俺は一方通行《Accelerator》 (とあるゴリラ)
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プロローグ 悪党
どうぞよろしくお願いしゃーす。
───
この世界ではよく聞く言葉だ。
そんなヒーロー達が活躍する東京都の銀行では、現在銀行強盗の被害に遭っていた。
ヒーローだらけのこの世界で銀行強盗など、普通ならバカだとしか言いようがない。だが、ヒーローとは真逆の存在もいるのが、この世界の摂理である。
───
ヒーロー達とは正反対で、自分達の力を暴力──つまり、人を傷つける事や欲を満たすのに使う者達。
光あるところ、必ず影あり。
この言葉が実にしっくり来るように、ヒーロー達にはしっかりと敵がいるのだ。
そんな敵───ヴィラン達の手によって、現在銀行強盗は行われていた。
「オラオラ! さっさと金を詰めやがれ!」
「大人しくしろよ」
見た目からしてもう化け物の様な身なりをしている男達。
その姿はアニメなどで見る怪人そのものである。自分達の力───つまり、「個性」を使って人々を脅しているのだ。
───"個性"
それは先天的な超常能力。
人によって個人差はあるが、超能力のような、火をだしたり水をだしたり、触れずに物を動かすものなどいる。
強盗───ヴィラン達はその力の使い方を誤っているのだ。
まあ、基本的に生活面などでは必要の無い能力。強盗や暴力などに使うのが一番効率がいい事も分からない訳では無いのだが。
ヂリリリリ
警報音が鳴り響く。
きっと銀行マンが非常ベルを鳴らしたのだろう。
すぐさま警察、またはヒーロー達がやってくるだろう。
そんな状況を望んでいなかったヴィラン達は、思わぬ行動にでた。それは自分の手からレーザーの様なモノを発射して暴れ始めたのだ。
当然、銀行内にいる者に抗う
そんな中、ヴィラン達は母親と来ていた小さな子供の首根っこを掴み。
「テメーは来てもらうぜェ……人質って奴だな! ギャハハ!」
と、嘲笑うかのように子供を持ち上げて笑う。
母親は目から涙を零し、必死に離してくれる様にお願いした。
自分が代わりに人質になる。だから、どうか息子だけは許してくれと。
子供はビービーと泣き喚いていたが、強烈な右フックを浴びせられると、グッタリした様子で黙り込んだ。
きっと息がしづらいのだろう。襟を掴まれ、ただでさえ呼吸がままならないのに、成人男性の拳を腹に受けたのだ。当然だろう。
こんな時、ヒーローがいれば。何処にでも駆けつけてくれるヒーローがいれば、などと。周りの人々は思っている。だが、そう都合よくヒーローはやってこない。来るのには、もう少し時間がかかるだろう。
ヒーローと言えど、人間。
その事件に気づかぬ者も多い。
が、ある一人の少年が、銀行の自動ドアをくぐって来た。
この時、誰もが警察? ヒーロー? などと、期待したが、どうもそんな感じには見えない。
ヒーローコスチュームなどは疎か、警察の服すら来ていない。ただの一般人だ。
そんな状況に居合わせた一般人など、可哀想な程哀れである。
「なんだ、テメー? 殺されてーのか?」
「あァ?」
青年の白い髪がユラッと揺れる。長い前髪から透けて見える赤い目は、この世の裏を見てきたかの様に冷徹で鋭く光っている。
背丈は167〜169程であろうか。
見た目は痩せ細っており、黒い半袖のシャツに紺色のジーパンを着用している。
「状況わかってんのかテメー!」
男の怒鳴り声に対し、白髪の少年は首をポキポキと鳴らしてから周りを見渡す。
そして状況を判断したのか、フッと口を歪ませ。
「成る程ねェ……ヒーローばっかのこの世界で銀行強盗たァ、随分と間抜けな奴が居たもンだ」
「はぁ!? テメーいい加減にしろよっ───」
そこまで言いかけた所で、男は体が硬直したように喋るのをやめた。
───殺される。
そう思ったからだ。
「あァ? なンだァ? 急に黙りやがって」
白髪の青年は気分を害された、と言わんばかりの表情を浮かべATMの方に歩いていく。
そして銀行のカードを機械の中へ入れ、現金を取り出す。作業そのものは短い作業だった。だが、彼が金を下ろしている間、何故か誰も動こうとしなかった。
金を下ろし終わると、白髪の少年は再び男の方へ歩いていく。
「で、いくらだ?」
「あ? 何がだよ───あーっ、そうかそうか! お前も俺達と同じ部類の人間だと思ってたよ。このガキいたぶるのに交ぜろってんだな」
強盗は笑いつつ、大声で言い放つ。
白髪の少年は顔色変えず、その男に再び、いくらだ?と問う。
「そうだなー、どうしてもってんなら、80くらいでやらせてやんぜ?」
「80? 随分と安いもンじゃねェかよ」
白髪の少年は笑い、金を詰め込んでいたバッグを逆さまにする。
すると、札の束がガサガサと流れ落ちる。
「はっ! テメーも物好きだな! そんな───」
男は金を拾いながら、高笑う、だが、その時───
グシャリ
「ごっ、ばっ、ァァああああああああああああああああッ!?」
強盗の悲鳴が店内に響き渡る。
「な、なん、にし、やばる……」
強盗は何がなんだかわからない。
気付けば鼻が折られていた。
気付けば自分が倒れていた。
気付けば目の前の仏頂面決め込んでいた男は笑っていた。
「そっかそっか、なンか勘違いさせちまったみてェだな」
銀行強盗の質問に対して、白髪の少年は軽い調子で答える。
「俺が買ったのは、オマエの横でグッタリしてる奴じゃねェよ」
「───ッ!?」
「
その言葉を聞いた瞬間、銀行強盗───ヴィラン達は背筋が凍る。
間違いなく、自分達よりも深い闇。
決して触れてはいけない、底なし沼の様な闇。
ヒーローなど、可愛く見える程、目の前の白髪の少年は深く深く、黒い。
しかし、黙ってやられるヴィラン達ではない。
強い敵を倒す時は数で圧倒するに限る、いっせいに攻撃開始。
攻撃型の"個性"ではない者は拳銃を乱射。
パワー型の"個性"は近くにある柱を折り、投げつけ。
精神攻撃型の"個性"は洗脳を試みる。
中には太陽光の様なレーザーを放つ者もいた。
だが、
白髪の少年は一歩も動こうとしない。
全ての攻撃が、弾幕が、柱が、洗脳が、レーザーが、彼の皮膚に触れようとした───刹那、
その攻撃は向きを変え、真逆に、正反対に、戻ってくる。
文字通りの『反射』。
全ての攻撃が意味をなさず、
残るは最初に鼻を潰されたヴィランのみ。
「ひ、ひぃ! い、命だけは───」
「あ? 悪ィ……聞こえねェ」
白髪の少年が触れた瞬間に爆散する。
死ぬ間際、彼が見たのは自分の鼻を潰した武器。それは───柔らかそうな手提げ袋だった。
白髪の少年は残った死体を爪先で蹴り、大きくため息を吐いて出口へと向かっていく。
ヒーローならば、ここまで残酷な事はしないだろう。店内にいた人々は彼に怯えた。冷酷かつ残虐な彼に。
銀行を襲ったヴィランよりも、化け物らしく。返り血一つ付いていない彼に。
だが、そんな彼に一人──人質になっていた少年だけが声をかけた。
「お、お兄さんは、ヒーロー?」
「───悪党だ」
白髪の少年は店内のドアをくぐりながら、謳うように答える。
「クソッタレな悪党だよ」
彼の名は、誰もしらない。
だが、ヒーローや
───
その力。謎に満ちており、彼と戦った者は文字通り一方的に倒される。
まるで、一方通行の嵐のように。決して後ろを振り返らず進んでいく。
◇
◇
◇
俺が
いや、正確にはその頃は、まだちゃんとした名前があった。親もいて、産まれたての赤子だったのだから、当然と言えば当然なんだが。
ともあれ、俺は転生者だ。
生前はごくごく普通な高校生。ひょんなことから、死んでしまい。神様に気まぐれで異世界に転生させてもらった、ただの男。
生前、俺はある
それは、『とある魔術の
その中のキャラで、特に好きだったのが『
まあ、これで大体はわかるだろう。
転生特典で神様から好きなキャラの能力を貰ったわけだ。
ともあれ、好きだから選んだ。これ以上はない。
これで、異世界ウハウハライフ───とか思ってた。
だが、転生して目覚めてみれば、生前と大して変わらない世界。
というより、神様の特別サポートで、その世界の知識は学園都市一番の頭脳になった俺にぶち込んでくれたから、知っていたのだが。
想像してた異世界と違った。むしろ、パラレルワールド的な奴だった。
しかし、俺の元いた世界とは違い、"個性"という。超能力的な力を駆使して闘う、ヒーローがいる事がわかった。
なので、俺は大人しく、ヒーローの"最強"になろうと決めた。
が、
4歳になるある日。
俺と両親はヴィランに襲われた。
俺は両親を守ろうと、初めて本気で己の能力を使った。"個性"とは異なる、異質な学園都市"最強"の能力───
ヴィランは簡単に倒せた。この時、俺は自分の強さに酔っていたのかもしれない。褒めてもらえると思った。だが、
『化け物』
ピクピクと痙攣していたヴィランは少ししたら動かなくなっていた。俺はヴィランの肌に触れる、そして漸く俺は気が付いた。
───心臓が止まっている、と。
両親、俺の戦いを見ていた人々。
誰もが口を揃え、まるで別世界から来た化け物を見る目で俺の事を見ていた。
すぐさまヒーロー達が駆けつけた。
何故か知らないが、俺に攻撃を仕掛けてきた。きっと、暴れているのが俺だと思ったのだろう。
俺は怖かったので、攻撃を反射した。
そしたら、ヒーローの腕を折ってしまった。
次々と別のヒーロー達が押し寄せ、俺を殺そうとした。
こんな子供に本気でヒーローが殺しにかかるなんて馬鹿げてる。コイツらはヒーローなんかじゃない。 ただの暴力集団じゃないか。
………いや、俺が人間じゃないから、こういう事になってるのか。
そこで、気が付いた。
俺は、『化け物』だと。
俺の持っている能力は、人を守る為に使える代物ではない事を。
だから、だから、
本当に一方通行の代わり身をしているような気分だった。
俺が暴れたら、世界そのものを壊しかねない。だから、俺は大人しくヒーロー達───警察達に自ら投降した。
転生特典を神様から受け取る時、ある言葉が引っかかったんだ。
『まあ、せいぜい頑張って生きろ。我々を楽しませてくれ』
あの意味が漸くわかった。
ただ、俺は神々の暇つぶしにこの能力を渡されたのだと。
俺が欲しがる能力が、
こうなる事がわかっていて。
無性に苛立ちを覚えた。
いつか後悔させてやる。
だからせいぜい、俺は俺なりに生きる。足掻いてやる。
この能力をもっと使いこなせるようになって。絶対に
こうして俺は
とまあ、こんな感じで書いていきまーす。
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USJ編 それぞれの思いが交差する時
第1話 中途半端なヴィラン
お気に入り登録してくれた方、評価付けてくれた方、誠にありがとうございます。
それでは、第1話どうぞ(誤字脱字あったらごめんね)
殺風景だが、散らかった部屋。
至る所に缶コーヒーの空き缶が放置してあり、コーヒー臭が漂う。
やけに静かだ。普段なら、すぐ近くに線路があるため、電車の走る騒音が聞こえてくるのだが───あっ
音を反射している事を忘れていた。
一方通行の能力は非常に便利である。何をするにも俺は能力に頼りきり。
能力に頼りきりで、気付けば歳の割には細身になっており、何故だか知らないが髪と目は生まれた時から白髪の赤眼だった。
まあ、この世界では俺が
少し悪目立ちするのがカンに触る。
テレビのリモコンを手に取り、テレビの電源を入れる。
適当に暇なので、チャンネルを回していると、こないだ俺が暴れた銀行のニュースがやっていた。
『結局、ヴィラン達を倒したのは誰なのでしょうね』
『あの今噂になっている
「くっだらねェ……俺は悪党だ。善でも悪でも無い? ダークヒーロー? 笑わせンな───それをヒーローって言うンだよ馬鹿」
テレビに出ているアナウンサーと芸能人がふざけたことを言っているので、少々頭にきたが、そのまま俺はチャンネルを変えずにボーっと、テレビを眺めている。
過去の経歴を全て抹消───無かった事にされている俺の存在を知っているのは、一部の警察、ヒーロー、そして俺の能力を本来の
俺が大荒れし、投降した後。俺は保護施設に入れられた。
まあ、保護施設と言う名の研究所だが。
そこは学園都市の研究所と比べれば、遥かに普通。非道な実験をしたりなどは当然の事ながらない。ヒーローや警察が管理しているのだから、当然な事だが。
そこで俺は能力───"個性"を調べられたが、研究員達は有り得ない事実をそこで目の当たりにした。
俺の能力は"個性"ではない。つまり超人社会ではイレギュラーな存在。と、いう事になったらしい。
超常能力ではなく、超能力なのだから当たり前の事だし、神から与えられた特典をそう簡単にわかられてたまるものか。そもそも"個性"のことすらまともにわからない、学園都市に程遠い科学力で理解する事など不可能なのだ。
そんな現実(勘違い)を突きつけられた研究員は俺を恐れた。学園都市の非道な研究者も恐れるのだから、この辺りは予想していた。
そんな時、俺の前に一人の男があらわれた。
『僕と来れば力を上手く使えるようになれるよ、更なる高みを目指して見ないか?"最強"のその先へ───』と言われ、研究所を抜け出した。
つまり逃亡だ。
そこから、俺の消息は完全に途絶え、闇へと葬り去られた。
『しかし、オールマイトに次ぐ七不思議の一つですよ? 噂では"個性"では無いとか……』
テレビの会話を聞いてて思う。
個性ではない。たしかにそうだ。しかし、その違いと言えば演算をして能力を発動するか、演算無しで能力を発動するかの違いだと、俺は思っている。
科学者達は未だに"個性"が何たるかを理解していない。だが、俺からすれば現象───つまり、その能力にも因果が存在するという事。
例えば、火に必要なモノは酸素。酸素が無ければ火はつかない。
それと一緒で、見ただけで"個性"を封じるヒーローも自分で自覚していないだけで、その能力の本質は敵のAIM拡散力場を操っている───いや、AIM拡散力場つまり、相手の
だから、基本的には俺の能力と"個性"は近しい存在。
"個性"を使える奴らは原石みたいなものだと、俺は思っている。原石と言っても、削板軍覇などとは比べ物にならない欠陥共なのだが。
『そうですね。目撃者によれば、高校生くらいの青年だったと……そんな子がいれば、ヒーローになっていてもおかしくない筈なのですが』
『まあ、平和の象徴に対をなす抑止力となっているのもまた事実。
隠れファン? 頭がおかしいんじゃないだろうか。俺のファンになる奴らなど、絶対にいない。
もし、そんな奴らがいたら、俺を見た瞬間に怯え、その幻想を打ち砕かれるだろう。
どんな奴らも噂とか都市伝説とか物好きな奴らだ。
『でも、人殺しですよね? "個性"を資格なしに使ってヴィランと言えど殺している。ヒーロー達の目の敵にされている人物ですよ?』
『そうですねー。ヴィラン達も目の敵にしているでしょう。目撃情報者から聞いた、その能力は全ての攻撃を反射していたとか。まさに"最強"の二つ名が相応しい人物だとか』
"最強"
そう言われていようが、所詮は目の敵にされる。やはり、"無敵"になるほうがよっぽどいい。
俺は胸糞が悪くなってきたので、テレビを切った。
手を伸ばし、缶コーヒーを取ろうと段ボール箱をあさるが───無い。アレだけ買い溜めしておいた缶コーヒーが無い。
「チッ……買いに行くしかねェか」
そう一人呟き、俺はソファから起き上がる。
そのまま、玄関の方へと歩いていった。
◇
◇
◇
ここ最近で、色々と模索したが、やはり解析していない───未知の能力者を解析するのが良いだろうか。
今まで、ある
大抵の"個性"持ちは、学園都市で言うならば
少し強めの"個性"なら、
たしか、エンデヴァーとか言った万年第2位のヒーローが
そんなモノじゃ俺の
正直言って、この世界で俺は敵無しなんじゃ無いかと思う時がある。
俺に届く奴なんて、今まで可能性があるのは、ただ
まあ、そいつを踏み台に現在の俺がいるし、もう関わろうとは思わない。クソッタレな俺と同じ悪党で、胸糞悪い奴だし。
プルルルル
そんな事を思っている時、俺の携帯から着信音。
別に携帯など必要ない。むしろ、誰かの連絡先が入っている訳じゃないのだが何故電話がなる?……イタズラ電話か?
俺は、そっと携帯に目をやると、そこには非通知、とかかれている。
「……」
《よォ……元気にしてたかなアクセラレータ?》
「とォむらくゥンよォ……何で俺の番号知ってンだァ? まさか、男にストーカーでもする性癖でも持ってンですかァ? ヒャハハ!」
電話の相手はヴィラン───
そのクソッタレな悪党が目をかけてたクソ野郎だ。
《あー、本当相変わらずムカツククソガキだよ、お前。俺がガキを嫌いな理由絶対お前だわ》
「───そンで、何のようだ?」
俺は率直な意見が聞きたかった。
コイツが連絡を俺にわざわざ入れてくるなど、普段なら絶対にないからだ。
《随分とヴィランをプチプチ潰してるみてーだな。経験値は稼げたか? ヒーローさんよ?》
「オマエ、殺されてェのか?」
《おっと、ヒーローもプチプチ潰してるのか、そんじゃ悪党だわな》
何が言いたい。
素直にそう思った。目的も無く連絡を入れてくるなど、絶対にない。わざわざ俺に喧嘩売るほど、コイツも安い奴じゃないだろう。
《まあ聞けよ……実は近々、平和の象徴を殺す》
「ヒーローランキング序列第1位。オールマイトか?」
《お前も手伝え───まさか、
「なンだそりゃァ。脅してンのかァ?───断るに決まってンだろ。三下」
電話口の向こうで、コイツマジ殺してーと聞こえてくるが、今はあまり気にしないでおこう。
《俺だって本当は嫌だね。お前となんか組みたいと思わないし───でも、先生が連れて行けってよ》
「オイオイ、いつから俺はオマエ等の犬になったンですかァ?───まァイイ、わかった場所教えろ」
《やっとか。やっぱりお前もこっち側だな》
そう言って、襲撃の日時、場所を教えもらい。
「なァ……飼い犬に噛まれたら主人てのはよォ……どンな顔すンだろォな?」
《はぁ? お前ッ!》
「オマエ等、全員…ぶち、殺す」
そこで俺は電話を切った。
◇
◇
◇
〜ヴィラン連合 アジト〜
ツー、ツー、ツー…
酒場のような部屋に電話が切れた音だけが鳴り響いていた。
「あのクソ野郎ッ! 絶対に殺してやるッ!」
髪の毛は長く、顔に腕の無い手を付け。表情が見えない男。
この男こそ、ヴィラン連合のリーダーである死柄木弔である。
「いえ、一方通行を相手どるとなると。こちらの戦力では……」
殺気溢れる弔に対し、冷静な見解を述べる、黒い影が服を着た様な男───黒霧。
「うるせぇ! あの野郎……」
「
弔は頭をガシガシと掻きむしり、今にも発狂しそうな程苛立っていた。
そんな様子を見た黒霧は、そんなに嫌なら、無理に電話しなくても、と心の中で呟くのであった。
◇
◇
◇
「ビビって直ぐには攻め込めねェのかよ。流石ビビリの弔クゥン。───ともあれ、奇襲の日まで、どォするか」
俺はコーヒーを買いに行くために、街を一人歩いている。
白髪に赤目。悪目立ちするので、チラチラと歩行者の視線が突き刺さる。が、俺はそんな目よりももっと酷い見方をされた事など、数え切れない程ある。なので、そこまで気にはならない。
すると、後ろから聞こえてくる女性の声。
「お兄さん、お兄さん」
「……、」
ふと振り返ると、そこには片目に眼帯をし、高校の制服を着ている特に特徴といったものはない女性が一人。
俺はそのまま無視して歩く。
「ねえねえ! 兄さん」
「何だ…」
歩きながら俺はかけられた声に応えた。
すると女性はニイッと笑みを浮かべる。
「実はですね───」
「オイ、一つ忠告しといてやる──くだらねェ事だったら殺す」
俺は女性の声を遮り、言い放つ。
気が付かないと思ったのであろうか? コイツは絶対に俺と同類。いや、グレードで言えば、まだまだションベン臭ェが悪党には違いない。
「やだなー、怖いですよ? じゃあ話聞いてくださいね?」
その時、首元で何かを反射した。
目を向ければ、一本の針。
「オーケー。くだらねェ事だったな?」
◇
◇
◇
悪党気取りの少女は焦っていた。
目の前の悪党を暴れさせれば、面白そうだ。などで、相手にしなければよかった。
ヴィラン───いや、悪党としてのLevelが違う。そう思うしかない。
鋭い殺気。本気で殺意を飛ばされただけで、死をイメージさせられた。先程までとは、まるで別人。
「待ってください。い、今のは試しただけで……」
「悪ィ……今、音を『反射』してッから、何言ってるかわからねェ」
彼女はその一声に振り返り、逃走をはかろうとする。が、先ほどまで目の前にいた男が後ろに立っていた。
どうやったのか、想像するだけ無駄である。彼の能力は学園都市の頂点に立つ、Level5の中でも第1位として君臨していた能力───その力の理不尽さ故に"最強"と称されているのだから。
「誰に喧嘩売ったのか分かってンのかァ? オマエ」
真白い髪に鋭く光る赤い目……嘘だ。そんな筈がない。まさか、あの都市伝説の……
彼女の中で色々な思いが混雑する。だが、彼はそんな彼女に軽く───本当に優しく、頬に触れただけだ。だが、
───反転
身体は気が付けば、上空に浮かんでおり、触れた頬は強烈な拳で殴られた様な痛み。
そのまま地面にグシャリと落ちる。
「ハァ……殺しとくか」
コツコツコツ。
死神の様な足音が、
コツコツコツ
徐々に徐々に近づいて来る。
そして、彼女が目を開けた時、奴は、『化け物』は目の前にいた。彼女を嘲笑うかのようにただただ、笑っていた。
そこで彼女の意識は暗転した。
◇
◇
◇
「チッ、ションベン漏らして気絶すンならヴィランなンてやってンじゃねェよ三下」
自分がヴィランだ。とか、思ってる奴に限って最後はこれだ。
命乞いをする。もしくは気絶する。
ヒーローの死に際の方がよっぽど、ヴィランらしい。
最後に殺ったヒーローが死に際に言ったセリフは『クタバレ、死ね』だ。物凄くヴィランらしいだろう?
