僕が女幹部で魔法少女!?:Re (ゔぁいらす)
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序章.1

 僕の名前は天村 有希(あまむら ゆうき)

真星(まぼし)高校に通うヒーローが大好きなどこにでも居る高校二年生だ。

正確にはそうだった。

あの日までは・・・

 

ある日、僕はいつもと同じ様に学校へ行きいつもの様に退屈な授業を受け、ホームルームも終わりクラスメイトがぞろぞろと教室を出て行く。

そんないつもと変わらない日常に僕は少し飽き飽きとしていた。

「ふう・・・今日も一日終わったぁ・・・」

僕はそう呟きながら伸びをして鞄を背負う。

そうだ。今日はいつも読んでる月刊誌の発売日じゃないか。

帰りに少し遠回りをして商店街の本屋に寄ろう。

僕がそんな事を考えていると

「天村くん・・・ちょっといいかな?」

僕は突然声をかけられた。

「ひ・・・平井さん!?」

彼女は平井さん。

ポニーテールがトレードマークで、優しくてお菓子作りが趣味などこにでも居そうな女の子だ。

どこにでも居そうとは言った物のこんなに可愛くて家庭的な女の子はそう居ない。

僕は彼女に絶賛に片思い中だ。

そんな彼女が僕に何の用だろう?

別に今まで言葉を交わした事が無いと言う訳でもなかったが人もまばらになった夕日が照らす教室で突然声をかけられたので僕は意味もなく緊張してしまう。

「な・・・何かな平井さん・・・?」

「あ・・・・あのね・・・・?天村くんにずっと言おうと思ってた事があるの・・・」

彼女は急にそう言って僕を見つめてくる

な・・・・ずっと言おうとしてた事・・・?

これってまさか・・・その・・・・

告白!?

そんなまさか平井さんの方から来てくれるなんて!!

いやいや落ち着け僕・・・まだそう決まった訳じゃないんだから・・・

「えーっと・・・ずっと言おうとしてた事って?」

僕は平静を装い尋ねる。

すると彼女は少し恥ずかしそうな顔をして

「えっと・・・その・・・・言うね!」

「う・・・うん!」

僕の胸がどんどんと鼓動を早くする。

これ夢!?夢なら醒めないで!!

僕はそう願った。

しかし僕のそんな願いとは裏腹な言葉を彼女は発した。

「あの・・・・ズボンのチャック・・・開いてるよ?」

「えっ・・・・?あ・・・・ありがとう平井さん」

しまった!5限の体育の授業の着替えの時に閉め忘れたのか!?

最悪だ・・・まさか平井さんにそれを指摘されるなんて・・・・

僕はすかさずチャックを閉じた。

そりゃそうだよな。

こんなひょろひょろで大してかっこ良くもない僕なんかに平井さんが告白なんてしてくれる訳無いじゃないか・・・

何勝手に一人で盛り上がってるんだろ・・・バカみたいだ

「はぁ・・・」

僕の口からため息がこぼれた。

「ん?天村くんどうしたのそんながっかりした顔して?」

平井さんが尋ねてきた。

勝手に告白されると勘違いしてましたー!

なんて言えないよなぁ・・・・

それに平井さんに心配されて尚更さっきまで舞い上がってた自分が恥ずかしくなる。

「い・・・いや!なんでも無いよ!?本当になんでもないから!それじゃあ僕帰るね・・・・わぶっ!!」

僕は今すぐにでもこの場から離れたかったので急いで教室を立ち去ろうとしたのだが、机に足を引っかけて盛大に転んでしまう。

「だ・・・大丈夫天村くん!?」

最悪だ・・・平井さんに社会の窓が開いている事を指摘されただけでなくこんな盛大に転んでかっこ悪い所まで見られるなんて・・・・

もうできることならこのまま消えてなくなりたい気分だよ・・・

「う・・・うん・・・大丈夫・・・」

口ではそう言ってみたが僕の心はもうぼろぼろだ。

それに涙が出ている訳でもないのに目の前がぼやけて良く見えない。

しまった。メガネを転んだ拍子に落としてしまったらしい。

僕はド近眼でメガネがないと日常生活に支障をきたすレベルで目が悪いのだ。

「ううっ・・・メガネ・・・メガネ・・・・」

僕は手探りで床に落ちているであろうメガネを探す。

泣きっ面に蜂とはこの事だ・・・平井さんに地面に這いつくばってメガネを探してる所まで見られるなんて・・・

僕が必死でメガネを探していると

「天村くん!これ」

平井さんの声の方を振り向くと一気に視界がくっきりとする。

どうやら平井さんが僕のメガネを拾ってさらにかけてくれたらしい

「あ・・・ありがとう平井さん・・・それじゃあ僕帰るね」

一応お礼は言ってみる物のやっぱり恥ずかしいし何より平井さんにこんな情けない所を見せてしまった自分が嫌になる。

僕はそのまま黙って教室を立ち去った。

 

 

はぁ・・・今日は付いてないなぁ・・・・

あんな所を見られたんだし平井さんもきっと僕の事を情けない奴だと思ったに違いない。

もっと強くてかっこいい男になりたいなぁ・・・

例えば藤●弘、みたいな・・・・

そうなればきっと平井さんも振り向いてくれるだろうし僕自身にも自信が付いて平井さんに告白できるかもしれない

でもやっぱりそうも簡単に行かないのが現状だよなぁ・・・

今日は早く雑誌を買って帰って読んで荒んだ心を癒そう・・・

少し遠回りをして商店街にある本屋へと向かった。

 

この時そのまま家に帰っていればあんな事にならなかったのだろうか・・・?

 

僕が商店街に差し掛かった時、急に男の人から声をかけられた。

「すみませ〜ん。アンケートを取っているのでご協力お願い致しま〜す!匿名で大丈夫でーす!」

声をかけてきた男の人は張り付いたような笑顔でそう言って僕にアンケート用紙を挟んだバインダーを押し付けてくる。

こんなめんどくさい事断ってやろうと思ったが、男の人の押しが余りにも強かったので僕はしぶしぶそのアンケートに答える事にした。

そのアンケートには

 

真星町民への意識調査

 

1.今の自分を変えたいと思っていますか? はい.いいえ

 

2.今の自分に満足していますか?     はい.いいえ

 

3.やりがいのある仕事がしたいですか?  はい.いいえ

 

4.世界を変えたいと思いませんか?   はい.いいえ

 

5.変身願望はありますか?        はい.いいえ

 

といったような事が書かれている。

なんだこれ・・・・?

こんな物を集計して何の意味があるのか分からなかったしめんどくさかったのでとりあえずすべてにはいと答え用紙を男の人に突き返し僕は本屋へと急いだ。

 

そして僕は本屋で目当ての雑誌を買ってさあ早く家に帰って読もうと思い店を軽やかな足取りで出たその時の事だ

僕は突然黒ずくめの男・・・いうなればショッ○ーの戦闘員のような2人組に取り押さえられてしまった。

「うわっ!?なんなんですかあなた達は!?離してください!!」

僕は必死で抵抗したが腕っ節は強い方ではないので全くと言って良い程に黒ずくめの男達を振り払う事ができなかった。

次の瞬間、男の一人が僕の顔に何やらガスの様な物を吹きかけて来て、それを吸った僕は意識を失ってしまう。

僕は一体どうなってしまうんだろう・・・?

 

 

 

あれ・・・・僕・・・どうなって・・・・たしか本屋で本を買った帰りにショッ○ーの戦闘員みたいな奴らに襲われて・・・・

「う・・・うーん・・・・・・な・・・なんだここ・・・・」

重い瞼を開けると何やら物々しい機械やらよくわからない装飾がなされた部屋に四肢を鎖でつながれた状態で台か何かの上に寝かされていた。

「僕をいったいどうするつもりなんだ!!早く解放しろ!!」

僕はそう叫ぶと

「手荒な真似をしてしまってすまない。天村有希くん」

どこからか威厳のありそうな男の声がした。

「だ・・・誰だ!?」

僕は声の方向に首を向けると壁にかけられていたレリーフが光ってそこから声が出ている事に気付く。

なんかこういうの仮●ライダー見た事あるぞ・・・・?

って事はもしかして僕・・・・悪の秘密結社的な何かに捕まったのか!?

「私はバッドネス㈱首領のドン・ザイーグだ。君には我々秘密結社バッドネス㈱の一員になってもらおうと思ってね。」

やっぱり・・・・!

というか秘密結社なのに㈱?株式会社なの!?

いや・・・多分これ突っ込んだら負けな奴だ。

それよりこのままいけば僕は改造人間にされてしまうって事?

いや・・今自分の置かれた状況にもこんな絵に描いたような悪の秘密結社もにわかには信じられない。

タチの悪いドッキリなら今すぐにでもやめて欲しいところだ。

「僕を改造人間にするつもりだな!?」

ひとまずそう尋ねてみると

「おお!説明せずとも分かってくれるとはもしかして君はニュータイプか何かなのかね?」

その声は心底驚いた様にそう言った。

何だこの首領・・・声はいかついのに結構アホなのか?

「い・・・いやこんな状況で秘密結社とかいわれてしかもこんな台みたいなのに縛り上げられてたらそれ以外に何も無いと思うんですけど!?」

「そうか・・・・察しが良いな君は。その通り君には我々バッドネス㈱の怪人になってもらう!研究員ども!入ってこい」

「キョー!!!」

その声と同時に全身白ずくめの人々が部屋にわらわらと入ってきた。

さっきまで信じられなかったが入ってきた全身白ずくめの研究員が手に持っているメスやよくわからない薬品によくわからない機械なんかを見て僕が今置かれている状況はドッキリやらではなく本当なのだと悟った。

マジで僕改造人間にされちゃうんだ・・・!

もちろん改造人間されて悪事を働くなんてことしたくないが正に自分にヒーローになれる様なチャンスが転がってきたと思うとそんな場合じゃないことは分かっているのに不思議とわくわくしてしまっている自分が居た。

「せ・・・せめて改造するならバッタ怪人にしてください!!」

僕はレリーフに向けてそう叫んだ。

そうだ!バッタ・・・バッタ怪人ならワンチャン抜け出せる!

しかし

「もっと嫌がると思っていたんだが案外素直だな君は・・・だがバッタはダメだ」

彼は即答した。

「な・・・なんでですか!?」

「この業界でバッタ怪人を作ると組織が壊滅するジンクスがあるんだよ。悪の秘密結社業界では常識だぞ?」

悪の秘密結社業界って何だよオイ!!

そんなの業界にしちゃダメでしょ!

そう突っ込みたかったがここで首領の機嫌を損ねたら改造人間にされるどころか殺されてしまうかもしれない。

なので僕は突っ込みたい気持ちを押し殺し

「じゃ・・・じゃあ何怪人にされるんですか?カブトムシとかクワガタとか?それとも鷹?虎?」

「いや君は虫とか動物とかそう言う感じのじゃないんだ」

「え・・・じゃあ一体なんなんですか!?もしかしてただの戦闘員!?戦闘員ひとり作るのにこんなに労力かかるの!?やだ!!僕ただの戦闘員にはなりたくないです!!!」

僕はじたばたと暴れたがやはり手足のチェーンが引っかかって身動きが取れない。

「い・・・いや・・・戦闘員でもない・・・戦闘員は皆バイトだし・・・君には正社員になってもらおうと思っている」

バイト!?というか秘密結社ってそういう雇用形態で動いてたの!?

なんだか僕の中で悪の組織のイメージが崩れて行く

「じゃ・・・じゃあなんなんですか・・・!?」

僕は少々切れ気味に尋ねた。

すると

「フハハハハ!よくぞ聞いてくれたな!!」

その声は凄く嬉しそうな声で高笑いをした。

なんだろう・・・この首領めちゃくちゃ人間味あるな・・・・

「知りたくば教えてあげよう。君は・・・・」

彼は勿体を付ける

「僕は・・・・?」

僕も鼓動が高まって行く。

一体僕は何怪人にされてしまうんだ・・・!?

馬・・・?

あっ、狼も良いなぁ・・・・

って何考えてるんだ僕!?

どれも嫌だよ!!

そんな事を考えていると次の瞬間その声は耳を疑うような言葉を発した。

「君は我々バッドネス㈱の最強女幹部、フジュンヒルデになるのだ!だーっはっはっは!!あっ、フジュンヒルデって言うのは北欧神話の戦乙女のブリュンヒルデと不純を掛け合わせて私が考えたのだ!最高に悪そうだろう?我ながら自分のセンスが天才的すぎて恐ろしいよ・・・!クハハハハハハ!!!!」

その声はまた高笑いを浮かべる。

・・・・・・・・・・・・・・は?

いやいやいやいや全てにおいておかしいでしょ

なんだよフジュンヒルデって!!

ネーミングセンスが絶望的じゃないか!!

ほぼダジャレな上に全部説明しやがったなコイツ!めちゃくちゃ寒いぞ!?

悪そうなのは名前じゃなくてそんな名前を考えつくあんたの頭だよ!

と言ってやりたい所だったがそれ以前に僕は男なんだぞ?

なんでそんな僕が女幹部にならなきゃいけないんだ?

「ま、待ってください!!僕は男ですよ!?女幹部なんておかしいでしょ!?」

僕はレリーフを睨みつけると

「おお・・・・そこに気付くとは流石私が見込んだ男だ」

その声は感嘆の声を漏らした。

いやいや普通に考えれば分かるだろ・・・

「それに第一なんで僕なんですか!?もっと女幹部にするなら僕なんかよりずっと向いてそうな綺麗な女の人だっていっぱい居るじゃないですか!」

「ふむ・・・・そうだな。君には特別に教えてあげよう。何故君をここに連れてきたのか・・・?何故男を女幹部にする必要があるのか・・・?何故それが君なのかぁ・・・?その答えはただ一つ・・・!」

その声はどこぞの神みたいに無駄にテンションを上げて抑揚を付けてそう言った。

「ただ一つ・・・・?」

ただ一つの理由ってなんなんだ・・・?もしかして僕にはまだ気付いていない凄い力があるとかそう言う奴!?

僕がそんな淡い期待を抱いたがそれは一瞬で打ち砕かれた。

「女性社員に断られたからだ」

「は?」

予想外の答えに僕はあぜんとした。

断られたから・・・?それだけ!?

「うちには女幹部が居なくてね。社員から士気向上に繋がるとか踏まれたいとか罵られたいとかお仕置きされたいとかその他たくさんの女幹部を熱望する声が届いたんだ。それで女性社員に女幹部に昇進させてやると声をかけたんだがあんな下品な服着て仕事なんかしたくありません!セクハラとかで権利団体とかに訴えますよ!と言われてしまってな・・・」

なんて世知辛い世の中なんだ・・・

それにしても女幹部が欲しい理由に真っ当な物がほぼ無いじゃないか!なんだよ踏まれたいって!!

しかしなんで僕が女幹部にされるのかの答えにはなっていない。

「で、何で僕なんですか!?答えになって無いじゃないですか!!」

「え、ああ・・・それじゃあ外部から女幹部になれそうな女性をさらってきて改造するわって言ったら女性の権利軽視だなんだと騒ぎ立てられてしまってね・・・これで女性社員に辞められるのも無駄に変な団体を敵に回すのも避けたいと思った私はそれじゃあ男なら問題無いんだな?って半ば逆切れ気味に言ったら通ってしまったんだよ。それで女幹部になれそうな男性を捜して町でアンケートを取ったりしていたのだがそこで君がアンケートに答えてくれたからさっそく連れてきた訳だが・・・」

ええ・・・・!?首領の逆切れのせいで僕女幹部にされるの!?

しかもそれで黙るのもどうなんだよ!男に人権は無いのか!?

それに十分あなた方も変な団体だと思いますけどね!!

・・・・って言うかあのアンケートってそんな事の為に集めててたの!?

もっと真面目に答えとけば良かった・・・というか答えなきゃ良かったと僕は死ぬ程後悔した。

「えーっと・・・・あのアンケート適当に答えたんですけど・・・」

僕がそう言うと辺は騒然とする。

「え・・・そうなの・・・?」

「は・・・はい・・・急いでたし内容も意味不明だったからテキトーに答えました」

もしかしたらこれで僕を改造するのを諦めてくれるかもしれない・・・!

頼む・・諦めてくれ!!

「ま・・・まあいい・・・連れてきちゃった物はしょうがない。それに我々組織の存在を知ってしまった以上タダで返す訳にはいかないのだ!君には女幹部になってもらうぞ!!」

突然悪の秘密結社じみた事言い出したよこの人!

「うわあぁぁぁぁぁ!嫌だぁ!!そんな軽い理由で改造されたくないいいい!!それもかっこいい怪人じゃなくて女にされるなんて!!せめて男の怪人にしてぇぇぇぇ!!」

僕はじたばたと暴れていると

「あっ、性転換とかはしないから安心してくれ」

「えっ・・・それはどういう・・・?」

「いや・・・性別まで女にしてまた女性社員とか女性団体から抗議されたりするの嫌じゃん?だから見た目だけ超絶美女の女幹部にするけど性別は・・・その・・厳密に言うと君の股間部だけは未改造で残してあげようかな・・・と。まあでも見た目は完全に女の子にするから社員の士気も上がるかなーって・・・」

はぁ?なんだそれ!?

「いやいやいやおかしいでしょ!?むしろそこまでやるなら一思いにやってくれた方が良いよ!それに身体の99%を改造されたけど残り1%だけ未改造とかどこの全身武器サイボーグ忍者ライダーですか!?全1話の10号ですか!?」

「うーむ・・・私にその例えはよくわからんが気を取り直して・・・・グゥワハハハハハ!!君は今日から我々秘密結社バッドネス㈱の最強女幹部、フジュンヒルデになるのだ!研究員ども!改造手術を始めろ!」

彼がそう言うと白ずくめの男達は一斉に

「キョー!」

と声を上げ、僕を取り押さえ始めた

「うわぁ!!離せ!離せぇぇ!!!」

僕はもうどうしようもないが無駄な抵抗を必死に続けた。

すると

「あっ、ちょっと待って研究員、ちょっとストップ」

声は突然そう言うと白ずくめの男達は一斉に声を上げて動きを止める。

一体何が起きるんだ・・・?

「流石に一方的に改造するだけなのは可哀想だから君に情けをかけて選択権をあげよう」

「選択権・・・・?」

なんの選択権なんだ・・・・?

もしかすると選択肢さえ誤らなければ僕にもまだ活路は残されているのでは!?

僕はごくりと唾を飲んだ。

「改造後の声がどんな感じになるかを堀江●衣、田●ゆかり、能登●美子の3人から選ばせてあげよう。君にそれ以外の選択肢は無い!」

「は!?」

えっ・・・選択権ってそう言う事?

どれ選んでも改造される事自体はさして変わらないじゃないか!

というかなんで声優のチョイスが一昔前のなんだよ!!

「さあ!早く選びたまえ。選ばなかったらマツ●・デラックスみたいな声にするぞ・・・!!出来れば私もそんな事しなくないから頼むから選んでくれ・・・この通りだ・・・」

それは嫌だ!流石にそんな声で女幹部はやりたくない!!

いや女幹部もやりたくないけど・・・

それにどの通りなんだよ!?

こっちには声しか聞こえてないんだよ!?

しかしどうする・・・・どうするんだ僕・・・

でも答えるだけなら・・・・

「そ・・・それじゃあ能登●美子で」

僕は渋々能登●美子をセレクトした。

できればあや●るとかがよかったんだけどなぁ・・・・

ってどれも嫌だよ!僕の声が僕の声じゃなくなっちゃうんだぞ!?

「よしわかった。ちゃんと選んでくれてありがとう!ではもう一度気を取り直して・・・・グゥワハハハハハ!!君は今日から我々秘密結社バッドネス㈱の最強女幹部、フジュンヒルデになるのだ!研究員ども!次こそ改造手術を始めろ!彼を従順な悪の手先として生まれ変わらせるのだ!ぐわっはっはっは!!!!」

その声が高笑いを浮かべると

「キョー!」

白ずくめの男達がまた一斉に僕を取り押さえた。

「うわぁ!!やめろ!!!やめてくれ!!」

「お、おい君あんまり暴れると注射が変な所にさっさっちゃうだろ!本当に危ないから大人しくした方が良いよ・・・?」

その声は心配そうにそう言った。

「うわぁぁぁぁん!そんな心配いらんわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

僕が喚いていると白ずくめの男の一人が思いっきり僕の腕を押さえつけて注射針を射ってきた。

「っつ・・・!」

チクリと僕の腕に痛みが走り、何かの薬品が僕に注入されていき意識がどんどん遠のいていく

「はぁ・・・・よかった。なんとか注射は成功したみたいだな」

薄れゆく意識の中その声は安堵の息を漏らしていた。

それから先の事はよく覚えていない。

 

 

あれからどの位経ったのか闇の中だった僕の意識が徐々にはっきりとしてきた。

麻酔が切れてきたのかな・・・?

そういえばあの自称首領は僕を声が能登●美子似の女幹部にするとか言ってたけどどうなっちゃったんだろ・・・

僕は恐る恐る声を出そうと試みると

「・・・・・う・・・あー・・・・えっ!?僕の声・・・・じゃない!?」

自分で発した声に耳を疑う

明らかに自分の物と違う物になっている事が一瞬で理解できた。

それに僕の目に何やら肌色の膨らみが2つ見えている。

「目が覚めたかねフジュンヒルデ」

またレリーフが光り、そこから首領の声がした。

「ぼ・・・・僕に何をしたんだ!?それに僕はそんな名前じゃない!!」

やっぱり自分の喉から発した声は今までの僕の物ではない。

その・・・能登●美子に似てる様な・・・・

でもちょっと違う様な・・・

「ぐわはははは!声までしっかり変わっているな。今の君の姿を見てみると良い!研究員!鏡をもってこい」

彼がそう命令すると白ずくめの男達は大きな鏡をどこからか担いできて台の上で縛られている僕の上に持ってきた。

「うそ・・・」

そこには巨乳でウエーブのかかった紫髪の女性が裸で四肢を縛られている姿が映っていて、彼女は鏡の先から驚いた顔で僕を見つめ返して来ている。

そんな彼女の股間には男性器が生えていてその形や色は見慣れた自分自身の物だった。

これが今の僕なんだ・・・僕・・・本当に改造されて女幹部にされちゃったんだ・・・・

それにさっきまでかけていたメガネが無くなってる。

ド近眼でメガネが無いと何も見えないはずなのに裸眼でこんなにくっきり見えるなんて改造されて身体能力が上がってるのかな・・・

そんな身近な事で僕は改造されたと言う事を感じていた。

しかしそんな鏡に映った素っ裸の僕・・・?だったが何故か首には不自然にひし形で紫色の石がついたチョーカーが付けられていた。

なんだこれ・・・?

僕が戸惑っていると

「よしこのくらいで良いだろう。研究員!鏡を降ろして良いぞ!どうだ!生まれ変わった姿は?君の身体の改造は終わった。次は脳の手術だ!君を完璧な女幹部に洗脳してやろう!うわははははははは!!!!」

そんな・・・・姿だけじゃなくて洗脳まで!?

それじゃあ僕が完全に僕じゃなくなる・・・!?

この人たち・・・ふざけてるけど本物の悪の秘密結社だったんだ・・・

ここに来てようやく僕はバッドネス㈱の恐ろしさを身をもって味わっていた。

すると

「キョー!洗脳担当の社員が定時退社したため本日は洗脳手術を行えません!それと私もそろそろ定時退社します!」

白ずくめの男の一人が言った。

「あ・・・そうか・・・もうそんな時間か・・・まあ寝てる時に洗脳しても効果は無いし彼・・・いいや彼女が起きるのを待ってたわけだし仕方ないか。フジュンヒルデ脳改造手術は明日に延期だ。それじゃあみんなお疲れさま。今日はもう帰っていいぞ!」

首領がそう言うと白ずくめの男達はぞろぞろと部屋を出て行ってしまう。

そして部屋は縛り付けられている僕一人になってしまった。

「ふう・・・みんな帰ったな・・・それじゃあ私もそろそろ退社だ。君は申し訳ないが明日までそのままで居てもらおうか。君が今の君で居られる最後の時間をそこで楽しむが良い!ではさらばだ!!ぬわっはっはっは!!」

彼が高笑いを浮かべるとレリーフの光が消えた。

なんてホワイトな秘密結社なんだ!残業0で作業を切り上げるなんて・・・って感心してる場合じゃない!

「おい・・・!ちょっと待て・・・!明日までこのままって・・・せめて鎖を外してぇぇぇぇぇ!!!いや・・・鎖は外さなくてもいいからせめて服・・・・服を着せてください!お願いします!!!!」

僕の能登●美子似の声が空しく部屋に響く

しかしそれっきりレリーフから返事は帰ってこなかった。

 

 それから何時間も僕は台の上で身動きが取れずに居た。

「うう・・・改造されてるんだからこのくらいの鎖引きちぎれても良いだろ・・・・ままじゃ僕・・・明日には本当に心まで女幹部になっちゃうよ・・・」

思えば17年の短い人生だったな・・・・いや死ぬ訳じゃないけどもう僕の記憶は明日でなくなってしまう訳だし・・・

そう考えると一気に感傷的になったし何よりこんな部屋で四肢を鎖でつながれた状態で一人きりでなんだか心細くなって僕の目からは涙があふれていた。

「やだよぉ!家に帰りたい!ゲームしたい!ニチアサ見たい!うぁぁぁぁぁぁん!!!」

僕は誰も居ない部屋でひとり泣き叫んでいると

「ああもうさっきからやかましいぞ」

という声がどこからとも無く聞こえた。

さっきまでの首領の声でも白ずくめの男の声でもない少女の声だ。

「だ・・・誰だ?」

僕は声のした方に顔を向けるとその先にあった扉が開き、白衣を着た瓶底メガネの髪を後ろで束ねたな少女が部屋に入ってきた

「だ・・・誰・・・?」

もう皆定時退社で居なくなったはずじゃ・・・

「やあ。はじめまして。私はバッドネス㈱の怪人改造部所属の尼尽 佐江(あまつ さえ)当直で奥のモニター室で残っていたんだがキミの声がうるさくて寝れなくてな。はぁ・・・全くこんな日に限って夜勤だなんてね・・・ついてるんだかついてないんだか・・・・」

彼女は気だるそうに言った。

「そ・・・そうなんだ・・・」

寝るつもりだったとか当直する気ゼロじゃん・・・・

でも誰も居ない部屋で孤独だった僕は人と会話ができてなんだか安心感を覚えていた。

で・・・・でも改造部って事は僕をこんな身体にした事にこの少女も関わっていたと言う事なんじゃ・・・

「ふぅん・・・・私の計画書通りに技術派遣のスタッフがよくやってくれたみたいだな・・・それにしても何だこの脂肪の塊は・・・全く男と言うのは・・・」

あの白ずくめのひとたち派遣社員だったの!?

その少女は僕の身体をじろじろと眺め、僕の胸をつついてきた

今まで僕についていなかったはずの物から僕の脳に触れられた感触が伝わってきた。

「あうっ・・・!」

僕の口から甘い声が洩れる。

今の声僕が出したのか・・・!?

それになんだこの感覚・・・

僕の身体・・・もしかして敏感になってるのか!?

「ほう・・・感度も良好だな。さっきまで冴えない少年だったとは思えないよ。流石私だ」

流石私・・・?さっき計画書とかいってたしもしかして・・・

「お・・・おい!君が僕をこんな身体にしたのか!?」

僕は少女を睨みつけた

「え、ああそうだが?まあ私は計画書を作って指示しただけで実際に君に手を下した訳ではないがね」

こんな少女が僕の身体をここまで作り替えたって言うのか!?

「ぼ・・・・僕を元に戻せ!僕をこんな姿に出来るのなら元に戻す事だって出来るはずだろ!?」

そんな事出来ない・・・いや。仮に可能だとしても絶対にそんな事をしてくれないことは分かっていたが僕は行き場の無い憤りを少女にぶつけた。

「はぁ・・・そんな声で言われても全く怖くないし何より耳に来るからやめろ。それに私が暇つぶしの為に君に良い話を持ちかけてやろうとしているのにそんな態度を取っていいのか?」

「良い話・・・?」

どうせまた声がどうこうみたいな感じでどうでも良い様な事を聞いてくるだけだろうと半ば諦めていると

「私と取引をしないか?」

突然彼女はそう切り出す

「取引・・・?」

「そうだ。キミが私の要求を飲めば君をここから解放してやる」

「え・・・本当!?」

予想外の言葉に僕は喜びを隠せない。

でもこんな格好で解放された所で・・・それに要求っていったいなんなんだ!?

この組織に忠誠を誓えとかそんな事なら僕は飲まないからな!

「ああ本当だとも」

「でも僕・・・こんな身体じゃ解放されても元の生活になんか戻れないよ・・・」

そうだ。いくら解放されたと言ってもこの身体じゃ誰も僕の事を僕だと気付いてくれないだろうし・・・その・・・色々生活に支障が出そうだし・・・・

「最後まで話を聞け。私の要求を果たせば君を元の身体に戻してやる」

解放した上に元に戻してくれるだって!?

一体何を要求されるんだろう・・・?

それに僕を逃がすなんて事をしたらそれはまぎれもなく裏切り行為だ。

そんな事をすればこの子もただでは済まないはずだ。

「要求?それにそんな事したら君も無事では居られないんじゃ・・・?」

「そうだろうね。だから私もバッドネス㈱を抜ける」

「抜ける・・・!?なんで!?」

「給料も待遇もいいんだが好きな事をやらせてもらえなくてね。全く・・・・いつも虫やら甲殻類やらの改造人間を作らせやがって・・・私そういうの苦手なんだっての。だからそんな事で私の才能を浪費するクソ組織なんか潰してやろうって思っていたんだ」

彼女は急に愚痴り始めた

「え・・・それじゃあ・・・」

「ああ・・・お察しの通りキミにはこのバッドネス㈱をぶっ潰すために協力して欲しいんだ」

よくある展開キター!!

