美少女てんこー (倉木学人)
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【本編】狐狗狸さんの降臨
NO.1 狐娘、ハンターを目指す


こんな能力があればいいのになあ、ぐらいの気持ちで描いてます。


『まもなく、キング・クルス駅に着きます。ハンター試験にお越しの方は、当駅で御乗り換えです』

 

 電車の放送が車内に流れる。

 その車両で放送を聞いていたのは、筋骨隆々の大男と杖をつく老紳士。

 そして、狐耳と尻尾を生やした少女だ。

 

「へへ。お嬢ちゃん。お嬢ちゃんもハンター試験を受けに来たのかい?」

 

 大男は少女に軽薄な笑みを浮かべる。

 そして、視線が少女を舐めまわす。

 

「そうだが」

 

 視線に気分を害することもなく、少女は答える。

 声は良く通るが抑揚が無く、やる気が感じられない。

 

「ヒヒ。やめときな。ハンター試験は、お嬢ちゃんみたいなのが来るところじゃねえ」

 

 男は、改めて目の前の少女の恰好を見る。

 少女はさらりとした黒髪で、白く質素な着流しを着ている。

 着流しは少し短く、綺麗な太ももがまぶしく見える。

 男からしては、どう見てもふざけているようにしか見えない。

 

「そうかもしれんな」

 

 少女はそれを否定しない。

 顔色は変化しなかったが、代わりに頭の狐耳がひょこっと動いた。

 

「だが、お嬢ちゃんも運が良いぜ。このタラオウ様と一緒の電車に乗り合わせたんだからな」

「そうか」

「どうだ? 俺と一緒に来ねえか? 俺と一緒なら、ハンター試験なんて楽勝だぜ?」

 

 少女は奇妙な恰好をしているが、普通に上玉である。

 大男は目の前の女を自分のモノとしたいという感情を隠そうとしない。

 

「その自信はどこから来ているのだ?」

「おう。聞いて驚け。俺はミスミの街一番の怪力男なんだぜ?」

 

 少女は大男をまじまじと観察する。

 おそらく、その恵まれた体格で自分の欲しい物を手に入れてきたのだろう。

 しばらくそのまま見つめていたが、やがて興味を失いそっぽを向いた。

 

「そうか。それは頼もしいな」

 

 そっけない反応に、大男は大きく舌打ちをした。

 

 やがて景色は流れ、古風ながらも現代の街並みが現れる。

 大きなビルこそないが、主要と思われる建物がいくつも並ぶさまは大都会。

 

 電車はゆっくりと速度を落としていき、やがて停止した。

 

『キング・クルス駅―。キング・クルス駅です』

 

 大男は車両の停止と共に立ち上がった。

 しかし、少女と老紳士は座ったままだ。

 

「おい、お嬢ちゃん。聞いていなかったのか? ハンター試験に向かうにはここで乗り換えだぜ」

「どうやら。私たちはここでお別れらしい。私のことは気にしないでくれ」

 

 大男は少しの間、少女を見つめていた。

 しかし、ここに居続ける意味はない。

 外へと向けて歩き出した。

 

「チッ。せっかく人が親切で言ってやってるってのによ」

 

 電車の扉は閉まり、次の目的地へと向かいだす。

 

 そうして、電車はいくつかの駅に停車する。

 時に老紳士は立ち上がり、電車を乗り換えることもあった。

 そうすると、少女はそれに従うようについていく。

 

 そうして、いくつもの景色が流れた時であった。

 

「お主は―」

 

 突如、老紳士が口を開いた。

 落ち着いていて、抑揚がある。

 

「何故、ハンターを目指す?」

 

 少女は、目の前の老人が只者ではないということを見抜いていた。

 一見、か弱い老人に見えるが、その動きは武術を極めたもののそれ。

 重心の動きから、少女はそれを察知したのだ。

 老紳士はハンター試験の前段階における選別を担う、案内人の一人であった。

 

「学費のためだ」

「ほう? 続けよ」

 

 老紳士は話を促し、少し間を置いてから女はそれに応える。

 

「ハンターライセンスがあれば、公共機関の95%が無料で利用できる。それに、ハンター証が最高の身分証明証となる。私はヨルビアンの大学で学びたい」

「何もハンターを目指す必要はなかろう。金なら奨学金だってある。その先は茨の道じゃぞ?」

 

 老紳士が見たところ、少女はジャポンの出身だろうか?

 身なりは変だが、動きにはそれなりの育ちの良さが感じられる。

 

 ヨルビアンの国々は、移民に対してあまり快く思っていはいない。

 とはいえ学びたいものは拒まないし、後ろ盾さえあればそれだけの道を示してくれるだろう。

 そんな中、わざわざハンターという職業を目指す理由を問うていた。

 

「関係ない。どんな道を選んだって、それ相当の苦難があるだけだ」

 

 二人の間に、しばらくの沈黙が流れる。

 

「まあ、よかろう。一応合格じゃ」

 

 少女の狐耳が、へにゃりと垂れた。

 

「クイーン・マリーホテルに予約されている、“ゴードン大学同窓会”を訪ねるが良い。所属を聞かれたならば“理工学部工学科”と答えよ」

 

 少女はこくりと頷く。

 この言葉は、試験参加者とそうでない者を区別するための合言葉。

 

「その選択を後悔するなよ。若者よ」

 

 その言葉を耳にした少女はぴくりと跳ね。

 やがてバツが悪そうに答えたのであった。

 

「ああ。分かっている。分かっているさ」

 

 

 ハンター。

 それはこの世に存在する希少な物を追求する者たちの総称である。

 その中でもプロのハンターは別格で、成るためには参加するだけで万分の一の難度を誇る試験を合格しなければならない。

 試験内容は過酷を極め、毎年大量の死者が出ることでも有名である。

 その分効果は絶大であり、民間の資格ながらあらゆる分野で国際的に通用する資格でもある。

 ハンターはこの世で最も気高い仕事であり、最も儲かる仕事とされる。

 そのため、成ろうとする人は毎年後を絶たず。

 今もまたハンター試験が行われようとしていた。

 

「私が一次試験の試験官。シーハンターのアンダインだ」

 

 今回のハンター試験の受験生は350人程。

 受験生たちはホテルの大広間から、ホテルのすぐそばにある海岸へと移動していた。

 

「今から試験内容を伝える。良く聞いておけ。一次試験は、“ダイビング“だ」

 

 燃えるような赤髪に黒のタンクトップに身を包んだ、ガタイの良い女性がそう告げる。

 顔には細かい傷が刻まれ、眼つきは猫のように鋭い。

 

 指を指した先には荒波が広がっている。

 もう片方の手には無色透明なガラス玉が握られている。

 

「あの海の底に、沈没船がある。そこに、このガラス玉を100個設置しておいた。ガラス玉を私に手渡した者を、全員合格とする。制限時間は日没まで。以上、何か質問は?」

 

 集団の中から手を挙げる者がいて、最前列へと出てくる。

 やや小柄で恰好の良い男だ。

 

「そこにある道具は何だ?」

「ああ。そこにある道具は私からの支給品だ。使いたいなら自由に使っていいぞ」

 

 また、手を挙げるものがいる。

 ニット帽を被った男だ。

 

「一度に持ってくるガラス玉は何個でも構わないな?」

「構わない。ただし、何個持ってこようとも、合格者はそいつ一人のみだ」

 

 最前列に居た、狐耳の少女が手を挙げる。

 

「そのガラス玉は、ただのガラス玉、ですか?」

「ああ。見ての通り、ただのガラス玉だ。くれぐれも壊すなよ? 壊れたものは合格とカウントしない」

 

 今度は、ゴツくて品の無い男だ。

 

「それ以外にルールは?」

「ない。手段は問わない。方法は、好きにすると良い」

 

 そして、ようやく手を挙げるものはいなくなる。

 

「他に質問はあるか? ないなら試験を開始する。始めろ!」

 

 始まりの合図で、受験生の半分が海へと向かった。

 支給された道具を手に取る者もいれば、そのままの恰好のままで海に飛び込む者もいる。

 

 狐耳の少女は、試験開始後も動かなかった方に分類される。

 何もすることなく、試験官のそばで海の方を向いている。

 

「よ。そこの君。見たところルーキーだろ?」

 

 そんな少女に、背後から声を掛ける者がいた。

 振り返ると、四角い鼻の小柄で肉付きの良い男の姿が見える。

 男は気さくで、人の良い笑みのように見える。

 

「名前は?」

「俺はトンパ。10歳の頃から34回も受けている、ハンター試験のベテランさ。君は見ない顔だったからすぐにわかったよ」

 

 トンパ、という言葉に首をかしげたが。

 目の前の男を見つめ、やがて少女は納得したように耳が頷いた。

 

「ああ。成程」

 

 あの“新人潰し”の、という言葉が喉元まで出かけたのは内緒である。

 

「君は腕が立つようだけど。急がないのかい?」

「あー。言っている意味が分からないのだが」

「ははは。ハンター試験でそんな恰好をするのは、余程の大馬鹿者か、本物の実力者だけさ」

 

 偶にいるんだよ。

 マラソン大会みたいに、変な恰好をして参加する奴がさ。

 そして、そういう奴に限ってタフなんだ。

 

 そう苦笑しながらトンパは続ける。

 

「どっちにしろ、君は腕に自信があると見た。それで、ここだけの話なんだが。実は、ハンター試験は一次試験だけでも合格できるんだ」

「ふむ?」

 

 耳がピクリと立つ。

 少女の興味を引いたらしい。

 

「ハンター試験の合否は試験官に委ねられていることは知っているかい?」

「ああ」

「そうか。だから、好感度稼ぎは出来るだけしておいた方が良い。試験官はシーハンターを名乗っているし。同業者の真似だけでも、アピールして損はないよ」

 

 そういった意味では、真っ先に海へ飛び込んだ連中は有望なのだろう。

 優秀な仲間が増えるのは、ハンターとして喜ばしい事でもあろう。

 

「それに、あまり心行きが良くないと、試験官の印象が悪くなる。いくら腕が立つものでも、試験官の印象次第では合格しないこともある。ルーキーなら猶更。やる気を持って行動するべきさ」

「そうか。ありがとう」

 

 そう激励するが、少女は微動だにしない。

 

「えーと。行かないのかい?」

 

 トンパがやや顔をひきつらせて問う。

 

「この服。気に入っているのでな。汚したくない」

 

 少女は自らの着流しの下の方を持ち、たくし上げるようにした。

 

「そ。そうか」

 

 そういうと、トンパはそそくさとその場を去って行った。

 

 少女が見るに、トンパは海へと向かう気配が無い。

 自分がアドバイスするのに自分がそうしない辺り、つまりはそういうことなのだ。

 

「へっ。ちょろいもんだぜ!」

 

 と、とげとげ頭の好青年が、したり顔で海から出てくる。

 恐らくは、荒波の中からガラス玉を見つけ出したうちの一番乗りなのだろう。

 

 するとその青年の周りに、人が集まりだした。

 背丈のバラバラな小集団の中から、恰好の良い男がしゃしゃり出た。

 

「お。おい。どういうつもりだ」

「おい、兄ちゃん。持っているガラス玉を全部、寄越しな」

 

 青年はぽかんとするが、やがて状況を理解したのか激高する。

 

「ふざける―ぶべっ!」

 

 青年の顔に拳が入り、男たちが袋叩きにする。

 抵抗できなくなるまで殴ると、やがて男たちは青年の服装を探り始めた。

 

「へ。素直に渡せばいいものをよ」

「お。こいつ、いっぱいもってやがる」

「もっと探せ。他にも隠し持っているかもしれん」

 

 それを見かねた一人の筋肉質な男が、試験官の前に飛び出る。

 彼は海に出ず、様子見をしていた集団の一人だ。

 

「し、試験官! こんなのありかよ!」

「何も問題ない」

 

 試験官である女性の目は冷め切っている。

 

「言ったはずだぞ。“手段は問わない”。他人から奪おうと、何も問題はない。それに、その程度の連中をどうにかできない奴に、ハンターは続けられん」

「くそっ。こんなの認められるか! それでもアンタ、シーハンターかよ! 漁師の一人として、お前たちの行為は見過ごせない!」

 

 リンチを見て、悔しそうにする男。

 彼はリンチを止めようとしたかったが、自分もああなるのを恐れていた。

 

「思うだけならどうとでも思え。それとも、お前があいつらの相手をするのか?」

「うっ!」

「本当にハンターになりたいのならば、そこの所をもう一度考え直すと良い。本当にハンターとして必要な物は何か、という事を。な」

 

 茫然と立ち尽くす漁師を名乗った男。

 彼らは失格だな、という雰囲気が辺りを満たす。

 

 どうやら、リンチしていた集団も事を済ましたようだ。

 あらかじめ取り決めでもしていたのだろう。

 それぞれが、平等にガラス玉を持っていた。

 

「良し、全員もったな!」

「ねえ。ボクにもちょうだい♥」

 

 そんな中、一人の奇抜な恰好をした男がその集団に近づいた。

 男は体格が良く、シンプルな道化師の恰好とメイクをしている。

 

「あー? やるわけねえだろバーカ!」

「おうおう。兄ちゃん。俺たちから奪おうなんて―」

 

 そう言うか言わないかの辺りで、トランプの札が男たちに突き刺さった。

 札は男たちの腕や胴体、中には顔に深々と突き刺さっている。

 

「ギャアア!」

「もう。ヒドいじゃないか♠ ボクが丁寧に頼み込んでいるのに」

 

 道化師の男がやれやれと両手を広げた。

 騒ぎを見た周囲の人間が、そこから避けるように広がっていく。

 トランプを深々と突き刺す辺り、この男はどうみても“まとも“ではない。

 

「66番。試験官への攻撃は認められない。次はないぞ」

「ハイハイ♦」

「フン」

 

 試験官はしかめっ面で数枚の札を持っている。

 ついでの感覚で、道化師の男から投げられたらしい。

 

「で♣ 君は“使える”んだ?」

 

 道化師が死体の手からガラス玉を取ると、ある方向へと振り向いた。

 

「ヒソカ=モロウ? だったか?」

 

 そこには狐耳の少女が、構えながらしかめっ面をして立っていた。

 背後の地面には、トランプが突き刺さっている。

 

「おや♦ ボクのことを知っているのかい?」

「有名人だからな」

 

 ヒソカは改めて、少女の方へ向き合う。

 

「キミ、名前は?」

「ルナール」

 

 見たまんまだね♣

 ヒソカはそうコメントした。

 

「ところで♥ ボクの事、どうやって知ったの?」

「確か、天空闘技場の闘士だったな」

 

 天空闘技場は、世界中から様々な腕自慢の集まる格闘技場のことである。

 ルナールは、ヒソカがそこで戦っていたことを記憶している。

 

「え♠ ボク、そこ知らないんだけど」

「あれ? 違ったか? まあ、ネットの情報だからな」

 

 暫くヒソカはルナールを見つめていたが、やがて視線を逸らした。

 ルナールはヒソカを用心深く見ながら、手早く自身もガラス玉を確保した。

 

「よし。66番と109番、合格だ」

 

 二人がガラス玉を試験官に手渡すと、それはあっさりと受託された。

 試験官は不機嫌そうにしていたが、合否の基準は変えるつもりがないらしい。

 

 ルナールは試験官から少し距離を取ると地面に座る。

 そして、地上にある残りのガラス玉を奪い合う参加者たちを、ただ茫然と見つめる。

 

「ハンター試験♣ 思ったより退屈そうだね」

 

 暫くたったであろうか、再びヒソカが近づいてきて傍に座る。

 

「そうか? “使える”奴なら数人いるみたいだが」

 

 ルナールもヒソカも、“念”と呼ばれる超能力の使い手である。

 ヒソカがトランプで男達を殺害したのも、これによるものである。

 

「よくボクの好みが分かったね♥ キミの情報って、本当はネットじゃないのだろう?」

 

 ヒソカが微笑みながら問うと、ルナールは露骨に顔を逸らした。

 

「あー。それは認めるけど」

 

 あー、うー、と唸りながらなんとか言葉を絞り出す。

 素直に認めてしまったことも含めて、これは明らかにルナールの失点だった。

 

「これは、言えない。言っても信じないだろう。それは、そうと。ここはハンター試験だろう。腕っぷしに限れば、何らかの達人の集まりだと思うのだが。それでも、ヒソカの期待に添えないのか?」

 

 ルナールが知るに、ヒソカは戦闘狂であり殺人鬼。

 才能ある者と戦い、殺すことに快感を覚える変態である。

 そういった事情から、彼は自らの獲物を探しているのであろうが。

 

 その獲物は自分以外の念能力者ではないとは思っている。

 彼らは多少“使える”のであろうが、幾分粗削りに見えた。

 試験官はどうだか分からないが、自分よりは使い手に見える。

 

「うん♦ キミぐらいだね」

 

 非能力者の中から、才能ある者を探しているのかと思ったが。

 思いがけない言葉を聞いて、ルナールは思わずヒソカを見つめてしまった。

 

「え。わ、私か?」

「そうだよ♥」

 

 ヒソカはねっとりと視線を送るが、ルナールはそれを拒否することなく慌てふためいている。

 

「そ、そそ。そういってもらえるのは、うれしい? のだが。なんで私のような、女を?」

「だってこの中で、キミが一番美味しそうだもん♠ キミとなら、少しは楽しくヤれそうだ♣」

 

 ルナールは何故か、まんざらでもないようにも見える。

 殺人鬼に眼をつけられているのにも関わらず。

 

「わ、私で“ヤれる”だなんて。私は、そんなに強くないし。能力だって大したことないし」

「キミ♦ 具現化系だろ?」

 

 ヒソカの指摘に、思わずルナールは俯いた。

 ここでの具現化系の意味は、“性格が神経質”の意味である。

 

「あー。まあ、そうだが」

 

 そうした中、ルナールはうじうじとした態度で、何か決心したように話を切り出した。

 

「私の能力。美少女転換(プリンセス・テンコウ)、というのだが」

 



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NO.2 自分から弱点を晒していくスタイル

1話しか投稿していないのに、今までに無い程の評価ペースで驚いています。
何が良かったのでしょうね?


「合格者は87名か。ま、こんなものだな」

 

 日没が過ぎ、試験官であるアンダインが一人で呟いた。

 一次試験が無事に終了し、合格者は船へと乗せられ、不合格者はそのまま現地解散となる。

 

 暴行と海難による死者と行方不明者がそれなりに出ているが、気にする者は誰もいない。

 手慣れたもので、ハンター協会の事務員たちがテキパキと対処に当たっている。

 

 協会の一部では毎回の試験における賭け事で、合格者と同時に何人の死者が出るかが予想されているぐらいである。

 彼らにとって、死は割と身近な日常であるのだ。

 

 引き際を見極められない奴は死ぬ。

 ただそれだけのことであり、ハンターとはそういう生き方である。

 

「今年は不作だな」

 

 見たところ試験参加者のごく一部だけが、何回かの内にハンター試験を受ければ受かるような人間である。

 彼らは運が良ければ、そのまま合格するだろう。

 それ以外は有象無象である。

 その内、自然と諦めるか勝手にくたばるであろう。

 

 ルーキーに元気がないのが気にかかるところだ。

 これはハンター会長によると、最近のハンター試験のトレンドでもあるそうだが。

 ハンターとしては“強ければ良い“という風潮があるので、有望なルーキーはそれだけで望む所である。

 

 その中で注目すべきは66番、“奇術師”ヒソカ。

 念能力者であり、腕っぷしは試験官にすら負けないであろう。

 ただ、性格はあまり褒められたものでないようだが。

 

 そして109番、狐のルナール。

 こちらも念能力者であり、66番とつるんでいることから彼女も同類だと思われる。

 

 どちらもハンターとして活動を認めてやってもいいのだが。

 彼らでも今年は受からないかもしれない。

 

 同僚の顔を思い浮かべると、アンダインは小さくため息をついた。

 

 

 

 

 

「私の能力。美少女転換(プリンセス・テンコウ)、というのだが」

 

 念能力。

 それはこの世界の誰もが身体に秘めているエネルギーであり、つまりのところオーラである。

 念能力の基本は4つの技術。

 

 オーラを纏う、“纏”。

 オーラを絶つ、“絶“。

 オーラを練る、“練”。

 そして念の集大成であり、“固有能力”となる“発”である。

 

「へえ♣ でも、それをボクに教える理由が分からないのだケド♦」

「私の能力はその誓約の関係上、人に知られるほど能力の効果が増すみたいだから」

 

 他世界のオーラと比較すると、念能力は論理で構成されているのが特徴である。

 つまり、ドラゴンボールなどの“気”などと比較して、出来る事と出来ない事がかなりハッキリしているのである。

 気ではかめはめ波などの遠隔攻撃はポピュラーだが、念能力はそうもいかない。

 

「それに、戦闘時には間違いなく“使えない”能力だ。まあ、ヒソカには良いかな。他の人に聞こえたら不味いな。少し、ここから離れよう」

 

 念能力の発は固有能力であり、その人特有のものである。

 その人の発が知られれば、戦闘時に不利になることは否めない。

 とはいえ、当人は戦闘向けでないことを理由に、ためらいながらも話していた。

 

「ヒソカは、ゲームをしたことはあるか? テレビゲームでもいいが、TRPGだとなおいい」

「どっちもあるよ♠」

「じゃあ、キャラクターメイキングって言うと分かるか? それを現実の生身の人間で行う、それが私の能力だ」

 

 キャラクターメイキング、あるいはキャラメイク。

 広くはゲームを問わず、自身の分身たるアバターを作り出す行為である。

 ゲームの中でも、この行為が一番楽しいという人も多い。

 アダルトゲームに限れば、これだけを行うようなゲームも存在するほどだ。

 そしてまさに、それがルナールの能力なのである。

 

「具現化するのはコンパクトディスク。これをパソコンにセットすることで、ゲームプログラムは起動できる。プログラムは私が一から手書きしてコンパイルしたゲームプログラムだ」

 

 ルナールの右手にオーラが集い、その人差し指に一枚の円盤が握られる。

 発におけるオーラの物質化、具現化系の技である。

 

「ゲームプログラムは、人間のパラメーター。つまりは身長等を聞いてくる。値を入力することで、実際に対象の人間を“操作”する。身長170㎝と入力すれば、その人の実際の身長が変化する」

 

 発の特性は全部で6系統に分類される。

 また生まれつき人はいずれかの系統に属していて、それぞれ得意・不得意がある。

 

 系統は正六角形を描き、それぞれの頂点に位置している。

 念能力者の一派“心源流”によると、系統は時計の12時の方向から時計回りに振り分けられる。

 12時に位置するは、人や物を強化する“強化系”。

 2時に位置するは、オーラの性質を変化させる“変化系”。

 4時に位置するは、オーラの物質化を行う“具現化系”。

 6時に位置するは、他の系統のいずれにも属さない“特質系”。

 8時に位置するは、人や物を操作する“操作系”。

 10時に位置するは、オーラを身体から放す“放出系”。

 

「操作項目はいくつもあるけど。大きく三つに分けて“身体”、“性格”、そして“資質”だ」

「へえ♥」

「ここで特筆すべきは性格と資質についてだろうな」

 

 ルナールの能力は、人間の操作を念で接続したパソコンを通じて行う。

 特殊なゲームプログラムを具現化し、情報を念のオーラを通じて伝達し、人間を操作する。

 つまり、具現化系と変化系、そして操作系の複合能力である。

 

「性格についてだが、元の人間とかけ離れた人間にすることは不可能だ。あくまでも“それっぽく”なるだけで、元の性格を色濃く反映する」

 

 系統の扱いと習得は、自分に近しいほど得意であり遠ざかるほど苦手になる。

 具現化系能力者であるルナールにとって変化系はともかく、操作系の習得率は今一つである。

 

「不慣れな操作系であることも影響はしているのか。肉体操作は簡単だったが、精神操作は私の能力ではどうも難しいようだ」

 

 自分の不慣れな系統を扱うメリットが無い訳ではないのだが。

 単に自分の姿を変えるだけなら、操作系能力者を探して頼みこむ方が効率は良い。

 その方が時間とメモリの節約になる。

 勿論、金はふっかけられるであろうが、それで済むなら安いものだろう。

 

 方法については、ルナールも模索しなかったわけではなかったが。

 彼女は結局、それを自分の手で成し遂げたがっていた。

 とはいえ、具現化系能力者としての利点はそれなりにある。

 具現化系で物質化した念は“特殊能力”が付きやすいという利点があるのだ。

 

「資質については、あまりこういう言葉は好きではないのだが。私の能力では、“才能”を引き出すことができる」

 

 資質とは天性のものであり、普通はどうしても変えることのできないものである。

 そして、基本的に具現化系は戦闘にこそ向かないが。

 しかし、特質系に匹敵するほどの独自性を持つ能力である。

 そしてそれはルナールの能力、“美少女転換(プリンセス・テンコウ)”といえど例外でない。

 

「とはいえ、ゼロから生み出している訳ではない。その人間の眠っている本能だとか、潜在能力を引き出しているだけだ」

 

 ルナールが考えるに、資質とは念と同様に誰もが何かしらのものを持っている。

 ただ、殆どの人間はその資質が眠ったままになっている。

 その理由は単純で、日常という環境では資質を発揮する必要がないからだ。

 高度に文明化された現代社会では、才能というものがなくても生きられるようになっている。

 

 そもそも念能力も無いなら無いで、普通に生きていけるだろう。

 念能力は確かに強力ではあるが、どの分野でも必須という訳ではない。

 例えば、政治家なら政治活動に時間を費やす方が重要であろう。

 

 念能力者といえど彼らは極少数派にすぎず、皆が皆念を学べる訳ではないのだから。

 ルナールの能力は個人の才を揺さぶり、特別な環境に適応するものなのだ。

 

「ここら辺はTRPGとかで見られる、ステータス・ポイント制だ。個人によってポイントの上限は決まっているし。既に十分割り振られていることもある。今の私は持てる全てのポイントを戦闘向けに振り直し、戦闘に特化している状態だ」

 

 多分ヒソカなんかは私の能力を使わなくとも、既に十分な才を割り振っているだろうね。

 そうルナールは付け加えた。

 

「嬉しいなあ♥ ボクのために自分から実ってくれるなんて♠ やっぱりキミは面白いよ♣」

 

 ヒソカの言葉に、ルナールの堅い表情が崩れる。

 流石に思う事があるのか、少し嫌そうである。

 

「べつにヒソカのために作ったのではないからな。そこの所、勘違いするな」

 

 褒められたり認められるのは嬉しい。

 だが結局、能力を作ったのは他ならぬ自分のためなのだ。

 わざわざ他人のために能力を作るような熱意はルナールにない。

 

「というかだな。いくら戦闘向けにポイントを割り振ったって、ヒソカに目を付けられるとは思っていなかったのだが」

 

 繰り返すが、具現化系は戦闘に向いていない系統とされる。

 これは系統の論理以上に、本人の性格によるものが大きいとルナールは考える。

 ヒソカの性格診断によると、具現化系は神経質。

 全ての具現化系がそうであるとは限らないが、いささかデリケートな性格だ。

 特に、ヒソカのような奇策や搦め手を得意とする相手との戦闘は悪夢だろう。

 細かい所を気にしすぎて動けなくなり、相手にハメられるのがオチだ。

 

「でも、自らの才能(メモリ)を潰してまで、自分の才能(もちあじ)を作ろうとしたのは失敗だね♦」

「そこは否定しない。この能力を具現化したのはいいが。操作系の所為で大分、メモリを食ってしまった」

 

 発とて無限に作れる訳ではない。

 能力は一人につき多くても二つか三つ程度であり、おまけに一度でも覚えると忘れられない。

 特に、難しく高度な能力ほど多くの容量(メモリ)を消費することになる。

 

「今の私では、軽く制約と誓約を付けざるを得なかったのも痛い所だ。能力を作ったことに後悔はないが、これが後にどう響くかは分からん。ひょっとすると、もっとじっくり育てる必要があったのかもしれんが。ここの所は能力を作ったおかげで、念の習得が早まったりもしたのだ。一長一短だろうな」

 

 念能力の熟練には、大いに時間を消費する。

 そこで、制約と誓約である。

 能力にルールを設けることで、自分の能力を向上させることができる。

 ただし、一概に制約と誓約があればあるほど強い、という訳ではない。

 

「制約としては、身体のデザインは美少女に限る。という制約がある」

 

 ルナールの能力はその名の通り、使っても美少女にしかなれない。

 しかも期間限定とかではなく、不可逆で元に戻せないものだ。

 

「へえ。やっぱりキミってそういう人間なんだ♣」

 

 こんな能力を作るのだから、ある程度の人間性が見えてくる。

 ポイントは、能力に絡めるほどパソコンとゲームが好きであること。

 そして、“女性“ではなく”美少女“と表現していることである。

 まあ、その。

 つまり、元はそういう人間なのだろう。

 

「わ、私をそんな目で見ないでくれないか?」

「いや、だって、ねえ♥」

 

 なんで変なやつに変なやつって見られないといけないのだろう?

 ルナールは口には出さなかったが、そう感じ得ない。

 勿論、自身の変態性を自覚はしているが。

 それを自分以上にオープンな変態に指摘されると、何か釈然としないのである。

 

「も、もう一つは、プログラムの動作に結構なスペックのパソコンを要求することだ。ゲーム用ノートPCでも発売されれば、移動中でも使えるかもしれんが。まだ当分は市販されないだろう。自室などでの使用が前提になる」

 

 これがルナールの言う、戦闘時に“使えない”という部分に当たる。

 元々念能力は本人のメンタルに影響を受けるのだが、この能力は十分に落ち着いた環境がないと発動できないのである。

 

 そもそも、操作系での身体操作は身体の負担が大きい。

 ましてや、具現化系能力者の操作である。

 実戦での投入はほぼ不可能といって良いだろう。

 

「誓約としては、自分以外の人に使う場合、自分の能力の説明をする必要があるのと、相手の同意を得なければならないことだ」

 

 そういって、ルナールは左手を挙げる。

 ちなみに能力を他人に使う場合、その人を左手で触っている必要がある。

 これは制約や誓約とは別に、念をケーブル代わりに見立てているが故である。

 

「守れなければ、死ぬ」

「随分と重いね♠」

「ここの辺りはひどく迷ったのだが。私の場合、軽々しく相手に使いたくない。そもそも他の誰かに使う、という能力にする気は最初になかったのだが。その、な」

 

 始めは、自分自身だけを操作する能力にするつもりだった。

 しかし、それだけでは出力不足になる予感がしていた。

 

「こういうのは、誰かと共有した方が楽しいだろうなー。と思ったら、こうなったのだ」

 

 ルナール自身、能力を他人に使うということは、それだけでリスクのある行為であると認識している。

 能力が知られればその分、身を狙う物が出てくるからだ。

 そうして危険を冒すことで、それが能力の向上につながっていた。

 

「思ったんだけど♦ キミの身体って本当に最適化されている? どうみても、その胸とかお尻の辺りって無駄じゃないかな?」

 

 唐突に、ヒソカは思っていたことを指摘する。

 ルナールの体格がすらっとしているのはまだいい。

 だが、どうしても戦闘の邪魔になりそうなものが多めについているのだが。

 

 そう指摘すると、ルナールの身体がふるえだした。

 

「こ、これはバッドステータスだ。バッドステータスをつけると。その分、ポイントが増える」

 

 ルナールは嘘を言っていない。

 事実、悪い性質はそれだけ資質を向上させるし、身体の値や性格も資質に関連している。

 例えば、身体に筋肉をつければその分戦闘にも強くなるが、同時に資質も強化されていく。

 また、運動に無駄な胸とかをつければ、その分資質に余裕ができる。

 いろいろ細かい部分は割合するが、根本的に美少女要素が優遇されるシステムになっている。

 

「ボクもマンガとかアニメを見ることはあるから分かるけどさ♦ キミのその姿は正直どうかと思うよ♠」

「わ、わかってて作ったんだよぉ。ほっといてくれ」

 

 羞恥のあまり、ルナールはふさぎ込んだ。

 

 

 良い反応だ♥

 面白い玩具を見つけたと、ヒソカは微笑んだ。

 遊び甲斐があり、能力は正に金の成る木。

 

 それに、本人にもまだ伸び代があると見える。

 “ポイント”を上手く活用できたならば、その刃は自分にさえ届き得るかもしれない。

 

 まあ結局の所、勝つのは自分であるが。

 

 しかし、羞恥、か。

 

 念能力は、感情によって左右されるものである。

 つまりの所スポーツ選手と一緒で、心理状態が成果に直結するのである。

 落ち着いた状態で行えば100%を発揮できるし、取り乱せばそれだけ精度は落ちてくる。

 

 そして念の100%以上を引き出すのが感情である。

 喜びや情熱。

 あるいは怒りや恐怖、そして怨念。

 特に怨念は、“死後に強まる念“として念能力者の間でも有名である。

 

 とはいえ羞恥の心、所謂“恥”が念能力に影響するのはヒソカにとっても驚きだ。

 ルナールの能力は、恥をリスクとしている。

 自分から恥ずかしい行動をとっているのは、今一つ理解はできないし。

それが力に結びついているのが不思議だが。

 そういうものだとしか説明はできない。

 

 念能力は奥が深い。



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NO.3 ピラミッドからの挑戦状

評価されすぎワロタ。

さて、今作はどこまで書こうかな。

あ、今後の更新は気分次第となりますんで。
何か急に忙しくなりまして。

2018/3/12 試験内容について不自然な個所があったため、一時的に修正。


 ハンター試験は非常に長丁場な試験であり、一週間以上かけて行うことも何ら珍しくない。

 基本的に衣食住が保障されているとはいえ、どうしても待ちの時間が多くなるのである。

 そうして自由になった時間をどう過ごすのかは、各自の判断にゆだねられている。

 その時間もまた、ある意味ハンター試験の一環であるのだろう。

 

 中型のフェリーに乗せられた一次試験合格者たちは、与えられた三等客室のスペースにおいてそれぞれの時間を過ごしていた。

 ある者は日々の鍛練を重ね、ある者は参考書に眼を通し、ある者は暇を持て余し遊戯に励んでいた。

 

 そうして夜が明け、フェリーはとある小島についていた。

 全員がハンター協会事務員による放送に従い、言われるがままにフェリーを降りる。

 そこには男が立っていた。

 

 参加者たちが全員フェリーを降り、最後にアンダインが集団の後ろに立つと、男はようやく口を開いた。

 

「オレが二次試験の試験官。ダンディーだ。普段はトレジャーハンターをやっている」

 

 そうやって握りこぶしの親指で自分を指す、男の歯がキラリと光る。

男は老人と言っても良い年齢であるが筋骨隆々で、頼りがいが感じられる。

 テンガロンハットと皮の鞭という恰好が様になっていて、映画スターか何かと錯覚させるには十分だった。

 その男は無精ひげすら格好良い。

 

「二次試験だが、お前らには遺跡破りをしてもらうぜ」

 

 一斉に受験者たちの視線が一点に集中する。

 その先には石造りの巨大な正四面体があった。

 建物は雑なドット絵のごとく、表面がカクカクしている。

 

「見ての通り、この小島には発掘済みの遺跡が保存されている。宝物とかは全部取り除いてあるが、侵入者用に仕掛けられているトラップはそのままになっている」

 

 トラップ、という言葉に受験者の一部がざわついた。

 彼らはハンター志望とはいえ、罠の扱いに長けたものはごく一部の者なのだろう。

 

「試験は簡単。入口から入って、出口から出ればいい。つまりは、障害物競争って訳さ。あるいはお化け屋敷か?」

 

 簡単だろう?

