道化師†無双 (黒猫γ)
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プロローグ

はじめまして。
ノリと勢いで書き始めたものなので温かい目で見てもらえると幸いです。

亀更新になりそうですが、つづけていきたいですね~。

誤字脱字の報告等よろしくお願いします。


 

 

 

 

 

その男は汜水関から反董卓連合を見渡しながら笑っていた。

 

「ハハハハハ、見てみろ!洛陽を守るためにある汜水関にこれまた漢の臣たる者がこれだけ集っている。それも皆自身の私利私欲のためときた。これほどの数を見ると笑いしか出てこないものだな!」

 

「笑うてるとこ悪いけど、これからその連合と戦うのはうちらなんやで…」

 

男の少し感性のずれた笑いに辟易しているのは張遼。袴のような服装に胸に巻いたさらしと見た目だけなら露出の大きい服装をした美しい令嬢。だがその身からにじみ出る闘気から並みの武者では太刀打ちできない武を持っていることがわかる。

 

「何を生ぬるいことを言っている!連合など名誉欲しさに集った有象無象に過ぎん!私の武で正面から粉砕してくれる!」

 

この男らしい発言をするのは華雄。見た目からして女性なのだが、その威風からは自分の武に大きな自信を持っていることがよくわかる。その自信が行き過ぎて脳筋などといわれることもあるが、董卓軍の中で一番兵からの支持を得ているのも実は華雄であり、兵士からは「姉御」「姉さん」などと親しまれていたりする。

この発言を聞いた張遼は息を吐き華雄を窘める。

 

「華雄、うちらの今回の目標は覚えとる?」

 

「当たり前だ。汜水関、虎牢関でできるだけ時間を稼ぎ、月様が洛陽から脱出する時間を作ることだ。馬鹿にするな!」

 

「ならなんで正面から粉砕なんて言葉が出るんや!?」

 

「そんなこともわからんのか。連合を倒せば月様は問題なく洛陽から出ることができる。」

 

「ハハハ、相変わらずだね華雄は!」

 

「笑うとる場合か!?」

 

このやり取りだけを見れば仲のいい男女の会話か何かにしか見えないだろう。これから大きな戦いが待っているのにこの三人には緊張の色は見えない。

話の句切れがついたところで男はその雰囲気を変えた。その顔は先ほどまでと変わらず笑っているが、一人の軍師が立っていた。

 

「さて、そろそろ本気をだしますかね。」

 

「おっ、陽風(ヤンフー)が悪い顔しとるで~。また何を考えているんや?」

 

「それは見てからのお楽しみですよ。」

 

「ふん。どちらにしても私は貴様との賭けで負けたからな。指示には従ってやる。」

 

「それはありがとうございます。では連合には私の手掛けた芸で派手に踊ってもらうことにしましょうか!」

 

ここに汜水関に華と張の他に朱の牙門旗がたなびくことになる。その姿はまるで世を照らす太陽のごとく堂々としていた。

 

 

 

 

 

 

 

姓は朱、名は治、字名は君理。

この男流浪の軍師にしてまたの名を、

 

 

 

 

「道化師」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




勢いで書いた。反省はしていない。




導入なので短めです。
次回からしっかりとしたお話が書けたら良いな…。


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第一話

プロローグとは打って変わって話の本編は幼少期から始まります。

誤字脱字等の報告待ってまーす。


 

 

 

姓は朱、名は治。

この男は何の変哲もないとある村でその生をうけた。両親は父が村で農業を営み、母が地方領主のもとで百人隊長を務めるという少し変わった家系であること以外はどこにでもいる一般的な家族だった。当然少し離れた所に住む母とは毎日顔を合わせることはできなかったが、休みのたびに帰ってきてその分を埋めるかのようにたくさんの愛情を注いだ。家族円満で贅沢ではないが、生活に不自由などなかった。

 

 

 

 

 

父は農業をする傍らに趣味として大道芸を見せに街に行くことがあった。もともとは私用で立ち寄った際に出会った女性(未来の母)に会いに行く口実で始めたことだったが、立ち止まって見ていく観客の小さな拍手とむけてくる笑顔にたいそう感動したそうだ。父はとても器用だったので、大道芸にハマって色々と挑戦するうちにいろんな芸を編み出していった。朱治が生まれてから子育てと農業で暇を作ることが難しくなり、大道芸人として街に行くことができなくなっていたが、朱治に簡単な手遊びを見せると朱治はとても元気に喜ぶのだった。

そして朱治が6歳になったころ、父は朱治を連れて街に出かけた。

 

「父上、見たことのないものがたくさんあります!」

 

「ははは、そうだろ!だがこんなところで驚いていたら疲れてしまうぞ。」

 

「はじめて街に出るのですから仕方ないではありませんか!」

 

「ははは、それもそうか!だが俺の本気の芸を見て他に意識を向けられるかな?」

 

「はい!楽しみです!」

 

朱治はこの日をとても楽しみにしていた。父はいろいろな芸を見せてくれたが、どれも簡単なものばかりで道具を使った芸などは今回が初めてだった。

 

「ここらでいいかな。さあさあ皆様、お立ち寄り!これよりお見せしますは他では見れない大道芸!見るだけならお金はいらねぇ!是非見て笑顔になってくれ!」

 

父の快活な声に興味をひかれたのか、ちらほらと人が集まってくる。それを見て父は芸を見せ始める。その芸は朱治に見せていた簡単な手芸からはたまた日常で使う箸や装飾された扇まで幅広く、見ている観客はその芸に夢中になっていく。しばらくすると道端にもかかわらず大きな集団が出来上がっており、ひとつの芸が終わるたびに大きな拍手が起こっていた。朱地も人一倍大きな声を出して騒ぎ、とても楽しんでいた。

 

「さて、これから見せます芸が最後の演目となります!最後までお楽しみを!」

 

朱治は父の一言からこれが最後の芸になるのことがわかり、期待半分ともう少し見ていたい、という気持ちになった。それが顔に出ていたのか、父は朱治の顔を見て、突然大きな声であることを言った。

 

「ですが最後の演目の前にその演目を手伝ってくれる助手を紹介しましょう!息子の朱治です。」

 

「ええっ!?」

 

朱治は当然驚いた。父からは何も言われていなかったにもかかわらず、これから観客の前で芸のお手伝いをすることになったのである。

 

「父上、私はまだ簡単な手芸しかできませんが…、大丈夫でしょうか…?」

 

「問題ない!これは朱治にしかできないことだからな!」

 

「しかし…、」

 

「自信を持て、朱治!観客が待っているぞ!」

 

朱治は振り返ってみて次の芸を心待ちにしている観客の顔を見て、しぶしぶ手伝うことにした。

 

「さてこれからお見せしますはは何もないところから物を取り出す芸でございます!観客の中に中身の入っていない小さな袋をお持ちの方はいらっしゃいますかな?」

 

父の呼びかけに数人の観客が手を挙げ、その中から一人を指名し、朱治に袋を渡すよう指示をした。

 

「ありがとうございます。今ここには小さな袋がございます!見てわかる通り中身は空でございます!これを朱治に持たせます。その際、私は袋には触れません。ですが今から3つ数えた時、袋からはある物が転がり出ます。では、始めます!」

 

朱治は袋を持って父の前にたち、袋を観客に見えるようにかかげた。朱治からしてもどうやってそんなことができるのか見当もつかず、観客もかたずをのんで見守っている。

 

「1…、2…、3!」

 

父の掛け声とともに袋からは1つの桃が転がり落ちた。観客はその桃を確認すると、大きな驚きの声と歓声にわいた。観客は大きな拍手とともに父をたたえ、芸が終わった後には父に笑顔で感想を述べていた。その歓声はしばらくやむことはなかった。

 

 

 

 

 

歓声も落ち着き、朱治はと父は村に帰ることにしたが、村に帰る途中でも朱治の興奮は収まらなかった。

 

「父上の大道芸、とても楽しかったです!」

 

「ははは、それは何よりだ!俺も久々に芸ができて満足だ!」

 

「本当にどの芸も楽しくてずっと見ていたっかったです!ですが、最後の助手の話は一言いっておいてほしかったです。」

 

「いやー、ごめんな。あらかじめ言っていたら緊張してしまうだろ?それに芸には驚きと新鮮さが必要だ。お前も一緒に驚いてくれるから観客も反応しやすいんだ。」

 

「そういうものですか。」

 

「そういうものだ。」

 

そのあと先ほどの芸について話をしながら帰っていたが、話は最後の芸の話になっていた。

 

「父上、そういえば最後の芸なのですが。」

 

「ああ、あの芸か。あれは俺の生み出した芸の中で1、2を争うものだからな。種も見ただけではわからないよう工夫してだな」

 

「桃が出る瞬間に目立たないように裾から手に桃が動いていたように見えたのですが、あれはどのように行っているのですか?」

 

「…っ!?」

 

父は朱治の言葉に驚愕した。あの最後の芸は当然締めの芸であるため、どの芸にもまして練習してある自信作である。実際は袋から出てきたように見せるという視覚を使った芸であり、多くの観客から感想や質問は受けたが、誰一人として見破れなかった芸が初見でしかも齢6歳の息子に見破られたのである。確かに今まで見せてきた芸を朱治は見せることができる。しかしこれは手だけで行う手芸であり、練習すればだれでもできるようなものである。この時父は朱治には眠れる才能があることに気が付く。

 

「いやー、なるほどな。これはおもしろいことになったな!」

 

「父上?」

 

「朱治、帰るぞ!帰ったら俺の芸を教えてやる!」

 

「本当ですか、父上!」

 

「ああ、厳しくしていくから覚悟しな!」

 

「はい!」

 

それからというもの両親は朱治になんの才能があるのか探し始めた。母のつてから軍略の写本を借りることで朱治に読ませてみたり、母は帰ってくるたびに朱治に武を教えていった。そこから朱治には武の才能は並程度だが、知の才能があることに気づく。気づいてからは知を重点的に教えていき、8歳を超えるころには周囲では噂の神童などともてはやされることになる。

 

 

 




前回よりは長めにできたかな?

