ガンダムアーキテクトレイヴンズ (人類種の天敵)
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そして人類に黄金の時代を
自由が欲しかった。
縛られる人生が嫌だった。
初めて知った世界は緑色の霧のスラム。
昼は死なないように霧の中に蹲り、夜は糧を得る為に彷徨い歩く。
地獄の様な日々だったけど、夜だけは霧も晴れて吸い込まれる様な夜空に星がいくつもキラキラ輝いていた。
おもむろに手を伸ばす。
でも、伸ばした手は短くて、空には少しも届きはしない。
いつか。
今よりもっとこの手を伸ばせたら。
いつかは、あの綺麗な空に手が届くだろうか。
輪廻転生。
人が何度も何度も死んで、その度に別の人生を繰り返すこと。
……もっとも、人ってやつには生まれ変わるなりに必要な要素があって、悪いことをすればソレはどんどんどんどん薄汚れていく。
その度にそいつは黒く濁っていって、いっぱい黒ずんだ魂は地獄に行っちまうらしい。
ーーそいつは良い。黒に染まり切った俺は、もうすぐ地獄に行くだろうさ。
意味も無く感傷を口にした相棒に、自嘲気味に皮肉ったジョークを返した。
するとそいつは少し考えて、俺が地獄に落ちるなら、当然自分も一緒に落ちるべきだと主張した。
曰く、お前は私の全てであり、同時にお前は私のもので。
だから手放すことがない様に何処に行こうと一緒に付き添うのは当たり前だ。
へぇ、と俺は相槌を打って。
何がおかしい、と相棒はネクストの装甲を殴った。
ガツンと音がして、痛い筈なのにそれをおくびにも出さず、澄ました顔で相棒は俺の肩に自分の頭を乗せた。
夜に咲く桜を溶かしたような、サラサラとした髪を丁寧に撫で、俺は彼女の頰に一つキスをした。
「おやすみ。セレン……」
「……」
俯き加減の彼女は何も言わなかった。
けれど俺には、その姿が何処か安心し切った彼女の素顔なのだと知れてとても嬉しくなった。
空を見上げると、今まで見たことがないくらい綺麗な世界が広がっていた。
手を伸ばしてみた。
夜空を触る事はできなくて、虚しく風を切る。
でも、それが逆に面白くて、傍の彼女に笑いかけた。
なあ、セレン。見てみろよ。ほら。とっても綺麗だ。……本当に、きれいだ。
彼女は何も言わなかった。
俺もそのことを知っていた。
少し時間が過ぎて、星と月が映える夜の中に見知った白百合と白鳩、それに緑の笑顔を見た。
どっちも俺の知ってる人で、セレンと同じ、俺の大切な人。
さわりたくて、ふれたくて、抱きしめたくて無理に手を伸ばすけど。
なんでか力が入らなくて、結局俺の膝上に置かれたセレンの手と重ねることにした。
彼女たちは泣きそうな顔で俺とセレンを見た。
きっと、悲しくて泣くのだろう。
でも俺はなんでかそのことがとても嬉しかった。
幸せだった。
きっと、嬉しくて笑ったんだ。
大切な人の傍で、大切な人達に囲まれて。
やがて夜空に一筋の光が差し込む。
夜明けだ。
黄金の夜明け。
薄汚れ切った大地を黒で覆い、その上から白で染め上げていく。
これで良かった。
世界はこれからも廻り続ける。
セレンもリリウムもエイもメイも、旅団のみんなも。
みんな、みんな。
みんなが生まれ変わる世界はきっと優しい世界だ。
黒は余すことなく俺が背負うから。
どんな黒も、全部俺が貰うから。
そしたらみんな白くなる。
白くなって、きれいになって、次もきっと良い人生を送れるようになる。
だってみんな頑張ったから。
人が生きれるように世界を変えることが出来たから。
だから。
だからさ。
地獄に落ちるなら、俺だけで十分だからさ。
かわりに、幸せになってください。
それが俺の願いです。
セレンにいう。
さいしょでさいごのわがままです。
セレンが心を隠さないで済む世界に。
いつも怒った顔にならない世界に。
笑顔がとっても似合う世界に。
おねがいします。
セレンはとっても良い人だから。
気付けば笑っていた。
もう、思い残す事はなくて、彼女達に囲まれて眠れることが嬉しくて。
セレンもきっとこんな気持ちだったんだと理解して。
少し眠くなって。
……ああ、いつ聴いても耳に残る綺麗な歌声だ。
リリウムの歌声が響いた。
最愛の人に贈る鎮魂歌。
エイのネクストから夜明けの空へ打ち上げられた花火。
いつ見ても見惚れてしまうメイの笑顔。
ずっと見ていたかった。
でも、やっぱり眠くって。
リリウムの声に涙が混じって。
気付けば3人とも泣いていて。
あたまを撫でてあげたかったんだけど。
もう呼吸もままならなくって。
そろそろ疲れた。
少し、残念、で。
もう寝なくちゃ。
3人がおれをみてて。
眠い。
笑顔で。
さいご。
「おやすみなさい」
………あぁ、うん。おやすみ。
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生まれ変わったイレギュラー
一目惚れでした、気付いたらお会計が終わってました。
内容はケンプファーにジャイアントバズ×2とショットガン×1でした。
そこはショットガン二個持たせるとかチェーマイン装備してくれよ……と少し残念でしたが結果的に良い買い物をしたと満足です。
ジェスタの食玩が欲しいです(切実)
おぎゃぁ、おぎゃあ
病室に響く赤ん坊の泣き声。
ベッドの上で幼子を抱いて優しくあやす女性と、瞳に涙を滲ませて笑顔で笑う男性は産まれてきた我が子を祝福していた。
赤ん坊はその小さな体から想像もつかぬ大声で泣き喚いているが、男と女はその姿にどこか違和感を感じて首を傾げた。
おぎゃぁーおぎゃぁー(棒)
ーー赤子は、先ほど生まれたにもかかわらず、何かを悟ったような達観した表情と平坦な声音で泣いていたのだーーーーー……
マジか。
白い病室。
上半身裸で胸を出した女、いい歳してはしゃぎにはしゃいでいる男を視界に収めた時。
目を見開いて独りごちた。
まさか、こんなことがあるなんて……と。
「……この子泣かないわね」
「たしかに。目もどこか腐ってるというか……」
(何が悲しくて全裸の俺が泣かなきゃいけないんだよ)
ムスッと仏頂面した俺に女と男が首を傾げて言うが、それはある意味当たり前だ。
何故なら俺は、前世の記憶を持つ赤ん坊だからな。
「おぎゃー(棒読み)」
しかし記憶を持ったまま赤子の姿になるとは、一体どう言う因果だ?ここが地獄ってわけじゃなさそうだし。
呼吸と一緒にため息をついて先ずは情報収集が先か考えたが、どうやら赤子の体は不便なもので直ぐに眠気が回ってきたのでもう寝ることにした。
次に目が覚めた時にまた考えればいい。
「ふふ。おやすみ、私達の可愛い坊や」
「いっぱい寝ていい子に育つんだよ?」
薄目で捉えた両親の笑顔を最後に、俺の意識は眠りについた。
2ヶ月後
「さあおっぱいの時間よ」
「おぎぁ………」
「ん?テンション低いわねー」
いや、それはそうだろう。
頰に押し当てられた乳房に辟易した仕草で吸い付く俺。
生後1、2ヶ月であるものの、二十代〜三十代(自分の歳なんて興味なかったから覚えていない)の前世の記憶を持つ俺にとって両親への赤ちゃんアピールなど絶望以外に表現は無い。
しかしあまり泣くこともない俺に両親が訝しげな目で見てくることにも耐えられないので嫌々赤子の真似事をしているわけだが。
「ほんとこの子って世の中に疲れましたって顔してるわね……。一体この子に何があったの」
既に疑問の目を向けられていた、畜生。
「あっばばば。あばぶ」
無心だ、無心で吸うんだ。
俺の母親こと烏丸ショウコの乳房を掴み、早くこの時間が終わればいいのになんて考えながら赤子に課せられた授乳の義務を果たしていく。
「ん、んんっ……!?はひっ、こ、この子。吸い方が上手いっていうか……吸い方を分かってるっていうか……///」
当たり前だ、前世で何人女を抱いてきたと思ってる。
かの名家のお嬢様に家畜同然のペット、気安くワンダフルボディな戦友。
さすがに相棒のBBAには手を出さなかったが、あいつ年齢に対して容姿が比例してないからな……年齢を知らなかったら襲ってたと思う。
まあ、そんな感じで?女性の扱い方に関してはかなり自信がある。
母親を悦ばせるなんてあまりにも不毛だけど、身体が覚えてるからシカタナーイ、シカタナーイ。
「は、はぁ、はぁ……。た、耐えれたけど。こんなんじゃ駄目ね。赤ちゃんに吸われたくらいで欲求不満を覚えるなんて………よし!」
ショウコは握りこぶしを作って笑った。
その時の目がまるで野獣のような鋭い眼光であり、俺はふと、前世で関係を築いた女性リンクスは軒並みこんな目をしていてたのを思い出した。
『実は良いお茶が入ったんです。ふふ、美味しいですか?……体が、熱い?……でしたらこれからリリウムの寝室に行きませんか?……ふふ、そしてアナタとリリウムの子供を(小声)アナタトリリウムノ……。フフ、フフフ。ウフフフフフ』
『弾幕……凄く濃ゆかったです。それに私、今日そういう日で………。えへ。実はセレンさんにこの事をもう伝えてるんですよ?だからこの子と一緒に、これからもヨロシクオネガイシマスネ?』
『私達、やっぱり相性良いみたいね。ほら、この子だって凄く喜んでる。アハっ。今蹴ったみたいよこの子。ダカラホラ、モットツナガリマショ?』
「………」
「?どうしたのー?そんな怖い顔してー」
あかん、なんかすげえ背筋凍った。
ともあれケイスケ(親父)なんか、かーちゃん暴走したみたいだけど頑張れ。
「ぁぁぁーー!!ショコちゃん怖いんだけどー!!?ちょ、動き、激し……!やめ……!?らめえええええええーーーーー!!!」
「あくしなさいよ、ほら!」
その日の夜は色々溜まっていたショウコがケイスケを襲い、うるさくて眠れなかった。
この調子なら弟か妹が生まれるかもしれない。
まあ、なんだ?男なんて結局は女の尻に敷かれるもんだ。
強く生きてくれ、親父……(元凶)。
母親の野獣化から年が明け、ケイスケ(父親)ショウコ(母親)は双子の女の子を授かった。
ニコニコ笑顔で肌ツヤツヤのショウコが満足気に笑っている横でケイスケが顔に手を当てて「凄く……搾られました」と泣いていたのが記憶に残っている。
「あー(棒)」「ばぶー」「あーばー」
「妹が出来たのにちっとも表情変わんないわ」
「本当にこの子に何があったんだろうねぇ……」
双子が出来た。
名前は長女が紅葉、次女は葵。
因みに俺の名前は渡鴉と書いてトガ。
最初に聞いた時はその読み方に咎人を連想したもんだ。
前世でクレイドルを落として数多くの人間を殺した俺には似合いの名前だと。
全部背負い切れたかな……と。
「ばーぶー」「あびぃー」
「やめろー」
腕に齧り付く葵、抱きついて離れない紅葉。
葵は食いしん坊の素質があるらしく、授乳の時間は1人だけ吸う音がおかしい。
更に目に付く物は何でも食べてしまうため、ある意味目が離せない妹だ。
変わって紅葉はよく分からない子だ。
いきなり抱きついて来てピトッと密着したかと思えば機械のように精密に指で「イレギュラー、修正」となぞってくる。
生まれた時に「おぎゃー」ではなく「イレギュラー」と叫んだのはお世話になった病院の神話になってるらしい。
「好かれてるわね、お兄ちゃん?」
「うー」
好かれてるわけではないと思う。
紅葉の行動は半ば狂気じみてるし葵は至極幸せそうに俺の手を頬張ってるのが怖い。
いつだったか、母親が見てたアニメに人の肉しか食えない系のバトルアニメを見たことがある。
そういう類だ、こいつは。
「いれぎゅらーいれぎゅらー」
「どみなんと。どみなんと」
人差し指を向けてその単語ばかり発し、きゃっきゃっと笑う(片方無表情)双子。
本当何なんだろうね、こいつら。
1年経過、喋り出す双子。
うるさい。
2年経過、動き出す双子。
落ち着け。
3年経過、付き纏う双子。
ついてくんな。
5年後
「母さん。これ何?」
「イレギュラーににてる!しゅーせい!しゅーせい!」
「お腹空いたーぁー食べていーい?」
「やめろバカ」
俺たちはガンプラに出会った。
双子の正体が分かった人はドミナント。
まあ、結構名前でヒントがビンビンだし分からなくもないか?