 試験官の男は軽く笑う。

 だが、一緒に笑うものは誰もいない。

 せいぜい、ピエロがニヤニヤしているぐらいである。

 

「制限時間は一人につき2時間。一次試験の合格順に一人ずつ、15分毎に船を降りてからスタートしろ。勿論、困ったら他の受験者の手を借りてもいい。監視とかは無いんで、そこら辺は好きにするといい」

 

 まあ、監視がねえってことは、最悪誰も助けねえってことなんだが。

 仲良く協力し合えよ?

 試験官はそう言って豪快に笑った。

 そして、突然真顔になる。

 

「当然だが、トラップ次第では死ぬことも十分ある。ヤバいと思ったら、入口から脱出しろ。ただし、一度出たら再挑戦は認めん」

 

 場に沈黙が支配する。

 そうした中で、とんがり型のターバンを巻いた青年が手を挙げた。

 

「なんだ、質問か?」

「入口と出口が別にあるのか?」

「ああ。一方通行になっているから、やればわかる。オレたちは出口で待機しているぜ」

 

 そうして、いくらかの質問がかわされる。

 

「他に質問はあるか? 他にないなら各自スタートする準備をしろ。まだの奴は、船の中で英気を養っておけ」

 

 勿論、外で待ってもいいが。

 最後に、と試験官は付け加える。

 

「ああ、そうだ。遺跡にはクソする場所もションベンする場所も無えぞ。今の内に済ませておくことだな」

 

 そう言って、ニヤリと笑うのである。

 悔しいがどこまでも様になる男だというのが、彼に対する受験者たちの認識であった。

 

「言い忘れていたが、66番と109番。お前らは”使える”んだろ? お前らには特別コースを用意してある」

 

 

 ルナールがスタートしたのは最初から二番目であった。

 一番はヒソカであるので、同着なら番号順ということであろう。

 

 建物の中へ一歩、一歩と踏み出すごとに闇はどんどん深くなっていく。

 懐中電灯こそ渡されてはいるが、それでも闇の中へと踏み込んでいくのは常人にとって恐怖であろう。

 

 まあ、ルナールは夜目が利くのだが。

 伊達に狐っぽい恰好をしているのではないのだ。

 懐中電灯も点さずにルナールは歩いていく。

 

 ふと立ち止まってルナールは建物の中を、装飾であろう壁画を見る。

 壁画は絵と絵文字がびっしりと描かれている。

 文字は読めないが、絵の方には見覚えがあった。

 絵に描かれた人物は半裸でいずれも右か左を向いていて、全身を白い布で覆っていたり、あるいは犬の被り物をしていたりしている。

 このようなものが、歴史の教科書の比較的最初の方に乗っていたのを彼女は覚えている。

 

 と、突然ルナールの耳がピクリとはね、彼女は構えを取った。

 そしてそのまま、背後に向けて回し蹴りを放った。

 

「ふっ」

 

 彼女は手ごたえを感じた。

 何かは吹き飛ばされ、壁に激突した。

 

 痙攣している何かを良く見てみると、それは小さな蛇だった。

 肌の色は壁の色と同じで、絵文字の所に潜んでいれば気づかない程のものである。

 恐らくは、絵文字に擬態して潜むように進化した生物なのだろう。

 

 全く油断できる場所ではないと、ルナールはそう感じた。

 

 

 そうして歩いていくと、闇の中に光が見える。

 暗闇が段々と晴れていき、その部屋が姿を現す。

 

 部屋には火のついた蝋燭が並んでいて、温かみがある明るさだ。

 猫の身体と人の顔をした大きな像が先の通路を防いでおり、その傍らにはルナールが見覚えのある人物が立っていた。

 

「やあ♥」

「ヒソカ?」

 

 ルナールがヒソカに追いついた、という形にはなる。

 とはいえ彼女には、彼が足止めを食らうような人間には見えないのだが。

 

「どうしてここにいる?」

「クイズが思ったより難しくてね♠ 足止めを食らってしまったんだ♦」

「くいず?」

 

 ヒソカがある一点を指す。

 それは石像の頭上に、共通語で書かれていた。

 文字自体はハッキリと読めることから、比較的最近に追加されたものと思われる。

 

 

―其は偉大なる者が眠る場所。赤子から老人まで此処で眠る。我の前で真実の名を唱えよ。

 

 

ルナールは少し考える素振りを見せると、やがて石像の前に立って答えを口にした。

 

「“墓場”」

 

 口にした途端、身体の底から力を吸われるような感触を覚えた。

 石像は動きだし、終わりへと続く道を開けた。

 

「正解だね♣」

 

 ヒソカが声を掛けると、ルナールは軽く頷いた。

 そしてそのまま二人は歩き出した。

 ルナールは速足だが、ヒソカがそれに合わせている。

 

「いやあ、キミと一緒だと嬉しいなあ♥」

「そうか」

「実はボク、寂しがり屋なんだ♠」

 

 ルナールが知るに、ヒソカは嘘つきの常習犯である。

 そして彼は最強を名乗れる戦士であり、孤高の存在である。

 だが、彼が寂しがり屋なのかは微妙なラインであろう。

 ()り合う相手がいないのは本人も困る所だろうが。

 

「そうなのか?」

「そうだよ♣」

 

 まあどっちにしろ、ヒソカに付きまとわれる方はたまったものではないだろう。

 まともに対応するルナールが、優しすぎるぐらいなのだ。

 

「でも、さっきのクイズ。良く分かったね♦」

「本気で言っているのか?」

 

 白々しい、そう言葉にはせず。

 しかし、ヒソカを睨みつけた。

 

「どう見ても、此処はエジプ。じゃなくて、ルクソックのピラミッドの類だろう? 歴史の教科書に載ってるだろうに。覚えてないのか?」

「過去は振り返らない主義なんだ♠」

「―そうか」

 

 どう考えてもお前、頭良い方だろうが。

 そうは思うが、やはり口には出さない。

 

「と言っても、私も実物を見るのは初めてだがな」

 

 暗闇の道を歩いていくと、再び光が見えてくる。

 そうして部屋に入ると、奇妙な部屋が姿を現す。

 

 部屋は底が見えない大きな断崖絶壁に分割されている。

 次へと向かうための道は、直角に曲がりくねった細い橋で繋がっている。

 狭い通路には、武器を持った石像がいくつも配置されている。

 それらは道をふさぐほどの大きさではないが、それ以上に今にも襲い掛かりそうな迫力を持っている。

 

「この仕掛けは―。どっかで見たことがあるな? どこだったか?」

「分かるなら教えてよ♥」

 

 ルナールは足元の文字を読んだ。

 

 

―王の前である。無礼は死をもって償うべし。己の心臓を捧げよ。

 

 

「ああ。多分だが、ここは必ず左足を前に出して歩かないといけないのだと思う」

 

 ルナールは一例にと、石像を指差した。

 

「ここの像や絵画は皆、左足を前に出しているだろう? それが多分、(ファラオ)に対する礼儀なのだと思う。詳しい理由は忘れたが。確か、己の心臓を差し出すってのはそういう意味だったはずだ」

 

 ルナールは左足を必ず前に出すという歩き方で橋を渡り始めた。

 石像が動き出す様子はない。

 これで良さそうだ。

 彼女は橋を丁寧にわたっていく。

 

 それを見たヒソカも一歩踏み出す。

 ただし、右足で。

 

 その瞬間、石像たちは動きだし、罪人たちを襲いだす。

 

「ヒソカァ!」

「ゴメンゴメン♠ つい、間違っちゃった♣」

 

 石像は愚かな侵入者を殺害するのに十分なパワーとスピードを持っている。

 ただ、それなりの念使いである二人には障害足りえなかった。

 元々、この試験は非念能力者を対象に行われているのもあるのだ。

 二人は軽い身のこなしで攻撃を除け、あっさりと橋を渡り切ってしまった。

 

「まったく」

 

 どうやら石像は橋の外までは追ってこないらしい。

 それなりに冷や汗をかいたことに、ルナールはため息をついていた。

 

「しかし、この遺跡の仕掛け、全て念能力で動いているみたいだな」

「んー♦ そうなのかな?」

「スフィンクスの前に立った瞬間、足元から力を吸われるような感じがしたのでな。そういう仕掛けなのだろう」

 

 このピラミッドは無人にも関わらず、動力不明の仕掛けがいくつも施されているとみた。

 となると、これらは念能力者の仕業と見るのが自然であろう。

 念なら、動力は侵入者から調達してしまえばいいのだから。

 

「恐らくだが、このピラミッドは念能力者であった墓守が。恐らくは当時の一族が総出で作り上げたものだろう。大したものだな」

 

 現代において、墓守という存在に(いにしえ)ほどの社会的価値は見込めない。

 今のジャポンを例にあげても、墓守は“先祖の墓を見守る人“程度の認識であって、国から補助を受けているわけでもなんでもない。

 

「ボクには良く分からないな♥ 死人のために念を捧げるなんて♠」

「それに関しては私も同感だがな。とはいえ、そう思うのは我々が異端者だからだろう」

 

 とはいえ設立された当時においての、墓守の地位は違ったはずである。

 墓守の家系は王家の支援を受け、大なり小なり社会地位を持っていた(王朝によっては、王が墓守であることもあったとされる)。

 死後の安息を守ることを使命とし、文字通り身を奉げていたのが墓守たちなのだ。

 そして彼らの念は、今もこうして息づいている。

 

「どこかの王族が自身のために念能力者を育成するのは、古くからの伝統なのだろう。カキン王族の私兵や、ヨークシンマフィアの陰獣たちのようにな。念を知らない段階から教育し。念能力者を作ってしまえば強さに限らず、大体のものは手に入るだろうよ」

 

 基本的に、強くなりたいなら自分自身が強くある必要はないと考えるのがルナールである。

 念を習得せずとも念能力者を所有するだけで、それで“強い“とは十分言えるであろう。

 そして念能力は、何も”戦う“だけのものではないのだと彼女は知っている。

 彼女は自身の能力、美少女転換(プリンセス・テンコウ)で“強くは”なっている。

 しかし、それは彼女にとってあくまで副産物でしかない。

 

「私としてはそうした武器を信仰の祭具にしても、何ら不思議ではないと思うのだが。念能力は、わかりやすい“奇跡”だ」

 

 彼女の能力がそうであるように、個人の念能力が既存の科学を超えることはある。

 それは瞑想を基礎とする宗教の聖人であったり、あるいは新興宗教の教祖であったりする。

 彼女の所属がジャポンの宗教に根差していることもあって、そうした理解がルナールにあった。

 

「このピラミッドは墓守たちに作らせた、(ファラオ)の眠る本物の箱舟だ。死後の世界へと旅立った(ファラオ)が、いつか世界の終末の時、この世に舞い戻るために。それまでの安息を守るための、な」

 

 いかなる名君が存在しても、国は栄えて滅ぶ定めである。

 国も人も、永遠など存在しないのだから。

 だが(ファラオ)たちは、そうした中で宗教的な安らぎを得ようとしたのだ。

 そうした信仰の集大成が、このピラミッドだったのだろう。

 

「でも結局、安息は破られているじゃないか♦ 世界の終末にはまだ早いよ♣」

「それは、まあ。破られない金庫があると考えるほうが可笑しいのだ。破る価値のない金庫だけが最強の金庫と言えるのだろうさ。―それに、念能力も死後に強まったりするとはいえ、別に無敵ではなかろう。経年による劣化も無いとは考えにくい」

 

 そこで、ルナールの耳がピクリと跳ねる。

 

「しかし―。この場合、(ファラオ)がそういった念能力者というパターンも有り得るのか?」

 

 権力者が念を覚えるのは非効率であると彼女は考える。

 とはいえ、それが決して無駄ではない。

 自分がそうであるように、念を自分の私利私欲のために使うのは別に不思議ではないのだから。

 

「世界の終末が起きた時に、念能力により蘇る。博物館の木乃伊の中には、そんな(ファラオ)がいても可笑しくはない訳だ。有り得ると思うか?」

 

 ルナールはヒソカに対してそう問いかける。

 しかし、問われた当人は上の空である。

 

「ヒソカ?」

「え♥ ゴメン。興味ないから聞いてなかった♠」

 

 それを聞いて、ルナールの耳が露骨に垂れた。

 

「そうか。まあ、そうだな」

 

 ルナールも自身が一方的に話を続けていたのに気付いた。

 気まずい沈黙が、二人の間に流れる。

 

(とはいえ、この世界の(ファラオ)決闘(ディアハ)を念能力で行っていても不思議でなさそうだな)

 

 そんな中、ルナールは余韻が冷め切れず。

 自身の中の知識がうずくのを感じる。

 

(念能力を使えば、ソリッドビジョンなカードゲームも再現できそうだな。G・Iみたいに相互協力すれば、いけるか?)

 

 そんなどうでもいいことを考えながら、二人は進む。

 

 そうしてたどり着いた部屋は、またこれまでとは違う雰囲気であった。

 言うならば、観客席のない決闘場であろう。

 断崖絶壁なのは前の部屋と同じである。

 中央には四角の石版の足場があり、入口と出口はその石版と狭き通路で繋がっている。

 それ以外は奈落の底に繋がっているようだった。

 

 文字は天井に書かれている。

 

 

―汝は此処より死者となる。アヌビスの裁きを受け、己を証明せよ。

 

 

「裁き、というのなら。あの石版が天秤になるのか? 単に石版の上に乗れば良さそうだな。それからは分からんが」

 

 恐らくこの仕掛けは、死後の裁判を模したものであろう。

 冥府の神の前で、己の真実を証明する。

 楽園に向かいたければ、正直であればよい。

 

「嘘つきは殺される、かもしれんな。どうだろうな?」

 

 ルナールはヒソカをじっと見つめた。

 アヌビスは、ジャポン的に言えば閻魔大王だろうか?

 彼らは、生前の罪を裁くもの。

 万人が通過できるような仕掛けではなさそうだ。

 

「おお、怖い、怖い♣ 無理に飛び越えちゃダメかな?」

「やめた方がいいだろう。逃げるよりは正直者でいる方が良いだろうな。その方が冥府の神にとって、釈明の余地はあるだろうから」

「うーん。それもそうだね♥」

 

 念能力者なら、これくらいの大きさの仕掛けは飛び越えることは簡単である。

 とはいえ念能力には、“定められた規則(ルール)を破ったら発動する”能力も多い。

 これは“相手に情報を開示する制約”を持つ念能力に良く見られる傾向でもある。

 そう考えると、仕掛けを無視するのはリスクが大きい。

 

 とはいえ、さっきの石像を見るに、リスクの違いも誤差ではあるかもしれないが。

 念能力といえど、“条件を満たせば確実に殺す”級の能力はそうそう作れないのだ。

 (例:ゲンスルーの“命の音(カウントダウン)”や、オロソ兄妹の“死亡遊戯(ダツDEダーツ)”)。

 

「じゃ。ボクから行くよ♠」

 

 ヒソカは歩いて、石版の上に立つ。

 すると、石版が彼の身体から念を徴収する。

 彼に動揺は見られない。

 

 徴収された念の一部が具現化し、ヒソカの前に奇怪な物を作り出した。

 それは、人間の肉でできた気味の悪い塊に見える。

 これこそが念から作り出された存在、いわゆる念獣である。

 塊はヒソカを捕食するように襲い掛かる。

 

 が、スピードは遅い。

 足場は狭いが彼はたいした労もなく避け、小手調べとトランプを投げつけた。

 トランプは命中したが、腐った臭いの液体を少し吹き出しただけ。

 ダメージにはなっていないようだ。

 

 再び、塊が襲い掛かる。

 ヒソカは半端なダメージは意味がないと感じ取り、蹴りを繰り出した。

 塊が避けるはずもなく、蹴りは命中する。

 

「!」

 

 だが、命中した後が問題であった。

 塊には衝撃が走るが、それでもうごめくばかりである。

 それだけでなく、放った足が動かない。

 攻撃を防がれただけでなく、相手に捕まってしまった。

 塊はそのままヒソカの口元まで塊を伸ばし、締め殺させんとする。

 

 とはいえ、彼はそう簡単に倒される男ではない。

 

伸縮自在の愛(バンジーガム)

 

 変化系能力者である、ヒソカの念能力の一つ。

 彼のオーラはガムのようであり、ゴムのようでもある。

 着けるも伸ばすも縮ますも、全てはヒソカ次第。

 

 彼は自分の後ろ遠くまでオーラを伸ばして着けておき、それを急速に縮めた。

 ばねの原理で、ヒソカの身体は引き寄せられる。

 疑似的な瞬間移動であり、それはまさしくバンジーである。

 塊も負けじとそれに対応して伸びていったが、途中で限界を迎え途切れてしまった。

 

 距離をとったヒソカは、自身のオーラを手元で薄く広く、伸ばし始めた。

 オーラをある程度伸ばすと、それを塊に目がけて投げかけた。

 それはオーラによる捕獲網であり、塊はオーラに包まれた。

 

 塊をオーラで引き寄せると、それをそのまま穴の底に目がけて放り投げた。

 途中でオーラを放ち、塊はそのまま奈落へと落ちて行った。

 

「ハイ。おしまい♦」

 




仕掛けの元ネタは漫画、遊戯王などからです。


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NO.4 変態vs.変態

突然ですが描きたいことを概ね描けたので、これにて完結とさせてもらいます。
元から一発ネタだったのですし。

とはいえ、他の原作キャラとの絡みは描いてみたいとは思っているので。
そちらは番外編として、その内投稿しようと思います。


 二次試験が無事に終了し、合格者はハンター協会の飛行船へと乗せられていた。

 極少数の不合格者(の生存者)は、フェリーに乗せられている。

 

 そんな中、ルナールは尻尾をゆらしながら他の参加者を眺めていた。

 視線の先には、新人潰しのトンパ。

 その視線に気づいたトンパは、嫌そうにしてその場を去って行った。

 ルナールはヒソカとつるんでいるので、同類と思われているのだろう。

 

 まあ、そこまで間違った認識ではない。

 ただルナールは変態かもしれないが、人殺しをするタイプの変態ではない。

 それだけは伝えたかった。

 

 元が男性なので乙女心なんて高尚なものは持っていないが、ヒソカと一緒にされることは少なからずショックなのである。

 

「キミってさ♦ ああいうのがタイプなの?」

「いや、そういう訳ではないが」

 

 傍でトランプタワーを作り、崩す遊びをしていたヒソカが尋ねた。

 ルナールはそれに心外だ、という顔をしている。

 自分の性癖が、若干歪んでいるとは自覚しているが。

 それでも、アレみたいな小悪党は好みでないとは思う。

 

「私は単に、強い人が好きだ」

 

 彼女が好むのはゴン・フリークスやヒソカのように強い人間。

 あるいは、パリストン・ヒルのような強かな人間である。

 

 ただし強いとはいっても、クロロやツェリードニヒ・ホイコーロみたいなのは好きではなかったり。

 そこら辺は彼女なりの美学というものがあるのだが、さて。

 ま、彼女も深く語る必要はないだろうとは思っている。

 

「そういう意味では、アレも多少強かな人間なのだろうなと、な。ちょっと見直しただけだよ」

「ふーん♣」

 

 ヒソカはそれをどうでもよさそうに流した。

 彼にとって玩具未満の人間など、どうでもいい話なのだろう。

 ルナールもそれを察しているので、話は続けなかった。

 

「よぉ」

 

 と、そんな中、二次試験の試験官であるダンディーが歩いてきた。

 ルナールは軽く会釈をし、ヒソカは我関せずである。

 

「ダンディーのお兄さん。非念能力者の試験とは、どんな内容だったのだ?」

 

 と、そんな中、ルナールが話をふった。

 どうやら話自体はしたかったようだ。

 

「ん? そう大きく変わりはしねえよ。ああ、最後の仕掛けがただの猛獣にはなっているがな」

 

 つまりトンパは、この世界の猛獣に値する敵と戦って、勝てるだけの戦闘力があるという訳である。

 この世界に念能力者を含めずとも超人は多いが、それでも無手に近い状態で熊クラスの獣と闘うなど冗談ではない。

 彼もまた、何かしらの武術を修めているのかもしれない。

 

「この世界の人は見かけに依らないものだな」

「13番のことか? ありゃあ確かに、ある意味で大物だな」

 

 彼は一次試験の際も、どさくさに紛れて最初のガラス玉をかすめ取っている。

 そもそも彼は10歳の頃からハンター試験を受け続け、それでありながら死んでないのである。

 その危機管理能力は特筆に値するだろう。

 一般人から見れば、彼もまた十分に超人の部類の人間なのである。

 

「小物界の大物といった所か?」

「筋は良いのによ。もったいねえこった」

 

 

 そうして飛行船は、ある片田舎に着いた。

 そこは寂れた遊園地だった。

 ポップな文字で“メルヘンランド”と書かれたそこは、かつて商業施設として繁栄していたのだろう。

 今はその面影を、豪華な設備の跡により微かに残すばかりである。

 看板は錆びつき、入場ゲートは壊れ、チラシのようなものが辺りに散らばっている。

 そのような場所ではあるが、人が多く配備され、厳重な警備がされているようであった。

 

「おーっす。未来のハンターたち!」

 

 そんな中、遊園地の入口に立つ男が一人。

 背はやや小柄だが、体格はガッシリとしている。

 赤を基調としたフルフェイスのヘルメットとライダースーツを着込んでいる。

 その声の大きさからして、服装越しにも熱量を感じるような男である。

 

「オイラはクライムハンターのイチゴウってんだー。よろしくな!」

 

 勿論、この男も数あるハンターの一人である。

 彼はハンター特権による犯罪者の取り締まり、そういった仕事を引き受けるクライムハンター。

 普段の彼はハンター同士でチームを組んでいる、というのは蛇足な情報であろうか。

 

「早速だが、三次試験の説明に入るぞー! 三次試験は“鬼ごっこ“だ!」

 

 そんな彼を察して、ルナールはなんとなく戦隊もののヒーローを思い浮かべた。

 五人組で協力して必殺技を放ったり合体ロボを作ったりしそうだなあ、なんて呑気なことを考えているのである。

 何とも夢のある話で、実際の所念能力ならそれが可能である。

 恐らく彼の仲間には、クールぶってるけど芯は熱いやつだとか、三枚目のお調子者だとかがいるのだろう。

 

「お前らを遊園地(ここ)に閉じ込める! そして24時間後に開ける! そこから1時間後までに脱出した奴が合格だ! 以上!」

 

 勿論、説明を聞くのも忘れないでいる。

 鬼ごっこと称してはあるが、捕まるなとは言っていない。

 これは、何かありそうだなとルナールは感じる。

 ある程度想像はつくし、問題はないだろうが。

 

「おいおいイチゴウ。もっと説明するべきじゃねえのか?」

「必要ないぞー! 試験はシンプルが一番だからな!」

 

 この場には、一次と二次試験の試験官たちも付いてきている。

 ダンディーはイチゴウを諌め、アンダインは我関せずといった様である。

 ハンター試験の裁量は、基本的に各試験官に委ねられている。

 試験内容は、事前にある程度決めているだろうから、他の試験官から情報が漏れることも有り得る。

 試験参加者はさらなる情報を求めて、試験官たちに期待の眼差しを送る。

 

「俺から補足しておくと、鬼どもの正体は殺人以上の罪を犯した死刑囚だ。捕まったら死ぬぜ。死ぬ気で逃げろよ?」

「おいおい。ネタバレは厳禁だぞー!」

 

 やはりか、と受験者の間がざわついた。

 名のあるハンターは犯罪者と契約を行い、己の手先として扱うこともある。

 勿論、何かあればハンターの責任にはなるのだが、この場はハンター試験である。

 犯罪者が受験者を拷問の末に殺したぐらいで、何か問題になるとは到底思えなかった。

 流石に脱走をされると困るので、この警備なのだろう。

 

「お前らは厳しすぎなんだよ。もっと人を大事にしろ」

「そういうお前は甘々だと思うぞー。これくらいできないとハンターは無理だ!」

 

 とはいえイチゴウのいう事も最もであり、ハンターならこの程度の障害など突破してもらわねば困るのだ。

 ハンターに求められるのは “強さ“であるのが風潮だ。

 そう言う意味では相手を倒せと言っていないだけ有情ですらある。

 “解体屋(バラし屋)”ジョネスレベルの犯罪者も鬼に含まれているのであろうが、それをどうにかできてこそハンターと言えよう。

 

「ま、そういうこった。試験そのものから逃げるんなら今の内だぜ?」

 

 とはいえここで引くような人間は、受験者に居なかった。

 犯罪者相手でも一歩も引かないその心構えは立派と言えよう。

 

 ただ結果的に、彼らの想定は甘かったとは言わざるを得ない。

 快楽殺人鬼が受験者の中にいて、“好きに殺しても良い状況”がどれほど致命的なのか。

 それをもっと早く、重く見るべきだったのであろう。

 

 とはいえ、これもハンター試験のあるべき姿であろうか。

 引き際を見極められない奴は死ぬ。

 ただ、それだけのことであろう。

 

**

 

 三次試験開始から数時間が経過し、ルナールは一種の違和感というものを感じていた。

 元々頭は良くないと、はっきり自覚している彼女である。

 それでも自らの念能力である、美少女転換(プリンセス・テンコウ)で頭脳強化はしている。

 同様に役立つと思い、ポイントを割り振って“直感”というものも体得している。

 冷静な頭とその直感により、何かしら自分にとって良くないことが起きていると確信していた。

 

(妙だな。出会う人が少なすぎる)

 

 彼女は鬼ごっこのセオリーは知らないが。

 リスク的には他人とつるみ、他人を囮にして鬼を撒いたりするのが基本戦術であろう。

 にも関わらず、驚くほど人と出会わないのである。

 それも、時間が経つほどである。

 あるいは気配を殺して物陰に隠れるなども良い手であろうが。

 それなら、念使いであるルナールなら居場所が分かるはずであった。

 今もオーラを広げて相手を察知できる念の応用技、“円”を用いているにも関わらず、である。

 

 ただ、この状況でも確実に言える事がある。

 試験はルナールにとって全く脅威になっていない、ということである。

 

 基本的に、念使いとそうでないものの差は激しい。

 例えゾルディック家の天才児と言えど、念を使えなければ念使いに勝つのは非常に厳しいものがある。

 つまり、いくら凶悪な犯罪者と言えど、念能力者であるルナールには相手にならない。

 同じ念能力者であったり、進んだ科学技術による搦め手であれば別だろうが。

 殺意の高いハンター試験と言えど、そこまでする理由は無いと思われる。

 念能力者の犯罪者なんぞ、ハンターといえど手に余るであろうし。

 星持ちのハンターなら管理できるだろうが、試験官がそうであるとはルナールにはそう思えない。

 

 となると、何かしらの念能力者が脅威と言えよう。

 

 この状況の原因候補としては、モブ参加者の中にいる念能力者の仕業。

 名のある者としては、“蛇使い“バーボンやポンズがそれにあたる。

 彼らは何かしらのきっかけで念を知り、目覚めたものであろう。

 とはいえ念能力者としてはかなり未熟であり、正直なところ腕前もハンター資格に適うほどのものでもない。

 そんな彼らが危険を冒してまで、事を起こす理由はあるだろうか?

 

 念能力者といえば、試験官もそうである。

 彼らがルナールを狙い撃ちにすれば、流石に苦戦は免れないと思う。

 ただ、そうする理由が分からない。

 ルナールは真っ当なハンターになりたいと公言し、その願いも手段も潔癖なはずである。

 試験官の逆鱗に触れた、という事はないはず。

 

(結局、こんなことをする奴なんて、一人しかいないのだがな)

 

 それは最初から分かっていたことである。

 脅威となる念能力者であり、試験官のように人を選別し、なおかつ自分に危害を加えるような人物。

 そんなのそうそういる訳ないので、この場に一人しかいない。

 下らない理由により、今までずっと無視してきたことである。

 

 自分の40メートル程の円に入ってきた、纏わりつくような気色悪いオーラの持ち主。

 直感が今すぐ逃げろと囁いている、そんな危険人物。

 

「や♥」

「ヒソカ?」

 

 ヒソカ・モロウ。

 彼は戦闘狂にして殺人狂。

 ルナールとしても正直、できれば試験に居て欲しくなかった人物である。

 

「何をやってる?」

「んー? 試験官ごっこ♠」

「さようで」

 

 分かりやすいぐらいに、血の匂いがする。

 そう言って、何人殺したんだコイツ。

 ルナールは嫌悪感を隠せない。

 人死はこの世界で良くあることだが、それでも嫌なものは嫌である。

 

「ほどほどにな」

 

 ルナールはしっしと手を振り、うっとおしがる。

 彼女はヒソカに対して好意的ではあるが、それは彼が強いからである。

 とはいえ、彼女にとって戦いは本意ではない。

 進んで殺人狂と戦いたいとは思わないのだ。

 

「どうした?」

「ねぇ♣ ボク、あれから我慢してたのだけど」

 

 ヒソカは立ち去ろうとしない。

 まあ、相手は拒絶したぐらいで去るような人間でないので当然だが。

 

「一旦殺し始めたら、止めきれなくなってね♦」

「ああ。なるほど」

 

 若干、諦めたようにルナールはため息をつく。

 何とも彼らしい理由である。

 好意は嬉しいが、正直歪んだ愛をこっちにぶつけてこないで欲しかった。

 

「今すぐにでも殺ろうよ♥」

 

 ルナールに吐き気を催すような殺意をぶつけてくる。

 常人なら、恐怖で発狂しそうなほど濃密だ。

 

「ああ。分かった」

 

 戦闘は本領ではないとはいえ、ルナールの身体は戦士のそれである。

 戦いに興奮を覚えないでもない。

 

「だが、互いに寸止めにしよう」

「気が向いたらね♠」

 

 それでも、ルナールは殺し合いなんぞ趣味でないのだが。

 人を殺して興奮するような性質なんぞ持ちたいとも思わない。

 彼女が好むのはスポーツ的な戦いまでなのだ。

 

(さて。覚悟はしていたつもりだが。これは不味いな)

 

 改めて相手を観察する。

 ハッキリ言って、勝ち目なんぞ一つもない。

 毒などの搦め手でも準備しておくべきだったか、と今になって後悔している。

 

 ルナールは熟練の念能力者である。

 “彼“は産まれる前から念を知っており、産まれた後は友達も作らず念能力に没頭してきた。

 習得はほぼ独学であるが、途中から念能力者の集団に所属し、研磨は欠かさなかった。

 

 修験道者(ミスティック)

 宗教に根差し、山に籠って超自然的な能力の修行に励む人。

 心源流ではないが、彼らもまた瞑想により念に目覚めし者たちである。

 それが彼女の所属する集団であり、彼女の職業であった。

 

 そうした修行の一環で、彼女は心技体を鍛えてはいる。

 だがそれでも彼女は単なる念能力者であって、戦闘の専門家ではない。

 念能力の系統的に戦闘の適正が低く、能力は戦闘に向いておらず、それ以外の能力は作っていない。

 身体は能力で戦闘に傾けているとはいえ、何もかもが不足している。

 目の前の戦闘に人生を捧げる、本物の天才の前にはあまりにも無力であった。

 

「どうした? 来ないのか?」

「先手は譲るよ♣ どこからでもどうぞ♦」

 

 とはいえ、やるしかないのだ。

 このままだと殺される可能性は非常に高い。

 が、見逃してもらえる可能性もなくはない。

 己の可能性を証明し、“戦うにはまだ早い“と思わせること。

 それがこの場に残された、唯一の可能性である。

 

「では、その言葉に甘えるとしよう」

 

 普通に戦っても、勝ち目などあるはずがない。

 だからこそ、譲られた先手が重要になってくる。

 

 ―この一撃に、全てを賭ける。

 

「最初は、グー」

 

 それは、“発”と呼べるものではない。

 単純な話利き手に、オーラを集める技術である“硬”をしただけである。

 それは彼女の強さへの憧れが作り出した、とある必殺技の、その模倣。

 つまりの所、単なる願掛けである。

 

「ジャン! ケン!」

 

 ルナールは距離を一気に詰めてくる。

 それを見てヒソカは思案する。

 この一撃を避けるのは、そう難しくはない。

 ガードしても良いし、そこから伸縮自在の愛(バンジーガム)に繋げても面白い。

 さて、どこを狙ってくる?

 

 相手の気を探る。

 ルナールはすでに、振りかぶるモーションに入っている。

 しかし、利き手に集まっているオーラが消えていることに気づく。

 では、消えたオーラはどこに?

 そう思う間もなく、ヒソカのある部分に目がけて全力の回し蹴りが放たれた。

 

「とぉおおぅ!」

 

 ミシリ、という音がヒソカの股間に響く。

 一夫多妻去勢拳と名付けられたそれは、男性にその効果を発揮する。

 つまりの所、全身全霊を込めた、ただの金的である。

 熟練の念能力者渾身の一撃により、ヒソカの身体が大きく吹っ飛んだ。

 

(や、やってない?! まさか、“硬“でガードされた?! あの一瞬で見切られた?!)

 

 しかし、吹っ飛ばした本人の顔色は優れない。

 普通の一撃なら、ガードされても可笑しくはない。

 

 しかし、身体全体を守る“堅”なら分かるが、一点で守る“硬”はあり得ない。

 しかも股間を、である。

 ただでさえ、オーラの移動技術である“流”は難しいのだ。

 それを咄嗟に、普通は鍛えない部分である己の股間に集めるなど。

 どう考えても正気の沙汰ではない。

 

「気持ち良い一撃だったよ♥ 久しぶりにドキドキしちゃった♠」

 

 吹き飛ばされた先から、平然とやってくるヒソカ。

 何とも嬉しくないことに、股間に力が入っているのが見える。

 股間に一撃を入れられれば、普通は精神的に委縮するはずである。

 それなのに、コイツは全く堪えていない。

 その事実に、ルナールは何ともげんなりする。

 

「でも、まあ♣ 君だけ一撃、ってのはフェアじゃないよね?」

 

 その言葉を聞くと、ルナールはとっさに“堅“の構えをとる。

 来るか、と思いきや。

 ヒソカは大きく後ろへ距離を取った。

 思わず相手のオーラを見極める“凝”をしたくなったが、それをする暇もないと直感により否定。

 ヒソカが構えると、一瞬の間で大きく前に加速した。

 なんてことは無い、伸縮自在の愛(バンジーガム)を地面に貼りつけておいて、そこから縮ませてバネの原理で大きな力を得たのだ。

 

(狙いは、腹か! ッ!? このまま“堅”でガードするしかない!)