4000字越えの小説を書く人は尊敬の対象。


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第二話

続けて投稿です。

一日でお気に入りが増えたことに驚きました。
ありがとうございます(^^)/。

できる限り盛り上げていきますのでよろしくお願いします!
それと誤字脱字等の報告、感想待ってます!




 

 

 

 

 

この世界には「字名」「真名」というものがある。

字名は一般的には子が成人する際につけられる名前であり、これを持つことは大人の仲間入りをするという意味合いがあったとされる。この意味合いから成人になる前に字名を持つ人もおり、あくまで普通は、程度の認識だったとされる。

次に真名についてだが、真名は自らの子につける唯一無二の名であり、とても神聖なものであるとされる。親しき仲でも真名を許されていない場合、むやみにこの名を名を語ることは厳禁であり、首を切られても仕方がないとまで言われている。

 

さてここまで名前について話してきたが、理由としては朱治もこの度字名と真名を両親からもらうことになったのである。

その日は朱治の8歳の誕生日の日であり、母も休暇を取って前日に帰ってきていた。

 

「おはようございます、母上!」

 

「おはよう朱治、朝ごはんで作っているから座って待ってね。」

 

「はい、母上!」

 

母は忙しく帰ってくることが少ないものの朱治の誕生日の日には決まって休暇を取り、帰ってきたときは朝ごはんを作るのが当たり前になっていた。朱治もなかなか会えない母ではあったが、その何気ない日常が好きだった。朱治と母が朝ごはんを食べ終わったあたりで朱治より早く起きてどこかに出ていたのか父が帰ってきた。

 

「おう、朱治。起きてたか。」

 

「はい!今日も元気です。」

 

「ははは、それはなによりだ!それと朱治、誕生日おめでとう!」

 

「あら、先に言っちゃうのね。一緒に言おうと思っていたのに。」

 

「ははは、悪い悪い!」

 

「もう…、朱治お誕生日おめでとう。」

 

「はい!ありがとうございます、父上母上!」

 

両親はそのあとお互いに小言の言い合いをしていたりしたのだが、はたから見てもそれを楽しんでいる用なので、離れていても夫婦中は円満らしい。

 

「さて朱治には誕生日祝いにある物をやろうと思っている。」

 

「ある物ですか?」

 

「そうだ、それは字名と()()だ。」

 

「本当ですか!?」

 

朱治は突然のことに当然驚いた。初めて街に行ったときしかり日常でも父の急な行動に驚かされている朱治だが、今回はそれよりも嬉しさが上回っていた。真名をもらうことも大きな意味を持つが、字名をもらうということは朱治は一人の大人として両親に認められたということである。聡明な朱治はこのことがとても嬉しかった。

 

「それでどのような名前なのですか!?」

 

「ははは、そう急かすな!名前は逃げていかんぞ。」

 

「二人でちゃんと考えたものなのよ。字名は君理(くんり)、真名は陽風(ヤンフー)よ。」

 

「ああ、先に言ったな!」

 

「ふふん、さっきのお返しよね。」

 

「くぅ、最初の一言は俺が言いたかった…。」

 

二人はまた小言を言い合っていたが、朱治は自分の字名と真名を頭の中で反芻していた。頭の中で何度も言葉をかみしめ、両親に向き直った。

 

「素晴らしい名をありがとうございます!改めまして姓は朱、名は治、字名は君理、真名を陽風。この名に恥じぬ生き方を目指します!」

 

「見事な宣誓だ、陽風!この時よりお前も大人の仲間入りだ。ここに印として俺の真名楽風(ルーフー)を託す。励めよ、陽風!」

 

「では私からも華照(カショウ)の名を託します。呼び方なんかは今まで通りでもいいからね?」

 

「はい、父上母上!」

 

ここにのちの風来坊朱治が真に生まれた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからまる一年大きなことが起こるわけではなかったが、朱治はその偉才を徐々に開花させていった。母の持ってくる写本はすべて読み解き、独自の解釈を入れて竹簡にまとめた。また武の才では目だったことがないと思われていたが、この一年で急激に力をつけ、ついには母でもかなわないほどにまで急成長を遂げることになる。これには両親も驚き、子の才を埋もれさせたくないと行動を始める。そして朱治が9歳になるころ父と母はある決断をする。

 

「私塾ですか?」

 

「そうだ。最近のお前はもう一人の民として生活させるには惜しい才を持っていることが素人目でもわかる。そこでその才を伸ばせるように私塾に通ってもらいたい。」

 

「場所は豫洲潁川郡、かの有名な荀攸が教えているところです。」

 

「荀攸様ですか!?」

 

この家族の会話では驚きが絶えることはない。だが今回の驚きはともすれば真名をもらった際に匹敵するものかもしれない。荀攸とは名門荀家の若き天才であり、その名はこの小さな村に住む朱治でも知るほどであり、噂では品行方正であり、見た目も絶世の美女であるとされている。そんな自分とは比べ物にならない有名人の名前に朱治は委縮してしまう。

 

「母上、失礼ですがお金はいかほどかかるものなのですか?荀攸様ほどのお方からのご指導などいくらかかるのか心配でなりません…。」

 

「当然話はそこにいきつきます。ですが心配はいりませんよ。これは私の仕事との兼ね合いで決まった部分もあるんです。」

 

「母上の仕事ですか?確か最近千人隊長に上がられたと言っておられましたが、それと何か関係があるのですか?」

 

「さすが、陽風は鋭いね。この話の前に今の情勢の話をしなければならないわけですが、陽風にはわかりますか?」

 

「世が乱れてきているということですね。」

 

「そう。地方の領主ですら汚職にまみれ、飢饉に災害は当たり前のように起きる。こんな世の中ですが、うちの領主様は聡明な方でね。じきに起きる騒動に対して他の領主と連携をとって事に当たろうと考えたわけです。その先駆けとして私の部隊と豫洲の部隊とで交換となったわけ。」

 

「なるほど。ですがそれと私塾の話とでつながりが見えないのですが…。」

 

「実はこれは時期がうまく重なった、といった方が正解なんだよ。」

 

「父上、どういうことですか?」

 

「ふふふ、驚け!なんと部隊の交換を行っている時期と荀攸様が無料で塾を開く時期が重なっているんだ!」

 

「えっ、無料ですか!?まったく聞いてないんですけど!?」

 

「だろうな、言ってないから!」

 

「父上…。」

 

「ははは、まったく陽風はよく驚いてくれるから飽きないな!」

 

「僕でからかうのもほどほどにしてください!それと説明!」

 

「おっと、そうだった。実はな、今回の塾は荀攸様の従妹に当たる子の授業ということで開かれるそうだ。それこそ本来であれば個人で授業を行えばいいところを学ぶ意思がある者にも学を、ということらしい。さすが名門荀家だな!」

 

「実際どんな思惑があるのかわからないけど、この機会はそれを差し引いてもまたとないものだと私は考えているの。そこで任務の任期の間家族で引っ越そうかな?という話なの。」

 

「なるほど…。」

 

「それでどうする?それこそ無理にやらせることでもないわけだけど、」

 

「いや、行きます。行かせてください!」

 

「ははは、即答だな!」

 

「なら決まりね。任期としては一年とちょっとって感じだからよろしくね。」

 

「はい!わかりました!」

 

 

 

これより朱治はさらなる飛躍の機会を得ることになる。またそこで初めて自分と同じ偉才をもつ者と巡り合うことになるのだがそれは少し先の話。

 

 

 

 




第二話でした。

いったいどこの猫耳なんだ…。




また次回で。


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第三話

続けて投稿です。

少しづつ増えていくお気に入り登録ににんまりする日々ですw。


誤字脱字、感想等待ってまーす!


