戦士絶唱シンフォギアIF (SABATA)
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Chapter1 ルナアタック事変 EPISODE 1 全ての始まり

 何と無く聞いていたシンフォギアラジオのある会話を聞き、この小説の執筆を思い付きました。

※この作品は、基本的に三人称視点(作者視点とも言う)で物語が進められます。物語で語られるのは主にこの作品の主人公やその周辺になり、それ以外の原作と相違点が無い部分はあまり描写しません。ですが、主人公の存在によって相違点が発生した場合はそちらの描写も書く予定です。


 ある晴れの日。海辺の近くにあるドーム型のライブ会場の空を(かもめ)の群れが鳴きながら飛ぶ。

 

 今日、そのライブ会場で大人気ツインボーカルユニットの“ツヴァイウィング”のライブが開催される。故にライブ会場にはライブを見ようと沢山の人々が行き交う。

 

 ライブ会場に入る為に並んだ人達の長蛇の列の中にとある少年がいた。オレンジのTシャツの上に白いパーカー、暗いグリーンのストレートパンツ、白のスニーカーの装いをした明るい茶髪の()()──立花(たちばな)(ひびき)はスマフォを耳に当てながら電話を掛けていた。

 

「お〜い、未来(みく)〜。今何処だ〜? 俺もう会場だぞ〜? このままだと1人で入ることになるぞ〜?」

 

 響は気怠そうに電話越しの相手にそう伝える。響がここまで気怠そうにしているのは、彼が現在並んでいる長蛇の列に並ぶ前に電話越しの相手を捜していたからだ。待っても捜しても現れない相手に痺れを切らした響は、仕方無く長蛇の列へと並んだのだ。

 

 まぁ、それを抜きにしたとしても、この全く前に進んでいる気がしない鬱陶しさが半端無い長蛇の列に響は(ほとほと)参っているのだが。

 

『ごめん、ちょっと行けなくなっちゃった……』

 

「はぁぁぁあああぁぁぁっ!?」

 

 電話越しに聞こえてくる幼馴染みの親友の少女の急な知らせに響は思わず大声を出してしまう。その大声を聞いた響と同じく長蛇の列に並んでいた人達の視線が響に集中し、響は周りの人達に軽く謝罪をして声のトーンを低くする。

 

「何でだよ!? 約束してただろ、一緒にライブを見に行こうって!?」

 

 この響という少年は何を隠そう“ツヴァイウィング”の熱狂的なファンである。そんな響と同じく“ツヴァイウィング”のファンだった未来という少女は幸運にも“ツヴァイウィング”のライブチケットを入手し、自分と同じく“ツヴァイウィング”のファンだった親友の響と共にライブを見に行こうと約束していたのだ。

 

『盛岡の叔母さんが怪我をして。お父さんが車を出すって……』

 

 未来も響と一緒にライブを見に行くのをとても楽しみにしていた。しかし、身内の怪我の報を聞いたからにはそちらを優先させねばなるまい。

 

「……そっか。チケットも勿体無いし、ライブは俺だけで楽しんでくるよ」

 

『本当にごめんね……』

 

 渋々ながら了承した響は1人だけで楽しんでくることを告げ、未来は本当に申し訳なさそうに謝罪しながらお互いに電話を切った。実は何気に電話を切るタイミングは同時だったのだから、流石は幼馴染みといったところである。

 

「はぁ……俺って神にでも呪われてるのか? それだったら俺に呪い掛けた神マジで死ね。寧ろ俺が神をぶっ殺してやる」

 

 上手く事が運ばない現状に対して呪詛を吐きながらスマフォをポケットに仕舞う響。ボディバッグのベルトの位置を調整しながら響は上を見上げ、その響の視界に“ツヴァイウィング”の映像が目に入る。

 

「……まぁ、念願の“ツヴァイウィング”のライブなんだ。未来の分も楽しんでやらないとな!」

 

 “ツヴァイウィング”の映像を見て元気を取り戻した響は、独り言を呟きながら長蛇の列を進む。

 

 “ツヴァイウィング”は、2人の大人気美少女歌姫のツインボーカルユニットである。

 

 1人は、明るい橙色の髪の少女──天羽(あもう)(かなで)。響にとって天羽奏とは、テレビで見た感じでは明るく奔放な言動が目立つ姉御肌の少女に映っていた。そして、“ツヴァイウィング”の相方の少女をよく弄っていた。

 

 もう1人は綺麗な青い髪の少女──風鳴(かざなり)(つばさ)。こちらは、天羽奏と比べると大人しく少し弱気な性格に見えているが、コンビの天羽奏に弄られて拗ねたりした時の姿はとても可愛いものだと響は記憶している。

 

 2人とも美人だが、美人のベクトルはある意味真反対である。天羽奏はスタイルがとても良いボンキュッボンの少女で、風鳴翼はスレンダーな体型だがその容姿や立ち振る舞いから和風美人を連想させる。

 

 一見性格も体型もある意味で凹凸で真逆な2人だが、ステージに上がった2人は見事にマッチングされたパフォーマンスを繰り広げ歌を聞いた者全員を魅了するのだ。正にベストマッチな2人である。

 

 思春期真っ盛りの響は、この美人なツインボーカルユニットを話題にして男友達と話してたこともある。その中には勿論、歌のことだけでなく猥談も含まれていたりするのだが、その話を偶然未来に聞かれた響が耳を引っ張られたりしていた。

 

 兎に角、そんな“ツヴァイウィング”の熱狂的なファンである響は心躍らせながら会場入りするのをまだかまだかと待ち焦がれていた。

 

 そうこうしてる間に長蛇の列も進んで行き、響は未来から受け取ったチケットを使ってライブ会場に入場した。

 

「さーてと、まずは今回の必須アイテムを買い揃えないとなぁ!」

 

 ライブ会場に入場した響がまず最初に始めたことは、今回のライブにて際して発売されるグッズを買い揃えることだった。

 

 販売コーナーに向かった響は、今日発売の“ツヴァイウィング”のニューシングルの“逆光のフリューゲル”のCDの初回限定版を自分と未来の分、今回使用される赤、青、黄のサイリウムを2本ずつ持ってレジへ行き、スマフォの電子マネーを使って精算した。

 

(未来の土産も買ったし、これで良しだ)

 

 響は自身のスマフォを確認して現在時刻を確認する。響が時計を確認した時、既に時刻はライブ開始の10分前に差し掛かっていた。長蛇の列を並んでいる間にかなりの時間が過ぎていたのだ。青かった空も今は橙色の夕日に変わろうとしている。

 

「……そろそろ席に座った方が良いか。ギリギリで行くと席に行くの時間掛かるしな」

 

 時刻が丁度良い頃合いだと思った響は、観客席へのゲートを潜る。

 

「おぉぉぉぉぉ……っ!!」

 

 響がゲートを潜った先に広がっていたのは、広大なライブホールだった。

 

 ホールの奥には後部にステンドグラスが張られた巨大なメインステージ、ステージと繋がっているガラス状の円環とその中心に嵌め込まれたかのような通路のようなステージ、その通路の下には円状に広がる立ち見席、そして端にはステージから少し遠いが座って見ることの出来る座席があった。

 

 目の前の豪華なライブホールに響は感動して思わず言葉を漏らしていた。ライブホールに見惚れていた響だったが、少しして正気を取り戻して指定された自分の座席のある場所に向かった。

 

 荷物を整理し、両手に黄色のサイリウムを持った響はライブが始まるのを再びまだかまだかと待ち焦がれている。

 

 定刻となった直後、ライブの案内をする為にほんのりと光っていたホールの座席の側にあった紫と青以外のライトが消える。そこに間髪入れずに音楽が会場全体に響き渡り、ステージの背後のライトがカラフルに光ってステージの端からスポットライトが上がる。

 

「来た、来た、来た来た、来た来た来たぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 響は遂にライブが始まることを確信して興奮しながら周りの観客と同様にサイリウムのライトを点ける。点けられたライトで会場が黄色に染め上げられる。

 

 盛り上がる歓声と光る羽のエフェクトが宙を舞う中、上からのスポットライトに照らされながら2人の少女が舞い降りてきた。

 

 それはお互いにデザインが違う薄いピンクと薄い水色の唯一同デザインの対になる翼の装飾を付けたステージ衣装に身を包んだ“ツヴァイウィング”、天羽奏と風鳴翼の2人の少女だった。

 

 2人は鳥のように軽やかにガラス状の十字形のステージの上に着地する。着地した2人は観客に向けて手を振り、お互いに歩み寄ってステージの真ん中で合流すし振り付けのダンスを踊り始めた。

 

「はい! はい! はい! はい! はい!」

 

 “ツヴァイウィング”の2人をその目に映したその時からテンションがMAXになっていた響は、黄色に光るサイリウムを振りながら周りの観客達と一緒にリズムを取っていた。

 

 “ツヴァイウィング”の2人が“逆光のフリューゲル”を歌う中で、その声に続くように声を出す観客達の中の一部の「せーのっ!」の声に合わせ、響や周りの観客は歌詞の一部を天羽奏の声に合わせて声を張り上げる。

 

「と・き・は・な・て!!」

 

 続いて風鳴翼に移り、今度も「せーのっ!」の声に合わせて風鳴翼に続くように響達は声を張り上げる。

 

「つ・き・あ・げ・て!!」

 

 そこからは暫く最初のようにリズムを取り始める。歌を歌う中で“ツヴァイウィング”の2人はガラスの足場を駆け出して巨大なステージまで移動する。

 

 歌がサビに入る直前に一度歌が止まり、ライブホールの天井が上に向かって動き始める。12個に分かれたそれぞれのパーツが広がるように上に開き、時間が経ってすっかり夕焼けとなった空が姿を現わす。

 

 そして、歌はサビに突入して会場の盛り上がりが頂点を迎える。背景の夕焼けと“ツヴァイウィング”の歌とダンスが観客達の心に感動と興奮の嵐を巻き起こす。

 

 サビを終えた“逆光のフリューゲル”は一気に終局に向かい終わりを迎えた。歌を歌い切った“ツヴァイウィング”に向けて観客達は精一杯の歓声を送る。

 

「これが……ライブ。これが……“ツヴァイウィング”!」

 

 歓声の中、響は自分が惚れ込んだ“ツヴァイウィング”という存在に感銘を受けていた。自身と歳が変わらないのにも関わらず、これだけの歓声を受けて輝く目の前にいる“ツヴァイウィング”という存在が響にはただひたすらに眩しく写っていた。

 

「まだまだ行くぞぉ!!」

 

 興奮した会場に奏が声を張り上げると、それに続くように観客達のテンションもまた跳ね上がる。

 

 次に以前に“ツヴァイウィング”が歌っていた“ORBITAL BEAT”という歌のメロディが流れ始める。しかし、立ち見席の中心が唐突に爆発を起こして曲が途切れた。

 

 そして、煤が空気中を舞い、それを見た奏は目付きを鋭くして呟いた。

 

()()()が来るっ!」

 

 唐突にそれは現れた。海上の空を舞う異形がライブホールに襲来し、爆発で開いた中心の穴からはまた違った巨大な異形が姿を現わす。

 

 異形の名は“ノイズ”。人類共通の脅威とされる認定特異災害。空間から滲み出るように突如発生、人間のみを大群で襲撃し、触れた者を自分諸共炭素の塊に転換するという特性を持つ。また、発生から一定時間が経過すると、ノイズ自身が炭素化して自壊するという特性も併せ持っている。

 

「ノイズだーっ!!」

 

 突如現れたノイズに、会場にいた観客達は慌てふためき逃げ惑う。巨大なノイズは口と思われる部分から緑色の液体のようなものを吹き出し、その中から種類がバラバラの無数のノイズが現れる。

 

「助けてくれぇぇぇぇぇ!? うあぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 丸い形をしたノイズ──クロールノイズに捕まった青年は、周りに助けを請い悲鳴を上げながらその色をノイズと共に全身を黒く変色させ一瞬で炭素の塊に変わって砕け散る。

 

「死にたくない! 死にたくないっ! 嫌ぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 二足歩行をするノイズ──ヒューマノイドノイズに捕まった少女が、涙を流しながら悲鳴を上げ拘束から逃れようとするがその少女もまた炭素の塊に変わり絶命する。

 

 ノイズは混乱して逃げ惑う人々を一人一人確実に炭素の塊に変えていく。空を舞うノイズがその形状を槍のように変え上空から襲撃し、そのノイズに貫かれた人々が炭素の塊に変わり絶命する。

 

 先程まで誰もが楽しんでいた空間が一瞬にして地獄へと様変わりし、場は混乱と混沌を深めていく一方だった。

 

「ここにいたら殺される……! 兎に角、安全な場所に避難しないと!?」

 

 惨状の現場にいた響もノイズから逃げる為に急いでライブ会場を後にしようとする。

 

「Croitzal ronzell gungnir zizzl」

 

 その時、逃げようとする響の耳に歌が聞こえてきた。

 

「えっ」

 

 耳に聞こえてきた歌に足を止めた響は、歌が聞こえてきた方角へと振り返り目を見開いた。

 

 響の視線の先には、ボディコンのような体にみっちりと密着した体のラインが丸分かりになっている橙色が主軸で他に局所局所が白と黒の服のようなものを纏い、足にロングブーツ型のヒールのような黒い装甲と腕に籠手のような白い装甲、腰には対になった2つの白い装甲、頭部にツノのような突起が付いたヘッドホンのようなもの、胸元に宝石のような集音マイクの形をしたものを身に付けた天羽奏の姿があった。

 

「何だよ、あれ……奏さん?」

 

 目の前の出来事を処理しきれずにいる響は、その場で突っ立ったままただ呆然と呟く。

 

 響が動けないでいる間にも奏は動き出す。奏は両腕に付けられた白い装甲を左右で合わせ、合わせられた装甲が奏での腕から射出される。射出された装甲は空中で変形して形を変え、長い柄を持つ先端が鋭く尖った形状のもの、まるで槍のような形状に変化した。

 

 槍を掴んだ奏は、その槍を一度構え直後にその場から駆け出す。駆ける先にいるのは無数のノイズ。触れられれば一瞬にして人は炭素の塊となって死に、逆に現代の兵器では倒すこともままならないその存在に勇猛果敢に向かっていく奏。

 

「ダメだ! 行っちゃダメだ、奏さん!」

 

 響は声を張り上げて叫ぶ。突然ライブ衣装から見たこともない謎の装束にいつの間にか変わっていたりと疑問は尽きないが、人類では対抗することの出来ない災害に向かっていく奏を止めようとした。

 

「ハァッ!」

 

 しかし、響の脳裏に浮かんだ炭化される奏の姿は現実には無く、逆に奏が手にした槍によってノイズは斬り裂かれ、その体を貫かれていた。

 

「えっ」

 

 本日2度目の響の口から呆然と漏れ出た声。目の前の信じられない現実に今度こそ響は硬直した。

 

 ノイズとは人が抗うことの出来ない災害である。現状ではどうすることも出来ないというのが世界共通の認識だった。しかし、目の前にいる天羽奏という少女は違った。彼女は1本の槍を携えて目の前の災害を正面から迎え撃っているのだから。

 

 ノイズを貫き、斬り裂き、時に足技の体術で蹴り砕く奏。彼女は大きく跳躍し、体を弓のように反らせてから腕を伸ばして槍投げの構えを取る。

 

【STARDUST∞FOTON】

 

 奏が投げた槍は空中で無数に分裂し、槍の雨となってノイズ達に降り注ぐ。槍の雨に貫かれたノイズはその身を炭素に変えて槍の威力で抉られた地面と共に吹き飛ぶ。

 

 吹き飛ぶノイズの残骸の嵐の中をいつの間にか戻ってきていた槍を携えた奏が駆ける。

 

「これは、歌……なのか?」

 

 その光景を眺めていた響の耳には先程からずっと歌が聞こえてきていた。とても力強く勇猛な戦士の歌が。その声音は確かに今目の前でノイズと戦っている天羽奏という少女のものだった。

 

「ハァ!」

 

 その奏に続くように後ろでもノイズに対して剣戟が振るわれる。後方にて戦っていたのは、“ツヴァイウィング”のもう片割れの風鳴翼だった。

 

 翼は、奏と同じボディコンのような少しデザインに違いのある青を主軸とした局所局所が白と黒のスールを纏い、足に刃のようなものが付いた青い線の入った黒い装甲と腕に白い装甲、頭にはこれまたヘッドホンのようなもの、胸元に宝石のような集音マイクの形をしたものを装着して、手に携えた剣を振るっていた。

 

「翼さんもノイズと戦えるのか……」

 

 相方揃ってノイズと戦う姿を見せる“ツヴァイウィング”という2人の歌姫のもう1つの顔を見た響は完全に付いて行くことが出来ず硬直していた。

 

【LAST∞METEOR】

 

 高速回転した槍から生み出された凄まじい竜巻が周囲の地形を巻き込みながらノイズの集団を蹴散らし、無数のノイズの大元の巨大な芋虫のようなノイズの体を貫いて消し飛ばす。

 

 翼と合流した奏は、2人で共に肩を並べながら駆けノイズを討滅していく。歌を歌いながら多彩な動きで槍と剣を振るうその姿は歌姫と舞姫、そして戦士が1つ存在に同居しているかのようであった。

 

「あれは……」

 

 只々立ち尽し続ける響はそこから微動だにせず、この場が逃げなければならない危険地帯だということも忘れ、戦う歌姫の姿に魅き付けられ見惚れていた。

 

 斬り裂き、貫き、ノイズを討滅する奏と翼。すると、唐突に奏の動きが止まった。手にしていた槍もどこか輝きを鈍くしてしまっている。

 

「時限式はここまでかよ……っ!」

 

 ノイズと戦う手が止まるのと同じく奏の歌も止まる。その隙を逃さんとばかりに1体のノイズが強襲を掛け、奏はギリギリのところでノイズの攻撃を槍で防ぐ。しかし、威力を殺し切れなかった奏は壁際まで後退させられた。

 

「くぅ……! はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 息を乱しながら悪態を漏らす奏。直後、突然響が突っ立っていた観客席が崩落した。ノイズが暴れたことで建物に損害が行き、その影響で崩れたのだ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!?!?」

 

 崩落に巻き込まれた響は、重力に従って瓦礫と共に下へ落ちていく。その悲鳴が耳に届いた奏の視線は、自然と落ちた響の下へ向けられた。

 

「うぐっ!? 足が……!」

 

 運良く崩落に巻き込まれず瓦礫の下敷きとなることがなかった響だったが、ズボンが破れて穴が空き、そこから垣間見える足には大きな擦り傷が出来ていて、血も流れ出ていた。

 

 そんな響を視界に捉えたノイズ達は、響に襲い掛かろうと走って駆け寄って行く。

 

「あ、あぁ……っ!?」

 

 恐怖で硬直した響はそこから動けずやって来るノイズをただ見ていることしか出来ない。響は自分に死を齎す存在を前にして痛みに耐えようとするかのように目を瞑り左腕で顔を隠して身を捩らせる。

 

 その響を守る為に無茶をして前に躍り出た奏は、雄叫びを上げながら力任せに槍を振るって近寄ってきたノイズを蹴散らす。

 

「はっ!?」

 

「駆け出せ!!」

 

 驚く響に奏は乱暴気味に言葉を投げる。その言葉に無言で頷いた響は、足の痛みを堪えながら立ち上がり、怪我で動きが鈍くなった足を引き摺りながら出口に向かってゆっくりと歩き出す。

 

 その響を狙い撃つようにノイズ達が形状を変化させて襲い掛かり、前に立ちはだかった奏が槍を両手で横に振り回してノイズの攻撃を弾き、逸らし、防ぐ。

 

「う、うぐぅ!?」

 

 その際の反動で、奏の身に纏った装甲やヘッドフォンが罅割れていく。それに奏も苦悶の声を漏らす。

 

「奏っ!?」

 

 距離が開いたノイズの群れの固まりの中心でノイズを斬り伏せていた翼が相棒のピンチを見て声を上げる。

 

 そこに巨大なノイズが先程ノイズ達が現れ出でた緑の液体と同じものを凄まじい勢いで奏へ吹き掛けた。

 

「ぐぅ!?」

 

 奏は苦悶の声を漏らすも、どうにかその場で踏み止まって槍の回転で巨大のノイズの攻撃を防ぐ。そこに追い討ちをかけるようにもう1体の巨大ノイズが同じ攻撃を奏に加える。

 

「奏ぇっ!?」

 

 相棒の危機に翼を声を更に張り上げてすぐに赴こうとするが、その前に無数のノイズが群がって翼の進路を妨害する。

 

「うぅぅぅぅぅ!? うあぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

 襲い掛かる凄まじい勢いのノイズの攻撃の奔流を奏は咆哮を上げながら防ぎ続けるが、防ぎ続けた結果奏の身に纏っていた装甲や槍の一部が砕け散る。

 

「がふっ!?」

 

 砕け散った破片は勢いに乗って後方に飛来し、奏の後ろをゆっくりと移動していた響の胸に突き刺さった。響が漏らした苦悶の声に反応して後ろを振り返った奏は、胸から血を吹き出しながら吹っ飛ぶ響を見て目を見開いた。

 

 守るべき対象である少年を、奏は自分の未熟さ故に傷つけてしまったのだ。

 

 吹っ飛んだ響は後方にあった瓦礫に背中を打ち付けられ地面に倒れ伏した。

 

「おい! 死ぬなぁ!!」

 

 倒れ伏した響に直様駆け寄った奏は、手に持っていた近くに槍を投げ捨てて倒れ伏した響の上半身を抱き起こした。

 

「目を開けてくれ! 生きるのを諦めるなっ!!」

 

 胸から大量の血を流し瞼を閉じた響に奏は声を張り上げて語りかける。自分の不祥事で致命傷を負わせてしまった少年に死なないでくれと頼み込む。

 

 白かったパーカーを自分の血の色で染め上げる響は、自身に語りかけてくる力強い声に反応するかのように降りていた瞼を上げて薄らと目を開いた。

 

「……ぁ」

 

 薄らと目を開いた響は、か細く弱々しい声を口から漏らして奏を見上げる。それを見た奏は安堵の笑みを浮かべ顔を輝かせる。

 

(奏さんが……こんな近くに……)

 

 薄らとした視界に写る自身の憧れの奏を見て響は内心で呟く。

 

「……前から、綺麗だと思ってたけど……近くで見ると、やっぱり違うなぁ……。遠目で見た時より、ずっと綺麗だ……」

 

「……ったく、こっちが心配してやってるのに。こいつは……!」

 

 唐突に笑みを浮かべながら言われたこの場にそぐわない褒め言葉に、奏は若干呆れながらも少し頬を染めてニッコリと笑って答えた。

 

「……すまねえ。俺、なんかの……為に……」

 

「何言ってんだよ、お前は何も悪くないだろ」

 

 唐突に謝る響に奏は言葉を返す。

 

「……俺を置いて……逃げろ」

 

「何バカなこと言ってんだ!? そんなこと出来る訳無いだろ!?」

 

 自分を見捨てて逃げるように促す響に、奏は否定の言葉を返す。奏の力は、響のような力の無い者をノイズから守る為の力である。それなのに守るべき少年を見捨てて逃げるなど奏に出来る訳が無い。

 

「……奏さんも限界が近いんだろ? 遠目だったけど、それだけは……何となく分かった。なら、無茶せず……逃げろ……」

 

「お前……!?」

 

 明らかに戦闘に関しての経験が皆無の少年に自分のことを見透かされていたことに奏は驚く。

 

「……奏さんがどうして戦ってるのかとか、どうして戦えるのかとかの……理由は、知らない。でも、これだけは……言える。奏さんは、これから先もずっと必要な……人だ……歌姫としても……戦士としても……」

 

「……」

 

「……あんたは、こんな俺なんかよりも……必要な人間……だ。こんなところで、死んじゃいけない……。だから……逃げてくれ」

 

 命の危機に瀕してる自身を二の次にして奏の身を案じる響。響は薄らと笑っているが、その面持ちは今にでも死んでしまいそうなものだった。

 

(こいつ、今にも死にそうな癖して……!)

 

 奏は、幾らこちらの顔が知られていても話したことも無い初対面の相手の身を案じる少年を見て、目を閉じてその顔色を変えた。それは覚悟を決めた者の面持ちだった。その直後に表情を崩して優しく微笑む。

 

「……大丈夫だ。あんたのことは私が守る」

 

 天羽奏という少女が槍を取った理由は元々彼女が今胸に抱いている気持ちとは違うものだった。寧ろ、真反対の位置にあると言っていい。だが、今の彼女は目の前の今にも消え行きそうな命を救う為に立ち上がる。

 

 奏は、薄らと目を開けた響の顔を覗き込んでそのまま自分の顔を響の顔へ近付けて行き、口から流れた血で赤く染まった唇に自身の唇を軽く重ねた。その時間はほんの一瞬で、奏は直ぐに顔を離した。

 

「……ぇ?」

 

 響は朦朧とした意識で今起こった出来事を処理しようとするが、それよりも早く奏は口を開いた。

 

「私も女だからさ、やっぱり1度くらいはキスなんてことしてみたかったんだ。でも、一応芸能人だし、こんな生活送ってたから、まともに恋する暇も無かったんだ。まぁこんな状況だし、この際だから文句は言わないけどさ。だから、特別だ。あんたは将来良い男になりそうだからな。感謝しろよ? 私の、最初で最後の1度だけのキスを貰えたんだからな? 分かってるのか? ファーストキスだぞ、ファーストキス」

 

「奏……さん」

 

 笑っていた奏だったが、その表情が唐突に何かを憂うようなものに変わる。

 

「もし、あんたがここを生き延びて、翼と関わりを持つことになったら……その時は私の相棒(つばさ)のことを頼むな。……私の相棒は真面目が過ぎるから、ガチガチ過ぎてその内ポッキリいっちゃいそうなことが多いんだ。そんな時は、支えてやってくれ……」

 

 憂うような表情で響の顔を覗き込む奏に、響は意識が朦朧としていてハッキリと考えることは出来なかったが、そんな中でも「……はい」とか細くもしっかりとした声音で返した。

 

「……そっか。ありがとな。……私さ、何時か心と体、全部空っぽにして、思いっきり歌いたかったんだよ。今日は飛びっきりのファンと歌を聞いてくれる沢山の連中がいるからさ、出し惜しみ無しで歌うよ。取って置きのを呉れてやるからさ、しっかりと見て聞いておいてくれ」

 

 響の返答に満足そうに笑顔に戻った奏は、自分の言いたいことだけを伝え響の返答を待たずに響の体を瓦礫に凭れ掛けさせる。

 

 響を壁に凭れ掛けさせた奏は、近くに放置していた自分の槍を拾って歩き出す。歩く進行方向の先には、無数のノイズが一個団体に固まっていた。

 

 暫く歩いたところで奏は立ち止まり、手にした槍を高く掲げる。高く掲げられた槍は既にボロボロで、節々がボロボロと崩れ始めていた。

 

 穏やかな風が吹き、風に乗った奏の髪が揺れ、周りに溜まった炭素の塊が飛んで煤が宙を舞い、その中で一筋の雫が奏の頬を流れた。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl──」

 

 今までの歌とは全く趣の違う歌が響き渡る。その歌は、どこか幻想的で、とても儚く聞こえるものだった。

 

「いけない、奏っ! 歌ってはダメェェェッ!!」

 

 その歌を歌うことの意味を知る彼女の相棒である翼は、戦いの中、翼は涙を流しながら奏に向かって叫ぶ。

 

「歌が……聞こえる……」

 

 朦朧とした意識であっても、その歌はしっかりと響の耳、そして心に届いていた。

 

(そうさ……命を燃やす、最後の歌……)

 

 奏は聞こえてきた響の呟きに、内心で答える。そう、今彼女は命を燃やして歌を歌っていた。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl」

 

 最後まで歌を歌い切った奏は口角を吊り上げて笑みを浮かべ、その直後に口から血が流れた。

 

 歌を聴き終えるので限界が来たのか、朦朧とした意識の響が最後に見たものは途切れ途切れに写っていた。

 

 衝撃波らしきもので大小問わずに消え失せていくノイズ。

 

 その衝撃波らしきもので崩壊していくライブ会場。

 

 倒れ伏す奏の姿。

 

 涙を流す翼。

 

 すっかり荒廃して見る影も無くなったライブ会場。

 

 そして、相棒の翼に抱き抱えられながら(ちり)となって消えていった奏の最後。

 

 その光景を最後に、響は朦朧とした意識を今度こそ手放した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 響が意識を取り戻した時、最初に目に写ったのは部屋を照らすと照明と手術衣を着て何らかの作業を行っている医者達の姿だった。

 

 体は痛みも何も感じないどころか感覚も鈍く、また朦朧とした意識の響はぼんやりと目も動かさず目の前の光景をただ眺めていた。

 

(……俺……生きてる?)

 

 マスクが付けられ喋り難い上に感覚が無くてまとも動かすことが出来ない口の代わりに、響は内心で自分の生存を確かめるかのように呟いた。




井口「いや、本当にね。響が女の子で良かった!」

悠木「そう、確かに!」

井口「これがもしね、あのまぁ未来ちゃんに関しては性別なんて関係無いですけど」

悠木「関係無いですねwww」

井口「これがもし、男の子だったら。もうさ、皆好きになっちゃうし!」

悠木「www」

井口「仲間として以上の感情を皆持ってしまうし。本当に良い人間だから」

 シンフォギアラジオの井口さんと悠木さんのこの遣り取りを聞いてティンと来ましたね。そう言えば、響の男の子verの作品ってあまり見ないなって。ならばと、僕はこの作品を書き始めました。拙い文章力ですが、これからのお付き合い宜しくお願いします。

 後書きでは、この作品の男の子ビッキーと原作の女の子ビッキーとの相違点を挙げるのと、その解説をしていこうと思っています。それでは早速始めていきます。

(1)性別が違う
──これがある意味でこの作品の主題というか目的ですから。その為の性転換のタグです。

(2)性格が違う
──良い人間なのですが、原作ビッキーとは性格が違います。そこは男の子と女の子での差ですね。そのせいである意味でほぼオリ主です。その為のオリ主のタグです。

(3)既に“ツヴァイウィング”のファンである
──この作品の響は“ツヴァイウィング”の大ファンです。響君も思春期で多感な時期ですから、歳も近くて歌も良くて容姿も良かったら普通に話題に上がりますよ。その結果がこれです。

(4)響と奏の会話
──原作では会話も何も無かったのですが、この作品のビッキーは根性を発揮して奏に話しかけました。折角のガングニール姉妹(今作では姉弟)なんですから、何らかの遣り取りが欲しかったんですよ。

(5)奏のファーストキス
──これは完全に僕の妄想が爆発した結果です。奏のキスシーンが導入されたのは私の責任だ。だが私は謝らない。読者の皆様がこのシーンに納得して必ず読み続けてくれる信じているからだ。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 それでは次回もお楽しみに!


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EPISODE 2 惨劇後の彼

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 今回は2年後のシンフォギア本編の為の導入になります。導入を1話で終わらせたかったので、ダイジェストにして結構詰め込みました。前話よりかなり短いですが、お付き合い下さい。

 それでは、どうぞ!


 “ツヴァイウィング”の公演中のライブ会場で起こったノイズによる惨劇。

 

 会場内には、観客や関係者を合わせて10万を超える人間が居合わせていた。その中で死者と行方不明者の総数が、12874人に上る大惨事であった。

 

 これだけでも他に例を見ない大規模の事故だった。しかし、この悲劇はここで終焉を迎えるのではなく、更に勢いを増して連鎖していった。

 

 実は被害者の総数12874人の内、ノイズによる被災で亡くなったのは全体の1/3程度で、残りの2/3以上は逃走中に起こった将棋倒しの如き圧死、避難退路の確保の際に個人同士が争った末の暴行による傷害致死であることが週刊誌に掲載され、そこから一部の世論に変化が生じ始めた。

 

 死者の大半が人の手によって引き起こされたものであることから、惨劇を生き残った生存者に向けられたバッシングが始まった。加えて、被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたことで、世間からは苛烈な自己責任論が展開されていった。

 

 週刊誌の記事の内容こそ取材に基付いて行われた正確なものだったが、人の気持ちを煽るかのような華美な修飾語の数々に翻弄され踊らされた人々は、自身の身勝手な正義と正しさを振り翳しながら主にインターネット内で持論を繰り広げた。

 

 何時しかそれはやがて、この事件とは関係を一切持ってもいなければ興味すらも持っていなかった赤の他人すらも巻き込んで行き、ある種の憂さ晴らしの1つとして熱狂的且つ狂信的に扱われていった。

 

 生存者への心無い中傷は、世間の大多数の意見というマジョリティの後ろ盾に支えられることによって世の正論となり、自分の意見で無くとも、「他の人も言って、やってるから」という正体を失った中身の無い主張が罷り通ったことで、中世の魔女狩りやナチスの蛮行と同等の理由の無い悪意とも言える理不尽な正義の暴力として吹き荒れたのだった。

 

 善良な市民が懐く市民感情は、何処までも捻れ、肥大化し、ただ「生き残ったから」という理由だけで、惨劇の生存者達を追い詰めていくこととなった。

 

 一連のムーブメントに対する反対派も勿論存在していたが、付和雷同が連なった大多数の民衆の持つ本質により一方的に封殺され、暫くは大きなうねりの中に埋没することを余儀無くされた。

 

 生存者の内の1人である響の環境も、彼の周りの全てを巻き込みながらその状況に翻弄されていった。

 

 それはほんの偶然が始まりだった。ライブ会場の被害者の中の1人に響が通っていた中学の先輩の男子生徒がいた。

 

 その彼は中学のサッカー部のキャプテンであり、周りから将来を嘱望されていた生徒であった。しかし、その彼が何故死んで、取り立てて周りに影響を与える程の取り柄が無い響が生き残ったのかと理不尽に責め立てられた。

 

 少年のファンを標榜する1人の女子生徒のヒステリック極まる叫びから始まった攻撃は、悪辣な虐めへと発展していき、響はほんの極一部を除いた全校生徒からの攻撃の的にされた。

 

 口撃や陰口、机のへの落書きや机や椅子や響の所有物の紛失などは日々の当たり前のこと。酷い時には、男子女子構わずの物理的な傷害もあった。その中でもサッカー部の者や亡くなった少年のファンを自称する者達やその周囲の人間達からのものが酷かった。

 

 しかし、事態は響だけへの冷遇だけに止まらず、響の周りすらも連鎖の如く悲劇が続いた。

 

 響の父親の取引先の社長令嬢もまた、この惨劇によって命を落としていたのだ。

 

 当初は息子の命が助かったことに歓喜し、周囲の人達に息子の生存を喧伝していた彼の父親であったが、父親の取引先の会社の社長の耳にそのことが入り、契約は半ば白紙とされ、不幸が続いて響の父親は社内のプロジェクトからも外されることとなった。

 

 以降、社内の響の父親を持て余すような扱いに曽てあった彼の誇りはズタズタに引き裂かれ、内外構わず酒量が増えていき、家庭内では響や響を庇う母親に怒鳴り散らし、果てには頻繁的に暴力を振るうようになっていった。

 

 響の父親は元々が立花家への入り婿だった為か、ある日、響達に会社に行くと言い残したまま行方を晦ませ、守るべき家族や何もかもを放り出したまま、2度と家に戻ることはなかった。現実に耐え切れなくなった響の父親は蒸発したのだった。

 

 更に悲劇はまだ続く。彼が冷遇される以前に、ふと幼馴染みや身近な者に2、3度だけ呟いた「自分は“ツヴァイウィング”の天羽奏に命を助けられた」という発言が問題を大きくした。

 

 どこからかこの発言がリークし、それを拾ったインターネット内で響は様々な罵詈雑言で世間に吊るし上げられることになった。

 

 この発言を信じた者からは、“歌姫を盾にした人間の屑”や“女の子に助けられた男の面汚し”。信じなかった者からは、“悲劇に便乗した下らない嘘吐き”や“天羽奏という歌姫を汚した恥知らず”。その他にも、“卑怯者”や“臆病者”といった罵詈雑言は後を絶たなかった。

 

 何時しか“天羽奏が立花響の命を助けた”という真実は捻じ曲げられ、“立花響は天羽奏を盾にして生き残った”という歪められた形に収まった。結果、響は世間から“歌姫殺し”と呼ばれるようになっていた。

 

 “歌姫殺し”の異名により、響個人へ対しての世間の風当たりはその苛烈さを増した。仲良くしていた友達、クラスメイト、学校関係者、近所の人達、果てには幼馴染みの両親さえもが響の敵となった。

 

 家の壁には様々な罵詈雑言の張り紙が貼られ、家の窓には外から石を放り投げられ、外を歩いていれば唐突に暴力を振るわれることもあった。

 

 その中で彼の味方となってくれたのは、母親と祖母、そして優しい幼馴染みの未来だった。

 

 未来は周りのように響を責めること無く変わらずに響に接し続けていた。冷たい言葉ばかりを投げ掛ける周囲とは逆に、暖かい言葉と優しさをくれる未来に響は感謝した。

 

 しかし、悲劇は少しの幸福も響に許さなかった。人達から爪弾きにされた者に快く接する者を見て、周りの者達はどうするだろうか?

 

 人によってはその者と関わらないように関係を切らせようとするだろう。実際に未来の両親や未来と同じ部活動だったりして親しかった者達は響の関係を切るように彼女に促した。しかし、彼女はこれを拒絶した。

 

 周りからの言葉を蹴り続け周りから異端とされる者との関係を続けていた結果、それを面白く思わなかった者達が行動を始めたのだった。

 

 響程の規模では無いが、未来にも主に女子からの虐めが始まった。それによって未来の心変わりを誘発して今度こそ響が孤独になるのを楽しむつもりだったのだろう。だが、未来は決してメゲなかった。どんなことをされても、未来は気丈に振る舞っていた。

 

 それを面白く思わなかった者達が更に苛烈さを増していくが、それに対しても未来は決して負けることはなかった。どれだけやっても効果が現れない鼬ごっこを繰り返していたが、それは不意に終わりを迎えた。

 

 このことを重く考えた未来の両親は未来を連れて他県へと引っ越したのだ。元々引っ越しの話そのものは未来の家で持ち上がっていたことで、それに未来が反対したから留まっていたが、教師を通して未来までもが虐めに巻き込まれたことを知った両親は未来の転校と引っ越しを強行したのだった。結果、未来は響に別れの挨拶1つ出来ずに離れ離れになった。

 

 対して響は、1人そのことに納得していた。事態は次第に重くなっていく一方で、親の言うことを聞かないのだから無理にでも引き離すしかない、と。何故なら、響は過度な言い方をするなら未来にとって厄病神でしかないのだから。

 

 それを自覚していた響は安堵した。これで未来が傷付けられるようなことは無くなる、と。

 

 そして、響は父親と同じように家族の前から行方を晦ました。自分がいる限り、世間から冷遇された扱いを受け続ける母親と祖母のことを思っての行動だった。

 

 響は、母親と祖母を世間からの迫害から守るために1番に自分を守ってくれる世界で1番安全な場所を捨てたのだ。

 

 電波の発信による捜索をされないように携帯機器を置き去りにし、前もって用意していた最小限の食料と荷物を持って家を出た為、捜索は難航していた。

 

 響も響で情報をラジオなどで拾いながら慎重に行動していた。これも全部残された家族の平穏の為。自分が今戻ったら行方を晦ませたこともあって余計に過度な注目を集めてしまうからだった。

 

 虚仮の一念とも言えるこの愚かな行動は案外簡単に成功した。人目に付かぬように行動し、足りない頭を必死に使って情報を収集していた響は逃走を(こな)した。しかし、捜索の手掛かりが何1つ無い警察は今響が何処にいるかが分からず混沌としていた。

 

 これには幾つか理由がある。1つは、響が身バレし難い且つ印象に残らない格好で人目の付かない場所を中心に移動していたから。1つは、響が個人情報の特定が出来る情報端末の機器を持っていなかったこと。もう1つは、響は世間的には嫌悪されていて、人から情報を集めようにも誰も協力的じゃなかったことであった。

 

 しかし、その逃走劇も限界を迎えていた。2ヶ月間持ち堪えた逃走劇だったが、響の持つ食料は底を尽き、既に食事も6日間は取っていなかった。

 

 今や電子マネーによって動く貨幣の世界で、電子マネーを生産する機能を持つ携帯機器を持っていない響では食料を買うことは出来なかった。

 

(結構遣り繰りしたんだけど、やっぱり無茶があったか……)

 

 飢餓的な問題で極限状態を迎えていた響は、最早その場から1歩も動く気力を持ち合わせていなかった。

 

 草や土を食べて飢えを凌ごうにも、今響がいるのは人通りの少ない硬いコンクリートの路地裏。そんなものは何1つ存在せず、周りには口に入れることの出来そうな飢えを紛らわせることが出来るものもなかった。

 

 加えて今は梅雨入りしたことで大雨が降っていて、雨を凌ぐ屋根も雨具も無く、ただ水が染み込んだフードを被っているだけの響の体はすっかり冷え切っていた。

 

(母さんや祖母ちゃん……それに未来は元気にしてるか?)

 

 この状況で響が考えたのは自身のことでは無く、残してきた家族と居なくなった幼馴染みのことだった。響は隈が出来た目で黒く濁った雨雲を見上げながら想いを馳せる。

 

 今の響は食事もそうだが睡眠も余り取れていなかった。眠りに着く度に響はあの惨劇の光景を夢に見ていた。

 

 荒れていく会場に炭化し煤となって消え行く人々。塵となって消えた奏の姿。最初はこれだけだったが、今ではあの時戦っていた奏の相棒の翼の姿もあった。「お前が居なければ奏は死ななかった」や「奏が死んだのはお前のせいだ」などと夢の中で言われ続けた。

 

 更に煤と化して生き残ることが叶わなかった者達の声までも響いていた。「死にたくない」や「助けてくれ」などの生存を望む声、「どうして私が死んでお前が生き残った」や「お前はあそこで死ぬべきだった」などの怨嗟の声と種類は疎らであった。

 

 更には周りからの理由の無い悪意と理不尽な正義の声によって、その症状は深刻化していっていた。

 

 擦り減らされた精神が夢に影響を与え、悪化した悪夢が精神を更に擦り減らさせる。

 

 悪循環の繰り返しは確実に響の精神から順に体に影響を与え、響は今ではまともに睡眠を取ることも出来ないくらいまで追い詰められていた。

 

「……大丈夫だ。これくらい、へいき……へっちゃら、だ」

 

 自分を鼓舞するように独り言ちる響。体は疾うに疲れ果て、精神は磨り減り、眠気を感じることの出来ない体で、響は只管に堪えていた。

 

 世の中の理不尽をこれでもかと味わった響が、尚も自分を捨てずに生きていられるのは天羽奏の存在と彼女の残した言葉があったからだった。

 

「生きるのを諦めるな、だったよな……? 奏さん……」

 

 人が簡単に煤となって死んで逝く地獄の中で、奏は確かに響に告げていた。文字通り命を賭けて自信を救ってくれた奏の言葉を響は胸に焼き付けていた。

 

(……死ねない。ここで死んだら奏さんに申し訳ない……!)

 

 故に響はどんな悲劇や不幸に苛まれようと、精神が擦り減らされようと死ぬという選択をすること無く生き続けている。

 

 体が冷えて震え出す体を抱え込むように丸くなる響。視界は暗く閉ざされて、早くこの雨が過ぎることを切に願う。

 

 すると、降り続ける雨が何かに遮られ、響の体に雨が掛からなくなった。それを不思議に思った響は、顔を上げて上を見上げた。

 

「よう、どうした? そんな捨てられた子犬みたいにずぶ濡れになってよ。風邪引いちまうぞ?」

 

 響の視線の先には、自分が濡れるのを構わず差していたのだろう自分の黒い傘を響の上にやって、響が雨に濡れるの阻止する少し着崩した黒いカッターシャツの上にワインレッドのスーツを着た背の高い男が立っていた。

 

 そして、この出会いから物語はそれから2年後の春へ──




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)状況が違う
──原作ビッキーよりも酷い状況に置かれてました。主に奏さんに助けられた云々のせいです。後は性別が男だったことから、容赦が無かったのです。政府の方々にも奏云々は耳に入っておりましたがこれが嘘か本当か、響がシンフォギアの存在を目にしたのかが分からなかったので政府も動こうにも動けませんでした。

(2)未来さんのお引っ越し
──これはシンフォギアXDの『翳り裂く閃光』のイベントの際に平行世界の未来が響の下からいなくなった理由を元にしました。今作では、突然の引っ越しではなく少しは一緒に過ごしておりました。

(3)ビッキーの家出
──未来がいなくなったことで守るべき対象が家族だけに絞られ、家族を救うには迫害を受ける自分がいなくなったら1番手っ取り早いと思い、響は家出をしました。

(4)響、ある男に拾われる
──オリジナルキャラです。今話ではまだ名無しでの登場ですが、ここから先の話で登場したら、その時に名前を出していきたいと思っています。

(5)響、魔改造への道
──今作ビッキーは最後に出会った彼の手によって魔改造の道へ。何が変わったかとかは、この先の話で少しずつ紹介していきたいと思っています。尚それでも頭と勉学は今一な模様。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 次回からは一気に飛んで原作の方に行きます。急展開ですが、ぐだぐだやって全然物語に入らないよりは良いと思ってそうします。

 それでは次回もお楽しみに!


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EPISODE 3 歌女との出会い

 どうも、シンシンシンフォギアー!(挨拶)

 今回は原作である2年後へ入っていきます! 2年後の響は一体どうなっているのか!?

 それでは、どうぞ!


 日が完全に昇り切っていない漸く頭を出し始めた太陽の暁光が射す早朝の高速道路を1台のバイクが駆け抜ける。

 

 今の時間帯は起きてる人は滅多におらず、いたとしても日々が忙しい社会人か、ゲームの廃人プレイヤーのように生活するにおいて、昼夜が逆転してしまっている変わり種ぐらいであろう。

 

 そのような時間帯の高速道路にはまず人がおらず、そのバイクはスピードを緩めるどころかガンガンスピードを上げながら颯爽と高速道路を駆け抜ける。

 

 高速道路を駆ける漆黒のバイクの横に取り付けられたサイドカーに座っている頭と目にヘルメットとゴーグルを装着した少年が、少し渋い顔をしながら運転手に話しかける。

 

「兄貴、急いでるのは分かるけどさ、もう少しスピードを落としたらどうなのさ!? 下手を仕出かして前の車とかと衝突なんて嫌だぞ、俺は!」

 

「何だ(きょうだい)、ビビってるのか?」

 

「いや、ビビるも何もこんなバカみたいな速度で走られたら誰だって注意するって!」

 

「じゃー俺はその誰かさんの中には含まれねえな。寧ろ俺はこれ以上にスピード出したいからな。それに俺のドラテクがあれば衝突なんて起こらねえよ。況してや今の時間帯で高速道路にいる人間なんて数が知れてる」

 

 サイドカーに乗る少年の意見をフルフェイスのヘルメットを被る兄貴と呼ばれた男は鼻で笑って一蹴する。それどころか男は再びスピードを上げた。

 

「おい、そろそろ見えてきたぞ」

 

 男が視線を横に向けて顔で指し示す方角を少年は見遣る。その方角には、巨大なドーム型の会場があり、その下には民家や建物がずらり並ぶ街並みが続いている。

 

「ここに来るのも、2年ぶりか。……もう、2年も経ったんだな」

 

 高速道路から街を見下ろし、感慨深そうに言葉を漏らす少年。それもその筈であり、この街はある意味で少年の今に繋がる原点とも言える場所だからだ。

 

「……今更言うのもアレだが、本当に良かったのか?」

 

「え?」

 

 街を眺め続ける少年に、視線を前に戻して運転に集中し直した男が訊ねた。

 

「仕事の都合で、俺は経済も安定しない紛争が長く続く外国諸国を回らなきゃいけねえ。この2年の間、お前には俺の仕事を影で手伝ってもらってきたが、今回ばかりはお前を連れて行く訳にはいかねえ。スピード重視且つ危険度の高い仕事ばかりで、文字通り足手纏いにしかならねえお前を連れては行けない」

 

「それは前も説明されたから大丈夫だ」

 

 少年はこの2年で男と共に数多くの仕事を渡り歩いてきた。しかし、男の仕事の都合で、少年は今回その仕事に追従することが出来ないのである。

 

「ああ。そこでお前が安全に暮らせる且つ不自由の余り無い場所に置くとなって俺が考えたのが、お前と俺の生まれ故郷でもある日本だった訳だ」

 

「……ああ」

 

 男は今回が潮時だと思い、少年を平和の暮らしの中に帰そうと思った。男は少年を彼の家族が待つ家に帰そうと思っていたが、少年はこれを拒否した。

 

「日本のお前の家に帰そうと思ってた矢先に、まさかお前が帰らねえとか抜かしやがるもんだからな。流石の俺も参ったさ。……もう、お前を苦しめたあの騒動も鳴りを潜めたのにな」

 

「……まだ、決心が着かないんだ。あそこは、俺が散々に打ち壊して、俺が自分勝手に捨てた場所だから。そんなおいそれと帰ることなんか出来ない」

 

 故に少年は帰らない。少年にとっての家とは、大切な家族がいる場所であり、自分がいたせいで滅茶苦茶にしてしまった負い目がある場所なのだから。

 

 その少年の言葉を、男は了承した。それも、少年の決心が固まらない間に帰ったところで結果がどうなるかだなんて男に予想がついていたからである。

 

「……そんなことを思ってるのは、お前だけだよ」

 

「何か言ったか、兄貴?」

 

「いや、何でも無えよ。で、次に俺はお前に行きたい場所はあるかって聞いた。そしたら、お前はこの街が良いって言いやがるもんだからな」

 

 男は困ったようにフッと笑いながら暁光の照らす街を見遣る。この街は、少年とは因縁浅からぬ場所であり、そんな街に近付きたがる人間はそうはいない。

 

「……この街は俺にとって、俺の記憶から消えない思い出と結びついてる場所だ。でも、大切なものを貰った大切な場所でもある。だからこそ、またこの街に来たかった」

 

 しかし、少年は違った。少年は敢えてこの場所を選んだのだ。少年の過去には過酷なものが多かったが、それ以上に少年は胸の中心にそれを上回るものをこの街で貰っていた。

 

 それを確認する為に、少年はここにやって来た。大切なものを再度確認し、また新しい一歩を踏み出せるように。

 

「……知らねえ間に逞しくなりやがって」

 

「まぁ、2年間も兄貴と一緒にいれば学べるものが沢山あったからな」

 

「ほ〜う? 例えば?」

 

「道理を通すってことだ! だから俺も自分が言ったことは曲げないし、俺なりに筋を通す生き方をするんだ!」

 

「成る程ねえ。少し立派になったもんだな」

 

「目の前にかっけえ背中があるんだ。その背中を追い掛けたくなるのが男ってもんだろ?」

 

「ハハッ! 違い無え!」

 

 感慨深そうな男の呟きから始まった上機嫌な言葉の遣り取りに2人は満面の笑みを浮かべた。しかし、その中で少年の顔が曇ったものに変わる。

 

「それに……見えなくなる前に少しでも追い付きたいじゃないか……」

 

「……」

 

 少年の脳裏に1人の男の顔と背中が過ぎるが、少年は直ぐに顔を振って脳裏の中に浮かんだイメージを振り払う。

 

(……ったく、変なところで不器用な奴だ)

 

 少年の動作の一部始終を横目で見ていた男は内心で独り言ちる。男には、ゴーグル越しのせいで少年が今どのような表情を浮かべているかは分からなかったが、発せられた声のトーンで少年の思いを察していた。

 

 沈んだ気持ちになりそうになっている弟分の気分転換の為に、男は別の話題を振って少年に気さくに笑い掛ける。

 

「にしても、別れる前にお前がちっとは成長してるところを見れて良かったわ。後は女を知れば、もう一人前の男だな」

 

「女を知る!? お、お、おおお、女を知るって、それって、ままま、まさか!?」

 

「応よ。文字通りの意味だ。要するに女作って一緒に寝るんだよ。そうすりゃお前も一人前の男だ」

 

 兄貴分の予想外の発言に驚いた少年は、顔を真っ赤にして口をパクパクと動かし、その反応を見た男は愉快そうに高らかに笑う。

 

「ハハハハハハハハハハ!! 何だよ、その反応! 女を抱くなんざ男として当たり前のことだろ!」

 

「お、俺はまだ15だぞ!」

 

「今年で16だろうが。それにしても遅えよ! 俺の初体験は中坊の時だったぞ!」

 

「それは兄貴がませてただけだろ、絶対に! それに俺には、兄貴みたいに良い女なんていないんだ!」

 

「何言ってやがる? いるだろ?」

 

「いるって、何がだよ!?」

 

「自分で言ってたじゃねえか。お前がまだ俺と出会う前に家族以外で唯一お前に寄り添ってくれた女の子がいたってよ」

 

 兄貴分にそう言われ、少年の脳裏に1人の少女の顔が過ぎる。何時も自分の側にいて、笑顔を向けてくれた、まるで陽だまりのような白いリボンの少女の顔が。

 

「……未来」

 

「そうそう。その未来ちゃんって子がさ」

 

「ッ!? 何言ってんだよ!? 未来とは幼馴染みなだけであって、別にそんな関係じゃない!」

 

「勿体無いなぁ。お前の話だと、その未来ちゃんって子はかなり可愛いんだろ?」

 

「……あぁ。未来は周りの女の子と比べると、凄く可愛かったよ」

 

 少年の記憶に残る陽だまりの少女は、常に少年に笑顔を向けてくれて、その笑顔はとても暖かく優しいものだった。

 

「そんな可愛い子がいるんなら、ガッツリ行って手に入れときゃ良かったものを。今頃は、別の男と引っ付いてイチャコラしてるんだろうなぁ〜。んん?」

 

「……別に良いさ。未来には、未来だけの幸せを掴んで欲しい。その中に俺がいなくても、俺は別に構わない」

 

 少年は今も幼馴染みを大切に想っている。だからこそ、少年は大切な幼馴染みの幸せを祈るのだ。離れ離れになって、もう会えないだろう幼馴染みの幸福に立ち会えないのだとしても。

 

「はぁ……俺はお前のその辺の考えは分からねえなぁ。そこだけは正反対だ。良い女がいたら、形振り構わずに手に入れに行くもんだろ」

 

「行く先々に現地妻みたいな人がいる兄貴と一緒にすんなよ!? この2年間を兄貴と一緒にいて、色々な場所を行く度に出会った女の数は両手両足の指の数じゃ足りないんだぞ!? それって、どう考えても可笑しいだろ!?」

 

「何も可笑しいことなんざ無えさ。女ってのはな、本能で男を仕分けしてるんだよ。こいつの存在は自分にとって色々な面でプラスかマイナスか、をな」

 

「色々って?」

 

「沢山あるだろ? 財力、知力、膂力、魅力、優しさ、顔とかのことだよ。そういうのを見積もって、この男との間なら優秀な子孫を残せるって無意識に思っちまう訳だ」

 

「……つまり、兄貴は優秀な人間ってことか?」

 

「いやいや、俺自身は別に俺のことをそこまで高く評価してる訳じゃないさ。まぁ、それでも女が寄って来るってことは、そこそこ優秀な人間なじゃねえのか、俺は? それか、余程女の周りにいる男共が無能なのかもな」

 

「ハハハ……」

 

 口ではそう言いつつも何処か上機嫌な言動にこれ以上無い程の自信の有無を感じた少年は、口元を引き攣らせて愛想笑いを浮かべていた。

 

「要するにだ。飛びっきりの極上の肉(有能な人間)ざらざらした唐黍のパン(無能な人間)のどっちが良いかって質問だよ。その結果、俺にしこたま女が寄って来て、俺もガッツリ肉食なもんだから、お互いにWIN-WIN(ウィンウィン)の関係に落ち着くんだよ」

 

「……無茶苦茶だ。言ってること、全然分からねえ」

 

 謎の持論を語る兄貴分にうんざりとした表情を浮かべる少年。隣で溜め息を吐く弟分を一瞥した男は、軽く笑ってから少し話を変える。

 

「まぁ、アレだ。これから暫くの間はお前とは会えなくなる訳だからな、ここでお前に俺がこの約40年で独自に学んだ、女についてのワンポイントアドバイスを教えよう」

 

「アドバイス?」

 

「そう、アドバイスだ。良いか? 良い女ってのはな、(こぞ)って色々と抱え込ん仕舞うもんなんだ。特に身内には心配掛けさせない為に隠し通す。そういう女ってのは怖いもんだ。迂闊にその女の心に踏み込もうものなら、一瞬で爆発してズタボロにされちまう。謂わば、ニトログリセリンみたいなもんだ。ニトログリセリンについては、扱い方を何度か教えたから分かるだろ?」

 

「……女っておっかない」

 

 女の例えとして挙げられたニトログリセリンという存在を知っていた少年は思わず身震いした。

 

「だけどまぁ、そこが狙いどころさ。そういう女ってのは、誰しも自分の心の内を素直に()つけられる存在を欲してる。当たり散らされるのは、心の内を打つけられてんだよ。その台風みてえな女の想いを全部受け切って突き進めば、あらビックリもう大丈夫ってなるんだよ。その時にはもう既に台風の目、要するに女の心の内側にいるのさ」

 

「何で大丈夫なんだ?」

 

「女の心の内にはもう何も残ってねえからだよ。女の想いを全部受け切るってことは、女の心の内の不平不満その他諸々の全部を吐き出させるってことと同じだ。勿論女の本音や有りの儘の自分を隠す仮面や壁もな。そうなれば、隠す仮面も隠れる壁も無え。で、女は後は受け入れるしかなくなるのさ。自分の本音や情けない姿を見られて尚、自分を受け入れてくれる相手を無下には出来ねえからな。良い女ってのは、総じてそういうもんだ」

 

「……言ってること、全然分からねえ」

 

「今は分からなくても良いんだよ。年を食えば勝手に分かってくもんだ。そうするには、まず相手の心の確信を突いて、敢えて地雷を踏み抜く必要があるもんだが……お前のその辺は俺が教えなくても大丈夫だろ」

 

「何でだよ?」

 

「お前は人の地雷を踏み抜く天才だからだよ、響!」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら告げる男に、少年──立花響は心外だと言わんばかりに文句を述べ続けるのだった。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 時間が経ち、太陽も完全に顔を出した青空の下で無事に街に入った響は、バイクの後ろに紐で何重にもキツく結び付けていたスポーツバックを肩に担いでいた。

 

 今の響は目深く被ったフード付きの真っ黒のパーカー、カーキ色のストレートパンツ、灰色のスニーカーという装いで、目深く被ったパーカーが不審者臭を醸し出していた。

 

 響と対面するように体ごと響の方を見てバイクに乗っている男は、今はヘルメットを取っていた。そのお陰で隠されていた顔が露わになっている。

 

 黒の長髪を全てオールバックにして後頭部下部で括った端正な顔立ちの青年は、缶コービー片手に響と談笑していた。

 

「それじゃあな、(きょうだい)。政府関係者に捕まるようなことは絶対にするなよ? お前は色々と立場が複雑なんだからよ」

 

「その言葉はそっくりそのまま兄貴に返す」

 

「俺はそんなヘマはしねえよ。にしてもだが、住まいを手配しなくて本当に良かったのか? 俺の手に掛かれば、住居の1つや2つは簡単に用意出来たぞ?」

 

「この2年間散々兄貴の世話になってきたんだ。それなのに暫くの別れの間際でも兄貴に頼る訳にはいかないさ。幸い荷物も今持ってるこれだけだし、住まい探しは俺だけの力でやり遂げてみせる」

 

「そうかよ。なら、その辺はもう何も言わねえよ。けど、もし本当にどうしようもならなくなったら俺を頼れ。すぐに住まいを手配してやるよ」

 

 すると、唐突に男の顔がニヤけ出して辺り一面を見回し始め、その顔と行動を見て何をしているのか悟った響はチベットスナギツネのような目で兄貴分を睨んでいた。

 

「それにしてもやっぱり朝の時間帯は良いもんだ。なぁ、(きょうだい)

 

「……念の為に聞くけど、何を見てるんだ兄貴は?」

 

 訊ねる響に対して兄貴分は見ている方角を顎で指す。響がその方角に視線を向けると、その先には学校へ登校中の制服姿の女の子達がいた。

 

「いやぁ、良いねぇ。登校中の女子高生ってのはさ。全員が制服だからこそ、ひとりひとりの女の子達の個性的な違いがしっかり浮き出るものだ。それに青いバナナや青い林檎みたいに、未熟性だからこそ手を出したくなる好奇心ってのが駆り立てられる」

 

「……一応言っとくけど、手を出すなよ」

 

「出さねえよ。俺の対象は18歳以上だからな。まぁ、18歳以下でも良い女だったら狙いに行くかもだけど」

 

「おい!そんなことしたら、兄貴のことを警察に突き出すし、名前も言い触らすからな!ちゃんと名瀬(なぜ)黎人(れいと)って名前で!」

 

 本気でツッコミを入れる響に対して、手でジェスチャーしながら「怒るな、怒るな」と笑いながら響を宥める男──名瀬黎人。

 

 名瀬黎人。それが男の本名であり、彼こそ、2年前に偶然にも逃亡中だった響と出会い、彼を理不尽な地獄から助け出した張本人だった。

 

「そいつは困るな。なら、そうなる前に俺は退散させてもらうぜ」

 

「俺がいないからって女遊びに惚けるなよ」

 

「そいつは保証し兼ねるな。何せこの2年間はお前と一緒だったせいで、ロクに女といちゃつく暇も無かったからな。ここ暫くはそっち方面に力を入れるかもなぁ?」

 

「この人はぁ……っ!」

 

 悪戯小僧のような笑みを浮かべて飄々と答える黎人に、響は怒り半分呆れ半分といった感じで言葉を吐き出す。すると、間髪入れずに黎人の手が伸ばされ響の頭に置かれた。

 

「まぁ、お前との暮らしは悪くなかった。いや、寧ろ楽しかったぜ。お前の笑顔は見てて気持ち良いものだったからな。今度また会う時に同じものを見せてくれ」

 

「……兄貴も元気でな」

 

「ああ。達者でな、(きょうだい)

 

 黎人はハンドルに引っ掛けていたヘルメットを被り、軽く手を振るジェスチャーをした後にバイクのエンジンを吹かせてその場を後にした。

 

「俺も行くか」

 

 兄貴分の姿が見えなくなるまでの間、その後ろ姿を動かずに見送り続けた響はそう言うと、肩に担いでいたスポーツバックを担ぎ直してから歩き始めた。

 

 黎人と別れ、暫く街の中を当ても無く彷徨い歩いていた響だったが、現在の響は絶賛気不味さというものを深々と感じていた。

 

(……気不味い。何が気不味いって、周りの女の子からの視線が何よりも痛い。だから気不味い)

 

 響は朝の登校途中の同年代の女の子多数からの視線に晒されていた。

 

 この近くには、私立リディアン音楽院という音楽学校の高等科の校舎があり、響に視線を注いでいる女子高生の殆どがそこの生徒だった。

 

 私立リディアン音楽院──通称リディアンは、女子校の学び舎であるが故に男子生徒は存在せず、今響が歩いている歩道はリディアンが保有する寮に住まう女の子達が活用する通学路である。

 

 そんな大勢の女の子達がいる中で口元しか見えないような目深くフードを被った響の存在は大いに目立つのだ。それもパーカーの黒色であることが余計に女の子達の警戒心を煽っている。

 

 時間が経ち、方角的にもますますリディアンの近くへ歩いている為に周りの女の子達は減るどころか増えていく一方である。

 

「ねえねえ、あの人ってさ──」

 

「──何か見た目的にまるでアニメね、あの人」

 

「幾ら何でも失礼ですよ。あちらの方にも何か理由があって、あの格好をしていらっしゃるのかもしれないのですのに」

 

 加えて視線が集まるだけじゃ無く、周りの女の子達は響の格好を見て各々の考えを話し始めたのだ。視線だけならまだ響も気にはしなかったが、流石に話題の的にされるは遠慮したいものだった。

 

 響は周りの女の子達の話を聞かないように、そっとスポーツバックからヘッドホンを取り出し、黎人から貰ったスマートフォンに接続して音楽を聴き始めた。

 

 響のヘッドホンから流れる曲は、“ツヴァイウィング”の“ORBITAL BEAT”という歌で、本来なら2年前のライブの際に“逆光のフリューゲル”の次に歌われる筈だった歌である。

 

(……そういえば、リディアンって翼さんが在学してる学校だったよな)

 

 “ツヴァイウィング”の曲を聴いていたことで唐突にそのことを思い出した響。それと同時に響の脳裏にはまた別のことが思い出された。

 

(……奏さんとの約束)

 

 それは響が生きるか死ぬかの間際の時に奏との間に交わされた約束。もし、彼女の相棒である翼と関わりを持つようなことがあったら、その時は翼のことを頼むと言われた約束のことだ。

 

 あの2年前の惨劇後、“ツヴァイウィング”の片翼である天羽奏が亡くなったことで“ツヴァイウィング”は強制解散となり、風鳴翼はソロ活動にて1人でアーティストを続けることになった。

 

 結局、あの惨劇を生き延びはした響だったが、その後の悲劇や彼を拾った黎人と共に世界各国を回っていたこともあって、その約束は有耶無耶になり掛けていた。

 

(こうして、この街を歩いていたらバッタリ翼さんと出会したりは……しないか、普通)

 

 何処のギャルゲーだよ、と響は内心で吐きすてるのだった。

 

 歩道を歩いていた響の前の信号が赤信号に変わり、それを見ていた響は足を止める。響が足を止めた信号は歩道と道路が十字形の交差点になっていて、響から見て左側の歩道から更にリディアンの生徒達が集まってくる。

 

 大所帯となった女の子の集団の中で1人異色の格好をしている男の響は、非常に気不味い空気と更に追加された視線を犇々と感じていた。

 

(……どうしてこうなった。あまり目立ちたくないから地味な格好してるのに)

 

 どうしても何も、それは響がフードを目深く被っているのが原因であるのだが、悲しいことにバカな響はそれには気付かない。早い話がフードを取れば良いのだが、2年前のことがあったせいで響はフードを取るに取れないのだった。

 

(このままじゃいけない。そうだ! 適当にブラブラ歩いてたからこうなったんなら、目的地を定めて行動すれば良いんだ!)

 

 そう思い至った響は、手頃な場所を検索する為に携帯を取り出して弄り始めた。だが、ふと響が前を見ると、横断歩道に中身がある上履き袋が落ちていた。直後、響の横を人影が通り過ぎていった。

 

 人影の正体はまだ小学校低学年くらいの女の子で、駆け足であった女の子は上履き袋の前で止まってそれを拾う。自分の物なのであろう上履き袋を拾った女の子は、その場で安堵してニコニコと笑顔を浮かべていた。

 

 しかし、響の前にある信号は既に赤色になっているのだ。すると、今まさに女の子がいる車線上を通ろうとしている車が猛スピードでやって来た。

 

「ッ!」

 

 それを見ていた響は、肩に担いでいたスポーツバックをその場に落とし、手に持っていたスマホを投げ捨てて走り出した。投げ捨てられたスマホからヘッドホンのコードが抜け、それなりの音量でスマフォ本体から流れる“ツヴァイウィング”の“逆光のフリューゲル”をBGMに駆ける響。

 

 車の運転手は女の子に気付いてブレーキを掛けようとするも未だに止まる気配は無く、自分に向かって来る車を見た女の子も呆然と立ち尽くしてしまっている。

 

 もう間に合わないと誰もがそう思った直後、響は掬い上げるように女の子を抱き抱えて、その場から前に向かって勢い良く跳んだ。

 

 女の子を抱き抱えた響は、跳んだ際の勢いもあって上手く着地の姿勢を取れずに跳んだ先で転がり、アスファルトの地面を背にする形で止まった。

 

「大丈夫か?」

 

 自分の上に乗る女の子に安否を訊ねる響。

 

「うん、大丈夫だよ! ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 蹲るように響の腕の中にいた女の子は、顔を上げて自分の身の無事を花のような笑顔を浮かべながら答えた。それを見た響は安堵し、良かった良かったと女の子の頭を撫でた。

 

 すると、周りから拍手の音が鳴り響いた。拍手に混じって聞こえてくるのは、女の子を身を呈して助けた響への賞賛の声であった。

 

「よし、大丈夫なら今度はちゃんと信号に気を付けないとダメだぞ」

 

 響はそう言いながら立ち上がりつつ女の子を降ろす。

 

「はーい! ありがとう、お兄ちゃん! またねえ!」

 

 女の子は元気一杯に響が言ったことに返事を返し、これまた元気一杯に手を振りながら再度お礼の言葉を言って走って行くのだった。

 

 賞賛の拍手がまだ続く中、響は照れながら周りを見て後頭部を掻きつつ自分がスポーツバックを落とした場所に戻る。

 

(えーっと、スマホは……)

 

 スポーツバックを肩に担ぎ直した響は、流石に気恥ずかしくなって早急にこの場から離れる為に先程投げ捨てたスマホを探し始める。

 

 すると、ある1人の人物が人混みの中から出て来て響の眼前までやって来た。下を見ながらスマホを探していた響は、自分の前に立った人の顔を見る為に顔を上げ、そして固まった。

 

「か、風鳴、翼……さん!?」

 

 そう、今響の目の前には、あの風鳴翼がリディアンの制服に身を包んで立っていたのだ。

 

 しかし、その風鳴翼は響が最後に見た彼女とは違い、冷たい目をして何処か冷めたような表情をしている気がしていた。

 

(えっ、ど、どうして翼さんが!? 俺何かやらかしたか!? それとも俺があの時に奏さんに助けられた奴だってバレたのか!? ずっとフードを被ってたからバレる要素なんて何処にも!?)

 

 しかし、そう思っていても、突如自分の前に現れた風鳴翼に未だに大ファンである響は、落ち着かない思考を繰り返しながらテンパっていた。

 

「え、あ、あの、その……!?」

 

「これ」

 

 未だにテンパって口籠もる響に翼は淡々と手を差し出した。その手には響のスマホが乗せられていた。どうやら、落ちていた響のスマホを親切に届けに来てくれただけのようだ。

 

「あ、俺のスマホ! ありがとう、ございます……」

 

 翼の手から粛々とスマホを受け取る響。見た所によると、投げ捨てたのにも関わらず響のスマホには運良く傷が1つも付いておらず、“逆光のフリューゲル”が無事に流れ続けていた。

 

 スマホを見付けてくれて、剰え響の下まで持って来てくれたのは響にとって嬉しかったが、まさか歌を歌っている本人に流れる曲を聴かれたことに響は気恥ずかしくなった。

 

「……先程の行為は確かに素晴らしいことだったわ。でも、軽はずみに自分の命を易々と賭けるのは止めておきなさい」

 

「えっ?」

 

「あなたに万が一があれば、あなたのことを想って涙を流す人もいる。それに、あなたの代わりは何処にもいないのだから……」

 

 翼はそれ以上は何も言わず、響の返答を聞かずにそれだけを言い残して響の横を通り過ぎていった。

 

 あの大人気アーティストの風鳴翼と話したことで再度響に周りからの視線が集まる。それに気付いた響は、その視線から逃れる為にそそくさとその場を立ち去るのだった。

 

「……響?」

 

 しかし、響は気付いていなかった。その場から立ち去る響の背中を見詰めながら、彼の名前をボソッと呟いた白いリボンの少女の存在に。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)バイクに乗って登場(サイドカー)
──今作ビッキーは、前話の最後に出て来た彼と共に原作が始まるまでの2年間世界中を色々な仕事をしながら回っていました。よって、原作ビッキーのようにリディアンには入学していません。

(2)名瀬黎人
──今のところは謎多き男。彼こそが前話で響と出会った男であり、今まで響の面倒を見てきた。無類の女好きであり、響のことを弟のように思っていて彼のことを(きょうだい)と呼び、響もなんだかんだ言いつつも黎人に信頼を寄せていて、親しみを込めて黎人を兄貴と呼ぶ。

(3)高い身体能力
──今作ビッキーは、黎人と共に幾つか危ない仕事をしてたこともあり、そのお陰で原作ビッキーよりも原作開始時点の身体能力の初期値が高い。よって、子供を車の事故から救うなんて芸当も出来ちゃいます。まぁ、身体能力が高いせいで原作ビッキーよりも無茶仕勝ちな傾向にある模様。

(4)翼との出会い
──原作のような食堂ではなく、通学路で出会う響と翼。目の前で命を張った響へ忠告をする翼。それは命を燃やして人々を守った己が片翼の姿を幻視したせいか、それとも……。

(5)白いリボンの少女
──察しの良い方は既に見当が付いているであろうあのお方(ラスボス)。顔もよくは見えていないし、声もあまり聞き取れていないのに直感だけで気付いていくスタイル。流石はラスボスと言ったところか。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 次回は覚醒回! 恐らく適合者の皆さんならご存知であり大好きなあの人の台詞が出るかも! 分からない方には後にLiNKERを配布しますのでご使用下さい。

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 4 覚醒の鼓動

 どうも、シンシンシンフォギアー!(挨拶)

 今回は前話の後書きで言ったように覚醒回ということで、原作第1話と同じタイトルを使用しております。今後もこういう風に原作のタイトルは()()く使っていきたいですね。

 それでは、どうぞ!


 時間が経ち、その日の時間帯は既に夕暮れ時を迎えていた。

 

 昼に大好物の牛丼(ごはん)カレーライス(ごはん)の大盛りを完食した響は、見付けた公園の原っぱの上に横になっていた。

 

「自衛隊、特異災害対策機動部による避難誘導は完了しており、被害は最小限に抑えられた……か」

 

 横になっている響は、自身のスポーツバックを枕代わりにしながら手に持ったスマフォで情報をサイトを閲覧していた。

 

 そのサイトに載っていたのは、特異災害であるノイズの出現と被害、事の顛末についての情報だった。

 

「……ここから、そう離れてないのか」

 

 スマフォのページを捲った響が次に目にしたのは、そのノイズが何処で発生したのかの情報だった。詳細によると、発生したのは昨夜の深夜で、場所は現在響がいるこの街からそう離れていない場所だった。

 

「……」

 

 暫く無言でスマフォを眺めていた響だったが、スマフォをスリープモードにして枕代わりのスポーツバックの中に仕舞った。

 

(ノイズが出たってことは、翼さんはまた戦ってたのか? ……1人で)

 

 響の脳裏に思い出されるのは、あの日ノイズに立ち向かっていった奏と翼の姿だった。

 

 響はその時のことを鮮明に思い出すのと同時に自分の胸の真ん中に手を置いた。そこから人差し指と中指を揃え、なぞるように手を動かす。

 

 響が服の上からなぞるように触った箇所には、まるでアルファベットの“f”のような形をした傷跡あった。その傷跡は2年前の惨劇の時、響の胸に奏が振るっていた槍らしきものの破片が突き刺さった際に出来たものだった。

 

(あの日、俺を助けてくれたのは奏さんと翼さんの2人、“ツヴァイウィング”の2人に間違いなかった)

 

 あの時に確かに“ツヴァイウィング”が戦っていたのを響は目にしていたし、何よりも響の記憶には奏が最後に歌った歌が焼き付いていた。

 

(けど、退院してから聞いたニュースだと、世界災厄のノイズが原因で奏さんや大勢の人の命が犠牲になったことだけが報道されていた)

 

 しかし、響が後に聞いたニュースでやっていたのはどれだけの被害があったのかというニュースだけで、奏と翼がノイズと戦っていたという情報は1つも流れていなかった。

 

(戦っていた“ツヴァイウィング”は俺が瀕死の中で見ていた夢か幻だったのか? ……いや、それは無い)

 

 あの時の光景が都合よく自分が見ていた夢幻だったのかと、一瞬自分に疑心を持ち掛けた響だったが直ぐに真っ向からそれを否定した。

 

(あの時の痛み、あの時の感覚、何よりも……あの時の奏さんの歌を、俺は覚えている)

 

 胸を抉られた痛みと意識が遠くなっていく感覚、それに奏と交わした言葉の全てと彼女の最後の歌とその最後を、響は今も覚えているのだ。

 

(もう1度、翼さんに会わないといけない理由が出来たな)

 

 それは真実を知る為に。翼ともう1度会うことが出来れば、あの時に一体何が起こっていたのかを知ることが出来るような気がするのを響は直感的に感じていた。

 

(それに、もしあの時のことが真実なら、翼さんはきっとノイズと戦い続けている筈だ。なら、今こそ奏さんとの約束を果たすべき時なんじゃないのか?)

 

 再び脳裏に蘇る奏との約束。あの時のただの民間人だった頃の響と今の響とでは送ってきた生活と潜ってきた修羅場に凄まじい差がある。それを自負している響は、今の自分なら何らかの形で役に立てるのではないかと思った。

 

(それに今朝会った翼さんの目は……何処か悲しいものだった気がする)

 

 響には朝に見た翼の目が、とても冷たい悲しい目をしているように見えていた。その冷たい目が誰もが近寄り難くなるようなオーラを醸し出していた。

 

(それに……たぶん泣いてた)

 

 これはただの響の直感である。しかし、それは兄貴分とと共に世界を回り、幾度も世界の清濁を直で見たことで研ぎ澄まされた獣の第六感が如き直感である。

 

(直接泣いてた訳じゃない。でも、翼さんの中であの事件は終わりを迎えていない。だから、あんなに悲しい目をしてたんだと思う)

 

 そう響は検討を付けた。そして、響は決心する。もう1度翼と会い2年前の事の真相を知り、そして奏との約束を果たすのだと。

 

 響が翼のことをどうにかしようと思っているのは、何も奏との約束があるからだけではなかった。響が翼の大ファンであるということもあるが、何よりも大きいのは──

 

「やっぱ、男としては女の子には笑っててほしいんだよな。翼さんって美人だから、笑ったらきっとウンと可愛いだろうし、どうせならあんな悲しい顔よりも笑った顔の方が見たい!」

 

 単純に響が翼の笑った顔が見たかっただけだった。響の行動原理にそれ以上もそれ以下も無い。響が動くのは、何時だって誰かのことを思うが故であり、響自身が誰かの笑う顔が好きだからだ。

 

「って、あぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

 何かを思い出したのか、響は体を起き上がらせて唐突に奇声を発した。その音量はかなり高く、響のいる公園全域どころか、周辺地域にまで及び、奇声を発した響の近くにいた人々の視線は響に集中したのだった。

 

「今日って翼さんのCDの発売日じゃねえかぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 どうして忘れた俺ぇぇぇぇぇぇ、とまるでヘドバンのように頭を振り続ける響。何を隠そう今日は風鳴翼のニューシングルのCDの発売日なのである。

 

「初回限定生産版の初回限定特典のレア物がぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁっ!?」

 

 しかも初回限定生産版に初回限定特典まで付いてくるレア物である。風鳴翼の大ファンである響として喉から手が出る程に欲しい是が非でも手に入れなければならない代物だった。

 

「早くしないと売り切れるっ!? どうして俺はこんな大事なことを俺は忘れてたんだぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 慌てふためき焦りながら大事なことを忘れていた自分に嘆く響。悲しいことに響には複数のことを同時に考えて脳の中に留めておくなんて器用な真似は出来ないのが原因であった。

 

「こうしちゃいられねぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇっ!?!?」

 

 言うが早いか、響はその場から腕だけの力で勢いよく立ち上がり置いてあったスポーツバックを肩に担いで駆け出した。

 

 一陣の風となって走る響。その速さは、肩に荷物を担いで激しい動きを想定して作れらた服でないのにも関わらずにかなり速さを誇り、50m走を走らせれば6秒台を余裕で切る速さであろう。序でに言うなら、響と同年代の男子の平均は7.47秒だったりする。

 

 歩道を駆け、人混みを瞬時に掻い潜り、障害物を飛び越えて一気に目的の物を目指して全力疾走する姿は、通行人の方々からしたら奇怪な光景に見えていた。

 

「な、何、あれ……!?」

 

「あの動き、まるでアニメね!?」

 

「というよりも、先程の方って今朝にお見かけした方ではないでしょうか?」

 

「凄え!速え! ヤベーイ!」

 

「アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 

「俺が遅い!? 俺がslowly!!? 冗談じゃねぇ!!!」

 

 下校中のリディアンの生徒達、付近住民の少年、通行人のおっさん、明らかに速そうな青年、以上が響を見掛けた人々のリアクションであった。序でに言うなら、響はNINJAではない。

 

 このように周りを唖然とさせながら走る響だが、彼は1つ重要なことを忘れていた。それは、この街に来てから考え事をしてばかりで、すっかり住まいのことを忘れていたのだ。

 

 兄貴分にあれだけ啖呵を切っておきながら、何とも情けない響であった。

 

「CD! 特典! CD! 特典! CD! 特典! CD! 特典! CD! 特典!」

 

 壊れたオモチャのように2つの言葉を交互に言い続けながら走る響。最早今の響の頭の中には、その2つの物のことしか残っていなかった。

 

 それ故に響は気付かない。自分が向かっている方角に行くに連れて人の賑わいの声が少なくって言っていることに。

 

「ッ!」

 

 そんなバカみたいなスタミナを持ち先程からずっと走り続けていた響が突如足を止めた。それは遂にスタミナが切れたとか、響が唐突に足を痛めたなどの身体的な異常が理由ではなかった。

 

 響が足を止めた理由。それは、響の脳裏に深く焼き付けられた光景の一部分が響の目に映ったからだった。響の目に映ったもの、それは風に乗り宙を舞う黒い粉、人々に煤と呼ばれているものだった。

 

「は?」

 

 呆然とした様子で目を見開いた響が周りを見渡す。窓ガラス越しに見えるコンビニの店内は、商品の棚が荒らされたように棚ごと乱れ、通路やレジといった節々の場所に煤の山が出来上がっていた。

 

 建物と建物の間の路地裏に続く道の入り口の隅にも煤の山が出来上がっていて、その形は人が凭れ掛かっていたかのような人に近しい形状を取っていた。

 

 そして、歩道や道路問わずに積もられた煤の山の数々を見て響の脳裏に浮かんだ記憶と今の光景が合致したことで、響は何が起こったのかを全て理解した。

 

「ノイズッ!」

 

 この光景を作り出した原因たる存在の名前を声に出して力強く言う響。その響の目が鋭くなり、手に力が込もって拳が強く握られる。

 

 今、響の脳裏には2年前の惨劇の記憶が鮮明に蘇っていた。

 

「嫌ぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

 その時、誰もいなくなった街に悲鳴が鳴り響いた。それは明らかに悲鳴で、その悲鳴を聞いた響は肩に担いでいたスポーツバックを投げ捨て、視界を遮り走るのに邪魔なフードを取り声が聞こえてきた方角へ駆け出した。

 

「何処だっ! 何処にいるんだっ!! 返事をしてくれっ!!!」

 

 響は怒鳴るように声を張り上げながら声が聞こえてきた方角へ駆ける。

 

「助けてぇぇぇぇぇぇえええええぇぇぇぇぇっ!!?」

 

 その響の声に間髪入れずに助けを求める声が響く。響は、改めて声が聞こえてきた方角へ進路を修正して走る。

 

 すると、響の進行方向前方にある曲がり角から1人の女の子が飛び出してきた。

 

「見付けたっ!」

 

 それを見た響は走るスピードを更に速め、擦れ違い樣に掻っ攫うように女の子の体を抱き上げてそのまま走り抜けた。その時、響が視線を女の子が逃げてきた方へ向けると、その先には幾多ものノイズが走り迫っていた。

 

「お兄ちゃん……!」

 

「大丈夫だ! 助けに来た!」

 

 取り敢えずは女の子を安心させる為に兄貴分のように軽く笑みを作って笑い掛ける響。通り過ぎてかなりの距離が開いた後ろの曲がり角を響は一瞥し、そこからノイズが自分達を追い掛けて来ていることを確認して舌打ちをする。

 

「チッ、あいつらしっかりと俺達をマークしてるな」

 

 更にスピードを上げて距離を離そうとする響は、ちんたら避難用のシェルターを探すよりも手っ取り早く逃げる為の手軽な逃走道具を探して周囲を見渡す。

 

「ん? あれは……!」

 

 響は逃走中の進路の先の車道にバイクを見付けた。しっかりとサイドスタンドがされていて、シェルターに逃げる際に邪魔だから乗り捨てられたものだろう。

 

 響は一目散でバイクに駆け寄り使えるかどうかを素早く調べ始める。バイクに鍵は刺さっていて、走らす為の燃料は問題無いどころか十分過ぎる程に入っている。

 

「鍵も刺さってて、燃料も問題無い。ヘルメットもある。しかも、俺が大好きなオフロード物だ。こいつは良い」

 

 響は抱えていた女の子を真っ先にバイクのシートの前に乗せ、その後ろに搭乗する。バイクにエンジンをかけ、常備されていていたフルフェイスのヘルメットを女の子の頭に被せる。

 

「しっかり被っといてくれ。それとこれからバイクを動かすから、俺を信じて()()く動かないようにしてくれ。出来るか?」

 

「うん。……お兄ちゃん、運転出来るの?」

 

「あぁ、ハワイで兄貴に習った! けどまぁ、無免許の違法運転だけどな!」

 

 訊ねてきた女の子に、響は脱いだ自身のパーカーで女の子と自分自身を括り付けながら笑って答える。

 

「あいつらもう来たか!? しっかり掴まっといてくれ!」

 

「う、うん!」

 

 すぐそこまでノイズが迫っていたのを確認した上半身が黒のタンクトップ1枚の響は、最後に女の子に忠告をし、女の子が返事を返したのと同じタイミングでバイクを出した。

 

 そこに間髪入れずにノイズが形状を変化させて響達を強襲して、先程まで響達がいた道路のコンクリートが抉られた。その直前にバイクを出していた響達は九死に一生を得たのだった。

 

「危ねえ……! 流石オフロード車、初速の速さは伊達じゃないな!」

 

 かなりギリギリだったことに肝を冷やした響は、バイクのミラーを一瞥してノイズがまだ自分達を追ってきているのを確認して更にバイクを加速させた。

 

 響がバイクでノイズとの生死を懸けたレースを繰り広げている一方で、風鳴翼はとある施設の一室に足を運んでいた。

 

「状況を教えて下さい!」

 

「現在、反応を絞り込み、位置の特定を最優先としています」

 

 駆け足で入って来てノイズの出現位置を訊ねる翼に、複雑な機器を操作していたオペレーターと思わしき男性がマイクを通じて室内にいる全員に声を届かせる。

 

 その中で、勇ましい顔の男と眼鏡を掛けた女性は映し出された中央のモニターを神妙な表情で見ている。ノイズの反応が映し出される画面を見ていた翼の表情が強張ったものに変わっていく。

 

「……ノイズの反応が南に移動していっている。まるで何かを、いや、人を追い掛けているのか?」

 

 モニターに映るノイズの反応の動きを見て、勇ましい顔の男は独り言ちるのだった。

 

 一方、バイクを全速力で走らせて女の子と共にノイズから逃げる響も目付きを鋭くしていた。

 

(しまった。ノイズから逃げるのに夢中でシェルターからかなり引き離された……!)

 

 ノイズは、出現から一定時間後に自壊する性質を持っており、その自壊を待ちノイズから身を隠す為にあるのがシェルターというものである。

 

 しかし、響がバイクを走らせている方角はそのシェルターとは真逆の方向であり、響はそのことに焦りと危機感を感じているのだ。

 

(せめて……! せめて、この子の命だけでも!)

 

 逃げる度に危険度が増していく今の悪循環の中で、響は今自分の前に座る小さな命を助けようと必死に行動しているのだ。

 

「お兄ちゃん! あれっ!?」

 

 女の子が指し示したバイクの進行方向には橋があり、更にその先に無数のノイズが待ち構えていた。

 

「なっ!? くそっ、バイクを捨てるから何が起こっても良いように覚悟しておいてくれ!」

 

「う、うんっ!」

 

 女の子の怯えながらもしっかりと返された返事に、響は満足してバイクを橋の歩道に滑り込ませ、橋の丁度中間に差し掛かった辺りでハンドルを手放し、女の子の体を抱き抱えながらバイクを踏み台にして跳んだ。

 

「目を瞑って鼻を摘まめぇ!」

 

「うん!」

 

 女の子は響に言われた通りに目を瞑り手で鼻を摘まみ、響は自分の背中を空中で下にして橋の下を流れる川に着水した。

 

 その直後、響が乗っていたバイクは転倒し、火花を散らせながら勢いに乗って滑りノイズに激突して爆発した。しかし、爆発から出て来たノイズに外傷は無く無傷だった。

 

 響は女の子を抱えながら川から頭を出し、再びノイズからの逃走を図る為に川の流れに乗って移動し始める。

 

「げほっ、げほっ!」

 

「大丈夫だ。お兄ちゃんが付いてる! しっかりお兄ちゃんに掴まるんだ!」

 

 まだ寒さが残る春の川に体力を奪われていく女の子を鼓舞しながら流れに乗って泳ぐ響。

 

(俺は良いけど、このままじゃこの子の体力が持たない……!)