でも僕に秘密結社と戦う力なんて・・・・

「協力って・・・一体何をすればいいのかな?」

「決まってるだろう?潰す為にやる事なんか怪人をやっつけて最後には首領を倒す。それだけだよ」

「僕が・・・?そんな・・・僕はただの高校生で・・・」

「いやいや。もう改造手術を受けた瞬間からキミは最早人間じゃない。それに首領も言っていただろう?“最強”の女幹部だとキミはバッドネス㈱の改造技術の・・・特にこの私の天才的な技術を最大限に活用して最強の女幹部になったんだ。そんちょそこらの有象無象の怪人なんかには負けないさ」

「そ・・・そうなんだ・・・・」

人間じゃない・・・その言葉に引っかかったが確かにその通りなのかもしれない。

こういうシチュエーションに憧れてはいたが今の僕は股間以外は完全に改造されてしまった女幹部な訳で・・・

なによりどう戦えば良いのかも聞かされていないし本当に僕に務まるのだろうか?

「それでどうなんだ?この取引、乗るのか?」

彼女は尋ねてくる。

不安や懸念は大量にあったがこの組織を壊滅させれば本当に僕を元の身体に戻してくれると言うのなら答えは決まっているしこのまま頭まで弄られて悪の女幹部になって生活を送るなんてまっぴらごめんだ。

それに裸でこのまま明日まで縛り付けられているのも嫌だし・・・

急に出てきた悪の秘密結社の科学者を信用するのも怪しい気がするけれど、このまま朝まで放置されるよりはこの子を信じた方がまだ希望が持てそうだ。

「うんわかったよ。君に協力する」

僕は彼女との取引に乗った

「よーしわかった。交渉成立だ。それじゃあ今から君の拘束を解こう」

彼女はそう言うと何やらスマートフォンを操作すると四肢の拘束が綺麗に外れたので僕は即座に起き上がって縛り付けられていた台から降りた。

「やったぁ!動ける!!ありがとう」

僕は自由に動ける喜びからその場でぴょんぴょんととびはねると僕の胸に付いている肉の塊もぶるんぶるんと上下に揺れる。

それにしてもこれが僕のおっぱい・・・・いくらなんでも大きすぎない?

僕はふと我に返って自分の胸元をまじまじと見つめた。

「礼を言うにはまだ早いぞ。それに自分の胸に見とれてる場合じゃないぞ気付かれないうちにここから脱出しよう!私のラボに案内する」

「え!?べ・・・別に胸なんか見て無いよ!!それに脱出するって言ったって・・・僕こんな身体で・・・それに裸で・・・」

ここから急いで出なければ行けないと言う事は頭では分かって入るけれど流石にこんな身体で素っ裸のまま外に出るのは恥ずかしかった。

「しょうがないなぁ・・・私の白衣を貸してやる。逃げきるまでそれで我慢しろ」

彼女はそう言うと白衣を脱いで僕に渡してくれたのだが元々サイズが小さい上に僕の胸が大き過ぎるせいか全く服として意味をなしていなかった。

「う・・・これ結局何も隠せて無いじゃないかぁ・・・」

「いいから!文句言ってないで早く出るぞ」

彼女はそう言って僕の手を引っ張り走り出す。

「ま・・・待って・・・!そんな引っ張らないでよ!」

「キミがチンタラしてるのが悪いんだ!さっさと逃げないと警備に見つかるだろうが!」

彼女がそう言うので僕も仕方なく走ったが、走る度に僕の胸がぶらんぶらんと揺れる

おっぱいって走るときこんなに邪魔になるのか・・・!?それにしても大き過ぎるだろ・・・・

僕がそんな事を考えながら彼女に手を引かれ長い廊下を進んで行くと突然彼女が足を止めた

「クソッ!もう気付かれたか」

彼女が苦虫を噛み潰した様な顔で見据える視線の先にはロボットが3機僕らの行く手を阻んでいた。

「キョニュウ ナノニ アレガ ハエテル ロシュツキョウノ フシンシャ ハッケン ハイジョシマス」

ロボットは平坦な声でそう言うと何やら銃の様な物をこちらに向けてきた。

巨乳なのにアレが生えてる露出狂の不審者って僕の事!?

僕だって好きでこんな恰好してるんじゃないよ!!

「ど・・・どうすれば!?」

僕は彼女に助言を求めたが

「ほら。さっそくキミの初仕事だ。あいつらを倒して外に出るぞ。と言う訳で私は物陰から見守っているからせいぜい死なない程度に頑張ってくれよ」

彼女はそそくさと僕を置いて走って物陰に隠れた。

「えっ!?ちょっとまって!」

僕は丸腰だし何をすれば良いのかわからず狼狽えていると

「フシンシャ ハイジョ」

ロボットはそう発すると突然僕に向けて弾丸を発砲してきたので咄嗟に避けた。

「あれ・・・避けれた・・・?」

鈍臭い事を自負していた僕だったがまるで弾丸の起動が手に取ったように分かる程ゆっくりと捉えられたので簡単によける事ができたのだ。

これが・・・改造された僕の力なのか?

って感心してる場合じゃない!

いくら避け続けてもいずれは消耗してしまうのがオチだ!どうすれば・・・・

僕が考え込んでいると

「おいーなにやってるんだよーそんな雑魚さっさと倒せ〜」

物陰から彼女のやる気の無い声がする。

好き勝手言いやがって・・・僕にどうしろって言うんだよ!!

しかしそんな事を考えている間にも警備ロボットは僕に向けて発砲を行ってくる。

僕はすかさず避け続けるが避けているだけでは埒が明かない。

「あーもうじれったいなぁ!キミの喉に巻かれているチョーカーに石が付いてるだろう?それに手を当てろ!」

物陰から彼女が叫んだ。

石・・・?

そう言えば僕の首に巻かれたチョーカーにひし形の石が付いていたけど・・・

「今の君にはリミッターがかけてある!誰もいないあの部屋で暴れられて逃げられては困るからな。だからそのリミッターを外せ!石に手を触れて変身と発言するんだ!そうすれば君は力を解放した真の姿になれる!」

石に手を当てて変身・・・?

よし!よくわからないけど変身なんてもうずっと憧れていた言葉だ!

きっとそう叫ぶと戦闘形態か何かになれるはずだ。

「うん!わかった」

僕は藁をもすがる用に一度深呼吸をして首に付いていた石に手を触れ

「変ッ・・・・身ッ!」

と叫んだ。

すると石が妖しく輝き、その光はロボットから放たれる弾丸を弾き、身体には電流が走るような衝撃と身体の根本から何かが変わる様なそんな痛みにも似た感覚が身体を蝕んだ。

「うっ・・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!ぐっ・・・・うぁ・・・・うぐぅっっ!!!」

僕は余りの衝撃に叫んで身悶えする。

そんな衝撃はしばらくすると薄れ、光もどんどんと収まってきた。

「はぁ・・・・はぁ・・・なんだったんだ今の・・・・」

なんだろう・・・?僕の身体にいったい何が起こったんだ?

ふと手を見ると僕は手袋をしていた。

「あれ・・・?僕・・・どうなって?」

手袋だけじゃない。

さっきまで白衣を羽織っている以外はほぼ全裸だったはずなのに僕は今服を着ていた。

いや・・・これ服って言えるのか?

自分自身が今どんな服を着ているのか完全に理解する事は難しかったが胸がぱっくりと割れたなんだかエロいコスチュームを着ている事だけはわかった。

「ななな・・・・・・なんだこれぇ!!!!!」

僕は思わず手で胸を隠す。

「おいおい!恥ずかしがってないで戦え!それがキミの真の姿、バッドクイーン・フジュンヒルデだ!」

彼女はテンションを上げてそう言った。

「今の僕が・・・・真の姿・・・?今はそんな事よりアレを倒さなきゃ!武器は無いの?」

彼女に尋ねる

「武器なんか無くなって力を解放したキミなら素手で十分だ!そんな雑魚さっさと片付けろ!!」

素手で十分・・・?

確かになんだか身体の奥から力が溢れ出してくるような気がするし不思議と負ける気がしなかった。

よし!もうこうなったらやるしか無い!

僕はロボット達から放たれる銃弾をかわしつつ距離をどんどんと詰めて行った。

さっき彼女に手を引かれて走って居た時とは比べ物にならない程軽やかに足が動く。それに服のおかげか胸の事等さっきの事を考えたら全く気にならないので僕は凄まじいスピードでロボットへと接近できた。

「おりゃぁ!!!」

まずは一機、とりあえず思いっきり拳を握りしめてロボットにぶつけるとロボットは凄まじい勢いで変形し吹き飛んだ。

「す・・すごい・・・!」

僕はすかさず残りの2機のうちの1機に狙いを定めて軽くジャンプをすると身体がふわりと宙に浮く。

「少しジャンプしただけなのに・・・床があんなに遠い!これならっ・・・!」

僕はそのまま体制を整えてドロップキックをくらわせてやると床はべこりと凹み、その中心でロボットがぐちゃぐちゃに砕け散っていた。

「あと一機!」

僕は発砲し続けているのこりの一機に接近し上から力一杯抑え込んでみると紙袋でも潰しているかの様に最後の1機もぺしゃんこになってしまった。

「はあ・・・・はあ・・・・・やった・・・・」

辺を見回すとさっきまでロボットだったものが辺一面に転がっている。

これ・・・・僕がやったんだよね・・・?

そうだ。まぎれもなく僕がやったんだ!

すごいぞ!

今の僕はテレビのヒーローさながらに動ける・・・!

これならバッドネス㈱打倒だって・・・

それに世界征服だって夢じゃないかもしれない!

僕はそんな全能感にも似た感覚に酔いしれていた。

なんだろうこの胸の高鳴りは・・・・

なんだか凄く・・・

気持ちいい・・・・?

「はぁっ・・・・・♡」

僕の口からため息が一つ洩れる。

「おい!何ぼーっとしてるんだ!他のが来る前に早く行くぞ!」

物陰から彼女が出てきて僕を急かした。

「う・・うん!」

僕はそんな彼女の声ではっとなって後を追った。

しかし走ると彼女よりもスピードが出てしまい彼女を追い抜いてしまうので僕は自分の走るスピ−ドを調整するのに手こずりながらも彼女の案内のもと、出口らしき階段の前に差しかかった。

なんで出口か分かったかって?

階段の先にあった扉に非常口って書いてあったからさ。

「ここを出れば出口だ!」

彼女はそう言って階段を駆け上がる。

よかった・・・これでやっと出れるんだ・・・!

僕は彼女を追い越して階段を上りきりその先にあった扉を蹴破った。

するとその先にあった物は誰も居ない静まり返った雑居ビルのエントランスだった。

蹴破った扉を見てみると壁にカモフラージュしてある作りだったようだ。

こんなところにアジトがあったなんて・・・・

僕は既にバッドネス㈱が社会で暗躍をしている事実をひしひしと感じた。

「ふう・・・乱暴だなキミは・・・・ま、もうでれたからどーでもいいがな。それじゃあ後は私のラボに行くだけだ。駐車場に車を停めてある。それに乗るぞ」

彼女は僕を雑居ビルの駐車場に連れていき、赤いミニバンの前で立ち止まった。

「これが私の車だ・・・ところでキミ、いつまでそんな格好をしているんだ?恥ずかしくないのか?」

彼女がそう尋ねてきた。

彼女に言われて今僕の身につけている服が相当恥ずかしい物だと言う事を思い出してしまい赤面してしまう。

「ぼ・・・僕だって恥ずかしいよ!でも変身解除の仕方なんてしらないし・・・・」

「はぁ・・・しょうがないなぁキミは・・・もう一回さっきの要領で解除って言ってみてくれ」

「う・・・うん・・・解除」

言われた通りに石に手を当てそう発するとまた石が妖しく光り、また身体に電流が走る。

さっき程ではなかったが少しくすぐったい様な感覚を一瞬だけ感じたと思ったらさっきまで着ていた服が全て消し飛んでいた。

「うっ・・・うわぁぁぁぁぁぁ!裸ぁ!!?」

僕は思わず両手で胸と股間を隠してその場にしゃがみ込んだ。

「はぁ・・・そんなことしてないでさっさと乗ってくれよ」

そんな僕を冷めた目で見つめた彼女は車のドアを開けた。

「えっ・・・乗るって誰が運転するの?」

「そりゃ私に決まっているだろう?」

「えっ・・・君、免許持ってるの?」

「当たり前だろう?天才の私にかかれば免許を取る事等容易い」

「いや・・・その・・・年齢的な意味で・・・」

「はぁ?私はこう見えて25だぞ」

「えええええええ!?年上!?」

どう見ても10代前半にしか見えないんですけど

「ほら、つべこべ言わずにとっとと乗れ」

彼女は僕を無理矢理後部座席に押し入れた。

「いだっ!急にそんなことする事ないじゃないか!」

「うるさい。私の事をバカにした罰だ」

彼女はそう言うと凄まじい勢いでアクセルを踏み、車は急発進して僕は後部座席から転げ落ちた。

「うわぁっ!ちょっと!!いくらなんでも運転荒すぎだよ!」

「ふんっ!私の天才的ドライビングテクニックを荒いだと?キミには身を以て分からせなければいけない様だな」

そう言うや否や更に車はスピードを上げて凄まじいスピードで走り出した。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

僕の能登●美子似になった声が車内に響き渡る。

ラボって一体どこなんだ・・・・?

それにこれから僕どうなっちゃうんだろう?

様々な不安が僕の中に渦巻いていた。

 



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序章.2

 前回までの3つの出来事!

1つ!男子高校生天村有希は悪の秘密結社バッドネス㈱によって悪の女幹部(♂)に改造されてしまう

2つ!自称天才の美少女(25)と取引してバッドネス㈱と戦う事になってしまう

そして3つ!改造された有希はその超人的能力でバッドネス㈱の警備ロボットを軽々と撃破した!!

 

 

 

 そんなあらすじを脳内で語って現実逃避を試みる僕は今佐江さんの車の後部座席に必死でしがみついている。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

そんちょそこらの絶叫マシーンなんかよりも凄いスピードで走行する車の中で僕は恐怖のあまり半べそをかいて声を上げた。

「ああもううるさいぞ!その声耳に来るからやめろ」

「しょ・・・しょうがないだろ!?僕だって好きでこんな声になったんじゃないし・・・!それに僕がこうなったのは元はと言えば佐江さんのその天才的技術とか言う奴のせいじゃないか!?」

そうだ・・・抜けるとは言っていた物の佐江さんは一応バッドネスの研究員なんだ。

あの時は咄嗟で考えていなかったが本当に信用していいのだろうか?

「だからバッドネス㈱を潰したら元に戻してやるって言ってるだろ!?」

「そ・・・・そうだけど・・・その・・・信用できないというか・・・わぶっ!」

僕が話を切り出そうとしたとき車が急ブレーキをかけたので前部座席に思いっきり顔面を強打してしまった。

「いったぁ〜」

でも普通なら鼻血が出ていてもおかしくない様なぶつかり方をしたが鼻血はおろか痛みもすぐに引いていった。

これも改造されたからその分頑丈になってるのかな?

やっぱり僕・・・・もう人間じゃないんだ

僕が少し落ち込んでいると

「着いたぞ」

佐江さんはそう言って車から降りたので僕も後に続いた。

「ここだ」

彼女が指を指したのはさびれたボロアパートだった

「えっ・・・!?ここがラボ・・・?」

「ああそうだが?何か問題でも?」

彼女はきょとんとした顔でこちらを見つめてくる

「問題ありありだよ!こんなボロアパートで研究もへったくれも無いでしょ!?」

「はぁ・・・・キミは分かってないなぁ・・・弘法筆を択ばずと言うだろう?私は天才だから場所を選ばないんだ」

「は・・・はぁ・・・・?」

彼女の超理論に僕はついていけずに居た。

そして彼女についていくとアパートの一階の一室に通された

「ここが私のラボ兼自宅だ」

「うわ・・・」

そこはラボとは言いがたいゴミやら食べカスやらが乱雑に散らかっているだけの普通の部屋だった。

僕の部屋もあまり綺麗な方ではないがそれ以上に洒落にならない位の部屋だ。

「あ・・・あの・・・・ちょっと部屋汚すぎない?」

「いいや?私は全ての物の配置を記憶しているから問題無い」

「いやいやそういうことじゃなくて・・・・」

そんな時僕はふとやけに物が置かれていない畳を見つけた。

佐江さんは器用に物を避けてそこへたどり着き

「あらよっと・・・」

と言って畳を床からひっくり返すとその畳の下からは地下へと続く階段が現れた。

「さあいくぞ」

「いくぞってどこへ!?あっ・・・ちょっと待って」

彼女はそう言うとその階段を降りて行ったので僕も彼女の後について行くと階段を下りきった先にはさっきのボロアパートが噓の様に綺麗に整頓された清潔感溢れるとても広い空間が広がっていて、生活に必要な物は一式綺麗に揃えられていた。

「あっ!これビ○ドで見た事ある奴だ!!」

僕はテンションが上がり声を上げる

「ビ・・・・?なんだそれ?まあいいとにかくここが私のラボ、上はここまで降りてくるのがめんどい時の居住スペースだ」

「すごいよ佐江さん!本当に天才なのか疑ってたけど本当に凄い人だったんだ!!でも勝手にこんな改装しちゃって良いの・・・?」

「ああ。このアパートは私の所有物だ。私が稼いだ金で土地事ごと買い取ったからな・・・ってそれよりこの私を疑っていたのか!?」

「い・・・いや・・・その・・・・」

「まあいい。あいにくここは一人では使い切れない程広くてね、好きに使ってくれ」

「あ・・・はい!その気持ちは嬉しいんだけど・・・」

僕はひとまず家に帰りたい。

でもこんな姿で声まで別人だし・・・・流石に入れてくれないよね・・・

「なんだ?自分の家が恋しくなったのか?」

「は・・・はい・・・流石に親も心配してるだろうし」

「そう考えるのが自然か・・・・しかし今のキミを果たして親御さんはキミだと信じてくれるのか?まず真っ裸だし。あの姿に変身した時に私の白衣も消し飛んでしまったしな・・・結構高かったんだぞアレ」

「えっ・・あっ・・・・ごめんなさい・・・でも僕だって必死で・・・」

「ああ。分かってるよ。おかげで私もバッドネス㈱をやめる踏ん切りが付いた訳だしキミには感謝しているつもりだ」

「佐江さん・・・・ところでなんでバッドネスに律儀にずっと㈱って付けてるの?」

「は?何を言っているんだキミは?バッドネス㈱はバッドネス㈱だろう?」

「いやその㈱って要らなくない?」

「いいや。バッドネス㈱はバッドネス㈱までが正式名称なんだよ」

佐江さんはなにってんだコイツみたいな顔で僕を見つめてきた。

「え・・・・?㈱って株式会社の略とかじゃなく?」

「ああ。あの会社株式上場は愚か株式なんて物は持ってないからな。悪の秘密結社が株式を持てるとでも思っていたのか?」

凄い正論を言われた気がする・・・・!

「え・・・それじゃあバッドネス㈱って・・・」

「企業として運営はされているが公式には企業でもなんでも無い。ただバッドネス㈱に賛同する富裕層が金を回して企業の真似事をしているだけに過ぎないんだよ。まああくまで正式に企業として認められていないだけでやっている事は企業と変わらないと言えなくもないが」

「そうだったのか・・・」

「ああ。株式買えたら秘密結社でもなんでも無いからな。当たり前だろう?何をバカな事を」

「そ・・・そうだよね・・・」

「ところでいつまで裸でいるんだキミは?露出狂なのか?私にそんな汚い棒を見せびらかして楽しいのか?おー汚らわしい・・・」

僕をバカにする様に彼女は言った。

「違うよ!僕だって何か着たいよ!!」

「はぁ・・・これだから凡人と言う奴は・・・少し待っていろ」

そう言うと置いてあったパソコンを操作し始めた。

「少し時間がかかるからテレビでも見て待っていてくれ」

彼女がそう言うので僕は置かれていたリモコンを操作してテレビを付けた

時計を見ると朝の6時前だった。

昨日の夕方に連れていかれてからまだ半日くらいしか経ってないのか・・・

僕はそんな事を思いながらチャンネルを弄るがどのチャンネルもこの時間帯はニュースばかりだ。

「やっぱりこの時間はニュースしかやってないな・・・・」

そんな時あるニュースがテレビに映された

「ニュースです。昨日午後6時過ぎ、真星町で起きた交通事故の被害者男性の身元が明らかになりました」

テレビに映し出されたのは夕方に僕が行っていた商店街のすぐ側だ。

僕が似ない間に事故が起こってたのか・・・

「死亡したのは・・・高校生の天村有希さん17歳と見られ・・・」

えっ・・・!?今なんて!?

僕はテレビを二度見するとそこには僕の写真とその下には天村有希さん17歳 

と書かれていた。

「え・・・僕・・・死んだ事にされてる・・・・・!?」

「ああ。バッドネス㈱の常套手段だ。やってる事は頭悪いが情報操作は富裕層が絡んでる事もあってお手の物と言った所だな」

「そ・・・そんな・・・・」

僕は余りにもショックでテレビの電源を切る。

こんな身体にされて・・・・それに死んだ事にまでされて・・・

完全に僕と言う存在を消し去ろうとしてたんだ・・・・

やっぱり首領は間抜けそうでも曲がりなりにも悪の組織だ。

僕みたいな人がまた出る前になんとかしないと・・・・

僕の心の中には義憤の念がどんどん募っていった。

「なあ、服はTシャツとかで良いか?」

佐江さんがそう尋ねてきた

「ああはい・・・着れる物ならなんでも」

「あいよ」

僕の返事を聞くと佐江さんはまたパソコンの画面に顔を近づけキーボードで何かを打ち込んでいた。

それからしばらくして

「できたぞ。はぁ・・・めんどくさかった」

佐江さんはため息混じりに言った。

「出来たって何が?僕裸のままなんだけど?」

「まあそう焦るな。さっきの要領でその石を触ってみろ」

「ええ・・・ああはい」

僕は言われた通りにそうした。

「そうだな〜音声コードを考えてくれ」

「音声コード?」

「それを触って特定の言葉を言うとそれに対応したコマンドが発動するアレだ。さっきの変身もそれだな・・・何か適当に言葉を言え、それを言えばTシャツが転送されるようにしてやる」

佐江さんはそう言った。

よくわからないけどTシャツを呼び寄せる言葉か・・・・

「え・・・じゃあ招来とかで・・・」

「はいはい・・・えーしょうらい・・・ね・・・」

佐江さんはぶつぶつと言いながらまたキーボードで何かを入力した。

「よし。登録完了。それでは試しに言ってみてくれ」

「あ・・・はい・・・・・招来ッ!」

僕がそう叫ぶとまた石がバチバチと光り僕を光がつつんだ。

そして光が収まると僕はなぜかTシャツを着ていた。

「はぁ・・・・やっと胸が隠せる・・・・」

僕は安堵の息をつく

「下は出たまんまだけどな」

佐江さんはそう言ってTシャツを捲り上げてきた

「うわっ・・・!!!仕方ないじゃないか!!ちょ・・・やめ・・・捲らないでよ!」

僕は捲られたTシャツを思いっきり引っ張って股間を隠す。

「はいはい分かった。それじゃあ半ズボンも入れておいてやるからもう一回招来って言え」

「え・・・はい・・・・招来!」

もう一度同じ手順で言うとまた石が光を放ち僕をつつんだ。

そして僕は下半身が何かにつつまれている感触を覚えたのでしたを確認しようとしたが胸が邪魔でよく見えなかったので太ももやお尻を手で触ってみるとズボンを履いている事が分かった。

「はぁ・・・やっとこれで服をちゃんと着れた・・・・」

「はぁ・・・しかしキミは大袈裟だな。たかがTシャツと半パンを呼び出すだけで招来なんて大層な言葉をつかうとは」

「えっ・・・?」

言われてみればなんだか大層すぎて恥ずかしい気がしてくる

「だ・・・だって何か適当にって言うから!!」

「普通にTシャツ!とかでよかっただろう。バカかキミは?」

「そ・・・そっか・・・・」

その手があった・・・なんだかその気になってしまってかっこいい言葉をセレクトしちゃったけどそれで良かったんだ・・・

しかしどういう原理なんだろう?

「あの・・・なんで言うだけでTシャツやらズボンやらが出てきたの?」

「はぁ?そんな事も分からないのか?それはだな・・・量子力学が・・・・・・・・シュレーディンガーの・・・・・・・・エンゲル係数が・・・・・・宇宙ひも理論とエントロピーで・・・・・・・・・」

それから佐江さんは一時間以上長々と原理を説明してくれた様だが文系高校生の僕にはさっぱり何の事か分からなかった。

「どうだ?分かったか!?」

佐江さんは言い切った様な晴れやかな顔で尋ねてくる。

ここでいいえを選ぶと多分最初から聞かされる奴だと思ったので

「は・・・はい・・・一応・・・」

と答えておいた。

そんなときふと僕は顔にかかっている前髪が気になった。

いままで髪なんか染めた事など無く17年間黒髪の僕だったが今僕の目にかかっている髪は紫色をしていてなんだか落ち着かない。

「と・・・ところで・・・僕の髪・・なんだけど・・・」

「髪がどうかしたか?」

「こんな紫色の髪じゃ目立っちゃうかなって・・・・それこそバッドネス㈱に見つかっちゃうんじゃ・・・」

「はぁ?この超絶可愛いピンク色の髪をした私に向かってそれを言うのかキミは・・・?まあ確かにその通りではある。そんなキミの悩みを解決しつつ今からキミにはそのチョーカーの転送システムの説明をしてあげよう」

「は・・・はい・・・出来れば専門用語とか無しで・・・」

「はぁ・・・仕方ないな・・・・それじゃあ耳かっぽじって聞けよ?今のキミの状態は改造係数20%・・・ああ改造係数と言うのはどれだけ改造の作用が身体に表れた状態かを表す数値で・・・・キミが先ほど変身したあの姿が85%だ。」

「そ・・・それじゃあ100%は・・・?それにこれ・・・外れないんだけど?」

僕はチョーカーを引っ張りながら尋ねた

「バカかキミは、それは転送装置であり制御装置でありリミッターなんだ。それを外せばキミの能力は100%いや1000%くらいまで解放される。しかしその代償にキミはもう二度とあの姿から戻れなくなる。この制御装置は一度外れると使えなくなっている仕組みになっているからね。それに仮に能力が解放されてもキミはその力に耐えられなくなって自我を失うか最悪死ぬぞ。いや。寧ろ自我を失ってしまうんだから死んだ方がよっぽどマシかもしれないな。」

僕はそれを聞いて咄嗟にチョーカーから手を離した。

「なんでそんな物騒な作りにしたんだよ!!」

「いやだって・・・・作ったときはキミが私の案に乗ってくれるか分からなかったし一応クライアントからの指示だったし・・・私だって久しぶりに面白い改造が出来ると思って色々やってみたかったんだ。許せ」

彼女は目を逸らして言った。

「それで・・・だ。キミの改造係数を0%に抑えたセーブモードにする事もできるんだ。そうだな・・・・さっきの要領でセーブ・・・とでも言ってみてくれ」

「セーブ・・・」

僕が首元の石を触ってそう呟くと身体からなんだか力が抜けて行った。

それになんだか目の前がぼやけて良く見えなくなったぞ・・・?

「それが0%の状態だ。姿までは以前のキミには戻らないが身体能力その他諸々は完全に以前のキミと同等・・・いや多少は頑丈になっているかもしれないな。それに髪の色も黒に近い色になるぞ。」

と佐江さんは言った

「そ・・・それじゃあ・・・・」

「ああ。もちろん視力も低下する。キミはここに運び込まれてくる時メガネをしていたな。先ほどまでの姿はメガネ無しでも人並みはずれた視力を有していたがその状態では以前のキミの視力とさして変わらない訳だ」

「そ・・・それじゃあメガネは・・・・?僕メガネが無いと全然見えなくて・・・」

「フフフ・・・キミがそう言うと思ってキミが身ぐるみを剥がされた時にこっそりくすねておいた。」

そう言うと佐江さんはぼやけて良く見えなかったが僕に何かを渡してきた。

この手触り・・・間違いない!僕のメガネだ!!

「あ・・・ありがとう佐江さん」

ああ・・・お帰り僕のメガネ・・・・

僕はメガネをかけると視界はくっきりとした。

そして僕は試しに髪をつまんでみてみるとさっきまでの紫色ではなく、紫かかった黒髪になっていた事が分かる。

「これなら・・・目立たないかな」

そんな髪を物珍しく眺めていると

「それじゃあ次の説明に入るぞ」

佐江さんは淡々と説明を続けた。

「それで、だ。セーブを使えばその状態の衣類が毎回記録される。他の姿になってもセーブと言えば今のキミの衣服が身に付いた状態でその姿に戻れる訳だ」

「結構便利だね・・・」

「それでは本題だ。もう一度85%の姿になってみてくれるか?」

「ええ!?またやるの?!」

「いいから・・・キミの声じゃないとコマンドが発動しない仕組みになってるんだ。だからさっさとしろ」

佐江さんは机をばんばんと叩き急かしてくる。

「わ・・・わかったよ・・・・変身っ!」

僕がそう言うとまた喉元の石が妖しく輝き身体に電撃が走った様な衝撃が襲う

「くぅんっ・・・・!」

僕はまた情けない声を上げてしまった。

でも初めて変身したときよりは幾分マシだ。

慣れてきたのかな・・・・?

「よし。なったな。キミはまだ自分がどんな姿になっているのか見ていなかっただろう?百聞は一見にしかずだ。見てみるといい。どっこいしょっと」

そう言うと佐江さんは鏡を取ってきて僕の前に置いた

そこにはなんだか紫を基調としたえっちぃコスチュームに身を纏った女の人が映っている。

僕・・・こんな恥ずかしい格好で戦ってたのか・・・?

