ソードアート・オンライン ~幼い心は強く~ (紅風車)
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SAO編:仮想の世界
【SAO編:小さな一歩】第一話


初めましての方は初めまして。
お久しぶりの人はこちらもよろしくです。

今回もユウキ生存の小説です。
新しく書こうと思って書き出したのがこれですね。
いつも通り不定期更新で作者の気まぐれですが、それでもよければ見て行ってください。

予定では数話ほどSAO前です、ご容赦下さい。


2022年11月7日。

ある人達にとってはこの日はとても待ち遠しい物となっただろう。

科学技術が進み、世界中では日本で初めて体感型フルダイブゲームが開発された。

βテスターの分も合わせて一万本限定ではあったが全国の量販店やゲーム店で販売され、数分で売り切れた。

そんな大人気ゲームにもなろうとしているゲームを開発したのは物理学者でもある()()()()ともう一人いた。

 

 

その人物は世界的にも名を残し、不治の病とされた難病の『AIDS』の原因となった『HIV』を完全に死滅させる特効薬を開発をする。

しかしその人物は唯の一回として名を明かさなかったという。

とある病院に一つの薬瓶とその薬剤の効果と効率的製造法を記載した書類を置いていっただけだという。

無論こんな怪しさ満点の薬剤は使われることもなく廃棄される・・・はずだった。

ある少女がこの薬剤の被験者になると声をあげ、その効果は本物だと証明されたために、この薬剤を作り出した本人を探すべく国家総出で探し回るも手がかりの一つも見つけることすら叶わず闇の中へと葬られていった。

 

しかしこの人物は茅場晶彦本人にどのようなコンタクトを取ったのか分からないが、ゲーム製作の協力をすると言い茅場晶彦と共に作り上げたという。

茅場晶彦は語った。

 

『あの人がどのような人なのかは一切分からなかった。私よりとてつもない考えをお持ちであり、私にはその片鱗を理解できるとは思えない』

 

天才とはひたすらに孤独。

まさにこのことなのだろうと察せる。

しかし姿を一つも見せなかったのは何か理由があったのか分からないが、茅場晶彦曰く『姿見が重要じゃない。本人が無意識にだしているオーラのようなものは不思議な感覚』だという。

 

 

これはその謎が多い人物のお話。

どのような人生を歩んでいるのか、それを綴ってみようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018年のある日。

 

小学一年生の俺はトボトボと毎日変わらない風景を見ながら学校を下校していた。

基本的に俺は独りで行って帰っている。

友達が居ないのもあるが、俺の見た目で作れる気がしない・・・というのが本音だ。

 

俺の見た目はぱっと見女の子にしか見えないだろう。

身長は128cmほどで髪の毛が腰にまで伸びている。

最初は切ろうとしたのだが家族に・・・主に母さんが何というか、切らないで欲しいという願いを込めた涙目で見つめて来るので切るのは諦めた。

髪が長い分、お風呂が大変だけどそこは慣れ。

次第にどうすればしっかりと洗えるのか方法も見つけて今に至る。

 

「ん・・・寒い・・・」

 

結構厚着をしているとは思うも俺の体は我慢が出来ないのか寒がりらしい。

女の子特有なのだが・・・どうやら俺の体は女の子に近いため凄く冷えやすい。

こればかりは家族も手間がかかったらしい。

しかし時代の進歩で携帯型カイロを持ち歩くことで何とか対処している。

それでも防寒ガッチガッチだが。

 

「・・・はぁ・・・」

 

小学生に限ったことじゃないけれど子供というのは独りぼっちで過ごす子を疎むような感じがする。

無論それは俺も同じで独りで過ごすからか、クラス全体から浮いている。

そしてそういう子は大概グループを形成している子達の虐めの対象になりやすい。

俺はそこまで気にはしないけれど普通の子はそんなの無いからなぁ・・・。

 

「・・・早く、帰ろ・・・」

 

何というか後ろに人の気配がするので走って帰る。

走って帰っているからか後をつけるのはやめたのかすぐに気配は無くなったけど、早く家に帰ってしまう。

寒いし。

 

「・・・ただいま・・・」

 

俺がそう言っても誰も出迎えはしない。

父さんは大手企業の社長であり、母さんは研究職なのであまり家に帰ってこない。

姉さんもいるが、今の時間は午後3時。

中学生の姉さんはまだ授業か部活動で帰ってこないだろう。

後は、一つ下に妹がいる。

頭は正直良くないが、兄姉想いの良い子・・・だと思う。

俺に対する目線が熱いときがあるけど・・・気のせい。

 

「・・・暇・・・だな・・・」

 

こればかりは仕方ない。

俺だってしっかりと理解はしているし、両親が忙しいというのも承知だ。

それでも・・・寂しいと感じてしまう。

迷惑はかけないようにそういったことは言わないが。

 

「まだ、時間あるし・・・寝よう、かな」

 

姉さんに怒られそうな気がするけど、ちゃんと理由をいえば大丈夫。

哀しそうな表情をされるときもあるけど・・・なんでだろ?

まぁ・・・良いかな。

 

「・・・ん・・・」

 

いざ寝ようとしたらすぐに瞼が閉じた。

そんなに疲れてたのかな。

そんなに()()()()()()()()()()から良いけどね。

晩御飯を作れる時間までに起きれたら・・・じゅう・・・ぶん・・・。

 

 

 



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第二話

小さな明かりが俺の近くで点いていた。

姉さんか妹が点けてくれたのだろうなと思いつつ時間を見た。

 

「ぁ・・・7時・・・」

 

「もう作ったわよ」

 

その声は台所から聞こえており、大人びた声を持つ彼女は俺の義理の姉である『絢音』。

そしてその両手には完成された料理があった。

 

「・・・ごめんなさい」

 

「構わないわよ。どちらかと言えば年上の私が作らないと駄目なんだから」

 

「・・・毎日、作るはずだったから」

 

「疲れて寝たんでしょう?そんな状態で台所に立たせれないわよ。それにたまには私の料理練習もさせなさいよ」

 

「ぅ・・・はい」

 

本当にこの姉には敵わない。

ああいってるけど内心、心配してくれての事。

姉さんが帰るの遅いとき俺が作るようになってからずっとだったし。

それを・・・よく思ってないのも分かってる。

だけど俺が作らないと、姉さんの帰宅時間が分からない以上ご飯の時間も遅れてしまう。

 

「わかればよろしい。それじゃ・・・夜々呼んで来てくれる?優紀に懐いてるもの」

 

「ん・・・」

 

夜々というのは義理の妹。

絢音姉さんと夜々血が繋がっている姉妹で、簡単に言えば俺だけ血が繋がらない。

それを姉さんに言ったら頬を叩かれた。

夜々も泣き出してて。

凄く怒ってて、でも俺にはよく分からなかった。

 

「夜々ー・・・?」

 

「ん、どしたのー?」

 

「姉さんが、ご飯・・・だって」

 

「お姉ちゃんが作ったの?珍しいね」

 

「・・・俺が、寝てたから・・・」

 

申し訳なさそうに俺はいうと夜々はニコニコしながら座っていた椅子から下りると俺の頭を撫でて来る。

正直な話夜々にすら俺は身長を抜かれている。

気にしはしないが、それが逆に庇護欲?を掻き立てられるとかどうとか・・・。

 

「お兄ちゃんさ、寝てないでしょ?」

 

「・・・」

 

夜々にそれを指摘された瞬間、俺は何も言えなかった。

確かに俺は寝てない。

いや・・・寝れないの間違い。

いつも通り寝ようと思えば寝れるがそれは数十分。

先のお昼寝ぐらいでしか1時間以上寝る事はない。

何故それが夜々が知っているのか不思議だけど・・・。

 

「お兄ちゃん結構朝強いなーとは思ってたけど道理で早いわけだ。寝てないもん」

 

「・・・ごめん」

 

「・・・まだ怖い?」

 

夜々の問い。

あの場所にいた頃の事だろう。

凄く頼りになる兄貴分の人はいた。

でもそんな人で構成されているわけでもなく、中には冷徹で非道な奴もいた。

当時の俺は何を思っていたのだろうか。

思い出そうとすればその時、犠牲になった子供達の声が聞こえそうで凄く怖くなる。

気付けば自分の手が震えており、抑えようとしても止まることを知らないのか止まらなかった。

 

「・・・お兄ちゃん」

 

「ぁ・・・ぁ・・・」

 

「大丈夫、私が居るよ」

 

そういうと俺の両手を掴んで優しく包んでくれた。

優しく、自分はここにいるよと言うように。

 

「二人ともー、遅いぞー・・・って・・・何してんの」

 

「あっ、お姉ちゃん」

 

ただ呼びに行くだけにしては時間がかかったことを怪訝に思った姉さんが様子を見に来た。

今の俺の表情は見えないだろうけれど夜々の雰囲気的なので分かったのだろうね。

 

「・・・発作?」

 

「・・・うん」

 

「全く・・・」

 

仕方ないといった感じで姉さんは俺の後ろに立つとそこから抱きしめた。

すると夜々も同じく前から抱きしめて来る。

 

「また無理をしてる。あまり我が儘を言わないとは思ってたけど・・・正直異常だよ」

 

「・・・ぅ」

 

「さっきは・・・夜々が抑えてくれたから良かった・・・。でもあなたは自分を抑えすぎよ。もっと我が儘になって・・・もっと・・・私達に甘えてよ・・・」

 

そう言う姉さんの声は段々と悲痛な物となった。

ずっと昔から両親にも言われていたことがあった。

我が儘でいい、甘えん坊でも良いと。

でも・・・俺には理解が出来なかった。

 

 

 

我が儘って?

 

甘えるって?

 

どうすれば良いのか分からなかった。

 

だって、生まれたときからそんなこと一度もしたことなかった俺には方法すら分からないから。

 

 

 

でもその場で良いから何か考えないと。

姉さんと夜々が納得する物で、我が儘とかじゃない普通の返し。

 

「・・・頑張る」

 

今の俺にはこれが限界。

我が儘なんてどうすれば良いのか分からない。

甘えるってどういうことをすれば良いのかも。

だから頑張るという目に見えない感じで済ませた。

 

「・・・二人とも、ご飯冷めるよ?」

 

「・・・ええ」

 

「・・・うん」

 

この時の返事がどうして寂しそうで哀しい表情を浮かべたのかも俺には分からない。

 

どうしてそこまで血の繋がらない俺に情を抱けるのだろうとすら。

 

「・・・はぁ」

 

答えがでない俺はひたすら悩みつづけるも分からなかった。

とりあえず・・・保留して二人に心配かけないように考えて行動する事にした。

 

 

 



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第三話

書き溜め分が無くなれば書き終わり次第投稿となります。
SAOにさっさと入れたいので。


いつも通り俺は学校に通う。

独りで登校は慣れたから良いけど時折友達同士で登校している子を見ると羨ましく感じた。

まぁ・・・自分には出来ないだろうし、あんまり寄って来なさそうな気はしてるから良いや。

 

「・・・寒い・・・な」

 

通り慣れた道を歩いているとふと気になった子を見た。

自分と同じように腰にまで届きそうな長い紫色の髪の毛を持つ女の子。

頭には主張が強いアホ毛がピコンピコンと跳ねている。

夜々が言うにはアホ毛は本人の大事なところだから抜いては駄目と聞いているけど・・・実際に見てると凄い抜いてみたい。

まぁ喋った事も無いし関わることは恐らく今後も・・・無いかな。

 

 

だが、それは不意に訪れるものだ。

本人すら予期せずに。

 

 

小学校は義務教育の一貫なので渋々受けているけれど正直これなら家でご飯を作る方が楽しい。

どうせ授業内容はつまらない。

分からなくてつまらないんじゃなくて知っているからこそ面白くない。

知っている知識でもそれをどう教えていくかによってそれを受けている生徒も変わりそう。

楽しい授業ならその分その内容は印象強くなるだろうし。

静かな授業なら面白くない分印象は弱い。

でも俺は面白くないからだけで寝るわけではない。

じゃあどうするか。

自分の席は窓側でちょうど左側を見れば外の景色が見える。

授業中は基本的に外を見ている。

先生も気づかないわけではないので当てて来るも俺に詰め込まれた知識は問題なく返せる。

この辺りは研究所に感謝かな、したくないけど。

 

そんなことを考えていれば授業が終わるチャイムが鳴り響く。

そしてこれは4時間目終了のチャイムなので次はお昼ご飯の時間なのだ。

ここの小学校は弁当持参となる。

席も自由に移動していい分、やはりハブれて来る子はいるものだ。

 

「・・・どっかいこ」

 

この席も誰かが座っている形跡があるのでその子のためにも俺は学校指定の鞄を持つとお昼ご飯を食べるために屋上に行く。

屋上は本来危険性を考慮し開いていないがあんな程度の鍵ならピッキングで数秒あれば開けれる。

しかし今日は何となく変な感じがした。

屋上に行く階段は殆ど使われることが少ないので埃がちらほら見える。

でも誰かが来たのであろう自分よりも大きい足跡が目立つように見えた。

 

「・・・誰か、来ている?」

 

そんな予測と一応の警戒をしてドアノブを捻った。

すると、本来俺以外はいないはずの屋上には。

 

 

朝登校時に見えた紫紺の髪の女の子と、その子を囲むようにいる女子数名。

 

 

瞬時に悟った。

これが虐めなのだろうと。

俺は虐められるのは良いけどする方には絶対になりたくない。

する理由も利益も無いから。

 

「・・・ぁ」

 

「・・・・・・・・・・・・!」

 

関わるのも嫌だ。

だけど、あの紫紺の女の子は俺を見た瞬間、驚きと悲しみとか色々混ざった瞳を向けてきた。

一つ目は虐めて来る人数の増加。

二つ目は、()()()()()()という彼女の願いとその口の動かし方。

生きるために必要だった技術の一つに読心術ぐらいはある。

あの女の子が声を発さず唇の動きだけで伝えたかった言葉。

 

()()()()

 

俺は大事にはならないよう、紫紺の女の子を囲っていた女子生徒数名に軽めの殺気を向ける。

ただ、殺気を向けただけ。

それだけで青ざめた表情になってすぐに脱兎の如く逃げ出した。

殺気を抑えるとあの紫紺の女の子の所に行って抱っこしてあげた。

 

「へ・・・?」

 

なんか・・・すごい素っ頓狂な声を出されたけど気にしない。

この小学校の屋上には何故か都合よくベンチが置いてあるので女の子を寝かせるようにベンチに寝かせた。

枕がそのままなら痛いかなと思って現在俺の膝の上には女の子の頭が乗っかってる。

 

「・・・大丈夫?」

 

「ぁ・・・うん」

 

「そか。良かった」

 

「・・・ボクの事、その・・・嫌じゃないの?」

 

「・・・?」

 

そういえばこの小学校にはHIVに感染してる子がいるって聞いた気がする。

興味はなかったから名前はしらないけど・・・。

もしかしたらこの子がそうなのかも知れない。

高々HIVに感染してるだけなのにね。

感染した人の体液とか血液に気をつければ良いだけなのに、何故わざわざ虐めに行くのか分からない。

 

「ぁ・・・えと、その・・・傾げられても・・・」

 

「・・・助けて欲しそうにしてた。それだけじゃ・・・駄目?」

 

「う・・・駄目・・・じゃない」

 

「・・・君はHIVキャリア?」

 

「っ・・・うん」

 

「そっか」

 

「嫌・・・じゃないの?」

 

二度目の返し。

不安・・・なんだろうな。

HIVというのは不治で難病でありながら治せない。

そもそもウィルスに有効な治療薬が無いし。

 

「・・・嫌じゃない。病気で偏見は、嫌い」

 

「・・・ありがとう」

 

「・・・名前・・・聞いても、良い?」

 

「うん。ボクの名前は木綿季。紺野木綿季、だよ」

 

ゆうき。

その名前の字は分からないけど俺と一緒なことに少し親近感を覚えた。

 

「・・・ゆうき・・・かぁ・・・」

 

「君の名前は?ボクだけ教えるのなんて不公平だよ」

 

「あ・・・ごめん。俺は・・・村雨優紀。同じ、名前だね」

 

「ホントだね。ボクのは木綿に季節の季・・・書いたのが分かりやすいかな」

 

ちょうど俺は鞄を持ってきていたので中からノートと鉛筆を渡した。

ゆうきが書いたのは『紺野木綿季』。

俺も自分の字を教えるために『村雨優紀』と書いた。

 

「・・・よろしくね、優紀」

 

「ん・・・よろしく、木綿季」

 

そういう彼女は凄く明るい笑顔で見ていて心を引き付けられる感じがした。

木綿季がHIVキャリアとは思えないほど明るかったから。

 

「・・・授業・・・めんどくさい・・・」

 

「あはは・・・ボクも正直同じ感想」

 

「・・・仕方ない、出てくる」

 

「優紀がいくならボクも出ようかな」

 

「・・・呼びづらくない?」

 

俺の名前と彼女の名前は一緒な為分かりづらい。

ゆうきと呼んでも一緒にいる場合どっちを呼んでいるか分からない。

 

「じゃあ・・・優紀の事、ゆうって呼ぶ。ボクはそのまんま。どお・・・かな?」

 

「・・・ん、良いよ」

 

「えへへ、ありがと、ゆう!」

 

不安げな瞳から一点してコロコロと表情が変わってて見ていて飽きない感じ。

掴みにくい表情だけど一緒にいればこんなのすぐにわかる。

そうしてもうすぐ5時間目を始めるチャイムが鳴りそうだったので、早めに動いた。

 

 

その後もすぐに授業は終わって帰るとき、ふと思った。

帰り道一緒に帰れないかなと。

そう思い校門で待っていると玄関口から待っていた紫紺の少女が見えた。

目立つのは嫌いなので、木綿季が見つけてくれると思い待つ。

 

「ん・・・ゆう?」

 

「木綿季・・・その、一緒に、帰ろ?」

 

断られるかもしれないこの提案、正直不安しかない。

そもそも身内以外と話すことがないから何をどうすれば良いのか分からない。

帰ろうと言った瞬間、木綿季の顔が真っ赤になってボンッと煙が出た感じがした。

 

「ぁ・・・駄目・・・かな・・・」

 

「ううん!だ、大丈夫!大丈夫だけど・・・ゆう!」

 

「んう?」

 

「家族とかボクとか以外にその聞き方はしないほうが良いよ。その・・・あれ・・・だから」

 

「・・・?」

 

ちなみに木綿季さんの心の声↓

(可愛いよぉおお!お持ち帰りしたいいい!止めてぇ!その不安げな瞳で涙目ならないでよおお・・・!それに首をコテンと傾げる仕草の一つ一つが可愛すぎるんだよおおお・・・!!)

とまあ己と戦っていることを知らない優紀は顔を真っ赤にした木綿季を前にどうすれば良いのか分からない感じで返事を待っていた。

 

「・・・と、とりあえず・・・帰ろ・・・っか。うん、普通に・・・普通に・・・」

 

「うん・・・?」

 

「・・・それにもうあまり長く・・・ないからね」

 

木綿季が言った長くないという言葉はよく分からなかった。

でも、HIVを抑える限界が来ているのだろうと思った。

 

「・・・木綿季」

 

「えへへ・・・ごめんね、湿っぽくなっちゃって」

 

「ん・・・大丈夫」

 

帰っていると木綿季の道が途中で分かれたのでそのまま真っすぐ俺は帰ろうとした。

だけどその時、木綿季の目が凄く寂しそうな目をしてた。

 

「・・・木綿季!」

 

「へ?ど、どうしたの?」

 

「・・・置いて・・・逝かないで・・・」

 

「っ・・・!」

 

木綿季に抱き着いた俺はぎゅーっと彼女の暖かみをしっかりと記憶する。

すると木綿季もお返しと言わんばかりに抱き返してきた。

 

「もうっ・・・遅いよ・・・」

 

「・・・ごめん」

 

「・・・待ってるよ」

 

「・・・うん」

 

待ってるというのが死後なのか今なのか分からなかったけど、それで別れた。

あのまま一緒にいたらもっと一緒に居たくなるから。

暖かくて・・・お日様みたいな感じの木綿季は姉さんや夜々とは違った匂いで安心できた。

一緒にいるだけで身体がポカポカとして来る感じ。

 

「・・・早く・・・帰ろう」

 

温かかった身体は外の空気で冷えていく。

しかしそこにはある目標をかがげる幼い姿が立っていた。

 

 



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第四話

家に帰った俺はとりあえずどうするのか頭の中で整理した。

まず俺はただの子供。

実験施設で実験体として捕らえられた事があるというだけだ。

だが、手がある。

実験施設の事はかなりの国家機密で、俺とその強襲部隊と政府しかしらない。

違法実験・・・それも、国家に対する何かだと考えれば妥当だ。

人体を改造する実験で兵器や殺人ウィルスなど挙げていけばキリはないが国家としては公に出来ない物だった。

そん時の関わりを使えば、出来なくはない。

それに無駄に実験施設では弄られてた分、知識はある。

行動を移すべく教えてもらっていた電話の番号を非通知で入れた。

 

『菊岡です』

 

「・・・菊岡さん、ですか」

 

『君は・・・優紀君だったかな?』

 

「はい。少し聞いてほしい話があるんですが」

 

『・・・分かった。今からいう所に来てもらって良いかい?』

 

「分かりました。俺は顔を隠してるので子供で搾れば見つかると思います」

 

俺はそれで電話を切ると姉さん達を心配させないように書き置きを残して家を出た。

場所はバスで行った、遠いし。

そうして指定された場所・・・というかお店に着いたけど・・・。

 

「・・・場違い感」

 

子供の俺には場違い感しかないけど仕方ない。

高級スイーツ店に入って件の人を探す。

すると、無駄に目立つ様に俺を呼ぶ人がいた。

 

「優紀君ー!こっちこっちー!」

 

スーツ姿の眼鏡をかけた男が俺を呼ぶ。

それが視線を集めてやがて俺へと向けられた。

 

「・・・嫌な、視線」

 

その視線は見定めるような感じで、粘っこい。

俺が嫌うもので見られていて気持ち悪くて吐き気がする。

少し早走りで呼んだ男の反対側に座る。

 

「やあ、久しぶりだね」

 

「・・・そうですね」

 

「今日は何かあるのかい?」

 

「・・・国として考えて下さいね」

 

国、つまりは個人的な理由ではなく大事だと分かってもらう言い方。

それに菊岡さんは真剣に聞いてくれる。

 

「AIDS・・・聞いたことありますよね」

 

「・・・ああ。治せない病気だね」

 

「治療薬があるとしたら、どうしますか」

 

「・・・多くの人を救える。かなり価値があって世界的にも有用だと思うよ」

 

「・・・薬物の研究施設を貸してほしいです。代金は・・・俺の知識にある『AIDS特効薬』」

 

国として俺が受けていた事を聞き出そうと、俺に事情聴取を行った。

だけど俺は一切の黙秘をして、知識は何も出さなかった。

実験施設は書類など残ってしまうデータは全て廃棄しており、それらは全て俺の頭へと収まっている。

国はそれが欲しいが聞き出せないので保留している。

 

「・・・分かった。君の知識は大いに役立てる。不治の病だったAIDSを治せるのは素晴らしい」

 

間違えられがちだがAIDSは症状でHIVはウィルス。

AIDSの治療法はHIVを死滅させれば消える。

HIVは免疫細胞の司令塔であるヘルパーT細胞に取り付いてその能力を無くす事に特化している。

免疫細胞は命令が無ければ一切動けないので、このヘルパーT細胞が機能しなくなれば必然的に免疫は完全に無くなる。

 

 

菊岡さんに用意してもらった研究施設はそこそこの大きさで研究員は俺だけ。

というのも菊岡さんは知っているが俺は人が好きじゃない。

見知らぬ大人など要れようものなら俺が暴れ散らすと知っているのだ。

事情聴取の時に実際暴れてたし。

 

「・・・よし、やろう」

 

家族には書き置きだけして何も言っていない。

俺から言おうと思ったけど、両親に繋がるとは思えないし、姉さんや夜々に言えば帰ってこいと言われるから。

 

「久しぶりに、独り・・・か」

 

寝泊まりも研究施設でする。

食事は国家権力で菊岡さんが何とかしてくれると言ってくれたけど、元々俺はそこまで食べない少食なので普通の注文にするつもり。

 

 

 

 

 

数週間して慣れたその研究施設で俺は忙しなく動く。

本来は数十人でやるこれを俺は一人でやる。

動きやすいし、会話がない分言わなくて良い。

 

 

 

 

 

数ヶ月。

人体には超危険な毒物ではあるけどHIVを死滅できる薬品が出来た。

これでは服用すれば普通に毒で死ぬので次は毒がない物を作る。

 

 

 

 

 

また数ヶ月。

一年ほど経った。

誕生日を祝う人などいないから忘れていた。

動物実験は成功して、今度は人で出来るか試行錯誤。

 

 

 

 

 

5ヶ月後。

ここまで2年と5ヶ月ぐらいか。

何回も確認して、漸く危険がない錠剤が出来た。

粉末だと飲みづらいけど錠剤なら飲みやすい。

また、子供でも効用は出る様にした。

そのために作ったから。

 

 

 

 

 

俺は菊岡さんを呼んで、日本の薬学会にそれを提出してもらった。

それは認可されて名前が表されるはずだけど、俺は名前を出してほしくなかったので偽名でやってもらった。

特許とかは国の力で色々としてもらって俺が所持して生産は機械生産出来るように紙束を菊岡さんに押し付けた。

被験者があればすぐに生産を始めれるらしい。

やはり効果が認められても人々からすれば安全性が保証できないとダメらしい。

 

「・・・横浜のある病院に、HIVにかかってる女の子がいる。その女の子に頼んで」

 

「・・・知り合いなのかい?」

 

菊岡さんの問いに俺は頷いた。

すぐに菊岡さんは動いて手続きを色々してくれた。

俺も出来るけどさせてくれないだけ。

 

「・・・ご家族、主治医、そして本人からも確認が取れた。被験者になっても良いと」

 

「ん・・・なら、被験者データだけを出してその子に関わる他のものは一切公開しないで。個人情報とかも」

 

「・・・難しいね。情報が無ければ怪しまれる」

 

「データだけ。普通はそんな他の情報はいらないでしょ」

 

「・・・だが」

 

「出したら国潰す」

 

「分かった、全力でなんとかしよう」

 

普通に俺は裏側からこの日本を潰せる。

実験施設の事を公にすれば少なくとも国民による反乱が起きるだろう。

そうなれば国は成り立たないから全力で止めようと菊岡さんは冷や汗を流しながら動きに行った。

 

「・・・木綿季、俺作ったよ」

 

頭に出てくるのはお日様のような暖かい匂いがする紫紺の女の子。

今は・・・中学生なのかな。

 

「はは・・・待たせすぎて、忘れられてるか」

 

待ってると言われても2年半ほどだ。

それに小学生同士の約束なんて覚えていないだろうし。

でもやりたいと思ったこの研究だから良い。

 

「・・・もう、ここも用はない・・・か」

 

俺は2年半も付き合ってくれた研究施設から去るとあの家に戻る。

結構遠かったけどお金はあったのでそれで帰った。

さすがに新幹線レベルだったのはきつかったけど。

そうして数日かけて俺は家に帰った。

 

だけど、家は凄く静かで人の気がしない。

まるで空き家のように。

 

「・・・静か」

 

持っている家の鍵を使って開けた。

玄関はすっからかんで靴一つもない。

その時点で分かった。

 

「・・・そっか。捨てられたか」

 

捨てられることに何も思わない。

元々実験で弄られた子供を引き取ろうと思ったあの家族がおかしい。

父親は嫌そうに俺を見ていたし。

母親は凄く優しくて本心によるものだと分かってたから。

姉さんも夜々も最初は俺の扱いに困ってたけど徐々に話すようになった。

 

「・・・捨てられた・・・かぁ・・・」

 

俺はこれほどまで弱くなってたのか。

人が恋しいと思うほどに。

だけどもういいやと思った。

どうせ人は信用ならないと再認識出来たから。

どうせあの二人もその場で俺にかけた言葉だったのだろうし。

そう思うと記憶に残った今まで記憶が全て色褪せる。

温かかった記憶が全て冷たく凍っていく。

もう意味が無くなるように。

 

「・・・そっか」

 

つまらない人生だとは思っていた。

生まれたときから俺は独りだったし、慣れている。

なら、もうこんな温かい物はいらない。

その時にこの家に一人の男がやってきた。

見た目は白衣で研究者っぽい服装で。

 

「・・・何のよう」

 

「君を街で見たとき何かが違うと思ってね」

 

俺は街に行ってなどいない。

この男は嘘をついた、分かりやすい嘘を。

 

「・・・そう。それで」

 

「私の夢を手伝ってくれないか。君の事は知っている。そのうえで協力してほしい」

 

「・・・何を手伝えば」

 

あっさりと協力してくれることが意外だったのか、少し驚いている。

べつに協力したところで俺は独り身だ。

 

「ここで話すことは難しい。本社で話そうか」

 

外に歩こうとしたとき足を止めて俺を真剣な目で見つめていた。

小学生の子供に。

 

「そういえば忘れていた。私は茅場晶彦という」

 

「ん・・・そう」

 

「名を教えてくれても良いのではないか?」

 

「別に教えたところで必要ないと思う」

 

「私が気になるのだよ。君の今の名を教えてくれ」

 

「・・・家族はいない。だから名前だけ。優紀だ」

 

「ふむ・・・優紀君か。よろしく」

 

この男の夢は夢見た風景をただ作ること。

鋼鉄の城を作り上げることだった。

普通の人ならば馬鹿馬鹿しいと思えるだろう。

だが俺はそんな夢を持つ男に尊敬を持った。

夢も目標も持たない俺にとって凄いと思えた。

 

「・・・茅場、プログラムはどうするんだ」

 

「プロに任せているが・・・完全自律型自己学習プログラム。これが必要だ」

 

「そうか・・・半年だ。半年待ってろ」

 

俺の無駄な能力が人に役立てるのならと。

プログラムの担当をした。

俺が作り上げたのは、メインとサブの二つの巨大プログラムがお互いにエラーを修正し学習する物を。

あらゆる情報を取得できるようインターネットにも繋げ、そこからクエストを生成できる様に。

 

「・・・凄まじいな」

 

「普通、時間がかかるだけ」

 

「優紀君。もうすぐ出来上がるこの作品をプレイしてくれないか」

 

「・・・良いよ」

 

「・・・ありがとう」

 

俺の仕事は終えて茅場に頼んで部屋を貰った。

あの家に戻る必要を感じれなかった。

物盗りが入っても良いぐらいすっからかんだから必要ない。

俺が関わったゲームに少しでも近くに入れる方がいい。

 

「もうすぐ・・・か」

 

数日後に公開されるゲームに俺は少し楽しみだと思いながらその日までのんびりすることにした。

 

 




次回からSAO突入。


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第五話

俺の目の前にはヘルメットのような形を想起させる黒い塗装がされ緑色のランプが点灯していた。

VR・・・仮想現実へとフルダイブするこの機械はナーヴギアと呼ばれ初回一万ロッドだが販売された。

俺は茅場晶彦の協力関係で貰った。

初回はキャリブレーションで身体のあちこち触ったがまぁ・・・初回だけだからと高を括っていた。

まさか下半身もじっくりしないとなのはびっくりだったけど。

俺はナーヴギアを被ってベッドに寝転んだ。

 

「リンク・スタート」

 

時刻14:00になった瞬間俺は仮想世界へと意識を飛ばすためにその呪文の言葉を放った。

 

 

虹色の輪をくぐり抜け様々なシステムチェックが終わる。

そして目を開ければそこは。

1万人がプレイするソードアート・オンラインの世界風景だった。

 

「・・・風が・・・気持ちいな」

 

自分も製作者として関わった。

主にグラフィックとゲームプログラム関連で。

その時にどうすれば良いのかを覚えているからやり方はわかる。

 

「・・・早めに、動こうかな」

 

軽めにβと変わらないか見てみたが全く一緒だったし良いか。

 

「ねー!そこの子ー!」

 

「ん・・・?」

 

呼ばれた気がして辺りを見渡すとこちらに手を振って来る女の子。

長い紫の髪で赤い目が特徴の元気な女の子。

 

「えっと・・・何か」

 

「迷いない動きだったから、このゲーム知ってるのかなーって」

 

知ってるどころかかなり深く関わっている。

だけど人に関わるのは好きじゃない。

 

「・・・初めてだから」

 

「そっかぁ・・・」

 

「それじゃ」

 

「うん、ごめんねー!」

 

例え幼くても人は人。

俺の事を真っすぐ見てくれた人なんていなかった。

だからあの子には嘘をついた。

 

「・・・早く動こう」

 

俺は武器屋で片手剣を購入。

初期武器だけど第一層にはかなり高性能の片手剣クエストがあるからそれを入手すれば当分は大丈夫。

《始まりの街》を出ると、フィールドには猪モンスターがいた。

あれが最初期のモンスターでおそらく一番狩られやすい。

ソードアート・オンラインは剣の世界で魔法は一切ない。

だがそれを上回るソードスキルが目玉で俺も組み上げるのは苦労した。

ソードスキルは特定のモーションを取ることで発動できる。

身体を動かせば立ち上がるけど、慣れないとソードスキルの強制行動に引っ張られやすい。

 

「・・・ふっ!」

 

《片手剣》スキルの《ソニックリープ》を立ち上げると一瞬で猪はポリゴン片へと変化した。

普通にソードスキルを使っても一発では持っていけない。

さすがに序盤で連発して勝てるHPにはしていないし。

念のためステータス画面を開くとβテストのデータがそのまんま引き継がれており、アイテムストレージも最後にβテストを終えた時のままだった。

 

「・・・なんでだ」

 

茅場がそういうふうに設定したのなら別だが、これは確実にフェアじゃない。

ビギナーとの隔たりを作るし、難易度も易しくなる。

 

「・・・俺だけ・・・なのか」

 

とりあえずこれはしばらくださないほうが良いか。

だけどフロアボスの偵察としては使える。

とりあえず装備していても見た目反映を切れる部分は装備しておく・・・か。

βテスト限定装備のはずなんだがなあ、俺がそういうふうに設定した装備だし。

 

『無銘の指輪』

 

・筋力値30%増加

・敏捷値20%増加

・取得経験値3倍

・取得コル量4倍

・ソードスキル熟練度上昇率1.25倍

・ソードスキル硬直時間短縮0.5秒

 

この指輪はβテスト限定で出現していた装備で、正式ではデータはあるが装備は出来なくなっているはずなんだがなあ。

性能もステータスダウンになるようにしてあるぐらい徹底的だったが。

 

「・・・一応つけよう。うん」

 

レベルも確認したが、19でかなり格差がある。

というかこれは隠せない気がする。

 

「あらゆる情報を切っとこう・・・」

 

《索敵》スキルは相手を看破できると情報が見えてしまうので、そのために《隠蔽》スキルを発動しておく。

これなら、【(索敵値ー隠蔽値)ーレベル差】という計算式が作れて索敵による看破が難しく出来る。

 

「とりあえず・・・・・のんびり」

 

そうしようとした瞬間、遠くから鐘の音が鳴り響いた。

 

「・・・転移?」

 

転移エフェクトで強制転移されたのは《始まりの街》の広場。

そこにはどんどん転移されてきた人がやってきて、かなりの人数が集まっている。

 

そして中心からどろっとした液体が出てきて、それはローブを被った人の形を作った。

 

『ようこそ、ソードアート・オンラインの世界へ』

 

『私の名前は茅場晶彦。唯一この世界を操作できるプレイヤーだ』

 

『プレイヤー諸君は恐らくメニュー画面からログアウトボタンが消えていることに気づいているだろう。だがこれは不具合なのではない。ソードアート・オンライン本来の仕様である』

 

『ログアウトする方法はただ一つ。このゲームをクリアすることだ。諸君らが今いるここは第一層、それを第百層まで上り詰め百層のフロアボスを倒せばゲームクリアとなる』

 

いきなりの事に俺以外のプレイヤーは困惑、混乱になっているものや、罵声を浴びせる。

仕方ない事だろう、いわば突然監禁されたも同然なのだから。

 

『しかし、諸君らには充分注意してもらいたい。以後このソードアート・オンラインの世界では一切の蘇生アイテムは機能しない。諸君らのアバターのHPが0になった瞬間、ナーヴギアの脳破壊シークエンスが起動し、諸君の脳を破壊する』

 

『また、現実世界のナーヴギア取り外しも有り得ない。忠告を無視しナーヴギアの取り外しを行った物が既に存在し、およそ二百名程がゲーム及び現実世界からも退場している』

 

茅場が見せて来る一つのニュース画面。

今現実世界で放送されているものなのだろう、それが現実だと訴えている。

確かにナーヴギア程であれば人の脳を破壊できる。

簡単に言えば電子レンジの原理と同じなのだ。

電子レンジの仕組みをナーヴギアに仕込んでいるのでそれを暴走させれば簡単に殺せる。

 

『また、この場に君がいるのなら言いたい。騙してすまなかった』

 

それは誰に向けられているのか俺以外は分からないだろう。

だが俺はその謝罪をしっかりと受け取った。

 

『さて、諸君らには私からのささやかな贈り物をさせていただいた。確認してほしい』

 

その時に近くで鏡から溢れる光に呑まれているプレイヤーを見た。

そしてそれは収まったとき、変わっていた。

最初と違う全くの違う顔に。

 

『これでソードアート・オンラインの正式リリース及びチュートリアルを終わる』

 

俺はその瞬間、この場から逃げた。

何もまず色々とやることがあった。

だけどまず、逃げたかった。

そうして路地の裏に移動した俺は、アイテムストレージを漁って、『身隠しのローブ』を見た目装備に装備して姿を隠す。

手鏡はその状態で使った。

これはリアルのアバターを再現するものだと分かったから。

 

「うっ・・・」

 

手鏡から溢れる光が眩しくて、目をつぶった。

光が収まって覗いてみれば、リアルの自分が写っていた。

女の子のような容姿に顔で、腰に届く長い黒髪。

そして日本人とは思えない蒼い眼。

 

「・・・自分・・・」

 

これからどうしようかと思いながら、《隠蔽》スキルと《索敵》スキルを発動させてその場で一度寝ることにした。

スキルを切らないかぎり俺に気づけるのはいないのだから。

 

 



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第六話

あれから2ヶ月ほど経ったSAO。

俺は迷宮区でレベル上げをしていた。

当然レベル差で俺が勝っているから経験値は少ないけど無いよりはマシだし、素材が集めれるから悪くは無い。

そうして迷宮区のマップ踏破率100%にするべく細かく埋めていたら当然見つけてしまった。

 

「・・・ボス部屋」

 

それと同時にマップ踏破率は100%になったので残るはフロアボスを倒すだけとなった。

好奇心から俺はボスの偵察をしようと中に入った。

中は大理石の柱のようなものが立っており、奥には二層へと繋がる扉があり、その道に立ちはだかるように巨大な影が立っていた。

 

第一層ボス《イルファング・ザ・コボルドロード》

 

その取り巻きが数体ポップして出てくる。

 

「・・・少しだけ・・・少しだけ」

 

取り巻きは鎧を装備しているが間を狙えば良い。

鎧と鎧の間・・・《鎧通し》と呼ばれる現実の技術で攻撃する。

ボスのHPは4本、β通りで行けば1本になって武器変更が入る。

 

「せやっ!」

 

取り巻きをさっさと倒してボス単体になる。

基本的にコボルド王は動きが鈍いから回避をしっかりすれば軽く回避できる。

攻撃した後の隙を狙うだけの作業。

そうして残りゲージ一本になると持っていた武器を投げ捨てて新しい武器を取り出す。

それは『野太刀』と呼ばれる刀カテゴリ武器。

βは曲刀カテゴリの『タルワール』だった。

 

「武器変更・・・それと」

 

それに追加で雑魚共が復活していた。

恐らくこの場合は無限ポップだろう。

 

「ちっ、分が悪いか」

 

ボス単体なら俺一人でも余裕で行ける。

だが取り巻きが邪魔だ、確実に死ぬ。

 

「・・・帰ろ」

 

