生徒会の中心 (赤羽 黒兎)
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生徒会の一存
存在しえないプロローグ&設定
お気をつけください。
ルール1 神の存在を受け入れろ
ルール2 彼らに直接触れてはいけない
ルール3 友達の友達は我ら。それが干渉限界
ルール4 《企業》の意向は何よりも優先される
ルール5 《スタッフ》は、個人の思想を持ち込むなかれ
ルール6 情報の漏洩は最大にして最悪の禁忌である
ルール7 我らが騙すのはヒトではなく神あることを忘れてはならない
ルール8 このプロジェクトに道徳心は必要ない。全ては《企業》の利益のために
ルール9 性質上、《学園》の《保守》は最大の命題である
追加ルール 今年の生徒会、特に庶務には気をつけろ
主人公の設定
名前
性別 男
容姿
吊り目がちの
腰まである長い灰色の髪
色白の肌
俗に言う男の娘
性格
容姿のことを気にしている
めんどくさいことが嫌い
物事をマイナスに考えることが多い
備考
幼少のころ親に捨てられたところをとある男に拾われる。その男は暗殺者で、暗殺者としての訓練をしてきた。男の死後、とある暗殺のチームに入る。今は椎名姉妹の家の近くに一人暮らしをしている。
現生徒会メンバー全員の過去を少なからず知っている。
杉崎とは、杉崎が中3の冬に怪我で倒れているところを救われる。杉崎の過去はここで知る。杉崎には自分のことを教える。
知弦と桜野とは入学式で出会う。そこで色々調べ、過去を知る。その過去に黒兎も少し関係している······?
椎名姉妹とは家が近いということで仲良くなる。
《スタッフ》に感づいている。何か対策をたてようと色々組織で考えている。
名前
原作との相違点
一人で解決することが少なくなり、主人公に頼るようになった。
名前
原作との相違点
特に無し
名前
原作との相違点
杉崎ではなく、主人公に惚れる。
名前
原作との相違点
特に無し
名前
原作との相違点
男性恐怖症が大分和らいでいるが、初対面の人は少し警戒する。
組織
暗殺者が集まっているチーム。三つある。
〈
学生の暗殺者が多く属している。主に学校を舞台として活動する。学生なため、甘いところも多々ある。
〈
社会で働いている大人が多く属している。技術は〈生徒達〉よりかは高いが〈動物達〉よりかは格段に下である。
〈
大人子供関係なく、技術がとてつもなく高い者が集まる。メンバーはそれぞれ動物の能力を模した力を使う。黒兎もここに属し、コードネームは〈ラビット〉。〈キャット〉とチームを組んでいる。
かなり雑な出来になってしまいました。申し訳ございません。
しばらく更新を行いません。ご了承ください。
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⒈駄弁る生徒会①
色々おかしな点があると思いますが、ご了承ください。
「世の中がつまらないんじゃない。貴方がつまらない人間になったのよ!」
そう、無い胸を張りながら言う少女。彼女は
「じゃ、童貞も悪くないってことですか?」
彼は生徒会副会長、
「ぶっ!」
桜野がお茶を吐き出してむせている。
「おい、杉崎。桜野をいじるのはいいが、お茶を飲んでないときにしろ」
「なんでですか? クロさん」
「座っている位置を考えろ。桜野が吐き出したお茶が俺にかかってるんだよ」
「まじすか!? すいません、クロさん」
そして俺、生徒会庶務、
「まあいいけどよ」
そう言い、机と自分を拭いている中、杉崎と桜野が言い争っていた。
「クロさんには悪いと思っているが、役得だよなぁ……。しかし、美少女が吐き出したお茶を(見た目)美少女がかぶる。うん、サイコー!」
「ちょっと杉崎! 今考えてることもだけど、貴方はどうしてそんな事しか考えないの?」
「甘いですね会長。俺の思考回路は基本、まずはそっち方面に直結します!」
「なにを誇らしげに!」
「そうだぞ杉崎。俺は美少女じゃなくて男だぞ」
俺も参戦してみるか。
「黒兎も間違ってないけど間違ってる指摘だよ! 杉崎はもうちょっと副会長としての自覚を……」
「持ってないから杉崎はこうなんだろ? 桜野」
「ごめん。杉崎」
「なんか悲しい理由で謝られた! くぅ……」
大号泣しているが、まあ大丈夫だろ。
「会長。好きです。付き合ってください」
「にゃわ!」
ほらな。でも告白ってのは……。
「杉崎、どうしてそう軽薄に告白ができるんだ?」
「そ、そうよ!」
桜野が便乗する。
「本気だからです」
「嘘だ!」
「『ひ○らし』ネタは古いぞ、桜野」
涙目で震えながら言われても、惨劇の予感はないな。
「杉崎、この生徒会に初めて顔出した時の、第一声を忘れたとは言わせないわよ!」
「なんでしたっけ? ええと……『俺に構わず先に行け!』でしたっけ」
「何と戦ってんだよ」
「あれ? それじゃあ……『ただの人間には興味ありません。宇宙人、未来人――――』」
「それは色んな意味で危険よ!」
「えーと『俺たちの
「私たちは世界に災厄を招かないわよ!」
「皆好きです。超好きです。皆付き合って。絶対幸せにしてやるから」
「そうよ! あの時点で、この生徒会に貴方のいいかげんさは知れ渡ってるのよ! 誰でもいいから付き合えって堂々と言う人間に、誰がなびくっていうの!」
「杉崎の場合、誰でもというより美少女限定だよな」
「そうです。さすがクロさん、わかってるぅ!」
「可愛いなら誰でもいいってこと!?」
「一途なんです! 美少女に!」
「括りが大きいわ!」
「希少種ですよ、美少女」
「美少女よりも美人な人の方が希少だろ」
「そういう問題じゃない! 複数の人に告白している時点で、誠実じゃないのよ!」
「ええー。ふらふらしているより、最初からこう、バンッと、『俺はハーレムルートを狙う!』と宣言している方が潔いでしょう?」
「残念ながら杉崎はギャルゲの主人公より、その友人ポジションだろ」
「そうよ! それに杉崎より黒兎の方が主人公でしょ、完全に」
「じゃあ、俺とクロさん、どっちが好きですか?」
「絶対に黒兎ね!」
言ったことに気付き、顔を赤くしている桜野の隣で、杉崎が血の涙を流している。桜野の言い訳と杉崎の文句を聞き流していると、生徒会室の扉が開かれた。
「キー君、クーちゃん。あまりアカちゃんをイジめちゃだめよ」
そう言いながら入ってくる女性。桜野と俺と同じ三年の生徒会書記、
ちなみにキー君とは杉崎、クーちゃんは俺の事である。杉崎の名前の「けん」は「鍵」と書くためキー君。俺は見た目が女っぽいのと、名前の「黒」からクーちゃん。
アカちゃんとは桜野の事で、名前が「くりむ」だから、クリムゾン=真紅でアカちゃんらしい。
杉崎の対面に座った頃、杉崎と俺が反論する。
「いじめてなんかいませんよぉ。ただ、辱しめていただけです」
「杉崎に乗ってやっただけだ」
「余計に悪質じゃない」
「同意の上ですから大丈夫です」
杉崎の言葉に桜野が「嘘だ!」と言うが、全員でスルー。
知弦を加えて新ためて話し出す。
「しかし、今日はどうも集まり悪いですね、俺のハーレム」
「杉崎のハーレムじゃなくて生徒会な」
「いいんじゃないかしら? 集まっても結局、お菓子食べて喋るだけじゃない、最近」
そう言いながら俺はノートパソコンを、知弦は勉強道具を鞄から取り出した。
「知弦さんとクロさんは分かってませんねぇ。ギャルゲのように直接会わないと、好感度は上昇しないでしょう?」
「当然のように言われても困るけど」
「直接会わなくてもいいモノもありそうだけどな。まあ、それが本当だったら、好感度上げたくないから二人は来ないんだろ」
「ぐはっ! で、でも、知弦さんは俺との愛を育みに来てくれたわけですね!」
「…………。……あ、うん、そうね」
否定よりも大きいダメージで杉崎が倒れた。スナック菓子をつまみながら勉強する人のテキトーな言葉って口撃力高いな。
「し、しかしこういうクールキャラこそ、惚れたら激しい違いない!」
「あ、それは正解。私、小学校で、初恋の子に一日三百通『好きです』だけを羅列した手紙渡して、精神崩壊まで追い込んだから。意外と脆かったから冷めちゃったけどね。······貴方達はどうかしら」
そう細目で口元に薄ら笑いを浮かべる知弦に杉崎は震え、俺は笑顔を返した。てか、貴方「達」って俺も入るのね、そう考えてたら、杉崎がなにかを決意した顔で言う。
「分かりました」
「え、この話の後で覚悟できたの? 私の中でキー君フラグが若干──」
「知弦さんとは、体だけの関係を目指すことにします!」
「…………。……クーちゃんはどう? さっきからずっと考え込んでたようだけど」
今の杉崎の発言は、正直言って無いと思った人しかいないと思う。それほどのクズ発言のためか、知弦はすぐに俺に話を振ったな。杉崎はなんか自分の世界に入ってるけども。
まあ、俺は俺らしく答えるか。
「そうだな。俺は知弦みたいなの、好きだぜ。だって、それほどまでに好きになってくれるんだろ? そこら辺の恋を追ってばかりの奴より、自分のことを見てくれそうじゃん。だから俺は好きだぜ」
その言葉に知弦は顔を赤く染め、杉崎は俺に嫌悪と尊敬の目を同時に向けている。何気器用だな。
「クロさん。知弦さんをデレさせたのは許さんが、その女の子をデレさせる方法、俺に教えてくださいっ!」
「なんの事を言ってるんだ、杉崎は。俺から教えられることは何もないぞ。それと知弦、どうした? 顔赤いぞ」
自覚したのか、知弦の顔は更に赤くなり、俺の言葉で落胆していた杉崎は知弦の顔を見て、血の涙を流し、吐血した。知弦は完全に乙女の顔になっていた。その光景を見ていると、知弦のスナック菓子に手を伸ばす桜野に気付き、声を掛ける。二人は放置しても問題ないだろう。
「桜野」
「なに?」
「太るぞ」
「うぐっ。……大丈夫。栄養を、背と胸に回すんだもん!」
「別にいいが、腹に回ったときは、一大事だな」
「ええい! はむ!」
さて、いつの間にか復活していた杉崎と桜野いじりを交代して、俺は執筆でもするか。
俺は作家としても活動しているため、生徒会の暇な時間に書いていたりする。たまにな。
そんな感じで各々が集中しだしたとき、また生徒会室の扉が開かれた。
「おっくれましたぁー」
「す、すいません」
対象的な態度で入ってくる二人。
前の少女は生徒会副会長、
後から入った少女は生徒会会計、
椎名姉妹が定位置につくと、杉崎が二人に話しかける。
「そうそう。深夏と真冬ちゃんは、『初めての時はあんなに面白かったのに』みたいなことって、なんかあるか?」
最初の桜野の名言に話が戻る。
「なんだよ、やぶからぼうに」
「いやさ、会長が世間がつまらなくなったんじゃなくて、自分がつまらなくなったんだ、なんて久々にいいこと言うものだからさ」
「久々とは失礼な!」
桜野が騒ぐが、無視。椎名姉妹は二人して考え込んでいたが、
「真冬はお化粧……コスメですかね」
「化粧?」
「はい。子供の頃、母親がしているのを見て、すごくしたかったんです。それで初めて買ったときは嬉しくて──」
と、こんな風に桜野の名言について、椎名姉妹と杉崎の三人で話していた。BGM代わりにしていたから話はあんまり聞いてなかったがな。
パソコンの画面に集中していたが、ふと顔を上げると杉崎が立っていた。
「ううん、ハーレム万歳。いつ見てもいいねぇ、この光景。クロさんは男の娘だけど、それもいい味だしてるし。ああ、頑張って入って、本当に良かったなぁ」
……唐突に変なことを言い出したな。つか冒頭で自分で言ったは言ったが、男の娘って酷くね? そう思っていると、知弦が「そういえば」と返す。
「キー君とクーちゃんは〈優良枠〉で入って来たんだっけ。クーちゃんはともかく、キー君じゃそうは見えないのに」
「そうだよなー。鍵はどう見ても色ボケ男だしなー。神月先輩はあたしから見たら、勉強出来ても生徒会入る人には見えないしなー」
杉崎と反論しようとすると、桜野がバンッと机に手を置いた。
読んでいただき、ありがとうございました。
誤字脱字報告、感想や評価、よろしければお願いします。
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⒈駄弁る生徒会②
「散々言ってきたけど、やっぱりこの学校の生徒会役員選抜基準はおかしいわよっ! 人気投票からおかしいけど、〈優良枠〉にしても、
「俺はこのシステム、最高だと思いますけど」
この学校の生徒会役員選抜はとても変わっている。
まず、〈人気投票〉で生徒会メンバーを決める。ただしこれは、容姿が可愛い女子に決まる。つまり、ミスコンだ。
美少女は男女共通の憧れのようなところがあるが、美男子は男子からの反感を買う。
しかしこのシステム、結構理にかなっている。いくら容姿で選ばれたとはいえ、生徒達の「憧れの生徒会」。案外生徒会の言うことをちゃんと聞く。仕事なぞ誰にでもできる。カリスマ性さえあれば、結局のところ誰でもいいのだ。
結果、今の生徒会は美少女の集まる場となる。
その妥協点として〈優良枠〉。各学年成績優秀者であり、本人が希望すれば生徒会に入れる。普通はいないのだが、杉崎と俺は年度末にトップをとり、生徒会に入った。
「俺は〈自分以外全員美少女のコミュニティ〉に入るためなら、なんでもしますよ。たとえ入学当初最下位近くの成績でも、一年でトップに上り詰めるぐらい、楽勝です」
「な、なんか
「真冬っ! それは錯覚だ!