それに唇には紫色の口紅が塗られていて目の上は紫色に染まっていた。

化粧なんかした事も無い僕だったけどなんだか少しケバい様な気もしてしまう。

「こ・・・これが僕・・・?」

「ああ。まぎれもなく君の真の姿であるフジュンヒルデの姿だ」

そう話す佐江さんの言葉を聞いている最中、鏡の中の僕の背中でぴょこぴょこと動くものが目に付いた。

「それになんだこれ!?羽根?しっぽ!?それにこれ・・・ツノ!?」

そう。僕には人間に生えていないはずの物が生えていたのだ。

意識してみると羽根はぱたぱたと、しっぽはゆらゆらと自分の思う通りに動いた。

これってもしかして・・・試しにしっぽを触ってみると

「うぁぅ・・・♡」

なんだかむずかゆい良いようなくすぐったい様な感触がして変な声が出てしまった。

僕こんな変な声を・・・・

まるで本当に女の子になったみたいじゃないか・・・・

「さっきの戦闘では気付かなかったのか?キミが俊敏に反応できたのも素早く移動したり飛び跳ねたりできたのもその器官のおかげなんだぞ?まあそれだけ馴染んでいたと言う事だろうが流石私と言った所だな、もちろん作り物などではなくキミの身体の一部だ。しっぽはレーダーの役割を担ってくれている。そのしっぽは20%の時にもなくならないから急に狙われても大丈夫だ。そしてその翼はキミの移動をアシストしてくれる。多少俊敏に動ける様になるだろう。そしてそのツノだ。そのツノはエネルギーを蓄積したりできる上に攻撃にも使える優れものだ。攻撃だけでなく貯めたエネルギーを全身に回すバフに似た事も可能になっている」

淡々と佐江さんは僕の新しい身体の一部についての説明をしてくれた。

なんだか本当に超能力者になったみたいだ・・・・

これなら本当にヒーローになれるかもしれない。

ビジュアルは子供には見せられないけど・・・・

「で・・・・僕は何の怪人なの?虫でも動物でもないって言ってたけど・・・」

「ああ。サキュバス・・・と言う奴だよ」

「さ・・・サキュバス?なんで!?」

ヒーローとは真逆の存在の名前が出てきてしまった。

「いやぁ・・・バッドネス㈱の社員の公募さ。女幹部のモチーフ、能力は何がいいかって言うのを首領は公募したんだがダントツでサキュバスがトップだった訳だ」

「そ・・・そんなぁ・・・・もしかして僕・・・えっちぃ事しないと死んじゃうとかそんなデメリットとかあるの!?」

「何を期待してるんだキミは・・・」

「な・・・何も期待してないよ!!」

「残念ながらそういうのはないぞ。流石にそれで最強と言うには怪しい物があったのであくまで一部意匠を組んだだけで他は基本的に伝承に置ける悪魔の様に様々な生物の能力のハイブリッドとでも言っておこうか。もちろん私は悪魔なんて存在は信じていないがね。もし仮に本当に悪魔が居るとすればそれは・・・・いいやなんでもない。まあ悪魔と言うよりは様々な動物の能力のいいとこ取り複合体だ。キメラに近いかもしれないな」

「おお!それっぽい!」

よかった・・・・これならなんとかなりそうだ・・・・

「はい説明終わり。それじゃあ戻ってくれ」

「え・・・は・・・はい・・・セーブ・・・」

僕がそう言うとまた脱力感が僕を襲い、視界が一瞬ぼやけた後、メガネのフレームが目の前に出現した。

そして鏡を見るとTシャツに半ズボン姿の眼鏡っ娘が鏡には映っている。

「本当に変身する前の状態に戻ってる・・・!すごいよ!!」

僕がそう発すると鏡の中の眼鏡っ娘は嬉しそうな顔をしていた。

これがそのセーブモードの僕なんだよね・・・・

もしかして今の僕って僕すっごく可愛い・・・・のかな?

「だろう?まあこれはあくまで私の天才の片鱗にしかすぎんがキミは現状私の最高傑作と言って良い出来だ。なにせいままでは虫やら甲殻類やら嫌いな生物の改造人間ばかり作らされていて乗り気じゃなかったからな」

やっぱりやる気を出せばそれだけ違うと言う事なのだろうか。

佐江さんは胸を張って言った。

「まあ他にも注意やらデメリットも色々あるがそれはまた追々話すとしよう・・・ふわぁあぁぁ・・・・当直の時に寝るつもりだったがキミのせいで全く眠れなかったからもうダメだ。天才には睡眠が必要なんだ。私はそろそろ寝かせてもらうよ・・・・そこに空き部屋があるから自由に使ってくれ・・・キミも寝たいなら寝るといい。」

佐江さんは奥にあった扉を指した。

「あ・・・うん・・・」

「それじゃあ私は寝る・・・あっ、そうだ。とりあえずこれだけは言っておく。私に無断で外出はするな。以上だ。ああもう無理・・・寝る・・・・」

そう言うと佐江さんはとぼとぼと歩いて指を指した方とは真逆の所にあった扉の中へ消えて行った。

「そんな・・・・外出するなって言われたって・・・・・」

外出するなと言われると逆にさっきのニュースを意識して外の様子が気になってしまう。

僕・・・死んじゃった事にされてるんだよな・・・・

父さんに母さん・・・どうしてるだろう・・・?

僕は両親の事を思い出すと家がさらに恋しくなってしまった。

「佐江さんごめんっ・・・・!」

僕は居ても立ってもられなくなりそう言い残して階段を駆け上がり、

その先の汚い部屋に運良くに落ちていたトイレ用のスリッパを履いてボロアパートから飛び出した。



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序章.3

 アパートから出た僕を朝日が照らした。

昨日起こった事が噓の様にいつもと変わらない朝が来たんだ。

それよりここはどこなんだろう?車に乗っているときもしがみついているのでやっとだったし車から降りた時も辺りは真っ暗で何も見えなかったし・・・

しかし歩く度胸にシャツが擦れて気持ち悪い。

そう言えば僕、今ノーブラノーパンなんだよな・・・

別にブラジャーなんか付ける気はないけどこれだけ擦れてくるなら少し位は必要だと思わない事も無い。

いや!今はこの場所の確認が先決だ。

それに今戻ったら逆に佐江さんを起こしてしまうかもしれないしこれくらい我慢だ。

ここがどこなのか分からないと真星町には帰れない。

僕は辺りを見回すと廃工場が目に留まった。

ここは真星町の外れの寂れた工業団地じゃないか。

となると僕の家の近所まで歩いて40分位の所か・・・

よしせっかくだし・・・・!

「変身ッ!」

僕は石に触れてそう叫ぶと僕の身体が変貌していく。

僕は試しに頭に手を触れるとツノが生えていた。

「はぁ・・・はぁ・・・・よし・・・!この姿なら!」

そう。この・・・その・・・えーっと・・・自分で名前言うのも恥ずかしいんだけどフジュンヒルデの姿ならきっとすぐに真星町まで行く事が出来るだろう。

試しにひょいっと軽くジャンプをしてみると自分でも驚く程に僕の身体はふわりと宙に浮いた。

すごい・・・すごいぞ・・・!

それにジャンプした場所から見える風景から視力が強化されているからかすぐに自分の家のある方向を捕らえる事が出来た。

「よし!あっちだな!!」

僕は心を躍らせて羽根に意識を集中してみると飛ぶとまでは行かなかったが少し滑空をする事が出来た。

僕はそのままジャンプを繰り返して建物の屋根なんかを何度も足場にして忍者の様に駆け抜け真星町へと向かった。

朝のまだ一通りもまばらな時間帯の町の景色を足下に眺めながら、僕は今までに感じた事が無い様な高揚感を覚えていた。

そして真星商店街に差し掛かったので、流石にこんな姿で人目に出る訳にも行かないし僕は人通りの無い路地裏の物陰に着地し、

「セーブ」

と呟く。

すると一瞬の脱力感の後、僕の顔にメガネがかかりさっきまでの状態に戻った事を確認する。

「はぁ・・・・気持ちよかった・・・・」

あんな風になったような感覚を味わえるんだからこの身体もそこまで悪い物じゃないかもしれない。

僕は帰りもああやって帰ろうと決めて、ひとまず僕はテレビに映っていた事故現場を見に行く事にした。

そこには生々しく車が建物に激突した様な痕が残されていて、花や缶ジュースなんかが幾つか手向けられていた。

「これ・・・全部僕に向けてのお供えなんだよな・・・・」

そんな供え物を見ていると少し複雑な気分になってしまう。

すると向こうの方から真星高校の制服を着た少女が小さな花束を持ってこちらに向けて歩いてきた。

あれは平井さんじゃないか!

どどどどうしよう・・・・逃げなきゃ!

僕は今の自分の変わり果てた姿を見られたくない一心でその場を離れようとしたが足が絡まってすっ転んでしまった

「わぶっ!」

最悪だ・・・

平井さんに変わり果てた僕の姿を見せてしまっただけじゃなく昨日に続いてこんなかっこ悪い所も見せちゃうなんて・・・

やっぱりトイレのスリッパで外に出るのは間違いだったかな

僕が地面に突っ伏して後悔していると

「大丈夫ですか?」

平井さんの声が頭上からするので僕は身体をゆっくりと起こした。

「だ・・・大丈夫・・・です・・・」

僕は平井さんに心配をかけまいと気丈に振る舞う。

「そうですか。それなら良かったです・・・ここで立っているって事はあなたも天村くんのお知り合いですか・・・?」

平井さんは僕にそう尋ねてきた。

僕が天村だよ!と言いたかったがそんな事を言っても信じてくれる訳が無いだろう。

「え!?ああ・・はい・・・・中学の頃の知り合いで・・・」

僕はそんな事を適当に言って誤摩化した

「そうなんですか・・・・天村くん・・・こんなに美人のお知り合いが居たんですね・・・・それじゃあ私なんか・・・」

平井さんはそう言ってため息を付いた。

美人なんてそんな・・・平井さんの方がよっぽど綺麗だよ・・・!

そうだ。折角だし平井さんに僕の事どう思ってるのか聞いてみよう。

「あの・・・すこしいいですか?」

最大限までよそ行きの能登●美子みたいな声で僕は平井さんに話しかけた。

「え・・・はい!なんですか?」

「高校の頃の天村くんってどんな子でしたか?私は中学を卒業したっきり会ってなくて・・・それからあの子どうしてたのかなーって・・・・」

よし!完璧だ・・・!折角こんな身体になったんだから有効に活用しなきゃ!

そうでもしてないとやってらんないよ

「天村くんは・・・その・・・・鈍臭くて頼り無さそうでかっこ悪いんですけど・・・・」

うわぁボロクソ!!辛い・・・死んだ事にされた上に片思いしてる相手にボロクソに言われるなんて・・・

はあ・・・ついてない・・・

しかし彼女は更に続ける

「それでも・・・優しくて、なんだか一緒に居ると楽しい人でした・・・もっとお話ししたかったなぁ・・・」

平井さんは目に涙を浮かべていた。

あ・・・ありがとう平井さん!!少し生きる希望が湧いてきたよ!!

それに泣かないで平井さん!僕は今平井さんの隣に居るから!!

僕はすぐにでもそう言ってあげたかったが勇気がなくて結局言う事が出来なかった。

これもヒーローの悲しい性と諦めるしかないのか・・・

「そ・・・そうなんですか・・・・きっと天村くんもそれを聞いたら喜んでくれますよ!ごめんなさい変な事聞いてしまって・・・」

ひとまず僕は遠回しに自分が喜んでいる事を伝える。

「いえ・・・天村くん・・・中学生の頃のクラスメイトさんも献花にこられるなんて中学生の天村くんもきっと良い人だったんですね・・・」

平井さんはそう言って花を供えて手を合わせた。

はあ・・・僕は目の前に居るのに花を手向けられた上に手まで合わせられるとか・・・

でも平井さんに褒めてもらえたしそれだけで帳消しに出来るぞ!

なんとしてでも元の身体に戻らないと・・・・!

それに平井さんをバッドネス㈱の魔の手から守らなきゃと僕は決意した。

そして平井さんは黙祷をし終えると

「それでは私はこれから学校なので・・・」

「あっ・・・はい。呼び止めてごめんなさい」

平井さんは僕に軽く会釈をすると真星高校の方へ歩いていった。

僕本当に死んだ事になってるんだな・・・

高校か・・・どうしよう・・・?

いつもなら僕も登校している時間帯だ。

流石にこんな格好で学校に行く訳にも行かないしな・・・

しかし元に戻れても復学できるんだろうか?

それに復学できたとしても平井さんと同じクラスに戻れるかどうかも分からないし先が思いやられるよ・・・・

でも落ち込んでる訳にはいかない!

僕がバッドネス㈱の魔の手からこの町を・・・この世界を守らなきゃいけないんだから!!

気を取り直して家の様子を見たら帰ろう。

佐江さんが起きる前に帰らないと何をされるか分かったもんじゃないし・・・

僕は家の方へ向かった。

 

そして僕は慣れた足取りで家の前に辿りついた。

いつもならそのまま鍵を開けて家に入る所なんだけど鍵も無いし今の僕が家に入ればほぼ不法侵入に等しい。

なんたって今の僕を天村有希だと証明する物なんて何もない訳で・・・

そういえば鍵とか鞄に入れたままじゃん・・・僕の鞄どうなったんだろ・・・?

はぁ・・・折角帰ってきたのにどっちみち鍵は持ってないし・・・

それに一晩帰ってこなかっただけなのにもう何年も家に帰っていない様な・・・なんだか自分の家じゃない様な気分になる。

「はぁ・・・・」

僕は大きなため息をついた。

これ以上ここに居ても何もないだろうし・・・何より僕自信が辛いだけだったし早く帰ろう。

平井さんに一緒に居て楽しい人だったって言われただけでも十分に帰ってきた価値はあったと思うしか無いか・・・

それに佐江さんが起きて僕が出て行った事がバレたら何をされるか分かったもんじゃない

確かに佐江さんはバッドネス㈱の科学者だけど今は頼れるのは佐江さんだけだと言う事も事実だ。

ここで敵に回す訳にも行かないし・・・

僕はまた手頃な物陰を探してフジュンヒルデに変身する事にした。

でももう人通りも増えてきてるし・・・流石にあんな格好でまた建物の間を飛び跳ねて帰っている最中に誰かに見られたら大変だし・・・

それに変身している所を見られたらどうしようという不安感のせいで一目が気になって変身する為の手頃な物陰を探すのに手間取ってしまう。

そんな事をしているうちに結局僕は結局商店街の方まで戻ってきてしまった。

「うう・・・逆に人通りが多い所まで来ちゃったよ・・・」

僕はそんなときふと商店街の裏手にあった雑居ビルと雑居ビルの間に手頃な物陰を見つけた。

「あそこなら人目に付かなさそうだ!」

僕は急いでその物陰に向かって走る。

良かった。

向こう側は塀になっていて誰も居ないし・・・

それにゴミ箱とかが積んであるしあの影に隠れれば人目に付かずに変身できるはず・・・・!

そして辺を見回して人が居ない事を確認して僕は喉元の石に手を当て

「変s・・・・」

と言おうとしたその時

「ギャリギャリギャリ・・・!お嬢さん・・・そんな格好でこんな物陰に入ってくるなんて俺様を誘っているのかい?」

不気味な笑い声が僕の背後から聞こえた。

おかしいそっちは行き止まりのはずだしそれにさっき確認した時に人影なんかなかったのに一体どこから!?

「だ・・・・誰だ!?」

僕はまた辺りを見回すがやはり誰も居ない。

「ギャリギャリギャリギャリ・・・!一般人に俺様の姿を捉える事等不可能だ!ギャリィ!!!」

謎の声がそう叫び声を上げると僕は見えない何か生暖かくて湿った物に縛り上げられてしまう

「うぁっ・・・!なんだ!?動けな・・・・い」

「ギャリギャリギャリ!どうだい俺様の舌に縛られた心地は・・・?」

「し・・・舌!?」

しかし僕の目にはただただ何かに縛り上げられてギチギチと締め付けられる胸くらいしか映らない

「ギャリギャリ・・・!良い舌触りだぜぇ・・・それにお嬢さんノーブラなのかよぉ!?ギャリギャリ・・・こりゃ大当たりだぜぇ・・・もうお嬢さんは俺様の餌食だ!見るが良い!これが俺様の姿だ・・・!」

するとさっきまで誰も居なかったはずの塀の前に緑色で目が飛び出してイボイボの肌のバケモノが姿を現す。

そのバケモノの口からはピンク色の何かが伸びていて僕の身体に巻き付いていた。

僕が今縛られているのはそのバケモノの舌だと言う事を理解する。

「ひっ・・・!」

目の前に現れた異形に僕は恐怖で顔を歪めてしまう。

「良いぞ・・・!恐怖に歪む美少女の顔を拝めるなんて・・・やはりこの身体は最高だぁ!」

僕の知りうる限りこんな芸当が出来るのはバッドネス㈱しかいない。

と言う事はまさか・・・これが・・・・!

「お・・・お前は・・・もしかしてバッドネス㈱の怪人・・・!?」

「ああ?知ってくれてるとは嬉しいなぁ。俺様はバッドネス㈱の最強怪人××(チョメ)レオン様だ!ギャァリギャリギャリギャリ!!!」

「最強怪人・・・・?」

自分でそう言う怪人に限ってそうでもない奴ばっかりなんだよなぁ

そんな事を思ったが現に僕は大ピンチだ。

くそっ・・・全く気付かなかったし縛り付けられていて手の自由が利かない・・・!

これじゃあ変身することも出来ないじゃないか・・・

なんで最強の女幹部だってあんなに自慢げに言ってたのに手が動かせないだけで変身できないんだよ

僕は佐江さんに文句を垂れた。

「くっ・・・・離・・・・せ・・・ぐぁぁぁっ・・・ぐ・・・苦し・・・」

僕は怪人を睨みつけると更に舌は僕の身体を締め付けてきた。

「フフフ・・・・強気なお嬢さんだ・・・!その表情が苦悶で歪む様をこれから見られるなんてそれだけで興奮しちまうぜ・・・!ギャァリギャリギャリギャリ!!その強気がいつまで持つかなぁ!?それにお嬢さんの舌触り・・・柔らかくて最高だぜ・・・これからどうやって味わってやろうかなぁ・・・・このまま更に縛り上げて悲鳴を聞くも良し、このまま丸呑みにしてやるも良し・・・どう遊んでも遊び甲斐がありそうだぜぇ!ギャリギャリギャリ・・・!!」

怪人の目がぎょろりと僕を見つめてくる。

ダメだ・・・僕このままじゃ・・・・

「ギャリギャリ・・・良いぞ・・・もっと俺様を興奮させてくれ!そうだなぁ・・・こんな所じゃ俺様も気分が乗らない。場所を変えるぜぇ」

怪人はそう言うと舌を縮めて僕を引き寄せ抱きかかえた。

「うわぁっ!!やめろ・・・・!!離せっ・・・!」

僕は舌を振りほどこうと暴れるも舌はびくとも動かない。

やっぱりこの姿じゃ怪人に太刀打ちする事なんてできないのか・・・・

僕は無力感から下唇を噛んだ

「ふん!強情なお嬢さんだ。でも残念ながらもうお嬢さんは俺のモンなんだよ諦めなぁ!それに近くで見たらすっげぇ可愛いじゃねぇか・・・」

怪人はそう言うと僕を縛り上げている舌の先端で僕の頬をなめた。

「うぁっ・・・・!」

僕の背筋に悪寒が走る。

嫌だ・・・・早速こんな怪人に手も足もでないままやられるなんて・・・

「それじゃあお嬢さん・・・向こうで俺と楽しい事しようぜぇ・・・ギャァリギャリギャリギャリ!!ギャリィ!!」

怪人はそう言うと思いっきり飛び上がった。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

僕も一緒に宙へ浮く

そのまま怪人はビルとビル、屋根と屋根の間を飛び移り近所の河川敷の誰も居ない橋の下にたどり着いた。

「ギャリギャリギャリ・・・・!ここなら誰も邪魔せずにお嬢さんで遊べるぜ・・・」

そう言うと怪人はまた僕の頬をべろりと舐める。

「や・・・・やめ・・・」

僕はただただ恐怖で震えることしか出来なかった。

このままじゃ本当に僕この怪人に・・・・

「お?震えてんのかいお嬢さん?俺様の舌を通してあんたの震えや心臓の鼓動、それに唾を飲み込む感覚まで全て伝わってくるぜぇ?試しに壊れない程度まで締め上げてやろうかぁ?ギャリギャリギャリ!!!」

怪人は高笑いを浮かべて更にきりきりと僕の事を締め付けてきた

「ぐっ・・・・あぁぁぁぁぁぁ!!!」

「良い声で泣くじゃねぇか・・・それじゃあこのまま俺様の口の中で十分に味わってから犯してやろう・・・ギャァリギャリギャリギャリ」

そう言うと怪人は舌で僕を持ち上げ僕の真下では怪人が口を大きく開いている

「い・・・・いや・・・だ・・・・」

「ギャリィ!もっと・・・もっとだ・・・強気なオンナを恐怖で屈服させてから犯すのはたまらねぇぜ!ギャァリギャリギャリギャリ!!!!お嬢さんの物語にR-18タグを付けさせてやるぜギャリリリリリィ!!!!」

怪人は今までで一番の高笑いを浮かべる

本当に僕・・・このままじゃ怪人に犯されちゃう・・・

せめて・・・せめて変身さえできれば・・・・!

もうだめだ・・・僕・・・結局何も出来なかった・・・

それにあの町にこんなバケモノが居たなんて・・・もしかしたら僕の次に平井さんが狙われるかもしれない

ごめん・・・平井さん・・・君の事、守って上げられそうにないや・・・・

僕の目からは涙がこぼれ落ちた。

 

僕が諦めかけたその時

 

「だから勝手に出歩くなと言ったんだバカが・・・まあいい。おかげで早速怪人を一匹潰せる訳だ。正に鴨がネギを背負って現れたと言う奴だな」

 

そんな声がどこからか聞こえた。

 

「ギャリィ?誰だぁ?これからお楽しみって時に俺様の邪魔をしようって奴は」

怪人は飛び出した目玉をぎょろぎょろとさせて辺りを見回している。

そんな時、僕の方に向かって何かが凄まじい勢いで回転して飛んできて、それは怪人の舌に命中していとも簡単に舌を切断した。

「ギャ・・・ギャリィ・・・!!俺様の舌が・・・舌がぁ!!!!」

舌が切断されたおかげで舌の締め付けは緩み僕はそのまま地面に落下して舌から解放された。

目の前では切断された舌の根元を抑えて怪人は地面に倒れ込んでじたばたといたそうな声を上げながらもがいている。

そして回転して飛んできた物体は少し離れた先の地面にざくりと突き刺さった。

なんだあれ・・・?ピンク色のバール・・・の様な物・・・?

僕が地面に突き刺さったバールの様な物を眺めていると

「大袈裟だなキミは・・・」

そんな声がした。僕の背の方からした。

この声・・・もしかして・・・!

「ギャリィ!誰だ!!くっそぉ・・・よくも俺様の舌をぉ!!」

怪人は苦しそうに声を上げもがいている。

そして声のした方を眺めると

に白衣を着た瓶底メガネの少女がこちらに向かって歩いてきていた。

「そんなに痛がる事も無いだろう?私が本来のカメレオンの何倍も器用な舌にしてやった上に再生能力もオマケで付けてやったんだからな。あっ、器用な舌にしてしまったせいで痛覚まで過敏になってしまったかな?流石私だ」

彼女はにやりと笑みを浮かべる。

「さ・・・・佐江さん・・・・!」

僕は佐江さんの方へ駆け寄った。

「はぁ・・・こんな事もあろうかとキミのTシャツに発信器を付けていて正解だったよ。それにしても私の天才的投擲センスにコントロールは最高だろ・・・?我ながら惚れ惚れする投擲だった」

佐江さんは胸を張る。

そんな彼女に僕は凄く安心感を覚えた。

「佐江さん・・・勝手に出て行ってごめんなさい!それに・・・助けてくれてありがとう・・・うわぁぁぁぁん怖かったよぉぉぉおぉぉ」

僕は思わず佐江さんに抱きついた。

「ああもう離せっ!その脂肪のかたまりを私になすり付けるんじゃない!それにヤツの唾液で湿っててマジで気持ち悪いから離せ!!まずはあの気色悪いのを倒すのが先だろうが」

そうだった・・・

もう身体の自由は利く!あの姿になればあんな怪人なんて敵じゃないはずだ!

そう思ったその時

「ギャリィ・・・急に出てきて俺の女といちゃいちゃしやがって・・・・」

怪人がよろよろと立ち上がった。

誰もお前みたいな奴の女になった気はない!それに僕は男だ!

「貴様・・・どこかで見覚えがあると思ったらバッドネス㈱の尼尽博士じゃねぇか・・・」

怪人はぎょろりとした目で佐江さんを見つめた。

「ほう・・・私の事を覚えていてくれるとは光栄だな。私は貴様の様な気色の悪い怪人の事等すぐにでも忘れてしまいたいんだがね」

「ギャリィ・・・・貴様が俺様を改造してくれたおかげで・・・・改造してくれたおかげでぇ・・・!!」

あの怪人も佐江さんに改造されたのか?それにあの言い方・・・改造された事を恨んでるのかな・・・・

しかし次の瞬間怪人は全く予想外の事を言い始める。

「えっちな事し放題じゃねぇか!!!」

は?

「ふん・・・下劣な・・・」

「この能力のおかげで金を盗もうが女風呂を覗こうが誰も俺様に気付きもしねぇ!あんたにはこの身体にしてくれた事感謝してるぜ博士よぉ!ギャリギャリギャリギャリ!!」

最低だ・・・!

今すぐにでもぶっ倒してやらなきゃいけない!

僕は怪人を睨みつけた。

「フン・・・だから爬虫類は嫌いなんだ。無駄に能力があるからどうしても怪人が付け上がる・・・」

「ギャリィ!なんとでも言え!こんな身体になった上正社員として雇用までしてもらえるバッドネス㈱に忠誠を誓った甲斐があったぜぇ!博士!貴様には恨みは無い!しかし貴様はドン・ザイーグ様から脱走したと聞いている。殺さずに連れて帰ってこいとのご命令だ!ついてるぜ俺様・・・!こんな可愛らしいお嬢さんまで捕まえられた上に手柄まで上げられるなんてよぉ・・・!」

怪人は不気味な笑みを浮かべた。

「佐江さん下がってて!」

僕は佐江さんの前に立つ

せめて今は佐江さんだけも守らなきゃ・・・!

「ギャリィ!博士は後だ!別にそんな幼児体型の女に興味は無いからなぁ!ギャァリギャリギャリギャリ!!」

「おいお前・・・今言ってはならん事を言ったな・・・?」

折角僕が佐江さんの前に立ちふさがったのに佐江さんはそんな僕を払いのけて怪人に単価を切った。

「お・・・?どうした博士さんよぉ?博士と言っても所詮はただの人間!そんな貴様がこの俺様に勝てるとでも?」

「ああ。勝てるさ。改造係数45%の雑魚が・・・貴様等所詮私が嫌々作った凡作の一つでしかない。完膚なきまでに叩き潰して地べたに這いつくばらせて生きている事を後悔させてやろう」

こ・・・怖いよ佐江さん・・・

「こいつがな」

そう言うと佐江さんは素早く僕の後ろに隠れて僕のお尻を蹴った

「うわぁっ!」

急に蹴られたので僕はそのまま転んでしまう。

「ほら・・・さっさといけ君の記念すべき初めての敵怪人だぞ」

「いててててて・・・そ・・・そんなぁ・・・」

僕はすかさず立ち上がる。

「ギャリリィ・・・!結局はそのお嬢さんを盾にして逃げようってか・・・それならお言葉に甘えてそのお嬢さんから美味しく頂いてやるぜぇ!ギャリリリリリリリリリィ!」

怪人は奇声を上げて僕目がけて突進してきた。

そっちがその気なら・・・こっちだって!

あの格好で戦うのは恥ずかしいけどあの姿でならこんなヤツ一捻りだ!

僕はチョーカーに手を当てて

「変s・・・・」

と言おうとするが

「待て!」

佐江さんは僕を制止する

「こんな時なんですか!?もう敵は目前まで迫ってきてるんですよ!?」

「キミが発する音声コードは変身じゃない・・・魔ジカライズと叫ぶんだ!」

魔ジカライズ・・・?

なんだそれ・・・・

いや考えてる暇は無い!

僕は深く息を吸い、石に手を当てて

「魔ジカライズ!!!」

と叫んだ

すると石があたたかな光りを放ち僕をつつんだ。

なんだろう・・・これ・・・フジュンヒルデに変身した時みたいにちくちくしたり苦しかったりしない・・・

逆に凄く温かくて気持ちいい・・・・

「ギャリっ!?なんだ!?」

怪人は石から放たれたまばゆい光に目を塞いだ。

そして光がどんどんと薄れて行き、僕の服装が変わっている事に気付いた。

フジュンヒルデの服装ではなくなんだかもっとファンシーで可愛らしい服装だ。

な・・・・なんだこれ・・・・僕・・・一体今どんな格好をしているんだ!?

僕は自分の手や胸元、それにさっきまで履いていたズボンがスカートになっている事を確認する。

「ギャリィ・・・・!この感じ・・・・お嬢さん・・・あんたも俺様と同じバッドネスの改造人間だったのか・・・いいや・・その姿は改造人間と言うより・・・魔法少女!」

「なっ・・・・!」

言われてみればなんだか胸にハートの飾りが付いていたりしているしつまりそういう・・・・

フジュンヒルデとはまた別ベクトルで恥ずかしい格好な気もするけど今はそんな事気にしている場合じゃない!

「ああ。驚いたか?これがキミの改造係数55%の姿だ!」

佐江さんは得意気に言った

「えっ・・・!?それってあの姿よりも弱いって事じゃ・・・」

「当たり前だ。あんな強過ぎる状態では最悪相手を殺しかねないからな・・・それにあの姿は怪人と戦闘する事を念頭に置いていない。その姿は対怪人戦用に私が今さっきまで片手間で作った新しいフォームだ!さあ!早く石に触って魔じかる☆すまっしゃーと言え!それが今のキミの低い改造係数を十二分にカバーしてくれるはずだ」

「え・・・はい・・!魔じかる☆すまっしゃー!!」

僕はまた石に手を触れてそう叫ぶとさっき怪人の舌を切断して地面に刺さっていたバールがこちらに向かって飛んできた。

「うわぁぁぁ!!」

ヤバい・・・このままいけば顔面直撃コースだ。

しかし僕の動体視力はしっかりと飛んでくるバールを捕らえ、いとも簡単にキャッチする事が出来た。

「それがキミの武器、魔じかる☆すまっしゃーだ!」

え・・・・そんなファンシーな名前なのにこんな物騒なの・・・

それにバールのようなものがメインウェポンな魔法少女ってどうなんだろう・・・?

