とりあえず約束は大事 (黒色エンピツ)
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1:始まりは復讐から

ミッドチルダのとある倉庫で二人の男が戦っていた。

暗い中で魔力光が輝く。

 

「これで終わりだ。」

 

片方の男の手がもう片方の胸を貫く、すると貫かれた男は笑いながら満足そうに息絶えた。

 

「最後まで不愉快なやつだったな。

……意外と呆気ない。」

 

男は暗闇に消えていった。

 

 

 

 

俺は復讐を終え地下道の研究所に来て、いつもの様に白衣の科学者に声をかける。

 

「ジェイル。」

 

「うん?やあ、ゼロ。復讐は終わったのかい?」

 

「ああ、つまらないもんだった。」

 

「そうかいそうかい。私も暇潰しだったからね、そんなものだろう。」

 

「それで、これからは何をすれば良い?

俺の目的は達成した。お前との契約だ。お前は何を望む?」

 

「そうだね。私の計画は話しただろう?」

 

「ああ、管理局を潰すんだったな。それの手伝いか?」

 

「急かさないでくれ。まだ話は終わってないのだよ。

彼女の護衛。いや、世話をしてくれるかな?」

 

ジェイルが指差す先には金髪の女の子が座っていた。目はオッドアイか。

 

「あの子は?」

 

「ヴィヴィオ君と言ってね。聖王のクローン、今回の作戦の鍵になる。君のこれからのご主人様さ。」

 

「ああ、分かった。」

 

「それと、彼女には1度管理局に保護して貰うことになる。それからは陰ながら護衛をしてあげてくれるかな?」

 

「了解だ。」

 

「うん、それとまた姿を現すのは事件が終わってからで頼むよ。」

 

「まるで作戦が失敗するみたいな言い方だな。」

 

「さて、どうかな?」

 

「ふん、まあいい。」

 

「じゃあ後の事は任せたよ。ああ、ヴィヴィオ君を逃がすタイミングは無線で知らせるよ。」

 

そう言うとジェイルは背を向けて歩き出す。

 

「……ジェイル。」

 

「おや、君が止めるなんて珍しい。なんだい?」

 

「頑張れよ。」

 

遠くからでもあいつの目が見開くのが見えた。そんなに驚く事か。

 

「はっはっはっ!まさか君からそんな言葉が聞けるだなんてね!うん、頑張るとしよう!さらばだ、友よ!」

 

そのまま高笑いをしながら去って行った。

 

「友か……。」

 

不思議と笑う。まさかあいつが友と呼ぶだなんてな。

 

「ヴィヴィオ様。」

 

「んー?」

 

「初めまして、俺はゼロと言います。」

 

「はじめまして!ヴィヴィオです!」

 

子供の相手は初めてだけど頑張らないとな。

 

 

 

 

まあ、そう上手く行く訳もなく。

 

「ヴィヴィオ様ー!?どこですかー!?いや、ほんとマジでどこですかー!?」

 

小さい体でウロチョロされて行方不明になったり。

 

 

 

 

「好き嫌いはいけませんよ。」

 

「だって、美味しくないもん!」

 

「……料理雑誌読むか。」

 

嫌々と言われて落ち込んだり。

 

 

 

 

「うわぁぁん!!」

 

「ふわぁぁ……、ヴィヴィオ様ー?よーしよし、大丈夫ですよー。」

 

夜泣きで寝不足になったり。

 

 

 

 

「あはは、ゼロー!こっちこっち!」

 

「ちょ、子供の体力舐めてた……。待ってくださーい!」

 

振り回されたり。

 

 

 

 

なんだかんだ復讐しか無かった俺が変わっていく様に感じた。

 

「ん、通信。ジェイルからか。」

 

『やあ、久し振りだね。ゼロ。』

 

「そうだな。元気だったか?」

 

『……随分と変わったね。』

 

「そうみたいだ。自分でも驚いている。」

 

『そうか、今日が約束の日だよ。』

 

「ああ、分かった。またな。」

 

『ああ。』

 

通信が途切れる。

 

「……ヴィヴィオ様。」

 

「なーに?」

 

「宝探しゲームをしましょうか。」

 

「げーむ?する!」

 

「この順番に歩いて下さいね。」

 

ヴィヴィオ様に地図を渡す。……間違えないか心配だ。

出ていってすぐに地下道の構造を変える。これで戻って来れない。

エレベーターに乗り、別口で地上に出る。金があるから保護される間に拠点を置かないとな。

……良い人達に保護されるといいな。

 



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2:終わる事件

今回、一気に時間が飛びますのでその間は脳内で補完してくれると助かります。


機動六課にヴィヴィオ様は保護されたみたいだ。

双眼鏡片手に木の上に座って見守る。

 

「この子どうしたんだろう?」

 

「エリオとキャロが見つけて来たんだって。」

 

あれが高町なのはにフェイト・テスタロッサ・ハラオウンか。

 

「ゼロー?ゼロどこー?」

 

涙目で周りをキョロキョロするヴィヴィオ様を見てつい動きそうになる。ジェイルとの約束だから仕方ない。

 

「ゼロってお友達?」

 

「えっとゼロは……んと。」

 

説明が出来てないみたいだ。まあ説明されても困るし、そもそも関係を伝えていないのもある。

あの人達なら大丈夫そうだ。

 

 

 

 

ゆりかごが落ちていく。ジェイルの計画は失敗したか……。

ビルの屋上から双眼鏡で見ると遠くに手錠を付けられ捕まったジェイルが見える。

ジェイルは見えないはずなのに俺の方を見ると困った様に笑い、すぐに高笑いをした。

 

「……そうか、満足したのか。」

 

無限の欲望の癖に満足するなよな。

 

「捕まってもジェイルとの約束は続いてるし、どうせやる事も無い。護衛を続けるか。」

 

最近ストーカーをしている気分になるが……。仕方ない事だ。

 

「ん?今フェイト・テスタロッサ・ハラオウンと目が合った様な気がするが。」

 

もう1度双眼鏡を覗くとまた目が合う。

まずいな、同じ場所に居すぎたか。場所を変えよう。

 

「待って!」

 

流石の速さだが、俺が逃げる方が速い。

その後はコソコソ隠れながら拠点に戻った。

 

 

 

 

ヴィヴイオ様が初等科3年生になった。それにしてもSt.ヒルデ魔法学院とはやってくれる。毎日潜入するのが大変だ、もう慣れたものだが。

いつも通り木の上に枝を陰にしながら座ってあんぱんと牛乳を食べる。この組み合わせは素晴らしい。あんぱんは片手で食べられ甘いため、疲れも緩和され長時間の護衛にはピッタリだし、牛乳とも良く合う。その上安いと来た。寝転がったまま食べる事も出来るから姿勢的にも便利でもある。

 

「ヴィヴィオ様も大きくなったものだ。」

 

機動六課に引き取られた当時はゼロゼロと泣いていたが、その後は高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウンを母と呼び明るくなった。

 

「俺の護衛はもう必要無いのでは無いか?」

 

ふと思う。周りには強い大人が居て、信頼出来る友達が居て、これではもう俺は必要無いのではないだろうか?

 

「……まあ、ジェイルが捕まってからはただの暇潰しの様なものだ。」

 

寧ろ俺が居る方が邪魔なんだと思う。それに俺もいつまでも付いていてもどうしようもない。

 

「今日で止めるか。」

 

……ちょっと写真の1枚位撮ってもバチは当たらないだろ。

あ、ライトで教員に見つかった。逃げるか。

 

「あれ、今のは……?」

 

明日から何をしよう?

 

 

 

 

よし、撒いたぞ。あの教員凄いな。学校外まで走って来るとは。

 

「む、ヴィヴィオ様も近くに来ているのか。運が良い。」

 

見馴れた金髪が目に映る。親の二人と銀行に行くのか。学院よりも難易度が高くなったな。

と言うかここに居るということは数時間は走っていたのか。

 

「動くんじゃあねぇ!殺すぞ!」

 

……強盗か。最後に一仕事するか。

 

 

 

 

なのはママとフェイトママを待って居ると急に外が静かになった事に気付きました。

 

「動くんじゃあねぇ!殺すぞ!」

 

男の人達の怒鳴り声が聞こえてバンバンと破裂音が聞こえて竦んでしまう。

でも、ママ達が居るからきっと大丈夫なはず!

