呑気な悪魔の日常 (ケツアゴ)
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プロローグ

思いついたら書かないと落ち着かないんです

続きは未定


 冥界のとある貴族の屋敷にて、豪奢なドレス姿で赤ん坊を抱いた女性が一人の少年に視線を向けながら微笑んでいた。ただ、その目には一切の慈愛の類は宿らず、寧ろ憎しみさえ感じるほどだ。

 

「……人間の学校に通え? 何でまた」

 

 女から告げられた言葉を聞いた周囲の使用人達の表情に驚愕の色が浮かぶ。だが、質問をする時の少年は怪訝そうにしていながらも動揺した様子はなく、女はそれが癪に触りながらも表面上は取り繕っていると、少なくとも本人はそう思っている様子だ。

 

「グレモリー家やシトリー家の令嬢も個々の事情で通っています。魔王の妹との交流の方が冥界で貴族の学校に通うよりも役に立つでしょう。既に手配は済ませています。では、もう下がって宜しい」

 

「そうですか。では、失礼致します」

 

 女は冷淡に告げると少年を少しでも視界に入れたくないとばかりに背を向ける。この言葉にも少年の事を想う気持ちは微塵も感じられず、寧ろ悪影響こそ望みとさえ思えるほどだ。だが、それでも少年は眉一つ動かさずに女の背に一礼すると出て行く。何一つ彼女には期待などしていない。そのような気持ちが現れているようだ。

 

 ただ、女の腕の中の赤ん坊が肩越しに自分に手を伸ばした時、その時だけは無表情だった少年の口元に笑みが浮かんでいた。

 

 

「……まずはこれで良し。この家はお前の物よ。あんな奴、お母様が消してあげるわ」

 

 少年が去り、使用人達を強い口調で追い出した女は腕の中の我が子に笑みを向ける。その瞳には野心の炎が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「若様、申し訳ございません。あの様な女に好き勝手させ、あまつさえ若様の将来に……」

 

 女の部屋を追い出された老年の使用人、服装から執事だと思われる彼は悔しさを滲ませ、無力感で拳を震わせる。周囲の使用人達も似たような様子で、少年に対する憎しみさえ感じさせる女の言動に憤りを感じていた。

 

「亡き旦那様もどうしてあの様な者を後妻などに……」

 

「あっ、うん。大丈夫大丈夫。社交界には顔出すし、僕より皆が注意してね。あの人に追い出されたら寂しいからさ」

 

 だが、悲痛な表情を浮かべる使用人達と違い、少年だけは飄々とした様子で気落ちした風には見えない。寧ろ使用人達の心配をするなど余裕すら感じさせた。

 

「あの人が僕を邪魔に思っても仕方ないよ。自分が産んだ子が可愛いのは当然だからね。僕だって妹が可愛いし、近寄るのを嫌がるあの人の目を盗んで相手をしているけど、最初に喋ったのが『にぃに』だから参ったよね」

 

 継母が自分を憎み陥れようとしている事を気にもせず、嬉しそうに異母妹の事を話す少年の姿に落ち込んでいた彼らも明るさを取り戻す。まだ手遅れになった訳ではないと安心感さえ感じていた。

 

 

「これから大変だけどさ、いつか、きっとどうにかなる。だから家のことは任せたよ。僕のことは眷属に守って貰うから、君達には僕が帰る場所を守って欲しいんだ」

 

「お任せ下さい。若様の居場所は無くなりません。私達が無くさせや致しません」

 

 相手は家の実権を握り、自分達は使用人に過ぎない。だが、少年に後を任された途端、立ち向かう勇気が、希望が彼らの中に湧いてきた。少年がそれだけ慕われているのか、それとも一種のカリスマ性の類なのかは分からない。確かなことは互いに相手を心配し大切に想っているという事だ。

 

 

 

 

 

「あの人も懲りないなあ。雇うお金だって馬鹿にならないだろうにさ。借金とか無理な徴税とかはしていないみたいだからひとまず安心だけど。悪評が広まったら困るよね、うん」

 

 月日は流れ二度目の春を迎えた頃、刃傷騒ぎとは無縁そうな地方都市の一角で異様な光景が繰り広げられていた。学生の下校時刻という時間帯にも関わらず妙なほどに人気がないその場所に集まったのは覆面で顔を隠した集団。手に持つ獲物は毒が塗ってあるのか怪しい光沢を放っている。そんな者達に殺気を向けられながらも少年は呑気に呟くだけで臆した様子を欠片も見せない。

 

「ザナク・アルシエルだな。悪いが死んで貰う」

 

 目的を告げると共に暗殺者達の手元からナイフが投擲される。だがザナクは彼らを一瞥するだけで慌てた様子もなく、急所めがけてナイフが飛来し、全て同時に見えない壁に阻まれるようにして弾き返された。甲高い金属音と共に宙を舞ったナイフが地面に突き刺さった時、既に一人が動いていた。

 

(とった!)

 

 一切無音無動作の死角からの攻撃。手のダガーに塗られた毒はドラゴンの肉体さえ蝕むほどに強力な物。長年の経験から確実に仕留めたと確信して尚、彼は油断などしていなかった。ターゲットの死亡を確認する瞬間まで気を緩めなかったからこそ闇の世界で生きてきたのだ。

 

 

「ぐがっ!?」

 

 だからこそ、気付かれない筈の攻撃に対し、此方を見ずに放たれた裏拳を食らった彼は何をされたのか理解できなかった。一瞬真っ白になる思考。だが、瞬時に持ち直した彼は瞬時に後方に跳躍する事で体勢を整えようとする。その足が引っ張られる事によって地面に背中から叩き付けられる事になったのだが。

 

「しかし何度も刺客を送られたら流石に参るよね。お家騒動とか醜聞もいい所だし、商人と同様に貴族も信用と実績が必要だ。もみ消すのって大変だけど、君達は暗殺後の証拠隠滅とかアフターケアはしっかりしているかい?」

 

 命を狙ってきた相手に対し余りにも呑気な態度の彼は一見すると気が触れているのではとさえ思えてしまう。今回狙ってきた彼らも正気を疑っただろう。でも、彼は狂って等いない。この程度、慌てるほどの事と認識していない、それだけだ。

 

 そして暗殺者達に彼の正気を疑う余裕はない。先ほど背中から地面に叩き付けられた男の足に絡み付いているのは黒い炎。一切の光を飲み込むとさえ感じさせる、天に輝く太陽とは真逆の存在。それが残った全員の体を縛り付けていた。

 

「下手に探ってバックの組織を本格的に敵に回すのも、あの人を告発してお家騒動を広めるのも避けたいし……どうせ任務失敗で殺されるんだから構わないよね?」

 

「さっさと殺せ……」

 

 暗殺者達は命乞いをする事無く炎に全身を包まれ、悲鳴を上げることなく息絶える。炎が消えたとき、彼らの存在は肉が焼けたような匂い程度の痕跡すら消え去っていた。

 

 

「さてと、早く帰らなくちゃ流石に辛くなって来たな」

 

 ザナクは腕時計を填めた腕を見ると大急ぎで駆けていく。端から見ると帰路を急ぐ学生にしか見えず、先程までのことが無かったかのようだった。

 

「ただいまー」

 

 走ること十分、住居にしているマンションの扉を開けて中に入るなりザナクは息を吐き出す。その顔にはやや疲労の色が浮かんでおり、袖を捲ると黒蛇のような模様が存在していた。一見すると刺青かボディペイントだが、部屋の奥からドタドタ慌ただしい足音が響くと同時に眠っていた蛇が目を覚ましたかのように動き出して腕から抜け出した。

 

 シュルシュルと身をくねらせながら蛇は前進し、前方のドアが開くとバネのように跳ぶ。蛇が飛びかかったのは虚ろな瞳をした少女。カラスの濡れ羽色の髪を三つ編みにして病的にまで白い肌の幼い彼女は跳んできた蛇に臆した様子もなく立ち止まり、蛇はフリルの付いた白い服の中に潜り込んだかと思うと彼女の中に吸収されるように消え去った。

 

「ザナク、お土産有る? クリスはケーキが食べたい」

 

 無機質な瞳を向けたままザナクに近寄った彼女は顔を見上げながら両手を差し出した。それに対してザナクは呆れたようにしながらも鞄からプリンを取り出した。

 

「ちょうど購買で人気の手製プリンが買えたからね。クリスティ、何か忘れていないかい?」

 

「……あっ、うっかり。おかえり、ありがとう。プリン食べて良い?」

 

「良くできました。今度からは言われるより前にね」

 

 ザナクが自分の手にプリンを置くとクリスティは無表情のままコクコクと頷いて台所まで走っていくが、途中で思い出したかのように立ち止まって振り返った。

 

 

 

「忘れてた。今日から吸い取る魔力の量増やせって花月(かげつ)に言われてた」

 

「……それでか。妙に疲れると思ってたんだ。また暗殺者が来たし大変だったんだよ?」

 

「もしもの時はクリスが助ける。何も問題ない」

 

 クリスティの言葉に、事前に言ってくれなかった事にやや不満そうにしていたザナクは一瞬キョトンとし、直ぐに吹き出した。

 

「はいはい。たよりにしてるよ。お茶でも煎れようか」

 

「……ココア!」

 

「あー、僕もココアにしようかな? でもミルクティーも捨てがたい」

 

 バタバタと台所に向かうクリスティの後に続きながらザナクは台所へと向かっていく。この何気ない日常が幸せだと感じながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの女、今に見てな。アタシが絶対にぶっ殺してやるよ」

 

 ザナクのマンションの一室、他の部屋と違い和を基調とした部屋にて脇息に肘を置き、キセル片手に紫煙を燻らせる美女が不機嫌そうにしていた。浮世絵から抜け出てきた遊女を思わせる姿をしており、口元の黒子や動作一つ一つが婀娜っぽい。世界で一番嫌いな女の顔を思い浮かべながら憎々しげな表情になった彼女は手元に置いてあった三味線にそっと手を伸ばす。

 

「さてと、後でザナクの修行に付き合ってあげないとねぇ。この花月姐さんがみっちりしごいてやるよ」

 

 少しだけ機嫌が直った彼女は三味線を奏で始める。それは思わず聴き入ってしまいそうな程に素晴らしい音色だった。




さて、これで他のが書ける


感想お待ちしています

活動報告で募集有り


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第一話

今回投稿キャラが出ます ありがとう!!


「昨日は本当に大変だったよ、うん。もう殴るわ蹴るわのボッコボコ。やっぱり本職には勝てないね。痣だらけ土塗れ血塗れにされた後は風呂に連れ込まれて全身を洗われるしさ。その上ついでだからって背中を流させられたんだ」 

 

 麗らかな日差しが降り注ぐ昼休み、木陰に入っている二人と顔を向き合って食事を取っていたザナクはいまだ少し痛む体を摩りながら箸を進めるが、ピーマンの肉詰めの寸前で箸が止まってしまった。

 

(ピーマン、苦手なんだよね。家では花月が見てるから無理だけど……)

 

チラリと前の二人に視線を向け、視線が自分から外れた瞬間に中の肉だけ取り出すと口に運び急いで蓋を閉めようとした。だが、蓋が閉まるよりも素早く差し込まれたフォークがピーマンに突き刺さり、閉じるよりも前にザナクの口にピーマンが入れられた。

 

「……主様、残したら駄目。ボクは花月さんからも見張るように言われてるから」

 

「そうだぜ。好き嫌いは駄目だ。僕だって見逃さない」

 

「……分かったよ。リュミネル。アレイシアは人の事言えないよね」

 

 やや咎めるような困った様な声で注意して来たのは前髪は目元を隠す程に伸ばして後ろはポニーテールにしている少女。白銀の髪を解けば膝まで届く程に伸ばした雪の様に白い肌を持つ。身長は低いが胸部の成長は著しい。そしてもう一人は注意しながらもリュミネルの弁当箱に酢豚のパイナップルを入れようとした少年。短く揃えた銀髪と紫の瞳で高身長のモデル体型、此方はアレイシアと呼ばれた。

 

「アレイシアも駄目だよ? それに果物は嫌いじゃないでしょ?」

 

「いや、酢豚のパイナップルは許せないんだ。パインはパインで食べるに限るよ」

 

「はいはい。それにしても今日は絶好の昼寝日和だよねぇ。少し寝るよ。適当な時間に起こして……」

 

 本来悪魔は日差しが苦手だ。力の成長と共にそれ程でも無くなりはするのだが人に比べれば日光は弱点の部類に入るだろう。だがザナクは何一つ影響がない様子で日差しの下で食事をし、今も日光を浴びながら気持ちよさそうに伸びをしていた。

 

 そのまま草の上で寝転がろうとした時、女子数人の怒った声と男子三人程の慌てる声が聞こえて来る。ザナク達は僅かに視線を向けはしたが、それが誰かを確認するなり珍しい物でもないように視線を外す。今追いかけられている三人は他校の生徒さえ見た目から本人だと分かる程度に有名なのだ。……悪い意味でだが。

 

 

「やってるねぇ。また覗きかな? 女子が多い学校でよくやるよ。あっ、そろそろ追い付かれる」

 

「……ボク、あの三人苦手。変な目で見て来るんだもん」

 

 普段から猥褻な本などを持ち込み猥談に興じる三人組から隠れるようにリュミネルは二人の背中に回り込む。尚、三人は覗かれた女子達に囲まれて制裁を受けていた。

 

「今日も平和だなぁ。美味しいご飯に何時もの光景。こんな日が何時までも続けば良いのに」

 

 ザナクは仰向けになって空を見上げ、日差しが眩しいのか目を細める。やがてスヤスヤと寝息を立てて眠り出し、リュミネルとアレイシアはその姿を見て口元を緩ませ、直ぐに真面目な顔付きになる。

 

 

「昨日、僕達が警備隊に合流した後くらいに刺客が来たそうだぜ。返り討ちにして喰ったそうだけどさ」

 

「……あの人、相変わらず主様が嫌いなんだ」

 

「家柄は最上級で政治手腕は超優秀。……だけどなぁ」

 

 アレイシアは舌を打ち、リュミネルは顔を曇らせる。怒りと無力感、それを二人は感じていた。

 

 

「……ボク、強くなりたい」

 

「ああ、そうだ。僕も強くなりたい。此奴は大切な親友だから守れる様にな」

 

 二人が拳を握り締める中、継母から命を狙われている当の本人は楽しそうに寝言を呟いていた。

 

 

「おいで、メアリー。兄様が遊んであげるからさー。えへへ~」

 

 

 

 

 

 

 アルシエル家は番外の悪魔(エキストラ・デーモン)と呼ばれる特殊な家系の一つだ。他にアバドンやルキフグス等があるが、多くが断絶するか政府とは距離を置いている。冥界での地位に関わるレーティングゲームに出る者は実家から離れる程だ。

 

 そんな中、アルシエル家は代々の領地の場所の関係から政府と繋がりを持っていた。

 

 

「今回の新製品は美容クリームと香水かぁ。材料は確か去年の大侵攻の時に発見した種から咲いた花だっけ?」

 

「……あの時は大変だったぜ。結局僕達の受け持ち場所はクリスとオッサンが大体片付けたんだけどよ」

 

「製品は全部把握しとけって事だろうけど……説明書きが長いなあ」

 

 冥界は地球と同じ面積に加え海が存在しないので手付かずの土地が多いが、アルシエル家領地には人手や必要性以外の理由から殆ど手が加えられていない森林地帯、通称ゲヘナの大森林が存在する。危険度が非常に高い魔獣が生息し、生息する全ての種族を把握出来ていない。把握できている範囲でさえ価値の高い物が数多くあると分かっているのにだ。

 

 それほど調査が進まない最大の理由は大森林がアルシエル家領地だけでなく、冷戦状態の堕天使の領地にまで広がって居るからだ。互いに刺激しないように本格的な立ち入り調査は禁止とされ、毎年梅雨の時季に起きる『大侵攻(だいしんこう)』と呼ばれる大量発生した魔獣の森林の外への進出の際に魔獣や体に付着した物を研究するに留まっている。

 

 そして研究の結果、有益な効果を持つ物が見付かれば人工栽培や加工によって商品にしている。この日、そのサンプルが送られてきた。

 

「アンタの事は嫌いだし命も狙うけど、暗殺が全部失敗して結局当主になった場合も想定してるんだろうね、あの糞女はさ。……クリームの方は餅肌に効果的だと。……悪くないね。これ、私が貰うよ」

 

 当主代行を勤めているザナクの継母の顔を思い浮かべて不愉快そうにしながら机の上一杯に広げられた新製品の一つに手を伸ばすと異議は認めないとばかりに気に入った物を選び出した。

 

「ほらほら、クリスティが真似したら困るから汚い言葉は控えようよ。今回は食べ物はキャンディだけなんだ、残念。あっ、でも喉に良くって美声が出るんだって。今度皆でカラオケにでも……リュミネル、それが欲しいの?」

 

「ひゃっ!? べべべ、別に良いよ、主様! ボ、ボクはちょっと見てただけだから。あっ、ちょっと部屋に戻るねっ!」

 

 ザナクがふと視線を向ければピンク色の香水の瓶と説明書を手にして赤くなりながらもジッと見つめているリュミネルの姿があった。気に入ったのならあげようと軽い気持ちで言ったザナクであったのだが、言われた本人の反応は大きい。大きくビクッと体を跳ねさせ慌てた様子で香水の瓶を机に戻すと明らかに何か隠しているという様子でその場を後にする。

 

「……ん? リュミネル何か落とした」

 

 だが、気付かなかったのかポケットに押し込んだ香水の説明書が床に落ちており、砂糖を沢山入れた紅茶を飲みながらお煎餅を食べていたクリスティが拾い上げた。

 

「あーる18? えっと……」

 

「よし、それを渡してクリスティ。君、実年齢は兎も角精神年齢は子供だから」

 

 クリスティが詳細を読む前にと説明書を受け取ったザナクは把握するのも仕事の一つだからと内容に目を通す。リュミネルが何故恥ずかしがったのか少し興味もあった。

 

「……無臭ですが使用者のフェロモンと反応を起こし、異性、特に使用者が好意からの胸の高鳴りを感じる相手に魅力的に感じさせます。……年頃だからか興味はあるけど恥ずかしいよね、これは」

 

 

 

 

 

 

「うきゃぁあああああああっ!?」

 

「あっ、説明書を落としたのに気付いたみたいだぜ。……取り敢えず知らない振りでオーケー? あと、オッサンには絶対秘密な。デリカシーとか知らないから」

 

 アレイシアの言葉に事態を飲み込めていないクリスティ以外が静かに頷く。只、気を使われるとそれはそれで恥ずかしい。彼女が身悶えするのは決定する中、ザナクは連絡事項を思い出した。

 

 

 

 

 

「あっ、街に堕天使が潜入しているから注意して。戦争継続派に利用されるのも、縄張りにしているグレモリー家と揉めるのも嫌だからトラブルは避けてよ? 平穏無事が一番だからね。潜伏場所は町外れの廃教会だから周囲には近寄らないように」




感想お待ちしています

キャラ募集中

女王 クリスティ(クリス)

騎士 花月

騎士 リュミネル・アーネリンス

戦車×2 ?(オッサン)

僧侶 投稿キャラ 有力候補アリ

僧侶 未定 原作キャラ?

兵士   アレイシア・ビクトール  消費数?

     ?

     未定

尚、ヒロイン未定

兵士か僧侶の一枠を原作キャラにする予定 僧侶の場合ヒロイン

活動報告でキャラ募集継続中 兵士か僧侶です


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第二話

主人公 一応偉い


「花月さん、そんな格好で歩き回るのはちょっと」

 

 風呂上がりにタオル一枚でリビングを歩き、冷蔵庫の缶ビールをグビグビと流し込む花月に対し、リュミネルはリビングのソファーに座っているザナクとアレイシアの二人にチラチラ視線を向けながら抗議する。

 

 風呂上がりで温まった体はほんのり赤みが差し、解いた髪は湿り気を帯びて体に張り付いている。バスタオル越しにでも分かる均衡のとれた肉体からは大人であるからこそ感じられる妖艶さが醸し出され、同姓であるリュミネルでさえ直視が出来ない程だ。

 

 ならば年頃の少年である二人なら尚更で、時折風呂に連れ込まれることが有るが未だに今の花月に顔を向ける事が出来ない。時折チラリと視線を送るもリュミネルと目が合うと慌てて元の方向を向いていた。

 

「別に良いじゃないのさ。アンタは固いねぇ。別に裸で出歩いている訳じゃあるまいし。目の保養になるんだ。この程度見せても問題無いさね」

 

「と、当然だよっ!? 裸で出歩くなんて……」

 

 二人のそんな反応など当に分かっており、むしろ反応を楽しんでいるのか、花月は聞く耳を持つ様子はなく、リュミネルは彼女の言葉に何を想像したのか真っ赤になって口ごもる。花月はそれが楽しいのかニヤニヤ笑い、羞恥心からリュミネルが視線を外した瞬間に流れるような滑らかな動きで彼女の背後に回り込んだ。

 

「前から思ってたけど、悪魔になったんだからもう少し自分に正直に生きたらどうだい? こーんな可愛い顔を隠しちゃってさ」

 

「あわわわわっ!?」

 

 左手で逃げられないように腰を押さえつけ、右手でリュミネルの前髪を上げる。素顔を見られた事が恥ずかしいのか顔の赤みが更に増す。テンパって頭が真っ白になったのか逃げようとする動きが止まり、チャンスとばかりに花月の目が輝いて手の位置が変わる。リュミネルの胸をガッチリ掴むと揉みだした。

 

「うきゃぁああああああんっ!?」

 

「そして胸も良いモン持ってんだ。感度も良好だし、顔ちゃんと見せて女の武器をちゃーんと使えば男なんてイチコロさね。何ならアタシが一から十まで仕込んであげようかい?」 

 

「イチコっ!?」

 

「これでも昔は吉原一の床上手と持て囃されたもんさ。ザナクを使って実践形式でレッスンだ。なぁに、体に悪い事じゃない。寧ろ良いこと……ありゃ気絶してるよ、この子」

 

 恥ずかしさが限界まで達したのか、リュミネルは顔から湯気が出そうな程に赤くなって気を失っている。流石に遣りすぎたと反省しているのか左手でリュミネルを支えながら頭を掻く花月。すると横から手が伸びてリュミネルを抱き上げた。

 

「……やり過ぎ」

 

「はいはい、反省してるよ、王子様。ほら、姫様をベッドまで運んでやりな」

 

 やや責める様な目を向けてくるザナクにさっさと行けと追い払うように手を振る花月。リュミネルをお姫様抱っこしたザナクは深い溜め息を吐くと花月に背を向けた。

 

 

 

「今の一連のやりとりでムラムラしててもその子を襲ったら駄目だからね? なぁに、アタシがたっぷり相手してあげるさ。何ならアレイシアも加わるかい? 偶には若い燕二匹から精気を搾るのも悪くないもんだ」

 

 獲物を狙う捕食者の瞳を二人に向けながら舌なめずりをする花月。指先を胸元のバスタオルに引っ掛け軽く緩ませる。何よりその声には不思議な程に惹かれる何かがあった。

 

 

「此処でお願いしたら何かが負けな気分がするから断るよ」

 

「まっ、ヤる気の無いのを無理に誘惑しても仕方ないしね。その気のない堅物でも宥めて賺せて布団に連れ込んで絞り尽くしてこそだけど今日は諦めてやるさ。でも、アンタには将来困らないように女の扱いはちゃーんと仕込むよ? アタシにも役得が有るしさ」

 

 後ろ髪を引かれる思いを感じながらもザナクはリビングから出て行く。その背中に最後まで誘惑する様な声で言葉を投げ掛けながら花月はビールを飲み干した。

 

 

 

 

 

「よしっ! じゃあアレイシア、今から可愛がってやるからアタシの部屋に来な。なぁに、安心しなよ。興が冷めたから本番は無しにしといてやるさね」

 

 チャンスとばかりに足音を殺して逃げようとしたアレイシアだが、花月が見えない糸を引っ張るような動きをすると前に進めなくなる。首だけは動かせるので恐る恐る後ろを見れば完全に捕食者の目をした花月がゆっくりと近寄ってきていた。

 

 

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

「ならアタシが満足するように良い声で鳴くんだね。さぁて、どう苛めてやろうか……」

 

 アレイシアの顎を花月の指先が撫で、そのまま獲物を巣に引きずり込むかのように肩を抱き寄せて部屋に連れ込む。どうやらお手柔らかに済ます気は皆無のようで、この夜、三時を回るまでアレイシアは解放されなかった……。

 

 

 

 

「花月にも困るよなあ。元の種族の性なのか本人の性質なのかは分からないけど、もう少し大人しくして欲しいんだけど。よっと!」

 

 気絶したリュミネルを抱っこしたまま彼女の部屋に向かったザナクは部屋の前で立ち止まる。背中から放出された魔力が手の形になってドアノブを捻り、そのまま中に入るとザナクはリュミネルをベッドに寝かせた。体を冷やさないように布団を掛け、出て行こうとしたのだが出ていけない。リュミネルの手がザナクの手を掴んでいた。

 

「さて、困ったなぁ。暫く起きそうにないし……」

 

 寝ている状態でもリュミネルの握力は強く振り解くのは無理だ。リュミネルの駒は花月と同じ騎士(ナイト)。元々は老執事であるチャバスが保護した訳ありの子であり、剣の才能があったのでザナクの専属メイド兼護衛の一人を任されていただけあって細腕からは想像できない力を持っている。

 

「仕方ないから暫く待って……」

 

 その場に座り込みリュミネルが起きるのを待とうとしたが、花月から逃げられた安堵から気が抜けたのか睡魔に襲われ寝入ってしまった。

 

 

「……どうしよう」

 

 夜中の三時頃、漸く目を覚ましたリュミネルは狼狽する。目の前にはベッドにもたれ掛かって眠るザナクの姿があり、自分としっかり手を繋いでいる。取り敢えず手を離し体を揺すってみるが起きる気配がなかった。

 

「……女の武器かぁ。例えば主様はボクを魅力的って感じてくれるのかな?」

 

 そっと上半身を起こしたリュミネルは翼を、いや、羽を広げる。彼女の背中に存在したのは悪魔の翼ではなく、片翼の天使の翼だった。

 

 人と天使の間に生まれた奇跡の子であるリュミネルは目を付けた悪魔に攫われ両親も殺された。神器の暴走で誘拐した悪魔を殺した彼女をチャバスが保護し、境遇を知って受け入れてくれたのがザナクの両親だ。そして眷属になったにも関わらず翼が変わらない事をザナク達は受け入れた。

 

「……ボクは主様の為なら何でもするよ。皆の為なら幾らでも強くなれるんだ」

 

 彼女がザナクに抱くのは依存か、忠義か、親愛か、それとも……。本当の所は恐らく本人にも分からない。

 

 

 

 

 

「この前は大変だったよね。僕が風邪を引かないように起きるまで、とベッドに引き込んだら君まで寝ちゃって、朝起きて部屋から出る時に見つかっちゃってさ。昨晩はお楽しみでしたね、とか、絶対分かって言ってたよね」

 

「……あの時の事は言わないで」

 

 数日後、深夜に二十四時間営業のスーパーでチーカマやらサラミやら酒のツマミを大量に買い込んだザナクとリュミネルは少し遠回りをしながら帰っていた。現在マンションでは花月達が酒宴を開いており、クリスティが不貞寝をした為に不足し始めたツマミを買ってくると言って二人は酔っ払いから逃げ出したのだ。尚、アレイシアは捕まったので二人はちゃんと黙祷を捧げた。

 

 リュミネルは余程恥ずかしかったのかザナクの脇腹を軽く複数回に渡って小突き、ザナクはそんな彼女の姿が可愛いやら面白いやらで笑ってしまう。ふと空を見上げれば先ほどまでの厚い雲がなくなって月が地上を照らしていた。

 

「花月や桃十郎(とうじゅうろう)には困るよね。あっ、クリスティもか。あの子、色々な意味でウワバミだから……」

 

 自分より大きな酒樽を傾けて短時間で飲み干す少女の姿を思い浮かべれば苦笑しか浮かばない。今夜は今週のお小遣いで買ったお気に入りの食玩がダブったので寝てしまったが、何時もなら一番飲んでる所だ。

 

「……でも、ボクはこうやって主様と散歩が出来て良かったな」

 

 月を見上げながら何気なしに口にしてしまった自分の言葉にリュミネルは固まってしまう。耳まで真っ赤になって思考が混乱する中、ザナクは平然としていた。

 

「うん、そうだね。一応主の僕が眷属のために買い物に行くのはどうかと思うけど、リュミネルと月夜の散歩デートが出来たから良しとしておくよ。……幸福は簡単に壊れるし、不幸は突然列をなして訪れる。こんな幸せを大切にしたいよね。じゃあ、そろそろ帰ろうか」

 

 流石にアレイシアが不憫だとマンションに早く帰ろうとするザナク。リュミネルは彼の言葉に更に頬を染めながらも慌てて後に続く。直ぐに追い付いて横に並んだ時、丁度繋ぎやすい場所にある手が目に入った。唾をゴクリと飲み込み、バクバクと高鳴る鼓動を感じながらも勇気を出して手を伸ばそうとした時、曲がり角の向こうから慌てて駆けてくる者の姿があった。

 

 

「……アレは兵藤と……堕天使っ!」

 

 この街の管理を任されているリアス・グレモリーから彼を悪魔に転生させたことも、本人が感づくまで黙っている方針だとも聞かされたザナクは状況を直ぐに理解する。堕天使にはぐれ悪魔だと思われて襲われているのだ。少し離れているので両者とも二人に気付いていないらしく、鬼ごっこに飽きたのか堕天使の男は光の槍を出現させた。

 

「この状況で助けない訳にはいかないけど……」

 

「あっ、うん。僕が行くよ。堕天使相手なら僕が最適だ」

 

 虚空から武器を取り出そうとしたリュミネルを手で制したザナクは角から飛び出して二人の間に割り込む。投擲された光の槍はザナクに正面から命中し、体に触れた場所から黒炎が一気に燃え上がって槍は燃え尽きる。ほんの僅かな間の出来事だった。

 

「……お前は…まさかっ!?」

 

「あっ、うん。その驚く姿からして下級っぽいけどウチの一族の事は知っているようだね。彼は僕の知人の眷属だ。教えていない彼女にも非があるし今回は事故みたいなものだから帰りなよ。……それとも僕の糧になるかい?」

 

 ザナクの姿に驚愕と恐怖、そして憎悪を向けた堕天使は無言で去っていく。それを見届けたザナクが振り返ると驚きと困惑で固まってしまっている兵藤一誠の姿があった。

 

「ななな、何なんだよ、さっきのっ!?槍が現れたりお前に刺さったと思ったら燃えたり、ってか、あのオッサンの背中から黒い羽が……」

 

「この反応新鮮だなあ。ああ、君に説明する義務がある人が到着したよ。リュミネル、連絡ありがとう」

 

 ザナクが話し掛けた自分の背後に顔を向ける一誠。そこには隣のクラスに所属するリュミネルと、二大お姉様と呼ばれていて人気の三年生、リアス・グレモリーの姿があった。

 

 

「彼、最近狙われたのに、さっきのは彼の顔を知らなかったみたいだよ、リアスさん」

 

「……そう。少し気になるわね。他のターゲットを狙ってきた別働隊かしら? まあ、兎に角感謝するわ。今度お礼にお茶をご馳走するから部室にいらっしゃい。……じゃあ兵藤君、イッセーと呼ばせて貰うわね? 貴方の疑問に答えてあげるわ」

 

 リアスは呆然とする一誠を手招きして歩き出す。その頃、翼を広げて帰路を急ぐ堕天使の背中に米粒ほどの大きさの蜘蛛が張り付いていた……。




花月 一番エロい

感想 活動報告のキャラ募集お待ちしています  そろそろ決定かな?