世の中こんなものだ。
「たくっ、コーヒー買うの忘れたじゃねェかよ」
最後まで読んでくれてありがとう。
これからもよろしく。
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第2話 オマエ、それでもヒーローか?
誤字報告してくれた方に感謝しまーす。
いや、マジで風邪がつらい。でも仕事を休めない。
皆さんもインフルエンザが流行っているみたいなんでー気を付けてくださーい。
では、どーぞ。(誤字、脱字あったらゴメンナサーイ)
学園都市"最強"の能力───
ありとあらゆる
決してそれだけで、"最強"の座に君臨していた訳ではなく、その力を使いこなす脳ミソ───《頭脳》があってこそ、その本領を発揮する。
そこら辺の一般人が同じ能力を持った所で、演算が出来なければただの力の持ち腐れ。
しかし、この転生者───
「わ、悪かった……ゆ、ゆるじでくだばい」
「も、もう、勘弁してくれ……」
圧倒的な不条理に対し、たった一人で全ての力をねじ伏せる。まさに"最強"の二つ名が相応しい男。
そんな男がいれば、誰しも一度は挑み、自分こそが"最強"だと証明したくなるだろう。
そんな───面白そうだから、アイツに喧嘩を売ってみよう。―――などという。
彼等の軽はずみな行動でこの悲劇は起こった。
数で圧倒すれば勝てる。
力で圧倒すれば勝てる。
"個性"で圧倒すれば勝てる。
だがしかし、そんな安い攻撃はいとも容易く反射された。
まるで全てを拒絶するかのように。
「つーゥかよォ……オマエ等、何がしたい訳?」
一方通行は疑問に思った。
コイツらは何故、自分から攻撃を仕掛けてきて、最後にはこうやって謝るのか。
どんな奴も、ヒーローもヴィランも自分の名声欲しさに喧嘩を売ってくる奴は皆、腕の一本も弾けばこうして泣きながら謝る。
なら、喧嘩など売って来なければいいのに。どうして"最強"と噂が立っただけで、こうも突っかかってくるのか。ほっといて欲しいものだ。
「なァ、全員殺しちまえば、ビビって下らねェ事すン奴ってのは、いなくなンのか?」
「─────ヒィッ」
その一方通行の発言に男達は顔色を変える。
この喧嘩を売って来た者達はきっとこの先、
殺さず、やばい奴、と噂にしてくれる方がいいだろうか?
そんな事を模索しつつ、
(成る程ねェ……俺じゃなく、
思わず顔が歪んだ。
それは、より一層自分を『化け物』と自覚させるもので、孤独を感じさせるものだ。
「ククッ……イイねェ、イイ感じに腐ってンなァ……俺も」
そう言って、
暗い裏路地を抜ければ、差し込んでくる日の光。それは自分とは真逆なもので、空から引きずり下ろして黙らせたくなる光。
◇
◇
◇
ここ最近だ。ここ最近で、
昔は
奴の元にいれば楽だが、
(まァ、一人で考えてもどォしよォもねェンだがな……)
第一歩として挙げられるのが、『黒翼』なのだが、どうやっても発動はしない。
いくら頭が良くなったといえど、アレを出すのは相当困難を極めるらしい。
アレを出さなければ、『白翼』など、もってのほかであろう。
らっしゃせー、とやる気の無い店員の声を聞きながら、ドリンクコーナーの方へ向かっていく。店員とは裏腹に品物はよく揃えられており、数多の缶コーヒーが並べられていた。
(つゥーか、俺はいつから缶コーヒー好きになったンだ?)
自分でも少々疑問に思うが、一日に飲む缶コーヒーの数が異常であるのは重々承知である。これも
買い物籠にガツガツと大量の缶コーヒーを入れていく。せっかくなので、いつも飲んでいる種類とは別の缶コーヒーも大量にだ。
みるみるうちに、買い物籠はブラックコーヒーで溢れかえった。
見る者によっては、異様な光景そのものである。決して、缶コーヒーを大量買いしているからでは無い。
大量の缶コーヒーが入った買い物籠を
細身の肉体である
自身にかかる重力のベクトルを操作しているのだ。
そんな下らない事に能力を使い続けているから、細身のガリガリ体型になってしまうのだが。
別に上条当麻がこの世界に存在する訳では無いし、訳のわからない奴が相手なら、距離を取って遠距離から攻撃すればいい。
わざわざ殴りに行く程、この
まあ、余裕があれば、無敵になる為に逆算も試みるが。
そのままレジへ缶コーヒーを持っていくと、店員が少し引き気味な顔をしつつ、品物をレジへ通していく。
「6400円です」
「……、」
買った本数はピッタリ50本。
買い物袋を4つにわけ、店員は気怠そうに袋の中へと詰めていく。
「あざっしたー」
店員の声と同時に袋を持ち、外へ足を進める。
流石に買い物袋を四つとも、もって歩くのは気が引ける
ベンチに腰を下ろし、プシュと炭酸ジュースを開けた時の様な音が鳴り響く。開けたのは缶コーヒーなのだが。
───ぐゥ
可愛らしい音が
そういえば、朝から何も食べていない。
なんやかんやで、何も食べず、昼になってしまっているのだ。
(弔の野郎が動きだすのはまだ先──特にやる事もねェ……どうするか)
目の前では公園で遊んでいる子供達とその親らしき人物。
ヴィランなどいなければ、平和な日本なのに、と心で思いつつ。そんな事を思っている自分自身に笑いが込み上げてきた。
(自分が悪党の癖に何考えてやがンだ? 俺ァ……)
一方通行はそのままベンチから立ち上がる。空になった缶コーヒーを15メートル程離れた、反対側の歩道にあるゴミ箱へ軽く投げた。
すると、缶コーヒーはソコソコのスピードをだし、見事に小さな穴の中へと吸い込まれていく。
「飯でも食べにいくか……」
一人でポツリと呟き、
◇
◇
◇
東京のある一角、『レストラン』と言う名のレストランに、
住んでいるマンションの近くという事もあり、よく通っているので、常連の一人に数えられている。
しかし、いつもなら「いらっしゃいませ!」と爽やかな声で言ってくる店員達は押し黙っている。
何より、店員達の
「オラッ! とっとと伏せろ!」
(オイオイ、ついてねェな…治安悪過ぎンだろ、クソッタレ)
何故だか最近妙にヴィランに遭遇する。それも、嫌がらせの様に。
「オイ! テメェ何コソコソ───ッ!?」
───ヒュン
「くぼぇ、あ、!?」
痛々しい音と共に、その場に倒れ伏す。
「───Aのステーキセット」
何事もなかったかの様に座って注文を言う。
すると、店員と客は凄まじい歓声を上げた───が、
「───うるせェ。さっさとしろ」
その一言で誰もが押し黙った。あの歓声の中で耳元まで届いた一方通行の声。
声量を全員の耳元まで届くようにベクトルを変換したのだ。
「お、お待たせしました。Aのステーキセットとコーヒーです」
「あァ? コーヒーなンて頼ンでねェぞ?」
女性のウェイトレスが、ステーキセット以外に入れたてのアメリカンコーヒーを持ってきた。
一方通行は間違いだろォが、とコーヒーをウェイトレスに返そうとするが。
「これは店からのサービスです。先ほどは本当にありがとうございました!」
「……、」
店員の眩しいくらいの笑み。正直言って目が痛いと、一方通行は女性の声に応える事なく、料理に手を付け始める。
半分くらい食べた所で、気絶したヴィランを回収しに来たヒーローが店内に入ってくる。
そのヒーローのコスチュームは炎を纏っている様なデザイン。顔の炎で出来た髭は"個性"を駆使して作った本物の炎であろう。
その姿は嫌な威圧感を放っており、ヒーローよりもヴィラン向きな風貌だ。
(確かありゃ……)
先程の店員と、そのヒーローは何やら会話をしている。すると、女性の店員は
(ハァ……面倒くせェ……)
こちらへ向かってそのヒーローが歩いてくる。
そして、
「……、」
「貴様、その白い髪、その目……あの時のガキ。
嫌な予感は的中した。だが、一方通行はヒーローの言葉をまるで聞いていないかのように食事の手を止めようとしない。
「あくまで、シラを切るつもりか……この悪党め」
漸く、
「そっかそっかァ…オマエ、万年第2位のヒーロー様かァ…?」
ギィとそのヒーローの目つきが変わり、手には強烈な燃え盛る火炎を纏い、
豪快な音と衝撃が辺りを覆い、黒い煙が
先程、コーヒーをサービスで持ってきたウェイトレスは口を押さえて唖然とする。
この男。名を
「コイツは危険な奴だ! 皆早く離れ───」
その時、黒い煙の中から───男性の声。
「危険だァ? 店の中でぶっ放しといてよォ……オマエの方が危険なンじゃねェか?」
エンデヴァーは思わず目を丸くした。目の前の男は疎か、辺りにはまるで被害が出ていない。
「オマエさァ、ヴィランの方が向いてンじゃねェか? その下品な髭とかよォ!」
「貴様ッ!」
再び、エンデヴァーは手に炎を纏う。だが、それよりも早く
一線。
まるで弾丸の様にエンデヴァーの腹にコーヒーカップが吸い込まれ、窓ガラスを突き破って外へと放り出された。
その光景を見ていた客や店員は当然、何が何だかわかっていない。
すると、
「ガラス窓の修理代だ」
そう言い残し、一方通行は割れたガラス窓から外へ出て行った。
◇
◇
◇
「何でオマエが万年第2位か教えてやろうかァ? いや、分かってンじゃねェか? オールマイトとオマエ……第1位と第2位、そこには埋められねェ力の差があるって事をよォ!」
「だ、だまれェェェェッ!」
「ヒーロー失格だなァこりゃ……だからオマエは万年第2位なンだよ───三下ァ!」
一方通行が小石を蹴り飛ばす。その石は、あの御坂美琴の
「グォおおおおおおおおおッ!?」
衝撃波により、ズタズタに体は引き裂かれ、膝をつくヒーロー界No.2。
「大した事ねェな……大体、オマエはヒーローとして俺を攻撃した訳じゃねェ。俺の首を持って帰りゃ名声が貰えるとか思ったンだろォけどよォ」
「そんな中途半端な炎じゃ、この
圧倒。
ヒーロー界No.2を赤子を捻るかの如し、大した攻撃もせずに完勝してのけたのだ。
「仕舞いだ」
一方通行は歩み寄る。一歩、一歩、その命を奪うべく。
───その時だった。
「エンデヴァーからはなれろ! ゔぃらん!」
幼い声だった。
目を向ければ、親に必死に抑えられるも、こちらに向かって叫んでいる少年。
「エンデヴァーはまけないんだぞ! つよいんだぞ! 頑張れ! 頑張れ!」
右手にはエンデヴァーの人形を持ち、必死に声援を送る幼き少年。
そんな少年を
「チッ」
舌打ち。
歩み寄っていた足を止め、そっとエンデヴァーだけに聞こえる声で語りかける。
「どうした……何故トドメを刺さない…?」
「まだ小せェガキが、オマエを守る為に叫ンでんのは反則じゃねェか?」
「!?」
エンデヴァーは困惑する。この悪党は───ガキが俺を守ろうとしているだけで、見逃すのか?と。
それも当然だろう。噂が噂なのだから。
「どォする。あのガキとニ対一でまだやンなら、リクエストに応えてオマエを血みどろにしてやる。ただ、戦う上であのガキが邪魔になるってンなら、ここは仕切り直しだ。忌々しいが一度だけ下がってやるよ───それが悪党の美学ってモンだ」
その発言はまるで、エンデヴァーがこれ以上抵抗───応戦させないように仕向けられた言葉。
エンデヴァーは何故? と疑問に思う。情けをかけられたなら、酷い屈辱───だが、違う。まるで何かを大切にしろ、と。そう言ってる様な気がした。
「もうあの店、行けねェじゃねェかよ。クソッタレが」
ギャラクシーさん、バルメさん、うましかさん、Westさん、クフーさん、ばっふーーーさん、ザギラファスさん、Ruinsさん、ネコココさん、おkさん、クリームポテトさん、ユウ。さん、第777第北斗神拳伝承者さん、suraimさん、あべしさん、物理破壊設定さん、yajueさん、道端家成さん、カルデスさん、ファンブルさん、外道ちゃん。
評価どうもありがとうございまーす。
というより、さっき仕事終わって、覗いてみたらめちゃくちゃ評価付けてくれてる人いて、焦った焦った。
あと、コメントは投稿した後にまとめて返しまーす。
これからもよろしく〜。
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第3話 "最強"を倒して何になる?答えは『化け物』だ。
ぜんまい改二さん、園崎礼瑠さん、WILLCOさん、通りすがりの読む人さん、黒帽子さん、逸見エリカが可愛すぎて夜しか眠れないさん、誤字脱字報告感謝です!
