 

 

 

 

・穂乃果

LV8

どうのつるぎ

たびびとの服

皮の盾

バンダナ

ーーー

 

・曜

LV9

石のオノ

布の服

皮の盾

皮のぼうし

ーーー

 

・愛

LV8

ブロンズナイフ

布の服

皮の盾

皮のぼうし

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話

ちょっと短め。初の中ボス戦ですね。


[ザバンがあらわれた!]

 

「流れで戦う事になっちゃったけど……どうする?」

「やるしかないよ!」

もはや思考を巡らせたのかすら怪しいが、穂乃果は剣を構えて即答する。

「そういう事!」

愛も武器を構えたのを見て、曜も仕方ないと斧の柄を握った。

 

[穂乃果のこうげき! ザバンに11のダメージ!]

[曜のこうげき! ザバンに12のダメージ!]

[愛のこうげき! ザバンに10のダメージ!]

[ザバンのこうげき! 穂乃果は16のダメージを受けた!]

 

「ぐっ……結構強いよ……!」

「この洞窟の主だもんね……。一筋縄じゃいかないみたいだね……」

「なーに、このくらいの方が燃えるでしょ!」

今までのモンスターとは明らかに別格の強さに、三人は気を引き締める。

 

[ザバンは呪いの霧を巻き上げた!]

 

ザバンは、地面から得体の知れない黒い霧を穂乃果達に放った。

 

[呪いは穂乃果の前でかき消された!]

 

「……あれ?」

拍子抜けした穂乃果だったが、それもつかの間。

 

[曜は呪われた!]

[愛は呪われた!]

[曜は呪われて動けない!]

[愛は呪われて動けない!]

 

二人は霧にまとわりつかれ、身動きができなくなってしまった。

「二人とも、大丈夫⁉︎」

穂乃果の問いかけに、二人は答えない。だが、意識はあるようだった。

「ここは、穂乃果が頑張るしか……!」

 

[穂乃果は全身に力をためた! 穂乃果のテンションが5上がった!]

 

「……うう」

「何されたんだろ……」

「曜ちゃん! 愛ちゃん!」

呪いにまとわりつかれていた二人も、正気を取り戻す。

「あの攻撃には注意だね……」

「何でほのほのには効かないんだろ?」

「さあ……穂乃果にもさっぱり……」

疑問が拭えない三人だったが、ザバンは攻撃の手を緩めない。

 

[ザバンはギラをとなえた!]

[穂乃果に8のダメージ! 曜に9のダメージ! 愛に9のダメージ!]

 

「全体攻撃も使ってくるんだね……」

「よーし、こっちからも反撃だよ!」

 

[愛のこうげき! ザバンに12のダメージ!]

[曜はかぶとわりを放った! ザバンに13のダメージ! ザバンの守備力が7下がった!]

[穂乃果はかえんぎりを放った! ザバンに45のダメージ!]

 

「おっ? これは大ダメージ?」

 

「穂乃果のテンションが普通に戻った]

 

「力を溜めれば、その分与えるダメージは増えるんだよね。でも……」

「あの呪いの霧が厄介だねー」

 

[ザバンは呪いの霧を巻き上げた!]

 

「「「また来た!」」」

 

[呪いは穂乃果の前でかき消された!]

[曜は呪いを振り払った!]

[愛は呪われた!]

[愛は呪われて動けない!]

 

「今回は何とかなったけど……やっぱり、攻撃は穂乃果ちゃんに任せた方がいいかも……」

「……う、やれやれ……。……うん、あたしもその方がいいと思う」

呪いから解放された愛も、頷く。

「分かった。任せて!」

 

[穂乃果は全身に力をためた! 穂乃果のテンションが5上がった!]

[ザバンはするどいツメを振り下ろした! 穂乃果は21のダメージを受けた!]

[曜は薬草を使った。穂乃果の体力が29回復した]

 

「ありがとう曜ちゃん!」

「どういたしまして」

顔だけ曜に向けた穂乃果に、曜は敬礼。

「よっしゃ、行っちゃえほのほの!」

「任せて!」

 

[穂乃果はかえんぎりを放った! ザバンに49のダメージ! ザバンを倒した!]

[ザバンをやっつけた!]

 

「おっ……?」

穂乃果の渾身の一撃は、ザバンに大きなダメージを与えた。

 

 

 

 

「痛たた……。頭の古傷が痛むわい!」

ザバンは額の傷を押さえながら、苦しそうに呟く。

「それもこれも、お前のせいじゃぞ!」

そして、穂乃果達を睨む。

「えーっと……その、何の事?」

「詳しく教えて欲しいんだけど……」

「……何? 何の事だか分からないとな?」

少しは頭の血が引いたのか、ザバンは微妙な表情を浮かべる三人を見やる。

「むむむむ……。さてはおぬしら……水晶の本当の持ち主ではないな⁉︎ え〜い、みなまで言うな!」

そして、頭を抱えて叫んだ。

「あ、バレちゃった……」

「ほのほのが正直過ぎるから」

「え、穂乃果のせいなの⁉︎」

嘘がバレてまた襲いかかってくるかもと身構えた三人だったが、

「わしの偉大なる攻撃を受け付けぬその体質! お前、水晶使いの占い師ではなかろう」

暴れてスッキリしたのかザバンは意外にも冷静だった。

「……そういえば、水の流れに乗ってこんなウワサを耳にしたぞ? トロデーンという城が、呪いによって一瞬のうちにイバラに包まれた。ただ一人の生き残りを残して、な」

そう言ってザバンは、穂乃果を見据える。つられて、曜と愛も横を見る。

「そうか……。やはりおぬしがそうであったか」

「……どういう事?」

「あたしにもよく分かんない」

穂乃果の事情を詳しくは知らない二人は、話に置いてけぼりを食らう。

「いやー、穂乃果も何が何だか」

そして何よりも、当の本人がよく分かっていなかった。

「そのおぬしが、なにゆえこの水晶を求めるか分からぬが……。水晶はおぬしにくれてやろう。このわしに勝ったのだからな」

「え、くれるの?」

差し出された水晶玉を、穂乃果は受け取った。

 

[穂乃果は水晶玉を手に入れた!]

 

用は済んだとばかりに滝の中へと戻ろうとしたザバンは、思い出したように振り向くと、

「それから、最後に一つ。もしお前が水晶の本当の持ち主に会う事があったら伝えてくれい!」

「何を?」

「むやみやたらと滝壺に物を投げ捨てるでない! とな」

物凄く怒りのこもった言葉。適当な反応をしたらまた戦いを挑まれそうな気がして、

「う、うん、分かった……」

穂乃果は素直に頷いた。

「ではさらばじゃ……い、痛た、た……。頭の古傷が痛むわい……」

最後は苦しそうに、ザバンは滝の中へと姿を消した。

 

 

色々ポカンとした三人だったが、手元には目的だった水晶玉が。

「あのザバンってモンスターが色々言ってたけど、穂乃果ちゃんも結局の所よく分からないんだよね?」

「うーん、私だけ無事だったんだよねー。何でだろ?」

「本人が分からないんじゃ、どうしようもないよね〜」

「そうだそうだ! 考えても仕方ない!」

「いや、そんな思考放棄を得意げに言われても……」

「とにかく、目的の水晶玉はゲットできたんだし、にこちゃん達の所へ戻ろ!」

 

 

 

 

洞窟の外へと出た穂乃果達は、

「あ、戻ってきたわね」

そこで待っていたにこと凛と合流した。

洞窟内での顛末を話すと、

「ふーん。そんな事があったのね。そのザバンとかいうモンスター、魔物のくせに私達の事を知ってるとは意外ね。こんな陰気な洞窟に引きこもってるってのに」

「陰気じゃない洞窟があったら、見てみたいにゃ」

「うっさいわよ」

凛をひと睨みしてから、にこは伸びをする。

「さ、じゃあトラペッタに戻って、ドルマゲスの行方を占ってもらいましょうか。せっかく苦労して手に入れたんだし、それ相応の結果は欲しいわよね」

「にこちゃん待ってただけじゃん!」

「あのザバン、結構手強かったよ〜」

「いやー、愛さん頑張った!」

集中砲火。

「…………街で姿出せないんだから、そのくらいいいじゃないのよ」

正論なので言い返せなかったにこは、少しだけいじけてぼやいた。

「にこちゃん、労ってあげるにゃ。酷いにゃ」

「アンタはこっち側でしょうが!」

 

 

 

・穂乃果

LV9

どうのつるぎ

たびびとの服

皮の盾

バンダナ

ーーー

 

・曜

LV9

石のオノ

布の服

皮の盾

皮のぼうし

ーーー

 

・愛

LV8

ブロンズナイフ

布の服

皮の盾

皮のぼうし

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話

物語は次のチャプターへ。今度は、誰が登場するでしょうか?


トラペッタに戻った一行は、希の家へ向かう。

家のドアを開けると、

「そろそろ、戻ってくると思ってたんや」

座っていた希が、口を開いた。

「な、何で分かったの⁉︎」

驚いた穂乃果に、希はニヤリと笑う。

「そりゃあ、ウチは占い師の希。そのくらいの事は分かるやん。この玉が、ただのガラス玉でも、ね……」

感心した三人に、

「しかし、まあ大概のお節介やんなあ。また捨てるかもしれんのに」

「あー、滝壺に物を捨てるな、だって。古傷が痛そうだったから」

とりあえず、ザバンの伝言を伝える穂乃果。当然、何の事か分からない希は首を傾げる。

「ねえ希ちゃん、何で水晶玉捨てちゃったの?」

「むしゃくしゃしたからやん」

「むしゃくしゃしたからなんだ……」

少し曜が呆れた所へ、

「希さん!」

ユリマが飛び込んできた。

「おっとっと」

追突しそうになった愛は、慌てて横に避ける。

「ユリマっち……」

「私、もう知ってるんです。どうして私がここにいるのか、私の両親がどうなったか……」

「それは……」

話が見えない三人は、顔を見合わせる。

「希さんの占いって、本当に凄かったんですよね。どんな事でも占えた。だから、どこに逃げたか分からなかった私の両親の居場所も、言い当てた」

希は、天井を仰いだ。

「……ウチは、昔から占いが得意やったん。小さい頃から、色んな人が占いに来てくれたんや。ウチは嬉しくて、来る人来る人全員の探し物を占った……。何も考えず、に」

「あ……」「そういう事……」

曜と愛は察しがついたのか、小さく呟く。一方穂乃果は、未だに首を傾げたまま。

「……その結果、ユリマっちを一人ぼっちにしてしまったんや。ウチが、身を隠した両親の居場所を言い当ててしまったばっかりに……」

ここで、穂乃果も結論に辿り着く。

「希ちゃん……そっか……」

「その事を知って、一人ぼっちのユリマっちを見て、ウチは思ったん。ウチの占いで誰かが不幸になるなら、もうそんな占いはいらないって」

「そんな事ないです!」

希の独白を、ユリマが遮った。

「私の面倒を見てくれたのは、他でもない希さんじゃないですか。私、希さんの助手で良かったって、そう思ってます。凄い占い師の助手なんだって、胸張らせて下さいよ!」

「ユリマっち……」

 

 

 

 

翌日。

目を覚ました穂乃果は、身体を起こす。すぐ横では、曜と愛が、未だ眠りこけていた。

「昨日は、大変だったもんなぁ」

昨夜、一件が落着した時にはすでに日が落ちていた為、希の家に泊まった穂乃果達。夕飯をご馳走になった後は、洞窟を探検した疲れも出て泥のように眠ってしまった。

「フア……」

あくびをしながら階段を降りると、

「お、やっと起きたんか。もう昼やで〜。こんな時間まで寝ちゃうなんて、相当疲れてたんやな」

水晶の前に座る希が、小さく手を振った。

「……穂乃果ちゃん達には、お礼を言わなきゃやな。ありがと」

「そんな、気にしなくていいよ。やりたくてやっただけなんだから」

クスッと笑った希は、真剣な表情をすると水晶玉に向き直った。

「……こうやって占うの、いつ以来かなぁ」

少し楽しそうな希。

だが、

「な、何やこれ!」

唐突に大きな声を上げた。

「ど、どうしたの⁉︎」

驚いた穂乃果が駆け寄り、大声で目が覚めたのか、曜と愛も階段を駆け下りてきた。

「見える、見えるんや! 道化師のような怪しい男が、南の関所を破っていったみたいや!」

「道化師……?」

「むむ、むむむむ……? コイツや! この道化師が、マスター・ライラスの事件の犯人や!」

「えっ⁉︎」

「この道化師……どこかで見た事あるんやけど……」

希は必死に記憶を遡り、

「……あっ、そうや! 確か、マスター・ライラスの弟子やったん! だいぶ、感じが変わってるけど……」

「マスター・ライラスの弟子?」

「それってもしかして……」

「……ドルマゲス?」

にこが言っていた言葉を思い出しながら、三人は同じ結論を出す。

その答えに、希も頷く。

「間違いないやろな」

「そ、それで? もっと詳しく教えて!」

身を乗り出してきた穂乃果に、

「ち、ちょっと待ってな」

希は再び水晶に集中する。

「……お?」

すると、何かに気付いたのか、小さく声を出す。

「何々⁉︎」

「ここに小さな傷が……。文字も書いてある? …………『あほう』やと⁉︎ どこの誰やん! ウチをあほうとか言うんは!」

激昂した立ち上がった希に、

「詳しくってそっちじゃないよぉ〜!」

思わず穂乃果がツッコミを入れた。

 

 

 

 

トラペッタをあとにした一行は、破られたという南の関所へ向かった。

「希ちゃんの話だと、ドルマゲスはこっちに向かったんだよね」

「みたいだね。それで、その先にはリーザスっていう小さな村があるんだってね」

「道に沿って行けば、ドルマゲスもそこに向かった、って事だ!」

希の占いを三人から聞きながら、にこは少なからず感心していた。

「へえ。その希っての、案外やるのね。見直したわ」

「にこちゃん、会ってすらないにゃ」

「それはアンタもでしょうが」

「あ、そういえば、ユリマちゃんが二人にもよろしく言っておいて、だってさ」

「“キノコと猫さんの女の子も、これからの旅に気を付けて”って言ってたよ」

「にこはどう足掻いてもキノコなのね……もういいわよ」

ややふてくされたにこに、

「やっぱりキニコちゃんの方が「しないっつてんでしょ!」

 

 

 

 

関所に到着すると、その惨状が一目で分かった。

頑丈そうな鉄扉は破壊されひしゃげ、かけられていた石橋には瓦礫が散乱していた。関所を警備していたであろう兵士の姿は見当たらない。

「これは酷いね……」

「ドルマゲスの目的って、何なんだろう?」

「まあー、良からぬ事だというのは間違いなさそうだよね〜」

 

 

結果的に何事もなく関所をスルーできた一行は、ほどなくしてリーザス村に到着。

「待てっ! お前たち何者だ!」

村に入った瞬間、小さな子供に声をかけられた。その態度や雰囲気から、歓迎されているようには見えない。

「えーっと、穂乃果達は……」

「いーや分かってるぞ。こんな時にこの村に来るって事は、お前らも盗賊団の一味だな!」

旅をしてる、と言おうとした穂乃果の言葉を遮って、子供は穂乃果を指差した。

「……どうする?」

「どうするって言われても」

「まずは話させてもらわないとじゃない?」

というか盗賊団って何? と思った穂乃果だったが、子供はその質問すら許さなかった。

「マルク! サーベルト兄ちゃんのカタキだ! 成敗するぞ!」

「がってんポルク!」

ポルクと呼ばれた子供は、すぐ後ろに立っていたマルクと呼ばれたもう一人の子供に声をかけた。

 

[ポルクが現れた!]

[マルクが現れた!]

 

「え、これ……戦わなくちゃいけないの?」

唐突に、理不尽に売られた喧嘩ではあるが、小さな子供相手に剣を抜くのもはばかられる。

穂乃果達が迷っていると、

「こ、これ、お前達! ちょっと待たんかい!」

ポルクとマルクの背後から、声がかかった。

振り返った二人と、穂乃果達が視線を向けると、険しい表情をした年老いた女性が立っていた。

「よく見んかい、この早とちりめが! この方達は、旅のお方じゃろが!」

そう一喝して、二人の頭を小突いた。

「お前達、マリーお嬢様から頼まれ事をしとったんじゃろう。まったく、フラフラしよってからに」

そう言うと、二人をけしかけて追い払った。

ポカンとしている穂乃果達に、

「すみませんねぇ、旅の方。あの子達も、悪い子達じゃないんだけど……」

女性は丁寧に頭を下げた。

「だ、大丈夫です〜。ちょっとビックリしただけで」

「最近、村に不幸があったもんで……」

「不幸?」

「まあ、詳しい話は村の者にでも聞くといいじゃろう」

自分からは話したくないのか、女性は言葉を濁した。

「この村はいい村じゃよ。どうぞ、ゆっくりしていってくだされ」

「はあ……」

何かがあったとは分かるが、その内容までは知りようがない穂乃果達は微妙な反応をするしかない。

「とりあえず、情報を集めよっか」

「だね〜。手分けして、村の人達に話を聞いてみよう」

 

 

 

 

・穂乃果

LV10

どうのつるぎ

うろこのよろい

皮の盾

皮のぼうし

ーーー

 

・曜

LV9

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

皮のぼうし

ーーー

 

・愛

LV9

ブロンズナイフ

皮のこしまき

皮の盾

皮のぼうし

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話

探索回ですね。チャプターの最初は、どうしてもこういうイベントが多くなってしまう。
次回から、また戦闘シーンあります。


村の住人に話を聞いて回った三人は、村の入り口に集合して情報を交換する。

「オハラ家の長男のサーベルトって人が、亡くなっちゃったんだってね」

「うん、しかも、誰かに殺されたって話だし」

「村の人は、盗賊の仕業だって予想してるらしいねー。だからさっきのポル君マル君は、あたし達を盗賊だと勘違いしたんだね」

三者同様、話は似た内容だった。

「それで、その妹さんである鞠莉って人があのお屋敷に住んでると」

愛が視線を、村の奥へと向ける。

そこには、他の民家とは明らかにスケールの違う大きな屋敷が建っていた。

「うーん何やら大変な事があったみたいだよね……。穂乃果達は、ドルマゲスの行方を知りたいだけなんだけど……」

「とりあえず、お屋敷の人にも話聞いてみる? 何か手がかり掴めるかもしれないよ」

「そうしようか〜。そのマリーって人とも、話してみたいし。傷心中なのはちょっと申し訳ないけど」

屋敷へ向かう三人。ふと、曜がポツリと呟いた。

「まさか、この事件にドルマゲスが絡んでるとか……ないよね?」

「まさか〜。いくらなんでも、そう何度も出てきたりしないよ〜」

「そうそう。ネガティブシンキングはやめっ」

「そ、そうだよね!」

 

 

 

 

「お邪魔しまーす」

屋敷の玄関を開けた穂乃果は、控えめに中を覗いた。

すると、すぐそばに立っていた兵士がこちらを見た。

「客人ですか? 正直、おもてなしできる状況じゃないんですけどね……。まあ、あんまり粗相はしないようにお願いしますよ。何しろ自分は、今回の事件が起きてから雇われた新米なものでね……」

大丈夫なのかなという心配がよぎったが、門前払いはされなかったので穂乃果達は改めて屋敷の中へ入る。

目の前の大きな階段を登って二階へ上がると、先ほどのポルクとマルクがとある部屋の前に立っていた。

「何してるんだろ?」

穂乃果が近付くと、

「あ、お前か。さっきは悪かったな」

意外にも、素直に謝るポルク。

「でも、ここは通せないぞ。“誰にも会いたくないから誰も部屋に入れるな”っていうマリー姉ちゃんの命令だからな」

だが、鞠莉の部屋らしいドアの前からは、頑として動こうとしない。

「どうしても?」

「どうしてもだ」

ポルクとマルクの意思は強固なようで、譲る気配はなさそうだった。

「うーん、一度話をしてみたいんだけどなぁ」

穂乃果は腕組みをして悩むが、このままではその願いは叶いそうにない。

「ひとまず、他の人にも話を聞いてみようよ」

「そうそう。それからどうするか、考えればいいじゃん」

二人に説得され、渋々頷く穂乃果。

まずは、すぐ近くのテーブルに座っていた気の強そうな女性に声をかけてみた。

「私はアローザと申します。我が家の家訓では、喪に服している間は家人は家を出る事はなりません。鞠莉にそう言いつけたら、あの子ったら家どころか部屋からも出てきやしないわ」

「あ、ちょっと上手い」

「愛ちゃん」

素で感心した愛を、曜が慌てて肘で小突く。

どうやらこのアローザという女性がこのオハラ家を取り仕切っているようだが、そのアローザでも鞠莉を連れ出す事はできていないようだった。

「うーん、諦めるしかないのかなぁ」

八方塞がりの状況に穂乃果が玄関へ戻ろうとした時、

「……ん?」

曜が何かを見つけた。

「どしたの?」

「あの人……困ってるっぽい?」

見ると、使用人らしき人が樽や木箱の間でオロオロしていた。

「探し物かな?」

「手伝ってあげよう!」

考える前に、穂乃果は声を出して歩いていた。

「んー、やっぱりほのほのはお人好しだねぇ」

「どうかしましたかー?」

穂乃果が声をかけると、

「ど、どうしよう……。ネズミが出るの! 私だってネズミ嫌いなのに、退治しろって言われちゃって……」

使用人は軽くパニックで独り言を呟いていた。

「ネズミ?」

穂乃果がキョロキョロと辺りを見渡すと、

「あ、いた」

ネズミが一匹、壁に空いた小さな穴の奥へと消えていった。

「ああどうしよう……。この壁の向こうはマリーお嬢様のお部屋なのに……。退治できなかったら私、叱られちゃう……」

うろたえる使用人を尻目に、穂乃果はネズミが消えた穴を調べてみる。

「どう、穂乃果ちゃん」

「うーん、真っ暗で何も見えないや……」

ネズミがやっと通れる程度の大きさ。当然、人間では指が数本入る程度である。

「呼びかけたら、聞こえないかなぁ」

「人のお屋敷だし、あまり迷惑な事はしちゃダメだよ?」

「さっきの新米兵士さんが、怒って飛んでくるかもね」

「う……じゃあやめとく……」

壁の穴から顔を離した穂乃果は、今度こそ手詰まりかと頭を抱えた。

その直後、

「……ん? うわわわっ」

穂乃果の上着のポケットが、大きく揺れた。

そしてそこから、

「あ、可愛い」

頭頂部から背中にかけて一筋の長いたてがみのような毛の生えた、つぶらな目をしたネズミのような動物が顔を出した。

「穂乃果ちゃん、その子は?」

「いやー、そういえばそうだった。忘れてたよ」

穂乃果はそのネズミらしき動物を手のひらに乗せると、

「名前はトーポっていうんだ〜。多分、ネズミだと思う」

「ほのほののペット?」

「うーん、分かんない。気が付いたら、一緒にいたから」

「へー。でも、普通のネズミとはちょっと違うみたいだね。全然逃げないし、賢そう」

トーポの頭を撫でながら、曜は癒される。

「……あ、もしかしたら、トーポちゃんならこの穴から向こうに行けるんじゃない?」

「え?」

穂乃果は、愛の声につられて視線を下げる。確かに、ネズミと同サイズのトーポなら問題なく穴へ入れそうだった。

「トーポ、お願いできる?」

言葉が通じたのか定かではないが、トーポはじっと穂乃果を見つめ返す。それを肯定と受け取ったのか、穂乃果は穴の前にトーポを下ろしてみた。

「…………」

「あ、入った!」

するとトーポは、軽快な足取りで穴の奥へと消えていった。

 

 

しばらくすると、トーポは穴から出てきた。何故か、後ろ向きで。

「どうしたんだろ?」

首を傾げた穂乃果。よく見ると、トーポが何かを咥えていた。

「……手紙?」

何やら文字の書かれた、一枚の紙切れだった。

「どれどれ……」

拾い上げた穂乃果は、その手紙を読んでみる。曜と愛も、脇から覗き込む。

「『誰がこの手紙を読んでいるのか分からないけれど、もし私以外の誰かが読んでいるなら、この手紙は遺書だと思って下さい。きっと今ごろ、私はこの世にはいないでしょう。私は東の塔に行きます。サーベルト兄さんのカタキを討つまで、村には戻りません。私は、自分の信じた道を行きます。あと、ポルクとマルク。ウソついてsorry。鞠莉』だって……」

「え、これ……大変な事じゃない?」

「流石に遺書は、穏やかじゃないねぇ……」

穂乃果は手紙と目の前の壁を見比べながら、

「……もしかして、鞠莉ちゃんは今部屋にいないんじゃ……」

「手紙の内容からすると、そうっぽいね」

「ポル君とマル君、騙されちゃってるみたいだ。これは教えてあげないと」

三人は手紙を持って、未だ部屋の前に立ち続けるポルクとマルクの元へ行くと、部屋には誰もいない旨を告げた。

「……はあ? マリー姉ちゃんは部屋にはいない? そんなわけないだろ。ウソつきめ」

案の定、鞠莉が部屋にいると信じ切っているポルクは怪訝な顔。

「もしも本当にいないって言うなら、その証拠でも持ってきてみろっての。べ〜だ!」

「く〜……生意気なぁ……!」

「ほ、穂乃果ちゃん、落ち着いて……」

思わずヒートアップした穂乃果を押さえて、曜は手紙を差し出した。

「はいコレ。読んでみて」

「……何だ? コレ」

手紙を受け取ったポルクは、サッと文章に目を通した。

「はーん? 何だコレ! コレがマリー姉ちゃんの書いた手紙? ふん! お前、ウソばっか言うよな!」

「むむむっ……!」

「はーい曜も落ち着く落ち着く」

思わず半歩踏み出した曜を、愛がなだめる。

「まあまあ。もし何だったら、部屋の中を見てみればいいじゃん?」

「ウソつきの言う事なんて信じられるか!」

「お? 愛さんも怒っちゃうよ?」

笑っていない笑顔で愛も腕組み。

ついに止める存在がいなくなったかと思われた前に、

「……でも、何も知らないこいつらが書いたにしては、ちょっとホントっぽくない?」

マルクが口を開いた。

「むぅ…………」

それには同感なのか、ポルクはしばらく悩む。

「…………よーし分かった! じゃあ今確かめてやる!」

ポルクは強気な姿勢を崩さず、こちらに睨みを効かせながら部屋のドアを少し開けて中を覗く。直後、勢いよく開け放った。

「わびゃっ⁉︎」

不幸にもドアの前に立っていたマルクは、ドアに跳ね飛ばされた。

「うおおっ⁉︎ マジでいねーじゃん!」

部屋の中から響く声。内心不安だった三人は、顔を見合わせて安堵する。

「うわわわわ……こりゃヤバイって……」

ポルクは手紙を読み返し、

「一人で東の塔にって……そんな事したら、サーベルト兄ちゃんみたいに……」

他を置いてけぼりにして慌て出す。

「と、とにかく、こうしちゃいられない! マリー姉ちゃんを東の塔から連れ戻さないと!」

そう言うと、ポルクは穂乃果達を指差す。

「お前ら! お前らもこうなった原因の一つなんだからな! おいらが東の塔の扉を開いてやるから、中からマリー姉ちゃんを連れ戻してこい! いいな?」

言い分はこの上なく理不尽だが、

「困ってるみたいだし、助けないと!」

「乗りかかった船を降りるなんて、私自身が許せないヨーソロー!」

「人助け、愛さん頑張っちゃうよ」

根っからのお人好しの三人は、気にすることなく了承。

「じゃあ早く行くぞ! ……あと、魔物と戦うのは、お前達に任せるからな!」

 

 

 

 

・穂乃果

LV10

どうのつるぎ

うろこのよろい

皮の盾

皮のぼうし

ーーー

 

・曜

LV9

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

皮のぼうし

ーーー

 

・愛

LV9

ブロンズナイフ

皮のこしまき

皮の盾

皮のぼうし

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話

おばけきのこは、やりたかったネタの一つ。


リーザス村を出た一行は、

「ほら、あそこに見えるだろ?」

ポルクが示した左側を見た。

視界の先には、三つ羽根の風車が回る建物。

「あそこがリーザス像の塔だ。マリー姉ちゃんは多分、あそこに……」

「よし、行こうみんな!」

幸先よく進み出した穂乃果達だが、塔までは遠くはないが近くはなく、道中にモンスターもいる。

 

[サーベルきつねが現れた!]

「タホドラキーが現れた!]

[タホドラキーが現れた!]

 

鋭い細剣を持った狐と、緑色をしたドラキー。

 

[サーベルきつねのこうげき! 穂乃果は7のダメージを受けた!]

 

「うっ、速いねあのモンスター」

先手を打たれて怯んだが、穂乃果は気をとり直して武器を構える。

 

[穂乃果はかえんぎりを放った! サーベルきつねに19のダメージ!]

 

「やっぱり、場所が変わればモンスターの生息も変わるんだね。気をつけなきゃ」

 

[曜のこうげき! サーベルきつねに20のダメージ! サーベルきつねを倒した!]

[愛のこうげき! タホドラキーAに18のダメージ!]

[タホドラキーAのこうげき! 曜は2のダメージを受けた!]

 

「おや、あまり強くない?」

意外なダメージの低さに驚きを見せたが、

 

[タホドラキーBはルカナンをとなえた!」

[穂乃果の防御が9下がった!]

[曜の防御が10下がった!]

[愛の防御が9下がった!]

 

普通のドラキーとは、やはり違う行動を取ってくる。

 

[タホドラキーAのこうげき! 愛は6のダメージを受けた!]

 

「ちょっとダメージ増えてる! 他のモンスターといっぺんに出てきたら、厄介かも……」

「長引くと不利になりそう。早く倒そう!」

今後も戦闘が続く以上、一つの戦闘に時間をかけてはいられない。穂乃果は柄を握り直すと、武器を振り上げた。

 

[穂乃果のこうげき! タホドラキーAはひらりと身をかわした]

 

「くぅ……避けられた!」

「ほのほの、どいて!」

「へ?」

 

[愛はメラを唱えた!]

 

「うわぁっ!」

飛来した火の玉を見て、穂乃果は慌てて逃げる。

 

[タホドラキーAに18のダメージ! タホドラキーAを倒した!]

 

「愛ちゃん! びっくりしたよ!」

「やーごめんごめん。呪文なら避けられないかと思ってさ」

「あはは……こんなんで、大丈夫かな」

 

[曜のこうげき! タホドラキーBに22のダメージ! タホドラキーBを倒した!]

[魔物のむれをやっつけた!]

 

幼い故に戦力にならないとはいえ、穂乃果達の戦闘をやきもきしながら見ていたポルク。安全が確認できるやいなや、

「さあ行くぞ! 時間が無いんだって!」

すぐに駆け出す。

「そんなに急がなくても……」

「まあまあ、人の命が最優先って事で、ね?」

「全部解決したら、またゆっくり戦えばいいじゃん?」

非常事態ではあるものの、勝利の余韻に浸れない三人は若干のモヤモヤが残ってしまう。

そして戦闘は一回で済むはずもなく、

 

[おおきづちが現れた!]

[リリパットが現れた!]

[かぶとこぞうが現れた!]

 

木のハンマーを持った一頭身のモンスターに、頭巾をかぶった弓矢を携えたモンスター、大きなツノを持ったカブトムシのようなモンスターが立ちふさがった。

「……あれ? あの左のハンマー持ってるモンスター、どこかで見た事ない?」

「あ、本当だ。滝の洞窟で道を塞いでたモンスターにそっくり」

「もしかして、お仲間なのかな?」

「話したら、前みたいに戦わなくてよかったりするかも? おーい、穂乃果達強いから、度胸に免じて見逃してくれるー?」

 

[おおきづちのこうげき! 穂乃果は12のダメージを受けた!]

 

「痛いっ! そんな事なかった!」

「何やってるの穂乃果ちゃん……」

穂乃果の質問に対して、相手からの返事はハンマーだった。

「ぐぬぬ、しかも結構強いし……」

「滝の洞窟にいたモンスターも、本当に強かったのかもね。見逃してもらって正解だったのかな」

モンスターを目の前にして、攻撃されてもなおお喋りをする三人を見ながら、

「戦う気あるのかコイツら……」

ポルクは思わず漏らす。その言葉を、

「よーく分かるわその気持ち……」

同じく見守るだけのにこは深く頷く。

「……ずっと気になってたんだけど、お前モンスターじゃないんだよな?」

「失礼ね。このにこにーのどこがモンスターだって言うのよ」

「もう全体的に」

「ぬわぁんですって⁉︎」

「ねえ、凛は凛は?」

「お前は……まあ耳とか猫だけど、見た目は人間だし大丈夫だな。こっちのキノコは、村に入ってきたら間違いなくやっつけてたな」

「く、屈辱だわ……。こんなガキンチョに、言いたい放題言われるなんて……。ドルマゲス倒して呪いが解けたら、見てなさいよ!」

「だから誰なんだよそのドルマゲスって」

非戦闘員の三人が言い合っている間に、

 

[魔物のむれをやっつけた!]

 

穂乃果達はモンスターを殲滅。

「おーい、どうしたの〜?」

「仲良くなれた感じっぽくない?」

「仲良くなんてなってないっての! 早く行くわよ!」

「おい、道案内できるのおいらだけなんだぞ!」

「やっぱり仲良しに」

「「なってない!」」

 

 

十分ほどで塔のすぐ近くにやってくると、脇の茂みからまるで待ち伏せのようにモンスターが飛び出してくる。

 

[おばけきのこ達が現れた!]

 

「に、にこちゃん⁉︎」

「まさかの裏切り⁉︎」

「喧嘩売ってんのかあんたらは」

反射的に叫んだ穂乃果と曜に、にこは眉間を押さえる。

「でもよく見て、三体もいるよ。もしかして、にこにー分身できたの?」

「さっさと倒しなさい!」

三人はいたって真面目なのだが、傍目には茶番にか見えない。いっその事、予備の武器を持って自分が戦ってやろうかとにこは本気で考えた。

 

[魔物のむれをやっつけた!]

 

「イエーイ、にこちゃん討伐!」

「私じゃないっつってんでしょ!」

 

 

 

 

 

ようやく、リーザス像の塔へ到着した一行。

目の前に、両開きかと思われる扉が。

「試しに開けてみろよ。別にカギはかかってないからさ」

「む……じゃあ見ててよ」

ポルクに挑発され、穂乃果は扉を思い切り押す。

「ぐぬぬぬぬぬ…………!」

しかし、扉はビクともしない。

「ダメだぁ、動かない……」

「もしかして、引くんじゃないの?」

穂乃果の代わりに進み出た愛が、今度は思い切り扉を引いてみる。

「むむむ……っ、違うっぽいね」

だが、やはり扉は動かない。

曜にも正解は分からなかったので、三人は降参というようにポルクを見た。

ポルクは得意げな表情を浮かべると、何故か扉の前でしゃがみ込む。

「この扉はな、こうやって開けるんだよ!」

そして、扉を持ち上げた。上に。

『…………』

開いた口が塞がらない三人。

「驚いたか! この扉は、なんと上に開くようにできたんだ!」

「それは、確かに分からなかったなぁ……」

「両開きに見えるのも、トリックって事か……」

「いやー、これは流石の愛さんも一本取られた!」

「あの日、この扉が開いてたのを不思議に思ったサーベルト兄ちゃんが調べる為にこの塔に入って行ったんだ。そしたら……」

自然と途切れる言葉。

「……とにかく、おいらに手伝えるのはここまでだ。年に一度の聖なる日以外は、塔の中にもモンスターは出る。マリー姉ちゃんの事、頼んだぞ!」

最後まで横柄だったポルクだったが、その眼差しは真剣。

「任せてよ!」

穂乃果も、持ち前の笑顔を見せて胸を叩いた。

 

 

 

 

・穂乃果

LV11

どうのつるぎ

うろこのよろい

皮の盾

皮のぼうし

金のブレスレット

 

・曜

LV10

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

皮のぼうし

ーーー

 

・愛

LV10

ブロンズナイフ

皮のこしまき

皮の盾

皮のぼうし

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話

期間空いてすみませんでした。週一では更新できるように頑張ります。


ポルクと別れ、塔へと入った三人は、改めて背後の扉を見つめる。

「……あんな仕掛けになってたなんてねー」

「確かにあれは、知らないと開けられないね」

「下手に鍵かけるより、有効かもしんないね〜」

仕掛けは単純だった故に見破れなかった事が若干悔しい三人だったが、

「……とにかく、今はこの塔にいるっていう鞠莉ちゃんを連れ戻す事だね!」

気を取り直して目の前の塔を見上げる。

「……何か話によると、盗賊とかにリーザス像のお宝を盗まれないように入り組んだ造りになってるらしいよ」

曜がポルクから聞いた情報を伝える。

「んー……難しい事は分かんない! だから曜ちゃんに任せた!」

先陣切る穂乃果は、胸を張って言い切った。

「ええ……」

「愛さんも無理!」

「ええ……」

作戦会議くらいすべきではと思った曜だが、

「さあ行こう!」

穂乃果がその提案を聞き入れるとも思えず。諦めて後ろを歩く。何かあったら、すぐに忠告できるように注意しながら。

 

 

 

[じんめんガエルが現れた!]

 

姿を見せたのは、赤紫色をしたカエル型のモンスター。つぶらで穏やかにも見えるその姿に、

「んー、あんまり強そうじゃないね」

穂乃果は剣を握る手を少しだけ緩めた。

「ちょっとほのほの、あんまり油断したらダメだよ?」

「む、それもそうだね。よーしやるぞー!」

分かりやすくやる気を出した穂乃果。

 

[穂乃果はかえんぎりを放った! じんめんガエルに22のダメージ!]

 

穂乃果の攻撃を受けたじんめんガエルは、立ち上がりながらくるりと後ろを向いた。

「──うわっ⁉︎」

誰ともなく驚いた声が上がる。カエルの背中には、青い舌を垂らした悪人面が模様のように描かれていたからだ。

「……急に怖そうになったね……」

 

[じんめんガエルはギラを唱えた!]

[穂乃果は12のダメージを受けた! 曜は13のダメージを受けた! 愛は12のダメージを受けた!]

 

「う……裏返ったら強くなった……?」

「もしかしたら、そういうモンスターなのかも……」

「とにかく、もう一度攻撃してみよっか!」

 

[愛のこうげき! じんめんガエルに10のダメージ!]

 

再度攻撃を受けたじんめんガエルは、再びくるりと半回転すると無害そうなカエルの顔がこちらを向いた。

「やっぱり……」

ひとまず予想が的中した事を知った三人。曜の攻撃でじんめんガエルを撃破する。

「いやー、面白いモンスターがいるんだねぇ」

ホイミを唱えて回復しながら、穂乃果は呑気に呟く。

「……私としては、もうちょっと慎重に行動してくれるとありがたいんだけど……」

「よーし、この調子で頑張るぞー!」

「うん、聞いてないよね」

予想はしていた、とばかりに曜は遠い目。その肩を、愛が軽く叩いて親指を立てる。

 

 

 

[ベビーサタンが現れた!]

[ベビーサタンが現れた!]

[ホイミスライムが現れた!]

 

ベビーサタンへ攻撃を仕掛けた穂乃果だったが、

 

[ホイミスライムはホイミを唱えた]

[ベビーサタンAのキズが回復した!]

 

敵の呪文で回復されてしまう。

「ぐぬぬ、先にあっちから倒すべきか……」

穂乃果が標的を変えた直後、

 

「ベビーサタンAはイオナズンを唱えた!]

[ベビーサタンBはメガンテを唱えた!]

 

「えっ⁉︎ それってすっごく強い魔法じゃなかった⁉︎」

「そんないきなり……⁉︎」

「それはびっくり……!」

唐突な展開に三人は身構える。が、

 

[しかしMPが足りなかった!]

[しかしMPが足りなかった!]

 

攻撃は飛んで来なかった。

「な、なーんだ……」

「びっくりした〜……」

「思わせぶりな事するねー。愛さん騙されちゃったよ」

安堵で胸を撫で下ろした三人は、

 

[穂乃果はかえんぎりを放った!]

[曜はかぶとわりを放った!]

[愛はポイズンダガーを放った!]

 

お返しを言わんばかりに一斉攻撃。

 

 

 

 

しばらく内部を攻略していると、壁で仕切られた部屋へ出た。

「あれ? 行き止まりだ」

振り返っても、登ってきた階段しか見当たらない。

「道、間違えたかなぁ……」

三人は首を傾げ、部屋を見回してみる。

「──ん?」

と、愛の目が何かに止まった。

「愛ちゃん、どうしたの?」

「この壁、なーんか怪しくない?」

「怪しい? 何が?」

「ホラ、この顔見たいな模様」

愛は壁にある人の顔のような丸い模様へと近付く。穂乃果と曜は、その後ろから覗き込む。

「愛さんの直感が、キュピーンって告げてるんだよね。ここ何かある! って」

そう言って壁に愛の手が触れた瞬間、

「──うわわっ⁉︎」

「おっとっと⁉︎」

三人が立っていた床が、突然回転し出した。そして、回転扉の要領で、壁の反対側へと出た。

「……おお、なるほど……」

感心したように曜が呟き、

「ふふーん、愛さんの直感はよく当たるのだ!」

愛はドヤッと胸を張る。

「ほ〜、でもこれ、どういう仕掛けになってるんだろ?」

疑問に思った穂乃果は、つい壁の模様へと手を伸ばし触ってしまう。

結果、

「……えっ?」

ゴゴゴゴ、と。再び壁が回転し穂乃果は反対側へ出てしまう。

「う、うわぁ! モンスターいるぅ〜!」

慌てた声。そして再び回転する壁。酷く焦った様子の穂乃果が、壁に張り付いて現れた。

「穂乃果ちゃん……」

「なにやってるのさ〜」

呆れ顔の二人の視線を受け、

「う……もう穂乃果は前歩かない! 二人に任せた!」

反省したのか機嫌を損ねたのか、定かではないが曜と愛の一歩後ろへ下がった。

やれやれと肩をすくめた二人は、別の壁の模様の前へと向かった。

 

 

 

 

「──あ、ここが最上階みたいだね」

階段を登った曜が、口を開いた。

「え? あ、ホントだ」

これ以上上へ続く階段は無く、正面には女神の石像が鎮座していた。その両目の部分には、質素な石像には不釣り合いなほど紅い宝石が煌めいていた。

「てゆーか、もう夜だね」

塔の窓から見える外の景色では、星空が輝いていた。

「結構時間かかっちゃったんだねー」

「入り組んでたし、大変だったもんね」

穂乃果と曜はやり切ったように会話をしているが、

「いやいや、お二人さんここに来た目的覚えてる? 肝心のマリーちゃんがいないじゃん」

愛の言葉で目的を思い出す。

「そ、そうだった! 進むのに必死だったけど、そういえばその鞠莉ちゃん見てない!」

「途中で追い抜いちゃったのかな? もしかしたら、鞠莉ちゃんの目的の場所はこの最上階じゃなかったりして……」

「うーんでも、ここ以外にそれっぽい場所も無かったと思うけど……」

三人は特に考えるでもなく、石像へと歩みを進める。まるで、紅い宝石に吸い込まれるように。

「……んー、穂乃果宝石とか全然分からないんだけど、これは綺麗だね」

「私はちょっと分かるけど、これはかなり価値ある宝石だと思うよ」

「お、目利きの曜が言うなら間違いないんだろうね。これは盗賊さん達も狙いたくなる訳だ」

そんな雑談を交わした後、これからどうするか穂乃果が口を開きかけた瞬間、

 

 

「──そこにいるのは誰⁉︎」

三人の背後から、鋭い声が飛んだ。

 

 

 

 

・穂乃果

LV13

どうのつるぎ

うろこのよろい

皮の盾

皮のぼうし

金のブレスレット

 

・曜

LV12

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

皮のぼうし

スライムピアス

 

・愛

LV12

ブロンズナイフ

皮のこしまき

うろこの盾

皮のぼうし

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話

コメディ一直線?
はて何の事やら。


「──そこにいるのは誰⁉︎」

飛んできた鋭い声。三人か振り返ると、

「あなた達……」

そこにいたのは、花束を抱えた金髪の女の子。

この人が件のマリー姉ちゃんかなと三人が思ったのも束の間、

「とうとう現れたわね! リーザス像の瞳の宝石を狙って、絶対にまた現れると思ってたわ!」

確実に良からぬ感情を抱かれていた。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 穂乃果達は何もしてな──」

慌てて穂乃果が弁明しようとした瞬間、彼女は呪文を唱え火の玉を放ってきた。

「うひゃあ⁉︎」

間一髪で避け、火の玉は像へ直撃する。

「今度は逃がさないわ!」

すると、先ほどより大きな火の玉を生成し始める。

「うわわわわ……ど、どうしよう⁉︎」

「と、とりあえず話ができる状況じゃないよ!」

「何とかして、落ち着かせないと……」

三人がたじろいだ時、

 

──待て!

