東方異血姉 (エンゼ)
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第一章 幻想入り前
第一話 養子の長女


 訳が分からない部分があるかと思いますが、許してください。
 それではどうぞ。


 Side:???

 爽やかな風、豊かな森林。その自然豊かな環境に私は倒れていた。その時私が感じていたのは空腹、ずっと飛び回っていたことによる疲れ、全身の痛みだった。もう死ぬのかと思っていた時、私は私以外の声が聞こえてきた。

 

「この子は...まだ子供だな」

「えぇ、この子、吸血鬼です。羽も普通ですし、魔力が大量にあります。一族の跡取りになるには相応しいんじゃないかしら」

 

 正直何を言ってるのか分からなかったが、私のことを気遣ってくれているっぽかった。...まぁあり得ないんだけど。すると突然、先ほどの疲れがピークに達して、私は意識を落とした。

 

 

 

 

 Side:エレナ・スカーレット

 

「今日からお前は私達の娘だ。エレナ・スカーレットと名乗りなさい」

 

 意識を取り戻した私のそばにいた男の人が言った。この見た目豪華そうな部屋、ふかふかなベッド...詰まるところ、私はこの人に拾われたってところかな?

 

「あの...貴方は?それとここは...」

「私はヴラド・スカーレットという者だ。今日からの父親となる。『お父様』と呼びなさい。そしてここは我がスカーレット家の家、紅魔館だ。これからお前の家でもある」

 

 父親、そう言われた私は理解が追いつかなかった。何せ私は今の今まで迫害され続けて来たからだ。いきなり優しくされても混乱するだけだった。困惑していると部屋の扉から女の人が入ってきた。

 

「あらあら、起きたのですね」

「あぁ、今さっき自己紹介をしたところだ」

「では私もしなきゃですね。初めまして、私はエリザ・スカーレットといいます。エレナ、今日から貴女の母となる者ですよ」

 

 今度は母親まで出てきた。...はぁ、あまり深く考えないで流れに従ってたほうがいいかもしれない。

 というかお腹空いてきたな...そういえばここ2年くらいまともな食事をしてきてないような...

 

「む、そろそろ食事の時間だな。エレナ、ついてきなさい」

 

 それを察したのかヴラドさん...いや、お父様が私に手を差し出す。よし、まずは食事だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お父様、お母様に拾ってもらって3年ぐらいは経った。私はスカーレット家の養子という存在だが、お父様とお母様はそんなの気にしないと言わんばかりに可愛がってくれた。その環境のせいか私の中にあった人を信じられない心みたいなのが少し薄れた気がする。お父様、お母様には感謝してもしきれない。

 でも、スカーレット家には先天的にあるとされる『能力』に関してはどうにもならなかった。お父様は『蝙蝠を操る程度の能力』で、お母様は『あらゆるものの年齢を明らかにする程度の能力』らしい。程度ってなんだよ。因みにお母様の能力のお陰で私は現在8歳ということを知れた。私は正統なスカーレット家の子供ではないので、『能力』は無い。なので私は『能力』に関しては諦め、『魔法』に手をつけた。幸い私には魔法を使うのに必要な魔力って言われるのが大量にあるらしい。私は片っ端から紅魔館の図書館にある魔法の本を読んだ。その様子をお父様に見られた時に

 

「エレナ...よくそんなのを読めるな...私には理解出来ん本ばかりだよ」

 

 と、苦笑いで言われた。あれ、私がおかしいの?これくらい普通だと思ってたんだけどな...

 因みに私が習得したなかで最も使いやすいのは『幻術魔法』と『身体強化魔法』だった。他にも使えるのはかなりあるが、ここでは省略する。多すぎてめんどくさいからね、しょうがないね。

 

 お父様は私に訓練をしてくれる。飛行訓練だったり、戦闘訓練だったりだ。まぁ飛行に関してはここに来る前に飛びまくっていたから結構出来るが、戦闘に関してはきつかった。お父様がいつも相手になるのだが、経験の差が大きくて未だに勝ててない。魔法とかも多様してるんだけどまだまだだ。

 

「...やはりお父様は強いですね。まだまだ修行しなきゃですね」

「いや、エレナも最初と比べ、かなり強くなったぞ。これではいつか追い付かれてしまうな」

 

 ハハハと豪快に笑うお父様。あぁ早く強くなりたい。お父様やお母様を守れるようになりたい。それだけを目標に私は今日も鍛える。

 ...まぁ、お父様を越えるにはかなりの時間が必要になるだろうけど。

 

 

 




 短いやつを定期的にポンポン出す形になると思います。何か疑問点などありましたら感想等に記載していただけると助かります。
 次回もよろしくお願いいたします。


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第二話 次世代当主の誕生

 著しくキャラ崩壊しております。レミリアに関しては幼いから、と言い訳出来ますが、お姉ちゃんが変態です。
 ですがあまり気にせず見ていただけると助かります。


 Side:エレナ・スカーレット

 

「妹ですか!?」

 

 私が拾われて五年が経ったある日、お父様から私の妹が生まれることが告げられた。名前も既に決まっているそうで、『レミリア・スカーレット』とするらしい。とても喜ばしいことで、私も興奮気味だったのだが、お父様は終始苦々しい表情を浮かべていた。

 

「どうしたんですかお父様。新しい家族が出来るのにどうしてそんな表情を浮かべてるのです?」

「あぁ...そうなんだがな...」

 

 ちらちらと目を合わせては反らし、合わせては反らしでいつまで経っても何も言ってこない。とても言いづらいことなのか、と思っているとお父様が口を開いた。

 

「次期当主となるのはエレナ、お前の予定だったんだがな...レミリアが生まれるから...な?」

 

 ...なるほど、つまりお父様はこう言いたいわけだ。

 レミリアが生まれるから次期当主はちゃんとしたスカーレット家の血を引き継いでるレミリアになってほしい、だから私は降りてくれ、と。確かに私には言い出しにくいことなんだろう。

 

「...お父様、そんなことを気にしていたんですか?」

「...え?」

 

 お父様がスカーレット家の現当主にあるまじき拍子抜けた表情を浮かべるが、気にせず私は続ける。

 

「私はここに来れただけで十分なのです。だから私はそんな当主だとかそんなのは全く気にしてません。こちらとしては拾われた恩を返したいくらいなのです!...でも...少しお願いがあるなら...」

 

 この願いを聞いてもらえるかの緊張をほぐす為に深呼吸をして言う。

 

「私を今までと変わらず、スカーレット家の娘として...『エレナ・スカーレット』として接して頂けますか?」

「っ!勿論だ!」

 

 まぁレミリアの世話とかでしばらくは構ってもらえそうにないだろうな、と、この時私は考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お父様と話をしてからすぐに、レミリアが産まれたと聞いた。いつも図書館で本を読んでる私は読んでる本を閉じ、全速力でレミリアの元へ向かった。初めての妹だ、どんな子なんだろうか...と軽い緊張をしてるうちにレミリアがいる部屋の扉の前まできた。私は唾を飲み込み、扉をノックした。

 

「あら?誰かしら」

「エレナです、お母様。入ってもよろしいでしょうか?」

「あらエレナ?ちょうど良かった!今産まれたところよ」

 

 扉を開け部屋にはいる。するとそこにはとてもとても可愛らしい赤ん坊がいた。羽も生えている。私より立派な羽だ。

 

「この子がレミリア?」

「えぇそうよ。エレナ、貴女の妹よ」

「私の...妹...」

 

 うわヤバい、めっっっちゃ可愛い。何これ、天使?吸血鬼って悪魔って呼ばれてるはずなのに天使とは...まぁレミリアが可愛いからいっか!

 

「この子が...スカーレット家を継ぐ子なんですね」

「!」

 

 ふと漏らしたその言葉にお母様が驚き、顔をしかめた。

 

「...聞いたのね?」

「はい。まぁ私としては当主なんてどうでもいいんですけどね」

「...ごめんなさい。でも私はエレナのことは変わらず愛しているわ」

「その言葉だけで十分です」

 

 ホントに気にしてないんだけどなぁ...なんでこんな申し訳無さそうにしてるんだろ。まぁいい、今はレミリアだ。あぁ可愛い。今の私の世界一可愛いランキングでぶっちぎりの一位だ。『私の妹はこんなに可愛い!』って叫びたい。けどそれは迷惑が掛かるから止めておこう。

 そんなことを考えながら私はレミリアと戯れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side:レミリア・スカーレット

 私にはお姉様がいる。その名はエレナ・スカーレット。私の大好きな人だ。お姉様はいつも図書館にいる。たまに私が遊びにいくと、読み聞かせをしてくれたり、魔法を見せてくれたりする。

 

「レミリア、今日は何をしよっか」

「お姉様、私、お姉様の一番得意な魔法が見たい!」

「得意な魔法か...ちょっと待っててね」

 

 そういうとお姉様は何か考え始めた。何をするんだろう、と思っていると。

 

「そうだ!」

 

 そう言ってお姉様は手から霧のようなものを出した。その霧はみるみる弓の形をしていき、最終的には弓になった。

 

「お姉様凄い!ねぇこれはどんな魔法なの!?物を創る魔法!?」

「落ち着いてレミリア。これ、触ってごらん?」

 

 そう言うので私は出来上がった弓に触ってみる。すると触った瞬間、その部分が霧となってしまい、また弓の形になった。

 

「これはね、『幻術魔法』って言うの。名前の通り、幻術を出す魔法だよ。物があるようにするけど、実際は無いから触ってもさっきみたいに触れないの」

「でもお姉様は凄いわ!こんなに簡単に魔法を使えるなんて!私もお姉様みたいになりたいなぁ」

「レミリアならきっとなれるよ、絶対にね。さて、読み聞かせでもしよっか」

 

 お姉様はどこから出してきたのか、ちょうど私がギリギリ読めるような本を見せてきた。そしてお姉様は自分の膝を軽く叩いて言う。

 

「おいで、レミリア」

「うん!」

 

 私はお姉様の膝の上に座る。実はこの時間が私の楽しみの一つである。大好きなお姉様の膝に座って、大好きなお姉様に本を読んでもらえる...はぁ、幸せ。この時がずっと続けばいいのに...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: エレナ・スカーレット

 お父様から聞いたのだが、代々スカーレット家は大体二~三歳辺りで能力に目覚めるらしい。現在レミリアは二歳なのでそろそろ目覚める時期だろうか...。そう思い、読み聞かせが終わってからレミリアに聞いてみる。

 

「ねぇレミリア、貴女の能力についてなんだけど...」

「どうしたの、お姉様?」

「自分の胸に手を当てて、心の中で『私の能力は?』って聞いてごらん。そしたら能力が分かるらしいよ」 

「うん、やってみる」

 

 そう言ってレミリアはさっき言ったような仕草をする。暫くしてレミリアは呟いた。

 

「私の能力は...運命を操る程度の能力...?」

 

 だから程度ってなんだよ...。運命を操る?すげぇな私の妹。程度ってもんじゃあ表せねぇぞこりゃ。

 

「運命を操る...どういうことか分かる?」

「うん、あのね、未来予知?ってやつなの。でもね、まだ上手く操れないから狙って予知することは出来ないかも」

「それは鍛えればなんとかなるよ。私も魔法はいっぱい練習したからね。レミリアだって出来るようになるよ!」

 

 未来予知だってぇ!?神じゃねえか!超能力ってやつじゃん!流石私の妹だ!可愛いし能力チートだしもう最強じゃん...。

 

「あ、もうすぐお父様との訓練が始まっちゃうよ!お姉様、行こ!」

「もうそんな時間かぁ。うん、行こっか」

「あ、お姉様。手を繋いでも...いい?」

「うん、勿論いいよ」

 

 手を繋いで練習場へ向かう私達。あぁもうレミリア可愛い。よし、今日はレミリアも見てることだし、お姉様張り切っちゃうぞぉ!

 と、この時は平和に過ごしていた。...まさかあんなことが起こるなんて夢にも思わずに...。




 なんとなく展開的に速いかな?と思っている部分もあります。なので疑問点とかありましたら感想等で教えてください。出来るだけ矛盾が無いようには心掛けてはいます。

 というわけで次話もよろしくお願いします。


誤字報告ありがとうございました!(6.25.2018)


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第三話 予感

 レミリアの言葉遣いが著しく崩壊してます。
 でも話には余り影響しないんで許してください←


 Side: レミリア・スカーレット

 今日はお姉様と実戦訓練をする。私が四歳になった誕生日プレゼントとしてお姉様と戦いたいとお願いしたからだ。お姉様にそれを最初に言ったときはとても驚いた表情をしていたけど、最後はいつもの優しい顔で引き受けてくれた。

 

「最後に確認するねレミリア。私はまだお父様より全然強くないよ。実戦経験もお父様の方が格段に上。ホントにそれでもいいの?」

「うん、分かってる。お姉様がいいの!」

「...分かった。じゃあ全力で行くからレミリアも全力でお願い。手加減する方が私は失礼だと思うから」

「うん!」

 

 会話を終えるとお父様が私達の間に入ってきて言う。

 

「じゃあ私が審判をしよう。ルールは単純、館が壊れない範囲でならなんでもありだ。一応結界は張ってはいるが、壊さないよう意識するように。勝敗は、先に気絶した方を敗けとする」

 

 その言葉に私はゴクリと唾を飲む。対してお姉様はそこまで緊張してなさそうだ。

 

「では...勝負始め!!」

 

 その掛け声と共に私はお姉様の元へ全力で散弾幕を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: エレナ・スカーレット

 うわぉ、いきなり飛ばしてくるなぁ。そう思いつつ、私は弾幕を必要最低限の動きで避ける。レミリア...強くなったなぁ。最初は飛行もままならなかったのに、今じゃ自由自在に飛んでら。

 ...全力で行くと行ったからには全力を出さないといけない...。ホントは対お父様用に考えておいた技なんだけど...初御披露目と行きますか!

 

「レミリア...こっちも行くよ!」

「っ!」

 

 レミリアが私から距離を取るが無駄だ。この技は周りの環境に対して放つ技なのだから。

 

 パチンッっと私が指を鳴らし、フィールド全体が光に包まれる。光が晴れると...そこは、元々いた紅魔館の大広間ではなく、晴れ晴れとした草原になっていた。

 

「何!?何なの!?」

 

 レミリアが混乱している。当然だろう。戦ってる環境がガラッと変わってしまったのだから。

 

「レミリア、まだ終わらないよ。ほら、油断しちゃダメ」

 

 私はレミリアの方に手を伸ばす。するとレミリアは草原の草のツルに巻き付けられた。

 

「何...これ...動けない...」

 

 必死にレミリアがツルを引きちぎろうとするが、ちぎれない。よし、なんとか拘束は完了だ。

 

「さて、なんか申し訳ないけどトドメだよ。これに耐えられるかな?」

 

 私が手を真上に上げる。そのさらに上には、吸血鬼が最も苦手とする太陽があった。

 

「ここからは自分の想像力との勝負だよ」

 

 日光がレミリアを照らす。

 

「あぁ...ああああアアアアアァァァァ!」

 

 皮膚がとけだしレミリアが叫びだす。...やりすぎたな。でも手加減は出来ないって言っちゃったし...。

 

「そこまで!!」

 

 迷ってるとお父様が待ったをかけてきた。そう言われて私は技を解く。すると、最初の大広間に戻った。

 

「ハァ...ハァ...ハァ」

 

 息が上がってるレミリア。これはホントにやり過ぎたな...暫く口聞いてくれなさそうだ...そうしたら私はショックで寝込むね。まぁ私が悪いんだけどさ。

 

「エレナ」

 

 ビクッとなって声の主のお父様の方を向く。これは怒ってるかなぁ...やり過ぎたもんね。まぁ仕方ないかなぁ...。

 お父様は頭を下げて続ける。

 

 

「...ありがとう」

 

 

 ...はい?なんで感謝されてるんですかね私は。訳がわからないよ。

 混乱していると、さっきまで息が切れていたレミリアが来て言った。

 

「油断しちゃった...あの技、幻術魔法ね。それを見破っていたら、まだ勝負出来ていたのに...ごめんなさいお姉様。私、まだまだお姉様に挑むには早すぎたわ...」

「いやいや、それは別にいいんだけど...むしろもっときてもいいよ?...それとお父様、なんで『ありがとう』なの?」

「あぁ、実を言うと、レミリアはまだ太陽の危険さをあまりよく知らなかったんだ。幻術とはいえそれを教えてくれた、その事に感謝しているんだよ。私ではエレナみたいに幻術は使えないからどうやって具体的に教えようか考えていたんだ」

 

 そう言って私達の頭を撫でるお父様。優しい手つきでとても心地がいい。

 

「うん、正直私、太陽を舐めていたわ。でも初めて太陽を見て...怖いと感じたの。お姉様、それを教えてくれてありがとう!」

 

 笑顔で言うレミリア。うわ、マジで私の妹可愛い。マジ天使。物凄く抱き締めたいいぃぃ!...落ち着け私。とりあえず落ち着こう。確か落ち着くためには素数を数えるんだっけ?1,2,3,5,7,11,13...ふぅ、落ち着いた。

 

「次はレミリアだね。開始直後の散弾のアイデアは割と良かったよ。ただ、ちゃんとした意図を持って散弾をすれば、もっと良くなるからね。そこを意識するように」

「はーい、お父様」

「次に、エレナの幻術にあっさり引っ掛かってしまったのは良くないね。幻術に対応するには、勝負中にエレナも言っていたが、悪い方向に想像してはいけないよ。やられる、って思ったらあっさりやられちゃうからね」

「...なるほど...ね」

 

 微笑ましいなぁ...お父様がレミリアに優しく指導してるとこ。こういうのって、『尊い』って言うんだっけ?

 

「ねぇお姉様!」

「えっ!な、何かな?」

 

 いきなり声を掛けられ、怯んでしまった私を無視し、レミリアは続ける。

 

「たまにでいいの!私の...実戦練習に付き合ってくれない?」

 

 レミリアの上目使い!お姉様には効果は抜群だ!!

 

「...うん、勿論いいよ。お姉様付き合っちゃう!」

「ありがとうお姉様!!!」

「ゴフッ!!」

 

 レミリアの懐ダイブ!お姉様には効果は抜群だ!

 エレナは倒れた!

 

「...?お姉様?...ッ!お姉様ァ!お姉様ァァ!」

「お、おい!大丈夫か!?」

 

 最後に私が見たのは、少し泣き目になってるレミリアと珍しく取り乱してるお父様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...これは...危険すぎる...」

「でもお父様!この子はまだ能力が制限出来てないだけです!きちんと訓練すれば必ず...!」

 

 ...これは...会話かな?誰だろう...なんとなく私とお父様っぽいけど...

 

「いや、いつその能力が暴走するかわからない!しかもその羽を見てみなさい!これはな、一族代々伝わる呪いの羽だ。この羽を持つものは、非常に強い狂気があると言われているんだ!そしてその狂気の解除方法は...無い!」

「ですが...!」

「...すまない、勿論私だってやりたくない!...でもこれはお前達のためでもあるんだ!」

「ッ!」

 

 話が読めない。能力?呪いの羽?狂気??...とりあえずもう少し聞いてみよう。

 

「お前達があの能力によって『破壊』されてほしくないんだ!」

「でも...でも!」

「非常に心苦しいが...我が娘、『フランドール・スカーレット』を地下に...幽閉する!!」

 

 フランドール・スカーレット??ますますこんがらがってきたかも。でも夢にしては妙にリアルなんだよな......あり得ない話じゃないけど、これって『予知夢』ってやつなのかな?そうだとしたら...私が出来ることはなんだろう。このままフランドールって子が幽閉されちゃうのはなんかやだな。

 それなら...能力とか狂気とかが解けるようにしよう。あのお父様の声は解く方法は無いって言ってた。けど、不可能を可能にするのが魔法。その魔法を駆使すれば、案外どうにかなるかも知れない...。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!」

「あ!お姉様起きた!良かったぁ!」

 

 そう言って私に抱きつくレミリア。夢...だったのかな。でもその記憶は鮮明に覚えてるんだよね...

 

「?、どうしたの?お姉様」

「あぁいや、ちょっと考え事をね」

 

 そういえばレミリアも確か魔力が豊富にあったような...でもこの前魔法教えてた時、なんか難しそうにしてたしなぁ...

 

「あ!そういえばお姉様、聞いてくれる?」

「ん?どうしたのレミリア。凄く嬉しいことでもあった?」

「実はね...お母様が妊娠してるの!」

 

 妊娠か...お盛んだなぁ、あの二人は。

 

「へぇ、ってことは新しく妹か弟が出来るわけだ!」

「もう妹って確定してるんだって!」

「...よく分かるなぁ...いつ頃産まれるのかな」

「私が五歳になってからちょっとの予定だって!」

 

 ってことは来年...来年!?あっという間じゃん!

 

「名前とか決まってるって言ってた?」

「うん!『フランドール・スカーレット』ってするんだって!!」

「へぇ、フランドール・スカーレット...ッ!?」

 

 ここで私は一瞬で顔を真顔に戻してしまった。『フランドール・スカーレット』...さっきの夢がホントだとしたら、このままだとフランドール・スカーレットは地下に幽閉されちゃうのか...。思ってたより時間は無さそうだ。

 

「どうしたのお姉様。顔、なんか怖いよ?」

 

 そう言われ、慌てて私は顔を戻す。しかしレミリアは軽く慌てて出した。

 

「もしかして具合が悪くなったんじゃ...どうしよう!」

「落ち着いてレミリア。私は大丈夫だから。ホントよ?」

 

 宥める私だが、レミリアは信じてくれない。だが深く言及はしなかった。

 

「...分かった。じゃあ私はとりあえずご飯持ってくるね。すぐ戻ってくるから」

 

 そう言ってレミリアは部屋を出ようとする。レミリアがドアを開ける瞬間、

 

 

 

「ごめんなさい、やっぱり待って貰える?」

 

 

 

 私が声を掛けた。こうしたのかは自分でもよく分からない。だが、そうした方がいい気がした。

 

「結構、大事な話があるの」




 結構この作品と似た作品もいくつかあるので、余りネタが被らないように心がけてますが...
 何かありましたら感想等で教えてくださると助かります。


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第四話 準備

 展開が急すぎるところがありますが、なんとか理解してくださいお願いします。


 Side: エレナ・スカーレット

 

「とにかくまずは情報集めだ!」

 

 というわけで、今私達は図書館にいる。呪いの羽、狂気とか私は知らない。というより、スカーレット家について私は全く知らないのだ。

 

「お姉様、こんなのもあったよ!」

 

 我が愛しの妹、レミリアが本をたくさん持ってきてくれた。全てスカーレット家に関する本だ。

 一応レミリアには事情を話した。疑われるかな...と思っていたがあっさり信じてくれた。...うーん、レミリアはまだ人を疑う心を知らないのかな?お姉様心配になってきたぞ。

 

「ありがとうレミリア」

「えへへ、何かあったらいつでも言ってね!」

 

 頭を撫でると本当に幸せそうにするレミリア。もう何百回も何千回も言っただろうが敢えて言おう。

 私の妹マジ天使!!

 

「あ、そろそろお父様との訓練の時間だ。行ってくるねお姉様」

「あぁ、行ってらっしゃい。頑張ってね!」

「うん!」

 

 そう言ってレミリアが図書館から出ていく。

 さて、読書を再開しようかな。まだ読んでない本は20冊くらいあるけど、1日もあれば読み終わるでしょ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ...予定よりめっちゃ早く読み終えちゃった...。何?6時間も掛からなかったんだけど!?全部割と分厚かったのに...まぁいいや。

 とにかく情報は集まった。

 整理すると、

・呪いの羽...宝石みたいなのが沢山付いてる。資料だとめっちゃ綺麗だった。

・狂気...時々暴走するみたいなやつっぽい。

・能力...呪いの羽を持ってたら、何かに特化した能力を持ってる可能性が高い。

こんな感じかな。

 それを踏まえて私が出来ることは、フランドール...長いからこれからフランって呼ぼっと、フランの狂気を消すことぐらいかな...

 狂気を消す。そんな魔法は図書館には無かった。けど、多分感情を一つ消す魔法に近いものだと思う。やり方は、特殊な魔方陣の真ん中に対象となる者を置き、決められた呪文を唱える。そしたら消したい感情が対象から切り離されるから、それを粉々に砕く。これだけ見ると簡単そうなんだけど呪文がややこしくて噛んじゃう。まぁ練習すればいいし、呪文自体は覚えてるから頑張れば出来ないことは無さそう。とにかく狂気についてはこれでいいだろう。

 後心配なのは...能力だ。何かに特化した能力っていう情報だけじゃあ対策の立てようがない。思い出せ...多分あの夢の中にヒントがあったはず...!

 

 

『お前達があの能力によって「破壊」されてほしくないんだ!』

 

 

 ...!そうだ、「破壊」の能力だ!

 仮に...「破壊に特化した程度の能力」とでもしようか。

 その能力に関してはどうしようもない。そして私が怖いのが、その能力が産まれた瞬間に発動してしまったら...?というものだ。その時は間違いなくお母様や周りに付いている従者さん達が犠牲になるだろう。赤ん坊というものはまだ理性を持って行動が出来ない場合が多い。だから後から部屋に入ってきた者達まで犠牲になる可能性もあるのだ。...私が見た予知夢もその場合だったんだろう...それだけは避けないと。

 それだったら紅魔館にいる全員に保護魔法でも掛けとこうかな?うんと純度が高いやつ。最低1ヶ月は持つし、それまでにフランのことは色々分かってくるだろうしね。それ掛けた次の日に倒れることは決定事項だけど致し方ないよね!

 なんて試行錯誤してたら、図書館の扉がノックされた。

 レミリアかな?と思ったけどレミリアはまだノックをしないから違うはずだ。わざわざノックをするのだから、私がここにいることを分かっててのことだろう。まぁ私は基本的にいつも図書館にいるけどね!

 

「どうぞ」

 

 私が声を掛けると扉が開き、お父様が入ってきた。

 

「お父様でしたか。レミリアとの訓練、お疲れ様です」

「あぁ、日に日に上達していっている。エレナ同様、私を越える日が近いな」

「そうですか...姉として非常に嬉しいです。ところでお父様、用事でもあるんですか?」

 

 私がそう言うと、お父様の顔付きがガラリと変わった。

 

「実はな...お前に頼みたいことがあるんだ」

「ッ!...なんですか?」

 

 いかにも真剣、という感じで頼んでくるお父様。私はそれを見て緊張の震えが身体中に響き渡るのを感じた。

 

「周りの一族から聞いたのだがな...近々人間共が我々吸血鬼に対して戦を仕掛けるそうだ。エリザは妊娠中で行けないし、私も現当主としての仕事もある。だからエレナ、お前にはスカーレット家の代表として、その戦に参加してもらいたいんだ」

 

 な、なんだそれ...私だって忙しいんだぞ!呪文の練習とか...あれ?それって戦いながらでも出来るじゃん。なら問題ないな。

 そう思ってお父様の方を見る。なんとなく、断ってほしそうな感じだなぁ...。あくまで私に断ってほしいってことだろうけど、このままだったらこの紅魔館にも被害が出るだろうし...よし、行くか!