「大丈夫だ安心しろ。その姿ならどれだけ魔じかる☆スマッシャーで殴りつけようが相手は死ぬ事は無い!キミに人殺しをさせる訳にはいかんからな・・・!」

「さ・・・佐江さん・・・・」

そんなに僕の事を考えて・・・・

よし!それなら心置きなく相手をやっつけられる。

「何俺様を置いてぺちゃくちゃ喋ってんだ!しょせんは魔法少女!舌も回復した俺様には勝てん!!お嬢さんの作品にR-18タグと陵辱タグを俺様が付けてやろう!!!ギャリリィ!!!!!」

勇ましく怪人がまたこちらに向かって突進してくる

タグってなんだよ!!

いやそれより攻撃しなきゃ・・・!

僕は突進してきた怪人を綺麗に回避し軽く回し蹴りをくらわせた。

「ギャリィ!?」

怪人はそんな声を上げて吹き飛びうつぶせで倒れる。

うん・・・フジュンヒルデの時ほどのパワーはないけど十分いける!

「ギャリィ・・・!お前ぇ・・・・俺様をコケにしやがって!もう一度縛り上げていい声で鳴かせてやるぅ!!」

そう言うと怪人は吹き飛んだ先から舌を僕に向けて伸ばしてきた。

「バカが・・・攻撃する前から手の打を晒すヤツがあるか」

そう呟く佐江さんの声が聞こえた。

全くその通りだ。

僕はその舌の軌道を完全に見切っていた。

動体視力はあの時と大差無い!

「ちょっと気持ち悪いけど・・・っ!」

僕は飛んでくる舌を手で掴んだ

「ギャ・・・ギャリっ・・・・!?俺の攻撃が見切られただと!?」

「よし!次はこっちの番だ!」

僕は掴んだ舌を思いっきりぐるぐると振り回した

「ギャリィィィィィィィィ!!!」

怪人は情けない声を出しながら僕の周りをぐるぐると回っている

「そりゃぁ!」

僕はそのまま怪人を地面に叩き付けた

「ギャリっ・・・!少しなめてかかりすぎたか・・・しかしこの攻撃は見切れるかな・・・?」

怪人は立ち上がると姿を消した。

「また透明化した!?ど・・・どこだ・・・!!」

僕は当たりを見回すが怪人の姿は無い。

怪人はきっとどこかで次の攻撃のチャンスを伺っているはずだ・・・

でもアテもなく不用意に攻撃すれば隙を与えてしまう事になる。

一体どうすれば・・・・

僕が考えていると

「今のキミの感覚ならそんな保護色に毛が生えた程度の透明化など見破れるはずだ!しっぽに意識を集中しろ」

いつの間にか遠巻きに避難していた佐江さんがそう呼びかけてきた。

「は・・・はいっ!」

僕は佐江さんに言われた通りしっぽに意識を集中すると急に尾てい骨に電気が走った様な感覚が襲ってきた。

「んっ・・・・うぁっ・・・♡」

なんだかしっぽに当る風の感触やそれに橋を渡る車の音なんかがしっぽにぴりぴりと刺激を与え、僕は変な声を漏らしてしまう。

なんだ・・・これ・・・しっぽが敏感になってる?!

しかしその中でなにかざくざくという音がしっぽにちくちくと響いてきた。

何だこの音・・・?

そのざくざくという小さな音はどんどん位置を変えて行く。

そして佐江さん後ろでその音は止まった。

この音・・・もしかして・・・!

僕は咄嗟に持っていたバール・・・じゃなかった魔じかる☆すまっしゃーを佐江さんの方に投げつけた。

僕の手から離れた魔じかる☆スマッシャーは佐江さんの頭上を霞めるとゴンという何かにぶつかった様な鈍い音がして地面に落ちた。

そしてその近くに頭を抑えた怪人が姿を現す。

やっぱり!さっきのしっぽで感じたざくざくって音は怪人の足音だったんだ!

「ギャリィ!!!何故だ・・・何故俺がコイツを人質にしようとした事が分かったんだ!?」

「いくら姿を消せたって足音は消せなかったみたいだね!」

「ギャリッ・・!?お前・・・俺様の足音で場所を割り出したってのか!?」

「ほう・・・なかなかやるじゃないか」

佐江さんはそう言って怪人から走って離れ僕の方に駆け寄ってきた。

「ギャリィ・・・・こしゃくなぁ・・・・」

怪人はふらふらと立ち上がったが最早満身創痍と言った感じだ。

「よし!今ならやれる・・・!必殺技だ!」

「ひ・・・必殺技!?」

この三文字熟語にときめかない男なんて居ない

「まずは魔じかる☆すまっしゃーを呼び戻せ!」

「は・・・はい!魔じかる☆すまっしゃー!!」

僕はさっきの手順でそう呼ぶと怪人の近くに落ちていたそれが僕の方へ飛んでくるのでさっきの要領で華麗にキャッチをしてみせた。

「よし。次だ!それを思いっきりヤツの頭に叩き込め!」

「え・・・ええ・・・・!?」

魔法少女の必殺技ってビームが出るとかそう言うのじゃないの・・・?

それにそんな事して本当に大丈夫なんだろうか?

死なないとは言っていたけどこんなのを頭にフルスイングしたら流石に怪人でも死んじゃうんじゃ・・・・

「良いから早くやれ!勝手な事ばかり言ってすまないが私を信じろ!」

佐江さんはそう言うとずっとかけていた瓶底メガネを外して僕を見つめてきた。

その瞳はとても綺麗だった。

僕はその瞳を信じることにした。

「う・・・うん!わかったよ佐江さん!その必殺技の名前は?」

「そこはなんでも良い!とりあえず魔じかる☆すまっしゃーをヤツの頭部に振り下ろせ!」

「わ・・・わかった!」

僕はまじかる☆すまっしゃーを振り上げて怪人の方へ向かって行く

「ギャ・・・ギャリっ・・・や・・・やめろ・・・・」

「いくぞ!魔じかる☆だいなみっく!!!!」

僕はそう叫んで怪人に飛びかかり魔じかる☆スマッシャーを思いっきり振り下ろした。

すると

ぐちゃ・・・と聞こえては行けない様な鈍い音と頭部にヒットした手応えを感じる。

「ギャ・・・ギャリィ・・・見えた・・・・見えたぞ・・・・お嬢さんの・・・リアル魔法少女パン・・・チラ・・・・魔法少女のパンチラ・・・・ばんざーい!!!!!!!」

怪人はそう言って後ろに倒れ込んだ。

「はあ・・・・はあ・・・・倒した・・・?」

それを見た佐江さんがこちらに駆け寄ってくる。

「ふう・・・終わったか。最初から最後まで気色の悪いヤツだったな・・・」

「う・・・うん・・・」

僕は目の前で伸びている怪人を見つめた。

「キミ・・・初めての戦いにしてはなかなか筋が良いじゃないか。これからもこの調子で私に協力してくれよ?」

佐江さんはにっこりと笑う。

今までは瓶底メガネをかけていてよくわからなかったがこんなに可愛く笑える人だったんだ・・・

「は・・・はいっ・・・!」

僕はひとまずは彼女を信じて協力する事を心に決めた。

しかし目の前に倒れている怪人はびくともしない。

佐江さんはしな無いって言ってたけどマジで殺しちゃったんじゃ・・・

「あ・・あの・・・本当に怪人は大丈夫なの?」

「ああ。ほら見てみろ。そろそろ変化が起こる頃だ」

佐江さんは怪人を指差すと怪人の身体が見る見るうちに変わっていき、冴えない中年男性へと姿を変えた。

「これが改造前の彼、江口精三(えぐちせいぞう)だ。たしか只のサラリーマンだったはずだが・・・相変わらず幸の薄そうな男だ。コイツはじきに目を覚ますだろう。それから後の事は知らん。さっさと帰るぞ」

佐江さんはそう言って僕のスカートを引っ張ってくる

「え・・・わっ・・ちょっと・・・!引っ張らないで!見えちゃうから!!僕・・・スカートの中は男のままだから!!それにこんな格好で歩いて帰るのは嫌だ!!」

「バカかキミは解除と言えば良いだろうが・・・それに私はここまで車で来ているからそう取り乱すな」

「あっ・・・そうだった・・・解除・・・・」

僕が喉元の石に触りそう言うと軽い虚脱感を覚えた後、さっきまで着ていたTシャツに半ズボンを履いていて、メガネの感触はなかったので改造された時の姿に戻った事が分かった。

 

そして彼女に手を引かれ、彼女が河川敷に停めていた車に僕は乗り込むと佐江さんは昨日の様な乱暴な運転をせずに車は緩やかに動き出した。

それからしばらくお互いに黙りこくっていたが

「・・・それで・・・・帰ってみてどうだったんだ・・・?」

遠慮がちに佐江さんが尋ねてきた

「あ・・・えーっと・・・本当に死んだ事にされてたんだって実感したよ・・・でもあんな怪人が居る事も分かったし僕はあの町の人を守りたい」

「そうか・・・しかし自惚れるなよ?行き過ぎた自己犠牲の先に待つのは破滅だけだ。キミはただ元に戻る事だけ考えていれば良い」

佐江さんはそう言った。

なんだかんだ言って僕の事心配してくれてるんだな・・・

「ありがとう・・・佐江さん」

「な・・・急に何言い出すんだ気持ち悪い!!」

「いや・・・佐江さんってもっとマッドサイエンティストみたいな人かと思ってたんだけど結構優しい人なんだなって・・・」

「よ・・・よせよ・・・私は優しくなんか無い・・・勘違いしないでくれ」

「えっ・・・でもなんだかんだで僕の事気にかけてくれて・・・それに怪人だって殺さなかったし・・・」

「勘違いするな。あいつが変死体で発見されて事がおおっぴらになるのを避けたかっただけだ。それにキミだって自称魔法少女の男性、殺人の疑いで逮捕なんて見出しで新聞記事に載りたくはないだろう?」

「う・・うん・・・・それはもちろん・・・でも佐江さんはそうやって僕の事を心配してくれてるんでしょ?」

「自惚れるなと言っただろバカ。私がキミを気にかけるのはあくまで私の計画の貴重なただ一つの手駒だからに過ぎないからだ。それに怪人を倒さなかった理由はもう一つある」

「もう一つって?」

「ああ。キミのセーブモードがあるだろう?改造係数が0%になるあの姿・・・キミもあの姿で出歩いてみて分かったと思うがあの状態だとほぼ何の変哲も無い人間と変わらない」

「う・・うん・・・凄く痛感したよ・・・でもそれと何の関係が?」

「あの魔じかる☆スマッシャーは相手の改造係数に直接ダメージを与えられる武器なんだ。そして最後にはそれを完全に破壊する。つまり相手を強制的にキミのセーブモードと同じ状態にして・・・そのままその状態で永遠に固定するんだ」

「それってつまり元の人間に戻るって事?」

「いいや・・・ただ能力が使えない改造人間になるだけで元の人間には戻らない。ヤツは人間でも怪人でも無くなった状態で死ぬまで生きていく事になるのさ」

「で・・・でもそれって人間として生活できるって事なんじゃ・・・」

「ああ。しかしそれは改造人間にとっては苦痛だろうな。ヒトは一度チカラを手に入れててしまえばそれに依存する。改造人間は皆特殊な能力を持っているしヤツはその能力を最大限に活用して不埒な事を平然と行っていた。つまりそれが急にできなくなると言う事は手足をもがれた状態で生きて行く事となんら変わりのないことなんだよ。私は興味本位でそうやって苦しむ改造人間の姿が見たくなっただけのマッドサイエンティストさ」

そう言った佐江さんの横顔はどこか悲しそうだった。

でも僕はそうは思わない。

佐江さんは何かを隠しているような気がした

今の僕にそれを尋ねる勇気はなかったのでただそんな佐江さんの悲しそうな横顔を見つめている事しか出来なかった。

 

でも僕の戦いはまだ始まったばかりだ!

頑張れ僕・・・負けるな僕!

僕の元の身体と町の平和を取り戻すまで

僕は自分自身にそう言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

有希が怪人を倒してから数時間後・・・

とある誰も居ない部屋に大慌てで黒ずくめの男が入ってくる

「キョー!首領!報告します!××レオンが倒されました」

そんな男の声に反応したのかその部屋に飾られていたレリーフの中心に埋め込まれた石が光り出し

「な・・・なんだって!?」

レリーフから声がした。

「キョー!今朝河川敷で倒れている所を発見しました」

「そ・・・それで・・・ヤツはどうなったんだ・・・!?」

「命に別状はありませんが・・・・変身能力を完全に破壊されていました。もうヤツは××レオンですらありません。それに何があったか尋ねても覚えていないの一点張りで・・・変身能力を失った事に相当ショックを受けています」

「そう・・・か・・・とにかく無事で何よりだ・・・良かった・・・しかしもう彼は怪人にはなれないと言う事なんだな・・・」

「はい・・・残念ですが・・・・」

「そう・・・かそんなヤツはクビだ・・・・しかししっかりと失業保険と同じ位の金を出してやる様に経理担当に伝えろ。そしてアフターケアも怠るなよ」

「キョー!かしこまりました首領!」

黒尽くめの男はそう言うと走って部屋から出ていった。

 

「しかし我らの怪人を倒すとはいったい何者だ・・・?それに尼尽博士もフジュンヒルデも居なくなってしまったし・・・・まさか・・・な・・・・面白い・・・これは新たな作戦を練る必要がありそうだな・・・腕が鳴るわ!ぐわっはっはっは!!」

誰も居ない部屋に男の高笑いが響いていた。

 

(序章.完)

 



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第一話 タピオカ爆発5秒前(前編)

1年近くぶりにやっとこさ第一話です。
おまたせしました。


 桜舞い散る校庭に僕は平井さんを呼び出していた。

理由はもちろん今日こそ平井さんに告白するためだ。

今日こそ絶対告白するんだ!

こんなヒョロヒョロで頼りない僕だけどせめて気持ちだけでも伝えるんだ!!

胸を高鳴らせて待っていると何処からともなく平井さんがやってきた。

「天村君どうしたの?こんな所に呼び出して?」

「あっ・・・・えーっと・・・・・・・・・・」

ダメだ!ちゃんと何ていうか考えてたはずなのに声をかけられた途端全部飛んじゃった!!

どどどどどうしよう・・・いつも肝心な時にこうやって全部台無しにしちゃうんだ・・・

いいやそれは今までの話。

僕は変わるんだ!

こうなりゃ当たって砕けろだ!!

「ひ、平井さん!!」

勢いよく口に出してしまったせいで少し声が裏返ってしまった。

でもそんなの気にしていられない。

はやく言ってしまうんだ!

「ぼ・・・ぼく・・・平井さんのことが好きで・・・・・・・付き合ってください!!」

やった!言えた!言えたぞ・・・!

ひとまず平井さんの顔を伺うと

平井さんは少し困った顔をしていた。

「あ、あの・・・・天村君・・・気持ちは嬉しいんだけど」

あっ・・・この返事はやっぱり駄目だったか・・・

「天村くん・・・男の子なのに私より胸も大きいし・・・私そういう趣味ないからごめんなさい」

「へっ・・・?」

僕は耳を疑って自分の胸元を見てみると平井さんの控えめなおっぱいとは比べ物にならないほど大きな肉の塊が2つぶら下がっていた。

「ごめんなさい!さよなら!!」

あたふたしているうちに平井さんは走って行ってしまう

「ちょっとまって!平井さん!」

僕はその後を追いかけるも何故か走っても走ってもどんどん平井さんの背中は遠ざかっていく。

平井さんってあんなに足早かったっけ?

いいや。僕の走る速度が遅すぎるんだ。

それに全然前には進まないのに走るたびに僕の胸はぶるんぶるんと大きく揺れる・

「待って・・・平井さん!行かないで!!!」

どれだけ呼びかけても平井さんは振り向いてもくれないしどんどん遠ざかっていく。

何故か視界もどんどんとぼやけていった。

その間も僕は平井さんをずっと呼び続けたがやっぱりこちらに気づいてはくれない。

 

 

 

 

「行かないで平井さん!」

僕はそう叫んで目を覚ました。

なんだ・・・・夢か・・・

なんだか一年以上寝ていたような気もするけど気のせいだろう。

それにそうだよな・・・・僕にあんな大きなおっぱいが有るわけ・・・・

しかし現実は無情だ。

胸にはなにかを重りを付けられているみたいな重みがあり、眼下には大きなハリの良いおっぱいが2つ付いているのだから。

試しに触れるとぷにぷにとした柔らかい感触にくすぐったい感覚が手と胸に伝わってきた。

「はぁ・・・・やっぱりこれは夢じゃないかぁ・・・」

そう発する僕の喉から出た声はどことなく能登○美子みたいな声で未だ自分の声と認識するのには少しタイムラグが生じる。

まだ慣れるのには時間がかかりそうだ。

 

僕は天村有希。

つい一昨日まで冴えない男子高校生だったんだけど商店街で変なアンケートに答えたらそのまま悪の秘密結社バッドネス㈱とかいうふざけた名前の組織に拉致されて下半身は男のままで巨乳で美少女で能登○美子みたいな声の悪の女幹部に改造させられてしまったんだ。

頭をいじられる手術の直前、どう見ても小学生にしか見えないバッドネス㈱科学者の尼尽佐江さんにバッドネス㈱を倒す事を条件に助けられ、バッドネス㈱を倒すために反旗を翻した佐江さんと共に女幹部様に改造されて得た力を使って男なのに魔法少女をやることになってしまったんだ。

それから早速街でばったり出くわしたカメレオンの怪人を倒して佐江さんのアパートの地下にある秘密基地で生活する事になったんだけど・・・・

 

「はぁ・・・僕これからどうなるんだろ・・・」

ため息混じりの能登○美子みたいな声が僕から漏れ出す。

昨日だけでVシネマ一本分くらいの濃い展開が起こってしまって僕の頭はパンクしそうだった。

すると部屋のドアが勢いよく開かれ

「おい君!聞いてくれ!!」

佐江さんが勢いよく部屋に入ってきた

「うわぁ!ちょ・・・佐江さん!部屋に入る時はノックくらいしてよ!」

「何の問題がある?ここは私の地下研究室だぞ?」

「そうだけど・・・一応僕にだってプライバシーくらいあるよ!!」

「ふぅん・・・プライバシーねぇ・・・・まあそんな事どうでも良い」

「どうでも良くないよ!!」

「全く思春期《はつじょうき》のガキはうるさくてたまったものじゃないな・・・」

「変なふりがなをつけないでよ!!」

「ああもううるさいぞ!アニメ声だからなおさら」

「だからこれは好きでこうなったわけじゃないんだって!!」

「はいはいわかったわかった。これを見てくれ」

佐江さんは気だるそうにバールのようなものを取り出した

「あっ・・・それ昨日使ったバールのような・・・」

「魔じかる☆すまっしゃーな?」

「は、はあ・・・」

「君がその長過ぎる髪に辟易していると思ってな。夜なべをして新機能を搭載しておいたぞ。それにしてもさすが私だ。予想通りの事になっていたな」

「えっ・・・?」

「なにをそんなすっとぼけた顔をしている?鏡を見てみろ」

「う、うん・・・」

佐江さんに言われるがまま部屋に置かれていた姿見を見てみると髪は凄まじくくしゃくしゃになっていた。

そういえば昨日お風呂に入った後髪も乾かさずに寝ちゃったから寝癖ができちゃったのかな・・・

今までは髪も短かったし少し水をかけるなりすれば直る程度だったからあんまり気にしなかったんだけどこの姿で長い髪となるとやっぱりそうもいかないか・・・

「そこで魔じかる☆すまっしゃーの出番だ」

「こんなバールのようなもので一体・・・」

「だから魔じかる☆すまっしゃーな?」

「う・・・で、その魔じかる☆すまっしゃーで一体何をするの?」

「ほら。そのボタンを押してみろ」

佐江さんは僕に魔じかる☆すまっしゃーを手渡してきた。

佐江さんの言う通り昨日はなかったボタンが追加されている。

「・・・・これ?」

一体何が起こるんだろう・・・?

もしかしてボタン一つで髪型が変わったりとかそんな便利機能だったりして!?

すごい!もしそうならほんとに魔法少女みたいだ!!

僕は胸を高鳴らせてボタンを押すと

ブォォォォォォォォォン

という聞き覚えのある音と共に生暖かい風がバールの先端から吹き出してきた

「えーっと佐江さん・・・?」

「なんだ?」

「これは一体何・・・?」

「何ってドライヤー機能に決っているだろう!なんと風の勢いは100段階に調整可能だ!羽のない扇風機の原理を応用して搭載するのには結構苦労したんだぞ?」

佐江さんは得意げに胸を張った。

確かに便利だけどさ・・・・

形だってバールだし追加された機能がドライヤーって全然マジカルじゃないよ!!

「なんだ不満そうだな?せっかく夜なべをして作ってやったのに」

「そりゃそうだよ!なんでドライヤーなの!?百歩譲って魔法のステッキ的なものがバールのようなものなのは仕方ないとするよ・・・?でもそれに追加された機能がドライヤーって全然魔法少女っぽくないじゃん!!」

「何だ知らないのか?十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない。という言葉もあるだろうつまりそういう事だ」

「どういう事!?」

「ああもう細かいことは気にするな。モテないぞ?」

「そ・・・そんなのどうでも良いでしょ!?それにこんな姿じゃモテるとしても男からしかモテないよ!!」

「ほう・・・男にはモテる自身があるんだな」

「そっ・・・それは違・・・・というかそういう風に改造したのは佐江さんたちでしょ!?」

「私はただ組織の奴らの意見を嫌々聞いてやっただけだ」

「そ・・・・それはそうだけど・・・」

「まあ今夜からは有効に活用することだ」

「えっ・・・じゃあこのボサボサは・・・?」

「決っているだろう自分でなんとかしろ」

「そんなぁ!長い髪のセットの方法なんて僕わかんないよ!!」

「ああもううるさい・・・夜なべをしたと言って・・・・いる・・・だろ・・・・・・・」

急に佐江さんがぐったりとその場に倒れてしまったので僕は佐江さんに駆け寄った。

「さ、佐江さん!?」

「う・・・・・・腹が・・・減った・・・・・・」

そう言うと佐江さんは力が抜けたように眠ってしまった。

僕のために夜なべしてたって言ってたよな・・・

きっと夕飯も抜いてあの機能をつけてくれたんだろう。

そう思うとさっきは少し言いすぎてしまったんじゃないかという罪悪感に僕は駆られた。

よし!それじゃあ朝ごはんくらいなら作ってあげよう

僕の家は両親が共働きでいつも朝食とお弁当は両親の分も含めて僕が作っていた。

佐江さんに朝ごはんを作ってあげるくらいなんてこと無いはずだ。

せめてドライヤーのお礼分くらいはしなくっちゃ。

あっ・・・そうだ。

父さんと母さん・・・今日の朝ごはんどうしてるだろ・・・

って今はそんな事考えたって仕方ないか・・・

「それじゃあ佐江さん、台所借りるね?」

僕は力尽きた佐江さんを抱きかかえると、その身体は驚くほど軽く、簡単に持ち上がった。

これは僕の身体が改造されて強化されてるからとかそんなんじゃなく本当に軽いんだろうな・・・

ひとまずそんな佐江さんをベッドに寝かせた。

そして部屋を出て冷蔵庫を開けてみると僕はその中身に絶句した。

「うわ・・・なにこれ・・・」

冷蔵庫の中にはびっしりとエナジードリンクとポカ○スエットが詰められていて他に食べ物らしきものは入っていなかったからだ。

「うーん・・・カップ麺とかそう言うのもないのかな・・・」

あたりを見回してみるがそれらしきものが一つも無い。

佐江さん一体いつも何を食べて生きてたんだろ・・・

僕は佐江さんの食生活が心配になってきた。

あんなに軽くて改造される前の僕なんかよりずっと細いし小さいし・・・・

「誰が小さいって?」

佐江さんが部屋からぬっと顔を出してきた。

「うわぁ!ちょ・・・人の心を勝手に読まないでよ!!というかさっき倒れたところでしょ?せめてもう少し寝てなきゃ」

「なあに私ほどになれば10分横になればもう大丈夫だ」

得意気に言ってみるものの佐江さんは足がおぼつかない様子でよたよたとこちらに向かって歩いてくる

「本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だと言っているだろ全く・・・人様の家の冷蔵庫を勝手に漁るとはデリカシーのないやつだ」

「し、仕方ないでしょ!?佐江さんがお腹空いたって言うからなんか作ってあげようと思ったのに!!あの冷蔵庫の中身は一体何?いつもなに食べてるの!?」

「あん?エナドリ常備してなにが悪い?それにうちには食料はないぞ」

「えっ!?」

「いつもはバッドネス㈱の社食で食ってたからな。朝昼晩全部無料で味もそこそこ悪くなかったぞ?」

「社食!?」

悪の秘密結社にも社員食堂があるの!?

「それに非常食に用意していたカップ麺やらカロリー○イトも丁度切らしててな。買い出しもめんどくさかったからそのままにしていたんだ。昨日せっかく久々に買い出しにでも行こうと思っていたが君が勝手に出ていくしそれどころじゃなくなってしまったからな」

「ご・・・ごめんなさい・・・」

「まあいい。謝るくらいなら買い出しに付き合ってくれ。勿論君は荷物持ちだが」

「佐江さん出かけても大丈夫なの?もうちょっと寝てたほうが・・・」

「大丈夫だと言っているだろうが。それに君に心配される筋合いはない。どけ」

佐江さんは僕を押しのけると冷蔵庫からエナジードリンクとポカリ○エットを取り出すとポ○リの入ったペットボトルにエナジードリンクを流し込み、2つが混ざったものをグビグビと飲み始めた。

「・・・ぷはぁ!!へ・・・・へへへへ・・・・・よし・・・来たぞ・・・!身体に染み渡ってくる・・・・!」

佐江さんは変な笑い声を上げた。

まさにその姿はマッドサイエンティストと言う感じだ。

「エナドリはわかるけどなんでポ○リなの?」

「ん?ああ。ポカ○と同時に摂取すると効率がいいらしいんだ。気休め程度だがなうへへへへへへ・・・・・」

また佐江さんが不気味な笑いを浮かべた。

しかもなにそのヤベーイベストマッチ・・・・!?

でも佐江さんいつもこんな感じなのかな?

こんな生活が続いたら本当に佐江さん死んじゃうんじゃ・・・

僕は佐江さんが心配になってきた。

「佐江さん・・・」

「なんだ?」

「僕がご飯作ってあげるから!そのバッドネス㈱の社食より美味しいかどうかはわからないけどちゃんと御飯作ってあげるから・・・!だからちゃんとご飯は食べようよ・・・こんな生活続けてたら死んじゃうよ!」

「なぁに人は放おっておいてもいつかは死ぬんだぞ?」

「そういう事じゃないよ!体壊したら研究だって出来なくなっちゃうよ!?」

「うーむ・・・確かにそうだ。勢いでバッドネス㈱を抜けてしまったから飯の事を思慮することを失念していた。確かに天才的な私の技術をここで亡くしてしまうのは惜しいなからな」

自分で言っちゃったよこの人・・・

「そ、それじゃあ早く買い出しに行って何か食材を買わなくっちゃだね」

「ああ・・・ところで君、その頭のままで行くのか?」

「へっ・・・!?」

そうだった・・・今僕の頭はくっしゃくしゃだったんだ!

「仕方ないな・・・・どれ、私がといてやろうそこに座れ」

「う・・・うん・・・」

佐江さんに言われるがまま椅子に座ると佐江さんが櫛で丁寧に僕の髪をといてくれた。

「ほら。こんなもんで良いだろう?」

佐江さんが持ってきた手鏡を見ると改造された時と同じような少しウェーブのかかったきれいな黒みがかった紫色の長い髪がサラサラと流れていた。

「さすが私だ。通常の人間よりも髪がもとに戻りやすいように今の君の頭髪には特殊な形状記憶合金を練り込んであるからな!しかし髪のしなやかさはそのまま!さすが私だ!!」

「今しれっとすごいこと言いませんでした・・・?」

「何を今更・・・今の君は改造人間なんだぞ?それくらい当然だろう?」

確かにテレビ○ガジンとかでデタラメな解剖図みたいなのを見たことは有るけどさ・・・

まさか今の僕の体もあんな感じに・・・・

「それに強度も増しているから生半可な物では切ることもできないし抜けもしない。それに5000度の高熱にも耐えられて髪の長さはそのまま保たれるぞ!喜べ!つまり君はその身体で居る限りはハゲないという事だ。良かったな」

佐江さんは更に得意気に続ける。

なにそれ?

この髪そんな人間離れしたことになってるの!?

