さとり×こころ×もどき (ヴィヴィオ)
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小学五年生に危険地帯でサバイバルとか何を考えているんでしょうか?

 

 

 

 

 ある世界のある大陸にある深い、深い森の中。そこには木々が生い茂り、太陽の光が微かに降り注ぐ、樹海と呼ぶにふさわしい場所。そんなところに場違いの一人の可愛らしい女の子が眠っていた。

彼女はやや癖のある薄紫の髪の毛をボブカットにしており、深紅の綺麗な瞳をしている。彼女の服装はフリルが多く施された可愛らしい水色の物を着ており、下は膝くらいまでのピンクのセミロングスカートを履いている。

頭の赤いヘアバンドには複数のコードで繋がれている第三の目(サードアイ)が胸元に浮いている。またハートのモチーフをした髪飾りを身につけ、背中には赤いランドセルを背負っていた。

 

「んん……まぶしい……」

 

彼女はゆっくりと起き上がると、周りを見渡して不思議そうにすると、次の瞬間――

 

「なんですかここぉっ! も、もしかして誘拐されたのですか!」

 

――叫び声を上げた。しかし、彼女の口から発せられたのは本来の声とは違い、もっと高い声だった。

 

「え? な、なんですか、この声は……それによく見ると周りの木も大きいし……ま、まさか……いや、そんなはずは……」

 

彼女は自らの身体を見下ろして、服装を確認してすぐに特徴的な第三の瞳と目があった。意識しだすと不思議と彼女の視界にはその目から見た視覚情報も伝わってくる。

 

「こ、これ、これは…どうみても第三の目(サードアイ)……それに服装から考えて古明地さとりじゃないですか……ランドセルを背負っているから、小5ロリの方ですか?」

 

彼女の身体の名前は古明地さとり。東方プロジェクトというシューティングゲームにでてくるキャラクターの名前である。

 

「なんでこんなことに……あれ、なにも思い出せないですね。というか、話し方も違ったはず……」

 

彼、彼女に自分がどんな人だったかを思い出せることはなく、ただ自分の身体が古明地さとりになっている事と、元が別の人間だったはずということだけがわかった。彼女はそのことに気が付くと頭を抱えて蹲って泣き出した。自分が本当は誰かもわからず、恐怖を抱いたのだ。しかし、そんな彼女を放っておくほどこの世界は、大陸は甘くなかった。

 

「っ!? な、なにこれ……頭の中に直接……食べる? 美味しそう? それにこれは殺意?」

 

彼女、さとりが心の声を聴いてそちらに振り返ると、そこには涎を垂らしながら近付いてくる生物……化け物がいた。その存在は二つの頭を持つ蛇の群れだった。その存在と見つめ合うこと数秒。蛇からもたらされるのは狂うかのような殺意の塊。彼女の身体は人ではなく妖怪のそれであるが、心は人のそれであるがために殺意に感染していく。いや、心を読む能力があるためにより酷いこととなった。

 

「いやぁあああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

心が壊れていく。同時にさとりの力が暴走してサードアイが力を放出される。それによって壊れたさとりの心が蛇自身にも跳ね返ってきたことにより、蛇もまた壊れて無秩序に蛇同士で殺し合いを始める。

さとりの叫び声を聞き、彼女を狙ってやってきた他の生物も同じだった。現れた生物は例外無く、殺意に飲まれて殺し合いを始める。その中心で倒れたさとりは普通ならこのまま死ぬのであろうが、周りの者達の恐怖や怯えなど負の感情が集まり、反射されることによってさとりに近付く事はできなかった。さとりという極上の獲物を抜け駆けして喰らおうとした奴等から集中的に狙われるのだ。

さとりを中心とした殺戮の嵐は生物の悲痛の叫び声はもちろんのこと、血の匂いはどんどん周りに充満していき、より広範囲から色々な生物を集めてくることになる。それによってまた負の感情がさとりに集まり、収束されて濃縮された後に放出される。これによって形成されるのは殺戮の坩堝と化し、高純度の負の感情が中心の存在であるさとりに収束されていく。

高純度に生成された殺意や憎悪の感情などが、心が壊れたさとりの中に入り込み、生きる為に原作通りの身体……妖怪として再構築されていく。

 

 

 

 

 

 

次に目覚めた時、彼女は人間から妖怪へと心の大部分が変化していた。しかし、完全に妖怪かといえばそうでもない。人間の部分もしっかりと残っている。それでも、頭を押さえながら地面から立ち上がったさとりが周りを見渡し、死骸だらけの中で血塗れになっているというのに――

 

「酷い目に遭いましたね……」

 

これだけで終わらせた。普通なら恐れおののき、泣き叫んでまた同じ事になるはずだった。だが、妖怪としての部分が多くなったことにより、殺戮に忌避の心はなくなっていて、むしろ喜びが湧き上がっていた。

 

(ああ、嫌悪するべきことだというのに、何故か心が軽くて気分がいいですね。もしかして、精神攻撃をされたせいで、さとり妖怪として覚醒したのでしょうか? まあ、そんなことよりも今は現状を確認する事の方が大事ですね。幸い、どうにかなったみたいですが、このままだと死ぬ確率はとても高い気がします……)

 

さとりは冷静に、自分がそう思っているだけで同様しながら、おっかなびっくり死骸になった蛇達を確認していく。

 

「双頭の蛇に精神攻撃が基本……どこかで見たことのある蛇な気がしますね。しかし、この頭は双頭バ……ごほん、ごほん。さとりちゃんは下ネタ禁止。ましてや小五ロリですからね、はい」

 

口に出して不安をやわらげながら蛇を置いて、周りを確認していく。何故なら、先程の蛇で気付いた事実を信じたくないからだ。もう一つぐらい証拠を見つけないと認めるつもりはないのだろう。認めれば最後、これから絶望が始まる。そう、人は信じたいものしか信じないのである。特に一般人から逸脱人に変化しつつあるさとりちゃんは信じないったら、信じない。

 

 

 

 

 

「これは……もしかして、あははは……そんなはずないですよね」

 

だが、世界は優しくない。彼女は近くを探索するとある植物をみつけてしまった。見つけた物はお米だ。だが、そのお米はお米でも普通のお米ではなく、ある作品にでてくる凄い作物だ。そのことによってさとりは両手を地面についてORZという体勢となり、涙を流す。彼女は、さとりはここが暗黒大陸だと証明してしまった。