 

「構いませんお父様。但し条件があります」

 

 あぁ、お父様がかなり残念そうな顔してる。あれ、でも切り替えてくれたみたい。やったぜ。

 条件については、このまま行くのはいいけど、スカーレット家の娘として出るのは駄目だ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ってことだ。時期当主はレミリアなんだ。なら世間的にはレミリアが長女であった方が自然で受け入れられやすい。私がスカーレット家の娘として出たら、色々と面倒くさくなるのは火を見るより明らかだ。まぁこれは私の考えなんだけど。

 

「条件...か、言ってみなさい」

「私をスカーレット家に住まわせてもらってるだけの吸血鬼だと他の吸血鬼に伝えてください。それだけです」

「...?どういうことだ?別に......なるほどな、そう言うことか」

 

 お、流石お父様。察しがいいねぇ。

 そう、私はヴラド・スカーレットとエリザ・スカーレットの娘ではない、と伝えてくれってことだ。まぁ事実なんだけど、事実じゃない。

 

「では後日また連絡する。意外とすぐかもしれんから準備をしておくように。後...レミリアにはこの事を黙っててくれ。あいつに心配を掛けさせたくない」

 

 勿論そのつもりだ。私は深く頷いた。

 

「うむ、では私は行くぞ。...一応言っておくが、無理はしないでくれ。お前は誰がなんと言おうが私の...私達の娘なんだから」

「...分かりました」

 

 そう言ってお父様が図書館から出ていく。まぁ保証は出来ないかなぁ...。私は別にどうなってもいいしね。

 そうして、私は呪文の練習をしながら戦の日を待つのだった。




来ると思うけど来ないであろう疑問に先に答えるコーナー
Q‚エレナが読んでた本ってどれくらい分厚かったの?
A ‚20冊全部合わせて広辞苑2冊分くらいだと思います。多分。


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第五話 戦

 展開が早いのがさらに早くなります。考えないで感じる、というのがいいかと思いますのでよろしくお願いします。


 Side: エレナ・スカーレット

 はい、戦当日です。...まさかあの話から3日後とは誰も想像つくまい...確かにお父様は意外とすぐかもって言ってたけどさぁ!?

 

「魔力よし...体調よし...うん、大丈夫っぽいな」

 

 通算50回目の準備完了。って訳で私はお父様が来るまで私の部屋で待機中です。

 ちなみに私は人間に対して個人的に恨みがある。まぁ人間って言っても限定されてるんだけど。そう、私がここに来る前に私を迫害してた人間達のことだ。意味が分からなくて怖くてただただ逃げ回ってたあの頃。まぁ紅魔館に来てから幸せ過ぎるから...バランス取れてるのかな?いや、取れてないな。うん。

 どうでもいいことを考えてたらお父様が来た。ってあれ?ボロボロな服...かすり傷とかある...まさか!!!

 

「お父様!大丈夫ですか!?まさか人間共に!??」

「いや、違うぞ!これはレミリアとの戦闘によるものだから。落ち着きなさい!」

「あ...そうでしたか。すみません、取り乱しちゃって」

 

 ヤバイな私。ふぅ、落ち着かなきゃ。

 

「迎えが来た。これから戦が始まるが...絶対帰ってきなさい。負けてもいいから」

「...はい、お父様。ですが負けません。なんたって、貴方の娘なんですから」

 

 決まったぜ...フッ今の私は輝いてるな。これにはお父様もニッコリ...ってあれ??笑われてる?なんで??

 

「お、お父様?どうしたんですか?」

「いや、お前も洒落たことが言えるのかと思ってな...ククッ...。...コホン、あぁ、頑張ってくれ」

 

 そう言って私は玄関を出る。勿論外は夜だ。

 

 作戦は至ってシンプル。戦を始められる前に叩き潰す、らしい。人間共は日が昇ってから攻めようと考えていて、尚且つ作戦がバレてないと思ってるらしい。そこに奇襲を仕掛けてドカーンってやっちゃうのだ。わぁなんて単純。

 

 迎えに来た他の吸血鬼に私は挨拶をする。

 

「初めまして。スカーレット家の代表、エレナです。本日はよろしくお願いします」

「おぉ、嬢ちゃんよろしくな!俺はいつの間にかリーダーになっちまったカレスって者よ。まぁカレスでもリーダーでも好きに呼んでくれや」

 

 ある男の吸血鬼が笑顔で迎えてくれた。親しみやすそうだなぁ。怖い人じゃなくて良かった...人じゃないけど。

 

「あの子...4年くらい前に騒がれてたアレに似てないか?」

「あぁ...噂の外見をそのまま成長させたらあんな感じになるな...」

「まさか...ヴラドさんがわざわざ匿うとは思えんからなぁ...似てるだけじゃないか?」

 

 なんかリーダーの後ろの吸血鬼達が騒いでるな...まさか私のこと!?まぁよく聞こえないからスルーしとこ。

 

「皆の者よ、すまない。本来は私が出るべきなんだが事情でな...だがこのエレナの実力は保証しよう」

「大丈夫ですぜヴラドさん。絶対勝ちますから。いい結果、期待してて下さいよ?」

 

 そう言うリーダーにお父様は少し気掛かりな表情を浮かべたが、了承した。

 

「さぁ行くぜお前ら!吸血鬼の意地ってもんを、見してやろうぜ!!」

 

 リーダーの掛け声にその場にいた一同は歓声を上げ、人間の里の方へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間の里へと近づいていく毎に、なんか見たことあるような場所ばかりが出てくる。ここ、初めて通るとこのはずなんだけどなぁ...

 

「見えてきたぜ嬢ちゃん。あれだ」

 

 リーダーが指差す方を見つめる。すると突然、寒気がしてきた。それと同時に息も荒くなっていく。怖い...何故か分かんないけど、めっちゃ怖い...

 

「お、おい嬢ちゃん?大丈夫か?」

 

 リーダーが心配して、私の頭を撫でてくれた。そしたら若干だが落ち着いた。

 

「人間と戦闘するのは初めてか?大丈夫だって、俺らより脆いし、意外と呆気ないもんだぜ?」

 

 子供をあやすように優しく語りかけるリーダー。でも多分これ、戦闘への緊張じゃないんだよな...。なんだろこれ。

 

「リーダー!作戦区域に到着しました!」

 

 とある吸血鬼がリーダーに向かって言う。するとリーダーは先程の表情とは一変し、ザ・リーダーって感じの顔付きになった。

 

「よぉし、作戦開始だ!それぞれ指定の場所へ向かえ!!」

「「「「「「「「おぉ!!」」」」」」」」

 

 吸血鬼達がそれぞれ違う方向へ飛んでいく。さて、私も行こうかなって時にリーダーから呼び止められた。

 

「ほれ嬢ちゃん」

 

 そう言って渡されたのは...鈴?

 

「あのヴラドさんが認めてたから無いとは思うが...一応な。それは俺のお手製の鈴だ。鳴らしたらこの戦に参加してる全ての吸血鬼に伝わる。危なくなったら鳴らせ。すぐ駆け付けてやるからよ」

「...いいんですか?」

「勿論だぜ?俺も嬢ちゃんのことは気に入った!どんな生まれであれ嬢ちゃんは嬢ちゃんだからな。あと、人間の言葉に惑わされるなよ?それじゃ、またな!」

 

 そう言って飛んでいくリーダー。...?どんな生まれであれ...?引っ掛かるなぁ...まぁとりあえず作戦区域に向かおっと。

 私はそのまま作戦区域に向かって飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: レミリア・スカーレット

 

「どういうことですかお父様!!」

 

 今、私はお父様にあることについて問い詰めている。

 それは、お姉様が戦場に行く、というものだ。

 

「いやなレミリア。あいつは自分から行くと言った。しかも帰ってくるとまで言ったんだ。私としてはエレナを信じたい」

「お父様、私が知らないとでも思ってたんですか!?お姉様が行った場所は、お姉様が生まれたところ(・・・・・・・・・・・)ですよ!?」

 

 そう言われて怯むお父様。まさか私が知っているとは思わなかっただろう。

 

「レミリア...知っていたのか...」

「あそこは未だにお姉様を殺そうとしている!死んでるのが確認されるまで続くことは火を見るより明らか!それを知ってて何故!お父様はお姉様を行かせたのですか!」

 

 私には分からない。仕事が忙しいのは分かる。お母様も出られない。じゃあ何故私じゃないのか!!

 お姉様より私が弱いから?お姉様が養子だから?絶対に違う!私は実力も付けてきたし、お父様はお姉様をちゃんと愛してくれている!だから分からない!何でお父様がお姉様を行かせたのかが!!

 

「落ち着きなさい。レミリア」

「これで落ち着いてってどういうこと!?お姉様が死んじゃうんだよ!?」

「落ち着きなさい!」

「ッ!...はい」

 

 スッと凍りつくような目付きで私は怯んでしまった。でも興奮は収まらない。

 

「エレナは...自分の過去と向き合う必要がある。今までさりげなく教えようとしてきた。だが無意識にエレナは避け続けてきた。だから今回の戦に出した。過去を知ってもらうためにな...」

「でも...お姉様がそれで死んじゃったら...私!」

「レミリア、エレナの実力をお前も良く知っているだろう。エレナなら大丈夫だ。絶対にな」

 

 断言するお父様。確かにお姉様は強い。今までもお父様との訓練で勝てそうなものはいくつもあった。だけどまだ不安だ。私のお姉様はただ一人だけなんだから。

 

「...レミリア、お母様のところに行きなさい。すまないが私は仕事があるんでね」 

「...はい、お父様」

 

 私はお父様の部屋を出た。そして壁に寄りかかってしゃがみこみ、私は祈る。

 

「お姉様...どうか...!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: エレナ・スカーレット

 ここだ。私は音を出来るだけ立てずにその場所へおりたった。周りに人の気配はない。

 

「まだ寒気は収まんないけど...大丈夫だよね」

「フッフッフッ...ようやく見つけましたよぉ。呪いの悪魔ァ!!」

 

 声のする方向を向く。すると、周りの景色が森から町へ変わった。

 

「なるほど...幻覚か」

「ほほぉ、見抜けるようになったのですねぇ...」

 

 相手は1人で、手品帽子みたいなのを被っていてスーツ姿だ。変な柄だけど。

 

「私は貴女を殺す為に雇われた者でございます。さぁ、私の幻覚に溺れるがいい!!」

「へぇ、私以外の術師かぁ...面白いね。さぁ、やろうか!」

 

 術師vs術師。戦いの火蓋が落とされた。

 ...寒気は未だ健在だから早めに終わらせたいなぁ...。




訳が分からないとかありましたら是非感想とかでお知らせ下さい。分かりやすく訂正を出来たらしたいと思います。


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第六話 戦闘

 いつも以上に訳がわかりにくいかもです。先に謝ります。ごめんなさい。


 Side: エレナ・スカーレット

 さて、人間の...人間だよね?まぁ人間だとして考えるか。

 とにかく人間の術師との戦いが始まったんだけど...思ってた以上に強いわこいつ。

 隕石が降ってくる幻覚とか地面から巨大な火柱の幻覚とか一級品だぞ。私も出来ないことはないけどね!

 

「伊達に4年間行方を眩ませてた訳じゃ無いんですねぇ。私の幻覚に対応出来るとは」

 

 余裕の表情を崩さない相手。ニヤケ顔がくっそ気持ち悪い。

 

「ではそろそろお仕舞いにしましょう...貴女のトラウマでね!」

 

 そう言うと空間が変わる。ここは...教会?

 

「貴女はここで産まれました。誰もが貴女を人間の子だと信じて疑わなかった」

 

 そう言って語り出す相手。...寒気が増してきた気がする。かすかながら息も荒くなってきた。

 すると空間がまた代わり、何かが寝ている女の人の中から出てきた場面になった。

 

「クックック...あれは貴女ですよ。いやぁ!なんていう見た目でしょう!!もはや悪魔だ。人間ですらない!!!」

 

 笑いながら相手が指してるものは...蛇の獲物を狙うような目、鋭く尖った爪、そして...吸血鬼の羽を持った赤ん坊だった。そして比較してみればすぐ分かる。相手が言っているのは本当のことだと。

 

「そう、貴女は人間と吸血鬼のハーフ!つまり雑種なんです!!何でそう言う経緯に至ったのかは私も知りませんが...貴女はそういう存在なのです!」

 

 高らかに笑う相手。そして場面は次々に変わり始める。

 私が町の人から虐待される場面、物を投げつけられる場面、兵士によって流水や銀の剣で切り裂かれている場面...私のトラウマを甦らせるのには十分だった。

 以前私は人間には恨みがあると思っていたが...違う、これは恐怖だ。怖かったのだ。私は。

 

「貴女と一緒に来た吸血鬼もこの噂を知っているでしょうねぇ。貴女は吸血鬼でも人間でも無いのだから!貴女に味方など存在しない!!この事実を知れば、皆、貴女から離れていくでしょう!!」

 

 楽しそうに喋る相手。しかし私はそんなのを見る余裕は無い。...身体が震える。恐怖。恐怖。恐怖...なにより一番怖いのは、相手が言ったように、お父様やお母様、レミリアが離れていってしまうことだ。

 私を恐怖で支配していたその時、リーダーの声が頭をよぎった。

 

『どんな生まれでも嬢ちゃんは嬢ちゃんだからな』

 

 ...そうだ。私は私だ。どんな過去を持ってたって私だ。そして、私にはやらないといけないことがある。こんなところで死ぬわけにはいかない。

 

「ハァ...ハァ...ふぅ」

 

 少し落ち着いてきたかな?割と私って単純かもしれない。

 

「な、何!?何で...そんなに落ち着いている!??」

 

 驚く相手。そりゃそうか、トラウマを見せつけられて落ち着いているやつなんていないからね。

 

「いーや。ほんの少し吹っ切れただけですよ。術師さん」

「くっ、精神攻撃がダメなら力付くだ!是が非でも殺してやる!!」

 

 幻覚を展開しようとする相手。しかしその前に私の幻術で景色を変える。それは私とかレミリアがいつも訓練してる紅魔館の大広間だ。

 

「な、バカな!これほどの幻覚を...お前はどこで!!」

「フフッ、さてね。言う義理はありませんよ」

 

 そして私は指を鳴らす。そしたら私の幻覚の分身が二人出てきた。でも、そうとうレベルの高い者じゃないと実体を見分けるのは無理だと思う。現にお父様は無理だったし。

 

「では私の技をお見せしましょうか...人間相手には初めてなんですけどね」

 

 私は一呼吸置いて、言う。

 

「神話『三種の士具』!!」

 

 その瞬間、私とその幻覚の分身は各々、違う武器を装備した。

 一人は炎に纏われたような感じの剣を持ち、一人はオーラで出来た槍を持った。そして最後の一人は...二つに比べたら見た目はショボいが、それ以上の力を感じる弓矢を持っていた。

 

「それぞれ、レーヴァテイン、グングニル、イチイバルです。聞いたことないですか?全て北欧神話に登場する武器ですよ。まぁ全て私が独自解釈して具現化させてますけどね」

 

 そう言って紹介してみる。でも相手はまだ強気だ。

 

「ふっ、それも所詮幻覚。実体ではない」

「フフッ、さぁそれはやってみないと分かりませんよ?」

 

 そういう会話をしたあとで、私はある呪文を唱えた。

 

身体強化(レベル)...始動(スタート)!」

 

 そう、身体強化魔法だ。掛け声はなんかカッコいいからそうしてる。

 その魔法を残りの二人にも掛け、私達は相手に向かった。

 

「ぐぅ!舐めるな!!」

 

 相手が幻覚を出しなんやかんやするが粉砕する。

 

「ぐ!格闘が出来る術師なんて邪道だぞ!私は認めん!!」

「フフッ、おかしなことをいいますね。現に存在するのだから認めなくても意味がないのに」

 

 余裕が取り戻せた私。さて、そろそろ止めを刺そうかな。殺すのは嫌だからしないけど。

 

「よし、いきますよ」

 

 私はイチイバルに魔力を溜める。そして矢を放った。

 矢は乱れることなく相手に向かい...10本に分裂した。

 

「ッ!??」

「イチイバルは一本の矢を引く力で10本の矢を放てることが出来ると言われています。それを私なりに解釈して再現しただけですよ」

 

 矢は全て吸い付くように相手に向かっていく。

 

「ば、馬鹿なぁ!!この私がこんなところでぇ!!!」

 

 そう言った後、矢は相手に当たり、爆発した。

 ...はぁ!?なんで爆発したし!!爆弾とかしかけてないんですけど!!!

 ...ん!なるほど、爆発に紛れて逃げるって作戦かぁ。流石やな。

 はぁ、疲れた。帰りたい...けどお父様にはどうしよ...隠しとけばいいか!知らぬが仏ってね!!

 あ、まだあっちのほう戦闘してる!助けに行こっと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦が終わった。結果は吸血鬼側の圧勝。人間側は大体なにもできずにくたばったらしい。ちなみにあそこまで戦闘が激しかったのは私のとこだけだったそうだ。なんだよそれ...

 リーダー達と別れ、私は家に帰った。お父様やお母様、レミリアは温かく迎えてくれた。私は疲れもあってそのまま寝込んでしまった。...あれ、そういや呪文の練習一回もしてない気が...明日やればいいか。とにかく明日からフランの為に色々せねばなぁ...頑張ろっと。




 何かあれば感想等でお願いします。
 では次の話もよろしくお願いします。


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第七話 新たな妹

 知らん人にも簡単に紹介を。
イチイバル:北欧神話に登場するオーディンが持ってたとされる弓で、エレナのメインウエポン。一本の矢を引く力で十本を放つことができると言われてる。
それではよろしくお願いします。


 Side:エレナ・スカーレット

 月日って流れるのって早いねぇ...もうフランが生まれる当日だよ。予定が狂うことがあると思って予め一週間前には保護魔法を紅魔館の全員掛けといたけど、予定は狂わなかったよ。すごいね。

 保護魔法掛けた後に倒れちゃって心配性なレミリアに看病されたのは記憶に新しい。うーん、多分倒れることは伝えたはずなんだけどね。別に気にしなくてもいいよって言ったと思うんだけどな。まぁいいや。

 って訳でこれからフランが生まれます。私とレミリアとお父様は廊下で待機中です。

 

「ねぇお父様、まだかしら」

「まだだよレミリア。ゆっくり待つとしよう」

 

 レミリアは早くフランに会いたいようだ。急かすレミリアをお父様が制する。そんな中でも私は呪文の練習をしてた。勿論二人に聞こえないように。

 レミリアには事情を話してるけど、お父様には詳しい事は内緒にしてるからね。しょうがないね。

 するとお母様が入ってる部屋から従者さんが1人は出てきた。レミリアはすぐ駆け寄って聞く。

 

「フランはもう生まれたの?」

「いいえ、まだ時間が掛かりそうです...具体的には、後3時間ほど」

 

 がっかりするレミリアと宥めるお父様。うん、尊い。いいねこれ。

 そんな事を考えつつ、私は図書館へ向かった。術式の最終確認をするのだ。

 

 誰も触れてはいけないとして、私はこの日だけ図書館を貸し切った。お父様は

 

「いつもお前が貸しきっているようなものじゃないか」

 

 と苦笑しながら了承してくれた。ありがてぇ...。

 さて、術式の方はバッチリだった。魔方陣も歪みなく描けれてる。...後は呪文だけか。頑張ろっと。

 よし、戻ろう。後は生まれるのを待つだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: レミリア・スカーレット

 三時間。それは私達吸血鬼にとっては儚い時間である...はずだった。たった三時間、されど三時間だ。侮れない。

 

「ねぇお父様、もう三時間くらい経ったんじゃないかしら」

「まだ三時間と伝えられてから2時間も経ってないぞ?もう少し落ち着いたらどうだ」

「そういうお父様だって、動揺を隠せてないわ。さっきから顔がニヤニヤしてるわよ」

 

 指摘されて焦るお父様。それを見て私は笑ってしまった。ふと、お姉様が居ないことに気づく。おそらく、術式でも確認しに行ったんだろう。と考えてたらお姉様が戻ってきた。

 

「おぉエレナ。おかえり、どこへ行ってたんだ?」

「ちょっとトイレが長引きまして...緊張で腹痛が止まらなかったんですよ」

 

 照れながら言うお姉様可愛い。するとお姉様が私に向かってウインクをした。私の予想が当たったんだなぁと思うと同時に、私の心はお姉様で満たされた。幸せ...お姉様と私とフラン。三人で笑い合う夢の日も遠くないわね...

 その後、お姉様が私やお父様に話を展開してくれて、いい具合に時間を潰すことが出来た。お姉様ってば、どこでそんなスキルを身に付けたのかしら?

 

「皆様!フラン様が誕生致しました!!」

 

 従者の一人が嬉しそうに私達に伝えてくる。私達は一目散にその部屋へ駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: エレナ・スカーレット

 うぉ、レミリアはやっ!一番に部屋に飛び込んでったよ!

 ...いや、確か私もレミリアが生まれる時はこんな感じだったかなぁ。懐かしい。

 苦笑いをするお父様と一緒に私は部屋に入った。

 

「お父様お姉様!フランがいるわ!可愛い!!」

 

 目がしいたけになってるレミリアが私達に言う。あそこまではしゃいだレミリアっていつぶりだろうか...私と戦いたいって言ってOKしたとき?うーん、それ以上に嬉しそうだぞ。お姉様複雑。

 

「本当だ、可愛い。これはエリザ似かな?」

「あらあら貴方ったら!貴方にも似ていますよ」

 

 隙あらばイチャコラするなぁお父様とお母様は。

 さて、私も見たいな。どれどれ...

 

「おぉ、初めましてフラン。お姉様のエレナ・スカーレットだよー」

 

 フランに対して手を振る私。よかった、能力はまだ発現してないみたいだ。てか可愛いなオイ。レミリアも可愛いけど、それとはまた違った可愛さがある。

 

「あぁ私も!フラン!貴女のお姉様のレミリアよ!」

 

 レミリアは胸を張って自己紹介をした。するとフランは嬉しそうに笑った。

 

「笑った!お姉様見た!?今笑ったわ!!」

「ホントだ!フフッ、よしよし」

 

 フランの頭を優しく撫でる。フランは気持ち良さそうにしてくれた。するとレミリアは私の方を見て小声で言った。

 

「...お姉様、後で私にも」

 

 ...え、また私もやる!って感じでフランを撫でると思ったのに、まさか撫でてもらうの要求ですか!いやぁ可愛いな家の妹達は!わたしゃ幸せもんよ!!

 

「はいはい。っとそろそろだね」

 

 私は用事を思いだし、お父様とお母様の方を見る。イチャコラしてるのを止めるのは申し訳ないがしょうがない。

 

「お父様、お母様。フランに私からの加護の魔法を掛けたいので、フランを図書館へ連れていってもよろしいでしょうか?」

「...なるほど、そのための貸し切りだったんだな。良いぞ。だがエレナ、決してフランを傷つけないように。いいね?」

「はい!!」

 

 そうして私はフランを大事に抱え、レミリアと図書館へ連れていった。

 

 

「...ねぇ貴方、フランの羽...」

「あぁ、だがまだ似てるだけって可能性もある。とにかく、今はフランが生まれたことを祝おうじゃないか」

「...えぇ、そうね。そうしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、儀式開始だね」

 

 フランを揺りかごに入れて寝かせ、用意しておいた魔方陣の真ん中に置いた。

 レミリアは儀式を見たいと言うと思っていたが、図書館の入口に待機すると申し出てくれた。多分運命を見てるんだろうなぁ。

 

「よし」

 

 私は息を吸って呪文を唱え始める。

 呪文は訳が分からない文字で、読みに苦戦するレベルだ。私にこの呪文を文章化しろって注文が来たら無理って答える。そんなのは魔女くらいしか出来ないと思うし、私が唱えながら見てる本は魔女製の本だ。

 呪文覚えてるなら本を見る必要は無いだろうって?気持ちの問題さ!お手本があった方が安心するに決まってるじゃないか!!

 

 そんなわけで呪文を唱え終わる。するとフランから赤い塊が出てきた。禍々しいオーラを放ってる。すこし油断したら飲み込まれそうになるほどだ。

 

「これが...狂気!」

 

 後はこれを破壊するだけだ。

 私はすぐにメイン武器のイチイバルを出し、思いっきり矢を放った。すると意外とあっさりとパリンっと砕けていった。少し拍子抜けした。

 

「なんだ、意外とあっさりだったな...」

 

 もう少しかかると思ってたからびっくりだ。私はフランを抱えて図書館から出ようとする。

 

 

 今思えばここで油断しなければよかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: Nothing

 エレナが図書館を出ようとするその後ろで赤い塊がまた再生していた。そしてそれは再生直後にエレナの背中からエレナの中へ入った。

 

「痛っ!」

 

 背中をさするエレナ。しかし辺りに当たったものは何もない。

 

「...おかしいなぁ」

 

 ここでエレナが思い出していれば良かったのだ。夢の父の声を。

 

『狂気を解除する方法は無い!』

 

 狂気を解除する方法は無い。つまりこうだ。壊しても意味のない、ということだ。狂気というものとはそう簡単に因縁を切れないということだ。

 ただフランと狂気を切り離すことには成功した。それいい。だが狂気はまだ生きている。そして次に狂気が器としたのは───?

 

 

 

 

 ──そう、エレナだ。彼女は気付かぬ内にフランの狂気を取り入れてしまった。だが彼女は肉体的にも精神的にも強い。現にあのトラウマを軽くだが乗り越えた。狂気が発現するのは、ずぅっと後の話だろう。

 はてさて、どうなることやら──

 

「...まぁいいや。おーいレミリア!魔法掛け終わったよー!」

「お姉様!成功したのね!やったわ!これでフランが幽閉されることは無くなるのね!」

「幽閉じゃなくてもフランの部屋が地下になる可能性はあるけどね...能力次第かなぁ」

「そうね...とにかく、部屋に戻りましょ!お父様もお母様も待ってるわ!」

「そうだね!行こうか!」




来るとは思うけど来ないであろう疑問に先に答えるコーナー(二回目)
Q‚Side: Nothing って誰?
A‚ 天の声です。


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第八話 地下生活

 会話が多いので、誰が喋ってるのか分からなくなるかもですが、口調で察してください。多分口調で分かると思います。


 Side: エレナ・スカーレット

 フランが生まれてから4年。現在私は19歳、レミリアは9歳、フランは4歳だ。私だけ歳の差すげえなぁ...。

 あれから色々ありフランの能力が判明、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』だそうだ。ホンマに程度って何。まぁ元々フランが持ってた呪いの羽の影響でフランの部屋は地下になってたんだけどね。

 ただ、地下だからと侮るなかれ。中は他の部屋の内装と変わらず、くっそ広い。私の部屋の二倍...いや三倍以上だ。だからなのか、フランには部屋からあまり出ないように指示されている。能力の関係もあるし致し方なし...と私やレミリアが諦める訳がない。能力が目覚めた2歳の時から私とレミリアとフランはその能力を制限出来るように訓練をしている。

 具体的な一例は、ガラスのコップを握っても割れないように何回も挑戦するって感じだ。

 ...ここだけの話なんだけど、その頑張るフランと応援するレミリアがめっちゃ可愛いのよ。マジで。もうさ、ヤバイよね。うん、ヤバイ。しんどいわ。可愛すぎてさ。

 

「お姉様、どうしたの?今日も早くフランの所に行きましょ!」

「あ、あぁそうだねレミリア。行こうか!」

 

 ...こんなこと考えてるってバレたら引かれるな。間違いなく。お姉様自重しよ。

 因みにフランの部屋に入る人には、万が一を考えて私の保護魔法を掛けてる。フランが生まれる時に紅魔館の全員に掛けたのと同じのね。だから従者さんとかたまーに私の所に来て魔法掛けてってお願いしにくるんだけど...その時になんかぎこちないんだよね。私としては従者さんとは廊下ですれ違ったら、ハイタッチして挨拶したいくらいなのに。

 そんなこんなでフランの部屋に着いた。相変わらず重々しい扉だなぁ。

 私は戸を叩く。

 

「フラーン?起きてるー?」

「あ!二人とも来たんだ!入って入って!!」

 

 フランが扉を開けてくれる。...相変わらずよくそんな簡単に開けれるね...お姉様驚いてるぜ。

 

「いらっしゃい!エレナお姉様!レミリアお姉様!ねぇ、今日は何をして遊ぶ?」

「うーんそうだね。レミリアやフランは何がしたい?」

「そうね...私は特には無いわ。フランは?」

「私ね、おままごとがしたい!!」

「おままごとか...私は大丈夫だよ。レミリアは?」

「勿論オーケーよ。役はどうするの?」

「うーん...えーっとねぇ...」

 

 フランが真剣に考えている。悩む姿もまた可愛い。

 なんか...この場面を画像、もしくは映像にして記録に残せる魔法とか無かったかなぁ...。今度魔法開発でもしてみよう。

 

「エレナお姉様はお父様役ね!」

「え、あ、うん...って私がお父様役なの!?いいけど...」

「そしてぇ...レミリアお姉様はお母様役!」

「あ、あら?そしたらお姉様と私って夫婦役って事...?」

 

 ん?レミリアの顔が赤くなってく?どうしたんだろ。熱でもあるのか?なんか私と視線合わせてくれないし...。

 

「私は二人の子供役ね!」

 

 フランが宣言する。元気一杯な子供だねぇ...子供だけど。

 そうしておままごとが始まったのでした。結局終始レミリアは目を合わせてくれなかったよ...お姉様悲しい。

 

 

 

 

「さて、おままごとはこの辺にして...レミリア、フラン、訓練やろうか!」

「えぇ!エレナお姉様、もっと遊びたい!」

「ダメよフラン。遊んだら訓練っていつも言ってるでしょう?それに、終わったらまた遊べるだから...我慢しましょう?」

「ぐぬぬ...」

 

 ふむ、レミリアのしゃべり方変わった?今更かも知れないけど、少しお嬢様っぽくなったような...お父様から指導されてんのかな。

 

「...分かった。でも終わったらちゃんと遊んでね?約束!」

「うん、約束ね。じゃあ始めよっか」

 

 私は指をならし、ガラスのコップを出す。因みにこれは幻術じゃない。『物質生成魔法』で即興で作った物だ。さらにこの魔法で作るものの強度も弄れる。今作ったのは、めちゃめちゃ固いやつだ。

 

「相変わらずお姉様の魔法はすごいわね...。図書館にある本の魔法、大体使えるんでしょ?」

「まぁね。私、基本暇さえあれば本読んでるから」

「ねぇエレナお姉様!今度私にも魔法教えてくれない?」

「勿論いいよ。さ、とりあえずこれを使ってやってごらん」

 

 コップをフランに差し出す。フランはコップを握るが...5秒で壊れてしまう。

 

「最初は五秒か。昨日は最高一分は持ってたから、今日は二分を目指そうか」

「フラン、頑張ってね!」

「う、うん!二分かぁ...よし頑張る!」

 

 この調子じゃいつまでたっても常に制限出来ないだろって?そんなことはない。どれだけかかってもいい。どれだけ失敗したっていい。それだけの時間を私達はもってるんだから。

 そして訓練は意外とすんなり終わり、フランのおままごとが再開したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランとの遊びも終わり、規定時間終了になったのでフランとは別れ、私は自由に過ごしている。レミリアは多分お父様から次期当主としてのマナー指導みたいなのがあってるはず。因みに以前規定時間外でこっそりフランの部屋に行こうとしたら見つかってしまい、めっちゃ怒られた。少し解せないところはあるがとりあえずは規定時間外はフランの部屋に行けないってことになってる。

 って訳で私は今私は図書館にいる。まぁ暇な時はとりあえずここにいれば間違いないしね。

 私がいつも通り本を読んでいると、

 

「エレナお姉様ー!」

 

 ...あーれれぇ?おかしいぞぉ?フランの声が聞こえるぅ。

 あ、そういえば流石にフランを軟禁ってのは可哀想だから部屋から一番近い図書館までは行動が許されてたんだっけ。くそぉお父様め。私がいつも図書館にいるからってフランの面倒押し付けたな?まぁ別にいいんだけどね!可愛い妹の面倒見なら寧ろカモンだけどね!