次は成り上がり あと一話か二話で終わる 辛いは少し待って いちゃラブがいまいち浮かばない


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第三話

そろそろ辛い書けそう だいぶ浮かんだ 後はやる気かな? 


貴族の仕事は多岐に渡る。領地の開発や経営、有事の際には配下を従えて戦いもする。上に立つという事は下の者に関する責任を全て背負うという事であり、だからこそ貴族の子女子息は幼い頃から親類や家庭教師などの師事を受け、次を背負うべく勉学に励んでいる。

 

「いやいや、お久しぶりですね」

 

「長い間会いませんがお変わりが無いようで結構ですわ」

 

 そして社交界などの交流の場に出るのも貴族の立派な仕事だ。相互補助関係の為にも、何か有益な情報を引き出す為にも。学校では同学年と教師、精々が一学年上下の相手としか交流を結べないので社交界にて顔を広げる。ザナクも又、他の貴族と同じように出席していた。

 

「……欲望だの何だのが相変わらず渦巻いてやがんねぇ、此処は。吉原とちっとも変わらないよ」

 

「純血は少なくなってるし、少しでも良い家と関係を持ってあわよくばって所だよ。僕も数人候補が居るけど決まってないからね、婚約者」

 

 お供としてパーティドレスに身を包み夜会巻きに髪型を変えた花月は豪奢な扇で口元を隠しながら周囲を観察し、ザナクが取りあえず上層部や、家や自分と関係のある相手への挨拶を済ませようと思っていた時、不意に聞こえてきた嘲笑に眉をしかめた。

 

「ほら、彼奴も来てるわ。あの無能に負けた()大王家次期当主。グレモリー家の事もあるから婿に出るのは難しいでしょうし、分家にでもなるのかしら?」

 

「俺、当主になると思っていた時に媚び売ってたけど損したな。ぷぷぷ」

 

 流石に貴族で一番位の高い大王家を敵に回すのは嫌らしく、本人に聞こえない程度の声で明らかな侮蔑の言葉を吐く若い悪魔達。その視線の先には居心地が悪そうにしているマグダラン・バアルの姿があった

 

 一族固有の力である滅びの魔力どころか非常に低い魔力しか持たずに生まれ、他家に嫁いだ者から優れた滅びの魔力の持ち主が生まれたことで父から虐げられ僻地に母共々送られたサイラオーグ・バアルは努力の末に肉体だけで若手ナンバーワンの称号を手にし、次期当主の座も弟のマグダランとの決闘で勝ち取った。

 

 結果、マグダランは今までの人脈も勉学も水泡と化し、劣等感を感じながら貴族社会で生きていくしかなかった。

 

「やあ、マグダラン。久しぶりだね。リンゴの方は順調かい?」

 

「ザナクか。まあ、それなりにはな。父は喜ばんし、次期当主の権限も無くなったから大変だが頑張るしかないさ」

 

 そのマグダランとザナクは友人であった。大森林から手に入れた植物の栽培研究を家が行っている事もあって興味があったザナクはマグダランが同じ様に植物学に興味を持っていた事で気が合い、彼が次期当主でなくなった今も交流が続いている。

 

「そう言えばお前は婚約者が決まったのか? 幾つかの家が牽制してるから中々決まらないって話じゃないか。随分と人気者だな、お前は」

 

「まあ、堕天使と何かあれば最前線になる土地に嫁ぎたい物好きが多いって事だよ。確かに研究の成果からお金はあるけど、命あっての物種なのにね」

 

 マグダランの言葉にザナクは苦笑してしまう。彼が冗談で言っているのは分かっていた。ザナクの婚約者候補が多い理由、それはザナクやアルシエル家云々よりも父の後妻、ザナクの継母のリェーシャに流れる血が関係しているからだ。彼女や娘であるメアリーと少しでも関係を深める為に縁談話が舞い込んで来ているのだと二人は理解していた。

 

「その物好きの中でも極め付きがこっち来るよ。相手してやったらどうだい?」

 

 他の貴族には聞こえない程度の声で花月は二人の会話に割って入る。顔を向けた先には貴族の子女に相応しいドレスを身に纏った少女が近寄って来ていた。

 

 

「お久しぶりですわね、お二人共。元気にしていました?」

 

「まあ、厳しい勉強から解放されたからな。逆に体が鈍りそうだ」

 

「僕はちょっと疲れているかな? 領地が領地だけに強くなる必要があるし、毎日クリスティと魔力の、花月や桃十郎と実戦形式でボッコボコ」

 

 ザナクは肩を竦めて冗談っぽく言っているが本当のことだ。花月が悪戯をしながらも気を送り込んで生命力を活発にさせたり、研究の末に完成した強力な薬が有るからこそ普通に社交界に出席に出席出来ているのだ。

 

「花月もお久しぶり。相変わらずお綺麗ですわね。やはりアルシエル印の美用品の効果ですの? あれ、出回る量が少ないから全然手に入らなくって。……何処かの誰かさんなら手に入りませんの?」

 

 チラリとザナクを見る少女だが、当然冗談だ。彼女とは幼なじみであり、マグダランもザナクを通じて親しくなった。そして彼女もザナクに舞い込んでいる縁談相手の一人だった。いや、積極的に交流を持ち、付き合いも長い筆頭候補と言えるだろう。()()()()()()()()()、ザナクの嫁は彼女……レイヴェル・フェニックスで決まりそうだった。

 

 

 

「そうそう。さっきレイヴェル様の事を物好きって言ってたよ、この主」

 

「ああ、俺も聞いた。もの凄い変人だとも言っていたな」

 

「あらあら、私ショックで泣いちゃいそうですわ。きっと御兄様達も知ればお怒りでしょうね。今度デートでもして頂かないと口が滑りそうですわ」

 

「……分かったよ、今度デートね。じゃあ、都合の良い日を知らせて」

 

 花月に乗っかり冗談を言うマグダラン、そして更に乗っかってデートを強請るレイヴェルはバレバレの泣き真似までする始末だ。今この中でヒエラルキーが一番低いのはザナクだが、彼も彼で楽しんでいた。

 

 貴族にはしがらみが多い。本人達の感情を捨てて家の関係から敵対しなくてはならない事もある。だが、少なくてもザナク達は仲が良い事を誰かに咎められる事はなく、ザナク達はそれが嬉しかった。

 

 

 

 

 

 だが少し後、レイヴェルの兄の婚約に関わる騒動が始まる少し前、アルシエル家に舞い込んだとある縁談が彼らの関係に大きく影響を及ぼす事になる。その縁談がもたらす事はザナクにとって良い事ではあるが、手放しで喜ぶ事は当然出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……あっ、デートって今日だっけ?」

 

 社交界から数日後、良い茶葉が手に入ったから先日の約束にとリアスに放課後のお茶会に招待されたザナクだが、向かう途中で掛かってきた電話でレイヴェルとの約束の日が今日であると思い出した。

 

「……忘れていたようですわね。では、罰として来週映画館にでも連れて行って下さいませ。終わるまでリュミネルとお茶していますわ。終わったらショッピングとディナーをお忘れにならないように」

 

「……ガールズトークするね。花月さんはアレだし、残りもガールじゃないから普段は出来ないもん。あっ、掛かったお金は主様の奢りで」

 

 多少責めるような事を言われるがレイヴェルの目は怒っていない。この二人なら将来尻に敷かれるのは間違いがないだろう。結婚したら、の話だが。

 

 

「そうそう。こんな時は女王を連れて行くものですわ。クリスなら直ぐに来れるでしょうしお呼びなさい。では、後ほど」

 

「……映画、ボクも連れて行って欲しいな。見に行きたいの有るけど一人じゃ抵抗有るから」

 

「男の甲斐性ですし、忘れずに連れて行っておあげなさい、ザナク。じゃあ、行きましょうか。何処かオススメのお店ってありますか? 今、チョコケーキにはまってまして……」

 

 楽しそうに去っていく二人を見送りながらザナクはクリスティに連絡を入れる。その頃、一人で帰ったアレイシアはというと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、迎えの人とはぐれてしまいまして。教会の場所を知りませんか……?」

 

「……やべぇ」

 

 彼は今、シスター服の少女と出くわしていた……。




感想待っています

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第四話

やはり原作に入らないと受けが良くないか 感想が来ないし・・・


 自己の認識は他者の存在があって初めて行えるものだ。自分は何者か、世界においてどの様な立ち位置に居るのか、敵も味方もそれ以外も知らない者には分からない。

 

 故に、その存在は自らを知らなかった。ゲヘナの大森林の奥深く、既に廃棄され、忘れられたか知る者が死に絶えたのか、誰一人として存在を知らない研究所。機器の稼働が止まり、やがて時と共に完全に朽ち果てたであろうその場所に雷が落ち、奇跡的な確率でほんの僅かな時間のみとある装置が稼働した。

 

「……ニャー?」

 

 中から出て来たのは子猫……の様な生物。頭に白い水晶の角、胸に水晶の結晶を持つ金眼の黒猫。後にレティと名付けられるそれは自分が何者か、此処が何処なのかも知らない。まだ目覚める段階では無かった為に生まれた目的に必要な知識を何も入力されていないのだ。とある悪魔の天敵として猛威を振るう筈だったレティは何とか持っていた本能からの知識により空腹と乾き、その両方を満たす為に動き出す。

 

「ニャ?」

 

 レティが施設から出ると雷の影響か施設は音を立てて崩れていく。後少し中にいたら死んでいたであろう事も知らないレティは呑気に歩き出し、そこが自分にとって地獄であることを知った。悪魔すら手こずる魔獣達に子猫程度のレティが太刀打ちできる筈もない。食う価値がないからと見向きもされず、時に隠れてやり過ごし、水場すら近付けず、それでも運良く補食対象にと狙われずにいたレティもやがて限界を迎えた。

 

 自分はもう死ぬ。何者なのかすら知ることもなく、とレティが思った時、不意に体が持ち上げられた。

 

「むっ! これは珍しい。こんな弱々しいのがこの森にいたのかっ!!」

 

 第一印象は五月蝿い、であった。だからレティは自分に初めて興味を向けた相手に伝わるはずもない言葉で五月蠅いと言ったのだ。

 

「そうかっ! いやー、すまんすまん! どうも俺は声がでかくてな! むむっ!? だから五月蠅い。腹が減った、だと!? ならお詫びに弁当を分けようではないかっ!!」

 

 その声は本当に五月蠅く頭に響いたが、一切の敵意も感じさせない相手にレティは初めて安堵を覚え、生まれて初めて安らかに目を閉じて眠ることが出来た。

 

 

 

 

 

「どうした、眠いのかっ!?」

 

「ニャーーーーーーーーー!!(訳:だから五月蠅いって言ってんだろっ!!)」

 

 

 

 

 

 

 

(うーん。僕、彼に何か悪い事したっけ?)

 

 お茶会の最中、リアスの婚約者でレイヴェルの兄であるライザーが趣味でレイヴェルを眷属にしようとして親に怒られた事を話したのだが、その最中にザナクは一誠の視線に気付く。どうも敵愾心すら感じさせる瞳なのだが覚えはない。

 

 実際、何もしていない。リアス眷属の木場がイケメン王子と呼ばれて人気があるように、アレイシアはちょい悪系として、ザナクは癒されるとして女子に人気があり、更に眷属の話をする時に女性の名前が出た事で嫉妬を買った、それだけだ。

 

 身に覚えがないが、態々言うのも波風を立てるようだし、リアスもザナクがこの場で言わないから言わないだけで困った様子だから後で注意するだろうと判断し黙っていた。だが、黙っていられない者も居る様だ。

 

「お前、ザナクに何か用がある? クリスが聞いてやる。言え」

 

「い、いや、何も……」

 

 大人しくアップルパイを食べながら砂糖を幾つも入れた紅茶を飲んでいたクリスティだが、全く抑揚のない声で一誠の目を覗き込む。見た目は幼い少女なれど吸い込まれ何処までも落ちていきそうな黒い瞳に身が竦んでしまった。

 

「ほらほら、落ち着いて、クリスティ。僕の分を半分食べるかい?」

 

「食べる」

 

「ごめんなさいね。後でちゃんと叱っておくから」

 

 差し出された皿からパイを受け取ると再び大人しく食べ始める。あまりのギャップに一誠が面食らう中、ザナクはそんな彼を見て静かに微笑んでいた。

 

「驚いたかい? この子、見た目通りの歳でも強さでもないんだ。実際、中身は幼いけど実年齢は数千歳だよ。本当の姿も別物だしね」

 

「この姿、味方は優しい、敵は油断する。……お前、神器何?」

 

 無表情のまま自慢するようにない胸を張るクリスティ。口元に食べかすがついたままであったが、再び一誠の方を向くと何かを思い出すように首を傾げた。

 

「その子の神器? 龍の手(トワイス・クリティカル)だけど……」

 

「違う。多分本当の姿、眠っている。クリス、起こせる。どうする?」

 

 有り触れた物だというリアスにクリスティは首を振って否定し、今度はリアスの方を向く。リアスと一誠は顔を見合わせ、互いに頷いた。

 

「じゃ、じゃあ宜しく……わっ!?」

 

 一誠が小手を出現させた途端、クリスティの手の平から黒い蛇が飛び出して籠手に絡みつく。ミシミシと軋む音が聞こえ、古い角質が落ちるかのように表面が崩れて違う姿をした籠手が出現した。

 

『……随分と乱暴な覚醒のさせ方だな。宿主が弱過ぎるから本来ならまだ掛かる所だったぞ。オーフィ……いや、違うな。あの蛇か。暫く会わない内に随分と気配が似てきた』

 

「……クリス、彼奴嫌い。彼奴の話するな。……起こした、貸しはザナクに。ザナクはクリスにご褒美くれたら良い」

 

 突如籠手から聞こえてきた威厳のある声に戸惑うリアス達。だが、この後で神器の本当の名前を知って更に驚く事になるのであった。

 

 

 

 

 お茶会も終わって帰り道、ザナクは一誠の神器に少々驚きを感じつつレイヴェルとの待ち合わせ場所に向かっていた。クリスティは途中で歩くのが億劫になったらしくその背中に飛び乗って離れようとしない

 

「取りあえず貸し一つって事にしたけど、まさか神滅具とはね」

 

「ザナク、欲しかった? なら、何時もの様に奪う?」

 

「奪っているのは敵からだけだよ。それにあれは体の負担が大きいから継続戦闘に向いていないし、白いのを呼び寄せるから要らない」

 

 赤龍帝(ブーステッド・ギア)、それが一誠が宿す神器。二天龍の片割れを封印し、十秒毎に能力を倍加させるが、これは車に荷物を多く積める様になるのと同じだけで無理をすれば負担は大きい。体を酷使する仕事の者が体を壊す様に頼り過ぎれば身の破滅だ。

 

 更に龍系神器は争いを呼ぶと言われるが、ザナクは今まで一誠が宿す神器の宿主は関係ない筈のもう片方との戦いを繰り広げて来た事からドラゴンに引っ張られ闘争本能が増幅して自ら争いに首を突っ込んでいるのではと思っていた。

 

「あっ、アレイシアから電話だ。はいはい、何かな?」

 

「ザナク……ヤバい事になった」

 

 掛かって来た電話の先から聞こえてきたアレイシアの声は深刻そうでザナクの表情に緊張が走る。クリスティは何時の間にかスヤスヤと寝息を立て始めた。

 

 

 

 

 

「さっきシスターに出会ったんだ。名前をアーシア・アルジェント。あの癒しの力を持つ元聖女で、たぶん悪魔に嵌められて魔女として追放された彼女」

 

 ザナクの脳裏に嫌な予想が浮かんだ。恐らく追放後に引き込まれたのだろうが、態々この街に呼び寄せる理由。それは決して望まない内容だった。

 

「態々支援役を呼ぶって事は戦いをするって事かな。僕かリアスさん達が狙いか……まさか兵藤君?」

 

 ザナクの家の領地は堕天使の領地と接している。だから戦争にまで行かない小競り合いは何度か経験していており、敵方の神器使いは数名把握している。その中に二天龍のもう一体が封印された白龍皇の光翼(ディバイン・ディバインド)の所有者が居る事も知っていた。

 

 

「彼は一度別の堕天使に殺されてから転生したらしいし、それから特徴を聞いて彼が悪魔になったと気付いた? まさか二天龍の戦いをこの街で始め、それを皮切りに大戦を再び始める気じゃ……」

 

 まだ他のターゲットが強かったり動かせない怪我人が居る可能性も有るが、可能性が僅かでも当たっていたら事態は最悪だ。

 

 

 

 

「僕、どうやら彼女に恋をしたようだ。……おーい、聞いてる?」

 

「ああ、聞いてるよ。でも、今は花月に連絡して今日の監視の報告を受けなきゃ。今まで特に重要な情報は無かった様だけど……」

 

 状況次第では冥界に知らせて援軍を要請する必要があるかと思い、ザナクは冷や汗を流すのであった……。




感想お待ちしています

明日は泊りがけなので絶対に無理です 次は絶対 辛い 内容浮かんできた


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第五話

 ザナクのマンションのキッチンにて巨漢が器用に団子を作っていた。二メートルを越える巨体に筋肉でパンパンに膨れ上がった全身。第一印象を聞かれれば誰もが筋肉が凄かったと言うであろう彼の手の中で綺麗に丸く出来た団子は普通の材料に普通の作り方、だが、出来上がった団子からは神秘的な力さえ感じる事が出来る。

 

「ニャー(訳:あっ、団子だ、団子。一個ちょうだい)」

 

 団子の香りを嗅ぎ付けたのかレティがテーブルに飛び乗ろうとするが、肉球が机に触れるより前に巨漢の手が優しく受け止める。

 

「むぅ。すまんな、レティ。これ全て依頼の品なのだからやれんぞ。フェニックスの涙は貴重だから幾らあっても足りんのだ。……むっ、今日の分はこれで終わりか」

 

 本来理解できないはずのレティの言葉を完全に理解している彼は作業に戻って団子を作り続けるも、手の中の団子は普通の美味しそうなだけの団子。丁寧に並べられた先程までの物とは作り方も材料も作った者も全く同じに関わらず別物だった。

 

「ははははっ! 俺もまだまだだという事かっ! これは更に筋肉を鍛えねばならぬなっ!」

 

「……ニャ(相変わらず暑苦五月蝿いオッサンだ)」

 

「そうかっ! 俺は熱い男かっ! ほれ、最後の一個なら食っても良いぞ!」

 

 周囲の空気がピリピリと震えるほどの大声で笑い出した男に呆れるレティ。その言葉を都合良く受け取った彼は更に大きな声で愉快そうに笑う。彼が神秘的な力を持つ団子を丁寧に重箱に詰めた時、酒の香りが漂ってきた。

 

 

「うぃー。何だ、今日は団子を送る日かい。って言うかさっきから五月蠅いよ、桃十郎。人が気持ちよく酒飲んでりゃ頭に響く大声出しやがってさ」

 

「それはすまんなっ! だが、昼から酒はかんしんせんぞっ!」

 

 悪意はない。だが、彼の、桃十郎の声は先程よりも更に大きかった。愉快そうに笑っている事が更に腹立たしい様子の花月だが、グッと堪える。面白い話が有るのだ。

 

 

「ちょいと聞いとくれよ。あのアレイシアが恋をしたってさ。しかもシスター。まさに禁断の恋って奴さ」

 

「なんとっ! 今日は赤飯にでもするかっ!」

 

 どうもアレイシアの初恋は花月にとっては笑い話の種であり、桃十郎は大袈裟に扱う積もりのようだ。悪意ではなく善意の分、こっちの方が質が悪いのではないだろうか……。

 

 

 

 

 既に打ち捨てられた教会の一室、天井付近で巣を張る蜘蛛に興味を一切持たずに四人の堕天使が深刻そうに話をしていた。

 

「……ようやくアーシアが来たっすね」

 

「アルシエルがこの街にいる以上、さっさと儀式を済ませるわ。……急ごしらえじゃ成功率が下がるけど仕方ないわ」

 

「アルシエル……悪魔で唯一我々の天敵である存在。下手に刺激するのは拙いな。上を騙して滞在している以上、何かあれば……」

 

「一応問題行動起こしそうなフリードの奴は先に帰したわ。口止めもしたけど……大丈夫かしら?」

 

 蜘蛛は一部始終を聞くと窓の隙間を通って外に出ていく。この直ぐ後、アーシアを迎えに行った部下から逸れてしまったと連絡が入り計画の崩壊を危惧するも、何とか一人で辿り着いた事で安堵する事になる。

 

 

 

 

 

 

「上を騙しての行動? ひゃっほぅ、なら安心だ。回復系神器が敵の手に渡るのは嫌だし、さっさと片付けて……」

 

「いや、勝手に見張りをつけた事をリアス様にどうやって説明するつもりですの?」

 

 花月に連絡した結果、丁度良いタイミングで攻撃を仕掛けても問題無いとして我を忘れてはしゃぐザナクだが、話を聞いていたレイヴェルから冷静な指摘が入る。魔王から正式に任命された彼女に勝手に行動したとあっては問題になる。特に彼女はプライドが高いので厄介だ……。

 

「……仕方ありませんね。では、今直ぐアーシアさんの情報をリアスさんに教え、無駄に危惧した事を言って情報収集に優れている花月さんに調べさせるとお言いなさい。何時情報を手に入れたかなど……黙っていれば分かりませんわ」

 

「あっ、それなら貸しを更に作れるね。でも、あの人なら自分が見張るとか言いそうだよね」

 

「その場合、危険だからと早めに帰った私が実家でうっかり話してしまい、それがお父様達経由でグレモリー家に伝わっても、それは貴方の責任ではないですわ」

 

 レイヴェルは悩むザナクにウインクをして解決策を告げる。迷いが顔から消えた瞬間、ザナクは彼女を正面から抱きしめた。

 

「レイヴェル、ありがとー!」

 

「ひゃっ!? ま、まあ、今回の貸しはこのハグで良しとしてあげますわ」

 

 格好を付けている積りだろうが、顔が真っ赤な上に嬉しそうなのを全く隠せていない。その横ではリュミネルが羨ましそうにその様子を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、ごめん。僕の聞き間違いかな? アーシア・アルジェントを助けたいって言った、アレイシア? 聖女っていう名の教会の広告塔だった彼女を助けたい?」

 

 レイヴェルの策は成功し、後はタイミングを見て襲撃し、リアスには撤退しようとしていたからと報告する方法で話が進んでいた。アーシアは見捨てる予定だ。敵対する天界の下部組織の元一員であり、未だ信仰心を持っている彼女を策が露見する危険を冒してまで助ける必要はない、そう判断したからだ。

 

 だが、アレイシアが異議を唱える。彼女を助けたい、そう発言したのだ。聞いていたメンバーの反応はまちまち。クリスティとレティは我関せず、桃十郎とリュミネルは複雑そうで、花月は明らかにでザナクは笑顔のまま怒気を漏らしていた。

 

「アンタ、正気かい? 助けたとして、その後は? 衣食住や進学就職、それらを全部世話するとでも言う気かい? 何の為に? 何のメリットが? 誰かを助けるってのはねぇ、そんな甘いもんじゃないんだよ!」

 

「うーん。君の頼みだから何とかしてあげたいけどさ……本当に厄介だよ、彼女。今後天使や堕天使とのいざこざが激化したとして、何か痛手を受けたとしよう。すると誰かが言い出すんだ。彼奴が手引きしたんじゃないか、ってね。真偽は重要じゃない。原因を排除するって形で不安を払拭したいのさ。そんな時、どう守るの? 彼女が教会に所属しながら悪魔を助けた時のように、助けた後で敵を癒して、それで悪魔に被害が出たら?」

 

 声からは怒りを感じない。だがザナクは淡々とした口調でアレイシアの希望を封殺しようと追い詰める。これが一個人なら困っている相手を、殺されると分かっている相手を助けようとするのは美徳だが、貴族やその眷属は領民の全てを背負っている。綺麗事だけでは行動できないのだ。

 

 アレイシア言われるまでもなかったのか俯いて話を聞いていたが、気力のない声で話し出した。 

 

「……分かってんだよ。僕が言ってるのがどれだけ馬鹿な事って事なんざな。でもよ、見捨てたくねぇんだ。信じていた教会に裏切られ、助けてくれたと思ったらその相手に命を狙われてるんだ、彼女。……信じる相手に裏切られるってのは本当に辛いんだ」

 

 アレイシア・ビクトールは元少年兵だ。それも兵士としての訓練をきちんと受ける余裕のないほどに追い詰められた国の。ただ銃の使い方だけを教えられ武器を与えられて戦場に出され、国に見捨てられ部隊は全滅。神器が覚醒して彼だけが助かり、信じられない国から逃げ出した彼は世界を旅した。だからこそアーシアに自分を重ね、見捨てる事が出来ないのだろう。

 

 暫し沈黙が流れ、結局折れたのはザナクだった。

 

「……分かった分かった。ここで君の心にしこりを残した時の方がデメリットが大きそうだ。助けた後の費用は君の給料から出すし……彼女によるデメリット程度どうにか出来ないでどうするんだって話だからね」

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、まだまだ甘いんだよ。こんなんで貴族としてやっていけるのかねぇ」

 

「良いではないかっ! 初恋の相手を助ける為に危険を冒すっ! 実に青くて熱いぞっ!!」

 

「お腹減った。……クリス、何か作ってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 そして深夜の廃教会前、ザナク達はリアス達が悪魔の仕事である契約の為の召喚に応じたタイミングを見計らって出向いていた。

 

「あの堕天使、調子に乗って今から死ぬ事をペラペラ話してるよ。……これでアタシ達は命の恩人、引き入れるのが容易くなった」

 

 花月は煙管を口から離し、紫煙を吐く。煙は周囲を包み込むように広がって行き、まるで濃霧に包まれたかのようになった。

 

「結界は張ったし、これで逃がさない。じゃあ、言い出しっぺのアレイシアが開始の一撃をお願いね」

 

「言われなくてもっ!!」

 

 アレイシアが構えるとその手の中にバズーカが出現する。これが彼の神器『軍怠嘲(ワンマンアーミー)』。これによって彼は視認する場所に自由に銃火器を創り出せるのだ。

 

 

 

「ファイヤッ!!」

 

 引き金を引くと同時に発射された弾が建物を破壊する。瓦礫と化した建物の床の下、そこに存在した地下聖堂の中で今まさに儀式を行おうとしていた堕天使、レイナーレと部下のはぐれ悪魔祓い達は唖然としていた。

 

「な、なんで此処に……」

 

「あっ、僕が誰か分かるって事は特徴を聞いてたんだね。君が僕の容姿を知っているように、僕は君達が独断行動だって知っている。……意味は分かるよね?」

 

 これから起こる戦いは只の小競り合いとして済まされ、それ故に見逃す理由はない。事実的な死刑宣告だ。ザナク達が誰か詳しく知らされていない部下達がざわめく中、部下の堕天使三人が鉄製の剣を手に飛び出して来た。

 

「アルシエルは光を無効化するが……普通の剣なら問題あるまい!」

 

「残りの手下は普通に光が通じるっすしねっ!」

 

「お前さえ殺せば……」

 

 向かって来る三人の名はドーナシーク、ミッテルト、カラワーナ。今回の首謀者であるレイナーレの部下であり、計画に加担している者達だ。自分達が操る光力は悪魔の弱点だからと上級悪魔を前にしても余裕を崩さない三人は唯一光力が通じないザナクを先に殺そうと向かい、その目の前に桃十郎が立ち塞がる。構わずに突き出され振り下ろされた剣は全て弾かれた。何一つ特別な事はしていない肉体に。

