乃木長門は勇者である (月影桜)
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鷲尾須美の章
はじまり
時系列はわすゆから勇者の章で書くつもりでプロット自体はすでにあります。ゆゆゆいも今はきちんと考えてはいますがこちらは未定です。
独自解釈やご都合になってしまうことがあるかもしれませんがなるべく気を付けます。
それではどうぞ。
11/21追記 修正
前から引っかかっていた事がいくつもあった。
例えば【大赦】という名前。一体何から赦しを貰ったのだろうか?
これは疑問ではない。半ば確信めいていて。
■■が許しを請う相手なんて相場が決まっている。
きっと■に対してなのだろう。
勇者御記298年 乃木長門記
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朝4時30分、まだ皆が寝静まっているこの時間に、まさに豪邸というべき荘厳な見た目の家の一室で小さくアラームの音が鳴った。
「ふぁ......。この時間に起きるのは慣れているとはいえ、眠いのには変わりないな......」
そんなことをぼやきながらいつも通り洗面台で顔を洗う。鏡に映るのは、黒髪で右目の右下にあるほくろが目立つ端正な顔立ちだが、周囲からもいじられる程の女顔の少年。その事実に改めて溜息をつきつつ、木刀を持って庭に出る。
まず走りこみをして、その後木刀を持ち、型の確認をして汗を流す。これが俺——
シャワーを浴びたら学校の準備をする。今は6時30分。今起きても余裕で間に合うほどだ。本当は朝食の手伝いをしたいが、この家には使用人がたくさんいるためやらせてもらえない。まあ他人の仕事を奪うのもどうかと思ったから、すぐに引き下がったが弁当だけは自前だ。とはいっても俺の通っている学校は、週一で弁当持参なのだが。
やることがなくなって珈琲を淹れて飲んでいると、時間は7時を過ぎる。飲み終わったカップを机に置き、ある部屋へ向かう。
一応起きているかノックをして確認してみる......。しかしやはりというべきか反応はない。彼女はいつもこんな感じだから、もう慣れた。
「おーい、園子。朝だぞ」
そう声をかけながら部屋に入る。女の子らしくぬいぐるみの多い部屋で、部屋の主は今もすやすや寝ている。
声をかけるだけでは彼女は起きない。彼女の肩に手を置き、揺する。こうすることで、彼女は寝起きは悪くないので起きるのだ。
「なっくんがサンチョになっちゃった.....。ん? ......何だ夢かぁ~、ふぁ~」
意味の分からないことを寝言で呟きつつ、大きくあくびを欠きながら起きた少女は、俺の幼馴染でもあり今は家族でもある乃木園子だ。
何年も一緒にいるが、今でも時々意味の分からない発言をする彼女の自由さには、むしろ尊敬の念を抱くまである。
「起きたんなら顔洗えよー、朝食ももう出来てるみたいだしな」
俺がそう言うと、彼女は「は~い」と気の抜けた返事を返してくる。なんやかんや意外と余裕をもって学校へ登校できる。
と言うか車を出してくれるので早く着く。俺は申し訳なくて、一人で歩いて行こうと断ろうとしたのだが、園子がどうしてもというので甘えさせてもらっている。俺は養子として乃木家に入ったから未だに庶民感覚が消えていない。
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学校へ行く道中の車内は静けさを保っている。別に園子と仲が悪いわけではない。気分次第で、たまには無言になるときがあるのだ。でも気まずくはなく、そんな無言の時間が好きだ。そんなことを考えていると俺たちが通っている神樹館小学校に着く。
神樹館小学校はかなりのお嬢様学校で、それを聞いたときは普通の小学校にしようとしたが、園子に上目遣いで頼まれてしまっては拒否権はなくなったようなものだ。お兄ちゃんたるもの妹には甘くなってしまう。同い年だけどな!
そんなわけで使用人の人にお礼を言いつつ教室へ向かう。
教室に入るとまだ人は少なくがらがらだ。俺と園子は偶然にも同じクラスで席が隣だ。知らない奴と隣になるのは面倒だから助かったけど。
彼女は自分の席に着くなり「なっくんおやすみ~」と言っていきなり寝始めた。いつものことなので放っておく。先生が来るまでこうして自分の席でどうでもいいことを考える、この時間が好きだ。ランドセルから本を取り出して読み始める。
そうしていれば中々声をかけてくるやつはいないと思って前々からやっているがかなり効果がある。......違うな。イヤホンしてるからか。しかしその防衛網を突き破る、凛とした心地の良い声が耳朶を打った。
「おはようございます。乃木君」
礼儀正しい挨拶をしてくれたこの娘の名前は鷲尾須美。かなりまじめな性格をしている大和撫子な女の子だ。
そして何よりも特徴的なのはクラスの中でダントツと囁かれる胸である。......肩凝りとか大変そうだ。他意はない。
いわゆる優等生だが、ある事情で学級委員ではなく並ばせ係だ。かなり怖いけど。しかし怒った園子に比べたら何倍も優しい。そんなどうでもいいことを考えながら、イヤホンを外して挨拶を返す。
「おはようさん。鷲尾さん」
なんか韻を踏んだみたいになったが、故意じゃない。多分、きっと。それに後々のことを考えたら、少しは砕けていったほうがいいだろう。そんなことを考えつつ彼女を見ていると、逃げるように自分の席へ行った。
いつもこうなんだよなぁ。理由は察せるけど。おそらく鷲尾さんは、俺の他人との距離の測り方と観察するような目が苦手なのだろう。だがある事情で、それなりには親睦を深める必要があるから困っている......。ま、そんな感じなんだろう。
「zzz......。あわわっ! お母さんごめんなさい!」
唐突に園子が飛び起きて、顔の前で両手を合わせている。俺とは逆側の園子の隣の席に座っている鷲尾さんが、呆れた顔をしている。
「あれぇ......? 家じゃない......」
つくづくマイペースな奴だ。さっき車に乗ってきただろ。と言おうと思ったが、どうやら鷲尾さん家の須美さんが代わりに言ってくれそうなので読書に戻る。
「乃木さん、ここは教室で朝の学活前よ」
「えへへ......。おはよう~鷲尾さん」
「おはようございます」
うちの園子がすいませんね。と心の中で呟くと、俺たちの担任である安芸先生が挨拶しながら入ってくる。
「はざーすっ! ふう......。ま、間に合った」
「三ノ輪銀さん。間に合っていません」
慌てた様子で一人の少女が駆け込んできて、いつも通り安芸先生に名簿で軽く頭をたたかれる。その光景を見ていたクラス全体に笑いが広がる。この子は三ノ輪銀。底抜けに明るく、クラスの人気者であるが何故か遅刻が多い。理由は想像がつく。まあ彼女とはそれなりに話す仲ではあるが、話しているときの周りからの羨望の眼差しは勘弁してほしい。
「ミノさんは相変わらずだな~」
三ノ輪は席に着くと、隣の席の人に事情を聴かれ、小さい声で「6年生にもなると色々あるんさー」と返していた。
なにそのセリフかっけえな。俺遅刻したら使おう。絶対遅刻しないけど。「教科書忘れた......」教科書なら必要ないから貸すまである。
と言うか授業めんどいから受け取ってほしい。いけない、本音が出てしまった。いや心の中だから出てはいないか。
「それじゃあ。今日日直の人」
「はい! 起立、礼」
『神樹様のおかげで今日の私たちがあります』
「神棚に礼」
そうこれだ。俺がこの世界について気になっている事の一つ。あまりにも道徳教育が行き届き過ぎている。確かに神樹のおかげで世界は回ってるんだが......。
......俺の悪い癖だ。すぐ目に止まる現象や人間に対して懐疑的になる。鷲尾さんの合図で着席しようとしたとき、世界が止まった。ついに始まるのか......。
あらかじめ聞かされていた俺たち4人は、あたりを見回す。
「思ったよりも早かったな」
「これって......」
「来たんだ。私たちがお役目をする時が」
すると突如まぶしい光に包まれ、思わず目をつぶる。
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目を開くとそこは教室ではなく、どこか神秘的で不思議な空間へと変わっていた。
「初めて見た~これが」
「神樹様の結界......」
ここは鷲尾さんの言った通り神樹の結界の中で、実際に来るのは初めてだ......。
俺たちは、ここであるお役目をしなければならない。3人が色々感想を言っているので、一応周りの警戒も兼ねてスマホを取り出す。
「私たちが勇者かぁ。興奮するぅ!」
「三ノ輪さん、遊びじゃないのよ」
「分かってるって」
なにやら興奮している三ノ輪さんを、鷲尾さんが窘める。
「あそこ見て!」
園子に言われた通り目をやると、大橋のところに無機質な生物がいた。これがバーテックス......。神樹を狙ってやってくる人類の敵だそうだ。
「あれが敵か~」
そう言いながら、バーテックスを写真に収める三ノ輪。いや、君リラックスしすぎじゃないですかね。同じことを思ったのか、鷲尾さんがなにか言いたそうにしている。
「あいつが神樹様にたどり着いたとき、世界がなくなる......」
「ああ。分かってるって」
「私たちで止めないとだね!」
「お役目を果たしましょう」
鷲尾さんの言葉に全員頷く。そしてアプリを起動し、祝詞を唱える。
すると鷲尾さんは弓、三ノ輪は双斧、園子は槍と各々武器を持ち勇者装束に変身する中、園子がこちらを見て言う。
「わ~、なっくんの服かっこいいね~」
全身黒づくめなのに? 俺が読んだラノベで確かこんな装備をしていた主人公がいたような......。違う点としては、俺は和風な感じになっている事くらいか。俺としては武器の日本刀のほうをかっこいいと言ってほしかったよ、園子さん。
「そうか? それより今は敵に集中するぞ」
そう言うと園子は引き下がってくれた。あのままだったら、園子の装束の感想を言わされるところだった。園子は可愛いから何着ても似合うんだが、それを口にするのは年頃の男子として恥ずかしいものがある。察してくれ......。
「お~! 初めての実戦!」
「合同訓練はまだだったけど......」
「敵がご神託より早く出現してしまったから」
「まあなるようになるさ。当たって砕けろ。だ」
「砕けちゃダメだろ⁉︎」
「まあ、大丈夫だよね!」
そろそろいいだろうか。見た目からは水を使うことくらいしか分からない。その為、誰かが一度様子を見るしかない。というのは建前。誰かが傷つくリスクを負い、一番に突撃しなければならないなら勿論その役目は——
「俺、だよな」
「え?」
園子が聞き返してくるのをしり目に、俺は全力で跳躍する。
--------------
なっくんが駆け出して行っちゃった......。
「って、あれ速すぎないか!?」
ミノさんが驚いている。鷲尾さんも声には出さないけど驚いているようだった。
「ちょっと乃木君!?」
彼が独断専行した理由はわかる。何年も一緒にいたから。きっと敵の情報の偵察、という建前で本当は私たちを出来るだけ傷つけたくないんだ。彼の不器用な優しさ、いいところでもあるけど、悪いところでもある。彼自身が傷つくリスクを頭に入れていない。彼が私に傷ついてほしくないように私も彼に傷ついてほしくない。
「なっくん私も~」
「じゃあアタシ三番槍!」
「三人とも!待ちなさい!」
そういって結局みんなで駆け出してしまう。
--------------
さて、敵の前に着いたはいいものの、どうせそう簡単には近づかせてくれやしない......が俺にはそんなこと些細事だ。迷わず敵に突っ込む。どうせ水だ。当たらなきゃいい。
すると敵がたくさんの水球を放ってくる。全て躱しきり、胴体を斬る。
「浅い......!」
どうやらただ斬撃を入れただけでは致命傷を与えられない上に再生されてしまう。流石に一度3人のところへ撤退する。
「みんな、敵は主に水球を使ってくるけど、どうにも左右の丸いのが気になる。あくまで予想だが、水圧で攻撃してくるかもしれない。それに再生力もかなりのものだ」
一応さっき感じたことを報告する。
「なっくん?帰ったらお説教ね~」
怖い。園子が少し怒っている。でも結局は誰かがやらないといけないわけでと反論しても絶対勝てない。
「はい......わかりました園子様」
「長門は尻に敷かれてんだな」
「うっせ。兄たるもの妹には逆らえないんだ」
その時一瞬園子が少し悲しい表情をした気がした。気のせいか。
「......っ!?みんな!避けろっ!」
水鉄砲というよりウォータージェットが飛んできた。俺の声に三ノ輪と鷲尾さんは反応した。
(園子はっ!?)