 

「なんでハンターハンターなんですか……それもよりによって暗黒大陸なんですか! っ!?」

 

叫び声を上げた後、すぐに口を押さえて息を殺して周りを確認するが、何も起きない。さとりはほっと息を吐いてから周りを警戒しつつ考える。ハンターハンターの世界、とりわけ暗黒大陸は危険がいっぱいなのだ。ちょっとしたことが死に繋がる。ここでは人間が最弱と言ってもおかしくなく、蚊のように軽くプチッと殺されてしまう。

 

 

 

(冷静に、冷静に考えましょう。落ち着きましょう、落ち着きなさい。私は少なくとも身体は地霊殿の主、古明地さとりなのだから、きっと大丈夫です)

 

論理武装を行い、どうにか冷静をたもつさとりは自分の事を思いだすところから始める。

 

(まず、自分以外の記憶は思い出すこともなんとかできるようですね。そうでないと、ここがハンターハンターの世界であり、暗黒大陸だとわからないはずです。何者かが私を拉致してここに放りこんだのだとしたら、目的は殺害の可能性が非常に高いです。どう考えても人がここで生き残れるはずがないのですから。

ですが、この考えも万全ではありません。何故なら、私の身体が古明地さとりになっている理由に説明がつけられません。普通の状態なら蛇に食べられて終わりです。では、可能性として考えられるのは私も好きな小説ジャンルの一つ、神様転生や二次元の世界に入り込むというもの。

神様転生に関しては神様に会っていませんが、娯楽などの理由から私に何の通告もなく行ったという可能性は否定できません。そもそもが、誰かの記憶を植え付けられただけの古明地さとり本人の身体という可能性すらあります。この場合、私という存在は上書きされる可能性があります。人である私と身体の本来の持ち主であり、妖怪でもある古明地さとり本人の精神力を考えると、その可能性がとても高いのですからね。そうなると神様転生の可能性か、転移の可能性がありますね。

まあ、どちらでも構いません。この考査は無駄でしかありませんし。暗黒大陸でサバイバルという現状をどうにかする方を優先すべきです。このままでは座して死を待つばかりなのですから。そう考えると何かヒントは……あ、そういえばランドセルを背負っていましたね。動揺して忘れていましたが……確認してみましょう)

 

さとりが背中に背負っていたランドセルの中身を確認すると、そこには狐の形をした白面のお面と手鏡、教科書とノート、筆記用具に彫刻セット。それに少量のお菓子と小さな可愛らしいお弁当箱が入っていた。後、何故か体操服も入っている。当然、胸には古明地さとりの文字が書かれている。

不思議に思いつつもとりあえずさとりはなんとなくそれを頭部につけてみた。するとサードアイが消滅し、髪の毛が伸びて色も変化していく。変身は一瞬で終わり、後には薄紫色がかかって見えるピンク色のロングヘアに、同じ色の瞳と睫毛となった。変化はそれだけでなく、服装が青のチェック柄の上着に長いバルーンスカートへと変わる。上着には胸元に桃色のリボン、前面に赤の星、黄の丸、緑の三角、紫のバツのボタンが付いている。そして鏡に映る表情は無表情である。

 

「……」

 

呆然とするさとり……いや、彼女はすでに別人である。彼女は自分頬っぺたを触り、口に指を入れて引っ張る。彼女が変化した身体の名前は(はたの)こころ。さとりと同じく東方のキャラクターであり、面霊気の付喪神である。あと、被っている白面のお面からやたら禍々しい気配が漂っており、本来はもっと長身であるはずが小学五年生のさとりと同じ身長になっていた。

 

「ふぅ」

 

ため息をつきながら、体操服をみて見ると、先程までは古明地さとりだった名前が奏こころとなっていた。なにでできているのか、全く不明な物である。名前が判明してますます混乱するが、こころの表情は一切動かない。

 

(もしかして、これはあれかも! 東方キャラクター、つまり弾幕ゲームだから自機は二人ってことね!)

 

そう、東方のシューティングゲームは二キャラを操作して進んでいく。本来は人間と妖怪のペアが組むのだが、妖怪と妖怪が組むのはありだと思われる。しかし、そう思うと不思議なことがある。こころはお面を一つしか持っていないのだ。本来は複数のお面を持つはずなのだが。もしかしたら彫刻刀があったのでそれで掘れとでもいうことだろうか。

そんな風にランドセルの中にあった中身を確認していると、こころのお腹が鳴りだした。妖怪は本来、恐怖など負の感情を食べるのだが……人だったころの記憶があるからお腹も減っているようだ。

 

「ごはん」

 

周りをみても食べられそうなのは互いに殺し合って倒れた蛇だけだった。頭を抱えて悩むこころちゃんは恐る恐る近付いて蛇を突く。すぐにビクッと震えて離れ、また近付いてを繰り返す。しばらくして、反応がないとわかると続いて唸りながらイメージしていく。

 

「う~う~にゃ~」

 

何をイメージしたのか、黒色の狐火のようなものが現れて蛇達を消し炭にしてしまった。こころちゃんは炭を手に持って泣き崩れる。

 

「!」

 

しかし、そこでふとランドセルに入っていたお弁当とお菓子を思い出したこころちゃんは、希望を込めて小さなお弁当箱を取り出して蓋を開けてみる。しかし、そこには絶望しかなかった。何故なら中身がなかったのだ。

いや、使われたであろう可愛らしい箸やフォークと少しの米粒が少しだけあったのだ。こころちゃんは涙目になりながら、絶望に塗れて禍々しい気配を白面狐のお面から発していくが、すぐに消失した。

 

「ご飯がなければお菓子を食べればいいわ」

 

そして、棒状のお菓子を両手で持ってカリカリと食べ出した。今の容姿と合わさってまるで小動物のような姿だ。

 

 

 

 

 お菓子を食べ終えたこころちゃん。しかし、これからを考えると不安しか浮かんでこない。凄くピンチだ。

 

(これからどうしよう? どちらにせよ、まずは食料の確保ね。水と食料は生きていく上でとても大事だから。幸い、ここにはニトロ米があるから食料を味さえ我慢すればなんとかなる)

 