荀家視点

 

 

 

 

 

「はぁ………。」

 

荀家現当主荀緄は何度目かわからないため息をついていた。今起こっている問題は早いうちに解決しなければならない。だが後に必ず禍根を残すことを理解していてもどうすればいいのか荀緄にはわからなかった。

 

「はぁ…………。」

 

「荀緄様、少しお時間よろしいでしょうか?」

 

「ああ、かまわんぞ。」

 

扉を開けて入ってきたのは一人のきれいな女性だった。女性にしては高い身長に線は細いが決して貧相ではなく、それが一種の魅力だと言わんばかりである。髪は肩ほどの長さでまとめられており、その雰囲気から理知的な様が伝わってくる。

 

「荀攸、どうした?」

 

「いえ、少しご相談があってきたのですが、よろしいでしょうか?」

 

「どうした?変にかしこまって。悩みか何かか?」

 

「いえ、その…。悩みといえば悩みなのですが、」

 

「歯切れが悪いな。言いにくいことなのか。」

 

「いえ、実は桂花(ケイファ)ちゃんのことについてなのですが……。」

 

「…………また、何かやらかしたのか……?」

 

「ええ……、そうです…。」

 

これには二人ともため息をつくしかない。桂花とは荀緄の娘である荀彧の真名である。荀彧はその年8歳で既に荀家にある書物の半分を丸暗記し、残りの半分もあと数年もあれば読み解いてしまうだろうと言われる天才である。荀攸も間違いなく天才の部類だが、荀彧の成長を間近で見てきたものは皆がそろって荀家が始まって以来の天才だと評した。そんな荀彧だが性格面で決定的な短所を持っていた。

 

「街で酔っ払っている男に罵詈雑言をあびせたようです。『昼間から飲んだくれているダメな男に私は正論を言ったのよ!しかも顔を見てもろくに学のないまるで猿のようだったわ!』と反省の色は見えませんでした。」

 

「その男性は?」

 

「一瞬カっとなって手が出そうになってはいましたが、偶然通りかかった私が仲介することで穏便に事をおさめられました。」

 

「そうか…。迷惑をかけたな。」

 

「いえ、そこはいいのですが…。このままだと完全に孤立してしまいます。」

 

「やはりそうか。桂花の()()()にも困ったものだ。」

 

そう、荀彧は大の男嫌いだった。

元をたどると2年前、そのころの桂花はまだ才の片鱗は見えていたが、いたって普通の女の子だった。話は変わるが名門荀家には連日様々な来客が来る。昔からなじみの商人や同じく名門や名族などさまざまである。そんななか来客してきた名門の方から懇親会のお誘いを受けたのだ。これを荀緄は承諾し、これに荀家として現当主の荀緄と荀攸、それに荀彧の3人で出席したのだった。だがこれが大きな問題を起こす。

懇親会とは親睦会とは異なり、少し政治的な動きが含まれるもののことを指す。その場で初めてあった人と親交を深めるのもあるが、情報交換を行ったり、新しいつてを作る場であったりする。荀緄は荀彧の将来を考え、早いうちに場の空気を体験させようと思っていた。だがこれに出席していたある男から齢6歳の荀彧に求婚があったのだ。当然名門荀家にも跡取りの問題はあるが、少なくともまだそこまで急を要するものではないため荀緄は丁重にお断りを入れた。だがその男はしつこく食い下がった。荀緄が断るたびに頭に熱がこもったのか冷静さを失っていく男の様子にさすがの荀緄も引いてしまったのだ。それに追い打ちをかけるかの如く裏の欲望が見て取れるような他の男もうちの息子がいいだの、今のうちに婚約だけでもだの勧めてきたのだ。荀緄の陰に隠れてこれを見ていた荀彧は恐怖した。男はどこまで欲望に忠実なのだ、どれほど恐ろしいものなのか、と。その場は荀攸の協力もあり事は終わったが、家に帰るころには荀彧の男嫌いはすでに出来上がっていた。

 

「私があの時連れて行こうと考えていなければ、桂花は男嫌いにならなかったのではないか?」

 

「それこそ何度も話してきましたが、後の祭りですよ。どちらにしてもあのような予想などたてられませんから。」

 

「それもそうだが、さてどうしたものか。」

 

ふたりそろって大きなため息をつき黙り込んでしまう。荀緄からしたらかわいい娘、荀攸から見ても年は離れているが妹のように感じている分、この悩みは深刻だった。少しの間思案にふけっていた二人だが、荀攸がふとこんな案を出した。

 

「同じような年ごろのお友達を作れないでしょうか。」

 

「ほう、それはなぜ?」

 

「まず男嫌いになった理由としては自分と年の大きく離れた男性のあんな姿を見たからです。でしたら似たような年頃の男の子なら問題がないのでは?と考えたからです。またもしダメだったとしても同じくらいの女の子とお友達になれば少なくとも孤立することはないですし、そこから感化されて改善されるかもしれません。」

 

「なるほど、一理あるかもしれん。だがどうやって友達を作るというのだ?」

 

「私が私塾を開いて同じような年頃の子供を集めてみるというのはどうでしょう?才はあれども埋もれてしまうような子を掘り起こすきっかけになるかもしれませんし、何より同じことを一緒に行う学友としてなら身分など子供同士ではあってないようなものだと考えます。」

 

「なるほど。確かに荀彧は才を持っているが、そこには圧倒的に経験が足りない。そこを同じような年の子供と切磋琢磨させることで補うこともできそうだ。それで対象はどこまで絞る?」

 

「私は名門に限らず、学ぶ意思のある子供すべてを対象にしたいのですが。」

 

「もとは荀攸の意見だからな。そこは尊重しよう。場所としては少し前から使われていない倉庫があったはずだ。そこを軽く改修して使うことにしよう。」

 

「ありがとうございます。ではそのような形で話を進めましょう。」

 

二人の話は無事まとまった。これは朱治が引っ越す約ひと月前の話である。

 

 

 

 

 

 

 




第三話でした。

この話を書く際に「この後もオリキャラが増えそうだな」と感じタグを追加しました。





では次回で。


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第四話

続けて投稿ですね~。


桂花押しの私からしてここら辺の話は書いていて楽しいですね。





 

 

 

 

 

「ここが潁川郡の街かぁ!」

 

「ええ、やっと着いたわね。」

 

「ははは、見ただけでにぎわっていることがわかるな!」

 

母の仕事の引継ぎが終わり、潁川郡に引っ越してきた朱治一家。朱治からしたら二つ目の街であり、その眼には大きな期待の色が見えていた。実際見ただけでもそこかしこで商人がせわしなく動いており、朱治にはどれも目新しい景色に見えた。

 

「さて、私は潁川郡のお偉いさん方にご挨拶に行ってくるから先に新しい家に向かっててね。」

 

「おう、分かった。行くぞ、陽風!」

 

「はい、父上!」

 

二人が意気揚々と家に向かうのを華照は見送り、先方への挨拶のため領主のもとに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的地に着いた華照は潁川郡の領主との謁見を無事終えて、そこで軽い親睦会に招待された。なんでもその地方の有権者も参加するようで華照は快く参加を決めた。そのあと何人か名門貴族の方にあいさつ回りをしながら、最後に荀家に挨拶に伺った。荀家当主との会話はうまがあったのか、思っていた以上に堅苦しいものではなかった。そして話は世間話から自然と子供の話に移っていく。

 

「そういえばこの度一緒に越してきた息子が荀攸様の私塾でお世話になるんですよ。」

 

「ほう。それはうちの娘と学友になるかもしれませんな!息子さんはどんな子なんです?」

 

「快活でとてもいい子ですよ。私と夫を立ててくれる優しい子ですし、何よりその才には目を見張るものがあります。」

 

「それはいい息子さんをお持ちのようで。」

 

「はい、自慢の息子ですね!最近なんかは夫の真似をしているのか街で大道芸を見せた話しを楽しそうに話してくれます。」

 

「聞けば聞くほど好感の持てる少年ですね。一度会ってみたいですな~。」

 

「ありがとうございます。荀緄様の娘様はどのような方なのですか?息子と同じ学び舎に通う子ですから、少し気になります。」

 

「…そうですね。その才と知恵はすでに私を超えているかもしれません。経験がまだ足りないところはありますが、そこは時間とともに補われていくでしょう。まだ少し性格に()()()()()部分もありますが、とてもかわいらしい自慢の娘ですね。」

 

「それは私も一度あってみたいものですね。」

 

「本日の親睦会には出席されるのでしょう?そこには娘もつれていく予定なので会えるはずですよ。」

 

「それは楽しみですね!」

 

「ええ、まったくです。よろしければあなた様の息子さんも連れてきますか?」

 

「それは…、さすがにまずいのでは?」

 

「いえ、今回の親睦会はあなた方が主役のものですし、そこまで敷居の高いものでもありません。何より私はその少年に会ってみたくなった。出席されているほかの方も何人か息子娘を連れてきますし、息子さんがご学友と少し早く会うことになる程度ですね。」

 

「ふぅー、少しズルいですね。そこまで言われて断っては逆に失礼に当たってしまいます。」

 

「ははは。娘に越されているかも、とは申しましたがまだまだ私も現役でいられそうですな!」

 

「そのようですね。では息子にも出席するよう伝えておきます。後程また。」

 

「ええ、また後で。」

 

 

 

 

華照が帰った後、荀緄は今日の分の仕事を終わらせようとするが、廊下をドタバタと大きな音をたてながら誰かが近づいてくる。そして荀緄の執務室の扉を雑が開けられ、そこには顔を真っ赤にした荀彧が息を切らしながらにらんでいた。

 

「父様!」

 

「どうした、桂花?そんなににらんできて。」

 

「今日の親睦会についてです!なぜ私も出席なのですか!」

 