 

 本来なら、“硬”でガードしなければならないのだが。

 相手はこちらに後出しジャンケンができる技量なのだ。

 “硬”だと他に弱点が出来てしまう。

 故に、このまま受けきるしかない。

 

 ヒソカ渾身の一撃により、ルナールの身体が大きく吹っ飛び、そのまま建物に激突した。

 意識が失いそうになる中、かろうじて受け身を取ることが出来た。

 しかし、こちらの身体のダメージが大きい。

 身体はかろうじて動かせるが、今ので臓器と肋骨を痛めた。

 戦闘は続けられそうにもない。

 

(こ、ここまでか。クソみたいとはいえせっかくの二度目の人生なのだから、今度こそ大学で好きなことを学びたかったのに。む、無念だ)

 

 運が悪かったといえば、運が悪かったのだろう。

 ルナールはこの世界を多少“知っていた“。

 とはいえ、ハンター試験の安全な年までは覚えていなかったのだ。

 ハンター試験を受けないという選択肢もあったが、それはできなかった。

 能力によりかつての自分というものを破壊してしまった彼女は、ハンターにでもならないと自分を証明できなかったのだから。

 他に、選択肢が思いつかなかったのだ。

 未練はあるが、後悔はない。

 

「うん♦ やっぱり良いよ、キミは♥」

 

 そんな中、ヒソカはあふれ出る殺気を霧散させていた。

 ルナールもそれを感じ取る。

 どうやら今回は、見逃してもらえるようだった。

 

「次はボクを本気で殺しに来てよ♠ せっかくのステキな能力なんだし、キミならそれもできるだろう♣」

 

 ルナールの実力を認めてくれているのだろう。

 ゴンさんのように後先を考えなければ、彼女はヒソカに届き得る。

 それを期待しているのだろう。

 

「今は、勘弁してほしい所だが。気が向いたら、な」

 

 まあ、そんな期待でもルナールは嬉しかった。

 今はやりたいことが沢山ある。

 だが、それも上手くいかないかもしれない。

 この世界は現実であり、どうしようもない苦難が沢山あるのだ。

 

 ならば戦いに戦い抜き、その中で死ぬ。

 そんな生き方も、そう悪くはないかもしれない。

 そうルナールは感じた。

 

「それと♦」

 

 連絡先をルナールに渡し、ヒソカは背を向け立ち去ろうとする。

 ふと、その前に振り返って、ある事実を指摘した。

 

「キミは下着のセンスが無いね♥ ちゃんとカワイイのを穿いて来なよ♦」

 

 戦いの中で彼女の着流しは破れ、彼女はその下着をさらしていた。

 パンツが丸見えになっているかと思いきや、そこには短めであるが色気のない、絶壁のドロワーズがあった。

 

「何だよ。いいだろ、ドロワーズ」

 



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【番外編】飛翔する論理
EX.1 念能力についての考察


おまけその1。
念能力について、主人公が原作知識を生かして駄弁るだけの話です。


 ヨルビアンにあるバージル大学。

 教養学部教室の一角で、何やら怪しげな活動を行う三人組の女学生が居た。

 

 一人は薄桜色の長髪を持つ少女。

 もう一人は銀髪で蠱惑的な身体を持つ女。

 最後の一人が黒メッシュの入った白髪の子供。

 

 彼女たちはバージル大学非公認サークル、“コスプレ同好会“の初期メンバーである。

 

「そこに、水と葉っぱの入ったコップがあるだろう? コップに手をかざして、包み込むように“練”をしてくれ」

 

 彼女たちは普段、三人でTRPGやカラオケをして学生生活を楽しんでいるのだが。

 そうした活動の中に、表には出せない裏の顔がある。

 それは、彼女たちが念能力者の小集団であるということだった。

 

「ハカセ、これは?」

 

 ハカセと呼ばれた子供が、薄桜色の少女のコップを覗き込む。

 そうして水の中に小さな結晶のようなものが、いくつも浮かんでいるのを確認した。

 

「アケボノは具現化系か」

「私は何も変わりませんが」

「じゃあ水を舐めてみてくれ」

 

 銀髪の女が左手の人差し指をコップにかすめる。

 そのままペロリと舐めると、その顔をわずかにしかめた。

 

「ちょっと、しょっぱいです」

「プリンツは変化系だね」

 

 彼女たちが何をやっているかというと、己の念系統を知る“水見式”の儀式である。

 つまりこの二人は、念の初級者であった。

 

「今の水見式の感覚を大事にしてくれ。それが真に念能力を“扱う”ことに他ならないからね。これからは発を鍛えるために、しばらくこの修行を続けて欲しい」

 

 二人を教えるのは、ハカセと呼ばれている子供。

 彼女は新人ハンター・ルナールの、学生としての姿である。

 ハンターであることを周りに公言していると面倒事に巻き込まれるので、今の彼女は能力で姿を調整しているのだ。

 

「ねえ。発って、どんなのがあるの?」

「うん?」

 

 第286回ハンター試験を合格しハンターとなったルナールは、その身分証を使いバージル大学に進学していた。

 ここに居る弟子二人とは大学で偶々知り合い、意気投合した仲である。

 そして成り行きで、美少女転換(プリンセス・テンコウ)を使う羽目になったのだ。

 

「アンタの美少女転換(プリンセス・テンコウ)とやらが発の一種だってことは理解したけど。普通はどんな“発”を作るのか知りたいのよ」

「あ、それは私も知りたいです」

 

 美少女転換(プリンセス・テンコウ)には、本人すら知らなかった特性があった。

 ある意味当然かもしれないが、非念能力者に使うと念の素質に目覚めるのである。

 彼女は目の前で生まれた念能力者を放置することができず、現在二人の指導を行っている。

 

「普通は、か。といっても私が知る“発”は普通でなかったりするのが多くてな。私が知っているのは戦闘用が多い」

「いいじゃない。アンタのことだから、強い“発“を知っているんでしょ。参考にするから教えなさいよ」

 

 彼女たちが知った“発”というのは必殺技であり、特殊能力である。

 それは男の子なら誰もが憧れる例のアレなのだ。

 キミも意味もなく、かめはめ波や波動拳の練習ぐらいするだろう?

 何の役に立つとかはどうでも良い話である。

 目の前のビックリ超人を知る二人は、自分には何ができるのだろうとワクワク感が抑えきれなかった。

 

「といってもな。基本的に念能力は目的達成のための、一つの道具でしかないと言っているだろう。どんな“発”を作るかは人それぞれだ。そこに強い弱いは存在しない」

 

 王には王の、料理人には料理人の“発”があるものだが。

 とはいえ、二人の言いたいことも分からなくはない。

 下手な知識だと、中途半端な能力を作るというのは教えたのだか。

 誰だってきちんとした例を知って、その上で最適な能力を作りたいものだ。

 

「本当なら、完成度の有無さえどうでも良い話だよ。例え失敗例とされても、大事なのは目的に適っているか、ということだから」

 

 とはいえ彼女にとって念とは一生をかけて付き合っていく道具である。

 制約を多くして性急に完成させるのも良し、制約を付けずにゆっくり育てるのも良し。

 そこら辺は人それぞれであり、どうしたものか。

 

「でも、念能力者と戦う際、どういう発があるのかは知っておく必要があると思います」

「相対する時点で十分に問題だと思うけどね。まあいいが」

 

 たしかに彼女自身は知識の上で、色々な“発”を知っているのである。

 それらの使い手は逸脱者が多く、一般の念能力者と比べても優れた物が多いのも事実だ。

 そういった知識をひらかすのも、一種の愉悦ではあるかと納得する。

 趣味は悪いが、まあいいだろう。

 

「一番分かりやすいのは強化系だね。単純に自分の身体能力や回復能力を強化する。極めきった例としては、幻影旅団のウヴォーギンの“超破壊拳(ビッグバンインパクト)”がそれに当たるな。これは単なる、小型ミサイル程の威力を持ったパンチ攻撃だ」

 

 小型ミサイル程、という事実に二人は驚く。

 十分に凄いのだが、そのことに少し困惑する。

 

「他には、同じく幻影旅団員、フィンクスの“廻天(リッパー・サイクロトロン)“みたいなのもある。こちらは腕を回した分だけ、パンチの一撃が強くなる。制約や誓約をつけることで、強化の幅を持たせているパターンだな」

「なんか、地味じゃない?」

「ま、才能があったって、念はこんなものだと思ってくれ」

 

 念能力といえど、無限に強くなるということはない。

 強くなるには修行が必要で、極めても限度がある。

 念能力はファンタジーな存在であるが、どうしようもない現実でもある。

 そのことに、彼女たちは少し落胆しているのだ。

 世の中、ラゴンボのようにはいかないのである。

 

「変化系は、自分のオーラに性質を持たせることができる。私の中では、熟練の強者(つわもの)が多い印象だね。宝石ハンターのビスケットさんは、自分のオーラを化粧品として用いることができる。幻影旅団員だとマチの“念糸”みたいなのも良いな。これはオーラを頑丈な糸に変えて操っている」

 

 念の使い道はビスケさんみたいな方がお勧めだよ、と彼女はやや興奮しながら付け加える。

 自分で生成できる化粧品なんて、便利で素敵な能力じゃないか。

 彼女も似たような能力を余裕があれば作っていたことだろう。

 

「具現化系は、オーラを物質に変える性質だ。いわゆる特殊能力が多いのがこの系統で、場合によっては反則的な便利さを持つことがある。幻影旅団員のシズクの“デメちゃん”が代表例だな。これは生きていない物なら何でも吸い込む掃除機だ。あるいはハンター・ノヴの、“四次元マンション(ハイドアンドシーク)”も便利だったな。これは能力で亜空間を作り出している」

 

 それらを聞いて、アケボノは何か思う事があるようである。

 便利と言う言葉が彼女を揺さぶっているようだった。

 一方のプリンツは、そうでもないようだったが。

 

「あと、寄生型と呼ばれる念と“除念”と呼ばれる“発“もこの系統が多い。寄生型は人に寄生して活動する特殊な生物を作り上げる。除念は除霊のように人に憑いた念を肩代わりすることができる技術だ」

 

 寄生型はともかく、除念に没頭するだけの価値があるかは知らないがね。

 除念は特に気難しいよ、そう彼女は付け加える。

 

 除念は希少で金になる技術らしいが、他人の念を肩代わりすることにそれだけの価値があるのだろうか?

 念を背負うことを回避できるかもしれないらしいが、それだってまともな手段ではなかろう。

 だって、HUNTER×HUNTERだし。

 

「特質系は。最後に回すとして。操作系は人や物を操ることができる。具現化系と同じく、極まった強化系でも良く警戒される系統だ。幻影旅団員のシャルナークの“携帯する他人の運命(ブラックボイス)”が分かりやすいな。これはアンテナを指した人間を洗脳することができる。物を操る方面なら、シーハンター・モラウの紫煙拳(ディープパープル)か? こちらはタバコの煙を自在に操っている」

 

 操作系による洗脳はメジャーで警戒されやすい。

 そうでなくとも思い入れがあるものを媒介とし、また直接戦闘に向いている訳でもない。

 露伴先生のように警戒された結果後手に回る、脆い系統であるというのがハカセの認識だ。

 

「放出系はこれもまた、ある意味で分かりやすいな。とにかくシンプルではあるが、強力な遠距離攻撃の強さが特徴だ。幻影旅団員フランクリンの俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)は良い例だな。指を切り落とし、それを銃口として念の弾丸を発射する。故に強力な遠距離攻撃が連発できるという訳だ」

 

 誓約とはいえ、普通の人間は指を銃口に改造などしないのだが。

 念は知ってさえいれば習得できるとはいえ、そこまでする人は稀であろう。

 しかし、幻影旅団の面々はまともでない世界で生き残った、まともでない者たちだ。

 フランクリンの例はその中でも極端な例だろうが、それが彼らの強さなのだろう。

 

「ああ、念をレーダーやソナーに見立てて使っている者も居るみたいだな。後は、遠隔操作の念獣だったりね。本来はそういった探索用の使い方の方がメジャーかもしれん」

 

 普通の一流ハンターや軍人であれば、攻撃より探索を優先するだろう。

 足りぬ攻撃力は、普通に銃などで補えば良いのだ。

 念使いは屈強であるが、流石にAKM辺りで撃たれればそれで死ぬのだから。

 

「最後の特質系は、まさに特筆に値する能力系統だ。能力はどれも希少で、オンリーワンばかりだ。幻影旅団長クロロの盗賊の極意(スキルハンター)は反則だな。条件はやや厳しいが、相手の“発“を盗んでものにすることができる」

「待って。いい加減、ちょっと突っ込ませて」

 

 アケボノがこめかみを抑えている。

 変なことを言っただろうかとハカセは思案しているが、これまでの説明は実際変なことばかりである。

 

「何でアンタそんなにA級犯罪者集団の能力に詳しいのよ!」

「知り合いに蜘蛛がいるからな。まあ、それ関係だと思ってくれればいい」

 

 そして、彼らの“発“は強いので。

 それで説明の上で、彼らをよく挙げているだけなのである。

 

「後はノストラードファミリーの長が、特質系の念使いという情報があるみたいだ。“天使の自動書記(ラブリーゴーストライター)”といい、未来の予測ができるらしい」

 

 今度はヤクザかよ。

 アケボノとしては、機密情報クラスの情報を垂れ流すのもいい加減にしてほしいのだが。

 止めて欲しいが、念の情報としては有用なのが困る。

 

「後は系統とは別に、系統の複合という概念があるな。これは、複数の系統を組み合わせて作っているタイプの“発”だ。こちらは種類が二つあって。一人で作るか、あるいは複数人で作るかだな」

 

 ハカセは黒板に書かれた念の六系統図の横に文字を付け加える。

 “コンボとシナジー“、そう描いた。

 

「まず、個人で複合する場合。私の“美少女転換(プリンセス・テンコウ)”は具現化系と操作系、それと変化系の複合だな。あと、ハンター協会会長ネテロの“百式観音”、これは観音像による殴打を行う能力だが、恐らく強化系と放出系の複合だろうと見てる」

 

 念使いの系統には、得意・不得意が存在する。

 ただし、一つの系統を極めればそれで良いという訳でもない。

 得意な複数の系統をバランス良く組み合わることで、“発“はまた違った姿を見せるのだ。

 

「複数人で作る場合は、相互協力(ジョイント)タイプと言うらしく、有名所の傭兵グループがこれの使い手らしい。具現化系で銃を作って、放出系の弾を使っているらしいね」

 

 特殊能力を持った銃による強力な弾丸は魅力的だね。

 お互いの強みを生かした、強い発であろうと言える。

 

「系統の複合は強力な“発”になるのだけど。その分作るのが難しいのが欠点だな。私の場合は、十五年かけて練り上げたものだし。相互協力タイプは他人に合わせる必要がある上、一人では役立たずだからな。メモリの問題は馬鹿にならない」

 

 まあ、そう美味い話ではないのだが。

 系統の複合は個人で作るには能力が複雑になり、メモリの消費も大きい。

 相互協力は互いの信頼が不可欠であり、その分覚悟もいる。

 念能力者は希少でリソースも限られているため、簡単には作れない能力のタイプである。

 

「と、ざっと私が知る念能力者の“発”を挙げてみたが。何か質問はあるか?」

 

 すると、まずアケボノが手を挙げた。

 

「気になったのだけど。具現化系と特質系の特殊能力って、どう違うの? 同じ特殊能力なら一纏まりにできないの?」

「基本的に、特質系は特質系能力者でないと覚えられない、とされている」

 

 系統的に見れば、具現化系能力者は隣り合う故に変化系と特質系も得意とされる。

 しかし実際はそうでなく、特質系はできないとまで言われる。

 これは何故か。

 

「考えられるのは、これは迷信で。具現化系は特質系もそれなりに得意だから、特殊能力がつけられる。というのが一つ」

 

 とはいえ、これはあまり信用性が無い。

 そうであるならば、操作系にも特殊能力が備わっても良いはずだからだ。

 

「もう一つは、具現化系の特殊能力と特質系の特殊能力は似て非なるものではないのか。というのが通説だ」

 

 オーラを具現化すると何故特殊能力がつくかは知らないが。

 これで一応説明はつくはずである。

 

「結局、特質系の能力は具現化系で再現できないのだろう、と私は見ている」

「どういうこと?」

「特質系は希少な系統で、個人主義者や特別な資質を持った者に現れるとされている。ここで言う資質は、例えばクルタ族の“緋の目”や、カリスマと呼ばれるものだな」

 

 少数民族クルタ族が持つ、自身を強化する緋の目。

 人の上に立ち、人を従える才能たるカリスマ。

 どれも生まれにより左右され、手に入れたくても不可能であるものだ。

 

「そういうのって、アンタの能力じゃ再現できないのね」

「そういうことさ。まあ、私が緋の眼やカリスマの原理を知らないだけかもしれないが」

 

 美少女転換(プリンセス・テンコウ)は念能力の例に漏れず、論理で構成されている。

 それ故、使い手の想像を超えるものは再現できない能力である。

 よくわからない不思議パワーで補正されるだとかは一切ないのである。

 

「私からも良いですか?」

 

 と、今まで黙っていたプリンツが自らの話を切り出した。

 

「どうぞ?」

「変化系を随分と評価しているようですけど。私にも十分可能性があるということですか?」

「そりゃ、強くなりたいならそうだろう。現に、私が知る最強の能力者の一人は変化系だからな」

 

 基本的に戦闘は強化系が有利とされている。

 とはいえそれも、工夫次第でカバーできる範囲でしかない。

 

「私から見て最強を名乗れる“発“は、強化系・ネテロ会長の“百式観音“と変化系・天空闘技場闘士ヒソカの”伸縮自在の愛(バンジーガム)“だな」

 

 戦闘用の“発“は数あれど、最強クラスなのはこの二つで間違いないであろう。

 方や世界最強と名高い達人、片や最悪の狂人(ピエロ)である。

 

「戦闘に強いとなると、鍛練を積むだとかオーラが多いとか、特殊な才能だとか色々あるだろうが。同程度の実力だと、“距離”と“タイミング”。これらに集約されることになると聞いている。そういった意味では最強の可能性があるのは、強化系と変化系、放出系、そして具現化系かな?」

「具現化系も?」

 

 具現化系は強化系との位置が遠いことから、相対的に弱いとされる系統だ。

 とはいえ、それは強化系の不得意による身体能力での話である。

 

4次元マンション(ハイドアンドシーク)が空間能力であることは説明したと思うけど。それを戦闘用に極めれば最強には食い込めるだろうね。私はメモリが足りないし、アケボノもその気はないだろうけど」

 

 具現化で作る、空間に関する能力。

 それだけのイメージが必要とはいえ、労力に見合った有用で強力な念であることは間違いない。

 瞬間移動に限っても、好きなだけ“距離“を確保できるというのは相当なアドバンテージである。

 極限まで接近してから必殺の一撃を放つも良いし、ひたすら距離を取って遠距離に徹しても良いのだ。

 

「具現化系での鎧とか、絶対的な防御力とかは違いますの?」

「それも悪いとは思わないが。念能力でそれを実現するのは不可能に近いだろうね」

 

 具現化系で武器を作る者はそれなりにいる。

 その中には最強の矛や最強の盾を作る者がいても、何もおかしな話ではない。

 とはいえ、それはあまりにも考えが浅いと言わざるを得ない。

 この世界では念で何でも切れる剣を作るより、名刀を買って強化するのが手軽で強いのだ。

 

「念能力、というよりこの世界の原則は論理だ。論理で構成されている以上、能力に欠陥はどうしても出てくる。攻略できない念能力なんて、そんなのは誇大妄想だろう。ぼくのかんがえたさいきょうの念能力ぐらい馬鹿馬鹿しい」

 

 少なくとも最強の矛と最強の盾が戦えば、どちらが勝つかは分かり切っている。

 論理が強い方が勝つ、それだけである。

 絶対の論理に隙がある方が負け、同程度なら勝負はつかないだろう。

 

「で、話を戻すけど。“百式観音”はそのリーチの長さと技の出の早さが特徴だ。制約として祈りを介在してから打撃を行うが、会長の祈りは信じられないくらい、それこそ後出しでも十分間に合う程早い。格闘ゲームで言えば、発生0Fの全画面攻撃みたいなものだ」

 

 百式観音は、最強であることを目指した念能力者がたどり着いた答えなのだろう。

 そこに研磨があり、間違いなく試行錯誤がある。

 偉大な天才により考え抜かれた念能力。

 そこには間違いなく最強の論理がある。

 

伸縮自在の愛(バンジーガム)の方は、説明していなかったかな? これは、ガムやゴムのように自由に伸び縮みしてくっつくオーラを操る能力だ」

 

 悪夢の天才、奇術師ヒソカ。

 彼もまた最強を確信し、実際それだけの実力者である。

 その念は、信じられない程コンパクトにまとめられている。

 

「それだけ聞くと。あんまり強そうには聞こえないけど」

「戦ってみれば分かるけど。アレはかなり凶悪な能力だよ。本人の性格が悪いこともあるが。結局は能力が良く練られている、ということだと思う」

 

 ヒソカの“発“は攻撃力を持たず、制約や誓約を持たない。

 しかしその分、過程に用いる道具としては変幻自在の活躍を見せる。

 

「自分にくっつけるだけで、間合いは自由自在だし。相手にくっつければ、致命的な隙を作り放題だ。ほら、強そうだろう?」

 

 それを聞く二人はやや懐疑的である。

 まあ、そうだろうなとハカセは苦笑した。

 この辺りは本人を目の前にでもしないと分からないだろう。

 

「それでは、百式観音と伸縮自在の愛(バンジーガム)。そのどちらが強いとお考えですか?」

「それはネテロ会長かな。同程度の天才であれば、より上手の方が勝つだろう。私はより経験のある会長が勝つと見ている」

 

 それでも、100%ではないだろうが。

 年齢による肉体の衰えも加味すると、絶対とは言い切れない。

 

「それに、”伸縮自在の愛(バンジーガム)“は便利だ。一方で、“百式観音“は戦う事しかできない。その差は大きいだろうね」

 

 それでも念能力に限れば、ネテロが有利ではあるのだろう。

 便利で応用も効く程度の能力と、全てを戦うことに特化した能力。

 それにヒソカは気まぐれな戦闘・殺人狂であり、ネテロは一生を武に捧げた武人である。

 戦闘に対する純度はネテロの方が上であると見ている。

 

「その理屈では結局、強化系が最強なのでは?」

「どうだろうね? でも、どの系統でも極まった“発”は十二分に強い。同程度の真っ向勝負なら強化系が一番有利というだけだろうさ」

 

 少なくともこの世に“絶対”はないのだとハカセは確信している。

 それは極小さな可能性ということもあるかもしれないが。

 自分がヒソカに勝つ可能性だとかは殆ど残されていないが、さて。

 

「“盗賊の極意(スキルハンター)”とやらは最強じゃないの?」

「あれは、最強というより万能に近い能力だろうと見てる。相手の能力を知った上で、それに対抗できる能力を盗んでいれば有利になる。そういった類の能力だな」

 

 まあ、最強や万能でも“負けない “訳じゃないだろうがね。

 生半可な使い手には負けないが、それまでだ。

 

「極まった強化系は最強かもしれない。だが、それでも“死なない”訳ではないということは念頭に置いてほしい。最強の強化系が、具現化系や操作系の“必殺“の能力に負けることは十分有り得る」

 

 戦い続ければ、いつか全てを失う日が来る。

 そもそも人間である限り、死からは逃れられない。

 勝ち続けたまま死ぬ者もいない訳ではないが、彼らはどうなるだろうね?

 

 最強のそれも、人間の範疇でしかない。

 病気や災厄に巻き込まれて死ぬことも有り得る。

 毒を盛られて、そのまま死ぬこともあるのだ。

 

「ここでちょっとした冗談だが。まあ例えば変化系で猛毒やら、放出系でスナイパーライフルだかを作って、“最強”を殺したとして。それって最強と言えるだろうかね? 私はそう思わんよ。それは殺すのに“最適“なだけだろう」

 

 少なくとも、ハカセは最強や万能にそれだけの価値を見出していないのだ。

 最強や万能に価値を見出しているなら、美少女転換(プリンセス・テンコウ)なんて作らなかった。

 当人は強さに敬意を払っているが、所詮それだけである。

 

「では、最強とは何でしょうか」

「知らん。私はそこまで興味がない」

 

 最強を目指す者は馬鹿である。

 最適を目指す者は狂人である。

 不死を目指す者は愚者である。

 

「ただ、最強というものは。念能力もそうだけど。結局、社会にはそんなに必要ないのだろう。最強や念に価値があるなら、もっと普及しているものだと思わないか?」

 

 この世の全ては無意味で無価値である。

 とはいえ、それだけの価値が“本人“にはあるのは間違いない。

 

「私の能力だってそうだ。私の能力が”必要”だと思うか? 万人にとって、美少女になることが人生にとって必要なことだと思うのかい?」

 

 美少女になる能力もそうだ。

 人が聞けば笑うだろうし、無意味で無価値なのだろう。

 だが、“彼“はそう思わなかった。

 

 それだけの話である。

 最強などというものも、同程度の物でしかない。

 

「最強というものは、“最も強い“ことに価値を見出し、それを成し遂げた者であるから最強。そういうものだと私は聞いているよ」

 

 だから、さて。

 これから未熟な二人はどう思い、何を目指すのか。

 

 興味はそこまで湧かないが、精々苦しむと良いだろう。

 




美少女てんこーは描くのが難しい…。

正直、ハンター世界は私の手に余るような。
そんな気がしてなりません。

次回はどうしよう?


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EX.2 ”発”と人生の選択

この作品における今後の予定

・287期ハンター試験編
・原作組との邂逅
・ゾルディック家編
・ヨークシンシティ編
・グリードアイランド編
・あとがきと解説

あと、それっぽい表現が出る予定なので、”ボーイズラブ”のタグを追加しました。

18/07/06追記:後書きをちょっと修正


 ハカセとアケボノの二人は、ヨルビアンのスシ・バーで夕食をとっていた。

 ハカセは日本酒をちびちび飲みながら、アケボノは緑茶を片手にそれぞれ故郷の味を楽しんでいる。

 二人の食事は寡黙であり、周りの客と比べると静かに食事をとっている。

 喋ることもあるにはあるが、それもあまり多くは無い。

 

「私も。自分の“発”を作ろうと決めたわ」

 

 そうしてぽつり、ぽつりと話題を交わしていくのだが。

 そんな中、念の修行についての話題になった。

 

「そうか。プリンツもそうだったが、思ったより大分。いや、随分と早いな」

 

 ハカセによる念の修行は、かなりハイペースで進んでいる。

 習い始めて一年も経っていないにも関わらず、二人はもう“発“を開発する段階に来ている。

 

「普通は、もっと迷っても良いのだが」

 

 普通は精孔を開くのにも半年かけて“早い”と言われるだけあるのだ。

 この結果はハカセの指導力というより、“美少女転換(プリンセス・テンコー)”の性質・効果によるものが大きかった。

 

「私も、早く一人前の念能力者になりたいのよ」

「そうか。これも、若さというものかね」

 

 ハカセにとって、二人の成長ぶりにはあきれるばかりである。

 現在の二人は持ちうる才能を、念の習得のために全振りしている状態だ。

 それはかつての自分も“発”を完成させた後に使った手法である。

 とはいえ最初に使うとここまでの効果が見込めるとは。

 彼女らは念能力者としても人としても若い段階であり、その成長はあまりに早急すぎるとすら感じる。

 

「それを私と同年代のアンタが言うの? アンタも若い内に“発”を作ったのでしょうよ」

「私は“発”に15年かけたのだと言っただろう。それに、私の場合は特別でな」

「何がよ」

 

 ハカセは、念能力者として長い時間を過ごしている。

 この世に産まれてまもなく念を身に着けるための瞑想に取り掛かり、それ以来は地道に修行を続けてきた。

 とはいえ当時はお世辞にも才能が無く、指導者も居なかったので知識の上での完全に独学であり、その時の習得のスピードはお察しであるが。

 

「詳しい話はぼかすが、私の今世は二度目の人生でね。前世の私は偶々、転生する“発”を持っていた。そう思ってくれればいい」

「ハア? それってアリなの?」

 

 アケボノが呆れて反応を返した。

 彼女が知っての通り、ハカセは色々と変な人間である。

 その上、念能力なんてものがあるので前世の存在と言われても信じることはできるが。

 それでも、極希少で規格外の存在であることは間違いない。

 念能力であれば転生を行う“発”は特質系でしか在りえないだろうし、狙って作れる能力でもないだろう。

 

「魂の存在や輪廻転生なんて、私は信じてはいないがね。ただ、この世には死者の念なんてものがあるのだ。決してあり得ない話ではないとは言っておこう」

 

 ハカセにとって、実際の転生はもっと複雑であるが。

 今世の世界が前世の世界で漫画として描かれていたなんて、怪奇極まる。

 上手く説明するのは難しいので、分かりやすい形にボカしている。

 

「運が悪ければアケボノも体験するだろう。私としては、そうならないことを願うがな」

 

 ただ転生の実例としては、この世界にも希少だが存在する。

 具体的に言うと、キメラアントに喰われることによってであったり。

 あるいは暗黒大陸関連で、他に何かあるかもしれない。

 

「で。どんな“発”を作るのだ?」

 

 ハカセの問いに少し間を置いて、アケボノは口を開いた。

 

「釣竿」

「ふむ。能力は?」

 

 “発”が釣竿となれば、具現化系で行うのだろうが。

 それを武器とは言えないが、具現化系で作るのであれば色々な可能性は見込める。

 一般に特殊能力が付くことが多いが、そこはいかに。

 

「まだ、決めてない」

 

 決めてないときたか。

 ハカセは小さくため息をつく。

 

「それはお勧めできないな」

 

 今のアケボノには迷いがあるのだろう。

 ハカセが見るに、それは修行ができるコンディションではない。

 

「特質系の“発”の発現のように、己の本能に特殊能力の選択を任す。それも一つの選択だろうが、余計な誓約が付くことが多いとされる」

 

 変化系と具現化系の修行はイメージが重要であるとされる。

 彼らはイメージを固める内に、自然とそれが“発“へと繋がるのが普通である。

 指導を受けず自然に念能力者としてなった場合に多いのだが、無意識のイメージで“発“に制限を設けてしまうことがあるのだ。

 

「制約や誓約は後付できる。己のイメージを固めてから、ゆっくり調整するのを勧めるが」

「平気よ」

 

 また、制約と誓約は簡単につけ外しできるものではない。

 仮にそうであれば、その意味合いと効果は軽く無意味なものになるからだ。

 

「多分。私は能力を決めきれない」

 

 深く沈むアメジストの目を、鮮やかなオレンジの目がとらえた。

 

「何を焦っているのだ? 私にはそれが分からないのだが」

 

 “発“は念能力の集大成であり、”発“はその人を表すとも言う。

 基本技の一つとされるが、メモリの問題もあって安易に作るものではない。

 彼女は念能力者としてまだ若い、そうハカセは判断している。

 

「アンタやプリンツみたいな変人には分からないことよ」

 

 ハカセはそれを聞いて、困って顔をしかめる。

 

「それは傷つく。私はまあ、百歩譲って良いが。いや、良くないが。それでも、プリンツの事を悪く言うのは止めてやってくれ。プリンツは、私の所為で道を踏み外しただけだ」

 

 プリンツも美少女転換(プリンセス・テンコー)を受けた人だとはいえ、ハカセの中では“かなりまとも“であるとの認識である。

 とはいえ、彼女特有の色眼鏡もあるのだが。

 

「アンタ、プリンツのこと好き過ぎよね」

「そりゃそうだろう。彼女程の魅力的な人間は、中々いないのだから」

 

 その言葉で、明らかにアケボノは不機嫌になる。

 

「とはいえ、何故焦っているかは想像つくな。プリンツへの嫉妬だろう?」

 

 似た物同士であり賢明なハカセには想像がついた。

 恐らくアケボノは、元々強く才能豊かなプリンツに嫉妬しているのだろう。

 自分でさえそうだったのだ。

 

「嫉妬するな、と私は言えたことではないのだが。隣の芝生だ。割りきるべきだろう」

 

 現に、プリンツは変化系の“発”の作成を一週間程で終えてしまった。

 念能力者としては異常なペースで、参考にすべきではないのだが。

 それを見て、焦りを感じても仕方がないとは思える。

 

「それに美少女転換(プリンセス・テンコー)を発動する前にも散々言っただろう。念もそうだが。美少女であることや才能は、必ずしも本人を幸福にするものではないとな」

 

 念能力や優れた容姿、あるいは才能。

 現代において、そのどれも生きていくために不可欠だとは言えるものでない。

 それを持てるのは、彼女たちに余裕があるからなのだろう。

 

「今のアケボノでも、一般的に天才と呼べる程の素質を引き出している。それでも、生きていくには過剰すぎる程だ。念と美と才能を得ることで思い上がったのならば、その時は流石に怒るぞ」

 

 それらを必要だと思うのは結局、本人の勘違いなのだ。

 勘違いをしたまま暴走するのは、ハカセとしても望んでいない。

 

「アンタに、何が分かるのよ」

「分からない。というのは簡単だな。こういう話はどうだろう」

 

 ひょっとするとアケボノには関係ない話かもしれないが。

 そうハカセは付け加えながら、話を続ける。

 

「至極当たり前の話で。強い雄、というものは男なら誰でも憧れる話だろう。その力を持って集団の頂点に君臨し、好きなだけ雌を抱ける、というわけだ。これはマッチョイズムだと単に割り切れる話では無かろう」

 

 ハーレムというと、人によっては感じが悪いものと捉えるかもしれないが。

 実際それを行う者はそれだけの地位や能力があり、周囲も認めていることが殆どなのである。

 周りがどうのということでもなく、カキン帝国の現王のように本人も相当な有能であることが多い。

 その場合、一夫多妻が認められなくとも近い状況を作るのは簡単であろう。

 

「だが、劣等な雄の人生とは悲惨なものだ。女性には気持ち悪がられ、満足に女性は抱けず。空想にふけながら、いくつになっても己を慰めるしかない。そんな人生はどうだろう?」

 

 では、能力に劣る雄というのはどういう生を送るのだろうか。

 大抵は弱肉強食の掟に従い、自然と命を落とすなり、集団から追いやられるのが常である。

 幸運にも、人間の現代社会は彼らに対して寛容であるようにも思える。

 それも勿論限られた、と頭はつくが。

 

「雄の劣等種としての人生は、はたして耐えられるものなのだろうか? 我慢している内に死ぬ者が多数だろうが。その中にどちらにもなれず、死にたくて仕方がないものがいても不思議ではないだろう」

 

 負けているが“生きている”ということが、彼らにはどういう意味があるのか。

 生きる意味を問う者はその中でも少数だろうが、自覚している者は何を思って何をするのだろうか。

 若いうちからの自殺、発狂、反社会的な活動。

 何を選んでも不思議ではなかろう。

 

「少なくとも、私はそんな生き方が嫌だ。それ故にこの“発”を使う者がいても、可笑しくは無いと思っている」

 

 ハカセの視線に耐えられず、アケボノは眼を逸らした。

 

「私に、何が足りないっていうの。結局、産まれが悪いの? 転生したからそう思えるの?」

 

 アケボノは俯く。

 全てを肯定する訳ではないだろうが、ハカセの言に何かしら感じるものがあるのだろうか。

 

「何が足りないのか。私が言うのは簡単だが、アケボノはそれで納得するのかね?」

 

 お前に何が足りないか、それを指摘するのは楽だろう。

 だがそうして後、当人が解決できるとも限らない。

 簡単に当人の足りないものを克服できるなら、世の中はもっと上手くいっている。

 

「とはいえ、そうだな。私に関しては、転生と念の知識に関しては反則かもしれないが。私自身、あまり重要ではないと感じている。念に関しては遅かれ早かれ、気づく奴は気づくからね」

 

 念能力者は希少であるが、存在を疑いさえすれば至る難易度はそこまで高くは無い。

 ハンター試験(世界中から参加者が集まり、毎年合格者が出るか出ないかだが)に合格すれば、プロとなる中で辿り着く。

 親が念能力者であれば、教えてもらえる可能性はある。

 ゾルディック家や一部の王族の私兵であれば、学ぶ機会はある。

 天空闘技場の200階クラスの洗礼を受ける(あるいは試合を視聴するだけでも存在を知る事はできる)。

 修験道者のような宗教的な瞑想により、身に付く可能性だって十分だ。

 

「仮にそうやって念を持ったとしても。調子に乗ったアホは死ぬだけだが。実際、私も殺されかけた事があるからな」

 

 とはいえ念を知っただけで無双できるなんぞ、夢のまた夢の話だ。

 一般人相手ではそれで良いだろうが、格上相手をどう対処するというのか。

 このことは、ハカセ(ルナール)も他人事ではなかったのだから。

 

「また、二度目の人生を送ることに、あまり期待するものではない。一度目の人生で失敗する奴が、果たして二度目で上手くいくのかね?」

 

 創作で、過去への後悔により“もしも”や人生のリセットを望む話は多いが。

 実の所はどうなるだろう。

 成功するかもしれないが、その多くは成功しないとハカセは考える。

 成功する人間は一回の人生で十分だろう。

 

「それとも、成功するまで何度でもやり直すつもりなのかね? 整形手術や、私の美少女転換(プリンセス・テンコー)のように」

 

 仮に整形手術を行ったとして、その人はその一回で満足するのだろうか。

 その一回で満足すればそれで良いのだろうが、繰り返し中毒になる人も居る。

 二人に無関係な話でもない。

 

「それは私への皮肉?」

「そして、私にも向けた戒めでもある」

 

 現に、ハカセの表情には自嘲が含まれている。

 

「なんのための容姿や才能か。真剣に考えても良いとは思うのだがね」

「アンタは答えを知っているとでも?」

 

 ハカセは無言で肩をすくめた。

 

「一人の男の話でもしようか。親は貧しくもないし優しくて、しかし男の身体は病弱で。皮膚が弱かった」

 

 聖人の遺体を巡るレースに出てくるガンマンでも思い浮かべてくれればいい。

 ハカセはそう付け加える。

 

「その世には不思議な力があり、男には相当に健康に憧れがあったが。それでも男は健康な体を求めはしなかった」

 

 この世には、科学で説明しきれない不思議な現象がある。

 例えば、意識不明の症状から奇跡的に回復するだとか。

 その大半は嘘かトリックに包まれたものだが、ごくごく一部だけは真実である。

 それにたどり着くのは非常に困難でもあるのだが。

 

「念能力だって相当の努力が必要なのは知っているだろう? 努力すれば手に入ると人は簡単に言うだろうが、誰もが相当の努力ができる訳ではない」

 

 念能力は習得にも維持にも修行が必要である。

 それを万人ができるかというと間違いなく否である。

 維持については、プロのハンターでも難しいのは余談だろうが(例:ツェズゲラ)。

 

「とはいえ、そうした努力を彼は何故しなかったのだろうね? 仮に念の存在は無くとも、他に手段はあっただろうに」

 

 世の中は努力でどうもならないことは多いが、程ほどの努力でどうにかなることも多いのだ。

 筋肉は全てを解決するという謎な言葉もあるが、それも心身の健康のためには間違いでもない。

 うつ病で医者に頼ると薬と運動を奨励されるだろうし、今のところはそれが彼らへの最善とされている。

 

「なんとも簡単な話で。男は心の底で、困ったらきっと誰かが助けてくれると思い込んでいたからな。ほどほどの努力さえすれば、どうにかできたというのに」

 

 医学が発展すれば、いずれ“全部治してもらえる”とでも思っていたのかね?

