昼は刀鍛冶、夜は酒場 (kouga)
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浮遊城 昼
黒の剣士


現在、ゴッドイーターの方でも連載させてもらっている者です。息抜きでこちらを投稿しようと思いました。
この話は基本ゆったりと更新していきたいと思います。
ではどうぞ


本日も晴天なり。店を開けて早数時間、一向に客はやってこない。それもそのはず、この店は知るものこそ知る伝説の鍛冶屋!……ではなく

森の中に佇む小さな鍛冶屋なのだから。そんな所に今日初めての人物が扉を開ける。

 

 

 

 

「いらっしゃい!ってなんだ坊主かよ〜」

 

 

 

自己紹介はしてないが、まぁそれはそれでどうでもいいだろう。

そんなことより今日初めて訪れたのは全身を黒で統一したなんとも友達のいなさそうな1人の少年。

 

 

 

「で、今日は何のようだ?」

 

 

 

無愛想ではあるものの会話は進む。そう、彼は一応この店のお得意さまだ。と言ってもこの近くに1人で暮らすご近所さんなのだ。

 

 

 

「ん?っておいおい!こいつは、ついこないだ俺が打ち治したばっかのやつじゃねーか!

は?5連撃にも耐えられない?知るか!俺はあくまで刀鍛冶専門だ!たくよー…修復不可能じゃねーか〜!」

 

 

 

まぁ、ただのご近所さんという訳では無い。何せ目の前にいる少年は巷で有名なビーター、黒の剣士なのだから。そして自分はその剣士に剣を教えたものだ。

 

 

 

 

「はぁ…お前予算はどれくらいでここに来たんだ?

んー……ちと足りねーな…それに打ち治すだけならまだしも一から打つとなると難しいぞ?なんせ刀鍛冶だからな!」

 

 

 

先程から自分が主張するように刀鍛冶と言うが、それにはわけがある。もとより、剣と刀とでは全く違う。剣とは両刃があり、切るというより突く、潰すと言うのが正しい。それに比べ刀は片刃、反りがありこちらの方が切るという概念がピッタリだろう。そのため刀鍛冶に特化した自分にとって剣を生み出すというのは少々難しい。

 

 

 

 

「ってお客様ぁ、ちょっと待ってくださいよぉぉぉっ!別に出来ないことはないんですから、まぁ話だけでも聞いてって!そんなゴミを見るような目はやめて!

ゴッホン…まぁ、俺が打つとなると予算もやばいし期待も出来んが、いい店を紹介してやる。なぁに昔の馴染みだ、安心しろ。」

 

 

 

ドヤ顔している隙に少年が剣をしまい立ち去ろうとするので何とか足にしがみつき土下座をした所で向き直って貰えた訳だが、紹介する店というのは多分少年なら知っている所かもしれない。

 

 

 

「ほれ、俺の知る中じゃかなりの業物を打つぜ。《リズベット武具店》48層、リンダースにある鍛冶屋だ。

って、あ?閃光様にも勧められた?んだよ坊主〜、そんなことなら最初からそっちに行けばよくねーか?

ん?これだけが目的じゃない?」

 

 

 

やはり少年は知っていたようだ。それも閃光様からの勧めで、これは詳しいことを聞きたいが、それは夜の仕事である。少年は違う目的を果たすために今度はエリュシデータを出現させる。

 

 

 

「!何かと思えば…お前じゃ勝てないって〜悪いことは言わんから…500敗目を迎える前にやめとけ〜

あと、32戦ある?お前さんも細かいねーんじゃ…負けたら今晩、酒場に旦那とバンダナのあんちゃん達連れて顔出しに来いよ?」

 

 

 

口では拒否しながらも体が勝手に裏庭へと足を運ばせる。ようやく定位置につきデュエル開始まで60秒となった。

 

 

 

 

「さぁ、お前の《二刀流》がどれぐらいになったか見てやる。

 

―――来い、黒の剣士」

 

 

 

 

こうして、開始数秒で決着がつき黒の剣士が記念すべき469敗目を上げたのであった。

 

 

 

 



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閃光

 

 

本日も晴天なり。店を開けてから早数時間、今日はなんだかんだ素敵な出会いがあるような気がしてしょうがない。そんなウハウハな私だったが目の前には鬼の形相いや、悪魔?とりあえずかなり怖い顔をした人物がそびえ立っている。

 

 

 

「あ、あのぅ…閃光様?本日はどういったご要件でいらっしゃったのでしょうか…?」

 

 

 

あまりにも機嫌が悪いのか美しき白と赤を基調とした服装、血盟騎士団の証である一式が黒いオーラを纏っている。

 

 

 

「っ!…ごめんなさい!すいません!一旦呼吸をやめますから、そのゴミを見るような目だけはご勘弁をっ!!」

 

 

 

一瞬目が合っただけで身体中を寒気が襲いつい反射的に土下座をしてしまう。自称ではあるものの世界一頭が軽い人間の速度は計り知れない。すると、閃光様がようやくを口をお開きになられた。

 

 

 

「え?いやいや、私程度の人間が貴方様のお名前など口にするなどおこがましいの極みです……せめて、いや!副団長殿でお許しいただけないでしょうか?

それでですね…副団長殿?本日はどういったご要件で…?」

 

 

 

そうすると、副団長はため息を着きながら目の前のカウンターに1本の細剣を出現させる。製作者はリズベットと書かれており彼女の愛用している細剣だ。

 

 

 

「へ?打ち治してほしい?こいつは嬢ちゃんが打ったレイピアじゃないですかい?なんでうちなんかに?

ん?坊主と嬢ちゃんがあの一件以来、妙に親しくて行きづらい?」

 

 

 

先程の鬼のような形相が一変、急に椅子に座りこんだかと思うと、涙目になりながら俯き始めた。

 

 

 

「はぁ〜…まぁ、坊主は不器用ではありますが、人たらしの才能がありますからね〜。そんなやつに嬢ちゃんの店進めた副団長殿にも責任があるんじゃないですか?」

 

 

 

俯いたと思いきやそのまま伏せて両腕を枕にしてその腕に頭を乗せながら珍しくも弱々しい姿を見せる。

 

 

 

「まぁ、と言っても坊主が嬢ちゃんに心はひらかんでしょーよ…色々とありましたから……」

 

 

 

副団長殿は何のことかわからないっと言ったように頭の上に「?」を浮かべているが、ついつい零れてしまった小言だ。自分が話していいことでもない。

 

 

 

「いえ、独り言です忘れてください。それでレイピアの打ち治しですが、これはやっぱり嬢ちゃんの店でやって貰って下さい」

 

 

 

レイピアを鞘に収め、副団長殿の目の前に置き換えす。その瞬間にガバッと起き上がり胸ぐらを掴んでブンブンと頭を揺らす。

 

 

 

「ふ、副団長殿ぉぉっ!お、落ち着いて、頭がっ!もげるからぁ!

はぁ、はぁ…あのですね…ここでウジウジしてても変わらないですよ?坊主の隣に居たいのなら行動に移しなさいな。大丈夫、副団長殿ならできますよ。」

 

 

 

一旦落ち着かせると副団長殿はストンと椅子に座りこみ目を覚まさせるように、一度両頬をバチンと叩き再び立ち上がった。

 

 

 

「余計なお世話かも知れませんが、坊主は今家で寝てますぜ。ほいっと家までのルートです。ではご健闘を!」

 

 

 

そういって、副団長殿に向かって綺麗に敬礼すると副団長殿もまた笑いながら敬礼し勢いよく扉を開け駆け出していった。

 

 

 

「恋する乙女は強し、とは言うが…あんな坊主がべっぴんさん手玉に取れるなんて、はぁ…

 

―――レイシック受けよ」

 

 

 

嵐は去り、今日も今日とて鍛冶屋は正常運転。

 

 

 



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ちんちくりん

 

 

 

本日も晴天なり。だがどうしてだろう晴れ渡る空に対して自分の心はなぜが曇りがかっている。これは、なにか面倒な客が来ると思い、開いたばかりの店を閉じようとした時。

 

 

 

「へぼぉっ!」

 

 

 

外にでて看板をしまおうとした瞬間ボール程の大きさの何かが背中へと突っ込んでその衝撃で店内にまで吹っ飛ばされた。

 

 

 

「って〜…んだよやっぱりお前か、ちんちくりん!」

 

 

 

仰向けのまま店内で静止していると視界に見覚えのある幼い顔が覗き込んできた。

 

 

 

「はぁ…雲の正体はこいつ……どうせだったらボンキュッボンのべっぴんさんが良かった…なぁ、ピナ~」

 

 

 

そう言われてほっぺを膨らまし顔を真っ赤にするちんちくりんを横目に胸の上で丸くなっていた小竜を優しく撫でる。

 

 

 

「発育途中?無理無理無理、坊主が力士になるくらい無理ぃー!なぁ、ピナ〜」

 

 

 

そう言うと余計に顔を赤く染めもはや噴火寸前の火山のようになっているちんちくりん。それをなだめるためにすかさずジュースを取り出しご機嫌取りをする

 

 

 

「まぁ、細かいことは忘れよう。そんで今日はどういったご要件で?

あ?新しいダガーを作ってほしい?

んー…あっ!ちょうどいいのがあった。よく逆手持ちするお前にピッタリなやつ」

 

 

 

そう言うと抱えていたピナをカウンターへ下ろし倉庫へと向かい数本のダガーナイフを持ち出してくる。

 

 

 

「じゃん!どーよ、ククリ刀っつてな本来は内刃なんだが坂手持ちのダガー使いように外刃に仕上げてみたんだ。耐久値はちと心許ないが切れ味は抜群だぜ!

あ?刺せる奴がいい?たく注文が多いな~。こいつなんかどうだ?」

 

 

 

そう言って渡した1本のダガーナイフを持ちちんちくりんは試し斬りとして店内にある不要な木材を切り刻んだ。

 

 

 

「へっへーん。すげーだろ?名前はグルカナイフっつてまぁククリ刀の別名なんだが細かい事は気にすんな!」

 

 

 

その光景に自分で驚きながらま目を輝かせながらちんちくりんはすぐさま購入の手続きを済ませる。

 

 

 

「よしっ!毎度あり〜。また頼むぜちんちくりん。ん?せめて呼び方を変えてほしい?えー…幼児体型とか?

っ?!ご、ごめんなさい…」

 

 

 

出会った時からの呼び名を今更帰るのも難しく提案した案は一瞬にして眼前に突きつけされたダガーナイフと共に却下された。

 

 

 

「んー…つってもな…やっぱ、ちんちくりんだな!

あ?どうして?そりゃあお前がまだガキだからだよ~名前で呼んで欲しかったらあと10歳年とってボンキュッボンのべっぴんさんになってから出直せ。」

 

 

 

もう突っ込む気力もないのか肩をガクッと落としちんちくりんはダガーナイフをしまい、ピナを肩に乗せた。

 

 

 

「まぁ、落ち込むなって。そんなお前に俺からのプレゼントだ!え?いらない?坊主の情報だよ?」

 

 

 

坊主という言葉が誰をさしているのか知っているちんちくりんは急に向きを変えこちらに飛びかかって胸ぐらを掴みかかる

 

 

 

「ちょっ!ま、待って!ほんとにっ、頭もげるから!

はぁはぁ…坊主の周りにはマシな女はいねーのか…たく…あいつは今副団長殿と迷宮区に潜ってる。クタクタで帰ってくるだろうから何かしら奉仕するチャンスだぜ。はっ、今更奉仕くらいで赤くなんなよ」

 

 

 

落ち着いたかと思えば副団長殿という言葉に落ち込みかと思えば奉仕くらいで赤くなる。表情がよく変わって面白がっていると、急に立ち上がり胸の前で拳を握りしめる。

 

 

 

「ちんちくりん、頑張れよ!」

 

 

 

そう言って突き出した拳に合わせるようにちんちくりんもまた拳を突き出し、店を飛び出していった

 

 

 

「はぁ…坊主とちんちくりんならギリギリ犯罪か?いやぁ…まぁ大丈夫か。さてと片付けよ…」

 

 

 

小さな火種は鎮火した、今日も今日とて鍛冶屋は正常運転

 

 

 



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嬢ちゃん

 

 

本日も晴天なり。いやはや、最近はここら一帯に多くのプレイヤーが来て店が少しだけ有名になってしまった。何故かって?そんな事は自分にもわからん。なんでも坊主のねぐらがバレたらしいが今更なんの用があるのだろうか?

 

 

 

「いらっしゃい!おっ、珍しい客だな。店の方はいいのかい嬢ちゃん?」

 

 

 

心地よく扉が開いたかと思えば、なんともまぁ可愛げもなくむしろ不機嫌にさえ見えるピンク頭の少女が入口に立っていた。

 

 

 

「あ?副団長殿に任せてきたぁ?!お前さん正気か?なんでまた恋敵なんか…っ!?ご、ごめんなさい…どうかメイスだけはお納めください…」

 

 

 

自分の悪いくせが出た。ついつい余計な一言を発してしまい、不機嫌そうな顔が今度は殺意の篭った笑顔とともに攻撃となって、メイスでカウンターを凹ませた。

 

 

 

「はぁ…で?今日ここに顔出しに来たってことはいつものあれか?

え?それだけじゃない?」

 

 

 

嬢ちゃんがこの店に来る時は大抵ある一つのことをするためなのだが今日はもうひとつあるらしい。急に落ち込んだように椅子に座るとある記事をこちらに渡してくる。

 

 

 

「んだこりゃ?!黒の剣士の二刀流、ボスをソロ攻略っ?!かぁ~!しかも副団長殿とのこんな写真まで、こいつはもうあれだな…飲むしかねーな!」

 

 

 

その瞬間に凹んでいるカウンターをさらに破壊するほどの威力で嬢ちゃんは手をついて立ち上がり、胸ぐらを掴んでくる。

 

 

 

「嬢ちゃぁぁぁんっ!お、落ちついて!頭がもげる!脳みそがこぼれる!

はぁはぁはぁ…あ?副団長殿との写真のことじゃない?秘密にしてた二刀流のことがバレたことで落ち込んでた?」

 

 

 

何とかもう一度落ち着かせ座らせることに成功したが、何故坊主の回りの女はこんなにも自分の頭をもぐ勢いで揺さぶるのだろうか。いや、今はそんなことはいいただ女心というやつが分からないだけだ。

 

 

 

「はぁ…いやまぁ、女心ってのは複雑でわかんねーけどよ、坊主が秘密をバラしてでも守りたいものがあったんだろ?それだけは認めてやんなきゃな?いい女になれないぜ?」

 

 

 

そういって、嬢ちゃんの頭に手を乗せ軽く頭を撫でてやる。その間は珍しいことに抵抗することもなくただ涙しながら俯くだけだった。

 

 

 

「よしっ!ほら、いつまでも泣いてねーで!恒例のあれやるぞー!」

 

 

 

そうして嬢ちゃんを元気づけるために2人は奥の工房へといき所定の位置につく。

 

 

 

「今日は特別に嬢ちゃんが決めていいぜ?何を打つ? へ?刀でいいのか!いいねぇ~そうこなくっちゃ!」

 

 

 

恒例のあれとは嬢ちゃんと自分の武器作り対決だ。より良く仕上げた方の勝ち。ちなみにだがこの勝負では刀以外で嬢ちゃんに勝ったことはない。だが、刀であれば自分が負けることは絶対にない。

 

 

 

「へへ、嬢ちゃん。後悔するなよ?」

 

 

 

タイマーが鳴り響くとともに両者がそれぞれの素材を手に金属音を響かせる。そうして…

 

 

 

「おぉー!やっぱり嬢ちゃんの武器はいいね~。嬢ちゃんの思いが色艶になって刀身に現れてる。流石俺の弟子!」

 

 

 

終了と共に両者が刀を交換する。それを見て素直な感想を述べる。嬢ちゃんは一瞬だけ顔を赤くするも自分の持っている刀を見て肩を落とす。

 

 

 

「まぁ、そう気を落とすなって!俺は刀鍛冶専門な訳だしな!失敗作だけど。

え?当たり前だろこんなのは名刀じゃねー。どっからどう見ても妖刀の域に達してる。これじゃ売り物になんねーな…」

 

 

肩を落としたかと思えば自分の発言によりいっきに声を荒らげて食いつく。たしかに傍から見れば業物かもしれないが刀鍛冶の自分に言わせれば失敗の失敗作だ。それを平然と述べる自分に嬢ちゃんはとうとう頭を抱えてしまう。

 

 

 

「はははっ!それで嬢ちゃん?気は晴れたかい?

うむ、そいつはよかった。次来る時は刀鍛冶で負かせるようになってから来いよ?」

 

 

 

いつの間にか坊主のことなんぞ忘れているかのように嬢ちゃんは鍛冶に没頭していた。まぁ、それが目的でやっていたので結果オーライである。

 

 

 

「嬢ちゃん!忘れもんだ。坊主によろしく!」

 

 

 

帰り際スッキリしたように帰路につこうとする嬢ちゃんを呼び止めある剣を投げて渡す。それは坊主の愛用する2振りのうちの黒の剣。手入れを終えたのだが一向に取りに来ないため嬢ちゃんへと託したのだ。そうして嬢ちゃんもまた笑いながら今度こそ店をあとにした。

 

 

 

 

「女3人か…坊主に紹介してもらお。バンダナのあんちゃんは…まぁ、いっか」

 

 

 

競い合い高め合い、刀を生み出した。今日も今日とて鍛冶屋は正常運転。

 

 

 

 



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バンダナのあんちゃん

 

本日も晴天なり。ここ最近やけに静かだ、そして暇だ。原因は分かっているのだが、まぁいいだろう。さて、今日はどんな素敵な出会いがあるのだろうか

 

 

 

「いっらっしゃい!なんだ、バンダナのあんちゃんか〜どしたの?そんな焦った顔して。ん?この記事?」

 

 

 

汗をかきながら入店してきたのは素敵な美人さんでも可愛らしい天使でもなく、野武士面に趣味の悪いバンダナを巻いたあんちゃんだった。とても急いでいたのか、着いてすぐにある記事を見せてくる

 

 

 

「なになに…黒の剣士の二刀流、神聖剣に届かず。まぁだろうな。っておいおい、別に団長殿に肩入れしてるわけじゃねーぞ?それに、この試合なら生で見たしな〜」

 

 

 

そう、実は坊主はあの血盟騎士団団長と副団長殿をかけてデュエルをすることになっていた。まぁ、坊主も弱いわけではないが何分相性が悪い。実際に守りの硬い団長相手にかなり攻めあぐねていた。しかし、善戦した方だろう。なにせ相手は…

 

 

 

「ちょっ!バンダナのあんちゃん落ち着けって!坊主だって1人のプレイヤーだ。最強ってわけじゃねーだろ。あ?そうじゃない?血盟騎士団入団について?あぁ…そいうことか…」

 

 

 

いつもなら2人でそんな時もあると笑い話で終わりなのだが、坊主が負けた暁にはなんと血盟騎士団に入ることになっていた。バンダナのあんちゃんはそれを危惧していたのだ。これは坊主の過去を知るものにしか分からない苦悩である。

 

 

 

「バンダナのあんちゃんは心配性だね〜坊主なら大丈夫だって。もう俺達が出る幕じゃねーよ。隣には相応しい人がいるだろ?」

 

 

 

バンダナのあんちゃんの気持ちは正直わかる。坊主の過去を知った2人だからこそ、今回のことを重く考えてしまう。だが、あの時とは明確に違いがある。なにせ、隣には副団長殿がいるのだ。

 

 

 

「でもじゃねー…あんちゃんには副団長殿がどう見えた?」

 

 

 

あんちゃんはかなり重症だ。心配性に拍車がかかっている。だが、無理もないあの時の坊主ほど見てるだけで痛々しいやつはいない。そんな坊主をあんちゃんはすぐ近くにいたのに助けてやれなかったのだ。だからこそ今でもそれを引きずっている

 

 

 

「美人で可愛くて強くて可愛くて優しい…まぁ、まぁ…その通りだけどね?!でもなんか違うくない?!

そうじゃなくて、守られるだけの御方に見えたか?違うだろ。もう、俺達が守ってやる必要はねーよ」

 

 

 

そう、副団長殿は強い。坊主の隣で坊主を守ってくれるだろう。あの時から前に進ませてくれるだろう。あんちゃんにはそれが伝わったようで椅子に座り込んでしまう。

 

 

 

「たっく、あんちゃんは泣きぐせが直んねーな!ここは酒場じゃねーんだぞ?それにな、あいつはずっと独りなんかじゃなかっただろ?あんちゃんがいて旦那がいてそんで一応俺もいた!もう充分だろ…

ほら!そうと決まれば…次は俺たちの幸せに協力してもらわねーとな」

 

 

 

つい歓喜あまってあんちゃんは泣いていた。男泣きというものだが、何故か今はそれを見ても気分が悪くない。そんなあんちゃんを元気づけつために悪い笑顔を浮かべながら会話を進める。

 

 

 

 

「あんちゃん…実はな坊主の伝で聞いてもらったんだが…年上好きの刀使いに興味がある女が数名いるらしい…分かるな…?……合コンだぁぁぁ!」

 

 

 

 

さっきまでのシリアステンションは何処に?と言わんばかりに漢2人は叫んだ。あんちゃんも涙は消え、出会いを求める瞳に早変わりだ。

 

 

 

「そうと決まれば!あんちゃん、そんなしょっぱい刀使ってねーでこいつ使いな!風林火山リーダーならやっぱ《来國長》だろ!さぁ、女作るぞー!!!」

 

 

 

過去を乗り越え仲間を見据え、今日も今日とて鍛冶屋は正常運転。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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旦那

 

本日も晴天なり。つい先日、合コンに惨敗しやけ酒をしたばかりの今日この頃面白い話もないのだが、そこに1つの不安な報せが届く

 

 

 

「いらっしゃい!って、旦那!こっちに来るのは珍しくないですかい?」

 

 

 

店を訪れたのは強靭な肉体に色黒の肌、加えて自分を優に超える長身の男。仕事柄かなりわがままを聞いてもらったり聞いたりしている間柄、そう旦那だ

 

 

 

「すんません。茶ぐらいしかないですけど、とりあえずどぞ。そんで、今日はまた何でこの時間帯に?」

 

 

 

いつもであれば旦那は夜の酒場の方に顔を出し、そちらで仕事の依頼や随時情報交換をするため、鍛冶屋の方にはめったに来ない。

 

 

 

 

「え?装備を幾つか仕上げてほしい?いいっすけど…なんでまた?……は?ラフコフの残党?」

 

 

 

 

いい報せどころか、最悪の報せだ。殺人ギルド《ラフィン・コフィン》、これは攻略組50人がかりで壊滅させたギルドなのだが、その中でも討伐隊は11人、ラフコフ側も21人死亡。討伐隊の生存者たちに痛い記憶を刻んだ。そんな殺人ギルドの残党がいたというのだ。それも被害者が

 

 

 

 

「…旦那…そいつはマジですか?っ!坊主が被害者?!あのイカれ野郎ですかい?!へ?副団長殿の元側近?はぁ…なら大丈夫じゃないですかい。」

 

 

 

 

犯人はラフコフの残党ではあるものの本当に下っ端の雑魚だったらしい。だが、決して大丈夫ではなかった

 

 

 

「へ?大丈夫じゃない?……そっすか…殺しちまったんすね…またあの感覚を味わったんすね…」

 

 

 

 

坊主は以前の討伐作戦でラフコフの数名を手にかけている。いや、坊主だけではない。副団長殿にバンダナのあんちゃん達も殺したことがあるのだ。その重みといったら子供が背負えるようなものでは無いだろう。

 

 

 

 

「旦那、装備の方はすぐに仕上げます。いや、金は後日でいいです。え?なんでって…もう嫌でしょ。サポートしてきたプレイヤーが何かに奪われるのは…」

 

 

 

 

そう、自分は前線を離れてサポートに回った身だ。だからこそ、あの時のように自分の選択で誰かの命が奪われるのはどうにもやるせない。やれることはやっておきたいのだ。そう思い、鍛冶場に入り鉄を打った。

 

 

 

「ほいっ!俺の作れる最高装備計50式!他にも作り次第随時旦那の店に運びますよ。旦那、中層プレイヤー達のことよろしく頼んます。」

 

 

 

 

仕上げた装備を全て旦那に渡し、自分の仕事は終わった。本当であれば自分で渡せばいいんだろうが、もうその資格はない。理由は少しだけ過去に遡ることになるからまた今度

 

 

 

「それと、坊主にも見舞い品作ったんすけど…家にいないんすよね〜へ?結婚?へぇ〜坊主と?副団長殿が?結婚………へぇ〜……えぇぇぇぇっへっへっ?!?!」

 

 

 

過去を思い出し、歩き出せたことを実感する。

今日も今日とて鍛冶屋は正常運転。

 

 

 



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本日も晴天なり。何やかんや、坊主がいなくなってから副団長殿も顔を出さなくなり店が暇になりつつある今日この頃。まぁ、結婚してるから仕方ないがちょっとだけ寂しい気持ちを持っていた。そんな所に驚くべき客が迷い込む。

 

 

 

「いらっしゃい!……はぁ…久しぶりだな、AI」

 

 

 

 

扉を開けて入ってきたのは虚ろな目をした幼い白のワンピースを着た少女だった。こんな子供のプレイヤーがたった一人で鍛冶屋に来るだろうか…いや、そんなことは無い。普通であれば始まりの街から出歩くことは無い。だが、自分はこの少女を知っている。

 

 

 

 

「?お前…まさか…!そうか…もう、何も無いんだな…」

 

 

 

初めてあったのではない。だが、様子がおかしかった。思えばこの子は自分を見ているようでその瞳に何も映してなどいなかった。そうこの子はもう…

 

 

 

 

「…来な娘、お前に俺の仕事ってやつを見してやるよ!」

 

 

 

 

首をかしげ顔をキョトンとさせる少女。その子の手を握り笑いかけ自分の工房へと足を運び、安全な場所へと座らせた。

 

 

 

「危ねーからそこで見てろよ!瞬き厳禁、刹那に終わる神業だぜ?」

 

 

鉄を打つ。響く音は空間を響かせる。熱を帯び赤く変形する刀身は打たれる度に輝き、魂が籠る。何度も何度も何度も、その光景に娘は目を輝かせているように見えた。

 

 

 

 

「よし、出来た…後は製作者をunknownにして…ほれ、護身用に持っときな!大丈夫!前みてーに妖刀にはなってねーって言っても覚えてるわけねーか…」

 

 

 

 

護身用にしては余りにももったいない正真正銘の業物だが、そんなものはもういい。今はこの子をある場所へと行かせることが重要なのだ。

 

 

 

 

「悪いな娘。俺にはお前を守ってやる権利はねぇ…でもな、お前が探してた奴らの所まで導いてやることはできる。」

 

 

 

 

そう言って、ある場所を記したメモと1つの転移結晶を娘に手渡す。それを見ても理解出来ていないように娘は首を傾げる。

 

 

 

「娘、この人達に出会え。俺なんかよりも喜びも、安らぎも知ってる。こんな世界でも希望をもってるいいプレイヤーだ。だがら、必ずお前が本来のお前として伝えるんだ。2人と過ごして感じたこと、わかったこと…なんでもいい…お前の本心を伝えてくれ。いいな?」

 

 

 

言葉はない。ただ、静かにコクリと頷く。その動作は本当に幼い少女そのものだった。

 

 

 

 

「よしっ!いい子だ。じゃーな…―――ユイ」

 

 

 

少女の名前を口にする。その瞬間何故だろうか、少女が笑ったのだ。そして、自分の事を覚えているはずのない少女は…

 

 

 

「っ!…んだよ…狸寝入りでも決めてたのか?