「なぜも何もお前は次期荀家当主候補であり、私の娘だぞ。出席することに何の疑問がある。」

 

「私はあのような獣の集まる集いなどに出たくありません!今までだってあの忌まわしき懇親会以来一度も出たことないのに!」

 

「こら、男を獣扱いするのはよせと普段から言っているだろ。」

 

「確かに男すべてが獣と決まったわけではないのはわかっていますが、それを差し引いても欲望に忠実で下半身に頭があるような猿が多すぎます!」

 

「あの懇親会が酷かったことには私も同意見だ。あれ以来同じことが起こる可能性があると判断して私自ら桂花が出席しなくてもいいように動いていたからな。」

 

「ではなぜ!」

 

「だが今回はまた別だ。今回集まるのはすべて地元の有力者のみの親睦会であって、これからの荀家のためにいい加減桂花の顔出しをしなければならない。ほとんどが私の顔見知りだけの場でそこにすら出られないようでは安心して仕官させられない。」

 

「それはそうかもしれません、ですが!」

 

「もう決まったことだ。当然同じ轍は踏まんように細心の注意は払うとも。」

 

「っ、……わかりました。」

 

桂花はしぶしぶ了承して部屋をでていく。これはには荀緄も今回の親睦会でも一波乱あるのでは?、と先ほどまでとは違い沈痛な面持ちで仕事に戻るしかなかった。

 

 

 

 

 

一方、朱治はというと

 

「というわけよ。準備しなさい、陽風。」

 

「何がというわけなのですか、母上ぇええええ!?」

 

帰ってきた母からのいきなりの親睦会出席にたた叫ぶことしかできなかった。

 

 

 

 

 




桂花が可愛すぎる。異論は認めない!



誤字脱字、感想等待ってまーす。


ではまた次のお話で会いましょう。


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第五話

第五話です。

今回の話は書いていて楽しかった分、今まで最高の文字数ですね。

やっと桂花と朱治の対面です。


 

 

 

 

 

 

朱治はとても困っていた。突然の親睦会出席も確かに困った。初めて会う有力者の方たちに粗相がないか心配もした。だが結論から言うと、

 

「いやー、よくできた息子さんだ。初めまして私は○○というものです。」

 

「その年でそこまでしかっりされているとは、さすが千人隊長様の息子様だ!おっと、自己紹介が遅れました。私は△△というものです。これからよろしく頼みますね。」

 

「私は潁川郡を中心に幅広く商売させていただいております、□□といいます。なにかご入用のものがあればぜひともうちのお店をご利用ください!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

これには母の立場を思い返してほしい。母は全体から見たら高い地位にはいるが、それでも何人かいる千人隊長の中の一人である。だが今回の部隊の交換で武官の立ち位置で一番高い地位にいるのは母である。したがって母の周りには大きな人だかりができており、笑顔で対応している母も少し息子から見ると笑顔が引きつってきているように見える。

さて話を戻すが、そんな母と一緒についてきた息子を有力者はほっとくだろうか、いやない!(反語)

しかも朱地自身に自覚はないが、朱治は一般的によく整った顔をしていた。見た目は年若い少年だがその立ち姿からは隙がなく、一見細身に見える体も近づいて話してみるとよく鍛えていることがわかる。何よりその眼光からはすべてを見通すかのような聡明な光が見える。実際母の付き添いで来ただけの子供なら有力者の中でも数人が話しかける程度で済んでいただろう。そんなこととはつゆ知らず、途中で母の立場的な意味のみ気づいた朱治は当初予定していた心労よりももしかしたらつらい外交?をすることになった。後に朱治はこれがもしかしたら最初の仕事だったかもしれない、と酒のつまみに話したりするわけだが、今の朱治には精一杯の誠意を見せて対応するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荀彧は怒っていた。親睦会に出ればどうなるのかわかっていながらあの時しぶしぶ了承した自分を呪った。あの時の自分を呪っていながらも、その実今でも論破できるだけの材料がないことに絶望した。結論から言うと、

 

「これは荀緄殿、ご機嫌麗しゅう。そちらが噂のご息女ですかな?見ただけで瞳に知性のいろが見えますな!」

 

「お久しぶりです、荀緄さま。そちらの娘さまは初めてですね。私、☆☆というものです。昔から荀緄さまにはお世話になっております。」

 

「これは荀緄のダンナじゃないですか。久しぶりですね!おや、そちらがご息女さまですか?奥方に似て別嬪さんですね!」

 

「あはは……、ありがとうございます。」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

どいつもこいつも父様にヘラヘラしながら話しかけ、一緒にいる私を必ずほめてくる。地元で大きな勢力を持つ荀家当主の前だからみな愛想よくふるまっているが、裏ではゲスい欲望にまみれた考えを巡らせているに違いない。考えれば考えただけ寒気がしてくるようだった。いちおう荀家に連なるものとして()()()の礼儀で反応しているが、だれもそれについて触れてくるわけでもなく私のことを褒めたたえる。これだから男という生き物はダメなのだ。頭の中で女を犯す妄想しかできない猿以下の獣との会話など早く終わらせてかえりたい!

 

荀彧は終始男に対して悪態をついていたが、実際はというと地元では荀彧の性格はある程度認知されていたりする。それこそこの親睦会に出席している有力者の半分は荀家と昔からの仲あるいは顔なじみであり、荀緄の愚痴を聞く流れで知っていたりする。確かに裏でゲスい考えを持っている輩もいるにはいたが、今まで話した有力者のほとんどはそんな荀彧に気を使っていた。そんなことには気づきもせず、決めつけと思い込みを増していく荀彧の様子に荀緄だけが気づき、小さくため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怒涛の有力者ラッシュも少し落ち着き、おのおの自分の知り合いとの歓談を楽しみ始めたころ、華照と朱治はそろって疲れた顔を見せていた。

 

「はー、皆さん元気ね。たかだか千人隊長の私にあそこまで来るとは思わなかったわよ。」

 

「それを言うなら僕なんてその千人隊長の息子だよ。多分暇なんだろうなと思っていた少し前の僕は確実に甘かったね。」

 

「確かに陽風は人気者だったわね。初めてのことで疲れたでしょう?」

 

「疲れてないと言えば嘘になりますが、これも普通では体験できない経験ですから。途中から少し楽しくなっていたかもです。」

 

「はぁー。陽風はやっぱり文官向きよね。」

 

「母上、まだ気を抜くには早すぎますぞ。まだ親睦会は終わったわけではありません。」

 

「それもそうね。そういえばまだ荀緄様とも会っていないし。」

 

「僕をお誘いしてくれた人ですね。」

 

「そうよ。あちらも今日はご息女のお披露目だったらしいから多分私たちと似たようなくらい忙しかったかもね。」

 

そう言っている華照の目線の先には和やかな雰囲気で他の有力者と会話する荀緄の姿があった。華照と同じくらいあるいはそれを越すかもしれないくらいの人と対面していながら変わらないその姿からはやはり経験の差がうかがえる。

一方、朱治はというとその荀緄に付き沿っている少女の方に目が言った。見ただけなら和やかに会話しているだけにしか見えないその顔に朱治は確かな不快感を読み取った。会話の内容はわからないが、どうしてそんな顔になってしまうのか見ていて悲しくなってしまった。人は笑顔の時が一番だ、そう考えながら朱治は思考の海に沈む。

 

 

 

 

 

少し時間がたち、会話を終えたのか荀緄と荀彧は朱治のもとに来た。

 

「先ほどぶりですな。お互いに人気者だったようで。」

 

「ええ、私も驚いてしまいましたわ。それでそちらがお話にあった?」

 

「はい、うちの娘の荀彧です。」

 

「ご紹介にありました、荀彧です。よろしくお願いします。」

 

「これはご丁寧に。こちらも息子の朱治です。」

 

「朱治です!初めまして、荀緄様!」

 

「これは大変元気がいい清々しい挨拶だな!お話にあった通り聡明そうな子ですね。」

 

「ありがとうございます、荀緄様。お眼鏡にかなったみたいでよかったです。」

 

そこから4人は何気ない会話をし、そのあと華照と荀緄は先ほどの世間話の続きをするかのように楽しそうにお話を始めた。その間荀彧と朱治は手持ち無沙汰になっていた。

 

「(よりにもよってここでも男なのね。見た目だけなら優男だけどこいつも他と同じ全身精液男に違いないわ!)」

 

「あの~、荀彧ちゃん?」

 

「何でしょうか?」

 

「少し失礼かもしれないけど、直球で聞くとどうしてそんなに不機嫌なの?」

 

「……っ、!?」

 

朱治のいきなりの発言に思考が止まってしまう荀彧。だが荀家が誇る天才は素早く持ち直し、ごまかそうとする。

 

「き、気のせいじゃない?」

 

「ううん、今のではっきりわかった。やっぱり何か我慢しているみたいだね。」

 

ここで来る追撃にはさすがの荀彧も口調が素に戻っていく。

 

「…………、いつから気づいていたの…?」

 

「気づいたのは僕たちのところに来る前に他の人と話していた時かな。顔は笑っていても笑っていないように見えたんだよ。勿論、気のせいかもとは思ったけど今話してみて確信したよ。」

 

「そう……。それで?それがあんたに関係あるの?」

 