「頭いいのは事実だぞ、
「動機が不純なんだよ!」
「深夏、キー君。イチャつかないの」
「イチャついてない!」
「
「してないわ」
「なん……だと……!?」
「ところでクーちゃんはなんで生徒会に入ったの?」
知弦の言葉に驚愕し、流れるように倒れた杉崎を放置し、俺の話に移る。
「ん? 俺が生徒会に入った理由か。杉崎が入ったからだな。不安だろ、コイツ入れるの。入るって言ったとき、担任の小山から泣いて喜ばれたな。『入ってくれてありがとう! 会長はお子様だし、書記は精神的に恐いし、副会長は物理的に怖いし、会計は心配だし、もう一人の優良枠は風紀的に危険だしね。君だけが頼りだよ!』ってな」
担任言われた時を思いだし、声を真似て言ってみる。周りをみると役員の皆は扉を凝視しながら固まっている。
「おい、固まってどうした?」
「いや。クロさんの声真似が上手すぎて……」
「小山先生が来て喋ってるかと思ったよ」
「真冬、ビックリして扉の方見ちゃいました」
「こんな声真似が上手い人がいるのか……」
倒れていた杉崎まで驚いている。
「小山先生、そんなこと言ってたのね。潰そうかしら」
知弦はやめなさい。
「そんなことより、やっぱり成績いいってだけで入れちゃうの、やっぱり変だよ!
「生徒会の全員をメロメロにしちゃったのは悪いと思っていますが……」
「誰一人なってないわよ!」
「えぇっ!」
「なにその新鮮な驚き! 自信過剰も甚だしいわね!」
「そんな……。まだ会長とクロさんしかオチてないなんて」
「私もオチてないわよ!」
「ええぇっ!」
「今の杉崎は苦手だわ」
「マスオさん的な驚き方、やめてくれる?」
「オチてるのはクロさんだけか……。会長。あの夜のことはなかったことにするというんですか……」
あの夜? 多分杉崎の妄想か何かだろ。
「夢の中で何度も俺を求めて来たじゃないですか」
「知るわけないでしょ!」
やはりな。その後、しばらく口論が続き、桜野が疲れたことで終わる。その様子を見かねたのか、知弦が杉崎に話しかける。
「キー君。私は別に貴方のこと嫌いじゃないわ。でも、ハーレムを作るって宣言しちゃうんじゃなくて、誠実さで落とす王道の方が利口だと思うわよ?」
「う、ううむ……。知弦さんの意見も一理あると思いますけど……。しかし、どう取り繕っても、これが、俺ですから! 不器用で性欲に忠実ッスから!」
「芯からこってり腐りきってるなお前」
その後、杉崎が自分の事を魔の手と言ったり、学園ドラマをえらく汚したり、桜野の嫉妬深さ? を見たり。
杉崎の味方がいなくなったし、話題を変えてやる。全員が共感しやすいように。
「まあ、桜野が最初に言ってたことって、意外と恐怖になりうるんだよな」
「? なに? どういうこと?」
「つまらない人間になる……つまり、恵まれていてもそれを感じないこと。……杉崎は今、この生徒会って楽しいか?」
「え、はい、楽しいですよ。ハーレムみたいですし」
「こんな杉崎が『この生徒会にも飽きたな』とか言ってたら、ある意味恐怖だろ」
「あー。まあ、分からなくないわね、それは」
珍しく杉崎を用いた例に桜野は同意し、嘆息する。
「生活ランクと同じよ。一度裕福になったら収入が落ちても生活基準を下げられないのと一緒で」
「また、えらく学生らしくない例出だな」
「うちがそうだったのよ。お父さん、経営者だから浮き沈み激しくて」
「なるほど。それで会長美少年を金ではべらかす趣味が未だにやめられないと……」
「あの休日のはそういう……」
「なにその趣味! 私悪女じゃない! それに黒兎は何を見たの!?」
「それに男の頬を札束でペシペシ叩く性癖も、変えられないと……」
「あいつの頬が赤かったのにはそんなことが……」
「私どんだけ貴族なのよ! そんなことしてないわよ!」
「貧乏な今は、家に侵入するアリの手足をもぐことが生き甲斐……と」
「この前、鞄から出てきた黒いのは……」
「ただの根暗女じゃない私! お金とかの問題じゃない! あと、黒兎のは本当にいつの話!? 一番怖いのよ!」
桜野がまた全力で叫んで疲れている。
しかし、桜野が言ったことも合っている。上に行くにも限界があり、停滞したとき「つまらない人間」になる。
「ま、真冬はそうなりたくないですけど……でも、どうやったら、そうならずにいられるのかよく分かりませんね」
妹が落胆する。その通りだ。その後に知弦が言った、「悟り」に至ればつまらない人間にはならないだろう。
「えー、つまんねーな、なんかそれ」
姉がむくれる。……確かにつまらない
「ま、勝ち組と呼ばれる人は、どんどん上に行き続けるけどね。大概の人間はどこかで妥協して、そこそこ幸せになるのよ」
「そこそこ幸せに……ねぇ」
知弦の言葉の最後を復唱して考える杉崎。
そこそこの幸せ。自分の代理がたくさんいる環境から抜け出す勇気や気力ないまま日々を過ごす、か……。
「駄目だな」
「え?」
杉崎の呟きに全員が杉崎を見る。その視線を一身に受け、そして、思い切り立ち上がった。
「俺は美少女ハーレムを作る!」
杉崎は高らかに宣言する。俺以外のメンバーは「またか」といった様子で杉崎を見ていた。俺はニヤリと笑う。
「いいじゃん、そういうの。気に入った」
全員が俺を見る。
「妥協は高い所からするってことだろ。今に満足してないってことだしな」
「……なるほどね。とりあえず行くとこまで行ってみようってことね。いいんじゃないかしら。好きよ、そういうの」
知弦が微笑む。
で、桜野はというと……。
「えー、あんまり頑張るのは疲れるよぅ」
既に妥協していた。スナック菓子を頬張りつつ、幸せそうな顔をしている。
桜野は知弦のスナック菓子を食べ終わると、満足そうに宣言した。
「というわけで、今日は解散しますかぁ」
『…………』
全員が彼女を駄目人間と思うが、結局解散する。
……さて、俺たちは
「で、杉崎と黒兎はまた生徒会室に残ってるんだ」
くりむは校門前で再び出会った生徒会メンバー(女性陣)に苦笑した。彼女達も、どこか優しげな顔をしながら微笑んでいる。
「キー君は……私達の大黒柱なのかもね」
「大黒柱?」
「そう。私達全員、どこかちょっとフクザツな過去があるみたいでしょう」
その言葉に全員の顔が曇る。
「でも、あの空間は、とても救われる、それを作っているのは、間違いなく、キー君なのよ。だから……大黒柱。生徒会、ひいてはこの学校のね」
その言葉にくりむ達も生徒会室に視線を向ける。
「あれじゃあまるで学園ドラマものの先生役よね」
「ま、真冬はでも凄く感謝しています」
真冬の言葉に全員で苦笑する。しかし、その後に深夏が疑問を投げ掛ける。
「鍵のことは分かったが、
その疑問に全員が固まるその様子に深夏は焦るが、知弦がなだめる。
「大丈夫よ深夏。今はキー君与えてくれるモノに甘えましょう、私達は。でも彼は、クーちゃんは、私たちに何も話してくれないものね。キー君はなにか知ってるみたいだけれど、私たちには未だに何も分からないのよね。私たちをどう思ってるかも……ね」
その言葉に全員生徒会室を不安気に見る。
彼女達は、彼の事を、何も知らない……。
「クロさんもやらなくていいんですよ。俺一人でも出来ますから」
静かになった学校の生徒会室にいる二人の内の一人、杉崎がもう一人、黒兎に話しかける。
「お前一人にやらせるか。俺は男だし、一応先輩だぜ」
「しかし、見た目美少女ですから。あまり疲れている姿を見たくないんですよ」
「まあ体力少ないしな。でもそこは、技術で補うし」
「それでも心配ですよ。クロさん、いえ黒兎さんは──」
「それ以上は言うな」
杉崎の台詞を遮るように威圧をかける。
「お前しか知らなくて、ここに俺とお前しかいないとしても、俺のことは口に出すな」
「す、すいません」
生徒会室に静寂が訪れる。……しばらくして、その空気を破ったのは黒兎だった。
「さて、辛気臭い話はやめて帰ろうぜ。杉崎のやってる仕事で終わりだしな」
「そ、そうですね。
「よろしく~」
生徒会は、今日も無事終了した。
十二時を回った頃、とある家の二階から電話の音が鳴り響く。
「もしもし」
電話に出たのは黒兎。スマホの向こうからは女性の声が聞こえる。
「二年間、その学校で過ごしてどうだった?」
「面倒な集団がいると感じた。この一年で動くだろう」
「そう。では、よろしく頼むよ《ラビット》」
「任せろ、《キャット》」
通話が終わった後には、目を薄め微笑む男がいた……。
第一話終わりました。
ストックが無いこと、リアルで色々あるため、投稿し忘れていた「存在しないプロローグ」を投稿した次の投稿は、3月後半から4月になると思います。
誤字脱字報告、評価や感想、よろしければお願いします。
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2.怪談する生徒会①
もうちょっとストック貯めます。
「本当に怖いのは幽霊や化物じゃないの! 人間自身なのよ!」
その通りだと思ったが、当たり前すぎる言葉だったため、
「あー、うん、ですよね」
「そうなのよ! 幽霊も化物も、結局は人間が生み出すからね!」
「いや、ちょっと解釈が微妙な気もしますが……」
人間が怖いってのは、そうじゃないと思う。しかし、桜野は満足そうに椅子にふんぞり返っていた。
杉崎のみならず、俺を含む桜野以外の生徒会メンバーも特に反応せず、各々、テキトーに感心したふりをしている。
桜野がこんなことを言い出したのは、最近また生徒間で七不思議の噂が盛り上がり始めているからだ。
七不思議。七つの怖い話全てを知ったら不幸になるとかならないとか。俺は怖い話は知っているが、七不思議は一つも知らない。周りは七つ以上知ってる奴が多いらしい。おい、「七」不思議じゃねえのかよ。呪いが本当だったら、学校どころか地域が壊滅しているぞ。
