イノベイドになってしまった… (望夢)
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イノベイドになってしまった…
ここは何処だ。どうしておれはこんなところに居るんだ?
身体が何かの液体に漬かっている。口に呼吸器があるから溺れることはない。だがそれでも裸なのは恥ずかしさがある。
内心見知らない場所に焦りはあるものの、まるで水面の様に平常心でいる。感情の起伏が鈍い様な、そんな感じだ。
身体の漬かっている液が減っていく。なんかSF映画の様に目が覚めたら培養液が勝手に抜ける感じのアレだ。液が抜け切ると呼吸器が外されてプシュッと空気が抜ける様な音と共に目の前の壁がなくなった。シャッターの様に下に向かってスライドした壁の外は薄暗がりで良くは見えない。
身体が濡れていたから少し肌寒さを感じながら顔を出す。
「やあ。おはよう」
「っ、誰!?」
聞こえてきた声に影に身体を隠して再度顔だけを出すと、にこやかにこちらに微笑み掛けている10代後半くらいの男がいた。
「怯えなくてもいいさ。僕は君を害する者ではないよ」
腕を広げて大袈裟に友好をアピールする彼だが、同性でも初対面の相手に裸で出ていくわけにも行かないだろう。
「ごめんなさい。その前に着るものが欲しいです」
「……面白いな、君は。良いよ、着替えを出そう」
『シャーネーナ!シャーネーナ!』
「え?」
なんか丸っこいロボットが喋りながら作業用だろうローダーに乗って服を運んできた。
いやこのロボは知ってるよ。ハロだよ。しかもなんか口の悪いハロには見覚えがある。
「珍しいかい? 直に慣れるさ」
手渡された割烹着の上着みたいな意識高そうな白い服に腕を通して、ズボンも履くけど下着がないからなんか落ち着かない。
「では改めて。僕はリボンズ・アルマーク。おめでとう、君は人類を導くイノベイターとして産まれたんだ」
超大型新人こと自称イノベイター。人類を導くと言いつつ意にそぐわない者は排除する徹底的管理体制を作ろうとした人物。それがあったからある意味で人類をひとつに意思統合出来たのは皮肉な話なんだろう。
進化した人類であるイノベイターを名乗り、人類を見下していた存在。
おれ、もしかしてイノベイドになったのか?
◇◇◇◇◇
イオリア・シュヘンベルクの計画が始まるのに備えて、僕は仲間を作る事を始めた。
我欲や野心を持ち、力はあっても信用は出来ない人間ではなく、僕の仲間であり、僕を裏切ることのない手足となる存在。
その一人目が目覚めた。
ルインズ――。彼には僕の影として働いてもらおう。
戦闘型のマイスタータイプのイノベイターとして作った彼だったが、何をどう間違えたのか自我を持ってしまったらしい。自我を持たずしかし思考能力は失わず、生きた人形というのは加減が難しい。彼を生むまでにいくつも失敗作を作った。
それを踏まえて漸く完成予定だったのに、思い通りにはいかないものだ。
脳量子波で思考を読んでみたけど、ちゃんと思考能力はあるみたいだ。まだ戸惑っているようだけど、それはこれから落ち着くだろう。
強すぎない自我ならばある程度は目を瞑ろう。
「…おれはなにをすれば良いんですか?」
自分の立場も理解は出来ているみたいだ。でも自我が生まれた理由がわからないとすべてを話すわけにはいかないか。
「君には僕の手伝いをして貰いたいんだよ」
脳量子波で語りかけても良いけど、今の彼には早いだろうと思って態々面倒な会話をする。何度か失敗しているからね。僕の強い脳量子波を浴びて脳死した失敗作をね。
「手伝い……」
僕の言葉をそのまま呑み込むのではなく何かの意味があるのではないかと考えている素振りをする。
少々危険だとしても彼には働いてもらおう。僕の仲間を増やすスケジュールは意外な苦戦で余裕がないからね。
「まず君にはMSの操縦を覚えてもらおう」
「MSに? おれが?」
その為に君を作ったんだよ。知識の刷り込みも問題ないようだね。
「僕に負けないくらいになって貰わないと困るからね」
そういうと彼から表情が消えた。まるで固まった人形の様だよ。
彼には僕と戦うという想定はされていないからね。でもそれじゃ困るんだ。僕の影が僕より強いのはあり得ないけど、僕より弱いなんていうのはもっとあり得ないんだから。
◇◇◇◇◇
いきなりリボンズと模擬戦をすることになった件。
いやいきなり過ぎて鳩が豆鉄砲を浴びたみたいな顔をしていただろう。
使う機体は灰色と白の0ガンダムだ。
まだオーガンダムが現役って、それなりに昔に生まれてしまったみたいだ。
「フラッグ、乗ってみたいよなぁ」
何を隠そう。00放送当時、あの乙女座のフラッグファイターに心を奪われて視聴を決めた私はフラッグファイターなのだよ!!
そんな自分が00の舞台に居る。ならばあのフラッグに乗らないというバカな話があるものか!!