…名前覚えてんじゃねーか…」

 

 

 

自分の名前を口にし、虚ろな瞳にもう一度光を灯した。そうして、刀を抱えながら駆け出し店を去っていった。

 

 

 

 

「はぁ、そろそろかもな…」

 

 

 

 

理解し難い言葉をポツリとつぶやき、今日も今日とて鍛冶屋は正常運転。

 

 

 

 

 

余談ではあるが、この数日後、始まりの街の地下に隠された隠しダンジョン。そこに潜む90層クラスのボスをたった一人で討伐した元攻略組の噂。その真相は誰も知らない。

 

 

 

 

 




すいません┏○┓リアルが忙しく、投稿出来ませんでした。
あとほのぼののにシリアスになってしまいました┏○┓
誠に申し訳ございません┏○┓


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夫婦

 

 

本日も晴天なり。最近は客足もピッタリと止みやがった。鍛冶屋の儲けはほぼゼロ、なんて暇な数日間だったか…なんてことを思いながらも攻略が明日始まる今日この頃最後の客はすぐ側だ。

 

 

 

「お、やっと来たな〜待ってたぜ、御二方。」

 

 

 

店を開け入店して来たのは、仲良く手を繋ぎ互いに薬指に指輪をはめた坊主と副団長殿だった。

 

 

 

「お久しぶりです主さん。」

 

「本当ですよ〜副団長殿なんて酒場での愚痴こぼし大会以来じゃないですか〜ひぇっ…」

 

「何か、言いました?」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

 

 

ちょっとだけふざけただけなのに首元に細剣を容赦なく突きつけてくる副団長殿、その表情は笑っているようで笑っていない。その隣の坊主複雑な様子だ

 

 

 

「おい、人の嫁にちょっかい出すな」

 

「いやいや、坊主。よく見てみ?ちょっかいつうか剣突き出されてんだよ?デコピンしたらグーパンされてる感じだよ?」

 

「アスナに変なこと言うからだろ…」

 

「ははーん、さては…ヤキモチだな!」

 

「…はぁ…あんたのボジティブさには畏れ入るよ…首元に剣突きつけられてよくそんなこと言えたな!」

 

 

 

微妙例を出しつつも、いい感じに乗ってくれた坊主をちょっと嬉しく思う。だが、この状況を理解しているのなら早く剣を収めさせてほしいと思い主だった。

 

 

 

「まぁまぁ…とりあえず副団長殿?そろそろ剣下ろしてくれない?」

 

「……」

 

「アスナ、下ろしてやってくれ」

 

「うん!」

 

 

 

自分の発した言葉にはピクリとも動かない副団長殿だが、坊主が自分と同じことを言うとニコニコ笑いながら剣を下げた。

 

 

 

「ねぇ、なんで?!俺と坊主でなんでそんなに温度差あるんですか!?」

 

「月とスッポンって言葉わかるかしら?」

 

「私目がスッポンですか?!」

 

 

 

未だに笑顔を絶やさずこちらに向けて悪意ゼロで言葉を放つ容赦ない副団長殿。だが、坊主がここで口を挟んでくれる。

 

 

 

「アスナ…流石に言いすぎだよ」

 

「そうだよなぁー!坊主!」

 

「せいぜい、人間とゴギブリくらいじゃないか?」

 

「コールド負けじゃねーか!!!」

 

 

フォローをするかと思えば結局さっきと大して自分の位置が変わってない。むしろ害虫にランクダウンだ

 

 

 

「ふん!依頼じゃねーなら帰れ!俺は忙しいんだ!」

 

「「へぇー…客1人いないのに、か?/ですか?」」

 

「……」

 

「……」

 

「あなた方が神様です。何なりと申してください。」

 

「よしっ!」

 

「やったぁ!」

 

「…はぁ…」

 

 

 

かなりの虚勢を張ったのだが、それも報われず自分が膝をつき依頼を頼む側になってしまう。それを見て2人が笑ってくれたため。まぁ、いっかと思ってしまう。

 

 

 

「んじゃ仕事しますかね…で?依頼は?」

 

「俺はもちろん…コイツを打ち直してくれ」

 

「はいよ。副団長殿は?」

 

「私からは…これです。」

 

 

 

坊主はもちろんのことエリュシデータをカウンターへと乗せた。もう何度打ち直したか分からないが、今回はダントツで耐久値が削れている。まぁ、検討はついているが、副団長殿からの依頼は自分も驚かされるものだった

 

 

 

「!……綺麗な宝石だな。」

 

「はい。コレをネックレスにして欲しいんです」

 

「はいよ!…大切なものなのか?」

 

「…はい。」

 

「あぁ、そうだな…」

 

 

 

見ただけでわかった。あれは、あの子の心だ。そして、それを持っているという事は出会えたんだ。2人の反応を見る限りやはり出会わせて良かったと思う。

 

 

 

「……よっしゃぁ!仕事してくる!

あ、待ってる間にチューとかすんなよ!抱き合うのも禁止だかんな!」

 

「「だ、誰がするか!/するもんですか!」」

 

 

 

工房に入り、坊主の剣を強化素材で補い熱をおわせ打ち直していく。今までのどんな剣よりも丁寧に、強く、何度も何度も鉄を打つ、それはやがて形になりより良いものへと仕上がった。

 

 

 

「ふぅ…」

 

 

 

次に細かい作業になるがまずはチェーンの部分を作り上げ、その先端に宝石が着くように位置を作り開ける。そして、最後に宝石をはめる。そうして、仕事が終わった。

 

 

 

「おーい!終わったぞ〜…チューした?」

 

「「してない!」」

 

 

2人にそれぞれ目当ての物を渡し、それぞれの反応を伺うがどちらも笑っている。なんて心躍る瞬間であろうか。それにあのネックレス、やはり作れて良かったと改めて思う。

 

 

 

「気に入ってもらえたようで何よりだ。これで先に進めるな?」

 

「はい。」

 

「……」

 

「どした〜坊主?」

 

「キリトくん?」

 

「…いや、まだやり残したことがあったよ」

 

「!」

 

 

 

副団長殿に対して何か心残りのありそうな坊主。すると、吹っ切れたようにエリュシデータを構えこちらに突きつけてくる。

 

 

 

「キリトくん!?何して…」

 

「アスナ、ごめん。でも…俺はこの人に勝たなきゃいけないんだ。」

 

「何かと思えば…記念すべき500敗目は嫁さんの前がいいのか?」

 

「5、500?!」

 

「違うよアスナ…今日で500戦1勝499敗だ!」

 

「へっ、そうかよ…来な」

 

 

 

副団長殿の様子を見るに話してはいなかったらしいが、まぁ驚くのは必然だ。だが、そんな副団長殿を置き去りにするように3人で裏庭に移動する。その移動中2人の話し声が聞こえる

 

 

 

「キリトくん、さっきの本当なの?」

 

「あぁ、俺は過去に1度もあの人に勝ったことがない…」

 

「冗談じゃ、ないのね?」

 

「うん。でも、今日は違う。俺も進まなきゃいけないんだ」

 

 

 

ようやく2人が裏庭に到着する。そこで自分も腰に得物を据える。

 

 

 

「ハンデほしいか?」

 

「冗談はよせよ。全力で来てくれ…」

 

「了解…」

 

 

 

デュエル開始まで残り数十秒。互いに会話はない、坊主の側にはネックレスを握り胸に手を置く副団長殿。その時自分には見えた。坊主が背負っているもの達が

 

 

 

「尋常に、勝負っ!」

 

「っ!はぁぁぁぁっ!!!」

 

「……重いな。本当に重くなった……」

 

 

 

坊主の剣を自分の刀が受け止める。そして、伝わる。口から素直な感想がこぼれる。

 

 

 

 

 

 

 

この日初めて、黒の剣士が1勝を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日もこれからも鍛冶屋は正常運転。

 

 

 

 




本当であればユイの心は攻略よりもっと前にネックレスになっていましたが、都合上許して下さい┏○┓
あと残り1話ですが、最後はまぁあの人ですね


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団長殿

※注意※

SAO編における最終回です。酒場のほうなどお読みになってから読むことを推奨します。

では、どうぞ。


―――ゲームはクリアされました

 

 

 

「なんて愉快な鐘がなってんだよ」

 

 

 

本日も晴天なり!まぁ、昨日最後の客として来た夫婦がこの世界を―――俺を終わらせたようだ。刻一刻と生存プレイヤー達のログアウトが進んでいる中、自分は未だに鍛冶屋で店番をしていた。

 

 

 

「とうとう、か…」

 

 

 

なんやかんや、長い間プレイヤー達もめげずに頑張ってくれたものだろう。でも、自分にとってはあっという間の時間だった。

 

 

 

「終わっちまったな〜アッキー」

 

「あぁ、そのようだな…」

 

 

 

誰もいなかったはずの店内にはいつの間にかこの世界に不相応な身なりの男がいた。そう、白衣を着たその男こそが…本当のアッキーなのだ。

 

 

 

「随分と落ち着いてんな」

 

「君の方こそ、人間のように動揺したりするべきではないか?」

 

「なぁーにが、人間だ。そんな出来た生き物じゃねーだろ?俺は…」

 

「そうだな…《世界の意思》よ…」

 

 

 

そう、何故自分がログアウトしないかと言うと自分は世界そのものだったのだ。名前を知らせなかったのはそういうことである。

 

 

 

「少し、場所変えるか?」

 

「あぁ。」

 

 

 

自分の指パッチン1つで世界は景色を変え、ある場所へと移動する。そこはアッキーと自分の始まりの場所

 

 

 

「懐かしいな、ここ…」

 

「ふっ…私はつい先程ここに訪れ、あの2人と別れたがね。」

 

「流石、ゲームマスターあの二人は特別待遇か〜?」

 

「勿論だとも。彼らはシステムの力を超えたもっと先…私の知り得ない力でこの世界に勝利したのだからな」

 

 

そこはアインクラッドを一望出来てる雲の上。そこで眺める。城の崩壊を、そして語り合うことの結末を。

 

 

 

「流石は勇者だな」

 

「勇者が最初から勇者であったのではない。君が育てたのだろう?」

 

「はっ、育てすぎたかもな。」

 

「いや、彼なくしてはこの終焉は起こりえなかった…君は道しるべとして、しっかりと仕事を果たしたさ…」

 

 

 

何ともまぁ満足気な顔を浮かべる。つい先日の語り合いの際、足りないと言っていたものはどうなったのか。そんなことは自分に分からないはずがない。

 

 

 

「そうかよ…」

 

「あぁ…」

 

「なぁ、アッキー。覚えてるか?開口一番に俺に言った言葉、そこからのやり取り。」

 

「あぁ、今でも鮮明に記憶している…

 

―――君は何者だ?」

 

「…私は、この世界の意思だよ。」

 

『世界の意思?』

 

『君が望んだのだろう。あらゆるものを超越した世界を作り出し、その先を見たいと。

だからこそ、それを見せるために生まれたのだ。』

 

 

 

今でも互いに覚えている。初めての会話は機械同士の会話みたいに面白みもなく冷たいものだけだったこと。

 

 

 

『君に見せてもらうのではない。私は、私の目で見届けたいんだ。』

 

『それはなぜ?』

 

『それが、私の夢だからだよ…』

 

 

 

その時に零れた一瞬の笑みに何故か興味を持った。だがらこそ今に至ったのだ。

 

 

 

「ははっ!マジで一語一句違わずに覚えてんのかよ!」

 

「勿論だとも。あれ程印象的な出会いはない。それにここまで俗世に染まるとも思っていなかったよ。」

 

「ぐっ…人間らしくなるために頑張った結果だ!そういうアッキーは全然変わんねーな。団長殿の時の方が幾分か人間味があったぜ〜」

 

「そうだろな…だが、もう終えたんだ。ヒースクリフの役目はもうない。」

 

 

 

どこか哀しそうな表情で空を見上げるアッキー。それを見て、まだやり残したことがあるのに気づく。

 

 

 

「いや、まだあんだろ。」

 

「何?」

 

「最後の役目が悪役だなんて団長殿も報われねーよ。少年はいつだって―――勇者に憧れんだろーが!」

 

「っ!…正気かね?」

 

「モチのロン!アッキーもやる気じゃねーか、口調戻ってんぜ?」

 

 

 

いつの間にか、2人は戦闘態勢に入っていた。一方は白と紅を基調とした鎧に盾と剣を携える勇者。もう一方は黒の袴に朱を基調とした防具を纏い、短刀と長刀を携える魔王。

 

 

 

「そのようだね。この気持ちの高揚は、あの戦いとはまた違うものだ。

では、語らいは…―――剣に託すとしよう」

 

「あぁ、存分に死合おう…!」

 

「「っ!」」

 

 

 

合図は不要。同時に駆け出し剣を交える。

 

 

 

「シッ!!」

 

「ふんっ!」

 

 

 

空間に鳴り響くは剣戟のみ。そして、感じる。世界の崩壊とともに崩れだした自分の身体。消えゆく意識。それでも

 

 

 

「らぁっ!」

 

「はぁっ!」

 

 

 

何度も四肢を斬ったつもりだった。何度も首をはねたつもりだった。だが、未だに繋がっている。それに恐怖するどころか団長殿は少年のように笑っていたのだ。そして、

 

 

 

「次で、決めるぜ…!」

 

「あぁ、終わりにしよう…」

 

「「…」」

 

 

 

数秒の沈黙の後、勇者の剣は魔王の心を刀身ごと貫いた。

 

 

 

「俺の負けかぁ〜…まさか、俺の剣に俺の刀が負けるとはな…」

 

「……」

 

「んな顔すんなよ。アッキー…俺はここで終わりだ。けどな、アッキーの旅はまだ続くんだろ?」

 

「あぁ…今一度電子の海へと溶けるさ。そして、この目で見て回るとするよ。」

 

「そうかい…んじゃ、俺はこの城と共に―――アッキーの帰りを待ってるぜ。」

 

「なに?」

 

 

 

意表を突かれたかのように驚きの表情を浮かべるアッキー。この世界は崩壊している。まぁ、驚くのも無理はないが、自分にはそれができるのだ。

 

 

 

「こいつの名前は世界の種子―――《ザ・シード》だ。

アッキーに託す。まぁ、満足がいったらこいつを使え。そんで、この世界の続きを聞かせてくれ!」

 

「…約束しよう。必ずこの場所でまた語り合おう。」

 

「あぁ!」

 

「ふっ…では、私は先に行くとする。」

 

「またな、アッキー。」

 

「……」

 

 

 

一足先にアッキーが消えていく。それを眺め、城を見つめる。その中で発見した自分の鍛冶屋。

 

 

 

「おっ、あったあった!さてと…

 

―――本日をもって、鍛冶屋閉店!!!」

 

 

 

世界は崩れ電子の世界へと溶けていった。それでも鍛冶屋は正常運転。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q.なんで鍛冶屋と酒場なんですか?


A.「とりあえずアッキーの剣を作った延長線で刀打ってたら何となくこうなってた!酒場の方は単純に酒が好きになったから!」



Q.短刀と長刀を持ってますが、ユニークスキル持ちですか?


A.「ちげーよ。カッコイイからだ!ソードスキルが使えなくても技術だけでどうにかなんだよ」





とまぁ、リアルで質問されたことに対する答えです。




えー、SAO編における物語はこれにて終了となります。本当にこんな駄作を読んでいただきありがとうございます┏○┓
ギャグなんだかシリアスなんだかよく分からない不安定な作品でしたが、楽しんでいただけたのであれば幸いです。
次回の開業はいつになるかまだ未定ですが、気長にお待ち下さい。


では、またのご来店お待ちしております



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浮遊城 夜
黒の剣士 after


 

 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ。

 

 

 

 

「いらっしゃい!って久しいな坊主!」

 

 

 

 

入口を潜り、入店したのは私服だと言うのに黒一色たんでいかにも友達のいなさそうなテンションの低い1人の少年だった。

 

 

 

「?どうした?そんなに落ち込んで?…ははぁん。さてはとうとう副団長殿に振られたな?え、そんなんじゃない?じゃあ、ズバリ喧嘩だな?」

 

 

 

エールを渡し、乾杯する。こんなウザイ絡みをしながらも会話は淡々と進んでいく。そんな中図星をつかれたようにビクッと坊主は身体を反応させる。

 

 

 

 

「あ?図星かよ。なんでまた喧嘩なんざしたんだよ…っとちょい待ち、ほれピリ辛トード焼きだ。へ?これ?」

 

 

 

 

エールを一気に流し込んだかと思えばすぐさま樽ジョッキを起き、自分が出した料理を指さす。

 

 

 

「え?なになに、お前さん食いもん1つで喧嘩したってのか?あ?1つじゃない?クリームワームに綿飴クモ、3首ヘビも捨てられた?はぁ、見事にゲテモノばっかだな…」

 

 

 

少し出来上がってるのか顔を赤くして、テンションが安定しない坊主。まぁ、喧嘩しているから仕方がないが、それにしても酷い食材ばかりだ。

 

 

 

「まぁ、確かに副団長殿の飯はいつも洗礼されてて綺麗で上手いしな…たまにはジャンクなゲテモノも食いたくなりそうだけどよ…え?そうじゃない?いつも上手いもん食わして貰ってるからお礼がしたかった?んー…坊主、だとしてもチョイスがだな…」

 

 

 

坊主の気持ちが分からんでもない。まぁ、自分には坊主のように嫁などいないが、その料理の腕前を知っているため何となく想像がついてしまう。

 

 

 

「へ?美味さを共有したかった?かぁー…お前さん食材をそのままだしただろ?美味さ共有したいならお前さんが料理しなきゃダメだろうが!あ?したことない?知るか!だったら、教えてやるから厨房こい!」

 

 

 

 

そう言って、5杯目に突入したエールを無理やり置かせ坊主の手を引き厨房へと引きずり料理を教える。酔っ払いがどこまで覚えているかは分からないが、とりあえず仕上げまで済ませた。

 

 

 

 

「ふっ、これでゲテモノ嫌いのあの子もイチコロさ…!」

 

 

 

かなりキメ顔で料理を仕上げ、坊主に食わせた。まぁ、坊主からは大絶賛だった。すると、

 

 

 

「おっ!明日の朝にでもご馳走する?いいじゃねーか頑張れよ!って坊主〜!お勘定ー!!」

 

 

 

よほど嬉しかったのか出来上がった坊主は食材片手に店を飛び出していった。

 

 

 

「…まぁ、いっか!今度払わせればいいし…ってあいつ持ってったの…ただのトードじゃなくてポイズントードじゃねーか…」

 

 

 

翌日の朝、ボコボコに晴れた顔に虚ろな目をした坊主は微妙に溶けだしたポイズントードが入った鍋を握りしてただ、涙はしていた

 

 

 

 

夜の街は今日も賑わう

 

 




記憶が曖昧でちょっと違うと思いますが許してください┏○┓


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閃光 after

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ。

 

 

 

「いらっしゃ…!………せ、閃光様?」

 

 

 

今日も今日とて人は決して多くなかった。だが、どのプレイヤーも楽しく、和気あいあいと酒を酌み交わし気分よく帰っていった。そんな中で本日最後のお客様はすでに出来上がっていた。

 

 

 

「あ、あのう…閃光様?本日はなんでまたそんなにキまっちゃってるんでしょうか?

へ?いえいえいえ!別に文句なんかありませんよ?!ただ…ねぇ、いつものお姿からは想像も出来ないほど荒れているので…」

 

 

 

閃光様は今日攻略会議に出席し一週間後にダンジョンに潜ることになっていた。そのはずなのだが、自分の知る中でここまで泥酔しているのは初めてのことだ。

 

 

 

「え?羽休めも必要?ははは…そうですけどね!でも羽休めるどころか今のにも飛び出してFly away!しそうなんですけど…

っ!?も、申し訳ありません!クソつまらんことを口走ってしまいました!って…あれ?笑ってる??」

 

 

 

普段であれば自分のつまらない発言など一蹴りにされるか目で威圧されるかのどちらかなのだが、酔っ払ってるせいで気分がいいのだろう。普段からは想像も出来ない程に腹を抱えて笑っている。

 

 

 

「は、ははは…んっん゛!それでですね…閃光様?一週間後にダンジョン攻略ですよね?なんでまた今羽休めなんですかっぃぃぃぃぃっ?!?!」

 

 

 

1度咳払いをし、元の議題に戻る。羽休めとは1つのことをやり遂げた後にするものだ。今行うのは時期がおかしい。その理由について聞こうとすると、いつも恒例の胸ぐらブンブンが始まった。

 

 

 

「せ、閃光様ぁぁ?!落ち着いてぇぇ?!愚痴ならちゃんと聞きますから!?せめて座ってから仰ってください!

はぁ、はぁ…そ、それで攻略会議の時また何かあったんですかい?」

 

 

 

少しだけ頭がフラフラするが、本人が落ち着いたから良しとしよう。いや、落ち着いたと言うには未だに態度の方は酒飲みのおっさんみたいになっている。エール片手に机に突っ伏すなど普段の嶺麗しい閃光様はどこに行ってしまわれたのだろうか

 

 

 

「へ?坊主とまた口論?御二方、こないだの圏内PKの事件で距離縮めたんじゃないんですかい?え?縮まったようで変わってない?いやいや、フレンド登録出来て少しだけ喜んでたじゃないですかっぁぁぁぁっ?!」

 

 

 

なんと、原因は黒の剣士の坊主だった。2人は先月起こった圏内PK事件を解決させた功労者だ。その時に普段は分かり合えない2人もかなり良い方向に進んでいたと旦那が言っていた。しかし、本当はそうでも無いらしい。自分の余計な一言によりなんとエールが入っていたカラの樽で横一線に綺麗に殴り飛ばされた。

 

 

 

「い、痛すぎる…はぁ、そんなに落ち込むならムキにならずにその場で坊主の意見も聞き入れてみるべきではないですか?それに、多分坊主も同じこと思ってますよ…へ?根拠ですかい?そりゃーご近所さんの特権ってやつですよ」

 

 

 

気分は晴れていないらしく沈んだままの閃光様を見かねて、ある助言をする。真偽に関しては言えないが、実際に鍛冶屋の方に来て坊主自身も少しだけ気にしていたのだ。それを聞いて少しだけ元気が出たようだ。

 

 

 

「閃光様、実は明日坊主とデュエルの約束があるんですよ。変わりに受けてもらえません?ん?何でって…剣士っての言葉より剣で語った方がいいでしょう?

ほら!そうと決まれば、本日はこの辺にしといて下さい。お代は結構です。その代わり、明日必ず鍛冶屋まで来て下さいよ?では、お気をつけて!」

 

 

明日のデュエルは閃光様と坊主が行うことになり、自分はそれの傍観者だ。だが、2人の先を考えるなら必要だろう。

 

 

 

「さてと、片付け………何で…よりによって…この酒が全部こぼれてんだ…」

 

 

 

先程の閃光様の攻撃で吹っ飛んだ際、この店1番の酒が全部無くなっていた。膝をつきそのまま店主は朝を迎え、虚ろな目で2人のデュエルを眺めた。

結果?結果は想像に任せるよ

 

 

 

夜の街は今日も賑わう

 

 

 




時系列はバラバラなので気にしないで下さい。


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ちんちくりん after

 

 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ。

 

 

 

「いらっしゃい!…はぁ、お帰りくださいちんちくりん。」

 

 

 

今日は珍しく人が多かった。まぁ、なんでもこの近くに滞在していた殺人ギルドがあるプレイヤーの手によって捕まったことによりそれを祝しての宴が多かったのだ。それに便乗してなのかこのちんちくりんが迷い込んでしまう。

 

 

 

 

「うちは君のような幼児t…ゲフンゲフン!未成年にアルコールは与えていませんので。あーあー!そんなキーキー喚くな!頭が痛くなる!1杯だけだぞ…ほい、カルーアミルク。」

 

 

 

流石に言いすぎたのか、かおを茹でタコのように赤くし、肩に乗せたピナの色がものすごく栄える。まぁ、そんなことはいいのだがある疑問が頭をよぎる。

 

 

 

「?そういやーちんちくりん。お前この間ピナがどうだかって言ってが何かあったのか?あ?!1回、死んだ?!」

 

 

 

 

流石に驚く。こいつは一応中層クラスのプレイヤーの中であればそれなりに強いほうだ。だが、少しばかり危険なやつとパーティにいたのは事実。まぁ、こいつが生きてるだけよしとしよう。問題は何故ピナがここにいるかだ。

 

 

 

「んじゃこいつはピナじゃなくて…正真正銘の焼き鳥?ツヨッ!?ひならぁぁぁぁっっ?!?」

 

 

 

まず初めにピナの尻尾が後頭部を直撃。それにより下を向いた顔に追い討ちをかけるようにちんちくりんがカラになったコップで顎を強打し、自分の巨体が宙を舞い崩れ落ちる。

 

 

 

「冗談に決まってんだろうがぁぁぁ!なんでアッパスイングしやがった!?…っ!ご、ごめんなさい…」

 

 

 

とりあえず起き上がり文句を付けまくると瞬時に喉元に冷たい感触がつたわる。確実にこれは自分がちんちくりんに仕上げたダガーナイフだ。しかもたまたまいい仕上がりになった。業物、そんなもの痛いに決まってる。

 

 

 

 

「んっん゛!それで、死んだはずのピナが生きてる。だったらあのアイテムが必要なはずだ。でも、お前のレベルじゃ入手できるはずがねぇ…あの殺人ギルドと何か関わりがあんだろ?隠しても無駄だ。お前とパーティー組んでたロザリア?だったか。あのアマはその一員だろうしな、何があった?」

 

 

 

ちんちくりんは最初こそ目を見開きお手上げといった表情だったが、どこか納得したように口を開き全てを打ち明けた。

 

 

 

 

「ほうほう。つまり、事故でピナを死なせ、それを救った黒の剣士が同行しアイテムを入手。そこで待ち伏せていたロザリア率いる《タイタンズハンド》を全員牢獄送りにし、恋心を抱きつつも攻略の邪魔はしてはいけないと身を引き、後悔と無念の想いにかられやけ酒……マセガキ(笑)

っぐべらぁぁっ?!」

 

 

 

要約した後に軽く煽ったつもりだったのだかたった一杯でよったのかまさかのカウンター越しの腹パンに沈んでしまう。

 

 

 

 

「じょ、冗談ですよ…にしても坊主がねぇ…いや、こっちの話だ。

酔っ払ってんだろ?2階貸してやる寝てろ!あ?襲うなだと?寝言は寝ていえ!俺はボンキュッボンのお姉さんにしか興味ねえっつの!って、痛ぁ?!てんめっ!…たく…おやすみちんちくりん」

 

 

自分の考えている以上に人というのは前に進み過去を乗り越える。その1歩目が坊主のこれで新たらしいスタートの1歩がちんちくりんのそれなのかもな。様々なスタートを祝いつつ

 

 

 

夜の街は今日も賑わう

 

 

 

 

 



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嬢ちゃん after

 

 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ。

 

 

 

「いらっしゃい!ってまた来たんですかい嬢ちゃん…」

 

 

 

そこにはちょっとだけ落ち込んでいるように見えるピンク頭の1人のお嬢さんがいた。まぁ、一応同業者ではあり面識もあるが、そちらの方には滅多に顔を出さないのに酒場の方にはここ数日ずっと来ている。

 

 

 

「はぁ…坊主と副団長殿が籍入れてから毎日来てねーか?そんなに辛いか?ん?ってブフォォッ?!」

 

 

 

原因はある2人の結婚だ。まぁ、俺は血痕を残しているがそんな寒いギャグは放っておいて、無慈悲にもエールを飲み干した樽ジョッキが頭へと降り注がれた。

 

 

 

「いや、ごめんなさい…調子乗ってました…

まぁ、一旦落ち着いて…ほい、ジントニ。え?気分じゃない?はぁ?!ウォッカロック?!やめとけやめとけ…旦那でもクラクラするんだぞ?」

 

 

 

涙目の少女に胸ぐらを掴まれ揺さぶられるという何とも間抜けな光景だがもうみんな見飽きたことだろう。とりあえず酒を渡し落ち着かせるが、どうも今日は酔いたいらしい

 

 

 

「うるさいって…可愛くねーな。だから副団長殿に坊主取られんだよ!っは!?嬢ちゃぁぁぁん!?泣かないで?!俺が悪かった!今日のお代はオマケするから!はい!ウォッカロック!イッキしたのぉっ?!」

 

 

 

自分の爆弾発言により急に泣き出す嬢ちゃん。こんな光景誰が見ても勘違いするだろう。宥めるためにとりあえず酒を渡すがそれを一瞬で飲み干した。

 

 

 

「ちょっと待って…マジで落ち着いて。やけ酒なんてホントに良くないですから…それに、坊主のことは本当に仕方ないんですよ…」

 

 

坊主のことに関しては前から口うるさく詮索しないよう言い聞かせていた。坊主の口から聞かせてもらえないようでは隣にはいられないと知っているからだ。

 

 

 

「嬢ちゃんは確かに魅力的ですよ。何を隠そう、このイケメンが断言してやる。え?そんなのどこにいる?いやいや、ご冗談を目の前にいますよ?