 

「んなっ!? 只の剣とはいえ、堕天使の力でした攻撃だぞっ!?」

 

「何を驚いている? 俺の駒は戦車であり……何よりも鍛えてあるっ!! 高が鉄製の剣など通じるものかっ!!」

 

 無駄にポーズを取った時、力んだ事で膨らんだ筋肉によって彼の着ていたシャツが弾け飛んだ。

 

「……邪魔」

 

 見苦しいとばかりに吐き捨てたリュミネルは地面を滑るかのように前方へと迫り、腰の刀の柄に手を掛ける。抜く瞬間は見えなかった。剣閃が煌き、鍔鳴りがした。自分達が何をされたのか、それを理解しないまま三人は真っ二つに切れ地面に落ちていった。。

 

「……今日もボクと宗近は絶好調」

 

 三日月宗近、天下五剣と謳われる名刀の一つ。それがリュミネルの武器だ。褒めて欲しいのかザナクの方をチラチラと見る中、はぐれ悪魔祓い達が動き出した。

 

「全員、掛かりなさいっ!! こうなったら……え?」

 

 此処まで来たらせめて回復能力を持つアーシアを連れ帰った手柄を得る積りなのかレイナーレはアーシアへと手を伸ばす。その伸ばした腕が地面から噴き出した黒い炎の壁に飲み込まれた。

 

「ぎゃぁああああああっ!! 痛い痛い痛いっ!」

 

 レイナーレの全身を襲う激痛、まるで溶けた鉛が血管の中を駆け巡るかのような熱を彼女は感じる。それは悪魔が光力を受けた時に酷似していた。

 

「黒き太陽、それが僕の一族の異名。その身を流れる魔力はあらゆる光を飲み込み、光を操る者の体の毒になる。かつての大戦でも多くの天使や堕天使を滅した。……ああ、言うまでも無かったか」

 

 ザナクは軽く足を上げ、地面に踏み下す。足から放った魔力は地面に浸透し、レイナーレの周囲を囲う壁として床から吹き上がった、悪魔は服の上から羽を出せる。ならば魔力のコントロールを突き詰めれば可能な技術だ。無論、言葉で言うよりも簡単な話ではないのだが。

 

 炎の壁に包まれレイナーレは灰となって消える。魂すら黒い炎に飲み込まれた。

 

「微量だね。殆ど上がっていない。……やっぱり雑魚じゃ駄目かぁ。大した燃料にならないよ」

 

 レイナーレの魂が消えた時、ザナクの力がほんの僅かだけ上昇する。だが量が期待以下だったのか詰まらなさそうにレイナーレが居た場所を見詰めていた。

 

 

「レイナーレ様がっ!?」

 

「ど、どうするっ!?」

 

 はぐれ悪魔祓い達が戸惑う中、足元が黒一色に染まり蠢く。下を向いた時、無数の蛇が彼らの体を這い上がった。

 

「どかーん」

 

 無表情無感情でクリスティが呟き、蛇に込められた莫大なエネルギーが放出される。閃光と轟音、そして振動が周囲に広がり、クレーターだけが残された。そこに居た者達は影すら残っていない。

 

 

 

 

 

 

「おーい! 起きて起きて」

 

 上の建物が崩れると同時に流れ込んできた煙管の煙を吸い込み意識を失ったアーシアは知らない声で起こされ目を覚ます。これから死んで貰うとレイナーレに言われ、急に天井が吹き飛んだ事までは覚えているのだがそれ以降の記憶がない彼女は目の前に立つ知らない者達の中で唯一知っているアレイシアに戸惑いの視線を向けた。

 

「アレイシア…さん…?」

 

 この先に苦手な者が居るからと教会まではついて来なかったが、視認できる距離まで案内してくれた相手だ。ただ、何故此処にいるのか理解できなかった。

 

「初めまして、アーシア・アルジェント。僕達は君を助けに来た……悪魔だ」

 

 ザナクに続くようにアレイシア達も背中の翼を見せる、リュミネルは説明がややこしいので出さないでいた。

 

「悪魔……? アレイシアさんが……?」

 

「……ああ、そうだ。僕は悪魔だったんだ。黙っていて悪かった、でも、これは信じてくれ。君を助けに来たのは本当だ。会ったばかりで何を言っているんだと思うだろうが……君が好きになった。一目惚れなんだ」

 

 赤くなりながらもアレイシアはアーシアの手を取る。アーシアは戸惑い、言葉を失っており、恥ずかしいのか顔が彼よりも赤かった。

 

 

 

「うわっ。大勢の前で大胆告白。アレイシア、凄っ」

 

「……まあ、一応童貞ではないから。無理やりだけど」

 

 

 

 

「……もう大丈夫。君の敵は居なくなったぜ。僕達を信じてついて来てくれ、君のこれからについて話が……」

 

 アレイシアは言葉の途中で表情を固まらせる。視線の先、前方上空に浮かんでいる男を見て驚いていた、

 

 

 

 

 

「……勝手な行動をしている馬鹿共が居るというから揉め事が起きる前に回収しに来たがもう終わっていたか」

 

「雷光のバラキエル、凄い大物だね。もう片付けたし、まだ娘に会うべき時じゃないでしょ?」

 

「……貴様か。大森林の調査中に遭遇して以来だな。あの子は元気にしているか?」

 

「まあ、時々顔を合わせるけど元気に見えたよ、さっ、本来は敵なんだし帰ったら? あまり長居してたら娘さんがそっちと内通していると思われるよ、あっ、この子はこっちで預かるから」

 

 バラキエルはアーシアに少しだけ視線を向け、会いたかった相手の事を考えてか名残り惜しそうにしながらも去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

(……さてと、後はどうやってアーシアを引き入れるかだよね。衣食住の保証と報酬を約束して救護部隊に所属して貰えたら嬉しいけど、彼女を狙った悪魔、たぶん彼奴の事を考えたら誰かの眷属にした方が良いんだよねぇ……。でも、元聖職者が聖書も聖水もミサも無理な悪魔になるのを了承するかな? 上手く口八丁で……)

 

 取り合えず連れ帰ってからの話だと考えながらザナクはアーシアの方を向く。アレイシアと互いに恥ずかしそうにしながら寄り添っていた。どうやら吊り橋効果でも影響したようだ。

 

 

「あっ、うん。上手く行くかな、もしかして……」

 

 

 

 その頃、継母であるリェーシャの元をある悪魔が訪ねていた。

 

「お久しぶりでございます、リェーシャ様」

 

「あら、誰かと思えばグレイフィアじゃない。しかし、子供の頃は貴女がルシファーの妻になるとは思わなかったわ。私に付き従っていただけの貴女がねぇ。……それで内密な話って何かしら?」




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第六話

 リュミネルには至福の時間が存在する。三日に一度、ザナクが翼の手入れを手伝ってくれるのだ。存在する場所が場所だけに手が届かない部分も存在し、誰かに手伝って貰う必要があると知った彼が眷属とのスキンシップの一環だと言い、今もブラシを使って丁寧に羽を撫でていた。

 

「でさぁ、この前の晩餐会に為に家に帰った時、メアリーがクレヨンで描いた僕の絵をプレゼントしてくれてさぁ。お兄様大好き、だってさ! かーわいいよねぇ」

 

 この前、と言っているように何日も前の話であり、既に何度もしている話だ。聞き飽きたのかレティやクリスティまで話が始まると同時に姿を消す始末。唯一リュミネルだけが嫌な顔一つせずに相づちを打っていた。尚、花月は話が始まると同時に殴って止める。

 

「……でも、いまだに信じられない。アーシアが悪魔になるのを了承するんなんて」

 

「陥れられた可能性を思い切って話してみて良かったかもね。写真であの聖女マニアかどうか確かめさせたら落ち込んだけど、アレイシアがうまく慰めて……彼奴、天然でやってるよね? 僕が知らないだけで彼方此方で女の子をを落としたりしてないよね?」

 

 親友と思っている眷属に浮上した思わぬ疑惑にザナクは不安になる。流石に将来背中を刺されたとか知らされるれる事になるのは御免被るようだ。外聞的にも、個人的にも。リュミネルはどう答えて良いか分からず沈黙する中、レイヴェルからメールが送られて来た。

 

「今度のデートは無理です……メールで済ませるとか珍しい」

 

 何時もなら電話か直接会って予定変更を告げるのが普通なのに、今回に限って中止を告げるだけという事に疑問を覚えるザナクだが、試しに掛けてみても通話が繋がらない。何か怒らせる事でもしたか忙しいのかと考えていた時、リュミネルが少し言いにくそうにしながら口を開いた。

 

「……じゃあ、ボクと一緒に遊びに行こうよ、主様」

 

「予定もないし、君とも行く予定だったしね。良いよ。あっ、それと言い忘れていた事が有るんだけど……」

 

 デートの約束成立にリュミネルの心は弾む。笑みが浮かぶのを長切れず、このままでは鼻歌まで歌いだしそうだと必死に抑え込んだ。この時、彼女は期待していた。今の関係から一足飛びにキス位まで進めるのではないかと。今までハグをされたことはあっても、恋愛ではなく友愛的な物であり、出来れば恋愛的な事を経験したいという年頃なのだ

 

 

 

「天界と何かあった時にただの眷属じゃ君の立場も危ういし、将来僕の側室になる?」

 

「……ひゃいっ!?」

 

「オッケーだね。じゃあ養父のチャバスにも伝えておかないと」

 

 一足飛びどころか二足も三足も飛び越す結果に変な声が出て、それを了承と間違われる。否定はしなかった。将来そういう道に進むのだろうとレイヴェルが思っていたとこの前のお茶の席で言われたし、悪い気はしない。立場があるから正室は諦めていたが、まさかこんなに急に決めるとは想像していなかった。たまに布団の中でザナクに迫られる妄想はしていたが……。

 

「……あ、あの、主様っ! ボボボ、ボク達はそういう関係になるし、学生だし勇気が出ないから最後は無理だけど途中までだったら……練習する? 花月さんほど上手く出来ないと思うけど……」

 

 激しくテンパりながらも今回の事が後押しになったリュミネルはベッドを指差す。何の練習なのかは言うまでもない。不慣れな二人だからと少し不安ではあるが、将来恥を掻かないためと理由を付け、精気を絞るのと趣味を兼ねて花月に色々されていると知っているのでザナクに身を任せる積りであった。

 

「大丈夫大丈夫。……僕がリードするから安心して?」

 

 一瞬はしたなかったかと思ったが、ザナクが肉食系であったので問題はなく、返事する間もなくリュミネルをベッドに運び、仰向けになった彼女に跨り、目元を隠していた前髪を上げる。リュミネルもこの後どうなるのかは漫画や(酔っぱらった)花月の教育で知っている。だが、知っているのと実際に体験するのは別だ。唾を飲み込み、そっと目を閉じてその時を待つ。やがてザナクが覆いかぶさり二人の唇が……。

 

 

「おーっす! アーシアちゃんに用があって来たんだけど留守みたいだし、伝える事だけ伝えて……あっ、ごめん」

 

 触れる寸前にノックもせずに入ってきた死んだ目の上にボサボサ頭の中年男性と目が合い、ザナクの動きが止まった。気まずい沈黙が過ぎ、男性は静かにドアを閉める。

 

「お、おじさん何も見てないから。ごゆっくり……出来ないよね」

 

 当然出来ない。残念ながら失敗に終わってしまった。

 

 

 

 

 

「いやー! ごめんごめん。ほら、悪魔の文字の勉強用にって幼児用の学習絵本持って来たんだ。うちの娘が使ってた奴」

 

 気まずい時間から少し経ちリビングのソファーに座り込んだ男性は数冊の絵本を取り出す。彼が言ったように幼児用の本であり、読み上げ機能がついているので文字の勉強に便利だろう。尚、先ほどの一件は無かった事になっている。でなければ気まずいにも程があるだろう。

 

「ありがとう、ギアさん。この本、人気だから売り切れなんだよね。一から学ぶ転生悪魔が買い込むし、転売屋がそれを狙って買い占めるしさ」

 

 少々機嫌を損ねたリュミネルが入れた薄いお茶と反対側が透けて見える羊羮を食べている彼の名前はギア・マキシマ。ザナクの亡き父親の兵士だった男であり、昇格して上級悪魔になった後も年の離れた親友であった主に義理立てして独立していない。因みに三人の娘がいる。近頃の悩みは長女が反抗期な事らしい。

 

 そして、駒を全て使いきっているザナクの頼みでアーシアを眷属にしていた。

 

「……あの子だけど、ありゃ狙われるわ。見た目は可愛いし、能力も希少。他人を傷付けるのは無理な性格してるけど、攻撃を相殺するくらいは出来るだろうから魔力を扱う才能も無駄にはならない。眷属にしたがる奴は出てくるし、ただ保護するだけじゃ守り切れないって」

 

「だよねぇ。アレイシアの奴、泣きながら謝っていたよ。自分が無力なばかりにってさ。……それで伝える事ってあの人から?」 

 

 お茶のお代わりを煎れようとしたリュミネルの表情が固まり、ザナクとギアは表情を変えない。基本的に家の名誉の為に暗殺の事は内密にしていたが、ギアだけは自力で辿り着いていた。

 

 

「良い事二つと悪い事が有るけど、良い事から言おうか。……メアリーちゃんの婚約者が決まった。ミリキャス・グレモリーだよ」

 

「あの子かぁ……」

 

 現魔王サーゼクスの息子の姿を思い浮かべるザナク。家柄も家族の人柄も本人の才覚にも文句はない。家の道具として婚約を結ぶのが貴族の義務の中、悪くない内容だと言えるだろう。ザナクもシスコンではあるが妹が結婚するのを反対するほど馬鹿ではない。

 

「当主代行様が嫁に行くのは嫌がってたし、尊い血を入れたがる奴らは多いからねぇ。詰まらない争いを終結させると共に自分の発言力を上げたいって現ルシファー様は思ったんだろ。今は上の方々の言いなりだからな。……あっ、羊羹お代わりね」

 

「リュミネル、今度はぶ厚く切ってあげて。あの人、やっと僕の暗殺を諦めたみたいだから。あれでも父さんに本気で惚れてたし、父さんが残した領地を守ろうとはしていたからね。僕を殺して他人に好き勝手にさせはしないよ」

 

 それでも自分の子とメアリーの子を結婚させ、孫をアルシエル領の当主にする気であろうとは予測するザナク。その程度ならと苦笑する中、良い事二つが判明した事で悪い事に予想がついた。

 

 

「そっか……。ミリキャス君とメアリーが結婚して、ライザーとリアスさんが結婚する以上、僕とレイヴェルの結婚に大して意味はない。それよりは別の家との繋がりをってなるよね……」

 

 レイヴェルのメールにもこれで納得がいったザナク。今まで婚約者筆頭候補であり、間違いなく結婚すると思っていた相手との関係が変わった、その事に気が付いてしまった。

 

 

 

 

 

 

「……話は聞いた。あの、なんだ……当たり前だと思っていた物を失う気持ちは俺にも分かる。元気を出せ、とは簡単には言えないが……」

 

「……気を使わせちゃってごめんね」

 

 その夜、話を聞いたマグダランから電話が掛かって来た。彼なりにザナクを励ましたいが何を言えば良いのかも分からない。だが、それでも親友の気持ちが伝わりザナクに少しだけ元気が戻った。自主的に膝の上で丸まっているレティを撫でる中、マグダランからとある話を聞かされ驚くことになる。

 

 

 リアスがライザーとの婚約を嫌がり、話し合いが縺れた末にレーティング・ゲームで決着をつける事になったと……。

 

 

 




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リアス達原作と違う点

アーシア他陣営

ドライク覚醒

フリード・レイナーレ戦無し

修行パート? 飛ばします 主人公観戦モード



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第七話

「ご機嫌よう、公爵。此度は大変愉快な催し物に招待して下さり感謝しているわ。これを機に両家の関係がより良いものとなる事を願うわね」

 

 要約すると、ウチの娘の婚約が決まって早々に何やってるんだ。お前の娘が問題児だって恥晒したし、婚約に関する契約は有利にさせて貰うぞ、である。

 

 リアスとライザーの結婚が早まったことで開催される今回のゲーム、多くの貴族がライザーの勝利を疑いもせず、茶番程度に思っている。そんな中、次期次期当主であるミリキャス(恐らくミリキャスが有力な次期魔王候補の為)の婚約者の母であるリェーシャと兄であるザナクも招待されており、リアスの父である公爵と会って開口一番に出た言葉が上のである。

 

「は、ははは……。善処いたします」

 

 本来地位は公爵家の方が高い。今回の件で負い目があるにしろ、周囲のグレモリー関係の貴族が何か言いそうなものだが誰もが口を閉ざす。彼らにとって公爵よりも彼女に流れる血の方が大切なのだ。

 

「私は今後について話をしておきます。貴方は来ている婚約者候補を中心に挨拶周りでもしていなさい。くれぐれも恥を晒すことが無いように」

 

「はい、分かりました。では、僕は此処で……」

 

 公爵達に一礼し去ったザナクは取り敢えずと婚約者候補達と言葉を交わす。縁談話が終わりかけていたのが復活し始めた事に喜びがあるのか嬉しそうにしている彼女達に笑みを向けながらも婚約を決定させるような事は言わず、一通り挨拶をすませると今度は関係のある貴族の所へと向かって行く。最後に向かったのはリアスとは従兄弟だからと一応派遣されたマグダランの所だ。

 

 

「やっほー! いやぁ、挨拶周りって疲れるよねぇ」

 

「意外と元気だな、おい。レイヴェルの事で落ち込んでいただろう、お前……」

 

 何時もと何一つ変わらない友人の姿に複雑な心境のマグダランは呆れたように肩を竦める。取り敢えず落ち込んだままでなくて安心したようだ。次期当主の座を失って両親の関心も失った彼にとって話し相手は見下していた兄か、ザナク達の数人しか居ない。だからこそ本気で心配していた。

 

 

「確かに寂しいけど、何時までも落ち込んでいたら僕のお嫁さんになってくれる子に悪いでしょ? それに今までのようなベタベタした関係じゃなくても友人や親戚として付き合えば良いだけだからね。……だから今はお嫁さんになる子の将来が心配かな。ほら、あの人と比べられるだろうからさ」

 

「……確かにな」

 

 マグダランの耳にもリェーシャの敏腕っぷりは届いている。彼女がアルシエル家に嫁いでからインフラ整備を筆頭に教育研究医療等、各機関の発展は目覚ましい。実際、旧政権時には父や兄を差し置いて彼女が祖父の後を継ぐのではとさえ噂されていた程だ。それに加え見た目はリリスに瓜二つだといわれ、ザナクの婚約者は彼女と比べられる事を覚悟しなければならなかった。

 

「当主代行としてのあの人は尊敬しているんだよ、僕。将来的に僕の子とメアリーの子を従兄弟同士で結婚させる気らしいし、その時の為に来年からは冥界に戻ってキッチリ仕込むって言われたよ。……参ったなぁ」

 

 ザナクが肩を落として落ち込む中、リアスとライザーの戦いが始まろうとしていた。

 

「……お前、本音はリアスに勝って欲しいんじゃないのか? 多少薄くなってもグレモリーを通じて繋がるからとレイヴェルが候補から外されたが、ライザーとの婚約が破談になれば……」

 

「マグダラン、僕達は貴族なんだ。部下や領民に死ぬであろう命令を下すこともあれば命を捨てる気で行動する必要もある。……だから心くらい殺さなきゃ。今は悲しくても、将来より多くが笑っていられるようにしなきゃ……でしょう?」

 

「……だな。すまん、失言だった」

 

 ザナクの言葉にマグダランはそっと目を伏せる。一見呑気なだけに見えた友人がどれほど考えて行動しているのか、それをちゃんと考えて行動していなかったのを恥じているのだ……。

 

 

 

 

 

「……何というか妙な技だな。効果は有るようだが……」

 

 ゲーム開始時、マグダランはザナクの勝敗に対する予想を聞いていた。一誠が倍加した力を他所や他人に付与する譲渡の能力を使えるようになっているか、体に負担がかかるのでどれだけ温存してライザーに挑めるか、それが鍵だと言っていた。リアスの持つ滅びの魔力の威力は高く、一誠が最大まで倍加して譲与した状態で全力で魔力を放てばライザーの不死を破れる可能性はあるとの事。

 

 ただ、避けられたら逆にピンチを招くし、リアスの性格から仲間がしがみついて動きを止めている間に諸共、と言う作戦は無理だろうと考えていた。そしてゲームが開始して初戦、一誠は小猫と共に舞台となった駒王学園のコピーの体育館に突入し、開発した技でライザーの眷属を裸にした。

 

「ゲームって大勢が見てる訳だし、羞恥心は強く感じるから効果は有るよね。でも、貴族の子女相手に使ったら家の間で問題になりそうだね」

 

 何処からどう見ても性欲の為の技だが、二人は効果はあると評価していた。但し、貴族の間で行う競技である以上は何らかの問題になりそうだとも思ったが。戦う家同士の関係で勝敗が左右されるのは知られており、民衆に貴族の力を示す軍事パレード的な要素がある以上はショーとしての面からは受けても、貴族の品位を気にする者からは評価を貰えないだろうと。

 

「……さて、いきなり倍加を使った上に戦闘まで……どう響くかな?」

 

 ザナク個人としてリアスの勝利を望む気持ちを押し殺し、貴族としてライザーの勝利を願う中、リアスの眷属は奮闘するも徐々に消耗していった。

 

 まず、小猫がライザーの女王であるユーベルーナの奇襲で脱落。朱乃が戦っている間に木場と合流、譲渡の力もあって残りの眷属を撃破した後、リアス側に回復要員が居ないので秘薬を持ち込んでいなかったユーベルーナを辛くも撃破した朱乃が合流し、残った四人でライザーを攻め立てた。

 

 彼女達は奮闘したと言えるだろう。事実、ライザーの傷が癒える速度が落ちてきて追い詰めていたのは確かだ。だが、途中で一誠が限界を迎えた時から形勢が一気に傾いた。リアス達は良くも悪くも仲間を想いすぎているのだ。だから一誠に気を取られた瞬間に木場が落とされ、それでも追い詰めるも消耗していた朱乃も脱落、最後まで粘るも経験の差でライザーが勝利を収めた。

 

 試合内容こそ観客の多くが予想を超えられたが、結果は予想通りの内容。かくしてリアスとライザーの結婚は数日後に行われる運びとなった。

 

 

 

 

 

 

 

「……あーなんだ。悪かったな、レイヴェル。俺が負けてりゃ今頃よ……。お前が彼奴と結婚した場合でもグレモリー家との繋がりは強かったし……」

 

 結婚式当日、お祝いの言葉を言いに部屋を訪れたレイヴェルに対しライザーは多少気まずそうだ。ハーレム主義でやや変態の彼だが大勢の眷属に慕われ、ハーレム内でギスギスした空気が流れないなど気配りも出来る所もある。だから妹がザナクと結婚出来ない事に多少なりとも罪悪感を感じているらしい。

 

「いえ、何を仰います、お兄様。なるべくしてなったという事です。……それに実は気後れしていましたの。レェーシャ様という姑と比べられるであろう事に。だから平気ですわ……」

 

 気丈に振る舞うも兄であるライザーには見抜けていた。だが全ては遅い。今更婚約破棄など無理な話だし、彼にも公爵家に婿入りするという野心もある。どちらにせよ式は間近に迫っていた

 

 

 

 式に集まった両家の関係者や招待客。その中にはリアスの兄であるサーゼクスも居て、あることを今か今かと待っていた。そして、その時は訪れる。

 

 

 

「リアス・グレモリーの処女は俺の物だーーー!」

 

 式の最中、サーゼクスの手引きで会場に入った一誠が乱入する。自分がリタイアした時の仲間の表情が頭から離れず、ゲームの為に頑張っていたリアスの為、この結婚を許す訳には行かなかった。

 

 

 だが、彼の行動を許せない者がこの場に居た。今回の騒動によって振り回された友人達の姿を見ているだけしか出来ない自分に無力を感じていた者が。

 

 

 

「……けるな。ふざけるな、貴様ぁっ!! ザナクがっ! レイヴェルがっ! 家の為、領民の為にどれだけ自分を押し殺していると知っているのかっ!! それを貴様は条件を飲んだ上で負けていながらっ!!」

 

 激昂と共にマグダランの体から魔力が溢れ出す。一誠は邪魔するのならと拳を構えるが、マグダランの横にもう一人並び立った。

 

 

 

 

 

 

「リアスの事を想って行動したのだろうが……弟に手を出そうというのなら俺が、このサイラオーグが相手になろう」

 

 若手ナンバーワンと称されるバアル大王家次期当主が一誠の前に立ちふさがる。マグダランは余計なことをと一瞬思ったが、サイラオーグが自分を見る目に気付き、思わず笑みがこぼれる。家族と言える者達の中で唯一自分とちゃんと話をしてくれるのは兄だけだと、彼はこの時ちゃんと認識した。兄弟の絆が芽生え始めた瞬間であった……。

 

 

 

 




アンチする気はないのよん でも友人が必死に心を押し殺しているのに黙っていられなかったんです、彼 兄貴との和解も進めたかったし

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第八話

顔合わせで上層部が大王家が魔王になるのは前代未聞とか言ってたし、何回か世代交代したのかな、魔王?

でもリゼヴィムが初代の息子なんだよね? 

初代の子孫とは言われてもカテレアたちは娘や息子とは言われなかったし、ルシファー以外は早く生まれて何回か交代したのかな? 

政権奪還後、何度か選出されて現在当選したのがサーゼクス達とか?