今はこの情報が分かっただけ充分。

βから懇意にしてる情報屋に教えれば結構変わるな。

敏捷全開でボス部屋から撤退して迷宮区を走り回る。

迷宮マップは完全踏破済みだから帰り道も何のその。

そのまま走って迷宮区最寄りの街《トールバーナ》に行こうとした時にちらっと人影が見えた。

 

「・・・気になるな」

 

何となく気になったので行ってみれば、そのプレイヤーは戦う気力は無いのかHPが赤い状態で点滅しており、無気力だった。

近くにはモンスターもいるのを見て死ぬ気なのだろうと分かった。

人は嫌いだ、信用ならない。

でも死ぬところを見るのは別だ。

 

「ふっ・・・!」

 

俺は襲おうとしていたモンスターを斬って助けた。

気を失っているのか、反応がない。

このまま放っておけば死ぬだろうし・・・。

 

「・・・仕方ない・・・」

 

助けたついでに街の宿屋に連れていくか。

フードで顔を隠してる辺り女性プレイヤーか訳ありか・・・、多分前者かな。

俺より大きい辺り年上だけど筋力ステータスのおかげで難無く持ち上げる。

お姫様抱っこだけど背負えば不格好だし、仕方ない。

この人を抱っこした状態で街まで走った。

かなりモンスターがいたけど敏捷値が高いのを活かしてかなりの早さが出てるし追いつけない。

その早さで宿屋に入ってこの図をあまり見られないように手早くチェックインを済ませて個室に入る。

 

「・・・回復は・・・ポーション飲ませたら出来るかな」

 

減っているHPを回復させるために店売りポーションを飲ませる。

このあたりは寝ていても処理されるから便利。

それでHPが全快したのを確認するとベッドに寝かせる。

体つきとかその時に分かったけど女性だ。

男女比的にSAOでは女性はある意味狙われやすいからその対策だろうなあ。

 

「ん・・・う・・・」

 

そう考えていると唸り声が聞こえて寝かせていたプレイヤーが起き上がった。

ちなみに俺は画面を操作してアイテムの整理をしてる。

 

「・・・ここは」

 

「起きた。おはよう」

 

「っ・・・!」

 

ただそれだけで警戒されて腰元に手を伸ばす。

だけど何かが無いようだった。

 

「あ、あれ」

 

「・・・武器、無かった。壊れた・・・?」

 

俺が助けたとき武器が無かった。

武器は耐久値があって無くなれば《破損状態》になる。

破損状態になれば鍛冶屋などで直さない限り使えないのと、その状態でフィールドに放置されると自動的に完全破損して消える。

 

「・・・何の目的」

 

「目的・・・か」

 

 

「何の目的も無いよ。ただ見ちゃったから助けた」

 

「あのまま放置してくれれば良かった!なんで・・・苦しい時間を延ばしたのよ・・・」

 

多分この人はいつ死ぬか分からない恐怖が怖いんだろうな。

さすがに俺はそこまで関わる必要も無いけど・・・放っておけば死ににいくだろうし。

 

「・・・現実世界で、やり残したこと無いの」

 

「・・・それは」

 

「あるんだったら、帰れるように強くなれば」

 

「そうね・・・そうだったわ」

 

「ん・・・じゃ、俺は出るから。宿代は払ってある」

 

「ま、待って!」

 

その場から出ようとすると何故か引き止められた。

別にいる必要も無いし、そもそも警戒されると思うのだが。

 

「今は・・・夜よ?寝ないの?」

 

「・・・女性と寝て変な誤解されたくない。それに俺は寝なくても良い」

 

「あなた・・・私になにかした?」

 

「何も。ただ運ぶときに体つきで分かった」

 

「・・・そう。寝ない理由は?」

 

「寝なくても死なない」

 

「駄目よ、寝なさい」

 

なんでこの人はこう言えばああ言ってくるのだろうか・・・。

正直寝る気が無いから寝れないし・・・。

 

「普通に考えて怪しいと思わないの」

 

「それは・・・そうだけれど、そんな気無いのでしょ?なら良いじゃない」

 

「ぐ・・・ベッドは一つしかない」

 

「一緒に寝れば解決できるでしょ?変な気が無いってさっき言ったじゃない」

 

くそう、考えて言えば良かった。

ていうか寝なくても良いとか余計なこと言うんじゃなかった。

これ確実に寝ないと何か言われるしなあ・・・。

 

「・・・分かったよ、寝れば良いんだろ」

 

「ええ・・・ローブ装備した状態で寝るの?」

 

「そっちはフード被って寝てる」

 

俺がそういうと何か操作し始めて、フードを外した。

隠れて見えなかった姿はやはり女性で大体15歳ぐらい。

栗毛で長い髪は俺と同じ腰まで届いてて、一言で言えば綺麗だろう。

可愛いとかではなく、綺麗や美しい方のスタイル。

 

「ほら、これなら良いんじゃない?」

 

「はあ・・・」

 

ここまでされたら俺も外さないとまた何か言われるので仕方なく見た目装備の機能を切って通常装備だけの見た目にする。

するとローブは消えて長い黒髪がふわっと解放される。

栗毛の女性はなんか俺を凝視していて怖い。

 

「な、なにか」

 

「君って女の子・・・だよね?」

 

多分見た目が女の子にしか見えないからだろう。

女顔で長い髪だし、仕方ないけど。

 

「俺は男。見た目が女の子なだけ」

 

「・・・ほんと?」

 

「・・・ほんと」

 

「・・・男の子に言うのはあれかもだけど・・・すごく綺麗だよ」

 

女性が言ったそれは嘘偽りなくの言葉。

上辺だけの感想とかは分かるからこうして本心に言われたら恥ずかしい。

 

「あ、ありがとう」

 

「さて、もう遅いから寝よっか」

 

「・・・入らないと駄目?」

 

「駄目です」

 

わざわざスペース空けてまでする必要も無いだろうに・・・。

仕方ないので空いたスペースにベッドに入る。

女性とくっつかないように距離は空けつつ。

 

「・・・私ね、死ぬつもりだったんだ」

 

「ん・・・」

 

「いつ死ぬか分からなくて、HP0になったら死ぬって現実でも死ぬってなって怖くなった。今日だって怖くて怖くて、でもHPが無くなれば簡単に死んじゃうって分かって」

 

「・・・もういいよ。今生きてれば良いことある」

 

「・・・そっか、ありがとう。助けてくれて」

 

「別に、たまたま見えただけだから」

 

俺はそうぶらきっぼうに言うといきなり抱き着かれた。

女性の方が大きいから抱き包まれた感じになっている。

 

「なっ」

 

「小さいね・・・なのにあんなに強い」

 

俺は女性から離れるようにベッドから出た。

あれは俺にでもしてはいけない。

大切な人にするべき事だから。

 

「・・・ベッドは落ち着かない。椅子で寝る」

 

別にベッドでも寝れる。

ただあのまま寝れば抱き包まれた状態で起きることになっていらぬ誤解を生むかもしれないし、俺自身怖いから嫌。

 

「そっか・・・ごめんね」

 

「・・・早く寝れば」

 

「うん・・・おやすみなさい」

 

女性は俺の方に向かないよう壁側に向きながら寝てすぐに整った寝息が聞こえた辺り疲れていたのだろうなと分かる。

 

「・・・今日は寝るか・・・」

 

いつもは数十分寝れば良いけど今日は気が乗ったし、普通に寝ることにしよう。

気温設定が低いのか寒いしやっぱローブは着よう、暖かいし。

 

「・・・おやすみ」

 

もう寝てしまっているだろうけど、一応と思って言って寝た。

その日の睡眠はやけに落ち着いて寝れた気がした。

 

 

 



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第七話

目を覚ませば宿屋のベッドだった。

あの時私は無抵抗でやられるはずだった。

 

「ん・・・」

 

小さい声が聞こえて探すと椅子で寝ているローブを被った小さい子供。

この子が死のうとしていた私を助けてくれた。

男の子らしくない容姿に声変わりしていないのか女の子寄りの高い声。

 

「んぁ・・・?」

 

見続けられた視線で起きちゃったのか、目を擦りながら周りを見渡しはじめた。

 

「おはよう」

 

「ん・・・おふぁよ・・・」

 

あれだけ強くてもやっぱり子供なのか、呂律が回っていなくて少しだけクスッと笑った。

 

「んー・・・」

 

今思えば私はこの子の名前を知らない。

私も教えていなかったからなんだろうけど、どうしよう・・・。

 

「くぁ・・・ふぁふ・・・」

 

小さな欠伸をすると椅子から立ち上がって体を伸ばしはじめた。

その動きが子供らしいなと思いながら見ていると。

 

「・・・おはよう。よく寝れた?」

 

「ええ、昨日はありがとう」

 

「たまたま見つけただけ。今日はどうするの?」

 

「えっと・・・」

 

昨日死ぬはずだった私は今日何をするか決めていなかった。

武器も無いから戦うことも出来ないし・・・。

 

「ん・・・繋ぎ武器で良ければ、これあげる」

 

そういってストレージから出して見せてくれたのは細剣。

私が使っていたのもレイピアの細剣でこの子が見せてくれたのも同じタイプのもの。

 

「えっと・・・良いの?」

 

「片手剣メインだから持ってても使わない」

 

そういわれてしまえばあれなので、私はその剣を有り難く受け取る。

ふと思ったけど私って年下の子に助けてもらって宿屋に運んでもらった挙句、武器も貰ってるのよね・・・。

 

「今日は・・・この街で第一層攻略会議があるから、俺はこれで」

 

「私も行くわ」

 

子供にされっぱなしでは年上の面子がないのと、このままでは何も始まらないので私はその攻略会議に出ることにした。

 

「ん・・・それは良いけど、場所は離れてたのが良い。いちゃもんつけられたら嫌だし」

 

「構わないわ」

 

「む・・・それは良いけど、パーティーの戦闘とか分かるの?」

 

「・・・」

 

あの日からずっと一人で戦っていた私は当然パーティーの戦い方を知らない。

それが分かったのかこの子は小さく溜め息をつかれてしまった。

 

「とりあえず行く途中に教える。フードちゃんと着なよ」

 

「あ、あの」

 

「ん・・・なに?」

 

「名前教えてもらってないのだけれど」

 

「・・・ユーキ。好きなように呼んでいい」

 

「私はアスナよ。ユキ君って呼んでいい?」

 

「良いけど」

 

漸く分かったこの子の名前はユーキ。

言いやすい名前でユキって呼ぶことにして、私はフードを装備すると宿屋を出た。

 

 

攻略会議があるのはここ《トールバーナ》の広場らしいから、始まるまでに色々と教えてもらった。

パーティーの戦闘は《スイッチ》という入れ替え戦闘が基本で、一人が戦闘、もう一人は回復などをするみたい。

この方法は咄嗟に対応が出来ないモンスター全般に有効でボスでも必要になるみたい。

 

「思ったんだけど・・・ユキ君ってβテスターなの?」

 

「ま、一応は。でもSAOではβテスターはよく思われてない」

 

「どうして?」

 

「βテストの経験を活かせるテスターは正式リリースが初めてのビギナーより優位だから。最もそれは序盤だけだけど」

 

なるほどと思った。

なんでこんなに知っているのかと言えばβテスターなら知っているからだった。

そんなことに思い耽っているとユキ君が広場の中心を指差した。

そこには青い髪が特徴的な片手剣プレイヤーが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい!少し遅れたけど攻略会議を始めたいと思う!俺の名前は《ディアベル》!職業は気分的にナイトやってます!」

 

アスナに説明をし終えて広場の中心で声をあげているプレイヤーを見た。

野次も飛んでいたがそれらは好意的で、攻略会議の緊張を簡単に解した。

 

「今回の会議が第一層のボス攻略で有意義なものになればと思う!それじゃ、まずベータと正式の違いがあったので聞いてほしい!これはとあるβプレイヤーによる情報だが、ボスのHPが残り一本になると武器を持ち替えて刀カテゴリの野太刀になるとの事だ!また、取り巻き達も無限リポップになる!」

 

その情報に一部のプレイヤーは表情を変えた。

恐らくβの時よりも難易度が上がっているからだろうな。

 

「よウ、久しぶりだナ」

 

「そーだな。アルゴ」

 

アスナはきづいていなかったのかいきなり現れたフードを被って姿を隠すプレイヤーに驚いていた。

このプレイヤーはβの時も名を残した情報屋、通称《鼠》のアルゴ。

ちなみに第一層ボスの情報は俺からアルゴへと伝わっているが、それを知るのは本人だけだ。

 

「ユキ君、この人って・・・」

 

「ン?ユキ坊も隅に置けないナ、おれっちはアルゴ。情報屋ダ」

 

「アルゴは情報屋として信じれるよ。てか俺が流したし」

 

「ユキ坊、幾らなんでもボス偵察に一人は無謀だゾ。おねーさん聞いたときは冷や汗を流したんだからナ」

 

「えっ、ユキ君なの?さっきのβプレイヤーって」

 

さすがにここまで言われてしまえばどうしようもない。

俺は肯定と捉えれる頷きをするとアルゴは溜め息をついて、アスナも小さい溜め息をついた。

その時に広場から大声が聞こえた。

 

「ちょおと待ってんなぁ!」

 

その声の主はツンツン頭のプレイヤー。

そのプレイヤーは見たことがある。

 

「どうしたのかな?意見ならともかく、とりあえず名前を言ってもらえないかな?」

 

「ワイはキバオウっちゅうもんや。ワイが言いたいのはただ一つ!こん中におるんやろ!元ベータ上がりっちゅうことを利用して美味しい蜜を吸おうとしとるセコい奴が!」

 

「な、なによあの人」

 

「・・・キバオウが言いたいのは、βテスターによって犠牲になったビギナーの罪滅ぼしとして謝罪とかをしろってこと。要はβテスターに対する因縁」

 

俺はあういう人が嫌いだし、聞くのも好きではない。

何故協力的に動こうとしている雰囲気でぶち壊そうとしているのかが分からない。

 

「・・・良いか」

 

手を挙げたのは日焼けした肌のプレイヤー。

身長は180いくんじゃないかと言うぐらい大きくて俺からすれば巨人にしか見えない。

 

「な、なんや」

 

その姿に気圧されたのかキバオウもうろたえていると、ある一冊の本を取り出した。

あれはアルゴが作ったガイドブックだ。

 

「これがなんだか分かるか?」

 

「知っとるわ。道具屋で無料配布されてるガイドブックやろ」

 

「これを作っているのは元βテスターだ。俺達は情報がある。その上でどうするのかを会議するのだと俺は思っていたんだがな」

 

それで解決するかと思えばキバオウは指を指した。

俺に向かって。

 

「事実あのローブ装備してるプレイヤーは真っ先に広場から出て行ったやろ!」

 

ちっ、見られてたのか。

まぁ隠蔽やらかけてたから探しても見つからないし、そういう発想になるか。

 

「路地裏に行ってたけど」

 

「おらんかったやろ!探しても見つからんかったわ!」

 

「《隠蔽》スキル使ってたから」

 

SAOでは《隠蔽》スキルはあまり好まれない。

PKプレイヤーの基本スキルにもなっているからか、疚しい事を考えているものなどが取るため良くは思われていない。

 

「それこそ怪しいやろうが!わざわざ《隠蔽》使ってまで何してたんや!」

 

「宿屋に泊まれる金がなかった。でも寝たかったからだけど」

 

普通に嘘っぱちだ。

金は腐るほど持っていたけど寝たかったのは事実。

こういうときは嘘と真実を織り交ぜて言えば大体相手は分からないし。

 

「それに、俺がβテスターという確証も無いけど。初心者でもすぐに街を出た人だっている」

 

その言葉が決め手になったのか、キバオウはようやく黙って座った。

ここまでしつこいと口より手が出そうになるから止めてほしい。

 

「・・・はぁ」

 

「ごめんね、何も言えなくて」

 

「おれっちもダ、情報屋としての立場が無けれバ・・・」

 

「・・・なんで二人が謝るの?悪いのは俺で、そういう行動を取ったからそう捉えられただけだから」

 

この話を続けたくなかったので、すぐに切り上げると場が静かになったのを見てディアベルはまた声を出した。

 

「よし、じゃあ次はパーティーを組もう!」

 

「パーティー・・・かぁ」

 

「何かあるの?」

 

「いや・・・パーティーは好きじゃないから」

 

「そ、そのー」

 

その時に、黒づくめの男性プレイヤー達から声がかかった。

その後ろには紫紺の少女と赤い髪でバンダナをしている男性。

 

「ん・・・」

 

「メンバーが足りないんだ。良かったら入ってもらえないかな・・・?」

 

人数としてはまだ足りないだろうけどアルゴを除けば俺含め5人か。

だけど偶数のがやりやすいだろうし・・・。

 

「・・・俺も?」

 

「出来れば」

 

だけど俺はパーティーは好きじゃない。

そもそも人が好きじゃないのにわざわざ関わるのも馬鹿らしいし。

 

「ユキ坊、ここは入っとくんだナ」

 

「・・・分かったよ」

 

パーティー申請を受けると視界の左上にパーティーメンバーが表示される。

《Yuu_ki》《Kirito》《Yuuki》《Klain》《Asuna》と表示される。

 

「えっと・・・なんて呼べば良いんだ?」

 

「ユーキ。好きに呼べば良い」

 

「なんかユウキと似てるな」

 

「ホントだね・・・」

 

これだけ人が多くなると俺の人嫌いが色々と起こりそうなので一旦その場から動こうとした。

 

「どこに行くの?」

 

「・・・宿屋。お風呂付きあるから」

 

女性方のためにお風呂を付け足すと二人ほど目を輝かせた。

知らなかったのか、結構良い場所なんだが。

 

「先行ってる。それじゃ」

 

俺はその場から逃げるように走って宿屋へと向かった。

人嫌いにもほどがあるなと思いつつ、第一層では一番良い宿屋へと入ってすぐに部屋に入る。

 

「ん・・・」

 

窓を開けた所から夕刻の風が入ってきて心地好いものだった。

 

「ん・・・ふぁふ・・・」

 

そんな風に吹かれていたからか、段々と眠くなってベッドで寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナ達は時間帯的にもそろそろ宿屋に戻ることにして、先に向かって行ったユキが入った宿屋でチェックインを済ませた。

パーティーメンバーなのでユキの部屋が分かった全員は気になり部屋を覗く。

すると寝息を立てて眠りにつくローブ姿のプレイヤーがいた。

 

「・・・寝ていてもローブは外さないんだな」

 

「私見たわよ?綺麗だったわね」

 

「なあ、アスナさんよ。このちびっ子とはどういう関係なんだ?」

 

「そうね・・・命の恩人かしら」

 

「恩人?」

 

「ええ・・・さて、お風呂入るわね。ユキ君が取ったこの部屋2人用だから使わせてもらいましょ」

 

ユキが取った部屋は2人用の部屋でベッドが2つあった。

お風呂は一つしかないものの、そこそこ広い。

 

「・・・クライン、俺達は別部屋を使おう」

 

「ん、どうしてだ?」

 

「朝起きてあらぬ誤解を受けたいのなら寝れば良い」

 

「二人部屋取るか」

 

キリトとクラインは男で残りは女性のためあらぬ誤解を防ごうとするキリトにクラインは賛同し、改めて部屋を移した。

ユキは男なのだが、アスナやユウキは何故か気にしていなかった。

 

「ん・・・」

 

そんなことで夜に目が覚めたユキは時間を確かめているとガララっと扉が開く音がした。

その場所はお風呂場の部屋なのを知っていたユキはあえて見ないようにして窓に立って風を受けていた。

 

「ユキ君?」

 

「・・・見てないから着てないなら着て」

 

アスナとユウキは一緒に入っており、一緒に出てきたため言えば素っ裸。

それに気がつく二人は急いで服を着ていた。

 

「み、見た?」

 

「ん・・・見てない」

 

「えっと・・・ユキだよね。なんで言いきれるの?」

 

「お風呂場の場所知ってるから扉の音の位置で察した。男女にしても見るつもり無いし」

 

「そ、そうなんだ」

 

「・・・二人とも服着た?お風呂入りたい」

 

「うん、着たわよ」

 

「ボクももう着たから大丈夫だよ」

 

二人から言われたのでユキは振り返ってお風呂場へと向かった。

しっかりとその辺は弁えている辺り素晴らしいのだろうが子供らしくない振る舞いで二人は少し難しく思った。

 

「ん・・・よいしょ」

 

一括装備取り外しを使って装備を脱ぐとお風呂に入る。

見た目だけであれば女の子だが、しっかりと男だと分かるものがあるのに、間違えられてしまうユキはガクッとしながら体を洗った。

現実世界とは違い、髪の毛に対するケアが必要ないのですぐに済ませたユキは体を拭いて軽く髪の毛を拭った。

 

「はふ・・・」

 

長い黒髪をタオルで括って纏めあげると服とローブだけ着て洗面所を出た。

 

「ん、上がった」

 

「・・・ユキ君ローブ脱がないの?」

 

「姿見られるの嫌」

 

「ここには私とユウキしかいないのに」

 

「・・・嫌」

 

「アスナから聞いたけど髪長いんでしょ?」

 

「む・・・」

 

なんでこう、気になりたがるのか・・・。

アスナは一度見てる分普通はおかしいと思うだろうに。

 

「お願い!少しだけで良いから!」

 

「・・・やっ」

 

「あうー・・・」

 

ユウキのお願いを両断して俺はベッドに寝転んだ。

『身隠しのローブ』は個別設定で完全に顔を隠せる機能があるからローブの中を覗いても真っ黒。

その代わり耐久値はお察しだけど。

 

「・・・おやすみ」

 

二人はまだ起きている気がしたので先に俺は寝ることにした。

明日はボス攻略で早いだろうから。

 

 



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第八話

攻略会議を行った翌日、俺らは迷宮区の中へと入った。

最初は雑魚狩りは各自でする予定だったが、ディアベルに言われて俺がやることになってた。

 

「ユキー、大丈夫ー?」

 

「ん・・・大丈夫」

 

「危なっかしいなあ・・・」

 

「かといって私たちが前に出れば邪魔になるものね・・・」

 

危なっかしいと言われる動きはしてないはずだがなあ・・・。

ここいらに出てくる雑魚は主に狼モンスターで俺の中でやり方があるから危なくはない。

《ウェアウルフ》は最初必ず突進をするからそれを避けて弱点のお腹を切れば良いだけなのだから。

そんな感じで俺はパーティーのみんなよりも先に進んで襲って来るモンスターを切り払っているとフロアボスの大きな扉があるところまで着いた。

 

「ん・・・着いたか」

 

「みんな!ここからはボス戦になる!もう一度改めて用意は良いか確認するんだ!」

 

休憩も意味するそれは皆一度座り込んで準備をしだす。

俺はやることがないから壁にもたれ掛かってると、パーティーメンバーのユウキがやってきた。

 

「・・・なに」

 

「ユキってボス偵察・・・したんだよね?」

 

「なんで知ってる」

 

「えっと・・・アルゴさんから・・・」

 

アルゴの情報販売は多彩で、モンスターの情報からギルド、果てまではプレイヤー個人の情報や自分の情報まで金さえ払えば売ると言われている。

一応聞いたけどアルゴの情報は売ってもらえなかったし、女性ということしか分からない。

恐らくアルゴは心配だからパーティーメンバーには教えてるんだろうな、キリトやクラインにも伝わってる。

 

「はぁ・・・まぁ、そうだけど」

 

「・・・強いんだね」

 

「皮肉かなにか?」

 

別に俺を嘲笑うなら嘲笑えば良い。

だがそれを理由にして他人に迷惑はかけたくない。

ユウキの言葉は遠回しに俺に何か言いたいと分かるけどあえて気づかない振りをする。

 

「ち、ちがう。でも・・・」

 

「・・・ならほっとけ」

 

「・・・ごめん」

 

我ながらひどい言い方だな。

だけどここで好意的な事を言えば余計関わられるだろうし、それが嫌だからこうしたのだけど。

 

「よし、それじゃボス戦を始めたいと思う!準備は良いか!」

 

ディアベルの声に大きな声があがった。

あそこまでとは中々だな・・・。

 

「俺達のこの攻略が第一層のみんなの希望となる!そのためにも、勝とうぜ!」

 

ここまで士気をあげれるディアベルのリーダー力は凄まじい。

俺はそもそも人が嫌いだからあれだが、あんな感じに纏めあげる統率力はそうそういない。

 

「行くぞ!」

 

ディアベルが大扉を押して開けると一気に突入を始めた。

各自決められた役割を果たすべく動いて、俺らのパーティーも動く。

自分達のパーティーが担当するのはボスの取り巻き処理。

ボスのHPゲージが残り1本を切る前に終れば加勢する感じだ。

 

「わわ、鎧着てる!?」

 

あ、やべ、《鎧通し》の事教えてない。

コボルド王の取り巻きは鎧を装備しているから基本的に攻撃しても全然ダメージを与えれない。

だが鎧と鎧の間は普通に生身なのでそこを狙って攻撃すれは大ダメージを与えれる。

 

「鎧と鎧の間狙え!」

 

俺はパーティー全員に伝わるように言う。

あまり声をあげるのは好きじゃないけどこの場では他の隊の声で掻き消されるよりはマシだ。

 

「わ、わかった!」

 

俺とキリトは単独で処理をしていき、アスナとユウキは《スイッチ》で安全に確実に倒して行った。

そして処理が終わるのと同時に叫び声が聞こえた。

 

「BURAAAAAAA!!」

 

本隊の削りが早かったのかボスのHPは1本を切っていた。

ボスは持っていた武器を投げ捨てるとあの時のように野太刀を取り出した。

 

「俺が出る!」

 

その時本隊から突出したように一人のプレイヤーが駆け出た。

それは今回の攻略リーダーであるディアベル。

恐らくボスの止めで手に入るLABを狙っているのだろうな。

そんなディアベルを狙い付けたボスは武器を低姿勢で構えはじめた。

 

「ユウキ!任せた!」

 

「えっ!?」

 

あの構えは対象者を打ち上げて叩き落とす現状では即死技の《刀》スキルだ。

恐らくディアベルも分かっているが走り出した以上止まって戻れないからだろうか。

 

「ふっ!」

 

こんな時に現実世界の技術が役に立つとは思わなかった。

武術を極めれば内部に打撃を与えたり、一瞬の間に移動を成し遂げる技がある。

俺はそれを無意識に使って、一瞬にしてディアベルの前に現れた。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ソードスキルを止めるにはどうすれば良いか?

簡単だ、ソードスキルを当てれば良い。

あの《刀》スキルは最初の打ち上げさえ止めてしまえば一気に崩れる。

その刹那の一瞬を狙うしかない。

《片手剣》スキル『ソニックリープ』を発動させてコボルド王の打ち上げを止めた。

 

「・・・逃げるなら、逃げて」

 

「っ・・・すまない!」

 

だが止めれた事が出来ても連続は武器の耐久値が持たない。

コボルド王が怯んだ間と俺のソードスキルの硬直が終わったのは同時。

 

「・・・終わったな」

 

今の状況は絶望的だ。

俺よりもコボルド王のが先に俺を切り裂くだろう。

だが、後悔はない。

人を救えただけでも、意味はあったのだから。

目を閉じて、もうすぐやってくる死を受け入れようとした。

 

「間に合えぇぇぇ!!」

 

だがその声でそんな考えは消えた。

目を開ければ、俺を助けようと黒ずくめのプレイヤーのキリトが俺に向かって突進していた。

 

「・・・まだ死ぬなってか」

 

俺は今一度手に力を入れて強く武器を持った。

立ち上げるのは《片手剣》スキル。

このまま突進スキルで逃げるかキリトと共に応戦するか。

 

「決まってるよな」

 

その瞬間、キリトの『レイジスパイク』がコボルド王の攻撃をせき止めた。

その隙を逃さないように俺は・・・画面を一瞬で操作して《片手剣》スキルの追加機能である《クイックチェンジ》で予備武器の『アニールブレード』を取り出し、右手に持った『レイジスパイク』を立ち上げた。

それは真っすぐコボルド王の左肩へと突っ込んで軽く刺さっただけで、右手の『アニールブレード』は耐久値が無くなり破片へと変わった。

 

 

普通ならばかなり絶望的だ。

スキル発動による硬直が課されており、メイン武器は消え散っている。

だが、俺はまだ諦めない。

硬直が課されるまでの時間はコンマ数秒。

その間に違うスキルを構えれば良い。

 

「た、あぁぁぁぁぁ!!」

 

取り出していた左手にある『アニールブレード』で違うスキルを構える。

《片手剣》スキル『バーチカル・アーク』を発動。

それは左肩から斜めに右側に唐竹割りの要領で切り、ある一点から上に向かって切り上げた。

その二連撃でコボルド王は一気にのけ反った。

だが僅か、本当に僅かに残ったHPがまだ死んでいない証だった。

さすがにこれ以上は動けない。

だから俺は後を任せた。

止めをさせなくても良い、倒せれば良いのだから。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

後ろから聞こえて来るその声は真っすぐ突進を行って、コボルド王に深々と突き刺さった。

僅かに残ったHPは無くなり、コボルド王はポリゴン片へと変化して。

 

 

《Congratulation!!》

 

 

とフロア中心に表示されたそれが討伐成功を示した。

 

「お、終わったのか?」

 

「ああ、勝ったんだ。俺達は勝ったんだ!」

 

ディアベルのその声で、参加したプレイヤーが漸く、2ヶ月もかかった第一層攻略の瞬間を噛み締めた。

その声は大きく、嬉しさと喜びが混ざり合う。

 

「・・・終わった」

 

「ああ。ユキのおかげだ」

 

「そか・・・なら良かった」

 

「キリト君ー!ユキ君ー!」

 

「おーい!キリトー、ちびっ子ー!」

 

終わったことが分かるとアスナやクラインがやってきた。

だが、一人のプレイヤーの大声で止まった。

 

「なんでや!」

 

「めんどくさい・・・」

 

素直な感想が出てしまったが、その声は昨日も聞いた片手剣のプレイヤー、キバオウ。

何故、今の雰囲気をぶち壊すようなことばかりするのだろうか。

 

「キバオウさん?どうしたんだ?」

 

「どうしたもこうしたもない!あんたらボスの使うスキル知ってたんやろ!それをディアベルはんに教えておけばさっきみたいに危ない目には合わんかったやろ!」

 

「あれは俺の独断専行だ。悪いのは俺で彼らは助けてくれたんだ、責める必要は無いだろう?」

 

「なら、さっきのはどう説明するんや!あのローブ付けてる奴は見たこともない早さで移動しよったんやぞ!」

 

なんだ、それか。

中国武術の極みなのだから知らないだろうけど。

仕方ないし、目の前で見せれば良いか。

 

「ユキ?」

 

「ふっ!」

 

俺は一呼吸して、キバオウの目の前に現れた。

それにキバオウは驚きはするが怯みはしない。

 

「・・・中国武術の極み、《瞬動術》。現実世界の技だが」

 

「な、なら」

 

「キバオウさん、もういいんだ。俺はこうして生きている。LABを取ろうとした罰だよ」

 

すると後ろから抑えるような声が聞こえた。

場所的にはさっき俺がいた場所・・・キリト?

 

「くく・・・」

 

「何がおかしいんや!」

 

「いやなに・・・聞いてたら可笑しくてね」

 

 

「ボスの使うスキル?そんなもの知ってたさ。そのローブが知ってたのは俺が教えたから。βテストの時に散々《刀》スキルを使う奴と戦ったからな!」

 

「な、なんやそれ」

 

「他にも色々と知ってるぜ?《鼠》よりもな!」

 

「そ、そんなんチートや!チーターやろ!」

 

「ベータでチーターだから・・・ビーターだ!」

 

「ビーター・・・良い名だな。そうだ俺は《ビーター》だ!これからは元βテスター如きとは一緒にしないでもらえるか!」

 

キリトはLABで入手できたのだろう防具を装備して第二層へと上がっていった。

俺には分かる、キリトの言ったことはβテスターとビギナーの亀裂を防ぐためのものだ。

聞いていれば空っぽの言葉で、悲しさも感じた。

なら俺も続こう、彼のようにはなれなくとも。

 

「・・・それじゃ、ばいばい」

 

アスナ達にそう小さく呟くと俺は走って第二層へと上がる。

パーティーは・・・入っていてももう意味が無いだろう。

パーティーから脱退すると、俺はまた独りになった。

 

「・・・馬鹿らし」

 

やっぱり人は関わっても楽しくない。

キリトのように自分から必要悪に動かないといけなくなる人々は見ていて吐き気がする。

 

「フレンドは・・・アルゴだけか」

 

フレンド機能による追跡をも切って俺は第二層の攻略を始めた。

今まで隠していたβの装備も全力で使ってでも。

 

 



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第九話

あの時、何かしていれば。

何かが変えれたのかもしれない。

例えばキリトのように自分から必要悪へとなった者に何か出来れば。

そう考えた時もある。

俺はキリトのように必要悪になれなかった。

なら何か出来ることを自分なりに探した。

βの時に開発としての運営権限で動いていた俺は軽くゲームバランス崩壊な武具を創り出していた。

 

 

『霊想刀』

カテゴリ【曲刀・刀・片手剣】

 

・筋力値3倍

・敏捷値2.5倍

・最大HP3.5倍

・与ダメージ1.3倍

・防御力100%貫通攻撃

・HP大幅自動回復

・全ソードスキル発動時間、硬直時間削除

 

 

『蒼天の護衣』

カテゴリ【胴防具】

 

・筋力値1.5倍

・敏捷値3倍

・最大HP1.5倍

・防御力3.5倍

・《索敵》、《隠蔽》使用時補正付与

・ダメージカウンター率250%

・HP大幅自動回復

・全状態異常無効化

・HP1%以上で致死ダメージを受けた場合必ずHP1残存

・装備している全ての武具の耐久値無限化

・取得経験値10倍

・取得コル量10倍

 

 

この二つの防具と武器は俺がβの時に使っていた装備でデザインからスペック全て俺が一人で創った。

無論βテストでこれを使えば無双出来てしまうので自重していたが今のSAOで自重する事も無い。

後は己の技術で階層を単独踏破していった。

一人ならパーティーのように気を遣う必要もなく全力で暴れ散らせるのでやりやすい。

そんなことで俺は攻略組よりも遥かに早く攻略しているからか、攻略組から休暇要望が出ているほどに。

だが俺は問答無用で攻略を進めたが、五十層攻略をしてさすがに一人は止めて攻略組に合わせるようにした。

基本的に階層の迷宮区マップを完全踏破したマップデータをアルゴに渡して、そこからプレイヤー達に渡るようにしている。

俺自身人嫌いなのと情報屋はアルゴ以外信用していないし。

その時にアルゴに言われた、いや言われてしまった。

 

「ユキ坊、攻略はしばらくお休みダ」

 

攻略組の幹部達全員がアルゴに頭を下げてでも言ってほしいと言われたらしく、アルゴもその気があったので俺に言ってきた。

俺も五十層のソロ攻略をしてさすがに厳しいと思っていたのと、攻略組の殆どが育ち切れていない為など・・・まぁ俺を止める意味は色々あるらしい。

なので俺は下層に降りて素材を集めることにして、数時間篭っていた。

 

「たぁぁぁぁ!」

 

数人ほどだろうか、声がする。

ただ聞こえただけだが、声の違いだけを判別して五人。

俺がいる階層は二十層で、このあたりは素材集めの階層として美味しいのでよくお世話になっているのだが・・・。

気になったので隠れながら見てみると、人数は六人でその中には第一層以来のプレイヤー、キリトがいた。

 

「・・・キリトのギルド・・・?」

 

そう思ったが第一層の言葉でキリトは孤立している。

勧誘するギルドは殆どないので恐らくは協力をしている・・・といった感じかな。

そんな考察をしていると一人の女性プレイヤーの後ろを取ったモンスターが草むらから出て噛み付こうとする。

このまま見ていればキリトが切り伏せるだろう。

だが最悪の自体を予想してしまった俺は隠れているのを忘れて飛び出した。

 

「なっ・・・!?」

 

《片手剣》スキル『ヴォーパル・ストライク』で思いっきり突進して突き刺して倒す。

いきなり現れた俺に警戒をするが、キリトはすぐに剣を下ろした。

 

「・・・まさか、ユキか?」

 

「何故そう思う?」

 

「ローブを着ていて小学生ぐらいの身長はユキ以外知らないからな」

 

「はぁ・・・合ってるよ」

 

「こいつは俺の知り合いだ、危険じゃない」

 

キリトが言うと全員武器を下ろした。

何故キリトが言っただけで警戒を一気に引き下げるのかと思ったが、ぱっと見でキリト以外の装備を見た。

 

「ん・・・下層ギルド?」

 

「えっと、キリトさんのお知り合い・・・なんですよね?」

 

「まぁ・・・」

 

「キリトさんに今俺達のギルドを手伝ってもらってるんですけど・・・その、一緒に・・・」

 

「お、おいケイタ。幾らキリトさんでも信用できるか分からないだろ」

 

「それでも、さっきのスキルを見たけどかなり強いと思うから・・・お願いできませんか?」

 

「・・・キリト、なんで?」

 

キリトに事の顛末を聞くと、十九層でジリ貧になっていたこのギルドを助けたことがきっかけらしい。

まぁキリトらしいけど・・・知り合いだからって俺にまでか・・・。

 

「ユキ、嫌なら断っていい」

 

俺が人嫌いなのを察して言ってくれたのだろうな。

しかし、どうするか・・・。

このまま断っても良いし、攻略休憩の暇つぶしで付き合っても良いし・・・。

 

「・・・条件として、俺の事を詮索しない。それならギルドには入らないけど少しは構わない」

 

「本当!?ありがとう!」

 

「良いのか?」

 

「別に。少し戦闘を見てたけど危なっかしいのもある」

 

「危なっかしい?」

 

「キリト気づいてないの?」

 

まさかキリト気づいてないのか・・・。

いやずっと戦いを見ないといけないから後ろにいる女性にまで気が回らないのか。

 

「あの人、戦うとき目つぶってるよ」

 

「・・・本当か?」

 

「ずっと見てた。怖いんじゃないかな」

 

「そうか・・・一度ギルドハウスに戻って話し合ってみるよ」

 

「ん・・・俺も行かないと駄目?」

 

「さっき協力するって言っただろ」

 

自分で言った手前何も言えず、キリトは一度ギルドハウスに戻ろうと進言して戻ることになった。

戻る途中に出てくる雑魚は俺が憂さ晴らしに全て斬り飛ばしていたのを後ろで見ていた人達はすごい観察してきて普通に怖かったり。

 

 

 

そんなことでギルドハウスに案内されて入って改めて紹介することになった。

さっきの俺を勧誘してきたのは《月夜の黒猫団》リーダーのケイタ。

片手剣と盾を使っている女性がサチ。

索敵や罠解除など特殊なスキルを使う女性はクロハ。

投げナイフ、投擲で援護をする男性がダッカー。

そして一時的に協力関係の【黒の剣士】キリト。

 

「ん・・・言うの面倒・・・」

 

「あ、あはは・・・」

 

「ユーキ。ソロ専」

 

「ユキでいいぞ、知り合いにはそう呼ばれてるから」

 

「じゃあユキさん・・・ローブって?」

 

「・・・詮索なんだけど」

 

「・・・すみません」

 

別に怒りはしないけれどローブについてはあまり触れられたくない。

姿隠すためにもう何ヶ月も装備してるから愛着もあるのとリアルの姿を見られるのが嫌だから。

 

「それで戻った理由なんだけど、サチについてなんだ」

 

「えっ・・・私?」

 

「そう。サチがどうしてあんなに攻撃をあまり与えられないか漸く分かったよ。ユキに教えてもらったからだけど・・・」

 

「・・・気づけ、それぐらい」

 

「ぐ・・・そ、それでサチ。戦うとき目を閉じてるだろ?」

 

「・・・うん」

 

「・・・怖い?戦うの」

 

俺がサチに聞くと静かに頷いた。

やはり怖かったんだ、だから少し怖じけづいたように動いていたのか。

隠れて見ていた時、サチだけ目を閉じていたのをはっきり見てたし。

 

「ケイタ、これは本人の意志だけどサチに片手剣は向いてないと思う。恐怖心だけは俺達にはどうしようもないから。どうしても戦力がいるなら長槍とかにしておくのがいい」

 

「そうか・・・」

 

「もしくは生産職だな。戦うのが怖くても貢献したい人がやるもので攻略ギルドでも重要になる」

 