こころちゃんはランドセルにおそらくはニトロ米であろう物をできる限り詰め込んでいく。詰め込んでいると、急に空が暗くなったことでふと空を見上げるこころちゃん。そこには大きな口を開けて今まさにこころちゃんを食べようと大口を開けて突撃してくる飛竜の姿があった。

 

「っ!?」

 

 慌てて地面に倒れてころころと転がって逃げると、すぐにガキンッ!という鉄も噛み砕きそうな音に続いて轟音が響いてきた。どうにか間一髪の所で避けられたようだ。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 こころちゃんは倒れた状態からなんとか身体を起こして先程まで居た場所をみると、そこには翼を折り立たんで地面に突き刺さっている飛竜の姿があった。上をみるとそこだけ木々に穴が空いて太陽光が降り注いでいる。

 

「……たす、かった……?」

 

 こころちゃんがそう呟くと、飛竜は翼を開いて羽ばたいて出ようとするが、それでもまだ動けないようだ。

 

「これはチャンス、だよね……」

 

 立ち上がったこころちゃんは近付いたり攻撃したりせずに森の中に逃げ込んでいく。

 

暗黒大陸(こんなところ)であんな無様な攻撃をしてくるだけのはずがないわ。ここは逃げるっ!)

 

 こころちゃんが走り去ると少しして、飛竜は羽ばたきと同時に口から炎を出して推進力としてあっさりと地面の中から出た。飛竜は首を傾げてからすぐに獲物であるこころちゃんが逃げたことを知ってがっかりとする。飛竜としてはあのまま近付いてきたところを地面からでて周りごと燃やしたり、噛み付いたりしようとしていたのだ。飛竜は口の中にある土と唾を吐き出してから空へと戻って周りを旋回してこころちゃんを探していく。

 

 

 

 森の中へと逃げたこころちゃんは息も絶え絶えになりながら、木に背中を預けて座り、休憩を取っていた。頭を抱えながら恐怖に震えて涙目になっている。少しでも気付くのが遅かったら今頃美味しくバリバリと頂かれていたのだから仕方ないことだろう。例え妖怪だろうと食べられたり、殺されたりするのは怖いのである。しかし、はたから見ればこころちゃんの表情は一切動いておらず完全な無表情である。

 

(このままじゃまずい。美味しく食べられちゃうし、能力もまだよくわからない。私が(はたの)こころであるのなら、能力は感情を操ること。まずは冷静にならないと。混乱を鎮めて冷静に……やり方なんてわかんないよぉっ!)

 

 いきなり能力があるとわかっていても使えないものである。まだ狐火のような弾幕みたいなものならイメージもしやすいだろうが、感情という目に見えなくてイメージしにくいのが原因だろう。またこころちゃんになってから日が浅いのも原因の一つだと思われる。

 

(これならわかりやすいさとりの方がいい。さとりなら怖いけれどサードアイを開いておけば勝手に相手の思考が流れこんでくるし、索敵にも有効だろうし……うん、そうしよう。問題はどうやってさとりに戻るかだけど……確か、お面をつけたらこころになったし、やっぱりお面を外せばいいのかな……?)

 

 こころちゃんがお面に手を付けて離そうとするが、外れない。両手で持って斜めについているお面を引っ張るが、動かない。

 

「ん~っ! ん~っ!」

 

 残念ながらこのお面は()()()()()()のだ。一度装着すればもう外れない。その証拠に白面狐の口元がニヤリと笑っている。

 

「うぅ……お願いだから、離れて……このままじゃ、死んじゃうよぉ……死にたくないよぉ……」

 

 そうこころちゃんが洩らすと、次の瞬間。こころちゃんは黒い炎に飲まれて燃えていく。それらはすぐに消えてさとりの姿で現れる。ただし、前とは変化していてヘアバンドの後ろから狐耳と尻尾が生えていた。違和感を感じたさとりちゃんは手鏡で自らの姿を確認する。

 

「の、呪われた……でも、にゃ、にゃあ? こん?」

 

 手鏡を見ながら片手を猫の手をして可愛らしい仕草をしたさとりちゃんは次の瞬間、羞恥に悶える。はたからみれば森の中で幼女が手鏡をみて顔を真っ赤にして悶えている愛らしい姿だが、残念ながらここは暗黒大陸である。そう、暗黒大陸であるが故に平穏な時はなく弱者は狩られるだけである。

 

「っ!?」

 

 さとりちゃんが慌てて走って逃げると、後ろからさとりちゃんをストーキングしてくる存在がいる。それは二つの首がある大きな狼だ。この狼はさとりちゃんの匂いを嗅いで追って来ている。妖怪とはいえ小学五年生の身体能力と身長では逃げることもかなわずすぐに追いつかれることになる。

 

(このままじゃまずいですね。相手は完全にこちらを補足していますし、食べる気満々です)

 

 未だに追いつかれていないのは相手が警戒しながら追い込んできているからだ。この暗黒大陸では相手に襲い掛かる時こそ警戒しないと逆に美味しく頂かれてしまうので身長にならざるおえない。そのためゆっくりとだが、確実に距離を詰めてきている。

 

(弾幕はなんとか張れるでしょうが、威力に期待はできないでしょうし……サードアイで相手のトラウマを読んでそれを再現すれば……いえ、やり方がわかりませんし、無理ですね。サードアイを光らせることは……)

 

 そこでさとりちゃんはふとあることを考えて一か八かの賭けにでることにした。それは木に登ることだ。一生懸命に登っていくが下にやってきた狼は気にせずに木を噛み砕いて押し倒す。

 

「今っ!?」

 

 タイミングを見計らって倒れる木を蹴って隣の木へとジャンプし、小さな両手で細い枝に捕まる。本来ならすぐにでも襲われて狼に食べられるだろうが、それは上から降ってきた飛竜によって防がれた。そう、こころちゃんを探していた飛竜が急降下してきて、狼の頭の一つに噛みつきながら地面に激突した。

 

(う、うまくいきました……後は今の間に……)

 

さとりちゃんはわざと木の上に登って飛竜を呼び寄せて、狼にぶつけたのだ。狼は自分の首に噛みついてきた飛竜を無事な方の頭で噛みつく。更には互いに火を吹いて相手を燃やしていく。

