アブソリュート・デュオ〜天狼〜 (クロバット一世)
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プロローグ

 

『願わくば、汝がいつか《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》へ至らんことを』

 

 

 

 

ここは日本某所に停めてあるリムジンの中そこには2人の少年少女が向かい合っていた。

 

「久しぶりですね、天峰悠斗」

 

そう言うのは十歳程度と思えるほどの幼い容姿の少女である九十九 朔夜(つくも さくや)、このような姿だが、《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》の異名を持つドーン機関に所属する遺伝子工学者である。

 

「貴方が私の誘いを受けてくださったことに感謝いたしますわ」

 

「…まぁ俺もあんたの話に興味があったし……俺にこの力が現れたのか気になったしな」

 

そんな彼女にそう言い自身の手を見つめるのは銀髪のウルフカットに金色の瞳が印象的で首に白い宝石がついた狼をかたどったチョーカーを付けた十代後半ぐらいの少年である。

 

彼の名は天峰 悠斗(あまみね ゆうと)

 

イタリアのマフィア、ボンゴレファミリーの守護者の1人である雪の守護者だ。

なぜ彼が九十九 朔夜と一緒にいるのかというと、これから彼は、彼女が理事長を務める学園に入学するからである。

 

ことの発端は彼が成り行きで九十九 朔夜と出会い護衛した際、彼がある力に目覚めたことである。

 

「ええと…たしか《醒なる者(エル・アウェイク)》だっけ?」

 

「ええ、貴方には私の学園に生徒として入学していただきたいのですわ」

 

この少女が何を企んでるかは正直わからない、しかしそれでも知りたいと思った、自分に目覚めたこの力を。

 

「それより…なんか不穏分子も幾らかいるそうじゃねぇか?」

 

「構いません、降りかかる火の粉は払うまで、それに…いざとなっても貴方がいれば問題無いでしょう。」

 

そう、自信を持って言った。

 

「まぁ、たとえどんなやつが来ようと」

 

 

悠斗はそう言うとニヤッと笑って

 

「闇を白く染め道を照らす道標の六花」

 

それはボンゴレ初代ファミリーの頃から代々受け継がれ、今は彼が受け継いだ雪の守護者の使命

 

「その使命にのっとってやっていくだけだ。」

 

自信を持ってそういった。

 

 

それに対して、九十九朔夜は

 

「期待していますよ。天峰悠斗、いや…《天狼》

 

 

 

願わくば、汝がいつか《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》へ至らんことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、とある家の一室

 

「いよいよ明日入学式…」

 

小さい頃から何もできず、そんな不甲斐なさに縛られてきた自分が嫌だった、だけどこれからは違う。

 

「強くなるんだ。絶対に。」

 

そう自分に言い聞かせ、彼女は自分の荷物をまとめた。

 

これは、裏社会で《天狼》と呼ばれる少年と強さに憧れる少女の物語



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1章 天翔る狼
1話 入学式


 

昊陵《こうりょう》学園。

一般の高校と違い、特殊技術訓練校という面がある。

この学校で教わる特殊技術とは、戦闘技術。 平和な日本において、日常必要としない術を教えるという非常に特異な学校だ。

この昊陵学園は東京湾北部、懸垂型モノレールでのみ立ち入ることの出来る埋め立て地に存在する。

周囲を巨大な石壁に覆われ、そのサイズに見合った門が唯一の入口となっていて、敷地の中央には学外からも望むことの出来る巨大な時計塔がそびえ立っていた。

校舎や学生寮など内部の建造物は馴染みのない西欧風で、学校と言われると少々違和感を覚えてしまう。

俺はそんな学校の桜並木を歩いていた。

 

「やっぱり桜はいつ見ても良いもんだな…」

 

悠斗はイタリア人の母親と日本人の父親のハーフだ。

やはり桜を美しいと思うのは父親の日本人の血が流れているからなのだろう。

 

「ん?あれは…」

 

ふと、自分の歩く先を見るとその先に、二つの人影が見えた。

一人は自分同様の色の銀髪を腰まで伸ばし、透き通るような白い肌と深紅の瞳が印象的な少女、

もう一人はそんな彼女に見惚れている同年代の少年であった。

 

「このまま一人で講堂まで行くのもつまんないし声かけてみよ。」

 

そう決めると俺は、少年の方へと向かっていった。

 

「なぁ…」

 

「うぉっ!?」

 

どうやら俺がいきなり声をかけたもんだからビックリしたらしく、少年は驚き声をあげた。

 

「あ〜悪い驚かせて、良かったら一緒に講堂まで行かねーか?1人で行くのもつまんないと思ってさ」

 

「あぁ、それならいいぜ。俺の名前は九重 透流(ここのえ とおる)、よろしくな」

 

「天峰 悠斗だ。こちらこそよろしくな」

 

そう言うと2人は握手をした。

 

「そういやさっき女の子見てたけど知り合いか?」

 

「んなっ!!見てたのか!?」

 

俺の言葉に透流は顔を真っ赤にして慌てた。

 

「まああんだけ堂々と見てればな…」

 

「ちょっとあんたたち、早く行かないと遅れるわよ」

 

「ん?」

 

ふと後ろを振り返ると茶色い髪をポニーテールにした少女が立っていた。

 

「あぁ悪いな、確かにそろそろ行かないと」

 

「どういたしまして、私は永倉 伊万里って言うの。貴方たちと同じ新入生、よろしくね」

 

「天峰 悠斗だ、これからよろしくな。」

 

こうして俺たちはそのまま講堂へと向かった。

 

 

講堂に着くと、俺は早速指定された席に座った。

 

「隣、失礼するよ」

 

「ん、おお。気にすんな」

 

隣には黒い逆立った短髪の体格の良い新入生が座っていた。

 

「なんか銀髪ってスゲーな。あっ俺は本郷勝元(ほんごう かつもと)よろしく」

 

「天峰悠斗だ、こちらこそよろしくな。それと銀髪ならえーとああいた、ほらあそこにもいるぞ」

 

俺はそう言うと先ほど見かけた銀髪の少女の方へ指をさした。

 

「うぉっ!?スゲー可愛い!!!後で声かけてみよ!!」

 

そんな風に駄弁っていると

 

『あ、あ……』

 

というマイクテストの声が聞こえる。

 

『一同静粛に。まもなく、入学式を開始します。進行は私三國が行います』

 

壇上へ続く階段の脇に立った二十代後半と見られる男性教師らしき人物が、『静粛に』ともう一度口にすると、それに伴って講堂内のざわめきが小さくなっていく。

 

『ただ今より、昊陵学園高等学校入学式を始めます。まず最初に、当学園理事長より新入生の皆さんへ式辞をお贈りします』

 

進行役の三國の言葉を受け、壇上へと上がる朔夜。

 

『昊陵学園へようこそ、理事長の九十九朔夜ですわ』

 

壇上で年齢からは想像できない程堂々と式辞を述べる理事長を悠斗は見つめていた。

数年前にドーン機関が開発した《黎明の星紋(ルキフル)》と言う名の生体超化ナノマシンを投与され、人間の限界を遙かに超えた身体能力と超化された精神力により《魂》を《焔牙(ブレイズ)》と呼ばれる武器として具現化させる能力を得た人間を《越えし者》と呼び、その《適性(アプト)》を持つ者は千人に一人とされている。そしてこの《超えし者》の最終到達点が《絶対双刃》であると悠斗は朔夜から聞いている。

 

『貴方達はこの昊陵学園にて様々な技術や知識を得ることになるでしょう。しかしそれらはすべて、より高みを目指すためのものであると常に念頭へ置いてください。それこそが当学園の校訓、十全一統となりますの。……それでは最後に、この言葉を贈らせて頂くことで式辞を終わりとさせて頂きますわ』

 

朔夜はそこで一度言葉を止めると、新入生全体を見渡し、そして告げる。

 

『願わくは、汝がいつか《絶対双刃》へ至らんことを』

 

締めの言葉を告げ終えたが壇上から降りる気配がなく、その場に留まり続ける朔夜に悠斗が首を傾げる。

 

(…ん?)

 

悠斗が疑問を抱くと朔夜は再び口を開いた。

 

『これより、新入生の皆さんには当学園の伝統行事《資格の儀》を行って頂きますわ』

 

「伝統行事?」

 

「進行表には書かれてないけど……。」

 

本来の予定ならば次は在校生代表による歓迎の挨拶の為、透流や伊万里はもちろん辺りからは動揺する新入生が数多くいた。

 

『それでは《資格の儀》を始める前に、貴方達にはして頂くことがありますわ。隣に座る方を確認して下さいませ。その方が此よりの儀を行うに当たり、パートナーとなる相手ですの』

 

悠斗は右隣に座る勝元を、勝元は左隣に座る悠斗を、透流は自身の右隣に座る伊万里を伊万里は自分の左隣の透流を見る。

 

「パートナーっていったい何をするの?」

 

伊万里が首を傾げながら呟く。そしてそれは伊万里だけではなく、あちこちから聞こえてきた。そしてその答えは朔夜の次の言葉で理解する事となる。

 

『これより貴方達には決闘をしてもらいます。』

 

行事の内容を伝えられた瞬間、そこかしこで驚きの声が上がった。

 

『此より開始する伝統行事《資格の義》は、昊陵学園への入学試験ということになりますの。勝者は入学を認め、敗者は《黎明の星紋》を除去した後、速やかに立ち去って頂きますわ』

 

新入生たちの驚きとは正反対に、涼しげな顔で理事長がとんでもないことを口にする。

やがて言葉の意味を理解すると、新入生がざわめきだした。

 

「おいおい聞いてねえぞ……」

 

俺と驚きを隠せずにいた。

 

「今更、入学試験って……《黎明の星紋》の《適性》があれば、誰でも入学できるんじゃなかったの……!?」

 

どうやら伊万里は納得がいかなかったようだ。

その問い掛けに対して答えたのは、朔夜ではなく進行役の三國と言う男だった。

 

『入学試験が存在しないなどとお伝えたした覚えはありません。《適性》があれば、当学園へ入学資資格があるとお伝えしただけです』

 

「この入学に落ちた者から学園内の情報……《黎明の星紋》のことも、洩れてしまうことは考えていないのか? そのリスクを負ってでも、半数を落とすつもりかっ……」

 

『当学園の内情に関しては、様々なかたちで情報規制がされています。心配はありません』

 

薄い笑みを浮かべる三國の表情に、いま聞かされたことが真実だと肌で理解する。

困惑と動揺でざわめく講堂内。

 

『……ご理解を頂けましたら、試験のルールについて説明いたしますわ』

 

けれど壇上に立つ黒衣の少女は、特に気にした様子も無く、淀よどみない口調で残酷なルールについては話し始めた。

 

『この決闘は基本的に何をしようとも自由……つまり武器の使用制限はありません。もちろん《黎明の星紋》による《魂》の具現化武器《焔牙》の使用も許可します。決闘が嫌ならば逃げ出して下さっても構いませんわ。決着はどちらかの敗北宣言もしくは戦闘不能と判断された場合、また、10分以内に敗北が決まらない時は……どちらも不合格。―――これは、何処にもある入学試験ですわ。他人を蹴落として自分が生き残る単純なルール』

 

そこに命が懸かってなくても、負ければ道は閉ざされるのだから、理事長の言っていることは間違いは無い。

間違いは無いのだが、それで全員が納得できるわけじゃない。

 

「だからって……どうして決闘なんですか! 普通に試験じゃ……」

 

伊万里が問いかける。

それは大半の新入生の代弁と言えるものだった。

 

『いつか必ず……貴方達には闘う時が訪れますわ。《超えし者》として、ドーン機関の治安維持部隊へ所属後……時には命を懸けた闘いも……こんな事よりも厳しい決断の時が必ず……やって来るのです』

 

「つまりこの入学試験は、学園側から俺たちへ贈る最初の決断ってわけか」

 

透流の言葉に理事長が笑う。

 

『……それでは、開始前にひとつ……《焔牙》について補足説明をさせて頂きますわ。《焔牙》とは《魂》を具現化させて創り出した武器……故に、傷つけることが出来るのもまた《魂》のみですの。―――よく聴きまして……《焔牙》の攻撃は相手の精神を疲弊させるだけのものであり、肉体を傷つけ命を奪うことはありません。……つまり、制圧用の武器なのですわ』

 

これがどれ程どこの場の新入生を安堵させ、迷いを揺さぶるものだっただろうか。

ざわりと動揺が広がる様が目に見えてわかる。

次いで一人、また一人と意思を固めていく様子もまた。

 

「……すみません。ひとつ……」

 

透流が手を上げ、理事長へと質問を投げる。

 

「パートナーの変更……は……」

 

彼は僅かばかりの期待を込めて問うも―――

 

『―――できませんわ。貴方は受験で数学が苦手だから得意の教科で評価してくれと言えますの?』

 

返ってきた無慈悲な言葉へ、彼はその後を続けることが出来なかった。

おそらく過去に同じような要望を問い投げ掛けた者がいたのだろう。

しかし、理事長は容赦無く歯車を動かしてしまう。

 

『闘いなさい。天に選ばれし子(エル・シードら)よ!! そして己の未来をその手で……掴み取るのですわッ!!』

 

鋭い声、同時に講堂のみならず学内すべてに鐘の音が響き渡る。

一瞬だけ間を置き…

 

「うわぁああああああっ!」

 

誰かが発した叫びが本当の合図となった。

 

そして―――この試験を、決闘を受け入れ、闘う意思を持った者が《力ある言葉》を口々に叫び、あちこちで紅蓮の《焔》が発せられる。

 剣、槍、弓―――視界に映る幾多の武器、それを手にすると試験相手へ向けて振るう。

 講堂内へ喧騒が、剣戟が響く。

 

「構えろ悠斗」

 

気づくと勝元が俺の前に立っていた。

 

「こうなった以上俺たちも腹くくるしかなさそうだ。お前にゃ悪いが俺も譲る気はねえ…だからお前も本気でこい」

 

勝元はしっかりと俺の方を見つめていた。彼は覚悟を決めて闘う選択肢を選んだようだ。

 

「じゃあ俺も腹くくるか…」

 

ならば俺も彼の覚悟に答えなくてはならない。

そして二人はふっと笑うと

 

「「焔牙!!!」」

 

それぞれの焔が煌めき、武器の形となった。

 

勝元の焔牙は《大剣》

そして俺の焔牙は《長槍》であった。

 

「行くぜ!!!」

 

勝元は大剣を上段から振り下ろした。

俺はそれを難なく避けるが次々と斬撃が繰り出される。

その剣戟は粗くも彼の強い気迫を感じた。

 

「ならこっちも本気で行くか」

 

次の瞬間俺は勝元の大剣を交わしながら懐に入り、

 

「狼王一閃!!!」

 

勝元に渾身の突きを放った。

 

そしてそのまま勝元は吹っ飛び…

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤンキーっぽい新入生の一人を巻き添えに倒れた。

 

 

 

 

…こんなの聞いてない

 

いきなり始まった闘い、しかも自分の相手はいかにもガラの悪そうな自分が特に苦手なタイプの男だった。

 

「へへっ対戦相手がこんな女で助かったぜ」

 

そう言うと男は自身の焔牙を振りかぶり

 

「悪く思うなよ」

 

そう言いながら振り下ろした。

 

ごめん、お父さん…お母さん、お姉ちゃん…私やっぱり弱いままだった…強く…なりたかったのに…

 

 

 

 

 

 

 

「ぶへぇ!!!!」

 

 

すると、突然そんな声がして目を開くと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気を失った男の下敷きになって先ほどの男が少し離れたところで伸びていた

 

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

私がそんな声を上げていると

 

「あー悪い。捲き込んじまった」

 

そう言いながら銀髪の少年がこっちに来た。

 

「立てるか?」

 

そう言いながらこちらに手を差し伸べる少年から…

 

私は目が離せなかった。



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2話 仮の絆双刃

 

 

「立てるか?」

 

勝元を渾身の突きで吹っ飛ばしたのは良いが戦闘中の他の生徒の1人が吹っ飛んだ勝元の下敷きになってしまいそのまま伸びてしまった。そいつと闘っていた少女はあまりのことに座り込んでしまったので慌てて彼女の元に向かい手を差し伸べたのだ。

 

「ふぇっ!? だ、大丈夫…」

 

まだ心の整理がつかないのか、半分泣きそうな表情のまま

少女は俺の差し伸べた手をギュッと握っていた。

 

「あ…あの…ありがとうございます」

 

そうお礼を言うとその少女はその場を離れた。

 

 

 

「イテテ…」

 

ふと声が聞こえそちらを見ると勝元が意識を取り戻したようだその下ではまだ先ほど少女と闘っていた男が伸びていた。

 

「大丈夫か勝元?」

 

目を覚ました勝元に俺はそう聞いた。

 

「まあな。にしてもお前強えな。まさか一撃でやられるなんて思ってもみなかったぜ。」

 

「まぁ俺も結構鍛えているからな」

 

勝元はかなり強かった。しかし、俺はボンゴレファミリーの守護者として遥かに強い奴らと死闘を繰り広げてきたのだ。

 

「はぁ…まぁ悔しいけど…結果は結果だ。甘んじて受けるよ。」

 

「勝元……」

 

「あばよ悠斗、縁があったらまたどこかで会おうや」

 

勝元はそう言いながら講堂を去っていった。

 

「…なんつーか残念だなぁ。良いやつだったから…仲良くなれたのになぁ」

 

ふと周りを見てると透流が伊万里を強烈な拳の一撃でふっ飛ばしていた。

 

「スゲーな透流のやつ。それにあの焔牙は…」

 

俺はふと透流の焔牙を見て朔夜が言っていたことを思い出す。

 

 

 

 

 

『そうそう天峰 悠斗、学園ではあなたの他にも優秀な新入生がいますが…異能(イレギュラー)という存在は覚えておいてください』

 

『異能?』

 

『えぇ。本来魂を武器の形にする焔牙でありながら彼の焔牙は『楯』、つまり防具の焔牙ですのよ。フフ…面白いと思いません?』

 

『確かに面白そうだな。どんなやつなんだろ』

 

…あいつ、確かに強えな。だけど…気のせいか?なんか抱え込んでいるようにも見える。

何より、伊万里を吹っ飛ばした一撃…どこかで見たような……

 

 

 

 

 

資格の儀の後、俺たちは教室へと向かっていった。

 

 

「ぐっ…」

 

「どうした?」

 

透流が腕を抑えながら小さく呻き声をあげたので聞いてみる。

 

「ん?あぁさっきちょっと大技出したんだけどあれは本来ならかなりの筋量を必要としている技なんだけど、中肉中背の俺は無理をして使ってるんだ。だから一度放つだけでも体にかなりの負荷がかかってる。絶対的な破壊力を持つ反面、日に二度も放てばマトモに動けなくなる諸刃の剣なんだよ」

 

「なるほど。つまりは未熟者か。」

 

そんな声がしたのでその方向を見ると

 

「…っ!トラ!?」

 

「やっと気づいたか愚か者」

 

背の低い眼鏡の少年が呆れながらそこにいた。

 

「ええと九重、そいつは?」

 

「ん?ああこいつは虎崎 葵(とらさき あおい)。俺の昔からの友達だ」

 

「誰が友達だ。互いに顔と名前を知っていて、それなりの親交があるだけだらうが」

 

「……それを友達って言うんじゃないのか?」

 

「う、うるさいっ。だいたい貴様は昔からいつもいつも」

 

「まーまー落ち着きたまえ虎崎君それより早く教室行こうぜ」

 

「ム…そうだな」

 

そんなことを言いながら俺たちは教室へと向かった。

 

教室に着くと席はもう張り出されていた。

 

「じゃあ俺はあそこの席だから。そんじゃ」

 

「おう。また後でな」

 

そう言いながら俺は席に座ると

 

「あっ…」

 

そんな声が聞こえ隣を見だ、するとそこには先ほどの少女がこちらを見ていた。

 

「あれ?たしか君ってあの時の…」

 

「あの…さっきはありがとう助けてくれて」

 

「気にすんな。こっちこそ戦いの邪魔して悪かったな」

 

「ううん。私…怖くて何も出来なかったから。あっ私は穂高 みやび(ほたか みやび)っていうの、よろしくね」

 

「天峰悠斗だ。よろしくな」

 

そう言いながらニカッと笑うと

 

「あ…うん」

 

そう言いながら顔を赤面させうつむいてしまった。

 

(あれ?男苦手なのかな…)

 

少し避けられたような気がして少しショックだった。

 

ガラガラッという音で顔を上げた悠斗はそのまま目の前の光景に言葉を失う。

 

「ハロハロー♪あーんど試験お疲れさまー☆あーんど入学おっめでとー!」

 

 

突然窓から侵入してきた女の子が静まり返った室内で、教壇に立ち、ポーズを取っていた。

 

「え…ええと…どちら様?先生じゃ…ないよね?」

 

俺はわずかな望みにかけてその不審者(?)に聞いて見た。

 

「先生だぞ〜♪はっじめましてぇ、教師の月見 璃兎(つきみ りと)でーす♡みんなの担任だから一年間よっろしくー!親しみを込めて、うさセンセって読んでねーっ☆」

 

やたらとハイテンションな璃兎とは対象的にクラス全員反応がなかった。正直なところどう反応していいかわからないのだろう。

 

(………あの人…相当強いな……それに…本心を隠してる?)

 

しかし、悠斗は最初こそ驚いたが彼女の違和感を一瞬感じていた。

 

「……ありゃりゃん、どしたの?」

 

 

きょとんとした表情を浮かべ、自称担任と口にする璃兎が教室内を見渡す。

ぱっと見悠斗達と同年代と言われても違和感のないくらい若く、その上メイド服にウサギ耳のヘアバンドと教師とは思えない格好の璃兎に誰もが呆気に取られたまま硬直していた。

 

「はっ!?もしかしてアタシの可愛さに見惚れちゃってたりする?いやー、そういうのは結構慣れてるつもりだったけど、さすがに新入生全員がってのは嬉し恥ずかし照れまくりだよ〜♪」

 

「いや、引いてるだけだが……」

 

「なーんだ、引かれてただけなのねーーって、ええええっっ!!見惚れてたんじゃなかったのぉ!?」

 

透流の発言への璃兎の返答でクラスでこの人が担任で大丈夫なのかと言う不安に思わなかった者はいないだろう。

 

 

「月見先生、あまり新入生を不安にさせないで下さい」

 

 

このクラス全員の気持ちを代弁したのは、普通に扉から入ってきた三國だった。その整った顔立ちと長身から女子達からは溜息に似た声が漏れていた。

 

「あっれー?三國センセってば、どーしてここにいるんですか?」

 

「新人教師の監督です。あまりふざけているようですと、別の方に代わって頂きますよ」

 

果たしてそうして下さいと思った生徒は何人いただろうか。

 

「だーいじょぶですって。泥船に乗ったつもりで任せて下さいな♪」

 

「沈みます」

 

「さーて、それじゃ改めて自己紹介いっちゃうよー☆」

 

「………………」

 

三國のツッコミを完全にスルーし、璃兎が喋り出す。

 

 

「というわけでどもども月見の璃兎ちゃんでーすっ。この春、昊陵学園を卒業したばかりのうら若き乙女なので、至らないことはたーっくさんあると思いますが、精一杯やってくつもりだからよろしくねーっ!」

 

「月見先生は昨年の卒業生の中でも特に優秀な成績を修め、本年度の特別教員として抜擢されました。人格はともかく、技術や能力に関しては申し分ありませんのでご安心を」

 

三國によるフォローを聞き、安堵の溜息があちこちから洩れる。

 

「何かすごくトゲのある言い方だったけど、みんな気にしないでサクサク進行しようねー。……と言っても今日は初日だから、自己紹介と今年度のスケジュールをさくっと説明するくらいだけど☆」

 

「その前にまず《焔牙》についての注意事項です」

 

「あ、そーだったそーだった♪えーっと《焔牙》は学園側の許可無く具現化しちゃダメだよ?勝手に出したらすーっごく怒られるからね。以上っ☆それじゃあ自己紹介を始めるよー♪」

 

三國のおかげで、無事にHRが動き出す。

透流がボヤッとしていて注意された上に《異能》だと伝えられた時と、入学式前から目立ってた銀髪の少女ユリエ・シグトゥーナが流暢な日本語で自己紹介したことでざわめいた以外は特に問題無く、そのあとは自己紹介が進んでいき、最後の生徒が終えると生徒手帳と学生証、寮生活のしおりが配られた。

 

「全員に行き渡ったかなかな?校則、寮則については後ほど空いた時間で各自目を通しておかないと、めっだからね♪あと、学生証はクレジットカードとして使えるから無くさないように注意するんだよー」

 

学校案内に書いてあった生活費支給はこのような形で行うとのことらしい。

限度額月々十万円にかなりの生徒が色めき立つ。

 

「はいはーい。気持ちはわかるけど静かにー。最後にうちのガッコの特別な制度と、寮の部屋割りの話をしたら今日は終了だから、騒ぐならその後でーってなわけで、まずは特別な制度について話をするけど、すーっごく大事なことだからきちんと聞くんだよー♪」

 

手を叩きつつ璃兎は特別な制度について話し出す。

 

「うちのガッコには《絆双刃(デュオ)》っていうパートナー制度が存在するのね。パートナーってことからわかるだろうけど、二人一組になって授業を受けたりするわけ」

 

「どうしてですか?」

 

璃兎の説明にすかさず質問がされる。それに対して璃兎が答えていく。

 

「うちを卒業すると、ドーン機関の治安維持部隊へ配属するって話は知ってるよね。そこの任務は常に二人一組ツーマンセル、もしくはそれ以上のチームで任務を遂行してもらってるの」

 

「……卒業後にいきなりチームで行動しろと言われても無理だろうから、学生のうちに慣れさせておく、ということですね?」

 

「その通りっ。わかってるね、橘さん♪」

 

凛とした声で璃兎に確認したのは長い黒髪の真面目そうな女子であった。

 

「さてさて、《絆双刃》についてなんだけど、さっきも言った通り二人でいろんな授業を一緒に受けてもらうわけね。で、その関係上、ちょーっと駆け足で悪いんだけど今週までに正式な相手を決めて貰うんで、明日からの授業で自分に合ったパートナーを頑張って見つけてねってことで。ふぁいとっ、おー☆……あ、もし決まらなくてもこっちで勝手に決めるから安心していいよー♪」

 

(透流かトラにでも声をかけてみるか)

 

そんなことを考えていると

 

「で、本題はここからなんだよねー。実はうちのガッコって《絆双刃》を組んだ後は、お互いをより深く知り、絆を強くするためにもできる限り一緒の時間を過ごせーって校則があるのね。まー何が言いたいのかっていうとぉ……寮の相部屋になるってことなんだけど♪」

 

長い時間を共に過ごすことで信頼を深めるという理に適った校則に悠斗は少し感心していた。

 

「あの、質問があるんですけど」

「はいはーい、《異能》九重くん、なんでしょー?」

 

「週末までに《絆双刃》を決めろって言いましたけど、それまで寮の部屋割りはどうなるんですか?」

 

「ふふぅ、ナイス質問。そこに気づくなんてうさセンセちょー嬉しい〜♡いい子いい子してあげよっか?」

 

「お断りします」

 

「ぶぅ〜、残念。……さてさて気を取り直して、九重くんの質問への答えも含めて、寮の部屋割りの話をするよ〜♪」

 

笑顔を浮かべ、璃兎は生徒に向かってビシッと指を指し、答えを口にした。そしてその答えは透流と悠斗にとってろくでもない答えだった。

 

「週末までは、今隣の席に座っている人と同居してもらいまーす♪」

 

「「……は?」」

 

「つまり仮の《絆双刃》ってことだね。これは校則なので、拒否は無駄無駄ダメダメ不許可だよ☆ねっ、三國センセ♪」

 

胸の前で手を交差してバツを作る璃兎へ、溜息を吐きつつ無言で頷く三國。

 

「ちょ…それって」

 

「ま…まさか…」

 

「良かったね、九重くんに天峰くん♪」

 

俺たちに親指をたてる璃兎。

 

「イエス!!!九重くんの同居人は銀髪美少女のユリエちゃん、天峰くんの同居人はアレが大きいみやびちゃんです。いや〜席決めの時後半からめんどくなってテキトーに選んでたらそーなっちゃったんだよね。ま、もう決定しちゃったからね。きゃー、らっきー♡……あ、そうそう。不純異性交遊をすると退学になっちゃうから気をつけるよーに。わかりやすく言えばここで口にするのは躊躇うようなことをシて、三人めの同居人がデキ」

 

「「するかあああああっっっっっ!!!!」」

 

勢い良く怒鳴りながら立ち上がる俺と透流。

直後俺たちの絶叫で我に返ったクラスメイトで大騒ぎになった。

 

 

「マジかよ!?」

 

「あの子とか、いいなぁ……」

 

「きゃーっ、同棲よ同棲!!」

 

「ま、待ってくれ!いくら校則だからって常識的に考えていろいろマズイだろ!」

 

「そ…そうだっ!!ダメだろ常識的に考えて!!」

 

「……入学式の最中に入試、しかもリアルファイトを行う学校がマトモだと思う?」

 

「「…………」」

 

色々と言いたい放題騒ぎ立てられている中で慌てて俺と透流が抗議するも、璃兎から返ってきた言葉に言葉を失う。

透流が隣の席のユリエとよろしくと言い合ってる時、俺の隣のみやびは…

 

 

 

 

 

 

 

 

顔を真っ赤にしながら下を向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……マジでどうしよう……」



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3話 ルームメイト

俺たちは今、危機に瀕している。

 

学園の強大な陰謀によって俺たちは居場所を失いかけているのだ。俺たちは我が身を守るため、仲間に救いを求める…しかし人生とは、残酷だ。なぜなら…

 

 

 

 

 

「男なら覚悟を決めて行ってこい!!!」

 

 

 

 

 

そんな残酷な言葉で俺たちを女子と同じ部屋に向かわせようとしているのだから。

 

 

「男だからいけないんだろうが!?」

 

「見捨てないで!!もうあんただけが頼りなんだよトラさん!!!」

 

「喧しい!!!もう消灯時間だ!!!」

 

バタンッ!!

 

必死で頼む俺たちを無視したトラこと虎崎 葵は部屋の扉を思いっきり閉めた。

 

 

 

 

 

「…透流、お前の友達って冷たいな」

 

「……そうだな……」

 

「「はぁ…………」」

 

そう言うと俺たちはため息を吐いた。

 

「はあ…腹をくくるしかないか」

 

「そうだな……お互い頑張ろうな……」

 

「おう……」

 

この日、俺は透流と何か絆のようなものを結ぶことができた。

 

 

 

俺は部屋に着くとなんとも言えない緊張感に包まれた。

 

「さて、どうしたものか…いや、変に考えても無駄だ。ここは俺の部屋でもあるんだからな。堂々と入るか」

 

そう言うと俺は部屋のドアを力強く開いた。

 

「あ…………」

 

「よ……よお」

 

そこには今日から同じ部屋になる少女、穂高 みやびがいた。

 

 

 

 

「ええと……一応教室でも言ったと思うけど……天峰 悠斗、よろしくな」

 

「あ……はい、穂高 みやびです……」

 

現在俺たちはテーブルを挟んで向かい合わせになっている。彼女は俺を前に俯いて顔を隠していた。

 

「…ごめん、わたし中学まで女子校だったから今まで男の人と接したことなくて」

 

彼女の言葉に俺は納得した。

確かに今まで同年代の男子との交流もほとんど無いのにいきなり男子と同居しろと言われたらたまったもんじゃ無い。

 

「ま……まぁアレだ……今日も疲れただろうし休んだらどうだ?」

 

今日は話はこれで切り上げて休ませるべきだろうと考えて俺はそう言った。

 

「う……うん……じゃあお風呂入って……っ/////」

 

「ん……あっ/////」

 

しまった……俺がいたら彼女がお風呂に入れないじゃ無いか!!マジでこの学校何考えてんだ!!

 

「あーそうだ!!俺ちょっと教室に忘れ物があったから取りに行ってくるわ!!だからみやびは先、風呂にでも入ってろよ!!」

 

「えっ……でももう消灯時間……」

 

「大丈夫大丈夫!!俺すぐ帰ってくるし、じゃっ」

 

バタンッ

 

そうして俺は部屋を出てどこで時間を潰そうか考えながら歩き出した。

 

 

 

 

 

 

〜しばらくして〜

 

「はぁ……結局見つかって叱られたなぁ……でももう大丈夫だよな……?」

 

あの後、見回りの人に見つかってしまい叱られて部屋に戻った。だがもう大丈夫だろう……そうも思って部屋の扉を開けた……

 

するとそこには…

 

 

 

バスタオルを巻いただけの格好の穂高 みやびがそこにいた。

 

「…え?」

 

「あっ…」

 

一瞬何が起こったか分からず静寂が空間を包む。そして…

 

 

「キャァァァァ!!!」

 

 

彼女の悲鳴が周囲に響いた。その時、

 

つるん

 

そんな音と共に彼女は足を滑らせ後ろに倒れていった。

 

「危ねぇ!!!」

 

そう言って手を掴むもバランスを崩し俺も倒れてしまった。すると

 

 

 

 

 

むにゅん

 

 

 

 

俺の手に彼女の柔らかく豊満な胸があった。

 

 

「うわぁぁぁぁ!!!ゴメン!!!」

 

 

俺は慌てて瞬時に飛び起き、彼女に謝った。

 

「ううん、こっちこそゴメンね。助けてくれたのに……」

 

みやびはそう言うと、顔を真っ赤にして縮こまってしまった。

 

 

「きょ……今日はもう寝るか……」

 

「う……うん、おやすみ……」

 

そう言うと俺たちはそれぞれのベッドに入っていった。

 

「すぅ…」

 

すると、みやびは疲れていたらしくすぐに眠ってしまっていた。

 

「…さて、報告は明日でも良いか」

 

俺もすぐに眠ることにした。

 

 

 

次の日、俺たちは朝食の為、食堂にいた。食堂はビュッフェ形式で多くの料理が並んでいた。

 

「んじゃ食べるとするか…」

 

俺たちはそう言いながら食事をとり、席に着いた。

 

「おはよう悠斗。そっちは昨日大丈夫だったか?」

 

俺と同じ女子と相部屋になった透流がルームメイトのユリエといた。

 

「…透流か。それに関してはあまり言わないでくれ」

 

「あぁ……お前もか……」

 

俺たちの会話の隣でみやびは顔を真っ赤にしていた。

 

するとさらに

 

「相席良いだろうか?」

 

そんな声が聞こえ、そっちを見ると

 

「ええと、確か…誰だっけ?」

 

腰まで届く黒髪の凛とした女子と黒のセミロングの髪と赤い縁の眼鏡が特徴的な女子がいた。

 

「橘 巴(たちばな ともえ)だ。そしてこっちがルームメイトの不知火 梓(しらぬい あずさ)」

 

「…不知火 梓です。よろしくお願いします」

 

そして席に着くと透流の皿の料理を見て

 

「なぜキミの料理はそんなに偏っているのだ?」

 

「…肉好きなもので」

 

透流の答えに橘はやれやれとため息を吐くと

 

「まったく……良いか九重、食事とはバランスよく取らなくてはならんのだ、対して天峰の食事はなかなか理想的だな、感心感心」

 

俺の今日の食事は鮭の塩焼きにワカメの味噌汁、白米に芋の煮付けに漬物と典型的な和食だ

 

「まぁ朝は和食が多いからな」

 

「うむ、良い心がけだ。九重を天峰を見習いたまえ、どれ、私の野菜を分けてやろう」

 

そう言いながら橘は透流の皿に野菜を入れ始めた。

 

「それでは雑談も適当なところで、そろそろ食事にしよう」

 

「そうだな、食べるか」

 

そう言うと俺たちは食事を始めた。

 

「ときにユリエ、みやび。その……こういう言い方は九重と天峰を前にして申し訳無いが、週末までとはいえ同居生活は大丈夫そうか?」

 

「ヤー。大丈夫です」

 

「えっあ…あの」

 

ユリエは問題なさそうだがみやびはあんなことがあったからな…

 

「九重、天峰、今ので気分を害したらすまない。大きなお世話だとは思ったが、やはりキミたちは年頃の男女であるわけで何事か問題が起こらないかが心配でな……」

 

こほんと咳払いしつつ、その問題とやらを想像してか頬を僅かに赤らめる巴。

 

「いや、いいさ。そう思うのも無理はないしな」

 

「それなら……。しかし、もし困ったことがあったらいつでも言ってくれ。必要とあれば内密に私たちの部屋で過ごして貰っても構わないぞ。なぁ梓」

 

「はい、私達は二人とも大歓迎です。」

 

「お気遣い感謝します。……ですが本当に大丈夫です。トールは優しい人ですので」

 

「わ、私も…」

 

「みやび、無理はしなくて良いぞ」

 

「う、ううん。私は大丈夫。昨日は、ビックリしただけだから。」

 

「そうか。ならいいんだが」

 

(意外だな。みやびなら橘達に頼むと思ったんだが)

 

そんなことを考えてると。

 

「昨晩も、トールは先に眠ってしまった私を優しく抱いてくれましたから」

 

「「「「ぶーっ!?」」」」

 

透流と巴が味噌汁、みやびが牛乳、俺が緑茶を吹いた。

そしてなぜか梓だけは平然としていた。

 

「ユリエ!?」

「なっ、ななっなっ!?」

「ユユユ、ユリエちゃん!?」

「透流、お前!?」

「ーー?」

 

激しく動揺する四人に対し、鈴の音を響かせてユリエが小首を傾げる。

つーか透流お前そんなキャラだっけ?

 

「橘、不知火、穂高、悠斗!今のはーー」

 

「こ、九重!!ななっ、なんということをしているんだ!!しかもっ、ねっ、眠っている相手にだと!?そんな破廉恥な男とこれっこれ以上同席しているなど不愉快だ!!私はこれで失礼する!!」

 

ユリエの発言を「そういう方向」に受け取った巴は激昂したまま食堂を出て行った。

 

「ふむ……これはもしかしたら……」

 

不知火も何かブツブツ言いながらその場を後にした。

 

一方悠斗は一度激しく動揺したもののすぐ冷静さを取り戻し、ユリエがまだ時差に適応しきれずベッド以外で寝てしまい、透流がユリエを抱き上げてベッドに運んだ可能性を導き出した為、担任に突き出すのは詳しい事情を聞いてからでも遅くないと判断していた。

 

「……騒々しい。何をしているんだ、貴様たちは」

 

「ちょっとな……」

 

 

そこに現れたトラに、厄介なことになったもんだと思いつつ透流は溜息を吐いていた。

詳しい事情を聞き、自身の予測があっていた事を確認すると、食事を摂り始めたばかりの葵と彼に付き合う気の透流とユリエに先に行くと伝えて、悠斗とみやびは食堂を後にした。



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4話 誓いの言葉

 

「さあさ、それじゃあ記念すべき最初の授業をはっじめるよー♪」

 

 

朝からハイテンションな璃兎が、両手を広げて授業開始を宣言した。

悠斗は欠伸を噛み殺しながら授業に耳を傾ける。

本日の授業内容は初日ということもあり、《黎明の星紋》についてだ。自身の能力に関係する内容の為、真面目に聞いておかなければならないと少しばかり気合を入れ直す。

 

「ーーというわけで《黎明の星紋》による身体能力超化は、掛け算みたいなものだから、訓練で体を鍛えれば鍛えるほど効果が高まるんだよー☆ここまでオッケー?」

 

 

昨日は不安に思えた璃兎もウサギ耳ヘアバンドにメイド服という格好を除けばなかなか教師らしく見える。

性格はともかく、技術と能力に関しては心配ないという三國の言葉に偽りはないようだ。

 

 

「で、《黎明の星紋》は《位階》って呼ばれるランク付けがされてるのよね。みんなは昇華したばかりだから《Ⅰ》ってわけ。これは学期末毎に《昇華の儀》ってのをやってランクアップさせて行くの。《位階》がそのまま成績になるから、一年間まったくランクが上がらないと見込み無しとして除籍処分、つまり退学になっちゃうので日頃から心身ともに鍛えるんだぞっ☆」

 

 

璃兎の話によると上のランクに昇華するためには、より強靭な肉体と精神力が必要になるとのことで、今学期は特に体力強化を重点的に行っていくとのことらしい。

 

(ようは努力の分だけ強くなるってわけだな。心身ともに鍛えるの究極系だな。)

 

体を鍛えるほどに《魂》も鍛えられる、そう思うと悠斗は強く関心を抱いた。

 

午前の授業を全て受け、学食で昼食を摂った後の午後の授業、いよいよ初めての体力強化訓練が始まるということで、新入生一同は体操服に着替えて校門前へと集合していた。

体力強化とは言われているものの、その内容は明らかにされておらず、どんな内容の訓練をやらされるのか期待と不安に胸を躍らせていた者も多かった。

 

 

「さてさてさてーっ☆今日からしばらくは体力強化ってことでマラソンだよー♪」

 

 

だが、璃兎の宣言で殆どの人が嫌な表情を浮かべた羽目になった。

とはいえ、体力強化するにあたり、もっとも単純かつ効率がいいのは走ることなのは確かでもある。

 

「ま、しばらくは軽めにいこっか。ってなわけで学園の周りをじゅっしゅーう♪」

 

「……十周って、結構距離がないか?」

 

「確かこの学園が一周4キロだから……十周で四十キロ。ほぼフルマラソンと同じだな」

 

透流の問いに悠斗は答えると、透流はげんなりしていた。

フルマラソンの距離に加えて、学園の外周はアップダウンも激しく、海に面した埋め立て地という土地柄吹き付ける風が強い為、相当キツイ事は容易に想像できる。

 

「よ、四十キロも走るの……?」

 

 

三人の会話を耳にし、透流の隣にいたみやびが不安そうに呟く。

 

 

「もしかして長距離が苦手なのか?」

 

「えっ?あ……う、うん……」

 

 

透流の顔を見て一瞬表情を強張らせるみやび。

軽くショックを受けつつも、みやびが女子校出身で男が苦手なことを思い出し、しょうがないと思う透流だった。

 

 

「走るの、苦手だから……。得意なことなんて無いけど……」

 

 

か細い声で言った後、みやびは大きく溜息を吐く。

 

「どれくらいきついかはわからないけど、《黎明の星紋》で基礎体力も上がってるんだし、これまでの自分を基準に考えなくてもいいんじゃないか?」

 

そんなみやびを見ていた俺はみやびに声をかけた。

 

「そうかな……?」

 

「ああ。それに四十キロが軽めって言ってるわけだし、今の俺たちでも十分走りきれる距離ってことじゃないか?もし今日は走りきれなかったとしても、これからしばらくは毎日走らされるみたいだし、そのうち慣れて完走できると思うぜ」

 

「慣れる、かな……?」

 

「ああ、絶対に慣れる。人間だれだって最初から得意なもんなんてたかが知れてんだから」

 

実際、ツナに至ってはリボーンと出会う前は40キロはおろか5キロも走れるかどうかのレベルだったもんな

 

「そっかぁ……。そうだよね、……が、頑張ってみる」

 

悠斗の励ましで多少なりとも気持ちが前向きになったのか、胸元でぐっと両手を握るみやび。

悠斗はそんなみやびを見て、フッと笑っていた。

その日のマラソンは悠斗を除いた全員が完走できず、新入生が二人、退学届けを提出した。

 

 

 

 

入学三日目の一時限目は新入生全員分の写真と名前、武術もしくはスポーツ経験の有無や具現化する《焔牙》について記されているリストが手渡され、それをチェックし《絆双刃》を組む候補を上げておけというわけだ。

 

「ふんっ、この中で僕のメガネに適う者がいるといいんだがな」

「トラが言うとそのままだな」

「ナイスギャグ。10点」

「ギャグではないっ!」

 

悠斗と透流がトラの発言の揚げ足を取り、笑い合う。

 

「ま、それはともかくトラさえよかったら、俺と組まないか?」

「む……?」

 

 

一通り笑った後、透流がトラに提案を持ちかける。

 

 

「知らない仲じゃないし、悪い話じゃないと思うんだが……」

 

「悪いだと?むしろ……ーーっ!!ふ、ふんっ。貴様がどうしてもと言うのなら考えてやっても構わないがな」

 

 

予想通りの反応に透流は内心で苦笑していた。

 

 

「それに、いい加減こいつと同室はうんざりだからな」

 

 

隣の席で突っ伏して寝ている男子を指し、トラはボソッと呟く。

この男はタツと言って、トラ曰く体がでかくて筋肉バカで、体育会系の暑苦しい筋肉バカとのこと。人の話を聞かない大雑把なやつで、細かい性格のトラとは初日から噛み合わないらしい。

 

 

「《絆双刃》決定おめでとう透流。」

 

「土曜日に学園側に申請するまでまだ時間があるけど、ありがとうな。ところで悠斗はどうするつもりなんだ?」

 

「どうしよっかな……まぁ適当に声をかけてそれでダメなら学園に任せることにしようと思う」

 

ここでは言わなかったが悠斗としては透流と組もうと思っていたである。互いに知らない仲では無いし悠斗の《長槍》と透流の《楯》なら組み合わせの相性もいいと思ったからだ。

 

(……ま、良いか)

 

まぁでも透流とトラは昔からの付き合いだ、2人の意思を尊重しようと決めた。

 

「ユリエはどうするんだ?」

 

 

透流は自分の現在の仮《絆双刃》に話を振る。

 

 

「何人かに声をかけてみるつもりです」

 

「いい相手と組めるといいな」

 

「ヤー。ありがとうございます」

 

「みやびはどーすんだ?」

 

「私は巴ちゃんと組みたいなっておもっているけど…」

 

みやびは以前食堂で出会った橘と仲が良く良く一緒に話しているのである。彼女ならおそらくうまくいくだろう。

 

「そっか、いい相棒と組めると良いな」

 

「…うん」

 

 

この後、三、四時限目に運動能力測定を行い、午後から昨日に引き続き体力強化訓練を行って一日が終わった。

 

 

 

 

「とまあこっちはこっちで充実した学校生活を送っているよ」

 

『そっか、元気そうでよかったよ天峰君』

 

授業が終わったのを機に俺は人気のない場所で並森の高校に通いながらボンゴレボスとして日夜奮闘している沢田 綱吉に電話していた。

 

『そういえば月見先生だっけ?その人はどんな感じなの?』

 

「お前のような《超直観》じゃないから断言できないけど、なんつーかやばい気をかんじたな」

 

『そっか、オレもできる限り調べてみることにするよ』

 

「おうよ、そんじゃよろしくな」

 

そういって俺は電話を切って部屋に戻っていった。

 

 

 

入学四日目からは《無手模擬戦(フィストプラクティス)》という自由組手の授業が始まった。

素人の多い新入生に最初から怪我の可能性がある組手を行わせている理由は技術は教わるだけでは意味が無く、使用してこそ身につくという学園側の方針があるからだ。

その模擬戦で昨日の運動能力測定で目立っていたとある女子二人が周囲の注目を浴びていた。

橘 巴とユリエ・シグトゥーナ。

二人の組手は見る者に驚きと感嘆の声を上げさせていた。

まるで舞うような動きで息も吐かせぬ連撃を見せる巴。

それに対しユリエは接近と後退を繰り返すヒットアンドアウェイを主体に自身の速さを有効的に使って対抗する。

 

「ユリエの動きもすごいけど、橘も負けてないな……」

 

手数の多さで攻めるユリエとそれらをほとんど捌きながら一瞬の隙をついて攻防を入れ替える橘の互角の攻防に透流も感嘆の声を上げる。

 

「動きからして古武術のたぐいだな。」

 

「なんだ貴様らは、橘流を知らんのか?」

 

「橘流?」

 

「古武術を主体に様々な武芸に通じている流派だ。有名だぞ。」

 

「そうなのか。俺は初めて見る」

 

「昨日のリストに書いてあっただろう。何故読んでいないのだ、貴様らは……」

 

「《絆双刃》はトラと組むわけだし、別に他のやつをわざわざチェックしなくてもいいかなぁと……」

 

苦笑いをしつつ透流が答え、トラが頭を抱えた。

そこで組手終了のホイッスルが鳴り響く。

 

 

「はいはーい。そこまでー。三分休憩の後、今度は相手を変えてねー♪」

 

 

その宣言にユリエと巴は一礼して、一言二言交わして組手を止める。

どちらも決定打は与えられなかったようだ。

 

 

「それじゃあ透流やるか」

「そうだな」

 

 

ユリエと巴に分かりやすく触発された悠斗と透流が静かに距離を開ける。

そんな二人に対し、トラは先を越されたと何処か悔しがりながら二人から離れる。

トラが十分離れたのを確認した二人はゆっくりとした動作で拳を掲げ、笑い合う。

 

「「……ーーっ!!」」

 

 

一瞬の静寂、そして二人は拳を交わし動き出す。

 

悠斗は一気に間合いを詰めて透流に右の正拳突きを繰り出す。

しかし、透流はそれをガードしカウンターを放った。

 

「おっと」

 

悠斗はそれを危なげなく躱し今度は左脚の回し蹴りを放った。

だが透流は崩された上体を戻そうとはせずにむしろその流れに乗って距離を取ることで回し蹴りを回避し、反動で体勢を立て直しきれていない悠斗に攻勢を仕掛けようと距離を詰める。

勝ったと透流は思った。だが次の瞬間それが間違いだったことに気付いた。

悠斗は空を切った左脚でそのまま踏み込み、右の正拳付きを打ち込む。そして透流の鳩尾に当たる直前で寸止めしてニヤリと笑みを浮かべた。

 

「なかなかやるな透流」

 

「俺の負けだな悠斗」

 

振り被った拳を開き、顔の高さに上げることで降参の意思を示した透流の鳩尾から拳を離し、手を差し出す悠斗。

それに答え、透流はその手を握り返して笑みを浮かべる。

 

「すごいね天峰くんは」

 

透流との試合の後、みやびが俺に話しかけてきた。

 

「みやび、もしよかったら次は俺と練習しないか?」

 

「えぇ!?だ、だめだよ私なんか天峰くんの相手になんかならないよ」

 

「簡単な防御の方法とかを教えるからさ、ちょっと練習してみようぜ」

 

「う、うん…じゃあよろしく」

 

そういうと、俺とみやびは練習を始めた。なぜ俺がみやびに練習を持ちかけたのかというと、マラソンの時から、みやびは自分に自信を持てていなさそうだったので力になりたかったからである。

 

「まず、相手がこんなふうに中段の突きを打ってきたら…あいてのこぶしの勢いを利用しながらこうやって住なすんだ」

 

「ええっと…こう?」

 

「そうそう、こんな感じ。それで次は…」

 

「天峰君…ありがとね」

 

「なんだよ急に?気にスンナ」

 

「…うん。そ、それと私のこと…名前で呼んでくれるかな?」

 

「ん?別にかまわないぞ。じゃあ俺のことも名前でいいよ」

 

「うん…分かった、ゆ…悠斗君」

 

「よろしくな、みやび」

 

悠斗もみやびとの距離が少し縮まったことが少し嬉しかった。そして、そのままみやびの練習に付き合い続け、授業は終わっていった。

 

「ではでは《絆双刃》のパートナー申請は、今日の夕方六時までに事務局へ届け出ること。それを過ぎたらよっぽどの理由がない限り卒業まで変更ができないから、パートナーとは仲良くやるよーに。うさセンセとの約束だぞっ☆」

 

 

五日目の金曜日は特に変わりの無い一日を過ごして迎えた土曜日。

SHRショートホームルームでの最後の通達が終わり、放課後を迎えると、パートナーを見つけている人達は組むと決めた相手とともに続々と教室を後にしていた。

 

「さーて、俺はどんな奴と組むのかな?」

 

結局俺は自分と合いそうなペアを見つけられなかった為、学校が選んだ相手と組むことになるだろう…そんなことを考えていると前から、知っている二人が向かって来た。それは…

 

「橘と不知火?」

 

「ん?ああ天峰か、どうした?」

 

たしかみやびは橘と組もうと思っていたはずだ…しかし彼女の隣には彼女のルームメイトの不知火 梓がいた。

 

「なあ橘、みやびのやつがお前のとこに来なかったか?」

 

「ああ、たしかにみやびとあとユリエにも絆双刃を頼まれたんだが…梓がまだ周囲とうまくなじめていなかったようでほっとけなくてな、二人には悪いが断らせてもらった。」

 

「…そっか」

 

そのとき、俺はなぜかみやびの悲しそうな顔が浮かび、それが頭から離れなかった。

そして、

 

「なあ橘、みやびがどっちに行ったか分かるか?」

 

「あ、ああみやびならたしか教室のほうに行ったと思う」

 

「そっか、サンキューな」ダッッ!!

 

俺は教室に向けて全力で走っていた。

 

 

(ガラっ)「みやびっ!!」

 

 

俺がそういって教室のドアを開けると窓の近くにみやびがいた。彼女はこちらを驚いたような目で見つめ

 

「ゆ、悠斗君どうしたの?」

 

そう聞いてくる彼女にどんどん近づくと彼女の手を握り

 

 

 

 

 

 

「みやび!!俺と絆双刃になってくれ!!!」

 

 

 

 

 

俺はそうみやびの目を見ていった。

 

「え…えぇ!?だ、だめだよ私なんか、悠斗君はもっと強い人と組んだほうが…」

 

俺の突然の誘いにみやびは戸惑いながら断ろうとしたが

 

「なんつーかさ、絆双刃ってやっぱり信頼できる奴と組まないとダメかなってちょっと思ってさ、それならみやびと組もうって思ったわけ」

 

「だ、だけど私ほかの人より運動神経なくて…この間のマラソンでもみんなより遅れてたし…やっぱり私なんかより」

 

「心配すんな、俺がみやびを強くしてやる!!」

 

そういうと、俺はみやびの手を握った。

みやびはすこし顔を赤く染めながら

 

「私でいいの…?」

 

と、俺に聞く。そして俺は

 

「みやびが良いんだ。」

 

と答えた。するとみやびは顔をさらに赤く染め、

 

「あ、ありがとう……」

 

恥ずかしながらも嬉しそうに答えた。

 

 

 

 

夕日が赤く染まる空に互いの《焔牙》を重ねる。そして告げる。

絆を結ぶ魂の契いの言葉を

 

 

 

 

 

 

「「絆を結びし者たちは能う限り同じ時をともにせよ」」

 

 

 

 

 

「「喜びの時も」」

 

 

 

 

 

「「悲しみの時も」」

 

 

 

 

 

「「健やかなる時も」」

 

 

 

 

 

「「死が二人を分かつその日まで」」



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5話 新刃戦に向けて

週が明け、月曜日の朝。

HRの時間となり、やたらとハイテンションな璃兎が教室に入ってきた。

 

 

「おっハロー♡みーんな無事に《絆双刃(デュオ)》が決まってよかったねー♪うんうんっ☆

さてさて、パートナーが決まったことで今日から心機一転、席も《絆双刃》同士の並びに変更しよっか♪……ん?おやおやぁ?仮同居のときとパートナーが変わって無い人もいるみたいねー?九重くんも天峰くんも結局以前と同じ絆双刃だし〜」

 

俺たちの席が変わっていないのに気づいた璃兎がニヤニヤしながらこっちを見てきた。

 

「相性がよかったんです」

「わわっ!どんな相性?どんな相性?」

「性格」

「ちぇー……」

 

 

面白い答えが出てこなくて璃兎がつまらなさそうにしている。

 

 

「じゃあ九重くんの前の席に座る仲良しコンビは?」

「誰がこの筋肉バカと仲良しだ!」

 

 

トラの《絆双刃》はタツとなっていた。最終的に《絆双刃》申請を行わなかったのはトラ、タツの二人だった為、学園側が仮《絆双刃》をそのまま正式な《絆双刃》にしたと悠斗は聞いていた。

…虎と竜か、案外いい組み合わせかもな。

 

「んもー、トラくんってばセンセーへの口の聞き方がなってないよ。めってしちゃうぞ☆」

 

「断る!」

 

「ほんっとなってないなぁ。……まぁいっか。さてさて話を続けるけど、《絆双刃》も決まったことだし、早速来週に《焔牙(ブレイズ)》の使用を許可した模擬戦ーー《新刃戦(しんじんせん)》を行っちゃうよー♪」

 

その発言に生徒が驚きと戸惑いで騒めく。

《焔牙》の使用が許可された模擬戦が行われるという話は聞いていたが、これほど早くに行われるとは誰も思っていなかった。

 

「うんうん。みんなの言いたいことはよーくわかるよ。アタシも学生時代に同じこと思ったもん♡いきなり何を言い出すのよこのクソメガネーって。……あ、今の三國センセにはないしょね」

 

(ってことは月見先生の学生時代の担任は三國先生なのか…)

 

意外な事実を知ることになった。

 

「それじゃあ《新刃戦》のルール説明するから、耳を立てて聞いておくんだよー☆」

 

 

そう告げて頭の上で手を立てて、うさぎの耳っぽいアクションを取る璃兎。

 

「まず日程だけどー、来週の土曜日ーーつまりGWの前日ね。誰かが病院送りになってもいいように休み前にやるってわけ♪」

 

つまりは毎年病院送りになる生徒がいるという事だ。

 

「開始は十七時、終了は十九時までの二時間ってことで、時計塔の鐘が合図だからねー。場所は北区画一帯になるよー」

 

「……そこに学園内はカウントされるんですか?」

 

俺が口にした疑問に璃兎は親指を立てて頷いた。

 

「答えはイエス♡《焔牙》にはそれぞれ特性があるわけだし、それに合わせて正面から闘うも良し、戦略を練るも良し。地形を考慮して、いかに自分が有利な状況で闘うかも重要ってわけ♪」

 

(どうやら相当実践的な内容だな。みやびとの連携も大事になるな)

 

俺は璃兎の言葉を聞きながら今後の対策を考えていた。

自身の武器だけでなく仲間の武器にも適した環境で戦う必要があるようだ。

 

「さーてさてさて、お楽しみの対戦相手について……ななななんとー♪」

 

璃兎は満面の笑みを浮かべ、指を立てて楽しそうに言った。

 

「全員、敵♡」

 

その言葉に、俺は思わず笑みを浮かべた。

 

その日の昼休み。

俺、みやび、透流、ユリエ、巴、梓、トラ、タツの八人で昼飯を学食で食べていた。

そして食事の合間に出される話題は当然《新刃戦》の事だった。

 

「はぁ……。まだ《絆双刃》が決まったばかりなのに……」

 

「いや、決まったばかりだからだと思うぞ、みやび」

 

「俺も悠斗と同じだな。この時期だからこそ、意味があるんだと思う」

 

俺の言葉に、透流も同意した。

 

「どういうことなの?」

 

「早くから実戦形式の戦闘を経験させておきたいからだろ。授業の座学と実戦とじゃ得る経験値が違う。聞くだけのただの知識ではなく、経験として蓄積させ実感させることで本当の知識として理解させたい。簡単に言えば習うより慣れろ、実践あるのみってことだ」

 

みやびの質問に俺が答えた。

 

「ふんっ。時間帯や範囲の広さ、バトルロイヤルというルールからしても、不確定要素を高くし、より実践的な状況を用意してくれているしな」

 

「時間帯?そういえばずいぶん遅くにやるよね。それはどうして?」

 

「開始から三十分程度で夕暮れ、終了三十分前になれば日没で視界不良。視界の悪さが戦況に大きな影響を及ぼすことも経験させておきたいんだろ」

 

ましてやまだ詳しく無い地形での闘いだ、そう言った場所での闘いも将来ありえる。そういう意味もあるのだろう。

 

「そっかぁ。いろいろ理由があるんだね……。理由はわかったけど、もっと《焔牙》に慣れてからでもいいと思うのになぁ……」

 

これまで《焔牙》を扱う授業は無く、そしてこれから《新刃戦》まで《焔牙》を扱う授業は無い。

 

「みやび、今回は入試と違って負けても終わりというわけでは無いから、そう心配することはないよ。今日の放課後からは《焔牙》を使えるのだから地道に慣れていこう。もちろん俺も手伝うしさ。」

 

本日から《新刃戦》までの期間は申請さえすれば、放課後に学園内のみだが《焔牙》の使用許可が下りる。

そしてほぼ確実にクラス全員が今日の放課後から《焔牙》の訓練を始めるだろう。

だが、ここで一つ考えなければならない事がある。

 

「まぁあまり手の内をさらし過ぎないようにもしんないといけねーけど

 

《新刃戦》に向けて《焔牙》を使用する事は許可されるが、《焔牙》を使った訓練を他の《絆双刃》に無許可で見学されてしまう事だ。

いわゆる諜報行為が学校側から許可されている。

誰がどのような《焔牙》を持つのかは既に情報として与えられている。

だが同じ武器でも戦闘スタイルは人によって違い、それによって武器は様々な変化をする。

この二つが揃って初めて対策を練る事が出来るようになる。

その情報を集めるところから、つまりこの時点で既に《新刃戦》は始まっていることになる。

 

「まったく、厄介な話だな……」

 

「ふんっ、顔はそう言っていないぞ、透流」

 

「トラも透流の事言えないと思うんだが……。まぁそれを言ったら俺もか」

 

やはり、強敵との本気の手合わせがこんなにも早く叶うとは思ってもおらず、俺は楽しみで仕方がなかった。

この学園にもかなりの手練れがいる…そいつらとの闘いが楽しみで仕方がないのだ。

 

「こ、九重くんもトラくんも悠斗くんも、すごいやる気いっぱいだね……。やっぱりあの賞与があるからなの……?」

 

《新刃戦》で優秀な成績を収めた《絆双刃》には、特別賞与という名目で学年末を待たずに昇華の機会が与えられる。

必ず一度で《位階昇華》できるとは限らない為、《昇華の儀》は少しでも多く受ける事に越したことは無いというのが普通の考えだろう。

この三人は賞与以外にも理由がある。

 

「賞与があるからってわけじゃないんだけどな。もちろん、それも理由の一つだってことは否定しないけど」

 

そうみやびに返しながら、透流は俺の方を見た。

 

「次は負けないからな、悠斗」

 

「面白え、返り討ちにしてやる。」

 

不敵な笑みを向け合い、軽く拳を交わす。

透流のあの格闘センス、スピード重視の俺と違いパワー重視のストライカー、何より伊万里との闘いで見たあの技、今から楽しみでたまらない。

 

「え、えっと……」

 

「ふふっ、みやびの絆双刃はやる気十分だな。キミも頑張らないとな。」

 

「う、うん……。でも、わたしじゃ足手まといに……」

 

「大丈夫だ。俺がサポートするからな。これは一対一じゃなくって、《絆双刃》による勝負なんだからさ」

 

みやびの不安を和らげる為の言葉を俺は紡ぐ。

その言葉にみやびは少し安心したような表情をした。

 

「みやびと悠斗は中々うまくいっているみたいだな。私たちも負けてられないな梓。」

 

「…そうですね。誰であろうと容赦しません。」

 

橘の言葉に梓がそう返していた。梓は初めは周りに壁を作っていて一人でいることが多かったが今ではだいぶしたしくなれたと橘が言っていた。

確かに、初めて会った時はいつも1人で暗いところがあったが今ではだいぶ話すようになった。それも橘と仲良くなってきているからだろう。

 

「ーー《絆双刃》か……」

 

「どうかしましたか、トール」

 

「いや、《絆双刃》で思い出したんだけどさ、以前、理事長が言ってた《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》って何のことだったんだろうなって……」

 

「ふむ、あれか。私も気になってパンフレットを見返してみたが、そのような言葉は載っていなかったな。語感から《絆双刃》と関係することに思えるし、わざわざ理事長が我々のいずれかが《絶対双刃》に至ることを願うといったことを口にしている以上、何か重要なことではあるのだろうが……」

 

「ふんっ。彼女にとって僕らが有益な実験体モルモットと認識されたときにでも明らかになるんじゃないか?」

 

「…まぁ今はあまり気にしなくていいと思うぞ。いつか分かるだろうし」

 

悠斗は透流たちの言葉に耳を傾けながらそう言った。

 

「それにしてもモルモット、ですか……」

 

先程のトラの皮肉めいた言葉を思い出し、ユリエが眉を顰める。

 

「まぁ、そういう言い方に気分が悪くなるのはわかるよ、ユリエ」

 

「ナイ。そうではなくて……」

 

「そうじゃなくて?」

 

「私はハムスターの方が好きなので、そちらの方が……」

 

何ともズレたユリエの言葉に全員が苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

「せいっ!!」

 

ガキィンッ

 

「きゃあ!!」

 

現在、俺とみやびは林の中で特訓をしていた。

俺の手には《長槍(ロングスピア)》が、みやびの手には巨大な《騎兵槍(ランス)》があった。

しかし、みやびは自身の《騎兵槍》の重さに振り回されていた。

 

「ふむ……」

 

休憩の際、俺はみやびの《焔牙》について考えていた。

 

「みやびの《焔牙》は威力は高いけどそのぶん重いからな……まずはしっかりと安定して持てるようにしようか。そして突き技を今は重点的に練習しよう」

 

《騎兵槍》の重さは同時に攻撃の威力に繋がる。

戦闘未経験のみやびにいきなり多くの技を教えるのは難しい、それよりも1つの技を集中して教える方が大事である。

 

「凄いね悠斗くん…色々詳しくて。私、力になれるかな…」

 

「…みやび?」

 

みやびは少し悲しそうに呟いた。

 

「…私、勉強のスポーツも得意なこと何も無いから。そんな私が悠斗くんみたいに凄い人と絆双刃になれたんだから迷惑かけないように頑張ろうとしてたんだけど…やっぱり私じゃ悠斗くんの力に…」

 

「なれるさ、俺だって苦手な相性はある。互いの苦手をサポート出来るからこそ絆双刃なんだ。」

 

自信なさげに言うみやびに俺はそう返した。

 

「…それに、俺の知り合いに勉強もスポーツも全然ダメで挙句の果てにはチワワにビビるってダメダメなやつもいるぜ…でもそいつには誰にも負けない長所がある。それと同じようにみやびにも俺より凄い長所が絶対あるさ」

 

闇に染まり、自分の命を狙った俺を友達と言い、仲間に迎えてくれた大事な親友を思い出しながらそう言った。

 

「だから、一緒に頑張ろうみやび(ニッ)」

 

「…ありがとう悠斗くん」

 

 

 

それから一週間という時間はあっという間に過ぎ去った。

それぞれの《絆双刃》が知略を巡らし、己が実力刃を研ぎ上げるには短い期間だっただろう。

準備が十分かと聞かれれば、殆どの者が否と答えるだろう。

だがそれでも幕は上がる。

夕闇と剣戟に彩られた《新刃戦》が今始まる。



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6話 新刃戦

(……そろそろか)

 

学園内のどこからでも見る事のできるあの時計塔を見つけながら悠斗は内心で呟く。

《新刃戦(しんじんせん)》当日の夕刻、悠斗はくじ引きで決まった場所で待機していた。

周囲は木々で囲まれており、視界としてはあまり良いとは言えない。

 

「みやび、今回の闘いは講堂と違って地の利を利用した闘いもある。油断は禁物だ」

 

「うん…気をつけるよ」

 

俺の言葉にそう返すみやびの声は少し震えていた。

そんなみやびに俺は

 

ぽんっ

 

「ふえっ?」

 

軽く頭を撫でた。

 

「心配すんな。みやびはこの数日で『焔牙』の扱いもだいぶ上達してたし毎日のランニングでスタミナもついてる。だから自信を持てって。それに、いざという時は俺がいるんだし」

 

「悠斗くん…ありがとう、頑張るよ」

 

「その意気だ」

 

悠斗の言葉にみやびは嬉しそうに答えた。

そして、

 

リーンゴーン……リーンゴーン……リーンゴーン……。

 

「行くぞみやび!!」

 

「うん!!」

 

塔の鐘が《新刃戦》の開幕を告げる。

その瞬間悠斗とみやびは駆け出した。

鋭く開かれたその瞳で周囲を見回しながら、敵となる《絆双刃(デュオ)》探して。

 

しばらく森の中を走っていると、茂みの中から

 

「おりャァァ!!」

 

「くらえぇぇ!!」

 

斧とハンマーの形をした《焔牙》を振りかざした二人組が襲ってきた。…しかし悠斗は

 

「バレバレだ」

 

と、長槍を高速で振るい、二人を一蹴した。

 

「よしっ行くぞ」

 

「あ…うん」

 

みやびは悠斗の声を聞くとそのまま悠斗の後を追った。

 

しばらく歩いていると、

 

「みやび、ストップ」

 

「え?」

突然悠斗は立ち止まり目の前の木を見つめた。

そして、

 

「どりゃぁっ!!」

 

ドシィン

 

「「うわぁっ!!」」

 

どっしーん

 

悠斗の蹴りが木に炸裂して2人の男が落ちてきた。

どうやら木の上で待ち伏せしていたようだ。

 

「な……なんで……」

 

「気配が丸分かりだったよ」

 

そのまま2人は《長槍》で倒した。

 

それからも様々な手段を使う連中を倒していき、十八時を回った頃には、辺りに他の敵が見られなくなっていた。

 

「ふぅ、この辺りの敵はあらかた片付いたな」

 

「悠斗くん、これからどうする?」

 

「そうだな…今まで探してなかった校舎のほうを探しに行くか」

 

「うん、分かった」

 

悠斗とみやびはそう言うと校舎へと目指した。

 

校舎に入り、廊下をしばらく走っていると

 

 

「来たな悠斗、みやび」

 

声の方を見ると、そこには巴と梓の二人がそれぞれの《鉄鎖(チェイン)》と《大鎌(デスサイズ)》を手にして待ち構えていた。

 

「校舎に入っていきなりお前たちに当たるのか」

 

「時間が時間なだけにキミと手合わせするのは無理かと諦めかけていたが、こうしてその機会を得た事を嬉しく思うぞ」

 

「それはこっちの台詞だ。だから最初から全力で来い。俺の方も加減なんて出来そうにない」

 

「違いない…梓!!準備はいいな?」

 

「はい、いつでも構いません」

 

「行くぞみやび!!」

 

「うん!!」

 

そして闘いが始まった。

巴の《鉄鎖》が俺に向かって飛んできた。鎖とはただ相手を拘束するだけの武器ではない。しならせた鎖本体の一撃は骨など容易く砕いてしまう。しかし、同時に扱うのは至難の技だが、巴はそれをまるで自分の体の一部のように使いこなしていた。俺はその鎖をなんとか避けるが、そこに梓の《大鎌》が迫ってきた。

 

「うぉ!?あぶねっ!!」

 

そう言って《大鎌》を回避するが、そこに再び《鉄鎖》が迫ってきて、俺の肩をかする。そのまま梓が上段の一撃を与える。

 

巴の鉄鎖で俺の動きを封じ、梓の大鎌の強力な一撃を負わせる。見事なまでのコンビネーションだった。

 

「だけど……これならっ!!」

 

俺は《鉄鎖》を見切り一気に梓との距離を詰めようとした。

 

 

「やっぱりそうきましたか」

 

しかし、梓は笑みを浮かべ後ろへバックした。

 

「今です巴さん!!」

 

「心得たっ!!」

 

そして入れ替わる形で巴が向かってきて悠斗の《長槍》を《鉄鎖》で縛り付けた。

 

「まんまと引っかかりましたね!!」

 

そしてトドメと梓が《大鎌》を上段で振りかぶった。

しかし、

 

「それを待っていた」

 

そう、2人がある程度の距離に固まるこの時を待っていたのだ。

 

「いけっみやび!!」

 

俺の合図とともにみやびが全力で駆け出した。

まずは俺が前衛に出て巴と梓を引きつけ俺を倒すために2人がある程度固まった瞬間にみやびが渾身の突きを食らわす、これを狙っていたのだ。

そしてみやびが自身の《騎兵槍(ランス)》を超化された腕力で抱え、突撃した。

 

「巴ちゃん、梓ちゃん、覚悟ーーっ!!」

 

「しまっ…!」

 

とっさに梓は自身の《大鎌》でガードするが、みやびの《騎兵槍》を防ぎきれず、巴を巻き込んで吹き飛ばされた。

 

「「うわぁぁぁ!!」」

 

吹き飛ばされた二人はそのまま戦闘不能になり、俺たちの勝利となった。

 

(いい一撃だ!)

 

内心でみやびに称賛の言葉を送る。

みやびが毎日走っていた事を俺は知っていた。雨が降っていようが一日も休む事なく走っていたみやび。そんな彼女の努力と積み上げてきたものへの自信がこの重たい一撃を生み出している。それを俺は知っていた。だからこそみやびに憧れ、彼女の力になりたかったのだ。

 

「や、やったよ悠斗くん。勝ったよ!」

 

「みやびのおかげだよ」

 

「…え?」

 

「今回の作戦はみやびの存在があったからこそ出来たんだ。本当にありがとう」

 

「悠斗くん…」

 

みやびは俺の言葉に頬を少し赤くして微笑んだ。

 

「二人とも大丈夫か?」

 

俺たちは戦闘不能になった巴と梓に聞いた。

 

「ああ、なんとかな。しかしまんまとやられたよ」

 

「はい、まさか私たちの罠を逆に利用されるとは思ってもみませんでした。…互いの弱点をそれぞれの強みでカバーする、良い絆双刃ですね」

 

「当たり前だ。みやびは俺が選んだ絆双刃だぞ」

 

その言葉に、みやびはさらに顔を赤くした。

 

「そんじゃ俺たちは先を行くよ。じゃあな」

 

「ああ、頑張れよ」

 

「…応援しています」

 

そして、俺たちは先を急いだ。残っている中で特に厄介なのはあとはトラとタツの絆双刃と透流のユリエの絆双刃である。どちらにせよ油断できない。そんなことを思っていた時だった。

 

 

 

「ぐっ……があぁあああああああああああああああっっっ!!」

 

 

 

 

上階よりトラの絶叫がひびいてきた。

俺とみやびは一度視線を交わすと二人は駆け出し、巴たちも声に気付いたらしくこちらに向かってきていた。

四人で上階を目指して駆け出す。

 

「悠斗、今のは!!」

 

「分かっている!!急ぐぞ!!」

 

俺たちが階段に近づくと

 

「なっ、これはどういう事だよ……」

 

一番近い階段は無惨にも破壊され、上の階に登る事が不可能となっていた。

 

「悠斗!!次に近い階段はこっちだ!」

 

苛立ちを顕にしている俺に巴が声をかける。

破壊された階段を一度睨んだ俺は巴と梓、そしてみやびの後を追うように駆け出した。

 

 

 

多少の遠回りをしつつも三人は最上階の廊下へと到着すると同時に床に倒れ込んだ二人の影を見つけていた。

 

 

「酷い傷だな……。今から手当をするからみやびも手伝ってくれ」

「う、うん」

 

血たまりのできた床に倒れ込んだ二人ーートラとタツの傷を見て巴が忌々しげに呟くも、すぐさまみやびに声をかけ、二人の手当を開始する。

呆然と立ち尽くしていたみやびも俺の言葉で我に返り、手伝いに回る。

その時、俺は暗い廊下の奥から聞こえてくる声と金属音、そして確かな殺気に気づき、《長槍》を顕現して、

 

「橘、梓、後を頼む」

 

「悠斗?」

 

「奥で誰が闘ってる。俺はそっちのヘルプに行くけど、何かあったら大声を出してくれ。すぐに戻る」

 

「二人の手当と悠斗が駆け付けるまでの時間稼ぎは任せてくれ」

 

「き、気をつけてね、悠斗くん!」

 

「幸運を祈ります」

 

 

 

頼もしい巴の声と心配するみやびの声と無事を祈る梓の声を背に、俺は戦闘が行われている方へと駆け出す。

俺が戦闘の傷跡の残る暗い廊下を突き進んでいるとその突き当たりに徐々に見えてきたものがあった。

扉のない教室。その中で背中を預け合う《絆双刃》。そしてその《絆双刃》の銀色の少女にも劣らない速さでその二人に襲い掛かる影。

一瞬で俺の中のスイッチが切り替わる。模擬戦から実戦へと。

 

「させるかぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

銀色の少女が教室の角へと吹き飛んだその瞬間に教室へと飛び込み俺は《長槍》を影へと全力で撃ち込んだ。

影の手に持っていた武器が偶然俺の突きと影の体の間に入り込み、運良く一撃を防御するが盛大に銀色の少女とは逆の方へと吹き飛んだ。

 

「透流、ユリエ、無事か!?」

 

「俺は何とか……。ユリエは!?」

 

「ヤー、私も透流と同じです」

 

全身に擦り傷を負っているが、致命傷に繋がりかねない深い傷は負っていなかった透流とユリエは俺の言葉に頷きつつ答えた。

 

「くはっ……なかなか速いじゃねえか天峰 悠斗。いや、ここは《天狼》と呼ぶべきか。流石はイタリア最大のマフィア、ボンゴレファミリーの守護者なだけあるなぁ」

 

殺気に満ちた声が聞こえ振り返ると

 

「月見……璃兎」

 

巻き込んだ机を吹き飛ばしながら立ち上がった月見 璃兎が《牙剣(テブテジュ)》を肩に担いで凶悪な笑みを浮かべていた。

 

「やっぱりてめえ、裏の人間だったか」

 

「…その様子じゃある程度は睨んでいたようだな」

 

「テメェから裏社会の匂いがしたからな。それで、どうしてあんたが二人を襲ってる?」

 

俺の中の感情が怒りに変わりつつある。その感情を抑えつつ璃兎に問いただした。

 

「仕事だ仕事。有望そうな新人を始末するだけの簡単なお仕事さ」

 

そんな俺をあざ笑うかのようにヘラヘラと璃兎は笑って答えた。

 

「なるほどな……。雇い主について喋る気は?」

 

「あるわけねぇだろ」

 

ああ、もうだめだ……もう我慢の限界だ

 

「なら遠慮は要らないな」

 

「ああ、遠慮は要らないぜ!!少しでも長くアタシを愉しませてくれよっ!!」

 

「愉しませる気はねぇよ…」

 

俺の怒りは限界を超えた。

 

 

 

 

 

 

「テメェは俺が倒す!!!」



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7話 死ぬ気の炎

暗闇の中で璃兎と俺は対峙していた。

璃兎は、凶暴な肉食獣を彷彿させる凶悪な笑みを浮かばせていた。

 

「透流、ユリエ、お前たちはみやびたちと合流しろ」

 

俺は《長槍》を璃兎に向けながら2人に指示をした。

 

「なっ…バカを言うな悠斗!!いくらお前でも1人じゃ危険だ!!俺たちも協力する!!」

 

「ヤー、私たちもまだ戦えます」

 

透流とユリエはそれぞれの《焔牙》を構えながら叫んだ。

 

「気持ちは嬉しいけどよ、この狭いフィールドじゃむしろ複数は危険だ。それに、やばくなったら俺も退却するから大丈夫だ」

 

「けど……」

 

「それに……敵がこいつだけとは限らない」

 

「……っ」

 

そう、もしこいつの他に仲間がいたら他の生徒たちに危険が生じてしまう

何より奴さんは待ちきれないようだ

 

「アタシを倒すダァ?やれるもんなら…やってみろやぁぁぁぁ!!!!」

 

その叫び声を合図に璃兎が床を蹴って正面から突っ込む。

《Ⅲ》の全速力は、殆どない両者の間合いを一瞬で詰めた。首を狙い《牙剣》を薙ぎ払う璃兎。

それを《長槍》を用いてガードするが、圧倒的差のある膂力で押し切られそうになり、長槍を斜めに傾けて薙ぎ払いを受け流すが、切っ先が頬を擦り血が流れる。

 

「気をつけるんだ悠斗!《焔牙》は人を傷つけるという強い意志を持つ事で相手を傷つける凶器に変わるんだ!」

 

「そうかよ…もしかしたらとは思ってたんだがな」

 

「へぇ〜……。予想はしてたわけか」

 

「まぁな、手で触ることができるし確かにそこにある、オマケに武器の形をした代物が肉体は傷つけねぇなんて都合が良すぎるもんな」

 

「くはっ、そりゃそうだわな《天狼》!!そんじゃアタシから特別レクチャーだ!!!」

 

圧倒的パワーとスピードでどんどん攻め続ける璃兎と、璃兎の攻撃を紙一重で見切りながらカウンターを打ち込もうとする悠斗、互いに膠着状態が続いていた。

 

「《黎明の星紋(ルキフル)》にはお前らが知らない超重要機密事項がある。機密事項その一ぃ!!《焔牙》が人を傷つける事のない武器が真っ赤な嘘だってことだ!」

 

「なるほどな、入学式での理事長の宣言は制御暗示(セーフティーロック)だったってわけか」

 

「その通り!そしてその暗示ロックを解除する為には事実を認識する事だ。そして《焔牙》で人を傷つける為に必要なのはもう一つ、敵意、害意、殺意といった人を傷つけるという強い意志を持って《焔牙(こいつ)》を振るう事だよ!機密事項その二ぃ!!《焔牙》を破壊されると、少なくとも丸一日は気絶して目を覚まさねぇっ!まあ《魂》がぶっ壊されてその程度で済むなら御の字だろうがよぉっ!」

 

なるほど、トラたちが意識を失っていたのはそのためか、まぁ確かに魂を破壊されて無事って方がおかしい

 

「やっぱりトラたちをやったのはてめえか…」

 

「まぁな、あいつらは思っていた以上に大したことなかったがなぁ」

 

やれやれと溜息を吐きながら璃兎は俺の問いかけに答えた。

 

「トラたちが弱い?どうやらその目はとんだ節穴みたいだな月見 璃兎」

 

トラやタツはもちろん透流もユリエも橘や不知火たちは強い。それが分からないようならこいつはとんでもない節穴だ。

 

「…さっきから言ってくれるんじゃねぇかテメェ…その憎たらしいツラァすぐにぶちのめしてやるヨォ!!」

 

そう言うと璃兎は悠斗に向けて更に攻撃を畳み掛けた。

 

「早く行け!!もしこいつに仲間がいたらみやびたちが危ない!!」

 

「…わかった、すぐにみんなを連れて戻るからな!!」

 

「悠斗、気をつけて」

 

そう言って二人はみやびたちの方へと向かっていった。

 

「そんじゃあ待たせたな月見 璃兎。テメェはゼッテー俺の本気でぶちのめす!!」

 

「……なるほどな、あいつらを遠ざけたのは仲間がいることの警戒だけじゃねえな……使うんだろ?《死ぬ気の炎》を」

 

璃兎は舌舐めずりしながら笑みを浮かべた。どうやらお見通しのようだ

 

「そういやさぁ……てめえの炎は他の守護者のそれとは一味違うんだったなぁ……おもしれえ……見せてみろよ」

 

「……そんなに見たけりゃ見せてやるよ。その代わり、てめえは叩き潰してやるよ。完膚なきまでにな」

 

悠斗は長槍を構え、集中力を高めた。

 

「…いくぜ」

 

すると、長槍の先端に白い炎が灯り、周囲の空気が冷え始めた。

 

「ほぉ〜死ぬ気の炎はいろんなやつを見たことあるが確かにそんな色の炎は見たことねえな……なんだそりゃ?」

 

「……名前くらいは教えてやるか……《雪》の炎だ」

 

これこそが俺の炎、《死ぬ気の炎》の中でも特に希少で未だ全てを解明しきれていない第零の炎である。

 

「まぁ解説は以上だ……ここからは……俺のターンだ」

 

その瞬間璃兎は大きく後退した。

しかし俺はすぐさま見合いを詰め、その距離はそこまで開く事はなかった。

璃兎は俺に攻撃を仕掛けるが、俺ははそれをいとも簡単に防ぐと一気に攻撃を畳み掛けた、

 

「冗談じゃねぇ…力もスピードのさっきと桁違いだ。さっきまでは本気じゃなかったってことかよ」

 

「…《死ぬ気の炎》ってのは人間の生命エネルギー、どうやら《死ぬ気の炎》と《焔牙》はなかなか相性が良いらしい。それよりも……お前、自分の体を見てみろ」

 

「……っ!何だこれは!?テメェなにしやがったぁ!!」

 

璃兎か俺の言葉を聞いて、自分の体を見ると、両足と剣を持つ手が凍り始めていた。

 

「俺の《雪の炎》の特性は《凍結》、あらゆるものを凍らせる。まぁいわば冷気を操る力だ。なんでも初代ボンゴレボスはこの炎をヒントにして奥義を編み出したとかっていうけど今はその話じゃねぇ。まぁつまり…詰み(チェックメイト)だ」

 

そして俺は、一気に璃兎に近づいた。決着をつけるために

 

「な…めんなぁぁぁぁ!!!」

 

璃兎は怒りをあらわにして悠斗に剣を振るうが、

 

「狼王弦月!!!」

 

俺の渾身の一振りによって、璃兎の《牙剣》は粉々に砕け散った。そして、轟音と細かい瓦礫が吹き荒れる中、月見 璃兎は気を失って倒れた。

 

「ふぅ、まさかこんなところで炎を使う羽目になるとは思ってもみなかったよ。」

 

俺はそう言いながら倒れている璃兎をみていると、

 

「悠斗!!大丈夫か!?」

 

透流たちがみやびたちを連れて戻ってきた。

 

「良かった、お前たちも無事だったか」

 

「おかげでな、しかしまさか月見先生を倒してしまうとは、キミは本当に只者ではないな。……しかし!!!今度からは二度どこんな無茶はするな!!!自分がどれだけ危険なことをしたか分かっているのか!?」

 

「そうだよ悠斗くん!!もし悠斗くんにもしものことがあったら…」

 

「いくらなんでも無茶しすぎです」

 

巴、みやび、梓の三人にこっぴどく怒られていると、合流してきた透流たちによって学園側へ連絡され、悠斗たちの手当てが行われた。

手当が終わった頃に駆けつけた三國達によって璃兎は拘束され、五人は今回の件は他言無用と念押しされて解放された。

そうして《新刃戦(しんじんせん)》の幕が閉じた

 