「関係あるさ!目の前に無理に笑顔を浮かべる可愛い女の子がいるんだよ!それをほっとくことなんてできるわけがない!」

 

「……っ、!?!?」

 

「ましてや同じ荀攸様に教鞭していただく学友になるらしいじゃないか!これはもう無関係とはいえない!」

 

まくしたてるように持論を展開する朱治に最初こそ押されていた荀彧だったが、少し冷静になった頭で今の状況を確認して、、、、、、今度こそ頭に血が上った。

 

「ああもう、頭にきた!黙って聞いていたら言いたい放題!私がどんな立場で笑顔をふるまいていたかも分からないの!これだから口だけの猿はダメなのよ!」

 

「猿とは失礼な!僕はただその無理に作り出す笑顔が痛ましくて見ていられないだけだ!」

 

「それが分かっていないのよ!公的な場で見せる社交辞令も知らないの?礼儀も知らない猿じゃわかるはずもないのだけど!」

 

「また猿と言ったな!社交辞令の大切さくらい僕でも知っている!だが荀彧のそれは明らかに他とは違うものだ!現に母上との会話の時の笑顔は文句なしに可愛いかった!」

 

「……っ、!?!?恥ずかしいことを大声で言わないでよ、このばか!ええそうよ、あなたのお母さまとの会話は楽しかったわ。なぜなら男じゃないもの!」

 

「やっと本心を言ったか、この天邪鬼!」

 

「何よーーーーー!」

 

徐々に熱がこもっていく二人の喧嘩を見て、華照は荀緄に謝罪をして朱治を止めに行こうとする。が、荀緄はこれを止める。

 

「荀緄様はどうして止めないのです?」

 

「そうですね~。ちょうどよかったから、では理由になりませんか?」

 

「それはどういう…。」

 

「先ほど話した時にはぼかしましたが、荀彧は男嫌いなのですよ。そしてそのことをここにいる多くは知っています。しかし人はわかってはいても他人行儀な会話しかしない荀彧に当然好感は持ちません。このままだと同世代だけでなく世の中すべてが敵になってしまう可能性もあった。」

 

「そこに朱治があらわれたと?」

 

「そういうことです。一見皆の前で喧嘩を始める愚鈍にしか見えない行為も前提条件があることで違って見えます。それこそ今までの他人行儀な態度からあそこまで感情むき出しの喧嘩を見たら、一周回ってほほえましく見えると思いますよ。」

 

「よい方向に考えるとそうなりますけど、全員がそう思ってくれるとはかぎりませんよね?」

 

「そうですが、0と1では大きく違いますからね。これはこれでいいのですよ。それに喧嘩していますが、喧嘩している本人たちは少し楽しそうですよ。」

 

「あら、ほんとですね。口元が笑っています。」

 

「ですからそこそこ落ち着くまで当人たちの好きにさせておきましょう。」

 

「分かりました。そういうことにしておきましょう。」

 

ここから半刻(今でいう1時間)ほどたってこの喧嘩は終わった。最初こそ困惑やいろいろな感情をのせた視線が飛び交っていた場も喧嘩の後半にはかわいいものを見るような温かい目が大半を占めていた。喧嘩が終わり、それぞれが自宅に帰っていくが、荀彧と朱治はそれぞれの家で自分のしでかしたことに身もだえるのだった。

 

 

 

 

 




やはり桂花が可愛すぎる。それだけに尽きる。


今回少しだけ長めなので誤字脱字等の漏れがありそうで怖いですw



ではまた次回で。


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第六話

荀家視点

 

 

 

 

 

あいつは何なのだ。あいつとはこの前の親睦会で笑顔が可愛いやら私のことを天邪鬼やら言った男のことだ。私に対して正面からぶつかってくる男なんて今まで一人としていなかったのに、あいつは初対面から恥ずかしい言葉を堂々と言ってきた。何度考えてもむかつく男だ。それは私塾が始まっても同じだった。はじめはこの前の件はなかったことにして初対面で無関係を突き通そうと考えていたが、あの男はそんなことはお構いもせず笑顔で話しかけてきた。

 

「荀彧、おはよう!気持ちの良い朝だな!」

 

「…………。」

 

「うん?どうしたのだ。聞こえていないのか?おはよう、荀彧!」

 

「あーもう!朝からうるさいわね!何よ、なんか用なの!」

 

「おお、聞こえているじゃないか!それに用も何もただの挨拶じゃないか。」

 

「ええそうね、おはよう。これで用事は終わりね。どっか行って。」

 

「なにを言っている。今朝から不機嫌そうな顔で表情を曇らせている可愛い女子がいるんだ。当然ほっとけないので会話しようじゃないか!」

 

「完全に私情じゃないの!それに私が今不機嫌なのはあんたが話しかけてきたからなんだから、速く目の前から消えなさいよ、この猿!」

 

「また猿と言ったな!僕には朱治という両親からつけてもらった立派な名があるんだ!何回も言わせるな!」

 

「男の名前なんて覚える気もないわよ!あんたなんか猿で十分よ!」

 

「なんだとーーーーー!」

 

こんなかんじでいつも喧嘩になるわけではないが、顔を合わせると大体半分は喧嘩している気がする。ここまですると他の男とはさすがに違うことはわかるが、ほかの男と同じでむかつくことにはかわらない。あいつはなんなのだ、もう何回目かわからない考えにさらに不機嫌になる。

 

「あー、本当にむかつくわね。」

 

「何がむかつくのかしら?」

 

凛花(リンファ)姉さま!?」

 

突然後ろから話しかけられて振り向いてみるとそこには年の離れた従妹が立っていた。凛花とは荀攸の真名であり、年こそ8つほど離れているが桂花は「姉さま」と本当の姉妹のように思っていた。その佇まいは同性の桂花から見ても美しく、将来は凛花のような女性になりたいと日々思っているのは内緒だ。

 

「それで何に怒っているの?」

 

「忌まわしきあの猿のことです!」

 

「猿?…………あー!朱治君のことね。喧嘩のたびに何回か言っていたわね。」

 

「そいつです!あいつが本当に鬱陶しくて、どうにかして懲らしめてやれないかと。」

 

「ふふっ、」

 

「何がおかしいのですか!?私は真剣ですよ!」

 

「ふふふ、ごめんね。おかしかったのではなくて少し嬉しかったのよ。桂花ちゃんの話の中に男の人の話が出たことなんて今までなかったもの。」

 

「……っ、!?茶化さないでください!私はただ日常に平穏を取り戻そうと、」

 

「そんなにむきになるところも怪しいわね。」

 

「姉さま!」

 

「ごめん、ごめん。あいかわらず桂花ちゃんがかわいらしくてね、つい。」

 

「まったく……。」

 

「それで朱治君に一泡吹かせてやりたいって話だったと思うけど、どうするつもりなのかな。彼は私が教えていてる中でもかなり優秀よ。」

 

「そこなのですよね……。」

 

そうそこなのだ。朱治は荀攸が教える私塾の中で桂花にの次に優秀なのだ。成績優秀、容姿端麗、人当たりがよく、笑顔が素敵だ、などと私塾の面々は朱治をもてはやす。習熟度をはかる目的で行った試験でも桂花には少し及ばない程度。荀攸も授業が終わると必ずといっていいほど質問をしに来る朱治には好感触を覚えていた。桂花はそれが気に入らない。自分のほうが上だったとしても男にあと少しまで迫られていることが許せない。そんなことはあってはならないのだ!

 

「うーん。そうね~。象棋盤なんてどうかしら?近々授業でやろうと思っているわけだけど。」

 

「それよ!どんなに頭が良くてもあいつは所詮知恵を得ただけの猿!私があいつの盤面を完全に蹂躙してあげれば実力差もはっきりするはずだわ!ふふふふ、今から笑いが止まらないわね!」

 

「どうやら元気になったみたいね。」

 

「ええ、さっそく練習してくる!ただの勝ちでは生ぬるいわ。完全で完璧な勝利をみせつけてやる!」

 

そういうと桂花は自室へと全力で笑いながら走っていった。これからおそらくその授業の日まで鬼のように練習するのだろう。自分の発言がもとではあったが、凛花は朱治に心の中で謝ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は少し変わった日だった。私塾の学友と話しつつ、いつものように荀彧に挨拶をしに行くと荀彧はいつもの不機嫌そうな顔ではなく勝気な顔で待ってました!と言わんばかりにこちらを見ていた。

 

「おはよう、荀彧!今日はずいぶんと機嫌がよさそうだな!」

 

「ええ、おはよう。私も今日という日が来るのを楽しみに待っていたわ。」

 

「…………???それはどういうことだ?」

 

「まあ、今に見ているといいわ!今日こそあんたに私の力を見せつけてやるわ!」

 

「?????まじでどういうことだ?って、おい待てよ!」

 

荀彧は言いたいことは言い終わったと無言で席に戻っていく。朱治自身自分の及ばないところにいる荀彧のことは認めており、先ほどの言葉の意味がまるで分からなかった。だが荀彧の機嫌がいいに越したことはないな、と持ち前の明るさで忘れることにした。そしていつも通り荀攸先生の授業が始まった。

 