 

「失礼する。」

 

新しく男の人の声が聞こえる。どこか聞いた事があるような、懐かしい感じがする。

 

「ああ!?なんだてめぇは、引っ込んでろ!」

 

「すまない。他はどうでも良かったんだが、ある人が巻き込まれてるから、貴様らを潰す。」

 

顔を上げるとスーツを着た男の人が武装した男の人達を次々と倒していました。

 

「終わりだ。……このまま息の根を止めた方が良いだろう。」

 

殺すんだと思った。でも、あの人に人殺しをして欲しくないって思ったの。

 

「や、止めて!」

 

「了解しました。」

 

声を出すと、上げていた手を下げてくれました。

……あれ?

 

「それでは。」

 

「あっ、まっ……!」

 

去ろうとする背中を追いかけようとしたら足を引っ掛けちゃった、怪我したらまたママ達を困らせちゃう……。

 

「全く、危なっかしい所は変わりませんね、ヴィヴィオ様。」

 

ふわりと抱かれた感覚を私は覚えていた。

 

 

 

 

やってしまった。守るためとはだとしても姿を見せた。

 

「ゼロ……?」

 

「なんでしょうか?」

 

今日で終わりにするつもりだったのに、どうしてしまったのだろうか。強い親が居るんだから任せれば良かったろうに。

 

「成長しましたね。身長も随分と伸びて。」

 

頭を撫でるとポスリと胸に顔を埋めた。

 

「なんで、居なくなっちゃったの?」

 

「……申し訳ありません。」

 

「バカ、バカバカ。ずっと探してたのに。」

 

そういえば休日に無意味に外出していた日があった。そういう理由だったのか。

 

「嫌われたんだって、思って……。」

 

「陰から見守ってましたよ。」

 

「ふふっ、ストーカーだー。女の子にそんな事しちゃダメなんだよ?」

 

「……気を付けます。」

 

「うん。」

 

「……それでは。」

 

少し惜しいがもう離れよう。今のでもう充分だ。

 

「ダメ。」

 

襟を引かれる。

 

「一緒に居て?良いでしょ?」

 

「いや、その……。」

 

「ね、お願い。」

 

「……了解しました。」

 

「うん。ねぇ、昔みたいに撫でて?」

 

「は、はい。」

 

「ヴィヴィオー!」

 

「ヴィヴィオ、大丈夫!?」

 

「なのはママー!フェイトママー!こっちだよぉー!」

 

「あの、「ダメ。」……はい。」

 

どうにもこのお嬢様は俺を離す気はないらしい。正直言うと会いたくない。

 

 

 

 

「それでヴィヴィオ、この人は誰?」

 

強盗を倒した後に事情聴取をされその日の内に帰られたがヴィヴィオ様に高町家に連れて来られてソファに座らされた。そして膝の上に乗って俺の手を取って胸の前でクロスさせた。……ご機嫌そうで何よりですが抱いてるみたいで少し照れます。

 

「ゼロ!」

 

「初めまして、ゼロと申します。友との約束で今まで護衛をしていました。」

 

「フェイトちゃん。」

 

「うん、保護した時に呼んでた名前だよね。」

 

「ゼロさん。約束とは誰とのですか?」

 

「答えたくありません。」

 

「ゼロ、教えて?」

 

「……ジェイルとの約束です。ヴィヴィオ様の下僕になるようと、まあ、護衛の様なものです。あいつが捕まってからは独断で。どうせする事もありませんでしたし、今日で終わりにしようとしていましたが。」

 

「ジェイル・スカリエッティ……。どんな関係だったんですか?」

 

「友です。」

 

「じゃあ、やっぱり事件が終わった時に遠くから見てたのは。」

 

「俺です。」

 

一問一答で進んでいく。もういいだろう。話す事は話した。

 

「それでは俺はこれで。」

 

「帰っちゃうの?」

 

「帰る?……まあ、そうですね。正確には餓死するまで今までの道を暇潰しに振り返るが正しいですが。」

 

復讐が終わって約束も終わったなら俺に存在する意味はない。

 

「ダメ、絶対にダメだよ。」

 

「何故でしょうか?優しく強い親に、信頼出来る友人や仲間。これだけあれば俺はもういらないでしょう。要らない部品は取り外す事を推奨します。」

 

「イヤ。」

 

「ヴィヴィオ様。」

 

「ヴィヴィオがダメって言ってるの!ヴィヴィオの下僕なら言う事聞いてよ!今からゼロはヴィヴィオの物!」

 

それはまた……昔の我儘とはレベルが違いますね。

 

「……了解しました。今から俺の全ては貴方の物です。」

 

今日が最後だと思った時に心残りがあった。きっと、これで良かったんだろう。

 

「ヴィ、ヴィヴィオ?それはちょっと言い過ぎじゃないかなーって、思うんだけど……。ね、フェイトちゃん?」

 

「えっ!?う、うん、そうだね。」

 

「もう!ママ達は静かにしてて!」

 

「「はい……。」」

 

「それとゼロのお家は今日からここだからね!ヴィヴィオ達と一緒に過ごすの!」

 

「あの、それは流石に……。」

 

「だって、帰したらどこかで倒れてそうなんだもん……。」

 

……それはそうですが。

 

「良いでしょ?なのはママ、フェイトママ。」

 

「う、うーん、部屋は余ってるけど。」

 

「なのは、私からもお願いしてもいい?ヴィヴィオの言う通り倒れたら大変だし。」

 

「俺は別に庭で……。」

 

「ゼロは黙ってて!」

 

「はい……。」

 

ここまで怒られるともう何も言えない。

それにしても怒っていても可愛いものですね。

なんとなく指で頬をつつく。

 

「にゃっ、ちょっ、ゼロ何するの、怒ってるんだから……。」

 

嫌がっていますけど顔が緩んでますよ。

 

「申し訳ありませんが、少しの間お世話になってもよろしいでしょうか?」

 

頭を下げると膝に乗っていたヴィヴィオ様も頭を下げる形になった。

 

「うん、ヴィヴィオも良いって言ったしね。」

 

「わー!ありがとうママ!」

 

「あ、でも部屋は別々だよ?」

 

「きょ、今日だけ!」

 

「ダーメ。」

 

「フェイトママぁ……。」

 

「う……な、なのは、1日くらいは良いんじゃないかな?」

 

「ダメですー。」

 

「ご、ごめんね、ヴィヴィオ。」

 

「う〜、ゼロは良いでしょ?」

 

「ヴィヴィオ様にが言うなら。」

 

「ゼロも甘やかさない!」

 

む……教育としては間違ってないだろうが、ヴィヴィオ様はまだ子供だし少しくらいは良いのではないか?しかし、言うことも分かるか。

 

「分かりました。ヴィヴィオ様、余り我儘を言えば困らせちゃいますよ。」

 

「……ごめんなさい。」

 

……明日はヴィヴィオ様のためにご飯を作りましょうか。

 

「じゃあ、今日はもう寝よっか!」

 

「おやすみ、ヴィヴィオ、ゼロ。」

 

「おやすみなさーい!」

 

「おやすみなさい。」

 

普通のあいさつなのに少し照れる。今まで1人だったからだろうか。

今の気持ちは多分幸せなんだろう。

 

 

 



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3:日常と非日常

「……朝か。」

 

時計を見ると5時になっていた。家の周辺に張っていた探知魔法を消す。

部屋は2階だったため1階に降りて家の中に異常が無かったかを確認する。

他の人が何時に起きるかは知らないが先に朝飯の準備だけしようと思い、勝手にキッチンを漁る事を心の中で謝罪しながら何があるかを調べる。

 

「……トーストと目玉焼きにサラダで大丈夫か。」

 

飲み物は後で確認してからにしよう。

 

「うー、良い匂い……。」

 

目を擦りながら高町なのは様が降りてきた。

 

「おはようございます、高町なのは様。朝ご飯は勝手ながら作っているので顔を洗って来てください。あまりだらしないとヴィヴィオ様に笑われますよ。」

 

「ふぁーい……。」

 

なんとも気のない返事だ。管理局の仕事は大変なのだろうか。

 

「んー、おはよう、ゼロ!ご飯ありがとね!」

 