 

「「「「⁉︎」」」」

どこからか声が響いた。

 

──私だ、鞠莉。私の声が、分からないか。

 

「さ、サーベルト兄さん……⁉︎」

鞠莉の瞳が、驚愕に見開かれる。

 

──その呪文を止めるんだ、鞠莉。私を殺したのは、この方達ではない。

 

「と、止めろって言われても……もう、無理デース!」

発射寸前だった呪文の照準を、鞠莉は強引に変えた。

「うわっ⁉︎」

火の玉は穂乃果の顔をかすめて、像の脇にあった燭台を粉砕した。

「…………」

その威力に穂乃果達が戦々恐々していると、

「うひゃ⁉︎」

そんな穂乃果を押し退けて、鞠莉は像へと駆け寄る。

「……ほのほの、大丈夫?」

「さっきからこんなのばっかりだよぉ!」

嘆く穂乃果を、鞠莉は完全にスルー。

「サーベルト兄さん⁉︎ 本当にサーベルト兄さんなの⁉︎」

 

──ああ、本当だとも。聞いてくれ、鞠莉。そして、そこにいる旅の方よ。

 

呪文の直撃を受けて燃え上がる像は、訥々と語り出す。

 

──死の間際、リーザス像は我が魂のかけらを預かって下さった。この声も、その魂のかけらの力で放っている。だからもう、時間が無い。

 

「…………」

穂乃果達も、ゆっくりと像の傍まで歩み寄る。

 

──像の瞳を見つめてくれ。そこに、真実が刻まれている。さあ、急ぐんだ。

 

言われるがまま、鞠莉と三人は像の紅い宝石を見つめる。

 

──あの日、塔の扉が開いていた事を不審に思った私は、一人でこの塔の様子を見に来た。そして……。

 

頭に流れ込んでくる、ややノイズのかかった映像。

今いる塔の最上階を歩いているのは、一人の精悍な男性。おそらくサーベルトだろう。

付近には誰もいないが、サーベルトは警戒して辺りを見回す。

すると、先ほどまで無人だった場所に、一人の男が唐突に現れた。道化師のような見た目をした、背の高い男が。

「だ、誰だ貴様は⁉︎」

腰の剣に手をかけたサーベルトに、

「悲しいなぁ……」

男がは口を開く。

「何だと……? 質問に答えろ! 貴様は誰だ! ここで何をしている!」

「くっくっく……。我が名はドルマゲス。ここで、人生の儚さについて考えていた」

「ふざけるな!」

激昂したサーベルトだったが、

「くっ……⁉︎ どうした事だ! 剣が……剣が抜けん!」

腰の剣は、錆びついたかのようにビクともしない。

「悲しいなぁ……。君のその勇ましさに触れるほど、私は悲しくなる」

意味深なセリフを呟くドルマゲスは、手にした杖でサーベルトを示す。

すると、

「ぐわっ⁉︎ き、貴様……何をした⁉︎ 身体が……くそっ! 動かん!」

サーベルトの身体が硬直してしまう。

もがくサーベルトへと、悠々と近付くドルマゲス。

「おのれ……! ドルマゲスと言ったな……。その名前、決して忘れんぞ!」

睨みをきかせるサーベルトに、

「ほう? 私の名を忘れずにいてくれるというのか。なんと喜ばしい事だろう」

ドルマゲスは一切臆さない。

「私こそ忘れはしない。君の名は、たった今より、我が魂に永遠に焼き付く事になる。──さあ、もうこれ以上私を悲しませないでおくれ」

「くぅっ……! き、貴様ぁぁぁぁっ!」

吠えるサーベルトを抱くようにドルマゲスは身を寄せると、持っていた杖を何の躊躇いもなく突き立てた。

「かはっ…………!」

力なく倒れたサーベルトへ跪くと、

「君との出会い、語らい、その全てを、我が人生の誇りと思おう……。君の死は、ムダにはしないよ」

優しく語りかける。そして立ち上がると、

「くっ……くっくっく…………。んくっ……くっくっく…………。きひゃっ! きひゃひゃ! ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ! ヒャーッァッヒャッヒャッヒャッヒャッ!」

奇怪な笑い声を上げ、音もなく姿を消した。

それを見つめ続けた、リーザス像の紅い瞳。

 

 

 

──旅の方よ、リーザス像の記憶、見届けてくれたか。私にも、何故かは分からぬ。だが、リーザス像は、そなた達が来るのを待っていたようだ。願わくば、このリーザス像の記憶が、そなた達の旅の助けになれば、私も報われる。

 

「…………」

穂乃果達は、言葉が出ない。

 

──鞠莉よ、これで我が魂のかけらも、役目を終えた。お別れだ……。

 

「No! どうすればいいの⁉︎ お願い……行かないでよ、兄さん……」

全身を震わせて別れを拒む鞠莉。

 

──鞠莉、最後に、これだけは伝えたかった。この先も母さんは、お前に手を焼く事だろう。だが、それでいい。お前は、自分の信じた道を進め。

 

燃える炎が、声と共に小さくなっていく。

 

──さよならだ……鞠莉。

 

そして、完全に消えてしまう。

「あ、あ……あ……。う……ううぅっ…………!」

鞠莉は、すがりつくように、泣き崩れてしまう。

それを見守る三人。

「なんて事よ……。あのサーベルトってのを殺したの、間違いなくドルマゲスじゃないのよ!」

感情を吐き出すように呟くにこ。

「って、キニコちゃんいつの間に⁉︎」

オーバーなリアクションで飛び上がる愛。

「何となくだけど、サーベルトって人も、にこ達にドルマゲスを倒せって言ってるっぽいわね」

にこは三人に向き直ると、

「あの人の想い、無駄にできないわよ!」

「ドルマゲスを追いかける理由が、増えたって事にゃ! 凛も許さないよ!」

穂乃果達も、真剣な表情で頷く。

「──Sorry、あなた達、お願いがあるの」

泣き崩れる鞠莉が、口を開いた。

「どうか……今は一人にさせて……お願い」

「────」

何か言いかけた穂乃果の肩を、曜が叩く。そして小さく首を横に振る。

「…………」

何かを思った穂乃果だったが、小さく頷いた。

「……一旦、リーザス村に戻ろっか」

「うん」

「そだね」

穂乃果達は、泣き崩れる鞠莉を尻目に、階段を降りていった。

「──ねえ……」

その前に、鞠莉が再び声をかけてきた。

「名前も分からないけど……誤解してSorry……。今度また、ゆっくり謝りマス……」

穂乃果は無言で小さく頷くと、ほんの少しだけ笑顔を作った。

それを見て安心したのか、

「もう少ししたら、村に戻る……から……」

鞠莉はまた涙を溢れさせる。

 

 

 

 

塔を後にした五人はすっかり暗くなった道を歩きながら、

「ドルマゲス……無関係な人を殺して何がしたいのよ! さっさと見つけ出して、にこにーの鉄槌をお見舞いする必要があるわ!」

「にこちゃん戦えないにゃー」

「まあまあ。それにしても、肝心のドルマゲスはいなかったね。どこに行っちゃったんだろ……」

「何か情報が掴めるといいんだけど……」

「まあひとまずは、マリーちゃんが無事だった事をポル君マル君に伝えに行こうよ。話はそれからそれから」

 

 

 

 

・穂乃果

LV13

どうのつるぎ

うろこのよろい

皮の盾

皮のぼうし

金のブレスレット

 

・曜

LV12

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

皮のぼうし

スライムピアス

 

・愛

LV12

ブロンズナイフ

皮のこしまき

うろこの盾

皮のぼうし

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話

リーザス村に戻った一行は、夜も遅いしとひとまず宿屋に向かった。

「──おや? あれはポル君じゃない?」

愛の言う通り、宿屋の入り口の前にポルクが仁王立ちしていた。

「もう遅い時間なのに、律儀に待ってたのかな? 偉いねぇ〜」

「マリー姉ちゃんが心配だったのかもね」

「じゃあ、とりあえず無事だったって報告してあげないとね!」

三人が宿屋の前まで行くと、

「あ、帰ってきたか! 遅いから心配してたんだぞ!」

「一応心配してくれてたんだね」

「……で、マリー姉ちゃんは⁉︎」

穂乃果は、塔での出来事をかいつまんで説明する。鞠莉に燃やされそうになった事は、黙っておいた。

「ふんふん…………。そっか。塔でそんな事が……」

真剣に話を聞くポルク。もう疑っている様子は無さそうだった。

「まだちょっと心配だけど、マリー姉ちゃんが帰ってくるって言ったんならきっと大丈夫だな。──穂乃果、とにかくありがとな。おいらはお前の事、ちょっとだけそんけーしたぞ」

「おっ、ホントに? 嬉しいな!」

「ねえ愛さんは?」

「お前達二人もだ! ありがとな!」

「案外、根は素直なのかもね」

聞こえてるぞ、と曜を睨んだポルクは、

「──お前達が戻ってきたら、宿屋に泊めてもらえるようにお願いしてきたトコだ。マルクと二人でこづかいはたいたんだからな。しっかり感謝して泊まれよ」

「お、おごりとは羽振りがいいねぇ!」

「いや、今お小遣いはたいたって言ってたけど……」

ようやく扉の前からどいたポルクは、

「とにかく、今は塔に怪しいヤツがいないって分かって安心したぞ。……でもそのドルマゲスってヤツ、どこに行ったんだろうな?」

三人にもそれは分からない。ポルクのその質問には答えられなかった。

 

 

 

 

翌日。グッスリ寝た穂乃果が目を覚ますと、すでに二人は荷物の準備をしていた。

「あ、おはよう穂乃果ちゃん。鞠莉ちゃん、村に戻ってきたんだってさ」

「何か有意義な話が聞けるかもしれないから、今からお屋敷行こうって話してたんだよ」

「確かに! 行こう!」

穂乃果はベッドから飛び起きると、荷物を掴んで我先にと宿屋から飛び出していった。

それを目で追っていた二人は、

「……まあ、穂乃果ちゃんらしいかな?」

「確認するまでもなかったね〜」

顔を見合わせて苦笑い。

 

 

一足先に屋敷に到着した穂乃果は、急遽雇われてしまった不憫な衛兵に鞠莉はどこかと訊ねる。

「鞠莉お嬢様なら、二階で奥様とお話中ですよ。……あまり、火に油を注ぐような事はしないで下さいね?」

信用ないなぁ、と穂乃果は愚痴りながら、追いついた曜と愛と共に階段を登る。

「鞠莉ちゃんはいきなり魔法ぶっ放してくるようなおてんばだったし、アローザさんもかなり気が強そうだったよね……。大丈夫かなぁ?」

「ちゃんと“話し合い”になってるといいね〜」

「……愛ちゃん、何でちょっと楽しそうなの……」

曜が呆れたその時、

「──もう一度聞きます。鞠莉」

頭上から固い声が降ってきた。

「あなたには、兄であるサーベルトの死を悼む気持ちは無いのですか」

念の為コッソリ覗くと、アローザが厳しい表情で腕を組んでいた。その正面に、昨日見た金髪の女性が。背中を向けているため、表情は分からない。

「……またそれなの? 何度も言ってるじゃない。悲しいに決まってる。ただ家訓家訓って言うだけじゃどうにもならない事だってあるでしょう⁉︎」

「なんですって……?」

アローザは、鞠莉に詰め寄る。

「あなたは由緒正しきオハラ家の血を引く者よ! 古くからの家訓は絶対です! サーベルトだってそんな事は望んでいないはずよ! 今は静かに、先祖の教えに従って兄の死を悼みなさい!」

「先祖の教えだ家訓だって、それが一体何になるのよ!」

鞠莉はアローザの言葉を一蹴すると、グッと言葉に力を込める。

「……自分の信じた道を進めって、そう言われたのよ」

そして、アローザを強く睨む。

「死を悼むだけなのは、私の信じる道じゃない!」

「……………………」

その言葉を受けて、アローザは少し口を閉じた。それから、

「……分かったわ。それほど言うなら、好きなようにすればいいでしょう。……ただし」

今度は、アローザが鞠莉を睨む。

「私は今から、あなたをオハラ家の一族とは認めません。この家から、出ておいきなさい!」

「勿論そのつもりよ。こんな家、私の方から勘当デース!」

鞠莉は言い捨てると、自分の部屋の前に立つポルクとマルクの元へ向かった。

「……ポルク、マルク。あなた達の事、色々と利用しちゃってごめんね」

「……マリー姉ちゃん、本当にこの家やめちゃうの? せっかくのお屋敷なのに……」

「それについては、考えがあるのよ」

考え?

後ろで話を聞いていた穂乃果達も首を傾げたが、真意は誰にも分からない。

そして自室で準備をした鞠莉は、

「それじゃあ、今までお世話になりました! ごきげんよう!」

そのまま屋敷から出て行ってしまった。

『…………』

残された穂乃果達は、

「……えっ、何しに来たんだっけ……」

呆然と呟くしかない。有意義な話なんて当然無かったし、何より話を聞きたかった本人がいなくなってしまったのだ。自ら勘当を宣言するという、不思議な事態で。

「……とりあえず、出よっか」

「うん……そうだね」

「もしかしたら、まだ近くにいるかもしれないしねー」

屋敷で親子喧嘩を見ただけの三人は、再び村へととんぼ返り。

ひとまず、鞠莉の姿を探す。が、

「いないねー」

すでに村を出た後なのか、目立つ金髪の姿はなかった。代わりに、

「お、ポル君マル君発見」

巡回のつもりなのだろうか、村を駆け回るポルクとマルクを見つけた。

「ああ、お前達か。マリー姉ちゃんなら、港町ポルトリンクに行くって言って出て行ったぞ」

「ポルトリンク?」

「ポルトリンクに怪しいヤツの噂を聞いたから、それを突き止めるんだってさ。ポルトリンクへなら、塔の手前を右に曲がってずっとまっすぐ行けば着くぞ」

ポルクは、地面に簡単な地図を描いて教えてくれる。

「怪しいヤツって、もしかしてドルマゲスのことかな?」

「分からないけど、可能性はあるよね」

「他に情報も無いし、ひとまずはそのポルトリンクって港町に行ってみようか」

三人はポルクとマルクにお礼を言うと、リーザス村をあとにした。外で待っていたにこと凛に事情を説明し、目的地を告げる。

「ふーん……まあ、そうするしかないわよね。そこで何か、情報が手に入るといいんだけど」

「行ってみるにゃ!」

 

 

 

 

・穂乃果

LV13

どうのつるぎ

うろこのよろい

皮の盾

皮のぼうし

金のブレスレット

 

・曜

LV12

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

皮のぼうし

スライムピアス

 

・愛

LV12

ブロンズナイフ

皮のこしまき

うろこの盾

皮のぼうし

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話

お久しぶりです。ぼちぼち更新頑張っていきますよー。


三人はリーザス像の塔の手前まで来ると、右側に伸びる街道へ視線をやる。

「こっちの道だね。確かに、どこに繋がってるか気になってはいたんだよね〜」

「ポル君マル君の話だと結構遠いみたいだから、気合い入れて進もうじゃん?」

「だね〜」

ほんの数分進むと、

「──海だ〜!」

穂乃果が叫んだ通り、目の前に砂浜の海岸線が現れた。

「ねえねえ、ちょっと行ってみようよ!」

目をキラキラさせて、穂乃果メンバーへ振り向く。

「ったく、初めて見た訳じゃあるまいし、子供じゃないんだから。私達にはドルマゲスと、ついでに鞠莉とかいうのを追いかける用事が──」

「ヨーソロー!」

「ひゃっほー!」

呆れたにこの説明は、無情にも元気な声に遮られる。

「……あんたらねぇ……」

にこが深々とため息をつくのと、

 

[シーメーダ達があらわれた!]

 

魔物が姿を見せたのはほぼ同時だった。

「うわっ、こんな所にも!」

穂乃果は慌てて剣を抜くと、細い腕のような触手をたなびかせる一つ目のモンスターへ斬りかかった。

 

[穂乃果のこうげき! シーメーダAはひらりと身をかわした]

 

「むむ、また素早いタイプか……」

穂乃果が予感した通り、

 

[シーメーダAのこうげき! 曜は4のダメージを受けた!]

[シーメーダBのこうげき! 愛は5のダメージを受けた!]

[シーメーダCのこうげき! 曜は5のダメージを受けた!]

 

一拍遅れた曜と愛は、シーメーダ達に先手を取られてしまう。

「痛てて……やられっぱなしじゃいられないよー!」

 

[曜のこうげき! シーメーダBに16のダメージ! シーメーダBをたおした!]

 

「お、素早い分、体力は低い感じかな?」

あまり感じない手応えに、曜は少し拍子抜けする。

「だったら愛さんにお任せあれ!」

 

[愛はメラを唱えた! シーメーダAに20のダメージ! シーメーダAをたおした!]

 

呪文なら避けられまい、と火の玉をぶつけた愛。

「お〜、二人ともやるなぁ。よーし、穂乃果だって!」

 

[シーメーダCのこうげき! 穂乃果は4のダメージを受けた!]

[穂乃果はかえんぎりを放った! シーメーダCに21のダメージ! シーメーダCをたおした!]

[魔物のむれをやっつけた!]

 

「ふ〜、大したことなかったね!」

清々しい笑顔を見せる穂乃果に、

「……しれっと先手取られてるんじゃないわよ」

誰も言いそうにないので、にこが小声で漏らした。

 

 

 

 

──海岸には見慣れない手強いモンスターが潜んでいるかも、と先の一件で学んだのか、大人しく街道を進む一行。

若干名残惜しそうに砂浜へ視線を送る穂乃果は、小さな標識を見つける。

『←リーザス像の塔 港町ポルトリンク→』と書かれた質素な標識を見て、

「遠いって言うからどれほどかと思ってたけど、そこまででもなさそうね」

にこは安堵の言葉。

「にこちゃん歩くだけなのに、言う事調子いいにゃ」

「アンタだって同じでしょうが。歩くのも面倒なのよ」

律儀に言い返したにこだったが、先ほどの認識が甘かった事を思い知る。

 

 

──右へうねり、左へうねり、大きく坂を下り、すぐに登る。そこに設置された標識に、『この先港町ポルトリンク』と書かれているのを見たにこは、

「距離を書きなさいよ距離を……! もしくは所要時間!」

大きく息を吐いた。

「結構歩いたよねー。モンスターの強さがあまり変わらないのは救いだけど、もうちょっとしっかり準備した方が良かったかも?」

曜は減りつつある“やくそう”を確認しながら呟く。

「大丈夫だよ! もうちょっとだと思うから! 多分!」

「……うん、いや、穂乃果ちゃんが無鉄砲に突っ込んで、必要以上の攻撃受けちゃうからなんだけど……」

曜の控えめな主張は、

「そんなんじゃほのほのには届かないっしょ〜」

「……だよね」

曜は肩を落とす。携帯品は、気持ち多めに準備しようと心に決めながら。

「もうちょっと頑張ろー! おーっ!」

先頭で拳を突き上げる穂乃果。

「……何であんなに元気なのよ」

「穂乃果ちゃんだから?」

「ほのほのだからでしょ」

「穂乃果ちゃんだからにゃ」

「……アンタ達、順応してるわね……。いいえ、にこが正常なのよ……」

 

 

 

 

──結局一行がポルトリンクに到着したのは、空が赤みを帯び始めた頃だった。入り口手前の右側にも道が続いているようだったが、

「少し前に地震があってな。その時の衝撃で土砂崩れが起きて道が塞がっちまったんだ。急ぎの用が無いなら、こっちは諦めるんだな」

通行止めを強いられていた。

「まあ、どのみち用があるのはポルトリンクだからねー」

何があるのか気になりつつ、穂乃果達はポルトリンクへ急いだ。

 

 

──道中で鞠莉に出会う事は、無かった。

 

 

 

 

港町らしく石畳で舗装されたポルトリンクだったが、すでに陽は暮れており出歩く人影も無い。

「ひとまずは宿に行って、明日になってからにしようか」

曜の提案に、穂乃果と愛も頷く。

朝から親子ゲンカを見せられた上に、長距離を歩いてきた三人の疲労はピーク。あてがわれたベッドに沈み込むと、そのまま眠りに落ちた。

 

 

宿屋のラウンジで「海の上を歩く人間が──」という話が聞こえたが、三人はあまり聞いていなかった。

 

 

 

 

翌朝。ようやく街の捜索を開始した三人だったが、街中をウロウロする船乗りらしき人物の数に首を傾げる。

「何だか……みんなヒマそうだね」

「船乗りっていつも忙しそうで、『船上こそが生きがい!』ってイメージだったんだけどなぁ……」

「こりゃーここでも何かトラブルの匂いてすな〜」

『港町』に期待していた曜のあからさまなローテンションを慰めながら、三人は定期船の受け付けを行なっているという巨大な灯台のような建物へと入った。

「──もういい加減待てないわ!」

そして聞こえてくる、聞き覚えのある美麗な声。

「この声って……」

三人は顔を見合わせると、駆け足で受け付けのカウンターへと向かう。

「──今すぐ船を出して! 私は急いでるの!」

「いやぁ、いくら鞠莉お嬢様の頼みでも、そればっかりはできねえです……。海には危険な魔物がいるので……」

「そんなの、私が退治してみせマース!」

「いやいやいや、鞠莉お嬢様にそんな事させたら、後でオハラ家から何を言われるか……」

「勘当したのでオハラ家は関係ないのよ!」

「そう言われましても……」

船乗りに詰め寄る鞠莉の後ろ姿。

ああもう、と振り返った鞠莉と、

「うぇ?」

穂乃果はバッチリ目が合った。

「あら、ちょうどいいところに。塔ではSorryね。──でも今はいいわ」

駆け寄ってきた鞠莉は、

「私のお願い聞いてもらえないかしら? ちょっと来て」

穂乃果の手を掴むと、有無を言わさず引っ張った。

「うわわわわっ」

為すがままの穂乃果と、仕方なく後ろへ続く曜と愛。

先ほどの困惑する船乗りの前へ引っ張り出すと、

「その危険な魔物を倒すのに、私が手を出さなければいいのよね?」

「はあ、そりゃまあ……」

「だったら、魔物退治はこの人が引き受けてくれるわ。これならOKよね?」

勝手に話を進める。

「え?」

「はい?」

「ん?」

状況が飲み込めない三人は揃って疑問の声を上げたが、

「魔物を倒してくれるなら、こっちも願ったり叶ったりですが……」

「じゃあ決まりね!」

問題の状況は待ってくれない。

「あなた達も、それでOK?」

考える暇すら与えない鞠莉の問いに、

「う、うん……。うん?」

思わず頷いてしまう穂乃果。

「Thank you!」

次の瞬間には、鞠莉に両手を握られていた。

「よろしくお願いするわね! 準備が終わったら、私に話しかけたちょうだい。船を出してもらうわ」

そして、手を振って離れていく鞠莉。

「「「…………」」」

三人はポカンとしたまま、固まっていた。

 

 

 

 

「──街の人に、話を聞いてきたよ」

一度宿に戻った三人は、今現在ポルトリンクがどういう状況なのかを把握する。

第一に、ポルトリンクは北と南の大陸を繋ぐ連絡航路の玄関口である。

第二に、海を歩く道化師のような男が目撃された。

第三に、突如として航路上に巨大な魔物が現れ定期船を襲撃するようになった。

第四に、魔物の襲撃により定期船は急遽運休。南の大陸へ渡るすべが断たれてしまった。

「──そして、その魔物退治を私達がやると」

「その道化師みたいな男って、きっとドルマゲスだよね。つまり、どっちみち南の大陸へ行かないとドルマゲスの手がかりは掴めないって事じゃん?」

「そうそう! 文字通り、乗りかかった船って事だよ! 頑張ろう、二人とも!」

勢いよく立ち上がった曜。

「おお、曜ちゃんがやる気だ」

「船に乗れるからかな〜。何にせよ、やらなきゃドルマゲスは追えないんだし覚悟決めよ?」

愛も元気よく笑うと、曜に倣って右手でピッと敬礼。

「うん、そうだよね! よーし、頑張るぞ〜!」

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV13

どうのつるぎ

うろこのよろい

皮の盾

皮のぼうし

金のブレスレット

 

・曜

LV13

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

皮のぼうし

スライムピアス

 

・愛

LV13

ブロンズナイフ

皮のこしまき

うろこの盾

皮のぼうし

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話

更新ペース、実際のゲームのプレイ進行具合と同じなんですよね。なので更新サボるとゲーム進められない……。


携行品等を確認、補充した三人は、再び鞠莉が待っている受け付けの場へと向かう。

「準備は終わったかしら?」

「うん!」

「OK! さあ、船を出して!」

受け付けの船乗りに振り返った鞠莉は、大きな声で指示を出す。

船乗りも敬礼をしながら応える。

「イエッサー!」

「ヨーソロー!」

「……あれ? 一人混じってない?」

 

 

 

 

定期船に乗り込んだ三人と鞠莉は、潮風に吹かれながらゆっくり前進を始めた船で警戒にあたる。

 

しばらく進んだ後、

「──何か見えるよ!」

後方にいた愛が大声を出した。

急いで駆け寄ると、海面がブクブクと泡立ち始めていた。

そして、赤い二本の触手が飛び出す。吸盤のついたその触手は、

「……タコ?」

「──気に入らねえなあ」

首を傾げた穂乃果の耳に、言葉が飛び込んでくる。触手を辿るように視線を下げると、

「……イカ?」

「タコじゃないの?」

「ハイブリッドって感じするね〜」

イカとタコを足して二で割ったような魔物が顔を出していた。

「気に入らねえ。まったく気に入らねえ。いつもいつも断りなく、このオセアーノンさまの頭上を通りやがって……」

ぶつぶつ呟き始めた、オセアーノンの名乗った魔物は触手で三人を示す。

「なあおい、まったくニンゲンってヤツは、しつけがなってねえと思わねえか?」

「そうなの?」

「いや、私に聞かれても……」

「愛さん、いただきますは大事だって教わったよ?」

「多分、そういう事言ってるんじゃないと思うけど……」

緊張感の無さに曜が肩を落とすと、

「海に生きる者を代表して、このオレさまがニンゲン食っちまうか?」

オセアーノンは物騒な事を言い出した。

「おおそうだそうだ! 食っちまえ食っちまえ!」

「っ! 来るよ、二人共!」

「任せて!」

「迎え撃つじゃん!」

緊張感の無い雰囲気から一転、敵意を感じた瞬間に穂乃果も愛も武器を構えていた。

 

[オセアーノンがあらわれた!]

 

「最初から全力で行くからね!」

真っ先に斬り込んだのは、穂乃果。

 

[穂乃果はかえんぎりを放った! オセアーノンに22のダメージ!]

[愛のこうげき! オセアーノンに15のダメージ!]

[曜はかぶとわりを放った! オセアーノンに24のダメージ! オセアーノンの防御を14下げた!]

 

幸先よく三人が攻撃を与えると、

 

[オセアーノンはもえさかるかえんを吐いた!]

 

オセアーノンは口から炎を吐き出す。

 

「うわちちっ」

 

[穂乃果は25のダメージを受けた!]

[曜は23のダメージを受けた!]

[愛は25のダメージを受けた!]

 

「そんな攻撃してくるのか……。油断できないや……」

 

穂乃果は剣を持つ手を握り直すと、再び構える。

 

[穂乃果のこうげき! オセアーノンに26のダメージ!]

[愛のこうげき! オセアーノンに30のダメージ!]

[曜はかぶとわりを放った! オセアーノンに36のダメージ! オセアーノンの防御を12下げた!]

 

「曜ちゃんナイス!」

打たれ弱くなる敵に、穂乃果は曜へ向かって親指を立てる。

「ほのほの来てるよ!」

「え? ──うわぁ!」

 

[オセアーノンのこうげき! 穂乃果は18のダメージを受けた!]

 

「痛てて……」

「よそ見はダメだぞほのほの!」

飛んできた激に、

「……うん、分かった!」

穂乃果は自分に喝を入れる。

 

[穂乃果は全身に力をためた! 穂乃果のテンションが5上がった!]

[オセアーノンはなぎ払った! 穂乃果は20のダメージを受けた! 曜は19のダメージを受けた! 愛ら20のダメージを受けた!]

 

触手を右から左へ振り払い、三人まとめて攻撃してくるオセアーノン。

「──でりゃぁぁぁ!」

 

[穂乃果は全身に力をためた! 穂乃果のテンションが20上がった!]

 

そんな猛攻に怯まず、穂乃果は耐える。

「穂乃果ちゃんもしかして……」

「……なるほどなるほど」

そんな穂乃果を見て、曜と愛は思惑を察する。二人で頷きあうと、

 

[曜はかぶとわりを放った! オセアーノンに34のダメージ! オセアーノンの防御を13下げた!]

[愛はホイミを唱えた! 穂乃果のキズがかいふくした!]

 

穂乃果のサポートに回る。

 

 

 

 

[オセアーノンはもえさかるかえんを吐いた! 穂乃果は24のダメージを受けた! 曜は23のダメージを受けた! 愛は23のダメージを受けた!]

 

「ぐっ……」

受けたダメージがかさみ、曜の足が揺れた頃、

 

[穂乃果は全身に力をためた! 穂乃果のテンションが50上がった! 穂乃果はハイテンションになった!]

 

「お待たせ二人共! ありがとう!」

穂乃果は鋭い眼差しで、武器を構えた。

「穂乃果ちゃん、任せたよ!」

「やっちゃえほのほの!」

ホイミで曜の回復をした愛も叫ぶ。

「っ…………。てやぁぁぁぁぁっ!」

 

[穂乃果はかえんぎりを放った! オセアーノンに114のダメージ! オセアーノンをたおした!]

[オセアーノンをやっつけた!]

 

 

 

 

 

 

「ぐぎゃぁぁぁぁっ!」

船の甲板に身を乗り出していたオセアーノンは、たまらず落下。バッシャーンッと大きな水柱が上がった。

「やった……?」

手ごたえを感じつつも、念の為剣を手にしたまま穂乃果は海面を覗き込む。

「……いやぁ、お強いんですねえ。おみそれしました。いえホントホント」

口元からブクブクと泡を立てながら、急に低い姿勢でオセアーノンは喋る。

「「「…………?」」」

態度の急変っぷりに、三人は顔を見合わせる。

「コレ言い訳っぽいですが、今回の件ワタシのせいじゃないんですよ。そうそう! アイツのせいなんです!」

「“アイツ”って?」

「いえね。こないだ、道化師みたいな野郎が海の上をスーイスイと歩いてましてね。ニンゲンのくせに海の上を歩くなんてナマイキなヤツだと思って睨んでたら、睨み返されまして……」

「……海のボスしょぼいね」

「愛ちゃんしーっ!」

「それ以来、ワタシ身も心もヤツに乗っ取られちゃったんですねえ。船を襲ったのも、そのせいなんですよ」

責任転嫁しているような気もしたが、たった今懲らしめたばかりなので三人は話を聞く。

「──てなわけで、悪いのはワタシじゃなくてあの道化師野郎なんですが、これはほんのお詫びの気持ちです。海の底に落ちてた物で恐縮ですが……」

何やら海から触手を持ち上げたオセアーノンは、穂乃果の手に何かを落とした。

 

[穂乃果は金のブレスレットを手に入れた]

 

「わあ、綺麗だね」

「なーるほど。金なら錆びないもんね」

「──それじゃあワタシは、この辺で退散しますね。ではでは皆さん、よい船旅をば〜!」

調子の良い事を言ったオセアーノンは、そのまま海の底へ姿を消した。

「うーんと、これでもう襲ってはこないんだよね?」

「多分……。自分は悪くないとか言ってたし」

「ホントは悪い魔物じゃないのかもね〜。操られてただけなのかも。私達がガツンと目を覚ましてあげたわけだ!」

少し拍子抜けした三人だったが、駆け寄ってきた鞠莉に気付き甲板に向き直る。

「思ったよりstrongね! 正直、あんまり期待してなかったのよね。ビックリしたわ!」

「ええ……」

あんなに頑張ったのに、と穂乃果は少しだけ落ち込む。

「まあまあ、今は見直してくれたみたいだからさ」

「そうそう! 穂乃果ちゃん凄かった!」

フォローする二人を眺めながら、

「そういえば、あなた達の名前聞いてなかったデース」

鞠莉は今さらすぎる事実に気付く。

「──穂乃果に曜に愛ね。改めて、魔物を倒してくれてThank you! これでドルマゲスを追えるわ!」

晴れやかな笑顔で三人の手を取った鞠莉は、

「疲れたでしょうし、一度ポルトリンクへ戻りましょう。船を戻すよう言ってくるわね。チャオ〜」

手を振ると船内へ戻っていった。

「「「…………」」」

取り残された三人は、どうしていいか分からず頭上の青い空を見上げた。

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV14

どうのつるぎ

うろこのよろい

皮の盾

皮のぼうし

金のブレスレット

 

・曜

LV14

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

皮のぼうし

スライムピアス

 

・愛

LV14

ブロンズナイフ

皮のこしまき

うろこの盾

皮のぼうし

金のブレスレット



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話

鞠莉推し諸君、期待を裏切ってすまんな。


ポルトリンクへ戻った三人が船を降りようとしていると、後ろから鞠莉が駆け寄ってきた。

「今、魔物を倒したお礼に次の出発は私達の都合に合わせてもらうようお願いしてきたの。あなた達は戦闘もして疲れてるでしょうから、今日はゆっくり休んで明日、準備が終わったらここに来てくれるかしら。私の出発も、それに合わせるわ」

という鞠莉の申し出を、ありがたく受ける三人。宿に向かう前に、街の外で待機している凛とにこに顛末を報告する。

「ふーん。そんな事があったのね。中々戻ってこないから、海に落ちて溺れたのかと思ってたわ」

「にこちゃん、キノコだから泳げないんだにゃ。羨ましいんだよね〜」

「そんな事言ってないでしょうが!」

「まあまあキニコちゃん。私らも別に泳いだりはしてないからさ」

「そういう問題じゃないわよ。……まあ何にせよ、南の大陸に行けるようになったってんなら良かったじゃない。これでドルマゲスを追えるわね。あんた達、よくやったわ」

「にこちゃんの為に頑張った訳じゃないよ?」

「……そこは嘘でもいいから感謝しときなさいよ」

 

 

 

 

──翌朝、

宿を出た三人は、一度ポルトリンクの外へ。

にこと凛を置いていく訳にもいかないので、どうにかして定期船に乗せなければならない。そのまま向かえば、トラペッタのような騒ぎになる事はまず間違いない。荷物に紛れさせるというアイデアも、

「この私が荷物扱いなんてごめんだわ!」

と却下。

「じゃあもう仕方ないし、これしかないんじゃない?」

と、愛が荷物を漁った。

 

 

 

 

「──ようやく来たデースか」

定期船の停泊する波止場で腕組みをしていた鞠莉は、穂乃果達の姿を見つけるとニヤリと笑った。

「待ちくたびれたわ。さ、早く行きましょ……そちらの方々は?」

踵を返そうとした鞠莉は、フードを目深に被ったにこと凛の姿を見て首を傾げた。

「この二人は旅芸人なんだけど、仕込みに時間がかかるからって予め終わらせてきてるんだよ。サプライズで盛り上げる為に、こうして隠してるって訳」

弁がたつ愛が、用意していた嘘をスラスラと紡ぐ。

「oh〜、そういう事なのね! 私も機会があれば、是非見てみたいわね!」

鞠莉も特に怪しむ様子もなく、二人の乗船を快諾する。

「うまくいったね」

「流石は愛ちゃん」

「それに、旅芸人って事にしておけばバレても誤魔化せそうだし」

「おぉ……賢い……」

定期船に乗り込みながら、曜と穂乃果は小声で話す。

「何で私がこんなコソコソしなきゃいけないのよ……。ドルマゲス絶対許さないんだから……!」

ブツブツ呟くにこは、強風でフードが外れないようさっさと船内に入っていく。

「イカリを上げろーっ! 本船はこれより、南の大陸へ向かう!」

大きな声が響き渡り、定期船はゆっくり動き始める。

到着までどうしようかと目を合わせた三人だったが、

「せっかくノンビリできる船旅なんだし、航海気分を味わおうよ!」

とワクワク顔が隠せていない曜の提案で、三人は潮風に吹かれる事にした。

 

 

三人が水平線を眺めながら談笑をしていると、

「ハァ〜イ。三人で何の話?」

鞠莉が手を振って歩み寄ってきた。

「あ、鞠莉ちゃん」

「隣、いいかしら?」

「勿論!」

穂乃果はわざわざ横へずれて、鞠莉を間に入れる。

「あら、フフッ。優しいのね」

「鞠莉ちゃんは、南の大陸に着いたらどうするの?」

「勿論、ドルマゲスを追うわ。その為に旅を始めたんだもの」

鞠莉の瞳は、南の水平線、その先を見据えていた。

「じゃあさ、穂乃果達と一緒に旅しない?」

すると鞠莉は、少し驚いたように穂乃果を見た。

「どうせ目的は同じなんだし、その方が穂乃果達も助かるっていうか」

鞠莉は、しばらく黙る。曜と愛は何も言わない。

波の音と、吹き抜ける風だけが響く。

「──そうね」

「! じゃあ──」

「でもごめんなさい」

明るくなった穂乃果の声を遮って、鞠莉は口を開いた。

「あなた達は、あなた達の理由でドルマゲスを追ってる。私は、サーベルト兄さんの為にドルマゲスを追ってる。同じようで、違うのよ。──『自分の信じた道を行く』。だから、Sorryね」

キッパリと断った鞠莉。一瞬、空気が重苦しくなったが、

「う〜〜〜んそっか〜〜〜〜。それは残念だなぁ〜〜〜」

本気で落ち込む穂乃果。それがあまりにオーバーリアクションすぎて、

「……ぷっ」

鞠莉は吹き出す。

「またどこかで会えるかもしれないでしょう? その時はよろしくね」

「うーん……それもそっか!」

切り替えの早さは流石か。穂乃果は元気に顔を上げると、

「鞠莉ちゃん、何か面白い話して!」

唐突な無茶振り。

「いや、穂乃果ちゃん、この流れでどうしてそうなるの……」

「OK!」

「いいの⁉︎」

「あっはっは! ほのほのもマリーも面白すぎ!」

 

 

四人の楽しげな会話は、

「南の大陸の船着き場に向けて、おも舵いっぱーいっ!」

船旅が終わるまで続いた。

 

 

 

 

・穂乃果

LV14

どうのつるぎ

うろこのよろい

皮の盾

皮のぼうし

金のブレスレット

 

・曜

LV14

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

皮のぼうし

スライムピアス

 

・愛

LV14

ブロンズナイフ

皮のこしまき

うろこの盾

皮のぼうし

金のブレスレット



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話

ようやくマイエラ編スタートですね。誰がどのキャラになるのでしょうか?
お楽しみに!


船着き場に着いてすぐ、

「それじゃあ私はもう行くわね。この周辺くらいなら分かるから」

鞠莉はさっさと外へ向かってしまった。

「初めての土地だし、流石に出発は少し情報集めてからにしようか」

曜のもっともな提案により、三人は手分けしてこの大陸もといこの辺りの土地の情報を収集する。

 

 

一時間ほどで合流すると、宿屋の屋上へ向かう。そこにいた女性に話を聞く。

「あなた達、聖堂騎士団って知ってる?」

「せいどうきしだん?」

聞き覚えの無い言葉に、穂乃果は首を傾げる。

「聖堂騎士団を知らないなんて!」

ちょっと怒られた。

「聖堂騎士団は、マイエラ修道院にいる集まりよ。修道院の治安維持と、オディロ修道院長様の命をお守りしているの。マイエラ修道院はホラ、ここからすぐよ」

女性が指差した先に視線をやると、川べりに建てられた大きな協会のような建物が見えた。

「あなた達も、一度行ってみるといいわ」

女性に礼を言って階段を下りた三人は、

「──だってさ」

「どうする?」

顔を見合わせる。

「まあ、そこに行ってみるのがいいかもね。今の所何も情報ないんだし。有名な建物みたいだし、何か情報得られるかもよ?」

「そっか。それもそうだね!」

穂乃果は勢いよく頷くと、街の外で待つにこと凛に話を伝える。

「ふーん、まあいいんじゃない? それしかできる事ない訳だし」

やるのはアンタ達に任せるけどね、とにこは付け足す。

「よーし、じゃあ出発だ!」

 

 

 

 

意気揚々と出発したものの、大陸が変わった事で生息する魔物にも変化が。

 

[リンリンがあらわれた!]

 

出迎えたのは、金色のベルのような見た目に、不気味な笑い顔の魔物。

「何かイヤーな感じ……」

顔をしかめた穂乃果。

 

「リンリンAは仲間を呼んだ!]

[なんと、デンデン竜があらわれた!]

 

リンリンがベルを鳴らすと、その音につられたのかでっぷりとした黄色のドラゴンが姿を見せる。

「絶対ヤバそう……!」

穂乃果は直感的に危機を覚え、

「それもあるけど、仲間呼ばれるのも厄介だよ……」

曜はどちらを優先的に倒すか悩む。

「ねえほのほの、あのデンデン竜って、ドラゴンだよね?」

愛が意味深な発言をすると、

「! そっか!」

穂乃果は自分の剣を見下ろす。穂乃果は膝を折ると、グッと力を込める。

「覚えたてのこの特技で……!」

そして大きく飛び上がり、全力の上段斬り。

 

[穂乃果はドラゴン斬りをはなった!]

[デンデン竜に42のダメージ!]

 

「ほのほのやるぅ〜」

 

[愛のこうげき! デンデン竜に29のダメージ! デンデン竜をたおした!]

 

「こっちは任せて!」

 

[曜は蒼天魔斬をはなった! リンリンBに38のダメージ! リンリンBをたおした!]

 

曜の斧の一撃で、まだ行動していなかったリンリンを屠る。

「曜ちゃんナイス!」

「あとは──」

「中々に厄介な事してくれたアイツだけだね」

三人揃って、取り残されたリンリンへ視線をやる。リンリンの下卑た笑みが、怯えたように見えた──気がした。

 

[まもののむれをやっつけた!]

 

新大陸初戦闘も危なげなくこなし、三人はハイタッチ。

 

 

その後歩みを進めていると、馬小屋らしき建物を発見した。

「馬ねぇ……。馬がいれば、移動が格段に早くなるんだけど……」

にこがごちるが、

「言ってても仕方ないにゃ」

凛に一蹴される。

「分かってるわよ。そもそもこの人数の馬を用意するなんて、いくらかかるか分かったもんじゃないわ」

にこも分かっているのか、仏頂面で返す。

「──あれー? 誰も何もいないよ?」

中の様子を伺っていた穂乃果が、不思議そうな顔で出てきた。

「何もいないって……。馬小屋でしょ? 修道院の馬が飼育されてるんじゃないの?」

にこが視線をやった修道院は、もう目と鼻の先である。

「まあ、もぬけの殻の馬小屋に用はないわ。さっさと行きましょ」

確かに、とかそうだねー、とか少し肩透かしを食らった感じの一行だったが、立ち止まっていても仕方ないので目前の目的地へ足を向けた。

 

 

 

 

マイエラ修道院に到着し、

「じゃあそこで待ってるから。有益な情報期待してるわよ」

にこと凛を置いて中へ入る。一般に解放されているので、入る分には問題なかった。

「有名な教会みたいだし、門前払い食らったらどうしようかと思ってた」

「いやいやそんな事……あるかもって思っちゃった」

「お祈り捧げたら許してくれるかもよ?」

談笑しながら、ひとまず正面の女神像の前に立つ聖職者らしき男に近づく。

「あの──」

「薄汚い旅人が聖なる祭壇に軽々しく登るでない!」

穂乃果が口を開いた瞬間に、物凄い剣幕で怒鳴られた。

「ご、ごめんなさい」

その迫力に押されて、穂乃果は慌てて数歩下がる。

「まったく罰当たりな! 聖堂騎士団にちゃんと見張ってもらわなくては……」

こちらを睨みながらブツブツ呟く男を尻目に、

「……やな感じだね」

「偉そうっていうか……」

「ああいうのは近づかないに限るよ」

話が通じないと判断し、三人は周囲を探検する。

 

 

「──お、こっちにドアがあるよ」

正面の入り口とは反対側にドアを発見した愛。どうやらドアの向こうも出入りは自由らしく、三人はドアを開ける。レンガの壁と大理石の石畳が綺麗な空間ではあったが、近くを歩く聖職者達の視線は冷たい。

「……世界三大聖地って言うから、もっと凄いのを期待してたんだけどな〜」

「愛ちゃん聞こえるってば!」

気にせず不満を漏らした愛の口を、曜は慌てて塞ぐ。

「あ、ねえ、奥にもまだ扉があるよ」

穂乃果が指差した先には、確かに他より立派な扉が鎮座していた。そして、青い制服を着た男二人も。

「……あれ、通してくれるかな」

明らかな『通せんぼ』状態に、曜は悩む。

「とりあえず聞いてみようよ」

臆せず近づいた穂乃果。

「──何だお前達は!」

「怪しい奴め。この奥に行って、何をする気だ?」

案の定歓迎されず、

「何ってほど何かしたい訳でも……」

返答に困った穂乃果を、男は軽く突き飛ばす。

「この先は許しを得た者しか入れてはならぬと決められている」

「この聖堂騎士団の刃にかかって命を落としたくなくば、早々に立ち去るがよい!」

あまつさえ、腰のレイピアに手を伸ばす始末。

「ちょっ……!」

あまりにも不遜な態度に曜が声を荒げかけた瞬間、

バンッ!