っ!?す、すいません…本当に1回口縫い止めます。」

 

 

 

冗談半分のつもりだったのだが、目の前の酔っ払いには通じず、一瞬にしてツマミをさばくナイフを眼前へと突きつけられた。

 

 

 

「ですが嬢ちゃん。坊主の事は仕方ないんですよ…もしも、坊主に出会うのがもっと早ければ隣に入れたかも知れませんがね…ま、嬢ちゃんはこれから坊主よりもいい物件探せばいいだろ?へ?そんなものあるはずがない?またまた目の前にいるじゃないですか…っ?!本当にごめんなさい」

 

 

 

嬢ちゃんの気は晴れない。また、軽い口を開くと先程よりも確実に早い速度で首元にナイフを突きつけられた。

 

 

 

 

「はぁ…どうぞカンパリ・ビアです。まぁ失恋の時に飲むカクテルだな…うちでは扱ってねーけど特別に。嬢ちゃん、坊主には背負ってるものがいくつもある。それを一緒に背負い共に生きていけるのが副団長殿だった…」

 

 

 

1つの酒を提供する。なんでも失恋時にこれを飲む若者が多いらしい。自分にはよく分からないが多分何かにひたれるのだろう。そして、何かに浸りたいのが嬢ちゃんなのだろう。

 

 

 

「嬢ちゃんは本当に魅力的だよ。ただ、出会った時期が悪かった…そんだけ。だから、気にしなくていいと思うぞ?そんなことより、もっと前みて新しい出会い探さねーといつまでも独り身だぞ?…俺みたいに……」

 

 

 

ボソッと呟いたつもりだったのだが聞こえていたらしく、嬢ちゃんは今日初めて腹を抱えて笑った。

 

 

 

「そんだけ笑えれば充分だろ。それに坊主の性格じゃまだまだつけ入る隙はあるぜ?見落とすなよ?頑張れ、恋する乙女!

けっ!柄にもねー話するもんじゃねーな…お代はいい。面白い話が出来たら教えてくれ…じゃーな。」

 

 

 

やけ酒なんてストレスを抱えた社会人がしそうなことをうら若き嬢ちゃんがしながらも悩みを何とか解消し、店を去っていった。

 

 

 

夜の街は今日も賑わう

 



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バンダナのあんちゃん after

申し訳ないです
他のキャラ視点についてですがSAOの外伝から少しずつ始めたいと思います


 

 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ。

 

 

 

「あんちゃん…飲みすぎだって…」

 

 

 

カウンターに突っ伏してしゃっくりを何度もする趣味の悪いバンダナを巻いた1人の野武士面。入店してから数時間たつが一向に酒のペースが落ちない。

 

 

 

「坊主だって色々あんだろうが。嫁の事とか攻略の事とか嫁の事とか…

あれだよ、恋人ができた途端に付き合いが悪くなる友達現象。よくいるよな〜それで別れた途端に遊んでくれるやつが誰もいなくなって絶望するあれ。そう…俺みたいに……」

 

 

 

あんちゃんの酒の量は既に山のように積み重なっている。なんでも、坊主が結婚した途端飲みの誘いもデュエルの誘いも受けてくれないとかでいじけてたのだ。場を和ませようと発した言葉だが何故か自分がのメンタルが削られたのは置いておこう。

 

 

「まぁ、坊主の場合は恋人じゃなくて嫁だから。時間がとれねーのは仕方ねーだろ。あんちゃんだって女いた時は断ってただろ?

……………………心からのごめんなさい…」

 

 

 

自分の爆弾発言により普段仲の良い二人の間に数秒の沈黙が流れる。失態に気づいた時にはもう遅い。あんちゃんはとても静かに声ひとつ漏らさず涙を流していた。

 

 

 

「ま、まぁ…気にすんなって!ほれ、サービスのバーボンロック。

あの〜…あれだよ、俺も今は独り身だしね!それに…あんちゃん顔は悪くねーんだからとりあえずその趣味悪いバンダナとって、ヒゲ剃って、和服やめればイケメンの仲間入りだぜ!」

 

 

 

 

とりあえずご機嫌取りに酒をサービスし、フォロー?しまくるが、何故だが余計に心に刺さっていっているように見える

 

 

「え?それじゃ個性がない?いやいやいや、あんちゃんよ…逆に聞くが坊主に個性があるか?あれだよ?あるとしても、友達がいない、イタい、ボッチ、黒髪、元ソロ、ヒョロヒョロ…あれ?意外とあるな…それなのに中身は超一流フラグ建築士か…

結論としては孤独な童顔の策士にみんな騙されてるってこと?俺たち論外じゃね?」

 

 

 

だいぶ一方的な結論を出したが確実に言えることはこの場にいるふたりはモテることは…ない

 

 

 

「はぁ…こないだの合コンも失敗…イベントクエストで女性プレイヤーとお近づきになるのも失敗…バレンタインは案の定0個…もう、あれだな…飲もう!」

 

 

 

実際、坊主に教えてもらった女との合コンは見事に失敗し、今となっては笑い話だ。だからこそ仲間内のなかで唯一の成功者である坊主を心から羨ましいと思いながらも2人は共にジョッキを持った。

 

 

 

 

「今晩は潰れるまで飲むぞー!杯を乾すとかいて、『乾杯』と読む!!!」

 

 

そうして、2人は見事に二日酔いになったそうだ。

 

 

 

 

 

夜の街は今日も賑わう。

 

 



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旦那 after

 

 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ

 

 

 

「いらっしゃい!おっ、旦那じゃないですかい!」

 

 

 

入店してきたのは自分が旦那と慕う、ガタイのいい黒人。こんななりだが、商人として活動しており拠点となる50層のアルゲートは坊主の2つ目の避難場所だ。

 

 

 

「今日はどうしたんですかい?色々って…まぁ、とりあえずどうぞ。いつものウォッカとスライスしたサラミです。

それで、ホントにどうしたんすか?」

 

 

 

何やら普段より元気がない。客商売の時のあの覇気は何処にいってしまったのかと疑いたくなるほどに。しかし、考えてみれば原因など一つだった。

 

 

 

「…嫁さんのことやっぱり心配ですか?

そりゃー分かりますって。大方、この世界での本当の夫婦ってやつを見たんでしょう?」

 

 

 

的をに捉えた問いかけに旦那は驚き、こちらを向くがまたすぐに視線を落とし、落ち着いたように自分の言葉を肯定していく。

 

 

 

「旦那、俺達がこの世界に来てから早いもんでもう2年が経ちます。2年間大切な人をずっと思い続けて、それでも弱みも見せず多くのプレイヤーを支えてきたのはあんたですよ。今日くらいは溜まってるもん吐き出してもいいじゃないですかい?

幸いなことに男泣きには慣れてるんで!」

 

 

 

そう言うと、一瞬小馬鹿にするように鼻で笑った旦那は静かに泣いていた。

 

 

 

「まぁ、これも職業病ってやつですかね…ありがた迷惑なもんですよ。

旦那、嫁さんは今でもきっと旦那の帰りを待ってますよ。なんで?そりゃーそうでしょうよ。こんなにいい男が涙するくらいの女だ。それが旦那の事を忘れてどっかに男作るような人だとは思えないっすよ!」

 

 

 

自分の本心を伝えると旦那は涙を拭い、いつも以上に腹を抱えて笑っていた。

 

 

 

「世界一の嫁って…はぁ、俺もいつか言ってみたいっすよ。もう…涙は出ませんか?ん、ならいいっす。」

 

 

 

人笑いしたあとは、真剣な表情で惚気話をされ逆にこっちのメンタルが抉られそうになる。だが、旦那が元気になったのなら今はいいだろう。

 

 

 

「え?俺?残念なことに旦那と違って待っているのは厳しい現実だけですよ…それどころかそんな相手を作ってたら、いつの間にかぼっちライフがスタートしてました…もう、オフトゥンから出たくない…」

 

 

 

感動的な話が一転、急に自分の傷口に塩を塗る、何とも痛々しく見ていられない様な会話が始まる。それと同時に自分の足に力が入らなくなるのもわかった。

 

 

「いいもん!俺だっていずれはボンキュッボンの超綺麗なお姉さん見つけるし!そして、いつかこの店を…2人の愛の巣にしてみせる!

旦那…その無理だろみたいな顔やめてくれません?あと普通に引かないで?ボッチにやっちゃいけないことランキング56位と101位ですよ?え?1位は何?そりゃーあれですよ…ペア決めとかの……―――」

 

 

 

誰しもが強い訳では無い。でも、何かを背負っている人ほど強いのは確かだ。それを再確認し

 

 

 

 

夜の街は今日も賑わう。

 

 

 

 



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鼠 after

 

 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ

 

 

 

「ねーずーみー…!!今日という今日は逃がさねぇぞ…!」

 

「落ち着けよマスター。ハゲるぞ〜」

 

 

 

ようやく最後の団体様が帰り、店の片付けをしようとした時シレーっと店を立ち去ろうとしていた見覚えのあるフード付きマントを捉えることに成功した。そうこの女こそが…

 

 

 

「落ち着いてられるか!まぁたあのガキに俺のねぐらバラしたな!これで7回目だぞ…!何回勝負勝負ってふっかけられてると思ってんだ!」

 

「む、ガキとはなんだい。キー坊はオレっちのお得意様だぞ。それに、デュエルの度に意識まで奪ってるらしいじゃないか。あんまりいじめてやるな…」

 

 

 

そう、あのクリスマスイベントから数週間が経過した。鼠はこの世界において大変優秀な情報屋だ。ある事情から自分は鼠にガキの情報を聞かなければならなかった。そして、クリスマスでのいざこざが原因で今に至る。

 

 

 

「いじめてなんかねぇ…それにな、これはもうあいつの問題だ。俺に出来ることは何もねーんだよ。」

 

「ふん、とか言ってクリスマスに助けに入ったのはマスターだろ?そうまでして救ったのにその後放置はないんじゃないか?」

 

「…それを望んでるやつが居たんだよ…」

 

「ん?」

あの日、クリスマスイベントなど自分には縁もゆかりも無い。しかし、ある少女が言ったのだ。1人の少年を救ってほしいと。

 

 

「!いや、なんでもねー…そんなことより!二度と俺の情報を売るなよ…??」

 

「いやー、それは保証しかねる。」

 

「てめー!βテスターの情報は売んねーんじゃねーのか!?」

 

「まぁまぁ、オレっちとマスターの仲だろ。ほら飲んで飲んで」

 

「あ、こりゃどうも…って違う!すごく違う!それに俺の酒だし!お前のツケすごい額になってるし!」

 

 

 

一瞬だけ自分の雰囲気が暗くなるがすぐさま我に返り、念入りに釘さすが効果はないようだ。いつものように上手くはぐらかされる。

 

 

「こんのアマァ…!だったら俺にも考えがある!この写真、何かわかるな…?」

 

「!そいつは…!」

 

 

 

懐からある一枚の写真を取り出す。こんな手は使いたくはなかったが背に腹は変えられない。驚愕する鼠をよそに

 

 

 

「がっはっはー!あのガキにお前が背後から抱きついている写真だ!」

 

「情報屋の情報を入手するとか…マスター性格悪ぅ〜」

 

「けっ!なんとでも言いやがれ。さて、バラされたくなきゃ約束を…」

 

「別にバラしてもいいぞ?」

 

「うぇ…?」

 

 

 

だいぶ悪役じみた光景だった。それなのに数秒後、素っ頓狂な声とともに変顔を炸裂させた。

 

 

 

「ネ、ネズ公…?」

 

「だってそれ結構前に出回った情報だぞ?」

 

「oh......返します」

 

 

 

心境的にはNPマックスの状態でゼロに戻された感覚。写真は速攻で自分の手から放した。

 

 

 

「うむ、よきにはからえ。ま、嘘だけどな〜」

 

「はっ!謀ったなクソ鼠!」

 

「騙される方が悪いんだよ〜じゃあなマスター」

 

「てんめっ!せめて、せめておだいだけでも払っていけー!!!」

 

 

 

小馬鹿にされ弄ばれていることを自覚しながらも何故か許してしまう。なんて損な性格なんだろうか、少しだけ落ち込みつつも明日の準備を含めた片付けを開始した。

 

 

 

夜の街は今日も賑わう。

 

 




ちょっとした練習で会話にしてみました。どうだったでしょうか?
キャラ視点はもう少し待ってください…┏○┓


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団長殿 after

 

 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ

 

 

 

「ん?すまねーな客人、もう閉店…ありゃりゃー珍しい。久しぶりですね、団長殿。」

 

「うん。久しぶり、だね」

 

 

 

夜も更けて街の光が失われつつある深夜、ひと仕事終え片付けも終わらせ閉店の準備をしている時、客人はそこにいた。

 

 

 

「エールで?」

 

「いや、酒は必要ない。それより今は2人だけだ、崩したまえ」

 

「んじゃ、お言葉に甘えるよ。んで、アッキーは何飲むの?」

 

「…崩しすぎではないか…それと酒はいらないと言っただろう。」

 

 

 

崩せと言われたから崩したもののアッキーは苦笑いしながらもこちらにボケにツッコんでくれる。

 

 

 

「またまたぁ〜出せば飲むじゃねーか!ほれ、駆けつけ一杯。」

 

「別に飲み会に遅れたわけでもあるまい。それに駆けつけ一杯とは駆けつけ三杯の誤記だ。」

 

「硬いこと言うなって、とりあえずお疲れさん。」

 

「はぁ…そうだな。」

 

 

 

未だにツッコミのキレは落ちていない。互いにエールを片手に乾杯し、一気に飲み干す。

 

 

 

「ふぅ〜!…偵察部隊、帰還してないらしいな…」

 

「あぁ、予想はしていたがね。尊い犠牲だ」

 

「ふ、さすがは生みの親割り切ってるね〜」

 

「君の方こそ知っていてその口ぶり。嫌味として捉えるよ。」

 

 

 

この会話傍から見れば検討もつかないだろう。まぁ、1人の坊主を除いてだが。今はどうでもいい、何故2人がこんな会話をしているかと言えば時期わかるだろう。

 

 

 

「そりゃどうも…アッキー、お前さんあのデュエルの時やったな?」

 

「…はぁ、お見通しか…彼の勢いに気圧されてしまってね。あれは私にとっても失策だったよ…」

 

 

 

自分の言葉を否定する訳でもなくすぐに肯定し、後悔するアッキー。無理もない、あの速さは異常だ。第三者には気づかれないだろうが、当事者である坊主は何らかの違和感を覚えたであろう。

 

 

 

「その通りだ。俺の感が言ってる、お前は近いうちにあの二人に殺される。」

 

「あの二人?勇者は1人のはずだが?」

 

「ばぁーか、これだから頭カチンコチンのやつは困るんだよ…勇者様にはお姫様が付き物だろ」

 

「!そうか…君がそう言うのであれば、そうなのだろうな」

 

 

 

そう、これはもう間違いないだろう。本当であればもっと先のところで待つはずの結末だったが、遅かれ早かれバレていた。その相手が坊主ならばアッキーは満足だろう。

 

 

「…アッキー…俺なら、」

 

「この世界に来て、随分と経った。様々なものを見てきた。人の営みも、その生死も…

―――…だが、まだ足りないんだ…まだ見届けていたいものが多くある。私はまだ、死ねない。」

 

「!そっか…よっしゃぁ!んじゃ75層攻略に向けていっちょ作るか!」

 

 

 

その時のアッキーの顔は何かを決意するような顔だった。その表情を見た時、自分は突き動かされるようにある品を作り上げる。

 

 

 

「お待ちどお!」

 

「!ふっ…驚いたよ。どうやって作ったか参考までに…」

 

「いいから食え!んでアッキーの口から直接感想聞かせろ!」

 

「ふむ…」

 

 

 

器に手を添え麺を啜り、レンゲでスープを飲む。

 

 

 

「うん。これは、正真正銘《ラーメン》だ」

 

 

 

何となく笑ったように見えた。気のせいかもしれないがな。

 

 

「アッキーまたな」

 

「…あぁ」

 

 

そう言って食事を終えたあと団長殿は店を後にしていった。その背中を見届けるとともに自分の仕事は終わった。

 

 

 

「本日をもって、酒場閉店!!!」

 

 

 

 

夜の街はこれからも賑わう。

 

 

 

 




これにてSAO編における酒場は閉店でございます。
次回からALOでの開店になりますのでしばしお待ちください。
では、またのご来店を


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妖精の国 昼
ブラッキー


お待たせしました。ALO編スタートです!


 

 

 

本日も晴天だな。女性陣はみんな揃ってショッピングに行き、頼みの綱のクラインもエギルも仕事。暇を持て余した今日、この休日。俺の足は自然とあの場所へと向かっていた。

 

 

 

「リンクスタート!」

 

 

 

赴いた場所は新生アインクラッドのある階層に存在する影の薄い鍛冶屋。

 

 

 

「おーい、邪魔するぞー!」

 

 

 

俺の声に反応したように奥から何やら不思議な格好の男が出てきた。

 

 

 

「…はぁ、毎度の事だけど何でその格好で出てこれるんだ?」

 

 

 

出迎いに来たのはパンツに黒のタンクトップを着た何とも気だるそうな自分と同じスプリガンの男。そう、この男こそがこの店の店主なのだ。

 

 

 

 

「格好なんてどうでもいいって…あんたなぁ…そんなのだから客が来ないじゃないか?」

 

 

 

余計なお世話だ、と一蹴りにされつつもこちらの言葉を組んだのか、そそくさと服装を整えようやく鍛冶屋らしい格好になった。

 

 

 

 

「はぁ…ま、いいや。とりあえず武器の手入れを頼む。あと、茶をくれ。出来れば紅茶がいい。」

 

 

 

そう言って、武器を出現させカウンターへ置く。店主はと言うと軽くボヤきながらも寝起きとは思えない速さで紅茶を入れ、こちらに渡してくる。

 

 

 

 

「お、サンキュー。…相変わらず上手いな。鍛冶屋なんてやめてカフェでもやったらどうだ?…いや、本気にするなよ。冗談だって…」

 

 

 

 

軽いジョークのつもりだったのだが、本人は儲けのなさを気にしているか意外と俺の言葉を飲み込み悩んでいる様子だ。しかし、この男の紅茶は正直アスナと張り合うほど上手い、料理に関してもそうだ。

 

 

 

「それに、利益なら酒場の方で儲かってるだろ?…はぁ?!この間アスナ達の女子会があった?!…よく、生きてられたな…」

 

 

 

遠い目をして目を潤わせている店主に俺は何も言ってやることが出来なかった。女子会のメンバーから察するに、まぁろくなことにはならなかっただろう

 

 

 

 

「へ?俺の愚痴?女子会で?……俺が今日リアルでハブかれてたのってそういうことなのか?」

 

 

 

 

何も言わなず目を逸らす店主を見て、何故か涙が頬を伝ったのかは自分にもわからない。だが、まぁ俺がまた何かしちゃったんだろう。

 

 

 

 

「…いや、まぁ…。別にいいけど……ちなみに女子会ってどのくらいのペースでやってた?……週…1??あぁ〜……今日アスナに、皆に謝るよ…」

 

 

 

武器の手入れが終わったのか、落ち込み気落ちした俺の肩にソッと手を沿え、そうしろ、と言った店主の顔を俺は一生忘れることはないだろう。

 

 

 

「あんた、俺の不幸の報せがある時は武器の仕上がりいいよな…」

 

 

 

手渡された二本の片手剣ユナイティウォークスとエクスキャリバーは入手時よりも状態がいいのではないかと疑いたくなるほど綺麗に修復されていた。余程こいつの気分が良かったに違いない。

 

 

 

「そんなこと無くはないだろ!たくっ!…お代ここに置いとくからな!デュエル?しないよ。アスナ達への謝罪文考えてくる…」

 

 

 

余りにも気の毒に感じたのか主は笑会うことなく、がんばれと言ったあとにちょっとした朗報を知らせる。

 

 

 

 

「ん?まだ何かあるのか?…《絶剣》?聞いたことないな…強い?…あんたよりもか?……そりゃあそうか…んじゃそいつを倒したらまたあんたの所に来るよ。っ!60戦じゃない!戦績は57戦57敗だ!間違えるな!…

 

―――また来るよ。」

 

 

 

あいつのわざとらしいボケにムキになって突っ込んでしまったが今といいSAO時代といい、俺の成長のなさを少し悔やみながら俺は帰路に着く。

 

 

 

「次こそ、追いつくさ。」

 

 

 

今日も今日とて俺は正常運転。

 

 

 

 

 

 




どうでしょう。キリトオンリー視点です。自分としてやはりオリ主である主に口を開いて欲しいのですが、その辺を感想でお願いします!


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バーサクヒーラー

アスナさんのキャラがちょっと崩壊したかも?


 

 

本日も晴天だね!先日、ホームである森の家に呼び出させれキリト君の懺悔を聞き心躍る今日この頃。私は日課に励むべくあの場所を訪れる。

 

 

 

「リンクスタート!」

 

 

 

赴いた場所は新生アインクラッドのある階層に存在する影の薄い鍛冶屋。

 

 

 

「お邪魔します。」

 

 

 

扉を開けると、そこにはビクついた1人の男。こちらを見つめ、小さな声で「ヒェ…」とだけ言い残す。ホント、失礼しちゃうわ。

 

 

 

「主さん…いい加減私が来る度に怯えるのやめてください…ト、トラウマって、私の方がトラウマもんでしたよ!あんなもの見せつけておいて!」

 

 

 

そう、実は出会いはかなり最悪だった。SAO時代、血盟騎士団の隊員達の武器が整備から戻って来ないと聞きつけ、初めてこの鍛冶屋を訪れたのだ。

その時に目のあたりにした男の裸体………

 

 

 

「そのおかげで服を着るようになった…?

…下着1枚だけでもほぼ犯罪ですからね…?変質者、露出魔」

 

 

 

自然と声のトーンが低くなる。その瞬間目の前の男は赤色のエフェクトを吐き出しその場に倒れ伏せ、痙攣し始める。

 

 

 

「もう、言いすぎました…これはお互いのために忘れましょう。それで、指輪の手入れってもう終わりました?っ!よかった〜!」

 

 

 

こちらの質問に答えるように主は一気に起き上がり棚の上段から1つの箱を取り出し、それを開ける。出てきた指輪に喜びのあまりすぐさま受け取り、握り込む。

 

 

 

「!そんなっ、代金は払います!元々私からお願いしてるんですから。仕方ないですよ、デュエルの最中だったんですから。え?キリト君も?……23、回…?」

 

 

 

自分の耳を疑った。この男は今何と言った?あの指輪を、あの大切な指輪を23回も壊したと言うのか?そして、あの男はそれを自分に1度たりとも言わなかったと言うのか?

 

 

 

「ふ、ふふふふ…ホントに…懲りないなぁ、キリト君はっ…!主さん?今日は10連戦でお願いします。」

 

 

 

何だか主さんが生まれたての小鹿ばりに震えてる気がするけど、気のせいだよね?店内が一気に暗くなったけど私のせいじゃないよね?そうして、いつもの日課をこなすべく、裏庭へと赴く。

 

 

 

「今日は二刀流で来てください。夫を想像して串刺しにしたいので。」

 

 

 

イライラが頂点に達したからだろう。口から漏れる言葉はどれもサスペンスな言葉ばかり。だが、そんなのは関係ない。今日という今日は…いや、今回ばかりは許さない!

デュエル開始と共に私は叫びトップスピードで剣を突き出す。

 

 

 

「あのっ!!天然ジゴロ女誑しフラグ建築士がぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

その日、なんと私は50戦目にして主さんから1勝を上げたのであった。

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて私は正常運転。

 

 

 

 

 





聞いてくれ、今から話すことは嘘でも冗談でもないんだ。俺自身何があったか定かじゃねえ…でもな、確かにそこには、狂戦士がいたんだよ。あれはこの世のものじゃねえ…間違いなく―――バケモn………






この後、鍛冶屋は数週間休みになったという。



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本日も晴天かな。部活もなくやることもない今日この頃。お兄ちゃんはというとアスナさんデートに行き、他の皆さんもそれぞれ予定があり、本格的に1人な私。そんな時、ふとあの人の剣、あの人の翼が頭をよぎった。

 

 

 

「リンクスタート!」

 

 

 

赴いた場所は新生アインクラッドのある階層に存在する影の薄い鍛冶屋。

 

 

 

「失礼しまーす」

 

 

 

店の奥から聞こえる鉄の音。それが止み、一人の男が姿を現す。

 

 

 

「おぉ、主さんにしては珍しいですね。ちゃんと服着てるなんて。」

 

 

 

頭にまいた白のタオルに紺色の袴。右手には完成したばかりであろう刀を持った男が「失敬な!」と腕を組んで仁王立ち。

 

 

 

「だって事実じゃないですか。」

 

 

 

男は頭のタオルを外しながら刀をしまい「まぁ、そうだけどね…」と元気なく口にする。原因は先日のアスナさんだろう。森の家で笑い話にされたのはつい先日の話なのだから。

 

 

 

「それにしても私たち以外に依頼なんて珍しいですね?依頼じゃない?暇つぶしって…よくお店が成り立ちますね…」

 

 

 

正直この店は儲かっていない。たまに来るお客さんは私たちだけ。まぁ、利益は酒場で儲かっているからいいんだろうけど。

 

 

 

「そんな主さんに私の剣を預けます!ちゃんと手入れしてくださいよ?…あの、依頼の度に膝ついて頭下げるのやめてください…」

 

 

 

この人に初めてあった時はもっと酷かった。お兄ちゃんと2人で来て、初めて会った私に対して土下座したのは今でも印象的だ。しかし、私の剣が刀よりのためか仕上がりはリズさんの数段うえである。

 

 

 

「!うぉっ?!っと…し、仕方ないじゃないですか!急に主さんが投げてくるから!…代わりに使えって…こんな業物…気が引けますよ…」

 

 

 

女の子らしからぬ声に主さんからツッコまれたものの、渡されたのは正直自分の手には余るほどの剣だ。渡された以上、使うけど。

 

 

 

「それで、主さん…つかぬ事を聞きますけど、今日のご予定は?…ですよね〜。じゃあ、アレ付き合ってください。」

 

 

 

さり気なーく主さんの予定を聞くとその場に倒れ込み「一日中暇して自堕落するつもりでした」と泣きながら言ってきた。まぁ、分かりきっていたからこそ彼にある事を持ちかける。最初は頭に?を浮かべていたがすぐに理解し裏庭へと移動する。

 

 

 

「ルールは3つの魔法を先に唱えた方が勝ち。…ハンデはいりませんよ?それと幻影魔法はやめてください…シャレになりませんよ!お兄ちゃんのでも怖かったのに主さんのやつ…

 

―――死神じゃないですか!!!」

 

 

 

そう、これで17戦目になるであろう詠唱対決。そのある時。彼は3つ目の魔法にアレを選んだのだ。その結果は私は気を失った。

 

 

 

「うぅ…絶対泣かせてやる!」

 

 

 

こうして始まった詠唱対決。その結果、私は目の前に現れた死神にまたも気を失った。

 

 

 

 

今日も今日とて私は正常運転。

 

 

 

 

 

 

 




すみません。ALOからは時系列あんまり気にしないで下さい。


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クールビューティー

 

 

本日も晴天ね。あの世界でキリトに救われ、早いもので数ヶ月が経過した。様々な事を体験し、今に至る。その中でも記憶に色濃く残っている『エクスキャリバー事件』。私の足はあの場所へと向かい出した。

 

 

「リンクスタート!」

 

 

赴いた場所は新生アインクラッドのある階層に存在する影の薄い鍛冶屋。

 

 

「邪魔するわよ。……はぁ、服着なさい」

 

 

時刻は午後だと言うのに扉を開けた向こうには寝起きの男が全裸で立っていた。ハラスメントコードが発生するが、もうどうでも良い。

 

 

「よっ…じゃないわよ。何度目?それでアスナにボコボコにされたの忘れたわけ?…アンタ、本当にアスナの事になると弱いのね。生まれたての子鹿よりも震えてるわよ…」

 

 

詳しい話は聞いていないのだがこの男はSAO時代アスナに半殺しにされたらしい。その原因がこれなのだが、本人はいつになっても治らない。この間のリーファの時は服を着ていたらしいが…

 

 

「はぁ…ところで私の弓は復元出来たのかしら?…アンタとキリトが言ったのよねぇ?責任とるって…」

 

 

ついこの間、キリトに連れられあるクエストに行った時。このバカ店主の矢が私の弓を射抜いたのだ。確かにエネミーに捕まった私を助けようとした結果なのだが…キリトは案の定ラッキースケベを発動し、こいつは単純に幸運ステータスの低さにこうなったのだ。

 

 

「あのね…誰にでも土下座するんじゃないわよ…え?自称世界一頭が軽い男?…それ誇れるようなもんじゃないでしょ…」

 

 

目の前には瞬き一つついた瞬間、綺麗な土下座を繰り出す店主。今更だがこのモーションが1番早いのではないだろうかと錯覚してしまう。すると…

 

 

「あら…いい弓ね。え?アンタが打ったの?!…かなりの業物じゃない…よかったら譲るって、いいわよ。流石にただでは貰えない。」

 

 

目につき手に取ったのは弓使いなら皆が驚くほどの業物。見る限り西洋の弓ではなく、日本古来のもののようだ。それを譲ると言い出したのだ。流石に断ったのだが、こいつは煽りを入れてくる。

 

 

「ただとは言ってない、ですって…?俺に勝てたら……?その安い挑発に乗ってあげるわよ!」

 

 

売り言葉に買い言葉とはよく言ったものだ。そして自分の負けず嫌いも相当なものだ。実際この男にはある勝負を持ちかけ負け越している。そうして、2人はいつもの裏庭へと移動する。

 

 

「ルールはダーツのゼロワン。数字は1001、いいわね?」

 

 

店主お手製の的には過去の勝負の後が刻まれている。ちなみにだが戦績は37戦12勝25敗だ。それも初めは10連勝したというのに結果はこのザマである。だからこそ余計に闘争心に火をつける。

 

 

「見てなさい…すぐに吠え面かかせてあげる!」

 

 

矢を三つ手にし一斉に放つ。勝負はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

今日も今日とて私は正常運転。

 




主が口開かんと…ボケられない、だと…?!