 

 

 

 

 

その日の深夜の校舎裏

 

「はい、予想外の事態が続けて発生し…ですが、今後の計画には支障は出ません。しかし、天峰 悠斗には用心するべきかと…はい、分かっています。私も博士の悲願の達成に全てを捧げるつもりです。博士……《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》殿にもそう伝えてください。では」

 

 

 

 

〜某施設内の研究室〜

ここに白衣を着た老人と金髪の好青年がいた。

 

「学園内に潜り込ませたスパイの報告によればどうやらトラブルがあったようですが計画には問題ないとのことです。」

 

「そうかそうか、あの子はとても優秀じゃからな…信用しても良いじゃろう」

 

「それと…天峰 悠斗には用心したほうが良いと」

 

金髪の青年の言葉を聞いた白衣の老人は笑みを浮かべた。

 

「ふむ、さすがはボンゴレファミリーの幹部といったところか…しかし幾らボンゴレだろうと儂を止めることは出来ん。それに…いざとなってもお前さんがおる。そうじゃろう…ミスト?」

 

すると、暗がりから藍色の仮面をつけた男が現れた。

 

『天峰 悠斗カ……奴トハ闘ッタ事ガ無カッタガ……問題ナイ……全テノボンゴレファミリーハ俺ガ潰ス。俺ノ人生ヲ狂ワセタボンゴレハナ……』

 

仮面の男は憎悪に満ちた声でそう呟き、白衣の老人はそれを笑みを浮かべながら見ていた。

 

「期待しているぞミスト、お前さんと例の《素材》、そして外部兵装が完成すれば儂の悲願、神殺しの部隊は完成する…」

 

狂気の野望を掲げながら



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8話 楯の意味

あの夜から三日ほど経ったとある夜。

 

 

「ーー以上が《新刃戦(しんじんせん)》の記録です」

 

 

悠斗によって《牙剣(テブテジュ)》を砕かれ、月見 璃兎が倒れ伏したところで男ーー三國が映像を停止した。

 

「くはっ。わざわざ動画を見せてまで皮肉らなくても、結果報告だけでいいだろーが」

 

悪態を吐いたのは、先程の映像で透流やユリエ、そして悠斗と闘っていた璃兎だった。

 

「百聞は一見に如かず、というものです。何より君の報告は大雑把過ぎですからね」

 

「へいへい。わるーございましたっと」

 

まったく悪びれずウサギ耳を揺らす璃兎に三國は溜息混じりに首を振る。

 

 

「それにしても、本気で殺しにかかるとは……もしものことがあったら、いったいどうするつもりだったんですか」

 

「……構いませんわ。私が現場の判断にお任せすると言ったのですから」

 

ここで初めて口を開いた主へと、三國と璃兎は視線を向ける。

その先で座すのは漆黒の衣装(ゴシックドレス)を身に纏った少女ーー昊陵学園理事長・九十九朔夜だった。

 

「過酷な環境で芽吹く種子(シード)こそ、美しき花を咲かせると私は考えていますわ。それに彼が参加している限り死者が出る事は万が一にもありえませんもの」

 

「…天峰 悠斗か」

 

「ボンゴレは元をたどれば自警団が始まりだった組織。沢田 綱吉はその頃のボンゴレに今のボンゴレを戻そうとしている。そんな彼の守護者が目の前で傷付く仲間を見殺しにするはずがありませんもの。」

 

かつて《新刃戦》を前に、自分に任せると気分次第では殺してしまうかもしれない、と笑みを浮かべた璃兎。その際、朔夜が口にした言葉を一言一句違い無く口にされ、三國は頭を下げて謝罪した後、話題を先程までの映像の件に戻す。

 

「しかし、驚きましたね。まさか《Ⅲ》を倒してしまうなんて」

 

 

三國の驚きも無理はない。

通常、《位階(レベル)》は一つ上がると数倍の能力超化される。

故に2ランクも差がつけば、一人はもちろん二人掛かりだったとしても絶望的な戦力差が生じる。

 

「それに関しては当然でしょう。天峰悠斗はこの学園に来るより以前から生死を分けた闘いをしてきたのだから。それに彼の《死ぬ気の炎》はボンゴレの中でも希少な《雪「しかし、驚きましたね。まさか《Ⅲ》を倒してしまうなんて」

 

 

三國の驚きも無理はない。

通常、《位階(レベル)》は一つ上がると数倍の能力超化される。

故に2ランクも差がつけば、一人はもちろん二人掛かりだったとしても絶望的な戦力差が生じる。

 

「それに関しては当然でしょう。天峰悠斗はこの学園に来るより以前から生死を分けた闘いをしてきたのだから。それに彼の《死ぬ気の炎》はボンゴレの中でも希少な《雪の炎》なのだから」

 

《雪》…他の7属性の炎に比べ遥かに数が少なく、特定の血脈にしか存在しないと言われる未知の炎、その力は強大で初代ボンゴレボスのジョットは己の守護者が使うその力を解析し己の奥義を生み出すきっかけにしたとも言われている力とも言われている。

 

途中で飽きてきたのか璃兎は欠伸をしそれを見て三國はため息を吐いた。

 

「……さて、これでアタシの仕事は終わったわけだがーーこれからどーすりゃいい?」

 

張り詰めた空気がようやく弛緩し始めた頃、璃兎が朔夜に問う。

 

「ご自由に、ですわ。璃兎、貴女の望むままに……」

 

「自由ねぇ……。くはっ、それならーこのままでいいか」

 

「わかりましたわ」

 

「……よろしいのですか?月見君を残すとなると、我々との繋がりに彼らが、特に天峰くんが気付く可能性もーー」

 

「理由などどうとでもなりますわ。彼らには確かめる術などありませんのよ、三國。天峰 悠斗の勘は確かに良いけど勘付いたところで確証のない段階ではどうもしませんもの」

 

くすくすと朔夜は妖しく笑う。

その笑みに、決定に、これ以上の意見は許されないことを知っている三國は頷くだけだった。

 

 

「ではそのように」

 

 

やがて気配を一つだけ残し、室内は静寂に包まれる。

闇の中、唯一残った少女は、豪奢な椅子に深く体を沈ませていた。

長い沈黙の後、朔夜は僅かに口角を上げる。

すべてが動き出した事を悟り、その中に自身の席がある事を感じて。

 

 

「宴の始まり、ですわ……」

 

 

その宴の終焉がどのような結末を迎えるのか、それは人の遺伝子を操作するという禁断(神)の領域に存在する朔夜にもわからない。

人である以上、未来などわかるわけがない。

故に黒衣の少女は呟く。

 

「願わくば、我が道が《絶対双刃》へと至らんことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな透流、急に呼び出して」

 

「悠斗か、どうしたんだこんな時間に?」

 

深夜、俺は透流を連れて夜の校舎の屋上に呼び出していた。

 

「ちょっとお前に聞きたいことがあったんでな」

 

俺は買っておいた缶コーヒーを透流に渡すと自分の缶コーヒーを開けて飲み、

 

 

 

 

 

 

「……透流、お前ひょっとして…誰かに復讐でも考えてんのか?」

 

「……っ!?」

 

悠斗の言葉に透流は驚きを隠せずにいた。

 

「なっなんでそれを…」

 

「その様子だと当たりか……いやな、お前って少し前の俺を見ているようだったからな…」

 

「少し前の悠斗?」

 

俺は静かに目を閉じ…過去を振り返る

 

 

 

父が病で死んでから2年過ぎた頃のある日、俺の住んでいた村はたった1人の男に滅ぼされた。母は俺を隠し扉に匿い…男に殺された。

それから俺は1人頼れる人もいない中、力を求め森で、スラム街で、裏社会で闘い続けた。

透流の中にあるものはあの日俺が持っていたものと同じだったのだ。

そして目を開き、静かな声で

 

 

「透流、復讐なんかやめろ」

 

 

透流の復讐を否定した。

 

「…なんだと?」

 

「復讐なんかやめたほうが良いって言ってんだ透流」

 

「…なんでお前にそんなことを言われなきゃいけねーんだ」

 

俺の言葉に苛立ち、透流が詰め寄ってきた。

 

「…俺は復讐に身を投じた奴らを沢山知ってる。マフィアの非道な実験の実験動物にされた奴に真実を隠され続け運命を知り怒りに身を投じた奴、愛するものを失った憎しみから仲間を裏切った奴。俺はそんな奴らを知っている」

 

俺は骸、XANXUS、Dスペードのことを思い出しながら言葉を続けた。

 

「…そいつらにはそいつらなりの信念があったし、それを否定する気はない。」

 

「…だったら!!!」

 

「でもお前に復讐なんて合わない」

 

そう、透流に復讐なんて似合わない、なぜなら…

 

「お前は自分が思っている以上に優しい奴なんだよ。そんなテメーに復讐なんか似合わない」

 

悠斗は透流の目を見ながらそう言った。

 

「悠斗…」

 

「だいたい《楯》でどうやって復讐すんだよ」

 

「………?」

 

悠斗の言葉に透流は疑問を浮かべた。

 

「透流、テメーに宿題だ。なんでお前の焔牙が《楯》」なのか考えてこい。それが分かればお前の本質が嫌でも分かるからよ。じゃあな、おやすみ」

 

そう言うと、悠斗は部屋に戻っていった。

 

「なぜ《楯》なのか…か」

 

透流のそんな声が星空の下に聞こえた。

 

 

 

 

「…それで隠れているつもりか?」

 

「…っ!?」

 

悠斗は柱の後ろに隠れているその影に向かって言った。

 

「…気づいていましたか」

 

「まあな、それで俺になんかようか?」

 

「ヤー、さっきの透流との話を聞きました」

 

「…それで?」

 

「私もトールと同じーー《復讐者(アヴェンジャー)》です」

 

ユリエの言葉に悠斗はため息をつくと、

 

「ユリエ、さっきの俺の話を聞いていたなら何度も言わねえよ…ただ、お前も復讐が似合うとは思えない…」

 

「悠斗…」

 

「そんじゃ俺はもう寝るよ。また明日。」

 

「…おやすみなさい」

 

こうして悠斗は寝室へと戻っていった。悠斗が空を見上げると、綺麗な月が見えた。そして、

 

「なんつーか、らしくねーことしたかな?けど、やっぱりほっとけねーよ」

 

 

 

 

『キミはもうオレの友達じゃないか!!だから…関係ないとか言うなよ!!』

 

「あいつも、多分同じことを言うだろうしな…」

 

裏社会の人間として、一人でなんでも解決しようとしていた昔の俺、そんな自分を友達と言って絶望から救ってくれた『彼』のことを思い出していた。

 

 



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2章《深淵の光芒(アビス・レイ)》
9話 特別


GW明けの朝、俺とみやびは早朝トレーニングを終えて朝食を摂るために食堂に来ていた。

ちなみに早朝トレーニングとは、みやびが毎日走っているのを知ってから、より鍛えられるようにと俺が考えたプログラムであり、主に体力作りを集中的に行っている。

 

「だいぶ体力もついてきたなみやび。この調子なら練習メニューももう少しレベルをあげても良いかもな」

 

「そうかな?悠斗くんの教え方が上手いから…」

 

「いや、みやびが頑張っているからだよ。みやびは自分が思っている以上に凄いんだから」

 

これはまぎれもない本心である。確かに基本的な力はまだまだだがそれでも俺の考えだプログラムを一生懸命こなしているのは間違いなくみやびの努力故であるからだ。

 

「悠斗くん…。ありがとう」

 

みやびは少し顔を赤く染めて嬉しそうに頷いた。

 

 

 

骨折数ヶ所、全身の至るところに裂傷、打撲は数えきれず、《超えし者(イクシード)》の治癒力含めて全治一ヶ月。常人なら全治数ヶ月はくだらない。

虎崎 葵が《新刃戦(しんじんせん)》の裏で有望な新人ルーキー狩りをしていた月見 璃兎によって負わされた怪我の診断結果だったはずだ。

 

「なんでトラが教室ここにいるんだ?」

 

モーニングコーヒーを飲み終えた俺とみやびが教室に向かっている途中で合流した透流が教室に入ると同時に、見慣れた小柄な男子が机に突っ伏して寝ているのを見つけて呟いていた。

 

 

「……退院してきたからに決まっているだろう、このバカモノ」

 

 

透流の呟きに耳聡く反応したトラは欠伸をしつつ伸びをした。

 

 

「…確か退院まで後十日はあるって聞いてたんだけど?」

 

 

「ふんっ、いつまでも休んでなどいられるか」

 

GW中に一度学園敷地内にある病棟へみんなで見舞いに行ったが、門前払いを食らった為、看護師に怪我の状態と退院予定日を聞いていた。だがトラは聞いていた予定よりも早く強引に退院してきたらしく、その事を俺が確認の意を込めて問うと簡潔な答えがトラから返ってくる。

 

 

 

「お前なぁ…無理して怪我が悪化したらどーすんだ?大人しく寝ておけって。体を休めることだって大事なんだぞ。そもそもちゃんと寝ないからそんなちっこいんだよ。よく言うだろ?寝る子はなんたらって」

 

「誰がちっこいか!!」

 

おちょくりに対するトラの叫び声に後ろで聞いていたみやびが驚き、怯えるように俺の後ろへと隠れる。

 

「おいトラ、そんな急に怒鳴んなって、みやびがびっくりしちゃってるだろ」

 

「あっ…スマン」

 

俺の言葉にトラは謝った。

 

「大丈夫だみやび。今のは俺にツッコんだだけだから」

 

「う、うん…」

 

怯えるみやびに俺は優しく声をかけた。

 

「しかし本当に大丈夫なのか?彼女にやられたキミの傷は相当なものだった。天峰の言う通り、無理はしないほうが身のためだと思うぞ」

 

「その言い草からすると、お前も事情を知っているということか?」

 

「俺、みやび、巴、梓、後は透流とユリエが知ってる」

 

トラの問い掛けに俺は頷いた。

俺が璃兎を倒した後、トラとタツの応急手当を終えた三人とその三人に合流した、俺とユリエが合流した。その時全ての事情を話していた。

 

「そうか、僕に応急処置を……。橘、穂高それに梓も、助かった。感謝する」

 

トラが頭を下げた。

 

「…………」

 

その様子を見ていた透流がポカンとしていた。

 

「……透流。その顔は何だ?」

 

「驚いてる」

 

「どうして驚いているのですか、トール?」

 

「いやあ、トラが人に頭を下げてるから……」

 

「その程度で目を丸くするなっ!僕だって本当に感謝をするときは頭くらい下げる!」

 

「だってトラだぜ!?」

 

「貴様の中で僕はどんな扱いだっ!!」

 

「トール、トラ。ケンカはよくありません」

 

「くすくす、ケンカじゃないから大丈夫だよ、ユリエちゃん」

 

透流達の言い合いにみやびは小さく笑い、「そうなのですか?」と尋ねるユリエに頷く。

だがよくわからないと首を傾げたユリエ。

そんな会話をしていると、チャイムが鳴りみんながそれぞれの席へと戻っていった。

 

その時、俺はあることに気づく。

 

 

(そーいや俺たちの新しい担任ってだけだ?)

 

璃兎は捕縛されいる為、担任の任は外されているはずである。

 

(まさか三國先生だったりして……)

 

ガラッ

 

「おっはよーん♡GWは楽しかったー?まさかと思うけど遊びすぎて課題をやってこなかったイケナイ子はいないよねー?いるんだったらすぐに手をあげなさーい♡」

 

「ーーっ!!」

 

 

鳴り終わったチャイムを合図に教室へと入って来たウサ耳を目の当たりにして、俺たちは立ち上がる。

それぞれが己の胸に手を当て、《力ある言葉》を口にしようとした刹那ーー

 

「授業が始まります。席に座りなさい」

 

璃兎に続いて教室に入って来た三國の言葉に、思い留まらざるを得なかった。

 

 

「聞こえなかったのですか?九重くん?他の七人も。授業が始まりますよ」

 

 

再び着席を命じられた為、俺たちは困惑しつつも腰を下ろした。

 

あの襲撃が嘘だったかのようにこれまでと変わらない脳天気そうな笑顔でHRを始める璃兎。

そして俺はただただ困惑する透流達と様々な可能性を頭に浮かべて溜息をついた。

 

「さてさて☆連休直前に行った《新刃戦》についてだけど、見事に勝った人も残念ながら負けちゃった人もみんなお疲れさまぁ♪ちょーっとハッスルし過ぎて怪我をしちゃった人も何人かいたみたいだけど、今のみんなの力を見せて貰えて先生大満足だよっ♡」

 

数名ほど怪我をしたの部分で反射的に誰のせいだと口を開きかけた者がいるものの璃兎はぱちりと片目を瞑りつつ口元へ指を当てる。

あの襲撃の件は秘密、ということらしい。

 

「ーーと言うわけで事前に説明していたとーり、成績の良かった《絆双刃(デュオ)》は特別賞与として《昇華の儀》を土曜日に受けることが出来るから。えーっと、受けられるのはーー」

 

そうして璃兎によって告げられた《絆双刃》は透流&ユリエ、俺&みやび、巴&梓、トラ&タツ、他ニ組の《絆双刃》だった。

どうやら三勝以上が特別賞与の目安との事。

本来なら《昇華の儀》を受けられる事を喜んでいるはずだ。だがそれどころではないというのは俺たちの共通意識だった。

その後は今後の授業の事や下旬に二年生と行う交流試合、七月には臨海学校がある旨を伝えられ、チャイムを合図に璃兎は教室を退室し、入れ替わりに入ってきた一般科目の教師が授業を始めた。

 

 

 

 

 

 

「あれはどういうことだと思う、九重、天峰」

 

 

休み時間になるとあからさまに戸惑った表情を浮かべ、巴が話しかけてきた。

その横には梓が、俺の隣にはみやびが、前の席からはトラとタツが振り向いて俺と透流に視線を送る。

 

「ここでは誰かに聞かれる。ひとまず廊下で話すぞ」

 

俺はみんなを廊下へと促し、念には念を入れ、教室から多少離れた場所へと移動し、口を開いた。

 

「なぜ月見が俺たちの前に再び現れたか。考えられる可能としては雇い主を変えたか、もしくは…」

 

「くはっ、流石じゃねぇか」

 

俺がありえそうな可能性を話していると、唐突に話題主の声が乱入してきた。

驚きと共に声の聞こえてきた窓へと視線が集まった。

俺たちの視線に応えるかのように底意地の悪い笑い声が響き、何故か逆さまで璃兎の顔が現れた。

 

「おら、窓を開けろよ。中に入れねーだろ。お前らの疑問に答えて欲しかったらとっとと開けろっつーの」

 

俺はそんなことを言う璃兎の言葉に渋々従い、窓を開けると璃兎が入ってきた。

 

「なら答えて貰おうか。さっき流石って言ったよな?」

 

「あぁ」

 

「つまり雇い主を学園側に替えたって認識で間違いじゃないな」

 

「そーゆーこった。こうして教師を続けているのが何よりの証拠ってわけだな」

 

そう言いながら璃兎はヘラヘラと笑った。

 

「…………。俄には信じ難いけど、状況を見るにそうなんだろうな」

 

「だぁめだよ、九重くん☆先生にはきちんと敬語を使わないとねっ♡」

 

「……もう少しで殺されそうになった相手に無理を言うな」

 

「くはっ、死ななかったんだから堅苦しいこと言うなっての」

 

「だったらあんたも敬語を使えなんて堅苦しいこと言わないでくれ」

 

「っ!まったくだ!!いいセンスしてるよ、《異能(イレギュラー)》!!くぁーっはははは!!」

 

腹を抱え、膝を叩いて璃兎はどっといきなり笑い出した

その二人の様子を俺たちはただ呆然と見つめていた

 

 

 

 

「で、おめーら疑問はどうしたんだ?。アタシも暇じゃないんでね」

 

やがてその笑いが収まると愉しそうな表情を 浮かべた璃兎は腕を組んで壁に寄り掛かる

 

「……ならば僕からーー」

 

「依頼主の詮索なら辞めとけトラ。どうせ守秘義務とかで名前なんざ教えてくれないさ。まぁ正義を掲げる国とかって曖昧な回答ぐらいなら返って来るだろうけどな」

 

俺の言葉にみんなが驚きを隠せずにいた。

 

「それって……」

 

「まさか……そんなバカな。国家が出てくるような話だと言うのか……」

 

 

「よーく覚えておきな。どこの国にも”暗部”ってもんがあるんだよ、なぁ…」

 

そして、さりげなく俺の方を見つめながら言葉を続けた。

 

「でなけりゃ秘密裏とはいえ、ナノマシンで化け物製作っつー”非人道的行為”なんて出来るわけねーだろ」

 

「……」

 

巴の言葉に戯けるように肩を竦めた璃兎。

 

「ま、どこまで信じれるははおめーらの好きにしてくれや。……さてっと、そろそろ休み時間も終わっからまた後でな。授業には遅刻すんじゃねーぞ」

 

ひらひらと手を振り、璃兎は俺達から背を向けて去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

《昇華の儀》が行われる土曜の朝。

HRが始まり、璃兎が転校生を紹介すると口にした直後、教室の空気が止まった。

教室に入ってきたのは黄金色の髪(イエロートパーズ)

と蒼玉の瞳(サファイアブルー)を持つ外国人の美少女だった。

髪と瞳以外にも出るところは出て引っ込むべきところは引っ込んだ海外女優顔負けの魅惑的なスタイルには、男子のみならず女子までもが溜息を吐いた。

加えて気品と色香を漂わせており、赤い紅を差した唇がそれをより強調させていた。

 

(あいつは……確か…)

 

しかし俺だけは別のことを考えていた。なぜなら彼女は自分が学園に入学する前から知っていた人物だからである。

 

「あんたが《異能》ーー九重 透流ね」

 

そんな彼女が片手を腰に、もう片方の手を透流の机に置いて発した第一声がこれだった。

 

「あ、ああ九重 透流は俺だけど」

 

急に顔を近づけられて透流は顔を赤くしながらそうか答えた。

 

「オッケー。九重 透流、ちょっと付き合いなさい。」

 

返答に満足気に頷いた黄金の少女は命令口調で告げ、自分の意思が通る事が当たり前だとばかりに、踵を返して歩き出した。

 

「お、おいっ。いきなり付き合えって言われても今は…」

 

「…二度も言わせないで」

 

 

透流の戸惑いの言葉に足を止め、振り返って一言。

 

 

「あのー、まだHRの途中なんだけど……」

 

静まり返った教室で、最初に口を開いたのは璃兎だった。

 

「特別に許可して貰えるわよね、月見先生」

 

「……どうぞー☆」

 

一瞬、額に筋を浮かせつつも、璃兎は黄金の少女の勝手を許可した。

 

「…透流に用があるならここで良いだろ」

 

しかし、トラは彼女の態度に納得がいかないのかそう言い返した。

 

「貴方には関係ないことよ。私は雑音(ノイズ)のないところで話したいの」

 

「くっ…」

 

「…分かったよ。ユリエ、ちょっと行ってくる。後でノート見せてくれ」

 

その言葉を聞いて仕方がないと思ったのか透流は立ち上がり、少女の後に続いた。

 

「と、その前に…」

 

すると彼女は一度立ち止まって

 

 

 

「イギリス校から転校してきたリーリス・ブリストルよ。ファーストネームで呼ぶことを貴方たちに《特別》に許可するわ」

 

自らの名前を告げた。

 



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10話 狼と紅茶

透流少女にが連れてこられた場所は校舎と寮の間にある庭園だった。

花と緑の映える季節ということもあり、庭園は色とりどりの薔薇で覆い尽くされている。

充満する薔薇の香りの中を彼女は石畳の細い路みちを迷い無く進んでいく。

その足の向かう先には西洋風あずまや(ガゼボ)があり、中で執事姿の女子が待機していた。

その執事は黄金の少女姿を確認すると恭しく頭を下げる。

ガゼボの中央にあるテーブルには鮮やかな刺繍の入った白いクロスが掛けられ、その上にはティーセットが置かれていた。

そこへリーリスと透流が席に着くと、執事姿の少女が紅茶を入れ二人に差し出した。

 

「あ、ありがとう…」

 

「(ギロッ)……」

 

透流がお礼を言うと何故か執事姿の少女は透流を睨みつけた。

 

(な、なんでだ…)

 

透流はこの少女が何故自分に敵意を向けるか分からないまま紅茶を一口飲んだ。すると、

 

「っ!スゲー美味い」

 

「でしょ?サラの紅茶は絶品なんだから」

 

「ありがとうございます」

 

その紅茶の美味しさに透流とリーリスは素直な感想を言い、リーリスの言葉に対し、サラは感謝の言葉を述べた。

 

(…ユリエにも飲ませてやりたいな)

 

透流は今この場所にいない自身の絆双刃の事を思っていた。すると、

 

「さて本題。九重 透流、今日からあんたは私の絆双刃よ」

 

「は…?今…何て?」

 

突然のことに透流は困惑した。

 

「二度は言わないわ」

 

「言わないって…ちょっと待ってくれリーリス。俺にはもう他の絆双刃が…」

 

リーリスの突然の言葉に透流はユリエのことを伝えようとしたが、

 

「知ってるわ、でも関係ない。だって私は《特別(エクセプション)》なんだもの」

 

「エクセプション…?何だよそれ?」

 

初めて聞く単語に透流は疑問を持ち、リーリスに聞いてみた。

 

「…イギリスで異能(イレギュラー)の存在は聞いていたわ。それでわざわざ転校してきたんだから感謝しなさい」

 

「感謝しろって言われても…て言うかまさか!?俺と組むためだけにわざわざイギリスから転校してきたってことか!?」

 

「ええそうよ、あんたは私と同じ唯一無二(アンリヴァルド)。故にあんたは私の絆双刃に相応しいのよ」

 

あまりの事に透流は驚きを隠せなかった。しかし…

 

「ちょっと待ってくれ…そもそも校則じゃ絆双刃の解消は認められてないんだぞ」

 

そう、よほどのことがない限り絆双刃の変更は一切認められない。しかし、リーリスは

 

「それが何?私はそんな規定に縛られない。思うがままが許される。故に《特別》なんだから」

 

この時確信した。彼女にはそんな規律は関係ない。それだけの力があるのだと。

 

「…一応返事は、聞かせてもらうわ、考えるまでもないと思うけど」

 

どうやらリーリスにとってはもう透流が絆双刃になることは決まっているようだ。

 

「…確かに考えるまでも無いな」

 

「決定ね」

 

「ああ」

 

透流の言葉にリーリスは満足がいったような笑みを浮かべた。しかし、透流の返事は彼女の予想を裏切るものだった。

 

「俺はリーリスと組む気は無いし、今の絆双刃を解消する気も無い」

 

「なっ…!?」

 

透流が断るとは思ってもいなかったのかリーリスは驚きを隠せずにいた。

 

「ご馳走さん。お茶、美味かったよ」

 

そう言うと透流は席を立ち、教室へと戻ろうとした。

 

「まっ待ちなさいよ九重 透流!!あんた今…何を言ったか分かってんの!?」

 

我を取り戻したのかリーリスは立ち上がり、透流に問い詰めた。

 

透流は足を止めるとリーリスの方を振り返り、

 

「君の言葉を借りるなら…『二度も言わせないでくれ』。答えはNOだ」

 

そう言うと去って行った。

 

透流が去ってしばらくした後、リーリスは背の高い垣根の一角を見て、

 

「盗み聞きとは良い趣味ね。天峰悠斗」

 

そう言うと、垣根から悠斗が現れ

 

「流石に気付いていたか、イギリスで有名な企業であり、ドーン機関の出資元の一つでもあるブリストル社。そこのトップの孫のリーリス・ブリストル」

 

笑みを浮かべながらリーリスの素性を明らかにした。

 

「まさかこの学校にあんたみたいな大物がいるなんて思わなかったわ。ボンゴレファミリーの雪の守護者さん」

 

「まぁ色々あってな。こっちとしてはあんたが俺のことを知ってることに驚いたけど」

 

俺はマフィアとして色々な組織を調べており、その中の1人に彼女がいた為知っていたが彼女が自分を知っているのには驚いた

 

「これでもドーン機関の関係者よ。ボンゴレファミリーのことくらい知ってるわ、それに朔夜が最近スカウトしたって前に教えてくれたもの」

 

リーリスは得意げにそう言った。

 

「…しかしまぁ透流を自分の絆双刃にするためにわざわざイギリスから来るなんて大したもんだが諦めな。透流はあの様子じゃ絆双刃を変える気はねーよ」

 

「一度断られたくらいじゃ私は諦めないわ。まだ時間は十分あるもの」

 

そう言うとリーリスはサラに紅茶を入れさせ悠斗に差し出した。

俺はそれをためらわずに飲むと、

 

「なるほど、確かに美味い」

 

その紅茶の味が気に入りしっかりと味わった。

 

「まぁあれだ、俺の目の黒いうちはあんまりなんか企むなよ」

 

「姑息なことはしないし、する必要もないわ。だって私は《特別》なんだから」

 

「そーかよ。まぁ悪さするときは俺が相手になるって忘れんなよ」

 

そう言って俺は去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなわけでリーリス・ブリストルの方は今んところ敵意無し。月見 璃兎もとりあえず保留って感じだ」

 

『うん、報告ありがとう天峰くん』

 

俺は学校裏で再びツナに報告を入れていた。

 

『ところで、九重くんだっけ?彼の方はどう?』

 

「ん?あぁ、今んところは問題無いよ。ちょっと宿題出したけど」

 

『宿題?』

 

「まぁ自分の本心を知れってな感じだ」

 

『そっか…あ、そうそう天峰くん実は『10代目〜書類まとめてきました〜って電話でしたか?』』

 

ツナが何か言おうとした時、電話越しに俺と同じ守護者の一人であり、《10代目の右腕》獄寺 隼人の声が聞こえてきた。

 

『あ、獄寺くん。天峰くんから今電話があって…』

 

『天峰ぇ!?あの野郎どのツラ下げて…ちょっとだけ借りますね』

 

そう言うと獄寺はツナから電話を取ると、

 

『天峰オメェ!!守護者でありながら10代目のお側を離れたと思ったら何の用だ!?』

 

獄寺は俺がツナの側を離れて昊陵学園にいることに突っかかってきた。

 

「…別にボンゴレ守護者は必ずファミリーについてなきゃいけないって縛りは無いし良いだろ…それに俺が昊陵に入ったのは調査もあるって聞いてねえのかよ?」

 

『うぐっ…とにかくテメェも守護者なら10代目のピンチの時まで雲雀やアホ牛みてぇにサボったりバックれたりすんなよ!!』

 

「ハイハイ、分かってんよ。俺だってボンゴレファミリーの守護者だ。そこんとこは忘れてねえから安心しろ。それよりツナと代わってくれ、俺になんか言いたいことあるみたいだし」

 

『チッ…分かったよ。10代目、どうぞ』

 

獄寺は俺の言葉に渋々ツナに受話器を渡した。

 

『ごめん天峰くん、獄寺くんも悪気があるわけじゃ無いんだ』

 

「分かってるよ。それで?なんかあったのか?」

 

『うん…なんでも最近僕たちが未来で戦ったヤツらが数名門外顧問の監視から行方をくらましたんだ』

 

「…マジか?」

 

『うん、それで…もしかしたらそっちの方にも近いうちに来るかもしれないんだ。だからもし何かあったらすぐに連絡して』

 

「《超直感》か…分かった。なんかあったら連絡するよ。それじゃあ報告は済んだし切るな」

 

『分かった。気をつけてね』

 

そうして俺は電話を切ると校舎の方へと戻って行った。

 

その日の夜

 

「よーしっ後残り10周な」

 

 

 

俺たちは月見璃兎に授業をサボった罰として走らされていた。

 

「フザケンナ!!一周4キロだぞ!!今からフルマラソンとかあんた鬼か!!!」

 

「鬼じゃないもん♪兎だぴょん♪くはっ、あのお嬢様はしゃーねーがテメェらは授業サボった罰を受けやがれ」

 

「くそっ…大丈夫だ透流!!まだ10周残ってるじゃない!!あと10周だけだと思う」

 

「それでもフルマラソンだぞ!!」

 

透流はクタクタになりながら俺に文句を言った。

 

「てゆーか悠斗!お前も授業サボってたのか!?」

 

「オメェらの会話が気になってつけてた!!」

 

「じゃああの話きいてたのか!?てゆーか悠斗!!オメーこいつの正体見抜いていたし暗部のことも詳しいみたいだけど何もんなんだ!?」

 

透流のこの質問は最もであろう、裏社会に詳しく璃兎を倒すだけの実力がある。気にならない方がおかしい。

 

「ソイツは今に話すけどすまん、今は言えねー」

 

「チクショー!!なんか色々理不尽だー!!」

 

月夜の中透流の叫びだけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜流石に疲れたわ」

 

「お疲れ悠斗くん。大丈夫だった?」

 

悠斗が部屋に帰ってくるとみやびが心配そうに話しかけてきた。

 

「なんつーか、いろいろと疲れる一週間だったな…」

 

「そうだね、何が何だか分からなかったよ」

 

俺の言葉にみやびがクスリと笑いながら答えた。

 

「あ、そーだみやび」

 

「何?悠斗くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度の休み、俺とどこか行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?えぇぇぇ!?」

 

俺の言葉にみやびは顔を真っ赤にして驚いた。



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11話 2人でお出かけ

「準備は良いか?ユリエ」

 

「ヤー。いつでも来てください、私も負ける気はありません」

 

「面白え!!返り討ちにしてやるぜ!!」

 

合図と同時に、悠斗とユリエが互いに一気に距離を詰めてそれぞれの武器をぶつけた。

 

今、悠斗とユリエは互いの実力を測る為決闘を行っていた。思えば《新刃戦》では璃兎の襲撃によってユリエと透流のペアとは戦えなかったので悠斗自身もこの決闘を待ち望んでいたのだった。

 

 

 

「いくぞ!!」

 

悠斗は向かってくるユリエに《長槍》で中段突きを放った。

ユリエは自身の《双剣》が悠斗の《長槍》を往なし、そのまま悠斗の懐に入ろうとする。

しかし、悠斗はすぐさま蹴りを放ってユリエを遠ざける。

その勢いを利用して、悠斗がユリエに3連突きを放つがユリエはそれを見切り、一気に間合いを詰めた。

悠斗は《長槍》でユリエの《双剣》をガードをすると、そのまま距離を離そうとした。

しかしユリエはそのまま悠斗に《双剣》で続けざまに斬撃を放った。

悠斗はその全ての斬撃を打ち払うと再び渾身の突きをユリエに撃ち込んだ。

しかし、ユリエも読んでいたらしく《長槍》を見切り、完全に俺の懐に入り込んだ。

 

「チェックメイトです」

 

ユリエが斬撃を悠斗に繰り出そうとする。誰もが決着かと思った。

 

「いいや、まだだ!!」

 

すると、悠斗は目にも留まらぬ速さで自身の《長槍》を引き戻し、先端近くの柄を握ると、ユリエの《双剣》をガードした。

 

「…っ!?」

 

ユリエは防がれるとは思っていなかったらしく、一瞬取り乱した。

悠斗はその隙を逃さずユリエの首元に《長槍》の先端を添えた。

 

「覚えておくと良いぞユリエ。長槍の最大の利点は間合いが長いんじゃない。間合いを操れることだ。」

 

「ヤー、覚えておきます。今回は私の負けです」

 

決着が着くと、周囲で観ていた観客たちはその次元の違う戦いに拍手を送っていた。

 

「スゲーな悠斗のやつ」

 

「全くだ。あそこまで槍を自在に操るなど生半可な訓練では出来ん。本当に奴は何者だ?」

 

悠斗とユリエの戦いを観ていた透流とトラは悠斗の実力に賞賛を送っていた。

 

 

 

 

(凄いな、悠斗くん…)

 

私はは自身の絆双刃の悠斗くんの強さに驚きを隠せずにいた。

 

彼は自分とは比べ物にならない程の実力を持っていた。

クラスでもズバ抜けた実力を持つユリエちゃんをも打ち破る実力をたった今発揮していた。

 

「私も…強くならないと」

 

自分も負けてはいられない。悠斗くんの特訓のお陰で少しずつだがスタミナがついてきている。だからこれからも頑張ろう。

 

自分を選んでくれた彼の為に…

 

(そ、そうだ…今度の休日は悠斗くんと買い物に行くんだ…)

 

みやびは昨日の彼との約束を思い出し、顔を真っ赤にした。

 

 

 

 

〜回想スタート〜

 

「今度の休日、俺とどこか行こうか?」

 

「え…えぇぇぇ!?そ、そんないきなりデートだなんて心の準備か…」

 

「いやな、俺この辺りの街とかあんまり詳しくなくてさ、それで、今度の休日に色々周ろうかと思ってたんだけど近くにショッピングモールの《あらもーど》ってとこがあってさ、それならみやびも一緒にどうかな?って思ったんだけどどうだ?」

 

「えっ、そ、そういうこと?う、うん良いよ。」

 

「そっか、じゃあ今度一緒に行くか」

 

〜回想終了〜

 

悠斗との約束を思い出し、みやびは顔がどんどん熱くなってきているのを感じていた。

 

すると

 

「なあ、みやび今度の休日なんだけどさ、何時から行く?」

 

突然悠斗が声をかけてきた。

 

「ゆ、悠斗くん!?わ、私は何時からでも良いよ」

 

「そっか、じゃあ9時ごろ出かけるか」

 

そういうと悠斗は透流達の方へと戻っていった。

 

(楽しみだなぁ)

 

みやびは顔を赤く染めながら嬉しそうに心の中で呟いた。

 

「みやびさん、今のはもしかしてデートの約束ですか?」

 

突然後ろから梓が声をかけてきた。

 

「あ、梓ちゃん!?ち、違うよた、ただちょっとショッピングに誘われただけで…」

 

「私の記憶が確かならそれを人はデートと呼びます」

 

なぜか梓はグイグイ聞いてきた。

 

「みやびさん、天峰さんとはどこまで行きました?キスはもうすませましたか?」

 

「キ、キキキキス!?そ、そんな付き合ってないんだし…」

 

「…なんですか、面白くないですね」

 

そういうと梓は少しがっかりした感じて去っていった。

 

(梓ちゃん……あんな性格だっけ…?)

 

クラスメイトの意外な一面にみやびは少し驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

土曜日

 

「いや〜晴れてよかったな」

 

「そうだね悠斗くん」

 

そして休日、悠斗とみやびはショッピングモールを歩いていた。すると、

 

「ねぇ、あの人超カッコ良くない?」

 

「ホント…超イケメン」

 

「隣の女の子彼女かなぁ…」

 

「彼女も鼻が高いでしょうね、あんなかっこいい彼氏じゃ」

 

悠斗に見惚れる女性客達の声が聞こえてきた。

確かに、悠斗は背が高くルックスも良く、まるでモデルのようでで周囲からよくモテるのがよく分かった。

 

 

「それじゃあどこ行こうか?」

 

「え、ええと…悠斗くん見たいものとかってある?」

 

みやびが悠斗に聞いてみると

 

「そ、それじゃあ一か所行きたいところがあんだけど…」

 

すると、悠斗は少し顔を赤くすると、みやびの耳元でその場所を言った。

悠斗の言葉にみやびは少し驚いたが微笑み悠斗の行きたい場所へと案内した。

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜♡やっぱり可愛いな〜♪」

 

悠斗とみやびがいる場所はペットコーナーであった。

悠斗はそこで一匹の仔犬を抱っこしていた。

話を聞くと、悠斗はどうやら可愛い動物が好きらしく、中学時代もこうやってペットショップに行って仔犬達と戯れていたそうだ。

 

「みやびも抱っこしてみろよ。可愛いぞ」

 

「う、うん。じゃあ…」

 

悠斗はそう言うとみやびに自分が抱っこしていた仔犬を差し出した。

みやびはその仔犬を抱くと、仔犬はみやびの方を向き鼻をヒクヒクさせていた。

 

「ふふっ可愛いね」

 

「だろっ?」

 

二人はその後も仔犬達と戯れていた。

 

「ありがとなみやび、俺のワガママに付き合ってくれて。みやびは行きたいところある?」

 

「あ……。もし良かったら一階にあるジェラート行ってもいいかな?」

 

 

なんでも南館と北館の合間”ハーバーストリート”という通りにある ジェラートショップがとても有名らしい

 

「良いぜ、俺も行ってみたいな。その店に」

 

みやびは持ち出した提案に頷いて答えると嬉しそうな雰囲気を醸し出した。こうして俺たちはジェラートショップに向かうことにした。

 

 

 

 

 

一方その頃二人の近くでは

 

「あ、梓。あの二人は付き合っているのか?」

 

「ふむ…あの2人…相性は申し分無いようですがまだ付き合ってはいないようですね…しかし…今後の展開次第では…」

 

巴と梓が二人のあとを尾行していた。

 

 

 

 

「へえ〜結構旨いなこれ」

 

「うん、そうだね」

 

悠斗とみやびはジェラートショップでそれぞれのジェラートを食べていた。

 

「今日はありがとなみやび、俺に付き合わせちゃって」.

 

「う…ううん、わたしも楽しかったし…」

 

恥ずかしながらもみやびは答えた。

 

すると、

 

「あれ?悠斗と穂高じゃないか?」

 

「どうしたのですか?」

 

悠斗達が声が聞こえた方向を振り返ると透流とユリエがそこにいた。透流の手にはたくさんの服が入った袋があったのでおそらく服でも買いに来たのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、九重さんとユリエさんまで…これはとくダネかもしれませんね!?」

 

「あ、梓…あれは不純異性交遊か…?い、いやしかしせっ、性的逸脱行為ではないから……」

 

透流とユリエの登場に梓はさらに興奮し、巴は動揺を隠せずにいた。すると、

 

「キミたち、二人だけ?」

 

「え……?」

 

振り返れば四人の男が立っていた。言うまでもなくナンパである。

 

「よかったら俺らと一緒に遊ばね?」

 

「二人とも可愛いね。高校生?どこのガッコ?」

 

「…なんですか貴方たち」

 

「わ、私たちは、こ、昊陵だが……?」

 

「コーリョー?」

 

「俺知ってるわ。近くにあるブドーが盛んなとこだ」

 

この男たちの昊陵学園に対する認識はさして間違っていなかった

 

全寮制の私立校で武道に力を入れており、

卒業後は提携のシークレットサービスへ就職

 

表立つような実績を残している訳でもなく、ドーン機関によって

密かな規制がある故に、人の記憶に残るような情報は一切入ってこない

 

もし《黎明の星紋》や《焔牙》の存在が仮に噂されたとしても

その多くが荒唐無稽な絵空事と思われるのが関の山だった

 

確たる《証拠》が無ければ、たとえ真実であろうと

あくまでも《噂の域》を出る事は無いからだ

 

無論、それは外出する生徒たちにもその意識は徹底されている

外出届を出す際には外でトラブルを起こさない、《焔牙》の使用を

許可しない等々、あらゆる念を押されての外出となる

 

それらの規則をもし破った場合、厳しい罰則が科せられた――

 

 

「へー、ブドーって柔道とか空手とか? じゃあキミたちもそういうのやってんの?」

 

「…貴方たちには関係ありません…行きましょ巴さん」

 

梓は男たちに嫌悪しながら巴の手を引き歩き出した。

 

「つれないなぁ。ちょっとくらいいいじゃん。変なことしないって」

 

しかし、男たちの1人が梓の手を引っ張った。

その時、

 

「汚い手で触るな!!」

 

バシッ

 

梓は叫びながら男を振り払った。

 

「あ…梓?」

 

巴は普段の梓では見せないほどに怒る梓に戸惑いを隠せなかった。

 

「おいお前…人が下手に出てりゃ良い気になりやがって…」

 

梓の反応に男たちは睨みつけ、不穏な空気になった。

 

 

 

 

 

 

「なぁ透流…」

 

「ああ、分かってる」

 

悠斗と透流はナンパに絡まれている巴と梓を見つけると、互いに頷き、

 

「「やめろ、お前らっ‼︎」」

 

男たちの前に立ちはだかった。

 

「梓、巴、大丈夫ですか?」

 

「巴ちゃん、梓ちゃん、大丈夫?」

 

透流の元へユリエとみやびが加わると

 

「すっげ。マジ可愛いんだけど……」

 

「この子らもこいつらの連れ?」

 

「ハーレムってやつ?」

 

「なんかムカつく」

 

「どうする?」

 

「当然___ 」

 

とリーダー格が喋ると同時に、男たちは僅かに腰を落とす。

 

「軽くボコっちまおうぜ!」

 

「___ッ‼︎」

 

同時に男たちが動く。

 

(仕方ないこうなったら…)

 

(軽くいなして)

 

(そのまま逃げるか)

 

悠斗と透流は互いに目配せし、身構えた次の瞬間

 

タァン……‼︎遠くから乾いた音___銃声がハーバーストリートへ響いた。ほぼ同時に、透流へ殴りかかった男の一人が弾かれたように倒れる。

 

「え……?」

 

誰かが呆気を取られて呟いた。しかしその場の全員が何が起こったのかを理解するよりも早く次なる銃声が響き、またしても男が一人崩れ落ちる。

 

「なっ……⁉︎」

 

「トール、あれは……‼︎」

 

ユリエの視線を合わせた先、百メートル以上離れた三階のバルコニーに立つ、銃声の主を悠斗は目にした。

長く、煌びやかに輝く黄金色の髪を持つ少女の姿を。その手に握られるのは…長銃身の黒き《銃》。

 

(リーリス⁉︎それにあれは…《焔牙》⁉︎)

 

悠斗が驚愕に目を見開く中、リーリスは三発目、四発目と間髪を容れず引き金を引き、男たちは全員が崩れ落ちた。

周囲の視線が突然倒れた男たちへ向けられる中、透流たちは黄金の少女へ、彼女が持つ《銃》へ釘付けとなっていた。脳裏に甦るのは、以前、授業で教わった話だ。

 

『《焔牙》は複雑な構造を持つ武器として具現化は出来ない』

 

その話に嘘はなく、本来ならば《銃》の《焔牙》など有り得ない。けれど悠斗たちの視線の先に映る《焔牙》は、間違いなく《銃》であった。

リーリスがライフルを消し去り、踵を返す。黄金色の髪がバルコニーの奥へと去る様を見つめる中、悠斗は呟いた。

 

「《特別》……」



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12話 咬竜戦

翌日の昼休み終了間際

 

 

俺たちが体力強化訓練のために校門へ向かう途中、透流はふと金色の輝きが視界の端に映り足を止めた。

 

「トール?」

 

先を歩いていたユリエが、チリンと鈴を鳴らして振り返る。

 

「悪い。ちょっと先に行っててくれるか?」

 

ユリエが頷くと、透流は光が見えた場所、寮のバルコニーへと向かっていった。

 

「一人で大丈夫か?」

 

俺が透流に聞くと、

 

「大丈夫だ。それに、あのままじゃあいつが浮いちまうだろ?」

 

確かに彼女は今までちゃんと授業に出ていない。このままでは透流の言う通り周囲から浮いてしまうだろう。それを透流はほっとけないのだろう。

 

(なんつーか…こういうお人好しなところってこいつ本当にツナと似ているな)

 

悠斗は彼のその性格にツナを重ねていた。

 

「…分かったよ。でも今度は一人でマラソンしろよな」

 

「あれはお前が勝手についてきたんだろ?」

 

「確かに」

 

悠斗と透流はそう言いながら笑みを浮かべ、透流はバルコニーで紅茶を飲んでいるリーリス・ブリストルの方へと向かっていった。

 

「それじゃあ俺たちは行くか」

 

「悠斗くん、透流くんは大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だと思う。別になんかされるわけじゃないだろうし」

 

そうして、俺たちは校門へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ゴール…」

 

「お疲れさん、前よりタイムも速くなってるぞ」

 

今日の体力強化訓練は初日同様マラソンであり、初日では走りきれなかったみやびも俺とのトレーニングの成果があってか以前よりも速いペースで走れるようになっていた。

俺とのトレーニングでもみやびは弱音を吐かずにしっかりとついてきており、悠斗自身も感心していた。

ただ、一人で走っていたりもしていて少しオーバートレーニングなところもあり悠斗もそこは注意していた。

 

「スゲー体力ついてるな、日頃の鍛錬の成果がでてる。」

 

「う、うん。私も少し自信がついたかな」

 

「その意気だ。あっ、これ飲むといいよ。水分補給はしっかりとしなきゃ」

 

そういうと、俺はみやびに二つあるスポーツドリンクのうちの一つを差し出した。

 

「あ、ありがとう…」

 

「気にすんな。脱水症状になったらシャレにならんしさ」

 

みやびは顔を赤く染め、俺からスポーツドリンクを受け取った。

 

「悠斗さん…そういう時は自分の飲みかけを差し出すシーンなのに…」

 

それを見ながら梓がなんか言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、校舎裏

 

「…分かりました。では計画が出来次第、準備に取り掛かります。リーリス・ブリストルの確保は必ず…はい、もう一つの目的の方もある程度候補を絞れました。近いうちに必ず一人に絞れるはずです。本命もおりますし、《彼女》は博士の研究の完成に相応しいと思います」

 

『よろしくお願いしますよ。《装鋼の技師》も貴方には期待しております。くれぐれもあのお方の期待を裏切るようなことはしないでくださいよ』

 

電話の先では金髪の若い青年が報告を聞いていた。

 

「大丈夫です《K》隊長。全ては我ら《神滅部隊(リベールス)》の悲願のために」

 

そういうとその影は電話を切り闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

「お疲れさん、どうだった?」

 

「まぁリーリスと色々話せたのは大きかったかな」

 

結局透流は夜まで帰ってこず、学園に戻ったのは門限を過ぎた頃だったそうだ。

 

「リーリスは本気で透流を絆双刃にしようと思ってたんだな」

 

「ああ、でも俺は今の絆双刃を変える気は無い」

 

「そうかよ、だと思った」

 

そう言っていると、

 

「さーて、交流試合のことを憶えてる人はどれだけいるかなーっ☆」

 

そう璃兎が聞いてきたので悠斗は手を挙げた。

同様にクラスの大半が手を挙げた。無論、大半であって全員ではない。

 

「……九重くん。ど・お・し・て、憶えてないのかな〜?」

 

営業用スマイルのまま、璃兎が透流の額を指先で何度もつつく。

 

「今、聞いて思い出しました」

 

「殺すぞ」

 

一瞬だけ素に戻り、ぼそりと呟くと再び笑顔の仮面を被る璃兎。

 

「さてさて、先生の話を憶えてなかったとーっても残念な人がいるみたいだから、もっかい説明するよ♪今月の下旬に二年生との交流試合を行うの。その名も《咬竜戦》☆オッケー?」

 

「《新刃戦》のようなものですか?」

 

「そそっ。ただし今回は《絆双刃》での勝負じゃなくて、学年対抗になるの。一年生対二年生の選択メンバーって形でね♪」

 

「せんせー質問でーす。二年生はどうして選抜メンバーなんですか?」

 

「だってフツーに一年生全員対二年生全員をやったら勝負にならないでしょ?」

 

女子の一人の質問に月見は軽い口調で、けれど厳しい現実を言って返す。二年生へ進級するには《 II 》へ昇格することが条件だ。自分自身の超化の度合いから考えるに、数で勝っているとはいえ二年生全員が相手ともなれば戦力差は絶望的だろう。

続けて月見はルールの説明をする。大雑把にまとめると以下のような内容だった。

 

 

○一年生は全員、二年生は選抜された四組の《絆双刃》。

○《焔牙》の使用可。

○制限時間は一時間。

○場所は格技場。

○時間内に中央へ設置された旗を倒せば一年の勝利。

 

「……つまり棒倒しと思っていいのですね」

 

身も蓋も無い言い方をしたのは橘だ。

 

「いえすっ♪」

 

その後、クラス全員で格技場へと移動しすると中央の闘場では既に二年生がメンバー選出のためのバトルロイヤルを開始していた。俺たちは観客席に座ってその光景を観察していた。

 

(…やっぱりレベルが高いな)

 

俺は《新刃戦》の時よりもレベルの高い二年生達の戦いにさらに胸を高鳴らせていた。

 

「___さーて、それじゃあ二年生のメンバーも決まったし、みんなは教室へ戻って作戦会議しよっかーっ☆負けたらみんな、ぶっとばしちゃうぞー♡」

 

(月見が言うと冗談に聞こえないな……)

 

と思いつつ、透流が席を立ったときだった。

「あ……」

 

外への通路から格技場へ入ってきた黄金の少女を目にし、足を止めた。

 

「リーリス……」

 

「………………」

 

黄金の少女は透流の姿を認めると、キッと鋭い視線を向けるも、声を掛けてくるでもなく、そのまま闘場へと降り立った。

 

(何をする気だ……?)

 

その疑問は透流だけに留まらずクラスメイトである一年生のみならず、選抜メンバーとして決定したばかりの八人の二年生もリーリスへと注視する。当然だ。

一年生にとっては初日のHR以来、教室にまったく顔を出さない謎の転入生。

二年生にとっては見たことのない生徒、しかも外国人の美少女が突然現れたのだから。好奇の目が集まる中、リーリスは闘場の中央で立ち止まると、耳を疑うようなことを言い出した。

 

「選抜メンバーが決まったばかりで悪いけど、今から《咬竜戦》を行って貰えないかしら。ただしそちらの疲労を考慮して、あたし一人がお相手するわ」

 

「なっ…⁉︎」

 

格技場に驚きが駆け巡る。提案された内容が内容だけに、大半の者は呆気に取られてリーリスへ視線を送るばかり。だが最初に我に返った二年の男子、選抜メンバーの一人が呆れたように話し掛ける。

 

「おいおい、突然出て来て何言ってんのさ。《咬竜戦》とか一人で相手するとか、意味わかんねーっての」

 

「……だったら、その体に教えてあげる」

 

「は?いま何て……」

 

「二度は言わないわ」

 

代わりに、行動で示される。

 

「《焔牙》 」

 

《力ある言葉》に呼応して《焔》が舞い散り、《無二なる焔牙》が具現化される。

 

「そ、それって……」

 

存在しないと聞かされていた《銃》の《焔牙》。その銃口を向けられた男子が…いや、ほぼすべての生徒が目を疑う。

直後、乾いた銃声が響き、男子は一瞬体を震わせた後に倒れた。その姿を見つめたまま、リーリスは手元で《銃》をくるりと回す。しばしの沈黙、次いて怒号

 

「何しやがる‼︎」

 

「ちょっとどういうつもり⁉︎」

 

「ケンカ売ってんのか‼︎」

 

殺気立つ二年、固唾を呑んで見守る一年。視線を一身に集める中、涼しげな笑みを浮かべてリーリスは来賓席へ顔を向けた。

 

「どうにも丸く収まりそうにないし、《咬竜戦》の許可を貰えるかしら、理事長?」

 

自ら作り上げた状況で、ぬけぬけと言い放つリーリス。

 

「……随分と唐突な話ですのね。理由をお聞かせ頂きたいですわ」

 

「終わったらでいいかしら」

 

理由を口にするつもりが無さそうな黄金の少女。

 

「まったく……。貴方の気まぐれは本当に困ったものですわね」

 

朔夜は小さく嘆息し…。

 

「わかりましたわ。今から《咬竜戦》を行うことを特別に許可します」

 

「感謝するわ、理事長。さて、それじゃあ許可も出たことだし…」

 

ぱちりとウインクをし、リーリスは選抜メンバーの顔を見回す。

 

「《咬竜戦》、スタートよ‼︎」

 

 

 

 

 

 

そこからは殆ど一方的な殲滅であった。リーリスの《銃》が向かってくる二年生達に向けられ、次々と討ち取られていき、ものの一分で全滅してしまった。

 

「ジャスト一分ってところかしら」

 

リーリスは不敵に笑い___。

直後《咬竜戦》の終了を知らせる銃声が格技場に響き渡った。

 

「残念ながら一分と六秒ですわ」

 

「あら、それは残念」

 

むしろ愉しげに返すと、リーリスは(銃》を《焔》と化して四散させた。その様を来賓席から見下ろしたまま、漆黒の少女がリーリスへ語りかける。

 

「《咬竜戦》とは、一年生にとって戦略次第では格上の相手と互角に闘うことが出来ると___ときには倒すことすら可能だということを経験させるためのものですの」

 

「ええ、知っているわ」

 

こともなげに返す黄金の少女に、理事長は眉をひそめる。

そしてもう1人、この事態に納得しない存在がいた。

 

「ちょっと待ちなリーリス・ブリストル」

 

そう、ご存知天峰 悠斗が格技場へと降りてきた。

 

「ゆ、悠斗くん!?」

 

突然のことにみやびは驚きを隠せずにいた。

 

「何かしら、天峰 悠斗」

 

「随分と舐めたことをしてくれたな…」

 

「舐めたこと?」

 

悠斗の言葉にリーリスは疑問を持った。すると、

 

「二年生との闘いスゲー楽しみにしてたんだぞ!!スタンドプレーも大概にしろぉぉ!!」

 

その怒りの言葉にリーリスは一瞬ぽかんとしたがその後、クスリと笑うと

 

「まぁ落ち着きなさい、この埋め合わせにいい企画を考えているのだから」

 

「企画だと?」

 

「簡単に言うとクラスメイトとの親睦を深めるパーティね」

 

「それがいったい《咬竜戦》とどのような関係がありますの」

 

朔夜も溜息を吐きながらリーリスへと問い詰めた。

 

「だってしょうがないじゃない。会場を借りようとしたら、《咬竜戦》の日程と被ってたんだもの」

 

「……つまり貴女は個人的な理由で《咬竜戦》を早くに済ませたかったのですわね」

 

「ご明察。話が早くて助かるわ」

 

ぱちりとウインクをするリーリスへ、理事長は嘆息する。

 

「まったく……困ったことをしでかしてくれましたわ……。後日改めて同じ内容のものを行うか、それとも別の何かを用意するか……。頭が痛い話ですわ」

 

「それなら問題ないわ」

 

いったい何がだろうかと、格技場内にいる誰もがリーリスの言葉に耳を傾ける。

 

「あたしの実力は見ての通り、彼ら二年生の選抜メンバーを凌いでるわ。戦略次第では格上の相手を倒すことも可能と言うのなら……それを見せてくれないかしら?」

 

「……なるほど。つまり貴女はダンスパーティーを催すということですのね」

 

「ええ、そうよ。あたしたちは踊るの。着飾るは《焔牙》で、流れる楽曲は剣戟となるダンスをね」

 

「くはっ、とんだじゃじゃ馬お嬢様だな」

 

小さく口にした言葉とは裏腹に、笑みを浮かべる璃兎。

 

「そうね…曲名は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「《生存闘争(サバイブ)》」

 

闘いのタイトルが決まった。



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13話 生存闘争

(生存闘争ねぇ………)

 

悠斗は月見の講義中にそんなことを考えていた。

今の悠斗は咬竜戦をメチャクチャにされた怒りよりもツナからの警告のことを思い出していた。

 

(もし生存闘争の最中に敵が襲撃してきたら透流達だけではおそらく敵わない。やっぱり正体がバレてでも俺が動くべきだよな…)

 

透流たちの強さは知っている。しかしそれでも透流たちは裏社会の連中との戦闘経験は殆ど無い。これまで闘ってきた自分だから分かるが、ただ戦闘力があるだけでは奴らは倒せない。奴らは時には相手を殺す気でやってくる。そんな奴らにいくら《超えし者》である彼等でも危険である。

 

(もし俺よりも格上の相手が来たら…いや、絶対にこいつらは守ってみせる…)

 

「悠斗くん…」

 

そんなことを考えてると、隣からみやびが話しかけてきた。

 

「ん?あぁみやびか、どうした?」

 

「大丈夫?何か考えてるみたいだけど…」

 

「大丈夫だ。悪いな心配かけて、問題ねぇよ」

 

「無理しないでね。私もなにか手伝えることがあったら…」

 

「分かってるよ。サンキューな」

 

悠斗は笑みを浮かべながらみやびにそう返した。

 

(無駄に考えてもダメだな。今は目の前のことに気をつけないと)

 

自滅してしまっては意味が無い。悠斗は再び気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜深夜 校舎裏〜

 

「はい、それでは《生存闘争》の開催地、時間帯、周囲の警備状況はそちらに送った情報通りです。ですので九重透流や天峰悠斗、リーリス・ブリストルらが潰し合いで疲弊した後なら簡単に制圧できるかと…」

 

『ご苦労様です。それではそのまま引き続き潜入を続けてください。貴方の素性はバレてませんね?』

 

「はい、大丈夫です。今のところ正体はバレていません。このまま潜入を続けます。」

 

『ならば問題ありません。そうそう、《装鋼の技師》殿から《素材》の方は目星はついたかと聞かれているのですが?』

 

「それならもう本命を見つけました。《彼女》ならば確実に上手くいくかと…」

 

『分かりました、貴方を信じましょう。それでは、今後もよろしくお願いしますよ』

 

「分かりました《K》隊長。それでは…」

 

そうして影は電話を切ると、

 

「…かならず成功させる。それが私の…任務だから…」

 

少し悲しそうな声で去って行った。

 

 

 

 

 

〜生存闘争当日〜

悠斗たちはモノレールに乗り駅に停めてあった専用バスに乗りながら生存闘争のルールを振り返っていた。

 

生存闘争ルール

○一年生全員VSリーリス一人

○制限時間は一時間

○場所はあらもーど北館

○一年生チームの勝利条件は次の二つのいずれか。

A.全滅(全員が気絶)をしないこと。

B.リーリスが胸元につけている薔薇の花を散らすこと。

 

変わったのは三点

 

まず相手。

二年生選抜からリーリス一人に変わったが、

リーリスは二年の選抜メンバーをあっさりと倒したリーリス。悠斗たちと同じ《 II 》だが、眼前で見た実力からするに遥かに格上だと考えた方がいいだろう。

 

次に場所。

あらもーどが会場に選ばれたのは、二つの理由からだった。

一つ目は遮蔽物のある場所にしなければ、一年生チームが圧倒的に不利となるだろうとのこと。これは格技場の一戦を見ている限り、非常に納得のできる話だ。遮蔽物のある場所なら学園の敷地内でもいいのでは?という疑問への答えが二つ目の理由だ。

学校よりもショッピングモールで闘った方が面白そうだから(リーリス談)らしい。ちなみにあらもーどには、大企業のお嬢様が自主制作映画を作る…永遠に未完成とのこと、という理由で貸し切らせて貰ったとのことだ。

 

最後の勝利条件。

これは透流たちにとっては極めて有利だった。

最悪、制限時間まで生き残ればいい透流たちと違い、リーリスは一年生全員を制限時間までに倒さなければならない。中でも一年生の中では現在最強と名高い悠斗も制限時間までに倒さなければならないのだ。彼女の立場になってみればそれがどれだけ大変かは容易に想像出来る。

 

二つめのリーリスの胸の薔薇を散らせば勝利というのは、とても彼女らしい。普通に闘えば負けることはないという自信の現れ故に、ハンデを自分に課したのだ。それでもあの黄金の少女は、自身の勝利が揺るぎなきものと考えているのだろう。

 

(その自信の源こそが《無二なる焔牙》、《銃》か……)

 

「天峰、もうすぐ着くぞ」

 

悠斗が考えていると巴が話しかけてきた。

 

「ん?あぁ悪いな」

 

悠斗は今回、流石に自分たちだけではキツイと考え、透流&ユリエ、トラ&タツ、巴&梓達と共闘することにしていた。

悠斗一人でもリーリス相手に遅れをとることはまず無いだろう。しかし、悠斗はそれでも一緒に闘いたかったのだ。

この学園で知り合った仲間達と…

 

すると、車種はわからないが黒塗りの高級そうな車が、陽射しを反射しつつ屋上駐車場へと姿を見せる。車はゆっくりと透流たちの乗ってきたバスの隣へと停車し、リーリス・ブリストルが降りてきた。

 

「主催者の登場か」

 

その背後から黒衣の少女が妖艶な笑みを湛えたままに姿を見せる。彼女らに息を呑む者が多い中、透流たちの引率としてバスに乗っていた月見がぶつぶつと呟く。

 

「ったく、なんでアタシだけガキのお守りなんだよ……」

 

「騒がしいから一緒の車に乗せたくなかったとか?」

 

「確かに先生たちの疲れがさらに増しそうだな」

 

「潰すぞ。……主に三大欲求の一つを」

 

「やめてくれ……」

 

本気でやりかねない相手なので、悠斗と透流は念のため一歩下がって距離を取る。

 

「皆さん、これより理事長よりお話があります。静かにするように」

 

三國先生が進行を始め、全員の視線が九十九理事長へと集まった。

 

「皆さん、ごきげんよう。既に存じているとは思いますが本日は本来ならば《咬竜戦》を行うはずでした。けれど… 」

 

理事長が隣に立つリーリスと無双を紹介するように手を向けると、黄金の少女と漆黒の少年はすっと頭を下げた。

 

「当学園の兄弟校であるフォレン聖学園から転入してきました、こちらのリーリス=ブリストルさんたってのご希望もありまして、予定を変更し親睦会《生存闘争》を行うこととなりましたわ」

 

予定変更と言っても、《咬竜戦》の目的である格上の相手へ戦略を以って挑むということは《生存闘争》において変わりはない。故に、透流たちが如何様にしてリーリスと闘うのかを楽しみにさせてもらう、と理事長は語る。

 

「この《生存闘争》が貴方たちの良き経験となるよう、心から祈り願っていますわ」

 

理事長の挨拶が終わると、三國先生からルールについて改めて説明される。特に変更があるわけでもなく、俺たちが先に館内へ入り、十分後にリーリスと無双が入ったところで開始とのことだった。説明が終わり、親睦会の名を借りた《焔牙模擬戦》を始めるために、続々とあらもーど館内へとクラスメイトが入って行く。けれど透流はみんなを尻目に、その場を動こうとはしなかった。

 

しばらくすると、透流が戻ってきた。悠斗は透流の顔を見ると、

 

「話は済んだか?」

 

「まあな。悠斗、絶対勝つぞ」

 

「勿論だ」

 

2人は互いに勝利を誓った。

 

「全力でぶつかりあえば認め合える___まるで子供ですわね」

 

呆れたように言う朔夜へ、リーリスは何も答えない。

 

「朔夜様。周辺配備の確認が終了しました。いつでも始められて問題ありません」

 

「ご苦労様、三國」

 

三國はかつての教え子たちに指示を出し終え、朔夜へと報告する。貸し切っているとはいえ公共の場で《焔牙模擬戦》を行うということもあり、あらもーど周辺はドーン機関より派遣された《超えし者》によって警備されているのだ。

 

「そういうことですので、そろそろ始めますわよ」

 

「ええ、わかったわ。一時間ほど楽しみましょうか。……ま、唯一の脅威と言えるのは天峰悠斗ただ一人。その天峰悠斗も対策は十分調べた。負けることは万に一つと無いわ」

 

館内入り口へ顔を向けたリーリスへ朔夜が話しかける。

 

「同じ《唯一無二》であり、同じではない《焔牙》を持つ、同じ退けし者たちの闘い……。楽しみに拝見させて頂きますわ、リーリス・ブリストル」

 

「ご期待に添えられるように祈ってて。」

 

「…それと、あまり天峰 悠斗を甘く見ないように」

 

「ええ、分かっているわ。天峰 悠斗には最新の注意を払って闘うわ。逆に言えば天峰 悠斗以外は問題無いわ。九重 透流も私が負けるわけ無いしね」

 

リーリスは自信を持って言うと、リーリスは会場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

悠斗とみやびが指定位置で待機していると《生存闘争》開始の合図とも言える銃声が聞こえ、二人は透流たちに合流するためにショッピングモール内を走っていた。

 

「みやび、リーリスの銃は遠距離からの攻撃はもちろん接近戦も完璧だ。油断するなよ」

 

「う、うん…」

 

みやびは緊張しているらしく、少し体が震えていた。悠斗はそれを見ると、

 

「大丈夫だみやび、俺がついてる。それに、みやびもあれから強くなってきてる。自分を信じろって」

 

そう言ってみやびの頭を優しく撫でた。

 

「悠斗くん…ありがとう、頑張るよ」

 

みやびは顔を真っ赤にした。すると、

 

 

タァァァン

 

 

すぐ近くから銃声が聞こえてきた。

 

「みやびっ!!」

 

「う、うん!!」

 

悠斗とみやびは銃声の聞こえた方向へと向かっていった。

するとそこにはリーリスが数人の生徒を倒していた。

 

「あら、まさか貴方にいきなり会うなんて意外だったわ」

 

リーリスは自信の《焔牙》である《銃》を回しながら悠斗の方を向いた。

 

「御託はいい。《咬竜戦》を台無しにされた恨み、しっかりと晴らされて貰うぜ!!」

 

「良いわ、全力で倒させてもらうわ!!!」

 

そう言うと、リーリスは《銃》を構えると、悠斗に向けて発砲した。しかし悠斗はその銃弾を見切り軽々と避けた。

 

「驚いたわ…まさか本当に銃弾を避けてしまうなんて」

 

「あんただって俺がこれくらいで倒せるとは思っちゃねえだろ?」

 

「そうね…それならこれはどうかしら?」

 

そう言うとリーリスは再び《銃》を俺に向け、発砲した。

 

「同じことだ!!」

 

悠斗はそれを完全に見切り交わしたが

 

カキンカキィィン

 

銃弾が周囲の壁を跳弾し悠斗に再び襲ってきた。

 

「悠斗くん!!」

 

「うぉ!!あぶね!!!」

 

悠斗がそれを間一髪でかわすとリーリスの《銃》からさらに銃弾が放たれ跳弾が悠斗へと襲いかかってきた。

 

「く…そっ!狼王満月!!」

 

悠斗は(長槍》を超高速で振るって竜巻を生み出し、銃弾を防いだ。

 

「さすがね、天峰 悠斗。やっぱり貴方はメインディッシュにとっておくべきね…だけど、だからこそ解せないわ」

 

「…なにがだ?」

 

「貴方の絆双刃のことよ。こういうのは彼女に対して失礼だけどやっぱり貴方と実力に差がありすぎるわ。武器の相性が最適ってほどじゃ無いみたいだし」

 

「…っ」

 

リーリスの言葉にみやびの体は震えだした。みやびも少なからず感じていたのだ。自分と悠斗の実力の差に。だからこそ、それを指摘されてしまったことに反論出来ずにいた。

 

「聞き捨てならねぇな、リーリス・ブリストル」

 

しかしそれを悠斗は否定した。

 

「みやびは俺が認め、俺が選んだ絆双刃だ。それを否定するってことは俺を否定するってことだぜ」

 

「…どうやら言いすぎたようね。ごめんなさい、だけどやっぱり貴方との実力差は事実よ」

 

「…だったら証明してやる。みやびの凄さを」

 

「…それじゃあ期待して待っているわ」

 

リーリスはそう言うと二人の前から去っていった。

 

「悠斗くん…」

 

「みやび、リーリスを見返してやろーぜ。みんなの力で」

 

「う、うん」

 

二人は再び透流たちに合流するために走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「《装鋼の技師》殿。準備が出来ました。」

 

「フハハハハ、では行こうか《魔女》殿も元へ」

 

「ではミスト。リーリス・ブリストルの方は頼みました。」

 

「…解ッタ。ダカボンゴレハ俺ガ倒ス。忘レルナヨ」

 

「もちろんです。天峰 悠斗は貴方に任せます」

 

脅威がすぐそこまで迫ってきた。



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14話 襲撃者

「てな感じでリーリスと戦ったわけだ」

 

リーリスとの初戦後、悠斗とみやびは透流たちと合流した。透流たちもリーリスの実力をあらためて実感した。

 

「分かってはいたがやはり、一筋縄ではいかない相手だな…」

 

「全くだ…まさか悠斗が苦戦する相手とはな。悠斗、勝機はあるか?」

 

「正直一対一だとちょっと厄介だな…そこで今後の展開について皆で話し合いたいんだけど」

 

悠斗はパンフレットを開くとマップを皆に見せた。

 

「さっき銃声が聞こえた方向から察してリーリスは現在この《空の広場》のあたりで交戦していると思う…そこでリーリスを追撃するかもしくは待ちに徹して迎え撃つかだが…」

 

「もちろん追撃だ」

 

「ふん、僕にも否は無い」

 

「フンッ(ビシッ)」

 

「わ、私も頑張る」

 

「我々も賛成だ」

 

「はい、追撃あるのみです」

 

「…私もトールたちに賛成です」

 

「だと思った、それでなんだけどな、リーリスはおそらく後数分もしたら俺たち以外は倒しちまうと思う。リーリスの武器は連射、射程範囲、威力においても俺たちの武器を上回っている…更に接近戦も得意ときている。そこでだ…まずは二手に分かれよう。《空の広場》への道はちょうど二つある。俺とタツ、透流とユリエが大通りから、みやび、トラ、巴と梓が迂回路を使って来てくれ、一番有効なのはやっぱり周囲を囲むことだ、それでだな…」

 

 

悠斗の指示どおりのチームでそれぞれ『空の広場』へと向かっていった。悠斗たちが《空の広場》に着くと、思っていた通り、自分たち以外は全滅していた。

 

「皆気をつけろよ…どこから撃ってくるか分からないからな……っ後ろだ!!!!」

 

その瞬間悠斗が後ろへ槍を振るうと、悠斗に向かって銃弾が飛んできた。悠斗はそれを即座に弾いたが、更に銃弾が放たれ、そのうちの一発がタツに当たり、タツはそのまま倒れた。

 

「タツ!!…くそっ」

 

「よく分かったわね…擬態は得意だったんだけど」

 

すると、倒れていた生徒の一人が起き上がってカツラを取り、リーリスが姿を現した。

 

「あんたこそ見事な擬態じゃねえか…こっちも気配を感知するのは得意なんだけどな…」

 

悠斗は透流たちと共にリーリスへとそれぞれの《焔牙》を向けた。

 

「透流、俺の合図と共に作戦開始だ」

 

「あぁ、分かった。俺たちに任せてくれ」

 

「ヤー、悠斗もお気をつけて」

 

悠斗はそのまま息を吸うと、

 

「行くぞっ!!」

 

リーリスに向かって走り出した。

 

「はぁ!!」

 

悠斗はリーリスへと接近し、槍の大振りの一撃を放った。

 

「無駄よ」

 

しかし、リーリスは《超えし者》の身体能力を活かして空中へと避けた。

 

「悪いけど、私は兎狩りにも全力を出す主義なの。それに、天峰 悠斗の方も対策済み、後はもう貴方たちくらいだわ。」

 

そう言うと、リーリスは再び悠斗たちに向かって《銃》を放った。悠斗たちはそれを柱に隠れてやり過ごすと、再び悠斗がリーリスに向けて攻撃を繰り出した。

 

「無駄よ」

 

リーリスは再び距離を取ると今度は悠斗の足元や周囲を撃って悠斗の動きを封じた。

 

「貴方の速さは確かに脅威、だけど動く方向さえ限定してしまえば十分対処は可能よ、悪いけど…私の勝ちね」

 

リーリスは勝利を確信し悠斗の心臓へと《銃》を構えた。

それに対し悠斗は

 

 

「今だ橘!!」

 

 

すると、突然《鉄鎖》がリーリスの足へと絡みついた。

 

「____っ!?」

 

リーリスも突然のことに同様したがすぐさま鎖から抜け出し、《鉄鎖(チェイン)》を放った橘へと銃口を向けた。しかし、

 

「無駄だ!!」

 

リーリスの背後からトラが自身の『印短刀(カタール)』で奇襲をかけてきた。

 

「なっ…!?まさか、伏兵がもう一人…」

 

「いいえ、私もいます」

 

トラへ気を取られたリーリスへと梓が『大鎌(デスサイズ)』を繰り出した。強力な大鎌の一撃がリーリスの胸の薔薇へと放たれたがリーリスはとっさに体を捻り、紙一重で見切った。

しかし、そこに悠斗が《長槍》を振るって更に追撃をした。

 

「く…まさか、もうすでに潜んでいたなんて…」

 

「言ったろ?《俺たち》の実力を見せるって」

 

悠斗は作戦開始の時、はさみ打ちの他に、もう一つ作戦を伝えていたのだ。それは、トラたちには先に動いてもらい、リーリスを見つけても攻撃せず、彼女に気付かれない距離から監視して、自分たちと交戦し始めたら彼女に接近し、自分の合図と共に畳み掛けてほしいと連絡したのだ。

 

「まさか、他でもない貴方が集団戦をしてくるなんて…」

 

「俺は本来一人より皆と戦った方が実力を出せるんだ」

 

悠斗はリーリスに接近して言った。

 

「リーリス・ブリストル、覚えておくといい。ボンゴレの真骨頂は《個》の能力じゃない。仲間との《連携》にあるんだ、あんたは俺の強さに対処をした様だけど、他の奴らを見くびりすぎだ」

 

「くっ…でも、これくらいならっ!」

 

「俺たちを忘れるな!!」

 

リーリスが悠斗と鍔迫り合いをしていると、透流とユリエがリーリスへと接近する。

 

「これで終わりだリーリス!!」

 

「チェックメイトです」

 

透流たちがリーリスの胸の薔薇めがけて攻撃を繰り出す。だが…

 

「甘いわ」

 

リーリスは悠斗の《長槍》を逃れると、すぐさま上の階へと回避した。

 

「惜しかったわね、あと一人くらいいればちょっと危なかったけど」

 

「じゃあその一人はどこにいるでしょう?」

 

「____っ!!しまっ」

 

「ヤァァァ!!」

 

リーリスの逃げ込んだ階にはみやびが《騎兵槍》をリーリスに向けて突進してきた。

 

「うわぁぁぁっ」

 

みやびの突進をとっさに《銃》でガードし回避したがリーリスは悠斗たちに取り囲まれていた。

 

「……貴方の言う通りだったみたいね天峰 悠斗。彼らのこと、見くびりすぎていたみたい…」

 

リーリスは笑いながら再び《銃》を構えた。

 

「…どうやらもう油断は無さそうだな、パーティを続けるか」

 

悠斗たちも再び《焔牙》を構え、リーリスと向き合った。

 

 

 

 

 

 

「ツマラン茶番ハモウ良イカ?」

 

突然声が聞こえ、そっちを向くと、口元しか見えないヘルメットを被り、戦闘服の上から胸部や腕を装甲で覆い、手には突撃銃を持つという物々しい姿をした連中が現れた。

声の主と思われる真ん中の男は顔を藍色のフルフェイスの仮面で覆い手には大型の剣が握られていた。

 

「貴方たち、人のダンスパーティーに土足で入ってきて何の用かしら?」

 

「俺タチハ《装鋼の技師(エクイプメントスミス)》ノ使イダ。リーリス・ブリストル、オ前ニハ俺タチニ付イテ来テモラウ」

 

リーダー格の男は剣をリーリスに向けてそう言った。

 

(こいつ…どこかで…?)

 

悠斗は仮面の男を見てどこかで会ったことがあることに気づいた。

 

声は加工されていたが男の佇まいや気配に覚えがあったからだ。

 

「お断りよ!!貴方たちの様な無礼な輩のエスコートなんて誰が…」

 

ダァァン!!

 

「うっ!!」

 

リーリスが反抗すると仮面の男の隣にいた男が突撃銃でリーリスを撃ちリーリスはふらついた。

 

「《装鋼の技師》ハ生ケ捕リナラ問題ナイト言ッテイタ。抵抗スルナラ覚悟シロ」

 

「テメェ!!」

 

悠斗の怒りの声と共に、悠斗、透流、ユリエ、トラたちが連中に攻撃を仕掛けた。

悠斗も《長槍》で仮面の男に攻撃を仕掛けるが仮面の男は自身の剣で悠斗の攻撃を軽々と防いでしまった。

 

(…!?こいつ、強い!!)