 

「フラン、図書館では静かにね。本を読んでる人が集中出来なくなっちゃうから」

「でもここにはエレナお姉様しかいないわ!」

 

 ふむ確かに。だったらいい...のか?

 

「それよりエレナお姉様。何か本読んでー!」

「本?そうだねぇ...今ここで簡単な魔法を教えることも出来るけどどっちがいい?」

「やっぱ魔法教えて!私もお姉様みたいに魔法使えるようになりたい!!」

 

 フランは何の魔法がいいかな?これから暇さえあれば教えるつもりだけど...うーん、迷うなぁ。

 

「ねぇエレナお姉様!私、これ作りたい!!魔法で出来るでしょ?」

 

 そういってフランはある絵を見せてきた。それは私も武器の一つとして扱っている、『レーヴァテイン』だった。...てかどこから北欧神話の本取り出してきたの?

 

「...じゃあ『物質生成魔法』がいいかな?この魔法は簡単だからすぐできるよ」

「ホント!?じゃすぐやるー!」

「んじゃここにその資料置いて、魔力を沢山与えてみて」

 

 そういって私が指す所は、私が五秒で描いた魔方陣だ。もう慣れちゃって描くのが作業と化してる。

 

「うん、やってみる...えい!」

 

 フランが本を置いた後、そこに魔力を与える。勿論フランの魔力だけじゃ足りないとは思うので私も気付かれないように魔力を与える。すると魔方陣が光だした。

 

「エレナお姉様!なんか光だした!」

「よし、もうすぐ何か出るよ!」

 

 光が図書館全体を包む。その後だんだん光が明けてきてきた。私は魔方陣を確認する。そこには...黒くて時計の針を曲げたような何かがあった。

 

「うん、成功だね!」

「何これ...ぐにゃぐにゃ曲がるよ?」

「それが『レーヴァテイン』だよ」

 

 そう言って私は指をならし、フランが持ってるものと全く同じものを出す。それとさっきの資料のレーヴァテインと比較してみる。

 

「ホントだ...ところでエレナお姉様、さっき私は模様みたいなのから出したのに、何でエレナお姉様は指を鳴らすだけで出せるの?」

「一回作ったものはすぐに生成出来るからね。でも初めて作るものはさっきみたいに模様を使って出すんだよ。フランももう指をならせばすぐに出せるようになるよ」

「これを無くしたいときはどうするの?」

「それも指をならせば大丈夫。さて、やってごらん」

 

 フランは指をならしてみる。するとレーヴァテインは消えた。またならすと、レーヴァテインが出てくる。

 

「面白ーい!キャハハ」

「あ、やり過ぎには気をつけて。一回一回魔力を使ってるからやり過ぎたら気分が悪くなるよ」

「ねぇねぇエレナお姉様!これ使ってみたい!ねぇ戦いごっこやろー?」

 

 そんな忠告を無視してフランは遊ぼうと言ってくる。上目遣いは止めてほしい。萌え死にしちゃうから。

 

「いいけど...図書館ではやりたくないかな」

「じゃあ私の部屋でやろ!ほら行こ行こ!!」

 

 ヤバいな。規定時間外でフランの部屋に行ったらまた怒られる。でもここで断ったらフランが悲しむ。私が怒られるかフランが悲しむのを見るか...よし、怒られたほうがいいな。行くか。

 

「フフッ、そうだね、行こっか!」

 

 私とフランは手を繋いでフランの部屋へ向かった。




 続きます。次は『戦いごっこ』の話になります。
 良ければ感想などよろしくお願いします!


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第九話 戦いごっこ、そして

 遅くなりました。その分長くなってると思うのでどうぞ最後までご覧ください。


 Side: フランドール・スカーレット

 私の部屋に着いてすぐ、エレナお姉様がこのさっき出した『レーヴァテイン』っていうやつの使い方を教えてくれた。どうやらこれに魔力を宿させると、炎を纏った剣みたいになるらしい。

 

「分かった!ありがとうエレナお姉様!」

「使い方を分かってたほうがいいしね。さて、やろうか」

 

 思えばエレナお姉様とこうして二人っきりで戦いごっこをするのは初めてな気がする。いつもレミリアお姉様も一緒だからかな?

 あ、そうだ!

 

「エレナお姉様!手加減とかしないでね!」

「...うん、善処する」

 

 なんか苦々しい顔してる。手加減するつもりだったんだ...釘を指しといてよかったかも。

 

「じゃあ...よーい、スタート!」

 

 私がそう言った瞬間に、私はレーヴァテインに魔力を宿させつつ、エレナお姉様に全力で向かった。でもエレナお姉様は避けようとも迎え撃とうともしないでただ立っている。どうしたんだろ。まぁいいや!このままレーヴァテインで攻撃だ!

 私がレーヴァテインを振りかぶり、エレナお姉様を狙う。すると、

 

「レベルスタート」

 

 エレナお姉様がそう呟いたかと思ったら、いつの間にか私の後ろにいた。急いで後ろに攻撃しようとするが、エレナお姉様に背中を殴られ地面に落下してしまった。

 

「あ、やり過ぎた!フラン!大丈夫!?」

 

 起き上がってエレナお姉様を見ると、とても不安そうな顔で私を見ていた。

 

「エレナお姉様...心配しすぎ!私吸血鬼なんだからこのくらいなんともないよ!」

「そ、それならいいんだけど...」

「心配しないで!今は私との戦いごっこに集中しよ!」

 

 その言葉の終わりとと共に私はまたエレナお姉様の元へ行く。でもまた背中に移動するかもしれないのでその対策として、段幕を全方向に撒きながら行っている。これなら逃げられないはず!

 

「...いくよ、フラン!」

 

 エレナお姉様がそう言ったかと思えば、私の段幕が掻き消されていた。何があったのかと思って周りを見る。するとそこには、沢山の矢が段幕を掻き消していた。続いてエレナお姉様の方を見ると、エレナお姉様はまさに弓で矢を射ようとしてるところだった。

 

「フンッ!こんな矢、全部切ってやるわ!」

 

 私はレーヴァテインを振り回し、矢を切った。そしてたった今エレナお姉様が射た矢も同じようにした。

 

「フフンッ、終わりよエレナお姉様!!」

 

 私は最初の時のようにレーヴァテインを振りかぶる。ちゃんと段幕も張り忘れてない。今度こそどうしようもないはず!

 

「...フラン、幻術っていうのはね、『無い』ものを『ある』とするだけじゃないんだよ」

 

 ...?いきなりどうしたんだろエレナお姉様?気でも狂ったのかな?

 そう思ったすぐ後、どこからか来た私の体に10本くらい矢が刺さった。

 

「ッ!!??」

 

 私は痛みでそのまま落下した。エレナお姉様はすぐに私の所によってきて、治療をしてくれた。すると怪我はみるみる治っていく。

 

「...教えてエレナお姉様。どこからあの矢は来たの?射る動作なんて全然見せなかったのに」

「幻術魔法だよ。最後に放った矢にちょっと仕込んでね。まぁ本物を見えないようにしてたってわけ」

「それじゃあ私がレーヴァテインで払ったあの矢は幻術?」

「フランの段幕を消してたのは本物。それ以外は幻術だよ」

「そう...はーぁ、やっぱりエレナお姉様にはかなわないなぁ」

「因みにね、幻術魔法には弱点があるんだよ」

 

 思い付いたように言うお姉様。私は思わず釣られる。

 

「え!どんなの!?」

「幻術魔法...幻覚もそうなんだけど、見破られたらおしまい。だから見破れる感覚を持ってる相手とか同じ幻術使いとかが苦手かな」

「感覚かぁ...私も持てるようになるかなぁ」

「そこは経験だからねぇ...私と戦いごっこをしてるうちに身に付けれるかもね」

 

 そうなのかなぁ...。だったらこれからもエレナお姉様とレミリアお姉様と戦いごっこしたいな。でもまだ二人には勝てないから頑張らなきゃ!

 

「ねぇねぇエレナお姉様!他にも私の足りないとこっえてある?」

「足りないとこ?うーん、そうだねぇ...」

 

 私が色々質問してそれにエレナお姉様が答えてくれるという時間が始まった。心地がいい。何時までもこんな時が続けばいいのに...。なんとなくだけど、あの時顔を赤くしてたレミリアお姉様の気持ちが分かる気がする。多分こんな気持ちだったんだろうなぁ...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: エレナ・スカーレット

 フランのお喋りに耽った後、いつの間にか吸血鬼の就眠時間になってたのでフランを寝かせ、急いで図書館に戻った。多分バレてないよね...怒られてもいいって思ってたけどやっぱやだし。

 現在時刻は午前9時。さっきも言ったように吸血鬼にとっては就眠時間なのでお父様やレミリアも寝ている頃だろう。だが私は寝ない。こっそり魔法の実験をするためだ。まぁ図書館でやるからいつも誰もいないようなものだけど。

 

「さて...何の魔法を開発しようか...画像とか映像記録魔法はまた今度にして...ん?なんだろこれ」

 

 私が見つけたのは鎖が付いている魔法の本だ。題名は...『Tabou』かな?かすれてよく見えないけど、これから察するに、なんか危ない魔法の事が書かれているのかも知れない。

 

「どれどれ...」

 

 鎖を粉砕し本を開く。中は普通のようだ。なんか開いた瞬間何かが私を襲ってくるかなって思ってたけど、そんなことはなさそう。

 そして私は面白そうなページを見つけた。

 

「憑依魔法?」

 

 どうやらこの魔法は人や物にとある紋章を書くことで、それに憑依が出来るってものらしい。なんか怖そうだが実用性は高い...かな?

 流石に私としては勝手に紋章を書くのは気が引けるので、物に書くことにした。でも何にしようか...人の形をしてたほうがいいし...そうだ!最近覚えた『錬金術』ってやつで新しく私の体でも創ってみよう!予備の体ってやつだね!

 

「よし、善は急げだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんやかんやありまして、体完成したぜ!吸血鬼みたいに羽はなく、人間っぽい感じになったけどそこはご愛敬。

 さて後は紋章を書くだけだけど...この紋章難しいな。いや出来ないことはないのよ?ただ難しいってだけで...。

 

「ふ、筆が震える...」

 

 

 

 ...なんとか書けた。怖いねぇ。さて今私の目の前にあるのは私の部屋に余ってた予備の服を着せた魂のない肉体。紋章はお腹に書いたし一応準備はオーケーのはず。...ここからどうするんだ?

 

「本にはそれについては何も書いてない、か」

 

 うーん、念じればいいのかな?

 憑依...憑依!ってあれ...意識が遠く...。

 

 

 

 

 目覚めたら目の前で私の体が倒れてました。多分視点的に創った肉体だと思うんだけど...これ普通に体動かせるのかな?

 そう思って私は手足を動かしたり、声を出したりしてみる。声が若干いつもより高いってこと以外は問題ないね。まぁそりゃ本物の私の体よりも小さく創ったからね。しかもこの体でも魔法は使えるみたいだ。試しに幻術とか身体強化とかしてみるけど、いつも通りに出来た。ただ魔力は本体のほうが高い。だから魔法の乱用ができないってことだ。...そろそろ戻ろうかな。これ戻れるよね?戻る...戻る...うん、意識が遠退く...。

 

 

 

 また目覚めるとさっき創った肉体がそこにあった。そして私は倒れてた。まぁとにかく実験は成功やで。やったぜ。さて...この体どうしようか。図書館の奥の部屋にしまっとこうか。盗まれたらやだし鍵もかけてっと。

 

「ふぁぁ...」

 

 欠伸が出てきた。時計を見るともう午後3時、そりゃ眠くなるわ...。

 速攻で後片付けをして自分の部屋に帰ってベッドにダイブする。

 そして今日覚えた憑依魔法を振り替える。うん、なんとなく実用性はありそうだね。人間の里への潜入捜査とか...逆にそれぐらいしか無いんじゃね?

 今更だけどあの本の鎖壊しても良かったのかな?なんか取り返しのつかないことをしちゃったような...まぁ、大丈夫でしょ!それだったらまた今度あの本に鎖付ければいいだけだしね!!

 不安だらけだったが、深く考えるのは止め、眠ることにした。はぁ...いい夢でも見れるといいな。




 戦闘シーンは苦手だけど頑張りました。戦闘シーン以外でも、ここをもっとこうしたほうがいいよー?ってのがありましたら感想等でお願いします!


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第十話 グングニル

 更新が遅いですね申し訳ない。しかも短いっていうね。これから頑張っていきたいです。


 Side: エレナ・スカーレット

 

「...え?」

 

 突然のことに私は読んでいる本を落としてしまった。話をしているレミリアが「だーかーらー」と言って続ける。

 

「私にも魔法を教えてほしいの!」

 

 ふむ、私の聞き間違いじゃないか...え、マジで?

 

「いやでも確かレミリアには6年くらい前に教えてて、魔法は合わないからって止めちゃったよね?どうしたのいきなり」

「えっと...特に理由はないんだけど...あの、フランにも教えてたアレを...」

 

 顔を赤くしながらレミリアが言う。

 フランに教えてたアレ?うーん、フランに最近教えてた魔法といえば物質生成魔法ぐらいのはずだよなぁ。でもその時レミリアはいなかったはず...もしや隠れてていて本当はいたのか?だとしたら私がこっそりフランの部屋に行ったのも見られちゃったのか!?ヤバい、それはヤバい。この事がレミリア経由でお父様に知られてまったら怒られる。せっかく誤魔化せたって思ってたのに、ここに来てそれはないよ。...なるほど、口止めって訳なのね。いやぁ姉を脅すなんてレミリアも悪のよぉ。可愛いから許す。

 

「アレって何かな?どんな感じの魔法?」

 

 万が一居なかった可能性も考えての質問をしてみる。

 

「あの、何か物を作ってたやつ」

 

 はい物質生成魔法ですねそりゃそうだ。うーん、確かにあの魔法は簡単だけど、あの時のレミリアは何故か失敗したからなぁ...今回は成功するかな。レミリアって魔力はかなりあるしね。私よりは少ないけど。

 

「物質生成魔法だね。んじゃあ何を作ろうか。日常生活品?それとも武器とか?」

「私、これがいいわ」

 

 そういってレミリアが指してるのは...北欧神話に出てくる武器、グングニルだった。...あれ、北欧神話の本出してなかったはずなんだけどな。どこから出してきたのこの子は。

 

「んじゃあここにそれを置いて、魔力を与えてごらん」

 

 私は描いた魔方陣を指して指示をする。フランの時みたいに私からの魔力供給は必要かな?多分大丈夫でしょ。

 レミリアは本を置いて魔力を与える。すると魔方陣は光だした。おぉ、レミリアやっと魔法成功するのか!姉として誇らしいねぇ!!

 

「お姉様!何かくるわ!」

「そのまま魔力を与えるのを止めないで!止めると中途半端になっちゃうから!」

 

 徐々に光は収まり、そこには...紅く鋭い槍があった。

 

「成功だね!レミリア、初めての成功じゃない?」

「えぇ!やったわお姉様!!」

 

 あぁ喜ぶレミリア可愛い。最近のレミリアはお父様から指導されてて威厳があるっていうか、カリスマァ!って感じがあるんだよね。だけど私の前だけでは昔と変わらないで甘えてくれたり無邪気でいてくれたりする。マジで私の妹天使。

 

「ねぇねぇお姉様!これってどうすればいいの?」

「簡単だよ。ただ持って魔力を込めるだけ。ほら、こんな感じ」

 

 私はグングニルを出して実践してみる。レミリアも同じようにやってみる。するとレミリアのグングニルも紅いオーラを纏った。

 

「おぉ、レミリア流石!あぁ後そのグングニルを出したり仕舞ったりするのは指をならせばいいからね」

「うん!ありがとうお姉様!」

 

 そういって嬉しそうに図書館から出ていった。あれ?脅すんならもっと色々ねだってくるって思ったんだけどな...もしかしてただ魔法を教えてほしかっただけかな?フランにだけ魔法教えてたのをずるいって思ってただけとか?...流石にそれは無いか。自意識過剰過ぎるね私。まぁいいか、レミリアが満足したならよしだね。さぁて本の続きでも読みますかね。

 ...思えばフランが生まれてから能力による実害はまだ出てないよなぁ。お父様もお母様も無事だし...。このまま皆安心して暮らせる日々が続けばいいなぁ。




 ご閲覧ありがとうございました。感想とか頂けるとモチベーションが上がって執筆が速くなりますので宜しければ感想お願いします。


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第十一話 とある疑問

 今回は多分長いです。ゆっくり見ていって下さい。


 Side: エレナ・スカーレット

 突然だが、自分の弱点について考えたことはあるだろうか。暗記、運動とか色々挙げられると思う。私も一応ある...と思う。私は半分人間、半分吸血鬼っていう所謂半人半妖だ。まぁお父様とかレミリア達には内緒にしてるけど。とにかく私はとあることを疑問に思った。

 

 

「私って吸血鬼の弱点の太陽とかって効くのかなぁ...」

 

 

 私は基本的に図書館にこもっていて、外に出るとしても夜の時間帯だ。太陽とかは資料では見たことあるけど生では無い。てかお父様やお母様が過保護なんだよなぁ。ちょーっと日中に外出ようとするだけで止めてくるんだもん。だから私は幻術魔法を使ってこっそり日中に外に出ることにした。勿論念のため日傘は持ってね。その時間は眠くないのかって?くっそ眠いよ!!でも今は好奇心が勝ってるよ!!

 

 日が登り始め紅魔館が静かになる頃、私は幻術魔法を使って姿と気配を消す。前に同じ時間帯に魔法も何も掛けないで外に出ようとしたら、使用人さんに止められて、それがお父様に伝わってめっちゃ怒られた。あの時は泣きそうだったな...あれ、おかしいな。今思い出すだけで涙が...。

 一応日傘をさしながら外に出る。よし、まだ魔法は継続してるから誰にもバレてないぞ。

 ある程度紅魔館から距離を取って...よし今だ!って訳で私は日傘を閉じてみる。

 ...あれ?痛くも痒くもない...むしろ心地いいぞ?こんな感じなのか太陽の光って!気持ちいいなぁ...確かにこんなに心地いいんだったら、太陽を崇める宗教とか出来ちゃうよね。納得納得!

 私は思いっきり太陽に向かってストレッチをしてみる。すると太陽の光が良い感じに身体を暖めてくる。めっちゃいい感じ...。

 あれ?つまり私って吸血鬼の弱点の代表である太陽が効かないってことだよね?...もしかして私、無敵なのでは?

 いや吸血鬼の弱点はこれだけじゃないはず。確か流水も弱点だったよね?...それも試してみようかな。最近覚えた探知魔法でこの近くに川が流れてることも知ってるし、そこに行ってみようかなぁ...。あんまり遅くなると心配されるから早めに帰らないとか?いや、まだ日は真上にあるし皆寝てるでしょ!

 とにかく私はその川に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side レミリア・スカーレット

 

「...お姉様?いる?」

 

 私は今、お姉様の部屋の前に来ている。本来、この時間は私の部屋のベッドで寝てるはずなのだが、ふとお姉様が恋しくなってしまったので添い寝をしようと思ってここに来た。

 私は何度もノックをして返事を待つが、一向に返ってこない。寝てるのかな?だったら起こすのは申し訳ないし...。

 そこで私は思い付いた。

 

「ベッドにこっそり侵入しちゃえばいいじゃない!」

 

 そうして私は音を立てずにお姉様の部屋に入る。しかし部屋にはお姉様の気配は無く、ベッドも膨らんでいなかった。

 

「あれ、いない...あ、また図書館で仮眠してるのかも...」

 

 そう、お姉様はいつも図書館で本を読んでる。だからまた起きてすぐ本を読みたいってことで最近は良く図書館の机に伏して寝ている。

 

「全く、お姉様ったら...」

 

 私はお姉様の部屋を出て、図書館に向かう。勿論お姉様を自分の部屋で寝かせるためだ。ついでに私もそこへ潜り込めば...よし。早く連れてこよう!

 

 

 

 

 

 私は図書館に行ったが、お姉様は居なかった。すれ違ったのかなと思い、部屋に行ってみるけどお姉様はいない。私は不安に思って紅魔館内のお姉様のいそうな場所を片っ端から探すが、見つからない。

 

「どうしようお父様!お姉様がいないわ!!」

「なっなんだって!?」

 

 私は寝ているお父様の部屋に押し掛けて言う。さっきまで寝ていたお父様は飛び起きて、蝙蝠を使って服を一瞬で着替えた。そして大広間に出て館内の全員を集めて言う。

 

「皆の者!エレナを見てはおらんか!」

「い、いえ旦那様。今日エレナお嬢様を見かけた者はいません」

 

 しかし誰も見てないらしい。お姉様...一体どうしたの...。

 

「...レミリアお姉様、エレナお姉様がどうしたの?」

「フラン!?」

 

 いつもならぐっすり寝ているはずのフランが不安そうな表情で私を見つめてくる。どうしてフランがここに?館内で出入り出来るところは決まってるはずだからここには来れない...いや、そんなどうでもいい事を考えてる場合じゃないわね。

 

「実はねフラン、お姉様がいないの...図書館にも部屋にもね...ねぇフラン、貴女何か知らない?」

「え!エレナお姉様がいないの?!ホントに!?お姉様は大丈夫なの!??」

 

 明らかに動揺しているフラン。この様子だと何も知らないようだ。フランがここまで慌てるのも無理もない...私もさっきまでこうだったのだから。だけど私は少し落ち着いてきた。なぜなら...

 

「フラン落ち着いて!私達が束になっても勝てないあのお姉様よ?無事に決まってるじゃない!」

 

 そう、お姉様がかなり強いからだ。さらに頭もいい。だから大丈夫のはず...と私は自分に言い聞かせてる。心配という気持ちは無くならないけど、きっと大丈夫だから。

 

「そっか...そうだよね!あのエレナお姉様だもんね!」

 

 フランも納得したように言った。しかし無意識だろうか分からないが、フランの体が微かに震えている。やっぱり不安なんだ...そう思い私はフランに抱きつく。

 

「レミリアお姉様...?」

「大丈夫よフラン。絶対お姉様は戻ってくるから。ね?」

「...うん...」

 

 そう言った後、フランは泣き出した。ここまで泣いてるのは初めてかもしれない...。

 すると大広間に一人の使用人が走って入ってきて言った。

 

「旦那様!エレナお嬢様の日傘が無くなってます!!」

「何!?ということはエレナは外に...不味い!今は日が上っている!」

「ほら貴方、落ち着いて。エレナが自分から出ていくとしたら、何か理由があるはずですよ」

 

 お母様が出てきてお父様を落ち着かせる。多分今この瞬間、この大広間の中で一番落ち着いているのはお母様だ。

 

「おそらく魔法の研究か何かで資材が必要になって取りに行ったとかでしょう。全く...私達に黙って出ていくなんて...帰ったら説教です!」

 

 怒っているようにも見えるが、涙が出ているのを私は見逃さなかった。お母様も自分に言い聞かせてるんだ...。

 あぁ、お姉様。早く帰ってきて!皆お姉様を心配してるわ...お姉様!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: エレナ・スカーレット

 私は今、近くの川に来ている。流水が苦手ってどういうことなんだろ、と考えてはや1分。全くわからない。服を脱いで水浴びをしたり泳いでみたりしたけどなんともない。つまり流水も効かないってことかぁ!?私は無敵の可能性があるな...。また今度研究してみるか。

 さて、そろそろ戻ろうかなってことで身体を拭いて、服を着る。紅魔館まで全力で飛んで5分も掛からないから、ささっと戻ることにした。どうせまだ皆寝てるだろうしゆっくりでもいいんだけどね?まぁ念のため...ね。

 

 紅魔館の入り口前に着いたは良いものの、なんか騒がしいな...まさかバレた!?

 

「エレナはまだ見つからないのか!!」

「申し訳ありません!今総力を挙げているのですが...」

 

 はいバレてますねーこりゃ。どうしましょ...そうだ!こっそり部屋に戻って最初から紅魔館にいたことにしよう!

 私は幻術魔法で姿と気配を消し、自分の部屋へと向かう。

 よしよし順調だぞ!このまま行けば...とその時、突然幻術魔法が解けてしまった。

 

「...へ?」

「あぁ!エレナお姉様見つけたー!!」

「ゴフッ」

 

 フランに体当たりされ、その場に倒れ混んでしまう。痛てぇ...まぁフランからの体当たりならカモンだけどね!!こう言うときって「ありがとうございます!」っていうんだっけ?