 

 そう判断した響は適当な場所で川から上がり、今度は女の子を背中におんぶしてパーカーをキツく結び直してから走り出した。

 

──生きるのを諦めるなっ!!──

 

 思い出される奏の言葉を胸に響は走った。ただひたすらに走り、走り続けた。自分の命も、自分の手にある女の子の命も諦めない為に。

 

 走り続けた響は、無人となった工場地帯まで逃げ込んでいた。太いパイプを次から次へと飛び越え、距離を稼ぐ為にかなりの高さまで続く梯子を頂上まで登り切った。

 

「ぶはぁ!? ここまで、来れば、流石に大丈夫だろ!」

 

 公園を出た時から体力を使いっぱなしだった無尽蔵な響のスタミナも流石に限界に達し、響は登り切った屋根の上で腰を下ろして座り込み、肩を上下に揺らしながら荒い呼吸を繰り返す。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 響が背負っていた女の子も大逃亡の果てに限界を迎え、体を横にして小さな体で荒い呼吸を繰り返していた。

 

「死んじゃうの……?」

 

 今にも泣き出してしまいそうな声音で女の子は弱音を漏らす。それを聞いた響は、疲れていながらも優しい笑みを浮かべて女の子の頭を撫でた。

 

「大丈夫だ。俺が、お兄ちゃんが絶対に守る」

 

 目を瞑り優しい笑みを浮かべながら首を振る響。だが、響が不意に別の方向を一瞥した時、無数のノイズが響の視界に映り込んでいた。

 

「うわぁうぅぅぅぅぅっ!?!?」

 

「勘弁してくれよ……!」

 

 何時の間にか背後に立っていたノイズに、女の子は怯えて響に張り付き、響は女の子を守るように抱き締める。そんな響達を前に、ノイズは開いた距離を埋めるようにじわりじわりと詰め寄っていく。

 

(終われない……こんな所じゃ終われない!)

 

 この絶望的状況の中で、響の目は絶望に飲まれること無く、寧ろより一層の輝きを灯していた。女の子を抱き締める響の腕に力が込もる。

 

「生きるのを諦めるなっ!!!」

 

 2年前に奏が響に向かって送った言葉を、今度は響が自分の腕の中で諦めそうになっている女の子に向けて送る。

 

「……Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 その時、1つの歌が無人の工場地帯に響き渡った。その直後、響の胸から発せられた橙色の凄まじい光が辺り一帯を照らし、1つに纏まった光が柱となって天高く昇った。

 

「反応絞り込めました! 位置特定!」

 

「ノイズとは異なる高出量エネルギーを検知!」

 

「この波形を照合! 急いで!」

 

 一方で、翼のいる一室にて複雑な機器を操作しているオペレーターらしき人達が慌ただしく動いていた。その理由は、ノイズの反応を追っていた先で、ノイズとは別の異質なエネルギーが検出されたからだった。

 

「まさかこれって、アウフヴァッヘン波形!?」

 

 その中で、白衣を着たメガネの女性が導き出された結果に目を見開いて驚く。そして、中央のモニターに大きく“GUNGNIR”という単語が表示された。

 

「ガングニールだとぉ!?」

 

 表示されたその単語を見た赤いカッターシャツを着た男が声を張り上げて驚愕を露にし、その後ろで男と同様にモニターを見ていた翼の目の瞳孔が細くなり顔から表情が消え失せる。

 

 光が胸から発せられている当の本人である響はあまりの事態に固まり、周りのノイズも動けずにその場に突っ立ていた。

 

 響の体内では、心臓付近を中心に毛細血管を伝って何かが纏わり付くように蠢いて響の体を侵食していく。その影響で、響の細胞の1つ1つが人間とは違う別の何かに作り変えられていく。

 

「ぐぅ!? あぁぁぁっ!? ぐぎぎっ!?」

 

 その影響は現状の響にも表面化して瞳孔が落ち着かずにギョロギョロと動き続け、響は何かに耐えるように両手両膝を地に着いて歯を食い縛る。

 

「がぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

 そして、響が獣の如き咆哮を上げるのと同時に、一瞬の発行と橙色の雷を伴って何かが響の背中を貫いて出現した。それはまるで、機械の翼のような形状をしていた。

 

 機械の翼は1度収まるように小さくなった直後に規模を大きくして再び飛び出し、また小さくなるように見せ掛けてその大きさを増して又もや出現する。

 

 その3度目の出現の際には蒸気を伴って出現し、今度こそ機械の翼は小さくなって響の背中の中に消えていった。

 

 機械の翼が飛び出すのと同時に響の身体中に展開された様々な機械のパーツが、響の体にフィットするように変形し装着される。

 

 響の劇的な変化の一部始終が終わったその時、響の装いは最初の不審者的格好からは掛け離れたものに変わっていた。

 

 頭から角のような装飾のあるヘッドホン、胸元に宝石のような集音マイク、肩まである胸から上が橙色で下が黒色のアンダースーツの上に白を主軸として黒のラインが入った半袖のジャケット、腕には白色の籠手のような装甲、腰には対になった2つの白い装甲、腰から下は橙色のラインが入った長く黒いボトムス、最後に膝くらいまである足を覆う黒い装甲。

 

 今ここに、失われた力を受け継ぐ者が顕現したのだった。

 

 その者の名は、立花響。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)魔改造された速度
──2年間の間に数々の修羅場を潜ってきた響は原作よりも素の足が速くなっている。高い身体能力の中の1つ。

(2)バイクに乗れる響
──2年間で数々の仕事をしていくに当たって、黎人から数多くの乗り物の運転を教わっている響。但し、彼自身は無免許なので日本ですれば即座に捕まる。

(3)魔改造されたスタミナ
──2年間の間に数々の修羅場を潜ってきた響は原作よりも強靭なスタミナを持つ。高い身体能力の中の1つ。

(4)シンフォギア装着時の姿
──ピッチリなボディコンスーツではなく、それなりにゆとりを持った近未来的な服装になっている。それと半袖のジャケットが追加されている。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 響の聖詠は原作と同じ仕様になっております。ここの部分も少し変えようかなって思ったけど、作者には聖詠をオリジナルで作ることが出来なかったのと、ここを変えたら響じゃないなと思い、原作通りすることにしました。

 何処かの赤い弓兵のお洒落ポエム型のオリジナル詠唱なら作ったことがあるんですがねぇ。やっぱ、オリジナルの単語を考えるって難しいですね。

 次回、シンフォギアを纏った今作ビッキーの戦いが幕を上げる!

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 5 受け継がれた撃槍

 どうも、シンシンシンフォギアー!(挨拶)

 前回までの粗筋:ガングニールだとぉ!?

 それでは、どうぞ!


 翼のいる一室では、ノイズの発生をある意味で上回るイレギュラーの事態が起こったことで、場は混沌を極めていた。反応を示す単語の次に、装いが完全に変化した響の姿がモニター映し出された。

 

「新たなる適合者……!? それに男の子……なの!?」

 

「性別は一先ず置いておくとして、一体どうして!?」

 

 映し出されたのが男ということにも驚くメガネの女性と赤いカッターシャツの男の2人は、この予想もしなかった突然の事態に混乱を隠せずにいる。

 

(そんな……だってそれは、奏の……)

 

 そんな中、顔から表情が消え失せた翼もこの事態に対して内心で混乱していた。何故なら、響が纏った“ガングニール”と呼ばれものは、2年前まで彼女の相棒が纏っていたものなのだから。

 

 翼達が突然の事態に混乱している中、その混乱の原因である響は事態の展開に付いていけずにただ呆然と突っ立っていた。

 

「え? は、はい? な、何だよ、これ!? 俺の体、一体どうなって……!?」

 

 混乱した状態で必死に何が起こったかを理解しようとする響。そんな響を見上げながら、隣にいた女の子は爛々と輝く目で響を見ていた。

 

「お兄ちゃん、かっこいい! 正義のヒーローみたい!」

 

「あ、いや、いやね、確かに正義のヒーローみたいだけど、お兄ちゃんにも何が何だか──」

 

 感嘆の想いを込めて響の見た目の感想を言う女の子に、響は落ち着かない状態で女の子に事情を説明しようしたが、自身の腕に付いている装甲を見て響は口を止めた。

 

(これって、確かあの時の奏さんの腕に最初に付いてた……)

 

 響の腕に装着された白い装甲は、(かつ)て見た奏が変身した際に付いてたもので、奏の振るった槍が槍の形を取る前の装甲の形状と同じものだった。

 

(もしかして奏さんと同じ……)

 

 突然変わった自分の身形や既視感のある装甲を見た響は、今自分の姿はあの時の奏と同じものか、()しくはそれに近しいものではないかと結論付けた。

 

 結論が付いたことで混乱状態を脱した響は、目付きを鋭くしてノイズを睨み、側にいた女の子の手を握り締めて歌を歌い始める。

 

(どうして俺が変身出来たのか、分からないことはごまんとある。けど、確かなこともある。この力があれば、この子を守ることが出来るようになるってことだ!)

 

 身を低くして女の子を抱き抱えながら、多くの疑問と確かな確信を胸に抱く響。

 

 響はその場でノイズに立ち向かう……ことはせず、女の子を連れて大きく跳躍し、かなりの高さがある屋上を一気に飛び降りる。

 

(軽く跳んだ筈なのにこの高さか!? 力加減が……!?)

 

 響自身は軽く跳んだつもりだったが、そんな響の考えとは裏腹に思ったよりも大きく跳んでしまったことに驚きながら、重力に従って下に落ちていく響達。

 

 響は空中で1回転して体勢を立て直し、勢いよくアスファルトの地面に無事に着地した。その際の衝撃で、響の周囲一帯を砂埃が舞う。

 

 無事に着地したことに安堵する響だったが、すぐに状況を思い出して自分達が先程までいた施設の屋上を見上げる。

 

 響が屋上を見上げた時、先程まで響達の周囲に蔓延っていたノイズが既に落下してきていた。重力に従って迫るノイズを前に、響は先程よりも少し強く力を入れて地を蹴った。

 

 ノイズが降り掛かる直前にバックステップで大きく後退して跳び上がった響は、バク宙をして再び体勢を整えて着地する。

 

 距離の開いた響に、ノイズはその形状を変化して長細い形状となって襲い掛かる。響は、今度はもっと距離を取る為に先の2回とは比べ物にならないくらいに足に力を込めて跳ぶ。

 

「うおぉぉぉぉっ!? 力入れすぎたぁ!?」

 

 ノイズの攻撃で響達がいたアスファルトの地面が抉られ、先の2回よりも更に大きく跳び上がった響は、慌てふためきながらもどうにか前方宙返りをして施設内のタンクの上に着地する。

 

 どうにか着地出来たことに安堵して響は溜め息を吐き、腕の中にいる女の子を一瞥して再び歌を歌い続ける。

 

 しかし、安堵も束の間で、今度は先程響達を襲っていたノイズとは比較にならない程の大きさを持った巨大なノイズ──巨人型のヒューマノイドノイズが現れる。

 

(くっ!?)

 

 巨人型のヒューマノイドノイズは、腕を高く振り上げて勢いよく響達に振り下ろし、響はその攻撃をまた跳んで回避する。

 

 響が着地した先では、既に小型のノイズが集まっており、響は前と後ろをノイズに挟まれて双方を交互に睨み付ける。

 

 その中で、響の後ろにいた小型のノイズの内の1体であるクロールノイズが響目掛けて飛び掛かる。それを目視した響は、左足を軸にした右足での回し蹴りをする。

 

 勢いの付いたカウンターの回し蹴りで蹴り抜かれたクロールノイズは、その身を炭素の塊に変容させて砕け散る。

 

(ノイズを倒せた……! やっぱり、これは奏さんや翼さんと同じ……!)

 

 自分が炭素に変わること無くノイズだけを倒したことに、響は新しい確かな確信を得た。自分には奏や翼と同じように、ノイズを倒し、人を助ける力があるという確信を。

 

 すると、唐突に小型のノイズの群れが後ろから宙に弾き飛ばされ始めた。まるで、何かに轢かれたかのように。

 

 ノイズの群れを一直線で弾き飛ばして姿を現したのは、バイクを猛スピードで走らせて悪漢も裸足で逃げ出すと思われる程に鋭い目付きをした翼だった。

 

「へ……」

 

 バイクで颯爽と現れた翼を見て、響は足と歌を止めて呆然と言葉を漏らす。

 

 そんな響の横を翼はバイクで通り過ぎ、バイクに乗っていた翼はバイクから大きく跳び上がる。そのまま走り続けたバイクは、その先にいた巨人型のヒューマノイドノイズに激突して爆発した。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 宙を舞う翼は、何度も宙を回転して勢いを殺しながら歌を歌う。空中で歌を歌い終えた翼は、翼の登場で惚けていた響の前に軽く着地した。

 

「惚けない。死ぬわよ」

 

「ッ! い、Yes, ma'am!」

 

 淡々と述べられた翼の数少ない言葉に、再起動した響は慌てながら何故か英語で返事を応答した。

 

「あなたはここでその子を守ってなさい!」

 

「Yes, ma'am! ……って、翼さん?」

 

 響に女の子を守るようにだけを伝えた翼は、それ以上は何も言わずにその場から駆け出し、それを聞いて見ていた響は先と同じ応答をし、迷い無く駆け出した翼を呆然と見続けていた。

 

 何時の間にか一塊になっていた大型と小型のノイズ達に向かって走る翼の姿が、一瞬の発光を経て響が2年前に見たあの時のものに早変わりする。

 

 歌いながら駆ける翼が剣を構え、その剣の形状が日本刀から大剣に変形する。翼は振り上げた大剣を走る勢いを伴って一気に振り下ろし、振り下ろされた大剣からエネルギー状の蒼い斬撃が放たれる。

 

【蒼ノ一閃】

 

 放たれた蒼い斬撃──蒼ノ一閃は、少しの雷を伴ってノイズに飛来し、それをまともに受けたノイズの塊の1つが一瞬で煤にされて吹き飛ぶ。

 

 続けて跳び上がった翼の後方の空間に、幾つもの剣が発光と共に出現して、一気に地上に降り注ぐ。

 

【千ノ落涙】

 

 落ちてきた無数の剣の雨──千ノ落涙に刺し貫かれたノイズが煤となって消え失せる。

 

 非常に固い表情の翼は、その鋭い目でノイズを睨みながら地上に着地し、間髪入れずにノイズの群れへと突っ込んでいく。

 

 ノイズの群れの中に突っ込んだ翼は一瞬の隙無く剣を振るい、ノイズの集団は抵抗する間も無くものの数秒で斬り裂かれて煤へと変わり果てる。

 

「……凄えな、やっぱ。まるで修羅だぞ、あれ。それに、やっぱり翼さんは……」

 

 一瞬でノイズを斬り捨てて戦う翼の姿を見て、独り言ちる響。響の言う通り、翼の姿は見る人によってただ淡々と目の前の敵を屠り続ける修羅にも見えるだろう。

 

 だが、それ以上に響の内心では気になっていた1つの疑問の答えが出てきた。それは、やはりあの時のノイズと戦う奏と翼は夢や幻では無く、現実の事実だということである。

 

「うぇ!?」

 

 隣にいた女の子の小さな悲鳴を聞いた響は、女の子が見ている方角へ自身も目を向けた。そこには、先程の巨人型のヒューマノイドノイズがいて、響達の直ぐそこまで迫ってきていた。

 

「くっ!?」

 

 響はすぐに前に出て、女の子の盾となるようにノイズの前に立ち塞がった。

 

 直後、上空から巨大な何か飛来し、それはノイズの体を簡単に貫いてアスファルトの地面に突き刺さった。

 

「なっ!?」

 

 突き刺さった何かの正体は、人の身では振るうことが到底叶わないであろう刀身の幅が優に人の幅を超えた巨大な剣であり、その剣の柄に当たるであろう場所の頂点には、目を瞑った状態の翼が凛々しく佇んでいた。

 

「……」

 

 巨大な剣によって倒されたノイズの煤が風に乗って宙を舞う中、響は翼の凛々しくも美しい姿に見惚れていた。

 

「……美しい」

 

 その美しい佇まいを見続ける響は、完全に無意識で翼への感嘆の言葉を漏らしていた。その翼が響の姿を瞳に入れて見下ろし、翼を見上げる響は思わず顔を赤くしたのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ノイズによる騒動も一先ずは一段落して、今は特異災害対策機動部の人間が多数集まって事態の後始末に当たっていた。

 

 ノイズの被害が遭った場所として、響のいる工場一帯は政府によって閉鎖され、スーツの人達が資料を纏め、軍服を着た人達が人やノイズの成れの果てである煤の回収に当たっている。

 

 その中で、響は先程まで自分と一緒だった女の子の様子を遠目に見ていた。女の子は無事に政府の人に保護され、今は軍服の人の上着を羽織り温かい飲み物をゆっくり飲みながら話をしている。

 

「あの?」

 

「あ、はい」

 

 唐突に後ろから声を掛けられた響は、声を掛けられた後ろへ体ごと振り向く。響が振り向いた先には、何処かの制服と思われる服装をした大人の女性が立っていた。

 

「あったかいもの、どうぞ」

 

「あったかいもの、どうも」

 

 女性が差し出した温かい飲み物が入った紙コップを、響は笑顔でお礼を言いながら受け取ってゆっくりと飲み始める。

 

「ぷはぁ〜、五臓六腑に染み渡る〜」

 

 すっかり伸び切った阿保面になって気持ちが弛みに弛む込む響。やはり、温かい飲み物には、人の緊張状態を(ほぐ)し、人を心身共にリラックスさせる効果があるようだ。

 

 すると、響が纏っていた装束が何とも情けない音を鳴らせながら橙色に淡く光り出した。

 

「へっ?」

 

 弛み切っていた響も思わず間抜けな声を出し、その直後に響が纏っていた装束は砕けるように光となって消え、響は変身する前の黒のタンクトップにカーキ色のストレートパンツ、灰色のスニーカーという装いに戻っていた。

 

「おわっ、ちょちょちょちょっ!?」

 

 装いが戻った反動でバランスを崩した響は、持っていた紙コップを地面に落とし、体重が後ろに偏りながら後ろに後退してしまう。

 

 響はバランスを取り直そうと必死に腕まで使う。振り回して響の腕の肘に不意に柔らかい感触が伝わり、その直後に体が後ろから支えられた。

 

「あ、すみませ──」

 

 自分を後ろから支えてくれた人に首だけを向けてお礼を言おうとした響が固まった。何故なら、響を後ろから支えてくれていたのは翼だったからだ。

 

 響は翼の大ファンである。そんな憧れの人物に助けてもらえたのだから、ファンとしては当然の反応だろう。しかし、響が固まっているのは、そういった理由ではなかった。

 

 響の視線は、翼の顔を見た後にある一点で止まっていた。そこは、現在響の右肘がある部分であり、響の肘は現在翼の胸に触れているのだ。

 

(え、何これ? いや、これは胸だ。うん、それは分かる。翼さんって、スレンダーだけど、それなりに胸があるんだな。えーっと、この大きさは……大体80前半辺りかな? って、そうじゃなくてっ!! 不味いって、非常に不味いって!? 俺絶賛セクハラ状態じゃん!? あの翼さんに俺はなんてことを!? 絶対にこれって他の翼さんのファンに殺される!? どうしよう、謝ったら許してくれるか!? 下手すると、俺ってまた社会に吊るし上げられるんじゃねえのか!? “歌姫殺し”とはまた別のベクトルで最低の異名が付けられる!?)

 

 最早テンパり過ぎて、過去にあった思い出すのも辛い出来事で付いた異名でさえネタにしてしまっている響であった。

 

「……申し訳ないんだけど、早く自分で立ってくれないかしら? ……それに、出来ればこの肘も退けてほしい」

 

「すみませんっ! 今すぐ立ちます! 今すぐ退けます!」

 

 強張った表情でありつつも若干顔が赤くなっている翼にそう言われ、響は勢いよく謝罪して翼から距離を取って立つ。それを見届け、翼は少し俯きながら響に背を向けてその場を立ち去ろうとする。

 

「すみませんっ! 本当にすみませんっ!! 2回も翼さんに助けられた分際で、本当にすみませんでしたっ!!!」

 

 放っておけば地に額を擦り付けそうな程の謝罪をする響。翼は、響の謝罪にではなく、響が言った「2回」という単語に反応して振り向いた。

 

「2回……?」

 

 怪訝な顔をする翼に、引き攣ったぎこちない笑みを浮かべながら左手の指を2本立てる響。

 

「ママ!」

 

 すると、先程まで響と一緒にいた女の子の声が響き、響はその声が聞こえてきた後ろへ体ごと振り向く。響の視線の先には、母親と思われる女性に抱き付き、その女性からも抱き締められている女の子の姿があった。

 

「良かった、無事だったのね!」

 

 娘の無事を喜び抱き締める母親は、愛しそうに娘の頭を何度も繰り返して撫で続ける。そこへ、その場にいた制服の女性が話し掛ける。

 

「それでは、この同意書に目を通した後、サインをして頂けますでしょうか?」

 

 制服の女性は、懐に持っていたタブレットを女の子の母親に差し出しならそう言った。

 

「本件は、国家特別機密事項に該当する為、情報漏洩の防止という観点から、あなたの言動、及び言動の発信には、今後一部の制限が加えられることになります。特に外国政府への通謀が確認されますと、政治観点で起訴され、場合によっては──」

 

「ハハハ……それじゃー俺もこの辺で退散させて──」

 

 面倒事の気配を女性と母親の会話から察した響は、これ以上面倒にならない間にここから移動しようとしたが、自分の前にいる翼の後ろで控えている黒服スーツのサングラスの男を複数見たことで固まった。

 

「あなたをこのまま帰す訳にはいきません」

 

「えぇっ!? 何で!?」

 

「特異災害対策機動部二課まで、同行して頂きます」

 

 淡々と告げられた言葉に、響はその理由を問い質そう翼に訊ねるが、翼は響の質問に答えることは無く、まるで機械のようにただこれから行く場所を伝える。

 

──政府関係者に捕まるようなことは絶対にするなよ? お前は色々と立場が複雑なんだからよ──

 

(この黒服の奴らって明らか政府関係者だし、特異災害対策機動部なんて諸に政府の組織じゃねえか!? 兄貴のあの言葉って、まさか予言だったのか!?)

 

 今朝に兄貴分に言われたことを思い出す響。まさか、本当に政府関係者に囲まれることになるとは、響も思っていなかっただろう。それも言われた当日の間にである。

 

(ここは何とか逃げ出して──)

 

 この事態を脱す為に響は即座に逃げようとする。しかし、そんな響の考えとは裏腹に、何時の間にか響の手首には電子ロック型の重厚な手錠が填められていた。

 

「すみませんね。あなたの身柄を拘束させて頂きます」

 

「……え? あっ! はいぃ!?」

 

(この人、俺が行動するよりも先どころか、俺が認識する間も無く手錠填めやがった!? 何だ、この人!? 暗部か何かか!? それとも暗殺者(アサシン)!? 若しくはNINJAか!?)

 

 気が付いたら既に手錠を填められていたことに驚く響。それをいとも容易く実行しせて見せた、周りのサングラス達と違って自身の顔を晒している黒スーツの優男の顔を見ながら、響はその男の正体を思考する。

 

 手錠をされて身動きが取り難くなった響は、流れるような動きで黒い車の後部座席の真ん中に押し詰められた後に両脇を先程の男と黒服のサングラスに固められ、まるで出荷される家畜のように何処かへ連れて行かれるのだった。

 

「助けて兄貴ぃぃぃいいいぃぃぃぃぃっっっ!?!!?」

 

 黒服達に連れて行かれる中、響は今はもう日本にいないであろう自身の兄貴分に助けを求め、その悲鳴は夜の空に虚しく消えていくのだった。

 

 暫くの時が経ち、政府の方々に捕まった響が連れてこられたのは、何と翼も在学しているあの私立リディアン音楽院高等科の学び舎だった。

 

「何で学校、っていうかリディアン?」

 

 政府の機関に捕まった筈なのに、向かった先が学校の学び舎であることに混乱と動揺を隠し切れずにいる響。だが、その疑問に答える者はいない。

 

 車から降りた響は、翼と先程の男に連れられて夜のリディアンの廊下を歩いていく。前を男、後ろを翼に固められた響は、もう諦め半分の気持ちで何も聞かずにただ男の後ろを付いていく。

 

 歩いた先で辿り着いた建物の隅の設備を男が操作する。操作されて開いた扉の先は、エレベーターとなっていた。エレベーターに乗る男の後を追って、響と翼もエレベーターに乗り込む。

 

 男はエレベーターのセンサーに自身の持っていた端末を翳す。すると、開かれていた扉が急に閉まって更に厳重なロックがされる。

 

「あ、あの、これは……?」

 

「……」

 

 響の質問に翼は何も答えず、エレベーターの壁から出てきた取っ手の方へ行ってそれを掴む。

 

「さぁ、危ないから掴まって下さい」

 

「えっ、危ないって何が……!?」

 

 唐突な危ない発言を聞いて驚く響を他所に、男は響の手を掴んで誘導し響に取っ手を掴ませる。その直後、響達が乗っているエレベーターがもうスピードで急降下した。

 

「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!!?!?!??」

 

 急なスピードで動き出したエレベーターの勢いに乗せられ、響はまるで遊園地の絶叫系のアトラクションに乗っているかのような間抜け奇声を上げるのだった。

 

 少ししてスピードに慣れた響は、あれだけのスピードで降りたのにも関わらず未だに降下し続けているエレベーターをキョロキョロと見回す。

 

(……無言が辛い)

 

「アハ、アハハ、アハハハハハ……」

 

 エレベーターの中の無言の重い空気が嫌だった響は、兎に角空気を変えようと取り敢えず愛想笑いを浮かべた。

 

「愛想は無用よ」

 

「……」

 

 しかし、翼の発言によって先程のノイズと同様に文字通りバッサリと斬り捨てられ、響は再び黙り込んでしまった。

 

 すると、降り続けていたエレベーターから見える景色が一変した。それは、まるで古代の遺跡のような風景で、壁には幾何学模様が刻まれていた。

 

(何これ、趣味悪!? まるでゲームのラスボス前に進む通路か重要施設の何かじゃん!? やっぱり、俺にとってのラスボスは政府だったのか……)

 

 響にはその風景がお気に召さなかったようで、内心で酷評していた。それどころか、思考がよく分からない方向へ進んで行く響だった。

 

「これから向かう所に、微笑みなど必要無いから」

 

(……一体、この先に何があるっていうんだ!?)

 

 唐突に翼に告げられた言葉に思わず喉を鳴らす響。このシリアスな空気と翼が発した言葉を真に受けた響は、この先に待ち受ける未知に対して出来る限りの覚悟を決めた。

 

 しかし、そんな響の覚悟とは裏腹に、響が最初に耳にしたのは何度も鳴るクラッカーの音と、陽気に鳴るパーティーグッズのオモチャの音だった。

 

「ようこそ! 人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!」

 

 響を最初に迎え入れたのは、赤いシャツを着た勇ましい顔の男だった。男は頭に黒のシルクハットを被り、両手を広げて熱烈歓迎といった感じの態度を取っていた。

 

 その後ろにいる先程響が見かけた女性と同じ制服を纏った人達も、全員が響へ視線を向けて人によっては笑いながら拍手を響に送っている。

 

 その彼らがいる一室全体も豪華に飾られ、料理やお菓子に何故か達磨(だるま)まで置かれていて、上には『熱烈歓迎! 立花響様☆』と書かれた垂れ幕まである。

 

「……え?」

 

 その光景に、響は思わずきょとんとして間抜け面を晒しながら呆然と立ち尽くし、その後ろで翼は額に人差し指を当てて目を瞑りながら溜め息を吐き、スーツの男は苦笑いをしていた。

 

(何これ? ……滅茶苦茶歓迎されてる。さっきまでの翼さんの言葉とシリアスな空気って何だったの? 俺の無駄な覚悟返して……)

 

 すっかり毒気を抜かれてどっと疲れ果てたような表情を浮かべた響は、先程までの空気は何だったのかと内心で独り言ちるのだった。

 

「さぁさぁ、笑って笑って!」

 

 その中で、響に親しげに歩み寄ってきたメガネを掛けた白衣の女性は、響を側に抱き寄せて自身の手に持ったスマフォを掲げる。

 

「お近付きの印にツーショット写真──」

 

「ちょ!? タイム! タイムタイムタイム!」

 

 女性が掲げたスマフォに手錠を填められた自身の姿が映し出されたのを見た響は、慌てふためきながら急いで女性と距離を取った。

 

「何で手錠填めたまま写真撮らなきゃいけないんだよ!? 明らかに黒歴史直行じゃねえか!? それにだ、何でここの人達は俺の名前を知ってるんだよ!?」

 

 律儀に写真撮影を断ったことに弁明を入れてから、響は上の垂れ幕に書かれている自身の名前をどうして知っているのかを訊ねる。

 

 その質問に答えたのは、シルクハットに加えてステッキまで持ち出してきた赤いシャツの男だった。

 

「我々二課の前身は、大戦時に設立された特務機関なのでね。調査などお手の物なのさ」

 

「ふぅん♪」

 

 得意げにそう言ってステッキから花を咲かせる男。その隣に、先程響に歩み寄ってきた女性が、響にとって見覚えのある荷物を持って現れる。

 

 見覚えも何も、女性が持っているのは、響がノイズ襲撃の際に道路に置いてきた彼自身の所有物のスポーツバックである。

 

「おぉぉぉぉいっ!? それって、俺の荷物じゃねえか!? 何が調査はお手の物だよ!? 勝手に人の荷物漁るどころか、そこから個人情報まで調べたな!?」

 

「……はぁ。緒川さん、お願いします」

 

「はい」

 

 場の状況がどんどん混沌としたものに変わっていくのを見て、翼は溜め息を吐いた後に隣にいたスーツの男──緒川に場の収拾を頼み、緒川は苦笑いをしながら翼の頼みを承諾した。

 

 緒川の尽力もあって場の状況も沈静化したところで、緒川は響の腕に填められていた手錠を取り外し机の上に置いた。

 

「ありがとうございます。ずっと付けられてたせいで手首の感覚が参ってて……」

 

「いえ、こちらこそ失礼しました」

 

 手錠が填められていた手首を撫でながら、手錠を外してくれた緒川にお礼を言う響。響のお礼の言葉に、緒川は笑顔を絶やさずに返事を返して謝罪する。

 

「では、改めて自己紹介だ。俺は、風鳴弦十郎。ここの責任者をしている」

 

 赤いシャツの男──風鳴弦十郎は、親指を立てて自分を指しながら気さくに笑って自己紹介をする。

 

「そして私は、出来る女と評判の櫻井了子。宜しくね」

 

 メガネを掛けた白衣の女性──櫻井了子が、自信満々そうに胸を張って腰に手当てながら自己紹介をしてウィンクを飛ばす。

 

「は、はぁ、こちらこそ……」

 

「君をここに呼んだのは、他でもない、協力を要請したいことがあるのだ」

 

「え、協力?……あっ」

 

 弦十郎に言われたことに疑問を抱き掛けた響だったが、先程に突如我が身に起きた出来事を思い出したことで、抱き掛けた疑問への答えを悟った。

 

(そもそも、あれ自体が謎なんだよな……)

 

 疑問が解け、また新たな疑問が出てくる。いや、正確にはその疑問を思い出したといったところだろう。

 

「俺も教えて欲しいことがある。そもそも、俺が纏ったあれは一体何なんだ?」

 

 響の問い掛けを聞き、響の目の前にいた2人の大人が互いに目を見合わせて、了子は頷き前へ歩み出る。

 

「あなたの質問に答える為にも、2つばかりお願いがあるの。1つは、今日のことは誰にも内緒。そしてもう1つは、取り敢えず脱いでもらいましょうか」

 

「良いぜ。上だけで良いか?」

 

 指を2本立てながら了子に言われた言葉に、響は即答して着ていたタンクトップをその場で脱ぐ。タンクトップが無くなったことで、響は上半身が裸の半裸になり、その体が露わになる。

 

 露わになった響の上半身は、邪魔な脂肪が一切無い無駄無く鍛えられた筋肉で引き締められた肉体をしていて、その肉体は女性が理想とするような綺麗な細マッチョの体型であり、響の胸に刻まれたアルファベットの“f”の形に似た傷跡がその存在感を放っている。

 

 響の体を見た男性職員達の一部は、「おぉう……!」と感嘆の声を漏らし、女性職員達は顔を真っ赤にして一部は顔を逸らしている。

 

 序でに言うと、顔を逸らした女性の中には翼も含まれている。それはそれは、とても真っ赤になっていて、翼の顔は他の女性職員の3割り増しで赤くなっている。

 

「ほうほうほう……凄く良い体してるわねぇ! 何か武術でもやってたりするのかしら?」

 

「まぁ、齧る程度に少しだけ」

 

 その中、一切動揺も何もなく先程と全く変わらぬテンションで響に接する了子に、こちらも半裸であるのに変わりなく話す響。

 

 誰もが思うだろう。何故2人はそんな平然としていられるのか、や、齧る程度に少しだけではそのような色々な意味で危ない体は出来上がらないだろう、と。

 

 話をする響と了子を他所に、弦十郎と緒川は2人で集まって話す本人達にしか聞こえない程の音量で言葉を交わす。

 

「司令、正直に申し上げますと、響君のあの体型は異常です。まるで、訓練を受けた少年兵のようです」

 

「ああ。日本での平和の暮らしの中では、先ず有り得ないだろうな。それこそ、どのようなスポーツをする少年であっても、あそこまで無駄の無い肉体にはならん」

 

「どうします? こちらで響君のことを詳しく調べますか?」

 

「ああ、頼む。出来る限り、彼の過去を洗ってみてくれ」

 

「了解しました」

 

 緒川の承諾を聞いて、弦十郎は緒川との会話をそこで締め括り、話を続ける響と了子の会話に交ざるべく2人の下へ歩み寄って気さくに話し掛けるのだった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)磨かれた体幹とバランス
──今作ビッキーは、黎人の手によって体を鍛え抜かれている。体幹やバランス感覚もその例外では無い。よって、初変身ということもあって力の入れ具合は不安定だが、着地自体は上手く出来るのである。

(2)響、ラッキースケベが起こる
──肘で翼の胸をTOUCH! 今作ビッキーは、何とラッキースケベ持ちである。しかし、これはまだ序の口。これから先、もっと凄いラッキースケベが起こるだろう。

(3)響、迷わず上半身を脱ぐ
──そこは性別が男であることに起こった違い。やはり、性別が男と女とでは羞恥のポイントが違うのである。この響、上半身を脱ぐことに迷いが無い。

(4)細マッチョ響
──原作ビッキーは女性としての理想体型だと思ってる。大き過ぎず小さ過ぎず丁度良い。故に今作ビッキーもそれに応じて体型が理想型であり、更に黎人による手が加わって男性経験の乏しい女を殺す(意味深)肉体に仕上がったのである。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 想像してください。赤面した翼さん……滅茶苦茶可愛くないですか? 一切の無駄が無い肉体美を見て顔を赤くして逸らしちゃう翼さん。歌と剣ばかりで男性経験など一切無い翼さんは初心なのです。初心な翼さん……マジ可愛いくね?

 えっ? 翼さんには触れることが出来るだけの胸は無いって? ……宜しい、戦争だ。表に出ろ。言っておくが、翼さんのバストは81だ。何処ぞの型月のドル箱やあかいあくまよりも胸はあるんだよ。身長が167cmでデカいから小さく見えるだけなんだよ。

96(マリア) > 95() > 90(クリス) > 84() > 82(切歌) > 81() > 79(未来) > 72(調) > 70(セレナ)


 お分かり頂けただろうか? 翼さんは言うなれば、中の下なんですよ。見た目は未来の方が大きく見えますけどね、実際は翼さんの方が大きいのです! つまり、未来の胸は見せ掛けなので──

Rei shen shou jing rei zizzl……

 おや? 何やら歌が聞こえてきたような。それに何か向こうの方から紫色の光が──

【暁光】

( ゚д:. ;:・∵゚. ←作者

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 6 雑音と不協和音と

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 前回は後書きで取り乱してしまってすみませんでした。ですが、もう大丈夫です。393の暁光によって、僕の中の穢れた心とカルマノイズの呪いを浄化されましたので。

 そんな綺麗な僕が導き出した答えは、皆違って皆良いということです。誰が上とか下とか無いのです。皆、平等に愛せば良いのです。だって、装者の皆は良い子なんですから(^U^)

 それでは、どうぞ!


 響が特異災害対策機動部二課に連れてこられた翌日の夕刻、翼がその日の学業を終えて二課の本部までやってきたことで小さな報告会が始まろうとしていた。

 

 その報告会のメンバーは、司令である風鳴弦十郎、研究者である櫻井了子、二課の職員である制服を着た男と女性、今し方やって来た翼、そして話の中心である響である。

 

 余談であるが、住居の確保をすっかり忘れ寝床が無かった響は、昨晩は弦十郎の好意で二課の仮眠室にて一夜を過ごしたりしていた。

 

 それはさておき、始まった報告会の最初の言葉を切り出したのは、研究者である了子からだった。

 

「それでは、先日のメディカルチェックの結果発表!」

 

 すると、壁に映し出された映像型のモニターに様々なデータが開示され始める。そこには、響の顔写真やレントゲン、他にも何らかの細かなデータの詳細が載っていた。

 

「初体験の負荷は若干残ってるものの、体に異常はほぼ見られませんでしたー!」

 

「ほぼ、ねぇ……」

 

 モニターに映された事細かなデータを見る響だが、自分のデータであるけれどもデータの詳細が細か過ぎて今一ピンと来ず、了子の言葉を頼りに微妙な反応を返していた。

 

「うん、そうねぇ。あなたが聞きたいのはこんなことじゃないわよねー?」

 

「ああ。面倒な前置きは要らない。教えてくれ。俺が昨日の夜に纏ったもの、あの力の正体は何なんだ?」

 

 遠回しな説明はしないよう前以て言ってから、単刀直入にことの核心についての説明を要求する響。

 

 響の言葉を聞いた弦十郎は翼へ目配せをし、そこから弦十郎が言わんとしていることを察した翼は、服の内側を(まさぐ)ってペンダントらしき物を取り出した。

 

天羽々斬(アメノハバキリ)、翼の持つ第1号聖遺物だ」

 

「聖遺物?」

 

 聖遺物という言葉が何を示しているのかが分からない響は、眉間に少しの皺を寄せて首を傾げる。そんな珍紛漢紛(ちんぷんかんぷん)な状態の響を見兼ね、了子が説明をする。

 

「聖遺物とは、世界各地の伝承に登場する現代では製造不可能な異端技術の結晶のこと。多くは遺跡から発掘されるんだけど、経年による破損が著しくって、嘗ての力をそのまま秘めたものは本当に希少なの」

 

「この天羽々斬も刃の欠片、極一部に過ぎない」

 

 了子から説明された内容に、弦十郎も口を出して補足を加える。

 

「欠片にほんの少し残った力を増幅して解き放つ唯一の鍵が、特定振幅の波動なの」

 

「特定振幅の、波動……?」

 

「つまりは、歌。歌の力によって、聖遺物は起動するのだ」

 

「歌? 歌、歌、歌……歌ねぇ?」

 

(歌といえば、あの時の俺って何か知らないけど、口が勝手に歌を口遊(くちずさ)んでたような……)

 

 “歌”という言葉を連呼し、内心で考えながらその言葉に心当たりがあることを響は思い出した。

 

「そういえば、昨日のあの時、心の底というか、胸の奥からというか、取り敢えず歌が浮かんできたんだ。それを俺は無意識に歌ってた……」

 

 響の確認するように呟かれた独り言に、弦十郎は頷いて答える。翼もその言葉を聞いていて、翼の表情がより一層固いものへと変わっていく。

 

「歌の力で活性化した聖遺物を、1度エネルギーに還元し、鎧の形で再構成したものが、翼ちゃんや響君が身に纏うアンチノイズプロテクター、シンフォギアなの」

 

「だからとて、どんな歌、誰の歌にも、聖遺物を起動させる力が備わっている訳ではない!」

 

 了子が説明をしている中、突如として発せられた翼の拒絶するような力強い言葉に説明が中断され、場の空気が凍り付き静かになる。

 

 その沈黙の空気の中、静寂を打ち破って弦十郎は立ち上がり再び説明を再開させる。

 

「聖遺物を起動させ、シンフォギアを纏う歌を歌える僅かな人間を、我々は適合者と呼んでいる。それが翼であり、君であるのだ」

 

「俺が……適合者?」

 

「どう、あなたが目覚めた力について、少しは理解してもらえたかしら? 質問はどしどし受け付けるわよ」

 

 弦十郎と了子による聖遺物とその力を利用したシンフォギアシステムについての説明が一先ず終わり、響が理解出来たかどうかを了子が訊ねる。

 

「あの!」

 

「どうぞ、響君!」

 

 質問しようと軽く手を上げた響に、了子は待ってましたと言わんばかりにハイテンションで応じる。

 

「言ってること、全然分かんねえ!」

 

「だろうね」

 

「だろうとも」

 

 元気良く分かんねえ発言をする響に、源十郎と了子の後ろに控えていた制服を着た女性──友里(ともさと)あおいと、制服を着た男──藤尭(ふじたか)朔也(さくや)の2人は同意するのだった。

 

 専門用語やら難しい言葉やらが多過ぎて誰も付いていけないのである。やはり、凡人では天才の発言を完全に理解することは不可能のようだ。

 

「いきなりは難し過ぎちゃいましたね……。だとしたら、聖遺物からシンフォギアを作り出す唯一の技術、櫻井理論の提唱者が、この私であることだけは覚えて下さいね」

 

「は、はぁ……」

 

(まーた、新しい専門用語っぽいものが……)

 

 またよく分からない言葉が飛び出てきたことに一種の諦めの気持ちを覚えた響は、取り敢えず当たり障りの無いように無難な応答を返した。

 

「けど、俺はさっき言った聖遺物なんて物は持ってないぞ。その辺の石ころみたいに、ごろごろ転がってるものじゃないんだろ? なら、何で──」

 

 自分が聖遺物なんて貴重な物を持っていないことを誰よりも知っている響は、その自分がどうしてシンフォギアを纏えたのかを聞こうとしたところで、表示されていたモニターが別のものに切り替わった。

 

「これが何なのか、君には分かる筈だ」

 

 モニターに映し出されたのは、今回のメディカルチェックの際に撮られた響のレントゲン写真だった。一見何も異常が無いように見られるが、よく見ると左胸の辺り、内臓で言えば心臓がある付近に何らかの異物の影が写っていた。

 

「ああ、よく知ってる。2年前、あの“ツヴァイウィング”最後のライブの時に俺が負った怪我の奴だ」

 

「ッ!」

 

 響の発言に興味を惹かれたのか、翼の視線がレントゲン写真が表示されたモニターと響へ向けられる。

 

「心臓付近に複雑に食い込んでいる為、手術でも摘出不可能な無数の破片。調査の結果、この影は嘗て奏ちゃんが身に纏っていた第3号聖遺物、ガングニールの砕けた破片であることが判明しました……」

 

「ッ!?」

 

「奏ちゃんの、置き土産ね……」

 

 悲しげな声で了子から告げられた真相を聞き、翼が目を見開いて驚愕を露わにして握り拳を作る。しかし、すぐに握り拳は解かれ、真実のショックでバランス崩した翼は、近くにあった寝台型の機器に手を着き、もう片方の手で顔を覆う。

 

 すると、翼は響達に背を向けて力無く部屋から出て行ってしまった。

 

「翼さん……」

 

 響は翼の名をぼそりと呟き、去り行く翼の寂しそうな背中を姿が見えなくなるまでずっと見詰めていた。

 

「あの……!」

 

「ん、どうした?」

 

「この力のことは、誰にも話さない方が良いんだよな……?」

 

「ああ。君がシンフォギアの力を持っていることを何者かに知られた場合、君の家族や友人、周りの人間に危害が及び兼ねない。命に関わる危険すらある」

 

「命に……関わる……」

 

(母さん……祖母ちゃん……兄貴、それにもしかすると未来にまで……)

 

 弦十郎の言葉を聞き、響は即座に4人の人物を思い浮かべた。

 

 家を出ていくことで母親と祖母の身を安全にしたのに、再び危険に晒すなんてことは出来ない。

 

 今まで散々迷惑を掛けたが、命に関わる危険すらある迷惑を兄貴分に掛ける訳にはいかない。

 

 大切な幼馴染で親友である女の子の平穏で幸せな時間を奪うことなんて出来ない。

 

 大切な人達への想いを馳せる響は、自身に絡むシンフォギアの面倒事には絶対に彼らを巻き込まないと、決意を固める。

 

「俺達が守りたいのは、機密などではない。人の命だ。その為にも、この力のことは隠し通してもらえないだろうか?」

 

「あなたに秘められた力は、それだけ大きなものであるということを分かってほしいの」

 

「人類では、ノイズに打ち勝てない。人の身でノイズに触れることは、(すなわ)ち炭となって崩れることを意味する。そしてまた、ダメージを与えることも不可能だ。たった1つの例外があるとすれば、それはシンフォギアを身に纏った者だけだ」

 

 弦十郎と了子の言葉の意味を1つ1つ嚙み締める響。響は、バカなりに言葉に込められた2人の大人の想いを受け止めようとしていた。

 

「日本政府特異災害対策機動部二課として、改めて協力を要請したい。立花響君。君が宿したシンフォギアの力を、対ノイズ戦の為に役立ててはくれないだろうか?」

 

 弦十郎の心からの嘆願を聞き、響は1度顔を少し俯かせて目を閉じながら考える。

 

(……正直、シンフォギアがどうのこうのとか、全然これっぽっちも分からない。でも、この力があれば、誰かの笑顔を守れる。ノイズが奪っていく人の命を守ることが出来るんだ)

 

 響は、誰かの笑顔を見ることが好きだ。誰かが心から笑う笑顔を見ることで、響自身の顔もクシャッとなって心の底から笑顔になって笑うことが出来るから。

 

 ノイズは残酷にも人々から笑顔を奪う。だが、響の持つシンフォギアの力は、そのノイズの脅威から人々の笑顔を守ることが出来る。

 

あんな奴ら(ノイズ)のせいで、これ以上誰かの涙は見たくない。皆に……笑顔でいてほしい)

 

 2年前、誰もが涙を流した。失った側も、助かった側も、その周囲も。2年前の惨劇を経験した響だからこそ思う。その大元の原因たるノイズのせいで誰かが涙を流すことが嫌なのだと。

 

「この力は、誰かを守ることの出来る力、なんだよな?」

 

 響の純粋な問い掛けに、弦十郎と了子の2人の大人は響の目を見ながら頷く。

 

「……分かった」

 

 それを見て、響の覚悟は決まった。

 

 響達がいる一室の近くで、翼は気分転換の為に何か飲み物を飲もうと思って自販機の前に立っていた。すると、響達がいる一室の自動ドアが開き、そこから出て来た響が翼へ駆け寄った。

 

「……俺、戦うことにしました。至らないところもあると思いますが、そこはこれから一生懸命努力して埋めていくつもりです。だから、俺と一緒に戦って下さい!」

 

 響は宣誓のようなものを翼に告げ、笑顔を浮かべながら手を差し出す。しかし、それを見た翼は、響から視線を逸らして表情を強張らせる。

 

「あ、いや、その……急に馴れ馴れしかった、ですかね……」

 

 握手に応じない翼に、響の顔が苦笑いに変わって言葉が詰まっていく。

 

 直後、廊下の照明が消えて施設内にアラートが鳴り響いた。響は、アラートを聞いて急遽駆け出した翼の後を追い掛ける。

 

 翼を追い掛けた響が辿り着いたのは、多くの精密機器を操作する制服を着た職員達がいる一室──特異災害対策機動部二課の司令室だった。

 

「ノイズの出現を確認!」

 

「本件を、我々二課で預かることを一課に通達」

 

 突然のアラートはノイズの発生が原因のもので、そのことを申告した藤尭へ弦十郎が指示を返す。

 

「出現地特定! 座標出ます! リディアンより距離200!」

 

 友里が正面のモニターにノイズの反応を表示する。その反応がある場所は、リディアンの地下に位置するこの二課の基地から相当な近場だった

 

「近い……」

 

「迎え撃ちます」

 

 モニターでノイズの発生場所を確認した翼は、踵を返して司令室を出て行った。その後ろ姿を見で追っていた響も、追従するようにその場から駆け出す。

 

「待つんだ! 君はまだ──」

 

「俺は誰かに手を差し伸ばすことを躊躇しない! シンフォギアは、ノイズを倒すことの出来る力なんだろ。今の俺には、差し出すことの出来る手と人の笑顔を守ることの出来る力がある! 手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬ程後悔する! それが嫌だから、俺は手を伸ばす! それだけだ!」

 

「しかし──」

 

「それに俺には、約束があるんだ!」

 

 響はその言葉を言い残して、弦十郎の言葉に耳を貸さずに司令室から出ていった。

 

「危険を承知で誰かの為になんて、あの子良い子ですね」

 

「果たしてそうなのだろうか」

 

「?」

 

 出ていった響の後ろを見ながら呟かれた藤尭の言葉に、弦十郎は眉間に皺を作りながら低い音程で返す。

 

「翼のように、幼い頃から戦士としての鍛錬を積んできた訳ではない。誰かの助けになるからという理由だけで戦いに赴くというのは、酷く(いびつ)なことだ。現状の我々は、彼の詳細を全く知らない。その彼は、今まで一体どのような環境にいたというのか……」

 

「……つまり、あの子もまた私達と同じ、こっち側ということね?」

 

「ああ。それに、彼の言う約束とは一体……」

 

 弦十郎と了子の会話は、弦十郎の呟きによって静寂となった司令室の中に静かに消えていくのだった。

 

 避難警報の放送とアラートが町中に鳴り響く中、翼は郊外の道路の上に集まったノイズの群れの前に佇んでいた。

 

 ヒューマノイドノイズとクロールノイズの大群は、翼には襲い掛からず、その身をスライムのように変形させた後に1つに混じり合い、巨大な1体のノイズにその身を変えた。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 翼がシンフォギアを纏う歌──聖詠を歌う。直後、翼の着ている制服が弾け飛ぶように消え、一瞬の閃光と共にシンフォギアを纏って現れる。

 

 翼は、胸の内から湧き上がる歌を歌いながらその場から駆け出す。巨大ノイズは、体から生えた触角のような突起をブーメランのように回転させながら、翼目掛けて飛ばす。

 

 ノイズの遠距離攻撃に対して、翼は脚部の装甲のパーツを展開してブレードを露出させる。翼は、飛来するノイズの攻撃を展開したブレードで斬り刻んで無効化した。

 

 攻撃を無効化されたノイズが獣ように咆哮を上げ、翼は手に持った剣の形状を大剣に変形させる。

 

「うおぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉっっ!!」

 

 すると、翼とノイズが交戦している上空から、拳を構えた状態の響が飛来してノイズを真上から殴り付けた。ノイズは地に叩き付けられ、ノイズのいる道路にノイズサイズのクレーターが出来上がる。

 

「翼さんっ!」

 

「ッ!」

 

 響に呼び掛けられた翼は上に向かって大きく飛び上がる。その際、宙で響と翼が擦れ違うが、笑顔を浮かべる響とは対照的に翼の表情はより険しいものに変わっていた。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

【蒼ノ一閃】

 

 翼から繰り出された蒼ノ一閃により、ノイズは下にあった道路ごと体を真っ二つに一刀両断され、煤が技の余波で生み出された爆炎と共に天に昇る。

 

「翼さん!」

 

 爆炎の前に1人佇む翼に向かって、響は駆け寄りながらその名を呼ぶ。

 

「俺、半人前で力が及ばないこともあると思いますが、それでも自分なりに頑張ります。だから、俺と一緒にノイズと戦って下さい!」

 

「……そうね」

 

 背を向けている翼に真摯に頼み込む響。その響に一見了承したかのように思われる返答をした翼。その返答を聞き、響は笑みを浮かべる。

 

「あなたと私……戦いましょうか」

 

「……うぇ?」

 

 しかし、好戦的な笑みを見せながら続けられた翼の言葉に、響は思考がフリーズして間抜けな声を漏らし、呆然と立ち尽くす。

 

 そんな響に、はっきりと拒絶の意思を示すように翼は剣の切っ先を向けた。

 

「なっ!? 何をやってるんだ、あいつらは!?」

 

 その状況を司令室のモニターから確認していた弦十郎は、驚きの余り座っていた座席から立ち上がって驚愕を露わにした。

 

「青春真っ盛りって感じね〜。特に男の子と女の子で向かい合うなんて、余計に燃える展開だわ〜」

 

 弦十郎と同じくその様子を観戦していた了子は、暢気(のんき)そうに満面の笑みで微笑みながらそう言った。

 

「司令、どちらへ?」

 

 司令官であるにも関わらず、本部の司令室と地上を直行で繋ぐエレベーターに乗り込む弦十郎を見て、オペレーターとして現在の状況を観測していた友里が訊ねる。

 

「誰かが、あの馬鹿者共を止めなきゃいかんだろうがよ」

 

 弦十郎は司令室にいる人間全員にそう言い残し、直行のエレベーターに乗って司令室を後にした。

 

「こっちも青春してるなぁ。でも、確かに気になる子よねぇ。放っておけないタイプかも」

 

 出ていった弦十郎を見送った了子は、司令室のモニターに大きく映し出された響の顔をじっと見つめながら独り言ちるのだった。

 

「いやいや、そういうライバル的な意味じゃなくて! 俺は翼さんと力を合わせる仲間的な意味で──」

 

「分かっているわ。そんなこと」

 

「じゃー何でだよ!?」

 

「私があなたと戦いたいからよ」

 

「はぁ!?」

 

 剣の切っ先を向けられた響は、どうにか言葉で翼を説得しようとするが、肝心の翼は響の言葉に全く聞く耳を持たない状態である。

 

「私はあなたを受け入れられない。力を合わせ、あなたと共に戦うことなど、風鳴翼が許せる筈が無い」

 

「……」

 

(……固い。ガチガチだ。この人、かなりの堅物だ。奏さんが言ってた、真面目が過ぎるって言葉の意味が漸く分かった気がする)

 

 響は無言で翼のことを見ながら、嘗ての惨劇の時に奏に聞かされた話の内容を思い出して、目の前にいる翼がその言葉通りだったことを思い知らされた。

 

「あなたもアームドギアを構えなさい!」

 

(アームドギアッ!? また知らない専門用語かよ!? 勘弁してくれ!)

 

 また出てきた全くもって意味の分からない専門的な言葉に、現在が切迫した場面であるにも関わらず、既に脳の処理力が白旗降参状態の響であった。

 

「それは常在戦場の意思の体現! あなたが、何者をも貫き通す無双の一振り、ガングニールのシンフォギアを纏うのであれば……胸の覚悟を構えて御覧なさい!」

 

「ちょっと待てよ、あんた!? 何勝手にぶっ飛んだ方向に話を進めてんだよ!? そもそもアームドギアって何だよ!? 初めて聞いたわ、そんな単語!? そんなよくも分からねえ代物をポッと出せる奴なんてな、ゲームや漫画やアニメ、それこそ小説の中の主人公ぐらいにしかいねーよ!? 全然分からねえものを出せって言われてもな、それこそ全然分からねえよ!」

 

 流石の響も相手が自分よりも年上で、尚且つ自分の憧れの相手であることも忘れて言葉を捲し立てる。

 

 すると、響の言葉を聞いた翼が剣を下ろして響に背を向けた。訝しむように翼の背中を見遣る響に対し、翼は背を向けたまま歩みを進めて距離を離していく。

 

「覚悟を持たずに、のこのこと遊び半分で戦場(いくさば)に立つあなたが……奏の、奏の何を受け継いでいるというの!」

 

「ッ! いい加減にしろよ、あんたっ! ぶっ飛んだ方向に話を進めるなって言ってんだよ!! それとな、奏さんと俺を好き勝手に重ねて見て、勝手にイライラしてんじゃねえよ! あんなとんでも博士の言うことまともに受けやがって! あんたは真面目が過ぎるんだよ! 何時かその内にポッキリ折れちまうぞ!」

 

「ッ!」

 

 話を全く聞かずに未だ自分の話を勝手に進める翼に、到頭(とうとう)我慢の限界を迎えた響が乱暴な口調でキレた。

 

 乱暴な口調で言われた言葉の中には、2年前のライブが始まる前に翼が奏から言われた言葉と合致するものが含まれていた。それがより一層に翼の神経を逆撫でし、知らず知らずに響は翼の中の地雷を踏み抜いて逆鱗に触れてしまった。

 

 直後、翼は歌うのを再開させ、更に鋭くなった目付きで睨み付けながら大きく跳躍する。

 

 跳躍した翼は響目掛けて剣を投擲し、投擲された剣が大剣よりも更にバカデカいサイズに変容する。更に翼は、脚部を展開してスラスターとして使用し、スラスターと重力の勢いを伴ってバカデカい剣に飛び蹴りを入れた。

 

【天ノ逆鱗】

 

 巨大化した剣そのものからもスラスターの火が吹かれ、巨大な剣は物凄いスピードで一気に響に迫る。

 

「良いぜ、来いよ! これがあんたの洗礼だって言うんなら、正面から受けて立って噛み砕いてやるよ!」

 

 響は逃げることはせず、逆に真正面から翼に受けて立とうと拳を引く。

 

 唐突に起きてしまったシンフォギアを纏う者同士の衝突。しかし、この対決は横から入ってきた第三者の手によって止められる。

 

「オリャアッッ!!!」

 

 突如2人の間に割って入った弦十郎が、その拳の一発で翼の天ノ逆鱗を受け止めたのだ。あまりにも唐突に起きた出来事に驚いた翼が空中でバランスを崩す。

 

「フンッ!」

 

 生身で攻撃を受けた弦十郎の拳には傷1つ無く、攻撃をした巨大な剣は役目を終えてその場から消え失せる。

 

「叔父様ッ!?」

 

「ハァァァァァ……タァッ!!」

 

 思わずプライベートの呼び方で弦十郎を呼ぶ翼。弦十郎は、受けた衝撃を歩法を活かして体を通して地面へと逃がす。その衝撃波により、響達がいた道路の辺り一帯が吹っ飛ぶ。

 

(生身で攻撃受けて無傷で、攻撃の衝撃を容易く地面に逃がすとか、絶対に人間業じゃねえだろぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉっっ!?!!?)

 

 発生した衝撃波によって地面ごと一緒にぶっ飛ばされた響は、内心で如何に弦十郎が成した行為が可笑しいかを力の限り叫んでいた。

 

「うぁ!?」

 

 衝撃波でズタボロになった道路の上に翼が落ち、その時の衝撃で翼は呻き声を上げる。

 

 破壊された道路の下にあった排水管も破壊され、溢れ出た水が噴水のように上空に昇って雨のように辺り一帯に降り注ぐ。

 

「あーあ、こんなにしちまって。何やってんだ、お前達は」

 

 こんなにしちまった最もな原因とも言える弦十郎が、翼の攻撃を受け止めた手をプラプラと振りながら独り言ちる。

 

「この靴、高かったんだぞ?」

 

「……なんか、すみません」

 

「一体何本の映画を借りられると思ってんだよ?」

 

(……あれ? 靴の話してるの? それとも壊れた道路の話をしてるの? それと何故映画の貸し出しが値段の基準に?)

 

 色々と突っ込み所の多い発言をする弦十郎に、響は内心で冷静に突っ込んだ。

 

「らしくないな、翼。ロクに狙いも付けずにぶっ放したのか、それとも──」

 

 諭すように翼に話し掛ける弦十郎だったが、翼の異変に気付いて言葉を止めた。

 

(……翼さんが、泣いてる?)

 

 遠目から見ていた響にも、翼の異変は見て取れた。翼の頬を流れる雫は、溢れ出る水道の水ではなく、確かに翼の目から零れ落ちたものだった。

 

「お前、泣いてい──」

 

「泣いてなんかいません!」

 

 弦十郎の言葉に被せ気味に言い切る翼。翼の言葉が、それ以上弦十郎の口を動かさせなかった。

 

「涙なんて、流していません! 風鳴翼は、その身を剣と鍛えた戦士です! だから……」

 

「翼さん……」

 

 ずぶ濡れになった物悲しい翼の姿に、響の中に罪悪感が沸く。

 

(何してるんだよ、俺。誰の涙も見たくないから戦うって決めておきながら、早速目の前で女の子を泣かせちまってるじゃねえか……! こんなんじゃ、兄貴や奏さんに見せる顔が無え……!!)

 

 ついカッとなって、彼女に酷い言葉を吐いてしまった自分を響は恥じた。散々兄貴分に女の子には優しくするように言われ、奏に翼を支えてほしいと言われ約束までしたというのに。響にとって、これでは全てがぶち壊しだった。

 

 弦十郎は、座り込んだ翼の下まで歩み寄って翼を支えながら立ち上がらせる。立ち上がった翼に響が歩み寄る。

 

「……俺、本当にダメな奴だ。言葉で女の子を傷付けるなんて。……こんなダメな奴だけど、これが俺なんだ。俺は、俺にしかなれない。だから、奏さんの代わりには一生なれない。けど、俺なりの形で翼さんの背中まで行けるように頑張る。だから、待っていて下さい……!」

 

 響は、頭を下げながら自分の心の内の言葉を真摯に翼に告げる。

 

 告げられた響の言葉に、翼はぴくりと反応したがそれだけで終わる。結局、翼は響に何も言い返さずにその場から立ち去っていった。

 

 障害物無く続く半壊した道路から翼と翼を支える弦十郎の姿が見えなくなるまで、響は頭を下げ続けたまま微動だにせずにその場に立ち尽くしていたのだった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、笑顔の為に戦う
──今作ビッキーのノイズと戦う理由。人助けも理由の1つだが、今作ビッキーは人の笑顔を守る為にノイズと戦う。

(2)響、ノイズを殴る
──原作ビッキーは跳び蹴りでしたが、今作ビッキーは勢いを付けたパンチになります。これぞ必殺、勇者パーンチ!……えっ、作品が違う? でも、ビッキーとあの勇者系少女って戦闘パターンと思考パターンがそっくりだし、意外と波長が合うと思うんだ。怒らすと色々やべえレズの奥さんもいらっしゃりますし……。

(3)響、キレる
──性別が違うことで起こった弊害、というよりも黎人の教育の結果である。言われっぱなしとやられっぱなしでは、筋が通らないのである。筋を()()通すことが、今作ビッキーの信念である。

(4)響、弦十郎に突っ込む
──人間業じゃない。たぶんこれ、シンフォギア視聴者全員が必ず1度は思ったこと。彼にはそれを代弁してもらった。

(5)響、翼に()たれずに済む
──黎人の魔改造により、自分というものを自覚している響だからこそ言えた台詞で打たれずに済んだ。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 早く未来と再会させたいなー(ウズウズ

 クリスちゃんも出したいなー(ウズウズ

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 7 槍と剣と鎧

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 いきなり余談のシンフォギアXDの話なのですが、竜を討つ魔剣ガチャの幻獣ギアの調ちゃんエロ過ぎませんか? 腕や足の刺々しい装甲に対する胴回りの露出度の高さが凄いですね。

 いや、知ってましたよ。調ちゃんがシンフォギアの変身及び衣装でエロ担当なのは。1番小さいのにエロ担当とは、これ如何に。

 そのせいで最近調ちゃんをそういう目線でしか見られなくなりつつあります。小さくて家事が出来て衣装がエロいなんて……最高じゃないか!(洗脳済み)

 調ちゃんをお嫁さんに欲しい人は感想欄で挙手!(`・ω・´)ノ(露骨なコメ稼ぎ)

 とまぁ、調ちゃんが可愛いという話題は置いときたくないけど置いといて、そろそろ本編に入りましょう!

 今回は新キャラ登場! 題名で察せれる人は分かってるよなぁ?(ゲス顔)

 それでは、どうぞ!


 響が特異災害対策機動部二課に協力するようになって、実に1ヶ月の時が経った。

 

1月(ひとつき)経っても、噛み合わんか……」

 

 弦十郎は、モニターに表示された映像を見ながら独り言ちた。

 

 1ヶ月というそこそこに長い時間が経過したのにも関わらず、響と翼の仲は未だに進展が見られずにいた。基本的に翼は響に歩み寄ろうとはせず、響が翼に話し掛けても基本的に無視するか、本当に素っ気無い返事を一言だけ返して会話が終了する。

 

 弦十郎達も、そんな2人の仲を縮めようと工作したが、全てが効果を為さなかった。翼から響に伝言を頼んでも、翼は必要以上のことは話さず、淡々とした口調で伝言を伝えたら即座にその場からいなくなるのだ。これでは会話のしようもない。

 

 ノイズ発生の際に一緒に任務に行かせても、翼は我関せず先へ先へと行ってノイズを殲滅し、その後を素人の響が一生懸命に付いて行く。

 

 先に翼が現場に到着した場合は、翼が響を待たずにノイズを全て殲滅するから響の出番は全く無い。

 

 逆に響が先に現場入りすると、戦闘の殆どを翼が1人で終わらせることによる弊害であまり経験が掴めず、ノイズに苦戦しながらの戦いになる。

 

 普通なら、先達である翼が後輩である響にノイズとの戦闘や立ち回り方を教えるというのが道理だが、翼には全くその気が無い。故にアームドギアの存在を知ろうとも、響は未だにアームドギアを出現させることが出来ずにいた。

 

「はぁ、どうしたものか……?」

 

 弦十郎は、溜め息を吐いて眉間に寄った皺を揉み解しながら、翼と響の仲が良くなる為のプランを模索し思考する。しかし、唐突に入った通信によって弦十郎の思考は中断させられた。

 

『司令、お忙しいところに失礼します』

 

「緒川か。どうかしたのか?」

 

『はい。以前、司令に調べるように言われた響君の過去の洗い出しが一先ず完了しましたので、その報告を』

 

「ッ! そうか。分かった、報告を頼む」

 

 緒川からの報告が響に関わることだと知った弦十郎は、先程までの浮かない表情を変えて気を引き締め直して緒川に報告を促す。

 

『はい。我々の調査によりますと、立花響という少年は、何処にでもいる平和な日常の中に身を置いている少年でした……2年前までは』

 

「2年前……翼と奏の最後のライブの時と合致するな……」

 

『その2年前の翼さんと奏さんのライブ後を転期にして彼の生活はガラリと変わりました。惨劇から助かった生存者達が世間に迫害されるという風潮があったことは、司令もご存知ですよね?』

 

「ああ……忘れる筈も無い。あの時程、自分の無力さを呪ったことは無い……」

 

 突然とはいえ、ノイズによる襲撃が原因で多くの命が失われてしまったことを弦十郎は自分達の落ち度だと認識している。そのことが影響して、助かった者達までもが、世間から責め立てられるのをどうすることも出来なかった弦十郎は、ただひたすらに遣る瀬無さを感じていたのだ。

 

『……報告を続けます。その迫害には、当事者であった響君も含まれていました。しかし、その中でも響君は、他の生存者よりも更に酷い迫害を受けていました』

 

「……それはどういうことだ?」

 

『はい。調査によりますと、彼はほんの数度だけある言葉を漏らしたことがありました。その言葉は、「自分は“ツヴァイウィング”の天羽奏に命を助けられた」というものでした」

 

「何だと!?」

 

 緒川からの報告を聞いて、弦十郎は驚愕を露わにする。その報告が確かなら、響は奏がシンフォギアを纏う姿を見ていたということに繋がる。しかし、そのような報告を当時の弦十郎は聞いていなかった。

 

『このことは政府の方にも届いていましたが、この情報が本当か嘘か判別出来なかった上に、それに信憑性を持たせるような情報が新たに齎されることも無かった為、我々まで渡ること無くお蔵入りしてしまったのです。お蔵入りした結果、政府からは何の対応も無く、リークで齎されたこの情報は人と人を渡る間に形を変え、“天羽奏が立花響の命を助けた”という形から、“立花響が天羽奏を盾にして生き残った”という歪められた形に収まったらしいです……』

 

「何ということだ……!?」

 

『結果、響君は世間から“歌姫殺し”の異名で呼ばれることになりました。“歌姫殺し”の異名のせいで、世間からの響君への風当たりは更に苛烈さを増したようです。仲良くしていた友達、クラスメイト、学校関係者、近所の人達までもが完全に敵に回り、家の壁には様々な罵詈雑言の張り紙が貼られ、家の窓には外から石を放り投げられ、外を歩いていれば唐突に暴力を振るわれることは日常茶飯事だったようです』

 

「くそっ!? 俺達大人の勝手な判断が、そこまで彼を追い詰めることになったというのか……!!」

 

 弦十郎は、子供の為だけに純粋に動くことが出来る誠実な人間だ。そんな彼だからこそ、彼が置かれてしまった状況を憂いて悔やんだ。

 

『響君は、彼に巻き込まれて迫害を受ける家族を救う為に自ら家を出て行ったようです。彼の捜索は当時も行われましたが、響君の目撃情報は何処にも無く、響君が当時置かれていた状況もあって誰も搜索には協力的にはならず、捜索は難航して、響君の捜索の件は迷宮入りになったようです』

 

「そのようなことが……」

 

『しかし、彼は我々の前に突然姿を現しました。それも身形がちゃんと整い、健康状態も良好なままで、です。これは……』

 

「ああ。何者かが響君を保護し、この2年間ずっと響君の世話を見続けていたことに他ならない。一体、誰が……」

 

『それは我々にも分かりません。彼がいなくなってから我々の前に現れるまでの間の空白の2年間は、どの方向から洗おうと、情報を手に入れることは叶いませんでした。完璧な隠蔽工作です。記録も残っていませんでした』

 

 緒川や二課のエージェントは情報収集のエキスパートである。そんな彼らが一切の詳細も掴めなかったのだ。響を保護した人物が、相当な遣り手であることは明白だった。

 

「そうか。……これ以上は、本人から直接話を聞いた方が早いだろうな。ご苦労だった、緒川。ここから先は、俺がこの件を預かろう」

 

『どうなさるおつもりなのですか?』

 

「何、落ち着ける時間にでも聞いてみるだけさ。1対1で正面から堂々とな」

 

『ふふ、そうですか。了解しました、司令』

 

 そこで言葉を締め括って緒川からの通信が切れる。

 

「……響君を救った人物。一体、何者なのだ……?」

 

 弦十郎以外誰もいない1室の中で、響を救った謎の人物のことを思考しながら、弦十郎は独り言ちたのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「待たせてすみません!」

 

 響は、弦十郎達からの呼び出しに応じて司令室まで駆け足でやって来た。響の服装はタンクトップとジーンズとスニーカーで、手には灰色のパーカーを持っている。そんな響の髪は水で湿っていて、体には幾つか水滴が滴っている。

 

「筋トレとかの自己鍛錬をしてたんですけど、待たせるのも悪いと思ってシャワーを浴びた後に乾かさずにそのまま来ました……」

 

「あら、そうなの? ごめんなさいねぇ。こっちも急に呼び出しなんてして。風邪とかには、注意しないとダメよ?」

 

「大丈夫です。俺って免疫力高いですし、バカは風邪を引きませんから!」

 

「それでも、よ。では、全員揃ったところで仲良しミーティングを始めましょ!」

 

 了子がそう言う通り、既に呼び出されたメンバーは全員その場に揃っていて、その中には勿論翼の姿もあり、最後に来たのが響だったようである。

 

「……」

 

(やっぱ、目も合わせてくれないのか……)

 

 響が来たというのに、翼は未だに目を閉じたまま飲み物を口にしている。この1ヶ月で、響は無い頭を使って必死に翼との関係を良くしようとしたが、ちっとも効果は無かった。

 

 怒られるのは響も嫌だが、何の反応も無い無関心というのはもっと嫌である。今の翼は、好きの反対は嫌いではなく無関心、という言葉を正に体現しているようだった。

 

 すると、中央のモニターに二課の本部を中心とした町の地図が表示され、その周辺を囲むようにノイズが発生した箇所が映し出される。

 

「どう思う?」

 

「あー……一杯っすね!」

 

 表示されたモニターへの意見を弦十郎が響に訊ね、響はモニターを少し眺めてから実にシンプルな返答をした。その答えに、弦十郎は声を出して笑う。

 

「ハッハッハ! 全くその通りだ」

 

 響の返答を聞いて上機嫌になる弦十郎に対し、翼は紙コップから口を離して誰にも気付かれない規模で軽く溜め息を吐く。

 

「これは、ここ1ヶ月に渡るノイズの発生地点だ。ノイズについて、響君が知っていることは?」

 

「えーっと、無感情で機械的に人間だけを襲うこと。襲われた人間が炭化してしまうこと。時と場所を選ばずに唐突に出て来て周囲に被害を及ぼす特異災害として認定されていること。現存の兵器では効果が微々たるものしかないこと。意思疎通のしようが無いこと。一般的な物理効果を減衰するか無効化すること。これくらいですかね?」

 

「意外と詳しいなぁ」

 

「まぁ、こういうことを知れる環境に身を置いてたんで」

 

 響が意外にノイズについて詳しいことに弦十郎は感心し、響は軽く笑って後頭部を軽く掻きながら謙遜する。

 

「そうねぇ。ノイズの発生が国連での議題に挙がったのは13年前だけど、観測そのものはもーっと前からあったわ。それこそ、世界中に太古の昔から」

 

「世界の各地に残る神話や伝承に登場する数々の異形は、ノイズ由来のものが多いだろうな」

 

 続けられた了子によるノイズの解説に、弦十郎が細かな補足を入れる。

 

「ノイズの発生率は決して高くないの。この発生件数は、誰の目から見ても明らかに異常事態。だとすると……そこに何らかの作為が働いていると考えるべきでしょうねぇ」

 

「作為? ……それじゃあ、ここまでのノイズの被害は、全部その何処かの誰かさんが引き起こした事態だって言うのか!? しかもノイズを操って!?」

 

 了子の言葉に驚愕を露わにする響。それも当然だ。先に響が言った通り、ノイズは意思の疎通が出来ない存在である。それなのに、ノイズと意思疎通するどころか支配下に置くなど、普通ではありえないからだ。

 

「中心点はここ。私立リディアン音楽院高等科。我々の真上です。サクリストD、デュランダルを狙って、何らかの意思がこの地に向けられている証左となります」

 

 今まで沈黙を貫いていた翼が、唐突に口を開いて自分が思ったであろうことを周りに聞こえるように述べていく。しかし、翼の口から出た聞き覚えの無い単語に響は疑問を抱く。

 

「デュランダル?」

 

「ここよりも更に下層、アビスと呼ばれる最深部に保管され、日本政府の管理下にて我々が研究している、ほぼ完全状態の聖遺物。それがデュランダルよ」

 

「翼さんの天羽々斬や、響君の胸のガングニールのような欠片は、装者が歌ってシンフォギアとして再構築させないとその力を発揮出来ないけれど、完全状態の聖遺物は1度起動した後は100%の力を常時発揮し、更には装者以外の人間でも使用出来るであろうと研究の結果が出ているんだ」

 

「それが、私の提唱した櫻井理論! だけど、完全聖遺物の起動には、相応のフォニックゲイン値が必要なのよねぇ」

 

「あー……」

 

 疑問を抱く響に、友里、藤尭、了子の順に説明を引き継ぐ形で説明するが、話が続く中でごちゃごちゃとした内容が重なったせいで、響は余計にピンと来ずに頭を悩ませていた。

 

「あれから2年。今の翼の歌であれば、(ある)いは」

 

 弦十郎の呟きを聞いて翼の表情が強張ったものに変わり、翼は中に入っていた飲み物を一気に飲み干す。その姿を、響は心配そうに横目で見ていた。

 

(翼さん……)

 

「そもそも、起動実験に必要な日本政府からの許可って降りるんですか?」

 

「いや、それ以前の話だよ。安保を盾に、アメリカが再三のデュランダル引き渡しを要求してきているらしいじゃないか。起動実験どころか、扱いには関しては慎重にならざるおえまい。下手を打てば、国際問題だ」

 

「まさかこの件、米国政府が糸を引いてるなんてことは?」

 

「調査部からの報告によると、ここ数ヶ月の間に数万回に及ぶ本部コンピュータへのハッキングを試みた痕跡が認められているそうだ。流石に、アクセスの出所は不明。それらを、短絡的に米国政府の仕業とは断定出来ないんだ。勿論、痕跡は辿らせている。本来こういうのこそ、俺達の本領だからな」

 

 弦十郎達が話す中で、翼は苛立ちを我慢するように空になった紙コップを静かに握り潰した。その様を見ていた響は、余計に翼のことが心配になった。

 

「風鳴司令」

 

 話が一段落したところで、響達の後ろに控えていた緒川が弦十郎に話し掛けた。

 

「おっ、そうか。そろそろか?」

 

「今晩は、これからアルバムの打ち合わせが入っています」

 

「ウェ?」

 

 緒川の言わんとしていることを知っていた弦十郎はそれだけで察するが、緒川が唐突に口にした内容の意味が分からない響は、呆然として間抜けな声を漏らした。

 

「表の顔では、アーティスト風鳴翼のマネージャーをやっております」

 

 緒川は、懐に忍ばせていた伊達メガネを掛けながら何も知らない響に事情説明をして、取り出した表の身分としての名刺を響に差し出した。

 

「あっ、これはどうもご丁寧に」

 

 差し出された名刺を響が受け取り、翼は間を置かずに緒川を伴って司令室から出て行った。

 

「俺達を取り囲む面倒事ってノイズばっかじゃねえんだな」

 

 響の心底面倒臭そうな発言に、弦十郎は無言で頷いて答える。

 

「どっかの誰かさんがここを狙ってるなんて、そんなのあまり考えたくねえんだけどなぁ……」

 

「大丈夫よ」

 

「え?」

 

「何てったってここは、テレビや雑誌で有名な天才考古学者、櫻井了子が設計した人類守護の砦よ。先端にして異端なテクノロジーが、悪い奴等なんか寄せ付けないんだから」

 

「ハハッ、そいつは心強いや」

 

 少し不安そうにする響を、了子は大きく胸を張りながら自信満々に懸念を消し去るよう元気付け、響は笑顔を浮かべる了子のお陰で暗い気持ちから脱却するのだった。

 

 それから少ししてミーティングは終了し、一同は司令室から出て飲み物を飲みながら休憩を取っていた。

 

「どうして、俺達は……」

 

「ん?」

 

「ノイズだけじゃなく、人間同士でも争うんだ? あちこち行ったけど、どうして人間は争うことを止められないんだ……?」

 

 響は、先程に弦十郎が話していた内容を聞いて思ったことを何と無しに呟いた。

 

「それはきっと、人類は呪われているからではないかしら?」

 

 そんな響の呟きに、隣に座っていた了子が響の耳元まで顔を近付けて答え、その直後に響の耳を甘噛みした。

 

「うわっへぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇいっっっ!?!!?」

 

 唐突に了子によって耳を甘噛みされた響は、妙な奇声を発しながら物凄い勢いで立ち上がって良子から慌てて距離を取った。

 

「あ〜ら、おぼこいわねぇ。誰かの物になる前に私の物にしちゃいたいかも」

 

 そんな響の反応を面白がった了子は、妖しい笑みを浮かべながら目を細めて響を見詰め、それを見ていた友里と藤尭は苦笑していた。

 

「……勘弁してくれよ」

 

 甘噛みをされた当の本人である響は、顔を少し赤くしながらどっと疲れたように言葉を吐き出すのだった。

 

 立花響、童貞。童貞の彼には、先程の行為の相手が例え好意を抱いていない女性であったとしても、少々刺激が強過ぎたようだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「へぇ、今日って流れ星が見れるのか。空は晴れてて邪魔な雲も少ない。良い天体観測日和だな。偶には、天体観測に洒落込むのも悪くないかもな」

 

 ミーティングがあった翌日の夕方、響は1人で地下へ入ることが出来る入り口の前で携帯を見ながら独り言ちていた。

 

 外で独り言なんて呟けば、周りから奇怪な視線を注がれることになるが今はその心配は無い。何故なら、現在の響の周辺には響以外に人っ子一人いないのだから。

 

「……という訳でだ。予定が入ったから即行で終わらせる!」

 

 響はポケットにスマフォを仕舞いながら、振り向き樣に視線を下にやって呟く。響の視線の先には、地下に続く階段を敷き詰めるように占拠しているノイズが映っている。

 

 響は、弦十郎の指示に従ってノイズが発生した場所に急遽駆け付けたのだ。響の周囲に人がいなかったのは、ノイズが発生したからであり、既に民間人は避難警報に従ってシェルターまで避難完了済みである。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 響は聖詠を歌ってシンフォギアを纏い、歌を歌いながらその場から飛び出してノイズに殴り掛かった。

 

『小型の中に一回り大きな反応が見られる! 間も無く翼も到着するから、それまで持ち堪えるんだ。呉々(くれぐれ)も無茶はするな』

 

「分かってる! 俺は、俺に出来ることを精一杯するだけだ!」

 

 司令室から飛んできた弦十郎の指示に、響は周囲に群がるノイズを討滅する為に拳を振るいながら答える。すると、地下に向かって進んでいた響の視界に、他のノイズとはまるで姿が違うノイズの姿が入った。

 

(あれが、一回り大きい反応のノイズか。……まるで葡萄(ぶどう)だな)

 

 全体に紫色の配色で、頭部に(へた)のような触角のようなものが生えて頭部から背部全体に掛けて球状の部位をぶら下げている周りのノイズよりも少し大きいノイズ。それは、紛うこと無き葡萄だった。

 

 響は目の前の改札口を跳び越え、目の前にいたノイズにタックルを仕掛ける。続け様に蹴りを入れ、跳び掛かってくるノイズを倒す響。

 

 すると、葡萄のようなノイズ──セルノイズが葡萄の果実のような部位を周囲にばら撒く。ばら撒かれた部位は、爆発を起こして周囲を倒壊させる。

 

「うわっ!?」

 

 響は、諸に爆炎の中に飲まれて落ちてきた瓦礫の中に生き埋めにされる。爆発を引き起こしたセルノイズは、軽快に飛び跳ねながら響から離れていく。

 

「……あっぶねえ、なあっ!!」

 

 瓦礫の中に埋められていた響は、軽い咆哮を上げて瓦礫から飛び出し、周囲に群がっていたノイズを勢いで全滅させてから逃げたノイズの後を追う。

 

(見付けた!)

 

 逃げたノイズを駅のホームで捉えた響だったが、ホームに潜んでいたノイズ達が響の前に立ち塞がって行方を阻む。

 

(邪魔だ!)

 

 拳を振るいノイズの体を貫き、蹴りを入れてノイズを踏み付ける響。

 

 響は体を鍛えてはいるが、技術面ではまだまだであったりする。響は、黎人から必要最低限の武術しか教えられておらず、それの殆どが柔術の中でも身を守る為の受けの姿勢のものばかりである。よって、攻めの武術をあまり知ら無い響の攻撃は、少し無駄の多い我流のものである。

 

 周りのノイズを殲滅し終えた響は、改めて先程のノイズを追い掛けようとする。しかし、そこに先程のノイズの部位が転がってくる。

 

「うっ!?」

 

 響は咄嗟に両腕を顔を覆い、襲い掛かる爆風と爆炎に耐える姿勢をってノイズの攻撃を遣り過ごす。

 

 先程のノイズは、駅のホームから降りて線路へ逃げ、後を思う響も線路に飛び降りる。すると今度は、地下の天井に向かって部位を飛ばして天井を爆破した。

 

「くそっ!?」

 

 響はノイズが起こした爆風で足を止められ、その隙にノイズは自身で天井に開けた穴を伝って外に逃げ出してしまう。響は急いでノイズの後を追おうとしたが、突如足を止めた。

 

「あれって、流れ星か?」

 

 ノイズが開けた穴から見える青く光る流れ星のようなものが見えたのだ。その青い閃光の正体は、後から急いでやって来た翼であり、翼は剣を大剣に変化させて振り下ろす。

 

【蒼ノ一閃】

 

 翼の蒼ノ一閃が逃げていたノイズを斬り裂き、穴から登り出た響の前に翼が着地する。

 

「翼さん、俺には守りたいものがあるんです! だから!」

 

 響は、自身の胸の内にある想いを翼に訴え掛ける。しかし、依然として翼は沈黙したままであり、何も言わずにただ剣だけを構える。

 

(戦うしかねえのか……!)

 

 言葉だけでは、翼に何も伝えられない。後に残るのは行動で示すことだけであるが、響が幾ら動いても翼は何も変わらなかった。

 

 あらん限りの言葉も出来る行動も出し尽くし、まだやっていないのが翼と戦うことだけであることが、響をその考えに至らせる。

 

「だから、んでどうすんだよ?」

 

「「ッ!」」

 

 突如として響き渡った第三者の声。その聞き覚えの無い新たな声に、響だけじゃなく翼も確かな反応を示し、2人して声が聞こえてきた方向へ視線を向ける。

 

 その方向には、響達に歩み寄ってくる謎の影があり、雲に隠れていた月が出てきたことでその影の正体が月光の下に晒し出される。

 

「ッ!」

 

 影の正体を知り、翼は絶句した。その影の正体、正確には影の正体たる人物が纏っていたものは、翼にとって切っても切れない深い因縁があるものだからだ。

 

「ネフシュタンの鎧……?」

 

 銀色に輝くネフシュタンの鎧なるものを纏った謎の銀髪の少女が、そこには立っていた。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、ここ2年間の詳細が不明
──今作ビッキーの足取りは家を出てからのその後を追うことが出来ません。それだけ黎人の隠蔽工作が完璧なのです。

(2)響、童貞である
──女を沢山侍らす兄貴分と一緒にいたが、今作ビッキーは未だに童貞である。原作ビッキーも彼氏いない歴が年齢と一緒だから処女だけど、処女と童貞とでは違うのだ。処女は高潔で、童貞は恥なの。Do you understand?

(3)響、暴走(弱)をしない
──今作ビッキーは、393と流れ星を見に行く約束をしていない。よって、精神的には安定しているから暴走の心配は無い。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 やっとクリスちゃん出せたよー! クリスちゃんが今作で出るのをどれ程の人が待ち遠しく思っていたことか……。

 次回は、大きくて小さい青VS小さくて大きい銀になります。

 ある意味シンフォギアって言えば、これでしょって回になりますね。最近はあそこまでエグいものは無いけど、最初にあれを見た時の衝撃は凄かったなぁ……(白目)

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 8 絶唱

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 最近花粉症と風邪の2つでKOされたSABATAです! 鼻が死にそうです。季節の変わり目ですから、皆さんも体調には気を付けて下さいね。

 本当はこの話、もう少し投稿までに時間がかかる予定だったんですよ。ですがね、風邪引いて花粉症を発症した途端にすらすら執筆出来るようになったんですよ。何ででしょうかね(笑)

 という訳で、そろそろ本編に入っていきましょう!

 それでは、どうぞ!


 突如現れたネフシュタンの鎧を纏った謎の少女。その少女の存在は、当然二課の司令室まで行き届いていて、司令室のモニターに大きく“Nehushtan”と表示されていた。

 

「バカな……」

 

 二課のコンピュータが存在の検知を見落とすことは無い。故に謎の少女が纏うものが、本物のネフシュタンの鎧であることは明白であり、そのことに弦十郎は驚愕を露わにして立ち上がる。

 

「現場に急行する! 何としてでも鎧を確保するんだ!」

 

 弦十郎はマイクを使って指示を二課の職員全員に通達する。このことの重要性は二課にいる全員が周知していることであり、弦十郎の隣にいる了子も力強く頷いた。

 

 一方、現場でネフシュタンの鎧を纏う少女と直に遭遇した響と翼は、その少女と向かい合いながらあまりの衝撃に立ち尽くしていた。

 

「へぇ。ってことはあんた、この鎧の出自を知ってんだ?」

 

「2年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか! 何より、私の不手際で奪われた命を忘れるものか!?」

 

 翼の脳裏に浮かぶのは、戦う奏の姿と不甲斐無い自身の姿、そして散り逝く奏の最後だった。

 

 翼は歌を歌いながら大剣を構える。対してネフシュタンの少女は、右手に杖らしきものと左手に鎧に繋がっている紫色に淡く発光する鞭のようなものを持って構える。

 

(奏を失った事件の原因と、奏が残したガングニールのシンフォギア。時を経て、再び揃って現れるという巡り合わせ。だが、この残酷は私にとって心地いい!)

