ゼロのネクロマンサー (結城マサヒト)
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プロローグ――水の女神

 

 

どうも、俺は死んだらしい。

 

 

ぶっちゃけ死んだ時の状況をあんまり覚えてないんだけど、目の前には女神を名乗る美女が居る。

まぁそれだけなら夢でも見てんのかなーと思ったり?なんかコスプレ会場でも来てたっけ?とか思えない事もないんだけど、なんか後光のようなキラキラを撒き散らしてるし、美人度が俺が知っている人間とは段違いである。

テレビで見るアイドルとも違う人間離れした美貌や、透き通った水色の長い髪、ボディラインも素晴らしい。どこかで写真を見たとしても、絶対フォトショで修正してますよね?っていうレベルの美女だから、なんとなく本物なんだと思ってしまう。

 

 

 

「――――――――カズマさん、貴方には3つの選択肢があります。1つ、このまま日本で記憶を無くし、赤ん坊として生まれ変わるか。2つ、記憶をもったまま天国的な所でお爺ちゃんみたいな生活をするか。3つ、肉体と記憶を維持したまま新しい世界に生まれ変わるか。まーオススメは3つめなんですけど!どうする?」

 

 

 

いかんいかん、ぼーっとしてたら始めの方聞き逃した。……って、1つ目と2つ目はわかるけど、3つめって転生?

 

 

「――えっと、その3つめってどういう事?何でわざわざ記憶も肉体もそのままで転生みたいなコースがあるんですか?」

 

 

なんか最後でちょっとフランクになった青髪の女神に、3つめの事を確認する。聞くだけだと小説の主人公でワクワクするけど、わざわざそんな事実際にする必要ってあるのかな?

 

 

 

「実はね? 今、ある世界でちょっとマズイ事になってるのよねー。って言うのも、俗に言う魔王軍ってのがいて、その連中に、その世界の人類みたいなのが随分数を減らされちゃってピンチなのよ。その星で死んだ人達って、まあほら魔王軍に殺された訳でしょう? なもんで、もう一度あんな死に方するのはヤダって怖がっちゃって、 そこで死んだ人達は殆どがその星での生まれ変わりを拒否しちゃうの。はっきり言って、このままじゃ赤ちゃんも生まれないしその星滅びちゃう! みたいな。 で、それなら他の星で死んじゃった人達を、そこに送り込んでしまえって事になってねー。」

 

 

はー、つまり魂の総量があるとして、その世界は減る一方だから、そんなに困ってない地球から持ってけばいいじゃんって事か。てかこの女神さっきからカンペみたいなものチラチラ見てるし、口調もフランクだな。

 

 

 

「……って、それなら俺も嫌ですよ!そんな魔王とかいる世界に送り込まれても、一般人の俺なんかすぐ死んじゃいますもん!」

 

 

そう言うと、女神は鼻で笑ってから解決策を提示してきた。

 

 

「ま、そりゃそうよねー。あんたみたいなのが魔王軍と戦ったらすぐ死んじゃうだろうしー、ぷくく。まあ、送ってすぐ死んじゃうんじゃあ意味が無いから、何か一つだけ向こうの世界に好きな物を持っていける権利をあげているの。それは、強力な固有スキルだったり。とんでもない才能だったり。神器 級の装備を希望した人もいたわね。……どう? これならお互いにメリットがある話でしょう? あなた達は、異世界とはいえ人生やり直せる。異世界の人達は 即戦力になる人がやってくる。悪くないでしょ?」

 

 

……ほほう、確かにそれは悪くない。パッとしなかった学生から、チートキャラにジョブチェンジ出来ると考えたら、中々に心が躍る。ただ、行き先が北斗のパンチみたいなディストピアなら嫌なんだけど。

 

 

「それは魅力的ですね!でも、その転生先の世界ってどんなものなんですか?すごい能力があっても、世界が核に包まれるような世紀末世界なら嫌なんですけど。いきなり魔王城に出現しても即死でしょうし。それに、言葉とかも通じなかったらどうしようもないですよね?」

 

 

 

「その辺は問題ないわ。行き先は冒険者が居る剣と魔法のファンタジー世界みたいな所だし、私達神による、アレな超パワーでサクッと都合よく解決済み。行き先はアクセルっていう駆け出し冒険者の街って言われてる所だし、文字だって読めるし向こうの貨幣なんかも、日本円に脳内で換算されてくれる分かり易い便利システムを採用してるわ。」