さとりちゃんは互いのことしか見えなくなった二匹を置いて比較的、声が聞こえないほうに逃げていく。

木々や草むらに隠れて二匹の血の匂いによってくる者達を呼吸を止めて必死に隠れる。血の匂いに釣られた連中に気付かれずに安全な場所を目指していく。もっとも安全な場所などどこにもないのだが。

 

(身体のスペックの上限は小学五年生くらいだとして、妖怪の身体だから睡眠が必要なさそうなのが唯一の救いですね。寝たらそれで終わりそうです)

 

 ランドセルに詰め込んだニトロ米を口に含みながら、こまめに休憩を取りながら逃げていく。

 

(妖力か念能力かは知りませんが、生き残るためには早く使えるようにならないと……少なくとも空を飛べるようにならないと話になりません。このまま地面を走って逃げるのでは限界がきます。かといって完全に飛ぶと空の化物達に食べられるでしょう。ベストなのは地面から数センチ浮いて移動するホバークラフトのような感じですね。瞑想をメインにして……)

 

 生き残るために必死に考えていく幼いさとりちゃん。彼女は無意識に尻尾を前にやって抱きしめながらもふもふに顔を埋めて涙を流す。

 

(そもそもなんでこんなことに……せめて輝夜とか藤原妹紅とか不死身がよかったです。ルーミアでもここなら生活できそうですが……いえ、古明地さとりも秦こころも大好きですよ? でも、それは人族領域ならです。暗黒大陸でサバイバルするには力が足りません……本人達ならともかく、私にはハードを通りこしてルナティックですよ……それに一人は寂しいです……)

 

 さとりちゃんとこころちゃん。二人いるがどちらも繋がった一人であり、同一存在といえる。これは東方プロジェクトが一人用シューティングゲームだからというのも関係しているのかもしれない。せめてさとりのペットである者達がいれば話は別だったのかもしれないが、そんな都合のいい存在はいない。そもそもサバイバルは始まったばかりなのだから。

 

 

 

 

 

 



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小五ロリ、遺跡に……

 深い森の中をゆっくりと歩いていくさとりちゃん。ランドセルも合わせて、まるでその様子は遠足やピクニックといった感じだ。しかし、それはあくまでも普通の山で白濁液塗れじゃなければという註釈がつく。

 もちろん、ここはそんなのどかな山でもなく、人外魔境の暗黒大陸である。少し移動するだけで襲われてくるのだ。実際、さとりちゃんとこころちゃんがこちらに来てから数日。2,3時間に1回は襲撃されている。今も襲われていて泣きながら逃げている。

 

「無理ですっ、無理ですっ!」

 

 さとりを後ろから追っているのは小さなサイズや大きなサイズがいる無数の虫達だ。そのどれも凶悪な牙や顎、そして毒を持っている。それらはさとりちゃんが逃げるが、すぐに追いつかれて足を噛まれて引きずり倒される。身体を舐められて噛まれて毒を流し込まれていく。

 

「ひぎぃっ!?」

 

 さとりの足に噛み付いたのはムカデだった。それは絡みついて足を突き刺しながら猛毒を流し込んでいく。押し倒れたさとりちゃんは虫に食べられていく。

 

「やめっ、たすけっ、しにたく……」

 

 そもそもここまで執拗に狙われるのはさとりちゃんがかけられている白濁液が原因だ。あれはさとりちゃんが木の化け物に足をからめとられた時にかけられた奴だ。その効果は虫を匂いで誘き寄せ、取り込んで栄養にするためのものだ。そのために森の中にいたさとりちゃんには致命的だった。植物にも意識があると思っていなかったからこそ、意識が流れ込んでこなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 草原でこころちゃんが目覚める。彼女はすぐに何があったのかを思い出して身体を抱きしめて無事なことを確認する。それから無表情のまま震えながら涙を流す。

 

「助かったの? でも、殺され……ううん、食べられたはず……まさか、残機が減ったの?」

 

 そう、彼女は生き残ったのではなく違う場所で蘇生されただけだ。つまり、残機を消費して助かったのだ。その残機がいくつあるかは不明である。これで何度も死ぬことができると思ったら、それはありえない。何故なら……

 

「やだぁっ、もうやだぁっ……」

 

 ガタガタと震えて三角座りをしながら頭を抱えて泣いていく。彼女にとって確実なトラウマになったのだ。簡単に死ぬことなんてできない。そして、死んだことによってこころちゃんの能力である感情を操る程度の能力が暴走して自分の感情がコントロールできなくなっていく。また、さとりが死んだからか、変身もできない。どうやら倒されると一定期間は最低でも代わることのできない仕様のようだ。

 動くことを止めたこころちゃんに安息の時はなく、暗黒大陸は即座に牙を剥く。やって来たのは巨大なティラノサウルスだった。大きな口を開けてこころちゃんを食べようとするが、こころちゃんは動かない。もはや絶体絶命の状況となり、後は食べられるのを待つだけの状態だ。その直前でティラノサウルスは動きを止めて、少ししてから倒れる。

 

「「…………」」

 

 恐怖のあまり動かなくなり、自分の中に閉じこもってしまったこころちゃんの心や感情が無差別に周りの者達にも感染していく。恐怖して恐慌状態になり、逃げだしていくものや同じように動かなくなるものが多数でてくる。

 そのまま何度も何度も太陽が登り、沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

いったい幾つの太陽が昇り、沈んだのかわからない。それでも確実に時間が流れ続け、こころちゃんの周りには動かなくなり、食事を取れずに餓死した幾つもの死体が集まる場所となっていた。

そんな場所に数十人の人がやってきた。彼等は武装しており、全員が超能力者、この世界でいう念能力を使う逸脱人達だ。そんな彼等がみたのは数多の死体が固まる場所だ。

 

「隊長。全部死んでいます。これは宝の山ですよ」

「待て。朽ち果てた奴もいる。毒でやられている可能性もある。念獣を先行させて調べさせろ」

「了解です」

 

隊員の一人が何も無い場所に念能力で念獣。念能力で具現化させた生物、鳥を作りだす。その鳥は術者と視覚を共有しているため、安全なところからでもしっかりと見ることができる。そんな彼等が発見したのは、三角座りのまま動かない不気味な幼い少女だ。

 