「事態は既に切迫しているわ!」
ホワイトボードに太く、太く「今日の議題・怪談のはびこりすぎな現状について」と、書かれている。
なぜか知らないが、桜野は現状がひどく気に入らないようだ。予想するなら、怖い話が苦手ってとこか。
熱弁をふるい続けている桜野へと向けて、意地悪そうな笑みを浮かべ、すっと
「はいはーい!」
「はい、
「会長さん、こんな話知ってるか? あるトイレに入った女子の話なんだけど──」
「わ、わわ! な、なんで急にそんな話をっ! 脱線させないでよっ!」
「脱線じゃねーよー。ほら、対処するには、まずは詳しく知るべきだろう?」
「うぐっ······と、とにかくっ! 私は聞かなくてもいいの!」
桜野の慌てる様子に、生徒会メンバー全員の眼が、きゅぴーんと怪しく輝いた。
『(これは面白いネタになる!)』
桜野以外の全員が、まるで桜野の「怖がり」に気づかないふりをして、話をそれとなく桜野の望まぬ方向へスライドさせていく。
まず、
「深夏の言う通りね。ええ、その通りだわ。まずは出回っている全ての怪談を一つ一つ確認して、検証する必要があるわね」
「え、ええ!?」
桜野があからさまに動揺している。
俺から順に知弦に賛成していく。
「そうだな。俺は怖い話は知ってるが、この学校の七不思議は知らないからな。対策もたてられない」
「ちょ、
「ま、
「真冬ちゃんまで……」
桜野がたじろぐ。ここで杉崎が刃を突き刺す。
「あれぇ? 会長……もしかして、怖いんですか?」
「な──」
杉崎の言葉に、更に知弦が追い討ちをかける。
「まさかぁ、キー君。生徒会長ともあろうものが、たかだか学校の怪談に怯えるなんて、あるわけないじゃない。もう、みくびりすぎよ? ねぇ、アカちゃん?」
「う、うう?」
更に
「この歳になって怪談怖がるヤツなんて、いるわきゃねーよー」
「ま、真冬も怖い話、大好きです。……小学生の頃から」
「うぐっ」
桜野はだらだらと汗をかきはじめていた。非常に情けない顔になっている。ここで俺が二本目の刃を突き刺す。
「桜野は心が広い会長だし、しっかりと怖がらずに対策をたてながら聞いてくれるよな」
「がっ」
机にゴンッと頭をぶつけていた。痛そう(笑)。しかし、「ふ、ふん!」と腕を組んでふんぞり返ると、自信満々に言い放った。
「お、大人のこの私が、怪談なんて怖がるはず、にゃいじゃない」
噛んでいた。
知弦を見ると軽く恍惚の表情をしいている。つくづく
「それじゃあ……」
知弦がパンッと手を叩くのと同時に、桜野が長机にバンッと手を置く。桜野は痛そうに震えている。
そこで生徒会室の扉が開かれた。
「失礼します!」
数人の男達が入ってきて、長机をどかして畳を設置する。
彼ら碧陽学園土木建築研究会の人達だ。
「アネさんから声がかかるまでランニング!」
そう言い、彼らは次々と退室していく。
「彼らは一体……」
「そんなこと、今はどうでもいいじゃない」
「この人も七不思議に入れていいんじゃないか……?」
姉のこの言葉に知弦以外の生徒会メンバーは共感する。知弦より危ない学生は全国、世界を探してもほんの一握りだよな、多分。ってか、この学校の何人が支配下にいるんだ?
「それじゃあ始めましょう?」
「いいぜっ! じゃああたしからいくぞっ」
「え、ええっ、もう?」
「早くした方がいいだろう? あれ? 会長さん……怖いのか?」
「深夏、始めて」
桜野精一杯の強がり、それを全員が生暖かい目で見守る中、姉が前のめりになり怪談を始める。
「じゃあ、一番手たるあたしは気合いれていきぞ。覚悟しろよ。
……この学校の家庭科室には、包丁がない。なぜだか知ってるか? ……そう、家庭科準備室の戸棚でまとめて管理されているからだ。でもさ、調理台下にはちゃんと、包丁を入れるスペースがあるんだよ。調理実習ではほぼ確実に使う器具なのに、授業の度にイチイチ準備室から用意するなんて、面倒なことこの上ないだろう?
ではなぜ、包丁は準備室にあるのか、それは……家庭科室に包丁があったがために起こった、ある悲劇が原因なんだ」
姉はいつもの元気を掻き消し、低い声で語りだす。彼女が真剣なため、一層場の雰囲気が重くなった。
桜野は一見平気そうにしているが、動きを見るだけでかなり動揺しているのがわかる。
その様子に姉が軽くニヤリとする。桜野はその表情に更に怯えていた。
「昔、ある女子生徒……ここでは仮に、くりむちゃんとするが……」
「なんで仮にくりむちゃんとするのよっ!」
桜野の叫びを姉は華麗に無視する。
「くりむちゃんは、体のメリハリと背丈には若干残念なものがあったが、顔は良かったし、それはしれで需要があったんだ」
「……なんかその設定に悪意を感じるのだけど」
「で、そのくりむちゃん。バナナが半分しか食べられないくりむちゃん」
「童謡に出てきそうね、くりむちゃん」
「彼女はある日、学校に忘れ物をしてしまったんだ。気づいたのは夜中だったが、それはどうしてもその日のうちに必要だった上、家も近所だったため、学校に取りに行くことにした。
夜の学校は怖かったが、くりむちゃんは今までに何回かあったため、もう慣れていたんだ。
その日もくりむちゃんは、いつものように忘れ物を取りに行った。
そして。
翌日冷たい体となって発見された」
「ひぅ」
桜野はびくんと反応する。……うまい話術だった。なにが起こったか分からないが、予想ぐらいは出来そうだな。つーか、姉は案外話し慣れてるな。
リアルくりむちゃんは「ふ、ふん、それで?」と見栄を張って、本当は聞きたくない話の続を促す中、姉は続ける。
「くりむちゃんは……家庭科室で死んでいたんだ。全身を滅多刺しにされてね」
「な、なんか、いよいよ、くりむちゃんという名前設定がとてもイヤなのだけれども……」
桜野は青褪めているが、姉はガン無視。
「犯人はすぐに捕まった。それは、最近周辺地域に出没していた変質者だった。学校に侵入したところを、丁度くりむちゃんに出くわしてしまったんだ。
当然くりむちゃんは逃げたんだが、どんどん追い詰められ、最終的には家庭科室に逃げこんだんだが、それが失敗だった。男はそこが家庭科室だと気付いて、調理台下から包丁を取り出し、そして──」
「…………」
桜野が意識をシャットアウトしようと試みていたが、杉崎に猫騙しで妨害されていた。
桜野が咳払いし、姉を見つめる。
「な、なぁんだ。そ、その程度? そんな、過去に殺人事件があって包丁が別の場所に移されたってだけじゃあ、別に……」
「いや、違ぇよ会長さん。包丁が準備室に移されたのは、それが直接の原因じゃねーんだ」
「え?」
「大変なことがあったんだよ……。事件の後、放課後家庭科室に残っていた生徒に……」
桜野がごくりと唾を飲み込む。話しもクライマックスだ。
「家庭科室に残っていた生徒が、また死んだんだ。……今度は──」
「今度は?」
散々間を溜めて、告げる。
「家庭科室中の包丁が全て突き刺さった状態で」
「っ!」
桜野が硬直する。あまりの場の雰囲気に、俺達もいささか緊張するが、皆分かっていた。
(んなわきゃあない)
桜野以外、ちゃんと分かっている。そんな猟奇的事件が、ある事を除けば、警察に取り上げられないハズがない。しかし……桜野には、効果覿面だったようだ。「そ、その犯人って?」と、真剣な面持ちで姉に訊ねる。
「決まっているじゃねーか。それは……」
「それは……?」
「それは……」
姉がそこで沈黙し、生徒会室が静まりかえる。
直後。
「おまえだっ!」
「ひぅっ!」
唐突に桜野を指差し大声で叫ぶ姉。ある程度びびったものの、予想出来ていたので、衝撃は少なかった。
しかし桜野は……。
「…………」
口から魂が抜け出ていた。こいつこそ、ホラーだろ。全員でニヤニヤしつつ、帰還を待つ。しばらくして意識を取り戻すと、桜野は「な、なによそれは!」と逆ギレした。
「わ、私が犯人って、そんなわけないじゃない! ば、馬鹿にしてぇっ!」
その反論に姉は苦笑する。
「いやいや、そういうことじゃねーよ。つまり、犯人はくりむちゃんだって言いたかったんだ。そう……幽霊となった、くりむちゃんだってな」
「う……」
幽霊という言葉に、桜野はまた言葉を失う。
姉は話を締めくくった。
「とても人間業じゃなかったらしいぜ、その死に方は。全身に包丁がほぼ同時に刺さってたんだとよ。まるで······空中に浮かんだ包丁が、一斉に飛んできたかのように。
……それ以降だよ。包丁が準備室で厳重に保管されるようになったのは。……会長さん。もし家庭科の授業で誰かが家庭科室に包丁を置き忘れてしまっていたなら……そして会長さんがなんらかの理由で家庭科室に入ってしまったなら……命の保証は、できねーぜ」
「…………」
また桜野の魂が口から出ていた。……相当怖かったらしい。魂が体に戻ると、「く、くだらない与太話ねっ!」と、まるで説得力の無い強がりを言っていた。
誤字脱字報告、感想や評価よろしくお願いします。
今後は半月~一月で一話のペースで投稿していきます。
次回は四月前半になると思います。
今後ともよろしくお願いします。
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2.怪談する生徒会②
久しぶり更新します!
遅れてすいませんでした!!
その後も俺たちは怪談を
で、残すは俺と
「杉崎、俺からでいいか?」
「お願いします」
「んじゃ、始めるか。
これは、とあるテレビ番組の話。
ある家庭に一人の女の子がいた。……その子を仮にK子としよう」
「くりむちゃんじゃないのね。。すこし安心したわ」
『ちっ』
……やはりくりむちゃんとするべきだったか?
