ブラッククローバー ~武器魔法の使い手 (晴月)
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ページ1 "三人"の誓い

ここは、とある田舎の村。 名前をハージ村という。

 

とある三人の少年達が魔法帝を目指し、日々鍛練を積んでいたのだが、

 

「....なんだこれ。」

 

この物語の主人公 ノア・レイダスは、漸く手に入れた自分の魔導書《グリモワール》のページを確認しそこに載っていた魔法を使ってみたのだ。そして現れたのは"剣"だった。

 

もう一度言おう。"剣"だ。"剣"一本だけだ。その剣の見た目は、赤黒い刀身の両刃の剣で銀色の鍔が付いている。握ってみると意外に持ちやすく。それでいてあまり重くは感じられない作りになっている。

 

「いやまぁ。俺も魔法が使えるようになるのは嬉しいんだけど。なんで"剣"なんだ?...普通、魔法って火や水を出したりするものじゃないのかよ。....訳分かんねぇ。」

 

ノアが一人、川の岸で呟いていると不意に後ろから誰かに声を掛けられる。

 

「どうしたノア?さっきから一人で何をぶつぶつ言ってるんだ?」

 

「ん?....ああ、なんだユノか。」

 

ノアに声を描けたのはノアと共に魔法帝になることを夢見て日々鍛練を積んでいるもう一人の少年だ。ユノはノアの隣に座ってノアの話を聞くことにした。

 

「いや、俺の魔法なんだけどさ、なんで"剣"なんだろうって思ってさ。....普通、火とか水なんだけど何でだろうなって。」

 

「そうか。....もしかしたらお前以外にも武器を使う魔法の使い手はいるんじゃないのか?」

 

「そうかな?.......でもそう考えたら何だか気が楽になった。ありがとうユノ。」

 

「気にするな。それよりアスタのことなんだが。」

 

「ああ。聞いた。」

 

アスタとはノア達と同じで魔法帝を目指しているのだが、ただ二人と違う点があり。それは、アスタには生まれつき"魔力"が無いという事だ。

 

「あいつは生まれつき魔力が無い。だからあいつはグリモワールには選ばれない。....そう村の連中は言ってるが、お前はそう思ってないだろユノ。」

 

「ああ。あいつが選ばれないなんて有り得ないからな。あいつは俺達以上に努力を重ねている。選ばれて当然の奴だ。」

 

ユノは空を見上げながらそうノアに話す。

 

「それで、俺の所に来たのはアスタの事を村の連中と同じ様に考えてるか聞きに来たのか?」

 

「.....ああ。」

 

ユノはノアが話すのを少し待ってから聞く。

 

「俺もお前と同意見だよ。アスタが選ばれない訳ないだろ。俺もお前もアスタは魔法帝を目指すライバルだと思ってる。....だからあいつは絶対に選ばれる筈だ。....違うか?」

 

ノアはユノの目を見てそう答える。

 

「.....そうだな。俺達があいつを信じてやらないとな。....ライバルとして。」

 

ユノはフッと笑い。そうノアに言った。

 

「そうだな。....さてと、ちょっと行ってくる。」

 

「アスタの所か?」

 

「ああ。あいつは絶対に諦めない。なら俺があいつに言う事は一つだけだ。」

 

ノアはユノにそう言い放ち、その場を後にする。

 

─────────

 

教会前。

 

「アスタ。」

 

「ん?なんだノアか。.....まさか、お前まで俺の事を馬鹿にして...」

 

アスタがそう言いかけたが、ノアはそんなアスタにデコピンをする。

 

「痛って~~~~!何すんだノア!?」

 

アスタはノアに食って掛かるがノアはただニコッと笑うだけだ。

 

「バ~カ。俺が何時、お前の事を馬鹿にしたんだよ。俺はお前のその諦めない強い思いが羨ましいんだ。少し嫉妬はするが、お前の事を馬鹿にしたりはしねぇよ。」

 

「お、おう。それでノア、お前の魔法ってどんなのだ?」

 

「ん?俺の魔法か。.....えっと、"武器魔法 炎魔の剣"」

 

ノアが魔導書を開き、そう呟くと魔導書のページから先程の剣が出てくる。

 

「これが俺の魔法。武器魔法....らしい。」

 

「らしいってなんだよ。知らないのか?」

 

「いや、今までそんな名前の魔法。見たことも聞いたこともないからさ、最初にこの剣を出したときも少し戸惑ったんだ。」

 

「ふ~ん。でもいいじゃねぇかよ。俺なんか魔導書貰えなかったし。」

 

「そう言うなよ。お前は必ず魔導書に選ばれる。俺とユノはそう信じている。」

 

「.......そうか。」

 

「...うし!....なら、今からもう一度魔導書貰いに行こうぜ。もしかしたらまだ余ってるかもしれないしな。」

 

ノアはそう言って走る。

 

「ちょっ、おい待てよノア!」

 

そんなノアを追いかけて走るアスタ。二人は何処か楽しげに走って向かうのだった。

 

───────────

 

授与式会場。

 

そこではユノの四つ葉の魔導書を狙った魔法使いがユノを拘束していた。

 

「では魔導書を頂こうか。」

 

男がユノの魔導書を奪ったその時、

 

「「ちょっと待ったー!!」」

 

アスタとノアが男の前に飛び出した。が、アスタは寸での所で転んでしまいそのまま壁に転がっていってしまう。

 

「アスタ...!それにノアまで....!」

 

「よう。ユノさっきぶりだな。....それよりなんだ、こいつは?」

 

「俺の魔導書を狙った盗賊だ。」

 

「成る程。なら渡す訳にはいかないな!」

 

"武器魔法" 炎魔の剣

 

ノアは剣を取り出し、男に立ち向かっていく。

 

「そうだ!魔導書は授かった奴だけの大切なものだ。渡すかよ!」

 

アスタも男に向かって走っていくが、男は魔法で鎖を出してアスタを捕らえ、壁に叩きつける。ノアは男の不意を突いて剣で斬りつけるが、男は鎖で剣を防ぎ、アスタと同じ様に壁に叩きつける。そして男はアスタに向かってこう言った。

 

「頑張ったお前に良いことを教えてやろう。お前には魔力が一切無い。生まれつきだろうな....そりゃあ魔法が全く使えない訳だ...!!」

 

男は更にアスタに言い放つ。

 

「お前はこの世界じゃなぁ~んも出来やしない。何もかも諦めな。生まれながらの負け犬くん...!!」

 

(そうだよな。努力してもどうにもなんねー事もあるんだよな....もう"諦め"─)

 

アスタが諦めかけたその時、

 

「オイ...誰が負け犬だ...!!アスタは、俺のライバルだ!」

 

ユノがそう男に言った。

 

「は?」

 

「そ...うだ。俺のライバルでもあるんだ。アスタを馬鹿にすんじゃねぇよ!」

 

ノアも立ち上がり、ユノに負けじと男に立ち向かっていく。

 

が、やはり防がれてしまう。その時、

 

「まだだ...!!!」

 

先程まで諦めかけていたアスタの瞳に光が灯り、男を睨み付ける。

 

「情けねーとこ見せたな....ユノ、ノア。ちょっと待ってろ...今、こいつを倒す...!!」

 

アスタが男を睨み付けると、突然横の壁から黒く汚れた何かがアスタの前に飛び出してきた。

 

「...魔導...書....!?」

 

「...やっぱりな...アスタが選ばれないなんて...ありえねー...!!」

 

すると魔導書のページから黒く汚れた大剣が出て来てアスタの前に突き刺さった。

 

「やっとか、全く待たせやがって。....アスタ、やるぞ!」

 

「ああ。いくぜノア!!」

 

アスタとノアがユノの魔導書を取り返すため、タッグを組む。

 

「な...何なんだそれはぁー!? 魔力の無いグズがぁぁぁぁぁー!!!」

 

男は鎖で応戦するが、アスタの大剣が鎖に触れた途端、消えてしまう。

 

「俺の魔法を...無効化したー!?」

 

「魔力が無くてもオレは魔法帝になるぁぁぁぁぁ!!!」

 

「魔法帝になるのは俺だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

アスタとノアが男に対して同時に斬りかかり、吹き飛ばして壁に叩きつける。

 

「いょっしゃーい!! 何か知らんけど魔導書手に入れたぁー!!」

 

「やれやれ、やっとだな。....!?」

 

その時、ノアが何かに気付いた。

 

「な、なぁアスタ。その魔導書、ちょっと見せてもらっていいか?」

 

「ん?別にいいぜ。..ほら。」

 

アスタがノアに自分の魔導書を手渡すと、ノアは魔導書の表紙をしきりに眺める。

 

(この魔導書.....俺のと、同じだ。)

 

ノアは自分の魔導書を手に取ると、表紙を確認する。

 

ノアの魔導書とアスタの魔導書には同じ"五つ葉"の模様が描かれている。

 

(俺の魔法って、もしかして普通じゃないのか?.......いや、それよりもアスタは、)

 

ノアはアスタの方に顔を向けるも、アスタは不思議そうな顔をするだけだった。

 

(気付いていないみたいだし、黙ってよう。)「いや、何でもない。俺の勘違いみたいだ。....悪いな、アスタ。」

 

「いや、別にいいぜ。」

 

ノアはアスタに魔導書を返すと、男が落としたユノの魔導書を拾い、そのままユノに返す。

 

「大丈夫か、ほらお前のだ。」

 

「ああ、ありがとう。ノア。....お前に助けられたのは初めてだな。」

 

ユノはノアから魔導書を受け取るとそうに言った。

 

「貸し一つだ。....何時か返してくれればそれでいいからさ。其れよりも。」

 

ノアはアスタの方に顔を向け、ユノに何かを言いたげにする。するとユノは、暫くしてから頷くとアスタに向かって歩いていく。

 

「アスタ。また...助けられちまったな...この借りはいつか必ず返す...!」

 

「約束...憶えてるか?」

 

「ユノこそ憶えてたのかよ。」

 

二人は互いの拳を合わせて向き合う。

 

が、まだ何も言わない。

 

「おい!何やってんだノア。お前も来いよ!」

 

「え!?俺もか?」

 

ノアは突然、アスタに呼ばれ、少し戸惑いを見せる。

 

「...俺は二人の事知ってるから待ってたんだけど。」

 

「何を言っている。お前も魔法帝を目指すなら、俺達とはライバルだ。....それにノア、お前さっき言ったろ。"俺のライバルでもある"って。」

 

ユノの言葉にノアは頭を抱えて踞る。

 

「あ~言わなきゃ良かった!」

 

「何言ってんだ、ほら。」

 

「おっと。」

 

アスタがノアの腕を掴んで立ち上がらせる。

 

「はぁ。分かった。」

 

ノアはアスタとユノが合わせている拳に自分の拳を当てる。

 

「「「誰が魔法帝になるか勝負だー!!!」」」

 

こうして、アスタとユノ。そしてノアは魔法帝になるべく新たな第一歩を踏み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ2 入団試験

お気に入りが10人にも増えていて有り難いです。これからも頑張って書き続けます。


アスタ、ユノ、そしてノアが約束を交わしてから半年が過ぎたある日。

 

三人は魔法騎士団への入団を目指して試験会場へと出向いていた。

 

「やっぱいろんな人がいるな。」

 

ノアはひとりそう呟いた。

 

「それはそうだろ。ここにいる全員が魔法騎士団に入団したいと思って来てるんだ。」

 

「それもそうか。」

 

ユノはノアの独り言にそう答え、二人は並ぶように会場へと入っていく。

 

すると周りからザワザワと何かを話している声が聞こえる。

 

「オイ。あいつだ...!!最果ての町で四つ葉の魔導書に選ばれたっていう──」

 

「四つ葉ァ!?...マジかよ。」

 

「あれ?そういやあいつの隣に要るのは誰だ?」

 

「さあな。」

 

どうやら周りの人達はユノの事を話しているようだ。

 

「随分人気者だなユノ。」

 

「別に。」

 

「まぁ。それはさておき、さっきから周りの人にたかってる鳥が気になるな。」

 

ノアが気にしている鳥は試験会場では最早名物となったアンチドリという名前の鳥だ。この鳥は魔力が低い人程たかられるという珍しい習性?を持っている鳥だ。

 

しかし、ユノとノアの周りにはアンチドリが一匹もいない。どうやら二人は相当魔力が高い事がこの時点で明らかとなった。

 

さて、アンチドリが魔力の低い者に反応するなら元々魔力が全く無いアスタだとどうなるか。

 

「へっへっへっ。オレ等の誰かが魔法帝になる...その伝説の始まりだなユノ、ノア─!!」

 

ユノとノアの二人が声がした方に顔を向けるとそこには、

 

「半年間のオレの修行の成果─見せてやるからなだだだだだ」

 

ものの見事にアンチドリにたかられていた。それも一匹だけでなくおおよそ数十匹程だった。

 

まぁアスタなら当然こうなるだろう。とノアは一人心の中でそう呟くのだった。

 

─────────

 

そこからいろいろあったが、あえて飛ばされてもらう。

 

アスタが受験生と間違えて『黒の暴牛』の団長の

ヤミ・スケヒロとぶつかってしまい、一悶着あったり。色々な内容の試験を突破したりした。ノアとユノは当然簡単に全ての試験をクリアしたが、アスタは魔力が無いために試験の結果は酷いものだった。

 

そして最後の試験。実戦となった時。

 

アスタはセッケと戦い、簡単に勝利した。ユノも貴族出身の男と戦い、見事勝利してみせた。そしてノアの番がやって来た。

 

ノアの相手はユノと同じ貴族の男だった。

 

「なぁ。一つ聞いてもいいか?」

 

「なんだよ下民風情が偉そうに。」

 

男はノアを馬鹿にしながらそう言った。

 

「それだよ。その下民って呼び方。ただ生まれた場所が違うだけでどうしてそう馬鹿にできる。例えあんたの魔力よりも俺の魔力量が多いとしても何故其処まで俺等最果て出身を馬鹿にできる?」

 

「うるせぇ!!ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ下民風情が!」

 

風創成魔法 砂塵の大竜巻

 

男は魔法で風を作りだし、ノアにぶつける。

 

が、ノアは自分の魔導書から新しい"剣"を出す。

 

その瞬間。周りにいた人達はノアが竜巻に呑み込まれたと錯覚した。だが、

 

竜巻はある一転に収束していく。

 

「な!?俺の魔法を集めた....だと!?」

 

「いいぜ。お前がその気ならこっちも全力全開でいくぞ!!」

 

武器魔法 約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

「奥義!風王鉄槌(ストライク・エア)ー!!!」

 

ノアは剣に集めた竜巻をそのまま男に撃ち放った。男は会場の壁に叩きつけられそのまま気絶した。

 

「俺はお前と違って魔法帝目指してるんだ。邪魔すんじゃねぇよ!」

 

そう言って会場の隅の方に引っ込む。しかし、

 

(やっちまったー!!あの技は隠しておこうと思ったのになんで使ったんだ俺の馬鹿!!)

 

ひとりで"奥義"を使ったことで項垂れていた。

 

それもその筈。先程ノアが放った技はノアが魔導書を貰う前から考えていた奥義の一つ。それも隠し玉だったのだ。それをつい頭にきて使ってしまったのだから最早取り返しがつかない。後の祭りである。

 

(団長達の反応は?)

 

ノアは気になって団長達の反応を確認する。やはりどこの団長達も自分の団に欲しいと言わんばかりにノアを見ていた。

 

(ん?あの団長。)

 

ノアが暫く見ているとふと、ある団長の反応が気になった。

 

(なんでそんなに"驚いて"いるんだ?)

 

その団長は、まるで自分が長年待ち続けた人を見つけたかのような反応をしていた。

 

(.....よく分からないが取り敢えずはあの人には注意しないとな。)

 

ノアはその団長には気を付けようとその時思った。

 

──────────

 

そして試験が全て終わり。結果が発表された。

 

それぞれ色んな人達が様々な団長達に選ばれ、その団へ入団していく中で、やはり脱落者は出てしまうもので選ばれなかった者もちらほらと出ていた。そしてノアの番となった。

 

「次...163番」

 

(俺か。)

 

呼ばれたノアは前に進む。果たしてどこの団長が手を挙げるのかを目を瞑って待っていると、

 

「え─...」

 

周りがざわつき始め、ノアが目を開けると、

 

「え?マジで。」

 

なんと全団の団長達が挙手していた。

 

さて困ったのはノア本人だ。先程のノアの奥義を見てからか団長達全員が自分の見る目を変えているのは明らか。

 

この中からどこを選ぼうか迷っていると、ふと『黒の暴牛』の団長と目が合った。

 

(ふ─そうだな。そうしよう。)

 

「『黒の暴牛』団でお願いします...!!」

 

ノアがそう言った瞬間。ヤミはニヤリと笑った。

 

『な!?あいつ蹴りやがったー!!!』

 

周りにいた人達は更にざわついた。それもその筈。

 

ノア程の優秀な魔法の使い手ともなると引く手あまたの筈なのに、ノア自身はこの国でも評価最悪の『黒の暴牛』へと進んだのだから当然の反応と言えば当然なのだ。

 

「さてと次はユノの番だな。まぁあいつなら俺と同じで引く手あまただろうよ。」

 

ひとりそう呟き、試験が終わるまでの間。会場の隅の方で待機していた

 

そして次はユノの番となった。

 

「次...164番」

 

呼ばれて前へと出るユノ。すると、またもや周りにいた人達はざわついた。

 

「二人目の全団...挙手─!!?」

 

なんとノアだけでなくユノまで引く手あまたとなった。

 

ノアは『黒の暴牛』を選んだが、ユノは何処に入団するのか。

 

(まぁ、ユノのことだから魔法帝に一番近い騎士団を選ぶだろう。)

 

隅の方で見ていたノアはそうボソリと呟いた。

 

そしてユノは、

 

「『金色の夜明け』団でお願いします...!!」

 

やはりといったところか魔法帝に一番近い『金色の夜明け』団を選んだ。

 

そして最後の受験生。アスタの番となった。

 

「次...165番」

 

アスタが前へと出て選ばれる前に目を瞑る。しかし暫く待っても何処の団も手を挙げない。

 

「そりゃそーだわな。」

 

すると、『黒の暴牛』の団長 ヤミが立ち上がった。

 

「たとえ高い戦闘能力持ってよーがそれが得体の知れねぇ力じゃ誰も手ぇ出さねーわ。」

 

「...なんやかんやで...結局魔法騎士に求められるのは」

 

すると、ヤミの周りの空気が一変した。

 

「魔力だ。」

 

周りにいた受験生達はヤミの膨大な量の魔力を感じとり、震え上がった。

 

ヤミが会場に降りた。

 

「魔力の無いオマエなんざ誰も欲しがらねー...これが現実だ....!」

 

ヤミはアスタの前に立ちはだかるように立つ。

 

「オマエさっき...魔法帝目指してるとか言ってたな...?...つまり...九騎士団長を越えるってことだよな?今オレの目の前でもまだ──魔力の無い分際で魔法帝になるとほざけるか...?」

 

アスタはただ目の前のヤミに怯えたが、少ししてから口を開く。

 

「─ここで魔法騎士団に入れなくても...何度コケても誰に何を言われようとオレはいつか魔法帝になってみせます.........!」

 

そう言ったアスタを見て、周りの受験生達は馬鹿にしたが、ユノとノアだけは少し微笑んだ。

 

「ワハハハハハ!!」

 

すると突然、ヤミが突然笑いだした。

 

「オマエ...面白い!!『黒の暴牛』(ウチの団)に来い」

 

「.........え?」

 

ヤミの勧誘にアスタは目が点になってしまう。

 

「ちなみにオマエに拒否権は無い。」

 

(ええええええ!?)

 

「そしていつか─魔法帝になってみせろ。」

 

 

それはアスタからしたら、初めて自分の事を認めて貰えたのだから嬉しかったに違いない。

 

「───......はいッッ!!!」

 

──────────

 

「さてと、集合までまだ時間があるな。どうしようか。うん?」

 

ノアが会場内をウロウロしているとアスタの対戦相手のセッケと名乗った男がアスタが入っていったトイレの個室を眺めていた。

 

(あいつ....何する気だ?.......まさか!)

 

 

セッケは自分の魔導書から呪詛魔法を発動してアスタに呪詛を掛けようとしていた。

 

が、

 

突如、セッケの首筋にノアが剣を突き立てる。

 

「何してんだ?まさかとは思うが、腹いせのつもりか?」

 

ノアはニコニコとした顔(目が笑ってない)でセッケに詰め寄る。

 

「フッハ!ちょっと驚かそーとしただけさ!別れる前にアイサツしようと思ってね!どっちが出世するか勝負しよーぜって───...」

 

それを聞いてノアは冷たい目をセッケに向けて答えた。

 

「なら失せろ───アスタにはオマエじゃ足りない...!!」

 

セッケはノアの表情に怯えたのかそそくさとその場を後にした。

 

「さて、アスタが出てくる前にヤミ団長のとこ行くか。ん?」

 

ノアがトイレから出てくるとユノがトイレの前で立ち尽くしていた。

 

ノアはユノにすれ違う直前に、

 

「悪いなユノ。これは貸しにしてくれ。」

 

そう言ってヤミの元へと急いだ。

 

「あいつ─吹っ切れたな。」

 

ユノは何処か嬉しそうな様子でそう呟いた。

 

───────────

 

「お待たせしました。皆さん。」

 

ノアはアスタよりも早く『黒の暴牛』のメンバー達と合流していた。

 

「いや、そこまで時間が経ってないから大丈夫だよ。」

 

ノアと会話をしているのが、『黒の暴牛』唯一の空間魔法の使い手、フィンラル・ルーラケイスだ。

 

「あと来てないのはアスタだけか。」

 

ノアがふとヤミを見ると、

 

「..........」

 

明らかに不機嫌そうだった。

 

「あの、これ大丈夫なんですか?」ヒソヒソ

 

「ま、まぁ大丈夫だよ。」ヒソヒソ

 

それから暫くして漸くアスタがやって来た。

 

「あれ?なんでノアが居るんだ?」

 

「お前、俺が『黒の暴牛』選んだの見てなかったのか?」ハァ

 

ノアはため息を吐いて呆れる。

 

「そんな事より、アスタ。」

 

ヤミがアスタを睨み付ける。

 

「オレを待たせるとはいい度胸だな...!!どんだけ長げぇ○○○してんだテメー」

 

「いやホンっっトすんごいの出たんスよ!もうこ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んな極大な...」

 

「いや何言ってんだお前。」

 

その後、ヤミがアスタをアイアンクローの刑に処し、フィンラルが発動した魔法で『黒の暴牛』のアジトへと移動する。

 

─────

 

アスタとノアはアジトに着いた。

 

((ここが...『黒の暴牛』のアジト))

 

先ず、アスタが扉を開こうと近づくが、中から爆発が起こり、アスタを吹き飛ばした。

 

「アスタ!」

 

ノアが吹っ飛んだアスタを尻目に扉があった場所を確認すると、二人の男性が言い合いながら魔法を使って喧嘩をしていた。

 

あるものは下着姿で周りに酒瓶が転がっており、またあるものは我関せずといった様子で食事をしており、またあるものは鼻血を出しながら鏡越しに誰かと話していた。

 

「何だこれ...。」

 

ノアは魔法騎士団らしくない団員達の光景に呆然とした。

 

「ようこそ最低最悪の魔法騎士団『黒の暴牛』へ 」

 

ヤミが自分の騎士団を紹介するが、ノアはその光景を見てもしかして俺、選択を間違えたか? と思ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公のプロフィールです。

ノア・レイダス

主人公。

年齢:15歳

身長:178㎝

誕生日:10月4日(アスタとユノと同じで教会に拾われた為同じ日)

星座:天秤座

血液型:A型

好きなモノ:星空、動物

見た目

銀髪のセミロング。顔は女性寄りの中性的な顔立ちをしている。


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ページ3 黒の暴牛

やっと書ける時間を作れました。これから書いていきますのでよろしくお願いします。


吹き飛ばされたドアを見て、ノアは思った。

 

(もしかして俺....自分からハズレ引いたんじゃ。)

 

彼がそう思うのは、今現在。目の前で起こっている惨劇が理由である。

 

新入団員が増えたというのに、この有り様は酷い。他の騎士団と比較してもここまで酷いのは黒の暴牛位のものだろう。

 

すると突然アスタが口を開いた。

 

「今日から『黒の暴牛』に入るハージ村から来たアスタです!!よろしくお願いしゃァァーす!!!」

 

アスタは意気込んで団員達に挨拶をするが、全員全く聞いていない。

 

「......なんだこれ?ホントにここ魔法騎士団なのかよ。」

 

ノアの口からそんな言葉が飛び出すと、隣にフィンラルが寄ってきた。

 

「これでも一応魔法騎士団だよ。」

 

「そうですか。」ハァ

 

フィンラルはフォローのつもりでそう言ったのだろうが、ノアからすれば自分の進むべき道を踏み違えたのかもしれないと考えてしまい、深いため息を吐くしかなかった。

 

ノアが扉の合った場所に近づいた次の瞬間。

 

「ギャアアアアア」

 

「アスター!!!」

 

そこに居たアスタが団員のひとりの魔法を直に食らってまた吹っ飛んでしまった。

 

暫く団員達の口論が続く中、遂に痺れを切らしたのか

 

「オマエラ...モノ壊すんじゃねぇ!!!」

 

ヤミが壁を壊しながら団員達を威圧する。

 

するとさっきまで暴れていた団員達が一斉に糸の切れた人形の様に動きを止め、全員ヤミに近づいて話しかける。

 

そして、話しかけられたヤミはというと、

 

「だがうるせー」ズゴゴ

 

「「「「「すみません。」」」」」

 

威圧して全員を黙らせた。

 

「このチンチクリンと男装女が残り二人の新入団員だ。死なねー程度にシゴいてやれ。」

 

(えぇえ)

 

(男装女って....俺男だし。)

 

ノアは内心でそうヤミに突っ込んだ。それもその筈。ノアは遠目で見れば男の格好をした女の子にしか見えない程、端正な顔立ちをしており。村にいた頃もアスタとユノだけしか、ノアは男だと認識できていなかった。そして今また、女扱いされてしまう。だがノアは何時ものことだし仕方ないか。と、内心で諦めかけていた。

 

「ハージ村から来ましたアスタです!!よろしくお願いしゃァァーす!!」(2回目)

 

「同じくハージ村から来ましたノア・レイダスです。宜しくお願いします。」

 

二人は団員に自己紹介を済ませる。すると下着姿の女性バネッサが話しかけてくる。

 

「最果て出身で魔法騎士団に入るだなんて...頑張ったのね坊や。ご褒美にオネーサンがイイコトしてあげようかぁ~?」

 

バネッサはノアは女の子だと認識したのか、アスタだけに対してそう言った。

 

そして、誘惑されたアスタは

 

「よろしくお願いされてぇ~~~けど俺にはシスターという心に決めた女神がぁぁぁぁ」

 

一人で理性と戦っていた。

 

(イイコト?...マッサージか?)

 

ノアの方も何を勘違いしているのか、イイコト=マッサージだと考えてしまう。すると突然、

 

「オイオイオイオイ、テメェらみたいな弱そうな最果て出のチビとガキが『黒の暴牛』の新入団員だァ~~~!?」

 

見た目ヤンキーの団員。マグナがアスタ達に睨みを聞かせながら話しかけてくる。

 

(輩だァァァァ)

 

(輩だな)

 

「ヤミさんにどんな媚びの売り方したか知らんが...『黒の暴牛』(この)ローブを身にまといたきゃア、ヤミさんの筆頭舎弟であるこの(おとこ)の中の(おとこ)マグナ・スウィングを認めさせてみなァ~~~!!」

 

そう言ってマグナはアスタとノアに勝負を仕掛ける。

 

「「クダサイっっ!!」」

 

アスタとノアはここぞとばかりにローブをマグナに要求する。が、マグナはというと、

 

「『黒の暴牛』入団の洗礼の儀を受けな...!」

 

「「え?」」

 

ありもしない洗礼の儀でアスタ達をアジトの外に呼び出す。

 

─────────

 

先ずは、アスタがマグナと洗礼の儀を行うこととなった。

 

「どんな手を使ってでもいいから今からオレの攻撃魔法を防ぐか避けるかしな...!それが出来たら晴れてオマエも黒の暴牛の一員。このローブをくれてやる。」

 

マグナはアスタに『黒の暴牛』のローブを見せつけ、勝負を始める。

 

「行くぞォーーーーー魔導書(グリモワール)構えろクソチビー!!」

 

「いらっしゃいませ先輩ィィィ」

 

マグナとアスタが同時に魔導書(グリモワール)を構え、魔法を同時に発動させる。

 

炎魔法 爆殺轟炎魔球(ばくさつごうえんまきゅう)

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

が、アスタはその魔法を野球のバットの様に打ち返してマグナに跳ね返した。

 

それを見てノアは一言。

 

「あの剣、魔法を消すだけじゃなく魔法を跳ね返すことも出来るのか。....便利だな。」

 

そう言った。因みにマグナは跳ね返された魔法に自分の魔法をぶつけて相殺したので無事だった。

 

「さて、次は俺の番だな。誰が相手してくれるんですか?」

 

ノアは自分の周囲を見回し、相手を探す。

 

「僕だよ~。」

 

突如、ノアの背後から声が聞こえた。

 

「は?..ってちょっと!?」

 

ノアは背後に(マナ)の高まりを感じ、振り返ると同時に魔法を発動する。

 

武器魔法 雷鳴の剣

 

「うおっ、とと。」

 

ノアはよろめきながら体制を整える。

 

「奇襲とは....中々にやりますね。」

 

「そっちこそ、よく僕が雷魔法を使うと分かったね。」

 

互いに相手の出方を伺いながら話を続ける。

 

「...背後からバチバチ、と音が聞こえたから雷だと考察してこの剣を出しただけですよ。....それで?俺の洗礼の儀はこれで終了ですかね?」

 

ノアはこれで終わりにしたいのか目の前の少年 ラックにそう聞く。

 

「いいや。僕の動きを封じるか倒すかしないと終了にはしないよ。」

 

ラックはニコニコしながらノアにそう言った。

 

「デスヨネー。....なら仕方ないか。」

 

ノアはそう言うと、剣を魔導書(グリモワール)に戻し、別の武器を出した。が、

 

「何、それ?」

 

「....ナイフ。」

 

彼が魔導書(グリモワール)から出したのはナイフだった。その見た目は完全に軍隊が使う M9 バヨネット と呼ばれるタイプのコンバットナイフであった。一つ本物と違う点があるとすれば、それは刀身が黒ではなく"()"一色に染まっている点だろう。

 

ノアはナイフをクルクルと回すと、突然、地面に突き刺した。

 

「何処からでもどうぞ」クイクイ

 

ノアはラックを挑発し、攻撃を仕掛けさせる。

 

「後悔しても知らないよ。」

 

そう言ってラックはノアの周りを高速移動しながらグルグルと周り、ノアに狙いを定めていく。

 

そして狙われたノアは

 

「.......」

 

目を瞑って攻撃が来るのを待っている。

 

それを見ていたアスタは

 

「何やってんだノア!相手を見ろよ!」

 

そう言うが、ノアは

 

「.......」

 

集中しているのかアスタの声に反応しない。

 

そして背後からラックが蹴りを入れようとする。が、

 

ラックはノアの()に捕らえられ、動きを封じ込めらてしまった。

 

そして、ノアが自分の影から地面に突き刺したナイフと同じ形状の真っ黒なナイフを取り出してラックの首筋に突き付け、

 

「チェックメイト。」

 

そう言ってニヤッと笑う。そして突き刺したナイフを抜いてヤミ達に顔を向けた。

 

「さて、これでいいでしょ先輩方。この人の言った条件通りに動きを封じたので...魔法騎士団のローブを....」

 

ノアがそう言うと同時にアスタが走ってきた。

 

「スゲー!!!ノア、なんだ今の魔法は?」

 

アスタは目をキラキラさせながらノアに質問をする。

 

「あ、ああ。今のは俺の武器魔法の一つ 影の小剣(シャドウナイフ)。そして今あの人に放ったのが、拘束魔法 影の拘束(シャドウ・バインド)だ。」

 

「スゲー!!!影で相手を拘束出来るのか!」

 

「ああ。だが、俺の周囲の半径2m以内じゃないと相手を拘束出来ないから。あまり使えないんだけどな。....でも使えれば相手を拘束してしまえる。」

 

説明するとアスタは更に目を輝かせた。

 

「やっぱノアはスゲェ。」

 

アスタへの質問を終えたと同時に騎士団メンバー全員が駆け寄ってくる。

 

「オメェらスゲェな!」

 

最初に話しかけてきたのはマグナ。

 

「まず、アスタ!お前オレの魔法を防ぐどころか跳ね返してくるとはなァァァ!!気に入ったぜチビスタぁー!!」

 

「アスタっすー!」ブフッ

 

アスタはマグナに背中をバシバシと叩かれて咳き込んでしまう。

 

「次にノア!お前のあの魔法は何だ?.......今まであんな魔法は見たことがねぇ!それにうちで一番の戦闘狂のラックを拘束するなんてスゲェじゃねぇか!」

 

「あ、ありがとう御座います。」ゴフッ

 

ノアもマグナに背中をバシバシと叩かれてアスタ同様に咳き込んだ。

 

「けどオレ魔力が少ないどころか全然無いんスよ~」ヘヘヘ

 

「あァん..?魔力が無いだァァ~!?」

 

「!」

 

アスタがそう言うとマグナはまた威圧をするかに思えた。が、以外な反応を見せた。

 

「余計カッケーじゃねぇか!さてはオマエ...(おとこ)だな?」

 

マグナがそう言ったと同時にラック以外の団員達が近づいてくる。

 

「すごいじゃないの坊や達!」

 

「これ食べる~?」

 

「俺の妹には近づくなよ?」

 

こんな感じで団員達との挨拶を済ませ、二人はマグナから魔法騎士団の証であるローブを受けとる。

 

「ほらよ。テメーらのだ!!アスタ!!ノア!!」

 

渡されたローブを二人は身にまとい、魔法騎士団へ入団したことを再度確認する。

 

「ウフフ。ついでに─...」

 

バネッサがアスタの着けているバンダナをクルッと回すと、魔法で『黒の暴牛』のマークを縫い付ける。

 

「これでお前らも魔法騎士団『黒の暴牛』の一員だ─!!」

 

このことにアスタは喜び、

 

「あざああああああす!!!」

 

このように雄叫びを上げ。ノアは、

 

「.........良かった。」

 

感動のあまりに泣いてしまった。

 

そしてそんな二人をアジトの二階から見下ろす人物が一人。

 

「─アレが残り二人の新入団員...小虫ね...」

 

彼女(・・)は二人を一瞥してそう言った。

 

果たして彼女は何者か?.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ4 もう一人の新入団員

アスタとノアの洗礼の儀が終了し。今現在、マグナによってアジト内部の案内が行われていた。

 

「ココが食堂だァー!!」

 

「おおおっ」

 

「ココが大浴場!!」

 

「おおおーっ。広い!」

 

「.....」

 

マグナが先輩としてアジト内の各施設の紹介をする度にアスタは面白いくらいの反応を返す中、ノアはそんな二人をただ無言で見ていた。

 

「こっから向こうは女共の部屋だ。男が入ったら罠魔法で死ぬぞ。」

 

「えええΣ(Д゚;/)/死ぬの!?」

 

「ああ、でもノアは大丈夫だな。女だし。」

 

マグナはまだノアが女だと信じているのかそう言った。

 

「いや、俺男ですから。」

 

ノア自身。この訂正が何度目になるのかを考えながらそう訂正する。

 

「分かってるって冗談だよ冗談。」

 

マグナは笑いながらそう言うが、明らかに目が泳いでいるためノアはもういいや、と諦めてしまった。

 

───────────

 

そして、次の施設の紹介をしようと移動中、目の前にまだ会っていなかった人物が現れた。

 

銀色の髪をツインテールにしている少女だ。

 

「テメーこんなトコにいたのか。オイ、アスタ、ノアお前らの同期だ。今年のもう一人の入団者」

 

「えっ!Σ(Д゚;/)/」

 

「へぇ。」

 

するとアスタは彼女に挨拶をして握手を求める。

 

「俺、ハージ村のアスタ!一緒に切磋琢磨して頑張ろうぜぇ~」(同期!素敵な響き!)

 

が、彼女はアスタに差し出された手を払いのける。

 

「気安く話しかけないで、魔力の乏しい下民の小虫が。私はノエル・シルヴァこの国の王族よ。」

 

彼女はそう言うとアスタとノアを睨み付けた。

 

アスタは王族に初めて会ったことに対して驚いた。

 

「これはこれは私のような小虫が失礼をば~。」

 

「わかればいいのよ。」

 

アスタはノエルに土下座した。が、

 

「─って..誰が小虫だぁぁ~~~~!!」

 

(おぉっ、ノリ突っ込み。初めて見た。)

 

ノアはノエルの反応に対してくだらないと感じ、視界に入れない様にしていたが、アスタの反応に少し驚いてしまい。ついノエルを見てしまう。

 

「俺とお前は騎士団の同期!王族だとか関係あるかぁぁー!!」

 

「そうだ。アスタ!言ってやれぇぇぇ」

 

「.....」(これだから王族って奴は)

 

「関係あるわよ。」

 

「愚かな下民は言葉では理解出来ないのかしら...」ハァ

 

ノエルはため息を吐くとアスタに向かって構える。

 

「魔力の差でわからせるしかないようね...!」

 

ノエルが放った魔力弾はアスタに向かって...........

 

行かず、近くにいたマグナに当たってしまう。

 

「「えっ」」

 

以外にも自分達の方に向かって飛んでくると思っていた魔法が何故かマグナに向かって行ったため、二人は唖然としてしまった。

 

「このアマぁぁ~~~イイ度胸してんなァァ~~~」

 

「.......アナタの立ち位置が悪いのよ」

 

(えええええΣ(Д゚;/)/)

 

(いくら何でもその言い訳は無いだろ。)

 

ノエルは謝罪するかに思われたが、自分の不備を認めることはなかった。

 

「テメーコラァァァァ俺先輩だぞォォ!?」

 

「私は王族よ!」

 

「王族だか『銀翼の大鷲』団長の妹だか知らねーが、テメーみてぇなじゃじゃ馬引き受けてくれんのはヤミさんだけだからなァァー!!」

 

(ああ、そうか。どこかで見た顔だと思ったら『銀翼の大鷲』団の団長そっくりだな。...妹だったのか。)

 

「.......こんな団こっちから願い下げよ。」バサッ

 

ノエルは少し何かを考えると身にまとっていたローブを脱ぎ捨てた。

 

「テメっ...オイぃぃぃぃ何てことしてんだコラァァァァ。てゆーか詫びは詫びぃぃぃぃ。...俺が必死で手に入れたローブ....」orz

 

((何だったんだ一体...........))

 

───────────

 

「アスタ。ココがお前の部屋だ。」

 

アスタが案内されたのは、見るからにボロボロの家具が置かれた部屋だった。

 

「どーだァ~~切ないくらいに狭くて汚い部屋だろォ~~因みに俺の部屋はこの倍の...」

 

「俺の...部屋............!」ドバァー

 

「!」

 

アスタは自分の部屋が持てたことに感動し、泣いてしまう。

 

「俺自分の部屋とか無かったんで感動っす。めっちゃキレイにしてやる~~~。」フキフキ

 

「おー磨け磨け!任務があるまで自由だ!何かあったら俺んとこ来いや!...ノア。お前の部屋は隣だ。」

 

「ういっす!あざぁぁす。」

 

アスタはそのまま掃除を続ける。

 

「...俺も部屋に行くか。」

 

アスタの部屋を出て隣の自室に入る。だが、中はアスタの部屋と同じようにボロボロの家具が置かれているだけの部屋だった。

 

「......掃除しよ。」

 

先ずは掃除道具を探そうとアジト内を探すのだった。

 

─────────

 

その夜。

 

「凄いな!"●●● "友人として鼻が高いよ!」

 

「いいや、"●●●●"それは私の方もだ。」

 

(何だ.......これ?)

 

ノアは夢を見ていた。それはまるで誰かの記憶を覗いているようなそんな夢だった。どうやら二人は友人関係にあるようだ。

 

だが、二人は互いの名前を呼びあっているようだがまるでそこだけ音が切り取られたようになっていて何を言っているのか全く聞こえない。

 

(誰だ?...この男。)

 

男は耳が長く、それは遥か昔に存在したとされる"エルフ"と呼ばれる種族だと思われる。対してもう一人の男は見るからに普通の人間の姿をしている。

 

(もしかしてこれ....昔の誰かの記憶。...なのか?)

 

ノアはそんな事を考え、暫く様子を見る事にした。

 

すると、場面が変わった。

 

 

「"●●●"結婚おめでとう!」

 

「"●●●●"結婚おめでとう!」

 

どうやら今度は結婚式の最中らしい。

 

(あの"エルフ"の()の結婚式か。相手は...人間の女性のようだな。)

 

ノアは結婚式の会場を見回す。

 

(二人を祝福してるのは二人の友人か?....種族の違う二人が結婚.....か。)

 

この映像が表すのは人間とエルフ(・・・)、2つの種族が手を取り合って助け合っていくという事を表しているようだ。...ノアはその事事態には気付いていないようだが、

 

そしてまた場面が変わった。

 

(な!?...何だ...これは!!!?)

 

ノアが見た光景。それは先程の結婚式のような幸せそうな雰囲気から一変し、そこには凄惨な光景が広がっていた。

 

(何でこうなってるんだ!....さっきまでの幸せそうな光景は何処へ行ったんだ!)

 

その光景では。空から光が降り注ぎ、その光が"エルフ"達を次々に殺害していく。

 

(誰か.....居ないのか!....生きている奴は!)

 

ノアは無意識のうちに誰か生きている人がいないか探す。だが、周りを探しても遠くを探しても其処に拡がっているのは死体の山が出来上がった光景だけだった。

 

(一体...........誰が?.......何でこんな事を。)

 

すると、向こう側から魔導書(グリモワール)を広げた誰かが近づいてくる。

 

(アレは、誰だ?)

 

見るからに魔法騎士のようだが、表情がどうなっているのか見えない。

 

(まさか、あいつ(・・・)が...殺ったのか!?)

 

魔法騎士はこちらを見ると、魔導書(グリモワール)を構えて魔法を撃ってくる。

 

(....!!)

 

──────────

 

 

「うわあああああああ!!!」

 

魔力弾があと少しの所で当たるかに思われたが、ノアはそこで目覚めた。

 

「アレ?」

 

周りを見回すと其処は自室だった。

 

「ああ、そうか俺...魔法騎士団に入団したんだったな。」

 

ベッドから起き上がり、窓から外を見ると、昨日アスタとマグナを馬鹿にしたノエルが魔法の練習をしていた。

 

「......」(やっぱり...昨日のアレは。)

 

何かに気付いたのか。ノアは部屋を飛び出し、急いでノエルの元に向かう。

 

─────────

 

アジトの外にて。其処ではノエルが魔法の練習をしており、幾つもの大きな穴が四方に出来ており。放たれた魔法の威力が凄まじい事を表していた。

 

「──......なんでよ...何で思った通りに....当たらないの..........!?」

 

実は彼女は魔力のコントロールが大の苦手で、何時もこうして皆が起きてくるまでの時間帯に練習しているのだ。

 

(お前のような出来損ないを生ませたつもりは無い。)

 

(魔力のコントロールも出来ないなんて...情けないわねー...)

 

(何だその薄っぺらい魔導書(グリモワール)は...本当に王族かお前)

 

(お前のような一族の恥晒しは『銀翼の大鷲』には必要ない)

 

(この出来損ないめ...)

 

今までノエルは兄弟達に魔力のコントロールが出来ないことで馬鹿にされ、認められなかった。だからこそ必ずコントロールが出来るようになるために今日も練習を重ねる。全ては自分を馬鹿にした兄達を見返す為に。

 

(絶対に認めさせてやるんだから───)

 

だが、どれだけ的を狙って撃っても当たる事なく。軌道が曲がってしまう。

 

「───......何でよ...何で...何で─────...!!」

 

すると魔力弾が急激に膨張し始め、ノエルを呑み込んでしまう。

 

──────────

 

「遅かったか....!」

 

ノアがアジトの外に飛び出した時には既にノエルは魔力弾に呑み込まれてしまっていた。

 

「あらあら~」

 

「なんつー魔力量だ...!アレほっといたらやべーぞ。」

 

「魔力が暴走しちまってやがるな。」

 

するとノエルの魔力を感知してか、ヤミ達がアジトから飛び出してきた。

 

「オイ、ノア。お前魔力を吸収出来ただろ。アレも出来るか?」

 

不意にヤミがノアに話しかけてきて、そんなことを言う。

 

「....無理ですね。半分はなんとか出来ますけど、全部吸収しようものなら俺がパンクします。」

 

「....そうか。...なんて言うと思ったか?今ここで限界を越えろ!....ほらやれったらやれ」ゴゴゴ

 

ヤミはノアが無理だと言ったにも関わらず、ただやれと言ってノアを威圧する。

 

「ハァ...分かりました。」

 

ノアは嫌々ながらも魔導書(グリモワール)を取り出し、魔法を発動する。

 

武器魔法 水神の剣

 

ノアの魔導書(グリモワール)から飛び出した剣。それは刺突することに特化したレイピアと呼ばれる形状をしていた。そしてやはり剣先は海のように蒼く煌めいていた。

 

「行くぞ!」

 

ノアが魔力球に剣先を向ける。すると、剣先に少しずつ魔力の球が小さくだが、出来始めている。

 

「ぐうおおおおおあお!!!」

 

ノアはレイピアを両手持ちに切り替え、そして集中して剣先に魔力弾から吸収した魔力を集めて自身に吸収している。次第に魔力球も小さくなっているように見える。

 

だが、

 

「.....駄目だ、これ....以上は.....!!」

 

どうやら先に、ノアの方に限界が来てしまったようだ。

 

「無理....か。...だが、魔法で攻撃しちまうと中のあいつがただじゃ済まんな...」(魔力を無効化出来るヤツとかいればな~)

 

ヤミがそんなことを考えているとアスタがこちらに吹っ飛んできた。

 

「ちょーどいいトコに飛んで来たなちょっとアレどーにかして来い。」

 

「いやいやいや、あんなんどーすりゃいいんスか!?あんなトコまで飛べないです───...し」

 

アスタはそう言うが、ヤミはアスタを掴んでいた腕に魔力を込め始める。

 

「今ここで限界を越えろ」

 

そして振りかぶってアスタを魔力球まで飛ばす。

 

「うおおおおおおおおおおお」

 

そして魔力球に近づいたところでアスタが魔導書(グリモワール)から大剣を取り出す。

 

「ふんがあああああ」

 

そして大剣を振りかぶって魔力球を斬りつけると、中からノエル落ちてくる。

 

そしてアスタも同じように自由落下する。

 

が、フィンラルが空間魔法を使ってアスタ達を地面に移動させる。

 

「生きてたァーーー!!空間あざああす!!!」

 

アスタはそう言ってフィンラルに感謝の言葉を言う。

 

「よくやった小僧共。」

 

ヤミもアスタとノアに称賛の言葉を贈る。

 

「あっ!おいお前!」

 

アスタは自分の後ろにノエルが居ることに気付くと彼女に声を掛けた。声を掛けられたノエルは兄達に言われた心無い一言を思い出す。

 

『この出来損ないめ...』

 

(また...馬鹿にされる....!!)

 

だが、アスタから返ってきた言葉はノエルの耳を疑う言葉だった。

 

「なんちゅー魔力持ってんだよ!!すっげぇーな!!」

 

「え...」

 

「俺、魔力無いから羨ましーぞチクショオオ!!」

 

アスタは更に続ける。

 

「特訓して自在に扱えるよーになればお前無敵だな!!」

 

其処にノアもやってくる。

 

「昨日の"アレ"....やっぱりわざとじゃなかったんだな。」

 

ノエルを見下ろしながらノアはそう言った。

 

(もしかして、怒ってるの?)

 

ノエルはノアの様子を伺う。するとノアの口が開く。

 

「...もしよかったら俺が教えようか?魔力のコントロールも得意だからさ、俺。」

 

ノアは優しく微笑みながらノエルにそう言った。

 

「何だ魔力がコントロール出来なかっただけかよ。早く言えよ出来損ない王族。」

 

するとマグナ達もこちらにやって来る。

 

「俺達は出来損ない集団『黒の暴牛』だぞ。テメーの欠点ごときどーってこたねぇんだよバカタレ。」

 

すると次々にノエルに話しかける団員達。

 

「とにかく無事でよかったねぇ~ところで美味しいパスタの店があるんだけど今度一緒にどう?」

 

「その前にとりあえずコレ食べてみ?な?」

 

「私も魔力のコントロールだけは超得意だから教えてあげるわよぉ~あと大人の女のテクニックとか❤️」

 

そんな光景を目の当たりにしながらも、自分の事を認めてくれた団員達に心から感謝するノエル。

 

「ほいよ!」

 

アスタがノエルに手を差し出す。

 

それに対してノエルは、

 

「...よろしくお願いします。」

 

アスタの手を取って起き上がる。

 

「....やれやれだな。┐(-。-;)┌」

 

ノアはそんなノエルを見てやっと素直になったのかとそう呟いた。

 

かくしてノエルはまた『黒の暴牛』の一員として活躍していくことだろう。

 

「....その日が楽しみだな。」ニヤッ

 

ノアはノエルがいつか、魔法騎士団の一員として活躍してくれる日を想像し、それまで彼女に魔力コントロールを指南することを心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ5 初任務へ

「フッ、フッ、フッ.....」

 

夜明け前。『黒の暴牛』アジトの裏手で剣を振って素振りをする一人の青年。彼の名は ノア・レイダス。

 

今日は何時もより早く目覚めてしまったので何かすることはないかと思い、素振りを始めたのだ。

 

「996....997....998....999....」

 

彼は今、素振りを1000回行っている最中だ。

 

「1000!」

 

そして今、彼の素振りが終わったようだ。

 

「よし、次は走り込み行くか。」

 

何を思ったか今度は走り込みとして8㎞走りにいってしまった。

 

(俺もアスタに負けない為にあいつと同じ....いや、あいつの倍はトレーニングしないと!)

