Program code: IS (音原織那)
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プロローグ

懲りずに新しいのを書いてしまいました。


 気が付けば、俺は俺であった。

 いや、当然の事を言っているかのように聞こえてしまうがそれが現状であった。但し、俺が26歳であったという記憶に嘘がなければという前提の話だ。

 今、俺は木製の机と椅子に座り、白い服を着ている。まぁ、そういったこともあるだろう。

 だが、俺と同じくらいの背丈の少年少女達が自分と同じ白い服を着て騒いでいるのを見るとそうも言えなくなってしまう。

 どこから見ても、彼らの年齢は五歳か六歳といったところだろう。まったく何が起きているのかわからないが、今の自分は彼らと肉体年齢が同じであるようだ。

 「先生、さようなら~!」などと言って駆け出していく彼らの姿を見るにここは小学校で、授業が終わって帰宅時間となったのだろう。

 駆けていく彼らの後に続いて、校門を目指す。学校名を見れば、自分が知っている場所か否か程度を知ることができるだろうと思ったからだ。

 だが、ある意味でその予想は覆されたと言えるだろう。確かに知っている場所ではあったが、その土地には行った事もなければ行ける筈もなかった筈の場所であった。

 

『私立聖祥大附属小学校』

『海鳴市』

 

 ……リリカルでマジカルな砲撃魔王少女の世界にでも来てしまったというべきなのだろうか。俺が知っているのはこの世界には魔法があり、プログラムと演算処理によってそれが成されるという事と舞台である場所の名前、主人公が通うという学校名、あと知っているといえば主人公の別名が悪魔だの大魔王だのという事だけだ。

 実際のストーリーについては触り程度しか知らず、友人に熱く語られたが故に知っているだけの話だ。

 ……あの友人が今の俺の状況を聞けば代われとキレ始める事だろう。

 だが、俺はロリコンでもペドフィリアでもない。こんな世界に連れてこられても嬉しくはない。

 まぁ、今俺がすべき事は自分の家を探すことだろう。

 

◇◆◇

 

 家を探す事はさして難しい事でもなかった。このくらいの年になれば、迷子を防ぐための住所が書かれた紙が鞄に入っているものだ。

 学校と自身が住んでいるマンションが近かったというのも探すのが簡単だった一因だろう。

 そして自宅に帰って一番驚いたことは両親が以前と変わらず、今の身体が俺『森下 暦(もりした こよみ)』の幼い頃の物とほぼ同一の物であるという事だ。二十歳を越えても童顔のまま髭が生える事もなく、身長146cm、体重39kg前後から変化する事がなかったこの身体には変化がなかった。

 友人からはリアル男の娘、リアルこよみちゃん等とからかわれる事が多く、プログラマーになった事もその理由の一端だったのではないかと今も思っている。

 だが言わせてもらおう、俺は身体にコードを流して魔法を発動する事もコードを見る事もできない。ましてや、ありとあらゆるコードを変換して金盥を召喚する事もできないのだと!

 ……まぁ?そんなことを言っても意味の無い事ではあるし、既に系統が違うとはいえ魔法が存在するかもしれない世界に飛ばされているのだ。もしかするとそういった事ができるようになるかもしれない。

 そんな事を考えながら生活していると、自分の身体が前とは何処か違う、何かがおかしいと思えるようになり始めた。

 例えば、簡単な計算から複雑な計算まで以前より早く計算できるようになっている気がしたり、プログラミングの知識から日々の細々とした出来事を細部まで覚えていたり、知りもしない筈の基礎理論が頭の片隅にフッと浮かんだり、それはもう『あれ?なんかおかしくないか?』と思えてしまえるような出来事が多々あった。

 そこで、バカらしい考えが頭に浮かぶ。以前、友人が話していたテンプレ転生、転生チートという言葉である。なんでも神様が間違って殺してしまった相手を転生させる代わりにチート能力をつけてくれるというものだとか、ここまで来てしまえばバカらしくともそういった考えを持ってしまうのも仕方の無い話だろう。

 どういった訳か幼い頃の自分になってしまった上に、周囲の環境まで違うのだ。何が起きていても不思議ではない。

 

 ……まぁとりあえず、ノートパソコンを両親に強請って見るか。



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code:1 原作開始?……いや、その足音だけだ

早くも書き上がったので投稿します


 頼みに頼み込んで何とか買って貰ったノートパソコンを弄っていてわかった事が三つある。

 一つ。俺、森下 暦は前回と比べて頭の回転力および記憶力が格段に良くなっている。

 二つ。自滅ネタであった筈の『よくわかる現代魔法』におけるプログラミング技術の基礎理論が知識として刷り込まれている。

 三つ。『宇宙のステルヴィア』に登場したマテリアルプログラムの基礎理論が知識として刷り込まれている。

 まぁ、二つ目と三つ目は一緒に扱ってもよかったかもしれないが、俺にとって二つ目の部分だけは一緒に扱う訳にはいかなかった。なぜなら、この世界に『よくわかる現代魔法』の小説なりアニメなりといった物が存在するのであるならば、ある意味で今後の平穏は遠退くかもしれないという事でもあるからだ。

 それはさておき、冗談のつもりで言っていた魔法が使えるかもしれないという事が現実となってしまった。まさに瓢箪から駒、嘘から出た真。

 俺の名前が森下 暦であればこそ、魔法を扱えると思わせておいて盥。等という笑えもしないギャグが発生するかもしれない。

 物は試し、とばかりにノートパソコンにコードを打ち込んでいく。

 危険なことは何もない。いや、コードこそ危険の無いものかもしれないが、毛細血管の破裂に筋肉痛という部分がどうなるかが不明という事はあるかもしれない。

 『よくわかる現代魔法』では電気信号を伝えることのできるシリコン基盤や筋肉が重要となってくる。この世界の魔法は0と1で構成されたコードという名の呪文を利用する事によってこの世界の物理法則と異世界の物理法則の間にある障壁を脆くすることによって異世界の物理法則を持ち込むという物だが、ぶっちゃけ0と1で構成されたプログラムを電気信号を伝えることのできる物に通す事で、不思議な現象を起こす事ができますよって事な訳だ。んで、魔法には自分の体を通電するコードで魔法を起こす古代魔法とパソコン等を用いてシリコン基盤を通電するコードで魔法を起こす現代魔法があるそうな。古代魔法は細かい調整は聞くが人の筋肉が脆いので毛細血管の破裂や筋肉痛が起きるが、現代魔法は調整が難しい代わりに同じコードを何度も流し続ける事ができるため、威力が強い代わりにそれなりのエネルギーを食う。

 まぁ、話してみれば、どちらが安全かなど一目瞭然。にも関わらず、今回俺が使用としているのは古代魔法と現代魔法を組み合わせた方法で、原作の森下 こよみが初めてコードに触れた時と同じ方法を使おうとしている。

 この理由は至って単純だ。現代魔法だけではコードを見る事が難しいためだ。自身に刷り込まれた知識によると、知覚が多少できるだけで古代魔法を使った事がなければコードを見る事も単身で扱う事も難しいそうな。

 故に、一種の好奇心に近いものではあるがただ単純に非導電体を発光させるだけの『セント・エルモ』のコードを99%完成した状態にしてUSBのシリコン基盤に転写する。

 あとは簡単だ。ほぼ完成されたコードを読み取り、それを完成させることによって俺自身が魔法の点火装置になる。ただ、それだけだ。

 USBを裸足で踏みつけ、手に非導電体の杖という名の木の棒を持つ。

 ピリピリとした感覚が足から伝わってくるが、棒に意識を集中しても棒は発光しない。

 

「そう言えば、原作でも気持ちを落ち着けて自分のやり方を模索しろとか言ってたっけ」

 

 魔法を前にして落ち着くというのも難しい話だ。アニメ版のようにご飯の事に思考が飛んでしまうということも考えられる。流石に、初めて魔法を使うという記念すべき瞬間に考えていた事がそれなのは嫌だというものだろう。

 そう、せっかくの魔法だ。思い出に残るようなものにしたい。

 

『暦~?ご飯出来たから早く来なさい』

 

「え?」

 

 瞬間。右足から電流が流れるようにして身体中を駆け巡り、下腹部で二重螺旋を描いてから右足から抜け出ていく。

 それに合わせるかのように手に持っていた木の棒が光始める。

 

 始めて使った魔法は母からのご飯の呼び掛けによるものであった。

 

 

◇◆◇

 

 ご飯魔法事件から約2年、カチューシャを取り上げるという行為をしていた女子を他の女子が張り倒すといった場面に遭遇して、昨今の女の子は怖いものだと考えたり。妙に女子に騒がれつつも特定の女子を執拗に話しかけようとする男子を見て最近の子供はませていると考えさせられる日々が続き、友人が言うにはここから物語が始まるんだとかいう小学三年生になった。

 

 主人公が誰なのかも知らないし、主人公と同学年なのかも知らないが、確かに事件は起きた。

 2341。ある日突然日本に向かって発射されたミサイルの数だ。

 そして、21。時期を同じくして海鳴市に降り注いだ何かの数だ。

 前者は日本に到達する前に白いパワードスーツを纏った誰かに打ち落とされ、後者はリリカルでマジカルな原作が始まったと言うことの証だ。

 何故原作をまともに知らない筈の俺がそれを察知できたのか、簡単なことだ。俺の自室にその災厄の種が飛び込んできたからに他ならない。

 宇宙船なのかと聞きたくなるほどに静かに、俺の前で着地したそれは友人から話を聞いていた通りの形状にシリアルナンバーが記入されていた。

 正直、俺はリリカルでマジカルな原作に関わるつもりはない。というよりも、もっと面倒なものに目を付けられる可能性を考えれば尚の事だ。

 2341。この数字を聞き、白いパワードスーツ等といえば考え付くのは『インフィニット・ストラトス』、ISだ。災厄ウサギと災厄の種、どちらも面倒なことには代わり無いが、災厄の種については主人公とやらが解決してくれる筈だから問題ない。

 それよりもどこで何をしているかわからない災厄ウサギの方がもっとヤバイに決まってる。PCの中身を見られただけで終わる。ISの原作以上にヤバイ状況になるのは目に見えているってもんだ。

 兎にも角にも対策をしなくちゃいけない。親にネットを止められていたのが功を奏した。ネットに繋がっていないものを盗み見るなんて事が災厄ウサギであったとしても無理だ……そう願いたい。

 あたふたとしながら対策を考えていると白騎士事件の前日に落ちてきた災厄の種、ジュエルシードがフッと目に入った。

 

 

 ……これ、願いを叶えるんだったよな?願いを歪めちまうらしいけど。

 

 

 ここで思い出したのは『よくわかる現代魔法』のアニメ版のはじめの方と小説版の第六巻だ。

 アニメ版では世界にコードは溢れている。自販機にすらコードが取り巻いているような描写があった。

 そして、小説版の第六巻ではこよみの魔法が暴走して人間が金盥になってしまうと言う喜劇にも悲劇にも見えたシーンがあった。……まぁ暴走と言うには少々違うかもしれないが。

 ここで重要なのは人間が金盥になったという部分である。ありとあらゆるコードを変換して金盥を召喚するという森下 こよみの持つ呪われているとも取れる能力はコードに対して有効な筈である。そして、自販機や街中にすらコードが取り巻いているような描写を見れば、こう考えてもいいのではないだろうか?