 

悠斗も敵の強さに気付き追撃するが、仮面の男は悠斗の攻撃を次々と防いでしまった。

 

「コノ世ニハ《死ぬ気の炎》ヤ《焔牙》以外ニモ人ヲ高ミニ至ラセル力ガアル。俺タチノ《装鋼(ユニット)》ガソノ1ツダ。ソレヨリ良イノカ大事ナ仲間ガピンチダゾ」

 

その言葉に俺は気づいた、こいつ1人に気を取られすぎていたことに

 

「…っ!!みやび逃げろォ!!」

 

「きゃあっ⁉︎は、離してぇっ‼︎」

 

「ククッ……。こんなのでも《越えし者》ってことか。なかなか力はあるみてぇだが、俺たちにとっちゃただの小娘ってことに変わりねぇな」

 

敵の一人の男はみやびの首に腕を回して拘束すると、頭へ拳銃を突きつけた。

 

「ひっ……⁉︎」

 

「うるせぇから叫ぶな。その頭に風穴開けるぞ‼︎」

 

男は引き金に手をかけた。つまり勝負はこの時点で決まった。

 

「待ちなさい‼︎」

 

その手を止めたのは、誰であろうリーリスだった。

 

「……あんたたちに大人しくついていくわ。だからそれ以上、あたしのクラスメイトに手を出すのはやめて貰えるかしら」

 

「…断ルト俺タチガ言ッタラ?」

 

「あたしを殺さないように連れて帰るのがあんたたちの役目なんでしょう?」

 

そう言ってリーリスは、ガラス破片___先が尖ったそれを自らの喉元へ突きつけた。

 

「その子から汚い手を離しなさい」

 

「…ソイツハモウ必要ナイ。トットト離セ」

 

リーダー格の男はみやびを人質にとってる男に命令した。

 

「…わかりました」

 

リーダー格の男の命令に男は渋々みやびを離した。

 

「ソウソウ、アト1ツ…」

 

リーダー格の男はリーリスに、近付くと___ぱぁんっと乾いた音がリーリスの頬を打つ。

 

「俺ノ嫌イナ女ヲ教エテヤル…上カラ物ヲ言ウ女ダ。自分ノ立場ヲワキマエロ」

 

「………っ!!」

 

リーリスは男をキッと睨みつけた。

 

「…連レテ行ケ」

 

リーリスの背中に銃を突きつけ、男たちは「空の広場」を立ち去ろうとする。

 

「り、リーリス……‼︎」

 

透流が呼びかけるがリーリスは

 

「…………。また、いつか会えたら……会いましょう」

 

それだけを言って、リーリスは男たちとともにこの場を立ち去る。そのリーリスの瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい……わたしが、捕まらなければ……う、ぐすっ……」

 

大粒の涙がみやびの瞳から零れ落ちた。

 

「我々も何もすることができなかった……っくそ‼︎」

 

皆が自分の無力さに苛立っていたそのとき___

 

「みやび、もう泣くな」

 

「で、でも、でも……わたし、が、……ううっ……」

 

「いい。誰もお前を責めたりなんかしない。俺の方こそ守れなくてごめんな…それにリーリスは俺が助ける、だからもう泣かなくて大丈夫だ」

 

そう言うと悠斗はみやびを優しく抱きしめた。

 

「皆…ちょっと行ってくる」

 

「え……?ひ、一人じゃ無理だよ……!わ、わたしも___ 」

 

「大丈夫、あの手の奴らは俺の得意分野だ。それに、さっきのお礼もしないとな」

 

「俺も行くぜ」

 

悠斗の言葉に透流も立ち上がった。

 

「俺もリーリスを助けたい、今度は文句を言っても無理やり行くぜ」

 

「透流…ったく本当にそーゆーとこだけはツナと同じだな」

 

「誰だツナって?」

 

「俺の友達だ」

 

「そっか…んじゃあ行くか」

 

「無茶すんなよ」

 

そう言うと、悠斗と透流は共に連中の消えた方角へと走り出した。

 

 

 

 

 

その頃、襲撃者達の別働隊が報告を聞いていた。

 

「どうやらうまくリーリス・ブリストルを確保できた様だな」

 

「思ってたより楽な仕事でよかったぜ。それじゃあ俺たちも本隊と合流するか」

 

「ねぇ」

 

「!?」

 

突然聞こえた声に男たちはその方向へ銃を向けると、そこには一人の少年がいた。見たところ制服も昊陵学園のものではなく、《超えし者》ではないと判断し、

 

「おい貴様、ここは立ち入り禁止だ。とっとと失せろ」

 

銃を向けて軽く脅して追い払おうとしたが彼らは知らなかった。

 

「何僕の前で群れてるの?」

 

確かにその少年は《超えし者》ではなかった。しかし、それ以上の化け物であるということを

 

そして、彼は群れることを誰よりも嫌っていることを、そして、『風紀』を乱す奴を誰よりも嫌うことを

 

 

 

 

「咬み殺す」

 

 

 

 

数秒後、男たちはその少年に一蹴されていた。そして彼はそのまま《あらもーど》の中へと歩いて行った。

 

会場に怪物が放たれた。



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15話 孤高の浮雲

俺達はリーリスを救うため敵が去っていった方向から予測できる場所へ先回りするために走っていた。

すると、

 

「待ッテタゾ」

 

先ほどの敵のリーダー格が2人を待ち伏せていた。

 

「クソッ待ち伏せられてたか…」

 

俺達はそれぞれの《焔牙》を構え、男の方を向いた。

 

「透流、ここは俺に任せてお前はリーリスを助けに行け」

 

「悠斗…大丈夫なのか?」

 

「心配すんな、すぐに追いつく。それに…奴は俺が目当ての様だしな」

 

奴は間違いなく俺を…いや、ボンゴレファミリーと因縁のある相手だ。そして俺がよく知る相手でもあるのだろう。ならばここは俺の出番だ…

 

「……悠斗、以前はなんかうやむやにしてたけど、お前の正体についてこの戦いが終わったらしっかり聞かせてもらうからな。仲間同士で隠し事は嫌だからさ」

 

透流の言葉を聞き、俺はもう隠し通すのは無理があることを悟った。

 

「…分かったよ、ちゃんと話す。だから早くリーリスを助けに行け」

 

「勿論だ!!」

 

そう言うと透流はそのまま男の横を通り過ぎてリーリスの元へと向かっていった。

 

「…透流を見逃したのはわざとか?」

 

「俺ノ目的ハオ前タチボンゴレダカラダ天峰 悠斗、ソレニ…仮ニ追イツイタトシテモアノ程度ノ雑魚ニドウスルコトモ出来ナイダロウ」

 

「透流の強さを舐めんなよ。それと、テメェ俺と因縁があるみたいだけど何者だ?」

 

「俺ハ《ミスト》、俺カラ全テヲ奪ッタオ前達ニ復讐スルモノ…ソレ以外ハ教エル事ナド無イ」

 

「…何者か知らねえが、俺もやられるつもりはねぇ!」

 

俺は再び《長槍》を構えると、《ミスト》に向かって突進した。

しかし、《ミスト》は自身の剣でそれを防ぐと、次々と斬撃を繰り出してきた。しかもその一つ一つが確実に俺に向かって放たれており、俺はその技量に驚きを隠せなかった。

 

「…正直ここまでやるとは思ってなかったぜ。だから…出し惜しみは無しだ!!」

 

そう言うと、俺は槍の先端に《雪の炎》を纏わせ攻撃を更に繰り出した。

しかし、《ミスト》はその攻撃にすぐさま対応し、俺に反撃を繰り出した。

 

「コノ程度カ?」

 

「いいや、まだだ!!!」

 

俺は更に炎の炎圧を上げ、さっきよりも速い斬撃を繰り出した。

 

「何ッ…!?」

 

俺の一撃が《ミスト》に叩きつけられ《ミスト》は壁へと吹き飛んだ。

 

「グッ……貴様…マダ強クナルノカ…」

 

《ミスト》が再び剣を構えた時、

 

 

ドカァァン

 

 

奥の方から大きな破壊音が聞こえた。

 

『《ミスト》…任務は失敗です。今すぐ撤退するように』

 

すると、《ミスト》の通信機から連絡が入った。

 

「…クソッ…覚エテオケ天峰 悠斗、次ハ必ズオ前ヲ倒す」

 

怨みを含んだ声で《ミスト》は立ち去って行った。

 

 

 

「ふはははっ。さすがは《超えし者》。未調整では話にならんようじゃなぁ」

 

周囲でうめき声を上げて倒れている部下たちを見て、《装鋼の技師》は笑い声を上げる。彼らの相手をした三國の体には傷どころか汚れ一つついておらず、寸前に行われた闘いが闘いとは呼べない一方的なものであったことを示していた。

 

「下に向かった者も応答がありません。《ミスト》も天峰 悠斗を倒せなかったようですので撤退させました…それに、別動隊からの連絡もさっきから途絶えている様ですし、おそらくやられていると思われます。報告によると、他の乱入者がいる様ですしね」

 

凄まじい轟音が途絶えた後、通信に応答が無いことで『K』は肩を竦める。

 

「ふむ。まさか学生を相手に敗北とはのう。いやはや……。随分と優秀な生徒をお待ちのようじゃな」

 

「特に今年は有望な生徒がいるおかげで、将来がとても楽しみですのよ」

 

下に向かっていった連中を倒したであろう人物を思い出して朔夜は小さく笑った。

 

「さて、この後はどうしますの?そちらが退かれるのであれば、こちらもこれ以上の手出しは致しませんわ」

 

「ほう、ありがたい話じゃ。では《操焔の魔女》殿のお言葉に甘えるとしよう。《K》くん、動ける者に指示を出して下の者の回収をしてくれるかの」

 

言外に見逃すと言われ、恥じることなく受け入れる《装鋼の技師》。やがて悠斗に倒された部下を回収し終え、《K》たちの撤退準備が整う。その後、《ミスト》がヘリに戻ってきて何も言わずにヘリに入っていった。

 

「それでは我々はこれにて。《操焔の魔女》殿___いずれ、また」

 

「どうぞ、ご自由に」

 

こうして束の間の遭逢は終わりを告げた。去っていく大型ヘリを見つめつつ朔夜はぽそりと口にする。

 

「……《装鋼の技師》様。私たちは似ているようでいて異なりますの。だから貴方と私の道は決して交わらぬものですわ」

 

呟きは誰の耳に届くまでもなく、そのまま風が連れ去って行った。

 

 

 

「悠斗くん!!」

 

悠斗たちが戻ってくると、みやびが悠斗にいきなり抱きついてきた。

 

「うぉっ!?ど、どうしたみやび?」

 

「よかった…悠斗くんが無事で…本当によかった…」

 

みやびは涙を流しながら悠斗をきつく抱きしめていた。

 

「俺は大丈夫だよみやび。それと…少し苦しいんだが」

 

「え…?………っご、ごめん!!」

 

みやびはようやく自分が今何をしていたのかに気づき、顔を真っ赤にして慌てて悠斗から離れた。

 

「…あの2人、恋仲なのかしら?」

 

「いいえ、2人は付き合っていません。みやびさんは間違いなくホの字だと思うのですが悠斗さんはまったく気づいてない様で…」

 

悠斗とみやびの様子を見てリーリスが率直な質問をすると梓はそれに答えた。

 

「それじゃあ悠斗…約束通り教えてくれないか?お前の正体について」

 

「…分かった。これから先こんな風な事件に巻き込まれる可能性があるからな。教えておいたほうが良さそうだ」

 

そう言うと、悠斗は自分の所属しているボンゴレファミリーについて説明した。

 

 

 

 

 

「…ってなわけだ。これが俺の話せる全てだ」

 

「…驚いたな。まさかそこまで大きな組織だったとは…」

 

透流は悠斗の説明を聞いて、予想を超えるほどのスケールに驚きを隠せなかった。

 

「みんな…すまん、黙っていて…」

 

悠斗はこの学園で知り合った友人たちに謝罪した。それに対し透流たちは

 

 

 

 

「まぁでも悠斗が悪い奴じゃなくて良かったよ」

 

「ヤー、悠斗は私たちのことをいつも第一に考えてくれていました」

 

「わ、私も…悠斗くんが悪い人だなんて思わない」

 

「まぁ隠し事をされたのは少し腹立たしいが…そっちにも事情があった様だしな」

 

「…フンッッッ(びしぃっ)」

 

「うむ、私も悠斗のことを信じよう」

 

「私も信じます」

 

「……皆」

 

悠斗は彼らの言葉にホッと安心した。すると、その時

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたよ。天峰 悠斗」

 

突然漆黒の影が悠斗に襲い掛かった。

 

「悠斗!!」

 

透流がとっさに反応し、《楯》でガードをすると、トンファーによる強力な一撃に透流が吹き飛んだ。

 

「透流!!…ってめえは!」

 

悠斗もその正体に驚きを隠せずにいた。

 

「雲雀…なんでてめえがここに!?」

 

「…君がここにいるって聞いてね…咬み殺しに来た」

 

そこには自身と同じボンゴレファミリーの守護者であり、ボンゴレ守護者最強と名高い雲雀 恭弥(ひばり きょうや)がいた。

雲雀の言葉に悠斗は顔を真っ青にして

 

「お、お前まだあの日のこと根に持ってるのかよ…もうずっと前から謝ってるだろ!!」

 

「関係ないね。君は絶対に咬み殺す」

 

悠斗の言葉に聞く耳を持たず、雲雀は更にトンファーで追撃した。

 

「な…何者だ奴は!?あの武器は《焔牙》ではない!!まさか…生身で《超えし者》と対等に張り合っているとでも言うのか!?」

 

トラはあまりの光景に驚きを隠せずにいた。

 

「トール、大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ。それより悠斗の援護に行かないと…うっ!」

 

透流は悠斗の元へと行こうとしたが、先程までの傷に加えて、雲雀に吹き飛ばされたことでダメージを更に負っていた。

 

「君は休んでいろ。私たちが向かう」

 

「ヤー、悠斗は絶対に守ります」

 

そう言うとユリエたちは全員《焔牙》を出して悠斗の元へと向かい、雲雀のトンファーを防いだ。

 

「…まさか、僕の前で堂々と群れる奴がいるなんてね」

 

「舐めるな!!それ以上悠斗に手を出すなら私たちが相手だ!!」

 

巴は《鉄鎖》で雲雀に追撃する

 

「へぇ…」

 

少し関心を抱きながらも雲雀はその攻撃を難なく躱し、蹴りを放った。

 

「危ねぇ!!」

 

悠斗はとっさに巴を守り、蹴りを防いだ。

 

「…雲雀、それ以上俺のクラスメイトに手を出すならもう容赦しねぇ」

 

「わぉ、やっとやる気になった」

 

雲雀は悠斗の顔を見てまるで肉食獣の様な笑みを浮かべ、構えた。しかし、

 

 

 

『み〜ど〜りたな〜びく〜な〜み〜も〜り〜の〜♪』

 

 

 

突然雲雀の携帯から着メロが聞こえ、雲雀はとっさに電話に出た。

 

「もしもし…何?不祥事?…チッ」

 

雲雀は電話を切ると悠斗を睨み

 

「天峰 悠斗、どうやら邪魔が入った様だ。今日のところは引くとするよ。でも覚えておくといい、君はいつか咬み殺す」

 

そう言うと雲雀は外へと去っていった。

 

「…ほんとあいつしつけーな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

施設内の一角

 

「申し訳ありません。まさか乱入者が現れて別動隊が全滅するとは思ってもいませんでした」

 

『構わんよ。こっちの使った《装鋼》は未調整品。ボンゴレの守護者相手では力不足じゃったわい。それより次のプランの準備は?』

 

「はい。準備はできてます」

 

『そうかそうか、では次こそはしっかりと頼むぞ』

 

そして、電話が切れると…

 

「…くそぉ!!!」

 

影は壁を思いっきり殴りつけた。

 

「甘かった…このままでは…」

 

唇を噛み締めながら影は再び闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

数日後、学園内病棟

 

「暇だ…早く体を動かしたい」

 

透流はリーリス救援の時に深手を負っていたらしく、更に雲雀の一撃を楯越しとはいえもろにくらったためしばらく絶対安静となっていた。

 

「ナイ。体を休めないとダメです」

 

「そうだ。いくらなんでも無茶しすぎた。雲雀の一撃をモロに食らったんだからな」

 

「雲雀ってあの男か?」

 

「まあな、奴は俺と同じボンゴレの守護者雲雀恭弥だよ」

 

「どうりで…強いと思った。」

 

「まあな、実力ならボンゴレでもトップクラスだ。下手すりゃ俺より強いかもしんねー」

 

「…マジか」

 

すると、

 

コンコンッ

 

突然ドアがノックされリーリスが入ってきた。

 

「よう、リーリスどうした?」

 

「な、仲間のお見舞いに来るのは当然でしょ?」

 

リーリスは顔を赤くしてそう言ったので皆驚きを隠せずにいた。

 

「なによ!!違うっていうの!?全力でぶつかったら仲間って言ったくせに!!…あと…それと…助けに来てくれて…ありがと」

 

そう言うとリーリスは顔を真っ赤にして透流に手を差し伸べた。

 

「あ、ああ」

 

「それと…あの時はほっぺ叩いてごめん。痛かったでしょ?」

 

「いや、気にすんな」

 

そう言って透流はリーリスの手を掴み握手した。そして橘たちの方を向くと

 

「貴方たちも見くびっていたことを謝るわ」

 

彼女たちにも謝罪をした。

 

「いや、こちらもいい経験をさせてもらった」

 

「はい。勉強になりました」

 

「ふん、まあな」

 

「フンッッッ(びしぃっ)」

 

そしてみやびの方を向くと、

 

「貴方には色々とひどい事言っちゃったわね…あの時はゴメンね」

 

「う、ううん。私は…」

 

「あと、天峰 悠斗と上手くやんなさいよ」

 

「え、えぇぇぇぇ!?そ、そんな私は…」

 

「ふふ、悪いけどバレバレよ」

 

みやびは顔を真っ赤にしてリーリスと話していたが悠斗はその内容に気づいていなかった。

 

「それで、九重 透流。やっぱりあの話はダメなのよね?」

 

「悪いな。俺にはもう大切な絆双刃がいるからさ」

 

「分かったわ…でも、気が変わったらいつでも言いなさいよ」

 

「…トールは私の絆双刃です」

 

ユリエはリーリスの言葉に反応したのか透流の腕を掴みリーリスに反論した。

 

「ふふっ怖い怖い。ああそれと、大事なことを言うから、二度は言わないから聞き逃さないでよ」

 

「あ、ああ、わかった。___って、え……?」

 

さらに大事なこととやらを口にする寸前、リーリスは透流に顔を近付けてきて___赤い紅を差した唇が透流の頬に触れた。

 

『っっっっっ⁉︎』

 

その行為にそこにいた全員が驚きを隠せずにいた。

 

「アンタのこと、未来の旦那様にするって決めたから♪」

 

「「「「「「「「え、えぇぇぇぇ!?」」」」」」」」

 

その言葉に全員が更に驚愕した。

 

「トール…やっぱりその人と…」

 

「こ、九重くんのエッチー!!」

 

「は、破廉恥な!!」

 

「さ、三角関係…キマしたコレ!!」

 

「ち、違う!違うんだー!!」

 

あたりはパニックになりそれにリーリスは笑みを浮かべていた。

 

「それじゃ、また後で来るから今は失礼するわ。……あ、そうそう」

 

扉の前で振り返り、リーリスは指で銃を形作ると___

 

「絶対にその気持ちを射止めてみせるわよ、透流♪」

 

バンッと言いつつ撃つ仕草をし、今度こそリーリスは病室を出て行くのだった。



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3章 狼の想い
16話 芽生える想い


「…というわけであいつらに正体を教えたってわけだ」

 

「そっか…そういうわけで…」

 

俺の報告にツナは少し納得いかないような反応をした。

いくら《超えし者》として超化されている彼らとはいえ裏社会の物事に巻き込んでしまったことを悔いているようだった。

 

「分かってるよツナ、でもこれから先のことを考えたら隠し続けるわけにもいかない、なら今のうちに教えるのがベストだと思う。」

 

以前未来での戦いの際、御堂 春(みどう はる)と笹川 京子(ささがわ きょうこ)がマフィアの真実に勘付いて自分たちに説明を求めた時もそのことでかなり揉めたことがあった。その際俺は「半端に隠すよりは安全だ」とツナたちに真実を話すべきだと言ったことがある。今回もこれからのことを考えて、今だからこそ言うべきだと判断したのである。

 

「うん、分かっているよ。天峰くんがそれが一番良いって思ったんならオレも信じるよ。何かあったらすぐ言って」

 

「サンキューなボス」

 

そう言うと俺は携帯をしまい、ベットに横たわった。

 

「…必ずあいつらは守る。それが俺の責任だ」

 

 

 

 

 

 

 

深夜、シャワールーム

少女_____穂高 みやびは異性が苦手だった。

子供の頃から消えないトラウマがある……というわけではなく、単にもともとが人見知りであり、恥ずかしがりな性分であっただけだ。その上、姉と同じく女子のみが通う中学へ進学したことも牽引した理由の一つだ。しかしながら、苦手と言っても恋愛に興味を持たないわけではない。

故に、自分もいつかは誰かと___などと想像くらいはしていた。そんな中、彼という存在に出会った。

最初の出会いは衝撃的だった。自分の対戦相手を彼自身が戦っていた相手もろとも吹き飛ばして腰を抜かしていた自分に手を差し伸べてきたといったものだった。

その後隣の席になったばかりか同じ部屋になり、最終的には自身の絆双刃になっていた。

それでいて彼は強かった。明らかに格上であった月見先生を打ち破り、今や同期の中ではトップの実力を持っていた。実際彼は試合で素人の自分でもわかるほどの強さで同時に心を奪われていた。

何より彼は優しかった。何の取り柄もない自分を絆双刃に選んでくれて、それどころか私のトレーニングをサポートまでしてくれた。そして彼のおかげで最初は走りきれなかったマラソンも今では完走出来るようになっていた。

そして彼の笑顔に惹かれていた。彼の笑顔はとても優しく、見ているだけで心を奪われていた。

彼が巨大マフィアの幹部と知った時もそんな優しい彼を知っていたから恐れることはなかった。

彼のことは初めは面倒見の良い優しいお兄さんのように感じていたが、それは変わり始めていた。

 

シャワールームから出てくると悠斗はもうすでに眠っていた。ふと彼の顔を見ると、

 

「zzz…」

 

そこには世界に名を轟かす巨大マフィアの幹部としての彼も、学年最強と名高い彼のどちらでもなくただ1日の疲れから眠っている少年がそこにいた。

 

「フフッ悠斗くん…寝顔可愛いな…」

 

みやびはそっと彼の顔を見て微笑んだ。

そして、少しずつ彼の口へと近づいていき____

 

 

 

 

 

 

 

 

「…みやび?」

 

ふとみやびが目を開くとそこには目をかすかに開いた悠斗がいた。

 

「ゆ、ゆゆゆ悠斗くん!?ご、ゴメンもしかして起こしちゃった!?」

 

「ん?ああいや、大丈夫。どうやら寝落ちしていたみたいだな」

 

悠斗はふとベットから起き上がるとホットミルクを2つのマグカップに入れて

 

「ホイ、みやびも」

 

そう言ってみやびに湯のみを渡した。

みやびがそれを飲むとホットミルクの温かさが自分の体を包み込んだ。

 

「…美味しい」

 

「そっか、そりゃ良かった。本当はエスプレッソの方が淹れるのが得意なんだけどもう消灯時間だから眠れなくなるとマズイと思ってね」

 

そう言うと悠斗はニカッと優しい笑顔をみやびに向けた。

 

「…………!!」

 

みやびはその笑顔を見た途端、再び胸の鼓動が激しくなった。

 

「そんじゃあもう遅いしおやすみ」

 

「う、うん…おやすみ」

 

ベットの中に入ってもみやびは胸の鼓動は治らなかった。

 

 

 

『あと、天峰 悠斗と上手くやんなさいよ』

 

『ふふ、悪いけどバレバレよ』

 

 

 

突然、リーリスの言葉がみやびの脳裏をよぎった。

その言葉を振り返ってみやびはようやく自身の気持ちに気づいた。

 

 

 

「そっかぁ…

 

 

 

 

 

私、悠斗くんのことが好きなんだ…」

 

 

 

気づいてしまった気持ちにみやびは顔がどんどん熱くなり、彼という存在をどんどん意識してしまった。

 

「どうしよう…」

 

こうして___穂高 みやびは、己の初恋を自覚する。

 

 

 

 

同時刻、校舎裏

 

「では、決行の日時は変わらずということで、それで、《装鋼》の方は?」

 

『うむ、ついさっき調整を終えたところじゃ。あとは《素材》さえ揃えば完璧じゃわい。お前さんの送ってくれた《素材》のデータも見てみたがなかなか良い《素材》になりそうじゃないか』

 

「ありがとうございます。…では次の任務の内容は《魔女》と《素材》の確保ということで?」

 

『うむ、もっとも最悪《素材》だけでも問題ないんじゃがな』

 

「…わかりました。全ては貴方様の悲願のために」

 

『うむ、頼むぞ。』

 

「それと博士、1つ聞きたいのですが」

 

『何じゃ?』

 

「《ミスト》の事です。奴は信用出来るのですか?」

 

『あぁそのことか、心配いらん。奴はボンゴレにしか興味がないようだからな、何より奴自身も儂の《装鋼》の力を求めておるしな』

 

「…わかりました。貴方様がそう言うなら間違いないのでしょう。」

 

「おいお前!!そんなところで何をしている!?」

 

「…!!すいません。また後ほど連絡します」

 

『うむ、気をつけてな』

 

見回りの教師に見つかりそうになり、影は慌てて電話を切りすぐさまそこを去っていった。

見回りの教師もおそらく夜更かししていた生徒と思い、特に気を止めなかった。

 

 

 

数日後、船上

 

「う…ぷっ……マジで酔った」

 

少々重めの扉を開いて外へ出ると、日差しに目が眩んで細まる。それと同時に、強い潮の香りを持つ風が鼻腔をくすぐった。外の景色へ目を向けると___青。

天地ともに、一面青だった。どこまでも続く大海原が、視界の先に広がっていた。俺たち昊陵学園の一年生は、今日から一週間の臨海学校を行うため、船に乗って南の島へ向かっているのだ。

しかし、俺は船酔いにやられ、酔いを和らげようとデッキに出たのであった。

 

「潮の香りがすごいなぁ…それに、空も海も真っ青だ」

 

デッキへ足を踏み出すと、より一層潮の香りが濃くなったように感じた。そこに腰を下ろし、風を感じながら、しばらくじっとしていると、

ガチャリ、と音を立てて船室とデッキを隔てる扉が開く。姿を見せたのはみやびだった。

 

「みやび?どうしたんだ?」

 

「え、ええと…悠斗くんがなかなか帰ってこないから心配になって…さっきもちょっと様子が変だったから」

 

どうやら俺のことを心配してくれていたらしい

 

「あーすまんなみやび、ちょっと船酔いにやられてさ、もう少ししたら治ると思うんだ。」

 

「フフッ、悠斗くんにも苦手なものってあるんだね」

 

「な、何だよ。俺だって苦手なもんくらいあるって。敢えて言わないけど」

 

「そうなの?」

 

「むしろ苦手なもんがない奴のほうが少ないって」

 

みやびに笑われたのが少し恥ずかしかった。

 

 

 

「…ねぇ悠斗くん、1つ聞いてもいい?」

 

すると、みやびは少し考えて突然聞いてきた。

 

「なんだ?」

 

「…悠斗くんって好きな人とかいる?」

 

「好きな人?それって『LOVE』の方?」

 

「う、うん…」

 

みやびの突然の質問に俺は少し考えて

 

「…考えたことないな。悪い、大した答え出せなくて」

 

「う、ううん。こっちこそごめんね、急に変なこと聞いちゃって」

 

みやびは顔を赤くして俺に謝るが、俺はみやびの頭を撫でると

 

「気にすんなって。それに、俺たちは絆双刃なんだからさ、余計な壁を作るのは無しだ。他にも聞きたいことがあった時はいくらでも聞いてくれよな」

 

俺の言葉にみやびは少し微笑み、小さく頷いた。

 

 

その後は2人で軽く日向ぼっこをしていたのだがふと気付くとみやびは俺の肩の上で眠ってしまった。

 

「……………」

 

温かい。触れている部分から、みやびの体温が伝わってくる。

 

「……可愛いな」

 

そして、思っていた以上に気を許してくれていることが悠斗は嬉しかった。異性が苦手ということを感じさせないくらい、友人として仲良くなれたことが嬉しかった。

 

「にしても好きな人か…」

 

先ほどのみやびの質問を思い出した。

 

「好きって…どんな感情なんだろう…」

 

今まで恋愛なんてしたことがないしするなんて考えたことが無い…でも…

 

「知りたいなぁ…」

 

ふと自分の口からそんな言葉が出ていた。

 

 

 



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17話 臨海学校

「さーてっここで大発表ー♪」

 

悠斗たちは月見に呼び出され船の甲板に集まっていた。他の一年生も皆集まっていた。

 

「この船は間もなく目的の島にとーちゃくしまーす☆で、船がもうすぐ停まるから降りる準備をするよーに♡」

 

『…………?』

 

月見の言葉に周囲が何を言ってるのか分からなかった。

…何故なら

 

「…先生、陸がありません」

 

悠斗が全生徒の思いを代弁する。

無理もない。確かに目的地となる島は見える。……遠く数キロ先に。

 

「泳げってこと♡」

 

「泳げって…マジで言って…」

 

(ギロッ!!)

 

「…それは本気で言っているのですか?」

 

透流はとっさに月見にタメ口で聞こうとしたが、月見に睨みつけられて慌てて敬語を使った。

 

「もっちろん♪あっ、特訓も兼ねてるから制服着たまま泳いでね♡《超えし者》なら、それくらいこなさないとね♪」

 

月見の言葉に皆が騒ぎ出したが、悠斗はふとこちらを見下ろす九十九 朔夜を見つけた。

 

(…なるほど、自分のモルモットの生態をじっくり見ようってんのか…)

 

こちらを笑みを浮かべながらこちらを見る彼女を睨みつけていると、トラも彼女の企みに気付いたらしく、同様に彼女を見ていた。

 

「最終目的地は島の中央にある合宿所の建物だよ☆それじゃあ行ってみよ〜♪あっそれと、この間学期末の『昇華の儀』があったけど、レベルアップした子はともかく、レベルの上がらなかったダメッ子動物は絆双刃の足を引っ張らないようにね〜♪」

 

「………………っ」

 

月見の言葉に、みやびは悠斗の隣で少し顔を俯かせた。

みやびはこの間の《昇華の儀》ではレベルが上がらず《Ⅱ》のままだったのだ。そのことに彼女は落ち込んでいて、ここのところ元気がなかったのである。

 

「みやび…」

 

悠斗はそんなみやびに何か声をかけようとした瞬間

 

ガシャンッガシャンッウィィィン

 

突然甲板が揺れ出し、開き始めた。

 

「こ、これって…まさか…」

 

悠斗は何か察したが時すでに遅く、

 

「そんじゃ、とっとと行っちゃいなさーい♪」

 

皆まとめて海の中へと落とされた。

 

『うわぁぁぁぁぁぁ!?』

 

生徒たちは突然のことになすすべもなく海へと落ちていった。

 

「ぷはっ…ゲホッゲホッ…ホントこの学校やることが滅茶苦茶だ!!俺たちじゃなかったら下手すっと死ぬぞ!!」

 

「び、びっくりした…」

 

突然のことに悠斗は気管に海水が入り思いっきりむせた。

 

「そんじゃみやび…とりあえず島の方へ進むか」

 

「う、うん…」

 

悠斗とみやびはそのまま島に向かって泳ぎだした。

島までは果てしなく遠かったが、今の悠斗たちには泳ぎきれる距離であった。

悠斗はもともとボンゴレとして鍛えられていた身体にさらに《醒なる者》として目覚めたことで悠斗の身体能力は格段に上がっている。そのため悠斗は難なく泳いでいたがみやびは身体能力は《超えし者》として超化されていたがそれでも悠斗に比べて劣っておりかなり遅れていた。悠斗自身もみやびに合わせてゆっくり泳いでいたが、

 

「痛っ足が…」

 

突然みやびが溺れ出した。どうやら足を攣ってしまったようだ。

 

「みやびっ大丈夫か!?」

 

悠斗は慌てて溺れるみやびの元へ行き、彼女を抱き寄せると

 

 

 

「……っ!!」

 

「あっ…」

 

みやびの顔がすぐ近くにあった。

突然、悠斗は顔が急に熱くなってきた。

 

「わっ悪い……安静にした方が良いから岸まで俺がおぶるよ」

 

「あ…ありがとう」

 

「お、おう…」

 

それからは悠斗はみやびと何も会話せずに岸まで泳ぎだした。

 

(なんだ…?急に顔が熱く…風邪でも引いたか?)

 

悠斗も自分の反応の意味がわからず戸惑っていた。

 

 

その後、悠斗とみやびは島にたどり着き、合宿所へと向かっていった。みやびの足も浜辺で休んだ際に治ったらしく普通に歩けるようになった。

 

「大丈夫かみやびー?もう少しだぞー」

 

川の岩場を歩きながら悠斗は後ろからついてきているみやびへと声をかけた

 

「う、うん…なんだかわたし、悠斗くんの足を引っ張ってばかりで…」

 

「ははっ何言ってんだよ。そんなわけ…」

 

ツルッ

 

「きゃあ!!」

 

「…っ!みやび…うわぁ!!」

 

ドッポーン

 

突然みやびが足を滑らせ、悠斗は助けようとしたが、バランスを崩し、みやびと一緒に川へ落ちた。

 

 

 

「うへぇ〜ビショビショだなこりゃ」

 

悠斗は岩場へ腰掛け、濡れた制服を絞っていた。

 

「…みんな、もう到着しているかな…?」

 

「どうだろうな、まあ俺たちは俺たちのペースでいけば良いって」

 

みやびは悠斗の足を引っ張ってる自分が嫌であった。

彼一人なら、もうとっくにで目的地へと着いてる頃だろう。しかし、自分に合わせているせいでかなり時間が掛かってしまっているのだ。

 

「ごめんね悠斗くん…わたし…」

 

「それ以上は言うな」

 

みやびの言葉を悠斗は遮った。

 

「みやびは俺の絆双刃だ。みやびが自分を否定するってことは絆双刃の俺を否定することにもなるんだぜ」

 

「そ、そんなつもりは…」

 

「前にも言っただろ。みやびは俺が選んだ絆双刃だって。だから…自分に自身持てって」

 

悠斗の言葉にみやびは少し嬉しかった。

 

(やっぱり悠斗くんは優しい。私はそんな悠斗くんのことが好きになったんだ…)

 

「ちょうど良いや、ここで海の塩を洗い流そうぜ」

 

悠斗はそういうと、顔や腕に川の水をかけ始めた。

 

 

 

悠斗たちは目的地の近くまで来た頃には空も赤くなりだし、日が沈み始めていた。

 

「もう少しで目的地だみやび、頑張れ」

 

「う、うん。」

 

「よし、その意気…っ!!止まれみやび!!」

 

突然悠斗がみやびを止めて前方に警戒した。

 

「悠斗くん…?」

 

「そこに隠れているやつ!!出てこい!!!」

 

すると、周囲から複数の黒装束の集団が現れた。

 

(以前の奴らじゃない…?)

 

すると黒装束たちの周囲に、《焔》が舞った直後に。《焔》が形を成し、武器と化した。

 

「《焔牙》…!?」

 

「みやび、来るぞ!!」

 

すると黒装束たちが一斉に悠斗たちへと襲いかかってきた。悠斗はすぐさま《長槍》を使って黒装束へと攻撃を仕掛け、数名を薙ぎ払った。

 

「くそっ………こいつかなり強いぞ!!」

 

「一斉にかかれっ!!」

 

黒装束の一人の指示で複数の黒装束が一斉に悠斗めがけて襲ってきた。しかし悠斗は、

 

「俺を…舐めんな!!」

 

《長槍》を高速回転させて、全て薙ぎ払った。しかし、

 

シュルッ

 

悠斗の右手にワイヤーロープが絡まり、動きを封じられた。

 

「悠斗くん!!」

 

「くそっ……トラップか!!」

 

その隙を逃さずに黒装束たちが悠斗めがけて襲ってきた。

悠斗も左手だけで《長槍》を振るい何とか抵抗しているが機動力を封じられた上に足場が悪く思ったように動かずにいた。黒装束たちはそんな環境をうまく利用して悠斗に攻撃を仕掛けてきた。

 

「くそっ地の利は向こうにあるってことか…」

 

悠斗も《長槍》で防ぎつつあるが相手の攻撃はどんどん繰り出されて、悠斗もどんどん追い込まれていた。

 

(どうして…どうして動かないの…!?)

 

みやびは恐怖で動けずにいる自分が許せなかった。悠斗が必死で戦っているのに自分が動けない。《生存闘争》の時も自分のせいでみんなの足を引っ張ってしまった。自分はそれが許せなかった。

 

『みやびは俺が選んだ絆双刃だ』

 

『だから…みやびも自分を信じてくれ』

 

その時、みやびは悠斗の言葉を思い出した。いつも自分を応援して支えてくれた彼の事を思い出し、自然と口が動いていた。

 

「《焔牙》!!」

 

そしてみやびは自身の《騎兵槍》を振るって黒装束たちへと攻撃を仕掛けた。

 

「ヤァァァァァ!!」

 

「なっ……ぐわぁぁぁ!!!」

 

突然のみやびの攻撃に黒装束たちはなすすべもなく吹き飛んでいった。

 

「サンキューみやび、助かったぜ」

 

悠斗はみやびに感謝の言葉を述べ残った最後の一人の方を向くと、

 

「さて…これで残りはあんただけだ。降参するか?」

 

しかし、黒装束は手に持っている《大剣》を構えると悠斗にめがけて斬りかかってきた。悠斗も《長槍》でガードし、そのまま反撃するが、《大剣》でガードされ、カウンターをしてきた。

 

(この太刀筋………もしかして………)

 

悠斗は《長槍》で《大剣》の柄近くを突き、相手の《大剣》を弾いた。

 

「くそっ………以前より強くなってんな………」

 

「お前…もしかして…」

 

すると、黒装束が自身の顔の布を剥がすと、

 

「…っ勝元!!」

 

そこには、入学式で悠斗と闘い敗れた本郷勝元がいた。

 

「久しぶりだな悠斗」

 

 

 

 

 

「ようこそ、昊陵学園分校へ‼︎入学式やら本日の《焔牙模擬戦》とやらといろいろあったけど、その辺りは水に流すと言うかお肉と一緒に飲み込んで、今日から一週間よろしくお願いします‼︎」

 

みんなに向かって伊万里がそう演説すると、周囲から笑い声が聞こえ拍手をした。

 

「驚いたな…まさか分校があったなんて」

 

「俺も最初は驚いたぜ、なんでも《資格の儀》で敗れた生徒も希望があればこの分校への入学が許されたんだ。ま、環境も訓練もスゲー過酷だけど、毎日が充実してるぜ」

 

「なるほど、確かに以前より強くなってたな」

 

「ははは、てめえだってメチャクチャ強くなってんじゃねえかよ」

 

「フッ…まぁこっちもいろいろ修羅場をくぐってきたからな」

 

勝元の軽い文句に俺は笑いながら答えた。

 

「おいてめえっ!!」

 

すると、突然背後から声が聞こえ、振り返ると髪をオールバックにしたいかにもヤンキーって感じの男が話しかけていた。

 

「俺のことを覚えてるな」

 

男は敵意丸出しでこちらを睨みつけてきた。

 

「誰?」

 

「テメェェェ!!自分の過去をよく思い出しやがれぇぇぇぇぇ!!てめえに本校入りを断たれた猿渡 大輔(さわたり だいすけ)様をよぉぉぉ!!」

 

猿渡とか言う男の言葉を聞き入学式を振り返る…あの時は…入学式の最中にいきなり《資格の儀》が始まって…勝元と闘って…勝元が吹っ飛んで…みやびと闘ってた男が巻き添えに…

 

「あ、お前か…」

 

どうやら吹っ飛んだ勝元に押しつぶされてそのまま伸びてしまったあの時の男らしい…

 

「ここであったが100年目!!あの時の怨み…くらいやがれぇぇぇぇえ!!!」

 

猿渡さんは手の《片手斧》を振りかぶって飛びかかってきた

 

 

 

 

 

 

「きゅう………」

 

そして俺は一撃で猿渡さんを倒した。

 

「わりーな悠斗、俺の絆双刃が迷惑かけて…ちょっとこいつ適当な場所に運んどくから…」

 

そう言って勝元は猿渡の足を持ってどこかに引きずっていった

 

 

「さて…肝心のみやびは…」

 

「さっきの闘い凄かったです!!」

 

「さすが本校の生徒ですね!!」

 

するとみやびは分校の生徒数名に先ほどの闘いについて関心されていた。

 

「そ、そんな…私はそんなに…」

 

「当たり前さ、みやびは俺の絆双刃なんだぜ」

 

俺はみやびを褒めながらその一団に混ざると

 

「そういえば……男女の絆双刃って珍しいですね」

 

「しかも凄いイケメン!!」

 

「まさか二人は…キャー♡」

 

なんだか急に分校生徒の女子が盛り上がり出した。

 

「え、えぇぇぇぇ!?そ、そんな違うよ…(ツルンッ)キャッ」

 

慌てたため、みやびは足を滑らせてしまった。

 

「みやび!!」

 

俺は咄嗟にみやびを抱きかかえると

 

 

 

 

ムニュン

 

俺の左手が運が良いのか悪いのかみやびの胸をしっかりと掴んでしまっていた。

 

「………っわ、悪い!!」

 

「う、ううん、こっちこそゴメンね…」

 

俺とみやびは顔を真っ赤にしてしばらく黙っていると

 

「「「キャァァァァ♡」」」

 

なぜか女子たちがさらに騒ぎ出した。

 

「み、みやび…ここは一度離れるぞ…」

 

「う、うん…」

 

みやびと悠斗は顔を真っ赤にしてその場を離れた。

 

(…どうなってんだ?胸のドキドキが止まらない…今までこんな事一度もなかったのに…俺の身体…どうしちまったんだ?)

 

俺は自分の中に芽生えた感情に戸惑いを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

林の中

 

「準備は出来ました。あとは《神滅部隊》をお迎えするだけです」

 

『うむ、ご苦労じゃったな。やはりお前さんに任せて良かったわい』

 

「ありがとうございます。これで貴方の悲願は間も無く達成するかと…」

 

『うむ、後はこの最新型を《素材》に纏わせばもうこっちのものだ…それに、いざとなっても《ミスト》が残っている。奴のおかげで《焔牙》だけでなく《死ぬ気の炎》の力まで儂の《装鋼》に加えることができる…儂に敗北はあり得んよ』

 

「勿論です。それではまた何かあったら連絡します」

 

『うむ、よろしく頼むぞ』

 

そう言って影が電話を切った。

 

「これで…全てが終わる…」

 

闇夜の中、影の声が静かに溶けていった。

 



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18話 打ち明けられる想い

東京より百八十キロほど離れた南東の海上に、一般人の立ち入りを禁じられた島___

そこで迎える臨海学校の朝。

 

「う…ん…もう朝?」

 

みやびは陽の光を感じて目が覚めた。すると、なぜか身体が思う様に動かない…徐々に意識が覚醒していくと、

 

 

 

 

 

「zzz…」(ギュッ)

 

自分の身体が悠斗にしっかりと抱きしめられていた。

 

(え…えぇぇぇぇ!?ど、どうして悠斗くんに私抱きしめられてるの!?ど、どうしたらいいのかな…)

 

みやびは好きな人に抱きしめられている喜びと恥ずかしさでどうしたらいいか戸惑っていると…

 

 

 

「う…ん?」

 

悠斗が目を覚まし、みやびと目が合った。

 

「あ……え…………?

 

 

 

 

 

ピギャァァァァァ!!!!!!」

 

瞬間、悠斗の顔が燃えているかの様に真っ赤になり、なんとも言えない叫びをあげた。

 

「ゴ、ゴゴゴメンみやび!!!そんな…やましい気持ちはこれっぽっちも…と、とにかくゴメン!!」

 

「う…ううん…ちょっとビックリしただけだから…」

 

みやびも顔を真っ赤に染め、しばらく静寂が続いた。

 

「…とりあえずテントから出るか…」

 

「う…うん…」

 

(お、おかしい…最近の俺はちょっとおかしい…みやびの顔を見るとなんかドキドキしちまう…新手の風邪か…?)

 

悠斗は自身の気持ちに戸惑い続けていた。

 

 

 

 

 

臨海学校五日目___訓練がつつがなく終了した。強化合宿は本日まで。

六日目の明日は完全自由行動で、島外へ出ることは敵わないまでも、生徒たちがどのように過ごそうとも構わないのであった。

 

「お疲れ、合宿頑張ってたなみやび」

 

「う、うん…きっと悠斗くんのお陰かな…」

 

「え?」

 

みやびはボソリと小さな声で呟いたが俺はよく聞こえなかったらしい

 

「う、ううん。悠斗くんは明日予定決まってる?」

 

「いや、決まってないけど?」

 

「そ、それなら私たちと遊びに行かない?巴ちゃんたちと一緒に…悠斗くんが良ければだけど…」

 

「あ…ああ良いぜ。でも…遊びに行くってどこ行くんだ?この辺りって遊び場とかってないだろ?」

 

「え?海…だけど…」

 

「海?」

 

みやびの言葉に俺はポカンとした。

 

「…そういえば、海って遊べるんだった…すっかり忘れてたぜ」

 

「…プッ、フフフ」

 

「な、なんだよ笑うことないだろ」

 

「だって…悠斗くんってばフフッ」

 

「なんだよ…ハハッ」

 

悠斗の反応にみやびはおもわず笑い、悠斗もつられて笑ってしまった。

夕日の中、二人の笑い声が聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

「…では計画実行は明日の夜ということで?」

 

『うむ、お前さんの潜入もそれさえ済めばそれで終わりじゃ。ご苦労じゃったな、やはり念を入れてお前さんを学園に送り込んで正解じゃったわい』

 

「ありがとうございます。私も貴方が神を殺す力を完成させる日が来るのが待ち遠しいです。後の障害は天峰 悠斗ですが…」

 

『それも心配いらん。《ミスト》の専用機と奴のために作った特殊武装も調整が済んだ。幾ら天峰 悠斗と言えど奴には勝てんよ。それに…奴には切り札があるしな』

 

電話越しに《装鋼の技師》エドワード・ウォーカーは自信を持って答えた。

 

『いよいよだ…儂の悲願はようやく叶う…天をも穿つ…神殺しの部隊がな…』

 

「………はい、それで…成功した暁には…」

 

『うむ、ゴクマゴクでの地位を用意するよう約束する』

 

「…ありがとうございます…では」

 

『うむ、それではな』

 

電話が切れ、影は月を眺め…

 

「これで任務は完了、以前の名誉挽回にはなったはず…私にとって失敗したら存在する価値はない…必ず…のし上がってみせる…」

 

…静かに呟いた。

 

 

 

 

六日目、この日は完全フリータイムなので俺たちは海へと向かっていた。どうやら透流たちも参加している様だが、トラは寝ていて、タツも筋肉神に捧げる修行(なんだ筋肉神って?)でいないらしい。そこまでは良い、問題は…

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと…梓ちゃん…やめっ…ひゃうっ!」

 

「………なんなんですかこの大きさ…ていうかでかい上に柔らかいって嫌味ですかっ…」

 

「そんなこと言われても……ひゃあああっつ、摘んじゃ、めぇ…」

 

「なぁ透流…」

 

「…なんだ?」

 

「あいつら俺たちがいるの分かってんのかな?」

 

「奇遇だな、俺も今そんなこと考えてた。」

 

俺たちは洞窟前にいた。その洞窟は奥は十メートルほどで止まっており、その奥で女子一同が着替えており、俺たちは見張りに来ていたのだ…だが、女子たちはどうも男にとって毒な事をしており今に至っている。

 

 

 

もちろんその間も、女子のトークは続いており――

 

「良いですね大きいって、さぞや多くの男たちを落としてきたんでしょうね…《持ってる人》って良いですよね…ところでブラのサイズっていくつですか?ワタクシトッテモキニナリマス…」

 

「…それはちょっと…」

 

「…言わないならもっと攻めます」

 

「ひぁっひぁぁぁぁぁっ…い、言う、言うからぁ、え、Fだよぉ……んくぅううんっ‼︎はぁ、はぁ……はふぅ……」

 

「………っ!!?」

 

俺はみやびたちの会話を聞き、おもわず顔が真っ赤になってしまった。

 

(み、みやびは《F》…ファンタジーの《F》…いや、そういうことじゃなくて!これじゃただの変態じゃねえかっ‼︎)

 

ぼんやりと浮かんできた記憶を追い払うために、頭をひたすらぶんぶんと振りまくる

 

(しゅ、集中…! 今は見張りに集中しないと……!)

 

興奮した顔を手で覆うと、必死に自分へと言い聞かせている中 、その一方で着替えがもう少し時間が掛かって欲しいと思っていた

 

「……っ!!《F》…?なんですか《F》って!!えーそうですよ!!どうせ私は《B》ですよ!!!だからなんですか!!大きい方が正義なんですか!?」

 

「そ、そんなの知らな…ひゃうっ!」

 

「変ですね…柔らかい胸のはずなのに段々硬くなってきている部分がありますね… 」

 

「そ、そんな、私は…ひゃうっ!______っ!!ヤダよぉ…」

 

「そこまでだ梓!!」

 

「っ!?巴さん………」

 

突然、橘が助け舟を出した。

 

「それ以上みやびに狼藉を働くなら私が相手になろう!!」

 

「………(ギロッ!!)」

 

瞬間、梓は橘に狙いを定めた。

 

「………それは揉むなら私を揉めってことですか…考えたら巴さんも良い身体してるんでしたっけね…当てつけですか?貧乳の私への嫌がらせですか?そのでかいの半分よこせぇぇぇぇえ!!!」

 

「えっ…梓?ちょっ…まっ…いやァァァァ!!」

 

どうやら梓のターゲットは完全にみやびから橘に変わったらしい。それからも梓の怒りの叫びは洞窟内に響き続けていた。

 

 

 

数分後、海岸

 

「いや〜可愛い女子と海なんて良いよなぁ〜」

 

一緒に行くことになっていた勝元が俺の隣で鼻の下をのばしていた。俺たちはあの後、流石に耐えられなくなりこちらに避難したのだ。

 

「お前なあ…もうちょっと節操を持てって」

 

「はぁぁぁ!?お前馬鹿!?ゲイなの!?」

 

「ちげーよ!!!」

 

「ハハッお前ら仲良いな。」

 

二人の口喧嘩に透流は少し笑っていた。すると、

 

「お待たせ〜透流♪」

 

透流が振り向くと女子たちが水着姿で立っていた。

 

「どうですか?トール?」

 

「見惚れる気持ちもわかるけど…」

 

「なんか言うことあるでしょ?」

 

ユリエとリーリス、伊万里に感想を求められ、透流は少し戸惑いながらも

 

「ユリエはスゲー可愛らしいし、リーリスは華やかって言葉が合うよな、伊万里はスポーツ選手としてスゲー魅力的な身体をしている、橘はやっぱり綺麗だよな」

 

「梓はクールって感じだな。みやびは…」

 

と、みやびを見たが、みやびは上からパーカーを着ていて見ることが出来なかった。

 

「こーら、みやび。そんな野暮ったいもの脱ぎなさいって」

 

「で、でもわたし、泳ぐの苦手だし、みんなみたいに似合ってないから…

 

「えーいうるさーい、こんなもの、こうしてやる!」

 

そう言って伊万里はみやびのパーカーを引き剥がすと

 

ド――――――――ン!!

 

凄い、とにかく凄い、凄すぎた

平静を保つ事なんて出来ずに思考がおかしくなるくらいに

 

(お、落ち着け……俺)

 

何の話かって、勿論みやびの事だ。こんな言い方もアレだけど 海だけにスイカを思わせるサイズの胸が、ぷるぷるたゆんっと目の前で揺れて

あんな細い紐で支えきれるのかと、どうでもいい心配までしてしまう

 

「ゆ、悠斗くん…どう?」

 

「あ、ああ…すごい可愛いな」

 

「あ、ありがとう…」

 

こうして俺はなんとかみやびの顔をまっすぐ見て感想を言った。

 

 

 

「よしっ………俺たちも泳ぐか………」

 

「だなっ」

 

「…ていっ(ドカッ)」

 

「「グエッ!!」」

 

突然月見が悠斗と透流に蹴りを入れた。

 

「何すんだてめー!!」

 

「いや〜ウサ先生だけ放置プレイなんて、2人ともドSなんだから♪」

 

月見の水着はもはやバニーガールとしてしか見れなかった。

 

「どうかなどうかな、このビーチ仕様♪ どーんと感想言っちゃいなよ、YOU☆」

 

その光景にげんなりした様子の九重が力なく返してくる

 

「……いいんじゃないですかね。はまってますよ、ビッチ仕様」

 

「いやーん、ありがとぉ九重くん♡ ……ってゴラァ、誰がビッチだ?」

 

言葉の途中から顔を近づけ、ドスの利いた声で九重に囁く月見、そんな九重と月見のやり取りを見ながら苦笑していた 。

 

(というか、普段と全然変わらないよな…。これ)

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、今日は楽しかったな」

 

「ありがとな勝元、穴場を教えてくれて」

 

「良いってもんよ、気にすんな」

 

ビーチを満喫し日も沈み始めた頃、俺たちは帰る準備をしていた。

 

「…なぁ勝元、」

 

「なんだ悠斗?」

 

「実は折り入って相談が…」

 

俺はそう言うと、最近の自分の身体の違和感を相談した。すると、

 

「へぇ〜なるほどねぇ、やっぱお前も男ってわけだ」

 

ニヤニヤしながらこちらを見て笑った。

 

「お前、この症状の意味が分かんのか?なら教えてくれないか?」

 

「ダメだ、これはテメーで考えなきゃいけない問題だ」

 

しかし、勝元は教えてくれなかった。

 

その時、

 

「あっ!!」

 

突然、伊万里が大きな声を出して足を止めた

 

「どうした、伊万里?」

 

「さっきから何か忘れているような気がしてたんだけど、ポーチを洞穴に置いて来ちゃったみたいなのよ」

 

「……何だ、そういう事か。さすがに誰かに拾われる可能性は無いが、すぐに取りに戻った方が良さそうだな」

 

「そうね、そうするわ。……あ、いっけなーい。あたし、夕食の食材を広場に出す当番だったわ。

うーん、ポーチを取りに行くと、係をサボっちゃうことになりそうだし……」

 

「ここからなら、全力で走れば――」

 

「そうだ! ねえ、みやび。すっっっっごい申し訳ないんだけど あたしのポーチを取ってきてくれないかな? お願い、このとおり!」

 

「え……? えっと……う、うん。いいよ」

 

目の前でパンと手を合わされ、頷くみやびを見ながら思った

 

「(まあ、みやびなら断らないよなぁ……)」

 

押しが弱いという事もあるが、お人好しな彼女が

友達の頼みを断る姿が思い浮かばない

 

でも、そういうところが、みやびという女の子の良い点でもあるんだけど

 

「ありがと、みやび! ほんっとうに恩に着るわ! ……あー、でも女の子一人じゃ 万一何かあったら危ないかも知れないわねー。よくないわー、心配だわー」

 

なんか所々棒読みになっていた。

 

「そうだ!!だったらよ、悠斗がついていけば良いじゃねえか?」

 

突然勝元が大声で言った。

 

「勝元それナイスアイデアよ!!というわけだから悠斗ついてってあげて!!」

 

「お、おう………」

 

特に断る理由もないしみやびについていくことにした。

 

「よーし!!そんじゃあ俺たちはこの後用事があったし先行くか、行くぞ透流!!みんなも!!」

 

「そうね、早く行きましょうみんな」

 

そう言うと勝元と伊万里は互いを見つめ(ナイス)とアイコンタクトをして、透流たちを連れて行った。

 

そんな周囲のやり取りを静かに見ていた月見がぼそりと呟く

 

「………。みんなやっさしーねぇ☆」

 

妙な一言を口にする月見は放っておき 俺とみやびは洞穴のある岩場へと戻って行った

 

「あ……。ここにあったよ、悠斗くん」

 

まるで岩陰に隠すかのような場所にあり、だいぶ時間が掛かってしまったが、日が落ちて暗くなる前には分校へ戻れるだろう。みやびのストローバッグにポーチを入れ、肩を並べて夕暮れの砂浜を歩き出す。

 

「わ、あ……。綺麗……」

 

水平線へと近づいてきた夕陽と、きらきらと輝く海を見て、みやびが呟く。

 

「確かに……これはすごいな……」

 

みやびの感想に同意し、足を止めて見入る。昼間、俺たちが遊んだ海岸が、まるで絵はがきに見るような幻想的な風景と化していた。

 

「…そういえばさ、前に言ったよな、俺がマフィアの人間だって」

 

「…うん」

 

「あの時な、正直怖かったんだ。みやびたちに軽蔑されるんじゃないかって、でもみやびも透流もみんな受け入れて今までと同じ様に接してくれた。…ありがとな」

 

裏社会の人間である俺を知ってもなお仲間と言ってくれたとき、本当に嬉しかった。

 

「そ、そんなっ私は悠斗くんが悪い人じゃないって分かってただけだから…」

 

俺の突然のお礼にみやびは顔を真っ赤にした。

 

俺たちははそのまま浜辺を歩いていた。俺は夕日を見ながら勝元の言っていたことについて考えていると、

 

「ねえ悠斗くん」

 

夕焼けに染まる世界の中で、みやびが言葉を紡ぐ。

 

「…?どうしたみやび?」

 

「いっぱいいっぱい…ありがとうね、もし悠斗くんがいなかったら…今の私はいなかった…あと____」

 

直後に続く言葉は、本来ならば波音に紛れるほどに小さな小さなつぶやきだった。

 

けれど____

 

幸か、不幸か___

 

偶然にもその一瞬だけ、波の音が止んだ。

 

「大好き、だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え?」



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19話 少女の涙と襲撃

俺の驚いた表情に、一瞬でみやびの顔色が変わる。やってしまったとばかりに、口元を手で隠すも___もう、遅い。

 

「聞こえ、ちゃった……?」

 

俺はあえて答えない。けれど沈黙こそが、答えだった。足元へ視線を落とし、俺へ向けてなのか、それとも自分へ対してなのか、言葉を続ける。

 

「あ、あはは……。聞こえちゃった、よね……。え、えっとね、本当は波の音に紛れて、聞こえないように言うつもりだったの。そうしたら悠斗くんが、何て言ったんだって聞いてきて、ううん何でもないよって答えて……後で、いつもよりも頑張ったよねって自分に言えて……それで……それだけで、良かったの……」

 

「みやび……」

 

呼び掛けると、みやびはびくんと肩を震わせ___ゆっくりと、顔を上げる。

 

「あの、あのね、悠斗くん……。聞いて、欲しいの……。さっき聞こえちゃったけど……。それでも聞いて欲しいの……!」

 

顔をこれ以上無いというくらいに真っ赤にし、それでもまっすぐに俺を見つめ___思いの丈を、伝えてきた。

呼び掛けると、みやびはびくんと肩を震わせ___ゆっくりと、顔を上げる。

 

「好き、なの……。まだ知り合って、短いけど……それでも、好きなの。わたしに優しく声をかけてくれたあのときから…ずっと……好きだったの……。だから……だから、悠斗くんのことが……大好きなの‼︎」

 

波の音が響く中でも、はっきりと届く告白。まっすぐな想いとともに、不安に揺れる瞳を向けられる。

 

俺は驚きを隠せなかった。すぐ側にいたというのに彼女の気持ちに全く気づけずにいたのだ。

しかし、それ以上にまさか自分の様な男を好きになるやつがいるなんて思ってもいなかった。天峰 悠斗は裏社会において《天狼》と恐れられる存在だ。闇組織に雇われたことだってあるし、時には人を殺したことだってある。ツナの守護者の中でも特に闇の中にいた1人だろう。そんな自分を受け入れてもらえただけでも嬉しかったのにまさか告白されるなんて思ってもみなかった。だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…その…えっ…と…」

 

言葉が纏まらず、戸惑ってしまった。

刹那___思考が顔に出た。出てしまった。不安を抱えて尚、俺を見つめ続けていたみやびは、その一瞬を見逃さなかった。

しまったと思ったときには、既に遅く__みやびの表情は、みるみるうちに泣き出しそうなものへと変わり___それでも精一杯に、笑った。

 

「あ……。あは、は……。やっぱり、そう……だよね……。わたしなんかに好きって、言われても……迷、惑……だよ、ね……。ご、ごめんね……!」

 

「みやび………!!」

 

砂浜を駆け出すみやび。その名を叫ぶも、俺は足が動かなく、追いかけることが出来なかった。

 

「みやび……」

 

夕暮れの海岸で立ち尽くしたまま、小さくなっていく背中を見つめ、呟く。その姿が岩陰の向こうに消えた後、

 

「何…やってんだよ…俺…」

 

その時、みやびの笑顔が浮かんできた。いつもみんなに慕われる優しくて、明るいみやび、

 

あの笑顔を、俺が壊してしまった。

 

「くそっ……!」

 

俺は自分の過ちに酷く後悔した。しかし、事実は決して変わらない

 

しかし、どう答えれば良い。俺のような裏社会の人間に必要以上に関わればさらに危険に巻き込むことになる。何より…俺の手は汚れてる。こんな俺なんかを好きになったら…だけどどう応える?まっすぐに俺を見て、思いの丈を伝えてきた少女に俺はどう応えればいい。いっそのこと冷たくして突っぱねるべきか?いや、そんなことは出来ない…

 

日が落ち、月が出ている空を砂浜に寝転びながら見ている。

 

(……はぁ、これからどうやって声をかけりゃいいんだよ……)

 

今の時間帯だと広場では夕食を準備している頃だろう。俺は今もみやびのことを考えていた。

 

すると、「ドゴォン‼︎」と、凄まじい爆発音が耳に入ってきた。俺は直ぐに体を起こし、爆音の方を見ると、それは広場の方からで、広場からは炎と黒い煙がもくもくと立っていた。

 

「な…こんなとこまで攻めてくんのかよ!?」

 

俺はは怒りを覚えながら、炎の方向へと向かっていった。

 

「始まりましたか…これで任務は達成したも同然…」

 

岩の上から、炎を見つめ影が呟く。

争いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

「すまない!遅れた!」

 

「もう、何やってたのよ⁉︎みやびはどうしたの?」

 

俺が急いで広場へ行くと、そこには戦闘服を着た連中と戦っている伊万里達がいた。

 

「先に来てないのか⁉︎___っ!それにしてもなんだ、あれは……?」

 

広場で闘う、巨大な環状の刃が目に入った。

 

「あれは月見の《焔牙》の真の能力だそうだ。なんでも《焔牙》は《Ⅳ》になると真の力を解放できるらしい」

 

透流が悠斗と合流しながら説明した。

 

「透流っ!無事だったか!?」

 

「まあな、みやびが見当たらないけど…」

 

「…っそれが」

 

「悠斗、透流!無事だったか!?」

 

そのとき、巴が悠斗たちと合流した。

 

「橘か、梓がいない様だけど…」

 

「ここにいます」

 

草むらから梓がでてきた。

 

「梓!!よかった、無事だったんだな!?」

 

「すいません、心配かけました…途中ではぐれたとき、敵と遭遇して…」

 

ドカァァァン

 

そのとき、洋館の方で爆発が起き、辺りに破片が散った。

 

「トラ…あの洋館に誰かいるか?」

 

「理事長とブリストル、あとあの執事がいたと思うが…」

 

「クソッ!」

 

俺がもっと早く来ていればリーリス達を危険にさらすことは…ほんとに自分が情けない!!

 

「透流、そっちは頼めるか?…俺はみやびを探しに行ってくる」

 

「私も行くわ!島に詳しい人がいた方が良いでしょ?」

 

伊万里も心配して声をかけた。

 

「伊万里…すまん、俺一人で行かせてくれ…頼む」

 

「悠斗…」

 

伊万里は悠斗の様子から『もしかして』と思った。そして自分のおせっかいが余計なことをしてしまったのではないかと思った。悠斗はそのまま森の方へと向かおうとした

 

「悠斗!!」

 

そのとき、勝元が悠斗を呼び止めた。

 

「詳しくは聞かねぇけどなぁ…しっかりあの子と向き合え…『答えを出さねえ』ってのが一番相手を傷つける行為なんだからな」

 

「勝元…わかってる…」

 

俺はそのまま森へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ…みやび…何処にいるんだ。」

 

俺は草や枝を掻き分けながらみやびを探していた。途中で《装鋼》を纏った敵と接触したが俺は全て一撃で倒していた。

森の奥まで探していると、

 

「待ッテイタゾ」

 

森の奥から他の《装鋼》と明らかに違う《装鋼》を纏い、仮面をつけた男が立っていた。

 

「《ミスト》…テメェ…」

 

「以前と同ジト思ウナヨ、既に《装鋼》ハ調整済ミ。オ前ヲ倒ス武装モ用意シテアル」

 

そういって手に機械のパーツで覆われた両刃剣を取り出した。

 

「俺ハ遂ニ最強ノ力ヲ手ニ入レタ。俺ノ居場所ヲ奪ッタオ前達ニ復讐スル。」

 

「さっきからなんなんだお前は!!正体を明かしやがれ!!」

 

「…マダ分カラナイノカ…良イダロウ仮面ヲ取ッテ話シテヤル」

 

そう言うと、《ミスト》は自身の仮面を外した。

 

「ヨク目ニ焼キ付ケロ…コノ…

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の顔をな」

 

「……っ!!!………テメェは…」

 

そう言って仮面を外した《ミスト》の顔を見て俺は驚愕した。そう、俺はその顔を知っていた。何故なら、その男はかつて未来でボンゴレが戦った敵なのだから、俺自身は《奴》とは戦っていない…彼と戦ったのは八年後の雲雀 恭弥とボンゴレ雨の守護者山本 武、そして自分たちのボスである沢田 綱吉だけであるからだ。しかし、彼のことはよく知っている。何故なら《奴》はその時代において最強の剣士と呼ばれていたのだから…その男の名は…

 

 

 

 

 

 

「幻騎士…」

 

 

幻騎士、未来で巨大な勢力を誇っていた《ミルフィオーレファミリー》で霧の六弔花となっていた剣士である。その力は六弔花の中でも高い実力を持っており、リボーンですら、『体技においては雲雀に匹敵する』と言わしめた男である。

 

「どうなっている…何故テメーがここに…」

 

「俺がここにいるのは全てのボンゴレを滅ぼすために、まずはお前を倒すためだ天峰 悠斗。俺の協力者の標的がいる学園にお前がいたからな」

 

「…ボンゴレを倒すってんのはどういうことだ?白蘭の敵討ちってわけでも無さそうだしよ」

 

「な訳が無かろう…白蘭を崇拝していたのは未来の俺であって俺ではない」

 

「…?ますますわかんねーぞ、白蘭のことじゃねーんなら何だってんだ、」

 

「…貴様らが白蘭を倒したあと、その時代の記憶が過去の本人たちにも伝わった…そう、俺がファミリーを裏切ったという記憶もな」

 

幻騎士は怒りの形相で俺を睨みつけた。

 

「貴様らのせいで、俺はジッリョネロでの居場所を失った…だからお前たちを倒す!!」

 

「…なるほど、テメーの動機は分かった。だけど俺は殺されるつもりはねぇ!!俺自身も今虫の居所がわりーからな、手加減しねーぞ!!!」

 

俺は白い炎を帯びた《長槍》を構え、幻騎士に強烈な突きを繰り出した。しかし、幻騎士はそれを両刃剣で防ぐと、両刃剣に藍色の炎を纏わせ、巨大な剣撃を放った。

 

「うおっ!?」

 

俺がそれを何とかかわすと、背後の大岩がいとも容易く真っ二つになった。

 

「…チョイスのときよりもやけに強くなってるみたいだな…」

 

「あのときの俺を基準にするな。もう俺に油断などは無い。完膚なきまでに叩きのめしてやる。」

 

「…どうやらそうみたいだな、だから本気出すぜ…こいっガロ!!」

 

俺の首にかけてあった《雪のチョーカーver.X》に銀色の光が輝くと、そこから白銀の毛並みにあちこちに装飾をつけた狼、《雪狼(ルーポ・ディ・ネーヴェ)ver.X》こと、ガロが現れた。

 

「頼むぞ、ガロ」

 

「ガルルル…」

 

「…それが貴様のVG(ボンゴレギア)か…面白い、見せてみろ」

 

そう言うと、幻騎士は自身の匣兵器に霧の炎を注入し、自身の匣アニマル《幻海牛(スペットロ・ヌディブランキ)》の幻覚空間を作り出した。

 

「くらえっ!!!」

 

幻騎士な合図とともにミサイルが出現し、俺へと発射された。しかし、俺はそれをいとも容易く避け、幻騎士へと攻撃した。

 

「今度はこっちの番だ!!」

 

と、言いながら幻騎士に突きを放つが、幻覚で姿を消し、死角から攻撃を繰り出してきた。しかし、俺も反応し、幻騎士の剣を掴むと、槍を幻騎士に向けて

 

「くらいやがれ!!」

 

渾身の突きを繰り出した。しかし、幻騎士の両刃剣から大量の炎が一気に放出され悠斗も思わず吹き飛んでしまった。

 

「死ぬ気の炎をチャージして一気に放出する…厄介な剣だなそれ」

 

「《機巧・幻剣(マキナ・スペットロスパダ)》…《装鋼の技師》が俺専用に作った特殊武装だ。性能は未来の俺が使っていた《幻剣(スペットロ・スパダ)》をはるかに凌駕する」

 

「…そうかよ、確かに破壊力はトンデモねーようだけどな」

 

「…俺は貴様を倒す。この新たな力でな」

 

幻騎士は自身の剣を俺に向け、そう宣言した。

 

「わりーが俺も負ける気は無い…だから…これで終わりにする」

 

そう言うと俺は息を思いっきり吸い、

 

「いけっガロ!!」

 

すると、ガロは超スピードで走り出し、幻騎士に攻撃を繰り出してきた。しかし、幻騎士はそれを容易く見切っていく。

 

「…これでもう終わりか?」

 

「ああそうだ、テメーの負けだ」

 

「…っ!?」

 

突如上から悠斗の声が聞こえ、幻騎士が上を向くと悠斗が空中を走りながら幻騎士へと攻撃を繰り出していた。

よく見ると、空間に無数の氷の道が出来ていた。

 

(これは…あの狼の能力か!?)

 

悠斗の匣兵器《雪狼》は走りながら高密度の雪の炎を放出し、空間を凍らせる。それによって悠斗は空間全てを使った立体機動を可能としたのだ。

 

「狼王一閃!!」

 

悠斗の渾身の一撃が幻騎士へと当たった。そして、幻騎士はそのまま意識を失った。

 

「よし…早くみやびを探しに行かねーと」

 

「…なるほど、確かに良い一撃だったな…当たっていれば」

 

「っ!?」

 

声の先には先ほど倒したはずの幻騎士が平然と立っていた。

 

「霧の幻覚…でも全く気づかなかった、幻覚の精度が以前と全く違う…」

 

「力を手にしたのはお前たちだけでは無い。俺は、お前たちの戦った未来の俺よりも遥かに強くなっている…このまま貴様を倒したいところだが…終了のようだ、帰らせてもらう」

 

すると幻騎士の手にある無線機から連絡が入っていた。

 

「…このまま逃すと思っているのか?」

 

「ああ、そのつもりだ…いや、もう逃げさせてもらった」

 

すると、幻騎士の身体が徐々に消えていった。

 

「幻覚…!?っまさか、もうここには…」

 

「欺いてこそ霧…この様子なら、次に会う時に貴様を殺すのは訳無さそうだな…ではまた会おう天峰 悠斗、次に会うときは貴様の最期だ」

 

そのまま幻騎士は姿を消していった。

 

「完全にしてやられた……くそぉ!!!」

 

俺は怒りながら近くの木を殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コッコッコッ

 

暗い廊下を二人の影が歩いていた。

一人は白衣の老人《装鋼の技師》エドワード・ウォーカー、もう一人は悠斗の絆双刃穂高みやびだった。

 

「…本当に強くなれますか?」

 

「ああ、己の弱さを知る者こそ真に強くなれる素質を持つ…このわしが保障しよう」

 

みやびの問いに《装鋼の技師》は当然のように答えた。

そして、奥にたどり着き、目的のものをみやびに見せ、

 

「お嬢さん、そなたにきっかけを与えよう…心の底から強くなるためにな…」

 

みやびはその《悪魔の囁き》を聴き、《それ》を見つめ、

 

(強くなれば…悠斗くんは…)

 

偽りの力を求めてしまった。



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4章 天に覇を成す狼
20話 本心と覚悟


翌朝___分校組との別れがやってきた。波止場に立ち、船を見送る分校組。彼らの判別がつかなくなって来ると、船尾デッキから十人近くいたクラスメイトが一人、また一人の次々に船内へ入っていく。最後まで残ったのは悠斗だけであった。透流たちは少し離れたところからその様子を見ていた。

 

「みやび…」

 

悠斗は自分が不甲斐なくて仕方がなかった。絆双刃のみやびを傷つけてしまったばかりかその行方もわからず、悔しさ以上に情けなかった。

 

「何がボンゴレの守護者だよ…ちくしょぉ…」

 

「悠斗さん…そろそろ…」

 

すると、背後から梓が声をかけてきた。

 

「みやびさんは分校の皆さんが全力で探してくださるそうです…大丈夫ですよ。必ずみやびさんにはすぐ会えるはずです」

 

島の方は伊万里たち分校組が捜索するそうだ。学園の方でも捜索するらしい。

 

「……分かった。悪いな」

 

「気にしないでください。私もみやびさんが心配ですから」

 

梓の言葉を聞きながら島を見つめた。

 

「みやび、すまない。先に昊陵学園で待ってるぞ……」

 

船は東京へと向かっていった。

 

 

 

 

 

臨海学校から戻ってきて最初の土曜日を迎えた。時期的に世間はすっかり夏休みムードだが、昊陵学園において関係の無い話だ。最低限の一般教養の授業に加え、昊陵ならではの技能教習___戦闘技術の訓練時間を考慮して、夏休みはお盆を中心とした一週間にも満たない連休があるだけだ。そういったわけで七月下旬の今日も、学校へ向かった。

 

教室へ入ると、始業間近だというのにクラスメイトは退学者を除いても七割程度しか登校していなかった。進退を悩んでいる奴らが、不登校気味となっているためだ。

俺は室内にいるクラスメイトを見回し、その中に自身の絆双刃の___みやびの姿が当然のように見当たらないことで、ため息を漏らす。

それもそうだ、みやびは未だに見つかっていなかったのだから。

 

『大好き、だよ』

 

 

まっすぐに俺へと向けられたみやびの告白、しかし俺はそれに答えられなかった。

裏社会の人間として生き続けた俺、そんな俺のことを理解した上でみやびは俺に『好き』と言った。

俺はそのことに戸惑い、結果、彼女を傷つけてしまった。

 

「みやび…何処にいるんだよ…」

 

 

 

 

今日は臨海学校以来となる格闘訓練が行われることとなった。臨海学校で負傷した生徒が二桁を越えたため、先週は座学中心となっていたので体を動かす訓練は久しぶりになる。訓練は打撃や投げという格闘術の基礎修練を主とし、《無手模擬戦(フィストプラクティス)》が終わり、本日の最後の訓練は、一対一の《焔牙模擬戦(ブレイズプラクティス)》を行っていたが___

 

「はぁ!!」

 

「くっ…」

 

悠斗は橘と戦っていたのだが、橘の動きに翻弄され、思うように戦えていなかった。

 

「どうした悠斗!?キミの実力はこんなものではないだろ!?」

 

「くそっ…オラァ!!」

 

悠斗も反撃するが動きにキレがなく、すぐに橘に翻弄されてしまった。そして、一瞬の隙を突いた橘が《鉄鎖》で悠斗の足を縛り橘の勝ちとなった。

 

 

 

「はぁ…」

 

俺は訓練所の外でスポーツドリンクを飲んでいると…

 

「隣良いか悠斗?」

 

横から橘がペットボトルのお茶を持って話しかけてきた。

 

「橘…別に良いぜ」

 

橘は隣に座るとお茶を飲みはじめ、

 

「今日の訓練は雑念だらけだったな悠斗」

 

「…すまん」

 

橘の言う通りである、今日は自分でもわかるほど闘いに集中できていなかった。

 

「気にしなくて良い…しかし悠斗、あまり自分を責めるな。」

 

「…違うんだよ……」

 

「あれはキミ1人の所為じゃない…我々の責任でも…」

 

「違うって言ってんだろ!!」

 

「…っ!?ゆ、悠斗?」

 

突然怒鳴ってきた俺に橘は驚きを隠せなかった。

 

「…悪い、急に怒鳴って…でも違うんだ…そうじゃないんだよ…」

 

「悠斗…?」

 

「俺…お前たちと別れた後……みやびに告白されたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?えぇぇぇぇぇ!?」

 

俺の突然の言葉に橘は驚愕した。

 

「な…そ…その…こ、告白?それってつまり…みやびが悠斗に…」

 

「ああ、好きって言われた…」

 

「そ…そうか…それで…なんて答えたんだ?」

 

橘は取り乱しながらも俺に聞いてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…答え…られなかった…」

 

「…………!!!」

 

その返事に橘は悠斗の顔を見た。

 

「だってそうだろ?俺は裏社会の人間だぞ…俺みたいな奴なんかを好きになっちゃ…みやびを危険に巻き込んじまう…だけど…俺にはみやびを突き放すことが出来なかった…ただ…取り乱して何も答えられなかったんだ…」

 

「……………………」

 

「その所為で…俺はみやびを…」

 

「この…」

 

「…え?」

 

「この大馬鹿ものがぁぁぁ(バッチーン)」

 

「ってぇ!?」

 

突然橘が悠斗の顔を思いっきり殴った。

 

「な…なにを…?」

 

「キミは…それがどれだけみやびを傷つけたのかわかっているのか!?」

 

橘は悠斗へ怒りを露わにした。

 

「橘…?」

 

「悠斗…私はな…幼い時から恋愛というものをした事がない…しかしな…それでも告白というものをするのがどれだけ勇気が必要かはわかる…みやびはその時…とても勇気を振り絞ったんだと思う…だから!!悠斗がその告白に答えを出さなかった事が許せない!!」

 

橘は許せなかったのだ…女だからこそ好きな人に気持ちを伝える事がどれだけ勇気がいる事が分かった…だからこそ、それに答えを出さなかった悠斗が許せなかったのだ。

 

「…分かってる…勝元にも言われたよ…『答えを出さねえ』ってのが一番相手を傷つけるって…だけど…なんて答えりゃ良いんだ…なんて答えるのが正解なんだよ…」

 

「決まっているだろ」

 

「…え?」

 

「キミの本心を伝えるんだ、キミのみやびをどう思っているのか考えてみろ」

 

「俺の…本心…」

 

悠斗は橘の言葉を繰り返し、自分の気持ちを振り返ってみた。

 

恥ずかしがり屋だけど、優しく可愛らしいみやび。そんなみやびと絆双刃になり、いつの間にかそんな彼女に心を許していた。そして気づけば彼女のことになると胸が苦しくなるようになった…そうか…

 

「俺の気持ち…ハハッ…考えるまでもなかったな…」

 

悠斗は自分の気持ちに気づいた。穂高 みやびへの自分の想いに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は…みやびの事が好きなんだ」

 

そう、考えるまでもなかった。俺はみやびが好きだったのだ。ただみやびを失うことが怖かったのだ…………気づいた途端、自分の中の何かが吹っ切れた

 

「ありがとう橘…おかげで吹っ切れた」

 

俺はそう言うと立ち上がり歩き出した。

 

「悠斗、何処に…」

 

「ちょっと用事ができた」

 

そう言うと、目的の場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

〜理事長室〜

 

「…まさか貴方の方から来るとは思いませんでしたわ」

 

俺は理事長室で朔夜と対峙していた。

 

「あんたに聞きたい事がある」

 

「《焔牙》の真の力のことですね?」

 

俺の問いを聞くまでもなく朔夜は聞き返した。

 

「…お見通しってことか。なら話が早い…教えてくれ…俺はどうすれば真の力を解放する事ができる?」

 

俺の問いに朔夜は笑みを浮かべた。

 

「貴方は《醒なる者(エル・アウェイク)》。《黎明の星紋(ルキフル)》を投与された《超えし者(イクシード)》とは違いますからね。…ですが心配いりませんわ。貴方が強く力を求めた時、それは目覚めます」

 

「…そうかよ、そんじゃとりあえず信じてみるよ。必ず手にしてみせる」

 

そう言って俺は部屋から出て行こうとすると、

 

「天峰 悠斗、貴方には《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》に至る素質がありますが仮に貴方が至ったところで私の歩みは止まらない…ですが…見てみたいですわ、貴方が行く先を…………」

 

朔夜の言葉を聞き理事長室を去っていった。

 

 

 

 

 

 

幻騎士はもともと歴史あるマフィア、ジッリョネロファミリーのメンバーの一人であった。しかし、ある日突如見た夢、それは未来での記憶だった。未来の自分はファミリーを裏切り白蘭と言う男に忠誠を誓っていた。

その日から彼の周囲の視線が今までと別なものに見えるようになった。まるで自分を『裏切り者』と蔑んでいるように見えた。γも太猿もそんなことは思っていなかっただろう…しかし、幻騎士はとうとう耐えられなくなりジッリョネロファミリーを去った。

しかし、幻騎士は裏社会では名の知れた存在ゆえ、何度も命を狙われた。たいていの敵は倒すのは容易かったがそれでも徐々に精神は疲弊していった。

 

なぜ自分がこんな目にあうんだ。未来の俺だって命の恩人であった《彼》に忠誠を誓っただけじゃないか。なぜ…………そうか、ボンゴレの所為だ。奴らが余計なことをした所為だ。だから自分がこんな目にあったんだ。憎い…にくい…ニクイ…ボンゴレガユルセナイ…

 

 

『少し良いかの?』

 

ある日、自分が隠れ家にしている廃墟に白衣の老人が訪ねてきた。

 

『何者だ貴様?』

 

『儂はエドワード・ウォーカー、《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》と呼べばわかるかね?』

 

《装鋼の技師》…裏社会でもヴェルデ、ケーニッヒ、イノチェンティ同様名の知れた技術者であった。幻騎士はその男の突然の申し出に興味を持った。

 

『…何が目的だ?』

 

『いやなに、儂の発明した《装鋼》をお前さんに纏って欲しいんじゃよ。無論ただとは言わん。お前さんの要望には出来るだけ答えよう』

 

《装鋼の技師》の言葉に幻騎士は興味を持った。もしその装備が強力ならボンゴレに復讐する良いチャンスだ。うまいこと利用出来る。

 

『…なら俺の復讐に協力しろ』

 

その言葉に《装鋼の技師》はニヤリと笑い

 

『良いだろう、交渉成立だ』

 

 

 

 

 

 

幻騎士がふと目を覚ますとそこはアジトの研究室の部屋の隅であった。

 

「…夢か」

 

幻騎士は最近見ていなかった夢に溜息をつくと

 

「さて…《装鋼の技師》は何処に…」

 

ドコオォォン

 

「…?」

 

突然近くから大きな音が聞こえ、その場に向かうと…多数の《装鋼》を纏った《神滅部隊》が最新の《装鋼》を纏った少女に倒されていた。

 

「これは…」

 

「遂に我らの研究が完成したのですよ《ミスト》…いえ、もう素性を隠す必要が無さそうなので幻騎士と改めて呼ばせていただきますが良いですか?」

 

すると、背後から金髪の青年《K》が現れた。

 

「…名前などどうでも良い。それより《装鋼の技師》は何処だ?奴に用がある」

 

「儂ならここじゃ」

 

幻騎士の問いに《装鋼の技師》エドワード・ウォーカーが現れた。

 

「どうじゃ幻騎士?《彼女》こそ儂の研究の成果じゃ…なかなか見事じゃろ?ただの少女でさえこれだけの力を発揮する…儂の部隊にこの力を加えればもはや恐れるものはない…儂の《装鋼》の力はお前さんがよくわかっているだろう?」

 

「…あぁ、確かに良い力だ…俺の力がここまで強化されるとはな…貴様には感謝している。この力なら沢田 綱吉であろうと恐れることはない…」

 

「そうかそうか」

 

幻騎士の言葉に《装鋼の技師》は満足そうに頷いた。

 

「だか油断は出来ん…例の装備は完成しているか?」

 

「あぁ、もう調整済みじゃ。お前さんの《装鋼》に組み込んでおこう」

 

「感謝する、その力で天峰 悠斗を……っ!?」

 

 

ガキィィィン

 

 

突然少女が幻騎士に攻撃を仕掛けてきた。幻騎士は咄嗟に《機巧・幻剣》を抜き防ぐが、強力な一撃に後ろに下がった。

 

「貴様…何の真似だ?」

 

「駄目だよ…悠斗くんを傷つけるなんて…許さないよ…」

 

少女の目は虚ろであった。おそらく洗脳の類で操られているのだろう

 

「ふむ……すまんが幻騎士、天峰 悠斗は彼女に任せてくれんか?その代わり他のボンゴレを倒すのは全てお前さんに任せると約束しよう…」

 

「貴様……まあ良いだろう…その時は天峰 悠斗はその程度であったということだからな」

 

幻騎士と《装鋼の技師》の会話の中、少女は虚ろな目で

 

「待ってね悠斗くん…私…こんなに強くなったんだよ…」

 

愛しい彼の名を呼んだ。



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21話 殺破遊戯

「《七芒夜会(レイン・カンファレンス)》ねぇ…」

 

現在学園の外には昊陵学園の卒業生で現在はドーン機関所属の護綾衛士(エトナルク)が周囲を警護しており、一般生徒は外出禁止、《Ⅲ》に至っている生徒は警護の手伝いをしていた。その理由は《七曜(レイン)》と呼ばれる七人の宴《七芒夜会》が開かれるからだ。俺は他の護綾衛士とともに持ち場で警護をしていた。

 

(それにしても…ボンゴレ以外にも巨大な組織があるって改めて思うな…正直ボンゴレが最も巨大な組織って思っていたからな…なにより…)

 

「表情が固いぞ、後輩」

 

俺が考えていると護綾衛士の一人が話しかけていた。

 

「気を張るのもほどほどにしとけよ、もしことが起きても俺たちに任せておけ、良いな?」

 

「…はい、ご指導よろしくお願いします」

 

「まぁ何事もないのに越したことはないがな…」

 

「そうですね、平和なのが一番ですよ」

 

俺は護綾衛士の心配する言葉に表情を柔らかくして返答した。

 

(無駄に気を張っても仕方がない。落ち着いておかないとな…)

 

 

 

 

 

「同盟…?」

 

「左様、良い話じゃろ?」

 

《装鋼の技師》の言葉に朔夜はもちろん、他の《七曜》も驚きを隠せずにいた。

 

「素晴らしい(トレビアン)。まさか《七曜》の中より、手を取り合おうという意見が出ようとは」

 

華やかな軍服の青年、《颶煉の裁者(テンペスト・ジャッジス)》クロヴィスが感心の声をあげた。

 

「そいつぁ興味深いね。たしかに爺さんの《装鋼(ユニット)》と、嬢ちゃんの《超えし者(イクシード)》は相性がいいかもしれんしなぁ」

 

「噂で耳にしましたよ。貴方がかねてより口にしていた《装鋼》が、もう完成まじかと」

 

「ふははは、さすがに耳が早いのう」

 

どこから得た情報かと問うたとしても、《裁者(ジャッジス)》ははぐらかすだろうことをわかっているからこそ、《技師(スミス)》も追求せずに笑う。

 

「それで、先ほど話をした同盟についての答えを頂けるかの」

 

改めて答えを求める痩躯の老人へ、朔夜は告げた。

 

「お断りしますわ」

 

「…………ほう?」

 

「以前、《装鋼の技師》様は仰いましたわね。私たちと貴方は近い、と……。たしかにそのとおりですわ。《黎明の星紋》も、《装鋼》も、外的要因にて人を超えさせる___その一点においては同じでしょうね。……ですが、それだけですわ」

 

ここで朔夜は見る者の背筋がぞっとするような冷たい笑みを浮かべた。

 

「それに___私、気付いていますのよ」

 

「気づくじゃと?いったい何にじゃ」

 

「貴方の真意、ですわ」

 

朔夜の一言に、エドワードの眉が僅かに動いた。

 

「《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》様。貴方は十二年前、私の祖父《操焔の魔博(ブレイズ・イノベイター)》に敗北していることを。《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》を知り、祖父は至る道を、貴方は滅する道を選び___結果、貴方がブリストル様たち機関三頭首(バラン)に切り捨てられたということを、過ぎし日の野望を実現させようとしているようですが、そんな世迷言に付き合ってられませんわ」

 

朔夜の言葉に周囲は沈黙し、《装鋼の技師》もしばらく沈黙していたが

 

「フハハハハこれは手厳しい。魔女の言葉には毒があるというが…これほどの猛毒とはな…しかし、ここまで侮辱されてはこちらも引き下がるわけにはいかん。そこでどうじゃ?ここはひとつゲームで決着をつけんか?」

 

「…ゲーム?」

 

《装鋼の技師》の提案に朔夜は興味をもった。

 

「なに、簡単なゲームじゃよ。儂の《神滅部隊(リベールス)》にこの学園を強襲させ、お前さんの部隊がそれを迎え撃つ。相手を全滅させた方が勝ちというゲームじゃ。なに、要は《殺破遊戯(キリング・ゲーム)》じゃ」

 

《装鋼の技師》のゲームの誘いに朔夜は微笑み

 

「良いですわ。相手になりましょう…」

 

「決まりじゃな」

 

ゲームへの参加を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに!!《神滅部隊》がもうすぐここに!?…今から10分後!?なんでそんなことが…《殺破遊戯》!?どういうことだ!?」

 

その慌てた発言により、護衛のため待機していた俺たちは驚いた。

 

(どうやら中でなにかあったみたいだな……)

 

そう思っていると___

 

「___っ‼︎」

 

突如、凄まじい風と騒音が頭上を通り過ぎる。巨大な輸送型___かつて《生存闘争(サバイヴ)》の際に見たヘリが再び目に入る。

 

「《神滅部隊》のヘリ…………とうとう来やがった!!」

 

そしてヘリからは《装鋼(ユニット)》を装着している《神滅士(エル・リベール)》達が降下して来る。それに対迎え撃つのは、総勢二十九名の護陵衛士(エトナルク)と、悠斗、トラ、透流、ユリエ、橘、リーリスの六人だけだ。そして、最後に《K》と幻騎士が降りて来る。

 

「テメェら…」

 

「お久しぶりですね九重透流、そして初めまして天峰悠斗。私は《神滅部隊》の隊長《K》と言います」

 

《K》は丁寧な口調で俺に挨拶した。

 

「天峰悠斗…以前見逃してやった命を改めて葬りに来たぞ」

 

幻騎士は背中に以前は無かった大型のケースのような物を背負っていた。

 

「テメェら…何の用だ」

 

「そう怖い顔をしないで頂けますかね。今日はあなた達が探していた人を連れてきたのですよ」

 

「え……?」

 

《K》のその言葉に俺たちは唖然となった。

 

「ほら、あちらに居ますよ」

 

指を指した方を見ると、そこには__

 

臨海学校の際、島で行方が分からなくなっていた俺の絆双刃、穂高 みやびがいた。

 

「みやび!!」

 