俺は座っているサチの隣に座る。

気づかれてないと思っていたのと指摘されたことによる言葉に対しても恐怖が見えた。

 

「・・・サチは、どうしたい?」

 

「え・・・?」

 

「皆みたいに戦うなら手伝う。だけど戦うのが怖いなら・・・街に篭るべき」

 

「っ・・・」

 

「戦えない人を圏外に連れ出しても足手まとい、死なせるだけ。だから聞く。サチは、どうしたいの?」

 

「私は・・・」

 

「ん・・・ケイタ。少しサチに時間をあげたのが良い。考える時間を」

 

「・・・分かった。そうさせるよ」

 

「だってさ。ゆっくり考えれば良いよ」

 

俺はサチの頭を椅子の上に立って少しだけ撫でる。

すぐに止めたけど、サチが安心出来れば良い。

恐怖心が勝って考えることが出来ずに結論を出すのは良くないからこうした。

 

「ユキ・・・?」

 

「ん、落ち着いて考える。ゆっくり・・・ね?」

 

「・・・ありがとう」

 

「じゃ、俺出る。宿屋探さないとだから」

 

「あ、待って!」

 

宿屋を探しに出ようとするとケイタに呼び止められた。

キリトと同様に協力関係なのでギルドハウスの部屋を使っていいと言われた。

 

「・・・でも」

 

「サチの事に気づいてくれたお礼・・・といえば良いのかな」

 

「・・・じゃあ少し外に出る。素材足らないし」

 

なんとなく俺はその場から逃げるようにギルドハウスを出ていくと路地の裏に走っていく。

 

「・・・人なんて嫌いだ」

 

人なんて自分の利益でしか動かない。

なのに何故優しくされただけでモヤモヤとするのだろうか。

 

「・・・変・・・なの・・・」

 

その変な感じを吹き飛ばすためにフィールドに出ると視界に見えたモンスターを斬って、斬って、斬り飛ばす。

暴れるように荒れ狂って、辺りにはモンスターすらいなくなるまで斬った。

 

「・・・はぁ」

 

気がつけばあれから数時間経って夜遅くなっていた。

いつも迷宮区で寝ていたりしていたからか、あんまり気にしていないけれど・・・こんなに暗くなるんだ。

 

「・・・暗い・・・な」

 

さすがに何か言われそうだったから戻ろうとすると近くで戦闘音が聞こえた。

このまま無視しても良いが、今からの時間になればモンスターのポップ率も上がって一対多になりやすくなる。

実力があれば大丈夫だけどケイタ達のように集団でも危険なところはある。

 

「・・・一応、行くかな」

 

気になるので《隠蔽》で隠れながら近付いて見てみると、その正体は戦闘で押されているサチ。

周りにはサチ以外いなかった辺り一人で出てきたのだろう。

このままだとサチの腕では逆に倒されて死ぬ。

そう思っていればいつの間にか俺はサチと戦闘していたモンスターを切り伏せていた。

 

「・・・ユ、キ?」

 

「・・・危ない。戻ったのが良い」

 

「っ・・・」

 

サチだけでは確実にやられてしまう。

集団で押されていたのにサチだけで行けるわけが無い。

俺のようにチート装備があるのなら話は違うけど。

 

「ギルドハウスに戻ろう?話はそこで聞くから」

 

「・・・はい」

 

戻る途中出てきたモンスターは数時間前のように俺が切り捨てていったので難無く戻れた。

そしてケイタに言われて使わせてもらう個室にサチを連れて座らせた。

 

「・・・ちょと、待っててね」

 

俺はアイテムストレージからコップなどを取り出して《料理》スキルですぐに飲み物を生成するとサチに渡した。

 

「これは・・・?」

 

「飲んでみれば分かる」

 

「・・・ココア?」

 

「ん・・・自作品」

 

「暖かい・・・」

 

サチに渡した飲み物は俺が数ヶ月かけて集めまくったデータで作り出したココア。

実はこれを自分以外に飲ませるのはサチが初だったりする。

 

「・・・どうして外に出てたの?」

 

「お昼に指摘されて、戦っていれば怖くなくなると思ったから・・・」

 

「・・・素直に言うよ。死にたいの?」

 

「そ、れは・・・」

 

「夜の時間はモンスターの出現量が増えて危なくなる。サチみたいに戦闘を避けてる人が出る時間じゃない」

 

「・・・私ね、怖いんだ。色々」

 

「・・・そっか」

 

「聞かないの・・・?」

 

「俺の事を詮索しない条件。だからサチの事も聞かない」

 

「・・・ありがとう」

 

「ん・・・別に」

 

飲み終わったココアのコップを受け取るとギルドハウスに備え付けである台所で洗ってストレージに直す。

 

「ユキ」

 

すると部屋からサチが出てきて俺に抱き着いてきた。

いきなりだったけど俺はそれから逃げるように動く。

 

「・・・止めて」

 

「・・・ユキ?」

 

「止めて・・・」

 

その時だけサチが凄く怖く見えた。

何故か、昔を想起させられて、怖くなった。

 

「ユキ・・・どうしたの?」

 

「嫌・・・嫌・・・」

 

それが抑え付けていた何かが壊れたような感じがして、俺は何度も同じ言葉を言った。

 

「来るな・・・来るな・・・嫌・・・」

 

「ど、どうしたの?」

 

強い拒絶をする俺に近づくサチが昔の事に重なった。

それが怖くて、何か言っているのだろうサチの言葉が耳に入らなくなって、それが余計に俺の恐怖を煽った。

 

「サチ!どうしたんだ!」

 

「キリト!ユキが!」

 

「嫌・・・嫌・・・嫌、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

子供のように俺は泣きじゃくれば、叫び出して、部屋の隅っこで縮こまる。

全てが何もかも見たく聞きたくないと言うように俺はそれで意識を失った。

 

 

 



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第十話

いつのことだったか。

数年前ぐらいだったそれは俺という人格を大きく成長させられ、子供らしくない言動になった要因だった。

 

 

人体実験で捕らえられた俺は様々な実験が行われた。

最初こそ俺は抵抗していたが、いつの日からかそんな事すら止めた。

やるだけ無駄だと分かっていたのもあるかだろうか、動くことが出来てもただ無気力だった。

 

 

独りを好むようになったのは物心ついたときから独りだったから。

周りに大人が居ようと誰も近寄らず、実験の時のみ俺は連れ出された。

同じような境遇の子もいたのかもしれない。

だが俺はそれを知る事すらしなかった。

 

 

ある日、研究員が俺が一番だと言うようになった。

何が一番だったのか当時は分からなかったが、恐らくは今までで一番良い出来だったのだろう。

神が与えた才能は様々な方向へと使われ、振るわされてきた。

剣で切る、刀で切り裂く、弓で射抜く。

多才な才能を生まれ持った俺はかなり弄られた。

身体能力においても強化され、鉄をも武器があれば叩き切れた。

 

 

ある時俺は教えられいった知識に興味を示した。

とある剣士が放った剣撃は不可視でありながらほぼ同時に三つの斬撃を放って燕を斬った。

『燕返し』と呼ばれるその秘剣が気になった。

初めて何かに興味を示したのは、人を殺せる剣術。

だがそれを研究員には決して悟らせなかった。

 

 

だが実験施設は突然破壊された。

どれだけの日が経つのか分からなかったけど、手早い動きで施設を駆け巡る人がいた。

そして辿り着いた。

牢獄のような部屋に捕らえられた俺のところにまで。

すぐに俺はそこから助け出され、すぐに病院へと搬送された。

色んな身体検査を受けて静かに病室にいると扉が開いた。

スーツを着ていて眼鏡をかけた胡散臭い男性がいきなり入ってきてベッドの近くの椅子に腰掛けた。

 

「こんにちは」

 

「・・・」

 

挨拶してきたが俺は無言を決め込んだ。

何も話すことは無いという意味で。

 

「君は、家族が欲しいかい?」

 

家族というものは知識としては知っていた。

だがどんなものなのかはそこまで分からない。

見て聞くのと実際に体験するのでは違うから。

 

「・・・ほ、しい」

 

だから好奇心で俺は欲しいと言った。

どんなものなのか体験したかったから。

 

「明日、この病室に君の家族になりたいと言う人達がやってくるよ。それまでは待ってて欲しい」

 

「・・・わか、った」

 

そう伝えると男性はにっこりと笑って病室を出ていった。

明日またやってくる誰かがどんな人なのか、気になって眠れなかった記憶がある。

 

 

漸く眠れて起きた時には2人の家族がいた。

女性は起きた俺に手を振ったりしていた。

男性はあまり良くない表情だった。

 

「・・・だ、れ?」

 

いきなり喋った事に驚いたのか女性は手の動きが止まっていて男性は信じられないような顔だった。

 

「あなたを引き取りたいって言った家族です。私はあなたのお母さんですよー」

 

お母さんと言われた時は凄く何度も言った。

それを再確認するように何度も何度も。

泣いていた俺をあやすように泣き止ませてくれた。

 

「あなたも何か言ってくださいよ」

 

「ふん」

 

「全く・・・ほーら、お母さんですよー?」

 

この時から男性は不機嫌そうで俺を見る目がゴミ同然だったのは覚えていた。

俺もこの男性にだけはあまり近づかなかった。

 

 

何故こんな事を思い出したのだろう。

俺はもう捨てられているのに。

まだどこかで捨てられていないと思っているのだろうか。

考えれば分かるのにな、あれだけもぬけの殻ならば。

 

「ん・・・ぁ・・・」

 

あまり寝なかったからか、寝落ちていたみたいだ。

夜中に出歩いてサチを見つけたのは覚えているんだけどなあ・・・。

 

「眩しい・・・」

 

「あ、起きたんだ」

 

隣を見ればサチが座ってこちらを向いている。

だがその表情は心配そうだった。

 

「ん・・・おはよ」

 

「おはよう、昨日は・・・大丈夫だった?」

 

「昨日・・・?」

 

「・・・覚えてないの?」

 

昨日はサチが夜中に出歩いていたのを見つけて連れてかえって・・・。

そこから少しだけ話してコップを洗っていたら抱き着かれたのか。

 

「発作・・・か」

 

「え?」

 

「ううん、何でもない」

 

これは俺の問題で、サチが介入することじゃない。

まさか抱き着かれただけで発作が出ると思わなかったけど睡眠時間が少なかったからか。

 

「・・・キリト達は?」

 

「素材集めで確か・・・二十一層に行ってるよ。キリトは嫌そうだったけど」

 

「二十一層・・・まずい」

 

「そうなの?」

 

「アインクラッド一番のトラップ地帯。俺も危なかったから覚えてる」

 

二十一層は手練れでもトラップに気をつけなければレッドゾーンになりやすい。

また、結晶無効化などHPに直結する物を無効にするトラップもあることから二十一層は危険視されやすい。

 

「・・・死なれたら困るから行ってくる」

 

「わ、私も」

 

「自分を自分で守れないサチはどうやって戦うの。正直足手まといだよ。でも・・・一人は寂しいだろうし、この子と居てくれる?」

 

「・・・え?」

 

「よいしょ・・・」

 

『にゃ~』

 

俺がローブから出したのは愛猫のミア。

第一層で超極低確率で出現する猫をテイムしている。

お魚をあげたら懐かれたのをローブの中に隠して一緒に過ごしたりしてる。

サチもSAOに猫がいるのを知らなかったみたいで、俺の猫を恐る恐る持ち上げた。

 

『にゃー』

 

「可愛い・・・この猫って?」

 

「ミア。その子と一緒なら寂しくないかなと」

 

「・・・ありがとう。私待ってるよ」

 

「ん・・・じゃ」

 

俺は転移結晶を使って二十一層迷宮区最寄りの圏外村に転移する。

二十一層迷宮区にはモンスターが自然湧きが無いのを利用してトラップ湧きの反応を《索敵》で探す。

すると迷宮区マップにプレイヤー反応があったので、その場所に急ぐとマップには書かれていない道へと入っていった。

 

「隠し・・・?それもマップに表示されるのにな・・・」

 

今一度確認でマップ踏破率を見てみると100%ではなく96%と表示されていた。

俺がここを攻略するとき100%だったはず・・・まさか攻略が進むと解放されるタイプか?

 

「念のため後をつけるか」

 

ある意味目立つ黒づくめのプレイヤーがいたので恐らくはあれがキリト達だ。

そのあとをつけるように付いていくと、キリトが焦ったような声をあげた。

 

「止めろ!それは罠だ!」

 

その瞬間警報音が鳴って俺は移動術を使ってでもその中に入り込んだ。

部屋の中心を見ると宝箱が開封されており、それがキーとなって発動するトラップだ。

 

「キリト、守ることを重視して」

 

「分かった!」

 

《索敵》のおかげで発動したトラップ湧きのモンスターは分かった。

ソードスキルを使うまでもなく通常攻撃で持って行けるモンスターだけが湧いたため、すぐに片をつける。

 

「動くなよ。・・・《無明剣》」

 

小さく呟くとそれだけでモンスターのHPが一瞬で0になった。

二十一層とはいえトラップ湧きのモンスターは二十一層以上の強さを持つ。

それを俺は赤子を捻るように剣を振り回しただけで総数30体を切り伏せた。

 

「・・・解除するから待ってて」

 

「あ、ああ」

 

《罠解除》スキルをセットして発動したトラップを解除すると警報は止まって出入口が開いた。

キリト達の方へと振り向くとキリト以外は恐怖と拒絶が見えた。

俺を化け物として見ているような目で。

 

「・・・先、帰ってていい」

 

「だが・・・」

 

「帰って!」

 

「・・・分かった。一先ず帰ろう」

 

「・・・ああ」

 

俺の明確な拒絶にキリトが察してくれたのか、ケイタ達を連れて帰っていった。

キリトは人との距離を分かっているからこういうとき有り難い。

 

「・・・はぁ」

 

二十一層迷宮区を出ると歩いて主街区へと歩いていく。

道中にはレベル上げで奔走しているプレイヤーがいて、今となっては普通の光景。

 

「・・・お日様」

 

データの世界とはいえ現実そっくり作られた太陽は眩しく照らしていた。

俺の荒んだ心を照らされているような感じがして嫌だったので小走りで行くとすぐに主街区に着いてしまった。

元々距離も遠くなく、最寄りの圏外村から数十秒で到着できるほど。

主街区の中心にある転移門を使おうと向かっているとちょうど転移門で言い争っている声が聞こえた。

別段こういう風景は珍しくなく、《決闘》などで決めていることが多い。

それを利用して男性が数少ない女性を決闘で負けさせて服従させているような光景も時々見る。

今回もそんなものだろうと気にせず転移門を使おうとする。

 

「おい」

 

その声は先ほど言い争っている男性で、隣には怯えた様子なフードを被ったプレイヤーもいた。

 

「・・・なに」

 

「なに、じゃねぇんだよ。俺が話してる横を歩くんじゃねぇよ」

 

そしてこういうプレイヤーもいる。

転移門に限らないが、その場所を占領して我が物顔で寛ぐプレイヤーが。

俺は別に気にはしないけど俺以外の人が迷惑になっていれば対処したりはする。

 

「・・・そう。なら別のところに行く」

 

そして俺が別の場所へ行こうとすると動いて妨害して来る。

ローブの姿だからこそ大体は女性プレイヤーと決めかかる人も多く、間違ってもいない。

 

「・・・邪魔」

 

「あぁん?邪魔なのはお前だろうが」

 

さすがに俺もいらっとしたので愛剣の霊想刀を引き抜くとソードスキルを発動させた。

《圏内》でもしソードスキルを使えばどうなるか。

圏内エリアは絶対にHPが減らない設定で守られているが、ソードスキルの威力は消えない。

つまりはダメージが無いがぶっ飛んだりはする。

《片手剣》スキル『ヴォーパル・ストライク』は重突進でぶっ飛ばし力が馬鹿みたいに高い。

モンスター相手だと突き刺さるが、人相手ならばぶっ飛ばしがある。

 

「・・・吹き飛べ」

 

俺はそれをモーションを取るだけで発動させ、この男を吹き飛ばした。

軽く15mほどはぶっ飛んだようで、気も失っているだろう。

圏内戦闘による吹き飛ばしやエフェクトは使用者のステータス依存。

筋力が高いほどより強く遠くに、派手なエフェクトになる。

 

「・・・逃げるなら、今のうち」

 

「えっ?は、はい!」

 

フードの人は逃げるように転移門で転移していった。

俺に頭を下げてお礼も言っていた辺りあの男に負けたのだろうか。

 

「はぁ・・・転移、二十層」

 

《月夜の黒猫団》のギルドハウスがある二十層に転移する。

さすがに時間をかけすぎた感じがするので少し早めに向かってギルドハウスの扉を叩いた。

 

「・・・おかえり」

 

「ん・・・」

 

「キリト達、中にいるよ」

 

「・・・そか」

 

出迎えたのはサチで中に入ると全員テーブルを囲むように座っていた。

そして二人が立ち上がって俺の前で頭を下げた。

 

「「ごめんなさい!」」

 

「・・・なんで、謝る」

 

「そ、それは」

 

「ただ謝れば良いと思うなら謝らないで」

 

「・・・怖かった、ユキさんがあのモンスターを一瞬で片付けたとき、ユキさんが怖く見えた」

 

「俺も・・・同じです」

 

「・・・そ」

 

これ以上は俺がいても良いことにはならない。

さすがに俺が原因で関係がギクシャクするのは嫌だし。

潮時かな、お休みも。

 

「キリト、ケイタ。俺はこのあたりで終わるよ」

 

「・・・そうか」

 

「・・・分かりました」

 

「これ以上は何も出来ない。それじゃ、ばいばい」

 

『にゃー』

 

サチから抜け出すようにミアが俺のローブへと入った。

一応猫ポーチ的なのは作ったからそこにいるのだけど、定位置になったらしい。

明確に俺は去るとケイタ達に告げるとキリトが走ってきた。

 

「ユキ!」

 

「ん・・・」

 

「フレンド・・・構わないか?」

 

俺のフレンドリストには一人だけ登録されている。

情報屋《鼠》のアルゴ。

その人物以外は一切登録がされておらず、今までも申請は来ても断っていた。

 

「・・・それは、嫌・・・かな」

 

「理由・・・聞いていいか?」

 

「・・・キリトが嫌ではない。ただ、消えるのなら独りで消えるよ。死ぬ時も。だからフレンドは断る、じゃないと来ちゃうじゃないか」

 

「・・・寂しくないのか?」

 

「今までも、寂しいと思ったことなんて無い。ありがとう、こんな俺でもなろうと思ってくれて」

 

 

「じゃあね、キリト」

 

「待て!」

 

俺はキリトに呼び止めれようとも気にせず転移結晶を空に掲げた。

蒼く透き通る結晶は月光りに照らされて美しく見える。

 

「転移、五十一層」

 

俺はそう呟くと、結晶から溢れ出る光に飲まれて二十層から姿を消した。

 

 



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第十一話

俺が攻略をしなかったのはただアルゴ達に言われたから。

言われて止めただけで別に攻略自体をやるなとは言われていない。

五十層がきつかったのはクォーターポイントと呼ばれる階層だったから。

五十一層のボスはさすがに弱いだろうと思い俺は五十一層迷宮区を駆け抜けている。

 

「せぇぇぇやぁぁぁ!」

 

邪魔をするモンスターは斬って刺して倒す。

ただそれだけをしてこの世界を進んだ。

死なないために強くなってソロを続けた。

自分が狂えば狂うほどに俺の剣戟は早く、より強く。

単調だろうが倒せれば良い。

モンスターなんて0と1だけのデータで作られたものなのだから。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

俺が五十一層のフロアボスの扉前に辿り着くと大人数が立ちはだかるようにプレイヤーが立っていた。

攻略組として動いているプレイヤーで、中にはキリトやアスナやユウキなど異名を持つ実力者もいた。

 

「・・・止めるか」

 

「ああ。死ぬつもりの奴を見捨てるなんて出来ない」

 

「・・・死ぬつもりはないけど」

 

俺が先に進もうとすると皆が扉に行かせないように妨害をする。

それが俺にはうざったく見えた。

 

「・・・どいて」

 

「嫌だよ。ここは通さない」

 

「ボクも絶対に通さない」

 

「・・・そうか・・・ならば」

 

 

「ついでだ。ここで消えろ、《笑う棺桶》」

 

俺が後ろを振り向いて飛んできた投げナイフを全て切り落とすと超強力な麻痺毒ナイフを投げて一部のプレイヤーが当たって物影から倒れて出てくる。

それらは全てSAO内で名が出ているレッドギルド《笑う棺桶》。

《隠蔽》で隠れていたみたいだが俺の《索敵》とレベル差で全て看破済み。

 

「Oh・・・ばれてたとはなぁ」

 

「・・・何のよう」

 

キリト達攻略組はいきなりの登場でかなり動揺しているけれど俺は自然体で話す。

こういうのはあまり悟られないようにした方が良いし、結局逃がすつもりもない。

 

「なに、謎だらけのローブ様の正体を暴きたいだけだ」

 

「・・・死にたいならそうすればいい」

 

過信はしない。

己の力を過信してミスなど二流以下だ。

相手が格下であろうと俺は全力で剣を向ける。

SAOでもそれは変わらず、邪魔をするのなら切り捨てるのみ。

 

「・・・Shck、撤退するぞ」

 

倒れて動けなくなったプレイヤーを放置して逃げれる物は撤退をして逃げていく。

俺が投げたナイフには高レベルの麻痺毒が塗られておりアイテムの使用不可状態となっている。

最高レベルともなれば右手も頭も動かせない凶悪仕様だが使うほどでもない。

 

「・・・で、攻略組はどうするの」

 

「っ・・・先に監獄へ送ります」

 

アスナが指揮で扉の妨害が無くなると俺は回復結晶を2つ取り出していつでも使えるようにしてから大扉を開けた。

 

「ユキ!」

 

「ん・・・」

 

「死なないで、帰ってきてよ」

 

「・・・」

 

俺はユウキの返答に何も言わず、第五十一層ボスをソロ攻略すべく愛剣を引き払って駆け出した。

それは大扉が閉じると同時で、キリト達がこっちに向かって走り出していたが間に合わない。

 

「・・・生きてたら・・・いや、もういいか」

 

「GKAAAAAA!!」

 

第五十一層《ワイバーンタイラント》。

飛行型モンスターで、飛ぶ手段が無いSAOではかなり時間もかかる。

だがそれがどうした。

飛ぶ手段なんて無くても周りには壁や柱がある。

壁走りをして壁を蹴れば少しの間だけだが空にいれる。

ソードスキルを空中で使えば、さらに推進力も得れるのだから。

 

「さて」

 

霊想刀を左手、右手と持ち替えて目が合うと一気に駆け出した。

空を自由に飛び回るワイバーンを狙うは翼。

翼膜が無くなれば飛べなくなるからそれを狙って下に引きずり落とす。

壁を走って蹴って《片手剣》スキル『ヴォーパル・ストライク』を発動させて、一気に突き進む。

空中ソードスキルは動きがほぼ固定される空中でスキルの立ち上げが難しいだけで出来ないわけではない。

空中で立ち上げたスキルはワイバーンの翼に向かって進み、一気に加速した。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「GUGYAAAAAA!!」

 

飛ぶための翼がやられたことによる痛みなのかワイバーンは悲鳴をあげると高度が少し落ちる。

その時に口から見える炎がこの先の事が見える気がした。

 

「ん・・・」

 

片翼を失おうともまだ飛べるらしく、高度を少し落として口から高圧火炎ブレスを放って来る。

それを俺は武器を回転させ風の盾で一気にダメージを減らす。

《片手剣》スキルと《武器防御》スキルの同時習得でなければ出来ない芸当だが、全てのブレスにおいてダメージを大幅にカットできる《スピニング・シールド》はワイバーンの火炎ブレスを大幅にカットして守りきった。

 

「・・・なら、次はこっち」

 

一回目と同様に壁走りで高度を上げる。

ワイバーンも馬鹿じゃないようで今度はかなり距離をとられていた。

だが、まだ甘い。

対策なんて俺はいくつも考えた。

何十と束ねた紐をピックと繋げてそれを柱に刺すと壁を蹴って、そのまま空でブランコのように飛んだ。

一番遠く高い地点で手を離すとワイバーンの真上。

その場で《バーチカル・スクエア》を放ち一連撃だけでも当てれるように振るった。

 

「GUAAAAAA!!」

 

それが背中に一発、翼に一発当たったようで先程よりも強い悲鳴を上げた。

翼膜が傷つけられ飛ぶことが出来なくなったワイバーンは重力に従うように落下して地面に叩き付けられる。

 

「これで、終わりだぁぁぁぁぁ!!」

 

画面を操作、《クイックチェンジ》で予備武器を取り出すと二刀の構えを取る。

右手で《ヴォーパル・ストライク》を立ち上げると落ちていったワイバーンに向かって落ちながら放つ。

落下による威力が追加され、今までのよりも大きくダメージを与えれたそこに左手の呼び出した武器で《ホリゾンタル・スクエア》で頭、背中、左右の翼と切り付ける。

 

「ーーーーー!!」

 

HPが無くなったワイバーンはそれでも必死に攻撃を加えようとして、データの破片になる前に炎ブレスを零距離で俺に放った。

 

「わっ・・・!」

 

さすがに俺も反応出来ず、炎は俺に当たりワイバーンはポリゴン片となって消えた。

最後の攻撃は俺の愛用していたローブを消し炭にしていっただけだが、それでも死ぬ前に一矢報いろうとしたあのワイバーンは強かった。

 

「ぁ・・・ふ・・・」

 

リザルト画面が表示されると封鎖されていた大扉が解除され、プレイヤーの影が見えていた。

 

「・・・待ってた・・・のか」

 

そこには攻略組メンバーが立っており、フロアの中心で疲れて座り込む俺を見つめていた。

だが久々に動き回って予想以上に疲れていたのか俺は視界が暗くなりながら意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初は突然だった。

アスナと一緒に寛いでいるとキリトからメッセージが飛んで来ていて、それがアスナにも届いていた。

気になったので内容を覗いてみれば。

 

『ユキが第五十一層をソロ攻略しようとしている。すぐに来てほしい』

 

ユキとは第一層に会ったきりだ。

最初は無愛想で可愛いげが無いと思っていたけれど、話していけば段々分かった。

アスナも最初はボクと同じだったみたいだけど、話していけば子供らしいところもあるって言ってた。

だからこそボクはこの内容に驚きと困惑があった。

ユキの身長は幼いボクよりも小さい。

つまり、ボクよりも年下でソロをしている。

そんな強さが気にもなってユキという少年に惹かれる理由でもあった。

 

「アスナ、行こう!」

 

「うん!私攻略組の人に指示して来るね!」

 

ボクはキリトと同じソロ。

だからこそソロの危険性を分かっているし、ユキがどれだけ危ないことをしているかも分かっていた。

 

「・・・よし。転移、第五十一層!」

 

転移門で最前線の第五十一層の迷宮区に行くと先に来ていたキリトと合流した。

会話をするよりも早く先に中に入ってユキを止めないといけなかったからすぐに移動した。

幸いにもボクの敏捷による速さがキリトと殆ど同じぐらいで迷宮区の突破もちょうどよく行けた。

そうしてフロアボスの大扉に到着するとまだユキは来ていなかったようで、少し安心した。

 

「ねぇ、キリト。どうしてこうなったの?」

 

「ただの早とちりなら良いんだけどな・・・。少し前にユキと居たんだ。その時に別れ際でさ『消えるのなら独りで消えるよ。死ぬ時も』って言われて俺の中で嫌な予感がしたんだよ」

 

「もしかしたらこの行動は意味が無い・・・ってこと?」

 

「そうかもしれない。でも、誰もユキを見ていなかったら・・・誰にも知られずに死ぬんだ。それってすごく寂しいじゃないか」

 

「そう・・・だね」

 

キリトのように名があって異名がつけられているのなら何かしらあるのかもしれない。

ボクだって同じだ。

でもユキはどうなんだろう。

アルゴさんから聞いたけどフレンドはアルゴさん一人でギルドは無所属、パーティーも組まない。

ただ独りで攻略を続けて、死んだら静かに人々の記憶から消えていく。

それはとても悲しくて聞いているボクは凄く嫌だった。

ボクはユキみたいに戦えるように強くなった。

【絶剣】っていう異名が付くほどに。

でも実際はキリトより弱くて、ユキは決して追いつくことは出来ない。

強い人と戦うのがボクは好きで、何に対しても強くあるユキがボクにとって尊敬できて惹かれていった。

 

「ユウキー!キリト君ー!」

 

アスナが走ってきて後ろには攻略組の人達がやってきていた。

何もないように振る舞おうとするけれどボクの中ではユキという少年が大きくなっていた。

これがどんなものなのかも分かっていたし、それをユキに言うべきなのかも悩んでもいた。

でもボクはユキに対して友愛なのか親愛なのか分からなかった。

すると奥から一人のプレイヤーがこちらに向かって走ってきていた。

ボクよりも小さい身長でローブを着るユキはある意味目立ちやすい。

それでも目立たないのはなんでだろう。

 

「・・・止めるか」

 

「ああ。死ぬつもりの奴を見捨てるなんて出来ない」

 

「・・・死ぬつもりはないけど」

 

ユキがそういってもキリトのあの言葉を聞いてしまうとユキが死ににいくんじゃないかって思ってしまう。

誰だって死ぬところを見たくはないから。

 

「・・・どいて」

 

「嫌だよ。ここは通さない」

 

「ボクも絶対に通さない」

 

「・・・そうか・・・ならば」

 

 

「ついでだ。ここで消えろ、《笑う棺桶》」

 

だからこそユキという無謀なことをやろうとしていたプレイヤーにボク達は執着しすぎて周りの警戒を怠っていた。

ユキの後ろから飛んで来る投げナイフが全て切り落とされて、お返しとばかりに投げナイフを大量に投げていた。

 

「Oh・・・ばれてたとはなぁ」

 

「・・・何のよう」

 

ユキが言った《笑う棺桶》は情報屋でも話題になっているレッドギルドでSAOの快楽殺人者が集まる場所だと聞いた。

何故そんなギルドがこの場所に来ているのだろうと思っているとユキは分かっていたかのように自然に話す。

 

「なに、謎だらけのローブ様の正体を暴きたいだけだ」

 

「・・・死にたいならそうすればいい」

 

「・・・Shck、撤退するぞ」

 

「・・・で、攻略組はどうするの」

 

「っ・・・先に監獄へ送ります」

 

オレンジやレッドのプレイヤーは第一層の《黒鉄宮》という場所に送られる。

攻略組の指揮官のアスナが動いているとユキが動いて大扉を開く。

 

「ユキ!」

 

「ん・・・」

 

「死なないで、帰ってきてよ」

 

「・・・」

 

何も言わなかったユキが凄く悲しかった。

何か一言でも良いから言ってほしかった。

 

「ユキ、やだよ!行かないで!」

 

ボクの声はユキに届いていなくて、無慈悲に大扉は閉じられた。

この時にはっきりと分かった。

ボクはユキが好きなんだって。

 

「ユキぃ・・・」

 

ボクはただ、何も出来ずにユキが戻って来ることしか出来なかった。

それが悔しくて、追いつけるように強くなったのに。

これじゃ何も変わらないじゃないか。

第一層の時みたいにただ見ていることしか出来ない自分が嫌だったのに。

 

 

 

ただ待つことしか出来なかったボク達は突然として大扉が開いて中を見ようとした。

フロアボスの大扉はボスの討伐か、プレイヤーの全滅どちらかで開くから。

 

「中にいる。生きてる」

 

キリトが中の事を言うとボクは中に誰よりも入ってユキを探す。

するとフロアの中心で長い黒髪の女の子が倒れていた。

 

「・・・ユキ?」

 

ボクの後から入ってきたキリトやアスナもその女の子を見ると少し驚いていた。

ユキが入って、中には女の子が入っていたのだから。

 

「ん・・・ぁ・・・」

 

すると女の子が気がついて辺りを見渡した。

そして見つめられていると分かると女の子は画面を操作し始める。

 

「・・・ローブ、無くなった・・・か」

 

「ユキ・・・なの?」

 

「ん・・・」

 

聞いたらしっかりと頷かれてこの子がユキなんだと分かった。

でも男の子だと思っていたユキは女の子で少し変だと思った。

アルゴさんはユキ坊と言っていたけれど女の子ならちゃん付けにするはず。

なら・・・ユキは男の子だけど見た目は女の子っていうことなのかな。

 

「・・・なに」

 

あまり姿を見られるのが嫌みたいで舐め回すような視線を受けているからかユキは少し拒絶しているように感じれた。

 

「・・・い、いや・・・今までのイメージと違って」

 

「私も・・・」

 

「・・・そう。もう良い?」

 

やっぱり嫌みたいで姿を早く隠そうとしていたからボクのストレージから代わりのローブを取り出してユキに着せた。

 

「代わり・・・だけど、どうかな?」

 

「ん・・・大丈夫。ありがとう」

 

ユキが立ち上がると足がふらついていて凄く危なっかしく見えた。

その足取りで五十二層へと繋がる扉に向かっていた。

見ていて不安にもなったのでボクは一緒に着いていった。

 

「一緒に行こう?」

 

「・・・なんで?」

 

「見てて危なっかしいのと倒れて不安だから」

 

「・・・いらない」

 

「ボクがやりたいの。駄目?」

 

「・・・好きにすれば」

 

ユキはこうして話せばちゃんと分かる。

素直にならないだけでそれがわかれば会話は出来るのだから。

他の人はユキを理解しようとしてないから分からないだけなんだ。

 

「ぁ・・・」

 

階段を昇っているとユキの不安な足取りでこけそうになっていたのをボクが受け止めて持ち上げた。

それに身じろぎしていたけれどすぐに収まった。

 

「・・・何がしたいの」

 

「んー?ボクがやりたいからだよ?」

 

「・・・そう」

 

こうして持ち上げるとユキは凄く軽くて、ユキが使っていたローブじゃないからかちゃんとユキの顔も見える。

 

「ねー、ユキ。どこで休んでるの?」

 

「ん・・・何処でも」

 

「む、そんなんじゃ疲れ取れないよ?しっかり寝ないと」

 

「・・・別に何処でも良い」

 

「じゃあ・・・ボクと一緒に寝る?」

 

「・・・なんで」

 

「一緒の部屋なら寝たことも分かるでしょ?それにボクは基本的に宿屋だから宿代浮くし」

 

「・・・好きにしたら」

 

「うん。そうするよ。主街区の転移門開いたら宿屋行くけど・・・下りたくなったら言ってね」

 

「ん・・・」

 

やっぱりユキは素直にならないなぁ。

何かあったんだろうけどボクにそれを容易く聞くのは許されない。

無関心というか無関係を貫くけどユキは拒絶するころははっきりとしていたらしいし。

それにしてもユキって軽いなあ・・・何食べたらこんな軽くなるんだろ?

 

「ほら、主街区だよ。転移門の有効化しないと」

 

ここに来るまでユキは一切下りていない。

やっぱり素直じゃないだけでボクとのこういうやり取りは嫌じゃないんだ。

転移門に着くとすぐに有効化して近くの宿屋に入って一人部屋を取ると部屋に入る。

 

「ほら、着いたよ?」

 

「ん・・・」

 

「・・・どうかした?」

 

部屋に入るとユキの様子が落ち着きが無くなったようにソワソワとし始めた。

ほんのりと顔も赤くなっていて、どうしたんだろ?

 

「・・・胸、押し付けられたら・・・その・・・」

 

そういえばSAOってリアルの身体を再現しているから、そういうこともできるのかな?

・・・なんか駄目なことを考えてしまいそう。

 

「・・・ん・・・ふぁ・・・」

 

ボクが変な妄想に耽っているとユキから小さな欠伸が聞こえて目があまり開いていなかった。

 

「眠たい?」

 

「ん・・・」

 

「一緒に居てあげるから寝ていいよ。ボクが居てあげる」

 

こうして見ればユキが弟みたい。

すぐに寝ちゃってボクの服を掴んで離さない辺り寂しかったのかな?

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「ふふ。おやすみ、ユキ。よく頑張ったね」

 

聞こえていないかもしれないけれどそれでも褒めてあげる。

ボクよりも幼いユキがSAOの半分近くをソロで攻略してる。

普通なら怖くて投げ出しても良いのにユキはそれをせずにただ一人で戦った。

そんなユキを褒めてあげたいし、頑張ったねと言ってあげた。

起きてるときは恥ずかしいけれどね。

 

「んー・・・ボクも寝ようかな・・・」

 

時刻を見れば夕方辺りで少し早いけれど寝ることにした。

ちょうど抱き心地が良い子がいるから優しく抱きしめてボクはそのまま眠った。

 

 

 



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第十二話

夢を見た。

それはローブを着た小さな子供が巨大なモンスターに立ち向かう夢。

無謀にも見える戦いをただ何も出来ずに見ていることしか出来ない。

子供が持つのは右手にある武器だけ。

それは蒼い刀身で、反射する光が蒼く見える。

でもそれだけであり盾もなく、一本の刀があるだけ。

モンスターは子供を喰らおうとすると子供は刀を真っすぐ相手に向けて構えて、右足を前に左足を後ろに。

 

「・・・《秘剣・燕返し》」

 

その瞬間ボクは一本の刀から三つの斬撃が見えた。

それは不可能の動きで、常人では有り得ない動き。

だけどあの子供はそれを成し遂げた。

三つ放たれた斬撃にモンスターは成す術もなく当たって消えていった。

 

「・・・君は、何を見てきた」

 

いきなり言われた事にボクは何も分からなかった。

だけど悲しいような声色で寂しく感じれた。

 

「俺は人の醜さだけを見てきた。普通の子のようにはなれなかった」

 

その声は女の子のようの高くて、幼さが抜けていない声。

 

「君のように人の醜さ以外も見れたわけじゃない。良い人がいたわけでもなく、ただ人の醜悪な所を見てきた」

 

それはボクが知る声で、大好きなもの。

ローブを着ていて小さい身長はボクが目指す頂きにいるもので誰よりも強く、その歳には合わない思考の持ち主。

 

「故に俺は人が嫌いだ。人は己のためにしか動けず、利益がない行動に人は動けない」

 

 

「だが・・・君は違ったらしい」

 

 

「なんで君は俺のために動ける。人と関わりを持たないようにしている俺に」

 

その言葉はボクを試しているような感じ。

ここで間違えれば二度と彼と一緒にはいれなくなる、そんな感じがした。

 

「ここで言わなくとも良い。ここは夢の中、言わば君の夢に干渉しているだけだからな」

 

夢と言われてもそんな感じがしない、現実味を帯びた夢にボクは何も言えない。

だけどあの時感じた感情は間違いじゃない。

ボクが抱いた大切なものだから。

 

 

その時、ローブは消えて姿があらわになった。

それは腰にまで届き、吸い込まれるような黒色の長い髪の毛。

以前は前髪に隠されて見えなかったけれど、今ははっきりとボクを見つめる蒼い瞳。

男の子とは思えない美しい容貌と誰にも理解されず強くなり続けたその強さ。

それが《ユキ》という少年で、ボクが大好きな人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると夢の中のような景色じゃなく、寝る前の景色だった。

 

「ん・・・」

 

身じろぎしているのはユキで、ボクに抱き着きながら寝ていた。

それを見て少し嬉しいとも思えるし、今まで戦うところしか見なかったから新鮮でもあった。

 

「可愛いなあ・・・」

 

今のユキは顔も完全に隠れるローブじゃなくその辺で数コルで買える麻布のローブだ。

だからユキの寝顔もバッチリ見える。

 

「・・・突いても起きないかな?」

 

寝ている大好きな人を目の前にボクは少し悪戯心が生まれてしまった。

あまり触れることも無かったのと、SAOのアバターリアル再現度が高く、それは肌の柔らかさや肌色、背中の写真も取れば背中まで再現してくれる。

髪の毛も同じだけれどSAO内では髪の匂いまでは出来ない。

 

「・・・えい」

 

悪戯心に負けたボクはユキの頬を軽く突いた。

すると幼い子特有の柔らかさともちっとした感触でもう少し触ってみたかったけれど自重する。

あまり長く触ると異性同士だと《倫理コード》というハラスメント防止システムがあって触られた人はボタンを押せば触った人を問答無用で《黒鉄宮》行きとなる。

説明すればユキは許してくれるだろうが、基本的に人嫌いだから牢獄には行きたくない。

だけど寝ているユキからは凄く良い匂いがするのとさっきの肌の柔らかさから現実世界でもかなり気をつけているのかも。

 

「ん・・・ぁ・・・?」

 

ボクの悪戯からか、ユキから小さな声が出る。

まだ眠たそうにしてて目を擦ってるけど右手だけはボクに掴まってる。

 

「おはよ、ユキ」

 

「ん~。おふぁよ・・・」

 

「まだ眠たいの?」

 

「ん・・・」

 

「寝てても良いよ?」

 

「うん・・・」

 

今の時間は9時ぐらいで起きないとなんだけど今のユキはかなり疲れ切ってる。

そんな状態を放っておけないのと、こうしてユキを独占したいというのもある。

 

「ね・・・ユウキ」

 

「んー?どうしたの?」

 

「・・・ん、なんでもない。おやすみ」

 

「そっか。おやすみ」

 

そういってユキはボクに身体を預けるように静かに寝はじめた。

以前ならこんなこと出来なかったのに、今じゃ一緒にこうやって寝れる。

今思えば不思議だ。

ユキの人嫌いは警戒心と信用しないからこそ成り立っていた。

なのにボクに対しては一切の警戒をしない意思表示である無防備な睡眠を取っている。

果してどこまでがボクを信じているのか、それが分からなかった。

 

「もう10時・・・か。このまま置いていけないし・・・抱っこしていこうかな」

 

右手を振ってメニューを出すとメッセージが数件ほど来ていてアスナとアルゴさんからだった。

アスナは昨日の事だろうけれど、アルゴさんはなんでだろう?