 何とも他人任せなことだ。

 

「色々と本気になれなかったのだろう。とはいえ、男はそんな自分に嫌気がさしていた」

 

 なんとも不幸なことに、その自覚はあったらしい。

 何もせず、それで終わってしまえばそれなりに幸運であっただろうに。

 

「そんなある日、男は一切合財を捨てることにした。そうして特殊能力を経由して、良い身体を手に入れようとした」

 

 捨てることにより手に入るものもある。

 タロットで死と再生が同じものとされたように。

 変わることを望んだため、男は自らの死を選んだのだ。

 

「男が捨てたものは、一般人としての幸福だ。裕福故の時間(モラトリアム)、ゲームで友達と遊ぶような、余裕の時間。そして、協力的な親という庇護。他の人から見たら、喉から手が出るほどのものだろうが、男はそれを捨てた」

 

 勿論、世の中にはそれが手に入らない人も多いのだ。

 人から見れば、幸運をドブに捨てるようなものかもしれない。

 

「結局それで得た、世間で言う特殊能力などというものも大したものではなかったが。そういうのの大半は、既存の科学技術で代用できるものでしかないからね」

 

 例えとして、念能力はその殆どが対人クラスのものである。

 大量虐殺がしたければ、念じゃなくて小型の核でも使えば良かろう。

 一流のハンターならば、手に入れるのはそう難しいことでもないだろう。

 

「私の念による“発”が引き出す素質だってそうさ。素質の有無は残酷で、凡人がいくら努力しようが、世間の天才はそれを易々と超えてみせる。この差を埋めるのが私の能力であるが」

 

 単純な話、努力する凡才は努力する天才に敵わない。

 野球選手などもそうだが、数えきれぬほどの凡才たちはそうして競争から去って行く。

 都合の良い言い訳であり、厳しい事実でもある“才能”という言葉。

 

「それだけの認識では、本物の天才にはまだ遠い。素質や才能などという言葉に囚われるようでは、見えぬものがある。私もこうなってからは、多少なりとも理解できるようになった」

 

 世の中には才能がある、腕っぷしが強い“だけ“の人間などありふれている。

 十年に一人程度の天才など腐るほど居るのだ。

 彼らが見出されたり、見出されなかったりするのは偶々であろう。

 そういった人物は世間から天才と呼ばれるが、単に運や間が良かっただけだ。

 

「さて。プリンツもある程度の可能性はあったが。ハンターで言えばジン・フリークスのような人間が、真に天才と呼ばれるべきだろう。天才とは、破壊と新しい価値の創造者だ。プロ野球選手であれば、そいつの活躍でルールが変わってしまうぐらいのね」

 

 ジン・フリークスはその社会貢献により世間も認める天才である。

 彼らの念能力がどうのこうのという必要はなかろう。

 勿論、彼らも相当の念能力使い手ではあるだろうが。

 そこはあまり重要でない。

 

「彼らは“本当に必要なもの”を持っている。彼らこそが、この世界で真に“強者“と呼ぶべきものだろう」

「それがわかっているなら、アンタの”発”でそうしなさいよ」

「それは私の能力の管轄外だな。操作系だったら可能であったろうがね」

 

 それは教育的な意味での洗脳が可能であれば、できたことではある。

 とはいえ洗脳は操作系の専門分野で、具現化系のハカセでは大変難しいのだ。

 

「少し。余計な話が過ぎたかな」

 

 今のハカセは、かなり酒が回っている。

 普段は言わないことを大分、一方的に話しているのを感じる。

 

「結局。私も色々と好きに言わせてもらったが。好きに“発“を作りたいというなら、無理に止めはしない。今は作らないのが最善と、私が思っているだけだからね。実際に最善かは、どうなるかは分からない」

 

 人生とは、果てしない選択の連続であるのだ。

 ハカセはその中で、“選べる”ことが幸福だと思っている。

 それと同時に“選ばない“ということも選択であり、一種の幸福なのかもしれないとも認めている。

 

「ただ、幸福になりたいと思うなら。あまり昔の自分に、マッチョイズムに固執しすぎない方が良いだろうな。今の私らは生物的に雌なのだから」

 

 ハカセはじっとアケボノの目を見つめる。

 

「セックスを取るか、社会的な成功をとるか。極端な話だが、恐らく人の幸福は、そのどちらかしかないと思っている。私たちのような人間が後者を取るのは、私的にはお勧めしないというだけだ」

 

 沈黙が、しばらく流れた。

 

「私は。偶に、アンタが何を言っているのか分からない時があるわ」

「それは、そうだろう」

 

 お互いに上手く理解ができればいいのだが。

 物事はそう上手くいかない。

 いくら伝えようと努力しても、伝わらない時は伝わらないのだ。

 

「それでも。それでも、私の“発“を作るのに、協力してくれる?」

 

 その言葉を聞き、ハカセはいくらか頷いた。

 

「終わるまで協力はするさ。そういう約束だからな」

「迷惑をかけるわ」

「いや、いいさ」

 

 己の想いは、上手く伝わっているかは分からない。

 それでもハカセはアケボノの態度に満足しているらしい。

 

「明日からの修行は、私のアパートで行う」

 

 となると、“発”の本格的な修行に入るのだが。

 “発“の修行は特別に苦しい。

 

「部屋を貸すから、そこで四六時中、釣竿で遊ぶ。これが修行だ」

「はぁ!? 何よ、そんなのが修行?」

「そうだ。これを実物がなくても、念で具現化するまで行う。勿論、他のものに触れることは禁止だ」

 

 他の物に触れるのも禁止ということは、テレビや漫画なども禁止である。

 食事等も最低限が望ましい。

 それがどんなに苦痛を生むのかは言うまでもない。

 

「ちなみに、期間は?」

「多分、今のままだと低く見積もっても一か月はかかるな」

「嘘でしょ」

 

 今はせっかくの休暇期間なのに。

 そうアケボノはぼやいた。

 

「ほ、他に方法はないの?」

「ないことはないが、実物に近い物を作るというなら、これがベストだそうだ」

 

 どっちにしろ、具現化するほどの強烈なイメージが必要になる。

 それを容易くできる方法はそうそうないのだ。

 

「うう。こんなことになるなら、他の系統が良かったわ」

「諦めるのだな。どのみち他の系統でも、同量の修行は必要なんだ」

 




*オリキャラ達のデータ(最終的な)*

名前:アマテル・ヒュウガ(別名ルナール、ハカセなど)
心:2 技:4 体:5 念:4 奇:3 知:5 計:23
念能力:美少女転換(プリンセス・テンコー)大物忌正餐(ちゅうしょくばんざい)

名前:ナツキ・アケボノ
心:1 技:3 体:3 念:3 奇:4 知:4 計:18
念能力:太公望伝説(すごいつりざお)不確定要素な羅針盤(きまぐれなレーダー)

名前:プリンツ・オイゲン
心:4 技:3 体:4 念:4 奇:4 知:4 計:23
念能力:自家発電(クラフトワーク)電子麻薬(フィーバー)


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EX.3 スシと釣竿

一部、アニメ版の設定を使ってます。


 第287期ハンター試験は一次試験であった”マラソン”を終え、現在二次試験の真っ最中である。

 二次試験を通過するには二人のグルメハンターからの試練を受け、合格を貰わなければならない。

 第一関門の“豚の丸焼き”を終えた受験者たちは、第二関門である“スシ”に取り掛かっている。

 

「よし、出来たぜ! 名付けてレオリオスペシャル! さぁ、食ってくれ!」

「―食えるかあ!」

 

 生の魚を混ぜ合わせたゴハンを丸めただけの“ナニカ”が宙を舞う。

 

 この世界の“スシ“は、小国の島国における民族料理である。

 ハンターの中では知識を知る者だけでもごく少数で、実物を知る者となるとジャポン出身者ぐらいだ。

 とある受験者の失言により、魚を使った料理であることが知れ渡ってしまったが。

 それでも今の所合格者は出ていない。

 そこからどうにかして合格をもぎ取らなければいけないのだが、さて。

 

 不合格者が続出する中、ジャポン出身であるナツキ・アケボノが“スシの形をしたもの”を提出した。

 

「ほー、こーいうのでいいのよ、これで。にしても海老のスシ? また難しいのを選んだわね?」

 

 それを見て、試験官であるメンチは満足そうに頷いた。

 箸でスシをつまみ、醤油をつけて一口。

 

「へえ、やるじゃない。茹で方は完璧に近いわね。でも握りは落第点って所かしら?」

 

 その様子をアケボノと、もう一人の試験官であるブハラが心配そうに見つめる。

 メンチは試験官でなく一人の料理人として来ていると公言しており、その目に適うかどうかは非常に怪しいものがあるのだ。

 スシはシンプルそうに見えるが、非常に繊細で難しい料理だ。

 試験官の裁量次第では、一人の合格者もでないことも有り得る。

 

「うーん、ちょっとは料理の心得というものを知っているみたいだけど。ジャポンのチェーン店やスーパーで売っているスシじゃないのだから、もっと丁寧に作りなさいよ。あんたのはシャリがきっちり隙間なく押し固まっていて、舌触りが悪いの。本物のスシってのは、ゴハンの中に適度に空気を含んでいて、舌の中でとろけるものなのよ。こんなのじゃ、しっかりとした店に出せないわ」

「うぅ。ごめんなさい」

 

 一流の美食家らしく、うんちくを垂れるメンチ。

 彼女の口を満足させる料理は、それこそ当人の狩りの対象である。

 

 ナツキは以前ハカセに“高い店“へ連れてもらった故に、本物のスシの味を知ってはいるのだが。

 だがそれでも、所詮知っているだけである。

 味を知っているだけでは、本物の味を作れはしない。

 

「でも。ま、いいわ。418番、合格にしてあげる」

「やった!」

 

 とはいえ、それを“一般的なハンター志望”の人間に要求するのは酷であろう。

 一応はアケボノの料理も、一般的な料理の基準としては悪くない味であったのだ。

 今の所、比較的冷静な思考を保っているメンチはアケボノに対して合格を出した。

 

(まったく。ハカセったら、私をすぐ過小評価しようとするのだから。ハンター試験なんて、案外楽勝じゃない!)

 

 一応恩人ではあるのだが、人間的にはあんまり尊敬出来ない。

 そんな自分たちの師匠の顔を、アケボノは思い浮かべた。

 

『アケボノ、今回ばかりは流石に止めるぞ』

 

 事は、修行仲間であるプリンツがハンター試験を受けようとしたことから始まる。

 アケボノがそれを察知して便乗し、それをハカセが知った形である。

 その時ハカセは呆れたような、達観した表情を浮かべていたのが印象深い。

 

『アケボノも念に関しては一人前を名乗っても良いだろうが。それでもまだ早い』

 

 既にプリンツとアケボノは念の基本技をマスターし、応用技に取り掛かっている。

 念使いとしては、初級者の域を脱したところだ。

 足りていない部分があるとすれば、それは念能力者としての人間性と言った所であろうか。

 

『ハンターはこの世で最も金になる、名誉ある仕事なのは間違いないだろう。とはいえそれは、ハンターが希少であると同時に世の中に多大な貢献をする仕事だからだ』

 

 プロのハンターは社会的な特権が認められる、非常に尊敬されるべき職業だ。

 ハンターの全てがそういう人間という訳ではないが、それでも許容されるぐらいには認められている。

 そして当然と言うべきか、プロハンターの門は非常に狭き門である。

 

『一流のハンターは、一流の念能力者であるが。その逆は成り立たない。不思議なことだがね』

 

 念能力者であれば、ハンターになるのはそう難しくは無い。

 とはいえ、全員がそういった人間の全てを歓迎する訳でもない。

 ハンター協会としても、試験を突破する“非念能力者で有能な人間”を応援することであろう。

 念は秘匿されるべきものであり、念能力者の全てが有能ではない以上、有能な人間が念能力者になることが彼らにとっては望ましいのだ。

 

『腕っぷし、ではないのよね。まさか、それって天才だけが持っているものじゃないでしょうね?』

『実のところは、そうでもないかもね。ハンターの全てが天才である必要はない。自然とハンター試験に合格するようであれば、その資格はあるだろうが。巷で売ってる攻略本にも載っているものかね』

 

 ハカセの言っていることも、理屈としては分かるのだ。

 確かにハンターになるためのハウツー本なんぞ、世間で有り触れている。

 とはいえ世間における自己啓発本がそうであるように、正しい情報が書いてあるとも限らない。

 そうした情報の中から正しい情報を見分けるのも、ハンターに必要なことであるとはアケボノにも想像つく。

 

『馬鹿にしないで。そのぐらい知っているわよ』

『本当かねぇ?』

 

 胡散臭い物でも見るような眼だ。

 その視線と言い方はとても腹立たしい。

 

『そういったことも含めて、アケボノが受験するのであれば。せめて、もう一年は待った方が良いだろうな。去年を見た私の予想だが、今年は特に荒れるぞ?』

 

 ハンター試験といえど、全てが完璧である必要はどこにもない。

 一般的な試験と同様に、全体の6割程度の成績があればそれで受かるであろう。

 とはいえ年度によって、難易度に“波“があるのは仕方ないことである。

 その年の難易度が高ければ見切りをつけ、難易度が低い年を狙うのも賢いやり方とは言える。

 

『まあ、多分言っても止まらないのだろうが。どうしてもというなら、プリンツと離れて行動するのをお勧めするよ。その方が自分の実力を正確に測れるだろうからな』

 

 アケボノは顔を露骨にしかめる。

 プリンツはアケボノから見ても優秀で、恐らくハンター試験にも合格するであろう人間だからだ。

 それ故、彼女に頼ろうとした気持ちが無い訳でもない。

 流石に自力で合格できるかは怪しいところもあり、痛い所を突かれた感触がぬぐえない。

 

『プリンツと共に行動すれば、道中は楽にはなるだろうが。それで死んでも責任は取らないぞ? 正直、今回はプリンツでも生きて帰れるか分からない』

 

 実の所、ハカセは“物真似に類する行為“の価値を認めている。

 別にハンター試験はカンニング行為を禁止している訳でもないのだし。

 そもそも他人の行いから学習できるのは有能の証である。

 ただ今回は、本人のためにはならなさそうなので止めているだけで。

 

『というかだな。正直、一緒にプリンツを止めて欲しいのだが。今年は特に危険だろうから、参加して欲しくないのだけどなあ』

 

 プリンツでも危険、というとアケボノは無視できない。

 誰だって間違いはあるとはいえ。

 今回の試験に何があるのだろうと気になった。

 

『アンタは何を知っているというのよ』

『今年の試験には、去年不合格になった殺人狂がいるだろうからね。天空闘技場の闘士、“休みがちの死神”、ヒソカさ』

 

 あの伸縮自在の愛(バンジーガム)の使い手。

 彼が真に危険なのは戦闘狂にして殺人癖のある人間だからだ。

 

『ハンターとは、何かを狩る者であるのだ。命を賭してまで欲するものがないのであれば、目指さないのが賢明だぞ』

 

 ハンターになるのは厳しい。

 そしてハンターを続けるのはもっと厳しい。

 ハンターになっても活動をしない人間がいても何ら不思議でもない。

 ハンターはなるだけでも異常に厳しいが、それだけでもリスクとリターンがある職業なのだから。

 

『アケボノには、“それ“があるのか?』

 

 

 アケボノは無理やり回想を打ち切った。

 

 全く腹立たしい事この上ない。

 特に、殆ど反論できない所が腹立たしい。

 人は正論にこそ、最も傷つけられるものなのだから。

 

「ナツキちゃん。二次試験に合格したのですね。凄いです」

「まあね! 料理は得意だもの!」

 

 プリンツがこちらに寄って、こちらを褒めてくる。

 それに無い胸を張って、アケボノは照れ笑いをする。

 ハカセもこれぐらいの気遣いができたらいいのに。

 なぜあの野郎は気遣いというものができないのだろうか。

 

「それなら、私の作ったスシを見て欲しいのですが」

「ふーん? どれどれ?」

 

 アケボノが料理の蓋を開ける。

 そこにはフレンチと見まがう物が広がっていた。

 盛り付けの小洒落た感じが、当人の教養を感じさせるのがニクイ所である。

 

「川に(マス)が居たので、ブルゴーニュ風にしてみたのですけど」

 

 “へー、アンタも料理が出来たのね”だとか、色々言いたいことはあったのだが。

 それなら、流石にこれは違うのだと思わないのだろうか。

 とても“スシ”には見えない料理を前に、アケボノは思わず頭に手をやった。

 

「アンタ、スシを知らないの? 私の故郷なら、知らない人はいないぐらい有名なのに?」

帝国(ライヒ)は米食でないですし。島国の民族料理なんて、貴族の道楽でも知りませんよぅ」

 

 これでも、プリンツは精一杯考えたのだ。

 パエリアのような料理だろうか、とも最後まで迷った。

 当人も知識をフルに使って、それっぽく工夫したつもりであったが。

 それでも全く未知の料理には辿り着けなかったようだ。

 

「仕方ないわね。私が作り方を教えるわよ」

 

 と、二人がそうしている間にも料理審査は続く。

 

 そんな中、銀髪が特徴の少年キルアはドヤ顔で料理を提出する。

 

「小エビのカクテル。マスのマリネの辛子ソース和えとライス。スシのブルゴーニュ風」

 

 それを見たメンチの顔に、青筋が立った。

 

「気色悪いわあ!」

 

 彼女は再び、料理を上へと放り投げてしまった。

 食べ物の部分が宙に高く舞い、それをメンチの後ろに居たブハラが口でパクリと頂いた。

 

「次よ次!」

「ちえっ」

 

 試験官の周囲に居た中から、奇術師ヒソカがその場を離れる。

 彼はそのまま外に出て、提出するはずだった料理を地面に置いて眺める。

 そうしてから座り込んで、川を見ながら物思いにふける。

 

 スシを目指したはずのそれは、プリンツとキルアが作ったものと同類であった。

 

 

**

 

 

 時は変わって、第四次試験。

 試験内容は孤島におけるネームプレートの奪い合いで、手段は(勿論、殺人等を含めて)問わない。

 自分とその標的のプレートが3点、他は1点、計6点で合格となる。

 

 そんな中、ナツキ・アケボノはというと。

 自らの念で作った釣竿を両手に、見えない敵に対して怯えていた。

 

「ナツキちゃん?」

「きゃあ!」

 

 ガチガチに警戒していたアケボノの背後から、プリンツがその頭に手を置いた。

 彼女は“絶“で気配を消していたため、完全に奇襲の形になってしまったようだ。

 アケボノの身体が跳ね上がった。

 

「プリンツ!? お、脅かさないでよ! 心臓が止まるかと思ったじゃない!」

「それはごめんなさい」

「電話があるんだから、あらかじめ伝えておきなさいよ!」

「え? ここ、電話繋がるのですね」

「あ。えーと。それは、知らないけど」

 

 プリンツは軽く頭を下げるが、アケボノはむっすりしたままである。

 

「でも、こうして会えて良かったです」

「それは、うん。そうね」

 

 その言葉に安心したのか、ようやく警戒を解いた。

 

「調子はどうですか」

「こっちはまだ終わってないわ」

「そうですか。私もそんな所です」

 

 アケボノは警戒して未だ攻勢に出ないでいる。

 念使いである彼女らにとって脅威は少ないが、それでも無い訳ではない。

 

「ナツキちゃんの目標の方は何方(どなた)ですか?」

「私は53番よ。ほら。弓矢持ったいかにも狩人って感じの、変な帽子の男」

「あ。それなら私が持っていますね」

 

 プリンツは自らの胸の谷間に手をやり、そこからプレートを取り出した。

 53番、アケボノのターゲットの番号である。

 

「どうぞ」

「いいの?」

「私にスシを教えてくれたお礼ですよ」

「でも、それでも合格できなかった訳だし。そもそも後から合格はできたじゃない」

「こういうのは結果の問題ではないのですよ。どうか受け取ってください」

 

 アケボノは受け取りたくはないが、こういう時のプリンツは頑固であると知っている。

 一々小言を言ってくるが話は聞いてくれるハカセより、厄介だと思うことはあったりする。

 

「わかった。受け取っておくわ」

 

 これでアケボノは終了まで逃げ切れば合格である。

 少し気が緩むのを感じる。

 

「で、アンタのターゲットは?」

「私の方は191番でした。比較的に強い御方でしたが、残念なことに念能力者ではなかったので」

 

 へー、と同意しようとする。

 

「うん?」

「どうかしました?」

「いや、なんでもない」

 

 プリンツが不思議そうに見つめる。

 何か変な感じがしたが、気のせいだろうか?

 

「この後は、どうするの?」

「他の方と合流しましょう」

「はあ? ちょっと。それ、本気?」

 

 確かに、協力し合えば成功率は上がるであろうが。

 それは互いに信用できる場合であろう。

 アケボノはそこまでコミュニケーション能力が高い訳でもない。

 

「トリックタワーで、私と一緒になった方々です。実力・人格ともに私が保証しますよ」

「でもリスクが大きすぎない? そいつ等も誰かに狙われている訳でしょ。私たちがこれ以上の冒険をする必要はあるの?」

「彼らと関わるのは、ナツキちゃんにも益がある話ですよ」

 

 アケボノは、これまでの試験中にプリンツ以外の受験生とは特に関わっていない。

 三次試験であるトリックタワーは、“太公望伝説(すごいつりざお)”をフック代わりにして、中を通らず外経由で一気にゴールしてしまった。

 その行為はメリットしかないと思っていたのだが、デメリットもあった訳だ。

 なんと、試験中は交流のチャンスなのだ。

 

 人付き合いは苦手だが、その有用性は分かっているつもりではある。

 アケボノは少し考える。

 

「ま、アンタがそういうなら。それでいいけど。で、それってどんな奴?」

「十歳くらいの子供が二人と、彼らと一緒にいた二人の青年ですね」

「ああ、あの?」

 

 ハンター試験を受けるには若すぎるであろう二人と、その知人らしき二人の姿を思い浮かべた。

 ここまで残っているからには相応の実力であるとしか分からないが。

 

「ちょっと探ってみるわ」

 

 ここでアケボノが用いるのは、彼女の具現化系の“発“である”太公望伝説(すごいつりざお)“。

 この“発“は極まった強みを持たないが、その代わりに幅広い能力の行使ができる。

 その能力の一環として、他者のオーラを受信することができる。

 気配を消している場合は分からないが、そうでなければ感知できるのだ。

 

 “円”で良いだろとは言ってはいけない。

 この方式はこれで強みがあるのだ。

 

「ごめん。やっぱり、彼らのオーラまでは覚えて、―ッ!」

 

 ぞわり、とアケボノに鳥肌が立った。

 

「ヒソカよ! あの吐き気を催す気色悪いオーラの! こっちに向かってる!」

 

 アケボノたちも、試験中に何度か見る機会はあった。

 彼女は彼と四次試験の待ち時間の際に見合わせることになり。

 その際には相手からアケボノの感じたことのない、本能的な恐怖を感じたものだ。

 

「逃げるわよ!」

「待ってください。恐らく無駄です」

「何でよ!」

「まだ終了まで、十分すぎる時間があります。その間に何度もつけ狙われてはたまりません。恐らく私たちの番号札が狙いでしょうから、ここは交渉して見逃してもらいましょう」

 

 プリンツはまあまあと諌めた。

 何しろここは狭い孤島で、試験時間も一週間と長い。

 目的の相手を探そうと思えば、何度もかち合うことも不可能でない。

 

 相手がトップクラスの念能力者であることも加味して、彼は穏当に合格してもらおうと思ったのだが。

 

「ごめんなさい。どうやら狙いは命の方みたいですね」

 

 アケボノより感受性は低いプリンツであるが。

 それでも目の前の男は交渉の余地が無いと感じざるを得ない。

 気色の悪い悪意のオーラに、獰猛な笑み。

 こちらに銃口を突き付けられたと認識するには十分だ。

 

 三人はすぐさま戦闘に入った。

 

 

 戦闘中であるが、プリンツはハカセが言っていたことを思い出す。

 彼女曰く、“強さというものは産まれながらの才能と、ほんの少しの努力で決まる”のだそうだ。

 世界一賢い人間であっても、スーパーマンの前では人間にとっての世界一賢いシロアリと変わらない、とのこと。

 人間の天才が努力し続けると拳は音速を超えるらしいが、彼女にとっては大した事ではないらしい。

 彼女にとっての勝利とは戦略と戦術の話であり、勝利した事を“強さ”とは捉えていないのだ。

 

「くくく。イイよ、キミたち♥」

「それはどうも、です!」

 

 強さにおいてヒソカとプリンツは、やや互角と言えた。

 どちらも最高クラスの天才であり、性差と積み重ねた努力の量でヒソカが有利である。

 ヒソカがストレートに殺しに来ている以上、これだけだとヒソカの勝利となるだろうが。

 

 プリンツの後衛にはアケボノがいる。

 彼女は二人と比べるとあらゆる面で一回り劣っているが。

 それでも十分な援護ができる程度ではある。

 故に、この場の戦闘において互いに均衡が取れていた。

 

「全く、油断も隙もありませんね」

「へえ、よくできました♦」

 

 プリンツは手にした“念で作ったレイピア”で、ヒソカの“伸縮自在の愛(バンジーガム)”を断ち切った。

 ゴムのように伸びる見えないオーラを彼女につけたようだが、それを見切った形である。

 

 プリンツの“自家発電(クラフトワーク)”。

 自らのオーラを瞬間接着剤に変える、変化系の“発”である。

 そのオーラは任意のタイミングで十分な強度を持った固形となり、あらゆる物体をくっつける。

 

「良い能力だけど、ボクのと似ているね♣ やっぱり、ボクたちってどこかで惹かれあっているのかな?」

「さあ? どうでしょう?」

「それとも、キミたちの方が予めボクを知っているとか、かな♠」

 

 アケボノがピクリと反応した。

 プリンツはポーカーフェイスを貫いていたが、種がバレてしまった。

 

「多分。“デザイン“からして、キミたちの師匠はルナールだろう?」

「そんな人は知りません」

「うんうん、彼女って姿・名前を変えるのが好きだからねえ♥」

「―あの人、強い人が好き過ぎませんか?」

 

 プリンツが呆れて呟いた。

 姿を変える“美少女転換(プリンセス・テンコー)”は、その制約から人に知られるほど効果とリスクが増す能力である。

 それ故に、能力を知らせる人間は十分に選ぶべきであろう。

 それなのにこんな殺人癖のある変態に知らせているとは、馬鹿じゃなかろうか。

 何故、追跡される可能性のある人間に追跡を撒ける能力をバラすのか。

 好きな人に自分を知ってほしいという女心は分かるのだが、節度というものがないのだろうか。

 

「やっぱり、彼女は残しておいて正解だった♦」

 

 ヒソカがプリンツの目の前を離れ、大きく踏み込む。

 狙いは、今ので精神的に動揺しているアケボノ。

 

「!?」

 

 しかし、踏み込んだ先から足が動かない。

 “凝”をすると、プリンツのオーラで固定されている。

 どうやら罠に嵌められたのは、ヒソカの方らしい。

 前進した勢いを殺しきれず、思わず前につんのめる。

 

「やはりというか、こちらの攻撃は通りませんか。流石に練度不足ですね」

 

 その隙をプリンツは見逃さなかったが。

 突き刺そうとしたレイピアは、根元からポッキリ折れてしまった。

 どうやら“硬”でガードされたらしい。

 こちらの攻撃は通らないようだ。

 

「ナツキちゃん」

「う、うん。分かった」

 

 アケボノが“太公望伝説(すごいつりざお)”の釣糸でヒソカを縛り上げる。

 二人の念で拘束されているので、ヒソカは全く動くことができないはずだ。

 

「そのまま縛っておいてくださいね。せっかく殺人鬼を捕まえたのですから、この場で始末しましょう」

「アンタ。まさか、殺すの? 何も殺す必要は、それは、あるかもしれないけど。攻撃が通じないのに、どうやって殺すってのよ」

「大丈夫です。全て私が責任を取りますので」

 

 プリンツはその場で口にしなかったが、人を殺す手段など幾らでもある。

 例え、それが極まった強化系であろうと。

 彼女が選ぶのは、窒息死だ。

 彼女の自家発電(クラフトワーク)で口を塞いでしまえば、それで息の根は止まる。

 

「―ッ!」

 

 アケボノは能力を維持しつつ、ヒソカから眼をそむけていたのだが。

 彼から急に邪悪なオーラをぶつけられたことから、思わず彼を見た。

 

「ひ。あ」

「ナツキちゃん!? 逃げて!」

 

 ヒソカはアケボノを笑顔で見つめていた。

 丁度良い獲物を見つけたというより、女として舐めまわされる感触を覚える。

 股間をギンギンに滾らせていて、服には染みができている。

 

「や、やああ」

 

 ヒソカには、こちらを害することなどできないはずである。

 丈夫な念の糸で雁字搦めにされているのもあるが、もう手段は残っていないはずなのだ。

 自分たちは彼のまだ使っていない念能力も把握していて、それはこの場で役に立たないはずだ。

 

 なのに、何故?

 どうして、こんなにもこの“男”が怖いのか?