 

 示し合わせたかのように揃った嘗ての再現。その全てが、翼の内で静かに燃える炎を激しく燃え上がらせる。

 

「待ってくれ、翼さん! 相手は人だぞ! 同じ人間なんだ!」

 

 だが、今にでも戦いを始めようとする翼を止めようと、響は翼の下に駆け寄って肩を掴みながらどうにか引き止めようと訴え掛ける。

 

「「戦場(いくさば)で何をバカなことを!?」」

 

「ハモった!?」

 

 しかし、止めようとした響は、まさか翼だけでなく相手であるネフシュタンの少女にまで怒鳴られて一蹴されてしまう。しかも言葉がハモりながら同時にである。

 

 言葉がハモったことで、お互いに相手を見遣って視線を交えた翼とネフシュタンの少女は不敵な笑みを浮かべ合う。

 

「寧ろ、あなたと気が合いそうね?」

 

「だったら、仲良く戯れ合うかい!」

 

 ネフシュタンの少女は、そこで話を締め括り左手に持っていた鞭を響達目掛けて振るい落とした。鞭が落とされる直前、翼は響を押し飛ばすことで鞭から避けさせ、自身は大きく跳んで鞭を躱す。標的を失い空振りとなった鞭は、叩き付けられた地面を軽々と破壊する。

 

「っつぅ……!」

 

 押し飛ばされた響は、上手く受け身をしてから勢いを利用した後転をして片膝を着いた。間髪入れずに、響は跳び上がった翼を見上げる。

 

 大きく上に跳躍した翼は、持っていた大剣を上段に構えて勢い良く振り下ろす。

 

【蒼ノ一閃】

 

 放たれた蒼ノ一閃がネフシュタンの少女に向かって飛来するが、少女は持っていた鞭を振るって蒼ノ一閃を左方向に弾き飛ばした。

 

 重力に従って降りてきた翼は、大剣をネフシュタンの少女に向かって振り下ろし少女はそれを難無く躱す。続け様に翼は大剣を振るうもその全てが躱され、脚部のブレードの攻撃も少女には届かない。

 

 それでも翼は引かずに大剣を振るうが、ネフシュタンの少女が両手で持った鞭によって軽々と止められてしまう。

 

 少女は悪どい笑みを浮かべて大剣を鞭で逸らしてから翼の顔目掛けて鞭を振るう。翼は頭を下げて攻撃を避けるが、意識が顔に向かったことでガラ空きになった無防備の腹部に容赦無い蹴りを入れる。

 

(これが、完全聖遺物のポテンシャル!?)

 

 ネフシュタンの少女の蹴りでぶっ飛ばされながら、翼は難無く自身を簡単に(あしら)うネフシュタンの鎧の性能に驚き動揺を隠せない。

 

「ネフシュタンの力だなんて思わないでくれよな。あたしの天辺(てっぺん)は、まだまだこんなもんじゃねえぞ!」

 

 翼の動揺を見透かすように挑発の言葉を投げ掛けるネフシュタンの少女。少女は、跳躍しながら大きく鞭を振るう。

 

 ネフシュタンの鞭は大きく伸び続け、躱し続ける翼がどのような場所にいても難無く届き、叩き付けられる度に木々や地面を破壊していく。

 

「翼さん! 止めろ、てめえぇぇぇぇぇっ!!」

 

 一方的に追い詰められていく翼を見て、今までその場に立ち尽くすだけだった響が叫びながらネフシュタンの少女に向かって突貫する。

 

「お前はお呼びではないんだよ。こいつらでも相手してな」

 

 ネフシュタンの少女は、腰に付けていた杖らしきものを響に向ける。すると、杖の先端が発行して光が放たれ、放たれた光の中から駝鳥(だちょう)のようなノイズが4体出現する。

 

「なっ!? ノイズ、だと!?」

 

 響は驚きつつも勢いに乗った拳を振るってノイズを1体殴り倒す。残った3体のノイズは、響に向かって(くちばし)から粘液のようなものを吐き出し、響はバックステップで粘液を避ける。

 

 再度、翼がネフシュタンの少女に突貫する。大剣を上段から振り下ろし、大剣は再び鞭によって受け止められる。

 

「その子に(かま)けて、私のことを忘れたか!」

 

 力一杯吠える翼は、ネフシュタンの少女に足払いをする。足払いによって少女は体勢を崩し、そこに翼が回し蹴りを入れるが、少女は体を背面に逸らして回し蹴りを避ける。

 

 回し蹴りで回転に勢いが付いた翼は、もう片方の足も使って2度目の回し蹴りを入れるが、ネフシュタンの少女はそれを右腕で受け止める。

 

「お高く止まるな!」

 

 ネフシュタンの少女は、受け止めた翼の足を握って軽く振り回してから地面に向かって叩き付ける。叩き付けられた勢いで、翼は地面を跳ねながら転がり、転がっていく先に回り込んだ少女によって顔を踏み付けられた。

 

逆上(のぼ)せ上がるな、人気者! 誰も彼もが構ってくれると思うんじゃねえ!」

 

 煽るように汚い言葉を並べて吐くネフシュタンの少女を、翼は顔を踏み付けられながら強く睨み付ける。

 

「その足を退()けろぉぉぉぉぉ!!」

 

 すると、そこに駝鳥のようなノイズを片付けた響が勢い付けて拳を構えながら突っ込む。

 

「お呼びじゃねえって言ってんだよ、この突進バカ!」

 

 先程のように自身に迷い無く突っ込んでくる響を見て、ネフシュタンの少女はその姿を汚く罵り、振り抜かれた拳を体勢をズラすことで躱して左手で持った鞭を振るう。

 

「がはっ!?」

 

 背中から諸に鞭を喰らった響は、勢いよく吹っ飛ばされて立ち並ぶ木々の中に突っ込んでいった。突っ込んだ響のせいで木々が倒れ、周囲一帯に砂埃が舞う。

 

「この場の主役と勘違いしているなら教えてやる。狙いは(はな)っからあいつを掻っ攫うことだ」

 

 ネフシュタンの少女は、未だに踏み付け続けている翼に視線を戻して、倒れた木々の中で痛みに悶える響を指差しながら自身の目的を語った。

 

「冷たく接しられてるのに痛い思いして助けに来てくれるなんて、良いお仲間をお持ちじゃねえか。けど、良いお仲間は勿論のこと、鎧だってあんたには過ぎたもんだろうよ」

 

「繰り返すものかと、私は誓った!」

 

 罵るネフシュタンの少女に翼の目付きが更に鋭くなり、翼は持っていた大剣を空へ向けて掲げる。

 

【千ノ落涙】

 

 翼を避けてネフシュタンの少女に降り掛かる千ノ落涙。少女は千ノ落涙を跳んで避け、踏み付ける足が無くなったことで自由になった翼は、早急に立ち上がってその場を離れる。

 

 尚も続く翼とネフシュタンの少女の激突を見ながら、痛みを堪える響は自分に何が出来るかを思案する。

 

「どうする、どうすれば良い!? ……そうだ、アームドギア! アームドギアがあるじゃないか!」

 

 未だに自身が顕現させることが叶わずにいるアームドギアに希望を見出す響。

 

「奏さんみたいにあの槍を出すことが出来れば、きっと翼さんを助けること出来る筈だ! おい、ガングニール! お前も翼さんとは長い付き合いだろ! 奏さんのもう1人の相棒として、翼さんや翼さんの天羽々斬と一緒に戦ってたんだろうが!なら、出ろ! 翼さんを助ける為に出てこい、アームドギア!」

 

 響は自身の纏うガングニールに訴え掛けながら何度も腕を振ったりと色々試すが、ガングニールは響の想いに応えず沈黙したままだった。

 

「何でだよ、ガングニール!? 俺がまだ未熟だからダメなのか!? それとも、俺にはお前を本当の意味で振るう資格なんて無いってことか!? くそっ、どうすれば良いんだよっっ!?!!?」

 

 見出した希望にも見放され、響は何も出来ない自分の不甲斐無さを恥じ、拳を地面に叩き付けながら嘆くように吠える。

 

 一方で、翼とネフシュタンの少女は大剣と鞭で鍔迫り合いを繰り広げて硬直状態に突入していた。

 

「鎧に振り回されている訳では無い。この強さは本物」

 

「ここでふんわり考え事たぁ? ()()てぇ!」

 

 独り言を呟く翼に、ネフシュタンの少女は罵倒しながら蹴りを入れる。翼はネフシュタンの少女の蹴りをバク転で躱して、そのままバク転を繰り返して距離を取る。

 

 対してネフシュタンの少女は、距離を取った翼に杖を向けて光を複数放つ。放たれた光からは、先程と同じようにノイズの群れが出現した。

 

 ノイズの攻撃を翼は大剣で受け止め、弾き返した直後にノイズの体を斬り裂いて後ろに控えていたノイズも続け様に斬り捨てる。

 

 距離の開いた位置にいるノイズにも素早く攻め入り、翼はノイズを迅速且つ討ち漏らしの無い様に全てを討滅した。

 

 翼は蒼ノ一閃を放ち、前にいたノイズごと後ろに控えているネフシュタンの少女を狙う。ノイズは簡単に斬り捨てられ、後ろにいた少女に蒼ノ一閃が命中するが、巻き起る爆煙の中から無傷の少女が出てくる。

 

 ネフシュタンの少女は、翼に向かって鞭を振るう。翼は、大剣で鞭を弾いて少女に斬り掛かり、少女は引き戻した鞭で大剣を受け止めてから前に押し退ける。

 

 そこから少女達によるインファイトに突入し、互いの攻撃は互いに避けられる。

 

 インファイトを止めて距離を取った翼は、左手に持った短刀をネフシュタンの少女に向けて3本投擲する。

 

「ちょせえ!」

 

 しかし、ネフシュタンの少女は鞭を振るって軽々と3本の短刀を弾き飛ばし、弾かれた短刀が宙を舞う。

 

 ネフシュタンの少女は、鞭の先端に黒い雷を内包した白いエネルギー状の球体を生成し、鞭を振るってその球体を翼目掛けて投げ付ける。

 

【NIRVANA GEDON】

 

 飛来するNIRVANA(ニルヴァーナ) GEDON(ゲドン)を、翼は大剣で受け止める。

 

「翼さん!」

 

 響が、翼の身を案じて声を張り上げてその名を呼ぶ。

 

 翼は、受け止めた大剣でネフシュタンの少女が繰り出した技に耐えようとするが、攻撃を受け止め切ることは出来ず白いエネルギー球は爆発して、爆炎と爆風に乗って翼は吹き飛ばされる。

 

 吹き飛ばされた翼は何度も地面に打ち付けられながら転がり、持っていた大剣も通常状態の日本刀の形態に戻ってしまった。

 

「ふっ、まるで出来損ない?」

 

 無様に地に這い蹲る翼を見下しながら、ネフシュタンの少女は罵倒を吐き捨てる。

 

「確かに。私は出来損ないだ……」

 

「あぁん?」

 

「この身を一振りの剣と鍛えてきた筈なのに、あの日、無様に生き残ってしまった。出来損ないの剣として、恥を晒してきた」

 

 翼は絞り出すような声で自分の無様さを語りながら、痛みとダメージで震える体を地面に突き立てた剣を支えにして、どうにか起き上がらせる。

 

「だが、それも今日までのこと。奪われたネフシュタンを取り戻すことで、この身の汚名を雪がせてもらう!」

 

 震える体で立ち上がった翼は、出来る限りの好戦的な笑みを浮かべながら啖呵を切る。

 

「そうかい? 脱がせるものなら脱がして、何?」

 

 ネフシュタンの少女は、啖呵を切った翼を沈める為に行動を起こそうとしたが、その体が自由に動かないことに気付いて困惑し、辺りを見渡す。

 

 ネフシュタンの少女は、すぐに身動きの出来ない原因を見つけ出した。少女の視線の先には、先程に少女が弾き飛ばした短刀の内の1本が自身の影に突き刺さっている光景があった。

 

【影縫い】

 

 それは、翼が(あらかじ)め仕込んでおいた影縫いという技だった。その効果は、対象の影に突き刺すことで、対象本体の身動きを封じるというものである。

 

「こんなもんで、あたしの動きを!? まさか、お前……」

 

 最初は強気だったネフシュタンの少女は、翼の目論見に気付いて目を見開いた。

 

「月が覗いている内に決着をつけましょう」

 

 意味深な笑みを浮かべる翼。影縫いは、対象の影が出ている間にしか効果を発揮しない。故に、翼は月光で影が出ている間に決着をつけようとしている。

 

「歌うのか、絶唱を?」

 

「翼さん!」

 

 翼が何をしようとしてるかを知るネフシュタンの少女は、思わずその身を後ろに引き、響は腕を押さえながら翼の名を呼ぶ。

 

「防人の生き様、覚悟を見せてあげる! あなたの胸に、焼き付けなさい!」

 

 ここで初めて響の呼び掛けに振り向いた翼は、手に持つ剣の切っ先を響に向け、強く見開かれた目で響を見詰めながら言葉を張り上げる。

 

「……っ!」

 

「つ、翼、さん」

 

 互いに目が合い、覚悟を決めたような面持ちの強い瞳で響を見る翼に、響は何も言えずに口籠もってしまう。

 

「やらせるかよ、好きに、勝手に! はっ!?」

 

 影縫いの拘束から脱しようと、身を捩るように動こうとするネフシュタンの少女だったが、不意に翼を見て動きを止めた。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

 翼は、天に向けて剣の切っ先を向けながら歌を──絶唱を歌い始めた。

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

 天に向けていた剣を収め、動こうとするネフシュタンの少女に向かって歩み寄って行く翼。

 

(まさか、この歌って……!)

 

 響は、その何処か幻想的で、とても儚く聞こえるこの歌を知っている。そう、この歌は、2年前のライブ会場での惨劇の時、天羽奏が最後に歌っていた歌と同じものなのだ。

 

 響は知っている。この歌の持つ莫大な威力の力と、歌を歌った者が背負う代償とその末路を。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

「ダメだ、翼さん! 歌っちゃダメだぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 尚も歌い続ける翼を止めようと、響は喉が張り裂けんばかりに声を張り上げるが、翼の歌は止まることなく歌われ続ける。

 

 ネフシュタンの少女は、どうにか動かすことが出来た右腕で杖のようなものを再度取り出し、杖を突き出してノイズを出現させるが、その時には既に翼は少女の目前まで迫ってきていた。

 

「翼ぁ! 止めるぉ!!!」

 

 全くなっていない敬語から遂に尊敬する人への敬称まで無くなり、響は翼を呼び捨てにして、発音までも可笑しくなった声を張り上げる。

 

 しかし、響の想いが込もった静止を呼び掛ける必死の叫びは翼に届かない。

 

「Emustolronzen fine el zizzl」

 

 そして、翼はネフシュタンの少女の肩を掴みながら絶唱を歌い切ったのだった。最後まで歌を歌い切った翼は口角を吊り上げて笑みを浮かべ、翼の口から血が流れ出た。

 

 その直後、翼を中心に凄まじい衝撃波が巻き起こった。

 

「うあぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁっ!!?」

 

 巻き起こった衝撃波をゼロ距離且つ無防備の状態で真正面から喰らったネフシュタンの少女は悲鳴を上げ、纏っていた鎧や目を隠すバイザーに罅が入っていく。

 

 エネルギーを伴った衝撃波によって周辺にいたノイズは地表ごと消し飛ばさる。衝撃波に巻き込まれた響は、翼に向かって手を伸ばし続けていた。

 

 捲き起こる衝撃波の中で、翼は掴んでいたネフシュタンの少女の肩を離した。直後、少女は衝撃波によって吹き飛ばされた。

 

「うあぁぁぁあああぁぁぁっっ!!?!?!?」

 

 ネフシュタンの少女は、身に纏う鎧の様々な箇所を破壊されながら吹き飛んでいき、かなりの距離が開いた場所でエネルギー状の衝撃波を伴って地面に叩き付けられた。その際に多量の砂埃が宙を舞った。

 

 砂埃が晴れてネフシュタンの少女の姿が露わになる。

 

「あ……あぁ……あ……」

 

 少女は、鎧が破壊された箇所から色白の肌を露出させ、下半身を水に浸らせながらコンクリートの壁を背にして仰向けに倒れていた。

 

「あがっ!? あぅがっ!?」

 

 直後、ネフシュタンの少女の顔が歪み、少女は苦悶の声を漏らす。

 

 破壊された鎧が自己修復を始めていた。しかし、その修復は少女の体を巻き込んで、まるで彼女の体を蝕んでいくようであった。

 

「ちぃ!」

 

 自分の有様を見て、これ以上の戦闘続行が不可能だと判断したネフシュタンの少女は、身を翻して夜空の闇の中に消えていった。

 

「翼さん!」

 

 翼が立っている場所を中心にして出来上がった土だけのクレーターを、翼の名を呼びながら響は駆ける。すると、走る響を後ろからやって来た車が追い抜いて響の前に止まる。

 

「無事か、翼!?」

 

 事態を知ってやって来た弦十郎は、車から降りて翼に呼び掛け、後ろにいた響が弦十郎よりも前に躍り出る。

 

「私とて、人類守護の役割を果たす防人」

 

 弦十郎の呼び掛けに応えるように響達の方へ体ごと振り返る翼。しかし、響は翼の今の姿を見て目を見開いた。

 

 ボロボロになったアンダースーツ、所々によって破損した箇所が違う罅割れた装甲、無くなった片方の脚部のブレード、そして目と口からぼたぼたと血を流し続ける翼の姿がそこにはあった。

 

「こんなところで、折れる剣じゃありません」

 

 翼がそう言葉を口にした直後、翼は膝から崩れ落ちる。翼が地面に膝を着く直前、素早く駆け出した響が前に倒れ行く翼の体を抱き留めた。

 

 抱き留めた響の顔と体に、翼の目と口から流れ出た血が付着する。力無く自身に寄り掛かる翼の体を響は片方の手で優しく抱き締め、もう片方の空いた手を見詰める。

 

(……何も出来なかった。何も、掴めなかった……ッ!!)

 

 掴もうとした手も、守ろうとした笑顔も、何1つ為し得ることの出来なかった翼の血で濡れた空虚な手を見詰める響。

 

「あぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」

 

 何も出来なかった自分自身への怒りを吐き出すように喉が張り裂けんばかりの咆哮を上げる響。その後悔と怒りの念が込められた咆哮は、夜の闇の中へ溶け込むように消えていくのだった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、ネフシュタンに戦いを挑む
──今作ビッキーは、粘液で捕まえられずにノイズを撃破。それでもって、翼を助ける為にネフシュタンのクリスちゃんに戦いを挑みました。しかし、結果は惨敗。これは、戦闘経験や技術、自身の武装に対する理解度などの様々な要素が現在の響よりもクリスちゃんの方が遥かに高いからです。

(2)響、ガングニールに訴えかける
──これは個人的に男の子っぽい演出だと思ってる。自分の武器に語りかける男の子の主人公って良くないですか?

(3)響、絶唱を歌う翼を止めようとする
──今作ビッキーは、絶唱の歌詞と絶唱をした奏がどうなったかを鮮明に覚えています。だから、絶唱を歌う翼を止めようとしました。

(4)響、翼を抱き留めて咆哮を上げる
──原作ビッキーのように座りこまず、ちゃんと立っていた且つ弦十郎よりも前に出てたから抱き留めることができました。そして、今作ビッキーは戦いに中途半端に参加して何も出来なかった、正しく全てが中途半端に終わり、結果として何も出来なかった自分への怒りを咆哮にして吐き出しました。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 初めて絶唱顔を見た時の衝撃は凄まじかったですよね。EDの映像のこともあって、これってもしかして鬱作品か!?って当初は思わず身構えちゃいましたよ。

 この時のクリスちゃんって、すっごい悪役(ヒール)っぽいですよね。今ではすっかり愛されキャラですけど。

 シンフォギアって話が進む度にキャラクターの性格面が変わりますよね。響は普通の女の子からイケメンになって、翼さんは乙女成分が抜け切って、クリスちゃんは悪役(ヒール)から愛されキャラにシフトして、393は愛の深さが今では深淵なんて生温いレベルになりましたしね。

 次回は響の一念発起回!

 簡単に言うと、男なら誰かの為に強くなれ!って感じの回ですかね。……え? どっちかって言うと、今の響は青い果実だろって? なら、そっちもってことで!

 上記内容のネタが分かる人は、きっと特撮が好きな人。そして、僕と一緒に美味い酒が飲めると思う。

 ちょっと長くなりましたね。それではそろそろ閉めようとと思います。

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 9 落涙

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 ガチャ引いて虹演出きたけど、全く無関係の☆5メモリアだったぜ(絶唱顔)

 来年の今頃には、シンフォギア5期こと“戦姫絶唱シンフォギア XV”が放送されるんですよね。来年が待ち遠しいよぉぉぉぉぉぉ!!

 では、無駄話もここまでにしてさっさと本編に入りましょう!

 それでは、どうぞ!


 絶唱の負荷によって体に深刻なダメージを負った翼は、急遽二課の医療施設まで運び込まれた。二課の医療施設は、二課本部の横に建てられている。つまりは、私立リディアン音楽院高等科に隣接しているのである。

 

「辛うじて一命は取り留めました。ですが、容体が安定するまでは絶対安静。予断を許されない状況です」

 

 運び込まれた翼を担当した執刀医から、弦十郎に翼の現状の説明がされる。絶唱による負荷は相当なもので、今の翼は死ぬか生きるかの丁度一歩手前という容体であった。

 

「宜しくお願いします!」

 

 何時もと違いベージュ色のスーツを着熟した弦十郎は、担当医の男に頭を下げて翼のことを頼み、身を翻して後ろに控えていた黒いスーツの男達と向かい合う。

 

「俺達は鎧の行方を追跡する。どんな手掛かりも見落とすな!」

 

 黒いスーツの男達に指示を出し、弦十郎は黒いスーツの男達を引き連れてその場を後にする。その途中で、弦十郎は自販機やソファーが設置されている小さな休憩ルームにいる響とガラス越しで擦れ違うが、お互いに声を掛けること無く弦十郎はその場を後にした。

 

「……翼さん」

 

 死の瀬戸際にいる翼のことを想い、響は作った握り拳に更に力を込める。爪が相当な力で掌に喰い込み、響の手から少量の血が流れ出る。

 

「君が気に病む必要はありませんよ」

 

 自責の念に駆られる響に、後ろから歩み寄って来た男が声を掛けた。その声に反応して、響は声を掛けてきた人物の顔を見る為に、俯かせていた顔を上げた。

 

「緒川さん……」

 

 意気消沈した響に声を掛けたのは、表の顔では翼のマネージャー、裏の顔では二課のエージェントをしている緒川だった。

 

「翼さんが自ら望み、歌ったのですから」

 

 緒川は響の顔を見ないで背を向けながらそう言い、自身の端末を自販機に翳す。すると、自販機から電子マネーを支払った電信音が鳴り、用意された容器へ飲み物が注がれ始める。

 

「……そうだよ。翼さんが、自分で歌ったよ。歌っちまったんだよ。俺は……翼さんに歌わせちまったんだよ! あの歌をっ!! 俺は止めることが出来なかった! 俺の言葉は、翼さんに届かなかったっ!!!」

 

「落ち着いて下さい。君が声を荒げても、翼さんの現状が変わる訳ではありません」

 

「んなことは百も承知だ! だけどよ! 他にも何か出来たんじゃないか、もっと別の選択肢があったんじゃないかって嫌でも考えちまうんだよっ! 俺は、こんな情け無い自分が許せないんだよ! 女の子の翼さんがあんなにズタボロになってるのに、男の俺がこんな五体満足でピンピンしててよ!」

 

 声を荒げ、響は自身の内に溜まった鬱憤を鬱屈とした想いと共に全てを吐き出し続ける。

 

 響は、女の子の翼に守られたことを恥じている訳ではない。寧ろ響の想いはその逆であり、男の響が翼を守ってあげられなかったことを恥じていた。

 

──良いか、(きょうだい)。女ってのはな、花でも月でも無いんだよ。女は、太陽なんだよ。逆に、俺達男の方が花であり、月なんだよ──

 

──女って太陽が無えと、俺達男は咲くことも出来ないし、夜の空に輝くことも出来無え。文字通り、太陽みてえにキラキラと輝く女の笑顔を見てたら、それだけで俺達男は気分が良くなる。良い女が笑えば、それだけで周囲の男達は皆ハッピーになる。そしたら、俺達男は花のように顔を上げて笑い咲き誇れるし、暗い夜の闇だろうが女から貰った光で照らしながら進むことが出来るのさ──

 

──女は、自然と自分以外の誰かを守ってくれるぐらいに強くて優しいもんだ。時には、自分の幸せも何もかもを全部放っぽり出して、自分の全てを捧げちまうくらいにな。なら、誰が皆を守る女を守る? ……俺達男しかいねえだろうが。だから、強くなれ(きょうだい)。強くなって、女の笑顔を守ることの出来るデカい男になりな──

 

──それにな、女は子供を産むんだよ。母なる太陽って言葉が、これ以上に似合う存在がいるか? ……いねえよなぁ。だからこそ、俺達男はその太陽を守るんだよ──

 

──それこそが、俺達男が男として生まれた瞬間から死ぬまで通し続けなきゃいけねえ最初に背負う道理だ──

 

(翼さんが聞いたら怒るかもしれない。けど、兄貴が言ってた通りなら、男の俺が女の子である翼さんを守らないといけないのに……)

 

 男は女を守るもの。その考えの根源にある兄貴分の言葉を幾つも思い出しながら、響は内心で自分の想いを吐露していた。

 

「もう1度言いますが、落ち着いて下さい。先ずはしっかりと落ち着いてから、話をしましょう。それだけで、きっと気分が変わりますから」

 

 緒川はそう言って、両手に持っていた紙コップの内の片方を響に差し出した。響は、若干戸惑いながらも差し出された紙コップを受け取る。

 

「ご存知とは思いますが、以前の翼さんはアーティストユニットを組んでいまして」

 

「……“ツヴァイウィング”、だろ」

 

 響の脳裏に、遠目であったが離れていても分かるくらいに笑顔を浮かべながら楽しそうに歌っていた翼と奏の姿が思い出される。

 

「その時のパートナーが天羽奏さん。今は君の胸に残るガングニールのシンフォギア装者でした。2年前のあの日、ノイズに襲撃されたライブの被害を最小限に抑える為、奏さんは絶唱を解き放ったんです」

 

「……絶唱。ネフシュタンの女も言ってた、翼さんと奏さんが歌った歌のことか」

 

「装者への負荷を厭わず、シンフォギアの力を限界以上に解き放つ絶唱は、ノイズの大群を一気に殲滅せしめましたが、同時に奏さんの命も燃やし尽くしました」

 

「……それは、俺を救う為にか?」

 

 ぼそりと言われた響の質問に、緒川は答えを返さないで沈黙を貫いたまま紙コップに口を付けて中身を飲む。

 

 緒川は、響の質問に答えることは出来ない。何故なら、答えを知るのは今はもういない天羽奏ただ1人なのだから。

 

「奏さんの殉職。そして“ツヴァイウィング”は解散。1人になった翼さんは、奏さんの抜けた穴を埋めるべく我武者羅に戦ってきました。同じ世代の女の子が知って然るべき、恋愛や遊びも覚えず、自分を殺し、一振りの剣として生きてきました。そして今日、剣としての使命を果たす為、死ぬことすら覚悟して歌を歌いました」

 

 持っていた紙コップをテーブルの上に置き、両手を組みながら話を続ける緒川。すると、話をしている間に夜が明けて太陽の光が差し込んできた。

 

「不器用ですよね? でもそれが、風鳴翼の生き方なんです」

 

「そんなの、悲し過ぎるだろ……! 自分の幸せを全部投げ捨てて、誰かの為だけを思って行動するなんて、そんなのは人間の生き方じゃない。まるで道具じゃねえか……!」

 

 緒川から話された翼のことを聞いて、響は体を小刻みに震わせて嗚咽を漏らす。

 

「俺なんかとは、本当に覚悟の重さも何もかも違ったんだ……! 何が俺なりの形だよ……!? そんな自己満足レベルの頑張りで、人としての幸福を捨てるつもりで戦ってた翼さんに認めてもらえる訳無かったんだ……!!」

 

 無意識の内に手に力が込もり、響は中身が一滴も減っていない紙コップを握り潰した。響の左手にかなりの熱さを持っていたコーヒーが掛かるが、翼という人間を知って心を痛めていた彼はそんなこと意に介さずに涙を流し続けていた。

 

「ねぇ、響君。僕からのお願いを聞いてもらえますか?」

 

「……あぁ。俺に出来ることなら何でも言ってくれ」

 

 詳しい内容も聞かずに、緒川の頼み事を涙を拭って承諾する響。それは、話の流れからして緒川がどのような頼み事をするかを、響が無意識の内に理解しているからだった。

 

「翼さんのこと、嫌いにならないで下さい。翼さんを、世界に独りぼっちになんてさせないで下さい」

 

「……あぁ、絶対にさせない。俺は翼さんの手を強引にでも掴んでやる。罵られようと、殴られようと、それこそ叩っ斬られても独りになんてさせない。俺が傍にいてやる。……独りぼっちは寂しいからな」

 

 響は再度涙を拭い、赤く腫れ上がった目で緒川の目を見ながら固い決意を胸にその頼み事を受け入れた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 緒川の頼み事を承諾したその翌日。響は、とある武家屋敷を訪ねていた。その武家屋敷は、二課の司令官である弦十郎の自宅である。

 

 弦十郎の自宅を訪れた響は、弦十郎本人に自宅の中に通され、今は和室で胡座をかきながら互いに向かい合うように座っていた。

 

「響君、君が今日俺の下を訪ねて来た理由は、俺に武術の稽古を付けて欲しいから、で良かったか?」

 

「ああ。今の俺じゃ何も守れないし、誰の手も掴むことが出来ない。翼さんに認められるには、翼さんの背中に追い付くんじゃなくて、翼さんの背中を追い抜く必要があるんだ!」

 

 緒川から翼の話を聞き、改めて決意を固めた響は新たな覚悟と目標を定めた。自己満足の努力ではなく、他者が驚いて目を見開く程の努力をすることに決めたのだ。

 

「だが、どうして俺なんだ?」

 

「あんたは生身で翼さんのあの超質量攻撃を見事に受け切って見せた。あれをするには、単純なパワーだけじゃなくて相当な技術が必要だ。だからこそ、俺はあんたの下で武術の技と力を身に付けたいんだ!」

 

 今の響は強くなることを望んでいる。だが誰かの笑顔を守るには、今の響では圧倒的に技量が足りていなかった。

 

 そこで響は、生身で人外的なパワーと圧倒的なテクニックを用いて、翼の攻撃を完封して見せた弦十郎に白羽の矢を立てたのだ。

 

「俺も護身術程度なら教えて貰った。けど、俺は自分の身だけじゃなくて、他の誰かも守りたいんだ! 頼む、この通りだ!」

 

 響は、胡座を解いて正座し、土下座をして弦十郎に頼み込む。それも畳に額を思いっきり擦り付けながらの土下座であった。

 

「……」

 

 弦十郎は、沈黙を貫いたまま土下座を続ける響を見ていた。実際には短いが、両者にとっては長く感じる程に緊迫した空気は、弦十郎が口を開いたことで終わりを告げる。

 

「……君を鍛えること。そのことに関しては、何の問題も無い。現状に満足せず、次なる高みを目指そうとするその志には、俺も好感を持てる。だが、その前に響君には1つだけ聞いておかなければならないことがある」

 

「……俺が答えられることなら、何でも聞いてくれ」

 

「先ずは頭を上げてくれ。そんな頭を下げられた状態じゃ、聞きたいことも聞き難いからな」

 

 弦十郎は、頭を下げたまま話を続けようとする響の頭を上げるよう促す。その言葉を聞き、響は頭を上げて普通の正座の状態になる。

 

「それで、俺に何を聞きたいんだ?」

 

「本題に入る前に先に謝罪しておく。我々は勝手ながら、響君の過去について調査させてもらった」

 

「ッ!?」

 

 弦十郎から告げられた真実を聞いて、響の目が見開かれて体が硬直する。

 

「本人に黙って、勝手に個人情報を調べてしまいすまなかった……」

 

「……いや、仕方無いさ。あぁ、仕方無い。得体の知れない奴を手元に置くんだ。それくらいのことはして当然だ。あんたは何も間違ったことはしちゃいないさ」

 

 今度は逆に弦十郎が響に頭を下げて謝罪するが、響は仕方が無いことだと自分でも納得し快く弦十郎達二課の人間を許した。響が許してくれたことに弦十郎は感謝する。

 

「ありがとう、響君。それで、俺が聞きたいのは君の不明になっている過去についてなんだ」

 

「……」

 

「……君は自身を取り巻く迫害に家族を巻き込まない為に家を出た。そこから後の経過の全てが謎になっている。俺が聞きたいのは、君が俺達の前に姿を現す前までの間に誰と何処で何をしていたかについてなんだ」

 

「……どうして俺が誰かと一緒にいたと断定出来るんですか? もしかすると、俺はそれまで1人で行動して、物を盗みながら生きていたかもしれないんだぜ?」

 

 響の(たち)の悪い冗談を聞き、弦十郎は顔を顰めるどころか逆に軽く笑みすら浮かべながら首を振って否定する。

 

「それは無いさ」

 

「どうして、そう言い切れるんだ?」

 

「ここ一月(ひとつき)の間、君という人間を見てきたからだ。響君、君は人の不利益になるような行動を進んでやる人間ではない。例え、自分自身がどんな状況にあってもだ」

 

 弦十郎は、一月の間に響という人間をずっと見続けてきた。だからこそ、分かったことがあった。

 

 立花響という人間は、一言で言うならお人好しで、自分の心に良くも悪くも正直な少年だ。とても陽気且つ快活な性格をしていて、好奇心旺盛でやりたい事や言いたい事を心の赴くままに実行する行動派である。

 

 また、響自身が認める程にトラブル体質で何かと面倒事に巻き込まれがちで、世話焼きで困っている人を放っておけない性格であり、巻き込まれなくても自分から面倒事に首を突っ込むことも屡々(しばしば)ある。それで自分が損をしようと相手のせいには決してしない。

 

 とてもフランクで砕けた言葉遣いであり、敬語の扱いはほぼ死んでいる。体を鍛えたり動かすことが好きだが、勉強はかなり苦手である。

 

 年相応に性への関心を持っている年頃の少年らしい少年で、口調が悪い時もあるが、その人柄から周りから好感を持たれていて、人を惹き付ける魅力を持っている。

 

 その名の通り、周りに影()を与えて、人の心境や環境をどんどん変えていく何処までも真っ直ぐな少年。それこそが、弦十郎が下した立花響という人間の評価だった。

 

「それにだ。家出をした人間という割には、身形(みなり)が随分と整っていたからな。情報端末を持たずに家を出た筈なのに、今の君は新たな情報端末を持っている。スマフォなんかは子供がそう簡単に手に入れることの出来る代物じゃないからな。それを支給した人物がいるというのが俺の見解だ」

 

「……凄い推理力だな」

 

「これでも、昔は公安警察官だったからな。推理力には多少の自信がある」

 

 得意げな笑みを浮かべる弦十郎。これは何を言っても誤魔化すことは出来ないと思った響は、観念して本当のことを話すことにした。

 

「あんたの言う通りだ。家を出てから2ヶ月が経った頃、警察からの逃亡生活の中で限界を迎えた俺は何処とも知れない路地裏で行き倒れになっていた。まともに睡眠も取れてなくて、身心共に限界の状態で梅雨の大雨に濡れ切ってそのまま果てるかもしれなかった俺を……兄貴が救ってくれた」

 

「……」

 

 響は、2年前に起こった自身の転機となった出来事を弦十郎に教える。響の話を、弦十郎は沈黙したまま聞き続ける。弦十郎が何も言わないのを見て、続きを話して欲しいのだと判断した響は話を続ける。

 

「兄貴に拾われた俺は、兄貴の仕事に付き添って兄貴と一緒に諸外国を渡り歩いた。運送、護送、要人警護、情報収集、物の修理。仕事の内容は多種多様だった。中には危険な仕事もあったけど、兄貴は足を引っ張る俺を守りながら色々なことを教えてくれた。車やバイクの運転もその内の1つだ」

 

「その体付きもか?」

 

「あぁ。兄貴の下で体を鍛えて、自分の身を守れる程度の必要最低限の護身術も教えてもらった」

 

「……そうか」

 

「続けるぞ? そんな毎日が忙しくてワチャワチャしてた生活だったけど、日本で迫害され続けるだけの毎日と比べたら充実してた日々が2年間続いて、俺は日本に戻ってきた。理由は、兄貴の次の仕事が俺を抱えたままじゃどっちとも死ぬかもしれないような危険なものだったから。俺が戻ってきた日本での新たな1歩を踏み出す為のきっかけ作りのつもりでこの街にやって来て、その日にシンフォギアを初めて纏った。これがことの真相だ」

 

 弦十郎は一言そうかと言って頷く。要点だけを掻い摘んだ響の話を聞き、弦十郎がどういった反応をするかを待つ響。瞑目していた目を開き、弦十郎は言葉を紡ぐ。

 

「辛いことがあったにも関わらず、これ程に真っ直ぐな少年に育ったことを俺は尊敬しよう」

 

「俺は言う程真っ直ぐって訳でもない。すぐに熱くなって周りが見えなくなることだって多いし」

 

「響君がそれだけ情熱的な人間ということさ。そこは大切にするべきだ。周りが見えなくなるというなら、これから変わっていけば良い。熱いハートでクールに振る舞えるようにな」

 

 弦十郎の話を聞き、響は自然と笑みを浮かべていた。そんな響を見て、弦十郎も満足そうに微笑んで頷く。

 

(やはり、響君は笑っている顔が1番似合う。変に畏まってるのは彼らしくない)

 

「ところで、君が言っていた兄貴とは誰だ? 出来ることなら、名前を教えて欲しい。勿論、無闇矢鱈に詮索したりはしない。ただ、我々の情報網にすら引っ掛からないような男が気になってな」

 

 弦十郎は、変に隠すようなことはせずに自分が気になったことを率直に響に訊ねる。訊ねるのと同時に自身の本心も語ったのは、何よりも響自身に少しでも安心して欲しいのと自分を信じて欲しいからだった。

 

 響は瞑目し、顎に手を添えて少し考えるような素振りを見せる。だが、時間にして数秒足らずで頷いてから目を開いて話し始める。

 

「分かった。あんたを信じる」

 

「ありがとう」

 

「……俺を救ってくれた兄貴の名前は、名瀬黎人だ」

 

 響の口から話された名を聞き、弦十郎は瞠目してすぐに響に聞き返す。

 

「待ってくれ。名瀬黎人、と言ったか?」

 

「あ、あぁ」

 

「それは、名前の名に浅瀬の瀬で名瀬、黎明の黎に人と書いて黎人で良いのか?」

 

「そうだけど……」

 

「序でに言うと、無駄に器用で頭も良く行動力もあり、行く先々で現地妻のような女が大勢いるか?」

 

「全部当て嵌まってる!? もしかして、兄貴のことを知ってるのか?」

 

 黎人の名前の漢字や上げられた特徴が全部合っていたことに驚き、響は弦十郎に黎人を知っているのかを訊ねた。対して弦十郎は、見開かれた目を閉じ顔を手で覆って上機嫌に笑い始めた。

 

「ハハハハハハハ! そうか、あいつか! 君を拾ったのは、あいつだったのか!」

 

 そんな何処までも上機嫌な弦十郎に対し、それを見てるだけの響はただただ困惑するばかりである。

 

「あのー、もしかしてご存知で?」

 

「応ともさ! 何せ、あいつとは俺がまだ小学生のガキだった頃からの親友だからな。俺がまだ公安だった頃は、よく一緒に飲みに行っていた。俺が二課の司令になってからは、会うことがめっきりと減っちまったがな。あいつもあいつで、世界を股にかける何でも屋みたいな仕事をしてるせいで、ここ2年は会っていない」

 

 昔を思い出しながら、感慨深そうに自身と響の兄貴分である黎人との関係を話す弦十郎。その表情はとても楽しそうで、楽しそうに話される弦十郎と黎人の話に、響も知らず知らずの間に引き込まれていた。

 

「あいつは昔から女が好きで、特に良い女というのを見分けることが得意だったな。女好きということが周知の事実であるのにも関わらず、昔からあいつは何かと女に囲まれてばかりいた。当時の俺は、そんなあいつのことを羨ましがったこともあった」

 

「兄貴って昔からそんな感じだったのか」

 

「そうだとも。頭が良くて、無駄に器用で、度胸もあって、大勢の女に囲まれている正に人生の勝ち組のような男だったさ。加えて、情に厚い人情家でもあったことから、男達からも好かれていた」

 

「へえ……!」

 

 話せば話す程に緩んでいく弦十郎の顔。それだけで弦十郎が黎人に全幅の信頼を寄せていて、距離が離れていても友人として大切に思っているのは明らかだった。

 

「済まなかったな、響君。君を疑うような真似をして。だが、君の過去が明らかになり、更に君を救ったのが黎人だと知れて俺は満足だ! 稽古の件だが、喜んで受けようではないか!」

 

「マジか!?」

 

「マジもマジ、大マジだとも! 親友の弟分で形的には俺の部下である君を鍛えない理由など探す方が難しいさ」

 

「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 弦十郎からの快諾を得て、感極まった響は勢い良く立ち上がって握り拳を両手で作りながら歓喜の雄叫びを上げた。

 

「これから宜しく頼むぜ、弦十郎のおやっさん!」

 

 響は今までまともに弦十郎のことを名前でも役職でもあまり呼んだことがなかったが、これからは親しみと尊敬の意を込めて弦十郎のことをおやっさんと呼ぶことにした。

 

「おやっさん、か。叔父様や旦那、果てにはおっさん呼ばわりならされたことがあるが、おやっさんと呼ばれたのは初めてだな。……悪くないな」

 

 おやっさんという言葉の響を弦十郎も気に入ってとても満足気のようだった。

 

「時に響君、1つ聞きたいことがあるのだが良いだろうか?」

 

「何だ、おやっさん?」

 

「君は、アクション映画とか嗜む方だろうか?」

 

「アクション映画? ……最高に大好きだぜっ!!」

 

「良い返事だ!」

 

 威勢の良い響の返答を聞いて、弦十郎の瞳が静かに燃え上がる。こうして、弦十郎考案の立花響強化計画が始動したのだった。

 

 その内容は極めてシンプルで、弦十郎が嗜むアクション映画を題材にし、映画の中で出てきた特訓や構えや動きを模倣するというものだった。

 

 構えの模倣では、役者が着ていた服を実際に響や弦十郎も着込んで同じ構えをする。全身タイツのような格好や、風変わりな道着といった様々なものを着て多くの構えを(こな)した。

 

 特訓の模倣では、響が元から持つ有り余る体力を活かしてアイドルや格闘家もビックリな程の長時間のロードワークや、特殊な姿勢や厳しい環境下での筋トレなどが実施された。その傍らには、必ず弦十郎も一緒にいた。

 

 歌を歌って戦うということから、歌の特訓ということで響は長時間の1人カラオケにも行った。

 

 アクション映画で出てきた技を身に付ける為、弦十郎の自宅の敷地内に設置されたサンドバックへの打ち込みに、響は相当な気合いを持って挑んだ。

 

 ネフシュタンの少女との戦闘のことも考えて、弦十郎とのスパーリングや模擬戦なども行われた。スパーリングでは、何処をどう的確に攻撃すれば良いかを学び、模擬戦は弦十郎の攻撃が激しくて攻撃をする暇が無い為、ただひたすらに防御と回避を身に付ける為の時間となっていた。

 

 よく食べてよく寝るというのも鍛錬の中の1つだった。様々な栄養価を持つ物を均等に食べ、しっかりとした睡眠を取ることで健康を保つことが響の理想への糧となる。

 

 他にも響は、昔にあった現実に近い武道系のバトルマンガをネットで購入し、それを参考にして技や特訓の参考にもしたりしていた。そのせいで、弦十郎から用意された響の新居の一室にはトレーニング器具と沢山のマンガが溢れ返ることになった。

 

 そして、この日も響は長時間のロードワークに勤しんでいた。時間帯は朝で、出勤する社会人や登校するリディアンの女生徒達の横を響は颯爽と駆け抜ける。

 

 全体的な色合いは黒色で、上はプルオーバーパーカーで下はジャージの響は、イヤフィットヘッドホンで翼の歌を聞きながら走り続けていた。

 

(翼さん! 俺はあなたの背中を追い抜いて、皆の笑顔を守ることの出来る強い男になってみせる! だから、絶対に戻ってきてくれ!)

 

 未だに眠り続ける翼のことを想いながら、響は被っていたフードを取り払って更に走るスピードを速める。一陣の風となった響は、前方にある曲がり角から人が来る前に渡り切ろうと走る。

 

 凄まじい速さで駆ける響は、余裕で曲がり角の前を走り抜けてそのまま直進していく。だが、イヤフォンをして音楽を聞きながら我武者羅に特訓に精を出していた響は気付かなかった。

 

「響! 待って、響っ!」

 

 曲がり角の前で擦れ違い、走り行く響に手を伸ばしながら必死にその名を呼ぶ白いリボンの少女の存在に。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、自責の念に駆られまくる
──前回のこともあってより一層に責任を感じる響。今作ビッキーは、周りは許してあげられるが自分を許そうとは滅多にしない。

(2)響、弦十郎と問答をする
──EPISODE 7の冒頭で言った通りに、1対1で話し合った響と弦十郎。あれは伏線だったのだ。

(3)響、アクション映画が大好き
──今作ビッキーはアクション映画が大好きである。男の子ならド派手なアクションに魅了されてしまうもの。序でに作者は、牙狼シリーズのアクションが大好物です。

(4)響、マンガも読む
──今作ビッキーは、マンガも見て強くなる。きっと読んでるのは“○上最○の弟子ケ○イチ”だと作者は妄想している。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 弦十郎と黎人はマブダチという設定です。2人のOTONAによって今作ビッキーの魔改造は加速する!

 そして、此度はあの方とまともに擦れ違いましたが、残念ながら響君は気付きませんでした。あぁ、もどかしい! 早くまともに再会させたい!

 今回はここで閉めさせていただきます。

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 10 デュランダル、起動

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 3月ももう終わりですね。月日が経つのは早いですねー。

 シンフォギアXDの次に出るギアは、なんと海賊ギア! 一体どんな際どい衣装で来るつもりなんだ!? 石を掻き集めなければ(使命感)

 そして、2週間後は切ちゃんの誕生日だ! 自分の本当の誕生日が分からないからこそ、人の誕生日を盛大に祝ってあげようとする優しい子を僕達が祝ってあげるんだ! その誕生日が本当のものじゃなくても、切ちゃんが生まれて来てくれたことに感謝する僕達の想いは本物なんだから! ……凄い早とちりですかね。

 そんなこんなで始めていきましょうか。

 それでは、どうぞ!


 今日も今日とて立花響強化計画は順調に進められている。朝から響は、弦十郎の自宅の敷地内に設置されたサンドバックへ拳を打ち込んでいた。

 

「フッ! ハッ! フッ! ハッ!」

 

 黒のタンクトップに黒のジャージ、黒のボクシンググローブという全体的に黒一色の格好の響は、映画で見た動きを意識しつつただひたすらに拳を打ち込み続ける。その傍らには、ジャージ姿で肩にタオルを掛けた弦十郎が立っている。

 

「そうじゃない」

 

 弦十郎からのダメ出しを受け、響は1度打ち続ける拳を止めて呼吸を整えつつ弦十郎に向き直る。

 

稲妻(いなずま)を喰らい、(いかずち)を握り潰すように打つべし」

 

「言ってることが無茶苦茶で全然分かんねえ! でも、やってやるっ!!」

 

 余計な言葉など無用。弦十郎が言ってる言葉が理解出来なくとも、弦十郎が伝えようとしていることを響は心で感じ取っていた。

 

 響は再度サンドバックの前で構え直し、凄まじいまでの集中力で意識を集中してサンドバックの一点を見続ける。そして、自身の心臓が一際(ひときわ)強い鼓動を打つの同時に全力でサンドバックに一撃を打ち込んだ。

 

 拳が打ち込まれたサンドバックは大きく持ち上がり、金具で繋がっていた木の幹を破壊して凄まじい勢いで吹っ飛んだ。吹っ飛んだサンドバックは、敷地内の池や地面を何度もバウンドし、壁に叩き付けられたことで漸く静止した。

 

「ッ! っしゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 満足のいく結果が出たことに響は歓喜の雄叫びを上げる。側にいた弦十郎は微笑を浮かべながら頷き、側にあったミットを手に装着した。

 

「こちらも、スイッチを入れるとするか」

 

 そこからは弦十郎とのミット打ちが行われ、その後も数多くの鍛錬メニューを(こな)し続ける時間が何時間と続き、鍛錬メニューを全て熟した時には既に昼過ぎの時間帯になっていた。

 

 メニューを熟して弦十郎と共に二課の司令室までやって来た響は、疲れた体を投げ出すが如く思いっきりソファーに凭れ掛かった。

 

「あぁ〜、疲れた〜。朝からハードモードだ。でも、良い汗掻いた! やっぱ、体動かすって最高だ!」

 

「あれだけやってまだ元気があるのか。その元気と体力は頼もしい限りだな。頼んだぞ、明日のチャンピオン!」

 

「大船に乗ったつもりで任せてくれ、おやっさん!」

 

 間延びした声から一転して未だに元気の果てない響を見て、弦十郎は自然と笑みを零し手に持ったスポーツドリンクを口にする。

 

「はい、ご苦労様」

 

「おっ、ありがとうございます!」

 

 友里から差し出されたスポーツドリンクをお礼を言って受け取り、弦十郎と同じように水分補給をしっかりとする響。

 

「ぷはぁ! 疲れた体にはやっぱこれだな。あっ、突然で悪いんだけど、1つ聞いて良いか、おやっさん?」

 

「良いぞ。俺で答えられることなら何でも聞いてくれ」

 

「俺みたいなニート同然のガキは兎も角として、うら若き花の女子高生兼日本のトップアーティストの翼さんにまで戦いを頼む必要は無いと思うんだが、他にもノイズと戦う為の武器って無いのか? 都合よく外国とかにさ」

 

 それは至極当然の疑問であった。もし、ノイズと戦う為の武装が他にもあるなら、翼のように女の子が戦いに出る必要は無いのではないのか、と。

 

「公式には無いな。日本だって、シンフォギアは最重要機密事項として完全非公開だ」

 

「マジすか……。俺、全然周りに配慮しないで動き回ってるんですけど……」

 

 翼と比べ、未だにスマートさに欠ける響の立ち回り方は周りへの被害を大なり小なり出していた。それなのに、最重要機密事項を隠そうともしなかったのは、不味いことではないのかと響は思い出していた。

 

「情報封鎖も二課の仕事だから」

 

 友里の話を聞いたことで、響の脳裏から嫌な考えが消えて、響は一先ずは安心するのだった。

 

「だけど、時々無理を通すから、今や我々のことを良く思っていない閣僚や省庁だらけだ。特異災害対策機動部二課を縮め、“とっきぶつ”って揶揄されてる」

 

「情報の秘匿は、政府上層部からの指示だったのにね。やりきれない」

 

(いず)れシンフォギアを、有利な外交カードにしようと目論んでいるんだろう」

 

「EUや米国は、何時だって回天の機会を窺っている筈。シンフォギアの開発は、既知の系統とは全く異なるところから突然発生した理論と技術によって成り立っているわ。日本以外の他の国では到底真似出来ないから、尚更欲しいのでしょうね」

 

「結局のところ、何時もの大人同士の面倒事ってことだるぉ? あちこち色々回ったけど、大人が原因の面倒事があるのは何処も一緒だな」

 

 心底面倒臭そうに吐き捨てる響。黎人と共に多くの外国諸国を回った響は、訪れた国の正の面と負の面を両方共見たことがある。それによって引き起こされる面倒事にも何度だって遭遇したのだ。

 

 故に、そのような一見大きな面倒事は、響にとって些細な面倒事にしか感じられなかった。

 

「あれ、おやっさん。そういえば、了子さんは何処行ったんだ?」

 

 響の言う通り、今この場に了子の姿は何処にも無かった。何時もこういった面倒事の話をする時は、大抵ニコニコしながらその場にいると筈なのにだ。

 

「永田町さ」

 

 響の抱いた疑問に、弦十郎は簡潔且つシンプルな答えを返した。

 

「永田町? それって、国会議事堂とか首相官邸がある?」

 

「あぁ。政府のお偉いさんに呼び出されてね」

 

「ほう」

 

「本部の安全性、及び防衛システムについて、関係閣僚に対し説明義務を果たしに行っている。仕方の無いことさ」

 

「また大人の面倒事かよ……」

 

「ルールをややこしくするのは何時も責任を取らずに立ち回りたい連中なんだが。その点、広木防衛大臣は」

 

 すると、話の途中で弦十郎は袖を捲って腕時計を確認した。

 

「了子君の戻りが遅れているようだな」

 

 既に了子が戻ってきても可笑しくない時間にも関わらず、その本人がまだこの場に到着していない。そのことを弦十郎は不思議に思っていた。

 

 実はこの時、街から遠く離れた山沿いの道を走るピンク色の車を操縦している女性が、盛大なくしゃみをしていたのだとか。

 

 結局、肝心の了子が二課に戻ってきたのは、夕暮れ時の時間帯であった。

 

「大変長らくお待たせしましたー!」

 

 了子のいつも通りのテンション高めのお気楽な声が司令室内に響き、その声を聞いた響と弦十郎が体ごと了子がいる方へ振り返る。

 

「了子君!」

 

「何よ? そんなに寂しくさせちゃった?」

 

「広木防衛大臣が、殺害された」

 

 お気楽な了子に、弦十郎は了子が到着するまでの短い間に起こった悲劇について簡潔に述べる。それを聞いた了子は、驚きながら駆け足で弦十郎の下へ行く。

 

「えぇっ!? 本当っ!?」

 

「複数の革命グループから犯行声明が出されているが、詳しいことは把握出来ていない」

 

 響達が見ているモニターには、広木防衛大臣とその秘書、護衛の人複数が殺害された現場の写真が映し出されている。

 

 激しい銃撃によって、護送対象の車と護送車の窓ガラスは手酷く全て破壊され、後部座席に座っていた大臣の秘書はヘッドショットによって絶命していた。

 

「目下全力捜査中だ」

 

「何度連絡を取ろうとしても一向に出ないから、了子さんにも何かあったんじゃないかって俺達全員心配してたんだ」

 

「うぇ?」

 

 響の話を聞き、一瞬だけポカンとした了子は白衣のポケットから端末を取り出して少し操作して、あっけらかんと笑みを浮かべた。

 

「壊れてたみたいね!」

 

 この非常事態で飽く迄平常運転に近い了子らしい反応を見て響も安堵の息を漏らす。それを見ていた弦十郎も、少しだけ微妙な表情をしていた。

 

「でも心配してくれてありがと。そして、政府から受領した機密資料も無事よ」

 

 了子は、近くにあったソファーの上に置いたアタッシュケースの中から大事なデータが記録されている記録媒体を取り出して見せながらそう言った。

 

「任務遂行こそ、広木防衛大臣の弔いだわ」

 

 この時、響と弦十郎は了子の持つ記録媒体ばかりを見ていたせいで、了子が持ってきたアタッシュケースの隅に赤い色をした何かが付着していることに気付かなかったのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 了子の準備が整い、二課に所属する職員の大半が参加する大規模な作戦ミーティングが行われていた。説明をする了子と弦十郎以外の人間は座席に座り、集まった一室の1番前にある大型のモニターに注目している。

 

 その中には勿論響の姿もあり、響は座席の最前列中央で藤尭の隣に座りながら、鋭い眼差しで静かに弦十郎達の話を聞く姿勢を取っている。

 

「私立リディアン音楽院高等科、つまり特異災害対策機動部二課本部を中心に頻発しているノイズ発生の事例から、その狙いは本部最奥区画、アビスに厳重保管されているサクリストD、デュランダルの強奪目的と政府は結論付けました」

 

「デュランダル……」

 

「EU連合が経済破綻した際、不良債権の一部肩代わりを条件に日本政府が管理、保管することになった数少ない完全聖遺物の1つ」

 

 響の呟きを拾い、了子はデュランダルについての補足説明を行った。

 

「移送するたって何処にですか? ここ以上の防衛システムなんて!」

 

 直後、響の隣に座っていた藤尭が意見を出した。そもそもこのミーティングは、デュランダルを二課よりも安全な場所に移動させる作戦を練る為のものである。

 

「永田町最深部の特別電算室、通称、記憶の遺跡。そこならば、ということだ」

 

 藤尭が出した疑問について答えたのは、了子とは逆の位置に立っている弦十郎だった。

 

「どのみち、俺達が木っ端役人である以上、御上(おかみ)の意向には逆らえないさ」

 

 弦十郎は、皮肉げな笑みを浮かべながらそう言った。

 

「デュランダルの予定移送日時は、明朝0(まる)5(ごー)0(まる)0(まる)。詳細は、このメモリーチップに記録されています」

 

 そこからのミーティングも何の問題も無く進んであっという間に終わりを迎え、次に了子は司令室のコンピュータからマニュピレーターを操作してアビスに眠るデュランダルを運び出していた。

 

 その傍らでは、他の職員と違って今は全く何もすることが無い響が、司令室のモニターから了子の作業風景を眺めていた。

 

「あそこがアビスか。機械ばっかだな」

 

「東京スカイタワー3本分、地下1800mにあるのよ!」

 

「ほへぇ……」

 

 アビスのある位置がモニター内に見取り図で移し出されるが、見取り図も小さく了子の口から説明された大きさが莫大過ぎて今一掴めない響であった。

 

「はい。じゃー予定時間まで休んでなさい。あなたのお仕事はそれからよ」

 

「応よ!」

 

 ウィンクをしながら言われた了子の言葉に、響は意気込みながら元気一杯の返事を返した。

 

 しかし、休むように言われた響は盛大に暇を持て余しており、これから任務の任務に支障を出さない為に特訓も筋トレも禁じられて現在ウズウズしていた。

 

「暇だ〜。暇過ぎる〜。寝ようにもこんなウズウズした気持ち抱えたままじゃ寝れねえし……」

 

 響は愚痴を漏らしつつ、眼前のテーブルの上に置かれた新聞を手に取って開く。響が開けたページには、下着姿の胸が大きい女性の写真が載っていた。

 

「うおっ! デケえ! やっぱ、胸がデカい女の人って良いよなぁ! でも、翼さんみたいにキュッと引き締まったスレンダーな体型も良いし……」

 

 バカ丸出しで鼻の下を伸ばしながら、新聞の写真をたっぷりと時間を掛けて眺めて女性の魅力を独白する響。その姿は、傍目から見てただのエロガキにしか見えなかった。

 

 暫くその写真を見続けた後、響は写真を見るのに飽きて新聞を折り畳んで表紙のページを見る。

 

「ん? これって……」

 

 響は、表紙の内容を見て目を見張る。表紙には、ステージ衣装の翼の写真が載っていて、隣には『風鳴翼 過労で入院』と書かれていた。

 

「情報操作も僕の役目でして」

 

 すると、記事に夢中になっていた響に声が掛けられた。声を掛けられた響は、その聞き覚えのある声に反応して顔を上げた。響が顔を上げた先には、何時ものスーツ姿の緒川が立っていた。

 

「緒川さん!」

 

「翼さんですが、1番危険な状態を脱しました」

 

「本当か!?」

 

「はい」

 

「そっか……良かった。本当に良かった……翼さん!」

 

 緒川から翼の吉報を聞き、響は顔をクシャっと綻ばせて安堵の息を漏らしながら笑う。

 

「ですが、暫くは二課の医療施設にて安静が必要です。月末のライブも中止ですね」

 

 しかし、緒川の言葉を聞いて響の表情が先程よりも少し気不味気な曇った表情に変わってしまう。すると、緒川が少しだけ暗い顔をする響の隣に座った。

 

「さて、ファンの皆さんにどう謝るか。響君も一緒に考えてくれませんか?」

 

「そうだなー……もう一層(いっそ)の事全部緒川さんのせいにしちゃうか! マネージャーとして配慮が足りませんでしたーってよ」

 

「それはちょっと勘弁してくれませんか……? 僕の社会的地位が色々と危ないので」

 

 響の横暴な意見を、緒川は苦笑いで冷や汗を掻きながら両手を軽く上げてやんわりと却下する。その様子を見て、響の曇った顔が晴れやかなものに戻る。

 

「おやっさんや了子さんや緒川さんに二課の皆、それに翼さんも頑張ってるし、俺も頑張らないと!」

 

 響はそう言って、両手で頬を叩いて瞳をやる気で滾らせた。

 

「響君、張り切るのも良いですが、もう少し肩の力を抜いてくれても良いんですよ? 沢山の人間が少しずつですが、それでも確かにバックアップしてくれてますので」

 

「……優しいんだな、緒川さん」

 

「怖がりなだけです。本当に優しい人は、他にいますよ」

 

 響の優しいという言葉を謙遜して、緒川は響の目を見ながらそう言った。

 

「話してて大分楽になった。ありがとな、緒川さん。それじゃ、俺は少し寝て来るよ。今日の特訓の疲れがきっとまだ残ってるからな。一眠りして体力全快にしないと」

 

 緒川との話を締め括り、響はこれからに備えて万全の体調にする為に、一直線に仮眠室まで駆けて行った。

 

「翼さんも響君くらいに素直になってくれたらな」

 

 去り行く響の背中を見ながら、緒川は何処までも素直じゃない少年の先輩のことで独り言ちていたのだった。

 

 二課の面々が己が役目を果たす為に行動し、遂に作戦決行の明朝がやって来る。

 

 了子の自家用車と黒塗りの車が4台立ち並ぶ前方には、響と黒スーツの二課のえエージェント達がいて、響達と向かい合うように弦十郎と了子が立っている。

 

「防衛大臣殺人犯を検挙する名目で、検問を配備。記憶の遺跡まで、一気に駆け抜ける」

 

「名付けて、天下の往来独り占め作戦!」

 

 弦十郎と了子がこれからの作戦の概要を説明する中、響はいざという時に何時でも動けるようにしっかりとストレッチをしていた。

 

 姿勢を正さずに作業をしながら上官の言うことを聞くことは、普通なら許されないことだが、弦十郎はそんなことに頓着するような狭い器ではないし、何よりも響自身が自分の為すべきことを明確に理解しているから誰も注意することはしない。

 

 了子の車に今回の作戦の重要物であるデュランダルが乗せられ、4台の黒塗りの車が了子の車を四方から取り囲むように護衛しながら走る。

 

 響は了子の車の助手席に搭乗し、背後のデュランダルのことを気に掛けながら周囲の警戒を行っている。

 

 その上空には、5台の車を追うように1機のヘリコプターが飛行し、そのヘリコプターには弦十郎が搭乗していた。

 

 二課本部からの道のりは何事も無く順調に進み、一同は橋の上に差し掛かっていた。だが、そこで唐突に事態が急変した。

 

「了子さん! 橋が!」

 

 響の言う通り、突然前方にある橋の途中の道路が凄まじい勢いで崩れ始めたのだ。響同様にその状況を見ていた了子は、ハンドルを切って車線を右に移動させる。しかし、護衛の1台が移動出来ずに崩れた箇所に転落し爆発した。

 

「しっかり掴まっててね。私のドラテクは凶暴よ」

 

「上等! バカみたいに激しい運転なら慣れっこだぜ!」

 

「言ったわねぇ! 後で後悔しても知らないわよ!」

 

 了子と響が互いに軽口を飛ばし合い、了子はアクセルを踏み込んで車の速度を上げていく。

 

『敵襲だ! まだ目視で確認出来ていないが、ノイズだろう!』

 

「この展開、想定していたより早いかも!」

 

 ヘリから現状を俯瞰している弦十郎からの通信が入る中、了子の車が通った後を追従する護衛車が、マンホールから凄まじい勢いで湧き上がった水によってマンホールの蓋ごと空高く打ち上げられた。

 

「なっ!? 下から!?」

 

『下水道だ! ノイズは下水道を使って攻撃してきている!』

 

 今度は了子の車の前方にいた護衛車が空高く打ち上げられる。護衛車は、放物線を描きながら真っ直ぐに了子の車に向かって落ちてくる。

 

「上から来るぞ、気を付けろ!」

 

「分かってるわよ!」

 

 響の忠告に簡潔に言葉を返し、了子は再度ハンドルを切って今度は左に移動する。その際に車内は激しく揺れ、了子の車は積まれたゴミの山に突っ込む。

 

「弦十郎君、ちょっとヤバいんじゃない? この先の薬品工場で爆発でも起きたら、デュランダルは……」

 

『分かっている。さっきから護衛車を的確に狙い撃ってくるのは、ノイズがデュランダルを損壊させないよう制御されているからと見える!』

 

 弦十郎の通信が入る中、了子は車を運転しながら不意に舌打ちをした。

 

『狙いがデュランダルの確保なら、敢えて危険な地域に滑り込み攻め手を封じるって算段だ!』

 

「勝算は?」

 

『思い付きを数字で語れるものかよ!』

 

 そうこうしている内に、了子の車は残った最後の護衛車と共に薬品工場の敷地内に突入する。

 

 すると、前方にあったマンホールの蓋が開くのと同時にノイズが複数体飛び出して、響達の前にいた護衛車の上に乗っかった。咄嗟に護衛車に乗っていたエージェントは車を乗り捨てることで事なきを得たが、乗っていた車はそのまま薬品工場のプラントに激突して爆発四散した。

 

 弦十郎の読み通り、薬品工場での迂闊な行動を控えてかノイズの襲撃が休止していく。

 

「よしっ! おやっさんの狙い通りだ!」

 

 弦十郎の読みが当たり、響は握り拳を作ってガッツポーズを取った。だが、走っていた了子の車が工場内のパイプに乗り上げたことでバランスを崩して傾き始める。

 

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!!!?」

 

 バランスを崩した車は、見事にひっくり返って横に何回転もしながらコンクリートの上を滑って行き暫くして漸く止まった。

 

「南無三!」

 

 上から事の成り行きを見守っていた弦十郎は、ひっくり返った車の中にいる響と了子の無事を祈る。

 

 ひっくり返った車のドアが左右同時に開き、その中から何処にも怪我をしていない無傷の響達が這い出てきた。しかし、響達が車から出てきた時には、既に周囲をノイズによって包囲されていた。そして尚もノイズは増え続けている。

 

「了子さん! 早く逃げるぞ!」

 

 響は、車の後部座席からデュランダルが収まったケースを取り出し、片手で持ち上げながら了子に早く逃げるように促す。

 

「わおっ! すっごい力持ちねぇ、響君! でも、それって結構重いし、逃げるのに邪魔かもしれないからここに置いて逃げましょ!」

 

「それはダメだろ!?」

 

「そりゃそうね」

 

 丁度その頃、響と了子の漫才のような遣り取りを、プラントの上にいるネフシュタンの少女が少し遠くから見物していた。

 

 響は了子と共にその場から移動しようとするが、ノイズが2人が逃げるのを十分待つ筈も無く、その形状を変化させて響達に襲い掛かる。

 

「うおっ!?」

 

 まだシンフォギアを纏っていない響は、ノイズに触れることが出来ない。故に、今は了子と共に全力で回避に努めていた。

 

 ノイズの攻撃をどうにか躱すも、ノイズが車を貫通したことで爆発が起き、響と了子はその際の爆風に巻き込まれて勢いよく吹っ飛んでいく。

 

「くそっ!?」

 

 響は吹っ飛んだ際に持っていたケースを手放してしまうが、逆にそのお陰で両手が空き、両手をコンクリートの地面に着いてロンダートの応用で着地する。

 

「くっ、見えん!」

 

 了子の車が爆発したことで出来た爆煙が周囲に広がりながら舞い上がっている為、弦十郎は爆煙によって視界を遮られて状況を確認出来ずにいた。

 

 形状を変化させたノイズが襲い掛かってくる中で、了子は響の前に立って広げた掌を前に突き出す。すると、了子の手から紫色のオーラのようなバリアが張られ、それがノイズの攻撃を無効化して食い止めた。攻撃の衝撃により、了子のメガネと髪留めが飛んで行く。

 

「りょ、了子さん、それは!?」

 

 明らかに了子が発生させているバリアを見て、響は驚愕を露わにして目を見張る。

 

「しょうがないわね。あなたのやりたいことを、やりたいようにやりなさい」

 

 了子はバリアを張り続けながら響の目を見てそう言い、対する響は見開かれた目を鋭くして小さく頷く。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 了子に言われた通り、心の赴くままに歌を歌う響。紡がれた聖詠がキーとなって力に変わり、響はその身にシンフォギアを纏った。

 

(燃えるハートでクールに戦う、だ)

 

 響は、以前に弦十郎に言われたことを頭に留めながら歌を歌って構えを取る。

 

 ノイズは形状を変化させて響に攻撃を仕掛ける。これを響は、その場からあまり動かない必要最低限の動きだけで躱してカウンターの裏拳を叩き込んで粉砕する。

 

 蛞蝓(なめくじ)型のクロールノイズ複数が響を取り囲むが、響は以前のように自分から敵の中に突っ込むようなことはせず、空手の息吹によって呼吸を整え精神を集中する。

 

 周囲のノイズの中の1体が飛び出して響に襲い掛かり、響はコンクリートの地面が抉れる程に強く踏み込んで正拳突きを放つ。正拳突きを叩き込まれたノイズは、吹っ飛ばされて木っ端微塵となる。

 

 次に襲い掛かるノイズを拳槌打ちで叩き潰し、背後からの敵を肘打ちで粉砕し、その次を前蹴りで蹴り砕き、鉤爪を持つノイズの攻撃を躱した後に一本背負で投げ飛ばす。

 

 近くにいたノイズとの距離を詰めてから左手のジャブで顔に当たる部分を破壊し、その後ろにいたノイズに膝蹴りを入れた後に双掌打を叩き込み、横から来たノイズを裏拳で潰し、奥にいた敵を靠撃で周りの敵諸共粉砕する。

 

「こいつ、あの時とはまるで違う!?」

 

 以前のような我武者羅なだけの動きではなく、流れるように繰り出される動きを見て、ネフシュタンの少女は驚愕を露わにして目を見張る。

 

 男子三日会わざれば刮目して見よ、という慣用句があるが、今の響は正にその言葉が相応しい活躍をしていた。近くで響の戦いを見守っていた了子も、その響の動きを見続けている間に視線が釘付けになっている。

 

 すると、了子の後ろから電子音が鳴り、響にばかり意識が集中していた了子は直様後ろを振り返った。後ろには、デュランダルが入ったケースがあり、そのケースの節々が赤く点滅していた。

 

「この反応は……まさか!?」

 

 ケースの反応を見て、それが何を意味するのかを理解した了子は再び響に視線を戻した。

 

「デリャア!!」

 

 その間も響はノイズを撃破し続け、迫り来るノイズの攻撃も全て避けて正拳突きをお見舞いし、その隣にいたノイズも回し蹴りで蹴り砕く。

 

 響がノイズ相手に無双する中、突如紫色に淡く発光する鞭が響に向かって飛来する。それを見た響は、その場から飛び退いて鞭を回避し、周りにいたノイズは鞭によって煤となって消えていった。

 

「今日こそはものにしてやる!」

 

 飛び退いて回避した宙にいる響目掛けて、ネフシュタンの少女は飛び蹴りの姿勢で突っ込んでいく。

 

「お呼びじゃねえんだよ、銀ピカ女!」

 

 響は、飛んできたネフシュタンの少女の足を掴んで地面に向かって投げ付ける。投げられた少女は、空中で体勢を立て直し何の問題も無く着地した。

 

 その時、了子の後ろにあったケースの上部分が突き破られて中からデュランダル本体が飛び出した。

 

「覚醒、起動!?」

 

 突如として起動したデュランダルを見て了子が驚愕を露わにする。出てきたデュランダルは、黄金のオーラを纏いながら空中で静止している。

 

「こいつがデュランダル!」

 

 少し離れた場所からその光景を見ていたネフシュタンの少女は、今回の最重要目的であるデュランダルを確保する為にその場から飛び出す。

 

 デュランダルが浮いている高さは、通常の人の跳躍力じゃ届かない位置であるが、完全聖遺物を纏っている少女からしたら大した問題ではない。

 

 ネフシュタンの少女は、ニヤリと笑いながらデュランダルに向かって手を伸ばす。

 

「ッ!? がっ!?」

 

 しかし、後少しで手が届くといったところでネフシュタンの少女の顔が苦悶に歪み、その高さから落ち始める。

 

「そう何度も渡す訳にはいかねえんだよぉ!!」

 

 ネフシュタンの少女のすぐ後ろから響が強く言い放つ。響のタックルによる妨害のせいで、ネフシュタンの少女はデュランダルを奪い損ねたのだ。

 

 響は、ネフシュタンの少女のようにその手を伸ばし、宙に浮いているデュランダルの柄をしっかりと掴んだ。

 

 響がデュランダルを掴んだその瞬間、力の波動のようなものが周囲一帯に響き渡り、それを近くで感じた了子とネフシュタンの少女は、無意識に言葉を漏らす。

 

「へっ!?」

 

「はっ!?」

 

 響が握ったデュランダルから先程よりも強いオーラと輝きが放たれ、直接デュランダルを手にしていた響の目が見開かれ瞳孔が激しく揺れる。

 

 直後、眩い輝きを放つ一筋の光の柱が天高く昇った。

 

 突き出すように高く掲げられたデュランダルは、石器で出来た剣のようなものから翡翠色のラインが入った黄金の剣へとその姿を変えた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!」

 

 デュランダルを持つ響の目は妖しい輝きを持つ赤く光る理性無き目に変わり、その口からは獣如き雄叫びを上げている。

 

「こいつ、何をしやがった!?」

 

 その様子を見ていたネフシュタンの少女は、身を引きながら咄嗟に後ろを一瞥した。少女の視線の先には、何処か狂気的に見える笑みを浮かべている了子の姿があった。その姿を見た少女は、歯を食い縛って再び視線を響に向ける。

 

「そんな力を見せびらかすなぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ネフシュタンの少女は、腰に携えていた杖のようなものを抜いてノイズを数体召喚する。すると、響の理性無き目が少女へと向けられた。

 

「え?」

 

 ネフシュタンの少女が呆然とする中、響はデュランダルを高く掲げたまま体ごと少女に振り向いてデュランダルを大きく振り被る。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!」

 

「ッ!?」

 

 逸早く身の危険を察知したネフシュタンの少女は直様その場から離脱し、響は咆哮を上げながら何の躊躇いも無くデュランダルを振り下ろした。

 

 デュランダルから生成されたエネルギー状の刃は、ノイズ諸共工場プラントの施設も斬り裂き、辺り一帯が爆煙に包まれる。

 

(お前を連れ帰って……あたしは……)

 

 内心で自身の想いを吐露しながら、ネフシュタンの少女は燃え上がる爆炎の中にその姿を消した。

 

 爆炎と爆煙が巻き起こる大爆発の中で、了子は腕を上に突き上げながらドーム状のバリアを張って全てを凌いでいた。そのバリアの中には、デュランダルを握りながら気絶している響の姿もあった。

 

 了子は、気絶している響を見ながら怪しげな笑みを浮かべる。

 

「まさか、デュランダルの力なのか」

 

 一方で、上空から一連の動きを俯瞰していた弦十郎は、昇ってきた爆煙で事態を把握出来ずにいたが、現在起こっている事態がデュランダルによるものだと結論付けていた。

 

(……何だったんだ、さっきの力? 全部ぶち壊してやるって、体が勝手に……)

 

 少しして、響は意識を取り戻した。だが、意識を取り戻した響は、先程に自分の身に起こった出来事に困惑していた。

 

 響は、状況を確認する為に直ぐ体を起き上がらせて周り見渡した。響の視線の先には、既に見る影も無くなり廃墟同然と化した薬品プラントが広がっていた。

 

 周りには既に二課のエージェントが後始末の作業に取り掛かっていて、響の直ぐ傍には解けた髪を再び結び直している了子の姿があった。

 

「これって……」

 

「これがデュランダル、あなたの歌声で起動した完全聖遺物よ」

 

「了子さん、俺……それに、さっきの了子さんのアレって……」

 

 自分の身に起きたことや先程の了子のバリアのこと、今の響には兎に角聞きたいことが多過ぎて、上手く言葉を纏めることが出来ないでいた。

 

「良いじゃないのそんなこと? 2人共助かったんだし。ね?」

 

 了子は、響の話を雑にはぐらかす。その直後、了子の端末に連絡が入ったことで了子が響から離れていき、結局響は話を聞けず仕舞いで終わってしまった。

 

(……けどまぁ、おやっさんみたいな人間止めてる人がいるくらいだから、シンフォギアを作った了子さんが不思議バリアを発生させるなんて造作も無えよな)

 

 しかし、弦十郎のような例もある為、ノイズを倒すことの出来るシンフォギアを作った了子が摩訶不思議なことを起こせても不思議じゃない、と響は自己完結させたのだった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、打撃の威力が高い
──今作ビッキーは、しっかりと出来上がった下地があるので、その分だけ原作ビッキーよりもパワーや技術が上回っております。

(2)響、新聞を見て興奮する
──原作ビッキーは赤面しておりましたが、今作ビッキーは正直者なので写真に釘付けでした。序でに言いますと、今作ビッキーは大きい胸は好きですが、胸だけで女の子を好きになるかの基準にはしません。

(3)響、ネフシュタン相手でも大丈夫
──確かな技術を手に入れた今作ビッキーは、不意打ちや飛び蹴りに完全に対応しました。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 最初に了子さんのバリアを見た時は、弦十郎は物理最強だったから、了子さんも何かやらかしても不思議じゃねえなって思ってました。

 今回はここで閉めさせていただきます。

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 11 再会

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 昨日スマホを起動してシンフォギアXDを立ち上げたら、まさかのウェルの登場でビックリした。何やってんだよ運営!(ライド感)

 海賊衣装の切ちゃんが可愛い。後は誰が出るのかな? 予告的には、クリスちゃんは確定として、個人的には翼の海賊ギアが見てみたい。読者の皆様はどうでしょうか? もし僕と同じように翼の海賊ギアを望んでる人がいるなら、僕と一緒に逆羅刹待機をしながら翼の海賊ギアを待ちましょう。

 余談はここまでにして、そろそろ本編に移りましょうか。

 それでは、どうぞ!


 デュランダル護送任務から数日が経ったある日、朝早くの時間帯から右手に点滴スタンドを持ち左手で杖を着く1人の患者の姿があった。

 

 その患者とは、絶唱の負荷によって重傷を負い、最近になって漸くICUから出て普通の病室に移された風鳴翼だった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 翼は、少しでも早く現場に復帰しようと自主的にリハビリに励んでいる。だが、まだ怪我も完治せず体力も戻り切っていない翼には、こうやってリハビリをすることも堪えるものであった。その証拠に、翼の頬や額からは脂汗が滲み出ていた。

 

(奏、私も見てみたい。見なければ奏と同じところに立てない。戦いの裏側、向こう側に何があるのか。確かめたいんだ)

 

 翼がこう思うのは、(ひとえ)に彼女が眠っている間に見た夢と思われるものが関係していた。

 

 眠り続けている間、翼は夢の中で再会した奏と話したのだ。その会話の中で、奏は戦いの裏側やその向こう側には翼達の見てきたものとは違う別の何かがあると言った。

 

 翼はそれが何かを奏に訊ねたが、奏はそれが何かを明確には答えず翼自身の手で答えを出すものだと答えた。

 

 故に、夢とはいえ自分の相棒が言い残した言葉の意味を知る為に、翼は今を精一杯頑張っているのだ。

 

「翼さん、ICUを出たばかりなんです! これ以上は……」

 

 立ち止まっていた翼は再びリハビリを再会させるが、後ろの廊下の曲がり角から出てきた看護師によって止められる。そこで限界がきたのか、立つのも漸くな翼は近くにあった窓に凭れ掛かってしまった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……すみません」

 

 翼は直ぐに看護師に謝罪を入れ、不意に窓ガラス越しに見える外の様子を一瞥する。翼の視線の先には、何処までも続く雲が殆ど無い青い空があった。

 

(……あの子は、どうしているのかしら?)