どうも代表程度の扱いになってたし


(茶番ね、茶番。実にくだらないわ)

 

 結婚式に乱入した一誠と、それに立ち塞がるバアル兄弟の姿をリェーシャは冷めた目で見詰める。冥界に居ない筈の彼が、この結婚式場に来ている時点で誰かの手引きがあるのは間違いなく、突入時に驚いた顔をせず、兄弟の行動に僅かに慌てた様子のサーゼクスが妹の為にやったのだと直ぐに思い当たった。

 

「まぁ、落ち着き…」

 

「貴方達、静まりなさい。貴族たる者が易々と賊の前に立ち塞がるものではないわ。警備兵の仕事を取るものではなくてよ」

 

 これから自分が仕掛けたサプライズの余興とサーゼクスが言おうとした時、リェーシャの声が割って入る。その声に誰もが注目し、同時に圧し潰されそうな威圧感が乱闘に突入しようとした三人に降り掛かった。特に一誠には念入りに降り掛かり、ぜぇぜぇと息苦しそうにしながら膝を付いていた。

 

「結婚式の最中に下劣なセリフと共に乱入してきたその者と、感情的に立ち向かおうとした青二才。そして本来なら兄として次期当主として止めるべきにも関わらず義務を果たそうとしなかった愚か者。貴方達、悪魔の名に泥を塗る気かしら?」

 

 顔も声も冷静そのもので感情など全く感じさせないが、まるで心臓を直接掴まれているような悪寒を三人は感じている。そして矛先はサーゼクスに向けられた。

 

「……この騒ぎ、貴方の仕込みでしょう。ルシファーの名を継いだ自覚はあるのかしら?」

 

 場がざわつきサーゼクスに視線が集まる。笑みを浮かべた仮面を崩さないサーゼクスだが冷汗が流れるのを感じていた。場の空気は完全に目の前の彼女に支配され、流れを作って展開を操るのは困難になって来ている。下手をすれば一誠が罰せられて終わる可能性さえあった。

 

「お気に召さなかったようで残念です。私としては妹の結婚を祝って余興を用意しただけの積もりだったのですがね。フェニックスの才児と赤龍帝の一騎打ちなんて盛り上がりそうな演目だと思いませんか?」

 

「式の主役の片方が余興に参加してどうするのよ。そんなのは関係者が二人を祝って……口を出すのも馬鹿馬鹿しくなって来たわ。私は関与しないから好きにやったら?」

 

 これ以上話しても無駄だというようにリェーシャはワイングラス片手に部屋の隅へと向かっていく。心中でホッと胸を撫で下ろしたサーゼクスはライザーにどうするか問うが、この空気で断れる筈もない。続いて一誠に彼はこう言った。勝った場合の褒美は何が良いか、と。

 

「部長を、リアス・グレモリーを返してください」

 

(……貴族に眷属が付随するのであって、眷属が主を返せというのはどうなのかしら。主がいる場所が眷属の居場所であって、眷属がいる場所が主の居場所ではないのに……)

 

 ワインを口に含みながらリェーシャは一誠の姿を眺め、次にライザーに視線を向ける。少しだけ面白くなかったので口を挟む気になった。

 

「なら、ライザーの方にも褒美が必要ね。勝ったら……生き残っている初代達や上層部に口をきいて最上級悪魔にしてあげる。最年少だもの、凄い快挙よ。……精々励みなさい」

 

 元々ライザーは婚約破棄をかけた試合に勝って今回の結婚式をしている。ならば再び破棄を願うというのならライザーにも褒美は必要だ。元々この場に集まったのは両家に関係ある者達であり、ライザーの出世は自分達の利益にも通じる。異論の声は上がらなかった。

 

(これで手を抜くようなら仕方ないわね。私からすればどちらでも構わないのだし……)

 

 ライザーの視線の先、ザナクやレイヴェルがいる方向を見たリェーシャはグラスを傾けて喉を潤した。

 

 

 

 

「さっきは僕の為に怒ってくれて有難う。でも、大丈夫? 後で大王からみっともないって怒られない?」

 

「なに、構わん。友人の為に怒った結果なら名誉の負傷という奴だ。……使える金が減らされたらお前に借りるがな。無利子無担保無返却で頼む」

 

「いやいや、せめて十日に一割の利息は貰わないと」

 

 冗談を言い合い笑いあう二人。その輪に入りたそうにしながらも出来ずにいるレイヴェル。一誠との戦いが始まる寸前、ライザーはその姿を眺めていた。

 

 

「行くぞ、焼き鳥野郎っ!」

 

「あのなぁ、ゲームの前やら最中なら挑発として見逃されるけど他の場で言ってたらフェニックス家に喧嘩を売っているようなもんだぞ、小僧」

 

 戦いの前だというのにライザーには少々やる気が見られない。それどころか観客に聞こえない声で呟いてさえいた。

 

「……最上級悪魔かぁ。なりてぇなぁ。兄貴達を追い越してとか最高なんだけどなぁ」

 

 気怠そうに髪を掻き毟り少しの間迷った彼は大きく溜息を吐くと全身から炎を噴出した。龍の鱗すら焦がすという不死鳥の炎。周囲の空気が一気に熱せられる。

 

「俺もフェニックス家の一員として此処に居るからなっ! 悪いが無様な戦いは見せられん、死んでも文句は言うなよっ!!」

 

 本来ならば遥か格上で勝率ゼロの絶望的な相手。だが一誠には奥の手があった。片手を犠牲にした一時的な禁手。出来れば聖水や十字架でも有れば良かったが生憎伝手が無いので手に入っていない。正面からの対決、それも短時間での勝利。それを目指していた。

 

 

 殆どの者ががライザーの勝利を信じて疑わない中、接近戦を繰り広げている最中にライザーが一誠にのみ聞こえる声で話し掛ける。わざと拳を食らって体勢を崩すから、そこに全力の魔力を叩き込めと。

 

「誰が騙されるか、馬鹿にすんなっ!」

 

「……良いから聞け。俺とリアスの結婚か、妹と妹が惚れてる男との結婚かで話が割れて、既に決まっていた俺とリアスの結婚に決まった。だが、此処で俺が負けて破談になれば妹のチャンスが生まれる。泣きそうなのを押し殺してたんだよ、あいつはっ!」

 

「……お前だって部長と結婚したいんじゃないのか?」

 

「したいが、気が変わった。どっちにしろ魔王様に恨まれそうだし、どっちにしろ家の為になるんなら妹が笑っている方が良いに決まってるだろっ!」

 

 最初は疑っていた一誠だが、ライザーの気迫に圧され真実だと悟る。そしてライザーの言う通りに一誠の魔力が彼を飲み込み、意識を持たせようとしなかった彼は気を失った。

 

 それを予想していたようにリェーシャはグレモリー公爵の所に向かって行き、今後について話がしたいと告げる。ライザーが勝つにしろ、一誠が勝たして貰うにしろ、何方でも得をするような考えに既に至っていた。

 

 

 リアスと共に一誠が去っていき、ライザーは医務室に運ばれる。安静の為に人払いが済んだ所でレイヴェルが溜息を吐いた。

 

 

「……お兄様、起きてらっしゃいますわね」

 

「バレたか。俺の演技も捨てたもんじゃないと思ったんだがなぁ」

 

 既に意識を取り戻していたライザーが上半身を起こして舌を出した時、レイヴェルが彼に抱き着いた。

 

「……有難う御座います」

 

「おいおい、これからだ、これから。後はお前次第だからな? 俺が譲ってやったんだ、確実に婚約者になれよ」

 

 レイヴェルの頭を軽く叩きながらライザーは笑う。婿入りも最上級悪魔の座も駄目になったが、まぁ良いかと自然と笑みが浮かんでいた……。




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リェーシャさんの実家、分かっても内緒で バレバレかもしれんけど 今までヒント出てたし


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第九話

短いです 三巻プロローグ的な


 リアスとライザーの婚約の破談だが、当然終わった事だから恨みっこ無し、という訳にはいかない。両家の関係の進展を念頭に置いていた貴族や商人は目論見が外れ、あの様な形での破談に怒りを覚える者は少なからずいる。マスコミによる大々的な批判は権力を恐れてか無かったが、民衆の中にも不満を持つ者は居ただろう。

 

 だが、全て悪く働いた訳ではない。恩恵を受けた者達も確かに居た。フェニックスとの関係から今回の婚約が面白くなかった者達もそうだし、悪魔の本能か赤龍帝の力に魅せられた者もいる。そして、何よりザナクとレイヴェルだが、今回のことで元の関係に、いや、更に進んだ関係となった。

 

「……もう。意地悪なのですから」

 

 朝日がカーテンの隙間から差し込む部屋のベッドの中、一糸纏わぬ姿のレイヴェルは上半身裸のザナクの右耳を引っ張りながら甘えた様な声を出す。今回の騒動を経て婚約者候補に戻るを通り越して正式に婚約者となったのだ。それが嬉しかったのか泊まりに来た結果、今の状況が出来上がっている。

 

「……もう朝? もう少し……」

 

 そしてベッドにはもう一人の姿が。ザナクの左側で眠そうに目を擦っている。此方は下着を身に付けているが、ずれていて殆ど隠す役目を成していない。少しだけ勇気が足りなかった。三人が昨夜何をしたのかはお察しである。

 

 時計を見れば朝食まで時間がある。汗やら何やらで臭うし気持ちが悪いからと脱ぎ散らかした服を着て風呂場に向かうべく部屋を出た途端、ザナクの背中に割と手加減のない張り手が叩き込まれて彼は前のめりに倒れ込む。背後には笑みを浮かべた花月が居た。

 

「いよ、色男っ! 生娘二人同時にいただくたぁいい身分じゃないのさっ!」

 

 花月は言いたいことを言い終わったからか鼻歌交じりに去っていく。経験によるものか首尾がどうだったかは三人の様子を見れば分かり、色々と教えたかいが有ったかと上機嫌だ。恐らく今後は二人にも色々と教えようとするだろうが、抵抗しても無駄だろう。

 

「……何というか嵐のような人ですね、相変わらず」

 

「面倒見がいい人なんだけど……」

 

 どうも花月には勝てる気がしないなと思いながら二人は浴室の扉を開けて中に入り、ザナクは続けて入ろうとして眼前でドアが閉められた。

 

「女だけの裸のお付き合いをしますの。後でお一人で入ってくださいな」

 

「……ごめんね、主様。男子禁制って事で……」

 

 少なからず下心があったのは確かだ。実際、昨夜は花月に仕込まれた通りに二人を抱き、満足のいく結果となった。学生の身で懐妊となれば悪魔社会でも評判に響くので途中までで自制したが、混浴は期待していた。やはり彼もお年頃のようだ。

 

「ニャー!」

 

 そんな彼を慰めるように方に飛び乗ってきたレティが頬を擦り寄せる。ザナクが指先で顎を撫でると気持ち良さそうに喉をゴロゴロと鳴らした。

 

「慰めてくれるの? ありがとう、レティ」

 

「ニャニャニャニャーン(訳:臭っ! 雌臭っ!! ねぇ、閉め出された? 閉め出されたの、ねぇ? 今どんな気持ち? プギャー! 慰めてやるから飯くれ、飯!)」

 

「くすぐったいから舐めるなよ、レティ。ほら、ご飯食べにいこうか」

 

 レティは文字も言葉も理解するが、その言葉を理解できるのは桃十郎だけだ。彼が基本的に大ざっぱな故にレティの性格は伝わっていない。だが、その方が案外良いのかもしれない。

 

「ニャーニャーニャー(訳:肉! 今朝は肉の気分! 鶏肉より牛肉!)」

 

「今朝は何にしようかなー? あっ、買ったばかりの高級猫缶にしようか。最高品質の……舌平目!」

 

「……ニャフ(訳:オーマイガー……あっ、私は悪魔だった)」

 

 

 

 ザナクがリビングに行くとバターと卵の香りが鼻を擽る。どうやら今朝のメニューはバターたっぷりの猟師風オムレツ、コーンスープ、クルミ入りの自家製パン、リンゴ入りサラダ、デザートは木苺のジャムが入ったヨーグルト。キッチンでは身長が足りないので体内から出した大蛇に乗って料理をするクリスティの姿があった。

 

「お早う、クリスティ」

 

「ん、もうすぐ出来る。クリスが持って行くから牛乳出して欲しい」

 

 既にコップが用意され、ザナクは出されたコップに牛乳を注いでいく。各自の予定が書かれたカレンダーによると桃十郎は昨夜からアルシエル領の学校に行っており、指導を終えて帰るのは今日の夕方との事だ。クリスティもそれが分かっているのか人数分しか材料を用意せず、今リビングに居ないレイヴェル達の分はまだ作っていなかった。

 

「おはようございま()……」

 

「ほら、アーシア。寝癖寝癖。今日も美味そうだな、クリス。おっと、おはよう」

 

 続いてやって来たのは寝癖が付いたまま寝ぼけ顔のアーシアと櫛を手に彼女を慌てて追いかけるアレイシア。この場所では頻繁に見られる光景だ。主であるギアの計らいでアレイシアと同じ学校に通えるようになったアーシア。彼女はとても忙しい毎日を送っていた。

 

 まず、学校に行き、不慣れな文字の読み書きに四苦八苦しながらも作ることが出来た友人達と一緒に過ごす。お昼休みにはクリスティが主に作る弁当をザナク達と一緒に食べながら悪魔に関わる事について話す。そして放課後、彼女はいったん冥界へと向かうのだ。

 

 傷の内部や表面に異物がある場合どうなるかなど神器の研究や大勢の怪我人を癒やす際の重度による優先順位の付け方、力を温存する為に神器を使わない応急処置の方法や、心肺停止を初めとした傷の治癒では治せない状態の対処方法。後は危険を回避する為に防御のための魔力の訓練等々、救護部隊の見習いとしての勉強を行っている。

 

 教会にいた時も聖女として崇められる事よりも人を助ける事に意義を見出していたからか、忙しいけど楽しいです、と本人は語っている。休日はアレイシアとデートをするなど公私共に順調なようだ。

 

「頑張っているようだけど無理は駄目だよ? 自分が倒れたら他人は救えないんだからさ。気負わずに気長に頑張りなよ。……さてと」

 

 少々行儀が悪いが登校時間もあるのでザナクはご飯を食べながらタブレット端末を操作する。今見ているのは貴族の子息子女が匿名で利用する情報共有掲示板。虚偽の情報も多いが、どの様な情報が出回っているかだけでも知る価値は有るからと毎日閲覧していた。

 

 

「……リアスさんが兵藤と婚約? まあ、マグダランなら本当かどうか知っているだろうから後で聞くとして……まあ、ミリキャス君が魔王にならなかったら分家になっていただろうし、ミリキャス派がどう出るかが問題だよね」

 

 悪魔の上層部は徹底した純血主義だ。同じ七十二柱の末裔であっても人の血が混じったなら貴族として認めない。なら、元人間の転生悪魔が貴族の中でも上位である公爵家の婿になるのをどう感じるかというと予想は容易だ。掲示板にはサーゼクスや公爵に対し、ミリキャスが魔王になる為にも次の子供を早く作れと要求されているとの情報があった。

 

「あの人親馬鹿だし、サーゼクス様達も恋愛結婚だから第二子の誕生は元から望んでいてもおかしくないから大丈夫だろうけどね」

 

 この情報が確かな場合でも、ライザーと結婚していた時と同様に領地を分譲されて分家になるだけだから、リアスは精々我が儘に対して今まで通りに行かなくなる程度だろうとザナクは考える。甘くし過ぎるのは問題だが、厳しく罰し過ぎるのも家の名に傷が付く。可愛い妹の嫁ぎ先の事を少し心配しながらも、リェーシャが何も考えていないはずがないと直ぐに安心した。

 

 

 

 

「クリスティ、今日の夕食だけど予定が有るから今日は皆で冥界の屋敷で食べるよ。ソーナさんの頼みで学校を案内するからね」




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第十話

新クロモンドさん なろうでの名前なんでしたっけ? 消えるときに活動報告に書いてたのに忘れちゃって


 お婆さんが川で洗濯をしていると川上から大きな桃が……この文章からどの話か、それがどんな内容か分からない者は少ないのではないだろうか。そう、桃太郎である。多くの者が寝物語に聞かされた通り、桃から生まれた桃太郎は三匹のお供と共に鬼を退治する。

 

 絵本によって宝を持ち帰ったり攫われたお姫様を助け出したりと結末は微妙に違うが、内容はほぼ同じ。さて、桃太郎自体が特別な存在ゆえに鬼を退治するのも、獣の言葉を理解するのも構わないだろう。だが、お婆さんが持たせた黍団子を食べると力が湧いて来たというような内容の物もある。お婆さん自体は普通の人であろうにだ。

 

 だが、絵本になる前の元の話の通りならば、この団子の力も納得が行くのではないだろうか……。

 

 

 

「本日は私の我儘を聞いてくださり感謝します」

 

 放課後、女王である真羅椿姫のみを連れてアルシエル領にやって来たソーナはザナクに会釈をする。彼女が見詰める先に建てられた巨大な建物群、アルシエル領の政策の一つとして経営される学校の見学こそが今日の目的であった。

 

「小さい子達は知らない人が来たら落ち着かないし、魔術科と戦士科の見学だけで済ますけど良いよね? まずは戦士科に行こうか。今頃、桃十郎が指導をしている頃だから……」

 

 ザナクの案内に従いソーナ達は学園内へと入っていく。小規模な街ほどもある内部を見るソーナの目は輝いており、理想の対象を見る目をしていた。事実、この学園が彼女の夢に似ているからと前々から根回しをして今回の見学に漕ぎ着けたのだ。

 

「この学園に居るのは皆……」

 

「あっ、うん。下級悪魔を始めとした人外やハーフの孤児や、神器を不気味がられて社会から追い出された子達だよ」

 

 時折、すれ違う子供達がザナクに気付いて手を振ったりお辞儀をしたりしている。ソーナの姿を見て少し驚いたりしている子供達だが、悪魔や妖怪、人間が入り混じるなど少々奇異な光景だ。時折教員や用務員らしき大人の姿も見られるが、圧倒的に子供の数が多い。遠くからも子供の声が聞こえて来ていた。

 

「皆、笑っていますね……」

 

 神器の影響からか、退魔の家柄に生まれたにも関わらず鏡から異形の存在を呼び出す力を持っていた為に軟禁されていた椿姫は少々信じられない光景を見る目をしている。遠目に神器を使って遊んでいる子供達の姿も見えた。

 

「実は少し前まではここまでの規模じゃなかったんだけどね。あの人が家に入ってきてから大改革が始まってさ。笑顔が溢れているって嬉しいよね。っと、あっちの第三グラウンドだね」

 

 何やら気合の入った叫び声が少し離れた場所まで届いて来る。三人が向かうと異様なまでの熱気が伝わって来た。グラウンドに整列しているのは逞しい肉体の若者達。バーベルを担ぎながらスクワットをしている彼らを先導するのは桃十郎であった。

 

 

「四千九百九十八! 四千九百九十九! 五千! よーし、終了! 筋肉が喜んでいるぞ、お前達! 戦いにおいて最も大切なのは下半身の筋肉だっ! よーくストレッチして、筋肉が喜ぶ栄養素が豊富な特性ドリンクで水分を補給しておけっ!」

 

「おっす!!」

 

 とても暑苦しく汗臭い光景だ。男女問わず筋肉(マッスル)で、見栄麗しさの欠片もない。筋肉に美を見出す者からすれば垂涎物なのではあろうが……。

 

 一糸乱れぬ動きでの鍛錬の熱気にソーナと椿姫が圧倒された時、桃十郎が漸く三人に気付く。指導に熱中し、筋肉に集中していた為に眼中に無かった様だ。

 

「これはシトリー家の令嬢とその女王ではないかっ! そう言えば今日が見学の日であったな」

 

「その言葉からすれば忘れていたでしょ……」

 

「はははははっ! では、折角来たのだから少し体験してみようではないかっ! なぁに、生徒用だからほんのぎ五百キロだっ! 軽く百回行ってみようかっ!」

 

「無理です」

 

「遠慮する事はないぞっ! はははははははっ!!」

 

 ザナクが呆れても、ソーナが真顔で拒否しても桃十郎は動じない。最初から最後まで豪快に笑うだけだった。声を上げるたびに逞しい筋肉が脈動し力強さをアピールする。その筋肉は生徒を凌駕するが、汗臭さも生徒の比ではなかった。

 

 

「よしっ! 今から組手を行う。隣にいる者と組んで他の組を全て倒せっ! 最後まで残った者達が優勝だっ!!」

 

「おっすっ!」

 

 桃十郎の無茶苦茶な課題に生徒達は不平不満の欠片もなく、繰り広げられるのは力任せではなく洗練された技が光るまさに戦士の物。今まで戦いの経験がゼロではないソーナだが、その戦いに言葉も出なかった。

 

 

 

「実に素晴らしい戦いでしたっ! あれ程の人数があの錬度とは……」

 

「他の指導官の方にお話をお聞きしたいですね」

 

 見学後、何とか鍛錬に参加するのは回避した二人は興奮した様子で魔術科の校舎へと向かいながら話をしている。遠くの研究科の校舎からは獣の嘶きが聞こえるがザナクだけではなく中庭を歩く子供達も動じた様子がないので二人も気にするのを途中で止めた。

 

「優秀な人材は集めるより育てる方が良いからね。特に此処の生徒は大体不幸で、そこに衣食住や仲間を与えられ、存在価値を認められる。……これで裏切るようなら、そんなのが仲間に居ても獅子身中の虫にしかならないよね」

 

 最後は少し怖かったが、ザナクの言葉に生徒達の熱意やザナクに対する反応に納得が行く二人。今まで居場所が無かった者達が居場所を与えられ、必要にされる。とても嬉しい事だろう。だから彼ら彼女らは強い意欲を持って鍛錬に励むのだ。

 

「今の時間は……捕縛の為の魔術の授業中だね」

 

 時計を見て授業スケジュールを確認するザナク。中学生ほどの者達が座学をしている教室を横切り先ほどとは別のグラウンドに向かうと巨大なドラゴンを複数の生徒が囲んでいる。凶暴な唸り声をあげて暴れようとするドラゴンだが、空中から出現した鎖がその動きを完全に止めていた。

 

 

「あら? 皆さん、若様とソーナ様がお見えです。並んでご挨拶をしましょう。まず私から。リシャーナ・ラインハルトと申します」

 

「……貴女があの」

 

 リシャーナの名にソーナは聞き覚えがあった。紫の瞳、明るめの青い長髪、前髪で目元を隠し後ろは太股辺りまで、噂で聞いた通りにローブを被っていて顔がよく見えないが、感じる魔力も魔法力も高い。魔法使いの名門に生まれ、捕縛魔法にのみ特化した魔術師。異能や神器さえも封じるとされ、最上級悪魔クラスのはぐれ悪魔さえ生け捕りにした事さえある。

 

「ええ、先代に拾って頂けるまでは落ち零れだの蔑まれていましたが、今はこうして教職を頂いております」

 

「そんな落ちこぼれなどと……」

 

「でも、実際そうでしたから。では、皆さん、ご挨拶を」

 

 リシャーナはソーナの言葉に笑みを浮かべて謙遜すると生徒達に顔を向ける。この間も拘束は続き、暴れようとするドラゴンは微動だに出来ずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

「リェーシャ様、本日はお招き有難う御座いました。その上、晩餐会にまでご招待頂けるとは……」

 

 魔術科の授業見学を終えたソーナは貸し出されたドレスに着替えて晩餐会に参加していた。目の前のリェーシャは同姓でさえ見惚れてしまいそうな美貌に笑みを浮かべている。ザナクに対する態度が嘘のようだ。

 

「構いませんよ。貴方の夢はザナクから聞かされていますし、やや早計かとは思いますが必要な事でしょう。純血保持は貴族の権威の為に必要ですが、それだけでは先細りですからね」

 

「早計…ですか?」

 

 ソーナの夢はレーティング・ゲーム、貴族が眷属と一緒に戦う実戦方式の試合、の学校、それも下級悪魔の為の物を建てる事だが、否定しそうな純血悪魔、それも血筋が最高位のリェーシャから認められた事に戸惑いすら感じた。その上で彼女は訊ねる。早計とはどういう事なのか、と。

 

 

「簡単な事です。ゲームを取り仕切っているのは上層部。彼らからすればゲームは権威を民衆に誇示する為の物です。馬鹿正直に下級悪魔の為の夢を語っても否定されるだけですよ。……そうですね。人材発掘、もしくは民衆のガス抜き目的の娯楽とでも言って下級悪魔だけの競技大会でも開きなさい。学校はそれが盛り上がった後でそのための学園とでも言えば良いでしょう。行き成りゲームに参加は一足飛びが過ぎますよ?」

 

 ソーナの夢を聞き、肯定した上で時期尚早と断ずるリェーシャ。娘のメアリーに領地を継がせたいからと刺客を送る様な非情で野心家な面こそあるものの、民衆の事を想う慈悲深い面も持っている。実際、彼女は大戦後の内乱前、兄や父を裏切り現政権に着いたのも民の為を想っての事であった……。




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こんな感じで投稿キャラが時折出てくる予定 生徒や教師としてが大半かな?


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第十一話

 親が居るから子が居る訳で、当然親にも親が居る。それこそ人造人間でもない限りは生死は関係なく当然の事だ。

 

「ねぇ、主様。ボクにして欲しい事、何か有るかな?」

 

 夜中、ザナクが体に掛かった重量に目を覚ますと寝間着姿のリュミネルが翼を広げて跨っていた。差し込む月明りに照らされた彼女の顔は照れからか赤みが差し、彼女が勇気を出して今の状況に持ち込んだ事が伺える。月明りに照らされ、悪魔の駒を入れられても失わなかった天使の羽が輝いて見えた。

 

「やっぱり君の羽は綺麗だよね。手触りも良いし……」

 

 ザナクが手を伸ばして羽に触れるとリュミネルはくすぐったいのか身動ぎする。どうも感度が高いらしく、声を押し殺さないと変な声が出るようだ。

 

「……うん。この羽は好き。ボクと両親の繋がりだから。奇跡の子に生まれて良かったと思うよ」

 

 奇跡の子、天使と人の間の子をそう呼ぶ。本来天使は自然繁殖しない。それどころか欲望に負けると堕天使になってしまう。だが、特別な儀式を施した場所で欲望に負けずに行為をする事で天使と人の間に子供は誕生するのだ。当然、天使と接触する、天使と子供を作る関係になる、その儀式を行ってもらう、等、たとえ教会関係者でも容易ではない。

 

 つまり、リュミネルの両親は特別な立場に居たという事であり、悪魔に拉致され両親を殺された彼女をもとの世界に返さなかったのも、その事が原因で大きな問題になるのを避ける為である。本来は殺して全てを闇に葬るのが貴族として正しいのだろうが、彼女を保護したチャバスも、その主であるザナクの両親もそれが出来なかった。

 

 

「……レイヴェル様と違ってボクは只の眷属だし、先に経験しても良いよね?」

 

 そんな両親の影響か、はたまた養父である老執事チャバスの教育の賜物か、リュミネルは悪魔であるが初心であった……のだが、花月に何か吹き込まれたのか此処最近では一杯一杯になりながらも大胆に迫って来ている。顔を見れば今にも火を噴きそうな具合なのだが……。

 

「そうだね、先ずはキスを。君が満足するまで続けたら自分で服を脱いでくれるかな。一枚一枚じらすようにさ……」

 

「う、うん……」

 

 だが、ザナクは容赦しない。相手が良いって言っているんだからと要求を行い有難く頂いてしまおうと考えていた。人差し指を何度か曲げてリュミネルを招くようにし、それに応じるように彼女は目を瞑りながらザナクの頬を両手で挟んでゆっくりと顔を近づける。やがてカーテンの隙間から差し込む月明りに照らされた二人の顔が接近し、唇が触れた。

 

 

 

「ちょいとごめんよっ! 緊急事態だっ!!」

 

 突如乱暴に扉が蹴り開かれる。入って来たのは花月だ。風呂上りなのかほんのり上気した肌が湯あみ着から覗く肌は色気を醸し出し、漂う香の香りに混じった酒臭さが鼻を刺激する。一瞬交じりにやって来たのかと辟易するリュミネルだが、どうも違うようだ。

 

「……何があったの?」

 

「グレモリーの嬢ちゃんには内緒で他所モンが忍び込んで拠点にしそうな場所に蜘蛛を送ってたんだけど、森の中の廃墟の蜘蛛がやられちまったんだ」

 

 先程までの甘い空気から一変しザナクとリュミネルの表情が真剣な物へとなる。普段偵察に使っている花月の蜘蛛は彼女が妖術で作り出した存在。隠密性に優れており、よほど探知能力に優れているか強くないと普通の蜘蛛ではないと見破れない存在だ。無論、普通の蜘蛛と思ったまま殺された可能性もなくはないが、それは楽観的過ぎる。

 

 二人はベッドから起き上がると入口付近に立つ花月の下へと近寄った。

 

「相手は見た?」

 

「……不甲斐ないねぇ。流石に広いから全部と感覚を共有してなくてさ。でも、何でやられたのかは分かってる。聖剣さね」

 

 聖剣、文字通り聖なる力を宿した剣であり、そのオーラは悪魔や堕天使、魔獣の弱点となる。アルシエルの特性は光を無効化できても聖剣のオーラは別だ。そして悪魔の縄張りに少なくても聖剣を持った者が居る者、若しくは者達が入り込んだとなると普通ではない。

 

「教会関係者か、聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)の使い手か、フリーの使い手か。リアスさんにはピクニックの下見にとでも言えば蜘蛛を送った理由を誤魔化せるけど、あの人の手には余るよね」

 

「多分自分で解決したがるだろ、あの嬢ちゃんは。流石にアーシアの時みたいにレイヴェルがうっかり……、とかは使えないよ、もう。どうすんだい、一体さ」

 

 流石に勝手に上層部に報告などは縄張り関係で厄介になる。これから親戚関係を結ぶにあたり、ライザーの件で得た優位性を失うのは惜しい。だが、何か問題が起これば責任はリアスに行くだろうが、グレモリー家と親戚になる時に痛手だ。

 

「まっ、どうにかなるんじゃない? それより大侵攻の時期だし、そっちに集中しようよ」

 

「……主様」

 

 主の呑気さにリュミネルは深い溜息を吐く。助けるように花月に視線を向けるのだが期待は裏切られる。そもそも酔っ払いに何かを期待するのが間違いであった。

 

「そりゃそうだっ! ウダウダ考えても仕方ないさっ! よしっ! 此処は三人で楽しもうじゃないかっ!」

 

「え、いや、あの……」

 

 花月は二人の肩を掴むと強引にベッドに連れ込む。ここから先は年季が違う。覚えたての若者二人と長年花魁として過ごして来た花月では経験の差があり過ぎた。手練手管を尽くし花月は二人を堪能して夜を過ごす。そして次の日……。

 

 

 

「それは厄介ですね……」

 

 次の日、勝手に監視の目を広げていたなど弱みになる事は口に出さず、聖剣使いが町外れの森に居るらしいと説明を受けたソーナも悩む。リアスとは長い付き合い故に自分で解決しようとする光景が頭に浮かんでいるようだ。相手の目的が分からない以上、下手に手出しは出来ず、そもそもリアス達は斥候に向いた者が居ない。

 

 何より姉であるセラフォルー・レヴィアタンの暴走が怖かった。彼女も公私混同がみられるが、サーゼクスのように体面を保つ様な事をしない。もし天界や堕天使側の者が侵入者だった場合、事態がどうなるか予想もつかなかった。

 

「リェーシャ様に相談してみては? あの方は当主代行ですし、指示を仰ぐべきかと」

 

「あー、うん。そうだね」

 

 自分に刺客を送った事で眷属に嫌われている継母に相談した後の事を思うと面倒臭くなるザナクであった。

 

 

 

「……分かりました。では様子見をなさい。何時でも此方に退避する準備を。可能なら異能力者の保護をするように。契約を結んで街にいる以上、何かあれば信用に関わります」

 

 時期が時期だけに大規模な戦闘に備えた援軍の準備は無理だとリェーシャは告げる。只、どうも堕天使の動きが妙だと言うのだ。

 

「普段は大森林の調査中に遠目にでも見掛けるのが、ここ最近はまるで此方を刺激しない為のように見掛けないそうです。気を付けなさい。どうも焦臭いですので。……もしもの時は私が動きましょう」

 

 結局、リアスに教えても事態は改善しない上に、本来監視する義務もないからと今回の件は報告しない事となった。

 

 

 

 そして数日後、時折街で教会関係者らしき者が殺される中、ザナクは眷属達に不要の外出を控える様に指示を出す。どちらにせよ魔獣が活発する時期なので学校からマンションに戻るなり領地に帰って魔獣との戦いの日々なのではあるが。

 

 

 

 

「貴様、悪魔だな? この街の管理者と話がしたい。話を通してくれ」

 

 そんなある日の事、学校から帰る際の用心として学園近くまで迎えに来ていた桃十郎の前に怪しい二人組の少女達が現れた。人目を避けるように小声であり、通行人からは桃十郎を挟んで見えにくくしている。どうも訳ありのようだ。

 

 

「如何にもっ! だが、お前達が何処の者か知らなくては願いに応えられぬなっ!」

 

「……取りあえずあっちで話そう。目立ちすぎだ」




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第十二話

 漸く煩わしい授業から解放され、足取り軽く帰る者もいれば塾が待っていると憂鬱な者もいる。多くの学生に混じって夕食の買い物帰りの主婦が帰り道を急ぐ中、人目を避けるために入った路地裏から豪快さを感じさせる笑い声が響いた。