 

「やってやらああああああ!!」

 

ノアはそのまま意気込んで森の中へと走っていってしまった。彼が戻ってきたのは団員達全員が起きてきた後だった。

 

───────────

 

「そもそも魔法騎士団って何するんスか?」

 

朝の食堂にて、アスタがそんなことを聞く。

 

「マジで言ってんのか?テメー...」

 

聞かれたマグナは目の前に座っているアスタの首根っこを掴んで揺する。

 

「国護ったり警備したり世界一(おとこ)らしい仕事だぞボケぇぇ!!なんで入ろうと思ったァァァ!?コラァァ~~~」

 

「すみまっせぐええええ」

 

「「.......」」

 

その光景を見ていたノエルとノアは食事をしながら横目でアスタを見る。

 

「.....えーと、それは俺も知らないので教えてもらえませんか?」

 

ノアはマグナにそう質問すると掴んでいたアスタを放す。

 

「そうね~市民の安全守る~~~~?みたいなぁ?護衛で素敵な殿方とお近づきになれるかも❤️」

 

最初に答えたのは朝なのに酒を飲んで酔っぱらっている彼女 バネッサ・エノテーカ。後半は私情が混じっていたが...

 

「敵と戦いまくれるオモシロイ仕事だよ!犯罪者だったらどれだけボコボコにしても怒られないし 」

 

次に答えたのは『黒の暴牛』一の戦闘狂(バトルマニア)ラック・ボルティアがシャドーボクシングをしながら答えた。犯罪者をボコボコって、明らかにやり過ぎだと思うが...

 

「何よりも妹に尊敬される素晴らしい職業だ。給料で妹に好きなモン買ってやれるしな。」

 

鼻血を出しながら答えたのはどシスコン、ゴーシュ・アドレイ。うん。、こいつは論外だな。

 

すると突然、隣にいた団員の一人がおもむろに魔導書(グリモワール)を取り出して魔法を使い、料理を作り出す。

 

「ご飯がたくさん食べられるよー。」

 

そう言った小柄な少女 チャーミー・パピットソンは笑顔でアスタに答えた。

 

次に見た目が完全に マツ●・デ●ックスのグレイがおもむろに魔導書(グリモワール)を開いてアスタの姿に変身する。

 

「ま、とにかく楽しいところさ。そのうち一緒に任務するときはよろしくなっ!」

 

団員全員を見て三人は、

 

(((へ、変な人達ばかりだ....。)))

 

と、改めて「黒の暴牛」の異端児っぷりを見せつけられたのだった。

 

─────────

 

アジトから少し歩いた森の中。

 

そこではノエルに魔力コントロールを教えているノアの姿があった。

 

「.....とまぁ、魔力のコントロールには集中を持続させることとそれが攻撃用の魔法なら、的を狙って当てるという気持ちが必要なんだ。」

 

自らの魔力コントロールについての自論をノエルに教えるノア。

 

「集中力と当てるという気持ち....。」

 

「でもまぁ、集中力の持続が成功してるから後は的に当てるだけだ。.....という訳で。」

 

ノアは何を思ったか、魔導書(グリモワール)と取り出し、そこからレイピアを召還した。

 

「先ずはこれを狙って当てて貰う。」

 

「えっ!?....でもそれアンタの魔法じゃあ...」

 

ノエルは少し躊躇いを見せた。

 

するとノアは近くにあった木の近くの地面にレイピアを投げて突き刺した。

 

そしてノエルにそこから少し離れる様に指示し、そこから魔法を撃つように言う。

 

「よし、じゃあここから撃ってみてくれ。」

 

「わ、分かったわ。」

 

そう言うとノエルは意識を集中させ、レイピアに向かって魔力弾を放つ。だが、魔力弾はまるでレイピアを避けるかの様にしてレイピアの後ろの木に直撃する。

 

その光景を見てノアはというと、

 

「う~ん。.....何が駄目なんだろうか。....ノエル自身は当てると考えながら撃ってる筈なんだけど。」

 

と、一人でブツブツとノエルに対する指摘を考えている。するとそこで、

 

「つまんねぇ~~!俺も何かやらせろ!」

 

ノアの魔法指導を見ていたアスタがつまらなさそうに文句を言う。

 

 

「....アスタ。お前は魔力無いんだから無理に付き合わなくてもいいんだぞ。」

 

と、ジト目になりながら答えるノア。

 

「でもなぁ。」

 

アスタは何かを考え込むような素振りを見せながらノアに何かを求める。

 

「.....ハァ、仕方ない。....ノエル、一先ず休憩に入れ。...俺はアスタを見てくる。」

 

「ええ、分かったわ。」

 

ノアはノエルに休息を取るように指示すると、アスタの方に顔を向け、魔導書(グリモワール)(ページ)を開く。それと同時にノアが召喚したレイピアはその開いた頁に吸い込まれていった。

 

「....それで?一体何を教えて欲しいんだ、アスタ?」

 

「そんなの決まってる!....俺m」「はい、却下。」

 

「って俺まだ何も言ってないだろ!?」

 

「どうせお前のことだ、俺にも魔力コントロール教えろとか言うつもりだったんだろ?.....だとしたら無理だ。お前には魔力が全く無い。...そんなお前に教えたところで"豚に真珠"だ。」

 

「んだとー!」

 

アスタはノアに言われたことに腹を立てて殴りかかる。

 

だがノアはアスタの拳を掴むと、そのままアスタの背後に移動し、脇固めを行う。

 

「あいだだだだだだ!」

 

「落ち着け。....今からお前にも出来る事を教えてやる。」

 

ノアはアスタの腕を離すと、魔導書(グリモワール)から剣を取り出して構えて、目を瞑る。

 

「アスタ。今から何処からでも良いから俺に攻撃を仕掛けろ。」

 

ノアが口にしたのはトンでもないことだった。

 

「いいのか?」

 

「ああ、やってくれ。」

 

ノアからの許可が降り、アスタは自身の魔導書から大剣を召喚してノアの背後から振りかぶった。

 

「きゃあ!」

 

その様子を見ていたノエルは悲鳴を上げながら目を両手で覆い隠した。だが、

 

「......ハッ!」

 

ノアは何処から来るのか分かっていたのか、アスタの方に振り向いて剣を大剣にぶつける。

 

「な.....!?」

 

驚いたのはアスタだった。まさか自分の攻撃を受け止められるなんて思わなかったからだ。

 

「なんだ、今のは?」

 

アスタはノアに今の技をどうやって自分に使ったのかを尋ねる。が、

 

「さあな?.....自分で考えな。」

 

と、それだけ言うとそそくさとアジトに戻っていくノア。

 

「あーそうそうノエル。....今日の練習はここまでとするから。後は部屋で休んで魔力を回復させるんだ。....以上、解散。」

 

「って、おい待てノア!...俺はまだお前にさっきの技のやり方教わって無いぞーー!!!」

 

と言って、アスタはノアを走って追いかけていった。

 

「....なんなのよ、あいつら。」

 

───────────

 

そしてそれから数分後、

 

ノア達三人はマグナとヤミに呼び出されていた。

 

「お前達に任務を与える!」

 

どうやら任務のようだ。アスタとノエルはワクワクしながら聞き、ノアは嫌な予感がするとばかりに目をマグナから逸らしている。その任務内容はというと、

 

「ソッシ村でイノシシ狩りだ。」

 

(((イノ...シシ...?)))

 

「な...何そのダサい任務!」

 

「ダサいとは何だァァ!!」

 

「イノシシなんぞ素手でブッ倒せますよ!」

 

「テメーイノシシナメんじゃねぇぇぇ」

 

「なら焼き斬れば...」

 

「倒し方で文句言ってんじゃねぇぇぇ」

 

「この間二人して賭けに負けちまってな~、何でも一つ言うこと聞くってとあるジジーと約束しちまったんだわ!」

 

と、二人は笑いながらその時の話をしている。

 

それを聞いてノアは思った。この二人、イカサマされてカモられたんじゃないか?.....と、

 

するとアスタが文句を言い始めた。

 

「それって僕達関係無いっスよね!!!」

 

「そうよそうよ。」

 

それに便乗してかノエルまで文句を言い始めた。

 

二人の文句に対してヤミは、

 

「行くのか、死ぬのか、どっちだ??」

 

と、文句を言っていないノアにまで脅しをかけてきた。

 

それに対して三人は、

 

「「「行きます。」」」

 

としか言えなかった。

 

「とはいえ初任務だァァァテンション上がるぜ~~~!!」

 

「この私が...?小汚い村の小汚い老人の為に?小汚いイノシシ退治?」

 

「初任務がイノシシ....はぁ、憂鬱だ。」

 

と、ノエルは小汚いを連呼し、ノアは魔法騎士団になってもイノシシを狩るのかと、憂鬱な気分になっていた。

 

それを見たマグナは、

 

「んだテメェら文句あんのかコラ?」

 

と、ノアとノエルを威圧する。

 

『誰も文句なんて言ってないわ(です。)』

 

だが、ノエルは続けた。

 

「....その...魔力のコントロールも出来ない私が...行ってもいいのかなって.....」

 

するとマグナは、

 

「バーカ!ンなモン任務重ねてりゃ勝手に出来るよーになってんだよ!それにテメーのケツくらい先輩のオレが面倒見てやらぁ!」

 

と、ノエルを励ますように叱責した。

 

「マグナ先輩漢っすね!」

 

「よせよバカスタ。照れるだろ。」

 

その様子を見ながらノアはマグナに訪ねた。

 

「それで、どうやって移動するんです?...フィンラル先輩の魔法で行くんすか?」

 

「いや、今回は無理だ。...フィンラルの魔法は、あいつ自身が行ったことのある場所しか行けないってデメリットがあるんだ。」

 

マグナは更に続ける。

 

「だから今回は箒で移動する。」

 

箒、それは魔法騎士団にとっては移動手段の一つとして用いられる道具である。ただし、殆どの魔法騎士は自分で移動魔法を覚えている者が多いため、現在ではその移動魔法を覚えていない者が利用することの方が多い。

 

「箒は前に説明した物置の右側に置いてある。お前らは奥に置いてある箒を使え。」

 

「了解。」

 

ノアはそう言って物置へと移動する。だが、移動しないものが二人、アスタとノエルだった。

 

「ん?どうしたお前ら、箒は物置だぞ。」

 

すると二人はマグナが忘れていたであろう事実を口にする。

 

「オレ、箒乗れないんですけど。」

 

「私も。」

 

それを聞いてマグナはアスタの肩を揺らす。

 

「何で乗れねぇんだぁぁぁぁ!?」

 

「だってオレ魔力全く無いですからね!」

 

「何で誇らしげなんだ!?」

 

「私は魔力のコントロールが出来ないんだから当然じゃない。」

 

「お前は何で偉そうなんだ!?」

 

三人はそんな感じでワイワイとしていると、

 

「あの~御三人方、箒持って来たんですけども...。」

 

「「「....」」」

 

その後、アスタはマグナの箒に、ノエルはノアの後ろに乗って移動する事となった。

 

───────────

 

箒で移動中、ノアはふとノエルに"ある事"を聞いてみたくなり、質問する事にした。

 

「なぁ、ノエル。」

 

「何よ。」

 

「お前、アスタのことどう思ってる?」

 

「ぶっ!」

 

不意を突かれたからかノエルは吹き出してしまった。

 

「あ~その反応から察すると.....成る程な。」

 

「ちちち違うわよ!?....ベべべ別に私はあいつのことなんて。」

 

ノエルのこの様子だと自ら墓穴を掘っているようなものだ。

 

「....そうか。....でも意外だな。あいつの何処に惚れたんだ?....あいつはガサツだし、煩いし、おまけにしつこい。そんなやつの何処に惚れる要素があるのか不思議なんだが。」

 

「そ、それは....その。」

 

するとノエルは今までの高慢な態度とは裏腹に急にモジモジし始めた。

 

「まぁ、言いたくないなら別にいい。それよりもお前の魔法についてなんだがな。」

 

(話を逸らされた!?)

 

ノエルは話を逸らされたことに対して心の中でツッこんだが、あえてノアの話を聞くことにした。

 

「お前の魔法。確かに現段階では"飛ばす"ことは難しい。だけど"留める"ことは可能だと俺は考える。」

 

「"留める"ことは可能...。」

 

ノエルはノアの発言を復唱し、自分が今、出来る事を見つけようとしている。

 

「まぁ、今はまだ焦らなくてもいい。...地道に一つずつ、自分に出来る事をやればいいさ。」

 

ノアはそう言ってノエルを励まし、焦らず地道に練習を積み重ねるように言う。

 

そうこうしているうちにソッシ村の近くの森が見えてきたのでノアはそこで話を切り上げることにした。

 

────────────

 

そこからはもうなんと言うか、単純作業だった。

 

アスタはイノシシを追いかけて大剣で切り、ノアは魔法でイノシシを焼き斬った。

 

ノエルとマグナは、二人の活躍するその光景をただ、眺めているだけだった。

 

そしてイノシシを全てではないが、狩り終わったところで、三人はソッシ村に移動した。だが、そこにあったのは...

 

「何だこりゃ...?村が霧に覆われてる...?」

 

村一体を包み込むように霧が展開されていた。それはまるでこの村に訪れた訪問者を拒むかのようだった。

 

「ずいぶん天気悪い村ッスね!」

 

「バカね、アンタ!」

 

「アスタ....これは魔法だ。」

 

ノアの発言にノエルは頷く。

 

「恐らくこの中に入っても目的の場所には入れないでしょうね。」

 

「それにこの魔法....まるで俺達に邪魔をされないために発動してるようなものだ。」

 

ノアの発言にマグナは少し思考する。

 

(村一つをすっぽり包み込む魔法....こりゃ恐らく村人の魔法じゃねぇな...)

 

マグナがそうして思考していると、ノアはアスタに声を掛ける。

 

「おいアスタ。お前の剣で霧に攻撃しろ。」

 

「え。...おいおい何馬鹿なこと言ってんだよ、霧は剣じゃ斬れねぇよ。」

 

アスタはそんなの当たり前といった風にノアの発言を馬鹿にする。だが、それを聞いていたマグナは、

 

「馬鹿はテメーだァァ!魔法だったらテメーの剣で斬れるんだろうがァァァ!!」

 

と指摘する。

 

アスタは思い出したかのように急いで自分の魔導書から大剣を取り出して霧を攻撃する。

 

そして、

 

「よし!霧が晴れ─」

 

『!』

 

霧が晴れた先で四人が見たもの。それは村の中心に集められた村人達を殺そうと上空に佇む氷柱だった。

 

すると何処からか声が聞こえた。

 

「処刑」

 

男の声だった。それも村人を殺すことに何の躊躇いも感じない。無機質なそれでいて何処か冷めきった声だった。

 

男の声の後に氷柱は全て村人達に降り注いでいく。

 

だが、

 

《炎魔法 爆殺散弾魔球(ばくさつさんだんまきゅう)

 

《炎生成魔法 鳳凰(ほうおう)翼撃(よくげき)

 

マグナとノアが直ぐ様魔法を発動し、氷柱を全て破壊した。

 

『魔法騎士団が助けに来てくれた─!!?』

 

村人達は歓喜した。最早自分達はこれから全員殺されるところだったのだ。歓喜しない訳がない。

 

「お爺ちゃんの祈りが...通じたんだ─...!!」

 

村人の少年が横たわっている老人に泣きながら報告する。

 

マグナは驚いた顔でその老人に近付く。

 

「ジーサン!オイしっかりしろ────...」

 

だが、

 

「..............ジーサン......」

 

その老人は既に息を引き取った状態であった。

 

(こんなに簡単に...人の命を奪って....!!)

 

それを見ていた三人のうち、ノアは心の中でそう呟いた。

 

項垂れていたマグナだったが、直ぐに誰の犯行なのか気が付いた。

 

「テメェの仕業かァァ────────!」

 

マグナの視線の先にはマントで姿を隠した四人の魔導師と、その中央に懐中時計を見つめる顔に傷のある男がいた。

 

だが、声を掛けられた男はマグナの怒りが込められた言葉に目もくれず。ただ、懐中時計の時間を気にしていた。

 

「よくも時間を狂わせてくれたな、三秒後に全員処刑。」

 

それどころか、邪魔をしてきたマグナを排除するようにマグナの前に巨大な氷塊を飛ばす。

 

(やべぇ...魔力が足りねー...)

 

マグナはその場から動けず、そのまま氷塊に潰されるかに思われた。だが、

 

「ふん!」

 

「オラァ!」

 

アスタが縦に、ノアが横に剣で斬りつけて氷塊を破壊する。

 

アスタとノアは村人達を一瞥すると、傷の男達を睨む。

 

『許さん(ねぇ)...!!!』

 

アスタとノアは怒りを剥き出しにして思った。

 

((俺(オレ)が皆を守る!))

 

そしてこの任務が、アスタとノアのこれからを左右するとはまだ誰も気付かなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ6 続く膠着状態

「何でこんなヒデーことをする........!!」

 

ノア達は顔に傷のある男、ヒース達と対峙し、アスタはヒースに問いを投げ掛ける。

 

だが、男達はアスタの質問を意に介さないのか何も答えない。

 

「魔法騎士団の者が来るとは聞いてません(・・・・・・)ね...」

 

「申請外の任務か何かでしょうか...?それにどうやって我々の霧の結界を破ってこの村に入ってきた...?」

 

それどころかヒースの部下と思わしきローブの男達がヒースに疑問を投げ掛ける。

 

だがヒースはそんな事はどうでもいいとばかりに懐中時計の時間を確認し、呟いた。

 

「『黒の暴牛』...魔法騎士団の中で浮いている粗野な異端の連中か...」

 

ヒースは再度時計の時間を確認し、こう指示を出す。

 

「5分だ。何も知らなかった役立たずな村人もろともとっとと始末し目的の代物(・・・・・)を探すぞ......!」

 

それを聞いてか、ついにアスタが動いた。

 

「無視すんじゃねぇーーーーー!!!」

 

アスタがヒースに斬りかかる。だが、

 

《霧魔法 "幻霧の渦"》

 

「そう簡単にヒース様に近付けると思うな愚か者め。霧に惑え---」

 

部下の一人がアスタに魔法で足止めをする。だが、

 

「誰が惑うかァァァ------!!!」

 

アスタは剣で魔法の霧を斬り、魔法を無効化する。

 

その光景からヒースはアスタに間合いに詰め寄られるのはまずいと判断し、アスタから距離を置く。

 

「なんでこんなヒデーことするのかって聞いてんだよ!!!」

 

アスタは再度ヒース達に自分の疑問を問いかける。

 

するとヒースは仕方なくという様子で口を開いた。

 

「この村は下民が住む『恵外界』だ。恵外界にいる者の殆どは生活で多少役に立つ程度の魔法しか使えない劣等種...まるでモノを扱えない獣だ。私の時間を奪う可能性のある役立たずな獣を先に片付けようとしただけの事だ...オマエら騎士団に入れる程の魔力を持っているんだろう?任務だから助けようとしているだけでオマエらにもコイツらが取るに足りん獣に見えないか...?」

 

ヒースはこの村の住民を"人"ではなく"獣"として扱い、あまつさえその獣をまるで殺処分しようと言うのだ。更にはノア達が村人を助けるのは任務だから仕方なく助けているという解釈をしている。

 

ヒースの発言に対してアスタは、

 

「その━「おい、そこの傷の顔野郎(スカーフェイス)。」

 

否、ノアが何時もの優しい雰囲気ではなく怒りを剥き出しにした様子でヒースを睨み付け、アスタの言葉を遮った。

 

「さっきから黙って聞いてりゃ、ゴチャゴチャとてめぇらの御託並べやがって....」

 

ノアは今にもヒースに対して飛びかからんばかりの様子でその異常な事態に対してアスタやノエル、マグナだけでなく村人達までもを恐怖で萎縮させる程であった。

 

「いいか、俺はどこぞの下民下民と俺らを馬鹿にする貴族共とは違う!助けたいから助ける!...ただそれだけだ!」

 

ノアはそう言ってヒースに切りかかる。だが、ヒースはノアの攻撃をバックステップで回避し、魔法を発動する様子を見せる。

 

「そうか...そんなにその薄汚い獣共が大事か......!」

 

「そんな魔法、俺の炎で━━━...」

 

燃やそうとしたノアだったが、ヒースの部下達までもが一斉に魔法を発動し、その規模は村人達とノア達を包み込む程の大きさとなった。

 

氷霧(ひょうむ)複合魔法 "無限氷轢檻(むげんひょうれきかん)"》

 

「ではこの状況でも獣の群れを守れるか...?じわじわという言葉はあまり好きではないが...これが一番効率が良さそうだ...!」

 

氷が一斉に村人達に迫る。アスタはノアの前に立ちはだかり、大剣で氷をヒースに向けて跳ね返す。だが、

 

《氷解》

 

ヒースは魔法を解除して攻撃を無効にする。

 

「魔法の反射も出来るのか...だがそれでは私は倒せん。氷の礫は次から次へと出来るぞ...!さぁ、守ってみせろ。」

 

氷の礫がノア達に迫る。

 

アスタは大剣を振り回して礫を破壊し、マグナは魔法で礫を溶かす。ノアは剣から炎を放出し礫を溶かしつつ、剣で切って礫を破壊する。

 

ノエルも応戦しようとするが、魔力弾のコントロールが出来ずにあらぬ方向に当たってしまう。

 

「魔力の操作もロクに出来ん者がいるとは...『黒の暴牛』はよほどの人員不足と見える。」

 

ノエルはヒースの言葉に悔しさを覚え、顔を赤くする。

 

「自分の身も守れない脆弱な獣が...そいつらを見捨てればオマエらは助かるぞ魔法騎士団......!」

 

(王族なのに...この中で一番の魔力を持ってるのに...完璧に足手まといじゃない......!)

 

「下がってろノエ公━━!!」

 

(ここにいる意味なんて無いじゃない......!)

 

ヒースの言葉に揺れるノエル。だが、

 

「ノエル。」

 

ハッとなり、声の聞こえた方に顔を向ける。

 

そこにはノアがいた。

 

「焦らなくていい。お前はお前にしか出来ないことをすればいい。」

 

ノエルの様子を見て悟ったのか諭すように言い放つノア。

 

「でも.....私。」

 

「足手まとい。か?」

 

ノアの言葉にノエルは頷く。

 

「だって...私、魔力のコントロールが...」

 

そこまで言いかけたところでノアがノエルの肩に手を置く。

 

「俺らはそんな事気にしてない。...いいか、今お前がするべき事は何だ?」

 

「私が....すべきこと?」

 

「俺の言葉を思い出せ。....そうすれば答えは見えてくる筈だ。」

 

ノアはそれだけ言うとアスタ達の元に戻り、村人達を守るために氷の礫の破壊を続行する。

 

「私にしか...出来ないこと」

 

ノアの言葉にノエルは思考し、自分が今すべきことを探す。

 

すると、

 

「えっ?」

 

ノエルの服の裾を少女が掴む。

 

「おねーちゃん....助けて。」

 

少女は目に涙を浮かべながらノエルに助けを求める。

 

(そうよ、こんな小さな子が助けを求めてるんだ。...私だけ逃げる訳にはいかない!)

 

ノエルは村人達を守ることを決意し、地面に膝を付けた。

 

(ノアの言葉....."飛ばす"事は無理でも"留める"事は可能。....なら!)

 

その時、ノエルの魔導書のページが輝きだし、新たな魔法が発現した。

 

《水創生魔法 海竜の巣》

 

その魔法は村人全員を包み込み、守るものだった。

 

「私は王族....逃げる訳にはいかないのよ!」

 

ノエルは決意を改たなものにし、ノア達のサポートを行う。

 

「なに!?」

 

ヒースはその様子にただ驚くばかりだった。

 

そして、遂に、

 

「俺には魔力なんて無ぇ。.....だけど俺は!お前を倒す!」

 

アスタの剣がヒースに届いた。

 

「ここから反撃と行こうぜ!ノア!」

 

「ああ!」

 

ここから二人の逆転劇が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ7 反撃開始

「やったか!?」

 

アスタの攻撃がヒースの胸に突き刺さったかに見えたが、

 

(氷で滑らされて...勢いを殺された━━━━!!)

 

ヒースは咄嗟の判断でアスタの足元の地面を凍らせ、アスタの攻撃の勢いを殺して回避した。

 

「剣は魔法を無効化出来ても、やはりオマエ自身はただの人間のようだな」

 

ヒースは冷静にアスタを分析し、次の手を出す。

 

「━━━━━今度は此方の番だ...!」

 

ヒースが魔導書を開き、構える。

 

《氷魔法 天擊氷牙(てんげきひょうが)

 

ヒースの繰り出した魔法はアスタの腹部に突き刺さり、アスタは倒されてしまう。

 

「....くっ...そ!」

 

ノアはヒースを止めようとして向かっていく━━━━だが、

 

「ぐはっ!」

 

アスタと同じ魔法で腹部にダメージを与えられ、そのまま倒れてしまう。

 

「眠っていろ...永遠にな...」

 

「...アスタ...ノア...!!」

 

アスタとノアは倒され、その表情を伺うことはできない程二人の顔に陰りが見えた。

 

「とてつもない魔力の魔法だ...だが...人一人分の侵入口を作るぐらいは出来そうだ......!」

 

ヒースは左腕で氷を展開し、ノエルの放った魔法 《海竜の巣》に侵入しようと試みる。

 

「25秒...といったところか...オマエらは本当に私の時間を奪うのが好きらしい...その代償は大きいぞ...!!

 

ヒースが氷を展開して魔法に穴を開けようとする。

 

(魔力も殆ど残ってねーが...闘うしか.........炎と氷......魔法の属性の相性ではオレの方が有利━━━━...だがそれを覆す程の魔力の差━━━━━━━...!!....相手が...悪かったな......スミマセン、ヤミさん...恐らくオレは......コイツに...勝て━━━━)

 

マグナが諦めかけたその時、

 

「まだだ!!!!」

 

ヒースの背後からノアが斬りかかる。

 

だが、

 

「遅い」

 

先程と同じ魔法で攻撃されてしまう。

 

「よくまだ生きていたな...頑丈なヤツだ...だが...その負傷では存分に剣を振れまい。」

 

ノアはその場に踞り、動けなくなってしまう...だが、

 

「まだだ!!!」

 

今度はアスタがヒースに斬りかかる。

 

「しつこい」

 

ノアと同様に魔法で攻撃を受ける。

 

そして倒される...だが、

 

「まだだ!」

 

今度はノアが立ち上がり、ヒースの行く手を阻む。

 

「まだまだぁ!」

 

「同じ手が通じるか!」

 

ヒースが氷柱をノアに向ける....だが、

 

パキィ!と氷が砕ける。

 

「なに!?」

 

《氷魔法 結晶の想い(クリスタルハート)

 

「喰らえ!」

 

ヒースを斬りつけるが、

 

(手応えが無い...!)

 

ノアが斬ったもの、それはヒースが自身の魔法で作り出した氷の人形であった。

「....っち。」

 

再度ヒースの魔法をバックステップで回避。

 

だが、二人ともその場に倒れ込んでしまう。

 

どうやらアスタもノアも体力の限界であるようだ。

 

「もうお前らに勝機は無い...何故諦めない...!?」

 

何度も立ち向かってくるアスタとノアにヒースが問いを投げる。

 

「あ?....そんなの決まってるだろ。」

 

ノアが立ち上がり、

 

「.....諦めたら...誰が護るんだ........!!」

 

アスタが立ち上がる。

 

「俺は....!!」

 

「俺は....!!」

 

「「皆を護る為に俺は....魔法帝になる...!!!」」

 

《武器魔法燦然と輝く剣(クラレント)

 

ノアが魔導書から新たな剣を取り出して構える。

 

「行くぞアスタ、お前の...洗礼の儀(・・・・)だ...!」

 

「...!!....おう!!!」

 

ノアの言葉の意味を理解し、アスタが走る。

 

「此れこそは....我が父を滅ぼし邪剣!!!」

 

ノアが口上を述べると剣に雷が集まり始める。

 

そして最大限まで蓄積されたそれは━━━━

 

我が麗しき(クラレント).....父への叛逆(ブラッドアーサー)!!!」

 

一点に集中して放出される。そしてその方角には━━━

 

「....ぐっ....!!!」

 

(なんて魔力量だ.....受け流すので精一杯だ...。)

 

即座に氷の結界を展開して防御に徹する。

 

「ここだ!!!」

 

突如ヒースの背後からアスタの声が響く。

 

振り替えると其処には大剣を構えたアスタがいた。

 

アスタがヒースの受け流した雷を反射してヒース達にぶつける!

 

(この雷....消えない....!!?ならば、凍らせるまで....!!!)

 

「うおおおおおお!!!!」

 

ヒースが身体にまとわりついた雷を凍らせようとするが...

 

まだだ...俺の身体はまだ動くぞ━━━!!」

 

「━━━ま...待て...」

 

「待つかぁあアアアアアア!!!」

 

アスタの一撃により、ヒースは氷ごと砕かれてその場に倒れる。

 

どうやら決着はついたようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ8 決着

アスタがヒースとその部下達を倒し、安堵につくノエルとノア

 

「....終わった。」

 

「...いや、まだだ。」

 

するとノアの背後からマグナが現れ、魔導書を開く。

 

するとヒース達の身体に炎の拘束魔法がまとわりついた。

 

《炎拘束魔法 炎縄緊縛陣(えんじょうきんばくじん)

 

どうやらマグナが自身の魔導書から魔法を発動したようだ。

 

「あなた見かけによらず器用なのね」

 

「やかましいわ!俺先輩よ!?」

 

ノエルと漫才のようなやり取りをするマグナ。このまま全員拘束出来るかと思われたが、

 

「...!?」

 

敵の一人がマグナの魔法を打ち消し、自身の魔法を使い逃げられてしまう。

 

「...しまった━━━━...一人逃がした...!やっちまったクソ━━!」

 

「何をしてるの!詰めが甘いわね先輩!」

 

パタン、と自身の魔導書を閉じながらマグナを叱責するノエルだが、魔法を解除したことで村人達を覆っていた水が行き場を失いそのままノエル達の頭上に落ちていった。

 

「..............」

 

「まだまだだなノエ公━━━!」

 

ダハハとノエルを笑うマグナ。

 

一方、ノアとアスタはというと

 

「━━━━━...どうだ...下民でも...勝ったぞ.........!!」

 

どうだコンチクショウォォォ!!!と雄叫びを上げるとその場に倒れこんだ。

 

「アスタ━━━━...」

 

マグナが駆け寄ろうとするが、

 

「んごぉぉぉぉ。」

 

「って寝てんのかいぃぃぃぃ!!」

 

ヒースとの激戦で疲弊し、その場で寝てしまったようだ。

 

村人達がアスタの周りに駆け寄る、するとアスタのローブから小鳥が飛び出した。

 

鳥は村全体を空中から見下ろすとその村で一番大きな建物の中に入り、そこにあった石を咥えてアスタの傍に戻った。

 

「何だ...?...................ツバメ...?」

 

鳥は寝ているアスタの後頭部にキツツキのように嘴で打撃を与えて起こした。

 

「あ?あーーーっオマエは試験会場にいた...えーと...アンチドリ!!?コノヤローこんなところまで俺を馬鹿にしに来たのか!?」

 

鳥は魔力の低い者にたかる鳥として有名なアンチドリであった。

 

「ん?何だその石...」

 

アスタはアンチドリが咥えている石を見ると、それは村のものだと言ってアンチドリから取り返そうとする。

 

「あげるよそんな石でいいのなら、君達は私達の救世主だ...!本当にありがとう..........!!」

 

村人に感謝され、笑って彼らを見るアスタ。

 

ノエルはというと━━━━

 

(な...何あの小憎たらしい目付き━━...か...可愛い...!!)

 

どうやらアンチドリが気に入った様子で、ずっと見ていた。

 

一方ノアは、

 

(.....コイツらの目的は、一体?)

 

倒されたヒース達を見ながら彼らの目的は何だったのか、それだけを考えていた。

 

━━━━━━━━━━━

 

「お?目ぇ覚ましやがったなコノヤロー、もーちょい休んで俺の魔力が戻り次第連行する...一生掛けて罪償うんだなバカヤロー共。」

 

「.....」

 

(魔力が封じられているか...)

 

「テメーらが何者なのか何が目的だったのか、魔法騎士団で何もかも全部吐いてもらうからなァァ。」

 

「断る。」

 

「あ?」

 

するとヒースとその部下達の体内で何かが輝き始めた。

 

(...コイツ、魔導具を体内に仕込んで...)

 

《氷魔法 "氷葬"(ひょうそう)

 

ヒース達の身体は巨大な氷で覆われると同時に砕け散った。

 

「な...ッ...!?」

 

残された彼らの魔導書も後を追うようにして、消えていった。

 

「.............自害しやがった..........!!」

 

(よほどの忠誠を誓った人間が彼らのバックにいるのか......それにしても、情報を漏らさない為に自害を選ぶなんて....なんて覚悟だよ。)

 

異様なヒース達の行動に対してマグナとノエルは言葉を失ってしまったが、ノアだけはヒース達のバックに佇んでいる人物の分析をしていた。

 

「..........バカヤロー.........━━━━...命を...命を何だと思ってんだ..........!!こんなやつら...俺は絶対認めねぇ...!」

 

アスタはヒース達の行動に対して憤りを感じており、彼らと自分は相容れないものなのだと悟った。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「.....さて、帰ったらヤミ団長に報告するとしますか。」

 

ノアがアスタ達から一人離れて、村の周囲で被害が無いかどうかを確認していた。

 

するとそこに、

 

「ニャー。」

 

「ん?」

 

いつの間にか、ノアの足元に小さな黒猫がちょこんと此方を見ていた。

 

「お前、家族は居ないのか?」

 

ノアは何故かこの黒猫から目を放せず、ふとそんな事を質問していた。

 

「ニャー。」

 

黒猫は首を横に振り、自分は一人なのだとノアにジェスチャーを送った。

 

「.....そうか....なら、俺と一緒に来るか?」

 

「ニャア?」

 

「俺と一緒に来れば、寂しい思いはさせない。」

 

ノアは黒猫に手を差し伸べ、自分に付いてこないか訪ねる。

 

「ウニャン!」

 

猫はノアの差し伸べられた手に乗り、そのまま肩に登った。

 

「決まりだな......さて、ノエル達探さないと。」

 

ノアはアスタ達と合流してからアジトに戻ろうと考え、先ずは村の中心を目指すのだった。

 

━━━━━━━━━━━━

 

時間は少しだけ遡り、とある場所にて...逃げたヒースの部下が誰かに報告を行っていた。

 

「━━━━━━━...あのヒースが..........そうか...『魔石』は『黒の暴牛』の手に渡ったか....」

 

(.........だが、『黒の暴牛』程度ならいつでもどうとでも出来る....)

 

あの方(・・・)の復活は...目前だ━━━━━.....」

 

顔はフードでよく見えないが、男の胸には魔法騎士団 『金色の夜明け』のマークが付けられている。

 

彼の正体は一体、誰なのだろうか━━━?

 

それを知るものは━━━未だ、誰も居ない。

 

そしてこの男こそがノア達と対立する人物なのだということすら、まだノア達は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ9 後日談、城下町にて

「お前ら、散々だったな!!...ま、何はともあれご苦労馬鹿野郎共。」

 

「「うすっ!!」」

 

ヤミの激励にアスタとマグナが同時に反応を見せる。

 

「犯人の遺留品を魔法鑑識課が調査中だけど有力な情報は得られてないみたい、残された懐中時計の高価さや彼らの言動から考えると...王貴界の過激派・思想犯じゃないかしら?」

 

ヴァネッサが自身の推測をノア達に語る。

 

(あの男が、王貴界の過激派・思想犯.....本当にそうなのか?)

 

ヴァネッサの推測に対してノアは何かが違うと感じていた。

 

「まぁ何だってよし...魔法帝に活躍が認められ、星一つ授与されたんだからな!!」

 

「星?」

 

「9つの魔法騎士団はこの星の取得数を名誉として競い合ってるのよ....因みに今トップは『金色の夜明け』団の70個」

 

「多っ!」

 

ヤミが持っていた星が壁の中に吸い込まれていく。

 

「よし!!これでキリよくマイナス30だ━━━!!」

 

((えええええええマイナスぅぅぅ━━━━!!?))

 

アスタとノアは自分達の団がどれだけ星取得しているか期待していたが、まさかマイナスからのスタートだとは思ってもいなかった。

 

これを見たノアは再び思った。

 

俺、本当に来る団間違えたかもしれない、と━━━━

 

━━━━━━━━━━━━━

 

その後、ノア達は『黒の暴牛』に入団してから初の給料を貰い、ヴァネッサに連れられて城下町へと来ていた。

 

「オイ...!あのローブ...魔法騎士団じゃねぇか...!?」

 

「あれは...げっ黒の暴牛━━━...」

 

「あんな小僧が...!?」

 

街の人達はアスタを見て口々に言い放つ、

 

それはアスタだけでなく、ヴァネッサやノエル、そしてノアもであった。

 

(なんでアスタは小僧と言われて、俺はリア充爆発しろなんだよ...)

 

どうやらノアがノエルとヴァネッサを侍らせていると勘違いしてノアへの発言が過激なものとなっているらしい。

 

「ちょっと騒がしくなって来たわね。」

 

「いーのいーの、魔法騎士団がいるだけで犯罪の抑止にもなるし........それに素敵な殿方も寄ってくるかもしれないし。」

 

((いや...酒ビン大量に持った状態で言われても....。))

 

「体力回復の薬草や消耗品の魔道具...目ぼしいモノ買ったら次はとっておきの場所に案内するわ。」

 

(とっておきの...場所...?)

 

ノア達はヴァネッサの後に着いていき、とっておきの場所がなんなのかを知りたいと思った。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「とっておきの場所って━━━━━...」

 

「ココただの路地裏じゃ..............?」

 

ヴァネッサが案内した場所は街の路地裏であった。

 

「コッチよコッチ」

 

「えっ!?」

 

見ると、ヴァネッサが壁の中から手招きしている。

 

後に続くと、其処には露店商のような店が並んでいた。

 

闇市(ブラックマーケット)よ、ちょっと危険だったり効果が凄いもの置いてるのよ~。」

 

「凄ぇぇぇ!!」

 

「......」

 

「アラ驚いた?王族や貴族は毛嫌いして近寄らないものね。」

 

「まさか、こんな場所が街にあるなんて....」

 

「貴方、まだ魔力のコントロールまだ出来てないでしょう?出来るようになったのはその場に留めておける魔法だけ」

 

「...そ...そうだけど何か?」

 

「ココには魔力を抑えるアイテムもあるわ、相性のいいアイテムを見つけて魔力を調整すればコントロール出来るかもしれないわよ。」

 

「......!」

 

闇市を歩いているとノアとアスタは、近くで賑わっている場所を発見した。

 

「んお?あそこすげー賑わってるな。」

 

「あそこは賭博場よあなた達にはまだ少し早いわね...素人はほどほどにしとかないと身を滅ぼすわよ。」

 

ヴァネッサの忠告の直ぐ後、中から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「っしゃぁぁぁ━━━━どんと来ぉぉぉぉい!」

 

((知ってる人いたぁ━━!!))

 

其処には自分達の先輩、マグナが必死で叫んでいた。

 

「それでヴァネッサさん、魔力を抑えるアイテムって何処に売ってるんです?」

 

「あら?もしかしてノア君、乗り気なの?」

 

「そりゃ.....一応ノエルに魔力コントロール教えてる訳ですし、気にしますよ。」

 

「ふーん...。」

 

ヴァネッサは、ノアの顔色を伺うようにしてから近くの店の商品を手にとってノエルに見せる。

 

「うーん....見た目が....ちょっと....。」

 

「━━━おやおやこんな場所に...どうしたんだい?」

 

「ん?」

 

ノアが振り向くとノエルとヴァネッサをナンパしに来たのか一人の男が近づいてきた。

 

「失せなさい羽虫。」

 

バッサリとノエルに一蹴されて何も言えずにいた。

 

するとそこにアスタが戻ってきた。

 

「あれ?お前は━━━━...」

 

「あれ?お前確か━━━...」

 

「フッハ!」

 

「セッケン!」

 

「セッケだ!...お前は惜しかったけども...!」

 

「....で?ノエルとヴァネッサさんに何か用かよ、ナンパ男。」

 

明らかに敵意剥き出しの表情でセッケに詰め寄るノア。

 

「い、いや...こんな所でお嬢さん達が一体何してるのかなーと思って。」

 

(要するに二人が可愛く見えたからナンパして、あわよくばお持ち帰りするつもりだったと....)

 

流石にアホ臭くて、ノアは呆れるしかなかった。

 

「泥棒━━━━!!!」

 

すると賭博場から老婆の叫び声が聞こえた。

 

それと同時に金の入った袋をかたてに賭博場から逃げる男の姿が確認できた。

 

「アスタ!」

 

「おう、先に行く!」

 

ノアの呼び掛けから直ぐに走って男を追いかけるアスタ。

 

「あんなの余裕だ。」

 

青銅創生魔法

 

「此所は俺に任せなお嬢さん。」

 

明らかにクサイ台詞を言い残してセッケも男を追いかけた。

 

「クサッ。」

 

「キモッ!」

 

セッケに対しての二人の反応は当然というか、かなり辛辣な反応であった。

 

━━━━━━━━━━━━

 

「待てコラァァァ━━━━━!!!」

 

引ったくりを走って追いかけるアスタ

 

(ただ走ってるだけなのに...何でこのスピードについて来れるんだ━━━━)

 

するとアスタは自分の魔導書から大剣を取り出すと、まるでやり投げのように投擲する。

 

(オレの風魔法は斬れやしな━━━━━....)

 

「んなァァァ!?!」

 

引ったくりが油断していると、アスタの投擲した大剣は男の魔法を切り裂き、男はそのまま地面にダイブすることとなった。

 

が、

 

「フッハ!」

 

突如現れたセッケに美味しい所を持っていかれる形で引ったくりにダメージを与える。

 

「...う...ぐ.........」

 

魔導具 "パラライズナイフ"

 

「え?」

 

突然の事に唖然としてしまうセッケ。

 

「こ....の.....野郎!」

 

男も負けじと魔導書から新たな魔法を繰り出す....が、

 

武器魔法 約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

「往生際が悪いぜ、引ったくり。」

 

やっと追い付いたノアが咄嗟の判断でエクスカリバーを取り出し、男の放った魔法を吸収した。

 

「そんな.....馬鹿....な.....。」

 

男はそれだけ言うとそのまま気絶した。

 

「そのまま眠ってな。」

 

━━━━━━━━━━━━━

 

その後、セッケが大袈裟なリアクションを取っていたが、魔導具によるダメージが低いと分かった途端、恥ずかしくなって逃げてしまった。そして、

 

「コレ全部賭博で勝ったのか!すげーなバーチャン!もう盗られんなよ!」

 

「ありがとうよ~魔法騎士団様~~~~」

 

引ったくりに奪われたお金を全て取り戻し、老婆に手渡すアスタ

 

「気ぃつけてなバーチャ━ン」

 

そしてアスタ達の姿が見えなくなると老婆はいつの間にか姿を眩ませ、その場には一人の男が立ち尽くしていた。

 

「━━━魔法無効化...か...見た事のない種類の魔法だったね.........いや...そもそもあれは魔法かな...?....それにもう一人の少年....彼の魔法も面白い....まるで一国を治める王が所持しているような剣だった....なかなかオモシロイ子達だね」

 

そう言ってアスタとノアの魔法を面白がり、二人の事も何処か気に掛けている様子だ。

 

『━━━やっと見つけた...!』

 

すると突然彼の元に通信が入った。

 

『何してるんですか!?"魔法帝"━━━━━!!』

 

「何って...新たな魔法との出会いを求めて城下町をぶらりね。」

 

『はい!?』

 

通信の声は この人何言ってるんだ? と言いたげな雰囲気を醸し出している。

 

『あなた自分の立場わかっ━━』

 

「魔法との出会いは一期一会」

 

『だから━━━』

 

「どこでどんな魔法に出会えるかわからないからね。」

 

『話聞けよこの魔法マニアぁぁぁぁ』

 

「それではまた新たな魔法に出会いに行こうか━━━」

 

『待てコラァァァァァ!!馬鹿な事言ってる場合じゃないんですよ━━━━━━...異じょ』

 

「異常事態発生...だろう?」

 

『え!?』

 

「大丈夫オモシロイ人材見つけたから。」

 

『えぇ!?!』

 

この後、ノエルがある人物から杖を購入し、その人物の師匠からアスタとノアが剣を使った戦い方を教わるのだが、それはまた別の所で話すとしよう━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ10 魔宮(ダンジョン)

「...トリタロウだな!」

 

「いえシルヴァンタスシュナウザーよ」

 

ある洞窟内でアスタとノエルが言い争いをしていた。

 

その前方にはラックとランタンを片手にラックの後を付いていくノアの姿があった。

 

「トリタロウ!」

 

「シルヴァンタスシュナウザー!」

 

「お前ら...まだ言い争ってるのかよ....?」

 

呆れた様子でノアが二人に話し掛ける。

 

「ノア、ノエルに言ってやってくれ...こいつの名前はトリタロウだって。」

 

「いいえ、シルヴァンタスシュナウザーよ...間違いなくそれがいいわ。」

 

「お前らなぁ....任務中にそんな事で言い争うなよ....なぁネア。」

 

「ウニャン。」

 

ノアのローブの中から黒猫が顔を出してノアに同意するように鳴いた。

 

「というかノア、お前いつの間にその猫捕まえたんだ?」

 

「捕まえてねーよ....この前の猪狩りの時、ソッシ村で付いてきたんだよ。」

 

「ニャオン。」

 

合いの手を入れる黒猫ネア。

 

(か....可愛い!!)

 

「そういえばそのアンチドリの名前だったな....そうだな。」

 

(ネロ)でいいんじゃない(か)?....ん?』

 

ノアが進言するとラックとハモった。

 

するとネロと呼ばれたアンチドリはラックの肩に留まると方羽を挙げたまるでその名前が良いと言ってるように。

 

『えええ』

 

ラックとノアの決めた名前に不服そうにするアスタとノア。

 

話は変わるが四人が来ている此処はただの洞窟ではない。

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

数時間前、アジトにて

 

「はい注目~~~~~~~ついさっき新しい『魔宮(ダンジョン)』が発見されました。」

 

シーンと静まり返る一同、だが次の瞬間

 

『『魔宮(ダンジョン)んんんん!!?』』

 

「ダンジョン?」

 

名前からして何があることは分かったがそれが何なのかは分からないな。とノアは思った。

 

「どうしたノア?」

 

ふとマグナが話しかけてくる。

 

「あ~いや、ダンジョンって何ですか?」

 

「あー...そういや説明してなかったな....いいか、ダンジョンってのはな、昔の人間達が遺した遺物が眠る古墳のようなモンで強力な古代魔法の使用法や貴重~~~な魔導具が眠ってるスゲーとこなんだよォォ!!」

 

「うおおおおおお!」

 

マグナの熱が入った説明にアスタもつられるようにして熱くなっていたが、ノアは

 

(相変わらず暑苦しいなぁ....。)

 

と、思うだけであった。

 

「だけど当時の人達が自分達以外の人間に悪用されないようにとんでもない(トラップ)魔法を設置してる超危険な面白い場所でもあるんだよ~♪」

 

マグナの次にラックが説明してくれたが、何処か楽しげであった。

 

「その危険性の高さと邪な理由で遺物が奪われない為に常に魔法騎士団が調査してるのよ~」

 

「ほうほう。」

 

「特に今回の『魔宮(ダンジョン)』は非友好国との国境近くに出現した...!奴らに奪われない為にもより確実な任務遂行が望まれる............!」

 

団長のヤミも何時もの気だるげな感じではなく、鬼気迫る雰囲気を感じるため今回の任務は必ず成功させなければならないと団員は悟った。

 

「......因みに、過去『魔宮』から文明のレベルそのものを変えちまう魔導具を見つけた者や..最強の魔法を使えるようになった者もいたとか。」

 

「俺に行かせてくださぁぁぁい!!!」

 

アスタはヤミの話から行けば自分もその最強の魔法が使えるのではないかと考え、任務に立候補した。

 

「おー行ってこい小坊主...つーか魔法帝のダンナがテメーをご指名だ。......ま お前魔力ねーから最強の魔法使えねーけどね

 

「え...えええええええ!?!魔法帝ぃぃぃぃ!!?

 

何故魔法帝が自分を使命したのだろうか?