「た、隊長。要救助者を発見しました」

「要救助者だと? 詳しく説明しろ」

「し、死体の中心部に少女が一人、座り込んでいます!」

「暗黒大陸に人間の少女だと?」

「それにまだ幼い10歳から11歳ぐらいだと思われます……」

「助けましょう!」

 

隊員の一人が飛び出そうとするが、すぐに他の団員が止めにかかる。

 

「ここは暗黒大陸だ。罠の可能性が高い。慎重に行動しろ」

「す、すいません……」

「待てください。動きがありました……これは……火の玉か?」

 

 彼女、こころちゃんの周りには無数の青い炎が浮かびあがり、禍々しい気配を発する。離れた場所に彼等も近くに居た者達から恐怖や無気力や絶望に襲われて倒れだしていく。何人かの人が武器を持ち、念能力を行使して倒そうと挑むがその少女、こころちゃんの頭にある白い狐の仮面がニヤリと笑うと彼女の後ろに禍々しい気配を放つ化け物の姿をみることができた。

 

「化け物め……」

「どうにか逃げられればいいのだが……」

「何人かが決死隊になるしかないだろう」

「致し方あるまい」

 

 数人が近付くとその者達が倒れたりするが、それ以外に相手の行動がおきない。それに気づいた者達はロープなどを利用して引きずって助けることに成功する。死んではいないからこそ可能な方法だ。しかし、心は壊れているので再起不能となっている。更に念獣を放った術者もフィートバックされたのか、そちらも軽くない被害を受けた。

 

「撤退だ。これ以上の犠牲は看過できない」

「りょ、了解しました……」

「あの少女はいったい……」

 

 

 

 

 彼等が撤退してからしばらくすると、死体などが黒い炎となってこころちゃんの中に入っていく。そして彼女が無表情なままで動き出す。ゆっくりと歩いていくこころちゃんを襲ってくる者達は今までと同じよう殺され、炎へと変わって吸収されていく。

 こころちゃんが夢遊病のように歩いていくと植物に囲まれた人工物のところにやってきた。そこの警備のような丸い植物の球体が無数に現れてくる。

 

「%&”!%’”(%%!”=」

 

 球体はこころちゃんの周りを一周すると、まるで歓迎するかのように道を開いて誘導していく。それは古びた研究施設のような場所で建物は全てが植物に覆われていた。

 そんな中にこころちゃんが入ると、電気が灯り出して施設が一部復活していく。こころちゃんが廊下を歩く中、廊下の端には無数の培養槽が並べられており、そこには脳や身体の一部など様々なものが置かれている。当の本人は気にすることなくそのまま進み、ある一つの部屋に入って近くにあるベッドへと倒れた。まるで自分の家といった感じだ。

 

 

 

 

 

 研究所で眠ること数十日。まるで死んだように眠るこころちゃんだが、眠ったまま起き上がって色々と作業を行っていく。それは部屋の掃除だったり、洗濯だったりする家事はもちろんのこと、施設を復旧もこなしていく。夢遊病どころか、まるでマリオネットのように動いていくこころちゃん(?)は順調に回復しているようだ。

 

 

 さらに月日が経ち、ようやくこころちゃんが目を開ける。目覚めたこころちゃんは周りを見渡して不思議がるが、何故こんなところにいるのかもわかっていないので、仕切り小首を傾げて不思議がっている。

 

(ここ、どこ? 私は……あれ、思い出せない……)

 

 こころちゃんの死んだときの記憶は綺麗さっぱり消されていた。だからこそ、何があったのか思い出せない。だが、起きてから不思議な事ばかり起こっているこころちゃんはあっさりと結論をだした。

 

(まあ、どうでもいいよね。生きて居られたらそれでいいし……どちらにしろ、調べるならさとりの方がいいかな。なれるかな?)

 

 結論付けたこころちゃんは周りを確認してから、自分の姿を変えることを意識する。身体に適応してきたのか、すんなりとさとりちゃんに変化した。彼女は不思議そうに身体を触って確認するが、何もわからないので、少し考えてから服を脱ごうとしてやめた。

 

(ここが安全かはまだわからないですし、脱いで確認するのは止めておきましょう。しかし、服まで綺麗になっていますね……)

 

 さとりちゃんは確認するために袖をあげて匂いを嗅いでみる。

 

(洗濯したてのいい匂いがしますね。それにこの部屋は……)

 

 よくよくさとりちゃんが部屋の中を見渡せば服が沢山置いてある。それらは古くなっているものもあるが、さとりちゃんとこころちゃんの服であった。

 

「……ここに私達の秘密がある可能性は大きいですね……」

 

 さとりちゃんは部屋をくまなく調べていくと一つの写真立てが見つかった。そこには長い黒髪の女性と男性の姿が映っていた。二人は白衣を着て互いに赤子を抱いている。

 

「……もしかして……私、たち……?」

 

 さとりちゃんは赤ん坊が自分とこころちゃんのことだと思って、さらに色々と家探しのように調べていくが、何もわからない。

 

(ここではない別のところにあるかもしれませんね。外は怖いですが、何時までも引きこもっているわけにもいきません)

 

 決意をして拳を握りしめてから、外へと通じる扉をそっと開けて顔だけだして廊下を覗く。廊下は光がともっていなくて、さとりちゃんが出ると光が灯る。

 

「ひっ⁉」

 

 驚いたさとりちゃんはすぐに顔を引っ込めて扉を閉める。そして、少ししてから不安そうに顔をだすさとりちゃん。何度も何度も繰り返して安全が確保されているのかを確かめる。

 

(大丈夫、みたいですね。おそらくこれは赤外線などによる熱源の探知だと思います。この施設に生き残りの反応はないですから大丈夫な気がしますが……いえ、何か忘れている気が……)

 

 頭を押さえながら必死に思い出そうとするが、その度に痛みが襲ってくる。しかし、さとりちゃんは痛みに耐える。

 

(これ、絶対に何か有りますね。だいたい元いた場所から今いる場所まで移動した記憶なんてありません。それに自分のことを知るのなら、一番いいのは私の能力で私自身の記憶を読むことじゃないですか。大丈夫、頑張りましょう。私は古明地さとり。すくなくとも外側はそのはずです。だったら、これくらいできるはずです。えい、えい、おー!)