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ボクっ娘

お久しぶりです
今回の話ですが、主が口を開きます。。。
どうしても昼の方で口を開きたいとの事なのでご了承ください…


 

 

本日も晴天だね!何やかんやコミコミの数週間、みんなは学校に行きメンバーもまだ集まってない今日この昼。ふと思い出す度に惚れ惚れする刀身を頭にチラつかせたボクはある場所に向かう。

 

 

「リンクスタート!」

 

 

赴いた場所は新生アインクラッドのある階層に存在する影の薄い鍛冶屋。

 

 

「おっじゃましまーす!」

 

「げっ…ボクっ娘……」

 

「第一声が『げっ』はないんじゃないかな?マスター」

 

 

なんと失礼なマスターだろう。今に始まったことではないがこの人は何かとボクを見ると血相変えて引きつった表情を浮かべる。

 

 

「そいつは失礼した…んで何のようだ…?」

 

「デュエルしよ!」

 

「断る」

 

「じゃあ試合?」

 

「何が変わった?」

 

「じゃあゲーム!」

 

「してるだろ」

 

「もう何ならいいのさ!」

 

「お前さんなぁ…俺は鍛冶屋だ!仕事を寄越せ!」

 

 

テンポよく会話が弾む、マスターのツッコミのキレは今日もピカイチらしい。だが、仕事の方は繁盛してないらしい。

 

 

「えー、でもボクついこの間見てもらったばっかりだしな〜」

 

「あ?どれ……あー…こいつぁ嬢ちゃんが仕上げたのか…」

 

「分かるの?」

 

「まぁな。目利きくらいは出来るからよ」

 

「流石ぼったくりへっぽこ鍛冶屋!」

 

「カハッ?!」

 

「マスター?!」

 

 

急にボクの一言で赤いエフェクトを口からぶちまけカウンターに倒れ伏せるマスター。よく見ると涙を流しながら顔を青白く染めていた。

 

 

「大丈夫??」

 

「あ、あぁ…メンタルのHPはあと1くらいしかねーけどな…」

 

「流石マスター!パ○ドラやってるだけある!」

 

「誰がいつヘラ降臨クリアしたっつったよ?!つーか、何年前のネタだ!!!」

 

 

カウンターに伏せたかと思えば急に起き上がり怒鳴り散らすマスター。こういう人のことを情緒不安定って言うのかな?そんなことはどうでもいいんだけどね。

 

 

「たっく、依頼じゃねーなら帰れ!」

 

「あ!」

 

「急にでかい声出すなよ…」

 

「ボクいい事思いついちゃったよ!」

 

「しょうもねーことの間違いじゃねーか?」

 

「今からデュエルして、武器の耐久値削って、その後にマスターに直してもらえばいいんだ!」

 

「え?馬鹿なの?アホなの?それとも両方なの?!てか、さっき断っただろーが!」

 

「あんなにボクをメチャクチャにしたのに…」

 

「おい…やめろ。お前のセコムに殺される…」

 

「あれは遊びだったの?!」

 

「そこだけ聞かれたら本当に危ない人になっちまうー!!!」

 

 

セコム、その言葉に聞き覚えはないけどマスターの感じからしてかなりの大事だということはわかる。まぁ、それは置いといて、マスターが頭を抱えながらさっきから騒いでるけど、気にしなくていいからねー。そんなことよりもう一押しって所までようやくたどり着いた。

 

 

「つーか…ボクっ娘、お前さんはデュエルトーナメントで俺に勝っただろうが…」

 

「…マスターあれを勝ちとしてしまったらボクは剣士じゃいられないよ」

 

「…はぁ、一戦だけだぞ」

 

「!うん!」

 

 

マスターに許可を得た上でボクはまたこの人の前に立つ。

 

 

「マスター、全力で来てね…」

 

「了解した…加減抜きで…―――殺してやるよ」

 

 

互いに前へと前進し刀と剣を交わらせる。勝敗はどう転ぶかな?

 

 

 

 

今日も今日とてボクは正常運転!

 

 

 




この後、絶険との数日を書いていきたいと思います!
なるべく早く出すので是非!

それでは!


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妖精の国 夜
ブラッキー after


酒場の方は今まで通りにさせて下さい┏○┓


 

 

 

「俺、復ぁぁぁ活っ!久々に言葉発したよ…」

 

 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ。

 

 

 

 

「いらっしゃい!…あらあらあら、ブラッキー先生じゃないですかい。」

 

「その呼び方はやめてくれ。いつも通りで頼む。」

 

「はいよ。ほい、とりあえずエール」

 

 

 

自分の扱いにも慣れたように坊主は俺をあしらいエールを受け取った後に乾杯し飲み干した。

 

 

 

「「ふぅ〜!…げふっ…」」

 

 

 

二人同時に樽ジョッキを置き、勢いの良い声とともに口元を袖で拭う。そして、極めつけのゲップ。女性陣がいる前では絶対に出来ない事だが、今は2人だけだからよしとしよう。

 

 

 

「梅酒ロックで」

 

「…坊主、梅酒ロックでカッコつけるな…!腹筋が割れる…!」

 

「俺なりの努力の成果だ。」

 

 

 

すると坊主は普段のイキってる時と同じくらいのドヤ顔で注文をする。その内容がまぁガキの背伸びくらいのもののため吹き出しそうになるのを抑え笑いをこらえる。

 

 

 

「んっん゛!…ほら、なんちゃって梅酒ロックだ。」

 

「おぉー。梅だ…」

 

 

 

自分のなんちゃってという言葉にひっかかっていたのか飲んだ瞬間の感想が何とも素直で自分的にも少々嬉しさはある。

 

 

 

 

「そりゃーな…まぁ、ふざけるのはここまでにしよーか…どうだった?」

 

「…結果的には…みんな死んでたよ。」

 

 

 

先程までの和やかな空気が一転、急に真剣な話に切り替わる。元々は、今日この場で坊主からのこの報告を待っていたのだ。

 

 

 

「そうか…ま、当たり前か…」

 

「当たり前なんかじゃないだろ…誰だって確かめなきゃ信用できない、受け止めきれないさ…」

 

「…あぁ、そうだな。すまん…」

 

 

 

坊主達にしてみれば至極当たり前だ。誰だってあの世界でのことが、人の生死が100%真実なんて信用出来るはずがない。坊主なら尚更だった。

 

 

 

「…みんなの親族に頭を下げて回った……誰も、誰1人として―――俺を責めることはなかったよ…」

 

「……」

 

「情けない話だけど…俺は、どこかでまだ希望を持っていたのかもな。あんたに言われたように少しは楽になるかもしれない…って…そんなことあの世界にあるはずないのに…」

 

 

 

坊主は何とも情けない顔をしていた。涙を流そうにもどうやって流せばいいのかわからない。そんは様子でずっと俯いていた。

 

 

 

「坊主…お前はお前自身を許せなかったんだよな?」

 

「!…そう、だな…俺は今でも―――断罪されたい、そう思ってるんだ…」

 

「……」

 

「あんたに言われた通り、生きたくても死んだ人達がいる。そんなことは、分かってるんだよ…!それでも、俺だけが生き残ってしまったことが許せないんだっ…!」

 

 

 

それは、自分にはなく坊主にはある感情なのだろう。大切な物を失った。それなのに自分はのうのうと生きている。その苦悩は当事者には分からないものだろう。自分が上から説教していいものでは無い。だが…

 

 

 

「許せない…か……坊主。自身への断罪は自己満足に過ぎねえんだよ…」

 

「!」

 

「お前の死で、泣きボクロの嬢ちゃん達が生き返るか?ちげーだろ…お前が、見出した答えはなんだ?あの子があの世界で生きた理由はなんだ。」

 

「…俺は、サチと出会って強くなった…!サチに救われていた…助けてられていた…!サチは…俺の道しるべだったんだ…!ずっと、ずっと…!俺を、正しい方へ導いてくれてたんだ…!」

 

「……」

 

 

「不謹慎だってことは分かってる!それでも…!サチは、俺にとっての光だったんだ…あの子のおかげで、俺は今幸せなんだ…」

 

 

 

あの日、あの聖なる夜。少年は涙を失った。ずっと、それを流してはいけないと自分に言い聞かせているかのように、こらえていたのだ。それが流れたときは今日以上の何かがあったからだ。だからこそ、もう許してやろう。この少年は充分頑張ったのだ。

 

 

 

「分かってんじゃねーか……どうだ坊主?

 

―――もう、寒くないか?」

 

「…あぁ、暖かいよ…」

 

「そうか…」

 

 

 

自分はある日の少女の音声を思い出していた。目の前の少年は泣き疲れた様子でカウンターの伏せて眠っている。毛布をかけてやり、その少年を見つめながら―――隣の少女に問う。

 

 

 

「だとよ…泣きボクロ嬢ちゃん。」

 

「―――」

 

「坊主はもう、1人じゃねーと…大切な人達が沢山いるんだと…―――もう寒くねーってよ…」

 

「―――」

 

「嬢ちゃん…お前はあの世界の勇者の希望だったんだ。だから、もう眠れ。みんなが、待ってるだろ。」

 

『…主さん。ありがとう、さようなら。』

 

 

 

会話が無くなり、店内を静寂が包む。そんな中正常な判断のできる自分だけが取り残された。

 

 

 

「ばぁーか。礼を言われる様なやつじゃねーよ…俺は…」

 

 

 

 

また一歩、確かに歩を進める。

 

 

 

 

 

 

夜の街は今日も賑わう

 

 

 

 



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バーサクヒーラー after

 

 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ。

 

 

「ちょっと!ちゃんと聞いてるんですか、主さんっ!」

 

「き、聞いてますよ…あれでしょ?坊主の坊主が夜な夜なスターバースト・ストリームなんでしょ?カハッ…?!」

 

 

 

本日のお客様は、お馴染みの副団長殿。いや、もうこの名前は違うか…えーと…ま、なんでもいっか。そんなことより後頭部に走る衝撃の方が大問題だ。

 

 

 

「何か、言いました?」

 

「滅相もございません…私目の愚かなる発言をどうかお許し下さい…ん゙っん!それで、今更なんでまた呼び名なんて気にしてらっしゃるんですかい?」

 

「気にしますよ!SAO時代に比べて拍車がかかって酷くなってるんですよ…?キリト君やみんなに言っても笑い話にされちゃうし…」

 

 

 

まぁ、自分も今さっき呼び名に困っていたが本人はその比じゃない程困っている。たしかに、SAO時代から攻略の鬼だの、閃光だの、鬼嫁だのと呼ばれていたが。え?最後のは俺と坊主だけ?またまたぁ〜

 

 

「と言われましても…ちなみにどんな呼び名が今はメジャーなんですかい?」

 

「抜刀妻」

 

「ぶふぉー!wwww」

 

 

盛大に片手に持っていた日本酒を吹き出す。正直ピッタリ過ぎてかなりきつい。だが当の本人は不服そうに反論を開始する。

 

 

「な?!こっちは真剣に悩んでるんですよ!皆からは酔剣使いとか呼ばれるし…」

 

「そりゃあそうでしょ!平気な顔でワイン樽一つ空にしてローストビーフの塊丸々1つ食うくらいですからね?!その上そっから剣取り出して暴れた時なんて…俺ぁこの世の終わりだと思いましたよ?!」

 

「その説は、ほんとうにごめんなさい…」

 

 

そう、目の前の絶世の美女。実はやらかす時はかなりやらかす。現に自分の店は1度だけ限界まで酔っ払ったこのお方に半壊状態にさせられたことがあるくらいだ。

 

 

 

「まぁ、いいですけどね…にしても副団長殿がこんなにも坊主以外のことで悩む日が来るとは…主は感動しましたよ…任せてください。一肌脱がせてもらいますよ!」

 

「え?でも…」

 

「遠慮しないで!お得意様のために頑張らせてください!要はあれですよね?今の呼び名よりも柔らかくてパンチが効いたやつがいいんですよね?」

 

 

何やら遠慮しているようだが、え?遠慮じゃない?単純に信用がないだけ?いやいやいや、そんな訳ねぇーだろ。これでもSAO時代からの馴染みだぜ?

 

 

 

「あの、柔らかくはしてほしいですけどパンチはあまり効かせないで下さい…」

 

「任してくださいよ…副団長殿にもってこいの名前がありますから。」

 

「…念の為に聞いておきたいんですけど…」

 

「まぁまぁ、それは明日のお楽しみということで…今日はここで切り上げてくださいよ。」

 

「もう〜…分かりましたよ。お代ここに置いておきますからね。」

 

「毎度ー!……さてと、こいつで決まりだな!!!」

 

 

 

そして、この後男は後悔することになる。そう、彼女は自分なんかの手に負える人物ではなかったのだ………

 

 

夜の街に悲鳴が響く、前日の出来事だった。

 

 

 

 

夜の街は今日も……賑わいたかったな〜……

 

 

 

 

 

 

 




バーサクヒーラー。どういう意味?そのまんまだよ【凶暴な治療者】。それをかっこよくオブラートに包んだ結果これだ……まぁ、俺はというと……特殊器具に拘束されて…海を漂ってます(真顔)


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妹 after

 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ。

 

 

「いらっしゃい!ん?妹ちゃんじゃねーか!珍しいな、1人でくるなんざ。」

 

「主さん…」

 

「ん?どした?」

 

「この店で1番強いお酒を下さい…!」

 

「えぇ…?」

 

 

扉を開け、店に音を響かせた客は時々女子会と称して自分の店に多大なる被害を与えているメンバーの1人。それも、副団長殿に続いて…いや、ほぼ同レベルと言っても過言ではないほどの酒豪にして、絡み酒が悪目立ちする少女。坊主の妹にして、将来的には副団長殿の義妹になるお方。何やら今日は妙に虫の居所が悪そうである。カウンターに座るなりこの有様だ。

 

 

「と、とりあえずほい。いつものなんちゃってカシオレ…で、今日は何度そんな……」

 

「んっん…!ぷっは〜!」

 

「一気するなよ!?ヤバいって…意識飛ばしてログアウトはマジで洒落なんないから!」

 

「テキーラストレートで」

 

「せめて、ロックにしなさい!」

 

 

酒を出すやいなや瞬く間にカシオレを一気飲みし勢いよくテーブルにそれをたたきつける。それもいつもより回るのが早いのか続いて頼んだ注文がヤバすぎる。若いヤツらが飲み会の罰ゲームで飲み様な物を自ら好んで頼むなんざ今まで事例がない。

 

 

「いやいや!そうじゃなくて!どうしたんですかい?なんでまたそんなに荒れちゃってるの?!」

 

「……」

 

「はぁ…大方、また坊主の事か?」

 

「そうなんですよ!!!」

 

「へぼぉっ?!?!」

 

 

頭を少しだけ下げ顔を俯かせていたため、どーせまたあの坊主絡みの事だとばかり思っていたら予想的中。顔を起こした瞬間、頭が主の顎へとクリーンヒット!巨体を中に浮かせて脚が着くよりも先にその体が地面へとたおれふせた。

 

 

「聞いてくださいよ主さん!!!」

 

「う、うん。ちゃんと聞くから…はい、なんちゃってピーチフィズ…」

 

「んっん…!ぷっは〜!」

 

「だからぁー!ねぇ?!なんで一気するかな?!」

 

「実は…」

 

「すげーな…ツッコミスルーして回想入れんのね…」

 

 

事の発端は、つい先日の事。部活に行く前の朝、事件は起きた。兄である坊主が自分よりも早く家を出たのだ。それもいつも以上に決めった格好に、いつも以上に緊張した顔つきで出かけて行ったらしい。デートだろうと察したまでは良かった。だが、問題はここからだ。なんと、部活を終え家へ帰宅すると…そこには、恋人である何故か潤っている副団長殿とげっそりとして疲れ切っている坊主がいたらしい。

 

 

「ほうほう。まぁ〜…察するにエッチwasみたいな…」

 

「ぎゃぁぁっ!!!」

 

「ぶっ!はぁっ?!?!」

 

「みなまで言わないでください!」

 

「ぁ、ぁ………」

 

 

少女(??)の悲鳴とともに自分の体がくの字に曲がる。決してガリガリという訳でもない、なんなら強靭な体に含まれるはずのこの体がくの字に曲がったのだ。衝撃が強すぎて外に逃がすことも出来ず、腹を抑えたまま主はその場に倒れ伏せる。

 

 

「ま、まぁ…年頃の男女だしな…仕方ねーって言ったら仕方ねーんじゃねーか…??ほ、ほれ…焼酎、水割り…」

 

「んっん…!ぷっは〜!」

 

「だ、から…一気すんなよ…」

 

「私だって仕方ないって思ってますよ…でも……」

 

「まぁ…妹ちゃんも坊主に惚れてたしな〜?」

 

「何か、言いました?」

 

「……いえ、呼吸さえしてないです…」

 

 

身の毛もよだつ殺気とともに目で殺されかけた主。そう、目の前の少女は坊主…その少年に惚れていたのだ。確かに関係上兄ということにはなるがあくまで義理なので実際大丈夫なように見える。しかし、当事者的にはそれが大きな問題になってしまうらしい。そのため恋心を抑えているものの自分のすぐ近くで惚れた男がそんな事をしていたら妬むのも必然的だ。

 

 

「はぁ……妹ちゃん。思うところがあるのは仕方ねーよ…でも、お前さんだって坊主にとっちゃ、大切な妹なんだよ。大切にされてんだ。だから、ちゃんとその目で2人を見守って、祝福してやれ。ほれ、サービスだ。お望み通りテキーラストレート。グラス並々についでやったよ…」

 

「……んっん……主さん…」

 

「へっ!これは流石に一気出来ねーだろ…って…妹ちゃん?!ちょ、ちょっと待って?!」

 

「あ、主さん…ふ、袋…」

 

「この世界にんなもんねーよ!せめて、便所…いや、外に出…?!」

 

「ん゛っ?!」

 

「………あぁーあ……ヒロインのこんな絵面…見たくなかった……」

 

 

不満を暴露し、思いを確かめ。

 

 

夜の街は今日も賑わう

 

 




久しぶりです。アリシゼーション見ていますでしょうか?自分は基本溜めて見るためまだなのですが、小説版とは違うのかな〜とか色々おもってソワソワしています。
話は変わって、前までのシリアス主をお求めの方は申し訳ございません。当分はギャグが続きますのでご了承ください。
では!


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クールビューティー after

 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ。

 

 

 

「おいおい、俺は仕事終わりのOLの相手でもしてんのか?」

 

「あら、失礼ね。こう見えても花の女子高生よ。」

 

「俺の知ってるJKってのはカクテル数杯飲んだあとに日本酒なんて嗜まねーよ…」

 

「なんか文句でもあんの?」

 

「いーえ、お客人は神様ですから」

 

 

一通りうるさいやから共が店から去った後、一仕事終わったと言わんばかりにケットシーの少女が来店する。まぁ、一応お得意様の1人ということで暖簾は下げてサシの飲みへと持ち込んだのだが、この嬢ちゃん…中々の酒豪である。ゲームの中ということで良いということで酔うという概念はあるものの理性を保とうとすれば保てるのだ。しかし、何分このお嬢さんの友人達はそれを知ってか知らずかやらかすことが耐えない。それなのにこの嬢ちゃんだけは平然を装い、自分と同じような酒ばかり飲む。まさにクールビューティーなのであった……

 

 

「にしてもよ〜花の女子高生ってのは、もっと可愛いカクテル一杯飲んだだけで…『あ〜、酔っぱらっちゃった〜♡』とか言うもんじゃねーのか…?」

 

「夢ぶち壊す用で悪いけど…そんなやつ今までいた?」

 

「……いやー…いたのは酒癖悪いJKの皮かぶったオッサンだけだったな…」

 

「違いないわね…」

 

「おいおい…お前さんの友達ばっかだよ……」

 

「……」

 

「おい、日本酒飲みながら黄昏んな!頼むから嬢ちゃんが抑制してくれよ!!」

 

「アスナだけでも手一杯なのに、他をどうにか出来ると思う?」

 

「ほかのしわ寄せが俺に来てんだよ…サンドバッグは懲り懲りだぜ…」

 

 

そう、坊主の知り合い。いや、この場合は副団長殿の友達と言った方がいいのだろうか?まぁ、とりあえずお得意様のメンツの中で真人間とも言えるクールビューティーの嬢ちゃん。彼女を除いてまともなやつは1人としていない。もし、他の客がいる時に彼女達が飲んでいたら、きっとこの世界に足を踏み入れることさえ出来ないほどに色々な情報が回るに違いない。

 

 

「サンドバッグ、ね〜」

 

「??」

 

「この間のデュエルトーナメント…幼気な少女をサンドバッグ状態にした上、わざと負けてプライドまでへし折ったのは誰かしら??」

 

「語弊がある。わざとじゃない…俺は負けたんだよ。」

 

「あいつもそう言ってたわ。でも、私は納得出来ない。確かに守りの小太刀は砕けた…でもその気になれば、あんたはあそこから何かできたはずよ…」

 

「……はぁ〜…確かにその気になれば首はとれた…でもな、俺にとって小太刀は守りの主張、つまりは鎧だ。鎧無しの兵士が戦場で生き残れるか?」

 

「……」

 

「はぁ〜、不貞腐れんなよ。負けないって約束破ったのは謝るからよ…確かに…嬢ちゃんが生きた世界では鎧なんざ関係ねーかもしれねーが…ここは

 

―――そういう世界だぜ…」

 

「っ!」////

 

 

クールビューティー、と言ってもやはり年頃の少女だ。ちょっとした約束でムキになったりする。酔ってはいないが見透かされたようにズバズバと図星を疲れたもんで顔を真っ赤にする。さらに追い打ちをかけるかのように主が少女の頭を撫でたもんで余計に顔が真っ赤になり席を立つ。

 

 

「あだっ?!」

 

「うっさい!これお勘定!」

 

「な、なんだって急に怒るんだよ…って、ツケ払いじゃねーか!」

 

「じゃーねっ!!!」

 

「…なんだってんだ…たくよ〜。ま、やっぱJKって事だな。」

 

 

気持ちを見透かされ自分の小ささを思い知り

 

 

夜の街は、今日も賑わう

 

 

 



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ボクっ娘 after

 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人のプレイヤーが足を運ぶ。

 

 

「まっずい…!」

 

「エールもダメか…」

 

 

今日のお客人は、なんとなんと!巷で有名な絶剣の少女。ALO最強とも呼び声の高い御方がこんなみすぼらしい薄汚れた酒場へと足を運んだ。しかし、その実…少女は本当に少女である。エールの味は愚か酒の素晴らしささえ知らない純粋無垢な少女だった。

 

 

「酎ハイになんちゃって果実酒…数種のカクテルにエール…全部ダメとは…ボクっ娘〜お前さん酒向いてねーんじゃねーか??」

 

「むっ、失敬な!ボクは立派なレディだよ!ワインをお願い!」

 

「……はぁー…赤と白どっちがいい…?」

 

「??何か違いがあるの??」

 

「だはっ〜!…あのなー……はぁ…違いは色々あるが…白ワインの方が初心者向けだ…」

 

「じゃあ赤で!」

 

「話聞いてたのか?!まともにアルコール飲めねーなら白にしろ!ちょっとした魔法かけてやるから…」

 

「ん〜…仕方ない!マスターに免じて白にしてあげる!」

 

「どの立場なんだよ…ほれ」

 

 

どの酒を飲んでも決まって一言目に不味いと口にする少女。まぁ、無理もない。見た目からして…いや、年齢からして酒の味が分かるような歳ではない。そんな少女のために主はある秘策を思いつく。副団長殿さえこの秘策の前に倒れ。結局ワイン好きのただの呑んべぇになったのだから。主は少女の前に炭酸含むジュースのように甘いワインを出す。

 

 

「?ワインってこんなにシュワシュワしてたっけ??」

 

「あー、気にせず飲め。」

 

「…美味しい!」

 

「たりめーだ…うちで1番いい白ワインをシャンパンにしてやったんだからな…」

 

「あ!飲んだことある〜姉ちゃんの誕生日で!」

 

「そいつはジュースだ!ただの白ぶどうのジュースに炭酸入れてるだけじゃねーか!」

 

 

頭にはてなマークを浮かべながらも少女はそれをアルコールだと知った上でワイングラスを片手に持ち、一気に口の中へと流し込んだ。数秒待ったあとに出てきた感想は、まさかの誕生日パーティーなどで用意されるジャパンジュースの感想。予想通りではあるが、中々に残念な気持ちになる…酒の味について討論できるのは旦那ぐらいしかいない…そんなことを考えていると自分の酔いを吹き飛ばすような爆弾発言が聞こえた。

 

 

 

「えー!味は一緒だよ〜ちょっとふわふわしてるけど〜」

 

「ボクっ娘…お前さん、あんちゃんと同じくらい馬鹿舌だぜ…ん?ふわふわしてる??」

 

「あははははっ!!マスターが二人いる!!!」

 

「ボクっ娘ぉぉぉっ?!それ以上飲むな!!!」

 

「えーー??」

 

「ラッパするなぁ?!そういう酒じゃねーからぁ!!!」

 

 

今までの蓄積があったにしろ無かったにしろ、幼気な少女はなんとも似合う絵面でスパークリングワイン(シャンパン)の瓶を片手にそれをラッパ飲みしていた。すぐさま止にかかるが時既に遅し…酒瓶は空。少女は完全に決まっていた。

 

 

「……やっべ〜……!」

 

「あ゛っははは〜!!!マスターの間抜けな顔が…1、2、3…」

 

「ボクっ娘…2階貸してやるから寝ろ……」

 

「えー!まだ飲みたい!テキーラとかウォッカとか!!」

 

「女のゲロ程タチ悪いもんはねーぞ……」

 

 

完全に決まり始めた少女。まぁ、無理もない。量は少ないにしろ、今日初めてアルコールを飲む少女が混ぜに、混ぜ合わせてちゃんぽんしまくったのだ。そしてトドメのシャンパン。普通ならテーブルに伏せて寝てしまってもおかしくない。それなのに意気揚々にあんちゃんのような注文をしてきたため主は顔面蒼白だ。

 

 

「変な感じ〜」

 

「あ?」

 

「アルコールの味なんて分かるはず無かったのに…今は何となく、美味しさも…その怖さも理解しちゃった〜」

 

「いいこった…やらかす前に分かるなら今後心配いらねーな」

 

「うん。でも、1回くらい何かやらかしちゃった…って言うのを記憶にしたかったかな〜……」

 

 

ラッパした影響なのか元々、少しだけ弱気になっていたせいなのか少女は酔っているのか、酔っていないのか分からないテンションでテーブルに伏せながら不満を零した。普段なら有り得もしない光景なのだが、今日だけは許してやろう。彼女に残された時間は…もう……

 

 

「はぁ〜……何が飲みてーんだ?」

 

「え?」

 

「やらかしてみてーんだろ?とことん、つきあってやらぁ…」

 

「!…じゃあ〜テキーラ!あと、塩かレモン!」

 

「りょーかい。」

 

「……ありがとう…マスター…」

 

「…ちっ…つけにしといてやるよ…ちゃんと払いに来やがれ…」

 

 

互いに結末を知り、それでもなお先を見据える。

 

 

夜の街は、今日も賑わう

 

 

 

 

 



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オマケ
泣き虫のトナカイ


長いです苦手な方はBSでお願いします。ではどうぞ…


 

これは、ある泣き虫の少女と鍛冶屋の主が送った一時。そして、その後に起きた悲劇の話。

 

 

「かぁ〜…寝みぃ…客こねーし、売上ねーし、客こねーし

……はぁ…寝みぃ…」

 

 