顔を洗って来るとすぐにパッチリと目を開いて元気になって来た。

 

「いえ、これくらいはさせて頂きます。

所で、お飲み物は?」

 

「じゃあ、ココアで!」

 

「分かりました。」

 

さっき確認した時はこの棚に粉末があったはずだ。

 

「そういえば朝に魔法を使ってた?」

 

「そうですよ、癖でして。」

 

「そのスーツもバリアジャケットでしょ?」

 

「ええ。いつ何があるか分からないので。」

 

「ふーん……ねぇ、敬語を外して名前で呼んで?」

 

「何故でしょうか?俺は貴方と親交を深めた訳でもありませんし、ヴィヴィオ様の親なのですから当然です。」

 

「にゃー……かったいなぁ。

じゃあ、仲良くなるために名前で呼ぶこと!後、ヴィヴィオと混ざっちゃうし、敬語だって変だもん。似合ってないの。」

 

……似合ってないは余計です。

 

「命令であれば聞きましょう。」

 

「えー、命令って言い方嫌だなぁ。お願いじゃダメ?」

 

「ダメです。」

 

「むー、じゃあ命令です!家長命令!」

 

「わかり……分かった。なのは様、これでいいか?」

 

「うーん、呼び捨てじゃダメかな?」

 

「……なのは、これで文句はないな?」

 

「うん!」

 

名前を呼ぶ程度で距離感なんて変わらないだろうに。

 

「おふぁよー……。」

 

「あ、フェイトちゃにゃああぁ!!フェイトちゃん服着てぇぇ!」

 

……やはり管理局の仕事は大変なんだろう。

 

「おはようございます、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン様。ヴィヴィオ様の教育に悪いのでそのような格好は控えて下さい。」

 

真似したらどうするんだ。

 

「えっ!?あっ、ごめんね?」

 

「いえ、お飲み物は?それと顔を洗って来てください。」

 

「じゃあコーヒーでお願い。」

 

「はい。」

 

コーヒーはココアの隣だったか。

 

「なんだかなのはとゼロの距離感が近いような気がする。」

 

「気のせいでしょう。」

 

「あのね!ゼロに名前で呼ぶ事と敬語を外すようにお願いしたの!」

 

「命令です。」

 

「あ、そっか、だから少し近く感じたんだね。

じゃあ、私もそうしてもらおうかな。ヴィヴィオのお母さん命令です。」

 

「分かった。」

 

変わった人達だ。

 

「おはよぉ……。」

 

「おはようございます、ヴィヴィオ様。さ、洗面所に行って顔を洗いましょうか。」

 

「んぅ、ゼロがやって。」

 

「仕方ありませんね、今日だけですよ。」

 

「なんか私達と対応がちがーう。」

 

「うん、凄い過保護だね。」

 

「フェイトちゃんみたい。」

 

「えっ!?私ってそんなに過保護に見えるかな!?」

 

本当に騒がしい。

 

 

 

 

「「「いってきまーす!」」」

 

「はい、いってらっしゃいませ。」

 

ふぅ、やっと1人になれましたか。

1度バリアジャケットを解除するとそこら辺で買った無地の白いシャツにジーパンがスーツに代わって現れた。

 

「……買い物に行くか。」

 

折角だし、周りの散策もしておこう。ああ、晩ご飯はヴィヴィオ様の好物だった肉じゃがにしよう。レシピを見ながら少しずつヴィヴィオ様の好みに改変させていった自信作だ。

喜んでもらえるだろうか?

 

 

 

 

「随分と買い込んでしまった……。」

 

思ったよりも周りに色んなものがあったりしたためについつい足が伸びてしまった。

 

「肉じゃが以外の料理も考えていますが買い過ぎだな。冷蔵庫に入りきるか?」

 

ヴィヴィオ様達ももう帰っている頃だろうし、丁度良いか。

玄関を開けると不安そうな声が聞こえてきた。

 

「ゼロ!どこに行ったの!?また置いてかないでよ!ねぇ!ゼロー!」

 

「……ただいま戻りました。」

 

リビングに入るとバタバタしていたヴィヴィオ様と困惑したなのはがいた。

フェイトもいたが落ち着いた様子だ。

 

「あの、買い物に行ってたのですが。」

 

「ばかぁぁ……。」

 

「えっ。」

 

泣かれるのは困ります。どうしたものでしょう……。

 

「ゼロはヴィヴィオを泣き止ませてね。はい、荷物渡して。なのはも手伝ってね。」

 

「う、うん。わっ、沢山買って来たんだね。」

 

フェイトは荷物を受け取るとさっさとキッチンに逃げて行ってしまった。

 

「ヴィヴィオ様、どうしたんですか?」

 

「だって、だってぇ……。」

 

「泣いてたら分かりませんし、可愛い顔が台無しですよ。」

 

ハンカチで涙を拭うとまだ鼻をすんすん鳴らしているが大人しくなった。

 

「だって、ゼロがまた私を置いてったのかなって……。」

 

「心配し過ぎです、俺は貴方の物なのだからそんな事しませんよ。

なんなら犬の様に首輪でも付けてみますか?」

 

「うん……。」

 

「でしたら、明日にでも買いに行かないといけませんね。」

 

多分チョーカーとかになるかな。

 

「いいよ、部屋にあるから。」

 

「部屋に?動物を飼っていた記録は無いはずですが……。」

 

「間違えて買っちゃった。」

 

それじゃあ仕方ないですね。

そう言って持ってきた物は本当に犬に付ける様な首輪?チョーカー?でした。

 

「付けてあげるね。」

 

「ありがとうございます。」

 

……結構大きいから少しぶかぶかですね。

 

「うん、よし!」

 

「あ、そういえばゼロがバリアジャケットじゃないね。」

 

荷物を置いてきたのか2人が戻ってきた。

 

「あ、ほんとだ!」

 

「ヴィヴィオは今気付いたんだね。わたしは気付いてたよ!」

 

ドヤ顔をしてるけど、朝に指摘してきたから当然だな。

 

「むー、似合わない。」

 

「服装なんて戦う時にはバリアジャケットに変わるんですからなんでもいいです。」

 

「もー!ゼロもおしゃれおかしたら絶対かっこいいのにぃ!」

 

「ですが、俺に無駄に時間と金を使わなくても……。」

 

2人に何とかしてもらうように目を向けると分かったとばかりに頷く。

 

「うんうん、絶対良いと思うな!」

 

「服装で人の印象は変わるから、良いと思うよ。」

 

「人選を間違えたか……。」

 

「「なんで!?」」

 

「とにかく今度の休みはゼロの服を選びます!ゴシュジンサマめーれーです!」

 

「……了解しました。」

 

テキトーに無難で安いのを選ぶか。

 

「そういえば何を買ってきたの?凄く重かったけど。」

 

「ヴィヴィオ様に作っていた肉じゃがを作ろうと思ってな。」

 

「ほんとに!?ゼロ大好き!」

 

ふふっ、喜んでくれましたか。嬉しいですね。

 

「そんなに美味しいの?」

 

「うん!最初は美味しく無かったけどちょっとずつ美味しくなっていったの!」

 

「へぇ、ゼロにもそういう所あるんだね。」

 

「ああ、ヴィヴィオ様のためだからな。」

 

さて、料理に取りかかろう。

 

 

料理は分からないのでカット

 

 

「完成です。」

 

「これが」

 

「ゼロの」

 

「肉じゃがだぁ〜!」

 

仲が良いな。

 

「ね、ね、早く食べよーよ!」

 

「はい。」

 

3人分の料理を食卓に置く。

 

「あれ?これ3人分だよ、ゼロのは?」

 

「俺はこれで。」

 

あんぱんを袋から出して牛乳をコップに注ぐ。

 

「「「えっ。」」」

 

「どうかしましたか?」

 

「えっと、ゼロ?わたしそれじゃ足らないと思うの。」

 

フェイトが困ったように聞いてきた。

 

「あんぱんと牛乳だ。」

 

「そうじゃなくて、同じご飯を食べれば良かったんじゃないかな?」

 

「さっきも言った通り俺に無駄に金を遣わないためだ。それにこれで充分だし、後は栄養剤でも飲めば良い。」

 

「そんなの気にしなくても良いんだよ?ほら、ヴィヴィオとは家族みたいなものでしょ?」

 