 てかフラン涙浮かべてんじゃん...誰だよ!泣かせたのは!!...って、多分私だね、うん。

 ところでなんで幻術魔法が解けたんだ?...あぁなるほど、フランの能力か。偶然発動したのがヒットしたんだろうなぁ...無念。てかフラン、能力コントロール出来るようになったのか...お姉様は嬉しいよ...今は嬉しくないけど。

 

「フラン?どうしたの...ってお姉様!?...よかったぁ...よかったよぉ...」

 

 フランの声で駆け付けたレミリアが私を見た瞬間、座り込んで泣いてしまった。誰だ全く、レミリアを泣かせたのは!!...はい、多分私ですね...申し訳ない。

 

「おーい、どうしたんだー...ってエレナ!?お前今までどこに!!」

 

 あ、ヤベ、お父様だ。ここまでかぁ...。

 

 

 あの後私はマジで泣きそうになるくらい紅魔館の全員から怒られました。実際泣いてたけど幻術で誤魔化したよ。恥ずかしいしね。

 罰として私はこれから寝るときにレミリアとフランと一緒に寝るよう言われてしまった。つまりレミリアとフランは私がちゃんと寝るかの監視役ってことね。え?マジ?これから図書館で寝れないってこと?それは嫌だなあ...って思ったけど、二人と寝れるならいいや!寧ろ罰っていうよりご褒美だね!愛する妹二人と寝れるなんてさ!!...あれ、フランって確か出れる区域制限されてたような...まぁ細かいことは気にしないっと!

 

 

 

 

 

 

「エレナお姉様ー!そろそろ寝る時間だよー!」

「ほら、本を置いて!早く行きましょう?」

 

 寝間着を着た二人可愛すぎない?天使やねもう。私は二人みたいに可愛くないからなぁ...。ちょっとここまで似合ってるのも見ると羨ましいってのはあるかも。

 

「うん、そうだね。じゃあ行こうか!」

 

 向かう先はフランの部屋だ。なんか寝るときだけは普通に入れるようになったよ。やったね!

 そして部屋に着き、私を含む三人はベッドに入り込む。順番としては左から...レミリア、私、フランだ。

 

「今更だけどさ...なんで私真ん中?」

「だってエレナお姉様をぎゅーって出来るもん!」

「まぁそれもあるけど...一番はお姉様が逃げないようにするため、よ?」

 

 私にとってご褒美なんだから逃げるわけないじゃないですかヤダー。なんて言えるわけないので渋々受け入れる態度を取る演技をする。 

 てかレミリアや、『まぁそれもあるけど』ってことはレミリアも抱きついてくれるってこと!?マジで!?

 あぁ、可愛い妹二人に抱きつかれて寝れるなんて...私死んでもいいかも...いやまだ死ねないけど。

 そんな事を思いつつ、二人の頭を撫でながら私は言う。

 

「お休み、レミリア、フラン」

「えぇ...お休み」

「お休みなさーい...」

 

 こうして私達は眠りに着いた。

 そして起きる時間に、寝ぼけたレミリアとフランからキスをねだられ焦ってしまうのは、また別のお話。




来ると思うけど来ないであろう疑問に先に答えるコーナー(三回目)
Q,探知魔法って何?
A,グー○ルマップみたいなのって思って頂ければ大丈夫です。


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第十二話 友人

 いつものように展開が早いです。許してください。


 Side: エレナ・スカーレット

 私がいつもいるこの図書館には沢山の本がある。小説だったり、妖魔本だったり、魔導本だったりと様々だ。そしてその本の中で私がよく読んでいる多数の本の作者は偶然にも名前が一緒なのだ。その名は...『バートリー・ノーレッジ』という。いやマジで面白いのよこの作者の本。引き込まれるっていうか、見入ってしまうっていうか...とにかくこの作者の文章力がヤバイんだよ。すげぇよなぁ...。

 そしてこれは最近知ったのだが、この『バートリー・ノーレッジ』とお父様は知り合いだというのだ。うん、最初知ったときはお父様に対して「マジで?」って言っちゃうほど驚いちゃった...。まぁ言ったんだけど。それを言われた時のお父様もなんか拍子抜けしてたし。

 そして今日、その『バートリー・ノーレッジ』に会いに行けるのだ!何故かって?...多分お父様の気紛れだね。突然「バートリーの所に行くが来るか?」なんて言われるんだもん。驚いてしばらく反応出来なかったよ。因みにレミリアも一緒だ。実はレミリアはバートリーさんの娘の『パチュリー』って子と友人になっていたらしい。いつの間に...てかいつノーレッジ家に行ったんだろう?と思ったが、かなり前にお父様が「皆に次期当主の紹介をして回ってくる」ってことでレミリアと色んな所に挨拶に行っていたのを思い出した。レミリアうらやま。

 

「ほらお父様!レミリア!早く行こうよ!!」

「...エレナがここまで急かすなんて始めてみたかもしれないな」

「えぇ...でもそんなお姉様も素敵だわ」

 

 苦笑いをしてるお父様と若干うっとりしてるレミリア。二人はそこまででもないかもしれないが、私としては心ウキウキ状態なのだ。会ったらなんて言おうかな...「いつも楽しく読ませてもらってます!」とか?いや直球で「貴方のファンです!」かな?あぁ、憧れの先生に会えるなんて...!!

 こんな具合で、私達はノーレッジ家に向かって飛び立ったのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: レミリア・スカーレット

 さっきからお姉様のテンションが高い。聞いた話によれば、お姉様が愛読してる本の作者がバートリー・ノーレッジだからだそうだ。正直な話、ここまでハイテンションのお姉様を私は見たことがない。そんな姿が見れて嬉しいと思う反面、何故か胸の辺りが痛むのを感じていた。...なんだろうこれ、別に傷を負った訳じゃないのに...どうして痛むんだろう...。

 

「ねぇレミリアどうしたの?顔色悪いけど...具合でも悪いの?」

「え?いや!大丈夫よお姉様!だからそんな顔しないで!」

「わ、分かった」

 

 お姉様がすっごく心配そうな顔で私の顔を覗きこんでいたが、私はそんな顔をしてほしくないので戻すようにお願いした。お姉様にはそんな顔してるよりも笑っていてほしい。

 

「ふむ、二人とも、そろそろ着くぞ」

「え!こんなに近くに住んでたの!?だったら会いに行けばよかったなぁ...」

「エレナ、お前はバートリーの家を今の今までどこにあるのか知らなかっただろう...」

「探知魔法を使えば...いやダメ。誰の家ってまではまだ解析出来ないんだった」

 

 そんな会話を二人がしてる内に、ノーレッジ家の入り口に着いた。

 

 

 

 

 

 Side: エレナ・スカーレット

 

「さて、入るか」

「え、ちょっと待ってお父様、まだ心の準備が...」

 

 いきなり過ぎてまだ準備出来てないんだけど!...なんか急に帰りたくなってきた。おかしいな...さっきまであんなに会いたいって思ってたのに。

 私の声を無視してお父様はノーレッジ家の戸をノックする。

 

「...誰かしら?」

 

 可愛いらしい声が中から聞こえてきた。この声の主がバートリーさんかな?

 

「ヴラド・スカーレットだ。...いや、レミリアの父親って言ったらいいかな?」

 

 ...この応答から察するに声の主はパチュリーって子なんだろうな。何気に私だけだよね、初対面なの。

 すると戸が開き、そこには全体的に紫を基調とした格好をした女の子がいた。うーむ可愛いなぁ。まぁ家の妹達には負けるがね。

 

「...レミィ、あの人は誰?」

「私のお姉様よ、パチェ」

 

 おぉ、渾名を呼び合う関係だなんて...いい友人が出来たねぇ。お姉様嬉しいよ。

 ってここは私が自己紹介するところかな?うん、するところだね。

 

「初めまして、私はエレナ・スカーレット。エレナって呼んでね。えと...パチュリー、で合ってる?」

「合ってるわ。でも少し長いでしょ?だからレミィみたいにパチェって呼んでもいいわ」

「そう?じゃあ...改めてよろしくね、パチェ」

「えぇ、よろしくお願いするわ」

 

 やったね!仲良くなれたよ!初めての友人だ!...ん?パチェの魔力の感覚...もしかして...

 

「ところでパチェ、貴女って...魔女だったりする?」

「あら、すぐに見破れるなんて凄いわね...」

 

 なんか割と驚いた顔してるけど...まぁいいや。それよりもバートリーさんだ!もうここまで着たらどうにでもなれってね!まだ心の準備出来てないけどGO!

 

「おぉ、ヴラドか...って、レミリアちゃん以外に新しい娘を連れてきたのかい?初めまして、私はバートリー・ノーレッジ。そこのパチュリーの父親さ」

 

 行こうって思ってたら直接ここに本人キター!え、マジで?挨拶しなきゃだよね?ヤベぇ挨拶の言葉行きながら考えるつもりだったのに!えぇいままよ!

 

「あ、あの!エレナ・スカーレットです!いつも貴方の作品を楽しく見せてもらってます!お会いできて光栄です!!」

 

 ふ、ふぅ...噛まずには言えたぜ...。ってあれ?バートリーさん?なんかポカーンって表情浮かべてない?

 

「ど、どうしたんですか?」

「いやね、こんな風に言って貰ったことはなかったからね。つい怯んでしまったよ」

 

 頭を掻きながら照れ臭そうに言うバートリーさん。...やっぱり魔力的に魔法使いなのかな?

 

「さぁ入ってくれ。ここまで来て疲れただろう?」

「あぁ、そうさせてもらう。君がここに私を呼んだ理由も聞きたいしね」

 

 あれ、お父様の気紛れじゃないんだ。呼ばれてたのか...なんだろうか。雰囲気的にお父様とバートリーさんの二人だけで話すみたいだし...まぁ私が首を突っ込むことではないか。

 

「エレナ、レミリア、ちょっと私はバートリーと話をしてくるからパチュリーちゃんと一緒に待ってなさい」

 

 そういって二人はどこかへ行き、残った私達は広い居間に居ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: パチュリー・ノーレッジ

 不思議な者に会った。会ってすぐ私を魔女だと見破って、しかも父のファンだという。...少し警戒しておくべきか?なんて考えてるとレミィが切り出した。

 

「ねぇパチェ、パチェも魔法使えるのよね?」

「え、えぇ、まぁね」

「へぇ!どんな魔法使えるの?教えてくれない?」

 

 エレナが私に言う。何かワクワクしてるような顔つきだ。

 

「火、水、木、金、土、日、月を扱ういわば属性魔法ね。別名で精霊魔法とも言われるわ」

「なるほど、精霊魔法か...」

 

 エレナが何故か考えるような動作をしている。どうしたのか、と思ってるところでレミィが言う。

 

「あ、お姉様も魔法使いなのよ!だから自分の知らない魔法とかには興味あるらしいの」

 

 なるほど、納得だ...え?魔法使い?

 

「ねぇエレナ、貴女はどんな魔法を使うの?」

 

 私とて魔法使いだ。目の前の少女がどんな魔法を扱うかを知りたいのは性だろう。

 

「私?うーん...結構あるからなぁ...あ、得意なのは幻術魔法とか身体強化魔法だよ」

「...え?」

 

 私は思わず拍子抜けするような声を出してしまった。今日が人生の中で一番驚いたかもしれない。

 レミィが聞いてくる。

 

「どうしたのパチェ、そんな変な声出したりして」

「...幻術魔法といえばランクS以上の魔法よ!?人間が扱う幻覚とは一味も二味も違う!習得するのも取り扱うのもかなり難しいとされてる魔法よ!?ねぇエレナ、貴女どうやって習得したの!?」

 

 私は思わず熱弁してしまった。しかしそれほど驚いたことだったから仕方がないと思う。

 

「え、と...家の、紅魔館の図書館で本を読んでたらいつの間にか」

 

 ポカンとした顔でエレナが言う。しかも図書館ですって!?

 

「その図書館ってどれくらいの本があるの?」

「そうだなぁ...多分この家にある本の10倍...いや1000倍くらい?」

 

 嘘...と思った。私は本を読むのが好きだ。一日中本を読んでるのが当たり前の生活だった。それでもまだこの家の本は読み尽くしてない。その1000倍ですって...?

 その瞬間から私は紅魔館に興味を持った。行ってみたい。そこで本を読みたい。エレナの魔法ももっとみたい。レミィともっと一緒にいたい...

 すると奥の部屋から父とヴラドさんが出てきた。二人は深刻そうな顔をしている。

 

「パチュリー...お前に頼みがある」

 

 父が私に告げる。私は覚悟して続きを待った。

 

「...ここから離れて紅魔館に行ってほしい。そしてそこで暮らしてほしいんだ」

 

 驚いた。まさか父が私の言うことを先回りして言うとは思わなかったからだ。

 

「...いいの?」

「是非そうしてくれ。お前のためでもあるからな」

 

 今日は本当に驚かされる日だ。私はすぐ了承した。

 

「では私達はそろそろ帰るとするよ。ほら、行くぞ」

「お父様、先に行ってて貰えますか?少しバートリーさんと話がしたいんです」

 

 エレナがそう言う。ヴラドさんは了承し、私とレミィを連れて紅魔館へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: エレナ・スカーレット

 

「さてバートリーさん、少しお願いします」

 

 真剣な目付きで私は言う。バートリーさんも唾を飲んだようだ。

 

「お父様と何を話してたんですか?何故パチェを紅魔館に暮らさせようとしたんです?」

「...はぁ、ヴラドのやつ。察しの良い娘を持ってるな」

 

 頭を抱えているバートリーさん。でもそこまで焦った様子はない。

 

「近々人間達が色んな所と組んでこの辺りの驚異を倒そうとしているんだ。以前吸血鬼に対して戦を仕掛けただろう?そこが更に討伐対象を魔法使い...特に魔女を追加してね。ここに入ればパチュリーが危険に晒される。だから安全そうな紅魔館に避難させようと考えたのさ」

「...貴方も魔法使いでしょう?貴方はどうするんですか?」

「気付いてたのか...流石だね。私はここに来た人間の足止めさ。この先が紅魔館だからね。出来るだけ先に行かせないようにするさ」

「それじゃバートリーさん!」

「...私はここで死ぬ覚悟さ。パチュリーの為にね。君には本当に申し訳ない。新しい本がこれから出せなくなる」

 

 そんな事ではない。もし貴方が死んだらパチェがどう思うのか!それを知ってての覚悟なのか!

 

「...勿論知ってて覚悟してるさ。だから同じ魔法使いの君に頼みがある...パチュリーの記憶から私の記憶を消してほしい!」

 

 頭を下げてくるバートリーさん。それがこの人の頼みなら叶えてあげたい。確かに記憶消去の魔法は出来る。でもそれじゃあ...そうだ!

 

「分かりました。しかし条件があります」

「...何だね?私に出来ることなら」

「生きてください!」

「ッ!」

 

 バートリーさんがハッとした表情を浮かべるが構わず私は続ける。

 

「危なくなったらすぐ紅魔館に来てください!記憶消去はもしバートリーさんが亡くなってしまった場合のみ使います。ですがわざと死ぬのは許しません!絶対生き延びて下さい!」

「...分かった。善処する」

 

 無理矢理だが納得させた。一応釘は刺しておいたから大丈夫かな?...うん、初めて会った憧れの先生にこうやって意見するのっておかしいような?今更か。

 

「では私もそろそろ行きます。ちゃんと約束守ってくださいね!」

「あぁ、だがこれらはレミリアちゃんやパチュリーには内緒にして欲しい」

「分かりました。では」

 

 そういって私は紅魔館に向かって飛んだ。もうすぐ日が昇る。一応日差しは大丈夫だが色々言われそうなので全力で三人の方へ向かう。...嫌な予感がする。なんともないといいけどなぁ。




 ご閲覧ありがとうございました。次回もまたよろしくお願いします!


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第十三話 予知

 遅れて非常に申し訳ないです!でも次からも大体こんなペースになりそう...


 Side: エレナ・スカーレット

 

「...私達はもう助からない...後は任せる」

「エレナ、私達からの最後のお願い...レミリアとフランをよろしく...ね」

「お父様ァ!お母様ァ!!」

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!!...なんだ夢か」

 

 私は起きてすぐ安心すると共に、さっきのことについて考えていた。奇妙な夢だった。お父様とお母様が死んじゃう夢なんて...。

 ...なんとなくだがこれはただの夢じゃない。フランの時みたいな感覚。そう、予知夢。状況は分からないけどお父様とお母様が未来で死んじゃう可能性があるってことだ。まぁでもホントにただの夢の可能性も捨てきれない訳で。予知夢だとしても寿命の時の様子かもしれないし。

 すると突然、私の部屋の扉が焦ったようにノックされた。

 

「...どうぞ」

 

 出来るだけ落ち着いて私が言うと、レミリアが入ってきた。何やら不安げな表情を思い浮かべている。よく見ると涙も浮かべていた。

 

「お姉様ッ!私、私!」

「お、落ち着いてレミリア。何かあったの?」

「私、見ちゃったの...運命を」

 

 その瞬間、ゾクッとした。まさか...と思いつつ私は聞く。

 

「その運命って?」

「お父様とお母様が...殺されちゃう運命」

「!!」

 

 マジかよ、予知夢だったか。...今回はヤバいな。あの激強いお父様が殺されるだって?一体どういうことだ。

 

「状況は分かる?」

「ううん、よく分かんなかった...ただお父様とお母様が死んじゃう場所にお姉様がいたってことぐらいしか...」

 

 私が?いやでも予知夢にも私の名を呼ぶお母様の声も聞こえたし...とにかくレミリアが見た運命は私の予知夢と共通してるってことが分かった。

 

「その運命を変えることはできる?」

「...今の私じゃ無理...だからどうしよう!お姉様!!」

「レミリア!落ち着いて!ほら、ヒッヒッフー!」

 

 今にも泣きようになってるレミリア。なんとかしたいけど...どうすればいいか。ん?そうだ!

 

「レミリア、もう正直に話してみようか。お父様と、お母様にね」

「え?...でも、信じてくれないかもだよ?」

「レミリアは『運命を操る程度の能力』を持ってるでしょ?その能力で運命を見たなら信じざるを得ないと思うけどなぁ。気に止めて貰えれば危ないことは避けてくれるだろうしね」

「なるほど!早速言ってみるわ!」

 

 そういってレミリアは駆けていった。時計を見るともうすぐ食事の時間だ。ちょうど良いだろう。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「うーむ、気を付けたいが厳しいかもなぁ...」

 

 食事中にレミリアがお父様に対してさっきのことについて話すが、あやふやな返事をもらってしまった。ん?何でだろ...お父様もレミリアの能力については知ってるはずなのに...

 ちなみにいつもの食事ではフランとパチェも一緒になって食べるのだが、今日はお願いして各自の部屋で食べてもらうことにした。

 

「実はな、近々また戦があるんだよ...ほら、エレナが以前に行った戦があるだろう?あそこの人間どもが懲りなくてね。色んな所と組んで吸血鬼と魔法使いを討伐するらしいんだ」

 

 申し訳なさそうにお父様が言う。でもレミリアは納得した様子ではない。てかその戦ってバートリーさんが言ってたやつだよね?大丈夫かな...

 

「大丈夫だ二人とも。私の強さをお前達は知っているだろう?運命くらい、変えてやるさ!」

「そうですよ。その運命では私まで犠牲になるそうですが、させません。よって私も参戦します」

 

 ニコニコしながら参戦宣言するお母様。え、お母様が参戦?大丈夫なの?

 

「お、おい。流石にお前が出る必要は...」

「あら、貴方の全盛期で唯一貴方を負かしたのはどこの誰ですか?」

「...お前だ、エリザ」

 

 え、マジかよ。まぁ戦ったことないから分かんなかっただけってはあるかもだけど、まさか今でもめっちゃ強いお父様の全盛期に勝ててたのがお母様だとは...

 

「...それで、戦はいつなんですか?」

「噂ではここ一ヶ月以内ということにはなっているらしいが...正直分からん」

 

 私が問うが、結果は残念だった。

 

「...お父様、私も参戦させてください!」

「私も、お願いお父様!」

 

 私とレミリアが二人にお願いする。...だけどお父様は首を横に振った。

 

「駄目だ。理由はお前達に怪我をしてほしくないからだな。エレナが以前行った戦よりも危険なんだぞ?今回は私達が行く。これは親としての意地だ」

 

 強くはっきり言うお父様に私達は何も言えなくなった。...これじゃあ押しきれそうにないな。逆にこっちがおされちゃった。

 ...お父様とお母様には申し訳無いけど対策は立てておこう。パチェにでも頼んでこっそり追尾する式のようなものでも作って貰おうかな?

 等と話してる内に食事が終わった。さてパチェの部屋に行こっかなって思ったけど多分図書館にいるよね。よし行くか。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「要するに偵察するやつね?分かったわ」

「うん、ありがとパチェ!」

 

 さっきのことについて相談してみたらあっさり聞いてくれた。

 最初の方はなんか警戒してたんだけど最近は結構仲良くなれた気がする。私はいい友人を持ったなぁ...

 

「その代わりに、今度私の実験に付き合ってくれない?」

「うん、それくらいなら別に構わないよ!寧ろ私、パチェの実験気になるからこっちからお願いしたいくらいだよ!」

 

 なんだよ、私得しかしてないじゃん!やったぜ!

 

 

 Side: パチュリー・ノーレッジ

 エレナから偵察するやつの作成を頼まれた。その時私は何故自分で作らないの?とは聞けなかった。理由は...

 

「ん、どしたのパチェ。私の顔なんか見つめちゃってさ?」

 

 エレナの目に光が灯っておらず、全体的に暗い赤色に染まってるからだ。その様子といったらまるで狂気。今彼女の機嫌を損ねると何をされるのか分からない...だからとにかく従っておく。

 ...念のためエレナを見張るためにもう一つ偵察するやつを作っておきましょう。今のエレナを野放しにしてはおけない気がするわ。

 

「いえ、なんでもないわ。早速作業開始するから暫くここに来ないでくれる?」

「りょーかい。んじゃよろしくね!」

 

 そういってエレナは出ていく。

 なんかとてつもなく嫌な予感がするわ。杞憂だといいんだけど...



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第十四話 違和感

 今回わけわからん場所が多数あるかと思いますが、ご愛敬ってことで一つ。


 Side: エレナ・スカーレット

 紅魔館の大広間。そこは基本的に戦闘訓練所として使われる。そして現在、私はそこでレミリアと対峙している。そう、これから疑似戦闘を行うのだ。

 

「珍しいわね...お姉様から勝負を挑まれるなんて」

「珍しいどころか初めてじゃないかな?今まではレミリアが私に挑んできてたもんね」

 

 レミリアは武器のグングニルを、私はイチイバルを構える。

 

「じゃあいくよ...スタート!」

 

 私が掛けた声と同時にレミリアが接近してくる。私武器のイチイバルは弓だ。接近戦には向かない。対してレミリアの武器のグングニルは槍。あれはバリバリ接近戦向きだ。

 

「貰ったわ!」

「...油断は禁物だよ、レミリア」

 

 その瞬間、レミリアの頬に矢がかする。一瞬驚いた顔をしたけどすぐに持ち直し、私から距離をとる。

 

「射た様子は見えなかったけど...幻術ね」

「正解。早いねバレるの...」

「えぇ、ずっとお姉様の幻術を見てきたのよ?大体分かるわ」

「そう...流石だね。でもまだまだ油断は禁物だよ?」

 

 私はイチイバルを消し、変わりにグングニルを出す。

 しかしレミリアと全く同じ訳じゃない。私は...両手にグングニルを装備した。

 

「今度はこっちから行くよ!」

 

 

 Side: レミリア・スカーレット

 何かがおかしい。これが私が最近のお姉様に抱いてる印象だ。表面上はいつもと変わらないはずなのに何かがおかしい。違和感があるのだ。まるで...何かに乗っ取られかけてるかのような...変な感覚。そう思ってお姉様の運命を覗こうとしたけど駄目だった。

 特に今日なんかそうだ。お姉様が私に勝負を挑んで来たのだ。大好きなお姉様からのお誘いだからいつもなら即答して受けるけど、今回は躊躇した。その時私は違和感の原因らしきものを見つけた。お姉様の目が...黒く濁ってる赤色になっていたのだ。いつものお姉様の目は透き通った綺麗な青。でもやっぱり話してみるといつものお姉様だった...けど、違和感がある。

 そして現在、私はお姉様と戦闘をしてるのだが、ここでもいつものお姉様ではないことに気づいた。

 理由は二つ、一つ目は明らかな殺意だ。いつものお姉様は基本的に殺しをあまり好まない。戦闘訓練で殺意は出さず、寧ろ戦闘相手の心配をしてる面がある。お姉様は手加減=失礼だと思ってるからお姉様は本気でやってるつもりなんだろうけど、無意識に訓練では加減をしてるのだ。だが今回はどうだ。一切の加減は無い。本気で殺しに来てる。お父様に殺意を感じても怯まないよう訓練された私でさえ冷や汗が出るレベルだ。

 二つ目は...表情だ。いつものお姉様はとても表情豊かで凄く可愛い。凛々しい表情もあればニコニコしてる表情、悲しそうな表情等様々。それは戦闘においても同じだ。楽しそうな表情、傷ついた相手を心配する表情、技が決まって得意気な表情とかだ。しかし今のお姉様は...ずっと笑顔だ。ただこの笑顔は嬉しそうな笑顔じゃない。獲物を狩る時にするような笑顔だ。正直怖い。だけどこのままだったら大変なことになる予感はする。

 それなら、私に出来ることは...

 

「お姉様に勝つことだ」

 

 ガキン、とお互いのグングニル同士がぶつかり合う。しかしお姉様はすぐ体勢を作り直し、二撃目に入ろうとしてくる。油断したら死ぬ、と私は思った。

 

「遅いよ」

 

 後ろから声がする。振り替えるとさっきまで目の前にいたお姉様がレーヴァテインを私に向けて振り下ろそうとしていた。

 私はとっさに自身を蝙蝠の群れにさせてお姉様から離れて姿を戻す。

 

「お父様直伝のやつだね...アハハ、楽しくなってきたよ!!」

 

 お姉様の殺意がさらに増幅する。本能的にも分かってしまう...これは勝てない。私もお父様とお母様をあの運命から救いたいけど...お姉様がここまで強いのに見た運命ではあの結果だ。これじゃ私が干渉しようとしても無駄だ。

 弱い自分が...情けない。

 

「...やっぱいいや」

 

 考え事をしてたら突然お姉様がそういって、武器と殺意を納めた。

 

「...え?どうしたのお姉様?」

「だって今のレミリアには戦意がないもん。そんなレミリア相手しても意味ない」

 

 当たり前のように言うお姉様。その表情は真顔で何の感情もない。ただ、私には私を睨んでいるように見えた。

 

「ごめんねレミリア、突然お願いしたのに受けてくれて」

「い、いえ、大丈夫よ。それで、これからお姉様はどうするの?」

「...暫く自主練でもしようかな...まだ、足りない」

 

 私には今のお姉様は分からない...だけどこれだけは分かった。

 

 

 今のお姉様を野放しにしちゃいけない。




 ご感想を頂ければ更新頻度が上がるかもなので是非良ければお願いします。


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第十五話 ごっこ

 意味不明な部分は前回を読んでもらえれば分かるかと思います...多分


 Side: フランドール・スカーレット

 最近、エレナお姉様の様子がおかしい。まぁおかしいのはいつものことなんだけど...いつもよりおかしい。どこがおかしいのか言ったら...とりあえず目かな。まるでクレヨンの赤と黒を一緒にぐちゃぐちゃーってしたときの色になってる。

 そして性格かな。いつものエレナお姉様は吸血鬼らしくないっていうか...人間っぽいっていうか...まぁそんな感じなの。だけど今のエレナお姉様は真逆。つまり吸血鬼らしく残酷?みたいになった。どうしたんだろ...そんな変化が出てきたのって...私が食事から一回外されたときから?

 とにかく色々気になって最近ここにやって来たレミリアお姉様の友人であるパチェに話を聞いてみると...