本日も晴天なり。開業したばかりのこの鍛冶屋、売り文句としては『刀鍛冶なら聖剣打ちます!』という物なのだが、まぁこんな山奥にこんな話信じてくるやつなどいるはずもない。いるとすればお人好しのアイツくらい

 

 

「あー!またそんな格好で店番してるんですか?」

「格好なんてなんでもいいだろ〜?んな事より、よくもまぁこんな秘境の地まで来るね〜泣きボクロの嬢ちゃん。」

 

「な!私の槍いつになっても強化してくれないのは主さんでしょ!」

 

「いやなー…刀じゃねーとやる気でねーんだよ」

 

 

そう、この大人しそうなのによく口を開く少女こそこの店の数少ないお客様だ。それに、本当はこんなに口うるさいやつではない。出会った頃はもっと大人しかったが、今となったは自分の格好にさえツッコミを入れる。え?自分の格好?まぁ、気にすんな

 

 

「やる気でないって…そんなことじゃいつまで経ってもお客さん入りませんよ?」

 

「余計なお世話だ!んな事よりどーたい?最近入ったつう凄腕剣士は?」

 

「んーっとね…その…」

 

「んだよ歯切れわりーな。何かあんのか?」

 

 

 

図星を突かれ話題を変えるべく、最近こいつの所属するギルドに加入した剣士について聞いた。なんでもそいつは少女達のピンチに駆けつけ救い出したらしい、それなのにレベルは大して変わらない。どう考えても裏がある。それに、この少女も多分…

 

 

 

「多分ね…キリト…その彼は私たちとは違う場所の人だと思うの。」

 

「違う場所…攻略組ってことか?」

 

「それもだけど…なんて言うか上手く説明出来ないけど。どこか私と似てて、けど全然違うくてそのなんて言うか…弱い人なんだと思う。」

 

 

 

多分だが、この少女の言っていることは恐怖の感じ方の問題だ。泣きボクロの嬢ちゃんは死に対する恐怖、そしてその剣士の恐怖はきっと最前線に置いていかれると言ったこと。そして…いや、今はいいだろう。

 

 

 

「…いいのか?そんな奴と組んでて?何かあってからじゃ……」

 

「大丈夫。キリトがね、私は死なないって言ってくれたんだ」

 

「……あ?」

 

 

 

なんだその薄っぺらい言葉は?つい口から出そうになった。そんなのは恐怖を紛らわすための傷の舐め合いだ。と、そんな言葉を飲み込んだ…

 

 

 

「いや、まぁお前がそう言うならいいんだろうな…それに、そいつのおかげでちったぁいい顔になってるのも事実だしな〜」

 

「!ち、違うもん!別にそういうのじゃ…」

「ハイハイ、リア充乙。ほれっ!」

 

「うわっ!と…私の槍…」

 

「これから潜るんだろ?そいつでバッタバッタなぎ倒してこいよ〜」

 

「…うん、ありがとね主さん。」

 

「おう…」

 

 

この少女が乙女らしい反応をするようになったのはその剣士、キリトというやつが加入してからだ。だが、何故こんなにも不安なのだろうか。そんなことを思いながらも少女は去っていった。

 

 

 

 

 

その日から彼女が店を訪れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

クリスマス、白くなる街に噂の飛び交う人混みそんな中ある人物を探し街を歩く。

 

 

 

「鼠」

 

「なんだよマスタ〜そんな怖い顔して」

 

 

 

街の中央広場に着く。そこでベンチに座り、一人の情報屋の名前をいえばすぐさま後ろに現れた。会って早々に表情について指摘されたのでとりあえずいつもの感じで誤魔化す

 

 

 

「…そんな顔してませーん!至っていつも通りでーす!」

 

「嘘つけ。んな事よりマスターがオイラに話しかけるなんて珍しいじゃないか」

 

 

 

鼠も何かを知っている反応だ。確かに自分が鼠に話しかけるなど滅多にない。だが、今は状況が違う。

 

 

 

「まぁな…お前さんが持ってる今日のイベント情報、全部話せ。それともう1つ…黒の剣士は今どこにいる?」

 

「……クリスマスイベントについてはβ時代にもなかったもんだから情報の取りようがねえよ…でもオレっちが考えた予想で良ければ話す。けど、その黒の剣士について教えられねーな」

 

 

まぁ、予想通りの回答だ。こいつは決してβテスターの情報は売らない。そんなことは知っている。だが、今はどうしてもそれを知らなければいけない。

 

 

「…月夜の黒猫団。」

 

「!」

 

「ギルドメンバーの壊滅、唯一の生き残りキリト…そして、蘇生アイテム。他には?」

 

「……参った、降参だよ…情報は与える。」

 

「助かる…」

 

 

カマをかけたつもりだった。だが、流石は情報屋と言ったところか。鼠は深くまでは知らずともあの事件を知っているようだった。

 

 

 

「なぁ、マスター…どうするつもりなんだ?」

 

「…さあな…ただ、気に入らねーんだよ。」

 

「っ!」

 

「死に場所を探してるそいつも、そんなことをさせちまった自分自身にもな…」

 

 

そうして、街を離れフィールドへと駆け出した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「どんな言葉で蔑まれようとも俺はその言葉を受け入れるよ…サチ…」

 

 

森の奥深くにたどり着く。クライン達に手を借り聖竜連合を抑えてもらいつつも邪魔者は1人もなく独りで戦えると思っていた。

 

 

「そろそろ、だな…」

 

「よう!」

 

「!」

 

「寂しいやつだな〜友達いねーのか?クリスマスにこんな所まで来てフル装備で攻略なんて…なぁ、黒の剣士君?」

 

「…誰だ?お前…」

 

「ん?俺は…鍛冶屋だ」

 

 

悪ふざけもいいところだろう。目の前の男は笑顔でこちらに近づいてくる。それも、鍛冶屋がこんな森の深くまで来るはずがない。目的はひとつ

 

 

「…悪いが蘇生アイテムは俺が手に入れる。邪魔をするなら…」

 

「いんや、蘇生アイテムなんぞに興味はねーよ…ただ、ある人の頼みでね…お前を救ってほしいって言われたんだよ」

 

 

腕を後ろに回し、剣の柄に手をかける。しかし、目の前の相手はくだらない妄言を発する。

 

 

「人違いだろ…時間がないんだ邪魔しないでく…」

 

「月夜の黒猫団」

 

「!」

 

「まさか、リーダーまで自殺しちまうとはな…」

 

「な、なんで…お前が、その槍を持ってるんだ…?」

 

「…人違い、なんだろ?」

 

「っ!!!」

 

 

 

あいての口車にのせられて無我夢中で走り出し、剣で斬り掛かる。

 

 

「こえーな…随分なご挨拶じゃねーか」

 

「返、せ…!それは、サチの…!っ?!」

 

 

渾身の一撃を容易に受け止められた。しかも両手打ち用の槍を片手で振り回し、逆の手で腹部へと拳が突き刺さる

 

 

「ぐっ…!」

 

「クソガキ、たった1発で終わりか?最初の殺気はどこいったんだよ?」

 

「っ!うぉぉぉぉっ!」

 

 

腹部に未だに痛みはある。だが、そんなこと構うことは無い。今は目の前の正体不明の男を殺すことだけを考えろ。そう言い聞かせ間合いを詰める。

 

 

「……」

 

「せやぁぁぁっ!!」

 

「……」

 

「はぁぁぁぁっ!!!」

 

「軽いな」

 

「は…―――っ?!」

 

 

速く鋭く、何撃もの剣を振りかざすだが、当たらない。決定打は愚かかすり傷さえ与えられていない。そんな時目の前で何かが砕けた。そう、自分の剣が…それと共に衝撃が襲いかかり、地面にバウンドし地に伏せる

 

 

「かはっ…!」

 

「すげー、人間てバウンドすんのな」

 

「くっ…そ…」

 

「まだ、やるか?」

 

「っ…!があぁぁぁっ!」

 

 

すぐさま武器を切り替え痛む体を無視し斬り掛かる。だが…結果など変わらない。

 

 

「くそっ、くそっ!くそっ!!」

 

「どした?殺してでもアイテム手に入れんじゃねーのか?」

 

「!はぁぁぁぁっ!」

 

「はぁ…何回も言わせんな…軽いんだよお前の剣は…」

 

「っ!あ、ぁ…」

 

 

 

たった一撃だ。ソードスキル発動しようとした一瞬、その一瞬に起こった一撃で俺の剣は中心から粉々。そして、自分の体に風穴が空いたとともにHPバーが危険域へと突入した。

 

 

 

「……」

 

「待、て…俺は、あの子を…サチを生き返らせ、るんだ…!」

「いつまで、引きずるんだ?」

 

「…?ぐっ、うっ…!」

 

 

 

髪を握られそのまま状態を起こされる。そこには怒りに包まれた先程とは別人に見えるほどの男がいた。

 

 

 

「あいつらが死んだのは…テメェの築いたくだらねえ関係のせいだろうがぁ!

泣きボクロの嬢ちゃんが死んだのは…

―――テメェのうっすペらい言葉のせいだろうがぁっ!!」

 

「っ!」

 

「何が死なねーだ…ふざけんじゃねーぞ!テメェの言った根拠のない言葉があの子に死の原因を作った…!それなのに…死んだ後でさえ自分を正当化するためにあの子を利用しようなんざ…」

 

「!ち、違う…俺は…」

 

「違わねーだろ…あの子蘇らせてからあの子に蔑まれ、罵倒されれば、ちったぁ楽になるって考えてたからだろ?」

 

「!…違う…!」

 

「だから軽いんだよ、お前の剣は…何も乗ってない。何も背負ってない。空っぽで誰もいない。

だから、取りこぼしたんだろ…だから、奇跡に頼ったんだろ!」

 

どんどん浴びせられる怒声に何も言い返せなくなり頭が真っ白になっていった。そして、最後の言葉を聞いた瞬間俺の中には何も無かった。

 

 

「教えてやるよ…この世界に奇跡なんざ存在しねー、希望なんざありゃしねーんだよ…」

 

 

 

意識が遠のく、見届ける背中がどんどん遠くへ行く。その奥にはイベントボスである背教者ニコラス出現し、そして男は槍をしまい、短刀と長刀を腰に差し歩いていった。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

「んっ…」

 

 

どれくらい眠っていたのだろう。ただ、寒い。だが、痛みは何も無い。それどころかHPは全回復していた。そして、目の前で何かが爆発する

 

 

「こんなもんだな…」

 

「……」

 

 

あの男は背教者ニコラスを倒したのだ。たった一人で、息ひとつ上がっていない様子を見る限り俺では到底叶わない相手だと自覚する。それと同時にこの後何をしたいいのかも分からなかった。ただ、死にたかった

 

 

 

「ほらよ」

 

「っ!蘇生アイテム…」

 

「欲しかったんだろ…やるよ。」

 

「………

―――は?」

 

 

 

目を疑った、そのアイテムの効果を見て空っぽだった俺の中は真っ暗になった。

 

 

 

「は、ははは…あはははは…!!!」

「……」

 

「ははは……殺してくれ…」

 

 

何かが壊れたように涙を流しながら俺は笑いだした。あまりにも自分が惨めで愚かで本当にどうしようもない道化だった。

 

 

「…本気で、言ってんのか…?」

 

「…あぁ、もうウンザリだ…」

 

「クソガキ!本当であれば俺はテメェをここでぶっ殺してやりてーよ…でもな、生きたくても死んだやつがいるんだよ…お前に生きてほしいって言ったやつがいるんだよ!」

 

 

 

胸ぐらを掴まれて持ち上げられる。何も響かない、何も届かないはずだった。それなのに、男の言葉を聞いて真っ先に浮かんだのはサチの顔だった。

 

 

 

「!……サチ…」

「…ちっ!クソガキ、少しでもその子を思う気持ちがあるんだったら、生きろ。どんだけ苦しくてもどんだけ辛くても、生きて、テメェが示してやれ、あの子がこの世界に来ちまった意味、テメェと出会った意味ってやつを…」

 

 

 

そうして、男は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「かぁ〜…寝みぃ…客こねーし、売上ねーし、客こねーし

……はぁ…寝みぃ…」

 

 

あれから数日、自分の日常に特に問題は無いが、やはり静かになった…と思ってしまう。寂しいとは思うもののどうしようもないのでとりあえず刀を打ちまくっていた。そんな所に

 

 

「おっ、いっらっしゃ……何の用だ?クソガキ」

 

「……」

 

「おい、黙ってねーで何か…」

 

「俺と勝負してくれ…」

 

「は?」

 

「俺を強くしてくれ!」

 

「はぁ?!」

 

 

 

これが悲劇の終焉だ。

 

 

 

 

 

 




需要ないと思いますが、これがサチと主のお話にしてキリトとの出会いです。ここまでの長い駄文を読んでいただきありがとうございます┏○┓
SAO編の鍛冶屋はあと2話で終わりの予定です。もうしばらくお付き合い下さい。それでは…


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エクスキャリバー事件

※注意※ギャグ回です


「がーはっはっはー!!!残念だったな御一行!この聖剣と猫耳娘を褒める言葉は…俺が頂いたぁ!!!」

 

 

これは愚かな鍛冶屋兼酒場の主が起こした、どうしようもなく、何ともしょうもない事件である。

 

 

 

遡ること数時間前。

 

 

 

「ふっふ〜。坊主達は行ったな…」

 

 

 

鍛冶屋を求めてる人、酒場を求めてる人ごめんね!今日はちっとバカし私用でヨツンヘイムに来てるぜ!坊主達がトンキー?とかいうのに乗って移動してったからバレないようにもう1匹につかまって移動してる主です。

 

 

「さてと、おい【触覚まみれ】!安全速度で行けよ?って、あぁぁぁぁっ?!」

 

 

 

いきなりですが超ピンチ俺が手なずけたこのモンスター、何と俺の言うことを全く聞かない。それどころか空中数百メートルから垂直ダイブである。まぁ、道中邪神同士の殺し合いがあったが、そんなことはまぁ捨ておけ。本命のお出ましだ。

 

 

「【触覚まみれ】!止まれ!」

 

 

何とか言うことを聞かせ、坊主達の会話を盗み聞きする。そんな必要はないのだが今鉢合わせるのは非常にまずい。自分にとっても坊主達にとっても、そして湖の女王にとって。しばらくすると…彼女はこちらに向き直る

 

 

「まだいたのですか…」

 

「おうさ。可愛い娘のピンチ、父として見過ごすわけにゃーいかねえだろ。」

 

「いつから貴方が私達の父に?」

 

「酷すぎませんかウルズさん?!これでも元データですよ?!」

 

 

俺が今会話しているのは、先程坊主一行がクエストを頼まれていた人物ウルズである。まぁ、あの世界のパクリみたいなもんだからそこに存在するAIなんて全部俺の子供みたいなもんだ。

 

 

「はぁ…で、何をお企みになっているのですか?」

 

「あぁ?決まってんだろ、取りに行くのさ…エクスキャリバーをな!あ、ついでにこの世界の平和も」

 

「娘の願いをついでにする父がどこにいますか…」

 

「目の前にいるじゃん。」

 

「カリバーンを渡されて最下層に堕ちろ」

 

「AIとは思えない辛辣さ!もういい!!お前の前に金ピカに光る聖剣突き付けてやるからな!」

 

「でしたら、今すぐにその邪神をこちらで受け取りましょうか?」

 

「俺が悪かったです。」

 

 

正直、尻に敷かれている男にしか見えないかもしれないが一応俺が父だ。まぁ、そんなことはどうでもいい。俺は光の速さで邪神の背中で土下座したのだから。

 

 

「それで、実際のところお前さんの目利き的に坊主達はどうなのよ?」

 

「えぇ、苦しい戦いにはなると思いますが…彼らならやってのけるでしょう。」

 

「へぇ〜、一目置いてるわけだ。」

 

「もちろん。貴方が育てた戦士にハズレがいるとは思えませんから。」

 

「嬉しい事言ってくれるね〜。そんじゃ…俺も行くかな」

 

 

俺は再び、触覚まみれの背中に乗りダンジョンを見据えつつウルズに視線を送る。

 

 

 

「ウルズ、行ってくる。」

 

「…行ってらっしゃいませ。どうか、ご武運を…」

 

 

 

そうして、俺はウルズと別れを告げた。その後の不吉な言葉を聞くはずもなく。

 

 

「さてと…難易度どうしましょう。」

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

「はぁっ…!はぁっ!!あんのアマァ!!!」

 

 

 

坊主達を追いつづけ早数十分。俺は非常にまずい事態にていた。

 

 

「なんで!俺の時だけ…この部屋だけに!ラグナロクを起こしてんだよ!」

 

 

 

現在坊主達が片付けた階層を通り過ぎるだけのつもりでいた俺に突如、アルブヘイムでは考えられないほどの灼熱が襲ってきた。

 

 

「ムスペルへイムの炎の巨人なんて、流石に洒落になってねぇ…世界樹焼き尽くす軍勢相手に俺一人とかどんなクソゲーだ…!あ、俺そのクソゲーそのものだった。」

 

 

 

部屋に取り残された俺。迫り来る炎の巨人達。自虐しつつも俺は確実に前へと進む。

 

 

 

「この程度で音を上げると思うなよ…!ウルズぅぅぅ!!!」

 

 

男の戦いはまだまだ続く。

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「はぁ、はぁ…やっと追いついた…」

 

 

 

何とか、炎の巨人達を殲滅しようやく尾行することに成功した俺。坊主達はというとようやくミノタウロス2頭を倒し、その次のボスも倒したようだ。

 

 

「ひゅぅ…ひゅ……最近の若い衆は早すぎる…俺には流石にキツいペースだ…って…あんちゃんの野郎…その仕事は俺のもんだろ…!……俺もあんな白い目で見られることになってたのか…って、待て…フレイヤだと…」

 

 

道中、あんちゃんの行動に一瞬嫉妬したが…自分はその名前を知っている。それどころか、その正体さえも…

 

 

「ようやく、ボスだな…クソジジイ対クソジジイか…」

 

 

自分のボソリといった言葉は数秒後、坊主達一同の度肝を抜くものになる。

 

 

「雷系のスキル…!来るぞ…!」

 

 

物陰に隠れていた俺、そして坊主、あんちゃんともに変容していくフレイヤに目を丸める。

 

 

「「「おっさんじゃねーか!!!」」」

 

「え?」

 

「ねぇ、アスナ今なんかあいつの声が聞こえたんだけど…」

 

「リズさん奇遇ですね…私もです。」

 

「そこ!」

 

 

リズムよくツッコミをする男二人に対して女性陣は多種多様な反応をみせる。

 

 

「?!っ!ぁ、ぁっぶね〜…」

 

 

なんと、新入りであろう1人の弓兵が自分の数センチ隣を射抜いたのだ。

 

 

「よし…最終段階だ!」

 

 

坊主達が玉座の後ろにある階段を降りていく。それを横目に男は碌でもないことを思いつきながらあとを付ける。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

「200メートルくらいかぁ…」

 

「待ってたぜぇ…この時を…!!!」

 

 

トンキーの背中でシノンが矢を射る。そして、もう1匹の邪神の背中である男が矢を構える。

 

 

「あげるわよ。そんな顔しなく…てって…え?」

 

「がーはっはっはー!!!残念だったな御一行!この聖剣と猫耳娘を褒める言葉は…俺が頂いたぁ!!!

 

「な?!」

 

「って!大将じゃねーか!」

 

「そう!大将こと主です!」

 

 

それは一瞬の出来事だった。シノンが神業で手繰りよせたエクスキャリバーをなんと、違う方向から違う矢が回収していった。その人物こそあいつだ。

 

 

 

「主さん?!」

 

「ちょっとあんた何してんの?!」

 

「あぁ?!決まってんだろ!聖剣を取って、贋作ばらくだよ!」

 

「えぇ!ずるいですよ主さん!」

 

「黙れ生きるロリ!これは、俺が儲けの1部として使う!」

 

「「「「「「「はぁぁぁぁぁっ?!」」」」」」」

 

 

一同から一斉に素っ頓狂な声が漏れる。それもそのはず、あいつはプレイヤー史上最高のダサく、卑劣な行動をしているのだから。

 

 

「ふざけたこと言ってんじゃないわよ?」

 

「へっ!たかだか数週間のプレイヤーがよく吠える!俺に弓の技術勝ってからもの言いな!って…ちょ、ちょー!待てーっ!!」

 

「「「「「「「死ねー!!!」」」」」」」

 

「あ〜〜〜」

 

 

パーティー一同で魔法、弓矢を一斉掃射。あの、魔法嫌いのあんちゃんまでもだ。そんなのどうやったって捌けるはずもなく、邪神は消滅、あいつは奈落の底へと堕ちるのであった。

 

 

「覚えとけよてめぇらぁーー!!!」

 

 

 

そうして、愚かなる1人の男の野望は潰えた。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「ヴェル…スクルド…そして、ウルズ…ごめん…」

 

「「「……」」」

 

「これ…お前らの眷属の触角の塩焼き。意外と上手いから食ってみ?」

 

「「「死刑」」」

 

「あぁ…短い人生だった…」

 

 

 

これが、事の結末である。

 

 

 



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祈りを叶えた少女 起

 

あれはボクがまだ辻デュエルをしていた時のこと。

 

 

「ま、参った!リザインする…!」

 

 

挑んでくるものは決して探し求めているような人ではなく有象無象の中の1人。時間は少ないのに無情にもどんどん流れていく。そんな中、

 

 

「っ!」

 

 

肌を刺激するような今までに感じたことのない気配を感じた。それは、まるでボクを試すかのするかのように殺気やら挑発やらを感じさせるもの。周囲を見渡すがそれらしき人影は見当たらず、結局その場では何もなく時が過ぎた。

それから数日後

 

 

「はぁぁっ!」

 

「せやぁぁっ!」

 

 

突如として現れた全身を黒で統一した1人の剣士。今までの人達とは明らかに違う。剣を交えただけでわかる。この人は本当の戦いを知っていると、それと同時に本能が悟った。あの時感じた気配に僅かながら似ている。

 

 

「くっ…?!」

 

「やぁぁっ!!」

 

「…俺の負けだ…リザインするよ。」

 

 

勝負こそギリギリの接戦の末勝ったもののこの人はダメだ。この人は酷く勘が鋭く、それでいて人のことをよく見ている。いい意味でも悪い意味でも

 

 

「ねぇ、お兄さん」

 

「ん?なんだ?」

 

「お兄さん、何日か前にもボクのデュエル見に来てなかった?」

 

「?いや、俺は今日が初めてだよ。」

 

「…そっか…」

 

 

短い会話、だがそれでいい。この人はきっと気づいて欲しくない所までその内気づくだろう。問題は…

 

 

「はぁ…あいつのネタにされる…」

 

「仕方ないですよパパ。それに主さんも分かってくれるはずです!」

 

「あいつがそんな出来たやつじゃないってことぐらい分かってるだろ…ユイ…」

 

 

ふと耳にした会話。そこに出て来た人物に興味を持ちつつもその人はその場を後にし、再び辻デュエルは再開された。

 

これがボクとキリトの出会いだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

ところ変わって日付も変わって酒場。

 

 

「絶剣って剣士、名前はユウキ…だったかな?恐ろしく強かったよ。技術に関しては良くて五分、でもスピードに関しては完敗だ…」

 

「ほーう…そいつはすげーや。それで坊主、お前さんが負けるのは何となく知ってたがテメェ何食ってんだ?」

 

「ん?カレーだけど?」

 

「いや、質問が悪かった…なんで食ってんだ?」

 

「お通しじゃないのか?」

 

「どこの酒場にお通しでカレー出す店があんだよ!?そいつは俺の夕飯だ!」

 

「そんな怒るなよ。俺の枝豆やるから」

 

「その枝豆がお前に出したお通しだよ!!」

 

 

まぁ、なんとなくだけどね?あの嬢ちゃんなら坊主といい戦いをするだろうとは思っちゃいたよ?だが、正直勝っちまうとは思ってなかったさね。大方、坊主が二刀流じゃなかったとかそんなとこだろう。んなことよりも

 

 

「たっく……スピードに関しちゃお前さんより速いっつたか?」

 

「…あぁ。でもSAO帰還者じゃない。多分…彼女は俺達よりも長い間フルダイブし続けている…」

 

 

カレーの事は置いておこう。それよりも先に坊主の問題発言に加えて自分の予想が的中する。確かにSAO時代、絶険のようなプレイヤーは存在しなかった。

 

 

「もし仮に存在していたとしたら…

 

―――二刀流は彼女の手に渡っていた。」

 

「へぇ…」

 

 

夜も更けてきた頃。エールを片手に戦いの終始を語る坊主。そして、それを聞いてより一層興味をもつ俺であった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

時はまたも流れ鍛冶屋

 

 

「あーあ…客来ねぇ…」

 

 

相変わらずの我が店。経営者である自分が1番わかっているが、もう畳んじまった方がいいんじゃね?と思うほどに暇な数日。ここ数日は特にそれだ。何でも副団長殿も絶険に、負けたらしい。それどころかその絶剣が所属するギルドに加入し今日ボス攻略をしているようだ。

 

 

「今頃、ボスぶっ飛ばしてみんなでワイワイやってのかな…はぁ…」

 

 

そんな時、勢いよく扉が開く。

 

 

「お、いらっしゃい!って坊主かよ…どした?そんなに息切らして」

 

「今、暇か?」

 

「…忙しそうに見えるか?」

 

「そりゃそうか…じゃあ少しだけ手を貸してくれ」

 

「あ?わりーが今は鍛冶屋だ。そういうのは定休日にでも…」

 

「この店は年がら年中定休日だろ」

 

「…坊主…俺じゃなかったら吐血もんだぜ?」

 

 

カウンターに勢いよく頭をぶつけそのまま顔を上げたくない俺。メンタルへのダイレクト過ぎるアタックに危うく泣きそうになったが、何とかこらえることができた。

 

 

「アスナ達の手助けがしたい…力を貸してほしい。」

 

「…話聞かせろ」

 

 

今日副団長殿たちのギルドがダンジョンに潜りボス攻略するのは知っていたが、何でも他のパーティーが横取りするような動きが見られたらしい。そのため今現在、もめそうになっているそうだ。

 

 

「あのなぁ坊主…俺は揉め事が嫌いなん…」

 

「報酬はこの鍛冶屋をALO中に宣伝する、でどうだ?」

 

「お供します!」

 

 

こんな軽いノリで俺と坊主にユイと遅れてくるあんちゃんを加えて、俺たちはダンジョンに向かった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「次のボスは絶対にみんなで倒そう!」

 

 

アスナの言葉に救われた。正直、ボスに挑むなんてこの状況からじゃ不可能だ。ボク達の人数に対して相手は数倍以上。どうやったって厳しい。そんな時、

 

 

「え?」

 

「悪いな、ここは通行止めだ。」

 

「キリトくん!」

 

 

壁を走る影が見え後ろを振り返るとそこにはいつかデュエルをした黒の剣士がいた。アスナとのデュエルの際にも立ち会っていたように彼は味方だ。だが、ボクが驚いたのはそこじゃない。

 

 

「おいおい、ブラッキー先生よ。いくらあんたでもこの人数をソロで喰うのは無理じゃね?」

 

「そうだそうだ!!」

 

「どうかな?試したことないからわかんないな」

 

「そうだそうだ!!」

 

「「……」」

 

「おい、ブラッキー先生。こいつはアンタの連れか?」

 

「…おい、お前はどっちの味方だ?」

 

「あり?バレた?」

 

 

ふざけた声の発信源は何事もなかったかのように軍団の中から歩み出る。その瞬間、全身を緊張が駆け巡った。その男は袴姿に長刀と短刀を携えた探していた正体。

 

 

「主さん!」

 

「よう、副団長殿!それと、お初にお目にかかります勇者御一行ですね。すいませんね遅れちゃって、今片すんで少々お待ちを。」

 

「おいおい、状況が分かってねーみたいだな…メイジ隊焼いてやんな!」

 

 

敵の後方が部隊が一斉に詠唱を開始する。その瞬間ボクの目の前の人達も剣を構えだした。

 

 

「キリトくん!主さん!」

 

「坊主、合わせろ!」

 

「アンタが合わせてくれよ!」

 

 

後方から魔法が放たれると同時に声が聞こえ、つい振り向いてしまう。

 

 

「っ!みんな伏せて!」

 

「ちっ!残した!」

 

「あ、あぁぁぁっ?!」

 

 

たった一瞬の出来事、それを見届けられたものはそういない。放たれた3つの魔法。それは黒の剣士がそれを地上で全て軌道を変え、いつの間にか飛んでいた袴姿の男が扉付近の敵軍へと切り返し爆破。爆風より奇跡的に生き残った1人を切り捨てたのだ。

 

 

「魔法を、切り返した?」

 