「……しつこいな。俺は物、道具だ。そんな事を気にする必要は一切無い。」

 

「でも、ゼロは人だよ。」

 

「人の形をしているだけで人と呼べたものじゃない。」

 

「そんなこと……。」

 

「うるさい、放っておいてくれよ。」

 

「どうして、そんなこと言うの……?」

 

フェイトが悲しそうに眉を下げる。

ん……?なんだ、大勢の気配がこっちに来ている。

 

「俺はいつ死んでもいいと思っている。」

 

「えっ……?」

 

「今まで様々な人を殺して来た。子供に手を掛けた事だって何度もだ。幸せそうな家族も、必要だったから殺した。平和な世界に火を落として滅茶苦茶にした。

そもそも、今捕まったり死んでない事が奇跡とも言えるんだ。これ以上望むなんで贅沢、出来る訳ないだろう。

……話し過ぎた。外で食べる。」

 

「ゼロ……。」

 

やってしまった……ヴィヴィオ様の家族なのにな。いや、それよりもこっちのが大事だ。

 

「ゼロ。」

 

後ろからなのはに呼ばれる。

 

「なんだ。」

 

「ちゃんと帰って来てね。」

 

……気付いてたのか。

 

「善処する。」

 

 

 

 

外に出ると質量兵器を持った連中がいた。

 

「クレイ、セットアップ。」

 

デバイスを起動してバリアジャケットに変える。武器の手甲の調子を確かめるために少し手首を回す。

 

「トライアングルフィールドプロテクション。」

 

家の三点を頂点としてプロテクションを張る。

 

「やっと見つけたぞ……お前のせいで俺らの計画は滅茶苦茶だぁ!」

 

先頭の男が声を張り上げる。あいつがリーダーだろうか。

 

「知るか。貴様らの運が悪かっただけだろう。あの場には守るべき人がいた。」

 

「へっ、かっこいいねぇ。じゃあその守るべき人ってのは後ろの家に居るんだな?随分と綺麗な姉ちゃん達もいることだし、お前をぶっ殺したら相手でもしてもらおうじゃねぇか。」

 

「今、なんて言った?」

 

ヴィヴィオ様達に手を出すと言ったか?

 

『ガントレットプロテクション、スプリングバリア』

 

手甲にプロテクションを纏い、後ろに出てきたバリアを蹴って前方に加速する。

 

「はっ!バカなやつめ!撃て!」

 

銃弾が俺に向かって撃たれる。

 

『リフレクション』

 

周囲に膜が張られ、銃弾が当たると全て跳ね返って銃口に入り破壊する。

 

「は……?」

 

前にいた2人の頭を掴み身体強化した体で他のやつに投げつける。

 

「ひぃぃ!!」

 

「逃がさん。」

 

『ウォールプロテクション。』

 

壁の様にプロテクションを出し、逃げ場を塞ぐ。ぶつかったやつは弾き飛ばされた。

 

「魔法を使えるやつは無しか。」

 

『フォールプロテクション』

 

全員固まった所にプロテクションを頭上に展開して落とす。

 

「どうだ、潰れるまでやるか?」

 

幾つか骨が折れる音と悲鳴が聞こえる。

そのまま出力を上げる。

 

「わ、分かった!分かったから止めてくれ!」

 

「……バリアケージ。」

 

棒状のプロテクションで檻を作って閉じ込める。これで終わりか。

 

 

 

 

連中が管理局に連れていかれるのを遠くから眺めと家に入る。

 

「ただいま戻りました。」

 

「あ……お、おかえり。」

 

フェイトと遭遇し、少し空気が悪くなる。

 

「バリアジャケットにしたんだ。」

 

「少し、周囲の探索をしていただけだ。」

 

忘れてた、デバイスを解除して待機形態の時計に戻す。

 

「血が出てる!」

 

「えっ、ああ、これは……引っ掛けたんだ。」

 

シャツの袖に血が滲んでいた。

 

「嘘、こんなに血が出るなんて普通はないよ。」

 

チッ、弾が掠ったのに気付かなかったか。痛覚が鈍ってるのか。

 

「さっき魔力を感じたし……なのはとヴィヴィオに知らせて来るね!」

 

「待て!」

 

咄嗟にフェイトの手を掴む。

 

「頼む、頼むから、ヴィヴィオ様には何も言わないでくれ。」

 

きっと心配するし、気にしてしまう。それに悲しむだろう。ヴィヴィオ様はこんな事を知らなくても良い。

 

「痛っ。」

 

「っ……すまない。強くし過ぎた。」

 

「うん、大丈夫だよ。君がヴィヴィオを大切なのは分かったから。

ちょっと部屋に来て?汗が酷いし治療しなくちゃ。」

 

何を焦っているんだ、俺は。手を引かれて部屋に入り、椅子に座る。

 

「上脱いで、傷口見なくちゃ。」

 

「こんなの放っておけば。」

 

「傷口から菌が入ったらどうするの?これで病気になったりしたらヴィヴィオが悲しむよ。」

 

「……。」

 

シャツを脱いで腕を出す。

 

「思ってたより大きいね。とりあえず消毒しないと。」

 

傷口に消毒液をかけられると急激に痛みが増す。

 

「〜っ!?」

 

「男なんだから我慢して。」

 

このっ……くぅ……。

 

「はい、終わりっ。」

 

「貴様ぁ……!」

 

包帯を巻いた後に上から叩かれる。

 

「次は汗拭こっか。」

 

「そのくらい自分で出来る。」

 

「いいから。スキンシップだよ。

それともヴィヴィオに言われたい?」

 

「……くそ。」

 

そのままタオルで汗を拭かれる。なんだか人に拭かれるなんて変な気分だ。

 

「あのね、ご飯の時の事なんだけど。」

 

「なんだ、殺人で逮捕でもするのか?」

 

「うーん、そう言ってもそんな情報は一度もきてないから無理じゃないかな?」

 

「なに?」

 

おかしい、結構大規模な事件もしているはずだぞ。

 

「話したいのはそっちじゃなくて、ご飯の事。」

 

「その話しは終わったはずだ。」

 

「ううん、終わってないよ。ゼロが良くてもヴィヴィオは同じ食べ物を一緒に食べたいんだと思う。」

 

「そうなのか?」

 

「絶対そうだよ。」

 

「……じゃあ、そうする。」

 

「良かった。はい、もう服着てもいいよ。」

 

「ありがとう。」

 

「ふふっ、どういたしまして。」

 

さて、ヴィヴィオ様にはなんて説明しようか。

 

 

 

 

「ゼロには罰ゲームです!」

 

「はい?」

 

リビングに戻ると唐突にヴィヴィオ様が言う。

 

「フェイトママと喧嘩してたでしょ!」

 

「ああ、そういうことでしたか。それでしたら甘んじて。」

 

「えっとねー……えっと、撫でて!」

 

……考えて無かったんですね。

言われたままに頭を撫でる。相変わらず綺麗な髪をしてます。

 

「えへへ〜。」

 

「もー、ゼロはヴィヴィオに甘過ぎじゃないかな?」

 

「そう言われても困るな。」

 

「でも、なんでも言う事聞くでしょ?」

 

「当たり前だ。」

 

「やっぱり甘いよ!」

 

「ねぇ、飴ちょーだい?」

 

「どうぞ。」

 

買い物の時に買っておいた飴を口に入れてあげる。

 

「ん〜、美味しい!」

 

「甘いよー、甘々だよ!