俺は一瞬みやびのもとへ行こうとしたが、

 

「まて悠斗!!何か様子がおかしい…」

 

透流に遮られた。

 

そして、みやびが《神滅部隊》と俺たちの間に立つ。

 

「ねえ、見て、悠斗くん……」

 

すると、胸元につけているアクセサリーらしき物から、黒い粒子のようにも見える何かが溢れ出し、全身へと絡みついていく様が目に映る。腕、指先、足、つま先が厚く覆われていき、やがて放出が止まった。

 

「み、みや、び……?」

 

黒い粒子が消え、現れたみやびの姿を見て、かすれた声を出したのは橘だった。

黒を基調とした戦闘服は全身にフィットし、体のラインをはっきりと出して女性らしさを強調する反面、手足は無骨な装甲で覆われている。そして頭にはヘッドギアを装着している。

 

「さあ、望みを叶える刻がやってきましたよ。存分に彼へ見せてあげなさい。___貴女の手に入れた、神殺しの《力》を‼︎」

 

「《K》!お前みやびに何をした!」

 

「私は何もしておりませんよ」

 

すると、みやびが俺の前に立つ。

 

「わたし……強くなったんだよ、悠斗くん……」

 

どこか虚ろな瞳でそう言った。

 

「見て……これが生まれ変わった私の姿だよ」

 

「下がっていろ後輩!!」

 

敵と判断したのか護綾衛士数名がみやびを取り囲んだ。

 

「一気に制圧するぞ!!」

 

『はっ!!』

 

「待ってくれ!!彼女は…」

 

俺が護綾衛士を止めようと声をかけた瞬間

 

「……《焔牙》」

 

みやびが自身の《騎兵槍(ランス)》を手にした。

護綾衛士たちは自身の《焔牙》を手にし、一斉に飛びかかるが

 

「…邪魔だよ」

 

しかし___一蹴。

 

彼らの牙は届くことなく、一度《騎兵槍ランス》が振るわれた結果、全員が吹き飛ばされ地に倒れ伏した。

 

目の前のみやびが現実のものとは思えず、俺は唖然と佇んでいた。

 

「ふふふ…見てくれた悠斗くん?…私、こんなに強くなったんだよ」

 

「……もう一度聞くぞ《K》、みやびに…何をした?」

 

「与えただけですよ…天をも穿つ、神殺しの力をね…」

 

怒りに震える俺の問いに《K》は笑みを浮かべて答えた。

 

「彼女こそ《装鋼の技師》殿の研究の極致、《超えし者》と《装鋼》の融合体です!…彼女の協力によって完成したんですよ」

 

「行くよ…悠斗くん…」

 

次の瞬間、みやびが目にも留まらぬ速さで俺に攻撃を仕掛けてきた。

 

「…っ危ねぇ悠斗!!」

 

その瞬間、透流が咄嗟に俺を突き飛ばすと、俺がいた場所の地面が《騎兵槍》を叩きつけた衝撃で粉々に砕けた。

 

「っ透流…スマン、助かった。」

 

「いや、気にすんな。それより…」

 

「九重くん…邪魔をするの?」

 

みやびが透流を恨めしそうに睨んできた。

 

「あぁ、穂高が悠斗を傷つけるっていうなら…」

 

『《焔牙》!!』

 

透流たちは自らの《焔牙》を手にした。

 

 

 

 

 

「もう始まってましたか…………」

 

すると、俺たちの後ろから梓が歩いて来た。

 

「梓、おそらくみやびは奴らに操られている…みんなでなんとか止めるぞ」

 

橘はみやびの方を向きながら梓に指示を出した。

その時、

 

「……《焔牙》。」

 

「なっ!?」

 

梓は自身の《大鎌(デスサイズ)》を出し、橘に斬りかかった。

 

「あ…梓!?いきなり何を…」

 

「…相変わらず理解が遅いですねぇ…」

 

慌てて橘が梓を問い詰めると梓は嗜虐の笑みを浮かべていた。梓はみやびの方へ向かうと

 

「みやびさん、他の人たちは私が相手にするので貴方は天峰さんに強くなった自分を存分に見せてあげてください」

 

「うん、ありがとう梓ちゃん」

 

梓の言葉にみやびは虚ろな目で礼を言った。

 

「まさか…そういうことね…」

 

「リーリス?」

 

リーリスは何かに気づいたようだった。

 

「《生存闘争》の時も、臨海学校の時も、明らかにこっちの情報が漏れていた…だから…おそらく内通者がいるとは思っていたけど……貴方だったのね梓」

 

リーリスの言葉に梓は微笑むと

 

「正解ですよ《特別》、《生存闘争》の時も《品評会》の時も、場所、時間、警備の数などを《装鋼の技師》殿に流したのはこの私です!!私は博士の命令で学園に生徒として入学してこの日のために最も適した《素材》を探していたんですよぉ!!中でもみやびさんは最高でした!!《超えし者》としての強靭な肉体とはアンバランスな脆い精神…それでいて力への強い渇望…彼女こそ、博士の研究の完成に最もふさわしいと思いましたよ!!」

 

梓は今まで見たこと無いような凶悪な笑みで笑いながら喋り出した。

 

「…騙していたのか…今までずっと…」

 

俺は怒りに震えながら梓に問いかけた。

 

「…えぇ、貴方が意外と鈍くて助かりましたよ。なにより、悠斗さんには感謝していますよ。なんせ貴方のおかげでみやびさんを連れてこれたんですから…」

 

「何…?」

 

「自分を袖にした男に振り向いて欲しいなんて…泣かせますよねぇ…」

 

「っ!?」

 

なぜあの海岸でのことを知っている?…あの時には俺たちしか…

 

「貴方たちは常に監視されていたんですよ」

 

「…やめろ」

 

「ほんと最高でしたよ、あんな告白リアルであるんですねぇ」

 

「やめろ」

 

「まるで青春映画のワンシーンみたいで」

 

「やめろって言ってんだろぉぉ!!!!」

 

俺は思わず怒りながら叫んだ…これ以上聞いていられなかったからだ

 

「…梓ちゃん…梓ちゃんばっかり悠斗くんとお話していてずるいよ」

 

すると、みやびが恨めしそうに梓を睨みつけた。

 

「おっと…ごめんなさいみやびさん、あとは2人で存分に過ごしてください」

 

梓の言葉にみやびは悠斗の方を向き、

 

「くすっ、やっとだね。やっと悠斗くんに、見せてあげられる。いっぱいいっぱい《力》を見せて強くなったことを信じてもらえたら___これからは、わたしが悠斗くんを護ってあげるんだから」

 

みやびは再び歪んだ笑みを浮かべ、言った。

 

「素晴らしいショーですね……ですが、遊びはここまでに致しましょう」

 

「ふん、さっさと終わらせるとするか…」

 

すると、《K》と幻騎士が他の《神滅部隊》を率いて立ち去ろうとした。

 

「待てよテメェら…どこに行く?」

 

「ゲームの途中ですが、部隊の代表として《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》にお会いに行かなければなりません」

 

「理事長を狙う気か⁉︎」

 

「あの頭脳と才能の持ち主です、さぞ良い素材となるでしょう。……では、失礼。皆様はどうぞゲームをお楽しみ下さい」

 

「天峰 悠斗…俺を倒したいのならさっさとその女を倒すことだな」

 

そう言いながら彼らは学園に向かっていった。

 

「…みんな、みやびは俺に任せてくれ」

 

「悠斗…お前…」

 

「これは俺の不甲斐なさが招いたことだ!!それに…俺はみやびの絆双刃だ…頼む」

 

悠斗の目には迷いがなかった。それを見たユリエは

 

「…悠斗に任せましょう…」

 

「ユリエ…でもっ…」

 

「…悠斗とみやび…絆双刃の絆を私は信じています」

 

ユリエはまっすぐと透流を見ると…

 

「…分かった、お前に任せる」

 

透流も悠斗を信じて《K》たちの後を追い始めようとした。その時、

 

「分かってませんねぇ貴方たちは私が倒すって言ってるでしょ?」

 

梓が《大鎌》をこちらに向けてきたが、橘が《鉄鎖》で梓の動きを拘束した。

 

「みんな!!梓は私に任せてもらおう!!」

 

「橘っ!?」

 

「私は梓のことを何もわかってなかった…こんな時に向き合えずして…何が絆双刃か!!!…頼む、彼女は…」

 

「橘……信じていいんだな?」

 

「…無論だ」

 

「…分かった。行くぞみんな!!」

 

透流はそう言うと、《K》たちの後を追っていった。

 

「貴方一人で…私に勝てると思っているんですか…私も舐められましたね…良いですよ、絆双刃だったよしみです…相手になってあげますよ…」

 

「来るがいい梓…君の目を覚ましてみせる!!」

 

「…《神滅部隊》諜報員、不知火 梓…行きます」

 

「橘 巴!!行くぞ!!」

 

そうして二人は戦いながら林の奥へと消えていった。

 

「…そんじゃあみやび、俺たちも始めるか…」

 

「うん、私を見て悠斗くん…邪魔の入らないうちに見て、見てよ、もっとわたしを見て…私の力ぁ!!」

 

そう言いながらみやびは俺へと向かってきた。

 

「みやび…お前を助ける…そして、俺の気持ちを伝えてみせる!!」

 

そして、俺は《長槍》を振るってみやびと対峙した。

自分の想いを伝えるために



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22話 偽りの悪意

「はぁっ!!」

 

橘は自身の《鉄鎖》を梓に向けて放った。《鉄鎖》は梓に向かっていき、梓の腕を拘束しようとした。しかし、

 

「無駄ですよ」

 

「がはっ…」

 

梓は《鉄鎖》を見切り橘との距離を詰めると自身の《大鎌》を振るい刃の側面を橘に叩きつけた。

 

「口ほどにも無いですねぇ…まぁ分かりきってましたけど、温室育ちの貴方たちと私では、くぐって来た修羅場の数が違うんです…よっ!!」

 

「ぐぅっ!!」

 

梓は倒れる橘の横腹に蹴りを放った。

 

「優しくっ!!してくれるっ!!人たちがっ!!いるっ!!場所でっ!!ぬくぬく育った人にっ!!私のっ!!何がっ!!わかるんですかっ!?」

 

それからも梓は橘の横腹に蹴りを何度も叩きつけた。

 

「はぁ…はぁ…やっとここまで来れたんだ…この計画が成功すれば博士は私に要職を与えてくれると約束してくれた…邪魔を…するな…」

 

《大鎌》を巴に向けて梓は彼女を睨みつけた。

 

「…梓、私も分かったことがある…」

 

「…何ですか?」

 

突然橘がそんなことを言ったので梓は聞いてみた。しかし、それは彼女が予想していなかった言葉であった。

 

 

 

 

 

「キミは…嘘が下手だ…」

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

不知火 梓は家族を知らない。物心ついた頃には彼女は暗い部屋で同じくらいの子供たちと一緒にいた。

彼女がいた場所は幼い子供たちをあらゆる手段で『集めて』スパイや暗殺者として育成し、派遣する組織であった。そこでは彼女たちは人として扱われず、唯の駒として育成されてきた。そんな中で同期たちは次々と任務で死んでいった…いずれ自分も死ぬのか?そんな恐怖がいつも自分の中にあった。同時に彼女は世界を憎んだ、自分たちが血に染まった世界で生きているのに自分と同じくらいの子供が家族に囲まれて幸せそうに生きていることが許せなかった。こんな理不尽が神の意志であるのなら…私は神を許せない、そう思っていた。

 

 

 

「良い目をしておるな、お前さん…儂の部隊に入らぬか?」

 

そんな時、一人の依頼人が私に問いかけてきた。

 

「…私をですか?…何のために…」

 

「お前さんの目が気に入ったわい…神を許せないという憎しみに染まった目じゃな」

 

その言葉に私は少し驚いた。まさか見透かされるとは思っていなかったからだ。

 

「どうじゃ?儂の部隊は神を滅する力を目指しておる…お前さんも神が憎いのだろ?儂にお前さんの力を貸してはくれんかのう?」

 

その言葉に私は喜びを隠せなかった。自分が欲した力を手に入れられるかもしれないからだ。まさに願っても無い話であった。

 

「では…」

 

こうして私は《神滅部隊》に所属した。

 

 

 

 

「昊陵学園…ですか?」

 

「うむ、そこで探して欲しい人材があるんじゃよ」

 

ある日、私は《装鋼の技師》に呼び出され任務の依頼をされた。内容は昊陵学園というドーン機関が運営する学園に生徒として潜入し、今後の研究に必要な《素材》の捜索、そして、学園に《神滅部隊》が強襲する際の手引きというものであった。

 

「…分かりました、引き受けます。」

 

「うむ、頼むぞ」

 

そして、私は学園に潜入した。

そこでは平和な環境で育った人たちが表面だけの平和を楽しんでおり、私にとっては嫌悪の他に何も無かった。しかし、

 

 

 

 

 

 

「梓、キミは小食過ぎる。もっと食べなければ体が持たんぞ」

 

「………(またこの人は…)」

 

自分のルームメイトとなった橘 巴は何かにつけてお節介をしてきたのだ。本当は周りとはある程度離れて行動しようと思っていたのにお陰で迂闊に情報収集もできない始末であった。

 

「梓、何か困ったことは無いか?もし良ければ私も協力しよう」

 

「…いえ、大丈夫です(…だったらいちいち私に構わないでください…はぁ…この人あれ?世話焼かないと生きてけない人?)」

 

「梓、聞きたいことがあるのだが…」

 

「(やれやれ、またですか…しょうがないですね)何ですか?」

 

「梓…」

 

「はい、どうしました?(…ふふっ来た来た)」

 

気づけばそれは習慣になり自分も満更でもなくなってきた。そして…

 

 

 

「梓、もし相手がいないなら…私と組まないか?」

 

「…はい、よろしくお願いします」

 

それからは毎日が楽しかった。巴さんを通じて他にも沢山の仲間が出来た。幼い頃、自分が密かに願っていたものが今になって手に入ったのだ。それが嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…しかし、楽しい時間は終わってしまった。

 

『梓、《装鋼の技師》殿から計画の開始が言い渡されました。今後の情報連絡を頼めますね?』

 

「…はい、分かっています」

 

 

そう、分かっていたことだ…自分のやらなければいけないことを、自分の宿命には抗えないことも、

 

私が裏切り者だと知ったら…みんな許してくれないだろうな……そうだ、だったらもういっそのこと始めから利用していたってことにして悪人になってしまおう…そうすれば…割り切っちゃえば…苦しまなくて済むから…

 

 

 

 

 

 

「な…何を言っているんですか…?」

 

梓は橘の言葉に同様を隠せずにいた。

 

「梓…私には、君が本当の悪人には思えない」

 

「は…?」

 

「今の君は、まるで悪人というより、悪人を演じているように見えるんだ。自分が悪人だと言って私たちに嫌われようとしているみたいにな」

 

「ち…違…私は…」

 

「なによりキミの攻撃には敵意が無い…私を本気で斬ろうという敵意がな」

 

橘は梓の目をまっすぐ見ながら言った。

 

「君が本当に全力で迷いなく斬っていれば私はこうやって立っていない…どれだけ悪人振っても本心までは騙せない…なぁ梓、君は本当はこんな事をしたくは無いはずだ。君が今まで私に見せていた笑顔は…噓いつわりの無いものだったはずだ」

 

「私は迷ってなんか無い!!私のことを何も…」

 

「わからないっ!!」

 

「っ!!」

 

橘は大きな声で叫んだ。

 

「梓、キミの言う通り…私は今までキミがどんな生活を送って来たか知らない…だけどな…それでもわかることがある…キミは本当は優しい心の持ち主だと言うことだ…」

 

まっすぐと自分を見つめる橘に梓は動揺した。

 

「ち…違う…私は貴方たちを裏切って…」

 

「梓…今からでも遅く無い。こっちに戻ってこい」

 

しかし、橘の言葉に迷いはなかった。

 

「っ…もう遅いんですよっ!!」

 

梓は今まで抑えていた感情を爆発させる。

 

「梓…」

 

「仮に私に迷いがあったとしても…私は仲間を裏切ったんですよ!!もう戻れないんですよ!!だから…こうするしか…悪人になるしか無いんです!!」

 

「それは違う!!!!!」

 

巴は声を張り上げ梓の言葉を否定した。

 

「私は梓、キミを助けたい…何故なら…キミが苦しんでいるからだ!!」

 

「だからなんですか!?あなたに何が…」

 

「キミが苦しんでいる!!それがわかれば十分だ!!…だから、キミを助けたい!!それだけだ!!…キミが自分のしたことを悔いているのなら…みんなに謝ればいい!!簡単なことだろう!?」

 

「無理ですよ!!私一人が謝ったところで…みんな許してくれませんよ!!」

 

「なら私も一緒に謝ってやる!!!キミ一人に重荷を背負わせるものか!!」

 

橘 巴は諦めない。苦しんでいる自分の絆双刃を救うために

 

「…どうして?どうして私なんかのために…」

 

「そんなの…決まっているだろう…私は…キミの絆双刃なのだから」

 

そう言いながら橘は梓の方へとまっすぐ歩き出した。

その目はまっすぐと梓の目を見ていた。そして、一切の迷いがなかった。梓が気付いた時には、橘は梓の目の前に立っていた。

 

「先に謝っておくぞ梓」

 

橘はそう言うと梓の目をしっかりと見つめた。

 

「私は不器用でな…友の目を覚ませる方法を『これ』しか知らない」

 

そう言うと自身の右手を平手にして振り上げ、そして

 

 

 

 

 

 

「歯を…食い縛れ!!!」

 

 

パァンッ!!

 

 

それは《焔牙》でも橘流でも無い…唯の平手打ちであった。しかし、確かに梓の頬に打たれ、梓は倒れた。

 

「はは…何ですかこれ…唯の平手打ちじゃないですか…唯の平手打ちなのに…なんでこんなに痛いんですか…」

 

梓の目から涙がポロポロこぼれていった。橘は梓に近づきそして、優しく抱きしめた。

 

「梓…すまなかった。キミが一人で苦しんでいたのに気づけなかった。だけど…やっぱり君を助けたい…助けさせてくれ」

 

その言葉に梓は我慢の限界であった。涙がさらに流れてきた。

 

「…なさい…巴さん…ごめんなさい…う、うわぁぁぁぁ!!」

 

橘は泣き噦る梓を優しく抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

〜某所〜

 

ここに、七人の影が集まっていた。その中には以前《生存闘争》の際に乱入してきた雲雀 恭弥もいた。

 

「10代目〜準備出来ました。何時でも出れます」

 

「うん、ありがとう獄寺くん」

 

「いえいえ、にしても天峰のやつ…勝手に揉め事持ってきやがって…」

 

「ははっ、あいつらしくてイイじゃねーか」

 

「極限に燃えてきたぞ!!」

 

「ランボさんも暴れちゃうもんね!!」

 

「ボス…そろそろ行かないと…」

 

「…………」

 

彼は一見どこにでもいる少年少女だ…だか彼らを侮れなしない…そして彼らは、仲間のために戦い、仲間を決して見捨てない。

 

 

 

 

 

「よし…行こう!!」

 

 



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23話 絆双刃の絆

ガキィィィン

 

誰もいない中庭で《長槍》と《騎兵槍》のぶつかる音が響いていた。そこでは悠斗とみやびが互いの《焔牙》を撃ち合っていた。

本来、単純な実力では悠斗の方が上である。しかし、現在みやびは《装鋼》の力で本来の戦闘力を凌駕し、さらに洗脳によって一切のためらいもなく《騎兵槍》を振るってくるのだ。まともに食らえばいくら悠斗といえど無事ではないだろう。

 

「くすっ…すごいでしょ?あのお爺さんが力をくれたの…弱かったわたしが…こんなに強くなれたんだよ…あの頃の弱かったわたしはもういない…わたしは強くなれたんだ…」

 

虚ろな瞳で微笑みながらみやびは自身の《騎兵槍》を頭上で回していた。

一方、俺は自身のスピードでみやびの攻撃を回避しているが、《装鋼》の性能なのか徐々に動きを捉え始めていた。

一撃一撃が相手を破壊しかねない攻撃はかすっているだけでもかなりのダメージであった。

 

「ねぇ悠斗くん…もっとわたしを見て。わたし、こんなに強くなったんだよ。生まれ変わったわたしの力…もっと、もっともっともっとぉ!!」

 

「みやび…」

 

自身の不甲斐なさゆえにここまで彼女を追い詰めてしまった、そんな自分が許せなかった、そして同時に『それ』が許せなかった。だからこそ、俺はみやびに向かって言った。

 

 

 

「強くなった…か、俺には弱くなっているように見えるよ」

 

「……………え?」

 

俺の言葉にみやびは、身体が硬直した。

 

 

「俺にはお前が強くなったようには見えない…少なくとも、以前のみやびの方が強く見えるよ」

 

俺はみやびの方を見ながら言葉を続けた。みやびはその言葉を聞いていたが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…酷いよ悠斗くん」

 

顔を歪ませながらみやびは俺を見た。

 

「なんでそんなこと言うの?わたし、悠斗くんのために強くなったんだよ?どうして……?悠斗くん、どうしてわたしを見てくれないのかな?こんなに強くなったのに、どうして?どうしてどうしてどうしてぇえええええっっ‼︎」

 

みやびはそのまま俺に向かって《騎兵槍》を突き出し突進してきた。

 

俺はみやびの一撃を防ぎながらみやびに向かって言った。

 

「良いかよく聞けみやび!!どんなに強大な力も!!強力な武器も!!《正しい心》をもって使わなければ唯の《暴力》だ!!そんなものは誰からも認められない…そんなもの…努力して、苦しんで、悔しさにまみれて手に入れた《力》に比べたら何の価値も無い!!」

 

そして、みやびに告げる。

 

「それを教えてくれたのは___みやび、お前だろ?」

 

「わた、し……?」

 

名を呼ばれたみやびが反応し、俺は頷く。

 

「毎日毎日走ってたよな。今日よりも明日、少しでも速くなるために……。最初は走りきれなかった距離も、走りきれるようになった。だから、《II》になることが出来たはずだ。……けど、《III》には届かなかった」

 

「……………………」

 

みやびの表情が曇るも、構わず続ける。

 

「……でも、な、みやび。今、お前が手にしている《力》はなんだ?そんな借り物の《力》を、偽物の強さを俺に見せたかったのか⁉︎」

 

「う……あ、ああ……わた、しは……わたし、は……」

 

「偽物なんかに頼るな!速く走れるようになりたくて、頑張って毎日走っただろ!その努力で手に入れた《力》を信じろ‼︎努力を続けることの出来た心の強さを信じるんだ‼︎」

 

「ち、から……欲し、い……つよ、く……強く、なりた……見せ……」

 

「俺は信じる‼︎みやびの心の強さを‼︎」

 

弱さ故に悪魔に魅入られ、陥れられてしまった少女を。

けれどその弱さを越えられる、本当の強さを信じて。

 

「俺も負けられないって思った心の強さを取り戻してくれ、みやび___っ‼︎」

 

願う思いは叫びとなり、空気を震わせ___みやびの《魂》を震わせた。

 

「悠斗、くん……わた、し……」

 

空虚だった瞳に、光が戻る。

 

「みやび……」

 

だが___

 

「う、ううっ……‼︎あぁあああああ______っっ‼︎」

 

それも一瞬だった。胸元のアクセサリーのような何かが明滅したかと思うと同時、みやびは苦しそうに叫んだ。

 

「あっ……んっ、あ、ああ……ゆ、うと、くん……」

 

「みやび、大丈夫か⁉︎」

 

「わたしを……見て……」

 

「___っ⁉︎また、戻ってしまったのか⁉︎」

 

みやびが、苦しそうな表情を浮かべたまま、腰だめに《騎兵槍》を構える。

穂先は、まっすぐに俺へと定められていた。

 

「行く、よ……ゆう、と……くん……!」

 

みやびが、地を蹴る。

 

「偽物の《力》なんかに負けるな、みやび_______っ!!」

 

迫り来る刺突進を前に微動だにせず、みやびを信じ、天峰悠斗は真っ直ぐに見つめる。

刹那、視線がぶつかり合い________

 

みやびの表情が苦悩と困惑の入り乱れたものとなった直後、彼女は目を閉じ、咆哮した。

 

「うわぁああああああ___________っっ!!」

 

一瞬、穂先の勢いが僅かに鈍るも______

 

ズグン!!《騎兵槍》が俺の胸を深々と突き刺した。

 

「か、はっ……」

 

槍が俺の体を貫いたところで、動きが止まった。

 

「あ……」

 

自らの手が行ったことに対し、みやびの顔に戸惑いが浮かび______

 

「ああ、あ……悠斗、くん……いやぁあああああああああっっっ!!!」

 

悲鳴が響き渡る。

 

「悠斗くん!!わた、し…わたしは、なんてことを……や、やだ、やだよ、死なないで、悠斗くん、悠斗くぅううううん!!」

 

みやびは後悔と悲鳴の叫びを上げた。

 

「やっ…たな、みやび……」

 

しかし、俺は顔を上げて、みやびに向かって優しい笑みを浮かべた。

 

「え……?悠斗くん…生き、て……?」

 

「そうだ、みやびが偽物に勝ったからこそ……俺はこうして生きている」

 

刺突進は止められなかったが、みやびは確かに、自分の意志を取り戻し、殺意を封じ込めたのだ。

 

「悠斗くん______あっ……」

 

その時、みやびの胸元の卵型の何かが明滅していた。

 

「みやび……?」

 

「う…ダメ、体が勝手に……悠斗くん、逃げて…!!」

 

みやびは突然《騎兵槍》を抜き、再び俺へと狙いを定めた。

 

(そうかお前か、お前がみやびを好き勝手してたのか…許さねえ…みやびの心を弄びやがって…テメェは…俺が…ぶっ壊してやる!!!)

 

俺は自身の《長槍》を構え、みやび…正確にはみやびの胸元のディバイスに向けて構えた。

 

「みやび……いま、助けるからな!!」

 

《騎兵槍》が俺を再び貫こうと突きが放たれたその刹那、《騎兵槍》を躱してみやびの懐に入り込み、槍を構えた。

 

「みやび、俺を信じてくれ……絶対に______助ける!!!」

 

「う、うん……わたし、信じるよ。悠斗くんがわたしを絶対に助けてくれるって信じてる!!」

 

それを聞き、俺は優しく頷き、そして放った。自身の愛する、大切な人を救うための一撃を

 

 

 

「狼王一閃!!!」

 

 

 

その一撃は確かにみやびの体を傷つけず、ディバイスだけを粉々に砕いた。

 

「ゆ、悠斗くん…」

 

「もう大丈夫だ、みやび……」

 

「……ありが、と……悠斗くん……わたしを助けてくれて……」

 

ぐらりと体がくずおれるみやびを、抱きしめる。

 

「当たり前だろ、みやび。いつだって___いつでも困ってる時は絶対に助けるよ…だって俺は…お前のことが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、やはりそいつではお前の相手にはならなかったか…」

 

 

「______っ!?」

 

突如声の聞こえた方向を見るとそこには最新型と思われる《装鋼》を纏い、《機巧・幻剣(マキナ・スペットロスパダ)》をその手に持った幻騎士が立っていた。

 

「幻騎士……悪いが今回は負けてやれそうもねぇ…最初から全力でこないと…すぐ終わっちまうぞ?」

 

「安心しろ、もとより全力で行くつもりだ…」

 

すると幻騎士は突如腕のボタンを操作すると、背中のケースが突然開き、中からパーツが現れ全身をどんどん覆っていった。全てのパーツが装着されるとその姿はまるで未来で幻騎士が見せた《大戦装備》のそれを彷彿させた。

 

「天峰 悠斗…俺は全てのボンゴレを滅ぼす。貴様はその手始めだ。貴様は俺のこの新たな力で完膚なきまでに葬り去ってやる」

 

「幻騎士……てめえは絶対に倒す!!」

 

因縁の戦いが今始まる。



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24話 雪vs霧

「……意外とあっけなかったですね」

 

九十九朔夜は嘲笑うかのように《装鋼の技師》エドワード・ウォーカーへと話しかけた。

 

「あれだけ自信をもってゲームの誘いをしたからどんなものかと思って見てみれば《雪》の炎を使わない天峰 悠斗に敗れる程度。これでは期待外れも良いところですわ」

 

朔夜の言葉にエドワードはしばらく黙っていたが、

 

「フハハハハ、確かに天峰 悠斗の相手は彼女には荷が重かったようじゃな。残念じゃわい」

 

しかし、エドワード・ウォーカーは平然と笑っていた。

 

「……?随分と余裕ですね、融合体が敗れたというのに」

 

「確かに、彼女は儂の技術の成果と言える…じゃが、それでも天峰 悠斗の強さはそれ以上、特に奴の《死ぬ気の炎》の力は未だ解明されていない部分もあるからのう…なら、《死ぬ気の炎》には《死ぬ気の炎》をぶつければ良い。」

 

「…つまり、最初から幻騎士を天峰 悠斗にぶつけるつもりであったと?」

 

「まぁ、そういうことになるな」

 

朔夜の問いかけにエドワードは笑みを浮かべて答えた。

 

「もちろん彼女が倒してくれれば御の字ではあったが彼女だけでは天峰 悠斗相手は難しい、《死ぬ気の炎》での戦闘に精通している幻騎士を仲間に引き入れ、力を与えたというわけじゃ。奴のように憎しみに飲まれているような奴は扱いやすいからのぉフハハハハッ、ちょっと奴の憎しみを煽ってやったら一発だったわい」

 

得意げにエドワードは笑いながら言葉を続けた。

 

「なにより…儂の《装鋼》をもってすれば《死ぬ気の炎》の力を強化することも容易いことだ、先ほどの少女が《超えし者》と《装鋼》の融合体なら幻騎士は《死ぬ気の炎》と《装鋼》の融合体…何より今の幻騎士は復讐の為にのみ動く完全な戦闘マシーンじゃ」

 

そして両手を広げ

 

「諸君らもゆるりとご覧あれ、この《殺破遊戯》を制する…この儂の最高傑作をな」

 

声高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それが、てめえの隠し玉ってやつか」

 

幻騎士の纏う《装鋼》の各部位に更にパーツが加わり、まるで騎士の鎧を機械にしたようなものへと変わっていた。

それはまさに未来における幻騎士の最強の武装《大戦装備》のそれとよく似ていた。

 

「……行くぞ、ボンゴレ」

 

幻騎士は剣を構え突撃した。

一瞬で間合いを詰めると俺に剣撃を放った。

 

ズガァァン

 

一撃で地面が大きく割れた。まともに食らえば無事では済まないだろう。

 

「ほらよっ!」

 

俺は自身の《長槍》を振るい幻騎士に反撃した。

 

「無駄だ」

 

しかし、幻騎士は既に幻覚を創り出しており、《長槍》は空を切った。しかし俺はすぐに体勢を立て直すと殺気を感じ咄嗟に体を捩ると剣撃が放たれた。

 

「やっぱりチョイスの時より強くなっている…それだけじゃねぇ、炎の剣撃の威力も桁違いだ」

 

幻騎士の炎の属性は《霧》。《霧》の炎は《構築》という特殊な力がある分8つの《死ぬ気の炎》の中では特に攻撃力が低い。しかし、幻騎士の剣撃の破壊力はかつて未来での白蘭とのチョイスで見せた剣撃よりも遥かに威力が高かった。

 

「その《装鋼》…《死ぬ気の炎》の力を高める能力があるのか」

 

「正解だ、この《装鋼》には俺の肉体とリンクし装着者の潜在能力を解放する機能が備わっている。ブースターになるパーツを取り付けることでその機能は更に強化される。《装鋼の技師》はこのパーツを《F.B(フレイム・ブースター)》と名付けていたな」

 

「…思ってたよりノーマルなネーミングだな」

 

俺は幻騎士の言葉に精一杯の皮肉を言ったが内心は焦っていた。

幻騎士の戦闘力は予想以上に向上していたことであった。

それだけではなく、俺自身も先のみやびとの戦闘の際、《騎兵槍》が体を貫いたことによって体に大きなダメージがあった。いくら肉体を傷つけないと言っても全く負担がないわけではなく俺自身もかなり無理していたのだ。

 

「だからって負けられないしな……来い、ガロ!!」

 

そう言うと悠斗は《長槍》に炎を纏わせチョーカーから《雪狼》ガロを出した。

 

「行くぞガロ!!一気に攻めるぞ!!」

 

俺の言葉にガロは大きく吠えて答えた。

 

「はぁ!!」

 

俺はガロの作り出した氷の道を駆けて幻騎士に攻撃を繰り出した。

 

しかし、俺の動きは鈍く幻騎士に悉く防がれた。

 

「…随分と消耗しているな、あんなつまらん女一人に深手を負うなど…本当に甘い連中ばかりだな、貴様たちボンゴレは」

 

「…何だと?」

 

幻騎士の言葉に俺は怒りを覚えた。

 

「そうだろ?ただ男に見て欲しいなどという浅ましい願望で《装鋼の技師》のモルモットにされる様な女を愚かと言わずに何と言う?まぁその女を救うために深手を負い俺に苦戦する様なやつも」

 

「………いしろ…」

 

「……なに?」

 

「撤回しろ!!」

 

俺は怒りを抑えられず幻騎士へと叫んだ。

 

「みやびは俺の大事な…自慢の絆双刃だ!!あいつがいつも頑張ってきたから俺も負けられないって思えた!!そして…あいつのおかげで…生まれて初めて恋というものを知ることができた!!ただ憎しみで動いている奴が…俺の大好きな人を馬鹿にするなぁ!!!!」

 

幻騎士は俺を見てため息を吐くと

 

「…下らん、そんな感情に囚われたお前に俺は倒せんよ…俺の最強の技でとどめを刺してやる」

 

剣を振り上げ炎を刀身にチャージしだした。

 

「我が最強の一撃を喰らえ…《機巧・幻剣舞(ダンツァ・マキナ・スペットロスパダ)》!!」

 

幻騎士の剣から巨大な剣撃と《幻海牛》のミサイルが悠斗に向かって放たれた。

 

「なっめんなぁぁぁぁ!!!」

 

俺は《長槍》に纏わせた炎の炎圧を高め迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

――邸内

 

「いかがかな魔女殿?儂の切り札の力も中々じゃろ?」

 

そこでは朔夜たち《七曜》がモニターで悠斗たちの闘いを見ていた。

 

「まず幻騎士の《死ぬ気の炎》を極限まで高める特殊パーツ《F.B(フレイム・ブースター)》、次に死ぬ気の炎を刀身にチャージし解放することで強大な破壊力の剣撃を生み出す《機巧・幻剣(マキナ・スペットロスパダ)》、この二つを纏うことで炎の力を何倍にも強化するだけでなくより幻騎士の戦闘スタイルに適したものへと進化させた儂の《神滅装備(アルマメント・エル・リベール)》の力は見ての通りじゃ…そしてこの力にお主の《超えし者》の力が備わればどうなると思う?」

 

笑みを浮かべながらエドワードは言葉を続けた。

《装鋼》を《超えし者》が纏った場合の《力》は、先ほど見せた通りじゃよ。日常生活などという 不純物を交えて訓練を施した学生であっても、あれ程の飛躍を見せたのじゃ!何より…《超えし者》と《死ぬ気の炎》の相性が良いこともお主が新型《黎明の星紋》を開発していることも調べはついとる!!」

 

《技師》は椅子から立ち上がり、声が段々と熱を帯びてくる

 

「純粋な兵士として訓練を施し、戦闘マシーンとして完成し、《死ぬ気の炎》を操る《神滅士》へと 新型《黎明の星紋》を投与したならばどうなるか想像してみるがいい!」

 

「…………」

 

「そやつらは《更なる高み》へ至るのじゃ !!その時こそが真の《神滅部隊》の完成であり、立ち塞がる者全てを凌駕し、滅ぼすじゃろう …そう、たとえ立ち塞がる者が――《神》であろうとも!! わはははは!!」

 

エドワードは高笑いをしながら宣言した、

 

「さて、先ほどの話を考慮した上で今一度、同盟についての《答え》を頂けるかの」

 

改めて答えを求める痩躯の老人へ、黒衣の少女は告げた 。

エドワードは幻騎士が天峰 悠斗を追い詰めていることに満足らしく、これなら目の前の少女も此方の要求に応じるだろうと確信していた。

 

「……そうですね、これから忙しくなりそうですね」

 

「うむ、そうかそうか」

 

朔夜の言葉にエドワードは此方の要求を受け入れるのだと確信した。しかし、彼女から放たれた言葉は予想していないものであった、

 

「まずは内通者たちの掃討とこれからの警備強化を急いだ方が良いですね、女生徒を良からぬ目的で監視する様な御老人がいる様では、学校運営に支障をきたしますから」

 

「わはは、ちげえねぇ」

 

「フッ…」

 

「ククッ…」

 

「クスクス」

 

王城の笑い声を皮切りに他の《七曜》も笑い始めた。

 

「………………(ギリッ)」

 

その空気に初めてエドワード・ウォーカーは怒りを顔に出した。

 

(……そんな態度をとれるのは今のうちだぞ小娘…儂と貴様の血筋との因縁もこれで終わりにしてくれる)

 

九十九 朔夜は冷静な態度で紅茶を飲み、己が生まれて初めて興味をもち、行く末を見てみたいと思った一匹の狼のことを考えていた。

 

(天峰 悠斗、貴方はそんなところでは終わらないはずですよ…でなければ私は貴方を此処には連れてきていませんのだから)

 

そう、本来なら彼は自分の目的には必要ない存在だった。それでも彼女が学園に彼を迎え入れたのは彼という存在がどの様な道を見せるのか見てみたかったからだ。だからこそ九十九 朔夜は本来の目的を少し曲げてまで彼を迎え入れたのだ。

 

(さて…《彼ら》もそろそろ来る頃ですね、これなら《今回は》特に犠牲者は出なさそうですね…)

 

 

 

 

 

 

 

「…ちょっとまずいかもしれないわね…」

 

「クソッ……あと何人いるんだ」

 

リーリスとトラは周囲を取り囲む《神滅士》の軍勢を見ながら悪態をついていた。

敵の数は思っていたよりも多くいくら倒してもキリがなかった。彼らは度重なる戦闘でかなりの負担となっていた。

 

 

 

 

 

 

「クソッ…キリがないぞこいつらは…」

 

「くっ…」

 

その頃、巴と梓たちも他の《神滅士》たちの強襲に苦戦していた。

 

「ふんっ…てこずらせやがって…まぁこれでもうこいつらも終わりだな…とっとと小娘と裏切り者を始末するか」

 

《神滅士》の一人が言うと、彼らは銃を構えて二人に向けた。

 

「巴さん……」

 

「クソッ…万事休すか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時雨蒼燕流…攻式八の型

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篠突く雨」

 

その時、鋭い斬撃が《神滅士》に繰り出されて複数の《神滅士》が吹き飛ばされた。

 

「………えっ?」

 

「な…何が?」

 

 

突然のことに二人は何が起こったのか分からなかった

 

 

「なっなんだこいつ…と、とにかく撃…」

 

「させるかよ!!《赤炎の矢(フレイムアロー)》!!」

 

すると、さらに赤い炎が《神滅部隊》へと放たれ、《神滅士》たちは吹き飛ばされた

 

「…たくっ口程にもねぇ奴らだな」

 

「なぁ獄寺、あいつらのパワードスーツってなんかかっこいいな」

 

「何のんきな事言ってんだ野球バカ!!」

 

その二人は戦場だというのにのんきに平和な会話をしている様であった。

 

 

 

 

 

「極限太陽(マキシマムキャノン)!!!」

 

 

 

ドコォォォン

 

 

 

「グワァァァァア!!」

 

「つ、強い…」

 

「何者だ奴らは…」

 

一方リーリスとトラの元には短髪の男がおり、複数の《神滅士》を吹き飛ばしていた。

 

そして、

 

「ガハハハッ行け牛丼〜」

 

牛柄の服を着た子供が雷をまとった牛に乗り《神滅士》へと突進していた。

 

 

 

 

 

格技場

 

「く…くそ!!なんだよこれ!!幻覚か!?こんなもの…」

 

「無駄」

 

「ガッ………」

 

一人の少女が幻覚で《神滅士》を翻弄し三又の槍で意識を奪い倒していた。

 

 

 

「…………」

 

「がは…………」

 

「つ…強え…」

 

 

その近くでは、雲雀恭弥が平然と歩いておりその背後には多くの《神滅士》が伸びていた。

 

 

 

 

 

 

 

校門前

 

「クソッ気をつけろ!!絶対に見逃すな…グハッ」

 

「この…ガッ」

 

此処では多くの《神滅士》がたった一人の少年に倒されていた。

 

その少年は額と両手からオレンジの炎を纏い、手刀で《神滅士》の意識を奪っていた。

 

 

「あ…貴方は一体…」

 

あまりの光景に《護綾衛士》の女性はその少年へと問いかけた。

 

 

 

 

「心配するな、誰も死なせはしない」

 

 

 

 

 

「な…なぜ奴らが此処に!!」

 

エドワードは彼らの登場は想定外だったらしく激しく動揺した。

 

「やはり来ましたか…まぁ当然ですね」

 

朔夜は笑みを浮かべ紅茶を口にした。

 

 

 

いつも眉間にしわを寄せ、祈る様に拳を振るう

 

それがボンゴレⅩ世____沢田 綱吉

 

そして彼が率いるボンゴレ10代目ファミリー

 

 

 

 

 

「……!!この気配は…沢田綱吉と山本武!!それだけではない…ボンゴレファミリー全守護者がいるのか!?」

 

その頃、幻騎士は突如感じた気配に気づいていた。

 

 

「丁度いい!!このまま奴らを殲滅しに行くか!!」

 

 

「おい…テメェの相手はこの俺だぜ…」

 

突如背後から声が聞こえ振り向くと傷だらけになりながらも悠斗が立ち上がっていた。

 

「たくっ…来るのが遅えよ…ま、いいか、間に合ったみたいだし…そんじゃ、使うか…」

 

すると、悠斗は目を閉じ、息を吸い、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガロ、形態変化(カンビオ・フォルマ)」

 

 



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25話 神速の咎人

(……奴の《死ぬ気の炎》が上昇していく……この感じは覚えがある…山本武との闘いで奴が見せた形態変化(カンビオ・フォルマ)とかいうやつだな…一気に勝負に出る気か……)

 

悠斗から溢れ出てくる《死ぬ気の炎》の炎圧がどんどん上昇していく中で幻騎士は警戒を強めた。

 

「貴様……やっとその力を出したな、まぁ当然だ。その力でなければ俺を倒すことは出来ん、最も…その力でも俺を倒すことは出来んだろうけどな。俺は既に貴様らのその形態変化(カンビオ・フォルマ)の力の凄まじさを学習している…もうその力に油断し敗北することは無い。全力で排除してくれる。」

 

「………山本の能力の一部を見ただけでもう俺たちのことを攻略したつもりなのかよ……そう思っている時点でテメェは俺たちのことをなめてんだよ幻騎士。」

 

俺は幻騎士のことを睨みながら呆れたように言葉を返した。

 

「言っておくが……《こいつ》も俺の全てってわけじゃねーからよく覚えておけ、テメェのその余裕を全力で叩き潰してやるよ。」

 

そう言うと呼吸を整え、目を開き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガロ、形態変化(カンビオ・フォルマ)、モードI世(プリーモ)。」

 

その瞬間、

 

「アオォォォォォォォン……」

 

俺のボンゴレギア、ガロが遠吠えをあげたかと思うと、光となって両足を包み込んだ。

 

光が消えると、俺の足には銀色に染まった鋼の分厚い装甲が取り付けられていた。

 

「それが貴様のボンゴレギアの初代の武器とやらか……」

 

「どうだろうな……自分で考えてみろよ。俺だって手の内を全部敵に教えるほどお人好しじゃねーからな。」

 

そう言うと、自身の《長槍》を構え、

 

「………いくぜ。」

 

 

 

 

ドガァァァァン!!!

 

 

 

 

そして、足を地面に踏み込ませたその瞬間、巨大な音とともに地面が揺れ大地が抉れ、俺の体は宙を舞った。

 

 

 

「ドリャャャャァァァァ!!」

 

 

 

幻騎士は咄嗟に剣を前に出し、悠斗の蹴りを防ごうとしたが、しかし、悠斗の蹴りはそのガードをも撃ち破るものであり幻騎士へと直撃した。しかし、それは幻騎士の幻覚であり、すぐに消え、少し離れた場所へと幻騎士が現れた。

 

 

 

「なるほどな……この破壊力、流石はボンゴレギアというだけの事はあるな……だが、ただ破壊力が凄まじいというだけでは俺には勝てんぞ、やれっ!!幻海牛(スペットロ・ヌディブランキ)!!!」

 

幻騎士の声に従い、幻海牛のミサイルが現れ俺へと向かっていった。

 

「なっめんなって……言ってんだろぉがぁぁぁ!!!」

 

俺は《長槍》を回転させ、それによる斬撃で周囲のミサイルを破壊した。

 

「甘いな。」

 

しかし、ミサイルが爆発し、周囲に煙が包まれた隙を幻騎士が逃すはずもなく背後へと周り斬りかかってきた。

 

「ちぃっ!!」

 

咄嗟に身を躱し蹴りを放つが幻騎士は軽やかに躱してしまった。

 

「興ざめだな……」

 

突如、幻騎士が声をあげた。

 

「確かに貴様のボンゴレギアの武装の破壊力はとてつもない…しかしパワーに特化しすぎたせいでスピードも以前より遅くなっているどころか身のこなしも鈍くなっている。これでは以前の方がまだ手応えがあった。」

 

幻騎士の言葉には軽い失望があった。しかし、悠斗は気にすることなく平然としていた。

 

 

「安心しな幻騎士、俺の全力はむしろここからだ。この闘い…俺は絶対に負けられねぇからな」

 

「……………。」

 

「なんせ俺には…仲間たちとの約束…ボンゴレの守護者の使命…そして、俺自身の想いを背負ってるからな。だから…この《足枷》を外させてもらう」

 

俺はそう言うと足の炎の力を高め、そして

 

 

 

 

 

 

 

「拘束解放(キャストオフ)。」

 

その瞬間、足の装甲のパーツが弾けだした。

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい嬢ちゃん、あのボウズの武装にゃあまだ隠し球があんのかよ。」

 

《冥柩の咎門(グレイヴ・ファントム)》の王城は悠斗をモニターから見ながら《操炎の魔女(ブレイズ・ディアボリカ)》九十九朔夜へと問い出した。

 

「ええありますよ、と言うよりはあの形態は彼の…いや、初代雪の守護者の一面でしかありませんわ。」

 

「初代守護者だあ?」

 

「そう言えば、聞いたことがあります。」

 

すると、華やかな軍服の青年、《颶煉の裁者(テンペスト・ジャッジス)》クロヴィスが何かを思い出した。

 

「初代雪の守護者は家族をマフィアに殺された怨みから裏社会で多くのマフィアや犯罪者を殺し表社会でも裏社会でも恐れられた罪人だったそうです…しかし、I世に命を救われボンゴレの一員となった彼はI世に忠誠を誓い、己の過去の戒めとして常に足には足枷をつけていたと言われています。」

 

「そうですわ。しかし、ファミリーに危機が訪れた時には己の足枷を外し、誰よりも速く戦場を駆け抜け…そして誰よりも多くの命を救ったと言われています。」

 

 

 

 

「なるほどなぁ、だから初めは《足枷》ってなわけか。」

 

朔夜たちの説明に王城は納得したような態度をとった。

 

「そう、あの武器の真髄は《足枷》の頑丈さによる一撃ではなく、それを解放した際の速さにあります……あの武器こそが

 

 

 

 

 

 

 

 

闇を切り裂き、白く染める吹雪と謳われた

 

 

 

 

 

 

 

 

《シルヴァの神速脚》。」

 

 

 

「なっ………二段階解放の《形態変化》だと!?そんな力、見たことがないぞ!!」

 

突如足の装甲が外れ、白銀の鉄靴へと変化した俺の《シルヴァの神速脚》を見て幻騎士は驚愕した。

 

「だから言ったろ? 俺を舐めんなって。」

 

「………………。」

 

俺の言葉に幻騎士は黙り込み、暫くすると、

 

「面白い…だがその力を持ってしても《装鋼》でパワーアップした俺には遠く及ばない…忘れたか?俺にはまだ切り札があることに…」

 

すると幻騎士は霧を纏った凶悪な怨霊を彷彿させるリングを取り出した。

 

「……ヘルリングか。」

 

「思い知れ、これで貴様の勝利は無くなった。」

 

その瞬間、リングから炎が現れ幻騎士の体を包み込んだ。

 

「ぐっ……ウオァァァァァァァァァァ!!!!」

 

幻騎士の叫びとともに炎が膨張し、目の前に全身が骨へと変わっただけでなく、体格も巨大になり、凶暴な形相の幻騎士がそこにいた。

 

「ハァァァァァア、どうだ天峰 悠斗ォ!!これが俺の真の力だ!!ヌゥゥゥゥウ、力が何倍にも増大していく…………しかし何故だ、何故これほどの力を持つ俺が、こんな惨めな思いをしなければならないのダァァァァア!?」

 

「……っ!!」

 

変貌を遂げた幻騎士が突然叫びだした。

 

「未来の俺だって、己を絶望から救ってくれた白蘭に忠誠を誓っただけじゃないかァァァァ!!!何故それを蔑まれなければならない!?何故俺ほどの男が、裏切り者の烙印をおされなければならんのダァァァァ!?何故この俺がこんな目にあわなければならんのダァァァァ!?」

 

あたりに幻騎士の怨みのこもった叫びが響き渡った。

 

「なんだあいつ?急に様子がおかしくなったぞ?」

 

「おそらくあれは……ヘルリングによる能力強化によっておこる精神汚染でしょう。」

 

幻騎士の突然の変貌に対する王城の疑問に《洌游の對姫》(サイレント・ディーヴァ)ベアトリクス・エミール・イェウッドは答えた。

 

「ヘルリング……たしか死ぬ気の炎が発見される以前より存在した、6種類の「霧属性」最高ランクの呪いのリングでしたよね?。そのレア度は5ツ星。それぞれが別の呪いを宿しているとされ、使用者との契約により強大な力を享受するとされています…しかし、その力を得るための必要な契約…地獄との契約をしなくてはならず、その力を受けたものは代償としてリング自身に己の精神を食わせることとなるそうです。」

 

クロヴィスは自身の記憶からヘルリングの特性を説明しだした。

 

「使用者の中には理性を失い人格が変わってしまう者もいると言われていましたね。温厚だった人物が凶悪な独裁者になった裏にはこのリングが関係していたとされるなど、曰く付きのリングであるとされています。私も実際に見たのは初めてですが、おそらく幻騎士のあれはヘルリングに精神を食わせたことによって理性を失いつつあるのでしょう」

 

「ふはははは、残念じゃったな魔女殿、幻騎士がああなっったらもう天峰 悠斗に奴は倒せんよ。ただでさえ儂の《装鋼》で強化されていた幻騎士の炎がさらに何倍にも膨れ上がったのだからなぁ……」

 

《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》エドワード・ウォーカーは更に機嫌を良くし、朔夜へと話しかけた。

 

「果たして……そう上手くいくでしょうかね?」

 

しかし、それでも朔夜は余裕な表情で笑みを浮かべていた。彼女は確信していたのだ、あの程度の力に天峰 悠斗が、己の認めた男が敗北するとこはないと、



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26話 煉業

「…やっぱおぞましい力だな…そのヘルリングって…」

 

俺は目の前の空中に立ちはだかる狂気の騎士を見ながら《長槍》を構えた。ヘルリングは自身もかつてチョイスで見たことがある。あの時は自身の仲間の山本 武のボンゴレ匣《朝利雨月の変則四刀》と彼の《時雨蒼燕流》になす術もなく敗北した。しかし、今の幻騎士はその時よりも遥かに戦闘力が上がっているだけでなく一切の油断も存在していなかった。

 

「天峰 悠斗!!俺は今虫の居所が悪い!!ギッタギタにしてやるから覚悟しろ!!……それと、一つ良いことを教えてやろう!!お前が死んでも一人では死なさないから安心しろ!!!なぜなら、沢田 綱吉は勿論、ボンゴレファミリーの奴らも、この学園の生徒も、それからお前の惚れている女もみんなまとめて後を追わせてやるからなぁ!!!」

 

幻騎士は邪悪な笑みを浮かべながら俺の方を向いて笑い出した。

 

「そうかよ……じゃあ尚更負けてやれないな、もうそんなことが言えなくなるくらいにテメェをぶちのめしてやる。」

 

「ヌゥゥゥゥウ!!!!まだそんな事を言うだけの余裕があるのかァァァァ!!!!良いだろう!!ならば貴様に俺の恐ろしさを骨の髄まで叩き込んでやる!!《装鋼》とヘルリングの力でパワーアップした俺の剣戟を喰らうが良い!!!!」

 

俺の態度に怒りを覚えたのか、幻騎士は怒りを露わにして剣を振りかざした。

 

「俺の真の力を思い知れ、天峰 悠斗!!機巧・幻剣舞(ダンツァ・マキナ・スペットロスパダ)!!」

 

幻騎士が剣を振り下ろすと、炎に包まれた巨大な剣撃と《幻海牛》のミサイルが放たれた。剣撃は悠斗のいた場所へと直撃した。煙が晴れると悠斗の姿はなく、崩れた瓦礫しか見当たらなかった。

 

「しまったァ!!!天峰 悠斗の首を沢田 綱吉に見せつけてやろうと思ったのに……これでは肉片一つ残らないじゃあないか!!!……まぁ仕方が無いなァ、それだけ天峰 悠斗が弱かったということなんだからなァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、どこ向いてんだよ幻騎士。俺は其方にはいねーぞ。てゆーか、みやびが巻き込まれたらどーすんだよ」

 

その時、幻騎士が声に気づき、そこを振り向くと瓦礫から離れたところにみやびを抱き抱えている悠斗が立っていた。

 

「っ!!?な、ナニィィィイ!!天峰 悠斗ぉ!!貴様、何故そこにいる!!!いつの間に、どうやって躱わしたァァァァ!!!」

 

「べつに…普通に避けただけだよ…」

 

 

 

瞬間

 

 

 

「こんな風にな。」

 

「ぐゔっ!?」

 

悠斗が一瞬で幻騎士の目の前にあらわれ、渾身の一撃が幻騎士へと直撃した。

 

「貴様ぁぁぁぁ!!俺を舐めるなぁァァァァ!!」

 

幻騎士は怒りながら悠斗へと斬りかかるが、悠斗は再び消え、少し離れた場所に現れた。更に幻騎士は《幻海牛》のミサイルで悠斗を攻撃しようとするが、悠斗は凄まじい速さ手間その攻撃を全て躱してしまった。

 

「姿が消えて…いや違う、速いのか!!!俺が認識するよりも速く移動しているのカァァ!!!」

 

 

これが天峰 悠斗のボンゴレギアの武装その1、《シルヴァの神速脚》の能力、《超高速移動》である。

戦場において《誰も捉えることも、逃れることも出来ずに命を刈られる》と恐れられた初代雪の守護者シルヴァ、悠斗はこの《シルヴァの神速脚》を纏うことで超高速移動を実現させたのである。この能力はただ高速で移動するのではなく、雪の炎の風を生み出し風に乗ることも可能としているのである。

 

「どうした?今度は十倍に分裂でもしてみるか?」

 

「ヌゥゥゥゥッ!!この俺をコケにするな天峰 悠斗!!ならば俺の最強の一撃を貴様に見せてやる!!」

 

そう言うと《機巧・幻剣》の刀身に膨大な炎が込められた。

 

「この俺に刃向かった、その愚かさを悔いながら死ね天峰悠斗ぉ!!《断罪剣(コンヴィンツィオーネ・スパダ)》ァ!!!!」

 

瞬間、今まで見たことないほど巨大な斬撃が悠斗へと放たれた。

 

ドコォォォォォン

 

幻騎士の剣撃によって地面は抉れ、巨大なクレーターへと変貌していた。

 

「ハァ…ハァ…終わったな、如何に天峰 悠斗と言えど…この剣撃をくらって無事ているはずがない……俺の勝ちだ……」

 

幻騎士は確信した。天峰 悠斗を倒したと、己の絶技をくらって無事でいるはずがないと、自分は天峰 悠斗を倒したのだと……

 

 

 

 

 

「そういうセリフと吐くって時はなぁ!!!!大抵倒せてねえ時なんだよ幻騎士ぃ!!!よく覚えておきな!!!」

 

突如声がした方向へ幻騎士か振り返ると、天峰 悠斗は宙を浮いていた。《シルヴァの神速脚》は前述したとおり、冷気の竜巻を生み出し、それを纏い風に乗ることで超高速移動を可能とする。そして、その力によって空を駆けることも可能なのだ。

 

 

 

「ば…馬鹿なぁ!!あの一撃をいつの間に躱して…」

 

「確かに破壊力は凄かったが…大雑把過ぎんだよ、威力にこだわり過ぎたな」

 

凄まじい一撃だった…しかし当たらなければ意味がない、威力に頼り過ぎた為に幻騎士の一撃は俺の神速で見切ることが出来たのだ。

 

「止めだ幻騎士。」

 

俺は空を蹴り超高速で幻騎士へと向かっていった。

 

「真正面とは愚かな!!!そのまま貴様を斬り刻んで……っ!?か、体が動かん!!!何故だぁ!!?」

 

幻騎士が悠斗へ剣を構えようとしたその瞬間、幻騎士は己の体が動かなくなってきていることに気づいた。

幻騎士は己の体をよく見てみると

 

「っ!?しまったァァァァ!!!いつの間に俺の体に雪の炎ガァ!!体がどんどん凍っていく!!!」

 

何度かあった接触…その間に幻騎士の体に雪の炎を流し込む…そうすれば相手の体を氷漬けにする事も可能である。

 

「たしかに、ヘルリングは確かに巨大な力をお前に与えたよ…けどなぁ…お前の真骨頂はその剣の腕と相手の自分の有利な展開に引き込むところにあるだろ?だけど今のお前は怒りに身を任せてただ力任せに攻撃しているたけだ!!そんな攻撃じゃあ俺は倒せねぇ!!テメェはそのリングで自分の最大の強みを殺しちまったってことだ幻騎士!!!」

 

俺はそのまま幻騎士へと《長槍》を構えた。そして、

 

「くっ……くそぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」

 

「狼王一閃!!!」

 

渾身の突きが幻騎士へと繰り出され幻騎士は地面へと落下した。

 

「よし、はやくみやびを安全な場所に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻騎士side

 

何故だ……何故俺はまた敗北した?

沢田 綱吉の時みたいに《眼》に惑わされることもなかった。

山本 武の時みたいに油断も慢心もなかったはずだ……なのに何故奴を倒せない……

何故俺が敗北する?

嫌だ……負けたくない……奴らに復讐を……

 

◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎…………

 

突如声がした。その方向を見てみると、

 

ヘルリング……

 

邪悪な力を秘めた呪いのリングが輝いていた。

 

……力を貸してくれるのか?

 

◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎…………

 

いいぞ、そのためなら…奴らを倒せるなら…俺は、人間を捨ててやる!!!!

 

side out

 

 

 

 

「ボンゴレ…ボンゴレェェェェッ!!!!」

 

「……っなんだ!?」

 

突如聞こえたこの世のものとは思えない「ナニカ」の叫びが聞こえ、その方角へ振り返ると、

 

「コロス…ボンゴレヲ…ナニモカモコロシテヤルゥゥゥ!!」

 

「幻騎士…なのか?」

 

そこにいたのは先ほどよりも更に巨大になり、禍々しい炎に包まれた幻騎士がいた。

 

「まさか…ヘルリングにその身を完全に食わせたのか!?そんな…そこまでして…人間を捨ててまで俺たちを倒したかったのか!?」

 

「シネェェェェッ!!!!」

 

幻騎士は俺へとなんの躊躇もなく攻撃を繰り出した。その一撃は先ほどとは桁違いの威力であり、それによって建物の一部が切り裂かれた。理性を完全に失った幻騎士はもはや殺戮マシーンと言ってもいいだろう。

 

「っ!?あれをまともに食らったらヤベェ…とにかく一旦距離を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ゆ…悠斗…くん…」

 

その時、そこへふらつきながらみやびが近づいてきた。戦闘の音を聞き、力を振り絞ってここまで来たのだろう

 

「っ!?みやび逃げろぉぉぉ!!!」

 

「コロォォォォスッ!!!!」

 

みやびの存在に気づいた幻騎士がみやびへと剣を振りかぶった。

 

ドガァァァァン!!!

 

幻騎士の剣撃によって地面は抉れた。

 

「ハァ…ハァ…大丈夫かみやび?……っ!!」

 

「ゆ、悠斗くん!傷が……」

 

幻騎士の剣撃は直撃こそしなかったが悠斗の体に深い傷を負わせており、そこから赤い血がみるみると流れてきた。

 

「ご……ごめんなさい悠斗くん!!私の…私のせいで…わ、私……やっぱり悠斗くんの足を引っ張ってばっかりで……」

 

みやびは後悔で目から涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みやび……泣くな、お前のせいじゃない。」

 

涙を流しながら謝るみやびの涙を指で拭いながら俺は優しく微笑みかけた。

 

「ゆ、悠斗くん…でも…私が…」

 

「ちげーよ、この怪我は俺の不甲斐なさが招いたことだ。みやびは何も悪くない。」

 

俺は優しくそう言いながら立ち上がると

 

「みやび、俺を信じてそこで待っていてくれ。必ず死ぬ気で勝つ。」

 

「え……っ!!や、やだよ!!!悠斗くん…死ぬなんて言わないでよ!!悠斗くんが死んじゃったら…私…」

 

「死なねえよ。」

 

眼に涙を溢れされながら止めようとするみやびに俺は優しく微笑みかけた。

 

「死ぬ気で勝つって言っても本当に死ぬつもりはねえよ…だって…死んだらまた一緒に特訓も、遊びにも行けねえだろ?だから死ぬ気で《生きる》って意味だ…必ず帰ってくる。だから…みやびも俺を信じて待っててくれ。」

 

俺はみやびの頭を撫で、再び微笑んだ。

 

「悠斗くん……うん…分かった。私、悠斗くんを待ってる。だから…死なないで」

 

「ははっ、意地でも帰ってくるよ」

 

俺はそう言うとこちらを睨みつけている幻騎士の方を向いた。そして、自身の《焔牙》を、《長槍》を見つめた。

 

 

(なぁ…お前が俺の《魂》だってんなら…俺に力を貸してくれ。あいつを倒すための、そして……俺の大切な人を守るための力を!!!)

 

その時、俺は己の中から力が溢れてくるのを感じた。

そして、天峰 悠斗はその力を解き放つ《力ある言葉》を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「天に吼えろ____《覇天狼(ウールヴへジン)》!!!」

 

すると、俺を白銀のオーラが包み込み、額から同色の炎が現れた。

 

「これが…俺の《焔牙》の真の《力》…」

 

いかなる時も倒れず、仲間のために死ぬ気で闘う。それこそが天峰悠斗の《長槍》に眠っていた真の《力》だった。

 

「コロス…オマエヲ…コロォォス!!!」

 

本能でそれが危険だと判断したのか幻騎士は剣を振りかぶって俺へと攻撃を仕掛けた。

しかし、俺はその剣撃を容易く躱して攻撃を繰り出した。

 

「ガァァァァァァァ!?」

 

幻騎士はその一撃に吹き飛ばされ、壁に衝突した。

幻騎士は立ち上がると、幻覚を使い姿を消し、悠斗へと剣撃を放った。しかし、

 

「そこだぁ!!!」

 

 

俺は幻騎士の居場所を容易く見つけ、《長槍》による突きをはなった。

 

悠斗の煉業《覇天狼(ウールヴへジン)》は自身の肉体のリミッターを解放し、戦闘力を強化する能力。そして、自身の野生本能を解放し、危険を察知し、敵の気配を察知することも可能とする。

言うなれば天峰 悠斗専用の《死ぬ気モード》である。

 

「コロシテヤル…ナニモカモコロシテヤルゥゥゥ!!!」

 

幻騎士は剣を振りかぶり、炎をその剣にチャージし始めた。この一撃で終わらせるつもりのようだ。

悠斗は《長槍》を構え、炎を先端に纏わせた。

 

「シネェェェェェェェェ!!!」

 

幻騎士の剣を振るって巨大な剣撃が俺に放たれた。しかし、逃げるものか。そこにはみやびが、俺の愛する少女がいるのだから

 

「天狼斬月!!!!」

 

《長槍》の斬撃が幻騎士の剣撃を斬り裂いた。

 

「うぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

俺はそのまま幻騎士へと接近し懐へと入り込み、そして

 

 

「天狼一閃!!!!!」

 

 

俺の一撃が幻騎士へと繰り出され幻騎士は吹き飛ばされ、そしてその禍々しい体は崩壊し、人の姿へと戻った。

 

天翔ける狼が邪悪な騎士を討ち破った。

 

「勝った…俺の勝ちだァァァァ!!!」

 

俺はふらつきながらも勝鬨をあげた。

 

 

 

 

「天峰……悠斗……」

 

すると、幻騎士が俺へと話しかけた。

 

「何故……俺はお前たちに勝てない……俺は…どうすれば良かったのだ…」

 

よく見ると、幻騎士は泣いていたのだ、泣きながら俺へと問いかけていた。これが幻騎士の…裏切り者としての記憶によってファミリーでの居場所を失い苦しみ続けた彼の本心なのだろう。俺は幻騎士を見つめながらその問いに答えた。

 

「そんなの…決まってんだろ……仲間を頼れば良かったんだよ…1人で悩まないでさ…仲間に助けを求めれば良かったんだよ。」

 

「………そうか…それが…俺に…出来れば…」

 

そのまま幻騎士は意識を失った。

俺はみやびも元へと近づき、

 

「…勝ったぜ、みやび」

 

「うん…良かった…悠斗くんが無事で本当に良かった…」

 

「みやび…」

 

その時、遠くから赤い光と爆発する轟音が聞こえた。

 

「…みやび、ちょっとまた用事ができた。すぐ戻る。」

 

「え…で、でも悠斗くん傷が…」

 

「大丈夫だ、ぜってー戻る。それに、透流たちを助けに行かねーとさ。」

 

俺は優しくみやびの頭を撫で、幻騎士を縛っておくと透流の元へと向かっていった。

 

 

遂に最後の闘いが始まる。

 

 

 

 



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27話《楯》と《長槍》

「はぁ……はぁ……くそ、体が重い……でも急がないと……」

 

俺は赤い光と爆発のする方へ急いで向かおうとするが、幻騎士との戦闘の傷が思ったよりも深く、体が重いことから思ったよりも早く走れなかった。出血は《雪》の炎で傷口を《凍結》することで止血出来たが、《装鋼(ユニット)》をまとったみやび、《神滅装備(アルマメント・エル・リベール)》を纏い、さらにヘルリングによって狂化された幻騎士との連戦は予想以上に体にダメージを残したのである。しかし、それでも俺は見殺しには出来なかった。この学園で出会った大切な仲間たちを。周囲の《神滅部隊(リベールス)》は援軍に来たツナたちがいるので問題ないであろう。

 

「………ふぅ~よしっいくかっ!!!」

 

俺は息をめいっぱい吐き出し再び走り出した。

しばらく走ると、少し離れたところに透流たちの姿が見えた。しかし、ユリエは傷だらけになって気を失っており、その近くには《神滅部隊》隊長《K》が背中に四枚の翼を背負い、宙に浮いていた。

 

「透流!!!」

 

「っ!!悠斗か!?無事だったのか!?」

 

「まあな、みやびも何とか無事だ、ほかの敵は俺の仲間たちが援軍に来たから時間の問題だと思う。それよりユリエは?」

 

「……とりあえず命に別状は無いけど……あいつの翼状の銃の光弾で攻撃されて……」

 

透流は傷だらけで気を失っているユリエを抱きかかえて悠斗へと状況を説明した。

 

「これはこれは天峰 悠斗。その様子だと、幻騎士はあなたに負けたようですね。まさか彼が負けるとは思いませんでしたが……まあ仕方がありませんね、あとは私の手によって終わらせましょう」

 

突如、《K》が凶悪な笑みを浮かべて俺を見た。

 

「おい《K》。ずいぶんと変わった装備を持ってるな。それも《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》の作った武器か?」

 

「その通りですよ天峰 悠斗!!!これこそが《神滅士(エル・リベール)》の外部兵装___《死化羽(デストラクション)》!!!この力で貴方たちを根絶やしにしてあげましょう!!」

 

そう言うと、《K》は赤い翼をこちらに向けると、突如二枚の翼から二枚のトリガーの付いたグリップが現れ、翼が銃へと変化していた。トリガーを引き、光弾が放たれる。

 

「くっ……‼︎牙を断て___《絶刃圏(イージスディザイアー)》‼︎」

 

しかしそれを、透流は何やら防御障壁のようなものを展開してそれを防いだ。

 

「なるほどな……それがお前の《焔牙》の真の《力》ってなわけか。」

 

「まあな、気をつけろ悠斗、あの武装、いろんな形態になってかなりやっかいだぞ。」

 

「なるほどな、幻騎士の使っていた武装とはまた違った厄介さってわけだ……」

 

俺は眼の前の敵を見つめながらそうつぶやいた。

 

「くくく、この《死化羽》の力は幻騎士の《神滅装備》にも匹敵すると自負しています!!!手負いのあなたたちを倒すには十分すぎると思いますねぇ!!!!」

 

《K》は俺たちへと銃口を向け、笑みを浮かべ高らかに宣言した。

 

 

 

 

「……透流、あの野郎に俺たちの力を思い知らせてやろうぜ。」

 

「……俺はもとよりそのつもりだけど…お前は大丈夫なのか?ひどい傷じゃねーか。」

 

「お前が言うな」

 

どちらも先の戦闘で大きなダメージを負っており、まさに満身創痍と言えた。

 

「………この闘い、こいつを倒さねーと終わらねえ………それに、お前も俺が前に出した宿題の《答え》を見つけたみたいだしな。」

 

俺の言う《宿題》とは、以前、悠斗が透流へと問いかけた『なぜお前の《焔牙》が《楯》なのか』という問いである。その言葉に透流は小さく頷いた。

 

「俺は……あいつに復讐すること以上に……これ以上大切な仲間たちを失いたくなかった。大切な仲間を《守れる力》が欲しかった……だから俺の《焔牙》は武器の形じゃなくて《楯》……防具の形になったんだ……」

 

「やっぱりな、そうだと思ったよ」

 

「悠斗、俺はユリエを…この学園で出会った仲間たちを守りたい…だから…力を貸してくれ!!」

 

透流の想いを聞き、俺は笑みを浮かべた

 

「当たり前だろ?俺だって同じだ。あんな奴らに大切な仲間を殺されてたまるか」

 

俺は透流にそう言うと、再び《K》のほうを向いた。

 

「勝つぞ透流。勝って皆のところに帰るぞ。」

 

「そうだな悠斗。こんなところじゃお互いぜってー死ねないよな。」

 

そういうとお互い顔を合わせて笑みを浮かべた。

そう、絶対死ねないのだ。天峰 悠斗にはまだやらなければならないことがある。

彼女と約束したのだ。また二人で遊びに行くと。そして、まだ彼女に思いを告げていない。それまでは、何があっても絶対に死ぬわけにはいかない。九重 透流は《楯》と拳を、天峰 悠斗は《長槍》を、互いに構えて《K》に対峙した。

 

「そろそろお話は良いでしょうか?では、最後の闘いといこうじゃないですかぁ!!」

 

「来やがれ《K》!!!俺たちの力、てめぇに骨の髄まで叩き込んでやる!!!」

 

そして、透流と悠斗は《K》へと向かっていた。

 

「天に吼えろ____《覇天狼(ウールヴヘジン)》!!!」

 

悠斗の《力在る言葉》と共に悠斗の体は銀色のオーラに包まれ額から白銀の炎が現れた。

《K》は銃から剣へと型(モード)を変化させた《死化羽(デストラクション)》で一気にこちらの間合いへ潜り込んでくる。その突進による速度は、悠斗にも匹敵しうるものであったが、

 

 

 

「無駄だぁ!!!!」

 

悠斗は《長槍》によって剣の一撃を防ぎ、そのままカウンターの突きを放った。

 

「っ!?………ちぃっ!!!」

 

《K》は悠斗に攻撃を防がれたことが予想外だったのか、一瞬取り乱し、舌打ちしながら間合いを取り、剣から銃へと型(モード)を変化させ銃口を悠斗たちへと向けた。

しかし、

 

「透流、防御だっ!!」

 

「わかったっ!!」

 

「っ!?」

 

《K》の放った一撃、赤色光束砲(エーテルカノン)を悠斗にばれたことにはさすがに動揺したが、《K》は途中でやめるわけにもいかずそのまま発射したが、その一撃は透流の《絶刃圏》で防御された。

 

「くそぉっ!!なぜ私の攻撃がこうも読まれるのだぁ!!」

 

《K》は現実に起こっていることが理解できないのか激しく動揺していた。

悠斗の煉業(リヴォルト)《覇天狼(ウールヴヘジン)》は身体能力や炎の力だけでなく、悠斗に眠っている野生の本能までをも開放することが出来る。それによって自身に降りかかる危険や相手の行動を察知することが出来るのだ。その力は、戦闘面においてなら、ツナの《超直感》にも引けを取らないであろう。

 

「こ……のぉ!!!!こうなったらぁ!!!!《死化羽(デストラクション)》に秘められし最後の《力》を見せて差し上げましょう!!!」

 

二枚の翼が《K》の言葉に呼応して組み合わさる。《K》はそれを___ニ連装の巨大な銃を手に取り、腰だめに構えた。

 

「これぞ《死化羽(デストラクション)に残された最終兵装___双連赤光束砲(ツインエーテルカノン)。》二門同時に放つことで、これまでの赤色光束砲(エーテルカノン)の倍以上に威力が跳ね上がるとっておきですよ……!!」

 

「なるほどな……確かにやばそうだが……当たらなければ意味が無え。」

 

「そうだな、むざむざ俺たちが当たると思ってるのか?」

 

回避に集中すれば、躱すかとができる。しかし《K》は、二人の考えなど想定内であるとばかりに薄く笑った。

 

「いいえ、貴方たちに避けることは出来ません。銃口の向きを考えればわかると思いますよ。《お友達思い》の貴方たちならね……」

 

『____っ!!』

 

その一言で二人は《K》の狙いを察した。

 

銃口は二人に向けられている。___しかし、その数百メートル先には寮があった。

つまり、躱せば寮のみんなを見殺しにしてしまう。

 

「さあ、最後はシンプルに《暴力(ちから)》と《魂(ちから)》の真っ向勝負といきましょうか。」

 

嗜虐の笑みを浮かべ、《K》が告げる。

 

 

 

「透流、俺を信じて全力で防壁を張ってくれ、俺が全力でサポートする。」

 

「悠斗……分かった。ゼッテー勝つぞ悠斗。」

 

ふたりは互いの拳を合わせて笑った。

 

「くくく、まさか躱すことも防ぐことも出来ない圧倒的な《暴力(ちから)》に折れないとは……ここまで来ると憐れみを覚えますよ……」

 

「なめんなよ《K》……俺たちの《魂(ちから)》は、てめーの《暴力(ちから)》なんかには絶対に負けねえ!!!」

 

「終わりです九重透流!!天峰悠斗!!」

 

ニ連装の銃口に集められた殺意と悪意の牙が、巨大な赤色の光と化して放たれた。

 

「《K》!!最後に一つ教えてやる!俺の《絶刃圏(イージスディザィアー)》は一か所にしか展開できないが___同時に展開出来ないわけじゃない!!」

 

透流は残るすべてを一気に開放し、吼えた。

 

「牙を断て___《絶刃圏・參式(スリーフォールド・イージス)》!!」

 

「《雪の結界》最大防御!!」

 

一箇所へ集中して展開された重なる結界に《雪》の炎のコーティングがされた。

 

「なっ!?結界を重ねる!?___しかも…死ぬ気の炎で強化だとぉ!?」

 

「「俺たちを……なめるなぁぁぁぁぁ!!」」

 

ふたりの咆哮びと共に、結界に阻まれて蓄積し続けた光が___大きく爆ぜた。

やがて土煙が晴れ____悠斗と透流は立っていた。

 

「バ、バカな……何故……なぜ生きている……なぜだぁぁぁぁあ!!」

 

怒りに身を任せて《K》は《死化羽(デストラクション)》の銃口を向けようとした瞬間、目の前に透流の姿が現れた。

 

「なっ……いったいどこにそんな余力が……っ!?天峰 悠斗ぉぉぉお!!」

 

悠斗が透流の肩を支えながら残った力と《シルヴァの神速脚》を振り絞って《K》の眼前へと超高速移動したのである。

 

「最後はお前が決めな透流。」

 

「ありがとな悠斗。」

 

悠斗に感謝を述べながら九重 透流は拳を振るった。

この闘いを終わらせる最後の一撃を。

 

「終わりだ《K》_____っ!!」

 

「九重 透流_______っ!!」

 

瞬間___透流の《雷神の一撃(ミョルニール)》が《K》に打ち込まれ、《K》はクレーターの中心で倒れており、《装鋼(ユニット)》は完全に破壊され、《死化羽(デストラクション)》も粉々と化していた。

 

 

 

 

「はは……あいつ、やっぱりやるじゃねえか…………」

 

俺は透流を称賛し、度重なる戦闘の疲労が闘いの終結とともにピークに達しそのまま意識を失った。



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28話 結ばれる2人

「ん……ここは…?」

 

目を覚ますとそこは医務室のベットの上であった。

どうやらあの後俺は倒れたまま眠ってしまっていたらしい。今回、自分は思いの外ダメージを負ってしまった。まさか幻騎士の力があそこまで強化されていたとは思わなかった。

 

「あ…………。」

 

ふと声がしたので隣を見ると、そこには目を真っ赤にしてこちらを見つめる自身の絆双刃、穂高みやびがいた。

 

「悠斗くんっ!!」

 

「んなっ!?み、みやび……く、苦しい…離れ…っ!」

 

突然みやびに抱きつかれた俺はどうすればいいのか戸惑っていたが、ふと、みやびが泣いていることに気づいた。

 

「良かった……本当に良かった……悠斗くんが死んじゃったらって思ったら……わたし……」

 

その時、悠斗は彼女にさらに心配をかけてしまったことに後悔し、そのままみやびの頭を優しく撫でた。

 

「悪かった……少し心配かけ過ぎちゃったな……でも大丈夫だよみやび、言ったろ?絶対に帰ってくるって。」

 

「うん……でも……悠斗くんが目覚めなかったらって思ったら怖くなっちゃって……」

 

ガラッ

 

「悠斗!!目が覚めたか!!」

 

声を聞きつけたのか透流たちが病室へと入ってきた。透流も手に包帯を巻いているが無事のようだ。

 

「みんな、悪いな迷惑かけて」

 

「全くだ…無茶しおって…よくそれで僕に無茶をするなと言えたもんだな」

 

「そう言うなよトラ、悠斗のおかげで俺たちも無事で済んだんだから。」

 

トラは呆れたように悠斗を叱り、それを透流がなだめていた。

 

「天峰、みやびに感謝するんだぞ。キミのそばで一晩中看病していたんだからな」

 

「そうなのか?ありがとなみやび。」

 

「う、ううん。わたしにはこれくらいしか出来ないから…」

 

 

 

「あ、あの……悠斗さん……。」

 

するとみんなの後ろから梓が現れ、ビクビクと怯えながら悠斗の前に出てきた。

 

「梓………」

 

すると、梓は決心した顔を見せ、

 

「すみませんでした!!!わたしのせいで皆さんを危険に晒しただけでなく…みやびさんまで……許してもらえるとは思っていません!!でも……この罪を償わせてください!!でないと私……」

 

頭を下げ謝罪した。

 

「……俺たちをずっと騙して…その上みやびを危険な目に遭わせておいて…なんの罰も受けなくて済むなんて思っちゃねえようだな…良いだろう…今からお前に罰を与える」

 

「なっ…悠斗!?」

 

突然悠斗の口調が重くなり、透流は慌てた。

 

「まっ…待ってくれ天峰!!梓も心から反省している!!私も謝る!!だからどうか…」

 

「そ、そうだよ悠斗くんっ!!わたしももう大丈夫だから…」

 

巴とみやびは悠斗を止めようとするが、悠斗は梓を無言のまましっかりと見つめ、そして

 

 

 

 

 

「せいやぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

 

 

 

スパァァァァン!!