と頭上の小さな窓が開いた。

「──入れるな、とは言ったけど、手荒な真似をしろなんて言ってないよ。聖堂騎士団の評判落とすつもり?」

そして、やや不機嫌そうなキツい声が降ってくる。そして声の主が姿を見せた瞬間、穂乃果の前にいた二人は腰を落として手を床についた。

「こ、これは果南様! 申し訳ございません!」

果南と呼ばれた頭上の声の主の女性は、長いポニーテールを揺らしながら隙の無い笑みを浮かべた。

「私の部下が乱暴しちゃってごめんね。でも、よそ者って問題を起こしがちだと思わない? 私達はこの修道院を守らなきゃいけないからね。見ず知らずの旅人をそう簡単に通す訳にはいかないの。分かる?」

「それは、まあ……」

問題起こしたのそっちじゃんという言葉を飲み込み、穂乃果は小さく頷く。

「……ただでさえ、こっちで問題抱えてるっていうのにさ。──あ、話逸れちゃったね」

果南は何やら呟くと、穂乃果達三人の格好を見下ろす。

「ここは修道士の為の建物だよ。キミ達には縁がないと思うけど?」

「それは……否定できないけど」

「部下達は血の気が多くてね。次は私でも止められるか分からないよ?」

サラリと脅しを混ぜてきた果南は、踵を返して窓の奥へと消えていった。

「さあ団長のお言葉を聞いただろ」

「お前らはドニの町がお似合いだ!」

窓を見上げていた三人に、制止をかけられて消化不良らしい男二人が厳しい言葉をぶつけてくる。

「ええそうしますよーだ!」

「行こ、ほのほの」

「あ、うん」

舌を出してあかんべーしながら、曜と愛は穂乃果を連れて修道院の外へ向かった。

「あの人……きっと凄い人だ」

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV16

どうのつるぎ

うろこのよろい

せいどうの盾

皮のぼうし

金のブレスレット

 

・曜

LV15

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

ヘアバンド

スライムピアス

 

・愛

LV15

ブロンズナイフ

くさりかたびら

うろこの盾

皮のぼうし

金のブレスレット



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話

ここのキャスティングは悩んだんですが、個人的イケメンランキングのトップはこの子なんですよね。


『ドニの町がお似合いだ』的な事を言われた一行は、修道院に来ていた巡礼者達に話を聞いて、修道院のすぐ先に旅人用の宿が構える小さな町がある事を知った。

「じゃあそこに行くしかなさそうね。ここには泊まる所ないんでしょ?」

「さっきの話聞いて、凛もここにいたくなくなったにゃー!」

顛末を聞いて激怒する凛に、私も同じよ、とにこも賛同する。

「こんなふざけた見た目じゃなかったら、にこがビシッと言ってやったのに……!」

「期待してたよー」

「感情がこもってない! ……それに、ドルマゲスに関する情報も何も無かったんでしょ? だったら、人が集まってるそっちのドニの町に行った方がいいと思うわ」

そんだけ警備が厳重ならドルマゲスだって入れないでしょ、と付け足す。

「そろそろ暗くなるし、一旦ドニの町に行って考えようか」

曜の言葉に、全員頷く。

 

 

 

 

マイエラ修道院からドニの町は、本当にすぐだった。

「うーん、そんなに人いる訳じゃないね」

「建物も少ないし、仕方ないのかもねー」

ドニの町は、中央の道の脇に宿屋と酒場、小さな教会が建ち並ぶだけのかなり小規模な街だった。

「とりあえず暗くなる前に、酒場に行ってみよっか」

「だね〜。情報収集は大事だし」

「見た感じ、ほとんどの人は酒場に集まってるっぽいじゃん?」

静かな街だが、二階建ての酒場からは絶えず喧騒が漏れてくる。

三人が酒場のドアを開けると、

「──真剣勝負だとぉ〜⁉︎ てめぇ、イカサマやりやがったな!」

三人を怒鳴り声が出迎えた。

「うひっ⁉︎」

思わず首を縮めた穂乃果がそちらを見やると、ガタイのいい男が立ち上がって肩を震わせていた。テーブルにはトランプが散乱している。

「まあまあ、落ち着きなって。何があったのか話してくれる?」

まったく臆する事なく、その肩をポンポンと叩きにこやかに話しかける愛。

「おお、流石は愛ちゃん」

「……愛ちゃんがたまに恐ろしく感じる時があるよ」

苦笑いで二人も歩み寄る。すると男は、

「何だてめぇ! ……そうか、分かったぞ」

逆ギレして愛を睨みつけた。

「てめぇらコイツの仲間だな! オレの気を逸らして、その隙にイカサマしようって魂胆だろっ!」

「…………ん〜? 何を言ってるのか分からないなぁ?」

笑顔に迫力が増した愛を、

「あ、愛ちゃん、落ち着いて……」

曜はなだめる。

「…………」

そしてずっと黙っていた、『コイツ』呼ばわりされていた対戦相手──穂乃果達と同い年くらいの少女──は無言で立ち上がると、テーブルに転がっていた空の酒瓶を壁に向かって投げた。

大きな音がして便が砕け散る。当然男含めて客の視線はそちらに向かう。その隙に、三人の手を引いて颯爽と裏口から抜け出した。

「──キミ達、誰? この辺じゃ見ない顔だよね?」

何て答えればいいのか分からず、旅人、とだけ返す。

「ふーん。ま、いっか。とりあえずイカサマがバレずに済んで良かったよ。ありがと」

「あ、やっぱりイカサマしてたんだ……」

「まあね〜」

少女は舌を出して、服からトランプを落とす。

「……誰か知らないけど、ほどほどにね?」

一応曜が注意すると、善処すると言わんばかりのウインク。

「──どこ行きやがった! 出てこい!」

酒場から、ドア越しに大声が響く。

「おっとっと。見つかったら面倒だな〜」

少女はいたずらっぽく笑うと、曜へ視線を向ける。

「忠告ありがと。怪我しなかった?」

「へ? 大丈夫だけど……」

「せっかく助けてくれたんだし、そのお礼と出会いの記念に。──これをどうぞ」

キザなセリフと共に、ピンと何かを指で弾く。

「っと……。……指輪?」

「聖堂騎士団の指輪だよ」

「聖堂騎士団だったの⁉︎」

あまりにも修道院で出会った人間と態度が違いすぎて、本気で驚く三人。

「まあね〜。──あ、そういえば名前言ってなかったね。私は千歌。よろしくね」

「あ、うん……よろしく」

どう反応していいか分からない曜。

千歌と名乗った少女は、小さくウインク。

「その指輪を見せれば、修道院の中に入れる。また会いに来てくれるよね?」

それじゃ、と笑顔で歩み去る千歌。

「「「…………」」」

ポカーンとそれを見送る三人。

宵闇が支配する中、手元に残されたのは聖堂騎士団のエンブレムが彫られた指輪。

「これ、どうする?」

「うーん……くれた、のかな?」

「でもこれって、聖堂騎士団の証みたいなモノなんじゃない? 無いとあの人困るかもよ?」

「それは確かに……」

「それに、これ持っていけば中に入れるみたいな事言ってたじゃん? つまり、あの通せんぼされてた先に行けるんじゃない?」

スラスラと状況を整理する愛に、よく細かく覚えていたものだと穂乃果と曜は感心する。

「あの先に何があるかは分からないけど、やられっぱなしなのは悔しい! あの門番達にこの指輪見せつけて、『どうだ!』って言ってやりたい!」

指輪を突き出して、シミレーションする穂乃果。

「あはは……。でも確かにそれはあるね。あの千歌ちゃんって人にももう一度会いたいし、マイエラ修道院に戻ってみよっか」

「ん〜? もしや曜、言い寄られて惚れちゃった? 女の子同士で禁断の恋だなんて、愛さん感動しちゃうなぁ〜」

「へっ? そ、そんな事ないってば!」

「ホントかな〜?」

「ホントだってば!」

 

 

 

 

翌日。宿屋で一泊した三人と二人は、修道院へ戻ってきた。一応ドルマゲスの情報は聞き込みしたのだが、

「誰も知らなかったね」

面白いくらいに手がかりは無かった。

「となると、今は実質ここだけが頼りって事になるのか……」

建物を見上げた穂乃果は、

「何かありますように」

こっそり祈った。

 

 

先日の門番の前まで行くと、

「……何だお前は」

相変わらず冷たい目で見られる。

「ここの聖堂騎士団の、千歌って人に指輪を返しに来ました」

「……千歌に指輪を?」

「……またアイツか。仕方のないヤツめ」

門番二人はあからさまに気分を害したようだった。だがその矛先は、穂乃果達には向いていない。

「千歌は奥にいる。さっさと通るがよい!」

意外にも、すんなり道を開けてくれた。

「指輪の力って凄いね」

「というか、初めてな感じじゃなさそうだったけどね……」

「自由奔放な感じ、もしかしたら手を焼いてるのかもねー」

扉の奥は、宿舎らしく簡素に部屋が並ぶだけだった。奥にも扉があり、その先は木の橋で小島と繋がっていたのだが、

「この先はオディロ院長がいらっしゃる。用の無い者は会えない規則だ」

そこにもいた門番に門前払いを食らう。

「しょーがない。千歌っちとやらを探しますか」

愛が持ち前のコミュ力を発揮して聞き回るが、

「千歌なら、さっき下にある尋問室に行くのを見たぞ」

「尋問室?」

あまり穏やかでない単語に、三人は眉をひそめる。

「ああ。そこの階段から下に降りると、規律違反を犯した者を閉じ込めておく牢屋とそいつらを取り調べる尋問室があるんだ。果南団長が降りていくのも見たから、きっと今頃ドニの町へ行った事がバレてお説教中だろうな」

男が指差した先には、地下へと続く階段。湿った空気が上がってきている。

「うーん、お説教は嫌だよねぇ……」

「助けられるか分からないけど、とりあえず行ってみよっか」

「指輪返さなきゃだしね」

三人が階段を降りると、そこは先ほどの石畳とはうって変わって土が露出した場所だった。

鉄格子の扉が並び、壁には水が流れた跡が散見される。

「いやーな所だね……」

穂乃果は顔をしかめ、一番奥にあるという尋問室を目指す。

「──またドニの町で騒ぎを起こしたんだって? これで何回目?」

「ありゃ、もうバレてるのか。流石は聖堂騎士団の──」

「どこまでマイエラ修道院の名を落とせば気が済む訳? まるで疫病神だよ」

何やら、言い合う声が響いてくる。

「…………」

「はぁ、まあいいや。──聖堂騎士団員千歌。団長の名において、当分の間謹慎を謹慎を言い渡す。どんな理由があっても、この修道院から外に出る事は許さないからね。一歩たりとも、ね。それさえ守れないんだったら、いくら院長が庇ったとしても修道院から追放するから。分かった?」

「はいはい、分かりましたよー」

どう考えても険悪な雰囲気に、

「……指輪、ちょっと返せそうにないね」

「流石の愛さんも、この空気に突っ込める度胸は持ち合わせてないなぁ」

「タイミングが悪かったかなぁ……」

三人は仕方なく階段を登る。

「──客人なんていつ以来だろうな?」

「最近ご無沙汰だったからな」

「院長もさぞ楽しみにしている事だろう」

すると、聖堂騎士団員達の会話が耳に入ってきた。

「へー、こんな陰気な所にも客人って来るんだねー」

「愛ちゃん聞こえるってば!」

周りを憚らない愛の嫌味に、曜は冷や汗を流す。

幸いにも団員達には聞こえなかったようで、会話を続けていた。

「しかし、あの道化師は随分不気味な格好だったな」

「最近の流行りなのかもしれんな」

その内容に、

「「「…………!」」」

三人は息を飲む。

「不気味な道化師って……」

「もしかして……」

「嫌な予感するじゃん」

三人が顔を見合わせた直後、

「──あ、キミ達!」

背後から声がかかった。

「ドニの酒場で会った人達だよね? どうしてこんな所に……?」

階段を登ってきた千歌が驚いたように目を丸くしていた。

「どうしてって……」

そっちが会いに来てって言ったんじゃん、という呆れ声を飲み込む三人。

「指輪があれば会えるって言ったから来たのに……」

「指輪……?」

千歌は思案顔になると、

「…………そっか、まだその手があるんだった!」

何やら一人で納得する。

「ねえ、頼みたい事があるの。話聞いてくれる?」

「いきなり何? 酒場のお金なら払わないよ?」

「そんな事どうでもいいんだってば!」

ただならぬ千歌の様子に、冗談めかした愛は口を閉じる。

「……感じない? もうメチャクチャ禍々しい気が修道院の中に紛れてるのを」

穂乃果は首を傾げる。

「特には……」

「聞いた話だと、院長の部屋に道化師が入っていったらしいじゃん。この気の持ち主、多分そいつ!」

「禍々しい気の……」

「道化師……」

「って事はやっぱり……!」

先ほどの団員達の会話を思い出し、同じ結論に至る三人。

「! もしかして何か心当たりが⁉︎」

三人の反応を見て、千歌は駆け寄る。

「う、うん多分……」

「狙いは分からないけど、オディロ院長が危険なのは間違いないと思う……! お願い! 修道院長の部屋まで行って、中で何が起こってるのか見てきて欲しいの!」

深く頭を下げた千歌に、

「そうしたいのは山々なんだけど、さっき見張りが通してくれないんだよね……」

そもそも自分で行けばいいのでは、と思ったのだが、

「自分で行けるならそうしたいよ! でも今はちょっと、ワケありっていうか……」

尋問室でのやり取りを思い出した三人。わざわざ口に出す事はしないが、納得する。

「お礼なら、後で必ずする! だからお願い。部屋の様子を見てきて!」

「うん、できる事ならそうしたいんだけど……。見張りが……」

道化師が危険かもしれないからよそ者だけど通して下さい、と言ってあの見張りがはいそうですかと通してくれるとは思えない。

「あの橋は石頭が塞いでるから、通るのは無理だと思う。でも、かなり遠回りになっちゃうんだけど、もう一つだけ院長のいる島まで行く方法が残ってるの」

「それは?」

「一度この修道院を出て、川沿いの土手を進むの。そうすると、大昔に使われて廃墟になった修道院の入り口がある。その廃墟から、院長の部屋があるあの島まで道が通じてるらしいんだって」

「らしいって……」

「私も実際に行った事はないから、本当かどうかは分からない。……でも、今はそれしかないの! ──廃墟の入り口は、その騎士団員の指輪で開くらしい。だからそれはもうしばらく持ってて」

穂乃果は、手元の指輪に視線を落とす。

「とにかく、修道院長の事、お願いっ!」

「──うん、分かった。任せて!」

穂乃果は、力強く頷いた。

「お願い。オディロ院長の事、任せるから……!」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV16

どうのつるぎ

うろこのよろい

せいどうの盾

ターバン

聖堂騎士団の指輪

 

・曜

LV15

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

ヘアバンド

スライムピアス

 

・愛

LV15

ブロンズナイフ

くさりかたびら

うろこの盾

皮のぼうし

金のブレスレット



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話

ちなみに実際にプレイしてた時、ボス戦が三ターンで終わって「ええ……」となりました。
通常攻撃しか見てなかったのに……。


修道院を出た三人は、

「な、何よあんた達。そんなに慌てて」

そこで待機していたにこと凛に顛末をかいつまんで説明する。

「ドルマゲスかもしれない道化師が修道院長の部屋に⁉︎」

「そ、それはヤバいにゃ! 早く行かないと!」

「私達は行っても足手まといになるだけだし……頼むわよ」

「任せて!」

穂乃果は大きく頷くと、千歌の言葉通り川沿いの土手を駆け出す。

「にこちゃん達も、修道院で何か変化がないか見ておいて。様子見るだけなら、ここからでも見えるし」

「分かったわ」

「気を付けてにゃ」

「キニコちゃん達もね。ピリピリした騎士団員に魔物と間違われたりしないでよ?」

「そんなドジ踏まないわよ」

親指を立てて、曜と愛も穂乃果を追う。

 

 

大きな川の中央に浮かぶ小島には、立派な建物が建っている。今の所変化は見られないが、どうなるかは分からない。

「急がないと……」

穂乃果は突き当たりまで進むと、

「──ここ?」

ようやく足を止めた。

昔の修道院、と言われたが、あるのはほんの少しの建物の残骸だけ。とても修道院と呼べるような規模のものではない。

「ここ……だよね?」

「多分……」

「愛さん的には、あの石碑が怪しいと見た」

愛が指差した先には、真ん中にぽつんと立つ小さな石碑。白いシンプルなものだが、穂乃果の持つ指輪と同じエンブレムが彫られている。

穂乃果が近付いてみると、エンブレムの中心に小さな穴が空いているのが分かった。

「もしかして……」

穂乃果が指輪を穴にはめてみると、

ズズズズズ…………と地鳴りのような音が響き、地下へと降りる階段が現れた。

「は〜……どういう仕掛けなんだろ」

「魔法の一種……なのかな?」

「まあとにかく、道は開けた! 早く行こう?」

「……うん」

 

 

階段を降りた三人は、

「……う」

立ち込める瘴気のような空気に顔をしかめた。

「聞いた話によると、昔この修道院で伝染病が蔓延したんだって。それで沢山の人が亡くなって、それでこの修道院を捨てて今の修道院を建てたらしいよ」

いつの間にそんな情報を手に入れたのか、愛が口を開く。

「それにしたっていやーな場所だね……」

「同感。早く抜けちゃおう」

しかし当然、打ち捨てられた廃墟。魔物が巣食っている。

 

[がいこつたちがあらわれた!]

 

白骨化した、剣を持った兵士のような魔物。

「やっぱりいるんだね!」

穂乃果は剣を構え、斬りかかっていく。

 

[穂乃果のこうげき! がいこつAに23のダメージ!]

[曜のこうげき! がいこつAに26のダメージ!]

[愛のこうげき! がいこつAに21のダメージ! がいこつAをたおした!]

 

「くっ……結構タフだよ!」

 

[がいこつBのこうげき! 穂乃果は8のダメージを受けた!]

 

対するダメージはさほど痛くないものの、数で責められては厳しそうである。

 

[穂乃果はかえん斬りをはなった! がいこつBに28のダメージ!]

[曜は蒼天魔斬をはなった! がいこつBに36のダメージ! がいこつBをたおした!]

[がいこつたちをやっつけた!]

 

「ふぅ……これは気を引き締めないとかもね」

 

[ハエ男があらわれた!]

 

「うわ気持ち悪っ!」

「倒す倒す!」

「全力攻撃っ!」

 

[ハエ男をやっつけた!」

 

ハエのような顔で飛び回る小柄な男のような魔物は、哀れ集中砲火を浴びて倒れ伏せた。

「こんなのまでいるなんて……一刻も早く抜けよう!」

当初の目的を忘れかけている穂乃果が、大きな声で嘆いた。

 

 

院内の階段を更に降りると、見るからに毒々しい色をした水たまりが広がっていた。

「……触ったら気分悪くなりそう」

「それだけで済めばいいけど……」

「極力触りたくないよねー」

幸いにもここは廃墟。散乱する壊れた家具を集め、即席の足場を作る三人。脆くなっていたり、そもそも腐っていたりと危険な足場を慎重に渡っていく。

「──っぷはぁ〜!」

「何とかなったね〜」

「もう一度は、愛さんもごめんだなー」

毒沼に落ちる事なく渡りきった三人は、安堵の息を吐く。

「……ううん、休んでる暇はないよ。こうしてる間にも、ドルマゲスが院長を狙ってるかもしれないんだもん!」

自らを奮い立たせるように、勢いよく立ち上がる穂乃果。

「ほのほのは強いよね〜」

「まったくだよ。一緒にいるだけで元気貰える」

愛も曜も、苦笑しながら立ち上がる。

「きっともうちょっとのはずだから、もう一踏ん張り! 頑張ろ〜!」

「「おー!」」

 

 

毒沼を超えたすぐ先の階段を登ると、小さな通路。その先には両開きの扉があった。明らかに今までと違うその扉の雰囲気に、

「お、もしかして出口じゃない?」

穂乃果は勢いよく扉を開ける。

「…………」

そしてそこに立っていた、ゾンビのような聖職者と目が合った。

「失礼しました〜」

パタン、と閉まる扉。

「って何で閉めちゃうの!」

当然曜からのツッコミが入る。

「だってだって! 目の前にゾンビがいるんだもん! ビックリするよ!」

「そうは言っても、この修道院跡地の門番って感じなんじゃないの? 闘わないと、修道院長さんが危ないままだよ?」

「うっ……確かに」

穂乃果は意を決して覚悟を決めると、

「──でりゃっ!」

もう一度扉を開け放つ。

するとそこに立っていたゾンビは、

「おおおヲ……おヲォォおォ……!」

地の底から湧き上がるような声で喋り出す。

「苦しイ……くるシい、苦シイ……。神ハいずコにおらレル……? こノ苦しみハ、イツマデ続く?」

杖を持つ手が、ワナワナと震えている。

「おヲオぉお……! 死ンだ死んダ死んだ死ンダのだ! ミナ、苦しミながら死んデ行ッた! あノ恐ろシぃ病ガ我ラを、コの修道院ノ全テを死に包ンだ! 苦シイ、クるしイ、クルシイ……!」

「……もしかして、伝染病で亡くなった、昔の修道院長さんなのかな? そんな話聞いた気がする」

「……何だか、可哀想だね。凄く、苦しそうで」

「……二人共」

シャリン、と剣を抜く穂乃果。その瞳は、真っ直ぐ前を見据えていた。

「──行くよ」

「……分かった」

「勿論」

「我が苦シみぃッ! 我等ガ苦シミっ! おマエにも、味わワセてやるゥゥゥッ!」

 

 

 

 

 

[なげきの亡霊があらわれた!]

 

「闘って、楽にしてあげよう!」

 

[なげきの亡霊は仲間を呼んだ!]

[くさった死体とがいこつがあらわれた!]

 

「仲間も呼ぶんだね……」

「集中攻撃されると厄介だし、横から倒していこう」

「オッケー」

 

[穂乃果はかえん斬りをはなった! くさった死体に28のダメージ!]

[愛の攻撃! くさった死体に25のダメージ! くさった死体をたおした!]

 

[なげきの亡霊はベギラマを唱えた!]

[穂乃果は27のダメージを受けた!]

[曜は28のダメージを受けた!]

[愛は28のダメージを受けた!]

 

「くっ……強力な魔法……!」

 

[がいこつのこうげき! 穂乃果は8のダメージを受けた!]

 

「この……っ好き勝手させるかぁ!」

曜の斧の一振り。

 

[曜は蒼天魔斬をはなった! がいこつに38のダメージ! がいこつはマヒして動けなくなった!]

 

がいこつの動きが止まる。

「おっ、痺れた……? これはチャンスだよ!」

「分かってる!」

 

[穂乃果は全身に力をためた! 穂乃果のテンションが5上がった!]

 

「ほのほの、気を付けてね」

 

[愛はホイミを唱えた! 穂乃果のキズが回復した!]

 

「ありがとう愛ちゃん!」

 

[がいこつはしびれて動けない!]

[なげきの亡霊のこうげき! 愛は20のダメージを受けた!]

 

「おっと、今度は愛さんピンチだね……」

呪文からの連撃で足元がふらついた愛。

「愛ちゃん⁉︎」

「大丈夫?」

「ヘーキヘーキ。それより二人は攻撃に集中しなさいって」

 

[愛はホイミを唱えた! 愛のキズが回復した!]

 

立て直した愛を確認し、穂乃果は再度臨戦態勢。

 

[穂乃果は全身に力をためた! 穂乃果のテンションが20上がった!]

 

「私も!」

 

[曜は全身に力をためた! 曜のテンションが5上がった!]

 

「愛さんもサポートしちゃうよ!」

 

[愛はピオリムを唱えた! 穂乃果のすばやさが25上がった!]

[曜のすばやさが20上がった!]

[愛のすばやさが28上がった!]

 

なげきの亡霊は、再び杖を掲げて呪文を唱える。

 

[なげきの亡霊はベギラマを唱えた!]

[穂乃果は26のダメージを受けた!]

[曜は28のダメージを受けた!]

[愛は25のダメージを受けた!]

 

愛の的確なサポートで立ち回ってはいるが、強力な全体攻撃を受け続ければとても愛一人ではカバーしきれない。

 

[穂乃果は全身に力をためた! 穂乃果のテンションが50上がった! 穂乃果はハイテンションになった!]

[曜は全身に力をためた! 曜のテンションが50上がった! 曜はハイテンションになった!]

[愛はホイミを唱えた! 曜のキズが回復した!]

[なげきの亡霊のこうげき! 穂乃果は18のダメージを受けた!]

 

「うぐっ……! ──でも、そろそろ反撃だよ!」

 

[曜は蒼天魔斬をはなった! なげきの亡霊に218のダメージ! 曜のテンションが普通に戻った]

[穂乃果はかえん斬りをはなった! なげきの亡霊に199のダメージ! 穂乃果のテンションが普通に戻った]

 

全力で放った二人の一撃だったが、敵を倒すまでには至らなかった。

「そんな……倒せなかった……!」

 

[なげきの亡霊のこうげき! 穂乃果は21のダメージを受けた!]

 

「くっ……!」

重なるダメージに、穂乃果の足元がふらつく。

「穂乃果ちゃん!」

 

[曜は“やくそう”を使った! 穂乃果のキズが回復した!]

 

「ありがとう曜ちゃん!」

それを横で見ていた愛は、

「愛さんだって、見てるだけのサポートじゃないんだぞ〜!」

何やら闘志を燃やして呪文を詠唱する。

 

[愛はイオを唱えた!]

[がいこつをたおした!]

[なげきの亡霊をたおした!]

[まもののむれをやっつけた!]

 

痺れたままのがいこつもろとも、愛の呪文で敵を一掃する。

「た、倒した……?」

「……っはぁ〜! 疲れた〜!」

「二人共、お疲れ様」

三人が互いを健闘し合うと、

「──おおヲぉお……っ! 神ヨ……。神ょおぉぉオ……!」

なげきの亡霊は、虚空へと手を伸ばす。

「いま、御許に参りマす……」

そして、光の粒子となって消えていった。

そして、

 

[穂乃果たちの体力が全回復した!]

 

疲れ果てていた穂乃果達の身体が、一瞬で元気になった。

「……祝福、って事なのかな」

「やっぱり、本当は悪い魔物じゃなかったって事だよ」

「天国に行けたといいね〜」

回復した事実とは別に、三人は晴れやかな顔で天井を見上げた。

「──さ、それはともかく先を急がなきゃ!」

三人は気を取り直し、脇にあった通路へと駆け出した。

 

 

 

 

その先にあったのは、頭上へと伸びるハシゴだった。ハシゴは目の見える範囲で途切れている。

「あそこが、出口って事なのかな」

「かもね。急ごう!」

三人は順番にハシゴを登る。先頭の穂乃果が一番上に到達すると、

ゴゴゴゴ、と石が擦れるような音がして光が差し込む。

「外だ……!」

穂乃果、曜、愛の順に外へ飛び出すと、

ゴゴゴゴ、と再び出口は閉まる。

明らかに人力でも機械仕掛けでもないのだが、

「何か聖なる力が働いてるって事なんだね」

原理までは分からない。

穂乃果は、目の前にそびえる建物の壁を見上げる。

「ここは……」

「多分、修道院長の建物の裏手だと思う」

「うん、さっき土手から見たから間違いないよ」

辺りは、すっかり夜。決して寒い季節ではないのだが、時折吹く風が不気味な寒気をもたらす。

「……嫌な寒さ。穂乃果ちゃん、気をつけよう」

「……うん」

人工的な音は何もない、静かな夜。その静寂が、かえって緊張感を煽る。

「……じゃあ、行くよ」

穂乃果は意を決して、建物のドアを開いた。

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV17

どうのつるぎ

うろこのよろい

せいどうの盾

ターバン

聖堂騎士団の指輪

 

・曜

LV16

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV17

ブロンズナイフ

くさりかたびら

せいどうの盾

皮のぼうし

金のロザリオ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話

何やかんやで、マイエラ編も佳境です。更新ペースを落とさず、頑張りたいと思います。


ドアを開け室内に入っても、変わらず静寂が支配していた。だが、明らかな違和感がそこにはあった。倒れる、人。

「だ、大丈夫ですか⁉︎」

どうやら修道院長護衛の聖堂騎士団のようだが、立ち上がる力も残っていないほどのダメージを受けている。

「ううっ……何者だ……。あの道化師……。だ、誰か院長様を……!」

「やら、れた……。アイツはオディロ院長様を狙っている……。──ゲホッ! 院長が、あぶ、ない……!」

「あいつ……あのおかしな道化師は、ここに来てしばらくの間は穏やかに振舞っていたのだ……。それが急におかしくなったように笑い出し、院長様のお部屋へ駆け上がろうと……。わ、我々は必死に止めようとしたのだ。だが……三人がかりでも……止められ、なかった……!」

途切れ途切れに、事情を話す騎士団員。

「やっぱりドルマゲスが……!」

穂乃果は慌てて周囲を警戒する。

「穂乃果ちゃん!」

そこへ、曜の声が飛ぶ。穂乃果がそちらを向くと、

「階段がある」

二階へと続く階段が、そこにはあった。

「…………」

穂乃果はゆっくり頷くと、慎重に階段を登っていく。

二階にも動く人影は見えないが、規則的な呼吸音が小さく聞こえた。

「……寝息?」

念の為慎重に視線を送ると、かなり高齢の老人が、簡素なベッドの上で静かに眠っていた。

「あれが、オディロ院長さんかな?」

「だと思う」

「良かった〜。無事だったんだね」

三人が安堵の息を吐く。そして視線を少し横にずらし──

「…………っ⁉︎」

その表情が凍りついた。

院長の足元。そこにフワフワと浮かぶ人影が見えたのだ。赤や紫といった毒々しい色の道化服に身を包んだ、──話通りの道化師が。

思わず剣に手が伸びた穂乃果だったが、

「…………」

道化師はこちらに気付くと、不気味な笑みを残してその場から消え去った。

「……消え、た……?」

姿は消えたが、ねっとりと絡みつくような緊張感は消えない。

「不意打ちを狙ってるかもしれないから、油断しちゃダメだよ」

「院長さんは、大丈夫かな?」

寝息は穏やかなので心配ないと思いつつ、様子を確認しようとベッドへ近付く。

「……う、ん? 何だ、この禍々しい気は……?」

すると、話しかける前にオディロが目を覚ました。

「君たちは……? わたしに、何か用かね?」

すぐに穂乃果達に気付き、不思議そうな顔を向けてくる。

「あー用って言うか……」

なんと説明しようか迷っていると、騒がしく階段を駆け上ってくる足音が聞こえた。どうやら騎士団員の援軍のようだった。そして、

「いたぞ! こいつらだ!」

何故か、穂乃果達に向かって剣を構える。

「オディロ修道院長の命を狙うとは、なんたるバチ当たりめ!」

「え、え、え⁉︎」

突然の事態に、困惑する穂乃果。

「これは……何の騒ぎだね?」

どうやら、オディロも状況を把握できていないようだった。

「──オディロ院長」

すると、彼らの背後から凛とした声が響いた。聞き覚えのある、キツい声色。

「聖堂騎士団長果南、御前に参りました」

「おお、果南か。一体、何があったのだ」

「修道院長の警護の者達が、次々に侵入者に襲われ深手を負っております」

「なんと……」

その報告に嘘はなかった。そこまでは、裏道を使った穂乃果達でも把握している。

「もしやと思い駆けつけましたところ……昼の間からこの辺りをうろついていた賊を、今ここに捕らえたという訳です」

その報告には覚えがない。

「え、ちょっとそれは誤解だって──」

「どうにか間に合いました。ご無事で何よりです」

当然抗議する穂乃果だが、果南は聞く耳を持たない。

「いや、待て。その方は、怪しい者ではない」

すると、オディロが口を開いた。

「かようにも、澄んだ目をした賊がいるはずはあるまい。何かの間違いだろう」

キッパリと果南の報告を否定したオディロ。

「しかし……!」

果南は納得いかない様子で穂乃果達を見やる。

「……分かりました」

それから、小さく息を吐き出した。濡れ衣が晴れて安堵した穂乃果達だったが、

「ただ、どうしてこのような夜更けに院長のもとを訪れたのか。それだけははっきりと聞いておかなければ。よろしいですか?」

「ほっほっほ。お前は心配性じゃのう。分かった。それならよかろう」

オディロはあくまで朗らかに、小さく頷く。

「──さあ、来てもらおうかな?」

 

 

 

 

場所は変わって、例の尋問室。

そこで果南と向かい合った三人は、仏頂面で立っていた。

「──だーかーらー! 濡れ衣なんだってば!」

「そうそう! 聖堂騎士団の人に頼まれて、院長さんの様子を見に行ったんだってさっきから言ってるじゃん!」

「……院長は甘すぎるんだよね。じゃあ、君たちが犯人じゃないって言うなら部下達は誰にやられたの?」

「だーかーらー!」

堂々巡りする尋問。

「私の目はごまかせないよ。白状するまで──」

コンコン、と。ドアがノックされた。

「誰?」

果南の声に、

「団長が、呼んだんじゃなかった?」

これまた聞き覚えのある声が。

「……入って」

団員がドアを開けると、

「どうもー」

千歌が立っていた。

「千歌にも質問がある。……けどその前に」

果南は穂乃果達に視線を戻し、

「修道院長の命を狙い部屋に忍び込んだ賊を、先ほど捕らえた。──この三人だよ」

「へえ」

千歌の反応は、あくまでドライだ。

「それはともかく、問題はここから。──このマイエラ修道院は、厳重に警備されている。よそ者が忍び込める隙なんてない」

ドルマゲスの侵入は許したのに、と穂乃果は思ったが口には出さない。

「……誰かが、手引きをしない限りは、ねぇ?」

含みのある言い方をした果南は、懐を探る。そして取り出したのは、聖堂騎士団の指輪。

「この三人の荷物を調べたところ、この指輪が出てきたんだよ。聖堂騎士団員の千歌。指輪はどこにあるの? 持ってるなら見せてくれる?」

しばしの静寂。そして、

「──良かった〜! 果南ちゃんの所に戻ってたんだね!」

明るい声で果南の手を掴む千歌。

「……どういうこと?」

穂乃果達にも展開がサッパリなので、成り行きを見守るしかない。

「酒場でスリにあっちゃって困ってたんだよ〜。良かった〜、見つかって!」

とんでもない発言をした千歌に、

「スリって……何を言って──」

事実と違う話に当然抗議しようとする穂乃果。

「こんな賊の言う事を、真に受ける必要なんてないよね」

それを遮って、千歌は笑顔でさらにとんでもない発言をする。

「んなっ…………」

言葉を失う三人。

「そういう訳だから、私は部屋に戻るね。今度からは、ちゃんと肌身離さず持つようにするからね〜、指輪」

後ろ手にヒラヒラと振って、千歌は尋問室を出て行ってしまう。

「……はぁ、まったく千歌は……!」

果南は大きくため息をつくと、

「……という事らしいけど?」

穂乃果達に向き直る。

「そんな事言われても……」

頼みの綱を失って、穂乃果もどう話せばいいのか分からなくなってしまう。

──コンコン、と。

再びノックされるドア。

「今度は何?」

「修道院の外でうろついていた魔物を二匹、捕まえて参りました!」

魔物? と三人が顔を見合わせる。

ドアが開かれ、

「何でにこがこんな目に遭わなくちゃいけないのよ……!」

「にこちゃんがウロウロし過ぎるから見つかったんだにゃ!」

「にこのせいだって言いたい訳⁉︎」

「他に無いにゃ!」

口喧嘩をしながら連行されるにこと凛の姿が。

「──って、穂乃果達じゃない。こんなトコで何やってるのよ。オディロ院長はどうなったのよ?」

状況を知らないのか、最悪のタイミングで、最悪の質問をぶつけるにこ。

「……決まりだね。やっぱり狙いはオディロ院長だったと」

果南は立ち上がると、

「全員を牢屋へ! どれだけの事をしたか、知ってもらう必要があるよ」

高らかに指示を飛ばした。

 

 

 

 

抵抗などできるはずもなく、牢屋の部屋へ全員連れ込まれた一行。

「何でにこがこんな目に……。ていうかあんた達、何でこんな事になってんのよ⁉︎」

「さあ……」

「気が付いたら、こうなってたんだよね……」

「あの果南って人も千歌って人も、全然話通じないんだもんねー」

「ドルマゲスを倒すはずの正義の味方が、牢屋生活なんて笑えないにゃ」

凛の発言が一番笑えないのだが、穂乃果達にはなすすべが無い。脱獄なんて不可能だし、助けを待っても誰か来る訳でも──

「どうも〜」

いきなり笑顔を覗かせたのは、千歌だった。

「ああっ!」

鉄格子に飛びついた三人。

「そんな怒らないで欲しいな〜、なんて。さっきはごめんね。──ほら」

そう言って千歌は、鍵の束を取り出す。そして、鉄格子を解錠する。

「……どういう事?」

未だ警戒色の三人だったが、

「ここだと声が上に聞こえちゃうかもしれないんだよね。だからついて来て。話はそこで」

千歌はまだ何も話さない。先導して歩き出したので、一行はついて行くしかない。

「──ここだよ」

千歌に案内されたのは、尋問室のさらに奥。

その部屋に鎮座していたのは、いわゆる鉄の処女と呼ばれる拷問器具。

「……あー、私、これ知ってる」

曜は、複雑な声を出す。

「曜ちゃんは物知りだね〜」

「それはともかく、急に掌返してどうしたの? 実は最初から味方でしたってオチ?」

愛の声色は、まだ硬い。

「そのまさかなんだけどね……。指輪の話は、ああしないとチカが疑われちゃうし……」

「……ふぅん?」

「ま、まあまあ。現にこうして助けてもらったんだしさ?」

未だ疑惑の目をやめない愛を、曜がなだめる。

「そうそう、ちゃんと助けてあげるから安心して!」

そう言って千歌は、鉄の処女を開く。

ギギギ、と重い音が響き、漆黒の空間が現れる。

『…………』

全てを飲み込むような深い闇に、五人は息を呑む。

「そんな怖がらなくていいのに〜。……えっと、にこちゃんだっけ?」

「そうだけど、何よ。言っとくけど私は、れっきとした人間で──」

「中、覗いてみて」

「……は? あんた正気? これって拷問器具でしょ? にこに死ねって言いたい訳?」

「いやだなぁ、そうじゃないってば。これにはちょっとした秘密があるんだよ」

「……秘密ぅ?」

にこは怪訝な顔をしたが、

「──早くするにゃドーン!」

しびれを切らした凛が、にこの背中を思いっきり突き飛ばした。

「ちょっ……⁉︎」

前方へ吹き飛ばされたにこは、吸い込まれるように鉄の処女の中へ。

「さらにドーン!」

そして千歌が、開いていた部分を閉める。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

くぐもった悲鳴が響き渡った。

「二人共何やってるの⁉︎」

「にこちゃんが死んじゃう!」

「にこにー生きてる⁉︎」

慌てて駆け寄った三人だったが、

「…………ん?」

中から再びにこの声が聞こえてくる。

「ど、どうしたのにこちゃん!」

「無事なの⁉︎」

「天国の様子はどんな感じ⁉︎」

「勝手に殺すんじゃないわよ!」

意外にも、元気なツッコミが返ってくる。

「どういう事?」

「実は、この奥は抜け穴になってるんだよ。これはただの飾り。秘密の脱出ルートって事だね」

へー、と感心する三人。

「凛ちゃん、よく分かったね」

「んーん〜、知らなかったにゃ。凄い造りだね〜」

「え…………」

「だってにこちゃんがウジウジして進まないから、我慢できなくって」

「あ、あはは……」

「……凛、後で覚えてなさいよ」

「にゃは〜☆」

再び鉄の処女の開いた千歌は、

「さ、みんな急いで。逃がそうとしてるのバレたら、それこそおしまいだから」

順番に鉄の処女の中へと入って行く。最後に入ろうとした曜は、ふと気付く。

「……ん? にこちゃんが中に入った時、閉める必要ってあった?」

「無いよ。楽しそうだったから、つい!」

「……本当に、信用して平気なのかな」

 

 

抜け穴を進みながら、

「わざわざ濡れ衣を着せておいて、何で助けに来たの?」

「いや、それに関しては申し訳ないと思ってるよ。私、この修道院であんまりよく思われてないからさ。あそこで『この人達は悪くありません』って言っても、信じてもらえなかったと思うんだ。果南ちゃんだったら、『一緒に牢屋に入ってなさい』って言ってたかもしれない」

『…………』

複雑な関係を察し、一行は黙る。

「──さ、着いたよ」

通路の突き当たりに、ハシゴがかかっていた。

「ここから外に出られる。船着き場から来たなら、途中で空の馬小屋を見なかった? あそこに繋がってるんだよ」

千歌の言葉を聞いて、何日か前の風景に納得する。

 

 

ハシゴを登り、藁の山から這い出す一行。

「うひゃ〜、身体中がチクチクする……」

「まあ仕方ないよね。後で綺麗にしよう」

藁のカスを互いに払いながら、千歌に礼を言う。

「ありがとう千歌ちゃん。おかげで助かった」

「いいっていいって〜。私は早く修道院に戻らないとだから、ここでお別れかな。──いい旅を」

「うん!」

空の馬小屋から出た一行は、

『……………………』

呆然と立ち尽くした。

視界の先、修道院と院長の建物を繋ぐ橋が、炎を上げて燃えていたのだ。

「何で、どうして……。修道院が、燃えてる……⁉︎」

脳内で処理が追いつかない千歌だったが、

「まさか、さっきの禍々しい気の持ち主がまた……⁉︎ ────っ! オディロ院長が危ない……っ!」

何かに気付き、颯爽と駆け出した。

「あっ、千歌ちゃん!」

手を伸ばした穂乃果。

「何やってんのよ! 早く追いかけるわよ!」

その脇を、にこが走り抜けた。

「穂乃果ちゃん早く!」

「ほのほの、ボーッとしてる場合じゃないよ!」

「急ぐにゃ!」

呆気に取られていた穂乃果の背中を、残りのメンバーがバシバシ叩く。

「うわわわわっ⁉︎ 分かってるってば!」

穂乃果も追いかけるように、慌てて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV17

どうのつるぎ

うろこのよろい

せいどうの盾

ターバン

聖堂騎士団の指輪

 

・曜

LV16

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV17

ブロンズナイフ

くさりかたびら

せいどうの盾

皮のぼうし

金のロザリオ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話

これにてマイエラ編完結です!
次回冒頭で少しだけ触れて、新章突入します!