ヴィヴィオ、あんまりゼロに我儘言っちゃダメ!」

 

「はぁい……。」

 

落ち込んでるヴィヴィオ様にデバイスから出した花を渡す。名前は知らない。

 

「わっ、綺麗!」

 

「ゼ〜ロ〜?」

 

「な、なんだ。」

 

「にゃー!ゼロも甘やかしちゃダメなの!ヴィヴィオ、お風呂入っちゃお!」

 

「うー、ゼロも。」

 

「えっ、だ、ダメだよ?男の人と入るのは……えっと、もっと大きくなったから、ね?」

 

「なんで?」

 

「え〜っと、な、なんででも。分かった?」

 

「は〜い。」

 

2人がリビングから出ていく。

 

「怒られちゃったね。」

 

「……ああ。何がダメだったんだろうか。」

 

「前はヴィヴィオに何て言われてたの?」

 

「料理に手品に踊りにゲーム、もっとあるが。」

 

「うん、もう充分かな。すごく甘いよね。」

 

「……自覚はある。」

 

「直すように頑張らないとね。」

 

「善処する。」

 

あ、肉じゃがが余ったから皿に移してラップして冷蔵庫だな。

 

 



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4:残念な結果

「……最近少し体調が悪い気がする。」

 

自分の体だから分かる、が原因が分からない。

 

「ゼロ、なんだかふらふらしてない?」

 

「いや、そんな事ない。」

 

「じゃあこれは何本に見える?」

 

フェイトが指を立てる。

 

「3本だろう?」

 

「1本です。ちょっと病院行こっか。」

 

「いい。体調管理はしっかりしてたし、放っておけば治る。」

 

「それで悪化したらヴィヴィオが悲しむよ?」

 

それを引き合いに出すな……。

 

「……1回だけだぞ。」

 

「うん!」

 

 

 

 

「栄養が偏り過ぎですね。数日間は入院して点滴を打ちましょうか。

食事は大丈夫ですか?」

 

「はい、彼は普通に食事してましたし、大丈夫だと思います。」

 

「では1日だけ点滴にしてそれから病院食に切り替えて一週間程で退院できますよ。」

 

「だって、良かったね。」

 

「……ああ。」

 

やってしまった、形だけとは言え数日は護衛が出来ない。

 

「だからあんぱんと牛乳だけじゃダメって言ったのに。」

 

「……すまない。」

 

「入院中は大人しくしてること、良い?」

 

「……分かった。」

 

そう言って頭を撫でてくるが避けると少し強引に撫でてきた。

 

「何をする。」

 

「良いでしょ?」

 

「……好きにしろ。」

 

入院するとは……最悪だ。

 

 

 

 

入院2日目、昨日即日入院する事になってフェイトから渡された料理本を読んでるとドアがノックされた。

 

「どうぞ。」

 

「ゼロ、大丈夫?」

 

入ってきたのはヴィヴィオ様と女の子2人でした。友達でしょうか。

 

「ええ、大丈夫ですよ。しかし、数日側近の役割が出来なくなり、申し訳ございません。」

 

そう言うと顔をむっとさせて額を叩かれる。

 

「ゼロも家族なんだからこういう時はありがとうでしょ!」

 

「いや、しかし……。」

 

「家族だから、ありがとうでしょ!」

 

「……ありがとう、ございます。」

 

「どういたしまして!

あ、そうだ!今日はね、私の友達を連れて来たの!」

 

やはり友達でしたか。片方はクリーム色?でもう片方は紫色のような髪をしている。

 

「はじめまして!リオ・ウェズリーって言います!リオって呼んでください!」

 

「えと、コロナ・ティミルです。私もコロナと呼んでください。」

 

寝ていたベッドの上で正座をする。

 

「初めまして、ゼロと申します。

今の姿で情けないですが、ヴィヴィオ様の側近です。ああ、それと敬語は不要です。」

 

「分かった!」

 

「あ、その、うん。」

 

「じゃあゼロも敬語外さないとね!それと 私にも!」

 

「それは出来ません。主人とその友人にそのような口は聞けません。」

 

親の2人には強制されましたが。

 

「もー!ヴィヴィオに固いよー!」

 

「ヴィヴィオ様、病院ではお静かに。」

 

「あぅ……ごめんなさい。」

 

「ゼロさんの前でのヴィヴィオって随分変わるね。」

 

「あ、それあたしも思った!」

 

「う〜……。」

 

おや、顔が真っ赤になりましたね、可愛いです。

 

「2人共、これからもヴィヴィオ様と仲良くしてあげてくださいね。」

 

「うん!」

 

「はいっ。」

 

微笑みながらそう言うと頬を引っ張られる。

 

「むー……なんか生意気ー!ゼロはヴィヴィオのなのにー……。」

 

理由は分かりませんがどうやら不服だったようです。何が悪かったのでしょうか?

 

「申し訳ございません、何が悪かったかを教えて貰ってもよろしいですか?」

 

「そ、それは……。」

 

「それは?」

 

「えっと、えっとね……。」

 

顔を真っ赤にして視線をあちこちに向けてオロオロするヴィヴィオ様。言い辛い内容なのでしょうか?

 

「う、うにゃー!内緒!内緒なの!ゼロは黙っててーー!」

 

「むぐっ。」

 

涙目で両手で口を塞がれました。そんなに嫌な事だったのでしょうか?……中々難しいものです。

 

「ヴィヴィオ、私達そろそろ帰るね。

ゼロさんも早く良くなってね。」

 

「またねー、ヴィヴィオー、ゼロー!」

 

「あっ、ご、ごめんね!また明日っ。」

 

コロナ様は一度俺にも礼をしてリオ様を連れて帰られた。

なるほど、コロナ様はどこかのご令嬢でしょうか。リオ様は活発でバランスが取れてるように見えますね。

 

 

 

 

「うー……恥ずかしい……。」

 

「良い友達ですね。」

 

「……うん、とっても大事な友達。」

 

そっとヴィヴィオ様の頭を撫でる。友達か、今度ジェイルに会ってみようか、フェイトに頼めば会える気がする。

そのままでいると頭の中にノイズが過ぎる。

 

『だーかーら、■は考えて過ぎなんだよ。もっと柔軟に考えたらいいのにな。』

 

黒いシルエットの誰かが笑って俺の頭を小突く。

 

「ゼロ?」

 

「あ……はい?」

 

「どうしたの?」

 

「いえ、何でもありませんよ。」

 

誤魔化すように撫でるのを再開する。

さっきのは何だったんだ?あんなのは覚えてない。1人の時にでも少し昔を思い出してみよう。

 

「さ、ヴィヴィオ様。もう暗くなってきましたよ。」

 

「えー、もう少しだけダメ?」

 

「……もう少しですよ?」

 

「ありがとー!」

 

仕方ないですね。

 

 

 

 

ヴィヴィオ様が帰っていって、夕食が運ばれてきた。

 

「やはり味気ないな、あんぱんと牛乳があれば良いのに。」

 

ぶつぶつ言いながらフォークを進める。

 

「……少しくらい外で買って来ても大丈夫だよな?」

 

窓を開けてそこから飛び出す。

脱走防止の探知系魔法は無かったか、良かった。

 

「コンビニとかでもあれば良いな。」

 

敷地から出て近くにあるコンビニを探す。端末で調べると10分程歩いた所にあるみたいだ。

 

「ヴィヴィオ様が来た時用にお菓子も買うか。」

 

「こんばんは。」

 

急に声をかけられて警戒しながらその方向を見る。

 

「……確か、カリム・グラシアだったか。

見張っていたのか?」

 

「ええ、聖王教会は前からあなたに目を付けていました。

ゼロ、本名かは分かりませんが数々の次元世界で事件を起こしていたと。

そんな人間をヴィヴィオのそばに置いておく事は出来ません。」

 

「そう言われてもな……ヴィヴィオ様に言われた事だし、所有物らしいからな。」

 

「そうだとしても、犯罪者を置いてはおけません。

さあ、大人しく同行してください。あなたの両親も悲しみますよ。」

 

両親が悲しむか、良くある言い方だな。だけどな……。

 

「なぁ……俺の両親って誰だ?」

 

「え……?」

 

「俺の記憶はジェイルに会うより前は無いんだよ。だから本名も知らない。そもそもあるのか?