 

そんな疑問がアスタの頭を駆け巡った。

 

「そうそう、ノアお前も魔法帝からのご指名だ。」

 

「え!?...俺もですか?」

 

まさか自分まで選ばれると思っていなかったノアは驚いたが、此所で実力を見せておけば、一歩でも魔法帝に近付けるのではないかと考え、任務に向かうことにした。

 

━━━━━━━━━━

 

そして現在、『黒の暴牛』のアジトにて、

 

「何で魔法帝はアスタとノアの事知ってんスかね?」

 

「あのダンナには俺達とは違うモノが見えてるからな...変人だしわっはっは

 

「ノエル大丈夫かしら~」

 

「危険で重要な任務こそ新人は限界を超え成長する···多分.....ま、ラックがいるから大丈夫だろアイツの『(マナ)』感知能力はズバ抜けてる···貴族以上にな性格さえ破綻してなければどの団でも引く手数多だったんだからなぁ」

 

「その破綻した性格が心配ですけどねー」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

現在、『魔宮』前の洞窟にて、

 

「ちょっと足踏まないでくれる!?」

 

「真っ暗なんだからしょーがないじゃないか~」

 

どうやら灯りを落としてしまい、真っ暗闇の洞窟内を進んでいる様子だ。

 

「アンタが灯り落っことしたからでしょーが」

 

「それはお前が躓いてぶつかってきたからだろーがァァァァ」

 

「何よ私は王族よ!?」

 

「お前ら!いい加減にしないと此処に置いてくぞ!」

 

アスタとノエルのエスカレートした喧嘩を見てノアが止めに入る。

 

「お!此処かな?」

 

ラックは『魔宮』への入り口を探して洞窟の奥の壁を探る。

 

するとガコッ、と何かのスイッチが入る音が聞こえ、壁が崩れて『魔宮』が現れる。

 

すげええええ!!!

 

中の様子は、天井が無く、其処には別の場所へと繋がっているであろう入り口と、川が流れており、重力に逆らっているのか、水が落ちてくる事はなく、まるで滝のように上から下へと水が落ちてくる。

 

「魔法で空間が歪んでるみたいだね。」

 

ラックは中を見渡してそう言う。

 

「此処は外よりも濃~い『(マナ)』が漂ってるねー」

 

「言われてみれば、確かに...!」

 

「こんなに『(マナ)』で満ちた場所、初めてだわ...!」

 

「そうなのかい?」

 

ノア達の感想にただ一人、疑問符を浮かべるアスタ。

 

「まさかアナタ、これだけの『魔』を感じないの...!?」

 

「全然。」

 

「ええええ━━ってまさか『魔』も知らないなんて言うんじゃ.........」

 

「『魔』ぐらい知っとるわァァァ」

 

因みに『(マナ)』とは、この世界と、人の中に存在する超常的なエネルギーのことで魔導士はこの『魔』を利用して魔法を発動させるのだ。

 

「お前のような王族にとんでもなく宿っていて、俺の中には全く存在していない魔力の源━━━━━そう!!それが『(マナ)』!!」

 

アスタが悔しい気持ちを表現しながら『魔』について力説する。

 

だがその時、アスタが叩いた床から魔方陣が現れ、次の瞬間、氷塊が幾つも飛び出してくる。

 

「な...!!『(トラップ)』魔法━━━!!?」

 

突然の出来事にノエルとノアはその場で固まってしまったが、アスタは咄嗟に魔導書から剣を取り出して氷塊を切り裂いた。

 

「あ...危ないわね━━━...!」

 

「この先、こんな罠魔法が幾つもあるのか....。」

 

ノアとノエルがそんな事を呟くと、

 

「ん?」

 

ラックが何かを見つけたらしい。

 

「どうしました?」

 

ノアがラックに駆け寄る。するとラックは、

 

「えいっ」

 

「うわっ!!」

 

咄嗟にノアの背後に回って突き飛ばす。

 

「あ」

 

ノアが踏んだそれは、罠魔法の魔方陣であった。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!?」

 

ノアも咄嗟に魔導書から剣を取り出して、氷塊を破壊する。

 

 

「何するんだぁぁぁ!!?」

 

「凄い凄ーい」

 

「ちょっとアナタ...」

 

ノアがラックに怒りを剥き出しにするが、当のラックは何処吹く風で笑っていた。

 

「あっあそこまたあっ...あ━━━━━っっ!!」

 

ノエルが罠魔法の魔方陣を見つけると今度はラックが自ら罠魔法を作動させていた。

 

ある時は炎、またある時は渦潮、またある時は風が罠魔法から作動して四人を襲ってきたが、ノア達の奮闘により何とか全て破壊していった。

 

「楽しいね~~~~♪」

 

作動させたラックは楽しそうに笑っているが、ノア達三人は

 

(((この人と一緒にいたら...死ぬ!!)))

 

少なからず、命の危機を悟っていた。

 

「それにしても君の反魔法(アンチ)の武器と君の武器魔法、凄いねー!魔法帝もそれを見越して任命したのかなぁ?...二、三年後辺りヤリ合ってみたいなー」

 

ラックは二人の魔法についての感想を述べると最後に一言、

 

「常に武器を振れる状態でいる事を心掛けてればこの『魔宮(ダンジョン)』も問題無いね。」

 

「うすっ!!」

 

ノア達にアドバイスをした。

 

「━━━━━...さてと...」

 

(......そろそろ限界かな━━......)

 

ラックは自身の感知力を使い、周囲の『魔』の流れを読んでいた。

 

すると、無数にある入り口の一つから強い魔力を感じた。

 

(やっぱりいる僕達以外にも....一番強そうなのは━━━...)

 

雷創成魔法 "雷神の長靴"

 

「━━━━━...!?」

 

「え...!?!」

 

「......」

 

 

すると突然ラックが魔法を使い、跳躍する。それに気付いたノア達が頭上を見上げる。

 

「ちょっと大事な用出来ちゃった...とゆーワケで『魔宮』攻略よろしく━━♪」

 

「...ちょ...どこ行...速━━━!!

 

ラックはそのまま強い魔力の流れる所へ行ってしまい、ノア達三人はその場に取り残されてしまった。

 

「なっ...何考えてんのよあの人━━━!ありえないんだけど

 

「か...かっけええええ」

 

ノエルからはツッコまれ、アスタからは羨望の眼差しを向けられる事になった。

 

だがノアは一人、ラックの行き先に検討を付けていた。

 

(そういえばあの人戦闘狂だったな......成る程、そういうことか。)

 

どうやら自分達以外にも魔導師がいることに気付いた様子。

 

ならば、自分達が取るべき行動はただ一つ、他の魔導師達よりも速く、この『魔宮』の宝物庫にたどり着き、宝を守ることだとノアは思った。

 

「考えても仕方ない、取り敢えず三人だけで宝物庫を目指そう。」

 

 

「って、何であんたが仕切ってんのよ!?」

 

「お前らに任せたら、ろくなことにならないと俺が判断したからだ。」

 

「何ですってぇぇぇ!!?」

 

すると突然、ノエルの背後から蔦が伸び、ノエルを拘束した。

 

「ん?」

 

「ん?」

 

「マズイ!!」

 

アスタとノエルは戸惑ったが、ノアだけは即座に自身の魔導書から炎魔の剣を取り出して、蔦を切り裂いた。

 

「ボーッとするな!次来るぞ!」

 

「お、おう。」

 

「あ、ありがと。」

 

ノアに続いてアスタとノエルも応戦する。しかし、蔦は減るどころか増え続け、不意をつかれたノエルがまた拘束されてしまう。

 

「...しまっ━━━━━...!?」

 

拘束されたノエルは蔦の本体であるハエトリグサのような植物に捕食されそうになる。

 

高レベルの植物創成魔法......!!

 

「逃げろォ━━━━━!!!」

 

その時、アスタがノエルを拘束していた蔦を斬ってノエルを解放する。

 

しかし、アスタも剣を持った腕を即座に拘束されてしまう。

 

「「アスタ...!!」」(剣が━━━━...)

 

ノアがアスタの救出に向かうが、蔦の数が多過ぎて、アスタの元に行くことができない。

 

(マズイ!...どうすれば...?)

 

ノアは必死でこの状況を打開する方法を模索するが一向に答えは出てこない。

 

そんなことをしている間にアスタは宙吊りにされ、今にも捕食されてしまいそうになる。

 

(やば...)

 

風創成魔法 "風神の叢雨"

 

すると何処からか魔法が飛んできてアスタを拘束していた植物を倒してしまった。

 

ノエルはこの魔法を放った人物に底知れぬ恐怖を感じた。

 

(......何よこの正確で強力な魔法━━━...!!一体何者.........)

 

ノエルとノアは、魔法が飛んできた方向を向くとそこには━━

 

━━━━━━━━━

 

「━━━━あ、そういえば....『金色の夜明け』団からも数人『魔宮』に派遣されるそうだ。」

 

「えッ『金色の夜明け』━━━━...!?」

 

「あいつら...仲良くやれるかね?」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「━━━━...これで...借りを返したぞ...アスタ...ノア...!!

 

其処には、『金色の夜明け』団のマークが入ったローブを身に纏ったノアと二人の男女が此方を見下ろしていた。

 

「「ユノ...!!」」

 

アスタとノアは再び会えたユノに嬉しさ半分、負けたくないというライバル的闘争心を燃やすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ11 再会

『金色の夜明け』団 アジト

 

「ヴァンジャンス団長!」

 

『金色の夜明け』団団長ヴァンジャンスに一人の魔導師が声を掛ける。

 

「何故あんな下民の新人を大事な任務に.........!」

 

ヴァンジャンスは振り向くと、男に話し掛ける。

 

「君は私を信頼しているかい?」

 

「勿論ですとも...!私アレクドラ・サンドラーはあなたのためなら死ねます━━━!!」

 

「━━━━...では...私が信頼する彼の事も信頼してあげてほしい。彼も『金色の夜明け』団の一員だ...我々の為にこれから更に強くなっていくだろう.........」

 

(彼には強くなってもらわねば....それに、『黒の暴牛』に行ってしまった"彼"にも強くなってもらわねばね━━━━━...)

 

ヴァンジャンスの言う"彼"とは恐らくノアの事であろう。だが、接点の無い彼を気に掛ける理由とは一体━━━━...

 

━━━━━━━━━━━━

魔宮内部、ノア達三人は『金色の夜明け』団に加入したユノに助けられ、現在はノアとアスタ、そしてユノが互いの成長を確認する。

 

「ユノ、何故こんな奴らをわざわざ助けたのだ。我々の任務はあくまでこの『魔宮(ダンジョン)』の攻略...つまりは最深部の『宝物殿』に速やかに辿り着くことだこんな奴らに(かかずら)っている時間など無い...!

 

彼は『金色の夜明け』団の一人 クラウス・リュネット

 

眼鏡を掛けており、見るからに真面目そうな男だ。

 

「オイユノ!いきなり何だこの失礼な眼鏡は!」

 

「先輩。」

 

「メガ...失礼なのは貴様だ!貴族の私と対等な口を訊くな!」

 

アスタの発言に異を唱えるクラウス。

 

「あらぁ...ノエルさんじゃありませんか。」

 

「........」

 

ノエルに話しかけた少女、彼女も『金色の夜明け』団の一人 ミモザ・ヴァーミリオン 見た目はゆるふわ系の少女だ。

 

「ご機嫌よう昨年の王族一同のお食事以来かしら。」

 

「ん?...ノエルの知り合い?」

 

「えぇ...ちょっとね。」(従姉妹のミモザ...!よりによってコイツも来るなんて............!)

 

「『黒の暴牛』は野蛮な団だとお聞きしますわ大丈夫ですか?」

 

突然、ノアの前で失礼な発言が飛び出す。

 

これに対してノアは「.....は?」と言って呆然としてしまう。

 

フン...そっちこそ大丈夫なのミモザ...!貴女みたいなトロイのが『金色の夜明け』団でやっていけるのかしら?」

 

それに対してか、ノエルも負けじと彼女に皮肉で返す。

 

「はい、皆様お優しい方ばかりで...お陰で魔法を臆する事無く魔法を振るえておりますわ...あっノエルさんは魔力のコントロール全く出来ておりませんでしたけどその後どうですか?

 

(相変わらずの天然失礼...やっぱりムカツク~~~~~~~)

 

思い出したかのようにノエルの魔力がコントロール出来ない事に触れるミモザ。ノエルの発言から悪気があって言ってる訳ではないと理解出来るが、それでも悪気が無い分性質(タチ)が悪いように思える。

 

「私達、先日このメンバーでの任務で魔法帝に『星』を受理されましたの...!」

 

それを聞いてアスタはニヤリとほくそ笑むと、

 

「俺達だってこの前『星』貰ったもんね!!」

 

アスタの後ろでどや顔を決めるノエル。まさしく虎の威を借る狐のようである。

 

「嘘をつけ...『黒の暴牛』の新人ごときがそう簡単に『星』を授与される訳ないだろうが、今回の任務を任されているのもおこがましい。」

 

「魔法帝直々に任されたっつーの!」

 

「また見え透いた嘘を...」

 

「嘘じゃねぇぇぇ!」

 

クラウスはアスタの言葉を嘘と決め付け、話を信じようともしない。どうやら『黒の暴牛』の評判はかなり悪いのだと理解出来る。

 

(それ以外にも、『黒の暴牛』は殆どが下界出身の魔導師が多い事もある。)

 

彼ら『金色の夜明け』団は構成メンバー全員が貴族出身という事もあり、やはりそういった面でも下界出身のメンバーが多い『黒の暴牛』を忌避しているのだと理解出来る。

 

「━━━そういえば...貴様らは四人で来ていると聞いたがもう一人はどうした?...まさか貴様らを置いて逃げ帰ったなどと言うまいな、それとも(トラップ)魔法の餌食にでもなったか?」

 

明らかに馬鹿にした様子でこちらを伺ってくるクラウス。

 

やはり下民という事でノア達を下に見ているのだろう。

 

━━━━━━━━━━

 

一方、その頃ラックはというと...

 

「ほっ♪」

 

楽しそうに魔法を使用して敵の位置を探り、其処へと向かっていた。

 

「次を左...と━━━...どれくらい強い相手か...楽しみだな~~~~~~~♪」

 

わくわくしながら先へと歩みを進める様子はまるで子供のように無邪気であった。

 

━━━━━━━━━━

 

(((俺(私)達ほっぽってどっか行ったなんて...言えねー...)))

 

ラックの身勝手な行為により、ノア達が現在被害を被っている事など当の本人は知る由もないだろう。

 

「どちらにせよ新人を置いて行くようなクズのあつまりだ━━━━...『黒の暴牛』...汚らわしい魔法騎士団の恥さらし共めが.........!!」

 

クラウスの発言にカチンときたアスタ。

 

「...上等だコノヤロー...俺達『黒の暴牛』が先にこの『魔宮』を攻略してやらぁぁぁぁ!!見てろよ!!....えーっと...変な仮面のボスの団!!」

 

「変な仮面...だと...?貴様ぁぁぁぁぁ!!我らが崇拝するヴァンジャンス団長を愚弄するかぁぁぁぁ!!?」

 

今度はクラウスもキレた。

 

「大体変なのはそっちの団長の方だろうが!何なのだ筋肉ムキムキにタンクトップって」

 

「何だとコラァァァァ!?男らしくてスーパーイカすだろーがぁぁぁ!!」

 

「......」(凄い係ってる。)

 

「......」(自分から係うなって言ってたのに...あれはいいのか?)

 

クラウスとアスタの口喧嘩を見て、ノアとユノは先程のクラウスの言葉を思い出していた。

 

「いいだろう愚か者共、魔法騎士団トップと最下位との実力差思い知らせてくれる!!━━━ミモザ!」

 

「はぁい。」

 

《植物創成魔法 "魔花の道標"》

 

ミモザは魔法で魔宮の模型を作り出し、内部構造を確かめ始める。

 

「え~~~~~と...この「魔宮」の大体の構造はわかりましたわ。」

 

「ユノ━━━━━!」

 

「...はい。」

 

次はユノが魔導書を開いて魔法を発動する。

 

《風邪創成魔法 "天つ風の方舟"》

 

魔法で生み出した風にミモザとクラウスを乗せる。

 

「せいぜい足掻くんだな。」

 

クラウスはノア達を見下し、嘲笑う。

 

「............人三人を余裕で........!」

 

((さすがだな━━━...ユノ...!!))

 

アスタとノアはユノの成長した姿に感動する。

 

(((誰が先に宝物殿に辿り着くか勝負だ━━━━!!)))

 

ノア、アスタ、ユノはそれぞれ競争意識を剥き出しにして宝物殿へと歩みを進める。

 

━━━━━━━━━━━

 

「━━━━ってどうするのよ!?...私達探索系の魔法なんて使えないのよ!?」

 

「う━━━ん.....どうしようか?」

 

ノエルの言葉にノアは考え始める。

 

「そんなの決まってるだろ!しらみ潰しにすべての道を行く━━━━!!」

 

アスタは罠魔法で生成された魔物を大剣で倒しながら走り出していく。

 

「馬鹿じゃないの!!?...あ、馬鹿だったこのままじゃ「宝物殿」に行くどころか迷子になるわよ!」

 

ノエルの言うとおり、この魔宮は内部構造がかなり入り組んでいる為、迷子になる可能性の方が高い。

 

「......」

 

その時、ノアはその場に留まり、目を閉じて何かを感じとる。

 

(あそこか...。)

 

ノアが見た方向には、別の場所へと繋がっている入り口であった。

 

「アスタ!」

 

「ん?」

 

「あそこの入り口だ。」

 

ノアはアスタ達に次の行き先を提示する。

 

「何で分かったんだ?」

 

「ん~~~直感?」

 

アスタの疑問にノアは直感と答える。

 

「馬鹿じゃないの!?...勘なんかで「宝物殿」に辿り着ける訳ないじゃないの!」

 

ノエルの言うことも一理ある。

 

「.....まぁ、ノエルの言うとおりなんだけど...それでも俺は,この先に進む。」

 

《武器魔法 影の小剣(シャドウナイフ)

 

魔導書からナイフを取り出すと、ノアは入り口に向かってナイフを向けた。

 

するとナイフから黒い影が伸び、入り口付近の壁にくっつく。そしてナイフから伸びた影がゴムのように縮み、ノアを入り口付近まで移動させた。

 

「アスタ達も後から付いてこいよ....それじゃ、お先。」

 

ノアはナイフを魔導書に戻すと、入り口の向こう側に向かって走り出していった。

 

「待ちやがれノア~~~~!!!」

 

ノアの後を追いかけてアスタが壁を登っていく。

 

「何で毎回こうなるのよ~~~~!!!」

 

ノエルもアスタの後に続いて壁を登りながら愚痴を溢すのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

一方その頃、ユノ達は

 

「ハン...愚か者共共が...我々に勝てるはずがないだろう...大体、何なのだあいつは全く魔力を感じなかったぞ。」

 

「そうでしたわねー。」

 

クラウスはアスタに対して陰口を叩き、ミモザはそれに共感した返答を返す。

 

「あんなのを採用するなど..「黒の暴牛」団長は何を考えて...」

 

「━━━...クラウス先輩...アイツの事、あまり侮らない方がいいですよ。」

 

「............!!この「魔宮」を生きて出られればいいがな............!私は我が国の為に迅速な魔宮(ダンジョン)攻略を目指すだけだ。」(...恵外界の下民の出が...四つ葉だか何だか知らんが...私はまだお前を認めてなどいないからな....!)

 

━━━━━━━━━━━━━

 

魔法帝の城にて、

 

「お伝えします魔法帝━━!『魔宮』にて魔法騎士団『金色の夜明け』団『黒の暴牛』団調査開始、そしてダイヤモンド王国の魔導士軍隊の侵入を確認しました━━!」

 

偵察を行っていた魔導士が魔法帝に現在の「魔宮」の様子を報告する。

 

「我がクローバー王国の隣国...ダイヤモンド王国...!最近領土拡大に力を入れている侵略国家...!」

 

「あんな国の連中に『魔宮』の古代魔法を奪われたら厄介な事になるぞ...!」

 

「敵の軍の力は如何程だ...!」

 

「............」

 

ザワザワと騒ぎ出す魔導士達、その場には、見知らぬ長髪の男が紛れ込んでいたが、誰も知る由はなかった。

 

偵察の報告は続いて、敵の情報が報告された。

 

「敵の軍を率いているのは『奈落のロータス』です━━━━...!!」

 

敵の名前を聞いた途端、周りがザワつき始めた。

 

「あぁ━━━...!昔戦場で会った事あるよ!強かったね━彼!使う魔法がこれまた面白くて...」

 

こんな時まで呑気でいられるのは彼、魔法帝位のものだろう。

 

「呑気な事言ってる場合ですかァァァ!!」

 

「ウィリアムも面白そうな子を行かせたようだし━━━...大丈夫大丈夫...魔法騎士団(ウチ)の子達も強いよ...!」

 

その時の魔法帝の目は、彼ら魔法騎士団を信用しているのか、とても鋭く真っ直ぐ前を見つめていた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

その頃、魔宮内部 ある場所

 

「あれ~~~~~~...弱いなぁ~~~~~~~」

 

ダイヤモンド王国の魔導士達を倒し、魔法で倒した魔導士の一人を掴んでそう言い放つラック。

 

「...でも君は、そんな事無いよね?」

 

ラックが顔を向けた先には、一人の魔導士がいた。

 

「いやぁ~~~~参ったねどうも...ハードル上がり過ぎるとロクな目に合わないからね~~~~~...勢いある若い力...コワイね全く━━━━━━━」

 

顎を掻きながらそう言い放つ中年の男性魔導士

 

果たして、ラックはアスタ達と合流出来るのだろうか━━━?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ12 ダイヤモンドの魔導士

中年の魔導士とラックが対峙する。

 

中年の方は、ロータスという名前の魔導士である。

 

「強いね~~~~部下が一撃でのされちゃったよ。」

 

何処か飄々とした態度でラックを一瞥するロータス。

 

「所詮は部下だよね...大将の君が強かったら問題ないよ。」

 

そんなロータスの態度に対してラックはそんな事はどうでもいいから自分と戦え。と言い放つ。

 

ロータスはラックの脚を見て、

 

「雷の魔力を纏って戦う訳ね...中々応用がきく上攻撃力高そーだよね~~~~~どこも若い力が育ってる...いや~オジサン怖い怖い。」

 

とだけ言った。

 

「君は一体どんな魔法で戦うのかな?」

 

ラックはワクワクしながらロータスと戦う事しか眼中にないようだ。

 

「うーん...なんかやる気満々そーだけど...君らクローバーの目的もこの『魔宮』の『宝物殿』でしょ?」

 

そう言って突然走り出す。

 

「別に僕ら戦わなくてもよかないかい?...ここは暴力無しで競争しよーよ!そーしよそーしよじゃあね~~~」

 

と言い残して逃げようとしたが、

 

「ヤダ」

 

と、ラックの一言で拒絶されてしまい、雷魔法で魔力を帯びた蹴りを受けそうになる。

 

(速い━━━!)

 

ロータスは即座に自身の魔導書から魔法を発動して"煙"を作り出す。

 

(避けられた━━...!)

 

「いや━━━...怖い怖い、君らクローバーの国民が怒ってるのもわかるよ?自国をちょこちょこ侵略されてちゃそりゃねぇダイヤモンド王国(ウチ)が迷惑かけてごめんね~~~~ただ僕らの国も資源不足で大変でさぁ、生きる為にしょーがないんだよね~~~~オジさんも娘が三人いてね~~~」

 

その時、ラックがまたもや魔法でロータスを攻撃する。

 

「僕は強い奴とやれればそれでいーから♪」

 

と、楽しげに答える。どうやら本来の目的を忘れているのか、それとも元から任務を遂行する気が無かったのか...ラックの中では任務よりも強い相手と戦う事が最優先事項として認識されているようだ。

 

「とんでもないのに目ぇつけられちゃったよ...オジサン泣きそ。」

 

左頬から血を流してラックの様子を確認し、戦うしかないと諦めた様子だ。

 

━━━━━━━━━

 

「ふんぐぐぐぐぐ。」

 

一方その頃、アスタとノエルは...

 

「うぐおおおお」

 

「きゃあああああ!!何ココ!!重力が滅茶苦茶じゃないの~~~~!?」

 

重力がが不安定な通路を通っていた。

 

「ったく、ノアの野郎~~~ホントにこっちであってんのかよ...ん?」

 

その時、アスタの目にあるものが飛び込んできた。それは、足の生えた箱が何処かへと歩いていくというかなりシュールなものであった。

 

「アレが宝物だぁぁぁ━━━━!!」

 

「いや絶対違うっ!!」

 

アスタが目をキラキラさせながら箱を見ていたが、ノエルは絶対違うとツッコミを入れる。しかし、アスタはノエルの言葉に耳を傾けず、箱を追いかけ、そして一緒にノエルの所へと落ちていった。

 

そして、

 

「よし....さてお宝はっと...」

 

箱を捕まえ、開けてみるとそこには━━━━

 

心臓、胃、腸などの様々な臓器がどっくんどっくんと蠕動していた。

 

それを見たアスタはドン引きし、見せられたノエルはあまりのショッキングな光景に思わず口を押さえてしまう。

 

「なんてモノ見せつけてくれるのよチビスタ~」

 

「いいやコイツの見た目が悪い!!」

 

ノエルはアスタのせいで臓器を見てしまい、アスタに怒りをぶつけるも、アスタは箱に責任転嫁する。

 

その光景を見ていたネロはやれやれといった様子で二人を近くの窪みから見ていた。

 

━━━━━━━━━

 

その頃、ラックは

 

ロータスと戦っていた。

 

ラックは"雷神の長靴"で攻撃し、ロータスは煙でガードするというようにラックの攻撃を防いでいた。

 

「血気盛んだね~~~~」

 

「避けてばっかいないでヤり合おうよ!」

 

ラックはロータスに戦えと言ったが、ロータスは戦いたくないといった様子。

 

するとロータスがラックが身に付けているローブを見て何かを思い出す。

 

「あぁそのローブ...!思い出したよ黒の暴牛!...君のとこの団長が若い時 一度戦った事あるよ。」

 

「!団長の事知ってるの?」

 

「こんな大層な傷残してくれちゃってね~~~~おしっこ漏らして逃げたよ~~変わった戦闘スタイルだったな~~年下で勝てなかったのは彼だけだったなー。」

 

ロータスは胸を傷をラックに見せながらそう語った。

 

「俄然やり甲斐が...」

 

その瞬間、ラックは身体の平衡感覚がおかしくなっている事に気付く。

 

「おっとっと...」

 

「あれ?どしたのどしたの?」

 

ラックがロータスに近付いて攻撃を行おうとするものの、

 

「遅~い!」

 

寸でのところで避けられてしまう。

 

「じわじわと いってらっしゃい 奈落の底へ」

 

(何だコレ............!魔法...!?けどそれらしい魔法を喰らった覚えは━━━━━...)

 

「実は今この空間は、僕の魔力で覆われてるのさ...目に見えない程の薄~~~~~~い煙でね。」

 

ロータスが発動した魔法は "煙弱体魔法 "侵奪の煙庭""という魔法。

 

(体が言うことを効かない...身体能力を下げる遅効性の魔法━━...?)

 

「目に見える攻撃だと...君には避けられちゃいそーだからね...君に気付かれないよーに極限まで魔力を絞ってコソっと使わせてもらったよ...君が僕の部下と戦ってる時にね...彼らは無駄に倒された訳じゃないよ...僕がこの魔法を使う為の犠牲になってくれたのさ....いやぁ~~~~大事だよね...チームプレイ...!

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

一方、ユノ達は...

 

「もうそろそろですわ...!」

 

三人は『宝物殿』の入り口までやって来ていた。

 

「すっごいですわね~~」

 

魔宮(ダンジョン)とはこんなものか...大した事なかったな」

 

「どうやって入るんでしょう...?」

 

「黒の暴牛の方達はまだのようですね」

 

「当たり前だ奴らが我々より早い訳がないだろう。」

 

その時、ミモザの背後から鉱石が近付いて彼女に攻撃を━━━

 

"武器魔法 "斧剣 射殺す百頭(ナインライブズ)""

 

仕掛けようとした途端、彼女の背後に突如として巨大な斧剣が彼女を守るようにして突き刺さり、ミモザの盾となった。

 

「危ねぇ~~~間一髪だったな....えーと、ミモザ...だっけ?」

 

斧剣の柄の上に誰かが立っている。

 

「ノア...!」

 

「よぉ、さっきぶりだなユノ。」

 

「き、貴様....一体、どうやって....」

 

立っていたのはノアであった。

 

ユノは誰よりも速く、ノアであると気付き、クラウスは一体いつ此所に来たのかを問い質そうとしたが、

 

「あー...悪いけど、今そんな時間、無いと思うよ....ほら。」

 

ノアが指差した方向にいたのは....

 

「誰だ...俺の道にいるのは...どけ

 

額に宝石のような石が埋め込まれている魔導士の男が、ノア達を睨み付けていた。

 

「俺の道....ハッ!...女性を傷付けようとした奴が言うセリフでは無いな。」

 

男を睨み付け、吐き捨てるように言い放つノア。

 

「それに、どけ...だと?.....ダイヤモンド王国(侵略者)が...魔宮(ここ)クローバー王国(俺達)の管轄だ...そっちこそ、出ていってもらおうか...!」

 

自身の魔導書から"刀"を取り出して構えるノア。

 

二人は互いを睨み、対峙する。

 

 

 

 

 

 

 



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ページ13 対峙する魔導士達

「出ていけ....だと?」

 

ノアの言葉に反応を見せたダイヤモンド王国の魔導士 マルス

 

「ここは俺達クローバー王国の管轄....出ていくならばお前らの方だ....!」

 

マルスは魔導書(グリモワール)を開いて魔法を発動する。

 

《鉱物創成魔法 "ハルパー"》

 

マルスの周囲に無数の剣が出現し、刃をノア達に向けている。

 

「成る程....鉱物から創り出す魔法か....なら、」

 

ノアは刀を魔導書に戻すと別の剣を取り出した。

 

《武器魔法 "炎魔の剣"》

 

「その鉱物...硬さは"ダイヤモンド"並かな?」

 

剣の面に指を這わせ、マルスに向かって走り出す。

 

「無茶だ!」

 

クラウスがノアに制止の言葉を掛けるもノアの脚は止まらない。

 

「先ずはお前だ...!」

 

ハルパーの刃は全てノアに向けられており、マルスが右腕を振り下ろすと同時にノアに向かって飛んでいく。

 

「ハアッ!」

 

ノアが横凪ぎに剣を一閃すると、無数あったハルパーは溶けていく。

 

「な!?」

 

それを見ていたクラウスは驚いた。あの無数に現れた刃がノアの放った一撃で溶けるとは思わなかったからだ。

 

「成る程、その鉱物...やっぱりダイヤモンドだったか。」

 

「どういう事だ?」

 

疑問に感じたクラウスがノアに聞いた。

 

「鉱物の中でも最高の硬さを誇るダイヤモンド....だがそんな鉱石にも弱点が存在する。」

 

「弱点?」

 

「ダイヤモンドってのは...炭素の塊なんだ....炭素は"火"に弱い。」

 

なら、答えは単純だ。と言って剣を(かざ)す。

 

「ダイヤモンドには火を当てて溶かせばいい...こんな風にな!」

 

《炎魔法 "蒼炎の盾壁(じゅんへき)"》

 

剣を地面に突き刺し、蒼い炎の壁を横一面に作り出す。それによって、ハルパーを次々に溶かしていく。

 

「ほら来いよ....こんなもんじゃない筈だろ...ダイヤモンド王国。」

 

手招きをしてマルスを煽るノア。

 

「いいだろう、その安い挑発に乗ってやろう...!」

 

再びハルパーを大量展開していくマルス。

 

「な...!?」

 

その数は、先程展開されていたものの約5倍程の量であった。

 

「この数を見てまだそんな減らず口を叩けるのならな...!」

 

次々にノア目掛けてハルパーがどんどん迫ってくる。

 

(蒼炎の盾壁で俺に物理攻撃は効かなくなっている....どうするつもりだ...?)

 

《鉱物創成魔法 "レーヴァテイン"》

 

ハルパーは一つの巨大な大剣となり、ノアの発動した壁を通り抜けた。

 

「蒼炎の盾壁を....越えた!?」

 

慌てて魔法を解除し、剣を魔導書に戻してマルスの攻撃を回避するノア。

 

「くっそ...予想外過ぎて固まっちまった...!」

 

(奴のあの剣....恐らく、さっきのナイフよりも硬度は倍以上の筈....どうしたもんか)

 

ノアは自分の後ろで立ち尽くしているユノ達を一瞥した。

 

(アレ(・・)を、使うしかないのか....だが、アレ(・・)は反動がデカイうえに発動までに時間が掛かる....だが、そんな悠長なこと、言ってられる状況でもない!)

 

「ユノ、二人を連れて少し下がっていてくれ。」

 

「何か考えがあるんだな?」

 

コクッ、と頷きでユノに返答する。

 

「分かった。ノア....お前の判断を信じる。」

 

ユノはクラウス、ミモザを連れて扉付近までノアから離れた。

 

「さて、と。」

 

ノアは、天井を仰ぎ深呼吸をするとマルスに向かって左腕を突き出す。

 

「お前に俺の技を見せてやる。」

 

突き出した左腕を右腕で掴み、その場で目を閉じて直ぐに開く。

 

「体は剣で出来ている!」

 

ノアがその言葉を放った途端、彼から計り知れない威圧感が溢れ出した。

 

「血潮は鉄で心は硝子。」

 

(何だ今のは、一体....何なんだコイツは━━━!!?)

 

「幾度の戦場を越えて...不敗...!」

 

ノアは更に詠唱を続ける。

 

(止めなくては、これ以上....この男に、手出しさせる訳にはいかない!)

 

危機感を感じ取り、ノアに向かってレーヴァテインを振り下ろすマルス。だが、

 

「な....!?」

 

レーヴァテインは寸でのところでユノによって防がれる。

 

「邪魔はさせない....!」

 

「貴様....!」

 

「たった一度の敗走もなく、たった一度の勝利もなし。」

 

ノアの詠唱はまだ続く。

 

「遺子はまた独り、剣の丘で砕氷を砕く...けれど!、この生涯は今だ果てず...」

 

そしてノアの詠唱はあと少しで完了する。

 

「ならば━━━━!!」

 

マルスはレーヴァテインを解除し、全てハルパーに戻してノアに投擲する。あと少しでノアに当たる....その時、

 

「死ねぇ、クローバーの魔導士よ!」

 

「偽りの体は、それでも剣で出来ていた━━━!!!」

 

ノアの詠唱が終わり、その瞬間、ノアの周囲に地中から飛び出した無数の剣によってハルパーの投擲は全て弾かれる。

 

「なっ....何だ、コレ(・・)は....!?」

 

マルスは戸惑いの表情を見せた。

 

魔宮内部が一瞬にして、無数の剣が刺さった雪原へと変化したからだ。

 

「内と外を入れ換える魔術(・・)...."固有結界"だ。」

 

突き刺さっていた剣を一つ手に取り、マルスに向ける。

 

魔術(・・)....だと...!?」

 

聞き覚えの無い言葉に、驚きを隠せないクラウス。

 

魔法ならば、自分達が所有する魔導書を用いて発動することが可能だと理解はしていた。しかし、初めて魔術という言葉を耳にし、一体どういうものなのかと思考を巡らせるが一向に答えは導き出すことが出来ない。

 

「行くぞ、ダイヤモンド王国の魔導士よ...武器の貯蔵は充分か...!」

 

近くに刺さった剣を一つ抜き、マルスに向かって走り出す。

 

「...ッ....舐めるなよ、こそ泥風情が...!」

 

「それは...こっちのセリフだ!」

 

マルスはハルパーを、ノアは剣で互いに受け止め、押し合う

 

所謂、鍔迫り合いの状態となっていた。

 

「貴様....その力、"魔法"ではないのか...」

 

「だからさっき言ったろ...."魔術"だって...」

 

互いの力量は互角だと覚ったノアはバックステップで一時離脱し、持っていた剣をその場に突き刺し、両手から新たな剣を"創り出した"

 

「武器魔法 干将・獏耶....お前を倒すにはこれが一番いい。」

 

そう言ってノアは双剣を真横に投げる。

 

「何のつもりだ....武器を捨てるなど....勝負を捨てたか...貴様ァ!」

 

レーヴァテインを発動してノアに振り下ろそうとしたその時、

 

「いいや、捨ててはいない....むしろ、俺の勝ちだ。」

 

ノアがそう言うのが先か、先程ノアが投げた干将・獏耶はマルスの両肩に突き刺さった。

 

「な.....に......!?」

 

「干将・獏耶は夫婦剣.....互いに引き寄せ会う性質を併せ持つ。」

 

(これで終わりだ。)

 

「━━鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎむけつにしてばんじゃく)

 

「━━心技、泰山ニ至リ(ちからやまをぬき)

 

「━━━心技黄河ヲ渡ル(つるぎみずをわかつ)

 

「━━━唯名別天ニ納メ(せいめいりきゅうにとどき)

 

「━━━両雌、共ニ命ヲ別ツ(われらともにてんをいだかず)......!」

 

再び干将・獏耶を創り出し、また真横に投げ、今度は詠唱を始める...そして、

 

ノアは両手に干将・獏耶を握り締め、飛び上がり、マルスの頭上目掛けて双剣を振り下ろす。

 

鶴翼三連(かくよくさんれん)!!!

 

二つの双剣は同じタイミングでマルスにぶつかり、マルスの身体はその場に崩れ落ちていった。

 

「.......終わった。」

 

「いや、まだだ」

 

「なっ!?」

 

崩れたマルスの声が別の場所から聞こえ、直ぐ様その場から飛び退いた。

 

「何で....!?」

 

《鉱石創成魔法 "タロスの人形"》

 

先程ノアが倒したマルスは彼が魔法で造り出した人形であった。

 

「お前の攻撃など....俺の前では無力に等しい。」

 

「..っく...なら!」

 

《無属性武器 "加州清光"》

 

「はっ!」

 

マルスに刀の一撃を叩き込む。...だが、

 

《鉱石創成魔法 "ネメアの鎧"》

 

マルスはノアの攻撃を魔法で造り出した鎧でガードした。

 

ノアは衝撃で仰け反ってしまうが直ぐ様体制を立て直す。

 

「っく....やっぱ硬いな。」

 

「まだ続ける気か?....無駄な事を...」

 

ノアに呆れ果てて溜め息を漏らすマルス。

 

「無駄ではないぜ...少なくとも...なっ!」

 

ノアは再び刀でマルスに斬りかかり、何度も弾かれる。

 

「無駄だと...言っているだろう!」

 

《鉱石創成魔法 "ハルパー"》

 

「ぐぁあああ!!!」

 

「ノア!」

 

ノアはマルスのハルパーに切り裂かれ、身体の至る箇所から出血し、その場に倒れる。

 

「来るな、ユノ!....大丈夫だ....こんなの、かすり傷だ。」

 

強がっているのか、それともホントに大丈夫なのかノアは何とか立ち上がりながらユノにそう言った。

 

(そろそろ...俺の魔力が尽きる....次で...決める!)

 

ノアは刀を構え、目を閉じて深呼吸するとそのままマルスに向かって突進していく。

 

「血迷ったか....」

 

「いいや、ここだ!」

 

ノアはスキップをするように一歩一歩、マルスに近付いていく。

 

 

「一歩音越え...二歩無間...三歩絶刀...!」

 

「なっ!?」

 

マルスの目には、ノアが見えたり、消えたりしている。

 

ノアは今、マルスの死角に入り徐々に近付いて行っている為、マルスの目には映ったり、消えたりしているのだ。

 

「無明...三段突き!」

 

一点集中 ノアの刀はマルスの鎧中心部目掛けて、突きを放ち、ノアはマルスの背後に背中を合わせるようにして立っていた。

 

「愚か者....俺のネメアの鎧を砕く事など...」

 

「知ってるか、魔導士?....どんな物体にも必ず核となる場所が存在する事を。」

 

「?....何を言って...」

 

その時、マルスの鎧からピシピシ、と音が響いた。

 

「なっ!?」

 

見るとマルスの造り出したネメアの鎧は、中心部から亀裂が入り、今にも砕けそうになっていた。

 

「無明三段突きは一点集中の技....だから、その鎧の一番薄い箇所...つまり、核となる中心部を狙って突きを放った。」

 

「な....に!?」

 

マルスの鎧は更にピシピシ、と音を響かせて亀裂が次々に増えていく。

 

「更に言うなら...あの技は本来、敵を殺す為の技なんだが...極力、力を抑えたから後ろに吹っ飛ぶ...防御は不可能だ。」

 

ピシッ、と音が止まると同時に、バキィン、と何かが割れる音と同時に鎧が砕け散る。

 

「ぐ....ぐぁあああ!!!」

 

ノアの宣言通り、マルスは後ろに吹っ飛び...魔宮の壁に激突して気絶した。

 

「全く、久々に使ったのに....これじゃ、締まらないな...全く。」

 

ノアの体は魔力を使いきり、その場に立っていられるのがやっとの状態であった。

 

「やれやれ...だ。」

 

ノアはその場に崩れるように倒れた。

 

「ノア!」

 

ユノ達が駆け寄るも、ノアの返事は無い。

 

果たして、ノアは目を覚ますのだろうか━━━━?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ14 宝物殿の中へ

あらすじ

隣国、ダイヤモンド王国 との間に出現した魔宮(ダンジョン)の探索を進めていたノア達『黒の暴牛』は同じ国の魔法騎士団であり、ノアとアスタのライバル ユノが所属している『金色の夜明け』と遭遇し、互いに宝物殿へと急いでいたが、ダイヤモンド王国からの刺客 マルスによってミモザが襲われそうになるも、ノアが彼女を助けマルスと戦う。辛くも勝利したノアだったが、その場に崩れ落ちる用にして倒れてしまう。


「ノア!おい、しっかりしろノア!」

 

ユノが身体を揺さぶるが、ノアは苦しそうな表情を見せるだけで目を覚ます気配は感じられない。

 

「ユノさん、ここは私が...」

 

《植物回復魔法 "夢癒の花籠"》

 

ミモザが魔導書を開いて魔法を発動し、ノアを回復させる。

 

「...!...これは...!」

 

ミモザはノアの状態を把握して驚く。

 

「どうしたミモザ?」

 

ミモザの驚いた表情を見てクラウスが訪ねる。

 

「今、彼には魔力がありません...恐らく、先程の攻撃で使い果たしてしまったのではないかと...」

 

「なんだと!?」

 

ミモザの言葉を聞き、クラウスはノアを一瞥した。

 

(この男...下民の癖になんて強力な魔法を...いや、待てよ?)

 

クラウスはノアの言葉を思い出していた。

 

(内と外を入れ換える"魔術"......"固有結界"だ。)

 

(確かにあの男は"魔法"ではなく"魔術"と言った....ということは、魔法のように何度も発動することが出来ないのか!?)

 

クラウスの読みは当たっていた。

 

ノアの発動した固有結界....《Unlimited Blade Works(無限の剣製)》はノアの心象風景、つまりはノアの心の中に思い描いている風景を現在、彼が見ているモノと文字通り、そのまま入れ換える(・・・・・)といったにわかには信じられない方法...即ち、それこそが魔術(・・)である。

 

(そんな技を...わざわざ私達を助ける為に...どうやら、間違っていたのは、私の方だったらしい。)

 

ノアの行動に対してクラウスは、自身の愚かな考え方を変えるべきだと悟った。そして、今後一切ノアやアスタを馬鹿にすることはしないようにと、改めるのであった。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「それで、ノアがミモザの治療を受けているのね。」

 

「ええ...私を助けた後、ダイヤモンドの魔導士と戦って気絶してしまったんです。」

 

その後、ラックを助けたアスタとノエルが宝物殿まで駆けつけてノアの倒れている理由を訪ねている。

 

「全く、相変わらず無茶するのね。」

 

「相変わらず?」

 

「ええ...この男、任務ではアスタと一緒に先人切って突っ込んでいくしね。」

 

やれやれといった様子で呆れ果てた様子のノエル。

 

それを見てミモザは微笑ましいモノを見たように穏やかな笑みを見せるのだった。

 

━━━━━━━━━━━

 

「これでよし...!」

 

ノアが倒したマルスを回収し、クラウスは自身の拘束魔法で拘束する。

 

(それにしても、まさか...『黒の暴牛』に助けられる事になろうとは......)

 

ミモザの治療を受けているノアと体力回復の為、薬草を食べているアスタを一瞥した。

 

「この拘束魔法大丈夫か?」

 

「大丈夫に決まっているだろうが!手負いの者に解かれる程脆くないわ!」

 

「まぁそうカリカリしなさんな。」

 

 

「先にこの場所に辿り着き勝負に勝ったのは我々だが、特別にお前らも宝物殿に入る事を許そう━━━!」

 

クラウスはアスタとノエルに対し、一緒に宝物殿に入ってもいいと遠回しに伝える。

 

「何でそんなにえらそーなんだこのメガネはぁぁ!!......どーもありがとうございますコノヤロー!!」

 

この場面。ノアが見ていたら、『あれ?そもそも勝負なんてしてたっけ?』などと突っ込んでいただろう。

 

「.........」

 

だが、現在のノアはマルスを倒す為に自身の内にあった魔力を全て使い果たし、倒れてしまっている。

 

目覚めるかどうかは、ミモザの治療が終わるまで誰にも分からない。

 

「いざ宝物殿へ━━━━!!」

 

アスタが勢いよく扉を開けようとした時、アスタ達は気付いてしまった。

 

((どうやって入るんだろう.........))

 

扉を開ける方法が無い事に。

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

「どうすんだよ!?」

 

「落ち着け、恐らく何処かに暗号か何かが━━━...」

 

「頑張れ!考えろ!メガネ!」

 

「やかましいわ!」

 

アスタとクラウスが漫才をしているとラックが扉に近付き、触れてみる。

 

「この扉魔法で出来てるみたいだからアスタ、斬っちゃいなよ。」

 

「は?...魔法を、斬る?」

 

ラックから飛び出した予想外の発言にクラウスは戸惑いを見せる。

 

「うらぁぁ━━━━!!」

 

ラックの言葉を信じ、剣を振って扉を破壊する。

 

「な.....何故、魔力の全く無い下民が....!?」

 

「魔力の無効化...それがアスタの能力なのよ。」

 

「...無効化...だと............!?」

 

ノエルの言葉に、クラウスは何かの間違いではないのか?と思ったが、今はそれよりも宝物殿に入る事を優先すべきと判断し、頭の片隅に放置した。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「すげええ~~~~~~~お宝の山だぁぁぁぁ!!!」

 

中に入るとそこには辺り一面に金塊や宝剣、他にも様々な装飾品などが散らばっていた。

 

「うん?....ここは?」

 

「お、ノアが起きた。」

 

ユノに担がれていたノアが目を覚ます。

 

「宝物殿の中だぜノア。」

 

「宝物殿.....ああ、そうか。」

 

混乱していたが、アスタの言葉に周りを見回してから自分のいる場所を理解した。

 

「取り敢えず.....ユノ降ろして。」

 

「ああ、大丈夫か?」

 

ユノがノアの事を心配して訪ねる。

 

「ああ、大丈夫...もうあらかた回復したからな。」

 

ユノの背中から降りて宝物殿内を散策する。

 

(にしてもこの財宝の数は....多すぎる気もするが...)

 

中に散らばっている財宝類を見て、そんな事を考えていたが、もしかしたら自分も何か新しい魔法を手に入れられるのではないか?

 

と考え、ワクワクしながらアスタ達と一緒になって中を見て回るのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ん?...なんだ?」

 

中を歩いていると、ノアの魔導書が突如として淡い光を放ち始めた。

 

「....新しい魔法....なのか?」

 

ページを開いてみると光は壁に向かって、突き刺すようにして何かをノアに教えている。

 

「壁しかないんだけど...?」

 

光の当たっている壁を叩いてみたり、押してみたが、何の変哲もないただの壁なので、ノアは何かの間違いじゃないのか?

と思い、その場から離れた。

 

━━━━━━━━━━━━

 

「.....」

 

一方、ユノもアスタやノアと同様にクローバー王国に持ち帰る物品を探していた。

 

するとある巻物がユノの目に止まった。

 

(何だ...?この文字━━━...見た事がないな...)

 

開いてみたが、中には何が書かれているのか分からず首を傾げたユノだったが、

 

「...!?」

 

突如として巻物が光を放ち始め、そしてそこに書かれていた文字が消えていた。

 

(文字が...消えた━━━━...?)

 

「何だったのだ?今の光は」

 

「............さぁ...」

 

ユノ自身も何が起きたか分からず、ただ首を傾げるだけであった。

 

「あだだ...あだだだだだ!何引っ張ってんだネロぉぉ~~~」

 

一方、アスタはネロに髪を咥えて引っ張られて何処かへと連れていこうとしていた。

 

「?此処がどうかしたのか?」

 

連れてこられたのはノアの時と同様、何の変哲もない壁。

 

ただ一つだけ普通の壁と異なっているのは、何かの"装置"のようなものが中心に付いている事である。

 

これは、ノアの魔導書から発した光が示していた壁と同じ物に見えた。

 

「ただの壁じゃねぇかだだだだだ!」

 

ネロは「何処を見ている、もっとよく見ろ。」と言わんばかりにアスタに向かってキツツキのように嘴を突き刺す。

 

「何かオモシロイの無いかな~~」

 

ラックが宝の山に立って周りを見回している。

 

「!」

 

すると、何かを感じ取ったラック

 

「皆逃げ━━━━...」

 

ラックが言い切る前に、巨大な鉱石の巨人が宝物殿に侵入してきた。

 

《鉱石創成魔法 "タイタンの重鎧"》

 

巨人の正体は、ノアが倒し、クラウスが拘束したマルスであった。

 

マルスは宝物殿に侵入すると同時に、アスタとノア、ノエル、ミモザ以外の全員を自身の魔法で拘束した。

 

(━━━ば...馬鹿な...!!この短時間に...どうやって復活したというのだ━━━━!?)

 

クラウスはマルスの速い復活に戸惑いを見せたが、直ぐにその理由にも気がついた。

 

《炎回復魔法 "不死鳥(フェニックス)の羽衣"》

 

(炎魔法...だと......!?馬鹿な━━━...魔力の属性は一人一つの筈............!!)