気になったので開いてみた。

 

『ユキ坊はユーちゃんといるだろうから、一緒におれっちがいる三十五層の《風見鶏亭》に来てほしいんダ》

 

風見鶏亭はボクも知っている。

あそこでだされるデザート類が美味しくて尚且つ値段も安めだから通ったときはよく買って食べていた。

でも・・・なんでボクがユキといるのを知っているんだろ?

 

「・・・とりあえず、行ってみようかな」

 

アルゴさんから頼んで来るのは珍しいのでユキを抱っこして宿屋を出た。

ボクはSAO内では名の知れたプレイヤーだからユキを背負っていると少しざわついていた。

それと同時に転移門を占領している男の人もいる。

 

「どうしよう・・・」

 

このまま押し通っても良いがユキが起きてしまうかもしれない。

仕方ないけれど転移結晶で移動するしかないかな。

 

「転移、三十五層」

 

転移結晶を掲げて転移先を言うと結晶から溢れる光がボクとユキを包んで三十五層へと転移させる。

基本的に街名を言わなければ主街区固定だったりする。

デザート類を食べによく行っていたのもあり、慣れた動きで宿屋でもある風見鶏亭に入ると端っこにアルゴさんとツインテの女の子が一緒に座っていた。

 

「ン、来たみたいだナ」

 

「えっとこの方が?」

 

「初めましてかな。ボクはユウキ。《絶剣》って呼ばれてるね」

 

「あのユウキさんですか!?」

 

「う、うん」

 

「とりあえずここじゃ目立つから部屋に入るゾ。ユキ坊が起きちゃうからナ」

 

アルゴさんの計らいでそこそこ広めの部屋に入るとユキを下ろしてベッドに寝かせた。

 

「あ、私はシリカです!危ないところをアルゴさんに助けていただいて・・・」

 

「そうなんだ?危ないところってなんかあったの?」

 

「・・・私ビーストテイマーなんです。本当なら使い魔のピナもいるんですけど・・・」

 

「アルゴさんが呼んだ理由がこれだったり?」

 

「そうだゾ。おれっちもさすがに使い魔蘇生アイテムは聞いたこともないんダ」

 

「ん・・・」

 

シリカさんの事を聞いていると寝かせていたユキが起きてぼーっとボクを見てくる。

夢の中でははっきりと目が見えたけれどこっちじゃ前髪が長いから見えない。

 

「ビーストテイマー・・・?」

 

「は、はい」

 

「・・・《プネウマの花》が四十五層にある。持ってるけど・・・貴重すぎて自分の以外は少し・・・」

 

「・・・?ユキってビーストテイマーなの?」

 

『にゃ~』

 

ユキがビーストテイマーだと証明するものがローブから這い出てきた小さな猫。

完全に目が覚めていないからか、猫がユキの頬を舌で舐めててくすぐったそうにしてる。

 

「猫・・・?」

 

「ん・・・ミア。あげないよ」

 

「ユキ坊、眠いんじゃないのカ?寝てても良いんだゾ?」

 

「大丈夫・・・ユウキのおかげで寝れた」

 

「なら良いんだけどナ。それで《プネウマの花》なんてものがあるのカ?」

 

「ん、使い魔蘇生アイテム。四十五層の最東北端にある石段に《心》アイテムを持ったビーストテイマーが行くと花が咲いて入手できる」

 

「あ、あの・・・私、レベルが46です・・・」

 

ユキが言う階層は四十五。

SAOでは階層+10が安全確保が出来るとされていてシリカは少しレベルが足りない程度だった。

 

「ん・・・じゃあ、余り物でよければ押し付・・・あげる」

 

「ユキ、今押し付けるって」

 

「気のせい」

 

ユキがトレードを開くとほぼ全ての部位の装備品がずらりと並んでいてボクが見たことのないものばかりだった。

 

「レア度が16ですか!?こ、こんなの貰えません!」

 

「・・・俺ね、男で・・・防具が女性専用だから持ってても売るしかない」

 

「え、えっと・・・」

 

シリカさんはボクとアルゴさんにどうしたらいいかのような目線を送って来ていて、別に問題はないとは思った。

ユキがいうように男性アバターが女性専用防具を持っていても意味はなく装備が出来ない。

売る方法しかないのでストレージの圧迫にもなるし。

 

「じゃ、じゃあ頂きます・・・」

 

「それらで・・・15レベルぐらいは底上げできる。あとは道中モンスターを倒せばいい感じかな。ついでに花関連はやることあるし」

 

「やること・・・ですか?」

 

「ん・・・まぁ気にしなくて良い。勝手に俺がやる」

 

恐らくユキが懸念しているのは花なのかも。

アルゴさんが聞いたことがないのはまずSAO内にビーストテイマーが少なく、それでいて《心》アイテムを持った状態で四十五層の石段に行く条件が分からなかったからだろう。

何故ユキが知っているのか不思議だけれど、それだけ珍しいのなら狙う人もいる。

四十五層のモンスターは女の子泣かせばかりでボクも初見は泣きかけで倒してたなぁ。

 

「・・・ユウキ?どうかしたの?」

 

「へっ?ううん、なんでもないよ」

 

「ん・・・そう。今日はずっと寝る。おやすみ」

 

ユキが寝ようとするとボクの手を握りながら眠りについた辺り、信用されてるのかな?

凄く嬉しいしアルゴさんも意外そうに見てる。

 

「ユーちゃん。ユキ坊の事頼んだヨ?」

 

「えっ?ボクが?」

 

「ユキ坊がここまで安心してるのはユーちゃんが居るからだと思うヨ。理由は知らないけどナ」

 

「ユウキさん、その子って・・・」

 

「ん・・・?あ・・・えっとこの子はユキって言って攻略プレイヤーだよ」

 

『にゃ』

 

「・・・猫」

 

「おれっち、触りたくなるナ」

 

『にゃっ』

 

初めて見たけれどユキが飼い馴らした猫は凄く可愛くてボクの膝の上で丸まって寝てしまった。

話し合いもこれで終わることにして各自この宿屋就寝となった。

ボクもユキと一緒に寝ること前提になってたけれど猫はシリカさんの所で寝るみたい。

アルゴリズム?から離れた行動らしいけれどよく分からないな。

 

「ん・・・」

 

「ボクもぐーたらと寝ようかな」

 

あまりやらないけれどたまには寝てばかりの日も良いかもしれない。

ユキと一緒なら安心して寝れるし、抱きしめれるから。

 

「おやすみ、ユキ」

 

優しくユキを抱きしめてボクはアラームを設定するとお昼寝で一緒に寝ることにする。

今度は良い夢が見れるといいな。

 

 




この話で書き溜めが無くなったため、投稿が遅くなると思います。
出来るだけ早くしますがやる気次第なので悪しからず。


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第十三話

 

 

「う~ん・・・」

 

安らいでいるような声に殆ど寝ていた俺は目を覚ました。

すっかり暗くなっていて、ベッドにはアルゴやユウキに見知らぬ女の子が寝ていた。

 

「・・・あの子は確か・・・竜姫だっけ」

 

中層プレイヤーで人気を博している女性プレイヤーがいるのは知っていて、ビーストテイマーの話もうっすら起きたときに聞いていた。

《フェザーリドラ》という蒼い小さなドラゴンを手懐けた事で有名でもあったし。

ミアがあの女の子の所で寝ているし、そのまま起こさないで出たのが良いか。

 

「ストレージ・・・空けなくて良いか」

 

女性専用防具なんて俺からすれば宝の持ち腐れになるからこの子にあげれてちょうど良かった。

ストレージを結構喰っていて邪魔だったし。

 

「ん・・・どうしよう」

 

いままでならこのまま放って外に出ても良かったけれど、それをすればユウキに泣かれるか怒られる。

 

「・・・メッセージ残せば良いか」

 

少し外に出る旨をメッセージでユウキに送ると部屋を出てフィールドへと出る。

夜の戦闘はモンスターのアルゴリズム強化、ステータス強化等がある分、倒したときの報酬も美味しくなる。

俺のLvは108ほどでここの階層は確か三十五層のはず。

Lv差があると入手経験値量もばらつきがあるからここいらでレベル上げはやらない。

だけどスキル熟練度は違って、使用してヒットすれば上がっていくからひたすら倒すしかない。

それはLv関係ないからどこでも出来るし。

 

「ん・・・」

 

いつの間にか解放されていたユニークスキル。

製作者側だから分かるけれど、俺のは必ず決まっていた。

《秘天剣》スキルが俺のID自体に関連付けられたユニークスキル。

これだけ俺が最初から作っているから茅場も中身を知らない秘匿スキル。

装備メニューで左手に『エリュシオン』を装備する。

五十一層ボスのLABで黒紫の片手剣。

霊想刀よりは性能が劣るけれど元々あれはデバッグ用装備だから仕方ない。

 

「・・・よし」

 

フィールドを駆け出すとモンスターの標的を俺に向ける。

ひたすら走ってターゲットを俺に向けて後ろを向けば様々なモンスターが合わせて20体。

普通ならこの状況は逃げ出すだろうが俺は違う。

霊想刀とエリュシオンを同時に持つとその場で一気に回転する。

《秘天剣》スキルは特徴としてスキル発動時のエフェクト系を一切表示しない。

モーションカットが出来る霊想刀があれば、普通の攻撃がスキル攻撃同然にもなる。

 

「せぇぇやぁ!」

 

一気に回り、風の暴力が俺を中心にして先ほどのモンスターが一気に消し飛ばされた。

《秘天剣》スキル『竜巻旋風』。

今思えばこのスキル名は無いなと思いながら、発動を終えた。

《秘天剣》は二刀流装備だから慣れるまで難しいけれどその分、ダメージ量は効率よく与えれるようになる。

 

「・・・はぁ」

 

このユニークスキル自体にパッシブスキルで《武器防御》や《弾き防御》などの補正がかかって、ステータスに自身のLv依存で倍率がかかるようになってる。

これだけでLvでいえば180ぐらいの火力は出せているけど、慣れてないから思う存分に振るいはしない。

 

「ん・・・何か引っ掛かった?」

 

《索敵》スキルによってマップに一つだけ表示されて、気になったので行ってみる。

プレイヤーならそのまま見なかったことにするけれど・・・。

 

「・・・え」

 

その場所まで行ってみるとプレイヤーではあった。

無視しようと思っていたけれど、それは出来ない。

よく見たこと、それも数十分前にメッセージを送ったユウキなら余計に。

 

「あっ、ユキー!」

 

俺を見つけて舞い上がっていたのか、警戒を忘れていたのか。

モンスターは無防備なユウキの背中を狙って攻撃しようと突進していた。

 

「ふっ・・・!」

 

すぐさまユウキの元にいくと、両手の武器を十字のように持ち替えた。

 

「・・・全く」

 

ユウキの後ろにいるモンスターに向かって《秘天剣》スキル『メテオアウト』を放つ。

いきなり爆発しだしてモンスターは破片になって消えた。

 

「ゆ、ユキ?」

 

「・・・メッセージ残したのに」

 

「心配だもん・・・」

 

「ん・・・じゃ戻ろ」

 

このまま戻れば両手の武器所持になにか言われるので、左手装備を外しておく。

ユウキはさっきのに気になっていたけれど黙秘。

教えれば知っているユウキにまで被害が行くし。

 

「・・・ユウキ」

 

「んー?」

 

「眠気はある?」

 

「全然?沢山寝たからね!」

 

「・・・じゃ、迷宮区行こうか」

 

「へ?」

 

「・・・嫌なら宿屋にいていい」

 

迷宮攻略なんて一人でしていたからあまり誘うこともなかったけれど、ユウキなら問題ないかな。

ユウキにパーティー申請を送ると即効で承諾されてユウキと俺のパーティーが出来上がった。

 

「ユキとパーティー組むの久しぶりだなあ・・・」

 

「・・・一層以来だし」

 

「なんでソロやってるの?」

 

「・・・人が嫌いなだけ。パーティーやれば関わらないと駄目だから」

 

「ボクはいいの?」

 

なんでユウキは大丈夫だと思ったんだろう。

俺とユウキじゃ技量の差が明白で確実にユウキが足手まといになる。

それでも何故か問題ないと思えてしまう。

 

「・・・行くよ」

 

答えるのが少し恥ずかしかった俺は何も言わずにユウキの手を握って転移結晶を使う。

 

「転移、五十二層」

 

こうしてユウキとのやり取りも嫌では無くなっていたからなのか、一緒にいれば安心できる。

だけど手を握ると胸の鼓動が早くなるような妙な感覚を覚えながらも転移の光にそのまま呑まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウキを連れて五十二層迷宮区に着くとすぐにボス部屋まで辿り着く。

いつもならばトラップ系の宝箱などを漁っているけどここは最前線でユウキのLvを考えればトラップモンスターは危険がある。

ボス程度なら一人ぐらいなら抱えてても大丈夫だし。

 

「ユキって凄いね・・・」

 

「ん・・・」

 

「ボクよりも強くてさ・・・何も出来なかったもん」

 

ここに来るまでのモンスターは全て俺が倒してしまったから、あまり考えていなかったな。

この次はボスだけどユウキになら背中を任せても良い。

それだけの実力はあるし、信じてはいるから。

 

「じゃあ・・・ボス戦・・・ねっ」

 

「へ?」

 

《秘天剣》スキルを見られた以上、出し惜しみはしない。

使わずしてユウキを死なせたくないから。

大扉に触れて先に中に入るとユウキも慌てて中に入る。

ど真ん中で待っているのは巨大な躯のシルエット。

 

「・・・《グラインド・アースラ》」

 

Lv55巨人系のボスモンスターのこいつは確か移動速度と攻撃速度が凄く遅い。

その代わりに一発火力が桁違いに高くしてあって、防御主体は危なかったはず。

 

「ユウキ、防御は駄目。回避だけで避けて」

 

「うん、分かった!」

 

「弱点は・・・頭と胸。俺が隙を作るからダメージは任せるよ」

 

こいつが持つ武器は両手斧で破壊可能だが幾らでもどこからか取り出して来るので意味が無い。

俺が武器を両手に持つと一気に常時スキルが発動する。

《秘天剣》の補助スキルに入るステータス補助。

一気に駆け出すと巨人もすぐさま動いた。

こいつは厳密に言えばソロでも必勝法がある。

ひたすらに攻撃を避けて足を切るとこけるので、起き上がるまでの時間に弱点を狙えば時間はかかるけど倒せる。

今回は俺が時間を作ってユウキにダメージディーラーがやる。

ユウキの火力ではこかすほどまでに至れないのと耐久値がある。

俺なら耐久無限だからこそ幾らでも戦闘は継続できるし、危険性がない。

 

「ふっ・・・!」

 

開幕俺は《秘天剣》の上位スキルを使う。

『鏡花の閃』は連続使用スキルで、当てればどんどん火力が上がる。

隙が極端に少ないかわりに初撃は低いけど、途中から倍率補正は狂いはじめる。

 

 

一撃、『鏡花一閃』を発動して巨人の振り上げて俺に向かって振り下ろす斧を弾き返す。

 

二撃、『鏡花二閃』で右足を切ってこかす。

すぐにこけた巨人に向かってユウキもスキルを発動した。

 

三撃、『鏡花三閃』は足から近い胸に当てた。

四本あるHPゲージは三本になり、巨人が悲鳴をあげる。

 

四撃、『鏡花四閃』が左足を切り付けた。

立ち上がろうとした巨人はまたしてもこけて隙を見せる。

 

俺はここで止めた。

ユウキの火力がどれだけかある程度分かったのと、次の奥義スキルで終わらせれると勘が言っていた。

 

「ユウキ、一緒にやろっか」

 

「うん!」

 

ユウキが立ち上げたのは《片手剣》『ホリゾンタル・スクエア』。

そして俺が使うのは、現実世界でも俺が放った剣。

 

「・・・秘剣」

 

「たぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ユウキの四連撃が放たれようとした瞬間、俺の霊想刀とエリュシオンが平行に巨人に向ける。

 

「燕返し!」

 

ソードスキルであろうと、刹那の瞬きで不可視の斬撃が一呼吸で放たれる。

右手に持った霊想刀が上から切り下げて続けて下から右上に切り付け、同じく下から左斜めに切り上げた。

エリュシオンもそれを対になる六方向からの同時に放たれた六連撃は本来の燕返しを凌駕した。

 

 

三本のHPゲージは一気に消え去り、無くなって巨人は光り輝いた。

 

 

五十二層ボス《グラインド・アースラ》は二人の剣士によって討伐され、リザルト画面が表示された。

 

「終わった・・・ね」

 

「ん・・・」

 

「・・・ユキは・・・凄いなあ・・・」

 

「別に・・・」

 

リザルト画面には俺がLABを取っており、『紫霊水晶』が入手できた。

カテゴリは鉱石系で武具鍛造アイテムだろう。

《鍛冶》スキルはあるしこの機会に打って見ようかな。

 

「・・・五十三層の開通したら一度戻る」

 

「それは良いけど・・・なにかあるの?」

 

「ん・・・少し」

 

「ボクも行っていい?」

 

「・・・良いよ」

 

殆ど俺がやってしまっているのでユウキは疲れていないのでそのまま五十三層の主街区を目指す。

ユウキに抱っこされそうになったけど疲れてないし、恥ずかしいから断った。

・・・どうせ寝るとき抱き枕にされるし。

 

 

そうしてすぐに主街区に着いて転移門を開通すると一度三十五層の《風見鶏亭》に戻るとアルゴと女の子が起きていた。

ていうかさすがに起きてる時間だからそうだけど。

 

「・・・ユキ坊。言いたいことはあるカ?」

 

ユウキと部屋に戻るとアルゴが俺を正座させて何故か説教を喰らった。

そういえばメッセージってユウキにしか送ってなくてその本人が来てるから・・・二人知らないのか。

 

「ん、寝れなかったから迷宮行ってた」

 

「・・・ユーちゃんとカ?」

 

「・・・そうだけど」

 

「はぁ・・・ユキ坊もユーちゃんの事考えてあげなヨ。心配どころか泣き出すゾ」

 

「ん・・・分かった」

 

何故かユウキの泣き顔を想像すると勝てない気がするのでお断りしたい案件。

時間帯を見ると14時で本来の時間を大幅に過ぎていた。

 

「・・・行くよ四十五層」

 

「えっ、ユキそのまま行くの?」

 

「・・・そうだけど?」

 

《心》アイテムが三日ほどで《形見》に変わるのだから早めに取りに行ったのが良いと思って行こうとしたのだけど。

なんでアルゴは溜め息ついてて、ユウキは膨れっ面なの。

 

「・・・先行ってる」

 

居心地が悪くなったので早く先に行くことにする。

四十五層は女性泣かしのモンスターが多いけど強くは無いので大丈夫だろうし、のんびり出来る。

ミアのお散歩もかねてだからちょうど良いかな。

 

 

 

少しすればユウキ達も転移してきた。

アルゴが忘れてたように女の子の紹介をしてて、本人も慌ててたけど大事なんじゃないかな。

 

「わぁぁぁ・・・!凄いですね・・・!」

 

「ん・・・ここ、有名なデートスポットだからカップル多い」

 

「カップル・・・」

 

「・・・ユーちゃんは大変だナ」

 

少し見渡せば仲の良いカップルが見える。

花畑である程花の良い匂いもするしデート場所としては良いところなのだろうなあ。

俺はそういう相手がいないけどね。

 

「ミア、見える?」

 

『にゃ』

 

「落ちるなよー」

 

『にゃーん』

 

何となくだけどミアのアルゴリズムは普通じゃない。

本来ならペットとテイマーの距離は数メートルが良いとこで俺のように階層を跨げはしない。

だけど感情論を持ち込むと有り得るのだろうな。

 

「ユウキさーん!アルゴさーん!助けてくださーい!」

 

先に行かせたユウキ達の方から助けを呼ぶ声がするけど絶対目を向けない。

そのためにユウキとアルゴを連れていってるし、俺はミアの相手に忙しい。

 

「・・・ミアー」

 

『にゃっ』

 

「・・・ふへへ」

 

前方の声を無視するように俺はミアを撫で回す。

柔らかい毛が気持ち良くて変な声を出してるけど誰も聞いてないし良いや。

 

 

そんなこんなで《プネウマの花》が手に入る石段に着くとシリカが花を入手した。

そしてそれと同時に俺の《索敵》に9人のプレイヤーが反応した。

俺が足を止めるとユウキ達も止めて不思議そうに俺を見てくる。

 

「どうしたんですか?」

 

「ん・・・」

 

何となくそんな予感はしてた。

《プネウマの花》を狙うプレイヤーはいるし、レッドプレイヤーですら居るのだから。

一つの木にピックを投げるとそれを弾くように武器が振られた。

 

「Oh・・・えげつねえなぁ・・・」

 

「・・・何のよう」

 

「分かるだろう?」

 

「・・・そ」

 

流暢な喋り方でどことなく人を引き込むようなそれは俺が聞き覚えのあるもの。

レッドギルド《笑う棺桶》のギルドマスター《PoH》。

素っ気ない返しをすると霊想刀を引き抜いて一瞬でPoHに向かって振り下ろす。

そしてそれをPoHが使う『友切り包丁』という武器で防ごうとする。

 

 

俺の剣は我流でいろんな人物の剣を真似た。

燕返しもそうだし、武術もそうだ。

だが俺が編み上げた剣術は刀が主でそれは鞘と刀を使う。

 

「・・・なら、ここで死ね」

 

人を殺す暗殺剣を極めた俺は人を殺すことに何も抱かない。

罪悪感も殺したという感触もない。

幼い頃に実験されていたからだろう、殺さなければ自分が殺されるという思考もありはした。

 

「あー・・・そうか、死んだか・・・」

 

PoHの包丁を鞘で弾き返すと刀を十字に動かして切り飛ばした。

純粋な剣だけでここまで出来るのだからスキルなどは不要。

木の影で隠れているもう二人にも麻痺ナイフを当てるとすぐに消し飛ばした。

 

「・・・ゆ、ユキ・・・さん・・・」

 

振り向けばシリカは信じられないものを見た表情で俺を見つめる。

だがそれは至って普通の事だ。

人殺しを平然と行ったのに、表情を何一つ変えず見てくるのだから。

回廊結晶を取り出すと他の木に隠れているオレンジを見つけて麻痺状態にしてから回廊結晶で繋げてある牢獄へ放り投げた。

 

「・・・それじゃ」

 

潮時だろうと思い、俺は転移結晶で転移する。

それを見たユウキが急いで走って来るけど間に合わない。

俺は独りが楽だから、ユウキを巻き込むわけにもいかない。

 

「転移、五十三層」

 

つい数刻前に開通した階層を呟くと俺はみんなを残して転移の光と共にその場から消えた。

主街区に転移されるとすぐにフィールドに出て、迷宮区近くに座る。

野宿はよくしていたし、ソロのために他のスキルもある程度習得した。

 

「・・・打ったらもう終わり」

 

『紫霊水晶』を取り出して携帯鍛冶道具を出すと《鍛冶》スキルで打つ。

唯一俺を前から見てくれて、理解者になろうとしてくれた彼女。

それが心地好くて、今までの自分が無くなりそうにもなってた。

だからこれを打ったらそれもおしまい。

これ以上ユウキは巻き込めないから。

 

 

数百も気がつけば打っていて、それは虹色に輝いて水晶は形を変えた。

それは紫黒の片手剣で名前は『夜月の剣』。

それを何十の仲介屋で俺だとばれないようにしてユウキへと渡るようにした。

包装もユウキでなければ開けれなくしてあるし、大丈夫かな。

 

『にゃー』

 

「なー、ミア」

 

『にゃ~?』

 

「・・・なんでもない。攻略するか」

 

 

 

物凄い速度で攻略を進めていくプレイヤー。

ソロプレイヤーのその人物は攻略組どころかSAO内では知らぬものはいなかった。

しかし誰もが名を知らず、その姿も見たことがない。

それを知るのは第五十一層ボスの攻略組参加者だけなのだから。

故にそのプレイヤーにはある異名が名付けられた。

《孤高の剣士》と。

 

 



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第十四話

アインクラッド第七十四層の迷宮区。

ボク達SAOプレイヤーはそこまで攻略を進めた。

最も攻略組というよりは六十層辺りまで殆どソロ攻略をした《孤高の剣士》がいたからなのだけれど。

その人が迷宮区のボス部屋以外の罠や宝箱を解除、回収していてマッピングデータもアルゴさん経由で公開されている。

 

それにアルゴさん経由でもう一つボク宛に匿名希望で片手剣が贈られた。

当時は武器の力不足感があってちょうど良かったけれど、後々考えていけば少し気にもなった。

プレイヤーメイドの武器ではあるのだけど製作者が不明でアルゴさんも分からないと言っていた。

そして今ボクは贔屓にしている個人経営のプレイヤー鍛冶屋に向かっているところ。

そこに着くとドアを開けて中に入る。

カランコロンと鈴が鳴って奥から女の子のプレイヤーがやってくる。

 

「ようこそ!リズベット武具店へ!」

 

「あ、リズ?やっほー」

 

ピンク色の髪で身長は幼いボクよりも高い。

聞いたところ高校生ぐらいなんだとか。

その人物が攻略組の殆どの武具に関係している鍛冶プレイヤー《リズベット》。

マスタースミスで彼女が打った武具はどれも高い分一級品ばかり。

だからこそボクはこの贈られた武器の製作者の手掛かりを知りたい。

 

「どうしたのよ?あんた少し前に研磨したでしょ?」

 

「リズに見てもらいたい武器があるんだ。贈られた武器なんだけどね・・・」

 

ボクはそういって贈られた武器をリズに渡す。

武器名は『夜月の剣』で製作者不明。

性能は七十四層の今でもかなり使える。

 

「うわっ、何よこの武器」

 

「何か分かったの?」

 

「この武器・・・少なくとも製作日が数ヶ月前じゃない。最近送られてきたの?」

 

「うーん、確か3ヶ月前だったかな・・・?」

 

「それなら最低でも五十層辺りの素材でこれを造った訳でしょ?当時はマスタースミスなんて誰一人居なかったからこれ程の武器なんてフロアボスのLABぐらいじゃないと・・・」

 

「んー・・・誰が造ったんだろう?」

 

「・・・とりあえず《鑑定》スキルで分かった事を言うわよ。製作者は・・・なんて読むのよ、これ」

 

そういって鑑定結果の画面をボクに見えるように可視化してくれた。

そこに表示されていたのは今や消息が不明になっている《孤高の剣士》のアバター名。

 

「・・・ユキ」

 

「知ってるの?このプレイヤー」

 

「うん。知ってるどころかSAO内じゃある意味知らない人はいないよ」

 

「・・・誰よ?」

 

「アインクラッドの半分以上の迷宮区を単独で攻略したプレイヤーは知ってる?」

 

「確か・・・《孤高の剣士》とかいう大層な異名のプレイヤーでしょ?」

 

「プレイヤー名は《Yuu_ki》。ボク達攻略組が本格的活動をする前はこの人がソロでやってたんだ」

 

「・・・それ、嘘じゃないわよね?」

 

「嘘じゃない。ボクがアスナが見たんだ。第五十一層の攻略参加者に聞けば分かるよ」

 

第五十一層はユキの正体が一部にのみばれた場所であり、一番ユキと長くいれた期間に近かった。

 

「そっか・・・ユキが造った武器なんだ・・・」

 

「そのユキって奴好きなの?ユウキは」

 

「ふぇっ!?そ、そんなこと・・・・・・ある・・・かも」

 

「ふーん?あんたを惚れさせる程ってどんな奴なのか気になるわね。呼べる?ここに」

 

リズの問いにボクは首を横に振る。

何故ならフレンドにはなっていなくて、唯一のアルゴさんも追跡機能は切られている。

それに六十五層辺りで攻略止まってから消息不明だし。

 

 

でもそれは急に覆されたりする。

お店のドアが開いて鈴の音が鳴る。

それは来店の合図でお客さんの意味合いだ。

 

「っと、ようこそ!リズベット武具店へ!」

 

入ってきたのはローブを着た小学高学年ぐらいの子。

それはユキと同じに見えて記憶が少し蘇った。

 

「ん・・・」

 

見た目では幼過ぎてリズも対応に困っていた。

ボクもさすがにどうすれば良いのかなと思ってた。

 

「店主さん・・・どっち?」

 

それは多分ボクとリズの事だろう。

見た目で分かると思ったけど間にはカウンターがあってこの子では身長的に見えないのかな。

でも凄く既視感があった。

ここまでユキの姿に重なるのかと。

 

「ねぇ」

 

「ん・・・」

 

「・・・ボクのこと・・・分かる?」

 

「・・・分かると思うけど。有名だから」

 

「えっと・・・そういうことじゃなくてね」

 

有名なのは否定しない。

それほどまでに皆に認められた実力者でもあるから誇りにも思える。

だけどボクが聞きたいのはそういう方ではなかった。

 

「そ・・・なら、久しぶりって言えば良い?」

 

「っ・・・」

 

「ユウキ、まさかこの子が・・・そうなの?」

 

リズが聞いてきたので頷くと久方振りにボクの左手にボクよりも一回り小さな手が重なった。

 

「は、はぁ・・・それで何のようなのよ?」

 

「ん・・・鍛冶施設借りたい」

 

「・・・もう一度良い?」

 

「このお店にある固定式鍛練炉が借りたい」

 

「どうしてよ?《鍛冶》スキルあるの?」

 

「・・・あるけど。現に俺が打った片手剣ある」

 

この子が指差すのは『夜月の剣』。

造られた時期を考えても《鍛冶》スキルが完全習得出来ていないとは思うのだけどなぁ・・・。

 

「あんたのスキルがどれだけか分からないけど、炉までは貸せないわ。だけど代わりにあたしが打つ。それでどう?」

 

「・・・完全習得してる?」

 

「あんたねぇ・・・さすがに鍛冶専門プレイヤーに喧嘩売ってるでしょ。完全習得してるに決まってるじゃない」

 

「そ・・・なら、片手剣同士を縫合してほしい」

 

「縫合・・・?」

 

聞いたことがない単語にボクは聞き返した。

何でも、同じ武器種同士を重ねて追加素材を入れて叩くと強化出来るらしい。

親武器が下で強化に使う武器が真ん中、追加素材は一番上で叩くと確率で成功するみたい。

この子がストレージから出してきたのは見たことがない錆びた剣に黒塗りの片手剣に蒼色の鉱石。

 

「この、錆びた剣を親で後全部素材。失敗しても大丈夫」

 

「・・・分かったわ。お代は・・・そうね、あんたのこと聞かせなさい」

 

「ん・・・ユウキ次第」

 

「ふーん?ユウキも案外隅に置けないわね?」

 

「ちょ、リズ!?」

 

何かを確信したような表情でボクをからかったリズは渡された素材を持って奥の作業場に行った。

するとこの店にいるのはぱっと見でボクとユキだけ。

 

「ねぇ、ユキ」

 

「・・・気づいてたんだ。いつから?」

 

「勘・・・かな?」

 

「・・・そっか」

 

ボクが休憩に椅子に座るとユキもボクの膝の上に乗っかってきた。

そしてボクの両手を自分のお腹に回すようにユキが動かした。

 

「・・・ねぇ、ユウキ」

 

力が抜けたようにボクにもたれてきたユキが出したのは疲れきったような声。

あの時のような小さく細い声じゃなく、心の底から疲れた声。

 

「・・・疲れたよ」

 

「動いて・・・疲れちゃったの?」

 

「・・・わかんない。なんか、もう何もやりたくない」

 

これが・・・本音なのかな。

ユキがこの小さな身体に背負ったその重みはボクなら耐えられない。

 

「本当なら・・・もう関わっちゃ駄目って決めたのにね」

 

「関わっちゃ・・・?」

 

「・・・もうやだよ・・・嫌・・・」

 

泣いているような声がし始めたユキの頭を撫でて、優しくボクは抱きしめた。

握られていた手からユキの震えが感じれた。

触れているところ以外は冷えていて、死人のよう。

ユキがこれほどまでに追い詰められていたのにボクは何で気づいてあげれなかったのだろう。

どうして姿をくらましたとき探してあげなかったんだろう。

そう考えればどんどん駄目な思考が出てきちゃう。

 

「ごめんね・・・ユキ。ごめんよ・・・」

 

「ううん・・・ユウキが悪いんじゃない・・・俺が・・・駄目だから・・・」

 

 

「・・・少し・・・寝ても・・・良いかな?」

 

「眠たい?」

 

「・・・うん・・・ユウキは、暖かいから」

 

そういってユキはそのまま動かなくなってしばらくすると整った寝息が聞こえて来る。

ボクの胸に耳を当てて寝ているからボクの激しいほどに動く心臓の音も聞こえていそう。

ナーヴギアで心臓の音も再現してるらしいから・・・やっぱり聞こえてるんだろうなあ。

 

「終わったわよー・・・って」

 

「あはは・・・」

 

「やっぱり好きなのね、その子の事」

 

「・・・うん。こんなに小さな身体でも誰よりも強くて、そんな姿にコロッと・・・ね」

 

「ユウキらしいわね。縫合の結果どうしようかしら」

 

「んー・・・ボクが預かろうか?起きたら渡すよ」

 

「そうね、お願いするわ。お代はまたそのうち二人で来て聞かせて頂戴な」

 

「・・・まさか、リズさっきの」

 

「聞いてないわよ。まぁそれでもそんなに引っ付いてれば関係も察するわよ」

 

「まだ付き合ってないよ?」

 

「・・・その時は言いなさい。祝ってあげるわ」

 

「ありがとう、リズ」

 

リズからユキの品物を受け取るとそのままお店を後にした。

ユキがローブを着ているからこのまま主街区に行っても子守りだと思われて問題は起きない。

アスナ達には落ち着いてから教えたのが良いかな?