『さて、そろそろ良いかな?』
「あ、ああ…」
模擬戦はシミュレーターで行い、互いに飛ぶのも飛び道具もなし。白兵戦での勝負だ。……ごめん、こうでもしないとマトモに戦えそうになかったんだ。絆で二次元戦闘とか限定的な三次元戦闘には慣れてるけど、完全に三次元戦闘出来るくらいの腕は全くありません。
それでもなんとか基本の動きは頭に叩き込んで動かして覚えた。
なおヴェーダのバックアップは切った。だって何れヴェーダ奪われて動けないなんてアホやらかしたくないし、こういうのは自分の腕で動かしてなんぼでしょう。それはリボンズも多分一緒で、トライアル・フィールドのなかでも動いていたリボーンズガンダムの様子から自分の腕で純粋種として覚醒した刹那とやりあっていたのだから、ヴェーダのサポートなんてなくて技量で戦っていたのは明白だ。だから人間超えてる技量持ってるサーシェスやグラハムを評価していたんだろう。
「いくぞ。ガンダム…!」
わかりやすい様におれのオーガンダムは胸の灰色の部分が黒に塗られている。つまりνガンダムカラーということだ。
互いに距離は100m程だ。走れば直ぐに間合いに入る。
装備はビームサーベルとシールドだけだ。
正に元祖ガンダムの装備だ。あとでNGNバズーカでも作ってGNバルカン増設して1stガンダム仕様作ってやろうかな?
『考えごととは、随分余裕だね』
「なんとぉぉぉおおっ!!」
リボンズのオーガンダムがビームサーベルを抜いて袈裟斬りに降り下ろして来るのをシールドで受け止めながら振り払う。シールドでも接触し続けたら真っ二つだ。
ビームサーベルは抜かない。唯一の武器を失ったら敗けだ。
伊達にMSは人の形をしていないから。その有用性と可能性を追求した戦い方をする。つまりステゴロ最強説はガンダムファイターの皆さんや天パーNTさんと世界は違うがダンディ少佐が証明してくれている。
ビームサーベルの斬撃を振り払われたリボンズのオーガンダムのボディにタックルをする。
それでもリボンズは機体をジャンプさせて避けた。
もちろん標的が逃げられたこちらはたたらを踏む――わけもなく、避けられることは九割九部九里想定済みで、そのままおれのオーガンダムはビームサーベルを抜いて逆手でビームの刃を頭上に伸ばすと、ビームの干渉する音が響いてきた。
『やるじゃないか』
「それはどう、もっ」
後ろに着地したリボンズのオーガンダムに向けてシールドを投げつける。
もちろんそんな小細工はシールドごとビームサーベルで切り裂かれた。
『どこに…』
切り裂かれたシールドの破片と対角線を合わせて跳んだことで消えた風に見えた此方を探すリボンズのオーガンダムを眼下に、ビームサーベルを降り下ろす。
直前で気づいたリボンズのオーガンダムが一歩身を引いて直撃を避けた。その返す刃がモニターに迫る。着地した衝撃を吸収するアクチュエーターが悲鳴を上げるのを無視する様に地を蹴って、こちらも直撃を回避する。
シミュレーターだから良いけど、こんな攻防実戦でやったらビームが目の前を通り過ぎて偉いことになりそうだ。
互いにコックピットに傷を負ったオーガンダム。
リボンズはシールドを捨てて両手でビームサーベルを構えた。
こちらは片手で構えたまま相対する。
リボンズのオーガンダムが駆けてくる。こちらは待ち構える。奇しくも最終回の図におれは立っている。
駆けてくるリボンズのオーガンダムに向けてビームサーベルを構える……フリをして、ビームを消し。あの未来のオーガンダムと今のオーガンダムで唯一違う機能を使う。
背中のGNドライブからGN粒子が放出される。それを機体を包むように放出領域を設定する。
『GNフェザー!?』
GN粒子の放流に突っ込んだリボンズのオーガンダムは突き出したビームサーベルが、GNフェザーの放出するGN粒子の壁に阻まれている。即興のGNフィールドだが、リボンズの意表は突けた。
GNフェザーの隙間からビームサーベルを突き出して、リボンズのオーガンダムの左肩を突き刺した。
だがリボンズもバカじゃない。
直ぐ様右手で逆手に持ったサーベルの発振器が、こちらがビームサーベルを突き出した軌道に沿ってビームサーベルをリボンズも突き出して来て、GN粒子の刃がコックピットを貫く。
結果、おれの敗けだ。
◇◇◇◇◇
「驚いたね。何をしたんだい? あれは」
自我の生まれた弊害だろうか。戦闘データは僕とあまり変わらないものを刷り込みされているはずなのに、この僕が意表を突かれた。
「ビームサーベルが干渉しあったなら、もしかしてと思って」
ビームサーベルを形成しているのもGN粒子だ。ならGNフェザーの放出するGN粒子で防げない道理もないということか。