 

クラウスの言うとおり、魔法を使う魔導士には火・風・水・地の所謂、四大元素のいずれかの『(マナ)』が宿っており、その魔からもしくはそこから派生した属性の一種類の魔力しか使う事が出来ないとされている。

 

魔力が元から無いアスタや複数の属性の武器を魔法として使用するノアは例外としても、そんな魔導士は普通存在しえないものなのだ。

 

(その法則を無視して奴は二種類の魔力を持っている...!!しかも明らかに攻撃魔法の使い手だったのに回復魔法だと!?あり得ない━━━━!!....まさか、これが...ダイヤモンド王国の実験の成果...なのか...!?)

 

アスタ達と対峙したマルスは、頭の中に流れるイメージが何なのかを探っていた。

 

(マルスはきっとすごい戦士になるね)

 

(ごめんねマルス...こうするしかないの━━...)

 

思い浮かぶのは、一人の少女の姿。

 

ズキズキと痛みを訴える頭に、マルスは動けないでいた。

 

それを好機(チャンス)と見て、

 

「その炎...私が消すわ!!」

 

ノエルが杖をマルスに向かって構える。

 

「!」

 

しかしマルスの反応の方が早く、ノエルはマルスの巨大な腕で後方に吹っ飛ばされる。

 

「ノエルさん━━...!」

 

慌ててミモザが駆け寄る。

 

ノエルは胸部から大量に出血し、ノエル自身はマルスの攻撃の衝撃により気絶してしまう。

 

「ノエル━━━━!!!!」

 

アスタが魔導書から剣を取り出し、マルスに向かっていく。

 

「テンメェェェェ!!!」

 

「何だ?...お前は....」

 

《鉱石創成魔法 "レーヴァテイン"》

 

マルスは向かってくるアスタに対し、巨大な剣 レーヴァテインを頭上に振り下ろす。

 

「なんの!」

 

振り下ろされた剣をアスタは自身の剣で真っ二つにする。

 

「何だと...!?」

 

マルスは、立ち向かってくるアスタに今までに感じた事の無い得体の知れない感情に囚われる。

 

「何だ...あの下民の力は...!?」

 

「魔力の無効化....それがアスタの能力だ。」

 

ミモザの魔法 "姫癒の花衣"での治療を手伝っていたノアがクラウスの疑問に答える。

 

「...無効化...だと............!?」

 

(何だその下民に似つかわしくない力は....)

 

「ただの幸運(ラッキー)で能力に恵まれたってことか。」

 

自身の勝手な解釈で納得するクラウスにノアは、イラッとしたが直ぐに気持ちを切り替えて、

 

「あんたがなんと思おうが、あいつの能力が幸運かどうかは...見てれば分かる。」

 

ノアはアスタを仲間としてそしてライバルとして認めている。だからこそ、信じているのだ...必ず勝ってくれることを。

 

(ホントはアイツに加勢してやりたい所だが....まだ戦えるだけの魔力が回復しきれてねぇ...)

 

ノアはアスタに加勢出来ない悔しさを圧し殺して、ひたすらノエルを死なせない為に、ミモザに協力して治療を行う。

 

「どうだろうか?」

 

「今はまだなんとも言えないです。」

 

「その魔法...使用者の魔力が多ければ回復する時間は速いのか?」

 

「ええ、それなりには...。」

 

「なら...!」

 

ノアはミモザの手に自分の手を重ねた。

 

「え...あの...?」

 

突然の事にミモザは驚いて戸惑ってしまう。

 

「悪いが、説明してる暇は無いんだ....ノエルを助けるためだと思って、今は我慢してくれ。」

 

「は、はい。」

 

ノアのノエルを助けたいという気持ちが籠った言葉に、ミモザはそれ以上...何も言えなくなった。

 

「今から、周囲の魔を集めて、ミモザ...君に渡す。」

 

「え...!?」

 

「行くぞ......!」

 

するとノアに周りに散らばっていた魔が集まり始め、それがノアの手からミモザの中へと流れていく。

 

(なんて優しい力.....これが...この人の....)

 

ミモザの中でノアへの評価は益々上がっていく。

 

(でも今は、)

 

直ぐ様思考を途絶し、ノエルの傷を再び癒し始める。

 

その時ミモザは、過去の事を思い出していた。

 

まだ小さかった頃にノエルに助けて貰った事、自身が周囲に認められ、対してノエルが揶揄されていた事を、

 

「私なら...諦めていたかもしれません............王族の皆は...努力を馬鹿にします...それは生まれながらに力が無い者のする事...王族のする事ではないと━━━━...けど...努力できる貴女を...私は尊敬しています...!!死んじゃ駄目ですわ...ノエルさん...!!」

 

「!!」

 

ミモザの言葉を聞き、ノアはミモザの手を強く握った。

 

「え!?....あの.....?」

 

突然の出来事にミモザはどぎまぎしてしまう。

 

「努力は力の無い者がする事...か....それは違うな。」

 

「違うのですか?」

 

ミモザの問いかけにノアは頷く。

 

「誰しも、最初から強い訳じゃないんだ....だからこそ、人は努力し、それを積み重ねていく....努力は力の無い者がする事?....そんなセリフは、努力をしたことが無い奴が言うことだ....努力しないで強くなれる奴なんて何処にも居るわけが無いのに....貴族ってのは....」

 

明らかに貴族を侮蔑して悪態をつく。

 

「だけど....ノエルとミモザ、君達は別だ。」

 

「別....?」

 

「貴族は努力する事を良しとしない...だけど君達は、努力する事を否定しなかった....だからこそ、俺は君たちに好感が持てる....」

 

「......」

 

「ありがとう.....努力する事を認めてくれて。」

 

ニコッ、とノアはミモザに笑いかけた。

 

その表情に何故かミモザはドキッ、と自分の心が揺れ動いた。

 

(な...なんですの...今の感じ....?)

 

「ミモザ...?」

 

「うひゃう!?」

 

「うひゃう....?」

 

突然ノアに声を掛けられて変な叫びをあげるミモザに驚いたが、魔の供給は引き続けて継続する。

 

「あ、ごめんなさい.....」

 

「あぁいや、今のは俺が悪いな。」

 

まぁ、とにかく、と前置きをしてから、

 

「それよりも今は、ノエルの治療に専念しよう。」

 

「ええ。」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ハァ....ハァ....ハァ....」

 

息も絶え絶えでマルスに立ち向かうアスタ。

 

「なんだ....お前は....」

 

「俺は...生まれつき魔力の無い人間だ。」

 

アスタはマルスを睨み付けながら自身の事を語る。

 

「ハッ!....やはり運に恵まれただけの下民では...」

 

クラウスの言葉はそこで途切れた。

 

「だから証明する....魔力が無くても魔法帝になれることを...!」

 

アスタの身体に刻まれた様々な傷痕を見て、言葉を失ったからだ。

 

(なんだ...あの傷痕は...!?...こいつ、一体どれだけの鍛練を...)

 

「お前を倒して、俺はまた一歩、魔法帝への道を駆け上がる!」

 

アスタがマルスに向かっていく。

 

「お前の攻撃パターンは分かった。」

 

《鉱石創成魔法 "ハルパー"》

 

(あの魔法は.....!)

 

「アスタ!お前の剣じゃ対処しきれない!...兎に角避けろ!」

 

一度対峙したノアがアスタに指示を出す。

 

「んなもん....やってみなけりゃ分かんねぇよ!!」

 

剣を振り回して、マルスのハルパーを凪ぎ払っていく。

 

しかし、アスタの剣は大剣

対してマルスのハルパーは複数の巨大な投げナイフの様なもの。

 

どちらが速いかと聞かれれば、マルスのハルパーの方が早い事は明らかである。

 

(速い...!!)

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!!!」

 

「アスタ!」

 

アスタはハルパーを全て凪ぎ払う事が出来ず、後方の壁に叩き付けられ、そのまま壁を破壊して中へと侵入する。

 

「......ぐ...く......!」

 

アスタの使っていた剣は、地面に突き刺さりアスタはそれよりも後方に叩き付けられる。

 

(...剣が......!つーか...俺の剣のデカさと重さじゃあの魔法は捌ききれねー...!!)

 

アスタは既に満身創痍であったが、次に狙われるのはノエル達である事を考えると、ここで倒れる訳にはいかないと何とかしてもう一度戦う為に起き上がる。

 

(アイツ...!ノアの時と違って、戦い方を変えそれに合わせた魔法を.........!!)

 

「早くしねーと...ノエル達が...!...どーすりゃ━━━━━━...!」

 

どうすればマルスに太刀打ち出来るのか、そう考えていると目の前を何かが横切った。

 

「...ネロ......?」

 

ネロはアスタの後方に突き刺さった"剣"の柄に止まった。

 

「この...剣は....?」

 

大剣を魔導書に戻し、剣に恐る恐る近付く。

 

「これで....ノエル達を守れるのか?」

 

疑問に感じながらも、アスタは剣を握りしめていた。

 

━━━━━━━━━━━━━

「クソッ!」

 

アスタが壁の中へと入った後、今度はノアが剣を取り出してマルスに立ち向かう。

 

「駄目よ....ノア、あんた....まだ魔力が....」

 

「ノエルさん...!?」

 

「大丈夫だ....さっき、魔を吸収して俺も少しは戦えるまでに回復したから。」

 

そう言ってマルスに立ち向かう姿勢を見せる。

 

(とは言ったものの、流石にコイツの相手はまだ出来ない....出来るとしても、精々時間稼ぎくらいだ。)

 

ノアの魔力は確かに回復はした。だが、まだ満足に戦える程ではない。

 

彼の言うとおり、今はアスタが戻って来るまで時間を稼ぐしかマルスに勝つ手段が無い。

 

「....ここまでの逆境ほど、燃えるものはないな

 

マルスに再び立ち向かうノア。

 

だが、

 

「お前の能力は分かった。」

 

《鉱石創成魔法 "タロスの人形群"》

 

「な....!?」

 

マルスは一度に魔法で複数体の分身を作り出す。

 

(流石に今の俺じゃ....厳しすぎる....!!!)

 

「くっ....そおおおお!!!」

 

ノアは自身の半径300m以内に注意を払い、次々と近付いてくる分身を倒していく。

 

だが、ここまで連戦だった為か次第に疲れが見え始め、そして遂に、

 

「!...しまった!」

 

振るっていた剣を手放してしまう。

 

「終わりだ....!」

 

「!!!」

 

マルス本体が、鎧の拳をノアに向かって打ち込む。

 

「ぐうう....!」

 

咄嗟に両腕でガードするも、アスタ同様に壁に叩き付けられてそのまま壁の中へと入っていった。

 

皮肉にも、その壁は先程ノア自身の魔導書が示した場所であった。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「く...っそ...!」

 

(やっぱり、まだ完全に回復しきってないからか....戦いにすらならねぇ..!)

 

「せめて、魔力が完全に回復していたら....」

 

その時、ノアの魔導書が再び光を放ち始めた。

 

「この光は....さっきの...?」

 

(まさか、此処って...さっきの壁か?)

 

立ち上がって、奥へと進む。

 

そこには、大きな棺のようなものが鎮座しており、表面には剣を抱えた人が彫られていた。

 

「これは...棺か?」

 

人型のレリーフに触れる。

 

「この棺は....一体...?」

 

ふと、レリーフが抱えている剣が気になり、触れてみる。

 

すると、剣は淡く光を放ち始めてノアの身体に吸い込まれるように入っていった。

 

「え....今...!?...え!?」

 

慌てて剣が入っていった身体に触れるものの、傷痕らしきものや出血は見られない。

 

「気のせい....ではないよな?」

 

ノアが安堵した時、身体から先程の剣が出現し、ノアの周りを回り始めた。

 

「この剣は....?」

 

ハッ、となり急いで魔導書のページを捲る。

 

《武器魔法 "ファントムソード"》

 

「一ノ剣 "賢王の剣"」

 

新たに追加されたページには、そう書かれていた。

 

「!.....ぐっ!....何だ?....この映像は....!?」

 

突如として激しい頭痛がノアを襲う。

 

ノアの頭の中にある映像が流れ込んでいるのだ。

 

「この剣の...使い方か?」

 

(なら、試してみるのもいいかもしれない。)

 

そう考え、入ってきた穴へと顔を向けるのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

ノアが飛ばされてからその後、

 

マルスは次に、ミモザ達に狙いを定めた。

 

「死ね...!」

 

マルスは大量に召喚したハルパーをミモザ達に向けて、飛ばす。

 

しかし、

 

「!!」

 

アスタがミモザ達を庇うようにマルスに向かい、ハルパーを剣で凪ぎ払う。

 

その剣は、先程ネロが止まっていた剣であった。

 

(何だ...!?あの剣は━━━━...!!)

 

再び立ちはだかったアスタの持つ剣に何処か違和感に近いものを感じ取ったマルス。

 

「お前の相手は...俺だぁぁぁ!!!!」

 

アスタはマルスに向かって突進していく。

 

マルスは近付かれまいとしてハルパーをアスタに向かって投擲する。

 

「━━━━...!!」

 

しかし、アスタはそれを全て、剣で破壊する。

 

そして、マルスの"タイタンの重鎧"に一撃を与える。

 

「━━━━!!!」

 

斬られたマルスの身体に纏っていた、"タイタンの重鎧"それと同時に発動していた炎回復魔法の勢いを、一度だけ弱めた。

 

慌てたマルスはアスタを吹っ飛ばし、攻撃を中断させる。

 

(攻撃魔法は捌けるようになったけど...あの炎の回復魔法がある限りこの剣じゃ止めは刺せねぇ...!)

 

どうすれば倒せるのか考えていると、

 

「━━━...なにやってるのよ...バカスタ......」

 

「!ノエルさん...!」

 

「ノエル...!」

 

意識を取り戻したノエルがアスタに声を掛ける。

 

「...アンタは...王族の私が...認めてあげた下民よ......あんな奴...さっさと倒しちゃいなさいよ...アスタ...!!」

 

それは、ノエルからの激励の言葉であった。

 

アスタ、アンタを信じている。

 

ノエルからのそういった思いの籠った言葉だった。

 

すると、アスタの剣の中央部にある黒い部分にに青い光が集まり始めた。

 

「どけ...そいつらを消してやる...!!」

 

再びマルスがミモザ達を殺す為に向かってくる。

 

「そんな事させるかァァ!!」

 

再び立ち向かうアスタ。

 

「俺には魔力が無い...!!だけど俺には━━━━━」

 

 

仲間がいる!!!!

 

 

剣を振ると、青い斬撃が大きくなり、マルスに向かって飛んでいく。

 

(何だ...コレ━━━━━...!?)

 

(どういう事だ━━━━...!?奴には魔力が無いはず......!!)

 

(水の魔力の斬撃...!!これは......ノエルの魔力を...借りた━━━━━...!?何なんだあの剣は━━━━...!!?)

 

「こんなもの━━━!!」

 

マルスが斬撃を押し返そうとするも、斬撃の威力はマルスの想像を越えており、喰らってしまう。

 

「どうだ....見たか」

 

やってやったぞとばかりに、マルスに向かって言葉を放つ。

 

だが、

 

「!......」

 

「アスタ...?」

 

見ると、アスタの腹部にはマルスのハルパーの欠片が突き刺さり、貫通していた。

 

「しく...った...」

 

「アスタ━━━━!!!」

 

アスタはその場で倒れ、動かなかった。

 

そしてマルスが立ち上がり、アスタを見据えて

 

「お前みたいに甘い奴が...俺に勝っては駄目なんだ...!」

 

脅迫観念にも見えるほどのマルスの言葉にノエルは怯えてしまう。

 

マルスはレーヴァテインを発動し、アスタに振り下ろそうとしたその時、

 

マルスの近くに剣が飛んでくる。

 

「何だ?....この剣....は...!!!」

 

マルスは気付いた。今、この場に居ない...自分が吹っ飛ばした人物の事を、

 

そして遂に、現れる。

 

「そこまでだ、デカブツ....!」

 

飛ばされた剣を掴み、先程マルスに吹っ飛ばされた人物である、

 

ノアはマルスを睨み付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ15 新たな(ちから)

マルスの眼前に剣を手にし、立ちはだかったノアが彼と鍔迫り合いの状態となっている。

 

「フンッ!」

 

マルスはノアの剣を弾き、ノアはそのまま後方へと下がる。

 

「ミモザ、下がってアスタの回復を頼む。」

 

「は、はい。」

 

ミモザにアスタの治療を頼み、ノアはマルスに再び向き直る。

 

「何故だ...何故俺の前に立ちはだかる。」

 

「決まってるだろ....お前が俺達の邪魔をするからだ。」

 

マルスを睨み付けたノアは、剣をマルスに向かって投げつける。

 

「こんなもの......!」

 

剣を弾き飛ばし、ノアを攻撃しようとするマルス。しかし、

 

「なっ...!?」

 

その直後、ノアは彼の前から姿を消したが、

 

「くっ...!!!」

 

背後に気配を感じ取り、更に守りを固める。

 

「くっ...やっぱ硬いな。」

 

マルスの背後に現れたノアは再び剣を投げ、マルスの眼前に姿を現す。

 

「貴様...何だその力は...!?」

 

「ファントムソードだ。」

 

「ファントム...ソード...?」

 

聞いたことの無い名前にマルスは疑問符を浮かべる。

 

「聞いたことが無いのも仕方ない....これは遥か昔の時代に存在した国の、歴代の王が使用した武具の総称だからな。」

 

「過去の...国?」

 

「この武器の使い方は...手に取るように分かる...こんな風にな!」

 

再度、ファントムソードである賢王の剣を投げる。

 

するとまたもやマルスの眼前に移動を成功させたノアがマルスに斬りかかる。

 

「くっ...またか...!」

 

マルスは、巨大な腕でガードして攻撃を受け止める。

 

「やるな...だったら、これはどうだ?」

 

自身の魔導書から複数の剣や短剣を召喚し、ノアは四方に投げ付けた。

 

「さぁ行くぞ魔導士....覚悟はいいか?」

 

ノアが目の前から消えたと思ったら、背後に、続いて左右に、移動を続けて攻撃を繰り返す。

 

「まだまだ行くぞ....オラッ!」

 

最初は見えるスピードで移動と攻撃を繰り返していたノアだったが、次第に速度を上げ、現在マルスの目には残像しか見えなくなっていた。

 

(くっ....どこだ....一体奴は....何処に!?)

マルスは必死でノアの姿を目視しようと試みるも、やはり残像しか見えないでいた。

 

「これで...終いだ...!」

 

ノアが再びマルスの眼前に姿を現した時、彼の手には新たな大剣が握られていた。

 

淡い光を放つそれを片手で回し、マルスに斬りかかった所で、

 

「甘い!」

 

マルスに受け止められてしまう。

 

「勝負あったな。」

 

勝ち誇ったようにマルスはニヤリと笑みを浮かべた。

 

だがノアは、

 

「どうかな?」

 

マルスと同様、勝ち誇ったようにニヤリと笑みを浮かべた。

 

「なに?...まさか..!」

 

その直後、大剣は四つの剣に分離し、ノアの持つ一本を残して空中に浮かび上がった。

 

「オラッ!」

 

残った剣でマルスを打ち上げ、ノアは飛んだ。

 

「これで決める...!」

 

先程のファントムソードでの瞬間移動...シフトブレイクほどでは無いものの、残像を生み出しながらマルスに次々と攻撃を繰り返していく。左右から次々と、残像を作っては斬撃を加えていく。そして、計15回もの斬撃を加え、ノアは地上に降り立った。

 

「合体剣1st...奥義、超究武神破斬Ver5...!」

 

空中に分離した剣は全て、ノアを中心として彼の周囲に円を描くように突き刺さった。

 

「これなら....奴も......動けない...筈だ。」

 

流石に連戦だった為か、ノアは肩で息をしていた。

 

「ミモザ、アスタの回復が完了したら次は...!」

 

奥義を決めたノアの身体は、背後から無数のハルパーによって貫かれた。

 

「な...に...?」

 

ノアはその場に倒れ、身体はハリネズミのように串刺しになり、召喚していた剣は全て彼の魔導書に戻った。

 

「お前みたいな甘い奴が...俺に勝っては駄目なんだ...!!」

 

ノアの身体に穴を開けたマルスは、うわ言のようにそれを呟きながらノアへと迫っていく。

 

(奴の炎回復魔法はアスタの斬撃で解除されている...!!今なら止めを刺せるというのに━━━...!!)

 

(もう少し...!!もう少しでこの拘束を解ける...のに━━...!!)

 

((間に合わな━━━━━))

 

そしてマルスが近付いてレーヴァテインを振り下ろそうとした時、

 

「ノア━━━━!!!」

 

いち早くマルスの鉱石を破壊してノアの助けに入ったのは、ユノであった。

 

(俺の魔導書のどの魔法を使っても間に合わない━━━━こんなところで...死なせない!!!!)

 

ユノの思いが確固たる意志となった時、彼の魔導書に描かれた四つ葉が輝き始め、ユノは眩しく感じて目を閉じる。

 

(━━━━...?)

 

直ぐ様目を開くと、自身の周囲の時が止まったようにアスタ達は静止していた。

 

右隣を見ると、妖精らしき存在が眠そうに欠伸をしている。

 

(一体....何が?)

 

ユノはこの現象の正体に未だ、理解が追い付いていなかった。

 

妖精が目を擦ってから息をフゥッ、とマルスに向かって吹き掛ける。

 

すると時が戻り、マルスはタイタンの重鎧から背後の壁に叩きつけられていた。

 

『!?』

 

ノエル達は何が起こったのか理解できず、衝撃を覚えていた。

 

「...ユノが...やったのか............!?一体何を━━━...!!」

 

マルスが倒れた事により、クラウス達を拘束していた鉱石が解除されていく。

 

「魔法が...解けた......!今度こそ...倒した.........!!」

 

ユノが再び妖精のいた場所に目を向けるも、そこには何も居らず、魔導書のページを捲るとそこには新たな魔法が追加されていた。

 

(...これは...さっきの巻物の文字.........!?)

 

どうやら妖精の息吹きとも言うべき攻撃がユノの新たな魔法のようだ。

 

アスタの使用した剣も、彼の魔導書に吸い込まれていき、アスタの魔導書も新しいページが追加された。

 

「ミモザ...俺はいい...ノアを...」

 

「は...はい━━!」

 

アスタの治療に専念していたミモザ、アスタの容態が安定した事を確認すると、直ぐ様ノアの治療に移ろうとした時、

 

突如として魔宮内の崩壊が始まる。

 

「.........!!これ...は...!!」

 

「魔宮が...崩壊する...!!」

 

「............!!」

 

どうすべきかと悩んでいたノエル達だったが、そこでユノが動いた。

 

《風創成魔法"天つ風の方舟"》

 

みんな乗れ...脱出する!!

 

ラックが直ぐ様ノアを抱えてユノの魔法に飛び乗り、他の面々もそれに続いて乗り込む。

 

「ミモザ...ノアを頼む...!!」

 

はい━...!.........!!」(これは..........!私の残りの魔力で治せるか━━...)

 

「ユノ」

 

「アスタ...!」

 

回復したアスタがユノに話しかけた。

 

「あいつも...助けてやれねえか?」

 

指を差した方向には、先程ユノが倒したマルスが転がっていた。

 

「な.........!!何を言っているのだ...!?奴は我々を殺そうとした敵国の者だぞ━━━━...!?」

 

「アスタの...言うとおりだ...」

 

「...喋らない方が......!」

 

ノアはミモザの言葉が聞こえていないのか、そのまま言葉を続けた。

 

「...俺...達は......魔宮を攻略しに...来たんだ.........敵を...殺...しに...来たんじゃ...ない.........」

 

それだけ言うと、ノアは気絶した。

 

ユノは倒れているマルスを凝視し近付こうとしたが、マルスとユノの間に巨大な瓦礫が落ちてくる。

 

「...もう無理だ!間に合わん...!行くぞ━━!」

 

ユノは皆を乗せて、出口を目指そうとする。しかし、頭上からは魔宮を構築していた壁や天井がどんどん崩れ落ちてくる。

 

「............」(どこに行けば━━━...!?ミモザは今"魔花の道標"を使えない...!)

 

その時、ラックがユノに言った。

 

「右だよ。」

 

「!」

 

「僕が案内する!!」

 

「はい━━━...!!」

 

ラックが感知能力を駆使して出口までの道のりをユノに伝える。

 

だが、瓦礫は次々にユノ達の脱出の妨害となっているため、次々と落下してくる。

 

《鋼創成魔法"旋貫の激槍"》

 

《雷魔法"迅雷の崩玉"》

 

瓦礫をクラウスとラックが魔法で破壊する。

 

(━━━━絶対に...)

 

(ノアを...)

 

(死なせません.........!!)

 

(((((生かして...ここから出る━━━━!!!)))))

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

「な...なんだ━━━...!?」

 

「魔宮が崩れるぞ━━!!」

 

崩れる落ちた魔宮、その瓦礫の中から飛び出す一団。

 

『助かった━━━...!!』

 

それは、魔宮に入っていったアスタ達であった。

 

ノア以外、全員が無事に脱出を成功させて瓦礫の中から飛び出す。

 

「...ノアをあっちに運ぼう━━━━...」

 

時を同じくして、ユノ達から少し離れた場所で、

 

「...いや~~~~~彼らが道を作ってくれたお陰で助かったね.........!」

 

そこにはアスタ達が戦ったダイヤモンド王国の魔導士 ロータスが宝物を積んだ自身の魔法で創成した乗り物に乗っていた。

 

「オジサンのとっておきの隠し玉透明になれる"隠者の濃煙"で実はずっとそばにいたのバレなかったね~~~~...何はともあれ生きててよかったよかった。」

 

ロータスの隣には、倒されたマルスがいる。

 

━━━━━━━━━

 

マルスは夢を見ていた。過去に体験した...辛く、悲しい記憶を...

 

「...なんで...なんで━━━━━━━」

 

"ファナ"を手にかけ、絶望しているマルスの顔に触れる手。

 

そこから炎が上がり、マルスを癒す為に包み込む。

 

「............!!」

 

(傷が...癒えていく...!?)

 

『...ああでもしないと...マルス...私を殺せないから............』

 

「............!」

 

『一番強いマルスが...一番...生き抜ける可能性が高い.........』

 

 

『私の文まで...外の世界を見て来てね...マルス......!』

 

それが、マルスの見た"ファナ"の最期であった。

 

━━━━━━━━━━━

 

目覚めたマルスは、まだハッキリとしない意識でボーッとしている。

 

「お、気がついたかい?マルスくん」

 

「.........ロータス...?」

 

「いや~ご苦労様!君のお陰でこんなにお宝が手に入ったよ~」

 

ロータスの言葉と周囲の様子を見て、思い出す。

 

(...すべて...思い出した.........)

 

"ファナ"とした約束を....

 

「ロータス...」

 

「?」

 

「助かった...感謝する。」

 

マルスの言葉を聞いて、ロータスは嬉しそうに微笑みを見せた。

 

「なぁんだ...そーゆーことちゃんと言えるんじゃん。」

 

━━━━━━━━━━━

 

「あいだだだ...」

 

「俺...生きてる...のか...?」

 

「アスタ...ノア...!」

 

「よかった...!」

 

魔宮から脱出してから数分後、漸くアスタとノアは目を覚ました。

 

「無事ならいいのよバカスタ、ノア。」

 

「信じられませんわ━━━とんでもない回復力です...!」

 

「ノアは兎も角...アスタは丈夫なとこだけが取り柄だから。」

 

「何だとユノォ~...!他にもなんか色々あるわぁぁ...!」

 

それに、とアスタが続けて、

 

魔法帝になるまで死んでたまるか...!

 

魔法帝になるのは俺だ...!

 

そんな二人を見て一言、

 

「俺も忘れるなよ~」

 

と、弱々しくノアも口を開いた。

 

「おう!」

 

「当たり前だ...!」

 

そんな三人を見て、

 

「お前ら.........」

 

「クラウス先輩」

 

クラウスが詰め寄ってくる。

 

「本当に...」

 

何をするのかと、ユノが構えていると、

 

すまなかった!!

まさかのハグしながらの謝罪であった。

 

「下民だのとお前らを認めなかった自分が恥ずかしい...!!...お前達はクローバー王国の素晴らしい魔法騎士だ...

 

「メガネのダンナ...イタイ...」

 

「先輩...暑苦しいです...」

 

抱き締められたアスタは吐血し、ユノは冷めた様子でクラウスに言い放った。

 

なんだと!?せっかく私が━━━...

 

「なんだお前イイメガネだったのか...!」

 

イイメガネとはなんだ貴様あああ!!

「クラウスさんは真面目すぎるだけですわ。」

 

「ねぇねぇユノくん!今度僕とやろうよ!」

 

「え イヤです。」

 

「ん?ノエル服がすげー破けてるぞ」

 

「キャアアアアア///」

 

「ノア...」

 

「やれやれ...って、クラウス...さん?...なんで、俺の方に近付いて....って、まさか...!...いや、今はやめましょう?....俺一応、重病に...」

 

すまなかった!!

 

ギイヤアアアアア!!!!

 

最後の最後にクラウスの抱擁+謝罪によって塞がりかけたノアの傷口が開いてしまい、大量出血を起こして再び気絶。

 

結局、最後まで締まらないノア達であった....

 

 



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ページ16 王都召集

魔宮(ダンジョン)攻略から数日後、

 

アスタとノエルは、王都へと来ていた。

 

「う...おおおおお...!!すっっげぇぇぇぇぇぇ」

 

「ちょっと...!恥ずかしいから騒がないでくれる!?」

 

王と魔法帝が住む王宮を前にして騒ぐアスタと、それを嗜めるノエル。

 

(アスタと...二人きり...)

 

そんな事を考えて顔を赤くしているノエルだったが、

 

(とか、考えてるんだろうなぁ....生憎、俺もいるから二人きりではないんだがな。)

 

と、ノエルの考えを読んで心の中でツッコミを入れるノアが二人の後ろから見ていた。

 

━━━━━━━━━━━

 

数時間前、アジトにて...

 

「....」

 

「........」

 

アスタはガツガツと食べ、ノアも負けじとガツガツ食べている。

 

「おう目ぇ覚めたか小僧共、今回もよくやったな━毎度クソボロだけど。」

 

「あざす!!」

 

「...うす。」

 

元気よく返事するアスタと一言だけ返して直ぐ様食事に戻るノア

 

どちらも対称的な返答である。

 

「テメーらそろそろ歩けるよーになったろ騎士団本部が報告を聞きたいそーだから行って来いや。」

 

「「えッ!?」」

 

まさか騎士団本部から召集されると思っていなかったアスタとノアは驚きのあまりハモってしまう。

 

「騎士団本部!?」

 

(強い奴いっぱいいそ~♪戦っても...いいかな...?)

 

近くを通りかかったラックが騎士団本部の言葉に反応し、そんな事を考えたが、

 

「ラックは何か問題起こしそーだからダメです。」

 

ヤミの言葉にショックを受けて真っ白になるが、

 

「代わりに戦闘任務入れたからマグナと行って来い。」

 

「任務!」

 

次にヤミの口から出た言葉にラックの体色が戻り、瞳が輝き始める。

 

「一緒に頑張ろうね!マグナ!」

 

えッッ!!?気持ち悪!?お前本当にラックか!?」

 

マグナも普段のラックとは言動が異なり、グレイの変身なのでは?と疑う程のものであった。

 

「はいはぁーい!!じゃあ私が代わりに行きまーす!!」

 

今度はチャーミーが名乗りを挙げる。

 

その本心は、

 

(王貴界にはどんな美味しいものがまっているんだろう...)

 

といった感じで、食べ物のことしか考えていなかった。

 

しかし、

 

「いやいやお前が行っていいワケねーだろ毎日食ってるだけなんだから。」

 

ヤミの正論に対してラック同様、ショックを隠しきれなかった。

 

しかし、ヤミの発言も最もである。何せ、チャーミーが任務に行った姿を団員の誰も見たことがないからだ。

 

これでは騎士団本部のある王貴界に行かせるとラック同様、何かしらの問題を起こしてしまう可能性がある。そう考えての発言である。

 

その後、チャーミーは行方を眩ませるもそのうち帰ってくるだろうと誰も気に留めなかった。

 

━━━━━━━━━━━━

 

そして現在、

 

「すげーな~~~家が一個いっこデケーぞ!」

 

「そう?」

 

子供みたいにはしゃぐアスタと少し離れた所から付いていくノエル。

 

そして、その二人の邪魔をしないようにと更に二人から距離を取った後ろから付いていくノアとこれまたかなり変わった三人組が出来ていた。

 

「お」

 

するとアスタが目の前の何かに気付く。

 

「ん?」

 

目の前には、以前の魔宮(ダンジョン)攻略の際に協力した魔法騎士団《金色の夜明け》団のメンバー クラウス、ミモザ、そしてユノが三人の前を歩いていた。

 

「やあやあ金色の皆さんじゃないですか!」

 

「おお!一週間ぶりだなアスタ!怪我はもう大丈夫なのか!?」

 

一週間ぶりに再開したアスタの心配をするクラウスに対してアスタは、

 

「おう!いっぱい寝ていっぱい食べたからな!」

 

と返答する。

 

「「子供か」」

 

それに対してノアとユノがツッコミを入れるといったこれまたシュールな絵面になっていた。

 

(そういやまだミモザにお礼言ってないな。)

 

その事を思い出したノアがミモザにお礼の言葉を伝えようとミモザを見る。

 

「....!?.......」サッ

 

ミモザはノアをチラリと一瞥すると、即座に頬を紅潮させて目を反らした。

 

「?」

 

何故ミモザがそんな顔をしているのかノアには分からなかったが、取り敢えず自分が助かったのは、ミモザの回復魔法のお陰だと伝えなければと思い、ミモザに近付いていく。

 

「え~と....魔宮の時はありがとう...お陰で助かったよ。」

 

「...」ビクッ!

 

「それで、今度お礼でも...」

 

「..........」たっ

 

ノアが言い切る前にミモザはノアから逃げていってしまう。

 

「....あれ?」

 

「?...ミモザ、何でノアから逃げたんだ?」

 

「さあ?」

 

その様子を見ていたアスタとノアは顔を合わせて意味が分からないといった様子で首を傾げた。

 

「どうしたのよミモザ?」

 

さすがにミモザの反応が気になったノエルはミモザに聞いてみようと近付く。

 

「...どうしましょう...ノエルさん...!あの...私...ノアさんを見てると胸が苦しくなって...あの日からノアさんのことばかり考えていて...私...どうしてしまったんでしょうか...!?

 

「え...?」

 

ミモザの反応にどう答えればいいのか分からず、戸惑いを隠しきれないノエル。

 

間違いなくミモザはノアに対して"恋してる"反応なのだが、一体ノアの何処に惹かれたのかノエルは気になり、尋ねてみることにした。

 

「...何でノア?」

 

「それは...かっこよくて、背が高くて、髪も綺麗ですし...」

 

聞けば聞くほど、ミモザのノアに対する惚気が溢れだし、どうすれば止まるのだろうか?とノエルも困ってしまう。

 

「そういえば、ノエルさんもアスタさんのこと好きなのではないですか?」

 

えッ!?...いやいやいや!!あんな下民で馬鹿でうるさいチビなんて━━━━...」

 

「でもノエルさん、先程アスタさんを見る目が、私がノアさんを見ている時に似ていましたわ。」

 

いやいやいやあんな筋肉バカ...」(ってアレ?何で私こんな必死なの...いやいやいや!!私はあんなやったぞなんとも~~~~~)

 

(ハッ...私ったらまたノアさんのことを.....////)

 

ミモザとノエル、二人の乙女は自分の恋心を受容...あるいは否定するなど葛藤し、唸りをあげている。

 

「?...何をうめいておるのだ?」

 

その様子を見ていたクラウスは、何がなんだか分からない様子であった。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

そして暫く歩いて待ち合わせして場所に到着したノア達、

 

「確かこの辺りのはず━━━━━...」

 

辺りを見回して待ち合わせしている人物を探すクラウス。

 

「こっちだよ~~~~~~~!」

 

「!」

 

声がした方向に振り向くとそこには、

 

「やぁやぁ、いらっしゃい...若者達よ」

 

髪を短く切っており、勲章が幾つか付いたローブを纏った男性がノア達を見ていた。

 

「こっ...これは...まさか貴方様直々に━━━...」

 

男性を見るや即座にクラウスは男性にひれ伏した。

 

「誰だ?この派手なオッサン?」

 

アスタは誰だか分からないといった様子でいきなり失礼な発言をする。さすがにクラウスも失礼だと思い、大声で...

 

馬鹿者ォォ~~~~~!!!この方は現魔法帝 ユリウス・ノヴァクロノ様だァァ━━━━━!!!

 

 

 

「えええええ━━━━━━!!!」(((この人が今の...魔法帝...!!!)))

 

アスタ達も男性の正体を知ると驚きを隠せない様子だった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

魔法騎士団本部内

 

よくぞ手に入れたね!この魔法が恐らくあの魔宮の最重要遺物だ!

 

ユノの魔導書のページを見てそう答える。

 

そのページには、魔宮でマルスを倒したあの"風属性魔法"が載っている。

 

「!...読めるんですか...?」

 

「何となくね!」

 

ユリウスが何となくでユノも読めないページの文字を読めることに驚きを隠せないユノ。

 

ねえねえ!この魔法使ってみせてくれないかい!?頼むよ!

 

次の瞬間、ユリウスはまるで新しいオモチャを与えられた子供の様に目を輝かせながら魔法を発動してとユノに頼み始めた。

 

(このハシャギぶり...魔法帝は無類の魔法マニアという噂は本当だったのか...!)

 

噂の真偽が明らかになり、少し引いている様子のクラウス。

 

「...すみません...魔宮で一度発動したんだと思うんですが...あの時以来使えなくて━━━...」

 

えっ!?...そうか~~~いや━━残念。

 

ユノが使えないとユリウスに伝えると、分かりやすく落ち込んだ。

 

「............」 (四大属性の内、風の精霊"シルフ"この時代では彼を選んだんだね。)

 

「今言えるのは...この魔法は君と共に成長しいずれとてつもない力になるということ...大切にするんだよ。」

 

そう言って魔導書をユノに返す。

 

「次は...!」

 

次にユリウスはノアを見て近付いてくる。

 

「君はどんな魔法を...?」

 

「あ...え~と...ですね。」

 

キラキラと少年のような瞳を向けられてたじろぐノアだが、直ぐに新たな力 "ファントムソード"を展開する。

 

「この"力"ですね。」

 

「おおおおお!!!」

 

それを見た途端、ユリウスの反応が変化する。

 

「それをどう使うんだい...?!」

 

ワクワクしながら早く使ってみせてと言わんばかりにノアを見る。

 

「そうですね....!....」(アレならいいかな?)

 

ノアの視線の先には一本の木。

 

「では、失礼して...!」

 

ノアは木に向かって剣を投げると同時にその場から姿を消し、剣が木に刺さった瞬間、剣を掴んで木に移動していた。

 

「こんな感じ...です。」

 

「凄い凄い!その力は瞬間移動が出来るのかい!?」

 

「ええ、場合によっては相手に奇襲を掛けたり、敵から距離を取ることも可能です。」

 

「凄いね!...うん、その力はいずれ君を遥かな高みに連れていってくれるはずだ...だから、頑張ってね。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

続いて、

 

「魔法帝っっ!!俺の魔導書にも変な文章出たんス!」

 

見てくださいと言わんばかりにページを開いて見せるアスタ。

 

「............これは...!」

 

それを見たユリウスは、

 

「まっったく読めない...!文献でも見たことがないね。」

 

頭を悩ませながら分からないと返答した。

 

するとアスタはそのページから剣を取り出してユリウスに見せた。

 

「こんなん出ますッ!!」

 

おぉっ!二本目の反魔法の剣だねっ!

 

再び、嬉しそうにはしゃぎ出すユリウス。

 

自分が新しい剣を出せたことでユノに勝ち誇ったような顔をするアスタ。それを見ていたノアは、

 

(そんな事で勝ち誇っても対して凄くないんだけどなぁ...)

 

と思うも、口には出さなかった。

 

「反魔法の力...さ...触ってもいいかい?」

 

キラキラとしたフォントを放出しながらもユリウスは、剣を指差した手に震えを見せている。

 

「どうぞ!!」

 

対してアスタは、まるで大名に武器を献上する鍛冶屋の如く跪いて剣を渡した。

 

って重ッッ!!

 

大丈夫ですか魔法帝ぃぃぃ!!

 

アスタの剣が予想よりも重かった為、ユリウスは危うく剣を落としてしまいそうになっていた。

 

「よくこんなの振り回せるね............!」

 

その瞬間、ユリウスは何かに気が付いた。

 

(魔力を...吸われる...!?)

 

「...成る程...」

 

反魔法の力の理由に納得したのか、ユリウスは出さなかった口角を吊り上げた。

 

「ありがとう返すよ...これは私の手には負えない。」

 

「へへぇ~~」

 

この剣は魔力が無い君だから持てるんだね!

 

俺が魔力無いの何で知ってるんですか!?

 

「さ~て何でだろうね~~~~」

 

正解は魔法で変装してアスタを見ていたから...なんて言える訳もないのでユリウスは言葉を濁した。

 

まぁ兎に角素晴らしい活躍だったよ!お疲れ様!

 

...あああ...あののっっ...ちょちょちょちょっといいですか!?

 

ユリウスが労いの言葉をノア達に掛けた所で、アスタが声を震わせながらユリウスに尋ねた。

 

「?何だい?」

 

「.........」

 

少し黙って呼吸を整えるとアスタは、ユノ、ノアと一緒にある事を尋ねていた。...それは、

 

どうやったら...魔法帝になれるんですか!?

 

一瞬、ユリウスの時が止まった様になったが直ぐに反応を返してくれた。

 

そうか、君達は魔法帝を目指してるんだね騎士団員足るものそうでないとね!

 

笑いながらノア達を見てそう言った。

 

「お前達そんな事直接聞くのは魔法帝に失礼だろ!!いいか魔法帝とは気高い心を持ち民の信頼厚き者が━━━...」

 

いや...

 

クラウスの言葉を遮った魔法帝の言葉は次の通りである。

 

実績だよ

 

その言葉にノア達は黙って聞いている。

 

「プライドだけでは人を守れないし信頼は実績の後についてくるものだ..."魔法帝"に求められるものはただ一つ..."最強"と言わしめる実績だ...実績を出せひたすらに実績を積むこと...それが全てだ...それが出来ない者は頂点に立つことなど出来はしない...!

 

最後までユリウスの言葉を聞いて、ノア達は身体の震えが止まらなかったが、拳を握りしめて、

 

望むところです...!!

 

そう返した。

 

(いい目の新人を持ったね...ウィリアム、ヤミ。)

 

三人の熱い眼差しを見て、二人の魔導士の名前を出すユリウス。

 

これからのノア達の活躍を見てみたいとさえ思った。

 

さてと!実は今日『星』取得数が特に多い騎士団員達を集めて戦功叙勲式をするんだ君達も是非参加してってくれ!

 

『え...!』

 

そしてユリウスの後に続いていくとそこには大きな扉が、

 

それを開けるとそこには...

 

...さて...

 

複数の魔法騎士団の団員達が並んで此方を見ている。

 

君達は彼らより実績を出せるかな...?

 

 

 

 



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ページ17 叙勲式での出来事

「━━━では...戦功叙勲式を始めよう...!」

 

魔法帝の言葉と共に始まった戦功叙勲式。

 

この場には、任務で功績を得た者達が各騎士団から召集されている。

 

「星取得数7『紅蓮の獅子王』団 レオポルド・ヴァーミリオン!!君に二等中級魔法騎士の称号を授与する!!...兄である獅子王団団長と同じく君の炎魔法の威力は圧倒的だね~!やり過ぎに要注意かな。」

 

「悪に容赦など必要ありません。」

 

ツンツンした頭に獅子のような面持ちの青年 レオポルドは淡々とした口調で返答する。

 

「星取得数6『碧の野薔薇団』ソル・マロン!!三等中級魔法騎士の称号を授与!!男性に負けない行動力と独創的な土魔法は凄いけどちょっと自由すぎるかもね!!」

 

「私を縛れるのは姐さ━━団長だけです。」

 

褐色で短く切り揃えた黒髪の女性 ソルも魔法帝の言葉にそう返した。

 

この後も戦功叙勲は続き、それを見たノアは、

 

(魔法帝に近づくためには、戦功叙勲式で称号を授与される事が必要......なら、もっと努力しないと...!)

 

ひとり、憧れの魔法帝への道を検討していた。

 

「━━━みんな大義だったね....さて、これから簡単な席を設けてるから楽しんでいってくれ。」

 

(あ、終わったのか。)

 

ノアが考え事をしている間に戦功叙勲式は終わりを告げた。

 

「あ、そうそう...今日は特別ゲストも呼んであるから大いに交流してくれたまえよ!」

 

(え?)

 

魔法帝の言葉の後に称号を授与された魔法騎士達がこちらを見ていた。

 

(もしかして、俺たちは...報告とこの為に呼ばれたのか?)

 

魔法帝の考えに天を仰ぎそうになるのを堪えてノアは、終わりを待つことにした。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

場所を移動し、複数のテーブルに幾つもの料理が並べられた部屋へと案内されたノア達。

 

「用が出来ちゃったからちょっと抜けるね~みんな楽しんでてくれ!」

 

笑いながらその場を後にする魔法帝に、ノアはため息を漏らしたが、

 

(まぁ、でもこれも魔法帝の心意気に感謝して...食べておくか。)

 

諦めて食事に移行するノア。

 

「うぐ...周囲からの視線が痛い............魔法帝はなぜ私達などにこのような待遇を...........!?」

 

「.............」

 

周囲の視線に晒されるクラウス達、それによってか俯くノエル。

 

だが、

 

「なんっっじゃこりゃああああこんなの食べたことないぞォォ~~~~!!?」

 

ひとり、騒がしく食事に手をつけるアスタと、その様子を尻目に黙々と食べ続けるノア。

 

「なんと堂々としているのだ...!!流石だなアスタ...!それにノアも....!」

 

「いや、アスタはただ粗野なだけですし、ノアは気にしても仕方ないって思ってるだけですから。」

 

クラウスのアスタとノアに対する評価にツッコミを入れるユノ。

 

黙々と、食事を続けるノアの元にミモザが近づく。

 

「あっ...あの...ノアさん............!ご一緒して宜しいでしょうか...!?」

 

「うん?...いいけど、何食べる?取ってこようか?」

 

「い、いえ....出来れば....その...」

 

ノアの持っている皿を見てモジモジしだすミモザ。

 

(あぁ...そういうこと。)

 

何か納得した様子でノアはもう一つスプーンを用意して、

 

「ミモザ...口開けて。」

 

ミモザに料理を運ぶ。

 

「えっ!?...あの、ノアさん!?」

 

所謂はい、あ~んの構えになっているノアにどうすればいいか分からず固まるミモザ。

 

「あぁいや、魔宮攻略で疲れてると思って....駄目だった?」

 

「い、いえ....駄目ではないですが....その....」

 

「?」

 

こっちはこっちでなにやら甘い雰囲気。

 

「まさかノア...ミモザに対してそういった気持ちが...?」

 

「いや、あれただの天然です。」

 

またもやノアの株が上がりそうになるが、ユノがツッコミを入れる。

 

そんなノア達を見て、称号を授与されていた魔法騎士のひとり

アレクドラ・サンドラーが口を開く。

 

「卑しい下民が...!」

 

彼を皮切りにして他の魔法騎士達も次々に言い始める。

 

「なぜ魔法帝はあのような低俗な者を...」

 

「全く魔力を感じない...魔宮攻略も運が良かったに違いない」

 

「なんと汚い食べ方...」

 

「此所にいることが不自然だ...場違いなネズミめ」

 

「......!」

 

散々な言われようにクラウス達も黙ったが、

 

「うーん散々な言われ様ですなまぁもう慣れてるけど。」

 

「同感だ、言いたい事があるならハッキリ言えばいいんだ。」

 

(な...なんという器の大きさ.........!)

 

アスタとノアの態度にクラウスは驚き、ミモザはノアに対して顔を赤らめ、ユノは何か言いたげな様子で黙って二人を見る。

 

「下民なら貴殿らの団にいるではないか...」

 

「!」

 

「四つ葉の魔導書を持ち祭り上げられ、図に乗っている下民がな......!」

 

レオポルドがアレクドラに対して口撃を仕掛ける。

 

「先の魔宮攻略任務...俺の方が上手くやれた!」

 

「大した自信だな...紅蓮の小僧━━━別に我々はあのような下民に期待などしていないヴァンジャンス様の...『金色の夜明け』団の理想を体現するのは我々だ............!」

 

二人の言い分に苛立ちを見せるアスタだが、ユノは気にしていない様子である。

 

流石に言い過ぎだと思ったのか、

 

「━━━━......お言葉ですが...」

 

クラウスが口を開くも、

 

「お前もだクラウス!お前程度の実力の者が此所に居て恥ずかしくないのか」

 

「...............はっ......」

 

睨み付けられ何も言えなくなってしまう。

 

「ミモザ...!お前は魔宮では敵の襲撃で下民に助けられたそうだな」

 

「......!」

 

クラウスの次はミモザに矛先が向く。

 

「王族であるヴァーミリオン家の者が笑わせる...!」

 

「.........申し訳a」

 

頭を下げようとしたミモザの前にノアが庇う様に立つ。

 

「.........」

 

「何の真似だ、下民風情が」

 

「...今回の魔宮攻略、確かに彼女にも落ち度はあったのでしょう...しかし、今回の任務は彼女の回復魔法がなければ我々は死んでいたかもしれない....彼女を辱しめるだけでなく、評価すべき点を見つけて評価すべきでなないでしょうか?」

 

「...ノア...さん...!」

 

「黙れ、下民ごときが貴族である私に意見するな!」

 

アレクドラはノアに対してそう言い放った。

 

「つまり、評価する気は無いと...?」

 

「黙れと言っている!」

 

態度が変化しないアレクドラに呆れるが、ノアは言葉を続ける。

 

「......俺は何を言われても構わない....慣れてるからな、だが、ミモザをこんな場所で辱しめるのは許さない!」

 

ノアが怒りを剥き出しにしてアレクドラにずんずんと向かっていく。

 

「下民ごときが...!」

 

アレクドラが魔法を発動しようとしたところ、ノアはパチン、と指を鳴らす。

 

「ぐあっ!!?」

 

するとアレクドラは壁にめり込み、ノアの周りにはファントムソードが展開されている。

 

「俺とアスタだけ非難するならまだ良かったが....頭にきた....!」

 

ノアはテーブルの上に立ち上がり、

 

俺は必ず"実績"を積んで...魔法帝になってお前ら全員黙らせてやる!!!!覚悟しとけ!!!!