 

 

 

どこから出したのかハリセン片手に梓に綺麗な一撃を繰り出した。

 

「え………?悠斗さん……なにを……?」

 

「許す!!!」

 

きょとんとする梓に悠斗は大きな声で一言言った。

 

「橘やみやびが許しているんだ…それに他のみんなも許してるみたいだがからな…だけどそれでもお前がみんなを騙していたことの示しはつけなきゃなんねぇ…だから、ハリセン一発、これでお前を許すって決めた。」

 

悠斗は梓に笑顔でそう言った。その言葉に梓はポロポロと涙を溢れさせた。

 

「悠斗さん……あり…がとう……ございます…わ…わた…し…う…ウワァァァァァア!!!」

 

我慢の限界だったのか梓は泣きだしてしまった。

 

「梓…良かったな…」

 

「梓ちゃん…」

 

「巴さぁん…みやびさぁん……ごべんなさぁぁい」

 

梓は巴とみやびに思いっきり抱きついた。

 

ムニュン

 

その時、みやびと巴の胸が梓の慎ましい胸を圧迫した。

 

「巴さぁん…みやびさぁん…うううう…ゔゔゔゔゔ…ごれでがぁったと思うなよぉぉぉぉお…」

 

「急に怒りだしたぞ!?」

 

「しかもマジ泣き!?」

 

梓の突然の変貌に透流とトラは驚愕した。

その時、

 

 

 

 

 

ガラッ

 

 

 

 

 

「天峰くん!!大丈夫?見舞いに来たよ!!」

 

「けっ、騒がしいと思ったら…」

 

「ははっ、元気そうだな。」

 

「極限に見舞いに来たぞ!!!」

 

「ランボさんが来てやったんだもんね!!」

 

「……大丈夫?」

 

突然扉が開きツナたち10代目ボンゴレファミリーが入ってきた。

 

「な、なんだ貴様らは!?」

 

突然の来訪にトラは驚いた。

 

「あ…初めまして、俺は沢田 綱吉って言います。天峰くんと同じボンゴレで…」

 

「ボンゴレって言うかこいつこそイタリア最強のマフィア、ボンゴレファミリーの10代目ボスだ」

 

 

 

『え……えぇぇぇぇぇぇえ!?』

 

悠斗の言葉に透流たちが驚愕した。

 

「ボ、ボンゴレのボスって俺たちと同い年だぞ!?俺…てっきりスーツ姿でダンディな髭のおじさんかと…」

 

「典型的なボスのイメージだな透流。」

 

「わ、私は龍の刺青で和服姿で腰に匕首を刺した人かと…」

 

「いやそれマフィアじゃなくてヤクザだから橘。」

 

ツナが少年という事にみんなは驚愕した。

 

「ところで沢田さん、確か他にも雲雀とかいう男がいたと思うのだが…」

 

「え、えーと…雲雀さんは呼んだんだけどどこか行っちゃって…」

 

「そうか…あの男には少し因縁があったのだが…」

 

巴は以前の《あらもーど》での騒動を思い出しながらため息をついた。

 

「そーだったおいツナ!!雲雀の奴こっちの方まで俺を咬み殺しに来たんだぞ!!お前ボスだろ、なんとかしろ!!」

 

「えぇぇぇぇっ!?オレのせいなの!?」

 

「おい天峰ぇ!!オメェ10代目の所為にしてんじゃねぇ!!」

 

悠斗の言葉に獄寺は怒りながら悠斗を睨みつけた。

 

「うるせぇタコヘッド!!」

 

「なんだとアホ狼!!」

 

「「うぎぎぎぎぎ…」」

 

「ちょ、ちょっと2人とも」

 

ガン飛ばしあいしだした2人ツナは慌てて止めようとしていた。

 

「なんか…マフィアって言うよりクラスメイトって感じだな」

 

そんな彼らを見て透流は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「…それじゃあ幻騎士は後日ユニたちが引き取りに来ることになったのか?」

 

「うん、そうだよ」

 

現在俺はツナから《殺破遊戯》の結末を聞いていた。

幻騎士は事情聴取が終わったらジッリョネロファミリーが引き取りに来る様である。

 

「ユニ…相当落ち込んでたよ…幻騎士の苦しみに気づいてあげられなかったことが…」

 

「そっか…まぁそこから先はあいつらに託すしかねえよ」

 

「うん…」

 

何より俺は信じている。あの時幻騎士が流した涙を…彼らが和解し合えることを…

 

「それじゃあ俺は《殺破遊戯》の後始末をしに行くよ」

 

「あ…それじゃあ俺も」

 

「天峰くんはまだ傷が完全に言えてないでしょ?今は体を休めておいてよ」

 

そう言うとツナはそのまま病室を去ってった。

 

 

 

 

 

ツナが病室を出てしばらくすると、

 

 

 

ガラッ

 

 

 

「ゆ、悠斗くん…体は大丈夫?」

 

みやびが心配そうに入ってきた。

 

「あぁ、問題ねぇよ。ある程度はもう治ってるから出かけても大丈夫だよ。」

 

「そ、それじゃあ、夜六時に、校門前に来てくれるかな」

 

「校門前?別にいいぜ」

 

「じゃ、じゃあよろしくね。」

 

みやびはそう言うと病室を去って行った。

そして、午後6時前、俺は服を着替えて校門前に来ていた。

 

「少し早かったか、な……」

 

藍色へと変わりつつある空の下を歩いていく。外灯は敷地内の至る処に設置されているが、日が沈んだ後が薄暗いことには変わりない。

 

(話、か……)

 

《装鋼(ユニット)》の件、告白の件、そして今後の事について、話すことになるだろう。

ならばちょうどいい、俺も彼女に話さなければならないことがある。

やがて守衛所前を通り___正門を抜けると___そこに、彼女は居た。

 

「よっ、みやび。早いな」

 

「こ、こんばんは、悠斗くん」

 

「こんばんは___って、みやび、その格好どうしたんだ?」

 

みやびは浴衣姿だった。

 

「あ、こ、これ?えっと___お、思い出作りと言うか、その……昼間、巴ちゃんと梓ちゃんに付き合って貰って買ってきたんだけど___もしかして似合ってない、かな……?」

 

「いや、すごい似合ってるよ。よく似合ってて可愛いぜ。」

 

「か、かわっ……⁉︎そ、そんな、お世辞なんか言わなくても……」

 

「ん?いや、お世辞じゃなくて、思ったことをそのまま言っただけなんだが」

 

「あ……。そ、そうなんだ……。えっと、あ、ありがと、悠斗くん……」

 

少しうつむき加減で、みやびが礼を言う。

 

「しかしどうして浴衣を___あ、それより、話をするんだっけ?」

 

「う、うん……。でも話をする前に、少し時間を取らせて貰ってもいい?」

 

「ん、ああ、それは構わないけど何かあるのか?」

 

「……じ、実はね。今日、近くで開催される花火大会に行こうかなって。それで、悠斗くんさえよかったら……い、一緒に行ければって思って、その、つまり___ 」

 

「花火大会?」

 

不思議そうに聞き返すと、みやびは、こくりと頷いた。

 

「ゆ、悠斗くんと……デート、したいなって……」

 

「え……?」

 

重めの話をすると思って気を高ていたが、まさか、デートをしたいと言われるとは。

 

「ダメ、かな?」

 

「___い、いや、いいよ!えっと、オッケーだ」

 

「あはっ、よかったぁ」

 

途端、みやびに笑顔という花が咲く。

 

(やべぇ…すげー可愛い…思わずドキッとしちまった。)

 

「あ…でもちょっと待ってくれたしか…外出届も出しに行かないとダメだよな……」

 

「そ、それだったら、ちょっと待ってて……」

 

そう言い残し、カランカランと下駄の音を立てながら、みやびが正門をくぐって守衛所へと駆けていき、警備隊の人と何事かを話したみやびが、戻ってくる。

 

「外出届出してきたよ。」

 

聞けば守衛所でも外出届は出せるらしい。

 

「まじか…全然知らなかった。」

 

「クスクス。生徒手帳に書いてあるよ。悠斗くん。」

 

当然のごとく俺は読んでない。

 

「そ、それじゃあ悠斗くん…デ、デート、行こうか」

 

「あ、ああ。そうだな。」

 

意識している女の子と今から一緒に花火大会へ行く。

 

 

 

デートをする。

 

 

 

そして、俺たちは駅へと向かった。

 

「「 ………… 」」

 

モノレールに乗り込むが、この時間帯から出かける生徒はほとんど居らず、車内には俺たち以外に一組しか乗っていない。向こうもデートのようではあるが、こちらと違って会話が弾んでいるのが分かる。とりあえず、この無言状態をなんとかしようと、話題を振ってみる。

 

「もうすぐ出発だな」

 

「う、うん、そうだね……」

 

「「 ………… 」」

 

会話終了。苦悩していると、今度はみやびが頷いたままに話し掛けてきた。

 

「わ、わたしね――初めて、なの……」

 

「え?」

 

「男の子と、デートするのって悠斗くんが初めてで、その……な、何を話していいのか、分からなくて――」

 

「(みやび……)」

 

ほっと胸を撫で下ろす中、僅かに上目遣いで

謝られる姿に、俺の方が申し訳ない気持ちになる

 

「それを言うなら、俺だって初めてのデートですごく緊張してて、何を話していいのか 本当はよく分からねえんだ。だから、俺の方こそつまらないデートにしたら、その……ごめんな」

 

「え……? 悠斗くんも……初めてなの?」

 

意外そうな顔に、そうだけどと彼女に笑って返す

 

「まぁな、恥ずかしいけど、この前あらもーどにみやびと一緒に出かけた事以外だと、そういうの無いな」

 

「わたしが、悠斗くんの初めて……」

 

噛みしめるように呟いた後、みやびは嬉しそうに笑った。

 

 

 

それからすぐに、駅へと到着する。電車が止まると立ち上がり___みやびへ、手を差し出した。

 

「あ……。ありがとう、悠斗くん」

 

おずおずと手を乗せ、みやびも立ち上がる。が、話はそこで終わらなかった。

 

「……あ、あのね、悠斗くん。このままでも、いい?」

 

「このまま?」

 

「手、このまま繋いでいたいなって……」

 

「ん、ああ、いいよ。デートだからな」

 

「うんっ」

 

はにかみつつも、きゅっと繋いだ手を少しばかり強く握ってくる。

 

電車を乗り継ぎ、目的の駅に近付いてくるにつれ、花火大会へ向かう人の姿が増えてきた。やがて駅に到着して外へ出て、俺たちは会場へ向かう人たちの流れに乗って進み始める。

 

「出店が結構出てるな」

 

「先に何か買って食べちゃう?」

 

「それがいいかもな。会場に着いたら、出店で買い物もする余裕があるかどうか怪しいしな」

 

いつもなら夕食時ということで、先に食べておくことに決めた。手はここで離し、俺はりんご飴と焼きとうもろこし、みやびはツナサラダクレープ、そして二人揃って大判焼きを一つずつ購入して、会場へと向かいながら食べ始める。

 

「あ、悠斗くん。」

 

「ん?」

 

「えっと……」

 

悠斗の顔を見て、みやびが何か言いたげな様子を見せて逡巡し___

 

「とうもろこし、ついちゃってるよ」

 

と言うなり、俺の頬に手を伸ばしてきて取ってくれる。___しかも、そのままぱくりと食べた。

 

「あ……」

 

「え、えっと……は、恥ずかしいね、これ……」

 

「そ、そうだな」

 

と、そのとき___ドーン、と大きな音が聞こえて空気が震えたかと思うと、夜空に大輪の花が咲いた。

 

「わぁ、綺麗……。それにすごく大きいね……」

 

打ち上げ場所が近いからこそ迫力のあるサイズに、みやびと俺は見入る。

 

「すげーデカイな。こんなに近くで花火を見るのは初めてだ。」

 

「ふふっ、わたしもだよ。すごい迫力だよね」

 

「ああ。だけど上を見て歩くのも危ないから、しっかりと見るのは会場まで我慢しよう。」

 

「うん、そうだね」

 

道端にあるゴミ箱へゴミを捨てて、再び会場目指して歩き始めると___みやびがそっと、遠慮がちに手を重ねてくる。

 

「人も多いし、離れないようにしとかないとな」

 

そう言って、みやびの手を握ると___

 

「うん。ありがとう、悠斗くん」

 

みやびは笑みを浮かべ、握り返してきた。そして会場に到着したのはいいのだが、次第に会場は混雑を増していく。あまりの人の多さで自然とスペースは狭くなり、だんだんみやびとの距離が近づいてきたところまでは、まだセーフ。

しかし、その先___みやびのボリュームがあり過ぎる胸が俺の腕に当たった辺りから、何かがおかしい方向に。場所を変えたくとも次から次へと人が詰めてきて、もはや移動するどころの騒ぎじゃ無い。次第にみやびの胸が俺の腕に押し付けられ、形を変えていき___何とかしようと体を動かした結果、事態はより深みに嵌まった。

 

___というか、腕が胸の間にすっぽりと嵌まった。いや、腕周り三百六十度が完全にマシュマロの如き柔らかさに包まれた。

 

「……み、みやび。あの、もろ挟まってるというか……」

 

それに対して、みやびは恥じらいに加え、暑さと息苦しさで頰を真っ赤にして荒い呼吸をし、俺を見上げてくる。

 

「ん、はぁっ……ふは、ぁ……ご、ごめん、ね、悠斗くん。わたし……んっ、んんっ!」

 

「い、いや、謝るのは寧ろこっちの方だって。事故というか、この状況じゃ仕方ないというか……」

 

結局、花火大会も終盤になるまで続いた。終わりが近づき、周囲で帰路に就き始めた人たちが動いたおかげでようやく体が離れると、俺たちは土手を下りて街中へ向かうルートに入ったところで、ようやく一息をついた。

 

「………か、帰るか」

 

「う、うん、そうだね……」

 

帰りの電車では、ほとんど会話は無かった。やがて学園前にモノレールが到着しても最低限の会話しかしていない。外灯に浮かび上がる巨大な門をくぐり、寮への道を無言で歩くその途中___

 

「悠斗くん…ちょっと寄り道良いかな?」

 

分かれ道で、みやびがそんなことを言い出した。異論は出ず、寮へ向かわずに別の道を歩き始めた。しばらくしてライトアップされた噴水の近くでみやびが足を止め、数歩先に進んだところで悠斗も止まって振り返る。

 

「ここで、少しお話ししてもいいかな……?」

 

「……ああ」

 

悠斗の返事を聞くと、みやびが無言で頷き___しばしの間を置いて静かに語り始めた。

 

「今日は___ううん、入学してから今日まで、本当にありがとう。悠斗くんはわたしが大変なときにいつも助けに来てくれて、それがすごく嬉しくて……すごく申し訳なくて……」

 

「気にするなって、俺はみやびの役に立ってるなら、それで嬉しいんだよ」

 

すると、みやびが、ぽつりぽつりと口を開く。

 

「わたしね、悠斗くんが私の絆双刃になって…少しでも悠斗くんに近づきたくて…でも、足を引っ張ってばっかりだった。…でも、それでもわたしは悠斗くんに近づきたい。悠斗くんみたいに強くなりたい…だから…

 

 

 

わたし、退学(や)めないよ」

 

小さく、けれど力強く、みやびは答えを口にした。

 

「ああ、みやびが辞めないでくれて、俺は___嬉しいよ」

 

「あ……ふふっ、そう言って貰えるとわたしも嬉しいな」

 

みやびは俺に小さく微笑んだ。そして、俺は自身の頬が熱くなり、心臓の鼓動がさらに速くなった。

 

「最後に……もう一つ、話があるの」

 

夜空に三日月が浮かぶその下で、みやびは静かに言った。

 

「前にも言ったことだけど、もう一度悠斗くんに聞いて欲しいの。そのことについて、悠斗くんの返事を聞かせて欲しいの。……今度は、逃げないから」

 

「……わかった」

 

あの日、黄金色に輝く海を前に途切れてしまった話を今、改めて。

 

「わたし、悠斗くんのことが好きです」

 

みやびは、俺への想いを物語る。

 

「私に絆双刃になって欲しいって言ってくれたあの日から好きです。大好きです。もし悠斗くんさえ良ければ…わたしとお付き合いしてください。」

 

僅かに間を置き、みやびは告げる

 

真摯に想いを、願いを口にした少女に、俺は真っ直ぐに見つめると 、自分の胸の中に秘めた想いを、その大切な女の子に伝える

 

「俺は…怖かった…俺の過去がいつかみやびを傷つけるんじゃないかって…それが怖くて…みやびに向き合えずにいた…でも…それは間違いだった…」

 

今回のことで…橘に喝を入れられて…俺がいかに弱かったことがわかった…俺なんかに比べたら…みやびの方がずっと強い…

 

「俺も…みやびに言わせてくれ…」

 

「悠斗くん…?」

 

だから伝えよう…俺の想いを…

 

 

 

 

 

 

 

「みやび…好きだ、俺と付き合ってくれ。何があっても俺はみやびを守る…これから先ずっと」

 

 

 

その言葉を聞いたみやびは目を大きく見開き、そして目から涙が溢れてきた。

 

「はい、わたしを…悠斗くんの恋人にしてください」

 

それは2人が結ばれた瞬間であった。

そして、2人はそのまま互いを抱きしめ、上気した顔で見つめ合い、そして、唇を重ねあった。

 

空は満天の星空であり、それはまるで、2人を祝福しているようであった。



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幕間
29話 因縁


昊陵学園の医務室へと続く廊下にて

 

ザッザッザッザッザッ

 

「な…何だあいつら…」

 

「リーゼントに学ランって…ちょっと時代錯誤が…」

 

周囲の学生たちの言うとおり、廊下をリーゼントに学ランの厳つい顔の男たちが医務室へと向かっていた。

そして、その中心には黒い学ランの腕に《風紀》の文字が書かれた腕章をつけた少年、雲雀 恭弥が歩いていた。

 

「恭さん、この先が医務室だそうです。おそらくそこに天峰さんはいると思いますが…できる限り守護者同士の喧嘩は…」

 

口に草を加えたリーゼント頭の老け顔の少年、草壁 哲矢は雲雀へと戦闘を控えるように進言するが、

 

「草壁、僕はあいつを咬み殺すって決めたんだ。邪魔をするなら…幾ら君でも咬み殺すよ。」

 

しかし、雲雀はそんな忠告には耳を傾けず、まっすぐに医務室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「悠斗くん…はい、あーん。」

 

「あーん♪」

 

みやびの言葉とともにうさぎの形をした林檎が差し出され、悠斗は満面の笑みでそれを口にした。

悠斗とみやびが恋人になったことは花火大会の後、みんなに発表した。その時、みんなから祝福された時はとても嬉しかった2人である。そんな公認のカップルになった2人はこのように甘い空気をしているのである。悠斗に至ってはボンゴレが誇る《天狼》の面影は無く、恋を満喫している幸せな少年にしか見えなかった。

 

「顔が思いっきりニヤケているぞ天峰、どんだけ緩んでいるんだ」

 

そんな悠斗の顔にトラは呆れながらそう呟いた。

 

「ああ、幸せだぜトラ。俺は今幸せな時間を満喫してんだ」

 

「貴様を見ていると本当に貴様がマフィアなのか疑わしくなってくるぞ。」

 

トラの言葉は本当にもっともである。それだけ悠斗の顔は緩んでいた。

 

「まぁな、だけどマフィアだって人の子さ、幸せな時人は心からニヤケてしまうものなのさ」

 

悠斗は幸せそうな笑みを浮かべながら再びみやびにリ林檎を食べさせてもらった。

 

(そういや、今並森はどうなってんのかな?今度みやびたちも連れてみようかなっと…)

 

悠斗は最近戻っていない並森のことを思い出した。

すると、

 

 

 

ガラッ

 

 

 

 

「ここにいたのか天峰 悠斗。」

 

 

 

そう言いながらリーゼント頭に学ランの厳つい連中を連れて雲雀恭弥が入ってきた。

 

「げっ!?雲雀…何でお前がここに…まさかと思うけど…お見舞いに来てくれたって感じじゃないよね?」

 

そう言いながら悠斗は草壁の方を向いたが

 

「すいません、さっきから止めようとしたんですが…」

 

「僕がここに来た理由なんて…君を咬み殺しに来たしかないよ。」

 

そう言いながら雲雀はトンファーを両手に持って悠斗へと攻撃を仕掛けてきた。

 

 

 

 

「…………《焔牙》。」

 

 

ガキィィン

 

 

しかし、悠斗は《長槍(ロングスピア)》でそのトンファーを容易く受けとめ、先程のニヤけた顔では無く怒りに染まった顔で雲雀を睨みつけた。

 

「雲雀……お前いい加減にしろよ……」

 

「………へぇ…」

 

雲雀は突然自分に向けられた敵意に笑みを浮かべた。

 

 

「喧嘩がしたいなら暇な時相手になるよ…けどなぁ…人がみやびと甘い時間を過ごしていたのに邪魔しやがって……テメェは俺に攻撃する日を間違えたな雲雀。今日の天峰悠斗さんはちょ___________っとバイオレンスだぜ……今日は特別に全力で相手になってやるよ……後悔すんじゃねーぞオラァァ!!」

 

私怨100パーセントの怒りであった。

 

「ゆ、悠斗くん…?」

 

みやびは心配そうに悠斗へと声をかけると

 

「大丈夫だぞみやび、ちょーっとだけ出かけてくるから。」

 

そう言って『優しく』微笑みながら電話をかけ、

 

「朔夜…ちょっと格技場を使わせろ…あと誰もこないように人払いしといてくれ」

 

『良いですわよ天峰 悠斗、ですがくれぐれも格技場を壊さないようにしてくださいよ。』

 

「『できる限り』そうするよ。」

 

そう言うと悠斗は電話を切り、

 

「表出ろや雲雀…広い場所で相手してやるよ。」

 

「良いよ、じゃあそこで咬み殺してあげるよ。」

 

そう言うと2人は医務室を出て行き、格技場へと向かっていった。

 

「ハァ〜やっぱりこうなってしまいましたか…」

 

草壁は顔に手を当てため息を吐いた。

 

「あの〜一つ聞きたいんですけど…」

 

そんな草壁に透流は話しかけた。

 

「何でしょうか?」

 

「何であの雲雀って人は悠斗にあんなに敵意を向けてくるんですか?」

 

「…………わかりました、貴方たちになら話しても大丈夫でしょう…」

 

その質問に草壁は少し考えたが、透流たちに話し出した。

 

「あれはもう2年前の事なんですが……」

 

 

 

 

 

2年前、並森中応接室もとい風紀委員室にて

 

 

ガラッ

 

「雲雀〜いるか?っていねーのかよ。あいつに声かけるようにツナから言われていたのにな〜」

 

風紀委員室へと入ってきたのはコーヒーの缶を右手に持った悠斗であった。並森中の応接室は雲雀の指揮のもと風紀委員が確保もとい強奪し風紀委員室となっているのだ。悠斗はここへツナに頼まれて雲雀に声をかけに来たのだが偶然雲雀は留守にしていたのである。

 

「ったくあいつどこへ行ったんだか……にしてもさすが応接室を使っているだけあって豪華だなぁ…っとこれは何だ?」

 

悠斗が手にしたのは並森中での風紀活動の報告書であった。悠斗は飲んでいた缶コーヒーを机に置いて報告書を読んでみた。

 

「へぇ〜結構いろんなところで活躍してんだな…ちょっとしたやりすぎなところもあるっぽいけど。」

 

そう言いながら悠斗は報告書を読んでいたがその時、

 

 

 

グラグラッ

 

 

 

「おっと…地震か?」

 

突然地震が起こった。といってもそこまで大きな揺れでもなかったしさしずめ震度2ぐらいだろう…

 

コトン

 

「………コトン?」

 

突然聞こえた音の方へと振り返ると…

 

 

 

 

 

 

 

悠斗の置いた缶コーヒーが溢れて机の他の報告書を茶色いコーヒーが濡らしていた。

 

 

 

「…………いけね…」

 

 

悠斗はとっさに近くにあった『黒い大きな布』でコーヒーを拭いたがすでに濡れて脆くなっていた紙がボロボロになってしまった。

 

 

「やべぇ…こうなったら……」

 

慌てた悠斗は急いで行動した。

 

 

 

 

 

 

数分後……雲雀と他の風紀委員が戻ってくると、そこには…

 

 

 

 

 

ボロボロになったコーヒー色の報告書、

 

コーヒーの匂いがついた雲雀の学ラン、

 

そして、『ごめんなサイダーby天峰』と書かれた紙の上に置かれた缶のサイダーがあった。ちなみにこのサイダーは近くの自販機から買ってきたものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブチッ……

 

この時の雲雀はそれはもうお怒りだったそうな……

 

 

 

「……と、いうわけです。」

 

「いや……それは怒るだろ……」

 

「何をやってるんだあの馬鹿は…」

 

流石に透流とトラもこれにはそれしか言えなかった。

 

「……悠斗さんも後になって流石に不味いと思ったらしくその後しっかりと謝りに来たのですがもう後の祭りで……恭さんもそれから目が合うたびにあんな風に…」

 

「ふむ…しかし、それでも天峰はそのあと何度も謝ったのだろ?なら、もう許してあげても良いのではないか…何故あの男はそこまで許さないのだ?」

 

橘は悠斗が何度も謝っているということから雲雀ももう許しても良いのではと言ったが、

 

「恭さんは一度舐めた相手には一切容赦しませんからね…もう謝ったぐらいじゃダメだと思いますよ。」

 

草壁もため息を吐きながらそう答えた。

 

「と…とにかく俺たちも闘技場へ行こう、悠斗が心配だ」

 

「ヤー。」

 

「やれやれ、仕方がない。」

 

「悠斗くん…大丈夫かな…」

 

そう言いながら透流たちは格技場へと向かうと、

 

 

 

 

「天狼斬月!!!」

 

「無駄だよ。」

 

一部が氷で覆われたり、抉られたりした闘技場で《シルヴァの神速脚》を纏い《覇天狼(ウールヴへジン)》を解放した悠斗と改造長ランを纏い、トンファーで迎え撃っている雲雀が衝突していた。

 

「あーもう!!あれから毎回毎回事あるごとに俺を咬み殺しに来やがって!!こっちは何度も謝っただろ!?しつけーんだよお前はさぁ!!」

 

「君が何度謝ろうが関係ないんだよ、並森の風紀を乱した君を咬み殺す。それだけだよ。」

 

悠斗の訴えに雲雀は聞く耳を持たなかった。

 

「あーそうかよ!!それならぶちのめしてもうこんな真似出来なくしてやろうか!!」

 

悠斗は怒りながら雲雀に強力な一撃をお見舞いしようと炎をチャージした。

 

「わお、面白そうだね。」

 

雲雀は笑みを浮かべ、周囲にハリネズミ型匣兵器《雲ハリネズミVer.V(ポルコスピーノ・ヌーヴォラ バージョンボンゴレ)》の無数の球体を浮かせ、

 

「球心体だよ、ロール。」

 

球心体を悠斗へと突撃させようとした時、

 

「み〜ど〜り〜たな〜びく〜な〜み〜も〜り〜の〜♪」

 

突然雲雀の携帯から再び《あらもーど》の時に聞こえた《並森中校歌》が聞こえた。

 

「(ピッ)……何?」

 

どうやら並森に置いてきた風紀委員からのようだ、

 

「……またあの変な薬?……ちっ……」

 

そう言うと、雲雀はくるりと悠斗に背を向けた。

 

「どうした?」

 

「……君には関係ないよ。用ができた。君を咬み殺すのはまた今度になりそうだ…行くよ」

 

そのまま雲雀は風紀委員を引き連れ立ち去ろうとした時、

 

「待て雲雀 恭弥!!」

 

突然雲雀を呼び止めたのは橘であった。

 

「私がキミ達にこんな事を言うのは野暮かもしれないが…余計な因縁があったらいざという時に仲間同士に亀裂が生じるぞ!!」

 

橘の言葉に雲雀は暫く彼女を見つめていたが、

 

「…君には関係ない。」

 

そう言って立ち去ろうとした。

 

「待て雲雀 恭弥!!まだ話は終わって…」

 

「うるさいよ。」

 

一歩も引かない橘に苛立ったのか雲雀はトンファーのチェーンで橘に攻撃を仕掛けた…しかし、

 

 

 

 

 

 

 

橘はそれを躱し、一気に間合いを詰め、雲雀の手を掴んだ

 

「悪いが鎖は得意なんでな、躱し方も心得ている。」

 

「……咬み殺す。」

 

そう言って雲雀は攻撃を仕掛けようとしたが、

 

「恭さん!!ヘリを待たせてあります!!今日はこの辺で…」

 

草壁の言葉を聞き、橘の手を振りほどくと、

 

「君…名前は?」

 

橘の名前を聞いた。

 

「…橘 巴だ。」

 

「へぇ…君、中々面白いね…覚えておくよ。」

 

そう言って雲雀は立ち去っていった。

 

 

 

 

 

「痛て…さらに傷が増えちまったな…」

 

悠斗はその後、病室でみやびに介抱されていた。

 

「ダメだよ悠斗くん…せっかく怪我が治ったんだから。わたしだって心配するんだから…」

 

「…悪い、今度から気をつけるよみやび。」

 

ぎゅっ

 

そう言って少し悲しそうな顔をしたみやびを抱きしめた。

 

「…それにしても、橘も無茶しすぎだ。雲雀にあんな事を言うどころか戦闘までするなんて」

 

「いや…すまん…少し堪忍ならなくてな…」

 

「しかし、あいつ、お前に興味を持っていたな。珍しいぞ、あいつが人を評価するなんて。」

 

「そ、そうなのか?…雲雀恭弥、あの男…変わったやつだ…」

 

そう言って橘はため息を吐いた。

 

「ゆ、悠斗くん…そろそろ…離してくれる?…は、恥ずかしい…」

 

「……?……っ!!す、すまん!!!」

 

みやびの言葉で我を返すと、みやびを抱きしめたままだったことに気づき、慌てて顔を真っ赤にして離した。

 

その時、

 

 

 

 

 

「何やってんだテメー」

 

ドカッ

 

「いでっ!?」

 

突然黒い塊が悠斗にぶつかったと思ったらそれは小さな赤ん坊だった。

 

「こんな不意打ちに反応出来ねーなんて気が抜けているにもほどがあんぞ」

 

「っ!?あ…あんたは…」

 

「だ…誰だ貴様は!?」

 

突然の赤ん坊にトラは驚き、その赤ん坊に質問すると、赤ん坊はニヤリと笑い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チャオっす。俺の名はリボーン」

 

 

世界一の殺し屋が現れた。

 

 



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30話 世界最強の殺し屋

「ちゃおッス、俺の名はリボーン。」

 

全身に黒いスーツを纏い黒い帽子に緑色のカメレオンを乗せた小さな赤ん坊は悠斗を蹴り飛ばしたあと、何食わぬ顔で名乗った。

 

「な……なんだこの赤ん坊?赤ん坊がこんなにペラペラ喋るものなのか?第一なんでスーツ姿なんだ?」

 

突如現れたこの赤ん坊に透流は恐る恐る近づいた。すると、

 

ダァンッ

 

「赤ん坊赤ん坊ってうるせえぞ、頭に風穴開けられてえのか?」

 

透流の顔すれすれを銃弾が通り過ぎた。

 

「な……え…?えぇぇぇえ!?な…なんで赤ん坊が拳銃なんか…」

 

ダァンッダァンッダァンッ

 

「だから赤ん坊赤ん坊ってうるせえぞ」

 

続けて3発もの銃弾が透流すれすれのあたりに炸裂した。

 

「うおぉぉぉい!?何やってんだリボーン!!頼むから透流を殺さないでやってくれ!!」

 

「だって〜ムカついたんだも〜ん」

 

と可愛子振るリボーン

 

「その喋り方やめろ!!めっちゃウザい!!」

 

「ゆ…悠斗…その赤…じゃなくてその子は一体…」

 

透流は恐る恐る悠斗に聞いた。

 

「はぁ……こいつの名前はリボーン、俺のボスの家庭教師(かてきょー)兼殺し屋だ」

 

 

 

「えぇぇぇぇっ!?この子が家庭教師で…殺し屋!?」

 

衝撃の事実に透流は驚愕した。

 

「まあな、こんな姿だけど絶対侮るなよ。何たって世界最強の殺し屋なんだからな。俺より強いと思った方がいいぞ」

 

ドガァァンッ

 

突然俺の頭にハンマーが叩きつけられ地面に頭が埋まった。形状記憶カメレオンのレオンが変身したのである。

 

「俺より強いとはひよっこの分際で随分偉そうになったな悠斗、俺とお前じゃ天と地ほども差があるぞ。どっちが強いかって比べることすら生意気だ」

 

「がふっ…いきなりハンマーで殴るんじゃねぇ!!っていうかリボーンお前一体何の用で来たんだよ?」

 

俺は地面から顔を出してリボーンを睨みながら問いただした。

 

「大した用じゃねえよ。お前がどんな様子が見に来てやっただけだ。最近大怪我したってツナから聞いてたが鍛錬が足りねーな」

 

「わかっているよ。だから特訓し直してるっての。今の俺は死ぬ気の炎の力に頼っているところがあるからな。一刻も早く《焔牙(こいつ)》を使いこなせる様にしねぇと」

 

「ふん、何が足りねーかぐらいはわかってる様じゃねーか。その点はツナよりはマシだな。にしても…」

 

突然リボーンは透流たちの方を見た。

 

「どいつもこいつも悪くねー素材だがまだまだ粗い削りだな」

 

「久しぶりね、Mr.リボーン」

 

リボーンにリーリスは近づき挨拶した。

 

「なんだ誰かと思ったらリーリス・ブリストルか。確かイギリスの学園にいると思っていたが」

 

「訳あってこっちの学校に通っているのよ。この間はボンゴレファミリーに助けてもらったわ。ありがとう」

 

そう言ってリーリスはリボーンに頭を下げた。

 

「気にするじゃねえ、ツナを一流のボスにするいい機会だったしな。特にこいつにとっては良い薬になっただろ」

 

そう言いながらリボーンは俺の頭をポカポカ殴った。

 

「とりあえず俺は九十九 朔夜のところに行ってくる。あいつにこのあいだのことで話があったからな」

 

そう言うとリボーンは俺を殴るのをやめてトコトコ去って行った。

 

「……なんか凄い人だったな…」

 

「全くだ…悠斗が瞬殺とは…世界最強の殺し屋というのは伊達では無いということか」

 

「…ツナは昔は何をやってもダメダメなダメツナって言われてたけどそれをボンゴレのボスにしちまったのは他でも無いあの人だからな…」

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな朔夜、悠斗を学園に送る時以来か?」

 

リボーンは理事長室にて朔夜と対峙していた。側には三國がいた。月見は《殺破遊戯》の際の負傷し現在入院中である。

 

「久しぶりですわね《最強の赤ん坊(アルコバレーノ)》リボーン。わざわざお越しいただきありがとうございますわ。それで?本日はどう言ったご用ですの?」

 

朔夜は笑みを浮かべながらリボーンに話しかけた。

 

「このあいだの《殺破遊戯(キリングゲーム)》、幸いにもこちら側は怪我人こそいたが犠牲者は0人だった…だけどそれは俺たちがいたからこそのことだ。なんで警備の数をたったあれだけにした?お前が相手の戦力を見誤るはずがねぇ。わざとだろ?」

 

 

「このあいだの《殺破遊戯(キリングゲーム)》、幸いにもこちら側は怪我人こそいたが犠牲者は0人だった…だけどそれは俺たちがいたからこそのことだ。なんで警備の数をたったあれだけにした?お前が相手の戦力を見誤るはずがねぇ。わざとだろ?」

 

その時、先ほどのフザれていた時の顔とは異なる鋭い目つきでリボーンは朔夜を睨みつけた。その時、三國は朔夜の前に立ちふさがった。

 

「…過酷な状況下で芽吹く種子(シード)こそ、美しき花を咲かせると私は考えていますわ。全ては我が道が《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》に至るためですわ」

 

「……そうまでしてその《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》とやらに至りてぇってのか…」

 

「おかしなことを言うものですね。《最強の赤ん坊(アルコバレーノ)》ともあろうものが」

 

朔夜は冷酷な笑みを浮かべながらつぶやいた。

 

「私は祖父、九十九 月心(つくも げっしん)より《操焔(ブレイズ)》を受け継ぎし《魔女(ディアボリカ)》…《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》に至ることこそが私の使命であり…生きる意味ですわ。」

 

「……覚えておけ九十九 朔夜。もしこれから先、ボンゴレに喧嘩を売る様な真似をする様なら、俺が黙ってねーぞ」

 

そう言うとリボーンはいつの間にか抜いていた拳銃をしまって部屋を去って行った。

 

「あれが…《最強の赤ん坊(アルコバレーノ)》リボーンですか…」

 

「長年の呪いが解けたことによって力が全盛期に少しずつとはいえ戻りつつあると言うことですわね…」

 

部屋を立ち去るリボーンを目に朔夜は笑みを浮かべた。

 

 

「願わくば______我が道が《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》へと至らんことを」

 

 

 

「…ってなわけであいつはツナの家庭教師をやっているってわけよ」

 

「へぇ〜なんか凄い意外だったな…綱吉さんってマフィアのボスって言うから始めから凄い人なのかと思ったけど」

 

リボーンが去った後、俺は透流たちとリボーンの話をしていた。

 

「あいつがボンゴレのボスの血筋だって自覚したのは2年前だからな、それまでは平凡どころかダメダメな中学生だったってさ」

 

「そういや悠斗と綱吉さんの出会いってどんな感じだったんだ?」

 

「ん?あぁ、あいつと俺の出会い?殺し屋と標的(ターゲット)」

 

「………マジで?」

 

「色々あったんだよ。まぁ今はあいつとは友達(ダチ)だけどな」

 

俺はツナとの出会いを思い出しながら笑った。

 

「何感傷に浸ってんだテメー」

 

ドガァァンッ

 

「グハァッ!!」

 

リボーンがとてつもない勢いで俺の顔面に飛び蹴りをお見舞いした。

 

「ったく相変わらず油断しやがって…っとそれよりお前、ちょっと来い」

 

「……え?」

 

リボーンはみやびの方を向くと手招きした。

 

「ちょ…おいリボーン!?お前みやびに何を…」

 

「心配すんな、ちょっと話がしてーだけだ」

 

「…わかったよ。みやび、何かあったらすぐ俺を呼べよ」

 

「うん、ありがと悠斗くん」

 

そう言うとみやびはリボーンとその場を後にした。

 

「……みやび…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それで…なんの話ですか?」

 

みやびはリボーンと格技場の裏にいた。そこにはリボーンとみやびしかいない。

 

「お前に頼みたいことがあってな」

 

リボーンは少し声を低くしてみやびに話しかけた。

 

「悠斗のやつは俺たちといた時もどこか闇を抱えたところがあった。ツナもそのことに気づいていたがあいつは幼少期からかなり過酷な人生だったからな、完全に闇を払ってはやれなかった…でも今日来てあいつは昔よりかなり笑う様になってる。間違いなくお前の影響でな」

 

「わたし…ですか?」

 

「お前に悠斗がベタ惚れなのは見てわかるからな、だからあいつがもし壊れそうになっちまった時は、お前が助けてやってくれ」

 

リボーンはまっすぐとみやびを見つめてそう頼んだ。

 

「…言われるまでもありません。わたしは悠斗くんが好きですから」

 

それに対しみやびはまっすぐとリボーンを見つめ返した。

 

「そうかよ、それがわかってるなら良い。話はそれだけだ、じゃあな」

 

そう言うとリボーンはそのまま去って行った。

 

「…悠斗のやつ、良い女を見つけたな」

 

 

 

 

「悠斗くん、ただいま」

 

「みやび、大丈夫だったか?リボーンに銃を突きつけられなかったか?」

 

みやびが帰ってくると悠斗は心配そうにみやびに近づいて来た。それを見つめたみやびはくすりとわらって

 

「悠斗くん、好きだよ」

 

そうはっきりと言った。

 

「///////みやび……俺もだよ」

 

悠斗は顔を真っ赤にしてそう答えた。



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31話 少女の覚悟

「…これで全部かな」

 

みやびは今回、大型ショッピングモール《あらもーど》で買い物に来ていた。本当は巴と梓も一緒に来るはずだったのだが梓は急遽理事長と共にドーン機関へ事情聴取に向かい、巴も付き添いに向かっているのである。悠斗もボンゴレの仲間に呼び出されている。なので、みやびは仕方なく1人、モール内をまわっていた。

 

「悠斗くんもどんどん強くなっている…わたしも頑張らなきゃ、悠斗くんに頼ってばかりじゃダメ…わたし自身も心から強くなれるようにしないと」

 

そう心に改めて刻み込み、みやびは再び歩き出そうとしたそのとき、

 

 

 

 

 

バタンッ

 

 

 

 

「……ん?」

 

みやびの近くで何かが倒れるような音が聞こえ、振り返ると、

 

 

 

 

 

グギュルルルルルルルルルルルルルルルルルゥ~……

 

 

「そ…そこに居るお主よ………た…頼む……ワシにめ…飯を……」

 

ブカブカの白衣に身を包んだはちみつ色の長い髪の12歳ほどの少女が倒れていた。

 

「えっ…と…大丈夫?」

 

 

 

 

 

ガツガツムシャムシャバリバリモシャモシャ…

 

「えっ…と…貴方はどこから来たの?」

 

謎の少女を拾ったみやびはショッピングモール《あらもーど》のフードコートで沢山の料理にかぶりついている少女を見つめながら聞いてみた、

 

「うむ、ワシは最近ちょっと部屋に閉じこもりっぱなしだったのだが外に出て次の発明のアイデアでも考えて街をで歩こうかなと思って出てきたんじゃが……財布も持たずに出歩いてた上に空腹、それもここ数日芸術探求にうつつを抜かしていたから何も食べてなかったがゆえに倒れてしまったというわけじゃ」

 

みやびは12歳ほどの少女が引きこもりということに戸惑いつつも苦笑いを浮かべた。

 

「だがしかぁし!!今回は死にかけておったところを救われた!!お前さんという見ず知らずの聖女どのには感謝しかない。このワシという天才がこの世から消えるということはこの世界そのものの損失と言っても過言ではないからの、本当にありがとな娘よ」

 

その少女の言葉には一切の迷いがなく、まっすぐとみやびに向けられていた。

 

「そこでだ、そんなお主に折り入って相談がある。お主、今日1日、ワシに付き合ってくれんか?無論相応の謝礼はするぞ?というかしてくれ」

 

「え、ええっと…」

 

「うむ、ワシはこれからの作品のためにも色んなものを見なくてはならなくてな、だがこのあたりはワシは全然詳しくないからのぉ…お前さんに案内して欲しいんじゃ、な?頼む」

 

少女はまっすぐとした目でこちらを見つめ、みやびの手を握って頼み込んだ。その目には偽りがなく、真摯に頼み込んでいるのがわかった。

 

「う、うん。良いよ。わたしは芸術は詳しくないから上手く案内できるとは思ってないけど…それでも良いなら…」

 

「そうかっ!!礼を言うぞお主!!お主には孫の代まで感謝するぞ!!」

 

みやびの言葉に少女は喜びながらみやびへと抱きついた。少女喜ぶ姿は年相応の少女のものであった。その姿にみやびは優しく微笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

「うほぉぉぉお♡この仔犬はかわいいのぉ〜♡ほれほれここか?ここが良いのか?素晴らしい!!本当に素晴らしいぞ〜♪」

 

みやびと少女はフードコートを離れ現在ペットコーナーで仔犬と戯れていた。そこで少女は仔犬を見つめて大喜びをし、他にも子猫やフェレットと可愛い小動物と触れ合っていた。

 

「おいお主!!なんだあれは!?次はあっちの方に行くぞ!!」

 

「ええっと…良いよ」

 

その後も少女とみやびは一緒に動物や花、海などを見て回り、気付けばもうすぐ夕刻であった。

 

 

 

 

 

「いやはや、本当に今日は良い1日じゃった。お主に出会えて本当に良かった、これもなかなかの味じゃしな」

 

展望台でソフトクリームを舐めながら少女はみやびの方を見て満面の笑みでそう答えた。

 

「ふふっどういたしまして」

 

みやびもその無垢な笑顔に優しく微笑み答え、お互いに笑った。

 

「よし、これはワシからのお礼じゃ。貰ってくれ」

 

そう言うと少女は懐から黄色い石がついた指輪を取り出すとみやびに渡した。

 

「ありがとう。大事にするね」

 

そう言うと、みやびはその指輪を指につけた。

 

「実を言うとワシはな、友と言えるような連中はほとんどいないんじゃ」

 

「えっ?」

 

突然そう言った少女にみやびは首を傾げた。

 

「知り合いたちとはたまには協力したりもするが普段は技術を競い合っている商売敵といった感じだしな…ワシに近づく連中もワシの頭脳を狙って媚を売ってくる馬鹿な連中ばっかりじゃからな…じゃが、お主はそいつらとは違う、心から信頼できる。そんな奴じゃった。ありがとな」

 

頬を赤く染め照れながら少女はみやびに向かってそう言った。

 

「ううん、こっちも楽しかったよ。また良かったら一緒に遊ぼうね」

 

その言葉に少女は一瞬パアッと笑顔になり、そして、少し恥ずかしがりながら

 

「な……なぁお主……も…もし……お主が良ければなんだが……その…ワシと……友に…なってはくれんかのう?」

 

少女の言葉にみやびは一瞬ぽかんとしたが、優しく少女に微笑み、

 

 

「もちろん良いよ。わたしは穂高みやび、よろしくね」

 

 

みやびの言葉に少女は満面の笑みを浮かべ、

 

「本当か!?本当にワシと友達になってくれるのか!?」

 

「うん、良いよ。ええっと…名前は……なんて呼べば良いのかな?」

 

「……?ああワシの名か?うむ、ワシの名は……」

 

 

 

 

 

と、少女が自身の名を名乗ろうとした時、

 

 

ざっ

 

 

 

突然、みやびと少女の周りを黒服の男たちが取り囲んでいた。

 

「っ!!誰ですか……貴方たち……?」

 

みやびは男たちに警戒していると、

 

「ちっ……こんな時にまで来るとは……礼儀も何にもない愚かな連中ばかりじゃな……」

 

少女が怒りに震えながら男たちを睨みつけていた。

 

「大人しく我々と来い、貴様の技術が我らに必要だ」

 

男たちのリーダー格と思われる男が白衣の少女に向かって言った。

 

「断る!!お主たちの様なふざけた連中にワシの可愛い作品たちをくれてやるつもりは無い!!」

 

「そうか……なら多少痛めつけてでも連れて行くとするか」

 

リーダー格の男がそう言うと、部下たちに合図を送り懐から小型の匣を取り出すと、男たちの手についた指輪に様々な色の炎が灯った。

 

(あれって……悠斗くんの炎に似ている…?)

 

そして、指輪を匣の穴にあて、炎を注入すると、中から炎を帯びた剣や棍棒、斧や槍といった武器が出てきた。

 

「かかれっ!!」

 

リーダー格の男の合図で黒服の男たちが2人へととびかかってきた。

 

「っ!!こっち来て、はやく!!」

 

みやびは咄嗟に少女の手を握って走り出した。

 

「くそっ……追え!!」

 

「は…はっ!!」

 

リーダー格の男は慌てて部下たちに命令し、黒服の男たちは慌てて2人を追いかけた。

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ……ここまで来れば…大丈夫?」

 

「うむ……すまんなみやび、お主を巻き込んでしまって……」

 

みやびを巻き込んでしまったことを悔やんでいるのか少女の口調はどこか重かった。

 

「わたしは大丈夫だよ。だから元気だして」

 

「みやび……」

 

「なんとか悠斗くんに連絡がつくと良いんだけど…」

 

そう言いながらみやびは携帯電話を開こうとしたが、

 

「いたぞ!!あそこだ!!」

 

黒服の男たちが追いついてきた。みやびは咄嗟に少女を連れて逃げようとしたがすでに周囲を囲まれ追い詰められてしまった。

 

「手こずらせやがって……おい、さっさとそいつを連れて来い!!」

 

「もう1人の女はどうしますか?」

 

部下の男がそう聞くと、

 

「そんなもん決まってんだろ?見られたからには始末しろ」

 

「はっ」

 

そう言うと、黒服の男たちは各々の武器を手に2人に斬りかかってきた。

 

「《焔牙(ブレイズ)》っ!!」

 

みやびは咄嗟に《力在る言葉》を叫び、自身の《騎兵槍(ランス)》を出して黒服の男たちの攻撃を防いだ。

 

「んなっ!?こいつ《超えし者(イクシード)》か!?」

 

「くそっ…厄介だな……」

 

黒服の男たちはみやびの正体に警戒し、身構えた。

 

「狼狽えるな!!いくら《超えし者(イクシード)》でもこの数相手ならこっちが有利だ!!数で制圧しろ!!奴の獲物は破壊力重視…複数でかかれば倒せる!!」

 

「はっ!!」

 

黒服の男たちはリーダー格の男の言葉通りに多方向から一斉に攻撃を仕掛けてきた。黒服の男たちは身体能力はみやびよりも弱かった。しかし、数が多くみやびの《騎兵槍(ランス)》でも捌ききれなかった。みやびの攻撃を躱して

背後の少女に攻撃を仕掛けようとし、みやびはそれをなんとか防いでいた。しかし、

 

「今だ!!終わりだ小娘ぇ!!」

 

一瞬の隙をついて男が斧の一撃をみやびに仕掛けてきた。

 

 

 

「ニャァァァァ!!!」

 

「いだだだだだっ!!なっ…何だこの猫は!?」

 

突然男の顔に灰色の毛並みで赤い炎を耳から発している子猫が引っ付いて顔をひっかいていた。

 

「みやびに手を出させんぞ!!」

 

声の方を見ると、少女が匣を手にし、こちらに向けていた。

 

「このガキィ…大人を舐めんじゃねぇ!!!」

 

「ガァッ!!」

 

その時、顔を引っ掻かれた男が少女を蹴り飛ばした。

 

「おい!!あんまり乱暴にするな!!死なれるとこっちが困るんだぞ!!」

 

「うるせぇ!!殺さなきゃ問題ねえだろうが!!」

 

男は怒りが収まらないらしく、少女の顔を蹴りあげようとした。

 

 

 

 

 

(どうしよう…このままじゃあの子が…)

 

みやびは蹴られた衝撃で気を失っている少女がさらに蹴られそうになっているのに気づいた。

このままでは彼女が…自分が弱いせいで…それが許せなかった。自分が弱かったせいで大好きな人に刃を向けてしまった…傷つけてしまった…もうあんな思いは嫌だ…

 

 

 

 

(わたしは…あの娘を守りたい…だって…友達だから!!)

 

 

 

 

その時、少女が自分にくれた指輪が光り、黄色い炎が現れた。

 

 

「ハァァァァア!!」

 

「なっ…ぐわぁぁぁあ!!」

 

少女を蹴りあげようとした男はみやびの突然の一撃に吹き飛ばされた。

 

「なっ…こいつ…《死ぬ気の炎》を!?」

 

「あの色は…《晴》の炎か!?」

 

みやびの《騎兵槍(ランス)》に纏われてる炎に周囲の男たちは激しく取り乱した。

 

「う…狼狽えるな!!炎を纏ったところでこの数を相手にできるわけがない!!一斉に攻撃するぞ!!」

 

「は…はっ!!」

 

男たちはそれぞれの武器を手にみやびに攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

『良いかみやび、どんな武器での攻撃でも《足の踏み込み》は大切だ。そのコツは《足を地につけること》じゃい《地を蹴る》ことだ』

 

悠斗との特訓の時に彼が教えてくれたコツを思い出した。

 

「地を…蹴る…」

 

その言葉を繰り返して足に力を入れて、そして…

 

 

 

 

「狼王一閃!!」

 

 

 

みやびの渾身の一撃が黒服の男たちを一蹴した。

 

「で…出来た…」

 

悠斗の槍術と比べたらまだまだだが、それでも確かに成功した。みやびはその喜びで包まれた。

 

「そ、そうだ…あの娘のほうへ…」

 

「この…小娘がァァァァ!!!」

 

突然の声に後ろを振り向くと、リーダー格の男が剣を振り下ろそうとしていた。

 

 

 

「狼王一閃!!!」

 

瞬間、男に銀色の閃光が衝突し、男を吹き飛ばした。

 

 

 

「ゆ…悠斗…くん?」

 

「みやび!!大丈夫か!?」

 

「悠斗くん!?どうしてここに?」

 

「どうも嫌な予感がして急いで戻ってきたんだ…ってその炎は《死ぬ気の炎》!?えっ…どういう事?」

 

「え…?えっ?この炎って…えっ?」

 

みやびの《騎兵槍(ランス)》に纏っている炎を見て悠斗は驚きを隠せずにいた。

 

 

 

 

昊陵学園医務室

 

「…なるほどな、気づいたら炎が出ていたと」

 

「うん…」

 

お互いに落ち着いたのか2人は状況を整理した。ちなみに少女は医務室で介抱されている。

 

「…どうやら炎の使い方も教えていくべきみたいだな」

 

「うん…ごめんなさい…」

 

「なんで謝るんだ?」

 

「え?」

 

悠斗の言葉にみやびが顔を上げると悠斗は優しく微笑んでいた。

 

「《死ぬ気の炎》を灯すのに必要なのは強い《覚悟》、みやびの少女を助けたいって想いは間違ってない」

 

「悠斗くん…」

 

「だからこれからは炎の使い方も教えていくよ。勿論学校では公にはできないけどね」

 

 

 

 

 

ガラッ

 

「みやび!!大丈夫か!?」

 

すると、医務室のドアが開き、少女が慌てた顔で出てきた。

 

「すまん!!ワシのせいでみやびを危険に巻き込んでしまって…なんと謝れば良いか…」

 

「謝らなくても大丈夫だよ、それよりあなたが無事でよかった」

 

「う…うむ、気を失ってただけだからな…なあマタタビ?」

 

「うにゃ!!」

 

すると、少女の肩に先ほどの猫が乗っかっており鳴き声を上げた。

 

「そういやお前は何者なんだ?みやびが持ってたリングを調べてみたけどあれランクA以上の石が使ってあったぞ。そんなもんただの子供が持ってるわけねえ…」

 

「うむ…まずはそこから話すとするか…

 

 

 

 

 

 

 

 

ワシの名はイノチェンティ!!発明家にして天才芸術家なり!!」

 

 

 

イノチェンティ……ヴェルデ、ケーニッヒと共に匣兵器を開発した。発明家、3人の中では最も芸術家肌が強いとされ、未来では謎の変死を遂げていたが……

 

「……まさか…こんなガキンチョだったとは…」

 

「心外じゃの…ヴェル坊の方がもっとチビじゃぞ」

 

「イヤそうなんだけどあいつは元は大人だからな……」

 

ヴェルデは虹の呪いで赤ん坊になっているので実年齢は遥かに年上である。

 

「まぁそういうわけなんじゃが…みやび、ワシのこと嫌いになったか?」

 

イノチェンティは、みやびの方を向くと心配そうにみやびにそう聞いた。しかし、

 

「ううん、これからも友達だよ、ええと…イノチェンティちゃん?」

 

「そ…そうか!!恩にきるみやび!!あっ…それと呼びにくかったらイノと呼んでくれ!!」

 

「うん、わかったよイノちゃん」

 

みやびがそう言うと、イノチェンティは嬉しそうにみやびに抱きついた。

 

「あっそうだ、それなら友達の印としてこれをみやびにあげよう。大事にしてくれ」

 

イノチェンティはそう言ってポケットを探ると黄色い太陽の装飾が描かれた匣を取り出してみやびに差し出した。

 

「ありがとう、イノちゃん」

 

みやびがそう言うとイノチェンティは再びみやびに抱きついた。

 

その後イノチェンティは部下と思われる者たちが迎えに来たので笑顔のまま去っていった。

 

この日、みやびに天才の友達が出来た。

 



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5章 新たなる物語の始まり
32話 みんなで遊園地


みやびとイノチェンティが友達になった次の日、俺は学校に行くことにした。

 

暑さと訓練という二重の厳しさの中で日々が過ぎて行く。

《神滅部隊(リベールス)》が壊滅したという話を学園側から伝えられたことで、学園内は随分と落ち着きを、同時に活気も取り戻してきていたのだが___俺たち一年だけは、どこか明るさが鳴りを潜めたままだ。

 

その理由は、月見がまだ戻ってきていないからだった。《殺破遊戯》の際、《K》との戦闘でかなりの重傷を負ったらしい。あれで結構なムードメーカーだったと、居なくなって初めてわかるとは、まさにこのことだ。

 

(あの傷じゃあ、当分は無理だろうな……)

 

月見には笹川あたりに頼んで晴の炎で傷を治してやるとは言ったが、断られてしまった。

そのため、今でも集中治療室に入っているんだろうかと、窓際に立ちつつぼんやりと考えていたその時___

 

 

背中に物理的な衝撃が走る。

 

「おわっっ⁉︎」

 

しかもかなりの勢いだったため、俺は無様に、振り向きざまに倒れ大の字となる。

 

(ったく、なんだよっ⁉︎)

 

答えは、窓の外にあった。

うさぎ耳のヘアバンドにメイド服という、見慣れた衣装のそいつはまぎれもなく___

 

「月見⁉︎」

 

「はろはろーん♪センセーがいなくて寂しかった人は手ーあげてー☆」

 

「おっ、白うさ先生だ!」

「久しぶりだね、白うさセンセー♪」

「パ、パンツが……」

 

片膝を立てたまま窓際に腰を下ろし、下着が丸見えというろくでもないポーズのままに、いつもとまったく変わらないノリで月見は室内に声を掛ける。

 

「ってなわけでたっだいまー♪うさセンセーの完全復活だよーっ、ぶいっ☆」

 

「何がぶいっだよ……」

 

呆れながら立ち上がり、俺は月見を指して怒る。

 

「帰ってくるなり人の背中を蹴るなっ‼︎危ないだろうが!それとパンツ見えてるから隠せよ‼︎」

 

「いやーん、天峰くんのえっち☆見えてるんじゃなくて、見・せ・て・る・の♡」

 

「何でだよ……」

 

「しばらく留守にしてたから、お土産に夜のおかずをだな……」

 

「見たくねえし真面目な顔で言うな」

 

こいつ全く変わってねぇ

 

「あ、そっかー♪天峰くんはもうおかずをくれる彼女がいるもんね〜♡」

 

「だからアホな事言うな!!」

 

公衆の面前で何言ってんだこいつ!?みやびが隣で真っ赤になってるじゃねーか!!

 

「相変わらずだな、あんたは……。だけど完全復活って言うけど、その眼帯と包帯は___ 」

 

「あ、これか?かっけーだろ。退院記念うさメイドコス中二病バージョンだ」

 

……心配して損した。

 

こうして、ようやく俺たち一年の教室にも明るさが戻ってくることとなった。

 

 

 

 

昼を過ぎ、食事をそろそろ終えようかといった頃___

 

「おし、出掛けんぞ、天峰!」

 

「は?」

 

突然現れて妙なことを言い出した月見に返し、聞き返す。

 

「は?じゃねーよ。アタシの快気祝いっーつーことで出掛けんだよ」

 

授業は午前中に終了し、午後は確かに暇だが___

 

「なんで俺がおまえと……」

 

今日はみやびをデートに誘う予定があるから断ろうとしたが、今日は月見とともにランチを摂っていたみやびは、苦笑いをしながら俺を見ていた。

 

「あはは……。なりゆきでDNL(デスニューランド)へ行こうって話になっちゃって……」

 

「DNL(デスニューランド)⁉︎」

 

行き先に食い付いたのは、黄金色の髪を持つ少女だ。

転入以来、月に一、二度は遊びに行っているというくらいだから、当然の反応と言えるかも知れない。

 

「くはははっ。話がはえーな、お嬢様」

 

「DNL(デスニューランド)と来たらあたしが参加しないわけないじゃない」

 

「そう言うわけだ、悪いな天峰、お前らも強制参加だ」

 

(…せっかくのデートが……)

 

 

 

1時間後___

 

結局、参加することとなった俺は、DNL(デスニューランド)の入場口前へと立っていた。

 

「さすがに人が結構居るわねぇ」

 

そう言いながら、周囲を見回すリーリス。そんな彼女を先頭に、月見、みやび、橘、梓、透流、ユリエの顔ぶれが続く。

 

「お前も無理やり連れてかれたのか悠斗…」

 

「透流…お前もか…」

 

げっそりとした顔で透流が話しかけて来た。

ちなみにトラたちも誘ったのだが、用事があるらしく断られてしまった。なので男子は俺と透流だけである。

 

「…どうせ遊園地に行くなら…みやびと2人きりで行きたかったな…」

 

「ま…まぁドンマイ」

 

落ち込む俺を見て透流は苦笑いを浮かべた。

 

(しかし、この顔ぶれは目立つだろ……)

 

と言うか目立ってる。しかももの凄く。

周囲からの注視はもちろんのこと、アイドルグループ___同じ制服を着ているからだろう___の撮影なのかと憶測する声まで聞こえてくる始末だ。

 

 

「な、なぁお前どの娘が良い?」

 

ふと、1つの男性集団の会話が聞こえた。

 

「俺はあの金髪の娘かな…」

 

「オレあの黒髪ロングの娘」

 

「銀髪のちっちゃい娘も良いしあのスレンダーな娘も…」

 

「俺はあの茶髪の娘、めっちゃ可愛いしスタイル最高じゃん」

 

 

 

……ギロッ!!

 

「……っ!?な…なんだ…いま殺気が…」

 

俺は思わずその集団に殺気を放ってしまった…正確にはみやびを邪な目で見た男に

 

「くはっ…流石彼氏だな《天狼》」

 

隣で月見が面白そうに笑ってた。

 

 

 

 

 

「さあ、時間も勿体無いしどんどん行くわよ。まずは基本を押さえた上で、各々行きたいところを挙げて順に回りましょ。一通り回り終わったら、そのときはみんなで行き先を話し合いってことでいいわね」

 

パーク内に入ると、リーリスがこれから回るアトラクションについて提案する。基本として回ることになったのは三つのジェットコースターで、後はそれぞれが希望をリーリスに伝えていく。

 

「えーっと、まずライトニングストライクに行って、次はクレイジーパーティー、その次にルーピング___ううん、てきどに落ち着いたものも必要だから先に……」

 

アトラクション名を呟きながら事細かく、コースを考えるリーリス。

 

「___どうしたのだ、天峰?早く行くぞ」

 

「あ、悪いな。ぼーっとしてた。ははは」

 

ぼーっとしてた俺は先を歩くみんなの背を追い掛けるように足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

「フフフ…やっとパーク内に入ったか…」

 

とある一室で黒い影がモニターに映る悠斗たちを見ていた。

 

「《装鋼の技師》の奴が裏で何がしていたからハッキングして見てみれば…《超えし者(イクシード)》か……中々面白いじゃないか…特に…九重 透流、ユリエ・シグトゥーナ、リーリス・ブリストル、そして…天峰 悠斗…」

 

悠斗に目をやり小さな影は少し睨みつける。

 

「前から面白いとは思っていた奴だが…ますます興味が湧いた…この期に研究してみるか…」

 

影の笑いと共に首の《おしゃぶり》がキラリと光った。

 

 

 

 

 

 

「回れ回れ___っ!くぁーっはっは___っ‼︎回れ回れ、花びら大レヴォルューショーン‼︎」

 

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる_____っ‼︎

 

「きゃぁあああああああああ_____っ‼︎」

 

「回し過ぎだ、回しすぎだってっ‼︎人の話を聞け、このバカうさぎ___っ‼︎」

 

現在俺たちが乗っているのはティーカップ、向こうでは月見がはしゃぎユリエ、橘、梓、透流、リーリスが巻き込まれていた。

 

「…向こうは激しそうだな…」

 

「う…うん」

 

それを見ながら俺とみやびは苦笑いをうかべていると

 

 

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる_____っ‼︎

 

 

「え…?うぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「ひゃぁあああああああああ_____っ‼︎」

 

突然俺たちのカップも高速回転しだした。

 

「どうなってんだーーーー!?」

 

 

 

 

僅か1分半。長いようで短い悪夢の時間が終わった。

 

「ゆ、悠斗、くん……世界が、ぐにゃぐにゃ……」

 

三半規管へのダメージで、俺とみやびは立つことすら出来ずにカップ内でぐったり。けれど月見は___

 

「くはっ、最高だなぁ♪」

 

ご機嫌だった……。

 

「さて、と……俺たちも降りるか、みやび……」

 

「う、うん……そう、だね……」

 

ふらつきながら俺はみやびに先だって立ち上がったのだが___

 

「うわっ‼︎」

 

カップを降りた瞬間、かくんと膝が折れる。

 

「ゆ、悠斗くん、危ないっ……!」

 

ぐらりと俺の視界が傾いたとき、みやびが俺の手を掴む。

___が、みやびの膝も、かくんと折れた。

 

「ひゃあっ⁉︎」

 

それでも手を放さなかったみやびは、大きくバランスを崩す。咄嗟にみやびの手を引き、彼女を胸の内に抱えた次の瞬間___俺たちはもつれ合って転んでしまった。

 

ゴンッ……!鈍い音がして、後頭部に痛みが走る。

 

「ってぇ……」

 

「だ、大丈夫、悠斗くん⁉︎」

 

「あ、ああ……。それよりみやびは大丈夫か?」

 

「う、うん。悠斗くんのおかげで何ともないかなって___ 」

 

と突然、みやびの言葉が途切れた。

 

「みやび?」

 

どうかしたのかと名を呼びながらに目を開けると、鼻先が当たりそうなくらいの距離に、みやびの顔があった。

 

「「……………………。」」

 

「「________________!!」」

 

 

ぴょんっという効果音がしそうな勢いで二人同時に飛び起きると、俺たちは背中合わせに正座する。

 

「ご、ごめんな、巻き込んで……!」

 

「う、ううん。わたしが手を放さなかっただけだから……」

 

「「………………/////」」

 

「えっと……い、行くか」

 

「そ、そうだね……」

 

みやびを促して立ち上がると、足のふらつきは収まっていた。外へ出ると、既にリーリスたちのグループが俺たちを待っていた。

 

(それにしてもあの高速回転……なんか意図的だったような…)

 

俺は何が嫌な予感がした。



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33話 魔王城での決戦

やがて日が傾き始めた頃、最初に予定したアトラクションは一つを除いて乗り終えた。

時間も時間のため、残る一つ___リーリスの希望するアトラクション『魔王城(ダークキャッスル)奪還』で今日は最後にすることに。

 

「よし、これで良いか」

 

と呟いた俺の手には狼の顔のフードのついた身軽そうな鎧がある。

なぜそんな衣装があるのかと言うとこの魔王城奪還はコスプレをして参加をすることが可能なアトラクションだからだ。俺は男性更衣室に置かれた衣装から獣戦士と書かれたものを選択した。

 

「準備できたか悠斗?」

 

透流は肩当てのついたマントと黒い衣装、さらには頭に角をつけた魔王のコスプレだった。

 

「あぁ、今着替えるよ」

 

そう言って俺は服を着替えだした。

 

(さて、みんなはどんな感じにしたのかな?)

 

女性陣のことを考えつつ、待ち合わせ場所へ。そのまま数分待ったところで、女子更衣室からみんなが姿を見せる。

 

「えへへ、なんだかこういうのって恥ずかしいね」

 

先頭はみやびで、頭に犬(狼?)の耳飾りをつけ、胸元と腰、そして両手両足がふさふさの毛皮で尻尾がついているとなると、人狼といったところだろうか。

 

「悠斗くんも狼にしたんだ、お揃いだね♪」

 

少し恥ずかしそうにみやびが微笑んだ

 

(……やべぇ、めっちゃ可愛い)

 

あらためて自分の恋人の可愛さに悶えた。

 

「トール♪」

 

次に出てきたユリエは両腕が翼、下半身が鳥、胸元は水着で覆った格好だ。おそらくハーピーだろう、鳥ということで選んだらしく上機嫌だった。

 

その後ろからは胸元を水着で、しかも下半身は馬の姿___半人半馬(ケンタウロス)の月見に、額に角があり手には金棒でビキニアーマーを纏った____鬼(オーガ)と思われる梓、その後ろには、黒色の鎧を纏った橘がいた。長い黒髪と相まって、頭のてっぺんからつま先までほとんど黒一色だった。

 

「……それって、何のコスプレなんだ?」

 

「魔王直属の暗黒騎士、らしい。他の衣装はひらひらしたものか、妙に露出が高いものばかりでな……」

 

女子は全員違うコスプレにしたらしく、選んだ衣装から橘の苦悩が窺えた。

 

「あとはリーリスだけだな……」

 

「とーおーるっ、おっ待たせー♪」

 

「ぶ___っ⁉︎」

 

最後に出てきたリーリスの姿はどう見ても下着としか思えない衣装だった。頭の角と背中の羽、そして尻尾がかろうじてこれはコスプレだとアピールをしている。

 

「どう、透流?」

 

「どうって、言われても……」

 

リーリスから顔をそらして返す透流。

 

「ちょっと透流。感想はきちんと見て言うものよ」

 

そうは言われても目のやり場に透流は困っていた。

 

「…大変だな透流」

 

ちなみに俺はみやび一筋なのでかけらも動じなかった。

「さ、さてと、それじゃあ出発しようか」

 

みんなが注視する中、透流は何も返さずに歩き出した。尚、進行役の女性スタッフがリーリスの姿を見て一瞬ぎょっとしたが、すぐに笑顔に戻っていた。……プロってすげぇな。

 

勇者に追い出された魔王は、自分の城を取り戻すために部下とともに闘いに赴く___といったストーリーで始まったアトラクションは、様々な謎を解きながら奥へ、そして階上へと進んで行く。

しかし、その途中で事件が起こった。

 

 

 

「もう直ぐ勇者がいるステージよ」

 

「ていうかなんで勇者待ち構えてるんでしょうね?」

 

いよいよラスボス戦が近いことに興奮するリーリスと何気ない事を気にする梓たちが歩いていると、

 

 

ゴゴゴゴゴ…

 

突然何か音が聞こえたかと思うと

 

ウィィィィィィン

 

「え…うわぁっ!?」

 

「なんだ!?」

 

「これは……」

 

突然足元の床が動きだし、ルームランナーとように後ろへと猛スピードで動きだした。

 

「おいおいおいおいこれってどこかで……っ」

 

先ほどのティーカップの高速回転といい今回のこれといい俺は今回のようなことをどこかで体験したことがあった。

 

 

 

 

「ふむ……この速さなら余裕で熟すか……」

 

モニター越しに悠斗たちを見つめる小さな影は再びキーボードを打ち込み床の速度をあげていった。

 

「これで全身の基本的な解析と運動能力は分析できるな……あとはやはり《超えし者》たちの戦闘能力を調べなくては…」

 

小さな影はそういうと新たに画面に入力した。

 

「さて……やはりここからはモニター越しよりも実際に見た方が面白そうだ」

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…どうなったんだこれは…?」

 

「おかしいわね…私こんなの…知らないわよ…」

 

突然動きだした床によって一同フラフラになった。

 

「うん…やっぱりこれ知ってるぞ…」

 

「悠斗くん?」

 

間違いない…もしそうなら…

 

「みんな気をつけろ…奴はおそらくこの先で待ち構えている…」

 

 

 

 

「よくぞ来た魔王たちよ!!さぁこの勇者が貴様らを葬り去ってくれよう!!」

 

いよいよ最上階に着くと、そこには派手な鎧と剣を纏った勇者と思われる人が立っていた。

 

「悠斗…あいつ?」

 

「いや違う」

 

「あれはこのアトラクションの人よ」

 

予想と違う人に俺はため息を吐いた。しかし、間違いなく奴はここにいる…そして…そろそろ出てくるはずだ。

 

「さぁ魔王よ!!わが聖剣の錆にして…」

 

 

 

ドッシーン!!

 

突如巨大なロボットが天井から現れた。

 

「あ………あれ?なんか台本と…」

 

あまりのことに勇者役の人は唖然とし

 

「当て身っ!!」

 

トンッ

 

「きゅう…」

 

俺はとっさに眠らせた。

 

 

 

「みやび、この人を離れたところに…」

 

「あ、うん」

 

俺の指示に従いみやびは勇者役の人を安全な場所に寝かせておいた。

 

 

「さてと…やっぱりテメーか…姿を見せやがれ!!」

 

「ふむ…やっぱり貴様はすぐにわかったか」

 

声とともにロボットの腹部が開き中から白衣を着てメガネをつけた赤ん坊が出て来た。

 

 

 

 

「ヴェルデ…なんの真似だこれは…」

 

ヴェルデ…リボーンと同じ《最強の赤ん坊》の1人にしてダヴィンチの再来とまで言われた天才発明家である。研究のためならあらゆることを企み、悠斗たちボンゴレも過去に何度もその被害に遭っている。

 

「当然研究の為だよ。この前の闘いをこっそり見させてもらったが君たち《超えし者》に興味が湧いてね…色々と調べさせてもらったよ…」

 

「ちょ…ちょっと待ってください!!色々って…スリーサイズとかも!?」

 

なぜか梓が変なとこに食いついた

 

「あぁ、そういやそれも一応調べたな」

 

「最っっ底っっ!!どうせそのデータ見てニヤニヤしたりすんでしょ!?主に巴さんやリーリスさんやみやびさんとか見て!!」

 

なぜか梓がブチ切れていた。

 

「くだらん…胸などただの脂肪の塊に過ぎん、全く興味は無い」

 

「みなさん、この人いい人かもしれません」

 

梓がなぜかすぐに手のひらを変えた。

 

「さて…あとは君たちの戦闘データだ、私自らが直に調べさせてもらうとするか!!あと、このフロアのカメラはハッキングしているから君たちの《焔牙》が見られることはないぞっ!!」

 

突然ヴェルデが乗るロボットが迫って来た。

 

「みんな、やるしかねえぞ…」

 

「あぁ…《焔牙》っ!!」

 

俺たちも《焔牙》でヴェルデを迎え撃った、

 

 

 

「オラァッ!!」

 

俺はロボットに《長槍》を叩きつけようとした。

 

「無駄だ」

 

しかし、ヴェルデが操作するとロボットは突如手から網を出してきた。

 

「うおっと!!」

 

俺はとっさに躱すと今度は透流がロボットのボディに打撃を与え、さらにユリエ、リーリス、橘、月見、梓が追撃した。

 

「ぬぅっ!?」

 

その衝撃は流石に効いたのかロボットはぐらついた。

 

「やるなぁ…ならこれはどうだ!!」

 

すると、ロボットの胸が開きミサイルが一斉に放たれた。

 

「牙を断て___《絶刃圏(イージスディザイアー)》‼︎」

 

しかし、透流はすぐさま障壁を張りガードした。

 

「《焔牙》の真の力とやらか…素晴らしい…ますます調べたいな!!」

 

ヴェルデは再びキーボードを打ち込み攻撃をしようとしたが、

 

 

「なんだ…?動かない…っこれは…!!」

 

よく見ると、ロボットの全身が氷漬けになっていた。

 

「天に吼えろ____《覇天狼(ウールヴヘジン)》…」

 

悠斗は額から炎を出しヴェルデを睨みつけた。

 

「こっちはよぉ…この前から色々遭って疲れたんだよ…今日だってみやびと平和に過ごしたかったんだよ…それをよぉ…」

 

「な…き…貴様…」

 

ヴェルデは突然の悠斗の変貌に戸惑いを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「とっとと失せろゴラァァァァ!!」

 

悠斗の渾身の一撃でロボットは粉々に砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ…ヴェルデの奴逃げやがったか…」

 

俺は少し怒りが治まったがヴェルデは壊れたロボットの中にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

あの後、壊れた場所をなんとか直し眠らせた勇者役の人を起こしてうまくごまかした後、記念撮影をすることとなったのだが…

 

 

 

「ちょっとユリエ、透流から離れなさいよ」

 

「ナイ、トールは私の絆双刃です」

 

透流の右肘にリーリス、左肘にユリエがくっついていた。

 

そして、

 

「み…みやび…どうした…」

 

「わ…わたしも悠斗くんにくっつきたいなって…!」

 

俺の左肘にはもふもふした毛皮の下でボリュームを主張するみやびの胸が。

 

「くはっ。おめーは参加しなくていいのか、委員長?」

 

「ど、どうして私が……⁉︎」

 

「さっき、いい声で鳴かされてたじゃねーか」

 

「___っっっ⁉︎ああ、あれは……‼︎」

 

「はーい、撮りますねー」

 

心なしか怒りを感じる声音(笑顔のまま)で、シャッターを切るスタッフ。

すみませんと心から思った一幕だった……。

 

 

 

「みやび、着いたぞ」

 

「……ん…………」

 

すっかり夜の帳が下りたDNL(デスニューランド)の帰り___学園前にモノレールが到着したところで、さっきまで元気よくはしゃいでいた、みやびの肩を揺する。

だが、みやびは一瞬目を開けるも、すぐにうとうととし始めてしまった。

 

(今日は俺も疲れたし、みやびが疲れて寝ちゃっても仕方ないよな……)

 

遊び疲れて眠っている少女をおぶる。

 

(軽いなぁ……。でも、背中にマズイものが当たってる……)

 

すやすやと寝息を立てる姿は、何とも愛おしかった。

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ…まさか天峰 悠斗がここまで強くなっていたなんてな…」

 

ヴェルデは脱出ポッドから抜け出し手に握ってたUSBメモリを白衣にしまった。

 

「ふふふ…ますます興味が湧いたぞ…また必ず調べつくしてやる…」

 

ヴェルデは全く懲りてなかった。



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34話 射撃訓練

派手な音を立てて40メートル先に設置された的が揺れる

 

「よっしゃこれで20連続目」

 

「すごいね悠斗くん、また真ん中だよ」

 

今日の三時限目から射撃訓練が行われていた。卒業後に所属する護陵衛士(エトナルク)の任務では多種多様に亘ため、その様な状況を想定し、射撃訓練も行っていた。

 

「あら、悠斗もやるじゃない。まぁ私の方がうまいけど」

 

俺に顔を向けながら____つまりは余所見をしながらもリーリスは最も遠い50メートル先の的へ命中させた。

 

「俺は元々槍が専門なんだよ、銃が本業の人と比べるつまりは無いって」

 

「まぁそれでも悠斗があそこまで銃の腕を持ってたのは驚いたけど」

 

リーリスは俺に少し関心していた。

まぁ俺は並森にいた頃、コロネロやラルと言った銃の達人に教わったこともあるのでそのためである。

 

 

「よし、じゃあみやびも練習してみるか」

 

「う…うん」

 

みやびはハンドガンを20メートル先に構えると少しビクビクしていた。そこで

 

「…ふぇ?」

 

「大丈夫だよみやび」

 

俺は銃を構えたみやびの腕を支えるように手を回し、背中に体を密着させた。

 

「手をまっすぐにして標準を的に合わせるんだ…そして引き金をゆっくり引けば…」

 

「う…うん/////」

 

俺の指示どうりにみやびは引き金をゆっくり引き

 

ダァンッ

 

放たれた銃弾は的の真ん中に当たった。

 

「よく出来たなみやび」

 

「う…うん…悠斗くん…あの…そろそろ離してくれないと…恥ずかしい…」

 

よくみるとみやびは顔を真っ赤にし俺は自分が何をしているのか改めて気づいた。

 

「………っすまん/////」

 

慌てて俺はみやびを話 離して互いに顔が真っ赤になった。

 

 

 

 

 

射撃訓練の後半___四時限目が始まり、三十分ほどが過ぎた頃だった。

 

「ほーるどあーっぷ♡手を上げてせんせーのゆーことを聞くよーに♪」

 

「はーいせんせー」

 

手を止めてじゃないのかよと思ったが、一人吉備津(きびつ)が手を上げていた。

 

「さてさて、上手い子は結構当たるよーになってきたみたいだけど、ここからは訓練のないよーをへんこーしまーす☆ってなわけで、せんせーについてきてねー♡」

 

そう言うなり、月見の後をついていくと___到着した先は、屋外格技場だった。その闘場の中央には、直径五メートルほどの土俵のようなものが二つあった。

 

すると、月見が振り返って両手を広げた。

 

「はーい、これからここで十分間、ちょっとしたゲームをしまーす♪ってなわけで天峰くんと九重くん。キミたち___的•ね•♡」

 

「「 は? 」」

 

「だからー、二人はこれから闘技場の中で逃げ回るの☆みんなは二人を狙ってパンパンパーンって撃つの☆理解おっけー?」

 

指で銃を形作り、俺たちを撃つようなポーズを取る月見。

 

「なるほど、そういうことか。……………ってちょっと待てーーーっ⁉︎」

 

「待ったないよーん♪動く的を狙った方が技術も上がるしね☆」

 

「……だそうだ、諦めるしかないな、透流」

 

そしてその後、クラスのみんなが「それはちょっと……」と言い出したのだが、月見がリーリスに自分に撃つように頼み、その月見に放たれた弾を素手で掴んだことから、クラスのみんなを納得させていた。

 

「それとそれとー、天峰くんと九重くんにとっても防御の特訓になるから、一石二鳥の特訓なの☆つまり、うぃんうぃんの関係ってやつ♪」

 

「なるほどなぁ、それだったら……」「そうね。ちょっと痛い程度なら……」

 

実演も含めた月見の説明が終わると、クラスの雰囲気が変わり始めた。怪我を負わせないという言葉が、背中を押す大きな理由となったみたいだ。

 

「____っ!?ちょっ、み、みんな!?」

 

慌てる透流の言葉を遮るように月見が次の一手を放つ

 

「最初に天峰くんと九重くんのどちらかに当てた先着2人には、超一流として名高いあの帝王ホテルのレストランにペアでごしょーたーい♪」

 

「「「____っ!!」」」

 

その一言に半数近くの雰囲気が瞬時に変わり、一斉に視線が俺へと向けられる。……みやびの視線も交じっていた。

 

「レストランはパスって人は、特別ボーナスを来月の支給費に加算してもいいからねー♡」

 

残ったほとんどの視線も俺たちへ向けられた。

 

「ふふっ、勝負事なら最初から負けるつもりは無いけど、透流とデートって副賞付きならやる気が倍増ね」

 

「ボーナス……!」

 

「泉を誘って帝王ホテルのレストラン……!」

 

「天峰と九重もげろ同盟、ファイト‼︎」

 

「おーっ‼︎」

 

「悠斗くんとデート悠斗くんとデート悠斗くんとデート……‼︎」

 

「みやび、あたしたちも協力するわ‼︎」

 

「せんせーと食事‼︎」

 

様々な恐ろしいまでの欲望が闘技場に渦巻く。

 

 

 

「月見先生、いくら何でも2人が___ 」

 

「まあまあ、委員長。ちょいとこれを聞けよ」

 

「は?何を聞けと……?」

 

月見は橘の肩に手を回して引き寄せる。何かケータイを見せているが…

 

「九重、覚悟したまえ……!」

 

なぜか知らんが橘が急にやる気を出した。

 

 

 

制限時間は10分だが、各人弾数は四十発なので、全員が撃ちきったらそこで終了。射撃側は闘場へ踏み入ることを禁じ、観客席から撃つこと。たださは同士討ちによる負傷を避けるため、闘場の中心から百二十度幅の観客席しか使用不可。

 

一方、俺たちはというと一発でも直撃したらアウト。ただし擦かするのはセーフ。だが、最も重要なことは、三分間なら俺の《覇天狼(ウールヴヘジン)》も使用許可が出た。透流は《楯》の___三回までなら《絶刃圏(イージスディザイアー)》も使用可能。

 

「《覇天狼(ウールヴヘジン)》も使っていいのか……」

 

多方向からの同時攻撃を回避する訓練なんて普通はやれるものじゃない。まぁリボーンのスパルタなら無いことはないが…

 

(そうだな…全弾回避目指してみるか…)

 

そして改めて残りのルールを確認する。

 

俺たちの動ける範囲は、闘場に作られた直径五メートルの円内のみだ。一歩でも円の外へ出たら、その時点で弾が残っているやつからくじ引きでレストランの権利、もしくはボーナスが行く仕組みに。ただし、その場合は俺たちへの支給額から差し引かれるそうだ。そして、一発も食らわなかった場合は、その権利は俺たちのものもなるらしい。

 

(透流との円の距離は約十メートルってところか……。これなら、こちらにも、あちらの邪魔にはならないだろう)

 

と、ここで月見が全体に声を掛け、そろそろ開始をする旨を伝えた。透流は《楯》を具現化し、腰を落とした。俺も《長槍》を具現化し両手で構えた。

 

「ではではー。れでぃー……ごぉっ♪」

 

「もげろ天峰ー‼︎九重だー‼︎」

 

「俺たちの癒し、みやびちゃんを手に入れやがってー!!」

 

「ごめんね、悠斗くーん‼︎」

 

「帝王ホテルーっ‼︎」

 

「せんせー‼︎」

 

月見の合図とともに引き金が一斉に引かれ、それとタイミングを同じくして透流は横へ大きく飛ぶ。一方俺はその場所で見切り続けた。

 

(なるほど…これは…確かに練習になる…)

 

何度も回避を続けるがなかなかいい練習になった。

しかし、周りも連携が取れてきたのかどんどん精度が上がっていきそろそろまずくなった。

 

「天に吼えろ____《覇天狼(ウールヴヘジン)》!!」

 

身体能力の上がった俺はそのまま高速移動をして弾丸を回避し驚きの声があがる。

 

俺の得た能力については《Ⅳ(レベル4)》に昇華したと伝えた際に話をしてあったが、いざ実際に目の当たりにするとやはり驚きを隠せないようだ。

 

 

 

「ははっ、まだまだだなぁ___って、おい!透流!上だ、上‼︎」

 

透流の真上には上空から降下してくるユリエがいた。

 

「ぶっ⁉︎ユリエ⁉︎」

 

このままでは、闘場の硬い砂に叩きつけられる形となってしまう。

 

「危ない……!」

 

数歩前に進み出てユリエを抱き止める透流。

 

「大丈夫か、ユリエ⁉︎」

 

「ヤー。トールのおかげで何事も無く」

 

こくりと頷くユリエに、透流は一安心する。

 

「ありがとうございます、トール。……そして申し訳ありません」

 

「は?どういうことだ?」

 

と問い質すと、ユリエの手の中に持っていた何かで、とん、と透流の胸を軽く叩くことで答えを示した。

 

「おいおい、まじか……」

 

「え……?」

 

「当たりました」

 

「…………」

 

小さな手に握られていたのは、模擬弾だった。

 

「えぇええええええーーーーーっ⁉︎」

 

「はーい、しゅーりょー☆九重くんの負け負け負けー♪」

 

「ま、待ってくれ、これって有りなのか⁉︎」

 

確かにルール上、射撃側は闘場へ踏み入ることは禁止だが、今のユリエは透流に抱えられているから足が付いているわけじゃないが___

 

「有効!時間も終了三秒前でギリセーフ!」

 

どうやらアリだったようだ。ちなみに俺はなんとか逃げ切り帝王ホテルのレストランの権利を勝ち取った。

 

(やったやった♪みやびとレストランでディナー♪)

 

狙いのものをゲットし大喜びの俺であった。

 



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35話 魂の契約

「やっぱり、涼しいなぁ……」

 

夜。俺は夕涼みでもしようかと夜道を歩いていた。

 

「……ん、あれはもしかして……」

 

瞬時に木の陰に隠れ、こっそり前方を覗くと、透流とユリエがどこかへ向かうようだった。

 

「あの方向は……昼にいた屋外格技場か……?」

 

これは何かあるなと思い、こっそり後を追いかける。向かった先は予想通り屋外格技場だった。入り口から中へ入っていく透流たちの後に続き中へ入る。通路を抜けて格技場内が見渡せる観客席の近くにある柱に隠れ、中央部を見下ろすと、透流とユリエの他に月見がいた。

 

「なんでこんなところにーーー」

 

なぜだ、と考えていると、闘技場の奥の闇の中から漆黒の衣装を身に纏った少女と、その護衛であり、学園全教師を束ねる男性教員。

 

(なるほど、おそらく……)

 

「ーーー如何にも。璃兎は最初からドーン機関の者であり、他の組織へ所属など一時たりともしていません」

 

その言葉を聞き、俺はその話の重要性に気づいた。

 

(ある程度予測していたが…やっぱりか…朔夜ならやりかねんな)

 

あの時は《正義を掲げる国》と言ったがどちらかというとこっちの方が近いと思っていた。

 

「…では、まずどうして《新刃戦》で俺たちを狙わせたんですか」

 

いくら昊陵学園が《超えし者》なる常識外の存在を育成する異質な箱庭であろうとも、理事長自らが生徒の命を狙うよう指示するなど、理解の範疇をあまりにも超えている。

 

「《魂》とは、強き意志によってのみ鍛えられるものである_私はそう考えていますの。」

 

貴賓席の前から透流たちを見下ろしたままに朔夜は語り出した。

 

「強き意志____それは生きようとする意志に他なりません。その意志が最も強く発せられるのは、いったいどのようなときであると貴方は考えます?」

 

生きたいと最も望むとき___それは、正反対の存在を強く感じた時に他ならないだろう。

 

「なるほど、死の窮地に立たせることで《魂》は輝きを強くますって訳だ」

 

そして朔夜ならこういうだろう「死するのであれば、その程度だった」と

 

「……どうして俺たちを?」

 

透流は朔夜への怒りを堪えつつ、尋ねる。

 

「より正確に言わせて頂くと、《新刃戦》の時点で確固たる意志を持って強さを求めていた人物____貴方と橘 巴の二人へと、あの試練を与える予定でしたのよ。残念ながら橘 巴は試練の前に貴方に敗退し、貴方への試練も天峰 悠斗が介入したことで流れてしまいましたけど」

 

「…ユリエと悠斗は違うのか?」

 

透流は朔夜に質問する。

 

「ユリエ=シグトゥーナと天峰 悠斗は《超えし者》ではありませんもの。」

 

「っ!?悠斗も《醒なる者(エル・アウェイク)》なのか!?」

 

(あいつバラしやがった…まぁいずれバレるとは思っていたけど)

 

しかし、まさかユリエが俺と同じ《醒なる者》だったとは思わなかった。さらに朔夜は前に俺に話したように《醒なる者》をさほど重視していないと語った。

 

「最も、天峰 悠斗は《死ぬ気の炎》と《焔牙》の可能性を教えてくれる面では興味を抱いていましたけど」

 

笑みを浮かべながら朔夜は言葉を続けた。

 

「他に、同じことはしていないんですか?」

 

「私が動いたのは《新刃戦》の唯一度だけですわ。その後は放っておいても此方に関わってきた方々は居られましたので」

 

それ以上は口にされずともわかる。

《K》や幻騎士たち《神滅部隊(リベールス)》のことに違いない、と。

 

 

「《神滅部隊(リベールス)》は此方の期待以上によく働いて下さいましたわ。さすがに私も《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》様と最初にお会いした段階では、これほど早く《IV(レベル4)》へ到達する者が出てくるとは思いませんでしたもの」