 

「ん・・・む・・・」

 

ボクに抱き着いて寝てるからか、安心したような声が少し漏れてる。

背中を優しく叩いてあげると服を掴む手が少し強くなって頭を押し付けるように擦り付ける。

主街区に入ると転移門に近い宿屋で一人部屋を取るとベッドに座ってユキとそのまま横になる。

するとボクも疲れてたのか、ユキと一緒だからか瞼が重くなってきていたのでそのまま目を閉じて寝た。

暖かい感覚があって、いつもよりぐっすり寝れたような感じもした。

 

 

 



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第十五話

ただひたすらに、強くあろうとした。

それこそが俺の存在意義だと思えたから。

人の技を真似て、模写して、共感して、経験を想像する。

それが俺の得意なことであり、並外れた身体能力が不可解な異業を成し遂げる。

例えば()()()は一人の剣豪が暇を持て余し、飛び回る燕を()()()竿()と呼ばれる長刀を用いて一呼吸の間に3つの斬撃を放つ。

 

だが、その剣豪は存在しない。

その名を持つものは居たのかもしれないが、改竄・偽装された剣豪だったのだ。

嘘でも語り継がれた剣豪としての名はあり、ただ真似ることしか出来ない俺よりも遥かに強いのだから。

それと同時に一人の少女にも興味があった。

俺よりも2歳ほど上だろうその少女は、誰よりも生きることへの渇望が強く、決して死ねないという確固たる意思があった。

今まで俺を理解しようと、見ないようにとしていた人間にも物好きは居るもので、その少女は俺の理解者になろうとしていた。

それが怖くなりその場から逃げ出した俺は臆病者だろう。

心のどこかでは理解してくれる人が欲しかったのにそれを俺は自ら手放した。

 

でもまた会ったときその少女は、あの時よりも違った強い意思を持っていた。

彼女に少し身体を委ねただけで俺の抑えていた何かが少し漏れるほどに。

暖かかったそれは一つの希望を見出だした。

この少女ならば、俺を受け入れてくれるのかもしれないと。

人の感情には鋭い自信もある。

少女が向けて来る好意が親愛から異性のものだと分かっていた。

だから今度は逃げずに、真っ向から言おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ユウキ」

 

「えっと・・・」

 

目を覚ますと、何故かユウキの顔が俺の目の前にあった。

目を見てみると視線がキョロキョロと動いていて如何にもなにかしようとしていた事が分かる。

 

「お、おはよう?」

 

「・・・何しようとしてた」

 

「う・・・」

 

言えないような事をしようとしていたのか、躊躇っている。

どことなく顔が赤くなってもいるけど。

 

「ん・・・そういうことしたいなら、先に言ってほしい」

 

さすがにこの状況は何をしようとしたか分かる。

だけど何も言わずにされるのは嫌だ。

 

「えっと・・・ね。ボクは・・・・・・うぅ・・・」

 

「・・・言おうか?」

 

「だ、だめ!ボクが言う!」

 

「ん・・・」

 

俺が言おうとするとユウキは焦りながらも、深呼吸をする。

呼吸を落ち着けると俺にしっかり向き直った。

 

「ねぇ、ユキ」

 

「ん・・・?」

 

「ボク、君が・・・ユキが好き」

 

いつもは天真爛漫で元気のユウキもこういうときは不安な表情。

それでもこうして言葉にしてくれただけで嬉しい。

俺もユウキには同じ感情を持っていたから。

 

「そっか・・・うん」

 

ユウキになら、大丈夫。

俺のちゃんとした姿を見せても怯えないと信じれる。

ローブを脱いで普通の装備だけの状態になると長い黒髪がふわりと解放される。

現実通りのこの身体は俺の蒼い瞳も再現して、それがユウキを見つめる。

 

「こんな・・・僕だけど、それでも・・・良いのなら」

 

「・・・良いよ。そんなユキだから好きになったんだから」

 

「・・・す、好き・・・だよ・・・ユウキ」

 

「・・・ぅん・・・!」

 

嬉しそうにはにかんだ彼女は抱き着いて来ると俺の唇が重なった。

柔らかい感触と更に自分のでは無い舌が少しだけ舐める。

 

「ぁ・・・ん・・・ぅ・・・」

 

「はむ・・・」

 

お互いに重ねているそれは数秒が数時間のように感じれるほど早く思えて、何かが満たされるような満足感があった。

それと同時にもっと彼女に甘えていたいという気持ちも出てきてしまって、抑えていた分まで委ねることにした。

 

「ぷは・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・ん、ユキの美味しかった・・・♪」

 

「ゆうきぃ・・・」

 

俺がそう呟くとユウキの表情が変わった。

それは何かにかられるような物で、荒い吐息が抑えられていなかった。

 

「ユキ・・・ユキ・・・」

 

これが女性が持ちうる本能・・・というものなのだろうか。

抵抗する気力も無い俺はユウキに何されようが構わないが、些か暴走気味のような気もする。

 

「もう・・・良いよね・・・?」

 

それは恐らく最後までということだろう。

リアルの身体を再現しているSAOは倫理コードさえ解除してしまえば、その行為も可能だったりする。

 

「・・・ユウキの好きなようにしていいよ」

 

「あは・・・♪」

 

今の色欲に従って動いているユウキに何を言っても無駄だろうし、止めても寝ている隙にということもあるから大人しく従う方がいい。

それにユウキとなら嫌じゃないし・・・。

 

 

 

そのまま俺はされるがままユウキと過ごした。

嬉しそうにしていて寝ているときは俺を動けないように足も絡めていて、これが素のユウキなのかなと思った。

俺よりも年上ではあるけれど、幼いことには変わりなく甘えたりしたいのだろう。

俺も甘えたいのと一緒で、これほどまでに許しあった相手がいなかったのかもしれない。

《絶剣》という異名はある意味、人との関わりに距離が出来てしまう。

自分達よりも上の存在と認識してしまい、崇めたり拝む者までいるのだからこういった関係は無いだろう。

おかげで俺はユウキを独り占め出来るし、意外な一面とかも知れた。

 

「・・・ユウキ」

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「・・・ありがと」

 

幸せそうに寝ているユウキの表情は見ていて癒される。

守るものが増えても俺は構わない。

ただその優先度が変わっただけなのだから。

誰よりもそれは変わらず、ただ彼女の為に俺は居続ける。

それが俺の新たな存在意義なのだから。

 

 



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第十六話

朝起きるとユウキの手が俺の手に絡み合うように繋がれており、背中に手が回されていた。

昨日の時に分かったけどユウキはこの年にしては発育が良い方・・・なのかもしれない。

胸に押し付けられたときも柔らかい感触があって心地好かったし。

 

「んぎゅ・・・」

 

ただ、今俺が困っているとすれば起き上がれない事だろう。

ステータス的には俺のが勝っているが何故か押しのけれない。

SAO内では強くても俺の身体自体は幼い。

力比べなら確実に負けるからこそ、それを補う技術があったのだけど。

 

「ふへへ・・・ユキ~・・・」

 

寝言を呟くユウキは幸せそうな表情で俺を抱きしめている。

しかも顔がユウキの胸に押し付けられており、足も絡まっていて動けないようにされていた。

嫌ではないのだけど、お腹も空いたし何よりユウキが起きていないから少し暇だ。

こんなに幸せそうに寝られていると起こすのもあれだし、もう少し見ていたいというのもある。

だがこれからを考えると寝過ぎることは良くないが今日ぐらいは良いかと、頭を埋めてまた寝はじめた。

 

「ん・・・?ユキ・・・?」

 

だがその動作で目が覚めたようでユキが顔をあげた。

 

「お、おはよ」

 

「ん~おはよ~・・・」

 

ここSAOでは男女の行為をしても子が出来るわけではないが、その欲は満たされる。

ユウキの場合は今まで抑えていた物がなくなって我慢していたからあれほどだった。

それを覚えているのだろうユウキはユキの顔を見て段々と顔が赤くなっていく。

 

「え、えと・・・」

 

「ん・・・?」

 

「ご、ごめん・・・よ?・・・昨日・・・は」

 

「ん・・・大丈夫」

 

「うう・・・」

 

「それよりも、ご飯食べたい」

 

ユウキにとっては大きな出来事でもあり、抑えきれなかった自分の落ち度なのだが、そんなことは気にしていない風にユキは空腹を訴える。

その表情は幼いユキに合っており、前髪に隠れているが蒼い瞳がユウキを見つめる。

 

「・・・うん。分かった」

 

対称的に赤い瞳のユウキはその綺麗なユキの瞳に魅入られていた。

冷酷さを引き立たせるような蒼色だが、それが自分の前ではそれがない。

それどころか美しさすら覚えるそれがとても好きでユキの美しさを引き立たせてもいる。

 

「・・・綺麗だね、ユキは」

 

「ん・・・別に。ユウキのが綺麗」

 

普通ならばこういうことは恥ずかしげに言うのだろうがユキにはそんなものはなく、素直に言うためにユウキはまた顔を赤くする。

 

「うう・・・」

 

「ふふん・・・♪」

 

ユウキを辱めれて少し満足したのか、ユキが上機嫌になっていた。

 

「性格悪いなあ・・・ユキは」

 

「・・・楽しいもん」

 

元々ユキはSっ気があり、信用しているユウキの前でのみ出てくる。

当然ながらそんなことを知らないユウキは新しい一面も知って浮かれていたりもする。

 

「む~・・・それで今日はどうしよっか?」

 

「ん・・・ユウキの好きなように」

 

元々ユキは単独プレイヤーであり、誰かと一緒にいることのが珍しいぐらいだったので何をするにしてもどうすれば良いのかが分からない。

 

「ん~じゃあ、とりあえずアスナの所でもいいかな?」

 

「っ・・・なんで」

 

ユキが単独を貫いていたのは人と関わる事が嫌いだったからだ。

ユウキ以外の人は一部を除き信頼も信用もしていない。

過去に同じ人に利用され実験体にされていた為に警戒心も強い。

アスナに対しても信用まではしていないのだ。

 

「ボク自身がアスナとは親しいからね。それにユキの事も心配してたから安心させるため・・・ってのもあるかな?」

 

「ん・・・」

 

「それにね・・・アスナには言いたいんだ、ボクとユキが付き合ったことを」

 

「・・・SAO内で交際していることを証明する方法は?」

 

「う・・・」

 

SAO内では交際していてもそれを第三者に証明する物がなければ何かしらアプローチがかかる。

ユウキとしてはユキ以外に有り得ないが、人嫌いのユキがそれで安心するかといえば不明だ。

 

「・・・ユウキはさ、現実世界に戻ったらどうする?」

 

「・・・戻ったら・・・かぁ・・・」

 

ユキ達が過ごすこのSAOは0と1で作られたデータの世界。

結局は現実世界に戻ることになり、SAO内での関係がどうなるかも個人次第だ。

 

「うーん・・・リハビリして君に会いに行くかな?一人にしてたら不安だからね」

 

「・・・そう」

 

「それにボクはこの世界だけの関係は嫌なんだ。ユキとは現実世界に帰っても・・・その、付き合いたいよ・・・」

 

「ん・・・」

 

 

「・・・なら、これ・・・」

 

恥ずかしそうにユキがユウキの目の前で出したのは小さな箱。

中身の検討がつかないユウキはそれを受け取って開けてみると、中には紫色の指輪と蒼色の指輪の二つがあった。

 

「ユキ・・・?」

 

「ぅ・・・」

 

今までにないほどユキの顔が赤くなっていることに気づくと漸くこの指輪の意味を理解する。

それはユキが自らの《鍛治》スキルで作った指輪で輪の裏側には名前が彫られていた。

 

「い、いいの?」

 

「約束・・・現実世界でも一緒って」

 

ユキもユウキと同じくこの関係をSAOで終わらせたくなかったのだろう。

だからこそこの指輪をユウキに見せたのだから。

 

「・・・うん」

 

箱に入っている蒼色の宝石がついている指輪を手に取るとユキの左手の薬指に嵌めた。

 

「よし、次はユキの番ね」

 

箱から紫色の宝石がついている指輪をユキに渡すと自身の左手を差し出す。

同じように薬指に嵌められると、ユキが画面を表示させる。

それは、結婚の有無の画面でSAO内で結婚が出来るということだった。

 

「ユキ」

 

「ん・・・?」

 

「大好きだよ」

 

「・・・僕も大好き」

 

この瞬間、ユキとユウキはSAO内で結婚したという事であり象徴としてお互いの左手の薬指には指輪がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAOの結婚は、《アイテムストレージの共有化》《配偶者のステータス》《常時追跡》など色々あり、大きくしているのはステータス共有化。

結婚を交わしたユキとユウキのアイテムストレージは全て共有され、お互いに取り出しが出来る。

隠しているものまで看破されるために《SAOの結婚》は重みがある。

 

「やっほー、アスナ」

 

ユウキは一番の親友に伝えるべくアスナの所へと向かった。

ユキの姿は隠されておらず、幼い見た目でありながらユウキと歩いている為に注目を集めていた。

 

「ユウキじゃない。それにユキ・・・君だよね?」

 

「ん・・・」

 

「とりあえず私の家に行きましょ。すぐ近くだから」

 

見た目は女の子のユキは一緒に歩くユウキといるために姉妹のように見える。

だが人々はユウキの薬指についている指輪を見逃さなかった。

 

「お、おい《絶剣》って結婚したのか・・・?」

 

「指輪あるよな・・・誰となんだ」

 

誰なのか分からなかった男共にユウキを独占したユキは少し嬉しそうにする。

 

「どうしたの?」

 

「ん・・・なんでも」

 

「そう?嬉しそうだけど」

 

「だってユウキ独り占め」

 

今は幼いユウキだが、成長すればと考えるプレイヤーは多く、交際を何度も申し込まれている。

当然ながら全て断っており、ユキ以外は興味を持っていない。

そんなユキが自身を好いてくれる事とこうして一緒にいれることがユウキにとって嬉しく、夢にまで見ていた一つだ。

 

「着いたよ、二人とも入ってたらゆっくりしてね」

 

「ん・・・」

 

「はーい」

 

ユウキが座るとその膝の上に座るようにユキが乗った。

 

「そうだ、アスナ」

 

「どうしたの?」

 

「ボクね、ユキと結婚したんだ」

 

「・・・え?」

 

「結婚。ユキと」

 

「・・・えええええええええええ!?」

 

いきなり告げられた事に衝撃を隠せなかった。

ユウキとユキの薬指には指輪が嵌められており、ユキがこれほどまでにユウキに心を許している感じで真実だと分かる。

 

「んにゅ」

 

「ユキ君がこんなに懐いてるのなら・・・本当なんだね」

 

「あはは・・・」

 

「仕切直して・・・あのあとどうなったの?」

 

「えっとね・・・」

 

ユウキがあの後どうなったかを分かりやすく、細かく話す。

その間にユキはお人形のようにユウキの上で座っており、少しすれば寝てしまっていた。

 

「それにしても、ユウキがねぇ・・・」

 

「えへへ・・・」

 

「私もね居るのよ。気になる人」

 

「そうなの?」

 

「いわないでね?・・・その、キリト君なの」

 

「アスナが気になるなら良いと思うよ?」

 

「最近良く一緒になるのだけど・・・七十四層の攻略がね・・・」

 

「んー・・・お邪魔にならなかったらボクとユキも行こうか?ユキが嫌がったら無理だけど・・・」

 

「本当?でもユキ君ってどうやって攻略してるの?」

 

「・・・ユキが先頭に立つとね、やることないかな」

 

以前に一緒にペアで攻略したユウキはユキの出鱈目さを知っており、方法もしっている。

危なさがあるものの、致命的な物を受けていないためにユウキも何も言えない。

 

「とりあえずもうしばらくは大丈夫。ユウキももっといろんなことしたいでしょ?」

 

「・・・うん。SAOでも出来るんだっていうことが分かったし・・・」

 

「・・・?どういうこと?」

 

「その・・・あれだよ。その・・・行為?」

 

「・・・」

 

「ユキがやったんじゃないよ!?ボクが我慢できなくて・・・」

 

アスナもそこは分かっており、ユウキがやらかしたのだろうと察していた。

だが未成年で幼い二人がそれを経験するのは少しまずいのではと思っている。

 

「ん・・・ゅ・・・き・・・」

 

「可愛いね」

 

「うん・・・って、あげないよ!」

 

「そんなことしたらユキ君に嫌われるわよ」

 

「でも・・・ユキってあれなのかな」

 

「あれって?」

 

「その・・・女たらし?」

 

「・・・聞かれてたら泣かれてそうね」

 

「だってこんな容姿だけど、引き付けられるというか・・・魅入られるっていうか・・・」

 

「私もね。今はユウキがいるから安心してるけど、それまでは心配で仕方なかったもの。弟みたいでね」

 

「む~、アスナでもユキはあげないからね!」

 

「だから盗りません。弟みたいには思えるけどね」

 

ユウキに必死に抱き着いて寝ているユキの姿は甘えている弟のような感じなのだろう。

だが、二人の薬指についている指輪がそういう関係だという証明。

 

「羨ましいなぁ・・・」

 

恋する少女のアスナは二人の幸せそうな雰囲気が妬ましくは思えず、自分もこうなれるのかと思想するのだった。

 

 



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第十七話

 

「なあ、《絶剣》さん。一緒にパーティー組まない?」

 

「い、いや・・・ボクは待ってる人居るからさ」

 

今ボクはナンパをされています。

 

 

どうしてこうなったかといえば、一度ボクとユキが別行動をして後でまた集まろうと今待って居るのだけど・・・。

少し待っていると見知らぬ男性からパーティーのお誘いが来て断っている、これを何回か。

 

「良いだろ?待っている人にも後で誘えば」

 

「そういうわけには・・・」

 

「ったくよぉ、異名持ちは偉そうに」

 

「ぅ・・・」

 

SAO内では先頭に座すけれど、ボクだってまだまだ幼いと思ってる。

こういう勧誘は何度もあったけど自分と大人では体格差がありすぎてその膂力は未だに怖い。

それを表にはださないけど、いつも怖くて誰も居ないとこで泣いていることもあったから。

 

「・・・ユウキ」

 

「ぁ・・・」

 

今も怖くて早く来てほしいと思っていると、幼い風貌で長い黒髪にボクを見つめる蒼い瞳の男の子。

それがボクが一目惚れして、告白しあって結婚も交わしたユキ。

 

「ん・・・誰」

 

「す、すみません。待ってる人が来たので」

 

「あぁん?てめぇ、俺が誘ってんだ。餓鬼だからって調子乗るなよ」

 

「・・・そっちこそ先約なんだけど。先駆け止めてくれる」

 

「あぁ?」

 

どうしようかと思っているとユキがボクの前に出て男性を威圧する。

ボクよりも小さい身体なのに、誰よりも強くあろうとしたこの子。

幼くても男の子なんだなあ、と思うし守ろうとしてくれるそれが堪らなく嬉しい。

 

「餓鬼が揃って粋がんじゃねぇよ!決闘だ!決闘で勝ったら諦めてやる!俺が勝ったらてめぇのアイテム全て寄越せよ!」

 

『なっ・・・!?』

 

それはある意味プレイヤーの全てを奪うことであり、ユキの身につけているものには指輪もある。

周りで物見遊山のプレイヤーはその発言に驚きを隠せず、ユキを心配する声が多かった。

 

「どうだ!怖じけづいたならとっと失せろ!」

 

「チッ・・・ユウキ。少し離れてて」

 

「で、でも」

 

決闘を受けるのだろうユキは被害が無いように離れるように言ったんだと思う。

でもボクは心配だし、怪我をしてほしくない。

だけどそれはすぐに掻き消された。

 

「だぃ・・・じょうぶ」

 

ボクの耳元で小さく囁かれたその声は聞けば誰もが魅力されるような麻薬みたいに聞こえた。

いつからこんなにユキに対して弱くなっちゃったんだろうと思う。

今までならただ強いという理由で惚れていただけなのにどうしてだろう。

不思議とユキには惹かれる物があって、それが堪らなく愛おしい。

 

「ぁ・・・うんっ」

 

ボクが信じた男の子。

ユキがすぐに負ける訳も無いし、攻略組よりも強いんだから何を不安に思っていたのだろう。

ボクが信じてあげなきゃ、誰がユキを信じるのだろうか。

 

「それじゃぁ・・・行くぜぇ?」

 

「・・・お好きに」

 

決闘のカウントが0になった瞬間。

勝負が一瞬でついた。

《初撃決着モード》の敗北条件を満たしていながら、更に追撃をかける徹底。

ユキの武器・・・霊想刀が男性のHPをレッドゾーンに追い込みながらも武器を破壊した。

 

「・・・終わり。まだやるつもり」

 

「ぐっ・・・お、おぼえてろよ!」

 

霊想刀を納めたユキはすぐにボクの元に来ると少し地面から飛んで抱き着く。

見た目が女の子だから、ぱっと見は姉妹に見えるし大丈夫なんだけど・・・。

 

「す、すげえ・・・」

 

「見たか?剣が全く見えなかったぞ」

 

「《絶剣》の妹なのか!?」

 

「まさか・・・でも有り得るぞ、姉妹に見える」

 

 

 

「ボクとユキ、噂されてるね」

 

「ん・・・♪」

 

ボクに甘えるように頭を擦り付けて来るユキに少し顔が緩んでた気がするけれどここは人の目がある。

人嫌いのユキには少しきついところだから、とりあえず宿屋に入ろう。

 

「ありがとう、ボクのために」

 

「別に」

 

「嬉しかったよ」

 

「・・・うん」

 

こうして一緒に居ればユキの事も段々と分かって来る。

人からの好意・・・ボクのかな?

素直に言えばこうして頷いてくれる。

不器用なだけなのかもしれない。

 

「ん・・・ユウキ」

 

「どうしたの?」

 

「・・・本当に、ずっと・・・居てくれる・・・よね・・・?」

 

どうしてそんなことを今更聞いたのだろう。

ボク自身はユキ以外には好きだと思う気持ちが無い。

それでも聞いてくるのはどうしてだろう。

それが気になってボクは聞いた。

 

「なんか・・・あったの?」

 

「・・・何も」

 

「・・・本当?」

 

「・・・ユウキの所に行く途中ね。親子が居た」

 

「ユキには・・・居ないの?」

 

それを聞くとユキは静かに頷いた。

今思えば・・・ボクとユキは似ているのかもしれない。

 

「小学3年の時に捨てられた。義理の姉と妹も居たけど両親と一緒に消えた」

 

「っ・・・親戚・・・とかは?」

 

「俺は・・・孤児だから。親族なんていない」

 

「そっか・・・」

 

「ユウキは・・・いるの?」

 

「ん・・・姉ちゃんが一人。お父さんはボク達を捨ててどっかに行って、お母さんは病気で亡くなったよ・・・」

 

「・・・病気?」

 

ユキの質問はボクや姉ちゃん、お母さんにも関係する物だった。

もしかしたらこの病気のせいで嫌われるかもしれない、学校の時みたいになるかもしれない。

それでもボクはユキを信じたかった。

 

「・・・AIDSって、分かるかな」

 

「AIDS・・・後天性免疫不全症候群。今は特効薬があるから治るね」

 

「ボク達はそれに罹ってたんだ。お父さんはそれを恐れて逃げ出したんだけどね」

 

「・・・何故今頃になって出たんだろうな」

 

確かにそれは思った。

あんなに安価で大量生産できるというそれは既に出ていても良いかと思ってたから。

でもそれが出なくて不治だったのに。

 

「漸く、確信した。なんでユウキには警戒心が薄いのか」

 

「・・・どういうこと?」

 

「紺野木綿季。それがリアルの名前・・・」

 

「っ・・・!」

 

紺野木綿季、それはボクの現実世界の名前だ。

SAOのユウキもただカタカナにしただけでそのまんま。

でもなんで名前を知っているのだろうと思った。

 

「そっか。ちゃんと助かったんだ」

 

「・・・ユキ?」

 

「ちゃんと・・・話すよ。木綿季には知っておいて欲しい」

 

「・・・うん」

 

「とりあえず・・・俺の名前は、村雨優紀。覚えてる・・・かな?」

 

その名前はボクにとってとても大切な物。

唯一ボクに対して偏見を持たず、平等に接してくれた男の子。

あの時はあまり容姿を気にしなかったけれど、今思えばある程度特徴はあったんだ。

 

「うん・・・うん・・・」

 

「・・・遅くなって、ごめん」

 

小学生の何年だったか、優紀はボクを助けてくれると言ってくれた。

それを信じてずっと待ってたけど、一向に来なくて。

それでも諦め切れなくて、待ってた。

でももう・・・良いんだね。

ユキがそうだったんだから。

 

「遅いよ・・・馬鹿っ・・・」

 

「・・・うん」

 

たくさん待った。

優紀がいつ来るのかなって。

元気になったボクの姿を見てほしかったし、一緒にまた学校に行きたかった。

SAOだって姉ちゃんが当てた物をくれたからやっただけで、優紀を待ってるつもりだったのに。

「迎えに来たよ。木綿季」

 

「うん。ずっと、ずっと待ってたよ。ゆう」

 

もう会えないと思ってたからこそボクは涙が抑えれない。

今までボクが一目惚れした人こそが好きだった人で。

どんな偶然なんだろうと思ってても、今こうして真実が分かった。

 

 

優紀の事、その過去と育った場所や家族の事。

一つ一つがボクにとっては壮絶で、想像が出来なかった。

それでもボクは優紀を愛すると決めたから。

絶対にボクだけでも優紀からは離れないと誓ったから。

そう思っていると優紀がボクの隣に座ってマジマジと見つめて来る。

優紀の蒼い瞳はなにもかもを吸い込みそうで、ボクまでその綺麗さと美しさで見惚れてしまう。

 

「んっ・・・」

 

「・・・ぁ」

 

すると優紀がボクの唇を重ねた。

小さな舌が出てきて少しずつ舐めるように。

ボクも優紀のと絡めるようにした。

 

「んぁ・・・むぐ・・・」

 

「あむ・・・れろ・・・」

 

こんなに積極的にしてこなかったからだけど、優紀は隠れSだ。

ボクに対してだけのみ出してくれるそれは執拗にしてきて、段々とボクの思考が纏まらなくなる。

もっと優紀と重ね合いたいという思考だけが頭の中を埋め尽くす。

前のように色欲に飲まれると優紀は抵抗もせずただボクに好きなようにされるだけ。

そんなの嫌だ。

 

「ぷはっ・・・」

 

「頭が・・・ふわふわ・・・すりゅ・・・」

 

「・・・ん、これだけ。続きはお預け」

 

「・・・ぇ・・・?」

 

恐らく今のボクは凄くだらしない顔になっているんだと思う。

優紀からはどうやって弄ろうかといった雰囲気が出ていて、お預けと言われた瞬間ボクはしてほしいと考えてしまった。

 

「ん・・・ふふ。したいんだ・・・?」

 

「・・・ぅん」

 

「どう・・・しようかな♪」

 

「・・・して、ください」

 

「何を?」

 

「うう・・・」

 

「もっと・・・してください・・・」

 

本当に優紀はどこまで堕としてくるんだろうか。

それでも嫌とは思えず、逆にもっとしたいという欲望だけが強くなる。

今思えばあの時の優紀も同じだったのかな。

 

「ん・・・良いよ」

 

よく男性は女性に尻に敷かれるって言われるけど・・・ボクと優紀は逆でボクが敷かれるというか怒られているかもしれない。

今までの会話を考えると優紀は主導権を握るのが得意だと思う。

まさか営みもそうだとは思わなかったけれどね。

 

「・・・優しく、するね」

 

それでも優紀は相手を気遣ってくれる。

嫌悪を抱く相手には容赦が無いけど、裏を返せばとても純粋なんだ。

ボクが不安そうにしていれば何かしらしてくれるから、それに甘えることしか出来ない。

だけど支えてくれる人が居るだけで凄く強くなれる子だから。

 

 

 

「木綿季」

 

「はぁ・・・はぁ・・・何・・・?」

 

「大好き」

 

「ボクも・・・優紀の事大好きだよ・・・!」

 

絶対に優紀の事は守る。

守られていても精神面でも良いから支えて守りたい。

じゃないとすぐに脆いそれが壊れちゃうから。

 

「ぎゅむ」

 

「えへへ・・・」

 

そのまま寝る前に抱きしめた優紀の身体は暖かくて安心できるもの。

ボクが欲しかった温もりで、絶対に離さないと誓う。

 

だって君のことが好きで仕方ない、独占欲が強い女の子だから。

 

 




どうでしたでしょうか?
甘い二人の関係なのですが、書いていてブラックが欲しかったです。

それで今後なのですが、一次創作(オリジナル作品)を書いてみたいなと考え始めました。
まぁ色々と手をつけて完結させてないくせに何をいうかと感じですが、やる気の問題です、あればすぐに書けますから(最低作者)
そのうち投稿すると思うので、良ければそちらも読んでいただければ・・・と思います。


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第十八話

 

「・・・ユキ?」

 

ユウキが目を覚ますとベッドには自身の夫となったユキがおらず、一人になっていた。

 

「ど・・・こ・・・?」

 

見渡すもユキの姿が見えず、ユウキは不安と孤独が頭の中を埋め尽くす。

 

「ん~・・・」

 

「ユキ・・・?」

 

「ん、おはよう」

 

ひょっこりと別室から出てきたのは長い黒髪を一つに纏めて括っているユキ。

白いタオルで更に軽く纏めあげており、その頬は朱く染まっていた。

 

「ユキぃ~!」

 

「わっ・・・ど、どした・・・の?」

 

「だってぇ・・・起きたらいないんだもん・・・」

 

「ん・・・お風呂入りたかった」

 

「ホントだ・・・良い匂い」

 

ユキが先程まで居たのは洗面所で、そこから浴室へと入れる。

まだ乾かしていないからかユキの髪の毛はしっとりと濡れており、シャンプーの匂いがしている。

 

「ボクも入ろうかな・・・」

 

「ん、待ってるよ」

 

「じゃ、じゃあ入ってくるね!」

 

寝汗などでぐっしょりしているユウキはすぐさまお風呂へと向かう。

その間にユキはストレージで何か無いかを探すことにした。

 

「ゴミだらけ・・・」

 

見た目が女の子のユキはそれに惹かれてか、綺麗好きにもなっていた。

それはSAOでも同じでストレージ内部の使わないものは廃棄していることが多い。

売れるものは売ろうと決めているため置いているのだがそれでもストレージの空きは確保していて損はない。

 

「ん・・・?これ」

 

そうして整理も兼ねて漁っていると、一つのアイテムに目を付けた。

それは『ハイウェーグの胸肉』というもので、言わば鳥系の食材肉だった。

また、部位の食材となるとレア食材で料理プレイヤーからすれば高い価値がある。

 

「・・・どうしようかな」

 

出現率が高いハイウェーグだが、食材アイテムは二つ。

討伐数は既に数千を超えているだろうと考えてかなりのレア食材と考えられる。

 

「はふ~・・・良いお風呂だったぁ~」

 

「ん・・・」

 

洗面所から出てくるのはタオル一枚を巻いて出てきたユウキ。

ユキと同じように髪の毛を纏めあげていた。

 

「髪の毛、乾かさないの?」

 

「ユキも乾かしてないでしょ?」

 

「ん・・・駄目。乾かすからそこ座って」

 

ユウキがベッドに座るとユキが後ろで櫛とドライヤーを持って乾かし始める。

ユキの黒色とは違い、紫色が入った黒髪だからか色の深みが違って乾かしながらその髪を羨ましく思うユキだった。

 

「~♪」

 

「どうか・・・した?」

 

「ううん、慣れてるの?」

 

「ん・・・自分の髪も長いし・・・」

 

「・・・そっか。終わったらユキのもするね」

 

「ぇ・・・う、うん」

 

ユウキがやると言うと何故かユキが照れた様に顔を伏せる。

それは今までずっと一人で乾かしていたために、誰にもそれをしてもらったことがない。

ユキにとって自身の長い黒髪は恥ずかしい物ではなく、ユウキも褒めてくれたからか自慢出来る物になっていた。

それを自分以外、それもユウキにしてもらうというのは嬉しい物があるのだ。

 

「ん・・・もういいかな」

 

「ありがとう!じゃ、次はユキだよ」

 

「・・・ぅ~」

 

「熱かったら言ってね?」

 

「ん・・・」

 

ユウキはユキの半乾きになっている髪を一度梳きなおしてからドライヤーで乾かしはじめる。

自分の髪と同じぐらい長く、指を通せば梳き通るそれは嫉妬を通り越して羨みの気持ちが出る。

 

「綺麗だね・・・ユキの髪は」

 

「ん・・・」

 

「サラサラだし、ボクの髪とは違って綺麗な黒色だし」

 

「嫉妬・・・した?」

 

「・・・少しね。でもボクの旦那さんは綺麗で可愛いからね!全然気にしないよ」

 

「綺麗・・・可愛い・・・」

 

「ボクからしたらね。でも格好良いよ?守ってくれる時の表情とか、その・・・ベッドでしてるときとか。男の子なんだなあって思うもん」

 

「ん・・・」

 

そうしてドライヤーを止めて念入りに櫛で梳いていく。

髪の塊を作らないようにゆっくりと優しくするユウキにされるがまま梳かれているユキは姉妹のようだった。

 

「よしっ、出来たよ」

 

「ん・・・ありがと」

 

「それとね~、鏡見てみて」

 

「・・・?」

 

どこか楽しそうな感じになっているユウキに言われてユキはストレージから手鏡を取り出す。

するとユキの長い黒髪は蒼いリボンで後ろに括られているが、全てではなくある程度だけだった。

 

「ん・・・これ」

 

「どうかな?ユキって目を見せたくない見たいだからある程度残して括ってみたんだけど・・・」

 

「大丈夫。ありがと」

 

返答はいつも通り素っ気ないが、心なしか嬉しそうであり、鏡でいろんな角度から付けられたリボンを見ている。

 

「ん、そうだ」

 

「どうしたの?」

 

「お返し。座って」

 

ユキが早く早くと言うためユウキはまた座ると自分の髪の毛が弄られることがわかる。

 

「こうして・・・よしっ」

 

「もういいー?」

 

「うん!はい、鏡」

 

ユキに手渡されて自分を写し出す鏡を見るとユウキの赤いカチューシャの近くには少しだけ髪を括った細いリボンが付けられていた。

黒紺髪に合う赤色で、ユウキの天真爛漫なイメージと大人っぽい感じが加わった。

 

「綺麗だよ、ユウキ」

 

「えへへ・・・有り難う」

 

「ん・・・よし、外行こう?一緒に歩きたい」

 

「うん!しっかり守ってね?ボクの旦那さん」

 

「ん・・・」

 

そういってユウキは手を差し出すとユキに捕まえられて宿屋の部屋を出る。

二人仲良く歩く姿は周りのプレイヤーからすれば驚愕物だろう。

 

 

あえてユウキは左手を誰かに見せ付けるようにしており、その薬指は指輪があるのだから。

 

今までユウキを狙おうとしていた男プレイヤーは驚愕とその本人を娶った相手に対して嫉妬などを思う。

 

「ユキ、どこいこっか」

 

「ん・・・じゃぁ・・・」

 

ユキは自分でも変わったなと思いながら、ユウキに考えていた事を話した。

最初こそユウキも少し驚いていたが、それを想像して楽しく思えるのか喜んで承った。

それは一体何なのかは、二人だけが知る物なのだから。

 

 

 



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第十九話

二人仲良く歩いていると、ユキが途中で足を止める。

急に止まった事にユウキは不思議がった。

 

「どうしたの?」

 

「ん・・・買いたいのあるから。後お願いしていい・・・?」

 

「んー・・・良いよ」

 

「ありがと・・・終わったら呼ぶから、来てね」

 

そういうとユキは先に転移門へと向かった。

その間にユウキはフレンドからある人物にメッセージを送る。

 

「場所は・・・どこが良いかな」

 

どこに呼ぼうか、考えているユウキは気づけなかった。

転移門へと向かって行ったユキを追うようにローブのプレイヤーが付けていた事に。

 

 

 

 

 

ユキが向かったのは緑が生い茂る綺麗な所だった。

そのうち、そこそこ大きめの空き家の前に立つとそれを購入すべく手続きを済ます。

手続きといっても、コルを支払うだけだが金額が金額なために確認回数が3回もあったが。

それを終えるといきなり霊想刀を抜き払ってぶらんとした。

 

「・・・誰」

 

ユキはユウキを別れる前に自分をつけているプレイヤーに気づいていた。

システム的な察知ではなく、現実世界でも有効なそれはSAOでも活躍していた。

 

「・・・隠れてるの、分かってる」

 

隠れている事がばれていると分かったからか、木の影からは一人のプレイヤーが現れる。

そして被っていたフードを取り払うとそれはユキを動揺させた。

 

「な・・・」

 

「久しぶりね?優紀」

 

ユキのリアルネームで呼ぶその人物はかつての優紀の身内。

 

「・・・今更何のよう」

 

「・・・今更・・・か」

 

求めていた反応をされず、そのプレイヤーは落胆を見せた。

それに反してユキは強い警戒心と嫌悪すら抱く。

それほどまでの反応をさせた人物は優紀の義理の姉である《絢音》だった。

 

「・・・あの時は置いていってごめんなさい」

 

「・・・そう」

 

「置いて行きたくなかったけれどお父さんが無理矢理・・・」

 

「もういい」

 

「・・・お父さんはお母さんと離婚して、今はお母さんと夜々と私の三人暮らしになったわ。だから・・・その、戻ってきて欲しいの」

 

絢音としては優紀を見捨てはしなかった。

その場の状況が状況なだけに出来ず仕方なくというもので。

だがそれを証明出来る物ではなく優紀は強い人間不信を持っており、義理の姉妹にも両親にも同じだった。

それどころか今の優紀には自身を支えて必要としてくれる少女がいる。

 

「・・・嫌」

 

「・・・そっか」

 

優紀は明確な拒絶をすると落胆する絢音の姿があった。

今までならば気にしたのだろうが、優紀は変わった。

それは大きく変えて大切な存在を見つけるに至るまで変わったのだ。

 

「・・・ねえ優紀」

 

「・・・なに」

 

「また、来てもいいかしら」

 

「・・・止めて」

 

これ以上話せばズルズルと同じ結果だろうと思い、ユキはその場を去った。

後でまた戻るつもりだったが、ユウキ達と会わせたくないのが本心だったのだ。

 

「・・・ごめんなさい」

 

もう二度とあの頃の日常を取り戻せないと理解した絢音はただひたすらに優紀に謝ることしか考えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ユウキが呼ぼうとした人物は五十層のとある商人プレイヤー店にいるらしく、ユウキは転移門で五十層の主街区へと向かった。

SAOの全百層のうち、ハーフポイントとなる五十層には様々な個人経営の店が多く立ち並ぶ。

その中の店のうち、ひっそりとした商人店へと入った。

 

「らっしゃい」

 

「やっほー、エギルさん」

 

「ユウキじゃないか。今日はどうしたんだ?」

 

「アスナとキリトとの待ち合わせでね。二人は居る?」

 

「あぁ、二階の物置部屋に居るだろうよ」

 

ユウキが入ったのは日焼けしたガタイの良い男性プレイヤーの店。

その名は《エギル》といい、下層・中層プレイヤーの支援者でありながら商人としての売買に加え、優秀な《両手斧》プレイヤーでもある。

 

二人の所在を教えてもらったユウキは礼を言うと二階の物置に行った。

ノックして入ると会おうとしていた二人を見つける。

 

「来たよ、キリト、アスナ」

 

「ユウキ!?今まで何してたの!?」

 

「あ、あはは・・・色々あってさ」

 

「心配したんだからね!?」

 

ほぼ毎日のように二人はメッセージでやり取りをしていたため、急に音沙汰が無くなった事にアスナは心配をしていた。

しかしまた急にユウキからメッセージが来たからこうしてギルドをすっぽかして来ている。

 

「ごめんよ、絶対にやり遂げないと駄目なことがあったんだ」

 

「もう・・・」

 

「えへへ。それで二人は今日暇かな?」

 

「暇も何も・・・今日は私の家でキリト君とご飯食べる予定だったの」

 

「・・・へぇ?」

 

「ゆ、ユウキ?ど、どうしたんだ」

 

「・・・別に?」

 

ユウキの謎の威圧にキリトが冷や汗を掻くもユウキは二人を呼んだ理由を説明した。

 

「二人とも、ユキって分かる?」

 

「ええ、ユキ君でしょ?」

 

「俺も分かる。色々と世話になったからな」

 

「ユキがね・・・」

 

ユウキがいざ説明しようとするとメッセージ音がユウキに聞こえた。

それを確認するとユキからのもので、準備が出来たとのことだった。

 

「準備出来たみたいだから、説明するより見る方が早いかな?」

 

「どういうことだ?」

 

「とりあえず着いて来てくれると嬉しいかな」

 

それ以上は何も言わず、ユウキは二人を連れていった。

ユキが指定したのは二十二層でSAO内では一切のモンスターが出現しないことで有名でもあった。

 

「なあユウキ。二十二層にきてまで何をするんだ?」

 

「まぁまぁ、とりあえず来てよ。説明はそのあとちゃんとするから」

 

「それは良いんだけど・・・こんなところあったのね」

 

二十二層はその特徴故にあまり踏破もされない。

ユウキはユキからマッピングデータを貰っており、指定場所も分かっている。

 

「着いたよ」

 

ユウキが言うと三人の目の前にはそこそこ大きめの家が建っていた。

中からはローブを取り払ってユウキに結んでもらったリボンを身につけているユキが縁側で寛いでいる。

 

「ユキー!連れて来たよー」

 

「ん・・・お疲れ」

 

「ユキ・・・君?」

 

「ん・・・キリトも、アスナもお久しぶり?」

 

キリトとアスナは行方不明から探すことも出来なかったユキの姿を見て驚いていた。

 

「ユキ・・・お前」

 

「ん・・・」

 

「この家・・・ユキ君の?」

 

「ん、そう。ユウキもね」

 

「ユウキも・・・?」

 

「二人なら大丈夫かな。ボクとユキで結婚したんだ」

 

ユウキがそう言うと自身の左手の薬指を二人に見せた。

 

「アスナは知ってるよ?連絡はただ単にユキが落ち着ける時間を作って上げるために一緒に居たから出来なかったんだ」

 

「・・・なあ、アスナ」

 

「き、キリト君?」

 

「ユキが今じゃ攻略組でもかなりの重要人物になっているんだ。俺だって情報屋を使って探したからな。心配はしてたんだ、せめて教えては欲しかったよ」

 

「ごめんなさい・・・」

 

「ん・・・」

 

ユウキが教えたのはアスナだけであり、キリトには教えていなかった。

無論心配していたことを知っていたため、教えなかった事をユウキは少し悔やんだ。

 

「全く・・・それで何のために呼んだんだ?」

 

「ん・・・レア食材あるから、皆でって」

 

「・・・アスナ、ちょうど良いんじゃないか」

 

「そうね。ユキ君、ユウキ。実はねキリト君がある食材取ってきてね。それを今日私が調理しようと思ってたのだけど・・・」

 

「ユキ、折り入って頼みがある」

 

「ん・・・なに?」

 

「S級食材を扱ってくれないか」

 

ユキはその意味を理解すべくキリトに聞いた。

なんでもキリトがたまたま遭遇した『ラグー・ラビット』を討伐し、その肉を手に入れたらしい。

『ラグー・ラビットの肉』というのはSAO内でS級という最高級食材の一つで、それを扱えるプレイヤーも少なかった。

 

「S級なら・・・扱えるけど」

 

「・・・ねぇユキ。なんでボクを見てるの?」

 

「・・・沢山食べる人居るから。メニューはこっちで決める」

 

「・・・なるほど、言いたいことは察した。アスナもそれでいいか?」

 

「ええ。ユウキはあまり迷惑かけすぎないようにね?」

 

「アスナも!?ちょっとユキ、どういうことなのさー!」

 

意味深な事を言われたユウキはそれを理解できず、発端のユキを問い質そうとした。

当然ユキは黙秘して、最終的にはユキが無視し始めてユウキが謝り倒すという不思議な光景があった。

だがユウキはその時に気づいた。

いつもよりもユキが暗く不安げな表情を出していたことに。

 

 



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第二十話

S級食材やA級食材などはユキが調理することになり、ユウキ達3人はテーブルで待たせることになった。

これはユキが料理をしたいというのと、今までの迷惑をかけたという意味でもあったからだ。

本来の料理人のアスナは楽が出来て、ユウキから何があったのか事細かに聞こうとしていた。

 

「・・・何、作ろうかな」

 

そんな恋ばな雑談を繰り広げているテーブル席を余所にユキは何を作ろうか考えていた。

『ラグー・ラビットの肉』は《料理》スキルを完全習得していれば扱える食材で、それほどまでの熟練を要するだけにあって基本的になんでも美味しくできる。

 

「ラグーって煮込む・・・だからシチュー?」

 

ラグーはフランス語で煮込み料理なので、そこから連想をした。

他にも食材があるため、何を作ろうかを考えているだけでユキは楽しかったりしていた。

 