 

修道院に着くと、今にも落ちそうな橋が目の前で燃えていた。

「う……」

一瞬尻込みしたが、

「でぇぇぇぇぇいっ!」

意を決して全速力で渡りきる。幸いにも橋が落ちる事はなかったが、すでにあちこち崩れ始めていた。

穂乃果達が建物へ突撃しようとしたその直前、宿舎の扉が勢いよく開け放たれる。

「果南ちゃん、どこ行ったの……⁉︎」

「千歌ちゃん!」

千歌は院長の建物を見つめると、

「禍々しい、気……? ううん、そんなレベルじゃない……。こんなのまるで、地の底の悪魔みたいだ……!」

絶望的な声で呟く。

「オディロ院長……っ!」

千歌は、すでに半ば崩れかけている橋を強引に走り抜ける。

「うっ……うわわっ……!」

千歌が走り抜けるとほぼ同時に、限界を迎えた橋が大きな水柱を上げて崩れ落ちた。

「ハァ……ハァ……ハァ……!」

間一髪で橋を渡った千歌は、建物の扉に飛びつく。だが、その扉はビクともしない。

「中からカギが……⁉︎ そんな……」

千歌は思いっきり扉を叩くが、そんな行為を拒むかのごとく扉は微動だにしない。

「果南ちゃん達は中にいるの……⁉︎ 分からない……! とにかく、早くしないと……!」

焦る千歌の耳に、

「──どいてっ!」

大声が届いた。

「へ? ──うわぁっ!」

慌てて跳んだ千歌の目の前で、

「でりゃあ!」

曜の斧が振り下ろされた。千歌の侵入を拒んだ扉も、強引な物理攻撃には耐えられない。木屑を撒き散らして、粉砕された。

「非常事態だから許してね!」

「勿論だよ! ありがとう!」

建物の中へ飛び込んだ六人は、目の前で倒れていた騎士団員へ駆け寄る。

「はやく……院長さ、まを……」

「何があったのか、詳しく教えてよ!」

「やつは、強い……。果南さま……も、あぶな、い……」

そこで、騎士団員の意識は途絶えた。

「くっ……果南ちゃん……オディロ院長……!」

千歌はすぐそばの階段を見やると、

「上にいる。みんなも来て!」

一気に駆け上がる。

「──うわあぁあぁぁぁっ!」

すると、階段から騎士団員が一人転げ落ちてきた。

「うわっ!」

「あ、の道化師……誰か……院長を……っ」

意識を失った騎士団員を介抱したい気持ちを抑え、階段を駆け登る。

二階に到達して最初に見たのは、宙に浮いて杖を構える道化師──ドルマゲス。そして、

「かはっ……!」

不可視の攻撃によって壁まで吹っ飛ばされた果南の姿。

「果南ちゃん!」

「やら、れたよ……。全部、あの道化師の、仕業……。あいつは……強い……。ゲホッ! ……だからって、あいつの思い通りになんて……!」

駆け寄った千歌に、果南はか細い声で伝える。

「……命令だよ、千歌……! 院長を連れて、早くここから……」

「果南ちゃ──」

ドルマゲスが、杖を振るう。

「ぐぅ…………っ!」

先ほどの果南と同じように、壁に叩きつけられる千歌。

「クックック……。これで邪魔者はいなくなった」

不気味な笑顔を浮かべるドルマゲス。

「オディロ、院長……!」

「案ずるな、果南。わたしなら大丈夫だ」

狙われの身であるオディロは、落ち着いた声をかける。

「わたしは、神に全てを捧げた身。神の御心ならば、わたしはいつでも死のう。──だが、罪深き子よ。それが神の御心に反するならば、お前が何をしようと、わたしは死なぬ! 神のご加護が、必ずやわたしとここにいる者達を悪しき業より守るであろう!」

高らかに言い切ったオディロに、ドルマゲスは変わらぬ不気味な笑みを浮かべる。

「……ほう、随分な自信だな。ならば試してみるか?」

「──このままじゃ危ない……!」

飛び出そうとした穂乃果を遮って、

「──ちょっと待ちなさいよ!」

にこが大きな声を出して進み出た。

「久しぶりじゃない、ドルマゲスッ!」

「これはこれは、トロデーンの城にいた、素晴らしい踊り子さんではありませんか。あの可愛らしかった姿の面影もない、変わり果てたお姿で」

皮肉にも慇懃な態度を取るドルマゲス。それが、にこの神経を逆なでする。

「うるっさいわよ! 誰のせいだと思ってんの! いいから元の姿に戻しなさいっ!」

ドルマゲスはそれには答えなかった。魔力を解放し、切っ先の鋭い杖をにこ目掛けて振りかぶった。

穂乃果も曜も愛も飛び出すが、一瞬間に合わない。

「──死ね」

発射された杖は、寸分違わず飛来すると、その身体を易々と貫いた。

──にこの前に立ち塞がった、オディロの。

「え……な、ん……」

引き抜かれる杖。既に、オディロはピクリとも動かない。

「……悲しいなあ。お前達の神も運命も、どうやら私の味方をして下さるようだ……。──キヒャヒャ! 悲しいなあ、オディロ院長よ。──これで、ここにはもう用は無い」

ドルマゲスは魔力を放つと、窓の一つを粉砕する。

「さらば皆さま。ご、き、げ、ん、よう。キヒャヒャヒャハハハッ!」

そして、気味の悪い笑い声を残して夜の闇へ消えていった。

 

 

 

 

翌日。降りしきる雨の中、オディロ院長の葬儀が執り行われた。

 

 

果南がその夜にあった事を全て公開してくれたおかげで、穂乃果達の疑いは晴れた。しかし、それとは対照的に穂乃果達の表情は暗い。

「……オディロ院長は救えなかったし、ドルマゲスも逃しちゃった」

「……毎回、後手後手に回っちゃう」

「今回は、何とかしてやるって思ってたんだけどなぁ……」

修道院の宿舎で一晩過ごした穂乃果達は、深くため息をついた。

「──みんな、起きてる?」

そこへ、千歌が部屋を覗き込んだ。

「あ、千歌ちゃん」

「……昨日も言ったけど、オディロ院長の事は、みんなのせいじゃないからね。それどころか、みんなが駆けつけてくれなかったら、果南ちゃんもどうなってたか分からなかった。ありがとう」

「そんな、お礼を言われる事なんて何も……」

「かもしれないけど、言わせて欲しいの。──ありがとう」

深く頭を下げた千歌に、穂乃果達は顔を見合わせる。

「それで、その団長の果南ちゃんが呼んでるよ。部屋まで来て欲しいって」

それじゃ、と部屋から出ていく千歌。

用事は分からないが、とりあえず果南のいる部屋へ向かう。

「よく来てくれたね。あらぬ疑いをかけて、本当にごめん」

頭を下げた果南に、疑いが晴れたのなら、と穂乃果も軽く流す。

「……真の敵は、ドルマゲス。あの道化師が全ての元凶……。何としてでも仇をとりたい……けど、私はマイエラ修道院の新しい院長。旅になんて出られない」

果南はかぶりを振ると、穂乃果を見つめる。

「──そこで、なんだけどね。キミ達も、ドルマゲスを追って旅をしているんだってね?」

「えっと、うん」

「非常に不躾なお願いで申し訳ないとは思うんだけど、私の代わりに、オディロ院長の仇をとってきてくれないかな」

「それは、勿論!」

穂乃果は、即答する。

「ドルマゲスを追う理由が、一つ増えた!」

「それを聞いて、安心したよ。……よろしく」

最後の言葉に込められた重みを、穂乃果は肌で感じ取った。

 

 

 

 

修道院の出入り口まで向かうと、

「あ、やっと来た!」

そこに、千歌が立っていた。

「千歌ちゃん、どうしたの?」

「……あー、えっとね……」

千歌はしばらく視線をウロウロさせながら言葉を濁していたが、

「──私も、旅に同行させて欲しい」

穂乃果の目を真っ直ぐ見て、そう言った。

「果南ちゃんは、院長としての仕事が忙しいけど、私はそんな事ない。むしろ、今自由に動けるのは私だけ。──だから、お願い!」

頭を下げる千歌。その揺れるアホ毛を見ながら、三人はどうするかと一瞬目配せ。そして、三人の答えが一致していた事を確信する。

「──千歌ちゃん」

穂乃果は一歩進み出ると、

「──よろしく!」

右手を差し出した。

「…………! ありがとうっ!」

パァっと顔を輝かせた千歌は、その手を強く握り返した。

「千歌っち、闘えるの〜?」

愛が軽口を叩くが、

「任せてよ! こう見えても、聖堂騎士団の一員なんだから! 絶対活躍してみせるよ!」

千歌はドンと胸を叩く。

「お、それは頼もしい」

「これからよろしくね、千歌ちゃん!」

 

[千歌が仲間になった!]

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV17

どうのつるぎ

うろこのよろい

せいどうの盾

ターバン

スライムピアス

 

・曜

LV16

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV17

ダガーナイフ

くさりかたびら

せいどうの盾

皮のぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV15

ロングスピア

騎士団の服

うろこの盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話

期間空いてしまいました。すみません。
今回から、アスカンタ編の始まりです。新キャラは誰でしょうか?


街道を道なりに進んでいると、大きな川にぶつかった。頑丈そうな石橋はかかっているものの、すでに日暮れは近い。

「そこに教会があるよ」

すぐ近くに教会が建っていた事もあり、そこで宿を取る事に。

教会にいたシスターに交渉しようとしたが、

「旅の方、よろしければ我が教会で休んでいらしてはいかがですか?」

見透かされたのかみなに言っているのか、シスターから宿を提供してくれた。

「あ、じゃあお言葉に甘えて」

「今日は我が神の定められた祝祭日。いつもはご寄付をいただくのですが、今日でしたら無料でお泊めしますよ」

「わ、やったラッキー」

 

 

 

 

街とは違い『善なる心であれば種族を問わない』教会では、にこや凛でも問題なくベッドが用意される。

「ん……」

久しぶりの布団にくるまっていたにこだったが、ふと目が覚めてしまい空気を求めて外へと出る。そこで、

「あれは……」

一本の木に寄りかかる千歌の姿を見つけた。

「──隣、いいかしら」

「あ、にこちゃん」

許可を待たず、にこは近くの切り株に腰を下ろす。

「千歌。あんたも色々と大変だったみたいね」

「え……」

「言わなくたって分かるのよ。果南って団長と、──オディロ院長との事」

「…………」

「ま、詳しくは知らない私が首突っ込む事でもないけどね。一人で抱え込むのはやめなさいよ」

「……うん」

「……それと、オディロ院長の事。──ごめん」

「にこちゃんが謝る必要なんてないよ」

「私が出しゃばらなけば、結果は変わってたかもしれないって思うと……責任感じるのよ」

「にこちゃんが悪い訳じゃないってば。……それに、きっとあの場にいた誰も、ドルマゲスには勝てなかった。私も、コテンパンにやられちゃったしね」

「…………」

「……でも、だからこそ、野放しになんてできない。もっともっと強くなって、ドルマゲスを倒す。私の剣には、オディロ院長や果南ちゃん、沢山の人の想いが乗ってるんだから」

「あんまり気負い過ぎるんじゃないわよ。私は戦闘はできないけど、あんたには一緒に闘ってくれる仲間が三人もいるんだからさ」

「うん、心強い。──にこちゃんだってそうだよ? 早く呪い解こうね。最高に可愛いにこちゃん、見てみたいし」

「可愛すぎて気絶しても、知らないわよ?」

「それは楽しみ!」

二人が話している間に、東の空は白み始める。

「っと、もう夜明けだね。そろそろ戻ろっか」

「そうね。──頑張りなさいよ」

「……うん」

 

 

 

 

「おはようございます。どうぞ、あなた方の旅に神のご加護がありますように」

教会のシスターに礼を言うと、一行は外に出る。

石橋を渡った先には、小さな民家が一軒だけ建っている。何か情報はないかと中に入ってみる。

「お邪魔しま〜す」

出迎えてくれたのは、一人の老婆。

「不気味な道化師ですか……? いえ、そんな話は聞いた事がありませんね」

「そうですか……」

ドルマゲスの収穫は無かったが、

「おばあさん、一人暮らしなんですか?」

「いいえ。お爺さんと、孫娘が一人。お爺さんは夜には帰ってきますけれども……」

語尾が弱くなった老婆に、鋭い愛が質問をぶつける。

「孫娘さんは、どこかに住み込みなんですか?」

「ええ、アスカンタのお城で王様の小間使いをしています。優しくてたいそう気の利くいい子なんですけども、ここ二年ほどは一度も帰らず……」

「二年も⁉︎」

一同驚きの声を上げる。

「おばあさん、そのアスカンタのお城ってどうやったら行けますか?」

「お城への行き方ですか? このまま道沿いに行けば、見えてきますよ」

「分かりました。お話、ありがとうございます」

民家を出た一行は、

「お城へ行けば、何か分かるかもしれないね」

「少なくとも今のままじゃ手がかりないし、そのアスカンタ城って所に向かってみよう!」

「その小間使いさんにも、おばあちゃん心配してるぞって教えてあげないと!」

次なる目的地を定めた。

 

 

 

 

老婆の話の通り、しばらく街道を進むと大きな円筒状の建物のある街が見えてきた。

「あれがアスカンタ城かな?」

「お城って割には面白い形してるね〜」

「それに黒いし」

愛の言葉通り、お城には真っ黒な垂れ幕がいくつも垂れ下がり重々しい雰囲気を醸し出していた。

「……なーんか陰気な感じするわね」

街に入れないのをいい事に、にこは容赦なく発言する。

「もしかしたら王様の趣味なのかもしれないんだし、あんまり悪く言うのはやめよう? ね?」

千歌にたしなめられるが、

「……何かありそうね。あんた達、情報収拾頼むわよ。ドルマゲスの行方を聞き出してきてちょうだい。……いい? く・れ・ぐ・れ・も・面倒事に巻き込まれるんじゃないわよ?」

念を押された四人だったが、

「善処しまーす」

返事は雑だった。

 

 

城下町へと入った四人は、

「……うわ」

小さな声を上げた。

『…………』

まだ日が高い時刻だというのに、外を歩く人はまばら。しかも、着ているのは全員同じような黒い喪服のような服。お店もあるにはあるが、店員はみな沈痛な面持ち。

「にこちゃんが言ってた事も、あながち間違いじゃないのかも……」

「いやいや、普段からこんなだったら流石に気が滅入っちゃうでしょ」

「まあ何はともあれ、とりあえず聞き込みっしょ」

「そうだよね! ──あの、」

千歌はすぐ近くを歩いていた青年に話しかける。

「ここに、杖を持った不気味な道化師が来たりしませんでしたか?」

「道化師? ……ふん、こんな陰気な国に道化師なんかが来る訳ないだろ。目立って仕方ない」

まったくもって正論である。

「……アンタ達、旅人か? 悪いがこの国には何も無いよ。さっさと出て行った方が得だと思うけどね」

青年の口調は冷たい訳ではないのだが、どこか投げやりである。

「あの、この国で何が起きたのか、教えてくれませんか?」

青年は発言した曜をチラリと見やると、

「……おれ達だって、こんな陰気な生活したくないさ。だが国王の命令だからな。仕方ないのさ」

青年は大きく息を吐き出すと、

「……お妃様が、亡くなったのさ」

それだけを口にした。

「「「「…………!」」」」

『亡くなった』、という単語に四人は毛を逆立てたが、

「病気にかかっちまってね。治療虚しく、って感じだ。……それがもう、二年も前の話さ」

続けられた言葉に肩の力を抜いた。

「『おきさき』って、王様の奥さんの事だよね?」

頭の弱い穂乃果は、隣の曜にこっそり耳打ち。

「うんそう。二年も前に病死したのならドルマゲスは関係ないと思うけど……」

「二年間こんな感じって、マジ?」

「おまけに、国王のパヴァン王は最上階に閉じこもって誰とも会おうとしない。……この国の未来はどうなるんだろうかね」

青年は、知っている事は話した、と言わんばかりに大きく肩をすくめた。

青年に礼を言った四人は、顔を合わせる。

「……どうする?」

「この国が暗い雰囲気な理由は分かったけど……」

「お国の事情を、愛さん達が解決できるとは思えないしなぁ〜」

「とりあえず、この国で働いてるっていう小間使いさんに会ってみようよ。目的の一つはそれなんだし」

千歌の言葉に、そういえばそうだと三人は思い出す。

「小間使いさん、どこにいるんだろう?」

「王様の小間使いなんだから、お城の中じゃないかな?」

「それじゃ行ってみよう。王様は引きこもってるみたいだけど、お城には入れてくれるのかな〜」

四人は真っ黒い装衣に身を包んだ門番へと近づく。

「城への出入りは自由だが、国王への面会は難しいだろう。──王妃様が亡くなられてはや二年が経とうとしている。それなのに我が王ときたら……いや、何でもない」

ブツブツ呟く門番に、千歌は少しだけ目を丸くする。

「こんなに不満があるのに、ちゃんと命令に従って職務を果たしてるんだ……。パヴァンって人は、もしかしたら凄い王様なのかもしれないね」

「だとしたら、二年間も引きこもりなんて勿体ないなー。何とかして引きずり出せればいいんだけど」

「愛ちゃん、あまり物騒な事言わないでよ……」

「まあまあ、まずはその小間使いさんを探してみようよ。何か話聞けるかもしれないし」

そう言って穂乃果は、陰気な空気に包まれた扉に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV18

はがねのつるぎ

うろこのよろい

せいどうの盾

ターバン

スライムピアス

 

・曜

LV17

鉄のオノ

せいどうのよろい

せいどうの盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV18

ダガーナイフ

くさりかたびら

せいどうの盾

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV17

ロングスピア

騎士団の服

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話

こんな亀の歩みみたいな更新ペースで、完結いつになるんでしょう?
あ、新キャラ出ました。


城の中に入った四人だが、様子は外とあまり変わらなかった。入ってすぐにある石畳の泉には綺麗な水がたたえられていたが、その隣に立つ衛兵はとても暇そうである。

「毎日お祈りばっかで、ろくに仕事も無いからねぇ。どうしてこの国を訪れたんだい?」

衛兵は肩をすくめて、天井を見上げる。

「国王なら、そこの階段から行ける最上階の部屋に閉じこもってるよ。……肝心の国王があれじゃあね」

国王に会える望みは薄いと察しているのか、衛兵もあまり多くは語ってくれない。

四人の目的は国王ではなく小間使い。それとなく訊いてみると、

「ああ……今の時間なら、多分最上階で国王の説得をしてるんじゃないかな。毎日毎日、気の毒になってくるよ」

どうやら城の人間には周知されているようで、これまたため息と共に教えてくれた。

衛兵に礼を言うと、階段を登る四人。

「なんだかなー。王様は人望があるんだか無いんだか分からないね」

「一人で抱え込んでも、いい事無いのにね」

さらに階段を登ると、広い空間に出た。

「ここは謁見の間です。今は国王の代わりに、大臣が対応しております」

二年間も大変だ、と曜は思ったが、勿論声には出さない。

「──ほほう、旅の者とは珍しい。アスカンタによくぞ参った。……すでに存じているとは思うが、我が国は亡くなられた王妃の喪に服しておるため、王には会えんのだ。すまぬがお引き取り願おう」

晴れない表情で、大臣は淡々と言葉を紡いだ。

「何度も言ってきたんだろうなぁ……」

察しのいい曜は、聞こえないように呟く。

「ねえ大臣さん、この上の部屋には行ってもいいの?」

愛が天井を指差す。

「それは構わぬが、王は頑なに部屋から出ようとしない。“あの子”の言葉ですら届かないのに、失礼ながら見知らぬ旅人の言葉が響くとは思えん……」

「ちょっと興味あるだけだから、そんな気にしなくていいよ。絶対に粗相もしないから」

許可を取った愛は、

「そんじゃ行ってみよ〜」

スタスタと階段へ向かう。

「……愛ちゃん、ドア壊すとかしないでよ?」

「しないしない。愛さんを何だと思ってるの。──それに、曜の方が前科あるじゃん?」

「あ、あれは非常事態だったし!」

聞いている大臣が不安になるような会話をしながら、四人は最上階へと向かう。

──最上階は、真ん中に部屋が一つあるだけだった。入り口も一つだけだが、当然、そのドアは閉ざされている。

「──っと、ちょい待ち」

先頭を歩いていた愛が、三人に制止をかける。

「どうし──」

たの、と口を開きかけた穂乃果も、聞こえてきた足音に口を閉じた。

少し戻って階段から様子を伺うと、

「──お加減はいかがですか?」

赤みがかった茶色の髪の毛の少女がドアをノックしていた。

「もしかしてあの子が──」

「──私です。小間使いの歩夢です。……お昼にお運びしたお食事も召し上がられなかったようですね。夕食は、王様の好物を作りますので……」

歩夢と名乗った少女は、ドアに向かって話しかけると、小さく俯いてしまう。

「王様、お願いです。せめて、お返事を……。お元気かどうかだけでも……」

すがるような口調の願いも、ドアは沈黙を守り続ける。

「……失礼致します」

分かっていた事なのか、歩夢は頭を下げるとそのままうなだれて階段を降りていった。

『…………』

すぐ真横にいる穂乃果達には一瞥もくれずに。

 

 

「……あんまり、見たくない所を見ちゃったね」

「だねー。ちょっと言い出しづらいかも」

「お爺さん達が心配してるのと同じ……いや、それ以上に、歩夢って子は王様を心配してるみたいだし……」

「とりあえず、一応王様に挨拶だけしておこうかな?」

愛はドアノブに手をかけるが、当然鍵がかかっている。

「アスカンタの王様〜。旅人さん達がご挨拶に来ましたよ〜」

反応は無い。

「国民みんな、心配してましたよ〜」

反応は無い。

「ドア、壊していいです?」

「ちょちょ⁉︎」

反応は無い。

「ダメかー」

「色々な意味でダメだからね!」

「冗談だって。そんな本気にしないでってば」

冷や汗をかいた曜を、愛は笑い飛ばす。

「……ここの景色、綺麗だよね」

ふと、千歌が呟いた。三人が視線を向けると、

「こんな綺麗な景色の国を治める王様なんだから、きっと優しい王様なんだと思う。もう一度、景色眺めてみませんか?」

千歌の問いかけにも、やはり反応は無い。

「ダメかぁ」

「まあ仕方ないよ。私達は、私達のできる事をしよう。あの歩夢ちゃんに、伝言を伝えないと」

穂乃果は千歌の背中を叩くと、階段を降りていく。

 

 

すると、そこに先ほどの歩夢と大臣が何やら話をしていた。

「お食事もほとんど手つかず。ゆうべも、一晩中玉座の間で泣き明かしていらしたご様子。王妃様がご存命の時は、あれほどお優しくて賢い王様でしたのに……。お側仕えでありながら、何の役にも立てず、申し訳ございません……」

「そうか……王は今日も……。お前は何も悪くはない。ご苦労だったな、歩夢。──だが、なんとしても王に元気を取り戻していただかなければ……。このままでは国が傾く……しかし、一体どうすればいいのだ……」

案の定、明るい内容ではなさそうである。

「話しかけづらいなぁ……」

穂乃果が呟くと、

「もしかして、旅のお方?」

ようやく気が付いたのか、歩夢が振り返った。

「我がアスカンタの王は、誰にも会おうとはしません……。夜になるとこの玉座の間へ降りてきますが、誰の言葉も耳に入らないのです……」

歩夢は小さく首を振った。

「話しかけにくいだけじゃなくて?」

「もし信じられないというのなら、一度ご覧になるといいと思います」

歩夢は顔を伏せ、歩み去ってしまった。

「……どうする?」

「うーん、ここまで来ちゃったし、一度王様の姿を見てみたくはあるかな」

あまり気は進まないものの、全員その意見には賛成。一度城を出ると、宿屋で夜になるまで待機する事にした。

「こんな国に泊まろうなんて、お客さん変わってるね……。やめろとは言わなけどさ」

店主に奇異な目を向けられたが、四人は各々休む。

「私、にこちゃん達に報告してくるよ」

と、一度穂乃果は街の外へ向かった。

 

 

 

 

──夜。意外にも開城されているお城へと戻った四人。

「不用心なのか、そもそも守る必要が無いのか……」

大体の現状を知ってしまった今、後者の可能性が濃厚だと感じてしまう。

謁見の間へと続く階段まで来ると、何やらすすり泣く声が聞こえてきた。

『…………』

四人は一度顔を見合わせると、階段をゆっくり登る。

「──…………何故だ?」

部屋を除き込むと、立派な玉座の前で崩れ落ちる人影を見つけた。

間違いなく、あれが噂のパヴァン王だと思われた。

「──あのー、もしもし?」

ひとまず、穂乃果が話しかけてみる。

「どうして……シセル、君は僕をひとり置いて天国へ行ってしまったんだ……」

「皆さん、心配してますよー」

「あれから二年。僕の時計は止まったままだ……」

「はるばる、旅人さんがご挨拶に来ましたよ〜」

「何一つ、心が動かない……」

「えーっと……お腹、空きませんかー……?」

「せめてもう一度だけ……夢でもいいんだ。もう一度、君に会いたい……」

思い思いに話しかける四人だったが、聞こえてくるのは独り言のみ。返事が返ってくる事は、ついに無かった。

 

 

「どうしよっか……」

「こりゃー愛さんでもお手上げ。仮にも王様だから、あんまり手荒な真似はできないしなぁ」

どうしようもないので諦めて階段を降りると、

「──あっ」

反対側から、階段を登ってきた歩夢を見つけた。

「もしかして、玉座の間で王様とお会いになりましたか?」

「会ったというか……」

「見ただけというか……」

昼間言われた通り、会話は成立しなかった事を伝えた。

「旅の方、我がアスカンタ王は、今は誰の言葉も耳に入りません。無礼を許して下さい」

頭を下げた歩夢に、これ幸いと四人は質問をぶつける。

「あ、はい。『シセル』というのは、二年間に亡くなられた王妃様の名前です」

「もう一度会えたら、って言ってたよね」

「突然の病死でしたから……。もし、シセル王妃がもう一度目の前に現れたら、王様も元気になってくれるかもしれないのに……」

「まあ、会えないからこその死者だもんね……」

暗く沈む空気。

「──!」

不意に、歩夢が顔を上げた。

「そういえば、私のおばあちゃんが、昔沢山お話しをしてくれました。不思議なお話を、沢山。その中に、どんな願いも叶える方法があると聞いた気がするのに……思い出せない……」

再び、俯いてしまう歩夢。

「おばあちゃんに会いに行けば、簡単に分かるだろうけど、私にはお城の仕事が……」

「お婆ちゃん、心配してたよ」

サラッと、本当にサラッとアスカンタ王国を訪れた目的を果たす穂乃果。

「……今は、お城を離れられません。──お願いです。面識があるようですし、私のおばあちゃんに今の話を詳しく聞いてきて欲しいんです。ただのおとぎ話かもしれない……。でももしそれが本当なら、私は王様の願いを叶えてあげたい……!」

強くなる声色。そんな歩夢の手を、穂乃果は握った。

「私達に任せて! 一緒に王様を元気にしてあげようよ!」

「ほ、本当ですか⁉︎」

「ま、ほのほのならそう言うと思ったよ」

他の三人も、特に驚かない。まだ付き合いの浅い千歌も、大きく頷く。

「お願いします……! どうか、お願いします……」

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV18

はがねのつるぎ

うろこのよろい

せいどうの盾

ターバン

スライムピアス

 

・曜

LV17

鉄のオノ

せいどうのよろい

せいどうの盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV18

ダガーナイフ

くさりかたびら

せいどうの盾

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV17

ロングスピア

騎士団の服

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話

初見でかまいたちでゼシカが即死した時は、コントローラーぶん投げそうになりました。


城を出ると、

「遅いわよ」

にこが腕を組んで立っていた。

「にこちゃん?」

「穂乃果の話だと、その歩夢って子かなり苦労してるみたいじゃない。──努力は、報われるべきものなのよ」

「へえ、にこにー言うじゃん」

「でもいいの? 寄り道になっちゃうのに……」

千歌の少し申し訳なさそうな声は、

「だったら、急いでパパッと片付ければいいじゃない。簡単な話よ」

にこにスパッと返される。

「よーし、じゃあ急いで頑張ろう! まずは、歩夢ちゃんのおばあちゃんに話を聞きに!」

元気に手を突き上げた穂乃果を見ながら、

「にこちゃん珍しいにゃ」

「……何がよ」

「『呪い解くのが最優先』とか言いそうなのに」

「それは変わらないけど、トラペッタにいたユリマの時も思ったのよ。尽くしてる人間が報われないのは、見て見ぬ振りしたくないの」

「──にこちゃ〜ん、凛ちゃ〜ん、早く早く〜!」

「あいつらだって、見捨てるとは思わないし」

「穂乃果ちゃんに、感化されてきてるにゃ〜」

「うっさいわよ」

 

 

 

 

橋のそばに建つ一軒家まで戻ってきた穂乃果達。

「一本道とは言え、アスカンタ城からここまでは結構距離あるよね〜。確かに簡単には里帰りできないわけだ」

「だからって、二年はやりすぎだと思うけどね」

そう言いながら、老婆の話を聞く。

「え? ええ、お城のメイドの歩夢なら、確かにわたし達の孫娘ですよ。その様子ですと、無事に会えたようですね」

「あー、その事なんですけど……」

曜は簡単に要件を伝える。国王の事と、おとぎ話の事を。

「はあ、まあ年寄りですからねぇ。アスカンタの古い昔話の事なら何でも知っておりますよ」

老婆は意図を汲み取れないまま、それでも話はしてくれた。

「願いを叶える昔話なら、この家の前を流れる川の上流にある不思議な丘の話ですねぇ。満月の夜に一晩あの丘の上でじーっと待ってると、不思議な世界への扉が開くと言いますがねぇ」

「不思議な世界?」

「ただのおとぎ話ですし、本当かどうだか分かりませんよ。王様が元気になって欲しい気持ちは分かりますがねぇ……」

案の定、というほど曖昧な内容だったが、

「何も無いかもしれない。でも、何かあるかもしれない!」

「ま、ほのほのならそう言うと思ったよ」

「他に方法も無いもんね」

「よし、ダメ元で行ってみようよ!」

四人は老婆に礼を言うと、建物から出る。そしてそこで待機していたにこと凛に顛末を説明。

「──願いの丘? そこがおとぎ話の舞台って訳ね。ここから近いんでしょ?」

「うん、この裏手の土手を歩けばすぐだって」

「じゃ、ちゃっちゃと行って来なさい。魔物が出るんなら、私と凛は留守番だわ」

「ベッドで寝て待ってるにゃ〜」

川向こうにある教会に視線を送る凛。

「くぅ〜、ずるいなぁ」

「いつもと逆なんだからいいでしょ。はいはい行ってらっしゃい」

抗議の目を向けた穂乃果を軽くあしらい、にこは手を振る。

「所詮おとぎ話なんだし、期待はしてないわよ。こっちはこっちで作戦考えるから、気楽にやって来なさい」

「にこちゃん……。うん! 分かった!」

穂乃果は大きく手を振ると、土手を下って歩き出した。

 

 

 

 

土手をしばらく進むと、

「もしかして、ここかな?」

崖にぽっかりと空いた空洞に辿り着いた。

「……どう見ても洞窟だよね」

「丘って言うから軽いハイキングな感じかと思ってたけど……」

「ちょっと気を引き締めた方がいいかなぁ」

四人は装備を確認し直し、洞窟内に足を踏み入れた。

 

 

洞窟、とは言うものの内部が空洞になっているだけなので、あっちこっちから光が差し込み視界は意外にも明るい。そして簡易的に作られた石段を登ると、今度は完全に丘の上。

「へー、見晴らしいいね〜」

大自然を一望できるその景色に、愛ははしゃぐ。

「これ、瓦礫だよね。こっちには欄干……?」

曜は、周囲に散らばる人工物に怪訝な顔をする。

「昔は誰か住んでたりしたのかな? あの旧修道院みたいにさ」

愛の言葉に、三人は顔を曇らせる。

「あーごめんごめん。そんな暗い意味じゃないって。魔物が住み着いちゃったから、ここにはいられなくなったんじゃないかって話だよ〜」

朗らかに言いながら、愛は武器を構えた。

「──こうやって出てくるから、ね!」

 

[サイコロンがあらわれた!]

 

ずんぐりむっくりな青い体型に、変なお面を被ったようなモンスター。

「先手必勝っ!」

槍を構えた千歌は、猛スピードで突っ込む。

 

[千歌は疾風突きをはなった! サイコロンに26のダメージ!]

[サイコロンの目がサイコロのようにグルグルと動き始めた!]

 

お面のような部分が六つ目となり、目まぐるしく開閉する。そして、

 

[──6!]

 

六つ目全てが開眼。

 

[サイコロンはかまいたちLV6をはなった! 穂乃果は60のダメージを受けた!]

 

「ぐぅっ……⁉︎」

強力な一撃に、穂乃果の足元がよろける。

「ほのほの大丈夫⁉︎」

 

[愛はホイミをとなえた! 穂乃果のキズが回復した]

 

「ありがとう愛ちゃん。油断ならない強敵だよ……!」

穂乃果は剣を構え直すと、地面を蹴る。右下から斬り上げ直後に左下から斬り上げる。

 

[穂乃果ははやぶさ斬りをはなった! サイコロンに42のダメージ! サイコロンをたおした!]

 

「っふ〜……」

武器を戻した穂乃果は、大きく息を吐いた。

「あんなモンスターがいるんじゃ、確かにここにいた人は逃げ出すよね……」

「願いを叶えてくれる何かは、逃げてないといいなぁ……」

不穏な事を呟いた曜を軽く叩き、四人は頂上を目指す。

 

 

 

 

「──ここ、かな?」

坂道を登りきった一行は、頂上らしき場所で足を止めた。

時刻はすでに夜。煌々と輝く満月が、世界を照らしていた。

「家の残骸っぽいものはあるけど、これが願いを叶えてくれるとは思えないなぁ」

千歌は一つだけ残っている窓枠を撫でながら、反対側のボロボロの壁を眺める。

「隠し扉的なものも……ある訳ないよね。ただの地面だ」

曜も念の為辺りを散策するが、収穫は無い。

「やっぱり、ただのおとぎ話って事かぁ……。しょーがない。戻ってにこちゃん達と作戦会議を……って、愛ちゃん?」

普段は一番賑やかな仲間が沈黙している事に気付いた穂乃果は、首を傾げる。

「どうしたの?」

「……魔法だ」

「え?」

「この丘と、満月。何か強い魔力を感じる。ここ、何かあるよ。今、ここから離れちゃダメな気がする」

「何も感じないけど……」

「でも、四人の中で一番魔法が得意なの愛ちゃんだからね。愛ちゃんが言うなら、何かあるのかも」

謎のパワーを受け取る構えをする穂乃果と、その行動に苦笑しながら愛のフォローをする曜。

「でも、何かって何だろう? そろそろ夜も更けてきたし……。ほら、窓枠の影もあんなに伸びて」

千歌は、月光によって伸びる窓枠の影に視線を送る。

「そろそろあの壁に届きそうだね。まるで壁に窓ができたみたいに──」

千歌の冗談めかした声は、そこで途切れる。

壁に差し掛かった窓枠の影は、そこから本来あり得ない速度で動き出す。そして実物と同じ形の影を形成すると、そこで動きが止まった。隙間から、うっすらと光を漏らして。

『…………』

突然発生した超常現象に、四人は言葉を失う。

「──どう、する……?」

真っ先に言葉を発した千歌は、他の三人を見やる。

「どう、しよっか……?」

「どうもこうも、何が何だか分からなすぎて……」

穂乃果も曜も、未だ混乱した状態。

「邪悪な魔力は感じないし……調べてみる価値はあると思うよ」

愛は、いつになく真剣な眼差しで窓枠の影を見つめた。

「…………分かった。愛ちゃんがそう言うなら」

穂乃果もその視線を受け止めて頷くと、壁の前に立つ。──不思議な事に、月光を背にしているはずなのに、穂乃果の影は壁に映らない。足元で歪な形に崩れるだけである。

「──じゃあ、行くよ」

穂乃果は壁に手を当てると、強く力を込めた。

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV18

はがねのつるぎ

うろこのよろい

せいどうの盾

ターバン

スライムピアス

 

・曜

LV18

鉄のオノ

せいどうのよろい

せいどうの盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV18

ダガーナイフ

くさりかたびら

せいどうの盾

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV17

ロングスピア

騎士団の服

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話

作曲担当と迷ったのですが、あの子達ピアノなのでね。二人いるし。


開いた窓枠の影の先には、不思議な世界が広がっていた。

下は一面透き通った水で覆われ、それでも底が見えないほど深い。空は暗黒だが、視界は明るい。満月から新月まで、周期の通りに満ち欠けした十二個の月がゆっくりと回転している。

『…………』

空いた口が塞がらない穂乃果達が立っているのは、水面から生えている丸い石の台座。何個も連なったそれが、先へと伸びている。

「──ここは、一体……」

「夢……じゃないんだよね?」

「愛さんもキャパオーバー……」

混乱を極める三人に、

「──ねえ」

千歌が指を伸ばした。

「あそこ。建物がある」

真っ直ぐ伸びた人差し指の先、ひときわ大きな台座の上に、青紫色を基調としたクリスタルで彩られた建物が鎮座していた。

『…………』

異様な存在感を放つ建物に息を飲む四人。

「……行く?」

確認だと曜が三人を見るが、

「行くしかないよ! だって他に道無いもん」

穂乃果が即答。

確かに連なる台座は建物のある台座へと続き、その先には見当たらない。

「……一応、戦闘の用意だけはしておこうか」

四人は頷きあうと、それぞれ武器を確認してゆっくりと歩き出した。

そして穂乃果が建物のドアノブに手をかけると、ゆっくりと回す。

──中に入るとすぐ、ポロロロン、と柔らかな音色が響いた。咄嗟に身構えた四人だったが、

「……ハープ?」

すぐに楽器の正体に気付く。

「──私は、月の光のもとに生きる者」

そして聞こえてくる、何者かの声。

流れるような長い金髪と、優しいながらも隙の無い微笑み。

「私は絵里。ようこそ、私の世界へ」

絵里と名乗った女性は、小さく手招き。一瞬迷ったが、敵意は無いと判断し四人は歩み寄る。

「ここに人間が来るなんて、随分久しぶりの事ね。月の世界へようこそ」

「月の世界?」

「ここは、願いを持つ者によって開く月影の窓が繋ぐ別の世界。あなた達は、一体どんな願いを持ってここに来たの?」

「願い……? あ、えっと──」

説明しようとした穂乃果を、絵里は制する。

「語る必要はないわ。──そうね、あなた達の靴にでも訊いてみましょうか」

靴?

首を傾げる穂乃果の前で、絵里はハープを奏でる。すると、穂乃果の足元が光を放った。

「うわわわっ⁉︎」

「──なるほど。アスカンタの王様が、生きながら死者に会いたいと願ってる、と……」

「え、ええ⁉︎ まだ何も言ってないのに⁉︎」

当てずっぽうではあり得ないほどピンポイントで当てられた穂乃果は、驚愕の表情を浮かべる。

「そんなに驚く事かしら? ──ああ、そうね、説明してなかったわ」

絵里はクスリと笑うと、

「記憶は、人だけのものだと思ってる?」

「え?」

「その服も家々も家具も、空も大地も、みんな、過ぎゆく日々を覚えているのよ。話す事ができないから、夢見ながら微睡んでるとでも言うのかしらね」

「はぇ〜……そうだったんだ……」

冗談で笑い飛ばすには、目の前で起きた現象に説明ができなかった。

「その夢──記憶を、月の光は形にする事ができるのよ。死んでしまった人間を生き返らせる事はできないけど、あなた達の力にはなれると思うわ。さあ、私をお城へ連れて行ってちょうだい」

「う、うん」

トントン拍子に進む話に、穂乃果は最後まで理解が追いついていない。言われるがまま、頷くしかなかった。

 

 

 

 

アスカンタ城へ戻ってきた一行は、眠りこける衛兵を尻目に階段を登る。

玉座の間では、相変わらずパヴァン王が肩を震わせ泣いていた。

──ポロロロン、と絵里がハープを響かせると、気付いてこちらを向く。

「嘆きに沈む王様、この部屋に刻まれた面影を、月の光のもと再び蘇らせてあげるわ」

絵里は目を閉じると、ハープを演奏し始めた。

 

 

すると、半分身体の透けた一人の女性が、玉座の間に出現した。

パヴァン王は何が起きたか分からないと戸惑っていたが、ゆっくりとドレスの女性へと歩み寄っていく。

「……これは、夢? 幻? いや……違う。違う……覚えている。これは……君は……」

『──したの? あなた……──どうしたの? あなた』

「…………シセル! ──会いたかった。あれから二年、ずっと君の事ばかり考えていたんだ。君が死んでから……」

『まだ今朝のおふれの事を気にしているの? 大丈夫、あなたの判断は正しいわ。あなたは優しすぎるのね。でも、時には厳しい決断も必要。王様なんですもの。ね? みんなあなたを信じてる。あなたがしゃんとしなくちゃ。アスカンタは、あなたの国ですもの』

『──ねえねえ聞いて! 宿屋の犬に仔犬が生まれたのよ! わたし達に名前をつけて欲しいって!』

振り返ったパヴァン王は、玉座に座る自分の姿を見つけた。

「あれは……僕? ──そうだ、覚えてる。一昨年の春だ。──では、これは過去の記憶?」

『宿屋に仔犬が? 君は? 何かいい名前を考えてるんじゃないかい?』

『わたしのは、秘密』

『どうして。君が考えついたのなら、その名前がいいよ。教えてくれ』

『あなただって、ちゃんと思いついたんでしょ? 仔犬の名前』

『でも、それじゃ君が……』

『ばかね、パヴァン。あなたが考えた名前が、世界中で一番いいに決まってるわ。わたしの王様。自分の思う通りにしていいのよ。あなたは賢くて、優しい人。わたしが考えてたのは、あなたが決めた名前にしよう、って。それだけよ?』

記憶の二人が消えた玉座にパヴァンは座り込む。

「……そうだ。彼女はいつだって、ああして僕を励ましてくれた。──シセル、君はどうして……」

『──シセル、どうして君はそんなに強いんだい?』

『お母さまがいるからよ』

『……母上? だって君の母上は、随分前に亡くなったと……』

『──わたしも、本当は弱虫でダメな子だったの。いつもお母さまに励まされてた。お母さまが亡くなって、悲しくて、寂しくて……。でも、こう考えたの。わたしが弱虫に戻ったら、お母さまは本当に居なくなってしまう。お母さまが最初からいなかったのと、同じ事になってしまうわ……って。励まされた言葉。お母さまが教えてくれた事。その示す通りに頑張ろうって。──そうすれば、わたしの中にお母さまはいつまでも生きてるの。ずっと』

「──シセル。僕は……僕も、君のように……」

シセル王妃の姿は再び消え、最上階へと続く階段へと現れる。

『──ねえ、テラスへ出ない? 今日はいい天気ですもの。きっと風が気持ちいいわ。ね?』

記憶に手を引かれ、パヴァンは最上階の展望台へと出る。

世界は夜明け。色付き始めた景色が出迎えてくれた。

『ほら、あなたの国がすっかり見渡せるわ、パヴァン。アスカンタは美しい国ね』

「……ああ、そう……だね。シセル、そうだね」

『わたしの王様。みんなが笑って暮らせるように、あなたが──』

そこまで話した記憶は、日の光を浴びて消えてしまう。

「私の魔法は、月の光が無ければ使えないの」

「最後、王妃さまが何て言おうとしたか分からなかったね……」

「そうだけど、ホラ見てみて」

「──覚えてるよ。君が教えてくれた事全て、僕の胸の中に生きてる。すまない、シセル。やっと目が覚めた。ずっと心配をかけてごめん」

パヴァンは空を見上げると、

「──長い長い悪夢から、ようやく目が覚めたんだ」

 

 

お城を覆っていた黒い垂れ幕がスルスルと畳まれていく。そしてその代わりに、エンブレムの入った色鮮やかな垂れ幕がかけられた。

すぐに気が付いた城下町の人々は、晴れやかな表情でそれを見つめていた。

 

 

「──シセルが僕に教えてくれた事、もう二度と忘れはしまい」

お礼にと朝食に誘われた四人は、豪華な料理が並ぶ食卓でパヴァンの話を聞いていた。

「夢のような出来事だが、僕は信じます。ありがとう、ありがとう……」

元気になってくれてよかったと、四人は一安心。──夜が明けたその後、絵里は静かに月の世界へと帰っていった。

「皆さんと歩夢のおかげで、僕はようやく長い悪夢から目が覚めた。これからは、王の勤めに励みます」

絵里の話を出さない辺り、パヴァンも何かを察している様子だった。なので穂乃果達も、余計な事は言わない。

「本当にありがとう。──もし、この先何か困った事があったら、いつでも言って下さい。必ず、その時は僕があなた方の力になります。約束しましょう」

「王様の協力が得られるなんて、心強いね〜」

「これからの旅もどうかお気をつけて。またいつでも遊びに来て下さい!」

食事を終えた四人は、にこやかに見送られて城をあとにした。

豪勢な食事に満足しながら談笑していると、

「──あああっ!」

突然穂乃果が大声を上げた。

「え、何、どうしたのほのほの?」

当然驚いて三人は身を引いたが、

「…………にこちゃんの事、すっかり忘れてた……」

その言葉で、

「「「──ああっ!」」」

同時に声を上げた。

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV18

はがねのつるぎ

うろこのよろい

せいどうの盾

ターバン

スライムピアス

 

・曜

LV18

鉄のオノ

せいどうのよろい

せいどうの盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV18

ダガーナイフ

くさりかたびら

せいどうの盾

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV17

ロングスピア

騎士団の服

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話

三ヶ月空いたってマ?
やる気あります?
ちなみにバトルロードはやる気ありません。


四人が慌てて川沿いの教会へ戻ると、

「…………遅い!」

案の定大激怒のにこが待っていた。

「もう昼前よ! 今まで何やってたのよ! しかも、何でお城の方から来た訳⁉︎」

「ま、まあまあ落ち着いてキニコちゃん。もう全部終わったからさ」

「……はあ?」

首を傾げたにこと凛に、顛末を報告する四人。──ご馳走を振舞われた事は、秘密にしておいた。

「……世の中、不思議な事があるものねぇ……。まあ、解決したんなら良かったわ」

と言いつつ、にこの表情は晴れない。

「変に待ちぼうけ食らった挙句、パパッと説明されて終わりじゃ晴れやかにはなれないわねぇ……。ヤケ食いでもしたい気分だわ」

「でもにこちゃん……」

「分かってるわよ」

にこはため息を吐く。トラペッタのような事態になっては、ヤケ食いどころか食事もできない。加えて四人は満腹なのでうまいフォローもできない。

「──あ、それなら良い所があるよ」

ポンと手を打ったのは、愛だった。

全員が愛に注目すると、

「私が昔住んでた、パルミドって町があるんだけど、そこは来る者拒まずな町なんだよね。きっとあそこなら、キニコちゃんの見た目でも中に入れると思うよ」

「そ、そんな魅力的な場所があったのね。早く言いなさいよ」

「ここからそんなに遠くないし、ちょっと寄って行こうか。──し、か、も、実はパルミドの魅力はそこだけじゃないんだな〜これが」

愛は得意げな表情。

「あの町には、かなり優秀な情報屋がいるんだよ。きっとあの人なら、ドルマゲスの行方も分かるんじゃないかな? 今のところ手かがりゼロな訳だしさ」

「……確かに、今は目的地すら定まってない状態よね……。──よし、じゃあそのパルミドって町に行きましょう!」

「にこちゃん、ご飯食べたいだけじゃないかにゃ?」

「ちっがうわよ! てか、あんたも同じようなものでしょうが!」

「凛はにこちゃんと違って可愛いから、そんな困ってないにゃ」

「り〜〜〜〜〜ん〜〜〜〜〜?」

「おばけきのこが怒ったにゃ〜!」

「誰がおばけきのこよ! コラ待ちなさい凛!」

唐突に始まった鬼ごっこに、四人は肩をすくめる。──内心、満腹感にツッコまれなかった事に安堵しながら。

 

 

 

 

アスカンタ城を左に見ながら、一行は南に下る。はぐれ者達の街故なのかは不明だが、街道は存在しない。森の中を、愛の先導で進んでいく。

いつかと同じように左手には海が見えるが、切り立った崖で降りる事はできない。できたとしても、前に痛い目を見ている穂乃果は大人しい。

「──結構距離あるのねー」

太陽が大きく西に傾き始め、にこがぼやいた。

「まー元々流れ者が行き着く場所だからね〜。他の街からは離れてる訳よ」

愛しか道を知らないので、穂乃果達はついていくしかない。

 

 

 

 