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To irregular Welcome to the Gunpla
ガンプラ。
それは人々にとって玩具であり、道具であり、友であり、可能性であり、力であり、自由である。
ことガンプラ文化の栄えた現代において、ガンプラは人々の娯楽になくてはならない存在となっている。
そして今もまた。
ガンプラの魅力に取り憑かれた少年が1人………。
それを見たのは何気ない争いからだった。
「ちゃんねるしゅーせい!ばんぐみしゅーせい!これやーだぁー!」
「おおぐいばんぐみー!りょうりとくばんー!おなかすいたーぁー!」
「お前らうるせえ!?」
自分の見たい番組を求めてリモコンを奪い合う双子、紅葉と葵。
紅葉はこの頃再放送を開始した『レッド◯ン』という番組に。
葵は大食い、また料理の特番。
まだ4歳のくせして大量の昼飯をがっついた後にまだ料理番組なんて見るか。
しかもお腹空いたーまで言いやがって。
あと紅葉。
赤いあいつの番組は正直子供には早すぎるとお兄ちゃん思うんだ。
「赤いあいつ!赤いあいつ」
「食べるぅ!食べるぅのー」
「あーうるせー適当に番組変えるか」
「「やー!」」
これ以上騒がれても面倒だ。
双子の手からリモコンを奪ってチャンネルを変えていく。
2人が背中からポカポカ叩いてくるのも知らんぷりしてると、ある番組に行き着いた。
ガンダムのプラモデルを動かしてガンスラプラ同士で戦い合う番組だった。
既存のガンプラをベースに所々アレンジしていたりオリジナルの武器を手に互いのガンプラが壊れようともしのぎを削って戦い合う光景に、俺も双子もいつのまにか身じろぎすることなく惹き込まれていた。
「おお」「「わぁ」」
MCにビルドストライク、エクシアダークマターと紹介されたガンプラ同士が熱くぶつかり合う死闘。
火花が散り、粒子が吹き荒れ、閃光が飛び交う。
ビルドストライクはエクシアダークマターに押されるものの、驚異的な粘り強さを見せて徐々に互角へ押し返していく。
ガンプラを操縦する2人は……いや、3人はガンプラがいくら傷付こうとも戦いを止めるはない。
「頑張れ」
俺を含めた3人のうち、誰がその言葉を言ったのだろう。
紅葉かもしれない、葵だったかも、それとも俺?
「そこだ!撃て!」「頑張れ!」「いけー!」
もしかしたら、俺たち3人だったかも。
俺たちは全員が手を握り、激闘の二機を応援していた。
「あっ」
「終わった……」
戦いは終わった。
ビルドストライクの輝く拳がエクシアダークマターを殴り飛ばしたことが決定打となって。
「ガンプラ、か」
最初はぬるいごっこ遊びと思っていた。
殺し殺される戦いとは対極にあるお人形遊びとバカにして、自分の過去と比べ随分下に見て。
だというのに、一対一という状況下で敵の攻撃を避けきれず被弾していく姿を見るたびに、いつのまにか俺ならと頭の中で軌道を描いていた。
最初こそ下らない児戯と軽んじていたガンプラバトルを、見る側ではなく直に戦いたいと考えていたんだ。
「ガンプラ。これがガンプラバトル」
手のひらを思わず握りしめる。
俺の中の本能が、このままではいられないと主張している。
鼓動が、苦しくも嬉しそうに高鳴りを告げていた。
「あら。今年の世界大会もすごい盛り上がりねー」
母さんが買い物袋を手に帰ってきた。
そのビニール袋の中には見慣れぬ四角い箱も入っている。
「母さん!俺、ガンプラやりたい」
「も、紅葉も」
「葵もー!」
「一体急に何……ははーん。中継を見て間化されちゃったの。まあ分からないこともないけど」
ガサッと取り出した箱は3つ。
箱の表面にはそれぞれギャプランフライルー、ガフラン、モンテーロと書かれていた。
「今年は結構熱いみたいでねえ?ガンダムタイプとか1つもなかったから今はそれで我慢なさい……て、もう聞こえてないか」
母さんが呆れ気味に肩をすくめるが、そんな仕草に気付かないほど俺たちは買ってもらったガンプラに興奮した。
作り方を教わり、3人一列に並んで箱を両手で大事そうに抱え、共用の部屋に引っ込んで作り始める。
これが俺たち兄妹達のガンプラ作りの記念すべき1日だった。
「……ギャプラン足太え。なんだよこれアルギュロスかよ。もっとスマートな……んん?説明文じゃこれが変形時の主ブースターになるのか。いやでもこんな太いのは……あーでも変形はロマンだしなぁ」
「顔は良い。でもなんか違う。修正。腰もこんなダサいの、イヤ。排除。でも変形機能は残したい……組み立てプログラムを変えてみる。色、青はダメ。赤…赤……赤」
「うでにブレードしょーびー!あれ?とれたー!?うええええええーん葵のがんぷらこわれたぁぁーなおしてーなおしてよおおおお」
「うわバカやめろーー!?」
それから毎日ガンプラ作りに勤しんだ。
母の買い物に付き添って模型屋に行き、ショーケースのガンプラを食い入るように見つめては勝って欲しいと駄々をこねる。
俺の場合は「あんたは駄々をこねても可愛げがない」と両断され、紅葉は「あんたに我儘は似合わないわ」と、唯一成功したのは葵で。
「買ってくれないのぉ?(うるうる)」と上目遣いに言ってみれば母親だけでなく通りすがりの中年オヤジまでもがガンプラを葵に貢いでいて正にファルスだった。
年が明け、一人きりの外出令を許されるとすぐさま近所の模型屋へ。
顔見知りの店主に値切りを行うも失敗。
この頃から資金力の乏しさを実感し、
「この株は売れる」
仕方ないので前世で相棒から伝授された株をやることにした。
ところがこれ、結構奥が深く、詳細を知るために新聞を取ろうにも勘の鋭い母親から訝しげな視線を受けるので迂闊な行動は出来ない。
万事休すか、と株取引から身を引こうとした時ーーー。
「情報戦なら得意」
時折意味不明な数字を呟き出す紅葉が虚空を見つめること数時間。
精査完了の言葉と共に告げられた通り、紅葉に指示されたいくつもの株式を買い漁っていくとソレが正に大当たり。
どんどん小遣いと言う名の資金は増えて行き。
手を組んだ俺と紅葉、そして口座開設の駄々こね要員こと葵の3人で等分した金で母親に怪しまれない程度にガンプラを買っては作り買っては作りを続けた。
俺も紅葉も葵も、見えない本能に突き動かされるように。
何もかもが未完成の機体を作り続けている。
俺には1つの目標がある。
前世で、死ぬ時まで乗り続けた愛機を、今度は自分の手で再現してみせる目標が。
まあ、それも母親が最初に買ったガンプラ、ギャプラン・フライルーを一目見た時にイケるんざゃないか?って淡い期待を覚えたからなのだけど。
あれから何年も経って今もなお愛機実現の道は長く、日々が試行錯誤の繰り返しで。
たまに紅葉に「イレギュラーを排除する」と壊された時は凹むし「おいしそー!」と葵に齧られた時はショックで気絶した時もあった。
それでも、俺はあいつを作りたい。
あの機体で、また空を飛べるなら。
今度はどこまで手が伸びるだろう。
今はまだ分からない。
それでも俺は、無くした翼を広げられる日を楽しみに待ち続けるだろう。
アリーヤはギャプランフライルーベースで。
赤いあいつはガフランベースで。
蒼いあいつは遭遇する度にアセン変わるし……んんん゛ッ
※作者はガンプラ製作に関してはトーシロなのでご了承下さい。
あくまでもガンブレとかでアリーヤ再現とか妄想してニヤニヤする気持ち悪い野郎です。
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入学試験
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……
「ふぁ……あと5分……zzz」
穏やかな朝。
布団にくるまって寝息を立てていた少年が小煩く鳴り出した目覚まし時計のスイッチを押してアラームを消す。
静寂を取り戻した部屋に満足気な少年はまた夢の中へ意識を戻す。
「トガ兄ーーーーーーーー!!!」
「ぐえっ……!?」
直後に現れる乱入者。
小柄な体躯に青い髪の少女が人間ロケットを思わせるフォームで真っ直ぐにベットに眠る少年に突撃をかます。
突然の特攻兵器アタックを喰らった少年は当たりどころが悪く絞められた鶏染みた悲鳴を上げて飛び起きた。
「……お前か、葵」
「えへへー」
部屋の主、烏丸渡鴉は下手人の顔を視認して嘆息。
彼の身体に馬乗りになって無邪気に笑うその顔は烏丸葵。
特技大食い趣味ご飯を自称する渡鴉の妹で、ガンプラファイターの間で『蒼い粉砕者』と呼ばれ恐れられているが、ガンプラバトルをしない分には渡鴉にとって可愛い妹だった。
そしてその葵は満面の笑顔で渡鴉の体を揺すりながら彼にとっての爆弾発言を投下する。
「お兄、学校のセレクション?もう始まるよー」
「寝坊シタァァァァァァ!!!?」
葵ごと布団を持ち上げ、文字通り飛び跳ねる。
今日は渡鴉の私立高校受験日だった。
黒いパーカーを着込み、バックにガンプラを入れたケースを二箱仕舞い込む。
今回のセレクションに文房具は要らなかったはずでひとまず支度は完了。
キャッキャと笑う葵を脇に抱えて二階の階段を降りる。
リビングでは父が新聞を読み、母は食器を片していた。
「おはよう。渡鴉」
「おはよう父さん。紅葉は?」
「仕事だって」
「ああ」
「あ、あんた起きたのね。時間大丈夫なの?」
「全然?食べながら向かうからパンない?」
「準備してるわよ」
「お兄、行ってらっしゃーい」
「おー行ってくる」
ノールックで放られたトーストを口で掴み食卓の引いた椅子に妹を座らせ家を飛び出した。
「緊張してヘマすんじゃないよー」
「余計なお世話だ!」
自転車を漕いで試験会場へ走る。
時刻は試験開始の20分分前。
余計な時間の前倒しさえなければ自宅からチャリ通10分の試験会場に間に合う時間だ。
私立ガンプラ学園二年生のアドウ・サガはガンプラ学園を受験しに来た後輩候補達を一瞥して目に見えて落胆した。
(期待外ればっかだな)
彼らは一様に名門として名高いガンプラ学園のセレクションに期待を踊らせ、アドウ・サガを含む在校生に対して憧憬と畏怖の視線を寄越している。