 

そんな疑問を投げかけると、3つめの選択肢を選びそうだからか、ニコニコドヤドヤ顔で語ってくる女神様、なんか可愛いな。

 

 

「――おお、それなら行ってみたいですね!ちなみに頂ける能力とかはどの程度まで可能なんですか?例えば世界最強になるだとか、魔王より強くなるだとか、相手を見るだけでなんでも命令できる魔眼とかは可能なんでしょうか?」

 

うーむ、父さんには悪いんだけど、日本で転生しても記憶が無くなるなら会えないしなぁ…。母さんは俺を産んでくれた時に亡くなってるし……親不孝でごめん。と思いつつ、貰える能力について聞いてみる。

 

 

「ばっかねー、流石にそれは無理ってもんよ。えーっとどこだったっけ……あったあった!まぁこの中から選びなさい!1個1個聞かれてもめんどいし。あ、でもさっさとしてね。」

 

まぁ無理か。というかだんだん投げやりになってませんか女神様。

あとカタログみたいなのを机から投げ渡してくるけど、よく見たら机めっちゃ散らかってますよ女神様。

 

 

気を取り直してパラパラとめくってみる。

ふーむ、≪怪力≫≪超魔力≫≪魔剣ムラマサ≫≪聖剣アロンダイト≫等々、色んな名前が記載されている。

おそらく、予想ではあるがどれも強い能力や装備なのだろう。でもどれか1つなら悩む……ただ、目安としては前衛系はやりたくない。何故なら怖いからである。一般人を舐めてはいけない。

そう考えると魔法使い系だよなー。この≪超魔力≫とか≪ユグドラシルの杖≫とか≪大賢者≫とか良さそうだよね。……お?

 

そんな事を考えていると、一つの項目に目が止まる。

 

≪能力プリインストール≫既に存在する人物の技能・能力をコピーした状態

と書かれている。

 

…うーむ、でもさっき最強とかは無理って言ってたもんな。しかし、他の能力を考えるとそこそこ強い人物でもいけるんじゃないか?……そうだ!

 

 

「あの、女神様。質問なのですが、転生先の街?というのは初心者向けの街なんですよね?なら魔王みたいなトンデモ能力者は居ませんよね?」

 

 

「んー?そりゃもちろん居ないんじゃない?駆け出し冒険者の街って言われてるぐらいだしねー。んで決まったのー?いい加減決めてよー。はやくしてーはやくしてー!」

 

ふとある事に気付いて質問する為に顔を上げると、めんどくさそうに前髪をいじっていた女神様がなげやりに教えてくれる。

ちょっと尊さが下がるのであまり喋って貰わない方がいいかもしれない。

 

 

「あ、もう決まりそうです!あの、駆け出し冒険者向けの街なら、魔王だとかの最強クラスは居ませんよね?どうせ駆け出し冒険者の街なんですから!……なら、この≪プリインストール≫で、行き先の駆け出し冒険者向けの街の中で、"一番強い魔法使いの人をプリインストール"というのでどうでしょう!それならいいですよね?」

 

駆け出し冒険者の街という事は、指導教官的な存在がいるのでは?という事を狙っての選択である。

 

 

「……んー?そうね!まあ"アクセルの中で一番強い魔法使い"ぐらいならまあいいわ!じゃあこの魔法陣の中央から出ないようにねー。能力は移動と同時に確かつくはずだからー!それじゃいってらー!」

 

……なんか不安なんですけど!?

「つくはずって本当につくんですよね!?大丈夫ですよね!?」

 

 

「あー、だいじょーぶだいじょーぶ。……たぶん。――――――ごほん、では佐藤和馬(サトウカズマ)さん。あなたをこれから、異世界へと送りまーす。魔王討伐の為の一応勇者候補の一人として、魔王を倒した暁には、神々からの贈り物を授けましょう。」

 

たぶんって言った!たぶんって言ったんですけどこの女神!―――って、あれ?