 

「ふははははははっ! 二人で遠路遥々異国の地に来るとは豪気なものよなっ! うむ!!」

 

「ちょっと貴方、ワザとやっていないっ!?」

 

「ぬっ!?  おお、これはすまんすまん! どうも俺は話を聞かんと怒られてばかりでなっ!」

 

 悪魔祓いであるイリナとゼノヴィアは話しかける相手を間違えたと深く後悔する。これで悪意が有れば怒るなり何なりするのだが、どうもこの男、桃十郎と話していると毒気を抜かれる。怒る気はしないが、非常に疲れるのだ。

 

「しかしまあ、聖剣使いが二人もやって来るとは大事のようだな……」

 

「……分かるのか? ああ、確かに一人一本ずつ持っているが……」

 

 確かに二人は計三本の聖剣を持ってきているが、厳重にオーラが漏れないようにしている。それを目の前の脳味噌まで筋肉になっていそうな相手に見破られたのだから動揺も生まれてしかるべきだろう。ゼノヴィアの目がスッと細くなり、何時でも聖剣を抜けるようになる。

 

「では、この地の管理者に繋ごうか! 少し待っていろ」

 

 まるで戦闘に突入する気でいた自分が馬鹿に感じられる程にあっさりとリアスに連絡が行き、面談の日が決まる。最初から最後まで桃十郎に振り回された二人であった。

 

「……あの男、どうも調子が狂うな」

 

「うん。私、どうも苦手っぽい。あっ、今から友達だった子の家に行っても良いかしら?」

 

 

 

 

 

「しかし聖剣が三本か……。イリナとゼノヴィアといったが、確かその名前は……」

 

 

 

 

 アルシエル領の梅雨の前後の時期は大忙しだ。堕天使領と合わせて隣接している大森林に生息する魔獣が凶暴性を増し、縄張り争いに負けたのが森から出て暴れる。ゆえに事前に調査を行い、ルートに待ち伏せして被害が出る前に叩く。その年によって何が出て来るか分からず、新種のケースもざらなので本当に大変だった。

 

「生き返るなぁ……」

 

 次期当主として当然のように防衛戦に参加し、今まで観測されていない新種の猪の魔獣相手に能力を観察して推測し指揮を行い、時には仲間を鼓舞する為に自ら正面に立って戦ったザナクは、漸く次の班との交代時間が来たので屋敷の風呂に使って疲れを取っていた。

 

 天然の温泉を引き込んでいる湯船に浸かれば疲れが溶け出るようで、湯を手で掬って顔を洗えば最高の気分。明日の担当の時間も頑張ろうという気になって来る。ただ、大浴槽を一人で使うのは少し寂しい気もした。

 

「メアリーはあの人が一緒に入るし、アレイシアは今担当時間だし……」

 

 家の者用なので使用人は当然入っておらず、入る事が許可されてもザナクに気を使って入って来ないだろう。妹はまだ幼いので一緒に入っても良さそうだが、母親として娘と入るのは楽しいのかリェーシャが独占している。彼女が出かけている時だけの楽しみだった。

 

「折角誰もいないんだから……泳いじゃえ」

 

 少し悪戯心を出したザナクは誰に遠慮することもないと広い浴槽で泳ぎだす。まずは背泳ぎで端から端まで泳ぎ、続いて素潜りで往復。目を閉じたまま往復が終わり、端に手がついたので頭を出して息継ぎをした。

 

「ぷはっ! あー、楽しかった」

 

「あら、それは良かったですわね。でも、お風呂で泳ぐのは良くありませんわよ?」

 

「ちぇ、もうしないよ、レイヴェル……何で居るのさ」

 

 直ぐ隣から何の違和感も感じさせずに話しかけて来たレイヴェルに普通に返事をし途中で固まる。子供心に帰って風呂場で泳いだのを見られたのは当然恥ずかしいが、彼女が同じ浴槽にいるのがもっと重大だった。

 

「あら、先に家のお風呂で体を洗ってから転移して入ってますわよ? ザナクこそ汗を流してから入っていますの?」

 

 ザナクと違い平然としている彼女は普段ロールにしている髪を下ろし、風呂の中にタオルを浸けるのはマナー違反だからと言わんばかりに裸だ。身長に比べ発育がいい胸がプカプカと浮かんでいる。

 

「……あまりジロジロ見る物ではありませんわよ? 婚約者相手でもマナーは必要なのですから」

 

「う、うん、ごめん……」

 

 流石に恥ずかしくなったのか手で大切な部分を隠しながらもレイヴェルはザナクに近寄って肩を密着させた。ザナクの心臓がドキリと高鳴り、レイヴェルも目が泳いでいる。既に長時間は言ってのぼせたような顔になっている二人は一言も話さず暫く入っていたが、何を思ったのかレイヴェルはザナクに背中を向けて体を預けてきた。

 

 

 

 

 

「触るだけなら構いませんわ。……抱き締めて下さいまし」

 

 頬を染めながらザナクの方を向き、直ぐに前を向くレイヴェル。余裕を装ってはいるが見えなくなった途端、緊張と羞恥と期待の入り混じった表情になっていた。手は抱き締める邪魔にならないように下に置いていたが、直ぐに口を塞ぐのに使うことになる。艶めかしい声が浴室に木霊するのが恥ずかしいからだ。

 

 

 

 

 

 

「さて、あの子達は仲良くやっているでしょうか。婚約がまた破談になったら家の恥ですからね」

 

 その頃、夕食前に娘の身嗜みを自ら整えていたリェーシャが呟く。その事が気になったのか肩まで銀髪を伸ばした娘がクリクリとした目を母に向け、大好きな兄の事かと嬉しそうにしていた。

 

「おにー様とレイヴェルねー様のことー?」

 

「ええ、そうですよ、メアリー。明日はミリキャス君に会いに行きますからね。早く眠りますよ」

 

「おにー様と一緒に寝ていーい? 今日は泊っていくんでしょー?」

 

「……仕方ありませんね。あの子には私から話しておきます。お疲れですからいい子にしなさいね?」

 

「うん!」

 

 余程嬉しかったのか元気よく手を挙げて返事をするメアリーの頭にリェーシャの手が優しく置かれる。この時間だけは彼女は只の娘思いの母親であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イリナ? そりゃ街の前の管理者の事件の関係者の娘だね。栗毛の小娘だろう?」

 

 その頃、魔獣討伐の休憩中に桃十郎からイリナの名を聞いた花月は見た目を聞きだし、確信を得る。リアスは知らされていないが、前の管理者に起きた事件について花月は知っていた 。

 

「んで、ライザー坊ちゃんの騎士とやり合った聖剣使いでもあるよ。まっ、武器込みで中級悪魔の中から上程度なら倒せる実力って所じゃないかい? 接近戦に限るだろうけどね」

 

 確かにライザーは勝利数の多い注目の若手だが、彼の眷属は飛び抜けて強い訳ではない。騎士なら木場と良い勝負が出来る程度。聖剣を使って致命的な傷を負わせられないなら実力は予測できる。もう片方もイリナとゼノヴィアのコンビは悪魔祓いとして少しは名が売れており、ゼノヴィアは斬り姫の異名を持つのである程度情報が集まってくる。……本当に警戒すべきなのは頂点クラスの強者と、情報が無い者だ。

 

「このゼノヴィアだが……ヴァスコ・ストラーダの関係者だね。そこまで深い関係じゃないが……あの子について何か知ってるかもしれないよ」

 

「……ぬぅ。接触したのは失敗だったか?」

 

「いーや、アンタには珍しくナイスプレーだね。先に分かってて良かった。髪の色も名前も別だが、一応会わない様に注意しておくよ。……ったく、こんな時期に面倒臭い。更に明日は初代バアルが来るってんじゃないのさ」

 

 花月は心底面倒そうに呟く。この後も仕事が控えていなければ酒でも飲みたい気分であった……。

 




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第十三話

昨日寝付けなくてさぁ 辛かった 休みでよかった


「お、おひさしぶりです、ぜくらむ様」

 

「これはこれはメアリー姫。随分と大きくなられましたな。お母上の幼い頃にそっくりですぞ」

 

 初代バアル、名をゼクラム・バアル。貴族の頂点である大王家の初代であり、引退した今も絶大な影響力を持っている純血主義。悪魔とは純血の貴族のみを指すと言い、現政権においては大王家こそが悪魔社会の中心で、魔王は象徴であるとする彼だが、三歳にも満たないメアリーに敬意を向けていた。

 

 但し、メアリーを通して別の誰かを見てはいたが……。

 

「リェーシャ様、此度はご令嬢の婚約成立おめでとうございます。リアス姫の件で色々とありましたが、まずは安心ですな」

 

 リェーシャに対しても然り。彼女に対しては本人に対しての敬意を持ってはいるものの、やはり何処か誰かを重ねて見ている。彼女はそれを察しているが何も言わない。都合のいい存在だと思われていた方が利用するのに都合が良いのだ。

 

「それで将来的にはミリキャス・グレモリー()眷属になるので?」

 

「うん! くぃーんになるんだっておかー様が言ってた……ました」

 

「当然でしょう。あの子の母親はルキフグス。この子が眷属になるのは道理が通らないもの。あの我が儘姫の件でだいぶ有利な条件を引き出せたわ。……まあ、公爵を継ぐ子が次期ルシファー選出の際までに生まれていなかったらの話だけれども。それまでは女王は不在ね」

 

 流石にルシファーが誰かの眷属というのは権威が揺らぐ、とリェーシャはこぼす。他の魔王の名がどれだけ落ち潰れても彼女は気にしないが、ルシファーの名が失墜するのは気に食わない。だからこそリェーシャはサーゼクスに容赦する気が皆無であった。

 

 そして、ゼクラムからすれば非常に都合が良い。これから提案しようとしていた事があるのだ。

 

 

 

「そもそも転生悪魔にも最上級悪魔の地位を与えるのです。……ならば、女性がなれるのがレヴィアタンだけという事に固執するのも妙な話です」

 

「あら、面白そうな話ね。頭の固い方々に提案しても無駄だと思っていたのだけれど、どうやら過少評価だったみたいだわ」

 

 これだけでリェーシャはゼクラムの提案の内容を察し、既に準備が秘密裏に進められている事も感づく。

 

 

 

「次期ルシファーはメアリー様が成るべきです。ルシファーの名は悪魔にとって特別。……なら、納まるべき方が納まるべきだと、我々生き残った初代は思っているのです。メアリー様は既にリアス姫の倍近い量の魔力を持っていますし、成長すればどれ程になるのやら楽しみですな」

 

 その暁には後見人やら何やらと理由をつけ、自分達が理想とする魔王になって貰う気だとリェーシャは見破る。それが我欲ではなく、少なくても忠誠心からくるという逆に厄介な理由だとも……。

 

 無論、その思惑すら利用する気であったが。

 

 

 

 

(今日はおにー様、泊まるのかなぁ? また遊んでほしーな)

 

 幼い少女は老臣と母の思惑など知らず、腹違いの兄のことを思う。厄介な政治の世界の話は幼すぎる彼女にはまだ早過ぎた。それでも何時かはその世界を知り、渡って行かなければならない。生まれ持って地位に対する責任は辛くても重くても背負わなければならないのだ……。

 

 

 

 

 

「……おや? 今日は随分と騒がしいようで。ああ、そういえば、その様な時期でしたな」

 

 遠くから聞こえてきた音と僅かに届いた振動にゼクラムは窓の外、大森林の方角を見る。リェーシャは分かっているなら早く帰れ、老害が、等という事を考えていても全く表情には出さない。

 

「しかし毎年毎年大忙しですが、領地に殆ど被害が出ないのは素晴らしい。余程人材がそろっておいでなのでしょうな。集まるべき者の下に使える者は集まるようで」

 

「ええ、役に立つであろう者達を集めて育てていますから。人材とは集めるだけでなく、育てるもの。この土地に愛着を持たせ、仲間意識を植え付け、忠誠心を捧げさせる。ただ集めるだけでは限度が有りますもの」

 

 再び森の方角から轟音が響き、鳥が無数に飛び立った。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、封印、勝手に解いて良いの? 怒られても知らないからね」

 

 森の中、地面の下から困った様な声が響く。このままでは監督責任を問われたり連帯責任を食らって自分まで怒られるけど、積極的に止めるのも面倒だから止めたという事実だけでも作っておこうという魂胆が見え隠れした声。その声の主の意識の先は山積みにされた猪の魔獣。

 

 その一体の脚を小さな手が握りしめた。鋼など遥かに凌ぐ硬度を持ち、針の如く鋭利に尖った毛に覆われた体は軽自動車程もあり、手足もそれに見合って太く長い。掴んだ手は幼子のものを思わせる白く華奢なものであり、薄い皮膚は毛に簡単に貫かれ、白い肌は鮮血で直ぐ様染まってしまうだろう。

 

「固い事言わんでええやないの。うちとあんたはんの仲やない」

 

 だが、そうはならなかった。細い足が仰向けになった猪の腹を踏みつけ、脚を掴んだ手に力が籠められるとブチブチという音と共に肉が引き千切られて行く。皮が裂け、巨体を支えるに相応しい強靭な肉や骨が毛が加えられた力に耐えきれずに断裂する。周囲に血の香りが漂う中、露出した肉に少女の歯が立てられた。

 

「ん、美味し。やっぱ肉は生に限るなぁ」

 

 口元を血で汚しながらその少女は片手で持つ猪の肉に齧り付く。肉を食らい血を啜り骨を噛み砕き、その全てを小さな肉体の胃袋に収めた。最後に指に付いた血を嘗め、口の周囲の血を舌で綺麗に嘗めとると声のした方を振り向いた。

 

「ほな、血の香りに誘われて来たのは任せたで? うち、あんさんの事を信頼しとるさかいになぁ」

 

「えー? ボク、戦いは嫌いなんだって」

 

「そない謙遜せんでもええよ? あんさん、旦那はんの眷属の中でもトップクラスに信頼されとるやないの。うちとは大違いで羨ましいわぁ」

 

「そう? ボク、そんなに頼れる? えへへー! じゃあ、張り切っちゃおうかなぁ」

 

 声の主が調子に乗る中、少女はお腹が一杯になって少し眠いのか木に凭れ掛かりウトウトとしだす。十歳ほどのおかっぱ頭の少女であり、日本人形を思わせる姿だ。

 

 

 

 

「ああ、暇やなぁ。堕天使はんでも攻めて来たら面白いのに。手足を捥いで、目玉を抉って歯を全部へし折って、羽を順番に引き抜いて……想像するだけで楽しいわぁ」

 

 そんな物騒なことを実に楽しそうに呟く少女の視線の先では五mはある巨大な大熊猫が何やら張り切っていた。

 

 

「よーし! 何でも来い。ボクが相手だー! ……って、沢山来たー!? 旭吉(ひよし)ちゃん、ヘルプミー!」

 

「旦那はん、今日少し用事が出来たって言うとったなぁ。リュミネルはんとでもしけこむ気やろか?」

 

「おーい!? 聞こえてるんでしょ、ちょっとー!? こうなったら必殺の……パンダビィィィィィムッ!!」

 

 

 

 

 

 張りきった大熊猫の様な何かが調子に乗った挙句、猪全てを吹き飛ばしてしまった事で朝からまだ怒られ続けている夕方、オカルト研究部の部室にザナクの姿があった。隣にクリスティを座らせ、暇なのか野球ボール程の魔力の球を眼前に浮かせて形を変え続けている。

 

「……そろそろかな? 悪魔祓いが来る時間ってさ」

 

 眷属である桃十郎が話を持ってきたという事もあり、ザナクは面談の場に参加させるように言って来た。恐らく堕天使が絡んでおり、ならば領地が接している自分は一早く情報を得る必要があると言って。ふと腕時計を見て呟いた彼に部室内の者の視線が集まった。

 

「そもそも貴方はどうして堕天使が絡んでいると思うのかしら?」

 

 堕天使が絡んでいると聞き、少し考え事をしている様子の自分の女王に視線を向けたままリアスが訪ねる。少なくても桃十郎から聞かされた話ではそのようなヒントはないと思ったからだ。

 

「消去法かな? 悪魔への宣戦布告だとしても態々話し合いが有るって言ってくるのも妙だし。ほら、一応正義ぶりたいからさ、教会側ってさ。他にも可能性があるけど、消去法でね。……クリスティ、一応蛇は除けておいてくれるかい」

 

「別にクリスが戦うから必要ないと思う」

 

 思い出したようにした提案は即刻却下されるが、蛇とは何のことかという視線を向けられたザナクは袖を巻くって腕を見せる。そこには蛇が巻き付いているような模様が存在した。

 

「僕の修行の為にこの子に使って貰っている術があるんだけど、例えるなら魔力という名の水が入ったタンクの蛇口を強制的に開く感じかな? そしてこの蛇はタンクを同じ大きさの穴の開いた袋でもある」

 

 分かりやすいように適当なビニール袋の底を破いたザナクは水の魔力をその中に流し込む。空中に留めた魔力は袋から流出する事はなく中に留まり続けた。

 

「学校のある日は登校から帰宅まで流れだし続ける魔力を蛇に留め続ける事で総量とコントロールを鍛えるんだ。最初は魔力枯渇で死ぬほど辛かったし、今も容赦なく流出量を上げられているけどさ。……でもまぁ、それだけやって鍛えた僕の半分ほどの魔力をもう直ぐ三歳の妹が持っているんだけどね。うちの妹、凄いよねっ! 何が凄いっかていうと才能だけじゃなくて、才能があるのに素直でさ。僕の姿を見ると笑顔で寄って来るんだ。何時も何時も別れる時間になると袖を掴んで寂しそうにしてさ。それでそれで……」

 

「ステイ」

 

 ザナクの後頭部をクリスティの小さな手が叩く。それはペチリという音がする生易しいものではなく、上級悪魔の総魔力の半分ほどが籠められた強力な物だった。

 

「ちょっと大丈夫っ!?」

 

 リアスが慌てて駆け寄ろうとした時、前のめりに倒れていたザナクは平然と立ち上がる。さすがに頭を痛そうに摩ってはいたが怪我一つなかった。

 

「まあ、さっきの様に攻撃を受けても魔力を瞬時にその個所に集中させて盾にすれば威力を軽減できるんだ。っと、来た様だよ」

 

 ノックの音と共にドアが開かれ、悪魔祓い二人が姿を現す。彼女達が何故来たのか、それが語られようとしていた。

 

 

 

 

 

 

(教会からのエクスカリバーの強奪、それも犯人はコカビエルかぁ。……あの人、本当に厄介だからなぁ)

 

 ゼノヴィアとイリナの用事は堕天使幹部のコカビエルの手によって七本あるエクスカリバーの内三本が盗まれてこの街に持ち込まれた、という内容。領地の都合上ザナクは堕天使幹部についてある程度把握しており、コカビエルとは面識があった。

 

(二人と……殺されている先遣隊からして悪魔側を刺激するのは避けたいって所かな? それを見越して此処なのか、僕やリアスさん達も目当てなのか。……それより先ず問題は)

 

 話を聞きながらクリスティに視線を送る。お前達弱いから殺されるだけ、などと挑発するような事を平然と言い出しかねないが、強いので用心の為に連れて来た眷属の動向に注意する中話は進んでいく。

 

 途中、我々だけで相手をするから手を出すな、と要求してきた時に余計な事を言おうとしたクリスティの口に黍団子を突っ込んで黙らせ静観するザナクだったが、リアスが言おうとしなかったので一応口を挟んでおいた。

 

 

「そっちは手を組むのを危惧しているようだけど、僕達も堕天使とは敵対している。まさか向こうから攻めて来た時も手を出すなとか言わないよね? 魔女狩りの時も揚げ足取りがお得意だったそうだし、一応確認させて貰えるかな?」

 

「随分とご挨拶だな。まあ、それなら別に気にしないさ。コカビエルに手傷の一つでも負わせてから死んでくれればこっちも助かるしね」

 

 ニコニコとした笑みを崩さないザナクと敵意を隠さないゼノヴィア。空気が張り詰めたが、イリナがもう帰ろうと言い出してゼノヴィアは敵意を引っ込めた。

 

 

 

 

 

 

 

「待ってくれよ。少し君達の力を試させて欲しいんだ」

 

 だが帰ろうとした時、二人の前に木場が立ち塞がる。明確な敵意を向ける理由、それを既にザナクは知っていた。

 

 

 

 

 

(まあ、銃撃事件で被害を受けた人が銃を憎んだりしたりするし、先端恐怖症の聖剣バージョンと思えば当たり前かな? ……あっ、そろそろ時間だし帰らなきゃ)

 

 情報は必要だと集められる情報は大体集めているのでザナクは彼の過去を知っていた。エクスカリバーの適合者の実験において失敗作とされて処分された者達の生き残り、それが彼だ。

 

 

 

 

「今日の夕食何? 家で食べるんだよね」

 

「クリス特製クラムチャウダー。パンもオーブンにセットしてから来た」

 

 帰って良い空気でないと感じながらもザナクはどうしようかと迷う。今日は大侵攻に対する討伐の夜間の当番が当たっているのでどっちにしろ帰る気でいたのだが……。




次は辛いの予定

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第十四話

バイサーって兵士だったのかな? あの体格差で小猫にパワー負けしてたし、獣の肉体なのに木場にも速度負け  逃げた時点で強化解除って設定有りましたっけ?



CMで流れる例の歌……ちょっと苦手 オバロとか録画した番組のCmをワンタッチスキップしてると丁度途中流れるんだが……うん、なんかなぁ


「自宅デートというのも悪くない物ですわね。……映画館が駄目になったのは残念ですけど」

 

 リビングのテレビでは一昔前にヒットしたラブロマンス映画が映し出され、正面に置かれたソファーに座ったレイヴェルは隣に座るザナクにしなだれかかりながら甘える様に囁く。先程まで画面に向けられていた視線は既にザナクの横顔にのみ注がれていた。

 

「堕天使の幹部が潜入してるからねー。人混みで襲われたら厄介だし、こうやってのんびりするのも良いものでしょ? リュミネルとも普段はこうやってるよ」

 

「あら、何時もこんな事を? 少しばかり妬けますわね」

 

 レイヴェルの視線は自分の臀部へと向けられる。ザナクの手が先程からスカートの中に滑り込み下着の上から撫で回していた。拗ねたように脇腹を抓り、笑いながら体を擦り寄せる。

 

「……並んで映画観てるだけ。主様、ワザと言ってる?」

 

 ザナクを挟んで座るリュミネルも拗ねたようにズボンの上から腿を抓る。時折擽ったそうに身動ぎする彼女の服の中にもザナクの手が入り込んで胸を触っている。画面を見ているのは既にザナクだけであり、二人の視線は彼にのみ注がれていた。

 

「痛い痛い。もう、二人とも大げさなんだから。ゆっくり楽しもうよ。大侵攻は第二次調査隊の報告待ちだし、今は時間があるんだからさ」

 

 アーシアは講習を受けに冥界に行っており、アレイシアは頑張っている彼女へのプレゼントを買いに出掛け、花月は世界の名酒展に行っている。桃十郎は筋トレとして岩山を担いで一日立ち続けるそうで、クリスティはお昼寝中だ。つまり三人だけしか居ないのと変わらない。

 

「あら、何をゆっくり楽しむ時間があるのかしら? 下着の中にまで手を入れてみます? ……どうなっても知りませんけど」

 

「……この前の続きする? ボク、途中で気絶…寝ちゃったし……」

 

 ザナクを押しつぶすように左右から体を押し付ける二人。彼自身も二人の体に回した腕に力を込めて引き寄せている。

 

「そうだね。……寝室に行くのも焦れったいし、此処で楽しもうか……」

 

 二人は一瞬びっくりした様子だが無言で頷く。そしてザナクの手が下着の中に滑り込もうとした時、床に魔法陣が出現し、一人の男性が現れた。

 

「やあ。ちょっと時間が出来たから会いに……来ない方が良かったみたいだね」

 

 誰がどう見ても今からお楽しみですという光景に気まずい様子の男性。レイヴェルは恥ずかしがってバッと離れ、リュミネルは俯きながら拳を握りしめる。

 

 

 

「……何で毎回毎回邪魔が入るの?」

 

 何故かは神様にも分からない。本当に何でだろうか……。

 

 

 

 

 

「来るなら来るで事前に連絡を入れるべきだったか。悪かったよ、ザナク」

 

「……別に良いよ。それより映画の撮影や試合の方は大丈夫なの? 叔父上」

 

 テーブルを挟んで座り、先程の気まずさを誤魔化そうとする彼の名はディハウザー・ベリアル。レーティング・ゲームのチャンピオンであり、皇帝と称される魔王クラスの実力者だ。メディアやゲーム関連に加えて最上級悪魔として多忙な日々を送る彼ではあるが、どうも久々のオフらしい。

 

「撮影はまだ始まっていないし、さっき打ち合わせが終わってね。それにしても久し振りに会ったら大きくなって。まるで私の子の様だよ」

 

「いや、それだったら叔父上は双子の姉に手を出したって事になるけど?」

 

 多忙な中、暇を見つけて甥に会いに来た彼に気を使ってかレイヴェル達は席を外しており、二人はこの場だけは身内でも隙を伺い合うのが普通の貴族としての顔を捨て去り、身内として話をしている。そんな中、話はレーティング・ゲームへと移った。

 

「……流行してるのは分かるけど、戦うのが当然って場所の出身からすれば興味は無いかな? 叔父上が凄いってのは知っているけど、結果だけじゃなくて経過まで考えたりしなくちゃならないのはね。戦いに必要なのって被害を最小限にして敵に最大限の被害を与える事でしょ?」

 

「まあ、確かに政治的理由が勝敗に関わったりするし、一種のショーであるからね。君の立場からすれば堕天使に手の内が知られたり、思わぬ怪我を負うのは避けたいか。でも、君がどれだけ強くなったか気になってるし、甥っ子とのゲームってのも盛り上がりそうなんだよな。……ああ、そうだ。夏休みに何日か鍛えてあげよう。あの力、まだ苦手なんだろう?」

 

 ディハウザーの提案に嬉しく思いながらも、苦手な力の特訓と聞いて辟易するザナク。誤魔化すように目を逸らすもディハウザーはニコニコ笑いながらプレッシャーを掛けてくる。逃がす気はないようだ。

 

「僕はアルシエル家の黒い太陽の魔力に適正を振ってるからなあ。あっちは威力もコントロールも苦手でさ。……っと、ごめん。眷属からメールだ。しかも厄介事専用のアドレスにね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴金属は……遠慮するか。かといってスイーツはクリスの手作りやオッサンの黍団子が絶品だし……リュミネルにでも意見を聞くべきだったか。僕、こういうの詳しくないしな」

 

 ザナクのマンションをディハウザーが訪れる少し前、頑張っているアーシアに贈り物がしたいと思ったアレイシアは買い物に出掛けたのだが、何を贈るべきかで悩んでいた。もう直ぐ昼飯時と言うこともあり、お腹も減ってきた。

 

「ゲーセンでヌイグルミでもゲットするか。その程度なら遠慮しないだろうし、飯食いながらアーシア位の子が好きそうなのをネットで調べてっと……」

 

 何考えているか分からない上に幼女にしか見えないクリスティだが料理は上手だ。元々食べることが大好きだったので、より美味しい物を何時でも食べられるように上達したらしい。そんな料理を、クリスティが拗ねるなどしない限り毎日食べているので少し物足りなく感じると思いながらもアレイシアは一番近くにあったフェミレスに入っていった。

 

 

 

「これは美味い! これも美味い!」

 

「やっぱり故郷の味が一番よねっ!」

 

 まさに暴食ここに極まれり。テーブルに並べられた大量の料理をゼノヴィアとイリナが食べている。その程度なら無視しただろう。悪魔祓いが腹を壊そうが金が足りずに困ろうが関与しない。元より管理者であるリアスが不干渉を約束した以上は何も出来ないし、する気もない。

 

 ただ、彼女達の向かいの席に一誠・小猫・匙の三人が座っているのは見過ごせなかった。ゼノヴィア達は料理に夢中で背後のアレイシアに気付かないが、三人とは正面なので目が合う。明らかに都合が悪いときに出会したという顔の三人に対し、アレイシアは親指を使って離れた場所に来るように指示した。

 

 

 

 

 

「……相席じゃねぇよな、店内見る限りよ。何で二人と飯食ってんだ、お前らはよ」

 

 二人から見えない場所に移動した三名に対し、アレイシアは凄みをきかせた声で問い質す。最初に口を開いたのは一誠に呼び出されて此処にいるらしい匙であった。

 

「いや、実は木場の為に聖剣をぶっ壊す手伝いの許可を取りに……」

 

「あぁん? お前ら、今の情勢分かってんのか?冷戦状態、戦争一歩手前。ってか、堕天使と戦う場合、ウチの領地が最前線だ。木場の為? なら、ウチの領地の民衆大勢の為に我慢して貰え」

 

 これ以上言うことはないと去ろうとするアレイシアだったが、その袖を小猫が掴んで止める。戦車の特性で怪力を手にした彼女の腕を振り払うのは容易ではないと判断したアレイシアが動きを止めて振り向くと涙目になっていた。

 

「……お願いします。このままじゃ居なくなってしまいそうで」

 

「なあ、頼むよ! 木場の復讐を手伝ってやりたいんだ! そうだ、お前も彼奴の過去を知れば……」

 

 アレイシアに口止めし、あわよくば協力を取り付けようとする一誠が聖剣計画の事を話そうとするが、アレイシアはそれを手で制した。

 