「……」

 

 

何とかアスナと二人がかりでパーティーのみんなを伏せさせ、誤爆を防いだ。だが、当人の2人は口論してる始末である。

 

 

「おい坊主!剣先ではじくなっつってんだろ!腹で返せ、腹で!」

 

「無茶言うな!こっちはあんたのを見様見真似でやってんだぞ!」

 

「パパ!主さん!今は喧嘩しないでください!」

 

「…はぁ、アスナ!」

 

「うん!」

 

「ではでは、勇者御一行よ。よい旅路を。」

 

「ユウキ!」

 

「…行こう。」

 

 

道は開いた。後は進むだけと分かっていながらも、足取りは重い。理由はすぐ後ろにいるのだから。それでもボク達は今はボス部屋へと入っていった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「ヒーフーミーヨー…ダメだ。眠っちまいそうだ。おーい!あんちゃん、今何人目だ〜?」

 

「あー、大将か?!いま〜はえーと、わりー大体3人だ!」

 

「上出来。」

 

 

勇者御一行がボス部屋に入った直後、俺たちの目の前には何十人という敵が広がっている。それに対してこっちは3人と来たもんだ。

 

 

「坊主、カッコつけたはいいが正直負け戦だぜ?」

 

「知ってるよ。でも、今やんなきゃ後悔するだろ?」

 

「ふっ…そうかい。じゃあこうしよう。これは対決だ、呪文は禁止、飛行も禁止、あとユイのサポートも禁止。それでどっちが多く殺せるか…どうだ?」

 

「商品は?」

 

「無料修復券と飲み物サービス券どっちがいい?」

 

「修復券で頼む。じゃあ行くぞ、ぼったくりへっぽこ鍛冶屋!」

 

「お前が負けたらエクスキャリバーよこせクソガキ!」

 

 

 

今は、語られることのない男達の戦いが始まる。

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「勝っ、た?」

 

 

不意にアスナから素っ頓狂な声が漏れる。最後の最後、ボクの懇親の一撃はボスのコアを貫き、分散させた。みんなが歓喜の声を漏らす中、不意に扉が開く。大方、相手方のギルドだろうと思い、ボクを含めみんながピースサインを浮かべようとした時

 

 

「最後の一人は俺が倒したろうが!」

 

「はぁん?俺が両腕斬り飛ばして後から殺るつもりだったんだよ」

 

「詰めが甘いんじゃないか?」

 

「んだと坊主こら!…っとお疲れ様です御一行殿。」

 

「え?キリト君、まさか…」

 

「あぁ、全員倒してきた。」

 

 

何と清々しい顔ですごいことを言ったんだこの剣士は。正直、目を丸くした。だが、それよりも。黒の剣士は多少なりとも息を切らしているだが、もう一方の男はピンピンしている状態だ。

 

 

「正直、ボス攻略よりも骨が折れたかもな?」

 

「言えてるな…」

 

「さてと、スリーピングナイツ、だっけ?おめでとう。お前さん達の名前はこの世界に名を刻んだ。誇れよ。特に、《絶剣》の少女よ、噂に違わぬ技量らしいな。流石―――フルダイブし続けているだけあるな?」

 

「っ!」

 

 

何人に聞こえただろうか?いや、関係ない。この男は何を知っている?いや、気にするな。ボクの本能が勘が警告していた。この男は危険だと。

 

 

「…おいおい、お前さん相手を間違っちゃいねーか?」

 

「っ?!ユウキ、何して…?!」

 

「…!」

 

 

男の言葉にのせられた?違う。この男は何も推測でものを語っているのではない。確証を持って知っている。こいつは、敵だ。ボス戦を終えたばかりの体にムチを打ち最速の刺突をお見舞するも難なく刀の腹で止められた。

 

 

「…構えてよ。無抵抗の相手は切りたくない」

 

「だったら鞘に収めな、これは忠告だぜ?」

 

「生憎とボク抜いた剣は収めが効かない質なんだ」

 

「…」

 

「そっちにその気がなくてもボクは貴方を切るよ…」

 

「はぁ…」

 

 

駆け出す。剣を構え男の懐へと。男に戦意の色は一切見受けられない。それでもここでやらなくてはいけないとそう思ってしまった。だが、

 

 

「っ?!」

 

「抜いた剣は収めが効かねえ…んなことは分かってんだよ。俺が言いてえのは…収めが効かねえのは

 

―――テメェだけじゃねーぞ…」

 

「そこまでだ。」

 

 

ボクの剣戟を難なく受け止めた男。そして一瞬だけ漏れだした殺気。かろうじて黒の剣士が二刀を抜き受け止めた。

 

 

「…ちっ、性格が悪かったな…どうにも性分なのか止められなくてよ。すまなかったな御一行。だが、絶剣の少女、その剣はしまっておけ…いずれ交わるさ…」

 

 

不可解な言葉と共に男はその場から転移し姿を消した。

 

 

「ユウキ…」

 

 

アスナから漏れる心配の声とともに―――物語は進んでいく。

 

 

 

 



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祈りを叶えた少女 承

あの日を境にボクは1度この世界を離れた。それでもアスナが、みんながボクをまたこの場所へと引き戻してくれた。

 

 

《Congratulation!》

 

 

「―――!―――!!」

 

 

この世界に来て多くの人達と出会い、多くの人達に救われた。今もボス戦を終えたばかりである。あの日から時間は流れ、様々な事と向き合い、そして今に至った。だが、未だに脳裏に焼き付く1人の男。その男との再開はもう…すぐそばまで来ていた。

 

 

「デュエル・トーナメントまであと数日か〜。さてと、見極めるとするか…

 

―――《絶剣》は勇者になり得るかね〜」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

デュエル・トーナメント当日。この日は数多くの強者が集い、心を暑く試合を繰り広げていた。2ブロック分けられた戦い、それは熾烈を極めついに片方のブロックが終了を迎えた昼過ぎのこと。

 

 

「もー!悔しい!!」

 

「あはは!またボクの勝ちだねアスナ。」

 

「お疲れ様です。ママ」

 

「惜しかったな、後3秒あれば勝負は分からなかった。」

 

「だから余計に悔しいの!」

 

 

現在控え室には先程デュエルを終えたばかりのボクとアスナ。そして、それを見ていたキリトとユイちゃんがいた。正直ギリギリ勝てたというのが現実だ。キリトの言う通りあと3秒あったら負けていたかもしれない。けれどどうにか無事にボクは決勝戦へとコマを進める事が出来た。

 

 

「そういえばキリト。次の相手は誰なの?」

 

「あー、多分ユージーンだな。今頃デュエルの真っ最中だよ。」

 

「ボクと戦うまで負けちゃダメだからね!」

 

「分かってるよ…負けるつもりはないけど簡単には勝てないだろうな。」

 

「確かにユージーンさんは以前のパパと戦った時より強くなっていました。魔剣グラムもそうですが…」

 

「OSS、か…」

 

「私は5連撃が限界だったけどユージーンさんは8連撃だっけ?」

 

 

そう、ALOにOSSが追加されてからボクがマザーズ・ロザリオを完成させるまでサラマンダーの将軍、ユージーンが編み出したOSSが最強の絶技だった。そんな男がキリトの次の相手なのだ。

 

 

「はぁ、ユウキの11連撃に比べたらマシと考えるべきか…」

 

「キリの字!!」

 

「ク、クラインさん?」

 

 

突如、控え室の扉が勢いよく開かれる。そこには息を切らせたクラインの姿があった。様子を見る限り何やら焦っているようだが

 

 

「どうしたんだよ、クライン。便所なら…」

 

「便所は出ねーよ!それより、大変だ!」

 

「「「「?」」」」

 

「大番狂わせ…あの将軍が…!」

 

「!」

 

「…」

 

 

驚くキリトを横目にボクの胸騒ぎは確信へと迫りつつあった。そして、急ぎコロシアムに赴く。

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

時はほんの少し遡り、第2ブロック準決勝第2試合。

 

 

「ほぇ〜観客がこんなに…スゲーな」

 

 

どうも、皆さんこんにちは。主です、現在俺はデュエル・トーナメントに参加しているわけなのですが…絶剣と戦いたかっただけなのに何故かこんな所まで登っても当たることはなく決勝戦でないと対決は不可能らしいです。そのため今は姿を隠すべくいつもとは違う装備にひょっとこのお面を付けてます。そんな俺の目の前には何やら怖そうな大男が1人。

 

 

「アンタが対戦相手か〜サラマンダーの将軍にしてALO屈指の実力者、ユージーン将軍殿?」

 

「……」

 

「ん?どうしたんですかい?黙り込んじゃって。もしかして緊張してます?」

 

「…貴様、何者だ?」

 

「…通りすがりの鍛冶屋です。」

 

「冗談はよせ。俺の知っている鍛冶屋に貴様の様な異質な者は一人もいない。」

 

「じゃあ、こんな鍛冶屋もいると思って新しく認識して下さいな。」

 

 

まもなくデュエルが始まる。相対するは両手剣、魔剣グラムを持ちし猛炎の将軍。何でも特殊スキル持ちらしいが、まぁ何でもいいや。そんな軽い気持ちの俺とは裏腹に強ばり続けていた将軍の顔は開始と同時に殺気むき出しの表情へと代わり急速な近づいた。

 

 

「っ!?」

 

「そこだぁっ!」

 

「おっ?!っと…!」

 

「ちぃっ!」

 

 

身内バレしないように装備は一新した。武器に関してもそうだ。この大会では普段から使う刀ではなく、たまに使う武器を用いて戦ってきた。今も片手にダガーナイフを持っている俺なのだが…

 

 

「エアリアルシフト…透過か…」

 

 

初手、完璧に防いだつもりだった。だが、防いだどころか相手の剣は自分のダガーをすり抜け、眼前へと迫ってきた。何とか上半身を仰け反り躱したものの続く二発目、横一線からの上段の振り下ろしではかすり傷を負ってしまう。

 

 

「ほう、この武器の特性をすぐさま見抜くか…」

 

「ま、一応鍛冶屋だからな。目利きくらいは出来るさね…」

 

「そうか、やはり貴様には俺の全てをぶつけたくなった。その面、すぐさま切り落としてやろう!」

 

 

正直、少しばかり焦っていた。この男は情報だけならスキルだのみのゴリ押しプレイヤーだとばかり思っていたからだ。だが実際は違う。

 

 

「はぁぁっ!」

 

 

坊主にこそ劣るものの磨き上げられた最上級の技術に場数を踏んでいるだけあって鋭く研ぎ澄まされた戦いの感、そして極めつけは勝利への執着心。

 

 

「吹き飛べっ!」

 

「っ!」

 

 

透過した直後はスキル発動までの時間が生じる。そこをつこうとしたのだがまんまとハメられ気持ちのいいカウンターをダガーで防ぎつつもくらい、フィールドの端まで吹っ飛んでしまう。だが、皆さんお気づきだろうか?

 

 

「はぁ、はぁ…くそっ…!」

 

「いてて…流石に衝撃吸収までは手が回んねぇ…」

 

 

相手さんが焦っている理由は明白。攻めてこそいる、だが一撃も俺に決定打を与えられていないのだ。斯く言うこちらも攻撃という攻撃は出来ていないのだが、これでは埒が明かない。

 

 

「あーあ、やめだやめだ。埒が明かねーや…」

 

「何のつもりだ?武器を捨ててリザインか?」

 

「いんや、そんなことはしねーよ。ただ、俺はアンタを見くびっていた。正直、てっぺんであぐらかいてるだけの名前だけの存在だと…だがそれは見当違いだったらしい。」

 

「…」

 

「非礼を詫びる。お前さんは強い、だからこそ…お前さんを倒すための俺の本気を見せよう。」

 

「その本気が武器を捨てることか?」

 

「いやいや、武器ならあるさ…ここにな?」

 

「っ?!ごはっ…!」

 

 

数メートルあった距離を相手の瞬き1回のうちに詰め、渾身のボディーブローを決める。くの字に曲がる体に間髪入れずに打ち込んでいく。

 

 

「しっ!」

 

「ぐっ…?!ごっ!がはっ!!」

 

「おっらぁ!」

 

「ぶっ…!な、めるなぁ!」

 

「…」

 

「なっ?!素手で…!」

 

「お返しだ」

 

「がっ!!」

 

 

相手の攻撃を許さない超近距離での乱打。徒手スキルとまではいかない。これは単純な体術だ。ボディーブローから始まった攻撃は顎へのアッパーを決め将軍の巨体を宙へと浮かせる。直後、覚醒したように鋭い目時と怒声を発し将軍の剣が頭部へと迫るが、なんとその人振りを拳で剣の腹を殴りパリィしたのだ。パリィによって常態を傾けられた将軍は為す術もなく、顔面を殴られ逆側のフィールドの端まで吹き飛んでいった。

 

 

「はぁ、はぁ…!」

 

「どうだい?リザインするか?」

 

「…ふっ…確かに実感はあったが、ここまでか…」

 

「あぁ、俺としては大人しく負けを認めてほしいんだが…」

 

「それは無理だな。せめて、一矢報いたい。胸を貸してもらえるか?」

 

「…おおとも。」

 

 

互いに歩み寄り、場所はフィールドど真ん中。距離にしておよそ2m、両者は目をつぶり一方が駆け出す。

 

 

「ヴォルカニック・ブレイザー!!!」

 

「……」

 

 

それは一瞬の剣技。何人が視認できただろうか?両手剣による8連撃は見事―――虚空を切っていた。

 

 

「……」

 

「貴様の目に、俺はどう見えた?」

 

「…その背中にのしかかるものは多いな。正しく、群れを束ね先頭を歩む強き将だった。」

 

 

8連撃をしたはずのユージーンの胸には主の手刀が突き刺さっていた。深々と突き刺さったそれを抜きユージーンは膝をつく。

 

 

「その目利きが偽りでないことを祈る―――斬れ」

 

「見事」

 

 

肩から腹を裂き。主の徒手スキル、手刀はユージーンを一刀した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

駆けつけた時、既に決着は付いていた。観客は愚か後方より見ていたサラマンダーの軍隊までもがどよめく。白地に朱のラインが入った袴にひょっとこのお面をかけた男はあのユージーンを一刀したのだ。

 

 

「…キリト…」

 

「悪い、ユウキ。さっきの約束はまた今度になるかもしれない。」

 

「え?ちょっ!」

 

「キリトくん!」

 

「パパ!」

 

 

まだデュエルが終えたばかりのフィールドにキリトは駆け出していった。

 

 

波乱は今巻き起こる。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「おいおい、第2ブロックの決勝はまだ早いんじゃねーか?」

 

「そんなことないさ、それにアンタはまだピンピンしてんだろ?」

 

「…はぁ、勘のいい坊主は嫌いだよ」

 

「安心しろ。気づいてるのは俺とユイくらいだ。」

 

「……そうか。」

 

「勝たせてもらうぜ?」

 

「一勝してから物言いな―――ブラッキー先生?」

 

 

様々な観客の声が響き渡る中、第2ブロック決勝戦は始まった。

 

 

 




すまない…ユウキの話なのに戦闘が長引いてしまった┏○┓
ですが次回こそユウキをしっかりと登場させます!

次回、赤眼の悪魔VS赤眼の死神 で会いましょう。


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祈りを叶えた少女 転

 

「ねぇ、アスナ…キリトって…あんなに武闘派だった…?」

 

「さ、さぁ〜…」

 

「正直、剣使ってる時よりしっくりきてるわね」

 

「シノンさんに同意です…」

 

「でも、キリトさんのあの動き似てませんか?」

 

 

現在、第2ブロックの決勝戦が始まって数分が経過した。そんな中ギャラリー達の声から漏れるのは意外の一言といったものばかり。唯一リーファだけが不服そうにしているが、なぜそんなことになったのかと言うと…

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

遡ること試合開始直後

 

 

「はぁっ!」

 

「よっ、と!」

 

 

二本の剣をたくみに交わし最速の剣技を繰り広げる坊主。それを槍でさばき続ける私事主である。

 

 

(下段突きからの上へのなぎ払い、そこから持ち手でのパリィ!)

 

(それを見越して、半回転から左横一線で右の大振り…)

 

 

互いに仕掛け合ってはいるのだが、両者ともにそれなりに手の内は知っている。そのため決定打はなく均衡状態が続いていた。だが、

 

 

「くっ!?」

 

「握りがあめぇ!」

 

 

先に不利になるのは坊主だった。まぁ当然といえば当然だ。手の内を知っているといっても坊主の場合は数十手あるうちの幾つか、それに対して坊主の攻撃を自分はすべて知っているのだ。攻めの中で生まれた一瞬の隙に坊主の左手を蹴り上げエクスキャリバーが宙を舞う。途端によろめきだす坊主を俺は見逃さない。

 

 

「らぁっ!」

 

「っおぉぉっ!」

 

「へっ…」

 

「!ごっ?!」

 

「突っ込みぐせは、直せっつてんだろうがぁ!」

 

「がっ…!」

 

「終ぇだ。」

 

 

エクスキャリバーを手放した坊主は一歩前進し懐へと入り込み剣を突き立てる。だが、それを見越して槍の中心で向きをずらし右側から全力でぶん殴った。かろうじて剣の腹で防いだものの威力は殺せず坊主は地面を転がる。最後だと言わんばかりに走り出し刺突をお見舞しようとした時。

 

 

「っ!いってぇぇっ?!」

 

「生憎と…俺だって成長してるんだよ…」

 

「このガキ…!」

 

 

なんと、あろう事か突き刺すタイミングと全く同じタイミングで坊主拳でカウンターの左ストレートを俺の顔面に放ったのだ。流石にこいつの徒手スキルは予想外すぎてモロにくらってしまい今度は俺が地面を転がった。

 

 

「なら、見してみろ!」

 

「言われなくても…!」

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「はぁ、はぁ…!」

 

「どうだい?モヤシには厳しいだろ?」

 

 

繰り広げられるは徒手スキルでは無い。これはこの世界に最も不似合いなもの体術である。剣技の中に徒手スキルを含むやつもいるけど、こんなふうに武器を捨て互いに拳を交えるやつはそういない。現に俺もこれがぶっつけ本番である。

 

 

「ちっ!体力オバケめ…!」

 

「前からだがひでー名前しかねーな俺…」

 

「はっ、褒めてんだよ!」

 

「何様だっての!」

 

 

互いに駆け出し、拳を逆手で止め握り合う。

 

 

「よっこら…せっ!」

 

「なっ?!」

 

「てい、や!」

 

「ぐっ…!蹴りすぎ、なんだよ!」

 

「おわっ…?!と…」

 

(今!)

 

 

先に仕掛けたのは主、筋力パラメーターで負けているとはいえまさかの左足を軸にしてほおり投げられた。何とか体勢を保ち着地に成功するが、瞬きする暇もなく飛び跳ねた主が空中で数発蹴りを放つ。しかし、やられっぱなしでは無い。こちらも負けじと蹴りのタイミング合わせそれを腕で払い除け一歩前へ出ながら殴り掛かるが、主は拳を足場に後方へと下がる。

そして、その隙を俺は見逃さない。

 

 

「セアー・ウラーザ…」

 

「マジか…!」

 

「ノート・ディプト!」

 

 

その瞬間コロシアムは黒い霧へと覆われていった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「そういやぁ…幻影魔法使えたって妹が言ってたな…だがよぉ…

 

―――青眼の悪魔。いや、赤眼の悪魔になるか普通…」

 

 

「オォォォッ!!!」

 

 

コロシアムに現れたのは自分など有に越すほどの大きな悪魔。それはかつての城においてある階層の部屋を守護していた悪魔によく似ていた。いや、似ているとかのレベルではない。ほぼそれだ。

 

 

「槍じゃ届かねーな…なら…」

 

「…」

 

「おいおい、目くらましにもなっちゃいねーのかよ!って…うぉっ!?」

 

 

槍では不可能と考え装備を弓に変え、即座を矢を射る。しかし、一挙に放たれた数十本の矢はいつの間にか出現していた超巨大な大剣により防がれ、これまた巨大な拳が襲いかかり吹き飛ばされる。

 

 

「がはっ?!」

 

「―――」

 

「洒落になんねーな。でもよ坊主、スプリガンは…お前さんだけじゃねーぜ」

 

「ッ?!」

 

 

壁まで吹き飛び叩きつけられる。その直後視野が一気に暗くなる。何となく腹はたつが、今俺は坊主に見下されていたのだ。そこで冷静になり、武器をすぐさまやりに戻し、上段から振り下ろされた大剣を受け止める。

 

 

「…ノート・ディプト…」

 

 

先程と同じ光景。しかし、現れたものは全く違う。そこにいるのは悪魔を突き飛ばし巨大な命をかる鎌を持った1人の死神だった。

 

 

「▪️▪️▪️▪️▪️ッ!」

 

 

今ここに怪獣大戦争が幕を降ろされたのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

2人の試合は正直、ついていけない人達の方がいいと思う。

 

 

「…」

 

 

序盤の武器での戦闘、この時点で目では追い切れない戦闘がチラホラとあった。現に過去に戦った事のあるキリトが全力である二刀流を用いてあしらわれていたのだ。それも、スキルは一切無し単純な剣技でキリトが大敗していた。その後の体術においても、キリトは決して付け焼き刃とは言い難いレベルのものを見せた。それに対してあの男は、初見ですべて見切ったのだ。

 

 

「…」

 

「みんな伏せて!ユウキも!」

 

「え?うわっ!?」

 

 

だからこそ、より一層危険視した。今起こっている怪物の同士の戦い。双方、その巨体からは想像も出来ないほどのスピードと技術で競い合っている。その余震に気づかないほどに自分は今この戦いに見入っていた

 

 

「ねぇ、アスナ。あの人は…何者なの?」

 

「んー…多分だけど主さん、かな?」

 

「そうじゃなくて…なんて言うか…その……」

 

「……あの人はね、キリト君を導いてくれた人だよ。」

 

「え?」

 

「本人は否定するけどね。勝手に導かれて、勝手に英雄になったんだ、って…」

 

「……」

 

 

その言葉の真意はわからない。だが、アスナの言葉を胸に止めながらも…

 

 

「!まずいです、パパの魔法が解けます!」

 

「…キリト君…」

 

 

この戦いは終わりを迎えようとしている。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

終わりっていうのは結構唐突なものだと思う。現に俺はあの世界でそれを幾度も経験した。それがいい事だったり悪いことだったり、様々だ。だからこそ俺はこれを好機だと捉えた。

 

 

(魔法が解けた…チャンスは、もうない!)

 

 

魔法が解けた途端、空中へと晒される体。一気に思考をフル回転させる。現状、今自分に出来る最大の策。俺は羽を広げ剣を拾い全速力で死神の懐へと飛ぶ。

 

 

「はぁぁっ!!!」

 

「▪️▪️▪️ッ!」

 

 

死神の鎌を躱し、迫り来る手を弾き、ようやく懐が見えてきた。

 

 

(あと、1秒!)

 

「▪️▪️……やべ?!」

 

「ここだぁっ!」

 

 

完璧なタイミングだった。思った通り、自分の予測した時間通り主の魔法は解けた。その瞬間を見逃さない、俺は全速力のまま主へとぶつかろうとする。

 

 

「へっ…ばーか…」

 

「なっ?!」

 

「さてさて問題です。この速度で地面に突っ込む坊主、そして地面に突き刺さった俺の槍…結末は―――どうなるでしょうか?」

 

「……はぁ、完敗だ…」

 

「言ったろ、突っ込みぐせをなおせって」

 

 

2本の剣を重ね主へと突き刺そうとした時、あろう事か主は空中でその剣を躱し、背中へと回って関節を決めた。その瞬間俺の負けは決定した。

 

 

「…」

 

「動くな、っつても槍のダメージで死ぬか俺の手刀で首落とされるかのどっちかだけどな?」

 

「はぁ、リザイン…」

 

 

地面と激突する直前身体を貫かれた感触、それもすぐに全身を駆け巡る衝撃へと変わり、俺は敗北した。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「その祈りは、誰のためのものだ?」

 

「……」

 

「その祈りは、誰に捧げてんだ?」

 

「……」

 

「神様に、いるはずのないものにすがってるようじゃ…俺には届かねえよ」

 

「っ!」

 

「その剣は―――あの世界に届かねえよ」

 

 

 




主は高速詠唱を使えるって事にしといてください。次回、ようやくユウキです…
いやぁ…長かった。次回こそはユウキが大活躍するので是非閲覧してください!
それでは。


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祈りを叶えた少女 結

ずっとこの時を待ち望んでいた。あの日、あのボス部屋での言葉があの剣が頭から離れることなんて1度もなかった。月日は流れた。もう踏ん切りは付けているつもりだ。それなのになんで…なんで…

 

 

「なんで…届かない…」

 

「……」

 

 

 

――――――――――――

 

 

「ユウキが…負けた…?」

 

「嘘でしょ…だって…っ!こんな一方的に…」

 

 

観客席だけではない。その中継を見ていたもの全てが驚き目を見開き、動揺していた。決勝戦が開始され3分が経過した頃、既に決着は着いていた。あのキリトをも圧倒した絶剣の少女、その強さは瞬く間に広まりこの世界に名をとどろかせたそれなのにその少女は何もすることが出来ず、ただ一方的に責め立てられ地に伏していた

 

 

「負けんな!」

 

「負けないで、ユウキ!」

 

 

スリーピングナイツのメンバーの声だけがこのコロシアムに響く、皆が涙を浮かべ今にも戦地へと踏み入りそうな勢いだ。それでも、それをしないのは自分達のリーダーを信じているからだろう。すると、その少ない声は次第に大きくたくさんの声に変わっていく。

 

 

「…アスナ…」

 

「うん…!」

 

「「立て\立って!ユウキ!!!」」

 

 

その声はきっと届いたのだろう。少女はボロボロの体にムチを打ちその地に再び足をつける。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

遡ること数分前。熱狂の渦に飲み込まれる観客達。まさに今がピークと言わんばかりに会場は活気に溢れていた。そんな会場、コロシアムの中心に2人の剣士が立つ。

 

 

「……」

 

「おほぉ〜すっげ〜…ミーハーな連中ばっかだなぁ。お前さんもそう思うだろ?絶剣の少女、ユウキ…だっけ?」

 

「別に、生憎と集中してるからさ…周りの声は聞こえないんだ。」

 

「おいおい、そんな悲しい事言うなよ。楽にやろうぜ〜ここにはお前目当ての客の方が多いんだ。だから―――殺気くらい、もうちょいしまえ。」

 

 

いつまでのも舐めたような態度を取り続ける男に対し、ユウキは殺気を剥き出しに牽制する。だが、そんな事までも見透かしたような薄ら笑いの絶えない男。こちらの沸点はますます上がる。

 

 

「…ボクさ、こんな体だから…結構人の視線に敏感なんだ。だから、今の仲間達と出会うのも難しくなかった。そのせいかな…見ただけで分かっちゃう。どっち側の人間なのか」

 

「……」

 

「でも、貴方を見た瞬間。区別ができなかった…それどころか、初めてあなたを見た瞬間…殺さなきゃ、って思ったんだ。

ねぇ、お兄さんは―――どっちなの?」

 

「どっち、か…そうだな〜俺に攻撃当てれたらヒントを出してやるよ。つっても、お前さんの剣じゃ…―――俺は殺せないぜ?」

 

「!」

 

 

本の数十秒の会話。それなのに、たった最後の一言で全身の毛が逆立ったかのようにボクの体は一直線に男の懐へと走り出した。

 

 

「…へぇ…」

 

 

確実に仕留めたはずだった。しかし、男は無表情のまま、さも当然のように顔を傾け刺突をかわし不敵に笑った。その顔を見て、一瞬だけ恐怖が身体中を駆け巡る。

 

 

「スゲーな。初速まで副団長殿と同レベルか…いやはや参ったねぇ〜…かすり傷も付けられたことだし…こりゃ…―――加減できそうにねぇな」

 

「!ごっ?!」

 

「耳の穴かっぽじってよく聞け〜ヒント1、どちらかと言うとそっち側…だなっ!!」

 

 

後方へと大きく飛び跳ね下がろうとした時、男の拳が容赦なく腹部へと突き刺さり吹き飛ばされる。地に背をつけ倒れていると、目前に迫る片刃の剣。それを何とか避けつつ、またも距離をとる。

 

 

「はぁ、はぁ…!」

 

「驚いたなぁ…確実に首は取ったつもりなんだが、未だについてやがる。それどころか完璧に避けるたぁ、目がいいだけじゃなく感もいいらしい。でも…」

 

「?!い゛っ!?」

 

「こいつはどうかな?」

 

 

先程まで装備していた長刀が瞬き一回のあいだにいつの間にか弓へと変わっていた。次の瞬間には肩に矢が深く突き刺さり上半身が仰け反りそうになる。痛みに耐えながら相手を見てやると前方から視認できる数ではあるが数十を超えた矢が目前まで迫る。

 

 

「ふっ!」

 

「まだまだぁっ!」

 

「!はぁぁぁっ!」

 

 

既に50もの矢を切り落とした。それでも止む気配はない、勢いは収まるどころかどんどん上がっていき、数本の矢が体に突き刺さった後にようやくそれは終わりを迎えたかにみえた。

 

 

「!」

 

(属性付きの、魔法?!)