 

 青く澄み渡る空を見ながら、翼は自身の後輩に当たる響に想いを馳せた。

 

 翼が医療施設の窓越しから空を見詰めていたのと丁度同じ頃、響は自身の限界に挑むように体力のことを考慮せずロードワークに全力を注いでいた。

 

(暴走したデュランダルの力。怖いのは、あの力と衝動に飲まれて、自分自身も力も制御出来なかったことじゃない。何の躊躇いも容赦も無くただ全力であいつに振り抜いたことだ)

 

 先日の暴走の件は、響の中でも尾を引いていた。幾ら目の前に立ち塞がった相手だとしても、それをただ一方的な暴力で捩じ伏せたことを響は嫌悪している。

 

(頑丈な体は兄貴に、巧い技術はおやっさんに鍛えてもらった。けど、俺自身の心は弱いままだ。俺の心が弱いから、あんなことになったんだ)

 

 暴走したのは、自分自身の心の弱さが原因だと響は思っている。そんな弱い自分をどうにかしようと、響は尚更特訓に力を入れる。

 

(翼さんの背中を追い抜くだけじゃきっと足りない。俺にゴールなんて必要無い。ただ止まらずに、今みたいに走り続けなきゃいけないんだ。止まらない限り、きっと道は続く筈だから)

 

 現状に満足すること無く、今の場所よりもずっと先にある場所を目指して響は駆ける。進んだその先には、きっと自分が望んだ場所と、またその先に通ずる道があると信じて。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「えっ、お見舞い? 俺が?」

 

『ちょっと手が離せないんですよ。すみませんが、お願い出来ますか? こんなこと頼めるの響君しかいなくて』

 

 響が更なる猛特訓に打ち込み始めた翌日、例の如く特訓に励んでいた響に緒川から電話が掛かってきたのである。響は、片手で腕立て伏せをしながら、もう片方の手でスマホを持って電話の受け答えをしている。

 

『すみませんね。貴重な特訓の時間を削るような真似をして……』

 

「いやいや、俺なんてノイズが出ないと、ただのニート同然だから、もっと扱き使ってくれて良いんだぜ? それに、そのくらいなら、面倒事の内にも入らねえよ」

 

 申し訳無さそうにする緒川に対し、響は腕立て伏せを続けながら言葉を返す。筋トレをしながらな為か、響の言葉は途切れ途切れになっている。

 

「でもよぉ、俺が行って大丈夫なのか?」

 

『えっ? 何故ですか?』

 

 腕立て伏せの手を逆にしながら響は緒川に訊ねるが、その意図を理解出来ていない緒川は、逆に響に質問を返した。

 

「いや、俺って翼さんに受け入れられてないじゃん? そんな俺が、果たして翼さんのお見舞いになんて行っても良いのかなってさ」

 

『あぁ、そういう意味ですか』

 

 響の話を聞いて、緒川も響が言わんとしていることを理解した。結局、響は翼と心を通わせることが出来ずに終わっていた。その響が、いきなり翼の病室を訪れても大丈夫なものなのか、と響は言っていたのだ。

 

「病室に入った瞬間、翼さんの蒼ノ一閃が飛んで来たりしないよな?」

 

『ハハハ、翼さんは怪我をしてるんですよ? それに翼さんは、そんな思慮の足りない行動はしませんよ』

 

「どうだか。俺、前に天ノ逆鱗なんていう超質量の物理攻撃を仕掛けられたんですが……」

 

『……』

 

「おい、そこで黙るなよ。何か喋れよ」

 

 響の懸念を払拭しようとしたが、過去の前科を突き付けられて緒川は黙ってしまい、響は苦笑いを浮かべながら返答を求める。

 

『と、兎に角です。響君の活躍は、ちゃんとレポートにして翼さんの下にも送っているんです。今の響君の活躍を知れば、翼さんだって前のような邪険な扱いはしませんよ。という訳で、宜しくお願いしますね。それでは』

 

「あっ! ちょっと待て!? おい! ……んの野郎、切りやがった」

 

 慌てた様子で会話を締め括ろうとする緒川を響が止めようとしたが、響の静止の声が届く前に緒川は逃げるように通話を切ってしまった。

 

「どうせ今掛け直しても無視されるんだろうな。ったく、これでもし翼さんから何か飛んで来たら緒川さんを取っちめてやる」

 

 響は、愚痴を漏らしながらテーブルの上のタオルと持っていたスマホを取り替えて、手に取ったタオルで流れた汗を拭き取った。

 

「えーっと、何持ってくべきだ? 林檎(りんご)とか桃が良いのか? いや、一々剥くのに手間が掛かるのは良くないか。出来ることなら素手で簡単に剥けるものが良いか。だとしたら、バナナとか蜜柑(みかん)、葡萄とかの方が良いな。翼さんも女の子だし、食べ物だけじゃなくてもっと可愛気のある物も欲しいよな。なら、花とかも持っていた方が良いよな。後は……」

 

 筋トレを中止し、手に取ったタオルを首に掛けてスマホを操作する響。響は、お見舞いに来てもらったことならあるが、逆にお見舞いに行った経験が乏しい為、スマホでお見舞いに持って行くのに良い代物を調べていた。

 

 すると、翼のお見舞いを考える響のお腹が唐突に鳴った。

 

「あ、昼飯食うの忘れてた。もうそんな時間か」

 

 特訓に注力し過ぎていた為に昼食のことがすっかりが頭から抜けていた響。食べることが大好きな彼が、自身の空腹のことも忘れて何かに没頭するというのは珍しいことである。

 

「お見舞いのこともあるし、見舞いの品探し序でに昼飯も外で食おう。それに、今思ったら冷蔵庫もすっからかんだしな。何か作ろうにも、食材がなーんにも無いんじゃどうしようもない」

 

 実のところを言うと、響は食べるのも好きだが料理を作るのも得意である。2年間を兄貴分と過ごす中で、兄貴分の大勢の現地妻達から様々な料理を作れるよう仕込まれたのだ。

 

 結果、響は和食に洋食に中華、多数の民族料理を作ることが出来るようになったのだ。響にとっては、虫だって立派な食材だし、響に掛かれば、どんな下手物(げてもの)食材も絶品の品に変わる。見た目が良いとは保証は出来ないが。

 

 それはさておき、響は特訓で掻いた汗をシャワーで洗い流し、黒のタンクトップの上にパーカーという響が好むいつも通りの服装に着替えて街へ繰り出した。

 

「さてさて、何処に行こうかなっと……」

 

 今は丁度お昼時であり、多くの店が鎬を削るように奮闘している。それによって、周りの店からは香ばしい料理の匂いが周囲に漂う。

 

「ん?」

 

 響が匂いを嗅ぎ分けながら道を歩いていたその時、響は不意に足を止めて目線を左に向けた。

 

「ふらわー? ここから良い匂いがしてくるな」

 

 響の視線の先には、“ふらわー”と書かれた看板が飾られている店があった。気になった響は、ガラスが格子状に填められた扉を横に引いて中に入った。

 

「いらっしゃい!」

 

 扉の先には、厨房で料理で使う食材を切っていた店員と思われる女性がいて、扉が開いた音を聞いて快く響を迎え入れた。

 

「僕、1人かい?」

 

「あぁ。ここって、何の店なんだ?」

 

「ここかい? ここはね、見ての通りお好み焼き屋だよ」

 

「お好み焼き屋か。通りでソースの良い匂いと食べ物を焼く良い匂いがしてきた訳だ」

 

 響がこの店にやって来たのも、(ひとえ)にお好み焼きを焼く匂いとソースの(かぐわ)しい匂いに惹き付けられたからに他ならなかった。

 

「そういえば、お好み焼きなんて久しく食べてないな」

 

「そうかい。ところで、もうお昼は食べたのかい? まだなら、ここで食べていったらどうかしら?」

 

 このお好み焼き屋の店長と思われる女性のお誘いを聞いて、響が答えるよりも先に響のお腹が鳴った。どうやら、体の方はすっかりお好み焼き気分のようである。

 

「あらあら、お腹の方はすっかり食べる気満々みたいね」

 

「そうみたいだ。ここで昼飯食べてくよ」

 

「ありがとうね。注文を聞くから、適当に席に座って」

 

「いや、ここに来るのは初めてだから、この店のお勧めの一品を出してくれ」

 

 響は笑みを浮かべながら注文を聞き、店員の方もニッコリと笑みを浮かべた。

 

「この店のお勧めの一品と言われからには、おばちゃんも本気を出さないとね。そういえば、お名前は何て言うのかしら?」

 

「響だ。立花響。そっちは?」

 

「おばちゃんで良いよ。この店の常連の子は皆そう呼んでるからね」

 

「そっか。じゃーおばちゃん、凄え美味いの頼むぜ!」

 

 響が席に着いてから数分が経過して、ふらわーのおばちゃん特製のお好み焼きが出された。

 

「はい、召し上がれ」

 

「それじゃ早速いっただきまーす!」

 

 響は元気よくお好み焼きに(かぶ)り付いた。その瞬間、響の体に衝撃が走った。

 

「美味いぞぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」

 

 ギャグ漫画であればビーム、料理漫画であれば謎空間が出てこんばかりのリアクションをする響。それ程までに、ふらわーのお好み焼きが響に与えた衝撃は大きかった。

 

「何だこれ!? すっげえ美味え! こんなに美味いお好み焼き食ったこと無え!! 俺が食ってきたお好み焼きの中で1番美味えよ!!!」

 

「大袈裟だねぇ。でも、気に入ってくれたようで何よりだよ。もっと欲しいかい?」

 

「あぁ! 欲しい! もっと欲しい! どんどん焼いてくれ、おばちゃん! 4枚、いや、9枚は焼いてくれ!」

 

「はいはい。それにしても9枚も頼むなんて凄い食欲だねぇ。食べ切れるのかい?」

 

 苦笑しながら言われたおばちゃんの言葉は、今の響には届いていなかった。真正面にいる人物の言葉が耳に入らない程に、今の響は目の前のお好み焼き(ごちそう)に夢中になっていた。

 

 その後、響の注文通りにおばちゃんは9枚のお好み焼きを焼き上げたが、その全てを響が怒涛の勢いでペロリと完食してしまい、更に追加の注文で5枚も焼いたのだった。

 

「はぁ〜食った食った! 大・満・足ッ!! 今の俺ならミサイル飛んできても対処出来そうだわ〜!!」

 

「本当に一々リアクションが大袈裟だよ。けど、そこまで満足してもらえたのなら料理人冥利に尽きるよ」

 

 何処までもご機嫌で幸せそうな顔をする響を見て、おばちゃんも満足そうに微笑む。結果として、響が今さっきの昼食で食したお好み焼きの数は、何と合計で15枚にも上った。

 

「さてと、腹も膨れたし午後も張り切って行くとしますか!」

 

「何か用事でもあるのかい?」

 

「ん? あぁ、入院してる先輩のお見舞いに行くんだ。それでこれからお見舞いの為の品を色々と買い込みに行くんだ」

 

「そうだったの。何を買うのかはもう決めてるのかい?」

 

「いんや、大雑把には決まってるけど、これといった確定しているものは無いよ。細かく決めるのは、これからって感じかな」

 

「そうかい。お腹が空いてると、嫌な答えばかりが浮かんでくるもんだから、ここでしっかりとお腹一杯になったのは良いことだよ。後はしっかりと考えて、良いお見舞いの品を持って行くんだよ」

 

「おうよ。それじゃ、俺はそろそろ行くよ」

 

 会計を済ませた響は、席から立ち上がって出口へ歩みを進める。おばちゃんも洗い物をする手を止め、去っていく響に体ごと振り返る。

 

「また来てちょうだいね。今度は、先輩さんも一緒にね。先輩さんに宜しく言っておいてちょうだい」

 

「あぁ!」

 

 笑みを浮かべながら手を振って見送るおばちゃんに、響も視線だけおばちゃんに向けながらサムズアップを返して“ふらわー”を後にした。

 

 それから数刻が経ち、響はお見舞いの品を持って、翼の入院している私立リディアン音楽院高等科に隣接した総合病院にやって来た。

 

 総合病院というのは飽く迄も表向きの体裁であり、本当は二課の医療施設である。戦闘で傷付いたシンフォギア装者を治療する以外にも、ノイズによる負傷者や死亡者についてのデータを収集している研究機関としての側面も持っている。

 

「えーっと、確か402号室だったよな。おっ、あったあった」

 

 響は、病院の受付で翼が入院している部屋を聞いて402号室の前までやって来た。しかし、そこで響の足が止まってしまう。

 

「大丈夫だ、大丈夫。蒼ノ一閃も天ノ逆鱗も飛んでこない」

 

 響は、その場で深呼吸を始める。翼との関係がアレだった為、幾ら基本的に図太い響でも緊張と警戒がごちゃ混ぜになっているのだ。

 

「失礼します!」

 

 意を決した響は、普段は使わない敬語を用いて翼の病室内に足を踏み入れた。

 

「つ、翼さ──」

 

 病室内にいると思われる翼の姿を探して、響は視線をキョロキョロさせながら病室内を見渡すが、直後に響の言葉は止まって響自身もその場に固まって持ってきた見舞いの品を落としてしまった。

 

「なっ、おい……まさか……嘘だろっ!?」

 

「何をしているの?」

 

 独り扉の前に立ち尽くしながら驚愕を露わにする響に、後ろからやって来た翼が声を掛ける。その声を聞いて、響は直ぐに体ごと振り返って翼の両肩を両手で掴む。

 

「大丈夫なのか、翼さん!? 何も無かったのか!? いや、何もされてないよな!? まだ翼さん処女だよな!?」

 

「なっ!? 会って早々何言ってるのっ!!?」

 

「へぶぅ!?!!?」

 

 女性に聞くには、些かどころかデリカシーがマイナスを振り切った質問をする響。そんな響を、翼は赤面しながら思いっきりビンタでぶっ飛ばした。

 

 見事翼にぶっ飛ばされた響であるが、今回はデリカシーゼロ寧ろマイナスの響が悪い。

 

「それに、入院患者に無事を聞くってどういうことなの!?」

 

「いや、だってこれはっ!!」

 

 未だ赤面しながら若干早口で響の言葉の意味を訊ねる翼に、響は()たれて痛みが響く頬を左手で撫でながら、右手で翼の病室内を指す。

 

 畳まれずに散らかった衣類やティッシュのゴミ、机の上に積まれたり方向問わずに置かれた本の山や新聞と横になった容器とそこから流れ出た飲料、雑に置かれた薬品類と枯れた状態の花瓶の花。

 

 翼の病室内は、物が乱雑に溢れ返っていたのだ。いや、これは乱雑というレベルを既に超越しているだろう。一言で言うなら、“汚部屋”という言葉がピッタリである。

 

 響に指された自分の室内を見て、翼の鋭くなった目付きが別の形に変わっていく。

 

「俺、翼さんが誘拐されたんじゃないかって思ったんだ! 二課の人達がどっかの国の連中が陰謀を巡らせてるとか言ってたし! それに翼さんは凄い美人で可愛いから、動けない翼さんを狙った糞野郎の犯行じゃないかって!!!」

 

「か、可愛い!? えと、その、これは……」

 

 言葉を捲し立てて自分の考えを伝える響。その言葉の中の“可愛い”という単語に反応して、先程とは別の意味で顔を赤くする翼。翼は、響に何かを伝えようとするが口籠った上に更に顔を赤くして視線まで逸らしてしまった。

 

「え? ……あぁー」

 

 翼の表情を見て言葉を止めた響は、それだけで全てを察した。そう、風鳴翼はお片付けが出来ない女の子だったのだ。

 

(今の翼さん、凄え可愛い。何というか……もっと意地悪してみたい)

 

 そして、何時もは見せない翼のしおらしい表情は、響の中に眠る男の(さが)とも言える本能を刺激し、入れてはいけないスイッチを入れ掛けそうになっていた。

 

 荒ぶろうとする本能をどうにか沈め、響は散らかった翼の汚部屋の片付けをし始める。その様子を、患者様のベッドに腰掛けた翼が見守っている。

 

 衣類や飲料や薬品類や本は仕舞うべきところに戻し、響自身が持ってきたお見舞いの花は枯れた花と取り替え、果物類は室内に転がっていたバスケットの中に入れられた。

 

「もう、そんなのいいから……」

 

「緒川さんからお見舞いを頼まれたんだよ。それに入院患者をあんな汚い部屋で生活させる訳にはいかないだろ」

 

 まだ赤面している翼が、響に片付けはしなくていいと言うが、響は全く聞く耳を持たないでせっせと作業を進めていく。

 

「私は、その……こういうところに気が回らなくて」

 

「でも、意外だったな。翼さんって何でも完璧に(こな)せるイメージがあったからさ」

 

「真実は逆ね。私は戦うことしか知らないのよ」

 

「戦うことしかってことも無いと思うけどなぁ。それに、翼さんの一面を知れて親近感が湧いたぜ俺は。翼さんは天上の人じゃなくて、俺達と同じ人間なんだなって。一見完璧でも、こういう意外な欠点とかあった方がギャップ萌えで尚更可愛いと思うぞ」

 

「またそんな可愛いだなんて!? 別に私は……!」

 

 響の言葉を聞いて、元に戻り掛けていた翼の顔が再び赤くなる。今までファン達から可愛いと呼ばれたことは星の数程あれど、同年代の異性の少年から面と向かって言われたことは無い為、翼の反応はとても初々しいものであった。

 

 翼が赤面している間も響は作業をする手を止めずに動かし続け、漸く最後に畳んだ衣類も仕舞ったことで翼の汚部屋掃除は完了した。

 

「はい、これで終わり!」

 

「すまないわね。何時もは緒川さんがやってくれてるんだけど……」

 

「えっ? 俺もそうだけど、男に自分の部屋の片付けさせるのかよ。下着とかもあるのに……」

 

 今まで当然だったこと故に気付かなかった事実を響に言われ、翼の心に激しい動揺が生まれる。

 

「た、確かに考えてみれば色々問題ありそうだけど、それでも散らかしっぱなしにしてるの良くないから……」

 

「だったら、自分で片付けられるように努力しようぜ。何なら、翼さんの自宅の部屋を練習台にして俺が指導してやるよ。地域もやり方も全部違った数多くの掃除の仕方を極めた俺に任せときな」

 

 料理だけでなく実は掃除や洗濯のテクニックも叩き込まれていた響。この少年、体を使って行うことにはとことん隙が無い。

 

「そ、そんことより! 今はこんな状態だけど、報告書は読ませてもらっているわ」

 

「あぁ、報告書ね」

 

「私が抜けた穴を、あなたがよく埋めているということもね」

 

「いやいや、全然そんなこと無いって! いっつも二課の皆には世話を掛けっ放しだし、翼さんみたいにアームドギアも使えねえから格闘戦ばっかで作業はとろくさいしさ!」

 

 あわあわと慌てながら謙遜する響の顔を見て、翼は思わず微笑を浮かべる。

 

「翼さんにそう言ってもらえて、翼さんとこうして話し合うことが出来て、俺嬉しいよ」

 

「でも、だからこそ聞かせて欲しいの。あなたの戦う理由を」

 

 翼の顔が先程の赤面した可愛らしい表情から一転して、凛とした力強い表情に変わる。

 

「えっ?」

 

「ノイズとの戦いは遊びではない。それは、今日まで死線を潜ってきたあなたなら分かる筈」

 

「……俺が戦うのは、皆の笑顔を守る為だ。それ以上もそれ以下も無い。それに人助けは、俺の趣味みたいなものだからさ」

 

「それだけの理由で?」

 

「あぁ。人の心からの笑顔ってさ、見てて気持ちの良いもんなんだよ。そういうの見てるとさ、俺も嬉しくなって顔が自然と笑顔になるんだ。だから、自分に出来ることを増やす為に色んなことに手を出した。体を鍛えた理由にも勿論含まれてるし、料理に洗濯に掃除もそう、何時の間にか物の修理とかにも手を出してた。全部、人助けと笑顔の為に必死で身に付けたものなんだ」

 

 そう語りながら窓の外を見る響の目は、何処か遠く見つめているように翼には見えた。

 

「……切っ掛けはさ、やっぱ2年前の惨劇の時なんだろうな。あの日、あの時、あの場所で起こった全ての出来事が、今の俺にとっての全ての始まりだったんだ。……あの時、俺を救う為に命を燃やした奏さんだけじゃなく、多くの人が亡くなって、その人達に連なる人達も涙を流して、生き残った人達とその周りからも笑顔が消えた。あの惨劇に関わった人達全員から笑顔が消えた」

 

「……」

 

「もう誰の悲しい顔も涙も見たくない。皆に笑っていて欲しいんだ。俺が人助けするのは、助けた本人だけじゃなく、その先にいる助けた人と繋がりのある人達の笑顔も守りたいからなんだ」

 

 響の胸に秘めた想いが吐露され続ける中、翼は無言で何も言わずにずっと響の言葉を聞き続けていた。

 

「あなたらしいポジティブな理由ね。だけど、その想いは前向きな自殺衝動なのかもしれない」

 

「自殺衝動!?」

 

「誰かの為に自分を犠牲にすることで、古傷の痛みから救われたいという自己断罪の表れなのかも」

 

「俺、別にそんな変なこと言ったつもりは無いんだけどなぁ。ハハハ……」

 

 後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべる響に、翼は何処か困ったような笑みを返すのだった。

 

 響と翼は場所を移動し、病院の屋上にて先程の話の続きをすることにした。暖かい日差しが屋上にやって来た2人を歓迎するように照らし、屋上に吹く気持ちの良い風が頬を撫で髪を揺らす。

 

「変かどうかは、私が決めることじゃないわ。自分で考え、自分で決めることね」

 

「考えても考えても分からないことだらけで切りが無いんだ……。デュランダルを握ったあの時、俺の心は何かドス黒いものに飲み込まれそうになった。気が付いた時には、俺は人に向かってあの途方も無い力を振り翳してた。俺の心の弱さが招いたことだっていうのは分かってる。でも、俺がアームドギアを使うことが出来ていれば、少しは変わった未来もあったんじゃないかって思うんだ」

 

「力の使い方を知るということは、即ち戦士になるということ」

 

「戦士?」

 

「それだけ、人としての生き方から遠ざかるということなのよ。あなたに、その覚悟はあるのかしら?」

 

 先程吹いた風よりも、少しばかり勢いのある強い風が吹き抜ける。風に吹かれた髪と、日の光が一切当たっていない翼の真剣な表情とその力強い瞳が合わさって周囲が異様な空気に包まれる。

 

 その空気を感じ取った響は、単純な答えで即答するなんてことは出来なかった。翼の目は真剣そのもので、響の胸の内に眠る(まこと)の答えを欲しているのだ。

 

 風が吹き抜けていく中、両者は沈黙したままだったが、風が吹き抜けた後に響の目が力強いものに変わって正面から翼の目を視線で射抜き、自身の想いを言葉にする為に口を開く。

 

「……さっきも言ったように、俺には守りたいのものがある。それは、皆が笑顔でいられる大切な日常。そんな当たり前のようなちっぽけなものだからこそ、俺はそれを守りたい」

 

「戦いの中、あなたが思っていることは?」

 

「ノイズに襲われている人がいるなら、1秒でも早く救いたい! 最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に駆け付けたい! もしも相手が、ノイズじゃない誰かなら、どうしても戦わなくちゃいけないのかっていう胸の疑問を、俺の想い正面からぶつけたい!」

 

「今あなたの胸にあるものを出来るだけ強くはっきりと思い描きなさい。それがあなたの戦う力、立花響のアームドギアに他ならないわ」

 

 響から返ってきた真の想いを聞き届け、それを胸に響かせた翼は先達として初めて響に助言の言葉を伝えたのだった。

 

 それからも2人の屋上での会話は続く。基本的には、響が分からないことを翼に聞き、翼が聞かれたことを自分なりの解釈を持って響に答える一問一答形式である。

 

 だが、初めて翼とまともに話すことが出来て舞い上がった状態の響は、嬉しさからその時間が少しでも長くなるように必死に会話を続けていたのだ。響の真意は見抜けなかったが、そんな何処か必死で健気に頑張っているようにも見える響を見ていて、翼も悪い気分どころか久しく感じていなかった暖かな心持ちになって自然と微笑みを浮かべていた。

 

「うーん、こうして色々と話を聞いたけど、アームドギアの扱いなんて直ぐには思い浮かばないんだよなぁ……」

 

 長い時間を掛けて翼から色々なことを聞き、響なりにアームドギアについて色々と考えたようだが、結局ピンと来る答えが響の中で生まれることは無かった。

 

「あっ、翼さん! 実は昼飯の時に行ったお好み焼き屋のおばちゃんがさ、お腹が空いたままだと嫌な答えばかりが浮かんでくるって言ってたんだよ!」

 

「何よ、それ……」

 

「俺的には、これは数ある世界の名言の中でもトップ10入りはすると思うね!」

 

「そう……」

 

 唐突に変えられた話題の流れに着いて行くことが出来ず、翼は呆然として響の話につい淡白な答えを返してしまう。

 

「そうだ! 俺ちょっと出てふらわーのお好み焼き買ってくる! 腹が膨れれば、ギアの使い方もティンと閃くかもしれない! 今日初めて食べてすっかり惚れ込んだ俺が言うんだ、翼さんもきっと気に入ると思う! 病院食ばかりの翼さんにも、偶にはボリュームのあるものも食べてもらいたいし!」

 

「ちょっと待って! 私はそこまでボリュームのあるものはまだ……!」

 

「それなら大丈夫! もし翼さんが残しても、俺がペロリと翼さんの食べ残しも食べるから! 善は急げってことで、早速行ってくる!」

 

「あ、ちょ、だから待ちなさい、立花!」

 

 翼の静止の声は既に響には届かず、響は全てを振り切る一陣の風の如きスピードで駆け出して行ってしまった。そんな何処までも元気な後輩の後ろ姿を見送りながら、翼はくすりと微笑を浮かべていたのだった。

 

 しかし、平和な日常というのは長くは続かず、一瞬で崩れ落ちるのものである。

 

 響が“ふらわー”に向かって全速力で駆け抜けていたその時、突如懐に入れていた二課の端末に連絡が入った。

 

端末からの電子音を聞き、響は先程までのお気楽モードから真面目モードに意識を切り替えて端末を取り出した。

 

「はい! こちら響!」

 

『響君、俺だ! 実はこちらでネフシュタンの鎧の反応を確認した! ネフシュタンの少女は、真っ直ぐに二課本部まで向かってきている! デュランダルの確保に失敗した以上、今回の狙いは響君で間違いない!』

 

「俺はどうするべきなんだ!?」

 

『現在周辺地区に避難警報を発令した。もう直ぐで退去も完了するだろう。響君は、そのまま進んで欲しい! そのルートを行けば、こちらに来るネフシュタンの少女と遭遇するだろう。接敵し次第交戦による被害を避ける為に、市街地を避けながら指定されたポイントまでネフシュタンの少女を誘導して欲しい!』

 

「合点承知!」

 

『敵の狙いである君を戦わせるのは正直不味いかもしれん。だが、対抗出来る戦力は今のところは君しかいない』

 

「分かってるって! それによ、今の俺は(すこぶ)る機嫌が良いんだ! 相手がノイズだろうが、完全聖遺物だろうが負ける気がし無え!!!」

 

『……ふっ。そうか、頼もしくなったものだな。だが、相手は完全聖遺物だ。決して油断と無茶はするなよ』

 

「あぁ!」

 

 響は最後に元気よく弦十郎に返事を返してから通話を切った。端末を懐に仕舞い、そのままネフシュタンの少女を迎え撃つ為に駆ける。

 

「響っ!!」

 

 だが、突如呼び掛けられたことで響はその足を止めた。そして、これから走って行こうとした道の先にいる1人の少女の顔を見て瞠目した。

 

「そんな、どうして……!? 何で……!!?!?」

 

 響の心に動揺が走る。響は心や感情が昂ることはよくあるが、不安定に揺れ動くということは滅多に無い。その響が動揺するということは、それだけ目の前にいる少女の存在との再会による衝撃が大きいという証拠だった。

 

「やっと見付けた……! 今まで何処に行ってたの? うぅん、そんなことは本当はどうでも良いの。響が無事で良かった……!」

 

 対する少女の方は、目に大粒の涙を浮かべながら感動で打ち震えていた。少女にとっても、立花響という少年の存在もそれだけ大きかったのだ。

 

「私だよ、響。小日向未来だよ。分かるよね?」

 

 響の目の前にいる白いリボンの少女──未来が確認するように響に問い掛けた。

 

 少女の名前は、小日向未来。2年前の唐突な別れの際、響がもう2度と会うことは無いのだろうと思っていた響の大事な幼馴染みである。

 

 今この緊急事態の中で、世の中の理不尽という荒波に揉まれて引き離された2人の少年少女が、2年の時を経て再開したのだった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、朝から外でロードワーク
──今作ビッキーは、リディアンの生徒じゃないのであの直角に曲がっているトラックは使えないのである。

(2)響、料理も作れる
──今作ビッキーは、料理も作れます。黎人の現地妻達による魔改造です。響はG(○キブリ)だって絶品料理に変えてしまう(見た目が良いとは限らない)。

(3)響、“ふらわー”で昼食を食べる
──ここで少しオリジナル展開を入れました。シンフォギアを語る上で、お好み焼きは外せない。食べた総数は、何と15枚! 今作ビッキーは、お好み焼きを人の5倍は食べる子です。

(4)響、病室前で打たれる
──以前に打たれなかったことによるツケがここで。まぁ、いきなり年頃の女の子に処女かどうかを訊ねるというデリカシーがマイナス振り切った発言をした響が100%悪いです。

(5)響、S(サディスト)に目覚め掛ける
──翼の表情が可愛過ぎて響の眠れる野生が目を覚まし掛けた。僕もあの翼さんを最初に見た時は、胸から込み上げてくるものがありました。男なら仕方無い。

(6)響、翼に何度も可愛いと言う
──完全に無意識な発言。距離が近付いたからこそ、何度も言える可愛い発言である。その度に初心な翼は赤面する。

(7)響、実は掃除と洗濯も出来る
──料理と同様に現地妻達に鍛えられた。彼女達は、自分達の好きな黎人の弟分である響を本当の弟のように思っている。だからこそ、ついつい可愛がって構ってしまうのである。

(8)響、物の修理とかも出来る
──これは黎人による魔改造。仕事を手伝う内に作業を覚えた感じです。材料と道具があれば、○ブトボーグからグランドピアノまで何でも直せる。更に言うと、黎人は響の上位互換である。

(9)響、遂に未来と再会
──2年ぶりの再会。ここまで来るのは長かった。だが、この再会が吉と出るか、凶と出るかは……。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 今回は翼さんのヒロイン回だったと個人的に思う。初心故に何度も赤面する翼さんが見れて僕は満足です。

 そして、遂に再会した響と未来。全身銀色の変態が迫る中、2人は一体どうなってしまうのか!?

 次回は少し未来サイドから話を進めていこうと思ってます。では、今回はここで閉めさせていただきます。

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 12 覚悟の拳

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 今回は、前回の後書きで書いた通り未来サイドから話がスタートするぞい。

 393サイドの話を“歪鏡・シェンショウジン”を聞きながら書いてたら、何かに急かされるように筆が進みました。寒気とか色々感じました。

 ビッキーサイドの話は、“青い果実”を聞きながら書き上げました。本当に今作ビッキーによく合う曲なので、良ければ1度聞いてみて下さい。気に入ってくださったら、その歌を聞きながら今話の後半部分を読んでみて下さい。

 余談はここまでにして、そろそろ本編に移りましょうか。

 それでは、どうぞ!


 小日向未来という少女にとって、立花響という少年は太陽と言っても過言では無かった。

 

 どれだけ未来が暗い気持ちに陥ろうと、傍に響がいるだけで顔を上げることが出来たし、響が笑い掛けるだけで暗い闇は暖かな光に包まれて何時の間にか消えてしまっていた。

 

 大好きな幼馴染みと優しい両親や大勢の良い人達に囲まれて、小さな悩み事はあっても十分に幸せと言える順風満帆な日々は、唐突に終わりを迎えた。

 

 2年前の“ツヴァイウィング”のライブがあった日、未来は家の事情で行くことが出来なかったが、そのライブ会場がノイズの襲撃に遭った。

 

 その時、本来は一緒にライブに行く筈だった響も会場に居合わせていた。結果的に言えば響は助かったが、それでも重傷を負ったのだ。

 

 元々は未来がチケットを手に入れ、その渡されたチケットで響がライブを見に行って怪我を負ったということが負い目になって、響に恨まれているのではないかと思っていた。だが、怪我から復調した響は、決して未来のことをこれっぽっちも恨んでいなかった。そのことに未来の心は救われた。

 

 しかし、悲劇は尚も続いた。次に待っていたのは、惨劇の生存者への迫害である。その対象には、当然響も含まれていたのだ。

 

 響が世間の殆どから迫害されるようになって、未来はある1つの決心をした。それは、自分はどんなことがあろうと、響の味方であり続けよう、というものだった。

 

 迫害される響と仲良くしていた未来にも迫害の手が及ぶようになっても、決して未来は弱音を吐くような真似はしなかったし、屈するということもしなかった。何れだけ辛いことがあろうと、大切な幼馴染みである太陽が傍にいれば、それだけで未来はどんな苦難も乗り越えられると信じていたからだ。

 

 けれど、それも唐突に終わりを告げた。事態を見兼ねた未来の両親が、元々上がっていた引越しの話を強行して無理矢理未来を転校させたのだ。

 

 そのせいで未来は響と最後の別れの挨拶をすること無く離れ離れとなった。それ以来、未来は両親に対して全幅の信頼を寄せるということは無くなった。無理矢理未来を転校させたこともそうだが、未来の両親までもが自分達の保身の為に決して響に手を差し伸べようとしなかったことが後に発覚したからだ。

 

 それからの未来は、両親に黙って響宛てに手紙を出し始めた。手紙の内容には、引っ越した先であった出来事と響の身を案じた文が記されていた。だが、響から未来宛ての手紙が返ってくることは1度たりとも無かった。

 

 響に嫌われたのではと思い始めた矢先、テレビのニュースで響が行方不明になったという報を知った。当然未来は響を捜しに出ようとしたが、そんな何処にいるかも分からない人間を捜しに行くという無謀なことを周りの人間が許すことは無かった。

 

 (やが)て未来が短距離走の道を諦めてピアノの道を志したその時、未来は音楽学校として有名な私立リディアン音楽院へ入学することを決意した。

 

 リディアンへの入学を果たし、響の母親と祖母との親交を復活させた未来は、自身の新たな道を歩み出すことと同時に過去に置いてきてしまった大事な物を探し出すことを始めた。

 

 最初に未来が予感を抱いたのは、始業式の翌日の登校中だった。通学路を登校中に小さな女の子が車に轢かれそうになったのだ。

 

 誰もが最悪の未来を予想して目を逸らす中、未来はハッキリと見た。自分の荷物全てをかなぐり捨て、女の子を助ける為にその身一つで突っ込んでいくフードを被った人物を。

 

 フードの人物は、見事に女の子を救い出し、その無謀であるが褒め称えられるべき行動を取ったフードの人物を、その場にいた全員が称賛した。勿論未来自身も拍手という形で称賛を送った。

 

 だが、フードの人物が花のような笑顔で笑う女の子の頭を撫でているのを見て、未来の脳裏に眠る記憶が揺れ動いて呼び覚まされた。

 

 フードの人物の頭を撫でる手付きに、未来は何処か見覚えがあったのだ。何度も見たことがあるし、何度もその手付きで頭を撫でられたことが未来にはあった。

 

 フードで顔も見えず、距離があって声も聞き取れなかったが、未来は確かにフードの人物から響を感じたのだ。故に、無意識で響の名前を呟いていた。

 

 次も、リディアンに向かって登校している最中のことだった。結局、フードの人物が響だったのか確信も持てず、先日の出来事が記憶の海に沈んでいき、未来は前と変わらない日常を過ごしていた。

 

 だが、それは突然起こった。未来が通学路の曲がり角を曲がろうとしたところで、突然1人の少年が猛スピードで曲がり角から飛び出してきたのだ。

 

 そのことに驚いて足を止めた未来は、間近でその少年の顔を見て全身が固まった。

 

 最後に見た時よりも幼さが消えたが、それでもまだ少し幼さが残る顔。以前と全く変わらない髪型と髪色。優し気だが何処かキリッともしてるやる気と元気に満ち溢れた目。

 

 身長は未来よりも小さかったのに、今では10cmは大きくなっていて、体型も普通だったものが限界まで絞られて無駄の無いものに変わっていた。

 

 身長と体型以外は殆ど変わっていなかった幼馴染みが確かにいたのだ。

 

 硬直が解けた未来は、直様後ろから大声で響の名前を呼んだ。しかし、聞こえていなかったのか、響は一向に止まらなかった。

 

 未来は、響の後を追いかけた。現役を退いたと言っても、以前に確かな記録を保持していた未来は走ることには自信があった。だが、()れだけ走っても響に追いつくことは出来ず、寧ろその距離はどんどん開いていった。

 

 結局、未来は響と言葉を交わすことは出来なかった。だが、この街に響がいるということが分かっただけでも、未来にとっては十分な収穫だった。

 

 それからの未来は、響を見付ける為に色々と試行錯誤を繰り返した。朝の登校時間は遭遇した時と同じ時間に固定して響を捜し、放課後に響が行きそうな場所に行って街を練り歩いていた。

 

 しかし、数多くの試行錯誤は何れも身を結ばなかった。

 

 響捜しが上手くいかない度に暗い気持ちになって沈み込み、未来はその都度周りの友達から励まされていた。友達からの声援を糧に、未来はめげずに頑張り続けた。

 

 流石に個人的な悩み過ぎて友達に相談することは無かった未来だったが、そんな未来の想いを察して友達も深くを訊くということはしなかった。それでも、未来が自分達の知らないところで頑張っていることを知っていた友達は素直に未来を応援し続けたのだ。

 

 そこで今日は少し趣向を変えて、未来は捜すのではなく見付けた時に会話を円滑にする為の方法を調べに図書室までやって来ていた。

 

「あっ! あった!」

 

 探していた本を見つけ、それを本棚から引っ張り出して手に取る未来。目的のものを見付け、未来は嬉しそうにニコリと笑った。

 

 だが、そこでふと視線を横に向けた。未来の視線の先には、窓越しでリディアンに隣接する総合病院がある。

 

「えっ」

 

 未来は、窓越しから見えた光景を見て持っていた本を落としてしまう。

 

 未来のいる場所からは、総合病院に入院する入院患者達がいる病室が見えていた。見えた病室には、2人の人物が談笑をしている光景があった。

 

 1人は、未来が所属する私立リディアン音楽院に在籍する3年の風鳴翼である。最近のニュースで、翼が過労が原因で入院していることは知っていた。だから、これは別に何の問題でも無いし不思議に思わなかった。

 

 だが、翼と談笑しているもう1人の人物に問題があったのだ。その人物とは、未来がずっと捜し続けそれでも見付けることの出来なかった大切な幼馴染みである響だったのだ。

 

「響……!」

 

 未来は声に出して響の名を呼び、落とした本のことも忘れて窓に手を着いた。響達のいる病室まで手を伸ばすように、未来の手に無意識に力が込もる。しかし、窓ガラスによって遮られた手はそれ以上伸ばすことが叶わない。

 

(何で響があそこに? 何処で翼さんと知り合ったの? どうして……そんなに楽しそうなの?)

 

 疑問は次から次へと湧き上がり、際限無く増え続ける。その中には、自分の苦労も知らずに楽しそうにしている響への複雑な感情や、自分が大好きな響と楽しそうに談笑している翼への嫉妬の感情などが入り混じっていた。

 

 今直ぐにでも飛び出して、直接響に事情を説明してもらいたい未来だったが、何方かと言えば内向的な未来にそんなことは出来なかった。

 

 そうこうしてる内に、病室にいた響と翼は病室か出て行って、これ以上2人のことを見続けることは不可能になった。それを見届けた未来も、落とした本を本棚に戻してから暗い表情で図書室から出て下校した。

 

(どうして、どうしてなの響? どうして、私やおばさんに連絡を()れないの……? 私達のことなんて、どうでもよくなっちゃったの……?)

 

 疑心や不安が心に闇を生んで染め上げ、未来の思考はどんどんネガティブなものに変わっていく一方である。

 

 以前、未来は響の母から響が出て行ったのは、きっと残された家族を守る為だと言われたことがあった。しかし、実はそうでは無いのでは?という間違った考えに至りそうになっていた。

 

 心に陰りがある状態の未来は、何時の間にか友達との行き付けの店であるお好み焼き屋の“ふらわー”まで無意識に足を運んでいた。

 

「いらっしゃい!」

 

 厨房で作業をしていたおばちゃんが、店の扉を開けて入ってきた未来に振り向く。

 

「こんにちは……」

 

「おや、今日は他のお友達はいないのかい?」

 

「今日は、私1人です……」

 

「……そうかい」

 

 何時もの雰囲気と違う且つ心の曇りが表情にまで表れている未来を見て、ふらわーのおばちゃんは何も言わずに未来を迎え入れた。

 

「今日はねぇ、お昼にすっごい食べっぷりをする男の子が来たんだよ。だから、おばちゃんも少しお腹減っちゃってるのさ。おばちゃんもその子に負けないように沢山食べようかねぇ」

 

「食べなくていいから焼いて下さい……」

 

「あら。アハハハハハハ……」

 

 おばちゃんなりに気を利かせて未来に話し掛けたが、大したリアクションも無く真顔で返されておばちゃんも愛想笑いをする他無かった。

 

「今日はお腹空いてるんです。ずっと考え事ばっかりしてて、朝ご飯も食べてなくて……」

 

「……さっき言った凄い食べっぷりの男の子にも似たようなことを言ったんだけど、人間ってお腹空いたまま考え込むとね、嫌な答えばかり浮かんでくるもんなんだよ」

 

「ッ!」

 

 おばちゃんの言葉を聞いて、未来はハッとなって顔を上げた。

 

(そうかもしれない。何も分からないまま、私が勝手に思い込んでるだけだもの。ちゃんと会って話せば、きっと……!)

 

 おばちゃんに言われ、未来は自分が嫌な方ばかりに考えを傾けていたことに気付いた。まだ何も分かっていないのに、全てを自分の考えで決め付けるのは早計であると。

 

 おばちゃんの言葉で希望を見出せたことで、未来の表情が何時もと同じ明るいものに戻っていった。

 

「ありがとう、おばちゃん」

 

「何かあったら、また何時でもおばちゃんの所においで」

 

「はい!」

 

 元気よく返事を返した未来は、おばちゃんが焼いてくれたお好み焼きを2枚食べた後に店を後にした。

 

(響がこの街にいるのは分かってるんだから、そんなに焦らなくて良いんだ。私が諦めなければ、信じてればきっと会える筈だから!)

 

 少し前には無かった確かな希望の光を胸に歩みを進める未来。そして、未来の願いは唐突に思わぬ形で叶った。

 

(えっ、あれって……。ッ!)

 

 未来が歩いている道の前方から凄い勢いで走ってくる少年がいた。少年は、耳元に通信機と思われる端末を当てながら話している為、前方にいる未来の存在に気付いていない。

 

 少年が端末での通話を終えたのを見計らって、未来は前に名前を呼んだ時よりももっと大きな声でその名を呼んだ。今度は、擦れ違うなんてことが起きないようにする為に。

 

「響っ!!」

 

 未来がその名を呼んだ直後、前から走ってきていた少年は釘で縫い止められたかのように足を止めて急停止し、未来の顔を見て目を見開いた。

 

「そんな、どうして……!? 何で……!!?!?」

 

 少年──立花響は明らかな動揺を表情に浮き上がらせる。

 

「やっと見付けた……! 今まで何処に行ってたの? うぅん、そんなことは本当はどうでも良いの。響が無事で良かった……!」

 

 聞きたいことは沢山ある。しかし、今の未来は疑問よりも胸の内に広がる嬉しさでそれどころではなかった。ただただ響と再び巡り会えたこと、響が元気な姿で自分の前に現れたことに感謝する。

 

「私だよ、響。小日向未来だよ。分かるよね?」

 

 目から大粒の涙を流しながら、未来は確認するように目の前にいる響にそう訊ねた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

(……忘れる訳が無い。忘れられる訳が無いだろっ!!)

 

 焦りと動揺で心が揺れ動く中、響の脳裏には未来と過ごした沢山の思い出が蘇っていた。

 

 近所で年が同じだったから付き合いが始まったこと、幼い頃は一緒に泥塗(どろまみ)れになるまで遊んだこと、小学校に入学した時に一緒に桜の木の下で記念写真を撮ったこと、友達から悪ふざけで夫婦みたいだと揶揄(からか)われたこと、勉強で分からないところを一生懸命教えてくれたこと、陸上の大会で未来を応援しに行ったこと、一緒に“ツヴァイウィング”のことで盛り上がったこと、辛い時は何時も傍に居てくれたこと、別れの挨拶も無しに唐突に離れ離れになったこと。

 

 幼い頃から2年前の唐突な別れまでの未来との思い出の全てを響は覚えていた。小日向未来は、立花響にとってそれだけ大切な幼馴染みなのだ。

 

「……あぁ。覚えてるよ。全部、覚えてる。お前を……未来のことを忘れた日なんて1度も無い」

 

「ッ! 響ぃ!!」

 

 その響の発言に感極まった未来は、涙を流しながらも笑顔でその場から飛び出した。

 

 しかし、忘れてはいけない。この場は、もう既に戦場(いくさば)であるということを。

 

「お前はぁ!!」

 

「ッ!?」

 

 弦十郎が言った通りに現れたネフシュタンの少女は、開幕初っ端から鞭を叩き付けるように振るった。響自身は、鞭が振るわれた先にはいないから避ける必要が無いが、響に向かって走ってきている未来は別である。

 

「ダメだ、未来っ!! こっちに来るなっ!!!」

 

 響が未来に向かって警告を飛ばした直後、振るわれた鞭が地面に叩き付けられた。タイミングが未来が響に辿り着く直前だった為、未来に鞭が当たることは無かったが、それでも間近にいた未来は衝撃によって吹っ飛ばされてしまった。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁっ!?」

 

 吹っ飛ばされた未来の悲鳴が周囲に響き、その声と吹き飛ばされる未来の姿を見て、響の瞳孔が大きく見開かれた直後に獣の如き鋭い目付きに早変わりする。

 

「しまった、あいつの他にもいたのか!?」

 

 当然未来の悲鳴はネフシュタンの少女にも聞こえていた。

 

「うぅ……」

 

 吹き飛ばされ地面に落ちた未来は、血こそ出なかったが節々に擦り傷が出来ていた。痛みで動くことの出来ない未来に向かって、傍に駐車していた車が落ちてくる。先程の攻撃の際、未来よりも近い距離にあった為に未来よりも高く打ち上がっていたのだ。

 

「ッ!?」

 

 それを見た未来の動向もまた大きく開かれる。痛みで立ち上がれない未来には避ける手段が無く、例え這って動いても這うスピードでは逃げ切ることは出来ない。完全に詰みだった。

 

(やだっ! 折角、折角響とまた会えたのにっ!! 死にたくないっ!! こんなところで死にたくないっ!!!)

 

 このまま何も起こらなければ、未来は落ちてきた車に押し潰されてその短い生を終えることになるだろう。だが、それを絶対に許さず、未来の命を救うことが出来る力を持つ者がこの場にいたことによって、その運命は覆されることとなる。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 その場に歌が響く。聖詠によって起動したシンフォギアを纏った響は、土煙の中から飛び出して危機に瀕した未来の前に躍り出た。

 

「させるかぁ!!」

 

 響は、落ちてきた車を両手で受け止める。下手に殴って衝撃を与え爆発でもしたら大変な為、敢えて響は車を受け止める手段を取ったのだ。

 

「響……?」

 

 未来は目の前で起こった現実に付いていくことが出来ずにいた。

 

 急に吹き飛ばされ、空から落ちてきた車に押し潰されそうになり、それを先程の少年的な服装から打って変わったアニメに出てくるような服装になった大切な幼馴染みが守ってくれたのだ。

 

 場面の展開が早過ぎて、事態に理解が追い付かず置いていかれることも仕方なかった。

 

「……話は後だ。今は兎に角この場から1秒でも早く逃げろ、未来!」

 

 それだけを言い残して、響はネフシュタンの少女がいる方向に向かって駆け出した。

 

「待って! 待ってよ、響ぃぃぃぃぃっ!!」

 

 理解は追い付かなくても、また離れていく幼馴染みを止めようと手を伸ばしてその名を呼ぶ未来。しかし、響を呼ぶ未来の声が聞こえていても、響がその場に足を止めることは無かった。

 

(ごめん、未来! 本当にごめんっ!!)

 

 未来の呼び掛けに応えず無視するという行為は、響の心に確かな痛みと罪悪感を与えていた。

 

 響はネフシュタンの少女に自分の姿を晒しながら走り、弦十郎の指示通りに少女を誘導する為に指定された場所への移動を開始する。

 

「筋肉バカが一丁前に挑発するつもりかよ!」

 

 響の後を追って、ネフシュタンの少女もその場から移動を始める。

 

「響君、交戦に入りました! 現在市街地を避けて移動中!」

 

「そのままトレースしつつ、映像記録を照会!」

 

 二課の職員達に指示を飛ばす弦十郎。戦闘が始まったことは二課の司令室からもモニターされていて、響は弦十郎に指定された人気の無い自然地帯に向かっていた。

 

 木の上を移動し続け、指定されたポイントまでやって来た響は木の上から飛び降りて地面に着地する。それから間も無くネフシュタンの少女も地上に着地した。

 

 直後、ネフシュタンの少女が鞭を振るうが、響は慌てること無く歌を歌いながら鞭を裏拳で弾いて防ぐ。

 

「筋肉バカがやってくれる!」

 

「筋肉バカなんて名前じゃねえ!」

 

 響の雰囲気が何時もと違うことを何となく察したネフシュタンの手が思わず止まる。響は自分に右手の親指を向けながら話を続ける。

 

「良いか? その耳()穿(ぽじ)ってよーく聞け! そして胸に刻め! 俺の名前は立花響! 歳は15! 誕生日は9月13日の乙女座で、血液型はO型! 身長は166cmで、体重は60kg! 趣味は人助けで、好きなもんはご飯&ご飯、得意なことは肉体労働! 後は、彼女いない歴は年齢と同じ童貞だっ!!!」

 

 何の臆面も無く自分のプロフィール情報を公開する響。(しか)も、自分の女性経験の有無についてまでのオマケ付きである。

 

 一方、唐突に自己紹介された上に女性経験の有無まで公開されたネフシュタンの少女はというと、バイザーに隠れた顔を真っ赤にして言葉を捲し立て始めた。

 

「な、な、な、なななななな、何をトチ狂ってやがるんだ、お前!?!!? ってか、そんな、ど、どど、ど……女に変なこと教えてんじゃねえ!!!」

 

「俺達はノイズと違って言葉が通じるだろ! だから、俺はお前と話がしたいんだ!」

 

「何て悠長、この後に及んで!」

 

 ネフシュタンの少女が鞭を振るい、響はそれを跳んで避ける。少女は連続で鞭を振るい続けるが、それらの全てを響は躱し、捌き、防ぎ続ける。

 

(こいつ、また前の時よりも動きが良くなってやがる!?)

 

 良くなっていた響の動きが以前のものよりもキレを増していたのを見て、ネフシュタンの少女は驚愕を露わにする。

 

(技の次は何だ。 あいつの雰囲気と目……覚悟か!?)

 

 先程に自分が感じた感覚と今自分が見た響の目で、ネフシュタンの少女は響の心に覚悟が定まった影響によるものだと確信する。

 

「話をするんだ! 俺達は戦うべきじゃない!」

 

「ッ!」

 

 戦わずに話をするように促す響の言葉を聞いて、ネフシュタンの少女が舌打ちをする。

 

「言葉が通じるんだ! だから、俺達人間は──」

 

「煩えっ!!!」

 

 悲鳴のように発せられたネフシュタンの少女の言葉によって、話していた響の言葉が途中で中断される。

 

「分かり合えるものかよ、人間が! そんな風に出来ているものかっ! 気に入らねえ! 気に入らねえ! 気に入らねえ! 気に入らねえ! 分かっちゃいねえことをベラベラと口にするお前がぁ!!!」

 

 興奮しながら捲し立てるように言われ続けた言葉を聞いて、響は思わず呆然としてしまう。ネフシュタンの少女の言葉は、彼女の抱く心の叫びに聞こえてならなかった。

 

「はぁ……はぁ……お前を引き摺ってこいと言われたが、もうそんなことはどうでも良い。お前をこの手で叩き潰す! 今度こそお前の全てを踏みにじってやる!!」

 

「俺だってただヤられる訳にはいけねえ。それにな、今の俺は機嫌が良くて機嫌が悪い意味分からねえ状態だ! 迂闊に触れると火傷するぞ!!」

 

 機嫌が良くて(翼と話せて)機嫌が悪い(未来を傷付けられた)正の気持ち(喜び)負の気持ち(怒り)が混在した今の響は、今までのどんな響よりも強いと言えるだろう。

 

「ウオォォォォォッ!!」

 

 ネフシュタンの少女は、以前翼との戦いの時にも作った黒い雷を内包した白いエネルギー状の球体を生成し、鞭を振るって響目掛けて投げ付ける。

 

【NIRVANA GEDON】

 

 飛来するNIRVANA(ニルヴァーナ) GEDON(ゲドン)を、響は十字受けで受け止める。以前の響なら呆気なくヤられていただろうが、今日の一味違う響は見事NIRVANA(ニルヴァーナ) GEDON(ゲドン)に耐えていた。

 

「持ってけダブルだっ!!」

 

 だが、ネフシュタンの少女はそこに新たなNIRVANA(ニルヴァーナ) GEDON(ゲドン)を投げ付ける。1つ目のNIRVANA(ニルヴァーナ) GEDON(ゲドン)に当たった2つ目が爆発を起こし、2つのNIRVANA(ニルヴァーナ) GEDON(ゲドン)によって大きな爆発が起こった。

 

 その爆発した感情の如き激しい攻撃を見て、二課の司令室から2人の戦いを見ていた二課の面々も呆然としてしまい、言葉を失っていた。

 

「はぁ……はぁ……お前なんかがいるから……あたしはまた……」

 

 荒い呼吸を整えながら自身の思いを吐露するネフシュタンの少女。その姿は、何処までも痛ましく物悲しかった。

 

 晴れていく土煙の内部を見て、ネフシュタンの少女は目を見開く。

 

「ハァァァァァ……!!」

 

 何と、土煙の中にいた響の両手の中に橙色のエネルギーが集まっていたのだ。しかし、集めらたエネルギーは暴発して、その衝撃によって響は軽く吹っ飛ばされてしまう。

 

(こんなんじゃダメだ……。翼さんみたいにギアのエネルギーを固定出来無え)

 

「この短期間にアームドギアまで手にしようってのか!?」

 

 そう、響がしようとしているのはアームドギアの生成に他ならなかった。しかし、イメージが固まっていなくてロクにアームドギアを生成する為の訓練んを積んでいない響には難しいことだった。

 

(エネルギーはあるんだ。アームドギアに出来ないってんなら、その分のエネルギーを直接打つけるまでだ!)

 

 エネルギーが内包されたことによって、響の腕の腕部ユニットのハンマーパーツが引き絞られる。

 

「させるかよっ!!」

 

 そこに響の思惑を阻止しようと、ネフシュタンの少女が2本の鞭を同時に振るうが、その2本の両方を響は片手で受け止めて握り締める。

 

「何だとっ!?」

 

 呆気なく攻撃を無効課されたことに驚くが、その間に響は握った鞭を力一杯引っ張って自分の方に引き寄せる。

 

稲妻(いなづま)を喰らい、(いかずち)を握りつぶすようにっ!!)

 

 嘗て教えられた弦十郎の教えを胸に、響はその場からネフシュタンの少女に向かって飛び出す。その際、響の腰部ユニットのバーニアが機能して火を吹いた。

 

(最速で! 最短で! 真っ直ぐに! 一直線に! 胸の響きを、この想いを伝えるためにっ!)

 

 自分に向かってやって来る響を見てネフシュタンの少女は目を見開き、バーニアで加速する響はその拳を大きく引き絞る。

 

我流(がりゅう)撃槍衝打(げきそうしょうだ)ぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

【我流・撃槍衝打】

 

 即興で考えられた響の新必殺技の名前が響の咆哮によってその場に轟く。打たれた拳は、吸い込まれるようにネフシュタンの少女の腹部に命中した。

 

 更に拳が当たったことで腕部ユニットのギミックが作動し、引き絞られたハンマーパーツが打ち込まれる。それによって、先の衝撃よりも強い衝撃が間髪入れずに叩き込まれる。

 

 響の打撃は、完全聖遺物であるネフシュタンの鎧の一部を砕き、鎧を砕かれた少女は目を見開いた驚愕を露わにする。

 

(バカな……ネフシュタンの鎧が……!?)

 

 打撃による衝撃はバイザーにまで及んで、バイザーまでもが罅割れた状態となった。

 

 その直後、大きな爆発と大きな衝撃が周辺地域一帯にまで及ぶのだった。

 

「……響」

 

 離れた場所から響がいるであろう場所をずっと見詰めていた未来は、響の名前を呟いて独り涙を流していた。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響の自己紹介
──今作ビッキーの自己紹介には、自分の星座と体重と得意なこと、それと女性経験の有無が追加されています。隠すこともせず女の子に向かって童貞宣言する主人公。

(2)響、必殺技の名前を叫ぶ
──技の名前はシンフォギアXDからの逆輸入となっております。技の名前を叫ぶ。これぞ正に男の子って感じがしますよね。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 今回は、前半393パートで、後半ビッキーパートになっております。

 今作ビッキーの身長は、翼よりも1cm小さいです。ですが、今の響は成長期でございます。Gに入ってからは、きっと翼よりも大きくなっていることでしょう。

 男女のあれこれについて色々知ってるクリスちゃんも、唐突に童貞宣言されたら赤面しちゃうと思う。戦闘中に赤面するクリスちゃん可愛い。

 というか、前話からヒロイン赤面させてばっかだな、(こいつ)

 次回、クリスちゃんトランザムをするの巻(違

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 13 撃ちてし止まぬ運命のもとに

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 今話で丁度第1期の真ん中に差し掛かるんですかね。そういう訳で、今回は原作エピソードのタイトルを頂戴しました。

 前以って言っときますと、今話は少し短いです。何時もは10000字ぐらい行くんですけど、今回は7000ぐらいの仕上がりになっています。

 閑話休題、そろそろ本編に移りましょうか。

 それでは、どうぞ!


 響の必殺技、我流・撃槍衝打によって戦況は響に傾きつつあった。

 

 放たれた拳は余波だけで地面を抉り取り、拳を諸に喰らったネフシュタンの少女は、崩れた瓦礫に凭れ掛かりながら痛みを堪えていた。

 

(何て無理筋な力の使い方をしやがる。この力、あの女の絶唱の力に匹敵し兼ねない)

 

 ネフシュタンの少女が受けたダメージは、直接当たった腹部だけを見るなら以前に翼が解き放った絶唱と同等のダメージを与えていたのだ。その証拠に、拳が当たった鎧の箇所はごっそり無くなってしまっている。

 

「ぐぅ……!」

 

 ネフシュタンの少女が苦悶の声を漏らす。破壊された鎧が少女の体を蝕みながら再生を始め、それに伴ってやって来る痛みが更に少女を苦しめる。

 

(食い破られる前にカタを付けなければ)

 

 早期決着を望むネフシュタンの少女は、自分の目の前にいる響の姿を見て固まる。何故なら、響は息吹で呼吸を整えていて、少女に向かってくる素振りを全く見せていないからだ。

 

「お前バカにしてるのか、このあたしを。雪音クリスを!」

 

 そんな響にネフシュタンの少女は激昂する。少女からしてみれば、今の響の態度は少女を侮っているとしか見えなかったからだ。

 

 だが、激昂するネフシュタンの少女に対し、響はニッと笑みを浮かべながら嬉しそうに笑って見せた。

 

「漸く名前を教えてくれたな。雪音クリス、か。良い名前だな。お前の名前、確かに俺の胸に刻んだぜ、クリス」

 

「ッ!」

 

 ネフシュタンの少女──クリスからして見れば分からないが、今さっきの遣り取りだけで響の目的の1つが達成されたのだ。

 

 それは、相手の名前を知るということ。相手と分かり合おうにも、名前が分からなければ何も始まらないのだ。響は、確かに相手と分かり合う為の第1歩を踏み出せたのだ。

 

「なぁ、クリス。こんな無意味な戦いはもう止めようぜ。ノイズと違って、俺達は言葉を交わすことが出来る。ちゃんと話をすれば、必ず分かり合える筈だ! 俺達は、同じ人間なんだ!」

 

「……お前臭えんだよ! 嘘臭え! 青臭え!」

 

 立ち上がったクリスは、響に向かって駆け出して拳を振り抜く。響はクリスの拳を捌き、続く蹴りを後ろに後退して回避する。

 

「目障りだぁ!!」

 

 クリスは鞭を頭上で回転させて、鞭と同じ色のエネルギーで出来た円盤状の光輪を生成して響目掛けて投擲する。

 

【NIRVANA MAGOG】

 

 放たれたNIRVANA(ニルヴァーナ) MAGOG(マゴグ)は、響に向かって行く途中で4つに拡散して各方向から響に飛来する。

 

「うおっ!?」

 

 響は、1つ目を跳んで躱し、2つ目はかなりギリギリのところで避け、3つ目は避けられないと悟って先と同じ十字受けで防いで受け切るが、4つ目はガードが間に合わずに諸に喰らってしまう。

 

「ぐあはっ!?」

 

 NIRVANA(ニルヴァーナ) MAGOG(マゴグ)をまともに喰らった響は、その場から弾かれるように衝撃と爆発によって吹き飛び、地面を何度もバウンドする。その際、後ろに生えていた木々を何本も倒したせいで土煙が周囲に舞う。

 

「はぁ……はぁ……これなら!」

 

 攻撃に確かな手応えを感じたクリスは、悪どい笑みを浮かべながら笑う。しかし、土煙が晴れたところで浮かべていた笑みが凍り付いた。

 

「こんなの、へいき、へっちゃらなんだよ……っ!」

 

 NIRVANA(ニルヴァーナ) MAGOG(マゴグ)をまともに喰らった筈の響が、痛みを堪えながらも確かな足取りでゆっくりと立ち上がった。

 

 仮にも完全聖遺物の必殺技である。その威力は、決して低くは無い。寧ろ、所詮は聖遺物の欠片でしかないシンフォギアの方が、性能的には劣るだろう。だが、響は立ち上がった。(あまつさ)え、クリスに向かって不敵な笑みさえ見せてみせた。

 

「ッ!?」

 

 その衝撃がクリスの体中に走り、クリスの体を硬直させたのだ。だが、ゆっくりしている時間はクリスには無い。今こうしてる間にも、修復をしているネフシュタンの鎧からの侵食が行われようとしているのだから。

 

「クリス……!」

 

「吹っ飛べよ、アーマーパージだっ!!」

 

 手を伸ばして歩み寄ろうとする響に対し、クリスは身に纏っていた鎧を爆発させて鎧の破片を使って響を攻撃する。まだ避けることがままならない響は、再度十字受けの体勢で防御に徹する。

 

 飛ばされた破片によって木々と大地は抉られ、その際の余波で発生した土煙が大きく宙に舞い上がる。

 

(クソッ、土煙で視界が悪い! これじゃクリスが見えない!)

 

 土煙で視界が潰されている中、鎧の破片をどうにか遣り切った響がクリスの姿を視認しようとするが、土煙の量が濃過ぎてクリスを見付けられずにいた。

 

「Killiter Ichaival tron」

 

「これは……歌?」

 

 そんな中、突如として周囲に歌が響き割り、その歌は響の下までしっかりと聞こえていた。時間が経過して土煙が消え、先程までクリスがいた場所には、人影が見えるエネルギー状の球体が存在していた。

 

「見せてやる、イチイバルの力だ!」

 

 クリスがそう言った直後、エネルギーの球体が周りに広がって、新たに土煙を巻き上げながら周囲にモクモクと満ちていた土煙を一瞬で吹き飛ばした。

 

「イチイバルだとっ!?」

 

 司令室から響の通信機越しでクリスの言葉を聞いた弦十郎は、響のガングニールが発見された時と同等の驚きの声を上げて驚愕を露わにする。

 

 そして、司令室の中央のモニターにも“Ichii-Bal”という単語が大きく表示された。

 

「アウフヴァッヘン波形、検知!」

 

「過去のデータとも照合完了。コード、イチイバルです!」

 

「失われた第2号聖遺物までもが、渡っていたというのか」

 

 弦十郎がモニターを見ながら独り言ちる中、現場で実際に対峙していた響は、新しく巻き起こった土煙が顔に掛かるのを防ぎながら真っ直ぐ目を向けていた。

 

「クリスも……俺や翼さんと同じ……」

 

「歌わせたな」

 

「はい?」

 

 唐突に呟かれた意味がよく分からないクリスの言葉を聞いて、響も思わず素っ頓狂な返事を返してしまう。

 

「あたしに歌を歌わせたな! 教えてやる! あたしは歌が大っ嫌いだ!」

 

 そこに立っていたのは、先程までの全身が銀色の雪音クリスではなかった。全体的に赤色を中心としたプロテクターと色気のある色合いの肌に密着したアンダースーツを身に纏い、バイザーが無くなったことで露わになったアメジスト色の目をギラリと光らせ、4つに結われた綺麗な銀色の髪が棚引いている。

 

(め、滅茶苦茶可愛いじゃねえか!? それに、前々から思ってはいたけど、何だあの胸の大きさ! あの身長であの胸は明らかにアンバランスだろ!? でも、そのアンバランスさが良い!)

 

 戦闘中であるにも関わらず、露見されたクリスの顔や全体を見て響は内心で荒ぶっていた。

 

 露わになったクリスの顔は、気の強い面持ちをしているが翼とタメを張れるくらいに可愛い顔立ちをしていて、アメジスト色の目と綺麗な銀色の髪がその魅力を引き立てている。

 

 身長は、女の子の中でも低い部類に入るだろうが、その胸の大きさは男を魅了するには十分過ぎる程の大きさをしていた。露出された上乳部分に響の視線が向いてしまうのも仕方が無いことだろう。

 

 気の強そうな面持ちの可愛い顔立ち、低い身長の巨乳というアンバランスなギャップが響の中で眠りに尽き掛けていた本能を刺激する。

 

 だが、今は戦闘中だということを思い出した響は、1度咳払いをしてから先にクリスが言った言葉の意味を訊ねることにした。

 

「歌が嫌いってどういうことだ?」

 

 響はクリスに問い掛けるが、クリスは響の問答に取り合うこと無く自分が嫌いと言った歌を歌い始める。

 

 すると、クリスの腕に装着されていた腕部ユニットがボウガンの形に変形し、クリスは響に向けてエネルギー状の矢を撃ち放った。

 

「えっ、ちょ!? 遠距離武器かよ!? さっきと全く攻撃パターンが違うじゃねえか!?」

 

 飛来するエネルギーの矢を走って躱しながら捲し立てる響。エネルギーの矢が当たった場所は軽めの爆発が起き、それが連射で行われることで爆発の規模と周囲への被害がどんどん広がっていく。

 

 響はクリスの攻撃を回避し続けるが、響が走ったその先にはクリスが既に待ち構えていて、逃げの体勢の響の無防備の腹に勢い付けた蹴りをお見舞いした。

 

(しまった!? 矢を避けるのに夢中で、誘導されてたことに全く気が付かなかった! 動きもさっきより数段上手いし、こっちが本来の戦闘スタイルってことかよ!?)

 

 響は強くなったと思っていた先程までの自分を殴りたくなった。響が優勢だったのは、相手が本来の自分の土俵で戦っていなかっただけに過ぎなかったのだから。

 

 蹴りで吹き飛ぶ響の隙を突き、クリスはボウガンの形のアームドギアを変形させる。変形したアームドギアは、その形を4門の3連ガトリングに変える。

 

【BILLION MAIDEN】

 

 クリスの歌がサビに突入するのと同じタイミングで、ガトリングの弾丸の雨がばら撒かれる。

 

「ちょちょちょちょちょちょちょっとぉ!? んな物騒な代物が出てくるなんて聞いてねえ!?」

 

 慌てて立ち上がった響は、連射されるガトリングを避ける為に、横への移動を開始して兎に角クリスの銃の射線上から逃れようと走り続ける。

 

 その際、ガトリングの流れ弾によって周辺の木々が一掃されて周囲一帯が更地へと変わっていった。

 

 すると、今度はクリスの腰辺りから出ている腰部アーマーが展開して、そこには装填された無数の小型ミサイルが頭を覗かせていた。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

 続いて一斉に発射された小型ミサイルは、射線上から逃れて距離を取ろうと走る響を追従して、複雑に生える木々の中を躱しながら飛んでいく。

 

「ガトリングの次はミサイルって何でもありかよ!? 拳銃(ハンドガン)とか拡散銃(ショットガン)なら兎も角、ガトリングとミサイルの同時避けなんて誰が出来るかぁぁぁぁぁぁぁ!?!!?」

 

 飛来する弾幕とミサイルから必死に逃げながら叫ぶ響。世界を巡る中で、響は黎人から銃の避け方というものも教えてもらっていたが、流石にガトリングとミサイルを同時に避ける方法は知らなかった。

 

 いや、1対1の戦闘で敵側が何の前触れも無くガトリングとミサイルを唐突にぶっ放してくるなど、誰が想定出来るものだろうか。

 

 響は必死に逃げたが、それでも猛スピードで進む無数のミサイルからは逃げ切ることが出来ず、遂に無数のミサイルは標的を捉えて爆発した。

 

 更に爆炎が巻き起こる中へ容赦の無い追撃のガトリングを撃ち続けるクリス。その様は、正に彼女が歌う歌詞の中にある相手を否定するという意思を体現しているようであった。

 

 暫く弾を撃ち続け、漸くガトリングの回転が止まる。興奮しながら攻撃していたクリスは、攻撃の手を止めて荒くなった息を整える為に、肩を上下させながらゆっくりと呼吸をする。

 

 クリスの視線が睨む先は、爆炎と爆煙が渦巻くように激しく巻き起こっていて、その中にいるであろう響の生存は幾らシンフォギアを纏っていたとしても絶望的であった。

 

 少しして爆炎と爆煙が収まり、次にクリスが目にしたのは蒼のラインが入った銀色の巨大な何かだった。それは一見壁にも盾にも見える。

 

「盾?」

 

「剣だ!」

 

 クリスの疑問に答えるように発せられた声が上から響き渡り、クリスは即座に視線を上へと向ける。そこには、巨大化させたアームドギアの柄の上に凛と佇む翼の姿があった。

 

「へっ、死に体でお寝んねと聞いていたが、頼り無い足手纏いを庇いに現れたか?」

 

「もう何も失うものかと決めたのだ」

 

 以前と同様に煽るように口汚ない言葉をクリスは口にするが、翼の方は以前と違って全く喰い付きもせずに極めて冷静に返す。

 

『翼。無理はするな』

 

「はい」

 

 司令室のモニターから翼を見ていた弦十郎は、翼を止めることはせずにただ一言だけ言葉を掛け、翼も一言だけ肯定の返事を返した。

 

 翼のアームドギアに守られた響は、軽く頭を振ってから翼のいる上の方を見遣る。

 

「翼さん……!」

 

「気付いたか、立花?」

 

「……ったくよぉ、怪我がまだ治ってないのに……本当に、あんたは頼り甲斐のあるかっこいい先輩だよ!」

 

「頑張り屋の可愛い後輩がピンチなのだから、私が出ない訳にはいかない」

 

 響の軽口に翼もまた軽口を返し、互いに軽く笑みを浮かべ合う。今の2人には、あの頃の不和な関係を思い出させる要素は一切無かった。

 

「けど、私も十全では無い。力を貸して欲しい」

 

「Yes, ma'am!」

 

 翼の頼みを、最初にシンフォギアを纏ったあの時のように英語で返事を返して了承する響。その返事を懐かしく感じたのか、翼は微笑を浮かべた。

 

「おぉらぁ!」

 

 いい加減に待ち草臥れたクリスは、不意打ち気味にガトリングを翼に向けて撃ち放つ。しかし、翼はクリスの張る弾幕を、まるで宙で踊るかのように回避して地上に降り立つ。

 

 そこから間髪入れずに直進し、翼はクリスに向かって通常状態のアームドギアの剣を振るう。クリスは翼の攻撃を後ろに跳んで避け、正面にいる翼にガトリングを撃つ。

 

 だが、その銃撃も舞うように背中を反りながら跳んで躱す翼。翼は宙での振り向き状に一閃を入れ、クリスは頭を下げてそれを躱す。

 

 その中でクリスの隙を見極めた翼は、クリスのガトリングを持っていた剣の柄でど突いた。ど突かれた反動でクリスは少し後退し、下がったクリスの首に何時の間にかクリスの背後に回り込んでいた翼の剣の刃が当てられる。

 

(この女……以前とは動きがまるで)

 

 以前の翼の荒々しい動の動きとはまるで違う洗練された静の動きに翻弄され、クリスは動揺して目を見開く。

 

「翼さん! そいつは……」

 

「分かっている」

 

 響が言わんとしていることを理解していた翼は、言葉を以って響を制する。クリスは、会話の隙を突くようにガトリングで翼の剣を弾き、2人は向かい合うように移動してお互いの得物を構える。

 

(刃を交える敵じゃないと信じたい。それに、10年前に失われた第2号聖遺物のことも(ただ)さなければ)

 

 内心で自身の想いと考えを吐露する翼。それに対してクリスは、敵意を剥き出しにしてガトリングを撃とう砲門を翼へと向けた。

 

 その直後、突如フライトノイズが上空から襲来し、その形状を変化させてクリスの持つ2丁のガトリングを破壊した。

 

「何っ!?」

 

 唐突にノイズによってアームドギアが破壊されたことにクリスは驚き、その隙を突くようにもう1体のフライトノイズがクリスを強襲する。

 

「危ねえ、クリス!」

 

 その場から駆け出した響は、クリスを守るようにクリスとノイズの間に割り込んでその身を盾にする。

 

「うぐっ!?」

 

 ノイズの攻撃を防御せずに諸に背中で受けた響は、その際の衝撃でクリスの方へ倒れ、自身の方へ来た響をクリスは慌てて受け止めた。

 

「立花っ!」

 

 それを見ていた翼は、直様2人の下へと駆け寄ってノイズの攻撃が来ないか周囲を警戒し始める。

 

「お前、何やってんだ!?」

 

「クリスを守ることだけ……考えてたから、自分の身を疎かにしちまった……。本当に、何やってんだろうな。あれくらい、普通に考えたら対処出来るのによ……」

 

「そうじゃねえ! 何であたしを守った!? バカにしてんのか! 余計なお節介なんだよ!?」

 

 クリスには理解出来なかった。先程まで戦っていて、自分は殺す勢いの攻撃をしたというのに、響が身を挺してクリスの身を守ったということが。

 

「命じたことも出来ないなんて、あなたは何処まで私を失望させるのかしら?」

 

 緊迫した状況の中、新たな第三者の声が周囲に響き渡った。動揺するクリスも、痛みを堪える響も、周囲を警戒する翼も、全員が声が聞こえてきた方角を見遣った。

 

 その方角の上空には、3体のフライトノイズが飛び回っていて、その下には黒い帽子と黒いサングラスに黒い服といった全身が黒ずくめの金髪の女が佇んでいた。その手には、以前クリスが持っていたノイズを呼び出す杖のようなものが握られている。

 

「フィーネ!」

 

「フィー、ネ……?」

 

(フィーネ? “終わり”の名を持つ者?)

 

 フィーネとは音楽記号の1つであり、音楽の世界に携わってその意味を知っていた翼は、その名を名乗る謎の女を訝しむ。

 

 クリスは未だ抱き留めていた響を一瞥して、拒絶するように突き放した。未だダメージと疲労で上手く立てない響を、素早く駆け寄った翼が今度は抱き留める。

 

「こんな奴がいなくたって、戦争の火種くらいあたし1人で消してやる! そうすればあんたの言うように、人は呪いから解放されてバラバラになった世界は元に戻るんだろっ!?」

 

「ふぅ……もうあなたに用は無いわ」

 

「ッ!? 何だよそれ!?」

 

 フィーネと呼ばれた女が手を翳す。すると、翳された手が青白く淡く輝き出し、周囲に散っていたネフシュタンの鎧の破片が粒子に変わってフィーネの下に集まっていく。

 

 粒子に変わったネフシュタンの鎧は全て回収されたところで何処かへ消え、フィーネは持っていた杖のようなものを翼に向ける。

 

「あいつ……!」

 

「ッ! 無茶をするな、立花!」

 

 翼から離れて、前に出ようとする響の肩を翼が掴んで諌める。上空で待機していた3体のフライトノイズが体を高速回転させて木々を薙ぎ倒しながら翼達に迫り、翼はやって来たノイズを斬り捨てる。

 

 フィーネはノイズを囮にして翼達の足止めをし、自身はその隙を突いて素早くその場から撤退して姿を消した。

 

「待てよ! フィーネェ!!」

 

 姿を消したフィーネを追ってクリスもその場から駆け出し、翼達がノイズを全て殲滅した時には、既にクリスは空に大きく跳び上がっていてかなりの距離が開いていた。

 

「待ってくれ、クリス! 俺は、まだ……っつぅ!?」

 

「立花、大丈夫か!?」

 

 響は、急いでクリスの後を追おうとしたが蓄積したダメージと疲労によって足を止め地面に片膝を着き、そんな響を心配して翼が傍に寄り添う。

 

 結局、響達はフィーネという存在が謎の女だけでなく、クリスのことも取り逃がしてしまったのだった。

 

 一方その頃の司令室では、二課の職員達が慌ただしく機器を操作していた。

 

「反応ロスト。これ以上の追跡は不可能です」

 

「こっちはビンゴです」

 

 藤尭が機器を操作して司令室の中央モニターにある資料を表示させる。それは、2年前に発行されたとある新聞の一面の記事だった。

 

 そこには1人の少女の行方不明について書かれていて、記事の隣に載せられた写真は今よりも顔に幼さが残っている雪音クリスのものだった。

 

「あの少女だったのか……」

 

「雪音クリス。現在16歳。2年前に行方知れずとなった過去に選抜されたギア装着候補の1人です」

 

 藤尭からの説明を聞いた弦十郎は、その顔を深刻なものへと変えて瞑目する。その弦十郎のデスクには、響の幼馴染みである未来と二課のエージェント達が映った映像が表示されていた。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、NIRVANA(ニルヴァーナ) MAGOG(マゴグ)を喰らう
──シンフォギアXDにて、最近プレイアブルでも使えるようになった必殺技を出しました。分からない人は、ようつべなどで動画検索してみて下さい。

(2)響、クリスに釘付けになる
──今作ビッキーは、クリスちゃんに釘付けになっちゃいました。素が可愛い上にあれだけの巨乳ですからね、そりゃ年頃の男の子ならそっちに視線がいっちゃいますよ。

(3)響、翼と軽口を飛ばし合う
──仲良くなった結果の遣り取りです。

(4)響、背中でクリスを守る
──原作ビッキーは、タックルで相打ちのダメージでしたが、今作ビッキーは背中で守ったのである意味原作よりもダメージが大きいです。それでも気を失ってないのは、鍛えていたお蔭です。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 戦闘終了までが丁度キリが良かったので、今回はここまでになります。

 さて、次回からはどう話を運んでいきましょうか。393と会話させてみるのも有りですかねー(棒)

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 14 夜中の邂逅

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 皆さん、漸く海賊ギアのクリスちゃんを当てることが出来ましたよ! 初のクリスちゃんの☆5枠です! 今まで数種類のガチャを回してきましたが、クリスちゃんの☆5が出るのは初めてなので、凄く感動しております。

 最近AXZを見直したんですが、あの響の腕ドリルを早くシンフォギアXDにも出してくれませんかね。あれ凄く好きなんですよ。後、マフラーでの攻撃も。

 無駄な話はさておいて、そろそろ本編に入りましょうか!

 それでは、どうぞ!


 病院からの退院手続きを済ませた翼は、リディアンと二課の本部を行き来するエレベーターに独り乗っていた。

 

(奏が何の為に戦ってきたのか、今なら少し分かる様な気がする。だけど、それを理解するのは正直怖い。人の身成らざる私に、受け入れられるのだろうか?)

 

 翼が考えていたのは、彼女の夢の中に出てきた奏が言ったことについてだった。戦いの裏側やその向こう側にある何かを模索していた翼だったが、今回の響との対話や共闘によってその一端に触れ始めていたのだ。

 

 しかし、翼の過去の生い立ちがそれを理解して自分自身の中に受け入れられるかどうかは別の問題であった。

 

「“自分で人間に戻ればいい。それだけの話じゃないか? 何時も言ってるだろ。あんまりガチガチだとポッキリだって”なんてまた、意地悪を言われそうだ」

 

 自分の抱えている悩みに、奏ならこう答えられるだろうと考えた翼はその言葉を口にして出していた。

 

(だが今更、戻ったところで何が出来るというのだ? いや、何をして良いのかすら分からないではないか)

 

 翼はそう内心で独り言ちながら、二課本部に着いて開いたエレベーターから降りていく。

 

『好きなことすれば良いんじゃねえの。簡単だろ。それに、もし本当に分からないなら、人に聞いてみれば良いさ。あの頑張り屋の可愛い後輩とかにさ。きっと力になってくれるよ』

 

 すると、後ろから翼の耳に自身を励ます奏の声が聞こえた気がして、翼は咄嗟に振り返った。だが、後ろには当然奏の姿は無く、開いていたエレベーターが閉まる光景があるだけだった。

 

(遠い昔、私にも夢中になるものがあった筈なのだが。……奏の言う様に、立花に聞いてみるというのもありかもしれない)

 

 結局、考えも纏まらず答えも見つけられないまま翼は二課本部の廊下をずんずん進んでいくのだった。

 

 一方、翼よりも一足先に二課の本部に戻ってきていた響は、メディカルルームで了子に体の検査をしてもらっていた。検査の結果、響の体には特に異常は見つからなかった。

 

「外傷はそこそこあったけど、深刻なものが無くて助かったわ」

 

「要するに、何か悪い箇所があったって訳じゃないんだな」

 

「今回は、どうやら少しお疲れ気味のようね。今までのストイックな特訓に、響君の新必殺技の我流・撃槍衝打が原因といったところかしら」

 

「やっぱり、ぶっつけ本番の即興がいけなかったかぁ」

 

「発想そのものは素晴らしいんだけど、初めてってこともあってエネルギー消費を度外視だったのよねぇ。折角編み出したんだから、これからも戦いの中に活用していけば良いけど、次からはちゃんと使い所を見極めてエネルギーのセーブはちゃんとしなきゃね♪」

 

「はい、肝に銘じてこれから課題にして取り組みます……」

 

 了子がウィンクをしてそう言い、響は苦笑いを浮かべながら返答した。

 

「まぁ、少し休めばまたいつも通りの体調に回復するわよ」

 

「そっか。なら、問題無いなっと」

 

 響は、検査の為に横になっていた寝台から勢いよく飛び降りて、近くまで歩み寄ってきていた了子の傍まで自分も歩み寄る。

 

「……了子さん、俺の友達は……未来はどうなったんだ?」

 

 だが、先程とは打って変わって少し影のある表情になった響が了子に未来のことを訊ねた。戦闘中は兎も角として、戦闘終了後の響はそればかりが気になってしょうがなかった。

 

「心配しなくても大丈夫よ。緒川君達から事情の説明を受けている筈だから」

 

「……」

 

「機密保護の説明を受けたら、直ぐ解放されるわよ」

 

「あぁ……」

 

 了子は響を元気付けようと飽く迄明るく話していたが、それでも響の心の不安を完全に拭い去るということは叶わなかった。

 

 場所は再び変わり、今度は二課の司令室でも重苦しい深刻な空気が満ち満ちていた。

 

「まさか、イチイバルまで敵の手に。そして、ギア装着候補者であった雪音クリス」

 

「聖遺物を力に変えて戦う技術において、我々の優位性は完全に失われてしまいましたね」

 

「敵の正体、フィーネの目的は……」

 

 問題を口に出せば出す程に室内の空気は重くなっていき、弦十郎に至っては先程から一言も話さずに腕を組んだまま黙り込んでしまっていた。

 

「深刻になるのは分かるけど、シンフォギアの装者は2人共健在! 頭を抱えるにはまだ早過ぎるわよ」

 

 そんな重い空気の中、途中で合流した翼と響を伴って了子が司令室に入室した。どうやら話は外まで聞こえてきた様で、了子は重い空気をどうにかする為に言葉で弦十郎達を鼓舞した。

 

「翼! 全く無茶しやがって」

 

「独断については謝ります。ですが、仲間の危機に、私の背中を死に物狂いで必死に追い掛けている後輩の危機に伏せっているなど出来ませんでした」

 

「ッ!」

 

 改めて翼から仲間だと、後輩と呼ばれたことが響にとってはとても嬉しく、言われたその直後につい翼の顔を一瞥してしまうのだった。

 

「立花は未熟な戦士です。半人前ではありますが、戦士に相違無いと確信しています」

 

「翼さん……!」

 

 未熟や半人前という言葉は響の心に軽く伸し掛かったが、それでも翼に戦う者として認められたことは響にとって何より嬉しかった。響の努力と奮闘が、確かな結果となって身を結んだ瞬間だった。

 

「完璧には遠いが、立花の援護くらいなら戦場(いくさば)に立てるかもな」

 

「俺、今まで以上に頑張ります!」

 

 自分の体調を確認する様に手を握って開いた翼に、響は体ごと振り向いて正面から面と向かってそう告げた。瞳を爛々と輝かせる響を見て、翼の顔にも自然と笑みが浮かぶ。

 

「響君のメディカルチェックも気になるところだが」

 

「飯を鱈腹(たらふく)食って熟睡すれば冇問題(モーマンタイ)!……って言いたいけど、気になってることがあって……」

 

「君の友達のことなら大丈夫だぞ。もうリディアンの寮に戻ったと連絡が来た」

 

「そっか……。知らせてくれてありがとな、おやっさん」

 

 未来の安否を聞き、一先ず響は安堵の息を漏らす。

 

 すると、今まで黙っていた了子が唐突に響の左胸を指差し、それを不思議に思った響は首を傾げながら了子の方を見遣る。

 

「どうしたんだよ、了子さん?」

 

「響君の心臓にあるガングニールの破片が、前より体組織に融合しているみたいなの。驚異的なエネルギーの回復力はそのせいかもねぇ」

 

「融合、ですか……」

 

「ッ!?」

 

 融合という言葉を聞き、クリスが纏っていたネフシュタンの鎧も修復の際に装着者の体組織を侵食しようとしていた光景を思い出して、翼は了子のことを一瞥した。

 

「大丈夫よ、あなたは可能性なんだから」

 

「可能性って大袈裟過ぎるだろ。それじゃー、俺は今日はこれで。疲れを取る為にも、飯食ってぐっすり寝ないといけないから」

 

「あぁ。今日はお疲れだった」

 

 弦十郎からの了承も得て、響は足早に司令室を後にする。その際、響に向かって手を振る了子のことを、近くにいた翼はずっと訝しげに見続けていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 月光と街灯が夜の闇を照らす中、二課からの捜索を振り切ったクリスが1人で夜の街の中を歩いていた。

 

「何でだよ、フィーネ?」

 

 独り言ちながら歩き続けるクリス。その脳裏では、夕方に戦った響が言っていた言葉が何度も反復していた。

 

「っ、あいつ……くそっ!」

 

 先からずっと響の言葉はクリスの中で繰り返され続け、それが苛立つ要因となっていた。

 

(あたしの目的は、戦いの意思と力を持つ人間を叩き潰し、戦争の火種を無くすことなんだ! だけど……)

 

 クリスが内心で自身の考えを吐露していると、不意に女の子の泣き声が聞こえてきた。それを聞いたクリスの視線は、自然とそちらに向けられる。

 

「泣くなよ! 泣いたってどうしようも無いんだぞ!」

 

「だって……だってぇ……」

 

 泣き声が聞こえてきた方向には、街灯の側にあるベンチに座りながら泣いている女の子と、少し強めの言葉で女の子を泣き止まそうとしている男の子がいた。

 

「おいこら、弱い者虐めるな!」

 

 それを弱い者虐めだと思ったクリスは、そちらへ歩み寄りながら男の子を叱る。クリスの声が聞こえたことで、男の子と女の子の視線もクリスに向けられた。

 

「虐めてなんかいないよ! 妹が……」

 

 男の子はそう言うが、話している間にも女の子は余計に泣き出してしまう。

 

「虐めるなって言ってんだろうが!」

 

「わっ!?」

 

 女の子が更に泣き出したのを見て、クリスは余計に女の子が虐められていると思い、拳を振り上げながら男の子を叱る。それを見た男の子は、自分の顔を庇うように咄嗟に両腕で顔を隠す。

 

 だが、クリスが男の子に詰め寄るよりも先に、先程まで泣いていた女の子が毅然とした態度でクリスと兄の間に割り込んで、兄を守るように両手を広げた。

 

「お兄ちゃんを虐めるな!」

 

 まだ目尻に涙を溜めて今にでもまた泣き出しそうな女の子だったが、それでも兄を守ろうと強い眼差しでクリスを見遣る。クリスはそれを見て、眉をへの字に変えて上げていた腕を下ろした。

 

「お前が兄ちゃんから虐められてたんだろ?」

 

「違う!」

 

「はぁ?」

 

 兄に虐められていた訳では無いという女の子の話を聞き、ますます泣いていた理由が分からなくなったクリスは更に頭を悩ませる。

 

「父ちゃんがいなくなったんだ。一緒に捜してたんだけど、妹がもう歩けないって言ってたから、それで……」

 

「迷子かよ。だったら、端からそう言えよな」

 

 女の子の兄である男の子から事情の説明をされ、クリスは思わず呆れ返ってしまった。

 

「だって……だってぇ……」

 

「おいこら──」

 

「小っちゃい子にそんな強気な口調で話しかけるなよ。余計に泣かせちまうぞ?」

 

 再び泣きそうになる女の子をクリスは強い口調で止めようとしたが、言葉を言い切る前に新しくやってきた第三者に遮られる結果に終わる。

 

「この声……!?」

 

 その声の主の正体を知っていたクリスは、直様声が聞こえてきた方角に体ごと振り返った。その方向には、背中にかなり巨大なバックパックを背負い、左手にパンパンに膨らんだバックを持った響が立っていた。

 

「よっ! さっき振りだな、クリス!」

 

「なっ、どうしてお前がここにっ!?」

 

 響は、まるで友達に会ったかのようにクリスに声を掛ける。対してクリスは、響が平然とこの場にいることに驚きを禁じ得ず警戒心をグッと引き上げる。

 

偶々(たまたま)だよ。家帰って飯食って寝ようと思ってたんだけど、家に食材無いこと思い出してさ。それで買い物に行って、その帰りに近道しようと思って公園の中に入ったら、女の子の泣く声が聞こえてきたから来たんだよ」

 

「買い物帰りって訳かよ……。もしかして、手持ちのそれと背中のそいつも食料が入ってるのか……?」

 

「応よ! 自分で言うのもなんだけど、俺って大食らいだからな。これぐらい無いと、1週間も持たないんだよ」

 

 若干引き気味に訊ねられたクリスの質問に、響は隠す気も無く堂々と肯定する。冗談のつもりで聞いたクリスだったが、本当に全部食料であったことを理解して、口元が引き攣っていった。

 

「で、クリスはどうしてここにいるんだよ? それと、後ろの子達は?」

 

「あたしのことなんて知ってどうしようってんだよ? あたしが何処にいようが、あたしの勝手だろうが! ただぶらぶらとその辺歩いてたら、こいつらの声が聞こえてきてよ。少し気になったから……それで……」

 

 響にここにいる理由を訊ねられ、最初は強気だったクリスも事情を説明していく内に声がか細くなっていって、終わりの方は殆ど聞こえなくなるが、その代わりにクリスの頬は赤くなっていた。

 

 少し恥ずかし気に顔を赤くして目線を逸らすクリスを見て、響はブッと吹き出して満面の笑みで笑い出した。自分の態度を見て響が笑い出したのを悟り、クリスは向きになって響に噛み付く。

 

「おい! 何笑ってやがる!! 人様の顔見て笑うなんて、失礼極まりねえぞ!!!」

 

「悪い悪い! 許してくれよ! クリスってそんな顔もするんだなって思ってさ。今まで俺達にツンツンしてばっかりだったからさ、ついな」

 

「そいつは、お前らがて──」

 

 敵、と言い掛けたところでクリスが口を噤む。何も知らない子供達が傍にいる中で、血生臭いを戦いの話をする訳にはいかなかったからだ。

 

(……強気で女の子にしちゃ口が悪いけど、根は優しいんだな)

 

 響が笑っていたのは、何もクリスの態度が面白可愛かっただけだからじゃない。クリスが子供達のことを気に掛ける優しさを秘めていることが分かったからだった。

 

 現に今も、戦いを知らない子供達のことを気に掛けて、言ってはいけない単語を無理くり引っ込めたのだ。

 

 響は恥ずかしがっているクリスの横を通り過ぎて、置いてけぼりにされている兄妹に目線を合わせる為に片膝を着いてから話しかける。

 

「あのお姉ちゃんと何話してたんだ? 良かったら、俺にも教えてくれないか?」

 

「あ、う、うん。妹と一緒に父ちゃんを捜してたんだけど、妹がもう歩けないって言うからこの場所から動けなくて……」

 

「成る程な。よし、分かった! 俺とお姉ちゃんが2人と一緒にお父さんを探してやるよ!」

 

「良いの!?」

 

「あぁ!」

 

 少し冗談を交えながら、男の子の頭を撫でて子供達に笑い掛ける響。そんな響の無邪気な笑顔を見て、子供達も視線と笑顔を浮かべた。

 

「おいこら待て! あたし抜きで何勝手に話を進めてんだ!? 」

 

「ん? 何か問題でもあったか?」

 

「大有りだ! 何であたしも一緒に捜すことになってんだ! お前がそいつらと一緒にいるなら、あたしは別に必要無いだろうが!」

 

 どうやら、クリスは何時の間にか自分まで父親捜しに加えられるように話を進められたことがご不満のようであるが、響はクリスの事情なんて知ったこっちゃないと話を進める。

 

「そんな寂しい事言うなよ。俺とお前の仲じゃん。同じもの(デュランダル)を目指して競った仲だろ?」

 

「競うとかいう青臭え言葉で片付けられる仲じゃ無えだろ、あたしとお前は!?」

 

「まぁ、良いじゃんか。それにだ。最初にこの子達を見付けたのはクリスなんだ。最後まで付き合ってくれよ。それとも、そんな途中でほっぽり出すような筋の通らない酷い人間じゃねえよな?」

 

「ッ! 言ったな! 分かったよ、付き合ってやるよ! 最後まで付き合えば良いんだろ!? だから、これ以上話を面倒臭くするんじゃねえぞ!? ……あっ」

 

 響の挑発口調に乗せられ、最後まで付き合うと口に出してしまったクリス。確かなクリスの言質を取り、響は満足気に悪戯小僧のような笑みを浮かべていた。

 

「乗せられちゃったぁ? ……怒った?」

 

「……ッ!」

 

 子供達の前ということもあって、殴るに殴れないクリスは心に沸々と湧いてくる怒りを溜めこんでいくのだった。

 

 響達は女の子が再び歩けるようになるのを待ってから、響とクリスで子供達を挟むように手を繋ぎながら夜の歓楽街を歩き出した。順番はクリス、女の子、男の子、響といった順である。

 

 子供達の父親を捜す中、響は隣にいる男の子に男の子なら興味を持つであろう響が外国諸国を巡った2年の間に起こった面白い冒険譚を話していた。その話に男の子は興味津々で、響もノリノリになって話していたが時折別の場所にも視線を向けていた。

 

「♪〜♪〜♪」

 

 それは響と同様に子供達の父親を捜しているクリスだった。クリスはこうして父親捜しをしてる中で、鼻歌を歌っているのである。最初は興味本位で鼻歌を聞いていた響も、今では彼女の鼻歌に夢中になっている。それはクリスと手を握っている女の子も同様で、先程からずっと鼻歌を歌うクリスに視線を向けっ放しだった。

 

「な、何だよ? お前も、何こっち見てんだ!?」

 

 響と女の子に見られ続けていた事に気付き、クリスは少し乱暴な言葉でそう言った。

 

「お姉ちゃん、歌好きなの?」

 

「……歌なんて大嫌いだ。特に、壊す事しか出来ないあたしの歌はな……」

 

 女の子に歌が好きかどうかを問われ、外方(そっぽ)を向きながら嫌いと答えたクリス。戦いに(まつ)わる全てを嫌悪するクリスは、シンフォギアシステムという戦う力を扱える自分の歌も同じく嫌悪しているのである。

 

「俺はそんなこと無いと思うけどなぁ」

 

 しかし、そんなクリスの言葉を響は否定した。響の言葉を聞き、クリスは直様キツい視線と言葉を響に投げ掛けた。

 

「何寝むてえこと言ってんだ!? お前は現に知ってんだろうがっ! あたしの歌は──」

 

「それはそれ、これはこれだろ? そんな一概に考えなくても良いだろうが。難しいことばっか考えてると禿げるぞ?」

 

「禿げるだぁ!? お前、あたしが女だってこと分かってんのか!? 夕方の時も普通なら女に言わないようなこと口走りやがって!!?」

 

「隠すべきようなことでもないから、別に言っても構わないだろ。それにクリスが女だなんて、何当たり前なこと聞いてんだ? こんなに可愛い女の子が男の訳無いだろ?」

 

「なっ!? おま、可愛いって!? 本当に言葉を選べよ、お前!! ()も無えと、その何本も螺子が抜けた空っぽの頭に鉛玉()ち込むぞ!?!!?」

 

「おぉ、こっわ(笑)」

 

「さっきから喧嘩売ってんのか!?」

 

 響のお陰で先程までの不穏な空気が払拭される。クリスは顔を真っ赤にさせながら怒り、響は表情をコロコロ変えながらクリスに笑い掛け、2人を見ていた子供達は勢いに釣られて笑っていた。

 

「兎に角だ。俺が言いたいのは、1つだけだ」

 

「……何だよ」

 

「俺は好きだよ、クリス(の歌が)」

 

「ばっ!? な、な、ななな、何言ってんだ、この筋肉バカ!? す……好き、好きって、お前……!? 第一、あたしとお前は敵同士だろ!? それに、お互いのこともロクに分かってもないのに……!?