 

透流を見つめたままに、黒衣の少女が悪魔を思わせるように妖しく笑う。だが、そんな理事長とは対照的に、透流は激しい怒りを覚えていた。

 

「期待以上、だと……?」

 

激昂し、怒りを言葉に代えて荒々しく叩きつける。

 

「ふざけるな‼︎あいつらのせいで多くの人が死んだんだぞ⁉︎それなのになぜ笑う‼︎命を落としたのはあんたが育て上げてきたはずの《超えし者(イクシード)》だろうが‼︎」

 

臨海学校のときも多くの《護陵衛士(エトナルク)》が命を落とした。この間の《神滅部隊》襲撃の時は、ボンゴレファミリーが援護に来たことで死者は出なかったが多くの負傷者が出た。

 

だがーーー。

 

「……死するのであればその程度だと、先ほども申し上げたはずですわ」

 

「どうして…….どうしてそんな風に言えるんだ……。《超えし者(イクシード)》を高みに至らせるってのは、あんたにとって人の命以上に大切なことなのかよ⁉︎」

 

「当然ですわ。今までの学友との楽しき生活も、厳しく苦しい訓練も、命を懸けた闘いも、貴方達が経験するすべてはたった一つの目的へ至るためのもの……。そうーーー」

 

夜空を見上げ、まるで星でも掴もうとするかのように手を伸ばしながら告げる。

 

「《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》へと」

 

「……その《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》ってのは、いったい何なんだ?」

 

透流が問い掛けると、理事長はゆっくりと振り返る。

 

「《魂》の《力》を極めた先に在る、終ついの領域ーーーとだけ」

 

「……俺たちは、そこへ至るために集められたってことなのか?」

 

理事長は口角を上げることで、答えを無言で語る。

 

「《焔牙(ブレイズ)》……」

 

「ーーーっ‼︎」

 

その一瞬のことに理事長を除く全員が息を呑む。

 

「構いませんわ、三國」

 

庇おうと前に立った三國を制して下がらせる。

 

 

 

「トール……」

 

「大丈夫だ、ユリエ。闘おうってわけじゃない。……悪魔との取引には《魂》が必要だって聞いたことがあるからな」

 

「何をしようというのですか?」

 

視線の先に立つ黒衣の少女ーーー九十九 朔夜は、闇と半ば同化した漆黒の衣装を纏い、まるで悪魔を思わせる。

 

「理事長。……いや、《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》ーーー九十九 朔夜」

 

透流は深く息を吸い、はっきりと告げる。

 

「俺とーーー契約をしてくれ」

 

「……どのような契約をお望みですの?」

 

「あんたの試練とやらは、すべて俺が引き受ける!だから覚悟の出来ていないやつに、試練を課すのはやめろ‼︎」

 

「……その言葉がどういった意味を持つのかーーーわかっていて口にしていますのよね、九重 透流」

 

「当然だ」

 

「貴方が命を落とせば、契約は御破算としますわよ?」

 

「俺はーーー絶対に死なないと誓った。生きてみんなを守り抜くとも……‼︎」

 

「無論、此方が見込み無しと判断を下したときは破談とさせて頂きますわよ」

 

「構わない。そんな判断はさせないからな」

 

「では……貴方が至ってくれると言うのですねーーー《絶対刃双(アブソリュート・デュオ)》へと」

 

「誓おう、この《楯(たて)》に!」

 

具現化した《魂》を胸前にかざす。

 

「俺が至ってみせるーーー《絶対双刃アブソリュート・デュオ》へと……!」

 

「…なら俺も力を貸す」

 

俺がいきなり話し掛けたのに驚いたようだった。

 

「悠斗、どうしてここに⁉︎」

 

「悪い透流、偶然お前らが闘技場の方へ行くのを見かけたから後を付けさせてもらった」

 

俺はそう言って柱から姿を現す。

 

「俺やユリエが至ってもこいつの計画は終わりそうもない…かといってこいつを倒して無理やり計画を止めるってのは俺たちボンゴレの流儀に反する…なら俺のやり方は1つだ、誰も死なないように俺がサポートする。いいよな朔夜?」

 

「どうぞご自由に。くす、くすくす…」

 

 

 

 

 

 

契約は締結された。

これでみんなには、そして御陵衛士であろうと透流と朔夜

の契約が生きている以上は試練が課されることはない

 

「悠斗、ユリエ…巻き込んで悪かった。ああする以外、俺には何も思い浮かばなくて……」

 

「気にすんな、俺たち仲間だろ?」

 

「私もトールと同じ思いだと、先ほどあったはずです」

 

「そうか……ごめ____いや、ありがとう二人とも」

 

「おう」

 

「ヤー」

 

俺たちはコクリと大きくうなづいた。

 

 

 

「それにしてもユウト、貴方も《醒なる者》だったのですね」

 

ユリエが俺に問い出した。

 

「ああ、まぁな」

 

「最初に力に目覚めたのは?」

 

「一年前…いや、俺が5歳の頃だな」

 

最初は朔夜に出会い彼女を守る際に目覚めたのが最初だと思ったが、俺は少年時代のある日のことを思い出した。

 

 

 

 

 

「俺が5歳だった時、俺は山の中で迷子になってな…どこに行けば良いのかもわからずあたりを彷徨ってたんだ」

 

あの時は父からようやく槍の練習を教わっていた頃でまだひ弱だった。

 

「そうしたら母さんが見つけてくれたんだけど…途中でオオカミの群れに遭遇しちゃって…追いかけられたんだ」

逃げても逃げても追いかけてくるオオカミ、とうとう俺と母さんは追い詰められてしまった。

 

「このままじゃ殺される、母さんが死んじゃう、こいつらを倒せたら…そう強く思った……気づいたら俺はベットで寝ていた…目が覚めて一瞬頭に焼きついた景色が映った…血を流して倒れているオオカミの群れ…俺の手にある《長槍》…」

 

その時は夢を見ていたんだと思ったけどその後、母さんは俺におまじないをした。

 

『いい悠斗?貴方の力は本当に大切な時に使いなさい。貴方が大切な人を、仲間を見つけて誰かを守ると決めた時、貴方の《魂》は応えてくれるわ』

 

そう言って母さんは俺の胸に何かをした。

 

「思えばあれが俺の《焔牙》を今まで封じていた枷だったんだと思う」

 

「…そんなことが」

 

「ユウト…」

 

俺は二人に自分の過去を伝え終えた。

 

「透流、俺はこの《長槍》をボンゴレで…そしてこの学園で知り合った仲間のために使う、だから一人で背負いこむな」

 

「悠斗…ありがとう…」

 

俺は自身の覚悟を伝え、透流は礼を言った。

 

 

 

 

 

 

「くす、くすくすくす……」

 

密会が終わりを告げ、悠斗たちが去って行く様を見つめながらに九十九 朔夜は笑う。ほぼ、彼女の思惑どおりにーーーそれも上の上と言っていい形で事が進んだためだ。

朔夜が黙ったまま思考を続けていると、隣で月見 璃兎は大げさにあくびをした。

 

「さーて、と……。だいたいアンタの予定通りの結果になったことだし、アタシはねみーからとっとと戻って寝ることにすんぜ」

 

再びあくびを漏らすと、手をひらひらと振りながら去っていった。

 

「……随分と機嫌が悪いようですね」

 

月見の遠ざかっていく姿に、三國が呟くように言う。

 

「仕方ありませんわ。璃兎のお気に入りである彼らが、私の掌の上で踊らされていることが、気に入らないのでしょう。ですがーーーそれもいい傾向ですわ」

 

悠斗たちはあずかり知らぬことだが、璃兎は変わった。

 

「本当に興味深いですわ、九重 透流に天峰 悠斗。九重 透流は《醒なる者》と《絆》を結び、《特別》の《魂》を震わせ、天峰 悠斗は素質の片鱗すら感じさせなかった者の瞳に輝きを宿らせた____何より…」

 

朔夜の脳裏にユリエが、リーリスが、みやびが浮かび、最後に再び璃兎を思う。

 

「あの璃兎までもが彼らと関わることで変わりつつある…とても面白いですわね。くす、くすくすくす…」

 

月夜に、《魔女(デアボリカ)》は笑い声を小さく響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくした八月最後の休日、九重 透流は戦闘によって敗北、重傷を負った

 



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36話 白と黒の邂逅

彼と対峙します


「透流!!」

「ユウト…トールが…トールがぁ…」

 

透流が重傷を負ったと言う連絡を聞いた俺が医務室に来ると、ユリエが涙を流しながらそこにいた。

 

「ユリエ…何があった…」

 

「…実は…」

 

俺の質問にユリエは少しずつ話した。

透流とユリエは透流の妹の音羽の墓参りにか向かったのだ。トラも同行し墓参りを終えてトラと別れた後、透流の昔通っていた道場…そして透流の仲間が殺された事件現場に赴いた。そこで透流の復讐の相手に出会い、戦闘になったものの透流は歯が立たず敗北したという。

 

「まさか…透流が負けるなんてな…」

 

ユリエの説明を聞いた俺はしばらく考えると

 

「ユリエ、お前は透流の側にいてやれ」

 

「ユウト?」

 

「俺は少し用事ができた」

 

俺はそれだけ言うとそのまま医務室を去った。

 

 

 

 

 

 

 

「…確か情報ではこの辺だったと思うんだけど…」

 

現在俺は列車に乗り透流の通っていた道場を探していた。透流は俺に教えていなかったが俺は透流が誰かへの復讐を考えていると知った時、ボンゴレの情報網で独自に探っていた。

 

しばらく歩くと立ち入り禁止という立て札が置かれた入り口が現れた。

 

「…ここか」

 

俺は丘の上へと続く道へと足を踏み入れた。

やがて____道が終わり、開けた場所へ出る。寂しく荒れ果てたそこは、かつて透流の通っていた道場があった場所である。しかし、そこには新しい破損がいくつかあった。

 

「透流の戦闘の跡か…」

 

その一ヶ所を見ると新しい血の跡が残っていた。しかし、それは一部のみ、おそらく一人の血だけだろう。

 

以上のことからこの闘いがあまりにも一方的だったことが推測できた。

 

 

 

 

「こんなところに何の用だ?」

 

「____っ!?」

 

突然後ろから聞こえた声に俺は振り向いた。

すると後ろには日に焼けた浅黒い肌の偉丈夫がいた。

 

「ん?お前はボンゴレの…」

 

「俺を知ってんのか?」

 

男は俺の顔を見てそう呟いたので俺は少し驚いた。

 

「まぁな、こう見えて裏社会には顔が広くてな。俺の名は王城(おうぎ)ってもんだ、よろしくな。しかし、まさか今代のボンゴレの守護者がこんなガキンチョだとは思わなかったぜ、わははっ」

 

男は高笑いしながら俺の背中を叩いてきた。

 

 

 

「んで、透流をやった奴を調べにきたのか」

 

すると、王城は先ほどとは打って変わって真剣な顔で質問してきた。

 

「やめときな、透流のやつにも言ったがあれはお前の手に負えるような存在じゃねぇ」

 

「……俺でもか?」

 

「お前さんが強いことは知ってるし見下してもいねぇ、だが今のお前ではあいつにゃ勝てねぇ。あれは化け物だ」

 

王城の警告を俺は静かに聞き、

 

「安心しな、敵討ちなんか考えてねえよ。透流がやられたのは透流だけの闘いによるものだ。俺が横から口出しするつもりはない」

 

「…そうかよ、まぁあいつによろしく言っといてくれ」

 

そういうと王城は、そのまま出口へと向かっていった。

 

「あぁそれと、透流を助けてくれてありがとう」

 

俺が礼をすると王城はこちらを向かず手をひらひらさせてその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

「さて、これからどうしたもんか…」

 

道場跡地を去った俺は駅の近くにあった小さな喫茶店に足を運び簡単な食事をしていた。

 

「……俺でも勝てねえか…」

 

先ほどの王城の言葉…アレは嘘を言ってる男の目じゃなかった。何より、対峙してわかったがあの男はかなりの実力者だ、その男が「化け物」と評価した…一体どんなやつなんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しいいかな?」

 

突然後ろから話しかけられそちらを振り向くと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の少年が現れた。

深淵を思われる、冥く、惺かで、闇色の瞳を持った少年が。

 

「えっと…どちら様?」

 

少しすっとぼけて聞いたがすぐにわかった。

 

 

こいつだ____こいつが透流を____そして、あの道場で透流の仲間を____妹を殺したやつだ。

 

 

 

「はじめまして、僕は鳴皇 榊(なるかみ さかき)。君と話がしたくてね」

 

 

 

 

「それで?俺に一体何のようだ?」

 

俺は榊とともに近くの廃工場にいた。

先ほどの喫茶店だと万が一の時に店に多大な迷惑をかけてしまうからだ。

 

「大したようじゃないよ、ただ、少しばかり勧誘をね」

 

俺の方を向くと微笑みながら言葉を続けた。

 

「天峰 悠斗くん、僕と一緒に来る気はないかな?」

 

「はぁ?」

 

突然の勧誘に俺はポカンとした。

 

「君のことを僕の仲間に聞いてね、興味が湧いたんだ。そして今回君を見て改めて仲間に欲しいと思ったんだ」

 

ポカンとする俺を他所に榊は言葉を続けていた。

 

「力を貸して欲しい____僕が《絶対双刃》に至るために」

 

榊の言葉を俺は静かに聞き、

 

 

 

 

「普通に断る。だいたい人の親友斬った奴のとこなんて行くと思ったのか?」

全力で断った。

 

「あぁそっか…それは残念だ」

 

榊は少し残念そうにため息を吐いた。

 

「わかったよ、そこまでいうならこちらも無理強いはしない。」

 

「…どうも。そんじゃ俺はこれで」

 

そのまま俺は出口へと向かって歩き出した。

 

「そうそう、あと1つだけ」

 

おっとそうだった、どうしても聞かなくちゃいけなかったことがあったっけ

 

「何で道場の仲間を殺したりしたんだ?あいつらがお前になんかしたのか?」

 

「あぁ、そのことが…」

 

榊は俺の質問に少し考えたあと続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弱いから死んだとしか言えないよ」

 

 

 

「そっか………」

 

俺は静かにつぶやき____

 

 

 

 

 

「……《焔牙》」

 

そのまま榊に斬りかかった。

 

 

 

「…わかってんだよ…あれはお前と透流の問題だって…けどなぁ…それでも割り切れねえんだよ…」

 

俺はもう我慢の限界だった。医務室の、、緊急治療室で眠ってる透流を見たときから堪えるのに必死だった。しかし、

 

「透流は俺の友達(ダチ)なんだよ」

 

友達だから、それだけあれば俺がこいつをぶっ飛ばす理由は十分だ。

 

「やるね…今のは良い一撃だった。」

 

しかし、榊は片手でたやすくガードしていた。

 

「それじゃあ、今度は僕の《力》を見せてあげるよ」

 

光が、生まれる。眩い輝きは、榊の胸元から発せられていた。そしてーーー闇が、光を掴む。

 

「そいつは……」

 

光が形を変え、榊の持つ白い刀身に、黒い刃を持つ刀へと。

 

「《焔牙》か?」

 

「違うよ。これは君たちのそれとは違う。光から創り出した僕だけの武器、僕の《魂》ーーー《煌牙(オーガ)》」

 

俺は《煌牙》のその輝きに恐怖を覚えた。

 

「…行くよ」

 

そう言うと榊は目にも留まらぬ速さで俺に斬りかかった。

 

「天に吼えろ_____《覇天狼(ウールヴヘジン)》!!」

 

俺はすぐさま《力在る言葉》を発し《焔牙》の真の力を解放し回避した。さらに

 

「ガロ、《形態変化(カンビオフォルマ)》!!」

 

すぐさまガロを《形態変化》させ、《シルヴァの神速脚》を完全解放した。

 

先ほどの王城の言葉が本当なら最初から本気でいかないとこっちがやられてしまう。そうなる前に全力で迎え撃つ、

 

「天狼一閃!!」

 

俺の本気の一撃が榊に放たれた。

 

「甘いよ」

 

しかし、榊は《煌牙》で容易く弾いてしまった。

 

「おいおいマジか……」

 

この瞬間、あの王城が言っていた言葉が嘘ではないことを察した。この男は只者ではない…だった一撃の交差でもわかってしまった…今の俺ではこいつには勝てない

 

 

 

「だけど…」

 

こいつを野放しには出来ない…そう俺の《魂》が俺にそう語りかけていた。

 

「お前は…ここで止める!!」

 

俺はありったけの炎を《長槍》に纏い榊に突撃した

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

砂埃が晴れていき2人の影が1つに重なっていた。

 

「はぁ…はぁ…ちくしょう…」

 

腹部には榊の《煌牙》が突き刺さっていた。

 

「…今のは良い一撃だった…まともに当たっていたら流石に僕でも危なかったよ」

 

榊の横腹には傷がありそこから血が流れていたが俺の傷に比べたら僅かなものだった。

 

「なるほど、君ならもしかしたら…」

 

そう言うと榊は《煌牙》を俺の腹部から抜いた

 

「がはっ!!」

 

刃が抜かれる際の激痛に耐えながらも俺は膝をついてしまった。

 

「待っているよ、君がここまで来るその時まで」

 

言い終えると俺に背を向け、闇色の少年は歩き出した。

 

 

 

 

 

「…なるほどな…俺はまだ井の中の蛙だったってわけだ…」

 

腹部から流れる血を雪の炎で止血しながら俺は壁に寄りかかった。

 

「もっと強くならねえと…」

 

そして、学園に負傷したと連絡を入れた後、俺は意識を失った。




悠斗…敗北!!


流石に今の悠斗では榊に勝てませんでした。


感想待ってます!!


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37話 覚悟

この度は自分のミスでこの作品を一度消してしまい誠に申し訳ありませんでした。

今後はこの様なことがない様にいたします。


「痛てて…まだ完全には塞がってねえか…」

 

鳴皇 榊(なるかみ さかき)に敗北した俺はその後透流と同じ病院に運ばれた。その後は医者の的確な処置のお陰で確実に癒えてきた。

ただ1つ問題があるとすれば…

 

 

 

「悠斗くん…駄目だよ無茶ばっかりしちゃ…」

 

みやびを心配させてしまったことであった。

しかし、俺が怪我を負った経緯は正しく教えていない。

みやびや他のメンバーには先の土曜の外出先からそのまま御陵衛士(エトナルク)の任務に合流した透流たちの応援に向かい、そこで負傷したと言うことにしていた。

流石に私闘で敗北して重傷を負ったとは言うわけにはいかないらしい。このことを知ってるのは朔夜と三國、月見、ユリエとあとはボンゴレの仲間である。

 

「悪かったみやび、それで透流は?」

 

「うん、さっき目が覚めたって。今ユリエちゃんが看病している」

 

透流はかなり重傷だったが無事だそうなのでよかった。

 

 

 

 

 

 

榊に敗れた日から六日が過ぎた。

俺と透流は今日退院することになった。

 

 

「大丈夫か透流」

 

「あぁ、まあな」

 

透流の左手は榊との戦闘で斬られた為ギブスをはめているが来週には外せるらしい。その後はリハビリをこなすことで、左手は以前と同様に動くとのことだ。

 

「さあ、戻ろうぜ」

 

「おう」

 

「ヤー」

 

俺たちが病院を出たところで____黒衣の少女九十九 朔夜が護衛を連れて立っていた。

 

「…こんにちは、理事長」

 

逡巡し、平静を装って挨拶すると、透流とユリエは無言のまま頭を下げる。

黒衣の少女はそんな俺たちを見て、口角を僅かにあげた。

 

「御機嫌よう、九重 透流。怪我の具合はよろしくて?」

 

「……リハビリさえ済めば、以前と変わらず動かせるとのことです」

 

「そう、それは良き知らせですわ」

 

くすくすと笑うと、少女は次の句へと続ける。

 

「けれど今後は浅はかな行動を控えて頂きたく思いますわ。私と《魔女(デアボリカ)》と契約した以上、貴方には《魂》の《力》を極めた先に在る、《終の領域》へ辿り着いて頂かねばならないのですからね」

 

「……ええ、わかっていますよ」

 

浅はかという部分に不快感を抱きながらも、透流はぐっと堪えて頷いた。

 

「ところで、1つお訊きしたいことがありましたの」

 

「なんですか?」

 

「貴方たちは敗れた____相違ないですね?」

 

「……まぁな」

 

「それがどうしたんですか?」

 

俺が頷き、透流は警戒しつつ尋ねた。

 

「そのような表情をせずとも結構ですわ。私、貴方たちが敗れた相手に興味などありませんもの。それに先ほどのは確認____質問はこれからですのよ」

 

一拍置き、《魔女》は今度こそ質問を俺たちに投げかける。

 

「闘う意志はいまだお有りですの?」

 

「どういう意味ですか?」

 

「契約は続いていると思っていいのかと訊いていますの。私が求めているのは、無様であろうと生き残ろうとする覚悟を持ったもの____無論それは、己の前にそびえ立つ壁へと立ち向かおうという意志を持ち続けていることが条件であり、苦難に遭って背を向けるような輩ではお話になりませんわ」

 

なるほどここで心が折れるような敗者であれば要らないというわけか____

 

くすりと僅かに笑いを挟み、《魔女》は改めて俺たちの意志を確認する。

 

「今一度、問いますわ。貴方たちに闘う意志はお有りですの?」

 

「……俺の意志に変わりはないです」

 

「俺もこんなところで終わるつもりはない」

 

「ならば、今回は不問としますわ」

 

その言葉を最後に、朔夜の質問は終了となる。

 

 

 

 

 

俺たちが退院してから一週間が過ぎた。

俺も腹部の刺し傷も傷痕こそ出来たが完治し、後遺症も無い。現在俺は____

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

人気の無い林で《覇天狼》を発動して《長槍》の素振りをしていた。

 

「このままじゃ……駄目だ……」

 

自惚れていた____

《焔牙》を手にし、秘められた力も開放して強くなっているという確信もあった。

しかし、鳴皇 榊という遥かに格上の存在を知り、自分はほとんど相手にならなかった。自分が井の中の蛙だったと痛感した。

 

「《焔牙》を……《魂》の力を……もっと使いこなせるようにならないと」

 

これから先、格上の相手と対峙する日が必ず来る____。その時に、大切な仲間たちを守れるようにならないといけない。

 

「くそっ……」

 

俺は再び素振りを続けた。

 

「悠斗くん……?」

 

すると、草陰からみやびが現れた。

 

「みやび……どうしたんだ?」

 

「えっと……悠斗くんが特訓しに行ったって聞いて……もし良かったら一緒に走りに行こうかなって思ったんだけど……」

 

すこし恥ずかしそうに呟くみやびを見て少し俺も表情が和らいだような気がした。

 

「……そうだな、一緒に走るか」

 

「う、うん!!」

 

みやびは俺の言葉に表情が明るくなり嬉しそうにした。

 

 

こうしてランニングを始めた俺たちは海沿いの道を走っていた。

 

「ところで、最初の頃に比べて随分とペースが速くなったよな」

 

四月からずっと走り続けているみやびはこの五ヶ月でかなり体力がついた。

瞬発力では劣るものの、持久力という点では《Ⅱ(レベル2)》へ昇華した女子の中で二番目に位置する程に。

 

「ふふっ、悠斗くんが私を鍛えてくれたおかげだね」

 

「そんなことねえよ。みやびが頑張ってきたからこそ今があるんだって」

 

入学して間もない頃を振り返っていうみやびに、俺は彼女自身が努力してきたことだと伝える。

 

「そんなことないは、わたしの言葉だよ。悠斗くんがわたしに教えてくれたから____才能なんて無くても変われるってことを教えたくれたことが、今日までわたしを……ううん、これからも支えてくれるって思ってるの」

 

「みやび……」

 

俺がまさか、こんな風に言ってもらえるほどに彼女の支えになっていたのかと思うと嬉しくもあり、どこか気恥ずかしい気持ちになった。

そんな俺をよそに、みやびは言葉を続ける。

 

「わたし、ね。昊陵(こうりょう)学園に入学して本当によかったなぁって思うんだ。こんなわたしでも変わることができるんだって知ることが出来たから……。それと____」

 

みやびは少し俯き気味になって言葉を切り、僅かに間を置いて次の句を告げるも____

 

「…い…きな悠……んに出会え……………なぁって」

 

かつての離島での告白とは真逆に、言葉は強い海風の音で途切れ途切れになってしまう。

 

「えーっと……」

 

「悠斗くん?」

 

残念ながら俺の頭では、話の流れからみやびが口にしそうなことが思い浮かばない。

だから申し訳ないと思いつつも、俺は聞き返すことにした。

 

「悪い、波の音でよく聞こえなかったから、もう一度言ってくれないか」

 

「………………えっ?も、もう一度?」

 

目を丸くして訊くみやびに、俺は頷いて返す。

するとみやびは「うう……」と呟くと、またしても頷き気味に。

 

「だ……だから、その……」

 

なぜかみやびは、言葉に詰まる。

直前に口にしたことなのに、どうかしたんだろうか。

 

「だ……」

 

(だ?)

 

続く言葉はなんだろうと思っていると____

 

「大好きな悠斗くんに出会えてよかったなぁって……」

 

はにかみながらか改めて告げられ、俺は頰を紅潮させてしまった。

 

「に、二度も恥ずかしいことを言わせるなんて、悠斗くんって結構意地悪かも……」

 

「ご……ごめん……いやだって普通に言ってた様だったから……まさかそんな俺内容だなんて思いもしなくて……」

 

困った様になったな表情での評に俺は狼狽するも、みやびはすぐ明るい笑みを浮かべる。

 

「ふふっ冗談だよ。悠斗くんはすごく優しい人だってわかってるから。……だから好きになったんだもん」

 

少し照れくさそうにに言う最後の一言に、俺は思わずみやびを抱きしめた。

 

「ゆ、悠斗くん!?/////」

 

突然のことにみやびは顔を紅潮させて慌てた。

 

「悪い…みやび…少しの間でいい…こうさせてくれ」

 

俺の言葉にみやびは恥ずかしそうにしながらも小さく頷き俺の背中に手を回した。

 

(…必ず守る……大切な君を……死ぬ気で守ってみせる…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして____月見に俺は呼び出された。

俺は息を呑む。《魔女(デアボリカ)》の試練が行われるのだと、悟ったからだ。




次回、新章突入!!





感想お待ちしています。


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6章 冥府に集いし獣
38話 試練


新章スタートです


翌朝早く、俺は指定された時間に理事長室へと足を運んでいた。扉をノックすると、三國が中から開けてくれる。室内に月見の姿はなく、俺と理事長と三國、それから透流とユリエの五人だけだった。

 

 

 

 

 

「それでは本題に入りましょう」

 

「試練か」

 

「ええ、璃兎のような《高位階(ハイレベル)》の《超えし者イクシード》と手合わせをーーーという考えはしたのですけれど、それでは芸がないと言うもの……。ですので貴方たちには、特殊任務に赴いてもらうことにしましたの」

 

「研修みたいなものか?」

 

「違いますわ。今回はあるホテルの内偵を行って頂こうと思っていますのよ。……とはいえ、この話は役者が揃ってからとしましょう」

 

(役者が揃う?どういう意味だ?)

 

すると扉がノックされ、二人の女子が入って来た。

 

「はぁ……。日曜だっていうのに呼び出さないでよね、朔夜……」

 

早朝のため、酷くだるそうなリーリス、そしてーーー

 

「失礼します。……おや、キミたちも呼ばれていたのか」

 

俺たちの姿に、僅かに驚きを見せたのは橘だった。

 

「どうして橘が……?」

 

理事長の目的や裏の顔を知っているリーリスならわかる。だが、橘はこの試練には無関係なはずだ。

 

「どうしてと言われても、キミたちと同じく特殊任務ということで呼ばれたのだが?」

 

「なに……?」

 

約束が違うーーー理事長へそのことを言おうとしたがーーー

 

「ご心配するのも無理はありませんわ、お二人とも。先ほどお伝えしたとおり、此度の任務は危険を伴う可能性が高くありますからね。ですがーーーと、二人が来たのですから、申し訳ありませんけれど最初からお話をさせて頂きますわ」

 

平然と嘘を口にし、任務について語り始める。

 

「九重 透流、以下四名に命じます。貴方達には近いうちに、特殊任務に赴いて貰いますわ。任務の内容はーーー内偵調査と陽動になります」

 

「内偵調査に陽動ね。どういった任務なのかしら?ついでに、プロである護陵衛士を差し置いてこのメンバーが選ばれた理由も、教えて貰えると嬉しいんだけど」

 

リーリスは言外で、橘が招集された理由を理事長に問う。

 

「内定先は、山梨県のとあるホテルとなりますわ。そちらはある非合法組織が背景にあり、近いうちに催し物を行うとの情報が入って来ましたの。その名はーーー《狂売会(オークション)》」

 

《狂売会(オークション)》ーーー

それは《666(ザ・ビースト)》と呼ばれる秘密結社による、競売会とのことだった。

俺もボンゴレとして奴らの資料を少し見たことがあった。

背景が背景だけに売り出される品は特殊な物で、闇社会に流れた品々が集まる。

 

そして俺たちの任務は違法取引の証拠を発見すること。発見したら、近隣に配した護陵衛士(エトナルク)が突入、及び制圧を行うために騒ぎを起こすというものだった。ホテルに入った後は自分たちで判断して動かなければならず、なかなかに難度の高い任務だと聞いているだけで思う。

 

「ドーン機関にこの話が来たのは、《666》がただの犯罪組織ではないことに理由がありますの。それはーーー彼らの中には、人非ざる者が存在するからですのよ」

 

「人非ざる者だと⁉︎一体どんな……」

 

「《獣(ゾア)》ーーー彼らは自らをそう称しているそうです。獣の力を身に秘めた人に非ざる者であると、彼らと対峙した護陵衛士が報告を上げてきています」

 

(獣の力ねぇ…黒曜の犬や真六弔花みたいなもんか)

 

三國の補足に、俺は敵の特徴を思い描きリーリスが肩を竦める。

 

「つまり、化け物と闘り合う可能性があるってことね」

 

「だからこそ、《超えし者(イクシード)》に話が回ってきたってことか。だけどーーー」

 

「護陵衛士ではなく、学生の貴方達に赴いて貰う理由は、一言で言えば顔が知られているか否か、ということですの」

 

ドーン機関ーーー及び護陵衛士はこれまでに幾度か、《666》と相対しているそうだ。そのため、向こうが衛士の情報を得ていると推測すると、非正規である学生の俺たちに白羽の矢が立ったということらしい。

 

「経験不足の学生とはいえ、《IV(レベル4)》の貴方達ならば信を置けると思っての選出ですの」

 

「……橘は、それにリーリスもまだ《III(レベル3)》だろ。そんな化け物と闘うことになるかもしれない任務に参加させるのはーーー」

 

「護陵衛士の資格は、この学園の卒業ーーーつまり、《III》以上の者ということですわよ」

 

「っ……‼︎」

 

痛いところを突かれ、透流は言葉を失う。

だが、今回の任務は《魔女(デアボリカ)》の試練でもある。そこに覚悟の無いものを____橘を巻き込もうとしているのは、契約違反以外のなにものでもない。

 

「けど朔夜____」

 

俺も透流の考えに同意し朔夜にそのことを告げようとした時、朔夜は特に感情を浮かべることなく言葉を続けた。

 

「それに先ほど私自身が言ったように、貴方達は学生です。故に、無理をする必要はありませんし、強要するつもりもあひませんわ。任務は主に《IV(レベル4)》である九重 透流が行い、他の二人にはサポートに入って頂くつもりですのよ」

 

橘を巻き込みはしない、と理事長は言っている。透流一人で任務を遂行出来るのならば、という前提条件を付けて。

 

「…?朔夜、《Ⅳ》っていったら俺やユリエだってそうだけど…」

 

透流がメインという言葉に俺は少し疑問を抱いた。

 

「残念ながら貴方たちはその容姿からして、内偵には向いていませんの。特に天峰 悠斗に至ってはボンゴレファミリーとして彼らが素性を知っていてもおかしくありませんからね。ですから此度の任務では貴方たちにはリーリス=ブリストルと行動を共にしていただきますわ」

 

「あたしたちが……?」

 

「貴方はドーン機関の《三頭目(ケルベロス)》が一つ、ブリストル家の娘。それほどの人物であれば、《666(ザ・ビースト)》が存在を知らぬはずがありませんわ。その点を最大限に利用し、貴女には衆目を引きつける役をお願いしたく思いますの」

 

「とすると俺たちはリーリスの護衛役ってわけだな」

 

確かに、現在俺たちボンゴレファミリーとドーン機関は同盟関係を結んでいるといっても過言ではない。リーリスの関係者として入り込むことは下手に侵入するより良いだろう。

 

「……確かにそうだとしたら、人目を引かないはずはありませんがーーー私はどのような形でサポートに入ればいいのでしょうか?」

 

唯一、現時点で役どころが不明となっている橘が、自身のことを問う。

 

「橘 巴。貴女には九重 透流と行動を共にして頂きますわ。そうですわねーーー《夫婦として》ということにでもしましょうか」

 

「ふ……」「ふう……」「ふ……」「あらら…」

 

透流、次いで橘、リーリス最後に俺が呟きーーー

 

「「「えぇえええええええっっ⁉︎」」」

 

直後、三つの響き声が重なった。任務は翌週の朝に出立することとなった。

 

 

 

 

 

「つーわけで特殊任務をすることになった。」

 

『《666(ザ・ビースト)》か……こっちどんな組織なのか色々調べてみるよ』

 

俺は《狂売会》への内偵についたをツナに連絡していた。

 

「朔夜から聞いた話じゃ連中はかなり危険な組織らしいからな。場合によってはお前らに助けを頼むことになるかもしんねえ」

 

『わかった、その時は必ず行くよ』

 

ツナはいつもと変わらぬ様子で俺に言葉を返した。

 

「サンキューなボス」

 

「天峰くんも気をつけてね」

 

ツナへの報告が終わり俺は電話を切った。

 

 

 

「さて……例の《アレ》を試してみるか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、とある孤島の海岸。

 

「なあなあソーニャ、今度開かれる《狂売会》ってオヤジも行くんだよな?」

 

茶色の髪に翡翠の瞳を持ち、背中に身の丈ほどの大剣を背負った少年は海を見ながら後ろの黒髪の褐色肌の麗人に問いかけた。

 

「はいその通りでございますナーガ様」

 

「せっかくだし俺も行こうかな」

 

「え……ナーガ様も?」

 

少年の言葉に褐色肌の麗人は驚いた。

 

「いずれ俺はオヤジの後を継ぐんだ…だったら組織の内情はどんな小さなとこでも見ておきてえんだよ…何より…」

 

ズハァァンッ

 

少年は大剣を抜き、近くの岩を一刀両断した

 

「なんか強い奴と闘えそうな気が済んだよ」

 

少年は嬉しそうな顔で月を見た。

 

 




新たなキャラ登場!!

果たして敵か味方か…






感想待ってます!!


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39話 狂売会

翌週、任務に向かう俺たちは朝から出立することとなった。ヘリとリムジンで現場に向かうする俺たちと違い透流たちは直接内偵先へ向かうのではなく、一旦新幹線で名古屋方面へ向かい、そこで服や髪型等のコーディネートをした上で用意された車で移動という流れとなる。透流たちと別れる駅にいると今回の任務には不参加のみやび見送りに来てくれた。

 

「悠斗くん、また無茶はしないようにしてね」

 

「わかってるわかってる。よほどのことがなければ俺だってそこまで馬鹿じゃないよ」

 

心配そうに俺を見つめるみやびに俺は笑いながら言葉を返した。

 

「透流たちも気をつけろよ、今回の任務はかなり危険みたいだからな」

 

「わかってるって悠斗」

 

「透流も巴もこれは任務なんだから、間違ってものめり込まないよう注意しなさいよ」

 

結局、透流と橘は夫婦としてではなく恋人同士ーーーそれも将来を誓い合った婚約者という形で内偵先へ潜り込むこととなったのだ。

 

「心配無用。私と九重は良き友人なのだからな」

 

「その一線も、男女が一晩一緒の部屋で過ごすとなれば簡単に越えるかもしれないでしょ」

 

そう、《狂売会》は二日間に渡って開催されるため、内偵調査次第ではあるが一晩をともに過ごすこととなっているのだ。

 

「いいなぁ…わたしも《III(レベル3)》になれば、悠斗くんの婚約者役が出来るのかな?……うん、きっと出来るよね。頑張らないと……!」

 

みやびは自己完結して気合を入れているが、再び今回のような任務が今後あるかどうかは不明だ。

ただ…

 

(みやびと夫婦か……)

 

一軒家で目が覚め…リビングに向かうとエプロン姿のみやび…そして俺たちに似た小さな…

 

(うん…絵になるかも…/////)

 

そんな未来を密かに考えていたのは秘密にしていた。

 

 

 

 

「さて、そろそろ時間ね。行くわよ天峰、ユリエも」

 

「ああ。それじゃあ行ってくる」

 

「トールも気をつけて」

 

俺たちはヘリに向かおうとすると

 

「あっ……!」

 

みやびが声をあげ、足を止める。

 

「ゆ、悠斗くん……。これを……」

 

言いながら、みやびはポケットから何かを取り出した。お守りだ。

 

「先週、出掛けた時に買ってきたの。悠斗くん、いつも怪我をして帰ってくるから……だから、無事に帰ってきますようにって」

 

「みやび……ありがとう」

 

いつもという部分に苦笑が漏れるも、俺を案じてくれる気持ちは嬉しい。

 

「って、旅行安全?」

 

「う、うん……。旅行中の安全と、無事に帰宅出来ますようにって」

 

旅行じゃなくて任務だけど、と今度はみやびは苦笑いをした後ーーー

 

「行ってらっしゃい、悠斗くん。無事に帰ってきてね」

 

俺にお守りを渡そうとして、再び「あっ」と声を上げる。

 

そしてーーー

 

「…………」

 

お守りに、キスをした。

 

「はい、悠斗くん」

 

「え……あ、ああ。ありがとな」

 

顔を真っ赤にしながら差し出してくるみやびに、俺も少し照れながら受け取る。

 

「いちゃつくのは構わないけど早くしなさい」

 

後ろからため息を吐きながらリーリスが声をかけた。

こうして俺たちは任務に赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

「さて…《666(ザ・ビースト)》ねぇ…」

 

俺たちはドレスアップを済まし、リムジンに乗り換え会場へと向かっていた。リムジン内で俺たちは《666(ザ・ビースト)》について調べていた。

 

「数百年以上の昔から存在する秘密組織か…歴史だけならボンゴレ以上だな…」

 

「マフィアとしての勢力なら間違いなくボンゴレはトップクラス、だけど《666(ザ・ビースト)》は勢力としても歴史的にもボンゴレと同等の力を持っているといっても過言じゃないわ」

 

資料に目を通す俺を見てリーリスは説明する。

 

「天峰 悠斗、貴方の強さはあたしもよく知っているわ。でも今回は派手に暴れるようなことは極力避けなさい、でないと本当に死ぬわよ」

 

リーリスはいつもとは違う真剣な顔で俺に警告した。

 

「貴方もよユリエ、出来る限り穏便に」

 

「ヤー」

 

リーリスの言葉にメイド服のユリエも小さくうなづいた。

 

「わかってるって、俺だって絶対に死ねない理由があるし…自分の命を軽んじるようなことはしねえよ」

 

「それがわかっているなら良いわ」

 

「あぁ、お互い気をつけようぜ」

 

そう言うと俺は胸ポケットからみやびのくれたお守りをしっかりと握った。

 

「ふふっ、本当にみやびにメロメロね」

 

「まあな、付き合ってからますます好きになってるのを自覚しちゃうよ。人生ってのは本当にわからん」

 

本当にわからない、かつて裏社会で《天狼》の名で恐れられた俺がいつしか信じられる仲間を手にし、さらには恋を知る日が来るなんて思いもしなかった。

 

「だからこそ……死ぬわけにはいかない、そしてこの幸せを必ず守る」

 

俺は改めて覚悟を露わにした。

 

 

 

 

「皆さまお静かに。到着しましたので、気持ちを切り替えて任務に臨んで下さい」

 

「「「……っ。」」」

 

運転手に諭されて前を向くと、湖畔に佇むホテルが迫っていた。近隣に建物は無く、ホテルの周囲は高い壁で覆われている。その壁を背に、等間隔で黒いスーツに身を包んだ男たちが立っている様は、これからここで何かがありますと宣言しているとしか思えなかった。今夜、そして明晩と二日間に渡って、《狂売会(オークション)》が行われる会場を前に、ほどなくして車はホテルのロビー前で止められ、運転手が外に出てドアを開けた。

 

 

 

 

 

リムジンを出て周囲を確認すると、従業員以外の姿が多く目に入った。《狂売会》に参加するであろう他の客もだが、それ以上に目に入るのはさっき外で見た黒服の男たちだ。視界に映っただけでも相当な数が見て取れ、突然のことではあるが警備はかなり厳重だとわかる。ホテルに入ると、そこは豪奢という言葉がそのまま当てはまる内装で、思わず気後れしそうになったところでーーー

 

「ん?あれは…」

 

視線の先には透流と橘がフロントでキーを受け取り部屋に向かおうとしていた。

 

(どうやらうまく入れたようだな)

 

俺が少し安心していると

 

「……お客様。本日より二日間は特別な催しが行われるため、招待状をお持ちの方のみとさせて頂いております。大変失礼ではありますが、招待状はお持ちでしょうか?」

 

入り口傍に立っていたホテルマンに呼び止められた。

 

「招待状?持ってないわ」

 

「俺もだ」

 

今回の任務において、俺たちに招待状は用意されなかった。突然、対立する組織の重要人物が現れるーーーそのインパクトを重視してのことだ。ただし俺たちの顔や名前についての情報は、ホテルマン程度の立場では知らなかったようでーーー

 

「招待状をお持ちでないのでしたら、申し訳ありませんがーーー」

 

「リーリス=ブリストルが来た。支配人にそう伝えて貰えるかしら」

 

「で、ですが……」

 

「二度は言わないわ」

 

気圧されたホテルマンは困惑した表情でフロントに向かった。

 

 

「すげーな、今ので本当に入れるのか」

 

「問題ないわ」

 

リーリスは自信ありげに俺の質問に返す。

リーリスのやり取りを見た多くの人たちが目を離さずにいた。

 

その後、俺たちは支配人と思われる男の許可を得て改めてホテルに入った。

 

 

 

《狂売会(オークション)》は夜ーーーダンスパーティーの後に開催される。俺たちは時間がまだあるため一旦部屋に行きくつろいぐと、それぞれパーティー用の衣装に着替えるために、一旦別れた。

 

さほど間を置かず、燕尾服に着替えて待ち合わせ場所へ。

俺はリーリス達を待ちながら壁に背を預けて会場へと向かう人を観察する。人種年齢性別は様々だ。華やかなドレスをまとった美女、穏やかで人の良さそうな紳士、厚化粧をして真っ赤なルージュが悪目立ちした老婆、太い指に宝石のついた指輪を幾つも嵌めた小太りの男ーーー様々な人物が会場内へと入っていく。

 

(こいつら全員《666》関係のやつらか……)

 

彼らは皆、《666(ザ・ビースト)》に少なからず縁故を持つ者だ。

 

 

 

「ん?お前会場に入んねえの?」

 

突然声をかけられたのでそこを見ると、ダンスパーティーの衣装とは思えない動きやすそうな服に背中に布を巻いた何かを背負った同年代くらいと思える少年がこちらに近づいてきた。

 

「え…あぁ、エスコートする相手を待っているので…」

 

警戒されるとまずいと考えて俺は慌てて説明した。

 

「あーそっかー、まぁエスコートってメンドくさそうだけどせっかくのパーティーなんだからお前も楽しめよ」

 

男は気さくな笑みで俺に肩組みしてきた。

 

(なんか凄えフレンドリーに話してくるけど…悪い奴じゃ無いのか?)

 

「そうそう、俺はナーガってんだけどお前は?」

 

「え?あ、あぁ俺は…」

 

「ナーガ様っ!!こんなところにいたのですか!?」

 

すると、黒髪に褐色肌で藍色のドレスに身を包んだ女性が慌てながらこちらに走ってきた。

 

「会場に入るにはドレスコードが必要だとあれほどいったではありませんか!!」

 

「えー…だって動きにくいと思ったからさ…やっぱ必須か?」

 

「必要不可欠です!!さぁ早くこっちにきてください!!」

 

「待てってそんな引っ張んなかったって自分で歩けるから…」

 

女性はそのまま男を引っ張って連行していった。

 

「なんだったんだ…今の?」

 

 

 

「どうしたの天峰 悠斗?」

 

すると、赤く派手なドレスに身を包み、メイド服のユリエを連れたリーリスがこちらに来た。

 

「ん?あぁなんでもねえ。」

 

「そう、じゃあさっさと入るわよ」

 

「はいよお嬢様」

 

俺はリーリスの後ろにつき、そのまま会場に入った。

 

すると、会場内がざわめき起きた。ダンス中だった人たちですら踊ることを止めてこちらを見る。まぁそうだろう、《狂売会(オークション)》の主催となる《666ザ・ビースト》にとって敵対組織と言っていい存在、ドーン機関の《三頭首(ケルベロス)》が血族の少女が会場に足を踏み入れたのだから。さらに言えばイタリアを拠点にした最大のマフィア、ボンゴレファミリーの守護者たる俺までいるのだ。ボンゴレを知る者としては驚愕ものだろう。

 

リーリスは一礼し、会場内へと踏み入り歩を進み始める。情熱的な色のドレスはリーリスの黄金色の髪と見事にマッチし、これ以上ないくらいに派手で人目を引く。優雅な足運びや周囲への礼といった作法など端々から一流の教育を受けているのが伝わってくる。

 

(さすがは本物のお嬢様だな……)

 

俺がそう考えているといつの間にか俺たちは人だかりに囲まれていた。1人の男がリーリスを踊りに誘い、リーリスはそれを引き受けていた。すると、

 

「あの…もしよろしければ…」

 

突然声をかけられ、振り返ると美しいドレスを纏った女性が話しかけて来た。

 

「私と踊っていただけないでしょうか?」

 

「自分とですか?えーと…」

 

「構わないわ、引き受けなさい」

 

突然リーリスが命令して来た。そして、俺の耳元に口を近づけると

 

「こういうところでは周囲に馴染んだ方が安全よ」

 

小声で俺にそう囁いた。

 

「わかりました、自分でよければ」

 

俺が引き受けると女性は嬉しそうにし、俺たちはダンスを踊り始めた。

 

「ねぇ、あのお方…とても素敵な方ね」

 

「本当…どこから来た方なのでしょう…」

 

「あとでお声をかけましょう…」

 

周囲の女性たちは悠斗を見ながらうっとりしていた。

 

 

 

 

その後もなぜか多くの女性に囲まれてダンスな誘われた後、色々と質問された。どこから来たのかだの好みの女性はどんなだの今後の予定はどうなのかだのとひたすら聞かれた。

 

(うぅ…みやびが来なくて正解だったな…)

 

みやびに嫌われたら俺は生きていけないかもしれない…そう思った俺であった。

 



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40話 第四圜(ジュデッカ)

三島レイジ____

《666(ザ・ビースト)》の構成員である彼は憤慨した。

《狂売会(オークション)》の《出品物》を目にしてしまったからである。

子供だった。

西洋系の少年少女と日本人の少女の計三人は麗奴(レイド)と呼ばれ、どの子供も見目麗しい。

三人は《狂売会(オークション)》の二日目に出品されるため、連れて来られた。

囚われの身という一点を除けば、扱いそのものは悪くない。

監視の目はあれど食事はしっかりと出されているし、抵抗さえしなければ暴力を振るわれることもない。

常に監視付きではあるが、他の客と同じタイプの部屋を与えられている。

すべては商品価値を落とさないためだ。三人は人でありながら、商品だった。

帰りたい、助けて、ママ____

それぞれの呟く声を耳にした瞬間、レイジは駆け出した。

目指す場所は十三階の支配人室だ。

本来ならばホテルの支配人と秘書が使うこの部屋も、今は《狂売会》のために来訪した組織の人物をもてなすために使われている。

 

「おいおいなんだテメーは、ここは立ち入り禁止だぞ」

 

「《獣(ゾア)》が何用だ……中に入ることは……許さない……」

 

支配人室に入ろうとしたレイジを金髪オールバックの大男とスキンヘッドの黒服が止める。

 

「オレぁボスに言いてえことがあるんだよ!!」

 

レイジは2人を振りほどいた。

 

「……認めない……」

 

「わかったらとっとと失せろ。ボスはてめえ程度のザコが話せるようなお方じゃねえんだよ」

 

「っせえテメーらは黙ってろ!ボス、俺の話を聞いてくれ!!ガキどもを解放してやってくれよ!!人間を売り買いするなんてクソみてーなことはやめ____がはっ!!」

 

分厚い扉を数度叩いたところで襟を後ろに引かれ、スキンヘッドの黒服にレイジは壁に叩きつけられる。

 

「ははっダッサ」

 

それを見ながら金髪の黒服はケタケタ笑った。

 

「くそっ……邪魔するならテメーらからぶっ倒す!!」

 

レイジが怒りを露わにして2人を睨め付けたそのとき____扉が内側から開かれた。

 

「《獣(ゾア)》が俺に何用だ」

 

扉の奥から姿を見せた男は本来レイジが会話することなど許されない相手である。

それもそのはず、男は《666(ザ・ビースト)》という組織の支配階級《圜冥主(コキュートス)》の筆頭なのだ。名はメドラウト____《第四圜(ジュデッカ)》の称号を持つ男だ。

 

「た、頼む!いや、お願いします!ガキを!ガキどもを____」

 

「いいだろう」

 

「っ!?ちょ、ちょっとボス!?」

 

メドラウトは静かに頷き、金髪の黒服は動揺した。

 

「マ、マジ____いや、本当か!?」

 

「構わん」

 

予想だにしなかった返答に、レイジは驚きと喜びでいっぱいになる。____が、それも束の間のことだった。

 

「……ただし、お前が俺に取り替わればの話だ」

 

「ど、どういう意味だ……?」

 

「組織のやり方に負担があるのなら、《力》を示し、頂点に立てと言っている。《力》無き者には誰一人従わん____それが《666(ザ・ビースト)》だ」

 

「……じゃあどうしたらいいんだよ」

 

「察しが悪い奴だな、要は俺を倒してみろってことだよ、そうですよねボス?」

 

金髪の黒服はレイジを嘲笑いながら問いに答え、メドラウトは不敵な笑みを浮かべながら頷いた。

シンプルな答えにレイジはしばし目を見開いた後____

 

「だったらお望みどおりにしてやらぁ!!」

 

意思を固め、メドラウトへと殴りかかった。

 

「馬鹿だろテメェ」

 

だが、拳がメドラウトに届く範囲に入るよりも早く、金髪の黒服が間に立ち塞がり、レイジの喉元を掴む。

 

「____ごっ、がふっ!!」

 

「たかが《獣(ゾア)》なんて下っ端がボスに成り替われるワケねぇだろうが、頭すっからかんなのか?」

 

「て……め……はな、せ……」

 

腕力には相当な自信があるレイジだが、男のそれは格が違った。そのまま五秒を放っておけば喉が潰れただろう。

 

「そこまでにしておけ」

 

レイジを助けたのは他ならぬメドラウトだった。

 

「……わかりました」

 

首領の言葉に金髪の男は手を離す。

咳き込みながら膝をつくレイジへと、支配階級《圜冥主(コキュートス)》の筆頭は語る。

 

「組織に、世界に唾を吐くなど誰にでもできる。だが____変革させることが出来るのは、《力》を持つものだけだ。変革を望むなら《力》を得ろ。《力》を示せ。さすれば《666》は、いずれお前の望む《力》となるだろう」

 

言葉は楔となり____

やがて楔は呪いとなる。

 

 

 

「良いんですか?あのザコ始末しとかなくて」

 

レイジが立ち去った後、金髪の男はメドラウトに聞いた。

 

「構わん、俺に挑むだけの度胸があるならそれなりに素質があるかもしれんしな」

 

面白そうにメドラウトは笑みを浮かべながら返した。

 

「そういえばナーガの奴が来たそうだな」

 

「はい、突然の来訪でしたので空いていた部屋にご案内させましたが……」

 

「まぁ良い、あいつの自由奔放なところは余程のことが無い限り治りはせん」

 

溜息を吐きながらメドラウトは呟いた。

 

「そういえば……先ほど……ホテルの支配人から報告があり……リーリス=ブリストルが来たそうです……」

 

すると、突然スキンヘッドの男がメドラウトに報告した。

 

「ほお、ブリストルの孫娘か……面白い」

 

その報告にメドラウトは笑みを浮かべた。

 

「それから……隣にいる男を調べたら……ボンゴレファミリーの……《天狼》天峰 悠斗のようです。」

 

「……なに?」

 

突然、メドラウトは驚いた表情でスキンヘッドの男を見つめた。

 

「……この男……です……」

 

スキンヘッドの見せた監視カメラの静止画にはリーリスの後ろを歩く悠斗の姿があった。

 

「そうか……あいつの……天峰 戒斗(あまみね かいと)の息子か……ククク……」

 

メドラウトは嬉しそうに笑みを浮かべ、そして笑った。

 

「面白い……まさか……あいつの息子が俺の前に現れるとは……これも因果が……ククク……フハハハハッ!!」

 

部屋の中にメドラウトの笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

やがてダンスパーティーは終わりを告げ、しばし時間を置いてから別のホールで《狂売会オークション》を開催する旨のアナウンスがされる。すぐに始まらない理由は、女性客の化粧直しを考慮してのことだ。

 

(やれやれ、やっとか……)

 

女性たちの相手をしていた俺はようやく解放されると内心ホッとした。

 

「あの……」

 

「受け取ってくださいまし……」

 

すると、女性たちが突然数字の書かれた小さな紙を渡して来た。なぜか頬が紅潮している。

 

「これは?」

 

すると、女性たちは小さな声で

 

「私の……部屋番号です」

 

「……待っています」

 

女性たちはこちらを見つめて小さく手を振りながら去ってった。

うん、行くのは絶対にやめよう。笑い話にもならないことになる。

 

 

 

 

ほどなくして、俺は《狂売会(オークション)》のホールへと移動する。中は小さめではあるものの映画館を思わせるような形状で、舞台へ向かって客席が段々になっていた。

 

(えーと、ユリエとリーリスは……)

 

そっと周囲を見回すと、それとわかる黄金色の髪が目に入るが銀色の少女がいない。

 

(そういや、ホールの入口脇にメイドが並んでたな)

 

おそらく、この中に通されたのは招待客だけなのだろう。

俺が招待客として扱われたのは幸いだか……《殺破遊戯》後に透流に聞いたのだがユリエはすでに《Ⅳ(レベル4)》の力を持ってるらしい。ならば問題ないだろう、

 

俺はリーリスの隣の席に座った。

 

「ん、お前はさっきの……」

 

すると、その隣に先ほどダンスパーティーの会場前であった少年がいた。確か名前は……

 

「えっと……ナーガさんだっけ?」

 

「ナーガでいいって、堅苦しいのは嫌なんだ。」

 

「あ、あぁそうなのか?じゃあナーガって呼ばせてもらうよ」

 

ナーガの服装は先ほどと違いおれと同じ燕尾服を着ていた。

 

「俺も飛び入り参加だけどオヤジが大人しくしてれば参加していいって言ってくれてさ、まぁこんな動きづらい格好しなきゃいけないのが嫌だけど」

 

「へぇ、ナーガのオヤジさんってこのホテルのお偉いさんなのか?」

 

「ん?いや、おれの親父は……」

 

すると突然、照明が僅かに落ちた。どうやら始まるようだ。袖から身なりのいいーーーついでに言えば恰幅のいい男が舞台中央に歩み出ると、客席へ向かって左右正面と三回頭を下げた。

 

「今宵は我らが《666(ザ・ビースト)》の主催する《狂売会(オークション)》へご来場頂きありがとうございます。本来ならば、オーナーである私がご挨拶の時間を頂戴したいのですがーーー本日に限っては、私などより皆様にお顔を見せるに相応しい御方がご来訪されておりますため、短くはありますが此れにてご挨拶を終わらせて頂きます」

 

(より相応しい……?)

 

オーナーと入れ替わりに舞台に姿を見せた人物ーーー二メートルは越える外国人の男性を目にした途端、そこかしこからどよめきが起きる。

 

「メ、メドラウト様」「あれが《第四圜(ジュデッカ)》のーーー」「このような場所に来られるとは……」

 

(大物登場ってわけか……)

 

どういった人物なのかと周囲の反応に耳を傾けていると、《666》の支配階級とやらの筆頭ーーー一言で言えば、組織のボスだと判明した。

 

「アレ俺の親父」

 

「……は?」

 

衝撃の事実に俺は驚きを隠せなかった。

まさかこいつが世界的な秘密結社《666(ザ・ビースト)》のボスの息子だとは思わなかった。

 

(だけど、どうしてそんな大物がここに……?)

 

けれどその疑問も周囲の声に耳を傾けているうちにある程度理解することが出来る。《狂売会》の参加者は、多かれ少なかれ《666》へと関わりを持っている。手に入れたい物に金を出すのは当然だろうが、同時に組織へ自分の存在をアピールする場でもあるということだ。

その上、今はメドラウトという首領が会場で見ている。この《狂売会》は、より深く組織と繋がりたい者にとって、これ以上ないアピール会場ということだ。

 

(しかし、あの男……。組織のボスがこんな場所に姿を見せるなんて……。もしくは相当自分の腕に自信があるのか……?)

 

立ち姿だけでも自負心の強さが伝わってくる。舞台から目を離さずにいると、メドラウトという男は両手を上げ、会場のどよめきを制した。

 

年齢は四十くらいだろうか。精気が満ち溢れた巨躯、漲る自負心、纏う雰囲気ーーー人の目を引きつけてやまない圧倒的な存在感を持つあの男こそが、《666(ザ・ビースト)》の支配者なのだと心底納得が出来る。しんと静まり返った中、男はニッと笑みを浮かべた。

 

「メドラウトだ。今宵は《狂売会》へ来てくれたことを感謝する。より多くの者が、望みの物を手に出来るよう祈っている。……存分に欲望を満たせ。それにより、我らがまた欲望を満たさせてもらおう」

 

言い終えると《666》の頂点に立つ男は、ある一点ーーー俺たちへと視線を向けた。

 

「ブリストルが黄金の姫にボンゴレの若き守護者よ。我らが《狂売会》を楽しんでいってくれ。無論、気が向けば祖父への土産でもボスへの手土産でも好きに持ち帰るがいい」

 

メドラウトの言葉に反応したのは、ドーン機関とボンゴレファミリーの同盟と《666》の関係を知る者たちだ。

 

「ではーーー皆も楽しんでいってくれ」

 

そう締めると、《第四圜(ジュデッカ)》メドラウトは舞台を降りーーーリーリスの隣の席へと座った。

 

「ふむ……」

 

すると、メドラウトは俺の方へ再び視線を向けた。

 

「……な、なにか?」

 

突然のことに俺は戸惑うがメドラウトはふっと笑みを浮かべ

 

「……やはり似ているな」

 

そう呟くと再びリーリスと談笑しだした。

 

「へぇ、お前ボンゴレファミリーだったのか」

 

突然ナーガが俺に肩組みして話しかけてきた。

 

 

 

「なあなあ、後で手合わせしてくんねぇ?」

 

「____っ!!」

 

突然ナーガは先ほどとは違う、獲物を見つけたような笑みを浮かべてきた。

 

「ナーガ、大人しくしていろ」

 

しかし、メドラウトが鋭い目でナーガを睨みつけ

 

「うげっ、わかったよ親父…」

 

渋々ナーガは諦めた。

 

 

 

その後のオークションはひどく落ち着いた感じで終了した。




少し長くなりましたがキリのいいところまでかけました。








……感想欲しいなぁ


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41話《獣(ゾア)》

「あの男(メドラウト)には圧倒されたな……」

 

《狂売会》初日を終え、部屋に戻ってくるなり大きなため息とともに俺は呟いた。

 

現在リーリスたちは彼女にあてがわれたスウィートルームにいる。俺は俺用にあてがわれた部屋のベッドに寝っ転がっている。

 

「あのような男と談笑をしていたんだから、リーリスの心胆は相当なものだな」

 

ナーガと会話していたから詳しくは聞こえなかったのだが、黄金の少女は時折笑顔を見せていた。

 

「それにしても……」

 

《狂売会》は希少な宝石や美術品を大声を張り上げて落札する競売とは違く、ひどく落ち着いた感じで終始進んでいた。しかし、幾つかは明らかに違法と言える物ーーー盗品が出ていた。

 

「明日の方がもっと希少(レア)なものが出るて言ってたけど……どんなものが出てくるんだろうな……」

 

二日目であり最終日でもある明日の方が、メインになることは確かだろう。透流たちがその出品物を調査し、隠しようのない違法品を発見したら任務を次の段階に移行する。

透流たちが決行時刻を決め、橘がユリエとリーリスに伝える。食事を摂るために必ず訪れレストランのある階____その階のトイレに暗号を残すことが事前の取り決めである。

そして透流が予定通り騒ぎを起こすこということになっている。俺たちは変わらず《狂売会》へ。俺たちが何か動きを見せると《666(ザ・ビースト)》に警戒させる度合いが高まる可能性を考慮してのことだ。

 

 

 

「そういやあの男……」

 

俺はメドラウトのことを再び思い出す

 

『……似ているな』

 

あの時奴は一瞬俺を見て懐かしそうな顔をしていた。

 

「誰のことを言ったんだろう……」

 

俺は静かに呟いた。

 

 

 

 

 

二日目の昼____俺たちはレストランで食事をしていた。俺はリーリスたちの隣の席で食事をしていると、トイレからリーリスが出てきた。

 

「ちょっといいかしら」

 

おそらく暗号を見てきたのだろう、俺に周囲に聞こえないように声をかけてきた。

 

「決行時刻が決まったのか?」

 

「それもだけどそれだけじゃないわ」

 

なぜかリーリスはどこか苛立っていた。否、静かながらも確かに怒りを秘めていた。

 

「子供が囚われているみたいなの」

 

「……っ!!人身売買までしてんのか!?」

 

俺は周囲に聞こえないよう注意しながらも俺は怒りを抑えられなかった。

 

「《666(こいつら)》、気に入らないわ。子供の未来を奪おうってその魂胆が。だからーーー絶対に許さないわ……‼︎」

 

「……同意見だ、そんなこと俺も絶対に許すもんか」

 

俺たちの想いは一つになった。

いよいよ今夜、作戦が決行される。

 

 

 

 

 

 

二日目の夜、《狂売会(オークション)》の開始から五分後ーーー

爆発音とともに、ホテルが揺れた。直後、非常ベルが鳴り響く。

 

「な、なんだ!?」

 

「どうなってるのよ!?」

 

突然のことに周囲が取り乱した。

 

「リーリス、俺たちはこれからどうする?」

 

「あたしは透流の援護に行くわ」

 

周囲は大混乱であり俺たちも透流に合流するには良い機会である。ユリエも今頃、子供たちの救助に向かった橘に合流している頃だろう。合流した後は屋上へ向かい、そこから脱出するという手はずとなっている。

 

「よし、それじゃあ行くか!!」

 

「ええっ!!」

 

俺とリーリスは透流たちの元へと向かった。

リーリスは流石に着替えている余裕まではなかったらしく、動きやすいようドレススカートを裂いてスリットのようにし、すらりと伸びた足を露出させている。

 

 

俺たちが廊下を走っていると二人組の黒服がこちらに気づいて近づいてきた、

 

「悠斗!!」

 

「わかった!!」

 

俺は先手必勝と言わんばかりに一人にボディブローを、もう一人には後ろ回し蹴りを放った。

 

(それじゃ急ぐとするか)

 

そのまま俺たちが先を行こうとしたその時、

 

「マジか……⁉︎」

 

ボディブローで廊下の壁に叩きつけた男が、ゆっくりと立ち上がったために。同時に、後ろ回し蹴りを食らわせた男が、頭を振りながら片膝をついて起き上がる。手加減したとはいえ、常人ならどちらも立ち上がることなど不可能なダメージだ。そう、《常人なら》。

 

「ただ者じゃあないな、貴様……」

 

俺を睨み付け、ボディブローを喰らった男が口を開くーーー口端が裂けながら。それだけじゃなく、同時に着ていた服が内側から破れて皮膚が露出していく。ただしその皮膚は、人の元とはかけ離れたものへと変わっていく。頭からは巨大なツノが生え体格も巨大になっていく。どことなくヘラジカ____箆鹿(ムース)のように見える。

 

「《獣(ゾア)》か……」

 

理事長から聞かされた言葉が、口から出る。

 

「ほう、その名を知っているとはな」

 

姿とともに声帯も変化したらしく、箆鹿(ムース)の《獣》はどこかから響くような声質で言葉を発する。

 

「てめぇ、よくもやってくれたな……!」

 

怒声を放つのは、蹴り飛ばしたはずの男だ。箆鹿(ムース)と同様に、既にその姿は人ではない。鋭い鎌に昆虫独特の触覚と三角の顔____こいつはカマキリ____蟷螂(マンティス)だろう。

どちらにも共通して言えるのは、動物のような特徴は持っているものの、それはあくまで外観の印象だ。あえて言うなら、動物をモチーフとした全身鎧(プレートアーマー)を着ているといったところだ。

 

「リーリス、ここは俺に任せて先に行け」

 

「……いけるの?」

 

俺の言葉にリーリスは聞いた。

 

「すぐ追いかける」

 

その言葉にリーリスは笑みを浮かべてそのまま走っていった。

 

直後、二人ーーーもしくは二匹は、咆哮をあげながら襲い掛かってきた。人の姿のときに比べると、スピードは速くなっている。箆鹿(ムース)の突進を避け、蟷螂(マンティス)の鎌を《長槍》ガードする。

 

「速いな……でも、俺に比べたら遅い」

 

そのまま蟷螂(マンティス)を押し飛ばし《長槍》での斬撃を食らわせ、箆鹿(ムース)の突進を避けて死角から突きを食らわせた。

 

「ご、ぶぅっ……」

 

「馬鹿……な……」

 

そのまま二人は倒れ、そのまま起き上がらなかった。

 

(人非ざる者ーーー《獣(ゾア)》、か……)

 

こいつらがホテル内にあとどれ程いるのかわからない。急いで皆んなと合流した方が良さそうだ。

 

「……ちょっとずっこいけど……」

 

俺は近くの窓を割ると壁伝いに走って屋上を目指した。

 

屋上に着くと、そこには透流たちの他に三人の男がいた。二人はスキンヘッドの黒服と金髪オールバックの黒服、そしてもう一人は____《圜冥主(コキュートス)》筆頭____《第四圜(ジュデッカ)》メドラウト。

どうやら脱出しようとしていたようで、メドラウトとスキンヘッドと金髪は離陸準備の整ったヘリに乗り込もうとしていた。

 

「ほう、《聖騎士》が追いかけてくるには早いと思ったが、まさか《超えし者イクシード》までが潜り込んでいたとはな」

 

《焔牙》を見て、俺たちが何者なのかを即座に察したらしい。

 

「どうやら……騒ぎを起こした者のようです……上へ向かっていると……報告が……」

 

無線で連絡を受けたのだろう。スキンヘッドの話を聞き、メドラウトは俺たちの顔を見回す。

 

「我々《666(ザ・ビースト)》に牙を剥いたことを後悔させてやれ。下の奴ら(エトナルク)どもにもな」

 

「……承知……しました……」

 

「良いねぇ……そうこなくっちゃよお!!」

 

主の命に頷いた直後、黒服二人が宙へと大きく飛び上がった。

 

「みんな、離れろ‼︎」

 

黒服の男二人が、宙空で変質する。内側から服が裂け、これまで見たどの《獣》よりも分厚い鎧皮膚が盛り上がる。

 

「オォオオオオオッ‼︎」

 

咆哮とともに頭上で組んだ両手を振り下ろしてくる。轟音とともに、ホテルが揺れた。

 

「大した破壊力だ……」

 

崩落し、階下が見えるほどの大穴を目にして俺は呟く。もうもうと石埃が立ち込める中で、化け物二人は俺たちを睨め付ける。その姿は、異様だ。スキンヘッドの黒服だったものは体の大半は灰色がかった分厚い鎧皮膚が、顔____鼻のあった部分には角のようなものが現れている。

それだけだったら、サイ____犀(ライノセラス)といった印象なのだが、体中のあちこちから白と黒のまだら模様をした毛がだらんと垂れ下がっていた。

金髪の黒服だったものは茶色じみた分厚い鎧皮膚に口元から鋭い牙が二本生えていた。

それだけだったらセイウチ____海象(ウォールラス)といった印象なのだが両手が異常に長くなり鋭い鉤爪が付いていた。

 

(なんだ、あれは……?)

 

俺たちが見合う中、メドラウトを乗せたヘリが離陸する。だが、今の俺たちはヘリに意識を向けている暇はない。

 

「オラァッ!!」

 

「……死……ね……」

 

金髪の黒服だった謎の《獣》は一匹は俺たちに飛びかかり、もう一匹はその場から動かぬままに腕を振るう。無論、間合いは遠く、拳が当たるような距離ではない。だが空を貫き飛来するものが、まだら模様の体毛が数本、まるで投げ槍のごとく俺たち目掛けて襲い掛かってきた。

 

「なっ……⁉︎」

 

俺はとっさに《長槍》でガードするが、飛びかかったきた《獣》が俺の《長槍》を掴み大穴に引き摺り込んだ。

 

「悠斗っ!!」

 

透流が慌てて俺の手を掴もうと手を伸ばす。

しかし、

 

「お前はそっちに残って子供達を守れ!!俺はこいつを倒す!!」

 

俺はそのまま穴の中に落ちた。

 

 

 

落ちた先は大広間であり、誰もいなかった。

 

「ボスがお前になんか興味深々だったからな、やりあってみたかったんだよ」

 

ケタケタと笑いながら異形の《獣》はこちらに近づいてきた。

 

(なんか知らんけど……さっきまでの奴らとは違うみたいだ……)

 

最初から全力で行く、そう決めた。

 

「天に吼えろ____《覇天狼(ウールヴヘジン)》!!」

 

俺の意志により額から白い炎が噴出する。

 

「能力持ち……《高位階(ハイレベル)》かぁ…久しぶりに楽しませてもらおうじゃねえか!!」

 

「その口ぶりーーー闘ったことがあるのか?」

 

警戒を決して緩めず、俺は訊く。

 

「三人ぶっ殺したよ。あいつらなかなか強かったゼェ…まぁ俺様には及ばねえ……上級(ハイクラス)________複数の《力》を宿す《獣魔(ヴィルゾア)》にはなぁ‼︎」

 

「《獣魔》ーーー複数の《力》、か……。それで納得がいった。どうりで他の奴らより特徴が掴みづらいと思った。

顔や特徴から見てセイウチ____海象(ウォールラス)なんだと思うけど……長くて鋭い爪は……アリクイ____食蟻獣(アントイーター)ってところか。」

 

「大正解!!ご褒美にお前は俺自ら殺してやる!!」

 

「そんなご褒美死んでも要らねえよ……」

 

俺は鋭く《獣魔》を睨みつける____そして、

 

 

 

 

 

「てめえは俺が倒す!!」

 

声高らかに宣言した。

 

 

 

 

 




いよいよバトルに入りました!!




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42話 剛なる天狼

「いくぞっ!!」

 

俺は《長槍》を振り回し、そのまま間合いを詰めると

 

「天狼斬月!!」

 

気合い一閃、《獣魔(ヴィルゾア)》を名乗る化け物に放つ。

 

ガギィンッ‼︎

 

「無駄だ馬鹿」

 

しかし、《獣魔(ヴィルゾア)》はその一撃を容易くガードし、金属同士がぶつかり合うような音が響く。

 

「それなら……これでどうだ!?」

 

俺は《長槍》をそのまま腕に叩きつけ、その勢いで上に飛ぶと

 

「オラァッ!!」

 

今度は《獣魔(ヴィルゾア)》の頭に《長槍》を叩きつけた。

 

「ぐっ……」

 

これは少し効いたのか《獣魔》は少し下がった。

 

「てめぇ……痛えじゃねえかよ」

 

《獣魔》は怒りを露わにしながらこちらを睨みつけた。

 

「今度はこっちのターンだ!!」

 

《獣魔》は叫びながらこちらに迫ってきた。

 

「くらいなぁ……《死爪(デスクロー)》!!」

 

《獣魔》は腕を思いっきり捻り鉤爪で斬りかかってきた。俺はとっさに回避すると、先ほど俺のいた場所の壁に巨大な爪痕が出来た。

 

「おいおい、なんつー威力だよ」

 

アリクイはアリを捕まえるために岩みたいに硬い蟻塚を爪で砕くと言うが《獣魔》の一撃は蟻塚どころかホテルのコンクリートをいとも容易く粉々にした。

 

「よく避けたなぁ……でも……これならどうダァ!!」

 

《獣魔》はこちらに向かってくると、今度は両腕の鉤爪で何度も斬りかかってきた。

 

「くそっ……思ったよりリーチが長いな……」

 

長い腕と鋭い鉤爪での連続斬りは思いのほか速く更に言えばコンクリートを容易く破壊する一撃、掠っただけでもおそらく危ないだろう

 

「だったら……」

 

俺は一度止まり、《獣魔》の連続斬りを迎え撃ち…

 

「これでどうだ!!」

 

俺は《長槍》を真下から真上に振るい、《獣魔(ヴィルゾア)》の両腕を弾き、《獣魔》の懐に入った。

 

「なんだと…っ!!」

 

「喰らいやがれ!!」

 

奴の腕はリーチが長い分至近距離に入られると攻撃しづらい、これだけ詰めればもう爪は封じたも同然……

 

「なぁんちゃって♪」

 

「________っ!!」

 

直後、俺の《覇天狼(ウールヴヘジン)》の能力、危険察知が何かを予知したので俺はすぐさま後ろにバックすると

 

「死牙(デスタスク)!!」

 

《獣魔(ヴィルゾア)》が体を使って牙を叩きつけてきた。

 

「……いけね、そうだった」

 

そうだった、こいつは複数の力を持つ《獣魔(ヴィルゾア)》、食蟻獣(アントイーター)の腕力だけじゃ無いんだった。当然、海象(ウォールラス)のパワーと長く強靭な牙も使える。

 

「……思った以上に厄介な組み合わせだな」

 

距離を離せばリーチの長い《食蟻獣(アントイーター)》の鉤爪攻撃が、しかし間合いを詰めると今度は海象(ウォールラス)の牙がこちらに襲いかかる。

 

「どうだ!!俺にはどこにも死角が無い!!どうすることも出来ねえだろ!!」

 

《獣魔》は声高らかに勝ち誇った。

だがそれは間違いだ…

 

「いや……死角ならあるぜ」

 

一箇所、奴の死角がある、それは……

 

「ここだろ?」

 

「____ってめえ!?」

 

俺は最高速度で《獣魔》の背中に回り込んだ。

そう、奴の弱点は背中____ここなら食蟻獣(アントイーター)の爪も海象(ウォールラス)の牙も届かない

 

「く……クソォォォォォォッ!!」

 

「天狼一閃っ!!」

 

俺の渾身の天狼一閃が炸裂し《獣魔》は吹き飛び、壁に激突した。

 

「自分の力を過信しすぎてたな…それがお前の敗因だ」

 

だが流石に強かったさっきの一撃もまともな食らったら一撃でやられてたかもしれない…

 

「さて……俺は透流たちの方に行かないと……」

 

上にいたもう一匹の《獣魔》、俺の勘では奴はサイ____犀(ライノセラス)とヤマアラシ____豪猪(ポーキュパイン)の《獣魔(ヴィルゾア)》だろう……奴がこいつと同じ強さなら透流たちでもかなり苦戦する……俺はそう思いながら上を目指そうとする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死突進(デストレイラー)」

 

「っ!?」

 

突然の危険察知に俺はすぐさま回避すると、先ほどの《獣魔》が体当たりを繰り出してきた。幸いとっさに回避したためかわすことが出来た。

 

「どうなってる……お前は確かに……」

 

「バァァァカ、あんなヘボ攻撃効くわけねえだろ?演技だよ演技」

 

そう言って嘲笑う《獣魔》の姿は先ほどと異なっていた。

奴の背中、頭部、腕にはまるで刃物のように鋭い鱗が並び長い尾が出ていた。

 

「知ってるか?切り札ってのは最後までとっておくもんなんだぜ?」

 

その瞬間、俺はようやく理解した。

 

「そうか……複数の《力》……お前の《力》は2つじゃなくて……」

 

「大正解!!俺の持つ《力》は3つ、海象(ウォールラス)と食蟻獣(アントイーター)……そして穿山甲(パンゴリン)の《力》を持つ《獣魔》……それが俺って訳だ!!」

 

なるほど、納得がいった。それなら背中に攻撃しても意味はない、あの鋭く硬い鱗にガードされてしまうからだ。

 

「いったよなぁ……「俺に死角はない」って……人の話はちゃんと聞いた方がいいって親に教わんなかったか?」

 

「……たしかに……教わったっけな」

 

我ながら迂闊だった…複数、って単語を聞いてたのに2つ目で考えを終わりにしてしまった…3つめを考える必要があったって訳だ。

 

「そんじゃあ行くぜえ…死突進(デストレイラー)!!」

 

再び《獣魔》は鱗を逆立てて体当たりを繰り出してきた。俺は《長槍》でガードするも力負けしそのまま吹き飛んだ。

 

「ぐっ……」

 

俺の体には気づくといくつも切り傷があった。

 

「穿山甲の鱗は鋭くて武器にもなるって聞いてたけど…まさかここまでとはな…」

 

「俺の体当たりは喰らえばただ骨が砕けるだけじゃねえ!!この鱗で斬り刻まれてズタズタに引き裂かれるのさ!!俺が倒した《超えし者(イクシード)》共もみんなこの技で殺してやったよ!!ひゃはははは!!」

 

《獣魔》は自身の《力》を自慢しながらゲラゲラと笑った。

 

「さっきからほんとに気に食わねぇ…子供達を攫って売り物にして……人を殺したことをそんなに笑いながら自慢できるてめえらがな……」

 

ほんとに気に食わん、こんなクズ野郎が平気な顔でいる《666(ザ・ビースト)》がな…

 

「はぁ?ガキ……あぁ、麗奴(レイド)共のことかぁ……ひゃははは…あの《獣(ゾア)》の下っ端といいてめえといい、頭ん中お花畑な奴ばっかだなぁ!!」

 

俺を言葉を聞いて《獣魔》は更に笑いだした。

 

「所詮この世は弱肉強食なんだよバァァァカ!!強い奴が勝ち組になって弱い奴は食われる!!そんでもって強い奴は弱い奴をどんな風に扱ったって許されるんだよぉひゃはははははははっ!!」

 

ゲラゲラと醜い笑い声が俺の耳に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるさい」

 

俺は我慢の限界だった。

 

「一個今決めた……ムカついた!!だからお前をぶっ潰す!!」

 

久しぶりに見るクズ野郎だった。笑い声は俺を不快にした。力のない者を平気で食い物にするこいつみたいなやつを…俺は絶対に許さない。

 

「お前は確実にぶっ倒すよ……全力でな」

 

榊に負けてから俺は決めた。これから先出会うであろう格上の強者に負けないだけの強さを手に入れ、大切な仲間を守れるようになると、こんな平気で人を虐げる奴から命を守れる強さを手に入れると

 

「一個だけ…あんたの言う通りだよ…切り札は最後までとっとくもんだ」

 

まさかこんなに早くお披露目になるなんてな…ほんとは榊にリベンジするまでは使うつもりは無かったが…

 

「見せてやるよ……俺の《剛の力》を」

 

俺は覚悟を決め、《力在る言葉》を発した。

 

 

 

 

「天に吼えろ____《剛天狼(シグムント)》!!」

 

すると、俺の全身が高密度のエネルギーに包まれた。その姿は《覇天狼(ウールヴヘジン)》に酷似しているが額から白い炎は噴出していなかった。

 

「てめえ…なんだその姿は」

 

「決まっている。俺の大切な人たちを護る《力》だ!」

 

強く床を蹴り、飛び出す。電光石火のごとく一瞬で《獣魔》の懐に潜り込み、神速のような速さで《長槍》の突きを叩き込む。

 

「無駄だ!!俺の鱗にてめえの攻撃なんざ効かねえ!!」

 

《獣魔》は腕をクロスして俺の突きをガードするが

 

バキィンッ

 

俺の一撃はガードを容易く弾き《獣魔》の体に叩き込まれた。

 

「ガァァァァァァァっ!?お、お前…なんだこのデタラメな力はっ!?」

 

《獣魔》は突然の一撃に動揺を隠せなかった。

 

《剛天狼(シグムント)》は俺が開発した《覇天狼(ウールヴヘジン)》の応用技である。調べていくうちにわかったことだが《覇天狼(ウールヴヘジン)》は身体能力と死ぬ気の炎をそれぞれ5:5の割合で強化している。そこで編み出したのがこの《剛天狼(シグムント)》、5:5の割合の強化を身体能力10の割合で強化することで《覇天狼(ウールヴヘジン)》以上の身体能力強化を可能としたのだ。その代わり死ぬ気の炎を使えなくなるがこの手の頑丈さを武器にする相手にはむしろこちらの方がいいだろう。

 

「このぉ……俺様を……舐めるなぁ!!喰らいやがれ、死突進(デストレイラー)ァァァァ!!」

 

《獣魔》は叫びながら全身の鱗を逆立てて体当たりを繰り出した。

 

「それともう1つ……お前は強者でもなんでもない……」

 

俺は飛び上がりながら《長槍》を振り上げ

 

「天技・一刀狼断(てんぎ・いっとうろうだん)」

 

《獣魔》へと叩きつけた。

 

「ぐふっ……」

 

《獣魔》はそのまま意識を失い倒れ、起き上がらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「お前は強者でもなんでもない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただのクソヤローだ」

 

 




決着!!


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43話 六冥獣

「……ふぅ」

 

《獣魔(ヴィルゾア)》を倒した俺は《剛天狼(シグムント)》を解除した。

 

「うん、我ながらいい技を手に入れたな」

 

まだ改良の余地はありそうだが新しい武器としては問題ないだろう

 

(どうやら下は終わりそうだな……)

 

風穴から階下を見下ろして状況を確認すると、護陵衛士(エトナルク)が、《666(ザ・ビースト)》の構成員や、《獣(ゾア)》を圧倒し始めていた。

個々の能力は《III(レベル3)》に匹敵しようとも、戦術やチームでの闘いを熟知している護陵衛士に分があるようだ。制圧完了までは時間の問題だろう。

 

「おっとそうだった」

 

俺は近くからロープを見つけて《獣魔》を縛ることにした。

《獣魔》はすでに異形から先ほど見た金髪オールバックの男に戻っており、未だに気を失っているがまた目覚められたら面倒なことこの上ない。

 

「こんなことなら縄とか入った匣兵器持ってくるんだったな」

 

まぁ無い物ねだりも仕方ないのでそのままロープで入念に縛り付けた。

 

 

 

 

 

「おいおい、なんかすげー騒ぎになってんじゃん」

 

「________っ!?」

 

突然声が聞こえ、そちらを振り向くと

 

「ナーガ……」

 

《666(ザ・ビースト)》の支配階級《圜冥主(コキュートス)》筆頭、《第四圜(ジュデッカ)》のメドラウトが実子ナーガであった。しかし、ナーガの服装は龍が描かれた動きやすそうな衣服であり背中には巨大な剣があった。

 

「よぉ悠斗。そいつ、お前が倒したのか?」

 

ナーガは昨日会った時と変わらぬ態度で親しげに話してきた。

 

「……あぁ」

 

しかし、奴が戦闘態勢であることが俺にはわかった。

 

「やっぱりなぁ……わかってたよ、お前が強いって」

 

瞬間、ナーガが背負っていた剣を振るって斬りかかってきたので俺はすぐさま回避した。

 

「思った以上じゃねえか…久しぶりに本気出せそうだぜ」

 

俺の反応にナーガは歓喜しこちらに剣を向けて笑った。

 

「いくぜ!!」

 

ナーガは地面を蹴って飛び上がり上段から剣を振り下ろしてきた。

 

「オラァ!!」

 

ドコォォォン

 

「くっ……」

 

俺は咄嗟に回避すると地面が砕けて大穴が開いた。

 

「天に吼えろ____《覇天狼(ウールヴヘジン)》!!」

 

このままではマズイと考えた俺はすぐさま《覇天狼(ウールヴヘジン)》を解放した。

 

「せいやぁっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

俺とナーガの《長槍》と剣が衝突し、押し合いになった。

 

「オラァ!!」

 

「なっ……」

 

しかし、ナーガが更に力を込め俺は吹き飛ばされた。

 

「まだ先があんだろ?見せてみろよ」

 

「くそっ……」

 

《覇天狼(ウールヴヘジン)》が力負けした。それも《獣魔》ですらない人間に

 

(こいつ……強い)

 

このままではマズイ、全力で行くべきであろう

 

「天に吼えろ____《剛天狼(シグムント)》!!」

 

俺は再び《剛天狼(シグムント)》を解放した。

 

「いいねぇ、だったら俺も見せてやるよ!!」

 

歓喜したナーガは剣を振り上げると刀身を青い炎____雨の炎が渦巻いていた。

 

「くらいな……《海龍波(かいりゅうは)》!!」

 

渦巻いた雨の炎がまるで津波のように迫ってきた。

 

「くそっ……天狼一閃・剛!!」

 

回避不能と考えた俺は咄嗟に《剛天狼(シグムント)》で強化した天狼一閃を放った。

 

ドコォォォン

 

2つの技がぶつかり合って周囲に衝撃が走った。

 

「へぇ……俺の《海龍波》で押し切れないとは、すげー技だなそれ」

 

「……どうも」

 

こいつは間違いなく剣士だ。しかし、山本やスクアーロ、幻騎士のような剣術の達人ではない、こいつの剣はただ力任せに振り回しているだけの攻撃、しかし、それでいて脅威。山本たちとは別のタイプの剣士であると考えられた。

 

「残念だぜ悠斗……お前とは友達になれると思ったんだけどな」

 

少し残念そうにナーガは呟いた。

 

「まぁ仕方がねえな。俺は《666(ザ・ビースト)》でお前はボンゴレ、お互い敵同士なんだからな」

 

「……そうだろうな、俺もあんたのことは嫌いじゃねえがお前たちの組織は気に入らねえ……」

 

「……そっか……そんじゃあ改めて……戦闘再開と行こうか……」

 

ナーガは横薙ぎに剣を構え再び雨の炎を刀身に灯した。

 

「海皇……」

 

ナーガが更に技を繰り出そうとしたその時________

 

 

 

「ナーガ様!!」

 

突然、以前会場でナーガを連れに戻った黒髪褐色肌の女性が走ってきた。

 

「ソーニャ……何の用だよ。人の闘いに水を差しやがって……」

 

ナーガは不満そうにソーニャと呼ばれた女性に文句を言った。

 

「申し訳ありません……しかし、メドラウト様よりすぐ戻ってこいとのことで……」

 

ソーニャは申し訳なさそうにしながらも報告していた。

 

「……はぁ、わかったよ。戻りゃいいんだろ戻りゃ」

 

ナーガはため息を吐きながら剣を背中の鞘に収めた。

 

「悪いな悠斗、そういうわけだからお前との決着はまた今度で頼むわ」

 

「……あぁ、お前との決着は必ずつける」

 

俺も《剛天狼(シグムント)》を解除してナーガに決着をつけると約束した。

 

「そういや、お前には俺の正体を詳しくは話してなかったな」

 

ふと呟いたナーガは再びこちらを見て告げた。

 

 

 

 

 

「《666(ザ・ビースト)》が支配階級筆頭、《第四圜(ジュデッカ)》直属。冥府に集いし雨の六冥獣____《海皇龍(リヴァイアサン)》ナーガだ。よく覚えときな」

 

六冥獣、おそらくボンゴレの守護者やミルフィオーレの真六弔花のような立ち位置の存在だろう。

 

「あぁ、覚えとくよナーガ。」

 

「おう、じゃあな悠斗、また会おうぜ」

 

そういうとナーガは壁に開いた穴からソーニャとともに立ち去った。

 

「さて……透流たちのとこに行かないと……」

 

 

 

 

「大丈夫か透流?橘やリーリスも……」

 

俺が透流たちのいる屋上に開いた穴の下に来ると、橘は眠っており、透流はリーリスに膝枕をされていた。

 

「……悪い、お楽しみ中だったか?」

 

「まて悠斗!!変な誤解をするな!!」

 

俺が他所に行こうとすると透流があわてた感じで手を伸ばしてきた。

 

「頑張った透流へのご褒美よ♪」

 

リーリスは笑みを浮かべながら答えた。

 

「橘は?」

 

「巴は大丈夫よ、今は眠ってるだけ」

 

「そうか、それを聞いて安心したよ」

 

 

 

「トール!!」

 

そこへ銀色の少女が帰ってきた。

 

肩で呼吸しつつユリエはじっと透流たちを見つめ、透流たちもユリエをじっと見つめ返す。

 

じーーーーーーーーーーーーーーーーっ。

 

(あれ?コレ俺蚊帳の外じゃね?)