 

「う。おええええ!」

 

 極度の緊張に耐えきれず、アケボノはその場で吐いてしまった。

 同時に彼女の釣竿が粉々に折れ、釣糸も消え去ってしまった。

 念能力の出来は、その時の精神状態に左右される。

 彼女の“発“が、彼女の精神を忠実に再現した結果だった。

 

「ッ!」

 

 プリンツはとっさに距離を取るが。

 アケボノから解放されたヒソカが、何かハンカチのようなものを投げつけた。

 それを見た彼女が思わず“それ”を視認した瞬間、彼女の動きが止まった。

 

「え?」

 

 それはエロ漫画の一ページだった。

 ジャポンアニメ調の美少女が(しかも何故かプリンツに極めて酷似している)、何か竿状のものを咥えようとしている。

 何故この場面で“それ“が出てくるのだ。

 彼が普段からそんなものを持ち歩くはずがないだろうし、あまりに脈絡が無さすぎる。

 そうしてハンカチがプリンツの顔に張り付いた。

 

「わ、私の顔に!? あ、くっついて離れない!」

 

 プリンツが“それ”を理解した時にはもう遅い。

 ヒソカのもう一つの“発”である、薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)

 物体の表面にオーラを貼りつけることで、表面を偽装する能力である。

 彼はハンカチにエロ漫画を貼りつけることで、彼女の意表を突いたのだった。

 

「ちょ、やめて! あ?」

 

 ヒソカの投げた数枚のトランプが、プリンツの顔に突き刺さる。

 彼女はそのまま後ろのめりに倒れ、動かなくなった。

 それに伴って、ヒソカの足元の罠も解除された。

 

「や、やめて。ぶ、ぶたないで。良い子に、してるから」

「―?」

 

 怯えるアケボノを前に、ヒソカは別の方向を向いている。

 彼の胸に着けていた、ナンバープレートが消えていた。

 

 それはヒソカがプリンツにトランプを投げつける瞬間。

 どこからともなく釣り針が飛来し、ヒソカのプレートをかっさらっていったのだ。

 勿論アケボノの仕業ではなく、この試験における“もう一人の釣竿の使い手”の行動である。

 

「名残惜しいけど。また今度ね、二人とも♥」

 

 そういってヒソカは釣り針の飛来した方向に向かい、去って行った。

 彼の興味はそちらに移ったのだろう。

 

 幸運なことに、どうやら見逃されたようだった。

 

「プ、プリンツ? ねえ。ア、アンタが死ぬなんて、嘘よね?」

 

 アケボノが足を震わせながら、倒れたプリンツに話しかける。

 

「死んでいませんよ。私、流石にこんな死に方、嫌ですって」

 

 プリンツの顔には、トランプが突き刺さっているが。

 それは深くない所で止まっている。

 彼女は体内のオーラを固形化することで、何とか致命傷を避けたのであった。

 

「こういう時、女って不利ですよねぇ」

「うわああん! プリンツゥ! アンタが生きててよかったあ!」

 

 この後二人は無事、試験に合格しましたとさ。

 




今後の展開についてですが、”原作キャラ死亡”の表現があります。
多分、ヨークシン辺りに。

ご注意ください。


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EX.4 原作組とプリンツの思惑

テンポ悪いのは嫌だから、不要だと思った部分はカットしてますけど。
それだとブツ切りっぽくなってしまう。
難しいな。


 ハカセはアパートの一室で、パソコンを前にレポートを書いている。

 パソコンは最新鋭のデスクトップPC(なんとWin98搭載!)で、時代を先取りし過ぎたデュアルモニターを取り入れている。

 片方の画面は書きかけのレポートを映し、もう片方は一時停止されたゲーム画面を映している。

 

 ハカセは大学生として、ありえない程裕福な部類である。

 ハンター証で学費は免除され、今の所お金にも時間にも困っていない。

 授業はそれなりに厳しいが、真面目に取り組んでいる御蔭で十分についていけている。

 

 偶にはウェイ共の祭りに参加したりもするし、そうでなくとも心の知れた友人たちとの時間もある。

 とはいえ、その友人たちは現在ハンター試験へと向かってしまっているのだが。

 

 彼女たちとの関係は、まあ悪い物ではなかったのに。

 まったく、惜しい人間を亡くしたものだと思ってしまう。

 まだ亡くなってはいないが、ハカセは悲観的である。

 生存は絶望に近い。

 

 かわいい熊柄のマグカップに入った、ブラックコーヒーで一服する。

 するとインターホンが鳴り、来客を知らせる。

 モニターを見ると、見慣れた銀髪女の姿が写っていた。

 

「ただいまです」

「お帰り」

 

 ドアを開けると、友人であるプリンツがそこに居た。

 そしてその後ろからひょっこりと、同じく友人であるアケボノが姿を現した。

 

「うん? 意外だな。二人とも生きて帰ってくるとは思わなかったな」

「そうね。お蔭様で、本気で死ぬかと思ったわ」

 

 アケボノは殺気交じりにハカセを睨みつけた。

 それに対して、ハカセは首をかしげる。

 

「何を怒っているのだ? 今回のハンター試験は危険だと言ったはずなのだが。実際その通りだったのだろう?」

「ちゃんと伝えなさいよ! あの変態ピエロ、すっごく怖かったのだから!」

 

 アケボノは危険性を知っていた。

 そして知ってはいたが、理解しているわけではない。

 話を良く聞かなかったアケボノも悪いが、その原因の一端がハカセにもあるのは確かだろう。

 

「そうだな。私も本気で止めなかったのは認めるよ」

「はあ!? なんでよ!」

「まあ、結局の所。二人が殺されたのならば、それまでの人間だったということだと。そう思ってだな」

「ふざけんじゃないわよ!」

 

 一体人の命を何だと思っているのだろうか。

 幾らなんでも扱いの悪さに文句の一つも言いたくなる。

 

「ちょっと、プリンツ。アンタも被害者でしょ! アンタの方からも何か言いなさいよ!」

「そうですね」

 

 プリンツは大人しく頷いた。

 ハカセから見れば、当人は本気で同意しているつもりはなさそうだったが。

 

「ハカセ。ナツキちゃんは、ひどい目にあったことを共感して欲しいだけなのです」

「それは知っている。で、二人は合格したのか?」

「ええ、合格しました」

「それは凄いな。私も教えた甲斐があったものだ」

「都合の良い事ばっかり言って!」

 

 アケボノはいい加減、我慢の限界だった。

 自分たちに非があるのは明らかであるし、理解している。

 それでも目の前の悪人を非難せずにはいられなかった。

 

「アンタは正しくなんかない! 正しい事ばかり言って、アンタ自身はちっとも正しくないじゃない!」

「それはそうだろう。アケボノには、私がマウントの取りたがりにでも見えるのか? 私は正しい事を言いたいだけで、正しさには興味が無いのでな」

「な!」

 

 ハカセは何を当然、と言わんばかりに返す。

 アケボノは思わず口を開け閉めした。

 

「アンタ、絶対頭おかしいわよ。頭のネジが数本抜けているんじゃないの?」

「む。その暴言は流石に怒るぞ。前世と今世の父親と同じことを言いおって」

 

 二人のオーラが膨れ上がる。

 床に落ちている塵や木の葉が辺りを舞う。

 まさに一触即発、キャットファイト間違いなし。

 

 そんな状況の中、プリンツは二人に向けて空手チョップをかました。

 念も纏っていない一撃であり、痛くはない。

 しかし、その効力は十分である。

 

「はいはい、そこまでです。お客さんの目の前ですから、喧嘩は止めましょうね」

 

 二人から少し離れた所に、プリンツたちがハンター試験で出会った四人の若者がいた。

 野性味を感じる黒髪の少年、生意気さを感じる銀髪の少年、スーツにサングラスを付けた黒髪の青年、民族風の金髪の青年。

 アケボノは未だにハカセを睨みつけているが、ハカセの視線は四人に注がれている。

 

「今日は。帰るわ」

 

 アケボノはそう言って、早足で通路を駆け抜けていってしまった。

 

「ふむ。意外だよな。私たちはヒソカに出会いながら、三人とも合格してしまうとは。偶然としては出来過ぎのような気もするが」

 

 ハカセはアケボノの後ろ姿を見ながら考えにふける。

 自分がヒソカに見逃されたのは偶々だと思っていたが。

 偶然も三回続けば必然、という言葉が思い浮かぶ。

 

「しかし、いいのか? アケボノを一人にして」

「今は一人にさせておくべきでしょうね」

「それは本気で思っているのか? まあ、プリンツがそれでいいのなら気にしないが」

 

 ハカセは自分がひどいことを言った自覚はあるし、プリンツがアケボノの傍に居てやったほうがいいとは思っているが。

 彼女にとっては、こっちの方が楽しいからなのだろうか。

 何となくだが、そう感じた。

 

「それを言うなら、ハカセはナツキちゃんに厳しすぎませんか?」

「アケボノには一回脅されているからなあ。一応気を回してはいるが、良い感情を抱けと言うのには無理がある」

「女の子にもそうですが、オタクやナードへは優しく接するものですよ」

「まあ、そうだろうな。天才同士で争うより、格下相手から搾取する方が楽だものな」

「理解はできる発言ですが。私としてはその意見に同意致しかねます」

 

 二人で視線を合わせて話し合う。

 その間四人はおいてけぼりである。

 見かねた金髪の青年が、わざと咳払いをした。

 

「ああ、ごめん。待たせたね。こんにちは、私がプリンツたちの師であるハカセさ」

 

 丁寧ではあるが、無表情でハカセは礼をする。

 顔のパーツは非常に整っているのだが、一切笑っていないので人形と話している印象を与える。

 因みに怒っているとかは一切なく、彼女はこれがデフォルトなのである。

 

「お、おう。よろしく。俺はレオリオだ」

「私はクラピカだ」

「オレはゴン! よろしくね!」

「うむ、よろしく」

 

 キルアは警戒していのか、返事を返さない。

 それでもハカセは気にせず、会話を続ける。

 

「こんな成りだが、今は大学生をやっているよ。専門は宗教学。非公式だが念についても教えている」

「大学生、か。失礼だが、師を名乗るには若すぎるようにも思えるのだが」

「うむ。大学とは教育機関であるべきだろう? 学生の身分で実践を行うことも、教育の一環だろうさ」

 

 私に関しては、見た目は詐欺していると思ってくれ。

 そうハカセは付け加える。

 人に教えることができる程度には歳を重ねているつもりなのだ。

 

「とはいえ、私の教えは殆ど我流だがね。まあ、立ち話も何だ。中に入ってくれ」

 

 そのアパートの一室は、そんなに広くは無い。

 とはいえ、一人暮らしには十分すぎるだろう。

 部屋は清潔に保たれているが、特徴となる私物が少ない。

 精々、シックな量産品の家具を使っていることぐらいが特徴である。

 若者というより、落ち着いた大人の部屋と言うべきか。

 

「皆、コーヒーで良いか? この家にミルクはないが。良い蜂蜜ならあるよ」

 

 そんな部屋の中、壁に飾ってある道化師の絵が異彩を放っている。

 自然とその場の面子はその絵に注目する。

 

「へえ。意外といい趣味してんじゃん」

「おお。その絵の良さが分かるのか」

「恐らくアウトサイダー・アートに属するものと見たが。何か特別な価値があるものなのか?」

 

 アクリルの絵は、パーティで風船を配る道化師を描いたものだ。

 その絵は特筆すべき技法はないが、見ているだけで不安にさせるものがある。

 絵画自身が、念か何かのエネルギーを発しているのだろうか?

 プリンツが見るに、念がこもっている訳ではないようだが。

 

「その絵は、ヨークシンで“マーダーサーカス”と呼ばれた連続殺人鬼の描いた絵でね。私の初(ハント)で手に入れたものさ。手に入れる際に、彼の絵をこの世から抹消しようとする団体と激しくやりあったものだよ」

「私とナツキちゃんは、この絵を隠してって常日頃から言っているのですけどねー」

 

 その場の面々に微妙な空気が流れる。

 ピエロで殺人鬼と言うと、ハンター試験で出会った危険人物を嫌でも思い浮かべざるを得ないからだ。

 

「でだ、私に何の用かな。どういう事情があったのか、教えてもらえないかな?」

「はい。では、私の方から―」

 

 プリンツはハンター試験で起きたことを話し始めた。

 トリックタワーで試験を共にしたこと。

 不可抗力で念についてヒントを与えてしまい、試験後に皆から追求を受けたこと。

 そして、“うっかり“ハカセの能力について言及してしまったことを話した。

 

「プリンツ? 私はプリンツだけは違うと信じていたのに。皆、私のことを何だと思っているのだ」

「そのことは御自身の胸に手を当てて貰えば良いかと」

「いや、わからん…」

 

 ハカセは頭を抱えた。

 念について情報を漏らしたのはまあ良い。

 彼らならどうせ、遅かれ早かれ知ることになるのだから。

 だが、自分の事を”教えた”のは全く意図が分からない。

 

「とはいえ、彼らを連れてきたのは不満でしたか?」

「こうなったのは正直予想外だったが。納得はできる」

 

 プリンツのやらんとしていることは分からんでもない。

 間違いなく、その四人組は良くも悪くも有望だろうからだ。

 あとは、ハカセの持つ知識の有効活用というのもあるのだろう。

 それを悪用すれば、色々なことができる(かもしれない)。

 ハカセにはそのつもりがないのだが、しようと思うのは自然だろう。

 

「だがな、行動を起こす前に私に相談ぐらいしてくれないか」

「今度から気を付けます」

 

 とはいえ、博士はゴン達とその関連人物に関わることを今まで避けてきたのだ。

 ヒソカのことを知っていれば第286回ハンター試験も受けなかった(試験回数については、そこまで記憶できなかった)。

 その気があれば、ハンター試験を共に受けようとしたであろう。

 

「全く。知らぬ所で私の能力について話されるのは、あまりにも気分が悪いのだというに。何をもって話そうと思ったのか」

「有望ですからね。この子たち」

「それは見れば分かる。だが、問題はそこではないだろう」

 

 “美少女転換(プリンセス・テンコー)”は他人にも使うことがある。

 使う事はできるが、本人はまず使いたがらないので誓約やらを重くしている。

 本人にとっては能力を他人に使うことがリスクであり、デメリットであるからだ。

 

「基本的に、私は弟子等をとるつもりが無い。私の能力は有益だろうが、その分危険だ。基本的に、能力を自分以外に使う気は一切ない。例え、それが私の同類だろうとな」

「でも、念は教えるのですよね」

「今回ばかりはね。私の方から念の指導者を紹介しよう」

 

 ハカセが居なくとも、彼らは優れた指導者に出会った事だろう。

 自分が教える必要性を感じない。

 おもいっきり他人に任せることにした。

 

「結局教えねーのかよ。つっかえねー。アンタ、それでも教育者か?」

「良き教育者がヤル気のある人間である必要はないのさ。こういうのは指導力のある人間に教わるのが一番だよ」

 

 元々、ハカセも自身の指導力に自信がある訳ではない。

 アケボノにも指摘されたように、基本の人間力が足りていないのだ。

 彼らは非凡故に指導は楽だろうが、それでも進んで関わりたいとは思わなかった。

 

「彼らに念を使わないのですか」

「ないな。逆に聞くが、どうしてそう思うのだ?」

 

 念によるショックで念を教える方法は、その方法がどうであれリスクもそれなりに大きい。

 そして子供二人の方をぐるりと向いた。

 

「まず、二人は論外だ。彼らに手を出したら、親御さん達に顔向けできん」

「親は関係ねーだろ」

「いや、そうでもない。君らはゾルディックとフリークスの子だろう?」

「な!」

 

 二人の親は良くも悪くも有名だ。

 とはいえ、その子供であると一目で見抜かれたのは驚きだろう。

 何せ、自分たちは初対面なのだから。

 

「ジンのことを知ってるの?」

「ああ。私も彼の世話になった一人さ」

「すごいや! ねえ、どんな人だった?」

「魅力的な人だよ。私もなんとか彼にもう一度会って、お礼をしたい所であるな」

 

 珍しいことにハカセの顔が緩む。

 ジンのことを誰かと話して分かり合えるのが楽しいのだった。

 

「他の二人はどうなのですか?」

「もう二人か」

 

 脱線しかけた話をプリンツが戻す。

 話を遮られたことで若干ハカセは不機嫌そうだ。

 

「レオリオの方は、そうだな。見た感じ、専門こそ違うが同業者(がくせい)だろう? 念より他にやるべきことがあるように思えるのだが」

「―おう。医者を目指している」

「まずはソッチを頑張りなよ。念はそれからでも遅くは無いさ」

 

 ハカセは学に拘る故、学ぶことを軽視していない。

 医者を目指すのも一流の念能力者を目指すのも、生半可な修行では完成しないのだ。

 そして、どっちが大切かと聞かれれば彼女は学問を迷わず取るだろう。

 この世には念能力より大切なことなど沢山あるのだから。

 

「クラピカは。まあ、単に使う理由が無いな」

 

 断る理由が無いからする、というのではない。

 彼女としては、賛同できる理由がないからしないのだ。

 どこまでも彼女は自身の利用に消極的だった。

 

「私からすれば。彼(かどうかは判別できませんが)は“こっち“に引き入れるべきだと思うのですよねー」

「今だに意図がつかめないのだが。それはどうしてだ? いい加減教えてくれ」

「私、“蜘蛛”を狩ろうと思っているのですよ」

 

 その言葉で、ハカセを中心に部屋の温度が下がった。

 

「正気か? いや、おそらく本気で言っているのだろうが」

 

 無表情のまま、ハカセは頭を右手でかいた。

 その顔にはわずかな納得と諦めが感じられる。

 

「実の所、勝算はどのくらいだと思いで?」

「不可能ではない。一人か二人程度を殺す程度であれば、今のプリンツでも可能ですらある」

 

 “蜘蛛”と称し称される、A級犯罪者集団である幻影旅団。

 全員が熟練の念能力者であり、その影響力は大手マフィアにも劣らないだろう。

 とはいえ団員の役割というのもあり、全員が“強い”という訳でもない。

 

「しかし。それでも分の悪い賭けだな。個人レベルで相手をするには大きすぎる相手だよ。私は賭けようと思わんな」

 

 これまで国やハンターが下手に手を出さなかったのは理由があるのだ。

 集団レベルでも不味い相手であるので、個人もそう相手にはできない。

 ハンターが討伐に成功したならば、プロとして大変な名誉となるのは間違いないが。

 

「構いませんよ。賭けを(ベット)するのは私とクラピカですから」

「ふん。二人を情報で援助しておいて、“私は無関係です“なんて言える訳ないだろうに」

 

 ハカセは思わず、ため息をついた。

 最も関わりたくない相手と、こうして関わることになるとは。

 やはり人生、何が起こるかはてんで分からない。

 

「まあ、いい。いや、良くないが。後で手伝って貰うからな」

「ありがとうございます」

 

 二人は良い感じにまとまっているが。

 クラピカはそれに不満を感じた。

 自らの味方は闇雲に増えれば良いと言うものでもない故に。

 

「感謝したい所なのだが。私としては、蜘蛛に関しては中途半端に手伝える問題でもないと思っている。君にはその覚悟があるのか?」

「勿論、良くない。私に、そんな覚悟はできないからな。だが、やるしかないだろう」

 

 相手はハカセにとって、一番嫌なタイプの敵である。

 無法者であり、実力もバックもあるとは最悪だ。

 とはいえ、後ろ向きのまま対処するつもりではあるのだ。

 

「そういう自分はどうなのだ? クルタ族の唯一の生き残りさん」

 

 その言葉を口にした瞬間、ハカセに鋭い殺気が向けられた。

 自分でも何を言っているのか理解はしていたが、殺気に顔をしかめてしまった。

 

「どこで、それを知った?」

「一応、私もハンターだからね。ああ、生物学的に“緋の眼“について少し気になっただけだ。死んだもの、芸術品としては興味がないから安心していい」

 

 クルタ族の緋の眼は、その美しさから闇市場で高額で取引されている。

 故に蜘蛛に狙われ、クラピカを除いて滅亡した経緯を持つ。

 自分が狩りの対象と見られることは、どうであれ不快にしか感じないだろう。

 

「幻影旅団がクルタ族を滅ぼしたのは知っているし、クラピカがそれに復讐しようとも知っている。私はそれを止めるつもりはない。むしろ支援しても良いぐらいさ」

「嬢ちゃんは、それでいいのかよ?」

「復讐は良くないし、私刑(リンチ)は良くない。それでも、止まらないのだろう? そういうものであると、私は理解しているつもりだよ」

 

 それに、私も駆除はすべきだと感じているから。

 手を出したくなかっただけで。

 そうハカセは付け加える。

 

「ただ。これは完全に興味本位の質問なのだが」

 

 彼女は隠された緋の眼をじっと見つめる。

 

「別の選択肢はなかったのかと疑問に思ってね。クラピカは一族の復興だとかを望まないのか?」

 

 復讐は甘美であり、身を滅ぼすだけの価値は“ある”。

 だが、世間的に推奨される事でもない。

 他に代案があるならそっちでも良いのではと、彼女は思ってしまった。

 

「あ、ああ。そうするさ。それは、全てが終わった後でだが」

「ハカセ」

「すまない。凄く無神経な質問だった」

 

 クラピカのクールな顔が明らかに動揺している。

 プリンツが責めることで、ハカセは素直に謝った。

 

「言い訳になるのだが。私には誰かに復讐しようという熱意が無いのでな。つまらぬ嫉妬だと思ってくれ。本当にすまなかった」

 

 クラピカはこれまで復讐の為に、ハンターに成るほどの努力をしてきたのだろう。

 それを軽々しい気持ちで扱うのは大変失礼である。

 復讐を止めろと言うのは簡単だが、当人はそう簡単に止めれるものではない。

 

「あー。とはいえ、私の“発“を使うとしてもだ。私がどこまでクラピカの素質を引き出せるかは分からないな。パッと見た感じだと、もう十分だとは思うのだが」

 

 何回でも言うがハカセは慎重派である。

 能力を使うにあたっても、事前の吟味は怠らない。

 

「一回、“大物忌正餐(ちゅうしょくばんざい)”を使うか?」

 

 その名前を聞いたプリンツは、分かりやすく表情を変えた。

 いつも強かにしている当人には珍しいことで、とても不愉快そうである。

 

「あの。“美少女転換(プリンセス・テンコー)”で、どうにかならないのですか?」

「それでも出来るは出来るのだが。そっちは一旦解析しだしたら、途中でキャンセルが効かないのでな。使っておいて、“才能が十分に割り振られています”だったら不味いだろう?」

「それでも、嫌な物は嫌なのですが」

 

 この流れは、それまで静観していたゴンの興味を引いたようだった。

 

「プリンツさんは、その能力が嫌いなの?」

「ええ。個人的に嫌な思い出がある能力なのですよ」

「プリンツさんも大変だね」

 

 ヒソカに殺されかけても割とケロっとしていた彼女を嫌がらせた能力とは。

 ゴンは傷を抉ることはしないが、共感を示さずにいられなかった。

 

「念能力者は、個人によって異なる“特殊能力“を持っているが。私の“大物忌正餐(ちゅうしょくばんざい)”もそうだ。主である能力の、そこから派生した能力である」

 

 “美少女転換(プリンセス・テンコー)”は複雑さと系統により、かなりのメモリを食う能力である。

 現に作った段階で、ハカセの“発“における容量(メモリ)は殆ど残っていなかった。

 そんな状況からでも作れる“発”は自然と既存のものの発展とならざるを得なかった。

 

「能力は簡単。人間の肉体を食べることで、その人物の情報を読み取ることができるというものだ」

 

 これと類似する能力は、賞金首ハンターにして賞金首ビノールトの“切り裂き美容師(シザーハンズ)”。

 あちらは鋏で切り取った髪を食べることで相手を知るが。

 “大物忌正餐(ちゅうしょくばんざい)”は、対象がハカセに対して“礼”を示さなければならないという制約がある。

 

「悪趣味―」

「その反応はやめてくれ。私も望んで能力を得た訳ではないのだから」

 

 勿論、これは特質系の能力である。

 彼女も偶然に近い形でこれを得たのだ。

 “美少女転換(プリンセス・テンコー)”が身体の解析をしつつ発動する能力でもあるため、そこから発展した形なのだろうが。

 

「待て。私は念について教わるつもりではあるが、君の能力を受け入れるとは言っていないのだよ」

「それでもいいが。復讐するか否か、どっちを選ぶにしろ私を有効活用するのがいいかもしれんよ」

「どういうことだ?」

 

 消極的な姿勢だが、ハカセは積極的にアドバイスする。

 

「正直に言うとだ。パッと見た感じであるが、私を頼らずとも“蜘蛛“に刃は届くだろうと思っている。私は人をより強くはできるが、それまでだからね。アケボノやプリンツにも再三言っていることだが。この世で必要とされるのは強さでなく、強かさであると思っている」

 

 強さも強かさもクラピカはいずれ持つことになるであろう。

 強かさの方は日常でも邪魔にならないだろうが、強さはどうだろうか。

 

「強さを得たとしても、それが社会で生きていくときに邪魔になることもあるだろう。復讐に身を投じるのもいいが、それはより良く生きる手段であって欲しいものだ。復讐のせいで人生を台無しにしては、本末転倒だろうね」

 

 復讐は必ずしも人生に必要ではない。

 故郷を滅ぼされて嘆くのも人間だが。

 滅ぼされた後に再建しようとするのも人間だろう。

 復讐はいわば、心の決着をつける行為ではなかろうか。

 

「ああ。クルタ族を止める、という選択肢もあるな。私ならそれができるよ」

「な! 何を言っているのか分かっているのか!」

「侮蔑された、と思うなら謝るが。人によってはだが、そっちの方が“生きやすい”のではないかと思っていてね。生まれが当人にとって負担である、という話もあるだろうさ」

 

 ハカセはキルアの方を見つめながら、そう話す。

 見つめられた本人は凄く微妙そうだ。

 彼は“生まれた家“を負担に感じている故に。

 

「この件に関して、私は強制しない。私は有効活用してもらっても構わない。選択する権利は君にある。好きに決めると良い」

 

 やや自棄になりながら、決断を委ねた。

 さて、彼はどういう選択をするのだろうか。

 

「ところでハカセ。私、顔に傷を負ったのですけど。できれば早く治して貰いたいのですが」

「うん? わかった。じゃあ、そっちを先にしようか」



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EX.5 狐による豚の批評

 ゴン達とプリンツ達一行(但しアケボノを除く)は、飛行船を利用してパドギア共和国を目指している。

 目的地はククルーマウンテンにある、伝説の暗殺者一家ゾルディック家。

 そこは国の有名な観光地であり、たどり着くことに関しては全然難しい事ではない。

 

 キルアは試験前に家出をしていた故それを実家に謝りに行くつもりであり、ゴン達はそれに付き添う形である。

 プリンツたちは幻影旅団討伐に向けて、暗殺の依頼に行くつもりであった。

 

 ハカセ曰く、幻影旅団とゾルディック家は個人的な繋がりがあり、彼らが暗殺の依頼を頼むことも十分考えられるとのこと。

 それを防ぐために、討伐には彼らをこちらが先に依頼しておこうという訳だ。

 敵に回るであろう難敵を予めこちらの味方にしておく、まさに理想的な作戦であろう。

 

 因みに、依頼金はプリンツがポケットマネーから出すそうだ。

 一旦用意したのは、1000億ジェニー。

 金額が足りているかは気になるところだが、キルアに聞くと恐らくこれで足りるとのこと。

 詳しい雇用形態などは、現地で交渉することになるだろう。

 

 とはいえ、1000億ジェニーは大金である。

 この場の者達が持つハンター証も、正しく売れば100億くらいは手に入るとはいえ。

 それでも、莫大な価値を持つ物の10倍である。

 流石にプリンツも今の自分が使える殆どを投入しているそうだが。

 あまりの金額の多さに、クラピカたちが困惑を示した所。

 

『お金自体に価値がある訳ではありませんので。それに、ちょっと頭を使えば集まりますから』

 

 ということで、半ば強引に納得させたのである。

 それにゴンは眼を輝かせ、レオリオは唖然とした表情を見せたのが印象深いだろうか。

 それと、何でハンターやってんだという突っ込みも入った。

 

 

「悪名高い幻影旅団と言えど、全滅させる手段は確かにある」

 

 クラピカ・プリンツ・ルナールの三人は飛行船のVIPルームで話をしていた。

 この部屋はハンター証を利用して貸し切ったものであり、秘密の話をするにはもってこいだ。

 

「彼らは強い。しかし、戦略級に“強い“と言えるのは団長のクロロ、ウヴォーギン、そしてヒソカの三人だけだ。そして彼らですらも生物の範疇を出ない。毒などで簡単に死ぬ」

 

 その中で、ハンター・ルナールへと名と姿を変えたハカセが、幻影旅団について解説を行っている。

 幻影旅団は凶悪な犯罪者集団であり、誰も手が出せないでいる。

 とはいえ、別に倒す方法が無いわけではないはずである。

 

「一番手っ取り早いのは、小型の核を使うことだな。携帯性に優れる“貧者の薔薇”を用意して、奴らが集まっている所に神風特攻。これなら準備も容易だし、確実に殺すことができる」

 

 貧者の薔薇は、小型でありながら高性能の爆弾だ。

 その効果は人間が生み出しておきながら悪魔的ですらある。

 国際条約で使用が禁止された現在でも、非正規の劣化コピー品が紛争地帯で使われることもある代物である。

 危険性から入手は困難であるが、希少な物を手に入れてこそハンターであろう。

 

「それは確実だろうが。私の望むやり方ではない」

「ふむ? それはどうしてだ。どうしても殺したいのだろう? 命を惜しんでいるようには見えないが」

 

 とても、“復讐はより良き人生のために”と言っていた者の発言とは思えない。

 思わずクラピカは顔をしかめる。

 

「私は旅団刺し違えてでも殺すつもりではある。しかし、だからといって自殺願望がある訳ではない」

「同感ですね。自らの死に備えるのは当然ですが、戦に負ける前提で挑むのは論外です」

「それもそうか」

 

 プリンツ・クラピカ共に危険は承知している。

 とはいえ、これは二人にとって活路を開くための活動なのだ。

 自暴自棄でも、後を誰かに託したい事柄でもない。

 

「なら、別の人間を利用するのはどうだ? 一般人に爆弾を埋め込んで操作するとか。その方向だと。旅団の中でも殺しやすい奴を殺してから、死体を操作するのが良さそうだな」

 

 その言葉で、二人の視線が責めるものへと変わった。

 

「本気で言っているのか?」

 

 自爆テロについてはまだ分かる。

 現代戦の中でも対処が難しく、大国を未だに悩ます戦術だからだ。

 だが人間爆弾は、あまりにあんまりすぎる。

 外道を討つために外道に堕ちてどうすると言うのか。

 

「待て。二人とも、そんな目で見るのは分かるのだが。相手は最悪これぐらいのことをしてくるのだぞ(多分、今は“神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)人間の証明(オーダースタンプ)番いの破壊者(サンアンドムーン)”のコンボはできないと思うが)」

 

 言うまでもなく、幻影旅団は犯罪者集団である。

 基本的な性質が盗賊であり、存在そのものが悪である。

 そして必要とあれば外道な手段をもためらわない。

 

「ハカセ。流石に引きますよ。貴女は悪人とは言え、そこまで卑劣な人ではないと思っていましたのに」

「決して褒められることでもないが、私は卑怯者だよ。とはいえ、勝ちに徹すれば卑劣になるだけだ。最終手段ぐらいに考えてくれ」

 

 勝利とは輝かしいものであるのは間違いないのだが。

 しかし、貪欲に勝利を求める姿は卑しく汚らしい。

 それは誇り高い二人にとって、とても許容できるものではない。

 

「一応、そもそもだが。これは私の発案ではない。故郷の有名な忍者が考えた術をそのまま使っただけだよ」

「に、忍者とは恐ろしい集団なのだな」

 

 二人の頭に、ハンター試験で会ったハゲ頭の忍者の姿が思い浮かんだ。

 いざとなれば、彼もそんな手段を取ることがあるのだろう。

 

「最終手段とはいえ。核は不味いでしょうね」

「プリンツ達がそうしたいなら、それでも良いのは良いのだが」

 

 二人に責められているが、ルナールは少し不満そうである。

 勿論、自身の発言のアレさを自覚している上の態度だが。

 

「核の何が駄目なのだ?」

「まず人に使うのが倫理的に駄目ですね」

 

 コンピューターゲームではないのだから、核兵器はむやみやたらに使ってはいけないのだ。

 CPUや人間以外に使うのであればともかく、仮にハンターだとしても使用責任を問われるのは間違いない。

 

「私は手段を選んでいる場合でないのだが」

 

 ルナールは基本、自他共に認める悪人である。

 とはいえヒソカのように喜んで悪に走る人間でも、蜘蛛のように悪に生きる人間ではない。

 ルールを守って戦うのはルールを守っても勝てるからであり、ルールを守らないのは守っていると勝てないからだ。

 

「私たちは手段を選ばないといけないのですよ。そうですよね?」

「ああ。私はこの手で蜘蛛を始末するつもりだ」

「そうか」

 

 クラピカは過去との決着のため、プリンツは己の名誉の為に幻影旅団と戦う。

 それはルナールにも理解できることであり、眩しくもあるのだが。

 

(全く。具現化系にとっては、“原作“を知っているのも考え物だな)

 

 ルナールにとって、“殺せない人間“とは”殺すだけの価値がない人間“だと考える。

 彼女にとって幻影旅団は“殺すだけの価値がない人間”であったのだ。

 そして、一般的にもそのはずである。

 この辺りは、彼らはどうするのだろうか。

 

(その姿勢は好ましくあるのだが、正々堂々正面からの殺り方か。無い訳ではないだろうが、さて?)