 

(……俺、何か変なこと言ったか? 普通にクリスの歌が好きだって伝えただけなのに?)

 

 段々か細くなっていく声と何故か悶えていて顔が真っ赤のクリスの反応を見て、響はどうしてそうなっているのかが理解出来ないでいた。響からしたら、ただ自分の気持ちを正直に伝えただけなのだから。

 

 まだ歳の低い子供達からもクリスがどうして悶えているのかは理解出来なかった。誰にも理解されないままクリスの羞恥タイムが続いた。

 

 すると、交番の前に差し掛かったところで丁度1人の年配の男性が交番から出てきて、響達の存在に気が付いた。それを見た子供達もパァっと表情を明るくする。

 

「父ちゃん!」

 

「あぁ!」

 

 年配の男性は、どうやら捜していた子供達の父親のようで、響とクリスの手から手を離した子供達が男性の下へ駆け寄って行く。

 

「お前達、何処に行ってたんだ!?」

 

「お姉ちゃんとお兄ちゃんが一緒に迷子になってくれた!」

 

「違うだろ。一緒に父ちゃんを捜してくれたんだ」

 

「すみません。ご迷惑をお掛けしました。折角のデート中でしたのに、本当にすみません……」

 

 自分の子供達が掛けた迷惑を謝罪し、響とクリスを仲の良いカップルと勘違いした男性がもう1度改めて謝罪する。デートという単語を聞き、クリスは耳まで真っ赤にして否定する。

 

「デートッ!? ち、違う違う!? あたしとこいつはそんな関係じゃ無え! 強いて言うなら、そう腐れ縁みたいなもんだ!!」

 

「えぇ!? 何時もは俺にデレデレなのに!? 何でそんな冷たい言葉を!?」

 

「ボケ倒してんじゃねえよ!? 何出鱈目言ってやがる、この筋肉バカッ!?」

 

「ぐふぅ!?」

 

 ボケ倒そうとする響の鳩尾に肘をぶち込んだクリス。不意打ちの一撃だった為、普段鍛えている響も思わずダメージを負ってしまった。

 

「本当、私とこいつもただの成り行きだっただけだから」

 

「そうですか。ほら、お姉ちゃん達にお礼は言ったのか?」

 

「「ありがとう!」」

 

 男の子と女の子は、父親に促されて響とクリスにお礼を言う。2人のお礼の言葉を貰って、響は鳩尾の痛みに堪えながらぎこちない笑みを浮かべる。

 

「仲良いんだな。そうだ、そんな風に仲良くするにはどうすれば良いのか教えてくれよ」

 

 仲良くする兄妹を見ていて、不意にクリスは兄妹にそう訊ねた。クリスの言葉を聞いて、妹は仲良しをアピールするように兄に抱き付いた。

 

「分からないよ……何時も喧嘩しちゃうし」

 

「喧嘩しちゃうけど、仲直りするから仲良し!」

 

 兄妹はクリスの質問に自分なりの考えを伝えたが、クリスには今一ピンと来ず顔は曇ったままだった。

 

 その後、響は去り行く仲良しな家族を見送った。その際、兄妹は響に向かって手を振り、響も手を振り返していた。

 

 家族の姿も見えなくなり、響はクリスに話を切り出す。

 

「さてと、クリスはこれからどう……あら?」

 

 しかし、響が話しかけようとしたクリスは既にその場にはいなかった。どうやら、響が家族に手を振るのに夢中になっている間に、クリスは姿を消したようである。

 

(……どうしよう。折角のチャンスだったのに、見す見す逃しちまった! フィーネって奴と仲悪くなってたから、話をするには絶好のタイミングだったのに!! ってか、あの子達に仲直り云々を聞いたのもフィーネって奴と仲直りする為だったんじゃねえか!?)

 

「何処行ったんだよ、クリスッ!!」

 

 クリスの名を響は呼ぶが、その声に応える者は誰もおらず、ただ虚しく夜の歓楽街の中に消えていった。

 

 一方で、響から急いで離れたクリスは、夜の歓楽街の中でも尚暗い路地裏の道を1人で歩いていた。

 

 これからどうするかを考えるクリスだったが、その思考は途中で割り込んできた雑念によって中止させられる。

 

「ちくしょう! 何で……何で、あいつの顔ばっか浮かんできやがる……!」

 

 クリスの脳裏に浮かび上がるのは、自分を捨てようとしているフィーネではなく、先程まで不本意ながら行動を共にしていた響のことばかりだった。

 

「くそっ! あいつは敵なんだぞ!? なのに、どうして……あいつと過ごしていた時間が楽しかったなんて思ってる自分がいるんだよ……!?」

 

 クリスには、それが不思議でならなかった。クリスにとって立花響という少年は、極端な言い方をするなら敵だった筈である。

 

 だというのに、今のクリスは敵である筈の響のことしか頭に思い浮かばない。それも、その大半が共に過ごした先程までの短い時間の中で響が見せた年相応の無邪気な笑顔である。

 

 加えて、クリスの胸の内には、黙って響の傍からいなくなったことへの罪悪感のようなものまでもが湧いてきていた。

 

「何なんだよ、この気持ちはよ……。頭ん中ゴチャゴチャだ……!」

 

 心に迷いと不安を抱え、頭の中がゴチャゴチャで思考が定まらないままクリスは自身の拠点に向けて足を運びだした。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、少ししか疲れていない
──原作ビッキーは割とヘトヘトでしたが、今作ビッキーは割と平気です。これも凄まじいスタミナと回復力の為せる技です。

(2)響、クリスと夜中に出会う
──クリスちゃんに発生した迷子イベントに響も遭遇。響は、クリスは口は悪いけど根は良い子だと気付き始める。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 今回はクリスちゃんのイベント回でございます。可愛いと言われて赤くなるクリスちゃん可愛い。好き(歌)と言われて真っ赤になって悶えるクリスちゃん可愛い。少し勘違いしてるクリスちゃんも可愛い(*´ω`*)

 393イベントはもう少し後なんじゃよ。だから、もう少しだけ待って欲しいです。

 あれ、393!? どうしてここに!? 自力で脱出を!? ……えっ、哲学兵装ってご存知ですかって?

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 15 助言

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 最近シンフォギアの漫画を中古で買いました。そこに載っていた情報で、実はクリスの謎の言葉遣いは長い捕虜生活によるものではなくて、普通に親と暮らしていた頃からのものだったとかいう(もっぱ)らの噂を知りました。

 “ちょせえ”とか、“やっさいもっさい”とかの言葉が親の教育による賜物だとは……この言葉遣いはお父さんとお母さんのどちらによるものなのでしょうかね? 僕は外国人であるお母さんのものだと思っております。

 それはさておき、そろそろ本編に入っていきましょうか。

 それでは、どうぞ!


 未来が響と衝撃の再会を果たしてから2日が経った。

 

 あまり深く眠ることが出来なかった未来は、浅い眠りから目を覚ました。

 

 眠りが浅かったからか、今の未来の意識は割としっかりとしていて、未来はベッドから這い出て窓を覆うカーテンを開いた。

 

「雨……」

 

 その日は朝から雨が降り続いていて、その空の曇り空はまるで今の未来の心を映し出しているように未来には思えた。ただ静かなだけの空間に、雨の降る音だけが鳴り止まずに木霊(こだま)している。

 

 未来がしっかりとした睡眠を取れなかったのは、一昨日の夜に特異災害対策機動部二課の人間から説明された響のことがずっと気になっているからだった。

 

 正直響のことばかり考えていた未来は、二課の人間から説明された内容を半分程しか覚えていないが、響に関することはしっかりと記憶している。

 

 響が春先に突然現れた期待の新戦力であること、今まともに戦える戦力が響だけであること、響は無理矢理協力させられているのではなく、自分の意思でノイズと戦っていること。

 

 響の身内と言っても過言では無い未来には、二課の方からも丁寧な説明が行われた。しかし、二課の説明の中には響の空白の2年間に関する情報が一切無く、未来もそれを訊ねたが二課の人間も響の空白の2年間については知らなかった。

 

 響の空白の2年間に関する情報は、本人の希望もあって弦十郎しかそのことを知らない。故に、二課の人間も響のことは、突然現れた新たな仲間としてしか知らされていない。

 

 その為、未来が知りたい空白の2年間については一切知ることが出来なかったし、響の今の居場所も情報漏洩の防止という理由で教えられなかった。

 

 未来からしたら、今直ぐ響には危ないことから手を引いて欲しい。何時命を落とすかも分からない世界にいて欲しくない。

 

 それに、過去に響はノイズが原因で命を落としかけたこともある。2年前は、どうにか九死に一生を得て運良く生き残れたが、次はどうなるか分からない。今度こそ、本当に死んでしまうかもしれないのだ。

 

 しかし、そう思う反面で全部無駄なのだろうとも未来は思っていた。

 

 響は、自分から始めたことは最後まで絶対に遣り抜くことを未来は知っている。例え、自分や身近な大人が止めようとしても響は絶対に止まらない。

 

 何処までも真っ直ぐなせいで、少々突っ走り過ぎて周りが見えなかったり、周りの声が聞こなかったりすることも少々ある。

 

 今思えば、あの時の響はノイズと戦う為に自己強化に一心に励んでいたから自分の声が聞こえていなかったのだと、未来は納得している。

 

「本当に……住む世界が変わっちゃってたんだね……。もう、一緒にいられないのかな……?」

 

 未来のいる平和を謳歌する日常と響のいる平和を守る非日常は、余りにも住む世界が異なる。そのことが、未来と響の間に大きな隔たりや壁を感じさせた。

 

 2年前の迫害の際、一切弱音も泣き言も言わなかった未来の口から弱音が嗚咽と共に漏れ出る。その涙は、もう一緒にいられないことを悲しんでか、それとも戦いの中に身を置くことになった響のことを憂いてか。

 

 嗚咽と共に吐き出される未来の嘆きは、深々と降り続ける雨の音の中に静かに消え入るのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 雪音クリスは、イチイバルのシンフォギアをその身に纏いながら雨が降り続く街の中を走っていた。

 

 そもそも、クリスがどうしてこの状況になったのか。それは、昨日の夕方の時間帯まで遡ることとなる。

 

 夕暮れ時に響と翼と戦い、フィーネから捨てられ、夜に偶然響と遭遇して共に迷子になった子供達を父親の下まで送り届けた日から1日が経過した、翌日の夕方に起こった出来事である。

 

 フィーネと自身の拠点である山奥に建っている豪華な屋敷まで戻ったクリスは、いの一番にフィーネの下を訪れた。

 

 クリスがフィーネの下を訪れた時、フィーネは一糸纏わぬ姿で電話をしていた。フィーネが英語で会話をしていたことから、通話の相手は米国の手の者であることはクリスにも容易に分かった。

 

 しかし、電話をしていることなど一切構わずにクリスはフィーネに問い詰める。

 

 用済みとはどういうことか、自分はもう要らないのか、自分を物の様に扱うのか、何が正しくて何が間違っているのか。

 

 クリスは、自身の中に湧き上がる疑問を言葉にして、全てフィーネにぶつけた。そんなクリスに、フィーネはノイズを召喚する杖を向けてノイズを召喚した。

 

 ノイズが現れて怯むクリスに、フィーネは残酷な真実を告げた。クリスがしてきた力で力を捩じ伏せるやり方では、決して戦争を消し去ることは出来ないと。クリスのしてきたことは、戦いの火種を1つ消す度に、新たな火種を複数生み出す鼬ごっこであるということを。

 

 信じていた大人に裏切られ、ノイズを差し向けられて命を奪われそうになったクリスは、イチイバルを纏って命辛々フィーネから逃走したのである。

 

 そして、話は現在に至る。昨日からずっとノイズの追っ手から逃げ続けていたクリスは、身心共に疲弊しながらも降り掛かる火の粉を払う為にアームドギアを振るう。

 

 撃ち抜かれたノイズの破片が辺り一面に散り、路地裏の節々に点々と煤の山が出来上がる。

 

 追っ手のノイズを殲滅したクリスは、逃走を再開させようとする。しかし、昨日からずっと逃げ続けている上に度重なる戦闘によってクリスの体力は既に限界を迎えていた。

 

 クリスは、覚束無い足取りで数歩進むが遂に壁に凭れ掛かり、そのまま膝から崩れ落ちて壁に凭れ掛かりながら気を失ってしまった。

 

 丁度その頃、まだ早い時間なのにも関わらず、リディアンの制服に身を包んた未来が学校に向かって登校していた。

 

 長い時間ずっと泣いていたせいで未来の目元はまだ少し赤く晴れ上がっている。しかし、その表情は未だに優れないままであった。

 

 涙はその場に湧き上がった悲しみを嗚咽と共に流しはしたが、その根底の原因を洗い流すには至らなかったのである。

 

「……あれ?」

 

 すると、不意に未来は足を止めて路地裏を覗き込んだ。覗き込んだ路地裏には、壁に凭れ掛かりながら倒れ込む人の姿があったのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 時間が経ったことですっかり雨も止んで曇り空となった空の下、響は弦十郎と共に商店街の方まで足を運んでいた。

 

「おやっさん、これってノイズだよな?」

 

 路地裏で発見された煤の山々を見て、響はそう弦十郎に訊ねる。その質問に弦十郎は、響の目を見ながら静かに頷いて答える。

 

「あぁ。本部の方でも、今日の未明にこの市街地第6区域にノイズの発生パターンを検知している。発生したのが未明ということもあって、人的被害が無かったことが救いではある。しかし、ノイズと同時に聖遺物イチイバルのパターンも検知しているのが気掛かりでもある……」

 

「イチイバル……クリス……」

 

 イチイバルのギアを持っているのも、起動させることが出来るのもクリスだけである。ノイズ発生した場所と同じ場所でイチイバルの反応が検知されたということは、クリスとノイズが戦ったということに他ならなかった。

 

「クリス君は、元々ノイズを操ることの出来るフィーネなる人物の下で動いていた。そのクリス君がノイズと交戦したということは、フィーネがクリス君を計画から切り捨てたということの裏付けでもあるな」

 

「どうして、フィーネはクリスを狙ったんだ?」

 

「確かにそれは気になるな。計画から切り捨てたクリス君を1度は見逃したのにも関わらず、改めてその命を狙う理由か。……クリス君はフィーネにとって何か都合の悪い真実を知ってしまった。真実を知られたフィーネは、その真実を隠蔽する為にクリス君の命を狙ったと考えるのが妥当といったところか」

 

「クリス……俺があの時あいつの手を掴んでれば……」

 

 自身の右手を眺めながら独り言ちる響。あの時にクリスの手を掴めていれば何か変わっていたのではないかと、響はそう思わずにはいられなかった。

 

「過去のことを悩んでも仕方が無い。大事なのは、今と今に繋がっている未来をどう動くかだ」

 

「……そうだな、おやっさん」

 

 弦十郎の言葉を聞いて、沈み掛けていた気持ちを響は持ち直して一先ずいつも通りの顔に戻った。

 

「おやっさん、命を狙われてるってことはさ、クリスの奴戻るとこ無いんじゃないか?」

 

「そうかもな。この件については、こちらで引き続き捜査を行う予定だ。響君は、指示があるまで本部の方で待機しておいてくれ」

 

「ッ! ジッとしてろってのか、おやっさん!? 頼む、俺にクリスを捜しに行かせてくれ!」

 

「闇雲に捜したところでどうにもならん。それに、今の響君には尚更行かせられない」

 

 クリスの捜索に出ようとする響の意見を弦十郎は首を横に振って却下した。響は、何故弦十郎が捜索に行かせるのが反対なのかの理由説明を求める。

 

「どうしてだ!? 今こうしてる間にもクリスの命が危ないってのに!」

 

「今のところはノイズの反応も出ていないからそこまで焦る必要は無い。それに、今の自分の顔を見てみろ。かなり酷い顔をしているぞ。一昨日の響君の幼馴染みの一件からずっとその調子じゃないか」

 

「俺のことは別に良いだろ! それよりも──」

 

「良い訳あるか! 俺は君の命を預かっている立場の人間だ。平常じゃない精神状態の君に半端な指示を出して、もし君に何かあってからでは全てが手遅れなんだ。そうなれば、君のことを大事に思っている人間全員に大きな悲しみが生まれる。それは君の頭から離れない君の幼馴染みの彼女も含まれているんだぞ」

 

「ッ!」

 

「もっと自分のことも大事にしろ。そして、ちゃんと自分の心と向かい合うんだ。そうすれば、今の君がどうするべきなのかが分かる筈だ。それでも分からない場合は、誰か年上の人間に相談してみろ。君よりも人生経験のある人間に訊ねてみれば、案外答えが出てくるかもしれんぞ」

 

「おやっさん……」

 

「お前達子供が伸び伸びと自分のやりたいことが出来るよう、面倒事を引き受けるのが俺達大人の役目だ。ここは、俺に任せておけ。それとな、良かったら午後から翼の検診に付き添ってやってくれ。緒川も忙しくてな、代わりに翼の供をしてくれ。頼んだぞ」

 

「あ、あぁ……」

 

 弦十郎はそう言い残して、近くに寄ってきた黒服の二課のエージェントと供に響の傍から離れていった。

 

 その後、現場の捜査や自体の後始末で特に協力出来ることが無い響は、現場から二課の本部にあるトレーニングルームに戻って、翼の検診が始まるリディアンの放課後までトレーニングをしながら時間を潰すことにした。

 

 午前から昼食時の正午になるまでの間ずっとトレーニングに精を出し続けた響だったが、体を動かしていても心にあるモヤモヤが払拭されることはなかった。

 

「未来……ダメだ、幾ら考えても、体を動かしてもこのモヤモヤが一向に消えやしない! っていうか、未来のことばっかり考えてるじゃねえか、今の俺!! これじゃただの変態だろ!!!」

 

 自分が女の子のことばかり考えていることに今頃気付いた響は、ツッコミの勢いで手に持っていたダンベルを思わず壁に投げ付けた。

 

 投げられたダンベルはトレーニングルームの壁に当たって鈍い音を響かせ、鉄の音が少し鳴り響いた後に部屋が沈黙に包まれた。

 

「……物に当たってどうするんだよ。でも、これじゃ本当にただの変態だ。女の子のことばかり考えてるなんて、それこそ兄貴じゃねえか……あっ」

 

 響は投げたダンベルを回収し、部屋のベンチの上に置いてあったスマホを手に取って電話を掛けた。電話のコールが2回鳴り、3回目のコールが鳴り始めようとした直前で相手が電話に出る。

 

『もしもし。自称何でも屋の名瀬黎人でございます。……いきなり電話掛けてくるなんて一体どうしたんだよ、(きょうだい)?』

 

「……久しぶりだな、兄貴」

 

 響が電話を掛けた相手は、今は仕事で遠く離れた国にいる響の兄貴分の黎人だった。

 

『おう、久しぶりだな。世間話をする為に俺に電話を掛けた訳じゃねんだろ? さっさと用件をゲロッちまいな』

 

「何でもお見通しかよ……」

 

『これでも兄貴分だからな。お前の性格は大体把握してる。で? 今回はどういう用件なんだ? まさか、政府の関係者にでも捕まっちまったか?』

 

「いや、そうじゃない。兄貴に少し相談したいことがあるんだ。……未来のことで」

 

『未来? ……あぁ、お前の幼馴染みの未来ちゃんのことか。その未来ちゃんがどうかしたのか?』

 

「実は最近になって、その未来と再会したんだ」

 

 響は、黎人に未来と出会った経緯と現状の説明を行った。勿論、一般人には秘匿されているシンフォギアや自分と二課を通した政府との繋がりのことを上手く隠してである。

 

『……成る程な。知らない間にリディアンに入学していた未来ちゃんと偶然遭遇しちまって、どうすれば良いか分からないから俺に相談を持ち掛けたって訳か』

 

「あぁ。兄貴なら、何か良い解決策を知ってるかと思って」

 

 響は、弦十郎が言っていたように人生経験が豊富な大人で、尚且つ女性経験も豊富という観点から黎人に相談を持ち掛けたのである。

 

『お前はどうしたいんだ?』

 

「……会いたいと思ってる。けど、俺が今世話になってる場所の都合的には会わない方が良いとも思ってる」

 

 本心では未来に会いたいと思っている響。しかし、未来が響に近付ければ近付く程、それだけノイズとの戦いという非日常の中に未来を引き摺り込むという可能性を孕んでいた。

 

 響のようなシンフォギアの力も無い未来は、必然的にノイズ相手に自分の身を自分で守ることが出来ない。ならば、響が傍で守れば良いという話になるかもしれないが、事はそう単純ではない。

 

 今の響はノイズを操る力を持つフィーネと対立している関係にある。そのフィーネに未来が狙われる可能性もあるし、万が一未来が人質に取られるようなことがあれば、翼や弦十郎、二課の皆の身動きが取れなくなる。それらの可能性を懸念して、響は未来に会うのを拒んでいた。

 

 全ては未来の平穏と安全と二課への被害を考えてのことであり、響はそれが最適だと結論付けている。しかし、そんな考えとは裏腹に響の心は未来に会いたいと叫んでいる。

 

 理性と感情に板挾みにされている響の心は、痛み苦しみ悶えている状態であった。

 

『……ったく、見ない間に(ちっ)とばかし賢くなるから、そうやって簡単なことで悩むようになるんだよ』

 

「えっ、えーっと……兄貴? それは一体どういう意味なんだ……?」

 

 若干呆れながらも少し嬉しそうに嘆息をする兄貴分の声を聞き、響は理解が追い付かずに困惑するばかりだった。

 

『響、お前さん相当な面倒事に首を突っ込んでるだろ?』

 

「いっ!? え、あ、いや、そ、そそ、そんなことは、なな、無いぜ?」

 

 響は必死に隠そうとするが、言葉が吃り過ぎ且つ声は所々裏返っていて、反応が必死過ぎることから隠せていないも同然である。

 

 電話越しから響が今どんな表情をしているかが容易に想像出来て、黎人は密かに微笑を浮かべた。

 

『まぁ良い。お前が今どんな面倒事に首を突っ込んでいて、どんな場所に世話になっているのかは一先ず置いておく。迷惑掛けないかどうかを心配して、お前が大切な幼馴染みとの再会を躊躇うくらいには愛着がある場所ってことで納得しといてやる』

 

「お、おお、おう……」

 

『ふっ。で、だ。お前は変なところで頑固で真面目、それに少し賢くもなってそれなりの立場を持ったからそういう面倒な(しがらみ)まで付いて回るんだよ。少し賢くなった立花響は廃業して、元のバカな立花響、いやもっとバカな立花響になれ』

 

「どういう意味だよ、それ!? 俺がバカなのは自分でも知ってるけど、賢くなれとか頭使えとかじゃなくて、もっとバカになれってどういうことだよ!?」

 

『おいおい、俺のアドバイスは素直に聞き入れとけよ? 響、お前は頭でばかり考えてるから自分で自分を苦しめるっていうアホなことをしてんだよ。もっとバカになれ。真面目過ぎるんだよ、今のお前は。理性()で考えたことじゃなくて、感情()で感じ取ったように行動してみろ』

 

「けど、そうすると周りに迷惑が……」

 

『迷惑? 何今更なこと言ってんだよ。人間なんて生き物は、他人に迷惑掛けながらじゃねえと生きられねえ生き物なんだよ。それによ、お前みたいな真っ直ぐしか突っ走れねえバカを受け入れた場所が、今更お前の迷惑を受け入れねえなんていう場所なのか?』

 

「そんなことない! 皆、良い人だ。でも、俺と関わったせいで未来がまた危ない目に遭う可能性が……!」

 

『この世の中に絶対安全な場所なんてありゃしねえよ。それは平和な日本だって変わらねえ。それはお前さんが一番よく分かってることだろ?』

 

「……あぁ」

 

 絶対に安全な場所など存在しない。それは日本で暮らしながらも周りを巻き込みながら増していく悪意に晒されていた響が一番よく理解していることだった。

 

『もしも、なんて想定は出したら切りが無え。そんな何時起こるか、そもそも起こるか起こらねえかも分からねえ未来にビクビクしても仕方無えんだよ。何時ものお前ならこんなこと言わなくても何も気にしないんだろうが、今回は事が事だからな。お前が何時も以上に慎重になるのも分からねえことも無え』

 

「兄貴……」

 

『未来ちゃんが危なくなったらお前が守ってやれば良い。守る為に鍛えたお前の体だろうが。今が使いどころだろ。今使わねえで、何時使うんだ?』

 

「……」

 

『もしもだ。もしもお前の力で未来ちゃんを守り切ることが出来ないようなら、周りの力を借りろ。1人じゃ出来ないことも、周りの力を借りれば案外何とかなるもんだ』

 

「あぁ……」

 

『未来ちゃんに会うことを怖がるなよ、響。お前は、自分の存在が未来ちゃんを傷付けるとか考えてるとこがあるからな。ビビらずにしっかり未来ちゃんと向き合って話し合え』

 

「分かってるよ。そんなの」

 

『分かってるなら良い。それとな、未来ちゃんに会ったら謝ることを忘れるなよ? お前が聞いた話が正しいなら、恐らく未来ちゃんはずっと前にお前の姿をどっかで見てる。じゃねえと、やっと見付けたなんて言わねえよ。女に手間暇掛けさせちまったんだから、その辺りはしっかりと謝らねえとな』

 

「あぁ。許してもらえるかどうか分からないけど、誠心誠意込めて謝るさ。頭だって下げるし、何なら土下座でも何でもするさ」

 

『その意気だ。聞くのは野暮だが、お前さんの胸の内に(つっか)えてるモヤモヤはまだあるか?』

 

「もう心配無い! ありがとな、兄貴! 仕事が忙しいのに、態々俺なんかの為に時間取らせちまってよ」

 

 先程までのうじうじしていた響は、もうこの場には存在しない。今ここにいるのは、何時もの3倍は心が澄み渡っていて元気一杯な響だった。

 

『そいつは良かった。弟分が悩み事なんかしてるんだから、手助けしてやるのが兄貴分の役目だ。それに時間のことも気にすんな。こっちで済ませるべき仕事はもう終わらせてんだ』

 

「えっ? じゃー何でそっちにいるんだ?」

 

『ちょっとした私情でこっちに残ってる。死んじまったダチ公達の忘れ形見を捜してな』

 

「友達の忘れ形見……」

 

 忘れ形見とは、ある特定人物を忘れないように残しておく記念の品や、親の死後に残されてしまった遺児を指す言葉である。今回の場合は、意味合いとしては後者のものであった。

 

『あぁ。そのダチとは仕事で知り合ったのが切っ掛けだった。俺が物問わずに全般的に修理業もやってるのは、お前だって知ってるだろ?』

 

「あぁ」

 

『それで、俺の修理の腕の噂を聞き付けたダチ公が俺に壊れたヴァイオリンの修理を持ち掛けてきたんだ。なんだかんだあって意気投合した俺達は、年に数回落ち合って酒を飲む仲になった。そいつとダチになって数年が経った頃に、そいつは良い女と結婚して子供も授かったんだよ。俺もそれは嬉しくてな。ダチとその嫁のことを目一杯祝ってやったのさ』

 

 友人との思い出を響に語っていくに連れて、黎人の語調も高くなっていって機嫌が良くなっていくの響にも分かった。それはまるで、以前弦十郎が響に黎人との関係を語った時のようであった。

 

『ヴァイオリニストだった俺のダチと声楽家のその嫁さんは、NGO活動で歌と音楽で世界を平和にしようと頑張っていた。時々仕事先に娘も連れて行って、自分達がどういう仕事をしてるのかを見せてたんだよ』

 

 だが、黎人が『けど』という言葉を口にしたところで、黎人の語調が極端に低くなった。先程までの暖かな人柄を感じさせない程に冷たく、思わず響も身震いしてしまった。

 

『あいつらは紛争に巻き込まれて死んだ。生き残った娘も捕まって捕虜にされた。そのことを知ったのが、俺のダチが死んでから1ヶ月も経った後だった。俺はダチの忘れ形見を助ける為に直ぐ動いたが、事は上手く運ばずに空振りに終わることもあれば、敵の攻撃で失敗に終わるばかりだった』

 

「あの兄貴でも失敗するのか……!?」

 

 響は静かに驚愕した。響の中での黎人のイメージは、どんな仕事もスマートに(こな)し、且つ弱い立場にある女性や子供に手を差し伸べるかっこいい大人の男というものであったからだ。

 

 だからこそ、黎人が失敗を繰り返していることを知って響は驚いたのだ。

 

『俺だって万能じゃない。数の差とかいう理不尽は引っ繰り返せないし、あの時の俺はお世辞にもしっかりとした作戦を練ってた訳じゃねえ。寧ろ穴だらけだった。何も成果を出せずに6年という長い時が経ち、俺が捜していたダチの娘は国連の介入で救助された。俺はそれに安心し切っちまった。その結果、その子は帰国後に直ぐに行方不明になっちまった』

 

「帰国後直ぐに行方不明ってどういうことだよ……!?」

 

『俺にも詳しいことは分からねえ。それを知った俺は、それこそ血眼になって捜したが成果は上げられなかった。丁度その年だ。お前を拾ったのは」

 

「そうだったのか……」

 

『その後は、お前を連れて国を渡り、仕事を熟しながらいなくなったダチの忘れ形見を捜し続けた。全部空振りに終わっちまったがな……』

 

 覇気の無い口調で語られる兄貴分の真実を聞き、響は悔しそうに歯を食い縛る。響は、兄貴分の苦悩を知らずにのうのうと過ごしていた自分に腹が立った。

 

『お前のこともあって、敢えて対象から除外していた場所に改めて狙いを定めた俺は、仕事を熟す序でにその子の捜索をする為に今いるこの場所に足を運んだって訳だ』

 

「兄貴が今いる場所は何処なんだ?」

 

『バルベルデ共和国っていう南米の小国だ。常に政情不安定で、政府と反政府組織が散発的な小競り合いを繰り返してる危ねえ国だ』

 

「バルベルデ、か……」

 

 響も外国諸国を回る中で、バルベルデ共和国のことは耳にしたことがあった。長きに渡る独裁によって、自国民は辛い生活を強いられていて、小さな紛争が沢山起こっている国だと。

 

「兄貴の友達と奥さんってどんな人だったんだ?」

 

『ん?そういえば、まだ言ってなかったな。 ダチの名前は、雪音(ゆきね)雅律(まさのり)。ヴァイオリンが上手い奴でな、俺のスマホにも録音したデータがあるから後で送っといてやるよ』

 

「お、おう。ありがとな、兄貴。兄貴がそこまで言うんだから凄え気になるな……」

 

(雪音? クリスの名字も確か雪音だったような……いや、そう考えるのは早とちりだな……)

 

 雪音という名字を聞いて、響は一瞬クリスのことを脳裏に思い浮かべるが、考えが早計だと判断して頭の隅にその考えを追いやった。

 

「それで、奥さんの方は?」

 

『嫁の方は、ソネット・M・ユキネっていう外国人だ。綺麗な銀髪とアメジスト色の瞳の良い女だった。職が声楽家ってこともあって、その歌声は最高のものだった。目を瞑れば、何時でもその声を思い出すことが出来るくらいに頭の中に残ってる。そっちの方もデータがあるから、ヴァイオリンのデータと一緒に送ってやるよ』

 

「あ、あぁ……」

 

(綺麗な銀髪にアメジスト色の瞳……それにさっき言った雪音って名字……まさか、本当に!?)

 

 先の考えに確信を持たせるワードが出てきたことで、響は確信に近い考えを持つに至る。そして、その確信を100%の確かなものにする為に、響はもう1つ質問をした。

 

「兄貴は、その人達の子供の名前は知ってるのか?」

 

『当たり前だ。赤ん坊の頃に、何度か抱っこさせてもらったこともあるからな。その子の名前は……雪音クリス。母親と同じく銀髪でアメジスト色の瞳の可愛らしい女の子だ』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 響が兄貴分との通話をしている頃、未来は学校を無断欠席して登校中に発見して保護した女の子の看病に勤しんでいた。未来が保護したのは、疲労がピークに達して路地裏に倒れ込んだクリスであった。

 

 クリスは眠っている間も何か怖い夢でも見ているのか、かなりの頻度で(うな)されていて、未来はクリスの頭に乗せてあったタオルを手に取り近くに置いてある冷たい水の入った(おけ)に漬ける。

 

 すると、魘されていたクリスが唐突に目を覚まして勢いよく起き上がった。クリスは、肩を大きく上下させて荒くなった呼吸を整えながら、未来を無視して周りを見渡した。

 

「良かったぁ。目が覚めたのね」

 

 何処か怯えるような目付きをしているクリスを見て、未来は警戒心を抱かせないように笑顔を浮かべながら穏やかな口調でまだ名も知らないクリスに話し掛けた。

 

「びしょ濡れだったから、着替えさせてもらったわ」

 

「ッ! 勝手なことを!?」

 

 未来から服を着替えさせたことを聞かされ、自分の服が元々自分が着ていた服から未来のものであろう体操服に変わっているのを見て、クリスは勝手なことをされたのに腹を立てながら勢いよく立ち上がる。

 

「あっ!?」

 

 クリスが立ち上がったことで、未来は顔を少し赤くさせながら小さく素っ頓狂な声を出す。未来の反応を見てから、クリスも未来の視線が向いている自分の下半身に目を向け、その直後に驚愕する。

 

「な、何でだ!?」

 

「さ、流石に下着の替えまでは持ってなかったから……!」

 

 未来はクリスの下半身から目を逸らしながらそう言う。上着は未来が持っていたお陰でカバー出来ているが、未来も下着までは持っていなかったので、クリスの下半身は現在一糸纏わぬ姿であったのだ。

 

 クリスは、慌てて座り込んで自分に掛けられていた布団に(くる)まった。

 

「未来ちゃん! どう、お友達の具合は?」

 

 部屋の奥から洗濯物の籠を抱えた1人の女性が出てくる。その女性は、未来がリディアンの学友達とよく一緒に行く“ふらわー”の小母(おば)ちゃんだった。

 

「目が覚めたところです。ありがとう、おばちゃん。布団まで貸してもらちゃって」

 

「気にしないで良いんだよ。あっ、お洋服洗濯しておいたから」

 

 怯えるように布団に包まりながら話を聞いているクリスに、小母ちゃんは洗濯したクリスの服の入った籠を見せながら気さくに話し掛けた。

 

「私、手伝います!」

 

「あーら、ありがとう!」

 

 未来はその場から立ち上がって小母ちゃんの下まで歩み寄っていき、小母ちゃんが持っていた籠を受け取って小母ちゃんと一緒にベランダに向かっていった。

 

 クリスは、そんな未来の後ろ姿をただ呆然と眺めていたのだった。

 

 未来は小母ちゃんと一緒にクリスが着ていた服を外に干し終えた後、まだ完全には回復し切っていないクリスの体をお湯で濡らしたタオルで拭いてあげていた。

 

「あ、ありがとう……」

 

「うん」

 

 極めてシンプル且つ短くお礼の言葉を述べたクリスに、未来は特に何も言うこと無く静かに頷いた。

 

 未来が拭いていたクリスの背中には、首の付け根辺りから腰にかけての節々に多くの青痣があった。その数多くの青痣のせいで、未来にはクリスの背中がとても痛々しいものに見えていた。

 

「何も……聞かないんだな……?」

 

 自身の幾多にも及ぶ痛ましい青痣のことは、勿論クリスも知っている。だが、それを見てもクリスに対して何も聞いてこない未来を不思議に思い、クリスは自分から未来に訊ねた。

 

「……うん。あなたの話を聞いても、きっと私には何も出来ないから。私は……大切な人に何もしてあげられない、無力なただの女の子だから……」

 

 そうクリスに告げた未来の体は、小刻みに激しく震えていた。二課から告げられた響の真実は、未来の思考をネガティブな方へ向けてしまう程に精神に確かなダメージを与えていた。

 

「何時かまた会える。会った時には、また昔みたいに仲良く出来ると思ってた。でも、それは私の思い違いだった。最後の別れを機に、私が住む世界と私の友達が住む世界は完全に違う世界になっていた……」

 

「それは、喧嘩なのか……?」

 

「ううん、喧嘩じゃない。たぶん、喧嘩よりも複雑な問題だと思うかな」

 

 未来は、響の名前やノイズのこと、秘匿すべき情報を話しの中から除外しながら、一昨日に起こった出来事をポツポツとクリスに語り始めたのだった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、弦十郎と共に現場へ
──今作ビッキーは、原作のように学校には通っていないので割とフリーな生活スタイルをしております。よって、時間も空いているので弦十郎と一緒に現場に行きました。

(2)響、精神状態が荒れる
──今作ビッキーは、原作ビッキーと違い気持ちが沈むのではなく荒ぶっております。

(3)響、クリスの過去を知る
──クリスの両親と知り合いであった兄貴分から、響はクリスのことを教えられました。クリスの過去を知り、響は一体どう動いていくのか……?

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 今作の393は思考がネガティブなものになってしまっています。これも唐突に今の響のことを知ってしまった弊害であります。ここから一体393はどうなるのか?

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 16 太陽()日常(未来)

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 今回は少し時間が掛かってしまい申し訳ありません。時間を掛けた分だけ良い出来になっていると思っています……なっていると良いなぁ(白目)

 そういえば、嬉しい報告が1つあります。1週間前のシンフォギアラジオの「借ります!!」のコーナーで、井口さんに僕の出したお便りを採用して貰えたんですよ。凄く嬉しかったです。()れが僕のお便りかは言いませんが、強いて言うなら僕は大学生だということだけをここに記しておきます。

 今回は何時もよりも文章が長く、文章を4つに区切りましたが何卒お付き合い下さい。それと少しネタバレですが、文章の4つ目にはビッキーの戦闘シーンがあるのですが、良ければ“英雄”という曲を聞きながら戦闘シーンの部分を読んでみて下さい。

 では、そろそろ本編に入っていきましょうか。

 それでは、どうぞ!


 時間帯は午後を回り、響は翼の付き添いでリディアンに隣接している総合病院に赴いた。翼の診察が終わるまで、響は暇潰しに病院の屋上に訪れていた。

 

「時間的にもうそろそろ放課後か。今日も未来はリディアンにいるのかな?」

 

 響は屋上から見えるリディアンを一瞥して独り言ちる。

 

「ここからなら意外と未来が見えたり……止めよう。うん、止めとこう」

 

 屋上からリディアン全体を見渡そうとした響は、行動を起こす一歩手前で踏み止まってリディアンから目を逸らした。

 

 女の花園と言っても過言では無い女の子しかいない女子高を真っ黒のパーカーを着用している響が目線を釘付けにして見渡しているのは、幾ら何でも不味いことだと響は判断したのだ。

 

「うん、変態行為は良くない。俺まだ捕まりたくない」

 

 響が独り言ちていると、人と足音と共に何かを地面に突くような音が屋上に鳴り響いた。風の音しかしない屋上に新たな音が加わったことで、響の視線も自然と音が聞こえてきた方角に吸い寄せられる。

 

 その方角には、左手に持つ怪我人用の杖で歩行の補助をしながら響の下まで歩み寄ろうとしている翼がいた。翼を見付けた響は、翼が自分の下に来る前に自分から翼に駆け寄った。

 

「翼さん! 診察が終わったんですか!」

 

「えぇ。ついさっき終わったところよ。それで立花を捜してたんだけど、病院のホールにはいなかったからここに来たのよ。この病院内で立花が行く場所なんて限られてるもの」

 

「すみません。怪我人の翼さんに無茶させて」

 

「大丈夫よ。階段を登るのも良いリバビリになったし、この杖だって大事を取ってるだけだから」

 

 翼は左手に持つ補助用の杖を目線で指しながら、微笑を受けべてそう言ってみせた。その何ともなさそうな姿を見て、響も一安心する。

 

「それと、明日から元通りリディアンに復学することになった。まだ芸能の活動の方は復帰の目処(めど)が立っていないけど」

 

「そうなんですか。あ、このまま立ち話もアレだから、一先ず座りませんか?」

 

「そうね」

 

 座って話をすることを響が提案し、翼がその意見を了承する。響はベンチまでの短い距離を翼のことを気遣いながら移動した。

 

 ベンチまで移動して座った翼は、改めて響に話を切り出した。

 

「今の立花の顔は、今朝とは打って変わって随分と良いものになっている。何かあったのか?」

 

「あぁ。ちょっと知り合いと話をしたんだ。お陰で心の(つっか)えが漸く取れた。今は凄く気分が良い」

 

「そう。……すまないな、立花。本来なら悩んでる後輩を導くのは、同じ戦場(いくさば)に立つ私の役目である筈なのに……」

 

 翼は、申し訳無さそうに謝罪をの言葉を口にする。対して響は、若干慌てながら言葉を返した。

 

「そ、そんなことないって! 今回はタイミングが悪かっただけだ! もし、次に何か悩み事とか出来たら翼さんにも相談するから! だから、そんな申し訳無さそうにしないでくれ!」

 

「……分かった。立花がそう言うなら、今回はそれで納得しておくわ」

 

 何故か慌てる響を見て、翼は顔に微笑を浮かべながら響の言葉を承諾するのだった。

 

「それにしても、俺ってダメな奴だよな。ついこの前に自分の決意を固めたと思った途端に、目の前に起こった小さなことで取り乱してさ。俺はもっと強くならないといけないのに……変わらねえといけないのによ……」

 

「あなたは以前、私に当たり前のようなちっぽけなものを守りたいと言っていたわ。なら、その小さなことで躓くというのも悪くないんじゃないかしら?」

 

「翼さん……」

 

「それに無理に変わろうとせず、今の立花のままでも私は構わないと思うわ。小さなものを守りたいというなら、寧ろそんな小さなことにこそ目を向けるべきだと私は思う。今の立花の想いがあれば、きっと立花は立花のまま強くなれると思うな」

 

 そう響に優しく語り掛ける翼の顔は、とても美しく優しいものだった。そんな翼の顔を見た響は、思わず顔を赤くしてしまい、赤くなった顔を悟られまいと目線や顔を少し翼から逸らして照れ隠しをする。

 

 だが、響の照れ隠しも虚しく響の赤くなった顔は、響を見ながら話をしていた翼にバッチリと見られてしまっていた。すると、今度は響の顔を見ていた翼まで顔を赤くしてしまった。

 

「え、えーっと、その……か、奏のように、人を元気付けるのって難しいわね……!」

 

「そ、そんなことないぜ、翼さん! そういえば、前にもここで翼さんと話をした時も助言を貰ったよな!」

 

「そんなこともあったわね」

 

「俺って本当に翼さんに助けられてばっかだ。それに早速翼さんに悩み事を解決してもらって! やっぱり翼さんは頼りになる先輩だ!」

 

「そんな褒めても、私は……」

 

「あっ、褒められてちょっとだけ翼さんの顔がまた赤くなった! やっぱり顔を赤くしてる翼さんって可愛いよな!」

 

「も、もう! そういうこと言うのは止めなさい、立花! 私は別に可愛くなんて……立花が奏みたいに意地悪だ」

 

「ッ!」

 

(ヤバい……! 何この可愛い生き物!? もっと虐めたい……!)

 

 顔を赤くしながら外方(そっぽ)を向いていじける翼を見て、響の中に眠る本能が再び刺激され、入れてはいけないスイッチをまた入れ掛けそうになった。

 

 前にも増して荒ぶろうとした本能を、修行で心身共に更に鍛えられた鉄の意志で無理矢理鎮めることに成功した響は、これ以上本能が刺激される前に新しい話題を切り出す。

 

「翼さん、絶唱の負荷のダメージの方はどうなんだ?」

 

「もうそこまで気にする程ではないわ。先も言ったように今は大事を取っているだけだから」

 

「そっか。そいつは良かった」

 

 そこで一旦会話が途切れ、響はまた気不味い空気が流れるかもと懸念したが、今度は翼から次の話の話題を響に振った。

 

「絶唱による肉体への負荷は絶大。正に他者も自分も、全てを破壊し尽くす滅びの歌。その代償と思えば、これくらい安いもの」

 

「絶唱……滅びの歌……。でも、でもよ翼さん、2年前に俺が辛いリハビリを乗り越えられたのは、翼さんの歌に励まされたからなんだ!」

 

 ベンチから立ち上がった響は、片方の手で握り拳を作りながら熱く翼に訴える。翼の歌う歌は、戦いの歌だけなのではなく、聞く人全員に元気を与えることが出来る暖かいものなのだと。

 

「翼さんの歌は、滅びの歌だけじゃない! 聞く奴全員に元気を与えることが出来る歌だってことを俺は知ってる!」

 

「立花……」

 

「だから早く元気になってくれ。俺は、翼さんの歌と歌を歌う翼さんが大好きなんだ!」

 

「だ、大好きって……何だか私が励まされてるみたいね……!」

 

 響に大好きと言われ、翼はまた顔を赤くする。先程よりかはまだ赤みが薄いからか、言い淀むこと無く言葉を述べることが出来た翼は、響に向けて穏やかな微笑みを向けた。

 

 そんな翼の響が今まで見てきた笑顔の中で1番女の子らしい笑顔を見て、響自身も顔を赤くし後頭部を掻きながら満面の笑みを浮かべた。

 

(……何だか不思議ね。最近は立花と一緒にいると、凄く気分が良い。それに何だか胸の奥が暖かい。奏と一緒にいた時と同じ……ううん、奏とはまた違う暖かさを感じる。この気持ちは、一体何なの……?)

 

 翼の胸の奥に秘められた翼自身にも分からない暖かな気持ち。その気持ちが一体何なのか。翼がその気持ちの正体を知るのは、きっとそう遠くないだろう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 時間が経ったことで洗濯されて干された服も乾き切り、クリスは借りていた未来の体操服を未来に返して、乾いた自分の服に着替えていた。

 

「喧嘩も擦れ違いも……私にはよく分からないことだ」

 

 服が乾くまでの間未来の話を聞き続けたクリスは、全部を聞き終えた上で自身の思ったことを正直に口にした。

 

「友達と喧嘩したり、擦れ違ったりしたことないの?」

 

「……友達いないんだ」

 

「えっ」

 

「地球の裏側でパパとママを殺されたあたしは、ずっと独りで生きてきたからな……友達どころじゃなかった」

 

「そんな……」

 

「たった1人理解してくれると思った人も、あたしを道具のように扱うばかりだった。誰もまともに相手してくれなかったのさ。大人は、何奴(どいつ)此奴(こいつ)もクズ揃いだ。痛いと言っても聞いてくれなかった。止めてと言っても聞いてくれなかった。あたしの話なんて、これっぽっちも聞いてくれなかった!」

 

 思い出された過去が怒りに変わり、クリスの目がギラついて鋭くなり、怒りを堪えるようにクリスは歯を食い縛った。

 

「ごめんなさい」

 

 知らなかったとはいえ、辛い過去を抱えていたクリスに怒りと悲しみを思い出させるような真似をしたことを自覚した未来は、視線を下に向けて素直に謝った。

 

「なぁ。お前その擦れ違った友達ぶっ飛ばしちまいな」

 

「えっ!?」

 

「そいつがどんな危ねえことしてるのかは知らねえけど、1発ぶっ飛ばしてお前の力を見せ付けてやれば良いんだよ。そうすれば向こう側も、お前が守られるだけの弱い女だなんて思わなくなる。その後はとっとと仲直りして終了。そうだろ?」

 

「……出来ないよ、そんなこと」

 

「おいおい、ただ黙って見てるだけじゃ何も変わらないし始まんねえぞ? 寧ろ、女だからこそ見てるだけじゃなくて何かしねえといけないだろ」

 

「……」

 

「……どうも分っかんねえよなぁ、その辺が」

 

「でも、ありがとう」

 

 面倒臭そうに後頭部を掻きながら未来から視線を外して窓の外を見遣るクリスに、何時もの優しげな顔に戻った未来はお礼の言葉を述べた。

 

「あぁん? あたしは何もしてないぞ?」

 

「ううん。本当にありがとう。気遣ってくれて。あ、えーっと……」

 

「……クリス。雪音クリスだ」

 

「優しいんだね、クリスは」

 

「そうか……」

 

 未来に優しいと面と向かって言われたクリスは、何処か気不味そうな顔をして未来から視線を逸らした。

 

「私は小日向未来。もしもクリスが良いのなら、私はクリスの友達になりたい」

 

 未来に手を握られて反射的に振り向いたクリスは、振り向いたことで再び視線が合った未来から友達になりたいと言われ、少し放心してから苦虫を噛み潰したような表情になり、握られた未来の手を振り解いて未来に背をむける。

 

「あたしは、お前達に酷いことをしたんだぞ」

 

「えっ」

 

 唐突にクリスからそう言われた未来は、何も思い当たることが無い故にポカンとした顔で言葉を漏らす。

 

 その時、街中にけたたましい警戒警報のアラーム音が鳴り響いた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 街中に響き渡った警戒警報のアラーム音は、病院の屋上で雑談をしていた響と翼にも勿論聞こえていた。

 

 響と翼は、先程の温和な顔から険しいものへと表情を変えて、携帯していた通信機から聞こえてくる弦十郎の指示に耳を傾けていた。

 

「翼です。立花も一緒にいます」

 

『ノイズを検知した。相当な数だ。恐らくは未明に検知されていたノイズと関連がある筈だ』

 

 朝の現場から離れずに作業を行っていた弦十郎の声が通信機越しに響達に届く。弦十郎の言う通り、二課本部の司令室のモニターには、相当数のノイズの反応が表示されていた。

 

「了解しました! 現場に急行します!」

 

『ダメだ! メディカルチェックの結果が出ていない者を、出す訳にはいかない』

 

「ですが……!」

 

 急いで現場に向かおうとする翼を、弦十郎は通信機越しに静止させる。そんな弦十郎に翼は反論の言葉を返そうとするが、言葉を返す前に傍にいた響に止められる。

 

「翼さんは皆を守ってくれ。そしたら俺は前だけを向いてられる」

 

「立花……」

 

 呆然と響を見遣る翼に、響は何も言わずに頷いて答える。そんな響の顔を見て、翼は何も言葉を言い返すこと無く弦十郎の指示を承諾した。

 

「了解しました、司令。私は待機して、前線は立花に任せます」

 

『うむ。響君、翼がいない分大変かもしれないが、出張ってくれるか?』

 

「合点承知だ、おやっさん! 元より肉体労働なら俺に任せてくれ! 後ろを任せた翼さんの分も、俺が前に出て頑張らないとな!」

 

『良い活気だ。その調子からすると、胸の(つっか)えはもう問題無いようだな?』

 

「あぁ! 頼りになる兄貴と先輩のお陰で今度こそ冇問題(モーマンタイ)だ! 今の俺は負ける気がしねえ!」

 

 今朝と違って前向きなやる気と活気に満ち溢れる響の声を聞き、通信機越しから弦十郎のフッと笑う声が漏れ出て、響の傍にいた翼は微笑みを浮かべる。

 

『よし! 響君は本部からの指示に従って指定されたポイントまで急行してくれ!』

 

「了解!」

 

 弦十郎との遣り取りを終えた響は、一先ず通信機の通話をオフにしてから懐に仕舞った。

 

「という訳でだ。翼さん、俺行ってくるよ」

 

「えぇ。頼んだわよ」

 

「任せとけ!」

 

 響は胸を軽く叩いてから会話を締め括り、病院の屋上から駆け出していった。残された翼は、響の背中が見えなくなるまで見送ってから自身も二課の本部に向かって移動を始めた。

 

 響が二課からの指示で現場に急行している頃、未だに警報が鳴り響いている街はパニックに陥っていた。

 

 皆が皆ノイズの危機から逃れようと、指定された地下シェルターに逃げ込む為に全速力で街中を駆け抜けていく。

 

 警報が聞こえていた未来も、クリスと小母ちゃんと共に店の外に出てきている。その中で、クリスは誰も彼もが必死になって走っている理由を知らない故に困惑していた。

 

「おい、何の騒ぎだ?」

 

「何って、ノイズが現れたのよ! 警戒警報知らないの!?」

 

 今のご時世でノイズという存在を知らない者は数少ないだろう。勿論クリスだってノイズのことは知っている。寧ろクリスはつい最近までノイズを使役する陣営にいた人間だった。

 

 しかし、長い捕虜生活を過ごしていた為にクリスはノイズの警戒警報を聞いたことが無かったのだ。

 

 警報のせいで先よりも多少落ち着きが無くなっている未来から警報の意味を教えられ、クリスの顔が強張ったものに変わっていく。

 

「小母ちゃん、急ごう!」

 

「あぁ……」

 

 不安そうな顔をする小母ちゃんに、未来は言葉で早く逃げるように促して、小母ちゃんも未来の意見に頷く。

 

 未来と小母ちゃんがシェルターのある場所に向かおうとするが、クリスは大勢の人々が逃げていく方向とは真逆の方に向かって駆け出した。

 

「クリス!」

 

 未来はクリスを静止させようと呼び掛けるが、クリスに未来の声は届かず、クリスはそのまま全速力で走り去ってしまった。

 

(バカが! あたしってば、何遣らかしてんだ!)

 

 逃げる人々の隙間を縫うようにクリスは駆ける。

 

(あたしが雲隠れして居場所が分からなくなったから、フィーネの奴は無差別に街を襲いやがったんだ……!)

 

 今回の大規模なノイズの襲撃は、雲隠れして行方の分からないクリスを燻り出す為のものだとクリスは考えた。クリスの性格と考え方を熟知しているフィーネらしいやり方であると。

 

 人混みの中を駆け抜けて独り人気の無い場所に出てきたクリスは、肩を大きく上下させながら走ったことで乱れた呼吸を整え始める。

 

「あたしのせいで関係の無い奴らまで……くぅ、あああぁぁぁああああああああああああっ!!!!」

 

 自分のせいで何の関係も無い人々まで巻き込んでしまったことにクリスは慟哭の叫びを上げる。クリスの目から涙を流し、地面に膝を着く。

 

「あたしがしたかったのはこんなことじゃない! けど何時だってあたしのやり方は……何時も何時も何時も!」

 

 泣き崩れたクリスの周囲に、今回の動乱の原因である無数のノイズが群がり集まってくる。三方をノイズに囲まれ、クリスは立ち上がってノイズに振り返る。

 

「あたしはここだ! だから、関係無い奴らのとこになんて行くんじゃねえ!」

 

 怒りと悲しみを怒号に乗せてクリスは啖呵を切る。ノイズは形状を変化させてクリスに襲い掛かり、クリスはノイズの攻撃を紙一重で躱しながらシンフォギアを起動させる為の聖詠を歌う。

 

「Killiter……ケホッ、ケホッ!」

 

 しかし、聖詠を歌おうとしたクリスは先まで泣いていたことが原因で噎せてしまい、聖詠が途切れクリスの動きが止まってしまう。

 

 そんなクリスに、空中を飛行していた数体のフライトノイズが攻撃を仕掛ける。動くことが出来ないクリスは、このままではノイズにその身を貫かれて短い生涯に幕を閉じることになる。

 

 しかし、そんなことを許さない者がいた。

 

「ふんっ!」

 

 震脚でコンクリートの地面を引っ剥がし、それを盾にしてノイズの攻撃を防ぐ。

 

「はぁ!」

 

 そして、そのコンクリートの壁を拳で砕くことによって壁だった瓦礫で周囲のノイズへの牽制も行った。攻撃を加えようと限り無く実体化していたノイズは、その瓦礫に巻き込まれて吹っ飛ぶ。

 

 そんな非常識をやって見せたのは、過去に翼の天の逆鱗すらも拳1つで相殺して見せた特異災害対策機動部二課の司令官である風鳴弦十郎だった。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

 弦十郎は拳を構えながらクリスの前に立ち、クリスはそんな弦十郎を見て目を見開いた。

 

 クリスを殺そうと迫るノイズは、弦十郎のことなどお構い無く再び形状を変化させて弦十郎ごとクリスに襲い掛かる。

 

「ふんっ!」

 

 しかし、またも弦十郎の震脚によって引っ剥がされたコンクリートの壁に防がれたことでノイズの攻撃は不発に終わる。

 

 その間に弦十郎は、クリスの体を抱き抱えながら大きく跳躍し、近くのビルに着地することでノイズから距離を取った。

 

「大丈夫か?」

 

 弦十郎はクリスの身の安否をクリスに確認する。しかし、クリスは弦十郎の言葉に答えず、弦十郎からも視線を逸らして距離を取り、下に蔓延っていたノイズを確認する。

 

 すると、下を飛んでいたフライトノイズがクリス達を追ってきて、クリス達の前に立ちはだかった。

 

「Killiter Ichaival tron」

 

 クリスは改めて聖詠を歌い、今度こそシンフォギアを身に纏った。

 

 クリスは、アームドギアをボーガンの形にして周囲を飛ぶフライトノイズにエネルギー状の矢を撃ち放つ。フライトノイズは、エネルギー状の矢に撃ち抜かれ爆発する。

 

「ご覧の通りさ! あたしのことは良いから、他の奴らの救助に向かいな!」

 

「だが……」

 

「こいつらはあたしが纏めて相手にしてやるって言ってんだよ!」

 

 クリスは弦十郎との会話をそこで打ち切り、アームドギアをガトリングに変形させて大きく跳躍した。

 

「着いて来い、屑共!」

 

【BILLION MAIDEN】

 

 クリスのBILLION(ビリオン) MAIDEN(メイデン)が空中から撃ち放たれる。降り注ぐ無数の弾丸によって、周囲にいたノイズは諸共撃ち抜かれて煤となって消え失せる。

 

(俺は、またあの子を救えないのか……)

 

 1人の少女が辺り其処ら中を駆け、跳び、手に持った武器で立ちはだかる敵を目の当たりにしながら、弦十郎は何もしてやれない自身の無力さに嘆いた。

 

 川辺に移動したクリスは、襲い掛かるノイズの大群を躱してボウガンの矢で撃ち抜いていく。空からフライトノイズが強襲するが、クリスはその不意の攻撃すらも躱して、逆に地面に突き刺さったフライトノイズの群れを矢で撃ち抜く。

 

 攻撃直後のクリスに、近寄ってきたヒューマノイドノイズが攻撃を仕掛ける。クリスは攻撃を躱してからノイズの懐に潜り込み、突き付けたアームドギアでノイズを持ち上げてそのまま地面に叩きつける。更にアームドギアをボーガンからガトリングに変形して追い討ちの弾幕を撃ち放っ。

 

 ノイズの大群はは尚もクリスに攻撃を仕掛けるが、高火力で遠距離攻撃を得意とするクリスのイチイバルの前では、全てが行動を起こす直前、()しくは行動を起こした直後に無力化される。

 

 クリスは周囲に蔓延るノイズを一睨みしてから、自らノイズの大群の中に突っ込んでいった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 クリスが戦闘始めたことで、激しい弾幕の光が天に昇っていき、それを視認した街中のノイズがクリスの下に向かおうと行動を開始する。

 

 ノイズは移動の際に形状を変化させ、限り無く実体化していたノイズによって街の建造物に穴が開いて破壊される。

 

 二課本部からの指示でノイズがいるポイントまでやって来ていた響も、突如として大量のノイズが移動をしている光景を目の当たりにしていた。

 

「まさか、あっちにクリスがいるのか!?」

 

 ノイズが向かう先にクリスがいると推測した響は、その場から移動する大量のノイズを急いで追おうとする。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!!?」

 

「悲鳴ッ!?」

 

 しかし、突如として聞こえてきた悲鳴が響の足を止めた。響は、ノイズに狙われてはいるがシンフォギアを持ち自分の身を守ることの出来るクリスよりも、今近くにいるノイズに対して無力な人々を守る為に直様悲鳴が聞こえてきた方向に駆け出した。

 

 響が向かった先にあったのは、そこら中が罅割れ大きな穴も開いた鉄骨が剥き出しになっている工事中の廃ビルだった。

 

「おい! 誰かいるの──」

 

 迷わず廃ビルに入った響は、悲鳴を上げた誰かを捜して声を張り上げようとしたが、言い切る直前で言葉を遮られる事態が発生した。

 

 響の頭上から触手らしきものが急降下してきたのである。咄嗟にそれに気付いた響は、目の前にあった手摺を踏み台にして跳ぶことで避け、落下しながらも空中で体勢を整えて見事に着地した。

 

 触手が廃ビルを破壊したことで巻き起こった土煙が晴れ、響が見上げた先には廃ビルの鉄骨に絡み付くように場所を占めているタコ型のノイズ──ミリアタボノイズがいた。

 

「野郎、ぶっ飛ば──」

 

 響は意気込みを入れ直して、目の前のノイズを倒す為に聖詠を口にしようとしたが、不意に出てきた手に口を塞がれて又しても言葉を遮られた。

 

 響は自身の口を塞いだ手を出した人物を確認する為に、手が出てきた方向を見やった。そこには、空いたもう片方の手の人差し指を立てて静かにするようジェスチャーをしている未来がいた。

 

(未来ッ!? どうしてこんなところに!?)

 

 響は未来がこんな危険な場所にいることに驚愕を露わにする。響が驚いている間に、未来は懐からスマホを取り出して少し操作してから響にスマホの画面を見せた。

 

『静かに。あれは大きな音に反応するみたい』

 

 スマホに表示された文章を見て、事態を大体察した響は何も言わずに無言で頷く。響が頷いたのを見て、未来は再びスマホを操作して響に見せる。

 

『あれに追い掛けられて、“ふらわー”っていうお好み焼き屋さんの小母ちゃんとここに逃げ込んだの』

 

 未来は響にスマホを見せた後、別方向に視線を送り響も未来に釣られてその方向を見遣る。そこには、コンクリートの地面の上に横たわりながら気絶している“ふらわー”の小母ちゃんがいた。

 

(シンフォギアを纏う為に歌を歌えば、俺は大丈夫でもそのせいで未来と小母ちゃんが……。どうする? どうすれば良い……!?)

 

 最も最善策と思えるのは、響がノイズを引き付けることであるが事はそんな簡単な問題ではない。響がこの場を離れれば、その間に別のノイズに未来達が襲われる可能性がある。ただの女の子である未来には小母ちゃんを担いで移動することは出来ないし、気絶している小母ちゃんは自分から動くことは出来ない。未来や小母ちゃんのどちらかを囮にするという残酷な選択肢を響は持ち合わせていない。

 

 思案して顔を険しくする響に、未来はまた自身のスマホの画面を見せる。

 

『響聞いて、私が囮になってノイズの気を引くから、その間に小母ちゃんを助けて』

 

 スマホに表示された文章を見た響は、目を大きく見開いてから自身もスマホを取り出して文章を入力してから未来に見せる。

 

『ダメだ、そんなこと出来る訳無いだろ! 未来にそんな危険なことをさせられるか!』

 

『元陸上部の逃げ足だから何とかなる』

 

『何とかなる訳無いだろ!』

 

『じゃあ何とかして』

 

 見せられた文章を見て響の体が硬直する。未来はそんな響のことなどお構い無く新たに文章を入力したスマホの画面を見せる。

 

『危険なのは分かってる。だからお願いしてるの。私がこの世界の誰よりも1番に信頼してて、私の全部を預けられると思ってるのは響だけなんだから』

 

 その文章は、どんな時、どんな場所、どんな状況でも響のことを絶対に信頼しているという未来の気持ちの表れであった。響は未来に言葉を返そうとするが、それは未来が響のスマホに手を置いて下げさせたことで止められた。

 

「うぅ……」

 

 すると、気絶して横たわっている小母ちゃんが呻き声を漏らした。その声に反応して、ミリアタボノイズの触手が小母ちゃんがいる方向へと向けられる。

 

 未来はスマホを自身の懐に仕舞い、物音を立てないよう静かに響の耳元に顔を近付けて小声で話し始める。

 

「2年前、私は1人だけ安全なところに逃げて、結局響に何もしてあげられなかった。今更許してもらおうなんて思ってない。それでも一緒にいたい。私は今度こそ響の力になりたいの」

 

「ダメだ未来。許すも何も、俺はお前に怒ったことなんてない。それに未来は何の力も無いただの女の子だろ」

 

「ありがとね。でもね、私は響1人に背負わせたくないの。確かに私は何の力も無いただの女の子だよ。けど、例え何の力が無くても、女の子だって見てるだけじゃ何も始まらないの」

 

 未来はそう言って話を締め括り、響の耳元から顔を話してその場に立ち上がった。

 

「私、もう迷わない!」

 

 廃ビル内に響く程に大きな声で発せられた未来の声に反応して、今まで様々な方向に向けられていたミリアタボノイズの触手が一斉に未来に向けられる。

 

 未来はその場から一気に駆け出し、迫り来るミリアタボノイズの触手を間一髪のところで全て躱しながら廃ビルから抜け出して怒涛の勢いで走り去って行く。その未来の後を追い、廃ビルに陣取っていたミリアタボノイズも外に出て行った。

 

 ミリアタボノイズがいなくなり、周囲に他のノイズがいないことを確認した響は小母ちゃんの無事を確保して、今度こそ聖詠を歌う。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 聖詠を歌いシンフォギアを纏った響は小母ちゃんを横抱きにして、大きく跳躍して一気に廃ビルから跳び出る。

 

「響君!」

 

「緒川さん!」

 

 すると、響が廃ビルを出たのと丁度同じタイミングで廃ビルの前に黒塗りの車が止められ、その車内から顔を出して緒川が響の名前を呼んだ。

 

 無事に着地した響は、車から出てきた緒川に気絶している小母ちゃんのことを任せる。

 

「緒川さん、小母ちゃんを頼む」

 

「響君は?」

 

 響にこれからどう動くのかを緒川が訊ねるが、響は緒川の言葉に何も答えずその場で大きく跳躍して跳び去って行った。去っていく響の後ろ姿を見届けた緒川は、何も言わずに響に言われた通り小母ちゃんを車内に移動させ始めた。

 

(未来、何処だ!?)

 

 響はシンフォギアによって引き上げられた機動力を活かして、街中を跳び回りながら未来が逃げた行方を追っていた。

 

 そんな響の脳裏に思い出されるのは数多くの未来の言葉、そして2年前に響の命を文字通り命懸け救ってくれた奏の言葉だった。

 

(漸く分かったんだ。頑張ってるのは、俺1人だけじゃない。助けようとする俺だけが手を伸ばし続けてたんじゃなくて、助けられる誰かも諦めず必死に手を伸ばし続けていたんだ! だから、あの時の奏さんも俺にあの言葉を掛けたんだ!!)

 

 奏は死に身を任せようとしていた響に、生きることを諦めるなと叱咤した。その言葉は単純な励ましの意味だけでなく、奏が伸ばした救いの手に響からも手を伸ばして欲しいという奏の懇願の意味も含まれていたのだ。

 

(本当の人助けは、お互いに手を伸ばし合って漸く出来ることなんだ!)

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!?」

 

「ッ! 未来ッ!!」

 

 未来の悲鳴が聞こえてきた方向に直様視線を向けた響は、闇雲に大きく跳び回るのを止めて、響の元来の性質らしく文字通り一直線にその方向に向かって跳び出した。

 

 ミリアタボノイズの触手を紙一重で躱した未来は、()けてしまった自身の身を起き上がらせて再び走り始める。そんな未来の後をミリアタボノイズもノロノロと追い掛ける。

 

(この俺の気持ちは、翼さんが言ってたような自殺衝動とか、自己断罪とか、罪悪感とか、惨劇を生き抜いた負い目なんかじゃねえ! 2年前、確かに奏さんから託された大切な想いなんだ!!)

 

 一直線に駆け抜ける響は、腰部バーニアを吹かせてビルの上から次のビルの上へと跳び移りながら移動する。

 

(未来は、女の子は見てるだけじゃ何も始まらないって言ってた。なら、男である俺は誰かの為に……誰でもない未来だけの為に、今強くなるっ!!)

 

 響の胸の想いに呼応して、脚部ユニットに備わっていた機構──パワージャッキが起動する。左右の脚部に2基ずつ設けられたパワージャッキが前方に向かって引き絞られ、響がコンクリートの道路から跳躍する際にギミックが発動する。

 

 シンフォギアによって引き上げられた身体能力と腰部バーニアの推進力、そして新たに作動したパワージャッキの弾性の力が加わることで、響の跳躍力を瞬発的に上昇させる。

 

(もう、走れない……)

 

 一方、響と別れてからずっと走り続けていた未来は遂にスタミナが切れて両手両膝をコンクリートの地面に着いてしまった。幾ら未来が元陸上部だとしても、現役で無くなった未来に長距離を全速力で走り続けるのは無茶があった。

 

 足を止めた未来に追い付いたミリアタボノイズは、揺ら揺らとした様でゆっくりとだが標的である未来を仕留めようと狙いを定める。

 

(ここで、終わりなのかな? 仕方無いよね……響……)

 

 心半ばで諦め掛けている未来のことなど露知らず、ミリアタボノイズはその巨体で未来を押し潰そうとその場で大きく跳躍する。

 

(でも、漸く響とまた会えたんだ。漸く話が出来たんだ。だから、こんなところで私はまだ終わりたくない!)

 

 諦め掛けていた未来の心が再起し、未来は再び立ち上がって走り始める。そのことが功を奏して、未来を潰そうと落ちてきていたミリアタボノイズの落下線上から外れ、落ちてきたミリアタボノイズに未来が当たることは無かった。

 

 しかし、ミリアタボノイズが落ちてきた衝撃によって、未来がいたコンクリートの地面は崩落し、未来がいた場所が高所であったことから未来は地面に真っ逆様に落ちて行ってしまう。

 

「きゃあぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!?!?」

 

 高所から落下していることに加えて、落ち行く未来の傍にはミリアタボノイズも健在である。高所からの落下という唯でさえ危険な状況且つ近くに人だけを殺す特異災害がいるこの状況は、正しく未来にとって絶体絶命だった。

 

 そんな絶体絶命なその時、未来の悲鳴を聞き付けた響がまるで弾丸のように凄まじい勢いで跳んで来て、未来の下に駆け付けたのだ。

 

 響の脚部ユニットのパワージャッキが再び起動して、今度は響の足に沿うように真っ直ぐ上に引き絞られる。響はノイズに向かって真っ直ぐ跳んで行く中で、体勢を変えて蹴りの体勢を取る。

 

 すると、響の脚部ユニットと引き絞られたパワージャッキに明るい橙色のエネルギーが集束していき、響の右足が橙色の輝きを放ち始める。

 

我流(がりゅう)撃龍槍(げきりゅうそう)ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

【我流・撃龍槍】

 

 我流・撃槍衝打のように響が今即興で考えた新必殺技の名前を叫びながら、響は橙色に輝く右足を飛び蹴りの要領でミリアタボノイズに叩き込んだ。

 

 飛び蹴りを喰らったミリアタボノイズの体がくの字に曲がり、更に蹴りを叩き込んだことで脚部のパワージャッキも起動して、右足同様に橙色に輝いているパワージャッキの尖った先端がミリアタボノイズに打ち込まれる。

 

 パワージャッキを打ち込まれた瞬間、その威力に耐えられなかったミリアタボノイズの体に大穴が空いて貫通する。直後、ミリアタボノイズは大爆発を起こして塵となって消え失せた。

 

 ミリアタボノイズを片付けた響は、腕部ユニットのハンマーパーツを起動させることでアポジモーター代わりにして空中での軌道修正を行って未来の下まで一気に辿り着く。

 

「未来!」

 

「響!」

 

 響は未来の名を呼んで未来の体を左腕で抱き、未来の頭を守るように右腕を回す。対する未来も、自身を抱き締める響の体を力一杯抱き締めた。

 

 未来を確保した響は、未来に出来るだけ負担が無いようにしながら空中で体勢を整え、腰部バーニアを吹かせて落下の勢いを殺していく。

 

 しかし完全には落下の勢いを殺し切れず、また落下地点が急斜面であったことも原因で響は着地に失敗し、未来を抱えながら凄い勢いで斜面を転がっていった。

 

 斜面を転がり続けた結果、響と未来は近くにあった川へと着水した。川の中に落ちたことで落下の勢いも完全に止まり、響と未来は川に浸かっている体を起こした。

 

「大丈夫か、未来?」

 

「うん。響が私を庇って下敷きになってくれたお陰で大丈夫。川が浅くてよかったね」

 

「あぁ。でもまぁ、そのせいで全身びしょ濡れなんだけどな」

 

「……ふふ」

 

「……はは」

 

 お互いにずぶ濡れになった姿を見て、響と未来はお互いにくすりと笑い合う。

 

「上手く着地するつもりだったのに、これじゃ台無しだな。それに体のあちこちが痛えよ。痛え痛え……」

 

「私も少しだけ痛いかな。でも、この痛みのお陰で生きてるって感じがするね」

 

「そっか」

 

「うん。ありがとう、響! 響なら絶対に助けに来てくれるって信じてたよ」

 

「ありがとな、俺を信じてくれて。俺も、未来は絶対に諦めたりしないって信じてた。幼馴染みで親友だから、な」

 

 響が兄貴分の真似をして少し気障ったらしくウィンクしながらそう言うと、未来は途端に目尻に涙を溜めて泣き声を上げながら響に抱き付いた。

 

「怖かった……怖かったよ……!」

 

「……頑張ったな未来。よく頑張った」

 

 肩を震えさせながら涙を流す未来の体を左腕で抱き締め、響は右手で未来の頭を優しく撫でた。壊れ物を扱うように、優しく丁寧に撫で続ける。

 

「……ごめんね」

 

「何で、未来が謝るんだ?」

 

「私、ずっと気にしてたの……響にお別れの挨拶を出来なかったこと。ごめんね……あの時、お別れも言わずに突然引っ越しちゃって」

 

「気にしてない。寧ろ、昔の俺は未来がいなくなって安心したんだ。これで漸く俺のせいで未来が辛い目に遭わずに済むってな」

 

 当時の自分の考えを隠さずに話す響。その告白を、未来は口を挟まずに全て聞き入れる。

 

「手紙も送ったけど、1つも返事が返ってこなくて……。会いに行こうと思った時には、もう響は行方知れずになっちゃってて……」

 

「それに関しては本当にごめんな。母さんと祖母ちゃんを守るには、ああするしかなかったんだ……」

 

「うん、分かってる。小母(おば)さんからも聞いたよ。響は優しいから、きっと自分を犠牲にする方法を選んじゃったんだって。小母さん、ずっと響のこと心配してたよ。勿論、響のお祖母ちゃんも」

 

「母さん……祖母ちゃん……」

 

 未来の口から響の母と祖母のことが話され、響は遠く離れている母と祖母に思いを馳せる。

 

「ごめんね。響が辛い時に傍にいてあげられなくて、私──」

 

「言わなくても分かってる。だから……泣かないでくれ、未来」

 

 肩の震えは先程よりも大きくなっていて、未来は更に大粒の涙を流していた。響は文句も何も言わず、涙を流す未来に胸を貸し続ける。

 

「……響は、これからもこんな危ないことを続けるの?」

 

「あぁ。これは、俺が本心からしたいことなんだ。未来や皆の笑顔を……大切な日常を守っていきたいんだ」

 

「……でも、それだと響が」

 

「俺は良いんだよ。俺はノイズと戦う戦士だ。だから、人としての生き方からは遠いところにいるのは仕方無いんだ」

 

 戦士というのは、力の使い方を知る者であり、人の生き方からは離れた場所にいる存在である。故に人が当たり前に歩める人としての生を満足に謳歌することは出来ず、平和な日常に安らぎを見出すことは出来ない。

 

 以前、翼に言われことを心中で反復させながら、響は少し寂しそうな笑顔を見せて未来にそう言った。そんな響の寂しそうな笑顔が、未来の心を激しく締め付ける。

 

「……そんな寂しいこと言わないで。響はもう十分辛い目に遭ってきた。だから、後は他の誰よりもウンと幸せにならないとダメだよ」

 

「良いんだ。皆の幸せを守ること。それが俺の選んだ道なんだ」

 

「響が皆の幸せを守るなら、誰よりも響自身が幸せじゃないとダメだよ……!」

 

「日常の中に俺の帰る場所は無いんだ。何よりも俺自身が自分で自分の帰れる居場所を捨てたんだから」

 

 平和な日常、日常の中にある自分の帰る居場所を2年前に響は自分自身で捨てた。響は、自分に人としての日常の中に帰る場所は無いと思っている。

 

「……なら、私がなるよ。響が帰る場所に、響が人としての日常を送ることの出来る居場所に」

 

「え?」

 

 だからこそ予想外だった。未来が響に対してそんなことを言ったことが。

 

「響が帰ってこれる新しい居場所に私がなる。そうすれば、響も人として当たり前の幸せを謳歌出来るよ」

 

「……良いのか? 俺の近くにいると、また危険な目に遭うかもしれないぞ?」

 

「その時はまた響が守ってくれるでしょ? ……それとも、守ってくれないの?」

 

「守る。未来が危ないなら、俺が絶対に守る」

 

 未来の問い掛けに、響は即座に返答する。その返事に迷いは無く、確かに響の意思が表れていた。

 

「なら、良いでしょ?」

 

「……何時まで経っても未来には敵わないな。そんな言い方されたら、断るに断れないだろうが……でも、ありがとうな」

 

「うん」

 

 響は未来の体を両腕で優しく抱き締め直し、未来は響の体を抱き締める両腕に更に力を入れてギュッと抱き締める。

 

(未来の体……2年前に比べて少しだけ大きくなってるけど、小さく感じるな。俺、16cmも伸びたからな。俺が大きくなり過ぎたのか。昔は俺の方が小さかったのにな。でも……未来から感じるこの温もりだけは、変わらない)

 

(響の体……2年前に比べて凄く大きくなってる。私も少し伸びたけど、今じゃ私の方がもう小っちゃいみたい。昔は私の方が大きかったのにね。けど……響から伝わるこの暖かさだけは体が大きくなっても、ずっと変わらない)

 

(俺が守ってる大切な“日常”は──)

 

(私が捜してた大切な“太陽”は──)

 

((確かに……今ここにある))

 

 お互いにお互いの体を抱き締め合う中で、響と未来は心中に想いを吐露しながらその感触を強く認識する。もう2度と見失わず、絶対に手放さない為に。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、病院で翼さんと会話する
──原作ビッキーは学校だったけど、今作ビッキーはリディアンの生徒じゃないので病院に変更になりました。

(2)響、又しても翼を赤面させる
──翼さんが赤面する中、今作ビッキーはSのスイッチが入りそうになっておりました。やっぱり、赤面した翼さんは男の中に眠る獣性を刺激してくれますよね。

(3)響、蹴り技を習得
──今作での完全オリジナル必殺技です。モチーフは勿論僕らのヒーローこと○面ライダーのライダーキクです。キックのイメージが1番近いのは、やっぱりキクホッパーのライダーキクですね。あの方も足回りにギミックがありますので。でも、今作ビッキーは両足じゃなくて従来の片足ですがね。

(4)響、大切な居場所を手にする
──1度は自分から捨てた安らげる居場所を、今回で新しく手にしました。響が未来の日常を守り続ける限り、響が新しく手にした居場所はずっとそこに在り続けます。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 原作の響って明確な足技が少ないなと思い、今回はオリジナルの蹴りの必殺技を作ってみました。蹴りの形は王道の飛び蹴りですが、それでも直接的な飛び蹴りだけが必殺技の必殺技ってシンフォギアXDにも無かったので、個人的には丁度良いかなと思っています。踵落としはあるんですけどね。

 原作ビッキーにとって未来は陽だまりですが、今作ビッキーにとって未来は日常の象徴のようなものになっています。その共通点は、響にとって心が安らぐ場所であるということです。

 これにて響と未来の一悶着は終了です。次回は……完全オリジナルの日常回でも書いていこうかな。また少し投稿が遅くなるかもしれませんが、大目に見て下さい。

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 17 人としての日常

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 まずは謝罪を。此度は投稿が遅れてしまったことをここに深く謝罪します……。

 本当はゴールデンウィーク中に投稿する筈だったんですが、そのゴールデンウィーク中にスランプに陥ってしまいました。

 前回最後にオリジナルの日常回を書くと宣言したので、宣言通りにオリジナルを書こうとしたらこの樣でした。オリジナルを考える間にスランプ状態になり、何時の間にかゴールデンウィークも終わっていました。

 スランプ状態でしたがきっと皆さんも待ち続けてくれていると思い、自分なりに早く書き上げようとしました。しかし、ゴールデンウィークが終わってから急に大学生活が忙しくなり、個人での学習や課題に追われていて全く執筆に着手することが出来ませんでした。

 短い暇な時間や入浴中に思いつかない着想を必死に考え、今日漸く投稿することが出来ました。

 ですが、深く考える時間も無くパッと思い付いたアイデアを打ち込んで作り上げた話なので完成度は然程高くないと思われます。ですので、出来れば生暖かい目で見て頂ければ幸いです。

 長ったらしい謝罪文にもそろそろ飽きてきたと思いますので、そろそろ本編に入っていきたいと思います。

 最後に、今一度投稿が遅くなってしまったことと謝罪文が長くなってしまったことを謝罪します。

 それでは、どうぞ。


 朝日が昇り始めたばかりの早朝。早朝の時間に合わせてセットされた目覚まし時計の音がある一室内に響き渡る。その部屋のベッドには、その一室を含めたマンションの一室の主である立花響が眠りこけていた。

 

「……ぅあ……もう朝か」

 

 目覚ましの音に叩き起こされたが、響の機嫌が悪くなることは無く至って平常運転だった。それもこれも、今回の睡眠が快眠であったことが理由である。

 

「んー!!」

 

 ベッドの上で上半身を起き上がらせた響は、その場で伸びをして体を解す。適度な力を入れて伸びをしていた響だったが、ある物が置かれた一点を見て上機嫌に笑みを浮かべた。

 

 響の視線の先には、スマホや漫画やテレビのリモコン、プロテインなどが置かれている机があり、その机の真ん中には1つの写真立てが置かれている。その写真立てには、響と未来が写った写真が飾られている。

 

 その写真は、昨日に響が未来との再会と仲直りを記念して撮った1番新しい写真だった。写真に写っている2人はびしょ濡れで、スマホで写真を撮ろうとしている響に未来が思いっきり抱き付いて響がそれに驚いている。

 

 秘匿であるシンフォギアの存在を再び未来にしっかりと見られてしまった響だったが、特にお咎めというお咎めは無かった。

 

 弦十郎曰く、今回の場合は不可抗力であり、何よりも人命救助の立役者である響に煩い小言は言えないとのことだった。

 

 そう言われた響は、響の隣で共に話を聞いていた未来と笑みを浮かべ合ってハイタッチを交わした。

 

 遅れて現場にやって来た了子や現場にいる二課の職員の大人達に後のことを任せて、響と未来は現場を後にした。その際、二課の職員に頼み込んでスマホで撮った写真を2枚現像してもらったのだ。

 

 いい加減鳴り続ける目覚まし時計が鬱陶しくなり、響は少し乱暴気味に目覚まし時計のスイッチを叩いた。叩かれた目覚まし時計は停止し、響はベッドの中から抜け出て着替え始める。

 

 響は、2年前までは今のこの時間帯の間も睡眠中で、朝の7時頃に幼馴染みである未来に起こしてもらうというゲームにしかないようなシチュエーションを体験していた男達の儚き理想の体現者だった。

 

 しかし家を出て黎人に拾われてからの響は、黎人が朝はだらしない生活リズムで生きていたことや黎人に家事能力が無かったこと、そして黎人の現地妻の方々に鍛え上げられたことで、今ではすっかり目覚ましの音で起きれるようになったのだ。

 

 それでも、太陽が漸く頭を出し始めた時間に起きることは無い気がするが、そこは決めたことは何処までも愚直に実行する響の性格が出ていた。自身の肉体を鍛え上げることに余念が無い響は、朝早くから起きて一分一秒でも無駄にしないよう特訓を始めるのだ。

 

 ジャージに着替えた響は朝のロードワークに出掛ける。響のロードワークは、響自身のスタミナを上げる為にかなりのスピードで行われる。その為、無尽蔵なスタミナを誇る響のロードワークに最後まで付き合える者は殆どいない。これまで響の無茶なロードワークに付き合えたのは弦十郎ただ1人である。

 

 そんな響の無茶苦茶なロードワークが無事に終わる……ということは無い。忘れがちかもしれないが、響はかなりのトラブル体質、それも巻き込まれ体質なのである。

 

「ったく、誰だよ。こんなことしたの」

 

 響がロードワークの途中で見掛けた駐輪場では、留めてある筈の大量の自転車の大半が倒れており、響は悪態を吐きながらも倒れている自転車を起こしていた。

 

「ねぇ、君!ここに行きたいんだけど、道分かるかしら? 急ぎの用事があるのよ。私ってば昔から方向音痴で道に迷っちゃったの」

 

「えーっと……うん、分かるぜ。教えるよりも俺が直接案内した方が良いと思うから、俺も一緒に行くよ」

 

「ありがとう!」

 

 朝早くに家を出て道に迷った女性が持っていた行き先の書かれた紙を見て、響はスーツの女性と一緒に女性の目的地に案内をした。

 

「おいこら! 待て! 待てって言ってるだろう、がっ!!」

 

「ありがとう、坊や。お陰で助かったよ」

 

 散歩中にお爺さんから逃げ出した興奮している犬を追い掛け、響は犬本体ではなく犬に繋がっているリードを掴んで犬の動きを静止させた。

 

「くぅーん……」

 

「ほら、そんな悲しそうに鳴くなって。確かあのマンションはペットいけたよな……隣の部屋の高橋さんも猫飼ってたし。うん、お前は俺が拾ってやるから安心しろ。道端で独りぼっちってのは俺も経験がある。あれって……寂しい上に寒いよな」

 

「わふん!」

 

「ははっ、元気になったな。でも覚悟しておけよ? 俺に飼われるってことは、俺の舎弟になるってことだからな? 立派な忠犬に育ててやる。えーっと……ミライ! お前の名前はミライだ。感謝しろよ? お前に付けた名前の漢字は、俺の幼馴染みと同じなんだからな」

 

「わん!」

 

 帰途に着いた響の手には段ボールが持たれていて、その中には生後1ヶ月程の柴犬の赤ちゃんが元気に尻尾を振りながら響を見上げていた。

 

 トラブル体質故に朝の人の少ない時間からでも多くのトラブルに巻き込まれた響は、捨て犬だった子犬──ミライを伴って帰宅した。

 

 マンションの自室に帰った響は、拾ってきたミライが入ったダンボールを部屋に置き、着替えを持ってミライと一緒に浴室に入った。

 

「わふ」

 

「お前って意外と風呂……っていうか、お湯好きなのか? 凄くリラックスして無いか?」

 

 自身の汗を流す序でにミライの体を洗っていた響だったが、お湯で体を洗われている間のミライが意外にもリラックスしていることに多少驚いていた。

 

「さーてと、朝飯作るとしますか!」

 