 

 さとりちゃんはサードアイを自らに向けて自分の記憶を読み込んでいく。本来は表層しかわからないのだが、サードアイを利用して催眠術を利用する方法で引き出していく。

 

「あっ、あっ、あぁぁぁぁぁっ!? むしっ、むしぃぃぃぃっ! いやっ、いやぁあああああああああぁぁぁぁっ!?」

 

 さとりちゃんは頭を抱えて床に倒れながらゴロゴロと転がって暴れ回る。同時に多数の虫が周りから滲みでてくる。それらは襲いかかってきてまた彼女の身体を喰らっていく。そう、彼女は自分の力で自分のトラウマを再現してしまったのだ。

 するとサードアイが勝手に動いてさとりに催眠をかけて眠らせる。心なしか呆れているようだった。だが、これで終わる彼女ではなかった。

 

「……ふふふ、いいでしょう。トラウマを利用する私がトラウマにやられるなんて……こんなの古明地さとりじゃないです。古明地さとりたりえるために克服してやりますよ……」

 

 何故なら彼女にとって拠り所となっているのは自分が古明地さとりと奏こころであるということだ。記憶もなく、人間ではなくなり暗黒大陸になんかに放り込まれたのだからこそ、存在が不明確になる。それは妖怪にとって致命的なことだ。自分の定義を失うと消滅する可能性がある。と、さとりちゃんは思っている。実際のところは不明であるが、そう思い込んでいるさとりちゃんは実行する。

 

「ひぎゅうぅううううぅぅぅっ!? 虫っ、虫ぃいいいいいぃぃぃっ!?」

 

 のたうち回りながら精神崩壊して死にそうになりながらもなんとか耐え抜いていく。そして、何回も失禁を繰り返して十三ヵ月かけてようやく克服した。

 

「勝利っ」

 

 さとりちゃんは三段ガッツポーズを決めて元気に勝利宣言をした。これは本来ならこころちゃんでするはずの奴である。だが、涙目で腕を振り上げるさとりちゃんもまた大変可愛らしいのでよしとする。さて、ようやく奥深くに眠る記憶にアクセスすることができたさとりちゃんは新たな真実を知ることになる。

 

「誰ですか、コレ。仮面が本体とかいわないでくださいよ……というか、肝心な記憶がありませんね。やはりこの施設を調べないといけないようです。その前に恥ずかしい液体の処理をしないといけませんね……」

 

 ようやく放置されていた研究所の謎が明らかになる、かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 さとりちゃんはおっかなびっくり、遺跡の探検を開始する。しばらく頑張っているとさとりちゃんはとある日記をみつけた。

 

「これは……読めないですね」

 

 ぽいっと捨てようとするが、触手が勝手に動いてキャッチする。そしてさとりちゃんの目の前に運んでいく。

 

「……仕方ありません。記憶を読んでみましょう」

 

 しっかりと記憶を読んでいくさとりちゃん。そこでわかった内容はとんでもないところでした。

 

 

 

 

 ○月×日

 

 世界は核の炎に包まれて滅びを向かえてから幾つもの時が過ぎた。地上は放射能に汚染されて生き物の住めない土地へと変貌している。そのため、我々人類は地下に建造したアーコロジーへと逃げた。しかし、食料問題やエネルギー問題によって滅亡の時が迫っていることを否応なしに知らされる。どうにかして生き残る手段を模索しているが、目途がたっていないのが現状だ。

 

 ○月×日

 

 ついに希望が見つかった。北極大陸を監視していた人工衛星が氷の中に埋まっていた赤い石が六つ見つけたのだ。その赤い石が内包するエネルギー量は世界中の消費量を遥かに上回っていた。問題はエネルギーを抽出する方法ある。

 

 ○月△日

 

 駄目だ。エネルギーの抽出ができない。世界中が最後の希望を掴むために頑張っているがどうしても暴走してしまう。そんな時、黒髪の日本人女性が我が研究所にやってきた。彼女はトワコと名乗り、ある理論を持ち込んできた。それは驚いたことに赤い石からエネルギーを抽出する理論だった。半信半疑だった我々だが、藁にも縋る思いでそれを試してみることにした。

 

 

 ○月×日

 

 ついにエネルギーの抽出するための施設が完成した。エネルギー炉心は全世界で運用が始まり、アーコロジーの全てを賄うことができた。これによって人類は多少の余裕が生まれた。食料の生産も行われているので、ついに別の計画が動くことになった。

 それは新人類計画。放射能に汚染された大地を踏みしめ、地上で生活する新たな人類を生み出す計画だ。この計画は他の所でも作られている。アメリカでは北極から手に入れた何かでアイスマン計画を行うらしい。我々も負けていられない。

 

 △月〇日

 

 四年の月日が経った。新人類計画は順調に進み、動物で実験した結果、赤い石の力で進化した。その動物は外で順調に生きている。

 人類への進化を行うため、赤い石のエネルギーを人に注入した。結果、人類は新たな力を得た。それは超能力であり、自らルールを決めることで様々な力を得られることが判明し、より一層の開発がはじまる。彼女、トワコと共に私達は新たな時代の幕開けを感じられた。

 

 

 そのはずだった。しかし、それは間違いだった。赤い石は禁断の果実だったのだ。私はそれを得た超能力、心を読む能力でトワコの心を読んで理解した。彼女の正体が判明したのだ。そう、彼女はこの世の全ての悪意を集めたような存在であり、我々人類を滅ぼす敵だった。

 

 △月×日

 

 トワコに対処するための方法を模索する。現状では赤い石を全て壊すことなど全人類にとって不可能だ。故に悩んだ末、昔のライトノベルから秘策を得た。駄目元でやってみたのだが、成功した。その秘策とはプロポーズだ。つまり、トワコと結婚した。後は子供を作って彼女に対するカウンター装置とする。

 

 ×月〇日

 

 子供が生まれた。可愛い双子の姉妹だ。名前は……昔のゲームからつけた。私の能力が遺伝すればそれでいいからだ。娘の名前はさとりとこころと名付けた。

 育てるのは普通に愛情をもってかわいがる。妻であるトワコは他のアーコロジーに出張したりするので、その間に色々と仕込む。

 

 〇月□日

 

 子供が生まれてから三年。開発した自己増殖型ナノマシンを投与した子供達が体調を崩して私がやっていたことが妻にばれた。殺されるかと思ったら無茶苦茶怒られるだけだった。