「園子っ!」
「これ、盾になるんだった~」
あの槍にそんなギミックがあったのか......続けて敵が水球をこっちに放ってくる。
鷲尾さんが矢をチャージしているが、多分水球に阻まれる。最悪俺がアレを使うか若しくは三ノ輪を敵のところまで運べれば倒せるが......
「台風のすごいのみたい~」
「アタシ、何とかしてくる!」
俺が言えたセリフじゃないが闇雲に突っ込んでも無駄だ。それに園子も持ちそうにない......俺はある方向へ視線を向ける。打開策を考える前にやることができたようだ。
--------------
みんなが敵の攻撃に攻めるに攻められず四苦八苦している。
「私がやるしかっ!」
そう言って私は弓を構える。溜まるのが遅いっ!
「速くっ!」
最大まで貯めた私の矢は水球4つに簡単に止められてしまった。敵はお返しとばかりにこちらに水球を飛ばしてくる。
(躱しきれないっ)
思わず目をつぶる。が予想していた衝撃は来なかった。目を開いてみると私がちょっぴり苦手な彼の後ろ姿がある。そんなことより
(まだいくつも水球が飛んで来ている!)
そんな私の不安を感じ取ったのか、乃木君がこちらを向いて
「心配するな。このくらいなら......」
そう言って刀を構える。構えがすごく様になっていてまるで小さいころから刀を扱っているような感じを覚えた。水球が彼に当たりそうになった時彼の背中がぶれた気がしたと思ったら刀に付いた水を払っている。
「大丈夫だったろ?怪我もなさそうだな」
いつものこちらの心の中まで覗いてくるような、観察する目ではなく、人を安心させるような、優しい目でこちらを見てくる。すると彼はすぐ飛び立ち乃木さんの方へ向かっていった......お礼を言えないまま―――
今は戦闘中だ。頭を振って意識を切り替える。
といっても私の矢ではダメージが足りない。三ノ輪さんは強力だけど近づけない。乃木君は近づけるけど決定打に欠ける。乃木さんは......どう扱っていいかわからない。
「一体どうしたら......」
その時また敵が水球を放ってきた。考え事をしていて反応が遅れてしまった。
「危ないっ!」
いつの間にか戻ってきていた三ノ輪さんが私を押し倒した。
「動いてないとあぶな......ぐっ!」
三ノ輪さんは水球の攻撃を顔に直接受けてしまった。
「三ノ輪さんっ!」
助けようとするが、水の弾力が強く、中々剥がれない。三ノ輪さんも必死にもがくがどうにもならない。
「ミノさんっ!」
「三ノ輪大丈夫か!」
二人が戻ってくる。するといきなり三ノ輪さんが目を開き
水を飲み始めた。
--------------
俺と園子は合流した後二人の元へ向かうとこんな状況になっていた。どうしてこうなった......
「ミノさん大丈夫~?」
「全部飲んだ......」
「神の力を得た勇者にとって造作もないのだ!......気持ち悪い......」
「水とはいえ敵のものを飲むとはなぁ」
「ミノさんすご~い!お味は?」
「最初はサイダーで、途中から烏龍茶に変化した......」
「ドリングバーかよ!」
思わずツッコミを入れてしまった。子供のころみんなやるよなぁ。色々混ぜるやつ。俺も子供だけど。
「そんなことより、バーテックス!」
どうやらこの間にも結構進んでいたようだ。一つ打開策はある。おそらく園子も思いついているだろうが水圧の攻撃をどう凌ぐか悩んでいるのだろう。
「園子、少しいいか?」
--------------
確かにそれなら出来るけど~......
「でもそれだとなっくんの負担が~」
私の盾でやっと防げた水圧の攻撃を一人で請け負うなんていくら何でも彼の負担が大きすぎる。
「大丈夫。1回くらいだったら何とでもなるよ。」
その言葉を聞いてしまった上で反対するのは彼を信じていないことと同じだ。だから私も。
「わかった~、気を付けてね~」
彼を信じているから。そして私たちのやり取りを遠巻きにそして不思議そうに見つめている二人の元へいく。
「ぴっかーんと閃いた~!」
彼女たちにも作戦を話す。勿論なっくんの事で大丈夫なのか?と言われたけれど、彼が大丈夫だって!と言うと引き下がった。
4人で敵の前までいく。あの水圧の攻撃をしてもらわなければならない。すると隣から濃密な殺気が漏れてきた。
(なっくん?)
「バーテックスも殺気に気づくかなと思ったんだけど。どうやらその通りみたいだな」
これは新しい発見だ。などとつぶやく彼の方からバーテックスの方に目を向けると確かにバーテックスはなっくんを危険と判断したらしく、こちらを向きながら攻撃の予備動作をしていた。
「じゃあ手はず通り、頼むよ園子」
彼は刀を鞘に納め、目を瞑った。
「ミノさん、すみすけ、私たちも位置に着くよ~」
「え?なんか長門が刀を鞘に納めちゃってるけど大丈夫なの?」
「大丈夫だよ~。あれがなっくんの本気だから~」
そう言って二人を連れてなっくんから離れる。
そしてチャージを終わらせた敵がなっくんに向かってウォータージェットを放つ。
なっくんは当たる直前に目を見開き。
「はぁっ!」
すみすけが心配そうになっくんのほうを見つめているが。大丈夫。すみすけが見つめる先には無傷のなっくんが立っている。
「うっわー!すっごいなあれ!かっこいい!」
「え?いったい彼はどうやって......」
「簡単だよすみすけ~。水を斬ったんだよ~」
「は?」
そう、彼は何も特別なことはしていない。ただ飛んでくる攻撃を刀で斬っただけのことだ。
「でもそんなことって......可能なの?」
「可能か不可能かで聞かれたら、可能だよ~。流石になっくんでも生身の身体能力じゃ無理だけどね~」
彼の勇者システムは私たち三人のそれと比べて明らかに弱い。でも彼はそれを補えるだけ、元から強い。それを弱めとはいえ底上げしてくれるシステムが加わったら......戦闘面では私たちの中ではミノさんと同じくらいじゃないだろうか。もっとも、彼は対人戦のほうが優れているけれど。
2発目がこっちに飛んでくるけど何とか3人で押し返すと、私とミノさんは高く跳躍して敵に突撃する。飛んでくる水球はすみすけが対処してくれている。私は槍の持ち手に掴まっているミノさんを敵に投げた。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
ミノさんが連撃を浴びせる。そしてその勢いでミノさんが吹き飛んでいく。
「ミノさん!!!」
そのまま地面に衝突しそうになる。
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敵の攻撃を防ぎ切った俺はあいつらの加勢をしに行こうとしたところで三ノ輪がこちらに吹っ飛んできてることに気づいた。
「たくっ。無茶をする」
三ノ輪を抱えて受け止める。するとバーテックスの周りで花弁が舞う。
「これって......」
「鎮火の儀......?」
園子がこっちに駆け寄ってきた。
「ミノさん大丈夫~?」
「ああ。長門が受け止めてくれたからな......なぁ長門、そろそろ降ろしてくれないか?少し恥ずかしい......」
「お、おう。すまん」
三ノ輪が頬をわずかに赤く染めてそう言ってくる。慌ててすぐに三ノ輪を降ろす。よかった樹海化していて。こんなところクラスの連中が見たら、俺吊るされるまである。
「だけど、三ノ輪のおかげで撃退出来た。流石だな」
「やったー!」
三ノ輪と園子がはしゃいでる中、俺たちは元の世界に戻された。
「そっか~。学校に戻るわけじゃないんだ~」
「まあ多少なりとも傷があるからいきなり教室に戻っても驚かれるだろうし」
兎に角、みんな無事でよかった。もう自分の目の前で人が死ぬのを見るのは嫌だからな......そんなことになるくらいなら俺が―――
「なっくん~すみすけ~?」
「おわっ。園子か。どうした?」
「さっきから何回も呼んでたよ~。どうしたの~?」
「......良かったなと思って」
「そうだね~」
園子の合図でみんな解散する。勿論俺と園子は同じ家なので一緒に帰る。
園子も頑張っていたし帰ったらデザートでも作ってやるか。俺は大丈夫だが、3人は初戦闘でしかもただの女の子なのだ。勇者システムで能力が底上げされ、多少訓練したとはいっても精神面はそうもいかない。鷲尾さんは特に自分を追い詰めてそうだから。明日イネスにでも連れてってやるか。
すると不意に左手に柔らかくて温かい感触がした。隣を見ると園子が俺の手を握っている。
「もう無理はしないでね?」
それは、普段の彼女の雰囲気とは遠く瞳が悲しそうに揺れている。だから俺もぽんっと園子の頭に右手を置き撫でながら真剣に言葉を紡ぐ。
「ああ。分かってる。無理はしないよ」
そう言って手を握り返すと園子は満足そうに微笑んでいる。
確かに無理はしない。だが園子に、園子たちに何かあれば俺は......