 

 

「……あの、女神様?」

 

おかしな点に気付いて、女神に声をかけるも、厳しい声に遮られる。

 

「ちょっと今良い所なんだから!決め台詞中なんだから黙って!――――そう、世界を救った暁には、たとえどんな願いでも、一つだけ叶えて差し上げましょう。……で、なによ。せっかくの決め台詞遮ったからにはつまらない事じゃないでしょうね!」

 

一気に決め台詞とやらを言い終わった後、女神様がぷんぷんと怒った顔で聞いてくる。

 

 

でも、あの

 

「俺の名前、加藤一真(カトウカズマ)なんですけど……………」

 

「…………………はぁ?」

 

何言ってんのこいつ。という顔をした後、女神の顔が驚愕に変わる。

 

 

「ハァ!?あんたヒキオタニートの佐藤和馬(サトウカズマ)でしょ!?」

 

 

「え?いや、俺入学したばっかりだけど大学生だし名前も加藤一真(カトウカズマ)なんですけど!?」

 

……もしかしてこの女神間違えやがったな!?女神というか駄女神じゃねぇか!

 

そんな事を言いあっていると、魔法陣から明るい光が溢れ出してくる。

あ、なんか体にも何か入ってくる感じ――これって能力が入って来てるんだろうか?

 

 

「えーー!?えっとカトウカズマカトウカズマ……あれ!?そもそも転生先違う世界!?私と関係ない世界じゃないの!えーー!どうしよーー!…………ん?なんかあんたからアンデットの気配するわね?―――は!そうだ!アンデットならあんたを始末すれば解決ね!≪セイクリッドターンアンデットー!≫」

 

 

ちょっ!なんか聞いてた話と全然違うみたいなんだけど!?

しかもアンデットって何さ!?なんか証拠隠滅しようとしてるしこの駄女神!?

 

 

「はやくはやくさっさと転生させて!はやくして!!あーー!なんかすっげぇビリビリする!!ほげーーーーーーーー!!!」

 

なんか消える!証拠隠滅がてか消そうとするの止めろーー!!

 

 

 

魔法陣から出る明るい光と、駄女神から発せられる光に包まれ、俺の意識は消えた。

 

 





初心者向けの街にそんなに強いキャラなんて居ませんよね(ゲス顔)



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使い魔召喚


―――どうして、私には魔法の才能が無いんだろう。

 

認めたくなんかない、当然だ。

周りからなんと言われようと、魔法の才能が無いなんて認めた事はない。

この学院の誰よりも、必死に勉強をした自信がある。

理論を修め、スペルだってほとんどの物を暗記した。

でも結果は……一属性の魔法である"ドット"はおろか、メイジなら誰でも使える、基本の"コモン・マジック"ですらほとんど成功しない。

それどころか失敗したら通常ではおこりえない爆発を起こしてしまう未熟者。

 

その上、神聖にして絶対のもの、生涯のパートナーたりえる存在を呼び出す春の使い魔召喚の儀。その儀式に用いる≪サモン・サーヴァント≫を既に2桁以上失敗している。

 

 

「ゼロのルイズ!いつまで待たせるんだ!」

「どうせ何回やっても同じだろ!もう諦めろ!」

「もう失敗回数が10回は軽く越えてるじゃない!」

 

 

―――うるさいわね。

そう強く念じて自らの弱気を心の奥に押し込める。

たとえ心の中では僅かとはいえ認めていても、自らが諦めるわけにはいかない。

そんな事をすれば、ヴァリエール家の恥を上塗りしてしまうし、なにより私の心が折れてしまう。

 

 

「コルベール先生!お願いします!!もう一度やらせてください!」

 

祈るような気持ちで振り返り、やや離れたところで見守る男性教諭にそう訴えた。 

毛根の後退が顕著に現れる男性教諭、コルベールはうーんと唸る。

本来の儀式終了予定時刻は大幅に過ぎており、次の予定を押しているのだ。生徒達の不満の声も大きくなっている。

しかし、コルベールは眼前のピンク髪の生徒が、恵まれない素質に挫けず、誰よりもひたむきに努力している事を知っていた。

 

 

「わかりました、ならもう一度頑張ってみなさい。ただし、予定も押しているので次が最後です。次でダメなら日を改めるように。」

 

「…はい!ありがとうございます!」

 

なんとか教師(コルベール)の許可を取り、正面へ向き直って呼吸を整える。

――例え、どんな弱い使い魔でも構わない。ワイバーンやドラゴンのような生物ではなくていい。ただ、私だけの使い魔を、どうか―――――

祈りを込めつつ、再び詠唱を声に乗せた。

 

 

 

 

「―――――っ……!」

 