とりわけアドウに対する恐れの視線が多いものだが、それも『デッドエンドのサガ』の異名を持つ彼ならば仕方のないことだろう。
彼ら受験生のガンプラや大まかな力量はアドウにとっては物足りないものの他校であれば即戦力に足るもので、期待しなければそこそこ楽しめるだろうとアドウは今日のセレクションを想像していた所だった。
受付終了間際にガンプラ学園の校門を通過する自転車に跨った男。
「あっぶねー!?ギリッギリ!セーフ!」
「あぁ?今頃受験者ーーーッ!?」
直後、アドウの背筋に冷たい感触が刺した。
鳥肌が一斉に立ち、感じて久しい身震いに知らず知らず彼の口角が上がる。
もしかしたらの期待で声の主を振り返ると、地味な黒いパーカーにズボンのいでたちで、やる気のない疲れ目と寝癖ぼさぼさの男が自転車のスタンドを下ろしつつ肩で息をしていた。
「受験番号ーー番で、はい。烏丸渡鴉です」
受付を終えた渡鴉はこちらを見つめるアドウの視線に気付いた。
見るからに強面ヅラした巨漢がこちらを睨みつけるように凝視しているのだ。
到底無視できるものではないと判断して一先ずかの御仁と会話をすることに。
とは言っても何を話そうか思いつかず、今日はガンプラ学園入学セレクションなのだし目の前のこいつもそういう類だろ、と見当を付けた。
まるっきりハズレである。
「よー。もしかしてお前も受験生?」
ピシッと周囲が固まった音がした。
周りの学生は受験生も在校生も例外なく「こいつあのアドウ・サガに対して何言ってんだこいつ」の視線を渡鴉へ向け、アドウは渡鴉の勘違いに更に笑みを深める。
アドウ・サガを知らぬこの勘違いしたバカに俄然興味が湧いたのだ。
「俺、烏丸渡鴉。お前は?」
「……アドウ。アドウ・サガだ」
「あっそう。んじゃアドって呼ぶわ。よろしくな、アド」
「くくく、ああ」
「「「……」」」
大して強そうでもないそいつはアドウを軽々しく呼び捨てにするどころか自分専用の呼び方まで決めてしまった。
なんて馴れ馴れしいやつだ。
その癖いやにビリビリした気配を持ってやがるそいつへアドウは周りの仲間たちに視線をやる。
ーーアレは俺のだ。
恐ろし気な含みに、デッドエンドに目を付けられた渡鴉を憐れむ在校生たち。
受験生もそのやり取りに気づき、アドウの矛先が自分に向かないのと知れて目に見えて安堵を吐き、渡鴉にこれから訪れるだろう結末を嘲笑う。
受付を終えて余裕が出来たのか、ジュースを片手に鼻歌を歌う渡鴉が受験生たちの輪に入った頃。
「時間です。これよりガンプラ学園入学セレクションを始めます」
遂にガンプラ学園のセレクションが始まった。
受験生は番号呼ばれた順に持参したガンプラで割り振られた在校生と戦い、その総合評価を持って合否を掛けられる。
といってもそこはガンプラ大会連続優勝記録保持の常連校。
殆どの受験生は為す術もなく試験官のガンプラに捻られている。
「つ、強……」
ジムのビームサーベルで両断されるガンダムMk-ll。
ザクのパンチでメインカメラを潰されるVガンダム。
逆に受験生が在校生側を圧倒する場合もあったが、それはほんの一部分に過ぎない。
大部分の受験生が健闘むなしくバトルに敗れ、がっくりと肩を落としていく。
「次は烏丸渡鴉。相手は……アドウ。お前だ。あまりやり過ぎるなよ」
「ちょっと遊ぶだけだ」
渡鴉とアドウの名前が呼ばれた瞬間周りの空気が一変する。
既に彼らの注目は『デッドエンドのサガ』が見せるガンプラバトルでありデッドエンドを気安く呼び捨てる男、烏丸渡鴉が惨めたらしくボコボコにされて彼の自慢のガンプラが粉砕されることだ。
アドウはGPベースに今回使用するクルーエルガンダムをバトルシステムにセットして渡鴉の出方を見るが、渡鴉はデッドエンドに対峙するにも関わらず、余裕綽々な態度を崩さない。
といっても、彼自身アドウ・サガのことを知らないだけなのだが。
「あいつ、デッドエンド相手に余裕そうだな」
「勝てる自信があるってのか?嘘だろ?」
それを知らない周りは渡鴉に対して恐れに似た感情を持ち渡鴉が一体どんなガンプラを見せるのか注目する。
勿論それは対戦相手のアドウも同じことだ。
元から凶悪な人相を更に歪ませて渡鴉とのガンプラバトルに臨む。
「はっ、精々楽しませろよ!渡鴉ァ!」
「気合い充分なのはいいけど、それが一周回って空回りしないと良いなぁ?アド」
渡鴉は背にからったリュックから緑色の蟲のようなモノを取り出した。
そのおぞましい姿に他の生徒は全員唖然とし、アドウですら口をぽかんと開けて自失しかけた。
「それがお前のガンプラか?」
アドウ・サガ自身ゲテモノガンプラ好きを自称し、アナザーガンダムの対極に位置するライバル機をこよなく愛している。
しかし渡鴉が出したソレは明らかにゲテモノの域を超えていて不気味であった。
「あ、これ?ただのケース」
「た、ただのケースでソレかよ。じゃあ本命のガンプラはどんなゲテモノ機体だァ?」
ゲテモノvs.ゲテモノを想像し薄く笑う。
しかし渡鴉は首を傾げて疑問を口にした。
「これ、一応AMIDAちゃんっていうんだけど、可愛くないか?」
(((やべえこいつ頭イかれてるぜ!)))
アドウ以下全員の気持ちが一体化した瞬間だった。
※アドウはゲテモノ機体が好きなだけであり、ゲテモノ枠を超越したAMIDAちゃんは思考の範疇にありません。つまりAMIDAはゲテモノ界最強の生物なのです。
「本当。あの子可愛い」
「………シ、ア?」
約1名AMIDAをお気に召した重症患者がいたようです。
「まあケースとしては最高級だから今度使ってみなよ。ほら、こんな感じでガンプラと中を別々に収納できて」
「……んだ、そりゃ」
胴体から頭が離れ、中に隠れていたガンプラが姿を現わす。
ソレを見てアドウは思わず呟いた。
「軽量二脚〝アクアビットマン〟ま、未完成だけどな」
アドウのガンプラに明日はあるか?
コジマはチャージ出来てるか?
ーーコジマ戦士アクアビットマン 一話にてーー
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アクアビットマン
GPベースに俺のガンプラ……試作No. 2 アクアビットマンをセット。
頭部、コア、腕部、脚部共に戦闘準備良し。
武装詳細。
右腕部:コジマライフル(未完成)
左腕部:コジマブレード(未完成)
右背部:プラズマキャノン(未完成)
左背部:コジマキャノン(未完成)
肩部:加湿器
全身に配置したブースターの稼働良好。
積載共に重量過多。
「さて、行こうか?」
GUNPL BATTLE COMBAT MODE
フィールドは宇宙空間。
遮蔽物があまりなく、真っ向からの撃ち合いになるか、近接戦闘に持ち込まれるか。
ランスタンは重量過多で動きが鈍く武器も中距離戦を得意としている。
近付かれる前に消し炭になって貰おうか。
『ハハッ!行くぞォォ!!』
野太い声に続いて前方から小型の誘導兵器、GNファングが飛んで来たので避ける。
しかしすぐに旋回してまた突っ込んで来たので避ける。
しかしすぐにまたry、避ける避ける避ける。
『避けてばっかじゃファングからは逃げられねえぞ!』
「うわあしつこい」
コジマライフルをチャージする時間が得られない。
仕方ないので突っ込んでくるファングから順にコジマ手刀でパシパシはたき落とす。
邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔。
ああ、なんかこれハエ叩きみたいで笑う。
『へえ?ファングを簡単にいなすかよ……面白え』
少しばかり賞賛した声にファングってそんな強いかね?と疑問が。
いや、だってねえ?わざわざあっちから突っ込んでくるんだし俺はそれに合わせてコジマパンチで迎え撃つだけだから楽な作業だ。
わざわざ的になってくれてありがとうございます。
「コジマライフル、コジマキャノン共にチャージ開始」
ボタン1つで機体からプラフスキー粒子が止めどなく溢れていく。
それらは全てコジマライフルとコジマキャノンのチャージに使われ、アクアビットマンの粒子ゲージはどんどん0へ迫る。
勿論このままではチャージが終わる頃にアクアビットマン自体動かなくなってしまうので肩に装備した丸い形状の加湿器を作動、ポチッとな。
ジュワァァと中に詰められたプラフスキー粒子が加湿器の如く散布されてアクアビットマンもどこか気持ち良さそうにしている。
これでアクアビットマンが失った粒子を補給しつつコジマライフルとコジマキャノンのチャージ速度を上げることに成功した。
既に緑色の輝きは眩いほどに大きくなり、そこでようやっとクルーエルガンダムが姿を現した。
「遅かったじゃないか……
『は!……なんだよそれ。面白そうじゃねえか』
プラフスキー粒子をコジマ粒子に見立てて制作したこの武装を1発で面白いものと見抜くとは、流石アド、よく見ている。
コジマ兵器にチャージは出来ているか?
勿論、いつでも撃てるぜ。
後はアド坊主の顔面にフルチャージコジマをバーストするだけだ。
『もっと楽しもうぜえ!渡鴉ぁぁぁぁ!!』
ドラゴンハングが伸びて来たのでコジマパンチでワンパン。
如何にも凶悪そうな先端部分が緑色の粒子と共に消滅して返す刀で伸びきったアームを切断する。
『……………………は?』
んっん〜?おやおやどうしたアド坊や。
プライマルアーマーも展開していない伸びる腕如きがコジマパンチの一撃に耐え切れるとでも思ったのかねぇ?残念!答えは消・し・炭♡でしたー!
『なんつー威力だ。俺のドラゴンハングを……』
ふっふっふ、耐えれると思ったら大間違いだ。
それはコジマを知らぬが故の傲慢というのだよ。
持たざる事で無知なる者よ、コジマの恐ろしさを知るがいいわ。
『く、っそが!』
伸びーる腕(右)がやられた事で伸びる腕(左)を使って来たアドぴんメゲない。
その意気に感じて一撃くらいサービスしてもいいかと思ったがあーざんねーん。
バチバチバチ!
『な、んだと!?』
ま、アクアビットマンは元々素の装甲ではなくコジマ粒子を際限なく高め、プライマルアーマーを主体とした戦闘を得意とするからな。
その程度の攻撃じゃアクアビットマンには傷1つつけられないぞ?