「それでなっくん。忘れてないよね~?」
「え?......あっ」
家に着くと俺は2時間正座させられ園子に怒られた。勿論デザートは作った。
足が痛い......
なるべくアニメの1話分の話を固めて話と話の間は2日くらい開けるかもしれませんが投稿したいと思います。
長門くんの素の能力が高いのは後々理由が明かされます。
因みに園子は銀の属性攻撃をまだよく知らなかったためああいってますが対人戦だったら確かに銀よりも強いですがバーテックスになると火力の高い銀のほうが強いです。バーテックス相手で長門くんほどの機動力が必要な相手少ないですしね。当たらなければどうということはないタイプなので勇者の中では紙装甲です。武器もただのバーテックス用のよく切れる日本刀です。いまのところは...
銀が赤面していますが、ただの羞恥心です。
ヒロインは園子です。園子です。園子です。
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しゅくしょうかい
戦闘シーンは途中で区切りたくなかったからだけど、一話との文字数の差が...
神樹様に選ばれたと聞いたときは理由がわからなかった。
神に見初められるのは無垢な少女のはずなのに。
でも彼女も選ばれてしまったから理由なんて要らなかった。
特にそれが文字通り■を■げて戦うものだとわかったときには彼女を......彼女たちを守らなきゃいけないと強く思った......
勇者御記298年 乃木長門記
***************
最初のお役目を果たした次の日学校に着くと朝の学活前に4人で立たされた。安芸先生がお役目についてクラスの人たちに言うらしい。ああこれ機密事項じゃないのか?でもまあいきなり授業中にいなくなったりしてたら不信に思われるから軽くばらした方がいいか。それより休み時間に問い詰められそうだから逃げるか......そもそも問い詰められるほどのつながりがなかったんだった。目から汗が......
「昨日お話しした通り4人には神樹様の大切なお役目があります。だから教室から突然消えても、慌てたりせず心の中で応援してあげてください」
休み時間になると三ノ輪が質問をうまく躱していた。流石三ノ輪。俺とはコミュニケーション能力が雲泥の差だ。そんなことより今はこのラノベを読破するのが先である。昨日学校に置き忘れちゃったからなー。すると不意に鷲尾さんが立ち上がる。
「こほん。ねえ三ノ輪さん、乃木さん、乃木君。よ、よければその......これから祝勝会でもどうかしら......?」
鷲尾さんがそんなことを言い出すとは思わなかったな。イネスにどう連れてくか悩んでたところだし丁度いい。勿論園子と三ノ輪は快諾した。
「いいな、それ。付き合うよ。場所は......イネスが良いと思うんだけどみんなどうだ?」
みんなから賛成を貰ったのでイネスのフードコートで祝勝会をすることになった......のだが
「今日という日を無事に迎えられたことを大変うれしく思います。本日はお日柄も良く......」
「堅苦しいぞー。かんぱーい!」
鷲尾さんは良くも悪くも凝り性というか......かなりの真面目さんだな。
「ありがとねすみすけ~」
「え?」
「私もね、すみすけを誘うぞ誘うぞ~って思ってたんだけど、中々言い出せなくて~。だからすごく嬉しいんだよ~」
「鷲尾さんから誘ってくるなんて初めてじゃない?」
「実はそうなんよ~!」
「まあ今まで合同練習とかもなかったしな」
「それなのにアタシら初陣よくやったんじゃない?」
「私も興奮しちゃって~。ガンガン語りたかったんだ~」
乃木さん家の園子さんは昨日散々俺に語ってたんだけどなぁ。おかげで少し寝不足気味だ。
「実は......私も。その......話がしたくて3人を誘ったの。3人の事あまり信用してなかっと思う。3人が嫌いとかじゃなくて、私が人を頼るのが苦手で......」
まあ俺も似たようなものだしな。ただ俺の場合人を頼るのが。ではなく人を信じるのが。本当に独りである人間が独りで何でもできるのであればほかの人に頼る必要はない。だけどこの3人はお互いの弱点を上手くカバーしあってこそ力を発揮すると思う。あくまで俺の感だが。
「でも、それじゃダメなんだよね。私ひとりじゃ、多分何もできなかった。3人がいたから......だから、その.......これから私と仲良くしてくれますか!」
俺と三ノ輪と園子は互いに微笑みあい
「もうすでに仲良しだろ?」
「まあそういうことだ」
「嬉しい!私もすみすけと仲良くしたかったんだ~。ほら、私も友達作るの苦手だったから~。すみすけも同じ思いだったんだ~嬉しいなすみすけ~」
「乃木さん......そのいつの間にか言ってるすみすけっていうのはなに?」
「あ~、いつの間にかあだ名で呼んでた~」
流石園子だな。でも園子に友達ができてよかった...理解されにくいタイプだからな。
「嬉しいけど......それ、あまり好きじゃないかな」
「じゃあわっしーなは?アイドルっぽくない~?」
「もっと嫌よ。乃木さんもそのこりんとか嫌でしょ?」
「わ~!素敵~!」
「忘れて......」
「じゃあわっしー!どう?」
園子の目が輝いているのを見てか鷲尾さんは諦めたようだ。
「まあ、それでいいかな」
「よろしくね、わっしー!」
「じゃあアタシのことは銀って呼んでよ!三ノ輪さんは余所余所しいな~」
「そうだね~。微笑ましそうに眺めてるなっくんもね~」
「俺に飛び火したっ!?」
気配は完全に消したと思ってたのに......園子には効かなかったか。まあ本人からのご所望なら仕方がない。
「わかったよ、銀。これでいいか?」
俺の呼び方に納得したのか三ノw......銀は満足げに頷いている。そして鷲尾さんが困惑しているのを見て
「あはは。まーいっか。よーし、今日という日を祝って、みんなで絶品ジェラートを食べよう!」
***************
というわけでみんな各々の味のジェラートを買って食べる。ちなみに俺はマックスコーヒー味だ。どうやら旧世紀にはペットボトルや缶コーヒーとしても売り出していたらしいが、神世紀にはもうこのジェラート屋にしかその名前は残っていない......自分で作ったりしてみてたんだが、やっぱり何かが足りない。その点このジェラートは最高だ。本を買いに来たときに見つけて以来ずっと通っている。
「はふぅ......しあわせ~メロン味大正解~」
ふと鷲尾さんの方を向くとなにやら難しい顔をしてジェラートにガンをつけていた。ジェラートに何か因縁でもあるのだろうか?
「鷲尾さんそんなにジェラートを睨みつけてどうしたんだ?」
「いえ......宇治金時味のジェラートがおいしくて......」
何やら小声で「美味だわ!ほろ苦抹茶とあんこの甘さが織りなす調和が絶妙。でも浮気した気分......」などと言っている。もしかしたらジェラートを食べるのは初めてなのかもしれない。
「そんなに美味しいなら~、あ~ん」
「えっと......こういうの初めてで」
「ん~美味しい~。初めての共同作業だね~」
鷲尾さんはその言葉に赤面している。なんか君たち初々しいですね。まあこの分ならこの祝勝会も開いた意味があったと言えよう。
「やっぱり最強はこのしょうゆ豆ジェラートだな!」
なにそれ、なんかちょっと美味しそうだな。今度来たら食べてみよう。鷲尾さんと園子が味見をさせてもらっていたが、難しい味。だそうだ。
「なっくんのは何味~?」
「マックスコーヒー味だ!」
「なっくんがいつになく元気だ~」
「マックスコーヒー味は至高だからな。」
珈琲なのに明らかに練乳の比率のほうが大きい暴力的な甘みが疲れた体に効く。帰ったら第6回マックスコーヒー自作実験をするか。以前は確か砂糖の量が多かった気がするからそこを踏まえて再挑戦だな。くだらないことを考えていると園子が俺の方に口を開けて待っていた。
「あ~ん」
「仕方ないな。はいよ」
「ん~。ちょっと甘みが強いけどおいしいね~」
どうやら園子には甘かったようだ。その甘すぎなくらいがいいアクセントになってていいと思うんだが......と鷲尾さんがなんか顔真っ赤にしてこちらを見ている。どうしたのだろうか。
「か、か、か、間接キス!?しかも異性で...」
「鷲尾さん......俺たち兄妹だぞ?別にこのくらい普通だろ?」
俺が呆れたように返事をすると鷲尾さんは「そうよね......二人は兄妹よね......」とつぶやいてなにやら難しい顔をしていた。そして遠慮がちに言う。
「ごめんなさい。二人があまり似ていないから兄妹だということを忘れていて......」
「アタシも驚いたなー。二人とも全然似てないから最初はわからなかったよ」
園子が心配そうにこちらを見つめてくる。この話はあまりしたくないのを知っているが故の表情なのだろう。でもこの二人なら俺は話してもいいと思ってる......がここは祝勝会の場だ。あまり空気を悪くしたくない。だから俺は表面的なことだけ言うことにした。
「ああ。同じ学年だしな。それに俺は乃木家に養子として入ったんだよ。だから乃木の血は入ってないんだ」
「そうだったのね......そういえば乃木君と乃木さんはどちらの方が早生まれなの?」
「会話の内容的に長門のほうがお兄ちゃんなんだろうけど誕生日いつなんだ?」
鷲尾さんと銀が何かを察したのか別の話題を聞いてくる。
「私は8月30日で、なっくんは8月28日なんよ~」
「まあだから実際年の差はないようなもんかな」
二人とも、そんな近かったの!?と驚いている。この誕生日の近さなので普段は兄妹というより幼馴染、もしくは双子感覚だ。
そろそろ解散かな。3人に声をかけて解散しようと腰を上げようとしたとき鷲尾さんが俺に待ったをかけた。
「乃木君......あの時言いそびれてしまったから......助けてくれてありがとう」
「お礼を言われるようなことじゃないんだけどな。仲間を助けるのは当たり前だ」
「それでも、言いたかったから......」
「そうか......」
こう面と向かって言われるとちょっとアレだ。こんな実直に礼を言われることはあまりないので気恥ずかしくなって目を逸らす。唐突な俺の反応に鷲尾さんが戸惑っている。
「なっくんが珍しく照れてる~!」
「別に照れてないっての......」
「ふふっ」
「鷲尾さんも笑わないでくれ......」
「ごめんなさい。つい」
こうして俺たちの初めてのお役目は何とか無事に終わった。
これは、4人の勇者の物語。
神に選ばれた少年少女のおとぎ話。
いつの時代も神に見初められるのは無垢な少女たちである。
しかし、法則に例外がつきものなように。
彼もまた例外の一部である。
そして例外がいるとしても
その結末はきっと―――
最後に例のやつぶっこみました。やっぱりちょっとでも不穏な空気を残さないと(使命感)
長門君はお役目のため養子になったわけではありません。そこらへんは後々語っていきます。
そして長門君の誕生日、戦艦長門の着工日です。進水日にしなかったのはこちらの都合で念のためです。
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がっしゅく
アニメでいう1話2話は須美回なので須美多めにしようとした結果オリ描写が少々長くなってしまいました。
次回でともだちを終わりにしたいけど......