詠唱を唱え終わると、ドン!という爆発音と共に、白煙があがる。

周囲からは、「またか」「またゼロがやったわね」という言葉が耳に入る。

でも、私は僅かな期待を込めて煙を見つめる。

今回の≪サモン・サーヴァント≫については、爆発は今回が初めてだからだ。

失敗なんじゃないかという気持ちは、心の奥へと押し込めて。

見つめていると、白煙が徐々に晴れてゆき―――

 

 

仰向けで倒れている、平民らしき男の姿があった。

 

 

「おいおい!ようやく召喚出来たと思ったら、平民を召喚したぜ!」

「流石ゼロのルイズだ!」

「しかもあれ、さっきの爆発で死にかけてるんじゃない?さっきから動かないけど。」

 

 

使い魔が平民――という事実に意識が止まっていたけれど、死にかけと聞いて慌てて様子を見るが、確かに動いていない。

 

「ちょっとあんた!大丈夫!?」

 

慌ててかけよって体を揺すってみると、僅かに呻き声が聞こえ、少しほっとする。

早く治療させないと――と考えていると、いつの間にか教師(コルベール)がすぐ隣に来ており、素早く怪我の様子を確認していく。

 

 

「――ふむ、あの爆発に巻き込まれたにしては外傷が見当たらない。しかし……何故体がやや透明がかって見えるのだ?」

 

そう言われてやや冷静に見てみると、確かにどこか薄い気がして、まるで消えかかっているといった印象を受ける。

 

「……もしかして、≪サモン・サーヴァント≫で喚んだ事が関係しているんでしょうか……?」

 

「うーむ……そうかもしれないね。なにしろ前例が無い事だ。人間を召喚した弊害かもしれない。」

 

コルベール先生がうんうんと呻り、ふと思い出したように口を開く。

 

「ああ、ミス・ヴァリエール、彼に≪コントラクト・サーヴァント≫を。召喚が安定していない事が原因なら、それで治るかもしれない。」

 

 

「え……?でも、ミスタ・コルベール、彼は平民の人間ですよ!?」

 

「しかし、決まりだよミス・ヴァリエール。2年生に進級する際、君達は『使い魔』を召喚する。それによって現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、専門課程へ進むんだ。そして何より、1度呼び出した『使い魔』は変更する事が出来ない。何故なら神聖な儀式で、伝統だからだ。」

 

人間を、しかも平民を『使い魔』に……?何でも良いとは思ったが、これは無いんじゃないだろうか。これは例外になるんじゃないの!?と思ってコルベール先生に文句を言おうとするが、コルベール先生に、「やっと成功したんだろう?」という意思も含まれているように感じ、口を噤む。

 

 

「……わかりました。」

 

ようやく成功した『使い魔』なのだ。ほんの少し、いや多少、かなり心情的にも外聞的にも問題があるとはいえ、このまま消えてしまって、次の『使い魔』が呼び出せなければもっと問題だ。それに、勝手に呼び出して放置してもし消えてしまってはという後ろめたさもある。

どうせ『契約』するなら、相手の意識が無い間の方がまだやり易いだろうと考え、詠唱を行う。

 

 

「……我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 

詠唱を終え、杖を目の前の男の額に乗せる。そして唇を男に重ねてから、ゆっくりと離す。

 

 

「……終わりました。」

 

「ふむ、≪コントラクト・サーヴァント≫はきちんと出来たね。」

 

 

「相手がただの平民だから『契約』出来たんだろ」

「高位の幻獣だったらそうはいかないだろうな」

 

 

コルベール先生は嬉しそうに言ってくれるが、何人かの生徒は囃したてるように言ってくる。

 

「うるさいわね!わたしだってたまには上手くいくわよ!」

「ほんとうにたまによね、ゼロのルイズ。」

 

反論に嘲笑を重ねる生徒へ言い返そうとしていると、『使い魔』となった男から先ほどより少し大きな呻き声があがり、慌てて振り返る。

 

「……先生!また呻いていますが、大丈夫なんでしょうか?」

 

「落ち着きなさい、おそらくこれは『使い魔のルーン』が刻まれているだけだろう」

 

そう聞いて使い魔の体を見渡すと、確かに左手にルーンが浮かび上がって来ている。

 

「ふむ?珍しいルーンだな。……おっと、じゃあ皆、教室へ戻るぞ。ミス・ヴァリエールは使い魔を医務室にでも運んで……いや、私が運んでおこう。皆は教室へ戻っているように!!」