「続けるぞ。
ある日K子はお母さんと買い物に出ていた。『すぐ終わるからここで待ってて』そう言われたK子はおとなしくその場で待っていた。……数分後お母さんが戻ると、そこにK子はいなかった」
「誘拐だな!? 女の子を攫うなんて……そのロリコンは許さない!」
「杉崎、うるさい」
「すいません」
「まぁ杉崎の言うとおり、K子は誘拐されていた。警察が捜索したものの、見つかることはなかった」
「な、なによ。テレビ番組関係ないじゃない」
ビビりつつも不満そうに桜野がつぶやく。
「最後まで聞けって」
せっかちだと苦笑いする。
「視聴者の依頼を解決するテレビ番組、知ってるか?」
「私は知らないわね」
「あたしも知らねぇなぁ。
「真冬も知らないです」
「私は聞いたことはあるわ」
女性陣は知弦が聞いたことあるくらいか。
「杉崎、お前は?」
「知ってますよ。アレですよね、『探偵ナイ……』」
「それ以上はやめろ!」
杉崎、番組名はアウトだぞ。
「知らないなら知らなくてもいいや。まあその番組にお母さんは依頼を出したんだ。
……後半へ続く」
『……え?』
少し休憩だ。話し続けるのは疲れるからな。そう思い、お茶を飲んでいると杉崎から質問が。
「えっと、クロさん。後半って……」
「後半は後半だろ。疲れたから休憩だ」
みんなは呆けている。
「ほら、茶でも飲めよ」
それぞれお茶を飲み始める。
「さて、休憩終わりっと。後半スタートだ。
その依頼に対し、番組は世界的に有名な能力者を呼んだ。その能力者をK子が連れ去られた場所に呼び、K子の情報となるものを渡した。すると能力者は瞬時に口を開いた……。『この子、世界のあちこちにいるわ』と」
「え、それってどうゆう……」
桜野が涙目になりながら聞いてくる。
「臓器売買、かしら」
「正解だ、知弦。そう。K子は臓器を世界にばらまかれていた。つまり、誘拐され、殺され、売られた、という訳だ」
桜野と妹が涙目で震えている。
「これが、お蔵入りとなったテレビ番組の話だ。
……次同じ目に会うのは、あなたかもしれません……ってな」
生徒会メンバー全員が体を震わせている。
「クーちゃんの話、予想以上に恐かったわね。アカちゃんなんて、ほら」
そう言って知弦は腕にしがみついたまま気絶している桜野を引きはがす。
「そうか、そんなに怖かったのか。身近な話題からの派生だった分、余計に怖かったのかもな。そうだ、今日は家まで送ってこうか? ……桜野も一緒に」
「そうね、アカちゃんともどもお願いするわ。ところでこの状況どうするの?」
そう言われて周りを見る。どうやら生徒会メンバーは震えていたのではなく、気絶し痙攣していたようだ。あの深夏までもだ。そんなに怖かったか?
「あ、うん。みんなが起きるまでしゃべりながら待ってようか」
「……そうね」
「じゃあまずは『今時のヒーロー像について』とかどうだ?」
「いいけど、珍しいわね」
「そうか? まあこの空気が破壊できればお題なんてなんでもいいのさ」
「確かに、そうね」
知弦が珍しく肯定的だ。いくら知弦といえど、この空気には耐えられないみたいだ。
「では、まずは俺からだ。俺が思うヒーロー像はな──」
「……んで、そうすれば見つからないってわけだ」
「なるほどね」
知弦は熱心に俺の話を聞いている。熱心に聞くほどのものではないのだが……性格的に仕方ない、のか?
さて、あれから一時間経って杉崎達が起きてきたし、ここまでだな。
「知弦。杉崎達が目を覚ましたぞ。だからここまでだぜ」
「ええ、仕方ないわね」
心なしか知弦が悲しそうな顔をしているように見える。仕方ない。
「話なら帰りに桜野がいなくなってからでもしてやるから」
「! ええ、わかったわ」
知弦は嬉しそうに笑顔を浮かべた。同じタイミングで杉崎達が起きだした。
「ええっと、俺たち気絶してたみたいですね。すいません」
「
「桜野、怖かったんなら素直に言おうぜ。知弦は気絶してなかったんだしよ」
「ええ!? 知弦さん気絶してないんですか!? あ、確かにクロさんと笑顔で話してましたね」
気絶してない知弦に全員が驚いていた。特に
「なに!? あたしでも気絶したっていうのに……。さすが知弦さんだな。って、話?」
「ああ。俺が起きた時、二人は楽しく談笑してたんだ。気にならないか、
「確かに、それは気になる。あの二人だしな」
「ということで、なに話してたんですか?」
ひとしきり驚いたあとに杉崎と姉が小声でなにかを話している。結果、杉崎が俺に質問を投げかけた。
「何の話、か……。まず初めに『今時のヒーロー像』について話して、そのあとに『バレない死体の処理方法』だったかな」
「ええ、そうね。特に『井の〇公〇殺人事件』の処理方法は聞けてよかったと思えたわね。まだ話の途中だけれど」
「後半の話ぃぃいい!! 何物騒なこと話してるんですか! 知弦さんもなんか嬉しそうだし!」
杉崎、うるさいぞ。「うるさいって、ちょっとクロさん!?」うるさいって。
「前半の話だけならあたしも加わりたかったな……」
姉が落ち込んでるな。そんなに話したかったのか、今時のヒーロー像。今度一緒に話そうな。
「真冬はあの二人が怖いです」
「その気持ちわかるわ、真冬ちゃん」
そしてそこの二人よ、その反応は傷つくぜ……。桜野はあとでお仕置きな。「なんで!?」同級生だから? 「理不尽!」
さて、杉崎の話が残っているのだが……この状況だと無理だな。面倒だと思いつつも手をたたき、注意を集める。
「さて、杉崎の話が残っているわけだが、時間も迫ってる。どうする?」
「今聞くに決まってるじゃない!」
怖いのに今日中に終わらせたいからって無理してるな。いや、怖いからこそ、か。
「そうかそうか。じゃあ杉崎、よろしく」
「わかりました、クロさん! では始めます。
くりむちゃんという少女がいました。彼女は……杉崎
「ひぃぃぃぃぃぃっ!」
一文で桜野を怯えさせ、俺たち生徒会メンバーを呆れさせた。
「くりむちゃんは、必修科目をおとしました」
「ひぃ!」
「くりむちゃんは、失言問題で生徒会長を辞任に追い込まれました」
「ひゃあ!」
「くりむちゃんは、杉崎鍵にメイドとして身も心も捧げました」
「いやあああ!」
「くりむちゃんは、祈り虚しく、その後背が伸びませんでした」
「いやああああ!」
「くりむちゃんの歯ブラシを、杉崎鍵がべろべろ舐めて、そっと戻しました」
「きゃあああああああ!」
「くりむちゃんの最後の言葉は、『ふぅ、危なかったぁ』でした」
「油断した!」
「くりむちゃんの人生は。夢オチでした」
「誰の!」
「くりむちゃんは陰で『頭がアレな子』と言われているのに、
「酷いっ!」
「くりむちゃんは、実はくりむちゃんじゃありませんでした」
「なんか一番怖いわそれ!」
杉崎の口から繰り出される「怖い話」にくりむちゃん……もとい桜野は完全にノックダウン。平静を保ててないな。
杉崎と桜野以外の生徒会メンバー、つまり俺たちまで怯えている。それぞれが杉崎に対しての恐怖を呟いてる。かくいう俺も「恐い……鍵怖い……。殺っ! ダメだ……恐い」と杉崎に手を出しそうになったりした。俺も大分危ないな……。
「クーちゃん大丈夫?」
知弦が心配そうに聞いてくる。俺よりは平気みたいだが、知弦も若干震えている。
「大丈夫に見えるか? もう鍵が怖すぎる……」
「確かにそうね」
「クロさんも知弦さんも酷くないっすか!?」
杉崎なんてこんな扱いで十分だろ。
杉崎は罵倒に屈せずに知弦に話しかける。
「でも、皆好きですよね、怖い話。なんなんでしょうね。『怖い』って、どちらかというとマイナスの感情でしょうに」
知弦は髪をかきあげて微笑む。
「スリルって言葉あるでしょ。安全が保障された危険を楽しむ、とでもいうのかしら。ジェットコースターもそうでしょ?」
「でもその『スリル』からして中々不思議な感覚ですよね。いくら安全が保障されていても怖いことが楽しくなるって、なんか倒錯してますよ。みんなが当然のように楽しんでいるから誰も言いませんけど、ある種凄く歪じゃありません?世が世なら異常と言われても仕方ない気がしますよ」
妹が「確かにそうかもしれませんね」と頷く。知弦は考え込み、姉が「考えてみるとそうだなー」と腕を組む。
「桜野の反応が普通、だな」
俺の言葉に桜野以外が頷く。
「そういう意味じゃ……今の学校の状況自体が、なんだかとても怖いことのような気がしてきました」
「そうね……そうかもしれない。怖い話を楽しむ精神が異常なことだとしたら……。この学校は……いえ、この地球は、異常な人間がわらわらいるコミュニティってことよね」
「確かに。怖いことを言うね、知弦」
「そ、そんな考え方やめろよー、三人とも」
姉が少し怯えている。しかし、妹も「そうですね……」と呟く。
「真冬は怖い話大好きですけど……どうして大好きなのかは、あんまり説明つかないです。それこそが、理解不能の怖いこと、かもしれませんね」
俺たちは沈黙する。……理解不能の楽しさを抑えこもうなど土台無理な話だ。この学校の現状を変えるのは難しい。
「ほら、だからいったでしょう! 一番怖いのは人間だって!」
なぜか偉そうに胸を張る桜野。俺たちは苦笑するが、心のどこかで、その通りだと感じていた。特に人の裏に関わる、俺は特に。
「
「人間って、意味わかんねぇ」
俺と姉の呟きが妙に大きく響く。
今日の議題の結論。
怖い話の流布を止めるのは、不可能。
……結論がでても浮かない顔の桜野が杉崎は気になるみたいだ。……桜野にゃ、悪いことしたな。
それに桜野のようなタイプからしたら、周囲が楽しそうに語ること自体が怖いのかもな。
…………。
怖い話の止め方、か。ま、杉崎あたりがなんとかするだろ。
「なんか急にクラスで怪談聞かなくなったわっ。これも生徒会長の人望の賜物ね!」
例の会議から二日、桜野は嬉しそうに杉崎に語る。久々に三人での生徒会室で、杉崎は桜野の言葉を聞き流す。怖い話を聞かなくなったことが相当嬉しいみたいだ。
「でも……なんでこんな急に沈静化したんだろ。不思議よね、やっぱり」
「沈静化……ね」
「?」
「いえ、なんでも」
俺は密かに笑う。
怖い話は止めようとしても止められないもの。止めるためには……怖い話しかない。
「やー、本当に良かったー。風紀の乱れが治まって」
「そうですねー。良かった良かった」
桜野の無邪気な笑顔に、杉崎は罪悪感でも感じているのか。
……だって。
杉崎は、新しい七不思議を作ってしまったのだから。
要約すると、「七不思議を全て知ったら降りかかる呪いは確かに存在し、そして、ほかの怪談と同じく進化している」という桜野に都合がいい七不思議を作ったわけだ。
この怪談の終わりの
『
多分大元はここらへんだろう。今はもうめぐりめぐって
結果。この話で軽くでも怖くなった人が多いのか、怪談ブームはなりを潜めた。
「やっぱり楽しい話題が一番だよねっ。でも不思議だなぁ。怪談、昨日まで皆あんなに話してたのになぁ」
怪談を聞きたがる人。
怪談を話したがる人。
怪談を怖がる人。
怪談を憎む人。
そして。
怪談を作り利益を得る、杉崎のような、人。
「会長ぉ」
「うん。なぁに、杉崎」
「やっぱり会長の言う通り、一番怖いのは人間っすね。いや、勉強になりました」
「? え、えへん! そうでしょう! ようやく分かってきたじゃない、杉崎!」
胸を張る桜野。
桜野が嫌いな恐ろしい怪談を流して。
桜野は杉崎に、杉崎は桜野に笑顔を向けている。
「杉崎、罪悪感が凄そうだな」
「罪悪感? どういうこと、黒兎」
「やめてくださいよ、クロさん。俺はなんもしてないんですから」
「そういうことにしといてやるよ、杉崎」
「ありがとうございます」
「むー。なんか私だけ知らないって……もー」
そういえば、もう一つ新しい怪談もあったな。これは……多分姉が作ったやつか? 悪を退治してまわる女生徒、か。杉崎のとは真逆だし、姉の好きそうな展開になるしな。でもなんでパーカーで顔隠してるんだか。かっこいいからか?