乃木長門とは何年も過ごしているが、彼はとても個性的な人だ。
同級生とは思えない落ち着きようで、好奇心が強く、それでいて優しかった。
でも私は彼の本質を甘く見ていた。
もしも私が止められていれば
彼の■■は失わずに済んだのに...
勇者御記 神世紀298年 乃木園子記
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俺たちが1体目のバーテックス―――【水瓶座】アクエリアス・バーテックス(大赦によれば攻めてくるバーテックスは12星座の名を冠しているらしい)を追い返してから一か月。2体目のバーテックスがやってきた。
「これじゃあ...身動きが取れないぞ...竜巻を起こしてるなら上から目を狙えば行けそうだが」
「くそっ!身動きとれねぇよ...」
「でもなっくんの言う通り...上から攻撃するしかっ...」
これは非常に困った。2体目のバーテックス―――天秤座は自分の体を回して竜巻を起こして俺達に攻撃させないようにしている。どうしたものか...すると鷲尾さんが園子を支えていた手を放し、上へ飛び矢を放つ。
「そんなっ!」
鷲尾さんの矢は風に負けて推進力を失ってしまった。普通の矢じゃダメだ。かといってチャージする時間もない。とすると現状を打破できるのは二人だけ。
「...っ!?園子!盾!」
「あぶないっ!」
俺の声にぎりぎり反応した園子が盾を展開しかろうじて防ぐ。がもう限界そうだ。俺が突っ込むか銀が突っ込むか...勿論答えは出ている。それにもう浸食が進んできている。俺は天秤座の真上へ向かって全力で跳躍した。
「長門!」
「銀!俺が動きを止める!その後は頼んだ」
そう言って俺は風の影響を受けない真上まで来る。
「はっ!」
降下しつつ全力で斬りつける。竜巻の勢いが弱まるが、俺は素早く跳躍してひたすら斬りつける。すると風の影響がなくなったのか銀も加勢する。
「うぉおおおお!!!」
「ふっ!」
俺は刀を、銀は斧を振りまわす―――
***********
「ごり押しにもほどがあるでしょ!」
どうやら安芸先生にばっちりと見られていたらしい。俺たちの戦闘がお気に召さなかったらしい。流石に現実世界への影響を鑑みたからと言って怪我覚悟で突っ込むのはまずかったか......
因みにきちんと天秤座は追い返した。
「これじゃ、あなたたちの命がいくつあっても足りないわ......」
憂う表情で安芸先生はそう呟く。
本当にいい人だ。大人なら現実世界への被害を抑えることを最優先に考えそうなものだが安芸先生は俺たちを心配してくれている。勇者としてだけではなく生徒としても見てくれている証拠だろう。
「お役目が成功して、現実への被害が軽微なもので済んだことはよくやってくれたけど......」
「それは、三ノ輪さんと乃木君と乃木さんのおかげです!」
鷲尾さんはそうフォローしてくれる。けど流石の俺もあれは反省している。
安芸先生も同じことを考えているだろうが、まだ俺たちは連携が甘い。誰が一番上に立ち指示出しするか、などの役割分担もしていない。差しあたってまず役割分担から入った方がいいだろう。
俺の考えていることを察したのか安芸先生はこちらに視線を一瞬向け、また4人全体を見渡し溜息をつく。
「あなたたちの弱点は連携の演習不足ね......まず、4人の中で指揮を執る隊長を決めましょう」
「「「!」」」
「そうね......乃木く「先生」......なにかしら?」
俺を推薦しようとしていたので止める。俺は誰かの上に立つような人間じゃないし、なにより無茶をしすぎる。通常時はまだしも、いざという時のためにはリーダーは俺じゃなくて―――
「俺には隊長は務まりません。少々無茶が過ぎますから。俺は乃木園子さんを推します」
「自覚しているのなら直してほしいのだけれど......でもそうね。乃木君がやらないのなら乃木さん、頼めるかしら?」
安芸先生は呆れた声で俺に言った後、園子にそう聞いた。
「え?わ、私、ですか......?」
園子は自分が呼ばれるとは思っていなかったらしく俺たちを見渡す。 確かに普段の園子はのほほんとしているが、いざという時のひらめきや決断力には目を見張るものがあるし......なにより天才タイプだ。前にチェスをやったときにそういう流れみたいなものが読めると言っていたし、使用人相手に何十連勝かした俺だが初心者の園子に負けそうになった。
園子が銀の方を向くと銀は大してリーダーになりたいわけでもないらしく「アタシじゃないならだれでも」と言った。
「俺はさっき言った通りだ」
「私も、乃木さんが隊長で賛成よ」
鷲尾さんは一瞬だけ逡巡した後そう答える。たまたま席が隣だから分かったがあれは少し不満だが無理やり納得したってところか?まあ確かに俺も普段の園子だけを見ていたら推薦はしない。
鷲尾さんにはどこか自分がみんなをまとめているという自負がある気がする。だがこればっかりはいざという時の園子を見ないと納得できるものでもない。
「決定ね。神託によると次の襲来まで割と期間が開くみたいだから......連携を深めるために合宿を行おうと思います」
「「「「合宿?」」」」
そう来たか......合宿をするのは構わないんだが、一つ念のため確認しておかないと。
「先生。勿論部屋は俺の分1部屋とってありますよね?」
「ええ。けれど食事の時は同じ部屋に居てもらうわ」
「はい。それなら構いません」
***********
こうして合宿することになり荷物をまとめているのだが。
「そ、園子さん......?今カバンに詰めた臼は一体......」
「向こうでもおうどん作れるように持っていくんよ~」
もう園子のフリーダムさには慣れたので何も言わないが、しかしこれだけは言いたい。
「なんで園子の部屋に呼ばれたの?お兄ちゃんも準備あるんだが」
そう。俺がとりあえず衣類を入れ終わり向こうで読むラノベや鍛錬に使う木刀を持っていこうとした矢先に園子からお呼び出しがかかったのだ。
「今日一緒に寝よ?」
「もう子供じゃあるまいし......」
「だめ~......?」
そうやって悲しげに瞳を揺らして上目遣いで頼まれたら俺にはもう為すすべがない。仕方なしに承諾するとさっきまでの悲しげな表情が嘘のようにハイテンションになり準備を再開した。
仕方ないか。俺も一度溜息をついて準備をとっとと終わらせる。
......朝起きたときに使用人が微笑ましそうにこちらを見ていた。とだけ言っておこう。
***********
次の日の朝寝ぼけ眼を擦っている園子を連れてバスに乗り込んでほかの二人を待った......のだが。
「すぴー......すぴー」
「......遅いっ!」
鷲尾さんはきちんと余裕を持って到着したのだが銀がいつも通り遅刻している。本人からちらっと家庭事情を聞いた身としては彼女を責めらない......
園子はいつも通り寝ている。俺によりかかりながら。
「悪い悪い。遅くなっちゃった」
「遅いっ!昨日あれだけ張り切っていたのに十分遅刻よ!どういうことかしら!?」
息を切らしながら車内に入ってきた銀を迎えたのはふくれっ面の鷲尾さん。
「色々あって......いや、悪いのはアタシだけど......兎に角ごめんよ~須美」
「この際だから言わせてもらうけど、三ノ輪さんは普段からの生活がだらしないと思うわ!勇者として選ばれた自覚を......」
そろそろ銀のフォローに入ろうとした時。
「ほぇ?......あれ~?お母さんここどこ~?」
「俺はお前のお兄ちゃんなんだが......ここはバスの車内だよ。合宿に行くためにさっき一緒にバスまで歩いただろ?」
「えへへ......そうだった~」
どうやら銀にとってはこのやり取りが助け船になったようだ。全員揃ったバスは合宿地に向けて動き出した。
***********
「お役目が本格的に始まったことにより大赦は全面的にあなた達勇者をバックアップします。家族や学校の事は気にせず頑張ってね」
「「「「はい!」」」」
讃州サンビーチにやってきた俺たちは早速訓練をするのだが......