「GNフィールド。そう名付けたいかな?」
ソレスタルビーイングの保有する特殊MSであるガンダムは未だ第一世代のオーガンダムのみ。計画に必要になる機体を作るためのテスト機が開発され始めたばかりなのに新しい技術を彼は生んだ。
彼はもしかしたらイオリアがくれた掘り出し物かもしれない。僕たちイノベイターが人類を導く為に彼がくれたものだろう。
自惚れはないけど、まさかこの僕が傷を負わされるなんて思いもしなかったよ。
認めよう、ルインズ。君には僕の影を名乗ること許そう。
◇◇◇◇◇
リボンズとの模擬戦の後、おれはソレスタルビーイングにてガンダムの開発計画に参加することになった。
だがおれが扱う機体はガンダムマイスター用のガンダムではなく、イノベイド専用のガンダムタイプの開発だ。あのオーガンダムのGNフェザーで即興のGNフィールドを作った所為だろう。GN粒子制御技術を発展させてフィールド発生器を造り、シールドに装備してGNフィールドを展開出来るようにするらしい。つまりジンクスのGNシールドのひな型になるのだろう。オーガンダムのシールドにもGNフィールド発生器は内蔵されることになるが、やはりオーガンダムの技術は00系列のすべてのガンダム系技術の基になっているのがわかる。
ロボット工学なんてやったことのない素人に無茶いうなとは思うが、そこはソレスタルビーイング。人材は豊富に居る。
イオリアの計画に賛同した者たちが二世紀に渡って人材を確保し続けている。外の社会を知らず、ソレスタルビーイングの計画を遂行する為の英才教育を受けて組織で働き一生を終えた人も少なくはないのだとか。
先ずおれが着手したのは擬似太陽炉の開発だ。
GNドライブの数が5つしかない現状、GN粒子貯蔵タンクで機体を動かすのは少々手間だ。貯蔵粒子を作るために一基のGNドライブが動かせないのだから。
てゆうかなんでこんなこと誰も考えなかったんだ。
核エンジンと擬似太陽炉の同時運用。
擬似太陽炉は、永久機関である太陽炉を持たない代わりに有限電力でGN粒子を生成している。だから擬似太陽炉搭載MSは純正太陽炉を持つガンダムと比べて稼働時間に限りがあった。
なら半永久的に電力供給を擬似太陽炉に送れればそれで解決出来る問題だ。
「問題は、MSを動かすだけのエネルギーを出せる小型の核エンジンが作れるかどうかだよな」
太陽光という半永久的なエネルギーを手に入れた人類は、化石燃料や核エネルギー、火力、風力等のエネルギー発電の技術を捨てて太陽光エネルギー開発に勤しんだ。
だから今さら核エンジンを作るより安全なエネルギーを求めるだろう。
まぁ、爆発したら核爆発起きるエンジンなんか使いたくないよな。
この辺りはSEED系列のMSも同じだ。核エンジンを積んでいたMSは高火力のビームをバカスカ撃っていたけど、そうでないMSはエネルギーを気にしながら戦わないとならなかった。
戦闘中にそんなことまで気にして戦えるかと思う。
その辺りやっぱり純正太陽炉を積んだガンダムは良いよな。推進剤も気にしなくていいし、ビーム兵器主体なら弾薬気にしなくていいし。さらに装甲堅くしてるのに軽いし。
先ずはオーガンダムを複製して、技術研究に勤しんだ。休日シフトの時はソレスタルビーイング号に戻って複製したオーガンダムに擬似太陽炉を積んで実験に次ぐ実験だ。
同時にツインドライブ・システムも研究しておく。擬似太陽炉をたくさん積めば強くはなるけど、機体がデカくなるのはアルバトーレで実証されている。
一応リボンズの子飼なんだから死なないように立ち回らなければならないのはキツいけど、やるしかない。逆らったら殺されちゃうかもだし。
外の三大国家はリアルド、ヘリオン、ティエレンが主力MSだ。
そんなMS相手ならまだガンダムで無双出来る。物量相手でもなければガンダムは負けないのが1stシーズンだった。いやあれは強敵のガンダムに現行MSで立ち向かう敵パイロットの皆さま方の方がかっこ良くてつい応援したくなるんだよ。
へたするとおれは挑まれる側になりそうだからかなり本気でMSの腕に関しては磨くようにしている。
しかし誰だよ支援MSとしてGNキャノンとかGNタンクとか考えたの。GNキャノンはまだしもタンクなんて的になるだろって。
とりあえずオーガンダムを複製したおれのオーガンダムで武力介入が決定した。
場所は中東だ。クルジスに対する武力介入。現地にはリボンズのオーガンダムも向かうことになっている。
ヴェーダからの正式な通達ともあれば行かないわけにもいくまい。