 

 

 物質にはその物質情報のコードのようなものが存在する。

 

 

 もちろん、見ることもできなければ森下 こよみの持っているような固有能力の暴走でもなければ干渉することはできないだろう。

 だが、これは。ジュエルシードは種類は違うが魔法に関する魔法の産物だ。

 これの力の根幹とも言えるコードくらい見る事ができるのではないだろうか。

 直接触らないようにして机の上に移動させたそれを観察する。

 見えない。……いや、見えないんじゃない。青い光で見切れないだけだ。

 何とかできるかはわからない、それでも見えるかもしれないと虫眼鏡を持ってきてさらに観察する。

 

 観察を始めて一時間が経過した頃、漸く青い光が何なのかがわかった。

 青い光で構成された0と1の羅列が渦巻いているのだ。それも、ぎゅうぎゅうと押し込めるかのように。

 

 前に一度友人に見せられた画像に魔方陣を展開している物があった気がする。もしかするとリリカルでマジカルな魔法は魔力を介して魔方陣を展開し、魔方陣から魔力にコードを流すという面倒な作業をとっているのかもしれない。しかもコードを認識していないがために魔方陣がたまたま産み出したコードで魔法を使うという事態によって方向性が魔方陣なんかが主体になってしまったという。

 

 非効率というか、なんというか。

 まぁ、それは置いておいて、このジュエルシードは恐らく求められた内容のコードを作り出す事を主眼と置いているのだろう。だが、生物の認識ほど曖昧なものない。間違った認識や細部まで考えていなかったが故におかしな形で願いを叶えてしまうのだろう。

 他にもコードを作り出しても、魔力の塊であるジュエルシードは細部の確認をする前に実行してしまうからこそバグが多いというのも原因の一端だろう。

 

「あれ?このコードって俺にぴったりなんじゃ……」

 

 そう。欲しい内容を大雑把にコード化してくれるのだから後はそれに合わせてバグ取りやらなんやらの修正を行えばいいだけだ。

 流石に、欲しい内容によっては必要となる電力も変わってくるだろうが、今は置いておこう。

 そこまで考えて、俺は何とか見ることのできるコードを急いでPCに打ち込んでいく。

 これをこのまま置いておけば、砲撃魔法を連射する魔王や脱げば脱ぐほど速くなるという痴女とやらに狙われるかもしれん。ならば善は急げというものだ。

 

 

◇◆◇

 

 

 大漁大漁。というには少しおかしいかもしれんが、概ねいい結果を残せたという所だろう。

 あの後、何とか解析する事のできたコードをPCに永久保存できるようにしてから大本であるジュエルシードを学校の校門の上に投げ置いた。

 簡単に見つけられるが子供を見ている教師にもわざわざ登ってまで上を見る事もない子供にも見つけられることはないだろう。

 後は主人公とやらに任せておけばいい。

 そう思っていたのだが、思っていたよりも主人公の行動範囲が広かった。

 外を歩くと何故か主人公が居ると思われる場所にぶつかる。結界のようなものにぶち当たったり、罠のような物で金髪少女を縛り上げたところでピンクのドギツイ砲撃魔法っぽいのを撃って笑っている同じクラスの茶髪ツインテールの女子がいたり。

 主人公がどいつだかは知らないが、転移、結界、罠、砲撃と様々な魔法に使われているコードを見る事ができてホクホクだったと同時にあの女子とは関わらないようにしようと心に強く誓った。

 

 そして、ジュエルシードを解析したことで得られた一番の成果が今の俺のノートパソコンだ。

 ノートパソコンのOS等を含めた全てのデータを『宇宙のステルヴィア』のマテリアルプログラムに変換した上で、外部からのアクセスはマテリアルプログラムに対応したPCでなければできないようにした。

 マテリアルプログラムの基礎理論はわかっていたのだし、0と1で構成されたプログラム言語が使えなくなるわけではないという事で水陸両用ならぬ現在未来両用のシステムを構築するためのコードを作ってくれたジュエルシードのコードには本当に感謝としか言えない。

 

 まぁ、マテリアルプログラムといってもプログラム言語における命令文なんかを立体の図形に置き換えて、それを組み合わせる事でプログラミングができるというパズルっぽいような物なんだけど。今の時代から見れば解析不能か理解不能になってくれるだろう。

 既存の概念を打ち破ったとも言える災厄ウサギだが、流石にこのPCにアクセスするのは難しい筈だ。

 これで暫くは平穏な人生が送れることだろう。

 

 

『暦?私達、引っ越すことになったわよ。しかも東京の一軒家ですって!』

 

 

 平穏な人生、送れる……よな?




こうして主人公は災厄ウサギの興味を引くことを考えずに行動する。


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code:2 災厄は続くよ何処までも

 短くなってしまいましたが、新話投稿です。


 やって来ました東京へ。

 ……てか、父さんの仕事って何なんだろうな?

 前回はしがない銀行マンだったはずなんだが、さらっと一軒家を購入して引っ越すとは……ん?

 前より災厄ウサギに関わる可能性が高くなってね?

 しかも白騎士事件から二ヶ月も経ってない今は6月前だ。

 モッピーこと侍ガール、篠ノ之 箒が引っ越すのが三年終わり頃だった筈だから……。

 妹LOVEの奇人変態である災厄ウサギがこの辺に残っていないわけがない。もし、残っていないとしても何かしらの方法で盗撮なりをしてるに違いない。

 アンダーラインを作ったんだって言われても納得しそうで怖いわ……。

 うん、全体的に関わらない事を祈るしかないな。

 

「織斑 一夏だ。よろしくな!」

 

「一夏の姉の織斑 千冬だ。一夏と仲良くしてやってくれ」

 

 ……願いも虚しく、御隣さんへの挨拶で全てが吹き飛んだ。

 テンプレか?!テンプレだから諦めろとでも言うつもりか?!畜生!

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 一夏に関われば箒にも関わる事になるだろう。すなわちそれは、災厄ウサギと関わりを持ってしまう事に他ならない。

 あ……俺詰んだかもしんない。

 

 

◇◆◇

 

 

 俺の心配を他所に意外な事ではあるが、俺が箒と関わる事は殆んどなかった。

 よくよく考えてみれば、一夏と箒の関係は放課後に篠ノ之道場での剣道が中心となっていたのだから、基本インドアで学校でしか話したり遊んだりする機会がない俺と関わりがある方が可笑しいと言えるだろう。

 ……だから。

 

「ねぇねぇ、君聞いてる?この束さんが話しかけてあげてるんだからちゃんと反応しなよ」

 

「あ、はい。すみません」

 

 関わりがない筈のこの人との関わりも気のせいだという事にして欲しい。

 今世紀最大の大天災(誤字に非ず)篠ノ之 束。自身の作ったパワードスーツ『IS』を世界に認めさせるためだけに白騎士事件を起こした傍迷惑な災厄のウサギ(ラビットカラミティ)。

 はっきり言って、彼女に関わるだけで死亡フラグが乱立している気すらしてきてしまう。

 

「それで?なんでしょうか」

 

「君の使ってるPCにアクセスできないんだよね~。もっと正確に言えばセキュリティから無理やり引っこ抜いたデータすら開けないんだよね」

 

 ……迂闊だったというべきだろうか。

 今後、電脳世界にウサギ在り等という言葉が囁かれても可笑しくないこの人が織斑家の隣に引っ越してきた人間のPCに興味を示さないわけがなかった。

 どうしようもない。そうとしか言えないだろう。

 

「当然でしょうね。プログラムの形式そのものが根本的に違いますから」

 

「ふ~ん?ま、いいや」

 

 簡単に引き下がった?

 意外すぎる。分解させろとか、強奪していったりとかしそうだと思ってたんだけど。

 

「やけにあっさりですね」

 

「プログラムなんてどうでもいいんだよ。この束さんに掛かれば簡単に終わるだろうし。それよりも、私が知らないプログラミング技術を持ってる君の方が面白いね」

 

 ……え゛?

 君の方が面白いね。面白いね。お・も・し・ろ・い・ね。

 興味を持たれたって事は死亡フラグ?

 あれだよな、一夏は世界最強が守ってるし、箒は最終的には保護プログラムで国が守る。

 ……俺は?

 

「いやいやいや!面白いものなんてなにもありませんって」

 

「君の意見はどうでもいいんだよ。決めるのは束さんだから」

 

 それから、束さんはちょくちょく俺の前に現れては帰っていくという事を繰り返し、箒が保護プログラムによって転校するとパッタリと姿を見せなくなった。

 ……まぁ、直接会ってないだけでやり取りはしてるんだけど。

 

『こよみちゃん』

 

『なんですか……っていうか、ちゃん付けはいい加減やめてください』

 

『あげる』

 

『え?』

 

 関わってしまったものは仕方がないと開き直り、彼女が持っている知識を学べるだけ学ぼうとしたのが原因だったのかもしれない。

 本当にそれだけとも言えるやり取りで投げ渡されたソレはある意味で破滅の道を示しているのだろう。

 

『ISコア』

 

 恐らく、世界に467個しか無いものとは別の物だろう。

 火種になる未来しか思い浮かばない。

 ……うん。俺、詰んだ。

 

 

◇◆◇

 

 

 四年生になって、セカンド幼馴染みこと中華娘、凰 鈴音が俺のクラスに転入してきた。

 因みに、一夏とはクラスが別だ。

 案の定というか、仕方ないというべきか。

 日本語が堪能であったわけでもない彼女は言葉遣いがぎこちなかった事から虐めにあってしまっていた。

 

「リンリン?パンダの名前じゃん」

 

「おいリンリン、笹食えよ~」

 

「きゃっ!?」

 

 原作では一夏が助けていたが、同じクラスである上に、男が女を虐めるという行為がどうしても我慢できなかった。

 好きな子に軽い悪戯を仕掛けるくらいならまだしも、突き飛ばして蹴りを加えようとするのはやり過ぎとかそういった問題じゃない。

 

「おい!」

 

「あぁ?なんだ、森下じゃん」

 

「邪魔すんじゃねぇよ」

 

「人の名前を馬鹿にするわ、女の子を突き飛ばすわ……いい加減にしやがれ!」

 

 まぁ、今後の人生に未来が見えなくなってムシャクシャしていたのもあったんだろう。前回の時の経験をフル活用して悪ガキ共を殴り倒し、気がつけば先生に説教をされ、保護者呼び出しという結果が待っていた。

 騒ぎを聞き付けて隣の教室からやって来た一夏はよくやったなどと言っていたが、その表情はどこか驚いていた。

 事情を聴いた母もまた、驚きながらも今回の事を注意してきたが、後でよくやったなどと誉める時点で子供の教育にこれは良いのだろうかと少々疑問を覚えるものだ。

 因みに、驚いていたのはインドア派の俺が一方的に喧嘩で勝っていたからだそうな。

 

 そんな事があってから、俺と一夏と鈴音(鈴で良いと言われた)は連み始めた。

 中学に入ってからはそこに五反田 弾と御手洗 数馬が加わり、バカなこともやりつつ中学時代を過ごし、原作の通りに鈴が中国に帰ってしまった中、俺達は受験生となり中学を卒業した。

 まぁ、原作の通りに一夏が誘拐されたり、受験会場を間違えたりしてなんやかんやあったのは割愛しておく。

 重要な事ではあっても、俺自身がそんな事を言っていられる状態ではないからだ。

 

『ISコアを個人的に所有している男子!二人目の男性適合者か?!』

 

 新聞の見出しやTVで放映されている情報を見ながら、俺は災厄のウサギを思い浮かべて一つため息をついた。



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code:3 原作開始!……あれ?