「準備はいい?この訓練のルールはシンプル。あのバスに三ノ輪さんか乃木君を無事到着させること。お互いの役割を忘れないで!」
うん。それはいいんだけどね。いいんだけどさ...
「先生、何故俺だけ武器使用禁止で躱すだけなんでしょうか?......」
「あなたの経歴は把握しているもの。武器を持たせたら1人でもクリア出来てしまうでしょうから」
なんで!?それは過大評価だ。流石にあれだけの障害物は少し骨が折れる。このやり取りを聞いていた鷲尾さんが顔を顰めた。まあ今から4人でやろうとしてることを俺1人でも出来ると先生に言われてしまえばそうなるのも頷ける。
「過大評価しすぎです。俺1人では骨が折れます」
「出来ない。とは言わないのね。でもそういうことだから」
まあ先生の指示なので大人しく引き下がる。だが先生も中々考えたものだ。俺が障害物を打ち落とせないとなると必然的に3人に頼るしかなくなる......球自体には威力は大してないので一応1人でも全力になればもしかしたら行けるかもしれないが訓練にならない。大体この訓練にはそういう1人で何とかしようとするのを直す目的もある。
となると実質俺がこなすべきなのは視界が狭まっている園子のフォローと銀の死角を補う。といった感じか。
「いくよ~」
「うまく守ってくれよ?」
「出来るだけな」
「私はここから動いちゃダメなんですかー?」
「ダメよ!」
鷲尾さんは遠距離武器なので俺たちからは少し離れたところで援護するそうだ。俺は園子の視界確保のためもあるので銀と園子の横に並ぶ。
「それじゃあ、スタート!」
「行くよ~!」
掛け声とともに園子が槍を展開して突撃する。銀は「ここからジャンプしちゃダメなのか~?」と言っている。それ、訓練の意味ないだろとツッコミを入れかけたが気配を感じ真正面から飛んできたボールをかがんで躱す。障害物であるボールはかなりのスピードで射出されているが問題なく見える。
鷲尾さんが上から銀に当たりそうな球は打ち落としてくれている。
「銀!上来るぞ!」
「っ!......あ痛!」
「アウト!」
「悪い銀。俺がもう少し早く反応しておけばよかった」
「ごめんなさい!三ノ輪さん」
「どんまいだよ~!わっしー」
「あんまり気負うなよー」
「呼び方も堅いんだよー。銀でいいぞ。銀で」
「私の事はそのっちで~!はい、呼んでみて~」
鷲尾さんは真面目だから気負ってしまっているのだろう。訓練を通して何か変わるといいんだけど。
「はい!もう1回!ゴールできるまでやるわよ!」
え?
***********
結局今日はゴールできずに終わってしまった。事前に言われていた通り、俺たち4人は基本固まって行動しなければいけないらしい。1+1+1+1を4ではなく10にする。だそうだ。
今は食事中なので俺は3人の部屋へ移動して一緒に食べている。
「わっしー荷物あれだけ~?少なくない~?」
鷲尾さんの荷物は簡素に必要なものだけ持ってきているといった感じだ。他2人の荷物はツッコミどころあるんだが......
「ミノさんお土産買うの早すぎ~」
「そう言う園子の荷物は何だ?......」
「どこからツッコんでいいか分からないわ......」
「臼でおうどん作るんよ~」
「長門はどんな感じなんだ?」
そんな面白いものは持ってきていない。衣類と本と糖分補給用のお菓子と木刀くらいだ。そう伝えると「なんで木刀なんて持ってきてるんだ......」と呆れられてしまった。
***********
昨日は初日だったのでなかったが、どうやら合宿中にも授業はするそうだ。正直面倒くさい。なにせ4人で横に並んで受けてるから寝るに寝られない。というかこの状況下で寝られるのは園子くらいだ。案の定彼女はすやすや眠っている。これで授業は理解できてるのだから流石だ。俺は使用人に先の勉強を教えてくれと頼みいつも見てもらっている。だから今は高校レベルくらいにはなっていると思う。因みに園子は見てもらっていない。
つまり、何が言いたいかというと暇だ。今は社会をやっているのだが、バーテックスがウイルスから生まれただとか、そのあたりの話だ。
......ただのウイルスの突然変異で生まれた生物に頂点なんて意味の名前をつけるだろうか?昔から考えていたが、お役目に選ばれたことで知り得た情報も併せて、ある1つの仮説を立てた。正直この予想は突拍子もないし、誰かに話したら笑いものにされるレベルだ。それに当たっていてほしくはない仮説だ。だけど、もし万が一この仮説が当たっているとしたらこの世界はもう―――
「ところが何が起こったのか......乃木さんは答えられる?」
「すぴー......ふぇ、はい~バーテックスが私たちの住む四国に攻めてきたんです~」
「......正解ね」
そのやり取りで俺の意識は現実に一気に引き戻される。それにしても園子は睡眠学習でも会得しているんだろうか。
勉強を終えた俺たちは再び昨日の訓練をする。
「おっしゃ!これで......」
「銀!後ろだ!」
「へっ?......ぐはっ!」
今日もダメだった......惜しいところまではいってるんだが、如何せん銀が飛んだあとは無防備に近くなるので難しい。
--------------
朝、いつも通り5時に起きると外はまだ薄暗い。三ノ輪さんと乃木さんはぐっすりと眠っている。
まだ起床時間には余裕があるので私は目を覚ますついでに近くに散歩しにくりだした。私たちがこの合宿中訓練に使っている讃州ビーチの方からする音に誘われ向かう。
「ほっ!ほっ!てやぁ!......ふぅ、まだまだだな」
私は目を奪われた。乃木君が訓練に使っていた射出機を並べて飛んできた球に飛びついたと思ったら、斬りつつ球を蹴りその勢いで次の球へ。まるで空中を舞うかのように球から球へ飛び移る姿はまるで妖精だ。武道を嗜んでいない私でもその洗練された動きはよくわかるほど極まっていた。先生が彼なら1人でもクリアできてしまうと言ったのは嘘ではないと思った。
しかし途中で勢いが足りなくなり落ちてくる。地面に着地した彼はあたりを見回す。
「誰だっ!?......なんだ鷲尾さんかー。話しかけてくれればよかったのに」
見惚れていた......などとは言えず、咄嗟に嘘ではないが本当でもないことを言うことにした。
「いえ......邪魔するのも悪いと思って。これは一体......?」
「ああこれは安芸先生にお願いして朝のこの時間だけ備品を借りたんだよ。この球はかなりの速度で飛んでくからいい練習になるんだ」
「乃木君は何か武術を嗜んでいるの?」
「......居合を基本にして剣術はある程度はね」
「だからあれほど強いのね」
しかし私がそう言うと彼はどこか悲しげな笑顔を浮かべて「俺は強くなんかないよ」と否定する。どうやらこの手の話はしたくないようなので一先ず鍛錬を見学させてもらう許可を取り話を逸らした。
すると今度は射出機を横一列に並べた。いったい何をするのだろう。少し彼のすることにワクワクしている自分がいることに気づいた。球が少し時間差で彼の方へ飛んでいく。
「ふっ!」
彼は自分のところに来た幾つもの球を捌いていく。致命傷となる部分に来ている球に専念しているようで、時々肩や顔を球が掠めていく。それを繰り返すと、もうそろそろ起床時間になる。
「ふう。鷲尾さん、もう起床時間が近いしそろそろ行こうか」
今日の訓練で使うからだろうか備品をそのままに勇者システムを解除してこちらに歩いてくる。
いつも彼の行動はよくわからない。今だって強く、それに頭の回転も速い。なのにリーダーは下りたうえ、何故か乃木さんを推薦した。乃木さんはだらしないからあまりリーダーに向いていないと思うけれど......身内だから?
いずれにしても私がまとめないと!そう決意した私に隣を歩いていた乃木君が呟く。
「銀と園子の事は信じてほしい。もっと頼って欲しいな。鷲尾さんの周りにはちゃんと仲間がいるんだから......まだやり直しのきくうちにね」
助けてくれたあの時のような優しい目。だけれど何かを後悔している、そんな目。真剣な彼の表情も相まって私は頷いてしまった。
長門くんの経歴って何って言うのはもう少し後に出てきます。前書きに書いた通りここら辺は須美重視で進めます。ヒロインは園子ですが。
伏線散りばめるのって難しいですね。まだ流石に行き着くほどの情報は出してませんが、これ出すとバレバレだしってのが結構あって。それなりには隠すつもりでいますがすぐばれちゃうかもしれませんねw
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しんじつ
オリ展開が広げようとすると長くなりすぎる......
今日の朝は瞑想をさせられている。園子はもちろん寝ているが、銀が落ち着かない様子で震えている。いや瞑想くらい頑張れよ......雑念しか感じないぞ。鷲尾さんを見ると姿勢よく瞑想していた。むしろきちんと瞑想しているのは鷲尾さんくらいだ。それにしてもさっき言いたかったことは伝わっただろうか。お節介が過ぎたかもしれない。
しかしバーテックスに知能があるとしたらこれから先は一筋縄ではいかないと俺の感が警鐘を鳴らしている。今までは偶々相性が良かっただけかもしれない。俺にも奥の手はあるにはあるがそこまで期待出来るほどのものじゃない。だからこそ連携を深めるのは重要だ。だから今日の朝、拙かったが俺の言いたいことは言った。まあ今はそれよりも訓練をどうクリアするかだ。もう少しなんだけどな......