世界が宵闇に包まれそうになった頃、

「ん〜そろそろだと思うんだけど──お、あったあった!」

「着いたの?」

「いやーパルミドはまだ先なんだけどね。ここら辺に宿屋があったと思って」

愛が指差した先には、木組みの小さな宿屋があった。

「この宿屋が、大体半分の目印」

「げー……。こんだけ歩いて、まだ半分なのね……」

あからさまに肩を落としたにこに、

「呪いを解く為だもん! にこちゃん、ファイトだよっ!」

穂乃果がグッと拳を握る。

「アンタ達はいいじゃないのよ。ちゃんとベッドで寝られるんだから……。こちとら野宿よ野宿」

「まあまあ。そのパルミドって街に行けば、きっとにこちゃんも宿屋に泊まれるだろうからさ。もうちょっとだけ我慢しよ?」

千歌になだめられ、そもそも文句を言っても何も解決しないと分かっているにこは、「分かったわよ」と少しだけ口を尖らせて宿屋の裏手へ回った。

 

 

 

 

翌日、宿屋を出発した一行は、しばらく歩くと木の板で仕切られた関所に到着した。そばに立っている看板には『←パルミドの町 アスカンタ城→』と書かれている。足元には、整備こそされていないが人が歩く事によって形成された街道が伸びている。

「ここから先が、パルミド地方って呼ばれてる場所だね。一応、アタシの故郷って感じかな。懐かし〜。パルミドの街もすぐそこだよ」

愛は楽しそうに笑うと、変わらず先陣を切って歩き出す。

「愛ちゃん、嬉しそうだね」

「故郷に帰れるってなったら、そりゃ嬉しいんじゃない? ──私は、あんまり嬉しくないけど」

千歌がポツリと呟き、マイエラ修道院での複雑な関係を思い出したメンバーは押し黙る。

「あぁぁ、そんな気にしないで! 今はこうして一緒に旅できて嬉しいから、この話はおしまい! うん!」

慌てて話題を打ち切った千歌は、大きく身振りする。

「──何かあったの?」

先行していた愛が戻ってきて、首を傾げる。

「みんなで旅できて嬉しいって話!」

「おっ、そりゃ愛さんも同じ気持ちだよ!」

「ホラそこ、盛り上がるのはいいけど目的忘れんじゃないわよー。さっさとドルマゲスに呪いを解いてもらわないといけないんだから」

テンションについていけないにこは、冷めた目で先を急ぐ。

「あ〜にこにー冷めてるなぁー。もうちょっと余裕持たないと、将来ハゲちゃうかもよ? ──あ、今は髪の毛無いんだっけ」

「ぶっ飛ばすわよ!」

 

 

 

 

「──ん……?」

小さな森を歩いている途中、凛が唐突に足を止めた。

「どうしたの?」

「あれ、何かにゃ?」

凛が指差した木々の隙間から、明らかな人工物が見えた。

「あれは……建物? ちょっと行ってみよっか」

近付いてみると、直径十メートルほどの小さな円形の建前だった。正面には扉があるが、

「んぐ…………っ!」

鍵がかかっていて開かない。

「愛ちゃん、これ何?」

土地勘がある愛に訊いてみるが、

「いや〜……アタシも始めて見たよ。少なくとも、アタシがいた頃にはこんな建物無かったね」

本人も知らないらしい。

「──ねぇ、こっちから上に登れるよ」

千歌が建物の横にある坂道を発見し、近寄る。

「屋上に通じてるのかな? 登ってみようよ」

一抹の不安はあったが、みな好奇心には勝てず恐る恐る建物の上を目指す。

建物の屋上に到着するも、簡素で特に物も無い。が、

「……誰かいるね」

ちょうど扉のあった真上、一段高くなった場所に、人の姿があった。

風でなびく黒髪が、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。

「ど、どうする……?」

「何しろパルミドが近いから、ちょっと不安は……ある」

話しかけるか否か悩んでいると、

「──クックック……」

『『『!』』』

謎の人物が声を発した。

「我が名はヨハネ。ここで、風と会話をしていたの」

目元に手を当てた、少しばかり痛々しいポーズで、ヨハネと名乗った少女はこちらに微笑んだ。

『…………』

一同揃って呆気に取られ、

「……こういうのは関わらないのが一番よ。さっさとパルミドに行きましょ」

にこは我関せずとばかりに踵を返す。穂乃果や曜はいいのかなぁ、と思いつつ、にこにつられる。

「ま、待ちなさいよ! 変な事言って悪かったから! 本当の名前は善子! ごめんなさいってばぁ!」

先ほどの芝居がかった口調はどこへやら。今度は善子と名乗った少女は若干涙目でこちらに手を伸ばした。

『…………』

一同顔を見合わせ、

「……まあ、話だけでも聞いてみよっか」

という結論に落ち着いた。

「──風の精霊が、私に囁くのです。『まもなくここに、素晴らしき才能を持った存在が訪れる』と……」

「あ、戻った」

「あなた方は、旅人ね?」

「そうだけど……」

「あなた方に、一つ頼みがあるの。聞いてくれるかしら?」

そう言った善子は返事を聞く前に、三枚の紙を穂乃果に手渡した。

そこには、モンスターのイラストと生息場所のメモが綴られていた。

「そこに載るは、我が眷属の詳細。その眷属達を見つけ出し、撃破してもらいたいの」

「えっと……何で?」

「時が来たら、分かる事よ……」

状況と意図が把握できない穂乃果だったが、何か頼まれ事をされたという事実だけは理解できた。

「ここに書いてあるモンスターを倒せばいいんだね。分かったよ善子ちゃん!」

「だからヨハネよ!」

「ヨハネちゃんなの?」

「いや……っ、えっと……善子だけど……。──と、とにかく頼んだわよ! 三体全部倒したら、またここに来てちょうだい!」

「分かった! 待っててね善子ちゃん!」

「ヨ・ハ・ネ〜っ!」

 

 

謎の建物と謎の人物に手を振りながら、一行は再び歩き出す。

「面白い子だったね」

「アレはかなりイタいタイプね……。私には分かるわ」

「似た者通しってヤツにゃ!」

「私をあんな変なのと一緒にするんじゃないわよ!」

「見た目は、何倍も変だけどね……」

「ああん?」

「じ、冗談であります」

「ま、思い出したらついでにやっておこうよ。それよりもパルミドはもう目の前だよ〜」

「やっと着いたのね……。いつぶりか分からないけど、フカフカのベッドで寝たいわ……」

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV20

はがねのつるぎ

うろこのよろい

せいどうの盾

ターバン

スライムピアス

 

・曜

LV19

鉄のオノ

せいどうのよろい

せいどうの盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV19

ダガーナイフ

くさりかたびら

せいどうの盾

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV18

ロングスピア

騎士団の服

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話

パルミドに行けるようになると、真っ先に『おどりこのふく』買った人は私以外にもいると思うんですよね。


謎の少女善子と別れた一行は、ようやくパルミドへと到着する。すでに太陽は傾き始めているが、日没まではまだ少し余裕がある、そんな時間だった。

入り口は簡素な木造のアーチ。街を囲む壁も、木の板を張り合わせただけで防衛性は感じられない。

「……なんか、まさにって感じね」

「いちおーアタシの故郷だぞ〜?」

「悪かったわよ。……でもあんまり期待はしてないのよね。また石投げられるのはごめんよ?」

「ありゃりゃ、トラペッタでの出来事がよっぽどトラウマになってるっぽい」

「……何があったの?」

当時はその場にいなかった千歌が、隣の曜に訊ねる。

「あー……にこちゃんの見た目が魔物そっくりで、街の人から追い出された事があってね」

「うーん確かに言われてみれば……。チカもあの見た目で修道院に入ってきたら、退治しちゃうかもしれないなぁ」

「聞こえてんのよそこ!」

「うわわ、ごめんってば〜」

ビシッとにこに指さされ、反射的に姿勢を正す千歌。

「とりあえず入ってみようよ! じゃなきゃ分からないよ! 何とかなるって!」

無駄にポジティブな穂乃果は、にこの手を掴むと強引に引きずる。

「ちょちょ……っ、まだ心の準備が……」

「往生際が悪いにゃ、にこちゃん」

「──パルミドにとうちゃーく!」

入り口付近にいた通行人は、穂乃果の大声でこちらを見やる。当然、その手に繋がれたにこにも視線をやる。

「ど、どうも〜……」

遠慮がちに挨拶をしたにこだったが、

「こりゃまた変なのが来たな。ま、よろしくな」

通行人はそれだけ言うと、何事もなかったように歩み去った。

「…………」

しばらくポカンとしていたにこだったが、

「い、今の見た⁉︎」

勢いよくこちらに振り返った。

「私の姿を見ても無反応だったわよ! 何とも思ってないわ!」

「ね、だから言ったじゃん?」

ニッと笑った愛に、

「疑って悪かったわ。確かにここなら安心して過ごせそうね。──となれば、早速ご飯よ! 久しぶりに美味しいものたらふく食べてやるんだから! 凛、行くわよ!」

「にこちゃん、ゲンキンだにゃ〜」

「先に行ってるから、アンタ達は情報屋ってのと会ってから来なさい。愛が知ってるんだから、すぐでしょ」

すでに駆け出していたにこは、それだけ言い残すと角を曲がって見えなくなった。

「はいは〜い。りょうかーい」

見えない後ろ姿に手を振った愛は、

「ま、喜ぶ気持ちも分かるからね〜。言われた通り、散策しながらまずは情報屋に話を聞きに行こっか。ドルマゲスを追いかけてるっていう本来の目的も、忘れちゃダメだからね」

どことなく嬉しそうな愛の先導で、四人はパルミドの街を歩く。

「──こっちだよ。……でも気を付けてね。ここは『物乞い通り』って呼ばれてて、パルミドの中でも特に治安が悪い場所だから」

街の東側を歩きながら、愛はそんな事を口にする。

「ええ……、何だか怖いんだけど……」

「元々そういうならず者の集まる街だし、注意して損は無いって話。ほのほの達は強いから、ここの連中もそう簡単には手出しできないと思うけどね〜」

あくまで愛の口調は朗らか。警戒心を解けない穂乃果達と違い、そんなスリルも楽しんでいる気さえする。

「やっぱり慣れ、なのかな……?」

愛の適応力の高さに感嘆していると、一つの扉の前に到着する。

「──おーい、愛さんだよ〜」

愛は扉をノックする。が、返事は無い。

「いないの〜? 久しぶりに愛さんが会いに来たよ〜」

もう一度強めにノックするが、やはり反応は無い。

「むー……」

不服そうな顔で振り返った愛は、小さく肩をすくめる。

「アタシが言ってた情報屋の家ってここなんだけど、いないみたい。──たまに新しい情報を求めて旅に出る事があるんだけど、タイミングが被っちゃったみたいだねー。あちゃー、こりゃアンラッキーだよ」

「そっか……でもいないなら仕方ないよね」

「どうしよっか……。ひとまず、にこちゃん達と合流して報告かな?」

「そうだね。それからどうするか話し合う感じかな」

頼みの綱が空振りに終わり意気消沈の四人だったが、ここにいても仕方ないと宿屋の隣に建つ酒場兼食堂へ向かう。パルミドで一番賑わうそこの雰囲気で、少しだけ気が紛れた。

探していたにこは、大胆にもカウンターのマスターの目の前で食事をしていた。凛の姿は見当たらない。

「わお、にこちゃん吹っ切れてる」

四人が近付くと、

「ご飯って、こんなに美味しかったのね……。──たかがご飯で、どうしてこんなに苦労しなくちゃいけないのよ……」

感動しているのか愚痴っているのか分からない呟きを漏らしながら料理を頬張っていた。

「「「「…………」」」」

アスカンタ城での一件が近く、四人はしばし言葉をかけられなかった。

「──ん? なんだ来てたのね。案外早かったじゃない。ドルマゲスの情報、何か掴めたの?」

「えっと、それが……」

曜が状況を説明すると、

「……留守? はあ、タイミング悪いわねぇ……」

こちらもあからさまに落胆する。

「ねぇ、ところで凛ちゃんは? さっきから見当たらないんだけど」

「ん? ああ、凛なら外で野良猫と遊んでるわよ。姿が似てるからなのかしらね。懐かれて大はしゃぎよ」

猫のような姿に変えられた凛とじゃれる本物の猫を想像して、四人は癒される。

「……魔物みたいな見た目で悪かったわね」

「いや、何も言ってないじゃん……」

曜が呆れたツッコミを飛ばしたところで、

 

 

「──んな……何するにゃ〜⁉︎ ──ムグッ⁉︎」

『『『⁉︎』』』

外で何か声がした。そして、暴れるような足音。

「今の声……凛よね? 何かあったの⁉︎」

弾かれるように飛び出したにこ。

「まさか……!」

と血相を変えた愛も続く。何がなんだか分からない穂乃果と千歌と曜も、その後ろを追いかける。

 

 

 

 

「──凛! 凛! いるなら返事しなさい!」

外へ出ると、にこが大声で叫んでいた。

「凛がいない……。入り口すぐの所にいたのよ!」

突き当たりになっているので、隠れる場所も無い。そして凛が戯れていたであろう野良猫が、小さな茂みで怯えて丸くなっていた。

「こりゃあ、アタシとした事がうっかりしてた……!」

「何か知ってるの⁉︎」

「パルミドの街はならず者の集まり……。泥棒を咎める人なんていないんだった!」

「何ですって⁉︎」

愛に詰め寄ったにこ。その剣幕に押された愛は少し背を逸らし、

「落ち着いて落ち着いて。人さらいって言っても、そう簡単に遠くには行けないよ。少なくとも、街の外に出ても何も無い。まだ犯人は、パルミドのどこかにいるはず……」

「た、確かに今は凛を見つけ出すのが先決ね……。──穂乃果! アンタ達は街中くまなく探しなさい! 私は念の為、出入り口を見張ってるから!」

「わ、分かった!」

言うが早いか駆け出したにこ。

「……何だかんだでにこちゃん、凛ちゃんの事大切に想ってるんだね」

「憎まれ口叩かれても、大切な仲間って事なんだろうね」

見えなくなったキノコ姿を、少しだけ頼もしく感じる四人。

「──さ、アタシ達も探そう! 絶対に犯人を見つけるぞ〜!」

「「「おーっ!」」」

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV20

はがねのつるぎ

くさりかたびら

せいどうの盾

鉄かぶと

スライムピアス

 

・曜

LV19

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV19

ダガーナイフ

おどりこの服

せいどうの盾

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV18

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話

ゲームだと、犯人探しのヒント少なすぎると思うの。


酒場を出ると、すぐ近くを歩いていた男に話しかける。

「ねえ、猫みたいな見た目した女の子を見なかった⁉︎」

男は一瞬悩んだ素ぶりをすると、ニヤニヤした笑みを浮かべた。

「おう、見たぜ見たぜ。ほんのついさっきな」

「ホント⁉︎ どこ行ったか教えて!」

男は口を開きかけ、そこで一度止まる。それから、

「ヘヘッ、オレってば記憶力ねぇからよぉ。すぐ忘れちまうんだよなぁ。100Gあったら、思い出せるかもしれないんだけどよぉ〜」

「む……」

あからさまに金をせびる男に、穂乃果は顔をしかめる。

「だから、教えて欲し──」

男の声は、そこで止まる。

「──さっさと話した方が、お互い気持ちいいと思うんだよね?」

愛が、《ダガーナイフ》を男の首元で光らせる。前髪の隙間から覗く眼光は、この上なく鋭い。男は背筋を伸ばして早口に答える。

「物乞い通りに消えてくのをチラッと見ました!」

男が答えたのを確認して、愛は武器をしまう。

「だってさ、みんな。早く行こ」

「お、おお……愛ちゃん凄い……」

流石に驚きを隠せない三人は、やや戦慄する。

へたり込んだ男は、

「あ、アンタ何モンだ……?」

「ただの里帰り中の、通りすがりの旅人だよ」

 

 

先ほど歩いた物乞い通りで聞き込みを続ける四人。確かに目撃情報は他にもあったのだが、誘拐場所までは誰も知らなかった。おまけに、

「猫みたいな女の子? さあ、知らないね」

通りの終点で得られる証言は、驚きの内容だった。

「……本当に?」

愛が武器に手をかけたが、

「ホントだって! 嘘つく意味なんてねぇよ! おれは見てねぇ! ずっとここにいたから、通ったら気付くさ。だが見てねぇ!」

その男は首を振るだけだった。

「……つまり?」

「凛ちゃんはこの通りのどこかにいる、って事になるよね……」

四人は物乞い通りを振り返る。薄暗く小汚いこの通りには隠れるほどの建物は無く、小さな酒場がポツンと一軒建つだけである。当然、店内も捜索済みだが成果は無かった。

「凛ちゃん、どこ行っちゃったんだろう……?」

「くぅ……アタシがいながら、こんな失態を犯すなんて……」

手がかりなく行き詰まった四人に、

「なぁ──」

目の前でうろたえる男が話しかけた。

「これは関係あるか分からないんが……さっき酔いどれキントが、ここから街の反対側へ歩いてくのを見たんだ。やけにご機嫌だったのが気になってな。アイツ、いつも酒代求めてウロウロしてるからさ」

「『酔いどれキント』って?」

「パルミドじゃ有名なコソ泥さ。ケチなクセに酒好きで、盗んだ金でいつも酒を飲んでるんだよ」

「ソイツが……凛を?」

「さあね。その猫の女の子が金持ちなら、攫うかもな。……そんな金持ちが、パルミドに来るかは知らんが」

「…………」

「怪しいね……。そのキントって人」

「凛がそんなお金持ってるように見えたかは分からないけど、もしかしたら……」

「何か……心当たりが?」

「ちょっとだけ。とにかく、そのキントってのを探し出そう。この街のどこかにはいるはずだから」

「うん」「分かった」

 

 

 

 

街の反対側で聞き込みをする四人。時に金をせびろうとする輩もいたが、

「早く喋った方がいいと思うよ?」

愛のナイフ脅しでみな素直に答える。

途中で出入り口で見張るにこと合流し、

「凛は見つかった⁉︎」

「いや、まだ……」

「そう……。でも少なくとも、外には出てないわ。街の出口はここしか無いんでしょ? ずっと見てたけど、怪しいヤツは誰もいなかったわ」

「でね、にこちゃん──」

千歌は、現在の情報をかいつまんで説明する。

「……そのキントってヤツが怪しい訳ね。じゃあとっととソイツを見つけ出して、洗いざらい吐いてもらおうじゃない……!」

「濡れ衣って可能性もまだあるから、そこだけ気を付けてね?」

曜が一応注意をしたが、あまり効果は無さそうだった。

 

 

「──酔いどれキント? ああ、さっきその辺を歩いてたな。えらく上機嫌だったが……ははぁ、アンタ達何かを盗まれたって訳だ。そりゃご愁傷様だが、ここはパルミドだ。盗まれる方が悪いってな」

豪快に笑う男に、にこはブルブル震える。

「凛は大切な仲間よ……! そんな笑い話で済む問題じゃ……!」

「おっと、怒らせちまったか。悪い悪い。……しかしキントのヤツ、ホントにどこ行ったんだ? ついさっきまでそこら辺にいたんだが……。ヤツの家はこの辺でもないしなぁ」

提供できる情報は全て話した、とばかりに男は去っていった。

「ああもう、どこにいるのよ……。そもそも、この街の構造が複雑すぎるのよ……!」

にこの怒りが爆発しそうになった時、

「──ねえ愛ちゃん、あそこは?」

穂乃果が指をさした。

「ん? あれは掘っ建て小屋だね。多分藁とかしまってる倉庫か何かだと思うよ。ほのほの、それが?」

「…………」

穂乃果は愛の言葉には答えず、ゆっくり小屋に近付く。

「ほのほの?」

穂乃果は黙ったまま、小屋のドアに手をかけた。

古い小屋だけあって鍵はかかっておらず、ギィ、と小さな音を立ててドアは開いた。

「どうしたのほのほ──」

愛の声は、途中で止まる。

「998枚、999枚……1000枚っと! オヤジのヤツ、目が利きやがるぜ。あの猫耳娘の希少性を一発で見抜くたぁ、流石は闇商人ってとこか。──ま、このキントさまにとっちゃ人攫いくらい朝飯前ってモンさ。フヘヘへ……──ヒック!」

頭巾を被った男が、小屋の奥で楽しげにぶつぶつ呟いていた。

『…………』

すぐにその男が犯人の『酔いどれキント』だと察した穂乃果達は、無言で男を取り囲む。

「──ヒッ⁉︎ う、うわあぁ誰だお前ら! ま、まさかあの猫耳娘の飼い主……⁉︎」

並々ならぬ圧力に気付いたキントは、飛び上がって壁にぶつかった。

「飼い主って何よ仲間よ!」

怒りを露わにしたにこが一歩詰め寄ると、

「う、うわぁ魔物だぁぁぁ! こ、殺されるっ!」

「誰が魔物よこの人でなし!」

「とりあえず話が進まないから、にこにーは下がっててねー」

ヒートアップしたにこの襟首を、愛が掴んで引き寄せる。

「ちょちょ……っ」

「──さて」

代わりに目の前に仁王立ちした愛は、《ダガーナイフ》を音もなく抜く。

「アンタが攫った猫耳の女の子は、アタシのた〜いせつな仲間なんだよね。今すぐ返さないと、無事じゃ済まないかもしれないよ?」

「「「…………」」」

すぐ後ろに立つ穂乃果達も、抜きはしなかったが鋭い視線で武器に手を置いた。

「あ、あわわわ……ゆ、許してくれぇ! まさか魔物の知り合いだとは知らなかったんだぁ……」

「それはもういいから、早く」

「こ、このとおり、娘を売った金は返すから、どうか命ばかりは……!」

「……“売った”?」

愛が眉をひそめる。

「……ひょっとして、物乞い通りにある闇商人の店の事?」

「へ、へえ、その通りです。よくご存知で……」

「アタシはここの出身なの。──よし、分かった。じゃあ売ったお金を渡して」

「そ、それはこちらに……」

キントは、持っていた皮袋を恐る恐る差し出す。

「……言っておくけど、誤魔化したりしたらタダじゃ済まないよ?」

袋を受け取った愛の目が細まり、

「せ、1000ゴールドです! 本当にこの金額で売ったんです!」

キントは震え上がって小さくなった。

「ま、そういう事にしておいてあげる」

愛はくるりと振り向くと、打って変わっていつもの明るい笑顔を浮かべた。

「──一安心、かな。今の話に出てきた闇商人って、実はアタシの知り合いなんだよね。アタシがこのお金を渡して頼めば、きっと凛は戻ってくるよ!」

「ほ、ホントなのね⁉︎」

愛はニッ、と笑うと、

「さ、こんなヤツ放っておいて闇商人のお店に行くよ!」

キントを一瞥すると小屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV20

はがねのつるぎ

くさりかたびら

せいどうの盾

鉄かぶと

スライムピアス

 

・曜

LV19

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV19

ダガーナイフ

おどりこの服

せいどうの盾

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV18

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話

戦闘シーンと移動をバッサリカットすると、すっごく楽ですね(笑)


一行が愛の案内で向かったのは、物乞い通りに一軒ある酒場。捜索時にも確認はしたが、当然凛はいなかった。

「愛ちゃん、ここは……」

「いいからいいから」

穂乃果の声を遮って、愛は酒場のマスターに話しかける。

「──何ぃ? 裏の店の方に用があるから入れてくれって?」

マスターは一行をジロジロ眺めると、

「……フン、いいぜ入んな」

カウンターへの入り口を開けてくれた。

「サンキューマスター」

愛はスタスタとマスターの背後にある扉へ手をかけると、反対側の手で手招き。恐る恐る扉へ向かう穂乃果達に、マスターが背を向けたまま声をかける。

「一つ約束だが、奥のドアが闇商人の店に通じてる事はあまりおおっぴらにしてくれるなよ? 何しろ盗品を扱う店だからな。知っている人間が増えれば、それだけ危険が増すのさ」

凄みのある声色に、穂乃果達は黙って頷いた。

 

 

ドアの向こう側は、あまり広くない空間だった。奥にあるカウンターに、男が一人立っているだけ。

男はすぐに気付くと、

「おっ、愛じゃねーか。久しぶりだな。今日はどうしたんだ? 何か売る物でもあるのか?」

「や、そうじゃないんだよね〜。今のアタシは、ここにいる人達と旅をしてるの」

男はへぇ、と軽く流す。

「──それよりも、さ! ついさっき、何か取引なかった? 酔いどれキントってのと」

「キント? ──ああ、来たぜ。はっはっ! あんな野郎に盗まれるなんて、お前さんともあろう者が油断したもんだな」

愉快に笑う男に、愛は腕を組む。

「それはいいから。──で、その売り物の猫みたいな女の子、返してくんない? お金なら、ここに全額あるから」

愛は金貨の入った皮袋をカウンターに置く。重い音がして、カウンターが軋む。

「あー……なるほどな」

男は困った様子で、頭をかいた。その態度に、愛は首を傾げる。

「何か出し惜しむ理由でも? 言い方は癪だけど、アタシが盗品を買うって話だよ」

チラリとにこの様子を伺った愛は、男に詰め寄る。

「キントに1000ゴールドで売ったんだから、アタシにも同じ金額じゃないとおかしいよね?」

「あーいや、そうじゃねぇんだ。別にお前さんからぼったくろうだなんて考えてねぇよ」

「じゃあどうして」

「いやその……言いにくいんだがよ、そのキントから買った猫耳娘、もう売っちまったんだ」

「はい⁉︎」

背後でやり取りを見守っていたにこが、カウンターに飛び乗る。

「何ですって⁉︎ どこの誰に売ったのよ!」

「うわっ、魔物⁉︎」

「ちょ、にこにーはややこしくなるから下がってて」

愛はにこを抱え上げると、

「ほい」

曜に差し出す。

「あ、うん……」

「私は荷物か!」

愛はそのツッコミには応えず、

「──で、どこの誰に? そのくらいは教えてくれてもいいよね?」

「まあいいけどよ……」

男は言いにくそうに、

「……買ってったのは、実は盗賊りなりーなんだよな」

「いっ⁉︎ 盗賊りなりーって、あの盗賊りなりー⁉︎」

「あ、ああ。すまねぇが、オレにはこれ以上どうしようもできねえや。あとはお前さん自身で、どうにかしてくれや」

「……はいさ〜」

穂乃果達にはりなりーなる人物が誰かは分からないが、この場では解決しない事だけは理解できた。

 

 

 

 

闇商人の店を出た愛は、大きくため息をついた。

「まさか、この件にりなりーが関わってくるなんてなぁ……」

「愛ちゃん、その『りなりー』って誰? 知り合い?」

「ん? ああ、ちょっと昔の知り合いで……。──名前は、璃奈。で、俗称がさっきから言ってる『盗賊りなりー』。ちょっと苦手な所あってね……。そうも言ってられないけど」

愛は苦笑すると、

「りなりーの家は、街の外。ここから南西に行った池に囲まれた水源地帯にあるんだよね。凛ちゃんを助け出す為、いっちょやるとしますか!」

一人気合いを入れて、街の出口へと向かった。

『…………』

璃奈がどんな人物か知らない穂乃果達は、一度顔を見合わせてから愛の背中を追った。

 

 

 

 

 

 

パルミドからほど近い場所に建っていた一軒家。しかし、その玄関の前には門番のごとき男が一人仁王立ちしていた。

「りなりーに話があるんだけど、通らせてもらえる?」

愛が近付いて口を開くも、

「あっ! てめーは愛じゃねーか! 璃奈さまがてめぇに会うもんか! 帰れ帰れ!」

門前払いだった。

「…………へえ?」

だがそこで引き下がる愛ではなく、視線鋭く腰のナイフに手をかけた。

「脅しなんか通用しねぇぞコラ!」

流石にパルミドの街を歩いている小悪党とは違うのか、愛の威嚇にも怯まず近くの斧を持ち上げた。

「ちょちょ、愛ちゃん⁉︎」

慌てたのは穂乃果だったが、

「──さっきから、騒々しい。部屋まで丸聞こえ」

止めたのは、別の声だった。

「す、すみません璃奈さま!」

声の主である璃奈に、ドア越しに頭を下げる男。

「礼儀知らずの客が押しかけてきたもんで……すぐ追い返しますんで!」

「相手は愛さんでしょ。あなたじゃ、止められない。私が話を聞くから、通して」

「へ、へえ……璃奈さまがそう言うんじゃ仕方ねえ。──ほらよ、通りな!」

男は不服そうだったが、主従関係は明確なのかそれ以上何かを言ってくる事はなかった。

 

 

五人が中に入ると、立派な一軒家の奥で揺り椅子に座る人物がいた。こちらに背を向けているが、体格はかなり小柄。

「…………」

少し緊張した面持ちで、愛は璃奈に歩み寄っていく。

「──久しぶりだね、りなりー」

「愛さんがわざわざここに来るなんて、随分と珍しい」

そう言いながら振り向いた璃奈を見て、愛以外は目を丸くした。

「……相変わらずだねぇ、りなりーは」

「表情を見せたら、不利になる。──璃奈ちゃんボード、『エッヘン』」

璃奈はその顔を、厚い紙のような物で隠していた。その紙には、眉、目、口が描かれており得意げな表情だと読み取れる。

「──それで、一体何の用? 後ろの人達は?」

「この人達は、旅の仲間。アタシは今、この人達と旅をしてるんだよ」

「なるほど」

「──それで、ここに来た理由。りなりー、パルミドで闇商人から買い物をしたでしょ? 猫みたいな女の子」

「うん、買った。可愛くて、元気いっぱいだったから。いい買い物した。──璃奈ちゃんボード、『ウンウン』」

「あの子、アタシ達の旅仲間の一人なんだよ。だから、譲ってくれないかな?」

「ダメ」

「う、即答……」

「あの子、お気に入り。譲りたくないし、売りたくもない。愛さんに頼まれても、ダメ」

「ぐぬぬ……どうしてもダメ? 大切な仲間なんだよ……。アタシにできる事なら、何でもするから!」

「……愛ちゃんがそこまで言うなんて、驚いた。──璃奈ちゃんボード、『ビックリ』」

驚いた表情の紙に差し替えた璃奈は、揺り椅子から立ち上がる。

「愛ちゃんにそこまでお願いされたら、無下にはできない」

「じゃあ……!」

「──でも」

愛の言葉を、璃奈は遮る。

「一つだけ、条件がある。──ここから北にある洞窟、分かるよね?」

「そ、それって……」

「そこに眠ってる宝石、“ビーナスの涙”を取ってきたら、考えてあげる」

「うぐぐ……流石りなりー……」

愛はたじろぐと、大きく肩を落とした。

「……頑張ってくるよ」

「よろしく。──璃奈ちゃんボード、『フレフレ』」

話は終わったとばかりに、璃奈は再び揺り椅子に座る。そしてこちらに向き直った愛は、やや疲れた様子で口を開いた。

「ひとまず、ここから出ようか。詳しい話は、そっちでするから」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV20

はがねのつるぎ

くさりかたびら

せいどうの盾

鉄かぶと

スライムピアス

 

・曜

LV19

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV20

ダガーナイフ

おどりこの服

せいどうの盾

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV19

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話

スクスタついに配信開始!
(なお三週間前)
いやぁ遅くなって申し訳ないです。


愛からの説明が無いまま、璃奈の家からしばらく歩くと、足元の草原がいきなり不毛の荒野へと変化する。

そしてその荒野のほぼ中央に、地下へと続く怪しい階段が口を開けていた。

「──ここが、通称『剣士像の洞窟』って呼ばれてる場所」

ようやく振り返った愛が、やや苦い顔で口を開いた。確かに階段の両側には、剣を空に構えた兵士の石像が鎮座している。片方は、脚から折れて行方不明だが。

「大昔の好事家が、“ビーナスの涙”って宝石を守る為に造ったって言われてるんだよ。……で、まあ、りなりーの条件は、それを取ってくるって事」

「こーずかって……何?」

首を傾げた穂乃果に、曜がズルっと肩を落とす。

「いや……そこ?」

「だって知らないし……」

「あはは……実は私も」

その隣で、苦笑いで頭をかいた千歌。

「……好事家って言うのは、変わった事に興味を持つ人の事だよ。簡単に言えば、マニアみたいな人って感じかな」

「そそ、『大昔の宝石マニアが、自分の宝物を隠しました』って話だね」

噛み砕いた説明をした愛に、曜は『助かるよ』と視線を送る。

「まあ詳しい事は、中に入ってみれば分かるかな」

早速階段を下ろうとする愛に、

「私は闘えないから、あの家の近くで待ってるわよ」

にこが声をかける。

「あれにこにー、この洞窟が危険ってアタシ言ったっけ?」

「言ってないけど、ただの宝石取ってくるおつかいならわざわざ頼む意味ないし、そんな有名な宝石が誰にも盗られず残ってる確証があるんなら、それだけこの洞窟が侵入者を拒んでるって事でしょ。そんな場所が安全な訳ないじゃない」

「おお、にこちゃん鋭い!」

「アンタが単細胞なだけよ!」

手を叩いた穂乃果に、にこはこの旅で何度目か分からない不安がよぎる。

「ともかく、その宝石を持ってこないと凛を返してくれないんだから。ちゃっちゃと行ってきなさいよ!」

「分かってる! 泥船に乗り込んで待っててよ!」

ビシッと差された指に、穂乃果は拳を突き上げて応える。

「……不安だわ」

 

 

 

 

階段を下り、閉ざされた扉を開けた四人。愛以外の三人は、その内装に驚く。

『洞窟』と呼ばれている割には、滑らかに石組みで造られており人造である事は明らかだった。立派さで言えば、パルミドより上である。

「言った通り、好事家が宝石を守る為に造った場所だからね。イメージの洞窟とは違うかもね」

愛は肩をすくめる。

だが、滲み出た地下水や埃っぽさ、カビ臭さからは人が住んでいるイメージは出てこない。遠くに散見されるモンスターの姿を捉え、三人は気を引き締める。

「──あそこ、見える?」

愛が正面を指差す。見ると、人間が楽々と横になれそうなほど巨大な宝箱が、固く蓋を閉じて鎮座していた。

「あの宝箱の中に、“ビーナスの涙”が入ってるって話だよ。アタシも前に一人で挑戦した事があったんだけどね〜、辿り着けなかったんだよ」

「愛ちゃんが“ビーナスの涙”に変な反応したのは、そういう事だったんだね」

「まあ、そういう事。一回諦めたお宝に、再挑戦するって話だよ。……りなりーも、アタシが諦めた事は知ってるはずなんだけどね〜」

愛は苦笑すると、

「目の前に宝箱が見えてる訳だし、簡単だと思うじゃん?」

三人の思考を先読みする。

「それが、この洞窟を造った好事家はちょ〜っとやらしい性格しててね。色んな仕掛けがあって一筋縄じゃいかないんだよねぇ」

見ると、宝箱へは祭壇のように大きな階段が続いているのだが、その階段は今いる場所へは通じていない。守護するように屹立する剣士像の隣に見える奥の部屋へと繋がっているようだった。

「……つまり、何とかしてあそこまで回り込まないといけないって事?」

「そういう事。簡単じゃないけど、今回は曜もいるし存分に知恵を貸してね!」

「「私達は⁉︎」」

自分を指差して駆け寄る穂乃果と千歌に、

「あー、はは、まあ戦闘になったらよろしくっ!」

愛は軽い調子で肩を叩いた。

「あはは……こんなんで、大丈夫なのかな」

 

 

 

 

正面に見える巨大な宝箱を名残惜しそうに見送りながら、四人は左側の扉の先にあった階段を下っていく。

「うーん、これは確かに入り組んでて複雑だなぁ」

曲がり角をキョロキョロと見渡しながら、穂乃果は呟く。モンスターの姿を捉えて、慌てて首を引っ込める。

「愛ちゃん、どっちか分かる?」

「えーっとね、確かこっち」

一度訪れた事のある愛の指差した方向へ、他の三人は迷いなく進む。

「ってそんな信頼されても。結構昔なんだけどな〜」

「今は愛ちゃんの記憶だけが頼りなのだ!」

千歌が笑顔を向けると、

「おっ、そこまで言われると、愛さん頑張っちゃうかもよ!」

愛も悪い気はしない。そんな二人へ、

「──あっ、見て見て宝箱!」

穂乃果の声が響いた。

四人の視線、穂乃果の人差し指の先には、正面の巨大宝箱とは別の宝箱が通路の奥に置かれていた。

「行き止まりだったけど、これは結果オーライってヤツ?」

「開けてみようよ!」

先ほどからうずうずした様子を隠せない穂乃果は、勢いよく石畳を蹴る。

「あっ、抜け駆けはさせないぞほのほの!」

愛も楽しそうに追いかけ、千歌と曜も背中を追う。

一足先に辿り着いた穂乃果は、顔を輝かせて宝箱に手をかけた。

「…………」

「──へっ?」

だがそこで、違和感に気付く。

「──ガアッ!」

「うひゃぁ⁉︎」

突如、宝箱が文字通り牙を向いて噛み付いてきたのだ。

「あっぶな……!」

間一髪で避けた穂乃果。

「あれは……!」

一歩後ろに立つ愛は、その正体に気付く。

 

[ひとくいばこがあらわれた!]

 

「宝箱じゃないじゃん! 騙された!」

涙目で武器を構えた穂乃果に、

「うん、まあ、そういうモンスターだし」

曜の冷静なツッコミが入る。

「私のワクワクを返せーっ!」

そんな曜の声は届かず。怒り心頭の穂乃果は、バツを描くように剣を二回振るう。

 

[穂乃果のはやぶさのごとき高速の二回こうげき! ひとくいばこに52のダメージ!]

 

「おお、やるねほのほの。負けてられないよ」

 

[愛はメラミをとなえた! ひとくいばこに36のダメージ! ひとくいばこをたおした!]

 

「──はぁ……はぁ……はぁ……」

肩で息する穂乃果の目の前には、転がる空っぽの宝箱。もう何の反応もない。

「あー、ほのほの?」

「……あんまりだよっ!」

穂乃果の叫びが、洞窟内に反響して消えていく。

「宝箱を見つけたのがよっぽど嬉しかったんだろうなぁ……」

心中察する曜が呟くが、お宝が見つかった訳ではないので慰める言葉が見つからない。

「まあまあ、ほのほの。お宝なら、でっかいのがドーンとあったじゃない。あれさえゲットできれば、こんな出来事チャラになるって!」

それに、と愛は続ける。

「きっと他にも宝箱はあるって! 愛さんのカンがそう言ってる!」

「そ、そうなのかな……」

「そうそう!」

「……うん、そんな気がしてきた! お宝目指して、まだまだ頑張るぞ〜っ!」

「その意気だほのほの!」

乗せられやすいのか愛が上手いのか両方なのか、元気に立ち上がった穂乃果の背中を愛は強めに叩く。

「愛ちゃんが道間違えたからなんだけどね」

とは曜は言えなかった。

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV21

はがねのつるぎ

くさりかたびら

せいどうの盾

鉄かぶと

スライムピアス

 

・曜

LV20

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV20

ダガーナイフ

おどりこの服

キトンシールド

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV20

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話

前回更新から四ヶ月ってマジ?


 一度は道を間違えたものの、愛の確かな記憶で順調に洞窟内を進んでいく一行。

 長い廊下の先の壁にドアを発見し、

「ドア発見!」

 穂乃果が駆け寄ってドアノブに手をかける。

「んっ……!」

 だが、押しても引いてもビクともしない。

「開かない……鍵がかかってる感じはしないんだけど……。壁そのものみたいに重いの」

「また上に上げるとか?」

「あ、なるほど!」

 リーザス地方で得た知識を試そうと穂乃果が再びドアに向き直った瞬間、

 ──ドアが飛び出してきた。

 比喩ではなく、ドアが壁から吹っ飛び目の前に立っていた穂乃果を跳ね飛ばした。

「うっひゃぁっ⁉︎」

 ゴツッ、といい音を響かせた穂乃果は一メートルほど宙を舞い、着地はしたもののたたらを踏んで、

「あ──」

 その先にポッカリと空いた穴に落下した。

「ちょっ……!」

「穂乃果ちゃん⁉︎」

 慌てて穴に駆け寄る曜と千歌だったが、すぐにドスンッ、という大きな音と、

「いっったーい!」

 元気そうな悲鳴が届いてきた。

 一方愛は、

「……なーるほど」

 穂乃果を跳ね飛ばしたドアが元通り音もなく壁に吸い込まれていくのを見た。ドアと壁を繋ぐ、巨大なバネも。

「ここを作った好事家っていうのは、よっぽどステキな性格だったらしいね」

 キツい皮肉を反響させて、愛は穂乃果が落ちた穴へと飛び降りる。

「──よっ」

 身軽に着地すると、すぐ横で尻もちをついた状態の穂乃果を見つける。

「ほのほの、大丈夫だった?」

「うぅ、大丈夫。だけど……」

「だけど?」

「私、ここ嫌い!」

「うん、愛さんも嫌い」

 

 

 性格の悪い罠によって一つ下の階へ落とされた一行は、

「んー、ちょっとここから登るのは難しいかな〜」

 たった今落ちてきた穴を見上げる。ジャンプしても届きそうにない上に、壁は染み出した地下水によって滑りやすい。

「ま、行き止まりじゃないし地理的にさっき通った道を行けば戻れそうだね」

 脳内の地図と照らし合わせた愛は長い通路を指差しながら言う。

「──ねえ、あれは?」

 不意に、千歌が声を上げた。

 三人が視線を向けると、千歌は一点を指差していた。三人がそちらを見やると、一つの宝箱。

『…………』

 先ほどから騙されてばかりの穂乃果も、流石に突撃したりはしない。

 だからと言ってあからさまに置かれた宝箱をスルーできるほど好奇心は抑制できず、

「ま、モンスターならまた倒せばいいし。ほのほのみたいに油断してなければ大丈夫でしょ」

「酷いよっ!」

 愛が宝箱に歩み寄る。

「「「…………」」」

 その後方で、三人は念の為に武器を構えて待機。

「じゃ、開けるね」

 鍵はかかっていなかったようで、愛は宝箱の口を掴んで勢いよく持ち上げる。

 蝶番の軋んだ音が響き、三人は矛先を前に向ける。

 だが、

「おっ?」

 対して愛は何やら楽しそうな声を上げた。そして宝箱に手を入れると、

「ほら、見て見て!」

 振り返って中身のモノを見せてきた。

「……杖?」

 愛が手に持っていたのは、小さな赤い宝玉が輝く一メートルほどの杖だった。

「コレ、お宝ってヤツじゃん? なんか、持つと魔力伝わってくる!」

「ホントに?」

「まあ、この中で一番魔法に長けてるの愛ちゃんだからね」

「──ほっ!」

 愛が杖を振りかざすと、その宝玉の先から火の玉が発射された。

「うひゃ⁉︎」

 それは穂乃果の前髪をかすめて、濡れた壁にぶつかると小さな水蒸気を上げて消滅した。

「うん、これは武器として使えそうだね!」

 上機嫌で杖を扱う愛に、

「…………」

 危うく前髪が無くなりかけた穂乃果は腑に落ちない表情でそれを眺める。

「あー……まあ、結果オーライって事で?」

「穂乃果得してないもんっ!」

 穂乃果の叫びは、石壁に反響して消えていった。

 

 

 

 

・穂乃果

LV21

はがねのつるぎ

くさりかたびら

せいどうの盾

鉄かぶと

スライムピアス

 

・曜

LV20

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV20

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV20

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話

このモンスターのデザイン、割と好きなんですよね。
小学生の時ビビリ散らかしてましたけど。


 洞窟に潜入してそこそこの時間が経った頃、一つの部屋に辿り着いた。

 碁盤のように正方形のマス目が均等に並ぶ床が設置されており、その端に縦横それぞれ一体ずつ剣を構えた騎士の石像が設置されていた。

「んー、見るからに何かある場所だよね〜」

「愛ちゃん、何か知ってたりしない?」

「やー、実はここまで来るのも初めてなんだよね。ずっと昔に挑戦した時は、ずっと前でギブアップしちゃったから」

「そっか……」

 愛の記憶には頼れないと分かった穂乃果は、剣士像へと歩み寄っていく。ひとまずモンスターの気配はしないので、武器には手をかけない。

「うーん、ここに来るまでにもたびたびこの石像見かけたし、何か意味があったりするのかなぁ?」

 穂乃果は剣士像をペタペタ触りながら、その周りを歩く。

「あ、ねえ、待って。壁に何か文字が彫ってある!」

 壁の隠し扉を探していた千歌が、丁寧に彫り込まれた文字を見つける。

「なんて書いてあるの?」

「えっとね……。──『天をあおげ! されば道は示されん!』」

「天を……」「あおげ……?」

 愛と曜は復唱した自分の言葉に釣られるように、天井を見上げる。そして、

「「──あ、」」

 それを見つけた。

 天井に一ヶ所だけ空いた、四角い穴を。

 

 

「もしかして、あそこの穴になんとかして行けって事なのかな?」

「いやでも、高すぎるよ……」

 曜は真上を見上げながら、小さく呟いた。

 穴の大きさは一メートル四方ほどだが、問題は距離。天井までは、三メートルはあった。たとえジャンプしても、決して届く距離ではない。

「でも行き止まりだしなぁ。あそこに行くしかないと思うんだけど」

 隠し扉の捜索は空振りに終わりその場で目一杯飛び跳ねる千歌だが、当然手は届かない。

「やっぱこの部屋に何か仕掛けがあるんだろうね」

「思いっきり助走つけたら届くかもしれない!」

「……穂乃果ちゃん、話聞いてた?」

 曜のツッコミをスルーし、穂乃果は天井を睨む。そしてそのまま後退し、──姿が消えた。

「へ?」「お?」「ん?」

 三人がそれぞれ声を上げた直後、

 ゴッ!