 視線。

 熱い視線から観察するような視線まで、多くの視線に晒されている。

 前の方で餌をやらないでください、お手で触れないでください的な動物園の大熊猫を彷彿とさせる状況にいる一夏は既に思考を放棄しだした頃だろうか。

 

「全員揃ってますね?それじゃあ、SHR(ショートホームルーム)を始めます!」

 

 元気な声でハキハキと自己紹介をしていく一年一組の副担任、山田 真耶先生。……なんだろう何処か親近感が湧くな。

 先生に促されて一人一人自己紹介をしているのだが、全員が全員話を聞いていない。声を掛けても直ぐに気付く事なく、何回か呼び掛けられて漸く自己紹介をしていく有り様。

 徐々に先生が涙目になり始めた頃にソレは起きた。

 

「お、織斑君?」

 

 無視。シカト。言い方は色々あるだろう。

 多くの人が声を掛けても気付かない原因が、声を掛けても返事どころか身動きすらしない。

 実際のところは思考放棄してしまったのが原因なんだろう。

 

「織斑君!織斑 一夏くんっ!」

 

「は、はいっ!」

 

「あ、あの、ね。大きな声出しちゃってごめんね?今自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑君なんだよね。ごめんね?自己紹介してくれるかな?」

 

 ……もう、いっぱいいっぱいという風にしか見えない。何度も念押しをして、何とか立ち上がってくれて一夏を見てほっとしている。

 だが、一夏にまともな自己紹介ができるとは思えない。

 

「織斑 一夏です」

 

 名前を告げた後、ゆっくりと回りを見回し、冷や汗をかき始める。

 何かを決心したかのように大きく息を吸い込み、叫ぶ。

 

「以上です!!」

 

 ズガッ!

 

「げぇ!ま、魔王!?」

 

 鈍い音と共に一夏が机に叩きつけられる……が、直ぐに跳ね起きてバカな事を言い始める。

 ……この空間はギャグ仕様にでもなっているのか?

 普通なら、怪我するし、そうでなくても暫くは起きれないと思うんだが。

 

「まったく、誰がトラウマを作り出す事の得意な砲撃手だ」

 

「せ、せ、せんぱぁい!!無理です。私には無理だったんです!先輩の代わりなんて勤まらなかったんですぅ!」

 

 あ、山田先生が壊れた。

 まぁ、あそこまで酷いと仕方ないのかもしれないな。

 そして、もしかしなくても知ってるのか?魔王。

 

「……はぁ、諸君。私が織斑 千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが私の仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ないものには出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことはよく聞け。いいな」

 

『キャーーーーー!千冬様よ!』

 

『ずっとファンでした!』

 

『御姉様に憧れてここに来たんです!北九州から』

 

 北九州て……普通の高校ならまだしも、IS学園じゃ珍しくもないよな。

 

「分かったのなら返事をしろ!」

 

『はい!』

 

 おぉう、独裁政治。

 あながち一夏の言っていた魔王発言も間違ってないんじゃないか?

 

「それで?まともに自己紹介もできんのか」

 

「いや。千冬ねぇ、俺は――」

 

 ズパンッ!

 

「織斑先生だ」

 

『もしかして、織斑君って千冬様と親戚?』

 

『い~な~。変わって欲しい』

 

 変わって欲しくないし、寧ろ君らの位置と俺の位置を変わって欲しい。

 ……生徒のざわめきはどうでもいいらしい。

 呆れたように一夏を見た後、織斑先生はゆっくりと回りを見回し、俺に視線を向けてきた。

 ……あー、やっぱり始めから知っている人には効かないんだろうな。

 山田先生もわかってたみたいだし。

 

「……まったく。そこのコソコソしてる男子!お前も自己紹介してみろ」

 

 その一言で、俺が携帯で流していた認識阻害のコードが意味をなさなくなった。

 回りに居た女子が急に俺という存在を認識し始めたからだ。

 まったく、パンダになりたくなかったから早めに来てコードを流してたってのに。

 

「……森下工業テストパイロットの森下 暦です。そこのギャグ要員と同じでISを動かせてしまったために此処に来ました。皆さんが気になっているであろうISコアに関してですが、突如現れたウサギに渡されました」

 

 ウサギという言葉に反応した人間が数名。あの人を見た事があるか、話を聞いたことがあるのだろう。

 まったく、どうしてIS学園なんかに来なきゃいけなくなったのやら。

 

 

◇◆◇

 

 

『ISコアを個人所有している男子!第二の男性適合者か?!』

 

 ある意味で突然だった。織斑 一夏のIS起動が発表されてから二日と経たない内に、電波ジャックを起こした束さんが468番目のISコアをとある男の子に渡したのだと大暴露。

 流石に俺の名前は出さないでくれたが、男性適合者確認試験の実施が早まってしまった。

 このままでは、場合によってはISコアを取り上げられてモルモット。なんていう未来さえありえるのだ。

 どうするべきか考えていたが良い案が浮かばず、仕方ないので両親にぶっちゃけた。

 まぁ、それが最善だったんだろう。

 父の職業が銀行マンではなく工業会社の社長だったというのも驚いたが、ISの台頭に合わせて上手く波に乗ったが故に会社が急成長したんだそうな。

 ……それが原因での引っ越しという事だったらしい。

 流石になんの実績もない企業にISのコアを任せる訳にはいかないとパーツや武器の製造だけに留まっていたらしいが、そろそろ実機を使った試験もしたい。

 そこに今回のニュース。しかも、張本人が自分の息子ときた。

 

『ISは作ってやるから武器と一部パーツのテストを頼みたい』

 

 大雑把に言ってきた内容はそんな感じ。

 まぁ、一企業が作る事のできるISなんてのは打鉄をベースにパーツを取っ替えただけの物だが、そこに俺は一つの要望を出した。

 

『処理速度とエネルギー量だけを主軸において、武器はテスト品以外はブレード一本で』

 

 端から見れば自殺行為も良いところだろう。ある意味で打鉄よりも低い性能の物を専用機にしてIS学園に行くというのだから。

 しかも、システム関係については自分で手を加えるから弄らなくても良いというのもパーツばかりを扱っていた企業としてはあまり気を使わなくても良いのだから両手をあげて喜んでいた……社長である父以外。

 

 心配する父に大丈夫だからと説得をし、どうにかこうにか丸め込んで出来たのが、IS名『code』だ。

 何故その名前にしたのか、父も企業の人間も不思議に思っていたが詳しい事を聞いてくる事はなかった。

 ISを作っている最中に、父が政府側に話を通したらしく。めでたく、俺のIS学園への入学と今後の未来が首の皮一枚で繋がったというわけだ。

 

 

◇◆◇

 

 

 回想をしている内に、自己紹介も全て終わっていたらしく、一夏と箒が連れだって教室の外に出ていくのが見えた。

 ………………あれ?

 このままだと俺がパンダとして視線を独り占めする事になるんじゃ……。

 

「久しぶりね。あんまり話した事はなかったけど、覚えてるかしら?」

 

「久しぶり、あんまり変わってないね森下君」

 

 まぁ、杞憂だったようだ。

 声のした方向を見ると、何処かで見た事があるような金髪の女の子と紫髪の女の子が立っていた。

 

 

 

 ………………………………ん?



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code:4 御嬢様

今回は昨日投稿できなかった分と、明日から何日か暇がないかもしれないと言うことで、いくらか増量させていただきました。


 まだ平穏を感じる事ができた海鳴での日々、確かに彼女達のような髪をした女子がクラスに居た気がする。

 確か……その二人の名前は。

 

「ドSの茶髪女子の友達だったバーニングさんと月村さん?」

 

 そうそう、彼女等にくっついて回っていた男子がそんな事を言っていたような?

 何故だろうか、彼ならばこの場にいても違和感がないとすら思えるんだが。

 

「バ・ニ・ン・グ・ス!それにドSって誰の事よ!?」

 

「え?いつも付き纏っていた神風君がそう言ってた気がするんだけど。ドSっていうのは……ねぇ?」

 

「えっと、私に聞かれても……」

 

 ふむ?この二人はあの事を知らないようだ。

 俺が海鳴から此方に来る前に、茶髪の女子こと高町 なのはが金髪ツインテールの女子を縛り上げた上にピンク色のビームで撃ち抜いていた瞬間を見た事があるという経緯を話すと二人の態度は一変し、顔を少しひきつらせ、授業ももうすぐ始まるという事で挙動不審になりながら自分の席に戻っていった。

 

 ……なんだか、悪い事をした気がする。

 

 

◇◆◇

 

 

 休み時間が終わり、授業が始まった。

 そう、入学式が有ったその日にも関わらず授業があるのだ。

 流石エリート育成学校……もう少し怠けてくれても良いんだよ?

 しかも、初回の授業が法律上でのISの扱いという意外とハードな内容。今まで、ISに関する知識を学ぶ必要の無かった男子には辛い状況じゃないだろうか。

 ……まぁ、ISコアを渡された時点で無関係じゃなくなった俺は法律関係から基礎理論まで、吸収できる事はできる所から吸収してきたから問題ない。

 問題があるとすれば……そう、一夏だ。

 確かに入学前に参考書が届きはしていたが、あの短期間で覚えるには量が多すぎた。

 故に、前の席で訳も分からず、真っ青な顔で回りを見渡している様な状況が出来上がっているのだろう。

 

「織斑君、何かわからないところがありますか?」

 

「あ、えっと」

 

「わからないところがあったら聞いてくださいね?なにせ私は先生ですから」

 

 あまりにも挙動不審だったのだろう、授業を担当していた山田先生が気を効かせて声を掛ける。

 ……というか、なんで担任の織斑先生が授業をやらないんだ?

 まさか、実践や武器の知識ばかりで法律とかの面倒なことは教えられな――

 

 ギロリ……

 

 怖っ……余計なことは考えない方がいいな。

 気が付けば、一夏が何かを決心したかのように大きく息を吸い、先生に目を向ける。

 

「先生!」

 

「はい、織斑君!」

 

 自己紹介の時も思ったが、恐らく山田先生は新任なんだろう。いきなりSHRを受け持った後に授業、先生としての本分を全う(まっとう)出来る事に喜びを感じているらしく、返事をする声にも力が入っている。

 だが、それは一夏に対しては無駄な望みかもしれない。

 あの様子から考えるに恐らく――

 

 

「ほとんど全部分かりません!」

 

 

 ――分からないなら分からないなりに恥を掻き捨てて自分の無知をぶっちゃけようとしているだけなのだろう。

 聞くは一時の等という精神の下発言したんだろうが、今の状況は不味い事に気がついてないようだ。

 

「……え。ぜ、全部、ですか……?」

 

 喜色満面だった筈の山田先生は自分の教え方が悪かったのだろうかと途端に顔面蒼白になって回りを、否。俺を見た。

 

「ほ、他に今の段階で分からないという人はいますか?も、森下君はどうですか?」

 

 既に顔色が悪いというレベルですらない。此処で俺が一夏と同じ事を言えば倒れてしまうんじゃないだろうか?