 

「フラン、悪いことは言わないわ。エレナに今近づかないほうがいいわよ...」

 

と言われてしまった。こんな事を言われたらますます気になってしまう。

 そして偶然、エレナお姉様がレミリアお姉様に勝負を挑んでいる所を見た。珍しい...と私は思った。いつも勝負を挑んでいるのはレミリアお姉様で、エレナお姉様から挑むことは一度もなかったからだ。私はこっそり二人の後を着いていって、戦闘を見ることにした。

見てみると...凄かった。特に殺気。私が受けているわけではないのに鳥肌が出るレベルだった。お父様でもここまでの殺気は出さない。攻撃に関してもまるでエレナお姉様はレミリアお姉様を殺すかのような動きをしていた...そして表情はずっと笑顔...あんなのエレナお姉様じゃない。狂ってる。だけど...私はそれを知っている気がした。昔私にも同じものがあった気がしたんだ。今はもう無いけど...

 するといきなり戦闘は終了して、レミリアお姉様が大広間から出ていく。よく聞こえなかったけど...自主練をするって言ったかな?もう少し見ていようかな...と思っていると、

 

「フラン!さっきから見てたでしょ?気になるならおいでよ!」

 

声を掛けられてしまった。しかも表情は変わらずずっと笑顔だ。でもどうして?私は気配を出来るだけ消していたのに...

 

「まぁレミリアは気づかなかったみたいだけどね。それよりもさ、戦いごっこやらない?お互い本気でさ!」

 

 ニコニコしながら私に尋ねてくる。いつもの大好きなエレナお姉様の誘いなら喜んで受けるけど...今は正直したくなかった。だけどここで私がなんとかしないと、取り返しのつかないことが起こる気がする。だから、

 

「...わかった。やりましょ!エレナお姉様」

 

 私は受けた。そして同時に決意する。私が...エレナお姉様を止める!

 

「じゃあ早速始めよう!よーい...スタート!!」

 

◆ ◆ ◆

 

 最初こそ私もいつも通りの力を出していた。このいつも通りっていうのは本気じゃない。単に能力が関係してるってものあるけど...やっぱり家族を傷つけたくないっていうのが大きい。だけど...

 

「ホラホラァ!どうしたのフラン!?まだまだいけるでしょ!?」

「ちょ、速い!!」

 

 エレナお姉様は無情にも本気だ。下手したら死ぬ。だから本気を出さざるを得ない。

 

「っ!『フォーオブアカインド』!」

 

『フォーオブアカインド』。これはエレナお姉様の助けも少し借りつつ、私の生み出した魔法だ。私が四人に分身するっていうもの。これだけだとエレナお姉様の幻術魔法に近い。だけど...私のは偽物じゃない。全員が本物だ。さらにそれぞれ意思を持ってるから、エレナお姉様からすればいきなり1vs4になる形だ。

 

「「「「うぅーりゃぁぁ!!」」」」

 

 私達は弾幕をエレナお姉様に向かって沢山打つ。普通なら加減はするけど、今回は本気でやる。

着弾!エレナお姉様の周りはは煙に包まれる。なんとかなったかな...と思っていると、

 

「...ふーん...この程度かぁ」

 

 エレナお姉様が無傷でそこにいた。しかもエレナお姉様の周りに鏡のようなものがある。

 

「...それは何?エレナお姉様」

「これ?あぁ、障壁魔法だよ。シールド、バリア、結界とか言い方は沢山あるけどね。とにかくそういう魔法ってこと」

 

 当たり前のように説明してくれるエレナお姉様。口調はいつも通りだけど表情はずっと笑顔。

 

「それとねフラン...その『フォーオブアカインド』には弱点も存在するの」

 

 そういってエレナお姉様はレーヴァテインを召喚した。レーヴァテインはどんどん炎を帯びて行く。

 

「四人に分裂してるってことでしょ?つまり個々の力も四分の一になるんだよ。まぁ─」

 

 エレナお姉様はレーヴァテインを振る。すると私達全員が切りつけられた。

 

「─こんな風に四人同時攻撃しないとまともなダメージにならないんだけどね。そう考えると長所かな?」

 

 なんとか私は無事だったけど...分身全員がやられちゃった...危なかったな。まともに喰らってたら死ぬとこだった...だけど!

 

「まだまだ!」

 

 私はレーヴァテインを召喚した。そしてエレナお姉様のように炎を灯す。

 

「へぇ...その炎の迫力も結構凄まじいね...アハハ、良いよぉ!凄く良い!!」

「ッ!」

 

 さっきエレナお姉様とレミリアお姉様が戦闘してるときに私が受けた以上の殺気を受ける。私は無意識に後退りをしてしまう。

 

「行っくよぉ!!レベルスタァートォ!!!」

 

 エレナお姉様の動きが更に速くなる。私はエレナお姉様の攻撃の直撃を避けるだけで精一杯だ。

 

「ぐっ...!」

「つまらナクなって来タなぁ...ジャあ」

 

エレナお姉様はレーヴァテインを消して、代わりにグングニルを召喚する。

 

「死ンジャエ」

 

 いつの間にか私の後ろから声がして、グングニルを今まさに私の胸に刺そうとする...その瞬間─

 

 

 

 

 

 

─エレナお姉様は自分のお腹にグングニルを刺した。

 

「え、エレナお姉様!?」

 

 私が心配してエレナお姉様に駆け寄ると、

 

「フラン...」

 

掠れた声でエレナお姉様が言う。そして顔を上げて私を見つめて続けた。

 

「ごめんね...!」

 

 それを最後にエレナお姉様は倒れた。

 私を見つめてた顔は涙を流していて...その瞳は、透き通った綺麗な青だった。




 感想貰えると更新頻度が上がるかと思います←


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第十六話 目覚め

 違和感があるかもですが流して下さると助かります←


 Side: フランドール・スカーレット

 エレナお姉様が自分のお腹にグングニルを刺して倒れてから丸一日経った。未だにエレナお姉様は目覚めてない。傷に関しては吸血鬼の再生能力とかパチェの魔法とかのお陰でもう大分治ってはいる。後はエレナお姉様が目覚めるのを待つだけ...なんだけどなぁ...

 ...私は今何をしてるかって言うと、医務室にいるエレナお姉様の看病をしている。これは私から志願しようとする前にレミリアお姉様からお願いされたことだった。その時レミリアお姉様に

 

「お姉様をお願いねフラン。目覚めても安静にさせておいてね。絶対に館からお姉様を出しては駄目よ?」

 

 と言われた。勿論私もそのつもりだけど。

 そういえば最近お父様とお母様見てないなぁ...エレナお姉様のお見舞いにも来れないなんて、どれだけ忙しいんだろうか。多分レミリアお姉様が今ここにいないのはお父様、もしくはお母様の仕事を手伝っているからかもしれない。そうじゃなきゃエレナお姉様が大好きなレミリアお姉様がここにいないわけ無いもんね。まぁ私もエレナお姉様もレミリアお姉様も大好きだけどね!

 

「ゥ...ウゥン」

 

 突然エレナお姉様が唸る。顔色を見てみると、なんだか魘されているようだ。私はとっさにエレナお姉様の手を握る。

 

「大丈夫よエレナお姉様。だから...安心して」

 

 以前「魘されている人とかいたら手を握ると良いらしいよ」ってことをエレナお姉様に聞いたので実践する。ホントかは分かんないけど、少なくとも今エレナお姉様の顔は落ち着いたから全く効果が無いってわけじゃなさそうだ。にしても...エレナお姉様可愛いな。なんかこう...ぎゅっと抱き締めたい感じ?エレナお姉様が近くにいるとかなり安心するの。レミリアお姉様はどっちかっていったら『綺麗』かな。うーん難しい。

 

「フ...フラン?」

 

 うっすら目を開くエレナお姉様。その瞳の色は倒れる直前と同じ、透き通った綺麗な青だ。

 

「エレナお姉様!...よかったー!!」

「う、うん...私はなんとか平気だよ?後ちょっと痛いかな...」

 

 困惑しつつ私の頭を優しく撫ででくれるエレナお姉様。気持ちいいなぁ...

 私が何をしてるかって?ただぎゅーって抱きついているだけだよ?ホントはもっとエレナお姉様と抱き締め合いたいんだけどね。

 

「...!フラン、私いつまで寝てた?それとお父様やお母様見てない?」

 

 突然ハッっとした表情になって私に質問してくるエレナお姉様。真剣な表情もまたいいなぁ...じゃなくて!

 

「えっと...丸一日は寝てたよ。それとお父様とお母様は...最近見てないなぁってさっき思ってたとこ」

 

 するとエレナお姉様は突然、俯いてブツブツ何か言い始める。上手く聞き取れないけど...どうしたのかな?

 

「ごめんフラン、私ちょーーっと急用があるんだ。だから──」

「駄目だよ。絶対安静にしてて!」

「──そっかぁ」

 

 今のは絶対ちょっとの急用じゃないよね!流石に私でも分かるよ!

 

「じゃあレミリアに会わせてくれない?少し話がしたいんだ」

「レミリアお姉様と?なんで?」

「...とりあえずまだ謝って無かったしね」

「...分かったわ。待ってて」

 

 私はまだ納得はしてないけど...まぁいいや。

 ってことで私はレミリアお姉様を探すために医務室を出る。

 

 Side: エレナ・スカーレット

 フランに疑われの目を向けられたけど気にしない...のは難しいなぁ。心が痛むでござる。

 ...それと今回私途中から暴走しちゃってたみたいだしね。私じゃない私だったよアレ。なんで私がレミリアやフランに殺意を放つの。馬鹿じゃないの私。あの時一瞬だけ意識奪還出来て良かったなぁ...あの時咄嗟に手にあったグングニルを自分に刺して私を正気にする作戦大成功ってね。いやー良かった良かった...って良くないわ。私の中にいる私じゃない私をどうにかしないと...ややこしいな。まぁいいけどね。

 いつ暴走するか分かったもんじゃないしなぁ...仕方ない。奥の手の一つを使いますか!

 なんて考えてると扉がノックされる...なんか焦ってない?

 

「どうぞー」

 

 私がそう言うなり、扉がバンッ!って開いた。開けたのは...レミリアだった。

 

「お姉様!!」

「ワフムゥ!?」

 

 突然レミリアが横になってる私に飛び付いてきた。それと同時にレミリアの頭が私のお腹にぶつかる。痛ぇ。

 

「ご、ごめんなさいお姉様...つい」

「いや、いいんだけどね?寧ろカモン」

 

 私もつい本音が...あ、レミリアの顔赤くなってる。可愛い。

 

「そ、それより話があるんでしょ?!」

「あ、うん。単刀直入に言うね。今お父様とお母様はどこ?」

「...それぞれ鍛練をしているわ。そしてエレナお姉様が倒れたことは言ってないから」

 

 流石私の妹だ。私の気にしてたことをすぐ言ってくれる。

 

「ありがとねレミリア。んで、私のことなんだけど...ごめんねレミリア。迷惑かけちゃった」

「いいえ、気にしないで。あれはお姉様であってお姉様じゃない...そうでしょ?」

 

 ホントに良くできた妹だぜ!すげぇな!

 

「正解だね。もうそんなとこまで分かってたんだ」

「えぇ...そろそろ私は戻るわ。ごめんなさいね」

「んーんー、気にしなくていいよ。レミリアも色々と(・・・)忙しいんでしょ?」

 

 レミリアが医務室から退室しようとした...その時レミリアが思い出したように言う。

 

「お姉様、ぜっっったいに安静にしてて。後は私がなんとかするから(・・・・・・・・・・・・)

 

 そのままレミリアは出ていった。すまんなレミリアよ。私も私なりになんとかしたいんだよ。

 そうして私は魔方陣を書くためのペンを取り出した。これからやることが最善だと信じて。




 最近エレナさんを誰か描いてくれないかな、なんて思ってたり←


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第十七話 姉妹の対策

 今回短いです。しかも凄く。


 Side: レミリア・スカーレット

 あの運命ではお姉様が結構深く関わっていた。だから私は運命を変えるために、お姉様には安静にしてもらおうと考えたけど...そんなことでお姉様が止まるわけが無さそうだ。だけどお姉様はあのお姉様じゃないお姉様を止める為に色々しなきゃならないだろう。それに力を費やすからお父様達の戦とは関われないだろう。私はそれに期待して自分の作戦を進めることにした。

 

「ねぇパチェ、例の物は出来てるかしら?」

「えぇ...はぁ、貴女達姉妹は私を何だと思ってるのかしら?」

「私の親友よ」

「良く言うわ」

 

 ため息混じりに言うパチェ。それでもやってくれる辺り、素晴らしい親友を持ったと私は思う。

 

「それでレミィ、これを何に使うか教えてくれるかしら?」

 

 パチェが指しているのはネックレス。それも割と紫色の魔石を使用したのを2つ。

 私が依頼したこのネックレスの効果は『壊せばレミリア・スカーレットが召喚される』というものだ。つまり、

 

「決まってるでしょ?私もあの戦いに参加するのよ」

 

 そう、あの運命へ参加することだ。あの運命で見えたのはお父様、お母様、そしてお姉様。それならイレギュラーである私が参戦すれば何かが変わるはず。もうそれに賭けるしかない。

 

「はぁ...そういうと思ってたわ。止めるつもりはない、だけどね...絶対帰ってきなさいよ」

「!...分かってるわパチェ」

 

 パチェがこんなこと言うなんて...これは絶対ハッピーエンドで終わらせないといけないわね。

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 Side: エレナ・スカーレット

 私の内なる何かをどうにかする方法。それは封印すればいい。なんだけどねぇ...

 

「アレ面倒くさいんだよなぁ」

 

 そう、私がやろうとしてる封印魔法はとても面倒くさい。詠唱も長いし、難しい紋章も書かないといけない。しかもこの魔法、私が生み出した魔法だから本当に効くのか分からない。まぁ理論上はこの魔法が一番なんだけどね。

 そして、『封印魔法はいずれ解けるもの』っていう格言があるように、いずれ解ける。私の魔法だと大体私が510歳になる頃に解けるだろう。まぁその頃にまた封印すればいいかな。一生これと付き合っていくことになるけど致し方なし。家族を守るためにね。

 私は私であの戦にこっそり着いていくつもりだし、戦いながら詠唱を唱えることになるけど...仕方ないよね!

 

「エレナお姉様?何張り切った顔してるの?何かするの?」

「うん、これからフランと何をして遊ぼうか考えてた」

「じゃあおままごとしましょ!私お母さん役ね!エレナお姉様は...お父さん役!」

「分かった!じゃあ私はまずどうすればいい?」

「えっとねぇ───」

 

 ここにお父様とお母様、そしてレミリアがいて初めて日常が成り立つ。私は戦う。全てを守るために。



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第十八話 予兆

 Side: エレナ・スカーレット

 戦の当日だ。私はあの魔法を使うと決めたあの日からずっと詠唱を唱えている。それでは日常生活会話出来ないんじゃないか、と思うだろうけどそんなことはない。特定の相手に自分の考えてることを伝えれる『思考共有魔法』やお馴染み『幻術魔法』とか使って誤魔化してる。

 まぁ流石に食事は詠唱しながらは無理だから断食してるんだけどね...お腹すいた。お父様が戦に行くまで大体後5時間。それまでに詠唱を終わらせなきゃ...しかも詠唱終わっても発動するまで割とかかるんだよねぇ。具体的な時間は分かんない。だけど発動する前にアレが発現してもちゃんと封印してくれるからなんとかなりそう。

 ...よし、詠唱完了。後は発動すれば勝ちだ。私もどうせ戦でお父様達助太刀する予定だし...まずは腹ごしらえかなぁ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 Side: レミリア・スカーレット

 お父様達は既に行ってしまった。もう間もなく...運命の場所へとたどり着く頃だと思う。お姉様は...私では止められない。話術でも力量でも私はまだお姉様に劣っているから。

 ...っといけない。とにかく私はいつでも呼び出されても言いように準備しないと...今回の運命のキーとなるのは私、そしてお姉様。お姉様がどうするかは分からないけど...私は私のやれることをやる。そしてあの運命の可能性を潰す。また、皆で笑いあって過ごせるようにするために...!

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 Side: エレナ・スカーレット

 さて...お父様とお母様の後をこっっそり幻術魔法使いながら着いて行ってるわけなんだけど...何あれ。もはや軍隊だよね。

 ん、今どうなってるか?...お父様が蝙蝠使って分身大量生産してる。あれってチートじゃね?そこら辺の人間の里に住んでる人間の数より多いよあれ。あんな技戦闘訓練の時使って無かったよね...手加減してたんだ。しかも全員の戦闘能力がお父様並というね。もう怖いよ。あれ今度魔法で真似てみようかな?

 対してお母様なんだけど...能力が能力だから非戦闘要員だと思ってたんだけど違ったわ。お母様の強さはホントにシンプル。身体能力の異常性だね、うん。さっきから雑魚敵がお父様とお母様に襲いかかって来てるんだけどさ...お父様はまぁあの蝙蝠軍隊があるからいいとして、お母様何あれ。ひたすら殴る、蹴るでバッタバッタ倒してるわ。『戦う女は強いのよ?』って昔から言われてたけどさぁ...ちょっと異常過ぎない?私の『身体強化魔法』使ってやーっとあの動きについて行けるかどうかなレベルなんだけど。

 ...私来る意味ホントにあった?もうこの二人だけでいいんじゃないかな...っとダメダメ!まだ分かんないから!ここらからのどんでん返しで私が必要になるかもしれないから!

 

 ─ドクン...

 

 あれ、なんだろ...私の胸が疼く...もしやまた!?まだ封印が完全じゃないのに!!くっそ収まれ!.........どうだ?

 

 ─ドクンドクン!

 

 痛っ!?痛い痛い!!何これ痛い!!苦しい!!心臓がはち切れそう!!

 

「いたぞ!吸血鬼だ!!」

 

 な、幻術魔法が解けてる!?明らかに私の方を向いてるよね!目が合ったし!くそっ!逃げないと...

 

 ─ドクンドクン!!

 

 ヤバッ...痛すぎて意識が...!!こんなところで...!!

 

「こいつ弱ってるぞ!今のうちだ!!かかれぇ!!」

 

 こんなところで...死ぬわけには...!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─ここで()の意識は沈んだ─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガハァッッ!!何だよ!こいつ!どこが弱っているんだよ!!」

「ひぃぃ!!ば、化け物!!」

「こんなの勝てるわけない!!い、命だけはぁぁ!!」

 

 ...身体に致命傷を負い戦意を失った者達の目に映っているのは...

 

 

 

 

 

「アれ...モウおしマいなノ?ジャア...死んじゃオッか♪」 

 

 

 

 

 

 全く光の灯ってない黒く濁った赤い目をしている吸血鬼だった何か(・・)であった。



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第十九話 発現

 Side: ヴラド・スカーレット

「アハはははハははハはハははハ!!!」

 

 私とエリザは突然聞こえた笑い声に対して警戒しつつ振り向く。そこにいたのは...

 

 

「...エレナ?」

 

 

 私達の愛しき娘の一人、エレナだった。だが...

 

「違いますわ貴方...あれはエレナですがエレナではありません」

 

 普段のエレナの目は透き通った綺麗な青。だが今は黒く濁ったような赤い目をしている。それはまるで...

 

「まるであの狂気だ...」

「えぇ似ています...我がスカーレット家に伝わる狂気に」

 

 もし仮にアレが『スカーレット家の狂気』であるとするならば、何故血族ではないエレナにあるのか?何故狂気の象徴である宝石の羽を所持しているフランではなく?等と疑問点は沢山思い浮かぶが、とりあえずは...アレをなんとかしなくては。

 

「エレナ!!私だ!ヴラド・スカーレット!!お前の父親だ!!分かるか!!?」

 

 一応理性はあるか確かめる。あれば話は早いのだが...

 

「ヴラド・スカーレット?何ソれ。それヨリサ!遊ぼウよ!私ト勝負すルの!負ケた方は死ヌ!いいデシょ?」

 

 ...駄目のようだ。

 ふとエレナの周りを見てみると...もうそこは吸血鬼である私から見ても酷い有り様であった。

 辺りは更地になっていてそこらに転がってる死体が山ほどある。それも人間のものだけではない。私達の仲間である吸血鬼の分まである。異常な再生力を持つ吸血鬼をこうもあっさりと...!

 

「...エリザ、すまないが構えて欲しい。娘に拳を向けるのは心苦しいと思うが...」

「...勿論、エレナを気絶させる方向で行きます。いつものエレナなら幻術魔法等使われ苦戦するでしょうが、幸い今は狂気の暴走状態...それらを使われることはないでしょう」

「だからと行って油断してはいけない。あれは気絶させるのだとしても手加減をすれば終わりだ」

「...確かに。あれは私が対峙した中で一番強い...それは貴方もでしょう?」

「...あぁ」

 

 そう、若い私が唯一負けたエリザよりも今のエレナのほうが強いだろう...だが、

 

「二人でやれば勝てる...殺さずにな」

「...私は突っ込むことにしか能がないので指示をよろしくお願いしますよ、貴方」

「私は援護に回る。エリザ...暴れてこい」

「フフッ、分かりました!」

 

 エリザはエレナの方に向かっていく。エレナ...今助けてやるぞ!

 

 ◇ ◆ ◆

 

 Side: エリザ・スカーレット

 ...驚きました。まさか私の動きにエレナが着いてこれるとは。これは少し不味いですね...あの方が援護してくれてるとはいえ私達が圧されている。一応攻撃は当たりはしますが、ダメージを最小限に抑えられています。このままでは...

 

「アハ!この程度なノ?モッと楽シませて...」

 

 ...!?不味い!避けなければ!!

 

 

「ヨ!!!」

 

 

 ─エレナの右拳が私の頬を掠める。

 よく見ると拳圧のせいなのかエレナが右拳を出した直線上が更地になっていました...あれは反則でしょう。ここまで底が見えない相手だとは思いませんでしたよ...

 

「ヘェ...避けレルんダァ...」

 

 楽しそうに、無邪気に笑うエレナ。どうしましょうか...これでは気絶させるどころかこっちがやられてします...

 

「エリザ!!」

 

 ...これは何か策があるようですね。

 

「えぇ、私は何をすれば?」

「時間を稼いで欲しい...出来るか?」

「私では精々10分ですが...」

「十分だ!」

 

 何をする気でしょうか?...まさかあの奥義を?あの奥義ならば何とかなるかもしれませんが...あれは反動も凄まじいはず。大丈夫でしょうか...

 

「大丈夫だエリザ。私を信じてくれ」

 

 ...これは信じるしかないでしょう。私の一番信頼する相棒(愛する旦那様)がそう言うのなら。

 

「えぇ...任せましたよ?」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 エリザがエレナの注意を反らしている時、ヴラドは周りを策敵させていた蝙蝠を全て戻し力を蓄え始めた。

 ヴラドがこれからやろうとしてるのはヴラドの中の究極奥義。ヴラドを唯一負かしたエリザはこの奥義を恐れて繰り出させる前に倒した程である。

 

「貴方!まだですか!?」

「後少しだ!すまない、もう少し持たせてくれ!!」

 

 さっきからこんな会話が何回か続けられている。その技は強力な為、それなりの力を必要とする。仕方がないことなのだ。

 

「...!よし、やれるぞ!!エリザ!そこから離れろ!!」

「ッ!はい!!」

 

 エリザは身体能力をフルに使ってエレナから離れる...はずだった。

 

「逃がサなイヨォ?」

 

 エレナはエリザとの距離を保ったままだ。ニヤニヤしながらエレナはエリザに更に攻撃を仕掛けていく。エリザはその対応をするのに必死だ。

 

「(このままだとらちが空きません...ならば!)」

 

 エリザは意を決してヴラドに叫ぶ。

 

「貴方!!私ごと発動させなさい!!それしかありません!!」

「なっ...!お前も知っているだろう!!あれは相手を『倒す』奥義ではなく『殺す』奥義であると!!お前が死んだらあの子達は悲しむ!私もな!」

「ですがこのままならば私どころか貴方も帰れなくなります!!さぁ早く!!」

 

 決死の表情を見てヴラドは決意する。

 

「(全神経を集中してエリザを避ける...!)やむをえん、行くぞ!!」

 

 ヴラドの右手が黒く発光し...

 

 

「吸命『ウロボロス』!!!」

 

 

 そこからいつもの蝙蝠と違う禍々しい色をした蝙蝠が飛び出した。その数はおよそ一万匹。

 しかしこれだけではない。ヴラドの周りにある草や木やその葉っぱ等が全て蝙蝠となった。

 

「さあ行け!!あの敵の元へ!!!」

 

 一斉に蝙蝠が雄叫びをあげながらエレナとエリザのほうへ向かう。その様子はまるで獲物を見つけた野獣のよう。

 ただ、大抵の敵は殺せるこの奥義だが、今のエレナを殺せるかで言えば答えはNoだ。先程ヴラドが言ったようにこの奥義は敵を殺す...つまり生命エネルギーを吸いとるのだ。だが今のエレナは吸いとり切れない程の力を持っている。むしろ吸う蝙蝠がキャパオーバーで死んでしまう。出来たとしてもエレナの動きを制限、良くて気絶だろう。ヴラドはそれを狙っているのだ。

 

「ンー?何こレ...邪魔ダなァ」

 

 エレナは飛んできた蝙蝠を破壊し始める。それによりエリザに対する注意が無くなったためエリザはすぐさま退散しヴラドの元へ行った。

 

「ハァハァ...貴方、大丈夫ですか?」

「...大丈夫だ。それよりお前の方が大変だっただろう」

 

 エレナは蝙蝠を破壊していくが蝙蝠の数は無くならない。むしろ増えているようだ。それによりエレナは見て分かるほどイライラし始めた。

 

「アーもウ!!メんドくさイ!!!」

 

 エレナが怒って隙を見せたその一瞬、蝙蝠がエレナに噛みつき吸収を始めた。

 

「─!?ヤばッ!!」

 

 さっきのイライラした表情が一変し焦ったような表情になる。そこに出来た更なる隙で他の蝙蝠も沢山噛みつき始めた。エレナの表情が更に一変し苦しい表情となる。

 

「グゥぅ...!!ウらぁァァァァ!!!」

 

 エレナは蝙蝠を出現させたヴラドを睨み付けたかと思えば一瞬で出現させた槍...グングニルを投げつけた。

 ただの槍なら攻撃を展開しているヴラドでも避けれただろう...だが、投げられた槍はグングニル。決められた相手に向かって投げられたら必ず刺さってしまう伝説の槍だ。更にエレナの魔法で強化されている。すなわち...

 

 

「ガハァァ!!!」

 

 

 ...待っているのは『死』だ。

 

 

 

「貴方!!!」

 

 

 

 エリザが焦った声でヴラドに駆け寄る。ヴラドは奥義を止めて刺された心臓を復元しようとする。よってエレナを取り囲んでいた蝙蝠は全て消えた。

 

「エ、リザ...私は、もう...」

「貴方!...嫌、嫌ぁ!!」

 

 エリザはヴラドを抱き締める。まさに絶望、だ。

 

 

「ヘぇ...あれヲ耐えルンだァ...」 

 

 

 先程の焦った表情はなんだったのか。エレナはニヤニヤしながらその様子を見つめていた。

 

「ヨシ...決めタ!二つトモ食べヨッと!丁度お腹モ空いタシね!」

 

 子供のように舌をペロッと出して二人の方へ歩き出す。

 ─ここで言うエレナの食事はただ食らって腹を満たすだけではない。

 力を持つものを食らって自身に吸収させる。つまり、相手の能力、力を全て自分のものにするのだ。

 

「そーナルと後一つも殺サナイと...ね!!」

 

 グングニルをもう一本召喚しエリザに投げる。エリザはヴラドに気を取られていてそのまま喰らってしまった。

 すると──

 

 

「あ、アレ...何デ...こん、なに...苦しい...の?」

 

 

 エレナは心臓を押さえ始めた。表情は苦痛、それに伴い膝をついた。

 

「まだ...まだ!私はまだ...!!」

 

 何かにすがるように手を伸ばしながら呟く。その瞬間。

 

 

 

 

「『封印発動』」

 

 

 

 

 エレナの周りに魔方陣が出現し光が放たれる。しばらくしてそこにいたのは...