それでは、第3話どーぞ(誤字脱字あったらごめんね)
水難事故、土砂災害、火事───数多の自然災害を想定して《スペースヒーロー・13号》が作り出した施設───USJは、現在ヴィランの襲撃を受けていた。
襲撃の首謀者は『ヴィラン連合』のリーダー。
平和の象徴───オールマイトを殺すべく、ヒーロー施設に攻撃を仕掛けたのだ。
だが、彼等の予想は外れ、そこにオールマイトはいなかった。
いるのはヒーローになる為に育成中の卵達。その他プロのヒーロー2名。
"個性"を封じるイレイザーヘッド、と施設を作り上げた13号のみだ。
二人のヒーローはヴィランに応戦するも、対平和の象徴改人───『脳無』の前に圧倒され、危機的状況に陥っていた。
ヒーローの卵である
◇
◇
◇
「死柄木弔…」
「……黒霧、13号はやったのか?」
突如現れた黒い霧の中から現れた黒霧が、弔に声をかける。
「戦闘不能までできたものの、散らした生徒に……一名逃げられました」
「───は?」
黒霧の逃げられた、と言う声に不快な声を上げ、青筋を浮かべる弔。
「……はぁ───」
ガシカシガシ
「は──────」
ガシカシガシガシカシガシガシカシガシ
髪の毛を異様に掻き毟る弔。その光景は、不気味で、見ている誰もに分かるように自分の苛立ちを表していた───だが、ここで更なる苛立ちを弔に与えるモノが一つ。
「これは?」
「寄せ集めのヴィランに一応持たせていた無線です。弔に代われと……」
黒霧は弔にソッと無線を手渡す。
ザーッザーッ
と、ノイズ音が鳴り響き、やがて声の主が正体を現す。
《とォォォォむゥゥゥゥゥゥゥらァァァァァァァァァァクゥゥゥゥン?》
「───はぁ?」
《雑魚相手にして随分調子乗ってるみてェじゃねェか? ギャハハ!化け物は化け物同士で遊ぼォぜ? 今そっち行くから覚悟しろォ……》
弔が知る、誰よりも厄介で誰よりも危険な男の声。
───
突如、ズガァンズガァンと、USJの建物が本当の災害の様に爆発し、無線の先では「ま、まって…俺は嫌々───ギャァアァア」とヴィランの悲鳴。
《さァて、ゴミ掃除だ。
最後、その声を残し。再び無線機は酷いノイズ音に包まれた。
ザーッザーッザーッ……。
弔は無線機を手で握りつぶし、
「あのクソガキャぁあああ! 殺してやる! 黒霧、アレだアレ、アレを出せ!」
「いえ、確かに
「状況が状況じゃなかったら、殺してるぞ? 黒霧……」
弔の悪意だけが、この場を支配していた、今のところは。
◇
◇
◇
ヴィランがUSJを襲撃する。それを知っていた
一般人は会社へ出勤する者、子連れのお母さんは何処かへ買い物へ向かうのだろう。
(さァて、情報がデマじゃ無ければ、あと一時間程で襲撃する筈なンだが……)
缶コーヒーを開け、ソッと口元へ一口。程よい苦味が口の中に広がり、一人優雅に小鳥がチュンチュン囀る中、その時を待つ。
暇だったので、デフォで設定されている反射物理演算を頭の中で意識し、そのベースを練り直す。自分に害のある物、全てを反射している
(まァ……対して変わンねェか。新しい素粒子がポンポン出てきたら世界そのモノがおかしくなっちまうからな)
そんな事を考えつつ、缶コーヒーをグビッと一気に飲み干した───その時。
「アァ? 思ったより、来るのが早いじゃねェかよ。クソッタレ」
それは、USJ内の大気の流れ、不自然な風が発生したのだ。
USJ内自体は、災害をシミュレートした施設なので、たまに不自然な風の流れを感じ取れるが、これは明らかに爆風などで起きた風。
全ての風の流れを感知していた
USJ内に入るには、数多のセキュリティを突破しなくてはいけないが、
「さァて、ゴミ掃除だ。10分で片付けてやる」
能力を全開。凄まじい速度の演算を行い、足元のベクトルと重力のベクトルを操作。目の前の高い壁を軽々しく跳躍で飛び越える。
ドーム状になっている屋根に向かって拳を一振り。最小限の破壊で防ぐ為、力の向きを一点集中。拳で殴られた所は、
◇
◇
◇
〜USJ内 倒壊ゾーン〜
そこはビルなどがヴィランの襲来により、破壊し尽くされた様な街並みが広がっている。
ビルなどは崩れており、道路は地割れを起こし、本当にこんな現場に居合わせたら、誰もが絶望する様な場所。
そんな倒壊ゾーンは二人のヒーローの卵。
「よし、一通りは片付いた───弱ぇな」
「っし! 早く皆を助けに行こうぜ! 俺らがここにいるって事はきっとUSJ内にいるだろうし、攻撃手段が少ないアイツ等が心配だ」
爆豪は敵の気絶した体をそこら辺へ放り投げ、切島は辺りを警戒しながら、他の者達を心配していた。
いきなりのヴィランの襲撃、攻撃力の高い爆豪と切島だから簡単に乗り切れたものの、あまり攻撃に向かない"個性"持ちのクラスメイトが狙われれば、簡単に殺されてしまうだろう。
「いや、俺らが先走ったせいで、13号先生が後手にまわった。先生があのモヤを吸っていれば、こんな事になっていなかっただろ……」
爆豪はそう言いつつ、歯をギシギシと歪ませる。
彼に今あるのはプロに迷惑をかけた責任───罪悪感。プライドが高く、絶対的勝利を掲げている彼だからこそ。
「俺はあの霧野郎をぶっ飛ばす。男として責任取らなくちゃな」
「はぁ!?この後に及んで何言ってやがる!? 大体あの霧野郎には攻撃が───」
「うっせ!」
切島が爆豪の意見を否定するが、彼はこうなってしまったら止まらない。
「それに対策がねぇって訳じゃねぇ。それに敵の出入り口だぞ? いざって時に逃げられねぇようにしとくのが当然だろうが」
爆豪の背後に迫る影、その気配に気が付いた爆豪は、「つーか」と言いながら左腕で相手の頭を掴み、爆破。
「俺らに当てられたのが、こんな三下なら余裕だろ」
切島は反応速度すげぇ、と内心思いつつ、疑問に思う事が一つあった。それは、彼の冷静さ。
普段は気性が荒く、暴力的な男にも関わらず、今は冷静に状況を判断しているのだから当然だ。
「つーか、おめぇそんな冷静な奴だっけ?」
「何言ってやがんだっ! 俺はいつも冷静だっ! クソ髪ヤロォ!」
「おー、それそれ」
切島は安心しつつ、そっと胸を撫で下ろす様に息を吐く。
そして、
「ノッタよ、ダチを信じる。男らしいぜ、爆豪!」
「ヘッ」
拳を合わせ。やる気満々だ。幸先が良く。これならいけるかも、と思ったのが束の間。
───悪魔は必ずやって来る。
「ギャァアァア!」
「く、来るな! 化け物ッ!───ひゃ、ぁぁああああ」
悲鳴、それはクラスメイトの者でもなく、知らない者の悲鳴。
直ぐ横にある、廃ビルの出入り口には、バシャッと先程まで人間だったモノが飛び散って来た。
「ヒャハハハハ……恨むならオマエ等の上を恨むンだな三下ァ」
その声はとても冷徹でヒーローとは到底思えない。だが、ヴィランを倒しているので味方?などと、二人は考えるがその正体を見て、思わず言葉を失った。
真っ白い髪に赤い目。体は痩せ細っているにも関わらず、弱さを感じさせないその風貌。
間違い無く、今噂になっている"最強"の一角、オールマイトにも引けを取らないと言われる男。
───
「あァ? まだ残ってやがったのかァ?」
まるで値踏みをしているかの様に。だが、
「オマエ等ァ……ヴィランじゃねェな? ヒーロー? いやガキすぎンか」
爆豪は頭に青筋を浮かべ、切島はイヤイヤ、おめぇにだけは言われたくねぇよ、と心の中で叫ぶ。
当然だろう、大して歳の変わらない奴にガキ扱いされたのだから。
「面白ぇ。テメェを倒しゃ"最強"になんだろ?」
「あ?」
切島は目を見開く、隣の馬鹿は何を言っているのかと。
エンデヴァーすら手も足も出なかった男を倒す。そう言ったのだ隣の馬鹿は。
「オマエ……何様?───俺を倒す? ギャハ、ヒャハハハハッ! 何抜かしちゃってンですかァオマエは?」
身構え臨戦態勢に入る爆豪に対し、
「おまっ、馬鹿っ! 勝てる訳ねぇーだろ!」
「やってみなきゃわかんねぇーだろうが! 誰が馬鹿だ!」
「大体、霧野郎を倒すんじゃなかったのかよ!? ケジメはどうしたケジメは!?」
「うるせェッ! 敵に出会ったんだからしょうがねぇだろ!」
「敵に出会ったじゃねぇ! どう見てもお前が喧嘩ふっかけたろ!? 絶対今の見逃してくれる雰囲気だったろ!」
「ヒーローが逃げてどうすんだ!」
切島と爆豪は意見の食い違いにより、喧嘩を始める。
その様子を見て、
「霧野郎? 今、霧野郎って言ったな?」
「え、あ、いや。言ったけど?」
「場所をすぐに教えろ。そうすりゃ命までは取らないでいてやる」
「聞きてぇなら、倒して吐かせてみろよ。悪党」
「オーケー、オマエは愉快な
次の瞬間、目にも止まらぬ速さで二人は激突した。
辺りは騒音が鳴り響き、倒壊ゾーンの廃ビルは今にも崩れおちそうだ。
爆豪ならもしかして勝てるかも、などという切島の考えは一瞬のうちに打ち砕かれた。
そんな、どうして……と、目の前の光景に絶句する。
「オイオイ、デケェ口聞いた割には大した事ねェなオマエ」
「ぐっ、く、そ……」
地面に倒れ伏し、たった一撃でズタボロになった爆豪。
それに比べ、
「ここ最近で一番倒し甲斐のねェ奴だ、オマエ」
「な、」
「あァ?」
「舐めてんじゃねェぞぉぉぉおおおおお!」
爆豪は
額には目に見える程の青筋。
爆破。
打撃。
爆破。
打撃。
とてつもない爆破音と強烈な打撃が
「そっかそっか、連続攻撃には俺の『反射』は発動しないと思ったわけねェ……そんな単純な方法で、この俺───
爆豪はガクリと膝をつく、今までの努力が全て無駄だったかの様に、奴には全て拒絶された。
人は生まれながらして、平等では無い。それを爆豪勝己は初めて知った。目の前にある、強大なとても手を伸ばしても届きそうに無い壁を。
切島は体が動かない。目の前の『化け物』を倒す方法など無いのではないか。誰も奴の前では無力なのではないか。そう思わせる程、敵は強大だった。
弱点を突き、攻撃をする爆豪が手も足もでず、地面に膝をついている。
「一つ教えといてやる。オマエ、"最強"になりてェみたいな事言ってたな?」
「!?」
爆豪は目の前にいる悪党の顔をそっと見つめる。
「無理だな、オマエのその性格と能力じゃ」
ただただ現実を突きつける。だが、彼の瞳は決して意地悪を言っている様には見えなかった。
それは決して自分の土俵に上がらせない為───いや違う。何かを伝えたそうな。そんな表情だ。
次の瞬間、一方通行の手が爆豪の頭に触れただけで、白目を剥いてその場に倒れ伏す。
「で、オマエはどォすンだ? ヒーローの尊厳を捨てて悪党に情報を流すかァ? それとも、俺と一戦交えるか」
切島は身構える。覚悟を決めて身構えた。膝はガクガクと震え、目の前の敵の強大さを前にしても立ち向かおうとした。
友を助ける為、自分がヒーローになる為に。
「なるほどなァ……オマエはイイ
切島は自分の個性を最大限に生かし、体を硬くする。どんな攻撃も耐えられる様に。
しかし、目を一瞬敵から離しただけで、目の前の敵は姿を消し。
「ど、どこへ?」
一歩、後ろに下がる。
コツ
と、背中に違和感。
「だが、俺には届かねェ……」
振り返ると、同時。
手の甲がゆっくりと頬へ触れる。
ドンッ
体は吹き飛ばされ、体がグルグルと宙を舞う。
「チッ、胸糞悪ィ……」
◇
◇
◇
目の前には二人のヒーローの卵。
名前は知らないが、ヴィランを倒し、少々強気になっていたのだろう。
俺の存在を知っていたが、片方の男がフザケタ事を抜かしてきた。
"最強"になんだろ?
その言葉に無性にイラついた。"最強"になって何がある? あるのは孤独と"最強"の座欲しさに集まってくるボンクラ共。
だから俺は誰にも手をつけられない、同じ土俵に立たせない『無敵』を目指しているのだ。
大体、俺を倒すという事がどういう事か分かっていない。もし、この俺を倒せたとしても、その先にあるのは『化け物』という二つ名。この俺の能力
そんな簡単に、オールマイトなどをみて、ふざけた事を抜かさないでもらいたい。だから、目の前の卵を踏み潰した。
もう一人はそこそこ見所のある奴だったが、それでもヒーローには程遠い。
まあ、あれだけやられても再び立ち上がるのがヒーローって奴であり、そこで倒れたままなら、そこらのゴミと変わらない。
だから、試してやる事にした。その卵が孵化するまで。
生き残って、せいぜいヒーローになってみせろ。
積乱雲 水上恭陛 冬夜2 MRI @そら 儚き夢を現実へ…… 光影 ユト 黒まんじゅう バルブスローネ 甘海老少佐 あま 真秋なむ TTT 結ぶ ンロモソ カローラ 氷の騎士団 もりぞーとピッコロ 麹蜜柑 ReⅡ世 ホワイター ハイカラ 一方通行 葵意 爆祭 はとぽっぽ 白機 ヤッカン ドロンチョ A great man ルシエル あかたなえあ 黒の剣士 キリト 藤い 寺小姓
ギャラクシー 皇 翠輝 ほりけん nekoneko75 物差し シュウキ (´・ω・`)パルメさん アポステル K.S セシリア-2 LieTheActer サモサ 歪曲王 nakan 新城真宵 吉坊 rairai スライバ けう そばもやし haruo リン・レティシア 中年商人 あくる 篠崎 葵 XxtoshixX シャー芯 八神っち seiya1214 暦先生 kurutoSP Longbeach yue. うましか (*゚∋゚)クックルドゥドゥがー うたたね。 libra071 佳紀 ゆーくりーむ 恵比寿天狗 rovelta まびまび教信者 TABASA 笠置 Dieちゃん 黒ジャージ オリゴデンドロサイト no money masa8 サファイアサイサ Mr.フレッシュ 小池の団栗 謳歌絢爛 ほんじゅくバナナ シャケ@シャム猫亭 夜刀神 愛里紗 ユユヨ 明治ヨーグルト ドノバン 近衛丸 汚物は消毒だ 草薙剣 奈須T West。。 幽玄 長門 柚子 トシ336 ひまじ~ん リリィ シュア. (歪んでいる)中村さん 雨宮処所 福霊 ノア-NOA- notugu ケティー ハハッ( ´∀`) 雨ふり傘 MA@Kinoko sinri クフー 『tao』 月姫紗菜 ばっふーーー マカロニウム 文頼 最後のサイコロ ゾキラファス 於菟 セットット 雷ねずみ ストラKK 逆立ちバナナテキーラ添え 鬼追 そのか 夜季 バーサーカーグーノ ぱんぐらす ZENOS ニックー 松囃子 英国式自走機雷 よくる 抹茶ぱふぇ ニート君 yuma2017 Ruins ネコココ ショ糖 ヤマシタ2001 フリ●ザ様w J.C. 求魂の放浪者
rikka おk れれれ 謎の通行人B 園崎礼瑠 乱読一家 Bibaru 溶融と凝固 花笠肴 spire 蒼空ライダー 桂木2 なべやま NOアカウント クリームポテト セレマ 置名草 本好きネコ 鈴宮凛 守本 リア充絶対許す魔神 三等当たり shibaren 916CVT チーバ君 ユウ。 ガノマ 田無火 えれきあ マイペース系 朱井烏 シゲポン✩ 鈴鴨ユウ あんえいぶる 凍さん かーたん 赤坂 龍之介 第777代北斗神拳伝承者 旅人さん 月花 ショーンズ suraim はじめから存在していなかった。 ふるちゃん NeA
あべし Paradisaea キルビス frederica 物理破壊設定 rearufu 台己野真人 黒服の一般人 伊波 gattin 識織 人類最悪 yajue 太郎山 E75 ミックス 蜂蜜梅 にしゃ 俺は洞穴に住んでいる となな1007
らぴすらずり 祐樹 ガリナオ くろぬこ 断崖おー 道端家成 ignorant people hamkil なぎは 補う庶民 Nissan カルデス ぜにさば TDM
yoka あるいは 竜体 ファンブル 鏡花縁
蝿声厭魅 赤犬 外道ちゃん Python. 水素水
皆さま、評価ありがとうございます。
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第4話 『悪党』の美学。
一話前で後書きと前書きが長いと言われたので、今回は短めで、誤字報告、または評価いれてくださった方々の名前は載せません。
ですが、評価を入れてくださった方々には感謝の気持ちでいっぱいいっぱいです。
では、どーぞ。(誤字脱字、あったらごめんね)
その岩のような塊に向かって、拳を振り下ろす。
「ギャハッ!!」
瞳孔を開き、不敵な笑い声と共に、大量のアスファルトの破片がまるで拡散弾───ショットガンの様にヴィランの軍勢に突き刺さる。
その破片が目に突き刺さり視力を失う者、その破片が胸に突き刺さり絶命する者、その破片が足などに刺さり身動きが取れない者。
全てのヴィラン達は、襲う側である筈の彼等はその場から逃げる事に必死だった。
「アァ? 何逃げようとしてンだァ?」
「た、たひゅけ───」
「よかったなァ、オマエ等。ヒーローに殺られるより、悪党にやられた方が、100倍は本望だろォ? なァ?──ギャハヒャハハハハ」
悪魔は笑う、その『化け物』は嗤う。
「オマエ等"個性"の力持て余して
一方通行は棒立ちの状態からダンっと、地面を一蹴り、凄まじい勢いで走って逃げるヴィランに追いつき、男を背中から地面へ叩き伏せる。
「ま、待て! 話を……」
「オイ、オマエ弔の野郎が何処にいるか吐け」
「は、はいッ!」
男は慌てた様子で懐から無線機を取り出す。
それを地面に叩き伏せられている状態で、
ザーッ
と、ノイズ音が響き渡る。
「オイ、誰か聞いてねェのか?」
無線を操作し、応答を試みるが中々返答が返ってこない。
これは期待できそうに無い、と
《こちら、黒霧。誰です》
「よォ、久しぶりじゃねェか。影野郎」
《なっ、
「ハッ! どンだけ愉快な脳味噌してンだァオマエ? 弔に代われ」
《暫く待っていてくださいね》
最後、黒霧の言葉で再び汚いノイズ音に戻る。
そして10秒程がたち、ノイズ音が消える。それと同時に彼は声を高らかに上げた。
「とォォォォむゥゥゥゥゥゥゥらァァァァァァァァァァクゥゥゥゥン?」
《───はぁ?》
あまりの大声、そして挑発したその態度に無線越しに聞こえてくる弔の声はとても間抜けな声であった。
その間抜けな声に、腹を抱えて笑いそうになる。
黒霧の奴が、無線の相手が
「雑魚相手にして随分調子乗ってるみてェじゃねェか? ギャハハ!『化け物』は『化け物』同士で遊ぼォぜ? 今そっち行くから覚悟しろォ……」
言葉を言い終えると、先ほどの踏みつけていたヴィランを思い切り踏みつけた。
自分の蹴りが相手に当たると同時に、自分の方へ返ってくる運動量を相手に向け、実質二倍の威力がある力で、だ。
男の悲鳴は、きっと無線機越しに聞こえているだろう。
そしてここで派手な行動へと
全ての災害を想定した施設───USJだからこそ、辺り構わず、全開で能力を使えるのだ。
こんな事は、もう中々ないだろう。せっかくなので、その場の勢いで能力を駆使して様々な災害に近い現象を引き起こした。
地面を蹴り、その振動をベクトル変換させ、大量の水───海水で大波を作る。その波は当然、こちらへと向かってくるだろう。要するに津波を簡単に引き起こしたのだ。
その水が設置された機械などに染み込みショートする。
そして、再び水流を操作し、海水を元の場所へと戻していく。周りから見れば何をしているんだ?と思うかもしれないが。
次の瞬間、放置されていた車や電子機器から炎が生まれる。
海水に一度晒され、それが乾けば電子機器もエンジンも燃え始めるのだ。
その火を今度は利用して、ガスの通ってそうな場所へと目星をつけて炎の車を蹴り上げる。
───大爆発。
映画で見る様な大爆発がおこり、辺りは黒い煙で覆われた。
「さァて、ゴミ掃除だ。
最後、
「まっ、そンじゃまァいきますか───チッ。場所聞き忘れちまった」
学園都市一番の頭脳を持っているにもかかわらず、場所を特定しないで無線機を握りつぶしてしまったのだ。
(馬鹿過ぎンだろォが、クソ)
ひとまず、近くのヴィラン達は一掃した。
やはり、ヴィランの数が多い方へ向かえばいいのか、色々考え、結論を絞り出す。
(オールマイトを殺すねェ……)
その時、ある生物兵器を思い出した。
人間を改造してまるで別の生き物にした、兵器と呼ばれた生物───『脳無』。
(まだあンなクソ兵器作ってやがンのかァ? いや、元は人間か……)
そんな浅い考えを流し、すぐに場所を絞り出す。
オールマイト、脳無。
(広い場所───いや、そンだけじゃ駄目だ。アイツが行きそうな場所……正面?)
今回のヴィラン達は襲撃、正々堂々と奇襲を仕掛けた訳だ。なら、奴は正面にいる可能性が高い。
(チッ…裏かいて、コソコソ侵入したのが馬鹿みてェじゃねェか)
◇
◇
◇
死柄木弔は自分の腕を異様にちらつかせ、ワナワナと情緒不安定な様子だ。それはイカレタ犯罪者のそれと同じで、見ているだけで吐き気が起こりそうな悪意。
「ああ、どうすんだよ。プロのヒーロー大人数相手じゃ敵わない。一方通行は殺したいけど。マジでムカつく。粉々にしたい───あーあ、今回はゲームオーバーだ。ゲームオーバー」
その時、ピタリと弔は動きを止めた。
「帰ろっか」
まるで公園に遊びに行き、飽きたから帰ると言わんばかりの、まるで
だが、そんな一言に
これで助かる、と。
「助かるよ! 俺たち助かるんだ!」
「ええ、でも……緑谷ちゃん。アイツら気味が悪いわ」
騒ぎに動じてさり気なく胸を触った峰田を水の中にしずめながら、蛙吹は警戒する。
「うん……これだけの事をしておいて、あっさり引き下がるなんて」
緑谷は考える。コイツらが何をしたいのかを……。
目的は最初に言っていた。オールマイトを殺したいと。多少のイレギュラーが起きたくらいで計画の範囲内に収まるはず。それに、ここで引き下がれば、雄英の警戒度が上がるだけだ。
色々と、緑谷がヴィラン共の考えを予想するが、わからない。
そんな時、弔がとうとう動きに出る。チラリと緑谷達を横目で見ながら。
「けどまあ、その前に平和の象徴の矜持を少しでも───」
一直線。手を伸ばしながら緑谷達の方へ急加速し、
「へし折っておこうかな?」
その右手が伸びてくる。
緑谷は思い出していた。その手が触った者を崩すという事を───コンマ送りで世界の景色が飛び込んでくる。蛙吹の顔に徐々にその手が近づいていった時、空気が一瞬ざわついた。
◇
◇
◇
バチンッと、弔の手を何かが弾き、誰もがそのナニカを飛ばした人物の方へと目を向ける。
「オイオイ、格下イビリなら他所でやれよ。じゃねェと─────俺みたいな悪党が来ちまうだろォが!」
片手を前に軽く突き出し、何かをつかむ様な動作を見せるその男。
目を見ただけでわかる、裏の世界を知り尽くし、どんな者よりも冷たい目。本当の悪党とは、その風貌だけで危険性を悟らせるものなのだろうか。
「アクセラレータァァァァァァァァア!」
「何だァ? 随分と荒れちまってるみてェじゃねェか? ビビムラクゥン?」
「黒霧ッ! イイからアレだせ。奴にぶつけろ、この脳無じゃ力不足だ───物理攻撃じゃあの野郎を相手に出来ないのは知ってんだろ」
「は、はぁ。仕方ありません」
弔の掛け声と共に、黒霧の背後にはとてつもない黒い霧が現れる。
そしてその中から何やら異様な音が聞こえてくる。
ギチギチギチギチ
徐々に徐々にその音は大きくなっていく。
ギチギチギチギチギチギチ
そして、中から出て来たのは、巨大な生物の様なナニカ。
頭には剥き出しの脳味噌。しかし、その脳味噌に何本もの管が刺さっており、体の殆どが機械でできている様にみえる。
顔などは殆ど見えず、何かで覆われている、巨大な兵器。
「何だァ? 新しいオモチャでも開発したかよ。あの
「対
「随分と暇なンだなァ……オマエ等───胸糞悪ィもン作りやがって」
「───1秒でぶっ殺す」
大地は切り裂かれ、下に落ちれば地球の裏側まで行けるのでは無いかと思うほどの、深さ。
「やっぱ『化け物』だわ、お前───でも、それじゃあの脳無は倒せねーよ」
「はァ?」
弔のその声と同時、凄まじい叫び声が人工でできた谷底から響き渡る。
「お前のベクトル変換は
「ハッ! なら試してみるかァ……アァッ!?」
一方通行が近くにある鉄骨に手をかける。すると鉄骨は念動力で操られたかの様に、
超スピードで飛んでくる鉄骨の雨。だが、
「ククッ…ヒャハ、ギャハハ! イイねェ最ッ高ォにイイねェ! なら直接ぶっ潰してやンよ、三下ァ!」
ダンッと地面を踏みつけ、凄まじい速度で加速し、正面から突っ込んでいく。だが、その脳無を守るかの様に、辺りに散らばる瓦礫がその進路を妨害する。
(コレは、念動力!? しかもこの威力……間違いねェ、
(クソが、何勝ったつもりになってやがンだ、アイツ)
とても不愉快であった。弔に笑われるという事が。
(念動力ってのは、厄介だな。原作でも苦戦してたじゃねェか、クソッタレ───あ?)