 まぁ、理解できてるし問題は無いんだが。

 

「いえ、とても分かりやすい授業でした。今の段階で分からないことはありません」

 

「そ、そうですかぁ……」

 

 俺の言葉に気が抜けたんだろう。山田先生は気が抜けたように顔を緩ませた。

 ……まぁ、その隣で『う、嘘だろ?!裏切ったな、暦!』とでもいうような驚愕の視線で俺を見ている奴がいることの方が気になるが。

 

「……織斑。入学前の参考書を読んだか?」

 

「参考書……?」

 

「はぁ……。他の者の机の上にある一際厚い本の事だ」

 

「……あ」

 

「なんだ?」

 

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 ズガンッ

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者!」

 

 ……此処まで来ればもうギャグだな。

 織斑先生と一夏のコントをやってるようにしか見えん。

 

「後で再発行してやるから一週間以内に覚えろ」

 

「いや、あの量は……」

 

「やれといったら?」

 

「……やります」

 

 おぉ、見事に調教されている。

 

「森下」

 

 ……げっ。こっちにまで飛び火してきたぁっ!?

 

「はい」

 

「お前は本当に理解できているんだよな?」

 

「俺の事はあの人から何か聞いてるんじゃないんですか?まぁ、ISコアを渡されたのが小学校の時ですので、調べられることは調べてましたよ?保身の為に」

 

 ザワッ

 

「……そうか。すまんな」

 

「いえ、構いません」

 

 ん?何に対しての謝罪だ?

 まぁ、いいが。

 取り合えず、文句を言うこともできずに沈んだ一夏は山田先生に放課後、補修をして貰える事になったようだ。

 

 

 そして授業が終わり、また休み時間へ。

 

『ちょっとよろしくて?』

 

 ん?あの金髪縦ロールは確か、チョロリアことセシリア オルコットだったか。原作通り、一夏に絡みに行ってくれた事はありがたい。

 休み時間が終わるまで束の間の平穏を味わうことが出来るだ――

 

「ちょっといい?」

 

 ――うん、まぁ予想はしてたよ、予想は。

 さっきの休み時間では話を途中で切り上げる形になった訳だし。

 

「何かな?」

 

「さっきの話をあっちに居る時に誰かに話さなかったのはそういう事?」

 

「……その話は放課後に何処か場所を変えてしない?」

 

「……そう。分かったわ」

 

 今のやり取りから、どういった範囲にしろ俺がオカルト的な何かに関わっていると分かってくれたようだ。

 だが、俺からしてみれば彼女達に聞きたい事がある。

 

「俺からも聞きたい事があるんだけど」

 

「何かな?」

 

「あそこって大学までエスカレーターだったと思うんだけど。なんで此処に?」

 

「あぁ、私は機械なんかに興味があるっていうのとこれからの事を考えるとISに関係した勉強はしておかなきゃいけないと思ったからだね」

 

「私は家の会社にISを扱う部門があるからっていうのもあるけど、将来のために知識は必要になってくると思ったからね……っていうか――」

 

 ……うわぁ、流石に予想外だな。ある意味なし崩し的に入学してきた俺と一夏とは志そのものが違うな。

 

 ガタガタッ

 

「――え?」

 

『あ、あ、あなた、本気でおっしゃってますの?!』

 

「何があったんだろう?」

 

 誰かが転げ落ちる音と突然の叫び声に俺達は話を中断した。

 ……まぁ、叫んでいるのがオルコットさんな時点で一夏が関係してるんだろう。

 先程まで俺の事をいくらか警戒していた様子の月村さんとバニングスさんが一夏の居る方に目を向ける。

 

『おぅ、知らん。代表候補生ってなんだ?』

 

「「「……うわぁ」」」

 

「ねぇ、確か織斑君って森下君と中学が同じだったよね?」

 

「うん、まぁ……友人だけど、あそこまで無知だとは知らんかった」

 

 いや、原作ではそんなシーンもあったが俺や弾とやっていたゲームはISの国家代表が使用していた機体が出ていたわけだから、基本知識くらいは持っていると思ってたんだが。

 

「あれは……無知っていうより、考えを放棄してるんじゃない?」

 

「あぁ……そうかも」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

『また後で来ますわ!覚えてらっしゃい!』

 

「あ、私達も席に戻らなきゃ」

 

「じゃ、放課後にね」

 

 ……忘れてなかったのか。

 

 

◇◆◇

 

 

「それでは、この時間は実践で使用する各種装備の――あぁ、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出場する代表者を決めねばならんな」

 

 ……それって授業時間に決めるんじゃなくて別に時間をとって決めるようにするべき内容なんじゃないのか?

 まぁ、考えすぎるとまた睨まれるからやめとくけど。

 

「クラス代表は……まぁ、言ってしまえばクラス委員長みたいなものだ。クラス対抗戦に出場する他には教師の手伝いや生徒会の開く会議に出席したりと様々な事を行って貰うことになるだろう。一年間変更はないからそのつもりでな」

 

『はい!織斑君を推薦します』

 

『わ、私も!』

 

 ……始まったか、因みに織斑という苗字の生徒はこの学校にお前しかいないと思うぞ。

 他人事のように捉えていると痛い目に――

 

『私は森下君を推薦します!』

 

『私も!ISコアを持ってるって事は専用機持ちだし!』

 

 ――遇うのは俺らしい……。

 いや、奴と違って俺にはまだ挽回の余地が……!

 

「ふむ、では候補者は織斑 一夏と森下 暦だな……他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」

 

「お、俺?!」

 

 ……ようやく気がついたのか。

 自分から来たくて来た訳じゃないからと、茅の外から見ようとする節があるな。……まぁ、構わないが。

 

「織斑、席につけ。邪魔だ。他に居ないのか?居ないならこの二人で」

 

「ちょっ、ちょっと待った!俺はそんなのやらな――」

 

「自薦他薦は問わんと言った。他薦された者に拒否権などない」

 

「いや、でも――」

 

『「待ってください!」』

 

 ……声が被ってしまった。

 だが、俺が他薦から抜け出すにはこの方法しかない……!

 

「あー、オルコットさんだったか?悪いが先に言わせてもらいたい」

 

「なんだ森下。他薦に拒否権は無いと今織斑に言ったが?」

 

 ……おい、なんだよ一夏。その『頑張れ暦!お前ならやってくれる!俺はお前を信じてるぞ!』とでもいうような視線は。

 俺の場合、お前の救世主にはならないんだが。

 

「はい、推薦されたのは構いません。ですが、理由の中に専用機持ちだからという言葉が有ったために一言言わせて欲しいんです」

 

「……なんだ?」

 

 ある意味の茶番を織斑先生も見抜いたのだろう。少々、顔が笑っている。

 

「織斑先生はご存じかもしれませんが、俺は今回の入学に当たって専用機の一時貸与を学園に行い、その機体情報の全てを提供させていただきました。その対価として、以降俺の専用機の情報を詮索しないという契約を行わせていただきました」

 

 ザワッ

 

 周りの生徒がそれを聞いて驚きの表情を浮かべる。勿論、先程まで息巻いていたオルコットさんやバニングスさん、月村さんも信じられないといった表情で俺を見ていた。

 

「あぁ、そう聞いている」

 

「それによって、俺の機体情報は調べればすぐに分かってしまいます。何よりも俺の機体は情報処理能力とエネルギー蓄積量を除いて打鉄以下のスペックしかない事を此処で明確に述べさせていただきます」

 

『え、それじゃあ……』

 

「此処まで聞いて、まだ俺を推薦する人がいるなら手を挙げてください」

 

 手を挙げる人は、いない。

 

「以上です。オルコットさん、続きをどうぞ」

 

「え、あ、はい」

 

 何とか乗りきった、という感じだろう。

 一夏はまたも『裏切ったな!』という視線を向けているが、俺も我が身が可愛い。

 先程まで息巻いていたオルコットさんも出鼻を挫かれて多少落ち着いているようだし、原作道理にはならないとは――

 

「そのような選出は認められません!第一、男がクラス代表だ等といい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと?!」

 

 ――おぉう。

 俺の予想は見事に覆されたようだ。一夏なんて『このままヒートアップしてくれれば俺も推薦から逃れられるんじゃないか?』等と輝いた顔をしている。

 

「そもそも、実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由だけで極東の猿にされては困ります!先程の男を見たでしょう?!他薦されたにも関わらず、機体を理由に辞退する。そんな軟弱者など良い恥晒しです!わたくしはこのような島国までISの修練に来たのであって、サーカスを見に来たわけでも猿回しを見に来たわけでもありませんわ!」

 

 おぉ~、すげぇ。一息で言い切ったぞこの貴族様。

 俺自身については事実を言われただけだし気にしちゃいないんだが、一夏はそうでもないようだ。

 黒子(ほくろ)で魅了しそうな位(笑)輝いていた顔は無表情に変わり、今にも立ち上がって掴み掛かりそうな状態である。

 ……原作では此処まででもなかった気がするが。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけない事自体、わたくしには「イギリスだって大してお国自慢ないだろ、日本と比べりゃ古くさい上に、世界一不味い料理で何年覇者だっての」なぁっ……?!」

 

 ……あいつ、以外と日本好きだからなぁ。

 まぁ、あの国の料理と和食を比べられて和食が不味いなんて言われたらイラっとするし、似たようなもんか。

 前に一度食ったことがあるが、あの国の料理は……雑だ。

 

「決闘ですわ!」

 

「おう、良いぜ。四の五の言うよか分かりやすい」

 

「言っておきますけど、わざと負けたりなんかしたら小間使い――いえ、奴隷にしますわよ」

 

「侮るなよ、真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない……なぁ?暦」

 

 うわぁ、本当に奴隷とか言ってるよ。国家代表候補生がそういう事いっても良いのかって…………え゛?

 

「お、おい一夏。なんで俺まで入ってくんだよ」

 

「お前、悔しくないのかよ?あそこまで言われて!」

 

 えぇー、原作より怒ってたのってそこ?