子供の頃何をしていたか。どこ出身なのか、夢はなんだったのか。復讐のためにジェイルと行動してたのに誰のための復讐かも分からないんだよ。

なあ、教えてくれよ。教会は人の悩みを聞いて道を示してくれるんだろ?教えてくれ、俺はどこの誰なんだ?」

 

「あ……いや、それは……。」

 

「……すまないな。俺はもう病院に戻るよ。帰り道に気を付けてな。」

 

さっき分かったんだ。でも記憶が無い事なんて、どうしようもないだろ。こんな、自分がどこで生まれたかも分からないんだからその痕跡も探せない。どうすれば良いんだよ。

 

「……しまった、買う物があったのに。はぁ、まあいいか。」

 

ベッドに戻って早く寝よう。

何か今日は少し疲れたな。

 

 

 



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5:俺だって焦る

『おお、友よ。久し振りだね。』

 

「そうだな。本当に久し振りだ。」

 

病室でジェイルに連絡するとすぐに通じた、牢屋なのにな。やはり少し特別な扱いなんだろう。

 

「なあ、ジェイル。」

 

『なんだい、質問かな?』

 

「俺の昔を知ってるか?」

 

『ふむ、ようやく記憶が無い事に気付いたのかね。』

 

「それで、どうなんだ?」

 

『知ってるとも、本名も誕生日も出身も。自分が忘れる代わりに覚えさせられたよ。』

 

「今すぐ教えろ、それと記憶を戻せ。」

 

『……それは無理だ。』

 

「なんでっ!?」

 

『その魔法は君が組んだからね。自分で思い出せば解けるとね。思い出す事がキーワードさ。

そうだね、ヒントとしてはティアナ・ランスターに会うと良い。

それじゃあ、頑張りたまえ。私は管理局の連中にこき使われていてね。減刑のために頑張っているのだよ。』

 

「そうか……ありがとう。そっちも頑張れよ。」

 

通信が途切れる。あいつも頑張ってんだな。

 

「ティアナ・ランスター……早々会える訳無いだろ……。」

 

はあ、とため息を零す。

 

「ゼロー!元気だった?今日は私の教え子だったティアナとスバルを連れて来たよー!」

 

なのは……お前やっぱ昔からタイミングすげぇな。ん、昔から?会った事がある……?

 

「……?」

 

「どうかしたの?」

 

「ん、いや、なんでもない。

それで後ろの2人は?」

 

「あ、そうそう、私が教導してた子達だよ。

ほら、2人とも自己紹介だよ。」

 

「なんで……なんでこんな所に居るんですか……。」

 

そう言うとオレンジの髪の女、ティアナ・ランスターが俺を信じられない物を見るような目で見ていた。

 

「ティアナ?」

 

「ちょ、ちょっと、どうしたのティアナ。この人の事は知ってるの?」

 

青色の女、スバル・ナカジマが困惑していた。

 

「ずっと、ずっと行方不明で、兄さんの墓参りもせずにどこに行ってたんですか!?零兄さん!」

 

その叫びと共に部屋が静まり返る。

 

「おい……今、零って言ったか?いや、言ったよな。質問するぞ、必ず答えろ。」

 

立ち上がって肩を掴むと少し怯えて俺を見てくる。

 

「は、はい。」

 

「零って……俺の名前なのか?」

 

ついに見つけた。手掛かりだ。俺の名前、本当の名前。俺の大事な名前。

 

「な、何を言って……。」

 

「ふ、フルネームは!?教えてくれ!?知ってるんだろ!?」

 

「お、教えますから!落ち着いて!」

 

「あ、ああ、すまない。取り乱した……。

記憶喪失……いや、正確には記憶封鎖か。ジェイルと会う前の記憶が全部無いんだ、教えてくれ。」

 

「ふぅ、とりあえず事情はなんとなく分かりました。

まず、あなたの名前は斎藤 零。死んだ私の兄さんと2人で管理局で活動してました。流石に階級までは知りませんでしたけど。」

 

「斎藤……零……。」

 

どこかで歯車が合わさる様な気がした。これが俺の本名か。

 

「悪いとは思うが、兄の名前は?」

 

「いえ、もう振り切りましたから。ティーダ・ランスターです。」

 

「……ダメだ、もう少し、写真は?」

 

「これです。」

 

オレンジの髪をした、幼いティアナ・ランスターと一緒に写る青年。

脳裏にまたノイズが走る。

 

『よっ、今日からお前と組む事になった。よろしくな。』

 

『ほら、もっと食べろ。大きくなれないし、もやしになっちまうぞ。』

 

『もっと集中しろ!頑張れ!』

 

『零っ……!妹を、ティアナを……頼んだ……。』

 

頭の中で何かが割れて黒いシルエットだった物が鮮明になる。

 

「ティーダ……すまない。どうやら約束は守れなかったみたいだ。」

 

「思い出したの!?」

 

なのはが身を乗り出して来る。

 

「一部だけだけど、思い出した。

大きくなったな、ティアナちゃん。」

 

記憶に残っていた殺したよりも随分と成長して綺麗になった。ティーダが生きていたら大変だったかもな。

 

「……ふんっ、ずっと忘れてた人の事なんて知りません。」

 

「ははは……。」

 

それから少し話した後になのはに向き合う。

 

「なのは、俺はお前と会った事があるかもしれない。だからお前の故郷に行くぞ。」

 

「え!?それって本当!?」

 

「確証は無い。でも、そんな気がするんだ。」

 

「う〜ん……確かに名前は日本人みたいな名前だもんね。」

 

「それにこの記憶封鎖は俺の作った魔法らしくて、キーワードで解けるそうだ。それなら可能性のある場所に行くべきだろう。」

 

「う〜ん、まあ、そうかな?」

 

「よし、じゃあ今から行くぞ。」

 

「待って!?入院中だよ!?」

 

「知るか、そんな事より記憶の方が大事だ。どうして俺はあんなにも大事な記憶を閉じたのか、それが知りたい。」

 

「ダメだってば!」

 

腕をバインドで拘束される。

 

「ふん、こんな物。」

 

「うそっ!?」

 

バキンッと音を立ててバインドが割れる。

 

「俺のやって来た事を考えれば必須技能だ。」

 

まだ序の口だ。

 

「じゃ、じゃあヴィヴィオに勝手に行ったって言うよ!」

 

「ああ?」

 

つい睨みつけてしまうがなのはが体を一瞬震わせるのを見てため息を吐く。

 

「はぁー、分かった。けど、退院したら出来るだけ早く行くからな。」

 

「あ……うん。」

 

明らかに落ち込んでる様を見て顔を顰める。

 

「悪かったな。……睨んだりなんかして。」

 

「え?」

 

「……もう帰れ。疲れた。」

 

「昔に比べて随分落ち着いた雰囲気にはなりましたけど、落ち込んでたりするのを放っておけないのは変わらないんですね。」

 

「……ふん。いいから帰れ。」

 

「また、来るね?」

 

……チラチラとこっちを見るな、気になってこれからの考えが纏まらないだろう。

 

 

 

 

「フェイト。」

 

「なに?」

 

「まだ退院出来ないのか?」

 

「まだダメだって。」

 

「そうか……。」

 

やる事が無さすぎて日にち感覚が狂ってきた。

フェイトの剥いてくれたりんごを食べながらボーッとする。

 

「ゼロー!」

 

「あ、ヴィヴィオ様。学校は終わりましたか?」

 

横目で時計を見るともう学校が終わっている時間を過ぎていた。

 

「見て!テストで100点!」

 

開いた紙には大きく100と書いてあった。確かあの学院は初等科とは言え他と比べると偏差値は高めのはずだ。

 

「凄いじゃないですか。おめでとうございます。」

 

「うん!」

 

褒めてと催促するように頭を出してきたので出来るだけ優しく撫でると嬉しそうに目を細める。最近これが気持ち良い時の表情だと分かりました。

 

「それにしてもなのはとフェイトにはもう見せたのですか?」

 

「あ、それは大丈夫だよ、私達は通信で見せてもらったから。

ゼロには直接見せたかったんだって。」

 

なるほど、そういうことか。

そう言えば本名が分かったのに皆がゼロと未だに呼んでくる。名前に関しての記憶はもう思い出したんだが……あだ名の様な物だろうか?