 っといういい音と穂乃果が上から降ってきた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 とても痛そうに、頭頂部を押さえながら。

「え、ちょ、どうしたのほのほの」

 穂乃果が天井に頭をぶつけた事は分かったが、その理由が分からない。そして当の本人は、

「今日の穂乃果、こんなんばっかり!!!」

 涙目で吠えた。

 

 

 散々な目に遭いややいじけてしまった穂乃果は、思考を放棄してすぐ横に鎮座する剣士像に寄り掛かった。

「この洞窟造ったこーずかって人に会ったら、絶対許さないんだから……うわわっ⁉︎」

 背中に体重を預けた穂乃果は、徐々にその抵抗がなくなりベシャッ、と床に転がった。

「……穂乃果ちゃん、何してるの?」

「穂乃果が知りたい……」

 起き上がった穂乃果は、

「あ、これ動くんだ」

 剣士像が見た目ほど重くない事を知る。体重を乗せて押せば、女性一人の力でも簡単に移動できる。

 それを見ていた、

「二つの、剣士像……」

「区切られた、床のマス目……」

 曜と愛は、

「「分かった!!」」

 同時に歓声を上げた。

「え、曜ちゃんどうしたの?」

「千歌ちゃん!」

「え、うん」

「そっちの剣士像、ここまで押して!」

 曜はある位置に駆け出すと、少し離れた場所に立つ千歌に手を振った。

「よく分からないけど……曜ちゃんがそう言うなら! ──っしょ、っと……!」

 千歌は言われた通り、剣士像を曜の立つ場所まで運ぶ。

「アタシはこっち!」

 愛も迷いなく、もう一つの剣士像を別の場所へと押していく。

「えーっと、三人共何してるの?」

「まあまあ、ほのほのよーく見ててよ?」

「さっき穂乃果ちゃんが吹き飛ばされたのは、床が持ち上がったからなんだよ」

 曜と愛の意図する場所へ運ばれた剣士像。その二つの剣士像の視線が交錯する場所は、

「で、そのトリガーとなる場所が、この像の見つめる先がぶつかる場所」

 天井に空く穴の、真下。

「床がマス目に区切られてるのは、多分そういう事なんだと思う」

「さあほのほの、穴の真下へ行ってみて!」

「う、うん……」

 二人の説明にピンときていない穂乃果は、不安顔で言われるがままその場所へ移動。

「でも、さっき立った時は何も起きなかっ……うっひゃあああぁぁぁぁ────!」

 穂乃果の言葉は、突如せり上がった床によって遮られた。悲鳴に変わったその言葉は、

「────あぁぁぁぁぁぁぁむぎゅ」

 はるか頭上で、情けない声と共に途絶えた。

「予想的中!」「やったね愛ちゃん!」

 嬉しそうにガッツポーズする二人を見ながら、説明してあげれば良かったのに、という言葉を千歌はそっと飲み込んだ。

 

 

 

 

 その後残りの三人も順番に飛び出す床に乗り天井へと大ジャンプ。キチンと計算されているのか、ちょうど穴を超えたタイミングで勢いが弱まり抜けた先の床に綺麗に着地。

 最後に曜が着地するのと同時に、

「ホラ見て見て!」

 先ほどと打って変わって明るい穂乃果の声が響いた。

 視線を上げたその先には、登り階段の奥に鎮座する、一際巨大な宝箱。

「あれってもしかして……!」

「このに入った時にも見た、あの宝箱だよ! あれに“ビーナスの涙”が入ってるんだよね!」

「アタシの聞いた話が正しければ、そのはず! いや〜、前に一人で挑んだ時には手も足も出なかったのに、仲間がいるって心強いね〜。みんな、ありがと!」

 いつにも増して嬉しそうな愛は、三人の背中を強めに叩く。

「これで、凛ちゃんを返してもらえるね。苦労した甲斐があったなぁ〜。──ん?」

 階段を駆け上る穂乃果を眺めていた千歌は、ふとすぐ近くに鎮座する剣士像の足元を見た。そこに埋め込まれた石板と、刻まれた文字を。

「千歌ちゃん?」

「『ビーナスの涙を求めし者よ、よくぞここまでたどり着いた! さあ、最後の試練を受けるがよい。』最後の試練……?」

 千歌が首を傾げていると、

「──おーい、宝箱開けちゃうよ〜!」

 頭上から穂乃果の声が降ってくる。

「今行くよ〜!」

 愛は穂乃果に叫び返してから、

「ほら、千歌と曜も早く行こ? ほのほのに感動の瞬間を独り占めされちゃうよ?」

「……まだ、終わってないかもしれない」

「ん?」

「穂乃果ちゃんが危ないかもしれない!」

 唐突に駆け出した千歌。

「ちょっ、千歌ちゃん⁉︎」

「何事……?」

 慌ててその背中を追う曜と愛。

「穂乃果ちゃん、待っ──!」

 階段を登り切った千歌が見たのは、今まさに宝箱に手をかけた穂乃果と、その宝箱が骸骨のモンスターへと変化した瞬間だった。

「え──?」

 

 

 

 

[トラップボックスがあらわれた!]

 

「ガァァァァッ!」

「あっぶなぁぁいっ!」

 間一髪で不意打ちを回避した穂乃果は、反射的に剣を抜きながらも混乱していた。

「え、何でどういう事? あの宝箱に“ビーナスの涙”が入ってるんじゃないの……?」

「多分、それは間違ってないんだと思う……けど、それを手にする為にはこの『最後の試練』を乗り越えないといけないみたい……」

 すぐ横で槍を構えた千歌から説明を受けた穂乃果は、

「……性格悪いっ!」

 顔も知らぬ好事家へと文句を飛ばした。

「──うわわっ、何このモンスター!」

「見るからに普通じゃないね」

 ようやく追いついた曜と愛も、眼前のトラップボックスを捉えて慌てて臨戦態勢へ。

「最後の最後まで、抜かりなく仕掛けを用意してるねぇ」

 愛は手にしたばかりの杖を掲げると、

「悪いけど、ここまで来て引き下がる訳にはいかないんだよね。サクッとやっつけさせてもらうからね!」

 

[愛はメラミをとなえた! トラップボックスに39のダメージ!]

[穂乃果のはやぶさのごとき高速の二回こうげき! トラップボックスに48のダメージ!]

[曜は蒼天魔斬をはなった! トラップボックスに58のダメージ!]

[千歌はさみだれ突きをはなった! トラップボックスに46のダメージ!]

 

 先制で攻撃を叩き込む四人。だが、相手は特に応えた様子もなく、

 

[トラップボックスはメダパニをとなえた! 穂乃果は混乱してしまった!]

 

「はらほらへれ……」

 穂乃果がゆらゆらと挙動不審な動きを始める。

「でえいっ」

 そして、隣に立つ曜に向かって剣を振りかぶった。

「ちょ、穂乃果ちゃん敵はあっち!」

 盾で穂乃果の剣を払った曜だったが、

「──曜ちゃんっ!」

「え──」

 

[トラップボックスのつうこんのいちげき! 曜は84のダメージを受けた!]

 

 強大すぎる一撃をもらってしまう。

「ぐっ……⁉︎」

 足元がふらつく曜。意識が遠くなりかけたが、

 

[愛はベホイミをとなえた! 曜のキズが回復した!]

 

 愛の呪文が飛んでくる。

「た、助かったよ愛ちゃん……」

「なんの! ──それと、」

 愛はウインクを飛ばすと、未だ視線が定まらぬ穂乃果へ駆け寄ると、

「──しっかりせんかーっ!」

 その頭を杖で殴った。結構強く。

「──……はっ! 穂乃果は何を⁉︎」

 その衝撃で正気に戻ったのか、穂乃果は大きく頭を振る。

「くっそー、厄介な呪文使ってくるなぁ……。こうなったら……!」

「こうなったら?」

「やられる前にやる! 倒す!」

「ほのほのらしいね。アタシも賛成!」

 

[穂乃果は全身に力をためた! 穂乃果のテンションが5上がった!]

[曜は蒼天魔斬をはなった! トラップボックスに56のダメージ!]

[トラップボックスのこうげき! 千歌は36のダメージを受けた!]

[愛はメラミをとなえた! トラップボックスに35のダメージ!]

[千歌はホイミをとなえた! 千歌のキズが回復した!]

 

 

 

 

「──やぁぁぁぁぁぁっ!」

 穂乃果の気合いを乗せた一振りが、思い切り振り抜かれた。

 

[トラップボックスをやっつけた!]

 

「た、倒した……?」

 モンスターが力なく倒れ伏せても、警戒が抜けず構え続ける穂乃果。

 だが、そのモンスターが粒子となって消滅し、元々の宝箱が口を開けた状態で鎮座しているのを見てようやく武器をしまった。

「やったじゃんほのほの!」

「うん! 愛ちゃんこそ、的確なサポートありがとう!」

「道中の汚名挽回できたね!」

「うっ、それは言わないでくれると助かる……」

 戦闘直後にも関わらず、明るい笑い声が洞窟に反響する。

「あ、ねぇねぇ、中に何か入ってるよ?」

 千歌がただの物質と化した宝箱の中から、目的のモノを取り出した。愛に手渡すと、四人はためすすがめつ眺め回す。

「これが“ビーナスの涙”……」

 それは、淡く水色に輝くレインドロップの形をした宝石だった。片手に収まりきらないその大きさは、とてつもない価値を秘めている事はその道に詳しくない穂乃果達でも容易に想像できた。

「…………」

 宝石を眺める愛は、少し懐かしそうに目を細めた。

「……前に、アタシが一人でこの洞窟に挑んだって話したじゃん?」

「? うん」

「あの時挑んだの、実はりなりーの為だったんだよね」

「えっ? そうなの? 自分のモノにするんじゃなくて?」

「パルミドなんてゴロツキだらけの街に住んでたから、昔は同じ年頃の女の子がりなりーくらいしかいなくてさ。一緒に遊んだり、闘ったり、逃げ回ったり、色々やってたんだよね。だから、りなりーがずっと欲しいって言ってたこれをゲットしに来たんだけど……一人じゃ実力不足でね〜。──まさか、こんな形で手に入れる事になるとは思わなかったよ」

 愛は肩をすくめると、

「──もしあの時、首尾よくゲットできてたら、どうなってたんだろうなぁ」

 愛は宝石を軽く掲げて、光に透かしてみる。

 そこで、聞き入ってた三人に気付く。

「あれ、どうしたのみんな。過去は過去、今は今だからそんな深く考えなくていいってば! これ持ってって、凛を返してもらお! そうと決まれば、さっさと帰る!」

 強引に話を切り上げた愛は、出口へ向かう。一度振り返った愛は、

「あ、今の話はりなりーには絶対秘密だかんね?」

 笑顔で口元に指を当てた。

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV21

はがねのつるぎ

くさりかたびら

せいどうの盾

鉄かぶと

スライムピアス

 

・曜

LV20

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV21

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV21

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話

ストーリー、まだ全体の三分の一も進んでない気がするんだよなぁ……


 剣士像の洞窟の出入り口に戻ってすぐ、

「“ビーナスの涙”は手に入ったんでしょうね⁉︎」

 待ち構えていたにこが詰め寄ってきた。

「にこちゃん、ずっと一人でここにいたの? モンスターだって出るのに……」

「当たり前でしょ! さあ早く行くわよ!」

 先導するにこに続き、四人も疲れた身体に鞭打ち駆け出した。しかし、心なしかその足取りは軽かった。

 

 

 

 

 璃奈の待つ民家へ戻った一行は、

「何っ? お前ら、本当に“ビーナスの涙”を取ってきたってのか? てっきり諦めて立ち去ったのかとばかり……ちょっと見直したぜ」

 驚く門番を横目に、愛を先頭に中へ入る。

「──ほら、りなりー。約束通り、“ビーナスの涙”を持ってきたよ」

 変わらず奥のゆり椅子に座る璃奈に、愛は宝石を手渡す。

「……凄い、これは間違いなく本物。流石は愛さん。璃奈ちゃんボード、『惚れ惚れ』」

 素早く顔のボードを差し替える璃奈。

「さ、これで約束は守ったよ。猫の子、返してもらうよ」

「…………」

 しかし璃奈は一瞬動きを止める。

「……私が言ったのは、『返すのを考えてあげる』って事だけ。──だから、今考えた。やっぱりあの子は返せない。この宝石も、いらない」

 そう言って璃奈は、“ビーナスの涙”を突っ返す。

「んな……っ、話が違うじゃない!」

 後ろで一歩詰め寄ったにこに、

「魔物さんとは話はしてない」

 璃奈はバッサリ。

「ぬぁんですって⁉︎」

「ま、まあまあにこちゃん。どうどう」

 なだめる曜を尻目に、愛は璃奈に向き直る。

「……りなりー、昔の事を怒ってるんだよね。アタシがこの宝石をあげるって約束を守れなかったのをさ」

「…………。そんな事は、言ってない」

 璃奈は返すが、その手に持った『璃奈ちゃんボード』は表情に変化がない。

「……あの時の事はさ、申し訳なく思ってるよ。愛さんの実力が足りないばっかりに。──でも、今回の事はアタシ一人の問題じゃないんだよ。今は仲間と一緒。引く訳にはいかない」

 愛は深く頭を下げると、それから両手を床についた。

「お願い、りなりー。アタシはどうなってもいいから、凛を返して欲しい」

「……!」

 よほど驚いたのか、璃奈は手に持っていたボードを取り落とした。隠れていた素顔が明らかになったが、その表情はどこまでも透明。

「…………」

 成り行きを見守る穂乃果達。ほとんど変化がない璃奈の表情からは、無言の思考を読み取る事もできない。

「私の知ってる愛さんは、そう簡単に頭を下げる人じゃなかった。よっぽど、大切な仲間に巡り合えたんだね」

 口を開いた璃奈は、落としたボードと床に転がった宝石を拾い上げる。

「──私の負け」

「! りなりー、それじゃあ……」

 顔を上げた愛に、

「仕返しにちょっと困らせてみようと思ってたけど、やっぱり愛さんには敵わない。猫の子の凛ちゃんは、自由の身。──この“ビーナスの涙”は、貰うけど」

 璃奈は『笑顔』を向ける。

「ありがとうりなり〜っ!」

 勢いよく抱きついた愛に、小柄な璃奈の身体は引き倒される。

「──璃奈ちゃんボード、『にっこりん』」

 

 

「──で、肝心の凛はどこにいるのよ!」

「横の部屋にいる。私の寝室」

 聞くやいなや駆け出したにこは、璃奈が示した部屋のドアを蹴破らん勢いで開ける。

「凛っ! 無事⁉︎」

「あ、にこちゃんだにゃ。にこちゃんもここで寝るの?」

 そこにいたのは、ベッドでトランポリンのようにはしゃぐ凛の姿だった。

「……アンタ、何やってんのよ?」

「ここのベッド、フッカフカにゃ〜。これならぐっすり寝られるにゃ!」

「……なんか、心配してた私がバカみたいじゃないのよ。ああ力抜けるわ……」

 額を押さえたにこは、盛大なため息を漏らした。

 

 

 

 

 まだ外に出たくないと渋る凛をにこは無理矢理引っ張り、家の外へ。

「──お、無事に返してもらえたんだな」

 すると、そこに立っていた門番が話しかけてきた。

「実を言うとな、その猫娘は客人だから失礼ないようにしろって璃奈さまから言われててな」

「『客人』……」

「ま、何だかんだ言ってもアンタらを信じてたって事だな。──あ、今のは璃奈さまには秘密にしておいてくれよ?」

「──全部聞こえてる」

「り、璃奈さま⁉︎」

 ドア越しに、通りの良い声が響く。

「お、お許しくだせぇ! オレはここを追い出されたら行く場所が……」

 慌てる門番を置いて、再び六人になった一行はそこを離れる。

 

 

「──ん〜〜〜! 何だか変に回り道しちゃったね。これからどうする?」

 大きく伸びをした千歌。

「そろそろ、情報屋が戻ってきてる頃合いかもな〜。一度パルミドに戻ろっか。どちらにせよ、ドルマゲスの情報が無いと目的地も定まらないし」

 愛の言葉に、反対意見もないメンバーは頷く。

「パルミドねぇ……。できれば、あの街には近づきたくないんだけどね」

「にこちゃん、最初はあんなに行きたがってたのに」

「目の前で仲間が誘拐されるような街に、好んで入るバカなんていないでしょうが」

「まあ犯人のキントは懲らしめたし、怪しそうな人は愛ちゃんが脅迫したから大丈夫でしょ!」

「人聞き悪いな〜ほのほの! ただの聞き込み調査だって!」

「……ナイフ突きつける聞き込みは、されたくないなぁ〜……」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV21

はがねのつるぎ

くさりかたびら

せいどうの盾

鉄かぶと

スライムピアス

 

・曜

LV20

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV21

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV21

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話

ちょっと最近無人島に移住してました。
失踪はしてないんです。これからまた頑張ります許して。


 パルミドに戻った一行は、念の為全員一緒に行動する。愛がナイフ片手に聞き込みをした効果もあってか、わざわざちょっかいをかけてくる人物はいなかった。

 何事もなく情報屋の自宅のドアの前まで辿り着き、愛がノック。

「──はい」

 返事があった。

 顔を見合わせる穂乃果達の前で、愛はドアを開ける。

「──おや、愛さんじゃないですか。戻ってきていたんですね」

「それはこっちのセリフだけどね、せっつー」

「もしかして留守中に来てましたか? それはすみませんでした」

「いーのいーの。アタシもこの街久しぶりだったし」

「ところで、後ろの方々は……?」

「ああ、アタシ今このメンツで旅してるんだ。たまたまこの近くに来たから、せっつーの情報仕入れておこうかなって」

「なるほどなるほど。背中を預けられる仲間と共に冒険……素敵ですね!」

 情報屋は瞳を輝かせて立ち上がり、

「皆さん初めまして。この街で情報屋を営んでおります、せつ菜といいます。以後お見知り置きを」

 優雅に一礼。

「あ、どうも〜……」

 つられて穂乃果達も会釈。にこや凛の姿については一切触れてこなかった。

「それで愛さん、お求めの情報とは?」

「あ、えっとね──実は今、ドルマゲスっていう道化師を追ってるんだよ。すっごい逃げ足速くて、見失っちゃったんだよ。何か情報……持ってない?」

「道化師の男の話なら、つい最近耳にしましたよ。なんでも、マイエラ修道院の院長を殺害した犯人だとか……」

 その時の一件を思い出し、一同は空気が重くなる。

「私が得た情報では、そのドルマゲスという道化師は海を歩いて渡り、西の大陸へ向かったそうですよ」

「西の大陸……。もうちょっと、詳しい情報はないの?」

「残念ですが、私が知るのはここまでです……。力及ばず、申し訳ないです」

「謝んなくていいって! せっつーがくれた情報だけでも大助かりだよ!」

「じゃあ、とにかく西の大陸に向かわなきゃだね!」

 穂乃果は拳を握りしめる。

「あの、水を差すようで申し訳ないんですけど……どうやって西の大陸へ?」

「えっ?」

 せつ菜の声に、穂乃果は首を傾げる。

「……そもそも、ここってどの辺なの?」

「…………愛さん、苦労されてるようですね」

「いやーなんて言うか、役割分担? ほのほのに助けられる事だってあるからさ」

 せつ菜は棚から世界地図を取り出すと、南東の一点を指差す。

「この辺りが、パルミド地方です。そしてこちらが、西の大陸を代表するサザンビーク国領」

 そこから左へ指を滑らせていく。当然、その間は大海によって隔てられている。

「北のリーザス地方にあるポルトリンクと、マイエラ地方にある船着場は定期船が出ていますが……西の大陸へは、距離が長い上に最近魔物が凶暴化している為定期船は運行していません」

 せつ菜は地図の真ん中辺りでバッテンを描く。

「自分の船があれば話は別ですが……」

 一度顔を上げたせつ菜は、一同の表情を見てすぐに察する。

「そう簡単に手に入る代物でもありませんからね」

「で、でも西の大陸には行かなきゃいけないんでしょ? 何か方法があるはずだよ! 探そう!」

 一瞬もめげない穂乃果の態度に、せつ菜は目を輝かせる。

「なるほど……アツイ人ですね!」

「でしょでしょ? せっつーと気が合うかもね」

「これは私も感銘を受けました! では一つ、耳寄りな情報を。役に立つかは分かりませんが!」

 せつ菜はもう一度地図に指を落とすと、北の大陸のポルトリンクを示す。

「この港町から西に進むと、そこに広がる荒野に打ち捨てられた古い船があるそうです。海が近くもないその場所にどうして船があるのか分かりませんが、その船は古代の魔法船とのウワサです。──もし、その船を復活させる事ができれば、世界中の海を自由に渡れるはずですよ!」

 おお、と色めき立つ一行だったが、

「どーやってその船を動かすのよ。魔法船だかなんだか知らないけど、この中で誰か船の修理なんかできるの?」

 にこの真っ当過ぎる言葉で我に返る。当然誰も手は上がらない。個性豊かなお仲間ですね、というセリフを、せつ菜は愛のウインクで飲み込んだ。

 ふと地図を見ていた愛が、

「てゆーかこの道ってさ、前に行った時地震が何かで岩が崩れて通行止めって言われたじゃん。進めないよ」

「ああ、その事なら大丈夫ですよ。最近ようやく、道が開通したらしいですから」

「あ、そうなの? じゃあひとまず行く事はできる訳だ」

「ち、ちょっと待ちなさいよ! まさか本当に行くつもり……?」

「だって他にアテもないし……ここは麦にすがってみようよにこちゃん!」

「藁よバカ」

 地図を見たにこは、

「この荒野からトロデーンに抜ける事もできる……のね」

 小さく呟いた。

「じゃあもう勝手にしなさい。私はついて行くだけだからね!」

「──ありがとねせっつー。おかけでちょっと前進したかも」

「お役に立てたなら何よりです!」

 ペカッと笑顔を向けたせつ菜に、おずおずと曜が手を上げる。

「……あの〜、結構色々と情報貰っちゃったんだけど、私達そんなに持ち合わせは……」

「ああ、情報料の事ですね! それならご心配なく! 愛さんとは旧知の仲ですし、昔から助けてもらってますから。愛さんやそのお仲間さんからは、お金は頂きませんよ!」

「アタシはただウワサ好きなだけなんだけどね〜」

 安堵の息を吐いた曜を見て、

「なるほどなるほど……役割分担、ですね」

 せつ菜は意味ありげに頷いた。

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV21

はがねのつるぎ

くさりかたびら

せいどうの盾

鉄かぶと

スライムピアス

 

・曜

LV20

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV21

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV21

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

はねぼうし

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話

よく考えたらククールのルーラでトラペッタに行けるのはおかしくない?


 千歌が呪文、【ルーラ】を唱えると、一行は一瞬でポルトリンクの入り口へ降り立つ。

「は〜、便利な魔法ねぇ。せつ菜って情報屋に言われた時は大して気にしてなかったけど、ここまで戻るのもかなりの距離よね……」

 長い旅路を思い出してげんなりしたにこ。

「この魔法も万能じゃないから、自分の知った場所じゃないと作用しないんだけどね」

「ん? あれでも千歌ちゃん、ここ通った時まだ出会ってなかったよね?」

 首を傾げた穂乃果に、千歌は若干気まずそうに頭をかく。

「あー……うん、実は、コッソリ定期船に忍び込んで羽を伸ばした事が……。トラペッタまで観光に行きました、ハイ」

「……無賃乗船じゃないの」

「果南ちゃんに怒られて衝動的に……反省してます」

「ま、まあまあ。おかげで助かったんだから良しとしようよ! 今は何とかしてドルマゲスを追いかけなきゃいけないんだから!」

 「こんな集団で呪い解けるのかしら……」とぼやくにこの背中を押しながら、曜はポルトリンクを横目に西側へ進む。

 

 

 以前は土砂崩れで塞がれ通行止めを強いられたが、瓦礫は綺麗に撤去され地面には街道が伸びていた。

「この先に……その魔法船ってのがあるんだよね?」

「動かし方も分からないボロボロの、ね」

 元々期待していないにこは、言葉が強い。

 徐々に周囲の草地が減り荒々しい岩肌が露出する様子を見ながら、そろそろかな? と曜は呟く。

 

 

 

 

 ──“それ”は、すぐに見つかった。

 水に浮いていない船そのものは、想像以上のサイズ感がある。穂乃果達の目の前に鎮座するそれは、大きな壁のような感覚を与えていた。

「船……だね」

「こんな荒野のど真ん中に本当に船が……」

「そもそも、壊れてないのかしら……」

 にこが船の底を撫でると、積もり積もった埃や塵が手を覆った。致命的な欠陥は目視できないが、少なくとも、相当の年月放置されている事は確かだった。

「仮に使えるとして……どうやってこんな巨大な船を海まで運ぶのよ。人手がいるとかの問題じゃないわよ」

 にこは遠方を見渡すが、荒野は切り立った岩山に囲まれている。船を運び出す場所などなかった。

「これって、ただの船じゃないんだよね」

 船の周りをぐるりと一周した愛が、にこと同じく側面に手を当てる。

「せっつーの言ってた情報は間違いじゃなかった。魔力で動く魔法船……か」

「愛ちゃん、何か分かったの⁉︎」

「んー、カン!」

「えっ……えぇ?」

 にこやかな笑顔を向けられた穂乃果は、思わずつんのめる。

「でも何かある。それは間違いないと思う」

 その声色に、いつもの軽い冗談が含まれていない事を悟る。

「……しょーがないわね。どの道これに賭けるしかないんだものね」

「にこちゃん、どこ行くにゃ?」

 歩き出したにこは、一度振り返る。

「ここにいたって、もうできる事はないでしょ。だったら情報を集めないと。近くに立派だった図書館があるんだから」

「それって……」

「……戻るわよ。私達の旅の始まり、──トロデーン城へ」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV22

はがねのつるぎ

くさりかたびら

せいどうの盾

鉄かぶと

スライムピアス

 

・曜

LV21

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV22

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV22

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話

原作知ってる人は読んでて「おや?」と感じてたと思いますが、この辺の設定はちょっと変えてます。


 トロデーン城に近づくにつれて、その周辺に見るからに禍々しい空気が覆っているのが確認できた。

「目視できるほどの、呪い……」

 寒くもないのに、千歌は腕を抱いた。

「…………」

「…………」

 にこに加え凛まで、途端に口数が減る。

「……本音を言えば、呪いをどうにかするまで近づきたくはなかったんだけどね」

「凛も、ここにはもういい思い出無いにゃ……」

 ひとまず城を覆う禍々しい空気は、残留した呪いであり現状実害ないものと千歌が判断したので、一行は城の正門へと続く坂を登っていく。

 立派な門扉は壊れる事なく、固く閉ざされていた。加えて、イバラがビッシリと表面を覆っていた。

「ぐぐっ……! 出発した時はこんなの無かったのに……!」

 穂乃果が力いっぱい扉を押すが、軋むだけでびくともしない。

「──っはぁ! ダメだ〜! 全然開かない!」

 どうにもならない穂乃果が一歩下がると、

「じゃ、愛さんの出番かな」

 代わりに愛が進み出る。

 愛は扉を塞ぐイバラに触れると、

「やっぱただのイバラじゃないねコレ──」

 魔法を唱える。愛の手から放たれた炎はイバラを覆うと、たちまち燃やし尽くしてしまう。

「──ま、こんなトコかな」

「おぉ、流石愛ちゃん……」

 扉周辺のイバラを撤去した愛は、肩をすくめる。

「アタシの魔力じゃこれが限界。これ以上この城のイバラをどうにかするのは、ちょっと無理かな〜」

「充分だよ! さあ、入ろう!」

 

 

 

 

 正門をくぐった一行。凄惨なその状態に、全員が息を飲む。

 伸び放題の雑草。割れた石畳。枯れた噴水。あちこち崩れた建物。そして、恐怖の表情のままイバラと一体化した異形として静止する人間の成れの果て。

「酷い……」

 無意識の内に、そんな声が漏れた。

 

 

「──にこちゃん達は、あの日この城にいたんだよね?」

「……そうね。私と、凛と穂乃果が」

 千歌の質問に、にこは重々しく頷く。

「曜ちゃんと愛ちゃんは?」

「私は、この城の傭兵として向かってる途中だったんだよ。ちょうど、明日には着くかなって時だった。ようやく着いたと思ったら、お城は呪われちゃってて穂乃果ちゃん達がお城の前で愛ちゃんと話してて……元々傭兵のつもりで来てたから、その流れで一緒に」

「アタシは、たまたまこの辺フラついてて。そしたらこの城がとんでもない事になってるって聞いて、野次馬根性で見に行ったらほのほの達と出会って。──そんで紆余曲折あって、一緒に旅する事に」

「じゃあ、二人はここで何が起こったか知らないんだ」

「前に滝の洞窟で闘ったザバンもそれっぽい事言ってたけど、実際にどんな状況だったのかは……」

「まあね〜。人の過去ほじくり返すシュミは無いし、デリケートな部分だろうし。──と、いう訳だからにこにー。無理に話さなくてもいいからね?」

 愛に話を振られ、にこは大きくため息をつく。

「……そんな言い方されたら、話すしかないじゃないのよ。いい性格してるわねホント。──ま、ちょうどいい機会だし。闘ってくれる仲間だし。真実を知らずにモヤモヤしたくはないでしょ。凛と穂乃果も、いい?」

「うん」「にゃ」

 にこは空を仰ぐ。釣られて五人も見上げると、呪いの雲の隙間から皮肉のような満天の星が瞬いた。

 

 

 

 

「──ほう、あいどる、とな?」

「はい、トロデ王。にこ達は人々を笑顔にするべく世界を回るアイドル、と呼ばれる存在です」

「初めて耳にする言葉じゃが……旅芸人や踊り子とは違うのか?」

「にこちゃんが考えた言葉なんだから、知らなくて当然にゃ」

「あんたは黙ってなさいっ。──それらとはまた一線を画したものでございます。歌って踊って笑顔にする──それがアイドルです。それを今から、ご覧に入れましょう」

「よーし、テンション上がるにゃ〜!」

 

 

 国王の座す大広間でパフォーマンスを披露した二人は、優雅に一礼。

「素晴らしいっ! こんなにも昂り感激した余興は初めてじゃ!」

 トロデ王や隣に座る王女をはじめ広間で観ていた者達は、残らず手を叩いて大喜び。

「にこ、凛、大変に貴重な技を見せてもらった。礼は弾むぞ」

「「…………」」

 にこと凛は、誰にも見えないように素早く背中で拳を打ち合わせる。

「今宵は我が城でゆっくり休むと良い。──そうじゃ、お付きを一人用意しよう。なに、年頃も近いし腕も立つ。すぐ打ち解けるじゃろうて」

「「ありがとうございます」」

 二人はもう一度一礼すると、大広間をあとにする。その背中で、ウキウキを抑えきれないトロデ王は呟きを漏らす。

「今日は良い日じゃのう。道化師に次いで二つも余興を楽しめるなど」

 

 

「──任命された穂乃果ですっ。よろしくね!」

 あてがわれた客室でくつろぐ二人に、少女が賑やかにやってくる。

 にこは穂乃果を眺めると、

「腕が立つって、本当なのかしら?」

「あ、ひどーい! こう見えて優秀な近衛兵なんだから!」

「本当に優秀な人間は、自分から優秀なんて言わないものよ」

「でもにこちゃん、自分で世界一のアイドルって言ってたんでしょ?」

「……私はいいのよ。だって事実だもの」

「一人しかいなかったら、誰だって世界一だにゃー」

「そこうっさいわよ! 凛だって同じアイドルじゃないのよ!」

「凛は歌って踊れればそれでいいもーん」

「ぐぬ……まあいいわ。──穂乃果って言ったわよね」

「うん?」

「ちょっとこのお城案内してくれない? 結構広そうだし、探検してみたいなって思って」

「うん、いいよ。迷ったりしたら大変だもんねー。そっちの──凛ちゃん、は?」

「暇つぶしになるなら!」

「なるよ! 任せて! 穂乃果がバッチリ案内してあげるから!」

「……直感的に不安なんだけど」

「そんな事ないよ〜。私こう見えて、このお城に来て長いんだから」

「そうなの?」

「うん、子供の頃からずっと」

「ここの生まれじゃないの?」

「それは違うみたいなんだけど、私自身よく覚えてなくて」

「ふーん、なんか複雑なのね」

 

 

 城内を散策しながら、三人は雑談に花を咲かせる。

「そういえば、今日ってにこ達以外にも客人がいるのよね?」

「あーうん、詳しくは知らないけど、なんか道化師らしいよ。魔法が得意なんだって」

「どんな人だったか、穂乃果ちゃんは見たの?」

「遠くからチラッと見ただけなんだけど、ヒョロっとした背の高い男の人だったよ。なんか自信なさげで、ずっとニコニコしてた」

「ふうん……さっきのトロデ王の反応見る限り、つまんない芸を披露したって訳じゃなさそうよね。せっかくの機会だし、一度話をしてみたいわね」

「にこちゃんと凛ちゃんがやってたダンス、穂乃果は気になるけどなぁ」

「ふふん、そう簡単にマスターできるスキルじゃないわよ?」

「むむ、そう言われると逆にやる気が──」

 そこで穂乃果は言葉を切った。

「どうしたのよ?」

 急に静かになって立ち止まった穂乃果に、にこは追突しそうになる。

「──ちょっ⁉︎」

 いきなり駆け出した穂乃果に、置いていかれては困るとにこも慌ててあとを追う。そしてにこと凛も、状況を把握する。

 廊下に衛兵が、倒れ伏せていた。

「──大丈夫⁉︎ 何があったの⁉︎」

 介抱された衛兵は、

「な、何者かが……この階段を……ぐっ……!」

 虚ろな視線を彷徨わせながら、途切れ途切れに言葉を発する。

「階段……?」

 穂乃果が視線を向けた先には、重厚な扉が。絢爛な城内において、無骨な両開きの扉は際立って見える。明らかに、普通の場所ではない。

「ここって確か、封印の間……!」

 穂乃果の目が見開かれた理由も、部外者の二人には分からない。

「な、何があったのよ。この扉の先に何があるのよ」

「普段は立ち入り禁止だから私も噂で聞いただけだけど、『絶対的な力を得られるこの国の秘宝』が眠ってるって……」

「じ、じゃあ、誰かがそれを狙って……?」

「くっ……!」

 詳しく話を聞こうとしたが、腕の中の衛兵はすでに気を失っていた。

「……国王様に知らせなきゃ!」

 穂乃果は立ち上がると、一目散に駆け出す。

「ここは危ないかもしれないから、二人は部屋に戻ってて!」

 そう言い残して。

「「…………」」

 残された二人は、

「部屋に戻れって言われても……」

「どうやったら戻れるか、もう分かんないにゃ」

 揃って扉へと視線を向けた。鍵穴は破壊され、僅かに隙間が覗いていた。

 

 

 

 

 扉の先は、長い登り階段だった。壁にぐったりと別の衛兵が倒れ伏せていたが、息はあるようだった。

「「…………」」

 慎重に階段を登った二人は、部屋の中心で鎖に巻かれた杖を見た。床には複雑に描かれた魔法陣。そしてそれに手を伸ばす、人影も。

「っ…………⁉︎」

 何とか声を上げるのを堪えたにこだったが、

「……?」

 その気配を人影は過敏に察知。

 振り返った人影──道化師のような見た目の男は、悲哀とも侮蔑とも取れる感情を内包した笑みを浮かべた。

「これは……これは……。確か、城の客人の旅芸人のお二人ですか。よもやあなた方に見つかってしまうとは」

「あんた……ひょっとしてもう一人の客人の道化師ね!」

「ええ、ご存知でしたか。──ドルマゲスと申します。以後、お見知り置きを」

 微塵の礼儀も感じさせない丁寧な挨拶に、にこは寒気を覚える。それでも果敢に、一歩詰め寄る。

「こんな所で何してんのよ! ここは立ち入り禁止って聞いたけど⁉︎」

「ここまで見て、まだそんな事を言えますか。この杖のウワサくらいは、知っているでしょう?」

 さっきね、という言葉をにこは飲み込む。

「このトロデーン城の奥深く、封印されし伝説の魔法の杖、持ち主に絶大なる魔力を与える、と……。私はこれを手に入れて、究極の魔術師となる。──そして、私の事をバカにしてきた愚民どもを見返してやるのだ!」

「バッカじゃないの!」

「……何?」

 発言を一蹴され、ドルマゲスは眉根を寄せる。

「そんなくだらない事考えてるヒマがあったら、その時間使って努力しなさいよ! 甘ちゃんな考えしてんじゃないわよ!」

「…………クク、小娘の分際で、偉そうな。──後悔しても、知りませんよっ!」

 ドルマゲスは瞳孔を見開くと、引ったくるように手を伸ばすと、杖を掴んだ。

「ちょ……待っ──!」

 手を伸ばしたにこの目の前で、無情にも杖はドルマゲスの手中に収まる。

「──さて、それでは早速この杖のチカラを試させていただきましょうか……」

 下卑た笑みでにこを睨んだドルマゲスは、

「偉そうな戯言を吐いた小娘。まずはあなたに実験台になってもらいましょうか」

 杖をにこへと指し示した。杖の先端から赤い光が発せられ、それはにこへと一直線に──

「──にこちゃん危ないにゃ!」

 射線に飛び出してきた凛を巻き込んで、二人を包んで四散した。

「う…………」

「…………」

「──おや?」

 一人はキノコが人型になったかのような、もう一人は耳と尻尾が生えた猫のような姿で意識を失っていた。

「姿を異形に変えただけ、か……。この程度の呪いしか使えないとは、期待外れだな」

 当のドルマゲス本人は、冷めた表情で手元の杖を見下ろした。そしてその視線は、足元の幾何学な紋様に向けられる。

「……なるほど。この結界が杖の魔力を抑えているのですね。なら、ここを出て結界の外で杖のチカラを試してみるまでです」

 ドルマゲスは倒れたにこと凛に一瞥もくれず、部屋を出て階段を降りていく。そして向かいの部屋からテラスへ出ると、杖を天高く掲げた。あの部屋からここまでの間に、すでに杖を不気味な赤いオーラが覆っていた。

「──さあ、杖よ。己の真のチカラを我に示してみせよ!」

 バチ、バチ、と。杖から赤いスパークが漏れ出し、ドス黒いオーラが腕を伝ってドルマゲスへと流れていく。

「おお……! この溢れんばかりの魔力! なんと素晴らしい……!」

 恍惚の表情を浮かべるドルマゲス。だが次の瞬間、勢いよく心臓を押さえた。

「こ、これは……このチカラは……! お、押さえきれないぃぃぃぃぃ…………っ!」

 ドルマゲスが吠える。

 その足元から、無数のイバラがどこからともなく出現し、城内を余す所なく這っていく。

 廊下、大広間、食堂、客室、そして、にこと凛のいる封印の間にも。

「──な、何よコレ……⁉︎」

 地響きと轟音で目を覚ましたにこは、周囲を取り囲む無数のイバラに驚愕する。意思を持つかのごとく這い回るイバラだったが、結界の内部にいたにこ達には手出しができないようだった。見えない壁に弾かれたように、空中に衝突してはのたうちまわる。

「…………!」

 どうする事もできず、にこは凛の手を握ったまま全てが終わるのを待つしかなかった。

 

 

「──はぁ……はぁ……はぁ……」

 一方元凶のドルマゲスは、溢れ出る魔力を解き放ち荒い呼吸を整えていた。

「…………。…………くく」

 しばしの沈黙の後、歪んだ口元の口角が上がる。

「くっくっく……。──きひゃ、きひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! あははははははははははははははははははははっ!! ひゃーっはっはっはっはっはっはっはっはぁっっっ!!!」

 この世のものとは思えない奇怪な笑い声を響かせながら、遙か上空へと飛び去り姿を消した。

 

 

 

 

 沈黙が支配するトロデーン城で、

「──う……?」

 廊下で倒れていた穂乃果は起き上がった。

「な、何これ……!」

 いきなり飛び込んできた目の前の惨状に驚愕し、

「だ、誰かいないの……?」

 生存者を探すべく周囲を見回す。

「は、そうだにこちゃん達!」

 知り合ったばかりの友人達の存在を思い出し、再びそちらへ走る穂乃果。

 縦横無尽に、しかしもう動かないイバラを睨みながら、封印の間への階段を駆け登る。

「にこちゃーん! 凛ちゃーん!」

「! 穂乃果⁉︎」

 未だその場から動けずにいたにこは、聞こえてきた声に思わず立ち上がる。

「……にゃっ?」

 腕を引っ張られた凛が目を覚ます。

「無事だったんだね! にこ……ちゃん?」

 階段を登りきった穂乃果は、目の前の光景に情報を処理しきれなくなる。

「にこちゃん……だよね? そっちは、多分凛ちゃん」

「はい? 何言ってんのよ。いくら会ったばかりだって、このスーパーアイドルにこにーの美貌を忘れるなんて許されないわよ」

「い、いや、だってその顔……」

「顔?」

 首を傾げたにこは、ふと自分の両手を見下ろす。どう見ても人間のそれではない腕を捉えると、弾かれたように近くに散らばっていたガラスの破片を鏡代わりに覗き込む。

 自分を見つめるキノコの化け物と目が合うと、

「な、何よコレぇぇぇぇぇぇーっ!」

 

 

 

 

 一通りにこの話を聞いた三人。流石に茶化すような事はしなかった。

「今でも不思議なんだけど、あの時結界の中にいた私と凛はともかくどうして穂乃果も無事だったのかしらね?」

「うーん……私に聞かれても……。気を失って、目が覚めたらもうこんなだったから……」

「本人に分からないんじゃどうしようもないわよねぇ。まあ、分からないけど運が良かったんでしょうね。そんな感じしそうだし」

 分からない事には結論は出ない。それを分かっているので、にこも深くは聞いてこない。

「──さて、じゃあそろそろ行動開始しますか。ドルマゲスが思った以上にヤバい存在だって分かったし、あんまりモタモタしてらんないでしょ」

 枯れた噴水に腰掛けていた愛は勢いよく立ち上がると、穂乃果の背中を強めに叩く。

「辛い事思い出しちゃうかもしれないけど、案内頼むよ! 元近衛兵さんっ」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV22

はがねのつるぎ

くさりかたびら

せいどうの盾

鉄かぶと

スライムピアス

 

・曜

LV21

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV22

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV22

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話

トロデーン城のBGM、『この想いを…』っていうんですが大好きなんですよね。切ないんだけど心に染みるというか。


 穂乃果の案内で、トロデーン城内を歩く一行。

 完全にイバラと一体化して開かなくなってしまった扉や、イバラが巻きついた衝撃で瓦礫の山が形成されている場所など、迂回を強いられる箇所が多い。そして何より、

 

[魔物のむれをやっつけた!]