 

 

 一方その頃、ゴンたちはというと。

 窓付きの客室で、ゆったりと空の船旅を楽しんでいるのである。

 クラピカたちの計画は未だ多くは定まってない故、彼らは彼らの時間を過ごしているのだった。

 

「アイツ。なんか、アニキに似てるよな」

「うーん? 言われてみれば、それもそうだね」

 

 レオリオは手持ちの参考書を読んでいて、子供二人は雑談に興じていたのだが。

 そんな中、二人はハカセ(ルナール)の話題になった。

 その話題は、レオリオの興味を引いた。

 

「イルミのヤローか?」

「そっちもそうだけど。あのアニキとオレの間に、もう一人アニキがいるんだよ。そいつもパソコンなんかで遊ぶヤツでさ。オレはブタくんって呼んでるんだけど」

「へー」

 

 公式的には、ゾルディック家には当主夫妻と5人の子供がいるとされる。

 彼らとキルアとの関係は存在し、特別仲が悪いわけでもない。

 長男のイルミは無慈悲な暗殺機械を思わせる一方で、次男のミルキは世間一般的で言う所のオタクである。

 

「ふむ? それは褒め言葉なのか侮蔑なのか、にわかに判別し難いが。私はキキョウさん似ということなのかな?」

 

 綺麗だが抑揚のない声が聞こえる。

 皆が扉の方を向くと、黒髪狐耳の少女が立っていた。

 

「げ」

「ハカセさん!」

「今はルナールだが。まあ、頓着はする必要はないか」

 

 ハカセと呼ばれていた時は、マセた子供の服装をしていたが。

 今は背丈の短い死装束に、黒のサイハイソックスと登山ブーツである。

 

「クラピカ達と話をしているのではなかったのか?」

「そっちは抜けてきた」

「抜けてきたって、重要な話じゃないのか?」

 

 服のガードは堅いが、肉付きの良さは明らかである。

 レオリオが目の置場に困りながらも、ちゃんと人の眼を見ながら話をする。

 

「私は十分に役目を果たした。あの二人は“出来る人間“だし。私は肩身が狭いのだ」

「そ、そうか」

 

 能力も含めて(感性はともかく)人を見る目はあるルナール。

 そんな彼女の自己評価は低めである。

 もっと言えば自分に厳しく、他人にもやや厳しいと言った所である。

 

「でだ、念についてまだ教えることはしないが。聞きたいことがあるなら何でも聞いていいぞ」

「ウザい」

 

 そして、彼女に対する四人組の評価はというと。

 肯定的なのがゴン、中立なのがレオリオ、否定的なのがキルアとクラピカであった。

 

「うむ。これは確かに、ゾルティック家の子供の中でも有望であるな」

(そーいう所がオフクロたちとソックリなんだよなー)

 

 こちらが嫌っているのに好意的なのが理解できない。

 多分腹を刺しても、立派になって嬉しいとか言いそうな感じである。

 

「ハカセさんは色々知っているんだよね。ゾルディック家のことも詳しいの?」

「確実にキルアには負けるがな。地元住民より詳しかったり、詳しくなかったり。といった所だろうかねー」

 

 ルナールが露骨にキルアを見る。

 キルアは不機嫌に眼を逸らした。

 

「ゾルディック家の情報は、高額で取引されていると聞くが。一応、喋っていいのか?」

 

 流石に伝説ほどの価値がある訳ではないが、それでも個人情報である。

 そのぐらいの配慮は彼女もするのであった。

 

「別にいいけど。そもそも何でブタくんやオフクロのこと知ってんの?」

「私の由来故、だとだけ言っておくよ。私は変な豆知識に詳しいのだ」

「ふーん?」

 

 適当なことを言って濁した。

 嘘は言っていないし、そもそも相手は信用しないだろう。

 

「キキョウさんについてはあまり知らないが。ミルキの方は、優秀なエンジニアだと聞いているよ。アケボノ辺りとは良い話が出来ただろうね。でもまあ、普通は伝説の暗殺者一家の所に行きたくはないだろうな。普通なら」

 

 ルナールは一応、アケボノに一緒に来るか誘ってはみたが普通に断られている。

 ハンター試験の件で懲りたようで、ルナールとしては満足だ。

 

「嬢ちゃんもそうなのか?」

「私か? 私は結構楽しみだぞ。サインとか貰えないかな?」

 

 すると狐耳が張ると同時に、彼女の眼の色が目に見えて変わっていく。

 漆黒により隠されていた渦の紋様が浮かび上がる。

 そして何より、その眼は“緋色”をしていた。

 

「む。思ったよりコレ、制御が難しいぞ。後でサングラスでも買っておかないと危ないな」

「あー。俺のでよければ貸そうか?」

「ありがとう。流石に気遣いが上手いな」

 

 これぞルナールの新しい切り札、“緋の眼のコピー”である。

 “大物忌正餐(ちゅうしょくばんざい)”によりクラピカを解析した結果、“美少女転換《プリンセス・テンコー》”で緋の眼を再現できるようになったのだ。

 ただし、使っても特質系にはならず、強化系へとなるだけだが。

 

「アニキたちからは流石に無理だろ」

 

 と、そんな中。

 サインについてキルアがポツリと呟いた。

 

「まあ、そうだろうね。彼らは私との相性は悪そうだからな」

「ん? そうかー?」

 

 人を選び、また人を選ぶ人間であるルナールである。

 人に好かれなくても仕方ないとは納得しているが。

 キルアの発言につっかかりを覚えた。

 

「うん? そうか? って。イルミの方ではないだろうな。ミルキと私が、気が合うと思うのか?」

「違うの? パソコンとかアニメとか好きなんだろ?」

「いや私は別に、パソコンもアニメも、そこまで好きって訳ではないのだが。むしろ、そういうのはアケボノが好きだからな。二人ほど私は興味がある訳ではないだろうな」

 

 本人も言っているように、“美少女転換《プリンセス・テンコー》”等は当人の“そっちの趣味”が由来である。

 それ故に、それなりに造形は深い。

 とはいえ本人からしては、それに対する愛が深い訳ではないとの認識だ。

 

「でも、パソコンはどうなんだ?」

「私に染みついた習慣、私がエンジニアだった名残だ。好きでやっていることではない」

 

 良くも悪くも多かれ少なかれ、念はその人を表す。

 パソコンと性転換、宗教と人間観察。

 具現化系と特質系の才。

 それが彼女の全てだと言ってもいい。

 しかし、それをどう解釈するかについては軽率に判断しても良いものだろうか。

 

「私と彼について、何か勘違いしていないか? 私が変態であることは認めるが、所謂オタクではないのだぞ。私はギークかコンピューターマニアと分類すべきではないのか?」

「わかんねーよ。オタクと変態とどう違うんだ?」

 

 その言葉を前に、ルナールの顔と狐耳が少々ゆがむ。

 相変わらず出来の良い人形のようだが、そこには何故か滑稽さが感じられる。

 

「私は構わないが。それ、ミルキが聞いたら多分怒るな。オタクだから犯罪者って言っているようなものだろう」

 

 まあ実際、美少女フィギュアを集める人間はキモイのかもしれない。

 その辺り、オタクは自覚もしている節もあるのだが。

 とはいえ、それを正面から言えばキレられても仕方はあるまい。

 相手は暗殺者だけに、最悪殺しに来る。

 

「ハカセさんは犯罪者じゃないと思うよ」

「ありがとう、ゴンさん」

 

 ゴンの言葉で、ルナールの眼がわずかに緋に染まる。

 だが、すぐに漆黒へと戻った。

 

「ただ、そうでなくとも私は悪人なんだよ」

 

 周囲は彼女の行いを悪として、本人もそれを認める所である。

 尊敬する者の慰めがあっても、そこだけは変われないのだ。

 

「犯罪者が空想の世界にのめり込むのは容易い。何故なら、彼らの望む世界がそこにあるからだ」

 

 例えば、猟奇殺人鬼が創作ものの殺人を見れば、それなりに喜ぶことだろう。

 イメージは膨らむし、実行にも移しやすくなる。

 とはいえ、そういった創作物は一般的に“一般向け“のものなのだ。

 別に殺人鬼向けとして作っている訳ではない。

 

「だが逆は成り立たない。空想の世界を愛するから、必ず犯罪者になる訳ではない。―いや、うん。この話はやめようか」

 

 ルナールはそこで話を打ち切った。

 恐らく、この場の者に歓迎されるとは思えなかった故に。

 ゴンはハテナを頭に浮かべている。

 

「ともかく。ミルキが好きなのは二次元の美少女なの。現実のじゃないの。そして、私も二次元の美少女はそこそこ好きな程度だし、現実のもそこそこ好きな程度なの」

「何が違うんだよ」

「むう。そう言われると、難しい所だな」

 

 そこら辺は彼らに理解できるかは難しい所である。

 彼女が感じるに、文化や思想の違いも感じる所はあるのだ。

 

「ミルキと私とでは決定的に違うものが二つあると見ている。一つは社会的な成功、もう一つはオタク趣味の重みだな」

 

 そもそも、彼女は他人と分かり合える能力が低いのだが。

 とはいえ求められれば対応はするのである。

 

「彼の暗殺者としての技量は知らないが、技術者としては間違いなく優秀だろう? 多分彼も周囲も、そのことに誇りを持ってるはずだよ。違うかな?」

「それは、そうだけどよー」

 

 今更であるが、ミルキ・ゾルディックは天才である。

 ただし、それは暗殺者としてのものではないのだが。

 道具を作り出すことでサポートを行い、暗殺家業に貢献をしているのだ。

 

「嬢ちゃんは違うのか?」

「私も、かつて二流の工学屋ではあったけどね。だが成りたくてなった訳ではない。周りの期待に応えただけだし、心底後悔もしたものだ」

 

 ルナールも念能力に組み込むぐらいには、電子機器に思い入れはある。

 かつての自分はその手の仕事に就いていたこともある。

 とはいえ、それが幸運ではあっても幸せではなかったとも思っている。

 

「そして、彼はかなりのコレクターだと聞いている。君らも私の部屋を見たことだろう?」

「アンタも十分オタクじゃねーの?」

「世間的には、そうなのだろうけどな」

 

 一般的に、“オタク”という言葉が通じるのである。

 ナードやギークという言葉もあるのはあるのだが。

 ここら辺は、どうしても“日本らしさ”を感じる。

 

「“そこそこ以上のオタク“から見たら、私は”ヌルい“のだよ。私はオタク趣味に金と時間をかけている訳でもないのでな。そして変態となると、見下すしかないだろう」

 

 この時代におけるオタクへの風当たりは強い。

 そしてこの時代はまだ、オタクの純度が高かった時代でもある。

 そんな彼らだからこそ、プライドというものもあるだろう。

 基本的に彼らは異物を歓迎しないのである。

 

「えー。共通する趣味がなくたって仲良くすることはできるよ?」

「同じ趣味を持った人間でしか仲良くできないのは変だよなー?」

「そこに関しては同感だな」

 

 子供二人は産まれも育ちも違うし出会って間もないが、それでも十分に友達である。

 そしてルナールとしても、同じ種類の人間が仲良くなるとは限らないのも承知である。

 

「とはいえ、誰とでも御互い仲良くする必要は無いだろうさ。ヒソカと仲良くしろと言われても困るだろう?」

 

 殆どの者が友達百人を実践する訳ではあるまい。

 仲良くできる人間とだけ仲良くして、後は適当にするのが賢かろう。

 

「別にいいけどさー。アニキのこと、けなしてんの?」

「うん? 敬意は払っているのだが」

 

 何となく、キルアはルナールにつっかかるものを感じた。

 自分も一つ上の兄に対する扱いは悪いが、家族以外にそれをされるのはムカツクのである。

 

「似たようなことはアケボノにも良く言われるが。ひょっとしてそうなもしれんな。この辺りは今一つ自信がない」

 

 ルナールは耳をへたらせる。

 彼女は非常識であるが世間知らずでなく、それを悪いとは思っているらしい。

 

「あー。彼はある程度満足もしているのかもしれんが、現状に不満はあると言うのもあり得るのか? “現状を変える必要性が無い”し、“異なる人間と分かり合う必要が無い”。とでも思っていたが。これは大きいかもしれん。ここは確かに、私の偏見かもしれない」

 

 医者などの専門家になる程、人のことを軽々しく判断しないものだ。

 尤も、彼女としてはそれが決して“悪”だとも思っていないのだが。

 学説として、差別をしたがるのは単に頭が悪いからであるというのが通説である。

 

「そうだな、これも話しておくか。少し話は変わるが、“女装”の類というものについてはどう思う?」

「興味ねーよ」

「そうだろうな」

 

 普通、女装に興味があるかと言われて“興味がある”とは答えない。

 勿論、これはちょっとしたジャブである。

 

「では、これならどうだろう。君の兄がすると思うか?」

 

 その言葉に、ちょっとキルアは考えこむ。

 自身より下の兄弟たちの影がチラついた。

 

「いや。流石に、しないんじゃね?」

「そう思うか。うむ。多分そうだろうな。私もそう思うぞ」

 

 女装に手を出すとなると、家族会議になっても何ら可笑しくない。

 人によっては、オタク趣味に嵌まるより重大に受け止める。

 周りは何があったのかと確実に聞くことになるだろう。

 

「女装の類を、個人の文化的な趣味とするのは簡単だろうが。それに生物的な意味があるのであれば、それは何だろう」

 

 女装が趣味だから、と言ってしまえば納得するしかないだろう。

 そういう人間がいたとしても、普通はそういうものだと納得するしかないのだ。

 とはいえ、それは答えになっていない。

 

 子供二人が答えに窮する中、レオリオが考え出した。

 

「えーと。女の子と仲良くなれる、とか?」

「だろうな。オネエとか草食系男子とかを思い浮かべて貰えば良い」

 

 オネエも草食系も男から気味悪がられる存在ではあるが、女性には好感とされる。

 女にとっては、女心を理解し共感されているというのは心地良いようだ。

 

「サルの中には雄同士の競争に負けた雄が、雌を真似て尻を赤くして雌に近づくという戦略をとるものもいる。これには、頂点の雄に追い払われなくなる、という効果もあるようだが」

 

 生物学的に言えば、雄が雌と交わろうとするのは自然である。

 特定の猿だけでなく、昆虫にも見られる現象だったり。

 彼らの戦略は、極端に言ってしまえばモテたいからなのだ。

 

「嬢ちゃんもそうだと?」

 

 あまり良い問いかけではないとは分かっているが。

 彼女の事情を聞いていたレオリオは、そう問わずにはいられなかった。

 

「私はその戦略が失敗だと思っているがな」

 

 ルナールは、そっぽを向いた。

 何ともなさそうな顔をしているが。

 どこまでが本当か、あるいは本気なのかは判別しにくい。

 

「色々と話がすぎたか。今更であるが、あまり私のいう事を鵜呑みにするのは勧めないよ。私の話は冗談半分程度に受け取ってもらえれば、それで良いのだ」

 

 じゃあ、何故ぺらぺらと話しているのだろうか。

 そもそも自分たちにそこまで話をするのはどうなのだ。

 ゴンはそこまで気にしてなさそうだが。

 

「結局の所。彼が私を下に見るだろうということと、私も仲良くするつもりが無いのが痛いな。仲良くはできんよ」

「そう悲観的になる必要はないと思いますが」

 

 ルナールの肩に、綺麗な手がおかれる。

 振り向くと、プリンツとクラピカの二人がいつの間にか立っていた。

 

「げ」

「全く。いつまで手洗いをしているつもりだ?」

 

 抜け出したまま戻らないルナールを見かねて、二人はここに来たのだ。

 言うまでもないが、二人とも怒っている。

 

「さ。部屋に戻りますよ」

「私がまだ必要なのか?」

「全く、何が嫌なのですか」

 

 こちらは大事な話をしているというのに。

 何故こうも抜け出そうとするのか。

 ルナールも理解しているはずであるのに、そこが理解に苦しい所である。

 

「お前らは出来る人間だろう。私のような人間は使い捨てる程だろうよう」

「貴女は自己評価が低すぎて困りますね。人間性はともかく、私は念能力者としてのハカセの能力を評価しているというのに」

 

 その姿は卑屈である。

 能力を評価されても、彼女は嬉しそうでない。

 

「IQが高くても人間性が低いと死にたくなるんだよ」

「良いのですよ。人間によって得意なことは違うのですから。さ、大人しく活躍しましょうねー」

「たすけてー」

 

 二人に引きずられながら、ルナールは三人に手を伸ばした。

 

 勿論、その手が届く事はないのであった。

 



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EX6. ヨークシン編(ダイジェスト版) 前編

長くなったので、ヨークシン編は二つに分割します。
予定通り後二話で終わらせます。その代わりに設定集の一部を後書きのオマケとして付け加えてます。

あとプリンツの使われない方の能力について、より良い名称が見つかったので一部変更してます。展開に支障はありません。


*ちょっとだけ天空闘技場編*


「ふむ? ゴン達の指導をするのに抵抗がある、と?」
「ええ」

「それは困ったな。彼らには、ちゃんとした指導者に基礎を教わって欲しい所なのだが」

「理由を聞いても良いだろうか? アポ無しで頼んだことは悪いと思っているが。それだけではないのだろう」

「あの子たちは、才能があり過ぎる。貴女も知っての通り、念は容易く悪用できる危険な技術です」
「ゴンたちの将来を恐れているのか。眠れる獅子を起こすべきか、否か」

「それなら仕方がないな。私が教えるか」
「え?」

「貴女は、それでいいのですか?」
「約束してしまったからな。私は約束を守る女だ。貴方が教えないなら、私が教えるしかなかろう」

「それとも、習得するのが念ではなければ良いのか?」
「それは」
「犯罪者にアニメだろうがスポーツだろうが、何を持たせようと結果は変わらんと思うのは私だけか?」

「弟子がどうなるのか、気にし過ぎるのも悪いと思うぞ。なるようにしかならんよ」
「誰もがそう、割り切れる訳ではありませんよ」

「わかりました。私が責任をもって教えましょう」
「ん。ありがとう。私も無茶を言ったものだな」


(まあ、ウィングさんの懸念も非常に最もであるのだが。何しろ、ゾルディック家随一の天才に“ゴンさん”だからな。本当に同情するよ)




 VIPルームに戻ったルナール・プリンツ・クラピカの三人であるが。

 そのまま会議続行とはいかなかった。

 当然であるが、クラピカはルナールに対して怒っている。

 

「大事な話の途中で抜けるとは、何を考えているのだ?」

「申し訳ない」

 

 未だルナールは連れ戻されたことで、少しだけ不服そうである。

 とはいえ自分が悪いとは思っているらしく、正座で二人に向き合っている。

 

「大事なのは分かっているが、やりたくなかったのだ。二人程、私はこの計画を重視していないとはいえ。いささか軽率すぎたとも思っている。許して欲しいとは思わないが。誠意は見せるべきであった。本当に申し訳ない」

 

 臆することなく、やる気の無さを再び公言する。

 自らの行動を全然反省していないに等しい。

 クラピカは怒りを通り越して眩暈を覚えた。

 

「本当に大丈夫なのか?」

 

 ここまでやる気が無いのは清々しいぐらいだ。

 非常に不安を覚えずに居られない。

 実績を出してなければ、この場から叩き出している所だ。

 プリンツについてはあまり心配していないとはいえ。

 こんなやる気の無い人間を仲間にしておいて、大丈夫なのだろうか。

 

「うん? それは大丈夫だろう。私なんかが本気にならなくとも、幻影旅団は滅ぶさ」

 

 ルナールは手をヒラヒラとさせ、気安く頷いた。

 基本やる気の無い彼女ではあるが、蜘蛛の滅亡に関しては確信の色が見えていた。

 

「そもそも百年も経てば、大抵の人も組織も滅んでいるものだ」

「それは違うと思うのだが」

 

 企業は設立から20年もすると1%も残らないと言われている。

 国家も絶えず変わり替えするものであり、永遠と続く集団は無いのが常である。

 とはいえ、これはそういう問題ではない。

 

「百年後に蜘蛛が滅んでも、私に意味はないだろう」

「結構大事なことだと思うのだが。まあ、クラピカの考えも尤もであるし。この辺りは私と二人との思考の違いかね」

 

 集団が永遠でないことは、クラピカやプリンツにとって幻影旅団を放置する理由とならない。

 クラピカにとっては、故郷を滅ぼした憎き犯罪者集団が現存していることに我慢がならない。

 プリンツにとっては、犯罪者を自分が討つからこそ価値がある。

 長い時間経過で自然消滅したところで、二人がハイそうですかと納得はしないだろう。

 

「ところで、プリンツ。二人でどこまで計画は進まったのだろうか」

「未だ、いくつかの案を考えている最中ですね。大した案はありませんよ」

 

 ルナールに評価されている二人であるが、二人とも幻影旅団のことを詳しく知ったのは極最近のことなのだ。

 幻影旅団をかねてから追っているクラピカも、ようやく尻尾を掴んだと言える段階である。

 計画を確定させるには、もう少し時間が必要だった。

 

「結局、不意打ちは結局しないのか」

「確かに不意打ちが成功したのであれば、それでも良いのですけどねー」

 

 勝てば官軍負ければ賊軍、勝てばよかろうなのだ。

 それは間違いがない真理であるし、だからこそ人は卑劣に走る。

 とはいえ、それを公言する奴は大抵が碌な目に合わないものである。

 

「とはいえ、不意打ちは欠点も大きいですから。何より正当性がありません。今回はそれを懸念しています」

 

 自分が勝つと思い込むのは容易いが、その場合負けるとは思っていないであろう。

 第一、卑怯に走って負けるのは非常に格好悪い。

 そして勝ったとしても問題は山積みであるのだ。

 取らぬ狸の皮算用とはいうが、後々のことも考えるのは望ましい。

 

「ルールは守れば何をやっても良いと考えるのは私に馴染み深いですが。これは後々の人間関係に問題が生じる欠点に悩まされるものです。この辺りはジャポン人であるハカセに馴染みがあると思いますが」

 

 卑怯な手段で勝ったとしても、正当に評価されないのだ。

 そして実力を伴わないで勝っても、後々困るのは自分なのだ。

 であれば、正当に勝つことにはそれなりに意味がある。

 

「尤もである。だが、私の前でジャポンの人間を評価して欲しくはない」

「おっと、これは失礼」

 

 ルナール本人は無表情だが、その耳が不愉快の色を強めた。

 いたずら成功を喜んで、プリンツは肩をすくめた、

 

「そして、少人数での不意打ちが容易く成功する相手だとも思いません。この辺りはゾルディック家を使っても欠点が残りますからね」

 

 因みにゾルディック家に依頼して暗殺する場合、そこに弱点が出来てしまう事も留意すべきだろう。

 基本的に依頼主が殺されると、依頼が自動的にキャンセルされる契約なのだ。

 普通の暗殺ではあまり問題にならないが、相手が幻影旅団であると話は別だ。

 相手は紙防御とはいえ攻撃力があるため、こちらに突撃してくる可能性は非常に高い。

 

「相手を暗愚だと考えるのは愚策でしょう。“他人こそは自分を映す鏡であり、他人の評価は自分の評価である”とはハカセの言葉でしたね」

「まあ。である、か」

 

 危険な犯罪者集団が今までのさぼってきたのだ。

 そこには必ず理由がある。

 相手を甘く見積もれる気は一切ないのだ。

 

「ここはやはり王道を往く、正面から弱点を突くべきかと」

「結局弱点は突くのな。正々堂々と言っていいのだろうか? クラピカ的にはどうなのだ」

 

 でもまあ、ある程度の卑怯な搦め手は使うのである。

 間違っても、馬鹿正直に正面から戦える相手ではない故に。

 

「私は、それで構わない。単純な強さにおいて私たちが勝てる相手ではない」

「少なくとも、私たち二人はそれで合意していますね」

「そうか? そこは良く分からんな。まあ、納得しているのであれば良いのだが」

 

 一口に暗殺と言っても、色々あるということであろうか。

 密かに狙って殺しさえすれば、例え合法であっても暗殺である。

 殺人は、やり方によって正義となるのだ。

 

「そう言えば、ハカセ。貴女に幻影旅団の弱点については聞いていませんでしたね。正直な所、どう思われますか?」

 

 ルナールはそこで首をかしげる。

 

「それを聞くのは良い。とはいえ意図がつかめないな。そのくらい二人は理解しているのではないか?」

 

 弱点といっても、どこから話せばいいのか。

 色々あるだろうが、どの点のことを聞きたいのかを知りたいのである。

 

「戦略の話なら、プリンツも上手だろう」

「戦略眼については貴女が上手でしょう。ストⅡでは私が勝ちますが、桃鉄では貴女に勝てませんよ」

「それは、そうだろうが。ここでゲームの話を持ってこられてもな」

「私には大差ないことですから」

 

 ルナールも自身に戦略眼があるとは思っているが。

 他人にどう思われようが、自身の“美少女転換(プリンセス・テンコー)”も一種の戦略なのだ。

 自身が悪だとは思っても、戦略レベルで間違えたことはそう無いのだと自負している。

 とはいえ、プリンツの出す戦略も悪くないはずだと思うのだが。

 

「あとは、貴女が蜘蛛寄りの思考をしているというのも大きいのですよね」

「ああ。成程。私の考えが概ね彼らの戦略と一致するのかもな」

 

 餅は餅屋だ。

 犯罪者には犯罪者の戦略がある。

 警察がハッカーにハッキングを学ぶようなもの、ということであるか。

 

「幻影旅団をどう評すべき、か。そうだな」

 

 同じ悪とするには、語弊があるかもしれないが。

 こちらはチンケな子悪党だが、あちらは産まれながらの大悪党集団だろう。

 とはいえ、蜘蛛については理解できる。

 

「連中は良くも悪くも、最強の半グレ集団であるな」

 

 その言葉に、プリンツは首をかしげる。

 一方でクラピカは、ゆっくり頷いだ。

 

「“半グレ”とは、また聞きなれない言葉ですね。誰かの造語ですか?」

「確か、マフィアに所属しない犯罪者集団の総称であったか? しかし、この場合だと意味合いが少し違ってくるはずだが」

「それは思ったが、他に適切な表現がな。“最強の盗賊団”と言っても在り来りで印象に欠けると思うよ」

 

 現代における犯罪者集団といえば、ヤクザやテロリストが思い浮かぶだろうか。

 とはいえ、社会にはそういった犯罪者集団ばかりでもない。

 幻影旅団は彼らが自称するように、“盗賊”であるのだ。

 彼らは尖兵でありながら、組織の核である。

 

「彼らに支援者となる人間が一切居ない故に、フットワークが非常に軽いのだ。勿論、集団としても小規模で少数精鋭である。面倒な人間関係に煩わされることが少なく、好きなように悪事を動く事が出来る。正に彼らにとって理想の組織形態であるな。―欠点もそこにある訳だが」

 

 もし、彼らが政治家やマフィアの子飼いであれば話は変わってくる。

 上の意向を無視できず、自身の思い通りに動く事は容易く出来まい。

 とはいえ、子飼いであることはメリットが存在しているからそうであるのだ。

 

「最大の欠点は、攻められると非常に弱い所だ。数が少なく補給が非常に弱い故に、守りは絶望的に向いていない。メンバーも物資も現地調達が基本であるから、籠城もゲリラ戦も出来んのだ」

 

 簡単に言ってしまえば、高機動高火力の紙装甲。

 しかも自転車操業のオマケ付きである。

 基本的に数と規模が足りていないので、どうしても安定には程遠いのだ。

 

「小規模の組織故に、戦略的な切り札も殆ど持っていないのがな。団長のクロロは備えているとはいえ。次点のヒソカやウヴォーギンも強力ではあるが、いかんせん安定性に欠ける。集団戦が出来るのも、後はノブナガぐらいだろうし」

 

 幻影旅団は戦術的には間違いなく最強クラスであるのは間違いないが。

 極端な例を挙げるならば、核兵器などの手段を複数持てる国家などに戦略的勝利は不可能だ。

 旅団から考えられる戦略的手段は三つ。

 “発“を盗み、組み合わせることで戦略手段を得る可能性のあるクロロ。

 圧倒的な攻撃力と防御力を持つが、それでも搦め手を防ぎきれない可能性が残るウボォーギン。

 全体的に人間最高レベルの強さを持つが、人間性には全く信用ができないヒソカ。

 

「これらは当然、相手側も分かっているだろうけどね。だが、改善できない弱点であるのも確かだよ。私の考察は、こんな所だな」

「ふむ。そうですか。クラピカはどう思います?」

 

 ある程度参考にできる。

 だからといって、すぐに納得するのではなく。

 二人は内容を少しずつ吟味していく。

 

「本当に背後が居ないと言えるのか? 幻影旅団のメンバーの殆どは流星街の出身だと言っていただろう。流星街の住人に手を出せば報復があるとも聞いている」

 

 孤立主義の盗賊団と言っても、完全に外部とのやり取りが無いわけではないだろう。

 流星街出身となればなおさらだ。

 そして世間において、流星街出身者はタブーに触れることに等しい。

 流星街は来る者を拒まず、そして住人から奪うことを許容しない。

 

「ああ。そこは気にしなくても大丈夫だろう。そもそも、現状の彼らに報復する力が有ったとしても弱いだろうし、互いの関係と交流も悪いと見ていい。それ用の“発“をクロロに盗られているからな。幻影旅団が流星街を支援しても、流星街が幻影旅団を支援することは無かろうよ」

 

 過去にも、流星街に危害を加えた物が暗殺される事件があったが。

 それは流星街の長老の念能力、“番いの破壊者(サンアンドムーン)”によるものだ。

 ルナールによると、クロロはこの能力を盗んでいるそうだ。

 そのことで両集団の関係は恐らく良くはないだろう。

 

「それに、二人は報復など気にしないであろう?」

「んー。恐らく、そこが肝ですね」

 

 二人は報復が怖くて復讐などしない。

 とはいえ、この場合は別の問題があると見た。

 

「ふむ。何か考えが?」

「まずは、そこを断ち切らねば始まりません。私たちには関係の無い話ですが、一般のハンターにはそこが難点ですから」

「うん? 何が目的だ?」

 

 何故、そこで他のハンターが出てくるのだろうか。

 

「一応言っておくと、流星街の人間は、基本話の通じる相手ではないぞ。いかんせん閉鎖的で保守的な組織だからな」

 

 確実に、流星街と幻影旅団との関係を絶っておきたいと考えたのだろうか。

 ルナールには分かるが、彼女はそれも難しいと見た。

 彼女知る限り、外部からの災害に巻き込まれても責任の押し付け合いをしているような連中だ。

 

「そこは案外、どうにかなるかもしれませんね」

 

 クラピカとルナールは、プリンツの方をじっと見つめた。

 

「ふむ。詳しく聞かせてもらえるか?」

 

 

 そこからプリンツは、自分が考えていた計画の骨格を話し始めた。

 彼女が一通り話した後、ルナールとクラピカの二人は口に手を当てて考え込んでいる。

 

「何と言うか。私には無理な作戦であるな。そもそも、それは(ハント)でなく交渉だろう」

「私とハカセが分かり合えるのだから、蜘蛛とやらも案外話の通じる相手だと思うのですけど」

「どうだろうなあ?」

 

 それなら他のハンターを巻き込む理由になるだろうが。

 ルナールが思いついてもまず実行はできないし、しないだろう作戦と見た。

 

「これまでの情報を纏めると、恐らくそれが最善、か? とはいえ、クラピカはこの作戦でいいのか? これで納得いくのかな」

 

 結局、ルナールは相談に乗るだけで実行には関わらないのだ。

 勿論自分にも危険性はあるが、それでも直接動くつもりもない。

 であるならば、大事なのはクラピカが納得することであるが。

 

「悪くはない作戦だ。私の思い描いていた物とは大分違うが。成功と失敗、どっちに転んだとしても私には望ましく思える。出来る事ならやってみたい」

「そう、か。そうなのか」

 

 クラピカはそれまで、蜘蛛を討伐することを考えてきた。

 しかし、この作戦の第一段階が成功すれば、蜘蛛との交渉が出来る。

 交渉が上手くいけば相手に損害を与えられ、失敗すれば互いに殺し合うことになる。

 蜘蛛を良く知らなったとしても、これはこれでありかもしれない。

 

「旅団は攻められれば脆いとはいえ、突破力はある。となると確かに、この辺りが落とし所であるか」

 

 言うまでもないが幻影旅団の討伐は非常に難しく、プロハンターでも敬遠するほどである。

 こちらとしても全面的な殺し合いは互いに望むところであるが、その場合損害は大きくなることは確実だ。

 となると互いに譲歩ができれば嬉しい所である。

 

「これは、ヒソカにも連絡しておくべきだな。ヒソカを敵に回したくないし。ヒソカがこっちに就けば、クロロを殺ってくれるだろう」

「そこはお任せします」

 

 となると、スパイと成りうるヒソカは是非とも利用したい。

 彼は武に長けている上に、情報操作にも長けている。

 敵になると恐ろしいが、味方だと条件付きとはいえ非常に頼もしい。

 

「いや、そこはプリンツかクラピカが交渉してくれると助かる。言いだしっぺの法則に異論はないが。口下手な私がするのか?」

「ああ。それもそうですね。では私の方から話しておきますね。連絡先を教えてください」

「では、いくつか有利になりそうな材料も渡しておくか?」

「お願いします」

 

 ルナールはヒソカに好意的であるが、彼との会話が得意な訳ではない。

 ここは交渉に向いている人間が交渉するのが良いだろう。

 

「はあ。上手くいけば旅団は半壊だろうな。そして下手をすれば全壊か。思えば、幻影旅団最大の弱点は奴ら自身というものも変な話であるが」

 

 暴力団などは損害を受けても、補給次第で容易く立て直せる。

 だが補給の弱い形態の集団は、一度損傷するとそのまま崩壊してしまう可能性が高いのだ。

 これは主要メンバーがそのまま、戦力であることの弊害であろう。

 

「人の弱みに付け込んだ作戦、かあ。とはいえ現実は常に想像の斜め下行くものであるものだ」

 

 ルナールはここで“とある予言”を思い出した。

 この予言はとある予言念能力者によるもので、自身の気まぐれで手に入れたものだ。

 

“輝夜姫が鎖に繋がれて そこで三顧の礼を見る

月の眠りを祈り念じろ 貴女に二度目は訪れない

 

卯月の偽りを撥ねつけよ 難題はそこでの一度きり

狩人が北から来ることで 帝は富士より下るだろう“

 

「この作戦が、上手くいかないことを願うばかりであるな」

 

 ルナールは小さく呟く。

 予言の言いたいことは分かる。

 となると、この件で自分が死ぬことは無いと見た。

 そしてそこからどうするべきか、自分には未だ良く分からない。

 

「作戦が上手くいかないことを願うとは、何を言っているのだ?」

「私の本意ではない。そっちの方が面白いことになると思っただけだ」

「何だと?」

 

 ルナールは自らの死というものを理解しているつもりだ。

 そして最悪この件で死んでもいいとは思っている。

 まあ、死なないとも思っているが。

 死にたがりが自分から自殺することは無い故に。

 

「何も他人事ではなかろうよ。私の破滅願望とは趣が違うであろうとはいえ、具現化系である私には良く分かるぞ」

 

 では、他の人間ならどうなのだろうか。

 彼女は、特にクラピカに対して一種の臭いを嗅ぎ取っていた。

 

「クラピカも失敗することを望んでいるのではないのか? 相手が話の通じない下賤な獣であれば、手を下す事も楽だと思わんか?」

「それは。言ってはならんだろう」

 

 クラピカは蜘蛛に故郷を滅ぼされた。

 それ故に、復讐に身を投じることとなった。

 

 ルナールはクラピカが“利他的で繊細である”と知っている。

 そして、それは敵であろうと相手を理解してしまうのだ。

 もし蜘蛛が理解の及ばない完璧なる異邦人であれば、それはクラピカにとって一種の救いであったことだろう。

 

 

**

 

 

 それを最初に察知したのは情報担当である、シャルナーク・リュウセイだった。

 彼は携帯アンテナで他人を操作するという、操作系で良く見られる“発”の使い手であるが。

それとは別に彼はプロハンターであり、幻影旅団で情報の収集を行っていた。

 

「団長。大変だ」

「どうした」

 

 幻影旅団は一つの集団とはいえ、普段は少人数に分かれて行動している。

 その時は、偶々シャルナークと団長であるクロロが共にしていた。

 

「ふむ」

 

 クロロはシャルナークが纏めたパソコンの情報を見る。

 急いで纏めたせいか、荒く情報が散らばっているが。

 それでもビブリオマニアでもあるクロロには理解できる範囲だ。

 

「こりゃ、駄目だな」

「あ。やっぱりそう思う?」

 

 何度か読み取った上で、素直に降参を示していた。

 そこには以下の情報が簡潔に纏められている。

 