ふと、明日の時間割が目に移る。
「お、桜野。明日家庭科あるぞ」
「家庭科? それがどうかした?」
杉崎は意図が分かったようだ。
「いや、家庭科といえば家庭科室、家庭科室といえば、姉の怪談だろ」
「んにゃー! せっかく忘れてたのにー!」
高校に入学し、時が経つのは速いもので。
パソコンを友人から貰ったので久しぶりに書こう、と。
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3.放送する生徒会①
「他人との触れ合いやぶつかり合いがあってこそ、人は成長していくのよ!」
「なんですか? それ」
「なに? ……ラジオ放送?」
ホワイトボードにはくっきりとそう記されているが、やはり意味が分からない。桜野以外の生徒会メンバーは全員首を傾げている。
「そう! これから生徒会で、ラジオをやろうと思うの!」
「ら、ラジオって……」
「あの……ラジオですか? 音楽かけたり、喋ったりする……」
「そうよ。その、ラジオ」
「……えと。それって……あの、なんで生徒会がするんですか? そういうのは放送部とかの仕事だと、
全くだ。誰もがそう思ってる。だが、相手は桜野だ。
「何言ってるのよ! 生徒会って、生徒をまとめる立場にある組織よ! 政見放送みたいなものもたまにはしないといけないわ!」
「政見放送なんて言葉、よく知ってたわね、アカちゃん。よしよし、いい子いい子」
「政見放送ぐらい、知ってるよ! 子ども扱いしないで!」
「そうね、アカちゃん。ごめんなさいね」
「わ、分かればいいのよ」
「ええ。……そういえば昨日、高視聴率クイズ番組で『政見放送』をテーマに問題が出てたりしたけど……。いえ、なんでもないわ」
「桜野……ぷっ」
「
「いや、なんでも。さ、わかったから進めてくれ。……ぷっ」
「黒兎ぉ! ……と、とにかく! 政見放送よ!」
やはり思いつきか。いやー、笑った笑った。
しかし、桜野は言い出したら聞かない。
「まあ、文句言ってもどうせやるんだろうけどよ……。でも、なんでラジオなんだ? 映像の方がいいんじゃねーの?」
「それも考えたけど……放送部に押しかけたら、『今渡せる機材はこれしか……』と泣かれたから、ラジオなの」
桜野はてきぱきと準備を開始する。放送部にやらせたのか、配線関係は水面下で終わっていた。桜野は俺たちの前にそれぞれマイクスタンドを設置した。俺の前にのみ、パソコンが置かれた。……なんで?
「そりゃ教室出た時に放送部の子に心配そうな目で見られるわ。……可哀想だな、放送部も」
「か、完全に準備されちゃってます……」
妹が元気をなくしている。目立つことが苦手なタイプだしな。ご愁傷様。
全員が諦めて状況を受け入れる中、桜野はただ一人テンションが高い。
「ほら、最近は声優さんのラジオも増えたじゃない。美少女がたくさん集まって喋っていれば、皆、大満足のはずよ」
「声優、ねぇ」
「会長、声優やパーソナリティ、そしてリスナーを舐めてるでしょう」
桜野は意地でもこの企画を押し通す気のようだ。
「可愛い声でキャピキャピ喋りあっていれば、男性リスナーなんてコロリと騙されるはずよ」
「謝れ! 俺とクロさん以外の男性に謝れ!」
「おい、俺を巻き込むなよ」
「杉崎と黒兎は騙されるんだ……」
「だから、俺を巻き込むなよ……」
「ま、まあ、それに、五人……六人もいれば会話が尽きることもないでしょう。大丈夫大丈夫。いつも通りに喋ればいいんだから」
「今誰のこと抜かしました、会長!?」
「もちろん杉崎よ。杉崎は存在自体が放送コードにひっかかってるから」
「ひでぇ!」
まあ杉崎だしな、仕方ない。自制する気はなさそうだが。
いつのまにかセッティングは全て完了している。俺はパソコンで録音状況を確認してなきゃいけないらしい。ああ、大変だ。録音放送であったのが唯一の救いか。
妹も諦めているのか、マイクをツンツン突いていた。
知弦はのどの調子を確かめている。やるなら手を抜かない構えのようだ。
姉は落ち着き払い、腕を組んで、椅子にふんぞり返っている。
杉崎も覚悟を決めたようだ。
「さあ、始めるわよ!」
桜野は手元の大量のスイッチの一つを押す。
さ、やるか。
ON AIR
桜野「桜野くりむの! オールナイト全時空!」
杉崎「放送範囲でけぇ!」
♪ オープニングBGM ♪
桜野「さあ、始まりました。桜野くりむのオールナイト全時空」
知弦「夜じゃないけどね」
黒兎「全時空って……」
桜野「この番組は、富士〇書房とWEB小説投稿サイト ハー〇ルンの提供で送りします」
桜野「まあ、ギャラもゼロ円だし、機材も放送枠にもお金かかってないから、スポンサーにしてもらうことは何もないんだけどね」
真冬「じゃあなんで提供を読んだんですか……」
桜野「それっぽいじゃない。うん、今のところ、とてもラジオっぽいわ」
真冬「……はぁ。いいですけど」
桜野「こら、真冬ちゃん! そんなテンションじゃ駄目よ! リスナーは、もっと、こう、女の子の元気な会話を望んでいるんだから!」
真冬「そうでしょうか……」
桜野「うん。男性リスナーなんて、そんなものだよ」
杉崎「こらこらこらこら! なんでリスナーを見下げた発言すんの!? 生徒に喧嘩売ってんの!?」
桜野「パーソナリティあっての、リスナーじゃない」
杉崎「リスナーあっての、パーソナリティだ!」
深夏「おお、鍵が物凄く真っ当な発言してる! すげぇ! ラジオ効果、すげぇ!」
桜野「……そうね。私が間違ってたわ、杉崎」
杉崎「分かればいいんですよ、分かれば……」
桜野「そうよね。やっぱり、ある程度媚びておいた方が得よね。うん、私、大人」
杉崎「だから、そういう発言を堂々としちゃ駄目だって──」
桜野「お便りのコーナー!」
杉崎「無視!? ラジオなのに、言葉のキャッチボール拒否!?」
知弦「それがアカちゃんクオリティ」
黒兎「桜野だから諦めろ」
杉崎「なんで貴方たちは要所要所でしか喋らないんですか! もっと舵取りして下さいよ!」
知&黒『…………』
杉崎「ラジオで無言はやめましょうよ!」
知&黒『……パンッ!』
杉崎「無言でハイタッチもやめましょうよ!」
桜野「さて、一通目のお便り」
杉崎「進行重視かっ! 会話の流れ無視ですかっ!」
桜野「『生徒会の皆さん、こんばっぱー!』はい、こんばっぱー!」
杉崎「え、なにその恥ずかしい挨拶! 恒例なの!?」
杉崎以外「こんばっぱー!」
杉崎「俺以外の共通認識!? クロさんまで!」
桜野「『オールナイト全時空、いつも、楽しく聴いております』ありがとー」
杉崎「嘘だ! 第一回放送のはずだ、これは!」
桜野「時系列なんて些末な問題よ、杉崎。このラジオにおいてはね」
杉崎「さすが『全時空』!」
桜野「あと、言い忘れてたけど、一応、生でも放送されているわよ、これ。聴いてる人は少ないだろうから、また明日昼休みに校内で流すけど」
杉崎「どうりでメールが来るはずだ! っていうか、じゃあもっと発言に気を付けて下さい!」
黒兎「杉崎、桜野だぞ?」
杉崎「そうでしたね!」
桜野「はいはい。じゃ、メールの続きね。『ところで、皆さんに質問なのですが、皆さんは、どんな告白をされたらうれしいでしょう? 僕は今、恋をしているのですが、どう告白しようか迷ってます。くりねぇ、是非アドバイスお願いします』」
杉崎「『くりねぇ』って呼ばれてんだ! こんなロリのくせに!」
桜野「そうねぇ……。これは難しい問題ね。でも、恋愛経験豊富な私に言わせれば──」
杉崎「男と手繋いだことさえないくせに……」
桜野「普通に告白すればいいと思う」
杉崎「なんかテキトーなアドバイスした──────!」
桜野「知弦はどう思う?」
知弦「そうね……好きにすればいいんじゃないかしら。私には関係ないし」
杉崎「パーソナリティがリスナーに冷てぇ──────!」
桜野「真冬ちゃんはどう?」
真冬「え? そ、そうですね……。えと……真冬は……。……わかりません」
杉崎「まさかの『わかりません』発言キタ──────!」
桜野「深夏は?」
深夏「当たって砕けろ! 以上!」
杉崎「もっとリスナーのハートを丁重に扱おうよ!」
桜野「黒兎は?」
黒兎「え? そうだな……相手と会話をすることで仲を深め、自分を知ってもらう。その中で自分に好意を寄せてもらえるように努力するか、告白を断れない状況を作り出すか、だな。
仮に振られても、相手の意思を尊重することが大切だ」
杉崎「一人真面目だ──────!」
桜野「次のお便り。『妹は預かった。返してほしくば、指定口座に──』……ん? あれ? これ、間違いメールね。ちょっとスタッフ―、しっかりしてよぉー。まったく。……じゃ、次」
杉崎「スルーしていいの!? 今の内容、そんな簡単にスルーしていいの!?」
黒兎「安心しろ、杉崎。どこからお便りがきたか、ちゃんと記録とってあるから」
杉崎「なら急いで警察に……」
桜野「『生徒会の皆さん、こんばっぱー』こんばっぱー!」
杉崎以外『こんばっぱー!』
杉崎「だから、なんでこれだけ皆ノるの!? いつ打ち合わせしたの!? さっきの誘拐犯もどきも気になるし」
桜野「『くりねえ。どうしよう。私、お金が早急に必要で……。というのも、うちの妹が誘拐されちゃって、両親が金策に走り回っているんだけど、集まらなくて……どうしたらいいかなぁ』」
杉崎「ディープなお悩みキタ──────! っていうか、ここにメールする以前に、警察に連絡しろよ! それに、間違いなくさっきのメールに関連してるな、これ!」
桜野「黒兎。どう?」
黒兎「ん。問題ない」
桜野「では、ラジオネーム《被害者の家族》さんには、黒兎から、《まとまったお金》をプレゼント! 待っててね!」
杉崎「ええええええええ!? 用意すんだ! しかもクロさんから!」
黒兎「大丈夫だ、俺の口座には使われないお金がいっぱいあるからな」
桜野「よし、じゃあ、ここで一曲。先日私が出したニューシングル。《妹はもう帰ってこない》を聴いていただきましょう」
杉崎「空気読め───────────────────!」
桜野「どうぞー」
♪ 《妹はもう帰ってこない》フル再生 ♪
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3.放送する生徒会②
♪ 《妹はもう帰ってこない》 ♪
桜野「じゃあ、ここで恒例のコーナー。《
杉崎「…………。……そ、それはちょっと聴きたいかも」
桜野「このコーナーは、リスナーから送られてきた恥ずかしい百合っぽい脚本を、椎名姉妹が演じるという、人気コーナーです」
杉崎「人気な設定なんだ……。俺が言うことじゃないけど、ここの生徒、大丈夫か?」
桜野「私個人的には好きじゃないんだけどね……。ほら、ご機嫌取りよ、ご機嫌取り。これやっておけば、とりあえず、生徒は満足だろうから」
杉崎「だからそういう発言は、本番中にしないで下さい!」
桜野「大丈夫よ、多分。じゃ、椎名姉妹、よろしくー。はい、これ、台本」
真冬「う、うぅ……ホントにやるんですか?」
深夏「うわ、なんだこれ! こんなの読んでられっかよ!」
桜野「こら深夏! 逃げないで! これを乗り越えてこそ、ホンモノの副会長よ!」
杉崎「副会長の資格とまるで関係ないでしょう……」
深夏「……やるしかねーようだな」
杉崎「なんで納得してんの!?」
真冬「真冬も……覚悟を決めました」
杉崎「なにキッカケで!?」
杉崎「貴女はどうして変なところでだけ、思い出したように発言するんですか!」
黒兎「二人がいいなら、いっか」
杉崎「クロさん諦めないで!」
桜野「じゃ、いってみよー」
♪ 耽美なBGM ♪
『真冬……。あたし、もう……』
『あぁ、おねぇちゃん……。んっ! あ、はぁはぁ』
『真冬……可愛いよ、真冬……』
『おねぇ……ちゃ……。……んん!』
杉崎「待て待て待て待て待て! 個人的にはドキドキワクワクだけど、これは、校内放送でやっていいレベルじゃないでしょう!?」
知弦「クーちゃんなんてもう危ないわよ」
黒兎「録音状況の確認するからって、なんで俺だけ見るからに高そうなヘッドホンなんだよ……。一人だけ音質めっちゃいいんだぞ……」