***************
「サンキュー!うおりゃぁぁぁぁ!!!!」
鷲尾さんが銀に迫る最後の球を撃ち落とし、銀はすかさず大きく跳躍し追加で迫ってきた球を捌いていき遂にバスに着いた......が。
「あの馬鹿!」
バスに思い切り斧を振り下ろしてしまった。俺はこれから起こることを察して銀を回収しに行く。
「ゴォォォォォォォル!!!!!」
「よくやった。と言いたいけどバスを壊す必要はなかったな」
「長門!?......ありがと」
銀がバスを壊した勢いで竜巻のようになっていたのですぐに銀を抱えて園子と鷲尾さんの元へ飛ぶ。2人とも跳ねながら喜んでいる。
......これで訓練はおしまい。最終日だな。となると俺には後1つやることが残っている。
--------------
「「「はぁぁぁぁ......」」」
私たちは今合宿最終日の入浴タイムだ。本当はなっくんも連れてこようとしたけどわっしーに止められてしまった。
「毎日毎日、バランスのとれた食事。激しい鍛錬。そしてしっかりした睡眠。勇者というか......運動部の合宿だよなこれ。なんというかバーンっ!と超必殺技を授かるイベントはないのかねぇ須美?」
「今回は連携の特訓だから仕方ないわねー」
「なんか私、更に筋肉ついてきたかも~」
流石になっくんほどは付いてないけど、ずっと槍で球をはじき返していたからか少しは筋肉がついてきた気がする。
「強くなるのは良いけど、これから成長する女の子がこなすには色んな意味で厳しいメニューだよなぁ......」
「ミノさん、竜巻に巻き込まれかけてたけど傷は大丈夫~?」
「長門が助けてくれたから平気だったよ。園子は?」
なっくんが助けに入っていたのは知っていたけど、念のために聞いたらやっぱり大丈夫だった。彼にも聞いたが大丈夫と言われた、が私は切り傷が出来てるのに気づいたので絆創膏を張っておいた。彼は素直じゃないからこんなの傷に入らない。なんて言っていたけれど。
「私はどっちかって言うとこっちが染みる~」
あの槍を持っていると手に肉刺が出来てしまう。だからこうしてお風呂に入ると染みてしまうのだ。私は肉刺を指さしながらそう言う。
「ああ。あれ握ってるとそうなるよなぁ。ところで、鷲尾さん家の須美さんも体を見せなさい」
「な、なんで?」
「クラス1の大きいお胸を拝んでおこうかなぁと。まるで果物屋だ!親父、その桃をくれぇ!」
わっしーとミノさんが取っ組み合いを始めているけど、それよりなっくんとサンチョも入れてあげたかったな~。なっくんは後で入るんだろうけど。すると安芸先生も入ってきた。
「三ノ輪さん、鷲尾さん。温泉で騒ぎすぎ」
「大人の体ってすごいんだな。服着てると分かんないな」
「そうね。例えるなら戦艦長門......」
「長門?あいつがどうかしたのか?」
なっくんに聞いたことがある。確か彼の名前の由来になった旧世紀の戦艦だ。まあ彼は「着工日に生まれたからって安直すぎるだろ......」と言っていた。でもその時満更でもない顔をしていたので気に入っているんだと思う。するとわっしーが得意げに語ってくる。
「確かに乃木君も同じ名前だけど違うわ!旧世紀の我が国が誇る戦艦よ!詳しく話してあげる!!」
「あ、ああ。う、うん」
***************
お風呂から出た私たちは布団を敷いて寝る準備をしている。
「お前ら、合宿の最終日に簡単に寝られると思ってる?」
私はサンチョの枕を持ってきているから大丈夫だ。本当なら抱き心地の良いなっくんも欲しかったけど、別々の部屋なので仕方なく諦めた。
「自分の枕を持ってきているから簡単に寝られるよ~」
「それ、名前タコスだっけ?」
「サンチョだよ~」
「で、園子さん。その恰好は?......」
「鳥さん!私焼き鳥好きなんよ~」
この鶏の寝間着は私のお気に入りだ。なっくんには「それじゃ食われる方になってるぞ......」って呆れられてしまった。
「兎に角だめよ!夜更かしなんて」
「マイペースだなぁ須美」
「言うことを聞かない子は......夜中迎えに来るよ?」
「迎えにくる~......」
わっしーは両手を前に突き出して言う。私は血だらけのゾンビが襲ってくる映像が頭に浮かんで顔を青ざめる。
そんな空気を変えるようにミノさんが別の話題を出す。
「そんなホラーより、好きな人の言い合いっこしようよ」
「好きな人って......三ノ輪さんは?」
「敢えて言うなら弟とか!」
言い出しっぺのミノさんはわっしーに聞かれ家族を出した。そういうのはずるい。そう言えば
「なっくんは?」
「長門かぁ......でもあいつ女の子みたいだしどちらかというと親友かな?」
なっくんが聞いたら凹むだろうな~。女顔の事すごく気にしているみたいだから。
「須美は長門の事どう思ってるんだ?」
「へ?私?......というかこれって好きな人の話だったんじゃ......」
確かになっくんはお役目が始まってからわっしーの事をよく気にかけてるみたいだけど......前に本人に聞いたら昔の自分と被るところがあるって言っていた。
それでも、少し妬いてしまう。4人でいる時間も好きだけど、なっくんと2人で過ごす時間はとても落ち着く。お役目が始まってからは彼と2人きりでいる時間は少なくなってしまったのでちょっぴり寂しい。
「乃木君には戦闘中助けてもらったりしたけれど......友達かしら」
「須美の口から友達という言葉がパッと出てくるとは......銀さん嬉しいぞ!」
ミノさんがわっしーに抱き着く。わっしーは嫌そうに手をどけながらも顔は満更でもなさそうだ。
「三ノ輪さん!もう離れなさい!......ところで乃木さんは好きな人とかいるのかしら?」
「ふっふっふ~......私はいるよ~!」
「誰!?クラスの人?」
「うん!わっしーとミノさんとなっくん~!」
「だと思ったよ......というか長門は兄妹じゃんか」
どうやら2人とも勘違いしているようだ。私はさっきの発言を訂正する。
「なっくんは兄妹としても好きだけど~、違う意味だよ~」
「えぇ!?......それって乃木さんは乃木くんの事異性として好きだということ!?」
「でも2人は兄妹なんじゃ......あ、そう言えばこの間長門は養子だって言ってたな」
2人とも驚いているが、そんなに驚くことだろうか?幼馴染として何年も過ごしていれば自然とそういう感情は芽生えてくると小説にも書いてあった。
「なっくんとは元々幼馴染として過ごしてたからね~」
「で、いつから好きになったのさ?」
「ん~、いつからっていうのは難しいかも~。気づいたら好きになってたから」
「そうだったのね......ん?元々幼馴染だったということは......乃木君は私みたいにお役目のために養子入りしたわけではなかったのね」
なっくんには2人になら話してもいいと言われたけれど、深い話は私もさすがに知らないから少し話すことにした。
「そうなんよわっしー。それになっくんはそれなりの家柄の子だったんよ~。『神崎』って言って分かるかな~?」
「アタシはさっぱりだよ。須美は?」
「噂程度に聞いた程度だけれど......確かあの『上里』の親戚にあたる家柄で発言権もかなり高いほうなんじゃないかしら?」
わっしーの言っていることは正しい。私が急に真剣な表情をすると2人とも身構える。
「それで合ってるよ~。兎に角まずは神崎家の今を話さないとね~」
「今って......長門はいるし特に何もないんじゃないか?」
「三ノ輪さん。何もなかったら乃木君は養子にならないでしょう?」
「結論から言うとね......神崎家はもうなっくん1人だけしかいないんだよ~」
神崎家は彼以外みんな死んでしまった。格式高い家系が丸々1つ消えるのは本来なら大事件だ。
「彼のお母さんやお父さんも事故や病気で亡くなられてしまったということ?」
「まあそうなんだよ~。それで特に親交のあった私の家になっくん本人と私のお母さんの希望で養子になったんよ~」
2人とも納得したのかもう何も聞いてこない。
本当は少し違うんだけどね~......これ以上話すと長くなる上に折角の合宿最終日だから暗い話はしたくない。
「上手く話を逸らされた気がするんだけど、結局長門にはまだ告白とかしてないのか?」
「してないよ~」
......彼は私の気持ちには気づいているはずだ。けれど今の関係が壊れてしまうのが怖いのだと思う。疑り深いからきっと自分で導き出した結論だと正しいと断定ができないんだろう。
それに彼は極端に自己評価が低い。そういうのもあって自分に向けられる好意になれていないんだ。だから私から行かないとダメなんだ。
「もう私眠くなっちゃった~」
「そうね、明日も早いし今日はもう寝て明日も励もう!家に帰るまでが合宿よ!」
「へーい」
「消灯!」
--------------
俺は一人でササっと入浴を済ませある部屋へ行き、部屋の扉をノックする。中から「どうぞ」という声が聞こえたので扉を開けて入っていく。
「最終日だからもういいかと思って片づけたのだけれどここに来たということは明日も使うのかしら?」
「いえもう使いません、合宿中わがまま言って使わせてもらい感謝しています。それとは別件で1つお話がありまして」
俺のやるべきことは安芸先生にあることを聞きに行くことだ。確かについでに備品のお礼もしに来たけれど。すると安芸先生は意外だったのか驚きながら問いかけてくる。
「あら、一体何かしら?そろそろ寝る時間よ?」
「直ぐに済むかどうかは保障しかねますが、先生には俺が考えたとある世界についての仮説を聞いて意見をお聞きしたいんです」
先生が目で続きを促したので俺は自分が考えていた世界の秘密について話す。
「俺がまず疑問に思ったことが、西暦の色々な書物を読んだ時です。神話が書かれている本を読んだときにふとこう思いました。なぜこの世界の守り神である神樹は土地神様でしか形成されていないのかと。天に属する神々は一体この世界で何をしているのか。その時はまだ、引っ掛かりを覚える程度でした。それに親が勤めていた【大赦】中々使われない
「それは世間にも出ていることよね。あなたがこのタイミングで聞いてきたということはまだあるのかしら?」
「その通りです。俺は乃木家の養子になりお役目に選ばれたことで入ってくる情報がさらに多くなりました。人類の敵、ウイルスにより生み出された化け物―――バーテックスです。バーテックスには『頂点』という意味があるそうですね。バーテックスがしゃべるわけありませんからおそらく命名は大赦でしょう。何故人類の敵とあろうものに頂点の意味の名前を付けたのか。それにいくらウイルスの突然変異で知能があるとはいえ、”何故か”神樹を執拗に狙ってくる。知能があるとはいえ戦闘を見る限りそこまでの知能はないと思いました。それにただの謎の生き物にたどり着かれて神樹がそう簡単に力を失うとも思えません。そして元来人間はその傲慢さゆえに生物の頂点にいると思い込んできました。そんな人間でも畏怖してしまうものなど1つしかありません。『神』です。先ほど天の神々は何をしているのかと言いましたが、神話では神々も争いを起こしたりするものだそうですね」