おれのオーガンダムはGNTーX01 ガンダムゼフィランサスを名乗ることにした。
うん。無駄な設計やらを廃して今現時点での最高の技術でオーガンダムを再設計した機体だ。
それに合わせて重装甲、高火力、高機動を併せ持ったGNTーX02 ガンダムサイサリスも開発中だ。こいつはヴァーチェのご先祖様になるだろう。
ナドレを偽装する為の外付け装甲だって、モデルになるガンダムがないと開発陣も大変だろう。
空間戦闘能力を強化して拠点防衛用MAと合体するモジュール型のステイメン。
空間戦闘特化型のガーベラについてはまだ草案だけしか出してない。
このゼフィランサスについてはムーバブル・フレームが試験導入されている。機体の可動域はオーガンダムを上回っている。
ビームライフルも新規製造型で、Eパックを再現したかったものの、GNコンデンサーを戦場にポイ出来ないので諦めたが、十手は再現してやったぞ。
コア・ファイターは00系列でも開発され、実装された機構でもあるので組み込むのは簡単だった。
核エンジンはまだどうにもならなかった為、Aパーツ、Bパーツ、コア・ファイターにそれぞれ大容量のコンデンサーを内蔵して擬似太陽炉にエネルギーを送り込む方式になった。1st方式が出来ないからSEED方式にした苦肉の策だ。
対ビームコーティングを施したシールドも用意した。GNフィールド発生器を内蔵したシールドも造ったが、機密保持の為に使えない装備となった。
GNフェザーで広域にGN粒子を散布し、通信機器の一切を封じるオーガンダム。
リボンズが神様の様に天空からアンフを撃ち抜いているのに対して、おれのゼフィランサスはGNバーニアから噴き出すオレンジ色のGN粒子。その高機動力に物を言わせて一瞬でアンフをGNビームサーベルでフリーダムの如く解体していく。あの特徴的なコーン型スラスターは無く、あくまでもゼフィランサスの再現に拘らせて貰った。
「胸くそ悪い……」
MSを破壊すればパイロットを殺すことになる。GN粒子と脳量子波の所為か、パイロットの最後の瞬間の意識を感じてしまうのだ。
それだけじゃない。残留思念的な物も感じてしまうのだろう。とにかく早くこんなところから離れたくて仕方がないのだ。
「なんだ…?」
センサーに反応はないが、おれの脳量子波がなにかを感じている。
注意深くモニターの映像をズームしてしらみ潰しに探していると、リボンズから通信が入った。
『どうしたんだいルインズ? 引き上げるよ』
「あぁ。はい……でも…」
生返事を返して失礼かもしれないが、それで機嫌を損ねる程リボンズは小さい男じゃない。
子供の遺体。クルジスの少年兵だろう。こういうのを見て痛ましいと感じる自分はまだ能天気なのだろう。
既に武力介入で人の命を奪っているのに忌避感を抱かないから、その辺りはイノベイドの身体に感謝したい。
「いた……」
生体反応。
怪我をしている子供。少年兵だろう。
『ルインズ?』
「死にかけてる。でもまだ助かる」
リボンズも人間を見定めたなら、おれがやっても文句ないでしょ。
倒れている子供は腕がなかった。血がとめどなく流れている。
だからコックピットから降りて応急手当てをする。
『連れていくのかい?』
「ダメ?」
『いや。君の好きにするといいよ』
なら脳量子波で語りかけてくんなよと思う。リボンズの脳量子波は強くてプレッシャーを感じるんだから。
血でノーマルスーツが汚れるのも構わずに、おれは子供を抱えてゼフィランサスのコックピットに戻った。
それがこの子の運命を変えることになった。
to be continued…
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イノベイドになってしまった…02
煌めくビームサーベルの閃光。ビームガンの粒子ビームが切り裂かれている。
接近してくるオーガンダム、懐に飛び込まれるが、ケルディムガンダムがガデッサを倒した時の様に脇に滑り込むように避けて、サーベルを振り下ろしてがら空きの脇にビームサーベルを突き立てる。
『ああん、もう!! また負けたっ』
女の声で悔しそうに(実際悔しいんだろうけど)声を上げたのはヒリング・ケア。おれの後に生まれた後輩にあたるイノベイドだ。戦闘タイプのイノベイドには性別がなく、皆中性である。そんなん嫌だからおれは再調整したけどさ。なにがとは言わないように。
そういうわけで外見は完全に人間になった上におれはもともと人間だから感情の起伏の幅は狭くなったが、ヒリングは少しヒステリックというか、能力は高いけどリボンズよりは弱い。だからおれも勝ててるわけだけれども、プライドとかはいっぱしにリボンズ並みにあるからちょっと質が悪い。まぁ、そういうところはかわいく見えるおれもちょっと質が悪いんだろうけど。