「もう大丈夫! 私が来た!」
「オイオイ、ヒーローは遅れて登場かァ? どんな主人公補正だ」
「ああ、コンティニューだ。二人同時は無理だろ」
ヒーロー界No.1の登場に場の雰囲気は一気に変わった。
◇
◇
◇
緑谷達は現状を理解できないでいた。同じヴィラン同士で仲間割れ?と頭を捻らせる。
「なにかしら、アイツ」
「なんでもいいだろ? 助かったんだぜ!」
「あれは……」
わからない、確証は持てなかったが緑谷はその正体に少し心当たりがあった。
そして、弔の言った言葉がそれを確信にかえる。アクセラレータと、そう言ったのだ。
「強いっ!」
目の前のレベルの違う戦いに呆気に取られる。オールマイトもパンチ一つで天気を変えた事はあった。しかし、彼は軽く地面を右足で踏みつけただけで、向いてる方向を災害クラスの地割れで真っ二つに切り開いたのだ。
そして、黒い霧から出てきたヴィランも、それに負けじと争っている。
そんな時、弔が一言。
「オイ、脳無。そいつら片付けろ」
もう一匹の脳無。イレイザーヘッドを軽々しく屠ったパワー型の奴に弔が指示をだす。
それと同時に、緑谷は早く動かなくては、と体が勝手に動き。
───
先に脳無へと先制攻撃を成功させる。そして、自らの"力の調整"も上手くいき、攻撃は大成功に思えたが。
効いていない。まるで何ごとも無かったかのように、その場にたたずんでいる。
「いい動きするよなぁ……スマッシュって、オールマイトのフォロワーか?───まぁいいや、君……」
弔の声を遮り、聞こえてくる。
「もう、大丈夫───」
その時だ、場の雰囲気を変える、ヒーローが現れたのは。
平和の象徴。
「私が来た!」
オールマイト。No.1ヒーローである。
◇
◇
◇
オールマイトは腹立っていた。
一体どれだけの者が苦しみ、どれだけ後輩が頑張ってきたのか、と。
そして、イレイザーヘッドの近くへ歩み寄り、そっと優しく抱き抱える。
「相澤くん。すまない」
腕は両方ともへし折られ、顔もボコボコになっている。本来正面戦闘に向かないイレイザーヘッドが多数のヴィランを相手取った結果起こした惨劇。
そっと安全な場所へ運び。
───一瞬で緑谷達を救い出し、通り過ぎざまに弔を殴り飛ばした。
「ぁぁぁああ、ごめんなさいお父さん」
顔から落ちた手をそっと拾い上げながら、不気味な言動。
「通り過ぎざまに殴られた……あはは国家公認の暴力だ───流石に目で追えないや、でも思ったほどじゃない」
そして、顔に張り付いた手の隙間からその不気味な瞳を現す。
「弱ってるって話……本当だったんだ」
緑谷達は背筋がゾクっと震える。
しかし、その眼光に臆する事なく、オールマイトは立ちはだかった。
「だ、ダメです! オールマイト、あの脳ミソヴィランは僕のワンって、……腕の折れない力だったけど、ビクともしなくて……それに、あの
「大丈夫だ、緑谷少年。それに勘違いしているかも知れないが、
「!?」
緑谷はオールマイトが彼を昔から知っている様な口ぶりに、一瞬驚く。そして、
「チッ! 厄介だなクソッタレがァ!」
正面から突っ込もうと試みる彼の姿。見えない壁のような何かにその行動は一瞬防がれるが、物凄い轟音とともに、そのナニカをかき消している。
◇
◇
◇
遠距離攻撃は、念動力能力で出来た斥力で防がれてしまう。
そして、念動力を利用したアクロバティックな高速移動。図体が巨大な癖にもかかわらず、その動きは繊細で無駄がない。
逆に
(クソが、現実じゃ思ったよりハードじゃねェか。これじゃ負ける事はねェが……まて、何でアイツは俺の動きがこんなにも予測出来る?)
(いや、ありえねェ。木原一族みてェな外道だったが、アイツ等程、天才じゃねェ筈だ……俺の
次々と飛んでくる大量の瓦礫、だが、それを利用して
脳無の視界が塞がっている時がチャンス。近くの小石を蹴りとばし、その威力を衝撃波に変えて脳無に浴びせた。が、これといったダメージは見られない。
(耐久力も頭一つ抜けてんのかよ、タクッやっぱ)
───正面からぶっ潰さねェと。
「無敵なンざァ程遠ォいじゃねェか!」
膨大な演算量を捌ききり、かつて
その、超スピードを出した
「アッハァ! やり方は知ってたンだけどよォ! 試した事ねェ技があンだわ! イイよなァ? 試しても───つーゥか試すンだけどなァ!」
「ク、カ、キ……」
逆算を含め、掌握したのはこの星───地球自体の自転だ。この地球の自転を使い、腕に突き刺さっている脳無を完膚なきまでに潰すと決めたのだ。
「俺を苦戦させた褒美だ。喜んで受け取れよォ?」
先程までは手首程までしか入っていなかった腕が、みるみる内に脳無の中へと吸い込まれるように入っていく。
「ォォォォァァァァァァアアアアアアア───ッ!」
脳無はまるでぶん投げられた様に、USJ内、遥か天井目掛け飛んでいく。
そのドーム状の天井を突き破り、遥か空───大気圏へ、その先、宇宙へと消えていった。
(クソッ……思ったよりキツイじゃねェか)
対
特別に改良された脳無でさえも、『
その、強大な"力"故に『最強』と称された能力なのだから。
(つくづく思わされるぜ───『化け物』ってなァ)
◇
◇
◇
オールマイトも、同じく対平和の象徴殲滅兵器『脳無』と交戦していた。
その『脳無』の力はオールマイトと同等に加え、物理的な衝撃を吸収する特性を持っており、若干だが押され気味にある。
「アイタッ!」
そこに黒霧が横槍を入れ、オールマイトは危機的状況まで陥れられた。
緑谷は目に涙を浮かべる。負けて欲しく無い、まだまだ教えて欲しいことが山ほどある、と。
「オールマイトォォっ!」
緑谷は思わず駆け出していた。目に涙を浮かべ、勝てないと思っている敵に。
しかし、
「どっ───」
聞き覚えのある声がした。
「けッ! 邪魔だ───デクッ!!」
「カッちゃん!?」
その姿はどんな強敵と戦ったのか、ボロボロで、立ち上がる事でも精一杯の様な、そんな彼が黒霧を爆炎で抑え込んだ。
「
「爆豪おめぇ、目的ちげぇーからな?」
もう一人、聞き覚えのある声。
切島鋭児郎だ。彼もまたボロボロで、きっと大量のヴィランと戦って来たんだろう。
そして、最後。とてつもない冷気が脳無を襲う。
「平和の象徴は、てめぇら如きにやられねぇよ」
その少年、
あの、エンデヴァーの実の息子である。
◇
◇
◇
オールマイトは『脳無』と黒霧に苦戦を強いられていたが、ヒーローの卵達の手によって、反撃の機会を得た。
(この氷……轟少年か! 縛りが緩んだ)
オールマイトは『脳無』の凍った腕を拳で粉砕。
右腕を失った脳無はそのまま身動きを止め、その場に取り残され、オールマイトは一度軽快な動きで距離を取る。
「あー、やば。出入り口抑えられた。すごいなー、最近の子供達は。
弔が脳無に指示を出す。
すると、腕を失っている筈の脳無は動き出し、みるみるうちに腕が復活し始める。
「何驚いてるんだ? 別にショック吸収だけが脳無の能力じゃないよ」
脳無は体の再生を終えると、そっと前屈みになり、地面を踏みしめ加速する。
踏み込んだ地面は余波で衝撃波がおこり、直ぐに最高速度へと到達。そのスピードは凄まじく、とてもでは無いが、卵達は目で追えないであろう。
脳無はそんなスピードの中、拳を握りしめて爆豪へと拳を一振り。
凄まじい轟音と破壊の嵐が辺りを襲い、直撃していれば木っ端微塵になってしまうだろう。直撃していれば、だが。
「か、かっちゃん? 避けたの!? すごい!」
「違ェよカス」
先程まで、黒霧を押さえ込んでいた筈の爆豪は何故か緑谷の隣におり、怪訝な表情を浮かべている。
では、吹き飛ばされたのは誰か。壁に激突した
「グッフッ……加減ってモノを知らないのか、君は」
「こっちだって仲間を助ける為だ。仕方ないだろ?」
口から血を吐き、爆豪の代わりに攻撃を肩代わりしたオールマイト。
「ホラ、さっきだってソコの地味そうな奴。アイツが本気で俺に殴りかかって来たぜ? 他を救う為の暴力は、美談になるんだな───ヒーローは」
弔は続ける、両手を広げ。人の手で隠されている顔からは見ないでもその表情、そして感情が伝わってくる。
「俺はな、怒ってるんだオールマイト。同じ暴力でヒーローとヴィランにカテゴライズされ、善し悪しが決まる──この世界に……」
髪の毛と手の間から、弔の目が僅かだが見える。その目は、まるで無邪気な子供の様な目。
そんな弔の持論はまだ続く。
「なにが平和の象徴? この暴力装置め。暴力は暴力でしか生まれないのだと、俺はお前を殺して世に知らしめるのさ!」
「めちゃくちゃだな。そういう奴の目は静かに燃えるもの。私はそんな男を───そんな少年を
「ちっ、アイツもオマエもムカつく野郎だな! 本当イライラするよ」
弔は
今にも襲いかかりそうな、弔に対して卵達も身構え、決意を固める。
「5対3か……」
「モヤの正体はかっちゃんが暴いたし」
「とんでもねえ奴らだ、だが俺と爆豪の覚悟は一味違えぞ!」
「……、」
轟、緑谷、切島、爆豪はそれぞれに構え、臨戦態勢に入る、が。
「ダメだ、君達は逃げなさい」
オールマイトの一言により、動きを止める。先程、轟のサポートが無ければピンチだった、他の全員もオールマイトを心配する。
だが、オールマイトは親指をグイっとあげ、「大丈夫! プロの本気を見てなさい」と構えをとる。
現在、オールマイトの活動出来る時間は1分も無い。
あと、1分以内に"個性"は使えなくなる。だが、オールマイトは笑う。体が衰えようが、力を失われようが、敵に立ち向かう。
何故なら、
───私は平和の象徴なのだから!!
敵との激突。
同格の力を持つ『脳無』と激しい打ち合いをする。その一発一発はオールマイト自身の100%以上の力。
脳無がオールマイトの顔を殴ろうが、腹を殴ろうが、御構い無しにオールマイトは打ち続ける。
脳無は物理攻撃吸収に凄まじい超再生を持っている。だが、オールマイトの攻撃はその力の遥か上をいった。
「ヒーローとは、常にピンチをぶち壊して行くもの!───
凄まじいオールマイトの打撃に追い込まれ、『脳無』に一瞬の隙が生まれる。
オールマイトは拳を先程の何倍も強く握りしめ、全ての力を一発に込める。
「
その大きく振りかぶられた拳が顔面を捉える。
「───
最後の一撃を受けた『脳無』は、高く飛び上がり、天井を突き破り、空へ空へと消えていく。
その時───
『ォォォォァァァァァァアアアアアアア───ッ!』
凄まじい叫び声とともに、巨大な『脳無』がドームの天井を先程の様に突き破り、空へ消えていく。
そのありえない光景を見た弔は頭を再びガシガシと掻き毟る。
「なんだよ、全然弱ってねえじゃねえか。それに何が対
◇
◇
◇
「よォ、弔クゥン? お気に入りのオモチャが壊れて、目的も達成出来なくて、こりゃゲームオーバーだな?」
一方通行は物凄い煙の中を潜り抜け、コツコツと弔の元へ向かっている。
しかし、ある事に緑谷達は気が付いた。
「あっちって、皆が戦ってるんじゃ……」
最初の地割れ、高速で移動した衝撃波と惑星の自転を利用した攻撃は余りにも凄まじく、その爪痕を大きくUSJに残していた。
「オールマイトは潰せなかった、でも殆どの子供達は死んだな。お前のお陰だよ
弔は
どうみても、負け惜しみの様にしか聞こえないが、弔の手伝いをした、それだけで一方通行にとっては負けを意味する。が、
「三下だな。美学が足りねェからそンな台詞しか出てこねェンだよ、オマエは」
「は?」
「そもそも、何で
「オマエじゃ心配なンだよ。
死柄木弔の頭が沸騰しかけるが、そこで彼は気が付いた。
周囲の状況に。
明らかに不自然な壊れ方をしている建物。それはまるで、あらかじめ
「ま、まさか……」
生きている。そう感じた。卵達は生きていると。彼にそう実感させる。それも寄せ集めのヴィラン達だけを潰す様に想定して。
「だから、
「ははっ、何だよヒーローにでもジョブチェンジしたか? テメェに酔ってんじゃねぇ!」
「これが
「〜〜〜〜〜ッ!?」
生徒を助けてもなお、悪党。
彼の理想のヒーロー像とは、どんな人間なのだろうか、どんな偉大な人間なのだろうか。そう考えさせられる一言。
見た所、苦戦を強いられている様に見えた。そんな状況でも、彼は戦いに関係の無い者を守り抜いた。
一方通行の攻撃に巻き込まれるのが、ヒーローなら助けなかったであろう。だが、助けた者はまだヒーローではない。卵だ。学校から出れば一般人だ。
そんな一般人を裏の世界には巻き込まない。表の世界の人間を裏の世界へは決して巻き込もうとしない。自分から足を踏み入れない限り。
それがこの世界の
そして、それが彼の
評価、誤字報告、お気に入り登録してくださった皆様。
感謝、感謝です。
作者的にも、驚きでいっぱいです。ランキング自体のること何て無いと思ってたのに……流石学園都市のNo1。
これからもよろしくねお願いします。
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第5話 対極の存在
評価入れてくださった皆様、感謝感謝でーす。
今回は少しオリ主感だしていきたいと思います。それでは、どーぞ!(誤字脱字あったらごめん)
死柄木弔は首筋をガリガリと掻きむしり、沸騰しかけた頭を捻らせ頭の中で目の前の男をどうしたら苦しめることが出来るか、または殺せるかを考えている。
本来の目的である平和の象徴───オールマイトを殺す事など、頭の隅にしまい込んで、だ。
「どォしたよ、弔クゥン? ネタ切れでとうとう見た目だけじゃなく、頭まで変態になっちまったかァ?」
「うるさい。死ね。今すぐ死ね。なんで邪魔すんだよ、お前……本当に何なんだよ。何がしたいんだよ」
「───死柄木弔。落ち着いてください。今、現在。危機的状況なのは確か、ですが。ここで取り乱してはいけません」
だが、彼は落ち着ける状況では無かった。
それも当然だろう。あそこで、
そんな会話の最中、オールマイトが
「久しぶりだね、少年。随分と逞しく成長して……今回の件。本当に助かった。
平和の象徴から思わぬ言葉をかけられた
目線をボロボロのオールマイトに向け、頭に手を当てながら答える。
「ありがとうだァ? ヒーローが悪党に礼なンて言ってンじゃねェよ。それに俺はオマエを助けに来た訳じゃねェ。卵共を助けに来た訳でもねェ。俺を利用しようとした馬鹿共を始末しに来ただけだ」
チラリとオールマイトと会話をしている姿を眺めている、雄英の生徒達の方へ目をやり、軽く舌打ちをする
そして、今度は弔の方へと目をやり。
「さァ、選べ。俺の肌に触れたが最後。全身の血管を根こそぎ爆破ってのは知ってンな?」
口を歪め、不敵に微笑み。両手を片方ずつ広げ言う。
「右手か?」
一歩前に、
「左手か?」
更に一歩前へ。
「両方かァッ!?」
ダン! と地面を蹴り、足元のベクトルを操作して一直線に突っ込んでいく。スピードは脳無と戦った時ほど出てはいないが、それでもかなりのスピードが出ている。
狙われているのは、勿論。死柄木弔である。
「黒霧ッ!」
「はい」
弔に
彼の背後に黒い霧が現れ、弔は中へと吸い込まれていく。
「あァ!?」
そして目を向ければ、弔はオールマイトの直ぐ近くへと迫っていた。
(座標移動ッ!? クソッたれが)
見たところ、もうオールマイトは動ける状態ではない。かつての平和の象徴なら、この程度ならいくらでも回避出来たであろう。だが、今の彼には昔の様な凄まじい力は残されていなかった。
「やっぱ、アイツは後回し……ラスボスを倒してから、裏ボスを攻略しなくちゃね」
不気味な声が聞こえてくる。
死柄木弔の手が、徐々にオールマイトへ近づく。だが。
「───オールマイトッ!」
一人の少年───緑谷の声が響き渡り、安全地帯から一気に彼らが戦う戦場まで跳躍。そのスピードは凄まじく、まるでオールマイトの様な動きを見せる。
「ちっ!」
弔が舌打ちし、オールマイトから手を伸ばす方向を緑谷へと変える。
緑谷の拳は黒霧が発生させたと思われる霧に阻まれ、惜しくもギリギリの所で塞がれてしまった。
弔の掌が直ぐ目の前まで迫る。その距離、僅か数センチ。
緑谷自身も今回ばかりは死んだ。そう実感した。
「遅ェゾッ! 三下ァ!」
バキッと骨が砕ける音が鳴り響き、弔は腕を押さえ込んでその場に倒れ伏す。
そのまま追撃。近くにあった鉄骨を軽く蹴ると、それを押さえつけていたネジが綺麗に外れ、空中へと投げだされる。
宙に浮かんだ鉄骨は、まるでサイコキネシスで操られているかの様に、矛先を弔へと向け、一気に降り注ぐ。
辺りはザンザンザンと地面に鉄骨が突き刺さる音が鳴り響き、辺り一面に砂煙が立ち込める。
あんな攻撃をまともに受ければ、五体満足、いや、命そのものが狩り取られてしまうだろう。あくまで当たれば、の話だが。
砂煙が徐々に晴れて開くと、そこには腕を痛そうに押さえる弔の姿。
他に外傷は見られない。それも当然だろう、黒霧が"個性"を使って死柄木弔を守ったのだから。
「大丈夫ですか!? 死柄木弔?」
「くっ、クソッ! 今度は殺すぞ……平和の象徴───オールマイト。そして、くそガキ───
黒い霧の中へ弔は吸い込まれていく。
その様子を見た
「なら今ここで殺してやンよ……クソ野郎ォが!」
だが彼の最後の追撃も残念な事にギリギリの所で届かなかった。
彼とヴィランだけなら何の問題もなく倒せただろう。だが、周りを気にしながら戦っていた彼にとって、これが限界であった。
勝負にも戦いにも勝っていても、奴を仕留め損ねたと言う事実は変わらず、彼の胸に突き刺さる。
ハンデがあったとは言え、情けない。そう思うしかなかったのだ。
"最強"の能力を持ち、学園都市一番の頭脳を持っているにもかかわらず、奴を仕留め損ねた。だから彼は自分を責める。
こんな事だから、いつまでたっても"最強"止まりなンだよ、と。
「こンなンじゃ足りねェ……もっと力がいる……何もかもを黙らせる───絶対的な力……」
ボソリと呟いた。他の者の耳に入らないであろう声で。
「ダメだ。やっぱり
ヴィランは消え、彼もまたこの場から消えようと、足を運ぼうとしたその時、反射膜に弾丸並みの速度で何かが触れ、オートで反射する。
「あ?」
弾丸が飛んできた方向に目を向け、少しばかり目を細める。そこにいたのは、
「1-Aクラス委員長、
そこには眼鏡を掛けた黒髪の少年と、大勢のヒーロー達。きっと雄英に勤めている教師達だろうが。
「ハァ……面倒くせェ」
ただただ、
当然の事ながら、
それにデフォで設定されている反射が更に敵意があると、ヒーロー達に錯覚させる。
何せ、攻撃された弾は飛んできた方向へ戻っていき、銃を粉々に粉砕したのだから、そう思われてもしょうがない事なのだが。
「お、落ち着くんだ! 彼はヴィランじゃ───」
「面倒くせェが相手をしてやる。死にてェ奴からかかってきなァ?」
彼は逃げない、逃げてはいけない。ここでヒーロー相手に逃げてしまえば、"最強"の名が廃る。その地位から今降りる訳にはいかない。
『おい、アレ……
『ええ、こんな大物がウチに襲撃しにくるなんてね』
『そうだね。ここは生徒の安全が第一優先。オールマイトがあれ程の傷を負うほどの相手……皆気を引き締めて』
すぐさまヒーロー達は取り囲む様に
だが、彼は動く様子などは全く見せず、ズボンに手を突っ込み。不敵な笑みを浮かべ、攻撃か来るのを今か今かと待っている様に見えた。ある、一人を除いて………。
「待ってくださいッ!」
「「「!?」」」
ボロボロに倒れ伏しながら、叫び声をあげる一人の少年の声が、ピリピリとした雰囲気の中を駆け巡った。
◇
◇
◇