 

やがて銀色の少女はぽそりと言った。

 

「……何をしているんですか?」

 

静かで、淡々としていて____そしてちょっぴり怒りの色が滲んだ少女の問いかけに、透流に冷や汗が流れていた。

 

「ま、待て、ユリエ!!これには深い事情が____」

 

必死で弁解しようとする透流へと向けられる深紅の瞳(ルビーアイ)は、底冷えするような冷たさを孕んでいた____

 

「………………」

 

ゆらりと、一歩踏み出す銀色の少女。

一歩、また一歩。

 

これから起こるは凶事か、はたまた惨劇が。

 

(怖いけど、ちょっと結末が楽しみだな)

 

他人事なのをいい事に俺はちょっとワクワクしていた。

 

「ユリ、エ……」

 

銀色の少女は俺たちを見つめ____その場にちょこんと座った。

 

「はい……?」

 

いったい何をしようと言うのか____と状況を見つめていると、ユリエは自身の膝をぽんと叩く

 

「トール、休むならこちらでどうぞ」

 

(ユリエ、動けないっぽいから無理だと思うぞ)

 

「残念ね。透流は柔らかい方がいいみたいよ?」

 

「トールはあまり高い枕は好まないので」

 

どんどん二人の言い争いはヒートアップしていく

 

「ですのでどうぞ」

 

ぽんぽんと再び。

 

「え、えーっと……今は全然体が動かなくてだな……」

 

どうやら透流は現状を伝える事にしたみたいだ。

 

「そうでしたか。……そう言う事なら、仕方ありません」

 

ユリエは随分とあっさり引いた。

 

「あら、引っ張っていかないわけ?」

 

「無理強いは良くありませんので」

 

僅かに眉をひそめている様子から不満を持っているようだが……なんとか場は収まったようだ。

 

「ははははっ、争いが収まって一安心ってところだな、透流」

 

俺とリーリス、橘、透流、ユリエしかいないはずのこの場に、笑い声が響き渡る。

 

「________っ誰だ!!」

 

俺は声の方向に《長槍》を向けると屋上に開いた穴の縁から俺たちを見下ろす、白いマフラーをした男が笑っていた。

 

「待ってくれ悠斗、あいつは味方だ」

 

慌てて透流は俺たちに、今回の任務の協力者のユーゴという男だと手早く説明した。

 

「こっちのカタがついたから様子を見に来たんだが、どうやら心配する必要は無かったようだな」

 

「見てたなら声くらい掛けろよ……」

 

「自分にはまったく関係無い女の戯れに、割り込もうなんてバカがいると思うか?」

 

もっとも正しい意見に、透流はぐうの音も出ないようだった。

 

「にしてもそっちのお前さんも大したもんだな《獣魔》を単騎で仕留めた後に六冥獣とやりあうなんてな。」

 

今度はユーゴは俺に話しかけてきた。

 

「六冥獣を知ってんのか?」

 

「奴らは《第四圜(ジュデッカ)》直属の精鋭だ。その戦闘力は並みの《獣魔》を遥かに超える奴らだ」

 

その言葉に俺はナーガのあの強さに納得した。

 

「ところでお前さん天峰 悠斗って聞いたんだけど……親父の名前って何だ?」

 

突然ユーゴが俺にそんなことを聞いてきた。

 

「…何で親父のことをあんたに……」

 

「詳しくは話せないんだが……頼む、教えてくれ」

 

ユーゴはまっすぐな目で俺を見つめてきた。その目を見た俺は少し迷いながらも教える事にした。

 

「……天峰 戒斗(あまみね かいと)」

 

「…………そうか。いや、悪かったな」

 

そう言ってユーゴは黙り込んだのだが彼の様子から何か事情があると察し俺はこれ以上聞けなかった。

 

 

「そっちの首尾はどうだったんだ?」

 

透流は周囲の空気が変わったことを察したのか話を切り替えた。

 

「ハズレだったな。せめて《第四圜(ジュデッカ)》は潰しときたかったんだが、《獣魔(ヴィルゾア)》に足止め喰らってな。……ったく、ぞろぞろと何匹も出て来やがって」

 

「へぇ……《獣魔》は何体くらい相手にしたんだ?」

 

「数えちゃいなかったが、十は下らなかったはずだな」

 

その言葉に俺は驚いた。一匹でもかなりの脅威だと言える《獣魔》をそれだけ倒すとは……ユーゴの強さがかなりのものだと伺えた。

 

「さて、と……。お前らの無事も確認出来たことだし、俺は先にあがらせてもらうぜ。今回は手を組みはしたが、こっちのお偉いさんにもそっちのお仲間にも秘密裏に動いてっから、見つかって面倒なことになる前に、な」

 

ユーゴは踵を返すと、視線だけをこちらに向けて言う。

 

「じゃあな。お前らが今後も《666(ザ・ビースト)》に関わるってんなら、またどこかで会うかもな」

 

「あ、ユーゴ!待っ____」

 

待ってくれと最後まで透流が口にする前にユーゴは姿を消した。

最後に、夜闇へ白いマフラーを踊らせて。

 

 

 

 

 

 

 

「…………体が動かん」

 

現在俺は学園の医務室、帰ってきた俺を最初に襲いかかったのは疲労と筋肉痛だった。理由はわかる、《剛天狼(シグムント)》の反動によるものだろう。身体能力一点を強化する《剛天狼》____考えてみれば実際に本格使用したのは今回が初めて、さらには《獣魔》との闘いの後、ナーガとの試合でも使ったのでその反動が一気に来たのだろう。そのお陰で現在そのままの服装でジャケットを脱いだだけのままベットに寝かされている。

 

(………もっと使いこなせないと)

 

ガララ

 

「悠斗くん、大丈夫?」

 

そこへみやびがお見舞いに来た。

 

「みやびが、平気だよ。ちょっと体が動かすのがしんどいけど…」

 

俺は軽く笑いながらみやびを迎えた。

 

「よかった……悠斗くんが無事で帰って来て」

 

みやびは余程心配だったようで安心したようにホッとしていた。

 

「心配すんなみやび、俺は必ずおまえの元に帰って来るからよ」

 

「悠斗くん…………」

 

俺の言葉にみやびは顔を紅潮し、俺たちは見つめ合った。

 

 

 

パラパラパラ

 

すると、椅子に掛けてあった俺の潜入調査時のジャケットのポケットから数枚の紙切れが出て来た。

 

「悠斗くん、何か落ちたよ」

 

みやびはそれを拾い上げた。

…………はて、何か忘れているような…………

 

「ええと……674号室…691号室…729号室…なにこれ?」

 

 

 

 

 

 

「……………………あ」

 

やばい…………忘れてた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンスパーティー会場で女性たちに渡された部屋番号の紙……捨てるの忘れてたァァァァ!!!

 

しかもよく見たら明らかに女性の手書きで口説きの言葉まで書かれているし!!完全に見落としてたァァァァ!!

 

「ま……待ってくれみやび!!これには事情が…」

 

「悠斗くん」

 

俺は慌てて説明しようとするがみやびから冷たい空気が立ち込めて来た、

 

 

 

 

 

 

 

「正座して」

 

やばい…………みやびも目が完全に変わってる…………完全に怒ってる…………

 

「あの…今俺筋肉痛で…」

 

「正座して」

 

「だから…その…」

 

「正座して」

 

「だか…」

 

「正座して」

 

「はい」

 

その時、俺はキャバクラ行きが嫁にバレた夫の気持ちってこんななんだろうって感じた。

 

 

 

 

 

透流…………膝枕のいざこざを影で笑ってごめんなさい、もうからかいません…だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………助けてください」

 

その後、どうしてそのような経緯になったのか、紙を捨てるのを本当に忘れていただけであること、やましい気持ちは無かったことをみやびに説明し、どうにか理解してもらい、許してもらった。そして、改めて思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《獣魔(ヴィルゾア)》や六冥獣よりマジで怒ったみやびが遥かに怖いと




ナーガとソーニャのキャラデザはツバサクロニクルに出て来る龍王と蘇摩です


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44話 執行者

少しオリジナルを挟みます。


「それじゃあ行って来るよみやび」

 

「うん、気をつけてね」

 

狂売会から一週間後、俺はボンゴレ守護者の定時報告の為ツナに呼ばれていた。

いつも電話で話しているが、やはり詳しい内容は実際に話さなくてはならないのである。

 

「心配ないよ、今回は本当にただの報告と会議だからな。闘いはまず無いって」

 

「でも万が一ってこともあるから…」

 

やはりみやびは心配そうにしていた。思えばここのところ負傷が多かったからなと改めて思った。

 

ぎゅ…

 

「ゆ、ゆゆゆ悠斗くん?」

 

俺が抱きしめるとみやびは顔を真っ赤にした。

 

「心配してくれてありがとうみやび、でも俺は大丈夫だから。俺を信じてくれ」

 

俺の言葉を聞くとみやびは顔を紅潮させたまま俺の背中に手を回し

 

「うん、悠斗くんを信じるよ」

 

微笑みながら返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………この先ですか」

 

円柱型のケースを背負った一人の女性が歩いていた。

 

「さて、天峰 悠斗……貴方がどこまで成長したのか見定めさせて貰います」

 

そのまま女性はまっすぐと目的地へと向かった。

 

 

 

 

とあるファミレス

 

「それじゃあ天峰くん、会議を始めるけどいい?」

 

ここではボンゴレ守護者たちが会議を開いていた。しかし…

 

「何で10代目の呼びかけに三人しか集まってないんだ!!」

 

ボンゴレ嵐の守護者の獄寺 隼人の怒りの叫びが店内に響いた。

 

「落ち着けよ獄寺、他のお客さんに迷惑だろ?まぁ気持ちはわかるけど…」

 

獄寺の言う通り現在守護者は嵐の守護者、雨の守護者、雪の守護者、そしてボスのツナしか集まってない。

晴の守護者の笹川 了平はボクシング部の合宿で、霧の守護者のクローム髑髏は六道 骸と行動しており、雲の守護者の雲雀 恭弥は言わずもがな、雷の守護者のランボも遊びに行っていて欠席しているのである。

 

「まぁ来れないのはしかたねーし、会議を始めようぜ」

 

やれやれとため息を吐きながらボンゴレ雨の守護者の山本 武がそう言った。

 

「うん、じゃあ始めよう」

 

山本の言葉にツナも同意して会議を始めた。

 

 

 

「それじゃあ消息を絶ったのは幻騎士の他には、デンドロ=ギラム、アイリス=ヘプバーン、ヴァイシャナの三人ってわけか」

 

「うん、そいつらは現在門外顧問が操作してるんだけどまだ見つかっていないんだ」

 

「ふむ…」

 

三人とも一癖二癖ある奴等だが戦力としては申し分ない。欲しがる組織はあるだろう。

 

「わかった、俺の方でも探ってみるよ」

 

「ありがとう天峰くん、ところで《狂売会(オークション)》はどうだった?」

 

「まぁ《666(ザ・ビースト)》のボスとその直属の幹部の存在がわかったのはデカかったかな。あとはほとんど普通のダンスパーティー…」

 

『正座して』

 

「ひいっ!?」

 

俺は再びあの時のみやびを思い出してしまった。

 

「だ…大丈夫天峰くん?」

 

「あ…ああ、あと1つ大切なことを学んだよ…知らない女から部屋番号の紙とかもらったらすぐに処分しておくべきだってな」

 

「は…はぁ」

 

でないといつか死ぬ

 

「ケッ、女が出来ただかなんだか知らねーけど10代目に手間かけさせんなよ」

 

獄寺は舌打ちしながら文句を言った。

 

「うっせえタコヘッド。みやびは世界一可愛いんだぞ!!それも分からねえお前に…」

 

prrrrrrr________

 

突然俺の電話が鳴りだした。電話の相手は朔夜であった。

 

「朔夜?一体どうし………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……悠斗はボンゴレの会議に……」

 

現在透流たちは食堂に集まって昼食を摂っていた。

 

「ボンゴレって確かイタリアを拠点にした大マフィアって聞いたけど…ファミレスで会議するんだな」

 

「天峰が言うには中学の頃から基本ファミレスで会議みたいだったから今でもそうみたいよ」

 

この中でボンゴレについてもっとも詳しいであろうリーリスは透流の疑問に答えた。

 

「はい、もちろんファミリー全体の問題の場合はもっとしっかりとした場所で行うでしょうけど……守護者間での会議なら……」

 

梓もリーリスの言葉を肯定しながら食事をしていた。

 

「む?梓、その食事は少し質素過ぎるぞ」

 

橘の言う通り、梓のトレーには鶏肉とキャベツの炒め物と豆腐の味噌汁、あとジョッキに豆乳が入っていた。

 

「………これは……私の後の輝かしい未来のためにも必要不可欠なメニューなんです。だから譲れません…」

 

「ダメだ梓、いくらなんでも偏り過ぎだ。そういった食事は体を壊す。何を目指しているのか知らんが健康な体はもっと大切だ」

 

そう言いながら橘は梓の鶏肉を少しとって焼き魚を少し梓に分けようとすると

 

ガシッ

 

「待ってください巴さん。大丈夫です、私自身の健康は自分が一番分かっています。なので私の悲願のためにもその鶏肉を返してください」

 

「ダメだ。健康を害してまでやるべき悲願など存在しない」

 

「おねがいします巴さん!!私の悲願のためにぃ……《豊乳(我が理想の体)》の為にもぉォォォォォオ!!!」

 

もはやそこにはかつて悠斗さえも欺いた《神滅部隊(リベールス)》から送られてきたスパイの原型が崩壊していた。

 

「何故そこまで抵抗するんだ梓!?私は君の心配をしているだけであってだな…」

 

「ううぅ……《E》の巴さんに《B》の気持ちなんてわかりませんよぉ……」

 

「大丈夫ですか梓?」

 

涙を流す梓にユリエが問うと梓はユリエを見つめ、

 

ギュ……

 

「ユリエさん……私の心を救ってくださるのは同じ苦しみを知るの貴方くらいですよ……」

 

「??」

 

梓はユリエを泣きながら抱きしめユリエはキョトンとしていた。

 

「梓はなんで泣いてるんだ?」

 

「知るか」

 

そんな彼女たちの様子を見ながら透流はキョトンとしてトラはため息を吐きながら食事を続けようとした。

しかし、それは叶わなかった。それに先んじて、何か巨大なものが崩れたような重低音が鳴り響いたのだ。

 

「っ透流!!」

 

「わかってる!!行くぞみんな!!」

 

「ヤー」

 

 弛緩していた雰囲気が一気に緊張を取り戻す。何かただならぬ様子を感じたリーリスが反応し透流の呼びかけで皆んなは音のした方向へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……」

 

「これって……」

 

音のした場所に来た透流たちが目にしたのは、砕けた壁に折れた木々、さらには警備の御陵衛士(エトナルク)たちがボロボロになって倒れている光景だった。

彼らは幸い死んでいないがそれでも重傷であることは間違いなかった。

 

さらに、彼らをバックに歩いてくるのはひとりの女性。その女性は彼女自身が放つ雰囲気と後方の光景とが相まって、さながら悪鬼が如き様相であった。

 あまりに想定外の事態に透流たちが言葉を失っていると、女性の眼が透流たちの姿を捉えた。その敵意に満ちた視線に射抜かれ、身体の動きが一瞬停止する。

 

「見た所学生のようですが、貴女たちも関係者のようだ。援軍だとしたら……一足遅い」

 

 一際低く、冷徹に女性が言い放つ。それと同時に女性が背負っていた円柱型のケースを放り捨てた。体積に見合わぬ音を立ててケースが大地にめり込む。それを合図としたかのように女性が駆け出した。

その速度は、まさに神速。透流たちが一息も吐く暇もなく、その女性は拳を振りかぶり、地を蹴った。それに即座に反応した透流は《楯》を具現化し攻撃を受け流した。受け止めるのではなく、受け流すので精一杯だったのだ。

ほぅ、と感心したかのように女性が言葉を漏らした。けれど女性の拳を受け流した透流の手は、衝撃を受け流したというのにそれに耐えきれずに震えている。

 

「みんな!!こいつは…」

 

「言われなくてもわかってる!!」

 

「ええ、行くわよ」

 

「うむ、いくぞ梓!!」

 

「はいっ!!」

 

「ヤー」

 

「わたしも闘う!!」

 

透流の合図と共にみんなも《焔牙》を具現化した。

 

「その意気や良し」

 

女は再び構えを取り、瞬時に透流に肉迫した。

 

降り注ぐ拳の連撃。それを透流は《楯》でガードし続けた。息つく暇もなく繰り出される攻撃は透流に反撃さえも許さない。

 

そこへトラとユリエが女に斬りかかる。

それを女は見切りトラの腕を掴み、

 

「はぁっ!!」

そのまま壁に向かって投げつけた。

 

「ぐっ……」

 

壁に叩きつけられトラはダメージを負い、なんとか立ち上がった。

 

「悪くない連携でしたが………」

 

「甘いわ!!」

 

ダァンッ

 

「くっ……」

 

「そこです!!」

 

「やあっ!!」

 

そこへリーリスが《銃》を放ち、回避したところを梓が《大鎌》で攻撃して動きを制限し橘が《鉄鎖》で捕らえた。

 

「今だみやび!!」

 

「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「……ほぉ」

 

みやびがとどめの一撃を繰り出した。

しかし、

 

「な……」

 

「そんな……」

 

みやびの一撃は女によって止められていた。

 

「今のは良かったですね…それでは…」

 

女はみやびへと拳を振るい……

 

「させるかぁぁぁぁ!!」

 

そこへ透流が躍り出て《雷神の一撃(ミョルニール)》を女に放った。

 

「……その技……」

 

すると、女はすぐに回避し、狙いを透流に切り替えた。

 

「……今の技……まだ付け焼き刃といった形ですね……それなりに鍛えてはいるみたいですが……まだ使いこなせていない様子……」

 

「ぐ……」

 

自身の弱点を看破され透流は言葉が出なかった。

 

「なので手本を見せてあげましょう」

 

そういうと、女は身体をひねり、深く踏み込み、《まるで弓を射るかのように拳を引き、力を溜める》。

 

「そんな……まさか……」

 

俺のそれよりも身体をひねり、深く踏み込んでいるが、間違いなくその構えは____

 

「《雷神の一撃(ミョルニール)》……」

 

透流の口から漏れた言葉の通り、それはまさしく《雷神の一撃》だった。

 

瞬間、女は地面を蹴り____

 

「《魔槍の一撃(ゲイボルク)》!!」

 

女は猛スピードで透流へと放ち____

 

 

 

 

 

「天狼一閃!!」

 

突如現れた悠斗が放った一撃と衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと来ましたか……天峰 悠斗」

 

「なんの真似だよ……バゼット!!」

 

俺が朔夜から連絡を聞き、猛スピードで帰って来たら、透流たちに攻撃しているこいつがいた。

 

「……貴方がどこまで強くなったかを探りに来たのですが……掛け合っても警備の者たちに止められたので強硬手段を取らせていただきました。」

 

「透流たちを襲ったのは?」

 

「増援と解釈して攻撃したまでのこと。殺すつもりはありませんでした」

 

「さっき《魔槍の一撃(ゲイボルク)》放ってたろ?下手したら死んでたぞ」

 

「殺さない程度の威力で撃つつもりでした。」

 

駄目だ、話が全く通じない…どんだけ脳筋だよ。

 

「悠斗……こいつは……」

 

透流は俺に女について質問した

 

「こいつはバゼット。ボンゴレ最強の部隊ヴァリアーの幹部だ。」

 

「ボンゴレ……なんでボンゴレの仲間が悠斗を……」

 

「まぁ一応はボンゴレだが…仲間と言われると難しいな…」

 

現在もこいつらはツナからボンゴレボスの座を虎視眈々と狙ってるし

 

「さて、それでは改めて仕切り直しとしましょうか。貴方の強さ見定めさせてもらいます。」

 

そういうとバゼットは再び身構えた。

 

「……やるしかねえか」

 

俺は仕方なく《長槍》を構えた。

 

 

 

 

 

 

「そこまでですわ」

 

すると、そこに三國と月見を連れた朔夜が現れた。

 

「これ以上内輪揉めで私の学園を破壊するとあっては相応の対処を取らせてもらいますわよヴァリアー」

 

朔夜の言葉に三國が前に出て来た。

 

「……だからなんですか?数が増えたなら全員倒せばいい。その気になれば数の差などすぐ減らせる」

 

どこまで脳筋なんだよ。と改めて感じた。

 

「俺はお前とそもそも私闘なんてまっぴらだ。お前とは闘う気は無いからさっさと出てっくれ。それともお前には闘う意思のない相手をいたぶる趣味でもあんのか?」

 

俺はバゼットを睨みつけながら闘いを拒否した。

ここで争えば透流たちにも被害が出かねないし迷惑になる。闘わずに済むならそれがベストだ。

 

「……日を改めます」

 

バゼットは俺の願い通り拳を引き円柱型のケースを拾ってそのまま去ろうとした。

 

「まってくれ!!」

 

それを透流は呼び止めた。

 

「何か?」

 

「さっきの技……あれってもしかして王城に……」

 

透流はバゼットに先ほどの《魔槍の一撃》について聞いた。

 

「はい、彼の技を自分なりにアレンジして覚えました。」

 

やっぱり、入学式の時、透流が使った《雷神の一撃》に見覚えがあったのはバゼットの《魔槍の一撃》を知っていたからであった。

 

「では」

 

そうしてバゼットはそのまま立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなすまん!!」

 

俺はみんなに全力で謝罪した。

 

「気にすんなよ、悠斗の所為じゃないだろ」

 

透流たちは俺に優しく返してくれた。

 

「それにしてもあのバゼットって人…すごい強さだな」

 

「……まぁな、奴とは過去に何度か闘ったが……勝てたことはない」

 

リング争奪戦の時は何度か機転を利かし勝つことができたが、力比べではまるで相手にならなかった。

 

「悠斗が勝てたことがないなんて……どんだけ強いんだよ」

 

「化け物揃いのヴァリアーでもあいつはその容赦の無さから《執行者》って呼ばれてるからな」

 

透流はバゼットの強さな驚愕していた。

 

 

 

 

 

 

「まだまだ鍛えないとな……」

 

俺たちは改めて強くなることを決心した。

 



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7章 禁忌の果実
45話 天峰 悠斗の《死ぬ気の炎》特別講座


「それじゃあみやび、まずはリングに炎を灯す練習をしよう」

 

「う…うん。お願い悠斗くん」

 

現在俺とみやびは人気のない森の中で特訓を行なっていた。イノチェンティの騒動で《死ぬ気の炎》を使ったみやびに俺は《死ぬ気の炎》の使い方を教える事になっていた。

二学期の《昇華の儀》で、みやびは晴れて《Ⅲ(レベル3)》へ昇華に成功した。それにより土台が出来たと考え《死ぬ気の炎》の特訓を始めることにしたのだ。

因みに俺は今回《Ⅴ》相当の力を解放するには至らなかった。今は亡き母が俺に施した《おまじない》、これにより俺は《醒なる者(エル・アウェイク)》の力を抑え込められている。ユリエに施された《位階限定(レベルリミット)》と異なるため解除に少し時間がかかっている。朔夜曰くあと少しきっかけがあれば解除できるとのことらしいのだが…

 

(もっとこいつを使いこなせないとな……)

 

自分の胸に手を当てながら俺は覚悟を決めた。

 

「悠斗くん?」

 

しばらく黙り込んでいたことに疑問を抱いたのかみやびが心配そうに見つめてきた。

 

「あぁ悪い、それじゃあ始めるか」

 

俺も気持ちを切り替え、レッスンを始めた。

 

 

 

 

 

「まずは《死ぬ気の炎》について教えるよ。《死ぬ気の炎》て言うのは簡単に言うと生命エネルギーだな。炎には主に7つ…いや、8つの属性があるんだ。」

 

「属性?」

 

「《晴》、《雨》、《嵐》、《雷》、《雲》、《霧》、《雪》…そして《大空》だ。そして炎にはそれぞれに性質があるんだ。まずみやびの属性は《晴》だったな。《晴》は《活性》って特性があって傷を癒したり成長を促したりと結構便利な属性だな。そして俺の炎の性質《凍結》って言ってあらゆる機能を停止させたり冷気を操ることが出来る能力だ」

 

そう言って俺はホワイトボードに炎の属性とそれぞれの性質を記入した。それを見ながらみやびはノートにまとめていた。

 

「よし、それじゃあ次はリングに炎を灯す方法について教えるよ」

 

そう言うと俺はポケットからリングを1つ取り出して指にはめた。

 

「リングは使用者の波動…つまり生命エネルギーが通過するとそれを高密度エネルギーに変換して死ぬ気の炎を生成出来る。」

 

そう言うと俺は指にはめたリングに炎を灯した。その炎はとても澄んだ真っ白な炎でありみやびはその美しさから目を離せなかった。

 

「そしてここが一番大事なんだけど炎の威力は使用者の波動を計る尺度である炎の純度に依存しているんだ。さらにリングの属性と使用者固有の波動の属性が一致しなければリングに炎を灯すことは出来ない。だから《晴》の炎の使い手は適正がない限り《雨》のリングに炎は灯せないってな感じだな。まぁ百聞は一見にしかず、リングをはめて見てくれ」

 

「う…うん」

 

みやびは俺に言われた通りに指にイノチェンティから貰ったリングをはめると

 

「えいっ…」

 

みやびは体に力を入れてリングに炎を灯そうとした。しかし、リングからは炎は出なかった。

 

「あれ?」

 

「みやび、力で炎を灯すんじゃない。《死ぬ気の炎》を灯すのに何より必要なのは確固とした強い覚悟だ。」

 

「覚悟……」

 

俺の言葉を聞きみやびは息を整えて静かに目を閉じた。

 

(わたしは…強くなりたい…みんなと一緒に戦えるように…わたしを絆双刃に選んでくれた…わたしの大好きな悠斗くんのために…!!)

 

ポゥッ

 

その瞬間、みやびのリングから黄色い炎が出た。

 

「うわぁ…」

 

「よし、第1関門『リングに炎を灯そう』は成功だな。よくやったなみやび」

 

そう言うと俺は優しくみやびの頭を撫でた。

 

「えへへ…」

 

「さて、それじゃあ次は匣(ボックス)兵器の使い方について教えてみるか」

 

そう言うと俺は腰から手のひら大のサイコロ状の匣を取り出すと

 

「開匣!!」

 

リングの炎を匣へと流し込んだ。すると、匣が開き中なら白い炎の灯った小さなナイフが数本出てきた。

 

「これは匣兵器って言ってな。この中にはこいつみたいな《死ぬ気の炎》を動力源に動く道具が入っている。武器だったり医療用の道具だったり、あとは動物だったりな」

 

「動物?」

 

「そう、《死ぬ気の炎》で動く動物、《匣アニマル》だ。いわば自分のパートナーって感じだな。例えば…こんな風にな」

 

そう言うと俺の首のチョーカーが光り白銀の鎧に覆われた白い狼が出てきた。

 

「こいつが俺の相棒のガロだ。ガロ、みやびに挨拶だ」

 

「ガウッ!!」

 

俺がそう言うとガロはみやびに近づき尻尾を振りながら吠えた。

 

「えっと…よろしくねガロちゃん」

 

みやびも恐る恐るガロの頭を撫でるとガロも体を擦り寄せてきた。

 

「ガロもよく懐いているみたいだな。さて、みやびの匣は…っとそうだ、確かみやびってイノチェンティから匣貰ってなかったっけ?」

 

「ええっと…これ?」

 

みやびは以前イノチェンティから貰った匣を取り出した。

 

「そうそうそれそれ、試しにそれに炎を注入して見なよ。その穴にリングを当てて炎を注入すれば何か出てくると思うから」

 

「うん」

 

みやびは丸い穴へと炎が灯ったリングを押し付けた。

 

すると

 

ボシュッ

 

音とともに匣が開き中から黄色い炎の塊が出てきた。

炎の塊は次第に形を作っていき…

 

「きゅ〜」

 

耳と尻尾に炎が灯った生き物へと形を変えた。それは大きな耳と尻尾を持った小さな狐のような生き物だった。

 

「これは確か…フェネックって生き物だっけ?」

 

「この子がわたしのパートナー…」

 

「きゅう?」

 

フェネックは首を傾げながらみやびを見つめて尻尾を振った。

 

「可愛い…よろしくねキュウちゃん」

 

みやびは匣から出てきた《晴フェネック(フェンネーク・デル・セレーノ)》ことキュウちゃんを抱きかかえると優しく頭を撫でた。

 

「しかしフェネックか…どんな能力なんだろうな」

 

俺はみやびの新たな力に関心を抱いた

 

 

 

 

 

 

 

「どれにしようかな……うーん、ここは……」

 

十五種類ものパスタを前に、今日はどれを食べようかと頭を悩ませる。昊陵(こうりょう)学園の学食は毎月ビュッフェの一角にコーナーを作り、フェアを行っているのだが、今月のフェアはパスタだった。もちろん一つに絞らなくてもいいのだが、一ヶ月もあるのだから日毎に別のものを食べた方が飽きが来なくていい。結局、散々悩んだ挙げ句にトマトとアサリを使ったボンゴレロッソを皿に盛り付けた。

 

「悠斗くんはボンゴレロッソにしたんだ。ふふ、それも美味しそうだね」

 

いつものテーブルに着くと、先に席についていたみやびが、俺のパスタを見て言う。

 

「みやびは明太子クリームにしたのか。種類が多いとやっぱり悩むよな」

 

「うん。どれも美味しそうだから悩んじゃったけど」

 

「まあフェアは一ヶ月続くし、食べられなかったなんてことはないだろうけどな」

 

俺たちの食事はほとんどが学食だからだ。

俺はみやびの向かいの席に座り、食事を始めた。

 

「うん、美味しい♪」

 

パスタを口に運び、みやびは幸せそうに呟き、浮かべた笑みからも美味しさが伝わってきた。

 

「悠斗、隣いいか?」

 

すると、そこへ透流も合流した。透流の皿にはカルボナーラが盛り付けてある。

 

「……ボンゴレがボンゴレ(あさり)のパスタを…」

 

「いったら殴るぞ」

 

「悪い、もう言わない」

 

それはいっちゃあかん奴だ。

 

 

 

 

 

「ほう、みやびは明太子クリームで天峰はボンゴレロッソ、九重はカルボナーラにしたのか」

 

俺たちが舌鼓を打つ中で、みやびの隣へ橘が腰を下ろす。

 

「うん。巴ちゃんは柚子胡椒にしたんだね」

 

「……ん?昨日も同じじゃなかったか?」

 

「うむ。こちらへ来て初めて食したが、非常に好みの味でな」

 

「俺には肉ばっかり食べるなとか言うくせに……」

 

透流がぼそりと呟き、痛いところを衝つかれたとばかりに橘から笑みが消える。

 

「べ、別に構わないではないか。キミとは違って、私はバランスよく栄養を摂るようにしているのだからなっ」

 

確かに、彼女のおかずを載せた皿には、肉、魚、野菜といろいろ種類が豊富だ。

 

「ふんっ、貴様は橘に毎食見繕ってもらった方がいいんじゃないのか」

 

と少し呆れた声で会話に参加してきたのはトラだった。

 

「……ふむ、それもいいかもしれんな」

 

「同意しないでくれ……」

 

頷く橘に、透流は力無くツッコむ。

 

「一体どうしたの?」

 

そこへトレイを手にしてやってきたリーリスが、不思議そうに首を傾げる。

橘が簡潔に説明すると、黄金の少女はぷっと吹き出した。

 

「それなら、あたしと一緒に昼食を摂れば解決じゃない。透流が満足するだけのお肉をサラに用意させるわよ。……あ、もちろんあたしたちの部屋で、ね♪」

 

「リーリス。キミは九重にバランスのいい食事を摂らせたい、という私の話を聞いていなかったのか……?」

 

額に手を当て、疲れたように橘が言うもーーー

 

「あら、夫の望むものをっていうのは妻の務めだと思わない?」

 

「夫婦じゃないからな」

 

「人前だからって照れなくてもいいのよ、透流」

 

「ふんっ、無駄話してないで早く食べたらどうだ」

 

バカバカしいとばかりに言い捨て、トラは真っ黒な麺ーーーイカスミパスタを口にする。

 

「へぇ、トラはイカスミにしたのか。どんな味なんだ?」

 

「味付けはペペロンチーノに近いが、もっと濃厚な味だと思っていい。程よい甘みにトマトと唐辛子、にんにくによる多重ーーー」

 

「一口くれ」

 

長くなりそうと思ったのか透流は話を遮りつつ要望を出す。確かに訊くよりも、一口もらったほうが話が早い。

 

「仕方のないやつだな。一口だけだぞ……」

 

不満げに言いつつも、トラはくるくるとパスタをフォークに巻き付ける。

 

「お、サンキューな。こっちのも食うか?」

 

透流はパスタの巻き付いたフォークを、トラは自身が差し出したフォークと交換しーーーぱくりと互いに一口で食べる。

 

「……………………。」

 

それをみやびは羨ましそうに見たあと、

 

「ゆ、悠斗くん。あーん」

 

俺に向かってパスタを巻きつけたフォークを向けてきた。

 

「みやび…/////あーん♪」

 

俺は少し照れながらもパスタを頬張った。

 

「うん、おいしっ」

 

俺はフォークに自身のパスタを巻きつけ、

 

「はい、みやびも」

みやびに差し出した。

 

「う…うん/////」

 

みやびも恥ずかしがりながらもパスタをパクリと食べた。

 

「えへへ、恥ずかしいね」

「あ、あぁ」

 

改めて少し恥ずかしくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すり鉢状という特異な形の広間で行われている《666(ザ・ビースト)》の幹部会議では次のプロジェクトについての話し合いがされていた。

 

「それでは次の議題だが____来るべき日のための果実だが、ある程度の数が揃ったことを報告させてもらおう。試験をいつから開始するかは貴方に任せるよ、《第四圜(ジュデッカ)》」

 

「今宵からだ」

 

《666》において《第一圜(カイナ)》の称号を持つクロヴィスの言葉に、メドラウトはどう猛な笑みを浮かべ、告げた。

 

「さあ始めるぞ____《禁忌ノ禍稟檎(プロジェクト・マルス)》をな!!」





みやびの位階を原作より早く昇華しました。

みやびの匣アニマルのキュウちゃんのデザインはポケモンxyのフォッコがモチーフです。


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46話 皐月市

「みやび、今度の週末なんだけどどこ行くか?」

 

「えっと…それじゃあ……」

 

特訓を終えた俺とみやびは週末の予定を話していた。

週末が近づくにつれ、学内には解放感が満ちてくる。厳しい訓練も週末には行わず、自分の時間を満喫出来るからだ。

 

「……少しいいですか?」

 

突如、俺たちの背後に三國が現れた。

 

「……何か用か?」

 

「理事長より、新たな任務について話がありますので貴方たちをお連れするように、と」

 

「……わかった」

 

承諾すると、三國は静かに笑みを浮かべた。三國に連れられて理事長室へ向かうと、室内には黒衣の少女や透流とユリエ以外にもリーリスと橘に梓、トラの姿が視界に入る。

 

「天峰くんと穂高さんをお連れしました」

 

「ご苦労様、三國」

 

僅かに目を細める朔夜を見つつ、俺たちは《魔女(デアボリカ)》の試練かどうかについて思考する。

 

(みんなが居るってことは、今回は任務ってことか……?)

 

リーリスはさておいて、橘と梓にトラ、さらには今回新たに《Ⅲ(レベル3)》になったみやびが居るのなら通常の任務の可能性が高い。

《狂売会(オークション)》から学園に帰ってきてからの任務は全て《666》の関する任務を行っていた。主な内容は《獣》との戦闘だ。戦闘を重ねるうちにいろいろと考えることがでてきた。

《狂売会(オークション)》以降に就いた任務は五回、そのうち《魔女(デアボリカ)》の試練は二回____

一回は俺と透流とユリエの三人だけで任務を命じられ、もう一回は事情を知るリーリスを加えた四人だった。

だが、《狂売会(オークション)》の一件____橘が巻き込まれたことを考えると、任務内容について聞き終わった後に問うべきだろう。

その朔夜はと言うと、俺たちの顔を見回した後____

 

「社会とはーーーその大小に拘わらず、必ずや閉鎖的な一面を持つものですの」

 

奇妙な前置きを口にし、新たな任務について話し始めたりそれはこれまで、さほど多くはないとはいえ俺たちが受けた任務とは、随分と毛色が違うものだった。

 

 

 

 

 

 

日が傾き始め、空の色が濃さを増してきた頃ーーー俺たち八人は私服に着替え、電車に揺られていた。

無論、遊び目的ではなく、任務先へ向かってのことだ。

 

「いつ終わるかわからないっていうのは面倒な話よねぇ……」

 

「ふふっ、そう言うな。護陵衛士(エトナルク)の任務は多種多様だと、理事長も言っていただろう」

 

言葉をそのまま態度に表して大きく息を吐くリーリスへ、橘が苦笑しつつ言う。リーリスは「それはわかっているけど、抱く感情は別物なのよ」と返事をしていた。

 

「あまり任務だって意識しないで、気楽にやろうな」

 

俺たちは皐月さつき繁華街へ遊びに行く学生として、これから毎日放課後になる度にこうして電車に揺られることになる。帰りは所定の場所へサラが迎えに来てくれることになっている。

 

「ふんっ、その話はここまでにしておくんだな。着いたぞ」

 

「行こう、悠斗くん」

 

ドアが開くとトラが、続いてみやびがホームへと降り立つ。

俺たちも後に続き、改札を出ると目的地である街____皐月へと到着した。

皐月市____県北西部に位置し、複数の路線が乗り入れるこの街には、数多くの商業施設が構えられている。

特に活気と賑わいに満ちたアーケードには、日々多くの若者が集まっているとのことだ。

そんな街へ俺たちが派遣された理由は、まさに若者という部分がキーワードとなる。

今回の任務は、その世代を対象に情報収集することが主となっているからだ。

 

「えーと……どっちだっけ?」

 

「こちらだ、九重」

 

駅から繋がる歩行者専用高架通路(ペデストリアンデッキ)に出たところで足を止めるも、橘が先頭に立って歩き始めた。迷いなど微塵も感じられない歩調から、最初の目的地となるアーケード街までの地図は頭に叩き込んであるのだろう。先を歩く橘の背中を追う。

 

「それにしても、結構大きな街だな……」

 

「うん。それに、とても綺麗だね」

 

クリスマスが近いという時期もあってか、高架通路には大きなツリーが配され、街もいたるところが華やかなイルミネーションで飾り付けられている。

 

学園の敷地内では決して味わえない雰囲気ーーー流れてくるクリスマスの楽曲の中を多くの人が行き交う雑踏、どこからかシャンシャンと響いてくる鈴の音の中をある歩いていくと、ものの数分もしない内に本日最初の目的地となる皐月三番街アーケードへと到着した。

 

「さて、まずは三番街とやらに着いたわけだがーーー」

 

これからまずどこへ行こうか、と言おうとしたそのときーーー

 

「ってーじゃんか!放せよテメー!」

 

さっき通り過ぎたばかりのアーケード入口方面から、女の子の怒鳴り声が聞こえてきた。あきらかにトラブルであろうことが察せられる内容に、俺と透流は踵を返して歩き出す。

 

「お、おいっ、透流っ悠斗!?」

 

トラが慌てるも俺たちは既に入口へと戻り、先程の声の主を視界に収めていた。入口近くにある少し暗めの横道で、俺たちと同い年くらいの女の子が、長髪の男に腕を掴まれていた。傍にはもう一人、男の仲間らしき巨漢が事の推移を見守るかのように立っている。

 

「放せよ!金玉潰されてーのかよ‼︎」

 

「うるせーぞ、このバカ女!テメーらベラドンナがーーー」

 

「おい、やめないか!!」

 

長髪が拳を振り上げた瞬間、俺はやめるように声を発し駆け寄る。

 

「「何だよ、テメーらは⁉︎」」

 

男女双方の声が、俺の姿を認めて重なった。

 

「ただの通りすがりだ」

 

「関係ねーやつはすっこんでろ!」

 

「いいや、こうやって割り込んだ以上は関係者ってものだろ」

 

俺の言葉に透流も続いた。俺は長髪に近づき腕を掴む。

 

背後でトラが頭を抱えているだろうが女の子を乱暴にしているところを見てしまったら無視するわけにはいかない。

 

「その子を放してやれ」

 

声を少し低めにして威圧するように言う。一瞬、長髪がびくりと体を震わせ、女の子を掴んだ手から僅かに力が抜けた。女の子はその瞬間を逃さず、手を引くことで長髪から逃れーーー

 

「よくもやりやがったな、このクソヤロー‼︎」

 

と叫ぶや否や、長髪の脛を蹴り飛ばす。

 

(えぇ〜〜〜……なんで火に油を注ぐのこの子……)

 

その行為に俺は唖然とするしかなかった。

 

「ぐぅっ!つぅ……このクソガキ……‼︎」

 

「は……?」

 

「ざまぁねーな!あはははっ!」

 

女の子が大きく声をあげて笑う様は想定外で、透流も思わず目を丸くする。

 

「いい加減にしろ、女」

 

怒りを内包した低い声で言うと、巨漢がゆっくりと女の子に近づこうとしーーーしかし、俺たちは二人の間へと立つ。

 

「まだ邪魔するつもりかよ!」

 

長髪の怒りが俺たちに向いたところで背後に視線を送り、行けとあごで示す。女の子は中指を立てて「テメーらこそ消えちまえ‼︎」と叫ぶと、アーケードの中へと駆けていった。

 

「くそっ、テメーらのせいで……‼︎」

 

ここでようやく脛の痛みから立ち直った長髪が、歯軋りをしつつこちらを睨みーーー次の瞬間、俺に拳を振るった。

 

ガッ!!

 

その拳をわざと喰らう。今の俺にとって、一般人の拳を受けてもダメージは皆無に等しい。微動だにせず、長髪に告げた。

 

「今のは、あの子が蹴った分としておく。だけどこれ以上続けるつもりなら、次はこっちも手を出させてもらう」

 

言いながら圧を放つと、彼らの表情が変わる。

 

「……やめておこう」「お、おいっ……⁉︎」

 

首を振って肩を掴む巨漢に、長髪は苛立った様子を見せるもーーー舌打ちをし、踵を返した。

 

「悠斗くんっ大丈夫?」

 

「蚊に刺されたようなもんだ」

 

そっと俺の頰に触れたみやびは「それならいいんだけど…」と心配そうに俺の殴られた頬をさする。

 

「まったく、貴様らは…まずは目立たぬように、この街へ入り込まなければいかんだろ…」

 

「そうですよ、潜入調査の基本は目立たないことです。」

 

トラはため息を吐きながら頭を抱えて梓も注意した。

 

「い、いやぁ、ははは……」

 

「ユリエやリーリス、あと悠斗が居る以上、目立たないようにするのは無理があるんじゃないか、とか……」

 

「自然に目を引くのと、騒ぎに首を突っ込んで目立つのは別物だ、バカども」

 

ぴしゃりと言われ俺たちはそれ以上何も言えなかった。

 

 

 

「おいっ!!喧嘩の現場はどこだ!!」

 

突然声が聞こえそちらをみると人相の悪そうな中年の警察官がこちら側に走ってきた。

 

「………やべ、さっさと雲隠れしよう」

 

「……そうだな」

 

俺たちは警官に気づかれないようにそっとその場を立ち去った。

 

(マジで今度から軽率な行動は控えよう……それにしても……いきなりあんなトラブルとはな……)

 

自分から首を突っ込んだとはいえ、到着して早々にトラブルに遭遇することになるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

今回、俺たちに与えられた任務は、《禍稟檎(アップル)》と呼ばれる《666(ザ・ビースト)》が生み出した脱法ドラッグの情報を得ることだ。そして情報を得る対象は俺たちと同年代だということだ。

 



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47話 ベラドンナ

情報を得るために、まずは街を知ることから始めた。数日が経つと、人が集まる場所など大まかに把握したことにより次のステップへと進む。

それは____活動の拠点を定めることだ。定めた拠点、もしくはその付近をテリトリーにしているやつらに、俺たちという新参のグループを認識して貰うというのが狙いだ。互いに顔を覚えていれば、いずれ言葉を交わす機会もそのうち出てくるだろう。そうなれば、《禍稟檎(アップル)》に繋がる情報もいずれは得られるだろうと踏んで。様々な候補から俺たちが選んだ場所は________三番街付近に位置するゲームセンターだった。

 

人の出入りが多く、そのほとんどが若者_____もちろん社会人もいるが、今回の任務を考えれば適切な場と言えるだろう。拠点を定めた俺たちは、今日も騒々がしいゲーセンへと足を運ぶ。

 

「ふふっ、完璧(パーフェクト)ね♪」

 

パチンッと指を打ち鳴らし、喜びを露わにするのはリーリスだ。彼女の目の前でクレーンが左右に開き、挟んでいた景品が穴に落ちる。景品ーーーぬいぐるみを取り出して、嬉しそうにぎゅっと抱えるリーリスを見ながら思う。

 

(いまだにあれの良さがよくわからないな……)

 

世界的人気のホラーテーマパークDNL(デスニューランド)のマスコットキャラ・ロジャース。

ハート形をしたリーゼントのたてがみを持つ馬で、後頭部からは脳みそが見えるという不気味なデザインだ。

 

(それにしても…ドラックなんてばら撒いて…《666(ザ・ビースト)》は何を企んでるんだ?)

 

ただの資金集めではない気がしてならない…俺は妙な胸騒ぎがした。

 

(……まぁ考え過ぎても仕方ないな、今はゲーセンを楽しむか)

 

現在トラはメダルゲーム、橘と梓は将棋ゲームで対戦していおり、透流はユリエと一緒にインコの入ったプライスキャッチャーをやっていた。

 

「………ん?」

 

ふとみるとみやびが1つのプライスキャッチャーを見つめていた。そこには可愛らしい猫のぬいぐるみが入っていた。

 

「みやび、ちょっと待ってな」

 

「え?」

 

俺は百円を取り出すとキャッチャーを動かした。

 

 

キャッチャーはぬいぐるみの真上で止まりそのままぬいぐるみめがけて降りて来た。そして、爪でぬいぐるみをしっかりと掴むとそのまま持ち上がりファンファーレとともに景品取り出し口へぬいぐるみが落下して来た。

 

「ほら、みやび」

 

「あ……ありがとう悠斗くん//////」

 

俺がぬいぐるみを渡すとみやびは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

それから進展があったのは、程なくしてのことだった。

 

通路を歩いていると突然、プリクラコーナーから前を見ずに出て来た女子高生の二人組とぶつかりそうになる。

 

「どこ見てんだよ、テメー!」

 

直後、ウェーブヘアの女の子が怒鳴る。不注意に通路に出て来た相手に怒鳴られるのは納得が行かないと思うが、それで騒ぎ立てるようなものでもない。

 

「悪かっ________」

 

と謝ろうとしたところで

 

「ん?テメーらどこかでーーー」

 

こちらの言葉を遮り、眉間にしわを寄せ、こめかみに指先を当てる女子高生。

 

(ん、この子ーーー)

 

ブリーチで茶髪にしたゆるい短めのウェーブヘアは、つい最近どこかで見た憶えがある。

 

「誰よ?」「待った。あとちょっとで思い出せそうだからーーー」

 

怪訝そうな顔で話し掛ける友人を、茶髪の子が手で制した直後ーーー

 

「あーーーーーっ‼︎この前《沈黙の夜(サイレス)》に絡まれたときのやつじゃん‼︎」

 

彼女は俺に指を突きつけて叫ぶ。

 

「ちょっ、こいつ《沈黙の夜(サイレス)》のやつかよ⁉︎」

 

「違う違う!なんか知んねーけど《沈黙の夜(サイレス)》の邪魔したんだって!」

 

「はあ?つまりどういうことよ?」

 

「だからー、この前《沈黙の夜(サイレス)》に絡まれたときに、変なやつ、が出て来たって話したじゃん!」

 

(……変なやつって俺らのことかよ……てか、それよりーーー)

 

「もしかして先週、三番街の近くで絡まれていたーーー」

 

「そうそう!それあたしあたし!人が楽しく遊ぼーってときに《沈黙の夜(サイレス)》のやつらに邪魔されてさー。けど、あんたらのおかげで助かったわけよ♪」

 

「あー、あの話ね。把握したわー」

 

バンバンと俺の肩を叩きながら笑顔を見せるウェーブの子に、もう一人の女子高生ともどもようやく話を理解する。どうやら任務初日に俺と透流が首を突っ込んだトラブルのときの女の子のようだ。すぐに記憶と一致しなかったのは、今と違ってあのときは私服姿だったためだ。

 

「助かったなら良かったけど、最後の蹴りを入れるのはどうかと思うぞ。あれじゃ相手の神経を逆なでーーー」

 

「説教うぜー」

 

「っ……」

 

余計なお世話だとばかりに睨まれ、それ以上言葉を続けるのをやめた。そこへーーー

 

「透流、天峰?そこ子たちは?」

 

ひょっこりと筐体の陰から顔を出したリーリスが、俺と二人の女子高生を見て不思議そうな顔をする。

 

「ああ、この子たちはーーー」

 

「リアル外国人っ!マジ金髪じゃん‼︎」「胸でかっ‼︎ぼーんっ‼︎」

 

「えっと……?透流、天峰。いったい何なのよ、この子たち?」

 

説明しようとした矢先に二人が騒ぎ出し、さすがのリーリスも困惑を隠せない。

 

「いや、実は……」

 

「どうかしましたかトール?」

 

「どうしたの悠斗くん」

 

「リアル外国人パートII!マジ銀髪じゃん!!」「顔ちっさ!!きゅーとっ!!」

 

「こっちの女の子も可愛いっ!!」「てか胸でか過ぎっ!牛かよっ!!」

 

説明しようとした矢先、みやびたちが現れ再び騒ぎ出した二人組だった。

そのまま二人が騒いでいる間に、手早く説明を済ませたのだが____

 

「ふむ、先日の者だったか……。ところで今の話で一つ気になったのだが、《沈黙の夜(サイレス)》とは?よければ聞かせてもらえないだろうか?」

 

さりげなく会話へ交ざりつつ、橘が情報収集を始める。

 

「あいつら知んねーの?」

 

「すまない。我々はこれまでは待里に立ち寄るばかりだったのでな。皐月へ顔を出し始めたのは、つい先日の話なのだ」

 

橘は皐月市に隣接した街の名を出して皐月の事情に詳しくないことを述べると、二人の女子高生は何の疑いもなく、自分たちのことを語り始めた。

 

「うちらはさー、自由に楽しくってのがアピールポイントのベラドンナってグループなわけよ。いろんなガッコのやつや、ぶらぶら暇してるやつが集まって遊んでるっしょ」

 

「なるほどな。では、この前揉めていた彼らは?」

 

正直、ストレート過ぎる質問と思えたが、ウェーブヘアの子は気に掛ける様子もなく答えてくれる。

 

「あいつはいろんなガッコのドロップアウト組が集まってるグループで、《沈黙の夜(サイレス)》なんて名乗って、街を仕切るーとかチョーシこいてるやつら」

美咲みさきと名乗ったーーー自己紹介をしたーーーウェーブヘアの子からの話をまとめると、皐月の繁華街には四つの派閥があるということらしい。

 

ベラドンナーーー美咲たちの属する、楽しく遊ぼうというグループ。

 

《沈黙の夜サイレス》ーーーベラドンナと不仲にある少人数のグループ。

 

皐月工業高校ーーー昔から皐月で幅を利かせる、不良の多い高校として有名。通称皐月工(ツキコー)。

 

流河(ながれかわ)高校ーーー皐月工と昔から対立関係にある高校。校内でもさらに少数の派閥に分かれている。通称、流河高(リューコー)。

 

加えて、四つの派閥のいずれにも属さない個人や小さなグループも相当数。

 

(ほぼ資料どおりだな。……だけど、溜まり場の情報が増えたのは嬉しい話だな)

 

「《沈黙の夜(サイレス)》のやつらマジうぜーから、ナイツには行かない方がいいっしょ」

 

「はは……忠告感謝する」

 

《沈黙の夜'lサイレス》)の溜まり場はナイツというバーとのことで、未成年の俺たちは忠告されずとも店に入ることはできない。ここはドーン機関に報告し、然るべき要員を派遣してもらうのがいいだろう。

 

 

 

「で、悠斗たちはこれからも皐月に顔を出すんだよな?」

 

美咲に問われて____名乗られた際に名乗り返した____俺はそのつもりだと頷く。

 

「だったらさ。ベラドンナ(うちら)のとこ来ればいーじゃん。みーんなバカでいいやつっしょ♪」

 

「えーっと……」

 

(潜り込んで情報収集も悪くないか?でも、いきなり深入りは……)

 

ナイスアイデアとばかりに手を打ち合わせる美咲に、どう答えるべきか悩む。

 

「まっ、いいからついて来なって。みんなに紹介するっしょ♪」

 

どうしたものかと俺たちが答えを出すよりも早く、美咲は相方のココという子とともに動き出す。

 

「……とりあえずついて行ってみるか?」

 

「せっかく出来た縁だ。ここで下手に断るよりも、まずは目で確かめてみようぜ」

 

透流小声で俺に相談すると、美咲について行こうと返ってきた。頷くことでリーリスにもその旨を伝え、俺たちは美咲の後をついてゲーセンを出ることにした。

 

 

 

 

三番街から少し離れ、洒落た外観の店が立ち並ぶ細道に入ったところにその店は在った。

クラブ・エレフセリア____美咲たちの属するグループ・ベラドンナの溜まり場だ。扉を潜った先にはエントランスがあり、その先に進むと壁際にバーカウンター、対面にはテーブル席。さらに奥は大きく開けており、四、五十人くらいの客で賑わうダンスフロアと、何色ものレーザーで派手に照らされたステージが目に入る。

 

「随分と人が多いな」

 

「えー、今日は少ないっしょ。週末はこの倍は集まるしー」

 

美咲は知り合いらしきやつらと軽く声を掛け合いつつ、店の奥へ奥へと迷い無く歩を進めていく。

最奥には個室があり、扉を開けると室内は暗めのブルーライトで照らされ、まるで海の底を思わせた。

 

「リョウ、ちょいいーかな?」

 

美咲は部屋の中央に設置されたテーブルを囲む数人の男女____その中央に座ず、黒緑眼鏡を掛けた男に話し掛けた。

 

「なんだい、美咲」

 

年齢は二十歳くらいだろうか。リョウと呼ばれた端整な顔立ちの男は、髪の先の方を白っぽく染めたツートーンのヘアカラーが特徴的な人物だ。

 

「実はさ。この____」

 

と美咲が俺たちを紹介しようとしたそのとき、リョウという男にしなだれかかっていた女が、俺たちの姿を見て甘ったるい声を発した。

 

「だれぇ、その子たちぃ?もしかしてぇ、ナンパでもして来たのぉ?」

 

かなり明るめ茶髪にピンクと緑のヘアチョークをした派手な外見の女____そんな彼女の唇に指を当てると、リョウは笑顔で言った。

 

「スミレ。今は僕と美咲が話しているんだから、ちょっと待っていてくれるかな」

 

「はぁーい。いい子にしてるからぁ、はやくしてね、リョウちゃん♡」

 

リョウは勿論さと返しつつ、躊躇うことなく恋人らしき女とキスをする。

 

「っっ⁉︎」

 

背後で橘が息を呑む。不埒者という単語が口から出なかったのは、頑張って我慢したのだろう。隣ではみやびが口をパクパクして顔を真っ赤にしていた。

 

「さて、紹介が遅れたね。僕のことはリョウと呼んでくれ。ベラドンナの相談役をさせて貰っている」

 

「相談役?リーダーじゃないのか?」

 

俺の問いに、リョウは頷き言葉を続ける。

 

「ベラドンナのモットーは自由ーーーだからリーダーと言えるような者は誰も居ないよ。僕はみんなが困ったときにアドバイスをしていたら、相談役なんて扱いになってしまったんだけどね」

 

リーダーは居ないと語るものの、実質的には彼がトップと思っていいだろう。

 

「ええっと……キミたちも今日からベラドンナの仲間入りってことでいいのかい?」

 

「そそっ♪この前《沈黙の夜(サイレス)》に絡まれたって話したっしょ。そんときにこの二人が助けてくれたんだよねー」

 

実咲が俺と透流、そしてリョウを交互に見ながら、どういった形で知り合ったのかを伝える。

 

「そういう話なら歓迎するよ」

 

「……悪い。ここまでついて来てこう言うのもどうかと思うけど、俺たちは仲間入りをさせて欲しいってわけじゃないんだ」

 

「えーーーっ⁉︎どーゆーこと、悠斗⁉︎」

 

「すまん。なんか言い出しづらい流れだったんで……」

 

「つまり、美咲が先走ったというわけだね?」

 

「ははは……」「う……」「キャハハハハ!美咲だっせー!」

 

経緯を察したリョウに苦笑いで返す俺、ここで自分が先走ったことを理解する美咲、おまけで外野の笑い声。

 

「じゃ、じゃあどうしてついて来たわけ⁉︎」

 

「せっかく知り合ったわけだし、美咲が普段どんなところで遊んでるのかなって思ってさ」

 

「む〜……」

 

頬を膨らませてちょっとお怒りモードの美咲は、俺の返事を訊いて少し唸った後ーーー

 

「まー、それなら仕方無いっかぁ……。あたしが勝手に盛り上がってただけじゃんねー」

 

ぷしゅーっと膨らんでいた頬が元に戻る。

 

「そう肩を落とすことはないよ、美咲。彼らがこの店やベラドンナのメンバーを気に入れば、自ずと仲間入りを希望することになるさ。まあーーー」

 

俺たちの顔をぐるりと見回し、リョウは続きを述べる。

 

「キミたちのようなユニークなメンバーが加わってくれるなら、僕も大歓迎だよ」

 

「オレっちも歓迎するぜーい♪特にそっちの金髪ちゃんをダイカンゲーイっ!ってなわけで今夜オレと付き合わなーい?」

 

ヒュウと口笛を吹いたのは、リョウの隣に座るドレッドヘアを後ろで結んだ軽薄そうな男だった。

 

「残念ながら、あたしの予約(リザーブ)はもう済んでるの。……ね、透流♪」

 

パチリと透流に向かってウインクをする黄金の少女の発言に場が大きく沸き、透流は必死にリョウたちへ弁解を始めるのだった。

 

「今のうちに言っとくけどみやびにも手を出すなよ。さもないと俺が黙ってないんでね」

 

「ゆ、悠斗くん!?/////」

 

とっさにみやびを抱きしめながら俺も警告し、再び周囲が大きく沸いた。

 

 

 

 

 

二十二時を回ったところで繁華街を離れ、所定の場所で迎えのサラと合流して学園へ戻ることにする。

 

「さて、本日は皐月市繁華街における四大派閥の一つ、ベラドンナに接触したわけだが、彼らに対して抱いた感想をそれぞれ聞かせてほしい」

 

車が走り出してからしばし後、橘が任務に進展があった今日の出来事について話し始めた。

 

「今のところはまだ白か黒かの判断が出来るほどじゃないな。見たところベラドンナの殆どのメンバーがそれぞれ好き勝手に遊んでる感じだったし……」

 

透流の言う通り、ステージで踊ったり歌ったり、それを見て騒いだらというだけじゃなく、テーブルについて談笑する奴らもいれば、カウンターで静かに過ごす奴もいたりと好き好きに過ごしていた様を見ただけなら確かに疑わしい点は見られない……しかし、

 

「ふんっ。統制がとれてないからこそ、中で誰かが好き勝手やっていてもおかしくないと思うがな。特にあのリョウという男を中心に、数名が動いているという可能性は捨てきれないんじゃないか?」

 

トラの否定気味の発言を聞き、リーリスも頷いた。

 

「あたしもリョウが少し怪しいかもって思ったわ。他は気のいい連中って感じがしたけど」

 

「リーリスはダンスに交じって大喝采貰ってたもんな」

 

楽しかったわとでも言わんばかりに、パチリとリーリスは片目を瞑ってみせた。

 

「気のいい連中だと?僕としては非常に不愉快な女が一人いたけどな」

 

「トラ……お前あのリョウってやつの彼女に「小さくて可愛い」って言われたのまだ気にしてんのか」

 

「うるさい!!」

 

俺の言葉にトラはさらに不機嫌になった。

 

「……私には、あの人が悪い人とは思えませんが」

 

「私もそう思います。」

 

ユリエと梓はそう言ったが……

 

「ユリエ、オレンジジュース奢って貰ったからってフィルターかけちゃいけません」

 

「梓も「胸だけが女性の魅力じゃない」って言われたからって信用しちゃダメよ」

いつかこの二人は悪い奴らに騙されそうで心配だ。

 

「でも、不愉快ってほどじゃないけど、ちょっと勘弁願いたい相手が居たわね」

 

とリーリスは、ドレッドヘアの男の名をあげる。

 

「気持ちよく踊っているところに、あたしのお尻を何回か触ろうとしてきたのよ、あいつ」

 

ビキッと何か音がしたがそれは無視した。

「ええと……わたしはみんなは好き勝手にしている感じだなとは思ったけど……まだ白か黒かはわからないな」

 

みやびは少し申し訳なさそうにそう言った。

 

「私の意見も九重に近いな。彼らに関しては保留として、今後も付き合いを続ける中で捜査を進めるべきだろうな。それと、これは個人的な意見になってしまうのだがーーーあ、あのリョウという男は……その、人前で……あ、あ、あのような風紀を乱すような行為は、まとめ役として如何なものかと、だな……」

 

「乱す?何の話だ?」

 

「…………せ、接吻だ(ボソッ)」

 

「悪い、聞こえなかったから、もう一度大きな声で言ってくれ」

 

透流は走行中のため、小声で喋られても聞き取れなくてと言ってみるとーーー

 

「キキッ、キミは私にそういったことを言わせたいのか⁉︎それとも、そういうプレイが好みといったいかがわしい趣味でもあるのか⁉︎」

 

突然、橘が怒り出した。

 

「悠斗はどうだと思う?なんかこう……月見のことを暴いた時みたいに……」

 

「あのなぁ透流……そんな嘘発見器じゃないんだからあっさりわかるわけないだろ?……まぁ何か怪しいかな?とは思ったけど保留だな……ただ……数名ほどみやびの胸を何度も見ていたやつらがいた……あいつらは《666(ザ・ビースト)》以前に極悪人だ。即刻刑務所に突き出して10年ほど牢屋にぶち込もう」

 

「それ100パーセント私怨じゃねえか!?」

 

「ところで____」

 

その時、赤信号で停車中に珍しく口を開いた人物がいた。それは____サラだった。

 

「ドレッドの男はいつ東京湾に沈めればいいのですか、お嬢様?」

 

「冗談でも怖ろしいことは言うなよ⁉︎」

 

「……ふふふ、以後気を付けます」

 

ニッコリと笑みを浮かべて振り返ったサラに、透流は明日は我が身を知る気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、クラブ・エレフセリアのとある個室、そこには一人の男が静かに座っていた。

 

「ボス、《禍稟檎(アップル)》は問題なく広まりつつあります」

 

部屋に入り部屋の中にいる男に報告をしたのはベラドンナの相談役、リョウだった。後ろにはドレッドヘアの男もいた。

 

「ですが……ボンゴレの守護者がこの街を嗅ぎまわってるみたいです。 」

 

「前に《禍稟檎》を持ち出して並森で売ろうとしたやつがいたらしくて……入手先がここだって気づかれたみたいなんすよ」

 

ドレッドヘアの男はため息を吐きながらリョウの言葉に続いた。

 

「まぁ問題ありませんよ、いくらボンゴレでも我ら《666(ザ・ビースト)》の敵ではありません。なんせこの街は……」

 

そのままリョウは部屋の主の方を向き

 

 

 

 

 

 

「メドラウト様直属の戦士、六冥獣の一人であるボスの拠点なんですから」

 

その言葉に部屋の主はニヤリと笑い頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボンゴレどもに我らを敵に回すとどうなるか……骨の髄まで教えてあげようではございませんか」

 

 

 

 

 





《666(ザ・ビースト)》が気づいたボンゴレは悠斗ではありません、さて誰でしょう……


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48話 星夜に誓う

ベラドンナに関しては橘の意見のとおり今後も様子を見ていこうという結論を出したところで、俺たちは昊陵学園まで戻って来た。石造りの巨大な門を潜り、寮へと向かうその途中____

 

 

 

 

「ん?」

 

「どうかしたの、悠斗くん」

 

「こんな時間なのに、妙に人の姿が多いなと……」

 

二十三時を過ぎているというのに、敷地内には人影がうろうろとしていた。

 

「あー天峰くんたちだー」

 

人影から聞き慣れたのんびりした声で名を呼ばれる。俺たちに声をかけたのは吉備津だった。隣にはバニーメイド(冬仕様)がいる。

 

「おつかれさまー、九重くん、みやびちゃんたちもー」

 

「くはっ。夜遊びにお疲れも何もねえーーーいや、夜遊びだからこそお疲れってか?」

 

「ただいま吉備津、どうしたんだ?」

 

月見はろくでもないことを言ったのでスルー。

 

「今日はふたご座流星群なんだー、理事長が、たまには息抜きするのも大事だからって、今日は門限を一時までにしてくれたんだよー」

 

そういえばそんな話を聞いていたっけ

 

「……息抜き、ね」

 

性格同様のんびり口調な吉備津の説明に、リーリスはぽそりと呟く。

 

「悠斗くん、せっかくだしわたしたちも息抜きしない?」

 

「ついでに息だけじゃなくて穂高に別のものも抜いてもらうってのはどうよ?」

 

「そうだな。せっかくだし俺たちもこのまま一緒に流星群を見るか」

 

みやびの誘いに頷いていると

 

「続けざまにスルーしてんじゃねえよ《天狼》‼︎」

 

「相手をして欲しいんなら、そのいかがわしい発言をやめろ」

 

月見が怒鳴り、俺はため息を返した。

 

 

 

 

 

 

夜空に光の軌跡が流れると、その都度どこに見えたといった声が周囲から聞こえてくる。

そして____くちゅんっと可愛いくしゃみが、右手側の隣に座る少女から聞こえてきた。

 

「大丈夫かみやび?」

 

「う、うん。ちょっと寒いけど大丈夫だよ」

 

みやびは少し寒そうにしながらも笑いながらそう答えた。

 

「…………………。」

 

俺は自分のコートを脱ぐと

 

「みやび、これ着なよ」

 

みやびへと渡した。

 

「え………でもそれじゃあ悠斗くんが………」

 

「大丈夫だよ、俺はボンゴレ雪の守護者だぜ。寒さなんてなんてことないよ」

 

「でも…」

 

みやびは少し考えると

 

「じゃ………じゃあ………」

 

「みやび?」

 

「一緒に使おう?」

 

「え…………でも…………」

 

突然の言葉に俺は顔を紅潮させた。

 

「……………だめ?」

 

………………ヤバい、可愛すぎる

 

「…………わかった」

 

そう言うと俺たちは体を寄り添いあい俺の大きなコートをいっしょに羽織った。

 

「「………………///////」」

 

体が触れ合い時折みやびの髪が俺の頬に触れた。

 

「……………あったかいね/////」

 

「……………あぁ/////」

 

それ以上、俺たちは言葉を交わさずに流れる星をただ見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ……ぁ……」

 

早朝は新能力の開発をしていたため翌日は思いっきり寝不足になっていた。朝が辛いのはもちろんだが、昼食後はそれ以上だ。

 

「あ……ふ……」

 

再びこみあげてきたあくびを噛み殺す。土曜の今日は既に授業も終わり、皐月へ向かうのは夕方からということもあって、俺は微妙に時間を持て余していた。しかし、波のように繰り返し押し寄せてくる眠気に、少しだけ昼寝をしてからでもいいだろうという結論に至る。

 

(それに天気もいいしなぁ……)

 

十二月だというのに今日は気温が高く、十月くらいの暖かさだという話だ。外の芝生に踏み入り日当たりのいい場所で横になると、より太陽の暖かさを感じられる。心地よさを感じながら目を瞑ると、意識はあっという間に落ちていきーーー

 

 

 

 

それから、どれくらの時間が過ぎただろうか。一瞬のような気がするし、かなり長く寝ていたような気もするが、ともかく俺の意識は外部からの刺激によって揺さぶられた。刺激と言っても強烈なものではなく、少しばかりくすぐったいといった程度のものだ。

 

(風……か……?)

 

髪を撫でられた感触に、まどろみの中で思う。風にしては少々強く、けれど優しい感じではあったが。

 

「……悠斗くんの髪、凄くサラサラしてるね…銀色でとても綺麗だし…」

 

遠くから何かが聞こえてくるような気がする。

 

「悠斗くんがいつもわたしの頭を撫でてくれる時…すごく嬉しいんだよ…」

 

また何かが聞こえたような。

ふわり、また髪に何かが触れ、それがくすぐったく、けれど心地いい。

 

(あ……れ……?)

 

髪への感覚から、別の心地よさにも気付く。後頭部が何だか妙に柔らかい。それに、頭の位置が高くなっているような気もする。そう、まるで枕を使っているような感じだ。

 

(なんだろう、この感触……)

 

目を開ければ手っ取り早いことくらいは理解できるが、このまどろみを今しばらくは堪能したいのでーーー手を伸ばし、触れた。

 

「ひゃうっ⁉︎」

 

《それ》に触れた瞬間、さっきよりも近くで何かが聞こえた。

 

(声……?いや、それより……この感触はいったい……?妙にすべすべしてるけど……)

 

さわさわと枕のような何かに触れ続けると、柔らかいだけじゃなく、すべすべで曲線を描いていることがわかる。

 

「や、んんっ……あ、ひうっ……くすぐった……あ、んんっ、だ、だめ……」

 

すべすべした何かはどこまで続いているのだろうかと手を動かしていった先で、指先に何かが引っ掛かった。

 

(布……?)

 

伸縮性のある布で、それはすべすべの何かを覆っているようだと手を動かしていくとわかる。

 

(どうして覆ってるんだ……?こんなに肌触りがいいのに……)

 

不思議に思いつつ、布の内側へ手を差し込んで行く。

大きく、丸い。何だ、これは。

 

「あっ……ゆ、悠斗くん、だめっ……あ……まだ、早いから……ふわっ、ぁぁ、ぁ……」

 

(だめ……?まだ……早い……?」

 

決して大きくはないというのに、動揺からくる震えた声が耳に届き、意識が浮き上がってくる。

何故かはわからないが、今すぐ目を覚まさなければという焦燥感に駆られて。

うっすらと目を開けーーー俺は理解し、混乱に陥った。

 

みやびに膝枕をして貰いながら、彼女のスカートに手を突っ込んでいるという状況に。いや、スカートに手を突っ込むどころか、下着に手を突っ込み、みやびのお尻を触っていた。顔が真っ赤にし、涙目になりつつも両手で口元を押さえ、大きな声をあげないようにしている様が視界に飛び込んで来た瞬間、眠気が一気に吹き飛ぶ。

 

(なぁっ⁉︎お、俺は、みやびの、撫でて、えぇえええええっっ⁉︎)

 

驚きとともに俺の手が止まりーーー

 

「ふ……はぁあああああ……」

 

直後に長く、そして妙に艶かしい吐息をみやびは漏らした。

 

「は、ぁ……びっくりした……。まだ胸がどきどきしてる……。悠斗くん、何か夢でも見てたのかな……?どっちにしても、今のは黙っておいた方がいいよね……」

 

との呟きからみて、どうやら俺が目を覚ましたことには気付いてないらしい。俺はと言うと再び目を閉じ、必死に脳内で現状の整理をしていた。

 

(昼寝をしていて、いつの間にかみやびに膝枕をされていて、それに気付かずにみやびの……お、お尻を揉んで……。ど、どうしたらいいんだ、俺……?)

 

と混乱しそうになっていたそのときだった。

 

「みやび、そのような場所で何をしているのだ?」

 

「_______っ⁉︎」

 

混乱する俺の思考を寸断する凛とした声。

 

「あ、巴ちゃん」

 

新たに橘が現れたおかげで、俺は起きて謝るという選択が失われたことを察する。

 

「む?天峰では、ない、か……」

 

あきらかに動揺していくのがわかる口調からして、みやびが俺に膝枕をしている様に気が付いたのだろう。

 

「なるほど、キミたちは恋人同士なんだ。恥ずかしがることはない」

 

「あはは……」

 

橘の言葉にみやびは恥ずかしそうにしていた。

 

「ではこのような場合、私はお邪魔虫とならぬよう早々に立ち去るべきだな」

 

「と、巴ちゃんっ……!」

 

慌てるみやびに橘は笑い、あと三十分ほどしたら起こしてやってくれと言い残して去っていった。

 

「もう、巴ちゃんってば……。でも________ありがとう」

 

感謝の言葉を呟き、俺の頭をそっと撫で始めるみやび。

 

「あと三十分だって、悠斗くん。短いけど、ゆっくり休んでね」

 

起きられるような雰囲気じゃなくなった______けれど

 

「ごめん、みやびっ‼︎」

 

「え?え……?えぇえええええっ……⁉︎」

 

飛び起き、橘を彷彿させる土下座。事情を説明し、寝ぼけていたからと言っても許される行為じゃないと謝る。

 

「あの……。顔を上げてくれないかな、悠斗くん……。土下座はちょっと……」

 

「あ、ああ……」

 

「正直に話してくれてありがとう。……でも、その、すごく恥ずかしい気持ちでいっぱいだから、黙っててくれた方が嬉しかったかも」

 

「う……」

 

俺は選択を誤ったようだ。

 

「重ね重ねごめん……。どんなお詫びをすればいいのやら……」

 

「……………」

 

沈黙が怖い。

 

「えっとーーーさっきの巴ちゃんとの話も聞いてたんだよね……?」

 

「あ、ああ……」

 

「じゃあ、お詫びとして……こ、今度、もう一度させて貰える?」

 

何をだろかと訊いてみると、みやびは自身の膝を指した。それがどういう意味を持っているのかがわからないほど、流石に鈍くない。

 

「みやびがそれでいいなら……」

 

「う、うん……。もう一度、ちゃんと悠斗くんに膝枕したいかなって……」

 

「えっと……頑張ります……」

 

はにかんで頬を朱に染めたみやびに、俺は気恥ずかしさから奇妙な受け答えをしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

クリスマスまで、数日と迫ったある日の夜________

 

(悠斗くんがいない間に少しでも進めないと……)

 

みやびは悠斗のためにマフラーを編んでいた。

大好きな恋人へのプレゼント、そう思うと頰が紅潮していく。

 

コンコン

 

「……だれ?」

 

ガチャリ

 

みやびが不思議そうに扉を開けると

 

「あの……みやびさん……」

 

「梓ちゃん?」

 

そこには恥ずかしそうに梓が立っていた。

 

「実はみやびさんにお願いがありまして……」

 

 

 

 

「マフラーを?」

 

「はい……」

 

梓が言うには彼女は巴にマフラーを編みたいそうだ。

 

「巴さんは……自分を騙してあんなに傷つけた私を許してくれたばかりか……これからも私と一緒にいたい、共に歩んでいきたいって言ってくれたんです……だから……そんな巴さんに感謝の意を込めてマフラーを編みたいんですがうまくいかなくて……みやびさんならと思ったんです……でも……」

 

梓は少し後ろめたそうにしていた。

 

「みやびさんにあんなことをした私が何を言うんだと思いますが……どうか……」

 

「うん、いいよ」

 

梓が顔を上げるとみやびが優しい顔でそう言った。

 

「み、みやびさん……」

 

梓は感極まってポロポロと涙を流した。

 

「じゃあ一緒に作ろうか」

 

「はい……ありがとうございます……」

 

梓とみやびはそのまま一緒にマフラーを編み始めた。

 

 



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49話 大人と子供

「えっと…じゃあどこ回る?」

 

「じゃあこっちの方に行ってみようか」

 

クリスマスイヴ間近、現在俺たちは透流たちと別行動で周囲を歩いている。

情報収集ということもあるので別々に行動する必要もあるためだ。

 

「それにしても……《沈黙の夜(サイレス)》ねぇ……」

 

美咲やベラドンナのメンバー、ゲーセンで知り合った奴らから聞いた《沈黙の夜(サイレス)》の情報は、はっきり言って悪い話ばかりだった。

何かしらの理由をつけて絡んでくることはもちろん、殴られた上に持ち物を奪われたという証言まであった。

彼らは自分たちのルールで街に集うものを縛ろうとし、暴力を辞さない。だからこそ、自由がモットーのベラドンナとは必然的に衝突が多くなるわけだ。

 

彼らのリーダーは美咲と出会った場にいた巨漢らしくナイツというバーでバーテンダーをしているらしい。

バーには一週間ほど機関に所属する数人が入れ替わって立ち寄ることで監視し、自宅も張り込みをしたという話だが……

 

(……《沈黙の夜(サイラス)》にもうまく接触できるといいんだが……)

 

「悠斗くん?」

 

みやびが心配そうにこちらをみていた。

 

「あ、あぁ気にすんなみやび。ちょっと……」

 

「話が違うじゃないか!!」

 

「「……っ!!」」

 

突然近くの駐車場から大声が聞こえ、俺たちはそちらへ向かった。

 

 

 

「その額で譲ってくれるって話だっただろ!?」

 

そこには小太りの男がガラの悪い三人組に詰め寄っていた。

 

「悪いが値上がりしてな、こいつが欲しけりゃこの倍持ってくるんだな」

 

男たちはヘラヘラしながら金が入っていると思われる封筒をしまっていた。

 

「ふざけるなよ!!だったらその金を返してくれ!!」

 

小太りの男がさらにつめ寄ろうとすると

 

ドコッ

 

「ごほっ!!」

 

三人組の一人が小太りの男の腹部に膝蹴りをした。

 

「ガタガタうるせえな」

 

三人組の一人が鬱陶しそうに睨みつけていた。

 

「こんなはした金でやるわけねえだろ馬鹿か!?あぁっ!?」

 

そのまま三人組は小太りの男を蹴り始めた。

 

「みやび、ちょっと下がってろ」

 

俺はすぐさま飛び出した。

 

「やめろお前ら!!」

 

「あ?なんだテメェ?」

 

三人組は突然現れた俺に睨みつけた。

 

「ヒーローごっこなら他当たれよ」

 

「今俺たちは非常に忙しいんだよ」

 

「ほら帰った帰った」

 

三人は俺一人と判断したのかヘラヘラしながらしっしっと手を振った、

 

「なんか面白そうなもん持ってるみたいじゃねえか……ちょーと詳しく教えてくれないかな?第一、こんな現場を見せられたら引くわけにはいかんのよ」

 

しかし俺は引かずに小太りの男がをみながら男たちに詰め寄った。

 

「おい……こいつ……」

 

「あぁ……」

 

俺の言葉に彼らも警戒しているようだ。

 

「おいお前ら」

 

すると、リーダーと思われる男が二人に顎である場所を指す。そこは……

 

「あ?なんだあの女?」

そこには心配してきたのかみやびが小太りの男を安全な場所へ避難させていた。

 

「なかなか可愛いじゃん、こいつの彼女?」

 

「どっちでもいいだろ?それより……」

「へへ……」

 

男たちは下卑た形で舌なめずりをした。

 

「おいてめ」

 

三人組の一人が何か言う前に俺の右ストレートがそいつの顎に炸裂しそのままそいつは倒れた。

 

「んなっ!?こいつ」

 

もう一人が慌ててこちらに身構えたたが俺の飛び蹴りがそいつの顔面にクリーンヒットとした。

 

「な……なんだと?」

 

リーダーの男は突然のことに動揺し、怯えを含んだ顔でこちらをみた。

 

「人の彼女をやましい目でみやがって…………」

 

こいつらは俺の逆鱗に触れた____

 

「う…………うぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

リーダーの男はやけくそになりながらこちらに殴りかかってきた。

 

「とっととくたばれやゴラァァァ!!!」

 

俺はクロスカウンターの容量でリーダーの男の拳を避けて殴り飛ばした。

 

「ふぃ〜〜〜」

 

俺も少し気分をスッキリして伸びをした。

 

「悠斗くん、大丈夫?」

 

みやびは心配そうにこちらは近づいてきた。

 

「あぁ、大丈夫だよ。それより……」

 

「あ……あぁ……ありがとう、助けてくれて…」

 

声の方を見ると小太りの男がホッとした顔でこちらに近づいてきた。

 

「えっと……なんて君たちにお礼を…」

 

バシィッ

 

お礼を言おうとする小太りの男へ俺は平手打ちをした。

 

「悠斗くん!?」

「な……何を……」

 

「何を……だと?よく言えたもんだな」

 

なぜ叩かれたかわからずにいる小太りの男へ俺は先ほどの三人組のポケットから取り出した薬を見せつけ言葉を続けた。

 

「こんなもんに手を出そうとする奴の礼なんていらねえよ。」

 

薬を突きつけられ小太りの男は顔を真っ青にした。

 

「本当に礼がしたいならもう二度とこんなもんに手を出さねえでやり直せ、スタートはそこからだ。」

 

「う……あ……」

 

俺の言葉に男は言葉が続かなかったが、すぐに自分の愚かさがわかったのか落ち込んだ。

 

「落ち込む暇はねえぞ、まずは……」

 

 

 

「おいっ!!てめえらそこまでだ!!」

 

突然声が聞こえそちらを見るとそこに二人の男いた。

 

「お前らは……」

 

集団の前方の二人の顔を見て、俺は思い出す。二人は、機関の調査資料に載っていた《沈黙の夜(サイレス)》のメンバーだったーーーが、それとは別に驚くことがあった。

巨漢の男と長髪の男ーーー皐月へ来た初日に美咲に絡んでいた男たちだったからだ。

 

「覚えているなら話は早い」

 

「そいつらを俺たちに私な、てめーの手にあるそれもだ」

 

低い声で巨漢が頷き長髪が続いた。

 

「これは然るべき場所に渡す。お前たちには渡さない」

 

「うるせぇ!!いいから渡せ!!」

 

すると、周囲の細路地からばらばらと複数の影が飛び出してきて、俺たちを囲む。

10人ほどに囲まれているため全員の判別は出来ないが、まず間違いなく《沈黙の夜(サイレス)》のメンバーだろう。その内の半数以上はバットや鉄パイプ、スチール警棒など、明らかに他者へ危害を加えることを目的とした武装をしていた。

 

「こんな暴力上等な態度取られちゃますます渡せねえな」

 

「お前たちベラドンナが、街にゴミを撒き散らすよりはマシだな」

 

「…………ゴミ?」

「とぼけんじゃねぇ!!この街にヤクなんてばら撒きやがって……ゼッテーゆるさねぇ!!」

 

ゴミという単語に気になった俺は長髪に問い詰めようとするが長髪は聞く耳を持たなかった。

 

「まて、それはどういう」

 

「やっちまえ、野郎ども‼︎俺らの街を護んぞオラァ‼︎」

 

俺が声をあげて問おうとするも、男たちは一斉に飛びかかってきていた。怒気と敵意が籠もった咆哮が夜闇に響くーーーが、それも一瞬で終わる。たとえ数で勝ろうと、常人が俺たちの動きを捉えられるはずもないからだ。

 

「なっ……⁉︎」

 

瞬く間に俺は長髪の目の前に移動し拳を向け、驚愕に長髪の目が大きく見開かれる。

 

「手荒なことをして悪かったが、一応は正当防衛ってことでよろしく。……それじゃあさっきの話を詳しく聞かせて貰おうか。ベラドンナがドラックを撒き散らしている張本人って話を……」

 

「何者だ、お前たち……」

 

まるで魔法でも使ったのかのような状況に、さすがの巨漢も動揺を隠しきれずに呟く。

 

「質問してるのはこっちだが……まぁもしかしたら、お前らの味方だと伝えておくか」

 

俺の言葉に巨漢は少し黙り込み、再び口を開いた。

 

 

 

「その様子だとお前たちはベラドンナがドラックを撒き散らしている張本人ということは知らないんだな?」

 

巨漢の静かな問い掛けに、俺たちは頷いて返す。

 

「それは確かなのか?だいたいベラドンナと不仲のおまえらが、どうして簡単に手に入るわけじゃない情報を知ってるんだ?」

 

「……皐月に来て日が浅いお前たちでも、幾つかの派閥があるのは知っているだろう。だが、グループ同士にまったく交流が無いわけじゃない」

 

「俺らと付き合いのある無所属のやつが一人、クスリにハマっちまったんだよ」

 

渋い表情を浮かべて長髪が続ける。

 

「そいつはこの前ラリってるとこをパクられちまったんだけど、ツルんでたやつらにちょろっと話しててよ。そっから俺らは話を聞いたんだよ」

 

「パーティーに来ればお前らも俺の気持ちがわかる、一緒にハイになろう、と話していたそうだ」

 

「パーティー?」

 

「今度のクリスマスイヴ、奴らはクリスマスパーティーの名目でドラックパーティーを開くつもりなんだよ。それで俺たちも最近見回りを増やしていて…そしたらこの辺に売人がクスリの取引をしてるって聞いて…」

 

そして人数集めて踏み込んだら俺たちがいてクスリを手に持っていてその上買おうとしていた男と揉めていたのでとっちめようとしたとのことらしい

 

「我々は____確かに行き過ぎている行為があることは否定しない。だが、我々の街を汚し、狂わせようという者には相応の対応を取るだけだ」

 

「警察とかには相談しようとは思わなかったのか?」

 

「大人なんか信じられるかよ!あいつらはテメーらの手柄が重要で、俺らのことなんざ一ミリも考えやしねーんだぞ‼︎」

 

すべて肯定は出来ないが、その言葉は真実の一端だろう。だからこそ、彼らは自らの力で街を守ろうとしたのだ。

 

「だから俺はドラッグを流したり喰ってるやつを見かけたら止めて、それでも聞かねーやつを潰したりして……」

 

(そうか……わかったぞ。こいつらは…)

 

俺は気づいてしまった。

 

 

 

 

 

 

(こいつら……ボンゴレと同じだ)

 

ボンゴレは元を辿れば自警団の集まりが始まりだ。自分たちの街を愛し、その街を踏みにじる理不尽から人々を守るために立ち上がったのが初代ボンゴレボス、ジョットとその仲間たちだ。

彼らも街を守るために自ら立ち上がり、彼らなりのやり方で街を守ろうとしたのだろう。

 

 

 

 

 

 

「おいお前らっ!!こんなところで何をしてる!!」

 

突然声が聞こえたのでそちらを見ると、皐月に来た初日に見かけたガラの悪そうな中年の警官と二十代半ばと思われる警官の二人組がこちらへ走って来た。

 

「お前ら…また参加騒ぎをしてるのか!?」

 

「ちょ…ちょっとゲンさん落ち着いて…」

 

こちらへ怒鳴ってくる中年の警官を若い警官はなだめた。

 

「あの…クスリを売り買いしていたので止めてただけで…喧嘩はしてません。」

 

「…なんだテメーらは?見かけねえ顔だな」

 

ゲンさんと呼ばれた中年の警官は俺とみやびを睨みながら聞いて来た。

 

「すいません、俺と彼女は最近この辺で遊ぶようになったもので…」

 

「ふん、まあ良い。こいつらは俺たち大人が引き継ぐ。だからガキどもはとっとと失せろ」

 

と、ゲンさんはしっしっと手を振った。

 

「ふざけんなっ!!後から来といて偉そうに…」

 

「うるせぇっ!!子供がヒーローの真似事で危ねえ真似すんな!!こういうのは大人の仕事なんだよ!!」

 

ゲンさんは長髪に怒鳴りつけた。

 

「行くぞ」

 

「ちょ…」

 

詰め寄る長髪を諌め、巨漢は立ち去り、俺たちも彼らについていった。

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、あの警官…自分らは遅れて来たくせに手柄だけ横取りしていきやがった!!」

 

イラつきながら長髪は近くの自販機を蹴っていた。

 

「あの人は?」

 

「あいつはこの街でずっと勤務している警官だよ。本名は田形 源四郎(たがた げんしろう)って言ってな。何かと俺たちに怒鳴りかかって偉そうにしているクソ警官だよ」

 

イラつきながら長髪は先ほどのゲンさんという警官のことを教えてくれた。

 

「教えてくれてありがとな」

 

「あ?なんだよお前…」

 

突然の俺からの感謝に長髪はポカンとした。

 

「さっきの話…嘘じゃねえって俺でもわかったよ。だから…お前らに協力させてくんねえか?」

 

「はぁ!?なんだよ急に…」

 

「この街を守りたいって本気で思ってる…それが伝わったよ。お前らに力を貸したいってな。俺の強さはさっき見たとおりだぜ。だから、俺らがここにいる間、協力させてくれ」

 

透流たちはベラドンナで情報収集をしてる。なら俺はこっちから情報収集するのが良さそうだ。

 

「………わかった。お前たちを迎えよう」

 

「お、おい鯨木さん……」

 

「鶴屋……こいつらは信用できそうだ。」

 

「……わかった」

 

長髪は少し慌てたが巨漢の言葉に頷いた。

 

「それじゃあ改めて、俺は天峰 悠斗、こっちは」

 

「穂高 みやびです。」

 

「……鯨木 匠(くじらぎ たくみ)だ。《沈黙の夜(サイラス)》のリーダーをしてる。」

 

「鶴屋 亮介(つるや りょうすけ)だ。副リーダーをしてる」

 

 

 

 

 

こうして俺たちは《沈黙の夜》と行動することにした。




悠斗たちは《沈黙の夜(サイラス)》で行動させて見ることにしました!!