「な、なんだアレ」
「デッドエンドをまるで寄せ付けない!?」
アドウ対渡鴉のバトルを見ていた受験生と在校生達は驚愕に目を剥いた。
瞬殺必至と思われていたバトルが意外な方向に流れが変わり始めたのだ。
「アクアビットマンも烏丸渡鴉も!全然聞いた事が無いぞ!?」
「む、無名だっていうのか!?それが、それがあのデッドエンドと渡り合ってる!?」
焦り、戸惑う彼らを横目に在校生のキジマ・ウィルフレッドはクールに振る舞う彼に珍しく好戦的な笑みを浮かべる。
まるで探し求めていた何かを見つけたみたいだ。
「兄さん?」
「見つけたよ。シア……待つばかりだった私が追いかけるべき目標を」
『ファングァァァァ』
『ほいほいほいほいほいほいほいほいほい』
全ファングを放出したアドウと四方八方から襲いかかるファングを緑色に輝く左手で切り裂いていく渡鴉。
彼のガンプラ、アクアビットマンは一目見た時から異質だとウィルフレッドは直感していた。
見た目から来るゲテモノ臭ではない。
立つのもやっとな細い脚部、見るからに薄い装甲、配線むき出しのパーツ、ヘタレそうなお面似の顔。
手に持った武器と背中に背負った砲撃兵装を含めればアクアビットマンはプルプル震えているように幻視すら出来る。
キジマ・ウィルフレッドの妹にして今年の受験生の中で在校生を打ち破ったキジマ・シアは兄の嬉しそうな顔に何処か儚い印象を抱いた水色のガンプラに視線をやった。
(綺麗。だけど……怖い。まるで、何もかも全て焼き尽くしてしまう、みたいで)
それが姿を現した時からシアの身体中に強い悪寒が襲っていた。
それは彼女がガンプラの声を聞く子ができる特別だったから。
渡鴉の手を通じて前世の思いを込めて作られたアクアビットマンやその他の彼のガンプラには傭兵として戦った殺し合いの記憶が綴られている。
それをシアは断片的に感じ取ってしまったのだろう。
喜びに震える兄とは対照的に、か細い両手で体を抱きしめ辛そうに震えている。
「い、いけ!いけええええ!!」
「デッドエンドが負ける!!?」
「アドウ!負けるな!」
「嫌……怖い」
周りの歓声も相俟ってシアの心は押し潰されていく。
それに負けたくなくて呟いた言葉すらガンプラバトルの声援に掻き消された。
それを聞き取れたものなど誰1人としていないだろう。
ーー嫌……怖い
「この感覚……。リンクスか?」
久しぶりの感覚を味わった。
それはノイズ混じりの他人の意識だ。
リンクスとネクストを繋ぐAMSが似たような波状を持つリンクスに対して操縦者の意識を飛ばす現象だ。
しかしAMSやネクストは無く元リンクスの渡鴉を除いてこの世界にリンクスは存在しないと考えていた彼にとって、この言葉は確かな動揺と一瞬の隙を晒した。
『ここだ!』
「チッ!?」
クルーエルガンダムのドラゴンハングが掠る。
避けるついでにコジマライフルとコジマキャノンを撃とうにも動きが鈍く照準が合わない。
無理に態勢を崩したせいだ。
本当ならここでクイックブーストを使って強引に照準を合わせるがアクアビットマンの再現は不完全。
クイックブーストは再現されていない。
『オラオラ!どうしたぁ!?渡鴉ァァ!』
「調子のいい奴っ!」
勢いを取り戻したクルーエルガンダムのドラゴンハングをプライマルアーマーが弾くたびにバチバチ火花が散っていく。
苛立ち、コジマバーンで終わりにしようにもさっきから他人の意識が入り込んで集中出来ない。
「クッソ、がっ!!」
『う、おお!?』
コア目掛けて突っ込んで来るドラゴンハングを左手で掴み、クルーエル本体を引き寄せる。
意表を突かれた形のアドウはなんのアクションも無しにアクアビットマンとの距離は0に。
ここだ、此処しかない。
「さっきから怖い、怖いとバカみてえに」
尻餅を突かせコジマキャノンの位置をクルーエルガンダムのコックピットへ、そして右手のコジマライフルもコックピットに突き刺す。
「そのくせ誰よりもアクアビットマンに目を奪われてやがる!」
素性も知らぬ誰かはアクアビットマンを恐れると同時に、もっとアクアビットマンを見てみたい、直に触れてみたいと興味を示していた。
その意識を感じ取った渡鴉だからこそ、嬉しくもあったし照れて気恥ずかしくもあった。
『うおおおおおおお!!』
ドラゴンハングがアクアビットマンの剣道のお面に似た頭部パーツを叩き割る。
しかしそれでもアクアビットマンは倒れない!
「だったらもっと目見開いて見届けろ!この戦いの先に、自分なりの答えでも見つけてみせろ!コジマァァバァァァァストォォォォォォ!!」
『ははっ!最高だ!最高だぜ!お前ーーーー!!!』
アクアビットマンとクルーエルガンダムの二機は眩い緑色の閃光に包まれた。
あまりの眩しさに場にいた関係者は目を瞑り、やがて光が収まった頃。
『BATTLE ENDED!!』
ガンプラバトルシステムにはアクアビットマンしか残っていない。
クルーエルガンダムは消滅してしまった。
「はは、楽しかったぜ。アド」
「あぁ、俺もだ。トガ」
バトルシステムには渡鴉のガンプラ、アクアビットマンだけが残っていて、アドウのクルーエルガンダムはコジマのフルバーストで存在ごと消滅していた。
「悪いな。コジマ兵器は威力が強すぎるんだ」
「いや、良い。俺がダメージ判定をAにしてたんだから仕方ない。にしても何も残らねえとか無茶苦茶なガンプラじゃねえか」
今回入学セレクションではバトルシステムのダメージレベルをCに設定していたが、アドウの指示で渡鴉とバトルするときだけダメージがそのまま機体に反映されるAに変えていたのだ。
そのためコジマライフルとコジマキャノンの一斉射を喰らったアドウのガンプラは欠片も残さず塵となったのだ。
正に自業自得と言えるが、アドウは後腐れなく自分のガンプラが消失したことを笑い話に変えてみせた。
そこら辺渡鴉はこいつ大物だわ……とも、頭のネジがぶっ飛んでんのかとも内心思ってたりしていたが。
アドウはこれまでに1000体以上のガンプラを破壊してきたが、欠片も残さぬ破壊され方は可哀想な部類と言えよう。
きっとこれまでのツケが一気に回ってきたのだ。
「はは!デッドエンドなんて呼ばれてるが、俺もまだまだだな。こんな壊し方があるとはよ」
ただ本人は反省とか公開とか今までの所業を思い返した感じがないので本人はこれからもガンプラ粉砕を続けるのだろう。
懲りない奴である。
「そういえば」
「どうした?トガ」
先程渡鴉の意識に接触してきたリンクス?を探したいが、自分から探すのは面倒と考えた。
「……ま、直にあっちから来るか。何でもない」
「そうか?ところで、お前のその機体。元のベースは何だよ。もしかしなくてもアナザー系統のライバル機か?」
「バーカ。アクアビットマンにそんなもんねーよ」
烏丸渡鴉(アクアビットマン)vs.アドウ・サガ(クルーエルガンダム)
勝者 烏丸渡鴉(アクアビットマン)
このアクアビットマンを初期レギュで組むと重量過多、EN過剰に陥ります。
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案外生きてる
通知
烏丸渡鴉様。
ガンプラ学園の入学セレクション合格をおしらせします。
「うぇーい」
一枚の通知書を持って喜ぶ。
ガンプラ学園の入学試験を合格した事がこの紙に書かれていて、この紙一枚で俺は今日からガンプラ学園合格者の肩書きを得たぜ。
ちゃっちゃーん 渡鴉は 合格通知を 手に入れた 。
「つってもガンプラ学園の何処かすごいのか分かんないけども」
選んだ理由も家から近いからだし、ガンプラ学園の入学試験は学科じゃなくてガンプラバトルとかいう噂を聞いたからだ。
結果的に噂は正しかったけど。
『へー。キミ、やっぱ規格外だよね。ガンプラ学園がどれだけ名門かも知らずに受けて合格するなんてさ』
「樹里奈。それバカにしてんのか?」
高音寄りの透き通る声が受話器越しに耳の中へスラスラと入る。
今俺は中学校の知り合いと電話で話していた。
『そんな事ないけど?で、キミあのガンプラで行ったのかい?それなら納得出来るというものさ』
「アクアビットマン」
『ひょ……』
奴の言葉を失った瞬間が想像出来て思わず笑う。
以前こいつにアクアビットマン自体は見せたことがあって、それでバトルって本気かい?(笑)と笑われたことがあった。
お前のレールガンを使うくらいならアクアビットマンで戦うわ!と言い返して軽い突掴み合いに発展していくのだが、奴もまさかあのアクアビットマンをガンプラ学園の入学試験で使うなど夢にも追わなかっただろう。
「どうだ?お前が散々バカにしたアクアビットマンで勝ったぞ」
『む、むむー』
何か言いたげな声音。
もう一押しか。
「デッド何ちゃらのアドウを倒したぞ」
『デッドエンドをかい!?それは……凄いねえ!』
「そうだろうそうだろう」
奴もアクアビットマンの凄さを目に染みて実感したようだ。
『ボクも前に一度やった時はレールガンごと腕をやられてね。仕方ないからレーザーブレードだけで戦ったけど、彼結構強いよね』
「あれ。なんだ、お前もやったことあるのか」
『うん。あるよ』
まさか、樹里奈と戦闘経験があったとは。
しかしこいつ、アドウとの戦いにもレールガン持ち出すとか頭おかしいんじゃねえの?
『……キミ、今ボクのことをレールガンバカと頭の中で思っただろう』
おっとマズイ。
このレールガンバカを怒らせてこいつが作ったポンコツレールガンを自宅に送られてくるのは精神的に来る。
「言ってない」
『いいや、言ったね!』
「言ってない」
『言った!もーう怒ったよ?今度キミの家に試作したレールガンを持って来るからね!』
「頼むからヘリを落とせないし人形兵すらKO出来ないポンコツレールガンを持ってこないでくれください」
いやー、ほんとあれはびっくりしたね。
すんげー溜めが長いくせしてサポート用のヘリは落とせないわ人形兵に当てても吹っ飛ぶだけで倒すことも出来ないしさ、アレだよアレ、神世ポンコツの域を超えてるね。
見た目と演出は派手なのによ(笑)
だから産廃なんだっつーの(笑)
『むきー!!三個入り4セットで絶対持って来るから!覚えてろー!』
ビトウ・ジュリナはそれを最後に通話を切った。
醜くもあり恐ろしくもある捨て台詞に背筋が冷やっとしたのは俺の幻覚か否か。
ポンコツレールガンお断りの張り紙でも貼っていようか考えていると、部屋のドアがノックされた。
入ってどうぞーというと、紅葉色の髪をした少女が入って来る。
「イレギュ……トガ兄さん」
「お前今自分の兄に対してイレギュラーと言おうとしたね?」
「……なんの、こと?兄さんはいつも変なこと、言う、よね。だから変なガンプラ、作る、よね?いつか、修正しなきゃ」
無礼な物言いの妹、烏丸紅葉。
元気で食い気のある葵と比べて口数は少なく、顔の表情筋がまったく変わらずいつも冷静で大人しい性格。
時折意味不明な数字群を羅列したり虚空を見つめて頷いたりと少々電波ちゃんの気が強いが、それも含めて可愛い妹だ。
ただね、日夜俺の部屋に忍び込んで修正修正呟きながら俺のガンプラを弄らないで欲しいの。
寝てる間以外なら触ってもいいからさ?なんで俺が寝てる時に弄っちゃうの?恥ずかしい?お兄ちゃんに見られるの恥ずかしいの?