きっと、折れてしまっているだろう。軽く体を動かすだけで、足に電気を流した様な痛みが襲う。
そんな中、緑谷は思う。あの
やっている事は、ヒーローとなんら変わらない。むしろ、生徒達を守りながら戦うなんて、オールマイトでも中々難しい事だ。
しかし、彼は難なくそれを実現し、敵を撃破。にも関わらず、自分を『悪党』と評する。
彼にとっての『ヒーロー』とは何なのか。こんな事で、自分はヒーローになれるのか。あれが『悪党』なら、目指すのはやはりオールマイト……。などと考えているが、答えが出ない。
そんな時だ、
「お、落ち着くんだ! 彼はヴィランじゃ───」
「面倒くせェが相手をしてやる。死にてェ奴からかかってきなァ」
口を歪ませて笑う
だが、緑谷出久だけは、その表情をみて感じたものは恐怖でも何でもない。ただ、寂しそうに見えた。誰もが強い力を恐れる。まるでオールマイトとは対極。
強かったから人々から平和の象徴と崇められたオールマイトと、強かったから人々に恐れられる
その違いは、何なのであろうか。
緑谷は知っている。その表情を───かつて、見たことがある。場面は違えど、知っていた。
───あの時のかっちゃんと同じ……。
そう思った時、口が動いていた。気付けば叫んでいた。
守られる様な人ではない事を知っていながら、救いの手を伸ばしていた。
お節介と思われるかも知れない。だが、彼にとってお節介とはヒーローの本質。お節介だからこそ、ヒーローになれる。
自分より強いから守らなくていい、そんなの違うだろ。大体、ヒーローが自分と同い年くらいの子に牙を剥く事なんておかしいだろ。そう、心の中で思いながら。
「ハッ───ヒャハハハハッ! 何だ? 何だよ? 何ですかァ!? オマエ、どういうつもりだ? アァ?」
当然の様に彼は笑う。他のヒーロー達───雄英の教師達も、緑谷の方をみて唖然としている。
しかし、オールマイトだけは、緑谷に対して優しい眼差しをおくっていた。よくやった、と言わんばかりの。
「オールマイト…が、言ってました。彼はヴィランじゃないって。自分達から手を出さなければ、無害だって……それに僕達を、生徒を守りながら戦ってくれてたんですよ」
自分でも何故口にしたのかわからない。だが、緑谷の口はそのまま喋り続ける。
「それに、おかしいです。彼だって、僕達と変わらないくらいなのに……それに大人数で、ヒーロー達が寄って集って……」
「オイオイ、そりゃアレか? 心配してンのか? この俺───
「知ってる。けど、君が救けを求める顔をしてたから!」
「!?」
大体、緑谷の言ってる事は間違っていないかも知れないが、"個性'を資格無しに使い、人を傷つける事自体が法律で禁じられている。
ヒーロー達としては、ヴィランとして対応せざるを得ないのだが。
「コイツ、頭大丈夫か? まァイイ。ほら、どォした? 来るなら来いよ。まとめてぶち殺してやッからよォ……」
しかし、他のヒーロー達は何故か動こうとしなかった。
先程まで攻撃をしようとしていたにも関わらず、だ。
「チッ、興が冷めた。不本意だが、今日の所は退いてやる」
彼はそう言い、両手を軽く広げると、物凄い暴風が発生し、体が宙に浮いていく。
その能力は、まるで大気の操作に見える。だが、先程の戦いぶりを見ているからこそわかる事だが、本質はもっと別の何かだ。
風が止む頃には、彼の姿は無く。緑谷達はその場に取り残されていた。
「HAHAHA!」
今にも力を抜けば、倒れてしまいそうなオールマイトが高らかに笑った。
「また、助けられてしまったな。君に───そして彼にも」
「オールマイトは、彼を知っているんですよね?」
緑谷は地面に寝そべりながら、上を見上げる様に問う。
すると、オールマイトは少し上、
「うん。初めて会ったのは、この傷を負う、少し前なんだけどね……」
その表情は少し暗めで、あのオールマイトから笑みが消えた。
「緑谷少年には、話しておこう。彼の事を───」
◇
◇
◇
空はよく晴れており、雲一つ見当たらない青空。
『君が助けを求める顔をしてたから』
その言葉が、彼の頭をよぎる。
胸糞が悪かった。大した力も持っておらず、"最強"である筈の自分を守ろうとした、あの少年に無性に腹がたった。
それは、まるで空から見下ろして来る太陽の様に輝いており、この青空の様に曇りのない瞳。
彼を見てれば、見てる程、自分の居場所がどれ程汚れており、血みどろの世界に浸っているか、そして抜け出せない底なし沼にいるか実感させられた。
「気にくわねェな」
そして思う。何故、自分はこんなにも苛立っているのか。
何かが違うのだ。自分の知っている
(俺が
それは、先程行った大気の操作。だが、その演算量は先程とは比べ物にならない、膨大な情報量。
「くかきけこかかきくけききこくけきこきかかァ─────ッッッ!」
暴風、空は一瞬にして闇に覆われる。大量の黒い積乱雲。空の光を食い潰すかのように。
一瞬にして、その天候を変えた。
降り注ぐ雨の中、彼は呟く。
「ギャハ、俺は
フッと、笑いをこぼし、ビルの上から飛び降りる。
力の向きを調節し、綺麗に地面へと着地。雨の中であるにも関わらず、一滴も雨に濡れていない男は裏路地へと姿を消していく。
(俺は
自分の心を押し殺し、後戻りはもうしない。
◇
◇
◇
緑谷出久とオールマイトは現在、リカバリーガールの治療を受け、二人共保健室のベッドで寝そべっていた。つまり、安静な状態で寝かされている、というわけだ。
オールマイトは全身満遍なくダメージを受けており、緑谷は両足の骨折、重傷に近い。
「私、また活動限界が早まったかな……まだ一時間くらいは欲しかったが……」
「オールマイト……」
「まっ、仕方ないさ! こういう事もある!」
オールマイトは軽く起き上がり、笑いながら言った。
そんな時、コンコンとスライド式のドアがノックされる。ガラガラと、音を立てて入って来るのは、茶色いスーツジャケットを着ており、髪型も短髪で特に目立った特徴の無い男性。名前を
「失礼するよ!」
「ちょっ、いいんですか!? その姿を見せちゃって……」
緑谷は慌てる。それもそうだろう、普段のオールマイトはムキムキの脳筋男だが、現在は骸骨のように痩せ細っており、ガリガリだ。この姿を彼は普段隠している。
しかし、オールマイトはケラケラと笑い、気軽に緑谷に言う。
「大丈夫さ! 彼は私が一番仲のいい警察。塚内直正くんだからね!」
「ハハッ! なんだい、その紹介は……」
気楽に挨拶を終わらせると、塚内がオールマイトに
「まってくれ、それより生徒達は無事なのかい? 13号やイレイザーヘッドは?」
「生徒はそこの彼と、2名を除いて軽傷。まあ、その二人もそこまで酷くは無いんだが、とりあえず病院へ向かわせたよ。二人の教師は命に別状なしだ」
その言葉を聞いて、オールマイトはそっと胸を撫で下ろすかのように、息を吐いた。
「それも、三人のヒーローが身を挺していなければ、生徒達は無事では無かったかもしれないね」
「それは違うぞ、塚内くん」
オールマイトは目に光を灯した様に言う。
「彼らもまた戦い、身を挺した。こんなに早く実践を経験し、生き残るなど、今までの一年生であっただろうか? ヴィランも馬鹿な事をした! この1-Aは強くなるぞ!───私はそう確信している」
そして、そっと目を閉じてからオールマイトは再び口を開いた。
「───6年ぶりに、彼にあったよ。随分と背が伸びてた。あの頃よりも、深い黒では無くなっていた」
「………
「
オールマイトの言葉に、緑谷もポツリとその名を口にしてしまう。
「どうにかならないか、塚内くん。彼は、本来ならこちら側の────」
「かもしれない。でも、証拠が出たらすぐに捕まえるよ。"個性"を資格無しに乱用して人を傷つけている。ただ、その証拠が今は出ていないだけ……エンデヴァーとも交戦したと噂にはあるが、エンデヴァー本人がそれを隠しており、噂になっているだけでは、今は何も出来ないってだけさ」
「彼が、ああなってしまったのは、
オールマイトは歯をくいしばる。あの少年の表情を頭に浮かべながら。
「オールマイト?
「言われてみれば……何かを目指している、な。昔も言っていたよ。"最強"のその先へ行くって」
「オールマイトと彼の繋がりって一体……」
「そうだな。この腹の傷……いや何でもない」
オールマイトは病室の急に曇った空を見上げ、少し何か考えごとをしつつ、ため息をこぼした。
◇
◇
◇
「腕をやられた、手下も瞬殺だった、脳無も通用しなかった、
ヴィラン連合のアジトに逃げ帰ってきた死柄木弔は地面に倒れ伏しながら、机の上にあるパソコンを目掛けて話す。
《違わないよ。ただ、見通しが甘かったね。それに
《うむ……舐めすぎたな。
パソコンから聞こえて来るのは二人の声。
謎の人物だ。黒霧は片方の問いに答える。
「ええ、おそらく
《うむ、残念じゃのう。いつか、
《残念だね。やはり、彼にはあの程度では無理か。もう片方の脳無もオールマイト並みのパワーにしたのに、仲良く吹き飛ばされるなんてね》
そこで弔が口を開く、そうだと。
そのまま、何か疑問を抱いた様に語り始める。
「オールマイト並みのスピードを持つ奴が一人。アイツの邪魔が無ければオールマイトだけなら倒せたかもしれない。クソがっ! どいつもコイツも邪魔ばかりしやがって───クソガキが、クソガキッ」
《悔やんでも仕方ない! 今回も決して無駄では無かった筈だ》
《精鋭を集めよう、時間をかけてじっくり。我々は自由に動けない》
《だから君の様な"シンボル"が必要なんだ。
死柄木弔の目に再び悪意が宿る。
一人は平和の象徴を目指し、一人は悪の象徴を目指し、一人は絶対無敵を目指している。
この三人が交差したこの日、全ての物語が動き出す。
評価入れてくださった皆様感謝です!
これからもよろしくお願いします。
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雄英体育祭で世間が騒いでいる頃
第6話 彼が悪党の理由。
第六話 どうぞ(誤字脱字あると思うけどごめんね)
USJにヴィラン───死柄木弔が襲撃をかけてから一日が経過していた。
あの少年───
「何なンですかァ、あの野郎は……」
緑谷が
そんな目を向けられたのは、3度目。一人は彼の能力───
『君が助けを求める様な顔をしてたから』
その言葉は
ムカムカした、あの二人は例外として大した力を持っていない奴に心配された事が。
イラつきながら近くに置いてある缶コーヒーに手を伸ばし、蓋をあける。そのまま黒く苦い液体を口の中へ流し込み、ため息を吐く。
「あン?」
マナーモードにしてある携帯が机の上で振動している。
何故今まで気が付かなかったのか、それ程までにあの言葉に対して動揺していたのか、など色々考える。
しかし、よくよく考えてみれば携帯に登録している奴など居ないし、自分に連絡を入れてくる奴など今まで死柄木弔くらいであった。
間違い電話か?と、ボソリと呟きつつ携帯電話へと手を伸ばす。
携帯を開き、電話が誰からか確認をするとそこには───
「非通知? あの野郎ォ……懲りずにまた連絡入れてきやがった」
非通知からの着信は大概が死柄木弔である。
昨日の一件でもう関わってこないかと思ったが、考えが浅はかであった様だ。
すぐに携帯を耳元に当て、怪訝な表情を浮かべながら電話にでる。
「なンの───」
《久しぶりだね、
「───ッな!?」
その声は死柄木弔の声では無く、妙に透き通った聞き慣れた声。
自分の能力───この世界の超常の力の逆算を散々手伝い、現在の
───オール・フォー・ワン。
「だからなンで俺の電話番号知ってンだよ。ストーカーですかァ?」
《フフッ、まあそれに近いかもね》
「で、だ。随分と元気そうじゃねェか」
《まさか君があそこで寝返るとは思わなかったよ。本当、君のおかげで随分生きづらくなったのは確かだけどね》
「あ?
6年前、かなりの重傷を負ったオール・フォー・ワン。何故だか知らないが、
《やっぱり、覚えてないみたいだね。まあいい───本来なら戻って来てくれ、と言いたいんだけど無理そうだからね》
「よくわかってンじゃねェかよ、先生」
《まあね、弔に連絡入れさせたけど無理だったしね───だから、君に聞きたい事があるんだよ。
「はァ? 教えると思ってンのか?」
《そう言うだろうと思って君にもある情報を提供しよう》
「情報? 何のだ?」
それが何の情報か、などは分からないが。きっと何かいい情報なのは確かだ。
《教えて欲しければ先に質問に答えてもらうよ?》
「チッ。答えて何にもありませンでしたァ、とか言いやがったら殺すからな」
《ハハハッ。殺す、ね。下らない事じゃなくても殺す気だろ?》
先生の言葉で一瞬沈黙が起きる。
「ハッ、よくわかってンじゃねェかよ」
《そんな事しても、君のやってきた事は消えないし、
電話の向こう側からは、不敵な笑い声が聞こえる。仕返しのつもりか知らないが、人の嫌がる事などの感情を揺さぶる行為は先生の十八番である。
《どうしたんだい? 黙り込んで?》
「うるせェ、とっととしやがれ。何もねェなら切るぞ」
《おっと、本来の目的を忘れてたよ。僕も歳かな? ボケてきたみたいだ》
「勝手にボケてろ」
電話越しとはいえ、先生の口調は余裕がある。
大抵の相手は
流石は裏社会に君臨しているだけの事はある。
《えーと、メモメモ……まだ点字に慣れてないから大変だよ》
「マジで切るぞクソ野郎」
先ほどまでの余裕とは裏腹に点字に慣れていないと、情けない発言をしてくる。
少しばかり
《じゃあまず一つ目。AIM拡散力場と言うものについて》
「AIM拡散力場だァ? 何でそンな事しりてェンだ?」
《君には関係ないよ。別に話さなくてもいいさ、その場合はこちらも情報を提供しないだけだしね》
「あン? そォかよ。なら話さねェ……」
《そうかい、ならちょっとお話をしよう》
《ある所に孤独な少年がおりました。その少年は人々から、そして親からも『化け物』と言われ、ずっとずっと寂しい思いをしていました》
「くっだらねェ…」
《まあ、切らないでそのまま聞いていてよ。その少年は一人何処かへと消えていきました。当然、親はその事を喜び、数年後新たに子供を産んだのです。今度はマトモな子が生まれてくる、そう信じて……しかし、生まれきた子供は『化け物』では無かったものの、呪われていたのです───》
「───ッ!! オイ、そりゃどういう事だ?」
《続き聞きたいのかい? それじゃ答えてよ》
「チッ」
その情報は転生する前に知っていた知識で、この世界でその常識が通用するかなどは分からない。似通った部分は彼としても確認しているが、その知識は元々いた世界では架空のもの。
「これでイイだろ。さっさと続き───」
《いや、他にも聞きたい事がある》
「は? オマエ、ふざけてンのか?」
《いやいや、ふざけてないさ。大真面目。だから答えてよ、君の知っている限り、
「無視すンじゃねェ……まァイイ。それは能力の使用に『演算』する頭脳が必要だからだ。知ってンだろ? "個性"と"能力"の違いくらい。多重能力だと脳に負担がかかり過ぎて不可能なンだよ」
その言葉を聞き、先生は、なるほどね、とポツリと呟き質問が他にない事を伝えてくる。
「オイ、約束わかってンだろォな?」
《もちろん、まあ簡単に言うとね。君には妹がいるかも知れない訳だ。それも君と一緒の扱いをされ、捨てられた。『呪われた』少女》
「それで?」
《君が嫌がる事をしようとしたんだけどね、これはこのまま伝えた方が楽しいかなって》
「……、」
《写真だけは送ってあげるよ、居場所は自分で見つけなよ。きっと
ツーツーツーツー
電話が切れた音だけが鳴り響く。
そして目の前には座標移動で転送されて来たと思われる、一枚の写真。
別に写真が来たことには驚かない。だが、自分の居場所がこうも容易く突き止められている事に彼は少しばかり頭にきていた。
そっと地面に落ちている写真を拾い上げ、その姿を確認する。
「ハァ……」
そこには
髪の毛は腰まであり、真っ白い髪。瞳は
肌の色はそこまで白くなく、標準といったところか。
何故、
最初は黒髪で黒い瞳だったなら、否定も出来るだろう。だが、元々なのだから否定のしようがなかった。
「どォでもいいか」
せっかく自分がいやいや先生に情報を渡しておいてだ。
ビリビリに破けた写真をひと塊りにまとめ、テレビの横にあるゴミ箱へと放り投げる。
テレビのリモコンを操作し、電源を落とす。そのまま黙って玄関の方へと向かい。
外へと散歩に出かけるのであった。
◇
◇
◇
"平和の象徴"オールマイト、
そこには立派なソファが二つあり、その間に机が置かれている。
二人は机越しに向かい合うように座っていた。
「この雄英体育祭で『君が来たッ!』って事をこの世に知らしめてほしい」
その告げられた言葉には魂がこもっており、緑谷出久にこの自分を継いでほしい、と、本気で思っているからこそ出た言葉だろう。
あと二週間で開催される雄英体育祭。
それは現在、オリンピック並みの人気を誇っており、世界中でその存在を知らない者はいない、というほどだ。
「僕が……来たって……でもどうやって……」
「雄英体育祭のシステムは知っているよね?」
「は、ハイ! もちろんです」
雄英体育祭のシステム。
それはサポート科、経営科、普通科、ヒーロー科がごった煮になり、1年生、2年生、3年生と各学年ごとに各種競技の予選を行う。その中で勝ち抜いた生徒が本選で競い合う。所謂、学年別の総当たり。
オールマイトは両手の人差し指を緑谷の方へと突き出し言う。
「つまり、全力で自己アピール出来る!」
「……はあ」
「はあって!?」
オールマイトはソファと共に勢いよく後ろに倒れる。
そんな様子を気にせず、緑谷は顎に手を当てながら、自分の考えを述べていく。
「いや…あの……仰ることはごもっともです。でも正直、あんな事の後でイマイチノリ切れないって言うか……そもそも、もうオールマイトに見てもらえてるし、体育祭で目立つモチベって言うか……そもそも現状こんなで目立てるとは思えないし、体力テスト全然だったし……」
「ナンセンス界じゃ他の追随を許さないな、君はッ!」
「な、ナンセンス界……」
ナンセンス界といわれ、少し挙動不審な態度になる緑谷。
しかし、オールマイトがそう言わなければ彼はあのままずっとブツブツとマイナス要素を口から吐き続けていただろう。
オールマイトは思っていた、自分の後を継がせる為、なにより自身の"個性"を受け継いだものだからこそ、トップを目指す気持ちを忘れないで欲しかった。
「常にトップを目指す者とそうでない者……その僅かな差は社会に出たら大きく響くぞ。気持ちは分かるし、私の都合だ。強制はしない、ただ───海浜公園での気持ちは忘れないでくれよ」
緑谷はオールマイトのその言葉にそっと頷く。
気持ちは十分に伝わっていた。だが、そんな事よりも気になる事が彼にはあった。それは───
「あの、こないだの
このあいだは何だかんだで、話してもらえていない。
なら、ここで聞いておかないといけない。そう思ったのだ。
オールマイトはゆっくりと起き上がり、やはり聞いてきたか、と、そっと呟いてソファにきちんと座り直す。
「彼と初めて会ったのはこの傷を負う、少し前。私のランニングコースでいつも通る公園にいつも一人で、朝早くに座って缶コーヒーを飲んでいたんだよ。小さな少年が───」
〜6年前〜
(いつもあの少年一人だな。毎日こんな朝早くに……か、缶コーヒー!? ブラックってオイオイ、年的に早すぎないか?)