 

しばらくルーンを見ながら考え込んでいたコルベール先生であるが、授業時間がもうほとんど無い事を思い出したようで、号令をかける。

……私に運ばせなかったのは、≪レビテーション≫をまともに使えない事を思い出したんだろう。

 

 

「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」

「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」

 

口々にそう言って周りの生徒たちも、城のような石造りの建物に飛び去っていく。

 

 

「―――はぁ、うまくいかないなぁ……。せめて、私の使い魔も幻獣クラスとは言わないけど、せめて何か特技でもあればいいのに……」

 

残されたルイズも、ため息をつきながら建物へととぼとぼ歩いていった―――

 

 




なんだこの真面目な文章は、たまげたなぁ……。
オリ主が出ないとコメディ風にならなかった不思議。
ストックは無いので書き終わったら順次投稿していきます。(これも今書いた)


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2

「……知らない天井だ」

 

 

うん、まぁそりゃそうだろうなーとは思う。とりあえず言っておいたけど。

とりあえず思い出せるだけ思い出して確認してみよう。

名前、加藤一真(カトウカズマ)。どうやら死んだという事で死後の部屋のような所に居た。

そこでダメな女神、青髪駄女神になんか色々手続き間違われていたはず。

しかも最後に『アンデット』とか言われてたよね……?

まぁ死んだはずなのに生きてるっていうのはある意味アンデットだろうか……?

一応自分の体を見まわしてみるけど、特に生前と変わった感じもしない。

キョロキョロと周りを見渡してみるが、自分が寝ていたベッドがいくつかあるだけで特に人の気配も無い。

 

「……これって転移出来たって事かな?もしくはまだ死後の世界にいる感じ?記憶があるって事は生まれ変わったわけじゃないだろうし……。天国って感じも無いし。―――というか、俺ってそもそも何で死んだんだ?」

 

うーんと悩んでみるが答えは出ないので、ベッドから出てひとまず持ち物確認をとポケットをゴソゴソと漁ってみる。記憶では春先だったがそれに齟齬は無いのか、服装もラフな格好でカバン等も見当たらないからね。

 

「……ん?なんだこれ。」

 

財布と家の鍵、スマホまでは覚えがあるんだが、見知らぬカードがポケットから出てくる。

 

「名前に……ステータス!?スキルに魔法って……おおお、なんだかファンタジーっぽい!!」

 

色々とカードを眺めたり触ったりすると、色々な情報が確認出来る。なんだかゲームみたいな感じでわかりやすいし、実にテンションが上がるというものだ。

ただいくつか気になる所を見つける。

 

「……未取得のスキルはあるけど習得可能魔法無しか……。でもいっぱい習得済みの魔法あるな。余った大量のスキルポイント。うーん……?なんで駆け出し冒険者の街って所にこんな実力者が?」

 

そもそもこれが一般的な駆け出しレベルなのか、引退した強い冒険者でも居たのか?と思ったけれど、『アンデット』と言われた事を思い出して種族の欄を探す。というか強いアンデットが居る駆け出し冒険者の街って壊滅してません……?それとも駆け出しの基準が高いのだろうか。

 

「……あー、これか。『リッチー』ってなってる。」

 

うーん……特に自分では変わった感じしないんだけどなぁ。

まぁ、悪くなるよりはいいかと考えて保留。

しかしこれ他人からアンデットってすぐバレたり、アンデット=ぶっ殺すって世界だと怖いなー。

アンデット仲良しって世界の方が見ないけどさ。

あとこの左手の紋章って何?アンデットの証みたいなのっだったら嫌だなぁ。

 

 

「―――うん、色々わからん。とりあえず魔法は使ってみたいけど、ここ室内だしなぁ。」

 

ひとまずいくつか魔法の名前だけ覚えておいて、カードをポケットにしまう。

一応ベッドで寝ていたわけだけど、これはベッドで転生してから寝ていたパターンと、誰かに拾われてベッドで寝ていたパターンのどちらなのだろうか。

どちらにしても話が通じる人にでも遭遇しないと現状もわからないので、魔法を撃てそうな場所を探しがてらでかけてみようか。

 

 

―――こちらスネーク、大佐聞こえるか。

 

―――聞こえている、感度良好。

 

―――今から探索に出る、指示を頼む。

 

―――いいだろう、まずはドアを開けろ。

 

―――ドアを開けてみたが、周辺に人影は見当たらない。

 