「そろそろ、大会」
「あー。だった」
そういえばそろそろガンプラの大会があった。
そういうスケジュール管理やマネジメントは紅葉がたいそう好物なので1から9まで任せっきりにしている。
俺がやるとどっかで穴があり、葵がやると注意書きの紙を喰われてしまうのだ。
「ん。チームの登録は済んでる。から」
「おーけ。いつもあんがとな」
「……ん」
流石俺の妹、内心褒めちぎりながら感謝すると、他人には判り辛いものの嬉しそうにはにかんだ。
待って俺の妹が超可愛いんだが。
「それと」
「?」
部屋を出た紅葉は中を振り返っていつもの仏頂面を笑顔に崩した。
「試験合格おめでとう。兄さん」
「おー………アリガト」
まったく、俺の妹は魔性スキルEXだなー。
血が繋がって無かったら襲ってたぞオイ。
もう少し自分が女だっていう気持ちを持てとお兄ちゃんはだなー。
「妹に発情とかシャレにならん」
照れ隠しにガンプラを手に取る。
黒いケースから取り出した黒いガンプラ。
ギャプラン・フライルーをベースにレイレナード社の中量二脚ネクスト〝アリーヤ〟を再現した機体。
もっとも、こいつもアクアビットマンと同じでまだ完成してはいないのだけど装備は一応揃ってる。
まず左腕にはガンダムAGE2 ダークハウンドが使うドッヅランサーのドッヅガンを実弾仕様に換装した銃槍型のアサルトライフル。
突いてよしそのまま撃つもよしのなんちゃってマーヴ。
そして右腕にギャプランのロングヒートブレードを一度分解、ビームピストルにブレード部分を上下に二本固定して真ん中に出力増幅装置を付けた白兵戦可能のレーザー兵器。
撃ってよし、斬ってよしのなんちゃってレーザーバズーカ。
背中にはフルドドllに試作1号機fbのユニバーサル・ブースター・ポッドを盛ったり整えたりしてミサイルコンテナに見立てた〝最強〟の
他にムーバフルシールドバインダーにフレアを付け加えたりと色々だ。
これだけでも俺の求めた構成だが、肝心のコジマ粒子が無いのでクイックブーストが使えない。
プラフスキー粒子をコジマ粒子に見立てて設定考えたけど無理だった。
あと俺の製作技術があまり高くなくて満足できる性能じゃない。
「あーあ。どっかにいねーかなー……ガンプラ動かす分に害のないコジマ粒子持ってる奴!」
淡い期待をしてみるが、そんな人間居るわけがない。
それに、リアルでコジマ粒子があったら等身大ガンダムを動かして戦争が起こってる。
結局無理なものは無理と早々に結論を出して机の引き出しからスケッチブック、シャーペンと消しゴムを取り出した。
いつもの日課だ。
ガンプラで戦う時がファイターなら、この時はアーキテクトの仕事と言うか。
「今日は何を描こうか?」
ページをめくるたびに出会ったネクストが姿を現わし、リンクスの顔もまた脳裏に浮かぶ。
アンビエント。
メリーゲート。
ヴェールノーク。
シリエジオ。
フィードバック。
ノブリス・オブリージュ。
トラセンド。
雷電。
リザ。
ステイシス。
フラジール。
旅団。
そして、ホワイト・グリント。
いままで思うがままに描き連ねたは良いが、こいつらを作成する気は今の所ないない。
ただ、このままではなにか勿体無い気がして、直ぐにネットにアップロードしたら誰か作るかな……と思い付いた。
まあ、こんなものを描いたところで作る物好きなんて少ないだろうが。
「まあ、アレだ。作るのが上手い誰かに作って貰え」
もし縁があったらまた戦うことになるさ。
この日、個人による複数のガンプライラストのラフ画がネット上にアップロードされた。
十何種に及ぶそれは見るものの想像を掻き立て、とある〝企業〟達の目に留まることになる。
アメリカ
「……なんだこりゃ。実弾に対して効果的な重装甲に扱いやすい火器。このコンセプト、なかなか面白いな。おい!開発部と社長に繋いでくれ。面白いのが見つかりましたってな」
西アジア
「デザイナーはどうやら無名らしく、これ以前の記録は見つかりませんでした。その点も踏まえて我が社のニューモデルに彼のデザインを採用することは、我が社としても一考の価値はあるかと……いかがでしょう。悪い話では無いと思いますが?」
イギリス
「ほう?中々良い腕をしておる。まさか、似たものを考える奴がいたとはな」
ドイツ
「〝破壊天使計画〟を開始する。彼らを呼べ」
イタリア
「わぁ。これ可愛いですね〜。ちょうど納期を守れなかったビルダーを切ったところですし。今回はこの子にして見ましょうか〜」
南アジア
「大アルゼブラ万歳ィィーーーーッ!!!」
???
「主任。働いて下さい」
都内の高層ビル群の一つ。
清潔さを保ちつつも部屋の主が几帳面でない証拠か、机の上には資料がバラバラに散らかり、ゴミ箱に入りきらなかった紙屑が丸めて放置されていた。
その中を一目見て舌打ちをする女性が1人。
秘書然とした格好にきっちりメガネをかけた女性が座り心地の良いデスクチェアの上で眠り被る男に話しかけた。
「んぁ?……あー?キャロリーン?今何時ィー」
主任と呼ばれた研究員はツナギに白衣を羽織る独特なスタイルの男だった。
彼は新進気鋭の新興企業で、自家製のオリジナルガンプラを開発するのが仕事であったが、机の上には成人雑誌とMSではないナニカと落書きしか無い。
「主任。また徹夜でへんなのの開発ですか。それにこんなものまで。業務に不必要な物資に経費は落ちませんので」
「そんな堅いこと言わないでよキャロリーン。ホラホラ、コレとかさっきコンビニで見つけちゃってさァー。キャロリンに似てると思わない!?アッ!実物より胸が大きいってコレ……キャロリン詐欺じゃーん!?(笑笑笑)ツーカキャロリンハAカップー(棒読み)ギャハハハハ!!!?」
手に取ったグラビア雑誌のグラドルと目の前の女性を何度も比べてバカ笑いする主任をキャロリンことキャロル・ドーリーは非常に冷めた目で見ていた。
そして一呼吸の後に主任の喉元へ手刀を突き付ける。
あまりに早すぎる挙動で主任は笑顔のまま固まり、数秒後に自分の首から頭が飛んでいく瞬間を幻視した。
「……言いたいことはそれだけですか?それではーー」
「エ、アッ、いや……アノ」
「ーー消えろ。
触れてはならぬ逆鱗を乳房と勘違いして鷲掴みにするのは主任の悪癖であり日常だ。
結局キャロリンに格ゲー染みたフルコンボを喰らってボロ雑巾になるのはコレが初めてではなかったというわけだ。
「それで?本当にただ遊んでいただけですか」
「いやや、まさかね!?そんなまさか!ちょっと面白い奴見つけちゃったからさー」
ーー仕事どころじゃなくてね!
主任が見せたパソコンから数々のイラストを一目見たキャロルは、たしかにこれは仕事どころではありませんね、と嘆息した。
「名前は……Architect アーキテクトですか。すぐに調べます」
「オッケー。んじゃ、俺は社長に話つけてくるわ。後ヨロシク」
それぞれの企業は、無名のデザイナー〝アーキテクト〟を中心に動き出す。
それはまだ年の明ける前、12月のことであった。
作れなくとも絵は描こう。
何故なら落書きが好きだから。
とりあえず今回の登場人物(主人公と双子覗く)が分かった奴はドミナント。
個人的に大アルゼブラの人とかポンコツレールガンとか分かりやすそうw
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ガンプラバトルカップ オーメル①
随分待たせた割にはまだ戦わないし短いです。
つ、次から粗製どもを容赦なく叩き潰すよ???
ガンプラバトルカップ。
過去には世界規模の大会が行われており、現在でも複数の有力企業による金を惜しまぬスポンサー力によって、賞金の設定された大会をいくつも開催されている。
その何れもが各企業の広告塔のようなものだが、ガンプラ人口を更に増やすという意味合いでは効果は絶大だったと言える。
現在ガンプラの普及率は世界的に94%を超えている。
正に、ガンプラに黄金の時代を……というやつだ。
それで、そのガンプラバトルカップだが。
これは季節ごとにどっかの企業が開催しているて、今年の一月……つまり年が変わってからの初ガンプラ大会は大人達の事情というか抽選会やらで〝オーメル〟に決定。
企業主催のガンプラバトルカップ本戦の場所はスポンサーのオーメル・サイエンス社が本社を据えている西アジアのイスラエルのイェルサレムで行われる。
まあ、本戦の前に先ず日本の選考会から突破しないといけないのだが、これがまた面倒くさいよ。
「わーい!喰べごたえのあるガンプラばっかだねー!」
「トガ兄さん。会場、着いた」
「んー……分かってはいたけど人多いわー。流石企業大会への切符戦。枠に入ろうって輩が沢山居るな」
何といっても全人類の殆どがガンプラバトルをやっているのだから、知名度の高い大会・イベントではものっ凄い数の参加者で溢れる事になる。
偶に〝有澤重工〟という隠れマニア向けの企業が温泉名に因んだ大会(会場も温泉で、中には実際に温泉に浸かりながら戦うケースもアリ)を開いたりするが、やはり年初めの大会は人数が凄い。
見渡す限り人、人、人、で背負ったリュックにガンプラケースをこれでもかと詰め込んでいたり、ガンプラの工具を持ち歩いてたり仮装コスプレをしていたり。
ほんと見ていて飽きないけど、こいつら全員ぶっ倒すとなるとマジで面倒くせえ。
「全員、オーメル杯に参加資格を持つファイター。それに、有名な高校生も、いる」
「へぇ、存外そんなもんなのか」
今回の選考会。
内容は参加者による潰し合い。
この為に会場全体に大規模なバトルシステムまで配備して、最早潰し合いと言うよりは〝蠱毒〟だな。
「日本選抜として9人のファイターを選び、チーム戦、個人戦で好成績を狙う……か」
実力者はほんの一握りとはいえ、難しいんじゃね?弱い奴らばっかだし。
「でも、メイジンとイオリ・セイが、いない?」
「既に枠内に入ってるんじゃないか?もしくは本当に出ないのか」
メイジンはともかくイオリ・セイは世界大会で優勝した実績もある日本のファイターの頂点だ。
今はガンプラを普及しているって聞くが、日本ガンプラ協会が放っておく訳がないと思うんだけど。
「情報、いる?」
「要らない。その方が楽しめるだろ」
「前回、ので、トガ兄さんの情報は出回ってる、のに。……物好き、だ。なんて呼ばれてるか、知ってる、よね」
「全てを焼き尽くす黒い鳥。喰い散らかして飛んでく渡鴉ってな」
紅葉は既に参加者たちのガンプラや戦い方を把握しているらしい。
だが、俺は敢えて聞かないことにした。
だって、その方が良いバトルになりそうだろ?
若干呆れ顔の紅葉は移動で草臥れたガンプラのパーツのズレの修正や細やかな調整を始めた。
葵はいつのまにか居なくなっていた。
多分会場外の露天を制覇しに行った。
「紅葉、少し散歩してくる」
聞いてはいないだろうけど、紅葉のリアル戦闘力はキチガイ染みている。
きっと不届き者が表れようとも、ただのテロリストが表れようとも、ガンプラを修正しながらでもボコボコにするだろう。
ひとまずこっちはこっちで会場を見て回ることにした。
どんなバトルシステムなのか外観だけでも把握したいからだ。
「おい、トガ!奇遇じゃねえか」
「ん?ああ、アドか!これは、たしかに奇遇だ」
人混みの中でも頭一つ二つ飛び抜けた長身の大男が俺に向けて手を振っている。
ガンプラ学園の先輩にあたるアドウ・サガが満面の笑みを浮かべて辺りを見回している。
やれやれ、人殺してそうなどう猛な笑みを浮かべて何をそんなにはしゃいでいるのやら。
「見ろよ。日本でも上位のランカーが集まってる。くはっ、鳥肌が立ってきやがった」
強い奴?ーー俺はアドに倣って辺りを見回してみる……しかしいずれもワンダフルボディぐらいの実力で、良くてダン・モロ。
アドの言う強い奴と俺の強い奴の基準は違うのだろうか。
「観戦しかできねえのが悔しいぜ」
ん?アドのやつ、観戦しに来たのか?