「……ウチの領地の孤児院じゃ出身者も今いる餓鬼も訳ありだらけだ。影を操る神器の力を理由に迫害された奴。敵対する種族に里を滅ぼされた妖怪の生き残り。俺だって少年兵として訓練を受け、祖国に隊ごと見捨てられて俺だけが生き残った。重かろうと辛かろうと背負って生きていかなけりゃならないもんは有るんだ。……お前達の主には喋らないで居てやる」

 

 だから諦めろと言い残しアレイシアは去っていく。その後、遠くから双眼鏡で観察し、木場と合流してゼノヴィア達と行動する様子を見たアレイシアは携帯を取り出した。

 

 

 

「……僕の主に知らせないとは言っていない。仲間のために行動するのは正しいが、今回は限定的な範囲での正しさだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、大変そうだね、ザナク。……所で日本には土曜の丑の日ってのがあるそうだけど」

 

「……もしもし。鰻重の特上を五人前お願いします」

 

「お金は私が出すから安心しなさい。……さて、面倒な事になったな。私が下手に関わると問題がこじれそうだ……」




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第十五話

「思うに彼らは楽観的過ぎたんだね。どうとでもなるって呑気に考えていたんだ」

 

 一誠達がリアス達に捕まって叱られたと聞いたザナクの言葉にレイヴェルとリュミネルは、え? 貴方が言う?、という表情になる。報告に戻ってきたアレイシアはサッと目をそらし、ディハウザーは言うべきか黙っておくべきか迷う。当然、彼等が何を思ったかは伝わっていた。

 

「もー。酷いなあ、皆。僕はちゃんともしもの備えをしているから楽観的なのに。あれだよ。夏休みの宿題を七月中に終わらせたから残りは遊び呆けるのと同じ」

 

「ニャー」

 

「うん。ザナク、普段から頑張っている」

 

 彼に賛同するようにクリスティは頷き、レティは膝の上に乗って鳴く。味方を得た事でザナクは得意顔だ。正直言って先程まで少し拗ねていた。

 

「二人とも良い子だねー。僕の味方は二人だけみたいだよ」

 

「ニャ(訳:まぁ、ぶっちゃけ脳天気だとは思うよ? 刺客送られても無事だから気にしないとか無いわー。普段のちゃんと備えはしてるけどさ。あっ、味方したからオヤツちょうだい)」

 

「クリスは味方だから今週は食玩三つ買って良い?」

 

 首を傾げながら要求している甥っ子の眷属の姿を見てディハウザーは随分変わったなと思う。クリスティとディハウザー、そしてザナクの母親が出会ったのは姉弟が幼い頃であった、

 

 

 

 

 

 

 遙か昔、未だ世界に文明と言える程の物が点在している程度だった頃、腹を空かせた蛇がいた。当時は人の世界にも魔獣の類が堂々闊歩しており、只の蛇が補食出来る存在は少なく、もっと力のある者に先に食べられるのが当たり前。既に限界にまで達した時、蛇は水辺でそれを見つけた。それの価値を只の蛇が知る由もないが、美味しそうに感じた蛇はそれを食らい、只の蛇ではなくなった。

 

 それはとある王が手に入れた不老不死の秘薬。使う前に身を清めようと沐浴していた彼から奪った秘薬で不老不死となった蛇であったが、それだけでは蛇は蛇のままであった。大きく変質したのは偶然開いた空間の歪みから次元の狭間に迷い込み、耐えきれずに消滅と再生を繰り返し体が順応した頃、とある龍の戦いに巻き込まれた事によるもの。それについての詳細はまたいずれ……。

 

 その後、完全に変質した蛇は世界を放浪し、やがて冥界でベリアル家の双子の姉弟と出会った。名を与えられ、知識を与えられ、仲間を知った蛇は……いや、クリスティは嫁入りが決まった姉の方が気に入っていたので勝手に同行し、不老不死故に幼い精神のままアルシエル領で過ごした。その後、多少の明文化はされていない反則を使ってザナクの眷属となった。

 

 

 そして、今に至る……。

 

 

 

 

 

「うぃー! 良い心持ちだっとくらぁっ!」

 

 まだ昼過ぎの太陽が高く昇った時間帯、人の居ない公園にて駄目人間の見本が陽気に鼻歌を歌っていた。コンビニで買い求めたウナ玉丼やサキイカにチーカマを肴にし、全国各地の名酒を煽る。親が子供に見せたくない大人の姿の一つだが、それでも彼女の色気に陰りは見られない。ほんのり赤みが差した白い肌、酒が回って焦点の定まらない眼差し。暑いのか水仙が描かれた着物を着崩している。

 

「やっぱり酒は最高だねぇ。酒は憂いの玉箒、くっだらない悩みなんざぜーんぶ消え去るってもんだぁ! 後はそうだねぇ。酌をする男でも居たらもっと良いんだけど……まっ、良いかっ! アタシは酒飲んでる時が一番幸せだよ、本当にさぁ、ひっく!」

 

 一升瓶から紙コップに酒を並々と注ぎ、一気に煽る。ゴクゴクと飲み干せば喉が動き、口から漏れた酒が水滴となって伝う姿も婀娜っぽい。その背後から足音を忍ばせて近付く者が居た。

 

「はいっ! 悪魔ちゃん一匹アウトー!」

 

 背後から突き出された刃には聖なるオーラが宿り、悪魔を魂すら残さず浄化する。洗練された動きからの見事な一撃は座っていたベンチの背もたれごと花月を背後から刺し貫いて胸部から切っ先が突き出る。着物が破けて露出した肌が血で赤く染まり、手に持っていたコップが地に転がって一升瓶は粉々に砕け散る。

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 何が起きたか理解出来ないという顔を白髪の少年神父、フリードは浮かべる。エクスカリバーを奪還しにきた教会の人間を捜す途中で見つけた悪魔、それを殺害すべく隙を伺い、好機と見て仕留めた。だが、目の前で消えたのだ。浄化したのではなく、酒瓶やコップごと、文字通り煙のように消え去った。

 

 不意に背後から紫煙を吹きかけられたのを感じた。漂う香り、流れてきた煙。それに反応したフリードはエクスカリバーを振り抜きながら振り返る。その右目に鋭い爪が突き刺さった。

 

「ぎゃぁああああああああああっ!? 目が、目がぁあああああっ!」

 

 フリードは新米の戦士ではない。何度も重傷を負ったし、痛みに耐える訓練も受けている。だが、そんな彼を持ってしても目玉に深々と爪が突き刺さり、あまつさえ押さえた指の隙間から溶け落ちた程の痛みは初めてだ。エクスカリバーを振り抜こうとした腕に突き刺さり動きを止めた簪による痛みなど比較になりはしない。

 

「あ、悪魔の分際でよくもやってくれやがったなぁあああああっ! ぶっ殺すっ!」

 

 フリードは激痛に耐えながら激昂する。激昂するが、ジリジリと後退して撤退を開始していた。教会を追放され、はぐれ悪魔祓いとして彼が生き残ってきた最大の理由はイかれていて尚健在な冷静さ。想定外の展開、勝率の著しく低い戦い、こなす価値のない仕事、それらを素早く判断して逃亡を図る判断力。それが彼の最大の武器だ。

 

「なんだい、逃げんのかい。……さぁて、どうすっかねぇ」

 

 小指で耳をほじりながら花月は悩む。殺気を出してつけて来たので反撃したが、追撃すれば色々と煩い連中がいる。方針が決まっていない以上は此処で殺すのは面倒だ。

 

「覚えてやがれ、糞悪魔っ! 次会ったら両目を抉ってぶっ殺すっ!」

 

 フリードが懐から取り出した物を地面に叩きつけると閃光が放たれる。その隙にフリードは逃走を開始し、目が眩んでいない花月はそれを見送った。

 

 

 

「さてと、あっちには教会の小娘共が居るけどどうなるかねぇ。……本命がどう動くのやら」

 

 花月にとってエクスカリバーには優先順位は低い。今回もっとも警戒しているのはコカビエル。最上級堕天使としての力、歴戦の経験、戦争を望む思考。その全てが警戒に値する。

 

 

 

 

 

「まっ、どうにかなるだろ」

 

 花月は一升瓶から直接酒を口に流し込み、呑気にそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な奴らだ。聖剣使い二人で俺に勝てると思ったのか? 先に入った仲間が死んだのなら増援を呼ぶべきだったろうに」

 

 ゼノヴィアとイリナ、長年コンビを組んで上級悪魔にすら勝ち目がある二人は血にまみれ傷だらけで膝を折っていた。目の前に浮かぶ黒い八枚の羽を広げた堕天使コカビエル、姿を隠していた筈の彼がフリードを追い詰めた二人の前に現れ、圧倒した。エクスカリバーは地面に転がり、もはや抵抗の手段は無いようにさえ見える。

 

「バルパー、聖剣を回収しておけ。今夜……いや、今から融合の準備を開始しろ。……しかし、本命の前の余興にすらならんとは」

 

 殺す価値すらない、コカビエルの目はそう告げていた。足元の虫螻を見る目ではなく、路上の小石に向ける目を二人に向けると背を向ける。

 

 

 

 

「まだだっ!まだ終わっていないぞ、コカビエルっ!!」

 

「……ほう。デュランダルとは驚いた。あの男以外に使い手が居たか」

 

 煩わしそうに振り向いたコカビエルの目に僅かに興味が宿る。ゼノヴィアが手にするのは今回の切り札。荒馬の如き扱いにくさと絶大な破壊力を持つ聖剣デュランダル。聖遺物を内包した教会の宝であり、未だ人工的な使い手は生み出されていない。つまり、天然の使い手という事だ。

 

 

 

「だが、それがどうした? 貴様が使い手では俺には届かん。……だが、少しは楽しませた駄賃をやろう」

 

 降り注ぐ光の槍。背後のイリナを庇い無理な特攻すら不可能なゼノヴィアはデュランダルでの迎撃を試み、眼前に迫ったコカビエルの翼によって切り裂かれた。手からデュランダルが放れ音を立てて転がる。倒れそうになった彼女の髪を掴んだコカビエルの口元がつり上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かつての大戦で四大魔王だけでなく、聖書の神も死んでいる。その後起きた奇跡は神が残したシステムによるものに過ぎん。……良かったなぁ。これで居もしない者に祈りを捧げんですむぞ。はははははっ!!」




コカビーさん、少し改変 

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第十六話

「あの、申し訳御座いません。今、なんと……?」

 

 コカビエルにエクスカリバーを奪われ切り札であるデュランダルも通じず、体も満足に戦える状態ではないゼノヴィア達が行ったのは本部への連絡だった。だが、連絡の際、ショックのあまり口にしてしまった質問がある。神が死んでいるというのは本当なのですか、と。

 

 返答に対し、ゼノヴィアは我が耳を疑って聞き返す。だが、仕方のない話だ。神の為、教会の為に人生を捧げて来た彼女にとって受け入れられる物ではない。

 

「……もう一度言おう。もう君達二人は帰って来なくて良い。後日、デュリオかストラーダ卿を派遣する。その間出る犠牲は……仕方ないな」

 

 通話が切れ、ゼノヴィアの手から受話器が零れ落ちる。膝から崩れ落ちた彼女の背後では聞こえて来た会話にイリナは顔面蒼白になっていた。

 

「ゼノヴィア、嘘よね? 主が死んだなんて嘘で、私達が追放されたなんて聞き間違いよね?」

 

「ははっ…、はははははははっ!」

 

「うわぁあああああああっ!!」

 

 平穏な生活を捨て、鍛えてきた肉体も剣技も通じなかった。唯一の居場所であった場所からも追い出された。信じて来た全てが嘘だったと知らされた。もう笑うしかない、泣くしかない。崩れ落ちた二人は絶望を感じながらみっともなく笑い、泣いた。

 

 

 

 

 

「さて、駒王学園とやらは何処でしょうか? あの二人に聞いてみましょうか……」

 

 そんな二人に近付いて行く青年が一人。銀の髪をした彼は目当ての人物と会うべく、通っている学校を目指していた。

 

 

 

 

 

「さて、皆。アーシアが持って帰って来た調査隊の資料からして……」

 

 皆、固唾を飲んで資料から映し出された立体映像を見詰める。森の中を群れを成して進軍するのは熊ほどの巨体を持つ芋虫。体色は黄土色、巨大な一つ目は血走し、口の中には鑢の様な歯が奥までビッシリと生えている。

 

 だが、異様なのはそれだけではない。背中の中心、そこから木が生えているのだ。一メートルほどの大きさの木には瑞々しいリンゴが生っている。それを見たアーシア以外の目の色が変わった。

 

「今から狩りに行く? クリス、久々にアレ食べたい」

 

「ニャニャニャ---!!(訳:金だっ! 金の生る金で出来た木がやって来たっ! 大狩猟祭だっ!!)」

 

「これは高いツマミを取っておかないとねぇ」

 

 巨大な芋虫というグロテクスな見た目に少し引いているアーシアは思わずアレイシアの背後に移動していたが、その反応に戸惑う。

 

「有用な薬効か何かですか?」

 

 ある程度領地の事を学んでいるので大森林から採れる植物が他と比べて規格外な薬効を持っていると知っている。なら、この芋虫もその類なのだろうと予想したアーシア。答えたのはレイヴェルであった。

 

「ええ、そうですわね。あの芋虫は根っ子が変化した物らしく、ある程度成長すると土の中から出て直接獲物を探し、捕食して栄養にするらしいですわ。付けられた名は『アップルトレント』リンゴは他の果物が暫く食べられない程美味で、貴族の中で最低価格一個十万で取引されていますわ」

 

「リンゴが一個十万ですかっ!?」

 

「ええ、香水やリンゴ酒にしても評判が良く、木は香木、芋虫は灰にすれば上質な肥料。……傷が少なければ一匹につき最低でも三千万、最高品質になれば一億以上の価値があるとされています」

 

 アルシエル領の次期当主の婚約者として学んでいる途中のレイヴェルだが、元々頭が良いので多くの知識を手にしている。

 

「ちなみに目玉は珍味としてリンゴ酒に合うんだよ、これがっ! 薄くスライスして炭火焼にしたのが最高でねぇ」

 

「まあ、弱くても中級悪魔レベル、過去には最上級悪魔レベルの個体も確認されているんだけどね。被害が出たのは堕天使側だから別に良いけどさ」

 

「良くない。ザナク、正気?」

 

 クリスティの声が部屋に響く。ザナクの言葉を非難するように珍しく感情が込められた声に部屋の者達の視線が集まった。

 

 

 

「強い個体はその分美味しい。高く売れる」

 

 そして、直ぐに注目が途切れた。

 

 

 

「さて、そろそろ私は帰らせて貰おう。立場的に事態を悪化させそうだし……最悪、クリスティが全部終わらせるだろう?」

 

「ん。クリス、敵全部殺す。でも、今から仕事。討伐のシフト入ってる」

 

 同じく桃十郎も今から大侵攻によって被害が出ないように前線に出なければならない。今回のように利益は大きいが、それ以上に予想される被害は絶大。事実、堕天使の街が襲われたときは大勢が食い殺されて街は壊滅に追い込まれたそうだ。

 

「では、私もこの辺で。家庭教師が来る時間ですもの」

 

 レイヴェルも帰って行き、レティは今回のようなケースでは自分の出番はないと大欠伸でペット用のベッドに向かっていく。残ったメンバーも夜のシフトに備えて仮眠を取ろうという流れになったのだが、寝室に向かうザナクの袖をリュミネルが指先でそっと摘まむ。

 

「……あのね、主様。ボク、抱き枕になってあげようか?」

 

 自分で言って恥ずかしいのか俯いて耳まで真っ赤になるリュミネル。その腰にザナクの手が回され引き寄せられた。

 

 

「うん。これは良い抱き心地が期待できそうだ。じゃあ、寝ようか?」

 

「……うん。寝よう」

 

 眷属達の前で平然と同じ部屋に入っていく二人。アーシアはその背中を見つめた後、同じ様にアレイシアの服の袖を摘まんだ。

 

 

「あ、あの、アレイシアさん。そ、そ、添い寝しましぇんか……」

 

 途中で噛んでしまいより恥ずかしいアーシア。言われた方も何を想像したのか真っ赤になってしまっている。

 

 

 

「……また今度にしよう。僕、アーシアが直ぐ隣に居たら嬉しいやら恥ずかしいやらで眠れそうにねぇし、今度昼寝を一緒にして練習をさ……」

 

 こっちもこっちで恥ずかしいのか後頭部を掻きながら目を逸らす。アーシアも更に恥ずかしそうにしており、非常に初々しかった。

 

 

 

 

「……うーん。こりゃ乱入して男女揃って食っちまうのは野暮ってもんさね。酒でも飲んで寝るか……」

 

珍しく空気を読んだ花月も自室に戻り、掻い巻きを体に被せてチビチビと燗冷ましを楽しむ。七本ほど空にしてから眠り、三時間ほど経過した時、花月がバッと跳ね起きた。

 

 

 

 

「全員起きなっ!! やっこさんが動き出したよっ!!」

 

 

 

 

 

 

 時間は少し遡り、休日の駒王学園にて部活動に勤しむ学生や仕事がある教員が当然の様に校舎に居た。故に見知らぬ老人や白髪の少年神父が剣を持って校庭に現れれば疑問や警戒の視線を向ける筈だ。だが、全員それが当然のように騒がず、それどころか練習を切り上げて校庭から去っていった。

 

 

 

 

 

「なあ、バルパーの爺さん。全部殺せば良いんじゃね?」

 

「馬鹿者。儀式には時間が掛かる。被害を出せばもう戦争は止まらんだろうからこの時間帯にしたが、途中で止められれば元も子もない。私はエクスカリバーの結合のために力を貸したのだからな」

 

「……随分と戦力を揃えたし、大丈夫だと思うけどな」

 

 フリードは背後からやって来た援軍に視線を向ける。数にして十人程、皆上級堕天使だ。元々コカビエルは幹部であり、手駒といえる直属の部下は存在する。彼のように戦争の続行を望み、アザゼル達よりも彼に忠誠を捧げる者が一人も居ない筈が無いからだ。

 

 

 そして、その全員が片手に龍のオーラを放つ籠手を装着していた……。

 

 

 

「では始めるぞ、フリード。六本の聖剣を一つにする儀式をな」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、奴は来るか? 魔王の軍が来ても良いが、先に相手をしたいものだ」

 

 コカビエルは駒王学園には行かず、リアスに宣戦布告した後で拠点にした森の廃墟に残っていた。彼の目当てはザナク。堕天使の天敵であるアルシエル家の彼を倒すことで同胞を勢いづかせようとしていた。軍の編成まで時間があるから自分の足止めに誰かが来るであろうし、来るとすればザナクの可能性が高い。

 

 

「……負け犬が何の用だっ?」

 

 今か今かと楽しみにしていたコカビエルは背後に現れた人物に不愉快そうな視線を送る。気分を非常に害された、そう言いたそうだ。

 

 

 

 

 

「負け犬だとっ!? 真なる魔王の一族である俺を負け犬と呼んだかっ! 良いだろう。貴様をこのクルゼレイ・アスモデウスの実験台にしてやる!」

 

 クルゼレイは懐から小瓶を取り出して中身を飲み込む。途端、彼の魔力が跳ね上がった。

 




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第十七話

「今から貴様らの拠点で聖剣を融合させる儀式を行う。俺は町外れの森の廃墟で儀式成功と同時に進撃を開始しよう。アルシエル家の小僧に伝えろっ! 俺に勝てる可能性が唯一ある貴様を待っているとっ!!」

 

まだ夕方にも関わらず、リアスが居候する一誠の家に現れたコカビエルは宣戦布告を済ませると去って行く。その連絡を受けたソーナは公私混同から即座に戦火を切りかねない姉への連絡をせず、眷属を連れて学園へと向かう。時間帯からして多くの生徒教員が残っており、人命を優先させるための作戦が脳内で構築され始めていた。

 

「なんだありゃっ!?」

 

 遠目に校舎が見えた時、匙が思わず叫ぶ。通行人は誰も気にしていないが、校庭の辺りが白い靄らしき物に覆われていた。風に蠢くも飛んでいく様子もなく留まるそれに焦りを感じた一行が校門にたどり着くと、壁にもたれ掛かって煙管を咥える花月が居た。

 

「貴女はザナクの……」

 

「おや、久しいねぇ。其処の坊主がやらかしたけど大丈夫かい? 男っての馬鹿なもんで其処が可愛いんだが、限度が有るからねぇ」

 

 花月は煙管を口から離すと紫煙を空に向かって吐く。優雅な物腰、着物の上からでも分かる体つき、妖艶と賞するに相応しい大人の色香に匙だけでなく他の眷属も惑わされそうになる中、唯一寒気を感じた椿姫は言い表せない不安を感じ、ソーナは彼女が吐いた煙と校庭を覆っている靄のような物を見比べた。

 

「あれは貴女が?」

 

「そうさ。既に下手人共は隔離した空間に閉じこめてるし、一般人はパニックにならないように暗示をかけてる。……ただ、今から避難ってのも不安だろ?」

 

「避難中に伏兵に襲われれば被害が出ますからね。特に何かしらの異能を持つ家の方や人外など、悪魔と取り引きして通っている生徒に被害が出た場合、信用に関わる以外にも敵に回りかねません。それこそ悪魔に関する情報を得た状態で」

 

 取り敢えず花月が校舎周囲の索敵を行い、ソーナ達が校舎内に残っている者の避難を担当するという事になった時、リアス達が到着した。

 

「……これは仙術?」

 

「そうだよ、猫逍のお嬢ちゃん。アタシの仙術と妖術による結界さね。それでグレモリーのお嬢様、援軍は何時来るんだい?」

 

「援軍の要請はしていないわ。私の管理する土地の問題は私が解決する。コカビエルはザナクに相性の問題で任せたけど、此処を終わらせたら直ぐに助けに行くわ」

 

 面倒なことになった、花月は内心で嘆息する。コカビエルが学園に送り込んだのはバルパーとフリード、そして手駒である上級堕天使十名、全て対処済みである。仙術によって作り出した毒霧によって既に皆殺しにしているのだが、ソーナとの会話の通り隠密に秀でた伏兵を警戒して結界を張ったままにしている。

 

 そして、格上相手に連携がとれていない援軍など場を混乱させるからと言っても聞く相手ではなく、正直言って面倒だった。

 

「早く入れてくれ。僕はエクスカリバーを破壊しなくちゃ駄目なんだ!」

 

 木場などは邪魔する気なら斬るとばかりに魔剣を向けてきており、もうさっさと通して自分もザナクの援護に行こうかと思った時、道の向こう側からやって来た男を見て固まり、即座に魔力を漲らせながら声を張り上げた。

 

「全員逃げなっ! あの男は魔王クラスだよっ!!」

 

 近付いてくるのは銀髪の青年。イケメンの分類なので一誠が嫉妬に駆られるも、男が発した威圧感に圧されて怯む。見たことがない相手だが、リアス達は僅かに既視感を感じていた。男ではなく、男によく似た相手を知っている気がしたのだ。

 

 

「……長い間死んだフリしといて、今更何しに来たんだい? ユークリッド・ルキフグスっ!」

 

 

 

 

「おや、私のことを知っているのか。ああ、君はアルシエル家の眷属かい? なら手柄をあげよう。質問の答は簡単だ。投降しに来た。正当なるルシファーの血族を次期ルシファーにしようとする動きがあると聞かされてね。なら、ルキフグスの務めを果たすべきだと思ったんだ」

 

 優雅に冷静に自らが此処にいるワケを語るユークリッド。ただ、リアス達に対しては明確な敵意を向けていた。

 

 

 

 

「……しまった。予定外の事態だ、どうしよう?」

 

 リュミネル、アレイシア、アーシアを引き連れてコカビエルが待つという森……が見渡せる場所にきたザナク達だが、罠があって当然だからと遠くから観察しようとした時、魔王クラスの魔力を感じ取った。まさかセラフォルーが動き出したのかと慌てたアレイシアが狙撃銃のスコープで覗いた所、コカビエルと旧魔王アスモデウスの一族であるクルゼレイが戦っていたのだ。

 

「光力を使えるし、戦士だったコカビエルと違って王族だったクルゼレイじゃ経験が違う。だから何とか保っているけど時間の問題だな、こりゃ」

 

 コカビエルが負けるのは別に構わないが、問題はクルゼレイがどうして人間界に居るかだ。革命によって王位を奪われ僻地に追放された旧魔王派は確実に現政権を憎んでいる。その現政権のトップ二人の妹が居る街に彼が居るなど危険だが、下手に手を出せば旧政権を刺激する。攻撃するにも口実が必要だった。

 

「き、さ、ま、を、こ、ろ、し、た、あ、と、は、に、せ、の、ま、お、う、の、い、も、う、と、を、こ、ろ、す。……よし、連絡!」

 

 最上級悪魔クラス程度だったクルゼレイが何故魔王級にまで強くなっているかは疑問だが、アレイシアの読唇術によって目的は判明したので冥界に連絡を入れる。今の時間、リェーシャは前線で指揮を執っているはずなので予め決まっていた通り魔王にだ。

 

 

「クルゼレイがっ!? 分かった、軍の準備が出来次第其方にも送る! 難しいと思うが時間を稼いでくれ」

 

 この様な事態に旧魔王派まで絡んできたと知ったサーゼクスが慌てた様子で通信を切った時、コカビエルとクルゼレイの勝負も終わった。結果はクルゼレイの勝利。コカビエルの翼の殆どは半ばから失われ左目は完全に潰れている。右わき腹には拳二個ほどの穴が貫通し、右足と左手は肘や膝から先が喪失している。勢いよく落下し地面に激突したコカビエルの姿を見下ろすクルゼレイの手に魔力の塊が出現する。魔王級の力による、間違いなく街にまで甚大な被害が出る一撃だ。

 

 

 

「はははははははっ! 無限龍の力を得た私に堕天使如きが勝てるものかっ! 消えろっ!!」

 

 直径十メートル程の球体の姿をした魔力はコカビエルが墜落した周辺目掛けて加速しながら向かっていく。だが、正面に現れた巨大な障壁によって受け止められた。

 

 

「きゃっ!? あまり保ちそうにないです!」

 

「うん。保って残り五秒かな?」

 

 クルゼレイの魔力に立ちふさがり、二人同時に障壁を張ったザナクとアーシア。元々超大型の魔獣を相手にする時にため、数人掛かりで障壁を張る訓練は受けている。今もザナクが基礎となる障壁を作り、アーシアが上からコーティングする事で強度を増したが罅が全体に入り今にも破壊されそうだ。

 

 

「……うん、大丈夫。もう準備できた」

 

 その二人の背後、愛刀・三日月宗近を鞘に納めて抜刀の構えをとるリュミネルの手から光が溢れ出し鞘の中に刀身を伝って入り込んでいく。ザナク達が障壁を展開中ジッと目を瞑り、障壁が破壊され二人が左右に退避した瞬間、開眼と同時に飛び出した。

 

 

 

「集中、集中、集中……抜刀っ!」

 

 魔王級の力を得た自分の魔力が止められた事実を理解できずにいたクルゼレイはその時、眩い光を放つ刃を目にした。光を纏い刀身を伸ばした刃は勢いを削がれたクルゼレイの魔力を両断し、切断面から破壊する。だが、それだけでは不足。ならば更に力を注げば良いだけ。周囲から取り囲む様に放たれた黒き太陽の魔力、ミサイルランチャーから発射されたミサイル、それらによってクルゼレイの渾身の一撃は完全に破壊された。

 

 

 

「あっ、力が元に戻った。ドーピングだったか。問題は再使用が可能かどうかだよね」

 

「それでも最上級悪魔クラスだろ? 逃げたい気分だけどやるしかねぇよな」

 

「……頑張ろう」

 

「ま、守りと回復は任せて下さい!」

 

 ザナク達の姿を捉え、生死は不明なれど致命傷は確実に負わせた筈のコカビエルは無視して四人を敵と認識した様子のクルゼレイ。対する四人は格上相手の戦いに挑むべく構えを取った。

 

 

 

 

「貴様、アルシエル家の小僧か。ちょうど良い、降伏するなら命は助けてやる。真の魔王の血を引き才能に恵まれながら現政権に付いた裏切り者、そして裏切り者の娘の分際で魔王に押し上げられようとしている貴様の妹を殺す手伝いをしろ。偉大な私の手伝いが出来るのだから光栄だろう?」

 

「よし! 絶対に殺そう! 僕の可愛い超可愛い超超超可愛い妹のメアリーを殺すとか絶対許せないからね!」




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第十八話

「私を殺すだと? 貴様程度が大きく出たものだ」

 

 妹を殺す手伝いをしろと上から目線で言われた事にキレたザナクに対し、クルゼレイも額に青筋を浮かべる。傅かれて当たり前、自分に従って当然、王族である彼はその様に育ち、反乱の末に辺境へと送られた。屈辱の日々を過ごし、こうして表舞台に出てみれば若造に逆らわれた事に元々我慢など知らない彼が耐えられる筈もない。

 

「その選択、もはや撤回は許さんぞっ!」

 

 クルゼレイは内戦で負けた側だ。だが、その血統は確かに本物で、努力など他の上級悪魔にもれずにする筈もないが生まれ持った力だけで最上級悪魔クラスの力は持っている。元々上級悪魔は下級悪魔とは別物だ。ライザーが数千倍に強化した一誠と渡り合えたように肉体も、当然魔力も。並の努力では到底追いつけないほどの差が生まれつき存在し、だからこそ彼の尊大な態度も仕方がないのかもしれない。

 