「おはようございます、皆さん。今日は象棋盤をやりたいと思います。象棋とはみんな知っているとは思いますが、昔から名だたる名将がたしなんできた遊びであり、その戦略性から軍師としての採用の基準にされたりすることもあります。今回は初めてやるという子もいると思うのでやりながら説明しようと思います。」

 

そんな説明の後、荀攸先生は荀彧を呼ぶとお試しとして駒の動きなどを説明しながら荀彧と対戦を始めた。説明しつつも盤面は荀攸先生が優勢であり、説明が終わると今まで力を抜いてやっていたのかあっといまに荀彧に勝ってしまった。それからおのおの対戦相手を決めていくことになった。見るより実践ということだろう。だが僕の対戦相手として荀彧が真っ先に名乗りを上げた。この時朱治は先ほどの表情と話がつながり、憑き物がとれたようにすっきりした。忘れようとした、とはいっても気になることはやはり気になるのである。

 

「なるほどな。さっきの勝気な表情はこれが理由だったのか。」

 

「そうよ!ここであんたのことをぎゃふんと言わせて、いかに私があんたより優れているのか見せつけてやるわよ!」

 

「優れているも何も荀彧のほうが優秀なのはみんなが知っていることだろ?それこそ僕も認めているし。」

 

「そ、そんな周りの評価じゃなくて私自身が納得できる確たる証が欲しいのよ。おとなしく負けなさい!」

 

言っていることだけ聞いたら子供の癇癪だな~、と最近朱治は荀彧の発言を温かい目で見るようになっていた。最初こそ本気で喧嘩していたが、今では喧嘩が一種の会話になっている気がすると楽しんでいた。実際荀彧より朱治は1歳年上であるため、少しじゃじゃ馬な妹に接しているような感覚であった。まあ、そんな目線がさらに荀彧をヒートアップさせるわけだが…………

 

 

 

盤面はやはり荀彧優勢で進んでいた。この日のために練習してきたというのも嘘ではないようで終始圧倒していた。朱治も人並外れた速さで上達はしているが、やはり少し届かない。

 

「あははは!やっぱり私のほうが強いわね。初めてにしてはよく守っているけどこのままじゃじり貧よね!」

 

「そりゃー、いきなり経験者が本気になってつぶしにかかってきたらこうなるだろ。だがただでは負けないよ。」

 

「言ってなさい、この負け猿!この盤面からは私が負ける未来が見えないわよ!さあ、おとなしく降参したら!」

 

「くそっ、負けてたまるか!」

 

といいつつもこのままだと負けるのは誰が見ても明らかである。軍略の面から見ても荀彧に勝てるわけもなく、普通に元から負け戦と考えるのが事実である。だが調子に乗っている荀彧を見ていると自然となぜか次の手が浮かんだ。普通ではしないだろう動きを想像した自分を不思議に思いつつも、朱治はこの手が間違っていないと直感で分かった。こんな時だからこそ朱治は今までにないくらい考えがまとまっていくのを感じていた。

 

__一手__

 

「そんなところを動かしてどうするの?もう勝負を捨てたのかしら?あはは、やっぱり私のほうが優秀なのは明らかだったわね!」

 

__三手__

 

「ちっ、最後の抵抗ってわけね。いいわよ。簡単に勝っても張り合いがないものね。」

 

__五手__

 

「嘘!?そんな切り口から攻撃してくるなんてあんたどういう発想をしているわけ!?」

 

__七手__

 

「盤面が…………」

 

__九手__

__十一手__

__十三手__

…。

……。

…………。

 

 

 

 

()()()()()

 

 

 

 

勝負が終わった直後、二人とも放心しているのか黙り切っていた。その静寂をぶち壊したのはいち速く冷静になって負けたことを悟った荀彧だった。

 

「な、なによこれ!どうして私が負けているの!ありえない、ありえないわ!これは悪夢よ!きっとそうに違いないわ!」

 

「あれっ、僕が勝ってる……?」

 

「そうよ、盤面を何度見ても私が負けているの!あんた、どんなイカサマをしたのよ!」

 

「イカサマもなにも……、俺にもちょっと状況が読み取れてないというのか……。」

 

「どうしたのですか、二人とも。」

 

「「荀攸(先生)!」」

 

騒ぎを聞きつけて荀攸は近くにきた。またいつもの喧嘩か何かだと思ってきてみると少し様子が違うみたいだ。そこで象棋盤を見てみて、驚愕する。朱治が荀彧を詰みにさせたのだ。これは普通ではありえない。荀彧はまだ荀攸には及ばないものの特別弱いわけではない。それこそつい先ほど習ったばかりの素人に負けるようなものではない。

 

「荀攸!こいつがイカサマで私に勝とうとしたのよ!そうでもないと私がこんな汚物にまみれたような猿に負けるわけないもの!」

 

「また猿と言ったな!しかも負けたらイカサマだと!さすがにその一言は看過できないぞ!」

 

「二人とも落ち着いて。朱治、私からしても身内びいきなしでもこの結果は信じられないけどいったいどうしたの?」

 

「はい、先生。実は僕もよくわからないのです。調子に乗る荀彧を見ていたらなぜか次に打つ手が頭に浮かんできまして。そこからは荀彧がどこに置くのか、どんなことを言ってくるのか自然と読めてきました。そしたら気が付いた時には勝ててました。自分でも何を言っているのかわかりませんが、事実なのです……。」

 

これには荀攸も考え込んでしまう。朱治が嘘をついているというにはさすがに稚拙なものである。だが言っていることすべてを鵜呑みにするなら朱治は未来が見えている、とでもいうしかないことをしている。話を聞いただけではどちらとも判断しかねた。

 

「…………。」

 

「先生?」

 

「すみません。今聞いた話だけだと今回の件は判断しかねますね。そこで今度は私と勝負しませんか?実際にどのようなものだったのか見てみたい。」

 

「姉さま!?」

 

「今は荀攸です。それでどうです?実際にもう一度やってみませんか?朱治君自身も何が起こったのか理解できていないみたいだし、ちょうどいいと思いますが。」

 

「はい、お、お願いします!」

 

…………

 

 

 

 

結果からしたら荀攸の勝利に終わった。だが盤面を見るとわかるが、ギリギリ競り勝ったといえる辛勝だった。これには荀攸も苦笑いをするしかなかった。勝負が終わった後、向こうのほうではいつも通り荀彧と朱治の喧嘩が始まっており、再戦を要求する荀彧と疲れたから休ませてくれという朱治とで平行線なようだった。だが荀攸はそんな場合ではない。対面して初めて分かったことだが、終盤に近づくにつれて朱治の打ち筋が鋭くなっていったのだ。そしてこの時の朱治は盤面をほとんど見ておらず、終始荀攸の姿を目で追っていたのだった。挙動からしてまだ、無意識。だがあれは明らかに()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(あの様子からして盤面でイカサマをしたわけではない。それこそ後半は盤面をほとんど見ていなかった。ここから推測すると朱治君は相手の表情からうち筋を見極めていたということになる。これは一般的な読心術に近いけど、表情だけで相手の打ち筋を完全に見極めるなんて明らかに次元が違うわよ!?)」

 

「ああもう、話にならない!荀攸からもこの猿に言ってやってよ!」

 

「だれが猿だ!しかも荀攸先生を巻き込むな!」

 

「はいはい、ふたりとも落ち着こうね。それこそ今日の授業はもう少しで終わりだから、対戦するならまた次回ね。」

 

 

 

結局荀攸の思考は事の当人たちによって止められることになる。これが朱治の軍師として名をとどろかす最も大きな理由となることを今は誰も知らない。

 

 

 

 

 

 




少し間が空きましたが、第六話でした。この話で現在のストックがなくなるので更新頻度が減ります。ご容赦ください。


軍師といってもそれぞれ得意なことがあります。例をあげると荀彧は軍略よりも政務のほうが得意、などですね。そんなわけで朱治君の得意なことが見えたお話でした。


ちゃんと私の意図が伝わっているといいな(不安)

ではまた次回。


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第七話

第七話です。

書くのに少し手間取りましたね。


拠点フェイズ

 

 

 

 

 

あの授業の翌日僕は休日にもかかわらず荀攸先生に呼び出されていた。象棋盤で起きた違和感については家に帰ってからも考えていたが、結局結論が出ることはなかった。荀攸先生からも説明はされたが、あくまで予想であってまだはっきりしたことはわからないらしい。

 

「表情をですか……?」

 

「やっぱり気づいていませんでしたか。私と対戦していた時、途中から盤面を見てませんでしたね。」

 

「そういわれるとそうだった気がします…。」

 

「先ほども言いましたが、朱治君は表情から無意識に相手の感情を読み取っていた、と私は仮定しました。勿論間違っているかもしれませんが、私はこれ以外に思いつきませんでした。」

 

「なるほど………。」

 

「ですが、変に考える必要はありませんよ。朱治君がしたことは確かに常人とは離れていますが、一般的に相手の表情から心理を予想することは読心術という形で既に存在しています。それは経験からくる勘であったりしますが、近いものではありますね。」

 

「つまり僕はその経験を補うことでこの才能と向き合って行かないといけないわけですか。」

 