「つまりあなたはその天の神々がバーテックスを仕向けて神樹様を攻撃していると言いたいのかしら?」
「ええそうです。ですがそれだと何故神樹が結界を張って人間を守ってるかが分かりません。神々の抗争なら人間を挟む必要はないんです。ですがもし神々の抗争の原因が人間にあるとしたらどうだろうと考えました。流石になぜ人間が目をつけられたかまでは分かりませんが天の神々は人間を滅ぼすことにした。ですがここで人間に味方する神々も出た。それが今の神樹を形成している神々。ウイルスにより人口と領土が減少したのではなく、天の神々が今と同じようにバーテックスを差し向け、神樹の結界の範囲内である四国は生き残りそれ以外がなくなってしまった」
「なるほど。けれどそれだけではあなたの想像でしょう?」
「そもそも勇者システムがこんな都合よく用意されているのがおかしいんですよ。あれほどの技術がぽっと出に出来るはずがない。それは俺たちよりも前にバーテックスと交戦した勇者がいる証明です。そしてもしバーテックスが神に造られたものなら無尽蔵に湧いてきてもおかしくない......つまりこのお役目には終わりがない。拙い仮説ですがこんな感じです」
俺の想像もかなり入っているが、俺の考えは話した。拙い理論だし大体一介の小学生が思いついたことだ。真実ではないと思う。それでも事情を知っているであろう大人の反応が見たかった。
***************
就寝時間前に乃木君が来たと思ったら仮説を話し始めた。
途中途中に穴はあるものの本質は正しいものだったので私は動揺を隠すので必死だった。彼は拙いと言ったけれどそんな事はない。何せ今まで一般人には隠し通していると思った真実にたどり着きかけているのだから。彼は私以外には話していないだろうか。でも彼のリスク計算はすごいから一応私を信用に足る大人として話してくれたのだと思う。ここで誤魔化そうと思えばできる。確固たる証拠はないから杞憂だと言ってしまえばそれで終わる。
......それだと私の動けない樹海化中に壁の外へ出てしまうだろう。どっちにしても詰みなのだ。彼がこの世界に疑問を持ちお役目に選ばれた時点で。だから私は―――
「......1つ聞きたいことがあるわ。あなたはそれが真実だとしてどうするつもりなの?」
これは問わなければならなかった。他の勇者たちに話してしまったらおそらくお役目に支障をきたすから。むしろその仮説を立てながらも普通にお役目をこなしている彼の精神は異常だ。
「たとえ世界がどうであろうと、俺のやることは変わらず彼女たちを守り抜くこと。それに大赦の事は恨みませんしそれしかやりようがなかったのかもしれないのも事実ですからね。何体バーテックスが来ようともその分だけ追い返せばいい話です」
彼は世界の真実を知っても戦い続けると言ったようなものだ。その精神力と強い思いが男でありながら勇者に選ばれた理由の一つなのだろう。
「そう。これから話すことはすべて真実、信じきれないならいつか壁の外へ出てみなさい。樹海化中なら大赦も全ては監視出来ないでしょうから。先に答え合わせをするとあなたの仮説は大体合ってます」
「やけに素直に言いましたね。大丈夫なんですか?」
大赦の人間である私が隠してたことをあっさりバラしてもいいのかと言う意味の確認だろう。だがどちらにしてもバレてしまうなら隠す必要もない。そう言うと彼は納得したようだ。
「俺としては話してくれるとは思ってなかったので良かったです。聞きたいことは聞けました」
彼はそう言いながらこちらに頭を下げて失礼しましたと言って部屋から出ていく。
--------------
先生は俺が壁の外に行くものだと思って話を進めてくれたが、俺自身は行く気はなかった。園子にはどう隠れてこそこそ行ってもバレてしまうような気がしたからな。
そして俺は先生の部屋を出た後小さく呟く。
「もしかしたらあの夢は......」
俺は最近、というかお役目が始まってから決まってある夢を見ている......が
とりあえず今日はもう寝よう。頭を働かせすぎた......
長門は安芸先生をかなり信頼のおけるものとして話しました。これのせいで長くなってしまいました。
ガバガバ理論の長門の考察ですが、独自解釈と、長門が知る情報が少ないということでお許しくださいw
そして次回こそはアニメ2話の分を終わらせたいと思います!
明日は投稿しないと思います(多分)
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ともだち
満開祭り3どうやら勇者の章Blu-ray特典に収録されるようでほっとしました。
1+1+1+1を4ではなく、10にする。
私達なら、出来ると思った。そうしなくてはいけなかった。
敵の名前はバーテックス。ウイルスの中で生まれた忌むべき存在。
これを退けるために。
でも、そんな存在に、バーテックス......頂点という意味の名前をつけるだろうか?
この時はまだ、バーテックスが■に■られたモノだとは知らない。
勇者御記 298年 乃木園子記
--------------
俺たちのお役目の訓練のための合宿は長かったようであっという間に終わり、帰りのバスにみんなが乗るのを待っていたのだが......
「遅いっ!」
「なんかデジャヴだな......」
行きと同じように園子は俺の肩によりかかりながら寝ていて銀が遅れ鷲尾さんが怒っている。すると申し訳なさそうに銀が入ってくる。
「ごめんごめん、野暮用で......」
「野暮?」
鷲尾さんは訝しそうな表情を浮かべる。そして銀がにやけながらこちらを向く。
「で、長門はいつまで園子を撫でてるんだ?」
「ん?ああ、つい癖で」
小さい頃一緒に寝たり、庭で寝転がると園子がいつも先に眠たそうにしていたのでよく頭を撫でてやっていたからその時の癖が抜け切れてないんだろう。
そうしているとバスが動き出し俺たちはそれぞれ帰路に着いた。
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「ぎりぎりセーフ!」
「セーフじゃありません」
いつも通り三ノ輪さんは遅刻して先生に出席簿で軽く頭をはたかれる。
三ノ輪さんは遅刻が多すぎる。けど理由を話そうとしないし......何か事情があるのかもしれない。
その時三ノ輪さんのランドセルから猫が出てきた......なぜ猫?怪しすぎる。
休み時間になり私は三ノ輪さんを調査することに決め乃木さんに協力を煽る。
「なぜ三ノ輪さんの遅刻が多いのか。やはり何か理由があるのよ。それが分からないならこっちから探るまで!乃木さんも協力してくれる?」
「すぴ~......」
乃木さんが船を漕いでるのを見て私は了承とみなした。なんだか乃木さんの扱い方がわかってきた気がする。
そういえば乃木君は?教室内を見渡すと三ノ輪さんと何やら話していた。
「平日は無理だけど日曜とかなら空いてるし手伝うよ」
「いいって!迷惑だろうし」
「俺がやりたいんだよ。一応知ってる身としては放っておけないしな」
「そこまで言うなら......頼むよ」
流石に最初から聞いてるわけじゃなかったので会話の詳細はよく分からないが、やはり三ノ輪さんには何かしらの事情がありそうだ。これだけではそれが何かは分からなかったけれど。
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日曜日、私は乃木さんを連れて三ノ輪さんを調査することにし、手始めに家へ行くことにした。
「そろそろね。三ノ輪さんの家に到着するわ乃木さん......ってあれ?」
振り返るとさっきまで後ろをついてきていた乃木さんが居なくなっていた。
「アリさんだ~!へいへい元気~?」
声がする方へ行くとアリの行列に手を振っている乃木さんを見つけたので引きずっていく。
ようやく三ノ輪さんの家に着いた。
「ここが三ノ輪さんの家ね。えっとまずは......「ピンポンダッシュ~?」そんな恐ろしいことはだめよ!」
私は家にあった手ごろなスコープを持ってきたのでそれを使い中の様子を見る。
「おい泣くなって。泣いていいのは母ちゃんに預けたお年玉が返ってこないと悟ったときだけだぞ?」
「ああぐずり泣きが始まってしまったぁ。ミルクやおしめじゃないだろうし」
すると三ノ輪さんは持っていたガラガラを使い弟らしき赤ん坊をあやしていた。
「泣き止んだ!えらいぞマイブラザー!大きくなったら舎弟にしてこき使ってやろ。ニヒヒ」
しばらく様子を見ていると学校に連れてきていた猫がやってくる。捨て猫を拾ったんだろうか。
「おお。お前もこの家になれたかー?」
「銀ー。食材が心もとなかったから買い足しに行くぞー」
今の声って......乃木君よね。教室で手伝うだとかいう話はこれだったのね。それにこんなに小さな弟さんがいたのね......世話が大変ということかしら?
すると唐突に乃木さんが
「わっしーそのスコープ下げて!」
「え、ええ。下げたわ。どうかしたの?」
「なっくんはね~気配に敏感だからそれすぐ見つかってしまうと思ったんだよ~」
私は合宿での彼の鍛錬の時を思い出した。確かにあの時彼は私の気配にすぐ気づいていた......スコープで覗くのは諦め中の声だけを聴く。
「長門?どうしたんだよそんな外の方を見つめて」
「いや、誰かに覗かれてる気がしたんだけど......気のせいだな。買い物行くか」
どうやらバレてはいないようだ。2人は買い物へ行くようなので私たちも後をつけるため乃木さんに声をかける。
「......わっしー。なっくんにはバレちゃったみたい~。でも見逃してくれるみたいだよ~」
え?でも彼は気のせいって......乃木さんは「アイコンタクト~」と言う。2人はそんなことも出来るの!?......兎に角2人の後を追う。
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2人を追跡していると祝勝会で来たイネスの近くに着く。買い物はイネスでするのね。
「あ、わっしー見て見て!」
乃木さんが指さしたのは乃木君と三ノ輪さんがお爺さんに道案内をしている姿だった。
「道を尋ねられたのかしら?」
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すると次は女性に道を教えていた。2人とも優しいわね......