『焦りすぎだね。そう猪突猛進だから彼に勝てない』
『あんただって似たようなもんでしょうが。アタシより先にやられてるじゃん』
『彼が効率的に僕たちを排除したその結果さ』
ぎゃーぎゃー喚くヒリングと違って、冷静に敗因を分析しているサイガーもといリヴァイヴ・リバイバル。
彼も戦闘タイプのイノベイドで、女性的な一面が目立つヒリングよりは中性的なイノベイドだが、なんか宝塚の役者さんみたいに男装の麗人という言葉が当てはまるくらいには男っぽい女の人のような扱いをすると嬉しがるのを知っている、てか男扱いすると機嫌が悪くなる。そして意外と甘党でもある。
ヒリングとリヴァイヴとの模擬戦は大体先にリヴァイヴを落としてからヒリングを片付ける。
マイスタータイプのイノベイドであるからふたりとも操縦センスは高い上に各能力も高水準。ただふたりの個性でヒリングは格闘寄り、リヴァイヴは射撃寄りのクセがある。だから先にリヴァイヴを潰しておくとヒリングと戦いやすいのだ。毎回リヴァイヴを先に落とすとヒリングが付け上がるから最近はヒリングをボコってからリヴァイヴを倒していたが、今日はリヴァイヴの方を先に落としただけだ。まだふたりして連携するっていう意識は薄い。戦いかたの違いからポジションで生まれる連携はあるけれどそれまでだ。模擬戦は最もスタンダードのオーガンダムで行われるから勝つも負けるもパイロットの腕次第だ。
文句を言って突っ掛かるヒリングとそれを涼しげに受け流すリヴァイヴ。
おれが同じイノベイドでリボンズ並みに強いから、ボコっても彼らはこっちを見下さないで対等な存在と接してくれているから見られる彼らの人間性だろう。進化した人類を自称しても、人類であり心を持つ限り人の持つ性質というのは切っても切り離せないもので。
ELSとの邂逅後、旧人類とイノベイターの間に紛争があったのも仕方がないのだろう。だってリボンズもヒリングもリヴァイヴもイノベイドであるからだろうが、下手に優秀すぎて人間ナチュラルに見下してるんだもん。そりゃイノベイドよりも優秀な純粋種のイノベイターと旧人類で蟠りが生まれてしまうのも悲しいことでも仕方がないとは思ってしまう。
だからこそのツインドライブ・システムとGN粒子なのだろう。純粋種のイノベイターの脳量子波がツインドライブ・システムと連動して純度を増したGN粒子が人々の意識を拡張させる。心の奥底に秘めている思いで誤解なく解り合える。NTとはまた違った相互理解を可能とする人種。
そうであっても初めから相手を見下していたらその相互理解すら成り立たない。
だからソレスタルビーイングはイノベイターと戦った。世界を変えるために。
「順調かい? ルインズ」
「リボンズか」
イオリアの計画を自分のものにするために動くイノベイド。だがイノベイドからリボンズは進化を遂げた。イノベイターとして。
ビサイド・ペインもスゴいやつだったが、リボンズは野心家じゃ無い分、アイツよりも大人しい。プライドが高いのはどっちもだがビサイドはリボンズよりも輪を掛けてプライド高い上に他者を見下すからおれもああいうタイプはなんかイヤだな。
人間によるガンダムマイスターではなくイノベイドによるガンダムマイスターで武力介入を行うことをしようとしたビサイドはガンダムマイスターの排除を行おうとしたのがプルトーネの悲劇や5年前の内乱だ。
00の外伝系列で、00Fや00Iは知っているが、00Pのことは詳しくは知らなかった為、まさかプルトーネの悲劇にもビサイドが関わっていたとは思わなかった。
てかおれにも突っ掛かってきたからなアイツ。おれがリボンズの裏で扱き使われていただけなのに、調子に乗るなと釘を刺された。
リボンズより自尊心高くてひん曲がったプライドも持ってるから取っつき難いったらありゃしなかった。
そんで反乱起こしておっちんだ所為でそのツケと尻拭いをおれがやるハメになって一時期過労で精神がまいるかと思ったぞ。
六人のイノベイドの監視者集めになったらアイツの動きを邪魔して嫌がらせしてやる。
擬似太陽炉の管理を任されたけど割に合わねぇもん。
だから金ジム大使ことアレハンドロ・コーナーの対処はリボンズに丸投げだ。ああいうおっかないおじさんと関わるのと、ヒリングとリヴァイヴの面倒見ろと言われたら絶対後者選びますよそりゃ。だって見掛けはヒリングもリヴァイヴも美人だしイノベイドの仲間だし、中性だってヒリングは甘い感じでリヴァイヴはラベンダーっぽい癒しの香りがするんだぞ?