 ザナク達が居る方向へと両手を突き出すクルゼレイ。先程の直進するだけの力任せの一撃とは違い、散弾のように放たれた無数の魔力は上下左右に分かれてザナク達へと迫る。先程のように正面から受け止めるための頑丈さを追求した障壁では防ぎきれないだろう。

 

「集合っ!」

 

 ザナクの号令と同時に三人は彼の元へと密集する。クルゼレイの魔力が複雑に軌道を変えながら迫る中、ザナクの放った魔力は四人を包み込んだ。黒い球体になったザナクの魔力へと無数の散弾が殺到し衝突音が響く。徐々に、だが確実にザナク達を守る防壁は削れ、やがて穴が開き始める。

 

 

「よく持った方だ。その年でよくも其処まで成長したな。私に従っておれば新世界でそれなりの地位をやったものを」

 

 ザナクは高い魔力を持つ。妹のメアリーは彼を超える天才ゆえに今の時点で彼の半分ほどの魔力を保有し、ゼクラム曰くリアスやソーナの倍ほど、つまり彼女達の四倍ほどの魔力を持つがまだ若い。成長によって自然と最上級悪魔クラスへと上り詰めたクルゼレイには今は届かない。

 

「では、さらばだ」

 

 見下しながらも実力を認めたクルゼレイは渾身の一撃を放ち向後の憂いを断とうとする。右手に高まっていく魔力。だが放つよりも前に右肩にザナクの魔力が叩き込まれた。

 

「ぐっ!?」

 

 短刀の形をした魔力は根元まで突き刺さり先端が突き出している。ザナクは正面に居て、其処から放ったのなら分からないほどクルゼレイは油断していない。

 

「一体何処から……まさかっ!?」

 

 ザナクの一族は堕天使対策として国境に接する場所を領地として任されており、大戦にも当然参加している。当時は跡取りだったクルゼレイも箔付の為に参加しており、彼の戦う姿は目にしている。

 

 そう。周囲に魔力を浸透させ遠距離から放つという技を披露する姿を確かに目にしていた。

 

「……ふぅ。何とか成功」

 

「此処に来る前に浸透させといて良かったな」

 

 痛みと動揺からクルゼレイが硬直した隙を狙い、防壁に空いた穴から銃口が突き出される。クルゼレイは詳しくないが、アンチマテリアルライフルと呼ばれる大口径弾を発射する狙撃銃。声に反応し発射音と同時に張った障壁に当然のように防がれる。いや、防がせさせられた。彼は先に肩に刺さった短剣を外すべきだったのだ。

 

 あくまで短剣の姿であり、本来は魔力。彼が自分の失策に気付いた時、短剣の形が崩れる。内包された黒炎が解放され彼の右腕を吹き飛ばした。

 

「ぐぁあああああっ!? き、貴様っ!」

 

 失った腕を抑えながら叫ぶクルゼレイだが、不意にその口角が吊り上がる。視線の先、ザナク達の更に後方に存在する街の姿を捉えていた。

 

「しっかり守れよ? じゃないと大勢人間が死ぬぞ」

 

 王の血に相応しい行いをするのではなく、自分の行いこそが王に相応しい、そう言わんばかりに街に向けて特大の魔力を放つ。彼の立場からして守るしかないと理解しての行動だ。自分にとっては取るに足らない存在でも、目の前の相手にとっては違うと理解していた。

 

「ぐっ!?」

 

 目の前の敵を意識しての行動。だからこそ、視界の外から放たれた光の玉に咄嗟に反応出来なかった。それは中級程度の威力しかないが、弱点である光の直撃を受けた彼の魔力のコントロールは乱れて消え去る。背中から煙が上がり痛みが走る中、クルゼレイは森の中、地上から光を放った瀕死のコカビエルを睨んだ。

 

 もう立つ力もないのか気にもたれ掛かったまま骨が突き出した手を向け、虚ろながら目に宿った闘志は消えはしない。

 

「……おい、アルシエルの小僧。俺を糧にさせてやるっ!!」

 

 その瞳が向けられるのはザナク。大戦で激戦を繰り広げた魔王、その子孫など視界にさえ入れていなかった。

 

「戦いの中で死ぬのは別に構わんっ! 俺が弱かっただけだっ! だがっ!! 借り物の力を誇る様な奴に負けるのだけは気に食わんのだっ!!」

 

 声を出す度に口から大量の血が吐き出される。意識は朦朧とし、えぐれた脇腹から内臓が覗いているがコカビエルは叫び、クルゼレイの瞳に焦りが浮かんだ。

 

「流石に最上級堕天使を食えばどうなるか分からんっ! 貴様はここで死ねぇええええっ!!」

 

 押せば倒れてそのまま死にそうな状態のコカビエルに先程と同様の特大の魔力が迫る。コントロールなど無視して広範囲高威力だけを求めた一撃。

 

 

 

「ニャ」

 

 その目前に、口を大きく開けたレティが飛び出した。仮にも最上級悪魔が放った魔力、それが全てレティの口の中に消えていく。雑草一本、小石一つ破壊することもなく……。

 

 

「……ゲップ」

 

「んな……何が起きた?」

 

 理解が追い付かない、彼の常識の範疇外、当然、固まる。ザナクの魔力がコカビエルを包み込むには十分な時間だった。

 

 

「色々せこいとか思ってたけど、最後は格好良かったよ、コカビエル」

 

「……ふん。一言余計だ、クソ餓鬼が」

 

 最後の讃辞に不快そうに鼻を鳴らし、聖書にも記された堕天使は生涯を終える。その魂は黒炎によって完全に焼き尽くされ、ザナクは力が漲るのを感じた。

 

 

「流石最上級堕天使。桁が違う」

 

 これがクルゼレイが焦った理由、アルシエルの黒き太陽の魔力のもう一つの特性。魂を燃料にし、燃やし尽くした相手の力を吸収する。相手の質によって上昇率は変わるが、遙か昔から生き残ったコカビエルの質が悪いはずがない。

 

 

 

「じゃあ終わらせようか、クルゼレイ」

 

「そんな力で……真なる魔王の血筋に勝てると思うなぁああああああああああああっ!!」

 

 正面からの魔力の撃ち合い。中心で衝突した魔力は互いに放出を続ける事で拮抗する。片手でも尚クルゼレイが均衡を保てると言うことは未だ格上。だが、戦いは一人の力できまるものではない。

 

 

 

 

 

「バズーカ……二連!」

 

 アレイシアが両肩に担いだバズーカを発射する。

 

「……秘技・聖剣突き・飛燕(せいけんづき・ひえん)

 

 リュミネルの手から発せられる光はビリヤードのキューの様に構えられた刀の切っ先に濃縮される。眩い光が発せられた時、リュミネルは突きを放つ。高濃度の光の刃がクルゼレイに飛来した。

 

「ンナァアアアアアアア!」

 

 クルゼレイを見上げたレティの口内にエネルギーが集まる。先程クルゼレイが放った魔力が子猫の口の大きさに銃口を絞られ放たれた。

 

「くっ! だが、当たらなければ……」

 

 即座に回避しようとするクルゼレイ。背後に飛び退こうとするが、透明な障壁に阻まれた。攻撃が殺到する中、クルゼレイが目を向けたのはアーシア。見るからに攻撃手段を持っていないので眼中になかった下級悪魔に足をすくわれる形となり、アスモデウスの末裔は命を落とした。

 

 

 

 

 

「ふぅ。さて、事後処理終わらせてお茶にしようか。レイヴェルから良い茶葉を貰ってるんだ」

 

 

 額に滲んだ汗をふき取り、ザナクは眷属達に笑いかける。取り敢えずシフトの時間が迫っているので仮眠をとりたかった。

 

 

 

「……うん。調べて貰った今回の赤より彼らの方が面白そうだ」

 

 上空に浮かぶ白い鎧を着た青年は愉快そうに呟くと飛び去っていく。堕天使幹部による計画、旧魔王の行動、そして死んだはずのルキフグスの帰還。身内とのんびりできればそれで構わないという願いとは裏腹に、ザナク達は大きな渦に巻き込まれて行くことになる。




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第十九話

少し思ったのだがライザーの兄ってトップランカーなんだよね? じゃあ、今まで戦って無意味で不死を突破できるか分からなかったのかな? 手を抜いてたらしいし・・・


涙を無効化? 確か他の液体混ぜれば良いんじゃ? でも牛乳と混ぜてたよなぁ・・・



「……主様、好き。キス……して?」

 

 ベッドの中、互いに服を着ずに抱き合いながらリュミネルは甘えた声を出す。ザナクはそんな彼女の前髪を手ですくい上げ、目を合わせるとそっと唇を重ねた。

 

「勿体ないなぁ。こんな可愛い顔を隠すなんてさ」

 

「……だって恥ずかしい。主様達が知っていてくれたらそれで良いよ。そんな事より……」

 

 ザナクの体に絡ませた手足に力を込めて強く密着した彼女は何かを期待する様に自らザナクと唇を重ねる。そこで目が覚めた。

 

 

「……ボク欲求不満なのかな? シャワー浴びよう……」

 

 上体だけ起こしながら今までを振り返る。レイヴェルと一緒に行った時は途中までで、それから以降は絶妙のタイミングで邪魔が入って不完全燃焼。時計を見ればまだ夜中の一時だった。

 

 夢の影響か下着が少々不味いことになっているのに気付いたので気分転換のためにもと起き上がる。どちらにしろ夢の影響で落ち着いて眠れそうになかった。

 

「……あれ? まだ誰か起きてる」

 

 クリスティが夜遅くまでゲームでもしているなら一週間は電源ケーブルを隠さないとと思い、足音を忍ばせて扉を開けるとザナクがソファーにもたれ掛って眠っていた。

 

 テーブルの上には今回の報告書の山。ゼノヴィアたちが追放された事は既に当人達から聞いており、後からエクスカリバーを回収しに来る教会側の人間への対処を始めとした事後処理はリアスとソーナにせめてもの仕事と押し付けたが、旧魔王が関わっているだけに現場で起きた事を詳細に報告する必要があったのだ。

 

「……主様、お疲れ様」

 

 既に書類は完成しており、後は提出するだけだ、ソファーでは疲れが取れないからと眠っているザナクを軽々と持ち上げたリュミネルは寝室へと運ぶ。その途中でコンビニ帰りの花月と出くわした。

 

「今からお楽しみかい? 混ざっても?」

 

「……違う。主様、疲れてるから……彼で」

 

 折角寝ているのを起こしたくないし。かと言って自分が相手をするのも嫌だったリュミネルの視界の先、花月の背後のトイレからアレイシアが現れる。即座に自分を指さすリュミネルと酒の匂いが漂う花月を見て状況を察するが、部屋に逃げ込むより前に細い糸によって動きが止まった。

 

 

 

「今日は頑張って気が昂ってんだ。鎮めるのを手伝っておくれよ」

 

「いや、僕にはアーシアが……」

 

「はいはい。お熱いこった。んじゃ、たっぷり絞らせて貰おうかね」

 

 有無を言わさず部屋に連れ込まれる同僚の助けを求める目を見て即座に目を逸らし、そのままリュミネルはザナクをベッドに寝かせると掛布団を掛ける。

 

「……また明日」

 

 最後に夢でしたような優しいキスを唇にして、そのまま寝室から出て行った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらずの様ね。いえ、少し狂ってるかしら?」

 

「そうですか? 自分では狂っているという自覚はないのですが、貴女様がそう言うのならばそうなのでしょう。お久しぶりです、リェーシャ様」

 

 花月に対して投降の意を示して拘束されたユークリッドは貴族専用の独房で静かにしていたが、リェーシャの姿を見るなり床に膝をついて首を垂れる。その眼には狂気は宿っているが、同時に彼女への畏敬と忠誠心が宿っていた。

 

「明日、貴方の姉が尋問に来るわ。態々手を回してあげたのだから感謝しなさい」

 

「ええ、当然ですとも。心の底より感謝いたします。例えリゼヴィム様の事でもお話致します。すべては正当なるルシファーの後継者、メアリーお嬢様の為。それこそがルキフグスの存在理由ですから」

 

「……そう。あの男はどう出るでしょうね。面白がって抵抗するか、それとも……。まあ、どちらでも良いわ。生きていたらメアリーの為にならないから死んで貰うだけだもの」

 

 実の父親であるリゼヴィムを殺すと平然と言い切るリェーシャ。だがユークリッドはその姿を見て歓喜で震える。

 

 

(ああ! なんという事だ。まさに悪魔! まさにルシファーに最も相応しいと称されたお方。悪魔という種を守る為に他勢力を刺激しない必要があるという理由さえなければ貴女様こそが唯一無二の魔王になっていたでしょう!)

 

 このまま協力を続けることで恩赦を得て、ルキフグスとして次期ルシファーに仕える事を自らの使命と信じ、何よりの幸せだと感じるユークリッド。実際、司法取引と流れる血によって彼は無罪放免となるであろうし、そうなればルキフグスとしてルシファーの血筋であるリェーシャやメアリーに仕える事になるだろう。それは彼も理解している。

 

 だからこそ自分に向けられる視線の冷たさに気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

(さて、何時死んで貰いましょうか? 悪いけど娘の周りに狂人は不要よ。ルキフグスの役目はミリキャスに努めて貰うし、後顧の憂いは消しておくべきですもの)

 

実の父親でさえ娘の為に殺すのなら、仕えていた主を裏切ると公言している行方を晦ましていたかつての家臣をどうするかなど容易いのにだ。自分の見たいものしか見ず、信じたい物しか信じない老貴族達と同程度の価値しか感じられていない彼の最期を彼自身は予想もしていないだろう。

 

 

 

 

 

「あの二人をどうするか、かぁ。面倒だなぁ」

 

 ゼノヴィア達に接触した事を理由に眷属の監督不行き届きと判断されたリアスとソーナ、この二人と当の本人達は将来的に自主的という形をとって領地の一部を返納する事が決定したが、リアスは結婚式の一件もあって今後眷属を迎える際には親類縁者の審査が必要になった。

 

 結果、将来的に妹がリアスの義理の姪になるザナクにも意見が求められた。なんとリアスは教会を追放された二人を眷属にしたいと言い出したのだ。

 

「特殊能力・聖剣を使用可能。ただしエクスカリバーは勿論、デュランダルも聖遺物が入っている為に教会側から返還要求が有るだろうと思われる。基本戦闘力・イリナは擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を使えばライザーさんの騎士と戦える程度。相棒のゼノヴィアも同程度と推測」

 

 判明している情報を報告書に箇条書きにして、最後に一誠達が接触するに至った任務の経費の私的流用について書く。元々悪魔を倒す事を使命として来た者達であり、ゼノヴィアは兎も角、イリナは両親が健在ならば無理に悪魔にする必要はないとザナクは思っていた。

 

 

 

「……リアスさんが眷属にしたら困るよなぁ。ヴァスコ・ストラーダの娘の写真を見た事があったら気付くかもしれないもん。孫の写真は幼い頃のしかないから分からないだろうけど……」

 

 流石にこの件だけは何とかなると呑気に言えないなと考えるザナク。この数日後、今回の一件を機に三すくみの会談が行われる事になったと知らされるのであった。

 

 

 

 

 

 

「……うん。もう誤魔化すのも限界だよね。でも、ボクは主様の傍にずっと居たいな……」

 

 

 




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第二十話

サーゼクスが警戒する相手にリゼヴィムという男が居る。フルネームをリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。ルシファーの実子であり、超越者の一人にして扇動の天才。血統、実力ともに優れている彼は性格破綻者で、実に悪魔らしい。

 

 そんな彼は今、独房に居た。ユークリッドによって隠れ家を暴露された彼は無気力な顔で抵抗せずに捕まり、独房に入れられた。独房と言っても上級貴族の私室に匹敵する程の豪奢な部屋で、古い悪魔の贈り物として多くの酒や娯楽の品が用意されている。そんな彼の部屋を深夜に訪ねる者が居た。

 

「おやおや、これはリェーシャちゃんじゃんか。夜中にパパの所に来るなんて、ご本でも読んで欲しいのかい?」

 

「はっ? 貴方から本を読んで貰った覚えはないわよ? 耄碌しちゃったわね。無様、本当に無様」

 

 実の娘からの辛辣な言葉に対してヘラヘラした笑い顔を崩さずに差し出されたワインに視線を向ける。只の差し入れ……ではないと察していた。

 

「おい、酷いんじゃねぇの? 心は残るし、魂も受け継げるけど、死んだら終わりだ会えないんだぜ?」

 

「あら、それは幸いね。態々好きな酒を用意してあげたのだから感謝しなさい」

 

「うへぇ、辛辣ぅ。お前、本当に魔王に向いてたよ。パパンもママンも俺じゃなくってお前をルシファーにしたがってたしな。あっ、そうそう。結局アルシエル家に嫁いだんだってな。いやいや、良かった良かった。もともと嫁ぐはずだったのに、終戦後に相手を刺激しない為に領地ギリギリに嫁ぐ訳にはいかないからってご破算だもんな。ぶっちゃけ、あの男が好きだっただろ、お前」

 

「ええ、そうね。初恋だったわ。じゃあ、そろそろ死んでちょうだい」

 

 リゼヴィムの言葉に僅かに眉を動かしながらも平然とした口調でリェーシャはワインをグラスに注ぐ。リゼヴィムは少し詰まらなさそうにしながらもグラスを手に取り、香りを楽しんだ。

 

「これこれ、この芳醇な香り! いやー、リェーシャちゃんは親孝行だね。臆病なバカ息子とは大違い! 才能全部掻っ攫って生まれたんだな、きっと。あっ、そうそう。お前の所にも孫が生まれたんだって? 写真とかねぇの?」

 

「孫を気に掛ける心があるなら今すぐ飲んでくれないかしら」

 

 最後まで態度を崩さない娘に対して悪戯気に舌を出し、そのままワインを口に含んで一気に飲み干す。態々選んで持って来ただけあって満足が行く味であった。

 

「んじゃ、お休み」

 

「お休みなさい、()()

 

 リゼヴィムは一杯飲んだだけでワインのコルクを戻し、ソファーに持たれ掛かって目を閉じる。この日、古くから生きる悪魔の一人が旅立った……。

 

 

 

 

 

「ザナク、ご飯食べながら書類読むの駄目」

 

 朝食を食べながら書類を呼んでいたザナクだが、手から強引に奪われる。普段から無表情なクリスティだが、付き合いが長い者達にはまるで眉をしかめた不機嫌な顔に見えた。

 

「ごめんごめん。ほら、一応報告書が来たから読んでおかないとさ」

 

 特に内容に興味はないが、送られてきた以上は読んでませんは通じない。だからパッとだけ読んでおこうとしたのだが、料理を作ったクリスティからすれば不満だった様だ。

 

 報告書の内容はイリナ達の今後に関する報告。この数日で事態が動いていた。

 

 

 紫藤イリナ・父親は教会の関係者だが母親は違う為、父親の立場を考慮して離婚した上で母親が引き取るとの事。

 

 ゼノヴィア・両親はいない為、一旦保護として今後の動向次第でリアスの眷属になる可能性も。現在、教会への未練が強く、魔王や貴族への敬意に問題有り。

 

 

 

「……まあ、昨日の敵は今日の友とは行かないか。簡単に敵対組織に馴染む方が信用できないよ」

 

 最後にエクスカリバーの破壊を行って復讐を遂げた木場が転生悪魔に多い燃えつき症候群に陥ったという記載を読み飛ばし、報告書を近くの棚に投げ入れた。

 

 

「こんな些事よりも今は開かれる予定の三すくみの会談だよね。この街で戦争が起きるかもしれないし、準備だけはしとかないと」

 

「……主様、その場合はリアス…様達は守ってあげるの? 正直面倒だけど……」

 

「僕も同感だ。無理に連れ戻さない限り、退去しそうにないぜ、あの我が儘姫。結局プライドの為に冥界に連絡してなかったじゃん」

 

 リアスに一応様を付けてはいるが心底嫌そうなリュミネル。アレイシアも同調しながらピーマンを花月の皿に移そうとするがクリスティに腕を掴まれて止められる。

 

 

「まあ、その場合は自己責任って事で放置しよう。僕達が何を守るべきなのか忘れないようにね。大切なのは領地と領民だから。仲間を全員守るとか夢だよ、夢。手綱は夢を見ながら握るもんじゃないのさ」

 

 

「ザナク、トマト残したら駄目。アレイシアみたいに今夜の焼き肉、白米だけ食べる?」

 

「え? 僕、白米だけ?」

 

「うん。……文句有る? 有るならクリスに言え」

 

 この日、アレイシアは焼き肉の香りをおかずにご飯を三杯食べた。

 

 

 

 

 

 それから数日後、一誠に最近出来た契約のお得意様が実は堕天使総督のアザゼルだったなどのイベントが有ったがザナク達にはさほど興味もなく、戦争になったら神器を抜き取ってサーゼクスに持たせるのが一番ではないかと思った程度だ。それほど元から強い者が持った方が限界値も違うので敵に奪われるのは心配だったが。

 

「もう屋敷に軟禁して訓練漬けにした方が……反抗心まで芽生えるか」

 

 そんなこんながありながら駒王学園の公開授業の日がやって来た。中等部や初等部、その親類が参加できる大掛かりな行事であるが、ザナクの授業を見学しに今までリェーシャが来たこともないし、メアリーが見学するメリットも無いので当然来ない。

 

 

「若様、隣のクラスでは英語の授業で粘土細工の上にリアス様の裸の像のオークションまで開かれたそうですが……」

 

「あっ、大丈夫大丈夫。不安なのは分かるけど、普段は普通だから」

 

 その代わり、リュミネルの保護者となっている執事のチャバスが来たのだが、どうも隣の授業内容を知って少し不安な様子。悪影響がなければと心労を重ねそうな使用人に平気だと笑いかけるザナクだが、内心では引いていた。そんな授業を行う生徒と教師、口出しをしない保護者達は何を考えているのかと……。

 

 

 

 

 

 

「……若様、実は当主代行様が来ております。会談に参加するため、会場となる予定の学園の下見だとか……」

 

「会場、別の場所になるんじゃないかなぁ……」

 

 戦争が勃発する可能性や既に判明している不穏分子の存在から街中での会談など変更になるだろう、ザナクはそう確信していた……。




次はダンマチ サイヤ優先かな? 

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第二十一話

「セラフォルー、結婚とかちゃんと考えてる? 立場や政治的理由も分かるけど、それを口実に現実から目を背けたら駄目よ? 貴女、子供が居てもおかしくない年齢なんだから」

 

 この日、セラフォルー・レヴィアタンはピンチを迎えていた。妹であるソーナの授業参観を知り、普段着の魔法少女のコスプレで駆けつけたのだが、天敵であるリェーシャと遭遇してしまったのだ。

 

「え、えっとね……」

 

「ほら、例の番組だけど、会談も近いし、内容的に自粛するのでしょう? 貴女は外交担当ですし、プライベートでやっているなんて通じないもの。これを機に一旦落ち着いてお見合いでもしてみる気は無いかしら? 貴女と同年代で未婚……は難しいけど何人か紹介できるわよ?」

 

 否定されるのも嘲られるのも良いだろう。子供のように拗ねるだけだ。だが、心配されて同情されるのは本当に辛かった。尚、番組とは彼女が主演を務める魔法少女物であり、責任者の方針で天使や堕天使が悪として描かれている。今までは冷戦状態の敵だが、今後の付き合い方の方針を考慮すれば外交担当の魔王が関わるには相応しくはないだろう。

 

「……大丈夫。悪魔は長命だし、貴女だって希望を持って良いのよ」

 

 最後に肩に手を置かれ優しく語り掛けられた瞬間、遂にセラフォルーの我慢が限界を迎えた。

 

「わ、私はずっと魔法少女でいるんだもーん! リェーシャちゃんの馬鹿ー!!」

 

 そのままセラフォルーは泣きながら走り去っていき、リェーシャの表情が優しそうな物から一変して氷のように冷たい物へと変わった。

 

「後で圧力を掛けて打ち切りにしておかないと……」

 

 どうやら先程のは嫌がらせのための演技だったのかもしれない。去っていくセラフォルーを目で追ったリェーシャは騒ぎを聞きつけてやって来たザナクを一瞥すると声も掛けずに横を通り過ぎ、同じ様にやって来て、先程の遣り取りを見て固まっているソーナとリアスの前で立ち止まった。

 

 

 

 

「貴女達も大変ね。聖剣の一件で色々と言われているそうだけど、非難なんて気にする必要はないわ。だって、貴女達の能力を正確に判断せずに補助や相談の為の人材を派遣しなかった大人の責任だもの。今度からは無理したら駄目よ? 今回みたいな事になるから」

 

 声色も表情も優しく、内容もフォローしているように感じるだろう。だが、違う。

 

「……あの、ザナクさん。あれって……」

 

「あっ、アーシアにも分かった? 腹芸は身に付けておいた方が良いからね。眷属や貴族に公の場でのプライベートなんてないんだし」

 

 この時、一緒に様子を見ていたアーシアは理解した。非難の内容自体は否定しておらず、今後は独断で動くなと言っているのだと……。

 

 

 そんな事がありながらも授業参観は概ね無事で終わり、会談に先駆けて天界からお礼の品として贈られた聖剣アスカロンの使い道に悩んだりしたがザナク達は平和に過ごしていた。贈られた時の遣り取りは特に記することも無いので省くことにする。

 

 

 

 

「ひぃいいいいいいいい!? へ、蛇が僕の中にぃいいいいいいいいっ!?」

 

「……五月蝿い」

 

 その数日後の事、力が不安定で封印されていたリアスの眷属であるギャスパーの前でクリスティは不機嫌そうにしていた。彼の力が不安定なのは育ちから来る臆病な性格と高まっていく力であり、特に訓練もせずに放置した結果、視界に入った物の時間を停める魔眼系神器が制御不能なのは非常に危険だ。

 

 物理的な意味でも、その様な者を抱える。リアスの将来的な意味でも。

 

「……駒交換して神器抜き取った方がオススメ」

 

「ひぃいいいいいいいい!?」

 

 そんな中、ミリキャスとメアリーの婚約を機にクリスティが訓練に協力することになった。ザナクの修行で使っている魔力を流出させる蛇の応用で神器の力を流れ出す事でコントロールの特訓を始めることにしたのだが、引き籠もりで臆病な彼は怯えて話を禄に聞こうとしない。クリスティの元々強くなかった我慢の限界が近かった。

 

「だ、駄目よ! そんな事、絶対にしないわ!」

 

「こら。駄目だろう、クリスティ。ごめんね、リアスさん」

 

 諫められた事が不服なのか、一見すると無表情だが更に不機嫌そうになるクリスティ。それでも制御訓練は続行される事になり、ザナク達は蛇をギャスパーの体内に残して後はリアス達に一任した。

 

 

 

 

 

「……もう直ぐ会談の日でしょう? こんな事してて宜しいの?」

 

 休日の昼間、遊びに来たレイヴェルはベッドの中でザナクに抱き付きながら問いかけるも、彼には特に緊張した様子もなく、レイヴェルの服の中に手を差し込む。

 

「やるべき備えはしてあるし、これ以上目に付く動きをしたら領民が不安になるからね。……それに君だって抵抗しないじゃないか」

 

 床に服が投げ落とされ、レイヴェルはからかうような言い方が気に入らなかったのかザナクの脇腹を抓りながら軽く睨んだ。

 

「抵抗する理由がありまして? 貴方が我慢できずに学生の身でありながら最後の一線を越える気なら抵抗しますが……途中までなら私も興味がありますし…‥」

 

 恥ずかしそうに頬を赤く染めて横を向くレイヴェル。部屋の隅で椅子に座って本を読んでいたリュミネルと目があった。

 

 

「……ボクは気にしないで。後で同じように可愛がって貰うから」

 

「……貴女が良いのなら私も不満はないのですが…‥ザナクも物好きですわね」

 

「欲望に忠実なのは悪魔のサガだよ、レイヴェル。さて、下と上、どっちから脱がそうかなあ?」

 

 寝転がった姿勢から起き上がったザナクはレイヴェルの全身を眺める。服をはぎ取られ下着姿になった彼女は期待と羞恥の両方を浮かべながら続きを待っていた。

 

「どちらでも同じではなくって? どうせ全部脱がすのでしょうに…‥」

 

 

 

 

 

 

「いや、違うよ? 下だけ着衣、上だけ着衣、どっちも別の魅力がある。因みにリュミネルは上だけの時の方が興奮す、るっ!?」

 

「……主様の馬鹿」

 

 ザナクが熱く語って最後に余計な事を言った瞬間、リュミネルの手から投げつけられた分厚い本が後頭部に直撃、悶絶する羽目になった。

 

 

 

 

「……リュミネル、貴女も加わってこの馬鹿に立場を教えて差し上げません? 妻の方が上だと徹底的に教えて差し上げましょう」

 

「……うん。主様、覚悟……しろ」

 

 呆れ顔のレイヴェルの呼び掛けにリュミネルは立ち上がって応じ、服を脱ぎ捨てながらザナクへと迫る。この時、彼は得体の知れない悪寒を感じ取った。

 

 

 

 

 

「いやいやいやっ!? 二人とも、少し落ち着い……」

 

 

 

 

 

 

 

 そして会談の日。とある目的を持って参加したヴァーリにとある言葉が投げ掛けられる。

 

「俺はずっとリゼヴィムを探していたんだっ! それを貴様はっ!」

 

「あら、そんなにお祖父さんに会いたかったの? 随分と慕っているのね。ああ、お母さんにでも虐めらた時に助けてくれたのかしら?」

 

 最も憎んだ男を彷彿させる笑みを浮かべながらの言葉にヴァーリの頭の中は真っ白になった……。




しかし去年までの授業参観はどうしたの、とか、セラフォルーが来ていたの知らなかったという事はソーナの授業をみていないのか、とか疑問 間に合わなかって残念とか言ってなかったし、教室じゃ目立つよね?