 浴室から出てきた響は、冷蔵庫を物色しながら朝食に使う食材を取り出していく。その中には、響がよく食べている笹身(ささみ)肉もあった。

 

「今は犬用の離乳食も無いし、代わりのもので代用するか。えーっと何々、鶏肉を茹でてミキサーにかけてペースト状にすれば良いのか」

 

 響は、スマホに表示された犬の飼育法のページを見ながらそこに記されている通りに行動する。出来上がった即席のご飯を、これまたネットで調べた情報通りの量の分だけ皿に乗せ、大人しく響の足下で待っているミライの前に置く。

 

「ほれ食え。低脂質(ていししつ)高蛋白(こうたんぱく)な栄養満点の超お得な肉だ。しっかりと味わうんだぞ?」

 

「わん♪」

 

 一鳴きしてから出されたご飯を食べ始めるミライ。そんな必死で飯にがっつくミライを見て、響は頬を緩ませながらその背中を優しく撫でる。

 

 すると、ピンポーンと玄関のインターホンの音が室内に鳴り響いた。その音を聞き、ご飯に夢中になっていたミライも食事を中断させて顔を上げる。

 

「誰だ? 今は6時半だけど、こんな時間に珍しいな。あぁ、お前は気にせずにそのまま食べとけ」

 

 朝早くの何者かの訪問を疑問に思い、響は食事を中断させたミライに再び食べるように促してから玄関に向かって歩き出す。

 

 何が起こっても良いよう一応の心構えと警戒をしつつ、響は玄関の扉を開く。

 

「はーい。新聞ならお断りですよー……って、未来じゃん。どうしたんだ?」

 

「あっ、響! えーっと、ね、その……来ちゃった?」

 

 響が新聞勧誘を断るようなボヤき方をしながら扉を開けた先には、リディアンの制服に身を包んだ未来があざとい言い回しをしながら満面の笑みを浮かべて立っていた。

 

 昨夜、響は未来と別れる際に自身が現在寝食を過ごしている拠点、要するに現住所の場所を未来に教えたのだ。

 

「昨日の今日で来たのか? いや、確かに何時でも遊びに来いよって言ったけど、こんな朝早くからじゃなくてもだな……」

 

「ごめんね、響。でも、私……響と会えたのが嬉しくて。だから、つい……」

 

 最後になるに連れてどんどん尻窄みしていく今にも消え入りそうな未来の声を聞き、響は気不味そうに顔を歪めてから後頭部を掻く。

 

「別に怒ってる訳じゃない。俺も正直嬉しいさ。未来が無理してまで会いに来てくれたのはさ」

 

「響……!」

 

「けど、未来。お前、朝飯はどうしたんだ?」

 

 響はそれだけが気になった。未来が現在暮らしている寮から響の住居までは少しばかり距離がある。そして今のこの時間に来るとなると、未来は朝食をちゃんと食べてないのではないか、と響は思ったのだ。

 

「えっと、朝ご飯は食べてないんだ。今日は少しでも長く響とお喋りしたくて。でも大丈夫だよ。朝ご飯は抜いても大丈夫だし、何なら近くのコンビニで軽食でも買うから!」

 

「……」

 

「響?」

 

「……これから俺、飯食うんだけど良かったら未来も食ってくか?」

 

「えっ!? ……良いの? 迷惑じゃない?」

 

「全然迷惑じゃないさ。これから作り始めるんだから、1人分増えても特に変わりは無いしな」

 

「えぇ!? 響、お料理出来たのっ!?」

 

 未来からすれば、それが何よりも驚きだった。未来の中での響は、ちっとも家事能力の無い男の子というイメージが定着していたからである。

 

「正確には出来るようになっただな。男子三日会わざれば刮目して見よって言葉があるだろ? 2年も会ってないんだから、それこそ男は進化してるって思ってくれて良いぜ?」

 

「……」

 

「何だよ、その無言と目は。さては俺が見栄を張ってると思ってるな?」

 

「そ、そういう訳じゃないよ!?」

 

「……まぁ良いや。取り敢えず上がれよ」

 

 響は未来との会話をそこで一旦締め括り、玄関に招き入れた未来を先導して室内に戻って行く。

 

「響、ここって結構大きいよね」

 

「ん? あぁ、確かおやっさんが2LDKだって言ってたな」

 

「2LDK!?」

 

 響は何とも無さ気にそう言ったが、未来からすれば響が料理が出来ることの次くらいに驚く程のことだった。

 

 2LDK。それはマンション暮らしの人達なら半数以上の人が羨む物件である。響は以前に、弦十郎から住むならどんな場所が良いかを聞かれたことがある。その時に響は“そこそこデカい場所”でという注文をした。

 

 そんな曖昧な注文を聞き、弦十郎は二課の総力を以って迅速に事に当たり……そして見付けた。その部屋は、響の注文通り大きかった。L(リビング)D(ダイニング)K(キッチン)が完備されていて、部屋も2つあり、トイレと浴室も別だった。加えてペットも可である。

 

 響は用意された部屋の1つをトレーニングルームにしていて、無骨な筋トレ用のマシーンと様々な格闘系バトル漫画やアクション映画の収まった本棚を置いている。もう1つの部屋は、娯楽に関する物やベッド等が置かれている完全な響の自室である。

 

 響に先導されながら入ったリビングには、既に皿に乗せられていた餌を食べ終えたミライが待機していた。ミライは戻ってきた響の足下に駆け寄り、響は寄ってきたミライを抱き抱える。

 

「もう食ったのか? よっぽど腹が減ってたんだな」

 

「わふ」

 

「よしよし。良い子だ」

 

 何処か満足そうなミライを見て、響は微笑を浮かべながら頭を優しく撫でる。そんな響とミライの様子を見ながら、まだ状況がよく分かっていない未来が響に訊ねた。

 

「響、その子は?」

 

「こいつはミライ。今日からこの家で飼う俺の舎弟候補だ。仲良くしてやってくれよ?」

 

「ミライ君って言うんだ。名前とかの由来って何かあるの?」

 

「由来も何もこいつの名前は元々未来から貰ったんだ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「あぁ。未来(みく)の名前の漢字って未来(みらい)って読めるだろ? こいつ拾った時に不意に未来の顔が浮かんでさ。だから、こいつの名前をミライにしたんだ」

 

「へぇ、そうなんだ……」

 

 そんな会話をしながら、未来は響に撫でられているミライを見遣る。響に撫でられているミライの顔は、分かりやすいくらいに嬉しそうである。

 

(……良いなぁ、ミライ君。響にあんなに沢山撫でてもらえて。私も撫でて欲しいのに)

 

 響が撫でるミライを見て未来の心に黒いものが溜まっていく。それは、以前に未来が響と一緒にいる翼を見て抱いていた感情と同じもの。未来は今子犬相手に嫉妬していた。

 

「未来、はいパス」

 

「え? あっ、ちょっと!?」

 

 しかし、そんな未来の気持ちなど露知らずに響は抱いていたミライを未来に渡した。不意に起こった出来事に未来も驚き、自分が持っていた通学鞄を落としてミライを抱き抱えた。

 

「俺はこれから飯作らないとダメだから、その間はミライのことを任せるぞ」

 

 響はそう言い残して、台所へと向かって行ってしまった。一方、取り残された未来は呆然と立ち尽くしていたが、突然ミライに顔を舐められたことで正気を取り戻した。

 

「え、わっ!? ちょ、ちょっと止めて!? アハハ、(くすぐ)ったいよ!」

 

 唐突に顔を舐められて驚いた未来だったが、次第に顔を舐められることにも慣れて花のような笑顔を浮かべていた。

 

 響の朝食が出来るまでの間、未来はリビングに置かれたソファーに座りながらミライと戯れていた。最初こそ剣呑な気持ちを抱いていたが、無邪気なミライと遊んでいる内に未来の心から黒い気持ちは綺麗さっぱり払拭されていた。

 

 子犬と戯れる美少女という何にも代え難い光景を横目で見ていた響は微笑を浮かべて上機嫌に料理の工程を進める。

 

 少しして響の料理も完成し、未来と遊び疲れて眠ってしまったミライをそっとしたまま響と未来は朝食を取り始めた。

 

「美味しい! 凄く美味しいよ、響!」

 

「そっか。そいつは良かった」

 

 出された和食を口にした未来は、目を輝かせて今食べた料理を絶賛する。そこから未来は、食卓に並べられた多種多様の料理に手を出し、それら全てを絶賛した。

 

「あれもこれもそれも全部美味しい! これ全部響が作ったんだよね!?」

 

「あぁ。商店街、スーパー、デパートの色々な店梯子(はしご)して集めた食材を使って作ったんだ。後は食材を買うのに当たって財布に優しいよう特売品とかも狙ってだな」

 

「へぇ。態々色んなところ歩き回ったんだ。それに特売品狙いって何だか主夫みたいだね、響」

 

「主夫ねぇ……何だかヒモみたいな言われ方で嫌だな」

 

「えっ、あ、そ、そんなつもりで言ったんじゃないよ!? それに主夫は別に働いてない人のことを指す言葉じゃないから!?」

 

 時間も経って朝食も終わり、残った少しの時間の間駄弁り続けた響は玄関まで移動して未来を見送りに来ていた。

 

「響は今日どんな予定なの?」

 

「午前中は取り敢えずミライを近くの動物病院に連れてく予定。午後からはまぁいつも通り二課の本部に行って、ノイズが何時出ても良いよう待機しておきながら特訓するかな」

 

「そうなんだ。……ねぇ、響」

 

「何だ?」

 

「もしね、今日何も起きなくて響が暇だったら一緒にご飯食べに行かない? お勧めの店があるんだ」

 

「おっ、良いねえ! 未来お勧めの店ってことは結構美味いんだろうなぁ!」

 

「うん! 物凄く美味しいんだ。じゃあ、学校が終わったら連絡するから、その時に迎えに来て欲しいな。約束だよ?」

 

「あぁ分かった。約束だ」

 

 靴を履いて玄関に立った未来が右手の小指を響に向けて差し出し、未来の意図を悟った響も小指を出した。響と未来は差し出した小指を絡ませ合い、小さく上下に動かして指切りをした。

 

「じゃ、行ってくるね響」

 

 指切りを終え、未来は最後に別れの挨拶をしてから扉を開けて外に出る。

 

「あぁ。行ってらっしゃい未来」

 

「うん!」

 

 対して響は、微笑を浮かべて手を振りながら未来を見送る。見送ってくれる響を見て、未来は満面の笑みを浮かべながら元気良く頷いて出発した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 時間は午後を回り、未来や翼のような学生達が午後からの授業を受け始める時間帯になっていた。

 

 特訓に勤しんで昼食を食べるのを忘れていた響は、空腹で音を鳴らしまくる腹を黙らせる為にかなり遅めの昼食を取ろうと食堂に訪れていた。

 

「あぁー……腹減った。何食べようかなー……って、あれ?」

 

「ん? 響君じゃないか。どうしたんだ、こんな時間に?」

 

「それはこっちの台詞だっておやっさん」

 

 響がやって来た食堂には、料理が乗せられた皿を乗せているお盆を持った弦十郎がいた。

 

「俺か? 少々仕事が長引いてな。漸くこれから遅めの昼飯といったところだ」

 

「何だ、おやっさんもか。俺も特訓に熱中し過ぎたせいで飯食うのも忘れててさ。俺もこれから昼飯なんだ」

 

「そうだったのか。なら、偶には一緒に飯でもどうだ?」

 

「良いぜ。俺も大賛成だ」

 

 響は弦十郎と同様にお盆を持ち、食堂の小母ちゃんに自分が食べたいものを頼んで料理を受け取り、弦十郎が先に着席している席の前に向かい合うように座った。

 

「「いたただきます!」」

 

 響と弦十郎は合掌をしてから目の前の料理に手を付け始めた。お互いに話題を振って他愛無い会話をしながら食事を進めていく。

 

 食事を取り始めてから20分程過ぎ、弦十郎は昼飯を食べ終えて湯呑みでお茶を飲み、響はお代わりをして未だに昼飯を食べ続けていた。

 

「そういえば、おやっさんに聞きたいことがあったんだ」

 

「何だ? 俺に答えられることなら何でも聞いていくれ」

 

「んじゃ遠慮無く……ここ最近の二課の話を聞いてるとさ、二課は何かとクリスのことを把握してるっぽいよな。何で?」

 

 響は単刀直入に弦十郎に訊ねた。響だって無能じゃない。気になることを結果が出るまで他人任せにしてるような人間ではない。寧ろ、響は気になることにはとことん自分から首を突っ込んでいくタイプである。

 

 響の問い掛けに弦十郎は何も答えず沈黙した。その間も響は昼飯を食べ続けていたが、決して話を急かすようなことはしなかった。

 

 弦十郎は熟考した。響にクリスと二課の繋がりに関する詳細を話すかどうかを。詳細を話すのは簡単である。しかし、容易には話せない。クリスに(まつ)わることには未知数の危険が付いて回るからだった。

 

 弦十郎は響のことを1人の部下として、自身の弟子として信用し大切にしている。大切だからこそ響を危険なことに巻き込むようなことはしたくなかった。

 

 だが、弦十郎は自身を射抜く真っ直ぐで強い輝きを宿した目を見てしまった。その響の目には、真実を知ろうとする強い意志と弦十郎に対する全面的な信頼が垣間見えた。

 

 故に弦十郎は響に話すことを決めた。響なら、例えどんな危険がやって来ようと大丈夫だと信じて。

 

「分かった。全てを話そう。先ず、彼女の両親についてから話す必要が──」

 

「父親がヴァイオリニストの雪音雅律、母親が声楽家のソネット・M・ユキネ。今から8年前にNGO活動でバルベルデに来訪してた時に紛争に巻き込まれて死んだんだろ?」

 

「ッ!? 知っていたのか、響君!?」

 

「あぁ。兄貴から情報を貰った」

 

「黎人から、だと? どうして黎人がそんなことを?」

 

「詳しいことは面倒だから省くけど、兄貴はクリスの親父さんとダチ公だったらしい。その繋がりで1人生き残ったクリスを今も捜してんだ」

 

「そうだったのか」

 

 響はそこから自分が今知っている内容を話した。それは弦十郎の手間を省き、余計な手間を取らせない為の響からの配慮だった。

 

「成る程な。世間に知れ渡ってることは話す必要が無さそうか」

 

「あぁ。だから、核心を話してくれ」

 

「……当時の俺達はシンフォギア装者を捜す為に音楽会のサラブレットに注目していた。その過程で天涯孤独になった少女の身元引き受け人として手を上げた」

 

「けど、事はそう上手く運ばずクリスは帰国直後に行方不明になった、か」

 

「その通りだ。当時の俺達も慌てたもんだ。二課からも相当数の捜査員が駆り出されたが、この件に関わった多くの捜査員が死亡、(ある)いは行方不明という最悪の結末で幕を引くことになった」

 

「……最悪だな。結局何人残ったんだ?」

 

「……俺だけだ」

 

「……おやっさんがクリスを何かと気に掛けてるのもそれが理由か?」

 

「その通りだ。引き受けた仕事をやり遂げるのが大人の務めだからな」

 

 大人の務めか、と響は言葉を漏らす。務めを果たすということは、つまり筋を通すということである。筋を通す、道理を貫く、務めを果たすという言葉は響の信念を静かに震わせた。何故なら、響はそういった言葉が大好きだからである。

 

「おやっさんは、クリスをどうしたいんだ?」

 

「俺は彼女を救い出したい。ただそれだけだ」

 

「そっか」

 

 響は弦十郎に短く返して、最後に残った昼飯の卵かけ御飯を口の中に掻き込み、中身が空になった丼を勢い良くお盆の上に置く。そして近くにあったコップの水も飲み干してから改めて口を開いた。

 

「分かった。おやっさん、俺にクリスの件を任せてくれねえか?」

 

「どういうことだ?」

 

「どうもこうも無えよ。俺がおやっさんの仕事を引き継ぐ。そんでもって俺がクリスの奴を救ってやるんだよ!」

 

 響は快活な笑みを浮かべながらそうしっかりと宣言した。これには弦十郎も思わず絶句したが、直ぐに気を持ち直した。

 

「分かってるのか、響君? この件に関わるのはかなりの危険が伴うんだぞ?」

 

「分かってる。んなことは百も承知だ。けど、知っちまったんだよ。あの兄貴が信じられねえくらいに落ち込んで、後悔してることを。弟分なら兄貴分の失敗の尻拭いくらい出来ねえとな。それこそ兄貴に笑われる」

 

 響は知ってしまった。自身の兄貴が道無き荒野を進み行く過程で落としたものを。その落としたものを必死に探そうとしていることを。ならば、その後を追っている響が落としたものをしっかりと拾ってあげなくてはダメなのだ。

 

「そうだとしても、先も言ったが俺は大人として務めを果たす責任があるんだ」

 

「それも分かってる。けど、今のおやっさんの手はやること一杯過ぎて、両手で抱えられる量もキャパオーバー寸前だろ? なら、少しは俺に分けてくれよ」

 

「響君……」

 

「迷惑掛けてる俺が言うのもなんだけど、おやっさんは色々と背負い込み過ぎだ。だから、少しは俺に任せてくれねえか?」

 

 その時、弦十郎は己が友である名瀬黎人を響から感じた。姿形は似ても似つかない2人だが、弦十郎は響の言葉に、響の目に映る輝きに黎人と同じものを見た。

 

「……何故だろうな。何時もの俺なら絶対に任せたりすることは無いんだが、不思議と今の響君になら任せられると思っている自分がいるようだ。これも響君に黎人の面影があるせいなのかもな」

 

「おやっさん!」

 

「しかし、任せるからにはしっかりと務めを果たしてもらうぞ?」

 

「あぁ。手抜きも妥協も絶対しねえ。そんなことをしたら筋が通らねえ。やるからにはベストを尽くす。おやっさんや死んでいった二課の奴らの分も俺が務めを果たす。そして絶対にクリスを救い出してやる!」

 

「だが決して無理はするな。無理だと感じたら俺達を頼れ。それが条件だ」

 

「あぁ。男同士の約束だ」

 

 響は再度快活な笑みを浮かべて拳を突き出し、フッと笑った弦十郎は穏やかな笑みを浮かべながら突き出された響の拳に自身の拳を打ち合わせた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 弦十郎との昼食を終えて午後からも特訓に精を出していた響は、夕方の時間になって届いた未来からのメッセージを見て二課本部を出発した。

 

 本部から直接地上に繋がるルートから出て、響はリディアンの校門前で待機する。

 

 少しここで考えよう。私立リディアン音楽院は男子禁制の女の花園、要するに女子校である。そんな女子校の前で男が1人で立っていたらどうなるだろうか?

 

 答えはシンプル。視線が集まるのだ。それも大多数からである。女子校であるが故に男子との接点が殆ど欠片も無い女の子達からすれば、男の響が校門前にいるというのも物珍しい光景になるのだ。

 

 加えて言えば、響の顔はそこそこイケてる部類に入るものである。評価するならば、上の下の上といったところだろうか。そんなそこそこイケてる顔立ちの響は、物珍しさとの相乗効果によって校門前を通過する女子生徒達の視線を釘付けにしていた。

 

(……気不味い)

 

 しかし、女の子達からの視線を釘付けにしている張本人の響は果てしない気不味さを感じていた。

 

 無理も無いだろう。幾らノイズと戦うシンフォギアの戦士と言っても、響の中身は思春期真っ盛りの男の子である。況してや女性経験皆無である響には、この状況に耐えられるだけのメンタルは無かった。

 

 立花響、15歳、童貞。彼の中では、女の子>ノイズという謎の関係が成立しようとしていた。

 

「立花じゃない。どうかしたの?」

 

 すると、そんな気不味い状況の響に声が掛けられた。名字を呼ばれた響が振り向いた先には、シンフォギア装者である響の先輩であり、現在は休養中の日本を代表するトップアーティストの翼が佇んでいた。

 

「翼さん!」

 

 翼の存在に気付いた響も翼の名を呼び、名を呼ばれた翼はゆっくりと響の下へ歩み寄った。

 

「こんな時間にここにいるなんてどうかしたの? 私に何か用でもあるの?」

 

「いや、今回は翼さんに用があって来た訳じゃないんだ。これから未来と飯食いに行く約束しててさ。それで授業が終わったらしいから、未来を迎えに来たんだ」

 

「……そう」

 

 響の話を聞いていた翼の反応が少し遅れる。響の口から未来の名前が出てきて、翼は胸の内側に妙な違和感を感じていた。

 

(……どうして? 昨日立花と話してた時は胸の奥が暖かかったのに……今は何だか苦しい。それに少し苛々してる……凄く気分が悪い。最近の私は少し……いえ、かなり可笑しいわ。自分で自分が分からない。私は一体どうなってしまっているの……?)

 

 昨日とは丸で逆の気持ちを抱いてる翼は、自身の心が自身で把握出来ていないことに戸惑い、胸の奥で生まれた新たな疑問が翼の心の中に積み重なっていく。

 

 翼は知らない。翼が昨日感じてた胸の温もりの原因を。翼が今感じてる胸の苦しみの理由を。知らない故に、今翼が感じている疑問が全く同じものを起源としているということが分からなかった。

 

「良かったら翼さんも来ないか? 未来も俺と一緒で翼さんのファンだからきっと喜ぶと思うし、前に飯奢るって約束したのに結局有耶無耶になっちまったしさ」

 

「……いえ、遠慮しとくわ。折角仲直り出来たんだから、2人で楽しんできなさい。それに、私も今日は少し用事があるから」

 

 響の誘いを翼は断った。不快な気持ちを抱え込みながらも、波風立てぬように言葉を選んで返した翼だったが、その胸中はますます不快な気持ちを募らせていた。

 

「そっか。じゃあ今度また誘うから、その時には一緒に飯食いに行ってくれよな?」

 

「えぇ……その時を楽しみにしてるわ……」

 

 この時、翼の胸には少しの痛みが疼いていた。翼は用事があると言ったが、それは嘘である。その嘘が翼の胸の内に痛みを与えていた。

 

 翼は響との会話を締め括り、その場から立ち去っていった。心無しかその歩幅は何時も翼のものよりも大きく、尚且つとても早足なものであった。

 

「何だか元気無かったな、翼さん。疲れてるのか、それとも今日ある用事ってのがよっぽど忙しいのか。もし悩み事があるなら相談してほしいけど……って、あら?」

 

 立ち去っていった翼の背中を見送っていた響は、翼の様子が何時もと違うことに感付いて翼のことを心配していたが、先よりも視線が集まっていたことに気が付いた。

 

「あれって風鳴翼さんよね?」

 

「うん。風鳴翼で間違い無いわ」

 

「あの風鳴翼と気軽に話すなんて……あの人、何なの?」

 

「弟さん……にしては全然似てないわね。髪も見た目も」

 

「さん付けしてたってことは、アーティストとしての後輩さんじゃないかしら?」

 

「でも、さん付け以外は全部タメ口みたいなものだったわよ……」

 

「も、もしかして……翼さんの彼氏とか!?」

 

「えぇ!? ありえないわよ!? だってそんなこと何処にも載ってなかったわ!」

 

「誰にも言ってなかっただけで、実は彼氏持ちだったのかも……」

 

 響に視線を向ける周辺の女の子達が根拠の無い推論を口々に語り合い始め、それが後から校門前にやって来た女生徒達にどんどん周りに伝播していく。

 

(これ、普通に不味いよな? いや、不味過ぎるだろ!? 何人前で普通にタメ口で話してるんだよ、俺!? 翼さんが日本を代表する歌姫だってことすっかり忘れてた!? どうすんだよ!? 周りの子に俺が翼さんの彼氏だどうとか色々言われてんじゃねえか!? どう責任取るんだよ、これ!? 迂闊な言動と行動が面倒事を招くってのは俺が1番知ってることなのに!?)

 

 自身の迂闊な行動を恥じ、この事態をどう収拾するか考える響。このまま放置していれば、今回の出来事が思わぬ不和を生み、下手をするとスキャンダルとして取り上げられて翼の名誉に傷が付く可能性もあるのである。

 

 幾ら普通に話しているとはいえ、ただの知り合いや友達という何の問題も無い関係であるということも推察出来るのだが、女の子の脳みそというのはそういった中途半端な関係性を思い付かないものだった。

 

 響がこの事態を迅速に解決しようとしていると、リディアンの校舎の方から今日で2度目の響の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「響ー!」

 

「あっ、未来!?」

 

 響は慌てふためきながら振り向き、未来は陸上部で鍛え上げられた持ち前の速さで響の下に直様駆け寄った。

 

「響、お待たせ。ごめんね、帰りの準備に少し手間取っちゃって」

 

「いや、良いさ。俺が少し早く着き過ぎただけだから」

 

「ありがと♪ それじゃ早く行こ! 私もうお腹ペコペコなんだ!」

 

 すると、未来は隙だらけの響の腕を抱き締めるように自身の腕を絡ませ、そのまま響を自身の行きたい方角へ引っ張っていく。

 

「ちょ、未来!? おいってば!?」

 

 突如腕を絡ませてきた未来に驚き、響は腕を離してもらおうと未来に呼び掛けたが、未来は知らんこっちゃないと言わんばかりに響の呼び掛けに応じずそのままぐいぐいと響を引っ張る。

 

 今の響の膂力を以てすれば未来の細腕での拘束程度簡単に振り払えるだろうが、響は暴力的な解決法を却下して、口で文句を言いながらも結果的に未来のされるがままにされていた。

 

 しかし、そんな響のされるがままの状態は突然終わりを迎えた。リディアンから距離が開き、校門周辺に固まっていた女生徒の集団から完全に見えなくなった場所で未来は響の腕を離した。

 

「ここまで来ればもう大丈夫かな?」

 

「大丈夫って何がだ?」

 

「だってほら、響さっき困ってたでしょ? だから、ちょっとした手助けしてあげたの」

 

 先程の騒ぎを未来は校舎内の窓越しから見ていた。その騒ぎの中心にいる人物が響であると分かり、未来は友達との会話を無理に打ち切って響の下に駆けつけたのだ。

 

「助けてくれたのは嬉しいけどさ、何も腕を絡ませるなんてことまでしなくて良かったんじゃないか?」

 

「そんなこと無いよ。響は男の子だから分からないと思うけど、あれくらいしないと女の子の誤解を解くことって出来ないんだよ? ああでもしないと響も翼さんも後々大変だったし」

 

「そうなのか……何かごめんな。未来にまで迷惑掛けて」

 

「違うよ、響。ここは謝るところじゃなくて、お礼を言うところ。私は謝罪よりもお礼の方が欲しいな」

 

「……そうだな。さっきの謝罪は取り消す。ありがとう、未来」

 

「うん♪」

 

 響は未来に言われた通り謝罪ではなくお礼を言い、未来は満足そうに頷いてご機嫌になる。

 

「でも良かったのか? 今度は未来が何か言われるかもしれないぞ?」

 

「私は別に良いの。有る事無い事言われるのは慣れてるもの」

 

 2年前の惨劇の時、実は響を庇っていた未来も巻き込まれる形で様々な罵詈雑言を吐かれ、根も葉もない噂を周りに広められていたこともあった。

 

 だが、今回の件は別に当時のような汚い噂では無く、飽く迄ちょっとした話題に花を咲かせる女子の恋バナのネタになるだけ故に未来はそこまで気にしていなかった。

 

「それにね、私としては……」

 

「私としては……何だよ?」

 

「うーん……秘密♪」

 

「何だよ、それ。教えてくれよ。気になるだろ?」

 

「だーめ♪ 響が自分で気付くべきことだもん」

 

 今は自身の本音を敢えて語らない未来。幼馴染みと言っても未来は女の子であり、夢見る乙女である。そんな夢見る乙女は自分から全てを語るのでは無く、相手が自分の気持ちに気付いてくれるのを待つことにした。

 

 隠すべき秘密も無くなり、拗れた関係も元通りになった響と未来は目的地に着くまでの間、離れ離れだった2年間に起きた様々な話題で盛り上がった。未来はリディアンに入学してからのことを話し、響はある意味で冒険譚とも言える兄貴分との思い出を語った。

 

「あ、着いた! ここだよ、響!」

 

「ん? ここって……」

 

 話に夢中になっている間に目的地に到着した2人。未来が響を連れてきた場所は、以前に響が初めて翼のお見舞いに行く際に寄ったお好み焼き屋である“ふらわー”だった。

 

「未来のお勧めの店ってふらわーだったのか」

 

「あれ? もしかして響も来たことあるの?」

 

「あぁ。前に1回だけ来たことがあるんだ。その時は余りにもここのお好み焼きが美味過ぎて何回もお代わりしたんだ」

 

「そうだったんだ。ごめんね、折角楽しみにしてくれてたのに知ってるお店で」

 

「いや、別に良いよ。寧ろ知ってる店だからこそ変に緊張することも無いしさ。ほら、早く中に入ろうぜ?」

 

「うん!」

 

 浮かない顔をする未来を元気付け、未来の背中を押しながら響は“ふらわー”に入店する。店の中には他のお客はおらず、以前に響が来た時と同様に店主である小母ちゃんが1人で作業をしていた。

 

「あら、いらっしゃい! 未来ちゃんに……響君だったわよね?」

 

「あぁ。久しぶり、小母ちゃん」

 

 響からすれば昨日に小母ちゃんと会っているのだが、その時の小母ちゃんは気絶していた為、響は敢えて久しぶりと言ったのである。

 

「仲良くお店に入ってきたってことは2人は知り合いだったのかい?」

 

「うん。そうだよ、小母ちゃん。響は私の幼馴染みなんだ」

 

「そうかい。あ、もしかして響君は未来ちゃんの彼氏なのかい?」

 

「か、か、彼氏!? えと、その、あの……」

 

 響が彼氏なのかと訊ねられた未来は途端に顔が真っ赤になり、しどろもどろな口調で言い淀んでしまう。

 

「俺が未来の彼氏? 違う違う。冗談は止してくれよ、小母ちゃん。俺は未来の幼馴染みで親友。それ以上でもそれ以下でもないさ。それに俺なんかが彼氏だなんて未来が可哀想だろ? 俺みたいな奴に可愛くて優しい未来は勿体無いって」

 

 対して響は小母ちゃんの言葉を冗談として受け取り、笑いながら自身と未来との関係性を訂正する。すると、隣で響の発言を聞いていた未来の顔が一気に不機嫌なものに変わり、そのまま思いっきり響の足の爪先を踵部分で踏み付けた。

 

「痛ってぇ!!? 急に何すんだよ、未来!?」

 

「別にー。何でも無いよーだ。ふん!」

 

 足を踏み付けられたことを抗議しようとした響だったが、響の知らぬ間に未来が不機嫌になっていることに気付いて結局何も聞けなかった。

 

「何だい……。ご機嫌斜め30°だな」

 

「こりゃ前途多難だねぇ……」

 

「ん? 何がだ、小母ちゃん?」

 

「響君は気にせんで良いよ。未来ちゃん、小母ちゃんは未来ちゃんのこと応援してるから頑張るんだよ」

 

「ありがとう、小母ちゃん。私、頑張るよ」

 

 未来と小母ちゃんが2人で話し込み始めてしまい、完全に蚊帳の外になった響は横から2人の会話を聞いていたが終始話に付いていくことは出来なかった。

 

 少しして未来と小母ちゃんの会話も一段落し、小母ちゃんは響と未来の注文を聞いてお好み焼きを作り始め、響と未来は小母ちゃんがお好み焼きを作る光景を眺めながら完成を待つ。

 

「未来、さっきはごめんな。何でかは分からないけど、未来を怒らせるようなこと言ったから怒ったんだろ? だからさ、そのお詫びとして今日の飯は俺が奢るよ」

 

「えっ!? いいよ! 何も言わずに怒った私も悪いのに。それにお金だって……」

 

「その辺は大丈夫だって。こう見えて結構潤ってるからな。だから遠慮すんな」

 

 響は装者として戦うことで政府から報酬を貰っている。その額は凄まじいもので、響が少々食費に費やし過ぎたとしても全くダメージにならない程である。

 

 加えて響は兄貴分である黎人の仕事を手伝って働いた分だけの報酬を貰っていた。その元々あった貯金に、装者としての報酬が加算される故に響のお財布事情はかなり潤っているのだ。

 

「……じゃあ、今回はご馳走になるね?」

 

「あぁ。俺のことは気にせず沢山食べてくれ」

 

 すると、響が未来や小母ちゃんから視線を逸らして店の外を横目で見遣った。響の視線が外に向けられたのを不思議に思った未来は、その理由を響に訊ねる。

 

「どうしたの、響?」

 

「なぁ、未来。さっきからずっと気になってたんだけど、外から俺達のこと見てるのって未来の友達か?」

 

「え?」

 

 そう響に言われた未来は、響が見ていたように自身も視線を外の方へ向ける。未来の視線の先には、今の未来と同じようにリディアンの制服を着ている3人の女の子がいた。その女の子達はあたふたと慌てふためている。

 

「えぇ!? 何で皆がいるの!?」

 

「やっぱ知り合いか。リディアンでの新しい友達か?」

 

「うん。皆とっても良い子達なの」

 

 そう述べる未来の顔は、先の驚いていた表情から一変してとても優しい表情をしていた。それだけであの子達との仲の良さが響には理解出来た。

 

「そっか。折角だし、あの子達も誘って皆で食うか!」

 

「えぇ!?」

 

「何で驚くんだよ?」

 

「だって、折角響と2人きりのご飯だったから……」

 

「……まぁ、俺と2人きり楽しみたいって気持ちは嬉しいけどさ、飯は大勢で食べた方が美味しいだろ? それに未来の友達なら、俺も挨拶しておきたいからさ」

 

「響……」

 

「一緒に飯食いに行きたいなら、今度またどっか一緒に行こうぜ? その時は俺のお勧めの店に連れてってやるから。だから──」

 

 そこで響は一旦会話を打ち切り、机を正面とした状態から未来が正面に来るように体ごと向き直る。そして、未来の頭にそっと手を置いて優しく撫で始める。

 

「また今度な!」

 

 響は未来の頭を撫でながらそう笑い掛けた。響の太陽のような眩しい笑顔を見て、それだけで未来の中にあった鬱屈とした気持ちは綺麗さっぱり消え去っていた。

 

 大好きな響の笑顔を見て、響の大きな手に撫でられて、自分が大好きなものをこの場で味わい尽くした未来には、もう不満な気持ちは一切無かった。

 

「仕方無いなぁ。分かった。響のしたいようにして良いよ」

 

「ありがとな、未来」

 

 響は未来にお礼を述べてから、再度視線を店の外にいる3人に向けて手招きした。響に手招きされて最初は戸惑っていた3人だったが、話し合いをしている間に何かを決心したかのような顔付きに変わり、その仲のリーダーっぽい子を先頭にして店の中に入ってきた。

 

「えーっと、その……手招きされたっぽいから入ってきました。はい……」

 

 響の前までやって来た先頭に立つ女の子は、気不味そうに苦笑いをしながらそう言った。対して響は、笑みを浮かべながら言葉を返した。

 

「あぁ、手招きした。ありがと、勘違いせずに入ってきてくれて」

 

 響にそう言われ、後ろにいる2人も含めて女の子達はどっと疲れたようにため息を吐いた。

 

「良かったですわ。もしかすると、さっきのは手招きじゃなくて何処かへ行けという意味のサインだったのではと思っていましたので……」

 

「確かにややこしかったかもな。今度からは気を付けるよ。それで? どうして3人は俺と未来を着けてきたんだ? それもリディアンの校門前から」

 

 響がそう言った瞬間、3人だけではなく未来も驚いた。

 

「ど、ど、どうして分かったの!?」

 

「切っ掛けは視線を感じたことだな。自分で言うのも何だけど、俺って割と視線とかには敏感だから。気になってそれとなく視線を向けたら、電柱とか看板の裏に隠れてるお前らがいたんだ。視線もそうだけど、隠れ方とかも割と御座形だったから直ぐに着けられてるんだって分かった」

 

「そ、そんな!? あの完璧な隠密を見破るだなんて!?」

 

 後ろにいるツインテールの女の子が、まるで推理物のアニメに出てくる犯人のようなリアクションを取った。

 

 実際彼女達の尾行は素人にしては良い線をいっていた。しかし、相手はどんな依頼でも受ける男の下で手伝いをしていた響である。響の今までの人生で培われた経験と、元々潜在的に備わっていた獣並みの感性から生まれる第六感の前では、良い線をいく程度の素人の隠密行動など通用しなかった。

 

「あ、自己紹介がまだだったな。俺は立花響。未来とは幼馴染みで、今年の4月頃からこの街で暮らしてる」

 

「ご丁寧にどうも。私は安藤(あんどう)創世(くりよ)です」

 

 先頭に立っていた女の子──安藤創世は、自己紹介をしてくれた響に自身も自己紹介を返す。その創世に続いて、後ろにいた2人も自己紹介をする。

 

寺島(てらしま)詩織(しおり)と申します。宜しくお願いします、立花さん」

 

「私は板場(いたば)弓美(ゆみ)よ。宜しく響」

 

 後ろにいる金髪の女の子──寺島詩織は丁寧に自己紹介をし、もう1人のツインテールの女の子──板場弓美は気兼ね無く快活に自己紹介をした。

 

「宜しくな、創世、詩織、弓美」

 

「それにしても、最初見た時は驚いたよ。ちょっと急いでたヒナが気になって後を追ったら、見覚えの無い男の子と凄く仲良さそうに歩いてたんだもん」

 

「ヒナ? ……あぁ、小日向(こ“ひな”た)だからヒナか」

 

「その通り! そうだなぁ……名前が響だから、ビッキーって呼んで良い?」

 

「ビッキー、か。良いぜ。好きに呼んでくれ」

 

「うん、分かった。宜しくね、ビッキー」

 

(……久しぶりだな。何の悪意も無く名前と名字で以外で呼ばれるの)

 

 愛称で呼ばれたことを響は感慨深く感じていた。ここ2年間の響は、他者から呼ばれる際に名前や名字以外だと蔑称で呼ばれることの方が多かった。故に何の悪意も無く愛称で呼んでもらえたことが胸にじんわりと響いていた。

 

「3人共、この後って予定あるのか?」

 

「ううん。私はこの後の予定は無いよ」

 

「私もありません」

 

「私も予定とかは特には無いわね」

 

「そっか。なら、一緒にお好み焼き食べないか? 折角知り合ったんだから、お前らとはしっかりと友達になっときたい。それにリディアンでの未来の話とかも聞きたいしさ」

 

 響が微笑を浮かべながら快く創世達を食事に誘い、3人は少し考える素振りを見せる。

 

「うーん、私的には別に良いんだけど……でも、邪魔にならないかな? 折角2人で楽しもうとしてたのに」

 

「邪魔な訳無いだろ? それに2人で飯食う機会なんて、これから幾らでもあるさ」

 

「ヒナもそれで良いの?」

 

「うん。さっき響に提案されて、私も了承済みだから」

 

 問われた未来は笑顔で返し、それを見た創世達も考える素振りを解いた。

 

「分かった。じゃーお言葉に甘えさせてもらうね。私達も2人の話とか色々聞きたいし。ね?」

 

「はい! 特に御二人の関係性についてなどを詳しく!」

 

 響からおっとりしたタイプの女の子に見えていた詩織の様子がやや興奮気味なものに変わっていた。

 

 やはり女の子ということもあり、恋バナやそういった系統のお話に興味が惹かれるというのも仕方の無いことだろう。加えて言えば、響は気にしていないが響と未来との距離感が物理的にも精神的にも近いことがそれを助長させているのだろう。そう、幾ら幼馴染みとはいえ、響と未来の距離感は余りにも近過ぎるのだ。

 

「よし、決まりだ! 全員代金とか気にせずに食べてくれ! 今回の飯代は全部俺が持つから心配しなくて良いぞ!」

 

「本当に!? 響、あんたってば太っ腹ね! ごちになりまーす!」

 

「ちょっと板場さん! 流石にそれは……」

 

「そうだよ。ビッキー、流石にこの人数分は……」

 

冇問題(モーマンタイ)! 俺ってこう見えて結構稼いでるから! それに女の子に金出させたりするなって兄貴に言われてるんだ。だから気にせずにさ。な?」

 

 少し強引だったが、それでも響の満面の笑みと自信たっぷりな物言いが妙な納得感を与え、創世と詩織は先の弓美のように今回は響の言葉に甘えることにした。

 

「……ビッキーもこう言ってるし、今回はビッキーを信じて、ビッキーのお言葉に甘えちゃおっかな?」

 

「そうですね。折角殿方がこうまで言って下さってるので、ここはお言葉に甘えましょう」

 

「人数が増えたんなら、奥の方を使いなさいな。一列に並ぶより、全員で1個のテーブルを囲んだ方が食事も美味しいからね」

 

「そうだな。小母ちゃんの言う通り、奥の方を使わせてもらうか」

 

「そうだね。ありがと、小母ちゃん」

 

「どういたしまして」

 

 創世と詩織と弓美の3人も加わり人数が増えたのを見て、小母ちゃんは店の奥の方にある座敷で全員でテーブルを囲んで食事をすることを提案し、響と未来は小母ちゃんの提案に乗ることにした。

 

 その後、座敷まで移動した響達は注文したおこみ焼きを食べながら、他愛無い世間話や思い出話などに花を咲かせて友好を深め合ったのだった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、犬を飼う
──犬の名前はミライ。漢字にすれば未来。幼馴染みリスペクトである。

(2)響、弦十郎と男同士の誓いを交わす
──兄貴分の想いと師匠の役目を継ぎ、響は1人の少女の為に奔走を開始する。

(3)響、3人組と友達になる
──ここで創世、詩織、弓美の3人も本格的に登場です。3人のことはもっと早々に本格的に出したかったけど、今作ビッキーはリディアンに通って無いので出すのが難しかったんですよね。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 393の通い妻生活が始まりました。寮の門限は守るのでご安心下さい。

 翼さんにも色々と異変が出始めました。彼女がこの異変の真相に辿り着くの何時になることやら……。

 クリスちゃん今回名前しか出てない。クリスちゃん成分が足りない……。

 次回は、ストーリーに戻っていきます。次回はもっと早めに投稿する所存ですが、過度な期待はせず出てたら良いなぐらいの気持ちでお待ち下さい。

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 18 未だ届かぬ手

 また時間が掛かってしまった……。パソコンぶっ壊れるし、小説のデータは何度も消えるしで踏んだり蹴ったりですよ。

 前回にもっと早めに投稿するとか言っといてこの体たらくです。大学のゼミ決めなきゃいけなかったり、インターンだったり、ポートフォリオ作ったりで忙しかったのですが、所詮は言い訳にしかなりません。本当にすみませんでした。

 前回みたいな長ったらしい文章はきっと皆さんも好きじゃないので、そろそろ本編に入っていきます。

 それでは、どうぞ。


 その日、響は雨模様の空の下を傘を差しながら歩いていた。

 

「〜♪」

 

 童謡を思わせる何処か陽気で子供っぽい鼻歌を歌いながら、響はそこそこ勢いのある雨の中を進んで行く。その肩には、そこそこ大きいショルダーバッグが掛けられている。

 

 すると、響はある程度まで進んだところで唐突に足を止め、懐からスマホを取り出した。

 

「……確か、ここだったよな」

 

 スマホを弄っている響は、スマホに表示された情報と地図、それと現時点で自身がいる場所と建造物を見比べながら上を見上げた。

 

 響が見上げた先には、既に無人となり廃墟と化したかなりの大きさのマンションが建っていた。無人故に人気が全く無いそのマンションは、夜になれば幽霊でも出てきそうな雰囲気が漂っている。

 

「……」

 

 足を止めていた響は、何も言わずに触っていたスマホを懐のポケットに入れ、眼前に聳え立つ廃墟のマンションに向かって再び歩き始めた。

 

 その無人となったマンションの一室には、1人の少女が毛布に(くる)まりながら畳の上に座り込んでいた。その少女は、今や二課が総力を以って行方を追っている雪音クリスだった。

 

 クリスの周りには沢山の紙袋やビニール袋、プラスチック容器等が乱雑に広げられていた。その何れもが食べ物が入っていたものであり、既にその中身は空になっている。加えて言うと、中には賞味期限が過ぎてからそれなりに時が経過しているものまであった。

 

 クリスは強気な眼差しで窓から見える外を真っ直ぐ見詰めていたが、突然クリスのお腹が可愛らしく音を鳴らした。ここ最近のクリスは満足に食事を取ることが出来ずにいて、常に満たされない空腹を感じていた。

 

 そして、遂に今日食べるものが無くなり、クリスのお腹は空腹のピークを迎えたのである。

 

 空腹になると元気が無くなるのが生き物であり、人間という生き物であるクリスの顔からも何処か寂しそうで元気の無い表情に変わっていった。

 

 だが、突如クリスが潜伏している1室の部屋の扉が開く音が室内に響いた。扉が開く音を聞いたクリスは、直様毛布から抜け出して警戒を深め、壁を背にしながら室内に入ってきた何者かを待ち構える。

 

 木の床がギシギシとなる音は次第に大きくなっていて、徐々にクリスのいるリビング兼和室の1室に向かって近付いてきている。

 

 意を決したクリスが侵入してきた相手に対して先手を打とうとする。しかし、クリスが手を下す前に侵入者はずかずかとクリスのいる部屋に入ってきた。

 

「やっほー! 元気にしてたかクリスー……って、そんなところで何してるんだよ?」

 

「お前!? どうしてここが!?」

 

 無遠慮に室内に入ってきたのは、何と響だった。

 

「どうしても何もお前を捜しに来たんだよ」

 

「何であたしがいる場所が、ここだって分かった……!?」

 

「それは俺も知らない。俺は二課の方から教えてもらった情報に従ってここまで来たんだからな。まぁ強いて言うなら、相手が悪かったってことだろ。どうやら二課の本分ってどっちかって言うと、情報系みたいだからな」

 

 先に響が見ていたスマホには、二課が掴んだクリスの動向と潜伏場所と思われる情報が表示させられていて、響はその情報を基にクリスのいるこの場所までたどり着いたのである。

 

「何しにここに来やがった……!!」

 

 改めて警戒を深めたクリスは、次にここにやって来た目的を響に訊ねた。響は言葉では何も答えず、代わりに肩から掛けていた大きめのショルダーバッグから赤色の大きな包みを1つ取り出してクリスに差し出した。

 

「何だよ、これ……?」

 

「ほい、差し入れ。腹減ってるんじゃないかと思って弁当作ってきたんだ。良かったら一緒に食おうぜ」

 

 響が差し出したのは、響が自ら手作りした手作り弁当だった。しかし、クリスは響が差し出した弁当を受け取らず、弁当を響に押し返した。

 

「何が弁当だ! ざっけんな! そんな何が盛られてるか分からねえ飯誰が食うか!! どうせ、睡眠薬か何か入ってんだろ!!」

 

「んだとこら! 誰が薬なんか盛るか!? 飯に薬を盛るなんてことは、それそのものが食い物への、俺達の糧になってくれる生き物全部への冒涜だ! 折角の飯に薬を盛るなんてこと死んでもしねえよ!!」

 

 捲し立てられた響の言葉には、響自身の怒声のせいもあってかなりの凄みが含まれていた。その凄みに気圧されたクリスは、口籠りながらもまた別の話題で言葉をぶつけていく。

 

「な、なら、あたしが飯食って油断してる隙に一気に取り抑えようって気なんだろ!」

 

「それも無えよ。外には仲間もいなければ、応援だって呼んでない。ここには正真正銘俺だけが来たんだよ」

 

 疑い深いクリスに、響は先程の怒った様子と打って変わって極めて冷静に返す。何故かコロコロと変わる響きの態度と機嫌に流石のクリスも動揺を禁じ得ない。

 

 そんなクリスの心中を我関せずに響は落ち着いた様子で畳の上に胡座をかいて座り込んだ。布の結び目を解き、包みの中から弁当を取り出した響は、持っていた割り箸で弁当の御菜の1つである卵焼きを口の中に放り入れた。

 

 しっかりと30回以上の咀嚼を繰り返して卵焼きをごくりと飲み込んでから響は再び口を開いた。

 

「ほら、何も盛ってなんてないだろ? 分かったら受け取れよ。お前の為に作った弁当なんだから、お前が食べてくれないと意味無いだろ?」

 

 敢えて弁当の中身を食べることで毒を盛ったという可能性を払拭させようと試みた響は、再度クリスに持っている弁当と自分が使ったものとは別の割り箸を差し出す。

 

 すると、先程と同様に弁当を拒もうとしたクリスのお腹が突然室内に鳴り響いた。それだけでクリスの顔は真っ赤に変わっていき、響は微笑ましいものを見るように暖かな表情をしていた。

 

 腹の虫が鳴ったことが止めとなり、クリスは投げ遣り気味に響から差し出された弁当と割り箸を引っ手繰った。

 

「ん……美味え。こんなに美味い飯、凄い久しぶりだ。それに……暖かい」

 

「暖かい? いや、時間が経って冷めてるから暖かくはないと思うぞ?」

 

「そうじゃねえよ。ただ美味いだけじゃなくて……心の奥から満たされていって、それで心が暖まってくような感じがすんだよ……あっ」

 

 不意に零してしまった言葉の意味を訊ねられ、何も考えずただ馬鹿正直に答えてしまったことにクリスが気が付いたのは、全て言い終えて取り繕うにもどうすることも出来ない状態に陥ってからだった。

 

 弁当を褒められたことに変わりない響は、満足そうに頷きながら微笑を浮かべている。対してクリスは、ついポロッと自身の本音を零してしまったせいでまるで茹で蛸のように顔を先よりも赤色に染めて外方(そっぽ)を向いた。

 

「クリスのこと、色々と知ったんだ。親父さんがバイオリン奏者で、御袋さんが声楽家だったんだろ?」

 

「ッ!」

 

 響がクリスと話し合う為に持ち出した話題は、クリスの両親についてのことだった。響は以前に黎人から聞かされた情報を基に話を切り出し、外方を向いていてクリスは自身の親の話が出たことであからさまな反応を示した。

 

「凄いよな、お前の親。NGO活動に参加して、歌と音楽で世界を平和にしようって頑張ってたらしいじゃんか」

 

「……どうしてお前があたしの親について知ってやがる?」

 

「俺が尊敬してる人がさ、偶々クリスの親と友達だったんだよ。その人の言伝でクリスのこととか、クリスの両親のことを知ったんだよ」

 

 響はショルダーバッグから今度は水筒を取り出す。取り外し式になっているコップに水筒の中身である麦茶を注いで、コップに注がれた中身を飲み干す。そうすることで、先の弁当の毒味と同様に水筒の麦茶にも毒を盛っていないことを証明したのだ。

 

 響は再度コップに麦茶を注ぎ、食事をしているクリスに差し出した。クリスはコップの中身を配慮してか、先程よりは落ち着いた様子で飲み物を受け取って麦茶を飲む。

 

「クリスが8年前に戦火に巻き込まれたせいで両親を亡くして、その後に捕虜として捕まってたこと。2年前に国連軍が介入したことで助けられたこと。でも日本に着いた直後に行方不明になったこと。他にも色々と教えてもらった。二課の方からも諸々な」

 

「はっ、よく調べてるじゃねえか。そういう詮索反吐が出る」

 

「そいつはよく分かる。自分のことを洗いざらい調べられてるってのは嫌なもんだ」

 

 響きが思い出すのは、2年前の惨劇後のことだった。何故か自身の個人情報や周辺事情、他人との繋がりを徹底的に調べ上げられ、それをネットに一時期とはいえ公開されたことがある響。

 

 故に本来なら響も個人を徹底的に調べ上げるやり方は好きじゃない。

 

「でもまぁ、政府の方にもそれなりに面倒な事情があったらしいぜ? どうやら、当時の日本は適合者を探す為に音楽会のサラブレッド?っていうのに注目してたらしいんだ。それで独りぼっちになっちまったクリスを引き取ろうとしてたらしい」

 

「ふっ、こっちでも女衒(ぜげん)かよ」

 

「ぜげん? ぜげんって何だよ?」

 

「それくらい自分で調べろ、筋肉バカ」

 

「俺、勉強は苦手なんだよ……そもそもこちとら中学なんて半分も行ってねえんだぞ」

 

 中学2年の時に家を出て黎人に拾われた響は、黎人から中学卒業レベルまでの知識を教えられたが、それでも最低限レベルであり、そんな響が中学では先ず聞かない女衒という言葉の意味を知る訳がなかった。

 

 序でに言うと、女衒とは江戸時代に使われていた用語で、女性を遊女屋に売るのを生業にしていた者達を指す言葉である。

 

「話を戻すぞ。それで引き取ろうとした矢先に、クリスが何の前触れも無く行方不明になった。そのせいで政府の連中は大慌て。結構な数の捜査員が駆り出されたけど、そのほぼ全員が死亡又は行方不明になり、事件は迷宮入りした挙句政府側には何も残らない上に犠牲者ばかりが出た最悪の形で終わったんだと」

 

「……何が言いたい? 何がしたいんだよ、お前」

 

「俺はクリスを救いたい」

 

「……は?」

 

 何の虚飾も無く自身が内に秘める想いを簡潔な言葉に乗せてただ真っ直ぐに伝える響。短く告げられた言葉に、クリスは大した反応も上手い言葉も返せず呆然としてしまう。

 

「俺はクリスが今居る場所からお前を救い上げたい。それにお前を救うことは、俺に後を任せてくれたおやっさんや、犠牲になった沢山の大人達の望みでもあるんだ」

 

「ッ! 大人達の望みだ? ふざけんな! 何が大人達の望みだ!! 余計なこと以外は何時も何もしてくれない大人が偉そうに! そんな大人共のツケを払わされるのは、何時も何の力も無い弱い奴だ! それに何が後を任せただ!! ただ面倒になってお前に押し付けただけだろうが!!!」

 

「そんなことあるか! おやっさんが言ってた! 引き受けた仕事をやり遂げるのは、大人の務めだってな! 俺はそんなおやっさんに我が儘を言って、一緒に背負わせてもらっただけだ! クリスを救いたいって気持ちは、俺もおやっさんも一緒だから!」

 

「今度は大人の務めと来たか! その言葉も何処まで信じられることやら! 綺麗事ばかりもううんざりなんだよ!」

 

 綺麗事と聞こえる言葉ばかり述べる響に激昂したクリスは、水筒のコップを投げ捨てて勢いよく飛び出し、体を丸めた体当たりで窓ガラスをぶち破った。

 

「Killiter Ichaival tron」

 

 重力に従って下に落下しながらもクリスはシンフォギアを起動させる為の聖詠を歌う。クリスはシンフォギアを身に纏い、怪我すること無く無事に着地する。直後、クリスは大きく跳び上がってこの場から去ろうとする。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 ショルダーバッグを室内に放り投げた響も聖詠を歌ってシンフォギアを身に纏う。響は、クリスが開けた窓の穴から自身も飛び出し、逃げようとするクリスの後を懸命に追い掛ける。

 

「待ってくれ、クリス! 俺はお前と話がしたいんだ!」

 

「煩え! 鬱陶しいだよ、お前!!」

 

 静止を呼び掛け説得を試みる響に、クリスは口汚い罵倒と拒絶の言葉を返す。だが、アームドギアを展開して響を攻撃しない辺り、今のクリスは以前のクリスから何かが変わり始めていた。

 

 それは小さな変化かもしれない。しかし、その小さな変化こそが切っ掛けとなり、後に大きな変化を齎すものとなることを今は誰も知らない。

 

 お互いがシンフォギアを纏っているので、幾らクリスが響から距離を取ろうとしてもその距離が開くことは無い。しかし、その逆はある。クリスと響との間にある距離は、徐々にだが縮まり始めていた。

 

 それは偏に響が纏っているガングニールとクリスの纏っているイチイバルの性能の傾向によって出来上がった差である。

 

 クリスのイチイバルは、長距離広域攻撃を得意とする反面で機動力には優れていない。

 

 響のガングニールは、響自身のせいもあって超近距離戦闘しか出来ないが、その本来の性能は槍による全距離対応型の汎用性の高いものである。よって機動力もそこそこある。

 

 加えて言うと、響には推進力を底上げするバーニアがある。直線距離で逃げるとなると、どうしても機動力の低いクリスが不利になるのである。

 

 余談であるが、今居るシンフォギア装者の中で一番に機動力が高いのは翼の天羽々斬である。

 

 それはさておき、当然クリスも直線距離では距離を詰められることに気付いていたが、足場にする建物の関係もあってどうしても直線的な移動をするしかない場面が幾つか出てくる。その場面に突入すると、響は此れ見よがしにバーニアを吹かせて一気に距離を詰めるのだ。

 

(……ちっ。このままじゃ逃げるどころか、距離を詰められて何時か追い付かれる。攻撃して振り切ろうにもここだと……だったら!)

 

 埒が明かないどころか、このままでは完全に詰み状態であることを察したクリスは、即座に別のプランに変更して逃走ルートも変える。

 

「ッ! 逃がすか!」

 

 クリスの逃走ルートが急激に変わったことに対応し、響は変わらずにクリスの後を追い続ける。

 

 街の上を縦横無尽に跳び回り、説得の為の問答を繰り返している2人の存在は、普通なら疾うに一般人に気付かれていただろう。しかし、2人の存在は誰にも気付かれていなかった。それはこの雨のお陰と言えるものである。

 

 2人の声は雨音によって大幅に打ち消されいるから、2人の声が一般人に届くことは先ず無い。

 

 歩行者は傘を差しているから、上方への視界が遮られている。

 

 2人の声が聞こえて上を見上げる者もいるが、人よりも高い機動力で動き回る2人は声を聞いた者が上を見上げた時には既に視界に映らない場所まで移動している。

 

 更に今の時間帯は社会人なら仕事場、学生なら学校にいる時間帯だから外にいる歩行者が圧倒的に少ないのも目撃者がいない理由の内の1つだろう。

 

 時間や天候といった様々な要素が絡み合い、人っ子一人に見つかること無く移動していた響とクリスは、悪天候で海の波が高くなっている海岸までやって来ていた。

 

 すると、海岸の砂浜に着地したクリスが逃げる素振りを見せなくなってその場にて停止した。どうやら、海岸(ここ)が追いかけっこ終点のようだった。

 

 クリスの後を追ってきた響も当然海岸の砂浜に着地し、着地した側からクリスの下へ駆け寄ろうとする。しかし、クリスが突然アームドギアを展開したことで響も足を止めざるを得なかった。

 

「まんまと誘導に乗るなんて、やっぱり脳味噌筋肉の単細胞バカだな」

 

「どういう意味だよ?」

 

 クリスの言葉の意味を響が問い質そうとする。直後、ボーガン型のアームドギアからエネルギー出来た矢が撃たれる。矢は響の顔の直ぐ横を通過し、響の後ろの砂浜に着弾して爆炎を上げる。

 

「見ての通りここには遮蔽物が無え。足場は砂場で、雨が降って泥濘んでるせいで余計に安定しない。遠距離攻撃主体のあたしと違って、お前は接近戦しか出来ない。つまり、今この状況はお前にとって不利過ぎるってことだ」

 

「それがどうした? 俺はクリスと戦いに来たんじゃない。話をしに来たんだ」

 

「バカか、てめえは。そっちの事情なんざ知ったこっちゃねえんだよ。こいつは警告だ。こっちに来んな。あたしに近付くな。今直ぐあたしの前から消え失せろ。さっきの警告だ。従わねえってんなら、次は本気で当てる!」

 

 クリスはボーガンの銃口を響に向けながらそう言い放ち、拒絶の言葉を以て響を自分から遠ざけようとする。

 

 しかし、銃口を向けられた響がクリスに返したのは、怒声でも罵倒でも拳でも無かった。響がクリスに返したのは、微笑みだった。その微笑みはとても優しげで、暖かみに溢れているものだった。

 

「何だよ、その笑みは……! あたしをバカにしてるのか!? あたしが撃たないとでも思ってるのか! あたしは本気だ! そこから1歩でもあたしに近付けば、容赦無く引き金を引くぞ!!」

 

 声を荒げるクリスには分からなかった。響が微笑みを浮かべている理由が。クリスの手が僅かに震え始める。

 

 すると、響はクリスの警告を無視してクリスに向かって1歩踏み出して前に進み始めた。それを見たクリスは、先の宣言通り躊躇無くボーガンの引き金を引いた。

 

 撃たれた矢は真っ直ぐに響に向かって飛んで行く。直線的な軌道を描く矢は簡単に躱せるものだった。しかし、響はこれを躱すどころか身を捻って体を反らす素振りも見せず、そのまま矢は響に着弾した。

 

「ッ!?」

 

 流石のクリスもこれには驚いた。以前の戦いでは、響は必死にクリスの攻撃から身を守っていたというのに、今回は変な動作を見せずにそのまま攻撃を喰らったのだから。

 

 立ち上る爆煙の中からシルエットが浮かび上がってくる。シルエットはクリスに向かって歩き続けていて、その爆煙の中から響が姿を現した時、クリスは目を見開いた。

 

「何だよ、それ……!?」

 

 目を見開いたクリスが驚愕を露にする。何故なら、爆煙から出てきた響には響自身の体を覆うように薄い膜のようなオーラが張られていたからだ。

 

「ちょっとした応用だ。俺はアームドギアを出すことが出来ないから、そのエネルギーを一点に集めて攻撃力を上げてる。今回はその応用で、全身にエネルギーを行き渡らせて全身の防御力アップに繋げたんだよ」

 

 両腕をクロスさせて防御の姿勢を取っている響はそう熱弁する。そんな響を見て、クリスは内心で困惑する。

 

 別に響が敢えて攻撃を受けて生き生きしてる姿がマゾっぽいからでは無い。実際エネルギーを膜のようにして防御力を上げること自体は素晴らしい発想である。

 

 しかし、躱すことが出来る攻撃を敢えて受けているからこそクリスは困惑しているのである。

 

「はっ! だったら、その減らず口が何処まで続くか試してやるよ!」

 

【BILLION MAIDEN】

 

 アームドギアをボーガンからガトリングに変形させ、クリスは10億にも及ぶ無数の弾丸の雨を響に向かって撃ち放つ。

 

 ガトリングなんてものを生身の人間が受ければ、その人間は間違いなく一瞬で物言わぬ肉塊へと姿を変えることだろう。

 

 ならば、シンフォギアを纏っている装者ならば大丈夫なのかと言われば大丈夫だろう。それ程にシンフォギアの性能と防御性は凄まじいものなのだ。

 

 だが、それは相手が普通のガトリングならの話である。相手がシンフォギアのアームドギアのガトリングなら、同じシンフォギアでも諸に浴びれば危険である。

 

 そもそも幾らシンフォギアを纏っていると言っても、まともにガトリングの弾を浴びに行くような奴はまずいない。そんなことは装者としての経験が長い翼でもしない。そんなことをするのは、全く危険を顧みないよっぽどのバカぐらいだろう。

 

 そして響は、全く危険を顧みないバカだった。響は先と同じように弾幕の射線上から逃れず、両腕をクロスさせて防御の姿勢を保ったまま真っ直ぐにガトリングの弾幕の中に突っ込んでいく。

 

 無数の弾丸が響の体に命中するが、響は先程と同じようにエネルギーを体全体に行き渡らせて防御力を上げることでダメージを最低限にまで抑え込む。しかし、無数の弾は間髪入れずに連続で響に当たっている故に響の顔は度重なるダメージによって苦悶に満ちたものへと変わっていっている。

 

「ッ!! うおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 すると、響は咆哮を上げながら弾幕の中を進み始めた。進んでいる間に弾が命中したことで響はバランスを崩して吹っ飛ばされそうになるが、その瞬間に浮かせている足を大きく踏み込むことで無理矢理体勢を整えて響はその場に踏ん張る。

 

(何でこいつは避けない!? 何でこいつは倒れない!? 何でこいつは……!!?)

 

 最初はゆっくりだったが、徐々にそのペースを上げて弾幕の中を進んでくる響の姿は、ガトリングを撃ち続けているクリスの心に大きな動揺と困惑、そして驚愕を植え付けるには十分だった。

 

「どういうつもりだ!? 何で避けねえ! あたしのことを嘗めてんのか!?」

 

「……何で避けねえか? 答えはシンプルだ。俺が避けたくないからだよ」

 

「避けたくないだ? 死にてえのか!?」

 

「死にたくはねえよ。でもさ、俺にはこの攻撃の全部が、クリスの中に溜まってる怒り、悲しみ、苦しみ、痛みとかが闇鍋みたいに混ざってぐつぐつに煮え滾った想いだと思えちまうんだよ。だから、俺は逃げない!! クリスの本心と向き合う為に!!」

 

 響はクリスの胸の内の痛みを受け止め、クリスの本心を知る為にクリスの攻撃を受け続けていた。全てはクリスの心と本気で向かい合う為に。だから響は受け止める。吐き出させる。クリスの中にある何もかもを。

 

 そして、未だ全てを吐き出せていないクリスの神経を響が述べた綺麗事が逆撫でする。

 

「だったら、あたしの想いって奴で潰してやるよ!! 2度とあたしの前に姿を見せたくないって思うくらいになぁ!!!」

 

【MEGA DETH PARTY】

 

 シンフォギアの腰部アーマーが展開し、そこに装填されていた無数の小型ミサイルが一斉に発射される。飛来するミサイルに対して響は、足に更に力を入れて踏ん張り、パワージャッキを地面に打ち込んでミサイルの衝撃に備える。

 

 そして発射されたミサイルは数秒と掛からずに響に着弾する。更にクリスは以前響と戦った時と同様に容赦の無い追撃のガトリングを撃ち放ち続ける。響は攻撃を避けるつもりが無く、今回は翼の救援も無い為にクリスの攻撃の全てが響に当たったであろうことは火を見るよりも明らかだった。

 

 ガトリングを撃ち続けていたクリスは、ガトリングを撃つ手を止めてその銃口を下に下ろした。

 

 割と強めの雨が降り続いているお陰でミサイル着弾時の爆炎は既に掻き消えていて、今はただ煙だけが着弾点から昇っていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 クリスは肩を大きく上下させながら乱れた呼吸を整えていた。

 

 煙も時間の経過によって消滅し、煙の中から響が姿を現した。体全体に張られたオーラのようなものは健在だが、響の纏うシンフォギアのアーマーやアンダースーツ、ヘッドギアの一部は砕けていて、剥き出しとなったシンフォギアの内部パーツが露出している上に装甲の節々がスパークを起こしていた。

 

「……」

 

「ッ!?な、何で……!?」

 

 すると、響に張られていたオーラも消え失せ、体から煙を昇らせている響がゆっくりとだが再びクリスに向かって進み出した。そんなボロボロな状態で尚動き続ける響に向かってクリスは叫ぶ。

 

「どうして避けなかった!? シンフォギア纏ってるからって、下手すりゃ死ぬかもしれねえんだぞ!! なのに、何でお前は命懸けで……!?」

 

「……心配、してくれんだな。やっぱり……クリスは優しいな」

 

 項垂れていた顔を上げた響の表情は、とても穏やかに笑っていた。 クリスには分からない。歩くペースが蝸牛のように遅くなる程のダメージを受け、怪我は無くとも相当な痛みを負っていて、動くだけで更なる痛みが体中に走るくらいに辛いのに、どうしてそこまで穏やかな笑みを浮かべていられるのか。

 

「あたしが、優しいだと? 寝言も寝てから言え! お前をそこまでズタボロにしたあたしの何処に優しさなんて要素があんだよ!?」

 

「これは、避けなかった俺の自業自得だ……。でもさ、そんな俺でも……クリスは心配してくれてる。近付くなって言ったクリスの警告を無視して、無理矢理お前に迫った俺のことを心配してくれてる……それに、他にもあるぞ。クリスが優しいって言えるところ……」

 

「ッ!」

 

「態々俺に警告してくれただろ? 不意打ちで攻撃して逃げたら良かったのに。他にもさ、街の皆のことを考えて、街にいる間は攻撃してこなかったし、最低限被害を少なくする為に砂浜に俺を誘導したんだろ? 皆を出来るだけ傷付けないよう行動してたんだろ? だから、クリスは優しいって言ったんだ」

 

 ふらふらな足取りでも一歩一歩確実に近付いてくる響に、クリスはガトリングの銃口を向けようとする。しかし、銃口を向けようにも手の震えがガトリングにまで伝わってクリスは響に照準を合わせることが出来ない。

 

「来るな! こっちに来るんじゃねえ!!」

 

 クリスはもう響に攻撃することが出来なくなっていた。攻撃しようにも、銃口を響に向けた瞬間に手が震えてロクに響に照準を合わせることが出来なくなる。だからクリスは言葉で響を拒絶しようとするが、響はクリスの拒絶の言葉に耳を貸さずただ真っ直ぐにクリスを見据えていた。

 

 そして、その場から動くことも出来ずにいるクリスと響との距離がゼロになった。すると、不意に響の腕が持ち上がる。クリスは拳が来ると思いほぼ反射的に目を瞑ったが、何時まで経っても痛みは訪れない。その代わりに、小さな衝撃と温もりが体に伝わって来る。

 

 クリスが目を開けると、そこには響がクリスを優しく抱き締めている光景があった。抱き締められているクリスは咄嗟に響から離れようとするが、優しく抱き締めている割にクリスの胴に回されている腕の力は強く、シンフォギアを纏っているというのにビクともしない、

 

「何で……どうして殴ってこないんだよ……!?」

 

「さっきも言っただろ? 俺はクリスと話しに来たんだ。同じことを言わせんなよ……」

 

「あたしは……お前をこんなにもズタボロにしたんだぞ……!」

 

「それもさっき言ったけど、俺の自業自得だ。でも、もしクリスが罪悪感を感じてるんなら、俺は許す」

 

「それだけじゃない! あたしは、今までお前達にずっと酷いことをしてきたんだぞ!? お前の仲間が絶唱を歌って死に掛けたのだって元はと言えば、あたしが──」

 

「でも、そのお陰で俺は翼さんと仲良くなれた。そのことには感謝してる」

 

「ッ!」

 

「確かに表面だけ見るなら、クリスは悪いことをしたのもしれない。けどな、それが全部悪いことだけに繋がるってことは無い筈だ。お前が俺に切っ掛けをくれたんだ。強くなる切っ掛けを、翼さんと仲良くなる切っ掛けを。今の俺があるのは、クリスのお陰でもあるんだ」

 

 クリスがいなければ、響が強くなるのは時期的にもっと遅くなっていたかもしれない。逆に現状に満足したまま、響はあの頃の響のままだったかもしれない。

 

 クリスがいなければ、響が翼と仲良くなるのは時期的にもっと遅くなっていたかもしれない。逆に仲良くなることなど無く、ずっと仲違いしたままだったかもしれない。

 

 良いことが良いことだけに繋がるなんてことは無いように、悪いことが悪いことだけに繋がるなんてことは無いだろう。クリスがフィーネに乗せられて犯してしまった悪行は、結果的に全て響にとってプラスに働いたのが良い証拠である。

 

「こんなにも優しい女の子が辛い思いをしてるんだ……俺は男としてそんなクリスを救い……たい……」

 

 だが話の途中で響が纏っていたシンフォギアが消え、かなりのダメージを負っていた響は生身ではその負荷に耐えられずに気絶してしまう。

 

「お、おい!」

 

 クリスは倒れそうになる響の体を慌てながら優しく抱き留めた。

 

「……気絶しちまうような無茶しやがって……お前、本当にバカだ」

 

 クリスはそう言って、自身よりも体格の大きな響を背中に背負い、大きく跳躍してその場から立ち去った。

 

 その時は既に雨は止んでおり、空には7色の色鮮やかな虹が出ていて、雲の隙間から差し込んだ光が響を背負うクリスの姿を明るく照らしていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「全く……本当にどうして立花は平然と無茶をするのかしら……」

 

「あはははは……面目無い。いや、本当に心配と迷惑を掛けて申し訳無い……」

 

 翼は片目の瞼を閉じてもう片目で響を見遣りながら呆れるように溜め息を吐き、響は申し訳無さそうに頬を引き攣らせて片手で後頭部を掻きながら翼への謝罪の言葉を口にしていた。

 

 クリスと一緒にいて最後に気絶してしまった響が次に目を覚ましたのは、それから1時間程経った後のことだった。響が目を覚ました場所は、最後にクリスといた海岸ではなく、クリスが潜伏していたマンションの一室であった。

 

 最後にいた砂浜ではなくマンションの一室にいるということは、誰かが響をそこまで運んだということに他ならない。平日であり、滅多に人が近付かないだろう雨が降っている中の春の海岸から距離の離れているマンションまで響を運んだ該当者など1人しかいなかった。

 

 響が起きた時、もう既にクリスの姿は何処にも無かったが、食べ掛けだった弁当と水筒の中身はすっからかんになっていた。空になった弁当と水筒、マンションまで運び込まれた自身の現状を見て響は嬉しい気持ちになった。

 

 それから二課の本部に足を運んだ響だったが、本部に戻るなり身体チェックを受けさせられた。

 

 本部の方では響のガングニールとクリスのイチイバルの反応をしっかりと捉えていた為、響がクリスと会っていたのはバレバレであった。

 

 響とクリスが海岸まで移動し、それから少しして先にガングニールの反応が消失した時は二課の方でも大慌てであったのだ。何度も響に連絡を取ろうとしたが、クリスとの1対1での会話を望んでいた響はクリスが潜伏していた部屋に入る前に通信機の電源を切っていたから通信に気付かなかったのである。

 

 目覚めた響は、通信機の電源を切ったままのこと気付かぬまま二課に直行した故に二課の面々からとても心配されたのであった。

 

 そして、これまでの経緯を話した響は無茶し過ぎだと周りに怒られつつも心配され、二課の面々も響が無事であったことに安堵していた。だが、何か異常があっても不味いから、響は簡単な身体チェックを受けさせられたのである。

 

「でも、立花に何の異常も無くて良かった……」

 

「了子さん曰く、元が頑丈で、その上にシンフォギアを纏って、更にエネルギーを防御一点張りに使ってたから後遺症とか残らなかったらしい。まっ、体が頑丈なのは俺の取り柄だし、正にUnbreakable(アンブレイカブル) body(ボディ)ってな!」

 

「もう。直ぐ調子の良いこと言うんだから、響は」

 

 安堵する翼の横で調子の良いことを言う響をその隣にいた未来が軽く咎める。その際に未来は響の耳を引っ張っていたが、響は特に気にしている様子も痛がっている様子も無かった。

 

「翼さん、響はこの通り直ぐに調子の良いことを言う残念な子なので迷惑を掛けると思いますが、どうか宜しくお願いします」

 

「こちらこそよ。寧ろ何かと抜けてるところの多い立花を外部協力者として支えてあげて」

 

 弦十郎達の計らいもあり、未来は外部協力者として二課から本部の立ち入りを許可されている。そんな未来だが、今日は響から二課の施設内を案内してもらう予定だった。しかし、響が急遽メディカルチェックを受けることになって予定が狂ってしまったのだ。

 

 響がメディカルチェッックを受けている間近くのベンチに座っていた未来は、そこで響同様にメディカルチェッックを受けていた翼に遭遇した。初対面であった2人だが意外と会話は弾み、自己紹介も含めて軽く話し合った結果、今では簡単な遣り取りが出来る仲になっていた。その会話が弾んだ理由は、お互いに共通の話題があったお陰であり、その話題が実は響のことであるのだが響はそのことを知らない。

 

「なーんか俺の扱いが御座形(おざなり)なんですけどぉー。というか、なーんで2人はそんなに仲良さ気なんですかねぇ〜?」

 

「響君を通して、お二人が意気投合されているということですよ」

 

「絶対にはぐらかしてるよな、あんた?」

 

 自身の扱い方がぞんざいであることに不貞腐れる響を見て、未来や翼、その場にいた緒川と藤尭も微笑を浮かべていた。隣で笑顔を浮かべる翼を見て、緒川はふと思う。

 

(変わったのか。それとも変えられたのか。何方(どちら)にしろ、翼さんがこんなに華やかに笑うようになったのは、響君のお陰なんでしょうね)

 

 アーティストとして歌を歌い、シンフォギア装者としてノイズと戦ってきた翼をその直ぐ傍で見守り続けていた緒川は翼の変化をひしひしと感じていた。

 

 以前の翼なら、今のように穏やかな表情を浮かべるようなことは無かっただろう。奏が亡くなってからの翼は、近寄るもの全てを人や物問わず全て斬り捨てると思われるような凄みを醸し出していた。

 

 しかし、今の翼からはそんな気配は全く感じられない。かと言って決して以前の内気な翼に戻った訳ではない。剣呑な雰囲気は身を潜め、年上の女性としての凛々しさや時々見られる普通の女の子らしさが混在しているのである。

 

 これらの成長に響が全く無関係であるなどとは到底言えない。寧ろ響がいなければ、翼はここまで余裕のある人間になることは不可能だっただろう。響がいたからこそ、翼は変わることが出来たのだと緒川は声を大にして言うことだろう。

 

(もう恋を知らない女の子とは言えませんね……)

 

 そして、翼の一番の変化を身近に感じていたのも緒川だった。翼は自覚していないが、最近の翼は女の子らしい表情や態度、言葉遣いなどをするようになった。それが何故であるかなど、言うだけ無粋というものだろう。

 

「あーら、良いわねぇ? ガールズトーク?」

 

 すると、メディカルチェック等の後片付けを済ませた了子が通路の奥の方から響達の下へ歩み寄ってきた。

 

「何処から突っ込むべきか迷いますが、取り敢えず僕らを無視しないで下さい」

 

「それに男の方が多いんだからガールズトークは可笑しいだろ」

 

 そんなウキウキと歩み寄ってきてボケと思われるものをかましていく了子に、緒川と響から冷静にツッコミが返される。

 

「ガールズトークが如何の斯うのとか言ったけど、了子さんもそういうの興味あるのか?」

 

「勿の論! 私の恋バナ百物語聞いたら、夜眠れなくるわよ」

 

「まるで怪談みたいですね……」

 

 了子の言い回しがまるで階段のようであったことに未来は苦笑いを浮かべ、翼は少し呆れ気味に額に指を当てていた。

 

「そうね。遠い昔の話になるわね。こう見えて呆れちゃうくらい一途なんだから!」

 

「おぉ〜!」

 

 昔に思いを馳せているのか、了子は少しうっとりとした顔をしながら自身の恋バナを語り始め、そんな了子に何かを共感したのだろう未来が感嘆の声を漏らす。

 

「意外でした。櫻井女史は恋というより、研究一筋であると」

 

「Me too」

 

 “櫻井理論”という超天才的な理論を提唱した了子は、翼からすれば研究者として我武者羅に歩んできた正に研究に恋をしていると言っても過言では無く、二課に入ってから何かと世話になったりして時々知識の補完をしてもらっている響も翼と同様の意見だった。

 

「命短し恋せよ乙女、と言うじゃない! それに女の子の恋するパワーって凄いんだから!」

 

「恋は良いかもしれないけど、了子さんってもう女の子って歳じゃな──」

 

 それから先を響が言い切ることは無かった。何故なら響でも反応することが出来ない程の速度で打ち出された拳によって黙らされたからであった。

 

「ぐべふっ!?」

 

「響君!」

 

 威力と速さと勢いのあるコークスクリューブローが丁寧且つ見事に響の鳩尾を打ち貫き、殴り飛ばされた響はひっくり返って仰向きに倒れた。倒れた響を心配して緒川が介抱する中、了子は構わずに話を続けていく。話に夢中になっている未来と意外にも了子の話に耳を傾けていた翼は、響のことなど眼中に無く話に聞き入っていた。

 

 悲しきかな。“愛”や“恋”といった概念が絡んだ途端、女性から見た男性の優先順位は大抵大幅に減退するのである。

 

「私が聖遺物の研究を始めたのも、そもそも……」

 

「うんうん、それで!?」

 

「……!」

 

 自分の過去を語ろうとしたところで、了子はふと話を止める。話を止めた了子に未来は続きを促し、翼は何も言わなかったが目で話の続きを要求してきていた。

 

「ま、まぁ、私も忙しいから、ここで油を売ってられないわ!」

 

「自分から入ってきた癖によく言う……!」

 

 そこで話を有耶無耶にしてこの場を立ち去ろうとする了子に、痛みに悶える響が痛みに耐えながら愚痴を漏らした。すると、再び響が認識出来ないくらい速度で放たれた踵落としが、今度は響の首に命中した。

 

「ぐぺっ!?」

 

「響君!?」

 

「しっかりしろ、響君!?」

 

 踵落としで地面に叩きつけられた響。踵落としが諸に首に入ったことを心配し、今回は緒川だけでなく共にいた藤尭も響の介抱に回っていた。

 

「兎にも角にも、出来る女の条件は何れだけ良い恋してるかに尽きる訳なのよ! ガールズ達も、何時か何処かで良い恋しなさいね……って、その辺りは野暮だったかしらね。翼ちゃんも」

 

「えっ?」

 

「んじゃ、バッハハーイ!」

 

 翼の反応に何かを返すことはせず、了子は早々に話を切り上げてこの場から立ち去っていった。

 

(らしくないこと、言っちゃったかもね……。変わったのか? それとも……変えられたのか?)

 

 独り通路を歩く中、了子は先程の自身の行動と言動を顧みて内心で孤独に呟いたのだった。

 

 場面は再び響達の下に戻る。休憩を終えた藤尭は残りの仕事を片付ける為に司令室に戻り、響達は近くにある休憩スペースまで移動して座りながら話し込んでいた。

 

「司令、まだ戻ってきませんね」

 

「えぇ。メディカルチェックの結果を報告しなければならないのに」

 

「次のスケジュールが迫ってきましたね……」

 

「もう仕事入れてんのか!? 早くね!? 幾ら負荷が完治したからって、学生の身分でまた過労者もビックリな過密スケジュールを打ち込んだら、今度こそ本当に過労でぶっ倒れるぞ!?」

 

「もう慌て過ぎよ。仕事を入れてると言っても少しずつよ。今はまだ慣らし運転のつもりだから安心して」

 

 翼が仕事を再開させると聞き、響は慌てながら翼の身を心配するが、翼は少し呆れが混ざった微笑を浮かべながらそんな響を安心させるように言葉を掛けた。

 

「なーんだ。前みたいな過労者スケジュールなら緒川さん殴ってでも止めてたけど、それなら大丈夫か。ってことは翼さん、今はまだスケジュールに空きとかあるんだよな?」

 

「え、えぇ。でも、それがどうかし──」

 

「だったらさ! 今度の休みに一緒にどっか出掛けようぜ!」

 

 翼が言葉を言い切る前に響が若干被せ気味で自身の考えを述べた。

 

「ブッ! ……失礼しました」

 

「え? ……ッ!?」

 

 響の言葉を聞いて、緒川は思わず吹き出してしまい直ぐに謝罪の言葉を述べる。そして、翼は呆然として言葉を漏らしたが、少しして響の言葉の意味を完全に理解し、顔が真っ赤に赤面させて口をパクパク動かし始める。

 

(わ、私と立花が、2人きりでど、ど、何処かへ出掛ける!? そ、そそそそ、それって、つ、つつ、つまりは、あ、逢い引きって、こ、ことなんだよね!?)

 

 心中で自身の考えを吐露する翼は慌てているせいか、思考は翼の理性の制御から外れて暴走気味であり、口調は奏が存命していた頃の内気なものに戻っていた。

 

(……何か肌寒いな? 本部ってこんなに肌寒かったか? でも、冷房を入れるにしても早いし……それに何だか悪寒が……)

 

 テンパる翼を見ていた響は、突如として発生した謎の悪寒と薄ら寒さ感じていた。響は気付いていなかったが、そんな響の後ろには体から黒いオーラのようなものを醸し出し、黒い微笑を浮かべる未来がいたのだった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、クリスの下を訪ねる
──弦十郎の仕事を引き継いだ今作ビッキーがクリスちゃんの家に突撃しました。

(2)響、クリスに差し入れの弁当を上げる
──初っ端から胃袋を攻めていきます。名付けて胃袋掴み大作戦です……そのまんまだな。

(3)響VSクリス(Round2)
──オリジナル要素です。追い掛けっこからの戦闘です。しかし、響は今回クリスに手を出していません。飽く迄響はクリスと話し合いをしに来ただけですから。

(4)響、防御技を習得
──防御技というよりもダメージ軽減技ですかね。防御力を上げて持久戦に持っていけるかもしれませんが、全身にエネルギーを行き渡らせるので燃費は少し悪いです。一応特訓にてエネルギー変換に慣れ、変換効率を体で覚えれば欠点は無くなります。

(5)響、了子にボコられる
──鳩尾にコークスクリューブロー、首にマジ蹴りの踵落とし。口は災いの元。沈黙は金。余計なことを言うとロクなことになりません。

(6)響、翼を遊びに誘う
──響は気付いていないが、つまりはそういうことに繋がるのである。テンパって赤面している翼さん可愛い。しかし、その代償として393の目からハイライトが消え、暗黒微笑を浮かべていたのであった。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 今度こそはもっと早めに投稿するぞー!!(フラグ)

 次回はデート回です! 果たしてどうなる!?

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 19 想いの正体

 どうも、皆さん。約3ヶ月ぶりくらいですかね。ご存知(?)SABATAです。

 どうにかこうにか帰って来ました(一時帰宅かもしれませんが) 心配してくれた人がもしいらっしゃるなら、感謝とお詫びを申し上げます。大丈夫です! 僕は生きてます!

 授業に、課題に、試験に、作品に、ポートフォリオに、資格講座に、バイトに、インターンシップにと様々な要素が絡み合って執筆時間を上手く確保することが出来ず、確保した短い時間で少しずつ執筆していたらこんなに遅くなってしまいました。

 それに執筆している途中で、こんなシーンも取り入れてみたいなと思って執筆料もどんどん増やしてしまい、気付いた時には文字数が2万字越してて我ながらビックリしてしまいましたよ(笑)

 それと長い時間を掛けて執筆したせいか、文章レベルが低く文の繋げ方や同じ言葉を短い間で何度も使っているシーンがあるかもしれませんので、そこはご了承してください。不承不承ながら了承して下さるなら嬉しい限りですし、直してくれる方がもしいらっしゃるなら誤字報告等で報告して下さい。皆さんで今作を面白く愛される作品にしていきましょう。

 それでは長ったらしい前書きもここで終了して、そろそろ本編の方に入っていきましょう!

 それでは、どうぞ!


 よく晴れた休日の日。とある公園の一角にある大きな像の前に1人の女の子が佇んでいた。その女の子とは、世界的に有名な大人気アーティストである風鳴翼である。

 

 今日は以前に予定していた響と共に出掛ける日である。響と決めた集合場所に一足早く到着した翼は、やって来るだろう響を捜す為に時々周りを見渡しながら小まめに服装のチェックをしていた。

 

(緒川さんに手伝ってもらったけど大丈夫かしら? ……似合ってると良いのだけど)

 

 今の翼は、膝くらいまでの長さの白色のワンピースの上に半袖の薄い水色の上着を着た格好をしている。露出は然程高く無く、シンプルではあるが、それさえも踏まえて翼の持つ魅力を十全に引き出すコーディネートだった。加えて、シンフォギアの待機形態であるペンダントが今はアクセサリーとしての役割を果たしており、翼の魅力の底上げに貢献している。

 

 そんな持ち得る魅力全開の翼が公園の一角に佇んでいれば直ぐに目立ってしまう。それに翼は老若男女問わずに人気の歌姫である為、そこに翼がいるだけで人の目を集めることになるだろう。

 

 それを避ける為に、今の翼は白色のキャスケットを被っていた。それもまた何処かミステリアスなものを感じさせることで翼の魅力を引き上げると同時に、翼の正体の隠蔽という一石二鳥の役割を果たしていた。

 

 このコーディネートは、今回の響とのお出掛けで何を着ていけば良いか迷っていた翼に緒川がしてあげたものである。翼は緒川のことを信頼しているが、今回の服のコーディネートに関して言えば半信半疑であった。

 

(もし似合っていなかったら、立花に幻滅されるかもしれない。本当に大丈夫かしら?)

 

 先から翼の脳裏を駆け巡る思考の連鎖には、必ずと言って良い程に響の存在が関連していた。それがまた翼の中で元々燻っていた大きな疑問を更に増長させる。

 

(……どうして私はここ最近立花のことばかり考えているの? 二課にいる時でさえ、気付けば立花のことを捜していて、一緒にいる時は知らない間に立花のことを目で追っている。胸の内が暖かくなる時もあれば、苦しくなることもある。叔父様や緒川さんには何も起こらないのに、どうして立花にだけ?)