 

キレたノアの咆哮が室内に木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ18 宣戦布告、王都襲撃

ノアが魔法騎士達に宣戦布告した同時刻、クローバー王国の外にて、

 

なぁ~~~~?オカシイよなぁ!?何でこの俺様が追い出されなきゃなんねぇんだよなぁ俺様は王族以上の魔力を持ってんだぞ...!?」

 

「.............」

 

左目を布で覆った男が王都を睨みながら誰かに話しかけている。

 

「この世界は魔力が全てだろぉが.........なぁ!?

 

『.........あ...う............』

 

男が話しかけていたのは、既に死体となっている男であった。

 

フザケやがってクソがぁ!!

 

「...誰に向かって喋っている...」

 

「あぁ...!?独り言だよ...!!」

 

そんな男の背後には、いつの間にかローブを纏った男が立っていた。

 

「準備出来たぞ...!」

 

「ああ...!」

 

男が手を伸ばし、まるで王都を掴むような素振りを見せる。

 

俺の力、とくと教えてやるぜ...!魔法騎士団

 

この男達の目的は如何に...?

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

魔法帝に...なるだと.........!?

 

ノアの宣戦布告にクラウスはやってしまったといった表情になり、ミモザは自分の為に怒ってくれたノアに対して嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「おい待てノア!魔法帝になるのは俺だ!!!」

 

張り詰めた空気の中、そんな事はお構い無しに、アスタがノアに言い放つ。

 

「あぁ、そういやそうだったな....悪かった。ついカッとなってな。」

 

ノアは一旦、怒りを抑えてアスタに謝罪する。

 

「でもまぁ、お前が言ってくれたお陰で俺もスッキリした!...だが!魔法帝になるのは、この俺だ!」

 

今度はアスタが宣戦布告を始める。

 

これにはクラウスも呆然となってしまう。

 

「クッ...クク...クククク...」

 

ソリドから笑いが聞こえる。

 

「「笑わせるな!!!」」

 

《水拘束魔法"海蛇の巻縛"》

 

《霧拘束魔法"霧蜘蛛の縛糸"》

 

ソリドとネブラがノアとアスタに向かって同時に魔法を発動する。

 

だが、

 

うらァァァ!!!

 

《水属性魔法"水神の剣"》

 

アスタは魔法を剣で消し、ノアは魔法を吸収する。

 

(あの下民...魔法を消している...!!あっちの下民は魔法を吸収しているのか...!!...コイツら...ただの下民じゃない............!?...だが、)

 

《砂創成魔法"砂鎧の番兵"》

 

「ぐ.........!!」

 

「なに.......!?」

 

(な....まさか!?)

 

ノアが目を向けると、そこには、壁に埋め込んだ筈のアレクドラがノア達の目の前で魔法を発動していた。

 

「この晴れの舞台であのような立ち振舞い...何らかの処分は免れんぞ...!」

 

「............」

 

この光景に、ただ固唾を呑んで見守るしかないクラウス達。

 

オイオイ~~~何生温いこと言ってんだ金色さんよォォ

 

そう言うとソリドは魔法で巨大な弾丸を生成し始めた。

 

こういう図に乗った奴らには身体に覚えさせないとなァァ二度とおいたできないように.........!

 

下卑た笑いを浮かべてノアとアスタに向かってソリドは言い放った。

 

「あの一族の"恥さらし"も後で同じ目に会わせてやるよ!!!」

 

その一言で、アスタとノアの怒りが再び沸き上がる。

 

アスタは大剣を取り出し、ソリドの魔法を跳ね返す。

 

━━━ノエルに...謝れ!!!

 

「!━━━━━......!!!」

 

ソリドに跳ね返った魔法が当たった瞬間、

 

「消えろ......!!!!」

 

雷を纏った燦然と輝く王剣(クラレント)でノゼルの魔導書を切り付ける。

 

それにより、ソリドの魔導書の表紙にはクラレントによる傷が出来上がっていた。

 

この俺に...膝をつかせるだけでなく、魔導書に傷まで付けたなァァァ~~~~この下民風情がァァ━━━━!!

 

「うるせぇよ...!」

 

ノアがソリドを斬り捨てようとしたその時、

 

「「!!!!」」

 

ノアとアスタはとてつもない威圧感を感じ取る。

 

ソリド

 

ノゼル...兄様......!

 

下民ごときにそう容易く魔法を使うな............!

 

(何だ...この寒気━━━━......ヤミ団長とはまた違った冷たい威圧(プレッシャー)...!!)

 

(まるで鷹...いや、巨大な大鷲に睨まれたような感覚...!!...銀翼の大鷲...団長━━━━━...!!)

 

王族に逆らいし下民...どう裁いてやろうか━━━━━━━━━━...

 

このままでは、殺される...そう、二人が錯覚した時、

 

そこまでにしておけ...!

 

ノゼルの背後に立っていたのは、『紅蓮の獅子王』団 団長 フエゴレオンであった。

 

少年二人に恥ずかしくはないのか...!?シルヴァ一族よ............!!

 

「フエゴレオンさん...!」

 

「ミモザから聞いておった通り...貴様達なかなか面白いではないか...!」

 

アスタとノアの横には、いつの間にかレオポルドが立っていた。

 

よし喜べ!!このレオポルド・ヴァーミリオンのライバルにしてやろう!!

 

「「...へ?」」

 

突然の事態に状況が飲み込めないでいる二人。

 

「ヴァーミリオン...」

 

「ええ、フエゴレオンさんとレオポルドさんは私の従兄ですの」

 

ユノがミモザの従兄だと気付く。

 

「ユリウス殿がこの場にいることを許した者だ━━━━...下民といえど多少は認めてやっても良いのではないか...?」

 

「...まさか王族の者からそのような言葉が出るとはな.........ヴァーミリオン家もお優しくなったものだ...天空を舞う鷲が地を這う虫ケラをどう認めろというのだ...?」

 

「............!!」

 

まさに一触即発の状況、二人が睨み合ったと同時に窓が揺れ、壁に亀裂が入り、二人の背後にはそれぞれ大鷲と獅子の幻影(ビジョン)が見えるほどであった。

(な...なんという凄まじい(マナ)のぶつかり合いだ.........!!)

 

今まさに二人の戦いが始まろうとしたその時、

 

たっ...大変です━━━━!!

 

突如として部屋の扉が開き、宮廷魔導師が一人 大慌てで入ってくる。

 

王都が...王都が襲撃されています!!!

 

━━━━━━━━━━━━━

 

王都では爆発が起こり、

 

その広場では、先程の左目に布を巻き付けた男が高笑いしながら王都を襲撃したことに喜びを見せているのだった。

 

 



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ページ19 死体軍団(リビングデッド)の強襲

王都襲撃の知らせを受け、ノア達は戸惑いを隠せないでいた。

 

そんな王都での様子はというと、

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

至る所で爆発が起こり、住民達は悲鳴を上げ、逃げ惑う。

 

ハハハハハハハハハハ、壊せ壊せ壊せ壊せェェー!!!

 

男が死体を操り、王都を火の海へと変化させているからである。

 

俺様の価値も分からねぇ(モノ)は、壊れちまえ!!!

 

天を仰ぎ、高笑いする男。しかし、そんな光景を黙って見ている筈もなく、

 

現場に到着した魔道士達が応戦を始め、死体に攻撃を仕掛ける。

 

「気持ちの悪いヤツラめ...!一体何処から湧いて出た...!?この王貴界に侵入するなど...命知らずめ━...」

 

しかし攻撃を受け、身体に穴が開いた筈の死体達が魔道士目掛けて襲い掛かる。

 

...何だコイツら............!?」

 

「身体をもがれても...向かってくる━━━━━...!?」

 

死体なのだから当然である。

 

怯むな...!!我らがクローバー王国を...護

 

れねぇよ...!!テメェらクズじゃあ!!...失せろクズ、クズ、クズ...!!!

 

(何だ...!?この魔力は━━━━...!!)「ひ...

 

怯える魔導師に、地中から再び複数体死体が現れて魔道士達を恐怖に陥れる。

 

俺様より強いんだろ?なぁ...!?出て来いよ魔法騎士団━━━━!!

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

王都が...襲撃されているだと━━━━━!?

 

驚きを隠せない魔法騎士達だが、その中でもシレンだけは違った。

 

《岩石創成魔法"世界を語る模型岩"》

 

彼は、即座に魔法を発動し、王都の様子を魔法で再現した。

 

...これは...王貴界の立体模型...!?...現地の人間の声や魔力量まで...!魔をこの地域一帯に張り巡らせ同時にそれを可視化させているのか...!

 

「私の"魔花の道標"より遥かに高レベルですわ............!」

 

これにはクラウスとミモザも驚いている。

 

「...これ程の魔力量の軍勢が我々に気付かれず五ヶ所同時に......」

 

「どうやら相当な空間魔法の使い手によって一瞬の内に現れたようだな...」

 

フエゴレオンはその事に疑問を感じずにはいられなかった。

 

(だとしてもこの王貴界には護衛の魔道士によって交代制で常に魔法障壁が張られていて侵入は不可能...!!その魔法障壁の仕組みを分析して破った...!?もしくは護衛の魔道士に賄賂を渡した...!?)

 

そんなことを考えていたが、今自分達がすべき事はただ一つ。

 

(何にしても............とてつもない手練れに違いない━━━━━!!)

 

「今のメンバーをどう充てるべきか...」

 

「いやまずは城周辺の守りを━━━...」

 

フエゴレオン達が作戦を練っているが、

 

いや、コレ何待ち!?

 

焦れったいと感じたのか、アスタが大声を挙げる。

 

助けを求めてる奴らがいるのは充分わかった!!俺はもう行く━━━━━!!

 

町の人々を護る為に、アスタは走る。

 

「何処に行くつもりなのだアスタ...!まだ状況を把握し切れていないし...それにお前は魔力の感知が全く出来んのだろう━━━━!?」

 

クラウスがそう言ってアスタを止めようとするも、

 

音のデカい方に行く!!

 

それだけ言うと、王都へと走っていった。

 

「動物かお前は...」

 

「アイツ、ホント獣だな....」

 

呆れていたクラウスとノアだったが、

 

フハハハハハ!!面白ォォい!!貴様の力見せてもらおう!!

 

いや、アンタも行くのかよ!!!?

 

アスタを追いかけていったレオに対し、遂にノアがツッコミを入れてしまう。

 

「あー...もう!!!」

 

仕方ないと思いつつ、ノアもアスタとレオの後を追い掛ける。

 

「あっ...!」

 

走っていったノアを見て、届かないと分かっていても手を伸ばすミモザ。

 

(ノアさんにお礼...言いそびれてしまいましたわ...)

 

お礼を言いたかったが、今は緊急事態。事は一刻を争うのだからそんな余裕は無いと自分を律した。

 

私に指揮されるのは癪だろうが...聞け!!魔法騎士団員!!

 

フエゴレオンが魔法騎士達に指示を送る。

 

私はレオと暴牛の小僧達を追い、合流した後に北区に向かう!!暴牛の娘も共に来い!

 

フエゴレオンは魔法で獅子を作り出し、ノエルを後ろに乗せる。

 

『銀翼の大鷲』は敵の魔力量が最も大きい中央区を頼む!!

「............いいだろう...」

 

ノゼルは何か言いたげだったが、自身のプライドよりも今は優勢させる事があると理解している為、指示に従う。

 

『碧の野薔薇』は東区を!!

 

「男の指図は受けたくはないが...仕方無い」

 

シャーロットもノゼル同様、指示に従う。

 

『金色の夜明け』は二手に分かれ、北西区と西区に向かってくれ!!

 

『金色の夜明け』も指示に従う。

 

王都を守れないとなれば魔法騎士団の恥だ!!!絶対に敵を逃すな━━━!!!

 

5組の騎士団達が窓から王都へと向かい、その場から立ち去った数分後、

 

テーブルの下から『黒の暴牛』の一人チャーミーが食べ物を口にしながら現れる。

 

((食べ物目当てに)アスタくん達にくっついて(・・・・・)王貴界に入ったはいいけど...何やら大変なことが起きてるよーだぞ......?)

 

「ここはこのチャーミーの出番だねっ!活躍すれば更なる高みの料理が食べられるかもしれないっっ!!」

 

そう言って、ノア達と合流するのかと思いきや、

 

「戦の前にまずは腹ごしらえをしなければっっ」

 

料理の匂いに釣られて何処かへと走っていく。

 

やはり彼女は平常運転のようだ。

 

━━━━━━━━━━━

 

その頃、王都では...

 

死体が王貴界の住民達を襲い、殺し、パニックとなっていた。

 

お嬢ちゃん...!...クローバー王国は好きかい?

 

一人の少女を壁に追いやり、眼帯の男がそう訪ねる。

 

「............大好きよ...!...だから............お願い......もうやめて............!」

 

少女の悲痛な訴えに男はニヤリとほくそ笑む。

 

俺は大ッッ嫌いなんだよ!!!...だから街も人間もお嬢ちゃんも壊しちまうのさ!!

 

男が少女に襲い掛かろうとしたその時、

 

じゃあ俺が護る!!!

 

炎の中から大剣を携えてアスタが現れる。

 

アスタの男との戦いが始まろうとしていた。

 

━━━━━━━━━━━

 

一方、アスタとレオを追い掛けたノアはというと、

 

「クッソ、見失った!アイツら足速ぇな....」

 

ハァ、ハァと息を切らして踞るノア。

 

「仕方無い...今は住民の避難を優先...!!」

 

その時、ノアの瞳に映ったのは、一人の女性に襲い掛かるローブを纏った男の姿。

 

「死ね...!!!」

 

憎しみが籠った言葉を放ち、女性を殺そうとした時、

 

「!?...一体、何処から...!?」

 

男と女性の前に一振りの剣が突き刺さる。

 

「オイオイ、それは無いだろ。」

 

「誰だ!?」

 

「それはこっちの台詞だ...!」

 

ローブの男と対峙するノア。

 

此方でも戦いが始まろうとしている。




ローブの男:見た目はMTGの精神を刻む者 ジェイス


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ページ20 強敵

「もう一度だけ聞く...何者だ...?」

 

突き刺した剣を戻し、新しい剣を召喚し、襲撃犯の一人であろう魔導士に対峙するノア。その隙を突いて、襲われた女性は逃げ出した。

 

「フ、フフフフフ....!フハハハハハ!!!」

 

魔導士は失笑し、次第に高笑いへと変化していく。

 

「答えるつもりは無い...!」

 

そう言ったと同時に、魔法を発動する。

 

「ハァッ!」

 

その魔法はノアが今まで見たこともない程に蒼くそれでいて美しさを感じる炎であった。その蒼く煌めく炎をノアに向かって放つ。

 

「こんな魔法...!」

 

ノアは魔導士が放った蒼い炎を吸収しようと炎魔法の武器である"炎魔の剣"を炎に向けるが、

 

「何っ!?」

 

炎は吸収されるどころか、益々勢いを増し、ノアを囲う様に徐々に展開される。

 

(コレに囲まれるとヤバい...!!!)

 

第六感で危険と判断したノアは、即座にバックステップで後ろに飛んで避ける。

 

「...チッ」

 

魔導士は避けたノアを忌々しそうに睨んで舌打ちをした。

 

(あの炎、吸収出来なかった...つまり、普通(・・)の炎魔法ではない...だけど、それが何なのかは分からない...どうすれば...)

 

出会った事の無い魔法を使う魔導士との対峙に困惑するノア。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

一方、アスタはというと...

 

「おいでなすったと思ったら..."黒の"...しかもガキじゃねぇか.........!」

 

男はアスタを見て、"黒の"と言った。つまり、男は魔法騎士団の事をよく知っているという事である。

 

そこから少し考えれば襲撃をした何かしらの理由を考察する事が出来る....と、ノアならば考えるのだが...

 

その子から離れろイカレ野郎!!

 

アスタは頭に血が昇っており、そんな事は少しも考えていない。

 

バカがぁ...!!そんな攻撃じゃ俺様の軍団は止められねぇよ!!

 

男は斬られた死体を動かそうとするが、

 

「......なん...だと...!?」

 

斬られた死体達はピクリとも動かず、何が起きたのか分からないといった様子で男は戸惑いを見せた。

 

「!」

 

その隙を突いて、少女はアスタに向かって頭突きする形で逃げてくる。

 

「怖かったよぉ~」

 

「素晴らしい行動力!」

 

「━...そうか...!テメェが例の(アンチ)魔法の......!」

 

どうやら男はアスタの事を知っているようだ。

 

「あ~~~~あ~~~~...フザケんじゃねぇぞぉ...」

 

頭を掻きむしり、苛立ちを隠そうともしない男は、

 

テメェみてーな魔力の無いクズはお呼びじゃねーんだよ!!

 

━━━━━━━━━

 

王都中央区には、

 

銀翼の大鷲だァ━━━━!!

 

「民よ...我々の後ろへ下がれ...」

 

『銀翼の大鷲』の団員達が救援に...

 

何だコイツら...!倒しても起き上がってくる━━━━...!

 

「............」

 

「戻ったらデザートを食そうと思っていたのに...食欲が失せる見た目ですね~」

 

西区は『金色の夜明け』が、

 

「コイツら気持ち悪いっスよ姐さん!」

 

「そうだな...見ているだけで吐き気を催しそうだ...」

 

東区には『碧の野薔薇』が、

 

「ものすごい数ですわ...!」

 

「どこかに弱点でもあるのか...?」

 

そんなモノを探すのは手間だ...!

 

北西区には、西区同様『金色の夜明け』が、

 

「コイツら...魔力は宿っているが...生きている人間ではないな...!」

 

そして北区にはノエルと『紅蓮の獅子王』が

 

それぞれの区画にて対応し始める。

 

...ならば...

 

立ち上がれぬ程に粉砕するのみ!!!

 

この時、アスタとノア以外の全員の考えが一致した。

 

《炎魔法 "螺旋焔"》

 

我が魔法、受けてみよ!!

 

目障りだ!!

 

《水創成魔法 "斬禍の海蛇"》

 

姐さんを気持ち悪くさせてんじゃなーい!!

 

《土創成魔法 "暴れ地母神"》

 

《硝子創成魔法 "硝子の花(ヴェール フルール)"》

 

「せめて優雅に美しく散りなさい」

 

《霧魔法 "霧現分身"》

 

弄び甲斐の無い連中ね

 

「我が魔法の前に砕け散れ!!」

 

《砂創成魔法 "砂鎧の重装兵"》

 

私に触れる事は誰も許さん...!!

 

《荊創成魔法 "驅狩(くが)りの荊刺樹(おどろじゅ)"》

 

《 炎創成魔法 "大火炎獅子の咆哮(レオ・ルゼーナス)"》

 

燃え尽きよー!!!

 

「罰を受けよ」

 

《水銀魔法 "銀の雨"》

 

有象無象がこの国の民に牙を剥いた罪のな

 

負傷なさった方は私のところへ...!

 

少しずつではあるが、魔法騎士団全員が一つ一つの問題に対処していく

 

━━━━━━━━

 

おおお!!!

 

アスタも今は一人の少女を守りながら、男の操る死体達を次々に斬り捨てていく。

 

その様子を『紅蓮の獅子王』団の団員のひとり レオが見ていた。

 

(━━━あの男...!まさかひたすら剣であの数を薙ぎ払い尽くすとは...何という体力...!!何という愚直で馬鹿げた戦い方...!!)

 

フフッ...ハハハハハハ...面白すぎるではないか━━━━!!それでこそ我がライバルに相応しい!!

 

アスタの愚直ながらも真っ直ぐな戦いに感銘を受けるレオ。

 

(俺の魔法は自分の魔を死体に張り巡らせ、意のままに操作する死霊魔法...!屍の体内中の魔をアイツの攻撃は一瞬で断ち切り消失させやがる━━━━━━...!!)

 

なんで...罪の無い人達を襲いやがったコノヤロー!!

 

アスタの問いに苛立ちを見せる男、

 

絶対にオマエを倒す━━━━━━!!

 

その時、アスタの眼前に強い光が現れ、その中から光の弾が射出される。

 

No.4......ジミー...!

 

「━━━━━━━━...」

 

突如として、黒と白の包帯等を纏った死体が黒く変色した地面から現れる。

 

罪が無いだと...?俺の力が分からない奴らは...全員...罪人だ...!!

 

━━━━━━━━━━

 

ハァッ!!!

 

炎魔の剣での吸収が出来ないと理解したノア、再び蒼い炎が彼を襲う。

 

(炎魔の剣での吸収は不可能...だったら...!)

 

剣を戻し、次にノアが召喚したのは 《水魔法武器 "水神の剣"》であった

 

「コレなら...!!!」

 

しかし、

 

「なっ...!?」

 

蒼い炎は消えるどころか、益々勢いを強くしていく。

 

「くっ...そ...!!!」

 

忌々しげに唸るノア、仕方なく剣を戻して父王の剣を召喚し、投げる。

 

それと同時にノアは父王の剣の元へと移動した。

 

(どういうことだ?....炎魔の剣での吸収は不可能、水神の剣での消火も出来ない...この男の魔法はなんなんだ!?...一体、コイツは...!?)

 

「不可解...といった様子だな、魔導士よ。」

 

「!」

 

突然、ローブの男がノアに話し掛けてきた。

 

「...そりゃあな」

 

悩んだ末に会話を試みる事にしたノア、それが奴の魔法を攻略する鍵になると考えて。

 

「なに、簡単な事よ...煉獄の炎(・・・・)が水などで消えるか?同じ属性だと思われた(・・・・)炎魔法で吸収できるか?...不可能だ....私の魔法は、私の怒りそのもの...簡単に消える事はない...!」

 

(!...成る程ね、なんとなくだけど分かった....コイツの魔法は...コイツの怒りや憎しみ、悲しみ等の負の感情が原動力となっている...だからこそ、炎魔の剣での吸収や水神の剣での消火も出来なかったんだ...)

 

男の魔法がどういうモノなのかを理解したと同時にノアは、どうにも腑に落ちないと思った。

 

(だが、有り得るのか?....感情が魔法を変える(・・・)なんて...?)

 

だが今現在、ノアの疑問に返答してくれる者はこの場には居ない。

 

「仕方ない...」

 

そう呟き、ノアは魔導書から複数の刀剣を周囲にばら蒔く...いや、突き刺したと言う方が近い。

 

「俺はアンタを倒す...そして、この国を守る...それが俺の...魔法騎士としての役目だ...!」

 

「ほう?私の魔法を攻略するとでもいうのか?」

 

「いや、取り敢えずは...」

 

ノアは剣を消して、自身の周りにファントムソードを展開する。

 

当たって砕けろ作戦だ!!!



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ページ21 激突する想い

「ほう...私の魔法を...?」

 

当たって砕けろ作戦と名付けたノア それを聞いてローブの男はとんだ虚勢だとノアを嘲笑う。

 

「やってみろ...やれるものならばな....!!!」

 

蒼い焔がノアに向かっていく。

 

対してノアは周囲に飛ばした武器の一つに移動し、其処から攻撃を仕掛ける。

 

「甘い!!!」

 

男はノアの攻撃を焔で防ぎ、同時にノアに纏わせようとする。

 

「なんの...!!!」

 

しかし、ノアはバックステップで回避し、再び他の武器に翔んでいく。

 

「そんな小細工がいつまでも通用すると思うな...!」

 

男が焔をノアに向かって放つ。

 

ノアは先程と同様、回避して次の武器に翔ぶ。

 

ノアはこれを延々と繰り返し、攻撃のチャンスを着々と狙っているのだ。

 

だが、

 

「時間稼ぎのつもりか?....そんな作戦で私が倒せると思ったか...!!!」

 

男は何を思ったのか、自身の頭上に向かって焔を放出した。すると、

 

「!...しまった...!!!」

 

何と男の頭上からノアが剣を片手に落ちてきた。

 

「ぐあっ...!!!」

 

ノアは蒼い焔に四肢を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられてしまう。

 

「がっ!あがっ!」

 

ガン!ガン!、と力強く叩きつけられ、身体だけでなく頭部、顔面からも血が滲んでいる。

 

「.....」

 

ローブの男はこうなることは予測済みだと言いたげに腕を組んで目を閉じ、黙って焔を操作する。

 

「...終わったか...」

 

焔が動きを止めると其処には、

 

「......」

 

全身から血を流しながら、地に伏したノアが倒れていた。

 

「もう少し粘ると思っていたが...この程度とは...」

 

失望したと言いたげにため息をつき、その場から移動しようとするローブの男、

 

果たして、ノアは立ち上がる事が出来るのか?

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「今回の獲物はあのクソガキだ...ジミぃ~~~~~~!」

 

男が召喚した手足の長い死体 ジミーがアスタに立ち塞がる。

 

「さっきから何かキモいのいろいろ出しやがって...ズリーぞコノヤロォォォ...!」

 

その時アスタは魔力弾がかすった頬に違和感を感じた。

 

「............」 (血が...!)

 

血が流れ出し止まらないのだ。

 

今撃ったのはジミー特製の"呪力"の込もった呪弾だ...!かすり傷でも血が止まらなくなるぜ...?せいぜい気ぃつけるんだな!!

 

再びジミーの呪弾がアスタを襲う。

 

(デカイ剣じゃ振り遅れる━━━━!!)

 

だらぁぁぁぁ!!

 

アスタは大剣を魔導書に戻すと、片手剣を取り出して呪弾を全て斬る。

 

「魔力が無いクセに煩わしいガキだ...だがジミーの呪力はまだまだ残ってるぜ...?」

 

ジミーの周囲に呪弾が装填される。

 

「━━━...っと...オマエの前に...」

 

男はアスタより右代にいた先程の少女に狙いを定めた。

 

ジミー!奥の目障りなガキ片付けとけ!!

 

アスタではなく少女に向かって呪弾が飛んでいく。

 

「え...」

 

アスタはその攻撃を全て斬り捨てる。

 

誰、狙ってる...!

 

アスタの顔に怒りが浮かび上がる。

 

「あ~あ~そうだったな、オマエら騎士団は国民を守るんだったな...あのガキを狙えジミぃ━━━━━!!!

 

再びジミーの呪弾が飛んでくるが、アスタが全て斬っていく。

 

おおおおぉ

 

「ハハハハハ!!さっさと見捨てちまえよ━━━━!!」

 

だが、やはり撃ち漏らしはあるものでアスタの脇腹に呪弾がかする。

 

「アララ、他人守る為に自分が傷ついてちゃあ世話ねぇな!!」

 

「お兄ちゃん...!」

 

そんなガキ守って何になるっつーんだよ偽善者野郎が━━━━!!!

 

何にならなくても護る!!!

 

アスタの強い意志に男は苛立ち、呪弾の出力を上げる

 

そーかよ、じゃあそこで出血死するまで剣振り続けてろバカがぁ━━━━!!

 

「アスタ━━━...!」(助けないと...)

 

少女を護る為に立ち向かうアスタを見つけたノエル。しかし、

 

ノエルは、先程ソリドに言われた言葉を思い出し、動けずにいた。

 

(...私...なんかが.........)

 

そんなノエルに死体軍団が襲いかかる。だが、

 

「!」

 

死体軍団の真横から巨大な炎が突如として出現し、彼らを呑み込む。

 

「.........」

 

それは『紅蓮の獅子王』団 団長フエゴレオンが放った馬堀海岸であった。

 

...あっ...ありが...

 

集中━━━━━!!!!

 

「!」

 

フエゴレオンはノエルに対してチョップで渇を入れる。

 

「~~~~~~~~............」

 

痛みに悶えるノエルに対し、フエゴレオンは

 

暴牛の娘...まさかオマエの兄に言われたことに臆しているのか...?

 

「............」

 

図星だった。ノエルはその事を思い出し、直ぐにアスタの元へと駆け付けられなかった。

 

そんなヒマは戦場には無い!!一つの判断ミスで一つの命が失われるぞ!!

 

「━━━━...」

 

フエゴレオンの最もは言葉にノエルは黙って聞く事しか出来なかった。

 

オマエは今此所に魔法騎士団員として立っているのだ━━━自分の意志で魔法騎士団に入ったのならば...覚悟を決めて強くなれ!!.........恥ずべきは弱い者ではない...弱いまま(・・・・・)のものだ!!

 

フエゴレオンの「弱いままの自分でいるな」という言葉にノエルは、

 

(━━...そうよ...アイツが、アイツらが証明してくれてるじゃない...!)

 

下民と揶揄されても、決して腐る事なく、目の前の巨大な悪にただひたすらに立ち向かっているアスタ。今は別行動をとっているが、アスタと同様に襲撃犯の一人と戦っているノア。

 

二人の背中を思い浮かべ、自分の気持ちを理解する。

 

(アイツらだって......私だって...強くなれる!!!)

 

弱い奴は弱いまま死ぬんだよ━━━━!!!

 

「ぐ......!!」

 

何とか呪弾を斬ってはいるが、アスタは疲弊している様子。

 

そして、先程呪弾がかすった脇腹からの出血の痛みでふらついてしまい...

 

(しまっ━━━━)

 

撃ち漏らした呪弾が少女に向かって、

 

《水創成魔法 "海竜の巣"》!!

 

「あぁ...!?」

 

翔んできたが、ノエルの発動した魔法で少女は護られた。

 

ノエル━━━!!

 

何やってるのよバカスタ━━━━!!見てらんないわねまったく......!助けてあげるから有り難く思うのね!!

 

相変わらず上から目線だがアスタは何処と無く嬉しそうに笑う。

 

自由に動けるアンタは止められっこないわ━━━行きなさい!!

 

「調子戻ったみてーだな」

 

ガキ共がぁ━━━━━!!

 

男が怒り、大量の死体を喚び出す。

 

図に...乗るな!!

 

アスタに襲い掛かろうとしたとき、

 

 

アスタの背後から二柱の炎の渦が死体を焼きつくした。

 

助太刀してやろう我がライバルよ!!

 

炎を放ったのはレオであった。

 

外道に一太刀浴びせてやれ!!オマエの力見せてみろ━━━!!

 

「え━━━━━━と...ありがとうございまァァァァす!!

 

アスタはレオが誰なのか分かっていない様子だが、

 

言われなくともォォォォォ!!!

 

再び発射された呪弾、アスタはそれを召喚した二振りの大剣と片手剣を持ちながら回転し、小さな竜巻を起こしながら斬っていく。

 

うおおおおおらァァァァ!!!!!

 

そして遂にジミーを斬り、呪弾の発射を阻止することに成功する。

 

「何という魔導士らしからぬ戦い方だ!!面白過ぎるぞォ━━━!!フハハハハ!!」

 

「...............は...............?そんなフザケた攻撃でのされてんじゃねぇぞー!?ジミぃ~~~~~~」

 

つべこべ言ってねーで......

 

次はオマエ自身が、掛かってこいよ!!!

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ローブの男が背を向け、立ち去ろうとしたその時

 

「待てよ。」

 

「!!!」

 

男が振り向くと、

 

「ハァ...ハァ...ハァ...」

 

息も絶え絶えにノアが立ち上がり、男を睨み付けていた。

 

「ほう...これは驚いた、まさかあれだけの打撃を受けながら立ち上がるとは...」

 

「これでも...ハァ...頑丈な方なんでね...ハァ...」

 

(...もはや虫の息の筈だそれなのに奴は立ち上がってくる...フフフ、面白い男だ)

 

「ならば、貴様が倒れるまで攻撃を続けるまでだ」

 

「やって...ハァ...みろよ....俺は、絶対に...ハァ....諦め...ない...!!!」

 

出血が多く、これ以上戦えば確実に死ぬかもしれない。筈なのにこの少年は自分に立ち向かってくる。

 

その事実が何故か嬉しく感じるローブの男と、

 

(何としてでも...此所で、食い止める...!!!)

 

自分を犠牲にしてでも男を捕らえようとするノア。

 

果たして...勝つのは一体、どちらなのか━━━━!?

 

 

 

 

 

 



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ページ22 一騎打ちの末に...

遅くなりました。続きです。


「フ...フフフ、フハハハハ!!ハーッハッハッハッ!!!」

 

高笑いをする魔導士

 

「何が...可笑しい...?」

 

「そんなボロボロの身体で私を倒すだと?これが笑わずにいられるものか...滑稽極まりない言い分だ。」

 

「随分、言ってくれるな....侵略者(インベーダー)...だがな、俺だってまだまだやれる」

 

ノアは再び、ファントムソードを展開し、魔導士を睨む。

 

「あんま舐めてると....!」

 

その時、魔導士の頬を一つの剣が掠めた。

 

「....な......!?」

 

反応出来なかった。その事実が男を驚愕の感情へと駆り立てる。

 

「これが俺の出せる最高速度だ...さっきまでの態度を続けるなら...」

 

「痛い目見るぞ...!!」

 

先程は感じなかった圧倒的な威圧感を今現在、ノアから感じている。

 

その事も魔導士にとっては理解を越えた出来事に感じられる。だが、

 

「面白い.......!!!」

 

魔導士は恐怖に怯えるどころか、まるで獲物を見つけた肉食獣の如く笑みを浮かべた。

 

(久々に現れた....私と同等に闘える魔導士を.....!!!)

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

一方、チャーミーは...

 

「料理長何やってるんですか!早く避難しましょう!」

 

城の調理室へとやってきていた。

 

「馬鹿野郎!!!料理人が途中で料理ほっぽって逃げれるかぁぁぁ!!どんな状況でも最高の料理を届ける!!それが一流よ!!」

 

料理長らしき男はそう言って料理を作る手を休める事はない。

 

「いやもう騎士団の方々出払ってて誰もいないですよ!?」

 

「なにぃぃ~~~~~!?俺のメインディッシュを食べずに行くとは一体何事だぁぁ━━━━━━!?」

 

「いやだから国の一大事です!!」

 

早く逃げようと言う料理人と作り続けると言う料理長

 

「そのメインディッシュとやら...あたしに食べさせてくださぁぁ━━━━━い!!!」

 

その様子を伺っていたチャーミーがメインディッシュという言葉に反応して飛び出してくる。

 

「な...何だこのチンチクリンは.........?」(...だが、騎士団のローブを着てるってこたぁ...一応 戦功叙勲式に招かれるってことか......それに━━━━...)

 

料理長はチャーミーの目に宿る炎を見て、只者ではないと感じる。

 

...まぁ、実際はただメインディッシュを食べたいだけだと思うが...

「よぉぉぉしわかったぁ!!待ってろ今最高のメインディッシュを作ってやる!!」

 

「いやったああ━━━━!!!」

 

「いや、早く逃げましょうよ~~~~~~!!」

 

果たして、こんなやり取りでチャーミーは魔導士として活躍出来るのか...?

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

北西区

 

「フン...粗方片付いたか...」

 

「...」(この程度で手こずらないようにもっと強くならないと...)

 

「ふぅ...」(キ...キモチ悪かったですわ......!)

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

西区

 

「コイツら...一体何だったのだ...?」

 

「............」

 

「何にせよ...我々の敵ではなかったですね~」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

東区

「姐さんを襲おうなんて愚か者共めっ!姐さんに触れていいのは私達『碧の野薔薇』の女だけなんだぞ~~~~!」

 

「ソル、誤解を招く言い方はやめろ」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

王都中央区

 

「どうした...もう終わりか━━━━!?」

 

 

「遊び足りませんわねぇ」

 

「............」

 

(おかしい...こんなに弱い者共を放って敵は何がしたい...?本陣は何処にいる...?)

 

ノゼルの考えは当たっている。

 

確かに数が多くても相手はただの死体、そこまで強い筈がないのだ。

 

「まさか...」

 

何かに気付いたノゼル...しかしその時、

 

「━━━━━...全員...マーキングエリアに入ったようだな...」

 

誰かがそう呟いた。

 

その瞬間、ユノの魔導書(グリモワール)は光を放ち始める。

「!」

 

それに気付いたユノは何かヤバいと悟った。

 

━━━━━━━━━━━

 

「...陽動...つまり、」

 

振り向くノゼル。

 

「やはり狙いは...王か━━━━!?」

 

そして━━━

 

「━━━━━...!!」

 

「━━━━━━...何...!?」

 

「これは...」

 

「しまっ━━━━...」

 

各区画に散らばっていった魔法騎士団の足元には、いつの間にか黒い穴のようなものが出来上がっていた。

 

「お疲れ様...騎士団の諸君━━━」

 

空間魔法 "ブラックアウト"

 

次の瞬間、その場にいたであろう騎士団の魔導士達は忽然と姿を消していた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

消えた魔導士達はというと...

 

「何処ですかここは...!?」

 

「............少なくとも王都から数百キロメートルは離れているようだ...」

 

「やられたああああ」

 

「...敵に相当な空間魔法の使い手がいるとわかっていたが...まさかここまでとは...!」

 

「~~~~~~~~~...不覚━━━━━━━━━━━!!!!」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「魔法騎士団ともあろう者が揃いも揃って...あんなトラップに引っかかるなんてバッカなんじゃな~~~~~い」

 

魔法騎士団達が消えた後に、一人の魔女が箒に乗って現れる。

 

「溢れた奴らと遊ぶハズだったけど...意味なかったわね~~~」

 

突然現れた黒衣の魔女に市民達はどよめいていた。

 

「さて...今の内に若いマナ(エキス)もらっちゃお~♪」

 

そう言って魔女は市民から次々に生命力を吸い取っていく。

 

「このバケモノめ!!何て事を━━━━...」

 

一人の男が魔女に向かってそう言い放つ。

 

「誰がバケモノだ!!死ネ!!!」

 

魔女は男の言葉に怒り、生命力を吸い取ろうとしたところ...

 

「!」

 

男と魔女の間に竜巻が出現する。

 

「ア~~~~~ラ、あの空間魔法から逃れたヤツ...いたのね......!」

 

其処にはノアが魔導書を開き、魔法を発動させていた。

 

「アラぁ~~~~~!超イケメン♪超タイプ~~~♪私と楽しい事しなぁ~~~い???」

 

「その人達から離れろ...オバサン(・・・・)

 

だがユノは、聞こえていなかったかのような反応で魔女を睨み、そう言った。

 

「......殺す!!!

 

笑顔だった魔女の表情が一瞬にして怒りへと変化する。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ノアはというと...

 

「.......」(此処は....これで...!)

 

《武器魔法 "リボルバー"》

 

次にノアが魔導書から召喚したのは銃口が刃と化している大きな拳銃のような武器であった。

 

「なんだ?その武器は...?」

 

「あぁ、この武器はな...」

 

見たこともない武器に戸惑う男、対するノアはニヤリと笑みを浮かべると一瞬で男との距離を詰める。

 

「!!!」

 

「こう使うんだよ!!!」

 

もう少しで剣先が男に触れるといった距離で男はなんとか回避に成功する。

 

(何だ...?今の一瞬、いったいどうやって私との距離を詰めた...!?)

 

「まだまだ行くぞ...!」

 

「何っ!?」

 

続けてノアの連撃が始まる。

 

(速い...!こうも立て続けに距離を詰められれば、私とて魔法を発動できない....もし発動すれば私とて無事ではすまない....ならば!)

 

「ハァッ!!」

 

「何っ!?...ぐっ!」

 

男はノアと同時に距離を詰め、掌底でノアにカウンターを入れる。それがノアの顎にクリーンヒットしてしまい、頭から後方へと吹っ飛ばされてしまう。

 

「......。」

 

男は、暫くの間ノアが飛んでいった方角を見つめていた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

吹っ飛ばされ、とある壁の中に侵入してしまうノア。不本意に開けてしまった穴は即座に瓦礫の中に埋もれてしまう。

 

「だぁー!!!クッソ、やっぱアイツ強ぇな...」

 

このままでは自分は確実に負ける。そう思い、どうすべきかと悩んでいたところ...

 

「ん?...そういやここ...何処だ?」

 

飛ばされて飛んできた場所はノアの見たこともない場所であった。

 

「えー...ここ、王都だろ...こんな場所あるのか...?」

 

そう呟いたノアも王都に来たのは今日が始めてなので王都の街中の事など何も知らないのだが......

 

取り敢えず、出口を探そう。ノアはそれだけを考え、その場所からの脱出を考え始める。

 

ノアが侵入した場所の中は薄暗く、灯りがなければ奥へは進めなさそうであった。

 

「あれ?...これって....」

 

更に奥へと進んだノアが見つけたもの...それは魔宮の宝物庫の壁の中にあったあの墓所と同じものであった。

 

「これも、あの時の...?」

 

試してみよう。そう思い、手を翳す。

 

すると墓所から両手斧の幻影が現れ、それがノアの中へと入っていく。

 

「この感じ...!」

 

あの時、父王の剣を手に入れた時と同じ感覚が思い起こされる。

 

そしてノアの魔導書が開き、新たなページが追加される。

 

「修羅王の刃....斧なのに刃か....ファントムソードって色々な種類があるんだな....ぐ...!?」

 

突如、ノアを激しい頭痛が襲った。

 

「なん...っだ....この...痛みは!?」

 

今まで感じた事の無い程の強烈なまでに激しく、そして響くような痛みに踞るノア。

 

(父王の剣の時には無かったこの痛み....いったいこれは...!?)

 

「ぐっ...アアアアアアアアアア!!!!!」

 

まるで、脳に直接文字を彫られているかのような痛みを感じながらも必死にその場から遠ざかろうとするノア。だが、突如現れた激痛に耐えられずその場で失神してしまう。

 

「............」

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「............」

 

魔導士の男は掌底で吹き飛ばしたノアが戻るのを待つかの如く、じっとノアが飛んでいった方角を見つめていた。

 

「所詮はこの程度か...」

 

そう呟き、背を向けた瞬間

 

「おい、待てよ...!」

 

「!!!」

 

突然聞こえた声の方向に振り向くも、誰もいない。

 

「いったい何処を見てるんだ?俺は此方だ。」

 

「!!!」

 

もう一度振り向くと、其処には両手斧を担いだノアが男の眼前に立ちはだかっていた。

 

「貴様...それはまさか...!」

 

男はノアの担いでいる斧を見ると顔色を変えた。

 

「?」(何だ?今までに無い反応だな...この斧の事、何か知ってるのか?...まぁ、別にいいか......それよりも今は....!)

 

男を一瞥し、担いだ斧を天高く投げる。

 

(何をする気だ......?)

 

男は、ノアがどんな手で立ち向かってくるのかと身構える。

 

が、何故か修羅王の刃に目が惹かれてしまい、そちらに目をやってしまう。

 

それが命取りになるとも気付かずに...

 

(しまった...!)

 

気が付いた時にはもう遅く、男の眼前にいたノアは音も立てずにその場から姿を消した。

 

「ぐっ...!」

 

そして次の瞬間、男の背後からノアがリボルバーを手にして斬り上げる。

 

「ぐはっ...!!!」

 

「......ラフティバイド...!!!」

 

男を斬り上げ、続けて攻撃を仕掛ける。

 

「ハアアアアアアアッ!!!」

 

男の目の前に現れ、その場で回転を始めるノア。

 

それと同時に彼の周りで爆発が起こる。

 

「フェイテッドサークル!!!」

 

「ぐふっ!!?」

 

今までのお返しとばかりに連撃で男を追い詰めるノア。

 

「まだまだ!」

 

《武器魔法 "クライム&ペナルティ"》

 

即座にリボルバーから変更した武器。造りはリボルバーに酷似しているが、剣先が二本に別れた造りとなっており、形が異なっている武器である。

男よりも早く地上に降り立ったノアはクライム&ペナルティを天高く掲げる。すると剣先から光が現れ始めた。

 

「ブラスティングゾーン!!!」

 

「ぐうう...!!!」

 

地面に勢いよく叩きつけられ、これで終わりかと思われたノアの連撃。しかし、これで終わりではなかった。

 

《武器魔法 "ライオンハート"》

 

次にノアが手にした武器は、リボルバーやクライム&ペナルティとは造りがかなり異なる武器であり、剣先は蒼白く輝いている。

 

「ハアアッ!!!」

 

ライオンハートの剣先に光が集まっていく。

 

次の瞬間、再び空へと打ち上げられた男。ノアの連撃によるダメージが蓄積していることで動けず、ノアの攻撃を防ぐ手立ても無くなっているためされるがままの状態である。

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!」

 

幾度も男を斬りつけるノア、再び剣先に光が集まる。

 

そして....

 

「エンドオブハート!!!!」

 

斜め一閃に男を斬り、地上に降り立ったノア。

 

「今までのお返しだ、この野郎...!」

 

「............」

 

「どうした、その程度か....?」

 

その場に倒れ込んだ男に対して更に挑発をするノア。

 

「いいや...」

 

「!」

 

「まだだ...!」

 

「...頑丈だな...」

 

「それはこちらの台詞というものだ、私から受けた攻撃で...何度もダメージを受けているというのに....何度も立ち向かってくる...貴様も頑丈ではないか」

 

「...そうかもな。」

 

暫しの沈黙の後、男の方から口を開いた。

 

「...少年、名は何という...?」

 

「...ノアだ...ノア・レイダス......アンタは...?俺の名を聞いたんだ....俺からも、名を聞いておきたい。」

 

「...いいだろう。私はジェイド....憶えておけ....私の生涯最大の強敵よ!!!」

 

そう告げると、ジェイドは構えを取り、沈黙を貫く。

 

「.........」

 

それはノアも同じであった。

 

そして遂に、

 

『!!!』

 

建物が崩れ、その瓦礫が地に落ちた瞬間、二人は動いた。

 

『ハアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』

 

先に動いた方がこの勝負に決着を付けられる...!!! そう感じている二人はその時だけは戦いを楽しんでいた。

 

そして、先に動いたのは、

 

「ぐっ...!!!」

 

ジェイドの方であった。

 

「私の勝ちだ...良き戦いだったぞ、ノア。」

 

そのまま動かないノアにそう告げるジェイド。

 

「あぁ、どうやらそうみたいだな......勝負にはな(・・・・・)。」

 

「!!!」

 

ノアの手には、先程握っていた剣ではなく紫の短剣が握られていた。

 

《闇属性武器魔法 "闇の短刀(ダークナイフ)"》

 

どうやらノアは動かなかったのではなく、動けなかった(・・・・・・)のだ...自身の拘束魔法によるデメリットで、

 

「勝負を捨て、自身の利益を優先したか...全く、利己的な男よ。」

 

「魔法帝へ近づくには、アンタを倒すよりも捕らえた方が良いと、あの瞬間気付いた...だから俺は勝負を捨て、拘束することにした。」

 

「...いいだろう、だが、その時は必ず貴様を殺す....!!!覚悟しておけ...!!!」

 

「ハッ、上等だ.........!!!」

 

《拘束魔法 "闇の呪縛"》

 

「....っあー!!!やっと....やっとだ、クッソ...!」

 

ジェイドを拘束し、緊張の糸が解けたノアは安堵からかガッツポーズをして笑顔になる。

 

「さて、と....次は...」

 

捕らえたジェイドを城まで運ぼうとするが、

 

(あれ...?)

 

突如として、身体がふらつき、その場に倒れ込んでしまうノア。

 

(あー....成る程、ここで限界(・・)ってことか....)

 

そう、ノアの言うとおり彼はジェイドから受けた物理的ダメージとファントムソードを含む自身の武器魔法の連発によりかなり疲弊していたのである。

 

先程まではジェイドとの戦いに集中していた為、ノア自身も気付かなかった様子だが、今はジェイドとの一騎打ちも終わり、安堵した事で緊張の糸が解れた為その場に倒れ込んでしまったのだ。

 

(あー...くっそ、あと少しだってのに......)

 

身体を動かそうとするも、ピクリとも動かない。それどころか段々彼を睡魔が襲う。

 

(チクショウ、ここで...リタイアかよ......)

 

少しずつ意識を手放すノア.....果たして、彼は此処までなのか...?



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ページ23 ユノの思い

ジェイドとの戦いにより、倒れてしまったノア。

その一方で彼のライバル ユノもまた、襲撃してきた魔導士達の一人と戦っていた。


「誰がオバサンだぁぁぁぁ!!!」

 

黒衣の魔女が自身の魔導書(グリモワール)を開き、魔法を発動させる。

 

ユノはそれを風魔法を使い、悉く回避する。

 

「様々な呪詛を込めた呪弾よ━━━!!何が起きるかは当たってからのお楽しみ♪」

 

「お前達は何なんだ...何が目的で攻めてきた!?」

 

「あーら、おしゃべりなんて余裕じゃない?...いいわ、イケメンに免じて教えてあげる♪...ある人物の抹殺!!それが私達の目的よ━━━━!!

 

「......!」

 

「ねぇねぇ、誰だと思う~~~??...ま、教えないけどね~~~~~~~~~!!