Iガンダムについてはアルバトーレを作っていた小島がわからないから探すのは諦めるとして、Iガンダムに関しては技術開発用に1機はソレスタルビーイング号の中で組み上げている。
第二世代や現在開発中の第三世代、こっそり造ってるスローネもヴェーダからアップロードされている情報を基に組み上げが進んでいる。
「順調もなにも。タイムスケジュールの修正は誰がやったとお思いですか?」
「そうでなければ困るよ。君に植えつけられた才能はその為にあるのだからね」
イノベイドなら誰かしらの遺伝子を基に作られているから容姿が似通うものだが、ヴェーダを調べた限りおれと同じ顔のイノベイドは居ない。考えられるのはやっぱりリボンズがビサイドの代わりにおれを作ったか。おれみたいな異物が入ったことで何がどう変わるのかは全くわからない。
なにしろマイスター用ともイノベイド用とも違う独自のガンダムまで造っているのだから。
「君が拾ってきた子供。あの子をマイスターとして推薦したらしいね。しかも擬似太陽炉込みのガンダムまで合わせて」
「実動チームにも仲間が居るとはいえ、元々計画の為には5つの太陽炉が用意されていた。でも内1つは支援組織のフェレシュテにまわされる。ヴェーダに拒否されないのなら、それはヴェーダが計画に際して有益であると認めたからだ」
新型エンジンの手配も出来ている。ミノフスキー核融合炉はIフィールドを使って融合反応の封じ込めと放射能を遮断し、副産物としてミノフスキー粒子が生まれる。
でもIフィールドはどうしても見つからず、だから三大国家でもプラズマソードは出来てもビームサーベルの実用化は出来なかった。そのIフィールドの代わりをGNフィールドにやってもらうことにしたのだ。
圧縮されたGN粒子のGNフィールドで融合反応を閉じ込め、放射物の遮断まで実現した。ソレスタルビーイングの技術力、そしてヴェーダへのアクセス権を有する今だからこそ出来た技術だ。
この新型擬似太陽炉なら粒子切れの心配はない。半永久的に稼働でき、量産性もある太陽炉が完成した。問題は材料の方だ。大規模な木星圏での作業を可能とするファクトリー艦などない今の人類には結局この核融合擬似太陽炉は造れないし、造らせる気もない。それをするのは人類の意思統合が行われたあとだ。
これに関しては万が一もある為、おれがもし死んでしまったとしても情報は開示される様にヴェーダに取り計らって貰っている。
「その穴を君が埋めようと?」
「保険は必要だということだ。備えておいて損はない」
「ヴェーダの決定に狂いがあると?」
「個性の問題ですよ」
リボンズもそうだが、イノベイドは何処かヴェーダは正しい、間違っていないという至上主義思考が散見される部分がある。それはヴェーダの生体端末という側面もあるイノベイドに無意識レベルで存在しているのかもしれない。
「マイスター用ガンダムは最終段階。こちらのガンダムはGNPシリーズの3機とIガンダムを含めた4機のみだ」
他にも複製した各ガンダムもあるが、核融合擬似太陽炉だって数があるわけじゃない。しかも第三世代以外のガンダムは技術開発と趣味も兼ねて造ったようなものだ。実際に動かせる機体は多くはない。
「計画には充分な数だね。スローネは?」
「マイスターは完全。擬似太陽炉も順調だが機体の組み上げがどう頑張っても計画開始には間に合わない。あと大使の趣味は知らない」
「構わないよ。アレは彼の好きにさせるといい」
大使の趣味とは言わずもがな、金ジムとジンクスだ。
利用はするけど、正直ジンクスまで手を出していたら脳の血管が破裂する自信がある。ただでさえガンダムの用意で忙しいのに私設MSの生産まで面倒見ていられるかという話だ。
「来るべき日は目前だ。僕たちイノベイターが世界を導くんだ」
そうして導かれた人は多くの血を流す。アロウズの虐殺はどうにも出来なかったとしても、ブレイク・ピラーくらいは阻止したい。人質もろともなんてのは仮にも人を導こうとする者がやっちゃいけない。
「それと、あまりヒリングをいじめないでやってくれるかい? 脳量子波で煩くてかなわないんだ」
「それはおれを優秀に育てた自分を恨んでください」
ちょっとした細やかな復讐。おれに色々させる間に婦女子の本が厚くなる様な事をしているんだから、少しはこっちの苦労を知りなさい。
to be continued…
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イノベイドになってしまった…03
ソレスタルビーイングによる武力介入に合わせて第三世代ガンダムが完成を迎え、秘密裏にテストを兼ねた武力介入が行われていく。
とはいえテストはトレミーチームではなく、何故かおれの方に回ってくる。
『GN粒子、広域散布完了。敵部隊の通信網遮断を確認』
テストには目撃者の数を極力減らすためと、世間に目をつけられない様に中小規模のテロリストの宇宙基地などを対象に行われている。
宇宙ならテロリスト同士の小競り合いで片付けられて目撃者も限定出来るからだろう。
「デビュー戦も近いからな。今日はお前ひとりでファイナルフェイズまでやってみなさい」
『はい。お兄さま』
おれがクルジスで拾った子供は一命を取り留め、腕も再生治療で治すことが出来た。その辺りも世界の数段先を行くイノベイドの技術があればこそだ。ソレスタルビーイングの技術よりも更に先を行く技術はイノベイドだから触れられるものだろう。
複製されたガンダムデュナメスを駆るその娘の名前はシルヴィア。
クルジスで拾ったから刹那と同じくクルジスの少年兵かと思ったら、白人の女の子だったでござる。土汚れと血塗れでわからなかったんだよ。
傷が深かった影響か、記憶をなくしていた。いやガンダムマイスターとして刹那と接する機会もあるのだから、記憶がないことはむしろ好都合だった?