 悔しくもなんともないんだがなぁ。

 

「ハンデはどれくらいつける?」

 

「あら、早速お願いかしら?これだから男は」

 

「いや、俺がどれくらいハンデつけたら――」

 

 ゴンッ

 

「――ってぇな!何しやがる暦?!」

 

「……お前、素人がアマチュアにハンデ付けるとか何いってんだよ?」

 

「うっ……じゃぁハンデは要らない」

 

「えぇ、そうでしょうとも。寧ろ私がハンデを付けなくても良いのか迷いますわ。日本の男子はジョークセンスがあるのですね」

 

 ……こいつと一緒にされたくないんだが。人生の半分がフラグ建築士とギャグでできているような男だし。

 

「さて、話は纏まったようだな。それでは勝負は一週間後の月曜日、放課後に第三アリーナで行う。織斑と森下とオルコットは準備をしておくように」

 

 ………………え゛。




因みに転生オリ主(笑)の彼は名前が神風羽男と書いてかみかぜイカロスと読みます。どこから聞いても自爆特攻を行う人間にしか聞こえません(笑)


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code:5 同室(郷)

 書けないと思っていましたが、書けてしまいました。(笑)


 授業終了後、何やら真っ白になって煙を吐いている一夏を放置して織斑先生の所に行ってクラス代表決定戦について聞いてみた。

 

『確かに推薦する者は居なかったが、今回の事は男性搭乗者の貴重な戦闘データを録る良い機会だからな。無論、クラス代表になりたいのならば立候補として扱っておくが?』

 

 つまり、ISに触れて日が浅い俺達の搭乗記録、それも戦闘データを録る事ができるのは当に渡りに船という事か。

 しかも、できる限り初戦に近いデータを取って置きたいだろうから、練習としてのアリーナ貸し出しすらも今週一杯は申請すらも却下されるだろうとの事。

 ……ふざけんな。

 そして、ちょうど良いからといって寮の鍵も渡された……女子と相部屋の。

 なんでも、急だったから部屋にマトモな空きが作れなかったそうで、男二人で一部屋とは上手くいかなかったんだそうな。

 

「……はぁ」

 

 まぁ、同室の人と挨拶をして最低限の話だけでもしなきゃダメだな。

 部屋の番号は1010……うん、此処だ。0と1だけの番号だとちょっと嬉しいかもしれない。

 まぁ、先ずはノックして同室の人が居るかどうかの確認だな。

 ……着替え中とか、入浴中とかだと目も当てらんない。

 

『ん?誰か来たみたいね』

 

 ……聞き覚えのある声だ。

 というか、聞き覚えしかない声だ。

 

「あら、森下じゃない。どうしたの?」

 

「あ~……」

 

「あぁ、放課後話をするって言ってたものね。確かに私達の部屋の方が話しやすいか」

 

「……私、達?」

 

「えぇ、すずかも同室なのよ。三人部屋らしいんだけど、同室の娘がまだ来ないのよね」

 

 因みにすずかはシャワー浴びてるから、とあまり聞きたくない言葉がバニングスさんの口から放たれる。

 ……俺は黙って部屋の鍵を見せるしかできなかった。

 無論、目を合わせる事などできようもない。

 

「だから、また後で……ん?これ、ここの鍵じゃない。届けに来てく……まさか」

 

「……その、まさからしい」

 

「なんでそんな事になってるのよ!」

 

「なんでも、部屋の調整ができなかったんだとか」

 

「それでもやり方って物が……」

 

「まぁ、ラウンジに居るから月村さんの準備ができたら呼びに来て。……流石にこのまま話しているのは不味い」

 

 主に、俺の社会的な抹殺がされるか否かの問題だが。

 

 

◇◆◇

 

 

 あのまま話していると、月村さんが出てくるかもしれないという可能性に思い至ったのか、バニングスさんはあっさりと引き下がってくれた。

 ……まぁ、部屋割りに関しては納得していないようだったが。

 ラウンジに来て買った紅茶が飲み終わる頃、月村さんの身支度が終わったらしく、バニングスさんが呼びに来てくれた。

 昨今の女性ならば、今回の様な状況なら俺はこのまま此処で一夜を明かす事になったはずだ。頭が下がる思いというのはこういう事を言うのだろう。

 バニングスさん達の部屋に入って、まず驚いたのが俺自身の荷物が既に部屋に届いていた事だろう。

 そして、届いていた荷物が俺の物だという事でバニングスさんも本当にそのような処置なのだと呆れているようだ。

 また、部屋を変えようにも寮長が織斑先生だという事を聞いて諦めモードにも入っている。

 

「……部屋の事についてはもう良いわ。それよりも取り決めが必要よね」

 

「うん。部屋が変わるまでの間、私達は大浴場の方を使う事にするね。それで、私達が着替える時は外に出て貰ってても良いかな?」

 

「問題ないよ。俺が着替える時はトイレで鍵をかけて着替えればいいよね?」

 

 というか、譲歩してもらえるだけ有り難いというものだ。

 本当に昨今の、それもオルコットのような人間なら追い出そうとするのが基本だ――

 

 ズガッガガガガガガッ

 

 ――なんの音だ?

 突然聞こえてきた破壊音に俺達は顔を見合わせた。

 取り合えず外から聞こえるようだと扉を開けてみると――

 

「ほっ、箒!頼む入れてくれ!」

 

 ――ボロボロになった向かいの扉とそこに縋り付くように膝立ちになって扉を叩き続ける織斑 一夏の姿がそこにはあった。

 

「「…………」」

 

「……一夏の事だし、同室が女子だと考えずに突入、その後に着替え中かシャワーから出てきた筱ノ之に遭遇ってところかな」

 

「なんでお前は見てきたかの様に言えるんだよ!?」

 

「違うのか?」

 

「……違いません」

 

『……なになに?』

 

『え~織斑君ってこの部屋なの?』

 

『あ、森下君もいる~』

 

「……戻ろうか」

 

「「うん」」

 

「ちょっ……暦助け――」

 

 一夏が言葉を言い切る前に扉を閉めて、鍵も閉める。

 あいつの事だ俺が居るからと転がり込んできてバニングスさん達に迷惑をかけるに決まっている。

 それにしても、社会的どころか肉体的に抹殺されそうになっているとは……。

 

「バニングスさん達が同室でよかった……」

 

「私達も織斑君が同室じゃなくてよかったよ……」

 

 ……まぁ、いきなり部屋に入ってきて着替えを見られました。なんて洒落にならないからな。

 

「まぁ、さっきの事は置いておきましょ。休み時間に聞いた事だけど……」

 

 話をガラッと変えてきたな。

 まぁ、魔法関係の事を知ってるなら話しても良いか。父さん達にもISコアの事を話した時に話したし。

 

「結論から言うけど、俺は魔導師じゃなくて魔法使いだよ」

 

「えっと、どう違うの?」

 

「簡単に言うと、魔力とかゴチャゴチャ使って完全な遠回りで現象を起こしてるのが魔導師。魔力とかを使わないで生身や機械にコードを流す事で現象を起こしてるのが魔法使いだよ」

 

「コード?」

 

「ざっくり言っちゃうとプログラムだな」

 

 プログラムと聞いて二人は固まった。

 それはそうだろう。プログラムという事はボタン一つで誰にでも起動ができる。誰にでも魔法が使えるという事なのだから。

 

「あぁ、先に言っておくけど、誰かにこの技術を教えるつもりはないから」

 

「なんでよ!」

 

「壁に耳あり障子に目あり、電脳世界に兎あり、だよ。ISなんぞを開発した人間が魔導について知るのも不味いってのに、それ以上に不味いものを誰かに教えて知られたら問題だよ」

 

「……森下君はISコアを筱ノ之博士から貰ったんじゃなかったの?」

 

「貰いはしたけど、その理由は自分の知らない技術を俺が持っているなら面白そうだっていうだけだろうし」

 

 二人はまた思考停止に陥っているようだ。

 話も一段落したことだし、そろそろ本気でISの対策を始めないとな。

 固まっている二人を横目にPCを起動させる。

 ISコア内に入っていたデータを調べたところ、余計な物が入っていたのだ。

 『コアネットワークに接続している状態でPCに接続すると、強制的にPC内部のデータを外部に送信する』というものだ。たまたま、父さんの会社のPCでやったから良かったが、俺のPCでやっていたら目も当てられない状態になっていただろう。

 ……まぁ、そのプログラムを消した後にISをマテリアルプログラム化したから、今後データが流出する可能性はないだろう。

 そんな事があったからこそ、俺はあるプログラムをISに組み込む暇という物がなかったのだ。

 構想は既にできているのだから、後はこの一週間のうちにプログラムを組み上げるだけだ。

 

「ちょっと、私達を放置して何やってるのよ!」

 

「あぁ、悪いな。来週の試合の準備をしなきゃならないんだ」

 

「パズルゲームの何処が「違うんじゃないかな」……え?」

 

 ……なっ!?

 一目見ただけでこれがゲームじゃないと気付いた?!

 隠しもしなかったし、隠す気がなかったのも事実だが……。

 

「もしかして……プログラミング?」

 

「なんで気付いたんだ?」

 

「魔法なんだからプログラムも普通の物とは違うと思ったから。あと、試合のためなんだよね?」

 

 ……カマ掛けられた。

 

「答え合わせは試合の時にって事で」

 

 その後、転校してからの事を聞かれたり、魔法について聞かれたりしたが、概ね平和に過ごせたと言えるだろう。 



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code:6 試合は全ての始まりを告げる

なんとか、形になりました。

やっぱり戦闘の描写は難しいです。


「……なぁ、箒」

 

「なんだ、一夏」

 

 試合当日、第三アリーナのAピット。

 俺は一夏と箒と共に試合の準備が整うのを待っていた。

 待っていたの、だが……。

 

「気のせいかもしれないんだが」

 

「そうか。気のせいだろう」

 

「ISの事を教えてくれるのはどうなったんだ?」

 

「………………」

 

「目をそらすな!」

 

 何故だか痴話喧嘩に巻き込まれていた。

 なんでも、ISについて全く知らなかった一夏にISの事を教えてやるという約束をしていたのだが、一夏のISが届かなかったために剣術の訓練をし続けていたんだそうな。

 

「それでも、ISの知識とか基本とかあっただろうが!」

 

「いや、正しい選択だと思うぞ?」

 

「どこがだよ!」

 

 オレの言った言葉に納得ができなかったのだろう。一夏が興奮しながら詰め寄ってきた。

 ……うん、止めてくれ。息を荒くした男に詰め寄られるとか拷問だ。

 

「ISは基本、思考操作だ。その事は試験の時にわかっただろう?」

 

「まぁ……」

 

「んで、専用機があっても練習はさせて貰えなかったんだよな。できる限りISに触れる時間が少ない状態での戦闘データが欲しかったらしい」

 

「はぁ?!じゃあ何か?俺は元々ISの練習はできなかったって事か?」

 

「ん、そうゆう事。だから、最低限の起動経験があるなら戦闘訓練をしてた方が有意義だったって事だ」

 

 そこまで言うといくらか落ち着いたのか、一夏は一歩後ろに下がってゆっくりと深呼吸をする。

 まぁ、その事に気づいてなかったという事は、ISの訓練機を借りるという考えすら持たなかったんだろう。

 はっきり言って、その時点でコイツは箒を攻める資格など無いのだが。

 

「箒、すまん」

 

「……いや、いい」

 

『森下』

 

 痴話喧嘩も収まったところで天の声、ならぬ鬼n……織斑先生の声。

 

『織斑の専用機の到着が遅れるそうだ。先にお前が試合をしろ』

 

「了解しました」

 

 何もかもが原作通りとはいかないようだ。……オレやリリカルな世界が混じっているんだから仕方がないんだが。

 そんなことを考えながら俺は自身の専用機、コード(code)を展開する。

 白い装甲の上にコートの様に覆い被さる黒い装甲。

 モノクロを体現したかの様なその姿は『よくわかる現代魔法』に登場する姉原 美鎖の姿を彷彿とさせる。

 思考操作でシステムの状態を軽くチェックし、ピット・ゲートへと歩を進める。

 

「暦!」

 

 ゲートが解放され、外に飛び出ようとした俺に一夏が声を掛けてきた。

 

「勝てよ!」

 