 

 呪いの影響なのか、城内であろうとモンスターが蔓延っている。

「お城が、こんな危険な場所になってるだなんて……」

「私らが出発した頃は、モンスターなんていなかったのに」

「お城の人もみんな優しかったんだにゃ……」

 城での思い出がある三人は少なからずショックを受けており、

「人をこんな姿に変えるなんて……」

 千歌達も変わり果てた従者達を見て言葉を失っていた。

 城内のいたる所で散見される彼らは、体色がイバラと同じ緑色に変色しており、腕は蔓状の植物そのもの、脚は床を這うイバラと同化していた。瞳は白く濁り光は無く、ほぼ全員、恐怖や驚愕の表情のまま凍りついていた。幸いなのは、徘徊するモンスターが『人』と認識せず目もくれていない事だった。傷つけられた姿は、一人も見ていない。

 呼び掛けても触っても反応は一切ない。だが、

「……温もりはある。多分、死んではないんだね」

「じゃあ、ドルマゲスを倒して呪いを解けば……」

「この城もこの人達も、きっと元通り!」

 にこ達もね、の声に、少しだけ明るさが戻る一行。

 

 

「──あ、ここだね図書館」

 穂乃果は一つのドアの前で立ち止まると、恐る恐るドアノブに手をかける。──幸い、ドアは問題なく開いた。

「……うわ」

 狭い通路に所狭しと並べられた本棚に、誰が言うでもなく声が出る。

 イバラの浸食が控えめだったのか、多少床に本が散乱する程度で大きな被害は見受けられない。奥のガラスのなくなった窓枠から、満月による月明かりが差し込んでいた。

「……これは、簡単じゃないわね」

 無限にも思える書物の山を眺めながら、にこは呟く。

「そもそも、あの船に関する情報があるかも分からないんだよね……」

「ネガティブ言ってても始まらない! 行動あるのみ!」

 愛は喝を入れると、

「モンスターが出るかもしれないし、アタシは入り口付近。千歌と曜は奥の窓側。にこにーと凛は、真ん中辺りをほのほのと一緒に探す!」

 テキパキと指示を飛ばす。

「オケー?」

 五人も気合いを入れ直すと、それぞれ持ち場へ散って行く。

 

 

 

 

 しばらくの時間、静寂が流れる。聞こえてくるのは、ページを繰る音、僅かに移動する足音、読書が苦手な者の声なきうめき。

 

 

 全員が調べた冊数を数えるのを諦めた頃、

「──あっ!」

 穂乃果の声が静寂を切り裂いた。

「これ! この本見て!」

 集まってきた五人に、穂乃果は本の表紙を見せる。

 色褪せていて装丁もくたびれているその本には、『荒野に忘れられた船』と書かれている。

「そ、それ……!」

「へへーん!」

 得意げな笑みを向けてくる穂乃果に若干の悔しさを滲ませながら、

「……早く読んで調べるわよ!」

 にこは本をひったくるとテーブルへと向かった。

「あ、にこちゃん酷い! 見つけたの穂乃果なんだからね!」

「見つけるのが目的じゃないのよ!」

「近くにいたのに見つけられなかったからって、にこちゃん大人げないにゃー」

「アンタは黙ってなさい!」

 その光景に愛は肩をすくめると、

「他にもあるかもしれないし、アタシ達はもうちょっと探しておこっか」

「そうだね。一冊の本を大人数で読んでも仕方ないし」

「何か分かったら、また呼んでねー」

 三人は再び本棚に向き直る。

 

 

 

 

 ──一通り読み終えたにこは、本を閉じると大きなため息を一つ。

 あらかた探し終えた千歌達も、椅子に座ってそれを眺めていた。

「……結局分かったのは、大昔はあの辺りも海だったって事だけね」

「それが分かってもねー。今もあそこが海だったら、何の苦労もしなかったんだけどねぇ」

「そしたらここまで戻ってこられなかったかもよ?」

 軽口を叩いてみるが、進展はゼロだったのだ。空気は重い。

「──ん?」

 ふと顔を上げたにこは、月光が作る窓枠の影が伸びているのを見た。現実的にありえない速度で、壁に向かって真っ直ぐと、綺麗な形のまま窓枠の影が伸びていく。

「な……何よあれ⁉︎」

 声を上げたにこの視線を追って、他の五人も異常に気付く。

「まさか……」

「これってもしかして……⁉︎」

 初見の凛は若干の怯えを見せたが、四人には心当たりがあった。一度、見ている。月夜が綺麗な、丘の上だった。

「ど、どうしてここに……?」

 恐る恐る、壁に作られた窓枠の影に近づく。まるで、扉のような。

「ち、ちょっと穂乃果! これがなんだか知ってるの⁉︎」

「う、うん。前にアスカンタの王様助けた時に……」

「ああ、なんか不思議なハープで演奏してどうとかってヤツ……?」

 あの時説明はされたが半信半疑だったので、記憶が曖昧なにこ。

「……で、それがどうしてここに出てくるのよ。アスカンタのお伽話じゃなかったの?」

「語り継がれたのがアスカンタだけで、他の場所で起こっても不思議じゃないと思う」

「千歌ちゃん?」

「それにだって、今のこのトロデーン城は、『普通じゃない』場所なんだから」

 目に映るイバラを見ながら、一同は納得。

「乗るか反るか。──乗るしかないっしょ!」

 穂乃果は頷くと、影に手を置く。

「──じゃあ、行くよ」

 

 

 

 

 窓の先は、一度見た世界。しかし見慣れない世界。そこに立っていた者も、同じ者。

「──あら……? 月の世界へようこそ、お客さん」

 振り返った絵里は、ハープの音を奏でる。

「月影の窓が、人の子に叶えられる願いは生涯で一度きり。再び窓が開くなんて、珍しいわね」

 絵里の言葉に『二度目はない』のかと不安に駆られたが、

「さ、いかなる願いがキミ達をここに導いたのかしら? 話してちょうだい?」

 どうやら門前払いされる気配はないようで安堵する。そういえば前回は、願いを叶えたのは自分達ではなくパヴァン王だった。

「実は──」

 説明しようとしたにこを、穂乃果は止める。

「あ、大丈夫だよにこちゃん。この人には言わなくても分かるから」

「は? いやでも、今話せって……」

 ハープを奏でた絵里は、小さく頷く。

「──なるほど、ね。あの船の事なら知っているわ。かつては月の光の導くまま、大海原を自在に旅した。覚えてるわ」

 勝手に進んだ話ににこが驚愕していると、

「穂乃果達の靴から話を聞いたんだって」

「……もう、何でもアリね……」

 絵里は微笑むと、

「再びあの船を海原へと走らせたいのね? それなら簡単な話よ」

「ほ、本当⁉︎」

「ええ。キミ達も知っているでしょう? あの場所はかつて海だった。その太古の記憶を呼び覚ませばいいだけよ」

 簡単に言っているようだが、穂乃果達には方法がサッパリである。

「アスカンタで王妃の記憶を見せたように、大地に眠る海の記憶を形にすればいいだけよ」

「あー……なるほど」

「……穂乃果ちゃん、絶対分かってないね」

 乾いた笑顔で濁した穂乃果には気にも留めず、絵里は演奏を始める。神秘的な音色が辺りを包み込み、

 ──バツッ!

 っと。乾いた音が響いた。

「……やっぱり、この竪琴じゃ無理なのね」

 見ると、絵里の持つハープの弦が切れてしまっていた。

「大地の記憶を呼び覚ますくらい大きな仕事となると、楽器もそれに相応しいモノが必要なようね」

 絵里は思案顔を見せると、正面の穂乃果と目が合った。

「──あなた……。その気配……かすかだけど、確かに感じるわ」

「えっ?」

「──“月影のハープ”、ね……。昼の世界に残っていたのね。あの楽器なら、この大役も立派に務めてくれるはずだわ」

 何やら独り言を呟いた絵里は、

「よく聞いて。大いなる楽器──“月影のハープ”は、地上のどこかにあるわ。その楽器なら、きっとあの船を蘇らせる事ができるはずよ」

「それを探して持ってくればいいんだね!」

「話が早くて助かるわ」

 優しく微笑む。

「いや、ちょっと待ちなさいよ。どこかってどこよ? 世界のどこかにある楽器一つ探してこいって、言ってる事無茶苦茶よ」

 にこの正論に我に返るが、

「心配には及ばないわ。ハープの気配は、キミ達全員から……いえ、人の子四人全員から感じるわ。つまり、キミ達四人が歩いてきた道、そのどこかに。縁の深い者が、導き手となるはずよ」

 絵里が言葉を続ける。

「にこだって人間なんですけど……」

 という抗議はスルーされた。

「もし願いを叶えたいのなら、私の元に“月影のハープ”を持ってきてちょうだい。そうしたら、船を動かすのは約束するわ」

「……分かった! 待っててね、すぐ持ってくるから! 絵里ちゃん!」

「──あら、ふふ。私をそんな風に呼ぶなんて、長い記憶の中でも初めてね」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV23

はがねのつるぎ

鉄のむねあて

せいどうの盾

しっぷうのバンダナ

スライムピアス

 

・曜

LV22

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

サンゴのかみかざり

金のブレスレット

 

・愛

LV23

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

毛皮のフード

金のロザリオ

 

・千歌

LV23

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話

このタイミングって、キラ帰省中なんですよね。
でもいいチャンスだからここではもう一回登場です。


 一度元の世界に戻ってきた一行。

「で、誰かその“月影のハープ”って楽器に心当たりはあるの?」

 返答は沈黙。

「そりゃそうよね。そう簡単にはいかないか」

「絵里ちゃんが言うには、穂乃果達四人が全員行った事ある場所なんだよね?」

「そこで会った誰かが、楽器のある場所を知ってる……はず」

 絵里の言い回しが独特だったのもあり、見当の段階から暗礁に乗り上げる。

「ん〜〜〜〜〜〜〜…………」

 穂乃果は腕を組んで唸ると、

「──あ」

 何かに気付く。

「心当たりあるの⁉︎」

「ううん、分かんない」

「っ」

「分かんないけど、分からないから行ってみようよ!」

 疑問符を浮かべる仲間達に、穂乃果は明るい笑顔を向けた。

 

 

 

 

「ここは……」

 【ルーラ】で穂乃果達が降り立ったのは、

「──トラペッタじゃない」

 かつて騒動になった、旅の最初に訪れた街。

「私、穂乃果ちゃん達とはこの街来てないけど……」

 一応、千歌が記憶違いでない事を確認する。

「そうじゃなくて、穂乃果達は探し物をしてるんでしょ?」

「「──あ」」

 ここで、曜と愛も目的を理解する。

「……私は中には入らないわよ。用事があるならさっさと済ませてきなさい」

 この街でいい思い出が無いにこは、仏頂面で外壁の影に歩いていった。

「とにかく、行こう!」

 

 

 迷う事なく街を進んだ穂乃果は、奥まった路地に建つ一軒家の前へ。

「……なんだか遠い昔のようだねぇ」

 愛の呟きを背に、穂乃果はドアをノック。

「開いとるよ」

 返事はすぐに来た。

「お邪魔しま〜す」

 ドアを開けた穂乃果は、正面に座る占い師と目が合う。

「待っとったで。何やら大変な事態になってるみたいやな」

 希は微笑むと、目の前に置かれた水晶玉に手を置く。

「……誰?」

「占い師の希ちゃん。見つけられないモノはないって評判なの」

「ひゃ〜、それは凄い」

 初対面だった千歌は、隣の曜へこっそり耳打ち。

「もしかして、全部お見通し?」

「詳細はウチにも分からん。超人ではないからね、大まかにしか把握はできないんよ。……でも、穂乃果ちゃん達が何か探し物をしてるのは分かる。それでウチを頼りに来た事も」

 希はウインクすると、

「じゃ、早速……。──む〜、むむむ……」

 水晶玉に手をかざした希は、

「見えるで……。これは……お城? どこかのお城やな……それから、まだ若い王様……ちょっと気弱そうだけど、晴々した顔をしてるね……お世話してる女の子も楽しそうやな」

 見えた内容をそのまま伝えていく。

「──こんな所かな。参考になった?」

「お城……」

「気弱そうな……」

「若い王様……」

「お世話する女の子……」

 希の口にした単語を繋ぎ合わせた四人は、

「「「「──!」」」」

 同時に顔を見合わせた。

 

 

 

 

 希に礼を言った四人は足早に街を出るとにこと凛を回収。すぐさま千歌が【ルーラ】を唱える。

「どうしたのよそんなに慌てて。何か分かったの……って、ここ、アスカンタ城じゃない」

 外壁から覗く建物を見上げたにこが、

「ここに……“月影のハープ”があるの?」

「かもしれない! 王様に訊いてくるからちょっと待ってて!」

 二人を置き去りに、四人は城内へと駆けていく。

「……忙しないわねぇ」

「それだけ頑張ってくれてるって事にゃ」

「……珍しく素直じゃない」

「にこちゃん酷いにゃ。せっかくあの時助けてあげたのに」

「……それ一生言い続けるつもりじゃないでしょうね。てゆーか、結局私の方が悲惨な呪いかけられたんですけど?」

「…………」

「そこはフォローしなさいよ!」

 

 

 

 

 顔を覚えられているので門兵にも歓迎され、入り口を素通りさせてもらう。

 中に入ってすぐ、一階で見知った顔を発見する。

「あっ、皆さん! また来てくれたんですね! 嬉しいです!」

 エプロン姿の歩夢が、パタパタとこちらへ駆け寄ってくる。

「やっほー久しぶり」

 愛がにこやかに手を振る。

「お忙しい旅の合間、こうしてお顔を見せに来ていただけるなんて……」

 胸の前で手を合わせる歩夢に、愛は少しだけ目を細める。

「ん〜……歩夢さあ、その話し方どうにかなんないの?」

「えっ……私、何か失礼を……? も、申し訳ありません!」

「ちがーう!」

 下げられた頭に、愛は軽くチョップ。

「そうじゃなくて、丁寧すぎるって事! アタシ達、年も同じくらいだしそもそも貴族でも王族でもないの! だからそんなかしこまった話し方されたら、逆に困っちゃう!」

「そ、そう言われましても……」

「じゃあ、もうアスカンタには来ない」

「そ、そんな! ……わ、分かりまし──分かった」

「うんうん! その方がいいって!」

 満足げに頷いた愛は、三人に顔だけ向ける。

「ほのほの達も、それでいいっしょ?」

「うん! これでもっと仲良くなれたね、歩夢ちゃん!」

「う、うん! ありがとう」

 手を握って穂乃果にブンブン振られる歩夢に、曜が本題を切り出す。

「ところで、パヴァン王っている?」

「王様? 王様なら、玉座に。きっと喜ぶだろうから、挨拶してあげてね」

「そのつもり。ありがとう!」

 それじゃあ、と仕事に戻った歩夢に手を振ると、いつぞやのように玉座の間へと続く階段を登る。

 あの時は打ちひしがれる背中を見ただけだったが、

「──あなた方はもしや!」

 今回は違った。こちらを見つけるやいなや、玉座から立ち上がって表情を輝かせていた。

「ああ、やはりそうだ! 皆さん、よくこの城に立ち寄ってくれました」

 穂乃果の手を取って、頭を下げるパヴァン王。

「あの時の事……なんと感謝すればいいか」

「一国の王様が、そんな簡単に頭を下げない! シセルさん怒っちゃうよ!」

「ち、ちょっと愛ちゃん⁉︎」

 檄を飛ばした愛を、ポカンと見つめるパヴァン王。

「いやはや……ご立派な方々だ。その通りですね」

 パヴァン王は怒りを見せるでもなく苦笑すると、今度は屹立する。

「それで、アスカンタへはどのようなご用でいらっしゃったのですか?」

「実は──」

 色々な部分をぼかして、曜が“月影のハープ”を探している事を伝える。

「……なるほど。“月影のハープ”でしたら、確かに我が国にあります。古来より我がアスカンタに伝えられてきた、国の宝なのです」

「いわゆる、『国宝』ってヤツだ……」

「そんな気はしてたけど、やっぱりそのくらい貴重なモノだよね……」

 一国の王の口から『宝』と言われては、流石に腰が引けてしまう。

「──だが、他ならぬ皆さんの頼みとあらば。いいでしょう、ハープは差し上げます」

 そんな四人とは裏腹に、パヴァン王はにこやかに譲渡を申し出た。

「えっ、いいの⁉︎」

 あまりにあっさりとした物言いに、思わず声に出てしまう穂乃果。

「ええ、約束しましたから。あなた方の力になる、と。──さあ、ついてきて下さい。ハープは城の地下にある宝物庫に厳重に保管されていますから」

 先導する背中を見つめながら、改めて相手が『国王』である事を認識する。

 

 

 

 

「──な、なんて事だ……! これは、一体……⁉︎」

 宝物庫への扉を開けた瞬間、パヴァン王は悲痛な声を上げた。後ろを歩いていた穂乃果達も、その背中の隙間から様子を伺い察する。

 宝物庫、であったその部屋は、ただのがらんどうな空間でしかなかった。

 “月影のハープ”はおろか、金品の類いは何一つ見当たらない。

 見ると、部屋の奥にある石壁が崩れており、長々とした空洞が口を開けていた。どう見ても、自然発生ではない、人為的な穴だった。

「まさか、盗っ人が……⁉︎」

 穴を調べたパヴァン王は、膝から崩れ落ちる。が、

「……いや、こうしちゃいられない」

 拳を握ると、すぐに立ち上がる。こちらに向き直ると、

「……どうやら、“月影のハープ”は盗賊に盗まれてしまったようです」

 見れば分かる、と四人は頷く。

「多分奴らは、この抜け穴を通った先にいるはずです」

 それは分かる、と四人は頷く。

「この先は危険です。何が待ち構えているか分からない」

 それも分かる、と四人は頷く。

「皆さん、決してこの奥へは行かないで下さい」

 ん? と四人は頷きかけて止まる。

「これから城の兵を集め、必ずやハープを取り戻してみせます。ええ、必ず!」

 責任と決意に燃える瞳に、四人は納得。

「あなた方は、城で待っていて下さい!」

 言うが早いか、本人が城内へと戻っていく。

「…………どうする?」

「どうするって言われても……」

「とりあえず一旦戻ろうか」

「兵隊がいっぱいいるなら、それだけで心強いもんね」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV23

はがねのつるぎ

鉄のむねあて

せいどうの盾

しっぷうのバンダナ

スライムピアス

 

・曜

LV22

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

サンゴのかみかざり

金のブレスレット

 

・愛

LV23

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

毛皮のフード

金のロザリオ

 

・千歌

LV23

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話

そういえば栞子ちゃんが加入しましたね。
……これ以上キャスティング増やせないんですが。


 パヴァン王のあとを追って一度城内へ戻った四人は、玉座の間で会議をしている彼の姿を見つけた。

「──まずは現場を念入りに調べるべきだ! きっと重要な手がかりが残されているはずです!」

「──さっさと盗っ人のあとを追わないと、奴らドンドン逃げちまう! すぐにでも出発しましょう!」

「──これだけの人数じゃ心細い。街の者からも討伐隊のメンバーを集めるべきでは?」

「宝物庫が荒らされたとなれば、王の威信にも関わる。隠密に事を運ぶべきかと」

 口々に意見が飛び交うその会議の場で、パヴァン王は真剣に意見を聞いている。逆に言えば、全ての意見を検討している。

「……こりゃあ、纏まる未来が見えないね」

 そんな愛の言葉を耳にした、すぐ近くに立っていた番兵が苦笑いする。

「我らが国王は、真面目だが優しすぎる。全員の意見を尊重し無下にしないから、こういう重要な会議はいつも長引くんだよ。……俺らはこの国の兵士だから、王の命令なしには動けない。待ってられないってんなら、自分達で動いた方がいいと思うぜ?」

「王様ってのも大変なんだねぇ……」

 四人は番兵に礼を言ってその場を離れると、再び一階に戻ってくる。

「……で、どうする?」

 先ほどと同じ質問。その答えは、

「行く!」

「だよね!」

 だった。

 

 

 がらんどうの宝物庫へやって来た四人は、くり抜かれた石壁を調べる。

 石レンガで何層も隙間なく組まれたその壁は頑丈そうで、簡単に破壊できる強度ではない。

 ポッカリ空いた空洞も、暗闇となって最奥は見えない。

「……これは、人間の仕業じゃないかもね」

 愛が出した結論に、三人は振り返る。

「例えば屈強な男の人がこの穴を掘って壁をぶち抜くには、……そうだな、二十人いても十年はかかるだろうね。それにこの穴の高さ──」

 愛は上を見上げる。穴の直径は、四人の身長をゆうに超える。手を伸ばして、なんとか届く高さだった。

「お宝を運び出すにしても、人間が通るならこんな広くする必要はない。……この大きさじゃないと通れない何かが、盗っ人の正体」

「な、何かって?」

「それは分かんないけど。でも、犯人見つけてハイお終いって訳にはいかなそうかな」

 緊張感のある発言に、四人は揃って無言で武器を取り出す。

「──じゃ、盗賊探しといきますか!」

 

 

 

 

 宝物庫から伸びる抜け穴は、流石に一本道だった。だが三百メートルはあろうかというその長さに、より『人外説』を確信する一行。

 ようやく抜け穴を出た四人は、さらなる手がかりを探す──までもなかった。たった今通ってきた抜け穴よりさらに大きい、荷馬車すら余裕で入れそうなほど巨大な洞窟が、すぐ先でポッカリ口を開けていた。どう見ても自然形成かつ即席のものではなかった。

「絶っっっ対何かあるよね」

「うん、怪しさ満点」

 見張りの存在は見当たらないが、それでも強襲を警戒しながら洞窟へ近づく。

「盗賊のアジト……かな?」

「多分……」

「いやー、アタシこの大陸に関しては隅々まで歩いたつもりだったんだけどな。こんな場所初めて来たよ。やっぱほのほのと一緒だと未知の体験だらけで面白いや」

「そんな呑気な話してる場合じゃ……」

 洞窟内に潜入した四人だったが、まず目に入ったのはスコップを手にしたモグラの魔物だった。向こうもこちらを見つけて猛突進。

「っ!」

 反射的に剣を構えたが、モグラは目の前で急停止。

「お、お前らっ、人間だなっ? 盗まれたお宝取り返しにここまで来たんだよなっ?」

 盗っ人側からその確認をしてくるとはこれいかに。敵意はないのか、穂乃果達は首を傾げる。

「て事は、結構強いんだよな? ──なあ頼む! ボスを止めてくれ! アレを盗んでからもう、おかしくなりそうで……!」

「アレ?」

「た、頼んだぞ!」

 何やら様子がおかしい事を察知。

「ハープを盗んだのって、このモグラ達なのかな?」

「かもしれないね。なるほど、確かにモグラなら、あんな凄い穴掘れるのも納得だ」

「ここは多分そのアジトで、……何故か助けを求めていると」

「ボスがどうとかって言ってたよね?」

 勝手にモグラのアジトと名付けたその洞窟は流石に入り組んでいたが、

「人間だ!」

「助けてくれるのか⁉︎」

「ボスはこっちじゃないぞ!」

 モグラ達に道案内までされる始末。中にはすでに倒れて動けないモグラもいた。

「……どうなってるんだろう」

 その疑問には誰も答えられないが、最奥部に近づくにつれて、真相は音となって四人を襲った。

「「「「──うっ……⁉︎」」」」

 無意識に耳を塞いでしまうような、地鳴りのような音。全身が震えて意識が遠のくような、そんな、

「……歌?」

 絶望的に下手な、歌声。

 洞窟の壁で反響し、幾重にもエコーがかって襲いくる歌声に四人はモグラ達の言葉の真意を悟る。

「こんなのずっと聴いてたら、確かにおかしくなっちゃう……!」

「止めなきゃ……! モグラ達の為……っていうか、穂乃果達が死んじゃう!」

 最奥へと駆け出し、そこで見たのは、

「ぼ、ボス……」

「も、もう、やめ……」

「誰か……なんとかしてくれ……」

 地面を這いつくばるモグラ達と、絶望的な歌声を披露するでっぷりと太った成人男性ほどもある巨大なモグラ。そしてその手に握られた、

「“月影のハープ”……!」

 ひとしきり歌い終わった巨大モグラは、

「──いいっ!」

 楽しそうに両腕を上げた。

「物凄くいいモグ! ワシの芸術性を、このハープがさらに高めているモグ!」

 息も絶え絶えなモグラ達は、何も答えない。

「そうかそうか、感動して言葉も出ないモグか! 可愛いやつらモグ!」

「ええ……」

 その一方通行っぷりに、穂乃果も言葉を失う。

「──ん?」

 そこで巨大モグラは、目の前に立つ穂乃果達の存在に気付く。

「おお! そこのお前ら、見かけない顔モグがワシの歌を聴きにきたモグか?」

「それは──」

「そんな訳ないじゃん。一度にこにーと凛の歌聴いてみるといいよ?」

 交渉を試みようとした横で、愛がバッサリ切り捨てる。

「……何だと? ではもしや、ワシの芸術の友、“月影のハープ”を奪いに来たモグか⁉︎」

 案の定交渉は決裂。陽気な声色から一転、怒気を孕んだ口調で巨大モグラは身体を震わせる。

「モグググググ…………許さーんっ!!」

 

[ドン・モグーラがあらわれた!]

[モグラの子分たちがあらわれた!]

 

「結局こうなるんだから……!」

「みんな、アイツをとっちめてハープを取り返すよ!」

 

[千歌はしっぷうのごとく斬りつけた! モグラの子分Aに56のダメージ!]

[穂乃果のはやぶさのごとき高速の二回こうげき! ドン・モグーラに82のダメージ!]

[愛はイオラをとなえた! ドン・モグーラたちに平均61のダメージ! モグラの子分Aをたおした!]

[曜は蒼天魔斬をはなった! ドン・モグーラに90のダメージ!]

[ドン・モグーラの芸術スペシャル!]

 

 披露される地獄の歌声。

「うっ……!」

 意識が揺らぎかけ、全員辛うじて持ち堪える。が、

 

[モグラの子分Bは混乱した!]

[モグラの子分Cは混乱した!]

 

「あの歌、味方まで巻き込んで……」

「早く止めないと、モグラくん達が可哀想だ!」

 

[穂乃果はかえん斬りをはなった! ドン・モグーラに71のダメージ!]

[千歌はさみだれ突きをはなった! ドン・モグーラに88のダメージ!]

[曜はオノむそうをはなった! モグラの子分たちに平均62のダメージ! モグラの子分Cをたおした! モグラの子分Dをたおした!]

[愛はメラミをとなえた! ドン・モグーラに88のダメージ!]

 

「ぐぐ……見た目通りタフだねー!」

 総攻撃を仕掛けても一向に倒れないドン・モグーラ。

 

[ドン・モグーラは大地をはげしくゆさぶった!]

[穂乃果たちは平均41のダメージを受けた!]

[愛はベホイミをとなえた! 穂乃果のキズが回復した!]

 

 

 長引く戦闘。ただでさえたらい回しで疲弊していたパーティは、消耗していく。

「よーしこうなったら……この前手に入れた、奥の手!」

 穂乃果は携行品をまさぐると、何かを手に取った。

「……チーズ?」

 星形をした見覚えのある乳製品。

「トーポ〜、出ておいで〜」

 自分で食べるのかと思いきや、チーズをポケットから頭だけ出したネズミのトーポに与えた。

「穂乃果ちゃん、こんな時に何して──」

 

[穂乃果はトーポにはりきりチーズをあたえた!]

[穂乃果のテンションが5上がった!]

[曜のテンションが5上がった!]

[愛のテンションが5上がった!]

[千歌のテンションが5上がった!]

 

「……トーポって、何者?」

 摩訶不思議現象に、三人は呆然。

 

[ドン・モグーラのこうげき! 千歌は47のダメージを受けた!]

 

「うぐっ……! とにかく今は、この大モグラをやっつけよう!」

 

[穂乃果のはやぶさのごとき二回こうげき! ドン・モグーラに105のダメージ!]

[曜は蒼天魔斬をはなった! ドン・モグーラに120のダメージ!]

[千歌はさみだれ突きをはなった! ドン・モグーラに109のダメージ!]

[愛はメラミをとなえた! ドン・モグーラに140のダメージ! ドン・モグーラをたおした!]

 

 よろよろと後退した巨体が、ズシン、と地響きを立てて倒れた。

 

[モグラの子分Bは逃げだした!]

「魔物のむれをやっつけた!]

 

 

 

「──も、モグっふ……。やられ、た……」

 ドン・モグーラが倒れ、手にしていたハープが地面に落ちてカラン、と音を立てる。

「や、やっと倒せた……!」

「ボスー!」

「しっかりして下さい!」

 ドン・モグーラが目を回すやいなや、周りのモグラが持ち上げるとどこかへ運んでしまう。

 一匹だけ残ったモグラがこちらへ向くと、

「ボスを止めてくれてありがとう。だが頼む、トドメは刺さないでくれ。すぐ人のモノ盗んじゃうのと、破壊的に歌が下手なのの他は、とってもいいボスなんだ! そのハープは返すよ。だから……」

 懇願するように見上げてくる。

「分かった! 目的はこのハープだったし、コレが手に入るならそれでオッケー!」

「ありがとう強い人間! じゃあな!」

 お辞儀をすると、左右に蛇行しながら危なっかしくボスを運ぶ仲間達の手助けをするモグラ。

 そんな姿を見送りながら、

「あれだけ大変な思いして、死にそうな歌を聴かされてもそれでもボスを慕うって、不思議な社会だねぇ、モグラ」

 そんな感想が口から漏れた。

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV23

はがねのつるぎ

鉄のむねあて

せいどうの盾

しっぷうのバンダナ

スライムピアス

 

・曜

LV22

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

サンゴのかみかざり

金のブレスレット

 

・愛

LV23

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

毛皮のフード

金のロザリオ

 

・千歌

LV23

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話

船を手に入れるまで、全然装備新調できないんですよねぇ。


 ハープを取り返した事を報告しにアスカンタ城の玉座の間に向かった四人は、

「──犯人は必ず現場に戻ってくる! 地下に見張りをたてるべきです!」

「──とにかく急ぐべきだ! ハープを盗んだ奴らを見失ってしまいます!」

「──たったこれだけの兵では返り討ちにあうだけだ。危ない橋を渡るべきではありません」

「──街の者に噂が漏れる前に盗っ人を捕まえなくては。少数精鋭で行くべきでしょう」

 聞こえてくる会議の声に揃って呆れ顔を見せた。

「まだ会議してたの……? あれから結構時間経ってるよね?」

 四人の姿を見た先ほどの番兵が、

「おおあんたら、戻ってきたか。その様子だと、ハープはもう取り返したって感じだな。……言った通りだったろ?」

 立場上大きな声では言えないのか、やれやれと首を振る番兵。

「とにかく国王に教えてやってくれ。進展しない会議を見ているだけで疲れちまう」

 ハープを片手に、パヴァン王へと歩み寄る穂乃果達。

「おや皆さん、どうかしまし──そ、それは“月影のハープ”……⁉︎ もしや、皆さんが取り返してきて下さったのですか⁉︎ どうしてそんな危ない真似を……」

 あなたが頼りないから、とは流石に言えない。

「……いや、しかし、流石、と言うべきですね。重ね重ね、皆さんにはご迷惑をおかけして申し訳なく思います。ですが、皆さんがご無事でそして、ハープが戻ってきて良かった。約束通り、そのハープは皆さんに差し上げます」

 小さく拍手したパヴァン王は、にこやかに微笑む。

「どうかこの先の旅もお気をつけて。皆さんのご無事を祈っています」

 

 

 

 

 アスカンタ城の前で待機していたにこ達と合流し、顛末を説明しつつトロデーン城の図書館へ舞い戻る一行。

 着く頃には陽も暮れて、月の光が窓枠から差し込んでいた。壁に形成された窓のような扉も、そのまま残っていた。

「──数多の月夜を数えてきたけれど、これほど時の流れを遅く感じた事はなかったわね」

 月影の世界で、絵里は全てを悟っていたようだった。

「見事、“月影のハープ”を見つけてきた……そうよね?」

「うん!」

 穂乃果は笑顔で、ハープを絵里に手渡す。

 絵里は優しい手つきでハープを撫でる。

「このハープも、随分と長い旅をしてきたようね。──さあ、荒れ野の船のもとへ。微睡む船を起こし、旅立たせる為に歌を奏でましょう?」

 ポロロン、と絵里が弦をひと撫で。

 まるで舞台が転換したかのように、立っているのは荒野の船のすぐ近く。

「は……え⁉︎」

 戸惑うにこ達を気にも留めず、絵里は船へと歩み寄る。

 絵里は船底に手を触れると、

「この船も“月影のハープ”も、そして私も、みんな旧き世界に属するもの──」

 振り返って優しい笑顔を向ける。

「礼を言うわ。懐かしい者に、こうして巡り合わせてくれて」

「あ、えっと……うん。どういたしまして?」

 含みを持たせた彼女の言葉を全て理解する事はできない。疑問を残したまま、穂乃果は応える。

「──さあ、おいでなさい。過ぎ去りし時よ……海よ。今ひとたび、戻ってきて頂戴……」

 絵里が、本格的に演奏に入る。静かで綺麗で、厳かで神秘的な音色が辺りに響く。

 そして穂乃果は見た。目の前を、魚が横切るのを。文字通り透き通った、半透明の水が地面から溢れ出てくるのを。

「──言の葉は、魔法のはじまり。──歌声は、楽器のはじまり。──さあ、歌いましょう」

 ハープを演奏しながら、絵里は口を開く。そこから響き渡るのは、綺麗なソプラノ。

『…………』

 六人は一度顔を見合わせると、笑顔で頷き合った。揃って息を吸い込み、歌を紡ぐ。

 

 

 

 

 気が付いた時には、六人は甲板に立っていた。朽ち果てていたはずの船は、新品同然でしっかりと海面に浮いていた。絵里の姿は、もう無かった。

「何だか不思議な体験をしたわね……」

「大昔の魔法って、凄いんだにゃ〜」

「“月影のハープ”とその奏者と旧き魔法、か〜。まだまだ愛さんの知らない世界が多いなぁ」

「それより船だよ! 船! 私達、ついに自分達の船を手に入れたんだよ!」

「曜ちゃん落ち着いて、ハイどうどう」

 思い思いに感動を口にする五人。

「それより、とにかくドルマゲスだよ! 穂乃果達、その為に頑張って船探してたんだから!」

 そうだった、と我に返る五人。

「せっつーの話だと、ドルマゲスは西に向かったんだったよね。だから、今はとにかく西の大陸に向かって情報を集めないといけない訳だよ」

 情報屋せつ菜のおさらいをすると、穂乃果は頷く。

「よしっ、じゃあとにかく西へ向かおう! きっとそこに何かあるはず!」

「──へへっ」

 すると曜が甲板の先端まで躍り出ると、ビシッと敬礼を決めて西の方角を指差す。

「進路を西へ、面舵いっぱい! それじゃあ行くよ! ──全速前進〜、ヨーソロー!!!」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV23

はがねのつるぎ

鉄のむねあて

せいどうの盾

しっぷうのバンダナ

スライムピアス

 

・曜

LV22

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

サンゴのかみかざり

金のブレスレット

 

・愛

LV23

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

毛皮のフード

金のロザリオ

 

・千歌

LV23

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話

取り逃がすと探すのが大変で大変で……


 船を西へ走らせてすぐ、甲板にいた千歌が島影を発見した。

「曜ちゃん船長、島があるよ」

「どんな?」

「うーんとね、小っちゃいんだけど、無人島じゃないっぽい。お城が見える」

「お城?」

 曜が千歌の指差した方向を見ると、木々の隙間から石造りの建物が見えた。先端の尖った特徴的な形容の建物は、確かに城だった。

 よく見れば城から伸びる整備されたレンガの道と、そこへ繋がる立派な桟橋も確認できる。

「こんな小島にお城があるなんてね……初耳だわ」

「おやにこちゃん、休んでなくていいの?」

「……船内で穂乃果と愛と凛が、『探検だー!』ってはしゃぎ回ってるわ。見ているだけで疲れるし、巻き込まれたくない」

「あはは……」

 返す言葉が無い曜。

「で、どうすんのよ上陸するの?」

「うーん、にこちゃんはどうしたい?」

「質問に質問で返すんじゃないわよ……」

 にこは呆れると、曜を鋭く見上げた。

「いい? あんたは船長なんでしょ? だからここでの決定権は曜にある。自分で船長名乗ったんだから、そのくらいの責任は持ちなさい」

「にこちゃん……。──うん! 分かった!」

 元気よく頷いた曜は、桟橋へと船を近付ける。

「千歌、穂乃果達呼んできて。勝手に降りて後で文句言われたくないし。……放置してたら、にこ達置いたまま出航しそうだし」

「流石にそれはないと思うけど……呼んでくるね」

 

 

 桟橋へ降りた一行は、レンガの道を進み城の門扉を開ける。アスカンタやトロデーンほど立派で大きい造りではなく、入ってすぐ目の前に玉座が二つ。今は誰も座っていなかった。

 辺りには船乗りや商人が数人と、何人かの使用人。そして無害そうなスライムが一体。

 真っ先に六人に気が付いたスライムはピョンピョン近寄ってくると、

「あっ、こんにちは旅の人。もしかして王女様のお仕事手伝いに来てくれたの?」

 仕事?

 ここが何の場所なのかも知らない六人は、首を傾げる。

「あれ、違うの? でももしその気があるなら、お話だけでも聞いてあげて欲しいな!」

 そう言ってスライムは、二階に上がる階段を見やる。

 騒ぎが大きくなる事を懸念し、にこと凛は城の外へ出る。残った穂乃果達四人は階段を登ると、奥にあった部屋のドアをノックし開ける。その際廊下にいたメイドに、

「病人がいらっしゃいますから、お静かにお願いしますね」

 と釘を刺された。

「だってさ、ほのほの」

「あれ、穂乃果だけ⁉︎」

 

 

 部屋に入ると、中心に立派なベッドが鎮座していた。そこに誰かが横になっているのも見えた。そしてそのベッドの側で、少女が一人立っているのも。ワインレッドな髪の毛が、白いドレスによく映えている。

「迷惑をかけるなぁ、娘よ……。わしがこんな状態でなければ、お主に責務を負わせる事もないのに……」

「そんな事言わないで、パパ。それよりも病気を治すのを優先しなきゃ。それに、こう見えて私だってやる時はやるんだから」

 そこでふと、少女は後ろの気配に振り返る。

「ヴェッ……⁉︎ いつからそこに……?」

 可憐な見た目からは似つかない声が漏れたが、少女は軽く咳払い。

「……そ、それより……もしかして、旅の人?」

 穂乃果が頷くと、

「じゃあ、ちょっと手伝って欲しいんだけど……。ここじゃアレだし、下に来て。そこで話すから」

 少女はそう告げると、先に階段を下りていった。

「──旅の者」

 少女のあとをついて行こうとした四人に、ベッドに横たわる初老の男が声をかけた。

「王女は、若くして立派に王家の使命を果たそうと腐心しておる。こんな状態になってしまったわしに非があるのは分かっておるのだが……どうか、我が娘を助けてやってはくれぬか」

「任せて下さい!」

「ちょ……穂乃果ちゃん、せめて内容聞いてからにしようよ」

「最近はこの辺りを訪れる旅人も少なくて、頼める者もおらず……どうか頼みましたぞ──ゴホッ! ゴホッ!」

「うわわっ、大丈夫ですか?」

 

 

 しばらく安静に、とメイドに部屋を追い出されてしまったので、四人は改めて一階へ。そこで、先ほどの少女が玉座に座っていた。

「それじゃあ改めて。──私はメダル王女。代々、世界各地に散らばる“小さなメダル”を集めているの」

「“小さなメダル”?」

「そうよ。詳しい説明は省くけど、大昔に王家が保管していたものがとある拍子に世界中へ飛び散ってしまったの。……見た事ないかしら」

「あー、もしかしてコレ?」

 愛がカバンから取り出したのは、小ぶりな金貨だった。表面に星が象られており、シンプルながらも洗練されたデザインである事が窺える。

「そ、それよ!」

「愛ちゃん、どこで拾ったの?」

「んー覚えてない! 流通してるゴールドとは違うけど、作りがしっかりしてるからただの粗悪品じゃないって思って一応持っておいたの」

「愛ちゃん、意外と目利きの才能あるんだ……」

「コラー! 意外とはなんだ失礼だぞー!」

「ひゃー! ごめんなさ〜い!」

「えっと……」

 一瞬で置いてけぼりを食らった王女に、

「ああごめんごめん。じゃあハイこれ、どうぞ」

 愛は無造作にメダルを手渡す。

「あ、ありがと……。……ねぇ、これからももし旅の道中でメダルを見つけたら、持ってきてくれる?」

「え? うーんそれは……」

 思わず言葉を濁した穂乃果に、王女は慌てて言葉を続ける。

「あっ、勿論タダとは言わないわ。メダルを持ってきてくれれば、その数に応じてご褒美も用意するから!」

「?」

 それを聞いた穂乃果は、キョトンとしてから吹き出す。

「あは〜、そうじゃなくて、こんな小さいメダルを見つけられるか分からないなーって意味で……」

「えっ、あっ……は、早く言いなさいよっ」

 頬を赤く染めてそっぽを向いてしまう王女。

「──ね、名前教えてよ! 私は穂乃果! こっちは曜ちゃんで、こっちは千歌ちゃん! さっきメダル渡したのが愛ちゃんだよ!」

「何でそんな一々……」

 面倒そうな空気を滲ませた王女だったが、やがて小さな声で、

「──……真姫よ」

「じゃあよろしくね真姫ちゃん! 頑張って集めてくるからね!」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV23

はがねのつるぎ

鉄のむねあて

せいどうの盾

しっぷうのバンダナ

スライムピアス

 

・曜

LV22

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

サンゴのかみかざり

金のブレスレット

 

・愛

LV23

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

毛皮のフード

金のロザリオ

 

・千歌

LV23

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話

この戦闘って強制らしいですね。トヘロスで突っ切るプレイヤーの詰み防止っぽい。


 メダル王女の城をあとにし、再度船に乗り込む一行。城内で、

「海を歩く道化師を見たんだよ……」

 と語る船乗りを発見し、話を聞いた。

「あの人の話だと、海を歩く道化師の男──間違いなくドルマゲスは、ベルガラックへの航路を進んでたらしいね」

「ベルガラックって?」

「あー、その街なら知ってるよ。カジノがあるとこだ」

 答えたのは千歌。

「え、何で千歌ちゃんが知ってるの……?」

 修道院で過ごしていた千歌には、カジノなど正反対の場所のような気がするが。

「いやーまあホラ? 私って結構自由にやってたし? ドニの町で賭けポーカーとかよくやってたから……。そこで旅人とか商人がよく話してたんだよ。行った事はないけど」

 他の五人は納得する。そもそも千歌は、修道院が頭を抱える問題児だったのだ。

「そのベルガラックって、どこにあるの?」

「それはさっきの人からちゃんと聞いておいたよ」

 愛は地図を広げると、人差し指を置く。

「これが西の大陸ね。で、ベルガラックはここ」

 愛が示したのは、大陸の北西に近い場所。かなり距離があるように見えるが、

「これもさっき聞いた話なんだけど、西の大陸の東側ってどこも断崖絶壁が続いてて接岸できる場所が全然ないんだって。だから、ちょっと遠くても結局ベルガラックへの航路が確実らしいよ」

 教会があるからそれを目印にするといいって言ってた、と締めくくる愛。

「じゃあ、目的地は決まったね」

「そうだね。漠然と『西の大陸』じゃなくて、ようやくちゃんと進むべき道が見えたって感じ」

「──よしっ、行こう! ベルガラックへ!」

 

 

 

 

 両側を高い崖に阻まれた狭い航路を進んでいると、かなり高い位置に崖を渡しているアーチがかかっていた。よく見ると、その上には建物の屋根が。

「あそこがベルガラックかな」

「ん〜いや、多分違うと思う。聞いた話と地図の位置が合わないし」

「むーそっか。でもいつか、あの街にも行けたらいいなぁ」

「観光じゃないんだから……。にこ達はあくまで、ドルマゲスを追って西の大陸に向かってるのよ。そこんとこ忘れんじゃないわよ」

「分かってるってばにこちゃ〜ん」

「その緩さが不安なのよね……」

 

[海竜があらわれた!]

 

「こうやってモンスターが出てきても、対応できなくなるわ……よ……」

「うわっ⁉︎ ホントに出てきた⁉︎」

「キニコちゃんが呼び寄せた⁉︎」

「そんな訳あるかっ! 早くなんとかしなさいよ!」

 慌てて距離を取るにこと、臨戦態勢に入る四人。だが、反応が遅れたせいか先手を許してしまう。

 

[海竜はジゴフラッシュをとなえた!]

[まばゆい光が穂乃果達をおそう!]

[穂乃果は30のダメージを受けた!]

[曜は32のダメージを受けた!]

[愛は30のダメージを受けた!]

[千歌は29のダメージを受けた!]

 

 強烈な閃光が質量を伴って四人に襲いかかり、

「ぐっ……⁉︎」

「目が……!」

 四人の目を眩ませてしまう。

 

[穂乃果のはやぶさのごとき高速の二回こうげき! ミス! 海竜にダメージを与えられない]

 闇雲に振るった穂乃果の攻撃は、あらぬ方向へと向けられていた。

「ちょっと! どこ向かって剣振ってんのよ!」

「そ、そんな事言われても……」

 にこからの激が飛ぶが、穂乃果もわざとではない。

「──でりゃ!」

 

[曜のこうげき! 海竜に45のダメージ!]

 

「おっ、当たった……?」

「じゃあ、曜ちゃんの向かった方へ……!」

 

[千歌はさみだれ突きをはなった! ミス! 海竜にダメージを与えられない]

 

 気配を頼りに攻撃を繰り出した曜と千歌だったが、結果は五分五分。

 

[海竜のこうげき! 千歌は36のダメージを受けた!]

 

 海竜からの噛みつきを受け、未だ暗闇に包まれたままの四人は焦る。

「こなくそー!」

 

[愛はメラミをとなえた!]

[海竜に79のダメージ!]

 

「おっ……? 今の感覚……?」

 何かに気付く愛。

「みんな! 直接攻撃じゃなくて、呪文を使ってみて! 魔法なら、ある程度勝手に敵の方へ飛んでくみたい!」

「なるほど……!」

 その指示を聞いた三人は、それぞれ頷く。

 

[穂乃果はベギラマをとなえた! 海竜に65のダメージ!]

[千歌はバギマをとなえた! 海竜に61のダメージ!]

[曜はメラミをとなえた! 海竜に59のダメージ! 海竜をたおした!]