「全然うれしくないよ!!」

「意見を公募した時戦闘や他の要因で急にショートカットにされたり急に髪型を変えられると嫌だという意見が結構あったからそうしたまでだ」

「うう・・・僕の身体で遊ばないでよ・・・」

「おい、何髪を弄っている?さっさと買い出しに行くぞ」

「はい・・・・」

もっと僕の身体の事で聞かなきゃいけないこともいっぱいあるんだろうけどこれ以上聞いたら本当に頭がパンクしてしまいそうだからそれ以上聞くことをやめて佐江さんの車で街まで買い出しに向かった。

 

街に着くとスーパーの横に何やら行列ができている。

「はぁ・・・こんな真っ昼間からわらわらと・・・・とかく人間というのは愚かな生き物だ」

そんな黒山の人だかりを佐江さんはゴミを見るような目で見つめていた。

でもそんな行列の先に何が有るのか僕は気になってしょうがない。

その行列の先の看板を見てみると

【タピオカドリンク専門店タピ岡】

と書かれた看板が見えた。

なんだあのくっそダサいネーミングの店・・・

僕も良くこのスーパーには買い物に来ていたけど少し前まであんな店はなかったしきっと最近できたんだろう。

最近流行ってるもんなタピオカ・・・

そういえば同じクラスの女子がこの間学校近くにもタピオカ屋ができたみたいな話をしてたっけ。

そんなにこの辺りにタピオカ屋が乱造するほど流行ってるのかぁ・・・

それにしてもすごい列だなぁ・・・

行列を眺めていると

「ほら・・・早く買い出し済ませて帰るぞ」

「えっ・・・うん・・・」

「べっ、別に私も飲みたいとか思ってないからな!!どうせあんな物どこぞの企業が流行っていると馬鹿な民衆に吹聴しているだけのただのでんぷんの塊だぞ!?」

「・・・いや・・・僕何も言ってないんだけど・・・」

「っっ・・・!」

佐江さんは恥ずかしそうにうつむいてしまった。

「それじゃあ買い出し終わったら並んでみます?」

「う・・・・君がどうしてもというのなら付き合ってやらんこともないぞ?」

佐江さんは少し嬉しそうにそう言った。

ホントに素直じゃないなぁ・・・

でもそんな佐江さんの顔はちょっと可愛いんだよなぁ

「それじゃあそういう事にしておくね。それじゃあ早く買い出し終わらせようよ」

「ああ、そうだな・・・って私に命令するな!」

「はいはいわかってますよ」

そうしてスーパーに入り、日持ちするカップ麺類やとりあえず一週間分の料理が出来るであろう食材やら生活用品を買い、スーパーを後にして例のタピオカドリンクの店に行ってみると誰もおらずシャッターが閉じられていて

【売り切れました】

と書かれた張り紙が貼られていた。

「くっ・・・・ま、まあ別に私はどうでも良かったがな!」

佐江さんはそう見栄を張ってはいるが残念そうな表情をしていた。

すると突然パァン!という破裂音が聞こえた。

「な、なんだ!?」

「おいこら走るなせめて荷物を持ってから行け!」

佐江さんから貰ったレジ袋を担いでその音の方へ行ってみると

「や〜ん・・・急にタピオカが飛び散ってきたマジ萎えぽよ〜」

破裂したタピオカミルクティーの容器と飛び散ったタピオカが体じゅうにひっついた女子高生が居た。

どうやら急にタピオカミルクティーの容器が破裂したようだ。

普通こんな事ある?

いいや無いね!

もしかしたらこれもバッドネス㈱の仕業だったりするんじゃないかな・・・

話を聞けば何か糸口が見えるかもしれない。

でも僕こういうタイプの人苦手なんだよなぁ・・・

今は尻込みをしている場合ではない。

「あ、あの・・・・何があったんですか?」

僕は意を決して恐る恐る尋ねてみると

「あ〜?アタシねーあそこの店でタピオカミルクティー買ったわけーそんでー飲んだら太るしぃ〜写真撮ってそのままおいて帰ろうとしたら急にタピオカが爆発したの〜まじありえなくない?う〜ベタベタしてまじ気持ち悪いんですけど〜」

飲まないならなんで買うのかわけが分からなかったけどとにかく本当にタピオカミルクティーの容器が爆発したらしい。

「そ・・・そうなんだ大変だね・・・・」

幸いその女子高生に怪我がなかったのが不幸中の幸いと言ったところなのかな・・・

勝手に爆発するようなものには思えないけどこれじゃ手がかりとは言えないよな・・・

「ねえねえお姉さんさ?マジ美人じゃね?コスメとか何処のつかってんの〜?」

「へっ・・・!?」

うわぁ急に質問してきた!

といっても急に話しかけたのは僕なんだけどそんな事聞かれても何もしてないとしか言えないよ・・・

「あっ・・・えーっと・・・・・」

僕が答えあぐねているとまた破裂音がそれも何箇所からか聞こえてきた。

「ご、ごめんなさい!」

僕はその女子高生にそう言い残してその場を離れ、破裂音のした方へ向かった。

行く先々ではさっきと同じ様に破裂したタピオカドリンクの容器とその中から飛び散ったタピオカがべったりとくっついた人たちと出くわした。

容器がこんな頻繁に破裂することなんて有るのだろうか?

やっぱりこれはただ事じゃない!

僕は急いで佐江さんを呼びに行き事情を話した。

「佐江さんこれって・・・?」

「ふふん・・!全くどいつもこいつもいい気味だな!流行に流されるからこんな事になるんだ!」

「違うでしょ!こんなに一斉にタピオカが爆発するなんてこんなの普通に考えてありえないよ」

「まあそうだな」

「これは多分バッドネス㈱の仕業だよ!悪の秘密結社はこういう流行のものにかこつけて悪巧みをするって相場が決まってるんだから!!」

「うーん・・・・あのアホ首領ならやらなくもないかもな・・・」

「それじゃあタピオカを爆発させてる真犯人をやっつけて街を守らなきゃ!だいたいこういう時は店が怪しいよね」

ヒーローが直面しそうな場面に遭遇して僕はテンションが上っていた。

前回も勝てたんだし今回も怪人をやっつけて街の平和を守らなくちゃ!

そんな使命感が僕を動かした。

そしてシャッターが閉じられていたタピオカ屋に戻ってみるも何の変哲もない建物だった。

どうやら僕の見当違いだったらしい。

「ほら・・・特に何もなかっただろ?それにバカが勝手に困ってるだけなんだから放おっておいて帰ろう。私は腹が減ってるんだ」

「うーん・・・でも・・・」

僕たちが店の前で話していると

「おや?お嬢さん方もタピオカを買いに来たのかい?」

突然作業着を着た初老の男性に話しかけられた

「え、まあそんなところですけど・・・お爺さんは?」

「ええ、私はこの辺りの清掃をやっておるんですが・・・最近流行っているのは良いかもしれませんけどタピオカドリンクのゴミがそこらじゅうにポイ捨てされていてワシらも困っとるんですよ」

初老の男性はくたびれた表情でそういった。

「そうなんですか・・・・大変ですね」

そういえばさっき話を聞いた女子高生もその場に置いて行こうとしてたって言ってたなぁ・・・

「お嬢さん方は買えなかった様ですがくれぐれもポイ捨てだけはせんようにしてくださいよ。この街は綺麗なのが一番ですから」

「は、はい・・・気を付けます」

その男性と別れて僕たちは佐江さんの車に乗り込んだ。

 

車で佐江さんの家に向かう道中、またさっき聞いたものと同じような破裂音が聞こえてきた。

その方向を見てみるとほかのタピオカ屋の近くでもさっきと同じようなことが起こっているようだ。

「佐江さん!まただよ!!早く車停めて!!」

「何だよ全く・・・仕方ないな」

佐江さんに車を止めてもらいタピオカ屋へ駆け寄ってみると辺りは飛び散ったタピオカを浴びた人たちだらけでまさに阿鼻叫喚な眺めだった。

「佐江さん!これやっぱりバッドネス㈱の仕業だよ!」

「確かにそうだろうがあの店が原因でないとなると・・・」

確かにこういう場合悪の秘密結社が店を建ててこういうものを売りつけたりっていうのは結構常套手段のはずだ。

しかしそうでないとすると・・・・

「きっとタピオカの仕入先がバッドネス㈱なんだよ!」

「なるほど・・・しかしその仕入先をどうやって探すつもりなんだ君は」

「えっ・・・うーんと・・・・」

その時ふとその店の裏通りにトラックが入っいく事に気づいた。

そして瞬時にそのトラックがバッドネス㈱のものであることがわかった。

だってトラックの荷台にデカデカとバッドネス㈱のマークが描いてあるんだもん。

「佐江さん!やっぱりそうだ!行くよ!!」

「え、ああ・・・あのバカ首領は相変わらずなんでこんなわかりやすいことを・・・」

佐江さんも呆れたのか大きなため息を一つつく。

予想通り裏通りに入ったトラックはタピオカ屋の裏口の前で停まった。

僕たちはそのトラックに駆け寄り近くの物陰でトラックを監視することにした。

すると男二人がトラックから降りてきて荷台からタピオカが入っていると思われるダンボールを担いで持っていこうとする。

「きっとあれだよ佐江さん!僕行ってくるから佐江さんはここで隠れてて」

「あ、ああ・・・なんだか今日の君は無駄にテンションが高いな・・・まあせいぜい頑張ってくると良い」

そして僕は佐江さんをその場に残しダンボールを運んでいる男二人に声をかけた。

「あ、あのー・・・・」

「なんだ?今忙しいんだ」

「そうだそうだ!お嬢ちゃんタピオカがほしいならちゃんと店で並んで買いな!」

「い、いや違うんですよ・・・あなたたちバッドネス㈱の人たちですよね?」

そう言うと二人の表情が急変する

「お嬢ちゃん・・・・なぜそれを知っている?」

「しっかり㈱まで付けるなんて・・・我々の事を知られているとなれば女子供だろうと容赦はしねぇぜ?あっ、ちょっと待って」

そう言うと二人はおもむろに服を脱ぎ始めた。

彼らはその中に僕が改造された時に見た戦闘員と同じ全身タイツを身に着けている。

ビンゴ!やっぱりこういう運搬作業は戦闘員の仕事だって相場が決まってるんだ!

「あっ、お嬢ちゃんもうちょっと待ってね・・・」

二人はポケットから覆面を取り出してそれを被ると

「よしできた・・・キョー!バッドネス㈱の事を知っているからにはタダでは帰さんぞ!」

「キョー!覚悟しろ!!」

何事もなかったかのように決め台詞を裏声で叫ぶと僕に襲いかかっていた。

というか結構待ってあげたんだけどなんでわざわざ着替えたんだろ・・・

ってそれどころじゃない!

戦闘員をやっつけてタピオカの出処を突き止めないと!

「ふんっ!僕に襲いかかってきたのが運の尽きだったな!魔ジカライズッ!」

僕は喉元のチョーカーに付いている石に触れてそう叫んだ。

すると身体が暖かな光りに包まれて僕の衣服はフリフリとした可愛らしいものに変わり、髪の色も明るく変わっていき僕の姿は魔法少女の姿へと変身した。

「き、貴様はチョメレオンを殺ったという噂の魔法少女!!」

「結構エロい身体してるじゃん・・・やっちまえ!!」

戦闘員二人は鼻息を荒くしてこちらに突っ込んでくるが僕は軽々とその二人を華麗に躱した。

「ふんっ!やっぱり戦闘員くらいなんてこと無いね!これで君たちの計画も終わりだよ!マジカルスマッシャー!」

僕は右手を天高く上げ高らかにそう叫んだ。

そうしたら手元に何処からともなくあのバールのようなものが飛んでくる・・・・

はずなんだけど

「あれ?おかしいな・・・マジカルスマッシャー!・・・・あれ?なんで飛んでこないの!?」

いくら呼んでもあのバールのようなものは飛んでこない

「おいおいそのマジカルなんとかってのはタダのこけ脅しかよ!来ないならこっちから行くぜ!キョー!」

「決め台詞まで待ってやろうと思ったけどそんなのも無いみたいだしエロ同人みたいに乱暴してやる!!キョー!!!」

僕が何もしないとわかると戦闘員は襲いかかってきた。

やっぱりこういう時って待ってくれてたんだな・・・

「うわあっ!」

僕は戦闘員の攻撃を躱しながら反撃の糸口を探る。

しかしただ躱しているだけというのも結構体力が削られていく。

なんたって避けるたびに胸が揺れるもんだからその遠心力で胸が引っ張られたりして結構負担がかかる。

このままじゃホントに僕エロ同人みたいに・・・

昨日戦ったカメレオン怪人の舌にがんじがらめにされたことを思い出して僕は身体をこわばらせてしまう。

またあんなことされるなんてゴメンだ。

はやくなんとかしなくちゃ・・・!

「マジカルスマッシャー!なんで!?なんで来ないんだよぉ!!マジカルスマッシャー!マジカルスマッシャぁぁぁぁ!」

「ああもう!マジカルスマッシャーじゃなくて魔じかる☆すまっしゃーだ!」

僕が呼ぶと物陰から佐江さんがぬっと姿を現した。

「あっ、あいつ脱走した尼尽博士だ!魔法少女とグルだってのは本当だったんだな!」

「あいつを捕まえて首領に持って帰れば俺たちも昇進昇給そしてちゃんとした社員になって怪人にもなれるぜーっ!!」

佐江さんを見た瞬間戦闘員たちは僕に目もくれず佐江さんに襲いかかった。

「佐江さん!逃げて!!」

「君が間違えてるから出てきたんだ!マジカルスマッシャーじゃない!魔じかる☆すまっしゃーだ!」

「えっ?違いがよくわからないんだけど・・・」

「もっとそれっぽく!カタカナじゃなくてひらがなで言え!それと魔じかるとすまっしゃーの間の☆もちゃんと意識して可愛くだ!!」

なにそれ・・・

佐江さんが言っている事はよくわからなかったがこのままだと佐江さんが捕まってしまう!

えーいもうどうにでもなれ!

「魔じかる☆すまっしゃー!!」

僕は少しぶりっこして行ってみるとそれは凄まじいスピードで飛んできた。

うう・・・なんか恥ずかしい

「おいおいなんだよあれ・・・ファンシーなステッキかなんかだと思ってたらバールだぜあれ!」

「もう放おっておいて尼尽博士だけでも連れて帰ろうぜ!!キョー!!!」

結局僕には脇目も触れず戦闘員二人は佐江さんに向かって走っていく。

しかし佐江さんは物怖じもせずその場で不敵な笑みを浮かべ仁王立ちしている。

きっと僕を信用してくれているんだろう。

それなら僕はそんな佐江さんの信用に答えたい!

「これでも喰らえぇ!」

僕は魔じかる☆すまっしゃーを戦闘員二人めがけて投げつけると

「ぐえっ!」

「ぎゃひっ!!」

魔じかる☆すまっしゃーは二人の頭部に命中し、綺麗な弧を描き僕の手元に戻ってきた。

「いてててて・・・やっぱりチョメレオンを倒しただけのことはある・・・こいつ強いぞ・・・・?」

「くそぉ・・・乱暴しようと思ったら竿役が返り討ちに遭う展開とか地雷だぜ・・・・」

二人は頭を抑えてうずくまりそんなふざけたことを言っている。

「ねえ、君たちが置かれてる状況わかってるよね?」

僕は二人を軽めに脅してみた。

「くっ・・・」

「ねえ、このタピオカ・・・どこから仕入れてきたの?」

「そ・・・・それは・・・言えるわけねぇだろ!!守秘義務ってのが有るんだよ!」

「そうだそうだ!おっぱい揉ませてもらったって教えてやんねーかんな!!」

二人は頑な口を割ろうとしない。

おっぱいを・・・?

そうか!

今の僕は股間以外は巨乳美少女!

それならハニートラップを使えば聞き出せるかもしれない!

恥ずかしいけどしっぽを掴んだんだ!なんとしてでもこのタピオカの出処を突き止めなきゃ

「ねーぇ〜?いまおっぱい触ってもって言ったよね?本当にさわらせてあげるから教えてくれない?」

僕は少し艷の有る感じの声で二人を誘惑してみると

「な・・・なんだこの引き込まれそうな声・・・・」

「ちょっとでも気を許したら従ってしまいそうだぜ・・・・」

「そんなこと言ってないでお・し・え・て?」

僕は更に畳み掛けると覆面越しに見た二人の目がどんどん虚ろになっていく。

能登○美子ボイスすごい・・・!

いや・・・これも多分女幹部として改造された僕の一種のチャームスペルみたいなものなのだろう。

いける!!はやく本拠地を見つけてこんなバカげた計画やめさせてやるんだ!!

「ぼ・・・私ぃ〜このタピオカの出処が知りたいなぁ〜」

トドメと言わんばかりに二人の喉を撫でてやると

「は、はい・・・・このタピオカの出処は・・・・・・・」

まるで生気が抜けたように戦闘員の男たちは口を開く

するとその時

「ゲルルルルルルルゥ!!バカどもが!安々計画を喋ろうとしおって!!」

不気味な声が何処からともなく聞こえてきた

「はっ・・・!?こ、この声は・・・」

「やべえあの人が来ちまった」

その声を聞くと戦闘員二人は我に返った。

「誰だ!」

その声の方に振り向くとカエルとも獣人とも取れないまさに怪人と言った不気味な怪人が暗がりからぺたぺたと湿った足音を響かせながら現れた。

「バカ戦闘員ども!こんな小娘一人に手こずるとは・・・!貴様らは下がっていろ」

怪人はそう言って戦闘員を下がらせる。

その姿を見た佐江さんは

「やはりお前だったか。カンガエルー!」

怪人に向かってそう叫んだ

「カンガエルー?」

これまた変なネーミングだなぁ・・・

「覚えていてくれて嬉しですなぁ・・・そのとおり。ワシはバッドネス㈱怪人カンガエルー!」

「気をつけろ!そいつはカンガルーとカエルの合成怪人だ!袋から卵型の爆弾を発射してくるぞ!!」

佐江さんがそう言うや否や

「ふんっ!もう遅いわぁ!!!」

怪人の腹部にあった袋から黒いゴムボールのようなものが大量に発射された。

「ここは博士だけ回収させてもらうッ!」

怪人が指をパチリと鳴らすとそのゴムボールが破裂してもくもくと煙が上がる。

煙はたちまち辺りを包み、僕の視界を奪っていく。

「くっ・・・見えない!でも今の僕の聴覚を使えば・・・!」

僕は目を瞑り意識を集中する。

すると最初は怪人のしめった足音が佐江さんの方へ移動する音が聞こえてきたが突然耳を割くようなノイズが僕の頭に響いてきた。

「ぐあああああああああああああああああああ!!!」

頭に流れてきた凄まじいノイズに耐えきれず僕はその場でうずくまってしまった。

「博士の忠告はしっかりと聞いておくべきだったな。ワシはカエルとカンガルーの合成怪人。あの間抜けのチョメレオンと違ってカエルの鳴き声でジャミングすることも可能なのだ!耳の良さが命取りだったなァ!ゲルルルルルルルルルルゥ!!!」

怪人の高笑いが僕の頭にグワングワンと響く

だめだ・・・頭が割れそうだ・・・・

僕は意識の集中を止め、なんとかその状況から脱することができたが状況は不利なままだ。

視覚もダメで聴覚センサーも使えないとなるとこの煙幕をなんとかしないことには佐江さんが連れて行かれてしまう。

そんなとき僕の頭に一つのアイディアが思い浮かんだ。

そうだ!あれを使うんだ!!

僕は魔じかる☆すまっしゃーのボタンを押し、試しに風量の出力を50に上げると温風が凄まじい勢いで吹き出して煙幕をみるみるうちに吹き払っていく。

すごい・・・100段階の風量調節って戦いにも使えるようにする為の機能だったんだ!

でもちょっと待って?

これ知らずに使ってたら僕大変なことになってたんじゃない!?

頭部にこの凄まじい温風が直撃する様を想像すると恐ろしかったので僕は考えるのをやめた。

「ふぅ・・・なんとか煙幕は脱せたけど・・・・・佐江さん!?」

煙幕を完全に吹き飛ばし、辺りを見回すと怪人と戦闘員はおろか佐江さんの姿も消えていた。

きっとさっき僕が怯んだ隙に怪人にさらわれてしまったのだろう。

僕は能力を過信しすぎたせいで肝心なことを忘れてしまっていたんだ。

佐江さんはそんな僕を信用してくれていたのにそれに答えられなかった。

これじゃあタダのヒーローごっこじゃないか・・・

結局街どころか佐江さんすら守れないなんて・・・・

「僕の・・・・僕のせいだ・・・・・佐江さぁぁぁぁぁぁん!」

僕の能登○美子みたいな声がむなしく裏通りに響いていた。

 

続く



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第二話 タピオカ爆発5秒前(後編)

 「佐江さぁぁぁぁん!」

どれだけ叫んでも返事が帰ってくることはない。

それにあれだけ音を立てたんだから野次馬だって集まってくるかもしれない。

こんな格好見られたら死んじゃう・・・社会的にもメンタル的にも

「か、解除・・・」

僕はチョーカーに付いた石に触れてそう呟き、変身する前の姿に戻った。

しかしもたもたしてはいられない。

悪の秘密結社から逃げ出した博士の末路なんて泡的なもので溶かされてしまうか怪人の能力の実験台にされるかの二択くらいだ。

このままだと佐江さんが殺されてしまう。

なんとかして逃げた先を突き止めて佐江さんを助けないと!

でも手がかりもなにも無いしむやみに動いたって時間を無駄にするだけだ。

一体どうしたら・・・

ふと辺りを見回すと佐江さんがさっきまで居た所に車のキーが落ちていた。

あの佐江さんが捕まったくらいで車のキーを落とすだろうか?

それに不自然だ。

キーホルダーが付いていたはずなのに何故かキーホルダーが無くなっている。

捕まった拍子に落としたならキーホルダーも何処かに落ちているはずだし、捕まった時にちぎれたにしてはしっかりと鍵だけが落ちていて付いていたチェーンがちぎれたりしている形跡もない。

もしかして車にもどれってことなのかな・・・?

僕はその可能性にかけて車のキーを拾い、佐江さんの車が停まっている場所に走った。

「んくっ・・・・♡あふぅっ・・・・♡」

走るたびに胸がぶるんと大きく揺れてそのたびに乳首が服の布に擦れて変な声が出るし手にはバールのようなものを持っているしで通行人に変な目で見られたがそんな事を気にしている場合ではない。

僕は恥を捨ててなんとか車までたどり着いた。

そして鍵を開けて車に乗り込み、エンジンを掛けてみると

『キュウナンシンゴウヲカクニンシマシタ。モクテキチマデジドウウンテンヲカイシシマス』

そんな自動音声と同時にカーナビが点灯した。

画面の地図上では赤い点が点滅しながら移動している。

そして車のアクセルが勝手に動き出して次の瞬間何もしていないのに突然発進した。

「うわっ!!」

そして車が発進してつかの間

『モクテキチイドウノタメサエモードニヘンコウシマス シートベルトヲオシメクダサイ』

そんな自動音声が流れると車の運転が急に荒々しくなりスピードが上がっていく

もしかしてサエモードって佐江さんの運転をコピーしてる感じの奴!?

確かにこの荒々しさは一昨日に乗った佐江さんの運転のような荒々しさだ。

「うわああああああああ!!」

僕は必死でしがみつき、やっとのことでシートベルトを締めた。

 

そしてマップでさっきまで移動していた赤い点があるところに着くと車はピタリと止まった。

『モクテキチシュヘンデス ジドウウンテンヲシュウリョウシマス』

「ふぅ・・・やっと着いたけど・・・うっぷ・・・・ちょっと酔ったかも・・・・」

僕はよろよろと立ち上がり車から降りるとそこは街の外れにある廃工場だった。

廃工場の駐車場にはバッドネス㈱のマークが荷台に描かれたトラックが数台停まっているし戦闘員が見回りをしている。

うわぁなんてわかりやすいアジトなんだ・・・

ということはきっと佐江さんもここに・・・!

でもこのまま真正面から突っ込もうものなら見張りに見つかって下手に刺激してしまえば佐江さんが殺されてしまうかもしれない。

なんとか隠れて佐江さんを助けないと

こういう時はダンボールがあれば良いんだけど・・・・

でも仮にダンボールが都合よく転がっていてもこの大きい胸が邪魔してス○ークみたいなほふく前進はちょっと無理かな・・・・

はぁ・・・巨乳って思った以上に不便だなぁ・・・

隠れての潜入がダメならあの手で行こう!

さっきの戦闘員だって僕のことを性的な目で見てきたんだからきっとうまくいくはずだ。

僕はこっそり見張りの戦闘員が一人になるところを見計らった。

そしてさっきは失敗したけど今回は成功してくれよ・・・!

「ねぇそこのお兄さぁん?」

僕はさっきしたように艷っぽい声で一人の戦闘員に声をかけ物陰へ呼び寄せる。

「キョ!?な、誰だお前!?」

「誰だって良いじゃない・・・ねぇ・・・それ脱いで?そのおしゃれな全身タ・イ・ツ♡」

「これ・・・を・・・・脱・・・ぐ・・・・?」

「ええ。そしたら良いことしてあげる♡」

正直恥ずかしいけどこれも佐江さんを助けるためだ。

なんとしてでもこいつからこの全身タイツを剥ぎ取って潜入してやる!

「はい・・・・仰せのままに・・・・」

戦闘員はまるで操り人形のようにタイツを脱ぎ始めてパンツ一丁になった。

「じゃあそのタイツもらうわね?ありがと・・・♡」

僕は戦闘員の頬を優しく撫でると彼は白目を向いてその場で糸が切れたように倒れてしまった。

このチャームスペルすごいぞ!?

力をセーブした状態でこれなんだから力を最大まで開放した状態で使っちゃったらどうなるんだろ・・・・?

そう考えると自分の力に恐怖を覚えた。

・・・でも・・・・・この力で佐江さんを助けられるなら今はなんだって使ってやる!

意を決した僕はひとまず服を脱いでその場に脱ぎ捨てられた全身タイツに袖を通した。

「う・・・・すごく汗臭い・・・・それに・・・んっ♡胸のあたりがすごくきつい・・・よぉ・・・」

乳首が擦れるたび変な声が出てしまったがやっとの事でタイツを着ることができた。

鏡がないから確認はできないけど体にピッタリとフィットしているし一応ちゃんと着れているんだろう。

「はぁ・・・・やっと着れた・・・・でも乳首も浮いてるけどこれ大丈夫かな・・・・」

やっぱりブラジャーって付けたほうが良いのかな・・・?

って何考えてるんだ僕!

今はそれどころじゃないんだぞ!?

戦闘員に変装できたんだから後は潜入するだけだ。

・・・ちょっと待てよ?

流石に変装したとはいえこんなバールのようなもの片手に工場に入るわけにも行かないしどうしよう・・・

うーん・・・・

「んぅうっ・・・♡まさかこんな漫画みたいな隠し方をすることになるなんて・・・」

考えた挙げ句、僕は魔じかる☆すまっしゃーをタイツの中に入れて両胸で挟んだ。

けっこうすっぽりと挟まってくれたので一安心だ。

「・・・これでよしっと!」

僕は意を決して工場の中へ足を進めた。

 

工場に難なく潜入した僕は戦闘員とすれ違うと

「キョー!」

と声をかけられた。

多分挨拶か何かなんだろう。

ここで無視すると怪しまれるかもしれない。

「きょ・・・きょー・・・」

僕は恥ずかしかったがそう返した。

すると

「お前新入りか?もっと恥を捨てろ!キョー!!」

どうやら挨拶が気に食わなかったらしく少しガタイのいい戦闘員に熱い指導を受けてしまった。

僕こういうタイプの人も苦手なんだよなぁ

でもこれ以上の面倒事に巻き込まれたくないし・・・

「きょ・・・・キョー!!」

僕は恥を捨てて全力でそう言うと

「なかなかいいぞ新入り!ところでお前すごく良い身体してるなぁ・・・よかったら今夜・・・」

その戦闘員は鼻息を荒くしてこちらににじり寄ってくる。

「ごっ、ごめんなさい!キョー!!!」

僕はそう言ってその場からダッシュで離れた。

「はぁ・・・・戦闘員も大変だなぁ」

少し戦闘員の気持ちがわかったような気がする。

歩みを進めていくとダンボールを持った戦闘員の列を見つけた。

この列の先に行けばあの変なタピオカの出処にたどり着けるはずだ!

僕はその列が出てきた方へ向けてこっそり進んでしばらくすると開けた場所に出ると

「こ、これは・・・」

そこでは真面目にタピオカが作られていた。

別に何か毒が入れられているとか怪しい工程は一切ないただのタピオカ工場だった。

ただのタピオカがあんな爆発するわけないし・・・

一体どんなからくりがあるんだ?

こっそりそんな様子を物陰から観察していると湿った足音がこちらに近づいてきた。

この湿った足音には聞き覚えがある。

一瞬だけ聞こえたあの怪人の足跡だ。

あの怪人は完成したタピオカが溜まっている場所の前に立った。

「ゲルルルルルルルルルルゥ!!」

怪人が声を上げると、腹の袋から小さい黒い粒のようなものを放出しタピオカが溜まっている容器に混ぜ初めた。

わかったぞ!タピオカにあの怪人が作ったあの黒いやつを混入させて爆発させていたんだ!

でもさっきの煙幕とは大きさも違うしタピオカドリンクが爆発した時に煙が上がったような形跡もなかった。

もしかしたらあの怪人はいろんな大きさや効力のある黒いつぶつぶをあの袋から出すことが出来るのかもしれない

でもあんな袋から出てきた黒いのを混ぜて飲ませるなんてなんか気持ち悪いな・・・・

一気にタピオカドリンクを飲む気が失せてしまった。

でもなんで容器が破裂したんだろう?

あんなものを飲み込もうものなら人も破裂しそうな気もするけど・・・

とりあえずあの怪人に付いていけば佐江さんが捕まっている場所もわかるかもしれない。

そのまま僕は様子見を続けていると

「いやぁ〜カンガエルーさんのタピオカ最高に美味しいっすよ」

戦闘員の一人が怪人に話しかけた。

「おおそうかそうか!ゲルルルルゥ!!ほらお前らも食え食え!休憩も大事だぞ?」

怪人はまた袋からタピオカのような黒いものを出すと戦闘員たちはそれを美味しそうに食べ始めた

「うぇ・・・・気持ち悪・・・」

あんな破裂するものを平然と食べるなんて戦闘員は一体何を考えてるんだろう?

「やっぱカンガエルーさんの作るタピオカは最高にうまいっす!これを純粋に楽しめない世の中・・・悲しいっすよね!」

「ああそうだ・・・タピオカに罪はないがワシらはタピオカを販売中止にせねばならない そのためにはタピオカを破裂させるしか無いのだ。皮肉なものじゃが」

「そう思いつめないでくださいよカンガエルーさん!これもこの街の為!きっとそうなったらバッドネス㈱だけがタピオカを食えることになりますね!」

話していることがよくわからないがバッドネス㈱はタピオカを独り占めしようとしているのか?