 アイツらしい酷く直球な言葉に思わず苦笑してしまう。

 俺はその言葉に答える事をせず、片手を上げながらアリーナへと飛び出した。

 

 

◆◇◆

 

 

 暦がアリーナに入場した時、セシリア オルコットはアリーナ中央で悠然と構えていた。

 どちらが勝つかなど一目瞭然。言ってしまえばこれは茶番であるからだ。

 一から専用機を開発されている一夏と違い、暦の専用機はテスト用にある企業から回された新素材のパーツや既存のパーツを組み合わせただけのスペックをほぼ無視した機体だ。

 その為、スペックは第二世代機後期とも言われたラファールリヴァイブどころか、一般的な第二世代機の打鉄よりも低いものとなっている。

 しかも、以降のISに対する詮索を無しとするためにその情報を隠す事なくIS学園に提出するという荒業まで取っていた為、機体情報を試合開始前にセシリアだけでなく観客にすら知られてしまっている。

 そこまでお膳立てされた状態で、イギリス代表候補生たるセシリア オルコットが負ける理由はない。

 故に、この試合は対戦相手のセシリアや観客である生徒だけでなく、教師陣の人間にすら茶番劇であると認識されていた。

 対戦者である森下 暦と二人の生徒を除いて。

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

「逃げる理由がないからな」

 

「まさか、訓練機にも劣る機体でわたくしに勝つおつもりで?」

 

「勝て、と激励もされたしな」

 

「…………笑止、と言わせていただきますわ!」

 

 空気を引き裂くような音を立てて、一筋の閃光が暦を撃ち抜いた。

 既に開始の鐘は鳴っている。卑怯と言われる事もない正々堂々とした一撃でもあった。

 避けられないのであればその者の技量が低い、ただそれだけで終わる筈だった――

 

「なぁっ!?」

 

 ――セシリアのISと観客用に設置されているパネルに表示されているシールドエネルギーに一切の減りが見られなかったのでなければ。

 

「いきなり撃ってくるなよな。……いや、開始の鐘は鳴っていたから自業自得か」

 

 セシリアだけでなく、その場の全ての人間がその光景に目を剥いた。

 暦が何かをしていたようには見えなかったのだ。

 ただ棒立ちになってセシリアによって放たれたレーザーに当たった。それがセシリアを含めた全員の共通の見解だった。

 

「さて、俺からも仕掛けるか」

 

 そう言って、暦が取り出したのは一本のブレードだった。

  ISに関わる人間なら、多くの者が持った事のある打鉄の初期装備。それを手に、暦はセシリアに向かって飛ぶ。

 しかし、その動きはやはり鈍い。スペックの問題もあるが、それ以上に暦の起動時間が短かったのが原因だろう。

 

「……はっ!?わ、わたくし相手に近接装備など、愚の骨頂ですわ!」

 

 故に、暦の接近で我に返ったセシリアによってレーザーを浴びせかけられる。

 下手な鉄砲数打ちゃ当たる。

 その言葉を体現するかのようにブルーティアーズに備え付けられていたビットが展開され、四方八方から暦に向けてレーザーを浴びせ続ける。

 実際に下手というわけではないが、幾らかのレーザーが地面に当たり、地面を抉りつつ砂埃を舞い上げる。

 それでもセシリアは打つ事を止めなかった。普段ならば、相手の出方を見ながら正確に撃ち抜いていたところだったが、例え一撃であっても無傷であった機体を相手にそれは意味がないと思ったからだ。

 

 ――警告、ロックされています。

 

「っ!?」

 

 一心不乱に打ち続けていたセシリアに強い衝撃が走る。

 何が起きたか理解しないまま、反射だけでその場を回避したセシリアは……いや、その場の全員が驚愕した。

 砂埃の向こうから何かが打ち出され続けているからだ。

 見えもしない、板状の何かが。

 砂埃を掻き分けるように向かってくるそれは呆然としたセシリアのシールドエネルギーを容赦なく削りきった。

 

『――試合終了。勝者、森下 暦』

 

 そうして、茶番であったはずの試合は予想外の結果で幕を下ろした。



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閑話: 試合の後に

 その日、IS学園に激震が走った。

 原因は言わずもがな、森下 暦有するIS『code』のデータ上のスペックと試合記録が合致していなかったためだ。

 普通であるならば、この事に問題はない。企業や国側が最低限のスペックを公表しても、機体の内部構造や特殊武装に関するデータを秘匿してしまうからだ。

 だが、今回の件に関してはそうも言っていられないのが実状だ。

 森下 暦はIS学園への入学をするに当たって、自身の専用機を貸し出し、解析させる事でスペックだけでなく、内部構造から初期装備、拡張領域や内部プログラムに至るまで公表していた。それ故に今回の件に関してはIS学園側の落ち度としか言う他ない。

 また、ISの返却から試合までの一週間の間に森下 暦が整備室を使った形跡や外部から何かが届いた記録もない。再度解析をしようにも、入学前に交わした契約によって以降のメンテナンスですらできないのが現状だ。

 ここまでだけでも頭が痛いというのに今回の試合は密かに世界中から注目されていた内容でもあった。模擬とはいえ、世界初の国家代表候補生と男性操縦者の試合、注目されない筈がなかった。

 森下 暦の後に行われた織斑 一夏の試合も多くの人間の心を揺さぶるものではあったが、森下 暦の試合は関係者全員にある事を思い出させていた。

 

 ――白騎士事件。

 その名前は各国の指導者や軍事関係者にとっては苦い思い出であっただろう。

 それまでの兵器が一切通じず、破壊される。それも、人的被害を起こさないと言う余裕すら見せつけられた事件であった。

 筱ノ之 束が作った物を除いて、最新鋭に肩を並べる事ができる筈の機体が、一切のダメージを負わせる事ができずに撃破される。正に現在の兵器が通じなかった瞬間だろう。

 しかも、公表されていた細かいデータをどれだけ見ても、その結果になると思われる要素が見つからない。唯一考えられたのは森下 暦が持っていたとされるISコアに何かしらの細工がされていたか、単一使用能力が覚醒したかというものだ。だが、前者についてはその多くが解析不能ではあっても通常のコアと差は存在しない事がわかっていたし、後者に至っては夢物語と言えるだろう。

 そして、IS学園が最も頭を痛めていたのはとある大国からの度重なる要請という名の脅迫だ。

 その内容は森下 暦が最後に行った攻撃、アレは我が国の技術である。単一使用能力でないというのなら、直ちに操縦者及びその機体を引き渡せという物である。

 もちろん、技術どころか何故そういった現象が起きたのかすら解らないのだから、その要請は無効である。そもそも、IS学園にいる限り生徒は他国の干渉は受ける事がないという条約があるのだから無意味とも言えるだろう。

 それでもそのような要請をしてしまいたくなるような内容が試合の記録映像には残されていた。

 

 砂埃が視界を覆い尽くし、機体の姿すら見る事ができないが、唯一見る事ができた物が攻撃として打ち出された透明な何か。

 それを聞いて、多くのIS関係者が真っ先に辿り着いたのが空間圧兵器。

 これ以上は言う必要すらないだろう。

 

 この件によって、IS学園は森下 暦のISの記録データの再解析と各国への対応を余儀なくされた。

 

 

◆◇◆

 

 試合が終わり、ピットに戻ると一夏と箒を追い抜いて、織斑先生と山田先生が鬼気迫る表情で走ってきた。

 

「森下!」

 

「何ですか?」

 

 まぁ、聞かなくてもわかるが。

 

「なんだ、アレは。貴様の機体情報から見ても有り得ない物しかない!」

 

「なんだ、と聞かれましても。アレが俺の機体を開発した際に俺が考えていた戦闘スタイルですが」

 

「……機体情報の提出をしろ」

 

「一度、文句を言われる事の無いように機体そのものを貸し出しました。その時に交わした契約内容に沿って拒否させていただきます」

 

 今回の事で兎の気を更に引いたのは間違いないだろう。

 それに、魔法技術の流出が起きないように対策も施しているのだから、態々提出するつもりもない。

 

「……はぁ。せめて、何が起きていたかだけでも話していただけませんか?」

 

 溜め息をつきながらお願いしてくる山田先生を見ると、最低限の概要だけならば話してもいいかとも思えてきてしまう。

 実際、今回の試合で使用したのは海鳴で生活をしていた頃に見た魔法障壁と『よくわかる現代魔法』で登場した大ロスビーのコードと呼ばれる熱も光もない、透明な剣と化したコードを打ち出す物の二種類だ。

 片方はエネルギーバリアとでも言えばいいし、もう片方もエネルギーのみで構成された透明な剣を打ち出したとでも言えばいい。

 というよりも、そう言ったのだが。

 

「……はぁ」

 

 最低限の概要が聞けたのでもういいやと思考停止をしているのだろう。

 正確には、この後に起きるであろう各種面倒事への対応を考えて溜め息をついただけなのかもしれないが。

 

 ……このあと直ぐに一夏の試合があるというのに、そんな事で大丈夫なのだろうか?



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閑話:サボってしまえ

今回は説明回のようなものです。……まぁ、就職活動をするために実家に帰ってる所なんで、書く時間がなかったのも原因で一週間放置でしたが……。


「というわけで、一年一組のクラス代表は織斑一夏君に決まりました!あ、一繋がりで語呂が良いですね!」

 

「俺は試合で負けたんですが、あと織斑先生と張本人である暦はどうしたんですか」

 

「フフフフフフ…………織斑先生は昨日の試合の後処理に駆り出されているため本日は欠席です。……森下君が行方不明じゃなければもう少し楽になったんですがネぇ?…………フフフフ」

 

◆◇◆

 

「だって、俺はクラス代表決定戦に出た訳じゃないし。説明めんどくさいし」

 

「気持ちは分からないでもないね、というか束さんも似たような事してるし~」

 

 今俺はIS学園に居ない。まぁ、そこまで離れていない場所にある喫茶店なんだが。

 昨日の試合終了後に目の前にいる災厄ウサギから連絡があって、直にあって話す事になった。んで、話す場所に移動するのは面倒なので近場の喫茶店に来てもらったというわけだ。

 

「それにしても、束さんの技術も結構問題になったけどこよみちゃんの技術の方がヤバイんじゃないかなぁ」

 

「まぁ、視認不可・視点移動可・大量生産可なんていう監視カメラや認識阻害装置なんてのは問題どころのレベルじゃないし」

 

 まぁ、技術を完全に表に出した時点で隠す理由はなくなったし、大っぴらに使っていくつもりだ。誰かに教える気は一切無いが。

 何故ならば、俺の使っている技術は劇薬だ。

 既存の技術をほぼ全て意味の無い物にしてしまうかもしれないIS以上の劇薬。

 そして、その劇薬が俺を守る最後の砦でもあるのだ。

 一夏と違い、ブリュンヒルデの姉がいるわけではない俺は後ろ楯が存在しない、各国から見れば格好の獲物だろう。

 しかも、捕まえた後はモルモットにしてよし、種馬にしてもよし、おまけにISコアまでついてくる。寧ろ、狙われない訳がない。

 この状況で俺が自身の身を守るには、持っている技術を全て見せつけた上で秘匿するといった事だろう。

 誘拐されて自白を強要されるかもしれないが、未知の技術を他の国に渡したくない各国が守ろうとしてくれる筈だ。

 そうなれば、後は自衛するだけで問題はない。

 そのためにも技術の公開を行うことはできないのだ。

 