「ミノさん優しい~」
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イネスの駐輪場まで来ると
「わ~自転車起こしてるよ~」
乃木さんの言うように2人は倒れていた自転車を起こしていた。
その後も三ノ輪さんと乃木君を追うと2人は次から次へとトラブルを解決していく。
「次から次だよ~。ミノさんって事件に巻き込まれやすい体質なんだね~」
勇者だからかしら?ようやく2人が目的地であろうイネスに入っていくので追う。
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「次は迷子だよ~?」
三ノ輪さん達は親御さんとはぐれてしまったのだろう女の子の手を引き連れていく。
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「けんかの仲裁?」
男の子と女の子の喧嘩を乃木君が引き留め三ノ輪さんが事情を聴いている。
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今度は客の一人がカバンからこぼした果物を拾うのを手伝っている。これは巻き込まれているというより......
「放っておけないのね。もう見てられないわ、三ノ輪さん!乃木君!」
私達2人も手伝いに入ることにした。
「やっと来たか2人とも」
「え?須美!?」
「園子もいるんだぜ~」
「ええ!?どうしたんだよ2人とも......」
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とりあえず昼ご飯を食べながらということで各々フードコートで買って事情を話している。銀も2人には事情を知られた方が動きやすいだろうし2人の尾行は敢えて見逃した。
「じゃあ、2人は家の前から見てたっての?......えぇ、なんか恥ずかしいな......」
「恥ずかしくなんかないよ、偉いよ~」
「いつも遅れる理由はこれだったのね」
「言ってくれれば良かったのに~」
始めは俺もはぐらかされていたけど推測で大体分かっていたのでそう言うと仕方なさそうに話してくれたのだ。今日も遠慮されたが事情を知っているのに手伝わないのは嫌だったので手伝いを申し出た。
「それは何か他の人のせいにしてるみたいで。何があろうと遅れたのは自分の責任なわけだしさ。というか長門2人に気づいてたんだろ?」
銀はそう言って俺にジト目を向けてきたので俺は悪びれずに返す。
「まあそりゃあんな気配隠さずに尾行されればな。2人には知ってもらった方が良いと思ったから見逃したんだよ」
「昔からそういう体質なの~?」
「ツイてないことが多いんだ。ビンゴとか当たったことないもん」
ん?俺と銀は周りの様子がおかしいことに気づいて辺りを見渡すとそれにつられて園子と鷲尾さんも目線が動く。
......どうやら3回目のお出迎えのようだ。
「ほらな。日曜台無し」
「休みの日で良かったというべきか嘆くべきか......」
***************
俺たちは勇者システムを起動させ大橋までいく。
「来たわ」
「ビジュアル系のルックスしてるなー」
「まずは私が......これで様子を見る!」
鷲尾さんが弓を放とうとすると地面が激しく揺れ始めた。どうやらあいつが揺らしているみたいだな。
「うわ!なんだなんだ?」
「あのバーテックスのせい?」
「だろうな。厄介だな......」
鷲尾さんが気張って再び弓を構えようとしていたので肩をたたいて止める。
「そんなに気張るなよ鷲尾さん。特訓しただろ?4人で......な?」
「乃木君......」
「私たちと一緒にあいつを倒そう?」
「乃木さん......」
「合宿の成果を出す。そうだろ?」
「三ノ輪さん......みんな」
その時揺れが突然収まった。どちらも動ける状態になり、そして敵が何かしようとしている。これはまずいな。
「園子!盾を!」
「了解だよ~!......うんとこしょ!」
敵が足で攻撃してくるが園子が前へ出て展開した盾ではじく。
「よ~し、敵に近づくよ~!」
「「「了解」」」
リーダーである園子の号令に皆返事を返し一気に敵に詰め寄るが敵は上空に飛んでしまった。さっきと同じ予備動作だ。みんな今回は余裕をもって躱す......が
「あれは......まずいな鷲尾さん!」
俺の声よりも前に準備していたのであろう、俺の声と同じタイミングで鷲尾さんから矢が放たれるが敵に届かなかった。これは悪い予感がする。攻撃を避けるためだけに上空に行ったはずがない。
制空権を取られるとこっちが後手に回るしかなくなる。非常にまずい。
「制空権を取られた!?」
「降りてこいこらぁぁぁぁ!!」
俺の感が警鐘を鳴らしている。敵の特徴はもちろんそのドリルのような脚......ドリル?もしかして
「何か仕掛けてくる......」
「銀!斧を構えろ!!」
「っ!?」
俺の声のわずか後に敵が4本の脚をまとめてドリルのように回転させながら銀に攻撃する。当たる直前に斧を盾にしていたのは見えたがそんなに持たないはずだ。が残念ながら俺には打開策はない。
「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!根性!!」
「ミノさん!「1分は持つ!上の敵をやれぇぇぇ!!!」......私たちで敵を叩くよ~!!」
「了解」
俺はリーダーの指示に短く返事をして刀を構える。俺には打開策はないが敵を落とすのは園子と鷲尾さんがやってくれるはず。だったら俺は出来ることをやる。
敵の脚と本体の間、そのつなぎ目のどこか。目的はあの回転を出来るだけ弱めて銀の負担を減らすのと現実への被害を減らすこと。
園子が槍で階段を作り鷲尾さんが昇って矢を放ったのを確認する。鷲尾さんの矢が当たる前。今!
「はぁぁぁぁ!」
勢い良く跳躍し一瞬で数回同じ場所を斬りつける。4本あった脚の内3本のつなぎ目しか斬れなかった。けれど鷲尾さんの矢が本体を落下させる。勿論つながっている残り1本の脚は銀からそれて地面に刺さる。
「4本全部斬ろうとしたんだけどな。やっぱり無理か」
少なくとも今の刀と俺の技術じゃこれが精いっぱいだ。
「ここから出ていけ~!!!!突撃~!!」
園子が槍を構えながら敵に突撃してこちらに飛んでくる。......なんかデジャヴを感じた。園子の槍を刀でいなして空いてる手で園子を抱きかかえる。
「銀!今だ!いけぇぇぇ!」
「ミノさん!!」
「砕けぇぇぇぇぇぇ!!!」
「4倍にして返してやる!釣りはとっとけぇぇぇ!!!」
銀が敵の元に跳躍して炎をまとった双斧を振りまわす。そして鎮火の儀が始まった。
「へへっ始まった」
「鎮火の儀」
「終わった......」
今回に関しては俺は何もしていない。近距離で戦えない堅い敵になると俺の出来ることはない......まだまだ俺が弱い証拠だ。もっと強くなりたい、いやならなきゃいけないんだ。勇者システムが弱いなんて言い訳にすらならない。だってそれならばあの夢の―――
それよりも今は
「園子さんや、あれ俺じゃなかったら危なかったぞ」
「なっくんなら受け止めてくれるって信じてたから~」
「......そうか」
全面的に信頼されているというのは少し恥ずかしい。顔を逸らすが園子にはそれも気づかれているんだろうな。今も視界の端でニヤニヤしているのが見える。
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現実世界に戻った私達は大橋近くの公園の芝生に倒れこんだ。
「ああー。痛てて......」
「ミノさん大丈夫~?」
「疲れたよ。腰に来る戦いだったぁ......」
「ああして攻撃を受け止めてくれたから私たちが攻め込めたんだよ~。ありがとうねミノさん~」
「そっちこそ凄かったじゃん」
「だってミノさんが1分持つって言ったから1分は持つじゃない?それくらいあればなんとかなると思って~」
ああ。先生は見抜いていらしたんだ。乃木さんのいざという時のひらめきを。乃木君もそれを分かってて身内びいきなどではなく彼女をリーダーに推薦した。私は迷っているだけだった。それなのに家柄のせいで乃木さんがリーダーに選ばれたと思い込んで......
大馬鹿だ。自分がしっかりしなくちゃって思ってたけど、ただ足を引っ張っていただけなんだ。それに合宿の時に乃木君に言われたのに三ノ輪さんを信じきれなかった。
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「あーあ。お腹空いたー!」
「うどん食べてる途中だったもんね~」
「でもイネスに戻るわけにもいかないしなー」
「......うぅ...ぐすっ......」
鷲尾さんが急に泣き出した。もしかして敵から攻撃貰ってたのか!?
「どうした須美!?どこか痛いのか!?」
「バーテックスの攻撃貰ったのか!?」
「......ううん、違うの...ぐすっ...ごめんなさい。次からは始めから息を合わせる...ぐすっ...頑張る......」
「うん。頑張ろうな!」
「はい、わっしー」
そう言って園子が鷲尾さんにがハンカチを貸す。
「ありがとう......そのっち」
その言葉に園子と銀は顔を見合わせて嬉しそうにする。
鷲尾さんがこの戦いで気づけて良かった。お役目は終わらないのだから......そうだとしても俺は必ず3人を無事に日常に返す。俺は決意を新たにする。
「もう一回言ってわっしー!」
「そ、そのっち......」
「おお~!!」
「アタシはアタシは!?」
「銀......「え?」銀......!」
「ははは、嬉しいなぁ、なんかようやく須美とダチになれた気がする」
「なっくんは!?」
園子が聞くと鷲尾さんは少し困った顔をする。おい園子さんや。俺は男子だし園子があだ名なら俺は苗字でいいでしょうよ。
「園子、鷲尾さんも困ってるし......」
「......長門君」
「む、無理しなくていいんだぞ鷲尾さん?」
「無理はしてないわ。だから長門君も私の事名前で呼んで......」
まあ本人に言われてしまったらそうするしかないな。
「分かったよ須美」
このお役目を通して改めて4人ならば1+1+1+1を10にすることが出来ると思った。
ゆゆゆい13話の更新でゆゆゆいのプロット練り直して書くかどうか思案したり、この鷲尾須美の章のほうのも少し直していました。
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