―――ふむ、不用心だな。しかし一人芝居が空しくならんのかね?そもそも元ネタ知らんだろ。

 

 

「………………さて、まずは第一村人でも探してみますか。と言っても、村っていうか城っぽいなここ…」

 

とりあえず扉から左右を見渡しても人が見当たらなかったので、ひとまず適当に歩いてみる事にする。広いみたいだけど流石に何人かには会うだろう。捕まってたなら見張りぐらい居るだろうし、居なかったって事は大丈夫でしょ。

 

 

「あれ?どうなさいました?」

 

三叉路に行きあたって、さてどっちに行くものかと悩んでいると、片方から声をかけられる。

 

 

振り返るとそこには天使が居た。

うむ、つまりもう一度死んだのだ。

――完――

 

 

 

という事はなく、そこには銀のトレイを持ち、濃い藍色のワンピースの上にエプロンを着用している素朴な感じの少女(テンシ)が居たのだ。

うむ、つまり死んでは居ないのである。

――未完――

 

 

「……あの、大丈夫ですか?学院のお客様でしょうか?」

 

初めて見るリアルメイドに意識が飛んでいると、不審に思われたのかやや警戒したように見つめてくる。

 

「ああ!すみません。メイドさんを実際に見るのが初めてだったので、見惚れちゃいました……。じっと見てしまってすみません。」

 

第一村人兼、初メイドさんに不審者扱いされてもたまらないので、慌てて謝る。

 

「ああ……なるほど。という事はやっぱり平民の方ですよね?珍しい服だなと思いましたけど、貴族様なら見慣れているでしょうし。」

 

丁寧に対応したおかげか、少し警戒心を薄めてくれた様子で返してくれる。

服装は上半身がシャツとニットにチェスターコート、下半身はジーンズというそこそこ量産型大学生である。でも周りも城っぽいし貴族にメイド……中世っぽい感じなのかな。それなら違和感強いだろうし。

 

「ああ、はい。たぶん……平民です。あの、すみません。気が付いたらこの道を戻った…治療室?のような所で寝ていたんですけど、何かご存じありませんか?勝手に入ったわけではないと思うのですけど、ちょっと記憶が曖昧で。」

 

貴族というワードと、城っぽい建物に居る事から、厄介事になったら困るので、探りを入れてみる。

いきなりベッドの上にワープだったら不法侵入+戸籍無しで100%厄介事待ったなしです、はい。

まぁメイドさんが知らなくても、牢屋じゃなくちゃんとした部屋に寝かされていたと聞いて、急に捕まえるような事はしないだろうと踏んでみた。

 

 

「ああ!もしかして貴方がミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……。」

 

どうやらメイドさんにも心当たりがあったようだ。でも使い魔っていうのがすっごく不穏……。

 

「おお!何か事情を知っておられました?……でも、使い魔っていうのは……。」

 

「ええ、なんでも召喚の魔法で平民を呼んでしまったって、噂になってますわ。」

 

「ええっ……。使い魔ですか。」

 

召喚型、そういうのもあるのか。

うーん……、でも使い魔っていうのはどのくらいの立場なんだ?

奴隷っぽい感じなら嫌なんですけど……。

 

「あ、すみません!私も平民なので詳しくは知らないのですが、もしかして無理やり召喚されたんでしょうか?でしたら軽率な言い方でした、ごめんなさい!」

 

嫌そうな顔を表に出した事に気付いて、メイドさんが少し慌てた様子で謝ってくる。

 

「ああ、いや気にしないでください。むしろ事情を知っている方で助かりました。……あの、『使い魔』ってどういうものなんですか?……その、もしかして奴隷みたいな感じだったりします?」

 

「……えっと、私も詳しくは知らないのですが、奴隷みたいな扱いではないと思います。使い魔を大事にされている貴族様をよく見ますので。ただ、平民が使い魔になるのは初めてらしいのですが……。」

 

色々教えてくれるメイドさんを謝らせるのは不本意なので、気にしないでと手を振って答えると、そこまで悪い扱いでもないようだ。

うーん……やっぱり『リッチー』になっているのが原因なのかな、人間の使い魔って。

でも人間に見られてるっぽいし、下手な事は言わないでおこっと。

 

「そうなんですか、ちょっと安心しました。ちなみに、そのヴァリエールさんはどこに居るのかご存じですか?起きたら誰も居なかったので、どうしようかと思ってたんです。」

 