なんでそんなしょうもないことを・・・・

「それじゃあワシは博士の拷問に戻るからな!定時まで後ちょっとだ頑張ってくれよ!」

怪人は戦闘員たちにそう言うと奥の扉の奥へ入っていった。

「キョー!」

戦闘員は怪人に向け敬礼して見送っている。

「あそこか!」

僕は怪人の後をつけてその扉をくぐるとその先にはいくつかの部屋があり、耳を澄ましてみるとさっきの怪人の声と佐江さんの声が聞こえてきた。

僕はその部屋の扉に聞き耳を立てる。

「ゲルルルルルルルルルルゥ・・・何故博士はワシらを裏切ったのだ・・・?博士はワシらの中でも待遇も良いし地位もあったはず・・・それにこれも世界を救うためなのだぞ?」

「馬鹿か!そうやって悪の秘密結社を自称してるくせに大義名分を振りかざしてる方針が気持ち悪いんだ。それにあのバカ首領のしょうもない作戦に付き合うのに疲れたんだよ」

「ゲルゥ!!首領の崇高なる作戦をしょうもないだと!?殺すなという首領の命令さえなければ殺していた所だぞ?」

「ほう・・・?やってみると良い。しかしバッドネス㈱で殺しは御法度ではなかったかな?」

悪の組織なのに殺しが御法度?

一体どんな組織なんだ・・・?

さらにバッドネス㈱の謎が深まった。

「そうだ・・・・人を殺めてしまってはワシらもアイツらと一緒になってしまうからな しかし二度と逆らうなどという気が起きないまで拷問することは出来る!ゲルルゥ!!!!!!」

佐江さんの言葉が怪人を刺激してしまったようで、怪人は大きな雄叫びを上げた。

怪人の言っている事が本当なら少なくとも佐江さんが殺される事は無いだろうけどこのままじゃ佐江さんがどんな目に遭わされるかわからない。

そう思うと居ても立っても居られなくなり僕は飛び出した。

「そこまでだ!」

「ゲルルゥ・・・戦闘員か・・・まだ定時は早いはずだし部屋に入る前はノックくらいしたらどうだ?」

すごい!こんな簡単な変装で凄まじく不自然に出ていったのに全くバレてないぞ!?

しかし佐江さんは僕に気づいたようで

「ふん・・・そろそろ来ると思ってたよ・・・いいややっぱちょっと遅いぞ」

佐江さんは得意げに言った。

「来ると思っていただとぉ?」

「私がタダで捕まると思ってるのか?お前らのそういうアホな所に嫌気がさしたんだよ。私が捕まって位置情報さえ発信すればアジトの場所がわかると思ってな!」

「そうだそうだ!お前らの悪巧みもここまでだからな!」

僕は覚悟を決め首元の石に手を当て

「魔ジカライズ!」

と叫んだ。

すると着ていた戦闘員の全身タイツが弾け飛び、僕は魔法少女の姿へと変身した。

「き、貴様!さっきの魔法少女!!おのれぇ!このワシを嵌めたというのか!こうなればそこの魔法少女もまとめてボスへの土産にしてくれる!ゲルルルルルルゥ!!!」

怪人が叫ぶと戦闘員が部屋にわらわらとやってきた

「キョー!お前が噂の魔法少女か!」

「結構可愛いじゃん」

「は?いやいや流石にその胸で魔法少女は無理でしょ」

「いや俺は有りだと思うで」

「やっちまえ!」

「キョー!!」

戦闘員たちが口々叫びながら僕に向かって襲いかかってくる。

しかし魔じかる☆すまっしゃーさえあればこんな戦闘員なんか敵じゃない!

僕は胸に挟まっていた魔じかる☆すまっしゃーを取り出してまるで無双ゲーのように戦闘員を倒していった。

「さあこれで戦闘員はいなくなったぞ!後はお前だけだ!!」

「ゲルルルルルルゥおのれぇ・・・よくもワシの可愛い部下達を・・・ワシが直々に相手をしてやる!ゲルルルルルルゥ!!」

声をあげると腹の袋から黒いゴムボールのようなものを放出して破裂するとまた煙幕が辺りを包んだ

「二度も同じ手なんて効かないよ!」

僕は魔じかる☆すまっしゃーのボタンを押し、出力を上げて煙を吹き払う。

「ゲルルルルゥ・・・・それならばこれはどうだ!」

また袋からゴムボールを出したと思うと地面に付いた瞬間ゴムボールが爆発し中から小さなタピオカのようなものがこちらに向かって勢いよく飛び出ししてきた。

「うわっ!」

べっとりとしたタピオカのようなものが勢いよく身体に当たるのは結構痛いしなんかすごくこれべたべたしてて気持ち悪い。

「キョ・・・・キョー・・・!魔法少女がカンガエルーさんの粘液とタピオカまみれになってるぜ・・・・挿絵がないのが残念なくらいエロい・・・!我が人生に一遍の悔いなし・・・ブハッ!」

倒れていた一人の戦闘員が突然そう言って立ち上がると鼻血を出してまた倒れた。

うう・・・恥ずかしいしベタベタするし結構痛いし・・・・はやくあいつを倒さなきゃ!

しかし辺りに怪人が居ない。

飛んできたタピオカに気を取られていたせいで見失ってしまったようだ。

すると

「後ろだ!」

佐江さんのその声で後ろに振り向くが体にへばりついたネバネバとタピオカのせいでうまく身動きが取れない。

「ワシの力は室内では分が悪いのでなぁ・・・場所を変えさせてもらうッ!ゲルゥ!!」

怪人が口を開け、勢いよく舌が飛び出してきて僕にべったりと張り付き、僕をぐるぐる巻きにした。

「んぐぅっ・・・!?またこれ・・・・・!?」

まさか怪人じゃら二回連続でべっとりした舌を巻き付けられるとは思わなかった。

「チョメレオンのような破廉恥な戦い方は好かぬが外に出るまで我慢してもらうぞ!ゲルルルォ!!」

そう叫ぶと怪人はすごい勢いで飛び上がり天井を突き破った。

もちろん舌で捕まっている僕もそれに引っ張られて飛び上がる。

そして怪人と屋上へ飛び出すと僕を思い切り屋上の床へ叩きつけた。

「ぐはっ・・・・!」

「ゲルルゥ・・・ここならワシも最大限力を生かして戦える・・・・行くぞ!!」

怪人がこちらに向かってくる。

「くっ・・・まだまだ・・・!!」

僕も体制を立て直して魔じかる☆すまっしゃーを構えた。

すると怪人は雄叫びを上げてパンチを放ってきた。

すんでのところで回避することができたが後ろにあった貯水タンクにはぽっかりと穴が空き、水が吹き出してきた。

その大穴があのパンチを食らってしまったらタダでは済まない事を物語っている。

「ゲルルルルルルゥ!避けたか・・・しかしそれが運の尽きだ!」

怪人は水を浴びると身体の光沢が増し、さらに俊敏になりこちらに再び向かってくる。

避けてるだけじゃだめだ・・・こっちも攻撃しなきゃ!

「でぇい!!」

僕は魔じかる☆すまっしゃーを怪人に叩きつけるがしっかり命中したはずなのに魔じかる☆すまっしゃーはダメージを与えることなくするりと怪人の身体を滑っていった。

「なんで・・!?えいっ!このっ!」

僕はそのまま攻撃を続けるが肌の弾力で弾かれたり滑ったりで全くダメージを与えられない。

「ゲルルゥ・・・!無駄だ。今のワシは水を得た魚・・・いや水を得たカエル・・・!この湿り気こそがワシ最大の鎧となったのだ!今のワシに貴様程度の生ぬるい物理攻撃など効かぬ!今度はワシの番じゃぁ!!」

怪人が僕のみぞおちにパンチを見舞ってくる

ガードが間に合わずモロに食らってしまい僕は吹き飛ばされてしまった。

「がっ・・・・はぁっ・・・・!!!」

凄まじい痛みが身体を駆け巡り、さっきの貯水タンクに叩きつけられた。

い・・・痛い・・・・ヒーローっていつもこんな痛みと隣合わせで戦ってたの・・・?

見ていて痛そうだと思うことは何度もあったけど自ら体験してみると今まで自分が思っていた痛みなんて生ぬるいものだということを痛感させられる

「ゲルルゥ・・・おっと、お嬢さん相手にやりすぎてしまったかな。しかしバッドネス㈱の理想を邪魔するやつは例え女子供でも容赦せん!殺しはしないが二度と戦えぬよう恐怖を植え付けてやる!!ゲルルルルルルゥ!!」

怪人が僕にとどめを刺そうとこちらに向かってくる。

だ・・・・だめだ・・・このままじゃ僕・・・・

恐怖で手足がガタガタと震える。

それに痛みで思うように力も入らない・・・

でもまたあのパンチを食らったらタダじゃすまない・・・・!

なんとかしなきゃ・・・・

なんとか・・・・

考えろ

考えるんだ僕・・・・!

湿り気・・・?

そうだ!

一か八かあの手しか無い!!

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

僕は思いっきり怪人めがけて魔じかる☆すまっしゃーを投げつけた。

しかし怪人はそれを軽々飛び越えて回避し、魔じかる☆すまっしゃーは空を切った。

「ふんっ!血迷ったか!そんな判断力の鈍った等的などカエルとカンガルーの跳躍能力を兼ね備えたワシに当たるものかよ!!これでトドメじゃぁぁ!!」

そして怪人のパンチが当たる寸前、僕は感覚を最大限に研ぎ澄ませ、怪人に向けて手をかざして叫んだ。

「魔じかる☆すまっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

すると怪人に避けられてそのまま屋上から地面めがけて自由落下していた魔じかる☆すまっしゃーは突然起動を変え、凄まじい勢いでこちらに飛んできて怪人の後頭部に命中した。

しかし効いている様子はなく、そのまま怪人の後頭部をバウンドしてこちらの手元に戻ってきた。

「ゲルッ?無駄な虚仮威しを!無駄だと言っただろうが!」

ダメージは与えられなかったものの怪人の気を引くことには成功したようだ。

怪人の動きが一瞬止まった。

「確かに今のお前には物理攻撃ではダメージは与えられないかもしれない!それならこれでどうだ!行け!風速出力最大だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

僕は魔じかる☆すまっしゃーのボタンを押し、温風の出力を100にして怪人に向けて放った。

「ゲルルルルルルルルゥ!!!熱い・・・!か、身体が・・・・身体が乾くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

その温風は当たりの水気を凄まじい勢いで蒸発させていく。

それを浴びた怪人の身体も例外ではなく体を覆っていた湿り気や光沢がどんどん薄れていった。

「ゲルッ・・・お前・・・これを狙って・・・」

怪人はその場で膝をついた。

倒すなら今しかない!

「くらえ!!魔じかる☆だぁぁぁぁぁぁぁいなみっくぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

「ゲルッ・・・・身体が重くてよ・・・避けられないっ・・・!」

僕は動けなくなった怪人の頭部めがけ思いっきり!魔じかる☆すまっしゃーを振り下ろした。

「ゲルゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!」

怪人の断末魔が辺りにこだまする。

「よし・・・やった・・・!勝ったぞ!!」

僕は完全に勝利を確信した。

しかし倒れていた怪人はよろりと立ち上がる

「な・・・なんで!?変身機能は破壊したはずなのに・・・・!」

彼の人間からかけ離れていた姿はどんどん人間へと近づいていき遂に正体を表す。

その正体はさっきタピ岡の前で話しかけてきた初老の男性だった。

「あ、あなたは・・・・どうして・・・・」

「そういうあんたはやはりあの時博士と一緒に居たお嬢さんか・・・声が似とったからまさかとは思ったが」

「どうして?どうして街を綺麗にしたいって言ってたあなたがバッドネス㈱なんかに・・・」

「そのとおりワシは街を綺麗にしたかっただけだ・・・・しかしどれだけ街を綺麗にしても街は汚れていく一方。いつしかワシは憎悪に駆られた。そして最近はタピオカが流行りだし更にゴミが街中に溢れたんじゃ・・・街を汚す輩をワシは許してはおけんかった・・・それに若者がワシらの苦労も知らずにはしゃいでおる姿が妬ましかったんじゃ・・・」

「だ・・・だからって・・・」

「ふんっ・・・お嬢さんみたいな若いもんにはわからんじゃろう・・・これが老人の勝手な意地と嫉妬の矛先じゃ・・・・!しかしそれも今終わった!お嬢さん!あなたの勝ちじゃ・・・・ゲルッ・・・ゲェルゲルゲルゲル!!!」

彼は怪人のときのような声を上げて高笑いをすると力尽きたようにその場に倒れた。

「街を綺麗にしたいって思いから悪の組織に入るなんて・・・・」

僕はお爺さんを悪の道に進めた原因が正義に満ちた正しい考えだったような気がして勝ったはずなのに晴れやかな気分にはなれなかった。

それにあれだけの跳躍力と煙幕さえ使えば僕を一方的に攻撃することだってできたはずなのにそれさえせずに真っ向勝負で挑んできたあの怪人を僕は悪いやつだとは思えなかった。

 

「そうだ佐江さん!」

早く助け出さないと戦闘員たちに佐江さんを連れて行かれてしまうかもしれない。

僕は急いで屋上に空いた大穴に飛び込み、佐江さんを救出に向かうとさっき倒したはずの戦闘員達はばったりと姿を消していた。

「佐江さん!怪我はない?」

「ああ・・・なんとかな」

「佐江さん?ここにいた戦闘員たちは?」

「ああ、あいつらか」

佐江さんが言うには僕たちが戦っている間にみんな逃げていったらしい。

きっとあのお爺さんはこの時間を稼ぐために僕に真っ向勝負を挑んできたんだろう。

それからもぬけの殻になったその工場に残されたメモによればあの怪人が作ったタピオカが混入したタピオカが残されたままポイ捨てされた場合のみ起爆する仕組みで、タピオカの爆破騒ぎを起こすことでタピオカのポイ捨て、もしくはタピオカの販売自体を街の条例で禁止する事が目的だったらしい。

「全く・・・相変わらず意味もないしょうもない作戦ばかり立てる・・・」

佐江さんはそんなメモを見て心底呆れたような顔をしていたが、あのお爺さんをこの計画に駆り立てたのは他でもないポイ捨てをしていた人たちだ。

それにあれだけ爆破騒ぎが起きてしまったということはそれだけ飲まれずにタピオカが捨てられているという事実を突きつけられているということだった。

今回の事件の本当の悪はバッドネス㈱ではなく、そういった事を行って善良なお爺さんを怒らせてしまった人々なんじゃないかと思ったが僕にはどうすることもできなかった。

それに悪の秘密結社を名乗っている以上その元で行われる行為が正しいわけがない。

なら僕があのお爺さんを倒したことも間違いじゃないはず・・・・

僕はそうだと自分に言い聞かせるしかなかった。

「ねえ佐江さん」

「あの掃除のおじさんが怪人だって知ってたならなんで教えてくれなかったの?」

「は?」

佐江さんは首を傾げる

「だからさ!あの買いに行ったら閉まってたタピオカ屋さんで話しかけてきたあのお爺さんが怪人だったんだって!改造したのは佐江さんなんだし知ってたでしょ?」

「ああいや・・・・そうだったのか・・・怪人とその被験体になった人間の名前は覚えているんだが顔は覚えるの苦手なんだ私は・・・」

「なんだよそれー!!そういえばあの怪人・・・男の人だよね?なんで男の怪人なのに袋があったりカエルの卵っぽいものがだせたりしたの?」

「ああそんな事か?別に怪人なのだから被検体が男だろうが女だろうがその動物の雄と雌どちらの特性を持っていようが関係のないことだ。君だって男の怪人だが女性的な特徴を持っているだろう?それと同じだ」

「僕を怪人呼ばわりしないでよ!!」

「なにも間違っちゃいないだろうに・・・ま、君がそう言うならこれからは控えるとしよう。それより腹が減った・・・早く帰るぞ」

「う、うん・・」

「あっ、そうだ。車にベタベタが着くのが嫌だから君はトランクな」

「そんなぁ〜!」

 

 そして僕たちは佐江さんの車で予定よりずっと遅く家に戻り、真っ先にシャワーを浴びることにした。

衣装についたタピオカは変身解除をしたら綺麗さっぱり取れたけど髪と体にべっとりひっついた分はそうもいかなかったからだ。

「う〜これ・・・取れないなぁ」

タピオカは体にへばりついていて取るのに苦労した。

こんなのが道端でこぼれたりしてアスファルトにでもこびりつこうものならそれはそれは面倒なことになるということは簡単に想像できる。

なんとかタピオカを取りきった僕は湯船に浸かった。

そして風呂から上がって早速魔じかる☆すまっしゃーのドライヤー機能で髪を乾かして簡単にとくと本当にすぐに綺麗でサラサラした髪にもどった。

 

それから部屋を出ると佐江さんがムッとした表情でこちらを睨みつけてくる

「風呂入る時間長すぎだろ女子か!?」

「違うよ!!タピオカが結構取れなかったんだよ!!」

「はぁ・・・もういい腹減った・・・飯、作ってくれるんだろう?」

「うん!朝ごはんのつもりが夜ご飯になっちゃったけどね」

僕は買ってきた材料を使ってカレーライスを作ってあげた。

これなら作り置きが効くしいつでも温めれば食べられる。

問題は佐江さんの口にあうかどうかだけど・・・

「佐江さん・・・どうかな・・・・?」

「うん・・・まあバッドネス㈱の社食ほどじゃないがなかなかうまいな・・・」

そこまで言われるとバッドネス㈱の社食がすごく気になってきたぞ・・・?

「それにしても君がここまで料理上手だとは意外だな」

「以外とは失礼な!これでも僕毎朝家族全員分の朝ごはんにお弁当・・・それに夕飯だって週に2~3回は作ってたんだ」

「ほーう・・・それだけの女子力があれば今朝言った男にモテるかもしれないというのもあながち間違いではなさそうだな・・・どうだ?今からでもその不完全な所も改造して完全な女になるというのは?君ならきっと良い花嫁になれるぞ!」

「絶対イヤだ!」

「まあまあそう言わずに・・・サービスだ!安くしといてやるから!」

「絶対イヤだー!!!!」

僕を追いかけ回してきた佐江さんの顔はなんだか嬉しそうだった。

これ以上改造されるのはゴメンだけど佐江さんが嬉しそうにしてくれたらなんだか僕も少し嬉しくなった気がした。

 

そして次の日・・・・

朝っぱらから僕は佐江さんに起こされていた。

そして佐江さんが得意気に見せびらかしてきたものが・・・

「なあ君!タピオカ自動生成マシーンを作ったんだが・・・・!」

「いやー!!タピオカはもうこりごりだよぉ〜」

「やれやれ・・・なんだこの古典的なオチは・・・」

佐江さんに山盛りのタピオカを見せられたぼくの悲鳴が部屋に響き渡った。

やっぱりこの生活に慣れるのはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 有希が佐江のタピオカ生成器でトラウマを刺激されていた頃、バッドネスのアジトでは・・・

「キョー!報告します!タピオカ秘密工場が例の魔法少女と裏切り者の尼尽博士によって壊滅させられたようです!」

戦闘員がその部屋に置かれているレリーフに話しかけるとレリーフにはめ込まれていた石が輝き出し

「ほう・・・あのカンガエルーを倒すとはなかなかやるではないか・・・被害状況は?」

首領の威厳のある声が聞こえてきた。

「工場が一つ使用不可能にされタピオカ産業が続けられなくなりました!」

「そんな事はどうでも良い!人的被害が有るかどうかと聞いているのだ!」

戦闘員の報告に対して首領は声を荒げる

「は、はいすみません!人的被害は・・・・カンガエルーが工場の屋上で変身機能を破壊されていた以外は一部けが人は居るものの全員無事です!」

「ほう・・・カンガエルーがやってくれたのか・・・彼もチョメレオンのように始末しておけ。もう二度と悪の秘密結社などには入らないようにな・・・もう下がっていいぞ。ごくろうだった。」

戦闘員の報告を聞き、首領は安心したような口調でそう言った。

「キョー!かしこまりました!」

 

「しかしフジュンヒルデは一体どこへ消えたのだ・・・・それに佐江と行動を共にしているという魔法少女は一体・・・」

誰も居ない部屋で首領は一人呟き、レリーフにはめ込まれた石がの光がゆっくりと暗くなっていった。




続きは未定です。
だって魔法少女の名前が思い浮かばないから


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第三話 敗北!魔法少女?

 薄暗く不気味な部屋に薄明かりが灯り高笑いが響く。

その笑い声の主こそ悪の秘密結社バッドネス㈱の首領

ドン・サイーグその人である。

彼の姿を見たものはおらず、壁にかけられたバッドネスの紋章が掘られたレリーフが輝きその声だけがいつも響き渡るのだ。

「フハハハハハ!次の作戦を実行に移すぞ!来いサーマルキャットよ!」

サイーグが高らかに名前を呼ぶと闇の中から猫のような姿をした怪人が姿を現す。

怪人は姿を表すや否や壁にかけられたレリーフの前で跪いた。

「お呼びですか首領」

「ああ。次の作戦は貴様に任せようと考えている。やってくれるな?」

「はい。もちろんです。首領の期待に添えられるよう尽力します。それに騒ぎを起こせば噂の魔法少女も必ず現れるでしょう。私のこの爪で必ずや仕留めてみせます。」

サーマルキャットと呼ばれた怪人は得意気に爪を光らせる。

「貴様がそう言うのならば心強い。しかしここ数日だけでも怪人が何人も命を落としている。運良く生き残った者たちは口々に魔法少女を見たとは言っているが・・・最後は計画よりも自らの安全を第一に考えるのだぞ」

「はっ!ワラスボーグ、バーククジラの仇は必ずやこの私が・・・」

「よし!行けサーマルキャット!貴様の爪と能力でこの町を混沌に陥れるのだ!」

サイーグの言葉を聞き怪人は勇ましく部屋を飛び出していった。

サイーグとサーマルキャット恐るべき計画とは一体何なのか?

そして有希は怪人を殺めてしまったのだろうか?

 

 

それと同じ頃・・・有希はというと

 

 

 

 僕がこの身体になってから一週間が経ち、未だに元に戻れる兆しも無いし何体か怪人と戦ったりもしたけど慣れと言うものは怖いものでそんな生活にも慣れ始めていた。

僕はけだるげに身体を起こすと朝一番に髪を整え服を着替える。

着替えると言っても佐江さんが用意してくれている服はただのTシャツと半ズボンで、お洒落に無頓着な僕ははじめのうちはそれでも良いやと思っていたけどこれがけっこう大変だ。

乳首は浮いちゃうし歩くたびに胸が擦れて痛いし・・・

それになんだか逆に街でも目立ってるような気がして改造人間になって感覚が強化されているからなのか人の視線がちくちくと刺さるように感じるようになってきた。

女物の服とかブラジャーとか買わなくちゃいけないのかな・・・

僕は胸元にずっしりと垂れ下がる大きな膨らみをまじまじと見つめた。

第一僕は男だ。

いくら外見が美少女になったからといっても正直そんな女性ものの下着や服なんて恥ずかしくて着たくもない。

ただでさえあんなフリフリで可愛らしい服を着て怪人と戦うのですらそうしないとどうしようもないから仕方なくであってすごく恥ずかしい。

幸か不幸か今まで戦った場所が人気のない河川敷や廃工場ばかりで人目にはついていないのが唯一の救いだ。

それにしたって怪人や戦闘員の舐め回すような視線を向けられている事にはかわりないし・・・

少なくとも変身していない状態でそんな視線を受けるなんてまっぴらごめんだ。

それならこんなTシャツなんかより地味な女物の服のほうが逆に目立たないかもしれない。

佐江さんに相談してみよう。

あ、そうだ。

早く朝ごはんを作ってあげなくちゃ

 

僕は部屋を出てリビング(って言って良いのかな?完全に秘密基地っぽい内装なんだけど家具と家電が置いてあって雰囲気ぶち壊しなんだよね)にある冷蔵庫から買いだめしていた材料を取り出し鼻歌まじりで朝食を作り始めた。

毎朝能登●美子みたいな声で鼻歌を歌っているとなんだか耳が幸せだし調子が良くなってくる気がするしこの声になったのも悪くないんじゃないかって思える自分がいる。

「よしっ!今日もいい出来」

今日の朝食は味噌汁と鮭の塩焼きだ。

いつも朝食どころかまともな食事をとっていなかった佐江さんを見ていたら放っておけないしこうやって朝食を作ることが僕の日課になっていた。

そして配膳を済ませしばらく佐江さんの部屋の扉を待ち遠しく眺めているとゆっくりと扉が開き佐江さんがのそのそこちらにやってくる

「ふわぁ・・・・毎度朝からご苦労なことだ。こんな匂いを嗅がされたら寝るに寝れないじゃないか全く・・・余程暇なんだな」

佐江さんが眠そうに目を擦りながら皮肉交じりな事を言うのも毎朝のことだ。

「はいはいおはよう佐江さん。冷めないうちに食べてね」

「ああわかったよ・・・君がどうしても食えというのならそうしてやろう」

佐江さんはそう言って味噌汁を一口啜った。

「どうかな・・・?昨日は味が薄いって言ってたからちょっと濃い目にしてみたんだけど」

「ん・・・?ああ。うま・・・・いやまあ昨日よりはマシと言ったところかな・・・・残飯が残るとゴミ出しが面倒だからなおかわりをもらってやる」

佐江さんは基本褒めてはくれない。

でも身体は正直で僕の出した料理を美味しそうに食べてくれる。

どうやら彼女は僕にそれを気取られていないと思い込んでるみたいだけれど誰が見てもわかると思うな。

そんな佐江さんの食べっぷりを見ていると作り甲斐があってこうして毎朝やることもないので僕は朝食を作ることにしている。

「何をニヤニヤしているんだ気持ち悪い・・・米が入っていないんだが?」

「ううん!なんでも無いよご飯のおかわりだよね?」

どうやら僕も佐江さんの食べっぷりを見て嬉しさからか笑みがこぼれていたようだ。

僕はそんな笑みをごまかすように佐江さんの茶碗にご飯をよそう。

 

そして朝食を一通り済ますと

「なあ君」

「ん?どうしたの佐江さん?」

「何故君はそんなに料理をするようになったんだ?」

「あれ?言ってなかったっけ?僕の家は父さんも母さんも共働きで忙しかったからいつの間にか自分で作るようになったんだよね。それで初めて母さんたちに料理を作ってあげたときに美味しいって言ってもらえたのが嬉しくって・・・それが癖になっちゃったのかな?それから日課になったんだ・・・父さんたちちゃんとご飯食べてるかな・・・」

そんな話題のさなか両親のことが過る。

できることなら今すぐにでも家に帰ってまた料理を作ってあげたいが僕は死んだことにされてるみたいだしこんな姿じゃ僕を家にすら入れてくれないだろう。

「うう・・・早く元の身体に戻りたい・・・」

「なんだ君はニヤニヤしたり半泣きになったり忙しい奴だな」

「仕方ないでしょ?一週間ちょっと前まで僕ただの男子高校生だったんだよ!?それが今はなにこれ?声も能登麻●子だしおっぱいは付いてるのに下は男のままだし・・そりゃ今すぐにでも元に戻りたいよ・・・ああ・・・めんどくさいと思ってた学校生活も今では恋しいよ・・・」

「君の感傷に付き合うのも面倒だが今君を元に戻すわけにはいかない。戻りたければさっさとバッドネス㈱を壊滅させることだな」

「うう・・・そうだよね・・・この街でバッドネス㈱の野望を阻止できるのは僕だけなんだ・・・でも壊滅させられたら本当に戻してよね?」

「ああわかったわかった・・・ふわぁ・・・飯を食ったら眠くなってきた。私はそろそろ寝るぞ」

「そろそろってまた徹夜してたの?ダメだよちゃんと寝なきゃ!」

「ああもううるさいな!君は私の母親か?私の生活に指図する権利など君にはないんだからな!!」

佐江さんはそう吐き捨て自室に戻ろうとする

ここで部屋に佐江さんが戻ってしまえば服の相談もできなくなる。

「あっ、ちょっとまって」

僕は部屋に戻ろうとする佐江さんを呼び止めた。

すると佐江さんはすごくめんどくさそうにこちらを振り向いた。

「なんだまだお説教か?私は寝ると言ったら寝るし夜は絶対に寝ないからな!!」

「いやそうじゃないんだけど・・・」

「じゃあなんだ!私は忙しいんだぞ?」

今寝るって言ったところじゃん・・・

「あ、あの・・・・着替えがこのTシャツだけだとちょっと外出たときとか恥ずかしいかなーなんて・・・僕もこんな身体になったわけだしTシャツじゃなくて女の子の服とかも持ってたほうが良いと思うんだけど・・・」

「はぁ!?なんだそれは色気づいたのか!?さっきまで元の身体に戻せとかなんとか言っておきながら・・・・あるいはもともと女装癖でもあったか?まあなんだ・・・他人の趣味に口出しする程他人に興味は無いんだが」

「違うよ!Tシャツ一枚だとあの・・・・乳首も透けちゃうし擦れちゃうしやっぱりその・・・・恥ずかしいというか」

「はぁ・・・やはりそんな非効率な肉塊をつけるべきではなかったな・・・全く男というのは凹凸のないフラットな身体こそ最も効率的で洗練されたデザインだと何故わからないんだろうか・・・しかたない。君をそんな非効率でめんどくさい身体に仕上げてしまったのはバッドネス㈱の意向とはいえ私の責任だ。製作者としてそのくらいの責任はとってやらなければな。ほら。これで適当に買い物でもしてくるが良い。そろそろ食材のストックも切れる頃だしそれのついでにな」

そういうと佐江さんは白衣のポケットから封筒を取り出した

「あ、ありがとう」

「それじゃあもう無いな次こそ寝るぞ?絶対起こすなよ?」

「佐江さんごめん!もう一つだけ質問・・・!」

「なんだ!?どうでもいい質問だったら君のそのぶら下がってる肉塊のサイズを二倍にしてやるぞ?」

こ、これ以上大きくされちゃったら僕どうなっちゃうんだろう・・・・

僕はそんな恐怖と好奇心が入り混じった感情を押し殺し佐江さんに質問を投げかけた

「あの・・・・僕の顔ってバッドネス㈱の人たちにバレてるよね?少なくとも首領とかあの場にいた戦闘員とかに・・・」

「ああ。そうだな」

「それなのに変装もしないで出歩いて大丈夫なの?これまで何も考えてなかったんだけどよくよく考えたらそれってマズイんじゃ・・・」

「何だそんなことか。この私が何も対策をしていないとでも?」

「えっ、それじゃあ・・・」

「ああ。君のメガネに少し細工をさせてもらった。そのメガネに認識を阻害する装置を組み込んでおいたんだ。だからそのメガネさえかけていれば君が天村有希だと奴らに気取られることはない。と言ってもメガネを外した状態を見られたり女幹部の姿に変身したところを見られてしまった相手には効力がなくなってしまうから気をつけるんだな。」

そ、そうだったんだ・・・・

唯一今手元にある改造される前から大事に使っていたメガネだと思ったらお前も僕同様知らないうちに改造されてたなんて・・・・

「う、うん・・・あれ?でも魔法少女の姿になったときってメガネ外れてるよね?」

「ああ。あの姿の時は衣装に認識阻害装置を組み込んである。君のあの姿を見た者は君を魔法少女だと何の疑いもなく認識する仕組みになっているんだ。もちろん君の今の姿とは別人だと認識するおまけ付きだ」

「え、ええ・・・・なにそのご都合主義すぎる便利機能・・・」

「そっちのほうが都合がいいだろう?ただでさえ顔丸出しで戦うことになるんだ。変身する前の状態で不意を突かれると面倒だからな。ただ変身前の姿を別人と認識する認識阻害は変身するところを見られたらこちらも効力がなくなってしまう。怪人に正体がバレるのは致し方ないとしてもあまり不特定多数の人間に見られた状態で変身するのは避けるのが得策だろうな。」

「うん。わかったよありがとう」

「もう気が済んだか?それじゃあ今度こそ寝るからな」

「うん。おやすみ佐江さん」

僕のその言葉に佐江さんは返事もなくの部屋へ戻っていった。

そして一人ぽつんと残された僕は朝食の後片付けをさっさと済ませる。

「ふぅ・・・おっぱいのせいかな・・・すごく肩が重い」

僕はここ最近今までにないほどの肩こりに苛まれていた。

力を完全にセーブした状態だからなのかもしれないけど改造人間でも肩ってこるんだな・・・

佐江さん曰く今の姿の状態では改造される前の僕と身体能力はさほど変わりないらしいけどこの大きな胸が行動の邪魔をする分改造される前より不便で疲れやすくなってる気がする。

それを佐江さんに相談すると魔じかる☆すまっしゃーにバイブレーション機能を付けてくれた。

この機能も100段階に出力が調整可能でバールのようなものの曲がっている部分を肩に引っ掛けてスイッチを押すとちょうどいい感じに調整した振動が肩のこりをほぐしてくれる

「はぁ・・・・♡電動マッサージ器ってこんなに気持ちよかったんだ〜」

なんだか変な声が漏れてしまうくらいに肩のこりがほぐされて気持ちがよくて僕はその振動が癖になりつつあった。

一通り肩や首元のマッサージを終え、せっかくお金も貰ったんだし早く買い物を済ませちゃおう。

そう言えば結構分厚いけど佐江さん一体いくらくれたんだろ・・・?