杉崎「クロさん……。羨ましいというか、お疲れ様というか……」
知弦「クーちゃん……。よしよし」
桜野「こ、これは、なんか、やりすぎたわ」
真冬「えええええ!? こ、これだけやらせておいて!」
深夏「ひでぇ! そういう反応されるとあたし達、本格的にいたたまれねーじゃねーか! ……まあ
知弦「……椎名姉妹の絡みは、放送コードにひっかかるわね。クーちゃんのためにも、そういうディープなのは、プライベートだけで留めてくれるかしら」
深夏「勘違いされるようなこと言うなよ! プライベートはこんなんじゃねー!」
真冬「そ、そうです! リスナーの皆さん、信じないで下さいっ!」
知弦「……そうね。うん。ここは、そういうことにしておくべきだったわね。軽率な発言して、ごめんなさい、二人とも」
椎名姉妹『もうやめてぇぇぇぇぇぇ!』
杉崎「知弦さんに抱きしめられながら頭撫でられてる……。やっぱクロさん羨ましい」
桜野「さ、さて、じゃあ、次のコーナー! 《杉崎
杉崎「なんですかそのコーナー!」
桜野「このコーナーは、校内でもし誰かを殴りそうなほどカッとしてしまったら、とりあえず、杉崎を標的にして発散しましょう、というコーナーです」
杉崎「俺の人権は!?」
桜野「生徒のいざこざを解決するのも、生徒会の仕事。というわけで、今日も揉め事がありましたら、二年B組の杉崎までご連絡を──」
杉崎「するな──────────────!」
桜野「仕方ないわね……。希望者もいないようだし、きょうはこのコーナー飛ばすわ」
杉崎「なんで俺の担当だけ、そんなコーナーなんスか……」
桜野「じゃあ、次は私のコーナー! 《桜野くりむのファンレター》!」
杉崎「明らかに差別してね!? コーナーの格差が激しいですよねぇ!」
桜野「匿名希望さんからのお便り。こほん。『桜野くりむ様。貴女の可愛らしさを見る度に、僕の心はいつもドキドキときめいて──』」
杉崎「ファンレターと言うより、ラブレターじゃないですか! 誰だ! 俺の女にちょっかいかけるヤツは! いい度胸だ! 出て来い! 俺が相手して──げふっ」
桜野「な、なにを口走ってるのよ、貴方は!」
杉崎「だ、だって、俺の彼女にラブレターなんて送るヤツがいるから……」
桜野「私は杉崎の彼女じゃないよ! ラジオ放送で変なこと言わないの!」
杉崎「すいません。カッとなってやりました。反省はしていません」
桜野「なんでそんなにふてぶてしいの!?」
杉崎「うぅ……。で、でも、その、勘弁して下さい。その会長への手紙のコーナーは、俺が嫉妬に狂ってしまって、耐えられません」
桜野「う……」
深夏「…………どうでもいいけど、イチャついてないで、早く進めろよ」
桜野「い、イチャついてなんかいないわよ! 深夏まで変なこと言わないで! も、もう……調子狂うわね。こほん。……じゃあ、次のコーナー……」
真冬「あ、なんだかんだ言って先輩の希望通り、手紙読むのやめてくれるんですね」
黒兎「桜野だからな。知弦、ありがと。もう大丈夫だ」
知弦「そう? もうちょっとあのままでもよかったのだけれど……」
桜野「う……。と、とにかく、次! 《黒兎の人生相談》!」
黒兎「あ? 俺?」
桜野「じゃあ、これお便りね。よろしくー」
黒兎「はいはい。えーラジオネーム《赤とんぼ》さんから。《黒兎先輩、生徒会の皆さん、こんばっぱー!》こんばっぱー」
女性陣『こんばっぱー』
杉崎「忘れたころに!」
黒兎「えー『一年付き合った彼女と最近別れました。それはもう、人に話せないほど酷く。僕は何もしてないのに、一方的に。死にたいとすら思います。どうしたらいいですか』か……」
杉崎「予想以上に重い相談だ────!」
桜野「確かに、これは重いわね……」
杉崎「……相談する場所間違えてないか、これ?」
黒兎「そうだな……俳優、声優、アニメキャラクターなどなど、好きなものはあるか? まずはそこで好きな有名人、キャラクターをひたすら推す。そして、次に、リアルで恋を探す。恋は生きる糧になる。死んでも死のうとするな」
杉崎「すごい真面目だ……」
桜野「さ、一つ解決したから、次のお便りね」
深夏「会長さん凄くあっさりしてる……」
黒兎「続いては、ラジオネーム《赤い池に浮かぶ羽根》さんから。えー『黒兎先輩、私、前から黒兎先輩のことが──』」
ビリッ
黒兎「……知弦? お便り破ってどうした?」
知弦「いえ、なにかイラッときたから……」
深夏「あれ? 知弦さん、ここに『……なんてね』ってあるけど……」
知弦「そう……」
杉崎「こんなに知弦さんに思われてるなんて……クロさん羨ましい……!」
桜野「じゃあ、お便りもなくなったし、次のコーナー。《学園 五・七・五》」
杉崎「……なんか、急に、普通の定番コーナーですね……」
桜野「うん、ネタ切れだからね」
杉崎「言っちゃうんだ!」
桜野[このコーナーは、リスナーが考えた、この学園にまつわる面白おかしい五・七・五を、紹介するコーナーです]
杉崎「逆に危機感を抱くほど、ありきたりなコーナーですね」
桜野「こほん。では、いきましょう。匿名希望さんからの五・七・五」
『燃えちまえ メラメラ燃えろ 杉崎家』
桜野「……素晴らしい詩ですね。情景が目に浮かぶようです」
杉崎「…………」
桜野「? えっと……杉崎? 私が言うのもなんだけど……ツッコマないの?」
杉崎「いえ……。…………。すいません。リアルに身の危険を感じて、テンションが上がりにくいです」
桜野「あー……」
深夏「………ちょっと笑いのレベル超えていたよな、今のは………」
真冬「真冬も、若干引いてしまいました」
知弦「まあ、でも、そうよね。キー君って、そういう立場よね、基本。皆の憧れの美少女たちが集まるコミュニティに在籍しているだけでもアレなのに、その上、自分から『攻略する』だの『ハーレム』だの宣言しているんだから……自業自得?」
黒兎「困ったことがあれば教えてくれ。助けてやるから、報復まで。あと、俺は男だぞ、知弦」
杉崎「う、うぅ……。え、ええい! 構うもんか! クロさんだって手伝ってくれるしな! ここは俺のハーレムだ! 文句あるヤツ、喧嘩なら買うぜ! だから──」
桜野「だから?」
杉崎「火、つけるのだけは勘弁して下さい。すいませんでした」
桜野「……杉崎がラジオなのに泣きながら土下座したところで、次のお便りいこうか。これも……ええと、匿名希望みたい。こほん」
『金がない 勢い余って 人さらい』
杉崎「犯人コイツかぁ────────────────────!」
桜野「え? なに? どういうこと?」
杉崎「いや、だから、さっきの誘拐事件の──。い、いえ、そんなことより、コイツの名前と住所! 書いてないんですか!」
桜野「それはないけど……追伸で『二万円も要求してやったぜ!』とはかいてあるわ」
杉崎「二万円かよ! 安いな、うちの生徒の妹の身代金! なんで両親用意できねーんだよ!」
桜野「私に言われても……。杉崎。世の中には、恵まれない人もたくさんいるんだよ」
杉崎「そ、そうですけど! ……なんかこの事件……割と浅い気がしてきました」
黒兎「そんなの誰もが気付いてるよ。やばそうだったらとっくに俺が警察に言ってる」
杉崎「それもそうですね」
桜野「さあ、ラジオを続けましょう」
杉崎「放送中に決着つきそうッスね……誘拐事件」
桜野「次は《後輩一号》さんからの五・七・五」
『黒兎様 校門横で 待ってます』
杉崎「クロさんばっか羨ましいんですけど!?」
黒兎「んなこと言われても……ん? 知弦?」
知弦「クーちゃん、この女性に憶えは?」
黒兎「んー、多分、文芸部の梶原さんかな」
知弦「そう。……ちょっとお花を摘みに行ってくるわね」
黒兎「待て待て。知弦、待て。なんもないから。よしよし」
知弦「クーちゃんがそう言うのなら……」
黒兎「よしよし、いい子だ」
桜野「……私たちは何を見せられているのかしら……」
杉崎「くっ……知弦さんが可愛い……がしかし、なぜ俺でないんだ! クロさんのバカ! アホ! 黒兎!」
黒兎「黒兎は悪口じゃねえよ……」
桜野「さて、気を取り直して、最後の五・七・五です。こほん」
『真面目にさ 仕事をしろよ 生徒会』
杉崎「一般生徒の素直な反応キタ──────────!」
桜野「まったく、失礼しちゃうわね」
杉崎「いえ……俺が言うのもなんですが、すげぇ気持ち分かります」
深夏「あたしも分かる」
真冬「真冬も分かります」
桜野「なによ! やるべきことはちゃんとやってるわよ!」
知弦「やらなくていいこともやっているけどね」
黒兎「むしろ、やらなくていいことの方が多いしな」
桜野「不愉快だわ。このコーナー、終了」
杉崎「そういう態度が駄目なんだと思います!」
桜野「さて……じゃあ、そろそろ終わりも近いし、フリートークしましょうか」
杉崎「今までも充分自由でしたけど……」
深夏「お、会長さん。メール来てるみたいだぜ」
桜野「え? なになに?」
真冬「ええと、ですね。『妹が誘拐されていた件ですけど、無事解決しました』らしいです。良かったですね!」
杉崎「おお……解決したか。良かった良かった」
知弦「……ちっ」
黒兎「あーあ、面白かったから助けたのに」
杉崎「すげぇ聞こえてますけど、知弦さん。今の舌打ち。それにクロさんも、今危ない発言を……」
知&黒『なんのこと?』
杉崎「録音&放送されているっていうのに、なにその自信満々な開き直り!」
黒兎「録音状況見てるの俺だし」
杉崎「そうだった!」
知弦「でも……随分あっさり解決しちゃったわね。どんな犯人だったの?」
真冬「ええと……よく分からないですけど、最終的には、攫われた妹さんが、自分で、犯人を叩きのめしたらしいです。犯人さんは……今、重体です」
杉崎「二万円欲しかっただけの犯人────────────────!」
真冬「妹さんも、基本的には犯人さんに遊んで貰っていただいただけのようですよ。でも……このラジオをたまたま聴いていて、自分が攫われていることに気付いて、慌てて、犯人をボコボコに……」
杉崎「俺たちのせいかっ!」
深夏「結局、なんで二万円欲しかったんだ、コイツは……」
真冬「えと……ですね。メールによると……うん、なんか、犯人は、意識を失う前、『この子の姉に……貸したままの二万円を……返してほしかった……だけなのに。ガクリ』と倒れたそうです」
杉崎「いたたまれね──────! っていうか、諸悪の根源は姉か! リスナーか!」
真冬「そのリスナーさんから送られてきたメールの最後は、『悪は滅びるのよ! あっはっは』で締めくくられています」
杉崎「このラジオのリスナーはろくでもないな!」
真冬「ま、まあまあ。一件落着ということで……」
杉崎「……俺、この放送終わったら、犯人のとこ見舞いに行くわ。助かってくれ……」
黒兎「ほい、杉崎。例の犯人が入院している病院だ」
杉崎「クロさん……ありがとうございます」
桜野「こ、こほん。ええと……色々ありましたけど、このラジオも、そろそろ、お別れの時間が来たようです」
杉崎「やっとか……。短い番組の割に、驚くほどディープだった……」
桜野「最後は、『今日の知弦占い』でお別れです。それでは皆さん、また来週」
♪ 神秘的なBGM ♪
知弦「では、今日の知弦占いを。
当校の獅子座のあなた。近日中に、『世にも奇妙な物語』っぽい事態に巻き込まれるでしょう。注意して下さい。タ〇リを見かけたら全力で逃げなさい。
ラッキーカラーは《殺意の色》。どす黒いか、深紅か、その辺は各々のイメージに任せます。
ラッキーアイテムは《核》。常に持ち歩けるとなおよし。貴方がメタルギアなら。それも可能となるでしょう。
最後に一言アドバイス。
以上、知弦占いでした」
杉崎「怖いですよ! 獅子座の人間、今日が終わるまでビクビクですよ! って、クロさんがビクビクしてるぅ!」
黒兎「カラーはいいが、アイテムが……」
知弦「また来週、この時間に会いましょう。……獅子座以外。
クーちゃんは私といましょうか。占いした本人だし、加護か何かがあるでしょ」
黒兎「お、おう」
杉崎「獅子座ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!