 

再び発射される呪弾を避けるユノ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「魔法帝は どこにおる!?」

 

その頃、クローバー王国国王は両脇に女性を侍らせ、魔法帝の所在を確かめていた。

 

「こういう非常時にこの国の王である余の傍に控える事が王国最強の魔導士の何よりも優先すべき責務であろうが!戦事においては余と同等の権限があるからと図に乗っておるな.........!?あくまでもこの王国の元首たる存在は 余 のみなのであるぞ!」

 

どうやらこの緊急時に、魔法帝が不在だということが大層気に入らない様子。

 

「王よ 我々魔法帝の側近が警護しておりますのでご安心を」

 

魔法帝の側近であるマルクスは何とかして国王を宥めようとする。

 

(ぐぉぉ~~~~本当にどこ行ったんだあの人~~~~この緊急時に何処に出掛けてるんだ....いつもいつも自由すぎるだろ~~!!!)

 

こんな様子で彼自身も魔法帝の自由奔放(フリーダム)な性格に辟易している様子である。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

再びユノの様子は、

 

何度も繰り返される呪弾を受けつつ、回避するので手一杯の様子。

 

(攻撃が止まない...!コイツ...とんでもない魔力量だ...!)

 

「............」

 

何とかして反撃の機会を伺うも、そんな隙は全くと言っていい程無い。

 

「!」

 

そうこうしている内に、再び魔女の呪弾がユノの身体に命中してしまう。

 

「あらぁ~~~?どんどん動きが悪くなっていくじゃなーい、一体何の効果が当たったのかしら?」

 

(...くそ...目が...もう殆ど見えない.........!体の感覚も失われてきている━━━━━━━...)

 

「...!」

 

(今度は......耳も徐々に......!これが、コイツのちから...)

 

そんなユノの様子を一瞥し、魔女は嘲笑う。

 

「灰呪詛魔法 "嬉々壊灰(ききかいかい)"じわじわと...恐怖しながらこの私をオバサン呼ばわりした報いを受けるのね~~~♪」

 

どうやら魔女の魔法は呪弾が命中した箇所の感覚を"奪う"魔法だったようだ。それにより、ユノの身体からは五感全てが奪われつつあった。

 

「............」

 

(四つ葉を期待され...現最強の団《金色の夜明け》に入団し...俺は...一体何を............)

 

薄れ行く意識の中、ユノは今までの事を思い出していた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

四つ葉だか何だか知らんが下民が調子に乗りやがって...

 

フン、この『金色の夜明け』の中では取るに足らん才能だ

 

今に埋没していくだろうさ

 

入団して間もない頃、聞こえてきたのはそんな団員達の侮蔑が混じった心無い言葉の数々。

 

(周りの声なんて関係無い...俺は、負けない為に自分を磨くだけだ...だけど...)

 

次に思い出すのは、魔宮(ダンジョン )での出来事

 

(勝てなかった....いや、あの時はノアが居なければ確実に全員やられていた....しかも、そいつを倒したのは偶然手にした自分では制御出来ない力だった...)

 

次に思い出すのは、"シルフ"を手に入れた後の事、

 

(しかもその力はまるで俺の言う事なんか聞こうとしない...さっきの空間魔法から逃れられたのも自分のモノとはとても言えないその力が反応したお陰...)

 

『別に我々はあのような下民に期待などしていない』

 

不意にアレクドラの声が頭に響く。

 

(いや...違う...俺が悔しいのは...そんなことじゃない...!!)

 

感覚を奪われたユノが反撃とばかりに魔法を放つ。

 

しかし当たらず、

 

「キャハハハハどこに向いて撃ってんのォ~~~??こぉゆー風にちゃんと狙わなきゃ~~~~!!「お姉様ごめんなさい 」って可愛く命乞いすれば許してあげてもいいわよぉ~~~~!?」

 

次々に当たる呪弾に最早なす術もなく立ち尽くすユノ。

 

「............」

 

(何も...見えない.........何も...感じない............━━━━━━.........)

 

諦めるしかないのか...? そんな考えが脳裏をよぎった時、

 

ユノの目には、確かに、ハッキリと、鳥の様な光が見えた。

 

(これは...(マナ)の流れ.........!?)

 

ここで魔法の属性について説明しよう。

 

ユノの様に風系統の(マナ)を宿した魔道士は魔の感知が得意とされている。

 

五感を殆ど絶たれ、追い詰められたユノの研ぎ澄まされた集中力は驚くべき魔の感知力を見せ━━━━...

 

さらにその先(・・・)を可能にしようとしていた

 

「ねぇねぇほらほら早く命乞いしなさいよぉ~~~~!じゃないともう殺しちゃうよ~!?君の事いろいろ聞きたいなぁ~ねぇ聞こえてる~~~~~??ねぇねぇ教えてよォ~~~!!」

 

頭上で魔女が煽る。

 

ああ うるさい オマエの事なんて知らない 俺はただ...

 

思い出すのはアスタとノアの顔

 

アイツに...アイツらに...アスタとノアに負けたくない!!!

 

「まだだ...!!!」

 

その時、ユノの魔導書のページが光を放ち始め、魔が風と成り、ユノの元へと収束していく。

 

「え.........!!」 (魔が...集まって...!?この...感じ...コイツ.........)

 

(魔を...支配した━━━━━...!?)

 

ユノの前には、以前現れた妖精 "シルフ"がユノの元に魔を引き寄せていた。そこで魔女は始めて気が付いたのだろう、ユノの魔導書に"四つ葉"が刻まれていた事を...!

 

「!...あの魔導書...!!」(伝説の四つ葉...ですって......!?)

 

「...俺の事を一つだけ、教えてやる...!」

 

先程とは撃って代わり、魔女はユノに怯えきっていた。

 

「俺は、死ぬ程負けず嫌いなんだよ...!!」

 

風精霊魔法 "シルフの息吹"

 

再びシルフを喚び出す事に成功したユノ。

 

彼の今後は如何に━━━━━!?

 

 

 



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ページ24 チャーミーの本気/獅子王、出陣する...!

覚醒し、シルフを喚び出す事に成功したユノ。そのまま黒衣の魔女を吹き飛ばすのであった。


(━━━そうか...常に精霊から(マナ)のサインは出ていたんだ...視覚や聴覚に頼るがあまりそれが見えていなかった...)

 

精霊を再び喚び出した事で、今まで発動出来なかった原因に気付いたユノ。

 

(ヤバイ...!!奪った魔力を使って防御しないと━━━...!!)

 

そう判断するも、シルフの放った風魔法は強大で、例えるならば台風のような風を全て受けているようなもの。防御の文字が出てから対処したのでは遅すぎたのだ。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「おおおお~~~~いしぃ━━━━━━!!!!」

 

一方此方は、チャーミー。料理長の作ったメインディッシュに舌鼓を打っていた。

 

 

(国のいちだいじに何やってるんだろう、この人達...)

 

ホントにそうだ。こんな一大事は国を守る為に戦うのが魔法騎士団としての役割なのだから。

 

すると突然、チャーミーの背後から轟音が鳴り響き、壁を壊して先程の黒衣の魔女が現れた。

 

「ん?」

 

「...う...ううう...」

 

だが、其処にいたのは先程ユノを翻弄していた姿の魔女ではなく、しわがれた、老婆のような姿をした魔女であった。

 

「............」((マナ)が...足りない!!)

 

どうやら、市民から奪った魔で姿を若々しく保っていただけであったようだ。そんな魔女が次に狙いを付けたのは、

 

「.........」

 

先程まで食事を楽しんでおり、肌が艶々なチャーミーであった。

 

(奪わないと.........!)「...よこせ」((マナ)を......)「よこせぇぇぇ!!!」

 

(よこせ...それって...ま...まさか、ご飯を...!?)

 

い...嫌だあ━━━━━!

 

盛大に勘違いしているチャーミーと、もう後がない黒衣の魔女

 

「よこせぇぇぇ!!!」

 

「嫌だぁぁ━━━━」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

一方、ユノは...

 

「.........」

 

先程吹き飛ばした魔女を魔感知で追っていた。

 

(この(マナ)の感じ...あの女やはりまだ息がある━━━━━...!)

 

そして、もう直ぐそこまで来た所、ユノは王宮の塔から溢れそうな魔力を感じ取った。

 

(何だ...!?この膨れ上がる魔力は━━━━━)

 

よこせぇぇぇ

 

「嫌だって言ってるでしょ...」

 

その時のチャーミーは今までに見たことない程の威圧感を放っており、目が本気であった。

 

「え...」

 

それを見たであろう黒衣の魔女は動きを止めた。

 

綿創成魔法 "眠れる羊の一撃"

 

チャーミーの発動した魔法の一撃により、魔女は再び飛ばされていく。

 

「................」

 

それを見ていた料理人達は開いた口が塞がらなかった。

 

「何人たりとも我がゴハンに触れることなかれ...!」

 

ホントは(魔力)をよこせって事だったのだが...取り敢えずチャーミーの一撃により、魔女は倒れた。

 

その衝撃のせいか、

 

先程までチャーミーが食べていた料理も開いた穴から地上に落ちていく。

 

「らああああああ!!!!!」

 

慌てて料理を取り戻そうと必死に走るチャーミー。

 

「ゴハぁぁ~ン!!!!」

 

その時、先程の魔女を追って来たユノが料理を風で受け止め、チャーミーの元へと降り立った。

 

(子供............?さっきのとてつもない魔力の魔法...この子が......?...!黒の暴牛のローブ...やはりこの子が.........!)

 

「どうぞ...」

 

よく分からないが、兎に角飛んできた料理をチャーミーに渡したユノ。

 

それを受け取ったチャーミーは何故か胸の高鳴りを感じ取った。

 

(救食の王子様キタァ━━━━━━━)あっ...あっ...ありがとうございますぅぅぅぅ

 

「...いえ。」

 

ユノはチャーミーに料理を手渡した後、全身に極度の疲労を感じた。

 

(さすがに...あの魔法は体への負担が大きいか...もっと...上手く扱えるようにならないと.........)

 

「危な━い!!」

 

チャーミーが咄嗟に魔法でクッションを作ったおかげでユノはその場に倒れ込まずにすんだが、チャーミーを押し倒すような形になってしまう。

 

「と...取り敢えず食べとこう///」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「おおお...!!!」

 

アスタは、屍霊を操る魔導士と戦いを続けていた。

 

何度も放たれる魔法を剣で斬り続けるが、攻撃が止まる事はない。

 

「ぐ......!!」

 

攻撃を行っている屍体は宙に浮き、全身から魔力を放出させている。

 

「No.2...アルフレッド。お得意の(アンチ)魔法の剣も...相手が浮いてて当てられなきゃ何の意味もねぇな~~~~~~~」

 

「アスタ━━━━━!!」(あの時みたいに力を貸せれば━━━━...)

 

だが、ノエル達の前に泥水を操る屍体が現れる。

 

「お前らの相手はそいつだ!!」

 

(泥水の魔法...!相性が悪い............!!)「く...」

 

「............」(アスタ━━━━━...!!さっきの奴にやられた傷が............!)

 

「「お前自身がかかって来い」だぁ............!?屍体操って俺は見てるだけで勝つ━━━━━━━━それが俺の戦い方なんだよバァカ!!」

 

「.........」(...くそ...あんな人を人とも思ってねークソヤローに.........負けたくねぇ...!!!)

 

「...何だぁ...?その目は━━━━━━...!気合いだけじゃあどうにもなんねぇんだよクソガキがぁ!!殺れぇアルフレッド━━━!!」

 

(...体が...動かね━━━━)

 

此処までか、そうアスタが思った時、

 

ゴウッ!!!と目の前の屍体が焼き尽くされる。

 

「..................!!」(俺のアルフレッドを...一瞬で消し炭に............!?━━━━━...アイツは......)

 

(.........チクショー......勝てな...かった......)

 

一瞬で消し炭にされた屍体を見て、アスタは悔しさと自身に対する憤りを感じた。自分が倒さなくてはならない筈なのに、倒されてしまった(・・・・・・・・)。その事実がアスタを苦しめる。

 

「お前の戦いに横槍を入れてすまなかった...」

 

肩を叩かれ、振り向くと其処には、

 

「今死ぬには惜しい男だと思ってしまってな...赦せ...!」

 

(この人は...確か...)

 

朦朧とする意識の中で、アスタは彼の名を思い起こす。

 

「下民で...魔力が無い身で...よくぞ此処まで戦い抜いて来た...悔しいがヤミの奴の方が先見の明を持っていたようだ。」

 

「......」

 

「アスタといったか...オマエ、魔法帝になると言ったな...」

 

「はぁ!?魔法帝になるだぁ~~~!?オマエごときがなれるワケねぇだろ!!」

 

魔導士はアスタの夢を馬鹿にしたが、彼"フエゴレオン"はそうではない(・・・・・・)と心の中でアスタを擁護する。

 

「...では...」

 

振り向いてアスタを見た。

 

「この私ともライバルだな」

 

その顔は何処か嬉しげであり、楽しみにしているといった表情であった。

 

「そうか...コイツが━━━...」(━━━━魔法騎士団『紅蓮の獅子王』団長)

 

「あとは任せておけ!!」

 

(フエゴレオン...ヴァーミリオン!!!)

 

紅蓮の獅子、出陣す━━━━━



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ページ25 獅子王の実力

この私ともライバルだな

 

フエゴレオンのその言葉にアスタは歓喜に震えた。

 

(魔法騎士団の団長が...俺の事を.........!?)

 

嬉しかった。自分を一人の魔導士として認めてくれたことに対して、ライバルだと言ってくれたことに対して。

 

「うおおおおお!!!弱ってる場合じゃねぇぇ━━━━━!!俺はまだやれ━━━る!!!」

 

フエゴレオンの言葉で更に元気になったアスタ。再び戦おうと走り出すが、

 

「駄目だ。」

 

「!?」

 

フエゴレオンの手刀がアスタの頭部に直撃する。

 

「戦士ならば己の状態を常に把握し、戦えるかどうかを見極めなければならない...今のオマエはとてもそうだとは言い難い...!」

 

頭を押さえ、痛みで踞っているアスタに対してフエゴレオンの忠告が成される。

 

「豪快さはオマエの一番の武器だろうが冷静さも持て!本当に魔法帝を目指すのならばな...」

 

「...!」

 

フエゴレオンの言葉はアスタにとって、目から鱗であった。

 

「お前らの狙いは何だ!?侵略にしては行動に一貫性がなく無差別テロにしては統率が取れている...一体、何者だ!?」

 

「.........はっ......」

 

男はその言葉を待っていたかのように不敵な笑みを浮かべた。

 

「俺は6年前、トップで魔法騎士団に入団したラデスって者だよ」

 

「.........!何だと...!?」(元魔法騎士団員...!?)

 

ラデスと名乗った男は自分を元魔法騎士団の団員だと語る。

 

「覚えちゃねぇよなぁ.........あんたらには取るに足らない者だろ...?」

 

「━━━━━......!!」

 

その時、フエゴレオンは思い出す。6年前の入団試験の事を。

 

(......あの時の...!?確か『紫苑の鯱』に入団が決まった━━...)「あれだけの才能を持ち、何故......!」

 

「追放されたんだよ...!」

 

ラデスの顔つきが一瞬で変化する。

 

「奴らは俺の"屍霊魔法"を危険な禁術だとぬかし━━━━平民だからと誰も護らず団からも国からも追い出しやがった!!...俺の才能の方が上だってのに...貴族よりも...他の誰よりも━━━━...!!魔力が全てなんじゃねーのかよ...!?あァ~~~~~~~~!?......だからなァ...!!そんな騎士団にも国にも復讐する!!この力で!!それが俺の目的だ━━━━!!!」 (まぁ、目的はもう一つあるがなぁ...!)

 

ラデスの独白を聞いたフエゴレオンは、怒りを露にしていた。

 

「.........そんな幼稚な理由で.........ふざけるな馬鹿者ォ!!

 

「幼稚...!?」

 

フエゴレオンの言葉にラデスも熱が入る。

 

「理由ってのはいつだって...シンプルなもんだろ...!?」

 

ラデスの背後には、召喚した屍体が独特な雰囲気を醸し出している。

 

「...............レオ━━━━!!

 

「兄上...!」

 

ノエルと共に、泥水の魔法を使う屍体と戦っているレオに彼は訪ねる。

 

「助けが必要か!?」

 

「!━━━━━......」

 

少し考え、レオは答えた。

 

「絶対に要りません!!」

 

「それでよォォし!!分かっているのならすぐさま片付けろ━━━━!!」

 

その言葉を待ってたと言いたげな表情でさらっととんでもないことを口走るフエゴレオン。

 

(す...すげぇぇぇスパルタ兄弟!!)

 

正に獅子のごとき厳しさである...言ってる事は無茶苦茶だが、

 

「ムチャ言ってくれるぜ!!属性の相性が悪すぎだろうが!...まぁ助けになんざ行かせねーがな━━━━...」

 

ラデスは気付く。目の前にいる男 フエゴレオンは既に臨戦態勢に入っていることに。

「火加減は...出来んぞ?」

 

《炎創成魔法 "大火炎獅子の咆哮(レオ・ルゼーナス)"》

 

炎で創られた獅子から高温の火炎がラデス目掛けて放たれる。

 

「!」

 

だが、ラデスは屍体の発動した防御魔法によってフエゴレオンの攻撃を難なく防いだ。

 

No.1カールコイツは生前、防御魔法の達人でなぁ━━━━...そこに俺の呪力も加えより鉄壁にした...!!」

 

「.........」(アイツ、まだあんなのを...!)

 

ラデスの操る屍体の能力に辟易するアスタ。

 

「━━━━アスタ...」

 

「!」

 

「先ほど言った言葉、覚えているな?...見ておけ...!

 

フエゴレオンの言葉を信じ、彼の戦いを見守る事にしたアスタ。

 

「何余裕かましてやがる━━━━!!コイツは防御魔法だけじゃ無いぜぇ━━━━━━!?」

 

《炎創成魔法"螺旋火柱(イグニス・コルムナ)"》

 

カールから飛んできた矢をフエゴレオンは防御魔法を発動し、冷静に対処する。

 

「このカールと防御魔法比べかぁ!?」

 

「........」

 

カールの攻撃を防御しつつ、冷静に相手を分析するフエゴレオン。

 

しかし、まだまだ攻撃は続く。

 

「どうだぁ~~~~!?この鉄壁の防御と超連続の攻撃は━━━━━!!」

 

「...確かに手が出せんな.........」

 

現状、フエゴレオンから攻撃を仕掛けるのならば、ほんの一瞬。その隙を突いて攻撃する他ない。

 

「ハハハハハ、こんなもんかよ!?...『紅蓮の獅子王』団長さんよォ~~~~~~~!!」

 

その一瞬、フエゴレオンは魔法で防御魔法の壁ごとカールの核を射ぬいた。そして、直ぐ様消し炭と化すカール。

 

アスタとラデスも何が起きたか分からず、唖然となっている。

 

「.........!!」

 

炎魔法 "小太陽光芒(ソル・リーネア)"。攻撃の瞬間...ほんの一瞬魔法壁の(マナ)が手薄になる箇所があったのでそこを狙わせてもらった。」

 

淡々と語るが、行ったことはかなり凄い芸当である。

 

「厄介な魔法など日常茶飯事...」

 

一呼吸置き、フエゴレオンは語る。

 

「いいかお前達!!騎士団にいる以上強力な敵・魔法との戦いは常に起こるだが、その時冷静に能力を見極め大胆に戦う精神があれば負ける事など絶対に無い!!分かったか━━━━━━!?」

 

レオとノエルに対して激励を送るフエゴレオン。

 

(流石兄上.........!あんな奴に手間取ってられん━━━━!!!)『はいっ!!!』

 

「...............」(あの一瞬で見抜いて...仲間の士気まで...これが魔法騎士団団長...!!す...すげぇ━━━!!!)

 

今日この日、アスタは魔法騎士団団長に選ばれた男 フエゴレオンの実力を知り、何時か自分も魔法帝になるという夢の為に辿り着けるようになろうと思うのであった。

 

「...馬鹿な...!!No.1がこんな簡単に......!クソが...!!クソが...!!」

 

一方のラデスは自身の操るカールに絶対の自信があった為か、それが破れた今、恐怖とどうすることもできない現実にただ、立ち尽くすのみであった。

 

「ラデスと言ったな...」

 

「!」

 

「とてつもない才能も磨き上げられた力も正しき精神を伴わなければただの暴力!!そんなモノは誰からも認められん!!!」

 

「.....................!!」

 

フエゴレオンのこの言葉でラデスの心は更なる恐怖へと傾いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ26 深淵に潜む者、○○の帰還

(何でだ...!?誰よりもとてつもない魔力があるんだぞ.........!?自分の魔法を研究し尽くし...磨き上げて...準備してきたんだ.........!!今日この時の為に...何年も...何年も............!!なのに何でだよ..........!!!)

 

ラデスは目の前で起こっている事実に対して悔しさを露にする。

 

「おおおおおおお」

 

「━━━━......!!」

 

遂にレオも泥水の魔法を使う屍体を撃破する。

 

「敵の(マナ)の隙を突いて大火力で蒸発させてやったわぁ━━━━━!!」

 

「よぉぉしよくやった!!それでこそこの国を牽引する王族だ!!」

 

「はいっっ!!」

レオが屍体を撃破した事を喜ばしく思い、称賛を送るフエゴレオン。それに対して敬礼で返すレオと釣られて敬礼を返すノエル。

 

「...バカな...バカな......」

 

対してラデスは目の前の事実を受け入れきれないようで、動揺している。

 

「俺の魔力は王族にも劣ってねぇんだ!!オレは━━━━━━━」

 

再度、魔法を発動させようとしたところで、

 

《炎拘束魔法 "火炎獅子の掌"(レオ・パルマ)

 

フエゴレオンの発動した拘束魔法に捕えられてしまう。

 

「━━━━~~~~~...放しやがれぇぇぇぇ!!俺はまだ━━━━...」

 

「お前にはまだまだ聞きたい事が山程あるぞ...!」

 

拘束を解くようにラデスが暴れ、そんな彼に対して距離を詰めていくフエゴレオン。

 

「その前に魔導書を回収させてもらう。」

 

「!」

 

"魔導書を回収する" その一言にラデスが過剰に反応を示した。

 

「止めろぉ~~~~~~~~!!」

 

「これだな...!」(この魔導書は━━━━...)

 

「俺の魔導書に触るなァァ」

 

手に取った瞬間フエゴレオンは気付いた。回収した魔導書が明らかに薄い事を...

 

(何だ...!?この魔導書は━━━━...ページが一枚しかない............!?)

 

「見るな...!!見るんじゃねぇぇぇぇ!!!」

 

魔導書を開かれ、中を確認された途端ラデスは焦りを見せた。

 

(コイツ...たった一つの魔法しか使えないのか...!?)

 

「...俺を...蔑んだ目で見るんじゃねぇぇぇ!!」

 

「━━...誰がそんな目で見るかよ...!」

 

「!」

 

そんなラデスにアスタが口を開いた。

 

「...違うやり方で...認めさせられなかったのかよ...」

 

「...」

 

「そんなすげぇ魔力があるのに...そんな這い上がって来る力があるのに...もったいねぇ............!!」

 

「............」

 

ラデスに対して同情した様子で言葉を発したアスタにラデスはなにも言えなかった。

 

アスタはラデスの"認めさせる"という気持ちを痛い程理解している。

 

同じ強敵(ライバル)であるノアやユノには魔力があふれるほどあるのに対して、自分は魔力が全く無い。

 

それでも彼らと同じ《魔法帝になる》という夢を叶える為に、自分に出来る限りの努力をしてきたアスタだからこそラデスの気持ちがよく理解できた。

 

それを知っているからかフエゴレオンはフッ、と笑みを浮かべた。

 

「逆境をも越えられるお前に足りなかった物...それは正しき心だ...!罪を償え...!」

 

ラデスにとって万事休すの状況、そんな時彼の耳に一人の言葉が聞こえてきた。

 

(━━━もう...気が済んだだろう。団長を倒すなどということは...やはりお前一人の力では無理だったんだ...魔力量が多くても勝てない事がある...キャサリンも油断してやられた...それに、ジェイスも倒された...俺の魔力もそろそろ限界が近い...勝手な行動は終わりだ...今からは予定通り行かせてもらう。あの方(・・・)の為にな.........)

 

「.........?」(声......?)

 

その声は、アスタの耳にも届いていた。

 

「最低でもあと一人...空間魔法の使い手が王都に侵入して来ているはず...そいつは何処にいる...!?もう逃げたのか...?それとも...お前の目的は復讐だとしても...お前達(・・・)の目的は一体何だ!?」

 

フエゴレオンがラデスを問い詰め始めるとラデスは急に笑いだした。

 

「...本当の狙いはなぁ...」

 

ラデスは顔を上げ、フエゴレオンを睨み付けた。

 

「あんただよ...!!フエゴレオン・ヴァーミリオン」

 

「何...!?」

 

その時、何処かから魔導書のページ捲る音がした。

 

「!」

 

無論アスタはその音を拾っており、音のした方角を見ていた。

 

するとフエゴレオンの足元に黒い影のような物が出現した。

 

(これは...空間魔法!!...いいだろう、虎穴に入らずんば...だ━━━━━━)

 

「兄上━━━━━!!!」

 

フエゴレオンは襲撃犯の素性を知るため、危険だと理解していたが敵の待つ場所へと飛び込んでいった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「...!何だ━━━━━...ここは.........!?

 

フエゴレオンが辿り着いた場所はまるで結界の中にいるようなそんな場所であった。

 

「!」

 

そこにもう一人、誰かが立っていた。

 

「お前は━━━...!!」

 

フエゴレオンが動揺を見せた事から彼にとって、面識のある人物なのだろう。

 

一体、フエゴレオンが遭遇した人物とは━━━━━━

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「貴様ァァァァァ!!!兄上をどこへやったァ━━━━━!!!」

 

フエゴレオンが別の場所へと飛ばされた事で、レオは先程まで近くにいたラデスに詰め寄った。

 

対するラデスは、ただ笑うのみ。

 

「何が可笑しい!?」

 

「レオポルド!!そいつは空間魔法の使い手じゃないわ!」(今のピンポイントな空間魔法...術者が近くにいないと到底出来ないはず...!一体何処に━━━...!?)

 

対してノエルは冷静に状況分析を行い、誰の仕業かを探っていた。

 

「え」

 

するとアスタが大剣を手にし、積み上がった屍体の山に向かって走っていく。

 

「そこだァァ━━━━━━━!!!」

 

アスタが屍体の山を弾き飛ばすと、その中から一人、空間魔法の使い手が現れ、建物の屋根へと移動していた。

 

「............!」(あの中に紛れて...!?)

 

「よく見破ったな......魔法で化ければ魔力で気付かれると思い、わざわざ小汚ない格好に変装したというのに...獣のような奴だな...だがもう...終わったようだ...

 

すると、別の空間から何かがドサッ、とアスタ達の前に落ちてきた。

 

「..................あ......」

 

そこには...右腕をもがれ、大量に出血し、今にも絶命寸前のフエゴレオンが倒れていた。

 

「兄上ぇええええええええええ!!!!!」

 

「うぁあああああああああああ!!!!」

 

レオとノエルは急いでフエゴレオンへと駆け寄っていく。

 

「う......!!」

 

対するアスタはラデスの操る屍体の呪弾による出血で動けないでいた。

 

「...あんなに...あんなに強え人が.........そんな...馬鹿な.........!!」

 

アスタもノエルやレオと同様、少なからず動揺していた。

 

「...............腕が......!!」

 

「兄上..........」(...兄上...兄上...!!)

 

レオの頭には懐かしき兄 フエゴレオンとの思い出が流れていた。

 

「............嘘だ......兄上が負けるはずなど無い......兄上が......こんな..................................!!」

 

「!」(フエゴレオン団長の魔導書(グリモワール)━━━━━...!!魔導書(グリモワール)が形を成しているなら...まだ生きてる━━━━━!!取り敢えず、止血しないと...!!)

 

ノエルは自身の衣服の一部を破き、フエゴレオンの失った右腕から流れてくる血を止める為に使う。

 

(...こんな時にミモザがいれば━━━━━...!!)

 

ノエルの言う通り、この場に回復魔法の使い手であるミモザがいれば難なくフエゴレオンを救えるのだろう。しかし、今は別の場所に飛ばされてしまったため、救援は望めない。

 

「.........!!マズイ...!魔導書(グリモワール)が崩れだして...レオポルド!!手伝って━━━━

 

「嘘だ......兄上......」

 

ノエルはレオに手伝いを求めるが、対するレオは兄が負傷したことにより動揺して取り乱しており、動けないでいた。

 

「さっきはよくも嘗めた口利いてくれたなぁ...!」

 

「!!」

 

(魔力の塊を━━━...)「レオポルド!!」

 

「............」

 

ラデスは倒れたフエゴレオンを一瞥し、先程言われた言葉を反芻する。

 

「...正しき心だぁ......!?俺はいつだって自分の心に正直(・・)に生きてるぜ...!!あの世でほざいてなフエゴレオン・ヴァーミリオン...!!」

 

「目的は果たした...他の騎士団員が来る前に行くぞ...ラデス...」

 

空間魔法で逃げようとするラデス。

 

「...待ち...やがれ......!!」

 

それを逃がすまいとアスタが追いかける。

 

「.........!アスタとか言ったな...テメェはそのうち絶対殺して俺のオモチャにしてやる...!!楽しみに待ってろクソガキィ━━!!」

 

慌てて走り出すアスタだが、これまでかなりの量の血を流しているからか、動きが鈍い。

 

「............」(この距離は...間に合わねぇ━━━━...)

 

「アスタ...!もう無理よ!」(その出血でこれ以上動いたら━━━━━...)

 

まだだ!!!

 

ノエルはアスタの身を案じ、そう言うが、アスタは諦めたりはしない。

 

(紅蓮の団長が教えてくれたじゃねーか、冷静に...考えろ.........!!どうやったらアイツを止められる...!?あの空間魔法を.........あ!?)

 

その時、アスタは自身の魔法の能力を思い出した。

 

(俺のこの剣は━━━━(アンチ)魔法!!!)

 

「何━━━━━━...」

 

ラデスを運ぼうとした空間魔法は、アスタの召喚した剣が突き立てられることによって破壊された。

 

「うおおああああ!!!」

 

アスタは逃走を阻止しようとラデスに斬りかかる。

 

「...ぐ...」

 

しかし、出血した箇所の痛みにより、狙いが反れ、ラデスの頬に傷をつけることになる。

 

「ぎゃああああ!!いてぇぇ━━━!!何しやがるこのクソがああああ」

 

「マズイな...」

 

ラデスが斬りつけられたことで逃げることが困難になったと男は感じ、再びラデスの足元に魔法を発動させる。しかし、

 

「人をあれだけ傷付けて...何言ってやがる━━━!!!

 

ラデスが痛みを訴えた事に対してアスタは怒り、地面に剣を突き立て、魔法を破壊する。

 

「これが...痛みだ!!!お前が笑いながら罪の無い人に与えたモノだ━━!!」

 

アスタは更にラデスを殴り、痛みを与える。ラデスが王都に住む人たちにそうしたように、

 

「.........やめろ.........傷負って血ぃ流すなんてのは弱者の証なんだよ━━━━━!!!魔力で劣る奴は魔力で勝る者にいいようにやられてりゃいいんだ...特にお前のような魔力の無いクズはなアアアアアア!!!

 

距離を詰めたアスタに抵抗するため、魔力で攻撃しようとするラデスだが、

 

「それをさせねー為に俺がいる!!!そして...魔力の無い奴でも最強になれるって...俺が魔法帝になって証明してやる!!!」

 

頭突きでカウンターを入れ、ラデスにそう言い放った。

 

「━━━━━━━~~~~~~~~~......ヴァルトス!!何とかしろォ━━━━━!!」

 

「出来たらもうしている...反魔法...思った以上に厄介だ...」

 

「....................!?」(魔力を溜めて...)

 

ヴァルトスはアスタを攻撃するために、魔法をアスタの背後から放とうとする。

 

「アスタ...危ない━━━」

 

「遅い...」

 

発動しそうになったその時、

 

「!!」

 

ヴァルトス目掛け、炎の渦が飛んでくる。

 

「━━━━......」

 

放ったのは、レオであった。

 

「.........俺が...取り乱してどうする......!?どんな時でも冷静に............ですよね...!?兄上━━━...!!」

 

レオは先程とは一変し、ラデス達と戦う為に魔法を放ったのだろう。しかし、まだ動揺している様子...

 

「...どうしたものか...」(ラデスをまだ失うわけには...)

 

「.........クソがああ━━━━

 

アスタとレオに行く手を阻まれ、もはや逃げ道がなくなったラデスとヴァルトス。

 

そんな時、

 

『情けない...』

 

「!」

 

「.........!!」

 

あの方(・・・)からの報を受けて来てみれば...このような者共を相手に...情けない━━━...』

 

気が付くと、アスタ達の周りを取り囲むようにして、ラデス達の仲間の魔導士達が立っていた。

 

(......何て......突き刺さるような冷たい魔力━━━━...!!)

 

(新手...!?五人も......!!)

 

「............」(呪力だとかのせいでかすり傷なのに血が止まらねー...これ以上血を失うのは...ヤバい.........)

 

囲まれたアスタ達は先程ラデス達を追い詰めた時と立場が逆転してしまっていた。

 

「......チッ...!!だがまぁこれで...形勢逆転だなぁぁ...!!」

 

ラデスが勝ち誇ったようにそう言うや否や、

 

「...へ...へへへ...」

 

アスタは、大剣と片手剣を呪弾によって受けた傷に当てて効力を消した。

 

「━━━━......!!」

 

「━━━━...これで...俺はまだ戦えます...!!見ていて下さい...!!

 

「............」(コイツ...自分自身に刃を当てて呪力を━━━!!)

 

反魔法の剣で効力を欠き消した事にラデスは動揺した。

 

「━━━━━━━こちとら...生まれたときから逆境なんだよ...!!」

 

アスタは魔導士達に向かって、剣を突き付ける。

 

「何人来ようが...何が起きようが全部はね除けてやらあ!!!」

 

アスタが覚悟を見せたその時、

 

「よく言ったアスタ!!」

 

その瞬間、アスタ達の頭上から一人の男が剣を地面に突き立て、降り立った。

 

「ノア!」

 

その人物の正体はノアだった。

 

「待たせたなアスタ、助太刀するぞ。」

 

ノアはアスタ、レオと並ぶ形で魔導士達に向き直る。

 

「ふはは...たかが雑魚が一人増えただけではないか。」

 

魔導士の一人がノアを揶揄してそう笑う。

 

「そうかな?」

 

敵である魔導士の言葉にノアは剣を構え、ファントムソードを展開し、距離を測る。

 

「覚悟しろよ...侵略者共━━━━━!!!!!

 

帰還したノアとアスタ達...再び、戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ27 勇者(ヒーロー)の帰還

  

「······」「···一体何が起きているの···?魔法騎士団のお兄ちゃん···!」

 

少し離れた場所で、少女はネロと共にアスタ達の安全を祈る。

 

―――――――――――――――

 

「よっしゃあアアア!かかってこォォい!!」

 

自身を取り囲む魔導士達を挑発するようにアスタは剣を構える。

 

「この数を前におかしくなったか···?」

 

「何でもいいさ今から死ぬヤツだ···」

 

魔導士達はそんなアスタを脆弱な存在だと認識し、周囲からアスタ達に向けて魔法を放つ。

 

「うおおお!!!!」

 

アスタはその場で回転し、魔法を全て弾き返す。

 

「甘い···!」

 

ノアも負けじと剣を召喚、返却を繰り返しながら魔導士達の攻撃を受け止め、吸収していく。

 

「無駄な足掻きを······」

 

「あ〜〜〜〜〜コイツらがぁ······あの方(・・・)の言ってた反魔法(アンチまほう)の奴と例の剣(・・・)を持つ···!」

 

だが、魔導士のひとりがアスタとノアを見るなり探していたモノを見つけたように歓喜に震える。

 

 「······」(豪快さはお前の一番の武器だろうが冷静さも持て!)

 

フエゴレオンに言われたことを思い出し、アスタは笑う。

 

「冷静に···ですよね·········」

 

「?」(アスタの奴···今までと何かが、違う···?)

 

「冷静にムチャクチャします···!!」

 

そんなアスタを一瞥し、ノアは何かを得たのだと悟った。

 

「うぁらあぁああああ!!!!」

 

アスタは迷うことなく、敵の懐へと潜り込む。

 

「うおおおおおおおお!!!!」

 

ノアもアスタに続き、ファントムソードを展開しながら懐へと飛び込んでいく。

 

「コイツら···!」

 

魔導士がアスタ達に攻撃しようとした時、

 

《炎魔法 “爆乱焔”》 

 

「兄上をあのような目に遭わせたお前らを俺がのさばらせて置くわけが無いだろう···!!」

 

レオもアスタ達に続くように戦いに参加する。

 

「俺も混ぜんか!!我がライバル達よ――――!!」

 

「おう!勝手に混ざれ混ざれ!」

 

「やりたいようにやれ!」

 

今は目の前の敵を倒す! その思いで3人は一致団結する。

 

「うおおおおおお!!!!」

 

「だりゃああああああ!!!!」

 

「はああああああ!!!!」

 

互いに背中を預け、戦う3人。その目から闘志が消えることなど考えられないほどに戦いは白熱していく。

 

 (手負いの獣ほど手強いというが············こいつらは···危険だ――――――

 

『うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

「ターゲットではなかったが···今ここで殺す!!

 

再び3人に迫る魔法の数々、だが、

 

  《 水創成魔法 “海竜の巣” 》

 

「そう簡単に私の仲間を殺せると思わないでくれる···!?」

 

ノエルがアスタ達を守る為に魔法を使い、防御する。

 

「へぇ···なかなかの防御魔法じゃないか······!その身なり···王族シルヴァ家の者かな············?では失礼の無いように魔導書の魔法でお相手しよう···

 

魔導士は自身の魔導書を捲り、魔法を発動する。

 

 《 樹木創成魔法 “引魔の根” 》

 

突如として地中から現れた樹木達が、ノエルの発動した“海竜の巣”の周りに集結している。

 

「――――――···!」(そんな···!!激流を飲み込んで·········!?)

 

樹木達はノエルの“海竜の巣”を吸収し、アスタ達は再び無防備となってしまう。

 

「うおおおお!!!」

 

「!!」

 

しかし、そんなことはどうでもいいといった様子でアスタどうでもレオは立ち向かっていく。

 

「···その闘争本能恐れ入ったよ···」

 

 《 風創成魔法 “穿通竜巻針” 》

 

魔導士の前に出現した風の渦が、アスタとレオを貫く針となり、二人の身体を貫いた。

 

 「············」((――――は···速すぎる······!!))

 

攻撃を受けてしまった二人はその場に倒れてしまい、このままでは確実に殺されてしまう状況となる。

 

「···では···止めといこうか――――···!」

 

その時、男は何かがおかしい事に気付く。

 

 (もう一人は何処へ行った···!?)

 

「型無きが故に無形(むぎょう)···」

 

「!!」

 

魔導士は自身の背後から小さくではあるが、声が聞こえた為に振り返る。

 

「流れるが故に無限···!」

 

「しまっ···!」

 

気付いた時には遅く、ノアの魔法は既に発動していた。

 

「故に我が剣は···無敵···!!!!」

 

魔導士はノアによって斬られ、倒れてしまう。

 

《無属性武器 “鬼神丸国重”》が彼の手に握られており、それが先程の魔法を発動したものなのだと魔導士達は即座に理解した。

 

「あと···四人···!」

 

全員をこの場で倒すつもりで魔導士達へと向き合う。だが、

 

 「!」(ぐ···ダメージが···!)

 

ノアの身体はふらつき、その場に倒れていく。

 

「クソ···ここまで···か···」

 

ノアは悔しそうに言いながらその場に倒れてしまう。

 

(あと四人···残っているのに···)

 

身体に力を込めるもピクリとも動かなくなり、次第に意識も遠のいていく。

 

「全く···手こずらせてくれる···だが、」

 

他の魔導士達が3人に向かって、今にも放とうと魔法を展開していく。

 

「これで···止めだ···!」

 

 (う···うそ·············!!)

 

ノエルは目の前の光景が信じられなかった。あの三人が倒されるなんて、と。

 

「やめてぇえ――――!!!!」

 

その時だった。

 

 (――この魔力は···)

 

魔導士達が放った魔法を上空から落ちてきた水銀(・・)の塊が三人を守ったのだ。

 

「―――――···なに···」

 

水銀の中からは、離れた場所へと転移させられた魔法騎士団員達が現れた。

 

「···み···みんな―――――···!」

 

「·········魔法騎士団·········!」

 

「よくもあんなところまで飛ばしてくれたな············!」

 

屋根の上にいたヴァルトスの元へ、サンドラーが立ち塞がる。

 

「·········!バカな······!あの距離をこんなにも早く―――···!?」

 

かなり遠くまで転送したはずだとヴァルトスは驚きを隠せずにいた。

 

「不本意の極みだったが···全員で協力し戻って来た···超複合魔法···とでも言うべきか···?」

 

「············」

 

「力を合わせるというのも···良いものですねぇ」

 

「ま、男も捨てたもんじゃないっスね」

 

「能力だけは認めてやる」

 

「協力なんざ二度とごめんだな」

 

「違う団とはやはり相容れないものだもの」

 

口々に文句を言う騎士団達。

 

「―――···だが···我ら九つの魔法騎士団はただ一つクローバー王国の平和の為にある···!!」

 

ノゼルは魔導士達を冷たく睨みつけ、そう言い放った。

 

「···チッ···」

 

ヴァルトスはサンドラーの隙をついて魔導士達の元へと転移する。

 

「このまま戦えばただでは済まない···退こう···」

 

撤退するべきだと魔導士達にヴァルトスは告げるが、

 

「そう急くな···」

 

《水銀魔法 “銀の雨”》――――――

 

魔導士達の上空からは彼らを一網打尽にしようとノゼルの魔法が炸裂する。

 

だが、魔導士の一人が魔導書を開き魔法を発動する。

 

《ゲル魔法 “ベトベトサラマンダー”》

 

現れたのは、ゲルで作られたウーパールーパーのような魔法であった。

 

 (その程度の魔法我が雨は貫くぞ)

 

自身の勝利を確信したノゼルであったが、

 

「からのぉ〜〜〜〜」

 

魔導士は大きな注射器を魔法に打ち込み、何かを入れた(・・・)

 

《裏魔導具 “特性+α”》―――吸収

 

サラマンダーはノゼルの水銀魔法を自身の身体に吸収していく。

 

 (何だ···!?あの魔導具は―――···)

 

見たことのない魔導具を使い、自身の魔法を強化した事に驚きを隠せないノゼル。

 

次に魔導士はサラマンダーを操り、アスタとノアを捕まえる。

 

「アスタ、ノア―――」

 

「もぉ〜〜〜〜らいっ」

 

アスタとノアを手に入れた魔導士はひどくご機嫌であった。

 

「ソイツら···どうするつもりだ···?」

 

「秘密♪」

 

 (こいつら···団長の魔法をいとも容易く―――――···!!)

 

「アスタ···!!」

 

「ノアさん···!!」

 

 

「覚えておくがいい···魔法騎士団の者共よ」

 

そこで初めて魔導士達のリーダーらしき人物が口を開いた。

 

「我らは『白夜の魔眼』クローバー王国を滅ぼす者だ···!!」

 

そう言い放っつと、魔導士達はヴァルトスの魔法でどこかへと消えていくのだった。

 

「アスタ!ノアああ――――――!!!」

 

連れ去られた二人を追いかけることも出来ず、ノエルとミモザはその場に立ち尽くしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ28 攫われた勇者(ヒーロー)

「···アスタが···ノアが···連れて行かれるなんて···!二人を助けないと············!!」

 

突然の出来事に動揺を隠せないでいるノエル。今正に二人の仲間が連れ去られたのだ。動揺もするだろう。

 

「························!!ノエル···!無理だ···残念だが移動先の魔力を探る事は出来ない······!」

 

魔法騎士団 『金色の夜明け』団に所属している魔法騎士 クラウスは厳しいようだが、そう事実をハッキリと伝える。

 

「···でもだからって―――···!」

 

“諦められない” そう言おうとした所で、

 

「ダメだ」

 

『銀翼の大鷲』団 団長 ノゼルが淡々とそう告げた。

 

「今は王都の護りを固めるのが先決だ···敵があれだけとは限らない――――――あのような者達に割ける時間も魔力も無い。」

 

「························」

 

冷たいようだがノゼルの言い分は正しかった。魔法騎士団である自分達は王都を守る事こそ最優先事項である。仲間を捜索するのはその後からもしくは諦めろとノエルに現実を嫌でも理解させる。

 

「――――――···!」

 

その時、ミモザがフエゴレオンを治療していることを思い出し、急いでミモザの元へと戻るノエルと彼女を追いかけるクラウス達。

 

「ミモザ!!フエゴレオン団長を···!!」

 

ミモザの元へと戻ると、既に何人もの団長達が彼女を中心として集まってきており、ミモザの治療の行く末を見守っていた。

 

「············」(そんな···フエゴレオンさん程の人が············こんな――――――······!!レオポルドさんも·········!ああ···ノアさん···アスタさん·········!どうかご無事で居て下さい······!!)

 

右腕を失い、今にも死んでしまいそうなフエゴレオンと、ノア達と共闘し、満身創痍となったレオを治療するミモザ。

 

「私の魔法では応急処置が限界です···!医療棟に連れて行ってもっと高レベルの医療魔法術を施さないと·········このままでは···!」

 

その言葉を聞いていた魔法士達は途端にザワザワ、と騒ぎ始めた。

 

「ケッ、団長ともあろう者が···ざまぁ無いなァァ···!ヴァーミリオン家も堕ちたもんだ···同じ王族として恥ずかしいね···!」

 

その中でもノエルの兄ソリドは、奮戦しその末に傷ついたフエゴレオンを嘲った。

 

「ソリド兄様···!···何て事を························!」

 

自分達と共に戦い、助力してくれたフエゴレオンに対して侮辱するソリドに、ノエルは怒りを覚えた。その時、ノエルとソリドの眼前をノゼルが横切った。

 

「我々は魔法騎士···!勝たなければ存在する意味は無い······」

 

「·······················ノゼル兄様············!」

 

やはりノゼルもソリドと同意見なのかと絶望しかけたノエル。

 

「そうだぜ!!これで『紅蓮の獅子王』団も形無し――――」

 

「だがソリド···戦いの場に居なかった我々はそれ以下だ···これ以上被害が拡がる事の無いよう護りを固めろ···!」

 

「························はい···!」

 

 

長兄ノゼルの叱責され、ソリドはそれだけ口にすると沈黙するのだった。

 

「そうだ!!通信魔法を妨害する魔法が散布されて指揮系統が混乱している···············!!お陰で王貴界外からの援軍も来れなかった···!まだ油断出来ん―――――!!」

 

「·····················アスタ···ノア················!」

 

周りが警備を強固な物にするべく動き始めたその時、ノエルはひとり、攫われたノアとアスタの身を案じるのだった。

 

――――――――――――――――――

 

一方その頃、

 

「ラデス···!お前の勝手な行動で多大な迷惑を被ったぞ···!あの方(・・・)に気に入られてるからと調子に乗るな···!」

 

王都を襲った『白夜の魔眼』達は打ち捨てられた砦へと飛んできていた。

 

「何が一人で団長と戦いたいだ!王都を荒らしたいだ!自惚れが――――···!目的を達成するだけならこんなに手間取る事も無かったのだ···!」

 

ローブを纏い、フードで顔を隠している男にラデスは叱責されていた。

 

「うるせぇ!!被害が出たのはオレのオモチャだ!!お前らには関係ねぇだろうが!!」

 

(ん···)

 

そのやり取りにより、意識を取り戻したノア。

 

すぐにでも目を開けたかったが、此処は気絶しているフリをして出来る限り情報収集に徹した方が得策と考え、そのまま話に耳を傾けることにした。

 

「でも〜〜〜〜キャサリンとジェイスはやられてまだ王都でのびてるっぽいよ〜〜〜〜〜」

 

ローブを身に纏っている他の一人の魔導士がラデスにそう話しかけた。

 

「知るかあんなババアとオッサン!!目的のモノは手に入れたからいいだろうが!」

 

ラデスの心無い言い分に、ヴァルトスは半分呆れていた。

 

 (目的のモノ···?奴らが王都を襲撃したのはそれが目的か···!しかし、それはあのラデスと呼ばれた男が独断で起こしたモノ····本来はフエゴレオン団長のみを狙って襲撃する手筈···だったと、)

 

そこまで冷静に分析し、目的は何だったのかを再び考える。

 

「ところで···サリー(・・・)その小僧達は連れていけないぞ···殺せ···」

 

 (なるほど、あのローブの名前はサリーか···名前の感じからして女だな···)

 

「え〜〜〜〜〜ヤダよ〜〜〜〜〜(アンチ)魔法と色んな武器を出せる魔法だよ!?色々と便利だよ!?絶対僕の研究に活かせるよ〜〜」

 

「·········う······」

 

此処で漸く、アスタが意識を取り戻した。

 

 (!···アスタ、意識を取り戻したか···だが、今はそれよりも···!)

 

その事にノアはいち早く気付くも、意識を取り戻していることがバレないように気絶しているフリを続ける。

 

 (·········どこだ···此処···?何だコレ···??)

 

アスタは先程覚醒したばかりの為か、状況を理解できずにいた。

 

「あの場所に行けるのはあの方(・・・)に認められた者のみだ···いらぬ面倒をかけさせるな···あの方(・・・)が迎えに来る前に殺せ···」

 

 (えっ)

 

 (あの方(・・・)···?誰のことだ?)