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第二十二話

「おっ! 俺達が最後か。悪い悪い」

 

 三すくみの会談はコカビエルが儀式に選んだ駒王学園で行われることに警備や周辺への被害の被害から異論の声が挙がったが、だからと言って他の勢力に関わりのある場所に自分達のトップが向かうのを容認できるのなら今回の会談はもっと早期に行われている。結局、尤もらしい理由が付けられるのがこの場所だけだったのだ。

 

 そんな会場だが、各勢力から選ばれた警備隊、破談になれば即座に戦争の兵士となる者達を除き、会場に入ったのはザナク達若手悪魔三人と眷属達であった。領地を受け継いでもいない下の者が指導者を待たせるなど悪魔の品位を疑われるとして、制御訓練が終わっていないギャスパー及び、聖剣の一件に関わっていない普段から冥界に常駐しているザナク眷属残り二名を除き、出席者が揃うまで立って待っていた。

 

(自分達が優位だって示したいのか、もしくはただ遅かっただけか…‥)

 

 そんな中、悪魔天使両方のトップが揃った室内に漸くアザゼルが到着する。トップを座って出迎えるなど礼儀を疑われるので立っていたが、クリスティが痺れを切らし始めたので焦っていたザナクは安心しながらアザゼル、そして護衛として同行したヴァーリを観察していた。

 

「さて、もう座って良いわよ」

 

 今回、リェーシャが出席したのは長年敵対していた相手との会談に貴族派や旧政権に関係のある者が一切関われないのは反発を招くと、何かやろうとしていたクルゼレイの事を口実の一つにしてねじ込んだ形だ。そんな彼女に許可を出されザナク達は漸く席に着き会談が始まった。

 

 

 

 

「アレはコカビエルが勝手にやったことで、其処のアルシエルの跡取りが始末を付けた。むしろ俺より悪魔側の説明の方が詳しいだろ」

 

 アザゼルの態度は幹部が戦争を起こそうとしたという最大級の監督不行き届きを無視したもので、地なのか政治的手法なのかザナクを惑わせ、嫌でも自分が未熟だと知らされる。実際、隣のリェーシャは眉一つ動かしていなかった。

 

 

 

(さて、其れは兎も角…‥)

 

 先程から気になっていたのだが、どうもヴァーリはリェーシャに敵意を向けて居るように見える。其れはアザゼルも気付いているのか気にした様子だ。そんな中でも会談は進み、アザゼルが戦力を集めている理由が問いただされた。実際は悪魔も力を持つ者を眷属として集めているが種族激減のためと表向きでも理由がある。だが、堕天使が神器持ちを集める理由は明かされていなかった。

 

「クルゼレイが妙なパワーアップをしたって報告書にあっただろ? 其れについての心当たりが理由だ。各勢力の裏切りモンが集まって禄でもねぇ事をやろうとしてんだ。其れの対策だよ。……所でさっきから気になってんだが聞かせてくれ。そこの黒髪の小さい嬢ちゃんからオーフィスに似た気配がするのはどうしてだ?」

 

 アザゼルが指さした先、先程から話を殆ど聞かずにボーッとしていたクリスティに会場の視線が集まる中、ザナクに促されてクリスティが口を開いた。

 

 

 

 

 

「クリス、不老不死の秘薬を食べた蛇。次元の狭間でオーフィスとグレートレッドの戦いに巻き込まれて修復と崩壊を繰り返した。治る時、何度も二匹の力が体内に残って、クリスは変質した。……ザナク、説明これで良い?」

 

「うん。十分だ。……その後、私の母と出会い、最終的に私の眷属になりました。其れが全てです。……どうかした?」

 

 クリスティが小首を傾げながら尋ねるとザナクが頷いて補足を加える。その時、クリスティの目元が僅かに動く。会って間もない者には動いたことさえ分からない些細な違いだが、ザナクには其れが何か理解できた。警戒である。

 

 

 

 

 

「……敵。あの半吸血鬼のギャ、ギャ……ギャラクシー? の所に魔女の群れが来た」

 

「何ですってっ!?」

 

 流石にギャスパーの事だと理解したリアス達が立ち上がる中、校庭に魔法陣が出現し、無数の魔術師らしき集団が現れた。

 

 

「ちっ! やっぱ来るよな。こういう話し合いが気に入らない奴らはよ。おい、ヴァーリ。俺達は逃がさないためと校舎を守るために出られねぇ。お前がちぃっと戦って来て……ヴァーリ?」

 

 予期していたのか慌てることなく指示を飛ばすアザゼル。警備隊は烏合の衆だが勢力ごとに協力して魔術師を撃退するが、次々にやってくる上に急造の連携など足を引っ張り合うばかりで邪魔になるだけ。連合軍が徐々に不利になる中、ヴァーリは動こうとしなかった。

 

「……当初はギャスパー・ウラディの神器を暴走させる予定だったのに失敗したようだね」

 

 その一言でアザゼルはヴァーリが裏切ったのを理解する。彼は神器である翼を出現させ、リェーシャを睨み付けた。

 

 

「此処で名乗らせて貰おう。俺はヴァーリ・ルシファー! 前ルシファーの末裔だ! 貴様、よくもリゼヴィムを殺したなっ!」

 

「あら、間違った情報が入っているのね。あの男は自害したのだけど。妙な噂を信じるのね」

 

 実際、その公式発表をアザゼルは信じていないし、ヴァーリも彼女が殺したと信じて疑わない。彼が知るリゼヴィムは自分から毒を用意して死ぬ男ではない。だから心底心外だと言い足そうなリェーシャの態度は彼の怒りを更に高めるだけであった。

 

 

 

「俺はずっとリゼヴィムを探していたんだっ! それを貴様はっ!」

 

 ヴァーリにとってリゼヴィムは祖父であり、憎い相手だ。父は母を愛しておらず、ただ気まぐれに攫ってヴァーリを生ませただけだった。だが、高い才能と神滅具を併せ持つヴァーリを恐れた父はリゼヴィムに唆されて母と彼を虐待、最後には唯一の味方であった母と引き離された。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、そんなにお祖父さんに会いたかったの? 随分と慕っているのね。ああ、お母さんにでも虐められた時に助けてくれたのかしら?」

 

 だからこそ、挑発と分かっていながらもその言葉は聞き逃せない。愛していない父に生まされた自分を、虐待される理由であった自分を愛してくれた母を侮辱し、あまつさえリゼヴィムを慕っているなど、絶対に絶対に絶対に絶対に許せる筈がなかった。

 

 

 

 

「うぁああああああああああああっ!!」

 

「止めろ、ヴァーリッ!!」

 

 叫びながらリェーシャに掴み掛かったヴァーリは神器を発動させる。十秒毎に相手の力を半減させ自分に取り込むという白龍皇の光翼は赤龍帝と対をなす強力な力を持ち、アザゼルの制止も聞かずリェーシャに触れるなり発動する。リェーシャの力が即座に半減……しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ…がっ!?」

 

「あら、憎んでいたなら悪いこと言ったわね。でも、あの男の力を知っているのに神器中心に鍛えている様に見えるのは何故かしら? アザゼルから聞いていないの? ……超越者である私の力についても」

 

 リェーシャの細腕はヴァーリの首を掴み万力のような力で締め上げる。彼が必死に外そうともがくも外れず、空いた方の手がヴァーリの胸にそっと当てられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の持つ超越者としての力は『継承』。私に忠義を誓った者、そして血縁者が死んだ時、その知識も記憶も魔力も技術も身体能力も引き継げるの……当然、リゼヴィムは父だから受け継いでいるわ。神器無効化能力も。……じゃあ、ご機嫌よう」

 

「おい、待てっ!」

 

 アザゼルが制止しようと必死に手を伸ばし、リェーシャの魔力は躊躇なくヴァーリの心臓を吹き飛ばす。

 

 

「母さ……ん」

 

 ヴァーリは最後に母を呼び、その生涯に幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これで裏切り者、それも神滅具、しかも時間制限有りとはいえ二天龍と同格の力を出せる者を被害を出さずに消せたわね。……アザゼル総督、彼を殺して何か問題でも? 裏切ったばかりの新参者が大した情報も持ってないでしょうし、消せる時に消して正解でしょう?」

 

 怒りに満ちた顔で睨んでくるアザゼルに対してリェーシャは優雅に微笑み返した……。

 

 

 




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第二十三話

 えげつない、ヴァーリとリェーシャの一連のやりとりを見ていたザナクの感想はそれだけであった。反応から彼の境遇は察したし、リェーシャが記憶の継承によって理解していたことも分かっている。だが、末路には何一つ感じない。彼にとってヴァーリはテロリストでしかないからだ。

 

(母親は死んだか、我が子を見捨てて逃げるかなりして思い出を大切にしているのか。……どっちにしろどうなっても構わないんだろうね)

 

 今後テロが進めば少なからず世界に影響がでる。三竦みだけに止まらず、他の神話や人間にも大きな被害が出るだろう。侮辱されて怒り狂うほどに母のことを想っているなら害が及ぶ、もしくは顔向け出来ない様な真似はしないはずだ。実の両親を失っているザナクはそんな理由でヴァーリの母は死んだか変わってしまったのだろうと判断した。

 

 尚、ヴァーリの裏切りの動機は強い相手との戦いだと思っているし、実際にそうだ。ヴァーリにとって母はその程度の存在だったのだろう。

 

『貴様っ! よくも白いのの宿主をっ!』

 

 ヴァーリはアザゼルが連れてきた場で裏切った者であり、本来ならアザゼルは謝罪と無事に始末した事への感謝を述べるべき立場にある。だが、ヴァーリを我が子同然に育ててきた彼は感情を隠して取り繕う事が出来ない。グッと怒りをこらえて震えるだけで、リェーシャも呆れたような視線を向けるだけ。そんな中、ドライグの声が響いた。神器から発せられるのは世界でトップクラスに力を持つドラゴンの怒気。

 

「あら、彼が弱かっただけよ。どんな力を持っていても、生き残れなければ弱者。それに今までだって他の者に殺された宿主は居たはずでしょうに何を言っているのかしら? 今回はそこの坊やの勝ちよ」

 

 そんな者を浴びても何処吹く風、リェーシャは優雅に椅子に腰掛けると校庭に視線を向ける。先程から絶え間なく転移してきた魔術師の数が着実に減ってきていた。

 

「ヴァーリの記憶ではカテレアが来る予定だったけど、騙されていたのかしら? 普通に考えて来るわけないもの」

 

「え? 最初はどんな予定だったの、リェーシャちゃん?」

 

「……服装は兎も角話し方に問題ありね。旧校舎の半吸血鬼の神器を暴走させて護衛の動きを停めて、ヴァーリや後から来るカテレアがトップ陣を殺す予定だったのだけど……クルゼレイがしたドーピングを考えても魔王クラスの上程度よ、彼女」

 

 来るなら正気を疑う、と呆れた様子のリェーシャ。実際、この場にいる魔王の片方は前魔王の百倍近い魔力を秘めているし、アザゼルやミカエルとて魔王クラスと戦える力を持っている。アザゼルを勧誘する予定だったらしいが、それでも無謀といった内容だ。

 

「そうよ! ギャスパーを助けに……」

 

 展開に飲まれ動けずにいたリアスがサーゼクスに救援の許可を得ようとした時、袖をクリスティが掴んで二回ほど軽く引く。こんな時に何だと思いながら視線を向けると天井を指さしており、出現した魔法陣からギャスパーが出て来た。

 

「ふぎゃっ!?」

 

 天井の魔法陣から吐き出された彼は受け身もとれずに床に体を打ち付けて悲鳴を上げるが、クリスティは無表情のまま彼を指さして胸を張った。

 

「クリス、襲撃有ったって此奴の体に入れた蛇で分かった。だから一番偉そうなの除いて全員蛇で絞め殺した。偉い?」

 

「ああ、お手柄だ。じゃあ、口封じをされる前に捕らえに行かなくちゃね。えっと、リアスさんなら未使用の駒を使ってキャスリングが出来るよね?」

 

「え、ええ。じゃあ、お兄様」

 

「あ、ああ、行ってきなさい。念のためにもう一人同行出来るようにしよう」

 

 流されるまま、言われるまま、リアスはクリスティが倒した魔術師の捕縛に向かう。この後、カテレアはヴァーリが死んだのを察知したのか、元々来る気がなかったのか姿を現さず、襲撃者は全員死ぬか捕縛されるかして終わり、三竦みの同盟は無事結ばれる。会談の場所を記念され『駒王協定』と名付けられた協定締結後、会談の場で暴れる様な裏切り者を出した堕天使に不利な内容にしなかった事を突っつく上層部への対応に四苦八苦するサーゼクスの元にリェーシャがやってきた。

 

 

 

 

「これ、ゼクラム達には話を通したから貴方達が進めなさい。眷属悪魔に関する今後の法の草案よ」

 

 唐突に差し出された書類には、はぐれ悪魔を出すことで同盟間での悪魔の地位が下がるのを防ぎ、悪魔や堕天使との不戦協定に対する悪魔祓いの不満を減らす為の法案が記されていた。

 

 例えば反乱の恐れのある下僕悪魔の収容施設だが、悪魔至上主義の上層部の目を誤魔化す為の口実で、魔王が全責任と権限を持つ事によって虐げられている者達を保護する場所になっている。

 

 その他にもリアスとゼノヴィアの件を前例にすることで新たな眷属を引き込む際の事前審査制度の設立。これによって無理に引き込むのを防ぐことに繋がる。問題は殺してから眷属にするケースだが、テロリストに神滅具持ちや旧魔王の子孫、首領がオーフィスであると言う情報をヴァーリの記憶から得ているので監視できない遠方での行動に規制を掛ける口実にするようにしていた。

 

 今まで理不尽な契約や不当な扱いを受ける眷属悪魔の存在を知って嘆いていたサーゼクスだが、戦闘力で選ばれた象徴としての魔王である彼には貴族達を止める事が出来なかった。外敵が多く、政府内でも派閥争いが激化する中でその様な真似をすれば空中分解からの滅亡が待っていただろう。

 

「テロリストの件を口実に出来たのは不幸中の幸いね。説得に足るだけの理由と私に流れる血の権威が有れば楽に進められたわ。……私は忙しいから帰るけど、此処までお膳立てしたのだから失望させないで頂戴ね。民の全てを背負うのが指導者よ。力が無くて背負い切れません、なんて言わせないわ」

 

 言いたいことを言い切るとリェーシャは去って行く。実際、彼女は忙しい。リゼヴィムやヴァーリから得た情報をまとめ、普段の治世に加えてテロリストの対策、同盟を結んだ堕天使との話し合いなど、こなすべき仕事は山積みだ。

 

 

 

「どうせアザゼルの事だからヴァーリの事を逆恨みしているだろうし、領地が接する貴族として大使を選んで交渉をさせなきゃ駄目ね。……ザナクの実績づくりとして任せて、補佐官は……」

 

 国のこと、民のこと、そして娘の事を思いながらリェーシャは今後の方針を決定する。彼女が去る際、、サーゼクスはそっと頭を下げ続けていた。




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第二十四話

「……少し窶れたな。レイヴェルに搾り取られたか?」

 

 夏休みに入り帰省したザナクを待っていたのはリェーシャによる次期当主としての本格的な指導。領主とは人事経済治安インフラ整備、あらゆる事に二十四時間三百六十五日対処する義務を持っており、地位か高い者ほど責務は重大、優秀な補佐官がいたとしても高い能力が求められる。

 

 そんな激務の合間に与えられた僅かな余暇時間を親友であるマグダランとの語らいに使っている最中、冗談なのか本気なのか分からない問い掛けがなされた。

 

「……違ったか? 父上が話していたが、テロ組織の幹部をしとめた以上はお前が狙われるだろうし、死んだときに備えて両家の結びつきの為にも子を作る様になったと聞いたが……」

 

「うーん、初耳! この後、フェニックス家に行く予定だけど、其処で言われるのかな? そっかー、遂に一線越えちゃうのかー」

 

「俺からすればまだ越えてなかったのかと驚きだが、少し考えれば正式に婚姻をする前に子が出来るのは外聞が悪いか」

 

「まあ、本番一歩手前までは何度もしてるんだけどね。レイヴェルって普段は上品ぶって強気だけど、いざ事に及ぶとなったらさぁ……」

 

 獣も人も悪魔も雄の行き着く先は皆同じと言うべきか、猥談を始める二人。なお、マグダランには未だに彼女すら居らず、リュミネルは照れ屋なのに大胆に甘えてくるとか、花月に襲われた時は本当に疲れるとか、聞いていて少し虚しくなった。

 

 

「……子といえば、アザゼル総督は謀反人のヴァーリを息子同然に扱っていたと聞くが、お前の家の領地と堕天使側との今後の付き合いは大丈夫なのか?」

 

 人伝に聞いた話では、会場にまで連れ込んだヴァーリが裏切ったことでアザゼルに何らかの責任をとらせろ、と、旧い悪魔貴族が叫んだらしいが、サーゼクス達は今後の関係のためにそれを却下する方針だ。一応、慰謝料請求は免除してやるとの上位者としての書状を送る事で渋々諦めさせたらしいが、大森林の共同研究や共同警備等同盟を結んだことで堕天使との関わりが深くなる事を心配していた。

 

「あっ、大丈夫大丈夫。交渉役はシェムハザ様が行うってさ。アザゼル総督は塞ぎ込んでるって密偵が言ってたし、表舞台に出ないし周囲が出させないんじゃない? どうにかなるって」

 

「……相変わらずだな」

 

 逆恨みも甚だしいが領地が隣接する堕天使のトップの恨みを義母が買ったことに対して焦る様子のない友人に、脳天気と呆れるべきか、リェーシャを筆頭に家の者がそれ程信頼出来るのを羨むべきか、マグダランは本気で悩んでいた。

 

 

「そうそう。今度次期当主の顔合わせが有るじゃない。ディオドラが面倒なんだよね。……とっくに陥れた事を知られているのに、何度もラブレターや贈り物をしてくるんだよ? アレイシアとラブラブなのにさ。この前なんて朝起こしに行ったら添い寝してたよ」

 

「バラして文句を言われないか?」

 

「悪魔にとって聖職者を誘惑するのは仕事の内。知り合いが仕事を頑張っているって話すのが何か悪いことかな?」

 

 この時、ザナクが浮かべていた顔についてマグダランはこう思った。リェーシャの腹黒さが伝染したのでは、と。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、あんさんと出掛けるのも久し振りやわぁ。うち、公の催しにはあまり出して貰ってないからなぁ」

 

 遂にやって来た若手の顔合わせの日、普段は領地で防衛任務に当たっているメンバーも引き連れ、今は車に乗って会場がある首都ルシファードを目指していた。

 

「それにしても凄い歓声だね。 ボク、緊張して来ちゃったよ」

 

「うちもやわぁ。人を丸飲みにしはったらよろしかったんやったかなぁ?」

 

「ニャニャニャっ!(止めろ、マジで止めろ。お前が言うと冗談に聞こえないから!)」

 

 植物で編まれたパンダの編みぐるみと和服の少女は外の景色を物珍しそうに眺めている。そんな中、少女の口から何気なく出た言葉。一見すると少し趣味の悪い冗談に聞こえただろうが、レティは少し本気なのではと思っていた。

 

 

 

 

 

 悪魔に派閥があるように妖怪にも派閥が存在する。京都で有名なのは九尾の狐の一派。昔は朝廷とのイザコザがあったが、今では日本神話の傘下に入って大人しいものだ。住んでいる場所も人の子が立ち入れない異空間。言うなれば穏健派だが、正反対に過激派と呼ぶべき者達も存在した。

 

 京都の町を荒らしに荒らし、最後は退治された酒呑童子一味の残党やハグレ者が集まった、人を浚い犯し喰らう悪鬼羅刹の集団。その派閥最後の頭領の息子も人は喰らうもの、弄ぶものとの認識でとある女を浚い、気に入ったのか術で狂わせて生かし続け犯し続けた。やがて女の腹が膨れ、内部から母の肉を食い破って赤子が生まれた。生まれた瞬間に親殺しという罪を背負い、血にまみれて笑っていた赤子に付けられた名は『源 旭吉(みなもと ひよし)』。偶然か必然か、酒呑童子を退治したモノノフと同じ姓を持つ少女は誰よりも鬼らしく、やがて父に恐れられてとある者達への人質に差し出される事となった。

 

 

 

 だが、その者達は手を組むはずだった悪鬼と会ったのは引き渡す契約を結んだ時が最後。それもその筈。迎えに来た時、既に屋敷の奥で一人残らず喰い殺されていたのだから。

 

 

 

 

「ふぅん。あんさんに仕えればええんやな? まあ、おまんま貰えるならうちは構わへんよ。でも、面白くないって感じたら何するか分からへんから覚悟しといてな?」

 

「オッケー。じゃあ、宜しくね」

 

 その後、引き受けた者達を皆殺しにしてさまよっていた旭吉はリェーシャと出会い、ザナクの眷属になることが決定した。今の彼女は大人しい。力の封印も引き受け、命令も聞いている。だが、侮る無かれ。鬼とは理解不能な恐怖の対象の総称だ。何時何が起きるかは本人にさえも分からない。

 

 

「表立って人食うのは止めときな。生気を敵から吸うなら問題ないだろさ。取りあえず桃十郎からでも……」

 

「えー! 桃十郎兄はんは汗臭いから嫌やわぁ。リュミネル姐さんなんか美味しそうなんやけどなぁ」

 

「……ボクは駄目。旭吉は我慢を知らないから、疲れ切っちゃって主様と一緒にいる時間が減る。こんな時こそネイリアの出番」

 

「仲間を差し出すなよ、仲間を。……僕じゃないからこれ以上は黙っていよう」

 

「ぬはははは! 相変わらずだな、旭吉! うん! 人を食ってはいかんぞ!」

 

「……ザナク、クリスもお腹減った。何かない?」

 

「こらこら、人前で人を食べるとか言ったら駄目だよ? 引かれちゃうかも知れないからさ」

 

 

 

 

「ニャーーーーーーー!?(引かれるってレベルじゃねぇだろ!? だめだ、此奴等。ボクが何とかしないとっ!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷぷぷぷ。やっぱり見てて面白いなぁ。さてと、そろそろ到着だね」

 

 ネイリアと呼ばれたパンダの編みぐるみが見詰める先には今回の顔合わせの会場が見えていた。




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第二十五話

「さあ、僕の顔をお食べ。甘くて美味しいよ」

 

 一体どうしてこうなった? ゼファードル・グシャラボラスは目の前で自分の頭を引き裂いて渡してくるパンダの姿に恐怖を感じ、そのまま口の中にパンダの頭の一部が捻じ込まれる。確かに甘い、甘いのだが、それは想像を絶する甘さだった。

 

 例えるならチョコクリーム大福。少しくどいくらいに甘いチョコレートクリームが柔らかく甘い餅に包まれ、それに粉砂糖を塗した上で羊羹で包み、黄粉と黒蜜を上からたっぷり掛けたのについでとばかりにソフトクリームを乗せる。歯が溶けて無くなりそうな胸焼け間違いなしのパンダの頭の一部、それが生暖かいゲル状になって口の中に広がり、飲み込んでも歯や口の中に付着して味が消えない。

 

 この日、ゼファードルは思った。もう甘い物なんか絶対に食べない、と……。

 

 何故こうなったのか、それは少し時間を遡る。

 

 

 

 

 

 

「いやー! さっすが貴族の為の待合室だよ。飲み物が美味しー」

 

 首都ルシファードで行われる次期当主達の顔合わせの会場の控え室にて、少し離れた場所で後々の遺恨になりそうな口論が勃発するも気にせずに部屋の隅で寛ぐザナク達。特にネイリアは用意された飲食物で上機嫌だ。

 

「……前から思ってたけど味覚有るの?」

 

 ネイリアの見た目は植物で構成されたパンダであり、普段は存在しない口の部分が大きく裂け、其処から内部へジュースを流し込む光景は不気味ささえ感じさせる。リュミエルの質問は当然であり、この場の数人が思っていた事だ。

 

「えー? 味覚有るから美味しいって言ってるのに、リュミちゃんは相変わらずお馬鹿さんだね。ぷっぷぷっぷー! 胸に栄養行ってるって奴ー?」

 

 口に該当する穴なんかなかったのに、わざわざ口を作り出して吹き出す真似をする珍獣にリュミネルの眉間に皺が寄り、流石に今は携帯していない刀が欲しくなる。具体的に言うと脳天から股に掛けて一刀両断したかった。意味はないけれど、ムカついたから。

 

「ほら、落ち着いて。ネイリムも余計なこと言わないの。何か問題起こしたら連帯責任で全員の夏のボーナスカットするからね」

 

「え~? やだやだ、ボーナスカットやだー! 皆、僕を見習って大人しくしてよね!」

 

 リュミネルを背後から抱き締め殴りかかるのを止めるザナクは眷属達に容赦のない宣告をする。顔を赤らめながらも嬉しそうに手の上に手を重ねる。そして言葉を聞いた瞬間の眷属達の動きは迅速だった。

 

「……動くな、動いたらぶっ放す」

 

「クリス、買いたい物沢山ある」

 

 自分の言動を顧みないのか、敢えて煽る気なのか一番の問題児であるネイリアが仲間に注意した瞬間、クリスティの右腕がネイリムの胸に突き刺さり、肘まで突き進む。それでも動じないのだが、背中にアレイシアが二丁拳銃を突きつけると流石に両手を挙げて降伏のポーズだ。不満そうに不貞腐れるあたり反省はしていないし、する気はない。

 

「ぶー! まるで僕が問題児みたいじゃない」

 

「……そうだよ。主様に迷惑掛けたら許さないから」

 

「そないな事より、降ろして貰えへんかなぁ、桃十郎はん。ウチ、大人しくするで?」

 

 ネイリアが余計な事をしないように眼を放そうとしないリュミネルの背後では桃十郎に腰に手を回されて抱えられた旭吉がけらけら笑っている。彼女はネイリムと違って煽る気はないようだが、信用も無いので降ろして貰えないだろう。

 

「うむ! 顔合わせが始まれば流石に降ろすぞ。お前も其処まで馬鹿ではないだろうからな」

 

「え? それって熱湯風呂の押すなよ押すなよって奴……冗談だって。それより本当に止めなくって良いの?」

 

 反省の欠片もないネイリアが指差した先ではシークヴァイラ・アガレスとゼファードル、共に今回の顔合わせに呼ばれた次期当主の若手悪魔、が口論をしていた。口論といっても全身タトゥーで如何にもチンピラといった感じのゼファードルが気の強いシークヴァイラにセクハラをかましながら絡んでいるだけであり、共にプライドが高いから引く気がないだけだが。

 

「放置放置。間に入って良い事ないし、家の格が上のシークヴァイラさんは公私の分別つく人だから。嫌いな相手でも家の仕事で必要なら取引が出来る人。ゼファードさんは次期当主に成れてテンションが上がってるだけで、家の仕事は旧臣の人達がフォローするだろうからね」

 

 だから下手に関わるなとザナクはリュミネルを抱きかかえたまま椅子に腰掛ける。その隣に花月が座って周囲から見えないようにセクハラを行い、ネイリアだけは何やら企んでいる様子でゼファードルを見ているがクリスティ達によって下手に動けない。

 

「次期当主になれたってどういう事なん?」

 

「ああ、旭吉は知らなかったっけ? 前の次期当主が急死して、グシャラポラスの凶児って呼ばれていた彼が次期当主に成れたんだ。実際、大きな転機だと思うよ。調子に乗るくらい当り前さ」

 

 ゼファードルは以前の次期当主が亡くなった事で繰り上げになる程度には一族での序列が高かったのだろうが、それでもスペアはスペア。小競り合い程度の争いしか起きていない現代では病死や事故死でもない限りは丈夫な悪魔は簡単に死なない。凶児などと呼ばれ、今は同じ若手悪魔に過ぎないとしても格上のアガレス家に喧嘩を売る、具体的に言うと抱かせろと上から目線で告げる、等では彼の矜持を満たせる婿入り先が見つかったかどうか疑わしい。

 

「まあ、今は自由にできてもその内……」

 

 ザナクの視線の先では放置しておけなくなったサイラオーグに喧嘩を売ったゼファードルが一撃で叩きのめされていた。上に噛みついて叩き潰される、ザナクはそう言う積もりだったが、実際に起きたので言うのを止めておいた。その代わり、恩を売る方向に持って行く気だ。

 

「ネイリア、『誰が為の献身(サクリファイスエナジー)

 

「オッケー! じゃあ、僕の体の一部を食べさせて来るよ」

 

 誰が為の献身(サクリファイスエナジー)、それははぐれ悪魔から奪いネイリアに与えられた神器。自らの体の一部を無色のエネルギーに変えて他者に与えるという自己犠牲の奇跡を起こす。

 

 ゼファードルが助けられた事を感謝するとは思っていないザナクだが、上層部の前に怪我をした状態で出たとなれば将来に響くし、グシャラポラス家の者は怪我をさせたサイラオーグへの悪感情も抱くだろう。故に彼らに貸しを作る為にゼファードルを助けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談ではあるが、ゼファードルを苦しめた異常な甘味などはネイリアの趣味である。悪戯の為だけに経口摂取が可能な上に味のコントロールまで可能なように神器を進化させたのは凄い事だろう。こうして無事にボーナスカットが決定する。なお、後で文句を言われた際には甘くした云々はそういう物だと誤魔化した。

 

 

 




話が進まない 眠い・・・


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