そしてクロさんは羨ま死ねぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええ!」
♪ ED曲《弟は白骨化していた》♪
「今日の放送は大好評だったねー!」
例の放送があった日の放課後。桜野は大満足の顔で、生徒会室生徒会室でふんぞりかえっていた。知弦も、楽しそうに、嬉しそうにニヤニヤしている。……俺の頭を撫でながら。そんな俺はというと、杉崎や椎名姉妹と同様に、グロッキー状態である。
桜野に聞こえないように杉崎と
二人の会話が終わったであろうタイミングで桜野が訪ねる。
「二人のクラスではどうだった? みんな、大絶賛だったでしょう!」
『うぐ……』
桜野の純粋な目で見つめられ、二人そろって視線を逸らす。
杉崎はぎこちなく笑う。
「え、ええ……。大人気でしたよ」
「そうでしょう!」
「ええ……そうですね。言うなれば、小学生のなりたい職業ランキングにおける。『会計事務』と同じくらい、大人気でしたよ!」
「それ、人気なの!?」
桜野は首をかしげる。杉崎はうまくごまかせたようだ。
「黒兎のクラスは?」
「そうだな……こっちも人気だったぞ。具体的には、中高生の人気ライトノベルランキングでの『ゲー〇ーズ』くらい人気だった。二年間同じ学年だったってのも影響してんのかもな。……まあ色々面倒なことはあったが、いいとしよう」
「それはかなり人気だったみたいね! 真冬ちゃんのクラスでも、人気だったよね!」
「え」
俺がくだらない思考をしていた時、妹は歪な笑みを浮かべ、震えながら桜野に返す。
「は、はい。そ、そうですね……言うなれば、スーパー〇リオブラザーズにおける『逆さメット』ぐらい、大人気でしたよ!」
「それは本当に人気と言えるの!?」
妹も杉崎同様、うまくかわせたようだな。
桜野は気が緩み、実に満足げだ。……はあ、めんどくさい。
「じゃあ、第二回もやらないとねー!」
『…………』
俺の頭を撫でていた知弦の手が止まり、桜野以外の全員が嘆息する。
全員でアイコンタクト会議を行う。
(どうしますか……。会長、まだやる気ですよ)
(アカちゃんにしては、執着が深いわね……。一回やれば満足するとふんでいたのだけれど。下手にクラスメイトが気を遣ったことが、裏目に出たわね)
(というより、クロさんのクラスはホントにそんなに人気だったんですか?)
(ホントだよ。異様なことに、なぜかな)
(で、どうすんだよ……あたし、もう、あんなの勘弁だぜ)
(真冬も、もう、無理ですぅ……)
桜野が上機嫌で次の企画を練る間、全員が考え込む。
すると、杉崎が動き出した。
「会長」
「ん? なぁに、杉崎」
「その……ですね。こういうのは、ほら、たまーにやるからこそ、味が出るんじゃないかと」
妥協案の提示か。やるな、杉崎。
「? どういうこと?」
「つまり、ですね。二回目をやるにしても、ある程度間をおいた方がいいんじゃないかと……」
「…………」
桜野は考え込む。桜野の、流行に流されやすい、という性格を考えての作戦。期間を開けて、忘れさせる気か。桜野と杉崎以外の皆が、杉崎にグッと親指を立てた。ナイス、杉崎。
桜野は顔を上げ、笑顔で返す。
「そうねっ! このラジオはクオリティ重視だもんね!」
「え、ええ」
「わかったわ、杉崎! 次は……そうね。一ヶ月は置いてからにしましょう」
「そうですね」
全員胸を撫で下ろす。
杉崎のおかげにより、少なくとも一ヶ月はラジオの第二回はやらないことに決定した。
しかし――
「じゃあ次は、生徒会のPRビデオの撮影にかかりましょう! ようやく、映像用の機械も揃ったのよ!」
ドンッと、机の上に置かれる、大きなビデオカメラ。
…………。
『え?』
全員、信じられないものを見たように、固まる。
桜野だけは……ニッコリと、微笑んでいた。
「さぁ、これからが本番よ~!」
『…………』
……………………。
『いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!』
クラスメイトはラジオが面白かったんじゃなく、疲れててハイだっただけか。そういや放送部員多かったな、うちのクラス。放送部員じゃないやつも、力仕事とかで駆り出されたのか。
これこそ、世にも奇妙な悲劇だよ。
夜、月明かりのみがあたりを照らす港。そこに一組の男女の影が。
男は死体の上に座り、タバコを吸っている。男に向かって、女が心配そうに問う。
「ラビット、どうした? 今日はいつもより荒ぶってたよ」
彼女はキャット。乱雑に伸ばされた黒髪に活力のないダウナーな瞳、グラマラスな体型をした女性。今はライダースーツを着ているためか、身体の形がはっきりとわかる。
「別に、生徒会だ」
「そう」
「さぁ、休憩も終わり。次の仕事だ。今日はあと一件残ってんだ。行くぞ、キャット」
「勝手に休憩だって言ってタバコ吸い始めたくせに……。ぼくを置いていくなよ、ラビット。これ終わったら奢れ。今日は飲みたい」
「仕方ねえ、いいぜ」
近くに止めてあった黒のハーレーにラビットがまたがり、エンジンをふかす。後ろからラビットに抱き着くようにキャットが乗る。
「落ちんなよ」
「落ちないよ。ラビットの後ろは安全」
二人は、夜の街へと消えていく。
生徒会の一存で一番好きなストーリーを書ききりました。あー、モチベが下がる音が聞こえる。
オンライン授業……めんどくさい……。
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4.更生する生徒会①
「人生やり直すのに、遅すぎることなんてないのよ!」
何気聞き飽きた名言ではあるためか、
しかし。
「貴方に言ってるのよっ、杉崎!」
桜野はビシッと杉崎に人差し指を突きつける。またなにかやらかしたのか、杉崎は。
杉崎が目をぱちくりさせていると、隣の
「確かにこいつ、早急に人生をやり直す必要があるよなー」
姉が桜野にそう返しながら、腕に込める力を上げる。
「いいわね。今のキー君もいいけど、更生したキー君というものにも興味があるわ」
「ちょ、更生って! 俺は元から超真面目人間――」
杉崎の言葉が止まる。首を絞める姉の力が強まったのだろう。見ていて楽しい。杉崎は姉に「ギブ」の意を伝えるも、完全に無視されている。
「更生された杉崎……。いいかもな、それ」
「
俺と
「なにげに……今の俺を全否定された気がするよ。それに、俺の唯一の良心であるクロさんまで……」
杉崎は姉の腕をはずそうともがきながら、俺たち二人に視線を送る。
妹は目を逸らし、「お、お姉ちゃん、そろそろ放してあげてよぅ」と姉に頼む。
そうして、可愛いであろう妹からの要請を受けた姉はというと……。
「ごめん、真冬。お姉ちゃん、生まれて初めて真冬のお願いを……却下する!」
「なぜこんなところで!?」
激しいツッコミと同時に、杉崎の首が更に絞まる。
ガクッ。
急に意識を失った杉崎を、姉は突っ伏すような形で机に置く。
「……おーい?
「『やっちゃった』ってなに!? お姉ちゃん!?」
「ちょ、
意外そうな顔をする姉に詰め寄る、焦った様子の妹と桜野。
「おお勇者杉崎! 死んでしまうとは何事だ! 仕方のないやつだ。お前にもう一度機会を与えよう! 戦いでキズついたときは碧陽学園に戻り、生徒会室に泊まってキズを回復させるのだ。再びこのようなことが起こらぬことをワシは祈っている!」
「
「『もう一度機会を与えよう』って、何様よ! それに、機会って一体何の機会よ!」
俺のドラ〇エネタに妹がツッコミを入れたことに少しビックリしたが、多分と言うあたり妹も杉崎が死んだと思ってるみたいだ。……桜野の疑問には、残念ながら答えることはできない。
「生徒会室で初の死人ね……。まさかこういう展開になるとは想定していなかったわ……。仕方ない。隠しましょう。五人で。ここからは桐〇夏生の『OU〇』的展開で読者を獲得していきましょう。前にクーちゃんから聞いたことも試せるしね。……ふふふ。腕が鳴るわ」
「試す、か。……ははは。じゃあ、俺も頑張って手本でも見せてやりますか」
知弦は棚からのこぎりを出し、俺はカバンから二本のククリナイフを出す。
「ちょ、知弦?