「オーメル杯に向けて実力派のファイターにだけ参加資格があるんだと。俺らんとこからはシアが選ばれた」
「シア?キジマ先輩の妹の……」
「お前と同じ学年のな。ま、あいつはビルダーの実力を買われたって話らしいぜ」
へえ、キジマ・シアね、紅葉とビルド能力はどっちが上か気になるな。
「実力があるなら学生だろうと起用する。そして集められたファイター達。日本も本気で獲る気だぜ」
そ、そうなのか……こんな奴らじゃノーマル相手が関の山だと思うんだが、オーメル杯を本気で獲れるなんてアドの思い違いってわけじゃないのか?完成してないガンプラAC使っても俺なら一人で全員潰せるぞ。
「っと、ウィルフリッドに席取りを頼んでたんだった。じゃあな、トガ」
「ああ」
アドと別れ、バトルシステムを見に行く。
最新型を導入したらしく、最近見慣れた型ではない。
数を確認すると今回の参加人数の三分の一の数だった、まさかとは思うが、人数を3グループに分けてグループごとの人数で選考する気なのか。
「トガ兄ぃー!」
「おー、葵………いっぱい買って来たな」
見るものは見たので紅葉の元へ帰る途中露店を巡り終えた葵と遭遇、食いしん坊な妹は余りあるお小遣いを使って露天全部の食べ物を買い漁ってきたようだ。
明らかにギチギチと膨らんだ袋を小柄な少女が軽々と手に持っている事に凄く違和感を感じる。
「兄も食べる?」
「いやー、俺は…良いかな?」
見てるだけで胸焼けしそうだ。
しかしこいつ、これ食ってそのあと三時のおやつって同じ量を喰べるからな……栄養が何処に行ってるかは知らんけど。
「兄さん、葵。調整、終わった」
「さんきゅー」
「わーい」
紅葉から受け取った黒いガンプラ、俺の相棒。
さて、他の奴らはこいつ相手にどれだけ耐えられるか……。
『これよりオーメル杯選考会を始めます。ファイターの皆さんは3つのグループに分かれ、各ブロックで3人生き残るまで戦ってもらいます。それからーーー』
「3つのグループでやるんだと」
「なら、別々?」
「えー、戦いたいぃー」
俺たち3人が同じグループに固まるのは良くない。
何故なら俺たち兄妹の戦いに周りが付いていけず、全てのガンプラをボコボコに破壊してしまうからだ。
といっても、これはワザと破壊しているわけじゃなく、俺と紅葉と葵の戦闘の余波でこうなるんだ。
この事件が理由で俺は全てを焼き尽くす黒い鳥なんて呼ばれる事になったんだが……まあ、大会運営もその事を分かってて俺たちを別々のグループに分ける様にしたのかもしれないな。
「あ、運営からメール来た」
俺Aグループ、紅葉Bグループ、葵Cグループで戦ってくれと、推測通り別々に分けるか。
1つのグループで有望な選手を俺たちが潰すのを恐れたかな。
「じゃあまた後で」
「うん」
「ぶー。あとでねー!」
3人それぞれ割り当てられたバトルシステムのところへ向かう。
……と、その前に俺はバックの中から1つの被り物を手に取り頭に被せた。
アリーヤのヘッドパーツだ。
いやいや、前回、初めてガンプラ大会に出た時は3人で少しやりすぎて結構な数のファイターから恨まれんてんだよね、だからこうしとかないと……いやー人気者は辛いわー。
因みに紅葉と葵も外観は違うけど愛機に似せた被り物を使ってる。
葵は試合中もおやつを食べるので口元が開くタイプだけど。
「!?レイヴンだ」
「黒い鳥……!」
「鴉…来てたのか!あいつ」
おうおう、バトルシステムにガンプラを置いただけなのに早速周囲がざわついて来たよ。
たった一回大会に出ただけなのになー、そんだけ悪名高い戦い方をしたと言うべきか?別に普通に撃って切って壊してーってだけだと思うんだけど?
『これよりAブロックガンプラバトルを開始します』
アナウンスの指示に従って全員がガンプラを設置、俺もそれに倣い武装確認、パーツも…完璧、紅葉も良い仕事をする、帰ったら頭撫で撫でした上でチューをしてやろう。
『Battle system combat mode!』
搭乗者名:カラスマ・トガ
機体名:ストレイド
ーーbattle standby
プラフスキー粒子が散布され、無機質な会場が宇宙を、キラキラした星明かりを鮮明に彩る。
その中で一機、俺の愛機は複眼をギラリと光らせた。
ああ、興奮して来た。
たとえ偽物、紛い物の映像だとしても、〝俺たち〟にとって宇宙ってのは特別なもんなんだよ……なあ。
それに、傭兵ってやつは例え平和な世界でも戦う事をやめられないバカらしいや。
さあ、敵を全て焼き尽くしに行こうか。
「カラスマ・トガ、ストレイド。何もかもを全て焼き尽くすッ。まっ黒にな……!」
次からだ、次、次……。
主人公観点からの強さ基準はカラード上位陣とORCA旅団くらいじゃないと満足出来ないようです。その中でもホワグリ、リリウム、照美、ローディー、少佐、真改、ロイ兄貴、古王、ネオニダス、ド・ス……くらいかな?ド・スは雑魚だろって……とっつき職人の時点で強者認定だよ!
皆さんもダン・モロが強いとは思えないだろう?酔っ払い親父が強いとは思えないだろう?(散弾バズは強いけどね)まさかキルドーザーに手こずるリンクスではないだろう?(カーチャン戦のアルドラグレキャ&ミサイル撃ってくるあいつは別として)
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ガンプラバトルカップ オーメル②
あ、今日アマゾンで購入したAC FAネクストオーダーが届きました!
アマゾンから配達完了を受け取ってポストをみたあの瞬間!!
キェェェェェェアァァァァァァトドイタァァァァァァァ!!!
……って感じでしたね(白目)興奮しすぎてアッ……したかもしれません記憶にないです。
みた瞬間に合掌をし、見終わった後のネクストオーダーのあの尊さ……資料集に後光が差していました、これは間違いありません。
未来永劫我が家の家宝にします(`・ω・´)
『さぁぁぁ日本各地のランカー達が集まった今回のガンプラバトルが始まりましたぁぁぁぁ!!果たして生きのこるのはだれなのかぁぁぁぁ!!?』
MCの叫びを皮切りにオーメル杯選考ガンプラバトルAグループの戦闘が始まった。
今回の対戦フィールドは大空に墨汁をぶちまけたような宇宙で、星の輝きがなければ一寸先すらも視認するのは難しい。
観客達が声援と共に見つめる中、フィールドのファイター達に動きがあった。
MCがそれを目敏く察知し、直ぐにカメラにそれを写すように指示を出す。
『おおっとぉ!?これはどういうことだぁぁ!?多数のファイターが一箇所に集まり戦闘を開始することなく待機しているぞー!!!』
映されたモニターにはAグループ出場ガンプラの大半が集まっていた。
ガンダム、ジム、ザク、ゲルググ、百式など、後付け外装で外見の判断がつかないガンプラもあれば本家と同じ装備のみのシンプルなガンプラもいる。
本来グループの中で3機残るまで潰し合うはずの彼らが1個の群となった理由とは。
『潰すぞ、奴を。……あのレイヴンを』
『前回はよくも暴れてくれたな。あの黒い鳥め』
『全てを焼き尽くす黒い鳥……ストレイド……!』
カラスマ・トガが駆る黒いガンプラ〝ストレイド〟。
彼らは前回の大会でそのストレイドと対峙して瞬殺されてしまったファイター達だった。
『確かに奴は強い。だが、所詮は大勢の中の一機!一対一では敵わなくても多対一なら勝機はある。前回の分も合わせて完全に潰してやる』
1人のファイターの発言に他のファイターも頷く。
それ程までにストレイドが残した前大会の成績は恐るべきものであり、かのガンプラと自身の力量を分かっているからこそファイター達は一致団結して彼を倒そうとしていた。
『傍目に見りゃ卑怯と言われても仕方ねえやり方だ。だがな、そりゃあの化け物を知らねえ奴らの理屈なんだよ』
1人のファイターは言う、アレは正真正銘の化け物だと。
彼がとある戦場でかの黒い機体と出会った時間はほんの刹那の間だった、しかしそれでも対峙した瞬間に全身に覚えた寒気と本能が打ち鳴らす警鐘に敵に背中を向けて全速力で逃走した。
しかしそれでもストレイドに容易く撃ち抜かれて一蹴されたのだ、〝黒い鳥〟はそれ程までに危険な相手だった。
『いいか!全方位隙なく構えろ!奴を見つけたらこっちの最大火力で持って蜂の巣にしてやーーーー』
ドガン!