「何処かの管理団体が勘違いして出しゃばって来そうな気もするが」

 

 管理外世界における魔法の使用は禁止されている!ってな感じに。

 

「ん~、こよみちゃんの技術は私でも解析ができないし、仕方ないんじゃない?」

 

 全体的に基本構造理念の基本骨子そのものが違う物だからな、マテリアルプログラムと現代魔法は。

 因みに、束さんはその団体の事は知らない。というか、知ったら何するか分からん。

 

「ま、解析できて使用ができるようになったと言うのなら仕方ないけどな」

 

「それは束さんも同じかな、コアが作れるようになったんなら文句をいう気もないんだよね。というか、作れる人じゃなくてもコアのプログラムを全部書き換えちゃったような人とその技術にも興味はあるし」

 

「教える気は一切無い」

 

 端から見れば和やかに、実際のところはターゲットを定めた肉食獣のような会話はこうして幕を下ろした。

 災厄ウサギはニンジンに乗り込んで、俺はISと認識阻害、ステルスを展開して、それぞれ別の方向に飛び立った。

 

 

◇◆◇

 

 

 それにしても、ISと現代魔法の相性がこれほど良い物だとは思っていなかった。現代魔法はコンピュータを使用すると柔軟性にかけ、生体を使用すると生体が耐えられなくなるような代物だ。第三世代の技術である『イメージ・インターフェース』の基礎となる思考入力用のプログラムは元々ISに積み込まれており、主にISの武器等を展開収納する時やISをイメージ通りに動かしたりする為に使われている。それをISに接続していない状態であっても使用できるようにするための装置が組み込まれた特殊兵器を搭載しているのが第三世代という訳なんだが。

 実の所、兵器でなくても良いのであれば、全てのISに搭載されているといっても過言ではないだろう。スラスターがその最たる物であるからだ。

 そして、思考入力ができるという事はコードの入力を思考で行う事も可能だという事だ。

 そこで作り上げたのが入力したコードをストックして、使用時にストックしてあったコードを複製して流すシステムだ。これを使えば思考入力でコードの修正をする際に自身の身体にコードを流す事なく修正をできると同時に同じコードを何度も入力する必要がなくなる。

 しかも、射撃管制システムと組み合わせることによって、狙いを定める為のコード修正を行う必要が一気に減った。

 ある意味で、最も完成された現代魔法用の道具になったんじゃなかろうか。『よくわかる現代魔法』に登場したあらゆるコードを焼き付けたアミュレットやケリュケイオンの杖よりも使い勝手が良い上に、コードを使用する際の処理速度もスーパーコンピュータとは比べ物にならない。更にエネルギー効率も良いと来たもんだ。

 ISのコアを渡してくれた束さんには感謝だな。現代魔法は教えないが。

 

「お、着いた着いた」

 

 そんな事を考えている内に目的地に到着。ISを待機状態にして地面におりる。

 まぁ、コードを流すために部分展開はしたままな訳だが。

 

「おっじゃまっしまーす。おやっさん、おすすめランチで」

 

「おい、学校はどうした」

 

「今日は面倒な事になりそうなんで自主休講。旨いもん食いたかったんで五反田食堂に来ました」

 

「あらあら、ちゃんと行かなきゃダメよ?」

 

「まぁ、明日は行きますんで見逃してください」



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code:7 それは我が国の……(ry

 お久しぶりです。
 就職活動が未だ終わりません。
 就職活動が終わってしまえば、それなりの速度で投稿することが可能になるのでは……などとかんがえています。
 少々文章の書き方に変化が生じてしまっているかもしれませんが、楽しく読んでいただけたら幸いです。


「……で?」

 

 前日に聞いた言葉が、目の前で繰り返される。

 前日にこの言葉を発したのは金髪の少女であり、その後ろにいた紫髪の少女の笑顔は恐ろしいものだった。

 試合の日から部屋に戻らず、翌日の放課後になって帰ってくるという時点で迷惑をかけていたのだから仕方がないといえば仕方がないのだが。

 

「はい。なんでしょう?」

 

「……昨日一日、何をしていた?」

 

「ウサギに出会いまして、話した後にご飯食べてましたね」

 

 そして、本日その言葉を発した織斑先生は深く溜め息をついた。

 世界に二人しかいない男性搭乗者の片割れ、それも未知の技術を抱えた存在が行方知れずになったのだ。溜め息をつくのも仕方ない。

 ……まぁ、俺のせいなんだが。

 

「すいません。こうするしかなかったもので……」

 

 その言葉に織斑先生は全てを理解したのか、もう一度溜め息をついた。

 ISのコアを手に入れた当初に考えていた通り、俺には後ろ楯と言えるものが存在しない。

 森下工業の社長の息子などという肩書きはあってないような物だ。完全な下請けをやっていた会社が世界中から狙われても問題がないような力など持っている筈もないのだから。

 国から要請されれば、最悪断る事もできずに会社すらも潰されてしまう。

 そうならないために、俺は現代魔法の存在のみを世界に見せつけたのだ。

 そうする事で、いざとなったらモルモットにしてしまえば良い人間という印象から、関係者を含めて手を出してしまえば技術そのものが完全に闇に消えてしまう筱ノ之 束以上に厄介な存在という印象に変えることができた。

 

「あれが何かだけは公表しますので」

 

「……まぁ、いいだろう。昨日の事もあるからな、教室までは私と同行してもらう。……山田君も副担任なのだからコソコソしないでください」

 

「あ、はい。職員室にいた他の先生方がそんな感じでしたので……つい」

 

 軽く見回せば、分かりやすすぎるほどに興味津々といった顔でこちらを見ている先生方が。

 ……まぁ、こんな話が聞き取りやすい場所で話しているのだから仕方ないといえば仕方ないのかね。

 

「中国に無理矢理転入生を捩じ込まれた件で仕事が増えていたからな。その原因となった理由くらいは聞きたいのだろう」

 

 転入生……?

 ……もしかしなくても鈴が来る時期が早くなったらしい。

 予定では一ヶ月は先だったと思うのだが。

 

「さて、そろそろ教室に行かねばな」

 

 織斑先生のその言葉に、職員室にいた先生達は急いで机の上を纏めて飛び出していく。

 ……この人、事実上の独裁者なんじゃないだろうか。

 元操縦者にしては権限がありすぎるし、ブリュンヒルデだからといって権限を渡しすぎるのは……あぁ、ウサギか。

 あれと関わってしまったが故に、軽視することができなくなったのかもしれない。

 ならば、織斑先生もウサギによって普通の道を歩めなくなった被害者なのかもしれないな。

 

「……なんだ?用がないなら早く歩け、時間が押している」

 

 ……おぉ、思わず同情の視線を向けてしまった。

 それに気がついたのか、織斑先生の右手が出席簿に伸びる。

 

「了解しました!」

 

 余計な事を考えるものじゃないな。

 命がいくつあっても足りない。

 

 

◆◇◆

 

 

 初めてアイツを意識したのは多分、転校してすぐに苛められていたのを助けて貰った時の事だろう。

 可愛らしい顔立ちとあたしよりも幾分か低い背丈を見て、見かけによらず元気な女の子だという感想を持ったものだ。

 だが、それこそが全ての始まりだと思う。

 ソイツの名前は森下 暦、普段は物静かで頼りなく見えるが、いざという時の行動力と腹黒さは誰にも負けない……そんな少年だった。

 私と暦、一夏と弾の四人で行動する事が多かった私達は、必然的に彼が起こした結果を目にする事が多かった。

 だが、その被害に会う事がなかったからこそ楽観視できていた。

 それをあたしは実感した。

 なぜなら――

 

「こよみぃ!」

 

 バンッ!

 

 ――今、あたしがIS学園に居るという事こそがその結果でもあるからだ。

 

「うぉっ?!な、なんだ…………って、鈴?」

 

「あ、一夏じゃない。久し振り……で、暦は?」

 

「おま……一年ぶりの再会でそれかよ。暦ならまだ来てないぜ」

 

 元々、中国の代表候補生であるあたしが、IS学園に転入する事は決まっていた事だったけど、もう少し猶予期間といえるものがあった。

 だが、それも二日前までの話。

 暦が披露したという技術を逸早く手に入れたかった中国は、元々転入予定であったあたしが暦と友人関係であった事に目をつけた。

 後は簡単だ。

 抗議文と共にあたしを転入生として捩じ込む書類をIS学園に送り付け、国はあたしにスパイ活動を命じた。

 まぁ、そんな事する気なんて全く無いんだけど……暦には一言言ってやらなきゃ気がすまないってもんよ。

 

「そ、なら待たせてもらうわね」

 

「いや、その必要はない」

 

 目を閉じて、壁にでも寄りかかろうと移動するが、返ってきた言葉に違和感を覚える。

 男の声ではなく女の声、それも覚えがある声と威圧感。

 記憶のなかで該当するのはただ一人。

 

「ち、千冬……さん」

 

「織斑先生、だ。もうすぐHRを始めるのだが」

 

 気がつけば、あたしは自分の教室へと走り出していた。

 ま……また後で来るんだからっ!



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code:8 そういえば、顔合わせって……

 漸く、就職活動に終止符を打つことができました!
 二ヶ月も空いてしまうと作品の雰囲気を忘れてしまいそうになります。今までと違うと思われても読んでいただけたら幸いです。
 これからは初めの頃ほどのペースではないと思いますが、更新していけたらと考えています。


『お前のせいだ!』

 

『あなたのせいですわ!』

 

 めんどくさいHR前の話が終わり、午前の授業終了直後、教室内に箒とオルコットさんの声が響く。

 無論の事ではあるが、織斑先生と山田先生は教室から退出した後である。

 

「おぉー、なんという責任転嫁……」

 

「聞きたい事があるのは分かるけど、今回のは自業自得ね」

 

「わ、私は何も言えないかなぁ……」

 

 彼女たち二人が怒っている理由は簡単、HR前に押し掛けてきた鈴の事が気になっていたのだろう。

 その事で余計な事を考えすぎて、授業中に注意五回と出席簿三回をくらっている。

 流石に、今回の事は一夏に非はなく、二人の自業自得だ。

 その様子をみて俺とバニングスさんと月村さんはそれぞれの感想を言いながら食堂に行こうと歩き始め――

 

 ピタリ

 

「聞きたい事と言えば」

 

「答え合わせがまだ済んでいないんだけど」

 

 ――なかった。

 実のところ、試合前に話していた内容の答え合わせについて忘れていたというわけではない。

 面倒だったのだ。

 彼女達は深く関わっていないとはいっても某管理団体と関わりがある。

 彼らにとってみれば、俺の持っている魔法技術は危険であると同時に喉から手が出るほど欲しいものであると推測される。

 魔法という物は異世界から別の法則を現実にコピーアンドペーストしてしまうというのが最も分かりやすい形だ。

 そして、魔法技術において某管理団体が利用しているものも俺が利用しているものもその一点に於いて差は存在しない。

 では、何が違うのか。

 俺が利用している魔法は異世界から別の法則を持ってくる時、持ってきたいと考えている事象をピンポイントで観測し、コードを以て現実世界にその事象を再構築するという形だ。

 だが、某管理団体の利用する魔法は第一にコードではなく魔力を必要とする……何故か?