「うーん、だからそんなに畏まるようなことでもないんだけど。いつもみたいに荀彧ちゃんと仲良くしながら少しずつ理解していけばいいだけですよ。」

 

「荀彧は関係ないですが、了解です。僕なりに頑張ってみようと思います!」

 

「やっと元気になったようね。ならさっそくだけど少し頼まれてくれないかな?」

 

「なんでしょうか?」

 

「ええ、実は……」

 

荀攸先生が言を言い終わる前に近くの扉がけり破られる。そこには怒髪天を超えるかの如く怒り狂った荀彧の姿があった。

 

「やっと見つけたわよ、このイカサマ発情猿!うちの文官たちから『荀攸様が朝から男を招待している』と聞いてその特徴を詳しく聞いたけど、やっぱりあんただったのね!これだから盛っている猿はダメなのよ!早く荀攸姉さまから離れなさい!」

 

「おはよう荀彧!朝から元気だな。それにしても少し言葉が不謹慎すぎないか?」

 

「あんた相手に不謹慎なんて言葉すらもったいないわよ!昨日の対戦もまだ納得できてないんだから、おとなしくこれから付き合いなさい!次こそ必ずメッタメタにしてやるんだから!」

 

「ちょっと待てよ、荀彧。荀攸先生からの頼みを聞くのが先だ。その後なら予定まで暇になるから対戦するのもやぶさかではないが。」

 

「ならちょうどいいわね。私が頼もうとしていたことも荀彧ちゃんの対戦相手だから。」

 

「そうなのですか?」

 

「荀彧ちゃんったら帰ってきてから朱治君の話しかしないんだもの。よっぽど悔しかったのか何度も何度も話していたわよ。男の子の話なんていつぶりになるのかな~。」

 

「ほう。」

 

「しかも熱弁している途中に無意識なのか朱治君のことをちゃんと名前で呼んでいたし、素直じゃないわよね~。」

 

「ほほう。」

 

「なんて話をしているのよ、姉さま!それにそこの猿!気持ち悪い顔でにやにやしているんじゃないわよ!そんなの言葉の綾に決まっているでしょ!」

 

「名前を覚えてないと何度も言っていたけど、なるほどね~。なんだかんだで荀彧も俺との会話を楽しんでいてくれたんだな~。これは少し心を開いてくれたと思うべきなのかな?」

 

「ほんとうに生意気ね。そのむかつく顔を泣き顔に変えてやるからおとなしく私に負けなさい!」

 

「ハハハ、昨日みたいに返り討ちだよ!」

 

そこからは荀攸がいたことすら忘れたように二人は象棋盤にのめり込むのだった。対戦している様子ははたから見ると楽しく遊んでいるようにしか見えず、後に荀攸伝手で広まった噂によって荀家当主は愛用の胃腸薬を使わなくてよくなったとか。

 

 

 

……

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

「あーもう!なんで勝てないのよ!あんたみたいな欲望丸出しの変態猿に負けるなんてまるでわたしが猿以下みたいじゃない!ありえないわ!あんたまたイカサマをしてるんじゃないの!」

 

「また猿と言ったな!僕の名前は朱治だ!荀攸先生の話だとしっかり覚えていたはずだろ!それに荀彧は感情が表情に出やすいんだよ!僕より多くの戦略を知っていてもそれがバレバレなんだよ!」

 

「普通はそこまでわかるものじゃないのよ!私も物事の予想はたてられるし、それがほぼ正解だと確信できるものもあったりするわ。それでもあんたみたいに表情から完全に読み切るなんてできないから、勉強するのよ!相手の考えが完全に読み取れるとか交渉泣かせにもほどがあるでしょ!」

 

「しょうがないだろ!分かるもんは分かるんだよ!それにしても何刻やるつもりだよ!もう10戦10勝だし、いい加減飽きてきたよ!それにもう少しで予定の時間なんだよ!帰らせろよ!」

 

「いやよ!勝ち逃げは許さないわ!そうやって私に負けるのが怖いからって用事をでっちあげようだなんてそうはいかないわ!」

 

「嘘じゃねーよ!もとからあるってさっきも言っただろ!」

 

「男の言ったことなんて頭に残すわけないでしょ!」

 

「知るかよ!用事が終わった後ならもう少しだけ付き合ってやるからおとなしくしてろよ。」

 

「…………嘘じゃないでしょうね。」

 

「今嘘をついても後が面倒だろ。」

 

「わかったわよ。嘘をついたら覚悟しなさい!」

 

「本当に信用ないな。りょーかい。じゃあ、急ぐからまたな。」

 

「待ちなさい!」

 

「なんだよ!約束もしたし、用事もないだろ!僕は急いでいるの!」

 

「少し考えたけどあんた、そんなに急いで何しに行くわけ?まさかいかがわしいことじゃないでしょうね!?」

 

「そんなわけあるか!?父様と大道芸をやるんだよ。」

 

「大道芸?」

 

「これも何回か言って…………っと、男の言葉は覚えないんだっけ。僕の趣味だよ。定期的に街で見せているんだよ。」

 

「ふーん。」

 

「聞いておいてまったく興味がなさそうかよ。それはそれでむかつくな~。……そうだ!この際見てもらうか。」

 

「はーーーーーーーー!?なんで私があんたの用事に付き合わないといけないのよ!ちょ、ちょっと私に触るな!無理やり引っ張るなーーーー!」

 

 

 

 

ちなみに完全に空気になっていた荀攸は二人が部屋を出ていくのを温かい目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荀彧を連れて約束ギリギリでついた朱治は楽風に怒られるかと思っていたら、逆に笑われた。

 

「ハハハ、時間ギリギリについたと思ったら可愛い女の子をつれてくるとは、お前も男らしくなってきたな!」

 

「父上、からかわないでください!それにこいつは何回か話した荀彧ですよ。」

 

「ほう、あの荀家のご令嬢か。初めましてだな!」

 

「……どうも。」

 

「ハハハ、話にあった通り男嫌いに間違いはないみたいだな!言葉遣いなんかは気にしなくていいぞ!むしろ俺が敬語を使ったほうがいいかな?」

 

「…………ならそうさせてもらうわ。それと敬語とかいらないわ。変に畏まられてもお互い疲れるだけだもの。」

 

「そうか。ならそうさせてもらおう。それでどうして朱治と一緒に?」

 

「それは僕が一度僕たちの大道芸を見せたいと思ったからです。荀彧は何回言っても覚えてくれないので、少し見せつけてやりたいわけです。」

 

「無理矢理連れてきたくせに生意気なのよ!どうせちんけなことしかできないんでしょ!」

 

「それは見てからのお楽しみだ!僕は自分の芸に自信があるからね。必ず笑顔にできると確信しているよ!これもひとつ勝負かな?」

 

「ふんっ。見終わって盛大にダメ出ししてあげるから覚悟しなさい!」

 

「ハハハ、楽しそうだなふたりとも。そろそろ始めるから荀彧ちゃんは少しだけ離れて見てくれ!やるぞ、朱治!」

 

「はい、父上!」

 

 

 

 

 

そこからいつもの慣れた口上で始める朱治と楽風。ここ最近噂になっている大道芸人の登場に通りかかった人たちは足を止めて芸を見ていく。芸は一人で行うものもあれば二人で協力して行うものもあり、中には観客に参加してもらったりしながら場を盛り上げていく二人。荀彧も最初こそ馬鹿にしていたが、朱治の一つ目の芸の種が分からず、次々見せる朱治の芸の粗さがし夢中になっていた。笑顔こそしていなかったが、楽しんでいるのは見てわかる。朱治は芸をしながら時々荀彧の顔色を見ていたが、楽しんでいるものの笑顔ではない荀彧に力不足を感じていた。そのまま芸は進行していき、最後の演目にまでなった。

 

「さてお楽しみのところ申し訳ありませんが、最後の芸となります!これは私の息子朱治が初めて一人で作ったものであり、最後を飾るにふさわしい華やかなものです!」

 

「まだまだ若輩な身ではありますが、この芸には特別自信があります!最後までお楽しみください!」

 

最後の芸ということで観客も盛り上がる。荀彧もこれまでの芸で一つも種が分からないことに苛立ちつつ、少しの動きも見逃さないと朱治の動きに集中する。

朱治は舞を踊るかのように体を動かし始める。その動きはとてもなめらかであり、その表情からは色気がにじみ出ているようだった。そんな動きに見ほれていると朱治の手には突如赤い薔薇の花が現れた。観客が驚く中、朱治は手に持つ薔薇を観客に放り投げると手には薔薇の花が。それを再び放り投げると朱治の手にはまた新しい薔薇の花が!観客の手元に薔薇が降ってくる様はとても優美であり、とても幻想的に見えた。観客はいっせいに拍手に沸き、大喝采が場を支配した。結果大道芸は大成功をおさめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハ、今回も大成功だったな!」

 

「ですね、父上!皆さん喜んでくれていたみたいで大満足です!」

 

「だな!じゃあ俺は帰るけど陽風はどうする?」

 

「先に帰っておいてもらえますか。これから荀彧と象棋盤の約束をしていまして…。それに感想を聞かないといけませんし。」

 

「そうか!なら気を付けて帰ってくるんだぞ!」

 

「はい、では!」

 

 

 

 