 

「終ぇだ。」

 

 

最後に放たれた2射。一方を躱し、もう一方を剣で弾くとそれは爆弾のように激しく辺りを荒らし、僕の体を浮かす。すると、後方の壁に突き刺さったもう一本の矢が爆発し浮いた体を男の元まで運ぶ。

 

 

「っ!え…?」

 

「まぁ、楽しめた方か…」

 

 

空中とはいえ、完全に体制を立て直したはずだった。相手に合わせて完璧なカウンターを放ったはずだった。それなのに、肩から腹にかけてばっさりと斬られていたのは僕の方だった。

 

 

片膝を付き、そのダメージ、その痛みに言葉をなくす。そうして、改めて男を見た時、ボクの中は恐怖で埋め尽くされた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

「リザインしろ。見当違いだ…お前さんは、それじゃねぇ。ただ、過去に捕われ、祈ることしか出来ない無垢な少女だ。」

 

「!」

 

「おぉ…怖い怖い。そんなに睨むなよ…確かに強い…でもよ〜

 

 

―――その祈りは、誰のためのものだ?」

 

「……」

 

「その祈りは、誰に捧げてんだ?」

 

「……」

 

「神様に、いるはずのないものにすがってるようじゃ…俺には届かねえよ」

 

「っ!」

 

「その剣は―――あの世界に届かねえよ」

 

 

その瞬間、恐怖に怯えていたはずの少女の目に憎しみがこもる。自分の行いを否定されたことにだろうか?否。この強さを認めてもらえなかったからか?否。それは少女のたったひとつの希望。姉とかわした最後の祈り。それを否定されたからだ。

 

 

「マザーズ…!」

 

「はぁ…」

 

「ロザリオっ!!!」

 

 

最強のOSS。この技の前に倒れたものは数多い。この世界における、絶技。彼女はその祈りを信じて止まない。だからこそこれを使ったのだ。しかし、砂埃から現れたのは…

 

 

「なんで…届かない…」

 

「言っただろ?その祈りは誰のためのものだ?」

 

「…嘘、だよね…」

 

「いーや、現実だ…」

 

「マザーズ・ロザリオを…模倣した…?」

 

「はぁ…勇者は―――お前じゃなかった」

 

「!」

 

 

男こと主はピンピンしていた。何故?そんなものは絶剣の少女が言ったのと同じだ。主は、あの絶技、OSSでの11連撃を見ただけで模倣し、スキルとしてでは無く己の技術のみで放ち相殺したのだ。

 

 

「……」

 

「とっ!たぁっ!」

 

「よっ…こら、せっ!!!」

 

 

先に動いたのは絶剣の少女、主の剣を足で踏みつけ前進しながらまたも刺突を繰り出す。だが、それを見越していた主は上半身を仰け反らせ躱した後、全力で手元を蹴りあげ少女の手から剣を奪った。

 

 

「 っ…!」

 

「しっ!ふっ!そらぁっ!」

 

(やばい…意識が…)

 

「返すぜ?」

「…あ……」

 

 

そこからは少女に反撃の予知などない。イエローからレッドまで減ったHPバーなどお構い無しに、ただ一方的に体術を繰り広げられ重い一撃が入ったとともにその華奢な体を吹き飛ばし、トドメと言わんばかりに宙を舞っていた剣の柄を蹴り飛ばしその体を壁へと縫いとめ、矢の消失とともにその体は地面へと倒れ伏せる。

 

 

「取り越し苦労、だな…眠れ、絶剣の少女。借り物の祈り、借り物の願いと共に―――消えろ…」

 

 

そうして俺は、最後の1射をその体へと打ち込む。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

強いなぁ…ホントにものすごく強いや。今まで戦ってきた人よりも、苦労して倒したボスなんかよりも、誰よりも何よりも強い。もう、疲れちゃった…いいよね。ボクはこの世界に名前を刻んだ。ボクはこの世界で生きた。それだけで、もう満足だよね。

 

 

「負んな!」

 

(無茶言わないでよ…)

 

「負けないで、ユウキ!」

 

(無理だよ…ボクじゃ、到底及ばない…)

 

 

声が聞こえる。ボクを励ます声が聞こえる。でも、もう無理だよ。強すぎる。次元が違った、格が違った、覚悟が違った。今ならわかる。男の背負ってるものはボク何かとは違いすぎる。男はこの世界を背負ってるんだ。今だから、絶望してしまったこの目だからみえた。そして自覚した。この人には勝てないと。それでも…

 

 

「「立て\立って!ユウキ!!!」」

 

(キリト、アスナ…ごめん…)

 

「消えろ」

 

 

迫り来る矢をボクは見届ける。これが刺さればボクは負け、この世界から完全に消える。何となくそんな感じだ。でも、なんでかな?体が勝手に動いちゃった。

 

 

「!」

 

「ユウキ…」

 

「……」

 

「…ふぅ〜…貴方の言った通りだ…」

 

 

死ぬのが怖いとかじゃない。今更、何か未練があるとかじゃない。ただ、最後にボクは祈るのではなく、願ってしまったのだ。ボクは最後に受け継いだ祈りではなく、自分自身から零れ落ちた最後の願いを叶えたいと、思ってしまった。

 

 

「この祈りは、きっとボク自身のものじゃない…誰かに与えられた借り物の祈りだ…だからこそ…―――ボクはボク自身のためにこの剣を握る。」

 

「!……覚悟はあるのか?」

 

「うん!だって、これは…誰のものでもない。ボクの―――最初で最後の願い、最初で最後の希望だ!」

 

 

駆け出す足取りはなんでか軽い。ここまで、ダメージを蓄積し、技術任せの戦いをしてきたというのに、なんでだろう。ずっと、家族でやっていた祈りを捨て、私欲のために走り出しているのに、なんでだろう。ボクは今、ボク自信をさらけ出している。

 

 

「マザーズ・ロザリオ?!」

 

「違う…これは…」

 

 

アスナから驚きの声が上がる。無理もない、最初の剣戟を見るからにそれは先程、完璧に封じられた、マザーズ・ロザリオのはずだった。だが、少女はそれを皆の想像をはるかに超える力、技を生み出す。

 

 

「!」

 

(11連撃なんて優しいもんじゃねぇ…)

 

「片手剣のみの16連撃?!」

 

「―――セルフ・ラストホープ!」

 

(これが、ボクの全てっ!)

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

砂埃が舞い上がる。想像しがたいほどのエフェクトを上げながら、二つの人影はそこから現れた。

 

 

「……」

 

「そんな…」

 

「いや…この勝負、あいつの負けだ。」

 

 

倒れそうになる小さな体を抱きとめ、支える男。主は驚いていた。人間の力というものの素晴らしさに、そしてたった今出来た土産話に。

 

 

「見事。」

 

「―――」

 

「誇れ。絶剣の少女…―――ユウキ」

 

 

最後の一撃、それは物の見事に主の刀を砕き、その首筋へと深く鋭い傷を付けた。それも、砕けれたのは守りを象徴とする小太刀。戦闘経験の豊富な坊主だからこそ勝敗が分かってしまった。

 

 

「お前さんのその剣は、確かに届いた。お前もまた…―――あの世界の、もう1人の勇者になりえた。」

 

「―――」

 

「誰も理解出来なくとも、俺が認めよう。喜べ、お前さんの祈りは…形を変え願いとなり、自らの力でそれを叶えたんだ。」

 

 

 

言葉はない。気を失っている少女。正直すぐにでも消えてしまうものなのだが、今は憶測に過ぎないが両方の少女が一瞬だけ意識を失っているのだろう。だからこそ、自分はこの勇者を認めよ、心から祝福しよう。

 

 

 

「リザイン…俺の負けだ。

 

坊主、副団長殿。大切にしてやれよ?お前さんたちのお仲間だ。」

 

 

デュエルトーナメント、優勝者は絶剣の少女―――ユウキという事で、会場はまたも歓声に満ち溢れる。自分はと言うと、その少女を2人へ渡し欠けてしまったお面を外し会場をあとにする。

 

 

「ふぅ〜つっかれたぁ〜…でもまぁ…土産話はできたぜアッキー。

しこたま、聞かせてやるよ―――俺(魔王)が出会った勇者の話を」

 

 

誰もいない青空へと言葉を漏らす。ここ数日鍛冶屋をサボっていたため不安になりながらも今日も今日とてこの世界は正常運転

 

 



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祈りの先

(ボク、ボク…頑張って生きた。ここで、生きたよ…―――姉ちゃん。)

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「!

……ここは…?」

 

 

目を覚ました時、そこははるか上空。アインクラッドは愚か世界一面を見渡せるほどの絶景。翼では到底たどり着けないほどの美しい景色が広がる空の上だった。

 

 

「そっか…死んじゃったのか…」

 

 

理解するのに時間はいらない。見渡す景色、自分が置かれている現状を確認するに、ボクはようやく終わりを迎えてしまったらしい。それでも、目の前の美しい景色に自らの意思で感情をあらわはに出来るのは素晴らしいことだ。

 

 

「綺麗だな〜」

 

「だろうな。」

 

「え?」

 

 

日が沈み始めた頃だった。様々な疑問が自分の中にあるが、そんなことはどうでも良くなるくらい…黄昏てしまう自分がいた。最後の最後、ボクは証を残せたのだ。あの剣をボクの意思を受け継いでもらえたのだ。本当にもう思い残すことは無いはずだった。だが、そこに聞こえた声は聞きなれたもの。自分が今、聞きたかった声だ。

 

 

「おめでとう。絶剣の少女よ…君はこの世界で生きた。名を刻んだ。祈りを叶えたのだ…」

 

「はは…」

 

「そこで、君に問いたい。最上階…勇者の宿敵とも言えるこの魔王とサシで勝負が出来る。」

 

「はははっ!」

 

「さぁ、君はどうしたい?」

 

「こんなのズルいや…貴方が…―――マスターがそれだったなんて…」

 

「できたシナリオだろ?」

 

 

おかしな話だ。笑いながらボクは涙を流していた。そこに居たのは普段とは全く違う姿をした1人の男だった。鍛冶屋の時の作業服に頭に巻いたタオル姿や酒場の時のエプロン姿とも違う。男は真っ白な袴に朱のラインが刻まれた服。そして、顔を覆っていたフードを脱ぎ捨てその場に現れた。

 

 

「ねぇ、マスター…ボクは今、どういう状態?」

 

「そうだなぁ…ま、死んだは死んだ…でも魂だけがこの世界で彷徨ってる…って感じか?」

 

「だよね〜」

 

「だからこそ…お前さんをここに招待したんだ。勇者様には特別待遇!ってのが、歴代の魔王からの教えなんだよ」

 

「?マスターでも適わない人がいたの?」

 

「あたぼうよ!俺じゃ、到底適わない…誰よりも合理的でありながら、誰よりも人間でいた…それでいて、誰よりも夢を追い続けた…そんな、少年がな…」

 

 

正直驚く他ない。自分の知る中でこの男は手も足も出ない程に強い人だ。それでいて未だに誰にもその底を見せていないような人なのだ。そんなマスターを実力で負かした人が気になってしょうがない。でも、そんな事よりも巡り巡って来た最後のチャンスにボクは興奮を抑えられずにいた。

 

 

「それで、もう一回聞くけど…絶剣の少女…いや、勇者ユウキ。お前さんはどうしたい?」

 

「…決まってるでしょ…この剣を、この祈りをあなたにぶつける!」

 

「承った。全霊をもって、来い。勇者ユウキ…!!」

 

「!」

 

「!」

 

「やぁぁっ!!!」

 

「はぁぁっ!!!」

 

 

 

互いの剣が交差する。響き渡る空間は広いはずなのになぜが耳に届くほどに大きく金属音を鳴らす。

 

 

「!」

 

「視線を外すな!」

 

「くっ?!」

 

「無闇に手ぇ出すな!相手をよく見ろ!」

 

「っ!はぁぁっ!」

 

「…………」

 

「…ねぇ、マスター…」

 

「あん?」

 

「ボクは、この世界で生きた…この剣で名を刻んだ、願いを叶えた…だから今だけ許して…」

 

「……」

 

「最後の願いは…最後の希望はもう叶った…だから、この祈りを…受け継いだ祈りを、借り物で終わらせたくない!」

 

「……」

 

「…っ!!」

 

 

戦いながら敵であるはずの自分に的確なアドバイスを与えつつ、それでも剣戟を防ぎ、反撃の隙さえ疑う余裕。彼の言葉、彼の剣にボクは救われてきた。だからこそ、彼の否定した祈りで…この戦いに終止符を打ちたい。

 

 

男の懐へと駆け出す。距離にしておよそ5メートル。剣を構え、ソードスキルの発動を準備する。距離にしておよそ2メートル。そして、目を瞑り剣戟を受け入れようとしていたマスターの懐へと届いた。

 

 

「マザーズ・ロザリオっ!!!」

 

「……」

 

 

おびただしい量のエフェクト、ありえないほどの砂埃が舞う。ボクの祈り…最強の11連撃。それを打ち放とうとした時…残酷にも時間は訪れた。それらは全て―――空を切っていた。

支えられる体、目を瞑りながらもボクを抱きとめたマスターの腕。

 

 

「……」

 

「…悔しいな…やっと、届くと思ったのに…」

 

「届いたさ…きっと…」

 

「……」

 

「これは…お前さんが受け継いだ…多くの意思を受け継いだ、最高の…祈りだった…!」

 

「!」

 

 

その言葉に安堵してしまった。安心し身を委ねてしまった。聞かされていた通り今のボクは魂だけの存在。そう長くは居られないと分かっていた。だからこそボクを真正面から受け止め、受け入れてけれた人の言葉に安心しきってしまった。

 

 

「…ねぇ…マスター…」

 

「あぁ?」

 

「ボクの剣は…ボクの祈りは…ボクの願いは……本当に届いたかな…?本当に…残せたかな…?」

 

「当たりめぇだろ…みんなが忘れても…俺だけはずっと…ずっと!覚えててやる…その名を…《絶剣》の少女…いや、《勇者ユウキ》の名を…!俺はこの世界に刻み続ける…!だから…」

 

「…うん…ぅん…!ありがと…ぉ…マスター…」

 

「…あぁ…ゆっくり、眠れ。

 

―――ボクっ娘…お前は、俺(魔王)が認めた最高の…最強の勇者だった。」

 

 

 

 

 

その日、男の部屋にもう一振の剣が飾られた。

 

 

―――一本目は泣き虫の少女が懸命に生きたあの世界での証(槍)

 

 

 

 

―――二、三本目はあの世界を、初代の魔王を打倒した親愛の証(剣)

 

 

 

 

―――四本目は、夢を抱き続けた少年の思い描いた理想の証(剣/盾)

 

 

 

 

 

―――そして、五本目は…この世界で生きた…この世界に名を刻み、誰よりも、何よりも懸命に生き続けた少女の証……

 

 

そう、祈りを叶えた少女の証(剣)だ。

 

 

 

 

今日も今日とて鍛冶屋は正常運転。

 

 



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有り得たかもしれない世界

随分とお久しぶりです…何やらお気に入りが一気に増えたり評価がついたりと少々戸惑っていたのはありますorz。ですが完結目指して頑張りたいと思います。今回も本編ではないのですが何分あたたかい目で見守って下さい。

※注意
この話はAIメインになります。筆者はこの話の中に出てくるAIの事を数年前にやったゲームでほんの少し知ってるだけなのでキャラが違うかもしれません。御了承の上でどうぞ


 

 

「はぁ〜…ん?……ユイ〜熱燗〜」

 

「はーい!」

 

「あはぁ〜…ん?…おねーちゃーん蜜柑もどきとって〜」

 

「はーい」

 

「姉を働かせるとは偉くなったもんだな…でっかい方の娘よ」

 

「パパだってさっきからお姉ちゃんに頼みっぱなしじゃん」

 

「俺はいいんだよ〜今日まで頑張って来たからな!」

 

「眠ることを?」

 

「仕事をな!!!

 

 

12月31日。PM18:00

 

流石のこの世界でもやはり大晦日ともなれば人は一気に少なくなる。特にまだ親元を離れていない学生なんかは部屋の大掃除をしたり、親戚やら祖父母やらの家に行ったりと大忙しだろう。しかし、少ないと言っても中にはこの大晦日にもこの世界に潜っている奴らは少なからずいる。今日だってたまたま街で出くわした常連の連中に店を開けてくれと泣きつかれたのだ。流石の主も今日くらいは休みたいと必死の逃亡を見せるが呆気なく捕まる。昼だけという約束で営業して今に至っているのだ。

 

そんな今の現状はと言うと、何故か永遠の別れを連想させるような泣き顔をされながら預けられたユイと随分と前から居候をかましているユイよりもでっかい妹。ユイは来たからには働くと言った感じで昼の時から酒場の方を手伝ったり軽い飯を作ったり、掃除を手伝ったりと大活躍である。それなのに夜になっても頑張っているのだ。

 

 

「たくよー…お前も姉であるユイを見習って働こうとは思わんのか?」

 

「あー、残念ながら私って剣しか持てないんだ」

 

「え?戦闘狂かな?じゃなくて現在進行形でリモコン持ってんだろ。返せ、ガ○使見てんだよ!」

 

「えー、もういい歳のおじさんが叩かれてるの見て面白い?それに田○さんなんてそろそろ尾骶骨イッちゃうよ?」

 

「おいおいそんなこと言ったら○正なんて今年こそ入れ歯がポーンっ!っていくぞ?」

 

「あー…」

 

 

何ともくだらない会話をしているのだろうか。あの頃からは想像もできないほどに何とも愉快な一時である。そんな事をしているうちにリビングにはお盆の上に大量の蜜柑もどきと熱燗を2号乗せ、ユイがやってきた。

 

 

「二人とも!食べて飲んでばかりしてると豚さんになっちゃいますよ?」

 

「だってよ、illfang the Kobold Lordさん?」

 

「えい」

 

「うぁっちぃっ〜!?!目がぁぁっ?!」

 

「主さん!?タオルタオル!」

 

「あはははっ!」

 

「もう、ダメじゃないですか!主さん治まりましたか?」

 

「あ、あぁ…何と…」

 

「あっ…!」

 

「かあ゛ぁっ!!熱の後に刺激がぁっ!刺さるような酸味のある痛みが眼球にぃぃっ?!?」

 

「あ゛はははっ!パ、パ…!動き方…!お腹痛いからやめてww」

 

「ご、ごめんなさい!主さん!」

 

「目がぁー!目がぁー!!!」

 

悲劇に悲劇が重なった。でっかい方の娘を煽ったのは自分の失態だが、まさか出来たてホヤホヤの熱燗を顔面目がけて掛けてくるだろうか?思っても見なかった不意の出来事にコタツから抜け出して捌かれる前のエビのように暴れ回る主。それを心配してくれる天使のような少女ユイはわざわざ冷たいタオルで目を冷やしてくれた。しかし、悲劇は続いた。

 

なんと、ユイという名の天使はすごいドジっ子だった。手をついたテーブルの上にはまるで狙っていたかのように蜜柑もどきが置いてあった。その蜜柑もどきは見事潰されその汁は何故か主の目に的確にヒットし今度は釣られた魚の如く暴れ回った。まさに泣きっ面に蜂、踏んだり蹴ったりである。

 

こうして馬鹿騒ぎしながらも夜は更けていった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

PM23:30

 

 

「ヒックっ!…ちょいと飲みすぎたな…」

 

「ちょっとじゃないでしょ…飲み過ぎだよパパ…」

 

「そうですよ主さん。何合飲んだんですか?」

 

「あー、まぁ今日くらいはハメ外させてくれや…さてと!お前ら腹は空いてるかー!」

 

「「…?」」

 

「…腹は空いてるか〜!!!」

 

 

時刻は深夜に差し掛かるこの夜。コタツでぬくぬくしながら3人で談笑していた。あと30分で年を越すユイが少しだけソワソワしているように見えたため、主はこの夜を締めくくるために2人に手料理を振舞おうとしたところ首を傾げられてしまった。そんなことにはめげないしょげない主さん。先程よりも大きな声で部屋に響かせる。2人は顔を合わせてにやけながら大きな声で手を挙げた。

 

 

「「おぉー!」」

 

「なら、しばし待て!天ぷらは何がいい?!!」

 

「「エビ!」」

 

「そんな物はこの世界にない!なんちゃってエビな」

 

 

かなり酔っ払っていた主。しかし、そんなふらついている主でも料理はできる。リクエストを貰いつつ厨房へと向かいすぐさま調理に取り掛かる。と言ってもこの世界のシステム的に茹でて上げて終わりである。必要とする時間はものの10分程であろう。もう既に麺を茹で終え、天ぷらをあげ終える手前である。そしてようやく

 

 

「はいよ!なんちゃって天ぷらそばだ〜!」

 

「わぁ!」

 

「ちょっとパパ!なんでお姉ちゃんはエビ2本なの!」

 

「働いた人にはそれ相応の報酬があるってもんだ…」

 

「うっ…はぁ、仕方ないか…」

 

「じゃあ、いただきます!」

 

「「いただきまーす!」」

 

 

こたつの上に並ぶ3つの器。それを一人一人が啜りながら単位のない話をして、いよいよその時が近づいてきた。テレビの方からカウントダウンの声が聞こえる。

 

 

「いよいよだな〜」

 

「5!」

 

「4!」

 

「さーん」

 

「「2ぃ!」」

 

「1…あけまして、おめでとう。」

 

「あけましておめでとうございます!」

 

「おめでとう!」

 

ようやく年を越した。ALOの中から誰が考えたかは知らないが鐘の音が鳴り響いている。それはまるであの世界の終わりを知らせた時のように世界中に大きく大きく響き渡り、新たな年の始まりを知らせた。

 

 

「そう言えばなんで蕎麦なんだろうね?」

 

「一般的には、蕎麦は切れやすいということから今年の厄なんかを断ち切る、という意味で食べられるそうです。」

 

「お姉ちゃんったら博識〜」

 

「それだけじゃねーぞ。蕎麦は細く長いと言うことから長寿の意味があるんだ。」

 

「太い方が良くない??」

 

「ん、確かにな…実際には年越しうどんっていうとこもあるし…ま、細かいことは気にすんな!」

 

「えー…」

 

 

我々がこんな知識を語りだしたら正直ネット上の情報を全ていうことになりかねない。程よく切り良く話をくぎりたいものだったが、でっかい方の娘が何ともまあ会話を困惑させるようなことを言うもんだから、ここから始まるユイの年越しそばの歴史講座が捗り、捗り、そのまま数時間経過した…

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

AM4:00

 

「ん…んー…パパ…ママ…」

 

「初夢まで坊主たちたぁ…幸せになったな…ユイ」

 

「なにしんみりしてんの?」

 

「……」

 

「な、なに?」

 

「いやぁ、こいつは驚いた。馬子にも衣装たあ言ったもんだな…」

 

「それ馬鹿にしてるからね?もう、行こう…」

 

「はいはい…」

 

 

蕎麦を食い終え、それなりの時間を様々なことをして過ごした。トランプをしては、何故か異常にユイがババ抜き弱かったり。大富豪をしては後先を考えずにでっかい方の娘が自爆したり。そんなことをしている間にユイはおねむの時間、寝顔を見つめながらも着替えを済ませ。少女の支度を待つ。

 

自分がユイの寝顔を覗いているといつもの前衛的でかなり責めている際どい服とは見違え、髪までいつもと様子を変え振袖姿で何とも大人しく大人な女性になっていた。まるで淑女のようだが、実はただの怪力ゴリラである。

 

 

「はぁーあ、どーせならキリトにエスコート兼ボディガードして欲しかったな〜」

 

「ボディガード〜??何だ、坊主はゴリラに襲われそうになるであろう可哀想なボッチプレイヤー守らなきゃいけねーのか?」

 

「私のボディガード!」

 

「いや、お前を守るよりも先に絡んできた酔っ払いを守る。」

 

 

そう、何が一番危険なのかと言うと、ここにいるなんとも可愛らしい我が娘だ。主は今、普通の歩道を首輪付きのライオンを連れて歩いているようなもの。そう、すなわち手綱を話したらその辺の一帯が殺人現場へと変わるのだ。主はそれを防ぐためにこうして監視役として歩いている。

 

 

「守るって…こんな美少女と歩いてるんだからパパが後ろから刺されるかもよ?」

 

「美少女……ん?」

 

「本っ当に失礼!」

 

「いやいや、美しいって言うにはまだ年が足りねーんだよ。俺からしたら、可愛いくて手のかかるそんな我が娘だよ…」

 

「お姉ちゃんと違ってごめんねーだ」

 

「ありゃりゃ、ご機嫌斜めか?」

 

「べっつにー!…あ、あれだ!」

 

 

娘と歩いているとそこには軽く人が並ぶ程に多くの人で賑わっていた。正月限定で第1層の始まりの街にて御参りをできるシステムだ。こんな日になんでこんなにも多くのプレイヤーがいるのか…主は考えるのを止めてしまった。何とも可哀想な答えにしかたどり着かなかったからだ。

 

 

「何お願いすんだ?」

 

「言ったら叶わないでしょー」

 

「どーせ俺の耳には入ってくるだぜ?」

 

「そうかもしれないけどさ、様式美ってあるじゃん。こういう事、一つ一つの行いが大切だと思うの…それに、もうここはあの世界じゃない…今日くらいさ…居ないはずのものに、神様っていうのに…祈ったり願ったりしてもいいんじゃない?」

 

「…はぁ……そう、かもな…じゃあ!お祈りしますか!」

 

 

列に並びながら、恒例にもなりつつある願い事を相手に聞くというよく分からない事をする。まず持って叶うかもわからないものを願って、それが他に他者に言ったら叶わないなんて、正直馬鹿げてる。そう思っていた。だが、自分がこの世界に生きて、あの世界で生きてきて、人間というものに絆されたというのも事実だ。その絆された人間の力に敗北したのも事実。だからこそ今日くらいは人間というものになりきってみよう

 

 

「……パパ…」

 

「鍛冶屋が繁盛しますように鍛冶屋が繁盛しますように……」

 

「パパ…」

 

「厄介事が減りますように厄介事が減りますように……」

 

「……」

 

「えーと、あと、あとは…あ、一攫千金のチャンスを私めに…」

 

「パパ!!!」

 

「ほぁっ?!な、なんだよ…?」

 

「恥ずかしいからやめて…」

 

 

今日くらいという言葉に何か大切なものが外れたかのようにブツブツとお今日の如く呟き始めた主。人の目も後ろの列さえ気にせずそんなことをしていたらいつの間にか顔を真っ赤にした娘に一喝。強制終了をくらいその場から一旦離れた。

 

 

「本当に勘弁してよ〜!」

 

「すまねえな〜願い事なんて溜まりすぎて山になってるからよ〜」

 

「もう自分でどうにか出来るのだってあるじゃん!」

 

「え?!」

 

「え?!じゃない!…本当は何お願いしたの?」

 

「…さぁーな…今日が特別な日でも神様に願うことはやっぱりねーや…」

 

「そっか…私はねぇ〜」

 

「はぁ、言ったら叶わ…」

 

「これからもずっと、みんなで笑って生きていたい」

 

「……」

 

 

転移した先は鍛冶屋のある階層、そこにある山の近くまで歩いた。その山を登っている最中も娘に説教をされ続けたがこれに関してはぐぅのねも出ないため反論せずふざけていた。だが、唐突な娘の願いの暴露に一瞬にして歩みを止めた。

 

 

「何て、欲張りかな?」

 

「……」

 

「私達の存在っていうのはこの世界ありきのもの…酷く不安定なもの…この世界が終わった時。それは今度こそ私たちの最後だよ…」

 

「そんなのずっとずっと先に決まって…」

 

「分からないじゃん?何があるかなんて、誰にも分からない。明日にはもう…笑うどころか…生きることすら出来ないかもしれない…私は今でも少し怖いよ…」

 

「はぁ…お前さんも馬鹿だな〜」

 

「ば、ばか…??」

 

「大馬鹿だ。もし明日笑えなかったら明後日、2日分笑え。もし明日生きられなかったら、明後日2日分頑張って生きろ!そもそも!笑えない日なんて、来るはずねえだろ…

 

―――神様に届かなくても、俺に届いてる。」

 

「!…そっか…」

 

「お前さんの願い事は欲張りなんかじゃねえ!至極当然で至って普通な願い事だ!だからいつまでも、堂々と―――笑え!」

 

 

娘はずっと不安だったのだろう。この普通の生活が普通に生きていることが、彼女もまたあの世界で救われたものの1人。だからこそ生きたいと思う気持ちは何よりも大きいはずなんだ。それを周囲に知られないように隠してはいた。しかし、抱え込んでいたが故に爆発してしまえば、それは一見深刻に見える。しかし、そんなことは無い。彼女が不安になる必要なんてない。何故なら主がいるからだ。主とあの男との約束があるからだ。だから、主は迷いなく少女へと笑いかけた。

 

 

「うん!」

 

 

その時の少女の笑顔は初日の出に照らされ、頬を伝う雫は何よりも美しく零れこちたに違いない。日は登った。今年も、新たな物語が始まる。それでも彼らはずっと笑い続けるだろう。

 

 

「改めて、あけましておめでとう。―――ストレア」

 

「うん。あけましておめでとう。―――パパ」

 

「「へへ〜!」」

 

「早く帰ろ!お姉ちゃんが起きちゃう前に!」

 

「はいはい。」

 

(願いが叶うんだとするんなら、自分で叶える。だから、見守っといてくれや)

 

「今年もよろしく。」

 

 

 




今年もよろしくお願いします


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アンダーワールド 昼
初等錬士


お久しぶりです。
初めての方は初めまして!久しぶりの方はごめんなさい!