それと、巨漢と長髪の名前はイメージでつけてみました。


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50話 紅蓮

「そこまでだ!!」

 

「観念しろ!!」

 

クリスマスイヴ、俺は鶴屋とともにクスリの売人を取り押さえていた。

俺は《沈黙の夜(サイラス)》から聞いた情報を透流たちに話した。その結果、透流たちはそのままベラドンナと接触し情報収集、俺たちは《沈黙の夜(サイラス)》と行動して情報収集をすることになった。

 

「くそっ……《沈黙の夜(サイラス)》のゴロツキどもが……」

 

売人の男は恨めしそうに俺たちを睨みつけた。

 

「悠斗、クスリは回収したぜ。あとはこいつを処分しちまえば……」

 

 

 

 

「またお前らか」

 

「まったく……またやってるのか……」

 

すると、突然物陰から二人の警官が現れた。

一人はゲンさんと呼ばれる中年の警官、もう一人は以前も彼と一緒にいた黒いツンツン頭でまつげの長い二十代半ばの警官だった。

 

「クソ警官……今更来たのかよ」

 

「クソ警官って……お前らなぁ……俺たちだって何もサボってたわけじゃ……」

 

「菊池、お前は黙ってろ」

 

菊池と呼ばれた警官をゲンさんは睨みつけ、菊池はそのまま黙ってしまった。

 

「とにかくあとは俺たちがやる。お前らはとっとと帰れ」

 

「……ちっ、また手柄の横取りかよ」

 

「お前らがとっちめても手柄にはなんねえよ。だから俺がそのぶん貰ってやるからとっとと失せろ」

 

鶴屋は文句を言うがゲンさんはそのまま売人の男に手錠をはめ俺たちが回収したクスリを押収するとそのまま売人を連れて行った。

 

 

 

 

 

「あーイライラするぜ、あの警官事あるごとに俺たちの邪魔しやがる」

 

鶴屋は苛立ちながら俺とパトロールを続けていた。

 

「まぁそう言うなよ。あっちだって仕事なんだしさ」

 

「そう言うけどな悠斗、あいつらがしっかりしねえからこの街にヤクなんて出回っちまったんだぜ。」

 

このあいだの一件以来、俺と鶴屋はこうして会話をするくらいの仲になった。

 

「あのゲンってクソジジイもそうだ。「街を守るのは俺たち警察の仕事だ」って言うくせに守れてねえからこうなってんだよ」

 

「鶴屋……」

 

悔しそうにする鶴屋をみて、彼らが本当に街を守りたいと言うのが伝わった。しかし……

 

 

 

 

「あれ、お前ら……」

 

突然声をかけられたのでそちらを見ると

 

「あんたは確か……」

 

そこには先ほどゲンさんに菊池と呼ばれていた警官がいた。

 

「テメェ……クソ警官の手下…」

 

鶴屋は鬱陶しそうにその警官を見た。

 

「悠斗、こいつは菊池っていってあのクソ警官にいつもくっついてるコバンザメみたいな奴だ。」

 

「コバンザメって……俺の上司があの人なだけだよ」

 

鶴屋の紹介に菊池さんは苦笑いした。

 

「……まぁおまえらがあの人を嫌いな気持ちはわかるよ、色々口うるさく叱ってくるしな」

 

本人がいないのをいいことに菊池さんも結構言っている。

 

「でもさ、それはあの人が本気でお前らのことを心配してるからなんだ。心配だからお前らに危険なことに巻き込まれて欲しくないんだよ」

 

菊池さんは笑いながらゲンさんを擁護した。

 

「……だったらヤクなんてこの街にばら撒かせるなよ、お前らがしっかりしねえから俺たちが頑張ってんだろ?」

 

「……あぁ、俺たちも頑張るよ。だからお前らも俺たちを信じてくれ」

 

「菊池っ!!何道草食ってんだ!!」

 

怒鳴り声が聞こえそこを見るとイラついた顔のゲンさんが遠くにいた。

 

「やべ……それじゃあお前らも早く帰れよ!!」

 

菊池さんは慌てながらゲンさんの方へと走っていった。

 

 

 

 

「ちっ……見回りはこの辺までにしとくか…行くぞ悠斗」

 

「あ、あぁ」

 

鶴屋は舌打ちをして俺もそのまま鶴屋についていった。

 

 

 

 

 

 

「悠斗、今日はいよいよクリスマスイヴ……ベラドンナがドラッグパーティーを開く日だ、俺たちは乗り込んで奴らを止めるぞ」

 

「あ…ああ」

 

鶴屋は意気込んでいるが《666(ザ・ビースト)》の案件だ。一般人の彼らに危険な目に合わせるわけにはいかない。

 

「鶴屋、念のため言っておくんだが……危険なことは極力控えたほうがいい。それよりも騒ぎがあった時に一般人を守るようにするよう心がけよう」

 

「何言ってんだよ悠斗、俺たちがやらないと…」

 

「そうじゃない、俺たちに何かあったらこの街を守る戦力が少なくなる。それに……ただ闘うだけが手段じゃない。お前だって街を守るために動いてんだろ?だったらただ暴力で解決するだけじゃいたちごっこだ」

 

俺は彼らが無茶をしないように言葉で誘導した。

 

「……まぁ確かにそうだけどよお……」

 

「心配すんな、行動はともかく「何かを守りたい」って思いに間違いはない」

 

「……わかってるよ」

 

それは事実だ、だからこそ俺は彼らに協力しようと思ったのだ。

 

「ところで悠斗、ちょっと気になったんだけどーーー」

 

鶴屋が俺の首に巻いてあるマフラーを指す。

 

「それ買ったのか?」

 

「ふっ…ふふふ……ふふふふふ.………」

 

…そうか、そうなのか…

 

「聞いてくれるか、それを!ならば聞いてもらおうではないか!」

 

口調が橘っぽくなるが気にしない!!この喜びを鶴屋にも聞いてほしい!!

 

「これはみやびからのプレゼントなんだ!しかも手編みだぞ!普段からの感謝を込めてと言われてクリスマスプレゼントとして出発前に俺に渡してくれたんだ。そのような気遣いなどしなくてもよかったのに、うう……俺は、俺は何と素晴らしき恋人を得たんだ‼︎この喜びがわかるか⁉︎いいやわかってもらいたい!」

 

「そ…そうか…ってかお前とあの娘って付き合ってたのか!?」

 

「あれ…言ってなかったっけ?」

 

「あ…あぁ…そ…そうなのか…」

 

なぜか鶴屋は少し残念そうだった。

 

「と…兎に角…パーティーは今夜だ…浮かれてないで準備はしとけよ」

 

「…わかってるよ…ん?…あいつは…」

 

俺の視線の先には黒い学ランを背中に羽織って《風紀》と書かれた腕章をつけている…あいつは…

 

「雲雀?それに草壁も…」

 

そこには毎度同じみボンゴレ雲の守護者、雲雀 恭弥とその右腕、草壁 哲也がいた。

 

「あれ?天峰さん、久しぶりですね」

「悠斗、そいつは?」

 

おれが二人に話しかけると鶴屋が聞いてくる。

 

「あ、あぁ。俺の中学時代の同級生だよ。ちょっと待っててくれ」

 

鶴屋に軽く説明し、俺は二人に小声で話した。

 

「お前ら…なんでここにいんだ?」

 

「ええと…実は…」

 

無視する雲雀の代わりに草壁が説明した。

 

 

 

 

「以前、並森の方で…チンピラがクスリを売ろうとしていたのを止めたことがあったんですが…調べて行くうちにこの街で取引されているものみたいで…」

 

そしたら雲雀が「並森の風紀を乱した奴らを咬み殺す」と言って乗り込んだらしい

 

「もしかして天峰さんも?」

 

「あぁ、俺もその案件でこっちに来てるんだが…」

 

「僕は群れるつもりはない、邪魔をしないくれ」

 

俺の言葉を遮って雲雀はそのまま歩いて行ってしまった。

 

「すいません天峰さん…」

 

「いいよ、なれてる。また何かわかったらよろしく」

 

「えぇ、それでは」

 

草壁は俺にお礼を言うとそのまま雲雀についていった。

 

「悪いな鶴屋、待たせた」

 

「まぁいいけど…早く行くぞ、鯨木さんが待ってる」

 

そのまま俺たちは待ち合わせ場所へと向かった。

 

 

 

 

「いいかみんな!!奴らはいつもと同じクラブで例のドラッグパーティーを開こうとしてる!!俺たちでそれを止めるんだ!!」

 

オォォォォッ!!

 

そこには二十人以上の男たちが集まっていた。

彼らはみんな今日のパーティーを止めるために集まったものたちである。

 

「悠斗くん、私たちは…」

 

「あぁ、こいつらが無茶をしないようにサポートしよう。」

 

俺とみやびはこっそり話し合っていた。

 

「おい鶴屋、実は…」

 

「…なに?あいつらが…」

 

すると仲間の一人が鶴屋に報告をして来た。

 

「悠斗、この前お前と一緒にいた奴らがエレフセリアに向かってるって……」

 

「透流たちか…」

 

「悠斗、あいつらは…」

 

「心配すんな、あいつらにはやつらのことは教えている。あいつらもおそらく俺と同じ考えだと思う」

 

「…そうか、では行くぞっエレフセリアへ!!」

 

鯨木の合図とともに俺たちはエレフセリアへむかった。

 

 

 

 

「な…なんだよ…これ…?」

 

エレフセリアの前で鶴屋の呆然とした声が聞こえる。

当然だ、俺ですらも動揺を隠せない。

 

エレフセリアが燃えていた。

スタッフと思われる男たちが倒れている。

 

「悠斗!!穂高!!」

 

突然呼ばれてそちらを向くと、透流たちがそこにいた。

 

 

「お前ら…行くぞっ!!」

 

「お、おい悠斗…」

 

火の中に入ろうとする俺を鶴屋が慌てて止めようとする

「鶴屋たちは一般人の避難を!!中は俺たちに任せろ!!」

 

俺はすぐさま鶴屋に指示し、スタッフをトラに任せエレフセリア内に入ろうとする。

けれど俺が扉に触れるより早く、店内から三度爆発音が、それとともに悲鳴をあげて

 

「ヤベェ!」「逃げろ!」「何なんだよ!?」「早くどけよ!!」

 

口々に叫び、俺たちにぶつかることも構わずに逃げて行く

 

「お前ら…これは一体…」

 

突然、呼ばれて振り返ると、菊池さんが走っきた。

 

「菊池さん?何でここに…」

 

「パトロールをしていたら騒ぎが聞こえて…」

 

どうやら巡回中だったらしい…それなら納得だ。

 

「おい、なにがあったんだ!?」

 

透流が何度か話をしたことがあるやつの首根っこを掴んで怒鳴るように問うと____

 

「知らねーよ!なんか急に爆発が!ヤベーって!!」

 

パニックに陥った男はもがき、透流が手を離すとつんのめって転びそうになりつつ駆けていく。

しかし、事は爆発だけで終わりではなかった。

 

「化け物だーーーーーっ!!」

 

(化け物………!?)

 

俺はその言葉にすぐに《獣(ゾア)》のことに気づいた。

 

「おいおい…爆発どころか化け物まで出たって……!?どうなってんだよ」

 

菊池さんは動揺しながら呟いていた……

 

「…………みやび、ここは任せた」

 

「悠斗くん…!?」

 

「おい……っなにを言って……」

 

菊池さんの声を無視してそのまま俺は彼らの頭上を飛び越えて店内に入り、その勢いのままワイヤーアクションの如くエントランスの壁を駆けて奥へと向かう。

我先に逃げようと、エントランスでぎゅうぎゅうと押し合う客を超えた先で待っていた光景、それは____

まるで地獄だった。

赤く、紅く、朱く____店内を明るく照らすのは色とりどりの証明ではなく、至る所で舞い上がる灼熱の炎だった。

 

「なにが……あったんだ……!?これは一体何なんだよ!!」

 

後ろから聞こえたのは透流の叫びだった。どうやら透流も俺と同じで店内に入り込んだのだろう。

 

「透流、まず落ち着け。今は…」

 

「とお、る……ゆう、と……?」

 

俺たちの言葉に反応する声があった。

「美咲!!」

 

床に座り込んだままソファにもたれ掛かる美咲の姿を、さらに近くにも見るからにドラッグでトンだ数名の姿を認める。

 

「どかーんって、すごかったぁ……。あはは、びりびりってして、ふふふ……」

 

「美咲……」

 

あきらかにマトモじゃない様子に俺は言葉を失う。何が彼女をこうしてしまったかを悟り、痛いほどに拳を握る。

 

(早く外へ____いや、中にまだ人がいたら……それにさっきの化け物って言葉……)

 

「悠斗くん!!」

 

「トール!!」

 

そこへユリエとみやびが店内へと駆け込んでくる。

 

「みやび!ユリエ!美咲たちを頼む!!」

 

「うん!悠斗くんは!?」

 

「俺と透流は他に逃げ遅れたやつがいないか確認してくる!!」

 

手短に言葉を交わすと俺と透流は店の奥へと、みやびとユリエは美咲たちの下へと駆け寄った。

 

(……いったい何を使えばこんな酷いことに……)

 

奥に進めば進むほど炎は激しくなっていく、幸いにも逃げ遅れた人たちはいない。

 

そのままダンスフロアへ向かおうとした時だった。

 

「……!」

 

炎の燃える音に混じり、甲高い声が聞こえた。

 

(あれは……!)

 

ダンスフロアの先にあるステージ上に、四つの影が目に入る。

一つはフードをした少女、三つの影は人の姿をしていなかった。

 

「《獣(ゾア)》……!!」

 

認識するや否や俺たちは床を蹴る。

《獣(ゾア)》____捷豹(ジャガー)が少女に向けて爪を振り上げたからだ。

 

俺の蹴りが捷豹(ジャガー)を体ごと吹き飛ばす。

 

「_____っ!!」

 

突然の一撃にもう一体が表情を変えた。

 

(こいつは蟻(アント)……いや、だけど……)

 

顔は蟻に見えるが左手は巨大なハサミとなっていて、背中には綺麗な模様をした羽を生やしている。どちらも蟻とはかけ離れた特徴、つまりこいつは____

 

「《獣魔(ヴィルゾア)》か……!!」

 

《666(ザ・ビースト)》の生み出した複数の《力》を宿す人非ざる者。俺がいざという時の切り札《剛天狼()シグムント》を使わなければ倒しきれなかった相手。

 

「ギギィッ!!」

 

突然もう一つの影が俺に襲いかかった。

 

(こいつは……)

 

そいつは他の二体の《獣》や《獣魔》のように生物をモチーフにした鎧といった感じではなく巨大な蟹そのものだった。そして、ハサミには黄色い晴の炎を纏っている。

すると答えは……

 

「匣兵器か!!」

 

「ギギィッ!!」

 

俺の言葉を無視して晴蟹(グランキオ・デル・セレーノ)は再び斬りかかってきた。

 

「穿ち……砕けえっっ!!」

 

先手必勝と言わんばかりに透流の《雷神の一撃》が炸裂する。巨体が吹っ飛び轟音とともに崩れた壁に《獣魔》の姿は見えなくなった。

 

(やったか?)

 

と思った束の間、ガラガラと瓦礫の中から《獣魔》が、その傍で捷豹がまた起き上がる。晴蟹も彼らの傍でこちらへハサミを向けていた。

 

「透流、気をつけろ……こいつらは…」

 

「あぁ……」

 

俺と透流は再び身構える

 

「君、早く逃げろ」

 

俺は後ろの少女を流すように少女に話しかけた。

 

しかし、少女が逃げるよりも早く《獣魔》たちが動く。

ただし、俺たちに背を向けて

 

「なっ……⁉︎」

 

その行為に理解出来ず、呆気に取られたまま二人の姿が炎の中に消えていく様を見送ってしまう。

晴蟹も彼らについていく形でその場を去った。

 

(逃げた、だと……?)

 

何か理由があって逃げたのだろうか、少なくとも逃走したフリをして油断させようといったわけじゃ無さそうだ。

 

(よし、他に逃げ遅れた人はいないな)

 

周囲を見回し、その確認が出来れば、これ以上この場に留まる理由はない。

 

「キミ、ここから逃げるぞ」

 

そう言って、少女の手を取ろうとしたときだった。目深に被ったフードの奥から、少女が声を発した。

 

「邪魔……」

 

「え……?」

 

あまりにも予想外の言葉に、俺の動きが止まる。ゆっくりと、少女の手が俺に向かって突き付けられる。向けられた掌に何だと思ったその刹那ーーー

 

「んなっ……!?」

 

俺はとっさに何かを感じて目の前に雪の炎で氷のシールドを作った。とっさに作ったものだがある程度の強度はあるはずだ。

 

瞬間、

 

炎が、爆ぜた。耳をつんざく激しい音と同時に視界が真っ赤になり、衝撃が俺を襲う。しかし、それ以上に驚いたのは……

 

(氷のシールドが……溶けてる!?)

 

いくら急造とはいえ《死ぬ気の炎》の氷を炎はたやすく溶かしたのだ。

 

「死ぬ気の炎……?いや、違う!!」

 

一瞬《死ぬ気の炎》のものかと思ったが違うと気づいた。

属性云々以前に根本から違う炎だと感じたのだ。

 

(今のは、さっきのやつなのか……⁉︎)

 

数分前に店の外で見た、スタッフが吹き飛ばされた爆発と同じものだと気づき、同時にそれが視界に映るフードの少女が起こしたものだと驚愕する。

 

「何者だ、キミは……?」

 

返事は無かった。少女はただ無言のまま俺を見つめていた。炎が形あるものすべてを灼く音だけが響く。そのとき、熱風が舞い上がった。熱風は強く、少女が被ったフードを大きく揺らして捲り上げたフードの奥に隠されていた顔は、十代半ばくらいのものだった。

 

「悠斗!!大丈夫……か……」

 

少女の顔を見た途端、透流は信じられないものを見たような顔で少女を見ていた。

 

「透流……どうした?」

 

「そん、な……バカな……どうし、て……どうして、お前が……」

 

透流の声が震える。

そして、俺も気づいた。その少女の顔を自分も知っていることに、透流が見せてくれた写真に写った少女であることに……

 

 

 

 

 

 

「音羽…………」

 

九重 音羽(ここのえ おとは)、九重 透流の妹にして……二年前に鳴皇 榊に殺されたはずの少女がそこにいた。



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51話 騒ぎの後

 

「何を突っ立っている!死にたいのか貴様らは!!」

 

《獣魔(ヴィルゾア)》たちと同様に、音羽が消えた直後、トラが怒鳴り声をあげてこちらに来た。

 

「あ……ト、トラ…」

 

「何を呆けている!死にたくなければ今すぐ脱出するぞ!!他に逃げ遅れた者は居ないか確認は済んだのだろうな!?」

 

「あ、ああ……だけど、トラ……音羽が……音羽が、今……」

 

「は?音羽だと?何を言ってるんだ、貴様は!?」

 

透流はあきらかに動揺して言葉がうまく紡げていなかった。

 

「居たんだ!さっきまでここに!生きて!あの桜色の子が音羽だったんだ!!」

 

「さっきから何をバカなことを言っている、透流。忘れたのか!?音羽はもう……!!」

 

「わかってる!だけど本当に居たんだ!!」

 

透流は自身もあまりのことに冷静さを失っていた。

当然だ、俺だって信じられない。確かに髪の色は違ったが確かに写真で見せてもらった少女と瓜二つだった。

 

「そうだ、追いかけないと……!」

 

透流はそのまま炎の海へと駆け出そうとしたので、俺は咄嗟に透流の腕を掴んだ。

 

「馬鹿野郎!!とにかく落ち着け!!死にたいのかお前は!?」

 

「トール!トラ!ユウト!」

 

「悠斗くん!」

 

そこへユリエとみやびが姿を見せた。

 

「悠斗くん、早く外へ行かないと…」

 

「あ、ああ…でも透流が…」

 

「どうかしたのですか、トール?______っ!トール!?」

 

トールは俺が二人に気を取られた隙に手を振り払ってそのまま火の中へと走っていった。

 

「あの馬鹿……俺はあいつを追う!!お前らは避難していてくれ!!」

 

俺は透流を追いかけて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのアホ……どこ行ったんだ……」

 

壁に開いた大きな穴を発見した俺はそこから外に出る。そこは、街灯の光も届かないような裏路地だった。

正面はエレフセリアが入っている建物の横手に建つビルで、首を横に降ると左はすぐ突き当たりになっていた。

 

(……まぁ気持ちはわからんでもないか……死んだと思っていた身内がいきなり目の前に現れたら誰だって動揺するな)

 

俺だって死んだ家族が目の前に現れたら透流と同じ行動をしているかもしれない

 

「……ん?いたいた……」

 

しばらく走っていると、陸橋の袂に透流がいた。

 

「透流!!」

 

「____っ、悠斗か……」

 

俺に気づくと透流は申し訳なさそうにこちらを見た。

 

「……悪い悠斗、俺…」

 

「……まぁ気持ちはわかるが落ち着け、みんなだって慌ててたぞ」

 

「……すまん」

 

「よし、そんじゃみんなに報告しないとだな」

 

そういうと、俺はケータイを取り出した。

 

「……とりあえずいちばん心配してるだろうからユリエに連絡するか」

 

登録された幾つかの番号から、ユリエに配布されたケータイ番号を選び、発信ボタンを押そうとしたそのとき____上空から、風を切るような音が聞こえた。

 

「____透流っ!!」

 

「!しまっ____」

 

見上げた視界の中に、捷豹の鋭い爪が透流を狙って落ちてくる様が映った、

 

「くそっ、狼王____」

 

俺は《長槍》を具現化し、捷豹(ジャガー)へ攻撃を繰り出そうとしたそのとき、突如目が眩むほどの光と何かが大きく弾ける音____次いで断末魔にも似た苦痛の叫びが響き____最後に大きく重い何かが、地響きを立てて路上へ落下した。

 

「今のは……」

 

光の残像が残る中、落ちてきた何かーーー捷豹の様子を窺うと、《獣》はぶすぶすと黒煙を上げて倒れ伏していた。人の姿へと戻ったその体には、パチッパチッと電気火花らしきものが時折走る。

 

「これはいったい……?」

 

「雷の炎……じゃねえな……」

 

何があったのかと、今日だけで何度目の疑問だろうか。けれど幸いなことに今回ばかりは明確な答えが返ってきた。

 

「ちょっとした魔術(マジック)ってやつさ、九重 透流、天峰 悠斗」

 

聞き覚えがある声が、陸橋が作り出した闇の中で俺たちの名前を呼ぶ。

 

「お前はーーー」

 

闇の中に白い何かが揺れーーーそれがマフラーであることに気づく。神父を思わせるような服装を身に纏うそいつはーーー

 

「ユーゴ…」

 

「こうしてツラを合わせるのは、《狂売会(オークション)》以来だな、お前ら」

 

「ああ、そうだな。……だけど、どうしてここに……?」

 

「積もる話ーーーってほどあるかどうかわからねぇが、まずはお前の仲間と合流してからにしようぜ。……こいつを連れて、な」

 

《獣》であった男の首根っこを掴み、ユーゴはーーー口元は見えないままだがーーーにやりと笑った。

 

「ーーーっ!そいつは……‼︎」

 

男の顔を見て、俺は驚きを口にする。エレフセリアで見た顔だからでありーーー常にリョウの傍らに姿を置く、ドレッドヘアの男だったからだ。

 

 

 

 

 

「……ちっ」

 

とあるビルの天井で黒い影が手に匣兵器を持ち舌打ちをした。

今回自身がつかえている主人から直接命じられた任務、《666(ザ・ビースト)》の計画する《禁忌ノ禍稟檎(プロジェクト・マルス)》の第一段階、それを自分が根城にしている街で、さらに自分に任せていただけることに六冥獣の男は歓喜していたのだ。これがうまくいけば自分は他の六冥獣より一歩先んずることができる、そう思っていた。

 

しかし、突如現れた少女にせっかく用意したパーティーをめちゃくちゃにされたのだ。早速部下と自身の匣兵器で殺そうとしたが、主人から今は手を出すなと連絡が入りそのまま撤退させた。

自分が企画しクスリによって壊れる人間の様を見るのを楽しみにしていた彼は非常に不機嫌になっていた。

 

「ボス、監視を任せていたものがやられたそうです」

 

そこへ、自分の部下の一人、リョウが報告をしてきた。

どうやら捷豹(ジャガー)はやられたらしい。

 

「ご安心を、次のプランはもう考えてあります。紅蓮の存在は予想外でしたが、次は間違いなく成功するでしょう」

 

紅蓮、ここ最近あちこちで《666(ザ・ビースト)》の関連施設を襲撃している存在だ。

 

「俺の計画を狂わせやがって……大人を舐めるとどうなるか教えてやるよ」

 

紅蓮はかなりの戦闘力があるようだが問題ない。六冥獣である自身に楯突いたことを後悔させてやろう、男はそう決めた。

 

「そういえば、先ほど報告があったのですが……増援が来るそうですよ。そろそろ来るそうなんですが……」

 

「ここにいるぜ」

 

すると、突如声が聞こえ、そちらを向くと黒スーツの男が立っていた。

 

「……まぁいい、来たからにはしっかり働けよ」

 

六冥獣の男は黒スーツを一瞬見てすぐに空へと視線を移した。

 

 

 

 

その後、ユーゴとともにみんなと合流し、透流は頭を下げた。それからすぐにドーン機関の指示により、サラと合流して学園への帰路に就いた。

 

「ベラドンナの相談役リョウ、彼は____供給者だと判明した」

 

橘がそう断じる理由は、エレフセリア付近で保護したベラドンナのメンバーからもたらされた情報によるものだ。

そいつは道端に座り込み、呼吸を荒くして大量に発汗するというドラッグへの禁断症状を発症していた。人目のある中で《禍稟檎(アップル)》を口にしようとしていたところを橘に止められ、誰から手に入れたという問いに対してリョウからだと白状した。

そのリョウはというと、火災の起きた時刻を境に姿を消した。

 

「おそらくリョウが蟻(アント)の獣魔(ヴィルゾア)だと思うけど……」

 

《禍稟檎(アップル)》の供給者であり、常に傍にいた男が《獣(ゾア)》ならおそらくそうだろうが……なんか違うような気がする

 

「とりあえず今後はリョウを捕らえることを主とするけど……流石に街には姿を見せないよな……」

 

これで姿を見せるほど馬鹿には見えなかった。

 

エレフセリアの一件で蟻(アント)の《獣魔(ヴィルゾア)》は俺たちに警戒しているだろう

 

現在機関の方で行方を追っているが実家には戻っていないらしい、リョウを見つけ次第、俺たちに連絡が来ることになっている。《獣魔(ヴィルゾア)》と渡り合うのは《Ⅳ》以上の《超えし者(イクシード)》でなければ難しいからだ。

 

 

 

「さて、次にだが_____」

 

橘の視線が、あくびをしながら窓の外へ顔を向けていたユーゴへと向かう。

 

「ユーゴ。如何なる理由で、あなたは皐月に居たのだ」

 

「エージェント経由で《魔女(デアボリカ)》の伝言を____九重 透流が俺に用があるって聞いてな。たまたま日本に戻って来たことだし、じゃあ会ってみるかって連絡つけたら《666(ザ・ビースト)》関連の任務の真っ最中って話じゃねえか」

 

この時点で、ユーゴの素性については簡単に説明してある。裏社会について知っているリーリスと梓や先の《狂売会(オークション)》で顔を合わせたユリエと橘はともかく、トラやみやびにどう説明すればいいか迷ったが「《超えし者》やボンゴレ同様に公に出来ない裏社会に属する人間」と説明して納得してもらった。

「そういや今後の任務はどうなるんだ?橘とかなんか聞いてる?」

 

「いや、今のところは特に無いな」

 

話は再び任務の話へと戻る。その中で、エレフセリアについても語られた。

火災で死者は出なかったものの怪我人はそこそこ居て、病院へと搬送されたこと。

《獣(ゾア)》を見たと恐慌に陥った者は、未成年飲酒、もしくはドラックをやっていた疑いで警察に保護されたこと等々____

 

それらの話が落ち着いた頃には、モノレールまで数分のところへ戻って来ていた。

しばらく後、学園の敷地内に戻るとサラを除いた全員で理事長室へ出向くことに、もちろんユーゴも一緒にだ。

 

「以上が、本日の報告となります」

 

「わかりました。改めて明日中に報告レポートを提出するように。また、《禍稟檎(アップル)》の供給者が判明した以上、明日以降は皐月で捜査を行う必要はありません。それと、機関から例の《獣魔(ヴィルゾア)》についての新たな情報が入り次第、皆さんには動いてもらうことになりますので、そのことを念頭に置いておくようにお願いします。」

 

三國先生からの明日以降の指示が出され、これで今日の任務は終了となる。

続いて口を開いたのは黒衣の少女、朔夜だった。

 

「ご無沙汰しておりますわ、《聖庁(ホーリー)》の聖騎士様」

 

「元気そうで何よりだが、子供はそれぞれ寝る時間だぜ、《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》」

 

「お心遣い痛み入りますわ、《煌闇の災核(ダークレイ・ディザスター)》様。……ところで、未だに《颶煉の裁者(テンペスト・ジャッジス)》様の首を刈ることはかまいませんの?そろそろお使いにならないと、ご自慢の死神の鎌が錆びついてしまいそうにおもえますわ」

 

笑顔で言葉を交わす二人に、室内の温度が下がったような気がする。

 

「……じゃ、じゃあ俺たちはこれで失礼するよ。……えっと、ユーゴは?」

 

「俺はもうしばらくこのお嬢ちゃんと話があるんでな」

 

そう返され、俺たちはユーゴを残して退出することとなった。

 

「……まぁ三國先生がいるし……」

 

妙なことにはならんだろう…絶対…おそらく……多分



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52話 騒ぎの後の捜索

「それじゃあトラ、俺は《沈黙の夜(サイラス)》の奴らと合流してくるよ」

 

「あぁ、僕はこの辺りで聞き込みをするからまた落ち合おう」

 

現在、俺とトラは再び皐月にしていた。

任務で皐月に来る必要はもう無かったのだが、俺は《沈黙の夜(サイラス)》にあの後の様子を聞きたかったので個人的に向かうことにしていた。

トラは例の音羽に良く似た少女のことを探ってみるそうなので二人で行くことにしていた。

 

 

 

「いたいた、おーい鶴屋ー」

 

「悠斗、無事だったんだな!!」

 

俺が声をかけると鶴屋と他の《沈黙の夜(サイラス)》のメンバーが数名こちらへ走って来た。

 

「昨日お前が火の中に飛び込んだ後、騒ぎを収めていたら見失っちまって……心配してたんだぞ」

 

そういえばあの後、そのまま帰っちゃったんだっけ

 

「悪い、心配かけたな」

 

「あとで鯨木さんにも謝っとけよ、あの人も心配してたんだからよ」

 

「もちろんだよ、ところでこっちではなにか変わったことはあったか?」

 

俺は鶴屋にこの街の様子を聞いてみた。

「《禍稟檎(アップル)》の数が減ったとかで値段が高騰しているみたいだな」

 

「あと相談役のリョウってやつが行方をくらませたってベラドンナのやつが騒いでたのを見たぜ」

 

「奴らも溜まり場がなくなったから一ヶ所に集まらなくなって実質的にグループとしては瓦解したも同然だな」

 

「なるほど……」

 

鶴屋が俺の質問に答えて他のメンバーが続いた。リョウの失踪とともに《禍稟檎(アップル)》の数が減って値段が高騰したとなると、やはり橘の推察通りリョウが供給者で間違いなかったのだろう

 

「とするとこれからはその数の減った《禍稟檎(アップル)》を無くすことか?」

 

「そうだな、数が減ったってだけで無くなったわけじゃねえ、今のうちに《禍稟檎(アップル)》以外のクスリもこの街から無くすんだ」

 

鶴屋は今後の予定を俺に教えてくれた。

 

「今から売人がいそうな場所を見回りしに行くとこなんだけど悠斗も来るか?」

 

「もちろん」

 

俺は鶴屋たちについて行くことにした。

 

 

 

 

 

「いたか?」

 

「だめだ、そっちは?」

 

「こっちもいない」

 

現在俺たちは人気のない路地を捜索し売人を探していたが見つからなかった。

 

「まぁ数が減ったってことであちこちで売れなくなったってことだろ」

 

「そうだな、この調子で街からドラッグが無くなれば良いな」

俺たちは内心ホッとしながら捜索を続けていた。

 

 

 

 

 

 

「おいお前ら!!またこんなとこで警察の真似事か!!」

 

捜索を続けていると突然声が聞こえそちらを向くと毎度お馴染みの警官ゲンさんと菊池さんの二人がこちらに歩いて来た。

 

「お前ら…昨日のエレフセリアの火災でもバカしていたそうじゃないか!!」

 

「ちょっ…ゲンさん落ち着いて……」

 

「うるせぇ菊池、だいたいお前もお前だ!!お前も警官ならこんな奴らに頼るような事態になってんじゃねぇ!!」

 

なだめようとする菊池さんにゲンさんは怒鳴りつけた。

 

「お前らも毎回毎回俺たちの仕事を増やしてんじゃねぇ!!」

 

「んなっ!?お前らがしっかりしねえから俺たちがやってんだろ!!」

 

ゲンさんの言葉に鶴屋は文句をいった。

 

「ちっ、お前らがやってることは単に誰かと喧嘩しているだけだろ、そのあと処理を誰がやってると思ってんだ」

 

ゲンさんは舌打ちをして言葉を続けた。

 

「いいか、この街を守るのは俺たち警察の仕事だ。お前らのやってることは人の仕事を増やしているだけなんだよ。わかったら余計なことをするな」

 

そういうとゲンさんは再度舌打ちをしてその場を去っていった。

 

「……悪いなお前たち、ゲンさんがキツイこと言って……」

 

申し訳なさそうにしながら菊池さんが謝って来た。

 

「でもゲンさんの言ってることもわかる。世の中には危険な連中がたくさんいる。この街を守るのが俺たち警察だ。だからここは俺たちに任せてくれ」

 

そういうと菊池さんは「それじゃあまた」と言ってその場を去っていった。

 

「ちっ……俺たちもさっさと行くぞ悠斗」

 

鶴屋は舌打ちをしてそのまま鯨木と合流することになった。

 

 

 

 

 

 

「なるほどな……じゃあベラドンナはグループとしてはもう瓦解したも同然だな」

 

「そうだな」

 

あの後、鯨木と合流して心配かけたことを謝った俺はその日は彼らと別れトラと合流した。

 

「そういや例の音羽ちゃんの方はどうだった?」

 

「そっちはだめだ、一つも情報は得られなかった」

 

どうやら手がかりは得られなかったらしい。

 

「……なぁトラ、音羽ちゃんってどんな子だったんだ?」

 

気になった俺はトラに聞いてみた。

 

「……僕から言わせて貰えば、物静かなところはあったが、細かなことによく目が届く、気立てのいい子であったと思うな。……少々世話を焼き過ぎるところもあったが」

 

「……そっか……」

 

いい子だったんだな、と改めて思った。しかし、仮に生きていたとしたら何故透流に気づかなかったのだろうか……それにあの炎……考えれば考えるほどに疑問が出てくる。

 

「音羽ちゃんは死んだんだよな?」

 

「あぁ、だが透流のやつがあそこまで取り乱したのをみたのは初めてだ。もう少し探ってみようと思っている」

 

なんだかんだでこいつは透流のことを心配してんだなと思った。

 

「トラ、リーリスにユリエ、ライバルは強敵だから気をつけろよ。お前がどんな趣味を持っていても俺はお前の友達だ」

 

「変な誤解をするな馬鹿者が!!」

 

トラをからかうと予想通りいいツッコミが帰って来た。

 

 

 

 

 

日曜の午後、学園敷地の北西区画にてーーー

 

「ひゃあっ⁉︎」

 

俺がが放った轟音と強い冷気とほぼ同時、悲鳴があがった。

 

「こんなところでどうしたんだ、みやび?」

 

呆気に取られたまま尻もちをついた姿のみやびに、俺は尋ねる。

 

「ゆ、悠斗くんは今日はこの辺りにいるって巴ちゃんに聞いて来たら、悠斗くんが吹雪みたいなのを出してたからびっくりして……」

 

俺の差し出した手をみやびがぎゅっと握り返してくる。転んだ拍子に何かが捲れ上がり、ライトグリーンのあれが見えたが、みやびが気付いていないようなので俺も何も言わずに助け起こす。

 

「悪いな、驚かせちゃったか」

 

「ううん、気にしないで。それより、今のってもしかして_____」

 

「あぁ、最近開発中の技だ」

 

榊との敗北後、俺は切り札の開発に没頭していた。奴に勝つためには少なくとも二つ、出来れば三つは切り札を手にしていなければならないと判断したためである。

 

 

バチィィィ

 

「ひゃあっ!?」

 

突然離れた場所から轟音と強い光が輝き、みやびは再び驚いた。

 

「悠斗くん、今のって…」

 

「透流だな」

 

透流は俺が情報収集をしているとき、ユーゴから魔術を習うことにしたらしい。

数日前、透流はユーゴから与えられた課題を無事クリアした。教わった術式を組み、《精霊との契約》とやらを一つだけ成功させた透流は、そうして魔術を行使できるようになったらしい。

 

「まあ使えるようになったばかりだから、発動まで時間が掛かりすぎて、実戦じゃまだ使い物にならないみたいだけどな、俺から《死ぬ気の炎》を習うことも考えたそうだけど「それじゃあ悠斗の真似をするだけになっちまう。俺自身の切り札を手に入れたい」んだって」

 

「そうなんだ……」

 

あれからも俺はみやびと時間を作っては《死ぬ気の炎》を用いた訓練をしている。炎の効率のいい使い方や応用性を現在勉強中だ。

 

「……ところでみやび。何か用があるのか?」

 

寮に戻るのを待たずにここへ足を運んだということは、何かしらの用件があるのだろう。

 

「あ、えっと_____た、大した用件じゃないんだけどね。あのね、これ、作ったからどうかなって……」

 

両手を前に突き出し、何かを差し出すようなポーズを取るみやび。

 

「どれだ……?」

 

「……あれ?」

 

そう、ポーズだけで、みやびの手には何もなかった。

 

「あ、あれ?あれっ?_____あっ!」

 

慌てた様子できょろきょろと周囲を見回し、みやびの視線が一点で止まる。

 

「はう……」

 

先刻、尻もちをついた辺りで転がるバスケットに、がっくり肩を落とす。

 

「悪い、俺が驚かせたから…」

 

「ううん、気にしないで」

 

とは言われたものの、せっかく作ってくれたものなので、やはり申し訳無く思う。

 

「えーっと……差し入れ、なんだよな?」

 

これまでにも何度か、みやびから弁当やお菓子といった手作りのものを差し入れて貰ったことがある。今回もそうかと思って訊くと、「そのつもりだったんだけど」と過去形の返事が。

 

「だったら休憩して頂くとするかな。向こうに日当たりのいい場所があるから行こうか」

 

バスケットを拾ったところでみやびが慌てる。

 

「ま、待って、悠斗くん。それ、落としちゃったから__________」

 

「バスケットを、だろ。中身はこぼれてなかったし問題ないって」

 

「だ、だけど_____」

 

困惑するみやびに、いいからいいからと俺は先を歩き出した。やがて時計塔まで通じる水路脇に到着すると、そこで腰を下ろす。

 

「うう、やっぱり……」

 

バスケットを開くと、中身のパストラミサンドとチーズキュウリサンドは少し形が崩れていた。みやびが見た目を気にするも、俺は美味しそうだと言って一つ手に取りかぶりつく。

 

「うん、美味いよ。さすがみやびだな」

 

「た、ただのサンドイッチだよ、悠斗くん……」

 

みやびは苦笑いしながら言うも、その表情はどこか嬉しそうにも見える。サンドイッチはさほど多くなかったと言うこともあり、雑談を交えながらも十分と経たずに食べ終えた。適度に腹がふくれた俺は、食べ終わると空を見上げるようにして寝転がった。

 

「ごちそうさま、みやび。はぁ……ほんと美味かった……」

 

「くすっ、お粗末様でした。崩れちゃったの食べてくれてありがとう、悠斗くん」

 

「なぁに、見た目なんて問題ないさ。気持ちが籠ってるってことの方が重要だし」

 

「見た目なんて問題無くて……気持ちが……」

 

「みやび?」

 

ぼけっとして何やら呟くみやびに呼び掛けると、慌てて我に返る。

 

「ーーーっ‼︎う、ううんっ、なんでもない、なんでもないから……!そ、それよりも、悠斗くんもなんだか随分疲れてるみたいだね?」

 

「ちょっと、な…新技に苦戦していて…今までと勝手が違うから苦戦しているんだ」

 

初めて会った頃のみやびは、勉強も運動も苦手だと力無く口にしていた彼女だが、毎日のように走り続けた結果、今ではクラス内でも指折りの体力の持ち主だ。体力強化訓練マラソンが始まるときは、自己ベストを更新しようと活き活きとした表情さえ見せている。技術的なものに関してもゆっくりとだが着実に成長しており、何事にも一生懸命に取り組むみやびの姿はとても眩しく思える。

 

「あ……。このまましばらく休憩するの、悠斗くん?」

 

せっかくだから十分くらい休憩したら、また向こうへ戻るつもりだと答えるとーーー

 

「そ、それだったらーーー」

 

「ーーー?」

 

きょろきょろと周囲を窺うみやびはなんだか挙動不審だ。

 

「こ、この前の約束、いいかな?」

 

恥ずかしそうに頬を赤らめながら、そっと膝を指すみやびの様に、俺は意味を理解した。

 

「……ど、どうかな?」

 

以前はとんでもないことになった膝枕だが、改めてやり直しとなった今回、早速感想を求められる。

 

「えっと……や、柔らかいな」

 

「そ、そうじゃなくて、高さの話なんだけど……」

 

「えっ……。だ、大丈夫。ちょうどいい」

 

「そっか、それならよかった」

 

嬉しそうな声が、山の向こうから聞こえてくる。そう、山の向こう(比喩表現)から。真上に顔を向けていると、みやびの胸が大きすぎるために顔が遮られて見えないのだ。

 

「あ、あのね、悠斗くん。せっかくだから、いま少しだけ眠ったらどうかな?ちょっとお昼寝をするだけでもいろいろと効率が上がるって話だし、今ならわたしが起こしてあげられるし……」

 

「えーっと……」

 

みやびの気遣いはとても嬉しい_____が、先日の出来事が脳裏をちらつく。

 

「あっ。だ、大丈夫だよ。悠斗くんがまた寝ぼけてえっちなことをし始めたら、今度は我慢しないで、えーっと……ぽかぽか叩いて起こすからっ。だから安心して、ねっ」

 

「それなら……」

 

そこまで言われて尚断るという理由も無いので、お言葉に甘えさせて貰うことにする。やがて俺がうとうとし始めた頃、山の向こうからみやびのあくびが聞こえてきた。

 

「ふわぁ……」

 

こくりこくりと船を漕ぐ様が、振動から伝わってくる。

 

(いい天気だし、眠くなるのも当然だよな……)

 

ぼんやりとした意識の中、苦笑する。笑っていられるのも、ここまでだった。

 

もにゅん。

 

「っっっ⁉︎」

 

突然、顔にーーーそれもものすごく柔らかく、重い何かが押し付けられた。いきなり顔を覆われ、息苦しさから意識が一気に覚醒する。

 

(なんっ……だ、これっ……って、もしかして…………#〆×♯__________っ⁉︎)

 

瞬間、パニックに陥りかけるも、すぐに押し付けられた何かの正体に思い至る。突如現れた難題ーーー居眠りをして、上体を前屈みにしたみやび。柔らかな太ももが土台となり、上からはもっと柔らかい両胸が俺の顔にプレス。しかもうとうとしているためか微妙に体が上下し、俺の顔を土台にして弾む豊か過ぎな膨らみが、むにょんむにょんと形を変える。

 

(どうすりゃいいんだ__________っ⁉︎)

 

手っ取り早いのは騒いでみやびを起こすことだが、それで目を覚まして状況を理解したとき大変恥ずかしい思いをさせてしまうだろう。となれば、俺が騒がず、みやびから圧力が減ったところで横に転がるなりして逃げるのがベストだと答えを出す。

一分……二分……三分ーーーと過ぎた頃、圧力が変わる。

 

悪い方向へ。

 

みやびは自身の腕を枕にし、俺の体の上で完全に熟睡を始めてしまったのだ。おかげで口元まで完全に埋まってしまい、俺はここから無呼吸となった。この状況をまさしく天国と地獄ーーーそう呼ぶのだろう。そんな言葉をよぎる中で、自身を励ます俺。

 

(まだ行けるぞ俺!限界を超えるんだ__________っ‼︎)

 

しかしながら、本来ならばとんでもなく無呼吸を続けていられる時間であるも、状況が状況なだけに心拍数が上がりまくりで_____

 

(もう無理だ__________っ‼︎)

 

限界突破。

 

「ん__________っ‼︎んん__________っ‼︎」

 

ばたばたと手足を動かし、新鮮な空気を求め続ける。もちろんその行動は、振動となってみやびの意識を揺さぶり_____

 

「ん、う……」

 

小さな呻きとともに、顔に押し付けられた重みが僅かに減った。

 

「ぶはぁっ!ひゅぉおおおおおおっっ‼︎」

 

息を吐き、そして酸素を思い切り体内に取り入れるため大きく吸う。

 

ずぼっ。

 

「もがっ⁉︎」

 

思い切り吸った直後、何かが突然口を覆う。

 

「ふわ……?え……?」

 

「もむ?もむもにゅ?」

 

「ひうんっ⁉︎」

 

みやびの可愛い悲鳴がした瞬間、圧力がすべて消え去る。

 

「ふはぁっ……!はぁっ、はあっ、はぁ……は……ふはぁあああ……」

 

何度も深呼吸をして、しばらくするとようやく落ち着きを取り戻してきた。

 

「最後の……何だったんだ……。急に口の中に入ってきて……妙に柔らかくて暖かかったけど……」

 

体を起こした俺は、疑問をそのまま呟き_____

 

「え?」

 

「え?」

 

背後からの反応に振り向く。そこではみやびが身をよじり、自身の大きな胸を両手でぎゅっと押し潰すかのように隠していた。その顔は耳まで真っ赤で_____

 

「い、いま、悠斗くん、わたしの、胸……口、に……」

 

俺は、そしてみやびも、先刻に俺が何を口に含んだのかを理解した。

 

「ぴゃぁあああ_____っっ‼︎ゆゆゆ悠斗くんのえっち__________っ‼︎」

 

「ま、待ってくれ‼︎話を聞いてくれ、みやび__________っ‼︎」

 

みやびはまるで橘が乗り移ったかのように、ダッシュで逃げていった。

 

結局、慌てて追いかけて状況を説明し、理解はして貰えたものの_____さすがに気まずく、この日はその後、部屋でも互いに言葉を交わすことはなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、《禍稟檎》の件で動きがあった



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53話 正義の皮を被った悪

《禍稟檎(アップル)》_____

 

神話において、神によって食することを禁じられた果実の名を与えられたドラッグ。

悪なる意を持つマルスの別名を与えられた禁忌の果実は口にしたものを虜にし、闇へと誘う。

視覚や聴覚、触覚といった五感への刺激を快感に変える効能を持ち、一度口にしたならば二度目の誘惑を拒むのは難しい。

安価でありながらその効能から瞬く間に愛好者を増やし、かなりの数が皐月市内に出回ることとなっていた。

しかし、クリスマスイブを境に供給者が姿を消したことでその数は減り続ける一方となり、1月の半ばに差し掛かった頃には高値で取引されていた。

そのような状況下で、半ば瓦解していたベラドンナのメンバー数人に行方知れずとなっていた男_____リョウから連絡があった。

 

『みんなに伝えてくれ。中止となったパーティーをもう一度開催する』

 

リョウのメッセージを受け取った者たちは歓喜する。

彼らは皆、警察の手を逃れた《禍稟檎》の常習者、もしくは売買に深く関わっていた者ばかりで_____

姿を消した禁忌の果実の甘い蜜を、再び味わうことが出来るのだと理解して。

彼らは餓えに耐え、狂おしく待ち_____

ついにその時を迎えた。

 

 

 

 

 

 

とある一室、そこには二つの影が向かい合っていた。

 

「……今宵の宴において、主賓のもてなしは盛大に願うよ」

 

「まぁ見ていてください、必ずや期待以上の結果を出してみせますので」

 

一人は《666(ザ・ビースト)》の《圜冥主(コキュートス)》が《第一圜(カイナ)》クロヴィス、もう一人はパーティーの主催者にして《第四圜(ジュデッカ)》メドラウトが側近、六冥獣の一人の男がいた。

 

「随分と自信があるようですね。ドーン機関だけでなくボンゴレからも目をつけられているというのに」

 

「それこそ心配ないですよ、俺たち《666(ザ・ビースト)》に比べたら奴らなんて雑魚、中でも俺はメドラウトの旦那に認められた六冥獣の一人ですよ?そこらの《獣(ゾア)》とは違うんですよ」

 

クロヴィスの問いに六冥獣の男は全く気にしない様子で返した。

 

「では期待していますよ、晴の六冥獣《九頭蛇(ヒュドラ)》」

 

「ええ、見ていてくださいよ」

 

そして、宴の刻が来る。

 

 

 

 

 

 

「気持ちはわかるが焦るんじゃないぞ透流」

 

時刻が二十時を僅かに過ぎた頃_____

透流の拳が固く握られていたのに気付き忠告する。

 

「……悪い」

 

「気にすんな」

 

俺たちの視線は二百メートルほど先に在る巨大な倉庫へと向けられていた。

あの倉庫の中でベラドンナのパーティーが催される。

主催はリョウとのことで、それによりパーティーの内容もある程度は予想がつく。

情報の出所は《沈黙の夜(サイラス)》からだ。

俺たちが見回りをしていると興奮して騒いでいたベラドンナのメンバーを発見し問い詰めたところ、情報を得たのだ。

その後、学園に戻った俺が報告した結果、いまだリョウの行方を追っていた御陵衛士ともども俺たちは動くことになった。

なお、《沈黙の夜(サイラス)》のメンバーには近づかないように警告をした。

今回は本格的に危険な戦闘になる。彼らの入り込めるレベルじゃないと、その言葉に鯨木も俺を信じてくれ、鶴屋を含んだ他のメンバーも渋々だが納得してくれた。

 

場所は皐月市繁華街_____ではなく中心部よりも北側にある貸倉庫だ。調べてみればベラドンナがこれまで大掛かりなパーティーを行った際の会場として使用された記録があった。

しかし、いまだリョウの姿は無い。

 

(……本当に来るのか?それとも……罠か?)

 

エレフセリアで僅かだが闘った際、俺と透流は敵に認識されただろう。常人では有り得ない《力》を持っていることも。もしかしたら《666》がリョウの名を使って情報を流したとか……

 

「悠斗、あれ……」

 

透流が指差した方向を見るとそこには一台の車_____その車種に透流は見覚えがあるらしい。なんでもクリスマスイブの時にリョウが乗っていた車だそうだ。

 

双眼鏡で降りて来る人影を確認すると、後ろ姿だがリョウであることがわかり、別の場所で監視してた御陵衛士からも顔を確認したそうだ。

 

「ん?あの黒服……」

 

見慣れない黒スーツの男が、ケースを片手にリョウや寄り添う女、スミレの後から降りてきた。

《狂売会》の時に警護していた連中と同じ服装だったので《獣(ゾア)》の可能性も考えられる。

 

「入ったぞ」

 

背後に立つ御陵衛士、園田隊長が、リョウが倉庫内に入ると同時に呟く、その呟きに、隊長の傍で控えていた御陵衛士が手元の時計に視線を動かす。即座に動いて警戒されないように少し時間を置いてから倉庫の包囲を完成させ、その後に突入部隊が制圧するという手はずになっているためだ。

 

「時間だ。任務を開始する」

 

俺たちの背後で園田隊長が無線で任務開始を宣言し、他のの場所から倉庫を監視していた御陵衛士が包囲を開始する。

エレフセリアの一件で《獣魔(ヴィルゾア)》の存在が明らかになった為、突入部隊は《Ⅳ(レベル4)》である俺、透流、ユリエ、リーリス、サポート役に園田隊長と御陵衛士を一人加えた六人となる。

みやび、トラ、橘、梓は包囲部隊に配置されて別の場所で御陵衛士と共に行動している。

 

 

 

 

「時間だ_____突入するぞ!!」

 

「はい!」

 

こうして包囲が完成し、園田隊長の合図と共に俺たち突入部隊が動き出し、派手な音ともに二階の窓ガラスを破り、突入する。

俺たちは二階の高さに設けられた通路に立ち、吹き抜け部分から一回を見下ろす。

騒々しい音楽が響く空間にはスモークがたかれ、様々な色のレーザーが飛び交っていた、

だがここで俺たちは違和感を覚える。

 

(……参加者たちの様子がおかしい)

 

彼らは言葉を発することなく無言で、それも無表情のまま俺たちを見上げていた。

誰一人とて俺たちの突入に驚きを見せることなくだ。

その不気味さが、この場が異様であることを教えてくれる。

_____とその時だった。

 

「やぁ、久しぶりだね。歓迎するよ」

 

声の主は、一番奥に設置された一際高さのあるステージ上にいた。

リョウだ。両脇にはスミレと黒スーツがいる。

 

「あいつは……」

 

透流はどうやら黒スーツに心当たりがあるようだ。

 

「知ってるのか?」

 

「たしか《狂売会(オークション)》の時に俺と闘った灰色熊(グリズリー)の《獣(ゾア)》だ」

 

透流に教えてもらった俺は再度黒スーツを見た後、再びこの場の支配者を改めて見る。リョウも俺たちの姿を確認すると、片手を真上に上げた。その合図と共に音楽が止まり、リョウはにこやかな顔で俺たちに向かって話しかけて来る。

 

「久しぶりだね、まさかキミたちが《超えし者》だとは思いもしなかったよ。よくこんな街の情報を掴んできたものだ」

 

誤魔化しを一切口にしないところを見るとやはり罠だったようだ。

 

「隊長、予定どおりお願いします」

 

小声で園田隊長に告げると、僅かに頷く様が視界の端に映る。

《Ⅲ》の彼らに《獣魔》の相手は危険である。なので彼らには一般人の避難誘導をしてもらい、俺たちが気兼ねなく闘える状況を作ってもらうことにした。

だか_____

 

入口を大きく明け放つために園田隊長たちが一階に飛び降りた瞬間、リョウがスナップを打ち鳴らした途端_____

 

「なっ……!?」

 

そのまま傾れ掛かられ、二人は床に押し倒された。

 

「ぐ、ううっ……なんだ、この力は……!?」

 

「隊長!?」

 

まさか御陵衛士の彼らが!多数とはいえ常人に押さえ込まれるとは予想だにしなかった。

 

「せっかく舞台を用意したんだ。野暮なことはしないでもらいたいね」

 

リョウは手を横に大きく動かすと、パーティーの参加者が端に寄るように移動して中央にスペースを作った。

あからさまなさそいではあるが俺たち四人は作られた空間へ飛び降りる

 

「やっぱりこいつら様子がおかしいな…」

 

視界の端にリョウを映して警戒しつつも周囲を見ると、まるでゾンビのように参加者たちは虚ろな目で僅かに体を揺れ動かしていた。

 

「君たちには手出ししないように命じているから安心しなよ」

 

こちらの様子を見て、笑みを崩さないままリョウが告げる

 

「……こいつらに何をした?」

 

俺はリョウを睨みながら問い詰めた。

 

「…想像にお任せするよ」

 

ドラッグの症状だけで園田隊長たちが抑えられる筈がない、考えられるのは何かしらの《力》によって操られていることだ。状況的にはリョウによるものだと思うのだが…

 

(…何か違和感がある)

 

妙な胸騒ぎがしていた。

 

「さて、その前に…そこにいる人たちにも出てきてもらおうか」

 

リョウが一箇所に目をやるとそこの物陰から二つの影が出てきた。それは…

 

「ゲンさん…それに菊池さんも…」

 

そこには警察の活動服に身を包んだゲンさんと菊池さんが銃を片手に出てきた。

 

「ゲンさんがここでドラッグパーティーが行われるって情報を掴んで俺たちで来たんだ」

 

「てめえら…さっき警察に応援を出した。しばらくすりゃあ増援が来る、観念しろ」

 

ゲンさんは銃をリョウへと向けて警告した。

 

「警察ですか…彼らに僕たちを止めることなんて出来ませんよ」

 

「ほざけ、この街を守るのが俺たち警察官だ」

 

「この街を…守るですか…ふっ」

 

ゲンさんの言葉にリョウはふと笑った。

 

「何がおかしい?」

 

「いえ……街を守るのが警察官ですか……なにもわかってませんねぇ……」

 

「_____っ!!」

 

ドカァァンッ

 

リョウの言葉を聞いた瞬間、俺は全てに気付きある人へと攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲンさんの隣にいる菊池に

 

「な……っおいガキ!!お前何を……」

 

突然のことにゲンさんも驚きを隠せずにいた。

 

砂埃が晴れると…

 

 

 

 

 

 

 

「……ムカつくなぁ……なんで俺の正体に気付いた?」

 

鋭い目でこちらを見る菊池が俺の《長槍》を掴んでいた。

 

「我ながら恥ずかしいぜ……今の今まで気づかなかったんだからな……お前がクリスマスイブの時にエレフセリアで発した言葉を思い出した」

 

あの時奴は口にしていた。

 

「あんた言ってたよな?『おいおい…爆発どころか化け物まで出たって……!?どうなってんだよ』って、おかしいだろ?ドラッグパーティーの会場で、ましてや火災でパニックになってるやつの言葉をどうして警察のあんたが信じてるんだよ?普通幻覚症状を疑う筈だろ?」

 

でも菊池はあの言葉を疑っていなかった。つまりそれは……化け物の存在を……《獣(ゾア)》を詳しく知っているからである。

 

「そっか……ヘマしてたんだな俺って」

 

「おい……菊池……テメェそりゃどういうことだ……」

 

声が聞こえそちらを見るとゲンさんが怒りを込めた声で菊池を睨んでいた。

 

「お前なのか?お前が…ガキどもにヤクをばら撒いていた張本人なのか?」

 

ゲンさんの問いに菊池はため息を吐くと

 

「どうしたんすかゲンさん、そんなに怒ったりして。そんな怖い顔しないでくださいって」

 

「質問に答えろって言ってんだろ菊池ぃぃぃぃ!!!」

 

ヘラヘラする菊池にゲンさんは怒鳴りつけた。

それに対し菊池は苦笑いをした後、質問に答えた。

 

「ええ、そうっすよ。正確には俺が仕入れた《禍稟檎(アップル)》を部下のリョウに売らせていたんすけどね……いい職業なんすよ警察官って、クスリを欲しがりそうな奴らのリストが簡単に見れますからね」

 

菊池は自慢げに話し続け、それにゲンさんは激昂した。

 

「てめぇ……それでも警察官かぁぁぁ!!!」

 

ゲンさんは叫びながら菊池に殴りかかった。

 

「ゲンさん待っ……」

 

俺はゲンさんを止めようと声を出したが_____

 

 

 

ドカッ

 

「がはっ_____!」

 

「無駄だっつーの」

 

菊池の蹴りがゲンさんの腹部に炸裂しゲンさんは後ろの壁に叩きつけられた。

 

「たかが人間にこの俺を倒せるわけねぇだろ?」

 

ケタケタ笑いながら菊池はゲンさんに近づいた。

 

「そうそう、警察の増援ですけどうちの部下を何体かそっちに送ってるんで来ないっすよ。残念でした♪」

 

「てめぇ……本当にムカつくな」

 

俺はゲンさんをかばうように菊池の前に立ち《長槍》を構えた。すると、

 

 

 

 

 

 

「待……て……」

 

突然後ろからゲンさんが腹を抑えながら立ち上がり俺の前に立とうとした。

 

「あらら、防刃チョッキを着てたから加減を間違えたか」

 

「ゲンさん、こいつの相手は俺が」

 

ふらふらのゲンさんを止めようとすると

 

「黙れ……こいつは……絶対ゆるさねぇ……この街にクスリをばら撒いて…ガキどもを……苦しめ続けたこいつは…俺の手で倒す……この街を……こいつらなんかの好きには……させねぇ」

 

「ゲンさん……」

 

やっぱり_____と思った。口では《沈黙の夜(サイラス)》の連中にキツイことを言っていても、それは彼らを_____子供たちのことを大切に思っていたからなのだ。彼もこの街を愛し_____守ろうと戦い続けていたのだ。

 

「ゲンさん……こいつはあんたの勝てる相手じゃない。あんただってわかってるだろ?」

 

俺はゲンさんの肩を掴んで止めた。

 

「…………ちくしょお……」

 

俺の言葉を聞き、ゲンさんは悔しそうに呟いた。

 

「だから_____あんたの想い、覚悟を_____俺に預けてくれ。あんたに代わって俺がこいつを倒す」

 

「……ガキ……」

 

その言葉にゲンさんはこちらを見つめた。

 

「……すまねぇ……お前らが傷つかねえようにするために俺たち大人がいるのに……俺の力じゃこいつを止められねぇ……頼む」

 

「心配すんな、必ずこいつを倒す」

 

俺の言葉にホッとしたのかゲンさんはそのまま意識を失った。幸い命にも別状はないだろう。

 

 

 

 

 

「ほぉ……俺を倒すって?大きく出たじゃねえかガキ、六冥獣の一人である俺を倒すとかさぁ……」

 

俺を睨みながら菊池はこちらに近づいて来た。

 

「……六冥獣か」

 

ナーガと同じ六冥獣……《666》のボス、メドラウト側近の一人、もしそうなら間違いなく他の《獣》や《獣魔》よりも厄介だ。俺は警戒しながらも身構えた。

 

 

 

 

 

 

ガッシャーン

 

 

突然ガラスの割れる音が聞こえ、そちらを向くと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここかい、薬をばら撒いたっていう張本人がいるのって?」

 

腕についた『風紀』の腕章、両手にはトンファー、ボンゴレ雲の守護者_____雲雀 恭弥が現れた。

 

「雲雀……やっぱりここを見つけたか」

 

俺の質問に答えず雲雀はリョウと菊池を睨みつけた。

 

「……君たちが売り買いしてる薬が並森で出回りそうになった……おかげで危うく並森の風紀が乱れそうになったよ。だから_____咬み殺す」

 

「……どうやら数も揃ったようだしパーティーを始めましょうか。キミたちドーン機関、ボンゴレの同盟と僕ら《666(ザ・ビースト)》は、和やかに会話をするような関係じゃないからね」

 

「同感だ」

 

「始まる前に言っておくよ。もし外にいる連中がこの倉庫内に踏みいれようとしたら、参加者がどうなるか保証は出来ないよ」

 

「つまり俺たちだけで闘う限りは一般人にゃ手を出さないってわけか?」

 

「ああ。僕らは彼らに、決して手を出さないと約束しようじゃないか。良いですよねボス?」

 

「はぁ……まぁいいか」

 

リョウにボスと呼ばれた菊池はため息を吐きながらも承諾した。

どこまで信じていいかは怪しいところではあるが俺は外に待機している御陵衛士に通信し手短に情報を伝えて中への手出しは無用と伝える。

 

「それじゃあ始めようぜ菊池、お前は絶対に許さない!!」

 

俺は再び菊池に《長槍》を向けた、

 

「……上等だ。《666(ザ・ビースト)》が支配階級筆頭、《第四圜(ジュデッカ)》直属。冥府に集いし晴の六冥獣_____《九頭蛇(ヒュドラ)》菊池 義樹(きくち よしき)だ。後悔しながら地獄にいきな」

 

「ボンゴレファミリー雪の守護者、天峰 悠斗だ。お前は必ずぶちのめす。」

 

 

 

 

こうしてパーティーが始まる。



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54話 炎の獣

「いくよ_____」

 

「ちょ…おい雲雀!?」

 

闘いの始まりの合図と共に雲雀は菊池へと殴りかかった。

 

「おっと、お前の相手はこいつらだよ」

 

向かってくる雲雀に視線を向けた菊池がスナップを打ち鳴らすと観客から数体の異形が躍り出た。

 

「こいつら…《獣(ゾア)》…いや、《獣魔(ヴィルゾア)》もいるのか…」

 

まさか蟻(アント)の《獣魔(ヴィルゾア)》以外にも《獣魔(ヴィルゾア)》がいたとは思わなかった。

 

「こいつらはこの日のために連れて来た俺の部下さ、俺たち六冥獣は特例として《獣(ゾア)》や《獣魔(ヴィルゾア)》を自分直属の部下として引き連れることが出来るんでね」

 

菊池は得意げに解説し、《獣魔(ヴィルゾア)》たちは雲雀を取り囲み牙や爪を向けていた。

 

「雲雀、手伝おうか?」

 

俺は雲雀を見ながら聞いてみた。

 

「邪魔したら咬み殺す」

 

どうやら心配無用らしい。

 

 

 

 

気付くと周囲の参加者_____否、観客と化した連中が足を踏み鳴らし始めた。ガンガンとドラム缶を叩いていると思われる音が鳴り響き、倉庫内は突入直前よりもさらに騒々しくなっていく。透流たちを見ると透流の言っていた灰色熊(グリズリー)の《獣(ゾア)》はすでにその姿を異形にしていた。しかし、その姿は明らかに熊だけの形ではなかった。

確かに熊のような形態だが所々がどこか違う。体格は他の《獣(ゾア)》に比べて大きく腕の太さが異常である。

 

「透流_____そいつは…」

 

「気をつけろ悠斗、今のこいつは前に俺が闘った灰色熊(グリズリー)の《獣(ゾア)》じゃない…他にも大猩猩(コング)の《力》を手に入れてやがる…」

 

「《獣魔(ヴィルゾア)》ってわけか……しかもなんとまぁ面倒な組み合わせを……」

 

灰色熊(グリズリー)の腕力に大猩猩(コング)のパワーと握力まで加わるとは_____以前俺が闘った海象(ウォールラス)の獣魔(ヴィルゾア)同様の単純なパワー重視の能力は下手な特殊能力があるよりもある意味厄介だ

 

「おいおい、手前から喧嘩売っておいて俺を無視とは良い度胸だな。俺をぶっ倒すんじゃなかったのか?」

 

ふと気付くと少し苛立った様子で菊池が睨んでいた。

 

「透流_____その熊野郎は任せて良いか?俺はこいつを倒す。もしこいつが六冥獣だってんなら全力で行かないと流石に危険だ……」

 

以前闘ったナーガは生身の状態で《剛天狼(シグムント)》を使った俺と力で張り合った。

あのレベルを《獣魔(ヴィルゾア)》と一緒に倒すのは無理がある。

 

「任せろ悠斗、こいつは俺たちがなんとかする」

 

「こっちをなんとかしたらすぐに加勢に向かいます」

 

「だから安心しなさい」

 

透流、ユリエ、リーリスの言葉に俺は安心した。

彼らになら任せられると

 

「まだ蟻(アント)の《獣魔(ヴィルゾア)》の姿が見えない、警戒は怠るなよ」

 

「勿論だ!!」

 

そして俺たちは改めて互いに敵と向き合った。

 

 

 

 

 

「待たせたな六冥獣、早速始めるぞ」

 

俺は菊池に向かって《長槍》を構えた。

 

「上等だ、この俺の根城で好き勝手してくれたてめえらに俺を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる」

 

そういうと菊池は匣兵器を取り出しリングに晴の炎を灯し、匣兵器に注入した。

 

「ギギィッ」

 

すると、匣からエレフセリアでみた晴蟹(グランキオ・デル・セレーノ)が現れた。

 

「なるほど、やっぱりこいつはてめえの匣兵器だったのか……」

 

「俺は疲れることは最低限にしたいんだよ。俺を倒したけりゃこいつらを倒してみな」

 

菊池はさらに匣兵器を取り出すと炎を注入した。

すると、今度は十匹ほどの鋭い牙を持つ魚が出てきた。

 

「こいつは……ピラニアか」

 

菊池の周囲には十匹の晴ピラニア(ピラーニャ・デル・セレーノ)が舞っている。

 

「そらてめえら、そのガキを喰い殺しな!!」

 

菊池の合図とともに晴蟹(グランキオ・デル・セレーノ)と晴ピラニア(ピラーニャ・デル・セレーノ)が襲いかかってきた。

 

晴ピラニアが俺を取り囲み鋭い牙で俺に喰らいつこうとし、俺は《長槍》で振り払い続けるも、背後から晴蟹が巨大な鋏を振りかぶって襲いかかってきた。

 

「くそっ_____」

 

俺は咄嗟に体を捻り鋏を回避してなんとかピラニアの包囲網を抜けた。

 

「あーもう!!ほんとめんどくさい!!」

 

数が多くすばしっこいピラニアの噛みつき攻撃に加えて巨大な蟹の鋏による強力な一撃、面倒なことこの上ない。

 

「天に吼えろ_____《覇天狼(ウールヴヘジン)》!!」

 

俺はすぐさま《力在る言葉》を口にし《覇天狼(ウールヴヘジン)》を解放した。

 

「ほぉ〜そいつがてめえの《焔牙》の真の力ってやつか。面白えじゃん、見せてみろよ」

 

菊池は興味深そうにその様子を見ていた。

 

「は、その余裕_____すぐに無くしてぶちのめしてやるよ!!」

 

俺は《長槍》を構えてこちらへ攻撃を向かってくる晴蟹(グランキオ・デル・セレーノ)と晴ピラニア(ピラーニャ・デル・セレーノ)を迎え撃った。

 

「オラァッ」

 

俺は食らいつこうとしてくるピラニアを見切り《長槍》をピラニアの1匹に叩きつけた。

ピラニアは《長槍》の一撃で破壊され、残りのピラニアは一斉に襲いかかってきた。

 

「その攻撃は、見たよさっき!!」

 

しかし、俺はピラニアたちの攻撃を次々と見切り1匹1匹を確実に倒していき、ついに最後のピラニアを倒した。

 

「ちっ……何やってんだ晴蟹(グランキオ・デル・セレーノ)!?早くそいつを倒せ!!」

 

「ギギィッ!!」

 

苛立ちながら怒鳴る菊池の言葉に反応して晴蟹(グランキオ・デル・セレーノ)は巨大な鋏を振りかざして飛びかかった。

 

「無駄だ!!」

 

しかし、俺は鋏を跳び上がって避けて蟹の甲殻に雪の炎を灯した《長槍》を叩きつけた。

 

「ギ……ギギ…………」

 

蟹の甲殻は凍りつき、終いには全身が凍った。

 

「てめえも……これで終わりだ」

 

そしてお俺は氷漬けになった蟹に《長槍》を叩きつけ粉々に砕け散った。

 

「ちっ……こんなガキなんかにあっさりやられてんじゃねえよ……」

 

舌打ちをしながら菊池は氷のかけらを踏み砕いた。

 

「おまえ……倒した俺が言うのもなんだけど自分の相棒をそんな風に扱うのは無いんじゃねえか?」

 

匣アニマルは自分と共に闘う相棒と言っても過言では無い。俺もガロと共にあらゆる闘いを乗り越えてきた。そんな相棒をあのように扱うなど納得がいかなかった。

 

「けっ……匣アニマルなんか所詮《死ぬ気の炎》で動く兵器に過ぎないだろ?使えない兵器に価値なんかねえんだよ」

 

「おまえ……本当にムカつくな」

 

菊池の答えに俺はさらに怒りが増した。

目の前の男は自分の仲間をまるで道具のように扱う外道であるのだ。

 

そのとき_____

 

 

 

 

「いやぁああああああっっ!!リョウ!?リョウ__________っ!!」

 

スミレの悲鳴が聞こえそちらを向くと、リョウがステージ上で倒れていた。

どうやら透流たちが一瞬の隙をついてリョウを仕留めたらしい。

 

「あーあーリョウの馬鹿、油断してるからだ」

 

それを見た菊池はため息を吐いて頭を掻く

 

「これでおまえらの戦力は減った……と見て良いのかな?」

 

そう聞きながらも俺は戦闘前から感じていた違和感を再び感じていた。

リョウが幾ら何でも簡単にやられ過ぎていないか?並みの《獣(ゾア)》を遥かに凌駕する《獣魔(ヴィルゾア)》と思わしき存在がこうもあっさりやられるか?

 

(何かを見落としている……?)

 

そのとき、俺は奇妙な違和感を感じ始めていた。

体が重い、戦闘で思った以上に体力を消耗し過ぎたのか?…………いや違う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(この消耗は疲労によるものじゃない!!)

 

間違いない_____これは毒の類!!とすれば……《獣魔(ヴィルゾア)》はまだ戦闘不能ではない!!

 

俺はすぐさまリョウの方を見た。しかし、彼はまだ目覚めている様子は見られない……ならばと菊池の方を見たが違う_____そもそも俺は菊池から一切目を離していない……その他の攻撃をしたのならすぐに気づけたはずだ……では誰が……

 

 

 

 

「あ…………」

 

そうだ……もう1人いた……このパーティーの参加者が……リョウたちと一緒にいた仲間がもう1人……《あいつ》なら……いつもリョウと一緒にいた《あいつ》なら……リョウを影武者として俺たちに攻撃が出来る_____!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「透流_____っ!!リョウの側にいたあの女が《獣魔(ヴィルゾア)》だ!!」

 

俺が透流に叫ぶと同時に俺に向かって人影が降ってくる。

影からはまるで尻尾のようなものが生えており、その先端が俺へと襲いかかる。

 

「くっそぉ!!」

 

俺はすぐに《長槍》で防御するも影は口から液体を吐き出す。

俺は咄嗟に体を捻って回避すると液体がかかったドラム缶がシュウシュウという音とともに白い煙を上げた後、ものの数秒と経たずに溶けて消えた。

 

「酸か………」

 

「ざぁんねん、はっずれぇ♡」

 

影は、機械質のような声を発し姿を見せた。

背には蝶(バタフライ)の羽、見るからに硬質の皮膚鎧、そして蟻(アント)の顔を持つそいつは、エレフセリアで透流と対峙した《獣魔(ヴィルゾア)》に違いなかった。

 

「悠斗……そいつが……」

 

「あぁ、完全に油断してた……ほんと最近は見落としてばかりだ……たしか……スミレとかって名前だっけ?」

 

「せぇかぁい♡すぅっかり騙されてるからぁ、なぁんども笑いそうになっちゃったぁ♪でもぉ、そっちの槍使いは最後の最後でギリギリ気づいたわよねぇ♪嬉しくてついそっちを攻撃しちゃったぁ♡」

 

スミレは不満を言いながらも嬉しそうに喋った。

 

「裏社会にいるとさ……たまにあるんだよ。リーダー格が実は唯の傀儡で……その取り巻きが影で糸を引いていた裏の支配者ってパターンが、今回それを思い出してピンときたのさ、だから周りの奴らもまだ騒がしいんだろ?」

 

変わらず足を踏みならしている観客を僅かに見つつ問うと、頷きが帰ってくる。

 

「それもせぇかぁい♡あたしはぁ、蝶(バタフライ)の《力》ももってるからぁ、こういったせまぁい空間だとぉ、鱗粉で人の思考を操ったりできるのよねぇ」

 

「_____それ以外の効果もあるのでは?」

 

問いかけたのはユリエだった。

 

「んもぉ、せぇかいばっかりで、キミたちぜぇんぜんつまんなぁい」

 

腰に手を当てて、スミレは不満そうな態度をとる。

 

「スゲェだろ?そいつは俺の部下のなかでも1番優秀な奴でな、鱗粉に《獣魔(ヴィルゾア)》や《獣(ゾア)》にゃ効かないお前らにとってタチの悪い毒が入ってんだ」

 

菊池がスミレに代わり俺たちに答えを言った。

 

(やっぱり毒か……)

 

そして倉庫内に蔓延した毒は今もなお俺たちを蝕んでいる。

体力的に俺たちより劣る園田隊長たちは、意識が朦朧としているようだった。

 

「わりぃな《超えし者(イクシード)》。オレぁ今回こいつのサポート役だったのさ」

 

すると、灰色熊(グリズリー)の《獣魔(ヴィルゾア)》の男は少し複雑な表情で俺たちに謝罪した。

 

「ご苦労だったな三島 レイジ、あとは好きにしてな」

 

すると、菊池が俺の前に再び出てきた。

 

「お前は正直めんどくさい相手だからな……スミレを消されるとこっちが困るから俺が倒してやるよ」

 

「んもぉボスぅ、あたしを見くびらないでくださいよお♪」

 

「黙ってろよスミレ、今回のプロジェクトは俺が他の六冥獣を出し抜くチャンスなんだよ。手抜きが出来るか」

 

笑いながら文句を言うスミレに菊池は言葉を返した。

 

「ようやくてめえも《獣魔(ヴィルゾア)》の《力》を使うってか。望むところだ」

 

こいつが《獣魔(ヴィルゾア)》たちを部下にしているということはこいつも奴ら以上の能力を持ってることになる。

そう思って改めて俺は警戒し《長槍》を向けた。

しかし_____

 

 

 

 

 

「は?《獣魔(ヴィルゾア)》だぁ?笑わせんな」

 

菊池は俺の言葉に不満を述べた。

 

「メドラウトの旦那は俺に_____《獣魔(ヴィルゾア)》をも越える最強の《力》を俺に与えてくれたんだぜ」

 

「最強の《力》?」

 

菊池の言葉に俺は問いだしてみた。

 

「本当はこんなところで見せるようなもんじゃ無いが……匣ももう無いし、しゃあねえか」

 

すると、菊池は自身の警察の活動服の上を脱ぎだした。

そして、上はワイシャツだけになると俺に向けて凶悪な笑みを浮かべる。

 

「光栄に思いなボンゴレ!!《666(ザ・ビースト)》の最新技術_____《獣魔(ヴィルゾア)》と《死ぬ気の炎》の複合技術を見せてやるよ!!」

 

そう言うと力一杯ワイシャツを引き裂く_____そこには

 

 

胸に金属のパーツが埋め込まれており、そこには孔のようなものがあった。

 

そして俺は知っていた。形は微妙に違うがそれは未来で俺たちを苦しめたミルフィオーネの、白蘭の編み出した技術だからだ……その名前は_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぜ__________修羅開匣!!」

 

 

菊池が胸の孔に炎を注入し_____一気に菊池の炎が上昇し彼を包んだ。

 

 

 

 



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