「んしょ・・・」

 

台所はユキの背では届かないため、踏み台を使っての調理。

時々気になったユウキ達がその姿を見て微笑ましそうに見ており、ユキは早く背が伸びないかと思っていたり。

 

「よしっ、一つ出来た」

 

ユキの手際はとても効率的であり、慣れた者でもそれは見るものがあるだろう。

《料理》を完全習得すると調理法が一つ増える。

それが《略式調理》と《複雑調理》で、初期から使えるのは《略式調理》だけ。

《複雑調理》は完全習得して解放されるが、それを知るものは少ない。

複雑といっても現実世界と同じ方法で作るだけなのだが、味の付き方が違う。

略式は時間がかからない代わりに味が雑になるといえば分かりやすいだろうか。

 

「ん・・・これで良いかな」

 

ユキが終えると具沢山のシチューが出来上がった。

主に時間がかかっていたのは味を漬け込む所で、それ以外はあまりかかっていなかったりする。

 

「よいしょ・・・」

 

出来上がったシチューの鍋ごとを持つとユウキ達のテーブルの真ん中に置く。

このあたりはSAOの筋力補正で持ち上げれるが、見た目的にユキの幼さからキリトとアスナが持って行くのを手伝おうとしていたり。

 

「それじゃ」

 

「いただきーす!」

 

「「いただきます」

 

「ん・・・いただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナとキリトとユウキを合わせての食事会は何事もなく終わりを告げた。

S級食材を最大限に引き出したユキは同じ《料理》スキル完全習得済みのアスナよりも美味しく作れていた為にその理由などを聞き出されていた。

途中からユウキが助け舟を出したが、聞き出すことが出来ずにアスナは不満そうではあったが。

 

「ん・・・アスナ、キリト。またね」

 

「まったね~!」

 

「ああ、また」

 

「二人ともまたね~!」

 

アスナとキリトはさすがに寝泊まりは出来ないと頑なに断ったため、現状家にいるのはユキとユウキの二人だ。

 

「ん、ユウキ」

 

「ん~?」

 

二人の姿が見えなくなるまで見届けると、ユウキを呼んで腕に抱き着く。

 

「ん・・・」

 

「ふふ、どうしたの?」

 

「今日、義理の姉に会った」

 

「っ・・・そうなんだ」

 

「・・・うん」

 

どことなく暗い表情をしていたのを見ていたユウキはその原因が分かると、まずユキの頭を撫でた。

これをすると幾許かユキが安心したような感じになってくれるのだ。

 

「んにゅ」

 

「お姉さん・・・会ってどうだった?」

 

「・・・別に。昔と変わんない。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「・・・本当に()()()だなって」

 

「そっか」

 

「うん・・・」

 

ユキの事を理解していない者ならば()()()という意味を理解できなかっただろう。

だがユウキは違った。

ユキという少年を理解しようと今まで見ていた。

だからこそユキが言った言葉の意味をしっかりと理解していた。

 

「・・・ねぇ、ユキ」

 

「ん・・・?」

 

「その・・・言いたくなければ良いんだけどね。家族の事・・・教えてほしい」

 

「・・・家族って程じゃない。姉妹・・・姉さんはいつも言ってる言葉に理が無かった。空っぽで聞いていて虚しかった。妹はいつも心配してくれて、姉さんとは違ってた。いつも発作に気付くのは妹で姉さんは全然」

 

「発作って・・・その」

 

「・・・人が嫌いなんじゃない。怖いだけ。それが重篤化した発作だから」

 

「ボクは大丈夫なの?」

 

当然だと言うように頷いた。

優紀はただ、人の暖かみが欲しかっただけでそれ以外は何も求めようとはしなかった。

それに気付いたのはユキを引き取ろうと思い至った母親。

父親は猛反対だったが、折れて渋々受け入れただけ。

だが妹である夜々は寂しそうにしている優紀を何かと気にはかけていて、発作にしても1番に気付いていた。

 

「ユウキは・・・その、お、お姉ちゃんって感じで・・・お日様みたいに暖かいから」

 

「・・・そっかぁ・・・ね、ねぇユキ」

 

「ん・・・?」

 

「・・・お姉ちゃんって呼んでみて」

 

「・・・へ?」

 

ユウキの謎の言動を理解できずユキは素っ頓狂な声をあげる。

だがユウキ本人は真剣に言われるのを待っており、早く早くといった表情だった。

真っ正面から言うのはユキでも恥ずかしいのか、言い渋っていたが決心すると、それを声に出した。

 

「ゅ・・・ゆう・・・木綿季、お・・・お姉、ちゃん」

 

「はぅ・・・」

 

それを言い放ったユキはもじもじとしており、年頃の女の子には刺激があまりにも強かった。

ユウキには双子の姉がいるが妹や弟がいないため、そういうものに憧れてもいた。

それを自分よりも幼く、気心が知れている相手のユキに言わせた結果、ユウキの脳内の処理速度が間に合わず。

 

「ゆ、ユウキ・・・!?」

 

幸せそうな表情で倒れるのだった。

 

 

 

 

 

その後1分ほどで気がついたユウキは何かが乗っかっている重みを感じる。

 

「ん・・・ユウキ。起きた」

 

「あ、れ?ボク何してたんだっけ・・・」

 

「・・・禁句を言ったらぶっ倒れた。幸せそうに」

 

「・・・何聞いたんだろう」

 

あまりの至福さに記憶する前に気を失っていたようで、ユキに言わせた物の内容を覚えていないようだった。

思い出そうとするも、何故か分からずじまいだったので諦めることにした。

 

「~♪」

 

幸いにも二人は既にベッドに座っており、ユウキはその状態で倒れていたため体を地面に打ち付けるようなものではなかった。

最もSAO内ではそういった痛みは無いに等しいが。

 

「すりすりしないでよ・・・くすぐったい」

 

「~♪」

 

ユウキにしっかりと抱き着いて離れないようにしながらユキは顔を擦り付けていた。

口ではくすぐったいなどと言うユウキだったが、満更どころか甘えさせるようにユキを抱きしめる。

 

「はぁ~ぁ・・・幸せ・・・」

 

口から漏れた言葉は本心からのもので、嬉しそうな表情をしていた。

 



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第二十一話

SAO内のとある日。

まだ暗い雰囲気を醸し出す時間帯で、あと2~3時間もすれば日が昇りきるだろう。

 

「・・・何しに来たの」

 

「・・・貴方に会いたかったからだけれど?」

 

「・・・そ」

 

今まで以上に素っ気ない態度を取るユキ。

その理由は、自身の義理の姉である絢音に会ってしまったからだった。

 

「ユキー?どこー?」

 

「・・・もういい?呼ばれた」

 

ユキを呼ぶその声は聞き慣れたものであり、安心させるものだった。

だが絢音はそれを良しとはしなかった。

 

「・・・なに」

 

「行かないで頂戴」

 

「っ・・・」

 

あまりにも身勝手だろうと優紀は思った。

今までの事を考えても最終的に自分自身に返ってきているのだから。

空っぽのように優紀と話していた絢音がそれに気付くかは別だが。

 

「ユキー?」

 

「ぁ・・・」

 

ぐずぐずとしているとユキの場所へ来てしまったユウキと目が合う。

それに気まずさを感じてすぐに目を逸らした。

 

「・・・ユキ。その人・・・」

 

「ん・・・」

 

近くまで来ていたユウキの元へ行くとその後ろへと隠れる。

義姉の絢音から逃げるように。

 

「あの」

 

「・・・なにか?」

 

「優紀とは・・・どういった関係ですか」

 

絢音は優紀とユウキの関係を察してはいたが、確信を得るためにも聞きたかった。

 

「・・・優紀とは恋人です」

 

木綿季は放った言葉はSAOだけではなく、現実世界でも恋人だという意味で言った。

それを理解した優紀はぎゅっとユウキの手を掴んだ。

 

「・・・そう、ですか」

 

「貴女こそ、優紀とはどういう関係なんですか」

 

「優紀とは・・・義理の姉、です」

 

「そうですか」

 

想像通りの返答をされた木綿季はしっかりと優紀の手を握り返す。

不安そうにしていたそれに優しく大丈夫だと言うように包み込んだ。

 

「ん・・・姉さん。一つだけ、気になった」

 

優紀はあの後どうなったか分からない家族が気になった。

SAOから帰還しても会えるか分からないからこそ。

 

「夜々は、どうしてる?」

 

「・・・あの子は、荒れに荒れたわ。学校にも行かなくなって部屋からは出なくなった」

 

「・・・そう」

 

聞きたいことを聞き終えたユキは、自分とユウキの家へと戻るべく身体を動かした。

 

「えっと・・・お姉さん」

 

「ごめんなさい。優紀の事ちゃんと見てあげれなくて。妹の夜々はいるから大丈夫だと高を括っていたの。本当にごめんなさい」

 

精一杯の誠意を見せてもらったユウキは、もう良いと思いその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家へと戻った二人はベッドで座っていた。

ユウキの膝の上にはユキが座っており、逃がさないと言うべく抱きしめていた。

 

「・・・ユウキ」

 

「どうしたの?」

 

「・・・武器持ってる、よね。鍛造された武器」

 

「・・・うん」

 

画面を操作してストレージから取り出す。

それはユキが依頼して寝てしまったユキの代わりにユウキが受け取っていた武器だった。

それをユキが受け取るとすぐに装備した。

 

「ん・・・どうかな」

 

戦闘時の服装へと変わるとユウキに見せる。

日が出かけていたために、日の出の光が窓から照らされていた。

 

「うん・・・綺麗だよ」

 

女の子からみても美しく綺麗で、とても幻想的に見えていたユウキは、今一度ユキに見惚れた。

ユキの大部分の見た目にもなっている『蒼天の護衣』は和装で長い黒髪と合っていた。

腰に提げられた『霊想刀』は動けばその柄に括り付けられた結び玉がじゃれつく。

そして霊想刀と同じ所に提げられたもう一つの刀。

錆びた剣が完全に姿を取り戻した物であり、和装で整えられたその姿はまるで剣巫女のようだった。

 

「ん・・・」

 

「・・・ねぇ、ユキ」

 

「ん・・・?」

 

「ボクは、ユキと居るからね」

 

「・・・うん」

 

ぎゅうっとユキを抱きしめると少しして離す。

少し吹っ切れたような表情でユキと面向かって話した。

 

「アスナから伝えておいてって言われたから話すね」

 

 

「明日、七十四層に行くらしいんだけどね。ボク達もって誘われてるんだ」

 

「ん・・・ユウキは行きたい?」

 

「うん・・・でも、もしユキが死ぬかもしれないから本当は嫌なんだよ?それでもボクはユキを信じるって決めたから」

 

「死なない、よ。ユウキ残して死なない」

 

何時しか生きる意味が少女の為だった少年は、大きく変わったように良い笑顔でそういった。

一緒に生きていきたい、それがお互いに求めた物へと変わっていったことに気付く事はない。

それでも、生き生きとした二人は気付かなくても良いのかもしれない。

 

 

 



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第二十二話

今回中途半端に切れますがご容赦ください。


とある日、SAO内アインクラッド第七十四層主街区。

ユウキを連れて転移門前でキリトとアスナが来るまで二人で待っていた。

 

「それにしても遅いね」

 

「ん・・・」

 

俺はユウキの膝の上に座らせされており、ユウキの事を知るプレイヤーから好奇の目で見られていて居心地が悪い。

元々人の目は嫌いだし、ユウキが居なければローブを着ていたぐらいだ。

 

「うぅ・・・」

 

「ん・・・あっ」

 

だが、ユウキはそれに気づいたようでストレージからローブを着せてくれる。

 

「これで良い?」

 

「ん・・・」

 

「・・・ふふ」

 

周りにばれない程度でユウキに擦り寄るとユウキが手を前に動かす。

傍からは落ちないように支えている様に見えるのだろう。

こういう気遣いをしてくれる部分も好きになった所なのかな。

 

「ん~・・・」

 

先に来て数十分ほど。

ベンチで待っていると転移門が光り輝いた。

そしてそこから慌てるように出てくるのはキリトとアスナ。

 

「うぉおおぉ!?」

 

「ひゃあぁぁ!」

 

「ん・・・」

 

すぐに二人は立ち上がるとキリトがアスナを転移門から隠すように後ろに移動させる。

その光景を見ていたユウキは変に思っていたようで、俺に耳打ちする。

 

「あれ・・・なんだろ?」

 

「ん、何かから逃げてる的な」

 

「なのかな」

 

「さ・・・わかんない」

 

あの光景だけでは何とも言えなかったが、その答えがすぐに分かった。

転移門がまた光り輝くと、そこには長身で痩せ細った男性。

白と赤の甲冑で十字架が入ったそれはSAOの最強ギルド《血盟騎士団》の証明。

 

「アスナ様!ここでしたか」

 

「く、クラディール!あ、あなたどこまで来るつもりなのよ!」

 

「何を言いますか!私の任はアスナ様の護衛です!それには当然街や家であろうとお守りするのが役目でございます!」

 

「ふ、含まれないわよ!それに団長はそこまでするようには言っていないはずよ!」

 

アスナとクラディールと呼ばれた男性は言い争いをしていた。

内容は聞く限りストーカーだけど・・・。

ユウキも聞いてるだけじゃすごく嫌そうな顔をしてる。

 

「ん・・・」

 

「あ・・・ごめんよ。ちょっと・・・ね」

 

「ん、大丈夫。・・・行こ?」

 

アスナ達の所へと行くとクラディールの視線が少し動いた。

俺はローブを着ていて分からないが、ユウキは名のあるプレイヤー。

大手ギルドからすれば喉から手が出るほど欲しい人材だ。

 

「これはこれは、《絶剣》ユウキ様ではありませんか!」

 

「ちょっと、クラディール!?」

 

「アスナ様、私はユウキ様が未だギルドに入っておりません。それゆえに狙われるのですからそれならばと」

 

「あはは・・・アスナ。ボクは入るつもりも無いから。勧誘は・・・ごめんね」

 

「ならいいのだけど・・・」

 

「ユウキ様、体験でも構いませんよ?ギルドの雰囲気を感じていただくだけでも大歓迎でございます!」

 

そういうとクラディールがユウキの手を掴もうとした。

今までの俺なら何も思わなかった。

だけどいつからか、こんな些細な悪意や敵意にすら過敏になりつつある。

 

「なっ・・・!」

 

気づけば神速の如き早さで霊想刀を引き抜いていた。

忌ま忌ましそうに俺を見てくるが、刀が見えなかったことが悔しいようだ。

 

「貴様・・・何のつもりだ」

 

憤怒の表情で見てくるが、何も怖いとは思わない。

たかが殺意にも等しい目を向けられようが、それ以上を出すことなんて出来ないのだから。

 

「・・・失せろ」

 

自分でもこんな声が出るのだなと思うぐらいぞっとするものだった。

 

「この・・・餓鬼が!」

 

少し威圧すれば丸出しにして来る。

沸点が低いし、戦闘でも弱い部類だ。

 

「・・・餓鬼にムカついてる。馬鹿、だね」

 

「糞・・・!」

 

譫言のように呟くと後ろを振り返ってどこかへ行った。

あんな言葉で頭にきてるのならギルドなんてやめれば良い。

所詮、人なんて信じるだけ無駄なのだから。

 

「ユキ」

 

「ぁ・・・ん・・・」

 

名前を言われるとユウキが心配そうに俺を見てきた。

今まで通りに戻すとユウキの隣に移動して手を握った。

 

「ユキ君。その・・・ごめんなさい。私の団員の問題なのに」

 

「・・・別に。ユウキに触れられる方が嫌」

 

ぎゅっと手を握ると、少しだけ強く握り返された。

今ここは人の目が多いから、こういった触れ合いしか出来ない。

それだけでも別に構わないし、大丈夫。

 

「ん・・・行こ?」

 

「・・・そうだな。そのあとの問題はその時考えよう」

 

「そうだね、行こっか」

 

「おいで、ユキ」

 

「ん・・・」

 

ユウキの広げられた手の中に入るとそのまま持ち抱えられる。

周りのユウキを知るプレイヤーが見てきたけれど別にどうでもいい。

ローブを着てるから姿は見えにくいし、見えても俺の見た目は男には見えないだろうから。

 

「相変わらずだね・・・ユキ君とユウキは」

 

「まったくだ・・・」

 

「あはは・・・」

 

街を出て迷宮区へと向かう途中、雑談などをしていた。

ユウキにずっと抱えられていたが道中の戦闘は《秘天剣》スキルで一切鉢合わせが無い。

だがこのスキルは使っていて分かったことはあった。

《秘天剣》スキルの一部は俺自身の技が入っているからか、連発し過ぎると疲労がとてつもないほど掛かる。

使いすぎれば頭痛や眩暈もある所から脳の異常系がナーヴギアを通して感じてしまうのだろう。

現に道中の戦闘回避もある程度思考力が必要で、体が怠いなと感じる。

 

「・・・ま、良いか」

 

「んー?どうかした?」

 

「ん・・・何でもない」

 

こう見えてユウキは勘が鋭い。

見えない姿でも気配的な物を感じるらしく、天性の才能だろう。

 

「ふーん・・・?」

 

俺の小さな動き等ですら察知したり、先読みするために隠し事は出来ない。

それでも心配をかけたくはないし、ばれればその時だ。

 

「ん・・・着いた」

 

「ああ。前衛は俺とユキで交代にアスナとユウキで行こう」

 

「良いけれど・・・一人でやり過ぎないでね?」

 

「分かってる。ちゃんと引くときは引くさ」

 

「ユキもだよ?無茶しないでボクと変わってくれて良いからね」

 

「ん・・・分かった」

 

無茶し過ぎるとユウキには怒られるが、《秘天剣》で暴れ散らすつもりだったから控えめでやろう。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

キリトが先行してその次に俺が続く。

《秘天剣》スキルをフル稼動させると、視界の右上にその効果表示がされる。

『自動回復』『自動索敵』『夢幻剣』が常時発動する。

装備している武器の耐久値がゴリゴリと減りまくるが俺の武器は生憎無限なので問題はない。

唯一あるとすれば『夢幻剣』が発動中は頭をずっと使うため疲労がかなりある。

その気になれば無視できるがユウキの前だと出来る気がしない。

 

「・・・ねえ、ユキ」

 

「ん・・・」

 

「そのスキル・・・もしかしてかなり疲れる?」

 

「・・・うん」

 

「使っちゃ駄目って言っても意味ないだろうからね。せめてしんどくなったら言ってね?ボクだって守られてるだけじゃ嫌なんだ」

 

「・・・分かった」

 

夢幻剣は不可視で、簡単に言えば俺以外には見えない斬撃。

黙って使えば良いのだがユウキなら気づきそうなので仕方ない。

 

 

迷宮区に入って数時間ほどしてセーフティエリアに着くと休憩することになったが・・・。

 

「ん・・・」

 

「えへへ~・・・」

 

「ユウキ・・・少しはね?」

 

「ぁ・・・ごめんよ・・・」

 

座り込むとユウキが俺の手を引っ張って膝の上に座らせると思いっ切り抱きしめられる。

力で言えばSAO内なら負けないが現実世界だと単純な力は負ける。

 

「ぎゅむー」

 

「・・・お昼ご飯、抜き」

 

俺が小さく呟くと手を退ける。

ユウキもこういったことには弱いのを知っているが、あまり使いたくない。

何かで人を釣るのは好きじゃないから。

 

 

 



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第二十三話

軽く《料理》スキルで作ったサンドイッチをストレージから取り出すとユウキに渡す。

 

「ん・・・はい」

 

「わっ・・・ありがと」

 

今日作ったのはミックスサンド。

味覚システムを全て網羅しているから自由に作れる。

今回は味付けでユウキが好きそうな味も入れてみた。

 

「はむ・・・んぐ・・・」

 

「・・・美味しい?」

 

「うん!すごく美味しい!」

 

「・・・よかった」

 

キリトもどうやら一緒のようで、アスナからサンドイッチをもらっていた。

 

「ユキ君ってスキルどれだけ取ってるの・・・?」

 

「ん・・・」

 

ここSAO内では他者のスキル模索はマナー違反。

アスナが聞きたいのは分かるが、教えれない。

まぁユウキは結婚してるから分かっちゃうけれど。

 

「・・・誰か、来る」

 

《自動索敵》に引っ掛かったのは5~6人ほどのプレイヤー。

その方向に目を向けると赤いバンダナを付けた男性が先頭に見える。

 

「あれは・・・クラインじゃないか?」

 

「・・・知り合い?」

 

「あー・・・腐れ縁だな。良い奴だよ」

 

「ん・・・ならいい」

 

危険が無いなら興味はない。

サンドイッチを手にユウキと食べるのを続ける。

 

「ありがとね、ユキ」

 

「・・・?」

 

「その・・・美味しかった、よ」

 

「・・・うん」

 

ユウキにと作ったサンドイッチは全て完食されており、入れていたケースは綺麗になっていた。

それを仕舞うと同時にまた《自動索敵》に何かが反応した。

先の少数プレイヤーではなく、大人数のプレイヤー集団。

 

「・・・誰か、来た」

 

「えっ?」

 

クライン達だけではない事に驚きながらもさらにやってくるプレイヤーを警戒した。

聞こえて来るのは足並みが揃えられている足音に、金属同士が擦れ合う音。

そんなものこのSAOでは一つのギルドしかない。

 

「・・・軍」

 

別名、アインクラッド解放軍。

その名の通りアインクラッドから人々を解放すべく立ち上がったギルド。

何度か軍とは戦闘問題になり、階層攻略を潰した覚えがある。

完封してしばらくは調子に乗らないとは思っていたが、余りにも早い。

誰かが手引きして支援しているのだろうが、SAOの軍は評価がよろしくない。

第一層で安全にしているプレイヤー等から税と言い放ってコルを徴収したり、装備品などを奪取しているためだ。

 

「ふむ・・・よし、一度休憩!」

 

上官の立場であろうプレイヤーが部下を休憩させると俺達の所に来る。

 

「私は《アインクラッド解放軍》所属、コーバッツ中佐だ」

 

「・・・《血盟騎士団》副団長のアスナです」

 

「・・・キリト、ソロだ」

 

「同じくソロのユウキだよ」

 

「・・・」

 

ユウキ達は各々の名前を言うと、俺だけ話さなかった事を怪訝に思ったのかコーバッツが目線を送る。

 

「・・・何」

 

少し嫌そうな声で言い放つとすぐに目を逸らす。

殺気までは出していないが、元々声色に出やすいらしい。

 

「君らはこの先のマップを進んでいるのか?」

 

「まだ進んでいないが・・・」

 

「ふむ・・・それならここまでのマップデータを提供してもらいたい」

 

「なっ・・・!?」

 

キリトやアスナ達が絶句するのは当然。

マップデータというのは基本的に自身で踏破しなければならず、善意による公開以外では入手できない。

コーバッツはそれを分かっていながらマップデータを寄越せと言っている。

 

「ふざけてんのか!?」

 

「何を言う!?我々は人々を解放すべく動いている!そのため我々に協力するのは当然の義務である!」

 

「あ、あなたねぇ!?」

 

こういった人間は自分の行いが正しいと肯定して動いている。

俺らが否定しようと変わらない考えで、相手が面倒。

 

「・・・どうするの?」

 

「ん・・・」

 

恐らく最終的には俺に判断が行くだろう。

俺が渡さなければ確実に因縁を付けられる。

軍とのいざこざは今に始まった事ではないが、正直言えば面倒だ。

そのせいでユウキとの時間が減るのなら尚更。

 

「・・・はぁ」

 

トレードで第七十四層の()()()を渡した。

この先は一本道で、分かれ道などは無い。

それは確実に覚えているので渡してしまっても痛手ではない。

 

「・・・協力感謝する」

 

「・・・早く、どっか行って」

 

「ふん・・・休憩は終わり!さあ、立て!」

 

号令で一気に立ち上がるが、その足取りは覚束ない。

休憩もあまり無く進んで来たのだろう。

 

「おいおい・・・ユキ。あまりにもお人よしじゃないか?」

 

「ん・・・PK出来てたらしてた」

 

これは本心だ。

ユウキ達と一緒にご飯を食べていたのにその時間を減らされたのだ。

さっさと去ってくれれば良いので渡した。

その後にボスへと突入して犠牲者を出そうが俺の知る所ではない。

 

「でも・・・この先は、ボス部屋。突入してたら、まずいかも」

 

「なら様子見だけでもしておこう。ボスの情報は欲しい」

 

「そうだね。ユウキとユキ君もそれで良いかな?」

 

「ユキが行くならボクも行くよ」

 

「・・・別に」

 

「俺らも行くからな!」

 

クラインが率いる《風林火山》は人数は少なめだが、その統率力と慎重度が高い。

それゆえに精鋭であり、腕も確かだろう。

 

「・・・ユウキ。少し無茶する、かも」

 

「駄目って言っても聞かないのを知ってるんだよ?だから死なないで」

 

「ん・・・当然」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩も終わってボス部屋の様子見をしに行くと、モンスターの出現率が上がりはじめた。

上層の迷宮区はこれがあるために、道中でも経験値は美味しく稼げる。

《夢幻剣》による自動攻撃で出現した瞬間切り捨てられているため、戦闘は少ない。

 

「なあ、ユキよ」

 

「ん・・・?」

 

「さっきから何で切ってるんだ?キリトでもねえしよ、さっきから不思議なんだ」

 

「・・・秘密。どうせそのうちばれる」

 

「クライン、模索は駄目だからな。ユウキなら分かるだろうけれど・・・教えてくれないから」

 

「当たり前だよ?ユキが良いって言えば教えれるけどね」

 

こういいながらも全員、俺の事を模索はしない。

深々まで知っているのはユウキただ一人で、それ以外は教える気が無い。

人を信じる気が無いだけだが、それでも見極めぐらいは出来る。

 

 

 

「・・・・・・・・・うわぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!!」

 

 

 

遠くから聞こえたのはプレイヤーの叫び声。

恐らくこの先のボス部屋に突入したのだろう。

 

「い、いまの」

 

「・・・助けるの」

 

「私はそうしないと駄目だから・・・嫌なら良いんだよ」

 

「・・・ユウキ、早く、ね」

 

《秘天剣》スキルを発動させていく。

全てのパッシブスキルを発動させ、武器も装備も完全戦闘状態に変える。

 

「助けは、しない」

 

人を、知らぬ他人を助けたいとは考えることすら気味が悪い。

だが誰かが助けようとしてそれを妨害する者がいるなら、俺はそれと戦う。

優しいユウキ達はそうするだろうから。

 

 

ボス部屋に一瞬で入ると何か身体に纏わり付くような感覚を受ける。

それはどこかの階層でトラップとして使われることもあった《結晶アイテム無効化》の感覚。

つまりは転移結晶という緊急離脱方法は封じられる。

 

「Graaa!!」

 

雄叫びをあげ、巨大な剣を振り回すは巨人とも言える牡牛。

青い身体に、全てを燃やそうとせん瞳が俺を捕らえる。

 

「・・・飛電、一閃」

 

霊想刀を一気に抜刀すると振り下ろされていた剣を弾き返した。

その間に左手で片手剣を引き抜く。

リズの手により完全な姿を取り戻したそれは、霊想刀にも劣らない性能を持つ。

左手に片手剣、右手には刀を持つそれは端から見えれば異質でふざけているようにも見えるだろう。

だが、それが《秘天剣》スキルの醍醐味になる二刀流。

どんな武器であろうと片手で振り回せるそれは、両手斧や両手剣ですら片手で軽々と扱える。

 

「あはは・・・5分間だ。それまで持ってよね」

 

自身の強化スキル《霊剣》を使うと、一時的にだがステータスが一気に上がる。

効果時間は5分で、切れると一気に脱力のノックバックがやってくる。

 

「さあ、狂え。もっと・・・もっと、狂っちゃえ」

 

いつになく楽しいと思いながら、俺は牡牛へと立ち向かった。

ユウキ達が戦闘に参加する前に終わらせるために。

 

 



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第二十四話

約一ヶ月ほどでしょうか。
4月入ってからPS4が届きまして、最近話題の狩猟ゲームをしていたので完全に執筆が進んでないんですね。
更新速度に関しましては元々不定期のため、遅くなれば早くもなりますのでご容赦下さい。



アインクラッド第七十四層迷宮区。

最深部にて待ち受ける牡牛と金属を打ち合うのは幼い子供の姿。

 

カン・・・カン・・・と金属同士を打ち合っているがその光景は異様だろう。

自身よりも遥かに巨大な相手を前に怖じけず、怯むどころかその闘士は上がっていた。

狂気とも言える狂った表情で整った顔は歪んでいた。

幼い頃から人というモノを見て視ていない。

殺す事に戸惑いすら感じず、ただ殺戮を楽しむ。

それこそが優紀という少年であり、ユキの本性。

 

「ふふっ・・・軽い・・・もっと・・・もっと・・・」

 

今までの戦闘では感じ得ない気持ち。

それはすなわち第七十四層のフロアボスでようやく少年の本気が出始める。

 

「さぁて・・・ふふっ・・・」

 

少し牡牛から距離を取ると、手に持っていた武器を入れ替えた。

ただ武器を持ち替えただけなのに、ユキの表情は勝利を確信した表情へと変わる。

 

「生きて、帰れると・・・思った・・・?」

 

《秘天剣》スキルの製作者でもあるユキにとってこのユニークスキルこそがユキの現実世界の技を模写したものと言える。

それこそ殆どはシステム的アシストがなければ行使できないが、一部は現実世界での剣の技の奥義だ。

 

「・・・()()()

 

SAOのソードスキルは発動の動きを取れば自動的にシステムが動かす。

だが動かされるだけではなく、プレイヤー自身も動けば普段よりも強いアシストが掛かる。

断命剣と呼ばれたその技もユキからすれば己の剣技であり使い慣れた物だった。

ただ二刀を一直線に引き抜く。

それだけの行動の極地に、この技に到るまではその強さが価値が分からない。

 

「ん・・・」

 

神速の如き引き払われた剣は牡牛へとても重い一撃を与えた。

その効果は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という物。

つまりは、牡牛の胸にある心臓部分へと当たったそれは急所判定。

ボスすらも悉くその命を断ち切った。

 

「Congratulation・・・か」

 

無機質なそれは表示を見ると結晶アイテム無効化エリアの制限が消えたような感覚があった。

そして重厚に閉ざされた扉も漸く開きはじめると一目散にユキへと飛びついて来る人物がいた。

 

「ユキ!」

 

「んぅ・・・ユ、ユウキ?」

 

「大丈夫・・・!?怪我とか・・・何も無いよね!?」

 

「ん・・・だい、じょぶ」

 

ぎゅうっとユキが生きていることを確認するのはユキの恋人のユウキ。

だがその瞳には大量の涙があり、目元が腫れていた。

 

(こんなとこまで、現実・・・)

 

プレイヤーのプログラムはあまり関わって居ないためユキはそういうことには疎い。

SAOはそういったトイレ等がないため現実感が無かったが、それでもしっかりとしたもう一つの世界。

 

「ユキ君!大丈夫だったの!?」

 

「ん・・・このとおり」

 

「それでもだ・・・転移結晶は?持っていたんだろ?」

 

「・・・結晶アイテム無効化エリア」

 

「「なっ・・・」」

 

ボスフロアにそのようなギミックが入るとは想像していなかったのか、驚愕の表情を浮かべる。

ユキに抱き着いてまだ泣き止まないユウキには聞こえていなかったようだが。

 

「・・・つか、れた」

 

極度の戦闘状態による狂気に等しい興奮と人から外れた剣技を模写しただけでユキの身体は一気に力が抜けていく。

《霊剣》の効果時間が切れていたがそれのノックバックが今になってやってきていた。

 

「ユ、ユキ!?大丈夫!?ねぇってば!」

 

いきなり目を閉じてユウキへと身体を預けた為になにかあったんじゃないかとまた涙が溢れそうになるが、ユウキの耳元で静かに整った呼吸が聞こえはじめると優しく抱きしめて抱えた。

 

「あはは・・・寝ちゃったみたい」

 

「いきなりだな・・・最も一人で相手したからな」

 

「ホントだよっ。死んじゃうかと思ったんだか・・・らぁ・・・」

 

ユウキに抱えられ寝てしまった少年を責めはしない。

当然恋人であるユウキが起きたあと泣いては怒ってまた泣いたりしたが、それはまた何時か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は7時0分。

SAO内第二十二層にひっそりと建つ家。

隠れ家的な雰囲気があるその中には二人のプレイヤーがベッドで共に寝ていた。

 

「す~・・・す~・・・」

 

「んぅ・・・?」

 

長い黒髪に異質とも言える蒼眼。

 

「くぁ・・・ぁう・・・」

 

目覚めたばかりでまだはっきりとしていないが、その声色は幼さが抜けない女の子に近い。

 

「は・・・ふ・・・」

 

見た目は女の子だが男の子であり、SAO最強とも言われその姿を見るものが居なかった事から《孤高の剣士》と呼ばれた。

 

「まだ・・・寝てる、かな」

 

ユキの側でまだ夢の中にいるのは紫紺色の髪でユキよりも少し背が高い少女。

ひたすら独りであろうとしたユキを止め、恋仲になり運命共同体とも言える。

 

「ん・・・ゆーき」

 

まだ寝ている少女の頬を軽く突けば小さな唸り声を上げるとまた寝はじめた。

 

「・・・ふへへ」

 

だらしのない声を上げるがユキにとってユウキ(木綿季)という少女は大切であり、失えば生きる意味すら無くなるほどに。

無意識的にそう脳内でユキ自身が刷り込んだそれは依存だろう。

だがそれを咎める者はおらず、ユウキからすれば同じ思いを抱き、そして依存している。

お互いがお互いを思うあまりにどちらかが居なくなれば壊れてしまう程だ。

 

「んぅ・・・にゃに・・・?」

 

夢から覚めたのか、目をパチパチと瞬きさせユキを捉える。

 

「ゆ、き~」

 

寝起きだからかあまり力が入っていなかったが、それでも起きてすぐのユキを押し倒す事は出来ていた。

 

「ぁ・・・」

 

「ん~♪」

 

ユキにスリスリと擦り付けており、まだ寝ぼけか声もはっきりとはしていない。

 

「ユウキ、朝だよ」

 

「んぅ・・・?んにゃあ・・・」

 

 

「ユキ・・・?」

 

ぽ~っとしていたユウキは漸くはっきりとしだすと顔が少しずつ赤く染まっていく。

先程の行動が記憶に残っていたのだろう。

 

「ん・・・おはよう」

 

「う、うん・・・おはよう」

 

「お腹、すいた」

 

「朝ご飯・・・食べよっか」

 

「ん・・・」

 

少し恥ずかしさを覚えつつユウキはユキの手を引いて寝室を後にした。

幸せそうにする幼さが残る二人はいつも通りSAOというゲーム内の監獄で過ごす。

 

 



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第二十五話

第七十四層でのボスソロ攻略から数週間後。

幼い少女と少年はアインクラッド第五十五層に来ていた。

 

「ん・・・」

 

「どうしたの?」

 

「・・・少し、慣れない」

 

周りからの視線を避けるようにフードを目深に被るユキは居心地悪そうにしていた。

 

「アスナが来てほしいって言うんだもん」

 

「・・・ユウキがいるなら、別に構わない」

 

そういう繋いでいた手に軽く力を込める。

人嫌いのユキがこんなところに来ているのはアスナによる呼び出しで、ユウキも一緒に来るからと渋々来ていた。

でなければすぐにでも逃げ去っている事だろう。

 

「ボクもあまり目立つの好きじゃないんだよ?異名も勝手に付いたんだから」

 

「ん・・・知ってる」

 

「無名なら堂々と歩けるんだけど・・・ボクとユキは・・・ね」

 

ユウキの《絶剣》もそうだが《孤高の剣士》というのはその強さが計り知れない。

ユキの持つ《秘天剣》が大きくそうさせてしまったがそれでもなお仮装空間での適応力は凄まじい。

ソロという危険性が高い所業を難無くこなしていたためにその異名が持つ意味は大きい。

 

「ユキ君、ユウキー!」

 

とぼとぼと歩いていると二人の名前を呼ぶ声がしていた。

その人物こそ二人を五十五層に呼んだ本人。

 

「アスナ!連れてきたよ」

 

「ありがとう!私じゃユキ君動いてくれないから」

 

「ん・・・」

 

「動かないんじゃなくて人に会いたくないだけだよ?ここなんて人多いから」

 

「ごめんね?それでも伝えないといけない事があるから・・・一度ギルドの内部で話そうっか」

 

アスナの所属するギルドは《血盟騎士団》という所でSAO最強ギルドと言われる場所だ。

内部は人も多いが個室自体は基本的に人が入るのは少ない。

二人はアスナに追従していくとギルド本部の中へと入っていく。

個室へと案内される途中ユキは一人のプレイヤーから妙な物を感じた。

 

「・・・?」

 

その視線はユウキに向けられていたがそれも一瞬だった。

 

「・・・情欲」

 

だがユキにとって一瞬で良かったのだろう。

人の視線、口調、声色、表情というパーツから情報を搾り取る事に関しては右に出るものはいない。

先程の視線がユウキをどう見ていたのかすぐに察すると繋いでいた手を強めた。

 

「んぅ?どうしたの?」

 

「ん・・・何も」

 

ただ甘えたくなったように演じるとユキは先程のプレイヤーを覚えた。

やせ細った長身だったが、体のパーツ全てを目で読み取ると興味が無くなったように意識を戻す。

 

 

 

 

 

個室へと入った三人は腰掛けるとアスナがその内容を告げた。

 

「・・・二人を呼び出した理由はね、ギルドに入ってほしいの」

 

「ギルドに?」

 

「そう・・・ソロプレイヤーのユウキとユキ君を引き込みたいっていうギルドは多いの。勿論私のギルドも勧誘したいのだけどね」

 

「ん・・・嫌」

 

「あはは・・・ユキが嫌ならボクも遠慮しようかな」

 

「だよね・・・団長もこれはついでだったから良いんだけど次が問題なの」

 

さっきの勧誘とは打って変わって、真剣な表情へと変わったアスナに二人は耳を傾けた。

 

「第七十五層のボス部屋が見つかってその偵察を行ったの。結果は全滅。どうやらボス部屋に入ると撤退が不可能ということが分かったわ」

 

「ん・・・七十五・・・」

 

ユキは開発時に覚えていた情報から七十五層のデータを探った。

結晶アイテム無効、フロア撤退不可能という二つのプログラムを入れていた為に記憶は残っていた。

 

「それでしばらくしたら七十五層のボス攻略をしたいから二人に参加してほしいの」

 

「ん・・・良い、けど」

 

「ボクも良いよ」

 

「ホント?ありがとう・・・。クォーターポイントだから出来るかぎり戦力は欲しいから助かるわ!」

 

「別に・・・どちらかというと、扉前で《隠蔽》してる二刀流のが」

 

「「・・・え?」」

 

ユキが指摘するとガチャリと扉が開いて《血盟騎士団》の正装に着替えているキリトが入ってきていた。

 

「悪い、声聞こえてたからさ・・・」

 

「それは良いけど・・・」

 

「・・・似合わない」

 

「うっさいな!俺だって着たくなかったよ!」

 

普段から黒色ばかり着ているからか紅白色の正装を着ているキリトに違和感しか感じていないようだった。

 

「なんでキリトが着てるの?」

 

「あぁ・・・その・・・色々とあったんだよ」

 

「ふーん・・・」

 

遠い目をしたキリトにユウキは聞くのを止める。

アスナも苦笑しながら雑談をしているとユキがいきなり武器を取り出していた。

 

「・・・ん」

 

ユキだけがその気配に気付いていた。

扉ですらなく、無機質な石壁を隔てたその気に。

 

「・・・ユウキ、アスナ。気をつけて、ね」

 

「へっ?」

 

「ユキ君?」

 

「・・・何か、いる。新参、かな。あのギルドは潰した(殺し消し去った)のに」

 

そういうユキは光を映さず、ただ石壁を冷たい目線で見ていた。

そんな初めて見る姿にユウキ以外は何も言えなかった。

 

「ユキ。気をつけるから・・・抑えて?」

 

「・・・そ」

 

ユウキが宥めるように言うといつものユキへと戻り、ユウキの膝の上に座った。

そのまま頭を預けると静かに目を閉じ寝てしまった。

 