「そうだったんですね。ならもうしばらくで授業が終わるはずですので、いらっしゃった医務室で待っていれば、様子を見に来られると思います。」

 

異世界となると、生活の伝手もないので面倒を見て貰えて、無碍な扱いを受けないとなれば使い魔でもまぁいいか。

学院ってさっき言ってたし、授業ともなればここは学校なのかぁ。

 

「重ね重ねありがとう。えーっと、そういえば名前聞いてもいいかな?俺は加藤一真(カトウカズマ)です。」

 

「カトウカズマさん……変わったお名前ですね。私はシエスタっていいます。」

 

シエスタさん……名前は西欧的な感じなのかな。

なら日本人の名前は珍しいだろうなー。

おっと、ついでにもう一つ聞いておこう。

 

「シエスタさん、色々とありがとう。このお礼は落ち着いたらまた今度。そうそう、最後にもう一つ聞きたいんだけど、軽く体が動かせる庭とかないかな?起きたばっかりだから少し体を動かしたくて。」

 

 



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3




10日程北海道旅行に行ってました!
とりあえず短めですが投稿。
また順次投稿していきます。




 

「よし、とりあえずなんとかなりそうかな。でも初級と中級の威力に差がありすぎでしょ……。」

 

魔法を使えるか、どんな物か試してみたかったので、シエスタさんに裏庭の場所を教えてもら

い、いくつか魔法を試してきたのだ。

威力がわからないから初級魔法というものから始めたけど、魔法名を唱えれば使えたから簡単で良い。

ただ、途中で持っていたカードの魔法名にしばらく触れていると、詠唱呪文が浮かび上がってくる事に気付いた。それも試してみたけど、きちんと詠唱すれば効果が上がるみたい。

試したのが≪クリエイト・ウォーター≫という初級魔法だったので、量が増えただけだけど。

うん、コップ1杯分から溢れるぐらいに変わりましたー。ははっ、微妙!

 

こんな感じなら中級魔法も大した事ないかなーと思って≪ファイアボール≫を使ってみたら普通にサッカーボールぐらいの火球が飛んでいくんですもの……火事になるわ!

地面に撃ったからまだ良かったけど、地面の草が燃えてしまったので、慌てて≪ウォーターカノン≫という中級魔法をぶつけて相殺した。わぁ……ここだけ焦げてておっきな焚火跡みたい。

 

誰かに見つかって怒られる前に、さっさと医務室に戻る事にした。

決して逃げるわけではない、召喚主と入れ違わないように戻るだけなのだ。

 

 

 

来た道を戻り元居た医務室を開けると、黒いマントを羽織った桃色がかったブロンド髪の少女が目に入る。

 

「ああ!あんた起きてたのね!勝手にどこ行ってたのよ!」

 

「えーっと、ごめんごめん。目が醒めたら状況がよくわからなかったんでちょっと周り歩いてた。ところで君は?あー……もしかしてヴァリエールさん?」

 

「あんたね……病み上がりでなにうろちょろしてんのよ!……そうよ、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!あんたのご主人様ってわけ!」

 

少女はぷりぷり怒った後にふん!と胸を逸らす。どうやら召喚主というのはこの少女のようだ。

 

「ああ、ごめんごめん。それとご心配ありがとう。それじゃ君が俺を召喚したんだ?俺は加藤一真(カトウカズマ)。加藤がファミリーネームね、よろしくご主人様。」

 

「な……!別に心配したってわけじゃないわよ!私の使い魔が勝手にうろちょろしてるから気になっただけ!……それにしても珍しい名前ね。」

 

ふーむ、素直じゃない子なのかな、それを心配って言うと思うんだけど。

 

「あー、それについて色々言っておかないといけない事と、聞きたい事があるんだけど、いいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

話をしたいと言うと、やはりここは医務室であるそうで、ルイズ嬢の私室に移動して色々話す事になった。

日本人で名前が加藤一真だっていう事、生まれた時に母さんが死んで、父親が育ててくれた事。1月程前から大学に通っていた事、それは覚えている。

どうも死んだらしいけど、その状況は良く覚えていない。いつものように…………誰かと通学して、そこで終わり。

死んだら(駄)女神に転生されたらここに居た事。

アンデットになった事や、魔法の事は一先ず言わなかった。魔法は自分でも一部しか把握できていないし、アンデットの扱いがどういう物かわからないからね。

…………あれ?通学してたのって誰とだったっけ?