 

アスタは殺されるかもしれないことに驚き、ノアは冷静な状態で再び話を聞き続ける。

 

「そうだ!オレに殺させろ!ソイツらはオレのオモチャにする···!」

 

「ラデスはちょっと黙っててよ〜〜〜〜」

 

 (やべぇ···俺···敵に捕まっちまってんのか············!?)

 

「あ、目 覚ましたんだね〜〜〜〜君からもお願いしてよ〜〜〜〜〜」

 

 (お···女······!?)

 

サリーと呼ばれた魔導士は覚醒したアスタに気付くと、フードを下ろしてアスタとノアを見据える。

 

(不味い···この状況···非常に不味い···!)

 

今現在、ノアとアスタはサリーに捕らえられ、あわよくば実験動物(モルモット)にされかねない事態だ。

 

「ねぇ〜〜〜〜〜〜僕からもちゃんとお願いするから〜〜〜〜〜〜ねぇ〜〜〜〜〜」

 

「···どうなっても私は知らんぞ。」

 

サリーの駄々に呆れ果てた仲間の一人は呆れ果て、そう呟く。

 

「俺によこせ!!」

 

一方のラデスは恨みを晴らしたい一心で、サリーに詰め寄る。

 

そんな風に『白夜の魔眼』達が廃墟の奥へ奥へと歩みを進める。

 

すると、

 

「やぁ···待ってたよ」

 

そこで待ち構えていたのは、現魔法帝 ユリウスであった。

 

「「···え」」

 

その光景に、アスタと気絶したフリを忘れてノアが反応を見せた。

 

「王都はどうだったかな···?」

 

『白夜の魔眼』達は驚いたことだろう。何故王都の城にいる筈のこの男が、我々の拠点で待ち構えているのか···と。

 

「殺――――」

 

一人がユリウスを殺そうと魔導書を開く。しかしその瞬間に、ユリウスは眼前にいた魔眼メンバーの二人の間に音も無く移動し、一瞬のうちに消し飛ばした(・・・・・・)

 

「―――――――···!!」

 

「何············!?」

 

「ば···馬鹿な······!?」

 

一瞬のことであった。周りは何が起こったか理解が出来ない。する前に終わってしまったから(・・・・・・・・・・・・・・)だ。

 

「死んでもらったよ···流石にこの人数は厳しいからね·········拘束するのは(・・・・・・)

 

「くっ······」

 

直ぐ様他の魔導士が魔法を発動させて植物を召喚するも、

 

「!」

 

ユリウスが左手を向けるとその箇所に風穴を開け、即座に無力化する。

 

「え!?···え!?」

 

サリーは何が起こったのか状況を理解できずに困惑し、

 

「···う···うわあああああ!!!」

 

ラデスは恐怖のあまり怯えて声を荒らげてしまう。

 

「―――君達···王都を襲って来たんだろう···?」

 

『···』

 

「まさか···殺される(・・・・)覚悟も無いのに殺しに攻めたわけじゃ無いよね······?」

 

ユリウスは立て続けにそう言い放った。

 

「············」(なんという力···これが···魔法帝―――···!!マズイ············もう魔力が············!)

 

唯一逃走手段の魔法を持つヴァルトスも逃げるだけの魔力が残って居らず、これからどうされるのか分からない状況に冷や汗をかいた。

 

「とはいえ、君達中々の手練のようだね···骨が折れそうだ···どうだろう···一人だけ生かしてあげるから投降しないかい?早い者勝ちだよどうかな?

 

淡々と笑顔でそう言い放つが、要は死刑宣告だ。

 

「―――――···」

 

「ナメるな――――――!!!」

 

『白夜の魔眼』達が次々に攻撃するも、ユリウスは目にも止まらぬ速さで回避し、かすりもせずに避けきる。

 

「――――――···」(な···何だコイツの動きは·········!!速過ぎて目で追えん···!!)

 

「···仕方ない、この人数だったらいけるかな···?」

 

「!」

 

 《時間拘束魔法 “クロノ スタシス”》

 

そう言うとユリウスは拘束魔法で残りの魔眼達を捕らえた。

 

 (―――···な······んだ··················!?これ···は············)

 

 (身動きが···とれな············)

 

「全員拘束出来たね、思いの外弱ってたかな···?···まぁいい、無限に続く一瞬の時を味わうといいよ

 

「どわっ」

 

「よっ···と」

 

サリーが拘束されたことで、アスタとノアを拘束していた魔法が解除され、アスタとノアは開放された。

 

「あ···やぁアスタくん、ノアくん君達とは何だか縁があるみたいだね〜〜〜〜〜」

 

アスタとノアはユリウスに声を掛けられるが、それよりも周囲の様子を確認し、恐怖する。

 

 (あんな強かった奴らを全員一瞬で············!!···これが···魔法帝の力············!!これが············)

 

 (流石、伊達に魔法帝と名乗ってる訳では無いって事だな···)

 

「目指しているんだろう?魔法帝なら、目を逸らさずしっかり見ておくんだ···これは君が、君達がこれから越えねばならないほんの一部ですらない

 

 (俺が追いかけてる···最強の男···!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ29 連れ去られた先

 

「コレは君達がこれから越えねばならないほんの一部ですらない。」

 

そう魔法帝に告げられたノアとアスタ。二人はこれから魔法帝の実力を見られるのだと思うと興奮を抑えることが出来ずにいた。

 

((これが魔法帝···!!俺が、俺達が越えるべき王国最強の魔道士―――――‼))

 

「立てるかい?」

 

魔法帝は蹲る二人に手を差し伸べ、手助けを申し出る。

 

「お気遣いありがとうございます···俺は、大丈夫です。」

 

そう言ってノアはゆっくりと立ち上がる。

 

「君は?」

 

今度はアスタに手を差し伸べる。しかし、アスタもゆっくりとではあるが、自力で立ち上がり始める。

 

「どうやら、手助けはいらなかったみたいだね。」

 

そう言うと、今度は捕らえた『白夜の魔眼』達に向き直る。

 

「君達中々面白い魔法だったね〜···驚いたよ――さて···そんな君達に聞きたいことがあるんだけど···」

 

すると、突然魔法帝の雰囲気が一変する。

 

「この石板と宝石は何だい···?」

 

そこにはまるで何かを表したような形に掘られており、その中の円の中心にはそれぞれ異なった宝石が埋め込まれていた。

 

「―――······」

 

しかし、『白夜の魔眼』達は何も答えない···いや、答えたくないのだろう。全員が冷や汗を流し、沈黙を貫いていることからそれほど知られてはならない重要な情報なのだろう。

 

「こんな文字も紋様も見た事がない···君達はコレを使って何をしようとしていたんだい?」

 

しかし、ノアにはその石板に掘られた紋様に見覚えがあった。

 

(あの“紋様”は···!)

 

ノアは即座に自分の魔導書を開き、特定のページを見つけては注視する。

 

そこには何も描かれていない真っ白なページとその右端に石板と同じ“紋様”が描かれていた。

 

(コレと同じ“紋様”···ということは、これが発動した時、このページに関する何かが起きるということか···)

 

と、ノアは一人そのように推理する。

 

「···まぁ、聞いたところでその魔法の中では何も出来ないけどね···あとはクローバー王国でゆっくり聞くとしよう」

 

そう言って魔法帝はゆっくり、またゆっくりと歩みを進めて近付いていく。

 

「――――――······!」 (何か···来る―――!?)

 

すると魔法帝は自身の背後から何者かの気配を察知した。

 

次の瞬間、石板の後ろから強烈な光が溢れ、輝き始めてしまいアスタとノアは目を開けていることが困難になってしまう。

 

その光の中心には、魔導書を開いた何者かの姿がシルエットとして浮かび上がっていた。

 

「·········」(何だこの光っ!!!)

 

「·········」(誰かいる···まさかアレが『白夜の魔眼』のボスか···!?)

 

 

光が消えると、そこには何も残っていなかった。まるでそれまで誰か居た痕跡を掻き消すように···

 

(消えた···!?)

 

「やられたね···お仲間を連れてかれたみたいだ、私よりも速い光の魔法――···敵の頭かな······面白···いや、手強そうだ」

 

先程とは態度を一変させている魔法帝、どうやらかなり動揺している様子だ。

 

「だけど···一人は逃さなかったよ」

 

しかし、捕虜を一人捕らえている点で見れば互いに痛み分けといった感じだ。

 

この光景にアスタは突然目の前で起きた光景が未だ信じられないようで唖然としていた。

 

『!···やっと繋がった···!どこにいるんですか!?魔法帝!』

 

その時、魔法帝の元に通信魔法の映像が現れる。

 

「やぁやぁマルクスくん。済まないね少々立て込んでて通信魔法を遮断させてもらってたよ。」

 

『大体いつもそうでしょうがアナタは!!···こっちは本当に大変な事が―――···』

 

マルクスと呼ばれた部下が話を続けようとした所、

 

「王都が襲撃されたんだろ?」『え!?』

 

「で、無事撃退出来たんだろう?」『えぇ!?』

 

まるでそうなることが分かっていたかのような口ぶりで会話する魔法帝。

 

(この人、未来視でもしたのか···?)

 

そう思わずにはいられないノアだった。

 

『そうなんですが·········取り敢えず医療棟に来て下さい!』

 

慌てふためいていた声が、落ち着いた様子でそう返答する。

 

そして、その時ノアは思い出す。

 

(そうだ···!フエゴレオン団長···!)

 

――――――――――――

 

一方、王都 医療棟では右腕を失い、出血多量で搬送されたフエゴレオンとその弟 レオポルドンが回復魔道士達によって集中治療を受けていた。 王都に残されたノエル達は二人の回復を、棟の外でただ待つことしか出来ずにいた。

 

「魔法障壁を強化し、通信魔法も回復し···騎士団を増員した···もう大丈夫だろう。」

 

そう言われてもノエル達は二人の回復を願わずにはいられなかった。

 

「フエゴレオンさん······レオさん···」

 

「!···この魔力は――――···!?」

 

すると、何者かの魔力を感じ取った直後、全員の背後に捕虜を連れ、アスタを抱えた魔法帝が現れ、その直後に魔法帝の近くに空から剣が落ち、即座にノアが現れる。

 

「やぁ、みんな···ご苦労様」

 

「ま···魔法帝···!?···と···敵!?それに···アスタ――――!?」

 

「や···やぁみなさんお揃いで」

 

「無事だったのかぁあああああ」

 

突然現れた魔法帝とアスタにクラウスは驚きつつ、アスタも突然王都に戻ってこれた事で少し動揺していた。

 

「いやぁ~ホント終わったかと思ったね」

 

「無茶ばっかりしてるからよ!少しは懲りたかしら、バカスタ···!」 (良かった〜···)

 

ヘラヘラしているアスタを嗜めるノエルだが、内心心配していたようで心から安堵していた。

 

「アスタああああ···!!!」

 

そんなノエルを弾き飛ばし、いの一番に駆け寄るクラウス。

 

「よくぞ···!よくぞ生きて戻って来たな!!死んだものとばかり···本当に良かった···!!」

 

「〜〜〜〜······ 」

 

泣きながら駆け寄るクラウスに若干戸惑いつつも感謝を述べるアスタと弾き飛ばされ、怒りを覚えるが何も言わず黙っているノエル。

 

「······」

 

そんな三人の様子を少し離れた所で見ていたノアだったが、

 

「ノアさぁぁぁぁぁん!」

 

「へ?···うおっ!?」

 

突如として現れたミモザに抱き締められ、少し幸せを感じたノアだったが人前ということもあり、羞恥を感じてしまう。

 

「本当に···本当に心配しましたわ〜〜〜!!」

 

「う、うん。それはいいんだけどさ···人前で、それも女性が男に抱き着くのは···流石にどうかと思うんだけど···」

 

とノアが言うと、ミモザは顔を紅潮させてノアから身体を放す。

 

「あっっ···!すっ、すみませんっっ」

 

「い、いや···いいんだ···」

 

ノアは、少し残念に思いながらも安堵した。

 

―――――――――――――

 

「――――···そうか···フエゴレオンほどの者が···いつ目覚めるとも分からない状態とは――――······これは私の誤算だった············」

 

騎士団長達から事情を聞き、自身の失態を悔やむ魔法帝。

 

「···いえ···我々の未熟さ故です···」

 

『碧の野薔薇』団 団長 シャーロットは悔しげに魔法帝へと答える。

 

「···魔法帝···確認したところ···フエゴレオンが身に着けていたペンダントが無くなっていたそうです···それが、奴らの狙いだったのでしょうか···?奴らは一体···何者でしょうか···?」

 

シャーロットの報告を聞き、思案する魔法帝。

 

「···フム···話を聞くに、王国に恨みを持つ者達のテロリスト集団のようだが···そんな単純な話では無いようだ···」

 

(あの石板に埋め込まれていた宝石···フエゴレオンのペンダントもその一つだったという事か···いくつかまだ空きがあったが、あれが全て揃うと何が起きる············?···フエゴレオンが狙われたのはその宝石を所持していたからという可能性もあるが···彼の強さ・思想が奴らの目的の邪魔になる可能性が高かったのかもしれないね···幾つかの不穏分子を秘密裏に調査していて、今回初めて足取りを掴めて探したのだが···あそこまで強大な力でとてつもない事を企てているとは···王都を離れるべきではなかったか···)

 

そこまで思案し、気持ちを切り替えて次の指示を騎士団長達に伝える。

 

「詳しくは後で捕虜に聞くとしよう···何れにせよ···」

 

そう言って騎士団長達に面と向き合う。

 

「魔法騎士団に求められる事は一つ···王国の平和だ。その為には我々は全てを掛けて戦い続けよう。」

 

そう伝えた直後、

 

「············私は先に失礼する···」

 

「ノゼル兄様···!」

 

『銀翼の大鷲』団 団長 ノゼルは弟妹を連れ、先にアジトへと帰還する。

 

(何だアイツ···今一致団結の流れだろーが、空気を読め空気をををを···!!!)

 

「······」

 

それをアスタは自分勝手な行いだと心の中で非難し、魔法帝はそんなノゼルの心情を理解したのか、無言で見つめ続けていた。

 

―――――――――――

 

魔法帝達からかなり離れた所で、ノゼルは思案する。

 

(情けない···何たる体たらく!!次はないぞノゼル···!!)

 

自身の不甲斐なさに憤り、なんとか感情を押し殺しながらも帰路へと歩みを進める。

 

「そして···」

 

ノゼルは子供の頃、フエゴレオンと互いに競い合い、研鑽を続けていた頃を思い出す。

 

「貴様をあのようにした輩は、この私が必ず葬る···!」

 

――――――――――――――

 

「敵は、眠れる獅子ならぬ鷹を起こしてしまったかな?」

 

「?」

 

やはり、魔法帝はノゼルの心情を理解しており、アスタは何のことだか理解していないようだ。

 

「我々ももっと強くなります···!!」

 

シャーロットの一言で、周りの騎士団達に火がついた。

 

「――――···最も、強くなるのは···俺だ·········!!」

 

「!」

 

声は医療棟から出てきたレオポルドのものであった。

 

「レオポルドさん···!安静にしてないと···!!」

 

ミモザが心配して寄っていくが、レオはそれを静止する。

 

「――――···アスタ!ノア!お互い生きてて何よりだった!!···同じ死線を潜り抜けた我がライバル達として···お前達ももっと強くなるのだ――――!!」

 

「「······」」

 

「―――――·········そして············」

 

その時、レオは幼かった頃のことを思い出す。

 

―――――――――――――

 

「――――···兄上!その額のしるしは何なのですか?」

 

「ん?これはな···自分に打ち勝ち、王となる覚悟が出来た者のみが付けるヴァーミリオン家に伝わる自分への誓いの印なのだ!」

 

「おお···!格好良いぃ―――!」

―――――――――――――――――

 

『フエゴレオン様は本当に立派になられましたな···もしかすると···国王と魔法帝、両方の座を手にする真の王になるやもしれませぬぞ···!』

 

(凄い!···凄い!本当に凄いぞ俺の兄上は、兄上の弟として恥じぬ存在になるように俺も精進するぞ···!!)

 

―――――――――――――――――

 

(違う···憧れではなく―――――···)

 

「···これは···誓いの印だ·········!」

 

するとレオは自身の親指から火を放ち、それを自身の額に押し付ける。所謂焼印である。

 

(兄上も越える男になる···!!)

 

「次の魔法帝になるのはこの俺だ!!!」

 

「――――···おう!よく分からんけど···ライバルとして不足は無いみてーだな···!」

 

そう言うとアスタは一言、

 

「で、お前誰?」

 

と、気の抜けたような返答をし、レオとノアが転けそうになる。

 

「アスタ、レオだ···!レオポルド・ヴァーミリオン。」

 

「おお、レオっていうのか。」

 

ここですかさずノアがフォローを入れ、アスタも納得する。

 

「そうだ!俺の名はレオポルド・ヴァーミリオン···親しみを込めてレオと呼べ!」

 

「な、なんて馴れ馴れしい奴···!」

 

「お前に言われたくないわァァァ···!!!」

 

その光景を見ていた他の面々はまるで微笑ましいものを見ているかのように笑っていた。

 

「やれやれ、あの二人は似た者同士だな···」

 

と、皆から少し離れた場所でノアが一言溢す。

 

「あ、あの···ノアさん。」

 

「ん?」

 

するとミモザがノアに近付いて来ており、何やら恥ずかしそうに顔を紅潮さて、モジモジしていた。

 

「どしたミモザ?···何か用か?」

 

そんなミモザの気持ちを知らず、ノアはミモザに近づく。

 

「あの、叙勲式での···」

 

「あぁ···」

 

その一言で、ミモザがノアに何を言いたいか理解した。

 

「気にするな···アレは酷いと思ったからな···助言のつもりで一言言ったらついカッとなってやったことだ。」

 

と、感謝を述べる程の事でもないと言い切ったノアだったが、

 

「それでも···!それでも、私は殿方にそのようなことをされたことが無いのです···ですから···」

 

と、弱々しく俯きながらそう返答する。

 

「だとしたら、そいつらはミモザの魅力を何も分かってない連中ってことになるな。」

 

「···え?」

 

何を言われたのか一瞬、理解出来なかった。

 

「だってそうだろ、ミモザはこんなにも魅力的なのに···それを理解出来ない男連中なんて見る目のない奴らばっかりじゃないか。」

 

「みっ!?····み、みみ···魅力的···!?」

 

ノアにそう言われ、自然と顔が赤くなっていくのを感じるミモザ。

 

「そうだな···先ずは、」

 

そんなミモザの様子に気付かす、ノアは続ける。

 

「可愛い。」

 

「!!···///」

 

「綺麗だし魔法での治療も完璧だし···」

 

「あ、あの···もうその辺りで···」

 

そろそろ恥ずかしさで気絶しそうなミモザに気付かないままノアは更に続ける。

 

「俺のことを下民だからと差別しない所···これが一番だな。」

 

「え···?」

 

それまで恥ずかしさで気絶してしまいそうなミモザだったが、それを聞いた途端、そんなことを忘れてしまった。

 

「俺さ···ハージ村っていうホントに国の端の方の村出身だから···貴族とかは自分たちよりも魔力が多い俺のことを、やれ下民だからと見下しがちなんだけど···それなのにミモザは、貴族でありながら俺の事を下民だからとかそういうことで見下したりしないからさ···素直に尊敬してるんだよ。」

 

「······」

 

初めてノアの素直な気持ちを聞いてミモザは嬉しく思った。そんな風に思っていてくれた事に対して···自分は、何が出来るのか分からないけれど···それでも、

 

「ありがとうございます···私の事を、そんなふうに言ってくださって。」

 

そう言うとミモザは笑った。笑うというよりも微笑みを返したと言い換えた方が正しいかもしれない。

 

「···やっぱり、ミモザはそうやって微笑んでる時が一番可愛いと思うよ。」

 

「か!?···かかかか···可愛い···!?」

 

「うん。可愛い。」

 

そう言ってノアも笑顔で返す。

 

が、

 

「きゅう」

 

ミモザは自身のキャパを超えてしまったのか気絶してしまった。

 

「ミ、ミモザ!?どうした!?」

 

そんなことを知らず、ノアは慌てて抱き寄せる。

 

「大丈夫か!?」

 

「はっ!···きゅう···」

 

一度覚醒するもノアの顔が近過ぎて再び気絶してしまう。

 

「なんで!?」

 

――――――――――

 

「······なにこれ···?」

 

今、ノエルの眼前には2つの光景がある。

 

一つはアスタとレオの言い争っている光景。

 

そしてもう一つが気絶したミモザを抱きかかえながら心配しているノアの姿。

 

ハッキリ言ってカオスな光景であった。

 

「どうしたらいいのよ···」

 

こんなカオスな状況で、ノエルはどうすればいいのか分からずその場で頭を抱える。

 

そんな様子を微笑ましい思っているのか、医療棟で意識不明の重体であるフエゴレオンが何故か微笑んだそうな····



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ページ30 束の間の休息

ノア達が『白夜の魔眼』達を退けた後、魔法帝は王都襲撃を反クローバー王国のテロリストによるものと断定し、今後も断固たる意志で戦っていくと表明した。

 

このことから、魔法帝は王権派に被害の責任を追及されたが、それでも民衆からの支持は大きく魔法騎士団への活躍の期待が高まった。

 

敵侵入の原因は王都の魔法障壁を張る一部魔道士達の失踪にあった 敵に消されたか···もしくは寝返ったか―――――

 

この事実は公にはされなかったが魔法帝は確信せざるを得なかった···

 

(信じたくはないが···王都の魔道士に裏切り者がいる···!!)

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

???

 

「クソがぁぁ!!!」

 

アスタに殴られ、傷を付けられたラデスは逃げ延びた別のアジトで荒れていた。

 

「痛ぇ···痛ぇぞ······!!傷が痛え〜〜〜〜···!!」

 

恨み言を吐きながら、ラデスは殴られた頬を押さえて怒りを顕にする。

 

「あのアスタとかいうクソガキ·········絶対ぶっ殺してやる············!!最強の屍体軍団を集めてやるぞォ···!!」

 

「あの反魔法の子アスタっていうんだ〜〜〜」

 

そこに現れたのはアスタとノアを解剖しようとした女 サリーであった。

 

「殺しちゃダメだからね〜〜〜ラデス〜〜〜〜〜〜ボクは生きたあの子をイジくり回したいんだから〜〜〜〜それとボクが治してあげたんだからもう傷が痛む訳無いじゃん〜〜〜」

 

「うるせぇ!!なんか傷が疼きやがるんだよぉ!!」

 

「聞こえなあ〜〜〜〜〜〜〜い早く会いたいな〜〜〜アスタ…それまでは〜〜〜〜」

 

そう呟くと、サリーは自身の研究室に入り、巨大な培養液で満たされた2つの水槽に向かう。

 

「ゲルで包んだ時にちょっと手に入れたサンプルで〜〜〜〜〜研究研究〜〜〜〜〜♪」

 

この様子から察するに彼女は研究者なのだろう。それも、マッドな方の····

 

「ゲオルクとキャサリン、ジェイドを助けられなかった···」

 

『白夜の魔眼』の指導者である人物がそう嘆く。

 

「···あの三人も我が強いですが···ジェイドは兎も角として、貴方様のことを崇拝しております···我々の情報を吐いたりはしないでしょう···」

 

「そういう心配をしているんじゃない···生きてさえいてくれれば、必ず救い出す············!」

 

そう言って右の袖を捲り上げ、腕を顕にする。その腕はまるで老人のように細く、萎びていた。

 

(躱したと思ったが···あの時微かに攻撃を受けていたようだ···時間の流れを早める魔法···それも急激に···!魔法帝···やはりとてつもない力だ···)

 

魔法帝の事をそう評価し、袖を戻す。

 

(だが···もっと力を蓄え···必ず斃す···!)

 

「クローバー王国への復讐を成し遂げ、我々だけの新しい国を創る為に···!!」

 

そう話す人物の眼前には、彼?を指導者と崇拝する者達が集まっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

所変わって王城、尋問室にて、

 

捕らえられたゲオルク、キャサリンに魔法を掛けて『白夜の魔眼』の情報を手に入れようとしていた。

 

しかし、

 

「············!!駄目です···!保護(プロテクト)魔法が掛かっていて情報が探れません···!」

 

「掛かってなくても言う訳無いでしょ···あの方は闇の中の光···!私達の神なのよ···!!」

 

「あの方だけは私達を見捨てなかった······私達もあの方を裏切る事は決して無い··!」

 

捕らえた二人は『白夜の魔眼』のリーダーに対して恩義があるのだろう。その後も二人は口を割ることは無かった。

 

――――――――――――

 

「――分かったのは···あの方(・・・)が絶対的な求心力と恐るべき魔力を持っているということだけか···恐らく···フエゴレオンを倒したのもそのあの方(・・・)だろう」

 

そう言って一呼吸置いて、一言

 

「彼が起きれば···もしかしたら何か分かるかも知れない····待つとしよう···獅子王の目覚めを」

 

「引き続き、手掛かりを探してくれ。」

 

側近に指示を出した魔法帝は来たるべき『白夜の魔眼』との戦いを決意するのだった。

 

―――――――――――――

 

所変わって王貴界

 

報告を終えたノア、アスタ、ノエルは『黒の暴牛』のアジトへと帰還するため、帰路に着こうとしていたのだが···

 

「迷っったぁぁぁ〜〜〜〜!!広っ!!王都広っっっ!!」

 

完全に迷っていた。

 

「道を確認もせずズンズン進んでいったからじゃないのか?」

 

と、ノアがボソッと呟いた。

 

「まぁまぁ···とりあえずコレ、食べてみ。」

 

と、二人にシュークリームのようなパイを手渡すチャーミー。

 

「私も貰ってあげてもいいわよ。」

 

と、ツンデレ全開のノエル。

 

パイを貰って食べながら道を歩いていく四人。

 

「てゆーか何でチャーミーパイセンがいるんスか?」

 

と、当然の疑問をチャーミーにぶつけるアスタ。

 

「美味しいモノある所に我あり。」

 

と返答するチャーミー。

 

「いやそれ、答えになってないんですが···」

 

と、ツッコむノア。

 

「そういや、なんかゴキゲンっスね。」

 

と、アスタが尋ねると

 

「運命の出会いがあったのさ······坊やにはちょっと早いかもね。」

 

と、うっとりしながらチャーミーは嬉しそうに答えるのだった。

 

「あ···!そういや、チャーミー先輩ってどうやって王貴界に入ったんです?」

 

と、気になっていたことをノアが尋ねた。

 

するとチャーミーは自身の魔導書を開くと、

 

「こうやって」

 

と言って、自身を綿に包んでそのまま縮み、アスタのフードの中へ入っていった。

 

「マジでか。」

 

と、答えたアスタは唖然とし、ノエルは、

 

(この人の魔法、実は凄いんじゃ······?)

 

と何かに気付き始めていた。

 

そしてノアは、

 

(綿を生成する魔法か···敵の拘束とかに使えそうだな···応用を効かせれば色々と便利な魔法になりそうだ···)

 

と、そんな事を考えていた。

 

「ん?···あれは···!」

 

何かに気付いたアスタは、眼の前の高台を歩いていく三人組に声を掛けた。

 

「ん?アスタ達ではないか」

 

三人組はユノ達『金色の夜明け』組であった。

 

「ノアさーん。」

 

と、一人ノアに手を振るミモザ。それに対し、右手で手を振って返すノア。

 

「怪我はもう大丈夫なのか!?···って前も同じ事聞いたな!!」

 

と、嬉しそうなクラウス。

 

「ユノー!お前しれっと敵を倒したらしいじゃねーかバカヤロー!」

 

「······」

 

そんなアスタの言葉を意に介さないユノ。

 

「オイユノおおお!!テメーちゃんと挨拶しろコノヤロー!!一人倒したからって調子乗んなよ〜!挨拶はこの世の基本だぞ!」

 

と無言でこちらを見つめているユノに対してまくしたてるアスタ。

 

そんなユノを見て、救食の王子!?や、アスタと知り合いだと知ったチャーミーが二人を驚いた様子で見続けている。

 

するとユノは、面倒くせぇと言わんばかりにため息を吐き、魔導書を開いた。

 

「ん?」「ん?」

 

そんなユノの行動に疑問符を浮かべるクラウスとアスタ達。

 

すると突然、巨大な大鷲の形になった風魔法がアスタ達目掛けて飛んでくる。

 

「え?」「は?」

 

「なあッッ!!?」

 

あまりの衝撃にノエルとノアは動けず、驚いていたアスタだけ、なんとか反応して自身の魔法の一つである、大剣で大鷲を一突きして消滅させることができたのだった。

 

そしてそれを放った当の本人はと言うと、

 

「···あれ?やりすぎた?」

 

と、この反応。

 

どうやらここまでの威力にするつもりはなかったようだが、アスタが反応出来なければ全員ただでは済まなかったであろう事態だ。

 

「お前、いきなり何やってるんだユノー!!」

 

これには流石にクラウスも注意をするし、ミモザは絶句してしまっている。

 

「···バカかアイツは〜〜〜〜オレ達を殺す気なのかああ〜〜···!?···ん?」

 

するとアスタが斬った風が一文へと変化する。

 

《じゃあね チビ(・・)スタ》と、

 

「············」

 

わざわざ魔法使ってまですることではないし、何ならアスタをチビと完全に煽っている。

 

「テメー今すぐ勝負だクラァ〜〜〜!!魔法で文字見せる為にわざわざあんなん撃ってくるんじゃねー!って無視して帰んなァアア」

 

そんなアスタに目もくれずやりきった様子でスタスタと歩いていくユノであった。

 

「無視が一番酷いんだぞォォォ!?」

 

そんな二人を見てノアは一言

 

「やれやれ。」

 

と、呆れるしかなかった。

 

―――――――――――――

 

(ユノのヤツ···魔法の威力が格段に上がっていた············!この短期間に一体何があったのだ···!?)

 

と、急激なユノの成長に驚くクラウス。

 

そして、

 

(ノアさん···!次お会いする時は私も並んで戦えるように強くなって来ますわ···!!その時は···その時は···/////

 

と、ノアの隣に立ちたいと強く決意したミモザ。

 

そして、

 

―――――――――――――

 

「へっ···!勝負は3人共···もっともっと強くなってからだな···!」

 

 

(負けねぇぞユノ············!お前が強くなれば俺達ももっと強くなれる―――――!!)

 

と、ユノへの決意を新たにし、アスタは一人燃えるのだった。

 

 

――――――――――――――

 

「いやぁ~任務疲れた疲れた!!だがしかぁーし!!活躍認められて『星』貰っちゃったもんね〜〜〜〜〜!!この調子で俺が黒の暴牛引っ張ってちゃうぜコノヤロォォォ!!」

 

と、意気揚々で帰ってきたマグナと、

 

「そうだねマグナ!!僕達の合体技『ビリビリマグナタイフーン』で突き進もう!!」

 

と、マグナを使った魔法を思い出しながら笑顔でマグナに返答するラック。

 

「その技はもう二度とやんないで!!」

 

と、怯えた様子で答えるのマグナ。どうやらトラウマになってるらしい。

 

「おかえりなさいっス!!マグナ先輩!!ラック!!」

 

と、まるで舎弟のような返事をするアスタ。

 

「お!アスタ、お前も帰ってたか。大変だったな!だがこれからは俺の時代だぜ――――」

 

と、続けて何かを言おうとした時、

 

あ、そうそうとアスタが話を切り替え、

 

「オレ、王都のいざこざでの活躍が認められて···臨時の戦功叙勲で三等下級魔法騎士になりました。」

 

と、嬉しそうにアスタは報告した。

 

「ええええええ!!!!」

 

と、驚いたマグナだったが、

 

「···って三等下級魔法騎士って何だ···?」

 

と、首を傾げる。

 

「さあ?」

 

と、ラックも同じ反応。

 

「えっ!?知らないで驚いてたのか···この人···!?」

 

と、ツッコむノア。

 

「お前ら···そんな事も知らずに騎士団員やってたのか···」

 

と、呆れながらヤミは語り始めた。

 

「魔法騎士団の階級だ。因みにお前らは入団から何も変わってねーから五等下級魔法騎士のままな。アスタに敬語使えよ。」

 

(ええええええ···!!!?)

 

「」

 

と、話すと驚いていた。

 

「因みにチャーミーとノアは一等下級魔法騎士になったぞ。」

 

と、更に衝撃の事実を突き付けられる。

 

「跪け格下共。」

 

と、偉そうに笑いながら話すチャーミーと、

 

「まぁ、そういうことなんで···」

 

と言いながら満面の笑みを浮かべるノア。

 

「ええええええ!!!!!!?」

 

これにはマグナだけでなくアスタも驚きを隠せなかった。

 

「賊を捕えたのが評価に繋がったようだな···チャーミーの方はリンチしようとしてたみてーだけど。

 

と、ヤミが詳細を語る。

 

当の本人達はというと、

 

チャーミーは変な踊りを踊り始め、ノアは右手でガッツポーズをしながら嬉しさを噛み締めていた。

 

「まぁとにかく、よくやったな小僧共。」

 

「··········」

 

と、アスタとノアに称賛を送るが、アスタはどこか浮かない顔だ。

 

「···でも···フエゴレオン団長が·········」

 

と口にした瞬間、ノアもアスタの気持ちを理解した。

 

(あぁ···そういうことか···)

 

現在の彼のことを思うと、素直に喜ぶことが出来ない。

 

そうアスタとノアは考えたが、

 

「あ?フエゴレオン?お前ごときが誰の心配してんだバカヤロー。あの熱血真面目大王がそう簡単に死ぬかよ、何か更にパワーアップして戻ってくるんじゃねーの?」

 

と、アスタの不安をヤミなりに一蹴し、激励したのだろう。

 

それを聞いてアスタの顔から陰りが消え去り、

 

「そうっスよね!!」

 

と、いつもの元気なアスタへと戻った。

 

「よっしゃァァァァそいじゃオレも更に修行して更なるパワーアップだ――――――!!」

 

と、意気込んた瞬間。

 

「いや、お前ら休め。無理し過ぎ、死ぬぞ。」

 

と、コレをバッサリ。

 

(いや大体団長がやらせてたんでしょーが!!)

 

と心のなかでツッコむアスタだったが、その通りだった為何も言わなかった。

 

(休み···か、取り敢えずまた王貴界ブラブラしてみようかな?)

 

と、ノアは考えていたがアスタは、

 

「休み···」

 

と、今まで修行に明け暮れてた身のため、突然休暇を言い渡されても何をすればいいのか分からず、宇○猫のように固まってしまう。

 

と、その時。

 

「休みもらったのアスタくん!ノアくん!それじゃあ――――」

 

と、眼前に空間魔法が展開され、中からフィンラルがでてくる。

 

「合コン行こうよ!!」

 

と、突然誘われた。

 

「いや、お前は働けよ。」

 

至極当然のツッコミがヤミから飛び出たが、どこ吹く風のフィンラル。

 

(((ご···合コン!!?)))

 

と、驚いたが

 

「あ、俺パスで。」

 

とノアは即座に拒否し、軽くショックを受けるフィンラルを尻目に、一度部屋へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ページ31 ピンチはチャンス

「···ぐ···くそっ···!」

 

白い鎧を身にまとったノアがその場に蹲る。

 

その眼前には、3人の男女が此方を見据えている。

 

ノアの背後には、既にボロボロなアスタとゴーシュの二人。

 

そして、隣には自身の刀が折れた『黒の暴牛』の団長 ヤミが立っている。

 

何故こうなっているかというと、今から数時間前に遡る。

 

―――――――――――――

 

フィンラルの誘いを断り、部屋へと戻ったノアだったが、

 

「あ···!」

 

と声を上げ、この後ミモザと“お礼”という名目上、出掛ける約束をしていたことを思い出したノアは直ぐに入浴し、着替えてミモザの待つであろう街へと歩いていった。

 

そしてそこからお互いにデートをし、互いに想いを伝え合いそうして付き合うこととなった。

 

――――――――――――

 

「はい、到着だ···じゃあ、俺はこれで」

 

ヴァーミリオン邸までミモザを送り届け、そのままアジトへと帰宅しようとしたノアだったが、

 

「!···あの、ミモザさん?」

 

ミモザがノアの服の裾を摘み、動けないでいた。

 

「···ス」

 

「ん?···ごめん···今なんて言った···?」

 

「で、ですから···その···///」

 

その言葉を口にしようとしてミモザは赤面する。彼女にとって言うのが恥ずかしい内容のことなのだろうとノアは少なからず察した。

 

「まぁ、いいか···そうだミモザ、次のデートは何時にする?」

 

「えっ!?···あ、そうですね···また休暇が合った日にでもと思うのですが···///」

 

また赤面してしまい、両手の指をもじもじさせてしまい、俯くミモザ。

 

「···分かった。次の休暇が何時になるか分からないけど、その時にまたデートしよう。今度は何処に行きたい?」

 

「そ、それは···ですね···///」

 

ミモザが「う、」と口にした瞬間、突如としてノアの右手側に空間魔法が展開される。

 

「この魔法···フィンラル先輩···!?」

 

「うん、そうだよ。」

 

ノアが名前を口にした瞬間、フィンラルが魔法の中から姿を現す。やはり、魔法を発動したのはノアが所属する魔法騎士団

『黒の暴牛』団 団員の一人である空間魔法の使い手 フィンラル・ルーラケイスであった。

 

「んで、何の用ですか?こっちは今、色々と立て込んでるんですけど···?」

 

と、デートの余韻に浸る時間を邪魔されたノアは、ジト目でフィンラルに対して、遠回しな嫌味を口にする。

 

「そんなに邪険にしないでよ···!···ってそうじゃ無かった!大変なんだよ、一大事なんだよ!」

 

「···まさかとは思いますけど、合コンの人数が足りなくて解散の流れになってきてるから急遽参加してくれ。···って話ならお断りしますね。」

 

「違っ···確かに解散には成りかけたけどそうじゃなくって····!」

 

(なりかけたのか···)

 

「実は···」

 

次にフィンラルの口から語られた話は少し信じがたい話であった。

 

――――――――――――

 

「成程。町から子ども達が居なくなったと同時に季節外れの雪が降ってきたから調査していた所、『白夜の魔眼』らしき組織の仕業だと判明したから増援に行って欲しい···と、」

 

「そうそう、そういう事。」

 

「ふぅ〜む」

 

少し考える素振りをして思案する。

 

(子ども達を攫った理由がイマイチ理解出来ないが、何かしらの理由があっての行動なのだろう···それに季節外れの『雪』···か、さっきミモザとデートしたときに見た『雪』が恐らくそれだろうな···。)

 

「まぁ、事情は分かりました。それで、今から行けばいいんですか?」

 

「あぁ、うん。来てくれる?」

 

「···仕方ないですから。ミモザ、また今度ね」

 

「あっ、はい。」

 

「······」

 

少し淋しげに俯くミモザを見て、ノアは少し思案する。

 

「あっ、美女」

 

「えっ!?何処何処何処!?」

 

ノアの嘘にあっさりと騙されるフィンラル。ノアに背中を向ける形で四方を見回す。そんな彼を尻目に、ノアはミモザに近寄る。

 

「あの、ノアさ···」

 

ノアを呼ぼうとした瞬間、ミモザはノアとキスをしていた。

 

「······!!?」

 

キスを終えると、ノアはミモザの耳元で一言、

 

「して欲しそうだったからしてみた。」

 

と、言ってわざとらしく舌を見せる。

 

「······///」

 

そんなノアの行動に、ミモザは何も言えずに赤面してその場で立ち尽くす。

 

「何してるんですかフィンラル先輩。ほら、早く行きますよ」

 

「ノアくん!美女、美女は何処に!!?」

 

「どうやら見間違いだったみたいです。」

 

「そんなぁ~」

 

「それよりもほら、早く行きますよ。」

 

「わ!?ち、ちょっと!?」

 

そそくさとゲートを潜っていくノア。それを追いかけるフィンラル。

 

二人を見送る形になってしまったミモザは、暫くその場から動けなかったそうな。

 

―――――――――――――

 

そして、二人はとある洞窟の中へと転移する。

 

「着いたよ···って!?何だコレ···!?来る場所間違えた!?」

 

フィンラルが先行し、ノアが後に続いてゲートを潜ると其処にはゴーシュと、『黒の暴牛』団の団長ヤミとアスタそして、

 

「あれは···!」

 

アスタとヤミに向かって光魔法を発動している人物が其処にいた。

 

(マズイ···!)

 

ノアは直ぐ様魔導書を開き、ゴーシュも同様に自身の魔導書を開き、鏡を出す。そして、

 

「えっ···!?」

 

ノアの隣からゴーシュが突如として消える。

 

するとゴーシュは闇魔法で防御に徹していたヤミの前へと瞬間移動していた。

 

《鏡魔法 “フル・リフレクション”》

 

ゴーシュの前に超巨大な鏡が現れ、男の光魔法を跳ね返した。

 

 

(···彼は―――)

 

突然のことで、“男”は反応が遅れ、自身の放った魔法を直撃で食らってしまう。

 

『!』

 

「どれだけデカかろうが強力だろうが、”鏡“は“光”を反射する···!!」

 

「うおお!生きてたァァ!?···遂にやった···!?でも何が···!?ゴーシュ先輩――――!?」

 

「…見えなかったが…光の速さだ…避けようがねぇんだろ············?ざまぁみやがれ···!」

 

助けられたアスタは眼の前でなにが起こったか理解できず、それによって混乱しているのか彼の口から出る言葉は支離滅裂である。

 

「ゴーシュ、よく戻ってきたな!!そしてオイシイとこ持ってきやがってテメー!」

 

そう言ってヤミはゴーシュの頭を嬉しそうに撫でる。

 

「そーかそーか!じゃあ最終的には俺の手柄だな!」

 

「最後に関してはヤミ団長何もしてないっスよ!」

 

目茶苦茶な理屈で自分の手柄と言い張るヤミにアスタが異を唱えるも、

 

「うるせぇガリガリ君倒したくらいで調子に乗るなよ小僧」

 

ヤミからのアイアンクローで強制的に口止めされるアスタ。

 

「というか···その理屈なら、今さっき来たばっかの俺とか全然何もしてないんですけど···!?」

 

「お?そういやそうだな····というか今来たの、お前···?」

 

「えぇ、フィンラル先輩に招集されて···」

 

ノアが漸く口を開いた事でヤミもノアが来ていたことに気付き、そんな事を言われてしまう。

 

「まぁまぁノアくんは兎も角として、みーんな頑張りましたよ!」

 

と、何とか締めようとしたフィンラルだったが、

 

『テメー以外はな』

 

「ちょちょちょ!全部俺の空間魔法ありきでしょ〜!?」

 

と、此処ぞとばかりにいじられてしまうフィンラル。

 

「というか、さっき倒した奴拘束しないでいいんですか?」

 

『あ』

 

ノアが助言した途端、ノア意外の全員が忘れてたようで一言口にして”男”を一瞥する。

 

「流石にテメー自身の最大魔法は堪えたよーだな俺意外にも天敵属性いたみたいねドンマイで〜す」

 

と、言われた側からすれば腹立つ言い方をして男を見下ろすヤミ

 

「············」

 

「!」

 

すると男はヤミに目もくれずゴーシュを見た。

 

「············君を···傷付けるわけにはいかなかった······」

 

「···は?何言ってやがる···?」

 

言われたゴーシュは訳が分からず疑問符を浮かべる。

 

「あれ?知り合いだったの?」

 

「な訳ないじゃないスかこんなヤロー」

 

「···いずれ······わかるよ·········」

 

男の言葉にノアは思案する。

 

(何故、ゴーシュ先輩を見てそう言ったんだこいつは···?)

 

眼の前の男がまるで懐かしい人物を見るような目でゴーシュを見ていたことをノアは見逃さなかった。

 

(···まぁ、尋問してもらった後で情報を貰えれば分かることか····。)

 

と一応は納得するのだった。

 

「全然分かんないけど···ま、テメーは騎士団本部に連れてって組織のこと全部話してもらいます。···これで···熱血真面目大王も浮かばれるだろ···

 

「「いやまだ死んでないです(っス)よ!!?」」

 

さらっとフエゴレオンを死んだことにしたヤミにアスタとノアはツッコミを入れたが、ヤミは直ぐ様自身の魔導書の頁を捲る。

 

「それじゃまえ―――と···闇拘束魔法···!」

 

拘束魔法を発動しようとしたヤミだったが、突然新たな気配を感じ取り、直ぐ様警戒の姿勢を取る。

 

そして一番大きな瓦礫の岩の上に3人(・・)ほどの人物が空間魔法を介して現れた。

 

「あの空間魔法は······!」

 

「何だ···!?あいつ等」

 

アスタ達も3人に気付いたようで警戒し、アスタは先程自身が倒した空間魔法使いを一瞥する。

 

「·········!?あいつは伸びてるのに、何で···!?」

 

空間魔法使いが気絶しているにも関わらず空間魔法を使ってこの場に現れた。つまりは3人の中に一人空間魔法の使い手がいるということになる。

 

「うわちゃ〜〜大変なことになってるよ···メンドくさがりなウチでも」

 

「マブダチは助けないとな」

 

3人の内の一人が気怠そうにあくびをしてぼそっとそう呟いたと思った瞬間、いつの間にかヤミの眼前へと移動していた。

 

「!」

 

「へぇ~〜〜〜〜〜変わった柄だな〜〜〜〜まぁどうでもいいけど」

 

すると男はヤミの魔導書に触れる。

 

「――――チッ」

 

(油断した···こいつも光速移動を···!?)

 

《闇魔法“闇纏(やみまとい)・無明斬り”》!!

 

直ぐ様バックステップしながら自身の刀に闇魔法の魔力を付与し、斬撃を飛ばすヤミ。

 

男は左方向へとバックステップで回避するも斬撃を右腕に受け、斬られてしまう。

 

「っっ痛ってぇ〜〜〜〜〜〜!!クソめんどいな〜〜〜もぉっっ!」

 

「ま、こんくらいならすぐ治せるからいいか」

 

そう言って男は傷口に左手を翳す。

 

《光魔法”癒しの光粒“》

 

「―――――···!?何であの魔法を······!?」

 

アスタは、先程ヤミが倒した男と同じ属性の魔法を使うところを見て驚いた。

 

(成程···漸く見えてきた、やはり先程倒した男が『白夜の魔眼』のリーダー···使う魔法は《光魔法》だろうな···本来、魔導書の属性ってのは被らないように一種類ずつだから···アスタが驚くのも無理はない。)

 

と、ノアが状況を俯瞰して整理する。

 

「···来てくれたんだね···すまない···私一人の力では及ばなかった···君達がいればもう安心だ···」

 

『白夜の魔眼』のリーダーを守るようにして先程の男と筋骨隆々の男が彼を背にして立ちはだかる。そしてもう一人が傷ついた彼を魔法で癒やす。

 

《炎回復魔法“不死鳥の羽衣”》

 

「リヒトくん···なーんでも一人で抱えたらメンドーだよ?」

 

「よくも我が友を···!!許さねぇぇ八つ裂きにしてやる···!!」

 

「リヒト···痛い···?傷付けたヤツが憎い······」

 

それぞれ顔の一部に入れ墨のような模様が付けられており、此方に敵対心、怒り、憎しみを向けている。

 

「な···何だコイツ等···また新手か···!?」

 

「紹介しよう···彼等は白夜の魔眼でも最強の三人···こと戦闘においては私より上の存在···三魔眼(サードアイ)』だよ····!!

 

「·········!!アイツより上······!?は···ハッタリでしょ···!」

 

リヒトと呼ばれた男の言葉にフィンラルは冷や汗を流しながらそう口にした。

 

(あのリヒトと呼ばれた男···どうやら相当強かったらしいな···それよりも遥かに強いのか···厄介だな···)

 

と再びノアが思案する。

 

「ハッタリなんてメンドーなことしねーよ···」

 

そう言うと男は近付いてくる。

 

「そいじゃ証明しよーかメンドーだけど」

 

「!?」

 

「な···!!」

 

すると男は、先程ヤミが使っていた魔法と同じように、刀を顕現させる。

 

「君達の王国はクローバーを象徴としているね···クローバーの葉には君達に似つかわしくない耳触りの良い言葉が秘められている···即ち『誠実』『希望』『愛』···彼等にはその対となる名を冠してもらった」

 

そう言うと、リヒトが刀を構えた男に視線を移す。

 

「『不実』のライア」

 

《模倣魔法”闇纏・無明斬り“》

 

「!!」

 

ライアと呼ばれた男が先程のヤミと同じ魔法を発動し、ヤミ達へと斬撃を飛ばす。

 

「テメー人の魔法パクんじゃねぇ!!著作権の侵害で訴えるぞ――――!!」

 

直ぐ様同じ魔法で相殺するヤミ。

 

「ヤミさん」

 

こんなときでも通常営業のヤミにフィンラルは呆れてしまう。

 

するとヤミ目掛けて筋肉質な男が魔法を発動して迫ってくる。

 

(マズイ···!)