封筒の中身を確認してみると一万円札が10枚ひょっこりと顔をのぞかせた。

「じゅ・・・10万円!?こんなにポケットに入れてたのあの人!?」

高校生でアルバイトもしていなかった僕にはその額は大金だった。

これだけあればDXのおもちゃとかプレ●ン限定のフィギュアー●とかいっぱい買える・・・

ってちがうちがう。

これはあくまで佐江さんが服代と食費でくれた分だから・・・

でも服で10万円も使わないよね・・・?

ちょっとケチって何か買っても・・・

心のなかに邪な感情が生まれ、居ても立っても居られなくなった僕は急いで町に向かう。

と言っても町の中心街まで歩いていくには些か長い距離だ。

僕は地下室から飛び出すと

「魔じからいずっ☆」

慣れとは恐ろしいもので軽く決めポーズを取ったりしながら僕は魔法少女の姿に変身した。

この姿になると肩のこりや倦怠感が一気に吹き飛ぶし身体に力がみなぎってくる。

これでこそ改造人間たりうる証拠なのかもしれない。

僕は足に力を込めて軽くジャンプをしたり走ったりして人目のつかない屋根や塀を高速で移動しながら町へと向かった。

そして人通りの少ない路地裏で元の姿に戻り中心街へと繰り出す。

さすがにあの格好で人通りの多い町中に出るのは恥ずかしいからね。

 

そして女性向けの服屋が立ち並ぶ場所に足を踏み入れると辺りには当たり前だけどおしゃれな女の人や今どきの女の子が闊歩している。

本当に僕がこんなところに居ても良いのか不安になるしすごく視線も気になる。

なんだかあのコかわいいのに服だっさ〜いチョーウケる〜みたいな視線を露骨に感じるからだ。

僕はそんな視線に耐えかね逃げるように服屋に駆け込むと眼前には大量のブラジャーが広がっていた。

どうやらランジェリーショップに入っちゃったみたいだ。

どどどどどうしよう・・・僕が足を踏み入れていい場所じゃないよ

「あ、あの・・・なにかお探しでしょうか?」

露骨に挙動不審になってしまっていたのか店員さんが恐る恐る声をかけてきた

「へぇっ!?あ・・・えーっと・・・その・・・・ぶらじゃー・・・持って・・・無くて・・・こういうとこ初めてで・・・・何着か欲しくなって・・・・あっでも欲しいって言っても別に変な意味じゃなくて」

「そ、そうですか・・・」

店員さんは少し引き気味にそう言った。

やっぱり挙動不審だったかな・・・

「お客様?カップ数はおわかりですか?」

「へっ!?か・・・かっぷ・・・?わ、わかりません・・・ごめんなさい・・・図ったことなくて・・・」

そんな胸のサイズなんて図ったこと無いよ!

すると店員さんがメジャーを持ってきてくれた。

「それでは図らせていただいてよろしいですか?」

「は、はい・・・お願いします・・・」

店員さんは僕の胸にメジャーを巻きつけてきて乳首にメジャーが擦れる

「んっ・・・・!」

なんか凄く恥ずかしい・・・でも我慢しなきゃ

「えートップが99cm・・・・アンダーが72cmなのでHカップですね」

Hカップ!?大きいとは思ってたけどそんなに大きかったの!?あと1cmで1メートルじゃん!!

「そ、そうですか・・・」

僕は小さな声でそう言うしかなかった。

そして店員さんはHカップのブラジャーを何種類か持ってきてくれた。

「あ、あの・・・・ぼ・・・私、ブラジャーの付け方もわからなくて・・・」

「本当に今までノーブラでお過ごしになられていたんですか!?」

「・・・はい」

だって一週間前までこんなブラジャーなんかとは無縁な生活をしてたんですから!

僕が男だって言ったらつまみ出されるかな・・・

「それでは付け方を教えて差し上げますので試着室までお越しください」

僕は店員さんに連れられ試着室で下着を付けるレクチャーを受けた。

今まで歩くたびに揺れる胸がすっぽりと収まりなんだか心地が良い

「うわぁ・・・・」

こんな大きなのが今の僕に付いてるんだ・・・

改めてそんな事実を突きつけられると胸が鼓動を早めて行く

「と、とりあえずこれとこれください・・・」

僕はひとまずいまつけてもらったものと着替え用に数着ブラジャー・・・それに女性もののショーツを買った。

そしてランジェリーショップを後にして近くにあった服屋に入ってみると

「いらっしゃいませ〜どうぞごらんくださ〜い!なにかお探しな感じですかぁ?」

足を踏み入れるや否や店員さんが距離を詰めて僕に話しかけてくる。

僕こういうのすごく苦手なんだけどなぁ・・・

「あっ、あっ、えっと・・・あの・・・・」

急に話しかけられたらこうもなるよ!

だって僕コミュ障だし男なんだよ!?

「言わなくてもわかりますよぉ〜?お洋服お探しなんですよねぇ〜?おねーさんすっごく綺麗なのにお洋服そんなんじゃもったいないですぅ〜これなんかどうですかぁ?今年のトレンドなんですけどぉ〜」

僕が喋らなくとも店員さんは延々と服を持ってきては馴れ馴れしく説明をしてきたけど全然頭に入ってこないし話すタイミングもわからない。

そして一通り話が終わると

「で、どれにいたしますかぁ?試着してみちゃいますぅ〜?」

店員さんはそう切り出してきた。

「は、はい・・・・」

僕はひとまず持ってきて貰った服を適当に選んで逃げるように試着室へ駆け込んだ

「ふぅ・・・やっぱり狭いところって落ち着くなぁ・・・」

やっぱり僕にはこういう場所がお似合いなんだろうな。

しかし僕しか居ないはずの試着室に誰の視線を感じ、そこには髪の長い胸の大きな女の子が立っていた。

「ごっ、ごめんなさい!覗きとかじゃないんです!!!」

僕が反射的に頭を下げると相手も同じ様に頭を下げてきた。

あっ、これ鏡だ・・・

未だに気を抜いていると自分の姿を自分のものと認識できない時がある。

「これが・・・今の僕なんだよね・・・?」

鏡に写った一見すると巨乳の美少女が紛れもなく今の僕の姿なのだ。

やっぱり急にこんな姿になっちゃったら誰だってこうもなるよね・・・?

僕はそそくさと持ってきた服をしどろもどろに身に着けてみる。

だって女物の服の着かたなんて知らないし・・・

「・・・あれ?こうであってるよね?・・・うう・・・やっぱりスカートって落ち着かないなぁ」

そしてなんとか服を着終えて鏡を見るとやはり美少女がこちらを見つめている。

「・・・なんか訳もわからないまま着ちゃったけど・・・今の僕やっぱり可愛い?」

鏡に向けてにっこりと笑ってみると当たり前だけど鏡の中の僕もにっこりと笑う。

試しにあざといポーズを試してみると本当に目の前の美少女も同じポーズをしている。

(はぁっ・・・これが今の僕なんだ!すっごく似合ってて可愛い!)

まさか服を着替えただけでこんなに変わるとは思わなかったしお洒落も悪くないなって思えた。

やっぱり可愛いって楽しいかもしれない・・・肩こるけど

「すいませーん!これくださーい!!」

僕は意気揚々と試着室を飛び出し着ている服一式を買った。

結構驚く額だったけどまだ全然お金は残っている。

佐江さんが起きるまで時間あるしちょっと遊んで帰ろっと!

僕は柄にもなくスキップをして店を飛び出し町を歩くと男たちの視線を感じる。

ああっ・・・僕見られちゃってるんだ・・・

可愛いって思ってくれてるのかな?

それともこのおっぱい見られちゃってるのかな・・・?

そう考えると凄くドキドキする。

なんで見られてるだけでこんなにドキドキするんだろう?

僕なんだか変な趣味に目覚めちゃいそう・・・

視線を送ってきた僕と同い年くらいの男の子にニッコリ笑いかけてみたりして反応を見るのも凄く楽しい!

ああ・・・こんなにちやほやされるならこの姿も悪くないかも・・・

そんな事を思っていると

「待てー自転車ドロボー!!」

そんな声が聞こえてきた。

僕は半分野次馬の様にその声の方へ向かってみるとバッドネスの戦闘員が自転車を担いで走っていた

どうやら自転車を白昼堂々盗んでいるらしい

戦闘員の走ってきた方を見てみると猫のような怪人が爪で自転車の鍵やチェーンを切り裂いていた

「みゃっはっは!この辺り一帯の自転車はバッドネス㈱のモノだー!恨むなら駐輪禁止区域に自転車を止めたことを恨むのだー!!」

怪人は高笑いを浮かべながら流れ作業で自転車の鍵を破壊し戦闘員に運ばせている。

どうしよう・・・ここで飛び出して行ったら止めれるかもしれないけどこんな町の中であんな格好見られたら僕・・・・

でもこのままじゃ自転車がバッドネス㈱の手に渡ってしまう・・・

えーい!もうどうにでもなれ!!

僕は人の居ない物陰を探して急いでそこに向かうと

「魔じからいず・・・・っ!」

小声でそう口に出し魔法少女の姿に変身した。

そして戦闘員たちをなぎ倒しながら猫怪人の元へ走る

「なんだ!?全身タイツ集団の次はなんか魔法少女が出てきたぞ!?」

「何あれ痴女!?」

「胸デケェ!!」

道行く人々は僕の姿を見てそんな声を上げている

それだけでなくシャッター音も聞こえてくるから多分写真も撮られちゃってるんだと思う。

でも佐江さんの言葉を信じるなら正体はバレないはずだし今はあの怪人をなんとかしなくちゃ

「そこまで・・・よ!」

僕は怪人に声をかけた

「みゃー?貴様・・・何物だ!?」

怪人はギロリとこちらを睨みつけてくる

「ぼく・・・私は通りすがりの魔法少女!自転車ドロボーなんて許さない・・・わよ!」

「貴様が噂の魔法少女か。自分で自分のこと魔法少女って名乗る魔法少女なんて初めて見たぞ・・・それならば貴様がワラスボーグとバーククジラの仇!お前も二人の待つ地獄に送ってやるー!!」

怪人は目の色を変えてこちらにすごいスピードで飛びかかってきた。

「貴様があの二人を殺したんだな!そんな可愛いナリしてるくせに殺さなくたって良いじゃないか!」

怪人は怒りに任せて爪をこちらに向けてくる。

しかし僕はそんな怪人に合ったこともない。

それに僕は怪人を一人も手にかけて居ないはず・・・

「か、仇!?それにぼ・・・私そんな怪人しらないっ!それに怪人を殺してなんかない!」

僕は素早い怪人の攻撃を避けるしかなかったが怪人にそう伝えた。

「とぼけても無駄だ!生き残ったカンガエルーもXXレオンも魔法少女にやられたと言っていた。だから他の怪人もお前が殺したんだろ!」

「違っ!そんなことしてないっ!本当に知らないよ!」

だめだ。このままじゃ僕がやられてしまう。早く反撃しなきゃ・・・

「魔じかる☆すまっしゃー!!」

僕は高らかにそう叫ぶとどこからともなく魔じかる☆すまっしゃーが僕の手に収まるように飛んでくる

しかしそれが逆効果だったようで怪人は毛を逆立ててキバを剥く

「それが貴様の武器か・・・・そのバールのようなもので二人や戦闘員を殺したんだな・・・?」

怪人の怒りのボルテージを更に上げる結果になってしまった。

でも本当にそんな怪人も戦ったこともないどころか見たこともない。それに殺すなんてそんな事・・・・

そんな時ふと佐江さんの「能力が解放されてもキミはその力に耐えられなくなって自我を失うか最悪死ぬ」という言葉が過る

もしかして僕・・・知らないうちにあの姿になって怪人を殺しちゃってるんじゃ・・・!?

もしそうなら僕は・・・・やっぱりこの身体は凄く危険なんじゃ・・・

そんな事を考えると急に身体が震えだす。

だめだ・・・こんな状態じゃ戦えない・・・

僕は必死に怪人の攻撃から逃れてテナント募集と書かれた雑居ビルに逃げ込んだ。

幸い人はおらずここならなんとかやり過ごせるかもしれない。

「このサーマル様から逃げようなどと思っても無駄だ!」

追ってきた怪人から逃げるため僕は物陰で息を潜めた。

しかし

「そこか!」

気付いたときには怪人が目の前に居て僕のみぞおちに鋭いパンチが飛んできた

「ぐっ・・・・がはぁっ!!!」

僕は凄い勢いで壁にぶつかる。

なんで・・・!?僕には気配遮断の能力だってあるはずなのに・・・!

「その程度で隠れたつもりか?俺にはサーバルキャットの聴力そしてこのサーマルセンサーが付いている。温度と音その2つのレーダーが敵を確実に逃さないのだ。みゃーっはっはっは!我々の掟で貴様を殺しはできないが戦闘不能にしてアジトまで連れて行ってやろううみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

壁に打ち付けられた僕に向けて怪人が猛ダッシュで迫ってくる。

まずい。

あの一撃を次にモロに受けたらいくら今の身体でもタダじゃ済まない。

そう僕の研ぎ澄まされた感覚が叫んでいるような気がした。

この状況を打開するにはあの姿になるしか・・・

幸いここなら誰にも見られていないし・・・

でもあの姿になったら本当に怪人を殺してしまうかもしれない・・・

でも・・・このままじゃ僕は・・・・

僕は迫りくる怪人への恐怖から首元に手を伸ばし

「へ、変身っ!」

気付いたときにはそう叫んでいた。

するとチョーカーに付けられている石が禍々しく光り輝き身体を中からメリメリと作り変えられていくような感覚が全身に走る

「ぐっ・・・ああっ!!!あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

僕は悲鳴にも似た声を上げると身体にさっきまでの比じゃないほどの力がみなぎるのを感じ、着ていた服も可愛らしいものから露出度も高く悪趣味なものに変わっている事に気付いた。

この姿になるのはバッドネス㈱に改造された日以来のはずだけど・・・

これならあの怪人を倒せるはずだ。

僕にはそんな自信、そしてたかがこの程度の怪人ごときがこの僕にこれほどの深手を追わせた事に対する怒りがこみ上げてくる

「みゃ・・・き、貴様・・・その姿はまさか・・・」

怪人が変わった僕の姿を見るなり怖気づいたのか動きを止めた。

「ええ。そのまさかだよ。僕はバッドネス㈱に女幹部になるために改造されたんだもの。これが僕の本当の姿・・・フジュンヒルデ!」

僕はそう名乗った。

こんなダサい名前絶対に嫌だと思っていたけどなんだか凄く気持ちがいい。

「僕に楯突いた事を死んで後悔するといいよ」

僕は考えるより先に魔じかる☆すまっしゃーを振りかぶり怪人に向けて走り出す

「フンッ!所詮裏切り者の女幹部モドキに何ができる!この爪で引き裂いてやる」

怪人も虚勢を張ってこちらに向かってくるがさっきは避けるので精一杯だった怪人の動きが手に取る様にわかる。

すごい・・・これが僕の本当の力なんだ。

「うみゃっ!うみゃぁぁっ!!くそっ!何故攻撃が当たらないんだ!」

怪人の攻撃を僕はらくらく避けてみせるまるで手のひらの上でアリを転がしているようなそんな気分だ。

負ける気も当たる気もしない

「どうしたの?当てて見ても良いんだよ?フンッ!」

僕はそのスキを見て魔じかる☆すまっしゃーを怪人に叩き込んだ

「ぐえぇっ!!」

怪人は僕が打ち付けられていた壁の反対側の壁まで吹き飛び叩きつけられた

「あーっはっはっは!さっきまでの威勢は何処に行ったの?」

僕はそんな無様な怪人を見て高笑いが抑えられなかった。

そしてこの程度の怪人ごときが僕に一撃を食らわせた怒りが更にこみ上げる

「もう次で終わりにしてあげる!なんだか知らないけど他の怪人の所に送ってあげるわ!さあ・・・・死にたくないなら逃げれば?」

僕はもう一度魔じかる☆すまっしゃーを床に擦りながらゆっくり怪人に近づいた

「くっ・・・ここまでか・・・」

怪人が無念そうな表情を浮かべるのが愉快でたまらない。

僕の頬は自然に緩み気づけばニヤリと笑みを浮かべていた。

「それじゃあさよなら」

僕は怪人の目の前で思いっきり振りかぶり振り下ろす。

しかし振り下ろした先で感じた手応えは思った以上に固く

「・・・何?」

見ると槍のようなものが魔じかる☆すまっしゃーと怪人の間を遮っていた。

そして槍の先にはクトゥルフの様なイカのような顔をしている怪人が立っている。

「無様ですねサーマルキャット」

「ば、バッドナイト様・・・」

「行きなさい。ここは私が食い止めましょう」

そう言うとバッドナイトと呼ばれた怪人は槍を振り僕を突き放した

「バッドナイト様!この御恩は忘れません」

猫の怪人は身体を起こし逃げ去る。

あと少しだったのに僕のジャマをしたこいつは一体・・・

「誰か知らないけど良いところだったのにジャマしないでよ」

「フン、裏切り者の女幹部見習い風情がどの口を叩きますか。私はバッドネス㈱最高幹部バッドナイト。あなたごときに遅れは取りませんよ」

最高幹部!?

それならこいつを倒せばバッドネス㈱の戦力は相当削げるはず。

そうしたら僕が元の身体に戻れる日も・・・・

戻る?

なんで?

こんなに気持ちいいのになんで戻らなきゃいけないの?

それなら・・・・

「ふぅん・・・・あなたが最高幹部なんだ?それなら僕・・・いいえアタシがあなたを殺してバッドネス㈱の最高幹部になってあげる!」

アタシは目の前のいけ好かない最高幹部を名乗る怪人に魔じかる☆すまっしゃーを振り下ろす。

しかし持っていた槍はことごとくアタシの攻撃を弾きまったくダメージが入らない

「やはり経験が浅すぎます。その程度で私を倒そうなどと・・・良いでしょう。私の力の一端をお見せします。ナイトフォッグ!」

そう叫ぶとバッドナイトは口から煙幕で姿を潜めた。

「クソっ!生意気ね・・・・」

気配も全く探知できず身構えていると次の瞬間煙幕の中から無数の突きが襲いかかってくる。

アタシはそれを魔じかる☆すまっしゃーで防ぐのが精一杯だった。

「何?このアタシが防戦一方になるなんてっ!」

「ふんっ!やはりあなたはまだその程度!これでトドメです!バットライデント斬!」

突きの連打でガードが崩れた一瞬のスキにバッドナイトは槍でアタシに切りかかった。

幸いアタシは致命傷を追わずに済んだが斜めに大きな切り傷を追う

「きゃぁっ・・・・・!!や、やったわね・・・?このアタシに傷をつけるなんて・・・」

「ドン・サイーグ様の掟がなければ殺していたところだったが少し手加減をしすぎましたかね・・・まだそんな減らず口が叩けるとは」

煙幕の中からバッドナイトが現れる。

アタシに傷を負わせた生意気なイカ頭・・・

アタシの中から更に怒りがこみ上げる。

その怒りに呼応してチョーカーに付けられた石が更にどす黒く染まっていく

「アタシをここまで怒らせた事を後悔しなさい?もうアタシもどうなるかわかんないくらい身体の奥から力が溢れてくるの・・・もうどうなったって知らないわよ!!」

アタシは力に任せて魔じかる☆すまっしゃーをバッドナイトに向けて振り下ろす。

その衝撃で振動が走りガラガラと音を立てて雑居ビルが崩れる。

そして瓦礫まみれになったアタシは振り下ろした先を見るとバッドナイトは盾でアタシの攻撃を防いでいた。

「や、やりますね・・・さすがの私でもこのナイトシールドがなければ死んでいたところでしたよ・・・しかしっ!」

次の瞬間盾の隙間から槍が飛び出してきてアタシの喉元の石を貫いた

「ぐっ・・・あぁっ!!!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

アタシの身体から力が抜けていく。

ああ・・・だめ・・・もっと溺れていたいのに・・・・どんどん身体から溢れていた心地の良い力が抜け出していく・・・・・!

「力に溺れた戦い方は三流ですよ。あなたにバッドネスを任せるわけにはいかないようです。しかしこちらももう余力がありませんからここは撤退して差し上げます」

力が抜けていくにつれてアタシの意識もだんだんと薄れていく。

そんな薄れゆく意識の中

「最後にこれだけは忠告しておいて差し上げます。尼尽博士には気をつけることだ。あの博士は・・・・」

バッドナイトの言葉の途中でアタシ・・・僕の意識は完全に途切れた。

 

「・・・・ですか?大丈夫ですか?」

そんな声で僕は目を覚ます。

そして目の前には救急隊員が居て僕に声をかけていたようだ。

「あれ・・・?僕は一体・・・」

「無理に喋らなくても大丈夫です。無人の雑居ビルが突然崩落してそこにあなたは倒れていたんですよ?でもよかった・・・怪我も無いみたいで・・・立てますか?」

救急隊員の言葉に僕はハッとなる。

怪我がない・・・?

さっき思いっきりバッドナイトとかいう怪人に腹のあたりを切られたはずなのに・・・・

・・・・あれ・・・・?

僕は女幹部の姿になってからの出来事をはっきりと覚えていない。

ただ猫の怪人を追い詰めた時に凄く快楽を感じていたことだけははっきりと覚えていた。

僕・・・やっぱりあの姿になって力に溺れてたんだ・・・

それならもしかしてあの怪人が言ってた殺された怪人も僕が・・・

僕は知らないうちに誰かを殺めてしまったのかもしれないと思うと恐怖でその場には居られなかった。

僕は救急隊員の静止を振り切り逃げるようにその場を逃げ去った。

 

僕・・・やっぱりどれだけ力を抑えてても悪の女幹部にされちゃったんだ。

 

僕・・・やっぱり正義の味方になんてなれないんだ。

 

もう佐江さんの期待にも答えられないしこんな力じゃ町も守れないじゃないか・・・!

 

それなのに・・・それなのに魔法少女だなんて・・・正義の味方ごっこをしてたなんて・・・・

 

もう人間じゃない僕なんて・・・あんな破壊を楽しむ僕なんて居ないほうが良いんだ・・・・

 

ごめん佐江さん・・・僕・・・バッドネス㈱を倒せそうにないよ。

 

 

僕はあてもなく走った。

ただここじゃない何処か。

誰も傷つけない。

誰にも迷惑をかけない何処かを目指して。



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第四話 その名は魔じかる☆スノウ

薄暗く不気味なバッドネス㈱のアジト。

その象徴とも言えるエンブレムが彫られたレリーフの前で一人の怪人が跪いている。

かれはバッドネス㈱最高幹部バッドナイト。

コウモリとイカとオウムガイの力を併せ持つ上位怪人でその外見は夜道で出くわせば正気を失うチェックを受けなければならないような外見をしている。

「ドン・サイーグ様!バッドナイト戻りました!」

かれがそう言うとレリーフに光が灯り厳しい笑い声が部屋に響いた。

「どうしたバッドナイト。貴様ともあろうものが逃げ帰ってくるとはな」

「申し訳ありません首領。しかし逃げ出したフジュンヒルデのしっぽは掴みました。やはり例の魔法少女の正体は彼女・・・いえ彼だったようです。私としたことがこんな事に今まで気付かなかったとは・・・」

「そうか・・・尼尽博士のことだ。認識を阻害するジャミングでもかけていたのだろう。してバッドナイトよ。何故逃げ帰ってきたのだ?貴様ならば奴を連れ帰ることも容易だったはずだが?」

「・・・はい。しかし戦闘のさなか戦っていたビルが彼の攻撃によって破壊されその瓦礫にサーマルキャットが下敷きになってしまったのです。私の飛行能力で運べるのはせいぜい一人が限界。そこで彼を戦闘不能にすることには成功しましたがサーマルキャットを優先して連れて戻ってまいりました」

「・・・それで良い。尼尽博士が不在の今これ以上貴重な怪人をいたずらに失うわけにはいかんからな。それでサーマルキャットはどうなっている?」

「はい。戻ってすぐ治療室へ運びました。命に別状は無いそうです」

「そうか。ならば良い!他に被害は?」

「はっ!戦闘員が数名負傷。しかし戦闘で彼の気を逸らすことが出来たので最小限の被害だったようです。サーマルが時間を稼いだおかげで奪った自転車も無事に工場への運び込みが完了しておりますしかし・・・」

「なんだバッドナイト?言ってみろ」

「首領から頂いたナイトシールドが彼との戦闘で破壊されてしまいました・・・このバッドナイト一生の不覚・・・」

「気にするなバッドナイト!命あっての悪の秘密結社稼業だ!貴様とサーマルキャットが無事、そして作戦が着実に進行しているのだから貴様が気に病む必要はない。それよりも怪人殺しだ。あれをフジュンヒルデのせいだと断定するには些か気が早い気がしてならん。帰ってすぐで悪いがその調査を引き続き貴様に任せる。良いな?」

「はっ!おまかせを」

「ああ。しかし今の貴様はバッドシールドを失っている。あまり危険な真似はするなよ」

「はっ!」

バッドナイトはドン・サイーグの名を受け部屋を去っていった。

それと同じ頃・・・

 

僕はなにかから逃れるように走っていた。

元々運動神経最悪だった上に今は大きな2つの肉の塊が邪魔して上手く走ることができない。

それでも僕は息を上げながら走っていた。

しかしどれだけ走っても自分の得てしまった力からは逃れられない。

今まではそんな過ぎた力に少しは浮ついていた僕だったが自分のしてしまったこと、そして自分でもその力が抑えきれなかった事にただただ恐怖を覚えていた。

あの時確かに僕は怪人をいたぶる事を楽しいと思っていたしそれどころか快感にさえ思えていた。

今回は運良く変身は解除されたけどきっといつかあの力が制御できなくなって本当に僕は悪の女幹部になってしまうかもしれない。

自分が自分でなくなってしまう。

いくら上面だけで魔法少女だとか正義の味方ぶったところでやっぱ僕のこの力の本質は悪の女幹部

のもの。

力のルーツが悪の力のヒーローはたくさんいる。

でもその力を正義のために振るうということがどれだけ難しいことなのか僕は身を持って知ることになってしまった。

きっと僕が憧れたヒーローたちも同じことを恐れながら戦っていたに違いない。

でもそれが出来たのは彼らが強かったからだと思う。

それに今までは人より優れた力を手にした優越感に浸っていなかったと言えば嘘になる。

その力で怪人たちと戦うにつれて僕もヒーローみたいなことができてるんじゃないか?