オールマイトは自分のランニングコースにいつもいる、白い髪の少年が気になっていた。
いつも一人で何をしているのか、なんでこんな時間帯に一人でいるのか?と。
自分から声をかける事など普段は絶対にないが、オールマイトはその日、珍しく少年に声をかけた。
「やあ! 少年! 私が来た!」
「……うるせェ。鬱陶しいから消えろ」
「なっ、辛辣ってレベルじゃない返答だぞ!?」
「……、」
そのまま少年はオールマイトの事を気にせず、黙ったまま缶コーヒーに口をつけ、黒く苦い液体を口に含む。
「こんな朝早くに一人で何をしているんだい? 親御さんが心配するだろ?」
「……、」
「心配かけないように早めに帰るんだぞ? HAHAHAHA!」
「……、」
「って、アレ? 聞こえてないのか?」
それからというもの、ランニングのたびにオールマイトは少年に声をかけるようになった。
毎日毎日。無視されようが話しかける。
そんなある日。
「おはよう少年ッ! 今日も私が来た! いい朝だな!」
「あァ? オマエまた来たのか」
「おっ!? 今日は反応してくれるのか少年!」
「うるせェ……」
「こう見えても私はヒーローだからね! こうしてパトロールがてら、ランニングを───」
「オールマイトだろ? 知ってンだよ」
「気付いていたのかっ!?」
「有名だろ、オマエ。知らねェほうが珍しい」
それから少しずつ、少年と会話が出来るようになった。だが、ある日を境に少年はその場所に来なくなった。
「今日もいないか……」
少し残念な表情を浮かべつつ、オールマイトはランニングを再開する。
次の出会いが、あんな形になるとも知らずに……。
表向きは毒々チェーンソーとの戦いだった。
だが、その裏で起きていた事件。
ヒーロー達は地面にひれ伏し、辺りには血痕が飛び散っている。
そのヒーロー達の倒れた山の上に立っているのは、一人の見覚えのある少年。
背丈はオールマイトの腰ほどしかなく、真っ白い髪にその前髪からチラリと見える赤い瞳。
「大丈夫ッ! 私…が、き……た!?」
「アァ? ククッヒャハハハハッ! 遅ェ遅ェ! ヒーローってのはピンチギリギリに登場すンのがお決まりだろォ? 全然間に合ってねェじゃねェかよ?」
返り血一つ付いていない。
しかし、彼がやったのか、と納得してしまう。
「少年……何で、君が?」
「あ? そりゃ決まってンだろ?」
片腕を空へと掲げ、全てを我が手に掴むかのように、拳を握りながら少年は言った。
「誰も彼もが辿り着こうと思う事がバカバカしくなる境地へたどり着く為……絶対的な力……
「なっ、そんな馬鹿な事は───」
「無駄だよ、オールマイト。彼が決めた事だからね」
少年の背後にスーツを来た男が現れる。
オール・フォー・ワン。裏社会に君臨する、モグラ達の王。
「貴様ッ! 少年を誑かして……許さんぞ!」
「誑かす? 笑わせないでくれよ。僕は彼が無敵になる為のお手伝いをしているだけだよ。彼───
「彼は……ヴィランじゃない! 私は知ってる! いつも寂しそうに公園にいた彼を! だんだんと心を開いてくれた、彼を!」
「何だい? 僕がヴィランだから全部、僕のせいかい?」
オール・フォー・ワンはニヤリと笑みを浮かべ、言う。
「笑顔はどうしたんだい? いつもみたいに笑えよ、オールマイト」
「き、貴様ァァァァアアア!!」
凄まじ勢いでオールマイトが突撃する。だが、
「
オール・フォー・ワンの一言で、
突撃してくるオールマイトに対して、地面が歪み、大量の土のドリルとなって進路を妨害。それをオールマイトは力技でねじ伏せる。
ドゴォンと大きな地鳴りとともに、激しい戦いの幕が上がる。筈だった。
「オマエ……どォいうつもりだ?」
「くっ……」
オールマイトは土のドリルを力でねじ伏せた後、
「私は……ヒーローだ」
「!?」
「君はヴィランじゃないんだ少年。私は子供に拳を絶対に向けない……君を奴から救ってやる!!」
「はァ? オイオイ、俺はそこに転がってるヒーロー共をぶっ潰した奴だ。ヴィランだ! 悪党だ! それを救う、だと?」
「何を言ってるんだ。死んでなんかないだろ、殺してなんかないだろ」
「───ッ!?」
オールマイトはワン・フォー・オールへ向かって走り出す。
「無視してンじゃねェぞッ! 三下ァ!」
地面に転がっている石を蹴り上げる。すると足にぶつかった石はもの凄い勢いで、オールマイトへと向かっていく。
それに気が付いたオールマイトは全ての石を拳で叩き落とし、再び足を止める。
「頼む、少年。もうやめてくれ。奴の言う事を聞くな!」
「別にアイツの言う事を聞いてる訳じゃねェ……コレは俺の意思だ! 俺が
「別のやり方を探そう。今ならまだ間に合う! 強くなりたいなら幾らでも道はある。みんな精一杯努力して、頑張って生きているんだ! それを潰して強くなるなんて間違ってるよ、必ず───」
オールマイトがそこまで言ったその時、
パシリと空間に亀裂が入ったような、そんな感覚がオールマイトを襲った。
「……精一杯努力して生きてきたァ……必死に頑張って生きてきたァ……ハッ、ヒャハハハハハッ! 何だァそりゃ!」
「なっ!?」
「確かに強ェ力には憧れンよなァだれでも! 俺も憧れ願った、この力を───考えた事あンのか? 気付いた時には『化け物』だった俺の気持ちを!」
「……少年」
「俺の周りには誰もいねェ。向けられンのは恐怖だけ。アイツだって俺を利用しよォとしてンのは分かってンだ。そンな事知ってンだよ! オマエならわかんじゃねェか? そンだけ強ェ力持ってンならよォ!」
歳の割には人格が完成されており、その感情はとても黒く、深い深い闇。
誰かに認められたい。だが、向けられるのは恐怖だけ。そんな環境だった彼の心に付け入るように、闇の王は彼を悪の道へと誘い込んだ。
「なァ、わかんだろ? チカラで頂点に立っても何一つイイ事なンざねェ。ムカつくンだよ、ヒーローに憧れて力を求めようとするクソ共も地位と名誉欲しさに力を求めるクソ共も!───必死に努力してきて、あろう事か目指す頂点が俺と同じ位置? オマエと同じ位置?」
その眼光は強烈な殺気を帯びていた。
「オマエのいる方で一番になればヴィランから狙われる。かといって別の場所で一番になればヒーロー達から狙われる。ふざけてンじゃねェぞ! こンな所に立って独りになンのは最初から"最強"の俺だけでイイじゃねェか! どいつもコイツも好き好ンで俺の居場所に来ようとすンじゃねェ!」
「すまない。君の気持ちは私には理解できない」
オールマイトは少し俯きつつ、彼の言葉を否定した。
そうかよ、と
オールマイトは頭を下げ、言い放つ。
「すまない。私は無個性だったんだ!」
「は?」
思わず
「だから、謝らなくてはいけない。そんな君が辛い思いをしているなんて思わなかったんだ。私は無個性で、何の力もない一般ピープルだった。あるお方から"個性"を受け継ぎ、ここまでの強さを手に入れた。だから、君の気持ちはわからない。だからッ!」
オールマイトは深く息を吸い、
「これから知っていこうと思う! 私が君を"最強"から引きずり下ろしてやる! 今が悪党、ヴィラン? だったら償ってくればいい。決して消えない罪でも、一生を人助けに使えばいいじゃないか。だから、私はまず、君を救う!───もう安心しろ、何故かって?」
オールマイトは手を
「私が来たッ!」
今まで、無敵を目指して何人の命が犠牲になったのか、と。しかも、本物とは違い、彼は人と知っていて殺してきた。殺人鬼だ。
だが、そんな彼を目の前の男は救う、と。たった公園で何度かあった程度の人間をどうしてそこまで信用できるのか。
本物のヒーローにやっと会えた。
そんな気がした。だが、悪党にハッピーエンドはありえない。
───ズンッ……
何かが突き刺さる音。
オールマイトの左の脇腹に大きな穴が開いている。
攻撃がきた方向へ目を向けると、そこには……。
「やれやれ、何をしてるんだい? 君はヴィランだろ? なんで救われようとしてるんだい? 抜け出せるわけないだろ? 君は僕と一緒なんだから、ヒーローを殺す存在───悪党なんだから」
オール・フォー・ワン。
その存在は決して
自分を救おうとした"平和の象徴"は悪党のせいで死んだ。そう、彼の心に深く刻まれる。
闇の世界で生きていく。そう決めたのに、暖かい言葉に惑わされて伸ばされた手を掴もうとしてしまった。自分のいる闇の世界から一瞬でも目を逸らし、もう届かないと思っていた光の世界へ一瞬でも触れようとした。その結果が光を希望に生きる人々から、大きな光を奪う結果になった。これから先、人々は絶望するだろう。"平和の象徴"を失ったという絶望、そしてオール・フォー・ワンが支配する世界に。
だからこそ、
たとえ何を失ってでも、この先、永遠に孤独を味わおうと。
自分が偽物でも本物以上になってやろう、と。
オール・フォー・ワンをぐちゃぐちゃに捻り潰して、自分が《絶対悪》になってみせようと。
右脳と左脳が割れた気がした。
自身の与えられた
そして、自分の脳を何かが侵食していく。まるでぶじゅっ、という果物を潰すような感覚。
両目からは涙が溢れた。いやそれは涙ではない、透明どころか濁っている、赤黒くて薄汚くて不快感をもよおす、鉄臭い液体。
そして、そこで彼の意識は途絶える。完璧に意識がシャットアウトした。
目の前の視界は暗転。
そして、全てを捨てた彼に訪れる変化は、
一つの暴走。
「ォ」
もう既に彼の意識はない。
だが、声を発した。その表情は全てを破壊する為だけに生まれてきた兵器のよう。
小さい少年は、この時、本物の『化け物』となる。
「ォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
それは暴走が生み出した。彼のもう一つ先の力。
彼の能力、
その能力の本質は、自身の観測した現象から逆算して、限りなく本物に近い推論を導き出すこと、である。
既存のルールを全て捨てさり、ベクトル変換から一歩前に進んだ力。
背中からはドス黒い翼が飛び出した。噴出にも近い黒の翼。彼の意識すら飛ばし、自我すらも叩き潰すほどの怒りを受けて、その翼はあっという間に数十メートルも伸び、辺り一面を薙ぎ払う。
ビルはスプーンで抉り取られるように崩れ、地面はフォークを突き刺したように穴が開く。
「なっ!? コレは一体!? 何が起きているんだ……その黒い翼はなんだ!?」
目の前の起きている現象がオール・フォー・ワンには理解が出来ない。だが、ものすごい力、その事だけは理解できた。
ならば、やる事は簡単だ。その力を自分のものにして、奪ってしまえばいい。
"個性"とは違う力、そう聞いてはいたが、本質は一緒だと。
もともとはそういった手筈で事を進めてきたのだ。いずれ、自分のものにする為に。
オール・フォー・ワンは数多の個性を繋ぎ合わせ、強力な一撃を
この際、死んでしまっても構わない。後からその力を抜き取ればいい。
そう思った、だが。
ぐしゃり、と。
気付けばオール・フォー・ワンは地面に叩き伏せられていた。
謎のベクトルが彼を襲い、地面へとジリジリ張り付ける。
コツコツ、と。
目線を向ければ、そこには人の形をしたナニカが。
「は、はははッ」
「───yjrp死pw」
「コレは流石に規格外だ……」
次の瞬間、
それではまた一週間後に投稿します。
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第7話 引っ越し
トントンと頭を右手の平で叩きつつ、何か思い出しそうで思い出せない。そんな現象に
最近オールマイトがテレビに出るたびにナニカを忘れているようで、モヤモヤとするのだ。
(何なンですかァ、このTOT現象は……)
そんな事を思いつつ、彼は部屋にある荷物をまとめていた。
ソファーを軽くつま先でつつくと、部屋の片隅へと綺麗に移動していき、軽く缶コーヒーの残骸に触れれば見事にゴミ箱の中へと飛んでいく。
相変わらず便利な能力だ、と思いつつ。必要最低限の物だけを集め、不要な物は全てゴミ袋の中だ。
どんどんと殺風景だった部屋はより一層殺風景な部屋へと早変わり。まるで引っ越して来たばかり、いや空き家に近い状態だ。
何故今更片付けをしているか、普段の彼なら部屋の片づけなどは絶対にしないだろう。だが、オール・フォー・ワン───ヴィラン連合の奴らに居場所が割れていると思うと不快なので引っ越しを決意したのだ。
「こンなもんか? ハァ、何で俺がこンな事……」
アイツらのせいで引っ越す羽目になった彼としては、何とも言えない心情だった。
携帯の番号も割れていたので、すぐに新しい携帯を買いに行き、そして直ぐさま不動産屋へと足を運んだのだ。
不動産屋の店員には何でこんな子供が?的な顔をされ、さらに一括でマンションを購入すると言ったらどこにそんな金があるんだよ、と言わんばかりの顔をされた。
それも当然だろう、何せ16歳の子供なのだから。
ピンポーン
とインターホンが鳴る。
「引っ越しの荷物を預かりに来ましたー」
荷物を預かりに来たのは、どこにでもいそうな青年で、町で見かけたら顔など忘れてしまうであろう。
そんな彼はニコリと頷き、靴を脱いでせっせと荷物を台車に乗せていく。
「あのー、冷蔵庫とかは?」
「そっちで適当に処分してくれて構わねェ」
「そういたしますと、手数料が別でかかるのですが……」
青年の一言にほんの少しばかりため息をこぼしてから
「いくらだ?」
「そうですね、冷蔵庫ですと6400円くらいかと……」
「違ェ違ェ、そこにあるモン全部だ」
「へ?」
青年は驚きの表情を浮かべた。
目線の先には冷蔵庫の他にも電子レンジやソファなど、まだまだ使えそうな家具が沢山ある。
「えっ、と、運ぶ物は?」
「そこにあるダンボール箱だけだ」
青年は
手をかける部分の隙間からは夥しい量の缶コーヒーが敷き詰められているのがわかる。
まさか、これだけか?と、訝しむ様な表情を青年は浮かべる。
「あの、この家具などはウチで処理するよりちゃんとした業者やリサイクルショップに出した方がお金になりますよ?」
「あン? 別に構わねェ。次の住む場所には明日にでも必要な物が届くように買い物は済ませてンだよ」
「は、はぁ……わかりました」
「欲しけりゃくれてやる。売るなり、捨てるなり勝手にしてくれ」
急に渡された高額なお金。今まで青年が手にした事の無い様な金額を目の前の明らかに子供が手渡してきたのだ。そんな状況なら誰しもが驚くだろう。
「は? なっ! ちょっと! 困りますよ、お客様ッ!?」
「回収代金だ。釣りはチップとしてでも受け取っとけ」
何という金銭感覚。明らかにおかしい。
どんな恵まれた環境、いやどんなボンボンなのか青年からすれば聞きたくなるほどだ。
しかし、決して
これはオール・フォー・ワンが悪事を働き稼いできた金。いや、
通常ならそんな事は出来ない。いや、恐ろしくて出来るはずもない。
「流石にこの量のお金をチップという訳には……良心が痛むのですが」
「良心だァ? どォでもイイだろォが。そンな事より、とっとと仕事済ませやがれ」
百万二百万無くなろうがどうでもいいのだ。
青年はあたふたしつつも、素直にお金を受け取る事にしたのか作業に入る。冷蔵庫などを掴み軽々と持ち上げ、台車へと乗せていく。
(身体能力強化系の"個性"か? そりゃ宅配やら引っ越し向きな能力だわな)
横目で作業している青年を見つつ、
「いやー、もうすぐ雄英体育祭ですね〜」
「……、」
気軽に作業員の青年が話しかける。
「実はこう見えて僕も高校生の時はヒーロー科だったんですよ。まあ雄英みたいな立派な学校では無いですけどね」
「……だから何だ。ヒーロー科なら何でヒーローになってねェンだ?」
ヒーロー科に入れるくらいならそれなりに技術と学力があるという事だ。たとえそれが有名な高校でなくとも。
だが、何故目の前の青年はこうして引越し屋などやっているのか疑問になり、思わず
すると青年はニコリと微笑み言った。
「なんだか現代のヒーローって、ヒーローぽく無いってのが本音ですかね? いや、別に全部のヒーローがダメって訳じゃ無いですけどね。ただ人々から讃えられたいとか、お金が欲しいとか、なんか違う気がしちゃいましてね」
「……、」
「だから辞めたんですよ。まあ、僕には本物のヒーローにはなれないって思ったのが現実なんですけどね」
青年はこめかみをポリポリと人差し指で掻きながら少しだけ作業のスピードを緩める。
「ハッ、くっだらねェ……だが、オマエの意見が間違ってるって訳でもねェかもな。あくまで俺の考えだがな……」
「もしかして、お兄さんも昔はヒーロー目指してたとか? 今も目指してるとか、そんな感じですか?」
青年は自分よりも年下の少年に対して似通った部分でも見つけたのだろうか?何故そんな事を聞いてしまったのか、青年自身にもわからないだろう。
彼の問いかけに
「ヒーローってのは目指してなるもンじゃねェだろォが」
目指すとか目指さないとか、そういった事では無いのだ。
「まァ、俺にとってはどォでもイイ事だ」
◇
◇
◇
〜6年前〜
「く、うっ………」
「起きたか?
オールマイトの意識が覚醒し、目を開ければそこには知らない天井が。
腕には何本もの点滴がつけられており、腹にはグルグル巻きの包帯。
そしてオールマイトの師匠───グラントリノがそこにはいた。
「腹を射抜かれてよく生きておったわい。それで、奴は?」
奴とはきっとオール・フォー・ワンのことであろう。
オールマイトの覚えているのは悪意に塗りつぶされた様な黒い翼を生やした少年の姿が、オール・フォー・ワンを叩き潰した事だけだった。
意識が朦朧としており、今にもまた寝込んでしまいそうだ。
しかし、ここである事に彼は気づく。
───あの少年はッ……
ボロボロの体でベッドから立ち上がろうとするオールマイト。
「俊典!? 何をしておるッ!」
「行かなくては……あの少年がッ」
「少年!? 少年とは何のことじゃ……今現在、あそこに残っているのは救援に来たヒーロー達と一人の謎のヴィランだけじゃぞ?」
「謎のヴィラン……」
「今もあたり構わず暴れておる。街の住人は避難して問題ないじゃろうが、かなり強いらしい。あのギガントマキアをも凌ぐ程に……」
「行かなくては……少年を、彼を助けなくては……」
オールマイトはズルズルと体を起き上がらせ、一歩、一歩と進んでいく。
…………………
…………
……
「オイ、住民の避難を最優先に考えろ!」
「アレは一体……」
「お、俺達は死ぬのか……」
荒れ狂う怒り。
オール・フォー・ワンを叩き潰してもなお、消えない怒り。
強烈な悪意が渦巻いている。ヒーロー達はそれに背を向けるかの様に逃げ、街は崩壊の嵐に包まれる。
しかしNo.2ヒーローのエンデヴァーは少しでも被害を抑えようと葛藤していた。
人々を逃し、名も知らぬヒーロー達を逃し、ただ一人。
「ォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
人の叫び声とは思えない声。
砂煙、爆煙が立ち込める中、その姿を確認する事さえ叶わない。
見えるのは数十メートルまで伸びた黒い翼。
辺りの瓦礫をなぎ払い、それを止めようとしたヒーロー達はいとも容易く地面に叩き伏せられる。
(アレは一体……ッ!? 何が起きているというのだ)
これが何かなどを考えている暇もなく、その翼はエンデヴァー目掛け突っ込んでくる。それを紙一重、体格に似合わない軽快なステップで回避するエンデヴァー。
幸い、一般市民がここにいない事に感謝しつつ、膨大な火炎で攻撃を試みるが炎は目の前のナニカに届かず、掻き消される。
「クソッ、他のヒーロー達は何をしている!?」
自分の手に負えない。そう感じたエンデヴァーは尽かさず距離をとり、あの翼を出しているのは何か、目を凝らして確認する。
砂煙がほんの少し落ち着き、その姿が僅かだが彼の目に映る。
そこにいたのは小さな少年。真っ白い髪をした何か叫び、怒り狂っている少年。
(子供だと? あんな子供がこれ程の力を……)
それはエンデヴァーにとって、衝撃の事実であった。
いくら追い付こうとしても辿り着けない。そう感じさせるモノ。それは自分がオールマイトに抱いていた感情にも等しいナニカだった。
全てを破壊し、このままでは世界そのものを破壊し尽くさねば止まらないであろう怒り。
しかし、そんな事をさせない為に一人の男が立ち上がる。
ボロボロになった体で、その少年の怒りを止めるべく。
少年にこれ以上罪を背負わせない為に。
ナチュラルボーンヒーロー"平和の象徴"
エンデヴァーは見た。自分ができない事をやろうとしている男の姿を。
「ハァ、ハァ……少年、私が来た! もう大丈夫だ!」
「───yrsu悪kjgcf」
しかし、彼にもう人間の言葉などは通じない。
怒りの根源と思わしき黒い翼はオールマイト目掛けて一直線。そして謎のベクトルがオールマイトを襲い体の自由を奪った。
(これはッ!?)