 

「はい、あーん。」

 

「む……。」

 

フェイトがフォークでりんごを刺してこちらに向ける。いや、どういう意味かは分かっているつもりだ。

 

「……そのフォークをくれ。」

 

「一応病人なんだから大人しくしてないと。」

 

「一応だから良い……。」

 

後、ヴィヴィオ様が凄くこっちを見てるから、ヴィヴィオ様の目の前ではあまりこういうのは余りしないでほしい。

 

「……あー。」

 

観念して口を開くとりんごを入れられる。自分で食べても変わらないと思うんだが。

 

「ヴィヴィオにも!」

 

「いいよ。あーん。」

 

「あーん!」

 

ヴィヴィオ様は今日も元気ですね。非常によろしいと思います。

ヴィヴィオ様とフェイトが話し始めてやる事が無くなったため目を瞑ると頭を触られた。薄く目を開けるとフェイトがまた撫でようとしていた。いちいち言うのも面倒になり目を瞑るとそのまま撫でられた。

……意外と悪くないかもな。

 

 

 

 

「……ん。」

 

いつの間にか寝てたみたいだ、少し体が痛い。

 

「何やってんですか。」

 

ベッドの両側になのはとフェイトがベッドに顔を伏して寝ていて、ヴィヴィオ様がベッドに乗って隣で寝ていた。狭いから寝苦しくて体が痛くなるよな、そりゃ。

 

「……俺に絡んできて何がしたいんだ。」

 

さっぱり分からない。悪意は無いしむしろ好印象ばかりがある。目的も把握出来ないから対策のしようもない。どうしろってんだ。何も分からない。

 

「こんなんじゃ甘くなってしまうな……。」

 

甘さは捨てないと、いざという時動けなくなってしまうから。

その言葉が頭の中でカチリとハマった。

 

『ジェイル。俺は記憶を封鎖しようと思う。』

 

『なぜだい?復讐するくらい今のままでも良いじゃないか。』

 

『このまま甘い俺でいると色々と考えてトドメを躊躇してしまうだろう。

そのために、封鎖する。』

 

『方法はあるのかい?』

 

『ああ、記憶の中に壁を作るイメージで防御魔法を張る。これでエピソード記憶だけを封鎖する。

そこからは今ジェイルと対面した所からスタートする。』

 

『自分がどれだけ無茶をしようとしてるかは自覚してるのかい?誰もやった事がないだろう。確かに君の防御魔法は馬鹿げている、それでも可能かどうか……。』

 

『覚悟の上だ。』

 

『そうか……なら止めないよ。』

 

なんでこんな時に思い出すんだ……。なるほど、そういう仕組みだったのか。しかし解除方だけは出て来ない、やはりキーワードか。

 

「甘さ、捨てないとな……。」

 

「甘いのってそんなに悪いかな?」

 

「なのは、起きてたのか。」

 

「うん、たまたまだけど。

それで、悪いことかな?」

 

「……甘さを持って後悔するよりかなりマシだろ。」

 

「甘さを持ったまま後悔しない方法もあるんじゃない?」

 

「そんなの、無理だ。」

 

「無理じゃないよ。」

 

「なんで言い切れる!」

 

「お話すれば良いんだよ。」

 

「相手が攻撃してきたらどうする!手遅れになるぞ!」

 

「じゃあ、戦って倒してからだね。」

 

「……それは、どうなんだ?」

 

「お話するには必要な事だよ!」

 

まさか……脳筋か?いや、あの高町なのはだぞ、そんなはずがない。

 

「寝る。」

 

これ以上考えたら頭が痛くなりそうだ。

目を瞑るとまた撫でられる。

 

「……次はなのはか、2人してしつこいぞ。」

 

「良いでしょ?ゼロって子供みたいだから撫でたくなるんだよね。」

 

「はっ!?お、俺が子供だと……!?」

 

「もう、静かにして。」

 

「あ、ああ、悪い。」

 

目を覚ましてない。

 

「格好をつけたがってて空回りする子供みたいだよ。甘さを捨てるーとか。」

 

「お、俺の覚悟が空回りだと……。」

 

「もっとさ、復讐とかじゃなくて前を向いていけば良かったと思うんだ。」

 

「前を向いてか。」

 

なるほど、もしかしたらそんな道もあったのかもしれない。

復讐を考えずに管理局に残って、ティーダの代わりみたいにティアナちゃんを見守って、もしかしたら機動六課にも所属する事があってジェイルと敵対するなんてのもあったかもしれない。

 

「これからでも大丈夫だと思うか?」

 

「うん、絶対大丈夫だよ。」

 

「そうか。うん、よし、やってみるか。」

 

今からはとにかく落ち着いて前を向いて頑張っていくとしよう。

 

 

 

 




今回は少しぐだっとした感じでしたかね?


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6:ゼロの甘い日常

「ゼロってどれくらい強いの?」

 

退院して記憶の件は落ち着いて考えようと思ったある日、ヴィヴィオ様に聞かれた。

 

「それ程強くはありませんよ。」

 

「え〜、じゃあ魔法は?」

 

「なのはやフェイトの様に派手に戦えませんよ。防御魔法にばかり適正があって他は探索魔法を、後は多少出来る程度です。」

 

「強盗の人達をあんなに倒してたのに?」

 

「まあ、あの程度でしたら。」

 

「ん〜?じゃあなのはママかフェイトママと戦ったらどっちが勝つの?」

 

「そりゃ、なのはとフェイトでしょう。」

 

「ふ〜ん……。」

 

 

 

 

「なんでこうなった?」

 

「にゃはは、今日はよろしくね?」

 

「むー、あそこでグーを出してれば……。」

 

数日後、ヴィヴィオ様に手を引かれて着いた場所は開けた所で訓練施設の様だった。

そこではヴィヴィオ様やなのはやフェイトの知り合い達が見学しており、俺となのはの2人はセットアップして待機していた。

 

「俺空飛べないんだけど?」

 

「まあ、遠慮無しの真剣勝負だからね。ゆるして?」

 

「まあ、やるだけの事はやるけど。」

 

一応空戦も出来るし、何とかなるだろ。

 

「それじゃあ開始ー!」

 

ヴィヴィオ様の元気良い掛け声と共に全力疾走する、瞬間、目の前がピンクに染まる。

 

「フィフスシールド!!」

 

自分の目の前にシールドを5枚重ねて張ると衝撃が訪れる。

 

「おっ……も!」

 

『あー、女性にそんな事言ったらダメだよ?』

 

なのはから念話が届く。今そんな余裕無いんだけど。

そのまま数秒過ぎて衝撃が収まると同時にまた駆け出す。

 

『リフレクション』

 

足元に展開して全力で踏み抜くとそれを反射して大きく空を飛ぶ。

 

「え!?」

 

そのままプロテクションを出力を落として足場にしながら移動する。

 

『シールドブレード』

 

シールドを鋭く尖らせ前方に射出する。

 

「へぇ、面白いね。」

 

『フォールプロテクション』

 

「落ちろ!」

 

「ディバインバスター!」

 

マジかよ、直接割りやがった。

 

「ディバインバスター!」

 

「はやっ!?」

 

チャージに隙が出来ると油断した所に直撃を食らい、そのまま横に滑りながら飛び出す。

 

『プロテクションランサー』

 

棒状に伸ばしたプロテクションを真っ直ぐ飛ばす。

 

「プロテクション!」

 

「バースト!」

 

「きゃっ!?」

 

なのはのプロテクションに突き刺さるとそのまま干渉して破壊し、残ったランサーがなのはを襲う。

 

「いたた……やるね。」

 

「いや、余裕な顔してるだろ。」

 

「にゃはっ、まだまだ行くよ!」

 

『ディバインシューター』

 

「シュート!」

 

誘導弾のみたいだが数がとんでもなく多い、巫山戯た制御能力だ。

 

「チィッ!」

 

『サークルバリア。』

 

周囲からバリアに魔力弾が叩き付けられる。

 

「お、おおぉぉぉ!!」

 

数十秒後、音が止まるとバリアを解除する。その先ではなのはの得意技である集束砲が準備されていた。

 

「舐めんな!」

 

『チャージ』

 

「スターライト」

 

「クレイ、チャージ急げ!」

 

『チャージ、チャージ』

 

「ブレイカー!!」

 

「ストライクブレイク!!」

 

超高出力の馬鹿げた火力の集束砲に対して、俺は右手に高出力の魔力を圧縮して外部を高速振動させた防御魔法を纏った手刀を真正面からぶち当てた。

小さくキィィィと音を出していた手刀は集束砲に当たった瞬間からチェーンソーをもっと酷くした音が出る。

簡単に言えば突撃である。

 

「ぅおらあぁぁぁぁ!!限界まで上げろぉ!」

 

手刀が集束砲を切り裂き始める。

 

「何……これっ!でも、負けないよ!」

 

集束砲が一際大きくなる。それに対抗するように手刀も輝きを増す。

 

「ぶった斬れろ!!」

 

「撃ち抜く!」

 

「オオオオオオオオォォォ!!」

 

「ハアアアアアアアァァァ!!」

 