 

 最初は距離を取って嫌悪にも近い感情を響に抱いていた。だが、“立花響”という男を知っていく内に翼の中の嫌悪は好感に変わっていった。そして気付けば、翼の胸の内には嫌悪していた時のようなただひたすらに重いだけの気持ちではなく、浮き沈みするが普段はとても暖かい木々の間から漏れる木漏れ日のような気持ちを抱いていた。

 

 同じ男である叔父の弦十郎や緒川に抱いたことが無く、翼が人生で初めて響だけに抱いた気持ち。翼は知りたい。この響だけに抱いた気持ちとそれに付随する心と体の異変の正体を。

 

 それを知ることも今日の響とのお出掛けの目的に含まれている。だがまぁ、それを抜きにしても翼は今回のお出掛けには来ていただろう。何せ今の翼は響が来るのが待ち遠しい程に今日のことを楽しみにしているのだから。

 

 待ち焦がれる翼は、まだかまだかと首を長くして響を待ち続けている。そんな翼の背後にある像の逆側には1人の男が佇んでいた。その男とは、今まさに翼が待ち続けている立花響であった。

 

(まだかな、翼さん。やっぱり予定が一杯だから大変なのか?)

 

 響はスマホで時間を確認しながら心中に自身の考えを吐露していた。どうやらこちらも待ち合わせの時間よりも早く着て、相手を待っているという状況のようだった。

 

 翼を待ち続けている響の服装は、何時もと違ってパーカーという装いではなかった。上が白色のVネックのTシャツの上にカーキ色のジャケット、下がベージュ色のチノパンという装いであった。

 

 今回は翼と2人きりで出掛けるということで、流石に何時もの格好では翼本人にも失礼だろうと思った響は、以前世界各国を黎人と回っていた時に言われたアドバイスを必死に思い出しながら自身のコーディネートをしたのだ。

 

 だが、響は1つ忘れていた。黎人のアドバイスは意中の女性を落としたり、交際中の女性に対して特別感を与えて好感度を更に高める為にすることだということを。

 

(にしても、あの後の未来は怖かったなぁ……何が怖いって未来は笑顔で笑ってるんだけど、その笑顔が何処か凄みを感じさせたんだよな。悪寒はするし、背筋が凍り付きそうになるし、冷や汗は流れてたし……)

 

 実は響、翼と一緒に出掛ける予定を詰めた後に未来に詰め寄られていたのだ。その時は周りに誰もいなかったがもし誰かいたのなら、その人はきっと消えない恐怖を体験することになっただろう。

 

 どうしても付いていこうとする未来を説得するのに響はとても苦労した。最初は響の言葉に全く聞く耳を持たず、どうしても付いてこようとしていた未来だったが、響が装者として翼と2人で話したいことがあると伝えると、それまで聞く耳を持っていなかった未来が響の気持ちを汲んで説得に応じてくれたのである。

 

(でもまぁ、そのお礼としてまた今度未来と出掛けることになったんだが。別にそれくらいなら、未来が頼むなら何時でも一緒に行ってやるのにな)

 

 今回は響の顔を立てて引き下がる代わりに、響は後日未来と出掛けることになった。しかし、響としては少し無茶なお願いをされるかもしれないことを覚悟をしていた為、寧ろ未来と出掛けるだけで良いという事実に拍子抜けしてしまっていた。

 

 悲しきかな。未来が緊張や焦燥や羞恥を感じながらもどうにか状況を上手く利用して取り付けたデートの約束は、響の中では“幼馴染みと出掛ける”だけという範疇に収まってしまっていた。

 

 そんな感じで、響と翼は2人して待ち合わせの時間よりも早く待ち合わせ場所に着いているのにも関わらず、像を1つ挟んでお互いがお互いの存在に気付かないという状況でただただ不毛な時間だけが過ぎていく。

 

 響はスマホを、翼は腕時計を見て時間を確認する。時計の針が2人の待ち合わせの時刻を示そうとした時、両方の位置から見える場所で遊んでいた子供のグループの内の1人がで()けた。

 

 像の前で待ちながら子供達の遊ぶ光景をのほほんと見守っていた響と翼は、子供が転けたのを見て心配し、像から離れて子供の様子を見に行こうとした。その時、偶然にも2人が同タイミングで歩みでたことで、お互いの姿を隠していた遮蔽物の像が無くなったことで響と翼はお互いの存在を視認出来るようになったのである。

 

「「あ……」」

 

 そして、全く同じタイミングで今日の相方の存在を目にばっちりと写した響と翼は、声を漏らしながら相手の格好を見て固まった。

 

 響が見たことのある翼は、大抵の場合制服の姿で、別の格好と言っても病衣や検査衣といった病院にいる患者が着ているようなものばかりだった為、今回初めて見る清楚で女の子らしい翼の私服姿に思わず顔を赤くした。

 

 対して翼が見たことのある響は、大抵の場合私服の姿で、色合いやデザインは違うが何時もパーカーという似たような装いだった為、今回初めて見る何時もと違う特別感のある男らしい響の私服姿に思わず顔を赤くした。

 

「あ、その……いたのね……」

 

「あ、あぁ……その、結構似合ってるぜ、その服。凄く可愛いと思う……」

 

「ッ! ……あ、ありがとう。そういう立花も何時もの格好と違って、凄くかっこいいと思うわ……!」

 

 まるで付き合い始めて出来立てほやほやのカップルの初デートのようなリアクションをする響と翼。2人が口籠もりながら言葉を伝えている間に転けた子供は他の子供達に起こされてさっさと離れて行ってしまっていた。

 

「あぁ、折角翼さんと出掛けるんだから、少し何時もと違うおしゃれな格好を意識してみたんだ。パーカー以外の服装で誰かと出掛けたのは、翼さんが初めてだ」

 

「ッ!」

 

 翼が初めてというある意味特別感のある言葉を聞き、翼の顔が先のものよりも更に赤色に染まっていく。恥ずかしくなった翼は、慌てて顔を背けて顔が赤くなり過ぎているのを響に悟られる前に無理矢理話を振る。

 

「も、もう予定の時間にはなってるのだから、そろそろ行きましょ! 時間が勿体無いわ! 急ぎましょ!」

 

「あっ! ちょっと待ってくれ、翼さん!」

 

 急かす翼を引き止め、響は背負っていたショルダーバッグからある物を取り出した。それは中に何かが入っている縦長のケースだった。

 

「はい、これ。翼さんにプレゼント」

 

「これを私に? ……ここで開けても良いのかしら?」

 

「あぁ、是非そうしてくれ!」

 

 響から手渡された縦長のケースをまじまじと見た翼は、一応響からの承認を得てからケースの蓋を開ける。開けたケースの中には、今の澄み渡った空のようなスカイブルーの眼鏡が収められていた。

 

「これは、眼鏡?」

 

「あぁ。翼さんは有名人だからさ、やっぱり顔の印象を誤魔化すことが出来る物は多い方が良いと思って。……気に入らなかったかな?」

 

「そんなこと無いわ。あなたの気遣い、とても嬉しく思うわ」

 

 感想を訊ねる響に、翼は微笑を浮かべながら極めて簡素に返す。余計な言葉など不要である。余計な言葉を付け足すだけ蛇足となって述べた言葉を薄っぺらくすることもある。相手に喜びや感動を伝えるなら、今の翼のように簡素な言葉と顔に出た表情だけで十分伝わる。そして、翼の想いは確かに響にも伝わっていた。

 

 すると、翼は早速ケースの中から眼鏡を取り出して掛けた。やはり眼鏡を掛けるだけで大人気アーティストである風鳴翼の印象からは離れる。しかし、普段の風鳴翼の印象からは離れても、決して似合わずに不細工(ぶさいく)に見えるということはない。寧ろ、眼鏡を掛けたことで何時もとは違うクールな印象を響は翼から感じていた。

 

「どう? 似合うかしら?」

 

「あ、あぁ! すっげえ似合ってるぜ、翼さん!」

 

 クールでありながらも女の子らしい可愛らしさがミックスされた今の翼に響はドキッとしていた。そんな顔を赤くしながら少し早口で喋る響が面白くて翼は笑みを浮かべた。

 

「さ、今度こそ行くわよ。折角の休日に出掛けるのだから、長く楽しみたいもの」

 

「あ、ちょっ翼さん!?」

 

 上機嫌になった翼は、響の手首を掴みながら街に向かって歩き出したのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 街へ繰り出した響と翼は、ショッピングモールにやって来ていた。理由としては、ショッピングモールには色々なものが揃っているというの1番大きい。

 

「まずはやっぱりショッピングか。翼さんは何処か行きたい場所ってある?」

 

「ごめんなさい。私はこういう場所に来る機会が少ないからあまり勝手が分からないの。だから何処か行きたい場所と言われてもね……?」

 

 幼き頃よりあまり俗世と関わらず、歌姫と戦士の2つ顔を併せ持つ故に個人の時間を持つことが殆ど出来なかった翼には、友人や身内と共に出掛けるという経験が全く無い。故に翼は、行きたい場所を訊ねられてもどうすれば良いのかということが分からなかった。

 

「そっか。なら、順番に色々な場所を回るとするか」

 

「そんな目的も無くぶらつくものなの?」

 

「ん。特に目的無くデパートとかショッピングモールに来た時は基本的にこんな感じだ、俺は。ブラブラしてる間に自分の欲しいものとかがポンと出てくるかもしれないしな」

 

 響は少し昔を思い出しながら翼にそう言った。

 

 響にしても同年代の誰かと共にショッピングモールをぶらつくというのは実に2年ぶりである。黎人の仕事の関係上長期滞在をする機会というのは殆ど無く、仮に長期に渡って滞在したとしても響がその土地の地図や言語に慣れた頃には既に次の場所に行くのが決まっていたから、このような理由も無くショッピングモールをブラブラするというのは本当に久方ぶりなのであった。

 

 響は翼を先導して試しに近くにあった小物店に入った。その店には小さなストラップから様々なデザインのコップといった多種多様なな小物が並べられていた。

 

「へぇ、色々とあるもんなんだな。おっ、これとかどうだ、翼さん?」

 

 そう言って響が手に取ったのは、青一色が全体に塗られているマグカップだった。その青いマグカップの側面には、とても可愛らしくデフォルメされた鳥の絵が描かれていた。

 

 翼は響が手に取ったマグカップを受け取り、マグカップを様々な角度から見回す。

 

「とてもシンプルなデザインね。でも、シンプルだからこその良さが見て取れる。それにこの鳥の絵もとても可愛らしいわ。最近家で使っていたマグカップも壊してしまったから、丁度買い時なのかもしれないわね」

 

「なら折角だし俺も買おっかな」

 

 響はそう言い、今翼が手に持っているマグカップが元々置かれていた位置の直ぐ側に置いてあった黄色いマグカップを手に取った。色は違うが、そのマグカップは翼が買おうとしているマグカップと同様のデザインで同じデフォルメされた鳥の絵が描かれていた。

 

「立花はそれで良いの? 態々私の物と似たものを買う必要は……」

 

「俺がまだ中学生だった頃に聞いた話なんだけどさ、女の子って仲の良い友達と似た髪型に同じ服、同じ鞄、兎に角その友達と同じ物を揃えたりすることがあるって。俺は男だけど、翼さんのことを頼れる先輩って思うのと同じくらい友達だって思ってる。だから今日はそんな頼れる先輩で友達な翼さんと同じ物を揃えるのも有りかなってさ。それに俺個人も結構このマグカップ気に入ったし」

 

「立花……」

 

「それに色は違うけど、お揃いだぜ、お揃い。女の子、それも翼さんみたいな美少女と同じ物を使うって特別感があるじゃん」

 

「そ、そうね。私も友達と同じ物って思うと嬉しいわ……お揃い……立花とお揃い……

 

 響と同じ物を買って、それを使うことを想像した翼は、頰を少し赤く染めながら微笑を浮かべていた。その時の翼の顔はとても可愛らしく、そんな翼の顔を見た響はドキドキしながら目を離せずにいた。

 

 その後も様々な店を回り気に入ったものを買って回っていた2人は、一旦ショッピングモール巡りを終了して休憩がてら映画館にやって来ていた。

 

「翼さん、何か見たい映画ってある? 無いなら俺が勝手に選ぶけど?」

 

「あ、ある……」

 

「どれ?」

 

「そ、その……あ、あれよ……」

 

 翼が指で指し示した方向に視線を向ける響。翼に指し示された方向にあったのは、とある男女のラブロマンスを描いた恋愛ものの映画だった。

 

「へぇ、恋愛系か。そう言えば、俺って見るのは基本アクションとかSFとか特撮映画ばっかりだから、こういう恋愛ものって馴染みが無いなぁ」

 

「その……ダメ、かしら?」

 

「いや、良いぜ。俺も偶には未知のジャンルに挑戦してみたいし、どういう内容なのかも気になるしな」

 

 感慨深そうに話す響に、翼は響は恋愛ものの映画に不満があるのかもしれないと思い不安そうにするが、響はそんな翼の想いを払拭するように笑いながら翼の意見に賛同した。

 

「それにしても意外だなぁ。翼さんが恋愛ものに興味があるなんてなぁ……もしかして、翼さんって結構こういうの好きなのか?」

 

「わ、私も、こういったジャンルの映画は余り見ないわ……。その、立花みたいに偶には趣向の違うものを見てみるのも良いかと思って……!」

 

 翼は顔を赤くして恥ずかしそうにそう言うが、翼のこの言葉は文字通り真っ赤な嘘である。今の翼は響のような軽い気持ちで恋愛ものの映画をチョイスした訳ではなかった。翼のこの行動には、先日の了子の言葉が影響を及ぼしていた。

 

──兎にも角にも、出来る女の条件は何れだけ良い恋してるかに尽きる訳なのよ! ガールズ達も、何時か何処かで良い恋しなさいね……って、その辺りは野暮だったかしらね。翼ちゃんも──

 

 恋がどうのこうのといった話であったが、了子の話す対象の中には未来だけでは無く翼も含まれていた。未来に対して言うのなら翼もまだ分かる。未来の態度や言動は、目に見えて響に恋していることを示唆している。

 

 だが、翼には恋をしているという自覚が無い。故に了子が何故自身までも話の対象の中に含んでいたかの理由も翼には分からない。仮に恋をしていると言われても恋がどういったものか分からない翼は、何も理解することが出来ないのである。

 

 だからこそ、翼は恋愛ものの映画を見ることで、自身が本当に誰かに恋しているのか、また恋とは一体どういったものでどのように感じるものなのかを知る為に恋愛ものの映画を選んだのだ。

 

 そんな翼の思惑も知らぬまま、響は翼に言われた通りの映画のチケットを翼の分も含めて購入し、キャラメル味のポップコーンとコーラとオレンジジュースを売店で買ってシアタールームに入っていった。

 

 映画の内容は、互いに恋に落ちた1組の男女が、様々な困難に見舞われ、時に支え合い、時に衝突し合い、その多くの困難を共に乗り越えていき、最後は2人で幸せを掴み取るという王道のラブストーリーものであった。

 

 そんなラブストーリーものを見ていた響は熟睡……ではなく、マジ泣きの号泣をしていた。感受性豊かな性格をしている響は、案外こういった王道の物語に共感し易く、共感した故に涙を流しまくっているのだ。

 

 その隣にいる翼は、響程ではないがほろりと涙を流しながら物語の行く末を見守っていた。どうやら、翼も響には負けるがそれなりに感受性豊かな人間であったようだ。

 

 両者それぞれの形で涙を流しながら見守っていた物語は、最後に男が目覚めるかどうか分からない意識不明の重体から回復して2人は幸せに結ばれるという形で無事エンディングを迎えた。

 

 映画を見終わった響と翼は、周りの人に翼の正体がバレるのを未然に防ぐ為に、あまり人のいない休憩所まで移動してから映画の感想を話し合っていた。

 

「すっげえ泣けた。初めて真面目に見たけど、恋愛映画って凄く感動するもんなんだな。翼さんはどうだった?」

 

「……」

 

「翼さん? おーい!」

 

「……あっ!? そ、そうね! 私も良かったと思ってるわ。それに色々と考えさせられたり、勉強になったりして教えられたことも多いし、とても有意義な時間だったわ」

 

「そっか。そいつは良かった」

 

(緒川さん曰く、俗世に疎いらしい翼さんから見たら恋愛事情って結構新鮮だったんだろうな。この経験が何時か翼さんに良い影響があったら良いな)

 

 頰を染めて少し慌てながら返答する翼を見て、響はそう思った。対して翼は、先の映画の主要人物である男女の会話や心情を語る場面を思い出しながら、今の自分が抱いている気持ちと向き合っていた。

 

(好きな人と一緒にいると、心が安らぐ。安心する。けど、その好きな人が自分とは別の女性と一緒にいれば、心が揺れる。不安になる。それが恋や恋愛に含まれるものなのだとしたら、私が立花に抱いているこの想いは……)

 

 今の翼の動悸は何時もよりも激しい。運動もしていないのにここまで動悸が激しくなったのは、翼の生きてきた約18年間の人生史上初の出来事であった。しかし、動悸は激しいのに今の翼の心は驚く程に安らいでいる。

 

 以前に響の口から未来の名前が出た時、翼は胸の奥に物理的ではない何らかの痛みを感じたことがあった。その時の翼は、今の翼とは真逆で、とても不安に駆られていた。

 

 恋愛ものの映画を見た経験は、翼の心境と考えを認識させ、疑問だったものを半信半疑ではあるが少しは確信が持てるものに変えていた。

 

「さて! 小腹も空いてきたし何か食べようと思うけど、翼さんは何か食いたい物とかあるか?」

 

「え、えぇ。食べたい物……そうね、甘い物が欲しいわね」

 

「甘い物……なら、あれとかどうだ?」

 

 甘い物をご所望する翼の意見を聞き、響は一旦周りを見渡して見つけたものを指差しながら翼に問い掛けた。響が指差した先にあったのは、露店販売をしている1つの屋台であった。

 

 傍にソフトクリームの置物が置かれ、近くで“ソフトクリーム”と書かれた旗が揺れているその露店はソフトクリーム屋であった。

 

「ソフトクリーム……」

 

「……あれ? 甘くて美味いと言ったら、俺的にはアイスだったんだけど、翼さん的には御眼鏡に適わなかったか?」

 

「そんなことないわ。さ、早く行きましょう」

 

 少し不安そうな顔をみせる響に翼は微笑みを浮かべ、ソフトクリームを買う為に響の手を引いてソフトクリームの屋台の下まで歩いていく。

 

 翼は少々自覚が薄いかもしれないが、翼は紛うことなき美少女である。加えて言うと、響は“ツヴァイウィング”結成当初から翼と奏のファンであり、翼は響にとって憧れの存在だった。

 

 そんな翼と偶然とはいえ手を繋いでいる思春期真っ盛りの少年である響からすれば、ちょっと刺激が強過ぎるなんてレベルじゃない衝撃が響の胸中で走っていた。

 

(これヤバいって!? 俺、翼さんと手を繋いでる!? さっきは手首だったけど、今回はガチで手を握ってるんですが!?)

 

 刺激が強過ぎて内心パニックを起こしている響であった。自分からデートに誘ってはいたが、やはり響も所詮女性経験が皆無の童貞であった。

 

 その後ソフトクリーム屋にて翼は王道のバニラ味、響は子供に大人気なチョコ味のソフトクリームを購入して、近くのベンチで座りながらソフトクリームを味わっていた。

 

 何とか落ち着いた響は、ソフトクリームを味わっている時に横から視線を向けられているのを感じ取った。響が視線を横に向けると、響の隣に座っている翼が響のソフトクリームと響を交互に見ながら視線を送っていた。

 

「……少し食べるか、翼さん?」

 

「ッ!? あ、いやっ、私は別に、そんなつもりでは……!?」

 

「そんな遠慮すんなって! バニラはアイスの王道で美味いけど、やっぱり他が食べてる味がどんなのか分かってても気になるってのは俺も分かるから。だからさ、ほら! パクッと一口どうぞ!」

 

「え、えぇ……じゃ、じゃあ一口だけ……」

 

 響から差し出されたチョコ味のソフトクリームを翼は一口頂く。未だに翼の口の中で味と余韻を残していたバニラ味と、新しく入ってきたチョコ味が口の中で混ざり合い暫定的なミックス味となって翼の口の中を支配していく。

 

「どうだ、翼さん?」

 

「えぇ、とても美味しいわ。ありがとう、立花」

 

「おう! 翼さんが嬉しそうで俺も嬉しいよ。あむっ!」

 

「あ……」

 

 響は嬉しそうに微笑む翼に満面の笑みで返してから再び自身の持つチョコのソフトクリームを口に入れ、その様子を見ていた翼が無意識に声を漏らした。響が今食べた箇所は、つい先程に翼が響のソフトクリームを食べた箇所と同じ場所だった。

 

(これって、確か……)

 

 先程翼達が見た映画には、ヒロインが飲んでいたペットボトル飲料に主人公が口を付けて共有するというシーンがあった。その際、主人公は偶然ヒロインが口を付けていた箇所に自分の口を付けていた。物は違うが、(ヒロイン)が口を付けた箇所と同じ箇所に口を付ける(主人公)とシチュエーションは、先程の映画のワンシーンと類似するものがあった。

 

 ある人が唇をつけた箇所に別の人が唇をつけることを、人は間接キスと呼ぶ。響はある意味バカだから気付いていないが、先の映画の内容を鮮明に覚えていた翼は間接キスを意識してしまい、アイスを食べ終わるまで真っ赤になった顔を響に見せないよう響に背を向けて黙り込んだままであった。

 

 アイスを食べ終えてどうにか響とまともに話せるレベルにまで落ち着いた翼は、響と共にショッピングモールの洋服店コーナーにやって来た。

 

「これとかどうだ?」

 

 響が翼に勧めたのは、肩に当たる部分の殆どが露出している薄い水色のワンピースだった。響の持つワンピースを受け取った翼は、様々な角度でワンピースを観察してから感想を言う。

 

「デザインとかは良いと思うけど、季節的に少し早過ぎないかしら?」

 

「そんなことないって。確かに着るには少しだけ早い気がしないでもないけど、そこは一足先に夏を先取りって感じがして良いじゃん。ほらほら、折角手に取ったんだから試着して見せてくれよ!」

 

「もう、そんなに急かすものじゃないわよ? 急かさなくても私も服も逃げたりしないわ」

 

 口ではそう言いつつも楽しそうに笑いながら軽い足取りで試着室に入る翼。試着室の前で見張りをしている響は、時折聞こえてくる布の擦れる音を聞いて胸をドキドキさせながら翼を待つ。

 

「……着替えたわよ」

 

「あ、はい……開けても良いですか?」

 

「え、えぇ。ちゃんと似合ってるかどうか……確認してもらわないといけないから……」

 

 途切れ途切れに聞こえてくる弱気そうな声音で話す翼から了承を得て、響はごくりと口内の唾を飲み込んでから試着室のカーテンを開ける。

 

 カーテンを開けた先には、少し恥ずかしそうに頬を薄い赤色に染めながら右手で左腕の二の腕を掴んでいる翼がいた。翼の服装は、先まで着ていた白色のワンピースから、響が持ってきた薄い水色のワンピースになっていた。

 

「……」

 

 響はそんな翼に思わず見惚れてしまう。先程まで着ていた白色のワンピースと違い、今翼が着ているワンピースは肩の部分が大きく露出している。露出した肩やハッキリと浮き出ている鎖骨のラインが響の視線を釘付けにする。

 

「そ、そんなずっと見てないで何か言って! 恥ずかしいんだから……!」

 

 何も言われずにただずっと見られ続けられていることに羞恥が限界まで達した翼は、吃りながら響に声を掛ける。そんな何時もと違う普通の少女らしさ全開の翼を見て、響も顔を真っ赤にして自身の意見を述べる。

 

「あ、あぁ。そ、その、す、凄く似合ってると思う……う、うん。や、やっぱ! 俺の見立てに間違いは無かったな! よし! この調子でどんどん着替えてこうぜ!」

 

「あ、ちょ、ちょっと待って立花!?」

 

「大丈夫大丈夫! 俺が良い感じなの持ってくるから翼さんは待っててくれって!」

 

 響は翼に有無を言わせず逃げるようにその場から走り去る。翼から逃げるようにして移動した響は、翼からは見えないところで肩を大きく上下させながら呼吸を整えていた。

 

「あ、危ねえ……予想以上の破壊力だった。流石は翼さんだ」

 

 女性の中では高身長な身長と芸術の如きスレンダーな体型の理想型である翼の体に、翼の持つ肌の白さや美貌といった細かな要素が組み合わさり、そこに翼にピッタリな服が合わさることで、普通の男ならその場で昇天しているであろう美の女神と言っても過言でない存在が誕生したのだった。

 

「ふぅ……あまり翼さんを待たせて心配させるのも不味いし、そろそろ服選びに戻るか。えーっと、一先ず翼さんが青系統の服が似合うってことは分かったから、青を基調としたデザインの服を選んで、その服にマッチする彩りとデザインの物を選ぼう」

 

 興奮と呼吸を鎮めさせた響は、先ほどに翼に行った通り服選びを再開させた。先に言ったように響は青色の服を手に取って他の服を選ぶ。

 

 彩度の高い青色の服には、太腿を大きく曝け出しているスカート丈が短い黒色のスカートを。

 

 黒と白とが組み合わさったノースリーブの服には、ターコイズブルーのフレアスカートに水色のノースリーブの上着、更にそこにプラスしてスプリングコートよりも生地が薄くて丈の長さが七分袖以下の彩度の高い青色のコートも付け加えた。

 

 響が選んでいる服が夏物ばかりなのには理由がある。もう直ぐ夏も近いということで、今響達がいるショッピングモール服屋は季節を先取りして既に夏物の服をセールとして売り出しているのだ。

 

 故に響はそのセールを利用して、比較的安価な夏物の服で翼のコーディネートをしているというのが理由の半分である。後の半分だが、こちらは単に翼に肌の露出が多い夏物の服を着てほしいという響の欲望ありきの理由であった。

 

 やはりそこは響も男の子ということであり、思春期真っ盛りの響は女の子の服や肌に視線が向いてしまうのである。これも男に生まれたが故の弊害で、男としての(さが)である。

 

 そんな調子で響は翼に似合いそうな物を見繕っては翼に着替えさせ、翼自身も気に入った物は自腹で翼に買ってあげた。勿論、響自身も自分が着る服探しはしたし、時には翼にコーディネートを手伝ってもらいもしたが響が服に出した出費の額の大半が翼の物に注ぎ込まれていた。

 

 次に響達は、ショッピングモールにあるゲームセンターのコーナーにまで足を運んだ。ゲームセンターのコーナーの一角は、現在大いに盛り上がっていた。ゲームセンターに遊びに来た子供達は歓声を上げ、その子供達の同伴で付いてきた保護者達は賞賛の拍手を送り、ゲームセンターのスタッフは涙を流している。

 

 そんな大盛況のゲームセンターの中心にいるのは、家事万能ご飯大好き筋肉バカの立花響であった。響は笑みを浮かべながらあるゲームを操作していて、その直ぐ傍にいる翼は驚愕を露にしながら無言で響を見ている。

 

 響が現在操作しているのは、少年なら1度は必ず挑戦したことのあるであろうゲーム──UFOキャッチャーであった。響が操作しているUFOキャッチャーは、響の操作に従って順調に移動して景品を掴み取りそのまま無事に景品を穴に落とし、景品は響の手に渡った。それを見て、周りにいる多くの人達が拍手と歓声を響に送り、店員は再度悔し涙を流す。

 

「ほら、取れたぞ。はい」

 

「わぁぁぁ!! ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 響は屈んで姿勢を低くし、翼とは逆サイドで固唾を飲んで響を見守っていた女の子に今さっき取った景品──可愛らしい(ひよこ)()(ぐる)みを手渡す。女の子は満面の笑みを浮かべて雛の縫い包みをギュッと強く抱きしめながら響にお礼を言って去っていった。

 

「凄いわね、立花」

 

「いやいや、そんなことないって! 俺も2年ぶりだから感覚鈍ってるし、2年前と比べると取った物の数と質もグッと下がってる。やっぱブランクがなぁ……」

 

「……これでブランクがあるなんて信じられないわね」

 

 響に話し掛けた翼に響はブランクを感じていることを軽く返し、翼は引き攣った笑みを浮かべながら戦慄する。そんな響の隣には、入るギリギリまで膨らんだゲームセンターで配布されているビニール袋が1つ置かれていた。

 

 ここまで見れば誰でも察しが付くと思うが、ゲームセンターのUFOキャッチャーのコーナーが盛り上がっているのは、響がゲームセンターにあるUFOキャッチャーの台を虱潰しに回ってはそれらの台全てで景品を取って回っていたからであった。

 

 最初はブランクもあり響も二、三度失敗を繰り返していたが、徐々に興が乗り始めて4度目辺りで景品を初獲得してから響の乱獲が始まったのだ。多くの景品を取り、それを何度も続けていれば自然とゲームセンターにいる子供達の目に止まり、場所を移して同じことを繰り返せばそれでまた人が増え、結果今では響のワンプレイに注目するようになったのである。

 

 そして、そんな響のプレイを見ていた子供達は、響なら自分達の欲しい景品も取ってくれるのではないか、と思い始める。子供達は響に頼み込み、響は子供達のお願いを承諾して子供達の欲しい景品が置かれている台まで移動し景品を取る。お金は子供達が手に握っていた物を使っている為、後に金銭的トラブルが起こるようなことも無く、響も楽しめて子供達も欲しい物が取れて嬉しいというWIN-WINの関係がそこにあった。

 

 つい先程響から雛の人形を受け取った女の子も響に景品を取って欲しいと頼み込んだ子供の内の1人である。

 

「さてと、もうそろそろ切り上げて終わりにしますか」

 

「そうね。流石にこれ以上は荷物が持ち切れなくなるわ。それにこれ以上取ってしまうと、店の方も商売上がったりよ」

 

 そろそろUFOキャッチャーを切り上げようとする響に、翼が苦笑を浮かべながらそう言った。翼から少し離れた位置にいる従業員も涙を流しながら何度も首を縦に降り続けている。

 

 響の手により、少ない消費で数々の目玉となる商品を取られに取られたゲームセンター側は赤字までとは行かないが、それでも手痛いダメージを受けたのも事実であり、これ以上はもう流石に勘弁してほしいのである。

 

「あぁー……それもそうか。じゃー最後に翼さんの欲しい物を取りますよ。何が欲しい?」

 

「えっ……良いのかしら?」

 

「モチのロンだ。寧ろ俺ばっか楽しんでたから、翼さんの欲しいものも取ってあげないと帳尻が合わないというか……兎に角、俺はもう良いから翼さんの欲しいものを取ってあげたいんだ」

 

「……分かったわ。それじゃあ……」

 

 後頭部を掻きながら苦笑を浮かべる響にそう言われ、翼は困惑気味だった顔を微笑を浮かべた優しいものへ変えて欲しいものを探す為に多くのUFOキャッチャーの台を物色し始める。響も隣に置いていた荷物を持って翼の背中を追従する。

 

「……あ!」

 

「おっ、欲しいものあった?」

 

「立花、私はあの子が欲しいわ!」

 

 翼は自身が止まった台の中にある景品を指差し、響は指された方向にあるものに目を向ける。示された方向にあったのは、とても可愛らしくデフォルメされた青い鳥の縫い包みだった。

 

「あの青い鳥で良いのか?」

 

「えぇ。……取れそうかしら?」

 

「少し難しい位置にあるけど、取れないことはないな。それに上手くやればお釣りも出るな」

 

 翼が指定した青い鳥の縫い包みは、端から見てUFOキャッチャーの難易度的にとても難しい位置に置かれている。しかし、何度もプレイしてUFOキャッチャーでの感覚を取り戻した響には少し難しいレベルの問題であった。それもただ取るだけでなく、それ以上の成果を出そうとする響の発言に店側の人間が多量に冷や汗を流しながら戦慄する。

 

「翼さんご所望の縫い包みは、この俺が必ずゲットしてやるぜ!」

 

「さっきのプレイを見たから期待はしているけれど、そこまで張り切らなくても良いのよ? 私はあの子を取ってもらえればそれで……」

 

 翼は張り切る響を諌めようとしたが、響は翼の言葉を右耳から左耳に受け流してスマホを台の入金レーダーにタッチする。電子マネーが払われたことでUFOキャッチャーは起動し、響はボタンを操作してUFOキャッチャーを動かしていく。

 

「……」

 

「……」

 

 真剣に操作する響の横で、翼は動くUFOキャッチャーのアームを凝視しながら固唾を飲んで見守る。操作していたアームが翼の欲しいもの上辺りに来たところで止まり、降下していく様子を見て翼は息を飲む。

 

 UFOキャッチャーのアームは、取り難い位置にあった青い鳥の縫い包みとその近くにあった可愛くデフォルメされた柴犬の縫い包みを一緒に掴んで持ち上げ、少し危なげに揺れながら運んで穴に落とした。

 

「ッ!」

 

「よし!」

 

 無謀な挑戦が上手くいき、翼は体を小さく震わせ響はガッツポーズを取った。屈んで景品コーナーから2つの縫い包みを取り出した響は、その両方を翼に差し出す。

 

「はい、翼さん。ご所望のものをどうぞ!」

 

「いや、でも、これは立花が取ったもので……」

 

 翼は差し出された柴犬の縫い包みを響に返そうとするが、響は首を横に振ってそれを断る。

 

「男の俺にはそういう可愛いのはあんま似合わねえよ。それに家には縫い包みの柴犬じゃなくて、本物の柴犬がいるからな。縫い包みなんて置いてたら、ズタボロにされちまうだろ? ミライはまだまだ赤ん坊の粋を出ない子犬だからな」

 

「けど……」

 

「なら、それは普段から世話になってる翼さんへのお礼ってことで受け取ってくれねえか? 元々翼さんにあげるつもりで狙ったんだから」

 

「……そう言われると、何も返す言葉が見付からないわね。分かった。ありがたく受け取っておくわ」

 

 手に持った青い鳥と柴犬の縫い包みを今一度強く抱き締めた翼は、頬を赤く染めながら優しげな笑みを浮かべていた。暫く縫い包みの抱き心地を堪能し、一先ず縫い包みを堪能し終えた翼は縫い包みをビニール袋に入れて、響と共にUFOキャッチャーのコーナーを後にした。

 

「さて、次は何処行くか……どうした、翼さん?」

 

 響の横を歩いていた翼の視線がとある一角に釘付けになっていことに気付いた響。自然と翼の見る方向に視線を向け、響はその先にあるものを視認した。

 

「立花、あれは何?」

 

「あれはプリクラだよ、プリクラ」

 

 翼の視線の先にあったのは、多くの女性や極一部の男性に人気があるゲームセンターに置かれている定番の機械──プリクラだった。

 

「そのプリクラってどういうものなの?」

 

「金入れて写真を撮って、その撮った写真に絵文字とかを後付けしてシールに印刷するって奴だ」

 

 プリクラとはどういったものかを翼に聞かれ、響はプリクラですることを細かいことを掻い摘んで大まかに説明する。説明を聞いた翼は成る程と頷き、その後もプリクラの機器に視線を送り続けていた。

 

「……やってみるか、翼さん?」

 

「えっ」

 

「今の翼さん、すっごくプリクラやりたいって顔してるぞ。俺で良ければ付き合うけど、やってみるか?」

 

 初めて遭遇したプリクラを使ってみたそうな翼の顔を見て響が提案し、翼はまた顔を赤くして少し恥ずかしがるような態度を見せながらも、こくりと頷いて響の提案を承諾した。

 

 プリクラの機器の入金のレーダーにスマホをワンタッチしてから中に入る響と翼。中に置いてある機械の指示に従って操作をし、プリクラの機器が写真を撮るカウントダウンを始める。

 

「ほら翼さん! 笑って笑って! そしてポーズ!」

 

「えっ、えぇっ!? そ、そんな、急に言われても!?」

 

「ポーズは何でも良いから! 兎に角カメラのレンズの方見ながら笑うんだって。来るぞ、3、2、1!」

 

 パシャりという音と共にフラッシュが焚かれる。機会が撮った写真のデータの処理をして直様画面に先程撮られた写真の画像が表示される。画面に映ったのは、緊張してるのか少し弱気そうな顔をしながら頬を赤くしている翼と、その翼の隣で満面の笑みを浮かべている響だった。その写真の中で翼は控えめにピースしていて、響はサムズアップを前に突き出していた。

 

「この時にデコレーションとかしたりするんだ、翼さん」

 

「そうなのね。それにしても、少し写真写りが悪いわね。何だか尻窄みしているみたい……」

 

「そうか? 俺は好きだけどなぁ。何かこう保護欲をくすぐられて、凄く守りたいって思う」

 

 そう言いながらも響は手を止めることはせず、写真のデコレーションを進めていく。時々翼の注文を聞き、プリクラの機器の操作に慣れていない翼の代わりに翼の意見をプリクラに反映させていく。

 

「よし、こんな感じで良いだろ」

 

 やりたいデコレーションを終わらせた響は、機器のタッチパネルに表示された完了の部分をタッチする。すると、画面にプリクラの製造が開始されたメッセージが表示されて中から出る響。響を追うように翼も外に出て、その直後に現像されたプリクラが機器から出てくる。

 

「どう、立花?」

 

「我ながら上出来だと思ってる」

 

 出てきたプリクラを手に取って見ていた響は、プリクラの出来前を見て自賛する。響は、手に持っていた2つあるプリクラの内の1つ翼に差し出し、翼はそのプリクラを見て微笑を浮かべる。

 

 プリクラには、『槍?』と『剣!』や『可愛い後輩!』と『かっこいい先輩!』、『響、参上!』や『翼、初めてのプリクラ』などと言った様々な言葉が書かれている。

 

「ありがとう、立花。大事にするわ」

 

「あぁ。さてと、ブラブラするのも疲れてきたし、ここは何処かの建物に入って休憩がてら何かしようと思うんだけど、翼さんはどうですか?」

 

「えぇ。私もその意見には賛成だわ。でも立花、何処に行こうと思ってるの?」

 

「ふふん。俺と翼さんが行くとしたら、そりゃもう一箇所しかないでしょう!」

 

 そんな響の発言を皮切りにして、響と翼は場所を移動し始める。響に明確な場所と名前を教えらもらえていない翼は、少し疑問に思いながら響に先導される形でショッピングモールを後にする。

 

 そして響が翼を連れてきたのは、ショッピングモールから歩いて10分程掛かったとある建物だった。その建物の屋上には、その建物が何のお店であるかを示す文字が書かれている。

 

「カ、ラ、オ、ケ、街……カラオケ?」

 

「そう、カラオケ。歌って戦うシンフォギア装者の俺と翼さんだからこそ、行くならカラオケ店一択でしょ」

 

 翼を連れて建物に入りパパッと受付を済ませた響は、マイクやジュースの入ったコップを持って翼と共に指定された部屋に入って一息吐く。

 

「ふぅ……」

 

 響の自宅の近所にあるカラオケ店とは違う店ということもあり、響は伸びをしながら部屋中を見渡す。響が見た感じでは特に不足や不備のある物は無く、現在翼が操作しているカラオケのリモコンの調子も良好である。

 

(……あれ? 今思ったら、トップアーティストな翼さんと一緒にカラオケに来てる俺って凄くね?)

 

 今更な話である。そもそも大人気トップアーティストである翼と2人きりでお出掛けしている同年代なんて片手で数えられる程に少なく、男だけならば響一人に限られるだろう。

 

「ん?」

 

 すると、唐突に部屋の明かりが消えて部屋の天井に設置されているミラーボールが回転を始める。その直後、設置されているスピーカーから渋い響きな和風テイストの音が流れ始める。

 

 この場にいる人間は2人だけである。だが、響は部屋に着いた直後から休憩していてリモコンを操作してはいない。そうなると、この曲を入れた人間は1人しかいない。

 

 部屋にあったテレビには、今流れている曲の題名が表示される。そこには、“恋の桶狭間”という題名と作詞者と作曲者の名前が載っている。

 

 響はこの曲を入れたであろう人物に視線を向ける。その視線の先にいる人物こと翼は、1度微笑んでから机に置かれていたマイクを手に取って立ち上がり、少し広いスペースに移動してから響に向かって一礼する。

 

「1度こういうのやってみたいのよね」

 

「……渋い」

 

 最初に選んだ曲が演歌ということが意外だった響は、その翼の意外な選曲と趣味に対する感想を漏らした。

 

 響のこの反応も無理は無いだろう。普段はアーティストとして若者に人気のありそうな曲調のものばかり歌っていた翼が、普段歌っているものと全くテイストの違う演歌を歌うだなんて誰が思うだろうか。

 

 そんなこんなで終始ノリノリで演歌を歌い切った翼は、響に向かって今一度会釈してマイクを置いて響の隣に座る。

 

「ほら、次は立花の番よ」

 

「あ、はい! 今入れます!」

 

 演歌を歌う翼に見惚れ、翼の歌う演歌にすっかり聞き惚れて視覚と聴覚から心を骨抜きにされ掛けていた響は、翼に話し掛けられたことでようやく正気を取り戻し急いでリモコンを操作する。

 

 そんな感じで響が歌った後は翼が、翼が歌った後には響がといった交代でローテーションしながら心のままに歌を歌っていった。演歌をあまり知らない響は様々な演歌を歌う翼の姿と歌に魅了され、逆に翼は響の本場仕込みの英語で歌われる英語メインの歌や英語のみの歌に聞き入っていた。

 

 そして今は翼が歌う番であり、響は翼の歌に聞き入りながらもリモコンを操作してある1つの曲の詳細が載った画面を見詰めていた。

 

(こいつを選んだら、やっぱ翼さんは怒るかな……? でも、それでも俺は翼さんと一緒にこの歌を歌いたい)

 

 過る迷いを振り払い、決意を決めた響はその曲をカラオケマシーンに登録する。翼が歌い終わり、再び一礼した翼は机にマイクを置こうとするが響がそんな翼を押し留める。

 

「? どうかしたの、立花?」

 

「まぁ少し待ってくれよ、翼さん」

 

 響がそう言った直後、響がリモコンで入力した曲のメロディが流れ始める。流れ出したその曲のメロディを聴いた瞬間、翼の顔の表情が完全に固まった。

 

「このメロディ……“ORBITAL BEAT”?」

 

「あぁ、その通りだ。翼さん」

 

 “ORBITAL BEAT”、それは2年前の惨劇が起こる直前に“逆光のフリューゲル”を歌い終えた“ツヴァイウィング”の翼と奏の2人が続けて歌おうとしていた曲である。

 

 しかし、ノイズによる惨劇の結果、“ORBITAL BEAT”という曲は、いや、“ツヴァイウィング”が歌った曲がその歌い手達によって歌われるということは永遠に叶わなくなったのだ。

 

「翼さんにとって、“ORBITAL BEAT”も“逆光のフリューゲル”も奏さんとの大事な思い出が詰まった大切な曲なのは俺も分かってる。俺が奏さんの代わりになれないってことは百も承知だ」

 

「……」

 

 言葉を紡ぐ響に翼は言葉を返さない。響は、翼の(さかさ)(うろこ)に触れた可能性があることも分かっている。折角気分良く休日を過ごしていたのに、唐突にデリケートな部分に触れられたのだから誰だって機嫌が180°ひっくり返って不機嫌にもなるだろう。

 

「でもさ、今だけは何も聞かずに一緒に歌ってくれないか、翼さん。……頼む」

 

 響は翼の目から視線を外さずに頼み込む。何時も爛々と輝いている響の瞳からは不真面目な気配は一切感じられず、寧ろ今の響には真剣さ以外の要素が目からは窺い知れなかった。

 

「……マイクを持ちなさい、立花」

 

「ッ! 翼さん!」

 

 翼は響に対して激昂することな無く、寧ろ強気な笑みを浮かべて響に了承の意を返した。そんな翼を見て、自然と響の表情も先程の固いものから年相応少年らしい笑顔に変わる。

 

「その曲で私にデュエットを持ち掛けてくるとはね……付いて来れるかしら、()()に?」

 

「当然! 何たって、俺は奏さんのガングニールを受け継いだ翼さんの後輩だからな!」

 

 挑戦的な言い回しをする翼に自信満々の笑みを浮かべる響。そしてイントロが終わり、Aメロに突入した曲を響と翼は歌い始める。

 

 2年間という長い間ずっと“ORBITAL BEAT”を含めた“ツヴァイウィング”の曲を歌ってこなかった翼。時に歌詞に目を通し、時に音楽プレイヤーから曲を聞き、時に歌を口ずさんでいた翼であるが、その歌唱力は2年前と遜色無いどころか翼個人の歌唱力は当時のものよりも優れていた。

 

 そんな2年前よりも優れた歌を歌う翼に必死に食らい付く響。奏が担当していた歌詞を奏に代わって歌う響は、奏がどのように歌って翼と共に歌を重ね合わせていたかを思い出しながら、当時よりも素晴らしい歌を歌う翼に自己流のアレンジを加えて翼に付いていく。

 

 最初はバラツキがあって若干不揃いだった歌は、1番から2番、2番から3番にかけての間でシンクロしていき、3番のCメロに入った時には既に2人の歌は完全調和(パーフェクトハーモニー)を奏でていた。

 

(懐かしい、この感じ……)

 

 歌を歌う中で、翼はその胸に懐かしさを感じていた。“ツヴァイウィング”の歌を歌うこと自体が懐かしいこともあるが、それ以前に翼は別の何かを感じていた。そう、それは忘れていた何かを思い出したのかのような……。

 

 ふと翼は自身の隣に視線を移した。この歌を歌う時、何時も自身の隣には笑顔の奏の姿があったことを翼は覚えている。しかし、今の翼の隣には奏の姿は無い。

 

 代わりにその隣には、必死さを感じさせながらも笑顔を浮かべて心底歌うことを楽しんでいる無邪気な笑顔を浮かべた響がいる。

 

 歌唱力が唯でさえ高い翼が自身の持ち歌を歌っていて、そんな翼に必死に付いていこうとするだけでも普通の人間には難しいことだろう。だが響は、そんな状況下でも笑顔を絶やさずに歌って入られている。それは何故か?

 

 決まっている。大好きだから、楽しいからだ。大好きな歌を、大好きな曲で、大好きな翼と共に歌えることが楽しいからだ。

 

 そして、その“大好き”と“楽しい”という想いこそが、翼が奏を失ってからの2年間の内に胸の内に封じ込めて忘れてしまったものだったのだ。

 

(あぁ……思い出した)

 

 胸の内に仕舞い込んで鍵を掛け、忘却の彼方に忘れていたことを響が思い出させた。

 

(私は……こんなにも歌うことが大好きで、誰かに歌を聞いてもらえることが楽しいんだってことを……!)

 

 Cメロから曲中最後のサビに入り、完全にシンクロした響と翼の歌は一瞬もブレること無く完全にサビを歌い切る。

 

(ありがとう、立花。私に大切なことを思い出させてくれて)

 

 何故響が“ORBITAL BEAT”を翼と共に歌おうとしていたのか、翼は今ならその答えが分かるような気がしていた。だが、翼は敢えてそれを口に出さない。代わりにその想いを歌に乗せて響に送ることにする。

 

 曲がアウトロに入り、翼は置かれているリモコンを操作して新たに曲を入力した。そして““ORBITAL BEAT””のアウトロも流れ終わって、響は如何にか歌い切れたことに満足感と達成感を感じながら一息吐こうとしたが、新たに流れ始めた曲に響は素早く反応する。

 

「これって、“逆光のフリューゲル”か!」

 

 流石はファンというべきか、流れ始めたイントロの最初の部分だけで曲名を見事に言い当てる響。この曲を選曲したであろう翼に響が目を向けると、そこには笑みを浮かべた翼が立っていた。

 

「あなたが私を焚き付けたのだから、今日はとことん付き合ってもらうわ。それとも、もう疲れてしまったのかしら?」

 

「ははっ! OK! 付き合ってやろうじゃないか! 燃えてきたぞ!」

 

 置いたマイクを再び手に取る響。そこから響と翼による“ツヴァイウィング”の曲の完走フルマラソンが始まったのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 “ツヴァイウィング”が出した曲の全てを歌い切り、流石にこれ以上は喉的にも限界を迎えていた響は、時間も時間であったり店の方から規定の時間になったという知らせも聞き、翼と共にカラオケ店を後にした。

 

 そんな響達が次に向かった場所は、街から少し離れた郊外にある丘の上の公園だった。喉は限界であるが肉体には()して疲労が溜まっていない響はスイスイと階段を登っていたが、一方の翼は息を切らせながら響の後を追い掛けるように階段を登っていた。

 

「翼さーん! 早く早く! Hurry up!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ……立花、どうしてそんなに元気なの?」

 

「体力馬鹿に定評のある俺だからな。元気莫大ってな! まぁ、翼さんがへばり過ぎってのもあるか? だとしても、それは仕方無いさ。翼さんにとって、今日は慣れないことの連続だったんだからな」

 

「防人であるこの身は、常に戦場(いくさば)にあったから……」

 

 そうこう話している間に翼は階段を登り切って響に追い付いた。すると、丁度タイミングよく心地良い風が吹き、木々や草花、それと翼の綺麗で長い髪を揺らした。

 

「本当に今日は知らない世界ばかりを見てきた気分ね」

 

「そんなことないって。俺達が今日回ったのは、他でもない俺達の住む世界なんだからよ」

 

「えっ?」

 

「ほら、翼さん。そんなところで突っ立ってないでこっちに来てくれ」

 

 呆然と空を眺める翼の手を掴み、響は公園に設置された落下防止の手摺りの側まで翼を誘導する。

 

「立花!?」

 

 翼は抵抗する間も無く力強い響の腕に引っ張られて手摺りの前に立つ。その場所からは、黄昏の光に照らされる街全体を一望することが出来た。そんな在り来りでありながらも何処か神秘的な光景に翼は自然と夢中になっていた。

 

「ほら、あそこが今日待ち合わせした公園だろ。今日俺と翼さんが回った場所も、回ってない場所も全部俺達の世界だ。今日まで翼さんが戦い続けてくれたから皆が暮らすことが出来てる世界だ。だからさ、知らないなんてそんな寂しいこと言うなよ」

 

 響にそう言われ、翼は今一度視線を響から下に広がる街に移す。

 

──戦いの裏側とかその向こう側には、また違ったものがあるんじゃないかな。私はそう考えてきたし、そいつを見てきた──

 

「……そうか。これが奏の見てきた世界だったのね」

 

 翼は眠りに就いていた時に夢で出てきた奏が話していた言葉を思い出していた。そして、翼は自分なりに奏が言っていた言葉の答えに辿り着くことが出来た気がした。

 

 奏の見てきた世界。戦いの裏側やその向こう側には、平和な世界とその世界に暮らす大勢の人々の存在があったのだ。

 

「平和を謳歌する人達と平和を守る俺達は、確かに立場は違うかもしれないけど、それでも同じ世界で暮らしてる。人としての生き方をしている人達も、戦士としての生き方をしている俺達も要は世界の一部だ」

 

「立花、急にどうしたの?」

 

 唐突に平和に暮らす人々やノイズと戦う自分達の存在について語り始めた響に疑問を抱いた翼は、その疑問を解決すべく響に問い質した。

 

「前に翼さんは言ったよな。戦士として生きるってことは、それだけ人としての生き方から遠ざかることだって」

 

「えぇ……そんなことを言ったこともあったわね」

 

 響の口から語られたのは、以前響が絶唱の負荷によって入院していた翼と話をした際に出ていた内容だった。人の生き方と戦士の生き方の違いを語り、響の胸の内の想いと覚悟を聞き届けた日のことを今でも翼は鮮明に思い出せる。

 

「俺達がいる非日常は、人々が暮らす平和な日常とは程遠い場所にあるのかもしれない。でも、俺達のいる非日常も皆の暮らす日常も同じ世界の一部だ。ならさ、同じ世界にあるのなら戦士として生きながらも人として生きようとすることも可能なんじゃないかって最近思い始めたんだ」

 

「戦士としても、人としても……」

 

「人として死んでも、戦士として生きる。それは多くの人を守るのに必要な心構えなのかもしれない。でも、人の生き方を諦めても良いって言い訳にはならない。人と戦士の二足の草鞋を履いても良いと思うんだ」

 

「……それはとても難しい、いえ、不可能に近いことだと私は思うわ、立花」

 

 響の考えを翼は真っ向から、然れど優しく否定する。以前の翼なら響の言葉を戯言と切り捨てて聞く耳も持たなかっただろうが、今の翼はあの頃とは違って響のことも理解しているし、何より響の話に興味もあったから今この場で切り捨てるようなことはしなかった。

 

「個人の幸福と人々全体の幸福の両方を両立させることは難しい。人の生き方に執着すれば、戦士として半端になって綻びが生まれる」

 

「……」

 

「けれど、戦士の生き方に執着すれば、何時の間にか何を思って戦士となったかも忘れ敵を屠り続ける修羅となり果てる。難しいものね。私は身を以て、それを経験したわ」

 

 戦士としての生き方に執着し続けた翼は、自分の胸の内にあった想いを忘れてしまっていた。故に戦士で有り続ける上での危険性を理解している。だが、半端な者が守れるものなど無いことも翼は知っている。

 

「確かに人としても戦士としても生きるってのは、俺が思ってるよりも難しいことなのかもしれない。実際にそうなんだと思う。でも、それは1人っきりだったらなんだと思う」

 

「1人っきり?」

 

「あぁ。1人っきりだと大変だと思うけど、傍に誰かが居てくれるのなら俺は戦士でありながらも人として生きられると思ってる」

 

 響のその発言は大いに翼を驚かせた。何故なら、今の響が考えていることは翼が1度たりとも思いもしなかったものだったのだ。

 

「大切な誰かが俺の手を握ってくれていて、俺の帰りを待っていてくれるのなら俺は戦士であっても人の生き方を歩んでいける」

 

 戦士として生きる為に人としての生き方の幸福を捨てる気でいた響。しかし、響のこの考えは未来のお陰で一変した。彼女が響の手を握り、戦いの場から帰ってきた響の帰る場所で居続ける限り、響はきっと戦士でありながらも人としての生き方を続けることが出来るだろう。

 

「それに、昔の翼さんは実際に戦士としても人としても生きれてたじゃん」

 

「私が……?」

 

「あぁ。奏さんがいた頃の翼さんは、両翼揃った“ツヴァイウィング”は本当に楽しそうに歌を歌ってた。翼さんにとって、あの頃が1番幸せだったんじゃないかって俺は思ってる。翼さんはどうだ?」

 

「……えぇ。正しくその通りね。あの頃が1番幸せだった。辛いことは沢山あったけど、それでも私は人としても、防人としても1番充実した生き方をしていられた」

 

 響に言われ翼は思い出した。当時はまだ臆病で引っ込み思案だった翼だったが、隣に奏がいれば戦場(いくさば)でノイズと戦い続けながらも、大好きな歌を歌い続けることが出来ていた。

 

 そう、確かに翼は出来ていたのだ。戦士でありながらも人としての生き方を歩むことが。

 

「そもそも人としての生き方って何だって話になるけどさ。やっぱり色々考え方があるんだと思う。夢や目標に向かって努力してそれを叶えるとか、今この瞬間を思いっきり楽しむとか。でも結局は、自分が今したいことをするってのが人としての生き方なんじゃないかって俺は思ってる」

 

「立花……」

 

「俺には未来や翼さん、沢山の人が傍にいてくれてるから、人として今この瞬間を全力で楽しんでいられてる。……翼さんはどうだ? 翼さんには、今全力でしたいことってあるか?」

 

「……えぇ。あるわ」

 

 翼は少し考える素振りを見せて少しを間を空けてから響の問答にハッキリと答えた。その穏やかながらもしっかりとした意思を写している目をした翼を見て、気になった響は翼にその理由を訊ねる。

 

「それについては聞いても?」

 

「別に良いわよ。……実は前に海外のメトロミュージックのプロデューサーから、私に海外への進出展開を持ち掛けられたことがあったの」

 

「メトロミュージックって、あの有名なイギリスの!? 凄いな、翼さん! 日本の歌姫から世界の歌姫にレベルアップじゃん!」

 

「ふふ。流石に世界を回ったことのある立花は知ってたかしら。……以前の私はその話を蹴ってしまった。理由は聞かなくても分かるでしょ?」

 

「あぁー……うん。まぁ、確かに……」

 

 以前の剣呑とした翼を見ていて、実際に剣を向けられて直に大技を仕掛けられたことのある響には、何故翼が世界へ羽撃く話を蹴ったのかは容易に察することが出来た為、何も言わずに曖昧な反応を返すしかなかった。

 

「でも、今なら少しは考えてみても良いかもしれないと思っているわ」

 

「いやいや、考えるって翼さん!? そこは首を縦に振っても良いところじゃん! どうしてだよ!?」

 

「それは私が防人であるからよ」

 

 翼の説得を試みようとした響だったが、その翼の一言が捲し立てるように口を動かしていた響の口を一旦閉ざした。そんな響を見た翼は、話を再開させて自身の心中を語る。

 

「私は歌うことが大好き。私の歌を誰かに聞いてもらうことは楽しい。でも、私はノイズと戦う防人で、常にこの身を剣として鍛え上げてきた。世界にノイズが蔓延(はびこ)り続ける限り、私はノイズを根絶するまで戦い続ける。それが防人としての私の使命だから」

 

「翼さん……」

 

「世界に行けば、きっと私は沢山の人に私の歌を聞いてもらえる。けど、その分だけノイズの被害が広がってしまうかもしれない。だから──」

 

「なら俺が戦う」

 

 翼が言葉を言い切る前に、響は翼の話を遮って自身の想いを語る。その響の言葉を聞き、翼は憂いを帯びた目を見開いて響を見た。その視線の先には、強い意思を瞳に映しながらも笑みを浮かべている響がいた。

 

「立花?」

 

「翼さんが安心して歌を歌えるようにする為に、翼さんの分も俺がノイズと戦います」

 

「けれど、立花! それだとあなたが──」

 

「俺は皆の笑顔の為に戦う! その皆の中には翼さんも当然含まれてるんだ!」

 

「ッ!」

 

 響の身を案じようとする翼に向けて、響は自身の想いをぶつける。そんな響の心からの言葉を聞いて翼の頰が自然と赤く染まり、翼の胸の鼓動がドクンと高鳴った。

 

「俺がいる。俺が翼さんの笑顔と夢を守る。翼さんが両手で抱えてるものを、片手分だけで良いから俺に分けてくれ。そうすれが、空いた片手で夢に向かって手を伸ばせるだろ?」

 

「立花……」

 

「ずっと戦士で居続ける必要はないんだ。スイッチのオンオフ切り替えるみたいにその場その場で変われば良い。それが難しいなら俺が翼さんの拠り所に……鞘になる」

 

「鞘……?」

 

「鞘って、漫画とかアニメとかだと剣と一緒に使ったりして二刀流の代用品みたいに使ったりするのが増えてたりするけど、その本当の役目は剣の刃を保護すること。要するに剣を休める為に鞘はある。翼さんが自分を剣だって言うのなら俺はそんな翼さんの鞘になって、翼さんが防人として休めて歌女として存分に歌を歌えるようにしてあげたい」

 

(未来が俺の帰る場所に……俺が休める場所になってくれたように、俺も翼さんが安心して寄り掛かることが出来るような存在になりたい)

 

 未来が自身にそうしてくれたように、響も尊敬していて大きな恩を感じている翼の為にそんな拠り所のような存在でありたいと思ったが故の言葉だった。

 

「……良いの、かしら?」

 

「良いに決まってる。だって俺は翼さんの後輩である以前に、翼さんの仲間なんだから」

 

「……ありがとう、立花」

 

「……うーん」

 

 お礼を言う翼であったが、一方でお礼を言われた側である響はどうにもしっくり来ない様子で、うーんと唸っていた。

 

「どうかしたの、立花?」

 

「それだ! それだよ、翼さん!」

 

「えっ、何!? どれのこと!?」

 

 訊ねる翼に主語も無く自身の意見を伝える響。響が何のことを示しているのかが今一理解出来ていない翼は、今一度響が何について話しているのかを訊ねた。

 

「いやだから、それだよそれ! その呼び方!」

 

「呼び方?」

 

「そう呼び方! 折角仲間宣言もして付き合いも1ヶ月そこそこあるのに、未だに翼さんは俺のこと名字呼びだろ? 今日一日中一緒に遊び歩いて親睦も深めたんだから、そろそろ名前呼びして欲しいんだ! それに名字呼びだと距離感があるみたいで嫌だし」

 

「名前呼び!? ……えっ、その……逆に良いの?」

 

(何、この、可愛い、生き物……凄く意地悪したい)

 

 名前呼びして欲しいと頼む響に、逆に名前呼びで呼んで良いのかと訊ねる翼。ここ最近で稀に見るようになったしおらしい表情の翼を見て、再び響の中の入れてはいけないスイッチのオンオフが切り替わりそうになり、そしてスイッチはオンになってしまった。

 

「えー翼さんはー俺のこと名前呼びしたくないってことですかー? そうですかーそれは俺も悲しいなー(棒読み)」

 

 白々しさ全開の棒読みの台詞である。しかし、今の翼にはこんな大根役者全開の台詞でも効果はあったようで、響の言葉を聞いた途端に翼は落ち着き無くテンパり始めた。

 

「や、いや、別に、そういう訳じゃないの!? ただその、同年代くらいの男の子の名前を今まで1度も呼んだことが無くて!? だから!?」

 

「……ぷくくくく」

 

「へ……?」

 

「HAHAHAHAHAHAHAHA!!! すみません、翼さん! HAHAHAHAHA!! そこまで動揺するなんて思わなくて! HAHAHA!いやー、やっぱり翼さんって可愛いな 」

 

 翼のこれまでに見たことのないくらいの動揺っぷりを見た響は、ついに笑いを堪え切れなくって吹き出した後に思いっきりアメリカンな笑い声を上げた。そんな響を見て、揶揄われたことに否応無く気付かされた翼は顔を赤くして不貞腐れてしまう。

 

「やっぱり立花は、奏みたいに意地悪だ。ガングニールの装者は皆意地悪だ」

 

「ごめんごめん、翼さん! 何でも言うこと聞くから許してくれって!」

 

 不貞腐れた翼に謝る響。そんな謝る響が口にした“何でも言うことを聞く”という単語に対して翼は確かな反応を示し、逆にそれを言ってしまった響は“しまった”といった感じの表情をしていた。

 

「なら、早速言うことを聞いてもらおうかしら?」

 

「お、おう……」

 

(1度言ったことを今更取り下げるなんて、そんなの筋が通らないし男のすることじゃないよな、うん……!)

 

 言ってしまったことを若干後悔する響であるが、今更言ったことを撤回するなんて筋の通らないことをしたくない響は、男として覚悟を決める。

 

「……よし! さぁ、翼さん! 何でも言ってくれ! 地球割りしてくれとかいう無茶なお願い以外なら何だってしてやる!」

 

 覚悟を決めはしたが、流石に漫画のキャラクターしか出来ないような常人には再現出来ない事象を起こさせるような滅茶苦茶なお願いだけはされないよう譲歩してもらう為に最後に言葉を付け加えた響。

 

 覚悟を決めたのなら、せめて巨人になって光線技で敵怪獣を1発KOするぐらいはしてもらいたいものである。

 

「流石にそんな無茶なお願いはしないわ。……私のお願い事は立花、私があなたのことを名前で呼ぶように、あなたにも私のことを名前で……呼び捨てで呼んでほしい。勿論、敬称や敬語も無しで」

 

「……え?」

 

 少し無茶振りをさせられることを覚悟していた響は、翼の細やかで小さなお願いを聞いて呆然としてしまい、ポカンとしたまま思わず声を漏らしてしまった。

 

「あー、その……理由を聞いても?」

 

「私もさっきの立花と同じよ。私も敬称を付けて呼ばれていると、あなたとの距離感を覚えてしまうから。同じ戦場(いくさば)に立ち、肩を並べて背中を預け合う仲間と距離感があるのは寂しいもの。それに全く出来ていないとはいえ、立花が敬語を使っているのは違和感があるもの」

 

「い、違和感……。そんなに変でしたか……?」

 

「えぇ。立花の敬語の使い方は正直言って、壊滅的だわ。今日なんて全く敬語を使えていなかったわよ」

 

「そ、それはー……面目無いです」

 

「それなら、敬語無しで話し掛けてもらった方が私としては良いの。敬語が下手な立花に敬語を使われていると、余計に距離感があるように錯覚してしまうわ」

 

「本当にすみません。……でも、本当に良いんですか? 本当に敬語無しを許可したら、滅多なことでは俺は敬語を使いませんよ? 本当の本当に良いんですか?」

 

「えぇ。本当の本当に構わないわ」

 

「本当の本当の本当に?」

 

「本当の本当の本当によ」

 

 まるでゲームや漫画のような問答をする響と翼。暫くして、そんな自身達の遣り取りを可笑しく思った響と翼は、お互いの顔を見ながら小さく笑い合った。

 

「……そ、そんじゃまぁ、コンゴトモヨロシク……翼」

 

「どうしてそこで片言なの? 全く、最後の最後に締まらないわね……響」

 

 響が吃ったり、片言で話してしまうのも仕方がないことなのだ。忘れがちかもしれないが、立花響は翼が“ツヴァイウィング”であった頃からの大ファンである。それも“ツヴァイウィング”がツインボーカルユニットのアーティストとしてデビュー仕立てだった頃からの筋金入りの古参ファンである。

 

 そんな響が、今日憧れの翼をちゃんとリードして遊び歩けたこと自体が奇跡なのだ。これも兄貴分の教えと師匠に鍛えられた度胸と肝っ玉があったからである。OTONA様々である。

 

(言われた通り呼び捨てで呼んだけど、何やらかしてんだよ、俺!? 緊張とか不安とかはあったけど、どうにかこうにか今日一日翼さんに楽しんでもらう為に気合いと根性でリードしてたのに、何で最後に吃って片言で話しちまうんだよ!? あぁぁぁぁぁぁぁ……俺って本当にバカ!!)

 

 最後の肝心なところでボロを出してしまい、自己嫌悪と羞恥で内心パニックになっている響。内心パニック状態の響とは逆に、翼の内心はとても落ち着いていた。寧ろ安らいでいると言っても過言ではなかった。

 

 翼の今の心は、喜怒哀楽の“喜”の感情で溢れていた。響に名前で呼んでもらえたことに翼は喜びを感じている。名前で呼び合ったことで、2人の距離がグッと縮まった気がして翼は頰を綻ばせて笑みを浮かべていた。

 

「何だよ何だよ、そんなに笑うこと無えじゃねえかよぉ……。人の失敗見て笑うなんて人が悪いにも程があるぞ、翼ぁ……」

 

「別にそういう意味で笑っていた訳ではないわ。勘違いさせて申し訳ないわね、響」

 

 すっかり落ち込んでいる響だが、その口調には敬語は一切見られず、しっかりと翼のお願い通りの対応をしてくれた響に再び胸の奥から嬉しさが湧き出てくる翼。

 

──兎にも角にも、出来る女の条件は何れだけ良い恋してるかに尽きる訳なのよ! ガールズ達も、何時か何処かで良い恋しなさいね……って、その辺りは野暮だったかしらね。翼ちゃんも──

 

 胸の内が暖かくなっていくと同時に、翼は以前に了子から言われた言葉の内容をふと思い出していた。そして、翼はどうして了子が言葉の最後に自分のことも付け加えていたのかを今ここで漸く理解した。

 

 どうして一々響の一言一行に注視しドギマギしていたのか、どうして響と共にいると安心感を覚えて心が安らいだのか、どうして響が自身以外の別の女性と共にいると不安感を覚えて心が揺らいだのか、その時の胸の内の温もり、その時の胸の内の苦しみ、それら全てに理解が及んだ。

 

 理解してからは早かった。時に暖かく、時に切なく、自分で自分が分からなくなる程の翼自身の意思では全くコントロールすることが出来ない大きな想いの正体を翼は知った。

 

(響……私は、貴方に恋をしています)

 

 少女(風鳴翼)は、少年(立花響)に恋をしていた。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、翼とお出掛けする
──原作では393もいましたが、今作の響は翼さんと2人っきりです。つまり、完璧なデートです。……へぇ、デートかよ。

(2)響、翼とお揃いのものを買う
──翼と同じデザインのマグカップを買う響。デート要素その1。

(3)響、映画を見てマジ泣きする
──今作ビッキーは感受性豊かな子。故にどんなジャンルであれ、王道は大好き。作者も王道は大好き。最近の昼ドラみたいな要素と陰鬱とした描写ばかりのドラマは嫌い。

(4)響、翼とアイスクリームで伝家の宝刀“あ〜ん”をする
──しかも翼が食べた箇所を無意識で自身でも食べる二段構えである。デート要素その2。

(5)響、翼さんをコーディネートする。
──尚、1つコーデェネートする度に予想を上回る翼の魅力によって死にそうになっていた模様。デート要素その3。

(6)響、ゲームが得意である
──今作ビッキーはゲームが大得意である。今作ビッキーの1番得意なゲームは太鼓の○人。理由は、本人曰く“鍛えているから”らしい。

(7)響、翼とプリクラを撮る
──後にこのプリクラは、翼の生徒手帳に挟まれることとなる。デート要素その4。

(8)響、翼と共に“ツヴァイウィング”の曲を熱唱する
──翼とデュエットをする今作ビッキー。“ツヴァイウィング”ガチ勢である今作ビッキーは、翼と奏のどちらのパートでも歌詞を見ずに全曲歌うことが出来る。

(9)響、翼さんにとっての鞘になる
──“響は、私の鞘だったのですね”的な? この辺の台詞の言い回しなんかハッキリ言って殆どが告白紛いの殺し文句である。

(10)響、翼と名前で呼び合うようになる
──敬称と敬語が消えてどんどん距離が縮まる今作ビッキーと翼さん。これには393もウカウカしていられない。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

・ルート選択

  SAKIMORIルート

 →UTAMEルート ピッ!

 ▼防人ルートではなく、歌女ルートが選択されました。▼

 説明しよう! 歌女ルートとは、翼さんの口調がシンフォギアG以降になっても女性らしい言葉遣いのままのルートのことである! 更にUTAMEルートには隠しコマンドがあり、翼の設定を“モードFATE”にすることが可能である!

 更に説明すると、“モードFATE”とは奏がご存命だった頃のまだ引っ込み思案で、それこそ“魔法少女リリカルなのは”に出てくる“フェイト・テスタロッサ(又はフェイト・T・ハラオウン)”のような翼のことである。発動条件は定かではないが、もっと親密度を上げて2人っきりで行動をすることが鍵だ!

 何故そのキャラを例に挙げたかって? 中の人ネタに決まってるだるぉ!?

 兎に角、この先の今作では女の子らしい成長を遂げた翼さんの活躍を思う存分に見られるようにしていく方針です。皆さん、女の子らしい成長を遂げた翼さんを見たくはありませんか? ……僕は見たいです(切実)

 公式が翼さんをどんどんSAKIMORIにしていくのは勝手だ。けどそうなった場合、誰が代わりに翼さんを女の子らしいUTAMEにしていくと思う?

 ……僕だ。

 茶番もここまでにして、今話はこれで閉めたいと思います。また間隔が空いてしまうかもしれませんが、失踪はしないので長いお付き合いを宜しくお願いします。

 次回は、予定ではライブ回です! 頑張るぞー!!

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 20 FLIGHT FEATHERS

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 前回の話を投稿して一眠りしてる間に好感触の感想が届いてて凄く嬉しかったです。待ってる人は待っていてくれていて、優しい人は優しい言葉を掛けてくれるので、少しウルッと来ました。

 今回は筆も乗って前と比べて早めに投稿出来ました。ですが、この次も早く投稿出来るとは限りませんので気長に待っていて下さい。

 それと今話のタイトルであり、原作で翼さんが歌っていた“FLIGHT FEATHERS”ですが、僕は凄く大好きなんですよ。皆さんも“FLIGHT FEATHERS”好きですよね?(ニッコリ)

 では、前書きも終了してそろそろライブ回に入っていきましょうか! 今回はXDの方からネタを拾ったり、オリジナル要素を盛ったライブ回をお送りします!


 響と翼が共に時間を過ごして、互いに遠慮無く対等の立場で接するように名前で呼び合うことになった日の翌日。今日も今日とて人々の笑顔と平和と未来の為に訓練に精を出す響は、翼との連携なども兼ねた合同訓練に勤しんでいた。

 

「はぁ!!」

 

 シミュレーションルームに展開された仮想敵のノイズに響が拳を打ち込む。勢いのある踏み込みから繰り出された響の鉄拳は、凄まじい衝撃を伴って仮想ノイズを壁までブッ飛ばした。

 

「翼。今の踏み込み、どうだった?」

 

「えぇ、悪くなかったわ。けど、踏み込み過ぎれば逆に反撃を喰らう可能性もあるから、そのことは注意して覚えておいた方が良いわ」

 

「合点承知!」

 

 翼は評価すべきところはしっかりと評価し、注意しなければいけないこともあることを響に勧告する。注意を受けた響は、翼から言われたことを念頭に置きながら訓練を再開させる。

 

(響は本当に強くなったわ……。以前とは見違えるようね)

 

 出会って当初の響は、身を守る術を持ってはいても本格的に戦う為の技術を体得していなかったから攻め手となる際に危なっかしい面が多々見られた。だが、弦十郎との過酷な特訓を経てそのような危ないところも殆ど無くなった。

 

(アームドギアこそ無いものの、それを補って余りある爆発力のある攻撃と軽快な身の動きの戦闘スタイル。私も学ぶところが多いわね)

 

 響の身の動きは長い間ずっと戦い続けてきた翼から見ても目を見張るものがある。特に素早く軽快な身の動きによって攻守を即座に入れ替え、攻撃なら直線的な距離を一気に埋める程の勢いで一撃を繰り出し、防御なら自分からは動かず逆に相手の勢いを利用したカウンターの一撃を繰り出す戦闘スタイルは、翼としても自身の動きの中に取り入れたいと思っている。

 

「よっしゃあ!! それじゃ、もう少し訓練を続けるとするかっ!!」

 

「ねぇ響、私と戦ってくれないかしら?」

 

 気合いを入れ直してより一層訓練に励もうとする響に翼は歩み寄り自身の考えを述べた。翼の話を聞き、少しばかり固まった状態になった響は次の瞬間に驚愕の声を上げていた。

 

「え……えええええっ!?」

 

 響が驚くのも無理は無い。何故なら翼は、知り合って当初の響にいきなり一方的に戦いを仕掛けて素人相手に大技を見舞おうとした前科があるのだから。

 

 驚いた響は思わず翼から距離を取るように後退して戦闘態勢をとる。そんな驚きながらも警戒度MAXで臨戦態勢の響を見て、翼は過去に自身が()らかした過失を悔いながら直ぐに弁明する。

 

「ま、待って、響ッ!! 違うの!? 前と同じ意味じゃないわ!」

 

「……じゃーどういうことだよ、翼?」

 

 若干疑いの視線を向けつつも翼との距離を戻して構えを解く響。警戒が少し薄れたことに安堵した翼は、1度軽く咳払いをしてから再び先程の言葉の意味の説明をする。

 

「コホン……今の私は響のことを認めているわ……だからこそ、その力を私に見せて欲しいの。肩を並べて背中を預け合う仲間として、仲間の力量を、仲間の信念を、この身で感じてみたいのよ」

 

 噓偽り無き翼の真っ直ぐな言葉に、得心がいった響は目付きを鋭くして好戦的な笑みを浮かべながら頷くことで了承の意を翼に伝える。

 

「そういうことなら、分かったっ!! 良いぜ! やろうぜ、翼ッ!!」

 

「えぇ、感謝するわ。手加減無しで来なさい、響ッ!!」

 

「Yes, ma'am!」

 

 何時かの時のように英語で返事を返した響は、脚部のパワージャッキを起動させることで勢いを付けて弾丸のようにその場から飛び出した。勢いに乗った響は、そのまま翼へと肉薄し膝蹴りを仕掛ける。

 

(ッ!? やっぱり、直線的な距離の詰め合いだと響に分があるわね……)

 

 弾性のある腕部ユニットと脚部ユニットを有している響は、そのゴムの如き弾性を利用して一気に勢いを付けながら加速することが出来る。その瞬間的に勢いを生み出せる機構こそが、響の一撃が重い一因であり響の戦闘スタイルの要である。

 

 即座に距離を詰められるも、冷静に戦況を見極めた翼は響の膝蹴りを難無く躱してカウンターの一刀を響に見舞おうとする。しかし、既に待機状態にしておいた腕部ユニットを起動させた響は、腕部ユニットをアポジモーター代わりにすることで軌道修正して翼に振り返る。

 

 ギリギリのところで振り返った響は、振り下ろされた翼の剣を正面から真剣白刃取りする。白刃取りに成功した響は薄く笑みを浮かべ、それを見た翼も好戦的な笑みを浮かべる。

 

 すると、響が受け止めていた剣の形状が刀から大剣へと変化した。大剣へと変化したことで質量的に巨大になり、重さを増した剣に翼は力を込めて力任せに押し切ろうとする。

 

「いぃ!?」

 

 大剣と化した剣が響の眼前まで迫る。このままでは不味いと判断した響は、距離を取る為に先ずは翼の体勢を崩そうと踏ん張っていた片足を上げて正面から蹴りを入れる。

 

 響が放った所謂ヤクザキックは翼の腹部に当たりはするが、直撃する直前で翼自身が自分から後ろに飛んだことで蹴りの威力の殆どを逃されてしまった。

 

「ハァ!」

 

【蒼ノ一閃】

 

 翼は、蹴りの勢いで吹っ飛ばされながらも大剣を横に大きく振り払い、蒼ノ一閃を響に向かって放つ。攻撃直後の隙を突かれた響は、硬直状態から動けず(もろ)に蒼ノ一閃を喰らってしまう。

 

 蒼ノ一閃が直撃したことで爆煙が周囲に発生して響の姿が見えなくなる。吹っ飛ばされていた翼は、空中で一回転することで勢いを完全に殺してから着地し、己が視線の先に漂う爆煙の周辺を警戒して大剣を構える。

 

(この程度で響が終わるなんて到底思えない。なら、次に私がすべきことは響の次の手を予想して、どんな手を打たられても良いように対処すること)

 

 己が仲間の性格を理解しているからこそ翼は警戒を解かない。すると、爆煙の中から凄まじい勢いを伴って出てきた響が翼の真正面から翼に向かって突っ込んでいった。

 

(正面突破! ……ある意味で響らしい攻め方ね)

 

 嘗て響の想いを聞き届けた翼は、今も尚最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に自分に向かって突っ込んでくる響を見て薄く笑みを浮かべる。

 

「フッ!!」

 

【蒼ノ一閃】

 

 再度翼は響に向かって蒼ノ一閃を飛ばし、対する響は響は避けること無く又しても蒼ノ一閃を喰らう。これには流石の翼も驚き、目を見開くと同時に硬直してしまう。

 

(避けなかった……!?)

 

 先程の攻撃は翼にとって牽制のつもりだった。蒼ノ一閃を撃つことで次に響が取る行動によって対処の仕方を変える腹積もりだった翼。しかし、響が選んだのは回避ではなく直進であった。

 

 だが、攻撃を喰らった筈の響は時間を置くこと無く爆煙の中から出てきて再び翼に突っ込んでいく。その響の体には、橙色の薄い膜のようなオーラが張られていた。

 

(あれは……!?)

 

(翼の奴、相当驚いてるな! 狙い通りだ!!)

 

 初めて見る謎の現象を目の当たりにして翼は目を見開きながら驚き、響は自身が考えた通りの反応をした翼を見て、腰部ユニットにあるバーニアを吹かすことで更にスピードを上げる。

 

 翼が驚くのも無理はない。何故なら、響がエネルギーを体に纏わせることで防御力を上げられることを翼は報告を通して聞いてはいたが、翼自身が響のそんなエネルギー運用を目にするのは初めてなのだから。

 

(仕掛けるなら、翼の動きが固まってる今しかない!)

 

 驚いて固まっている翼の硬直が解ける前に仕掛けることを決めた響は、一気に上に跳び上がって空中で体勢を変えて蹴りの体勢を取り、脚部ユニットのパワージャッキが再び起動して響の足に沿うように真っ直ぐに引き絞られ、脚部ユニットと引き絞られたパワージャッキに明るい橙色のエネルギーが集束して響の右足が橙色に輝く。

 

「我流・撃龍槍ッ!!」

 

【我流・撃龍槍】

 

 繰り出された響の我流・撃龍槍を、翼は大剣を盾のように構えて受け止める。直後、蹴りを受け止めた大剣全体が罅割れていき、パワージャッキが打ち込まれると数秒と持たずに大剣は破壊され、剣の本体である初期状態の刀だけとなってしまう。

 

「くぅ!?」

 

 大剣は破壊され、我流・撃龍槍の衝撃も殺し切ることが出来なかった翼は吹っ飛ばされて地べたを凄まじい勢いで転がっていく。

 

(チャンス!)

 

 大勢の崩れた翼を見て、今が好機を踏んだ響はその場から飛び出して更なる追撃を加える為に翼を狙う。

 

 だが、やられっ放しの翼ではない。転がりながらも響が自身を狙う為に動き始めたのを見ていた翼は、剣を持っていない方の手を地面に着くことでブレーキ代わりとし攻撃で受けた衝撃と勢いを完全に殺し切る。

 

 翼は剣の切っ先を上に向けながら剣を上に掲げる。すると、間髪入れずに上空に無数の剣が展開されていき、それら全てが翼に向かって突っ込もうとする響目掛けて降り注いだ。

 

【千ノ落涙】

 

「なっ!? こなくそ!!」

 

 響は翼への猛攻を中断して、飛来する剣群への対処を開始する。時に()(こな)しで躱し、時に掌で捌き、時に拳と腕で弾き、終いに辺りに刺さった剣を抜き、その剣で飛来する剣を叩き落とす響。自身や自身の周りにある物全てを使い熟して危機を脱する響のアドリブでの対応力を見て、響の視線から外れて体勢を立て直していた翼は舌を巻いた。

 

(凄まじい対応力ね……! 戦闘経験を得ることで響の対応力にも磨きが掛かっていっているわ)

 

 無手だからこそ様々な対応をすることが出来る利点をしっかりと熟知した動きをする響。そんな響の成長を見て、翼もより一層この模擬戦にやる気を滾らせる。

 

(それに……あの響の動きは……)

 

 外からチャンスを窺う為に響の観察に徹していた翼は、ふと響の動きを見てあることに気付く。それは、千ノ落涙を逆に利用することで、飛来してきた剣を使って新たに飛来する剣を防ぐ響の剣の振り方だった。

 

 響の剣の使い方は素人同然に近いものであったが、剣を振る動きの中には時々翼も見知った動きが見られた。そう、その動きとは普段から剣を振るう翼の剣術に酷似していたのである。飽く迄酷似しているだけであって、剣の振り方も動きも翼の方が数段上の劣化コピーである。しかし、そんな響の動きが何を意味しているか、翼には即座に理解出来た。

 

(私の動きを真似ているのね……)

 

 響が記憶に残る翼の動きを出来る限り再現していたから、響の剣の振り方は翼の動きに似通ったものになっていたのである。そんな光景を見た翼は、それを少しこそばゆく思いながらも嬉しく感じ、笑みを浮かべそうになる顔を必死に我慢していた。

 

(ッ! ここ!)

 

 気持ちを切り替え、降り注ぐ剣群が尽きる直前で攻撃を防ぐ響の懐に入り込む隙を見付けた翼。翼は剣を顔付近に構え、間髪入れずにその場から駆け出して一気に響の懐まで潜り込んで剣を横に一閃する。

 

【颯ノ一閃】

 

 サッと吹く風の如き一閃が響に迫る。剣群を全て捌き切った響は、剣が自身に触れる直前で漸く翼に懐まで接近されていることに気付き、自身に迫る剣の一振りをどうにかしようとして、ほぼ反射的に体を動かした。

 

「なっ!?」

 

 驚愕の声が翼の口から漏れ出る。見付けた隙も付け入るタイミングも完璧だった。懐に入ることも成功した。しかし、最後の肝心な攻撃が失敗した。

 

 (なん)と響は肘と膝を同時に動かし、その動かした肘と膝で横一文字に振るわれた翼の剣を挟むことで白刃取りしたのだ。並大抵の者では防ぐことの出来ない一撃を、響は獣の如き第六感と機械の如き反応速度で無力化したのだ。

 

「危ねえ!? ギリギリだった……!お前、剣士(セイバー)じゃなくて暗殺者(アサシン)かよ翼!」

 

「やるわね、響。でも、安心してるところ悪いけど、それは油断よ」

 

 剣を白刃取りして安心している響の隙を突くように翼は次の動きに転ずる。翼は握っていた剣の柄を手放し、地面に手を着いて自身の体を宙に持ち上げることで逆立ちの体勢を取る。 すると、翼の両脚部にあるブレードが展開され、翼はそのまま股を180°に開いて回転し始める。

 

【逆羅刹】

 

「えぁ!? ちょ、おま!?」

 

 唐突に行われた逆羅刹に驚いた響は、どうにか体を仰け反らせてブリッジの体勢になることで翼の両脚部のブレードを躱す。その際、響はいた翼のアームドギアである剣を手放してしまい、自由になった剣は再び翼の手に収まる。

 

 剣を取り戻した翼は、逆羅刹を解いて響から距離を取る。自身が優勢だったにも関わらず、自ら相手との距離を空けて戦況を仕切り直した翼を響は体勢を立て直しながら訝しむ。

 

「あなたの今の力と信念。確かに感じさせてもらったわ。だから、そろそろ終わりにしましょう、響。次の私の攻撃を防ぎ切れれば、あなたの勝ちよ。この勝負に乗る? それとも乗らない?」

 

「……勿論、乗るに決まってるだろ! ここで逃げたら男じゃねえ!」

 

 響から予想通りの答えが返ってきたことに翼は笑みを浮かべ、響は翼の次の一手に対応する為に体勢を構え直して、空手の息吹で呼吸を整えて精神を集中する。

 

「行くわよ、響! 今のあなたがこの技にどう対処するか、私に見せてみなさい!」

 

 翼はその場から大きく跳躍し、響に向かって持っていた剣を投擲すると、投擲された剣が大剣よりも更に巨大化する。翼は脚部のブレードを展開してスラスターとして機能させ、重力とスラスターの勢いを束ねて巨大な剣に飛び蹴りを入れた。

 

【天ノ逆鱗】

 

「こいつは、天ノ逆鱗……!?」

 

 天ノ逆鱗。それは響がシンフォギア装者として戦う覚悟を決める以前に、まだ響の存在を拒絶していた頃の翼からされそうになった翼の持つ技の中でも大技に分類される超質量の物理攻撃である。超質量故に1度に1発しか撃てないが、その攻撃は単純故に威力の高い攻撃であった。

 

 以前は弦十郎が響を守る為に翼の天ノ逆鱗を正面から相殺して事なきを得たが、あの時に弦十郎がいなかったら今頃取り返しの付かないことに発展していた可能性もある。

 

 そして今回この場に弦十郎はおらず、響を守ってくれる存在は誰1人としていない。響は、1人で再び訪れた逆境を乗り越えなければならない。

 

 響があの頃のままの響ならば、決してこの逆境を踏破することは出来なかっただろう。だが、今の響はあの頃のままの響ではない。響は当時よりも強く逞しく成長し、今も尚進化し続けているのだ。

 

「良いぜ、来いよ! 何時かの時のリベンジだ!今度こそ 正面から受けて立って噛み砕いてやるよ!」

 

 響は右腕の腕部ユニットのハンマーパーツを引き絞り、何時もよりも更にハンマーパーツを引き絞る。加えて、脚部ユニットのパワージャッキが前方に引き絞られる。

 

(確かあの時のおやっさんは……!)