「私は君を助けるッ!!」
オールマイトは金縛りの様に体を押さえつけていた謎のベクトルを力技で破る。あのオール・フォー・ワンすら抜け出せなかった攻撃を、だ。
オールマイトには
だが、オールマイト自身は全身全霊をかけて目の前の少年に立ち向かう。
リカバリーガールが手当てした左の脇腹からは血が溢れ、立つ事などままならないであろう。しかし、彼は力いっぱい込めて黒い翼をたたき伏せる。
(何が平和の象徴だ……何がヒーローだ)
その一撃一撃。100%の力以上。
(君を救うと約束したのに……結局私は……)
勝負は決して対等ではない。
だが、オールマイトは物理法則など、未知の力など。そんな細かい事は気にせず、ただただ自分の力を振るう。
それは数々のピンチを拳で打ち破って来た時のように。
(君に拳を向けているではないか……)
「───wyxoi 感 uvjfe」
だが、オールマイトの力は一瞬とはいえ、
黒い翼は拡散し、残るは
すぐさまオールマイトは
そっと
その表情は僅かだが、笑っている様に見えた。
これでいい、と。悪を倒してこそヒーローだ、と。そう言っている様な表情。
わざと負けてくれようとしているのかはわからない。だが、オールマイトには彼の表情がとても切なげに見えた。
(私は君を救えなかった───すまない少年よ。約束を守れなくて……)
───DETROIT・SMASH
そして、オールマイトは再び"平和の象徴"として蘇った。
……………………
………………
…………
………
……
…
〜雄英高校仮眠室〜
「結局、私は彼を救う事が出来なかった……」
「オールマイト……」
長々と
緑谷は少し押し黙った。そして何となくだが、
きっと
自分のせいで負わせた傷に責任を感じ、人々から平和の象徴という眩い光を消しかけたという自分に対しての自己嫌悪で、オールマイトを再び偉大なヒーローにする為に敗北を受け入れたのかもしれない。
◇
◇
◇
〜保須市〜
空は夕暮れ、オレンジ色の光に包まれている。
何故、保須市を選んだか。それは結構な数のヒーロー事務所が存在し、面倒ごとに巻き込まれても直ぐに適当なヒーロー達が対処してくれるからである。
(中々悪くねェ街だな。つーか本当にヒーローばっか歩いてやがンな)
通行人に紛れてヒーロー達は街のパトロールに勤しんでいる。
ヒーローコスチュームを着ているので、あからさまに街を徘徊していれば目立つし、コスプレかよ、とツッコミを入れたくなる。だが、この世界ではこれが普通なのだ。
スクランブル交差点を横断し、ふと目線を上に向ける。
そこには巨大なデジタルサイネージ。いわゆる屋外ヴィジョンと言うやつだ。
『雄英体育祭まで、あと二週間をきりましたねぇー!』
『ええ、今年も楽しみですね。今回は特に一年生に期待がかかってるみたいですよ? なんでもヴィランの雄英襲撃を乗り切った子供達なんです!』
『すごいですよね〜、まだ子供なのにヴィランに襲撃されて生きてるのですから!』
ここ最近では、どのチャンネルを回しても雄英体育祭の話題ばかり。
雄英高校を襲撃されたにもかかわらず、よく体育祭をやる気になったものだ。
(雄英体育祭ねェ……)
たいして興味もないのだから見ないのも当たり前なのだが。
それでも今回の一年には少しばかり興味が湧いた。
一度くらい見てみるか、と思いつつ
今回引っ越したマンションは高級マンションに部類される。
セキュリティなどはもちろん完璧で、外観から何から何までも高級感に溢れていた。
(何でこンなとこ買っちまったンだ、俺ァ……)
正直な話、物件を見て買った訳ではなく、少しくらい高い方が住みやすいだろ、くらいの感覚で買ってしまったのが間違いだったと痛感する。
大体、マンションにエレベーターが5つも完備されているのはどうなのだろうか。
エントランスをくぐれば地面に敷かれているのはフカフカそうな絨毯。靴で上がっていいのだろうか? とそんな事を考えさせられる。
そして少し進んだ所にマンション内に住む人が自由に使っていいと思われるテーブルとソファ。
(場違い感がスゲェな、オイ……)
僅か数秒で上層に到達。エレベーターを降りて自分の部屋へと向かう。
部屋の扉はそこまで高級感など溢れておらず、ほんの少しばかり
そして扉をあけ、中を確認すれば───
「ククッ、イイねェ……愉快で素敵なメルヘン野郎が作ったンですかァ? このマンションはァ……」
この部屋を表現するならメルヘン、その一言に尽きる。
洋風の部屋なのはわかる、だが無駄な物が多すぎる。もともと冷蔵庫など置いてあるのは構わないが、ジャラジャラとしたシャンデリアに部屋の壁は全てピンク色。それに何故かカーテンまでもともと付いている。付いているのは構わないが、何故ピンクなのだ。
そっと携帯を取り出し、何やら電話をかけている。
「───リフォームの依頼だ」
後日、リフォームはすぐに行われ、部屋は自分好みになったという。
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第8話 悪党の大先輩
雄英体育祭。
かつてスポーツの祭典と呼ばれ、全国が熱狂したオリンピックは今では規模も人口も縮小し、形骸化した。
そして、現代の日本で『かつてのオリンピック』に代わるかの様に注目を集めているのが『雄英体育祭』である。
超人社会と言うだけあって、ヒーロー達が活躍する世の中。
雄英高校という数多の
そんな雄英体育祭のおかげで世間は大騒ぎ。
ヴィラン達に襲撃を受けた雄英高校だが、今年はより一層厳重な警備のもと、その祭は開催される。
(2年と3年には興味がねェな。見るのは1年……死柄木がちょっかいをかけたアイツらか)
そっと黒く苦い液体を口の中へと流し込みながら、リフォームされたマンションの一室のソファーに腰をかけ、テレビをつける。
どの番組もやはり雄英体育祭の話で持ちきり。
生放送の雄英体育祭を視聴するべく、チャンネルをまわす。
現在、雄英体育祭の開会宣言を行うらしい。
やはり、注目をされているのは1年A組。ヴィランの襲撃を無事に回避したヒーローの卵達だ。
可哀想な事にもうひとクラスのヒーロー科は完全なる引き立て役。
(あン? アイツは確か……)
雄英体育祭の開催宣言。そしてヒーロー科から成績トップ通過の少年が選手宣誓を行うらしい。
その少年はUSJで
『宣誓───』
だらけた様な声がテレビ越しに伝わってくる。
『───俺が一位になる』
爆豪の選手宣誓を聞き、
まだ"最強"を目指してンのかコイツは、と。
当たり前の様に他の雄英生徒達から非難の声が上がる。
選手宣誓でこれから競い合う敵を増やしてどうするのか。
だが、爆豪の態度はダラけている様に見えたが、その目は明らかな"最強"への執着が見られ、それ相応の覚悟があって口にしたのだと
(あれだけ力の差を見せつけられて折れねェ奴もいるって訳か……大抵の奴は腕の一本や二本弾けば折れちまうもンだが)
それは目標と言えるがかなり高い壁。オールマイトを目指すよりもずっと高いかもしれない壁だ。
誰よりも強くなる為。
その目標を掲げている爆豪にとって、この雄英体育祭は"最強"への第一歩といったところか。
まずは
先頭をトップで走っているのは
凄まじい程の冷気を放ち、辺りを氷漬けにして走っている。実力も雄英の一年ではトップクラスではないかと思わせるその"個性"。
それも当然だろう。なにせ、轟焦凍はあのNo.2ヒーロー『エンデヴァー』の息子なのだから。
しかし、
(エンデヴァーの息子? じゃあ何でアイツの
そう、エンデヴァーは
(突然変異か? いや、炎から氷の"個性"が生まれてくるなンて聞いた事ねェぞ?───いや、考えられるとしたら『個性婚』って奴か?)
個性婚。
より強い子供を産むためにする政略結婚みたいなものだ。
"個性"は親の個性因子を元に受け継がれていくもの。原理は今一つ不明だが、そこが
現にオール・フォー・ワンは、常識を無視したように人から"個性"を奪う力を持っている。
恐れたのであろう。
「ダメだ。ちっとも分からねェ。殺してでも逆算済ませとくべきだったか」
後から追い上げた爆豪と轟の二人。どちらかが一位になろうとしていた、その時───障害物競走の地面に仕込まれていた地雷を利用して、
そう、
先ほどまで全く目立っていなかった緑谷は一気に注目を集める。
何故なら、緑谷出久はこの障害物競走で
(コイツッ!? まさかとは思うが……『無個性』じゃねェだろうな? じゃあ、あの時の死柄木に立ち向かった力……アレは一体?)
そして最後、緑谷は自分の知恵だけで一位の座をむしり取る。
最後まで"個性"を使わず、トップクラスの実力を誇った轟焦凍と爆豪勝己を抑えて、だ。
「ハァ……ガラにもなく、こンなモン見るもンじゃねェな。胸糞悪ィ」
そのままテレビの電源を落として、玄関へと向かい部屋から出て行くのであった。
◇
◇
◇
〜雄英体育祭会場〜
第2種目の騎馬戦が終わり、最終競技へと移ろうとしていた頃。エンデヴァーは会場内を巡回していた。
ヴィラン襲撃に備えて応援要請が出されているのだ。そのついでもあるが、彼は雄英体育祭を観戦もしていた。
相変わらず、エンデヴァーの息子である轟焦凍は炎を使おうとはしなかった。
エンデヴァー曰く、轟焦凍は自分の上位互換らしく、オールマイトすらも超える逸材らしい。炎を使わないのは軽い反抗期だと思っている。
「あやつめ、何故炎を使わんのだ。使えば敵などいないだろう」
そっとため息を吐くエンデヴァー。
そんな時、一人の小さな子供が声をかけてきた。
「えんでゔぁー? あくしゅしてー」
まだ少し幼さのある声。
きっと親と一緒に雄英体育祭を観戦しにきたのだろう。
そんな子供に対してエンデヴァーは少し睨みをきかす。
「失──────ッ」
失せろ、そう言おうとした時だ。
あの時の光景が鮮明に思い出される。
『エンデヴァーはつよいんだぞ! 負けないんだぞ! がんばれ! がんばれ!』
何故、その時のことを思い出したのかはわからない。エンデヴァーにとってアレは一生の不覚。
ただ一人の少年ヴィランに敗北し、自分がヒーローらしくないと実感させられた出来事。
「───一度だけだぞ? いいな?」
「わぁーっい! やった!」
そっとエンデヴァーが手を差し伸べると子供は手をガシッと掴み、ブンブンと揺する。
そして何かモノ欲しそうにエンデヴァーを眺めている。
「何だ? まだ何かあるのか?」
「ぼく、えんでゔぁーのだいふぁんだから、その……あの……さいんくださいッ!」
一本のマジックペンに小さなメモ帳。
エンデヴァーは今までこういったファンサービスをしたことがない。欲しいと迫ってきても失せろ、と一言あびせるだけ。しかし、エンデヴァーはペンとメモ帳を受け取り、不器用ながらもサインを書く。
英語でエンデヴァーと書き、その下に小さく本名を書いた、いたってシンプルなモノ。
だが、小さな子供にとってこれから大切な宝物となるであろう。
子供はありがとう、と言い残し、すぐさま走り去って行く。
「HA HA HA HAッ! 珍しいな、君がファンサービスをするなんて」
「見てたのか、オールマイト……」
大きな笑い声と共に一人の男が現れる。
No.1ヒーローであるオールマイトだ。
エンデヴァーが越えられなかった男であり、ライバルとも呼べる存在。
「久しぶりだね、エンデヴァー。いやてか超久しぶり。10年前の対談振りかなッ!? 見かけたから挨拶しようと思ってね。お茶でもどう?」
「そうか、ならもう用はすんだろう。茶など冗談ではない」
エンデヴァーはすぐさまオールマイトに背を向け、その場を立ち去ろうとする。
「つれないこというなよ─── HA HA HA HA!!」
オールマイトは華麗な動きでエンデヴァーの行く手に先回りし、行く手を阻む。
「ぐっ……」
エンデヴァーはそんなオールマイトに対して不快な顔をしながら、睨みをきかせる。
そんなエンデヴァーの様子など気にせず、オールマイトは両手を左右に広げながら尋ねる。
「君の息子さん───焦凍少年。
「何が言いたい?」
エンデヴァーはオールマイトの問いに訝しむ様に答えた。
何故、オールマイトはそんな事を聞いてくるのか、わからないのだ。
「いやマジで聞きたくてさ、次代を育てるハウツーって奴をさ」
「………? 貴様に俺が教えると思うか? それにその、あっけらかんとした態度がいつも癪にさわる」
エンデヴァーはオールマイトの問いをバッサリと切り捨て、辛辣な言葉を浴びせると、オールマイトはしゅんとした様子でごめん、と謝罪。
「それと覚えておけ、
次の瞬間エンデヴァーの発言により、オールマイトは感じ取る。
何らかの負の感情を。
「いずれ貴様を超えるヒーローにする。そうするべく───作った
「………何を……」
「今はくだらん反抗期だが、必ず、必ずだ。超えるぞ…………超えさせるぞッ!!」
エンデヴァーの目は先程、子供と接していた時の目とは明らかに違う。
憎しみ、恨み、意気消沈、嫉妬、怒り、悲しみ、自己嫌悪、自己憐憫、うぬぼれ、自己満足、苛立ち、不機嫌などの様々な負の感情が合わさり、凝縮したようなナニカ。
それはヒーローとはかけ離れたナニカだった。
オールマイトとしては、先ほど子供のやりとりを見ていて少し変わったなという感想を抱いていたのだが。それは一時的なモノであり、やはり人間の本質はそうやすやすと変わるモノではないと実感させる。
オールマイトはただただ、その背中を見つめることしかできなかった。
◇
◇
◇
保須市のメインストリートとも呼べる大通りを
雄英体育祭を見て何を思ったのか、多少苛立ちを感じている。
『緑谷って子凄かったわね〜』
『本当にもうちょっとで勝てたかも知れないのにね〜』
『てか、雄英でベスト8って凄くない?』
街を歩いてもあの少年の名前が聞こえてくる。
かれこれ何の目的もなく歩き続けて二時間程が経過している。プラプラと何もせず、ただ歩いているだけ。
散歩して苛立ちを抑えこもうと思っていたが、どこへいっても雄英だの緑谷だの様々な声が挙げられている。
それほどまでに雄英体育祭はこの世界にとってビッグイベントという事だ。
(何なンですかァ……)
ここで
何故今まで音を反射していなかったのだろう、と。
すぐさまデフォルトの反射物理演算に音を反射するよう設定。
(余計な音は反射っと───最初から音を反射しとくべきだったな)
反射の壁に包まれた
ビルの隙間。光などは外から入ってくる程度で、昼間にもかかわらず薄暗い。
「おい、そこのお前」
「………、」
ガラの悪い連中が
自分達の"個性"を持て余し、使い所のわからないチンピラの類だ。きっと
「無視してんじゃねぇぞ!」
「………、」
当然、男の声は
音を反射している
男達は無視されていると勘違いし、後ろから拳を
「ひゃ…ああああああああああああッ!」
「あン?」
聞こえてきたのは男達の叫び声。
「て、テメェ! 狙ってやがったのか!?」
「クソっ! やっちまえッ」
聞くからに三下のセリフ。
一人の男は
少し大きな体格の男だったため、その力も強かったのか勢いよく吹き飛ばされた。
「なンだ? 雄英体育祭の警備強化中でヒーロー共が出払ってるからカツアゲか? ダッセェなァ……たかがヒーロー共に怯えて普段は何もしねェでビクビク隅っこで怯えてるような奴らがよ……」
「ふ、ふざけんじゃねぇっ! 別にヒーローがいようがいまいが関係ねぇんだよ!」
「その三下くせェセリフやめてくンねェか? 腹抱えて笑いたくなっちまう」
残された男は"個性"を使用したのか、筋肉が元の姿より膨れ上がり、服が千切れる。
「スゲェスゲェ、で? 次は何してくれンだ? まさかポージングとって笑わせてくれるって事はねェよな?」
「ば、バカにするなッ!」
男が
「オッセェ……」
「へっ?」
男は反撃されるなど微塵も思っていなかったのだろう。防御は遅れ、凄まじい速度で射出されたアスファルトの破片は至る所に突き刺さり、打撲や切り傷などの裂傷を負わせ、地面に血がポタポタとたれる。
ここで漸く男は格の差を思い知ったのか、体がブルブルと震え始めた。目の前にいる男の実力、そして絶対的な力の差に。
「とっとと失せろ。オマエ等は別に悪党でもなンでもねェ……悪党になれないチンピラ───いや、それ以下の豚でしかねェ」
「見逃してくれ……るのか?」
「一流の悪党ってのはカタギには手をださねェンだよ。三下」
別に今回のチンピラ共は
それを殺す程、
体がズタズタに引き裂かれた男はヘコヘコとしながら、他の男達を担いでその場をすぐに後にした。
しかし、
「さっきからそこに隠れてる奴……何もンだ?
「……ハァ………お前はイイッ!」
「───は?」
目元をマフラーで隠しており、血で染まったかのような赤いバンダナとマフラー。
腰には刀を携えており、
「だが、その執念に、今、迷いが生じているな………」
「オイオイ、会話になってねェぞ? 破綻者ですかァ…オマエは……」
「貴様のような男はこの社会にとっても必要……だが、今のあり方を変えれば直ぐに粛清対象だ」
「粛清? この俺を? ククッ……ヒャハハハハ!」
そして気が付いた。目の前の男がどういう人物で世間から何とよばれているか、を。
「そっかそっか……オマエ、ヒーロー殺しか? 悪党の大先輩のお出ましってかッ!?」
「………ハァ、問おう。今現在、貴様は何を成そうとしている?」
「何って、そりゃ決まってンだろ?」
「無敵になる事……それくらいしか思い浮かばねェよ」
その一言に対して、ステインは少しばかり顔が強張る。
「嘘だな……」
「あン?」
「……ハァ……先ほどの男達と会話していた時のような信念が今の言葉からは感じられない……」
「オマエ、さっきから何様? 目の前にいる男が誰だかわかって、ふざけた事抜かしてンのか?」
「……
「わかってンなら口の利き方に気ィつけろ。次ふざけた事抜かしたら殺すぞ、三下」
ビリビリとした雰囲気が路地裏に充満する。
一般人がここに立ち入ったとしたら、その殺気や悪意だけで身動き一つ取れなくなってしまうだろう。それはまるでヘビに睨まれたカエルのように。
「もし、貴様が本当に無敵を目指していたなら今すぐ粛清対象だァ……ハァ……」
「オッケェ……愉快で素敵な
ただでさえ苛立つ事が重なっていたにもかかわらず、ステインは火に油を注ぐかのように、的確に
路地裏の壁に
すると、ドンッドンッドンッドンッ と、壁を伝って振動が行き渡り、ステインの頭上にあった、電気がついていない蛍光灯が爆発し、その破片が辺りに飛び散る。
ステインは一切の動揺を見せず、それを軽快にバク転で回避。直ぐに
どこへ行ったのか、と辺りを見回したその時。ステインは長年の修練や実践経験で培った感性でとっさに一歩後ろへと下がった───直後、先ほどまでステインの立っていた所に
叩き伏せられた地面は粉々に砕け、もし直撃していたら全身をぐちゃぐちゃにされていただろう。
「なに驚いてンだ? 空に高くジャンプして落ちただけだろォが。まさか喧嘩売っといて怖気付いちまったとか言わねェよな?」
「………ハァ、争うつもりは無い。だが、貴様のその攻撃的な一面は粛清するべき対象かもしれん」
「さっきからヒーロー殺しがヒーロー気取ってンじゃねェぞッ!」
地面をダンッ! と蹴り、
だが、ステインはその両腕を回避し、地を這うように移動。狭い裏路地の地形を利用して蜘蛛のように壁と壁を飛び交いながら、体の至る所に仕込まれているナイフを放り投げた。
「そンな安い攻撃で俺に届く訳ねェだろォが!」
当然のごとくナイフは反射───ではなく、的確に常に動き回るステイン目掛けて飛んでいく。
「やはり強いな……ここは一旦引かせてもらおう。俺は貴様を粛清するつもりはまだ無いからな」
「逃すと思ってンのか?───たとえ今逃げられたとしても、オマエは俺にいつか殺されるンだぜェ? なァ? なンとか言───」
その時だ、その時。
(あァ? これは……なンだ……俺が、気圧されてンのか? ありえねェ、そンな事あっちゃならねェ!)