『おお!!ーーて、えっ?』
スナイパーライフルを構えていたジムスナイパーカスタムが遠くから放たれたビーム砲に撃ち抜かれ、爆散する。
それを呆気なく見ていたガンダムヴァーチェは慌ててビームが飛んできた方向へミサイルとバズーカを構えて照準を合わせる。
しかし、
『い、いない!?消えた!全員構えろ!奴が来たぞ!あのレイヴンが、うわぁぁ!!?』
照準を一瞬で振り切る加速。
そして更なる追撃、ガンダムヴァーチェはGNフィールドを展開するも、針の穴を通す精密狙撃を一点に何度も喰らい、一撃、たった一撃がコックピットを貫通して戦闘不能に陥った。
他のファイターの意識が向いた時には既に遠方の彼方からビームの雨が降り注いでいた。
『ぐ、おおおお!!?』
『撃て!撃ちまくれえええ!!』
一機、また一機と撃ち落とされる中でファイター達もこちらへ向かう機影へ集中砲火を加えていく。
ストレイドはまだ落ちない。
舞うようにMA形態でバレルロールしながらビームキャノンを連射し、ムーバフル・シールド・バインダーに装備した分裂型ミサイルをロックした敵機へ放つ。
此方へ殺到するミサイル群にはフレアを焚いて追跡を撒く。
その間に放たれた二基のミサイルは驚異的な速度で加速して敵の弾幕に撃ち落とされる直前に分裂。
中から這い出た子機が猟犬を思わせる軌道で回避行動を取るガンプラに追い縋る。
だが日本ランカーのファイター達も黙ってやられる訳ではなく、適切な回避と弾幕によってミサイルを撃ち落としていくが、ストレイドはその隙を逃さない。
意識をミサイルに向けて自機に背を向けたゲルググへ右手のレーザーバズーカを向けて一射、それだけでゲルググは爆ぜた。
そしてそのまま自ら囲まれるようにガンプラ達の中心へと。
『う……撃てええええええ!!!』
『クタバレ化け物おおおおお!!』
『うおおおおおおおおおおおお!!』
ミサイル、ビーム、ファンネル、マシンガン、ガトリング、幾多の弾幕が黒い鳥を颯爽と包み込んで爆炎と閃光を生み出した。
この密度の弾幕ならかの化け物といえどひとたまりもない、ザクキャノンのファイターがホッと安堵した直後だった。
ーーーバチバチバチィ
『ウッ……ぐぁぁぁぁぁぁ!?』
爆煙を突き抜けた一機の黒いガンプラが左手に握ったランスをザクキャノンのコックピットへ突き刺した。
そのままグリップに備えられた引き金を引くと、ザクキャノンは軽い反動と衝撃を最後にカメラに灯るモノアイを消失させた。
ストレイドは赤く光る複眼を僅かに細ませ、銃槍型アサルトライフルを一気に引き抜いてザクキャノンを蹴飛ばし、周囲のガンプラを睥睨する。
彼にしてみればノーマルが何機集まろうが所詮はノーマルの集団であり、苦戦の一つなど論外なのだ。
それが、例え自分の操縦する機体がネクストではないとしても戦場の経験を持たぬ素人と戦い続けた山猫では純粋な判断力、操縦能力、戦闘力に途方も無い差があるに等しい。
ある意味で彼らの天才的な個に対し凡人が集団で戦う戦術は正しかったのだ。
『たった一機……!たった一機だろう!?何故だ、何故落ちねえ!?』
『ぐんわぁぁぁぁぁ!!』
『この化け物ガァァァァ!!!』
多数のガンプラに囲まれる中でストレイドは餌を喰い漁る鴉の様に次々とターゲットを変更していく。
この次々と敵を変えながらも決して被弾しないストレイドの戦い方に、大会の観客者たちも大いに湧いた。
さしものストレイドを操るファイターの在り様に魅せられてしまったのだろう。
その魅せられた観客の1人、アドウ・サガとキジマ・ウィルフリッドは食い入る様に画面を見つめている。
「戦いてえ。アイツと、あのガンプラと……!!」
「ああ!あの黒い鳥と、いずれ」
ファイターの正体を知らない2人はストレイドの操縦者がトガであることも知らない。
その為、アドウは既に一戦交えてるはずが少し勘違いしてる風であった。
『うおおおお!!凄い!凄すぎるぞ!彼を倒すために集まったランカー達を軽々と倒していくううううううううう!!?』
ストレイドと戦闘を始めて未だに落ちていないガンプラは6機、いずれもダメージに差はあるものの、士気は高いままだった。
彼らは6人に減った今、取れる戦法は一つのみとストレイドに近接戦闘を挑んだ。
「………へえ」
此方へ向かってくる機体へストレイドもまたレーザーバズーカとアサルトライフルをダラリと構えた。
するとレーザーバズーカのフレームが高温を帯びてヒートブレードとなり、アサルトライフルもまた近接戦闘向けの銃槍に変形した。
『ぶった斬る!』
銀色に輝く百式が二本のビームサーベルを振るい、背後から迫るジンがその実体剣を横薙ぎに凪いだ。
左からはジムストライカーがツインビームスピアを、右からはソードストライカーがシュベルゲベールを振り仰いだ。
「ははっ」
高音を発するレーザーバズーカがコの字に別れたフレームでソードストライクの大艦刀が絡め取られる。
そのままビーム刃に爆発性のレーザーを当てると辺り一面が白一色に包まれた。
白兵戦で効果の高い即席の閃光弾である。
『うおっ!?』
『見えない!?』
突然の目眩しに硬直してしまうファイター達、そして自機も目をやられたストレイドだが、見えているとでもいうのかレーザーバズーカのブレード部分でソードストライクの頭部を圧壊させ、ジムストライカーのコックピットへMARVEのランス部分を突き刺す。
そのまま百式を撃ち抜こうとしたがジムストライカーは最後の意地とばかりにMARVEを強く抱きしめてしまった。
これではMARVEは諦めるしか無い。
銃槍をパージしてレーザーバズーカを横薙ぎに振るう。
ガン、と硬い音に周りのガンプラもたたらを踏んだ。
そのままソードストライクを蹴飛ばして一旦距離を取り、分裂ミサイルを射出。
目眩しにフレアを焚き、レーザーバズーカを撃つ。
しかし敢え無く躱されてしまった。
「……後ろか」
背後から迫るロケットを避けた。
だが次の瞬間プライマルアーマーを突破された音と装甲越しに伝わるいくつもの衝撃が。
振り返ってみたものの攻撃の主は居ない。
「チッ」
来ること自体は分かっていた、しかし避けられなかった。
コイツはーーーーーー強い。
強い奴特有のオーラがある、ただ、それをうまく隠して潜んでいた。
強く、賢く、何より読みに長けている。
強敵。
久しくなかった感覚に全身が震える。
『よし、今のうちに畳み掛けーー』
ソードストライクの腕部の関節をレーザーバズーカで一閃、両腕は容易く捥がれ、左手に掴んだ大艦刀をソードストライクのコックピットに
「邪魔だ」
レーザーキャノンを連射して百式の動きを誘導、一つだけ残しておいた退路にレーザーバズーカを撃つと百式は街灯につられる虫の様にソレに当たって爆発した。
ジンが近接戦闘を仕掛けた時点で射撃武器をパージしたのは確認している。
なので分裂ミサイルを適当に撃てばジンの必死の回避も虚しくボロボロに削れていつのまにかロストした。
「後はお前らだけか?」
もちろんストレイド以外の全ガンプラが結託したのではない、あくまでも大部分の選手が彼との多対一を求めただけのこと。
カウントを見れば残りのガンプラは5機、この場でやり合ってるのはストレイド含めた3機で、後の2機はこのフィールドの何処かにいるのだろう。
それでもストレイドは相手にプレッシャーを与える意味合いでワザと挑発した。
『………』
『………』
しかし、目の前の2機は動揺することなく隙のない構えをストレイドに向けている。
その様にトガは更に歓喜する。
「もっとだ、もっと!」
ストレイドの赤い複眼が妖しく光る。
黒い鳥と対峙する深緑色の機体と赤色の機体。
ただ、深緑色の機体は目の前にいる今この瞬間も機体動作によるフェイントをいくつも仕掛けていて気を抜けば直ぐに見失ってしまいそうだった。
更に両手に握っているショットガン。
「お前か……あいつら以外に俺に当てたのはお前が初めてだよ」
傍に浮かんでいたジムストライカーのコックピットに刺さったMARVEを引き抜くと同時にビームキャノンを撃ちまくる。
2機のガンプラは既に慣れたと言わんばかりに余裕のある回避からのトップアタックに躍り出た。
その光景を巨大なモニターの前で司会進行しているMCは狂ったように叫んだ。
『さぁさぁさぁさぁさぁ!!Aグループの出場メンバーも残り5人!最後に生き残るのは一体誰だぁぁぁぁぁぁ!!?』
残ってるメンバー
黒い鳥
霧影
焼き鳥
森
南の爪またはミロクにW鳥または冗談じゃ
このメンバーで次の結末を察してしまった人はドミナント-
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ガンプラバトルカップオーメル ③
因みにガンプラで好きなのはジェスタやガンダムサバーニャ、ムラサメにAOZにでてくる機体は軒並み大好きです。ヒロインのロスヴァイセちゃんも大好きです。ショートヘアハァハァ
「じゃ、行こうか」
『………!』
『………!』
右手に持ったレーザーバズーカを赤い機体へ、左手に持ったアサルトライフルを深緑色の機体へ銃口を向け、前方に加速しながら速射する。
二機はそれを易々と避けて左右から回り込むように機動を取ってくる。
「まあ、そうするよな。こっから加速するぞー」
呑気な声にレーザーキャノンの嵐をのせる。
深緑色の機体はとても素早く、宇宙フィールドでは独特なフェイント、そして機体カラーリングのせいもあってかなり視認しづらい。
もう一方に気を取られてると攻撃の回避がしづらくなるのでまずは赤い方から潰す。
「いつまで避けきれるかな?」
ビームキャノン、分裂ミサイル、レーザーバズーカ、アサルトライフルと選り取り見取り、赤いカラーリングだから狙い易くて嬉しいよ。
『くっ!』
赤い機体は苦戦してる。
なにせ大雑把にばら撒くビームキャノンに気を取られてると分裂ミサイルが懐近くに抉り込んでくるしレーザーバズーカは一撃喰らうだけでも致命傷、んでアサルトライフルは確かな弾幕となって回避機動を邪魔立てする。
このまま赤い機体を潰そうと思ったが、どうやらもう1人の方はゆっくり潰させてくれないらしい。
「チッ、これはステルスか?」
耳で捉えたミサイル独特の加速音に複眼を向けて回避、フレアを飛ばすにも距離的に撃ち落とした方が良いと判断してアサルトライフルで撃ち落とす。
返す刀でレーザーバズーカを背後へ。
「やっぱり読んでたか」
レーザーバズーカの一閃は深緑色の機体に直撃した。
俺がステルスミサイルを避けると読んで回避した場所に待ち構えていた奴の読みをこちらが逆手に取ってやった。
そのまま追撃とばかりにビームキャノンを連射、ヤツのショットガンが爆発する。
「ん!?」
しかしヤツはそのまま片方のショットガンを乱射して急接近してきた。
相手の背後を取りながらショットガンで固め打ちしてくるのがコイツのスタイルとばかり思っていた俺はその行動に反応が遅れ、ショットガンとロケットの猛攻をプライマルアーマーで受ける。
「しまった」
俺の命綱とも言えるプライマルアーマーが剥がされた。
此処はMA形態になって引くべきか迷ったが、目の前に迫る敵機は俺を逃してはくれないらしい。
ならワザと接近した方がもう一方も手出し出来ないはずだ。
「はっ、お望み通りとことんやってやるよ!」
レーザーバズーカのフレームをヒートドブレードに、そしてアサルトライフルを銃槍モードに変えて深緑色のガンプラとストレイドの距離は零になる。
ストレイドの頭部に向けられたショットガンの銃口をMARVEで突き上げて弾き、レーザーバズーカを振り上げる。
しかしヤツは空いた手のひらをそっとストレイドの右腕に合わせると最小の力で横にいなして強烈な膝蹴りを喰らわせてくれた。
「反応がダンチだ」
読みの速度も尋常じゃない。
しかし、だからと言って脅威にはならない。
レーザーバズーカを横に薙ぎ払い、ランスを振り下ろす。
ヤツの機体が機動重視で装甲が薄いのは分かっていた。
高温に熱されて赤くなったレーザーバズーカのフレームがバターのように深緑色の腕を切り取った。
そしてMARVEのランスがそのコックピットを頭部と共に叩き潰すーーーーー
「終わりだ」
『ーーーーーー試合終了オオオオオオオオオオオオオオオ!!?』
MCの叫びに追従してプラフスキー粒子が回収されていく。
周りの景色も宇宙から無機質なバトルフィールドへと姿を変える。
「………」
バトルフィールドを見下ろす。
ストレイドが振り下ろしたMARVEは深緑色のガンプラの頭部に触れるか触れないかの距離で止まっている。
つまり、目の前のガンプラはまだ生きている。
これはどういうことだ?