 新人ハンター二人が蜘蛛討伐を掲げたこと。

 その働きかけにより、ハンター協会が蜘蛛討伐を公言したこと。

 何者かによりネットに蜘蛛の詳しい個人情報が流出されていること。

 そして流星街の人間が蜘蛛と無関係を貫くことを表明したこと。

 蜘蛛とその外部の関係が悪化していることなどが書かれていた。

 

「手の内を見透かされた上で、大きく先手を打たれてしまったな。恐らく、“個人情報を得る“能力の使い手がいる仕業だろう。となると、これまでに何かしらの接触があったはずだが。今一つ不自然だな」

 

 幻影旅団は盗賊として大胆に行動しているが、極端に名を売っている訳でもない。

 勿論、組織として情報に関しては慎重であるぐらいだ。

 

 それが、ほぼ全員が丸裸レベルまで情報を暴かれている。

 念能力で出来ないこともないだろうが、あまりに情報流出が大きすぎる。

 

「俺たちの中に裏切り者が居るってのは?」

「いないよ。オレたちの中には」

「ヒソカは? 元から裏切る気満々だし。アイツだけ不自然に、手の内が全く漏れてないじゃん」

 

 ここでヒソカが挙げられる。

 ヒソカは途中参加の旅団メンバーとはいえ、皆の嫌われ者である。

 実力と実績はあるので一応受け入れられているが。

 

「その可能性も考えた。アイツが入った時期から考えると、そのどちらでもないのかもしれん」

「えっと。じゃあ、ヒソカも利用されているってこと?」

「多分な。どこまで利用されているかは知らんが」

 

 何より、ここまで“発”の内容が詳しく知られているとなるのが説明できないのだ。

 旅団内とはいえ、詳しく互いの能力を把握している訳ではない。

 仲間とはいえ“発“を探るのはマナー違反であり、“発”を詳しく知るのは自分自身だけに他ならない。

 可能性があるのは珍しい特質系のさらに珍しい分野であり、旅団内で言うなれば情報担当の一人であるパクノダの能力であろう。

 

「ヒソカは変化系だろう。仮に奴に化けたスパイの行動があったとしても、何かしらのリアクションがあるはずだ。無いとしたら。相手は厄介な相手だな」

 

 可能性が高いのは操作系で変装して旅団に近づき、接触して特質系で情報を盗んでいると考えるべきか。

 諜報に特化した人間か組織ならできそうであるが、大変貴重で手練れの犯行だ。

 そもそも現状で既に手遅れの段階であり、今からの追跡は不可能であるし意味も無いだろう。

 

「ここまで殆どの“発”を知られているとなると。相手はヒソカについても完全に把握していると見ていい。となると、オレにぶつけてヒソカとの相討ちを狙っていると考えるのが自然だろう」

「ああ。成程」

 

 ヒソカは掴みどころがない性格の一方で、その目的は非常に分かりやすい。

 単に彼は強者であるクロロと戦いたいのだ。

 本人はそのことを公言しているし、周りも分かっている上で受け入れてきたことでもある。

 となると、丁度良い理由があれば容易く裏切るだろう。

 

「しかし意外だな。確かに、これを想定しない訳ではなかったが。ここまでとなると、いかんせん気味が悪いな」

 

 クロロも蜘蛛の滅亡については良く考えたことがある。

 何より自分たちが死ぬことを対策しないでそのまま滅亡してしまうのは、あまりに悲しいことだから。

 奪ってばかりの盗賊人生であるが、残すべきものは確かにあるのだ。

 

 この件に関しても、蜘蛛が残ることにはなるのだろう。

 だが、納得いかないのも確かなのだ。

 

 クロロはそれまで読んでいた手元の漫画を見つめる。

 ありふれた少年雑誌の、人気冒険漫画である。

 自分たちがここまで読まれているのは何故だろうか。

 

「これからはどうするの? オークション襲撃はする?」

「計画は続行だ。そのためにも旅団を一旦集める。そこからはオレが説明しよう」

 

 クロロはマフィア主催のオークションを襲撃する予定を立てていた。

 その襲撃は未だ一部の人間にしか伝えていないが、恐らくこれも読まれているのかもしれない。

 この状況で楽観はあまりにも危うい。

 

 だが幸いにも、あちらに殲滅する気はないと感じた。

 相手から出さされた情報だけで判断しているので、詳しい調査は必要であるが。

 この件に関しては明らかな突破口を相手側が用意していて、それがそのままこちらの正解であると見た。

 

「集合するのは危険じゃない? 一網打尽の可能性は?」

「それもあるかもしれないが。戦力の分散はしたくないな」

 

 オークション襲撃は、単に盗賊としての心だ。

 盗賊を中止して捕まればただの犯罪者に成り下がるが、盗賊中に死ねば盗賊のままである。

 それは皆が納得することであろう。

 彼らにも盗賊なりの信念がある。

 

「それに、どうせ守りに入るなら皆と一緒が良いだろう?」

「あー。それもそうだね」

 

 ここで逃げるという選択肢はまだ無い。

 蜘蛛の姿や身分を偽って潜伏するという手段はあるが、それも問題の先延ばしである。

 そうして解決に持っていきたいとは思うが、それを相手はどう思うかだ。

 既に逃げ道が、相手に舗装されているという場合も十分考えられる。

 

「引き続き、相手のことも調べてくれ」

「オレのハンター証が何時まで使えるかは分からないけど、出来る限りやってみる。だけど、相手が無名の新人ハンターとなると厳しいかもね」

「それでも良い。シャルなりに最善を尽くしてくれればいい」

 

 相手の計画で厄介な所は、首謀者たる二人の首を取っても解決しないであろう点である。

 所詮は新人ハンターなので、動き始めたハンター協会の動きを止めるには至らない。

 協会に働きかけたのはこの二人であろうが、影響力はそこまで大きくないはずだ。

 

「ああ、後。最善はというけどさ。出来ることは全部しておきたいよね」

「何か案があるのか?」

 

 まずは相手を見極め、そこから最善手を指していくつもりではあるが。

 幻影旅団の危機にあたって、クロロは“蜘蛛を残す”という方向に考えている。

 当然、団員の皆もそう思っていることだろう。

 ここでは、何を最善とするだろうか。

 

「多分、相手の優先はオレとかだし。それなら自爆戦術もアリかなーってさ」

「最後は自爆特攻か。最悪だな、それ。準備しておいてくれ」

「うーん。同時並行はちょっとキツいけど、誰かと上手く分散できないかな。やってみる」

 

 蜘蛛の足取りについて、この動きの良さは特筆に値するであろう。

 団長は絶対だが無私であり、なおかつ旅団内の結束は非常に強い。

 そして、彼らは必要であれば最悪の戦術を取ることに何のためらいもない。

 蜘蛛は動き始めると、どこまでも早い。

 

「厳しいだろうが。最低限、オレの分の爆弾を率先して用意してくれ。恐らく、一番の囮役にはオレが行くことになるな」

 

 蜘蛛討伐を公言しているので、頭であるクロロが狙われる可能性は非常に高い。

 その場合、自身を犠牲にして活路を得るのも不思議ではない。

 仲間を大事に思うからこそ、仲間のために犠牲になることに躊躇いは無い。

 クロロの覚悟は常に決まっている。

 

「なるほど。まあ、そうなるよね」

「―うん? 何か問題があるのか?」

 

 シャルナークの肯定に、クロロは僅かな違和感を感じ取る。

 

「いや、大したことじゃないけど」

「オレの命令は最優先。だが、オレを最優先に生かすことはない。オレも蜘蛛の一部。生かすべきは個人ではなく蜘蛛。そうだろう?」

 

 クロロが言うことは最もだ。

 だが間違いなく、クロロ以上の団長はいないし今後現れない。

 それは皆が認める事であろう。

 だからこそ、シャルナークはどうしても彼が惜しいとも思ってしまう。

 勿論それは論理によって押し殺すことなのだが。

 

「大丈夫。分かっているよ」

 

 この件に関して一つだけ、クロロが読み違えている事がある。

 クロロは必要であれば容易く身内を切り捨てるが、自身もまた切り捨てる対象である。

 頭を潰したとしても、蜘蛛は動き続ける。

 

 ただし、彼が思っている以上に旅団は彼に依存している所もある。

 何かを成すにあたって自らの死を考えないのは杜撰である。

 だが、偉大な指導者の影響力は大きいのも確かであるのだ。

 

 

 こうして、幻影旅団は公的に滅亡することになる。

 その残党が、その後に活動していくことになるのだが。

 彼らが新たな蜘蛛を生み出すのか、それとも団長の意思が潰えてしまうのか。

 

 その結末は神のみぞ知ることである。




*以下、設定の一部*





色々真似しながら描いたイメージイラスト:

【挿絵表示】


名前:ルナール(アマテル・ヒュウガ)
身長:160cm
体重:49kg
スリーサイズ:B86/W57/H84
属性:中立・悪
好きな小説:屍鬼
好きな音楽:Baba Yetu
特技:電子機器いじり、黒登山
苦手な物:一般人
天敵:クロロ
能力:美少女転換(プリンセス・テンコー)大物忌正餐(ちゅうしょくばんざい)


解説:この作品の主人公。利己的な悪人で、恐らく周囲と読者に良く思われていない。

健康のために修験道を修めており、それを戦闘にも用いる。これは立ち回りに重きを置いている流派で、技自体は修験道でもなんでもない彼女のオリジナルが殆ど。

戦略的優位からのゴリ押しを得意とするが、戦術に関しては上手でない。また典型的な犯罪者タイプであるため、周囲に敵視されやすいのも難点。

回が進むにつれ畜生化が著しいが、元ネタがどれも基本そうなので。とはいえ当初に禄すっぽ設定を決めてない割に、キャラは大してブレてはないと思う。


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EX7. ヨークシン編(ダイジェスト版) 後編

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-《クリフォート・アセンブラ》,遊戯王アーク・ファイブ OCG ザ・シークレット・オブ・エボリューション


 大学内のカフェで、白髪の小さな子供が生意気にも本片手にコーヒーを飲んでいる。

 勿論、ハカセのことである。

 彼女は暫く学業に専念していて、ハンターとしては特に動いていない。

 

「ん? アケボノか。お久しぶりであったな」

「そうね」

 

 彼女が自身に近づく気配を感じ、顔を上げると。

 そこには弟子の片割れが姿を見せていた。

 

「少し見た目、老けたように見えるが。多分、気のせいではあるまいな?」

「ちょっと、ね」

 

 自分でも可愛さを保つ努力をしておけと、ハカセは愚痴をこぼした。

 師の相変わらずの姿にアケボノは溜息をついた。

 とはいえ、こういう人間であるのは分かり切っているので仕方あるまい。

 

「大分、遅くなったけど。あの時は悪かったわ」

 

 その言葉を前に、ハカセはハテナを浮かべたが。

 少しして理解したように頷いた。

 

「ハンター試験のアレか? 構わないさ。必要であったのだろう?」

 

 そういや暴言を吐かれたな、と軽く思い出す。

 実際、言われた本人はどうでも良さそうである。

 

「今日の授業が終わった後、家に来てもいい?」

「構わないが。大事な話か?」

「別に。そうじゃないけど、いいでしょ?」

「であるか」

 

 一応、二人は子弟関係であり友人関係でもある。

 そうして、ハカセの自宅に向かう。

 

「ホットコーヒーで良いか? 後はアイスティーしかないが、いいかな?」

「お任せするわよ」

 

 出されたコーヒーと菓子を、アケボノは遠慮がちに啜る。

 コーヒーの味は分からないが、まずまずの味だと思う。

 有機コーヒーらしいが、ヒッピーか何かかよとも思う。

 

「あの後から、プリンツを大学で見ないけど。何かあったの? ちゃんと生きてる?」

「プリンツは五体満足で生きてるよ。今はちょっと充電中であるがな」

 

 ハカセと違って、プリンツは大分学校を休んでいるらしい。

 とはいえ、彼女はもう大学にいる意義をあまり感じていないように見える。

 そのうち大学も辞めてしまうのかもしれない。

 それでも彼女自身は何も困らないだろうが。

 

「ニュースになっているかもしれんが。幻影旅団が壊滅したのは知っているか?」

「ええ。テレビで見たわ。ハンター協会がやったって?」

「私はテレビを見ないが、世間でも話題になっているみたいだな」

 

 どうやら、A級凶悪犯罪者集団の壊滅はこの世界でビッグニュースのようだ。

 彼女自身は世界的に有名な盗賊と言われても、あまりピンとこないでいる。

 まあこの世界における、ルパン的な感じだったのだろうが。

 

「実の所、あれの立案はプリンツとクラピカがやっていてな」

「ああ。そういうこと」

 

 アケボノはそこで納得したようだ。

 友人の活躍は、嬉しくはあるが複雑に感じる。

 

「羨ましいわね。上手くいったみたいで」

「ある程度はね。実の所は完全でもない」

「違うの?」

 

 まあ、犯罪者相手に五体満足で帰ってこれたのは良いことであるが。

 そう前付けした上で、ルナールは語る。

 

「ハンター協会とクラピカにとっては、理想的な結果であったのだ。しかし、プリンツにとってはそうではなかったのだ」

 

 彼女だけが損を被ったように聞こえるのだが何があったのだろうか。

 ニュースは調べているとはいえ、アケボノもそこまで詳しくない。

 

「詳しく聞いてもいい?」

「私は相談役であって、現場に関わらなかった故。そこまで実情に詳しくはないぞ」

「アンタを信用はしてるわよ。プリンツには直接聞きにくいし」

 

 ある程度把握はした上で、ハカセも助言をしていたのだろう。

 少なくとも適当なことは言わないのだとも思っている。

 

「どこから話すかな。まず二人は旅団を討伐するにあたって、ゾルディック家に依頼した。そしてさらなる仲間を増やすべく、ハンター協会にも依頼をしたのだ」

 

 アケボノもゾルディック家については分かる。

 自分も一緒に見に来ないかとハカセに誘われたからだ。

 勿論、すぐに断ったが。

 

「でもハンター協会は、よく依頼を受けてくれたわね。新人の言う事なのに」

「正面と裏側から頼んだそうだよ。まず普通に依頼して、それからゾルディック家からも言伝してもらったらしい」

 

 ハンターに向けた正式な依頼としての形を取れば、相手も話は聞いてくれるであろう。

 後は、社会的地位を持つゾルディック家からの干渉があれば十分だった。

 

「結果、パリストンさんは快く引き受けてくれたそうだ」

 

 その人物の名は、アケボノも知っているが。

 しかし、馴染みがある人物ではない。

 主にネットで調べた程度であり、公の情報だけはそれなりに集まる程度の人物である。

 

「パリストンって副会長じゃない。文官だと聞いているけど、旅団を討伐するなら会長(ネテロ)の方じゃないの?」

「必要だったのは協専のハンター達らしいからね」

 

 パリストン・ヒルはハンター協会において“副会長派”と呼ばれる派閥の長である。

 彼は自分に従うハンターを“協専”として抱え、またハンター協会の人員の大多数を握っている。

 彼は協会の発展に貢献している一方で現ネテロ会長と敵対しており、黒い噂が絶えない。

 

「多分強さが必要ではない、ってのは何となく分かるけど。協専のハンターって強いの?」

「ハンターの中では弱い部類だな。それでも一般人よりは強いし、一部には強いのも居るが。勿論、個人の武は重要ではない」

 

 基本的に、協専のハンターは同業者から良い眼で見られてはいない。

 弱い者こそよく群れると言うべきか。

 彼らは星(功績の目安)持ちのハンターと比較して低く見られている。

 とはいえ、その力を馬鹿には決して出来ない。

 

「今回に必要だったのは、信頼性のある集団だからな。旅団を包囲殲滅するには、どうしても使い捨ての歩兵が必要だ。ここら辺は、その他の有象無象では無理だろうし」

 

 彼らの長パリストンは三ツ星ハンター。

 いささか以上に性格に問題ある人物であるが、その実力は本物である。

 そして、彼はネテロが最も苦手とする人物。

 ネテロが武人の最高峰であるのに対し、彼は野心と策略を併せ持つ怪物である。

 

「有象無象って。まさか有志のハンターのこと? 酷い言い草ね」

「実際は見ていないが、好き勝手に群がる癖して不利になれば逃げる連中であろう。彼らが使い物になったのかは知らんよ」

 

 使い捨てだからこそ、信頼できる相手は選ばなければならない。

 有志は言わばボランティアのようなものだ。

 間違いなく仕事意識は低いだろう。

 無料程怖いものはないとも言える。

 

「それでも容易く突破されそうだけど。よく殲滅できたわね」

「実際は殲滅していない」

「壊滅はしたのよね。というと、残党が居るのかしら」

「最初から、殲滅が目的でないからな」

 

 世間において、幻影旅団は壊滅したことになっている。

 実際の所、残党はわざと残しているのだが。

 これは相手と直接交渉したわけではないが、両方の合意を得た結果であった。

 

「何か。意外だわ」

「それは同感だ」

 

 クラピカ達が作戦を立てるにあたって、幾つかのパターンを想像していた。

 今回は驚くほど、かなり良いパターンを引いたと言えた。

 クラピカは間違いなく得をしたと言えよう。

 

「クラピカは、まあ納得できた範囲だと言え。私はクロロが脅しに屈するとは思っていなかった。何か、もっと大胆で。静かに狂っているような男だと想像していたのだが。彼は随分と“賢い“選択をしたものだな」

 

 複雑な性格をしているクラピカであるが、ハカセとしては非常に読みやすいものである。

 クラピカは、幻影旅団が“裁きを受ける”ことを望んでいたのだ。

 だからこそ相手と交渉することを自然と受け入れていた。

 

 一方でクロロだけに関しては、どうしても確信が持てなかった。

 人間としての一種の頂点である彼は、理知的でありながら狂気を孕んでいた。

 彼がこちらの破滅を望みさえすれば、交渉を撥ねつけて最後まで戦ったであろう。

 彼の思考が幻影旅団という組織にも現れており、諸刃の刃となっていた。

 そういう可能性を、もしかしたらと彼女は望んでいたのだ。

 

「残党は把握しているのよね」

「多分している。だが、(クロロ)と旅団の情報担当が全滅している以上。大した価値は残っていないらしい」

 

 とはいえ頭のクロロは死に、組織の足を大きく捥いだのだ。

 それに一応、穏健派と思われるメンバーが次の頭となるよう残してもいる。

 懸念される、過激派が暴走という可能性はあまり高くない。

 そんなことをすれば、本当に蜘蛛は潰えてしまう故。

 

「ふーん。こんなことしたのだから、たいそう恨まれそうね」

「可能性はある。とはいえ如何せん歩ばかりでは将棋は難しかろう。当分は旅団の復興に時間を当てるというのが定石ではないのかな」

 

 確実に大傷は残したのだ。

 盗賊としての姿を取り戻せるのか、落ちた犬は叩かれるのか。

 今後は残った彼ら次第だろう。

 

「旅団が負けた理由って、私は聞いてないけど?」

「それは私が語ることではないよ。そういうのはマスコミのコメンテーターが頼まなくてもやってくれることではないのか?」

「そうした人はいるけども。でも、アンタが語らないで誰が語るってのよ」

 

 当然、アケボノもニュース等は見ている。

 とはいえハンターなので、ある程度情報の精査はするのだ。

 信頼できる人間からの情報を聞きたいところである。

 

「屈したが、彼らは間違っている訳でもない。別に負けたわけでもない。それに、不確定な未来を語るからこそ言葉に価値があると思わんのか」

 

 人は歴史から学ぶという。

 とはいえハカセは、偉そうに説教がしたいわけではないのである。

 落ちた犬を叩く趣味もない。

 

 ただ、その姿勢が学問の徒としてはどうかとも思う。

 

「じゃあ旅団みたいなのが、今までのさぼってきた理由とかならどうなの?」

「まあ、それは多少なりとも建設的であるか」

 

 とはいえ、語りを求められれば応えるのだが。

 

「まず、幻影旅団は非常に強い。団長は世界でも指折りの化け物であったし。その他の者も念能力者として高水準だ。一般戦闘員は、そうだな。殺人鬼レイザーよりちょっと下ぐらいとは見ていたな」

 

 やはり、念能力者の犯罪者というのは非常に厄介なのだ。

 一流のクライムハンターとはいえ、念能力者の討伐は、個人までが限度であることも多い。

 念能力者の犯罪者が集団を組んで活動するというのは非常に稀であるが、その分厄介極まるのだ。

 

「そして、これが一番重要だと思うのだが。何だかんだで幻影旅団の存在は都合が良かったのじゃないかな」

 

 そこで、アケボノが大きく首を傾げた。

 

「都合が良い? 幻影旅団が? 何がよ」

「社会的にだよ」

「犯罪者集団でしょ」

「であるがな。流石にかなり想像が入っているとはいえ、あながち間違いでもないであろう」

 

 強いというのはその分危険である。

 だからこそ、そんな集団が放置されてきた理由が分からなかった。

 

「幻影旅団は、他の集団を牽制する役目があったのではかろうか。例えば、彼らの同業者であったりとかね」

 

 悪をもって悪を制すというべきかね。

 必殺仕事人とはまた違うのであろうが、とハカセは付け加える。

 

「彼らは慈善事業もしていたらしいからね。私がそのことを調べても裏は取れなかったが。となると、裏の中で他の悪を自浄していたのだろうな」

 

 もし彼らの故郷が危機に瀕すれば、彼らの一部が故郷を救ったのかもしれない。

 幻影旅団もそういう所があったのだ。

 

「その辺りを見極めてなかったとは考えにくい。まあ、アレだ。いじめを無くそうとか言いながら、教育システムを変えないのに似ているな」

「微妙にズレている例を挙げないでよ。言いたいことは分かったけども」

 

 今回、多少は世の中が良くはなったのかもしれない。

 しかし結局のところ、幻影旅団がいなくなっても悪は無くならないのだ。

 別の悪が活発になるだけで、第二第三のクラピカが現れるのは想像に難くない。

 

「でも旅団は強い。本当に強かった。それが問題だ」

 

 わざとらしく深刻そうにハカセは頷く。

 

「ねえ。プリンツの失敗って言いにくいの?」

「だろうよ」

 

 若干、不機嫌にもなる。

 ハカセは中立を掲げているとはいえ、プリンツを好いているのだから。

 

「そもそも、これって言っていいのかね?」

「気にはしないとは言うだろうけど。本人に聞いても教えてくれないでしょ」

「うーん。良い思いはせんだろうな」

 

アケボノも友人を叩きたい訳ではない。

とはいえ、知っておきたいとは思っている。

そこら辺はハカセも分かっており、難しいところである。

 

「そもそも、私たちも多少は読み違えていたのだ。であるが。まあ、計画が上手く行き過ぎたってことなのかな」

 

 クラピカ達の計画は上手くいったのだ。

 クラピカもハンター協会も得をした。

 そこに、プリンツは含まれていない。

 

「そういや会長も動いていたらしいわね」

「あと何か、脱会長派というやつらが勝手に死んでたらしいぞ」

 

 そこで少し、アケボノは眉をひそめた。

 

「ああ、そういうことなの? プリンツも馬鹿ね」

「相も変わらずである。プリンツは私のことと言い、変な地雷を踏み抜く事に定評があるな」

 

 プリンツの誤算は、会長であるネテロが動いてしまったことだろう。

 これはゾルディック家がクロロを警戒して、ネテロにも一部委託したことが原因である。

 そしてネテロが動けば、対立しているパリストン本人も本格的に動くのだ。

 

 結果的に、プリンツの目的は達成できなかった。

 討伐に加わったのである程度評価はされたが、本人は不満そうである。

 とはいえ、誰もこれを想定できていなかったので仕方がないが。

 

「何か、アンタ。楽しそうね」

「そうか? ひょっとするとそうなのかもな」

 

 ハカセは自身の頬をムニムニとつねった。

 自分からは分からないが、笑っていたのだろうか。

 

「思ってたのとは違ったが。ヨークシンも、遠くから見ている分には興味深かったな」

「失敗が楽しいの?」

「楽しくはないが。これでも学者志望だからね。私をホビーアニメのやられ役と一緒にされては困るな」

 

 あるはずもない眼鏡をくいっと上げる動作をする。

 それを見て、アケボノは再び溜め息をつく。

 

「ハンターも魔境ね。ハンターになったのはいいけど。私には何をすればいいのかサッパリよ」

 

 アケボノもまだ年齢的にそこいらの大学生である。

 ヨルビアン社会的には大人の部類であるのだが。

 ジャポン人らしく精神はまだ若いのだ。

 

「そこは迷えばよかろう。まあ、同期の者達はあまり参考にならんだろうなあ。良さげなのは、ポックルぐらいか?」

「誰よそれ? でもあの子たちを見た感じ、そうなのでしょうね。私は関わらないで正解だわ」

「ふむ?」

 

 プリンツと違い、アケボノは露骨にゴン達を避けているようだ。

 だが、それはそれで“賢明”であろう。

 

「魅力的な人間と関わるべきではないのよね。同じ魅力的な人間でない限り、搾取されるだけなのでしょ?」

「ハハ。あの子等も、普通にやべーやつらであることは否定できんな」

 

 287期ハンター試験は、まさしく魔境の年であった。

 “休みがちの死神“ヒソカとゾルディック家の子二人の脅威は言うまでもない。

 そして彼らに遭遇するということが、それだけ本人も危険な物を持っているという見方もあるだろう。

 

「とはいえ、会って話ぐらいはしてみるものさ。私にとって、一番の収穫がクラピカというのは予想だにしていなかったが」

 

 ハカセは眼を瞑って大きく息を吸う。

 そして眼を開けると、暗く光る眼がそこにあった。

 

「赤く暗い眼。ちょっと違うけど、噂に聞くクルタ族の?」

「ああ。ある程度、わざと加工して劣化させている」

 

 アケボノも人体コレクタションに興味はないが。

 緋の眼についてハカセから噂ぐらいは聞いている。

 

「貴重な眼を複製って。やってることが何というかアレよね」

「眼の性質も、遺伝子情報でしかない。実際その通りだったわけであるし」

 

 養殖という発想が頭に浮かぶのは気のせいではない。

 多分、本人も真珠を作る感じのノリなのだろう。

 

「てか。クラピカはそれを許したのよね。そもそも複製していいものなの?」

「私もそう思ったのだがね。実の所は本人に託されたものであるのだ」

「へえ?」

 

 クラピカは自分の一族について誇りを持っていたようだ。

 見方によっては自身の物真似は誇りを傷つける行為なのかもしれない。

 とはいえ、どうやらそういう考えは持たなかったようだ。

 

「その点については。-そういえば聞いたか。クラピカは世界中に散らばっている、同胞の眼を集めるつもりであるらしいぞ?」

 

 幻影旅団が襲撃し、隠れ里から奪い取った緋の眼たち。

 それらは闇市へと流され、人体収集家の手へと渡っている。

 クラピカはある人体収集家と繋がりを持ち、今後もそれらと関わるようだ。

 

「何でよ」

「やることがないからであろうなあ。何とも出口無き事である」

 

 やりたいことは分かるのだが。

 それは過去へと向かう行為である。

 それが成功したとしても、そこから何かに繋がることはない。

 

「多少、一緒に過ごしてみて分かったことだが。クラピカは既に死んでいるのだな」

「死んでる? そんなアンタじゃあるまいし」

「形こそ違えど、嘗ての私と一緒さ」

 

 クラピカは仲間を皆殺しにされたことで、心にトラウマを負っている。

 そしてその傷は決して癒えることはないのだろう。

 

「アレには未来がない。そういった意味では私より酷いよ。あの利他的人間が唯一生き残ったというのもそうなのだが。彼はクルタ族に生まれたことが何より不幸なのだよ」

 

 受けた恨みは舎利になるまで消えない。

 ハカセも前世で怨念を背負っており、自力である程度持ち直しているが。

 それでも未だに悩み苦しみ続けているのだ。

 彼女の場合は死んでも治らなかった故、全てを諦めきっている。

 

「優秀じゃないの? クルタ族」

「個人の能力としてはね。総合的には幻影旅団とドッコイドッコイであろう」

 

 確かに、クラピカは緋の眼抜きでも優秀なのだ。

 優れた人格に能力、そして知的な聡明さ。

 そしてそれらは、彼の将来にとって何の意味もない。

 

「どうせアレでしょう。アンタそれを本人の前で言ったのでしょ?」

「よく分かったな。大分傷ついていたみたいだが」

 

 ハカセは当然、これらを当人に指摘している。

 悲しみを耐え、建設的な行動をとるようにと。

 利己的人間も、他人にそれぐらいの気づかいはするのだ。

 

「でも、止まらなかったよ。だからまあ、既に死んでいるわけだ」

 

 理解した上で止まらないのだ。

 もう何を言っても無駄であろう。

 

 そして、この点においてクラピカは何も悪くないとも感じている。

 クルタ族はもう既に終わっているだけなのだ。

 

「迫害され続けた民族って、強そうな響きなのにね」

「ユダヤ人とかは特別なのだ。少数の民族に期待し過ぎることはない。彼らが社会から逃げなかったら。というのは野暮かね?」

 

 クルタ族がどうすればいいかなど、ハカセは既に語っている。

 ただ、この世界で一つの民族が消えるだけなのだ。

 それ以上の価値はない。

 

「嫌いなの? クルタ族」

「うん? それはないぞ」

 

 彼女は滅亡寸前の民族の未来を評しただけなのだ。

 多少の悪意こそあるが、関心は薄い。

 断じて嫌っているのではないと不機嫌に即答した。

 

「私は誰かを嫌いになったことなど、この世に生まれてこの方一度もない。私はただ、全てを憎んでいるだけだ」

「ほんとお?」

 

 それなりに人生を楽しんでいるやつの台詞なのだろうか。

 アケボノの眼には、ハカセが他人を嫌っているようにしか見えないのだ。

 

「ああ。本人から聞いた限りでは、緋の眼以外の物を何も残せていなかったらしい。特に文化はな。生物としては、流石にどうかと思うぞ」

 

 何をもって人種の優劣を決めるか、それは人によるだろうが。

 文化はその指標の一つとなる。

 クルタ族の現代社会に与えた影響は、マニアックな芸術品としての価値しかないようだ。

 

「緋の眼を次世代に残せると知った時のクラピカの顔は、一種のお笑いであったぞ。思わず、私の中に沈んでいる薄暗い気持ちが蘇りそうだった」

 

 ハカセの眼が、より一層妖しく光る。

 アケボノは思わず目を背けた。

 

「アケボノもどうだ? 正直、誰かに押し付けたいのだが」

「重い」

「だよなあ。クラピカには当分会わないだろうから、私も暫くは封印するか」

 

 クルタ族の痕跡は、ある程度は残る。

 とはいえ、その未来は決して明るいものではないのだ。

 

**

 

「うん。クラピカ達やプリンツは方針が決まりきっているが。確かに、アケボノはこれからどうするのだろう」

 

 世の中には、悪い人が沢山いる。

 幻影旅団もその一つであって、ハカセもその一人であることは認めている。

 

 だが、何事も責任は自分が負わねばならない。

 それがこの世に生きる人間の義務であるのだから。

 

「私は。何も間違ったことはしていないとは思っている」

「ふむ?」

「ハンター試験を受けたことも。そのことでアンタを非難したことも。私のやったことは何も間違っていないわ」

 

 アケボノは無謀にもハンター試験を受け、そこで殺されかけた。

 とはいえ、一切後悔はしていない。

 恥は晒したが、生きて帰ってこれたのだ。

 まだ、自分は挑戦できる。

 

「私自身は何も正しくないだけでね。私の正しさは自分で証明するしかないのでしょう?」

 

 ただ、アケボノも自分が間違った存在ではあったのだ。

 自分が正しくありたいのであれば、後は周りが納得できるように示すしかない。

 それを今になって理解できた。

 

「ふむ。アケボノの成長か。嬉しいような、哀しいような」

「何でよ。何か不満なの?」

「私に反発してくれるアケボノが好きだったのだがな」

「あっそ」

 

 子供扱いされているようで、釈然としない。

 未だに、この女のことはよく分からないでいる。

 

「アンタは。私のこと嫌いじゃないの?」

「良くは思っていないが、好いてはいる」

 

 そこは分かるのだが。

 ハカセは興味がなければ、とことん関わらないように動くのだ。

 関わるのであれば、それなりに価値を見出しているからであろう。

 

「アケボノは私のことが嫌いなのだと思っているが。私はそれなりに認めているぞ」

「露骨に嫌っていたのに。よく付き合ってくれてたわね」

「嫌いってことは、その人を利用しきっているということであろう?」

 

 動きがピクリと止まった。

 

「え。気づいていたの」

「私が気づかないとでも?」

 

 ハカセは無表情で呆れているが。

 とはいえアケボノには無理があるし、仕方ないだろう。

 

「アンタは、その。よく単純で複雑だから分かりにくいのよ」

「私は殆ど単純だよ。複雑の人間こそ単純に動くのに」

「嘘つけ」

 

 具現化系は神経質であるのが定番であるが。

 時によって特質系だったり強化系だったりする人物の行動を読むは難しかろう。

 

「アンタは、私たちに使われることを良しとするの? そこは分からないわね」

「ふん。誰かに使われない人生があるとでも?」

 

 アケボノもハカセを利用しているからこそ嫌っている。

 プリンツに関しては露骨すぎるぐらいだ。

 それを理解した上で、ハカセは二人を認めている。

 

「とはいえ私は基本的に誰かを求める人間ではない。大抵のことは、今の私一人で出来てしまうからな。そういった環境で、二人は私に新しい風を吹き込んでくれるのだから良いのさ」

 

 RPGよろしく、仲間を作ると出来ることは増えるのが普通なのだ。

 その場合で人を利用しないのは、そうする必要がないからだろう。

 万能の天才は人に頼らないのである。

 

 彼らが頼るとすれば、それは誰かに求められることであろうか。

 

「“それに。こんなボクらでも、ただただ見ているだけの異常者たちよりはマシだよね。見たがるクセに自分からは手を出そうとしないクズどものことさ。今も見ているのだろう?”」

 

 ハカセは芝居かかった動作で、無理やり笑って見せた。

 それが自らを使ってくれる人への、精一杯のお礼だった。

 

「いいけど、その癖は止めてよ。アンタの前世の文化なんて分かんないってば」

「別に良かろうよ。自己満足だから、スルーしてくれると助かる」

 

 相手は認めているのだが、やはり気分が悪い。

 やはり二人は相いれないのだろう。

 

「そういや私、一度アンタに殺されかけてたわね。アレから少し優しくなった感じがするけど」

「あの時か。今でもそうだが、無能な怠け者など縊り殺して終わりだと思っているのでな」

 

 勿論、認識を改めたよとハカセは付け加えた。

 この社会ではどんな道でも、実力と人間性が求められている。

 それが出来れば、この社会では生きていける。

 出来なければ、底辺となるだけだ。

 

「アケボノも、弱くはないと思うぞ。今の所は結果論であるが。私と志は概ね一致するのではないのかね?」

「ハンターになったからって、あえて危険な道を行く必要もないのよね」

「であろう」

 

 普通のジャポン人は海外になど、それもヨルビアンに出ないのだ。

 移民問題のある地域に移民として行くのは、生きるだけでもそれ相当の実力が求められるのである。

 

「そういう道は幾らでもあるのだ。最も、この平和が何処まで続くのかは私には分からんがな」

 

 確実に、人類は暗黒大陸に進出することになる。

 ハカセは暗黒大陸のことを予測できていない。

 この世界に安全な場所など、どこにもないのかもしれないのだ。

 

「もう。物騒な事言わないでよ。折角、あのヒソカが死んだと聞いて、一安心できているのに」

「ちょっと待て」

 

 ハカセの無表情な顔が分かりやすく引きつっている。

 眼の光も揺らいでいる。

 不意打ちに対して、動揺を隠しきれていない。

 

「情報のソースは?」

「え。電脳ネットだけど」

 

 ハカセはすぐに立ち上がって、パソコンを立ち上げる。

 椅子にも座らずに、キーボードに打ち込んでいく。

 ハンターの情報サイトによると、ヒソカは爆発による窒息死であると書かれている。

 

「これはアレじゃな? 死んだと見せかけて実は生きてるパターンじゃの?」

「キャラが崩壊してるわよ」

 

 茫然として、そこから何もしようとしない。

 

「天空闘技場でも見かけないらしいし、確実でしょ」

「あのヒソカが窒息死なんかで死ぬわけないだろうよ。私は信じないぞ」

 

 こういうハカセを見るのは大変珍しいのではないかとアケボノは感じる。

 多分、自分たちが死んでもこうは反応しないであろう。

 自分が見たのは一度だけで、プリンツが今の姿になった直後の頃だけだ。

 

(じゃあ何で、親が殺されたみたいな表情をしているのよ?)