 

「...あれ、何で私こんな所に?」

 

 先程とは違って、透き通った綺麗な青い目をしたエレナがきょとんとした表情で座り込んでいた。




一応ですが、まだパピーとマミーは生きてます。


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第二十話 約束

 Side: エレナ・スカーレット

 私は今現在、地面が一部ボコボコしてる荒野に座り込んでます。

 ...ん?さっきまで私お父様とお母様追いかけてたよね?森で見張ってたよね?...なんで荒野で座り込んでるの?

 なんて考えていたのは束の間。私はすぐに辺りに飛び散っている血に気付いた。そして...そこらに群がるぐちゃぐちゃにされて原型を留めてない死体達。

 

「凄い...」

 

 私は無意識に呟いていた。

 ...あ、お父様とお母様の気配!すぐそこじゃん!なるほどね、何らかの原因で気絶しちゃったのかー!

 私はお父様とお母様の気配のする方へ駆け寄る。そして...私は絶句した。

 

「エ、レナ...か...?」

「お父様!?」

 

 お父様が心臓を押さえて屈んでいた。とても苦しそうに。

 更に近くにはお母様がいた。まだ生きてはいるけど...このままなら...!

 

「誰が...誰がこんな事を!!」

 

 私は辺りを見回す。もしかしたらまだ犯人は側にいるかもしれない、それだけを考えていた。途中、変な石が割れているのを発見したが、あまり気にはならなかった。

 そして...私は見てしまった。お父様とお母様を貫いてる武器を。それは、私がよく知っている武器だった。

 ─グングニル。

 しかも、それは私が作り出している物だとすぐ分かった。

 

 まさか...私が?

 私が...殺した?

 私の大切な人達を?

 私の恩人を?

 私が守ろうとした人達を?

 よりによって...私が?

 

 

「あ、あぁ!あああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 私が殺したんだ!!

 

 このグングニルが何よりの証拠!!!

 

 何で! 何で!!

 

 何で私が!!!!

 

 

 

 

「落ち着けエレナ!!!」

 

 

 

 

 ...お父様の渇によって私は少し落ち着いた...

 でも...でも!!

 

「あれは...お前じゃ、無い!!」

 

 ...私じゃない?どういうこと?

 

「あれは...スカーレット、家の...狂気だ!!」

 

 狂気...?何で私が?あぁ、やっぱり私は呪いの悪魔なんだ。私が存在しなければお父様やお母様を死なせることなんかなかったのに...!!

 すると突然──お父様が自分の腕を思い切り私の口に押し当てた。勢い余って歯が刺さり血が出てきている。

 

「!?」

「エレナ...お前の持つ狂気の、封印は...不完全だ...だが、このスカーレット家の血で、完璧に、することが...できる...」

 

 息を切らしながら言うお父様。こうしてるのも辛いはずなのに...!!

 私がその状態のまま治癒の魔法をお父様に使おうとするが、お父様が静かに首を振って止めた。

 ─もう、不可能だ。

 そう語りかけているようだった。

 

「そんなことより...早くこの血を飲みなさい...さぁ、早く!」

 

 お父様は本気で願ってる...自分の生存よりも私の事を。

 私がどうしようか悩んでいると、さっきまで、自分の回復に全力を注いでいたお母様が、突然自分の腕を切り刻む。そこからは血が垂れていた。

 

「貴方、ばかり...格好はつけさせませんよ...エレナ、私のも飲みなさい。一人よりは...二人ですからね...さあ、エレナ!」

 

 今にも倒れてしまいそうな様子でお母様は言う。

 私は二人に気圧されて、お父様の血、続けてお母様の血を飲んでしまった。体が何となくだがいつもより軽くなったのを感じる。

 そうすると、二人はとても満足そうな顔をした。

 そして...

 

「見た通りだが...私達はもう助からない...後は頼む」

「エレナ、私達からの最後のお願い...レミリアとフランをよろしく...ね」

「あぁ、あぁぁぁあ!!...お父様ァ!!お母様ァ!!!」

 

 お父様とお母様はいきなり別の方角を向いて何かを呟いた後、そのまま息を引き取った。

 

「あぁぁぁ...ぁぁぁあ!!」

 

 私は生まれてはじめて声を上げて泣いた。それは日が昇るまでずっと響いていた。その様子を誰かが見ていたなんて事を知らないで。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 Side: レミリア・スカーレット

 ...気付いたら森のにいた。確かに、いつ喚ばれてもいいように準備はしていたけれど...いきなり過ぎないかしら?

 しかも周りにお父様とお母様居ないし...あれは要改造ね。

 私が喚ばれたってことは、お父様とお母様がピンチになってるはず...まず二人を探さないと...

 と、その時だった。

 

「あ、あぁ!あああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 この声は...お姉様の声?...やっぱり来てたんだ...

 でも、こんな風に叫んでるお姉様の声なんて初めて聞いたわ...もしかしたらお姉様に何かあったのかも...!!

 私は無我夢中でその声のする方へ向かった。だんだん木が無くなっていって荒野になっていく。

 お姉様が見えてきた!大丈夫かな...って...え?

 お父様...と、お母様...?何でそんな瀕死な状態なの...?

 二人の体を何かが貫いてる...あれは...グングニルだ。しかもお姉様の。

 まさか...お姉様が?いや、そんな訳がない。お姉様は私と同じようにお父様とお母様を愛していたんだから...

 

「落ち着けエレナ!!!...あれは...スカーレット、家の...狂気だ!!」

 

 私はその声でハッとした。

 そうだ...お姉様がそんなことするわけがない。お父様の言う狂気ってやつが仕出かしたことだ。

 多分...その狂気ってやつは、私と疑似戦闘をしたあのお姉様だろう。そうなれば、私の抱いていたあの感覚の説明がつく。

 良かった...と思ってる場合じゃない!なんとかしてお父様達を治療しないと...!!

 お父様はお姉様の狂気の封印を確実にさせようと自分の血をお姉様に分け与えていた。お姉様はそれと同時にお父様の治療をしようとする。

 その瞬間、お姉様に向けてお父様が静かに首を横に振った。

 そんな...私は救えないの?運命を見る力を持っていたにも関わらず?私は...何もできないの?

 ふと見ると、お母様もお姉様に血を分け与えていた。そのまま二人は、幸せそうな顔でお姉様に告げた。

 

「見た通りだが...私達はもう助からない...後は頼む」

「エレナ、私達からの最後のお願い...レミリアとフランをよろしく...ね」

 

 それを言った瞬間、私の方を向いて、二人同時に同じ形の口を動かし方をした。

 お父様から軽く読唇術を習っていたので、なんて言ってたのかはすぐわかった。

 

 

 

『エレナを、二人で支えてくれ』

 

 

 

 ...分かったわお父様、お母様。それが二人の願いなら...私達(・・)は頑張る。

 

 

「あぁぁぁ...ぁぁぁあ!!」

 

 

 お姉様が、声を上げて泣き出した。初めてみる姿だった。

 お姉様の性格上、絶対人前では泣かないはずだ。

 お姉様...いつか、いつかでいいの。私達(・・)に弱味を見せてほしい、私達(・・)に甘えてほしいの。

 だから...私達(・・)は強くなるわ。お姉様を支えれる存在になるために。

 絶対、お姉様に見合う妹になるから...見守っていてね。お父様、お母様。




とある即売会のお陰でモチベ上がりました。楽しかったです。


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第二十一話 訪問者

この話で出てくるあの方が戦闘狂と化しています...なんかすみません。


 Side: エレナ・スカーレット

 戦が終わって大体...10年?程度が経過した。この間...色々あったよ。

 まず、私が立ち直るのに時間が掛かったね。でも...お父様とお母様が、私の為に最後の力を振り絞って血をくれたんだ。だからその分まで生きよう。そして、あの『お願い』を叶えるために強くなろう。そう決心したから大丈夫だよ...多分。

 何故かレミリアとパチェはお父様達のことを伝えても思ってた以上に動揺しなかったんだよね...なんか、まるでその現場を見てたみたいな反応だった。

 フランは...うん、あんまりお父様とお母様に構って貰えなかった影響だったのかそこまで動揺しなかったな。見ててこっちが、何で動揺しないの!?ってレベルだったんだよね...

 んでね、突然当主が変わったのよ。それがまた色々大変だったねぇ...主に当主になったレミリアが。

 スカーレット家に配属してる家々を当主交代で挨拶に行くでしょ?当主としての執務でしょ?お父様達の遺品整理でしょ?...あれ、目から汗が...

 まぁまぁとにかく色々あったのですよ。勿論手伝ったけどね。

 変わったこと?そうだなぁ...レミリアがカリスマ性を持ったことぐらいかな?初めて垣間見た時は、おぉ...流石お父様の娘って思っちゃったからね。イケメンだった。いつもはベリーキュートだけど。

 後は...うん、特に無いね。皆元気にやってるよ。

 そんで今なんだけど...

 

「...妖怪を襲う妖怪?」

「えぇ、最近軽く話題になってるのよ。なんでも強い妖怪に片っ端から勝負を申し込んでるとか。しかも負け無しですって」

 

 食事中にレミリアから話を聞いたところです。にしても...妖怪を襲う妖怪ねぇ...どんなやつなんだろ。

 

「ふーん...でも余裕でしょ!だって最近能力コントロール出来るようになったしね!」

 

 スマイルで言うフラン。可愛い。

 実は、フランは私とレミリア、そして新たに加えてパチェにも協力してもらって、フランの能力をコントロールさせようという作戦を実施してるのだ。結果は、徐々に操れるようになってるなーっていうレベル。だけど、初日に比べれば相当コントロール出来てるはずだ。

 

「なんでも、こことは別の所から来た妖怪らしいのよ...少し気になるところね」

 

 一応警戒はしてるようだ。レミリア...立派になったなぁ...でも、そんな困った顔はお姉様あんまり見たくないぞ。話題を変えてみるか。

 

「そういやさ、紅魔館に門番って居ないよね?」

 

 ...言ってはいなかったが、これが戦の後一番酷かったかもしれない。

 スカーレット家の当主(お父様)が亡くなった。それをスカーレット家が衰退した、と思い込んで勝負を仕掛けてくる妖怪がわんさか出てきてね。しかも、どこからその情報を嗅ぎ付けたのか、人間の集団もやって来てね...レミリアの負担にならないように、幻術魔法でそれを見せないで私がこっそり駆除してたんだけどさ。

 50日くらい24時間ずっと対応してたら、やりすぎで疲れが貯まって、敵がちょうど全員逃げ帰った瞬間に倒れてしまって、紅魔館メンバー全員からめっさ怒られました...

 そんでまぁ、門番がほしい訳ですよ。でも

 

 私:出来はする。てか現在進行形でやってる。でもいつか過労死しそう。

 レミリア:当主としてのお勤めがあるから無理。

 フラン:長期戦と対集団戦の訓練してないし、日中は厳しい。

 パチェ:まず図書館から出ない。

 

 一応メイドさんはいるんだけど...そこまで強くないの。

 つまり私がやるしかないっていうね。うわぁきっつい。

 

「そういえばそうよね...お姉様の負担をなんとかしないと」

 

 私とレミリアとフランが軽く考えていると...今まで黙っていたパチェが言った。

 

「...その話題の妖怪に門番やらせたらいいんじゃない?」

「「「それだ!!!」」」

 

 満場一致だった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 相手は強い妖怪に片っ端から喧嘩を売っているから、こちらはただ待っていればいい。

 ってことで私は紅魔館の門の前で仁王立ちで立ってる。何故か、今は敵が押し寄せてこなくてめっちゃ静かだ。まぁ、夜だからだね。襲撃は基本吸血鬼の活動しない昼間を狙ってくるからなぁ...私はそんなのお構い無しだけどね。日中でも何故か余裕で日の下出れるし。

 にしても夜空キレイだなぁ...と思っていた時、気配を感じた。

 数は一人...だけど、あの妖怪や人間の集団より実力は遥かに上。

 目的は恐らく紅魔館。なら...私は負けられない!紅魔館の門番を手に入れるために!!!

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 シンとした夜の森の中、とある館を目指す一人の妖怪がいた。

 名は『紅美鈴』。そのチャイナ服のような格好からも分かるように、東洋の妖怪である。

 なら何故ここにいるのか?それは──

 

「この先が噂の『紅魔館』...どんな強者がいるのか楽しみです!!」

 

 ──そう、ただ強者と戦うためだ。

 何故彼女がここまで戦闘狂と化してるのか...まぁ、美鈴から言わせれば、生まれた時からこうだった、だろう。

 そして今、美鈴の目の前には、とある吸血鬼がいた。

 羽は普通の吸血鬼よりはほんの若干小さめ、月光に照らされ光を放っている白銀の髪、そして...見ている者を魅力するような、とても透き通った綺麗な青い目を持っている。

 美鈴はゾクッ...とした。強者の圧力だ。

 美鈴はにやけを抑えつつ相手に向かって叫ぶ。

 

「私は東洋の妖怪、『紅美鈴』!!貴女を相当な強者だと認識した!!よって、貴女に決闘を申し込む!!!」

 

 吸血鬼は目を見開いた後、クスッとしてその声に答える。

 

「でも、ただの決闘ならつまらないよね...だから、賭けをしない?」

「...賭け?」

「そう、賭け。勝者が敗者に対して一つ、なんでも言うこと聞く...なんて、どう?」

「...なるほど、乗りました。なんでもいいんですよね?」

「勿論!」

 

 お互いが構え始める。美鈴は程よい緊張感を味わいつつ、吸血鬼に視線を切らさない。反対に、吸血鬼はそことなく楽しそうだ。

 吸血鬼はニコニコしながら言う。

 

「私の名は『エレナ・スカーレット』...覚えてもらうからね!」

 

 その刹那、両者が同時に動き始めた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 紅美鈴とエレナ・スカーレットの両者が決闘をしている際、紅魔館からその様子を覗いている三つの影あった。

 

「ねぇねぇレミリアお姉様、エレナお姉様のあれ、絶対本気じゃないよね?」

「当たり前でしょフラン...あれは楽しんでるわ」

「それはあの妖怪も同じみたいね。大体最初はお互い小手調べ、という所かしら?」

 

 言うまでもなく、あの三人である。

 

「レミィから見て、あの妖怪はどう?」

 

 門番的な意味で、とパチュリーはレミリアに問う。

 

「そうねぇ...とりあえず様子見ね。あの美鈴とやらの実力が見たいわ」

 

 見極めるように見ているレミリアとパチュリー。フランに至っては、もう既に決闘の様子にくぎ付けになっていた。

 

「でも勝つのはエレナお姉様だよね!」

「えぇ、勿論よ!なんたって私達のお姉様なんだから!」

「逆に負ける要素が無いわ。悔しいけど、魔法も紅魔館の中で最強なんだもの」

 

 ...何かが乱立したような気がするが、気にしてはいけない。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 美鈴は歓喜していた。ここまでの強者とは今まで対峙したことが無かったからだ。今までの敵とでは、長期戦といってもほんの数分程度だった。しかし、エレナという吸血鬼との戦闘開始から既に何分経過しただろうか。今までよりは長いことは確実なのだが。

 お互い、小手調べは大体終えたのだろう。少しずつではあるが、攻撃の強さが上がってきた。

 

「(速い!!)」

 

 美鈴はそう感じていた。エレナ自体のスピード、防御から攻撃、またはその逆の切り替え、全てにおいて完全に自分より上だろうとも。

 ──だが、まだ目で追えるレベルだ。

 よって攻撃等は見切れる。

 ...ふと、美鈴は一つ策を思い付く。

 エレナは速く、反射神経もかなり良い。しかし速さの面では見えているので解決。

 問題は反射神経をどうするのか、だ。

 それに対する美鈴の出した答えは...フェイクの攻撃を入れることだ。

 反射神経は基本無意識だ。考える前に先に体が動いてしまう。ならば...フェイク攻撃を入れることで、意図的に隙を作れるのでは?とのこと。

 美鈴は攻撃を避けつつ、フェイクを交えた攻撃を入れながら、完全に隙が出来るのを待つ。

 そして、三度目のフェイク攻撃を入れた瞬間...!

 

 

 

 

 

 

 

「ここだぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 美鈴は見つけた隙から、自身の全力の一撃を込めて拳を放つ。

 拳はそのままエレナに直撃────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───しなかった。

 

 

 

「...え?」

 

 

 

 こんな力が抜けた声を上げてしまうのも仕方がないだろう。

 いきなり、戦っている相手の自分の一撃が直撃した部分が霧のように分散したのだから。

 

「...まさか、幻術魔法を使わせるとは思わなかったなぁ...」

 

 分散した部分を戻しながらエレナは言う。その表情は呆気にとられたような感じだ。

 その言葉を聞いて、美鈴は冷静さを取り戻す。

 

「なるほど、幻術ですか」

「まあね。予想外だったよ...ここまで強いなんて」

 

 先程の表情とは打って変わり、本当に嬉しそうだ。

 

「これは...よし、試してみっか!」

「...!?」

 

 すると突然、エレナの分身が大量発生した。

 だが、普通の分身なら美鈴はここまで狼狽えない。

 なら何故狼狽えたのか?

 

 ──ここで美鈴の能力について軽く話そう。

 美鈴の能力は『気を使う程度の能力』。この場で言う『気』は、別名で『オーラ』などがある。

 だがこの能力、ただ自分の気を使うだけではない。ある程度ではあるのだが、他人の気を感じとることも出来る。

 よって、戦闘において、仮に相手が分身等をしてきても、感じとる気の量で大体どれが本体なのかは把握が出来るのだ。

 だが現在、美鈴の目の前に存在するエレナの分身達は...全て同じ量の気を持っているのだ。

 

 

 

「「「「「「さぁ、どれが本物か分かるかな!?」」」」」」

 

 

 

「(感じろ...感じとれ!必ず本体が持っている気は違うはずなんだ!そこさえ見分ければ...!!!)」

 

 美鈴は攻撃を最小限のダメージで交わしつつ、必死に本体を探る。

 そして...

 

 

「ぐっ...ここっ!!!」 

 

 

 一瞬、一瞬で判断して思い切り拳を放つ。

 ──手応えありだ。

 気づけば分身は消えていて、拳が直撃した本体だけになっていた。

 

「...合格だね」

 

 ボソッと呟かれた声は美鈴には届かなかった。

 

「ハァ...ハァ...」

 

 既に美鈴は割と体力を消耗しているようで、肩で息をしている。

 

「まぁでも、私の勝ちかな...『レベルスタート』」

 

 エレナは加速して美鈴に一撃を腹にぶつける。

 

「がっ...!」

 

 美鈴はそのまま吹っ飛ばされ、岩に激突した。

 だがこのまま倒れてしまうほど、美鈴は弱くない。ふらついてはいるが、なんとか立ち上がった。

 

「なん...ですか...まだ、そんなに速く...!?」

 

 少しエレナに対して恐れを抱きなから美鈴は問う。

 美鈴は焦っていた。

 ─底が見えない。勝てるビジョンも見えない。

 

「(だからこそ...!!)」

 

 ─見てみたい。このエレナという吸血鬼の限界を。この強さの秘訣を。

 

「どうする?まだやる?」

「...勿論です」

 

 ─ここで引きたくない。

 

「まだ...やれます!!」

 

 ─こんなに楽しい勝負を投げ出したくない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 Side: エレナ・スカーレット

 え、えぇ...ちょっと、美鈴さん?どんだけ戦闘狂なんですか貴女。

 明らかに楽しんでるよ。全力で。

 ってことは今までくっそつまらない決闘ばかりしてきたんだろうなぁ...私との決闘で楽しめてるって言うことはそういうことだよね。

 ...ん、美鈴さん!?なんで急に倒れちゃったんですか!!?

 

「美鈴さん!!」

 

 私はとりあえず美鈴さんに近づいて体調を確認してみる。

 症状は...あら、気絶しちゃってる?なんとか生きてはいるみたいだね...ほっ。

 このまま美鈴さんを放置しておくのもアレだし...とりあえず、治療系の魔法かけつつ紅魔館に寝かせてあげよっと。

 レミリアやフランには姉の特権押し付ければいいしね!

 さて、運ぼうかなと美鈴さんを抱えたとき...

 

「う...」

 

 あ、起きた?速いなおい。

 

「えと...大丈夫?」

「うぅ...ハッ!私は一体!?」

「なんかいきなり倒れちゃってさ。心配だから私の家で休ませようとしてたって感じだね」

 

 それを言った瞬間、なんか美鈴さんの表情ポカンしたような感じになった...なんで?

 

「その...助けてくれるんですか?いきなり決闘を仕掛けた私なんかを?」

「え、普通助けない?」

 

 当たり前じゃないの?こういうのってさ。

 

「まぁ、賭けのこともあるしね。この決闘は私の勝ちってことでいい?」

「...はい、完敗でした。本当はもう少し続けたかったんですけどね...」

 

 戦闘狂怖い。本当に楽しそうだったしねぇ...

 

「んじゃ賭けの内容を伝えるね」

 

 お、顔つきが変わったね。どんなこと予想してるのかなぁ...

 

「私の家の...紅魔館の門番をしてくれない?」

「...え?」




よろしければ感想や評価等、お願いします!


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第二十二話 門番

ほのぼの回ですよー


 Side: エレナ・スカーレット

 美鈴さんが門番になって早いとこ3日経ちました...ホントに時間進むの早いよね。そろそろ年かなぁ...レミリアと10歳しか離れてないけど。

 美鈴さん?うん、いい仕事してくれるよ?だってもう私門番しなくてもよくなったもん!!

 やっと寝れるぜ...って思ったね。

 あ、美鈴さんは勿論一方的に門番認定されたわけじゃないよ?いくつか条件付きでね。美鈴さんは何故か最初はこれらを拒否してたんだけど...無理矢理説得したからね。フフン!

 その条件は主に二つ。

 一つ目は、衣食住の提供。これはあって当然だと思ったんだけど...初めてご飯を食べてた時は泣きながら食べてたね。曰く、ここまで豪華な食事は初めてなんだとか。美鈴さんにお腹一杯食べさせてあげたい...そう感じたのは私だけじゃないはず。

 そして二つ目なんだけど...

 

 

 

 

「んじゃ、始めよっか美鈴さん!」

「はい!よろしくお願いしますエレナお嬢様!...いいえ、師匠!」

 

 

 

 

 

 うん、美鈴さんを定期的に鍛えることだね。

 美鈴さんはずっと強くなるために戦ってきたみたいだし...なら私が鍛えようかなって。

 

 私は一応図書館にある複数の武術の本も読んだことあるから教えることは出来る。

 しかも美鈴さんに教えてるのは本に書いてあったことだけじゃなくて、私独自で開発した拳法!

 その名は『紅魔拳』!!...センスは気にしないでね。

 

 ...あ、なんで美鈴さんが私の事を師匠って呼んでるかって?...知らない。紅魔拳教えてたらそう呼ばれるようになってしまっただけだよ。

 でも、師匠って呼ばれるのはこの時だけ。後は普通にエレナお嬢様って言われるのね。不思議。

 あっとね、今は朝だからレミリアもフランも寝てるのね。狙ったんだけど。

 以前夜にやってたらさ...レミリアとフランが物凄く機嫌が悪くなったんだよね。なんでかな...いやまぁその表情も可愛かったんだけどさ。永久保存版だよ?

 

 ちなみに美鈴さんは型を持ってなかった。所謂拳法とかは使ってなかったのね。見た目は持ってそうなのに...

 だから、紅魔拳を教えるよ!って初めて言ったときは凄く嬉しそうだった。可愛かった。レミリアやフランとはまた違う可愛さだった。でも我が妹達には劣るけどね。

 

「...うん、今日はここまでにしよっか。お疲れ様美鈴さん」

「はい!...あの、とても言いにくいんですけど...」

「ん、どしたの?」

 

 

「...いつになったら呼び捨てで呼んでくれるんですか?」

 

 

 あー...そういやずっとさん付けだったね。

 でもねー...これで慣れちゃったしなぁ...

 あ、そうだ!

 

「そうだねぇ...いずれその時が来たら...かな?」

「その時...ですか」

「うん、まぁ、そうだよ」

 

 とりあえず誤魔化したぜ...ふぅ。

 

 あ、そういやパチェに呼び出しされてたっけ。なんだろなぁ...行くか。



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第二十三話 召喚

 Side: パチュリー・ノーレッジ

 はぁ...どうしようかしら。

 エレナから例の戦の際に図書館のことを任されてからずっと図書館にいるのだけれど...いかんせん一人で管理するのは厳しいわ。

 エレナはここにある本はほぼ読んで記憶してあるって言ってたわよね?...エレナっておかしくない?絶対能力持ってるわよね?暗記系の。

 

 ...そういえば、例の戦の時にエレナの申し出を聞くかわりに私の実験に付き合うって話をしてたわよね?そのタイミングって今じゃない?

 と言うわけでエレナを呼んだんだけど...

 

 

 

「やっほー来たよー!」

 

 

 

 ...まさか朝に来るとは予想してなかったわ...エレナって吸血鬼よね?

 

「どうしてこの時間に?」

「美鈴さんの修行が今さっき終わったから」

「...寝なくていいの?」

「大丈夫だよ、慣れてるし」

「貴方絶対いつか体調崩すわよ」

 

 あははー、と言いながらニコニコしてる。完全に聞き流してるわね。まったく...こっちは心配してるのに。

 

「それで...用事ってなに?」

「あれよ、あれ」

「あれって...あぁ、あれか」

 

『あれ』だけで通じるのね...適当に言ってみただけなのに。

 

「ほうほう、どんな実験なの?」

「実験って言うより...手伝って欲しいのだけれど」

 

 一息ついて続ける。

 

 

 

「『使い魔召喚魔法』を手伝ってほしいの」

 

 

「へぇ、『使い魔召喚魔法』か...って、え?」

 

 

 エレナは呆気にとられたような表情をする。本気で驚いてるみたい...

 

「...なんで?」

「図書館を管理するには一人じゃ厳しいのよ...今更だけど」

「ホントに今更だね...ってか、私大体の本の位置知ってるしさ、使い魔要らなくない?」

「エレナだって忙しい時はあるでしょう?私の都合で迷惑をかけるわけにはいかないわ」

「そんな...迷惑だなんて...」

 

 エレナはまだ納得してないようだけど、無理矢理話を進める。

 

「エレナは召喚魔法の知識はあるの?」

「え?あ、うん。一応はね」

「聞かせて貰える?」

「えっとね...召喚したいものに適した魔法陣描いて...適する呪文唱えて...適する魔力を注ぐってところかな?召喚したいものにそれらは依存するから...あ、後ね!ここは──」

 

 いつの間にかさっきの話題を忘れてエレナは色々と語り始める。なんていうか...こういうのってマニアって言うのかしら?小動物みたいで可愛いかも...

 ハッ、話が逸れてるわね。

 

「それで、それをやってみたいのだけれど」

「あ、そうなんだ。なら一番魔力消費が少なくて尚且つ最もポピュラーな『悪魔召喚』がいいと思うよ?」

「あ、悪魔召喚?」

 

 大丈夫なのかしらそれ...私に被害とかいかないわよね?

 

「まぁ、万が一の時は私がパチェを守るしさ。とりあえずやってみようよ!」

 

 こうして、悪魔召喚の準備が始まった。

 私はエレナに指示されるがままに魔方陣を描いていく。エレナが描けばいいと思ったのだが、契約者が私である以上描くのは私じゃなきゃダメみたいだ。

 

「んー...呪文は確かこうだね。多分」

 

 描き終わった瞬間にエレナがとある紙を渡してきた。エレナの手書きで呪文が書いてある。

 しかし長い...よく覚えてるわね、こんなの。

 

「さ、パチェ。やっちゃって下さいな!」

「え、えぇ...CぁWな?vL6c──」

 

 とにかく読んではみてるけど...意味不明過ぎないかしら?読み方合ってるか分かんないし...

 確認の意味を込めてエレナの方を時々チラチラ見てるんだけどニコニコしてて何も言わない。合ってるの?合ってるのね?