 

 

 

楽風と別れると朱治は小走りで荀彧のもとに駆け寄る。荀彧は芸が終わった後、苦虫を噛み締めたような顔でたたずんでいた。

 

「どうだったかな?楽しんでいたようだったけど。」

 

「…………全然面白くなかったわ。」

 

「分かりやすい嘘をつくなよ。これは僕じゃなくてもバレバレだぞ。」

 

「ほんとうにむかつく顔ね…!楽しかったわよ!悔しいけど種が欠片もわからなかったわ。これでいいわよね!」

 

「何を怒っているんだよ。勝負は荀彧の勝ちだろ?」

 

「は?」

 

「どうした?そんな素っ頓狂な顔して?楽しんでいてくれたのはうれしいけど、僕の芸で笑顔にすることはできなかっただろ?やりながら力不足を感じたよ。」

 

「……………………は?」

 

「本当にどうした?察しが悪いぞ。荀彧の勝ちだぞ。」

 

「ふざけるんじゃないわよーーーーーーーー!そんなの勝ちと言えるわけないでしょ!あんた本当に頭に綿でも詰まっているんじゃないの!」

 

「どんな悪口だよ!勝ちは勝ちだろうが。」

 

「明らかに譲ってもらったようなものじゃないの!そんな勝利求めてないわよ!」

 

「求めていようが求めてなかろうが勝ちに変わらないだろうが。ほら、象棋盤をやるんだろ。僕も早く帰りたいんだから行くぞ!」

 

「待ちなさい!話は終わってないわよ!」

 

 

 

 

 

そのあと口喧嘩をしながら荀家に向かう二人だったが、並んで歩く影は少し近づいているように見えた。

出会って4か月がたったある日の日常、 、 、 、

 

 

 

 

 

 

 

 




ある日の日常を書いてみました。


真名関係がとてもめんどくさいですね。人前で他人の真名を話すことは失礼に当たる、って設定があった気がするので交換し合った面々のみの場合だけ真名にしてたりするんですが…………。最近の作品だと真名呼びが普通だったりして、、、、これが一番苦労しますね。((+_+))


この設定ってもしかしてオリジナルになってしまうのか?


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第八話

少し遅くなりましたが投稿です。

ここら辺から話がどう分岐するのか?


 

 

 

 

朱治は荀攸の教鞭によって着実に力を伸ばしていた。

試験を行えば、いつも荀彧に少し届かず次席。だが象棋盤においては荀攸ですら遠く及ばない実力に成長した。一年たった今でも度々荀彧からの再戦の申し込みは絶えることなく続いており、それに朱治は飽きもせず付き合っていた。いや、飽きもせずとは語弊があるかもしれない。再戦の申し込みという言い方も優しく言い直したものである。なんとなく予想できているとは思うが…………、

 

 

 

「あんた、当然暇よね!?今日こそ目に物を言わせてあげるから家に来なさいよ!」

 

「もうしつこすぎませんかね……。勝ちが500を過ぎたあたりで数えることをやめたわけだが、さすがに飽きてきたよ。」

 

「あんたが飽きてきていても私が勝っていないんだから、意味ないのよ!おとなしく来なさい!当然勝つまで返さないから。」

 

「いやだよ!荀家に行き過ぎて門番さんとは顔なじみみたいになってるし、最初とか強面で仕事しつつ警戒した目で見ていた人たちが最近は笑顔で挨拶からの素通りだぞ!慣れすぎだろ!」

 

「あんた笑顔が好きだって普段からしつこいくらい言っているじゃない!問題はないでしょ?」

 

「笑顔でもあの温かい保護者のような目線はなんだよ!それこそ荀緄様なんてもう『息子が一人増えたようなものだよ。』なんて言って笑いながら通り過ぎて行ったんだぞ。しかも外でも話をしているのか市場とかだとなんか婿候補がなんとやらとか噂がたってて行きにくいんだよ!」

 

「その話はやめなさいよ!私も買い物の時に質問攻めにあったのよ!父様に言っても笑って流されから、気にしないようにしてたのにあんたのせいで思い出しちゃったじゃない!どうすんのよ!」

 

「それこそ知るかよ!なら家に呼ばなければいいだろ!」

 

「嫌よ。そんなことしたら私が噂について意識しているみたいじゃない!そんなこと考えられないわ!」

 

「ああ言えばこう言うな、くそ…。もう考えること自体が面倒だよ……。」

 

「ならおとなしく行くわよ。行くときは私と距離をとって歩きなさいよ!」

 

「なんだかんだ気にしているんじゃねーかよ…………。はいはい、行きますよ。行けばいいんだろ。」

 

 

辟易しながらも先に行く荀彧についていく朱治。この軽い口喧嘩も含めて噂を助長していることを二人は当然知らないが、朱治も荀彧も荀家で徹夜をすることに違和感を感じなくなってきている。おそらくこのことに気づくことはないのだろう。

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

荀緄はその日仕事を終わらせて珍しく飲み屋に来ていた。普段は自宅でひとり飲むことが多い荀緄も今日は連れがいた。

 

「ははは、いい飲みっぷりですな荀緄様!正直朱治から飲みのお誘いの話を聞いた時には柄にも合わず緊張してしまったものです。」

 

「様なんて堅苦しい呼び方はやめましょうよ。私のことは苑樹《エンジュ》と呼んでください。」

 

「それは光栄ですが、いきなり真名とは急ですな……。」

 

「いえ、もともと機会があれば渡したかったわけです。一度あなた方の芸をお忍びで見に行ったことがありまして。あのような素晴らしい芸を見せられるあなたは間違いなく善人でしょう。それに朱地君には荀彧がお世話になっていますし、その朱治君が尊敬されている両親方なら信頼できましょう。」

 

「息子の朱治を気に入ってくれているみたいで何よりです。そういうことなら私も楽風の名を託します、苑樹様!」

 

「様はいらないですよ?」

 

「まあまあ、ひとまず飲みましょう!」

 

「それもそうですね。不自然な話の逸らし方ですが流されておきます。」

 

「では………、」

 

「「乾杯!」」

 

 

 

 

 

苑樹も楽風も実は今回が初対面だったりするわけだが、似たような年に近い年の子供を持つ親同士話が話す話題は自然と子供の話になっていく。

 

「それにしても朱治君には本当に荀彧がお世話になっているよ。私の浅慮から男嫌いにしてしまった負い目があったわけだが、朱治君と話しているときはとても楽しそうにしているように見える。」

 

「それを言うなら荀彧ちゃんにも感謝していますよ。朱治の才能の話は荀攸先生から聞きましたが、競う相手がいなければ少し浮いてしまっていたかもしれない。そういう意味ならあの強気な態度で勝負してくれている荀彧ちゃんは朱治の恩人ですね。」

 

「そう言ってくれると私も助かります。」

 

「……それにしても朱治はどういう道を進むのでしょうか。あの才能はまだ伸び続けるはずですし、親としてどうすればいいんでしょうね。」

 

「現実的なところだと地方の文官。実力的には軍師も余裕で目指せるでしょうね。」

 

「まあ、そんなところになりますよね。もう少しで私塾も終わりですから決断するときなのか……。」

 

「なにかお考えがあるのですかな?」

 

「旅に出そうかと。場所ははっきりと決めてはいませんが、あの才能と向き合うためには必要なことだと思っています。多くの人に触れてたくさんのことを知ることができるはずです。」

 

「あの年で旅ですか。まだ齢10歳ですよね?さすがに誰か共に行く大人が必要なのでは?」

 

「そこらへんは大丈夫ですね!朱治はもう家内よりも強い子ですから。」

 

「……え、えっとそれが本当のことだとすると朱治君は軍師より将軍の方がむいているのでは?」

 

「ははは、それはさすがに過大評価過ぎますが、自衛は問題ないと思います!ですが確かに一人旅という点には私もつっかかるものがあります。家内は当然仕事ですし、まず家族がついていったら旅の意味がなくなってしまう。」

 

「そこらへんは朱治君に話してから詰めていけばでいいと思いますよ。私塾もあとひと月ちょっと。荀彧も仕官の話がちらほら出始めてきたのでそろそろ話そうと思っていたところです。」

 

「そうですね。ありがとうございます、苑樹様!相談にのってもらっちゃって。」

 

「いえ、かまいませんよ楽風。真名を交換した仲ではないですか?それと様はいりません。」

 

「湿っぽいのはここら辺で終わりにして飲みなおしましょう!まだまだ夜は長いですよ!」

 

「それはいいですね。私の様付けを外すまでやりましょうか…!?」

 

「おっと、苑樹様も酔いが回ってきたみたいで!これは楽しくなってきましたな~」

 

「ええい、人の話を聞けーーーーーーーー!」

 

 

 

 

それから朝まで飲み続ける二人。先ほどまで落ち着いていた荀緄の騒ぐ姿に荀彧ちゃんは父親似なのかな~、と能天気なことを考えつつも帰って朱治に話す内容を考える楽風だった。

 

 

 

 




というわけで8話でした。

皆様からのご指摘であとがき編集という形になり、すみません。

活動報告に改めて同じような内容を載せるので気が向いた方はよろしくお願いします。



これからも駄文ですがお付き合いください!


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