「・・・なんだったんだ?」

 

「うーん・・・多分何か居たんだと思う。ユキの気配察知はスキル以上だから」

 

「ユキ君が敵じゃなくて良かったわ」

 

「そうだな・・・っともうこんな時間か」

 

時刻は昼間だったがキリトは何か用事があるようで少し足早にその場を去った。

アスナはそれを知っているようだったが。

 

「ボクもユキが寝ちゃったし一度帰ろうかな」

 

「そうだね。話しておきたいことも話せたから」

 

「それじゃアスナ、また何かあったらメッセージ奥ってよ」

 

「うん。ユウキも頑張ってね」

 

「っ・・・!アスナ!」

 

何を想像したのかユウキは顔を真っ赤にするとからかってきた親友にぎゃーぎゃー言っていたがすぐに家へと戻る。

 

「ふへー・・・」

 

ベッドにユキを寝かせるとユウキは寝間着へと着替えた。

ユキのウィンドウを操作すると寝間着へと着替えさせた。

本来ならば他人にさせる物ではないがユキは全面的にユウキに対しては色々と感情が振り切っているため気にしていない。

ユウキもそれを察してか、探りはせず必要なことだけを操作していた。

 

「ん・・・」

 

「ボクもお昼寝しようかな」

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「えへへ、おやすみ」

 

ユキの額にキスをしたユウキは抱きしめるとそのままお昼のお日様の陽光で眠気に襲われ寝てしまった。

 

 



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第二十六話

ぼやける光景。

鬱蒼とした森林にて、さまよい歩く少女。

力が抜けたように地面へと倒れ込む少女の近くには一人のプレイヤーが見ていた。

 

ただその身体を動かすことはしなかった。

人として見ていない様な目に少女の姿は映っていなかった。

 

「・・・」

 

そして少し時間が経てば。

少女の姿は青く輝き、データの破片となって消えていった。

 

「ん・・・」

 

消えて散って行くのを見届けた人物はゆらりと体を動かして森林を進んだ。

 

「ユキー!」

 

森林の中からは名前を呼ぶ声が響いていた。

よく透き通る声である人物からすれば最愛の人の声。

 

「ん・・・ユウキ」

 

「居たっ!心配したんだよ!?」

 

「・・・ごめん」

 

「全くー!」

 

紫紺色の髪に深紅のような瞳の少女。

腰にまで届く長い黒髪に前髪に隠れているが少女を見詰める蒼い目の少年。

 

「ん・・・」

 

何事も無かったかのようにユキはユウキの手を繋いで家路へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の光が窓から差し込む時間に目が覚めたユキは隣で寝ているユウキを起こさないようにベッドから出ると外へ出ていく。

 

「・・・MHCP、か」

 

気分転換と考え事をするため夜風に当たりに来たユキは森林にて見つけた少女の事を考えていた。

 

「なんで・・・カーディナルが何か、制限?」

 

何故MHCPがあのようにアバターとして実体を持ち、アインクラッドに出てきたのか考えていた。

SAOの情報を大きく操作しているカーディナルシステムはユキの手により作り出されている。

その際にSAOにて精神や不安等を解消するために生み出されたカウンセラーがメンタルヘルスカウンセリングプログラム(MHCP)だった。

無論このプログラムはユキが作っており、感情や表情に思考、記憶などを全て手掛けている。

 

「・・・あのまま、だと異常、異物・・・排除、か」

 

本来ならば有り得ない為にカーディナルシステムはMHCPを消そうとするだろう。

勿論ユキはそれを阻止する術を知っているが、この場では出来なかった。

 

「・・・コンソール、あればな」

 

コンソールはゲームマスターがゲーム内でGM権限を行使するために必要となる装置。

ユキのアカウントは開発者として使えるためアクセスが可能だがそれが存在する所は第一層にある。

 

「ん・・・」

 

考え事に耽っていると近くの草村が少し動いた。

風による動きではなく人為的。

 

「・・・誰」

 

プレイヤーから無意識に発生する情報。

呼吸、動作、移動、音、風。

ユキはそれら全てを捉えると隠れているプレイヤーを見つけると一瞬で加速する。

 

「ひゃっ」

 

プレイヤーの目の前に出ようとすると、迫って来るユキに驚いたのか小さな声を上げた。

 

「ん・・・」

 

「ぁ・・・え、えと」

 

「・・・誰」

 

ユキの目の前には幼い少女が慌てて言葉を詰まらせていた。

武器こそ出していないがそれでも体術だけで倒せるステータスをユキはもっている。

 

「わ、わたし・・・そ、その」

 

「ん・・・はぁ」

 

あまりにも慌てすぎてパニック状態になっている少女から悪意を感じないからかユキは警戒を解くと少女の足と背中に手を伸ばして持ち上げて抱えた。

 

「ふぁ・・・あ、あの」

 

「少し、落ち着いて、ね」

 

「は、はい・・・」

 

お姫様抱っこされている少女は顔を朱くしているが何も出来ないのでユキにされるがまま抱き抱えられていた。

程なくして家に着くと寝室に連れていった。

ユウキはまだ寝ていたが静かに行動した。

 

「ん・・・静かに、ね」

 

「は、はい」

 

「・・・君は?」

 

「私は・・・ルルです」

 

「ん・・・一人?」

 

「はい、一人です」

 

「ん、そか」

 

「・・・貴方の、名前は?」

 

ルルという少女はユキを呼ぶときの言い方が引っ掛かった。

ユキの姿は初めて見る人は基本的に幼い少女にしか見えない。

一発で看破出来る者はおらず、誰もが勘違いを一度がしている。

なのにもかかわらずルルはユキが男だろうと確信した言い方だったことに気になった。

 

「・・・なんで男って分かったの?」

 

「えっ・・・?違うんでしょうか・・・」

 

「・・・生憎一発で看破した人居ないから。君は、プレイヤー?」

 

「え、えと・・・」

 

「それとも、MHCPなのかな」

 

ユキの手によって生み出されたMHCPは二つある。

その識別名として名前が着いているが、その一つに《MHCPーLuLu》という物はたしかにあるのを覚えていた。

 

「っ・・・」

 

「ん・・・とりあえず、寝る。おやすみ」

 

「ふぇっ・・・!?」

 

眠気が程々に襲ってきたユキはルルとユウキを抱きしめる。

突然抱きしめられて動けなくされたルルは何も出来ない事がわかると目を閉じた。

 

 



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第二十七話

早朝に目が覚め、自身の隣を見る。

そこには長い紫紺色の髪の少女と、それよりも幼い黒髪の少女がいた。

 

「ん・・・」

 

MHCPがこのようにアバターを形取り、ゲーム内に干渉することは殆どない。

生みの親といっていいユキからすればその行動原理すら作っているのだから。

だがもし、MHCPに人間と同等の感情や思考を持てばどうなるか。

実質的な完全自立な思考回路で、全世界からすれば喉から手が出る程欲しいものだろう。

 

「はぁ・・・」

 

生み出してしまったユキにはその責任もあるが、それよりもこうやって二人して寝てしまっている光景を壊したいとは思えなかった。

 

「ん・・・ユウキ、ルル。朝、だよ」

 

「んぎゅ・・・」

 

「ふぁ・・・」

 

ユキに揺さぶられ起きるが、ルルはまだ寝ていたいのかすぐに体の力を抜かす。

 

「おはよ、ユウキ」

 

「んー・・・おはよ~」

 

「・・・ルル、朝」

 

「眠たい、です・・・」

 

頭がしっかりして来るとユウキは昨日までは居なかった幼い少女に少し驚く。

それでもユキが心を開いている様子から大丈夫そうではあったが。

 

「ユキ、その子は?」

 

「ん・・・ルル?」

 

「そういうことじゃないよ・・・」

 

「じゃあ、MHCP。恐らく、何かのバグによって、アインクラッドに出てきてる」

 

「バグ?」

 

「・・・多分」

 

また寝てしまったルルを優しく撫でているユキに少し嫉妬を覚えるが、それよりもこの少女の存在に考えていた。

頭の回転はユキ程ではないがそれでもその年齢からは考えれないほど早い。

 

「ねぇユキ。もしかしてこの子は本来ならSAOに出てきていないの?」

 

「ん、多分。ゲーム開始時に変わったかもしれないけど」

 

「なら・・・消されちゃう?」

 

「異常、異物として判断されて、データ削除。それが妥当」

 

「そっか・・・」

 

「方法あるけど、あるものないから出来ない」

 

「その方法っ・・・あれ?アスナからメールだ」

 

「ん・・・」

 

ユウキはその内容を見るとユキへそれを見せた。

 

「・・・MHCP-Yui、か」

 

「知ってるの?」

 

「ん・・・ルルと同じ」

 

「・・・行ってみる?」

 

「良い、けど」

 

すぐに用意を済ませるとユキはルルを起こさないように背負うと第一層に転移する。

ユキとしてはあまり来たくはない所だった。

 

「教会・・・らしいよ、場所」

 

「ん、そこ子供多い」

 

「そうなの?ボク達も子供だけどね」

 

雑談も交えながら二人は歩いていると遠くから揉め事のような声が聞こえていた。

それも教会へと繋がる道でユキも嫌そうな表情をしていた。

 

「・・・軍が、カツアゲしてる」

 

「・・・ほんと?」

 

「ん、一層は軍の徴税。面倒だけど」

 

ユキは一気に加速するとユウキも続いて加速した。

周りの光景がどんどん変わっていき、行き止まりになるとそこには甲冑を来たプレイヤーが数人で囲って子供プレイヤーを脅していた。

 

「・・・ホント、大人って腐ってる」

 

ユキの声がどうやら聞こえていたようで、軍は後ろを向くとユキに対して偉そうな顔を見せていた。

 

「まだガキが居たのか」

 

「口も悪い、躾てやんねぇとなぁ!?」

 

「・・・無明剣」

 

小さく呟くとそれだけで軍プレイヤーは一気に吹き飛ばされる。

ユキ自身の剣技はスキルではない為にそれを観測することすら至難だろう。

何が起こったのか分からない様子でユキに怯えていた。

 

「消えろ。目障り」

 

軽くユキが殺気を飛ばせば兎の如く逃げ出して行ったのを見て殺気を消すとユウキの元へと走る。

ぼふっとユウキが受け止めると二人で教会へと向かう。

 

「ん、来たよ」

 

「あ、あぁ。外ですごい物を感じたけどユキのか」

 

「ん、多分?」

 

「多分じゃないよ・・・ユキ早い・・・」

 

ステータスがユウキよりも高いために、加速率も違うからかユウキは少し息が上がっていた。

 

「あのキリトさん、アスナさん。お二人は・・・」

 

「二人は私とキリト君のフレンドで・・・SAOでは最強プレイヤーに数えれます」

 

「ん・・・」

 

「ボクは最強じゃないんだけどね・・・ユキはそうだけど」

 

「ユウキだってユキ君に追いつこうとしてるでしょ?それに隣で戦える時点で凄いんだから」

 

ユウキはあまり自覚していないが、ユキは元々ソロ専門で、その動きについていける者がユウキ以外いない。

速さだけですら不可能に近いのだから、合わせれるユウキはその一角に立っていると言ってもおかしくはなかった。

 

「むぅ・・・そ、それは別!それで今日はどうしたの?」

 

「それがだな・・・この人・・・ユリエールさんのギルドが一人第一層の地下迷宮に取り残されててな・・・」

 

「はい・・・シンカーが迷宮内部にいるのです。元々キバオウが一対一で話したいと言いはじめてこうなったのですが・・・地下迷宮が尋常ではないほどに厳しかったのです」

 

「なるほどね~・・・それで戦力としてでもボク達なんだ」

 

「そうなの・・・」

 

「んー・・・ユキが良いならボクはいいよ?」

 

「第一層、地下迷宮、か」

 

思考の海に入ったユキはその単語から情報を探す。

数分ではあるものの、一切の音を遮断していた。

無反応、無表情になったユキにユウキが心配そうにするものの、それも聞こえてはいなかった。

 

「・・・良い。行っても」

 

「へっ?」

 

「ちょうど良いから」

 

「う、うん」

 

「本当ですか!?有難うございます!」

 

「なら、すぐ行こうか。シンカーさんがいつまで安全とは限らないしな」

 

「ん・・・」

 

第一層地下迷宮に何があるのかユキにしか分からなかったが、ユウキには薄々それが分かっていた。

それを指摘はしないが少し嫌な予感だけはしていた。

 

 



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第二十八話

第一層の地下迷宮は軍によって管理されているも、攻略はままならないものだった。

そのため攻略に見合うほどの報酬を得ることは出来ず、赤字を出す結果となっていた。

軍とて弱いわけではなく、中層では上位に入る程ではあった。

つまるどころ地下迷宮は上層、それも手慣れのプレイヤーでなければ攻略は難しいだろうと考えられていた。

 

「・・・弱い」

 

「あはは・・・ユキがいるとこんなに楽なんだもんねー」

 

ユキの《秘天剣》スキルの『自動索敵』によってモンスターの場所を特定すると『夢幻剣』による自動迎撃で処理していく。

強いて言うならばユキの頭を常に使うために頭痛と疲労があるもユウキがいるからか、そこまで気にはしていなかった。

 

「キリトさん、アスナさん。このお二人は・・・」

 

「あぁ、俺達の親友でもあるし、攻略組でも最上位に位置するプレイヤー・・・かな」

 

「紫髪の女の子が《絶剣》ユウキ。ローブを着てアバターを隠しているのが《孤高の剣士》ユキ。二人だけ揃っていても迷宮を攻略し得るんです」

 

「そんな人物が・・・有り難い限りです」

 

「・・・まあ俺達は子守だけどな」

 

キリトとアスナに課せられたのはついて来ると言って聞かなかった《ユイ》と呼ばれる黒髪の女の子と、二人の前で敵を消し飛ばしていく親友が連れてきた《ルル》という女の子。

事前にキリト達にはルルのことを伝えてあり、ユイと動揺の存在ということを伝えてあった。

 

「・・・?」

 

「どうかしたの?」

 

「索敵の反応が無くなった。もしかしたら、格上いがいる」

 

ユキのレベルはアインクラッドでも一番高く、《索敵》スキルも引っ掛からない相手がいないほどに高い。

そのユキの《索敵》が効かないというのはつまり、自分達が攻略している階層の遥か上、ということでもあった。

 

「・・・ユウキ。もしなんかあったら、キリト達と居て」

 

「・・・なんで、そんなこと言うの」

 

「俺でも、引っ掛からないのはつまり格上。ユウキじゃ、足手まとい」

 

今までの経験からユキは判断する。

元々ソロで縦横無尽に動き回るのが本領のユキの戦闘スタイルはパーティーとなると制限がかかってしまう。

ユウキと一緒にいても何も言わなかったのは、その実力に見合う所でもあったから。

 

「・・・分かった」

 

「ごめん、ユウキ」

 

「ううん。ボクが弱いのが駄目なんだよ。仕方ないって諦める」

 

一緒に戦えないことを寂しく思うも、今はユキと一緒にいれることを心底嬉しく思えるのは惚れてしまったからこその弱みなのだろうかとユウキは思った。

 

「・・・一本道。奥、明るい」

 

「ホントだ、あそこなのかな?」

 

「シンカー!」

 

その時、奥に見えたプレイヤーを見つけたユリエールが走り出す。

 

「ユリエールさん、駄目だ!止まってくれ!」

 

だがキリトの制止を聞かず走り出したユリエールは気付かなかった。

一瞬にして目の前に現れた黒い外套のモンスターに。

 

「っ・・・!」

 

それにいち早く気付いたのはユキだった。

頭の中でこの場に最適な戦闘法を模索する。

戦闘技術及び、それによる勝利への道筋を。

 

「はっあぁぁぁ!」

 

武器を一瞬で抜剣したユキは片手剣を逆手に持ち、霊想刀でその一撃を受け流す。

 

「・・・行って」

 

いつまで持つか分からない。

受け流しただけなのにユキのHPが一割削れていた。

 

「行って!」

 

「っ・・・は、はい!」

 

ユリエールが奥のエリアへと入るとユウキ達も警戒しながら入った。

分かっていたのだろう、自分達では相手に出来ないと。

キリトの《二刀流》でも分が悪いほどに。

 

「・・・あは」

 

だがユキはこの場を楽しめた。

死ぬつもりは到底なかったものの、一つ間違えれば自分は消し飛ばされる。

 

「ふふ、にゃはは」

 

《霊剣》によりユキのステータス上昇が行われる。

制限時間は5分。

それが過ぎてしまえば、ユキの負けが確定する。

 

 

黒い外套のそれはまさしく死神。

その手に持つ鎌もとても巨大であり。

到底倒すには不可能にしか思えない。

大きく振り下ろす鎌をユキは霊想刀で受け流し。

逆手に持った片手剣で一気になぎはらう。

この戦闘スタイルが元々のユキが現実世界でも使っていた。

 

「鏡花」

 

スキルアシストではなく、現実世界の技術を模写した。

元よりこの技は相手の攻撃を反射して攻撃するカウンター技。

しかし、それは現実世界だからこそ。

この仮想世界で行おうと考えるならば。

その処理速度を遥かに上回る事が必要となった。

鎌の一撃をあっさりと死神へ跳ね返すと、それだけで死神は消え散る。

そして代わりにユキに大きなバグにも等しいノックバックが襲い掛かる。

 

「あ・・・ぐ・・・」

 

凄まじい程の頭痛に、大きな疲労。

そして感覚が遠のいていく。

視覚が、聴覚が、嗅覚が。

どんどんと。

 

「ユキ・・・?ユキ!?」

 

安全を確認したユウキが泣きそうになりながらユキの元に走っていく。

今まで見たことにない苦しみ方だったからだろう。

 

「や・・・やぁ・・・」

 

初めてではないものでもユキは手足を暴れ散らす。

癇癪を起こした子供のように。

 

「やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

一際大きな声をあげると。

糸が切れたようにユキの動きがプツッと止まった。

 

「ユキ・・・?ユキ、ねぇ!ユキってばぁ!」

 

いくらユウキが呼び掛けようとも。

 

「やだよ・・・!ボクを、もう独りにしないでよ・・・!」

 

泣きじゃくるユウキに応えてくれる幼い少年は反応を返さなかった。

 

「・・・ユウキ。ここは俺がやる。ユキが何のために連れて来たのか、察した」

 

「ひっぐ・・・」

 

「だから・・・戻っておいて欲しい。ユキにこれ以上何かあれば、ユウキに何かあれば。俺達は自分を許せない」

 

「・・・う、ん」

 

ユキを優しく包むように抱き上げるとユウキはふらふらとなりながら来た道を帰っていく。

その姿をキリト達はただ静かに見守ることしか出来なかった。

 

「ねえキリト君」

 

「・・・なんだ」

 

「ユキ君がなんでルルちゃんも連れて来てたのか分かったの?」

 

「・・・ああ。おそらくこの場所は緊急的な時にGMがログインするための場所だろう。ユキは無意味なことをやるような子じゃないからな。ルルを連れて来ていたのはつまるところ」

 

「・・・あの黒盤が何かある・・・ってこと」

 

「・・・さすが、パパが信じている人です。そこまで考えを至らせるとは思いませんでした」

 

あどけなさの残る声はまさしくキリトとアスナが連れて来ていたユイの声。

そしてその隣にはルルが立っていた。

 

「キリトさん。あなたの考え通りこの黒盤はGMが緊急ログインを行う際に使うコンソールです。あの死神のようなモンスターも本来80層から設置されている物で、ここを守護するために置かれていました」

 

「ユイ・・・ちゃん」

 

「私とルルは本来このSAOには現れてはならないのです。しかし、懐かしいような物を感じました。私達を創った人に」

 

「・・・それがユキ、ってことなのか」

 

「はい。私達の創造者でもあるユキはここへ連れていけばどうにかできると思っていたのです。その結果私は記憶を取り戻し、正常な状態へと戻りました」

 

ルルは静かにコンソールを触り、キーボードを打ち込んでいく。

それを見守ると、プログラム群が書き換えられて行くのがキリトの目では分かった。

 

「私達を異物と判断、削除しようとしました。お父さんはそれが嫌だったです。だからここに連れて来た」

 

「GM権限を一部持っている私達と完全な権限を持つパパはコンソールの操作が可能です。それを使い、私達をSAOのカーディナルから切り離そうとしたのでしょう。先程ルルが行ってしまいましたが」

 

「ユイ、ルル。君達は思考がある・・・プログラムと言うことか」

 

「はい。創造理念、プログラムの構成、存在の理、その全てをパパが創ったのです」

 

「・・・そういう、ことか」

 

キリトはほうやく合点がいった。

何故あそこまで強く、知識もあったのか。

元々製作者側なのだ。

それならば全てではないが、SAOのことを知っていて当然、と思った。

 

「・・・二人は、消されたりしないのか」

 

「先程ルルの手により私達のデータ全てがパパのナーヴギアへ移動されました。不要なデータは切り離しましたがこうして存在を維持出来ていることからカーディナルには消されない、消せないようになっているはずです」

 

「そう、か」

 

成すべき事を終えたキリト達は、一度戻ることにした。

意識を失ったユキと、その恋人のユウキが気になっていたのはアスナも同様で。

パパとお父さんと慕う二人も早くその姿を見たいのだろうと。

 

 



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第二十九話

狂い、狂い、狂い。

数多くの非道な実験により擦り減りきった精神。

辛いと、嫌だと言えず。

感情を封じて甘んじて受けるしかできなかった投薬。

許容量を超える知識量を無理矢理、幼い脳へ詰め込む。

 

度重なる投薬により、異常な成長を遂げる事になる肉体は幼い少年の命を少しずつ減らす。

眠らなくても活動が出来る身体。

力を入れれば、その見た目からは考えられないほどの膂力。

計略を考えれば、常人には考えられないほどの戦略や発想を生み出す。

普通の人としてでは扱えない剣技は使いすぎれば自身の身を壊すことにもなるほど。

 

常人が受ければ発狂し、廃人になる事が決まるほどの脳のダメージを受けた少年は。

終わることがない永遠の暗闇にて意識の覚醒を拒む。

大切な少女を守りたいと考えても、行動を起こしたくても。

本能的な自己防衛が妨げ、眠りを続けていた。

 

「ユキ」

 

明るく、天真爛漫な紺色の少女。

少年が愛しく想い、自分の意思で救うことの出来た一人で。

少年の境遇を共感し、慈しもうとした彼女は。

 

暗く、覚めることのない夢のまどろみで寄り添っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苦痛の悲鳴をあげたユキを背負い、自分達の家へと帰ったユウキはベットへ寝かせると常に傍でその姿を見守っていた。

目が覚めないかもしれない、そんな恐怖を感じながらもユウキは冷たく震えるユキの小さな手を握って、身体を抱きしめていた。

 

「・・・ユ、キ・・・」

 

自分より二つ下であそこまで頑張れる事のが凄い思えると同時に、それをさせなければならなかった事も悔いてしまっていた。

 

「ごめんね・・・」

 

普段なら流す事も少ない涙が溢れるようにルビーのような目から流れていく。

 

「起きて・・・起きて、よぉ・・・!」

 

自分の我が儘だったとしても、また自分の名前を呼んでくれる小さな男の子の声が。

声変わりのなかった高めの声を聞きたかった。

 

「ぁ・・・」

 

その時、ユキの閉ざされた口から呻くように聞こえた声を聞き逃さなかった。

ピクッと冷えた指が、泣いているユウキに握られ絡められていた指に返すように、少しだけ。

 

「ユキ・・・?ユキ!起きてるの!?」

 

先程のほんの少しだけしか今日は反応はなかった。

それでもまだ生きているんだと分かったことがユウキにとってどれほど嬉しく思ったか分からなかった。

ぎゅっと強く抱きしめないように優しく。

ユキの身体を包んでいると泣き疲れからかユウキの意識はとろとろと眠気に襲われていった。

 

 

 

 

 

ユキが倒れてから、一週間近くが経ちはじめた頃。

ユウキは迷宮攻略に姿を一切見せなくなり、ユキの傍にいることを最優先にしていた。

度々ユウキとユキの様子を見にキリトやアスナがやってきたりしているが、何も変わらずが続いていた。

 

「ユキ・・・ボク、少し疲れちゃった」

 

あれからユウキはユキの元を一切離れなかった。

外を出るときはローブを自分とユキに着せておんぶをして出ていた。

それも家の近くで散歩をする程度ではあったが、時々反応を少しするときがあった。

 

「一緒に、ずっと、このまま居たい・・・な」

 

ユウキにとってユキは自分の全てを捧げても良いぐらいに大切な存在になっていた。

迷宮攻略という現実世界への帰還も二の次になるほどにまで。

親友のアスナですら手を付けれないほどだったのだから、ユウキの惚れ具合は凄まじいと言える。

 

「・・・ぁ・・・」

 

小さく、呻く声。

それを聞き取ると手を握って傍にずっと寄り添っていた。

この触れ合いもユキの心を癒すのに効果があると、何故か分かることが出来ていた。

返す反応は小さいながらも、ユウキにとっては嬉しく感じるのだから。

 

「ユキ・・・ボクはここに居るよ」

 

震えはじめた手を握りながら反対の手でユキの頭を撫でる。

ゆっくり、ゆっくりと優しく撫で付けると。

その手が止められていた。

 

「ぁ・・・ぁあ・・・」

 

それはユウキの意思ではなく。

明確な誰かの手によって止められた。

 

「ゅ・・・う・・・き・・・」

 

弱々しくなってしまったながらもその存在をユウキへ向ける人。

 

「ゆき・・・」

 

「ぉ・・・は・・・よ」

 

外は暗く、夜ということを示しており、目線だけを右上に向ければ時計も夜を示す。

それを理解してないということはユキは、未だに心身が治しきっておらず、疲れ果てている状況にはなっているということがユウキにはすぐ理解できた。

 

「まだ寝てて良いんだよ・・・?」

 

「ぁ・・・ぅ・・・」

 

ユウキに言われてか、すぐにまた眠りへと入ったユキは強くはない力で精一杯に甘えた。

 

「・・・置いて、かないで・・・」

 

少しすればユキから漏れた言葉は幼いときの記憶だろう。

家族に捨てられたユキは置いてかれてしまった。

 

「絶対に、置いてかないよ。ボクはユキと居るんだから」

 

頭を撫でながらユウキはそういうと目を閉じ、眠りについた。

 

 



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第三十話

ユウキが目覚めると側で一緒に寝ていた少年の姿がなくなっていた。

 

「ユキ・・・?」

 

今のユキの心身では戦闘をやろうとは考えないと思い、家を出て少し歩く。

ユキとユウキが暮らす二十二層はモンスターポップが一切無いため戦闘は有り得ない。

 

「ん・・・」

 

家の近くを流れる川の近くでユキは静かに座っていた。

長い黒髪が風に煽られ、涼しく感じれた。

 

「ユーキ」

 

ユウキが後ろから優しく抱きしめると少し驚いたのかユキの身体がビクッと震える。

 

「ん・・・ユウキ?」

 

「そーだよ?」

 

ユウキだと分かるとそのまま身体を預けて手を握る。

これほどまで無防備にしているのもユウキだからこそだろう。

でなければ心身共に疲れていようが警戒をしているほどだった。

 

「んぎゅ」

 

「外に出るのは良いけどせめてメッセージで教えてね?じゃないと心配なんだよ?」

 

「ん・・・ごめん、なさい」

 

「うん、よろしい」

 

ユウキは軽々しくユキを持ち上げると抱いたまま、ホームへと戻る。

メッセージには主にキリトとアスナのメールが来ており、その大体が攻略会議の進み様などだった。

つまるどころ、ユキという攻略組最強のプレイヤーの事よりもSAOの階層攻略が優先されていた。

 

「ユウキ」

 

「んー?」

 

「・・・七十五層の攻略、いこっか」

 

「・・・良いの?」

 

「ん、わかんない」

 

ユウキとしては、ここでもう少し療養して欲しくはあったものの、攻略組から早く復帰しろという声が多かったのも事実。

 

「ユウキに言っておくね。多分、リアルに戻ったら・・・」

 

「戻ったら?」

 

「この世界の僕と違うかもしれない。それでも一緒に居てくれる?」

 

「当然。ボクは言ったよ?ずっとずっと一緒にいるって」

 

強くユキを抱きしめるとユウキの胸に抱かれたユキから小さく泣き声がした。

よしよしと頭を撫でながら泣き止むまでそれを続けるとユキを離してクイックメニューから装備を変えた。

ユキも同様に装備を変えるとホームを出て鍵を閉めていく。

お互い手を握ってユキが掲げたのは転移結晶。

 

「転移、七十五層」

 

SAO最後と言われる事になる階層攻略。

その大きな要となる人物が攻略当日に復帰するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が七十五層の主街区へ転移すると迷宮攻略メンバーが集っていた。

 

「ユキ、ボクが一緒だからね」

 

「ん・・・」

 

ピタッとユウキに引っ付いており、人嫌いは治らなさそうだとユウキは思いながらとある人物を探す。

とはいってもその本人はよく目立つのですぐ見つかるが。

 

「あっ!アスナー!」

 

「・・・?ってユウキじゃない!?」

 

「ごめんね?少し時間かかって・・・」

 

「良いのよ?ユキ君の事だろうと思ったもの」

 

ユウキとユキからすれば理解者でもあるアスナとキリトは良い友人でもあり、親友だった。

攻略会議にも来なかったのは何かあるからだろうと思い、強くは言わないようにもしていたのがアスナ主導でもある。

 

「ふむ・・・二人は来れたのだね」

 

「ん・・・」

 

達観したような声はユキにとって聞き覚えのある声。

まだその時ではないだろうと考え放置していたが、ユキは決断していた。

 

(・・階層攻略後、ボス討伐なら権限使っても疲労が残る)

 

血盟騎士団ギルドマスターであるヒースクリフ。

その正体が誰なのかをユキは知り得ていた。

今までは泳がせていただけで。

 

「ユキ?どうしたの?」

 

「ん・・・何でもない」

 

今はユウキを心配させないよう、普段通り取り繕う事を優先させた。

 

「それでは、向かおう!我々の一歩が現実世界へと帰還する進歩となるために!」

 

リーダーシップを取るヒースクリフの声に攻略参加者の士気は高まるばかり。

 

「・・・絶対に死なせない。ユウキは誰にも」

 

狂った笑みを浮かべかけた稀代の暗殺者は愛しき少女を守るために、その技を奮う。

 

「よしっ、ユキ行こ!」

 

ヒースクリフによって開かれた回廊結晶の行き先は迷宮第七十五層のボス部屋前。

 

「ん・・・分かった」

 

ぎゅっと握られたその手にユキは連れていかれるも、自分自身の足も進めた。

 

 

 

 

 

回廊を潜ると大きな扉があり、そこへ参加者が集っていた。

最終的な確認を終え、各々が緊張を張り巡らせながら。

 

「キリト、アスナ」

 

「ん、なんだ?」

 

「どうしたの?ユキ君」

 

いきなり話し掛けられた二人は何だろうと思いながらユキへと振り向く。

 

「・・・ユイとルルは?」

 

「あの二人は俺達の家にいる。本当ならユキのところなんだが・・・その・・・な」

 

「・・・?」

 

「キリト!?だ、だめだよ!」

 

「・・・ユウキ。いくらなんでも寝てるユキ君に・・・ねぇ?」

 

「アスナまで・・・」

 

ユウキが焦るほどというのは気になるも二人が安全にしているのが分かると少しほっとしていた。

ユキにとってもあの二人は少し特別で、ユウキとはまた違う関係なのだ。

 

「ん・・・安全なら、良い」

 

「・・・これが終われば俺達は帰れる」

 

「キリト君?」

 

「・・・ん」

 

ユキはここで気付いていた。

キリトは一体誰の事を示して帰れると言ったのか。

このSAOにて最速の攻略法を。

 

「準備は良いかな?」

 

緊迫した空気が一瞬にして消え散り、空気が変わった。

 

「これは我々の、SAOにいる全てのプレイヤーの命運を握る戦いだ。これからを、現実世界へと帰るための掛橋へとなり得るのがここにいる全員だ」

 

 

「我々の戦いを、勝利し生きてプレイヤーへと伝えるのだ!滞った攻略をまた一歩ずつ進めるため!」

 

ヒースクリフの激励が不安へとなっていたプレイヤーを活気づける。

リーダーシップがあるというのはその指揮下にある者を如何に勇気付けるかが重要だ。

 

「行くぞ!我々の帰還を叶えるために!」

 

その瞬間プレイヤーの雄叫びが一斉に聞こえた。

それほどまでに活気づけられているのだ。

それを行えるのはごくわずかなのだろう。

 

「生きて、帰ろうね」

 

「ん・・・」

 

ユキの頭の中で何かが変わった。

ただの人としての思考から、全ての無駄を取り除き、効率的に邪魔を切り捨てる残忍な暗殺者へと。

 

「あは・・・」

 

その狂った笑みに気づけたのは誰か居たのだろうか。

古今東西、ありとあらゆる戦闘技術を身につけたユキに並ぶ事が出来るのは、誰なのだろうか。

それを知るものは誰も、いない。

 

 

 



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SAO編:現実の世界
【SAO編:帰還】第三十一話


第七十五層はアインクラッドで大きな重要を持つ。

それは遡れば第二十五層、第五十層と続く。

その意味は、アインクラッドは百層にもなる階層で構成されており、SAOプレイヤーが攻略の際、階層のボス攻略。

ユキがアルゴを経由して情報を渡しており、そのうち二十五と五十のボスはユキですら手を煩わせていた。

 

「はぁ・・・」

 

息を吐きだし、脳内の活動量を変化させる。

ただの少年から殺戮だけをする暗殺者へと。

 

「ボスは・・・どこに・・・」

 

攻略プレイヤーは七十五層のボスフロアに入ったが肝心のボスが不在。

だがユキは()()()()()

当然なのだろう。

 

「しっぺ返し」

 

いきなり空から降ってきた何かをユキは霊想刀と片手剣で打ち返した。

無論、それをしたからといって何もなかったがしなければ大きな被害を出していたのも事実。

 

「なっ・・・!?」

 

「な、なんだあれ」

 

「あんなものが・・・いたのか」

 

キリトも予想していなかったそれは、ヒースクリフをも含めたユキ以外が驚愕していた。

 

「Kyasyaaaaaaaaa!!!!!」

 

手であろう両手には死神を思わせる巨大な鎌。

そして一つ一つが刃物にも思える鋭利な足と尻尾。

 

「ザ・スカル・リーパー・・・あれがここのボスかよ・・・」

 

表示されていくHPゲージは4本。

その迫力は先程の鼓舞を無意味にもさせるほどの巨大さと恐怖を与えた。

そしてその動けなかったプレイヤーはスカルリーパーの巨大な鎌によって薙ぎ払われる。

 

「あぎゃあぁぁ!?」

 

「ぐわぁぁぁあ!!」

 

曲がりなりに攻略組に数えられる歴戦のプレイヤーが。

パリン、と。

一つ鎌が振るわれただけで消し飛んで破片へと変わった。

 

「即死・・・!?マジかよ・・・!」

 

その薙ぎ払う先にはユキも入っていた。

それをユウキが見なかったわけじゃない。

 

「ユキー!!」

 

ユキは両手に持つ刀剣をただ構える。

そして迫って来る鎌を。

 

「牙穿」

 

鎌を根本から穿ち斬った。

 

「はっ・・・?」

 

その異様な光景をただ見ていたプレイヤーはその光景に目を疑った。

自分達よりも幼い子供が目の前に迫って来る鎌を穿ち斬るのはあまりにも異様過ぎた。

 

「GYA!?SYAAAA!!」

 

自分の鎌を壊されるとは考えていなかったのか、怒りながらも残った鎌でユキではなく攻略プレイヤーへと向けた。

 

「ふん!!」

 

その攻撃をヒースクリフの十字盾が防ぐ。

だがその表情は険しく、余裕がないのだろうとわかる。

 

「私が中心にタンク隊で受け止める!その間に攻撃を重ねたまえ!」

 

その声で攻撃隊が一気に動く。

恐怖よりもユキが起こした現象のが大きく、スカルリーパーへの恐怖や不安が軽減されてしまっていた。

 

「・・・はぁ、はぁ・・・」

 

ユキは平然と巨大な鎌を穿ち斬ったが、脳への行使力が尋常ではない技で、連発すればあの時のように発狂しかねない。

 

「ユキ!大丈夫!?」

 

「だい、じょぶ・・・」

 

多少ふらつくも、ユキは武器を構えると特効していく。

己の剣技が充分通用すると分かれば加減はいらなかった。

発動させるは『鏡花の閃』。

かつてユウキとペアで攻略したときにも使ったスキル。

スカルリーパーが攻撃をしようとすればヒースクリフ率いるタンク隊により防がれ、足を動かそうとすれば攻撃隊が蓄積していたダメージで動かせなくなっていた。

つまるところ、スカルリーパーは詰みに入っていた。

 

「SYAAAAAA・・・AAA・・・・・」

 

それが続けば当然、HPゲージはなくなり。

光り輝いてパリンと破片へと砕け散る。

Congratulation!!と表情されたそれを見るとプレイヤーがどっと座り込む。

ただヒースクリフとユキを残し。

 

「・・・そろそろ、良いよね」

 

「・・・やはり気づいていたのだな」

 

「分からない、と思った?」

 

「だが、君以外にももう一人気づいていたらしい」

 

そういってヒースクリフへと突っ込んでいくプレイヤー。

その剣先が当たると紫色のウィンドウが表示され、《immortal object》。

それは不死として扱われ、ユキには当然その意味も理解できる。

 

「やっぱりか。ヒースクリフ、いや茅場晶彦」

 

「やれやれ。ユキ君はともかくキリト君達にはまだ手札を見せていないはずだがね」

 

「一番怪しかったのはプレイヤー戦だ。あまりもあんたは早すぎたんだよ」

 

「ふむ・・・やはりか。あれは私にも痛くやらかしてしまった瞬間だと感じている。その光景をユキ君にも見ていてほしかったがね」

 

ユキとユウキは療養の為、その時の事を知らない。

だが、キリトはユキと違い考え抜いてたどり着いたのだろうとユキは考える。

 

「ユキ・・・お前も、なのか」

 

「・・・」

 

キリトの問いは悲痛だった。

弟分のようにも感じれたユキが開発に関わっていた事が信じれなかったのかもしれない。

 

「・・・キリト。任せたよ」

 

ユキは一瞬にしてヒースクリフのシステムに介入。

ユキ自身が持ちうるGM権限はヒースクリフ同等で、その設定は簡単に変えれた。

 

「茅場。一思いで、良いだろ」

 

「・・・ああ。その方が良さそうだ」

 

「・・・秘剣」

 

目を閉じ、断罪を待つヒースクリフは何も構えずユキへ立っていた。

刀剣を究極にて極限の剣技を放つ構えを取る。

 

「燕返し」

 

二刀流から繰り出された不可視の一撃。

燕を斬るためだけに生み出された剣撃が二つ重なり合い、ヒースクリフへと襲い。

ヒースクリフのHPゲージが一番左端へと動き、アバターが光る。

ポリゴンへと変わり、データの破片へと変わると無機質なアナウンスが流れていく。

 

『ゲームはクリアされました』

 

突如として現れた茅場晶彦というゲームマスターは、第七十五層でその仮想体を散らしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユキが立っていたのは黄昏時の空。

落ちる事もなく、地面があるように立っていた。

 

「・・・終わった」

 

姿を隠すため身につけていたローブはなくなっており、真っ黒で綺麗な髪が風に吹かれていた。

 

「帰ったら、どうなる、かな」

 

ユキが最後に寝た部屋は茅場によって用意された部屋だが、そこは本社と近く関わりを探られるだろう。

最悪ユキは獄中で生を閉じる事にもなり得ない。

 

「・・・ま、いいや」

 

だがそれでも構わないと思った。

いまさらユキには罪悪感はなく、やりたかったからやったのだ。

それを悔いる必要はなく、それにより獄へ入ってもいいやと考えていた。

 

「・・・ん、でも会いたい、な」

 

それでも一度感じた温もりは忘れることは出来ない。

ユウキが一緒にいた時の暖かみはユキにとってとても心地好く、一番幸せとも言えるだろう。

 