 魔力は異世界と現実世界の壁を脆くする力を持っているからだ。

 彼等の使用する魔法とは、世界同士の壁に大雑把な穴を開け、そこから別の法則を持ち込む事で発動する。

 コードを迂遠に表現した魔方陣は呼び起こす事象の周辺に穴を開けるための物。

 俺の使う魔法では観測すると表現したが、実際使う時に観測している訳じゃない。一時的な穴を開け、流し込んだコードで欲しい事象を検索をさせているというだけなのだ。

 だが、魔力を使った魔法では異世界にアクセスするためのコードも現実世界に再構築するためのコードも持っていないため、穴を開ければ開けたまま放置する事になる。

 一応、世界にも修正力のような物が存在し、小規模な穴であるならば直す事ができる。しかし、大規模に魔力を利用した時、世界の壁に大きすぎる穴が開く事で世界同士が引かれ合い、対消滅を起こしてしまう事となる。某管理団体の人間が次元震と称しているものがこれだ。

 ここまで話しただけでも俺の使う魔法と彼等の使う魔法の差は大きい。しかも、俺の使う魔法は万人に使用できるため、人材不足と言っている彼等にとって喉から手が出るほど欲しいものなのでではないだろうか。

 故に細かいことを言わず、ただプログラムを使用した魔法技術であるとだけ言ったのだ。

 魔力を使わないというだけでも狙われるかもしれないが、一番肝心な現象を起こす過程さえ言わなければ問題ないとも思っている。

 どうせこの魔法技術自体は公表だけはしてしまうつもりだからだ。

 

「そういえば、そうだったね。二度手間になるのも面倒だし、放課後まで我慢してもらえると嬉しいかな」

 

「あ……あんた、まさか――」

 

『…………ぉみぃ!』

 

 バニングスさんは俺がしようとしている事に思い当たったのか、俺に掴み掛かろうとした。

 そう、しただ。

 彼女の手が俺に触れるよりも早く、俺の体が真横に飛んだからだ。

 

 ドンッ!

 

「こよみ!あんた……よくもやってくれたわねぇ!」

 

 俺が真横に飛んだ理由……いや、飛ばされた主原因は俺の上にのって胸ぐらを掴み上げて上下に激しく振り始める。

 

 ブンブンブン!

 

「ぐぇっ!ちょっ……り、鈴?!やめっ……」

 

「あんたが!面倒な事をしてくれたせいで!スパイ紛いの事まで国にやらされそうなの!どうしてくれんのよ!」

 

 ヴォンヴォンヴォン!

 

「い……いや、それは言っちゃダメな内容なんじゃ……」

 

「……あ」

 

 ゴッ!

 

「っ~~~~?!」

 

 我に返ったのか、鈴は激しく振っていた勢いのまま手を離し、俺の頭は床に叩きつけられた。

 言葉にならない程の痛みに悶絶しつつ、床を転がる。

 

「ちょっ?!」

 

「も、森下君。だ、大丈夫?!」

 

「ご、ごめん……」

 

 

◇◆◇

 

 

 あの後、追いついた一夏に支えられながら俺は食堂までやって来た。

 

「さて、どういう関係なのか、説明して欲しいのだが」

 

「そ、そうですわ!一夏さんとこの方はどういった関係ですの?!」

 

 なんというか、あれだけの事があったのに開口一番がそれとは……。

 この二人はブレないな。

 因みに、オルコットさんことチョロコットさんは原作通りの一夏との戦いでフラグを立てられたらしく、その名に恥じない程のチョロさを見せつけてくれている。

 

「関係も何も……幼馴染みだな」

 

「ま、そんなもんね」

 

 苛めから助けるという場面で一夏が活躍しなかったせいか、鈴は一夏に惚れてはいない。

 何事も原作通りに進むわけではないという事らしい。

 まぁ、苛めから助けるような形になった俺に惚れるような事も無かったんだが……。

 

「幼馴染み…………?」

 

 怪訝そうな声で聞き返す箒。

 自分が一夏の幼馴染みであることを強く意識していたのだろう。他にもそういった立場の人間がいるというのが信じられないようだ。

 

「あ、あぁ……箒が引っ越していったのが小四の終わりごろだっただろ?鈴が転校してきたのは小五の頭だよ。で、中二の終わりに国に帰ったから、会うのは一年ぶりってところだな」

 

「んで、前に話したことあったろ?小学校からの幼馴染みで、俺が通ってた剣術道場の娘の話」

 

「あ~、そんな話もあったわね」

 

 話し半分とでもいうかのように、鈴はラーメンを啜っている。

 ……興味がないんだな。

 コイツは昔から興味がない話には適当な返事をして、自分のしたいと思っている事に意識を集中する。

 

「それよりも、 暦」

 

 今回は俺に言いたい事が山ほどあるのだろう。

 さっきの事から考えても試合の時の事だろう。

 

「技術に関することなら、放課後には解決すると思うぞ?」

 

「あ、ほんと…………じゃなくて!ソイツ等は誰よ!」

 

「あ、それは俺も聞きたい。暦が二人と話しているのは見かけるけど、俺は話した事ないし」

 

 まさかのまさかであった。今一番問題視されているのは魔法技術に関する話だったと思ったんだけど。

 

「えっと。東京に引っ越してくる前の小一から小三までの間、クラスメイトだった月村 すずかさんとアリサ バニングスさん。今はルームメイトでもあるね」

 

「「よろしく」」

 

「あ、うん……って、ルームメイト?!」

 

「何故かそうなったんだよ。男同士の方が効率的だと思うんだけどね」

 

 まぁ、ハニートラップ対策だったり貴重なサンプルを一塊にしておくといざという時に問題が生じたりするかもしれないからだろうけど。

 

「そんなの、寮長に文句言って変えてもらえば……」

 

「あそこにいる人に言えるならよろしく」

 

 そう言って、俺が指差した先に居られるのは言わずと知れた織斑先生。

 それを見た瞬間、鈴は喋るのをやめてラーメンを食べる事に集中し始めた。

 

 

 ……まぁ、無理だろうな。




 それにしても、最近アニメ化を果たした東京レイヴンズを一話見た際に思わず原作の小説を読み返してしまいました。
 またもやマイナーどころの神曲奏界ポリフォニカとクロスさせた小説をそのうち書いてみたいと考えてしまったり。
 やはり、世の中には誘惑が多いものですw


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code:9 公表したが、好評ではないようだ

 某日某所、一人の男が叩きつけるように電話を切った。

 

「……クソッ!」

 

 親戚の少女からもたらされた情報は男にとって無視できないものだった。

 

『イギリスの代表候補生が模擬戦で二人目の男性操縦者に成す術もなく敗北した』

 

 代表候補生が敗北したというのはいいだろう。代表候補生といえども人間だ、勝てない相手も存在する。

 だが、負けた相手が二人目の男性操縦者、森下 暦であり、成す術もなく敗北したという点が問題であった。

 自身の仕事であるIS関係の記事を書くに当たって、多くの情報を調べてきた。

 IS戦での強さというのは基本的にISの搭乗時間がものをいう。

 だが、世界初の男性操縦者が発見されてから二ヶ月も経っていない。

 しかも、二人目の男性操縦者の存在が判明したのは更に短く一ヶ月前。

 実機に搭乗した時間なぞ知れている。

 にも拘らず、その少年は代表候補生に勝利したらしい。それも成す術もなくと言わせる程に圧倒的に。

 聞いた話では織斑 一夏も追い詰めるまではいったらしいが、それはブリュンヒルデの弟だからで納得できてしまう。

 だが森下 暦、彼はダメだ。

 観客ですら何をしたのかわからない、そんな事ができるのは確実に新技術と言えるだろう。だが、親戚の少女から聞いた話によると彼の機体は完全にIS学園で解析されており、処理能力とエネルギー量が多い以外は打鉄にすら劣る性能だという。

 これは記事にするしかないと考え、先程もIS学園に電話をしたが、大した情報は得られなかった。もしかすると、目を付けられたかもしれないが、そんなことはどうでも良い。

 

「なにか、情報は…………ん?」

 

 男がそう呟いた瞬間、電源が落とされていた筈のPCが起動した。

 デスクトップ画面に移行する様子を見せないそれは、一つの曲を流し始めた。

 

「な、何だ?」

 

 その曲の名前は『デイジーデイジー』時期外れなクリスマスソングだった。

 そして、曲が終わる頃。それまで曲を流したまま何も写さなかったPCのモニターに言葉が現れた。

 

『貴殿方は運が良い』

 

 ただそれだけ、ただそれだけの言葉を表示して曲が終わる。

 そして、それと共に再び男のPCの電源は落とされた。

 

「………………なんだったんだ?」

 

 しばらく呆然としていた男であったが、我を取り戻すと急いでPCを立ち上げる。

 その後、デスクトップに現れていた一つのファイルに狂喜乱舞することになる。

 

◇◆◇

 

 鈴が転校してきた翌日、またもIS学園に……いや、世界に激震が走った。

 その日放送されたニュースは皆、現実に干渉することのできるプログラム、正式名称『現代魔法』についての物だけであったからだ。

 話を聞くだけならば眉唾物と笑うだけで済むはずが、笑うことができなかった。

 偶々ではあるが、PCが勝手に起動した後にデイジーデイジーを流し始める瞬間がいくつかの場所で監視カメラに撮影されていたからだ。

 彼等が知る事はないが、彼等のPCが起動したのも音楽を流し始めたのもある一つのコードによるものだった。

 

『クリスマスショッパー』

 

 よくわかる現代魔法の作中でそう呼ばれていたソレは、クリスマスの日の深夜に起動していないPCをひっそりと起動させ、デイジーデイジーを流すというだけの物だ。

 実際のところは姉原 美鎖がシリコン基盤製の擬似的な魔導書を作成するために多くのPC同士を一時的に連結させるために使用したコードであったが、今回は用途が違う。

 俺はPCを起動させる条件として、先日の模擬戦の事について調べている人間の最も近くに存在し、現在起動していないPCという風に指定した。

 そして、起動したのPCに音楽とメッセージを流しながら、模擬戦に使用した技術、即ちコードについての説明とセントエルモのコードをPC自体が発光するように作り替えたものをデスクトップに置き土産として残した。

 

 それだけだ。

 

 それだけではあるが、なんの仕掛けもされていないPCにプログラムを入れて起動させるとPCそのものが光り始める様子がニュースで流れれば何も言うことができないだろう。

 当前のようにIS学園には問い合わせが集中し、教師全員が対応するために本日の授業は休講と相成った。

 

 故に、俺自身も今日は休みとなるはずだったのだが――

 

「……で、何か弁解はあるか?」

 

「また……仕事が増えちゃったんです」

 

 ――ソレを許さない怒れる担任と涙目の副担任がいた。




 基本的に始まりの部分ばかりを考えすぎていたために、ストーリーを考えるのに時間が掛かってしまいました。
 以後、卒業研究の合間に話が書けたら投稿しますので、定期的に投稿は難しいかもしれません。
 まぁ、考え付いたストーリーを書き綴るだけでもありますので、途中で別の作品が更新されることもあるかと思います。


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