 段々呪文を続けていくうちに描いた魔方陣から赤い光が灯り始める。そろそろかしら?

 エレナはエレナで臨時戦闘体制に入ってるわね...心強いわ。

 

 

 さて、私が最後まで読み終えた後──

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!!やっと喚んでくれたぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ...は?

 

「喚んでいただきありがとうございます!いやー私、今の今まで契約者様に全く喚ばれなかったんですよ...喚ばれたとしてもすぐに追い返されるし...あ、そんなどうでもいい話は置いておいてですね!さて、契約者様!貴方様のお名前を──」

 

 これは...

 

「...ごめんなさいね。間違えたみたいだわ」

「いやいやいやいや!間違ってなんかいませんよ!私、悪魔です!正真正銘の悪魔ですよ!あ・く・ま!!」

「私の知ってる悪魔はこんなのじゃないんだけど...」

「...うん、確かに可愛い過ぎるよねー」

 

 エレナが戦闘体制を崩して私に便乗すると、

 

「なっ!?契約者様の敵ですか!?これが私の最初の仕事ですね?分かりました!さて─」

「待ちなさい、エレナは私の友人よ。攻撃するなんて許さないわ」

「エ゛ッ...申し訳ございません...」

「あははー...気にしないでよ。それで...悪魔さん、貴女の名前は?」

「あー...えへへ、実は...名前は無いんですよね」

 

 ...私は名も無き悪魔を喚んでしまったのかしら。あ、軽くだけど頭痛が...

 でも、この悪魔...スタイルはいいのよね。私よりも背は高いし。

 特徴は赤い長髪、エレナやレミィと似たような羽を持ってるぐらいね...まぁ、見た目だけなら悪魔なんだけど...

 

「うーん...折角だし、パチェが名前を着けてみたら?」

「...え、私が?」

「だって契約者はパチェでしょ?これからお世話になるんだし愛着が沸くようにって」

「そ、そうねぇ...」

 

 名前、名前ねぇ...この悪魔、性格は子供みたいなのよね...

 ん?子供みたいな悪魔...子悪魔...こぁ?

 

「『こぁ』...とかどうかしら」

「おぉ可愛い!!ねぇ、貴女はどう思う?」

 

 到底気に入るのは思えないのだけど...あれ?泣いてる?そんなに嫌だったの?

 

「多分違うよパチェ。あれ喜んでるよ」

 

 そうなのね...ってエレナ、ナチュラルに心読むの止めてくれないかしら。

 

「ありがとうございます...パチェ様!『こぁ』、頑張ります!」

「えぇ、よろしく...って何でパチェって呼んでるの?」

「え?エレナ様が契約者様の事をパチェ様と御呼びしてたので...」

「パチェは渾名よ。私の名前は『パチュリー・ノーレッジ』。呼ぶならパチュリーと呼びなさい」

「!はい!パチュリー様!!」

 

 ...性格上はなんとなく真面目そうだけどドジをしそうね...まぁ、大丈夫よね。

 

「うん!新しい家族が増えたね!皆が起きたら報告しないと!」

 

 エレナはもう既に歓迎パーティーの事を考えているようだ。これはフラン辺りが喜びそう...

 今日は特に騒がしくなりそうね。

 ...なんか色々と流された気がするけど、

 

 

「これからよろしくね、『こぁ』」

「はい!『パチュリー様』!!」




原作では『小悪魔』ですが、ここでは『子供みたいな性格をした悪魔』略して『子悪魔』ってことにしてます。

まぁこれから出すときは『こぁ』で出すので許してください()


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第二十四話 休憩

ほのぼのはいいぞ。


 Side: レミリア・スカーレット

 

 

 

「つ、疲れたぁ...」

 

 

 

 私はたった今、大量にある書類仕事を片付けた。何徹したかしら...そのせいであんまりフランとも遊べてなかったし...あの子、私を忘れてないといいけど...

 紅魔館は営業とかしてないから書類とかはない、と思われたりするんだけど...というか私も仕事をするまではないって思ってたし。

 私達吸血鬼に関する食料の書類、妖精メイドや使用妖怪達の食料に関する書類、周りの吸血鬼の一族達に関する書類等々...割と沢山あるのよね、これが。

 でも、私は今はスカーレット家の当主。弱音なんて吐いてはいけない。当主としての威厳を見せなきゃいけない...皆を導いていたお父様みたいになんとかやってかないといけないわ...

 

 とりあえず別の書類に取りかかりましょう。まだやらなくてもいい書類だけど、早めにやっておいて損はないわ。

 それに、門番で大体50徹ぐらいはしたお姉様に比べればこんなの大したことない。お姉様のほうがきっと精神的にも肉体的にもきつかっただろうし...

 いや、あれはお姉様がちょっと異常だったのかもしれないけどね。魔法かなにかで疲労を誤魔化してた説あるし。

 それにしても...眠いわね......

 

 ハッ!ダメダメ!私がしっかりしないと!私が頑張らないとお姉様やフラン、パチェや美鈴やこぁ達に迷惑がかかるわ!

 

 でも...!ッ、でもじゃないわ!当主なんだから!私がしっかりするのよ!レミリア・スカーレット!頑張りなさい!

 

 

 ...だけど...少し、疲れたわね...

 

 

 

 コンコンッ

 

 

 

 執務室の扉が叩かれた音がした。誰かしら...

 

「入っていいわよ」

「ん、お邪魔しまーす」

 

 入ってきたのはお姉様だった。

 

「レミリア、調子はどう?」

「普通よ。特に異常は無いわ」

「ふーん...」

 

 お姉様は私の顔をじっと見つめる。

 ...出来れば恥ずかしいから止めてほしい、けど...

 

「嘘だね」

「...え?」

 

 お姉様から出てきたのは否定の言葉。それは私のさっきの言動を完全に否定したのだ。

 

「だってレミリア、目の下に大きな隈が出来てるもん」

「嘘!ちゃんと化粧で隠してたはず!......あ」

「ありゃあ...ホントだったんだ」

 

 呆れたように私を見るお姉様。要するに私はカマをかけられたらしい。

 

「メイドさん達に聞くまで気付かなかったんだけどね。メイドさんに感謝かなぁ...」

 

 ...黙っていろ、と命じたはずなのに...

 

「あ、これに関してはメイドさんは悪くないからね?気付けなかった私に責任があるんだから」 

 

 隠してたんだから気付かれてたら困るのはこっちだったんだけど...

 

「ってこの書類!まだしなくてもいいやつじゃん!終わらせるべきなのは...終わってんじゃん!!」

 

 え、でも早めに終わらせておいたほうがいいはずでしょ?なんでそんなに...

 

「はぁ...最近手伝ってあげれなかったのは申し訳ないし...よし!」

 

 お姉様は指をパチンッとならす。周りの景色が一瞬で代わり───いつの間にか自分の寝室に来ていた。

 お姉様はその場に正座をする。

 

 

 

「ほら、おいで!」

 

 

 

 ...え?

 ちょっと待って、理解が追い付かないわ。

 整理しましょう...

『お姉様がその場に座って、膝を叩いて私を呼んだ』

 ...誘ってるのかしら?

 

「ほら!早く来て!寝るよ!」

 

 ...うん、そうよね。お姉様はその辺疎いものね。あんまりそんなことには詳しくないものね...

 

「あーもう!」

 

 なかなか来ない私をお姉様はぐいっと引っ張った。

 気付いたら...私はお姉様に膝枕をされていた。

 

 顔が赤くなっていくのを感じる。

 密かに憧れていたけど...!

 お姉様にしてもらえたら嬉しいなぁって思ってたけど...!

 これ、結構恥ずかしい!!

 

「ん、顔が赤くなってんじゃん...熱でもあるのかな?」

 

 えぇ、お姉様のせいで...いえ、おかげかしら?

 お姉様は私の頭を優しく撫で始めた。あ、これ...結構いいかも...

 

「レミリアは頑張り屋さんだもんね...いつも私達の為に頑張ってるもんね...」

 

 ...

 

「多分私が来たときにやってた書類もさ。私達の為だよね?ホント、レミリアは凄いよ」

 

 ......

 

「でも...頑張り過ぎるのは感心しないかなぁ...レミリアが倒れたりなんかしたら...うん、想像したくないね」

 

 .........

 

「ここには私とレミリアしかいないよ。当主だから甘えたこと言ってはいけない、みたいに考えてるかもしれないけどさ?」

 

 ............

 

「今は...今だけは、お姉様に甘えてほしいな」

「......うん」

 

 きつかった。

 しんどかった。

 やめたいなって思ってた。

 でも皆のためなら頑張れた。

 

 だけど...今は頑張らなくていいんだ。

 お姉様に甘えていいんだ...

 

「お姉様...あのね?」

「うん...なぁに?」

 

 

 

 

 私達の休憩は、まだ終わらない。




あの時のレミリアは最高に可愛いかったです
byエレナ


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第二十五話 話

前回のあらすじ。
レミリア、癒される。


 Side: エレナ・スカーレット

『こぁ』が来てさらに色々あって時は流れて...流れて...何年経ったっけ?

 

「レミリアー、今私何歳だっけ?」

「...逆に聞くけど、私の年齢は?」

「490歳...あ」

 

 ...だそうです。

 あ、それでね。なんかレミリアが紅魔館メンバーの皆に話があるらしいのよ。なんだろうねぇ...最近はここにやってくる人とかいなくてさ。美鈴さんも暇そうにしてるのよね。

 レミリアは書類仕事が最近減ってきたみたいでフランと遊ぶ時間が増えてた。あそこは癒しよホントに。だって愛しの妹達が仲良く微笑ましく遊んでるんだよ?楽園だよあそこは。遊びの内容が戦闘ごっこじゃなきゃね。

 まぁ、要するに皆が少しずつ暇になってきたの。それは私も例外じゃなくて...その時間は大体今まであんまり出来てなかった魔法の研究に費やしてるのね。お陰で新たな魔法、『転移魔法』が完成したわけですよ!

 この魔法はね!ありとあらゆる物質を特定の場所へワープさせれる魔法なの!あ、これは生物も含むよ!

 今はまだ小規模のワープしか行ってないけど...いつかこれが使える日が来るといいなぁ...

 って、話が逸れたね。話かぁ...なんだろうな。そういえば最近私の力があんまり出せなくなったけど...それについてだったりするかな?いや、これは私自信の問題だろうしそれは無いか。

 

「話ってなぁに?レミリアお姉様ー」

「まぁまぁ落ち着きなさいフラン。後で『遊んで』あげるから」

「え!?分かった!落ち着く!!」

 

 ...いつから戦闘狂になったんだフランは。レミリアは...元からこうだった気がしなくもないかもしれない。

 

「オホンッ、話というのは他でもないわ...私達の力についてよ」

 

 ...まさかの予想的中だと...って、私達?

 

「皆も変な風に感じてたの?」

「お姉様もなのね...そうよ。これには原因があるの」

 

 原因...ねぇ。なんだろ一体。

 

「私達吸血鬼や魔女は...どうやら人間に忘れ去られることで力が弱まるらしいの。このままなら、私達は完全に消え去ってしまうわ。現に私はその運命を『視た』もの」

 

 ...マジか。こんなことってあるんだなぁ...

 皆はざわついているけど私は変に落ち着いてた。だって...今これを話してるレミリアが全く狼狽えてる様子がないから。

 

「何かあるんだね?」

「...察しがいいわねお姉様。そうよ、一応対策はある」

 

 レミリアはパチェの方を見る。パチェはそれに頷き、とある本を開いた。

 ...初めて見る本だなぁ...ってことは私も完全には図書館の本を読み尽くしてないってことか。

 

「ここには、妖怪と人間が共存出来るとされる楽園...『幻想郷』について書かれてあるのよ」

 

『幻想郷』...ね。うん、人と妖怪が共存するなんてまるで幻想だ。名前の通りだね。

 

「そこに行くってことなの?」

「そう...そして、紅魔館はここに攻め入ることになったわ」

 

 ...え?うーんイマイチ理解出来ないかも。

 

「私としては乗り気じゃなかったんだけど...他の一族が、今世界に現存してる吸血鬼全てを集めて準備を整えてるらしいの。それに誘われたって感じなのよ」

 

 ...馬鹿なのかな?勝てるわけないじゃん...

 だって『幻想郷』を作った...いわば世界を作った相手と戦うんだよ?しかも『幻想郷』には絶対他の妖怪とかいるだろうしさ...

 なーんでそんな馬鹿なこと思い付いちゃったかなぁ...

 私としては戦いの結果はもう見えてるし...戦いたくないけど、『幻想郷』には行かなきゃならない...それなら、今私に出来ることは...

 

「各自それに対する準備をしてほしいの。期限は一ヶ月後。それまでにね...じゃ、とりあえず解散」

 

 解散になったし...うん、行こうか。

 早速『転移魔法』が役立つとはね...うん、行こうか。『幻想郷』に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─同時刻 八雲邸

 

「紫様、妖怪と思われる謎の者が幻想郷に侵入致しました」

「あら、いつものことじゃない...わざわざ報告してきたってことは、何かあるの?」

 

 紫、と呼ばれた人物は面倒くさそうにあくびをしながら、従者の妖怪、藍の話を聞いていた。

 どうせ大したことはないだろう...と、どこかでそう思っていた。

 

「紫様に会いたがっているのです」

「...私に?」

 

 ...少し、ほんの少しだが興味が出てきた。

 幻想入りしてすぐ私に会いたいだなんて...可笑しな妖怪もいるものね。

 

「まぁ、正確には幻想郷の管理者、なんですが...話がしたいそうなので」

「ふぅん...いいわ。ここへ連れてきなさい」

 

 これは単なるきまぐれ。単なる暇潰し。たまたま興味が湧いただけ。

 だけど...こんなに楽しみなのは何故でしょうね?

 フフッ、今日はいつもより楽しい一日になりそうね。

 

 紫は藍によって出されたお茶を飲む。

──たまには紅茶なんてものも飲んでみたいわね。

 そう感じながら。




急展開はお馴染みです。
気にしたら負けなのです。


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第二十六話 余興

キャラ崩壊注意です。。。


 Side: 八雲 紫

 藍が例の者を連れてきたらしい。相変わらず仕事が早いわね...例の者を報告してきたのって5分前よ?拉致してきたの?ってくらいね。

 まぁ、それはいいわ。

 

「じゃあ、ここに連れてきて貰える?」

「分かりました」

 

 ...どんなやつなのかしら。藍の態度から察するに、そこまで強くない妖怪のはずね。なのにここまで期待してる私って...

 なんて考えを駆け巡らせてるところに、藍達であろう足跡が聞こえてきた。

 

「入れ。紫様をあまり待たせるな」

「...お邪魔します」

 

 入ってきたのは...一人の少女だった。

 その子供の特徴を挙げるなら、やはりその瞳。

 透き通った、まるで雲一つかかっていない青空のような色。

 見る人を夢中してしまうかのような、吸い込んでしまうかのような鮮やかさ。そして、そこに極わずか孕んでいるであろう狂気。

 私はそれに対して思わず呟いてしまった。

 

 

 

「綺麗...」

「...あの、紫さん?そんなに見つめられると...」

 

 

 

 ...いけないわね。ついついじっくり見てしまっていたわ。

 それにしても...なかなか可愛いわねこの子。さっきのことで顔が赤くなってるし...これが俗に言う『萌え』というやつだったりするのかしら?

 

「すみません...お話、いいでしょうか」

「え?えぇ、いいですわ。私に話があるそうね?」

「はい。貴女が幻想郷の管理者だとお見受けして」

 

 少女は何故か呼吸を一旦おいて続ける。

 

「私の名前はエレナ・スカーレット。外の世界から来ました」

 

 ...『エレナ・スカーレット』?確かどこかで...

 

「種族は吸血鬼なのですが...そろそろ外の世界で生き続けるのが厳しくなりまして、ここに引っ越させて欲しいとお願いをしに来ました」

「そう...それは別に構わないわ。幻想郷は全てを受け入れるもの」

「ありがとうございます。そして、ここからが本題なのですが...」

 

 ...本題?

 

「はい、それは──」

 

 

 

 

 

「──大体一ヶ月後に、同族がここを侵略しようとやってきます」

 

 

 

 

 

 ...そこまで驚くことじゃなかったわね。というか...なんでこの子は同じ吸血鬼なのに同族を売るような真似をしたのかしら?

 

「実はそれに私も...というより、私の家族も参戦するのです。ですが、私を含め家族はこれにはあまり乗り気ではありません。ですから...私達の家族、スカーレット家には手を加えないでほしいのです」

 

 なるほどねぇ...仲間よりも家族を守るか。面白いじゃない。

 

「それ、私にメリットはあるの?」

「...何がお望みでしょうか?」

 

 あら、何か提案してくるかと思ったけれど...何もないのかしら。

 そうねぇ...

 

「...私の友人になってくれる?」

「...へ?」

 

 少女は心底驚いたような顔をする。そりゃ当然よねぇ...

 というより、藍もかなり驚いてるし。

 でも...もっとこの瞳が見ていたい。

 もっとこの少女の表情が見ていたい。

 もっとこの狂気を見ていたい。

 

 この少女は例えるなら小動物。

 この感情は...やはり『萌え』なのかしらね。

 

「私に対しては敬語は使わなくてもいいわ。そのほうが貴女らしい気がする」

「...分かったよ。紫さん」

「...やっぱり、貴女らしい」

 

 

 

 

 

 どうやら話が終わったようで、少女は帰っていった。

 一ヶ月後。それがあの子と再会出来る日なのね...襲撃があるはずなのにこんなに心が踊るなんて...どうしたのかしらね、私は。

 

「...紫様、どういうことですか?名の知れない妖怪なんかと友好を結ぶなんて...」

 

 藍の疑問は最もだ。だけど、それに対して答えるならば、

 

「そうねぇ...魔が差した、のかもね」

 

 これしかない。

 

 一ヶ月後...待ち遠しいわぁ...




イラストを頂きましたので紹介させていただきます!


【挿絵表示】

平熱クラブさんより


【挿絵表示】

rick@吸血鬼好きさん

この場で改めて御礼を申し上げます。

本当にありがとうございます!!!


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第二十七話 突入

いつの間にか評価に色が...皆さんありがとうございます!


 Side: エレナ・スカーレット

 なーんか胡散臭そうな妖怪の紫さんとの交渉から一ヶ月後。つまり、決戦の日だ。

 一応紫さんには頼んだは頼んだけど...こっちでも対策はしてる...ねぇ、ホントに友人になるだけで協力して貰えると思う?でも信じるしかないし信じるんだけどさ。

 まず始めに、超強力な保護魔法を紅魔館と紅魔館メンバー全員にやった。フランが生まれる時にやったやつね。生まれたてとはいえ『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』が防げたから...大丈夫だよ、きっとね。

 次に、紅魔館の移転先の設定だね。紫さんとの交渉の時にかるーくだけど幻想郷を見回ったの。その時にいい場所を見つけてね。そこなら敵に攻められにくいかなーって。まぁ皆には幻想郷行ったことなんて話してないからこっそり設定してるんだけどね。私が紅魔館の転移魔法の大部分を担当してるのが幸いかなぁ...

 あ、幻想郷に行く方法は『紅魔館ごと幻想郷にお引っ越し』をする。さっきも言ったけど転移魔法を使うからね。

 

 とまぁ私がやったのは主にこんな感じ。

 あ、折角の初幻想郷デビュー戦だし目立った服装で行こうかなぁ。どうしよう...レミリアとフランの服装に被らないようにしなきゃね...あ、これいいかも。

 薄い青を基調としたドレス...っぽいけどちゃんと戦闘にも応用できるっていう優れもの。帽子は...要らないかな。今日は外しておこう。

 幻術魔法...よし。身体強化魔法...よし。他も.........うん、大丈夫そうだね。

 え、お前誰と戦うつもりなのかって?やだなぁ...吸血鬼(どうぞく)だよ。ちょっと心苦しいけどね...これがレミリアやフランが安全に暮らせる最善の策。これでレミリアやフランに嫌われても構わないよ。それで二人が無事に過ごせるなら...ね。

 

 

 ......泣いてないからね?ホントだからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 Side: レミリア・スカーレット

 侵略の結果は視た。結果は...まぁ当然だったわ。これ以外あり得ないっていう感じ。

 だから私に出来ることは...お姉様からお願いされた事をやるだけ。下手に動かない方がいいわ。

 お姉様からお願いされたこと...それは、『当主として紅魔館を守るのに徹して欲しい』とのこと。つまりは幻想郷の外に行くなってことね。当然反対したわ。更に深く見れば...お姉様だけ外に戦いに行くってことだから。

 確かにお姉様は強い。制限付きの戦闘ならなんとか戦えるけど、小細工とかありの無制限戦闘ならまず勝てない。だけど...幻想郷にどんな妖怪がいるのかも分からないのに...そうだわ。

 さっさと紅魔館に来る妖怪を蹴散らしてお姉様の所に行けばいい。単純かつ明確...なかなかいい策ね。

 それなら総力戦ね。普段門番させてる美鈴も今日は館内に入れましょうか...

 えぇ、負ける運命は見えないわ。既に覚悟は出来た。

 

「お姉様、パチェ、準備は出来た?」

「いつでも」

「えぇ、行けるわ」

 

 よし...

 

「最終確認の点呼するわよ!お姉様!」

「いるよー!」

「フラン!」

「はーい!」

「パチェ!」

「いるわ」

「美鈴!」

「はい!」

「...妖精メイド達は確認済み、全員いるわね!」

 

 一旦深呼吸して......

 

 

 

「いざ、幻想郷へ!!」

「「「「おぉ!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何かおかしな点などありましたら教えて下さると助かります!



6月24日に日間95位になってました!皆さんありがとうございます!

少し経ったら59位に...ありがとうございます!


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第二章 幻想郷入り後
第二十八話 殲滅


東方要素皆無...そしてグロ?注意です


 Side: エレナ・スカーレット

 レミリアの合図から数秒、私達は...幻想郷にいた。窓を見つめればそこは私が指定した場所そのものだった。しかも外は夜。完全に吸血鬼の時間だ。良かった...成功したんだね。

 

「レミリアは総員の点呼を。そして...紅魔館を頼むね」

「えぇ、お姉様...無事に帰ってきてね?」

「当然!まだ死ねないよ...レミリアとフランの晴れ姿を見るまでね!」

 

 そんな事を言いながら私は紅魔館を出る。レミリアの顔が何故か赤くなってたけど...なんでだろうね?まぁ後で聞こうかな。

 って、美鈴さんもう門の前に立ってる...うん、今日は美鈴さんには頑張ってもらわないとね。

 

「あ、エレナお嬢...いえ師匠。行くのですね」

「うん...じゃあ、紅魔館の門を宜しくね『美鈴』!」

「!...はい!お任せ下さい!」

 

 おぉう...めっちゃ張り切ってる。そんなに呼び捨てが嬉しかったのかな?

 美鈴と別れて私は幻術魔法を使って姿を消す。

 さて確認。私の敵は同族、現在進行形で幻想郷に攻め入ってる吸血鬼を葬ること。幻想郷の妖怪は...襲ってきたら撃退ってことで。姿消してるしバレないと思うけどねぇ...お、早速みっけ。

 

 

「皆の者!!行けぃ!!我ら吸血鬼の恐ろしさをこの幻想郷に知らしめるのだぁぁ!!」

「「「「「「おぉぉぉ!!!!」」」」」」

 

 

 あらぁ...大量に居るねぇ。さて、イチイバル出してっと...

 狙いはあそこのやつと周りのやつら。

 距離...大体100m~500m。

 矢は...グングニルを採用。本数は10本。よって総数100本だね。

 よし...

 

「やっ!!」

 

 私はイチイバルでグングニルを放つ。

 グングニルはそのまま音もなく向こうの吸血鬼達のほうへ飛んでいって......その心臓を貫いた。

 

「ガッ!!...これは、スカーレット嬢の!?」

「んーレミリアのせいにされるのは嫌だなぁ」

 

 私は幻術魔法を解いてその吸血鬼達の前に出る。罪を背負うのは私だけでいいからね。全ては紅魔館の皆のため。その為なら...私は死んでも構わない。まだ死ねないけどさ。

 

「貴様ッ!!裏切ったなぁぁ!!」

「裏切る?心外だなぁ...私は貴方達を味方なんて思ったことはないよ?私の味方は家族だけ」

 

 放っておいても死ぬかもだけど...この中に再生力に特化したやつがいれば厄介だしここで始末するか。

 ってわけでレーヴァテイン召喚。魔力込めて込めて込めまくって...大体剣先の長さが100mぐらいになった。つまり一振りでこいつらを凪ぎ払える訳ね。

 これから自分達がやられることを察したのかあの吸血鬼達が青ざめていく。

 

「ま、待てっ!何故だ!何故裏切った!!」

「だから裏切ってないってば...それに教える義理はないよ」

「や、やめろぉぉぉぉ!!!!」

 

 私はレーヴァテインを思いっきり振って吸血鬼達を凪ぎ払った。『ずちゃ』って音と共に吸血鬼達の血が辺りにばらまかれる。そういえば...私最近血飲んでないな、吸血鬼なのに。もしかしたら食事の中に入ってるかもしれないけど...って、そんなことは後で考えるとして...さっさと別の吸血鬼をやっつけないと。

 

「お、おいどうした!!」

 

 あら、さっきの叫び声に別の吸血鬼が駆けつけたみたい。これは都合がいいね。

 やって来た吸血鬼は私を見るなり攻撃を仕掛けてきた。

 

「同胞の敵...とらせてもらうぞ!」

「そっちから来てもらえるなんてね...ありがたいなぁ」

「ほざけ!!」

 

 相手の武器は槍。グングニルとはまた違って禍々しい武器だね。怖い怖い。

 とりあえず私はレーヴァテインを使って応戦中。

 

 ...この人なかなかやるなぁ。レミリアレベル...まではないけど割と強い。

 

「フッ...貰った!!」

「っ!しまっ...」

 

 何が起きたのか。私は一瞬理解出来なかった。急に私の目線があの吸血鬼じゃなくて空を向いてたんだから。

 ...あ、なるほどね。多分能力かな...

 吸血鬼のほうに目線を動かすと槍で私を貫こうとしてる。

 

「これで終わりだ!!」

 

 槍はそのまま私の心臓に刺さる─────わけないよね。

 私は自分を霧に変化させる。そして吸血鬼と距離を取ってから再び体を構成した。

 

「なっ!...どういうことだ!!何故そこにいる!!」

「さぁ...何で教える必要があるの?」

「チッ...なら死ぬまでやるだけだ」

「おぉ、怖い怖い」

 

 こっちも急いでるんでね...早く葬るか。

 私はレーヴァテインを消して両手をパッと広げる。そしてパンッと手を合わせる。

 

「『再現』」

 

 これから出すのは私の新技。あの戦の後に身につけたもとはお父様の技。執務室に置いてあったノートを元に編み出したあの技。

 私の合わせた手が黒く発光する。

 

 

 

 

「吸命『ウロボロス』!!!」

 

 

 

 

 合わせた手を思い切り広げる。そこからは大量のおぞましい蝙蝠が出現した。

 ただ、この技は完全じゃない。完全にするためには後10分程度妖力を貯めなきゃいけない。

 ならどうして奥義として成立させてるのか?

 ...答えは簡単。幻術魔法で補っているのさ。

 

「こ、この技はヴラドさんの!!貴様何者だぁぁ!!!」

 

 勿論普通に幻術じゃないものもあるよ?だけど4割は幻術で出来た蝙蝠。よってお父様が使ってたときよりも絶対強くない。

 だけど向こうはそんな事情は知らない。これを完全な奥義だと思ってる。

 だから相手は死ぬ。自分の思い込みによってね。

 

「私はエレナ・スカーレット...って聞こえてないか」

「がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 そのまま相手の吸血鬼は消滅した。

 ふう...この辺りは大体片付けたかな...さて、別の場所に赴くかねぇ。

 

 ──殺気!!