「ゆう」

 

「・・・ん」

 

その願いは願う前に叶ってしまっていた。

ゆっくり、優しく手を回しユキを抱きしめていた温もりはユキがいつも感じるもので大好きなものだった。

 

「終わっちゃったね」

 

「ん・・・だね」

 

「ユキは、このゲームを知ってたの?」

 

「ん・・・うん」

 

ユキはずっと誰にも言わなかった秘密をユウキへ教えた。

知っていた、という問いを頷くとユウキはそれ以上何も問おうとはしなかった。

 

「ありがとう、教えてくれて」

 

「ん・・・べつ、に」

 

「いっぱい色んな事知ってると思ってて、不思議だっだんだ。でも知ってたなら当然だね」

 

「・・・ごめん、なさぃ」

 

「どうして謝るの?ボクが死なないように色々してたユキを怒る理由はないのに」

 

「・・・怖かった」

 

「・・・そっか」

 

年相応に怖いと告げたユキをしっかり抱きしめて、赤子をあやすように背中を叩いた。

 

「ユキ。ありがとう」

 

「ん・・・どう致しまして」

 

二人はこの世界が崩壊し終えるその時まで、ずっと抱きしめあっていた。

 

 

 

 

 

 

優紀が目を開けると病院特有の光と匂いを感じた。

 

「ん・・・ぁ・・・」

 

どことなく、表情筋が動かない。

自分の身体の異常を感じながら今の状況を目で分かる限り把握しようとした。

 

「・・・寝たきり」

 

優紀からすれば早く愛しい少女の元へ行きたかったものの、それは今は叶わないと考えた。

身体の異常に表情筋だけでなく全身の筋肉がとても衰えていたのが動かす際に分かっていた。

それは帰還する前からずっと。

 

「待っててね」

 

早く動けるように。

帰還後の目標はすぐに決まっていた。

 

 




この後は皆さん知っての通りALOですが、優紀が大暴走します。
優紀のチートっぷりが本領発揮です。


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第三十二話

閑静な住宅街、そんな場所で一人の少年が家の中に入る。

村雨と書かれた札があり、家からは寂れた物を漂わす。

 

「・・・久々」

 

少し嬉しそうな声色をしているも、その表情は全く動いていない。

 

「・・・はあ」

 

中はあの時から何一つ変わっていなかった。

協力したあの日から、何一つ。

 

「・・・」

 

想起されていくのは義理の姉と妹と過ごした日常。

それも段々掠れていて、はっきりと思い出せない。

SAOというゲームで優紀が得た事もあれば。

失っていったものもあった。

例えば、今もなお動かない表情。

自分を捨てた義理の姉妹。

発狂に等しい苦痛と疲労はそんなものを奪っていった。

唯一、優紀自身が持ちうる身体能力や演算、処理能力といったものは変わらなかったが。

 

「ん・・・」

 

少し昔を思い出していると優紀の携帯が振動を起こす。

携帯に表示された画面には『菊岡さん』とあった。

 

「・・・はい」

 

『お、出てくれた』

 

「・・・かけてきたんですから」

 

『君に言われていた事は全て終えてあるよ。その書類や手続き、そして設備も用意させてもらった』

 

「・・・はい」

 

『電話越しではあるけど、正式に君にやってほしい仕事を依頼させてもらおう』

 

「・・・内容、確認」

 

『囚われたSAOプレイヤーの原因究明、及び救出。それに従って仕事人である君には最大限の協力をさせてもらうよ』

 

「報酬、は」

 

『分かっているよ。それは公には言える内容じゃないだろう?』

 

「・・・了解。報酬が、支払われない場合、全力で潰す」

 

『おお、怖い怖い・・・期待しているよ。君には頭が上がらない立場なんだ』

 

そういうと菊岡は電話を切った。

優紀が菊岡に要求した報酬は、村雨優紀の戸籍を紺野家へと入れる、必要以上の干渉を自分とその友人や家族にしないことが挙げられた。

菊岡という人物は上の立場だと見抜いての要求で、優紀としてはこれを見逃すわけには行かなかった。

 

「・・・先に、あそこに行こう」

 

仕事をする前に、そのやる気を出すためかつて自分が入院していた病院へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

少し時間がかかったが、病院へと着くと受付へと歩く。

 

「すみません」

 

「はい、って優紀くん?」

 

「・・・はい」

 

「何か・・・ってお見舞いだったかな?」

 

「そう、です」

 

「ええっと・・・はい、これ持っていけば入れるからね」

 

「ありがとうございます」

 

ほぼ毎日のように病院に来ており、入院時から関わった人が多かった。

今回の受付の人物も優紀とは顔見知りで、今もなお病院へ来ている理由を知っている。

エレベーターで5階へと上がると23号室の扉を3回叩いた。

中からは返事がなく、優紀は扉を静かに開けるとベッドの側で椅子に座る。

 

「・・・ん」

 

ベッドで横たわるのはSAOで優紀と恋仲で結婚もした木綿季がナーヴギアを被ったまま目を閉じていた。

 

「・・・木綿季、来たよ」

 

優紀が帰還したあと、リハビリをしている途中に菊岡がやってきて現状を教えていた。

SAOサバイバーの数百人が未だ帰還しておらず、中にはアスナや木綿季も同様だった。

 

「・・・少し、少し・・・だけ」

 

木綿季に抱き着いて優紀は声を押し殺した。

病院の壁は薄く、泣き声はばれてしまう。

優紀よりも細くなってしまった木綿季の身体は不健康そのもので、力を入れてしまえば折れてしまうだろう。

 

「・・・ん、よし」

 

 

「木綿季、待っててね。頑張る」

 

優紀は名残惜しそうにしつつも、病室を後にして病院を出ていく。

そしてタクシー乗り場でタクシーに乗ると、とある場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タクシーから下りると、着いたのは東京都の千代田区にある総務省。

神奈川県に住んでいる優紀にとってタクシーの料金が凄まじいが、その料金は経費で落とすことにしたようだった。

本来ならば優紀が総務省の内部に入ることはないが依頼のため仕方なくだった。

 

「・・・はあ」

 

「・・・?そこの僕。ここに何か用かな?」

 

「・・・ここで、会いたい人が居るんです」

 

「ふむ・・・どんな人なのか聞いて良いかい?」

 

「菊岡誠二郎っていう眼鏡の人です」

 

「菊岡さんのお客さんは聞いているよ。恐らく君の事だろう。分かった、案内しよう」

 

たまたま役人が近くを通っていたのが運が良かった。

優紀からすれば内部に入る方法も知っている容易くはない。

菊岡という人物も立場は上と考えれば易々と名を出すべきか悩まれる。

 

「しかし菊岡さんが言ってた協力者が君みたいな子供だとは・・・世の中はわからないことだらけだ」

 

「・・・そうですか」

 

「菊岡さんが捕まえて来る協力者にハズレはないんだ。今までもね。だから今回のは少し予想外だ」

 

こういった会話でも優紀は最低限しか喋らなかった。

この手でも情報を聞き出そうとするからだ。

それを知っており、差し当たりのない会話で済ませると菊岡の姿が見えていた。

 

「お、きたきた。やあ、優紀くん」

 

「・・・どうも」

 

「菊岡さん、今回の事件、この子に任せるつもりですか」

 

「ああ。正式に依頼で雇っているから報酬もださないとだけどね。それでもその価値がある」

 

「・・・まあ、これ以上は聞かないでおきます。頑張って下さい」

 

案内してくれた役人はさっとどこかへ行くと菊岡はこっちだよと案内する。

その案内の部屋の中には数十人ほどおり、扉の札には仮想課とあった。

 

「さて優紀くん。お願いしても構わないね?」

 

「ん・・・条件」

 

「・・・まさかあれ以上にかい?」

 

「・・・ある程度、ハッキングするから邪魔しないで」

 

「なるほど・・・分かったよ。結果を出せたら教えてほしい。原因究明を纏めないとだからね」

 

「・・・ん」

 

優紀は用意されたパソコンを立ち上げると何があるのかを一通り調べた。

基本的には問題のない物で、使い勝手は悪くはなさそうだった。

 

「・・・まずは、サバイバーから、か」

 

調べるは、まずSAOサバイバー。

その情報と繋がれたナーヴギアからの逆探査を行うべく天才が動き出した。

 

 

 



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第三十三話

依頼を受け数週間。

カタカタと夜中に一人、パソコンが出す人工的な光でキーボードを叩き、目を凝らしていた。

 

「・・・これ、か」

 

優紀がずっと探していた情報。

何故SAOサバイバーが今もなお目を覚まさないのか。

SAOのプログラムを作っている優紀はその大部分をしっかり作ってあった。

ゲームクリアによる帰還のプロセスは、ゲームクリアによる仮想体から現実世界の体へと意識を戻す際にはナーヴギアによって止められた脊髄を戻す機能が必要となる。

だがSAOサバイバー全員にはその機能が正常に作動しているのにも関わらず帰還がされていない。

それを不思議と思った優紀は、一度ナーヴギアごと精査することにした。

精査するナーヴギアは木綿季のをさせてもらえることとなり、木綿季の家族にもその許諾を貰い解析をした。

その結果が優紀の目の前のパソコンに全て映し出されている。

 

「・・・第三、第四のプロセス・・・書き換え?」

 

SAOの大元となっているカーディナルシステムは優紀によって作り出されている。

そのプロセスやプログラム郡は全て記憶しており、茅場には一切触らせていないのだ。

なのにも関わらず一部プロセスが変わっているために帰還が出来てないことが分かった。

 

「・・・と、なると」

 

一つの可能性を考え、とある会社を検索する。

それはレクトと表示されたものだった。

現在SAOサバイバーのナーヴギアを引き受けているのはレクト社で、そこに何かあるのではと考えた。

表面上は普通のサイトではあるが、カチカチとマウスを動かすと裏のサイトへと繋がった。

 

「ん・・・」

 

強固なプロテクトが張られていたが優紀の前では無いも同然の防御なので、細工をしてばれないよう侵入する。

 

「・・・実験?」

 

実験と書かれたデータには、暗号文章で書かれていた。

それを一つ一つ解読をしていく。

 

「思考、感情、操作・・・自己の形成」

 

そのデータにはかなり最近のもので数時間前にも更新がされていた。

内容は残虐で、数百人の脳を解析し、その意識に刺激を与えることでどのような結果を得れるのかという実験結果だった。

 

「数、サバイバーと同じ・・・?という、ことは」

 

裏サイトのレクト社を一度、大解析した。

少し時間がかかっていたが、結果としても充分な物で。

帰還するSAOサバイバーをアーガス社に入る前にレクト社のサーバーに一部介入するように改造されていた。

 

「・・・なるほど、ね」

 

あまりにもお粗末で、粗雑だった。

これほどの実験を行うのなら強力なプロテクトに加え、データはすぐに処分すべきだった。

結果として逆探査による情報を全て引き出せるのだからお粗末といえるやり方だった。

 

「・・・こんなので、木綿季が」

 

くだらない、と思いながらも優紀は資料へとしていきながらパソコンと向かい合っていた。

 

 

 

 

 

クリアファイルの中の資料をしっかり確認し終えると、携帯で依頼人を呼び出す。

時間はいつの間にか朝方になっており、ちらほら仮想課の人員が出勤しに来ていた。

 

『や、やあ。おはよう』

 

「・・・どうも」

 

『どうしたんだい?こんな朝早く』

 

「警察の手配。一気に取り押さえれるぐらいで、レクト社に送って」

 

『・・・それは確証を得れた、ということかな』

 

「そう、言い逃れなんて、させない。既にデータも取って、記憶もした」

 

『・・・君だけは敵には回したくないな。国としても』

 

電話を切られると、優紀は使ったパソコンを落として総務省を出る。

さすがに子供の優紀が中にいる事を不思議に思ったり怪しんだりしていたが、すぐに立ち去ったので気にはされなかったようだった。

 

「ん・・・」

 

携帯を突如取り出し、以前記憶した電話番号をかけると数コールしてかかった。

 

『はい、桐ヶ谷です』

 

「・・・桐ヶ谷和人さんは、いますか」

 

『あ、は、はい。すぐに変わりますね』

 

電話に出たのは女性で少し幼さがある声だった。

年齢は中学生か高校入りたてだろうかと思いながら待っているとすぐに相手が変わる。

 

『変わりました、桐ヶ谷和人です』

 

「・・・」

 

『あの、もしもし』

 

「もうすぐ、帰還する。病院行ってると良い」

 

『どういう意味だ?』

 

「・・・じゃ」

 

ぶつっと電話を切ると今度は電話がかかってくる。

菊岡と表示されていたので準備が出来たのだろう。

 

「・・・はい」

 

『言われた通り準備は出来た。捕まえる人物は須郷伸之だね』

 

「ん、そいつの裏を探す。それに携わった人物も全員」

 

『出来なかったら?』

 

「・・・さあ」

 

『確たる証拠を残さない君にされてしまうと事を吐かせる人物も減るから確実に捕まえさせてもらうよ』

 

「情報、転送してある。気が向けば見たら良い。これで仕事は終わり。約束は遵守」

 

『飛躍しまくるね・・・分かった。協力感謝するよ』

 

それで電話が切られると、優紀はタクシーを捕まえて病院へと急ぐ。

 

「横浜総合病院まで」

 

運転手は聞き間違えかと思いながらも何も言わないからか、言われた通りの病院へ車を走らせた。

 

 

 

 

 

かなりの時間がかかったが、自分の住む街へ戻った優紀はすぐに病院内へ入る。

 

「あの」

 

「ああ、優紀くんか。いつもので良い?」

 

「はい」

 

「んーっと、はい。お見舞い行ってらっしゃい」

 

「ん・・・」

 

いつもの受付で優紀は5階へと上がると23号室へと向かう。

少し病院内が騒がしく感じるも、無視して中へと入った。

ベッドには寝たきりの木綿季がいた。

前に見たときと変わらずに。

 

「・・・まだ、かな」

 

報告をして、この場へ来る時間。

どれだけ早く中を制圧しているのかによるが、優紀の計算ではもうそろそろ終わっていてもおかしくはないと考えていた。

 

「・・・木綿季」

 

木綿季の手をぎゅっと優しく握ると疲れていたのか、優紀の視界がぼやけていく。

 

「ぁ・・・れ?」

 

総務省で、最低限の栄養を取りつつもデータの優先をしていた為に優紀に今1番足りないのは睡眠。

不眠不休で出来るほどまだ優紀の身体は出来ていないのだ。

常人離れした身体があっても、幼過ぎる。

 

「ぁ・・・ぅ・・・」

 

パサッと力尽きたように優紀は寝てしまった。

それでも手に握られた木綿季の手は離さないと言うように。

 

 

 

 

 

ひんやりとした風が優紀へと当たっていくと、目が覚めたのか優紀の瞼が開いていく。

 

「ん・・・ぅ・・・」

 

身体を起こすと何かが落ちていて、それを持ち上げると毛布だった。

寝てしまった優紀に誰かが毛布をかけていたのだ。

 

「今、は・・・」

 

「・・・ゅ、ぅ」

 

小さくか細い声で、掠れていたが優紀の耳には聞こえていた。

ゆう、と呼ぶ人は世界で一人しかおらず。

 

「ぁ・・・ぁ・・・!」

 

ベッドには横たわっていた人物はおらず。

優しい表情で風に吹かれながら優紀を見詰める少女がいた。

 

「・・・こ・・・ぇで、ぃや・・・」

 

頑張って声を出そうとしているが、身体機能が落ちているからか喋り方がたどたどしく、掠れていた。

 

「木綿季、木綿季!」

 

倒れない程度に優紀は飛び付くと小さく嗚咽を鳴らす。

ずっと、待ち続けていた愛しい少女が。

帰ってきてくれたことがどんなことよりも嬉しかったのだ。

 

「良かった・・・良かったぁ・・・」

 

帰ってきて来るだろうと高を括っても。

不安しかなかった。

失敗すれば、間違えれば。

二度と帰ってこなく、会えなくなるのかもしれない恐怖も確かにあったのだ。

 

「ょ、し・・・よ、し・・・」

 

SAOの時よりも細くなった腕でも、優紀をあやすときにしてくれたものは一緒で。

それがなにより安心できていた。

 

「ゅ、き」

 

木綿季がまたそう呼べば。

抱き着いて泣いていた少年から嗚咽は聞こえず。

小さく安心しきった表情でまた寝てしまった優紀を優しく抱きしめて少女もまた寝付いた。

 

「ぁ、り・・・が、とぅ」

 

いま木綿季が言える言葉。

それだけが優紀に言える一番の物だろう。

 

 

 



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第三十四話

木綿季が現実世界へ帰還して一ヶ月ほど。

全国の病院から未帰還のSAOサバイバーが続々と帰還していっており、未だ目を覚まさない人も遅れてだが目を覚ましていった

優紀によって暴かれていったレクト社の裏は警察により完全に抹消された。

その報奨金として優紀の通帳に0が十数桁行くほどには。

 

「ん・・・」

 

また優紀による協力の条件によって優紀本人と友人や家族にはマスコミや警察関係者が来ることはなかった。

それは優紀の過去に大きく触れかねない事もあるために国家側も手を回していたからだろう。

 

「うんしょ・・・うんしょ・・・」

 

「・・・頑張れ、木綿季」

 

いま優紀はリハビリ室にいる。

それは木綿季のリハビリのお手伝いと同時に歩行能力が推定基準を超えているかの試験的な意味もあった。

 

「よい、っしょ・・・!」

 

誰の手も借りずに補助棒無しで決められた距離を一人で歩けることができれば木綿季はリハビリが終わる。

その最後のリハビリとも言える距離を歩き終えるとその時間を看護師が計測していた。

 

「うん、木綿季ちゃんの歩行能力は充分回復したと思うわ。だけれど検査の結果がまだ出ていないのがあるからそれ次第で退院をしても良いでしょう」

 

「本当!?やったー!」

 

幼いときに難病とされたAIDSを患ったからか、リハビリの熱心さが尋常ではなかった。

優紀に匹敵するほど早く、看護師や専門医が驚くほどに。

 

「優紀、もうすぐ退院出来るって!」

 

「ん・・・だね」

 

「それでね、その・・・ボクの事なんだけど・・・」

 

「・・・?」

 

「保護者、なんだけどね。ボク達は子供だから。一人暮らし出来ないんだ・・・」

 

「・・・あの人に頼む」

 

優紀は携帯を取り出して電話をかけた。

数回ほどコールが鳴って電話に出た。

 

『はい』

 

「・・・久しぶり。姉さん」

 

『っ・・・』

 

電話をかけた相手は優紀の義理の姉だった絢音。

まさかかかってくるとは思っていなかったのか、躊躇いが電話越しでも感じ取れた。

 

「・・・話したいこと、ある」

 

『・・・分かったわ。あの子も?』

 

「・・・好きにすれば」

 

『・・・そうするわ』

 

ぶちっと切られると優紀は少しため息をついた。

縁を向こうから一方的切っているため絢音からすれば気まずいのだろう。

それをずっと声色で分かっていた優紀はどことなく嫌な感じがした。

 

「優紀・・・今のお姉さん?」

 

「ん・・・元、ね」

 

「その人になってもらうの・・・?」

 

「そうするしかない。姉さんなら他よりまし」

 

「・・・そっか」

 

「・・・会って来る、ね」

 

「うん。気をつけてね?」

 

 

 

木綿季と別れると、かつての家に帰った。

お腹が途中で空いたので買い食いなどをしつつも手早く帰ると車が止められていた。

鍵はかかっていなかったので、玄関の扉を開けるとリビングで絢音が座って待っていた。

 

「久しぶりね、優紀」

 

「ん・・・」

 

「それで話は何?」

 

「・・・保護者になってほしい」

 

「そんなことだろうと思ったわ」

 

「それと・・・」

 

木綿季とその姉もと言おうとして喉が詰まった。

優紀と絢音は関わりが義理でもあったからこそ。

木綿季とその姉は優紀を介する事になり、直接的関わっていない。

保護者というのは面倒な物であり、保護する人物が多いほど責任も増える。

 

「・・・言いなさい」

 

「・・・でも」

 

「あなたの事になるなら苦じゃないわ。本意じゃないとはいえ見捨てたのよ?」

 

「・・・もう二人ほど、保護者になってほしい・・・」

 

「・・・誰?」

 

「恋人、と恋人のお姉さん・・・」

 

「どうして?親は居ないの?」

 

「っ・・・」

 

「そんなことが言えないのなら無理よ。どこの馬の骨か分からない子供の保護者になるのは易いことじゃない。それぐらい分かっているでしょう?」

 

「・・・」

 

世界ではAIDSによる特効薬が配られている。

日本でも同じだが、その偏見が無くなるとは限らず、未だ偏見を持つものもいる。

絢音相手にそれを言っていいのかと考えていた。

 

「訳あり、なんて貴方に比べたら可愛い物よ?容易い事じゃないのだけれどお母さんは断固として曲げようとしなかったもの」

 

「・・・AIDS」

 

「AIDS・・・?」

 

「元AIDSの患者、だから。偏見されると、思った」

 

「・・・確かにね。だけど治る病気になったのよ?気にしないわ」

 

「・・・本当?」

 

「ええ。だけど・・・戸籍とか色々あるからすぐは無理ね・・・」

 

「・・・任せて」

 

優紀は携帯で電話をかける。

相手は腹黒の役人眼鏡と表示されている。

 

『菊岡です』

 

「ん、どうも」

 

『おや、優紀くんじゃないか。何かあったかい?』

 

「報酬の件。変更」

 

『内容は?』

 

「身元引受人が出来た。その人が保護者になるよう、俺と紺野家をやって」

 

『・・・内容は対して変わらないね。分かった、報酬の増減を感じさせないものだからやっておこう』

 

「ん、それじゃ」

 

ぶつっと切れると優紀は絢音に向かい合う。

 

「裏で多分、終わる。やらないと、だめなのは印と自筆記入だけ」

 

「・・・誰にかけていたのか聞かないわ。でも気をつけなさい?」

 

「ん・・・分かってる」

 

絢音は優しく優紀の頭を撫で上げると立ち上がってぎゅっと抱きしめた。

 

「ぁ・・・」

 

「・・・ごめんなさい。一人にしてしまって」

 

「ん・・・」

 

優紀が捨てられて以降の抱擁は久々だった。

義理でも、絢音という姉は誰にも変えれない。

 

「木綿季さん、だったわね。いい子を見つけたね」

 

「う・・・」

 

「SAOで会ったとき、貴方を絶対離さない、誰にも渡さないっていう強い意思を感じたわ。それほどまで想われるというのはね、難しいことなの」

 

「ん、そう、だね」

 

「もうすぐ、退院するのかしら?あの子は」

 

「うん」

 

「なら、電話を寄越しなさい。迎えに行ってあげる。夜々は・・・しばらく無理ね。癇癪起こして手を付けれないわ」

 

「・・・そっか」

 

「いつか会うことになるのよ?優紀が嫌なら考えるけれど」

 

「ん・・・別に」

 

「そう・・・」

 

数分ほど優紀を抱きしめると、すっきりとした表情で絢音は玄関へ向かった。

 

「この家は優紀の物になっているわ。玄関の鍵は貴方と私しかないから、合い鍵は作っておきなさいね」

 

「・・・うん」

 

「それじゃ、またね」

 

「うん、また」

 

絢音が家を出ると優紀はリビングのソファーで寝転んだ。

昔はこのソファーで寝てしまうことがあったのを思い出していっていた。

それでも断片的で、全てを覚えているわけではない。

だけどキーとなる何かがあればそれを思い出せそうな、そんな気がした。

 

 



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第三十五話

絢音との話から数日。

優紀はいつも通り病院に行こうとするが、その前に絢音に電話をかける。

 

「ん、姉さん」

 

『優紀?どうしたの?』

 

「今日、迎え来れる?」

 

『今日は・・・予定も仕事もないわ。今からなら・・・』

 

「病院。横浜の総合病院に来てて」

 

『横浜総合病院ね・・・分かったわ。先に木綿季ちゃんに説明しておきなさいね』

 

「ん・・・」

 

ぶつっと切られると優紀はすぐに支度して家を出る。

優紀の所有物となっている家はかつての家族と過ごした思い出が少なからずあるからか、優紀の手により綺麗さっぱりと掃除されていた。

 

「・・・行ってきます」

 

今日の日は強かったのか、優紀はフードを被って長袖の恰好をしていた。

長い黒髪は慣れているからか、フードの中に綺麗に入るよう纏められていたが。

 

「・・・は、ふ」

 

季節は秋ほどで、肌寒い感じ。

日差しが強くなくとも長袖を着るには充分なほどではあった。

 

「・・・早く、会いたい、な」

 

昔の自分では考えれなかっただろう幸せを。

人に頼る、人に甘えるというのは単純に恥ずかしい気持ちがあるも優紀を真っ向から愛してくれた少女らば叶えれる。

 

「・・・ん、えへへ」

 

フードで表情こそ見えにくいが、普段無表情の優紀は珍しくだらしなく木綿季の事を考えていると幸せに満ちていた。

 

 

 

 

 

普段と変わらない足の早さで病院へと着くと、停車場には絢音の車と思えるものが停まっていた。

 

「・・・遅い」

 

「・・・ごめんなさい」

 

「全く、十分ほど待ってしまったのよ。これならああたを迎えに行けば良かったわ」

 

「・・・うん」

 

「まあ、来たことだし木綿季ちゃんを連れてきなさい。待ってるんでしょう?」

 

「姉さんは、来ないの?」

 

「・・・来てほしいなら、着いていくわ」

 

「・・・お願い」

 

義理の姉である絢音と木綿季達は長い付き合いになるはずだと優紀は思った。

それならば今からでも仲良くしてほしいというのが優紀の考える理想。

 

「あら、優紀くん。あの子のお迎え・・・かな?」

 

「ん、はい」

 

「手続きはもう終わっているから大丈夫よ。しっかり連れて帰ってあげてね」

 

「ありがとう、ございます」

 

いつも通り入るためのカードを受け取ると病院の5階へ上がる。

23号室が木綿季の病室。

3回ノックすると中から元気の良い返事が聞こえた。

 

「はーい!」

 

「ん、木綿季」

 

「あっ、ゆうー!」

 

優紀の姿を確認すると同時に木綿季が飛び付く。

毎日のようにお見舞いで来ているがそれでも木綿季にとっては常に居たいのが本音。

面会時間を過ぎると優紀は帰ってしまうため一緒にいれる時間は少なかった。

 

「よし、よし」

 

「にへへ、ゆう~」

 

「甘えん坊の恋人同士だと甘々ね」

 

「ぁ・・・」

 

「あっ・・・ご、ごめんなさい」

 

「構わないわ」

 

少し呆れた様子ではあるが、優紀が幸せそうにしているからか余り咎めなかったが。

 

「一応自己紹介はしておくわね。私は村雨絢音。村雨家の長女で、優紀の義理の姉よ」

 

「紺野木綿季です・・・!」

 

「・・・SAOの時とは大違いね貴女」

 

「あはは・・・」

 

「木綿季、今からお姉さん呼べる?」

 

「ちょっと待ってね。電話かけないと・・・」

 

木綿季が引き出しから自分の携帯を取り出すと自身の姉に電話をかけた。

すぐに繋がったようで、ちょっと話をするとすぐに終えた。

 

「今家にいるみたい。とは言っても・・・あの家は親戚に権利があるから・・・」

 

「ん・・・家、一緒住む?」

 

「へっ?」

 

「・・・優紀、もう少しかみ砕いて話しなさい。それでは木綿季ちゃんが理解しきれないでしょ?」

 

「ん・・・」

 

「木綿季ちゃん。よく聞いてちょうだいね。今優紀が暮らす家なのだけれど、その所有権は優紀が持っているの。部屋も余ってるから木綿季ちゃん達が住むにはちょうど良いでしょう?」

 

「え、えと。良いんですか?」

 

「既に優紀が色々と手を回したおかげで、木綿季ちゃんとそのお姉さんの保護者は私になっているの。親戚の方にお世話になるなら強制はしないけれどね」

 

「ゆ、ゆうは・・・良いの?」

 

「ん・・・構わない。嫌なら言って」

 

木綿季は少し考えるも、すぐに決めて一緒に住むと言った。

木綿季曰く姉も着いてくると言うと言っているのでメールでその旨と住所を送っていた。

 

「さて、木綿季ちゃん。まずは着替えましょうか」

 

「は、はい」

 

「ん・・・出てる、ね」

 

木綿季の裸は見たことがあるとはいえ、躊躇なく何度も見るものではないと優紀は病室を出ていく。

 

「あ、あの絢音さん」

 

「ん、なにかしら?」

 

「ボクの服・・・家にあるんです」

 

「大丈夫よ。優紀が見繕ったものがあるから好きに着なさい」

 

「は、はい」

 

SAOの時に優紀と一緒に寝ているために、その体型を全て把握されており、2年後の体型も演算し推測されるもので様々な服を買っていた。

 

「ふぅん、あの子も良いセンスあるわね」

 

「そ、そうですか・・・?」

 

木綿季が選んで着たのは暖かい服装でありながら、動きやすいものを。

活発なのはSAOの時に知っているためにリアルでも同じだろうと動きやすい服装も買っていたのだ。

 

「うん、良いわね。充分可愛いわ」

 

「ありがとうございます・・・」

 

「ほら、行くわよ。新しい貴女の家へ」

 

絢音が木綿季の荷物を持つと、病室を出ていく。

看護師が木綿季の事を見つけると退院を祝っていたり、優紀との関係を温かい目で見守っているものなど様々。

 

「木綿季」

 

「うん?」

 

「似合ってる。可愛い、よ?」

 

「・・・えへへ」

 

優紀が少し照れつつも褒めてくれた事に木綿季は嬉しがりながら優紀の手を握る。

木綿季のが歳は上でお姉さんなのだ。

しっかり者として、彼女として優紀をしっかり守ってあげたいと同時に甘やかしたいという気持ちもあった。

 

「イチャイチャしないの。家についたらたくさん出来るんだから」

 

「あ・・・ごめんなさい」

 

「ん、手握ってる、だけ」

 

「木綿季ちゃんの事しっかりしなさいよ?私は出張業だから長く帰れない日もあるのだから」

 

「ん、分かってる」

 

荷物を車にしまって、中へ入ると優紀の隣に木綿季が座る。

車の中は程よい温度で優紀は木綿季の膝にこてんと頭を預けると目を閉じた。

 

「ゆう・・・?」

 

「寝かせてあげなさい?木綿季ちゃんなら分かるだろうけれどね」

 

「・・・そう、ですね」

 

「あと敬語はなくても良いわ。呼び方も好きにしなさい。保護者とはいえ義理の姉のような感じになるのだから」

 

「・・・はい、あ・・・う、うん」

 

「それじゃ車出すわよ。着いたら起こすから寝てても良いからね」

 

少し冷たいように話す絢音の言葉には優しさと心配が混じっているのが木綿季には分かった。

優紀の事を案じると同時に恋人でもある木綿季も心配しているのだ。

 

「ふぁ・・・」

 

膝の上で寝てしまった優紀を起こさないようにしつつ、木綿季も暖かい気持ちでうとうとと眠りについた。

 

「・・・さて、行きますか」

 

車のエンジンをかけると温度をちょうど良いぐらいにして自分達の家になる我が家へと車を走らせて行った。

 

 



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第三十六話

乗用車が少し大きめの家へと着くと、駐車場に車を止めると後部座席で寝てしまっている義弟妹を起こす。

 

「着いたわよ。起きなさい二人とも」

 

絢音の呼び掛けで優紀はすぐに目を覚ました。

木綿季はまだ夢の中にいるのか目を覚まさなかったので絢音が抱っこして家へと入る。

 

「ん、姉さん。部屋」

 

「部屋数があるけど・・・一緒の部屋にするべきか別部屋にするべきかなのよね」

 

「ん・・・」

 

「普通に考えれば別部屋なのだけれど・・・あなた達SAOでしてそうだもの」

 

「何を?」

 

「・・・まあ、出来ないように対策はしなさい。責任を取れるほど経済力があるわけじゃないんだから」

 

「ん・・・分かった」

 

「とりあえず優紀の部屋に運んでおくわね。あの部屋は他に比べて大きめだもの」

 

優紀の部屋は元々二部屋を壁を破壊して統合されているため大きい。

ベッドも優紀と木綿季が二人一緒に寝ても問題ないぐらいの大きさではあった。

 

「さて、と」

 

木綿季をベッドに寝かせた絢音は荷物を部屋に置くとすぐに家を出た。

 

「優紀。私は一度夜々の様子と明日の仕事の準備があるからしばらく帰れないわ」

 

「ん、分かった」

 

「もし何かあれば電話寄越しなさい。姉らしいことは何も出来ないけれど心配だから」

 

「ん・・・」

 

「それじゃあ行ってくるわ」

 

「行って、らっしゃい」

 

小さく手を振ると車に乗ってどこかへ走らせていった。

その光景を見届けると優紀は玄関の扉を閉めて鍵をかけると優紀の部屋とは別に置いてある荷物を片付けていく。

 

「んしょ・・・」

 

だが片付けしていくと立ちはだかるのは戸棚。

優紀の身長は平均男子の身長よりも低いため、高い戸棚は天敵といえる。

 

「ん・・・」

 

だが優紀にはどうしようもないので安全な他の棚に置くことにした。

荷物自体は簡単にしてあるので洗濯物を籠にいれたり、軽く掃除をこなすと疲れたのか欠伸が軽く出ていた。

 

「ん・・・ふぁ・・・眠い」

 

優紀は少しふらふらしつつも自室へ入るとベッドに潜り込む。

ベッドの中に暖かい温もりがあったので優紀はそれに抱き着くとすぐに眠りについた。

ぎゅーっと離さないよう、それでも優しさを感じる抱きしめ方は優紀の無意識ではあったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優紀がうっすらと目を覚ますと頭を優しく撫でられている感触があった。

木綿季が抱きながら優紀を撫でていたのだ。

 

「ん・・・ぁぅ・・・」

 

「ゆう?起きた?」

 

「ん・・・」

 

起きている意思表示に優紀は頭を木綿季にスリスリと擦る。

 

「ふふ。可愛いなあ・・・ゆうは」

 

愛おしく優紀を見つめる木綿季の目はルビーのように紅い。

それと同じく木綿季の頬は少し朱く染まっており、目は少し潤んでいた。

 

「ん・・・木綿季。なんか、あった?」

 

「えへへ・・・姉ちゃんがね、来るの止めるんだって」

 

「なんで?」

 

「ボクと優紀の仲を壊したくない・・・だってさ。姉ちゃんはいつもボクの事優先だから・・・」

 

「・・・お姉さん、お家、は?」

 

「多分・・・親戚かも。あまり良い思い出ないなあ・・・」

 

「・・・大丈夫?」

 

優紀の心配そうな目に木綿季は少し微笑むと大丈夫と言った。

優紀が寝てしまった後、木綿季は起きて状況を理解すると起こさないようにしつつ木綿季は姉と連絡をとっていた。

親戚には絶対頼らないという意思は姉妹変わらないようで、信頼できる人の家に住まわせてもらうとの事だった。

 

「木綿季」

 

「んう?」

 

優紀に呼ばれると木綿季の唇が優紀の唇と触れ合う。

お互い柔らかい感触で優紀が舌をちろっと出すとつんつんと木綿季の舌先を突く。

 

「ん・・・ぁ・・・」

 

「れろ・・・あむ・・・」

 

木綿季の口の中を堪能した優紀は味を占めたのか口元が少し歪んでおり、嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「あは・・・♪」

 

優紀の元々持ちうる才覚とも言える愛しい人に対する愛情は重く強い。

それを平然を受ける木綿季もまた重い愛なのだが。

 

「来て・・・」

 

「ん・・・♪」

 

すっかりだらしなくとろんとした木綿季は、二人が満足するまでその行為が続いていた。

 

 



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第三十七話

 

「学校?」

 

「ええ。あなた達、義務教育終えてないんだもの」

 

優紀の義姉である絢音から言われたそれは、優紀にとっても木綿季にとってもあまり、良い思い出はないだろう。

木綿季がいじめられていた学校のせいで印象が良くないのだ。

 

「もしくは・・・あるところに勤める、っていう方法があるわ」

 

「ん・・・どれ?」

 

絢音が優紀達に見せたのは封筒がされている書物。

優紀がそれを受け取り、封を切ると中からはいくつかの紙が出てきた。

 

「ん・・・」

 

七色・アルジャービンという人物が優紀達を雇いたいという旨で、仕事内容、勤務時間など様々な事が書かれていた。

 

「その七色ってのは科学者で、どこからか聞き付けたのか優紀達を引き込みたいらしいのよ」

 

「・・・そう」

 

「え、えとお姉さん。これってボクも・・・?」

 

「そうでしょうね。じゃないと優紀を釣れないもの」

 

「姉さん。会って、話したい」

 

「良いわよ。向こうも予定が今は空いてるらしいから明日ぐらいで構わない?」

 

「ん・・・いい」

 

「学校に関しては任せるわ。行きたいのなら言いなさい。ただし木綿季ちゃんも巻き込むのならそれ相応にね」

 

「ん・・・」

 

絢音はそれを言うと家を出て行った。

今からも仕事があるのだろうと察した優紀は何もいわず、七色と呼ばれる人物を調べた。

 

「ん・・・天才、科学者」

 

優紀が知るかぎりの天才科学者は萱場晶彦という科学者だ。

サイト上では七色は仮想現実に対する研究を重ねているようだった。

しかし仮想現実を可能にした自立コンピュータのカーディナルシステムは解析が出来ていないためにそれ以上の研究が出来ていなかったようだった。

カーディナルシステムを作り上げたのは優紀自身で、そのデータはサーバーへ上げられておらず、優紀の頭の内部で記憶されているためにどこにもカーディナルの根本が流れていない。

 

「ゆう」

 

「ん・・・?」

 

「七色っていう人に会って、どうしたいの?」

 

「分からない」

 

「・・・そっか」

 

「でも、気が向いたら、手伝うのは、やぶさかじゃない」

 

素直に言わなくとも木綿季にはその意図が伝わっているために、クスッと笑われると優紀は頬を膨らませた。

 

「ふふっ」

 

「むぅ」

 

「ボクも手伝うからね?」

 

「ん・・・分かった」

 

その時、木綿季のお腹から音が鳴る。

小さく可愛い音だったが、顔を真っ赤にして俯く。

 

「・・・ん、おなか、すいた」

 

「だね・・・」

 

「・・・作る」

 

優紀の家事能力はその辺の主婦顔負けの手腕のため、木綿季は出来るのを待つだけ。

最初こそ木綿季も手伝おうとするが、手慣れた動きに自分がそれを見て学ぼうとしていた。

 

「慣れてるね」

 

「ん・・・」

 

「ボクも出来るようになりたいなぁ・・・」

 

「木綿季は、そのまま、がいい」

 

「えーっ・・・」

 

「ん・・・」

 

そう言いつつも木綿季の手料理ならば優紀は容易く食べるが、それは敢えて言わない。

木綿季が家事をやるようになれば優紀の普段の日課がなくなるのだ。

 

「出来た、よ」

 

てきぱきと作られた料理は良い匂いを醸し出しており、木綿季はもう我慢出来なさそうだった。

 

「美味しそう~・・・」

 

「ん、いただきます」

 

「いただきますっ」

 

いち早く木綿季は箸を動かしご飯を食べる。

口に入れた瞬間とろけたような表情になり、美味しそうに食べていた。

 

「ん~・・・美味しい!」

 

「ん、良かった」

 

普段通り作っている方法で料理を作ったとはいえ、自分以外に食べてもらうのは気恥ずかしさがある。

 

「ん・・・美味しい」

 

誰かとご飯を食べるのはこれほど味が変わるのだと分かると優紀はもう独りでは食べれなくなりそうだと思った。

 

「ごちそーさま!」

 

「っ、早い」

 

物の見事に木綿季は完食しており、満足そうな表情だった。

これほどまで喜んでくれるのなら優紀としても作った甲斐はある。

 

「・・・うん」

 

 

ーーー木綿季がいるだけでこんなに世界が変わるんだ。

 

そう考えれる思想に限界なんてなかったのだろう。

非人道的に身体を弄られた優紀は人としての在り方をまた助けられていたのだから。

 

 



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