 詳しく話し合うと、あきれられた。どうやら、世界を滅ぼすつもりなどなく、負の力はただの食料だったようだ。というか、別の世界かは知らないが、すでに負けて人類を見守るつもりらしい。それにこの世界の人類は放置しても滅ぶのでわざわざ手を出すまでも無いとのことだ。まあ、どうでもいい。今は可愛い我が子と妻を幸せにするだけのことを考えよう。だが、人類が滅びてしまっては意味がない。どうにかするだけの力を二人で与えるために更なる研究を行うことにした。

 

 △月〇日

 

 二年後、子供達は妖怪という種族になったらしい。新人類計画は完成したといえる。ただ、問題が起きた。実験した動物達が地上で進化して繁殖し、異常繁殖したのだ。

 同時にこの世全ての悪のような存在の力を得ていたせいか、凶暴化が進んでいるらしい。何個かのアーコロジーが進化した動物に滅ぼされ、赤い石がなくなったらしい。

 

 △月×日

 

 人類はやはり愚かだった。凶暴化した生命体達をどうにかするためにまた核を使った。より一層、地球が滅んでいく。それに対抗するかのように地球はより強固な生命体を生み出していったのだ。私は軍部からの要請でナノマシン技術と妖怪の力を利用した防衛兵器を開発することになった。

 

 △月□日

 

 防衛兵器軍部が娘達のことを嗅ぎつけて兵力としようとしてきた。トワコと私は研究所に立てこもって防ぐことにする。防衛システムも準備していただけあって順調だ。

 それと怒ったトワコが、赤い石を回収してきた。それを二つに割って二人に与えた。これで二人は大丈夫、そう思っていた。しかし、研究所内に裏切り者がいたのだ。

 私達の一瞬の隙をついて娘達を人質として……

 

 

 

 □月〇日

 

 これが最後の日記となる。私は殺され、娘も殺されたらしい。そうなるとトワコが取る手段は決まっていた。憎しみによって解放された彼女の怒りは暴走し、私達がいるアーコロジーの住民を殺し尽した。

 彼女は自身に残った最後の力で私を変質させた。同時に彼女も変質していくようだ。娘は色々と混ぜて二人で一人に作り替えるしか、生き残らせる方法がなかったたらしい。これでも生き残れる保障はないらしく、私達は賭けることにした。私達もそれぞれが娘につくことで見守るだけの存在となり、彼女達を支えようと思う。これが唯一四人で生き残る道らしい。だが、赤い石を全て集めれば復活できる可能性がある。

 

 

 

 

「なるほどなるほど、つまり貴方は私のパパであり元凶ですか」

 

 さとりちゃんは自分の身体についている目玉触手を目の前に持ち上げて覗き込む。目玉はそっと視線を逸らす。そもそも日記には色々と混ぜて書かれていたのだ。

 

「まあいいでしょう。言語機能はないようですし……いえ、心を読めばいいですね。あ、拒否されましたか。まあ、私よりも力が上……いえ、そんなはずはありませんね。この話が本当なら力は私の方が上ですから」

 

 事実、さとりちゃんの方がスペックは高い。使いこなせるかは別なので、まだ力のコントロールが効かないのだ。そんなわけでさとりちゃんはまだ同じ能力者の心はみえない。

 

(しかし、施設生きているならやりようはいくらでもあります。私とこころの分離すら可能かもしれません。もっとも、精神は一つなので分離する理由はあまりありませんけど。どちらにせよ、ここから衛星のデータを読めるかもしれませんね)

 

 さとりちゃんは施設を動かして衛星からデータを習得する。どうやら、なんとか生き残っていたようだ。衛星によってこの世界の地図を手に入れることができたさとりちゃん。しかし、それだけだ。衛星は生きていたが、施設はところどころがたがきていて何時崩壊してもおかしくないような状況らしい。

 

(外の様子はアレですね。植物の頭を持つ人間……ナノマシンによる錬金植物による生命体ですか。これならホムンクルスも作れるかもしれません。でも、まずは鍛えないといけません。ハンターハンターの世界なら、能力次第でどうにかなる可能性が高いです)

 

 さとりちゃんは自らのルーツを知り、一応の安全な場所を確保した。しかし、それはあくまでも一時の安寧にすぎない。サバイバルは始まったばかりである。

 

 

 



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こころちゃんの訓練

 

 

 出征の秘密を知ったさとりちゃんとこころちゃんは強くなることを決意する。何故なら、彼女達の知識には母親の正体がなんであるかを知っているからでもある。

 

(赤い石にトワコ、そして負の感情。そして白面の狐のお面。ここまで来たらもう彼女の正体はわかります。つまり、私達そのものが槍ですか……まあ、いいでしょう。それに妖怪なら負の感情を集めて食料にするのは当然ですし)

 

 部屋の中で何時もの服装になったさとりちゃんは施設を操作して、内部の情報を調べていく。監視カメラの映像を確認すると内部は壊されていて、外から植物の木などが入ってきているが、それ以外は問題なさそうである。

 

「広域探査開始」

 

 さとりちゃんは自分を中心に水面に波紋が広がるイメージをして心の声を聞いていく。

 

「反応はありませんね。植物と虫以外の生物が入っている可能性はありませんか。ならこころに変わりましょう」

 

 さとりちゃんがそういうと、姿ぶれて無表情な仮面少女こころちゃんに変化する。こころちゃんは頭のお面を取って目の前にやって無表情でじーと見詰める。

 

「お母さん?」

 

 仮面に声をかけてみるが返事はない。しばらく声をかけていると、諦めたのか頭に戻して少ししゅんとした感じになる。しかし、表情は一切動いていない。

 

「いかないと……」

 

 こころちゃんはランドセルを背負って部屋から出ていく。外に出ながら友好になるようにイメージして力を使うと思いながら進んでいく。

 そんなこころちゃんが廊下の角を曲がると、そこには……頭部が植物でできた人が歩いているのがわかった。アレはやばいと感じたこころちゃんは即座にしゃがんで瓦礫の部分に隠れながら頭を押さえる。

 ガタガタと恐怖で震えるこころちゃんだが、彼女は不思議に思う。感情を操る程度の能力でも、心を読む程度の能力でも、どちらもアレには反応しないのだ。

 

(錬金生物だから、心も感情もないってこと? 詰んでいる……でも、なんでここに入れたのだろ?)