「俺を殺していいのは、オールマイトだけだ。
ヒーロー殺しのステイン。彼もまた自分独自の悪党の『美学』をもっており、無差別にヒーローを殺している訳ではないのだ。
「全ては……正しき社会の為に……」
「ハッ───ヒャハハハハハッ! 正しき社会ねェ。だったらまず目先の悪をどうにかしなくていいのかよ? そンな事言ったってなァ、所詮は人殺しでしかねェンだよ。俺もオマエも」
もっとも過ぎる正論。
ステインはまさに"平和の象徴"に感化され、生み出された悪党であり、その考え方故に『粛清』という道を選んだ。
悪党と言えど、この二人の道は少し違っていて、似ているのかもしれない。
「
そう言って、ステインは常人離れした跳躍により、ビルの隙間を縫って消えていった。
「ハッ、次会った時は心と体を切り離してやンよ。悪党の大先輩」
そしてその日の夜、ヒーロー殺しが『ターボヒーロー・インゲニウム』を襲った、とニュースで大々的に報道される事となる。
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〜呪われた少女 救済編〜
第9話 純白紅眼の少女
では、どーぞ。
保須市の高級マンション最上階。
ヒーロー殺しステイン。奴と会った後はすぐに自室へ戻り、ゆっくりとくつろいでいるのだ。
「結局一位は爆豪ねェ……もしかしたら、とは思ったがやっぱ
もしかしたらあの少年が一番になるのでは、と思っていた
そしてテレビを見ていてもう一つ、とあるニュースが彼の目に飛び込んできた。
「大先輩はあの後随分と派手にやったみてェじゃねェかよ。何でわざわざ俺のいる街を注目の的にしやがンだ。出来ればやめて欲しいもンだが……」
ヒーロー殺しステインは
何故厄介ごとばかりが自分のいる街では起こるのか、と
(また引っ越し考えるか……)
自分の運気を呪いたくなる程、厄介ごとに巻き込まれそうなフラグが何本も立っている。
最強のその先を目指している、と宣言しているものの、本人としては特に何もなく、平和に過ごせるのが一番である。
そんな考えが頭によぎったのも束の間。目の前に黒い泥の様な亀裂が入り、そこから一枚の手紙がでてくる。
とっさに
(コイツは座標移動!?……結局ここもアイツにバレてンのか、クソッタレが)
恐らくオール・フォー・ワンの数ある"個性"の一つで手紙を送りつけてきたのだろう。
ピリリ、と静かな部屋に紙の切れた音が響き渡り中身を取り出す。そこに書かれていた内容は、
親愛なる生徒へ。
全く。何で君は予想と違う行動をとるのかな? 僕としては、妹をすぐに探しに行くと思ったんだけどね?
まあ、結果はどうであれ、僕からの贈り物だ。感謝してくれたまえ。
窓の外を見てごらん。
そこまで読んだ所で、
もう夕日は沈みかけており、空は夜の帳に包まれようとしていた───その時、
「きゃあああっ!」
外から少女らしき声。
あ? とベランダへの入り口のガラスへ右手を伸ばした瞬間。目の前を一瞬だが一人の少女が上から下へと落下していった。
「あァ!?」
その光景に一瞬だが呆気にとられる。
ベランダの扉を開ける余裕などなく、
落下している少女を助けるべく更に辺り一面の大気のベクトルを操作。落下している少女に対して地面から吹き出るように風が起こり空中で少女は静止した。その後はすぐ様、
そんな状況に置かれた少女はビクビクと震えていた。それも当然だろう。自分が死ぬかもしれなかったのだから。
そんな少女へ軽く手を伸ばし、右腕を掴む。重力、大気のベクトル操り、体へと負担が無いように地面へとゆっくり降下。
「……てんしさま?」
「ハァ?」
助けた少女からの思わぬ一言に
「……てか、オマエ」
ここで漸く
真っ白い純白の髪。目は紅く、怪しげにも美しさを感じさせる
肌は真っ白という訳ではないが、それなりに白く髪は腰元まで伸びている。
(あァ……そうか、そういう事か……)
写真で見た少女と完璧に同じ見た目。
そして何より許せなかった事は、また自分のせいで関係ない者を危険に巻き込んだ、ということ。
プルルルル、と着信音が鳴り響く。
腰から携帯を取り出し、画面を開くとそこには非通知、と表示されている。
ゆっくり耳元へ携帯を持っていき、電話にでると、
《やあやあ、
「……、」
《それよりも僕の贈り物は気に入ってくれたかな?》
「オマエ、どォいうつもりだ? 何が目的だ?」
《目的? 目的ねぇ……気に入った生徒にご褒美をあげるのは理由が必要かな?》
「相変わらずムカつく野郎だな。オマエは」
《いやー、残念だよ。君は今、さぞ不快な表情を浮かべているんだろうね。それが見れなくて残念で残念で仕方ないよ》
《あー、そうそう。その娘、ある組織から盗んできたんだ。結構面倒くさい組織でね、今は彼女そっくりのクローン的な人形を置いてきてあるからバレて無いけど……もしかしたら危険かもね?》
「……ハッ、その組織を潰せってか? 見え見えの陽動じゃねェかよ。そンなオマエが喜びそうな事すると思ってンのか?」
《何か勘違いしているね?》
あン? と、
《そんな組織くらい、いざとなれば僕一人でもどうにかできるさ》
ただ、と付け加えながらオール・フォー・ワンは不気味な声をより一層悪意を込めた口調で言う。
《君が彼女を守りながら何処まで僕と戦えるかなと思ってね》
「守る……ねェ。ヒャハハ! 俺がそンなお人好しに見えンのかよ? アァ? 俺がこのクソガキを守る義理なンざァねェンだよ。いつからオマエの頭の中で俺はヒーローにジョブチェンジしたンですかァ? 長く生き過ぎちまってとうとうボケちまったか?」
《じゃあ何で落ちてく彼女を助けたんだい?》
その一言で
《守るよ、君は必ず守る。ヒーローになれなかった哀れな男。自ら犯した罪に押しつぶされそうになりながら、悪党を演じ、それでもなお正しく生きようとする。口では無敵を目指してる、とかまだ言ってるみたいだけど。そろそろ安っぽい金メッキが剥がれてきたかな? あははは! 本当に哀れだな君は。せいぜい足掻いて足掻いて足掻き続けろ。もっとも、僕は罪の意識なんてこれっぽっちも無いから、そんな風になる奴の気持ちなんてわからないけどね》
そこで
「あの、助けてくれてありがとう……」
「……、」
そんな少女を
「ここどこ? わたし、急に空に投げ出されたから……」
「保須市、メルヘン保須マンション」
「ほすしめるへんほすマンション?」
少女は何処? といった様子で首を傾げる。
先ほどの震えとは段違いにブルブルと縮こまるように震え、目から涙がポロポロと溢れ始めた。
「かえ……り、たく……ない。……たずげで」
(組織って、そンなクソみてェな実験してンのか?)
「オイ、その手見せろ」
「へっ? えっ、やめて!」
無理やり手を掴み、ベクトルを操作して一瞬で少女の腕の包帯が剥がれていく。そして目に映ったモノは。
「なン、だ、コリャ……」
夥しい量の切り刻まれた痕。この先、この数が消える事は無いのでは無いかと思わせる程、酷いモノであった。
それを見られた少女はより一層、ビービーと泣き始める。
すぐさま包帯のベクトルを操作し、綺麗に腕に巻きつけ直す。
そして少女に背を向けながら
「ハァ……付いてこい」
「───え?」
その一言に思わず少女は
元いた場所に返されるかと思った。だが、彼が向かっているのはマンションの入り口。
「帰りたくなるまで泊めてやる。まァ、今日はここが家だが、明日には引越しはするがな」
◇
◇
◇
(───どォしてこォなった……)
自身が突き破ったベランダのスライド式の扉を外に出し、ガラスの破片を集めながら考える。ガラスの破片は
身寄りのない子供───少女を何故自分が保護しなくてはいけないのか。巻き込んだのは自分であり、責任も自分にあるのは確かだ。しかし、この少女がいては身勝手な行動はできない。一人でふらふらと街へ散歩に行く事も、ましてや連れて行くのも危険だ。
「綺麗な部屋……なんで明日には引っ越すの?」
「胸糞悪ィからだよ」
何故引っ越しても直ぐに居場所がバレるのか、考えれば簡単な事である。誰かが常に
しかし、監視されているならば
「オイ、クソガキ。オマエの居た組織教えろ。───なに、別にオマエを返すって訳じゃねェ。ただ目障りになるかもしれねェ奴らってのは消して置かなくちゃならねェからな」
「……いや。アナタ殺されちゃう」
その言葉を聞き、
「ククッ……誰にもの言ってんだ?」
ドアが壊れ、開きっぱなしのベランダの方へ
そのまま数秒……風はおさまり、少女は目をベランダの外へ向けると先ほどまで曇りかかっていた空は雲一つ無く、三日月と星々がキラめいていた。
「俺は"最強"だ。誰も敵わねェ。だから、組織の奴らなンざ敵じゃねェンだよ」
「……だめ」
「あァ? だがら、別にオマエを───」
「お兄ちゃんが強いのはわかった……でも、消すって……殺すって事でしょ?」
「……そうだ」
「殺すの、駄目ぜったい」
「オイオイ、状況分かってンのか? オマエを散々弄り回した連中に復讐してやろうってンだぜ?」
「私は復讐なんて……ううん、駄目なの。アナタに人を殺させるのも、アナタが殺されるのも、人が殺されるなら……私は帰る。迷惑かけてごめんなさい、私といるとアナタが不幸になるから」
何でだ、と
彼女は周りの人が傷つくなら自分が犠牲になる、とそう言っているのだ。それは
「ハッ……不幸? 不幸ねェ……ククッ」
これ以上の不幸? と、自分が不幸になる? と。
「イイか? 俺は悪党だ」
「───え?」
「悪党ってのは、オマエみたいな奴が嫌がることをするもンだ。───つまり、オマエは俺が不幸になると困るンだな?」
「うん。助けてくれたアナタには幸せになって欲しいから」
少女はあの時、右手を掴まれ助けられた事を思い返す。
とても冷たい手だった。でも、その手から伝わってきた。この人は優しい人で、昔から知っている様な感じがした、と。
「そいつは聞けねェな、イイか? もう一度言うぞ」
「俺は『悪党』だ。だから、幸せになって欲しいってのも聞けねェ。そンでもってオマエは組織に渡さねェ。オマエの意見なんてのも聞かねェ。だがら組織は潰す。───だが、もし、もしだ。オマエが組織の連中を殺して欲しいってンなら、
「!!」
少女は驚いた様子で軽くコクリ、と頷いた。
「ククッ、そンじゃまァ……
どうやらこの世界は、
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第10話 タノシイオシゴト
部屋はそれなりに広く、片隅にシングルベッドが一つ。窓側には大きな机と椅子が二つセットしてあり、夜景が見渡せるようになっていた。
このホテルはそれなりに身分の高い者が止まる事も多いため、プロのヒーロー達が辺りの警備を強めている。ここなら心配ないだろう、と
「オイ、何さっきから辛気臭ェツラしてやがる」
「……、」
少女はここへ来るまでの一度も表情を変えず、ただずっと下に俯いている。常に曇った様な表情。きっと今まで酷い実験をされてきて、感情というものが壊れかけているのだろう。まあ、常に仏頂面決め込んでいる
そんなコミュ障な
それなりに高級なホテルなだけあって、設備も充実している。
ベットの近くの受話器を使い、ルームサービスを使えば直ぐにでも、ホテルマンが飛んでくるだろう。
「まァイイ。で、本題だ。先ず、オマエが囚われてた組織の名前を教えろ。名前くらいならわかンだろ?」
「
「──あァ? また、随分と古くせェ名前が出てきたな。そこンとこの若頭……ァーなンつったか? 確か治崎───」
そこまで言いかけた所で、少女はブルブルと震え出した。
(ガキの肌切り裂いてケタケタ笑う変態野郎が若頭ってのは確定だな)
そう、死穢八斎會という組織──ヤクザ、または極道の若頭が今回大きく絡んでいるという事だ。
その名も
まだハッキリとしてはいないが血縁──つまり、彼女と血の繋がりがあるという事。同じ能力でも持っているのだろうか。
「クソガキ、オマエの能力──"個性"は何だ? まさかベクトル変換って訳じゃねェだろォな?」
「よく、わかんない」
「……そォかよ」
ダメだ、やはり会話になンねェか、とボソリと呟きつつ、
「どこいくの……」
「……決まってンだろ。寝ンだよ」
「一緒に寝ないの?」
「ハッ! 何想像してやがンですかァ? たくっマセガキかっての。隣にも部屋借りてンだよ。一緒に寝るとかどンだけ愉快な脳味噌してンだ」
「……別にそういうんじゃなくて」
チッと、舌打ちをして
少女は
「また名前言いそびれちゃった……」
◇
◇
◇
部屋を出ていった
ホテルの非常階段をカツカツと降り、ホテルの外へでて夜の街へ。
少女を捉えていた組織がヤクザ、つまり極道の類ならそういった怪しい店の奴らに聞けばいい。そう判断したのだ。
"個性"を使用するのには免許がいる。まあ、引っ越し屋とか建築または土木関連の仕事。何にしても許可証みたいな物が必要な訳で、人に"個性"を使用するなど、言語道断である。しかし、そんな事はお構いなしに、夜の街には法に背いた店が少なからず存在する。例えば人に精神系の'個性"を使用して性欲を満たしたり、地下格闘場など、"個性"を使用して人と人を戦わせたり、だ。
大体そういった類の場所には大物──VIPと呼ばれる裏社会に通じた奴がいる。大抵はヴィランの類だが、少なからず極道物もいるだろう。
今現社会は超人社会と呼ばれている。超人社会は極道にとって最悪なモノと言えるであろう。"個性"がなかった頃は抑止として上手く立ち回っていた極道。警察などにもつてがあり、大きな事柄で無ければ上の方で揉み消せたりしたかもしれない。だが、ヒーローばかりの超人社会となった今。極道という抑止力などは必要ではなくなり、極道の連中はヒーロー達にとって良いカモになった。
ちょっとやそっとの事でヒーロー達に捕まえられるようになったのだ。そこに警察のつてなど、通用するはずも無く、名声欲しさのヒーロー達にドンドン食いつぶされていったヤクザは衰退の一途を辿った。
(で、そンな化石共が何考えてやがンだ?)
ヒーロー共への逆襲か、それとも裏社会の王──オール・フォー・ワンが何か裏で根回しをしているのか。そのどちらでも無く、自分達が裏社会の王になろうとしているのか、だ。
そんな事を考えつつ、チンピラ共がはびこる夜の街を闊歩する。
ふと、目に付いたのは如何にも、な感じのバーである。大通りを外れて裏路地を進み、5階建てのビルの三階だ。
深夜な事もあって、容姿が子供の
店内は様々な種類の酒が並べられており、カウンター越しにバーテンダーが一人。テーブル席も存在し、客もそれなりに入っている。
しかし、入っている客の机の上には堂々と薬物などが並べられており、
タバコの煙、又は葉っぱの煙が充満する店内をマジマジと見つめ、中にいる客を一人一人値踏みしていく。
「何さっきから見てんだ坊主。ここはテメェみたいなションベン小僧のくる所じゃねぇぞ」
両腕に女を抱きながら、下品に笑う男。
夜だというのにサングラスを着用しており、腕時計、ネックレス、指輪、付けているアイテムは全て金ピカで格好も派手過ぎる。
「……まっ、コイツでイイか」
「オマエ極道か? 違ェなら別に用はねェンだが」
「ほぉ、俺様が極道なら?」
「質問に答えれば何もしねェ……答えねェなら、分かってンだろ?」
「良い度胸だクソガキ」
次の瞬間、全ての席の客、またはバーテンダーすらも
「残念やったな? ビビって声もだせんか?」
それに対して
「───ふァあ、あ」
「坊主、お前さんはそんなに死にたいのか?」
「馬鹿言ってンじゃねェよ。そンな気はサラサラねェっつーの。大体よォ、そンな
銃口からは今にも小さな鉄の塊が飛び出しそうな雰囲気の中、
「ふ、フハハハ! 坊主、気に入った。俺はお前さんが探してる極道──つまり、ヤクザで違ぇねぇ。聞きたい事があるなら言ってみな」
最初に話しかけた男は何かを悟ったように笑い、拳銃を下げた。
それは決して自分が負けた、と認識させたからでは無く。ただ純粋に目の前の少年が裏の世界の事を知っており、どっぷりと闇に浸かりきっていると悟ったからである。
「旦那ッ! こんな坊主に舐められていいんですかい!?」
他の男達は未だに拳銃を下げようとはせず、照準を
「馬鹿野郎、俺がいいっつってんだ。早くチャカ下げろや。それに、この坊主は中々見所あるぜ? 恐らくトンデモな"個性"もってんだろうよ。なんせ、この状況で瞬き一つしやしねぇ。それどころか、瞳孔開きっぱなしでヤル気満々ときた」
「へ、へい。旦那がそうおっしゃるなら……」
一人の男が納得すると、他の男達も拳銃を懐へとしまい始める。
「話はすンだみてェだな、なら本題だ。
「───
男達はその名を聞いてギョッとした。
それ程、ヤクザの中でも
「この近くにも確か支部はあるな……となりの街の龍神通りに構えている筈だが、そんな事でいいのか?」
「ああ、構わねェ」
そう言って、
「おい坊主ッ!」
「あン?」
出口に手をかけた所で、呼び止められた。
「悪い事は言わねぇ、奴らに関わるのはやめとけ」
「ご忠告どォも」
その後ろ姿を見ていた男は軽く間を置いた後、誰にも聞こえないように呟いた。
「──全く、肝の据わったガキだぜ」
◇
◇
◇
一人ホテルに取り残された白い紅眼の少女──
電気は消えているので部屋は窓から差し込んでくる月の光のみ。チョコンと毛布から顔を出し、今日あった事を振り返る。
いきなり外へ連れ出されたと思えば、目の前が真っ白になり、空高くに放り出され、そして彼と出会った。
(もうあの人寝ちゃったかな……)
上空から落下している時、エリは死ぬかと思った。いや、これで死ねる、とも思ったかもしれない。
(だけど、あの人は私を助けてくれた。天使みたいだった。空から私の手を掴んで引っ張ってくれる、そんな優しい手………)
エリはあの時、掴んでくれた手をそっと自分の顔に近づける。
(それに───何故か分からないけど、懐かしい感じがする)
◇
◇
◇
何としても、夜明けまでには
「ここか? 想像と違ェな、まあイイか」
これを見ると本拠地はどれだけデカイのか、と変な想像をしてしまう。しかし、これだけの立派な支部だ。間違いなく白い少女の情報を持っているだろう。
「一人も殺さず、ねェ……」
そう呟きながら
彼は無意識で自分に害のあるモノへの反射を発動する事が出来る。その反射するモノも無意識で構築されたフィルタ。それに基づいて反射されるが、この
それは彼がこの反射が絶対では無い事を知っており、この世界では物理法則など無視したトンデモない"個性"があると知っているからである。
故に今の彼には慢心が無く、正しく"最強"と言えるであろう。
「ン、こンなもンか?」
フゥと息を吐き、自身の反射物理演算のフィルタもアップデートし終わった。
「さァて、
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