「いやな考え方も出来るようになった」
この20年。リボンズの文字通り影として動いていたおれはそれはそれは陰湿な争いとか揉め事とか散々見てきた。
戦争根絶の為の大義に賛同してその人生を懸けている人が大半でも、一部にはやはり代替わりの折りにその志を忘れてしまった関係者も多い。
アレハンドロ・コーナーもそのひとりだけど、まだ若い上に自分の代で武力介入が行われるのを知っているから余裕もあるし、リボンズもアレハンドロ・コーナーの財力を利用して擬似太陽炉を造っているからアレハンドロ本人もコーナー家の悲願とやらの達成は座していれば転がってくると確信があるのだろう。
だが似たような連中はそうじゃない。いつ武力介入が行われるかもわかっていない者が多い。監視者はある程度ヴェーダから情報は貰えるものの、そうでない者は逸る者もいる。
そういった連中の排除もいつもおれの仕事だ。
リボンズめ。雑務は全部こっちに放り出しやがって。
でもその代わりにおれがガンダム開発計画や私設戦力を持つことも容認されている。
GNPシリーズと、その運用母艦の開発。
GNTーX01 ガンダムゼフィランサスも更なる改装を受け第三世代ガンダム相当の性能を持ったGNPー01 ガンダムゼフィランサスとして生まれ変わりよりGP01 ゼフィランサスに近い外見のガンダムとなった。
まぁ、今乗ってるのはそのテストの為に新造したGNPー00 ガンダムブロッサムだけどね。
この機体はツインドライヴ・システムのシステムテスト機としても造られている。
ツインドライヴ自体は第二世代ガンダム時代に研究されていた技術だが、どうしても2基のGNドライヴの同調が出来なくてお蔵入りになっている。
だが今は擬似太陽炉といういくらでも弄り回せる太陽炉がある為、再び日の目を見ることになった。
擬似太陽炉はリボーンズガンダムと同じく肘の部分に搭載され、核融合炉はコアファイター側に搭載されている。ちなみにこのツインドライブ・システム、リボンズには内緒で搭載されている。
だからGNPシリーズであるおれのガンダムでもこのブロッサムにしか今のところは搭載されていない。搭載予定ならサイサリスとステイメンにもあるけど。
てかGPシリーズが化け物過ぎてそれを再現頑張ったからブロッサムの時点でスペックが第三世代ガンダム越えてて恐い。
ゼフィランサスでさえ推力はνガンダムより上なんだぜ? フルバーニアンなんかフェネクスより推力上で、サイサリスでもシナンジュより推力上って。
確かにMSの性能が推力で決まるわけじゃないし重量にも違いがあるから出力=機動力にはならないだろうけどさ。それでもそれだけの推力が0083の時代で実戦配備されていて、Z時代後半の高級MSにも及ぶ性能はあっただろうGPシリーズってやっぱ頭おかしいぞアナハイム。
このブロッサムも推力はサイサリスには及ばないが、ゼフィランサスよりは上だ。さらにGN粒子の質量軽減効果も合わさって高い機動力を有している。そこにツインドライヴが合わさってもうコレ性能的には第四世代行ってないかな?
武装の大型ビームライフルも手のコネクターからGNドライヴに直結出来るため高い威力を発揮するものの連射が出来ないため、ゼフィランサスと同じビームライフルを装備して出撃する事になるだろう。
そんなブロッサムの強みはレドームセンサーによる高精度射撃能力とレドームパーツ自体がGNフィールド発生器を兼ねている為、ツインドライヴと連動させて高い防御力を発揮出来る点だろう。
またこのドラムフレーム部を換装すればソレスタルビーイングの各ガンダムのパーツでも装備可能である。
わかりやすい様に青と白に塗装されているシルヴィアのデュナメスは確実にテロリストのMSを撃ち落としている。ジンクス用のGNロングライフルを使いティエレン宇宙型を撃墜していく。
シルヴィアの射撃はリヴァイヴ仕込みだからなぁ。ロックオンとも良い勝負になるだろうけど、シルヴィアはスナイパーっていうわけじゃない。射撃も出来るマイスターだってだけだ。
デュナメスに乗せているのは、デュナメスが一番シルヴィアの戦いかたに合っていただけだ。強化改造も施し腰のGNバーニアは2基から4基に増設してあり、サダルスードのパーツも組み込んで新しいガンダムに見える偽装もしてある。フルシールドの代わりにGNフィールド発生器を増設したセンサーシールドを装備しているからGNフィールド発生時ならヴァーチェ並みの高い防御力もある。
そしてそんな射撃ガチ機体に反して唯一異端な装備は両腰のアタッチメントに装備されている二本のGNブレイドとGNミサイルを外してまで増設したスカートアーマーのGNバーニアとそこに内蔵しているGNダガー、足にはデュナメスと同じくGNビームピストルが外付けされている。
このガンダムは胸部に核融合炉、ケルディムやサバーニャの様にGNドライヴは腰に位置している。型式番号はGNNー002 ガンダムゲリンゼルとなっている。
この装備はシルヴィア本人のオーダーだ。ビームサーベルよりもGNブレイドを好むし、射撃も近接も得意なのは少年兵時代の身体が覚えている戦い方なのだろう。パーツ干渉しないようにセンサーシールドは接続アームの延長やOSの調整までする程だった。
果敢に接近戦を挑むティエレンもいるが、あれは敢えて懐に誘い込んでスカートアーマーから抜いたGNビームダガーをサーベルモードにしてティエレンを切り裂いた。そのまま別のティエレンにはGNロングライフルで四肢を撃ち抜きながら接近し、GNビームサーベルで胸部を突き刺した。てかやり方がえげつねー。リヴァイヴの仕込みか?