 

「……あんた、本気で言ってるの?」

 

思考の渦にはまりそうになっていると、少女(ルイズ)が呆れた表情で見つめてくる。

 

「まぁ、本気で言ってる。今まで話した『日本』とか……えーっとそうそう、『アクシズ』っていう街だとか、女神の風貌とかに心当たり、ある?」

 

「聞いた事ないわ。まぁ田舎の方にある村とか町って事なら知らないだけかもしれないけど、大学?とかいう所に通ってたのが本当なら、あんた貴族なんでしょ?辺鄙な田舎にそんな学校は作らないわよね。……それにそんな女神にも心当たりは無いわ。違う世界って話も聞いた事ないし……あんたがデタラメ言ってるだけなんじゃないの?」

 

「いや、日本には貴族制度が無かったからね。政治家が貴族に近いけど、選挙に落ちたら一般人になるからなぁ。」

 

疑わしそうな目で見られてしまうが、まぁ確かに日本で急に異世界から来ましたって言われたら、何言ってんだコイツってなるよね。

 

「……まぁ、その女神が間違ったというなら、確かにあり得るのかもね。人間が使い魔になった事なんて、今まで聞いた事もないから。」

 

「人間の使い魔は初めて、かぁ。なら確かに例の女神の影響かな。あぁ、そういえば聞きたいんだけど、こっちで魔法ってどれぐらい広まってるもんなの?多分日本と全然違うだろうからさ。」

 

どうも人間の召喚はイレギュラーだったようで、イレギュラーの原因として理解が得られそうだ。

 

 

「……あんた、もしかして魔法使えるの!?」

 

「ああ、使える。……驚くって事は、結構珍しい?」

 

「珍しいも何も……魔法が使えるならあんた貴族なんじゃない!……って、そうか違う世界から来て貴族も居なかったなら違うのか……ああ、もう!でも良い事だわ!私の使い魔はただの平民じゃなかったのね。」

 

召喚魔法は聞いていたので、魔法についても確認しておく。全員強力な魔法が使える世界だったら自分の価値は低いだろう。

しかし反応からして、どうやらそこそこな希少価値があるようだ。

 

「つまりこっちでは魔法が使えたら貴族って事?ちなみに俺の居た世界では、魔法使いはあんまり(というか知る限り)居なかったけど、魔法が使えたら何か重要な職ってわけでもなかったね。」

 

「そうよ!というよりも、貴族だから魔法が使えるの。ちなみに系統はドット?ライン?もしかしてトライアングルかスクウェアって事はないわよね!?」

 

ふーむ、貴族=魔法使いって事は、魔法はかなり価値が高そうだ。貴族以外が魔法を使った?殺せ!って事は無さそうだし、そこそこの待遇は貰えそうかな。でも系統というのはわからない。

 

「ごめん、その系統っていうのはわからない。そもそも魔法の使い方自体も同じじゃないかもしれないしさ。でもそこそこは使えるよ、火の球を出したりとか。ただ派手な魔法は室内だと危ないから、それは今後確認して貰うって事でどう?」

 

出来ればこの世界の魔法の強さと、自らが使える魔法の強さを確認してから対応を決めたいので、一先ず魔法の強さはごまかす。

 

「…………確かにそうね。ただあんたに聞いておかないといけない事があるわ。あんた、エルフじゃないでしょうね?」

 

「……エルフ?エルフってあの、森に住んでて耳が尖ってて美形の種族?思ってるエルフが同じなら違うよ!ほら、耳も尖ってないし。」

 

急にルイズ嬢が厳しい表情になったので、慌てて答える。

 

「……それならいいわ。」

 

「その、エルフって人間と対立してるの?俺の居た世界では別に対立してなかったんだけど。」

 

「はぁ!?エルフとも敵対してなかったっていうの?聖地を不当に占拠して、何度も戦争になってるっていうのに……本当に色々違うのね。」

 

まぁそもそも現実に居なかったし、と思いつつ聞いてみると、この世界では敵対して戦争もしているらしい。……あー、しかも聖地を争ってるって色々と問題がありそう。そういうのも確認しておかないと。

 

 

「こっちも大分違うから色々戸惑ってるよ。じゃあ、その辺の常識なんかを今度は教えて貰っていいかな?」

 

 

 



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