そんな事を少しは考えていた。

しかし今となっては自分が普通の人間ではなくなってしまった事を痛感してしまい優越感よりも疎外感を覚えてしまう。

今思えばそれは本当は優越感なんかじゃなく初めて変身した時やさっきみたいに戦う事と壊すことを楽しんでいたのかもしれない。

さっきもそんな感情の高ぶりを僕は止めることが出来なかった。

もしまた戦う事になったら本当に僕は破壊を楽しむ悪の怪人に変わり果ててしまうかもしれない。

そう考えると怖くて怖くて仕方がない。

メンタルの弱い僕なんかが正義のヒーローになんてなれるわけなかったんだ。

このまま力に溺れて悪の怪人になってしまうくらいならいっそ僕なんか・・・

「うわっ!」

そんな考えが脳裏に過ぎった時僕は足を滑らせて盛大に転んでしまう。

さっき小さいとはいえれっきとした雑居ビルを壊した僕もこの姿では改造される前同様どんくさいままだ。

それに柄にもなく全力疾走したからか息も上がって立ち上がれない。

そんな自分が凄く惨めで情けなく思えて気づくと僕の頬には涙が伝っていた。

何処かわからないけどこんな未知のど真ん中で泣くなんて情けないにも程がある。

でも僕はそんなこともお構いなしにうずくまって泣いた。

すると

「ね、ねえあなた大丈夫?」

そう聞き覚えのある声が頭上から聞こえる。

僕はゆっくり起き上がり声の方に顔を向け涙でぼやけた目をごしごしと腕でこすって涙を拭った。

その視界の先に居たのは僕の母さんだった。

「女の子がこんな道端で泣いてたら危ないわよ?なにも出来ないかもしれないけどよかったらおばさんの家で少し落ち着くまでゆっくりしていく?」

母さんはそう優しく僕に声をかける。

辺りを見渡すとそこは見覚えのある道で、家まですぐの場所だった。

どうやら無意識のうちに僕は家に向かって走っていたらしい。

僕は今すぐにでも自分が有希だと伝えて心配をかけたことを謝らなければならないと思った。

「あ、あの・・・僕!」

しかし道の端にあったカーブミラーに写り込んだ自分の姿は以前の僕とは大きく違っていたことを思い出し口をつぐんだ。

「ん?どうしたの?」

「あ、いえ・・・なんでもないんです・・・なんでも・・・」

僕はゆっくりと立ち上がりその場を立ち去ろうとするが

「なんでもないわけないじゃない!こんな真っ昼間から道端でうずくまって泣いているこんな可愛い子をほっとけるわけ無いでしょう?訳を話して?もし必要なら親御さんとか警察にも相談してあげるから」

母さんはそう言って僕を引き止める。

きっと母さんは今の僕を有希だなんて夢にも思っていないだろう。

「で、でも・・・」

「いいの。おばさんも最近悲しいことがあったばっかりなのよ。だからかしらね・・・なんだかあなたの事放おっておけないのよ。大した事はできないけど家はすぐそこだから。ね?」

「・・・はい」

僕は母さんに言われるがまま道端で泣いていた少女として自分の家に帰宅することになった。

 

そして家に通されるとまだ一週間しか経っていないはずなのに家の玄関やそこに漂う家独特の匂いはなんだか懐かしささえも感じる。

「さ、気にせず上がって上がって」

僕は母さんにいわれるがままリビングへと案内された。

案内されずとも家の何処になにがあるかなんてわかりきってはいたけれど不用意に怪しまれるわけにはいかず素直に従うことにした。

リビングに通され椅子に座り辺りを見回すと一週間前とは変わらない風景が広がっている。

唯一違うことと言えば僕の遺影と花が手向けられた小さな台が置かれている。

いくら死んだことにされているとはいえ自分の遺影を見ることになるのは複雑な気分だった。

「さ、座って。今お茶入れるから」

母さんはそう言って緑茶を入れてくれた。

僕はそれをゆっくりと飲み、少しは気持ちが落ち着いた。

すると

「ちょっとは落ち着いたかしら?それでなんであなたあんなところで泣いてたの?ただ転んだだけには見えなかったけど・・・良かったらおばさんに言える範囲で良いから話してくれないかしら?少しは気が楽になるかもしれないわよ」

母さんはそう尋ねてきた。

しかし本当の事を言うわけにもいかず・・・

「えっと・・・ぼ・・・わ、私!とても大切な人が居て・・・その人が目の前に居るのに自分の気持ちを伝えられないんです・・・本当はちゃんと伝えなきゃいけないのに・・・そんな事も出来ない今の自分が凄く情けなくて・・・このまま一生そんな事も出来ずに居るのかなって思うと怖くて・・・」

僕は今の心境を母さんに吐露すると母さんはそんな僕の話をなにも言わずに頷いて聞いてくれた。

「大切な人・・・ねぇ。彼氏さんかしら?」

「ち、違います!」

「まあ他にも大切な人なんてたくさん居るわよね。でも伝えたい事は早く伝えた方が良いと思うわ。私、一週間くらい前に急に一人息子を亡くしてね・・・」

母さんはそう言って花が手向けられた台の方を悲しそうに見つめた。

あなたの息子はそこじゃなくていま目の前に居るのに。

でもそれは言ったところで信じてもらえないだろうしそれこそ母さんを傷つけてしまうかもしれない。

今の僕にできるのは他人として母さんの話し相手になってあげることくらいだろう。

「どんなお子さん・・・でしたか?」

「ええ。少し内気で人見知りな子だったけど私と夫の事を年の割によく気にかけてくれる優しい子だったわ。それが急に学校帰りに事故にあって死んじゃうなんてあの子が何をしたっていうのよ・・・」

母さんは声を震わせて言った

「あ、あの・・・おと・・・旦那さんはどうされて居るんですか?」

「変なこと聞くのね。あの人も相当ショックだったみたいだけどうちは共働きだったんだけどね。お前はまだ休んでていい。俺がその分も働くからって言って今日から仕事に行ったわ。あの子はあの人に似たのかもしれないわ」

「そう・・・ですか・・・あの!」

「何かしら?」

「もし・・・もしですよ?不快に思われたら申し訳ないんですけど・・・その・・・息子さんがもし生きててこの家に帰って来るとしたら・・・」

「面白い事言うのね。でも確かになんだかあの子が居なくなった気がしないのよ。急に死んじゃったからかもしれないけどなんだか凄くそばに居るような・・・そんな気がするわ。もし、ね。本当にそんな事が起こるはずは無いだろうけどもしあの子が帰ってきたら抱きしめてあげたいわね。それで私とあの人の子に生まれてきてくれてありがとうってそう伝えたいわ。ちょっと恥ずかしいけどね。でもあの子が生まれてからの16年間はあっという間だったけどいろんな事があって私にとってのかけがえのない時間だったから・・・だからそんな思い出をくれてありがとうとも付け加えようかしら・・・私ったら何言ってるのかしら」

母さんは少し頬を赤らめながらそう言った。

そんな話を聞いていたら僕まで泣いてしまいそうになってしまったがそこはぐっとこらえた。

こんな状況で母さんからそんな言葉が聞けるとは思ってもみなかった僕はやはりすぐにでも自分のことを打ち明けようか悩んだが僕にはその勇気を出すことは出来ず・・・

「ご、ごめんなさい。変なこと聞いちゃいましたよね・・・」

そう当たり障りのない返事を返すことで精一杯だった。

「良いのよ。あなたが大切な人に伝えたいことをちゃんと伝えられる手助けになれたならね」

「は、はい・・・!必ず・・・大切な人に私の気持ち・・・ちゃんと伝えられるようにがんばります!だからそれまで・・・待ってて」

「ん?なにか言ったかしら?」

「い、いえ・・・なんでも無いです。お茶ごちそうさまでした」

「私から呼んだのにこんなお構いしかできなくてごめんなさいね。すこしでもあなたの助けになれたなら私も嬉しいわ。あなた、なんだかあの子に似てる気がするから」

「そう・・・ですか」

「ええ。転んで擦りむいた所も大した怪我もしていない様だしすこしは気が紛れたかしら?」

母さんにそう言われ膝を見てみるとスカートが少し破れていた程度で膝には傷一つ付いていなかった。

やっぱりこの身体でいる以上母さんに僕が有希だと伝える訳にはいかない。

そのために一刻も早くバッドネス㈱を倒して元の身体に戻らないと!

未だに悪の怪人の力を制御しきれない恐怖を拭うことはできていないけど僕はそう心に誓った。

「あの・・・私そろそろ行かなくちゃ・・・」

「あら?もっとゆっくりしていってくれても良いのよ?私もあの子が居なくなって寂しいし」

「い、いえ。これ以上は・・・」

「あらそう・・・残念ね。そう言えばお名前聞いてなかったわね。私は天村深雪あなたは」

「あ・・・えーっと・・・ゆ・・・」

流石に天村有希です!だなんて言えるはずもない。

どうしよう・・・僕・・・なんて名乗れば良いんだろう・・・ゆうきはダメだし・・・

そうだ!

「ユキです!」

僕は自分の名前から一文字抜き、そして母さんの深雪の雪を取ってそう名乗った。

「ユキちゃんね・・・いい名前だわ。表情も大分明るくなったんじゃないかしら?」

「はい!かあさ・・・深雪さんのおかげで楽になりました。ありがとうございます!」

「そう。力になれたのなら嬉しいわ。大切な人にちゃんと気持ち伝えられると良いわね。頑張ってね」

「はい!それじゃあ・・・・行ってきます」

僕はそう母さんに告げて家を後にした。

次にここを訪れるのはバッドネス㈱を倒して元の身体に戻った時になるだろう。

その時まで僕は僕で居られるだろうか?

いや僕は母さんと父さんのためにも僕で居続けなければいけない。

いくら姿形が変わろうとも悪の力を使おうともそれだけは手放しちゃいけないんだ。

僕はあの力に負けず意思をしっかりと持とうと心に決め慣れ親しんだ家を後にした。

 

母さんに被害が及ばない為にもまずはあの自転車を奪っていった怪人をなんとかしなくちゃ!

戦うことに必死で結局その計画自体を止めることはできなかったし・・・

僕はひとまず昼間に怪人たちと出くわした場所に戻ってみることにした。

その道中さっきの壊れたビルには規制線が張られ、マスコミもちらほらと取材をしている。

あれ・・・僕がやったんだよね

まじまじと目にすると更に自分の持ってしまった力が恐ろしく思える。

でも・・・この力がないとバッドネスには対抗できない。

だから使い方を間違わないようにしなければいけないということを僕は身を持って痛感する。

 

現場に戻ると一部だけ自転車が残っている場所があった。

その場所と自転車が奪われた場所の違いはを僕は必死に考えた。

そして自転車が残っている場所は駐輪場、そしてそれ以外の場所には駐輪禁止区域と書かれた立て札が置いてあることに気付いた。

どうやらバッドネス㈱は駐輪禁止の場所に置いてあった自転車を根こそぎ奪っていったらしい。

ということは他の自転車が大量に置かれている駐輪禁止区域へ行けばそこにあの怪人が現れるかもしれない。

僕は一度駐禁を食らったことがある駅前へ走った。

駅には駐輪禁止と書かれた立て札や注意書きが大量にあるものの自転車が何台も置かれている。

ここで待ってさえいればバッドネスが現れるかもしれない。

僕はそこから少し離れたところにあるベンチに座り見張る事にした。

それからしばらくするとあのバッドネス㈱のマークがでかでかと描かれたトラックが数台止まり

そこから黒ずくめの戦闘員、そしてあの猫の怪人が現れた

「みゃーっはっはっは!俺様はバッドネス㈱の怪人サーマルキャット2様だ!先程は遅れを取ったが2になってパワーアップした俺様の力を思い知らせてやる!行け!戦闘員共!このエリアの自転車を根こそぎ奪うのだ!!」

怪人がそう言うと戦闘員たちがキョー!と声を上げて自転車を荷台に積み込み始めた。

このまま見過ごすわけには行かない

僕は手頃な物陰を見つけて首元に手を伸ばす。

 

僕は本当にあの怪人を止められるだろうか?

 

もしまた自分が自分で抑えられなくなってしまったら?

 

そんな恐怖が僕の手を止める。

 

でもあの怪人を今止められるのは僕だけ。

 

それに・・・

 

僕は元の身体に戻らなきゃいけないんだ!

 

元の身体に戻って母さんにただいまって・・・ただいまって言うために僕は戦う!

 

僕は決意で腕を動かし

「魔ジカライズ!」

と叫び魔法少女の姿に変身した。

「そこまでだ!」

僕は威勢よく怪人の元へ飛び出す。

「なんだあれ!?」

「胸デケェ!」

「映画の撮影かな?」

町ゆく人々は僕の格好を見ては指をさしたりスマホで写真を撮ったりしている。

しかし今はそんな事を気にしている場合じゃない。

とにかくあの怪人の計画を止めないと!

「誰かと思えば裏切り者の女幹部じゃないか!その姿のお前など2になった俺様の敵ではない!戦闘員!さっさとあいつを追い詰めて化けの皮と服をはいでやるのだ!」

怪人の号令と共に戦闘員が僕めがけて飛びかかってくる。

それを僕は軽々とあしらいながら戦闘不能にしていく

「すげえ!あの魔法少女コスの痴女強えぞ!おっ、いまパンツ見えた!見えたよな!?」

「なんだかよくわからんけどいけー!」

「もっとハイキックしろー!」

町の人々は僕が戦闘員を倒す度に口々に声を上げた

「ぐぬぬぬ・・・小癪な!所詮貴様はヒーローごっこをしているだけの悪の女幹部!そんな中途半端な奴にこのサーマルキャット様が負けるわけがないだろう」

確かに怪人の言う通り僕はヒーローの真似事をしているだけなのかもしれない。

でも。

たとえ僕が本当は悪の女幹部フジュンヒルデだとしても・・・

雪の様に脆くすぐ融けてしまうような僕の正義感でも・・・

それでも母さんを・・・この街の平和を守れるなら!!

ヒーローごっこだって構わない。

この姿の僕は魔法少女なんだから!

ヒーローの真似事だって・・・やってみせる!

「違う!僕・・・・私は!魔法少女魔じかる☆スノウ!あなたの悪事もフリーズさせる!来て!魔じかる☆スマッシャー!」

僕はそう名乗り魔じかる☆すまっしゃーを呼ぶ。

この名前ならフジュンヒルデよりはマシだろう。

とっさにユキと名乗った様に心だけは黒く染まらぬ雪の様に白いままで居たい。

「フンッ!いくら名前を変えた所で何だと言うんだ!こっちは2になって更に能力が強化されたんだ!お前をアジトにつれて帰って助けてくれたバッドナイト様への手土産にする!行くぞ!」

猫怪人はそう言うと凄まじスピードで僕に向かって飛びかかってきた。

たしかに怪人の言う通りさっき戦った時よりも早い。

この姿じゃ守るので精一杯だ。

やっぱりフジュンヒルデになるしかないのか・・・?

でもあの姿には絶対にならない。

こんな人の多い場所であの姿になってしまったら見ている人たちを巻き込んでしまうかもしれない。

「どうした?動きがさっきより鈍いぞ!!」

思考を巡らせていたせいで隙が生まれてしまったのか怪人の拳が防御をすり抜けみぞおちに命中する。

「か・・・はぁっ!!」

僕はそのまま吹き飛ばされ倒れ込んでしまう。

・・・ダメだ。

やっぱりこの姿のままじゃ勝てないのか・・・?

でも・・・でも・・・・!

そんな時僕を見ていた人たちの声が聞こえた

「な、なんかわからんけど頑張れー!」

「自転車泥棒を止めてくれー!」

「負けないでー!」

全く・・・見てるだけなのに好き勝手に口々に身勝手な人たちだ・・・

でも・・・なんだろう?

すごく胸が熱くなってくる。

応援が力になるなんて正直今まで半信半疑だったけど僕を信じてくれてるんだ。

そんな人達を悪の女幹部の姿で裏切る訳にはいかない。

この姿で勝つ方法を考えるんだ!

僕は魔じかる☆すまっしゃーを杖のようにしてヨロヨロと立ち上がった。

「ほう。まだ立てるのか!早くあの姿に変身してこいつらにもお前の力をみせつけてやったらどうだ?」

怪人はそう僕をまくし立てた。

「・・・僕は・・・・私はこの姿で・・・自分のままであなたを倒す!」

僕は怪人に対しそう見栄を切って見せた。

何も根拠はない。

自信だってない。

でも応援してくれる人たちの為にも絶対に勝つんだ!

この怪人は猫の怪人・・・そして僕を熱と音の2つのセンサーを使って追い詰めてきた。

それならその2つを逆手に取ってやれば・・・!

「魔じかる☆ナスティ!!」

僕はそれっぽい技名を叫んで思いっきり口から裏声を発した。

僕がサキュバスの怪人ならきっとこの羽根の元になったコウモリのちからも使えるはず!

この音はきっと人の可聴域を超えた超音波になるはずだ。

「ぐおおぉぉ!耳が・・・耳が壊れる・・・!」

僕の声を聞いた怪人は案の定苦しみ始め動きを止めた。

よし!今だ!

「魔じかる☆だいなみっく!!!」

僕は技名を叫んで魔じかる☆スマッシャーを勢いよく振り下ろす。

しかし怪人はすんでの所でそれを受け止めた

「フン・・・!耳が使えなくともその程度動体視力と熱センサーで手にとる様にわかるぞ!」

ここまでは想定通りだ。

きっと片方のセンサーを潰されたらもう片方のセンサーに頼るしかなくなる。

それにサーマルセンサーは視覚的なものだ。

それを使ってる間は普通の視覚は制限されるはず・・・

それなら魔じかる☆すまっしゃーが怪人に触れている今がチャンスだ!

「魔じかる☆ヒートハリケーン!!」

僕は魔じかる☆すまっしゃーのマッサージ機能とドライヤー機能の出力を最大にしてスイッチを押した。

すると魔じかる☆すまっしゃーの先端から熱風が竜巻のようにして吹き出し怪人を空高く吹き飛ばした。

「な、何だこれは!?辺りの熱が一気に上昇して・・・!クソッ!これでは奴が補足できない!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!魔じかる☆だいなみっく!!!」

僕は浮かび上がった怪人の死角めがけて飛び上がり再び魔じかる☆だいなみっくを見舞った。

「おのれぇぇぇぇぇ!!!2になったのは負けフラグだったかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

怪人はそう叫びながら変身が徐々に解除されていく。

しっかりあの怪人の変身機能を破壊できたようだ。

しかしこのままでは怪人は地面に生身で落下してしまう。

いくら改造人間とは言え変身していない状態で高度のある場所から落ちてしまえばひとたまりもないかもしれない。

僕はとっさに魔じかる☆すまっしゃーの温風を怪人とは逆の方へ放ちジェットエンジンの様にして怪人に急接近してなんとか落ちる寸前に受け止めることができた。

「くっ・・・情けをかけたつもりか・・・この怪人殺しめ・・・」

「違うよ。僕は殺してなんかいない。きっと・・・それに僕のしなきゃいけないのは怪人を倒すことであって殺すことじゃないから」

「お前・・・思っていた程悪いやつじゃなさそうだな・・・」

そう言うと人間の姿に戻った怪人は気を失った。

すると

「うおぉぉぉぉすげえええ!」

「なんかわからんけど怪人を人間に戻したぞ!」

「なんか竜巻とか出したし本物も魔法少女だ!」

「ありがとう!真星町の平和は守られたぞ!」

人々は僕に向けて歓声を上げる。

なんだかそれを聞いていると嬉しい反面凄く恥ずかしくなってしまい僕は顔をかぁっと赤くした。

「ごっ・・・ごめんなさいっ!」

僕は気配遮断能力を使ってその場から逃げ去った

この気配遮断能力は佐江さん曰く女幹部としての能力で、幹部クラスの怪人が突然現れたり突然逃げたりするのは実は瞬間移動ではなくその場で気配を完全に消し、逃げていると仮定した上で備え付けられた能力らしい。

女幹部も大変だなぁ・・・

「うう・・・勢いよく出て行っちゃったけどやっぱり恥ずかしいよ・・・あっ!」

色々ありすぎて忘れていたが佐江さんに貰った服代のお釣りと買った服の着替えが無い!

一回目の戦いの時に変身したっきり何処かに行っちゃったんだ!

これ聞いたら佐江さん怒るよね・・・?

でも黙ってたらもっと怒られそうだし・・・

僕は変身を解除し一旦佐江さんのいるアパートに戻ることにした。

事情を説明して謝らなきゃ・・・

それに怪人殺しの件も聞かないと

 

 

僕はアパートに戻ると佐江さんは起きていて何やらニヤニヤとこちらを見つめてきた

「おお帰ってきたか・・・私が寝ている間に派手にやったようだな」

「えっ・・・!?」

「ネットニュースになってるぞ?」

そう言うと佐江さんは持っていたスマートフォンを見せてくる

そこには

【痴女か天使かその正体は?自称魔法少女真星町に現る!?】

という見出しで僕が戦っている時に町の人達が撮ったであろう写真がまとめられていた。

「なんだ。結構ノリノリじゃないか。やっぱりそういう趣味があったのか?」

「ち、違うよ!ただこうするしか無いと思っただけで・・・それに町の平和を守りたいのは嘘じゃないし・・・」

「ほう・・・?こんなクソみたいな町守りたいとは思わんがな。まあ私は怪人さえ減らしてくれれば文句はない訳だが」

「あ、あの・・・佐江さん?その事なんだけど・・・」

僕は服を買いに行ってから怪人と出くわし女幹部の姿で戦って暴走してビルを一つ壊してしまったこと、そしてそこに現れたバッドネス㈱最高幹部を名乗るバッドナイトの存在、そしてサーマルキャットを倒したは良いものの貰った10万円や着替えの入った袋をなくしてしまった事、そして怪人が何者かに立て続けに殺されている話を怪人から聞いた事を話した

「ほう・・・そんなことが。君の買った服と金なら無事だぞ?」

「えっ!?」

「変身した際に持っていたものは自動的にあの衣装と交換される形でここに転送される仕組みになっているんだ」

「そうだったんだ・・・よかった・・・」

「まさかブラジャーをあんなに買い込むとは・・・やはりそういう趣味だったのか?」

「違うって!よくわからなかったからサイズだけ図って適当に買っただけだから!!」

「そうか・・・?まあ良い君も盛りのついた年頃だしとやかく言わないでおいてやろう。それとな、怪人殺しの犯人は君ではない。これは断言できる。」

「どうして?」

「私は君がフジュンヒルデの姿に変身した反応を知らせるアラートで目を覚ましたんだ。そのアラートは今日はじめて鳴ったんだ。だから君があの姿になって自我がなくなるほど暴れた記録もない」

それなら怪人殺しは僕じゃなかったんだ・・・

僕はひとまずその事実に胸をなでおろした

「しかし誰だ私の作品を壊して回ってる奴は・・・」

「えっ、それって僕もそうじゃない?」

「いやあれはあくまで私が作った最高傑作である君が最も私の作品の中で優れている事を証明する実験も兼ねているんだよ。ただ壊すだけの輩と一緒にしないでもらいたい」

やっぱりこの思考はマッドサイエンティストと言わざるを得ないけど確かに戦闘不能にはしても命までは取らないのは佐江さんなりの優しさなのかもしれない。

「ところで・・・」

「どうしたの佐江さん?」

「飯はどうした?」

「あっ・・・・」

「ほう・・・一番用事を忘れるとはいい度胸だな・・・」

佐江さんはニヤリと笑みを浮かべどこからかメスを取り出した

「ご、ごめんなさい!だってお金も全部どっか行っちゃったから!!」

「うるさい!分かったらさっさと買い物行って来い!!」

「ひーん!色々あったんだしせめてちょっとだけ休憩させてー!!」

 

こうして魔じかる☆スノウとしてのこの町を守りつつ元の身体に戻るための僕の戦いは本格始動したんだ。

 

 

 

 

それと同じ頃バッドネス㈱のアジトの一室に戦闘員が駆け込んできた

「ドン・サイーグ様!報告します!フジュンヒルデが再び現れ戦闘を開始したサーマルキャット2並びに戦闘員が負傷した模様です!なおフジュンヒルデは魔じかる☆スノウと名乗っていた様です!!」

「ほう・・・そうか。して負傷者の容態は?」

「はい!戦闘員はほぼ全員が軽症、サーマルキャットは変身機能を破壊されはしましたが命に別状はありません!」

「そうか・・・やはり怪人殺しの犯人は他にいると考えるのが妥当だろうな・・・サーマルキャットたちはバッドネス㈱の息がかかった病院に速やかに搬送させて適切な治療を受けさせよ!」

「キョー!」

 

 

 

それから数時間後、有希は食料の買い出しの為再び町の中心部にやってきていた。

もう日は傾き辺りは暗くなり始めている。

「はぁ・・・佐江さんったら人使いあらいよね・・・食材は買い込んだけど今日はかんたんに済ませようかな・・・それにしてもこんなにいっぱい買ったら重くて持つのも大変だよ・・・そうだ!魔法少女に変身すればこの食材も転送できるんじゃ・・・いやいやそんな些細なことにこの力を使うのはなんかダメな気がするなぁ・・・仕方ない。持って帰ろう」

有希が両手にレジ袋を担いで歩いていると

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

路地裏から女性の悲鳴が聞こえてきた

「な、なに!?」

有希はその声を聞いて以前なら関わらずに素通りしていただろう。

しかし今の有希はそうはしなかった。

(誰かが困ってるなら助けなきゃ・・・!たとえ僕の正体が悪の女幹部でもせめて魔法少女らしく・・・!)

有希は悲鳴のした路地裏へと走った。

そこで先では筋肉が異様に膨れ上がった身の丈三メートル超えの四本の腕を持った怪物とそんな怪物に今にも握りつぶされそうな女性の姿がぼんやりと街頭に照らされていた

「い、いや・・・・誰か助けて・・・・」

女性は消え入りそうな声を発している

「クキ・・・グギギィ・・・・!」

怪物は声にならない声を上げ、まるで恐怖する女性を見て喜んでいるようにも見える。

(なんだあいつ・・・あれもバッドネス㈱の怪人なの!?)

有希はそう思ったが今までに戦った怪人とは何かが違った。

まずバッドネス㈱怪人の共通デザインであるバッドネス㈱のエンブレムが見当たらず、どこか気の抜けて愛嬌のある姿もしていない。

それに会話はおろか意思疎通すら叶わない様に見えるその行動は有希の強化された感覚が告げるのか誰が見てもそう思えるのかただならぬ危険なものであるという事を告げていて、その怪物はただ殺意と恐怖だけを求めているようにも見えた。

考えているうちにも女性が握りつぶされてしまうかもしれないと考えた有希は恐怖を押し殺し魔法少女の姿に変身し、魔じかる☆すまっしゃーを思い切り怪物目掛け投げつけた

「グッ・・・ギィ・・・?」

魔じかる☆すまっしゃーは腕に命中し、注意が有希の方に向いたのか怪物は女性を手放した。

幸い怪物の動きは素早くはなく、有希はすかさず女性の方に走った

「大丈夫ですか?後は私が食い止めますから逃げてください」

有希はそう声をかけて女性を路地裏の外へ誘導した。

それを追って怪物が迫る。

(これ以上先に出したらどうなるかわからない・・・ここで僕が食い止めなきゃ)

有希は魔じかる☆すまっしゃーを拾い上げファイティングポーズを取った。

怪物はそんな事を気にすることもなく有希に向かってくる。

しかし怪物の動きは大ぶりで遅い為回避することは難しくなく、有希は怪物の攻撃を避けながらダメージを与えていく。

そして怪物には疲れの色が見え始めた。

「よし・・・今なら!魔じかる☆だいなみっく!!」

有希は怪物目掛け魔じかる☆すまっしゃーを振り下ろす

「良し!決まった!」

これでこの怪物の変身機能は破壊され元の姿に戻るはず。

そう思った有希だったが

「グ・・・・グギギ?」

「嘘!魔じかる☆だいなみっくが効かない!?」

怪物の姿に変化は起こらない。

それどころか驚く有希のスキを突き大きな腕で有希を掴んだ

「ぐあああああああああ!」

有希の身体はギリギリと締め付けられていき身体が軋む

「だ、駄目だ・・・腕の自由が効かないからフジュンヒルデの姿にも変身できない・・・それにあの力を使ったら僕は・・・ぐあああああああああ!」

有希を掴む腕の強さは更に力を増していく。

それはいくら改造人間とはいえ耐え難いものだった。

(このままじゃ僕・・・握りつぶされちゃう・・・!僕もうダメなのかな・・・)

有希が半ばあきらめかけたその時、何かが有希の頭上を掠め、怪物の頭にぶつかった

「グギィ!」

あまりの衝撃に怪物は吹き飛び有希はその腕から開放される。

そして有希の頭を掠めた何かが怪人と有希の間に軽やかに着地をした。

「あ、あれは・・・」

有希が見たそれは黒いボディに真っ赤な目をしたバッタのような姿をしたなにかだった

「グぎぃぃぃィィ!!!」

それを見た怪物はそのバッタ男(?)に向かっていく

「フン!言葉すら話せない下等なバケモノが俺に勝てるわけ無いだろ?なんせ俺は悪に終焉を告げる者なんだからなぁ!ヘイアヘッド!アバドンカリバーを転送しろ!」

バッタ男(?)は腕についた液晶パネルをタッチしてそう叫ぶと手元に剣が現れる。

それを握ったバッタ男(?)は剣を一振りして怪物の腕を一本切り裂いた。

「か、かっこいい・・・!」

有希純粋にそのギミックや剣を持ったバッタ男(?)の姿に男心をくすぐられていた。

まるで本当に日曜の朝に出てくるヒーロの様に見えたからだ。

「グギァァァァァァァあぁ!!」

怪物は苦しそうな声を上げると口から煙幕を吐き凄まじい勢いで飛び上がった

「ゲホッ・・・ゲホッ・・・!クソッ!逃したか・・・」

バッタ男(?)は辺りを見回すが怪人の気配はない。

彼の言う通り何処かに逃げたようだ。

そんなバッタ男(?)は有希に気付いた。

「お嬢さん?そんなカッコで路地裏なんかに居たら危ないぜ?俺が来なかったらどうなってたか・・・」

「お嬢さん・・・って僕のこと?」

「はぁ?アンタ以外に何処にいんだよ?何?コスプレイヤーかなんか?」

「えーっと・・・そちらこそそれは仮面●イダーのコスプレかなにかですか・・・?オリジナルの」

「はぁ?ちげーよ!俺は・・・・・そうアバドン!悪に終焉を告げる者さ」

「アマ●ン?」

「ちげーア・バ・ド・ン!とにかく女が夜に独り歩きしてるんじゃねえぜ?まだあのバケモノが近くに居るかもしれねぇ。俺は奴を追うから気をつけて帰んなよ!じゃあな」

そう言うとアバドンと名乗ったバッタ男(?)は夜の闇の中に消えていった。

有希はただただそんな黒い人影をしばらくの間ぼーっと見送ることしかできなかった。

突如現れた正体不明の怪物、そしてそのピンチに颯爽と現れ嵐の様に去っていったアバドンと名乗る男は何物なのか?

有希の魔法少女生活に新たな苦難が降りかかろうとしていた。

 



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