 私はとっさに殺気のした方向にグングニルを投げつける。

 そのグングニルはある木に刺さる。その木の後ろから出てきたのは──

 

 

「よう嬢ちゃん...久々だな」

「リ、リーダー...?」

 

 

 ──私の最初の戦の時に私に優しくしてくれた吸血鬼の『カレス』こと、リーダーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚いたぜ...あの嬢ちゃんがこんなことやってるとかさ」

「そうかな?どうしようが私の勝手でしょ?」

「カッカッカ!!お前さんの選んだ道に口を出すつもりはねぇよ...ただ、聞きてぇのさ」

 

 リーダーの雰囲気がガラッと代わり、本気の目付きで私を睨み付ける。

 

「何でこんなことしてんだ?」

「答える義理はない。だって貴方には関係ないから」

「連れねぇなぁ...これはただの興味さ。別に聞いてからどうしようってわけじゃあねぇ」

 

 ...らちが明かないね。これなら話してもいいかな...どうせ殺すし。

 

「家族のため。この幻想郷で暮らすための」

「ほう...なら尚更幻想郷を侵略したほうが楽じゃないか?」

「幻想郷を侵略ってことは幻想郷を創った相手と戦うんだよ?勝てるわけないじゃん」

「カッカ!確かになぁ」

 

 リーダーのあの雰囲気は消え、親しみやすいものへとなった。

 

「家族のため...か。おもしれぇ。それに協力するのもまた一興だ...」

「え?」

「だが、俺はそれよりも...強くなった嬢ちゃんが見てぇ。あのへなちょこだった嬢ちゃんと戦りあいてぇ!!」

 

 さらに雰囲気が変わる。これは...レミリアとフランに似てるな。戦闘狂ってやつだ。怖いなぁ。

 

「さぁ嬢ちゃん!!俺を殺さねぇと先へは進めねぇぞ!!殺す気でかかってきやがれぇ!!」

「......やるしかない、か」

 

 私は右手にグングニル、左手にレーヴァテインを構える。近接ガチモードだ。

 

「いくぜぇぇ!!!」

 

 戦いの火蓋が切って落とされた。



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第二十九話 取引

文才を下さい


 Side: エレナ・スカーレット

「なんだよ...結構やるじゃねぇか...」

「ハァ...ハァ...」

 

 私対リーダー。勝者は...私だ。

 いやまぁ苦戦はしたけどね。疲れた...他の吸血鬼とくらべもんにならないね。

 今、リーダーの心臓には私のグングニルが刺さってるからいずれ死んじゃうだろうね...これでいいんだよ。

 

「ハハッ...大口叩いてこの様だ...ま、元より勝つつもりなんてなかったがな」

「...へ?」

「ただ嬢ちゃんと戦りあいたかった...それだけさ」

 

 その瞬間、リーダーの体が消滅し始める。

 

「それより...嬢ちゃん、お前さんの館は大丈夫かい?」

「...どういうこと?」

「お前さんの反抗がバレたってことさ。今紅魔館には大量の吸血鬼が押し寄せているだろうよ...」

「!!」

 

 ...それはまずい!急いで戻らないと...!!

 私は紅魔館の方へ全速力で飛ぶ。お願い...間に合って!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side: レミリア・スカーレット

「ねぇ、レミリアお姉様。なんで私達と同じ吸血鬼がここに攻めてきてるの?」

「...分からないわ。でも私達のやることは紅魔館を守ることよ。例え相手が同じ吸血鬼であっても...ね」

 

 そう、私達は今現在は何故かここに攻めてきた吸血鬼達を相手にしてる。

 最初こそは幻想郷にいたであろう弱小妖怪ばっかり相手にしてたけれど、だんだんそれが吸血鬼に変わっていったのよね...しかも全員怒り狂ってたし。まぁ私達の敵じゃないんだけれど。

 

「あーもう、返り血で服が汚れちゃう!折角張り切るためにお気に入りの服着てきたのに!!」

「我慢しなさいフラン...というか、戦うことを知ってたなら汚れてもいい服を着なさいよ」

「だってぇ...」

「はぁ...全くフランったら」

 

 こんな穏やかや会話をしてるものの、状況は全然穏やかじゃない。むしろ会話をしながらやって来た吸血鬼を蹂躙してるって感じね...お父様様々だわ。フランも最近私と『ごっこ』をしてるからある程度戦闘能力向上してるし、上々ね。

 

「ハッ!油断大敵だぜぇ!?裏切り者よぉ!!」

「!?」

 

 気付けば私の真後ろから急速接近してくる吸血鬼がいた。まずいっ...いきなりじゃ避けれない!

 と、その瞬間......その吸血鬼をどこからか来た炎が焼きつくした。あの炎は...

 

「貴方もね...」

「パチェ!」

 

 流石私の親友ね。信じてたわ。

 

「それにしてもレミィ、裏切り者ってどういう意味なの?」

「私に聞かないでよ。こっちが聞きたいわ」

 

 確かにこれには乗り気じゃなかったし、だから積極的に幻想郷に攻めずここだけを守るようにしてたけれど...それだけでここまでやられるかしら?

 

 

「その答えは私が知っていますわ」

 

 

 ...何者?全く気配を感じなかったわ。しかもこいつ...強い...

 

「あら、お客さんかしら?ご用は何?」

 

 隙を見せずに、そして態度はへりくだることなく余裕そうに振る舞う。少しでもそんな態度は見せてはならない...そう感じていた。

 

「...エレナよりも少し背は小さいのね」

「!?」

 

 ...え、なんでエレナお姉様のことを...まさか!!

 

「貴様!!エレナお姉様に何を!!」

「何もしてないわ...ただの友人よ」

 

 ...嘘だと思いたいわね...こんな胡散臭そうな妖怪とエレナお姉様が友人?ちょっとエレナお姉様のセンスを疑ってしまうわ。

 

「まぁいいでしょう...今回は取引に来ました」

「...取引?」

「えぇ」

 

 そう言いながら扇子で顔を隠しながらニヤつく妖怪。全く...何者なのよ?

 

「申し遅れましたわ...私の名は『八雲紫』。この幻想郷の管理者ですわ」

 

 !管理者...なるほど納得だわ。これほどの強さを持ってるならね。

 

「私はこの紅魔館の当主の『レミリア・スカーレット』。それで...取引って?」

「...まず、そちらがわの利点としては...ここ、幻想郷への移住を認めましょう」

「!!...いいのかしら?私達吸血鬼は幻想郷を侵略しに来たのよ?」

「それが約束ですから構いませんわ。それに、幻想郷は全てを受け入れるもの」

 

 約束?もしかしてエレナお姉様との?...ますます読めなくなったわ。

 

「エレナは一ヶ月前、私に話を持ち掛けて来ました」

「!!」

 

 そこから私は...いえ、私達は全てを聞いた。エレナお姉様が最初から移住目的でいたこと。そのために吸血鬼側を裏切って八雲側についていたこと。そして現在、エレナお姉様は幻想郷中の吸血鬼を駆逐していること......

 

「これが真相よ。さて...どう感じたかしら?」

 

 恐らく八雲紫は失望したとでも思っているんだろう...だけど。

 

「んー...つまりエレナお姉様は私達のために頑張ってくれてたんだよね?帰ってきたらお礼言わなきゃ!!」

 

 ...フランに先に言われてしまったわね。同意見よ。

 

「エレナは頑張り過ぎよ...暫く休ませなきゃね」

 

 確かに...そろそろお姉様は休んでもいいわね。

 

「...他の吸血鬼達が少し可哀想ですね...」

 

 美鈴の着眼点は少し可笑しい気がするかもだけれど...まぁ確かにね。

 あら、八雲紫が少し驚いてるように見えるわね...少し面白いかも。

 

「それで、私達に何を求めるのかしら?」

「......そうですわね...一つ貸し、でよろしいかしら?」

「それでいいのかしら?それならそれでお願いするわ...あ、食糧についてなのだけれど──」

 

 こんな感じで色々これからについて話し合っていると...バンッ!!と音とともに勢いよく玄関の扉が開かれた。

 

 

 

「レミリア!!フラン!!皆!!大丈夫!!??」

 

 

 

 完全に息が切れてるお姉様が慌てた顔つきで現れた。その目は...あれ、光が無い?しかも濁ってる...?更に赤色?...もしかして...

 お姉様は私達の方を見るなり安堵したかと思えば...急に殺意丸出しになった。

 え、どういうこと?と思ったけどすぐに分かった。

 沢山の吸血鬼との戦闘で私達はかなり返り血を浴びている。その疲れもあって少しだけ、まぁ今のお姉様よりは無いけど息が切れてる。そして無傷の八雲紫...これは...

 

「...紫さン?うちの家族にナにしてルのデスか?」

「エ、エレナ?これは違うのよ?これは......」

「えぇ分かッテマスよ...はい。お前ダロ?」

 

 駄目だわこれ。完全に正気を失ってる...不味いわね。このままにしておくのはいけない。

 

「...エレナお嬢様?どうされたのです?」

「美鈴!!今のお姉様に近付いては駄目!!」

 

 そういえば美鈴とフランは事情を詳しく知らなかったわね!後で説明しないと...!

 

「レミリア・スカーレット!どういうことなのあれ!!」

「説明は後!今は...お姉様を気絶させないと!!」

 

 私とパチェは戦闘体制に入っている。フランも事情は知らないはずだけど本能なのか戦闘体制に入ってるわね。いい子だわ。

 さて...待っててね!お姉様!!



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第三十話 終決

疑問点に突っ込んではいけません...イイネ?


 刹那──エレナの両手にレーヴァテインが召喚される。それに大量の魔力が込められ......もはや二本の剣、というよりは二本の長い棒と呼べるレベルになっていた。

 

「...キエロ」

 

 そう呟いた無表情のエレナが紫のほうへ駆ける。しかも魔法を一切使用せずただひたすら走った。

 ...ここでエレナ以外の全ての者は違和感を感じる。

 

 

 ──何故駆けた?他にもっと速くいける手段はあるはずなのに。駆けるにしても何かもっとあるであろうに。

 

 

 戸惑いはしてるが、エレナの一番近くにいたフランがすぐ正気に戻り、エレナの進行を阻止しようとレーヴァテインを召喚して向かう。

 

 

「エレナお姉様!!」

 

 

 双方の剣が混じりあう───しかし、剣の数にしても1対2。さらに込められてる魔力量の違いも生じてフランのレーヴァテインは折れてしまった。

 エレナは無表情のままフランを一瞬見つめ、思い切り蹴飛ばした。

 

「がっ!!...う...」

 

 フランはそのまま倒れてしまった。無表情のままエレナはフランから視線を外す......その時、持っていた二本のレーヴァテインが消滅してしまった。それは誰が見ても自分から消した訳ではないのは明らか。どう見てもさっきの衝突が原因と思えるものであった。

 

「フラン!!」 

 

 とっさにレミリアは叫ぶ...その時、ある疑問が頭を支配した。

 

「(...おかしい...いつもならお姉様のレーヴァテインはあんなに脆くはないはず...まるで、自分の力を上手く操れてないような...見た目フランも致命傷は負ってないようだし...)」

 

 エレナをじっと見据えてレミリアは考える。

 

「(体の動かし方もぎこちない...もしあれが『狂気』なら封印されたから完全じゃないって説明はつく。だけど封印されたはずだ。何故発現した?)」

 

 考え続けていると、ふいにレミリアの肩がポンッと叩かれた。

 

「落ち着きなさいレミィ。あれがなんでまた発現したのかは定かじゃない...けど、やることは一つよ。エレナを落ち着かせるの」

「...そうねパチェ。八雲紫、手伝いなさい」

「.........これはあなた方の問題。私が干渉することではありませんわ。それに他の吸血鬼を始末しなければならないので...では、ここで。お話はまた今度ゆっくりお聞きしますわ」

 

 紫はそう言って自身のスキマに入っていった。

 それを見たレミリアは舌打ちをする...が、すぐにエレナの方に集中した。

 紫が消えたのにも関わらずエレナの収まる気配はない。

 だが、十分に勝機はある。今のエレナは動きがぎこちなく、魔法も満足には使えてない。さらに理性がほぼないときた。

 レミリアは皆の方を向く。

 

「パチェ、こぁはお姉様を拘束する準備を」

「分かってる」

「了解です!」

「美鈴はフランを別の場所に移して治療してあげて」

「分かりました!」

 

 フーッと息を吐いて、グングニルを召喚し、エレナ...いや、『狂気』の方を向く。

 

「さて...何年ぶりかしらね、『狂気』との戦闘なんて」

 

 槍が膨大な魔力を帯びてゆく。それはかつて、レミリアに対してエレナが見せた魔力を込めたグングニルよりも遥かに強いものだった。

 

「さあ...始めましょう!!」

 

 今、双方の力がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずはレミリア。慣れた手付きでグングニルを操り槍先を『狂気』に刺そうとする。これだけを見ると、ただレミリアがエレナを殺そうとしてるように見えるかもしれない...だが、相手は一度レミリアを圧倒した『狂気』。全力でやらなければ殺られる。レミリアはよくそれを理解していたのだ。

『狂気』はそれを簡単にはね除け、拳を作りレミリアの脇腹に殴りかかった。それには少しではあるが魔力が込められてるのが分かる。大方、『身体強化魔法』の一部であろう。

 レミリアはそれをギリギリで交わしつつ、『狂気』から距離を取る。ここまでは互角...いや、若干まだレミリアが優勢かもしれない。そう、まだ(・・)

 

「(『身体強化魔法』が少し発動してた...なら、『狂気』は少しずつではあるけどエレナお姉様に慣れ始めてる...封印も少しずつ解けてる...?)」

 

 気がかりな事はずっと無表情であることだ。以前レミリアと戦闘をした『狂気』はとにかく戦闘狂であった。戦いを楽しんでいた。

 今回は...?まるで作業のように振る舞ってる。封印によってその部分が抑制されてるのか?だが...

 

「っと、そんなことを考える余裕はなさそう...ねっ!!」

 

『狂気』からのイチイバルの矢を飛びながら避ける。それにレミリアは怒りを感じていた。

 なんに対して?...『狂気』がエレナの体を使ってるから?それもあるだろう。だが、主なのはこれだった。

 

「『狂気』の分際でぇ......お姉様の武器を扱うなぁ!!!」

 

 レミリアがグングニルを逆手に持ち、投げの構えを取る。

 

 

 

「神槍『スピア・ザ・グングニル』!!!」

 

 

 

 グングニルは『狂気』の方へ向けて投げられる。その際、グングニルの後ろから段幕も同時に出ており、勢いでさらに加速している。しかも、狙った相手は刺すまで追う伝説のあるあのグングニルだ。その様子はまるで流れ星。

 正直、レミリアは避けられることを想定としていた。それか何かしら対処をしてくるだろうとも。

 だからこそ予想等出来はしなかった。

 

 

 ────『狂気』であるはずのエレナの体がグングニルの射線上に動いたなんて。

 それは体を大の字にしてグングニルに刺されるのを待ってるかのよう。

 

「どういうこと...っ!?」

 

 そしてレミリアは気付く。その瞳が────青くなってたのを。

 

 

 グシュッ!!!

 

 

 その音と共にエレナは貫かれる。幸い、心臓でなく腹であった...が、致命傷には違いない。そのままエレナは落下した。さっきの無表情とは打って代わり笑顔で。

 

「お姉様!!!!」

 

 グングニルはレミリアの手に戻る...が、レミリアはすぐそれを消し、エレナの方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、紅魔館が幻想郷に入って初めての異変───『吸血鬼異変』が終了したのだった。




いつの間にかUAが10000越えてる...越えてる!?
いつもありがとうございます!!


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第三十一話 歓迎

内容薄...しかもアレだし...


 Side:エレナ・スカーレット

 「いやそれイチイバルじゃなくてステーキだからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!............って、あれ?」

 

 どうも、エレナ・スカーレットです。なんか物凄い夢を見てたみたいで...自分でも良く分かんない叫びと共に起き上がってしまった...何やってんだ私。

 ふと周りを見渡すとそこは図書館のベッドの上。図書館にベッドなんてあったっけ?まぁいいや。

 

「お、お姉様...?」

「あ、レミリアじゃん。おっはー!」

「お姉様ぁ!!!」

「ゴフッ!!」

 

 い、妹よ...起きたばっかで腹に猛烈タックルするのは止めてくれ...死なないけど死んじゃうから...嬉しさで。

 あーヤバい。このレミリア抱き締めたい。でもね、ここは我慢するの。お姉様良い子だからね。

 

「よかった...このままお姉様が目覚めないんじゃないかって...!!」

「もー大袈裟だよ?そんなわけないじゃん!」

「だって...一ヶ月(・・・)も目覚めなかったんだもん!!」

 

 レミリア、『だもん』は反則。私尊さで死んじゃう。

 って、は?待って待って。私一ヶ月も寝てたの?...ハハ、レミリアってば、冗談が上手いなぁ。

 

「嘘じゃないわ!ホントよ!」

 

 え、ガチトーン...マジ?これマジ?えー...状況説明プリーズ。

 

「レミィの言ってることは本当よ...全く、心配かけさせるんじゃないわよ...」

「あー...うん、ごめんなさい...?」

「あまりに起きないから魔法でなんとかしようとしたときにあなたは起きたのよ...でも、本当によかった...」

 

 ...あれ?パッチェさんデレてる?デレ期到来?うわぉ貴重だぁこれ。でもレミリアとフラン(我が尊き最高の妹達)には敵わないけどね。あれ、そういやフランはどうしたんだろ?

 

「エレナお姉様が起きたってホントぉ!??」

 

 お、噂をすればなんとやらってか。珍しく息を切らしてるね...全力で来たのかな?

 

「フランおっはー!」

「エレナお姉様ぁぁぁ!!!!」

「ごふぉぁぁぁ!!!」

 

 に、二度目は聞いてない...死ぬとこだった...今回は肉体的に。だから初手激突はやめろとあれほど...あれ、言ってなかったっけ?まぁよし。

 

「あー...パチェ?私が寝てた間何があったか教えてくれる?」

「...えぇ、良いわ。それはあの時まで遡るわね────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────というわけよ...エレナ?凄く真剣な顔をして...どうしたの?」

「あぁうん!大丈夫!...大丈夫...だから」

「...そう?なら聞かないわ」

 

 ...『狂気』がまた目覚めた?あの時完全に封印したはず...あり得ない。どうして...これはもう一度調べ直すべきかな?今の私の仮説が正しかったら...まぁ、そんときはそんときさ。

 まぁいい、とりあえず私はこの二人から癒しを貰おう。何故か私に抱きついてるから頭なでなでしてみよっと。

 

「...ふぅ...フフッ」

「...えへへ」

 

 あ、ヤバいこれ。癒しの限度越えて尊死しちゃうわ。でも止めれない...好き。

 

「あ、そうだ。レミリア、仕事とかはいいの?」

「それは大丈夫よ!幻想郷に来てから食事とかは八雲紫がやってくれるっていうし...まぁ、下手に動くな、とも言われてるし...」

「まぁそりゃあねぇ...」

 

 つまり私達は現在、謹慎状態ってわけか。まぁいいけどね。要は下手な事しなきゃいいんでしょ?

 

「んじゃ、私はちょっと散歩に行ってくるね。一ヶ月も寝てたら体も鈍ってるだろうし」

「あ、だったら私も...」

「出来れば一人で行かせて貰えないかな?お願い!」

「...仕方ないわね」

「帰ってきたらいっぱい遊んでね!」

 

 当たり前なんだよなぁ...フランと遊ばないお姉様はお姉様じゃねぇ!

 

「...んじゃ、そゆことでー!」

 

 私は幻術魔法を駆使して姿を消して紅魔館を出る。なんか久々にこの魔法使った気がする...ま、いっか。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「さて...紫さん?いるんでしょ?」

「...驚きましたわ、私に気付くなんて...気配は消してたはずですよ?」

「感覚だね。なんとなく紫さんの気配がしたから」

「流石エレナ...」

 

 私が何も無いところに声をかけると紫さんが出てきた。紫さんは驚いてたけど...多分レミリアとかは気付いてたと思う。

 てかじっと見つめるの止めてほしいな。恥ずかしいから...

 

「...その目よ。その目だからこそ私は...」

「?」

「...なんでもないわ。それとあの時、何も出来なくてごめんなさいね」

「あ、大丈夫!紫さんも忙しかったんでしょ?なら仕方ないよ!」

 

 私は精一杯の笑顔で紫さんに告げる。すぐ扇子で顔を隠したのは何でだろうね?一瞬赤くなってたの...それは気のせいか。

 

 

 

「...ともかく、歓迎するわエレナ・スカーレット。紅魔館の人達も、ね」

「うん、これからもよろしくね!」



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第三十二話 子供

八月になったので初投稿です。これからよろしくお願いします!


「エ、エレナお嬢様ァァ!!」

 

 

 幻想郷に来てから特にやることないし、図書館で本を読んでいたら...何故か慌てた美鈴が私のところに来た。出来れば声は落としてほしいかなー...

 てかなんで私のところに来たし。普通そんな慌てる事態が起きるんなら主であるレミリア案件でしょうに...

 

「...どしたの美鈴。そんなに慌ててさ」

「じ、つは...で、すね...」

「何で全力疾走してきたの...一応ここは図書館だからね。ほら、水飲んで」

「あ、りがとう...ございます」

 

 ...よかった。落ち着いたみたい...でも、美鈴をここまで慌てさせる事態ってなんだろ?

 

「実はですね...人間の子供が門の前に...」

「子供が?」

 

 なんでこんなところに...うーん、パチェが向こうにいるしあんまりうるさく出来ないしここに連れてこさせるのはねぇ...

 

「じゃあ、私の部屋に連れてきてくれない?」

「分かりました!」

 

 子供...ねぇ...しかも人間か。放っておくわけにもいかないし、ご飯でも食べさせて人里に帰そうかな。

 

 

 

 ◯ ◯ ◯ ◯

 

 

 

「エレナお嬢様!連れてきました!!」

「.........」

「お疲れ様美鈴。さ、入ってよ」

 

 入ってきた子供はレミリアくらいの背丈の女の子だった。子供ながらに髪の色素が消えて白銀になってる。服はそこらの布を被せただけみたいだった。

 ...自我がない?それとも警戒してるのかな?...目に光が灯ってない気がする...

 

「ねぇ、君の名前は何?何でここにきたの?」

「............」

 

 反応無しか...

 ? 何か術をかけられてるような...

 

「ちょっとごめんね」

 

 子供の頭に触れてみる...うん、やっぱりだ。何かの術がかけられてる。

 何の術だろう...分かんないや。

 

「そういえば...エレナお嬢様、今日は人間味が増しているような...」

「ん?あぁ、まぁね。この幻想郷の人里を見て回りたいから、人間に化ける術を試してみてたんだ。というより、殆ど幻術魔法の応用だけどね。今日1日やってどれだけやれるのか実験中なんだよ」

 

 だから今の私は羽もなければ吸血鬼のオーラもない...だけど力は普通に使えるよ?当然さ。

 にしても...変な術式だなぁ。複数人でやったのか知らないけど割と複雑だぞこれ。人間やるなぁ。

 

「...とりあえず、レミリアのとこに行こう。ここの主はレミリアだ。判断はレミリアに聞こうよ」

「そうですね...君もそれでいいですか?」

「.........」

 

 反応無し...というより興味すら持ってない?

 なんだこれ...ま、とりあえずレミリアのところに連れていこうか。

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯

 

 

 

 

 

 

「レミリアー?今大丈夫ー?」

 

 

 

 

「返事、ありませんね...まだ寝ているんでしょうか?」

「え、今何時?」

「午前9時です」

 

 そんなに早い時間だったのか...あれ、何で私眠くないんだろ...人間化してるからかな?感性まで人間になるのか...これはいいデータ。

 

「じゃあ私、ちょっと起こしてくるね。その子見ててよ?」

「分かりました!...といっても、動きそうにないですけどね...」

 

 それは同感だな...ここに連れてくるときも自分からは動こうとはしないで美鈴に手を引っ張られて来てたもんね。

 洗脳...とはまた違う感じっぽいしなぁ。

 さて入るか。

 

「お邪魔するよ...」

 

 中は清潔な感じな部屋...私とは大違いだ。

 お、レミリア発見...あぁ、可愛い。天使。悪魔だけど天使。

 そういやレミリアの寝顔を見たのも久しぶりかぁ...起こしたくないなぁ。もうちょっと眺めてたいけど...ここは心を鬼にしてと。

 

「レミリア、起きて」

「...ウゥン」

 

 ──浄化される。この寝顔に私消されちゃう!!

 

「ね、起きてレミリア!」

 

 色んな意味で私ヤバいから!!

 

 

 

「...お姉様?」

「あ、起きた?」

「えへへ...お姉様だぁ...」

「え...あの...レミリア?」

「お姉様暖かい...」

「...もう死んでもいい」

 

 ──今どうなってるか?レミリアに無理矢理ベッドに引きずり込まれて抱き枕にされてるのさ!!この破壊力よ。これに対抗出来るのはもうフランしかいないね。

 ...もうちょっと堪能してたいけどここは起こさないと。

 

「レミリアー?起きてー?」

 

 レミリアのほっぺをぐにょーんって伸ばしたり縮めたりしてると...

 

「...え、お姉様?」

「あ、起きたね」

「...何でここに?」

「用事があってね。起こしに来た」

「...分かったわ。着替えるから外で待ってて頂戴。速く!出てって!」

「わ、わかったから。怒らないで...」

 

 レミリア怖い...まだ朝の時間帯に起こしに来たことを怒ってるのは分かるけどさ...私が悪いか。ごめんね。

 

 

 

 

「それで、お姉様...用事って?」

「あぁうん。あの子なんだけど────!?」

 

 

 その時、美鈴が見ていたはずのあの子は──

 

 

 

 

「吸血鬼...殺ス!!」

 

 

 

 

 ──どこからか銀のナイフを取り出し、レミリアに向かっていった。

 

「なっ、ちょ、何これお姉様!?」

「...わかんない...美鈴は?!」

「ここです...お嬢様方...」

 

 美鈴の腹部から血が出てるのが見えた。十中八九、あの子に刺されたんだろう。

 

「レミリア、ごめんけど交戦お願い。殺さないでね!」

「え!?わ、分かったわ!」

 

 その間に私は美鈴に駆け寄る。傷はそこまで深くないものだった。これなら私の魔法でどうにでもなるね...良かった。

 

「美鈴、大丈夫?」

「えぇ...一応妖怪ですから。しかし...レミリアお嬢様をいきなり見つめたかと思えばナイフで私を刺して向かって行きました...なんなんでしょうあの子供」

「うん...身体能力も人間にしては高い。ナイフの扱い方も上手だ...」

 

 レミリアと互角...というわけでは全然無いけど、あの子強い。レミリアはもっと強いけどね。

 寝起きでしかも不意討ちだからアドバンテージ取られてたけど取り返したみたいだ。

 レミリアの完全に手を抜いた攻撃が何度もあの子に炸裂する。なんだろう...違和感があるな。全然防御しようとしない...回避もだ。とにかく相手を殺そうとしてるみたい...まるでレミリアに恨みでもあるかのような感じ。

 でもそんな感情は伝わってこないな...おかしい。術式に仕掛けが...?

 

「これで...止めよ」

「ゴフッ!!...ウゥ」

 

 レミリアの拳がお腹にクリーンヒット。そのままあの子は倒れてしまった。

 

「はぁ...起きたらいきなり殺しに来られるなんてね...」

「お疲れ様レミリア。怪我はない?」

「ないわ。その子供の動きが単調過ぎて余裕だったわよ」

「それなら良かった」

 

 ...この子の術式気になるな...調べてみようかな。パチェと協力してね。

 

「ところで...用事ってその子供についてでしょう?...それは何なの一体」

「それはね──」

 

 私はレミリアに説明し始めた。美鈴から聞いた話も交えて。

 話の終了後...レミリアはニヤッと笑った。何か新しい玩具を見つけたかのように。

 

 

「この子供...面白いわね。お姉様、この子供を従者にしてみない?」



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