 

 思わず、壁の方に目を逸らした。

 視線の先には、あのピエロの絵があった。

 

 不思議なことに、そこには涙が描かれていなかった。




色々真似しながら描いたイラスト2。

【挿絵表示】




名前:ナツキ・アケボノ
身長:149cm
体重:40kg
3サイズ:B74/W52/H68
属性:中立・善
好きな映画:チョコレート工場の秘密
好きな音楽:愛を取り戻せ!!
特技:料理、ネトゲ
苦手な物:ハカセ
天敵:父親
能力:太公望伝説(すごいつりざお)不確定要素な羅針盤(きまぐれなレーダー)

解説:主人公の弟子二号。利他的だが、他人に対しては当たりが強く高圧的。主人公とはお互い不快に思いあっているが、関係は良好。
師に似て才女ではあるが、戦いだけは向いていない。神経質な具現化系においても特に敏感であり、それが彼女の念にも表れている。
万能な感知タイプであり、腐る場面がまずないことが最大の長所。特に直感による選択を評価されている。

主人公に苦言をこぼすために設計した、言わばワカメのようなもの。最初は物語の途中で退場する予定であったが、殺さなくて良かったと思う。


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EX8. Your Reality

予定していたことを描ききるのは、何か疲れました。

とはいえ、当初の目的はある程度達成できた訳で。
自分でも納得はできていない所もあり。色々まだ描きたいことはありますが。
これを機に、しばらく小説を書くのは辞めようと思います。


 休日の昼間、ハカセはジャージ姿で布団に寝ころんでいた。

 上半身だけを起こし、折り畳み式携帯電話で通話を行っている。

 

『そういえば、ハカセ。大富豪バッテラの話を耳にしましたか?』

 

 話し相手のプリンツは世間話の感覚でその話を振った。

 それはごく普遍的な最近のニュースであり、そう不自然な話でもない。

 ハカセも偶然ネットで見かける程度の事柄である。

 

『うん? ああ、してるさ。“バッテラ氏 G・I(グリードアイランド)症候群”だっけ?』

『ええ』

『“病に伏した愛する恋人を救うため。龍が現れ夢を叶えてくれると言われている、伝説のゲームを追い求める“か。何とも感動的であるな。私には恋愛の事など何一つ分からんが』

 

 伝説とはいえ、それは10年も前から続く話である。

 ハカセが“これが10年以上のゲーム機とか嘘だろ先生”と言いたくなる程の、ジョイステーションという名のゲームハードの全盛期から始まる。

 ゲームカセット自体は、ハンター専用ゲームとして公的に発売されたものだ。

 

『何でも、ゲームの開発にはあのジン・フリークスが関わっているそうではありませんか』

『その話は公の物であったか? とはいえ、少し調べれば分かる話であるか』

 

 願いを叶えるというそれは、一般に都市伝説程度の認識だ。

 とはいえ、オカルトの類が念やら不思議生物やらで説明できる世界である。

 開発が潰れた故に責任を負うものもおらず、多くの問題を引き起こしながらそれは伝説となっていった。

 念の存在を知るならば、必ず確信を持つことであろう。

 多かれ少なかれ、噂で語られていることは真実なのだと。

 

『ハカセはどこまで知ってます?』

『かなり深い所まで立ち入っているよ』

『では、何でも夢を叶えるというのは?』

『この世にドラゴンボールは実在する。とはいえ察しの通り、G・Iは念能力によるものだよ』

 

 そして、このゲームは未だにクリアしたものがいないのである。

 そしてハンターは希少な物を追い求めるのがその仕事。

 こうして今も、多くのハンター達がこのゲームに飲まれていく。

 

『参加するつもりか?』

『いえ、優先度は低いですね。話を聞く限りでは、私の追い求めているものではなさそうですので』

『であるか』

 

 ハカセが知るに、プリンツはゲームを遊ぶ人種でもない。

 勧められて多少たしなむ程度であり、実際に気に入るかは分からない。

 

 何より、クリアの先に彼女が求めているものがあるかは微妙な所だ。

 一応クリアデータには懸賞金が懸かっているが、お金儲けとしては効率的な手段ではないだろう。

 そして懸賞金目当て以外のプレイは、現在困難な状況にある。

 

『参加したいのであれば、バッテラ主催の選考会に参加すればよかろうな。そっちの方が、面白いだろう』

「みたいですね」

 

 ゲームの数自体はそこまで少なくはないが、大半が大富豪バッテラによって買い占められている状況である。

 入手難易度は低いとされているが、実際の購入は大変難しい。

 とはいえ、バッテラはゲームクリアのためにハンターを募集している。

 それに乗っかれば、プレイはできるであろう。

 

『んー。いや。そうだな。G・Iの詳しい話をしたいから、期間が出来たら私の家に来てくれないか?』

 

 幾つかの物を思いだしたハカセが、そう切り出した。

 具体的には、“支配者の祝福”であったり。

 これはG・I内のアイテムの一つで、これを手にした者は城下町が与えられるというものである。

 大なり小なり、こういうものがG・Iには存在するのだ。

 

『どういうおつもりで?』

 

 彼女の珍しい提案に、電話越しにもプリンツの困惑が読み取れる。

 

『私と似た方向の、念能力の一種の頂点を見たくはないかということだ。プリンツの求めるものと、少しは関係するかもしれんぞ?』

『はあ。であれば、また連絡しますね』

 

 恐らく話だけは聞いてくれるだろう。

 彼女はそういう奴だと、ハカセは確信を持っている。

 

『ああ。体調の方は大丈夫ですか? ナツキちゃんが心配していましたよ』

『私のことだから死ぬことはないだろうさ。私もまだそこまで耄碌したとは思いたくない』

 

 そうして、ハカセは挨拶の後に電話を切った。

 体調がすぐれない中の長時間の電話で、大変気分が悪い。

 

 大してすることもないので、飾られている絵を見つめる。

 

「やはりというか、“家畜に神は居ない”ということか? 忌々しきよ」

 

 

 

 そして日は変わり、プリンツがハカセの元を訪ねてきた。

 ハカセの体調は未だすぐれないが、それでも比較的気丈にふるまっている。

 変身能力を使っているようで、今日はケモ耳女の姿をしている。

 ルナールと呼ばれた姿とはちょっと違い、筋肉が良く発達しているのが見て取れる。

 

「それで、話というのは?」

 

 ハカセが無言のまま、部屋へと案内する。

 そこには小さなブラウン管テレビと、ジョイステーション一式が置いてあった。

 

「これは。まさかG・Iですか?」

「そのまさかだ。世界に100本しかないゲームの、その一本さ」

 

 プリンツも流石にこれは予想外である。

 調べによると、G・Iはハンター専用だけあって莫大な金と時間を要するゲームであるようだ。

 ハカセもゲーマーではあるとはいえ、安上がりや外法を好む故にこういった物は好まないと見ていたのだ。

 

「発売当初から、値段は58億を下らないものと聞いていますが。よく手に入れていましたね。発売されたのも、我々が子供の時であるのでは?」

「私は昔からお金に困ったことがないからな。そういった点で私は幸運であった」

「そういう問題ではないと思います」

 

 G・Iを目的遂行の手段として見るならば効率が悪く、ロマンの域を出ないだろう。

 仮に多くを知っていたとしてもだ。

 買うか金があるなら、他のことに使ったほうが有意義ではなかろうか。

 

「私の学校にゲームマニアの子がいてね。これは彼から譲り受けたものだ」

「そうだとしても、よく譲ってくれましたね」

 

 常識的に考えて、50億程の金目の物を子供同士でやり取りはしないのである。

 

「まあ普通ハンター専用ゲームといっても、マインドシーカーみたいなものだと思うよな。それにジンの名を聞いて、このゲームに挑戦するハンターは当初百人もおらんだったろうよ」

「はあ」

 

 珍しく、ハカセの語りが弱い。

 恐らく彼女も、この辺りは語りたくないことがあるのだろう。

 

「で、するよな?」

「誘われてすぐにやるタイプのゲームなんですかね。ここはまず、その説明書とかは」

「すまんが残していない」

 

 ですよねー、と苦笑する。

 多分、説明書の類も高額商品扱いだ。

 それか説明書があっても、製作者の意向から非常に簡易なものであったのかもしれない。

 

「でも、ここにあるのであれば。やってみたくはないかな?」

「それは、そうですけどー」

 

 ここまでお膳立てされれば、流石に食いつきたくなる。

 ハンターとは、大体大方そういうものなのだ。

 

「しかし。ハカセの趣味に合うものなのですね」

「私もこういうことはするよ。それに、私も今回ばかりは幾つか用事があるものさ」

 

 さて、G・Iはハンター専用ゲームと言われてはいるが。

 実際は念能力者専用と言うのが正しかろう。

 何しろ、念能力者でないと開始することが出来ないのだから。

 

 

 

「G・Iへようこそ。-おや?」

 

 サイケに包まれる空間、ゲームの案内役を担うその女。

 彼女はゲームのシステムを担うからこそ、その異常に気付いた。

 来訪者が同時に二人とは。

 このゲーム本来なら、一人ずつの対応になるはずなのだが。

 

「あー。お久しぶりです」

「関係者ですよね。申し訳ありませんが、お名前をお願いします」

 

 恐らく、こちらにある程度干渉できる権限を持つ人物だ。

 そういった人間を思い浮かべるが、今一つ噛み合わない。

 

「アマテル=ヒュウガです。このカードの」

「成程。ヒュウガさんでしたか」

 

 プリンツがそのカードをチラ見するが、ここからではよく見えない。

 二人は納得しているので、そういった類の物だろうか。

 

「ジンさんは居ませんよ?」

「いや、それはわかっています。単に顔見せですので」

 

 事務的な、軽い雑談に興じる。

 女が集まれば姦しいと言うが、そこまで仲は良さそうには見えない。

 

「ともかく、今はプリンツに説明をよろしくお願いします」

「そちらの方とはどのような関係で?」

「弟子です。ゲームの情報は与えていません。私がいらん事を教えても駄目だと思うんで」

「そうですか。では、説明を―」

 

 ゲームにおいては本が与えられ、その本にアイテムを集めて完成させる事が目的となる。

 その指定されたカードは有限であること、ゲームでの死は現実での死であること。

 そして、詳しいルールは遊びながら学んでほしいということである。

 

(やはり。いないのか、ヒソカ?)

 

 そして、現在プレイ中である。

 ゲーム中には、他のプレイヤーを感知することが出来る。

 もしや、ヒソカもいるのではとハカセは思ったのだが。

 それらしい名前は見つからなかった。

 

「ハカセ。さっき見せたカードは何か特別なものと見ましたが」

「うん? ああ。これか?」

 

 ハカセは再び一枚のカードを胸元から取り出した。

 カードには黒塗りの絵と共に“No.-004 皇帝特権(エンペラー・オーダー) -”と書かれている。

 

「デバッグ用に使う、特別なカードの一つさ」

「バグ取り用のアイテム? どうして、そんな物を。もしや、このゲームはハカセの“美少女転換(プリンセス・テンコー)“と何か関係が?」

「製作者たちに学んでな。実物に念を通す技術に関して、大変お世話になったのだ」

 

 G・Iの技術が、ハカセの念にも使われているのだ。

 それならば、ハカセがG・Iを手に入れていたのも納得である。

 その分謎は深まるが、ここでは些細な事であろう。

 

「その一環で、まあ。私はゲームの根幹に関する事を知り過ぎたのだ。テスターとは名ばかりの、事実上の追放扱いでもある。後悔はしていないが、知識欲というのも考え物であるな」

 

 デバッグ機能はゲームのルールを超えて、様々なことができる物ではある。

 とはいえ、正式なプレイヤーが使って良い機能では(遊びでない限りは)あり得ない。

 こうした機能を所持する者は、プレイヤーとして認められないのだ。

 

「使おうと思うなよ。誓約でゲームクリアが不可能になる」

「ですねえ。そういう事であるならば納得です」

「うむ。それでこそだ」

 

 そういうやり取りを挟みながら、二人は探索を行う。

 そうしてスタート地点から、近傍の街へとたどり着く。

 どうも懸賞の街というらしい。

 

「お? アレは」

 

 街といっても、住人はRPGよろしく決められた反応しか返さないのであるが。

 そうした中で、明らかに理知的なやり取りを続ける集団がいた。

 街の雰囲気にも似合わず、男ばかりという事を除いて風貌もバラバラである。

 

「プレイヤーの集団ですか」

「であるか」

 

 このゲームはネットに繋がっている訳ではないのだが。

 しかし一つの舞台に多数のプレイヤーたちが存在していて、互いに干渉ができるのだった。

 彼らは時には協力したり、時には敵対することになるのだろう。

 

「話しても?」

「好きにすると良いさ。私はあまり興味がないが、この手のゲームの醍醐味であるのだろう」

「そうですか。では」

 

 笑顔を浮かべながら、プリンツはトテテと集団に近寄って行った。

 何故か、その姿にハカセは猛烈に嫌な予感がする。

 

「うん?」

「すいませーん。ちょっといいですかー?」

「ブック。なんだ君は?」

「新人プレイヤーです!」

 

 プリンツが明るく敬礼を決める。

 それを見たハカセの頭に “友情ごっこ”なる単語が浮かんだ。

 多分、気のせいではないと思う。

 

「このゲームのルールを教えてほしくて、他のプレイヤーさんを探していたんですけど」

「そこの彼女は?」

「友達です! なんでも、このゲームの製作者の関係者らしいですよ?」

 

 余りのバカ発言に、ハカセは思わずそっぽを向いた。

 その場の空気が一気に悪くなるのを感じた。

 見るからに怪しさ満点である。

 

「こんな奴は知らん。私と関わるな」

「もう。酷いよ、“フェリス“ー?」

 

 ぶー、っと不満を表すプリンツ。

 しっかりとハカセが登録した偽名で呼んでいる所が、何とも言えない。

 伝えてないはずなのに。

 

「どうする?」

「まあ、それぐらいはいいだろう。調べればすぐにわかることだ」

 

 男たちは互いに見合わせるが。

 特に、情報を出すだけなら問題もないだろうと判断したようだ。

 プリンツに多少の情報を語り始めた。

 

 彼らは一つ星ハンター・ツェズゲラ組と並ぶ、プレイヤー勢力である。

 勧誘により人を集め、攻略を目指していること。

 そういった情報が、やや隠されがちに伝えられた。

 

 そうした中、眼鏡をかけた顎長の男が動いた。

 それまでは静観を貫いていたのだが、ハカセへと近寄ってきた。

 

「ちょっといいか?」

「何だ。私と関わるなと言ったのが聞こえなかったのか?」

「“爆弾魔(ボマー)“について、何か知らないか?」

 

 その言葉に、ハカセは鋭い眼をさらに細める。

 それに対して、男はやや気楽すぎるように見える。

 

「おい、ゲン。俺らがそこまで教えなくてもいいだろう」

「ここは念のために聞いておくべきだよ。知っている奴は多いほど良い」

 

 周囲の男達は、その事を教えたくはなさそうだった。

 多分、プリンツのことを良く思っていないのだろう。

 彼らは仲間を集めている一方で、新プレイヤーを歓迎しない所もある。

 決して一枚岩ではないのだ。

 

「知っている。悪質なプレイヤー狩りの事であろう? それがどうしたのだ?」

 

 このゲームでは仕様(アイテム・呪文)により他プレイヤーからカードを奪うことが出来る。

 それとは別に、直接的な暴力を用いるプレイヤーが存在している。

 ここ数年、プレイヤーを爆殺する“爆弾魔”と呼ばれる者の噂が広まっているのだ。

 

「アンタが仮に、運営側の人間だとしたらだ。プレイヤー間の殺し合いへの対応について、聞いておこうかと思ってな」

「お前は最初の説明を聞いてないのか? そんなこと自明であろうよ」

 

 このゲームは、良くも悪くもルールを明文化しない事が多い。

 強盗殺人以外の入手手段が多く用意されている一方で、殺人によるペナルティは何ら確認されていない。

 そして未だ“爆弾魔”の脅威は絶えないでいる。

 

「下らん事で私を煩わせるな」

「ねえ。終わったし、早く行こうぜー?」

「そうだな」

 

 そうして二人は、変な眼で見られながらその場を去った。

 

 しばらく彼女たちは街を見ていたのだが。

 探索もそこそこに、都合良いぐらい見晴らしの良い場所に着いた。

 

「あれが噂に聞く“爆弾魔(ボマー)”ちゃんですか」

「何を言うのだ。突然に」

「-おや? たらればとはいえ、言ってみるものですねえ」

「くっそ。こいつを連れてきたのは失敗だったかもしれん」

 

 ハカセはそこそこに隠していたが、あの眼鏡の男が“爆弾魔”なのである。

 彼は集団の中に隠れながら、人知れず暗躍しているのだった。

 

「一応聞くが、どうしてそう思った? 当てずっぽうとは言え、とっかかりぐらいはあるのだろう」

「アレも貴女と同じ類の人間ですよ。匂いでわかりました」

 

 その言葉に、ハカセは露骨に首を傾げた。

 それを見て、プリンツも同じく首を傾げる。

 

「プリンツのそれは、今一信用ならんのだが」

「もう。信用してくださいよ」

「何でパリストンさんとゲンスルーを見抜けるのに、私の事を抱いたのだろうか? それが未だに不思議でならん」

「や、やー。その。男は女が絡むと馬鹿になるんですよ」

 

 そのことは流石に黒歴史だったのか、頬を赤らめた。

 そこに自らの非を認めていた。

 

「ともかく、アレは常習犯では? 手口は分かりませんが。恐らく他の場所でも、同様の事を繰り返しているのでしょう」

「あー。そこまでは知らんが。どうであろうなあ?」

 

 爆弾魔、ゲンスルーの“命の音(カウントダウン)”。

 “爆弾魔”と言いながら触れ、能力の説明をすることで設置する時限爆弾だ。

 条件こそ非常に厳しいが、設置されればまず死は免れない。

 まさに、明確に“確実に奪い取って殺す”ための能力である。

 

「そもそも、知った所でどうするのか。皆の前で、“爆弾魔捕まえた”とでも言うのか?」

「いえ? 私はここでの勝ちに興味がありません。他に優先するべきことがありますよね」

「ああ、確かに。“アレら“は、どうでも良い奴らだな」

 

 ハカセには、ゲンスルーの意向も良くわかる。

 わざわざこちらに爆弾魔のことを聞いたのは、ちょっとした余裕なのだ。

 あとは彼が常に“爆弾魔を語る役“を演じていた、というのもあるのだろう。

 あそこで語らなければ、不自然でもある。

 

「で、“君”はどう思う?」

 

 ハカセが振り向き、気をぶつけると。

 その方向の影から黒人の青年が現れた。

 彼はあの集団の中にいた一人だ。

 

「見事な“絶”だと言いたいところであるが。無法地帯とはいえ、女の後をつけるとは良い趣味であるな?」

「すまんな。だが、見当違いでもないらしい」

 

 お互い、無表情でにらみ合う。

 プリンツは相変わらずニコニコしている。

 

「ゲンスルーが”爆弾魔”というのは本当なのか?」

「答える必要がないだろう」

 

 関わりたくないからか、冷淡に切り捨てようとする。

 青年は口に手を当てた。

 

「で。仮に知った所でどうするのだ?」

「そこが問題だな。オレとしては当然、皆にバラしたい所であるのだが」

「ハハ。その気もない癖に、よく言う」

 

 ゲンスルーを退治したとして、彼らはどうするつもりなのだろうか。

 レイザーからアイテムを手に入れるのだろうか。

 ツェズゲラと戦って勝つのだろうか。

 そして、みんな“仲良く賞金を山分け”するのであろうか。

 

 何とも楽しそうな連中である。

 

「それとも、君が代わりに遊んでくれるんだ?」

 

 そこから、ハカセの中から悪意が噴き出す。

 青年はそれに動じなかったが、その代わりに静かに首を振った。

 

「わかった。わかった。だが、俺は抜けさせてもらうよ」

「であろうな」

 

 ゲンスルーも、一人ぐらいは見逃すだろう。

 彼一人が抜けると、怪しむ者もいるかもしれないが。

 それで逃げるならそれで良い。

 

「私が言うのも何だが。君も好きなようにこのゲームを楽しむといい」

「ああ。そうさせてもらおう」

 

 そうして青年は元居た集団へと向かおうとする。

 その前に、プリンツが待ったをかけた。

 

「これ、どうぞ。お近づきの印です」

「ん? あ、ああ」

 

 そこで連絡先が書かれた紙を手渡した。

 G・I専用の連絡手段はあるとはいえ。

 若干拍子抜けしたようで、青年は静かに去って行った。

 

「意外ですね。ハカセのそういう所を理解したつもりでいましたが。初めて見ましたよ」

 

 暫くしてプリンツがこぼす。

 ハカセはずっと渋い顔のままだ。

 

「随分と久しぶりに、死にたくなったな」

「ですか」

 

 ハカセの態度は、明確に爆弾魔側を助長するものだった。

 はっきり言って公平性には欠ける。

 暫く、沈黙が流れた。

 

 

 とはいえゲームは続くのである。

 

「ねえ、プリンツ。何で私、怒られているのかな」

「自業自得でしょう」

「死合い中によそ見とはいい度胸だわさ!」

「おっと。これは失礼である」

 

 ここは街外れの岩場。

 美少女の身体から放たれた完璧なハイキックを、ハカセは身体を逸らして避けた。

 その後も少女がラッシュを仕掛けるが、どれも“軽い“が故にダメージとならない。

 

「アイツ、あんなに強かったのかよ」

「すごいや!」

(君らも大概な成長スピードですけどね。見た感じですが、もう”ハカセ“は追い抜いているのでは?)

 

 その様子を、ゴンとキルアの子供二人。

 そこから少し離れた所で、プリンツが見守っている。

 

「流石は心源流の達人、御見事である。しかし如何せん(パワー)不足なのだな。私を倒すには、その真の御姿を解放せねばならんのだよ。勿論、愛弟子の前でな」

「そんなみっともないこと、出来る訳ないでしょーが!」

「それは残念ですの。記念に一発打ってもらいたかったのに」

「何でアンタが知ってんのさ!」

 

 この美少女は二つ星の宝石ハンター、ビスケット・クルーガー。

 御年57歳である。

 ハカセとの関係は、一方的にハカセが知る程度であったのだが。

 二人は訳あって、拳での語り合いをしている。

 

「ホント! 何であんな、もったいないことしてんのよ!」

「勿体無い? ああ、プリンツのことですかね。確かに惜しいことをしたものです」

「良いエメラルドの原石、中々見ないのに! 何あの偽物ですと言わんばかりの加工! あたしにしなさいよ!」

「すいません。本物の女性には、理念によりしないことに決めてるんです」

「なんですってえ!」

 

 擬態するものは擬態するものを知るという。

 肉体をいじる者同士、何か惹かれるものがあるのであろう。

 ビスケに事情を話すと喧嘩を売ってきたので、ハカセはこれに快諾したのであった。

 因みに、プリンツはビスケの事を見抜けていなかったらしい。

 

「とはいえ、それは痛い程に分かるからですよ。女の子は皆、デステニー・プリンセスに憧れるものなのですから」

「な。案外、アンタもいいこと言うだわね」

「私もプリンツと付き合った時は、理想の王子様に出会ったと錯覚したものです。とはいえ、よそ見はいけませんよ」

 

 隙ありとばかりに、ハカセが相手の首をつかむ。

 首を絞められては困る故に念をそこへ集中させるが、当然他に力が入らない訳で。

 そのまま持ち上げて、後ろへと放り投げる。

 

「宗鳳流修験道空手奥義、ウルトラバックドロップ!」

「それのどこが空手だってキャアアアア!」

 

 こうして別にダメージを与えたわけではないが、ひとまず勝負はついた。

 いっちばーん、とハカセは誇らしげであるその一方で、ビスケはぐぎぎと悔しそうだ。

 別にお互い、勝った負けたとは思っていないが。

 

「では約束通り、見学させて頂きますよ」

「はいはい、いいわよ。見学料は頂くけど」

「おお。それはありがたい」

 

 

 

 こんなやり取りがあったが。

 ハカセとプリンツは、子供二人の修行風景を見学している。

 

「うーむ。実に良い。こうして未来の世界樹は育っているのだな。感心!」

 

 流石に二つ星ハンターだけあって、ビスケは指導慣れしている。

 常人にはとても耐えられない、地味なスパルタ修行であるが。

 才ある二人にはピッタリであろう。

 観察眼さえあれば、見ているだけでも学ぶことは多い。

 

「子供。好きなのですか?」

「それはどっちの意味だ?」

「どっちでも、ですね」

 

 強い人が好きだと公言するハカセである。

 手を出さないとは分かっているが、その理由は何なのだろう。

 

「若い子に手を出す趣味はないよ。将来を期待させる、その姿が尊いのさ」

「なるほど」

 

 愛しいだけで、欲してはいないのだろう。

 イエスショタ、ノータッチである。

 

「出来れば、彼らには幸福になって欲しい所であるのだが。流石に、それは高望みか」

「彼らに苦難が待ち受けていると?」

「間違いなく、な。言い方は嫌だが、その方が“面白い”のであろうよ。ほんと、“見たい”という気持ちも考え物だよ」

 

 ハカセが知る限りでは、彼らはやがて日常に戻るようだが。

 それでも物語は残酷である。

 その後も彼らに四苦八苦が与えられることを、想像であるが確信していた。

 

「私の子供、は。そうだな。子供は欲しいが、私の遺伝子は残したくない」

「相変わらず矛盾してますねえ」

「じゃないと、こんな能力作らんよ。遺伝子操作を行うのに、自分の遺伝子に自信を持てないのだから。未だ出力不足なのも仕方ない話さ」

 

 彼女の能力は“悪”である。

 遺伝子を操作・選別するということは、遺伝子の可能性を否定している。

 その主たる例が優生学である。

 ここで詳しくは触れないが、その思想は現代においてタブーとされるものだ。

 

「だが私に受け継がれた怨念を、ここで断ち切らねばならん。かつて私の親は善意をもって私を育てた。故に、私は子供に悪意を授けようさ」

 

 彼女は常に、自分の遺伝子を否定し続ける。

 環境に適応するため、時代に合った遺伝子を選ぶのだ。

 当然、ちっとも良いことだとは思っていない。

 しかし、それが彼女の求めた姿であるのだ。

 

「そもそもですけど。ナツキちゃんもそうだと思いますけど。男を捨てるというのは、勇気ある選択ですよね」

「真に。確かに男に比べて女のリスクはあまりにも高い」

 

 男女に優劣はないが、重さの違いはどうしようもない。

 例を挙げると、女性の妊娠の持つリスクは男性より遥かに高い。

 妊娠による免疫低下や出産による危機は、古来より続く女性の問題なのだ。

 

「とはいえ、誰もが選ばれるのではないのだよ。子孫を残せる男の数は、昔に40%を切ってるのだから」

「今は違うのでは?」

「今も似たようなものであろう。とはいえ、社会形態によって大きくされるものであるか」

「さようで」

 

 性的に見れば、男は女性より“軽い“。

 男性社会は上下関係に厳しく、常に女性を求めて争うのが基本の形である。

 一応これはある程度、社会によって抑制されるものであるし。

 ハカセも言っていたように、それが“全て”ではないのだが。

 

「そういえばG・Iのアイテムには、性別を変える“ホルモンクッキー”なるものがあるが。興味はないか? 勿論、制限時間があるものだが」

 

 知るものは少ないが、G・Iの世界はゲームであるが現実にある。

 アイテムは現実世界に持ち込めないが、この場で使うのであれば融通は効く。

 ちょっとアレコレするぐらいなら、問題はなかろう。

 

「そうですかー。あまり興味はないですね」

「何故だ?」

「私が男に戻っても、失ったものが返ってくるわけではないですからね」

「そう。だな」

 

 プリンツも“美少女転換(プリンセス・テンコー)”を受けた人間とはいえ、本人が望んだことではない。

 それは二人が望まぬ事故であったのだ。

 その結果、彼女は自分の地位を失ってしまったのだ。

 

「今でも。プリンツから人が離れていって、残ったのが私だけというのは。あまりに悲しい話だ」

「ははは。まあそれは、私の人望がそれまでだったという事では?」

「そうは思いたくないなあ」

 

 彼はかつて、貴族の末梢であった。

 それが事故によって、彼は追放されることになったのだ。

 彼女は昔の栄光を今でも欲している。

 

「なあ、プリンツ。戦うのはもう止めにしないか? ビスケさんを見れば分かるだろうが。本来、女の身で戦うのは勧められたことではないのだぞ」

 

 寛容的なハカセでも、プリンツのその点だけは許容できなかった。

 彼女は自分と違い、どんな場所でも生きていける強かさがあるのだ。

 

「幸い私の能力で肉体のピークは伸ばせるのだ。だからさ、ハンターなんて辞めて、私と情報とかで食っていこうよ。私の知識とプリンツがいるなら絶対出来るって。貴族なんかやるより、そっちが社会貢献できるって」

 

 もっと安全で、社会的な賞賛を浴びる場所が幾らでもあるはずなのだ。

 彼女に実りが少なく過酷な道を選んで欲しくはないのだ。

 

「それからさ。今も私はプリンツのことが好きなんだ。だから、その。今も私の身体は好きにしていいから、さ?」

「ありがとうございます。でも、ごめんなさい」

 

 必死なハカセの懇願を。

 プリンツは苦笑して撥ねつけた。

 

「どうしてだ?」

「やはり、今が楽しいからですよ」

 

 プリンツも最終的には、過去を目指す人間である。

 しかし、それとは別に今に生きる人間でもあるのだ。

 その自覚は持っている。

 

「男から女になって、辛いことが一杯ですが。それでも、楽しくやっていけています。ハカセは先ほど、このゲームを楽しめと言ったではないですか」

「それは、そうだが」

「この世界は私たちが楽しむためにあるのです。それはこの世界の真理ですよ。だから、精一杯楽しまなきゃダメですよ?」

 

 微笑みながら、話を続ける。

 

「女の子は楽しまなければなりません。ハカセは可愛いことを否定しがちですが、私はそう思いません。やはり可愛いは正義ですよ」

「それは、違うだろう」

「私は貴女がいてくれて、良かったと思いますよ」

「やめて、やめてくれ。私はそういう人間じゃないんだ」

 

 ハカセは必死に首を振って、頭をかきむしる。

 

「そんな。何も成せずに死んだらどうするのだ。今のままでは己の証明が、何も残らないのだぞ?」

「死んだら、ですか」

 

 それは決まっていることである。

 自身も死ぬような目にもあってきたし、だからこそどうするかも決めている。

 

「その時は笑って誤魔化しますよ。人生って、そういうものではないですか?」

「私は。笑えないのにか?」

 

 それはあまりに空しくないのだろうか。

 自分ではどうしても、分かり合えないのだろうか。

 

「ふふ。ハカセ、ハカセ。とはいえ貴女の言ってる事も、確かに賢者の言葉ではあるのですよ?」

 

 完全に同意はしていませんが貴女の言うことも分かるのです、とプリンツは返す。

 その辺りは自身もわきまえているつもりなのだから。

 

「ほら、こう言っていたではありませんか。“誰かが悪い事をしたいから、世の中が悪くなるのではなく―”」

 

 人は自分を特別なものと思いたがる。

 自分こそがこの世の支配者であり、世界の中心であるのだと。

 皆がそう思うがゆえに、それを実際に為せる者はとても少ない。

 

“この世界には醜い人間で溢れかえっていて、そんな私たちに価値なんて無いのだから。これも中々、真実であると思いますよ?」

 

 英雄志願は世の中に多かれど、その大半の多くは失敗して潰える。

 その事に対して、世界に自分たちが期待しているような意味はないのだ。

 

 そして、自分もそうなのだろう、と。

 

 ハカセは暫く大きく身震いをしていて。

 大きく静かに頷いていたが。

 その内、その場から一瞬にして消えてしまった。

 

「あらら。行ってしまいましたか。駄目ですねえ」

 

 それを見て、プリンツはクスクスと笑っていた。

 

「そういえば、このゲームって。どうやって脱出するのでしょうか?」

 

 そうして少し困ったように、子供たちを見つめ直すのであった。




色々真似しながら描いたイラスト。
{IMG42564}
色んな元ネタを混ぜたことから生まれた、コイツは何かやらかしてくれそう感は本当好き。


名前:プリンツ・オイゲン
身長:165cm
体重:46kg
3サイズ:B90/W55/H86
属性:秩序・中庸
好きなゲーム:平安京エイリアン
好きな音楽:Das Engellandlied
特技:声真似、人付き合い
苦手な物:アイスティー
天敵:ルナール
能力:自家発電(クラフトワーク)電子麻薬(フィーバー)

解説:主人公の弟子一号。ライヒ出身の元貴族。ルナールの所為で失ったものを取り戻すため、彼女は戦いに身を投じる。
性格は静かで快活、そして自他共に公平で厳格。ただ割と自分勝手ではあり、手癖も悪い。基本的に敵は作るが味方はそれ以上に優秀である。
ライヒは共和制を採択して久しいが、貴族文化の強さから現代でも帝国の名で親しまれいる。ヨルビアンの典型的な階級社会であり、大量の移民に悩まされてもいる国の一つ。

主人公を原作に関わらせるためのキャラ。だったのだが…。


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