ゼロの手刀がなのはの集束砲を貫く、決まった。とその時、ゼロが顔面から突っ込み一緒に倒れる。詳しく言えば胸に顔から突っ込んだ。

ゼロはさっきの魔法で限界まで魔力を出したためグロッキー状態になった。

 

「んぎゅっ。」

 

「へ?あ、きゃああぁぁぁ!!?」

 

なのははポカンとした顔から押し倒されている事に気付き顔を赤く染め、可愛らしい悲鳴と共にゼロの顔面には魔力強化されたビンタが飛んできた。

 

 

 

 

「うぇっぷ……ここは……?」

 

目が覚めると白い部屋の中にいた、気絶していたみたいだから病室だろうか。

 

「ゼロ!起きたんだ。」

 

「あ、おはよう。ゼロ。」

 

「……オハヨ。」

 

「あ、ああ、おはようございます。

……なのはは、どうしたんだ?」

 

顔を赤くしていたなのはが熱でも出したのかと聞いてみると、どうやら俺がバカをしたらしい。まさかあのまま意識がないとは言え情報の胸に顔を突っ込むとは……。

 

「すまない……。」

 

「ほんとだよ、気を付けてね!」

 

「まあまあ、ゼロも反省してるんだし、ね?」

 

「お嫁に行けない……。」

 

そうだな、嫁入り前の女性にあんな事をした罪は重いだろう。

 

「なのは、俺も男だ、責任を取る。」

 

「ふぇっ!?せ、責任って、つつ、つまり……。けっこ「腹を切るか、指を詰めるか。どちらか選んでくれ。」ん……?」

 

ん?なんだ、反応が良くない。ま、まさかっ!もっと酷い事でも行うつもりなのか!?

 

「な、なんだ、何が望みだ!?何だってやってやるぞ!?」

 

「こ、こういう時って普通は結婚とかって言うんだよね?フェイトちゃん、ヴィヴィオ?」

 

その瞬間顔に熱が集まるのを感じた。

 

「け、けけけ結婚だと!?な、何を馬鹿な事を言ってるんだ!?」

 

「「「え?」」」

 

「そ、そもそも女性が軽々しく結婚とかをだな……。」

 

「もしかして、ゼロって初心?」

 

「…………そ、そんな訳ないだろう。」

 

「へぇ〜、そうなんだぁ。まあいつも冷静そうな顔してるんだからそんな訳ないよねぇ?」

 

なのはが顔を近付けて顎に指を添える。

今まで意識して来なかったのと、一部記憶の回復のせいだ、ティーダと一緒に居た時の職場は確か男ばかりで女性が居なかった事による女性免疫のせいだ、絶対そうだ。

 

「あ、いや、その……。」

 

「ふふっ、今のゼロって新鮮で可愛いね。」

 

フェイトに頭を撫でられる。今だけ、体が昔に戻ったような錯覚に陥る。

 

「どうしてそんなに顔が赤いのか、お姉さんに教えてほしいなぁ?」

 

「ゼロ、可愛いなぁ……。ね、私に甘えても良いんだよ?」

 

「……ゼロの新しい一面だ。」

 

状況が訳の分からない方向に進んでいく。

 

「お、おれにちかよるなぁぁぁ!!!」

 

その日から数日自分の部屋に閉じ篭った。

 

 

 

 

「ゼロー、ご飯だよー。」

 

あれからゼロの部屋のドアには『ヴィヴィオ様以外の女性立ち入り禁止』の張り紙が張られている。

ふふっ、何だか私のだけ特別扱いなの嬉しいなぁ。

 

「入るよ〜。」

 

部屋に入ると中は真っ暗でゼロが壁に座って寝ていた。

いつもこうやって寝てるんだ。きっと私達のために警戒してるのかな。でも、どこか寝づらそう。

 

「ゼロー、起きてー。」

 

頬を軽く叩くと薄らと目を開ける。いつもは誰よりも早く起きるから見た事無かったけどゼロは寝起きは弱いみたい。

ボーッと私の顔を見た後にくしくしと猫みたいに目を擦る姿がいつもの姿とのギャップで可愛く感じた。

 

「ね、ゼロ、ぎゅってして?」

 

いつもゼロが嫌がって余りしたがらない我儘を口にするとのそのそと動いて私に体を預ける様に抱き着いて来る。

……寝起きなら、こんな事も出来るんだ。

 

「んあ……?ヴィヴィ……オ……様?」

 

その日からゼロの部屋にはヴィヴィオ様の文字にバツ印の書かれた『女性立ち入り禁止』と書かれた紙が貼られた。

 

 

 

 

くそ、あれ以来部屋から出るのが風呂とトイレだけになってしまった。もちろん警戒は続けているが集中が乱れがちになっている。

 

「せめて表面上でだけでも……幻術魔法は得意じゃないんだが、仕方ない。」

 

クレイを使って幻術魔法のサポートをしてもらい安定させる。

鏡を見るといつも通りの顔が映っていた。

 

「よし。これで元通り。」

 

俺は思い切って部屋から出た。

 

 

 

 

フェイトちゃんとヴィヴィオと3人でどうやってゼロを部屋から出そうと話していた時にドアの開閉音が聞こえてゼロが降りてきた。

その顔は閉じ篭る前と同じで平然とした顔だった。

 

「今まで心配させたな、すまっ……んん、すまない。」

 

うん?

 

「ゼロ、どうかしたの?」

 

フェイトちゃんが近寄るとそっと1歩後退した。

 

「い、いやぁ、なんでもない。」

 

明らかに動揺していて声も裏返っているのに顔は平然としてるし、よく見たら幻術魔法を使ってるみたい。

 

「ゼロー。」

 

「なななんだ、なのは。」

 

頑張って向き合おうとしてるみたい、解けたらどうなるんだろう。

 

「今、魔法使ってるでしょ?」

 

「……つ、使ってな「嘘吐かないで。」……。」

 

「バレてるんだから、魔法を解いて。」

 

「……ん。」

 

ゼロは魔法を解いてすぐに服の袖で顔を隠した、でも耳まで真っ赤だよ。

 

「も〜、ゼロってば可愛いんだから〜。」

 

頭を撫でると手の動きに合わせて頭が揺れる。

 

「ヴィヴィオー。」

 

「は〜い。ゼロ、手を退けてほしいな。」

 

「あの、ヴィヴィオ様?」

 

「お願いっ、良いでしょ?」

 

「……了解。」

 

ヴィヴィオがそう言うと手を外す。でも少しくらいは抵抗しても良いと思うんだけどなぁ。

 

「わっ、凄い赤いの。」

 

「ゼロ、お姉ちゃんって読んで?」

 

「しっかり写真に撮らないと。」

 

「へぁ?お、お姉ちゃん。って、ヴィヴィオ様っ、恥ずかしいから!?フェイト放して!」

 

うわー、うわー、あのゼロがあんなに慌ててるなんて……。

フェイトちゃんにもみくちゃにされながらヴィヴィオに写真を撮られてる姿は初めの頃の印象とは全く違って見える。

 

「えーい!わたしも混ぜてー!」

 

楽しそうなのに仲間はずれは嫌なの!

 

 

 

 

「柔らかい……良い匂い……。」

 

「にゃはは……お疲れ様。」

 

あれから数十分は経っただろうか。俺は苦笑したなのはに膝枕をされながら未だに鼻息を荒くしたフェイトに撫でられていた。

まさかとは思うが……子供であるエリオとキャロにもこんな風にしてたとか、無いよな?

 

「ヴィヴィオ様は……?」

 

「部屋で写真の整理をしてるよ〜。ゼロの代わりに記録するんだって。」

 

「確実に残るからな、助かる。」

 

「多分ずっと記録は続くんじゃないかな?」

 

「……それは凄いな。」

 

マメになったんだな。

 

「ゼロがそれだけ大事なんだね。」

 

「そう思うか?」

 

「絶対そうだよ。」

 

そこまで断言されると、凄く嬉しいな。うん、嬉しい。

幸せはこういうものなんだろうな。きっと。

 

「フェイト、そろそろ放して。」

 

「やだ。」

 

……イマイチ締まらないな。

余談だが後日行ったフェイトとの模擬戦ではスピードで圧倒されて完敗する事になる。相性を思い知った。

 



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