 

 そんなことを思いながら、ふと影ができる。震えて涙目になりながら上を向くと植物の頭をした人間が大きな口を開けていた。

 

「ひぃっ!?」

 

 慌てて逃げ出すと、背後でガチンっという音がする。恐る恐る振り返ってみるとそこに瓦礫はなかった。植物人間の頭部から無数の茎が伸びてきて鞭のように迫ってくる。

 

「ひぎゃっ!?」

 

 それはこころちゃんの視覚を越えて鞭のように振るわれ、彼女の幼い小さな身体を軽々と吹き飛ばして壁に激突させて埋め込む。

 

「うがぁっ……」

 

 人間と妖怪のハーフであるこころちゃんの身体は頑丈だ。どうにか意識を保ちながら、手を向けて弾幕を放つが植物の鞭であっさりと弾き飛ばされて身体を滅多打ちにされて意識を失ってしまう。

 

 こころちゃんが意識を失うと、植物人間はこころちゃんを持ち上げて確認したあと、その辺に投げ捨てる。投げ捨てられたこころちゃんは壁を粉砕して隣の部屋へと突入してバウンドし、そのまま動かなくなる。

 植物人間はそのまま元の場所へと戻っていく。残されたこころちゃんは瀕死の重傷でありながら、ビクッビクッと身体を痙攣させていることから生きていることがわかる。

 

 

 

 幾日か日が経つと、折れたりしていた身体は綺麗に修復されてこころちゃんが目覚める。ぼーとしながら周りをみて、改めて股間をみると彼女は恥ずかしそうにあそこを隠す。どうやら洩らしていたようである。しかし、相変わらず無表情で表情は一切動いていない。

 

「っ!?」

 

 そんなこころちゃんだが、この施設は容赦しない。何故なら動体反応を感知して奴等はやってくるのだ。それを知らないこころちゃんは急いでさっきの元いた部屋に逃げ込む。ここだけは襲われない安全地帯のようで、その部屋の周辺には植物人間はやってこなかった。

 

(外怖い。でも、頑張らないと……ここで朽ちるのは嫌。それに赤い石、集めないと……よし、頑張ろう。えいえい、おー!)

 

 こころちゃんは必死に震える身体で涙を流しつつ腕を振り上げて決意する。

 

(ここはハンターハンターの世界だから、念能力がある。それに多分だけど妖力はオーラ、生命エネルギーと同じ。日記に書いてあった進化はおそらく、人間が妖力を得たから。だったら、総量を増やせばいい。確か、修行方法は……瞑想だったはず。私、こころにはそれができる。たぶん……できたらいいな……)

 

 こころちゃんはベッドの上に座りながら座禅を組んで、身体の中の力を意識していく。彼女はほとんど感情が表にでないので、寝ているようにもみえる。

 しかし、すぐにこころちゃんの周りに妖力のような靄が浮き出してくる。それは禍々し感じがする黒い物だ。彼女が危険な妖怪とのハーフである証明でもある。

 

(たしか、拡散しないように妖力を体の周囲にとどめる。身体を頑丈にするにはこれがよかったはず……できたら、もっといっぱいだす……あうっ)

 

 こころちゃんの身体から溢れるようにでてくる妖力により、身体がふらふらしてくる。慌てて自分の身体の周りに固めるようにしてくる。それによって多少はましになったようだ。このまま放置していれば妖力の枯渇で死ぬところではあった。かもしれない。しばらくは妖力を纏う訓練を繰り返したこころちゃんは、次に運動を開始する。

 

「格闘術、訓練」

 

 ありとあらゆる戦闘には必ず体術が必要である。それは後衛でもかわらない。身体が動かなければ食べられて終わりである。そして、こころちゃんの中にあるのはハンターハンター好きには有名な修行の方法である。

 

「感謝の正拳突き……」

 

 ハンター教会の会長であるネテロがやった修行方法である。これは時間がかかるが有効だと思われる。ハンター教会最強といわれるネテロでも、暗黒大陸では弱者の部類に入る。そのため、こころちゃんは足も鍛えることにする。むしろ、生き残るために足を鍛えることにしている。

 

 ニトロ米を食べながら鍛え続けて約6年。こころちゃんとさとりちゃんは泣いていた。何故ならば一切、一ミクロも身長が成長していないのだ。筋力量もかわらずに小学五年生程度しかなく、非力な拳となる。

 つまり、正拳突きと蹴りとか、一切の無駄だったのである。その間に妖力が拡散しないように、体の周囲にとどめる纏と精孔を広げて、通常以上の妖力を出す練を繰り返しているので妖力はかなり増えているのでプラスはある。

 

「負けない……こころは、私達は負けない……」

 

 立ち上がったこころちゃんは自らの心を制御して奮い立つ。そもそもアプローチが間違っているのだ。彼女達は半分は人間だったが、すでにそのほとんどが妖怪になっている。

 そのため、成長することなどない。だから身体の扱い方や妖力の扱い方、妖力を増やす方向にするべきだったのである。そもそもデザインされたのが東方のゲームキャラであるが故に弾幕を作ったりスペルカードを作ったりする方が向いているのだ。

 それに気付いたこころちゃんは弾幕やスペルカードの作成を行っていく。

 しかし、弾幕はともかくスペルカードはどちらも作れなかった。まず、こころちゃんの方は圧倒的にお面がたりない。狐のお面はいまだに反応しないからだ。さとりちゃんの方は相手のトラウマを再現することはできるが、その相手がいないのでスペルカードを作れない。相手を催眠するにしてもその相手は自分しかいないのだ。そうなると自爆していることになるので無理というわけである。

 

(弾幕の再現、頑張る)

 

 こころちゃんはガス状の青白い炎を弾幕に加工して放ったり、数を増やす訓練をしたりしていく。

 完成してから外に出たこころちゃんは試しに植物人間に向かって撃ってみるが、一切効かなかった。そして、当然のように反撃されてボコボコにされ、帰されたのであった。

 

 

 

 六年での成果。

 妖力が100から144に増えた。

 筋力量はかわらず、少しだけ身体が柔らかくなって動かし方を覚えた。

 10発くらい撃てる弾幕・弱を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 



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