『試合終盤!森選手と南選手のぶつかり合いは相討ちとなり、Aグループ決着となりましたぁぁぁぁぁぁ!生き残ったのはカロンブライブ〝ファイヤーバード〟フォグシャドウ〝シルエット〟レイヴン〝ストレイド〟となります!』
観客が大いに湧く。
とても広いバトルフィールドの中央にはプラフスキー粒子の効能を失って身動き一つしないガンプラが3つ。
そのうちの2つ、寄り添うように重なるガンプラの片割れを手に取ろうとして気付く。
「へぇ、一歩間違えれば俺の方がやられてた訳か」
ストレイドのコックピットに突き立てられたショットガンの銃口。
プライマルアーマーに防御力を依存しているストレイドもまた、装甲は薄く、意外と脆い。
プライマルアーマーが剥がれ切ったこの時、ショットガンの一撃を受けて膝を突いていたのは俺だったのかもしれない。
「素晴らしい戦いだった」
機体と同じ深緑色のジャケットに身を包んだ人影、こいつがフォグシャドウらしい。
フォグシャドウはガンプラをケースに収めると、静かな微笑みを讃えて握手を求めてきたので俺もその手を取る。
白くほっそりした手つきと予想に違わない柔らかい手だ。
俺の不躾な視線に気付いたか、フォグシャドウは手をブラブラとさせると。
「操縦する分には関節周りがこれぐらい柔らかいと繊細な微調整しやすくなる。慣れると小刻みのフェイントで相手も釣られやすくなる」
と、解説してくれた。
これがフォグシャドウの機動を見失ったカラクリらしい。
「オーメル大会ではお互い味方同士。どんな戦いになるか、期待してる」
「こちらこそ」
フォグシャドウと入れ替わりに握手を求めてきたのはカロンブライブだ。
気さくな挨拶をしてきたからフランクな態度の奴かと思えば「これで勝ったと思うなよ!」とチンピラ紛いの捨て台詞を吐いて来たのは少し笑った。
カロンブライブは今回焼き鳥屋を出店してるらしいから後で葵を連れて行ってみようか。
「兄さん。お疲れ、様です」
「トガ兄!お疲れー!」
トイレでマスクを外して元の姿に戻ると紅葉、葵と合流した。
レイヴン(烏丸渡鴉)〝ストレイド〟vs. フォグシャドウ〝シルエット〟& カロンブライブ〝ファイヤーバード〟
結果:引き分け
LRの方じゃズベンはモリに空中切りされるんだったっけ?その後リムにやられそうだけど……モリカドルェ。
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イェルなんとかさんと穴
多分ですが続き書けよと言われなければアーマードコアの新作が出るまで書かなかった気がry
またエタりそうな時はセレンさん並みの毒舌をオネシャス。
今更だが、この世界にも“企業”は存在する。
それは何の因果か、あの世界に在った企業と一字一句違わぬ名前で、この世界に存在していた。
GA、オーメルサイエンス、ローゼンタール、インテリオル・ユニオン、有澤重工、イクバール、BFF その他et cetera……。
これらの企業の下に更に見覚えのある企業がちらほらと傘下企業として世の中の経済を回しているのだが、皮肉な事に俺がガンプラに熱中するのと同じく、企業もまた、更なる利益をガンプラバトルに求めた。
5、6年ほど前から原作機の企業改修機と銘を打ち、それぞれの中二病や痛い設定を盛り込んだガンプラを連中は作り始めている。
しかも初心者にも簡単な作り方や特徴を絞ってる分扱いやすいので人気も高い。
例えば、陸戦型ガンダムやEz8、サーペントカスタム、ヘビーアームズなどの無骨な機体をフェイズシフト装甲を使った実弾防御特化、装甲マシマシ、ガトリングやらバズーカやら、実弾装甲・実弾火器をゴッテゴテに盛り込んだGA。
例えば、機体性能のバランスやビジュアルを重視して、ジムカスタムやユニコーンガンダム、トールギスなどを改造するなど機体デザインに定評のあるローゼンタール。
例えば、ジムスナイパーやケルディムガンダム、デュナメスガンダムなどの狙撃機を改造して独自の砂砲やスコープなどを開発するBFF。
例えば、ボールやカプル、カプールなどの得意なフォルムを持つ機体ばかりを魔改造して狂信的な信者を持つGAE。
彼らは偏に利益を優先し、ガンプラバトル運営の中枢に忍び込み、ひっそりと、しかし確実に、このガンプラバトルを、ガンプラという文化を管理するようになった。
それこそが今のガンプラ業界である。
現役のプロファイターやビルダーは、その大半が企業専属になり。
大会などで実績を残したり広告塔になる代わりに企業からの支援や報酬を受け取っている。
ただ、その首輪を受け容れることを良しとしない者もまた存在しているわけだが。
この企業に所属しているガンプラファイターやガンプラビルダーは、企業から支援や報酬を約束される代わりにその企業が開発したガンプラの性能をテストしたり企業パーツを使って大会などを通して宣伝しなければならないため、アセンブルの大抵が似通った構成になる。
そのため、企業専属のファイター達はその全員が首輪付きと蔑称されている。
その中において企業の支援を受けず、個人として独立するファイターを人はフリーランスや独立傭兵、又はレイヴンと。
ビルダーの事をアーキテクトと呼んだ。
『選考会2戦目ええええええええ!!はりきっていきますええええええううううう!!』
「トガ兄。つまんないね」
「ん?…ああ、そうだな」
俺の試合の後に始まった2試合目。
レイヴンで固められた俺の1試合目とは違い、紅葉が戦う2試合目は、各企業の首輪付き達で占められているようだった。
「アレはGAのSSサーペントとSSティエレン。こっちにはインリオルの歯茎ザク。……あっちにはアスピナのイナクト。……企業ガンプラの展示会か?」
色を変えただけとか武装や構成の一部が少しだけ違うだけのつまらないガンプラ達が群れをなしてあちこちで戦っている。
それも、生き残り戦だというのに自社のファイターで結託して他のファイターを潰す気満々でだ。
「つまんないねー」
「あぁ」
俺と葵の興味は無くなった。
無論、紅葉がコイツらに負ける要素は無いだろう。
ぶーたれて背中におぶさってきた葵を苦笑気味に背負い直し、喉の渇きを潤す為に会場内の自販機を探す。
『うおおおおおーーーーっとおおお!!?ハスラー1選手!一瞬の交差でサンシャインサーペント二機とサンシャインティエレンを四機破壊したァァァァ!!?一体何が起きたんだ!?全くもって見えませんでしたァァァァ!!』
無駄に熱いMCの声量とボルテージ上がりまくりの観客の反応に顔を顰め、千円を投入してどのジュースを飲もうか考える。
「アクアビット社製ノンコジマのコジ・コーラ。ファンタズマ・グレープ。お〜いガチタン。プリミティブスプライト。つーかノンコジマって何なんだよ……」
自販機に並べられた独特過ぎるドリンク名に呆れた溜息をこぼし、これが一番マシかと思えたキサラギのアミダ酸を購入した。
「うぇーまずそー」
「言うな。買ってそんな気がし始めただろ。多分、アミノ酸の親戚なんだよ」
その怪しげなペットボトルのキャップを緩め、口に含もうとした時ーーー廊下をバタバタと此方へ駆けてくる音が複数聞こえた。
「なんだーー?」
さらに言えば、「待て!」だの「止まれ!」だのと叫ぶ男たちの怒号と、ガンプラの駆動音もだ。
「フィオナ・イェルネフェルト!コジマ粒子の在り処を吐いてもらうぞ!」
「コジマ粒子?」
「どうしたのー?」
黒服の男が叫ぶその単語に俺の視界が目が覚めた。
視界はクリアになり脳みそは活発に回転を始め、廊下を駆ける一団を鮮明に把握した上で腰からガンプラACを引き抜いた。
「行くぞストレイド」
「トガ兄?」
ドクン、と心臓が唸る。
目の前の視界はノイズ混じりの雑音と化し、俺の視界に別の視界が混じり合って融ける。
俺が、俺で無くなる。
そして俺は、鋼鉄の翼を広げるのだ。
「ええい、イェルネフェルトめ、ガンプラであの小娘の足を止めろ!」
黒服のリーダーの指示に従い、黒服の部下たちが意図的にパーツを不揃いに組み上げたガンプラのライフルを彼らが追いかけている少女へ向けた。
他企業のもので構成されたラフカットスタイルなのは自身たちの所属を不鮮明にしたいという後ろめたさ、又は彼らが追う少女の正体の証明でしかない。
「トガ兄ー?」
背中にからった妹の疑問に答えず、俺は右手のレーザーバズーカをガンプラ達へ撃つ。
「なにっ!?」
会場に迷い込んでいた最重要機密人物を追っていた黒服のリーダーは、捕獲命令を下した直後に墜とされたガンプラと、ガンプラを部下のガンプラを墜としたビームバスーカに思わず目を剥いた。
それは今大会で近づくなと厳命されていたレイヴンと呼ばれるファイターが用いるガンプラの攻撃であり、自分たちはその男に攻撃されたのだ!
「なぜ、ここに奴が!?」
彼の所属する企業の支配者達でさえ首輪を付けて支配下に置くことも、闇に葬ることもできないと告げられていたレイヴン。
しかしファイターとしてならエンターテイメントの側面で大いに盛り上げてくれるだろうからと敢えて接触を最低限に留めていた黒鴉のガンプラが企業の暗部である黒服達のガンプラを次々に墜としていく。
「あ、貴方は!?」
廊下を所狭しと飛ぶ黒い鳥は徐に人型に変形すると銃槍型のアサルトライフルを振り回し、突き刺し、弾丸を撃ち込みながら暴れている。
無理だ、敵わない、黒服のリーダーは直ちにその結論に至り応援を要請した。
あの実験体ならば多少の時間稼ぎは出来るだろう、と。
「トガ兄ぃ〜〜!!ずるいずるいー!」
自らのフードを被り、妹にはお面を被らせ、黙したまま突っ立っている渡鴉の傍にいままで黒服に追われていた少女が怯えた様相で近付く。
「やっぱり、貴方は」
渡鴉について心当たりがあるのだろう。
複雑な表情を浮かべるが、彼女の懸念は彼が戦っているであろうガンプラにあった。
「あれでは彼の動きにガンプラがついていけないわ」
視線の先には今も黒服のガンプラを蹂躙するストレイドの姿が、しかし数の暴力とストレイドのスピードを活かせない狭い通路での戦い故か、ストレイドには珍しく被弾の跡が見えている。
「このままじゃランカーが来れば墜とされてしまう……そうなったら」
そう溢し、自身の手の中にある一つの部品に目を落とす。
「いっけいっけトガ兄ー!」
背中におぶられたままの葵は自分のガンプラを出そうとせず応援だけしている。
なんのことはない、この程度の雑魚に兄が負けるなど思ってもいないのだ。
だが、そんな無双状態のストレイドを背後から謎の影が強襲する。
「!?」
ストレイドが視界外からの攻撃に体勢を崩した。
下手人はその状態のストレイドのコックピットへマシンガンを当て、引き金を引く。
「ーーーチッ!」
ブン、とアサルトライフルが振るわれるが、敵機はひらりとそれを避け、中距離からのマシンガンを掃射、じわじわストレイドの装甲を削り取るようだ。
「いけない。アレはランカーよ!」
「なに?」
企業所属のランキング保持者ーーー彼、彼女らは普通の企業所属のファイターと違い、あまり表舞台に姿を表すことなく、企業と企業の戦いーーすなわち裏の世界で凌ぎを削っているという。
(そのランカーが姿を現した、やはりこの女はコジマ粒子を待っている…わけだ!)
しかし、目の前の機体のシルエットを捉えた瞬間、ストレイドの動きが止まった。
「………ーーーーお前は」
ドン!ーーー黒服のリーダーのガンプラが構えていたキャノン砲がストレイドに直撃。
ジェネレーターから火を噴きつつストレイドは呆気なく墜落して行く。
「よし、良くやったぞ被験体!」
これで命令を遂行することができるとご機嫌な黒服を尻目にそのガンプラは、眼下に見下ろすストレイドへ冷酷に言葉を投げた。
『……これで終わりですか、なんとも呆気ない』
それはユニオンフラッグかスサノオか、細身のシルエットと得意な形状やフレームを持ったガンプラだった。
「よし、イェルネフェルトを捕らえろ!」
『ーーあとはお任せということで』
上機嫌な黒服のリーダーにそれだけを言い、〝彼の確認〟を終えた特異なガンプラはその場を後にするーーー。
「まだよ!お願いっ、動いて!」
床に激突してしまうストレイドに少女は手に持った工具を駆使して火の噴いたジェネレーターを取り外し、その手に持ったパーツを構成する。
「な、なに!?」
その行動に嫌な予感を感じた黒服のリーダーがガンプラを構えたが、次のアクションを起こす前にレーザーキャノンで蜂の巣にされてしまう。
「穴ぁぁぁぁ……久しぶりかよ…へっ」
『なるほど、プランCですか』
穴と呼ばれたガンプラが振り返ればそこに穴と同様に〝緑色の粒子〟を撒き散らす黒い鳥が静かに飛んでいる。
黒い鳥と穴。
最強と最速が今ぶつかった。
これはガンプラバトルです。
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