 

 魔法の集中砲火を浴びせ、なんとかモンスターを撃退する。

「は〜……倒せた……」

「厄介な事してくるモンスターがいるんだねぇ……」

「あぁ、太陽がこんなにも眩しくてありがたいと思えるなんて……」

「やっぱりこれも、ドルマゲスの影響なのかなぁ」

 一戦終えたばかりで談笑する四人と二人を乗せて、古代船は西のベルガラックを目指す。

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV23

はがねのつるぎ

鉄のむねあて

せいどうの盾

しっぷうのバンダナ

スライムピアス

 

・曜

LV22

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

サンゴのかみかざり

金のブレスレット

 

・愛

LV23

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

毛皮のフード

金のロザリオ

 

・千歌

LV23

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話

スクスタくん、新キャラの追加ペース早すぎんよ〜。流石に追いつけないので、こっちでは出しません。


 ようやく切り立つ崖の航路を抜けると、平原に一軒だけ建てられた建物が見えた。白い壁に質素な外観。屋根に取り付けられたオブジェは、神を示すそれだった。

「あそこが目印の教会で間違いなさそうだね」

「じゃあここから、そのベルガラックも近いのかな? ようやくドルマゲスの行方を追えるね!」

「はやる気持ちは分かるけど、もうそろそろ日が暮れそうだし今日はここまでにしよう」

 出鼻を挫かれた穂乃果は若干不満そうだったが、

「誰も土地勘が無い場所を夜中に歩くのは危険だし、何よりドルマゲスを対峙した時寝不足だったら大変でしょ?」

 そう説得されては頷くしかない。

「──こんばんは旅のお方。もしお疲れでしたら、空いているベッドで休まれてはいかが?」

 中に入ると、事務作業をしていたシスターが笑顔を向けた。

「贅沢とは言えませんが、旅の皆さまの為にと無料でお使いいただけますわ。どうかご遠慮なさらずに」

「ありがとうございます!」

 と、穂乃果は隣の寝室の隅で小さく震える人影を見つけた。

「あの人は?」

「私にも詳しくは……。何やらとても怖い思いをしたそうです。不吉な前兆でなければ良いのですが……」

「な、なるほど……」

「それはもう、嫌な予感しかしないね」

 穂乃果達は神妙な面持ちで頷く。

「……情報収集はアンタ達に任せるわ」

「お布団が待ってるにゃ〜!」

 その横で、にこが欠伸をしながらベッドへ歩く。

「たまのベッドくらい、ゆっくり休ませてちょうだい」

 そう言われては、ノーとは言えなかった。

「教会くらいだもんね、にこちゃん見て騒がないの」

 あとパルミド、と愛が付け足す。

 

 

 穂乃果は部屋の隅へ向かうと、怯える相手へ声をかける。まだ幼い、子供の僧だった。

「そんなに震えて、何か怖い事でもあったの?」

「じ、実は……アレを見て以来、脳裏から離れなくて……」

「アレ?」

「アレっていうのはですね……海の上を走る、道化師の格好をした不気味な人間の事です」

「! その話、詳しく」

「詳しくと言われましても……見かけただけなので、ベルガラックの方へ向かったんじゃないかというくらいしか……。ぼくは忘れたいんです……なのに忘れられない……。アレは幽霊だったんじゃ……。それとも、ぼくの修行が足りないせいで内面の悪しき心が幻を……」

 震える僧を気の毒に思いながら、穂乃果は礼を言う。

「やっぱりドルマゲスはベルガラックへ向かったんだ」

「カジノで有名な街に、何しに行ったんだろ?」

「まさかギャンブルしに行った訳じゃないだろうしねぇ……」

「よく分かんないけど、胸騒ぎがするのは確かだよ……」

 穂乃果は今すぐ走り出したい衝動を抑えるかのように、その場で足踏みをする。

「ホラ、ほのほの落ち着いて。休む事も大事な戦略の一つだからさ」

 そんな穂乃果の肩を掴んだ愛は、ベッドへと方向転換させる。

「ちゃんと寝て起きる! 万全じゃないと、ドルマゲスには太刀打ちできないよ」

 マイエラ修道院での出来事と、トロデーン城の惨状を思い出して他の三人は押し黙る。

「──愛さんだって、今すぐドルマゲス追いかけに行きたいよ。でも敵は強大だもん。こっちも万全じゃなきゃ、ね?」

「みんな本当の気持ちは同じって事だよ、穂乃果ちゃん!」

「うわわっ」

 千歌に背中を叩かれ、穂乃果はたたらを踏む。

「う、うん、そうだよね。急に目的が近くなったから、焦っちゃった」

 穂乃果がきちんと納得して頷いたのを確認して、愛はニカッと笑う。

「じゃあ、寝て起きるまで競争ね! 一番起きるの遅かったねぼすけさんは、ベルガラックまでみんなの荷物運び!」

 言うが早いかベッドへ飛び込んだ愛は、布団をかけて「おやすみ!」と目を閉じる。

「うわわっ、愛ちゃんズルい!」

「早く寝なきゃ!」

 と、三人も慌ててベッドへ駆け込み布団を被った。そして誰も喋る事なく、静寂が訪れる。

「ドルマゲス……。もう、絶対逃がさないから……!」

 横になったまま穂乃果は、天井に手をかざすと力強く握りしめた。それから力を抜いて、目を閉じた。

 

 

 

 

 ──翌朝、

「……これは、どういう事なのかしら」

 小柄な身体に六人分の荷物を抱えたにこが、仏頂面と三白眼を向ける。

「「「「ねぼすけさんの罰ゲーム」」」」

「アンタら四人だけでやってなさいよ!」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV24

はがねのつるぎ

鉄のむねあて

せいどうの盾

しっぷうのバンダナ

スライムピアス

 

・曜

LV23

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

サンゴのかみかざり

金のブレスレット

 

・愛

LV24

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

毛皮のフード

金のロザリオ

 

・千歌

LV24

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話

パルミドから装備そのままってキツくないですかー?


 ベルガラックへやって来た一行は、入り口すぐ近くを歩いていた好意的な青年に話しかけられた。

「旅人さんかい? ようこそ、カジノの街ベルガラックへ! ──と、言いたい所なんだけど……今は訳あって、カジノは休業中なんだよね……」

「カジノが休業中?」

 その話に千歌は眉根を寄せた。

「聞いた話なら、カジノは年中無休で営業してたはず。理由も無しに閉まるなんて、あり得ないと思うんだけど……」

「なーんかドルマゲスが無関係とは、思えない感じ……」

「もうちょっと聞き込みしてみよう!」

 街を歩きながら、四人は散開してそれぞれ住人に話を聞いて回る。前を通ったが、『CASINO』と書かれた煌びやかな看板も今は灯りを消し、門扉も硬く閉ざされていた。

 

 

「カジノの経営者はギャリングさんっていうんだけどね。その人の命令で、突如カジノを閉める事になっちまったんだよ」

「ギャリングってのは見た目は熊みたいに厳つい大男で、実際腕っぷしもそこらの兵士なんかよりずっと強かったんだがね、根は優しいヤツなんじゃよ」

「キャリングさんには、二人の子供がいてね。と言っても、血は繋がってないんだ。教会の前に捨てられていたのを、拾って育て上げたのさ」

「あれはカジノが閉まる前日だったね……。なんと、ギャリングさんのお屋敷に強盗が押し入ったのさ! よりにもよって、あのキャリングさんのお屋敷を選ぶとはね……。捕まえられなかったけど、強盗はほうほうの体で街の外へ逃げたそうだよ」

「カジノ閉鎖の命令から、ギャリングさんは屋敷から出てこなくてね……。強盗との争いで怪我して寝込んでるんじゃないかって噂だよ」

「せっかく休暇を取ってベルガラックまで来たのに……間が悪いったらないわ」

「ギャリングさんの子供は双子なんだが、血縁関係は無いって聞いたかい? 幼い頃は仲良しだったんだが、最近はどうも不仲でね……。より本当の親子として認められたい、って気持ちがあるのかもしれないね……」

「そういえばギャリングのヤツ、自分が生きている限り世界の平和は約束される、とか言ってたな。大した自信だよなまったく」

「私の友人はギャリング様のボディーガードをしていましてね。この前挨拶に来たんですよ。まるで、今生の別れみたいな口調で闇の遺跡へ行ってくると言ってましたね」

「人を探してる? ドルマゲス……すまん、聞いた事ないな。もしかしたら、ホテルのオーナーなら知ってるかもしれないぞ」

 

 

 再度合流した四人は、情報を共有。満場一致でホテルへと向かった。

 カウンターで訊いてみたが、オーナーは不在。仕方なくホテル内で情報収集、と歩いていると、

「──さあ、そろそろ話して下さいよ。あの日、本当は何があったのかを」

 曲がり角のすぐ先で、話し声が聞こえた。思わず足を止めた四人は、壁に張り付いて聞き耳を立てる。

「……むう、仕方ないな……。絶対に、誰にも言わないでくれよ? オレが漏らしたなんて知れたら……」

「絶対に口外しません。ホテルのオーナーですから。守秘義務には慣れてます」

「分かった分かった。デカい声出すなって。──あの日ギャリング様の屋敷に、強盗が押し入ったのは知ってるよな?」

「ええ、ギャリング様と抗争になり、命からがら逃げ出したと……」

「それは嘘なんだ。──実はな、あの時の強盗にギャリング様は殺されてしまったんだ」

「っ⁉︎」

「ええっ⁉︎ ギャリング様が殺された⁉︎」

「バッカお前! 声! ……ギャリング様が屋敷から出てこないのは、もう死んでこの世にいないからだよ」

「そ、その強盗は何者なんですか……? あのお強いギャリング様を殺してしまうなんて……」

「オレもその場にいた訳じゃないから詳しい事は分からんが、その強盗は道化師の格好をしていたそうだ」

「道化師の格好をした強盗ですか……。なんとも珍妙な……」

「ああ、そうなんだよな。実はその強盗、金目の物には一切手をつけず、ギャリング様を殺してすぐ出て行ったそうだ。まあ、騒ぎを聞きつけてすぐにボディーガードが駆けつけたから逃げたんだろうが……。まるで、最初からギャリング様を殺すのが目的だったんじゃないかって言われてるみたいだぜ?」

「そんな物騒な話がこの街で起きるなんて……」

「そんでな? 敵討ちの為にご子息の二人が追っ手を放ったらしいんだ。詳しくは知らんが、ここからさらに北西の方にある島らしい」

「あ、あわわわ……。こりゃとんでもない話を聞いてしまいました……。この事は、口が裂けても人には言えませんね……」

「頼むぞ。秘密にしているのは、パニックを避ける為だろう。いつまで隠し通せるかは分からんがな……」

 そこまで話を盗み聞きした四人は、静かにその場を離れる。

「……とんでもない話が聞けちゃったねぇ」

「また助けられなかったんだ……。どうしても、一歩先を越される……」

 すでに犠牲者が出てしまっている事に意気消沈する一行だったが、ふと、愛が首を傾げる。

「そもそもさ、ドルマゲスは何で人を殺して回ってるの?」

「う? た、確かに……」

「無差別の愉快犯じゃないよね。ベルガラックで他に殺された人はいないみたいだし、知ってる範囲だと、現在は四人」

「マスター・ライラス、サーベルト兄さん、オディロ院長、そしてここのギャリングさん……」

「にこにーが殺されそうになった時はあったけど、それは一旦置いといて……。恐らくだけど、この四人は知り合いじゃないっぽいよねー。だから共通点が分かんない……」

「トロデーン城とにこちゃん凛ちゃんに呪いをかけて、共通点の無い人を殺す……。ドルマゲスの目的って、一旦何なんだろ……」

 

 

 

 

 一通り情報を聞き出した四人がホテルの入り口へ戻ると、先ほど立ち話をしていたホテルのオーナーが素知らぬ顔でカウンターに立っていた。

「ふむ……」

 当然、それを見逃す訳もなく。愛を先頭にカウンターへ歩み寄っていく。

「オーナーさん、さっきの立ち話の詳細を知りたいんだけど、いいかな?」

「ああ、さっきの話です……ね……って、あわわわわ!」

 見るからに慌てたオーナーは、努めて平静にカウンターを回り込んでくるとさり気なく耳打ち。

「そ、その話をどこで……って、そんな事より! もし私が情報を漏らしたとバレたら大変な事になってしまいます……! だからどうか、黙っていて下さい……!」

「そう言われてもな……」

「もし黙っていてくれるなら、私が色んな筋から集めた情報をお教えしますから! ねっ、それで手を打ちましょう?」

「内容次第かな〜」

「う、むむむ……では聞いて下さい。──殺害されたギャリング様の敵討ちの為、双子のご子息が追っ手を放ったそうです。向かったのは、ベルガラック北にある島。その島には、邪教の神殿の遺跡が存在し、闇の儀式を行う者が赴く場所だとか……」

 半分以上がすでに聞いた内容だったが、最後の一つだけは初耳だった。

「なるほどね〜。情報ありがとオーナーさん。でも、守秘義務は守った方がいいよ?」

「そ、それを言われると……」

「安心しなって。別に言いふらしたりはしないからさ」

 オーナーの心労弄んだ愛は、悪そうな笑みで手を振った。

「……さて、犯人は十中八九ドルマゲスだと思うけど、北西にある怪し〜い島にいるっぽいね」

「……行こう! もう逃がしちゃダメだもん!」

「その言葉、待ってたよほのほの」

「仮称、闇の遺跡! 向かってみよう!」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV25

はがねのつるぎ

鉄のむねあて

ライトシールド

しっぷうのバンダナ

スライムピアス

 

・曜

LV24

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

サンゴのかみかざり

金のブレスレット

 

・愛

LV25

まどうしの杖

おどりこの服

ホワイトシールド

銀のかみかざり

金のロザリオ

 

・千歌

LV25

ホーリーランス

鉄のよろい

ライトシールド

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話

「いよいよラスボスか……」って思ってました。


 海辺の教会から出航した穂乃果達は、北西を目指す。

「でもさー、変じゃない?」

「何が?」

 前方を見ていた愛が、ぽつりと呟く。

「サーベルトってマリーのお兄さんも、さっきのギャリングって人も、かなり強い人だったんでしょ? 実際にアタシ達も一回対峙したけど、ドルマゲスはとんでもない強敵なのは間違いない。それなのに、ちょっとお屋敷の追っ手に追いかけられただけで逃げちゃうなんておかしいと思わない?」

「確かに……」

「罠かもしれないけど……なんとなく、違う気もする」

「こっちなんて眼中にないって感じしたもんね」

「だから考えられるのは、元々その島に目的があったか、ドルマゲス本人に何かイレギュラーが生じたか」

「そのまま病気になって倒れてくれたら、話は簡単なのにねぇ」

「冗談じゃないわよ! 確実にこの手でとっちめないと気が収まらないわ!」

「戦うとしたら、私達なんだけどなぁ……」

 

 

 

 

 北西の孤島に上陸した穂乃果達は、辺りを見渡してみる。

「思ったより大きい島だね」

「開拓すれば、ちょっとした集落なら築けそうではあるけど……」

「できなかったんだろうね……」

 地面は、雑草一本生えない乾いた黄土色の土。朽ちかけた樹木が散見されるが、生命力は感じられない。建物らしき残骸も見受けられるが、すでにその機能は果たしていない。

「まさに不毛の土地、って感じか」

「大陸からちょっと離れただけで、こんなになるものなのかな……」

「あるいは、噂に聞く邪教の呪い、かもね」

 愛が見上げた先には、一つだけ残る建物。坂を登った先、島でも一際高い位置に構えるそれは、崖をくり抜くように造られている為全容は分からない。だが、気分が悪くなりそうな暗黒の霧がその周囲にだけ立ち込めている。

 

 

 四人が闇の遺跡に近づくと、

「…………」

 背の高い人影が、ちょうど入り口へと向かっていく最中だった。その後ろ姿は、

「あ、れは……!」

 思わず剣を抜く穂乃果。ずっと追い求めてきた、忘れもしないその姿。

「ドルマゲス……!」

 剣を構え、強く地面を蹴る穂乃果。

「あ、ちょっ、穂乃果ちゃん⁉︎」

「…………」

 向かってくる穂乃果に気付くドルマゲスだったが、一切慌てる様子もなく下卑た笑みを浮かべながら暗い霧が渦巻く遺跡の中へと消えていった。

「逃がさない……!」

 追いかけるように、穂乃果も遺跡へと突入。

 まとわりつく霧の不快さに顔をしかめながらも、暗闇を駆け抜ける。

「! 出口!」

 さほどかからず漏れ出る光を見つけた穂乃果は、勢いよくそこへ飛び出す。

「ドルマゲス……!」

「うひゃああああああっ⁉︎」

 そこに立っていた人影へ剣を振りかぶるが、聞き覚えのある声に慌ててブレーキ。

「あ、あれ……?」

 そこは、遺跡の入り口。つい先ほど、穂乃果が突入した場所だった。

「な、何してんのほのほの。いきなり飛び出してきて千歌を襲うなんて」

「死ぬかと思った!」

「ご、ごめん千歌ちゃん!」

 他意は無いと急いで武器をしまう穂乃果。それから改めて振り返る。

「今……穂乃果はこの中に入ったんだよね?」

「うん。でもすぐに飛び出してきたよね」

「何で……? 真っ直ぐ走ってたのに……」

 もう一度今度は全員で行ってみよう、という提案で、四人は全方位を警戒しながらゆっくりと中に入る。

 相変わらずの暗闇で何も見えないが、敵の気配もない。

 

 

「──ダメだ」

 固まって直進していたはずの四人だったが、気付けばまた入り口へと戻っていた。多少進行方向が曲がったとしても、Uターンはありえない。

「ドルマゲスが、何か仕掛けたって事……?」

「そうとしか思えないよね……」

「すぐ近くにいるはずなのに……!」

「もどかしいなぁ……」

 その時ふと、建物の影に人影を見つけた。

「──君たちは、旅人かい? あの道化師に何かされたクチかね?」

 武装した集団とそのワードで、すぐにピンとくる。

「あ、ギャリングさんとこの追っ手?」

「ああ、そうだ。君たちが先に突っ込んでいくのを見て、我々も意を決してやって来たのだが……一体何が起こったのか説明してもらえないか?」

「説明って言われてもな……」

 体験した穂乃果達でさえ、現象を把握できていないのだ。とりあえず分かっている事実を伝えると、

「なるほど……。聞いた事があるぞ。ここはかつて、邪教徒が闇の儀式を行う為の神殿だったと。そして闇を増幅させる場所だと。あの道化師が持つ禍々しいオーラは、まさしく邪教のモノ……。遺跡の力を借りて、暗闇の結界を張ったのやもしれんな……」

「暗闇の結界……」

「この結界を破らなければ、遺跡の中へは入れず道化師を追い詰める事もできないか……。厄介だな……。しかし、闇か……。闇……、闇……?」

 男は思案顔だったが、ふと何かを思い出したかのように顔を上げた。

「そういえば、サザンビークの王家には闇を祓う魔法の鏡が伝わっていると聞いた事がある。その鏡を使えば、あるいは……」

「サザンビークの魔法の鏡……」

「いやしかし、王家と何の関わりもない我々が出向いたところで、相手にしてくれるかどうか……。それにここで道化師が逃げ出さないか見張る必要もあるな……。しかし遣いを出さなければ状況は変わらん……」

 どう指示を出すか悩む男に、愛が一歩進み出る。

「あ、じゃあさ、アタシ達がサザンビークに行ってくるよ。その間、ここでドルマゲスが逃げ出さないか見張ってて」

「む……そうか? そうしてくれると我々も助かるが……」

「任せて! ドルマゲスをとっちめる目的は同じなんだから!」

「ではお願いする。──サザンビーク城は、ベルガラックと同じ大陸、その遥か南東にある。首尾よく手に入る事を祈ってるよ」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV25

はがねのつるぎ

鉄のむねあて

ライトシールド

しっぷうのバンダナ

スライムピアス

 

・曜

LV24

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

サンゴのかみかざり

金のブレスレット

 

・愛

LV25

まどうしの杖

おどりこの服

ホワイトシールド

銀のかみかざり

金のロザリオ

 

・千歌

LV25

ホーリーランス

鉄のよろい

ライトシールド

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43話

訪れなくてもいい場所なので、初見で終盤まで気付きませんでした。


 一度ベルガラックへ戻った一行は、地図を取り出して場所を確認する。

「今いる西の大陸の上側が、ベルガラック地方。それでその下に位置するのが、サザンビーク国領だね」

 曜が地図の二ヶ所を、丸く指で囲う。

「うわ〜、サザンビークって広いんだねぇ〜」

 穂乃果が驚嘆の声を上げた通り、面積で言えばベルガラック地方の倍、西の大陸全体で見ても半分近くを占める大きさだった。

「こんな広い土地を治める王様に会いに行くのかぁ……。ちょっと緊張してきた」

「大丈夫だって! 穂乃果達にも王族の知り合いいるもん!」

 確かにそうだと思い直した一行は、気持ち新たに出発する。

 

 

 

 

 だがベルガラックを出発してすぐ、丘の上へと続く道を発見する。

「サザンビークへ続く道じゃ……ないよね?」

「うん、違うね。地図にも詳細載ってない」

 地図を確認した曜だったが、首を横に振る。

 丘の上には何かしらの建造物が確認できるが、下の位置からでは判別はできない。

「……ちょっと行ってみない?」

 どう見てもウズウズを抑えきれていない穂乃果に、にこはため息。

「どうせダメって言っても行くんでしょ」

「行かないよ。行かないけど、にこちゃんとはしばらく口きかない!」

「それは従うって言わないわよ」

 

 

 丘へ続く坂道を登ると、建物の実態も明らかに。それは、

「……キラーパンサー?」

 この辺りに生息するモンスターを象った、インパクトの強い見た目をしていた。

「は〜……これはまた派手な建物ね……。一体どんなヤツが住んでるのかしら……」

「入り口の前に誰か立ってるね」

 ひとまずそちらへ向かってみると、

「──ちゅーん!」

 謎の掛け声で呼び止められた。

「うわ、これは絶対関わったらダメな相手よ」

「にこちゃんの見た目で言われると説得力が……」

「……何か言った?」

「いえ何も」

「──よく来ましたね! ここはキラーパンサーの親、花陽ちゃんのお屋敷──通称ラパンハウスです!」

 扉の前に立つ人物は、胸を張ってそう答えた。

「あーなるほど。『キラーパンサー』を略して『ラパン』なのか」

「私はここに暮らすことりと言います! あなた達も花陽ちゃんに会いに来たの?」

 ことりと名乗った少女の問いに、穂乃果達は顔を見合わせる。そのつもりは無かったが、敵意はなさそうだし明らかに奇異な人物には好奇心が勝る。

「えっと……はい」

「なるほどなるほど! ──でもそう簡単にはいきません! 花陽ちゃんはとっても忙しいの。誰かれ構わず会う事はできません!」

「えぇ……」

 訊いておいて門前払いかと思われたが、

「なので、あなた達を花陽ちゃんに会わせてもいい人かどうか私が面接して判断します! 正直な気持ちを、ぶつけて下さい!」

 ことりはそう続けた。

「あ、なるほど」

「え、面接ってこの場でやるの?」

「──最初の質問っ!」

「聞いてないし……」

 戸惑う一行には一切構わず、ことりは面接を開始する。

「──雨の夜です。あなたが家路を急いでいると、足元から子猫の鳴き声が。子猫は冷たい雨に濡れています。しかし、あなたが一緒に暮らす家族はみんな猫が大の苦手。さて、あなたはその子猫をどうしますか?」

 

 

「…………心理テスト?」

「さあ答えて下さいっ!」

 一同は顔を寄せると、

「……どうする?」

「選択肢としては、見捨てるか、説得するかのどっちかって感じかな?」

「そりゃ助けるよ!」

「でもほのほのだって、ピーマンと暮らそうって言われたら嫌じゃない?」

「それどういう状況……?」

「う、むむむ……。──でもやっぱり放っとけない! 子猫を連れて帰って、家族を説得する! そして一緒に暮らす!」

 ピーマンを乗り越えた穂乃果は、立ち上がって高々と宣言。

「なるほどなるほど。──二番目の質問っ!」

「あ、まだあるんだ」

「──あなたは、ある王様の家来です。今日は王様と狩りに出掛けましたが、中々獲物が見つかりません。そんな時、あなたは森の中でワナにかかったトラを発見しました。王様はそのトラに気付いていません。さて、あなたはどうしますか?」

 

 

「……やっぱり心理テスト?」

「さあ答えて下さいっ!」

 ツッコミは無用だと判断し、再び相談。

「今回の選択肢としては、王様に教えるか、コッソリ逃がすかのどっちかかな?」

「王様に教えたら、そのトラどうなっちゃうのかな」

「まあ、狩りしてるんだから殺しちゃうよね」

「それはダメだよ!」

「じゃあもし、目の前に倒れる寸前のメタルスライムがいたら?」

「…………も、モンスターと動物は違うもん!」

「今、結構迷ったね〜」

「と、とにかく! ──王様に秘密でトラを逃がす! 代わりにメタルスライム倒す!」

「引っ張られてる引っ張られてる」

「なるほどなるほど」

 ことりは腕を組むと、

「──最後の質問っ!」

「……もう良くない?」

「──あなたは旅人です。旅の途中、一頭のキラーパンサーがあなたに襲いかかってきました。あなたはそのキラーパンサーに勝ちました。しかし、キラーパンサーは仲間になりたそうにあなたを見ています。さて、あなたはどうしますか?」

 

 

「……急に具体的な質問だね」

「さあ答えて下さいっ!」

 つい流れで顔を寄せ合ったが、全員結論はほぼ決まっていた。

「そりゃあ勿論、仲間にする! 一緒に戦ってくれたら心強いもん!」

「なるほどなるほど」

 ことりは意味深に頷き、それからビシッと指差した。

「──合格ですっ!」

「お、やった〜」

「良くも悪くも正直者な性格……とても素敵だと思いますっ! あなた達みたいに真っ直ぐな人なら、花陽ちゃんに会わせてあげましょう! さあ、どうぞ」

 ことりは一歩横にずれると、笑顔で扉を手で示した。

「なんだかよく分からないけど……せっかく通してくれたんだから行ってみよっか」

 いまいち状況が飲み込めていないまま、念の為にこと凛をその場に残して四人は建物の中に入る。

 

 

 

 

 

「うわ」

 中に入ると、まず左右に大きな檻。どちらにも獰猛そうなキラーパンサーが歩き回っていた。そして正面に、立派なデスクと小柄な人影。おそらく、ことりが話していた花陽なる人物。

「……?」

 その花陽は、四人の珍入者に驚いた顔を見せた。

「ことりちゃん……じゃない? ことりちゃんが中に人を通すなんて珍しいなぁ」

「こんにちは〜。あなたがキラーパンサーの親っていう花陽ちゃん?」

「あ、もう聞いてるんだね。──そうだよ。私が『キラーパンサーを愛する会』の会長、花陽です」

「おおっ! なんかよく分かんないけど凄い!」

 勝手に興奮し花陽の手を握る穂乃果。

「あ、ありがとう……。親云々は、自分から名乗った訳じゃないんだけどね。会長してたら、いつの間にかそう呼ばれてただけで」

「でも凄いよ!」

 よく理解していないまま、花陽の手をブンブン振る穂乃果。

「ほーらその辺にしないと。困ってるじゃん」

 それを愛が引き剥がすと、チラッとデスクに積まれた書類を見やる。

「忙しい? お邪魔だった?」

「あ、えっと……その事で、ちょっとお話が。あなた方は、旅人さんですか?」

 花陽はペンを一度置くと、四人に向き直った。

「その澄み切った眼差し……確かに悪い人ではなさそう。──もしかしたら……」

 花陽は何やら独り言を呟くと、

「一つ、話を聞いて下さい」

 そう切り出した。

「──実は、昔馴染みのお友達がある場所で道に迷っているんです。本来なら、私が出向いてあの子を導いてあげたいんですけど……見ての通りで」

 花陽はデスクに積まれた膨大な書類に視線を落とす。

「そこで、あなた方にお友達の道案内の役目を果たして欲しいんです。きっとあの子も……」

「分かった!」

「私の頼みを引き受けてくれませ……えっ?」

「まーたほのほののお人好しが炸裂しちゃった」

 目を丸くした花陽を見て、愛は肩をすくめる。

「ま、それが穂乃果ちゃんだし!」

「穂乃果ちゃんが言わなくても、チカが引き受けてたもん!」

 すっかり乗り気な四人に、花陽はワンテンポ遅れて頭を下げる。

「あ、ありがとうございます!」

「それで、詳しくは何をすればいいの?」

 すると花陽はデスクの引き出しから何かを取り出した。

「この地方には、明け方にしか見えない不思議な木があるの。私のお友達は、その木の近くで迷子になってるはず。そこに行って、これを渡して欲しいんです」

 

[穂乃果は《深き眠りのこな》を手に入れた]

 

「これは……?」

「とっても聡明だから、それを渡すだけで自分の道を見つけられると思うの。大変かもしれないけど、お願いします」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV25

はがねのつるぎ

鉄のむねあて

ライトシールド

しっぷうのバンダナ

スライムピアス

 

・曜

LV24

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

サンゴのかみかざり

金のブレスレット

 

・愛

LV25

まどうしの杖

おどりこの服

ホワイトシールド

銀のかみかざり

金のロザリオ

 

・千歌

LV25

ホーリーランス

鉄のよろい

ライトシールド

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44話

コレ実際、地図に『明らか怪しい場所』があるからすぐ分かっちゃうんだよね。


「さて、またしても穂乃果が軽率にお願いを引き受けたワケなんだけども」

「うっ……」

 若干トゲのあるセリフが飛んでくるが、発言者のにこは肩をすくめる。

「今さら気にしてないわよ。いつもの事だし。どうせサザンビーク国領へ行くには、このベルガラック地方を抜けなきゃならないのよ。そのついでにちょっと探検しても平気でしょ」

「珍しくにこちゃんに余裕がある……」

「一言余計よ」

 にこは千歌を睨むと、

「ドルマゲスは今、闇の遺跡に籠城してる。わざわざ結界まで使うくらいなんだから、その日の宿代わりにする訳じゃないでしょ。それに出入り口は見張っててくれてるし、ま、何とかなるわよ」

「にこちゃんと凛ちゃんの呪いが解けるまで、あと一歩だね!」

「だからってノンビリするのとは違うからね! 頼まれた以上、完遂しないと収まりが悪いってだけよ」

「じゃあにこにーが安心できるように、早いとこお願い片付けてサザンビークへ向かおう!」

「いやっ……まあ、そうだけど……まあいいわ」

 

 

 

 

 丘を降りた一行は、その裏手に回る。

「──あった」

 そこに鎮座していたのは、キラーパンサーの石像。座り込んだ姿勢で、彼方の一点を見つめていた。

「花陽ちゃんとことりちゃんが言うには、ここらにはこのキラーパンサーの石像が四つあって、不思議な木ってのはそれぞれの石像の視線の先にあるって話だったよね」

「明け方にしか見えない木かぁ……。世の中には不思議な出来事があるんだねぇ」

 感心する千歌だったが、

「古の魔法船に乗ってる出来事の方がよっぽど不思議よ」

 にこの正論。

 空を見つめた曜が、

「もう陽が傾き始めてる。タイムリミットは明け方だけど、真っ暗じゃ探しようがないよ。急ごう!」

 

 

「──これが四つ目だね」

 石像の真横で、愛が地図の現在地を丸く囲む。

「視線の方角はこっち、と……」

 そしてそこから矢印を伸ばす。四つの矢印がぶつかった場所をさらに囲むと、

「例の木がある場所は、大体この辺りって感じかな」

 そこは大陸でも奥まった場所で、周囲には人工物は見当たらない。すでに夜の闇が支配しており、煌々と賑やかなベルガラックの街灯りも、かなり前から見えなくなっている。

「ベルガラックで何も話を聞かなかったから変だと思ってたけど、こんな辺鄙な場所にあるなら誰も知らなくて当然かもなぁ……」

 愛は街があるはずの方角を見つめながら呟く。

「……で、例の木はどこにあるのかしら」

 にこが周囲を見回すが、樹木は生えているものの特別感は無い。

「しまったな……。特徴聞いてないから他の木と見分けつかないかもしれない……」

「いやちょっと、夜通し歩いてきたのにもう一日とか無理よ?」

「それはみんなそうだけど……」

「手分けして探す?」

「いや、こんな暗闇で一人になったらいざって時に対処できなくなっちゃう」

「それもそっか……」

「…………」

「こんな事なら、私が花陽ってのから話聞いておけば良かったわ……。キラーパンサーなんて魔物愛好家なら、この姿でも驚かなかったかもしれないのに」

「いやぁ、それはどうだろう……」

「何ですって──凛?」

 反射的に噛み付いたにこの脇を、凛が無言で通り抜ける。

「ど、どうしたんだろう」

「あっち……光ってないかにゃ?」

「えっ?」

 凛が指差した先、木々の無い開けた場所がぼんやりと光を放っていた。

「月明かり……じゃないよね?」

「んな訳ないでしょ。月なら空に浮かんでるわよ!」

 言うが早いか駆け出したにこに、背中を叩かれる穂乃果。

「うわわっ、待って待って!」

 

 

 少し遅れた穂乃果がその場に辿り着くと、

『…………』

 全員が口を開けた状態で上を見ていた。

「うわ……」

 そして穂乃果も、同じポーズを取る。

 そこに現れたのは、緩やかに優しい光を放つ、色鮮やかな大樹だった。周りの木々と比較して鮮やかすぎる群青色は、絵画なのではないかと疑ってしまうほどだった。

「特徴なんて……聞くまでもなかったね」

「船の一件から、もう何があっても驚かないと思ってたけど……これは驚いた」

 各々がそれぞれ呆けた表情で大樹を見上げていると、

「──そこに誰かおるのか?」

 突如聞き知らぬ声が響いた。

『!』

 我に返った六人が声の発生源を見やると、

「お主らは……人間か?」

 全身が青みがかった、色素の薄いキラーパンサーが佇んでいた。

「…………」

 思わず武器を構えそうになった曜を、穂乃果が制する。

「──我が名はバウムレン。我が友花陽さまの命で使いに出たが、行く道が分からなくなってしまった……。通りすがりの旅人に聞くのもおかしな話だが、お主らは知らぬか? わしはどこへ行くはずだったのか……」

 その哀しさと戸惑いを孕んだ声色に、穂乃果は無言でバウムレンへと近付く。そしてカバンから、《深き眠りのこな》を取り出して彼に見せた。

「花陽ちゃんから、預かってきたの」

「……む? むむむっ⁉︎ そ、その粉は……! 旅人よ、その粉、花陽さまからと申したか⁉︎」

 小瓶を一目見て顔色を変えたバウムレン。その意図は分からないが、穂乃果は問いに頷く。

「な、なんと……! にわかには信じられんが……」

 驚愕に近い声色で声を絞り出したバウムレンは、

「いや……その話を聞いて、ようやく合点がいったわい……」

 力なく顔を伏せた。

「おかしいと思っていたのだ……。行けども行けども、同じ所をグルグルと回ってばかりなのだからな……」

 察しのいい愛や曜は、この辺りで真実に気付く。

「旅人よ、礼を言わねばならん。そなたらが来なかったら、わしは永遠に行くべき道を失ったままであった……」

「えっと、それは、どういたしまして?」

「すまぬが、その小瓶の栓を抜き中の粉を辺りに撒いてくれぬか」

 お安い御用とばかりに穂乃果は頷くと、小瓶の中身の粉を周囲に振り撒いた。

 白くキラキラした粉が辺りに広がり、バウムレンの周りを白いモヤが覆い始めた。

「……旅人よ、もしも再び花陽さまに会う事があったらこう伝えてもらえぬか。──このバウムレン……花陽さまに会えたという、それだけで、まこと幸福な人生であった……とな」

「……分かった」

 状況は把握できていないが、ただならぬ空気には敏感な穂乃果は大きく頷いた。

 それを見たバウムレンの口元が、笑ったような気がした。キラーパンサーである故、表情の変化は分からないのだが。

「ではさらばだ旅人よ。達者で旅を続けるがよい」

 そう言って後ろを向いたバウムレンは、歩き出すと空へ向かって姿を消していった。

 

 

『…………』

 残されたのは、言葉を失った六人。そこに、朝日が差し込んでくる。

「──なんかまた凄い体験しちゃったけど、最後のお願いを果たそっか」

「うん、花陽ちゃんに報告しなきゃ。バウムレンさんの言ってた事を」

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV26

はがねのつるぎ

鉄のむねあて

ライトシールド

しっぷうのバンダナ

スライムピアス

 

・曜

LV25

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

サンゴのかみかざり

金のブレスレット

 

・愛

LV26

まどうしの杖

おどりこの服

ホワイトシールド

銀のかみかざり

金のロザリオ

 

・千歌

LV26

ホーリーランス

鉄のよろい

ライトシールド

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45話

前にも言ったけど、バトルロードは書きません。


 白みかけた空、《ルーラ》でラパンハウスへ戻ると、

「あっ、戻ってきた! 中で花陽ちゃんが待ってるよ、早く行ってあげて!」

 入り口に立っていたことりが大きく手を振った。

 その案内のまま建物内へ入ると、変わらず花陽は書類が山積みのデスクに座っていた。

 だがすぐ四人の存在に気付くと、ペンを置いてこちらに笑顔を向けた。

「どうやら無事、私の友達を導いてくれたみたいですね」

「あ、うん。『道に迷ってる』って、ああいう意味だったんだね」

 花陽は頷くと、

「あなた方があの子に会ったあの不思議な木は、太古より命を司る木と呼ばれているんです。そのせいか、時々自分が死んだ事に気付かない魂が道に迷って辿り着いてしまう事があるんです……」

「死んだかどうかも気付かないって、ちょっと怖くなっちゃうね……」

「はい……。でも、これであの子も自分の死に気付き、無事に冥界へ向かってくれるでしょう」

「冥界……」

「魔物と人間は、違う存在なんです」

 花陽は少し悲しい笑顔を見せると、

「あの子……バウムレンは、私が最初に心を許しあったキラーパンサー。小さい頃からずっと一緒でした。あの子がいたから、今の私がある……。そう、思ってます」

 自分の胸に手を置いた。

「あの子のおかげで、今の仕事がある。とっても忙しくて、幸せな毎日」

 目の前の書類の山に視線を落とした花陽。「──でも、だからこそ、止める訳にはいかなかったんです」

「なるほどねぇ……。人間と魔物の絆、か……」

「ちょっと感動しちゃったな」

 花陽は立ち上がって大きく頭を下げる。

「今回は本当にありがとうございました。あの子との思い出は、ずっと胸に残り続ける。──もし何か困った事があったら、いつでも言って下さいね」

 

 

 ラパンハウスを出た四人は、

「──そういえばさぁ……」

 愛の声で歩みを止めた。

「なんか、モンスターをどうとか言ってた人、他にもいなかった?」

「んー……?」

「いたような、いなかったような……」

「いや、待って心当たりあるよ……。確か、眷属がなんとかって……」

「「「「う〜ん…………」」」」

 四人は数秒悩んだのち、

「「「「──あっ!」」」」

 同時に声を上げた。

 

 

 

 

 以前に貰った善子のメモを頼りに、マイエラ修道院、璃奈の家、トロデーン城の近くのモンスターを倒した一行。倒された三体の魔物は、一目散に善子のもとへと走り去っていく。

「これで全部だけど……」

 剣をしまった穂乃果は、魔物が走り去った方角を見つめる。倒すまでは言われていたが、そこから先の指示は受けていない。

「とりあえず、向かってみるのがいいんじゃない? 『次は何すればいいですかー』って訊けば教えてくれるでしょ」

「あの独特な言い回し、理解するのもちょっと骨折れるんだよね……」

「えー? 愛さんは面白くて好きだけどなー」

「じゃあ通訳は愛ちゃんに任せた!」

「それとこれとは別問題」

「あ、ズルい」

 

 

 

 

 善子と出会った場所へ《ルーラ》で飛んだ一行は、周囲に人影がない事を確認して再び屋上へと坂道を登る。

 以前会った時と同じ場所同じ格好で、件の人物はそこに立っていた。

「クックック……来たわね」

 善子はピンと立てた指二本を目元に当てた謎のポーズで、怪しげに呟く。

「今日あなた達が来る事は分かっていたわ。風がしきりにウワサをしていたもの……」

「ホント? 凄い! 風とお話できるんだ!」

「本気にしちゃダメよ穂乃果。きっとそういう設定でやってるんだから」

「設定ゆーな! ──コホン……、私の頼みを、見事に全て片付けてくれたようね。ありがとう」

 素直にお礼は言えるのかと、一同は少し驚く。

「あなた達の瞳の奥に眠る溢れる才能を感じとった、私の目に狂いはなかったようね。お礼に、この建物の中に案内してあげましょう」

 気になっていたでしょう? と善子は微笑む。

 そこは否定できないので、頷くしかない。

「さあ、ついて来なさい」

 

 

 鍵のかかった扉の前で一行に向き直った善子は、

「この扉の先には、あなた達の知らない世界がある」

「えっ、それってもしかして、月影の世界みたいな……?」

「何よそれ? そんなフワッとしたんじゃないわよ」

「話し方とかキャラ作りはフワッとしてるのに」

「キャラとか言うんじゃないわよ! 入れてあげないわよ!」

 逆ギレされてしまったので、すみませんでしたと頭を下げる。

 善子は咳払いをすると、再び芝居がかった口調で、

「今日があなた達の記念日となるはずよ。──さあ、行きましょう」

 扉の鍵を開けた。

 

 

 

 

 中に入ってすぐ目の前は、酒場のようなカウンターだった。お客の姿はほとんど見えない。そして右奥には、意味ありげな鉄格子。奥はすぐ階段になっており、下へと続いている。当然、入り口は閉まっていた。

「──あら、善子ちゃん? 中に入ってくるなんて珍しいじゃない。どういう風の吹き回し?」

 入り口すぐ近くに立っていた女性が、善子に気付いて声をかけた。流れるようなロングヘアが美しかった。

「善子じゃなくてヨハネ! ──フッ、あなたに説明するほどでもないわ」

「じゃあこれからは、ヨハネって呼んであげないわよ」

「…………。素晴らしい才能を持つ者を、見つけたのよ」

「あ、もしかして大会の参加者? 善子ちゃん自ら見つけてくるなんて、いつぶりかしら」

 大会?

 六人は綺麗に揃って首を傾げる。

「今宵はきっと、歴史に名を残す日になるでしょうね。そんな記念日に立ち会えた事、感謝するのね、リリー」

「リリーじゃなくて梨子です! 全く……変なネーミングを他人に押し付けないでよね……」

 お冠の梨子を尻目に、善子は鉄格子の扉を開ける。

「さ、こっちよ。下で待ってるわ」

 階段を下っていく善子を見ながら、

「あのー……」

 穂乃果は梨子と名乗る女性へ話しかけた。

「ここって、何をする場所なんですか? さっきの大会って、一体……?」

「私が説明するより、善子ちゃんの方が詳しく教えてくれるはずよ。……まあ、言い回しが独特で理解できない部分があるかもしれないから……そこは補足してあげる。──それに、百聞は一見にしかず、ね」

「はあ……」

 結局はぐらかされてしまったので、それ以上の情報収集は諦めて鉄格子から続く階段を目指す。

「私達はやめておくわ。万が一戦闘になったら足手まといだし、地下から逃げ出すのは厄介だもの」

「分かった」

 念の為にこと凛とは別れ、四人で階段を降りていく。

 

 

 ──次第に、大きな声が聞こえてくる。

「これは……歓声?」

「──来たわね」

 腕を組んで待ち構えていた善子が、ニヤリと笑った。

「ようこそ。──モンスター・バトルロードへ」

「モンスター・バトルロード?」

 オウム返しした穂乃果に、善子は一歩横へずれる。

「リリーも言っていたと思うけど、実際に見てもらった方が早いわ」

 そこは、すり鉢状の空間だった。石組みの中央だけより大きく凹み、砂が敷き詰められた広い場所。さながら、

「コロシアム、ってヤツだね……」

 さらに四人を驚かせたのは、中心の広場で戦っている者達。

「モンスターじゃん……!」

 スライムやおおきづち、穂乃果達が幾度となく相手にしてきたモンスター達。四人の見知らぬモンスターもいた。

 目の前の光景に釘付けになった四人の背後で、善子が口を開く。

「驚いたかしら? ──ルールを簡単に説明するわね。『モンスター・バトルロード』とは、三匹のモンスターで構成されたモンスターチーム同士の戦い。自らの眷属を使役し、ラグナロクを勝ち上がる事が、この場での全てよ」

「凄い……! モンスターを戦わせられるなんて!」

「クックック……あなた達も、眷属を使役したくなったでしょう?」

「うんっ!」

 瞳を輝かせて振り返った穂乃果へ、

「二十万ゴールドよ」

 無慈悲な言葉が襲った。

「へっ……?」

「ここでの定めよ。世の危険な眷属を使役する事は簡単ではないの」

「そ、そんなぁ……。そんな大金持ってないよ!」

「……ああ、だからか……」

 何かに思い至った愛。

「何が?」

「さっき酒場にいたお客さん、それとここにいる人達も。見た事ある顔だなって思ってたんだけど、分かった。かなり有名なお金持ちの人達ばっかりだよ」

「そ、そっか……。お金持ちの娯楽って感じなのかな……」

 話を理解し、千歌と穂乃果は揃って肩を落とす。

「んー……でもさ、だったら何で、私達をここに入れたの? わざわざモンスター退治までさせて、ただこの施設を見せびらかしたいだけじゃ、ないよね?」

 曜の疑問に、愛も賛同。

「そうそう。アタシも思ってた」

「へぇ、案外キレるじゃない。そうでなくちゃ、このヨハネの名が廃るもの」

 善子は怪しく笑うと、

「二十万ゴールド、ヨハネが肩代わりしてあげるわ」

 そんな事を口にした。

「ほ、ホント⁉︎」

「ちょいちょい、流石に怪しすぎるって!」

「そうだよ! 代わりに何要求されるか分からないよ」

 反射的に身を乗り出した穂乃果を、常識人二人が引き止める。

「ええ、無論、無条件とはいかないわ。肩代わりする代わりに、こう誓ってもらうわ」

 一度言葉を切った善子に、四人は唾を飲み込む。

「──『このラグナロクを勝ち上がり、頂の景色を拝む』とね」

「えっと?」「つまり?」

「モンスター・バトルロードで優勝しろって事……かな?」

 動きがシンクロした穂乃果と千歌へ、曜が翻訳する。

「ご名答よ」

「それなら任せて! 絶対に優勝してみせるから!」

「クックック……決まりね」

 善子は怪しく笑うと、不思議な手の形を作り穂乃果達へ向けた。

「あなた達に、堕天使の微笑みがありますように」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV26

はがねのつるぎ

鉄のむねあて

ライトシールド

しっぷうのバンダナ

スライムピアス

 

・曜

LV25

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

サンゴのかみかざり

金のブレスレット

 

・愛

LV26

まどうしの杖

おどりこの服

ホワイトシールド

銀のかみかざり

金のロザリオ

 

・千歌

LV26

ホーリーランス

鉄のよろい

ライトシールド

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。