「っと、悪いけど見逃せなくてね」
逃げようとする中型の輸送艦。中は非戦闘員も居るだろうけど、ガンダムを見た人間は生かして逃がすことも出来ない。
大型ビームライフルを構え、GN粒子を充填する。
核融合擬似太陽炉は粒子の色が蒼い為、粒子ビームもセンチネル系みたいに蒼いビームを撃つ。
そんな蒼いビームが輸送艦を貫く。
護衛のヘリオンがこちらに気付いて向かってくる。シルヴィアも彼方は片付け終わる頃だろう。
「速攻で決めさせてもらう。トランザム!!」
トランザムの理論はわかっている為、その機能を実装するのも簡単だ。もっともやはりツインドライヴと同じく今はこのブロッサムにしか搭載されていない機能だ。
ゲリンゼルもトランザムは可能だが、ヴェーダ側から情報を秘匿して貰っている。
機体が赤く発光し、高濃度のGN粒子が脳量子波を高め、接近してくるヘリオンの機動予測が未来予知染みたものとなり、レドームの解析能力も上がったことで所謂置き射撃で2機のヘリオンを撃墜する。
「っぅ……ふぅぅ…」
小さく息を吸い。大きく息を吐く。命を奪うことに忌避感はないが、それでも戦う者ならともかく戦わない者まで殺すのは毎度のことながら気分はあまりよくはない。
『敵基地の制圧を完了しました。お兄さま』
「よし。データからガンダムに関するものはクラックしてダミーにすり替える」
完璧に片付けないのはフォンの例もある為だ。あまりに綺麗すぎて情報操作からソレスタルビーイングの存在に気づかれかねないからだ。
こうした秘密裏の武力介入を続けながらガンダムのテストを続けていく。
トレミーチームにはシルヴィアが合流し、ついでに何故かおれもシルヴィアのお供でソレスタルビーイングに正式合流する指令がヴェーダから回ってきた。
◇◇◇◇◇
ソレスタルビーイング。戦争根絶を掲げる私設武装組織。世の中から戦いを無くすために生まれた組織。
お兄さまが働いていらっしゃる組織。わたしが属する組織。
「シルヴィアちゃーん、今ヒマかなぁ?」
手招きをしながらわたしを呼ぶのはお兄さまの妹さま。ヒリング姉さま。
「なんでしょうか? ヒリング姉さま」
「ヒマならさぁ。アタシに付き合ってくんない?」
ヒリング姉さまはわたしは苦手です。いつもわたしをいじめます。
「イヤとは言わないでしょ?」
「っ……」
掴まれた腕がビキッと痛む。容赦ない力で握られる腕に顔をしかめてしまう。
「あら、どうしたの? かわいい顔が台無しよシルヴィアちゃーん?」
「ぅぅっ……」
痛くても耐えないとならない。逆らったらもっと酷くなる。
「こーんな弱っ子。なんでルインズは贔屓するのかしらね? アタシの方が優れてるのに」
「ぁぅ…っ」
メキッと骨が軋む。
「アタシに頼めばマイスターに潜入するくらいしてあげるのにねぇ。なんでアンタに話が行くのかしらねー?」
「そ、それは……」
それはわたしにもわからない。ただわたしはお兄さまの為にMSに乗っているだけで。
「なにをしているんだ。ヒリング」
「ありゃリヴァイヴ。別になにもしてないわよ?」
パッと手を放すヒリング姉さま。リヴァイヴ姉さまが来てくれてわたしの腕は助かった。
「ウソをいう。来なさいシルヴィア。ヒリング、この件は一応黙って置こう」
「はいはい。やぁね、アタシだけ悪者で」
「事実悪者だろう。いくぞシルヴィア」
「あ、はい…」
ヒリング姉さまが物凄い睨み顔でわたしを睨みながら、わたしはリヴァイヴ姉さまに手を引かれてその場から逃げ出せた。
「あまりヒリングと二人きりになるなと言ったはずだが?」
「すみません。急だったので」
「リジェネ・レジェッタはどうした?」
「用があると姿を消してしまわれて」
「チッ、使えんやつめ」
ヒリング姉さまはこわいですが、リヴァイヴ姉さまは別の意味でこわいです。リジェネ兄さまはよくわかりません。
「リヴァイヴ姉さま、もう平気です」
「なにをいう。骨にヒビが入ったはずだ。君は計画の為に必要だ。この様なことでヴェーダの計画に穴があってはならない」
リヴァイヴ姉さまは優しいです。でも義務感の様な優しさなので、お兄さまの様にわたしを愛してくれる優しさとはまた違います。
「ヒリングの醜い嫉妬など気にするな。君は人間にしてはよくやっているよ」
「すべてお兄さまのお陰です」
お兄さまが居るからわたしの人生は意味を持ちます。MSに乗るのもそれでお兄さまの手伝いが出来るからです。
「そうだね。彼のお陰で君はここにいる。でなければ私も君の面倒は見ていない」
「はい…」
リヴァイヴ姉さまもお兄さまを慕っている。だからわたしの面倒も見てくれます。ヒリング姉さまが嫉妬するのもわたしがお兄さまの妹だからでしょう。
「君が余計な傷を負って彼の手を煩わすわけにはいかない。わかっているね?」
「はい」
だからお兄さまはヒリング姉さまがわたしをいじめている事を知らず、リヴァイヴ姉さまも報告せず、わたしも何も言いません。
to be continued…
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