 

その様子から嫌な想像をしてしまったノアが自身の魔導書を開き、直ぐ様ファントムソードでバスターソードをヤミの眼前へと飛ばす。

 

「『絶望』のヴェット」

 

《獣魔法“ベアクロウ”》

 

《無属性武器”バスターソード“》

 

「なにぃ···!?」

 

「そう簡単に···ウチの大将殺らせる訳無いだろ···!」

 

バスターソードを投げたノアを、ヴェットが睨みつける。

 

どうやらバスターソードは壊れず、少し傷が付けられただけのようだ。

 

「ナイスだノア···!···!」「!」

 

すると今度は巨大な炎の塊がノア達目掛けて飛んでくる。

 

「憎い···許さない···」

 

「『憎悪』のファナ」

 

「殺してやる···」

 

《精霊魔法”サラマンダーの吐息“》

 

右肩に、小さな羽根の生えたトカゲのような見た目をした精霊《サラマンダー》を操る少女。ファナは憎しみを込めた一撃をこちらへと放った。

 

だが、ヤミは闇魔法で防御、ノアは直ぐ様バスターソードを戻してから炎魔の剣を召喚し、魔法を吸収した為、其処までのダメージには至らなかった。

 

(ユノのシルフと同じ精霊魔法か···厄介だな···)

 

「ヒステリックな女はモテねーぞ?」

 

(まだ未発達みてーだが···四大属性の火の精霊って···マジか)

 

すると今まで冷静だったリヒトが、突然思い出したかのようにノアへと視線を移した。

 

「貴様···!!何故その魔導書を···!」

 

「え?なに、俺···?」

 

突然目をつけられたノアはなんのことだが分からず疑問符を浮かべる。

 

「何故貴様が彼の···我が親友 アラム(・・・)の魔導書を持っている···!!!!」

 

「アラム···?誰のことだ···?」

 

突然怒りをむき出しにしたリヒトの放った名前に聞き覚えがないアスタが首を傾げる。

 

「!···成程、だからあの時(・・・)俺を見てあんな表情(・・・・・)を浮かべてたのか···納得したよ。」

 

と、なにかに気付いたノアが笑みを浮かべる。

 

「え!?何、どういう事?」

 

状況が理解出来ないアスタはノアやリヒトを何度も見回し続けるが彼等はそんな事お構いなしに互いを見やる。

 

「俺のこの魔導書が、そのアラムという人物がかつて使っていた魔導書だったんだな···だとしても、今は俺の魔導書だ!文句あるか!極悪人(テロリスト)!!!!

 

「貴様···!!!」

 

「リヒト、此処は我が···!」

 

今にもノアに襲い掛かろうとしたリヒトをヴェットが静止し、少し落ち着きを取り戻す。

 

「···分かった、任せよう。」

 

「よりにもよってコイツが相手か···!」

 

右手に炎魔の剣を持ち、構えを取る。すると、

 

「うおっ···と···!?」

 

ヴェットの背後から、先程放たれた巨大な火炎弾が再びノアを襲った。

 

しかし、咄嗟に炎魔の剣で斬り捨てた為、ダメージを受けずに済んだ。

 

「リヒト···怒ってる···!···なら、私も許さない···憎い···憎い···!」

 

「おいおい···まじかよ···!」

 

ヴェットだけでなく、よりにもよってファナまでノアに敵意を向けており、ノアはこれからヴェットとファナの二人を相手に戦わなくてはならなくなった。

 

「···やるしかないか···!」

 

そう言うと、ノアは自身の魔導書から一振りの剣を取り出す。

 

《”星“属性武器“オニオンソード”》

 

黄色い刀身に青い線のような模様が入った剣を右手に、炎魔の剣を左手に構える。すると、

 

「ほお···!面白い···!」

 

「二人に増えた···?···関係無い···リヒトの邪魔をするなら···消えてもらう···!」

 

ノアが二人に分身し、それぞれヴェットとファナに向き合う。

 

「そっちが二人で来るってんならこっちも二人になるしかないだろうがよ」

 

 

そう言ってノア(本体)はヴェットに、ノア(分身体)はファナへと向かっていく。

 

「面白い···!」

 

《獣魔法 ライノセラスアーマー》

 

コレにに対してヴェットは、自身の身体を覆う様にして発動した魔法の鎧を装着し、ノアへと突進していく。

 

(まずい···!)

 

慌てて回避しようとするが間に合わず、咄嗟にガードする体制に移るも、

 

「ガッ···!」

 

突進してくるヴェットの勢いを殺しきれず、そのまま撥ねられてしまう。体感としては、まるで車に撥ねられた時と同じ衝撃を受けた為、ノアは勢いを殺す事など出来ないのだ。

 

「···っ、やるな···だが···!」

 

直ぐ様全ての剣を魔導書に戻し、取り出したのは、修羅王の刃と呼ばれる斧であった。

 

「!···貴様、まさかそれは····!」

 

その斧を見た瞬間、ヴェットは驚いた様子を見せた。

 

「ジェイスの時といい···お前ら、やっぱ知ってんだな···この力、“ファントムソード”の事を···!」

 

「貴様···”ファントムソード“まで···!其処まで友を愚弄するか····!人間如きが···!」

 

とうとうリヒトがキレてしまい、ノアに対して、まるで被害者目線で怒っているかのような言い分でノアを睨みつける。

 

「ハァ〜···あのさぁ、アラム···だったか?この魔導書の前の持ち主、そいつもう死んでるんだろ(・・・・・・・・・)?」

 

呆れた様子でノアはリヒトの言葉に異を唱える。

 

「そうだ!お前達人間のせいで···!我らがエルフの盟友を···!」

 

あまりにも怒りの感情が強いのか、口調が少し変化してきている。

 

「だったら、こいつは俺が継承したことになるだろ。」

 

「継承···だと···?」

 

「ああ、そうだ····俺も育ててくれた教会の神父から聞いた話だけどな···魔導書ってのは前の持ち主が亡くなった後、また別の誰かへと受け継がれていくらしい···まさかとは思うが、知らなかったのか?」

 

「!」

 

どうやら、リヒトにとっては知らなかった情報のようで明らかに動揺していた。

 

「それなのに、テメェときたら···まるで墓を暴いたみたいにキレやがって···それに何被害者面してんだよ、お前らどう考えたって加害者側のテロリスト共だろうがよ···お前らに怒る権利なんてある訳ねぇだろ!!!!」

 

リヒトのあまりにも自分勝手な言い分にとうとうノアもキレてしまったようだ。

 

「黙れ!!!貴様ら下賤な人間如きが我が友を語るな!」

 

「ああ言えばこう言うな····そんな物言いしてたから人間に滅ぼされたんじゃないのか?なぁ、下等種族のエルフさん達よぉ!!!!」

 

「貴様ァ!!!!」

 

「言いたいことはそれだけだ···っと!」

 

遂にノアに対してリヒトがキレたが、それよりも先にヴェットが動き、ノアへと突進してくる。

 

「リヒトを侮辱するのならば容赦はしない」

 

「向こうだって散々こっちを馬鹿にしたんだ、これくらい言い返さないとフェアじゃないだろうが」

 

そう言ってノアは頭上で斧をブンブンと振り回す。

 

「その力で我の鎧を砕けると思うなよ···下等生物が···!」

 

「そんな事···やってみなきゃ分からねぇだろうが···!」

 

ヴェットの突進してきたタイミングに合わせてジャンプし、一回転して頭上から斧を振り下ろす。

 

「···!」

 

斧の刃がアーマーに触れた瞬間に亀裂が走り、ライノセラスアーマーはそのまま砕け散った。

 

「よし!」

 

思わずガッツポーズをしたノアだったが、直ぐに次の問題に直面することになる。

 

「ほぉ···少しはやるようだな」

 

「舐めてもらっちゃ困るね···こちとら魔法騎士団の一人なんだ、これくらいやって見せないとな···!」

 

一方、ファナと戦っていたノア(分身体)は次々と繰り出されるサラマンダーの火炎弾を炎魔の剣で吸収しつつ、オニオンソードで斬撃を飛ばして攻撃を繰り返していたが、全て回避され互いに膠着状態となっていた。

 

(キリが···ないな···)

 

このまま戦いが長引けば、オニオンソードの魔力で作られた自分の身体が魔力切れで消失し、そうなった時に直ぐ様本体へと襲い掛かるであろう事は分身体であるノア自身も理解していた。

 

(仕方ない···!)

 

少し思案した後、ノアはオニオンソードと炎魔の剣を魔導書に戻すと、また別の剣を取り出す。

 

《”龍”属性武器 ”帝具“ 『悪鬼纏身』インクルシオ》

 

直刃の片手剣で、特徴としては柄に千切れた鎖がついている剣だ。何処に龍属性要素があるかというと、

 

(何だ···あの”剣“は···!?)

 

リヒトはノアが取り出した剣 インクルシオに言い表せない恐怖を感じ取っていた。

 

するとノアは剣を地面に突き刺すと、大きく息を吸い込み、

 

「インクルシオォォォ!!!!!」

 

と、武器の名を大きく叫んだ。

 

するとノアの背後にはガイナ立ちをした白い巨大な鎧が現れ、ノアの身体に合ったサイズになると彼を包むようにして顕現する。

 

「···よし···!」

 

そこには、先程の鎧を身に纏ったノアがいた。

 

「······」

 

ファナはそんなノアに興味など感じないようで、無言でサラマンダーに攻撃を命じる。

 

「!」

 

ノアが反応したときには既に彼の眼前まで火炎弾が迫ってきていた。

 

「先ずは一人···!」

 

これで一人片付いた。そう思ったファナだったが、

 

「おいおい、釣れないねぇお嬢さん。」

 

「!···嘘」

 

「いやいやホントだよ。まぁ、さっきのは間一髪って所だったけどね」

 

 

声の主は言わずもがなノアであろう。しかし、声はするも姿が見えず状態である為、ファナは自身の周囲を見回しつつ警戒を続ける。

 

「どこ···!?」

 

「教える理由ないだろ、あんたは敵なんだから」

ノアがそう言った瞬間、ファナは自身の右側から攻撃を受けてしまう。

 

「···!?」

 

見えていないにも関わらずダメージがある。一体どうやってノアは自身に攻撃を当てることができたのだろうか?とファナは思うが、分からない様子。

 

「何が起きたか分からないって顔だな」

 

「!?」

 

何処からともなくノアの声が聞こえる。

 

「まぁ、無理もないよな。俺の姿が“見えないから”だよなぁ!」

 

「くっ···!」

 

そして、何が起こっているか理解出来ないファナは、そのままガードするような体制になるが、ノアの猛攻は止まらない。

 

「うおっ!?」 「くっ···!」

 

ヴェットとファナは、互いにノアからの猛攻になす術無く、されるがままとなっていた。

 

そして、戦いの終わりが近付こうとしていた。

 

「「終わりだ···!」」

 

「しまった···!」 「····!」

 

ヴェット達が気付いた時には、ノアが使用している武器達が五芒星を描くように二人を囲んでいた。

 

そして、ノア達は互いに走り出し、五芒星を描くように二人に斬撃を叩き込む。

 

「ぐああっ!」 「きゃああ!」

流星連撃斬(スターダスト・ビーティング)!!!」

 

「これで···終わりだ――――!!!」

 

最後の一撃が決まる。その瞬間、

 

「「は···!?」」

 

あと少しで倒せたという所で、一筋の光がノア(分身体)を貫いた。

 

光の根源を辿ると、リヒトが自身の魔法を発動していた。

 

「我が友の魔導書、返してもらおう。」

 

「くっそ、多対三かよ!?」

 

その後、何とか奮迅するも、相手は三人もいる為なす術なく一方的にやられてしまい、ヤミの近くに吹き飛ばされてしまう。

 

―――――――――――――――

 

そして、最初に記述した通り全員ボロボロになっていた。

 

「くっそ···動け···!」

 

ノアは何とか身体に力を込めようとするも、動かない。

 

「ぐ···!!」(レベルが違い過ぎる······!!)

 

「ヤミ団長オレも···!!」

 

「そこ出んじゃねー!!!」

 

アスタがヤミを心配してか自分も戦おうとするがヤミに制止される。

 

「まさか俺の心配してんのか?100年はえーな···そこで見てろ」

 

ヤミはリヒト達を睨むと一言、

 

「俺が今此処で限界を超えるのを···!!」

 

「···無駄だよ···彼らは一人一人が魔法騎士団団長より強い···!!」

 

「――ヤミ団···」

 

アスタの呼びかけと同時に、ヤミ達の眼前に突如として現れた空間魔法。そしてそこから飛び出す“茨”・”水銀“そして“斬撃”の攻撃。恐らくは魔法だろうとその場にいた全員が察した。

 

「···え···!!?」

 

そしてそこには、

 

「団長より強いって···??試してやろうかぁ···!?」

 

「···あ〜〜〜〜〜〜あ···もう少しで俺の何かが覚醒しそうだったのに···何してくれてんのこの腐れ縁団長共」

 

「その(ざま)でよくそのような言葉が口から出るな···貴様はいつか私が処刑してやるから首を洗って待っていろ異邦人」

 

「何だテメー変な前髪しやがって」

 

「面白そーな戦い(こと)やってんじゃねーかヤミィィ、ちょっと混ぜろや···!!」

 

三人の魔法騎士団団長が救援へとやってきたのだった。



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番外編 ノアとミモザのラブコメ編
ノアの看病


『白夜の魔眼』襲撃事件から数日が経ったある日の朝

 

「あ~頭、痛い....。」

 

この物語の主人公 ノアは風邪を引いてしまったようで、現在自室で休んでいた。

 

この日は丁度休暇だった為、任務に支障をきたすことは無かった。

 

「やっぱ原因は...あれかな?」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

昨日のこと。

 

「よし、早速だが始めてくれ。」

 

「......」

 

ノアは、ノエルの魔力コントロールの修行に付き合っていた。

 

現在は、ノエルの魔法 《海竜の巣》を拘束魔法に転換出来ないだろうか?...というノアの提案で、《海竜の巣》を発動し、ノアの拘束を行っていた。

 

しかし、

 

「...ダメ、やっぱり出来ないわ。」

 

「う~ん...結構いい線いってたと思ったんだがなぁ...」

 

ノア曰く、攻撃(・・)が駄目でも拘束(・・)なら可能ではないか?という考えから始まったこのトレーニング。

 

かれこれもう2時間は経過していた。

 

「やはり相手に触れる(・・・)事が求められる魔法は難しいのか?....いやでも....」

 

そうやってノアはブツブツと独り言を呟いてノエルの魔力コントロールに付き合うのだった。

 

だがその時、

 

「あっ!?」

 

ノエルの集中力が途切れてしまい、《海竜の巣》の中にいたノアに水が溢れてしまう。

 

「......」

 

「ちょっとノア、大丈夫...!?」

 

「ああ...まぁ、取り敢えずは...」

 

全身ずぶ濡れになってしまったノア。

 

「ノエル、今日のトレーニングは終了だ...練習内容はまた考えておく...それじゃ、また後で。」

 

これ以上続けてもノエルの集中力は途切れたままだと判断したノアはトレーニングを此処で切り上げるのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

その数時間後、ノアはマグナとペアを組んで任務へと来ていた。

 

「ふ....ふあっくしゅん!!!

 

「どうしたノア、風邪でも引いたか?」

 

ノアのくしゃみに対してからかうマグナ。

 

「別に、何でもないですよ。」

 

マグナのからかいを軽く流し、任務へと来ていたノアとマグナ。

 

その日は難なく任務を完了させ、アジトへと戻った訳だが....

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「それで、次の日の今日...遂に熱をだしてしまった訳か...」

 

思い出して直ぐ、自己嫌悪するノア。

 

「迂闊だった.....昔から風邪引かないから、これぐらい大丈夫だと思ったけど...普通、着替えたりしないと風邪引くよな....」

 

ハァ、と深いため息を溢して天井を仰ぐ。

 

(今日一日....安静か、全く、嫌な休暇の過ごし方だ....)

 

そんなことを考えていたが、暫くすると眠りにつくのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「......んァ?」

 

部屋の中から物音が聞こえる。

 

その音でノアは目を覚まし、部屋を見渡す。

 

「お、起きた!?」

 

「......」

 

物音を正体を知ったノアはジト目になり、呆れた様な表情になる。

 

「何やってんの......ノエル。」

 

物音の正体はノエルであった。

 

「べ、別に....私のせいであんたに迷惑かけたからとか...そんなんじゃないからね!」

 

「.........」

 

何というツンデレ、でもそれは俺ではなくアスタに対して言うべきでは?

と思ったが、今は黙っておく事にした。

 

「ハァ.....あのな、ノエル...これに関しては俺に非があるんだから別にお前が責任感じる必要はない筈だ....それと、そのツンデレは俺でなくアスタに対してしてやれ。」

 

「な.....////」

 

ノアがそう言った瞬間、ノエルの顔は一瞬にして真っ赤になってしまう。

 

「ななな、何で私があんな馬鹿スタと....」

 

「いや、隠してるつもりかもだけど...俺にはバレてるからな?」

 

そう言うと更に顔を真っ赤にしてしまい、

 

「べ、別に...そんなんじゃないから!...そんなんじゃないから~~~~!!!」

 

「あ、オイ!....行っちまった.....さて、」

 

周囲を見渡すと其処には散乱した洗面器やタオルなどの道具類。

 

「片付けないとだけど...動けないし....」

 

ノエルの相手をしただけで余計に熱が上がってしまったのか全身に痛みと悪寒を感じている。

 

「......寝るか。」

 

今は気にせず、兎に角休もう。それだけ考え、再び眠りにつくのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

『何故だ!』

 

『何故お前だけが生き残った!』

 

『お前さえ...お前さえ死んでいれば、アイツは!!』

 

誰だ?

 

『お前がアイツの代わりに死ねば良かったんだ!!!』

 

何故、俺にそんなことを言う。

 

『お前は生きてる価値すらない。』

 

明らかに自分に降り注がれる呪詛の声。

 

謂れの無い誹謗中傷の雨あられ。

 

ノアはそれを暗闇の中で聞き続ける。

 

『恥さらし!』

 

『死ね!』

 

止めろ...

 

『落ちこぼれ!』

 

止めろ......

 

『お前なんて....』

 

止めろ.........

 

『お前なんて、消えてしまえ!!!』

 

止めろ!!!!!!!

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「ハッ!」

 

目が覚めるともう夕方。どうやら目が覚めたらしい。

 

「何だったんだ....あの夢。」

 

夢の内容を事細かに覚えているらしく、思い出すだけで気分が悪くなる。

 

(取り敢えず、水でも飲むか....)

 

そう思い、ベッドから身を乗り出すと、

 

ムニュ、と何か柔らかいモノを掴んだ。

 

「ムニュ?」

 

聞き覚えの無い擬音に首をかしげ、音のした方に目を向けると、

 

「んうう...」

 

二つの大きな双丘が其処にはあり、何故かミモザがいた。

 

「.........は?」

 

突然の出来事に思考停止するノア。

 

何故、自分のベッドで寝ているのか?等々色々と言いたいことはあったが、最初に出てきた言葉は...

 

「か...風邪が移るだろうが!!!」

 

だった。

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

「それで、何してるんですか...ミモザさん?」

 

ジト目になりながらミモザを起こし、理由を尋ねることにしたノア。

 

「...何って....人肌でノアさんを暖めていたんですのよ。」

 

悪びれるどころか、恥ずかしがる素振りすら見せないミモザ。

 

あれぇ~俺が間違ってるのかな?と思ったが、それよりも気になった事が一つ。

 

「...そういや何で『黒の暴牛』のアジトの場所、知ってるんだ?」

 

「『黒の暴牛』のローブを纏った男性に教えて貰いましたわ。」

 

「...因みに、その人の特徴は?」

 

ミモザにアジトの場所を教えた人物が気になって訪ねてみた。

 

「そうですわね...茶髪で私に対して「お茶しよう」と申されておりましたわ。」

 

(ひとりしかいねぇ....)

 

ミモザの言葉で誰が教えたのか直ぐに分かった。

 

(あの女好き....)

 

教えた人物がフィンラルだと分かった途端、お礼をしようとした考えが一気に無に帰した。

 

だが、それよりも今は、

 

「?」

 

ミモザに対して言いたいことができたノア。

 

「...いいか、ミモザ...お前は男性に対してこういうことをしては駄目だ。」

 

互いにベッドの上で正座しているノアとミモザ。

 

「...何故ですの?」

 

「何故って....そりゃ....その...」

 

男の理性が焼き切れるから、なんて言えないノア。

 

「...兎に角、今後はこういうことをしては駄目だ。」

 

「...そうですか?ですが、私は子供の頃よくお母様にこうして貰いましたわ。」

 

菩薩のごとき笑顔でそう言うが、

 

「それは...同性であり、親族という条件が当てはまって初めて成立する事なんだよ。」

 

そう言うも、

 

「でも、私がしてあげたいと思ったことですし...それに、」

 

「それに?」

 

「私、ノアさんになら全てを差し上げても良いと思ってますわ。」

 

「...../////」

 

突然そんなことを言われてしまったノアは赤面し、固まってしまう。

 

素なのかそれとも天然なのか分からないミモザの発言にドキドキし、体温の上昇を感じるノア。

 

「他の男に、そういうこと...言わない方が良いぞ。」

 

「ええ、私ノアさんにしか言いませんわ。」

 

「......」

 

笑顔でノアに微笑みかける姿は、ノアにとって、何よりの治療薬

だと思った。

 

後日、ミモザのお陰か風邪は完治し、ノアは益々ミモザに感謝しないとな と思うのだった。

 

 



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ミモザの看病

「ゲホッ···ゲホッ···!」

 

一人の少女が、苦しそうに咳き込み寝込んでいる。

 

 (やって···しまいましたわ···)

 

彼女の名前は ミモザ・ヴァーミリオン

 

魔法騎士団 《金色の夜明け》団に所属している一人の魔導士である。

 

そんな彼女が何故寝込んでいるのかというと、

 

 (まさか、ノアさんのお見舞いに行った翌週に私自身が風邪を引いてしまうなんて···)

 

 

―――――――――――

 

先週のこと、ノアが風邪を引いたとたまたま近くを歩いていたフィンラルから聞いたミモザ。その時はフィンラルがナンパに誘っていたが、全く聞いていなかった。

 

と、いうよりもミモザは自分の命の恩人であり、何故か気になっているノアのことが心配になり、それどころではなかった。

 

そんなことよりも今はノアの見舞いに行きたい。そう思ったミモザは、話を続けるフィンラルにノアの居場所を訪ねた。

 

 「此処···ですわね」

 

フィンラルの空間魔法でノアの居る場所まで連れてきてもらったようだが、彼女の目の前には、古く寂れた様子の建物が建っているだけであった。

 

それまで、ミモザは此処が最低最悪な魔法騎士団で知られている《黒の暴牛》団のアジトだということを知らなかった。というか、ぶっちゃけるとノアは一人で此処に住んでいるとばかり思っていた。

 

 (ノアさんったら···こんな寂れた所で暮らしてるなんて···) 

 

何をどう勘違いしたらノアが一人で暮らしてるなんて考えられるのか分からないが、その時のミモザは少なくともそう考えていた。

 

ノアが、聞いていたら「え?何でそう思った?」と口にしていたことだろう。

 

ミモザはノアの部屋がどこにあるかフィンラルから聞いており、急いで向かうことにした。因みに、ノアの部屋はアジトの一階それも外側の近くにあるのだが···

 

「何処にノアさんがいるのか分かりませんわ」

 

どうすればいいのだろうか?そう考えていたミモザの中で一つ案が浮かんだ。

 

《植物創生魔法 魔花の道標》

 

こんなことで魔法を使うのはどうかと思うが、全てはノアの為である。ミモザはこれにより、ノアの部屋を突き止めて窓から侵入した。まるで泥棒みたいだが、ミモザ本人は気にしていないようだ。

 

そしてノアのベッドに入り込み、ノアの横顔をジッと見つめていた。

 

 (ノアさん···苦しそう···)

 

見るからに(うな)されているノアを見て、ミモザは苦しい気持ちになった。

 

「······めろ」

 

「ん?」

 

ノアが何かを呟いた事に気付いたミモザはノアの声を聞くために彼に近付いていく。

 

「俺は···何も悪くない···!!!」

 

「!」

 

普段見せることの無い涙を流して、そう呟いたノアにミモザは自身の心が苦しくなるのを感じた。

 

「俺は···俺は······!」

 

「大丈夫ですよ。」

 

ノアが言葉を発する前に、ミモザは自身の胸にノアを抱き寄せて頭を撫でる。

 

「例え、ノアさんの事を…この国の人達全てが…馬鹿にしたとしても···私だけは、いつもノアさんの味方ですから···だから、泣かないでくださいまし。」

 

ミモザがそう言うと、聞こえたのかノアは涙を止めてそのまま眠りに着いた。

 

「ノアさん···」

 

この時、ミモザは自分の胸の内で何か熱いモノを感じていた。

 

(何でしょうか…この感覚は…?)

 

それが“恋”だという事に彼女が気付くのはもう少し先のことである。

 

そして、ミモザもいつの間にか眠ってしまった。

 

その後ノアは目を覚まし、暫くしてこう叫ぶのだった。

 

「風邪が伝染るだろうが!!!」

 

―――――――――――――――

 

「まさか···ノアさんの言うとおりになるなんて···」

 

あの日の事をふと、思い出してそうミモザは呟いた。

 

(そういえば、ノアさんは今日···何をしてるのでしょうか?)

 

本来ならば、任務でクローバー王国を離れているであろうとミモザは思い出し、任務に行ってるのだろうと自己完結した。

 

「心細いですわ···ね。···風邪を引くと、こうなるのは分かっていましたが···」

 

今は昼過ぎ。ミモザはひとり、部屋で寝込んでいるためか心細く感じていた。

 

(何故でしょうか···こんな時までノアさんの事を思い浮かべるなんて···)

 

あまりにも寂しさを感じた為か、いつの間にかノアの事を思い浮かべていた。

 

「ノアさん···」

 

いつでも全力で戦い、時には庇ってくれたり守ってくれるノア。そんな彼の事を思い浮かべては直ぐに頭からかき消し、また思い浮かべるミモザ。

 

そんなことをしていると、次第に顔が赤くなっていくのを感じていた。

 

(な···何で私、こんなにノアさんの事を考えているの···!?)

 

自分でも分からない。なぜこんなにも彼のことを意識しているのかなんて、とベッドの中で蹲るミモザ。

 

(そういえば、あの時···)

 

ミモザは叙勲式であった事を思い出していた。

 

――――――――――

 

「今回の魔宮攻略、確かに彼女にも落ち度はあったのでしょう···しかし、彼女の回復魔法がなければ我々は死んでいたかもしれない···彼女を辱めるだけでなく、評価すべき点は評価すべきではないでしょうか?」

 

そう言って彼 ノア・レイダスは自分の前に立ち、物怖じすることなく庇ってくれた。

 

(この人は他の人とは違う。レオポルドさんやフエゴレオンさんならまだしも、他の人は私の魔法しか見てくださらない。なのにこの人は、ちゃんと私を見て、そう言ってくださる)

 

それが、ミモザにとっては何よりも嬉しかった。自分の事をちゃんと見てくれている人がいたということ。自分の力を認め、自分の代わりに立ち向かってくれた事。

 

ミモザはノアに感謝している。今までも、そして恐らくはこれからも

 

「ノアさん···会いたいですわ···」

 

そう呟き、ミモザは再び眠りに着いた。

 

――――――――――――――

 

「ミモザ!」

 

暫くしてレオがミモザの見舞いにやってきた。しかし、どうやら興奮している様子だがそれでもミモザが目を覚ますことはない。

 

「おっと、ミモザは眠っているんだったな いかんいかん。」

 

外から差し込む光からもう夕暮れ時であることがわかる。どうやらミモザはずっと眠っていたらしい。

 

「よく眠っているようだ····帰るとするか。」

 

そう言ってレオは自分の騎士団へと帰るのだった。

 

―――――――――――――― 

 

「······れで、よしと」

 

 (んう?)

 

レオが見舞いに来た後、暫く眠っていたミモザだが、誰かの気配を感じ、目を覚ました。

 

「後は、書き置きを···」

 

声の主は何かを作っていたようで、それが終わると机の上に書き置きを残した。

 

それと同時にミモザも段々目を覚ましつつあった為、誰が来ているのかやっと理解し始めた。

 

「これでよし···さて、ミモザを起こさないように出ていかないと」

 

「!」(この声は···!)

 

漸く目覚めたミモザは誰が来ているのか理解し、踵を返した時、慌てて引き止めようと“彼”に手を伸ばす。

 

「ま···待ってくださいまし!」

 

慌てていた為かミモザは見舞いに来た“彼” ノアのローブの裾を掴んでいた。

 

「あ······///」「や、やぁ···ミモザ元気そうで何より。」

 

ノアと目が合った途端、ノアは笑顔をミモザに見せ、それを見たミモザは、

 

「キャアアアアア!!!」

 

と大声を上げ、顔を真っ赤にしてしまった。この時、近くに誰も居なかった為何事もなかったがもし誰か居ようものならノアは犯罪者扱いされていただろう。

 

――――――――――――――――――

 

「は···恥ずかしいですわ···///」

 

淑女が出してはいけない声を出し、大騒ぎしてしまったからかミモザは恥ずかしそうに布団を頭まで被ってしまった。

 

「気にしないで···それと、事情はレオから聞いた···何か出来る事はないかと思って薬を作って来たんだ。」

 

ノアは近くの椅子に座り、そう告げた。

 

「薬···ですか···?」

 

恥ずかしがるミモザを宥め、目的を伝えるノア。ミモザは目元まで布団を下げてノアを見た。

 

「あぁ。俺が子供の時、シスターに教えてもらった薬だ。」

 

そう言ってノアが手に取ったのは緑色の液体であった。

 

「あの···これは···?」

 

初めて見る異様な液体に、ミモザも少し引いている。

 

「一応薬草を煎じて作った薬なんだけど···俺が子供の頃に飲んだ薬と同じものだから飲めるとはずだけど···」

 

「えぇ······」

 

飲みたくはないのかミモザは身をよじって逃げている。

 

「まぁ、後で飲んでくれればいい···それよりも、水分をしっかり取った方がいい。その方が、治りも早くなる。」

 

「え、えぇ分かりましたわ。」

 

アドバイスを貰った為、後で試そうかどうか少し悩むミモザ。初めて見た薬(と呼ばれた緑色の液体)に戸惑っているようだ。

 

「それじゃあ、風邪が感染るといけないし···もう行くよ」

 

「えっ···!?」

 

「今はゆっくり休んだほうがいいよ、それじゃあ俺はこれで」

 

そう言って立ち上がろうとした時、

 

「ま、待ってください!」

 

ローブを思いっきり掴んで引き戻そうとするが、

 

「うおっ!?」

 

突然だったからかノアはバランスを崩してその場に後ろから倒れてしまう。

 

「あっ···ご、ごめんなさい!」

 

「ミモザ···意外と力あるな···イテテ」

 

ノアも受け身を取り損ねて蹲っている。

 

「あの···もう少しだけ、此処にいて下さらないでしょうか?···その、心細くて···」

 

恥ずかしそうに照れた様子でもじもじしながらそう言うミモザ。

 

「う〜ん···」

 

ノアはミモザの体調が気掛かりだったが、本人の要望とあっては仕方ないと考え、

 

「分かった。それじゃあ、俺は何をしたらいい?」

 

「そうですわね···」

 

少し悩んだ後、

 

「ノアさんの話が聞きたいですわ。」

 

そう言って、ノアに笑顔を見せるのだった。

 

――――――――――――――――――

 

それから、ノアはミモザに色んな話をした。

 

「今日はアスタとペアで討伐任務に行ってきたんだけど···偶然レオ達と鉢合わせちゃって···そしたらレオが、アスタに『どっちが多く倒せるか勝負だアスタ!』って···アスタも『乗った!』っていつの間にか任務そっちのけで···」

 

「あらあら、レオさんらしい···」

 

と、微笑みながら話を聞いていた。

 

他にも子供の頃の思い出などを話していた時、

 

「そういえば、ノアさんっていつから魔法を使えるようになったんですの?」

 

この世界では、魔力を持っていれば誰でも魔法を使うことが出来るようになるのだが、発動出来るようになるまでに個人差があるのだ。

 

それも人によってはかなり異なっており、例えば早くて4歳から使えるものもいれば、遅くても8歳から使える者もいる。

 

ミモザの質問はこれを指しているのだ。

 

「そうだな···確か、5歳くらい···だったと思う。」

 

「早かったんですね···因みに私は6歳からでしたわ。」

 

「そうか。」

 

「ノアさんが初めて使った魔法はなんですの?」

 

「そうだな···」

 

ノアは自分の思い出を遡り、思い出す。

 

―――――――――――――

 

『あれは、確かユノのネックレスが奪われた時の事だった。』

 

「オイ、お前!それはユノの物だ返しやがれ!」

 

我先にアスタがネックレスを奪った男に立ち向かう。

 

「うるせぇな、ガキがこんなもん持ってるほうが悪いんだよ。」

 

男は無茶苦茶な事を言って煙に巻こうとしている。

 

「だったらお前も、大人のクセに子供のもの盗ってんじゃねぇよ。」

 

ノアはそう言って男に立ち向かった。

 

「うるせぇ!ガキが知ったような口聞いてんじゃねぇ!」

 

そう言って男はアスタ達に殴りかかってくる。

 

「うるせぇ!いいから返しやがれ!」

 

アスタも負けじと殴りに行く。

 

しかし、大人と子供では体格差や色々と違う為アスタが負けてしまう。

 

「返しやがれ!!!」

 

それでも負けずにまた立ち上がるアスタ。

 

殴られるアスタ。

 

立ち上がるアスタ。

 

ノアはアスタがやってくれると信じているのか何もしない。

 

いや、してはならないのだ。そう考えていた。

 

その時、

 

「こうなりゃヤケだ!オラァ!」

 

何度も立ち上がるアスタに苛ついたのか、男は懐からナイフを取り出し、アスタに向かって襲いかかろうとする。

 

「アスタ!」

 

ノアが慌ててアスタの元へと向かう。

 

アスタは突然のことで反応が遅れてしまう。

 

「死ねぇ!」

 

男が振りかぶった瞬間、

 

「やめろぉ!!!」

 

ノアの叫びに答えたのか、男に向かって炎が飛んでいった。

 

「な、何だこれ!」

 

炎は男を包み込むと男のポケットから奪い取ったユノのネックレスをアスタに投げつけた。

 

「おっと」

 

「これで取り返した。ユノの所に行こうぜ。」

 

「お、おうそうだな!」

 

アスタはそう言うとそのまま走っていってしまった。

 

「さて、」

 

ノアは炎に包まれた男を冷たい目で睨み付ける。

 

「あばよ、クソ野郎···!」

 

ノアは魔法を解除することなくその場を去り、ユノの元へと戻るのだった。

 

―――――――――――――

 

「···アさん···」

 

「···」

 

「ノアさん!」

 

「!」

 

「どうされたんですの?話の途中でぼーっとされていたみたいですが···」

 

「······」

 

どうやら少し過去に戻っていたようである。

 

「いや、何でもない···それよりも、他に聞きたいことはあるか?」

 

「そうですわね···」

 

この後も、日が暮れるまで二人の話は続いたそうだ。

 

――――――――――――

 

後日、

 

「おはようございます。皆さん。」

 

「ミモザ···!もういいのか?」

 

「はい!ノアさんのおかげです!」

 

ミモザは任務先でノアとばったり遭遇する。

 

「病み上がりなんだから無理しないようにな。」

 

「大丈夫ですわ、むしろ休んだ分働かないといけませんから···!」

 

「そうか?でも···」

 

「え···!?」

 

ノアは突然ミモザの額に自分の額をくっつけた。

 

「うん。熱は無いみたいだ。」

 

ノア本人はミモザの体温を確認するためにしたようだが、ミモザ本人からすれば思わぬ急接近であった。

 

ミモザは興奮と緊張のあまり、顔を真っ赤にしてそのまま倒れてしまった。

 

「はひゅう···」

 

「ミモザ!?うわ!すごい熱!やっぱり休んでた方が良かったんじゃないのか!?」

 

それを遠くから見ていたノエルは一言

 

「バカなんじゃないの···?」

 

と、呆れてノア達を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もっと、尊い作品が書きたいです。


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メリークリスマス

「寒っ」

 

季節は冬 外はチラチラと雪が降りそうなほど寒くなっている。

 

この日、ノアはミモザと王都で待ち合わせをしていた。

 

そう、いわゆるデートである。

 

因みにデートの約束を取り付けたのはミモザである。無自覚天然タラシのノアにそんな事が出来るとはとても思えないからである。

 

「なんか今馬鹿にされた気がする。」

 

おっと、これは失礼···さて、何故二人がデートをすることになったのか話していこうと思う。

 

――――――――――――

 

数日前のこと···

 

「あの···ノアさん。」

 

「ん?何だミモザ?」

 

『白夜の魔眼』に攫われたノアとアスタ。彼らが魔法帝と共に帰還して来た数日後、ミモザはノアに近付き、話し掛けてきた。

 

「数日前の事ですが···」

 

「?」

 

その時はミモザが何を言ってるのか分からなかったが、ノアは直ぐに気付いた。

 

「あぁ、叙勲式の事か···」

 

「はい。」

 

ミモザは静かに頷き、アスタがミモザの返答を待っていると

 

「その···私のこと···庇ってくれてありがとうございます···!」

 

ミモザは申し訳なさそうにノアに頭を下げた。

 

「···」

 

ノアは何故そんなことをされるのか、分からなかった為疑問符を頭に浮かべていた。

 

「気にするな···あの時はミモザの頑張りが無為にされてしまう。それだけは駄目だと思ったからそうしただけだ。」

 

と、言い放つノア。

 

しかし、

 

「いいえ!それでは私の気が済みませんわ!」

 

「!?」

 

突然大声を出してノアを否定したミモザに、ノアは驚愕し、絶句してしまう。

 

「す、済みません···突然大きな声を出して···」

 

「いや小さい小さい。なんでさっきと反比例して声小さくなってんの···」

 

ハァ、とため息を漏らしノアは空を見上げる。

 

(思えば、今まで生きてきてお礼を言われたのなんて···アイツらだけだったな。)

 

アイツらとは、アスタ達を含めた子供達のことである。

 

(人から感謝されるのって···やっぱり良いな。)

 

人の暖かさに触れ、胸の辺りが熱くなるのを感じたノアはフッ、と笑みを浮かべてからミモザを一瞥する。

 

「!?···///」

 

ミモザはノアに見つめられ、驚いたあとに頬を紅潮させモジモジしだす。

 

「?」

 

ミモザのその行動の意味が分からなかったが、取り敢えずミモザが照れていることだけは理解したノア。

 

「···分かった。」

 

「···!」

 

ノアがそう言うと、ミモザの表情はパアアッと次第に明るくなっていった。

 

「ミモザが俺に恩義を感じているのは分かった···でも今回俺は『白夜の魔眼』に攫われて心配をかけた。」

 

「い、いえ···それは···」

 

ノアに非は無い事はミモザも理解していた。あの時、ノアは『白夜の魔眼』の一人と交戦し、その後気絶はしたがその後直ぐにアスタ達の元へと駆けつけた為、疲労が重なり···その結果、アスタと共に攫われてしまうという失態を犯してしまった。その事でノアはミモザに対しても騎士団全員に対して責任を感じていた。

 

「だから···心配させたお詫びにミモザの頼みを一つ聞くよ。」

 

「え···」

 

突然の提案にミモザは一瞬、時が止まったような気がした。

 

「あ〜と言っても何でもって訳にはいかない···俺の出来る範囲での話だ。」

 

そう言うと、ミモザは少し考え、

 

「な、なら···次の休暇は私に付き合ってくださいまし!」

 

「え?」

 

ノアに対してそう強く言い放ったが、直ぐに自分が何を言ったのか理解し、ノアから顔を背けた。

 

(わ、私ったら何を言ってますの――!?)

 

今の誘い文句は完全にデートのお誘いである。それに気付いたミモザは自身の顔が次第に赤く、熱くなるのを感じていた。

 

 (今の言い方だと、流石のノアさんもデートのお誘いだと気付いてしまうのでは···)

 

「あぁ、いいぞ。」

 

「え」

 

あっさりと承諾したノアにミモザは戸惑ってしまった。

 

「···もしかして、嫌だったか?」

 

「い、いえいえ!!是非、お願い致しますわ!!」

 

「お、おう···宜しく頼む···?」

 

ミモザの圧に押され、そう言うノアと裏でヨシッ、と拳を握るミモザ。ミモザは完全にキャラ崩壊している。

 

(買い物くらいなら何時でも付き合うんだけどなぁ···)

 

とその時ノアは思った。どうやらデートのお誘いだとは気付いていない様子。

 

彼がミモザの想いに気付くのは一体何時になるのだろうか···

 

――――――――――――

 

時は戻り、王都 中央区

 

都市の中心にある噴水の前でノアがミモザを待っていた。

 

(予定時刻よりも早く来ちゃったな···)

 

彼は予定時刻よりも30分も早く辿り着き、この寒空の下···ミモザを待っていた。

 

その時、彼に近付いて来る足音が一つ。

 

(来たか。)

 

どうやら、待ち人が来たのだとノアは思い、足音の方へと振り向く。

 

「予定時刻よりも早いなミモ···ザ···」

 

そこに居たのは···

 

「お、お待たせ···致しましたわ。」

 

軽く化粧をし、髪を後ろに束ね、リボンを付けており笑みを浮かべ、こちらを見つめているミモザがそこに居た。

 

「あら?ノアさん早いですわね。」

 

「·········」

 

「ノアさん?」

 

「あ、あぁ···ミモザも早いな。」

 

どうやらノアはミモザの普段とは異なる装いにドキドキしているようだ。

 

(どうした俺!?なんで何時もよりドキドキしてるんだ!?)

 

普段よりも綺麗なミモザにドキドキしっぱなしのノア。ミモザは嬉しそうにノアを見て笑みを浮かべる。

 

「ノアさん、行きましょう。」

 

「え?あ、あぁ···」

 

ミモザに手を惹かれ、ノアは彼女に着いていく。一方のミモザはというと、

 

( (恐らくですが、ノアさんは私の気持ちにまだ気付いておりませんものね。)

 

正解ですミモザさん。

 

((でしたら、今日のデートで少しは私の事を意識してもらいたいですわ。)

 

ミモザはノアに少しでも意識してもらおうと今日は張り切って普段はあまりしない化粧をし、髪型も変えて今日のデートに望んで来ているようだ。

 

因みに、ミモザがノアの事を好きだと気付いた話は直ぐにでも出すのでもう少しだけお待ちください。

 

一方のノアも、ミモザを意識してしまい普段よりも緊張してしまっている。

 

こんなんでホントに関係が進展するのだろうか?(素)

 

――――――――――――――

 

「こちらですわ。」

 

ミモザに連れられて来たのはとある雑貨屋。

 

「へぇ、色んな物が売ってるんだな···」

 

なんとか平静を装おうとしているが、声が震えてますよノアさん。

 

「もしかして、こういったお店は、お嫌いでしたか?」

 

「い、いやいやいや!雑貨は好きだよホント、ホントに···!」

 

ミモザを意識し、ドキドキしっぱなしのノア。

 

( (ノアさん、私の事···意識してくださってるのね···嬉しいですわ///)

 

それを見てミモザは意識してくれてるのだと頬が綻ぶ思いであった。

 

「さ、さて何が売ってるのかな〜」

 

何とか誤魔化そうとして店内へと入っていくノア。

 

「あっ、ノアさん···待ってくださいまし。」

 

そんなノアをミモザは追いかける。

 

「ん?」

 

そんな時、ノアの目にある商品が飛び込んでくる。

 

「これは···」

 

それは、ハートを2つに割ったような形をしたネックレスであった。

 

( (コレ···いいんじゃないか?)

 

ノアはちょうど時期が近いクリスマスのプレゼントを考えていたところであった。と言っても送る相手など教会の子供達以外にはミモザしかいないのだが···

 

「?どうかされましたかノアさん?」

 

「いや、別になんでもないよ!?」

 

何とか誤魔化そうとして、ミモザにそう言い放った。

 

「?」

 

ミモザはなんのことだか分からなかったが、ノアに意識してもらえるようにと考えることにした。

 

――――――――――――――

 

その後も色々と見て回り、気が付いた頃には日も沈み始めていた。

 

「もうこんな時間か···」

 

「そうですわね。」

 

二人もそろそろこの時間が終わるのだと感じ始めていた。

 

「そろそろ帰らないとな···っと、その前に···」

 

「?」

 

ノアはミモザに、先程の雑貨屋で見つけたネックレスを手渡した。

 

「クリスマスプレゼントだ。気に入ってくれたら···その、嬉しい。」

 

普段よりも語彙が少なくなったノアだが、ミモザはそんな事に気付かず。ただただノアのプレゼントが嬉しくて堪らなかった。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「もう一個、ペアになってるのも買ったから···これは、いつかミモザに好きな人が出来たらあげてくれ。」

 

「え···!?」

 

ノアのその言葉に、ミモザはショックを受けた。

 

「な、何故···そのような事を···!?」

 

「いや、だって俺は下民でミモザは貴族だ。もしもの話、ミモザが俺を意識してくれてるのだとしても俺はミモザには釣り合わない。だから、それはミモザと釣り合う人にあげてくれ。」

 

どうやら、ノアもなんとなくミモザの事を好きになっているらしい。が、自分とミモザでは立場が違うのだと諦めようとしているようだ。

 

「じゃあ、俺はこれで···」

 

そう言ってノアはアジトへと帰ろうと踵を返したところで、

 

「···え?」

 

ノアの裾をミモザが掴んでいた。

 

「どうして···そんなことを言われるんですか···?」

 

「ミ、ミモザ···?」

 

「私が好きなのは、ノアさんただ一人です!他の人なんて考えられません!私はノアさんだからいいんです!」

 

「······」

 

こんな事を不意に言われてしまい、ノアは赤面してしまう。

 

「でも、俺は···下」

 

下民だから.そう言おうとしたが、

 

「関係ありませんわ!···私はノアさんだけが···ノアさんだからいいんです!」

 

周囲には人は居らず、二人きりだった為、誰にも聞かれずに済んだ。

 

流石に雰囲気ブチ壊したくないからね。(作者目線)

 

「···」

 

女の子に此処まで言わせたにも関わらず、ノアは恥ずかしさのあまりに顔を、背けてしまう。

 

「本当に、俺でいいのか?」

 

恐る恐るノアはミモザを見て、そう訊ねる。

 

「はい!私は魔宮で魔力を分けて下さったあの時からノアさんが好きなんです。」

 

「···///」

 

何時もならミモザが照れるのだが今日は珍しくノアが赤面してしまう。

 

「分かった。なら、俺ももう我慢しない。」

 

「え?」

 

ノアはミモザの肩を掴み、面と向き合う形になる。

 

「ミモザ。」

 

「はい。」

 

「俺は···お前が好きだ。」

 

「···///」

 

「俺と、付き合って欲しい。」

 

ノアの告白に対してミモザは、

 

「···はい、私で宜しければ。///」

 

赤面しながらOKを出し、ノアと付き合う事にしたミモザ。

 

「そうか···ありがとう。」

 

ノアが嬉しそうに笑みを浮かべると、ミモザは赤面し、顔を背けてしまう。

 

「や、やっぱり恥ずかしいですわ///」

 

「?どうして?俺達、付き合うことになったんだからこれぐらいの距離は当たり前じゃない?」

 

「で、ですが、」

 

「まぁいいや···さてもうそろそろ暗くなる騎士団のアジトまで送るよ。」

 

そう言って、『金色の夜明け』まで送ろうとしたところ、

 

「その前に、ノアさん。」

 

「?何?」

 

「コレ、付けてくれませんか?」

 

ミモザはノアにプレゼントされたネックレスを両手に抱え上目遣いでノアを見つめていた。

 

「···分かった。」

 

そう言ってノアは、ミモザからネックレスを受け取り、真正面からミモザにネックレスを付け始めた。

 

(···ち、近いですわ///ですが、これは当たり前の事。なんですのよね。)

 

「ほら、付け終わったぞ。」

 

ミモザがそんな事を考えている間に、ノアはネックレスを付け終えたようだ。

 

「さて、残りは俺が···」

 

そう言って自分でネックレスをつけようとした時、

 

「あの、私に付けさせてくれませんか?」

 

「?···別に良いよ。」

 

ミモザの要求を聞き、ノアは彼女の頼みを聞き入れた。

 

「では···」

 

そう言うと、ミモザはノアと同様に顔前からネックレスを付け始めた。

 

(む、胸が···柔らかい···そして息が苦しい···)

 

ミモザの大きな胸が、ノアの顔を覆い隠すようにしてしまっていた為、ノアは息苦しさを感じていた反面、もっとこの感覚を味わっていたいと思った。

 

「はい、付けましたわ。」

 

「···ありがとう、ミモザ。」

 

「いえ、それよりも私と付き合って下さりありがとうございます。」

 

「···」

 

「···」

 

「フ」

 

「フフ」

 

『アハハハハ!!』

 

二人は互いのやり取りがなんだか可笑しくなってしまい、つい笑ってしまった。

 

やっと互いの気持ちを言い合ったノアとミモザ。

 

二人はこれからも付き合い続け、幸せになるのだろうと互いに思い合うのだった。

 

―――――――――――――

 

「さて、読者の皆さん。楽しんでくれたか?主人公のノアだ。」

 

「ヒロインを務めさせて頂いておりますミモザですわ。」

 

「今日はクリスマス・イブという事で作品を投稿させてもらったらしいが、皆···楽しんでくれたか?」

 

「皆様も、今日はクリスマス・イブという事で是非、楽しんで下さったと思いますわ。」

 

「今はコロナウイルスが世界中で蔓延してるみたいだが、俺達二人はいつかコロナウイルスが世界から無くなる事、皆がこの危機を乗り越えられる事を願ってるぞ。」

 

「皆様も、身体に気をつけて毎日を過ごしてくださいませ。」

 

「さて、今日はこれでお別れとさせてもらうぞ。」

 

「では、ノアさん。」

 

「あぁ。」

 

    『せーの、メリークリスマス!!!』

 

 

 

 



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