 

 響は弦十郎が天ノ逆鱗を拳1つで防いだ当時の記憶を思い返す。あの時の弦十郎の拳の出し方、歩法、体の向き、体勢などを思い出しながら迫り来る巨剣を打ち破る為のイメージを固める。

 

「……ッ! ウオリャアァァァァァァッ!!!!」

 

 イメージが纏まり、響は眼前まで飛来してきた巨剣に拳を繰り出す。拳を繰り出す際に1歩力強く踏み出し、その刹那に引き絞られた脚部のパワージャッキが地面に打ち付けられる。その際の衝撃は体を伝わって響の右腕に集束し、より引き絞られたハンマーパーツから生み出された衝撃と融合して巨剣に放たれた。

 

【我流・撃槍衝打】

 

 翼の本気の一撃と響が今出せる全力の一撃がぶつかり合う。互いの技と技がぶつかり合い、凄まじい衝撃波がシミュレーションルームに響き渡る。

 

「うおわっ!?」

 

「うあっ!?」

 

 生み出された衝撃波は、衝撃波を生み出す原因となった技を放ち合った本人達をも襲う。パワージャッキが足場に埋め込まれていた響は、辛うじて後方に後退させられる程度で済んだが、踏み止まる場所も無ければ踏み止まることも出来ない宙にいた翼は諸に衝撃波の影響を受けた。

 

 衝撃波を浴びた翼は空高く吹き飛ばされ、衝撃波の影響が体に残っているせいで宙で上手く体勢を立て直すことも出来ず、体勢を立て直せないから地上に落ちればまともに受け身を取ることも出来ない。

 

「ッ! 翼!」

 

 そんな状況下の翼を下から見ていた響は、直様その場から駆け出した。落ちていく翼を目で追いながら翼の落下地点を予測して走り、翼が地面に激突する寸前で勢いよくその下に潜り込んだ。

 

 翼が回転しながら落ちて来ていたことで、下に滑り込んで受け止めた響もその影響で回転しながら地面を転がることになった。響は翼の後頭部と背中に手を回して翼を衝撃から守るように転がる。

 

 少しの間転がり続けると回転の勢いも段々と減退していき、それから数秒も経たない間に勢いは完全に殺されて響達の動きも止まった。

 

「大丈夫か、翼!? 何処か痛めてないか!?」

 

 一応身を挺して翼を衝撃から守りはしたものの、何処か自身の知らないところで翼に危害が及んでいるかもしれないことを心配した響は、強く抱き締めたまま翼の身を案ずる。

 

 すると、突然翼の体が震え出す。気になった響が翼の顔を見てみると、翼は顔を少し赤くしながら微笑みを浮かべながら響の顔を見てくつくつと笑っていた。

 

「翼……?」

 

「慌て過ぎよ、響。私は大丈夫。響が受け止めてくれたから」

 

「そっか……良かった……」

 

 翼の身に何も無かったことを安堵し、響は肩の力を抜いてホッと安堵の溜め息を漏らした。そんな風に響が安心し切ってる中、翼は自身を抱き締めたままの響の腕の中から抜け出そうと試みるが、響のホールドは思ったよりも力強くシンフォギアを纏った翼の力でもそう簡単に抜け出せるものではなかった。

 

「……その、響」

 

「ん? どうした、翼?」

 

「あの、その……そろそろ離してほしいの。このままだと、えっと……色々と恥ずかしいから……」

 

 言い淀んでいるか細い声で言われた言葉の内容を飲み込んだ響は、否が応でも言葉の意味を理解することになった。

 

 現在の響と翼の状態は、響が下敷きになって翼がその上に被さった状態で乗っているのである。その状態は、翼の胴体から足先に掛けての体全体とほぼ触れ合っている状態な訳であり、所謂密着状態であった。

 

 そんな密着状態では、翼と触れ合っている箇所から女の子特有の柔らかな体の感触が直に伝わるのである。更に言えば、響は翼から香る女の子特有の良い匂いというものを感じていた。

 

(……ヤバい。何でか知らないけど、凄く良い匂いがする。しかも体中に柔らかな翼の体の感触がががががががががが)

 

 匂いと触感にやられて、響の思考はエラーを起こし始めていた。思考がショートするのも時間の問題だろうが、ここで思考にもしもバグが発生しようものなら色々と危険である。何が危険かと聞かれれば、それは翼の貞操であったり、響の今後の未来だったりする。

 

(ヤバい!? このままだと絶対に起つ!? 何が起つって、それこそナニがだよ!?!!?)

 

 そして、先の翼の言動が響の意識と無意識を同時に刺激してしまい、血流が早くなると同時に思考は混乱状態に陥り、響の体は響の意思とは無関係にある反応を起こし始める。

 

 このまま引っ付いていることが原因で翼から幻滅されるであろうことを恐れた響は、急いで翼を離す為に腕の力を緩めようとする。しかし響の腕の力が緩まると、先程まで赤くなっていた翼が寂しそうな表情をして恋しそうに更に響に体を密着させた。

 

「なぁ!? ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、おおおおおい!? つ、翼ッ!? 何してんだよ!?」

 

「ご、ごめんね。でもね、やっぱり、その……もうちょっとこのままでいたいんだけど……ダメ、かな?」

 

 更に響が慌てふためく中、口調が何時もの凛々しい女性らしいものからとても可愛らしい女の子のものへと変わった翼の懇願が響の耳に入る。そんな何時もとは違う翼のギャップが益々(ますます)響の思考を掻き乱す。

 

「つ、翼……」

 

「……響」

 

 互いに互いの顔を見詰め合う響と翼。シミュレーションルームを沈黙が支配する中、その沈黙を打ち破る電子音が突然部屋中に鳴り響いた。

 

「弦十郎さんからここで特訓が頑張ってるって聞いたから、翼さんの分も差し入れ持ってきたよ、ひび……き……」

 

 ペットボトルに入った差し入れの飲料水を抱えて入ってきた未来は、混乱極まる状況にある響と翼を目撃してしまった。未来の声はどんどんか細くなっていき、目からはハイライトが消え失せ、抱えていたペットボトルは下に落ちる。

 

「み、未来!? 違う、これは違うんだ!!」

 

「響の言う通りよ、小日向!? これは、その、訓練の過程で体勢を崩してしまった私を響が受け止めてくれた拍子になってしまって! それで!?」

 

 現場を未来に目撃された響と翼は、どうにか未来の誤解を解こうと言葉を以て説得を試みる。しかし、その姿はある意味浮気現場を発見された旦那とその愛人の見苦しい言い訳にしか見えない。

 

「……取り敢えず、翼さんは何時までそうしているつもりですか? 早く響から離れて下さい」

 

「え、えぇ……」

 

 少し残念な思いを残しながらも未来の言う通り響から離れる翼。未来から薄ら寒いものを感じている翼は、今ここで下手に逆らえば命はないということを本能で理解していた。

 

「……で? 何してたのかな、響?」

 

 笑顔で響に話し掛ける未来。美少女である未来の笑顔は大変可愛らしいものであるのだが、笑顔なのに未来の目は全く笑っておらず、何処か影を感じさせる笑みは響の恐怖心を煽るのには十分だった。

 

「え、あ、い、いや、その、あ、あの、ですね、翼と模擬戦をしておりまして、最後に簡単なルールの勝負をしたんですよ……。それで、一悶着あった結果、ああなりまして……」

 

 所々吃りながら未来に状況説明をする響。しかし、響の説明を聞いた未来の顔は益々冷たい微笑に変わっていき、状況は良くなるどころか悪化していく一方であった。

 

「響、ちょっと向こうでお話しよっか?」

 

「あの、未来さん、それはちょっと遠慮したいかなーって……」

 

「お話しよっか?」

 

「あのー未来さーん……」

 

「O☆HA☆NA☆SHI、しよっか?」

 

「……はい」

 

 未来のお言葉をどうにか断ろうとした響だったが、残念ながら未来の絶対零度の微笑と化け物も恐怖で逃げ出すような音調の声には逆らえず、未来に首回りにある襟のような物を掴まれながら翼の見えないところへ移動するのだった。

 

 その際、未来の言葉を聞いていた翼は「お話……桜色……砲撃……うっ、頭が」と呻きながら、必死に頭を両手で押さえて体を震わせていたのだった。

 

 それから少しばかり時間が経ち、未来とのO☆HA☆NA☆SHIが終わってすっかり意気消沈していた響の調子が戻り始めた頃合いを見計らって、未来も交えた3人で話をしていた。

 

「にしても、やっぱり翼は凄いよな。全く攻撃が通らなかった」

 

 シンフォギアを解き、上はタンクトップで下はジャージのズボン、腰にはジャージの上着を巻いている何時もの訓練時の格好で響は未来から渡されたスポーツ飲料水を飲みながら模擬戦の感想を述べる。

 

「いや、私の方が多少戦闘経験があっただけに過ぎないわ。響のその真っ直ぐな拳はとても尊いものよ」

 

「いやー、翼にそう言ってもらえると俺も嬉しいような照れ臭いような!」

 

「ふふ。良かったね、響」

 

 純粋に響を賞賛する言葉を口にする翼。翼の言葉に響ははにかみながら後頭部を掻いて嬉しそうに笑い、未来もそんな響に釣られて微笑みを浮かべる。その笑顔には、先程のような冷たいものは一切無かった。どうやら、先程のO☆HA☆NA☆SHIのお陰で溜まっていたものは一気に発散されたようである。

 

「……響も最初に比べると、かなり戦士として戦えるようになってきたものね……」

 

「そうか?」

 

「えぇ、間違いないわ。私から見てだけど、凄く上達しているように思うもの」

 

「いや、そんなこと無いって。翼に比べたら俺なんて全然──」

 

「確かにそうね。防人としてはまだまだ未熟ね」

 

「うぐ……。精進します……」

 

「……ふふ、冗談よ。まだまだなんかじゃない。響はもう十分一人前だと思うわ」

 

「上げて、落として、また上げるんですね……」

 

「そんなジェットコースターみたいなこと言うなよ。本当に勘弁してくれよ……」

 

 一喜一憂を行き来する翼の発言に、未来は思わず苦笑し、響はそんな文字通りジェットコースターのようにこちらを振り回すような発言は勘弁して欲しかった。

 

「ごめんなさい。けど、響の反応が面白くて。何時も言われてるものだから、偶にはやり返したくなったのよ」

 

「……翼も変わったな」

 

「……私が?」

 

「あぁ。前は近寄るもの何でもぶった斬るって感じのイメージがあったんだよ」

 

「確かにリディアンで見掛けても、少し近寄り難い部分がありました。正に孤高の歌姫って感じで」

 

「でも、最近は何かこう……良い感じだ! なぁ、未来?」

 

「うん。私も最近の翼さんは良い感じだと思ってます」

 

「……良い感じ? ふふ、何よそれ」

 

 幼馴染同士の息ぴったりな意見に、思わず翼もくすりと笑ってしまった。

 

「えーっと、その……柔らかくなった気がします」

 

「そうそう! 柔らかくなったんだよ! まるで翼の体みたいに!」

 

 未来の言葉に便乗する響。実際、響も未来のように感じたから便乗したのだが、その後に言った例えたものの発言が再びその場の空気を凍らせた。

 

「ひ、響!? あ、あの、その……」

 

「……響?」

 

「……すいませんでした」

 

 恥じらう翼と笑みを浮かべる未来。再び先程の状況が構築されるまで秒読みの中、響は場を治めるために素直に謝罪の言葉を口にしたのだった。

 

「こ、こほん……。柔らかくなった、ね……。そう言われると少し嬉しいわね」

 

 話を戻す為に顔にまだ赤みが残っている翼は(わざ)とらしく1度咳払いをしてから話を再開させる。

 

「……あ、それと、翼は前より笑うようになったよな」

 

「そう……。だとしたら、それはきっと響のお陰ね」

 

(自分でも分かる。1人きり戦っていた私に出来た新しい仲間……。そんな響と彼のあの日の言葉が私の心に余裕を生ませてくれているのね)

 

──翼さんが自分を剣だって言うのなら俺はそんな翼さんの鞘になって、翼さんが防人として休めて歌女として存分に歌を歌えるようにしてあげたい──

 

 2人で街を歩き回ったあの日に言われた言葉。その暖かい言葉と響の存在、そしてそんな響への恋心が拠り所なって翼の心に余裕と平穏を齎してくれているのだ。

 

「ん? 俺そんな面白いこととかしたか?」

 

「そ、そうじゃなくて……」

 

「じゃー何だよ? しっかり口にしてくれないと分かんねえよ」

 

「そ、それは、その……うぅ、やっぱり響は私に意地悪だ」

 

「ははは、やっぱ翼って不貞腐れると急に可愛くなるよな」

 

 ハッキリしない翼にぐいぐいと訊ねていく響。徐々に追い詰められた翼は、しおらしく不貞腐れてしまった。そんな女の子らしくて可愛い翼を見て、響は面々の笑みを浮かべながら笑っていた。

 

「あ、思い出したわ。2人に渡すものがあったの。少し待っていてくれないかしら」

 

 このまま響に弄られたくないからか、話題を変えようとするように翼は突然雑に話を打ち切って駆け出していった。取り残された響と未来の2人は、そんな翼の様子を見ながら軽く笑い、翼の言う通り少し待つことにした。

 

 それから数分と経たない間に翼は戻ってきた。その手に2枚の紙切れらしき物を持ちながら。

 

「響に小日向、2人にこのチケットを受け取ってほしいの」

 

 戻ってきた翼は、戻って来るなり早々に持っていた紙切れらしき物を響と未来に差し出した。その紙切れらしき物の正体は、何かのライブのチケットであった。

 

「これって、チケット?」

 

「翼、このチケットは何のライブのチケットだ?」

 

 少し戸惑いながらも2人はチケットを受け取り、それが何のチケットか気になった響は当然チケットを手渡してきた翼にその説明を求めた。

 

「そのライブのチケットは、芸能活動を再開させてからの私の初めてのステージのチケットなの」

 

「えっ!? それってつまり復帰ステージってことか!?」

 

「えぇ。10日後にあるアーティストフェスに急遽捻じ込んでもらったの。」

 

「成る程!」

 

「倒れて中止になったライブの代わりという訳ね」

 

 絶唱の負荷によって芸能活動を表向きは過労ということで休止していた翼であったが、翼が手渡したそのチケットは芸能活動を再開させてからの翼が初めて立つライブステージのチケットであった。

 

 詳細が気になった響は眺めていたチケットの表を裏向けて、裏に書かれている会場の場所や開始時間等の細かな内容を確認し始める。すると、チケットの裏側の詳細部分を読んでいた響の目がある一箇所を見たことで固まった。

 

「翼、この会場って……」

 

 響が見たアーティストフェスの開催会場に記名されていた場所は、今の響の原点とも言える全てが終わり全てが始まった場所であり、2年前に“ツヴァイウィング”の最後のライブが行われた場所でもあり、響の命の恩人である天羽奏が絶唱を歌いその命を燃やし尽くした場所であるあのライブ会場だった。

 

「響にとっても辛い思い出のある会場ね……」

 

 翼は目を伏せながらそう口にする。響にとってこの会場での一件で良い思い出があまりないように、翼にとってもこの会場にはあまり良い思い出は無い。翼にとってこの会場は、唯一無二の相棒を永遠に失うことになった場所であり、知らぬ間に“ネフシュタンの鎧”をフィーネなる人物に強奪されていた場所でもあるからだ。

 

「……ありがとな、翼」

 

「響?」

 

 だが、気持ちが落ち込む翼に響が言ったのは悲観的な言葉ではなく、翼へのお礼の言葉であった。響の声の音調は普段通りのものであり、特に気を使っている様子も痩せ我慢している様子も見られなかった。

 

「何れだけ辛い過去だろうが、過去は過去だ。過去は絶対に乗り越えていける。そうだろ、翼?」

 

「……そうね。そうありたいと私も思っている」

 

 響の言葉に翼は少し考えを巡らせるが、数秒も経たぬ間に悲壮感のある顔に優しげな微笑を浮かべて自身の思いを答えた。

 

「よし! 休憩終わり! 翼のライブがあると分かったからには俄然やる気が湧いてきた! 先行ってるぞ、翼!」

 

 翼の言葉を聞いて満足そうに頷き、気合いとやる気を再燃させた響は持っていた空っぽのペットボトルをゴミ箱に投げ捨てると、中断していた訓練を再開する為にシミュレーションルームに戻っていった。

 

「私も響に負けていられないわね。……彼と一緒にいると不思議と元気と力が湧いてくる」

 

「そうですね。私も響の真っ直ぐなところに助けられてますし、何よりそんな響が私は大好きです」

 

「そうね。人の心に踏み込んで何があっても臆さず逃げ出さず、最後には優しく受け止めて抱き締めてくれるところも私は好ましく思っているわ」

 

「……」

 

「……」

 

 未来と翼は無言となって互いに視線を交わらせる。気のせいか、2人は笑みを浮かべているのに落ち着ける雰囲気は全くせず、其れ所かギスギスした雰囲気が漂っていて、2人の視線が交わる中間辺りからは火花のようなものが散っているような気がした。

 

「……私、負けませんからね!」

 

「えぇ。私も譲る気は無いわ」

 

 隣の部屋で1人の少年()が心火を燃やしている中、2人の少女達(未来と翼)の恋の炎も燃え上がっていくのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 10日という時はあっという間に過ぎ、アーティストフェス当日を迎えていた。アーティストフェスの準備が進められる夕方の時間帯の中、翼は緒川と共にアーティストフェスの会場の舞台裏にいた。

 

「リハーサル、良い感じでしたね」

 

 先程行われた今日の本番前の翼のリハーサルを見た感想を緒川が述べる。翼はその言葉に何か言葉を返すことは無かったが、穏やかで柔らかい表情をしながら歩いていく。

 

 すると、舞台裏全体に大きな拍手の音が鳴り響いた。その拍手の音の発生源は、翼達が歩いていく進行方向上にいた中年の外国人男性だった。

 

「トニー・グレイザー氏!」

 

 翼のマネージャーでもある緒川は、その中年の外国人男性の正体を知っていた。

 

「メトロミュージックのプロデューサーです。以前、翼さんの海外進出展開を持ち掛けて来た」

 

 翼に話だけは通していた緒川は、改めて翼にトニーなる人物がどういった身分の男なのかを説明した。そう、彼こそが以前に翼が響に話した翼に海外進出の話を持ち掛けてきた人物だった。

 

「中々首を縦に振ってくれないので、直接交渉させて頂きに来ましたよ」

 

 翼と緒川の下にまで歩み寄ってきたトニーは、単刀直入且つ手短に今回の訪問の目的を語った。彼の目的は、オファーを断り続ける翼と直接会って話すことであった。

 

Mr.(ミスター)グレイザー、その件については正式に──」

 

 緒川は1歩前に出て翼の代わりにオファーの話を断ったことを説明しようとしたが、無言の翼が緒川の前に自らの手を出して制することで緒川の言葉を遮った。

 

「翼さん?」

 

「もう少し時間を頂けませんか?」

 

「つまり、考えが変わりつつあると?」

 

 トニーの言葉に翼は言葉を返さない。代わりに意思が揺らぐ気配を微塵も感じさせない強い瞳でトニーの目を真っ直ぐ見遣り、同じく翼の目を逸らすこと無く見詰めていたトニーも翼の言わんとしていることを理解する。

 

「そうですね。今の君が出す答えあれば、是非聞かせて頂きたい。今夜のライブ、楽しみにしていますよ」

 

 トニーはそう言い残すと、踵を返してこの場から去っていった。話を終えた翼はその場から1歩も動かず、去っていくトニーの背中を真っ直ぐ見続けていた。

 

 一方、今日の翼のライブを楽しみにしていた響は独り街の中を全力疾走していた。

 

「ああもう! どうしてこんな大事な日に限ってトラブルが起こり続けるかな!? 俺って本当呪われてる!!」

 

 トラブルに巻き込まれるであろう自身の体質と運命を把握していた響であったが、今日は何時にも増して全く付いていなかった。

 

 自身の体質と運命を把握していた響は、前もって未来と集合するアーティストフェス会場前に1時間は早く着くように計算して家を出ていた。勿論、家にいる愛犬のミライに餌も与えて寝かしつけてからだ。

 

 しかし、今日の響は何故か約3分刻みで自身の前で起こり続ける連続のトラブルに巻き込まれていた。

 

 カップルの喧嘩の仲裁、迷子の親の捜索、散歩中に逃げ出した飼い犬の確保、自身に向かって走ってきた引っ手繰りのバイクの運転手目掛けてラリアットを噛ましたりと大忙しだ。他にもあるがこれ以上挙げたら切りが無いので割愛する。

 

 兎に角、不運極まる響はこのままでは未来との集合に間に合わないどころか、アーティストフェスの開演にも間に合わないかもしれないのだ。

 

「折角チケット貰ったのに、このままだと開演に遅れるじゃねえか!」

 

 マラソン選手もビックリな速度で走る響。そんな中、響が懐に忍ばせたいた二課の本部との連絡用の通信端末から着信音が鳴り響いた。響は走りながら端末を手に取る。

 

「はい、こちら響!」

 

『ノイズの出現パターンを検知した。翼にもこれから連絡を──」

 

「おやっさん!」

 

 翼にも連絡を送ろうとする弦十郎だったが、響に強い声で呼び止められたことで翼への連絡を中断した。

 

『どうした?』

 

「現場には俺だけが行く。今日の翼には、ノイズにじゃなくて多くの人に向かって歌って欲しいんだ。あの会場で、最後まで歌わせてやってほしいんだ。頼む!」

 

 響の話を聞いて弦十郎はハッとした顔になるが、直ぐに表情を優し気なものに変えて大きく頷いた。

 

『やれるのか?』

 

「おう! あたりきしゃりきだ!!」

 

 響の威勢の良い返事を聞いた弦十郎は、響に通信機越しにノイズが発生した場所を伝えて通信を切った。通信が切れた端末を懐に戻した響は、ズボンのポケットからスマホを取り出して電話を掛ける。

 

『はい、小日向です。どうしたの、響?』

 

 響がスマホで電話を掛けた相手は、今頃アーティストフェスの会場前で響のことを待っている未来だった。響は電話に出た未来に伝えるべきことを簡潔に伝える。

 

「ごめん、未来。俺、アーティストフェスに行けなくなった」

 

『……何かあったの?』

 

 響が用件を伝えると大体で響に何かあったのだと察してくれる幼馴染みに感謝しつつ、未来に行けなくなった訳を説明する。

 

「ノイズが出たんだ。だから、行ってくる」

 

『……うん、分かった。気を付けてね、響。ライブには私1人で行ってくるね』

 

「あぁ。未来は翼のことを近くで見守ってやっててくれ」

 

『うん。響も翼さんのライブと夢を守ってあげて』

 

 最後に未来の言葉を聞き受けた響は電話を切って、ふと思った。2年前とはまるで状況が逆だな、と。

 

 2年前、響は会場に行けたが未来は行けなかった。ノイズから逃げるのではなく、自らノイズに向かっていく。そして、響の胸には今ノイズを打倒する為の力があった。

 

(翼の夢は、絶対に邪魔させないっ!!)

 

「……Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 人気の無い場所まで出た響は約束と決意を胸に宿して聖詠を歌う。シンフォギアを身に纏い、更に速力ました足で響は人気の無い道路を走り抜ける。

 

『響君、ノイズの反応を検知した場所で新たにイチイバルの反応を検知した!』

 

「イチイバルッ!? ってことは、クリスが!?」

 

『そういうことだろう。至急ノイズの殲滅及びクリス君の救援に向かって欲しい!』

 

「合点承知!」

 

 二課より齎された情報は、ノイズの発生地点で既にイチイバルを纏ったクリスが戦闘を行っているというものだった。響はそんな孤軍奮闘するクリスを助けるべく、逸早くクリスの下に駆け付ける為に更に移動のペースを速める。

 

 脚部ユニットのパワージャッキを起動させて引き絞り、解放すると同時に腰部ユニットのバーニアも同時に起動させる。そうすることで一時的に勢いと爆発力のある加速が生み出され、宙に飛び上がった響は一気に大きな距離を稼いで火の手が上がる工場プラントに向かって跳んで行った。

 

 場所は移りノイズの反応が検知された工場プラントでは、クリスがガトリングとなったアームドギアから無数の銃弾を連射しながらノイズの殲滅を行っていた。

 

 しかし、幾ら広域殱滅に優れるイチイバルのシンフォギアを以てしても、1人では到底倒し切ることが出来ない程の数のノイズが工場プラント中に蔓延っていて、苦戦を強いられていたクリスは苦悶の表情を浮かべていた。

 

 無数に群がるヒューマノイドノイズやクロールノイズは容易に殲滅出来ているが、その後ろに控えている要塞型(フォートレス)ノイズとでも呼ぶべき巨大なノイズは、クリスのBILLION(ビリオン) MAIDEN(メイデン)MEGA(メガ) DETH(デス) PARTY(パーティ)を物ともしない程に堅牢堅固であった。

 

(こいつ、ビクともしやがられねえ!? 一応倒す手段があるっちゃあるんだが……)

 

 顳顬辺りに脂汗を流しながらクリスは内心で愚痴を溢す。これは別に嘘では無い。対多数型の広域()()を得意とするギアを纏うクリスには、この状況を打ち破る為の方法が確かに存在していた。だが、今のクリスにはそれを実行する為の時間が全く無かった。

 

 この堅牢堅固の要塞型(フォートレス)ノイズがただ硬いだけの敵であれば良かったのだが、人を殺すことを主な目的として動くことを前提としているノイズに攻撃手段が無い訳が無かった。

 

 要塞型(フォートレス)ノイズは、砲門らしき物体の照準をクリスへと定め、そこから砲撃を行った。砲撃として撃ち出された砲弾の正体は、普段は宙を飛び回って空から奇襲を仕掛けてくるフライトノイズだった。

 

 凄まじい勢いで放たれたフライトノイズは、その勢いを緩めること無くクリスに向かって飛来し、クリスは自身に当たる直前で体を仰け反らせたことで直撃は避けたが、直ぐ後ろに砲撃が当たったことによる爆風で吹き飛ばされて地べたに這い蹲る。

 

 クリスのイチイバルは広域殲滅という響や翼のシンフォギアとは段違いな高い火力と攻撃を持っている反面で、翼の天羽々斬(アメノハバキリ)のような機動力や、一瞬だがその機動力を上回る程の爆発力のある加速を行うことの出来る響のガングニールのような移動性への適性は低い。

 

 未だ体勢を立て直せていないクリス目掛けて新たに砲撃を行おうと要塞型(フォートレス)ノイズが、その照準を修正して再びクリスに狙いを定める。

 

 そして発射されたフライトノイズは、無防備なクリスに直撃する直前で凄まじい勢いで斜め上から跳んで来た響によって蹴り砕かれた。

 

「お、お前……」

 

「クリスはそこでジッとしろ!」

 

 着地した響はクリスに一瞥すること無くそう告げると、腕部ユニットを引き絞った右腕を帯電させてから胸の傷跡から湧いてくるエネルギーを身体中に循環させ、クリスの目にも止まらぬ程のスピードを発揮して周辺にいた雑魚のノイズを一掃した。

 

「凄え……」

 

「体に行き渡らせたエネルギーを防御じゃなくてスピードに回すことで瞬間的に超スピードを発揮して、帯電させた右手を手刀の形にして敵を貫く技だ。前のに必殺技を付けるなら“我流・亀甲槍陣”で、今回のは“我流・迅雷撃槍”ってところだな」

 

【我流・迅雷撃槍】

 

 クリスの下まで戻ってきた響は、胸を張りながら即興で考えた自身の必殺技の名前をクリスに述べる。

 

(前やった超防御に高速移動、それにエネルギーの変化による帯電……こいつ、戦う度にエネルギー運用が上達して行きやがる……!?)

 

 響は簡単そうに言っているが、アームドギアも無しにやるエネルギー運用なんて並大抵のものではない。

 

 翼やクリスのようにアームドギアを変化させる為のエネルギー運用や、アー厶ドギアを経由してのエネルギーの変化なら分かるが、エネルギーをアームドギアへの経由無しでここまで運用し、直接防御や素早さを上げたり、況してや電撃に変化させるなど普通ではない。

 

 それだけでクリスには、響にはエネルギーを直接運用して制御することが出来る天部の才があることが分かった。

 

「大丈夫か?」

 

 響は尻餅を付いたまま座り込んでいるクリスに向かって手を差し出すが、クリスは響の手を取ることはせず視線を逸らしてしまっている。

 

「……何しに来やがった?」

 

「守りに来た。夢と笑顔をな」

 

「相も変わらずそんな青臭え台詞を、よく真顔で言えるもんだな」

 

 臆面も無くここに来た理由を述べる響に、クリスは以前のように毒を吐く。だが、以前とは違ってそこに嫌悪の気配は無く、呆れているかのようであった。

 

「話してる間にまた敵がもりもり湧いて来やがったな」

 

 響があの大多数を一掃したというのに、既に辺りは先程までではないが響達の四方八方を埋め尽くすようにノイズ達が群がっていた。

 

「原因はあの馬鹿デカい奴だ。あいつが後方からの支援と同時に敵の生産もしてやがる」

 

「つまり、早いところあいつを仕留めないとこっちがジリ貧になるってことか」

 

 砲撃と同時にノイズの生産も行なっているという要塞型(フォートレス)ノイズの情報がクリスより齎され、響は自身が思った感想を率直に述べる。

 

「流石に無限湧きのこいつらを倒しつつ親玉を倒すってのは骨が折れるな。……という訳で、力を合わせるぞクリス」

 

「はぁ!? ふざけんな!? どうしてお前と力を合わせなくちゃならねんだよ!?」

 

「んなこと言ってる場合か! 良いからさっさと立て、クリス!」

 

 響は未だに手を伸ばさないクリスの手を無理矢理掴み取り、手を引っ張り上げてクリスの意思に関係無く立ち上がらせた。その直後、向かい合っていたお互いの背後からヒューマノイドノイズとクロールノイズが襲い掛かった。

 

「「ッ!」」

 

 互いの体越しに敵の存在を見ていた2人は同時に駆け出した。クリスの背後に迫っていたヒューマノイドノイズを響が拳で殴り飛ばし、響の背後に迫っていたクロールノイズをクリスがアームドギアのボーガンのエネルギー状の矢で射抜いた。

 

 そこから立て続けにノイズが2人に襲い掛かり、響とクリスは自分のペースでノイズと戦い始めた。ノイズと戦ってる中、響とクリスは自身の目の前にいるノイズを中心に倒しながらも、時折互いのフォローやカバーになる形の動きをしていた。その中で、響が隙を作ったノイズをクリスがボーガンで射抜いた場面があった。

 

「やれば出来るじゃねえか、クリス!」

 

「勘違いすんじゃねえ! 撃たなきゃこっちがやられてたからやっただけだ! そもそも仲間でもねえのに力を合わせるなんて出来る訳無えだろ!」

 

「そんなこと無えよ。それに力を合わせるのに仲間だとかどうとかの面倒な理由付け自体必要無えだろ!」

 

 響はそう言いながら、体を反転させてクリスと背中合わせになって構える。クリスはアームドギアをボーガンからガトリングに変化させつつ、響の言葉の続きが気になって周囲を警戒しながら響を見遣る。

 

「ヤらなきゃヤられる。でも、1人じゃキツい。だから仕方無え。そんなもんで良いだろ……力を合わせる理由なんてものはよ!」

 

「ッ!?」

 

「俺はノイズを倒して皆を守りたい。お前はどうなんだ、クリス!」

 

 響がクリスの真意を聞き出そうとしたところで、後方に控えていた要塞型(フォートレス)ノイズが響に向かって砲撃した。完全に失念していた響は、“我流・亀甲槍陣”を使って防御しようとしたが、砲弾であるフライトノイズは響に当たる直前で無数の弾丸に撃ち抜かれて煤となって霧散した。

 

 それを見た響が思わずクリスに視線を向けると、クリスは険しい顔をしながらも響と共に肩を並べてガトリングの砲身をノイズに向けていた。

 

「お前が前衛で陽動、あたしが後衛で後方支援。あたしの弾がもし当たったとしても気にしないって言うんなら、今回はお前の言う通り力を合わせてやるよ」

 

「勿論OKだ。そもそもクリスが外すなんてヘマするのか?」

 

「する訳ないだろぉ!!」

 

 何処か挑発じみた響の言葉に、クリスは売り言葉に買い言葉と言わんばかりの自信満々の音調の声で応える。そこからの響とクリスによるノイズの殲滅は凄まじい勢いで進行した。

 

 前衛を任せられた響は陽動として敵を引き付け翻弄し、ノイズがその背後から襲おうものなら後方支援のクリスが響にノイズが触れる前に的確に撃ち抜く。

 

 後衛を任せられたクリスは後方支援として遠距離から敵を一掃し、ノイズがクリスに狙いを定めようものなら陽動の響がクリスに届く前にそのノイズを粉砕する。

 

 予め打ち合わせした訳でない即興の陣形とコンビネーションであったが、互いに得意な戦法と距離を組み合わせ、味方の動きを阻害しないように必要最低限の的確なフォローで動き回る2人の動きは、味方に前を任せて背中を任せる前衛と後衛のコンビネーションの中でも正に模範的なものであった。

 

 2人の殲滅力は、要塞型(フォートレス)ノイズがノイズを生み出す生産力をも上回り、今や要塞型(フォートレス)ノイズの周辺には要塞型(フォートレス)ノイズに辿り着くことを阻害していた邪魔な壁も存在していない。

 

 響は文字通り最後の砦となった要塞型(フォートレス)ノイズを倒す為に腕部ユニットのハンマーパーツと両足の脚部ユニットのパワージャッキを引き絞る。

 

 響が行動を開始する直前で周囲一帯の残ったノイズはクリスのガトリングによって一掃される。これで要塞型(フォートレス)ノイズを守る壁は完全に消え、敵は無防備に晒された。

 

 響はパワージャッキと腰部バーニアを同時に使い、爆発力のある加速を以て一気に要塞型(フォートレス)ノイズまで迫る。

 

「セイヤァァァァァァッッ!!」

 

【我流・撃槍衝打】

 

 振り抜かれた響の拳の一撃が要塞型(フォートレス)ノイズに打ち込まれる。その瞬間に腕部ユニットのハンマーパーツが作動し、拳と衝撃(インパクト)が合わさって要塞型(フォートレス)ノイズを吹っ飛ばした。

 

 しかし、件の要塞型(フォートレス)ノイズは響の我流・撃槍衝打を喰らったのにも関わらず未だに健在だった。響に負けず劣らずの呆れるくらいの頑丈さであった。

 

「嘘だろ……あれを喰らってまだ生きてんのかよ……!?」

 

 響の我流・撃槍衝打を喰らっても煤となって消滅していない要塞型(フォートレス)ノイズを見て、思わずクリスはその場で立ち止まって目を見張った。

 

 実際に我流・撃槍衝打を土手っ腹に打ち込まれ、完全聖遺物である“ネフシュタンの鎧”をも砕く威力を誇ることを知っているクリスだからこその反応であった。

 

「そんな不安になること無えぞ、クリス!」

 

 知らぬ間に心に不安を感じ、顔に不安そうな表情を浮かべていたクリスを響が鼓舞した。その響は驚愕で立ち止まったクリスとは逆に、不安を一切感じさせぬ強気な顔をしながら既に次の行動に移ろうとしていた。

 

 我流・撃槍衝打のダメージによって身動きの取れなくなった要塞型(フォートレス)ノイズを見据えていた響は、着地してから間髪入れずに再び宙に跳び上がり、脚部のパワージャッキを再び引き絞る。

 

「1発でダメなら、何度だって打ち込んでやれば良いんだからなぁ!!」

 

 響の考えは、要するに通じないのであれば何度でも攻撃を打ち込むということである。そうしていれば、何れ敵の固い防御力を突破することが出来ると信じているのだ。正に、雨垂れ石を穿つである。

 

 宙に跳び上がり、蹴りの体勢に入った響が要塞型(フォートレス)ノイズ目掛けて真っ直ぐに直進していく。その際に脚部ユニットと引き絞られたパワージャッキに明るい橙色のエネルギーが集束して響の右足が橙色に輝く。

 

「セイハァァァァァァッッ!!」

 

【我流・撃龍槍】

 

 要塞型(フォートレス)ノイズの胴体に、今度は我流・撃龍槍が叩き込まれる。腕部ユニットのハンマーパーツと同様に脚部のパワージャッキも同様に作動し、パワージャッキの鋭い先端が要塞型(フォートレス)ノイズに打ち込まれる。

 

 すると、間髪入れずに強力な物理打撃を叩き込まれた要塞型(フォートレス)ノイズの体は遂にダメージの限界値を超え、要塞型(フォートレス)ノイズの体は煤となって今度こそ消滅した。

 

 周囲にはノイズが再び出現する気配も無く、今回のノイズとの戦闘はこれで終了した。月と星々が煌めく宙に向かって、響は拳を突き上げる。

 

「……約束、守ったぜ、翼。……見ててくれたか、奏さん」

 

 響は勝利の余韻と共に、自身が約束を交わした仲間の少女ともう見ることも触れることも叶わぬ自身の恩人に想いを馳せていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 響がノイズの討滅を完了したのと丁度同じ頃、アーティストフェスの会場は最高潮の盛り上がりを迎えていた。

 

 翼が“FLIGHT FEATHERS”と言う名の曲を歌い終わり、観客達の声援と歓声と拍手が会場中に木霊(こだま)する余韻が残る中で翼は自身の胸の内にある思いを多くの人達に向かって吐露し始めた。

 

「こんな思いは久しぶり。忘れていた。でも思い出した! 私はこんなにも歌が好きだったんだ! 聞いてくれる皆の前で歌うのが、大好きなんだ!」

 

 翼はそこで一旦マイクを下ろし、少し間を空けてから再び話を再開させて続ける。

 

「もう知ってるかもしれないけれど、海の向こうで歌ってみないかってオファーが来てるの。自分が何の為に歌うのか、ずっと迷ってたんだけど……今の私はもっと沢山の人に歌を聞いてもらいたいと思っているわ。言葉は通じなくても、歌で伝えられることがあるのなら、世界中の人達に私の歌を聞いてもらいたい!」

 

 翼の胸の内にある思いを知った観客達は、そんな自身達が応援する翼に向けて歓声と拍手を送る。それは“ツヴァイウィング”時代から翼のファンであり、翼の夢を守る為に戦場にいる幼馴染みの分も翼を見守っていた未来も同様だった。

 

「私の歌も誰かの助けになると信じて、皆に向けて歌い続けてきた。だけどこれからは、皆の中に自分も加えて歌っていきたい! だって私は、こんなにも歌が好きなのだから! たった1つの我が儘だから、聞いてほしい。許してほしい……」

 

 翼は自身の胸の内にある思いを出来る限り言葉にして、この会場内にいる全ての人達に伝えた。翼の告白を聞き、会場内から歓声や拍手の音が全て消えて会場内を沈黙が支配する。

 

『『許すさ。当たり前だろ?』』

 

 沈黙の中で翼は自身の相棒と想い人が同じ言葉を自分に言ってくれた気がした。その言葉に反応して目を伏せていた翼が目を見開くと、沈黙が支配していた会場内に再び歓声と拍手の音が鳴り響いた。

 

 会場内に響く歓声は全て翼を応援するものであり、自分の大切な人達が言っていたようにこの場の全員が翼が夢を目指すことを認め、その背中を押してくれている光景を見て翼は涙を流す。

 

「ありがとう……!」

 

 涙を流す翼は、今一度自身の胸の内から湧いてきた思いを言葉にして会場中に伝える。涙を流しながら上を見上げるその姿は、戦場にいる響と同じ方向を見詰めていた。

 

 場所は変わってアーティストフェスの会場内のエントランスホール。そこに今日の夕方頃に直接翼に会いに来た人物、トニー・グレイザーが出口に向かって歩みを進めていた。

 

Mr.(ミスター)グレイザー!」

 

「ん?」

 

 後ろから呼び止めれたトニーは、歩みを止めて体ごと後ろに振り返る。声が聞こえてきた後方には、眼鏡を掛けた翼のマネージャーモードの緒川がトニーの下まで駆け寄って来ていた。

 

「君か。少し早いが、今夜は引き上げさせてもらうよ。これから忙しくなりそうだからね」

 

「ッ!」

 

 トニーの口から聞かされた言葉を聞いて、緒川は息を呑んだ。ステージから語られた翼の思いを聞き届けたトニーは、翼の夢を叶えて全力でバックアップする為に今からその準備に取り掛かろうと本国に戻るつもりなのだ。

 

「風鳴翼の夢を、宜しくお願いします」

 

 緒川は1番近くで翼の歌う姿を見守ってきた大人である故に、腰を90°に曲げて真摯に頭を下げて頼み込む。真剣な緒川の姿を見て、トニーは優しく笑いながら背を向け、片手を上げながら会場を後にしたのだった。

 

 再び場所は移り、ノイズが出現した工場プラントから少し離れた場所にあるビル街の路地裏に1人の少女がいた。

 

 その少女とは先程まで響と共にノイズと戦っていたクリスであり、クリスは苛立たしげに顔を歪めながら路地裏に設置されていたプラスチックの空のゴミ箱を蹴り飛ばした。ゴミ箱は低く宙を舞い、近くにあった別のゴミ箱を巻き込んで飛んで行った。

 

「あいつは敵だぞ! なのにどうして手を貸しちまった!?」

 

 ビルの外壁に拳を打ち付け、クリスは歯を食い縛りながら愚痴を溢す。だが、壁に打ち付けた手を直ぐに引っ込め、その手をもう片方の手で包み込むように握る。

 

 その手は、先の戦いで無理矢理に響に掴まれた手であった。捕虜として幼少期を過ごしたクリスにとって、手を無理に掴まれて引っ張り上げられたことなんて常だった。だが、響に掴まれた手には、クリスを捕虜とした乱暴な大人達と違って暖かさを感じたのだ。

 

 手に残ったその暖かさと、戦闘中に響の話に乗るという普段の自分からは考えられないような自身の思惑とは違う行動を取った過去の自分がクリスを余計に惑わせて苦しめる。

 

「ちくしょう、フィーネ……ちくしょう……」

 

 クリスは目尻に涙を溜め、両手と両膝を地に着いて嗚咽を漏らした。響と一緒にいると、知らぬ間に自身の考えとは別の行動を取っている自分が自分でも分からなくなり、体と思考の乖離がクリスを苦しめる一因となるのである。

 

「……捜したぞ、クリス」

 

 突然聞こえてきた穏やかな声。その声を聞いた途端にクリスは息を呑んで振り返った。振り返った先には、今まで走っていたのか少し呼吸が整っていない響が肩を上下に揺らしながら立っていた。

 

「お前……」

 

「何で泣いてるんだ? ……良かったら、少し話さないか?」

 

 響の声を聞いて響の顔を見たこの時、クリスの胸の苦しさが少し和らいだのだが、クリスがそのことに気付くことは無かった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、翼と腕試しをする
──今出せる全力をぶつけ合う響と翼。ゲームのXDの方でとあるミッションをクリアすると見れるイベントを参考にしました。

(2)響、体の上に翼が乗る
──有利な態勢の翼さんがどんどん攻めており、早速“モードFATE”も発動しております。後ちょっとというところで393の乱入があり、今回は失敗に終わりました。恋がそう簡単に成就すると思ったら大間違いですぞ。

(3)響、393とO☆HA☆NA☆SHIをする
──別部屋にてO☆HA☆NA☆SHIをされる今作ビッキー。きっと頭だけじゃなく、肝っ玉も冷えたに違いない。

(4)響、新技を会得する
──防御力を高めるのが“我流・亀甲槍陣”で、手に雷を纏って高速移動しながら突きを繰り出すのが“我流・迅雷撃槍”です。“我流・迅雷撃槍”の元ネタは、仮面ライダーカブトに登場する仮面ライダーザビーの必殺技の“ライダースティング”です。

(5)響、“我流・撃槍衝打”と“我流・撃龍槍”の攻撃で敵を撃破
──これの元ネタは、仮面ライダーBLACK(ブラック)が披露したライダーパンチ+ライダーキックの連続必殺技です。あれは無双ゲーでも再現されてましたがかっこいいですよね。

(6)響、戦闘後にクリスと合流
──原作では逃げ切ったクリスちゃんも逃亡生活経験がある故に隠れ場所等に詳しい今作ビッキーからは逃げ切れませんでした。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 個人的な意見なのですが、僕的にクリスちゃんの戦闘シーンに仮面ライダー鎧武(ガイム)の挿入歌の“時の華”ってピッタリだと思うんですよ。凄くかっこいい歌なので、良かったら1度聞いてみて下さい。

 さて、ライブ回も終わったということでこれで1期の翼さんのターンは一旦終わりです。次回からはクリス回の始まり始まりです。

 それでは、次回もお楽しみに!


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EPISODE 21 夢のバトン

 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 1ヶ月も待たせて申し訳ありません。大学が再び始まって忙しかったのです。それとゼミの活動で毎日毎週デッサンばかりしていて、デジタルアートも小説の方も全く手が付けられないんですよね。

 それは兎も角、“機械仕掛けの奇跡”のEDの“KNOCK OUTッ!”ですが、とても良い曲でしたね! 満を持して到来した二課組の信号機トリオによる初イベントストーリーに相応しいEDでした!

 それと新しくやって来たハロウィンイベントと切ちゃんと調ちゃんのハロウィンギアを見て、一言だけ言いたいことがありました。

 ……僕は、一体トリックオアトリートのどちらを選べば良いのでしょうか?

 切ちゃんにお菓子をあげて可愛い笑顔は見たいです。しかし、そうなると2人に悪戯してもらえなくなります。

 お菓子をあげないで調ちゃんから悪戯をしてもらいたいとも思っているんです。ですが、そうすれば2人のお菓子を食べた時の笑顔を見れなくなる。

 僕は一体どうすれば良いんだ!? 僕は悪魔な切ちゃんと魔女っ子な調ちゃんにお菓子をあげれば良いのか、それともそんな2人から悪戯をしてもらうべきなのか!?

 誰か教えてくれ!!

 ……前書きはここまでにして、そろそろ本編を始めていきましょうか。

 それでは、どうぞ!


 アーティストフェスから暫く経ち、響はノイズと戦う非日常に身を置く忙しい日々を過ごしながらも充実した生活を堪能していた。

 

「それじゃーね、響。行ってくるね♪」

 

「おう。車と痴漢には気を付けろよ。未来は可愛い顔をしてるんだからな」

 

「もう、響ったら。そんなに煽てても何も出ないよ?」

 

 今日も今日とて響と一緒に朝食を食べる為に朝早く響の家を訪れていた未来を見送る為に玄関まで来ていた響は、まるでカップルが言うような言葉を未来に伝え、未来は満更でも無さそうな笑みを浮かべていた。

 

「わふっ!」

 

 未来を見送る為に廊下に来る際、開けっ放しにしていた扉を通って響の飼い犬であるミライが未来の膝下までやって来る。その姿は、まるで主人を見習って未来を見送りに来たかのようだった。

 

「ふふ。見送りに来てくれたの? ありがとう、ミライ君」

 

「くぅ〜ん」

 

 甘々な笑顔を浮かべた未来が腰を低くしてミライの頭を撫で、ミライも未来に頭を撫でてもらえて嬉しそうに鳴いている。

 

「そう言えば、散歩はもうして良いの?」

 

「いや、まだ打たなきゃいけないワクチンが1回分残ってるんだ。その後は部屋の中を歩かせたりして暫く経過を見つつ、頃合いを見計らって漸く散歩デビューって感じだな」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 未来に撫でられていたミライを抱えながらその辺の事情を説明する響。そんな2人の様子は、まるで飼い始めたペットのことを気遣っている新米夫婦のようであった。だがまぁ、構図的には未来が玄関の外側に立っているせいで響は完全に無職のヒモ野郎に見えてしまうのだが。

 

「あっ、そろそろ時間だからもう行くね!」

 

「あぁ。さっきも行ったけど、車と痴漢には気を付けろよ! それとノイズにもな! ()れか1つでも遭遇したら俺を呼べよ? この響様の技術と武術とシンフォギアの力でどんな奴が来ても未来を守ってやるからさ!」

 

「うん!」

 

 未来は強気な響の言葉に頼もしさを感じながら、玄関の扉を開けて鞄を持っていない方の手を小さく振って響の家を後にした。

 

「……さてと、もう良いだろ」

 

 朝の時間を未来と共に過ごすという変わらない平和な毎日を過ごしている響だったが、最近そんな響の生活にも大きな変化があった。

 

 未来に手を振り返していた響は、ミライをそのまま抱えながら移動して自分の部屋の扉を開ける。響の部屋には、寝床であるベッドとは別に床に敷かれている布団というもう1つの寝床があった。

 

 響は独り暮らしで同居者はおらず、未来も寮の門限や学業があるから響の部屋に泊まるということは滅多に無い。それなのに響の部屋に寝床がある理由、それは今まで居なかった同居人が出来たからである。

 

 床に敷かれた布団は既に蛻けの空で、逆に部屋の隅に設置されたベッドは布団がこんもり盛り上がって小さな小山を作っている。その小さな小山の原因である人物こそが、新たに加わった響の部屋の同居人である。

 

「うぅ〜ん……」

 

 響の自室に1つの唸り声が木霊する。その唸り声の出処は、小さな小山の主であることは明白だった。

 

「よし、ミライ! 寝坊助を起こしてやれ!」

 

「わん!」

 

 自身を抱えていた主人からの命令を賜った子犬(名犬)は、その命令を実行すべく床に降ろされた直後に行動を開始する。ミライは、ベッドの上で布団に包まっている人物が亀のように出している顔の前まで回り込み、その顔を凄まじい勢いで舐め始めた。

 

「……んっ、んん、うぅん、くふっ、止めろ! 止めろよ、擽ったいだろ!」

 

 ミライに顔を顔を舐め回されていた件の人物は、最初は鈍い反応であったが連続で舐められてることで徐々に意識を覚醒させていき、ミライの舐め回しを擽ったく感じて小さく笑いながら顔の前にいたミライを抱き抱えながら体を起こした。

 

「全く、こいつは。寝てる人様の顔舐め回すなんて、とんでもねえ奴だ。後で厳しく言い付けてやらねぇとな。飼い主共々躾けてやるから、覚悟してろよな!」

 

 無理矢理起こされた割には、口の悪い言葉遣いとは裏腹に不機嫌さを全く感じさせなかった。厳しいことを言いながらも、抱き抱えたミライのことは優しい手付きで撫でていて、その撫でる手の気持ち良さにすっかりミライも安心し切って脱力していた。

 

「おい、誰が誰を躾けるだって?」

 

 響の声を聞き、ミライと戯れていた件の人物は金縛りにあったかのようにピタリと固まった。首をゆっくりと回し、扉の前に立っていた響を見据える。

 

「い、何時から、そこにいやがった……!?」

 

「最初から今までずっとだねぇ〜。いやぁ、まさかお前に犬みたいに()を躾けるなんていう特殊な性癖があるなんて知らなかったなぁ〜? うんうん、とんだ変態さんだねぇ〜?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!?!!!?!??!!??」

 

 口をパクパクさせて訊ねてくる件の人物に、響は意地悪な笑みを浮かべながら態と間延びした言葉遣いで答えながら揶揄い、その人物は顔を真っ赤にしながら実に女の子らしい悲鳴を上げ、近くにあった物を片っ端から響に向かって投げ付けていく。

 

 枕、目覚まし時計、ティッシュ箱、本と他にも様々な物が宙を飛び乱れ、響は落としたら不味いものを冷静に判断して掴み取り、それ以外は無駄無く避ける。

 

 辺りに投げれる物が無くなると、少女は羽織っていた布団を再び着込み、両手と両足を引っ込めて入り切らなかった頭を少し出しながら不貞腐れてしまった。

 

「デリカシー無さ過ぎんだろ、バカッ!? お前って本当にバカッ!!」

 

「家主に向かってバカとは何だ! せめて筋肉付けろや!」

 

「食い付くとこそこかよ!?」

 

 飛んできた物を元の位置に戻しながら軽い言い合いをする響。物を元に戻し終え、いい加減に布団から出てほしい響は再び少女に話し掛ける。

 

「寝起き見てたのは悪かった。それは謝る。だから、いい加減に起きてくれよ。朝飯冷めちまうからよ」

 

 少女に謝罪し、起きて朝食が冷める前に食べてほしいと頼む響。料理を作った響としては、出来立てで暖かい1番美味い間に食事を済ましてほしいのである。

 

 響の朝食という言葉に反応したのか、不貞腐れて亀のように引き籠もっていたいた少女がピクリと反応を示す。そして、ほんの少し時間を要してからゆっくりと布団の中から出てくる。

 

「……あたしも……その、悪かった」

 

「ん?」

 

「物投げつけちまって悪かった……。けど、寝起きのあたしを見てたお前も悪いんだからな! だから、これでチャラだ! 分かったな!?」

 

「はいはい。まぁ改めて、おはようさん……クリス」

 

「……お、おう。その……おはよう」

 

 互いに互いに過失を許し合い、改めて響がしてきた朝の挨拶に少女──雪音クリスは、顔を少し赤くして外方(そっぽ)を向きながら恥ずかしそうに返した。

 

 響にあった大きな変化とは、この家にクリスが隠れながら居候することになったということだった。そもそも何故クリスが響の家に居候することになったか。その経緯は、アーティストフェスの夜まで遡ることとなる。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 クリスを見付けた響は、やけに静かで抵抗らしい抵抗を全くしないクリスを伴って近くの海岸にやって来ていた。

 

「また海かよ。何時ぞやの続きでもする気か?」

 

「そんなことしねえって。何でそんな物騒な考え方しか出来ねえんだよ?」

 

「悪かったな。ご存知の通り、生憎と育ちが良くなかったんだよ」

 

 シンフォギアの待機状態のペンダントを握り締めて構えるクリスを見て、響は何処か呆れながら溜め息を吐き、クリスは響に向かって悪態を吐いて返す。

 

「ここなら誰にも聞かれずに、静かに話が出来ると思ったから連れて来たんだよ」

 

 響の言う通り、今の時間帯で海岸にいるのは響とクリスの2人だけであった。まだ海開きの季節でない今の海には、人が立ち入ることは滅多に無い。人の話し声も聞こえず、聞こえてくるのは海の細波(さざなみ)が立てる波の音だけである。

 

「で? 今度は何を話そうってんだ? あたしにお前がやったような小っ恥ずかしい自己紹介でもさせる気か?」

 

「いや、それはもういい。俺が聞きたいのは、クリスの目的だな」

 

「あたしの目的だぁ?」

 

 響の言葉にクリスは怪訝そうな表情を浮かべる。半目で響を見るクリスの視線を無視して響は話を続ける。

 

「あぁ。別にクリスはただ壊したい、滅茶苦茶にしてやりたいと思って俺達と戦った訳じゃないだろ?」

 

「どうしてそう言い切れるんだ? あたしとお前の付き合いなんざ、出会ってから1ヶ月そこそこ、話をした時間に関しては1日にも満たねえだろうが」

 

「そんな短い時間でも分かるもんは分かるんだよ。例えばそうだな……クリスの身長が低いだとか、身長の割に胸がデカいとか、言葉遣いと食べ方が汚いとか、キツい口調の割に実は優しいとかだな。挙げていったら、たぶん切りが無いぞ?」

 

「んなっ!? お前何処見てやがんだっ!? デリカシーのデの字も無えのかっ!!?それと言葉遣いに関してはお前にどうこう言われたかねえ!!」

 

「仰る通りで」

 

 胸を隠すように腕で自身の体を抱きながらクリスは響に言葉を捲し立てる。クリスは響にデリカシーを要求するが、そもそも女の子との自己紹介で自分が童貞であることを明かすような響にデリカシーが欠片程もある訳が無いだろう。

 

「それで話を戻すけど、お前の目的何なんだよ?」

 

「……良いぜ。教えてやるよ。あたしの目的はなぁ、この世界にある争いという争い全部を根刮(ねこそ)ぎ叩き潰すことだ!!」

 

「ッ! ……全部の争いをか?」

 

「あぁ、そうさ! 力で戦う意思と力を持つ大人共を片っ端からぶっ潰すんだ!! そうすりゃ争いは消える!! それが1番合理的で現実的な手段なんだよっ!!!」

 

 感情的になって言葉を捲し立てながら自身の意思と考えを響に語るクリス。クリスの話を聞いていた響は、クリスが言葉を出し尽くすまで静かに聞き続ける。

 

「でもよ、クリスはその方法で争いを無くすことは出来たのか? 俺達がまだ(いが)み合ってた頃、お前は完全聖遺物の“ネフシュタンの鎧”やシンフォギアの“イチイバル”、それにあのノイズを召喚する杖っぽい物の力で散々俺や翼を叩き潰そうとしてた。けど、俺達は簡単に戦う意思を放棄したか?」

 

「そ、それは……」

 

「お前が言った手段は確かに1番手っ取り早いよ。けどな、それで抑えてられるのは少しの間だけだ。何時かお前に反発して戦う意思と力を持った奴がまた出てくる。しかも今度はその数を2倍とか、3倍増しにしてな」

 

──そうね。あなたのやり方じゃあ争いを無くすことなんて出来やしないわ。精々1つ潰して、新たな火種を2つ3つ散蒔くことくらいかしら──

 

「ッ!? ……ッ!!」

 

 響が言った言葉の内容は、クリスが嘗てフィーネから言われた言葉の内容と酷似していた。そのことががクリスの神経を逆撫でして苛立たせる。端から見ても苛立っている様子のクリスを見て、響はクリスの気を逸らす為に別の話題を振る。

 

「前々から思ってたけど、お前って矢鱈(やたら)と大人って言葉に噛み付くよな? ……大人はそんなに嫌いか?」

 

「あぁ、嫌いだね! あたしは大人が大嫌いだ! 死んだパパとママも大っ嫌いだ!! 戦地で難民救済? 歌で世界を救う? 良い大人が夢なんか見てんじゃねえよっ!!」

 

「……大人が夢、か」

 

 “夢”という単語が響にとって何かを想起させるものがあったのか、響は視線をクリスから外して月が輝く空を見詰める。何時もとは違って何処か物静かな印象が見受けられる響を見て、クリスは少し訝しむような表情を見せる。

 

「夢と言えばさ、俺もまだまだガキだった頃……まだ物を何も知らない本当に小さい頃だけど、欲張って色んな夢を持ってたな。その夢を何時か全部叶えたいとか思ってた。野球選手になって……パイロットになって……かっこいい車に乗って、とかな」

 

「最後は兎も角、野球選手でパイロットって意味不明だな……」

 

 響が過去を語ると、クリスは呆れるような視線を響に向けたが、その表情は先程よりも幾許か和らいでいるように見えた。

 

「まぁ、そこは今重要じゃないからほっとけ。それで話の続きだけど、早く大人になりたいとかクリスは思ったりしなかったか?」

 

「はぁ……?」

 

「大人になれば背は伸びるし、力も強くなって出来ることが沢山増える。そうすればガキの頃は見るだけだった夢も、大人になれば叶えられるようになるだろ? それだけで夢を見る意味は、それこそ無限大の可能性を持ってると俺は思うぜ」

 

「……」

 

「……クリスの親父さんと御袋さんは、ただ夢見てるだけの頭お花畑の状態で戦場に行ったのか? ……そんな訳無い。断言する。歌で世界を平和にするっていう夢を夢のままで終わらせず、その夢を叶えて実現させる為に、自分達からあんなこの世の地獄なんて言葉ピッタリな場所に踏み込んだ筈だ」

 

「何でそこまで言い切れるんだよ……!? 実際にあたしの親と会った訳でもなければ、まだまだガキのお前なんかに!!」

 

「見てきた。そして、俺自身も教えられたからだ。夢は叶えられるってところを。教えられた俺だから分かる。クリスの両親は、クリスに夢は叶えることが出来るっていう揺らがない現実をお前に見せたかったんだと俺は思ってる」

 

 響が想起するのは、己が心から慕う兄貴分の背中姿だった。今も“この世の中のどんな宝石よりも価値のある女の涙を、嬉し涙以外流させない”という何とも馬鹿げた夢を追い掛け、実際に幾つもの涙を拭って止めてあげている男は、その行動で響に叶えられない夢は無いと教えていた。

 

 響の話を聞いたクリスは動揺しているのか、その瞳を小さく揺らしている。その瞳から動揺と迷いを感じ取った響は、何時か兄貴分が女性にしていたようにクリスの下まで歩み寄って優しく抱き締めた。

 

「クリスは嫌いだって言ったけど、きっとクリスの親父さんも御袋さんもクリスのことが大事で大好きだったと思うぞ。それに自分の子供のことが大事じゃない親なんている訳無いだろ? ……そう、いる訳無いんだ

 

「……?」

 

 クリスに言い聞かせる響はボソッと言葉を呟いた。その言葉は、至近距離にいる筈のクリスでも聞き取れないくらいに小さい声量であり、クリスは頭に疑問符を浮かべていた。

 

「後、これは個人的な考えだけど、クリスの両親がクリスを自分達の仕事場に連れてったのには、他の意味もあると思うんだ。……聞きたいか?」

 

「……勿体ぶらずに教えろ」

 

 響に抱き締められながら小さく肩と体を震わせ、響の体に顔を密着させて表情を隠しているクリスは話の続きを話すよう響に促した。

 

「分かった。クリスの両親は、飽く迄希望的にだがクリスに自分達の夢を受け継いでほしかったんじゃないか?」

 

「ッ!? あたしに、夢を……?」

 

「あぁ。話を最初に戻すけど、争いはそう簡単には無くならない。どんな力でも、人間の意志を根絶やしにすることなんて出来ない。だから、争いを無くすには失敗を繰り返しながらも、絶対に諦めないで愛と平和(ラブ&ピース)を謳い続けないといけないと思うんだ」

 

「愛と平和だなんて、そんな脆い言葉……」

 

「あぁ、そうだな。この争いが消えない世の中で、愛と平和(ラブ&ピース)()れだけ脆い言葉かなんて皆知ってるさ。けど、だからこそ謳い続けることに価値があるんだ」

 

 響の言葉は現実的ではないだろう。だが、こんな非常な現実でそれでも愛と平和(ラブ&ピース)に価値があると説く響の言葉は、今のクリスには何よりも尊く思えた。

 

「世の中を歌で平和にするのは、とても時間が掛かることだ。もしかしたら、自分達の代では到達することが出来ないかもしれない。そう思ったからこそ、クリスの両親はお前に自分達の姿を見せることで夢を託そうとしたんじゃないか?」

 

「パパ……ママ……」

 

「……今は無理でも、未来の世界が平和であることを願って、その可能性を少しでも広げようとしたんだろうな。そして、その夢と願いはしっかりとクリスに受け継がれてる」

 

「……でも、あたしは、パパとママのやり方を否定した。2人の願いを踏み躙って──」

 

「そんなことない。クリスの夢は争いを無くすことだろ? なら、お前の両親から渡された夢のバトンはしっかりとお前に引き継がれてる。お前は進むべき道とやり方を間違ってただけだ。間違ったなら、1度立ち止まって正しい道を進み直したら良いだけだ」

 

 体を大きく震わせ始めたクリスを、響は抱きしめる腕に更に力を込めてしっかりと抱き締め直す。そのお陰か、クリスの震えは少しだけだが小さくなった。

 

「……あたし1人じゃまた道を間違えるかもしれない」

 

「その時はまた道を進み直せば良いだろ。それにお前はもう1人じゃない」

 

「え……?」

 

「何惚けた顔で惚けた声出してんだよ。クリスはもう1人じゃない。俺が一緒だ。お前と一緒に愛と平和(ラブ&ピース)を謳い続けてやる。けどまぁ、戦ってばかりの俺に出来るのは、誰かの手を掴むこととこうして誰かを抱き締めてやることだけだけどな」

 

 クリスをしっかりと抱き締めながらそう言って笑い掛ける響。響の太陽のように暖かい言葉と笑顔がクリスの心に浸透していき、クリスの心は限界を迎え堰き止められていた感情の渦が決壊する。

 

「う、うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「……今は好きなだけ泣けよ、クリス。お前が泣き止むまで俺は傍にいるし、ハンカチ代わりにだってなってやるよ」

 

 感情を爆発させて泣き叫ぶクリスの涙で服が濡れるのを厭わず、響はそれ以上は何も言わずただ黙ってクリス泣き止むまで待ち続けた。

 

 時間帯が夜だったこともあり、クリスの泣き声はよく響いたが海開きされていない海に人はおらず、クリスの感情の籠った泣き声と静かな波のオーケストラを聞いたのは、響ただ1人だけだった。

 

 クリスは暫くずっと泣き続け、アーティストフェスがもう終わりを迎える直前になって漸くクリスは泣き止んだのだった。泣き止んだクリスは、顔を赤くしながら響と目を合わせようとしない。

 

 大方、恥じらいも無く子供のようにワンワン泣いたところを響に見られ、剰え響に縋り付いて抱き締められながら泣いていたことを今になって恥ずかしく思ったのだろう。

 

「……その、すまなかったな。見っともなくガキみたいに泣いちまってよ……それに服も濡らしちまって……」

 

 クリスは、響の服を自身の涙で濡らしてしまったことを含めて響に謝罪する。対してクリスとは背中合わせに座って視線が合わさらない状態でいる響は、そんな些細なことを気にしている様子は無かった。

 

「気にすんなよ。女の子の涙を拭く為のハンカチの代わりになれたんだ。兄貴なら“勲章ものだろ、寧ろ胸を張れ”って自信満々に言うさ」

 

「何だよ、それ。相変わらず小っ恥ずかしい上に青臭えことを簡単に口にしやがる」

 

 クリスは目元を赤く腫れ上がらせながら呆れるようにクスリと笑ってそう言った。嘗ても言った覚えのある“青臭い”という言葉であるが、今は響のその青臭さがクリスには心地好いものに感じた。

 

「これからどうする気なんだ? もし良かったら俺達のところに……二課に来ないか?」

 

 クリスの真意を知った今、もう対立することもないと思った響はクリスを二課へと誘った。だが、クリスは視線を下に下げて首を横に振る。

 

「そいつは無理な相談だ。お前は別として、あたしはお前らの組織のことを信用した訳じゃねえからな」

 

 個人は兎も角、いきなり組織を、それも大人が大多数を占める集団を信用することはクリスの生い立ち上難しいことだろう。そのことを対話を通して理解している響は、無理にクリスを二課まで連れて行くことはしないことにした。

 

「そっか。なら仕方ねえか。……そう言えば、クリス」

 

「何だよ?」

 

「お前って今何処でどんな風に生活してんだ?」

 

「はぁ? 何でそんなこと聞くんだよ?」

 

「いや、だってお前少し臭──」

 

 響が何と言おうとしたか理解したクリスは、響が言い切る前にその口を塞ごうと響の頭を力一杯思いっきり叩いた。頭を叩かれたことで、開いていた口が突如として強制的に閉じられ、その際に響は思いっきり舌を噛んでしまった。

 

「いってえぇぇぇぇぇぇぇ!?!!? 何すんだよ、クリス!? 思いっきり舌噛んだじゃねえか!!?」

 

「知るか! 自業自得だ!! 本ッ当にデリカシーに欠けるよな、お前って奴は!! 」

 

 痛みに喚く響にクリスは全く取り合わない。まぁ、これも全部女の子からする体臭に対して“臭い”と言おうとしたデリカシー皆無の響の自業自得なのである。

 

「……今は行くとこが無えから、食いもんはコンビニとかの廃棄処分ギリギリで捨てられちまってる奴を漁って、比較的綺麗な水場で簡単に体洗ってんだよ」

 

 少し顔を赤くしながらもクリスは今の自分が送っている生活風景を簡潔に響に教えた。つい手を出してしまったが、その後にしっかりと説明してくれる辺り、本当は素直で優しい子なのである。

 

「成る程なぁ……よし! クリス、行くとこ無いなら俺ん家に来いよ!」

 

「……はぁっ!? う、家ってお前が住んでる場所のことか!?」

 

「他に何処があるんだよ?」

 

 今この場で家と言って、響が住んでいる家以外に誰の家が該当するのかと響は驚いている様子のクリスを不思議そうに見詰めていた。だが、別にクリスは響が考えているようなことで驚いている訳ではない。

 

「そういう意味じゃねえよ!? どうしてあたしがお前の家に厄介にならきゃいけねえんだよ!?」

 

「いやだって行くとこも無ければ、まともな生活を送れてる訳でもねえんだろ? だったら、俺の家で暫く生活した方が良いと思ったんだよ。女の子がそんな生活送ってるって知って、黙って見過ごす訳にもいかないだろ?」

 

「そんなこと言って、本当は何か裏があるんじゃねえのか? お前の家に来たところを二課の奴らに連絡して確保するだとか、監視カメラとか盗聴器のある部屋に誘い込んで四六時中監視する為だとか! ……それとも、世話になる分あたしに体で払えとかって言うつもりじゃねえだろうな!!」

 

「裏もクソもあるかよ。俺が会話の流れの中で勝手に決めた独断専行だ」

 

「……勝手にそんなことして良いのかよ?」

 

「まぁ、ダメだろうな」

 

「なら、どうしてお前は仲間や組織に嘘吐いてまであたしを優先すんだよ!? あたしを優先して、あたしの味方でいることなんかにメリットなんかある訳無いだろ!?」

 

 クリスが言うことは最もだ。響の行動は、下手すれば響自身の立場や生活状況を悪化させることばかりで、上手くいったとしてもメリットに成り得るものが一切無い。

 

「んなの関係無えよ。クリスの傍にいてやりたい、クリスを助けたい、クリスを守ってやりたいって俺の心がそう叫んでるんだからよ」

 

 特に考える様子も無くクリスの言葉に続くように間髪入れずに紡がれた響の言葉を聞いて、クリスは思わず絶句して口を閉ざした。

 

 そもそも根底から間違っているのだ。響は、メリットデメリット云々が絡んだ損得勘定でものを考えて動く人間ではない。立花響という少年は、自分の心に良くも悪くも正直なのだ。だから、自分の心が命ずるままに行動する。

 

「……あたしがいることで迷惑が掛かるかもしれねえんだぞ。それでも良いのか?」

 

「迷惑なんて承知の上だ。つーか、これから先どうなるかも分からないことでウジウジと考えても仕方無えだろ。来るか来ないのか、今ここで決めてくれよ」

 

「……フィーネとの面倒なゴタゴタが終わるまでだ。それまではお前のところにいさせてくれ。宿代代わりに、ノイズが出たらいの一番に駆け付けてやるからよ」

 

「別に宿代とか気にしなくても良いぞ?」

 

 別に対価を要求するつもりも無い響は、気にすることはないとクリスに言い聞かせようとしたが、クリスは断固として響の意見には首を縦に振ろうとはしなかった。

 

「それだとあたしが人様の家で世話されてるだけのNEET(ニート)みてえだろうが! 兎に角だ! 疚しいこと以外なら宿代代わりになんだってやってやる!」

 

「……まぁ、それでクリスが納得するならそれで良いか」

 

「よし! 交渉成立だな! なら早速お前の家に案内しろ!」

 

「……誘ったの俺だけど、何かクリス図々しくないか? それとも何か隠し事でもあるのか?」

 

「べ、べ、別に、んなこと無えよ!? あたしが隠し事なんてする訳無えだろ! 分かったらさっさと連れてけ!!」

 

「へいへい。全く困ったお姫様だぜ……」

 

 響はやれやれといった感じで呆れるように軽く溜め息を吐いてからクリスの前を歩き始める。クリスは、響に顔を見られないように響の真後ろを陣取りながらその後を付いていった。

 

 実はこの時、響の考えは当たっていて、クリスは響に隠し事をしていた。クリスが最後に響に対して図々しい態度を取っていたのは、単純にクリスが響へ素直に感情表現を出来なかったからである。

 

 響の家で世話になる。つまりは響と一緒に暮らすということに、クリスは嫌悪感を抱くどころか逆に嬉しさと感謝の念を感じていた。だが、その感情を素直に表現することがクリスには出来なかった。

 

 存外善意から来る押しや頼み事に弱かったクリスは、期日や理由や対価などを指定することで言い訳の理由とすることで主に自分を誤魔化したのである。

 

(何だってあたしはこんなに浮かれてるんだ……? ただこいつと一緒にいることになっただけだっていうのに)

 

 どんどん早くなっていく胸の鼓動に気付かないクリスは、自身の心が制御出来ない事態になっていることに内心で驚きながらも響に変な気を利かせられないよう平然を装って付いていく。

 

 クリスが何故響といるだけで浮かれた気持ちになってしまったのか。その理由にクリスが気付くのは、恐らくもう少し先になることだろう。

 

 こうして、この日の夜からクリスが響の家の居候となることで響とクリスの同居(同棲)生活がスタートしたのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そんなこんなで響の家に居候とすることとなったクリスは、現在響の家の浴室でシャワーを浴びていた。

 

 もう既に初夏に入り掛けている今の季節は当然寝汗を掻くこともあり、寝汗のことを気にしたクリスはその汗を洗い流す為にシャワーを浴びることにしたのだ。

 

(何だってあたしはこんなに身嗜みに気い使ってんだよ? ただ単にあいつと一緒にいるだけだってのによ。けど、またあいつに臭いが如何の斯うの言われるのは嫌だし……)

 

 クリスは内心でそう独り言ちる。クリスは以前に響に臭いについて口にされ掛けたことを気にしていた。だが、何故自身が響からマイナスな印象を受けることを嫌がるのかまでは本人も気付いておらず、頭なの中からすっぽ抜けていた。

 

(……変だ。あの日からあいつのことばっか考えてる自分がいやがる)

 

 最近ずっと朝と夜は響と同じ時間を過ごしているクリス。それ理由なのか、響の家にいる時や外に出掛けている時を問わずに今のクリスの脳裏の何処かには必ず響の存在がある。

 

 ここ最近のクリスは、充実した生活を送っていた。朝は自主的に起きるか響に起こされることから始まり、朝食を済ませた後は響と共に時間を過ごしたり、未来の遊びに付き合ったりしていて、外に出たら散歩をしてから響のお遣いで買い物に行き、夜は響と一緒に夕食を食べてから入浴し、最後に響と少々駄弁ってから眠るという生活を送っているのだ。

 

(……って、おい!? これじゃまるであたしと(あいつ)が夫婦みてえじゃねえか!?)

 

 クリスに自覚は無いが、端から見れば同棲状態である今のクリスと響の現状を鑑みれば今更なことである。

 

 そんな今更なことを考えながら1人で赤くなって悶えているクリスであったが、そのことを恥ずかしくは思っても嫌な気は全くしなかった。寧ろこの状態に安心感すら覚えていた。

 

(……どうしてこうも気持ちばっかが空回りすんだよ。あいつと一緒にいると、何時ものあたしと違うことばかり考えて、何時もじゃ取らない行動までしちまう。それに……)

 

 クリスは一旦シャワーを止めて雫が滴る自身の豊満な胸に手を置いた。

 

 自身の胸が、今まで擦れ違ったりして見てきた他の女性とは一線を画する程に豊満であることをクリスは自覚している。だが、そんな豊満な脂肪の壁を通り越して響く程に大きい胸の鼓動をクリスは感じていた。

 

 意識を内側に向ければ、脈打つ胸の鼓動の振動だけでなく鼓動の音まで聞こえて来る程にクリスの心臓は高速且つ大きく高鳴っていた。

 

(あいつのこと考えてると、心臓が途端に喧しくなる)

 

 何の前触れも無く唐突に胸の鼓動が早なくなる理由はクリス本人にも分からない。けれども、自身の体に変調が訪れるキッカケとなっているのが響だということは理解しているクリス。

 

「……あたしにとって、(あいつ)は一体どういう人間なんだ?」

 

 心中で呟こうとした言葉を、再びシャワーを流し始めてから敢えて直に口から吐露するクリス。その独白は流れるシャワーの音で掻き消され、クリス以外の誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 時間は正午を回り、響はクリスの案内のもとフィーネが拠点としている場所を目指していた。クリス曰く、フィーネの拠点は街の中心部から遠く離れた郊外の森林地帯に奥深くに紛れるようにひっそりと存在しているとのことだった。

 

「にしても、よくこんな山奥に拠点構えようとか思ったな。街との行き来とかすっげえ不便じゃねえか」

 

「まぁ、ネフシュタンやシンフォギア無しでだと、この距離は確かに不便でしかねぇな。そもそもあたしは基本的に拠点の外に出ることは無かったから、ここが本当に不便だって感じたのはつい最近のことだけどな」

 

 響の愚痴に便乗してクリスも自身が思っていたことを述べる。暗躍する為の拠点なのだから人に見付かり難い場所を選ぶことは響にも理解出来るが、それにしてもここは遠過ぎた。

 

「よくこんな森しかない場所に2年間もいられたな。男の俺は兎も角、女の子のクリスにはキツくねえか?」

 

「考えたこと無えよ、そんなこと。そんな余裕を私は持てなかったからな。フィーネの下でイチイバルを起動させてからは訓練の毎日で、ネフシュタンの力をそれなりに使い熟す為にも頑張って、半年掛けてソロモンの杖を起動させた」

 

「ソロモンの杖?」

 

 初めて聞く“ソロモンの杖”というワードに響が反応してクリスに聞き返す。響の反応を見て、クリスは自分が“ソロモンの杖”という単語を響の前で言うのは初めてであることに気付き、改めて軽く説明する。

 

「ソロモンの杖っていうのは、あたしがノイズを召喚して操る為に使ってたあの杖っていうには歪な形をした銀色の代物のことだ」

 

「……あぁ、あれか。やっぱり、あれも聖遺物だったんだな?」

 

「あぁ。……今思えば、どうしてあたしはあんな物を平気で使ってたんだろうな。あんな人を殺すことしか出来ない力。平和を壊す最低の力を……」

 

 自分の目的と夢を改めて自覚したクリスは、自分の夢とは真逆のものでしかないソロモンの杖を平気で使っていた過去の自分とその所業を思い出して自己嫌悪に陥る。

 

 そんな顔を歪めるクリスを見て、クリスが何を思っているかを察した響は何も言わずに黙ってクリスの横に並立してその手を握って歩き始めた。

 

「んなっ!? お前、何やってんだ!?」

 

「今すべきなのは、フィーネって奴を止めることだ。そうだろ?」

 

 顔を真っ赤にしながら動揺するクリスに、響はしっかりとクリスの目を見ながら今何をすべきなのかを諭した。そのお陰か、暗い気分になり掛けていたクリスの心は何時も通りとまではいかないが、冷静に物事を判断することが出来るレベルまでには回復した。

 

 しかし、やり方がやり方だっただけにクリスは何時も通り素直にお礼の言葉をクリにすることは出来ず、響からは視線を逸らして外方(そっぽ)を向きながら小さく悪態を吐いてしまう。

 

「お前って、本当バカ……」

 

「? 何か言ったか?」

 

「何でもねえ! んなことより急ぐぞ! そろそろ拠点に着く筈だ!」

 

「あぁ。気ぃ引き締めないとな」

 

 拠点に近いということは、それだけ危険度が高まっているということである。何時何処から攻撃が来るか分からない故に響は改めて気を引き締め直し、クリスは覚悟を決めて拠点へと先導する。

 

「見えてきたぞ」

 

「ッ!」

 

 言っている間にフィーネの拠点なる建物が響とクリスの視界に入った。それは一見古風な洋館の建物だった。だが、その建物の一角は古風な洋館とはマッチしないメカメカしいものとなっている。

 

「ここがフィーネの拠点……クリスのいた場所か。良いところだな……」

 

 響は、建物の外観と近くにある湖を見ながら感嘆した。響からしてメカメカしい一角は頂けないが、それ以外の洋館や湖といった要素はとても周りの自然と合っていて、一部を除けば素直に良い景色だと思えた。

 

「惚けてんじゃねえよ、筋肉バカ。ここからは何時襲われても可笑しくねえ。だから、何時でもギアを纏えるよう心構えだけはしておけよ」

 

「分かった」

 

 惚ける響をクリスが戒め、警戒心を最大まで高めながら洋館内に侵入する。2人は、洋館内の廊下にある遮蔽物に身を隠しながらクリスの案内の下でフィーネがいるであろう区画に向かう。

 

「……可笑しい」

 

「確かに。静か過ぎるぞ、この建物」

 

「フィーネのことだから、あたし達がこの建物に入ったことも()っくに気が付いてる筈だ。なのに、攻撃は(おろ)かノイズの一匹もいやしねえ……」

 

「それに人が生活してる割には建物の中からの音が全く無い。外からの鳥の囀りがここまでしっかり聞こえてくるのも変だ」

 

 違和感に気付いてクリスが申告し、響も感じていたことを口にして同意する。

 

 2年という長い時をフィーネのみと共に過ごしたクリスだからこそ分かるフィーネらしからぬ杜撰な対応にクリスは妙な気持ち悪さと違和感を感じ、響は過去の危険地帯を兄貴分と共に渡り歩いた当時の経験からくる違和感を感じているのだ。

 

「何か起こってるのかもしれねえ。先を急ぐぞ!」

 

「そうだな。何か行動を起こされてからだと面倒だ!」

 

 響とクリスは、先程よりも速いペースで洋館内を進んでいく。先よりも大っぴらに姿を晒しながら進んでいるというのに一向にノイズ1匹とも擦れ違うこと無く順調過ぎるくらいに2人は最奥部の大広間に辿り着いた。

 

「なっ!?」

 

「どうなってんだよ、こいつは……!?」

 

 大広間には衝撃的な光景が広がっていた。大広間内には、武装した欧米人と思われる人間の死体が無残に複数転がっていた。その死体の下には夥しい量の血で出来た血溜まりが出来上がっていて、ピクリと動く様子も無いことから既に完全に息絶えていることは明白だった。

 

 大広間内もかなり荒れていて、壁や机や椅子には無数の弾痕が残っており、大広間内の窓ガラスも全てではないが殆どが割れている状態であった。

 

「何がどうなってやがんだ?」

 

「少なくとも、ここでフィーネとこのアメリカ人っぽい武装集団の一悶着があったのは確実だな」

 

 クリスは大広間内の光景を見て困惑しながら歩き回り、響は大広間内の死体を転々と確認しながら簡単な推測を口にする。

 

 すると、大広間内に響やクリスとは別の物音が響いた。響とクリスは警戒を露わにして背後に振り向く。背後に振り向いた先には、眉間に皺を作ってこの状況を眺めている弦十郎の姿があった。

 

「おやっさん!?」

 

「ッ! 違う! あたし達じゃない!? そもそもあたしもこいつも今さっきここに来たばかり──」

 

 響は弦十郎がこの場にいることに驚き、クリスは誤解されているかもしれないと思って咄嗟に誤解を解こうとするが、クリスが伝えようとしたことを言い切る前に弦十郎の背後から複数の黒服でサングラスを掛けた男達が大広間内に入室していく。

 

 黒服の男達の登場にクリスは思わず構えるが、男達はそんなクリスのことを無視して横を通り過ぎていった。入って早々室内を調べ始めた黒服の男達を呆然と眺めていた響とクリスの頭に優しく手が置かれる。その手は、響とクリスの前までやって来た弦十郎のものだった。

 

「誰もお前らがやったなどと疑ってなどいない。全ては、お前達や俺達の傍にいた彼女の仕業だ」

 

「俺達の傍? おやっさん、それって一体……?」

 

 疑問を感じた響が弦十郎に訊ねるが、弦十郎は何も答えずただ目の前に広がる凄惨な光景に目を向けて視線を鋭くしていた。

 

「風鳴指令!」

 

 室内を調べていた黒服の男の1人が弦十郎を呼び、弦十郎も反応してその黒服の男のいる方向を見遣った。その男の前にある死に体には、他の死体には無い1枚の張り紙が貼られていた。

 

 その紙には血で上に英語で“I love you”、下にローマ字読みで“SAYONARA”と書かれていた。黒服の男は、その紙に向かって手を伸ばして紙を手に取ろうとする。

 

「ッ! その紙に手を出すな!!」

 

 戦いの中で鍛えられた戦士としての勘と生来の獣の如き勘が合わさった超第六感とも言える響の直感が何かを感じ取り、響は直ぐに静止するよう申告するが既に手遅れだった。

 

 男が紙を剥がした刹那、紙と繋がっていたワイヤーの糸が引っ張られ、ワイヤーに連動していた屋敷に設置された爆弾の芯も抜かれたことで爆弾が起動した。

 

 最初の爆発に連鎖するように他の爆弾が爆発する中、響は咄嗟にクリスを押し倒してその上に覆い被さった。

 

 爆発は瞬間的に終わり、屋敷の屋根も吹き飛ばされて室内に屋根や壁の瓦礫が転がって土煙が立ち込める中で響は顔を上げる。

 

「終わったみたいだな。大丈夫か、クリス?」

 

 爆発が終わったことを確認してから、響は顔を下に向けて現在覆い被さっているクリスの安否の確認をする。響が頭を下げた先には、何故か顔を真っ赤にしているクリスがいた。

 

「どうした、クリス? 何でそんな赤……く……」

 

 クリスが真っ赤になっている原因が気になって響は理由を訊ねようとするが、言い切る前に自身の右手に違和感を感じて視線を更に下に向けて絶句した。

 

 何と響の右手は、押し倒されているクリスの豊満な胸を鷲掴みにしていた。響の大きな手で掴んでも尚その手の指の間から()み出ようとする肉厚な胸を見て、響は無意識で握る手に力を込めてしまった。

 

「ひぅ!?」

 

(何だ、これ!? 凄え柔らけえ!?? これがおっぱいの感触……ッ!!?)

 

 更に強く胸を揉まれたことで何処か艶めかしい声を上げるのを他所に、響は初めて掴んだおっぱいの感触にただただ戦慄していた。兄貴分が掴んでいたものは、張りがあるのにこんなにも柔らかな物だったのかと。

 

「ッ! 何時まで掴んでんだよ、この(けだもの)ッ!?」

 

 いい加減羞恥心が限界まで達して顔を真っ赤にするだけでなく、目尻に涙を溜め始めたクリスは響を退かせようと右足を思いっきり振り上げた。その際、振り上げた右足の膝が響の股間の前方中央部分に直撃した。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッッッ〜〜〜〜〜!!?!?!??!?」

 

 直後、とても人とは思えないような声で響が叫んだ。その声は山々に反射し、遠くの方にまで響き渡った。

 

「? あれ? 響?」

 

「? 響の声……?」

 

 尚、響に想いを寄せる少女達の耳は最早響くだけの振動と成り果てた響の叫びを何となくだが拾っていたのだとか。

 

「おい! お前ら、大丈夫か!?」

 

 轟いた悲鳴を聞き付けて爆発の中で無傷だった弦十郎が響達の下にやって来た。だが、駆け付けた先で弦十郎が目にしたのは、何とも言い難い光景であった。

 

「お前、本当にバカだろ!? バカ! アホ! (けだもの)! 変態!」

 

「ふ、不可抗力だ……さっきのは、じ、事故なんだ……」

 

「事故だったら何でも許されると思ってやがんのか!? 許可無くあたしの胸を揉みしだきやがって!!?」

 

「え、あ、そのー……つまり、許可があれば揉んでも良いのか?」

 

「ッ!? う、煩え!? もうその余計な口開くんじゃねえ!!」

 

 そこには顔を真っ赤にして胸を隠すように両腕で体を抱きながら言葉を捲し立てる少女と、顔を真っ青にして我慢するように両手で股間を押さえながら震える声を絞り出す少年の姿があった。

 

「ははは……ったく、何やってんだか……」

 

 爆発直後の非常事態だというのに、そんなある意味微笑ましい光景を見て弦十郎はすっかり毒気を抜かれてしまい、青春を謳歌する少年少女に苦笑するしかなかった。

 

 響とクリスがそれぞれの状態から完全に立ち直る頃には既に屋敷内の探索も殆ど終わり、未だ危険がある可能性も配慮して響達は屋敷の玄関前にまで移動していた。

 

「自己紹介がまだだったな。俺は風鳴弦十郎。特異災害対策機動部二課の指令官を務めていて、そこにいる響君の師匠でもある」

 

「こいつの師匠……通りでな」

 

 弦十郎の自己紹介を聞き、クリスは響が発揮する舌を巻く程に卓越された接近戦闘能力の理由に合点がいって納得した。

 

「にしても、2人が行動を共にしているということは上手くいったみたいだな、響君?」

 

「あぁ。……済まねえな、おやっさん。クリスと仲良くなれたこと黙っててさ」

 

「別に良いさ。何か事情があったんだろう? それくらい言わなくとも分かっているさ」

 

 響がクリスとの関係が良好になったことを黙っていた理由を、彼女の意思を尊重させてあげてのことかそれに類するものであることを響との短い付き合いから弦十郎は、ただ笑いながら響の行いを許すのだった。

 

「どうだ、クリス君? これを機に俺達と共に来ないか?」

 

「勘違いすんじゃねえ。あたしはまだ大人や二課とかいう組織やその連中のことを信用も信頼もしてねえ。ただ今は前の件での借りと、こいつがあんたを信頼してるから一緒にいて何もしねえだけだ」

 

「そうか。まぁ、それならそれで構わんさ。俺達のことは信じられなくとも、響君のことは全面的に信じているということだろ?」

 

「ッ!? あたしは別にこいつのことなんて信じてねえよ!? ただこいつが嘘も吐けねえくらいバカ正直な奴だってことを分かってるだけだ!!」

 

 全て分かっていると言わんばかりの暖かい眼差しの弦十郎を見て、急に恥ずかしくなったクリスは響のことを軽くディスりながら照れ隠しのように言葉を捲し立てた。

 

「ふっ。お前はお前が思