主の復活です。


本日も晴天なり!

 

店を開けて早数時間、一向に客はやってこない。それもそのはず、この店は知るものこそ知る伝説の超スーパーウルトラデラックス鍛冶屋!

 

などではなく裏路地に佇む小さな鍛冶屋なのだから。そんな所に今日初めての人物が扉を開ける。

 

 

「いっらっしゃい!ってなんだよ、初等錬士殿はよっぽど暇らしいな?―――坊主?」

 

「…世界を変えても、変わることの無い店だな〜…閑古鳥…泣きわめいてるじゃないか」

 

「わめいてはねーよ!!久しぶりに打ち直しの依頼が入ったわ!」

 

「俺とユージオ…リーナ先輩…それ以外でか?」

 

「………ソ、ソルティリーナ上級修剣士…様のです……」

 

「…はぁ…相変わらず、酒場は儲かってて良かったな?」

 

「俺だってやり直せると思ったんだよ!こんなことになるなんて思わなかったんだよ〜!いじめんじゃねーよぉ…!!!」

 

「成人越えた大人のマジ泣きなんて…見苦しいにも程があるぞ」

 

「かはっ…?!?!」

 

 

本日2人目のお客様はなんとなんと、いつのなったら切れるのか?いや、切れることの無い腐れ縁をぶら下げた黒の剣士。いや、キリト初等錬士様であった。その毒舌っぷりも然ることながら、こちらのメンタルを削るに削る。正直、私こと主のメンタルは…ほぼ0です。

 

 

「んな事より!お前さん…まぁたか?」

 

「あぁ、また、だな…」

 

「…その剣なぁ…研ぐには割に合わねーんだよ…!!!」

 

「知ってる」

 

「何をどーしたら、それ程のもんをそんなにできんだよ!」

 

「あんたとやり合ってるからに決まってるだろ!」

 

「……俺のせいか…」

 

「当たり前だ!使い手である今の俺の技量が未熟なのもある…でも、明らかにあんたとのデュエルでの欠損が酷い…」

 

 

そう、坊主の使う『夜空の剣』これは俺がこの世界で初めて成功した名剣だ。その辺の鈍なんかじゃ間違いなく傷一つつけることの出来ないほどの業物。なのだが、生憎と俺の打ち出す刀はどれもこれもが素材に恵まれなかった『呪刀』威力の代わりに耐久が絶望的な欠陥品ばかり。

 

それでもデュエルの度に打ち合えば嫌でも欠損する

 

 

「はぁ……仕方ねーな…ほれ、打ち直してる間はそいつ使え…」

 

「……脆いな…」

 

「言うな。俺の手持ちの素材で打てる1級品だぞ?」

 

「1級品、ね…これを一振で全損させるあんたは何もんだよ…」

 

「しがない寂れた鍛冶屋だ………」

 

「そんな奴に負けたとなれば…リーナ先輩が何を言うか…」

 

「お前さん…まさかとは思うがまだ俺が『アインクラッド流』の始まり…とかいうの撤回してねーのか…?」

 

「………」

 

「坊主ぅ…〜!!!」

 

「仕方ないだろ!あんたほどの剣技を見れば撤回できるわけだろ!」

 

 

そう、この鍛冶屋にて俺はある剣士達と刃を交えたことがあった。もちろん、坊主や美少年は当たり前のように俺と剣を交えている。その中に、1つこの世界において生まれた頃から剣に関わり、俺の剣を知らぬものと刃を交えてしまった。

 

それが事の原因である。数多くある流派、そのどこにも属さず、歴史を読み返したとて存在しない流派。それが、『アインクラッド流』らしい。そして、俺はその原点となっているようだ。

 

 

「……なにが…『アインクラッド流』だよ…お前さんはとっくに、俺とは違う剣(二剣流)を見出したろうが…」

 

「あの世界では、な…」

 

「……英雄様も現状じゃ見習い剣士か…」

 

「そういうこと…で、見習い剣士に剣を教えるのが…『アインクラッド流』の元となったあんたの仕事だと思うんだけど?」

 

「…はぁ…懲りないねぇ〜お前さんも」

 

「はっ、まだ―――500敗してないんでな!」

 

「あと32戦しかねーだろ…」

 

 

裏庭へと出る。そこにはかつての二剣流ではなく、堅実な構えに基礎を重んじる剣士の構え。

 

対するは懐から刀を抜くことなく、その柄に手をあてがうだけの刀士

 

 

「瞬き厳禁」

 

「刹那に終わる神業…か?」

 

「…負けたら…美少年とゴルゴロッサのガキ…2人まとめて連れこい!!!」

 

「あんたが負けたら、つけといた分…全部チャラにしろ!!!」

 

 

記念すべき469敗目をした坊主が地面に転がっている。その光景こそが俺たちのいつも通り…そう、

 

 

今日も今日とて鍛冶屋は正常運転。

 

 

 

 

 



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美少年

 

 

本日も晴天なり!

 

いやはや〜いい天気だな〜なんにもしたくないな〜ていうか…なんにも出来てないな〜客来ないな〜鍛冶場の方鉄クズで溢れてきたな〜……本当になんもしてないな……

 

ここ数日、客が来ない…学院の方が忙しいにしろ誰も来ないのはすごく珍しいことだ。その間ひたすら使い捨ての武器を作る日々が続いていた。そんな時…

 

 

「おじゃましまーす!」

 

「!いらっしゃい!いらっしゃいませ!いらっしゃってくださいました!お待ちしてましたよ〜美少年初等錬士様よ!!!」

 

「あ、ははは…主さん美少年じゃなくてユージオ初等錬士ですよ…」

 

「え?正ヒロイン初等錬士???」

 

「ユージオです!」

 

 

本日どころか本当に数日ぶりのまともな客である。ゴロツキのクソみたいな剣を研ぐのは飽きていたところだ。そこには、真っ青な剣を腰に携え亜麻色の髪と緑色の瞳をしたまるでおとぎ話の王子様のような超絶美少年が現れた。

 

彼の名はユージオ。今作の正ヒロイン、ではなくあのクソ生意気な坊主と共にこの世界で剣技を磨いてきた剣士だ。

 

 

「はぁ…本当に、閑古鳥鳴いてますね…」

 

「言ってやるな…自覚はある…んで?お前さんはいつものメンテでいいのか?」

 

「はい。軽い調整をしたらすぐにでも」

 

「……あのなぁ…一応言っとくけどよ?俺は坊主の師匠なんかじゃ…」

 

「そんな言い訳無理がありますよ主さん。僕の師匠の剣に貴方の剣は似すぎてる。キリトの元となった剣技こそ主さんの剣技だと思うんですけど?」

 

「いや、まぁ…いいか…でもな〜お前さんはいつまでもその真似事じゃ…追いつけねーぞ?」

 

「だからここにいるんです。」

 

 

美少年から剣を受け取り軽く見た後に砥石を持ち出し調整してやる。その傍らその辺を漁って木刀を取り出しながら美少年は確信に迫る

 

確かに坊主の剣は自分のものをベースにしている。でも、見ただけでわかるほど坊主と俺の剣技は似ていない。それは、坊主が既に自らのものを見出したから。それなのにこの美少年、いや…この世界の剣士と来たらすぐさまその確信へと至っちまう。

 

 

「はぁ…美少年…お前さんは剣士より鍛冶屋の方が向いてるかもな…」

 

「?どうしてですか?」

 

「いい目をしてるから…だよ」

 

 

美少年の剣をカウンターへと置き、そのまま2人は木刀を抱えて裏庭へと出る。

 

 

「とりあえず、お前さんは自分の型を見出すところからだ」

 

「…型、ですか?」

 

「あぁ、教科書の模倣は充分すぎる。でも、オリジナリティがゼロだ。今のお前さんは坊主劣化版にすぎねーからな」

 

「それが出来たら、強くなれますか?」

 

「あぁ…なんたってお前さんは……」

 

「?」

 

「いや、なんでもね〜よ。てことで、殺す気で来な?」

 

「!…はぁぁぁっ!!」

 

 

言葉を止めたのは理由がある。彼に言ってもきっと分かりはしない。でも、俺の認めた勇者が言っていた。

 

美少年はすぐにでも、その勇者を超えるだけのものを持っていると。だからこそ、俺も見てみたくなった。

 

 

「固い、クソ真面目、ギリギリ及第点…だな」

 

 

この世界の―――2人目の勇者を

 

 

 

 

 

 

 

 



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歩く戦術総覧


いやまぁ…タレてましたよ?(真顔)何か?(真顔)






すいません。冗談です。お許しください┏○┓


 

 

本日も晴天なり!

 

 

うんまぁ。いい天気。本当に…閑古鳥が鳴く、とは言ったもんだ。あれ?自分で言ってて泣きそうだ。何でも?明日は?卒業トーナメントがあるとかで?坊主も美少年も店に来ないし?それどころか?街のゴロツキ連中も来ないし?ましてや、客が来ない。

 

 

「……店先の掃除…はさっきした…あ、鍛治具の整備…は昨日、した…あ!坊主の真っ黒黒助…!…は1週間前に…終わった……」

 

 

外から煽るかのようにホーホケキョっ!と聞こえてくる。静寂だけが店内に響き渡る。最近じゃ鉄クズしか打てなくなった自分に嫌気がさし、鍛冶屋なんだか、打ち直しやなのかわかったものでは無い。と分かってはいたのだが…

 

 

「い、いらっしゃいませ〜…あ、ありがとう、ござい、ました〜、、、い、いらっしゃい…ま…せ……」

 

「あぁ、邪魔するぞ」

 

「?!?!?!う、うぅぅ…!!いらっしゃいませ!ソルティリーナ・セルルト上級修剣士殿ぉぉぉぉっ!!!!」

 

「……邪魔するのはまた今度に…」

 

「待って!?お願いします!お願い致します!!お願い差し上げます(?)から?!何なりとお申し付け下さい!!!」

 

「お、おい!店内とはいえやめろ!外に聞こえでもしたら誤解されてしまう!」

 

「いえ…むしろ…私目の事を犬と…お呼びくださ、い?!」

 

「やめろ、と言っているだろう?」

 

「あ、あぃ…」

 

 

皆は歓喜の瞬間というものを経験したことがあるだろうか?それはどんな瞬間だった?坊主が女に殴られた瞬間?違う。美少年が告白断って裏で泥沼が起きている瞬間?ちがう!歓喜の瞬間とは…客が来た時だ。

 

何とそこには、卒業トーナメントを控えているはずのソルティリーナ上級修剣士殿がいた。

 

 

「聞き及んでいると思うが、明日使う…無理を承知で頼む。仕上げてくれ」

 

「…お家の方には?」

 

「掛け合った…だが、明日となると難しい…だから」

 

「あい、わかった。」

 

「!いいのか?そんな二つ返事で?」

 

「まぁ、ゼロから生み出すのに関しちゃ…自分より下手なやつなんざいませんが…」

 

「誇るな」

 

「武器を手入れするとなりゃ…まぁ―――それなりですよ!」

 

「そこは誇ってくれ…」

 

「安心して下さいよ…見せるんでしょ…坊主に」

 

「…あいつが、キリトが示してくれた。だから―――負けられない。」

 

 

 

武器の状態を見るに予選の時点で如何に接戦を窮めたのか状況が見て取れる。いつかの夜、彼女は言っていた。まだ、背中を見ていて欲しいと。彼女は察していた。坊主の、隠し持つ何かには、自分では到底辿り着けない道(剣)があると。だからこそ、負けたくない、先の男にも、背中を見る後輩にも。

 

その目はあまりにも清く、真っ直ぐに先を見ていた。

 

 

「作業に入らせていただきますよ?」

 

「そばで見学しても?」

 

「どうぞどうぞ」

 

 

熱の篭もる作業場。まぁ?一応鍛冶屋だし?そりゃあるよ?なんちゃってじゃねーよ!ちゃんとした俺の神聖領域だ。

 

 

「…決勝までは、順当かと?」

 

「…油断は出来ん。だが、負けるつもりは無い。」

 

「あの金髪坊主にも?」

 

「!……あぁ…」

 

 

工房の中、二人の会話が金属の響く間、ほんの僅かな隙間の中進む。こちらからは表情を見て取れない。だが、確実に剣士の腕が、少女の腕になっていた。

 

震えを殺すかのように片方の腕で掴んで、押さえ込んでいた。そうこうしている間に、外はすっかり暗くなっていた。

 

 

「…仕上がりです。」

 

「ふっ…見事なものだな…専属として雇いたいくらいだ」

 

「ははは!生憎と…こっちの方があってるもんでね」

 

「客一人いないのにか?」

 

「ごっ?!ぶ…?!」

 

「おい、ワインを吐くな…」

 

「いや、血ね?」

 

 

作業が終わる。我ながら過去最高の出来映えだと思う。それに答えるかのようにソルティリーナ上級修剣士殿も頷きつつ、軽い素振りをし、何度目かのスカウト。だが、まさかこっちが血を吐くことになろうとは。

 

 

「そいつがありゃ…坊主に背中見せられますかい?」

 

「……あの日の決闘を思い出す」

 

「坊主の?」

 

「あぁ…見せるべき背中をキリトに見てしまった。あの日を…」

 

「……」

 

「震えが止まらない…もし、決勝まで行けたとして、私はあれに勝てるのか?」

 

「……」

 

「キリトが、後輩が敬う背中を、私は…見せれるのか?」

 

「……」

 

「いくら自問自答しても、答えが出ない…」

 

「だったら、さっさと諦め…」

 

「だからここに来た。」

 

「!」

 

「キリトが…あの二人が言っていた。迷ったらぶつかればいい、と。」

 

 

振り向きざまに剣をかまえ、こちらを振り向く剣士はあまりにも美しく、あまりにも強く見えてしまった。背負った物の重さではない。背負う事を選んだ事が、この強さなのだ。

 

 

「着いてきな」

 

「……」

 

「言っとくが、あの日みたいに寸止めはしねぇ…防げなきゃ―――死ねや…」

 

「覚悟の上だ。あの日…何も出来なかった自分には、貴様に怯えた自分には、負けない!」

 

「そうこうなきゃ、な!!!」

 

「そして勝つ!貴様にも!過去の自分にも!!」

 

 

この夜の勝敗を知るものは誰もいない。だが、次の日ソルティリーナ上級修剣士はトーナメント優勝を果たしたという。

 

 

「あ、歩く戦術総覧上級修剣士殿!」

 

「その呼び方をやめろ…即刻首を跳ねるぞ!」

 

「お、お助けぇ……」

 

 

今日も今日とて鍛冶屋は正常運転。

 

 



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準ロリ

 

 

 

 

本日も!晴天…なり…

 

なんという事であろうか、歩く戦術…じゃねーや、ソルティリーナ上級、てもう卒業してた…何と、あの卒業試験から早数ヶ月、坊主と美少年も上級修剣士として傍付きを取るくらい成長していた。そしてこの鍛冶屋も……

 

 

「はぁぁ……刀…打ちたい………」

 

 

なんという事であろうか……何の間違いか卒業トーナメントの翌日から客がひっきりなしで来やがった。それも、全部!打ち直し!!!

 

 

「あの堅物女…!!どんな宣伝の仕方したんだよ!!!いや、ありがとうございます!だけど!!!この数ヶ月間、いっっっしょう武器武具の打ち直し、手入れ、仕上げ!鍛冶屋だぞ?!武器作ってもらえや!!!あ、へっぽこだった…」

 

「あ、あのぉ…」

 

「んぁん!?って、んだよロリっ子か…」

 

「!ロリっ子とは何ですか!」

 

「いや、見たまんまな?」

 

「わ、た、し、は!キリト上級修剣士殿の傍付き、ロニエ・アラベル初等錬士です!」

 

「あ〜、はいはい。坊主なんちゃってガチ恋剣士のロリで巨乳初等…」

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

「へぶっ!?ぶっらぁぁっー!!!」

 

「はぁはぁはぁ!!!」

 

 

何とあろう事か、このフラグ兼責任ガチ勢製造機(坊主)の事を好きになってしまった少女は自分の羞恥を隠すべく全力の力を込めて、こちらの…コメカミを撃ち抜いた。

 

あれ?おかしいよね?今まで色んな酔っ払いを経験してきた、ある時は酔拳使い、ある時は猫耳ちんちくりん、ある時は意気地無し娘、ある時は妹属性爆発義妹、ある時はクール系萌えたら可愛い女子。

 

それなのに、今に来て…王道の…

 

 

「ま、さか……」

 

「主さんのバカ!絶対にキリト上級修剣士殿に言ったらダメですからね!!!」

 

「ここに来て…後輩属性超高め、純粋無垢な恋する乙女、か…」

 

「あ、すいません!主さん、頭打っちゃいましたか…?」

 

「いや、打ってねぇよ…てゆーか、今になってお前さんみたいな属性は、時代に合わんて…」

 

「???」

 

「そもそもな…ツンデレが現れ、クーデレが現れ…そしてヤンデレが現れた。」

 

「?????」

 

「今の時代…反面ありのデレだ!お前さんみたいに、半端なデレやってる奴が生き残れるはずがない!!!」

 

「あの…さっきから言ってる言葉の意味は分かりませんが…キリト上級修剣士殿は私の…憧れで…私の―――大切な人何です。」

 

「!?!?ぐっぼぁっ?!?!」

 

 

その瞬間だった。いてもたってもいられず…俺は吐血し後方へと吹き飛んだ。その時、目の前にいた少女の表情、顔を赤面させながらもモジモジとたじたじしてしまう感じが、あまりにも愛おしく、そしていたたまれなくなり…酒瓶を次々になぎ倒し、挙句の果てに坊主とリーナ専用のワインセラーまでぶっ飛んだ。

 

 

「あ、バk…主さん?!」

 

「おい、今バカって言おうとしたか?」

 

「な、何のことでしょう…?」

 

「…ちく、しょう…完敗だ…俺は忘れてたみたいだ…―――デレデレ、お前さんみたいな…可能性を」

 

「あ、主さん…」

 

「くそが…なんだって言え…準ロリ……なんだって聞き入れてやる」

 

「じゃあ、準ロリってやめてください。」

 

「わかった。ロリ…なんだって…」

 

「次ロリって言ったら、あること無い事言いふらします。」

 

「ロニエちゃん…なんだって言って下さい!」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

 

「………何これ?」

 

「キリト上級修剣士殿からです。『明日までに頼む』との事です。」

 

「…真っ黒黒助出て来いや…でねーと必ずぶっ殺す…!!!」

 

「何でもですもんね?」

 

「ぁぃ…」

 

 

副団長、美少年、他諸々。同等の圧を感じながら、涙を流す。

 

 

 

 

 

今日も今日とて鍛冶屋は正常運転。

 

 

 

 

 



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アンダーワールド 夜
初等錬士 after


さぁさぁ、僕の楽しみ酒場の復活です。



 

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人の剣士が足を運ぶ。

 

 

「いらっしゃい!お、来たな〜坊主〜」

 

「…給料日に目をつけて呼び出したのはあんただろ…」

 

「おうよ、しっかりと貸切にしてやったぜ」

 

「!バカ!そんな事したら俺の懐はどうなる?!?」

 

「はっ!冗談だ、常連連中も今しがた帰ったんだよ。それ、さみーから扉閉めてカウンター座れ。」

 

 

本日のお客様はなんと、つい先日あのウォロ・リーバンテインと引き分けた今をときめくスーパー剣士であった。まぁ、あの世界の坊主を知る自分からすればようやく感を取り戻したといったところだろう。

 

だが、功績に変わりはない。祝ってやるべく呼び出したのだ。

 

 

「あの金髪坊主に勝ったんだろ?お祝いしてやる」

 

「……明日は槍が降るのか?」

 

「さぁてと、初っ端からウォッカストレートで良かったか?」

 

「勘弁して下さい…」

 

「おい!俺の十八番をとるな!!」

 

 

座るなり親父臭くタオルで顔を吹き、ひと息着いたのも束の間一瞬でカウンターに頭をぶつけ深々と頭を下げる坊主。その光景についつい情けないツッコミを入れたが気にするな。

 

 

「たく、ほれエールだ」

 

「サンキュ、んじゃ」

 

「「カンパーイ!!」」

 

「!上手い!樽変えたのか?」

 

「お?分かるか?坊主?実はな最近良い取引先が見つかってよ〜ほい、お通し」

 

「ん、こっちにもこんな上手いエールがあるとは…最近はワインばっかりで正直飽きてたからな」

 

「確かにな〜この世界の主流がワインのせいか…エールはほとんど出回ってなかったしな…てかよ〜」

 

「ん?なんだよ…?」

 

 

エールを飲みつつ、お通しの小アジのなんちゃって南蛮漬けを続いている坊主が頭に?を浮かべながらこちらを覗く。

 

この少年との付き合いはそれなりに長い。そのせいか、成長している姿がひしひしと伝わり、感動を通り越して呆れている。

 

 

「初めて酒飲んだときゃ…1杯でベロンベロン…挙句の果てにゲロまみれ…」

 

「んぐっ?!」

 

「今となったら…酒の味まで分かる程に…悪い方に成長してんな〜!」

 

「だ、れ、の…せいだぁ!」

 

「いや、お前さんだろ」

 

 

そんなこんな、ふざけたやりとりをしながら夜が更けていく。2人の酒も中々に回ってくる時間帯へと突入した。

 

 

「あぁ?美少年に飲ませるなぁ?なんでだよ?」

 

「ユージオの…あいつの酒癖はやばいんだよ…」

 

「やばい?どーせ、ゲロ吐いたり、笑い出したりとかだろ?」

 

「!……ア…」

 

「?…ア?」

 

「…アスナを…酔った時のアスナを……思い出した……」

 

「………そ、そっか〜………」

 

「「……」」

 

 

美少年…あのルックスにしてあの性格。非の打ち所のないような少年が…あの酔剣使いを彷彿とさせる?坊主の表情に嘘はない。なぜなら怯え方が全く一緒だったから。

 

 

「なぁ…坊主?」

 

「…なんだ?」

 

「あのよ…あの〜…来週…美少年が予約入れてんだけど?」

 

「……」

 

「それも…貸切で」

 

「今日が飲み納めだな。」

 

「てめぇ!助けるという選択肢はねぇのか!?!?」

 

「酔った時のあいつは…―――俺より強い」

 

「え?本当に酔剣使いなの?」

 

 

あの頃を思い出し、青ざめ、笑いあった。

 

 

夜の街は、今日も賑わう

 

 

 

 

 

 

 



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美少年 after

 

雰囲気のある夜の街、そんな中で一際賑わって見える1つの酒場。そんな所に今日も1人の剣士が足を運ぶ。

 

 

「ふぅー、いらっしゃいませ!美少年剣士様〜!!」

 

「え?あ、は、はいこんばんは、主さん」

 

「そんな主さんなんてよそよそしい!マ、ス、タ、ァでいいですぜ?」

 

「いや、あのぉ…はっは…はは…」

 

「うん、お前は良い奴すぎる。キモイの一言くらい言ってもバチは当たらんぞ?」

 

 

本日のお客様は、あのクソ坊主の親友とは思えないほどの美少年で、まさに絵に書いたような美少年で、誰もが振り向くような美少年。ユージオ初等錬士殿である。

 

何でも?酒癖が、あの泥酔おん…ゴホン、ゲフン、フン、フン…副団長とためを張るほど悪いと坊主が言っていた張本人。緊張して迎えるがそんな感じは一切感じない。

 

 

「うーん…」

 

「ど、どうしたんですか?主さん?」

 

「いや〜、何をどうしたら…お前さんがあの白紅悪魔…じゃねえーや、閃光の酔剣使…じゃねーや!はぁ…あのバーサクヒーラーと肩を並べると言い放ったもんかな〜と」

 

「もう、またキリトが変な事言いふらしたんじゃないですか?」

 

「その通り。坊主は酒で色々やらかしてんだよ…いや、回りが…やらかしてやがるな……」

 

「やらかしてるって…どーせソファーで寝ちゃったとか、キリトがおんぶで抱えたとか、そんなのじゃないですか?」

 

「いや、どっちかっつうと…ソファーで寝てる坊主が殴られたり、おぶられてる坊主が罵声浴びせられたりと、いいもんではなかったな。」

 

「キリト…ごめん…ボクには…まだそこに口を挟める自信が無いよ!」

 

「安心しろ…俺ですらない。」

 

 

軽くエールを煽りながら話をするつもりが、何故か、すでに酔ってるいるのか?と思えるくらいのスピードで美少年は渡したエールのグラスをガンっとテーブルに打ち付けながら、後悔の念を唱えだした。だがしかし!美少年がそれを言うと共に主もまた過去を思い出す。

 

思い出される地獄絵図。あの飲み会。その飲み会。あれやこれやの飲み会。思い出されただけで一気に記憶を飛ばしてしまいたくなる。

 

 

「ほれ、美少年。追加のエール…」

 

「んっ!」

 

「おいおいおい!!!一気すんな!?あれ?何か前に言ったことある?じゃなくて!」

 

「ぷっ、はぁ!」

 

「おいおい…ヒック…美少年…その辺に…」

 

「主さん!」

 

「は、へい!」

 

「ワインを…ホットで…」

 

「あ、うん。了解。」

 

 

その時の少年はまるであの日の少女(エルフ)を思い出させるものだった。その日の少年はまるで、あの日の少女(ドワーフ)を思い出させるものだった。その日の少年はまるで、あの日の少女(ケットシー)をお持ち出させるものだった。

 

その日の少年は…

 

「うん…ごめん」

 

「アインクラッド流ってなんなんですか?!」

 

「あ?アインクラッド…」

 

「キリトの、剣…ボクが…想像、、してる…思い描いてる剣…!」

 

「お、おう…」

 

「その奥には…貴方が…いるです…」

 

「!」

 

「あの試合を経て、より一層、そう、思いました…」

 

「…坊主の剣は、俺を離れた…あれはあいつの剣だよ。」

 

「それでも、キリトが…言ってたんです…」

 

「あぁ?」

 

「貴方、が…主さんが、アインクラッド流の…キリトの……剣の…全て、だっ、て……」

 

「…んたはぁ…んだよ…大人しいじゃねーか。教えてやるよ美少年。そんときの坊主はな…―――間違いなく…」

 

 

今覚えてる事をありのまま話す。ありのままだから不快に思うやつもいるかもしれない。だけどな、そこには確かにいたんだよ?!

 

あの日の事を忘れるわけねぇ…あの!樽が、壊れた?!?!頭が!

 

そこには悪魔がいた。

 

 

「へ?」

 

「主、さーん!」

 

「ゑ??」

 

「はっはは!ねぇ…主さん…」

 

「へぃ…」

 

「今晩ボクと、話しましょうよ」

 

「な、なにを?」

 

「決まってるじゃないですか…?キリトの事…どっちがどれだけ知ってるか」

 

「再来だァ!こいつは【閃光の悪魔】、【酔拳使いの副団長】の再来だァ!!!」

 

「ねぇ、主さん」

 

「ぴぃ…」

 

「キリトはさぁ…そんな阿婆擦れ、相手にしないよ?」

 

「あぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

 

夜の街に悲鳴が怒号する。だが、気づくものは誰もいない。

 

 

夜の街は、今日も賑わう

 

 

 



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