「おい、桜野。抑えててくれ」
「その間に四肢を切断──」
「されてたまりますかぁああああああああああああああああああ!」
杉崎が慌てて起きた。全員がボーっと杉崎を見る。
姉がぽつりと呟く。
「あ、生き返った。……つまんねーの」
「軽くね!? 俺の生死の扱い、軽くね!?」
「隠し通す自信あったのに……」
「だな……。空気読もうぜ、杉崎……」
知弦が残念そうにのこぎりを棚にしまっていた。俺もしぶしぶククリナイフをしまう。
「なんで生徒会室にのこぎりが常備されてるのよぅ。知弦はなんでか当然のように場所を知ってるし。黒兎はナイフなんかなんで持ってるのよぅ」
桜野、それは機密事項だ。
「よ、良かったですぅ」
唯一。妹だけが目尻に涙を浮かべて、安堵の溜め息を漏らしていた。
「お姉ちゃんが人殺しにならなくて、本当によかったですぅ」
「そっち!?」
……相変わらず無邪気に酷い子だこと。
ふと桜野に視線を向けると、桜野は杉崎を真剣に見つめている。
杉崎も桜野を見つめ返す。
「会長……」
「杉崎……」
「……ボクは、死にません。貴女が、好きだから」
「……杉崎……」
杉崎が桜野に向かって、唇を突き出している。
「……はあ」
「?」
桜野は大きく溜め息をつく。そうして、深く着席して、再び嘆息。杉崎は意味がよく理解できていないようで、首を傾げている。
「あ、やっぱりファーストキスは、二人きりが良かったですか?」
「……はあ。ちょっとは期待したんだけどなぁ」
「? キスですか? いえ、俺の方は準備万端ですけど……」
「……ちょっと、期待したのよ。『馬鹿は死ななきゃ治らない』って言うでしょ?」
「はい?」
桜野は再び杉崎にビシっとひ人差し指を突き付ける。
「一回臨死体験したら、マトモな人間になるんじゃないかって、期待したのっ!」
「……ああ、なんだ、そんなことでしたか。大丈夫ですよ、会長!」
「なにが?」
「俺はとてもマトモです!」
「それがマトモな人間の発言じゃないわよ!」
杉崎は俺らに同意を求める。
「皆、俺、マトモだよな!」
『…………』
俺を含む全員が気まずそうに顔を背ける。
杉崎は凹んでしまい、どんよりとした気分で着席した。桜野が「こほん」と、ロリな容姿に似合わない、仕切り直しの咳払い。
「とにかく、杉崎は更生すべきだと思うのよ。うん。仮にも生徒会副会長なんだから、それなりの威厳はないといけないと思うの」
「……威厳、ねぇ」
「杉崎に威厳?」
杉崎が桜野を嘗め回すように見てから、嘆息する。俺は威厳を持った杉崎を想像して違和感を抱いた。他の生徒会メンバーは全員苦笑している。
視線に気付いた桜野、もう一度咳払いす。
「と、に、か、く! 今日は杉崎の性格を改善しましょう! それがいいわ!」
「またえらく急だな、桜野」
「クロさんの言う通りですよ。どうしたんですか、会長」
桜野は鞄をごそごそとあさり、「これよ!」と何かを突き出す。
どうやらそれは新聞部が不定期で掲示板に張り出す、壁新聞のようだった。ゴシップ好きの新聞部部長、
姉がわざわざ声に出して読み上げる。
「なになに? 『速報! 生徒会副会長・杉崎鍵は、昔二股をかけていた!』だぁ?」
「あらあら、大変ねぇ、キー君」
「酷い記事です! 抗議しないとっ! す、杉崎先輩はそんなことする人じゃあ……。…………。……ごめんなさい」
「ちっ」
知弦は大変と言いつつ、楽しそうにしている。フォローをしていた妹は、普段の杉崎を思い出したのか、急に杉崎に謝った。杉崎の過去を知っている俺はただただ機嫌が悪くなっていく。
全員の反応を見た後、桜野は新聞を机の上に置いて、また杉崎を指差す。
「生徒会役員ともあろう者が、こんな記事を書かれて!」
「……あの新聞部は好きですからねぇ、こういうの」
杉崎が新聞を手に取り、内容を読み始める。
怒りをため込んでいた桜野が杉崎に問い詰める。
「杉崎! まずは、その記事の内容が事実かどうなのか、ハッキリして貰いましょうかぁ!」
昨日から夏休みに入りました。友人との約束で、夏休み期間は毎日投稿することに……。昨日の分は……今日二つ投稿するから!
私、一応受験生なのですが……。はぁ……。
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4.更生する生徒会②
すいません!!
「
「あ、会長。もしかして嫉妬ですか? 俺の過去の女が気になって──」
「そうやって逃げようとしても駄目よ!」
逃げようとした杉崎は、「会長モード」の時の
更に
「キー君。アカちゃん、こうなったら事実確認とれるまでずっと騒ぎ続けるわよ? わかるでしょ? 諦めなさい」
「分かってますけど……」
杉崎はどうしたもんかと悩んでる。仕方ない……後押しするか。
「杉崎」
「なんですか、クロさん」
「大丈夫だ、なにがあってもここにいる連中は、お前を否定しない。それに、俺は何があっても杉崎の味方だ」
「クロさん……!」
杉崎が真剣な目で桜野に向き合う。
「結論から言って、事実です。俺は、昔、二股かけてました」
杉崎が真剣だからか、桜野は杉崎につっかかるようなことしなかった。
それは、知弦や
桜野は「そう」と息を吐いて着席すると、「で?」と促してくる。
「杉崎は、詳しい経緯を話す気はないのね?
「はい。今は、勘弁して下さい」
杉崎の言葉に、桜野は嘆息した。そうして、続ける。
「でも事実なのね」
「はい。クロさんが証人として存在します」
「確かに知ってはいるが、証人って言い方やめろよ」
「黒兎がね……。まあ、いいわ。弁解する気は?」
「ありません」
「そう」
「はい」
「ん、わかった。じゃ、この件はこれでおしまいっ!」
桜野はそういうと、んっと背伸びして、スッキリした顔をする。
そうして、いつものように杉崎につっかかる。
「さて、杉崎! 早速更生するために色々するわよ! そんな記事が何度も書かれちゃ困るんだからねっ!」
「……そうですね。まあ、更生というより、表面を取り繕うぐらいはしましょうかね」
そう言って、杉崎は微笑む。
……やっぱり、桜野は人間として素晴らしい。過去を責めず、今と未来のために動こうとする。
能力で生徒会長になったわけではなく、人間性でなったとでも言うかのような。
そんな魅力は、ほかのメンバーも同様に持っている。気付くと、皆、いつもの皆に、いつもの笑顔に戻っていた。……俺は、いつものように笑えてるだろうか。
「ま、
「そうだぜー、
「こんなことでケチつけられちゃ、それこそつまらないわよ、キー君。ハーレムを保ちたいなら、ちょっとガードを固めるぐらいはしないと」
「こんなことでめげる奴は俺の知ってる杉崎じゃあないな。いつもの自分を思い出せ」
皆、もう二股のことについては触れようともしなかった。皆、杉崎の想いを尊重している。
この生徒会の暗黙の了解。本人が拒絶したら、深く入りすぎない。居心地のいい、ぬるま湯のような空間。この空間に、俺たちは救われている。世界が厳しいんだ、この生徒会ぐらい、ぬるま湯で丁度いい。
杉崎はニヤリと笑い、いつものように告げる。
「しょうがないなぁ。皆がそんなに俺を求めているなら、俺も、つまらないことで足元掬われないように気をつけてみますかぁ」
「いや、別に杉崎がいなくなるのは構わないけどね。生徒会のイメージがね」
「ふふふ、分かってますって、会長。会長がツンなのは、充分に理解──」
「いや、本気で」
「…………」
気のせいか、皆の眼が暗く輝いているように見える。……憐れ、杉崎。
「で、更生って、具体的に何をするんです?」
空気に耐え切れなくなった杉崎の質問に、「ふむ」と桜野が腕を組む。
杉崎がだらしない表情を浮かべる。杉崎ぇ……。
「杉崎。まずはその、変態的なこと考察している時のアホ面を改善しようか」
桜野はジト目で杉崎を見る。
「む。俺は、いつだって真面目に思考してますよ!」
「真面目に思考するテーマがいつも変態的なのよ!」
「ど、どうして俺の思考テーマが分かるんですかっ!」
「いや、分かるだろ。顔に出すぎだ、バカ」
「ホントですか、クロさん!? この俺のカッコいい顔が崩れている……だと!?」
「その自意識過剰なリアクションも駄目!」
「ええぇ!」
「いい加減マスオさんも封印しなさい!」
「シット!」
「意味もなく外人かぶれしない!」
「無念!」
「必要以上にキャラ作らない!」
「……でも、一応主人公だし……」
「なんの!?」
「このエロゲ……『ハーレム生徒会、大征服♪~副会長、私を食・べ・て♪~』の」
「この世界はそんなタイトルの世界だったの!?」
「ええ、今は会長ルートで攻略中です。まずはメインヒロインっぽい人からでしょう」
「だったら桜野以外の好感度上げようとするなよ」
「……って、そういう頭おかしい発言も禁止!? 黒兎もツッコミがずれてる!」
「そんな! そんなことしたら、この物語、かなりオーソドックスですよ!」
「貴方はなんの心配をしているのよ!」
桜野の体力が尽きた。
しかし、桜野を倒した杉崎の前には好戦的な目で杉崎を眺める知弦が。
「キー君の更生は、生易しいものじゃ駄目よ」
「知弦、なにかいい案でもあるのか?」
「ええ。クーちゃんが納得するような生易しさゼロの案が」
「すでに生命の危機が……」
「まずは……そうね。この科学部に作らせた『視線感知眼鏡』をちょっと改造して装着させて、キー君が女性の胸等を見たら即座に電流が流れるように……」
「いつの時代の荒療治ですかっ!」
「古代ギリシアの、とある……」
「スパルタでしょう! それ、スパルタっていうでしょう!」
「あら心外ね。愛の鞭と言ってほしいものだわ。鞭よ、鞭。美少女の鞭よ」
「いくら俺でも、こんな状況じゃ興奮しませんよ!」
「杉崎が興奮しない……だと……?」
「しませんよ! クロさんは俺をなんだと思ってるんですか!」
「変態?」
「否定できない!」
「仕方ないわね。……じゃ、二つ目の案聞く?」
「あるんですか?」
「ええ。まずは、女性を見ると言い知れぬ恐怖心が沸き上がるという催眠術で──」
「三つ目に言って下さい!」
「じゃあ、とりあえず去勢手術を──」
「わぁん! どんどん非人道的になってくー!」
「甘いな、知弦。そこは
「クロさん、それはマジでやめてください!!」
杉崎はがっくりと崩れ落ちた。
知弦は杉崎をいじめて満足したのか、「はふぅ」と恍惚の溜め息を漏らした後、教科書を取り出して俺の元まできて勉強を始めた。
知弦の次は、待ってましたと言わんばかりの椎名姉妹。
「ま、真冬も、色々案、あります!」
「あたしもあるぜー、杉崎鍵改造計画!」
……あの二人も、大分やばめの案を持ってそうだ。まあ、俺も疲れた。俺は鞄から書き途中の原稿を出して、書き始める。時折、分からない問題を質問してくる知弦に答えながら。今日は聞いてくることが多いな、知弦。
…………。……気が付いたら椎名姉妹によって体力を削られ、机に倒れ伏す杉崎の姿が。しかも、
その光景をボーっと眺めていると、杉崎がボソッと呟く。
「更生させるも何も、他の生徒会メンバーも全員変人なんじゃんか……」
杉崎のその言葉に、桜野が反応する。体力が回復したのか、机からがばっと起き上がる。
「ジョーダンじゃないわよ! 私ははマトモよ!」
「会長。自己申告制は駄目ですよ」
「それに桜野は、さっきそう言った杉崎を『マトモな人間の発言じゃない』って切り捨てたよな」
「う……。み、皆! 私は、マトモよね!?」
前回の杉崎に続き、桜野が生徒会に問いかける。
結果はもちろん。
「…………」
ずーんと沈み込む桜野が出来上がった。世の中そんなもんだ。
……更生、か。
俺が思考を始めるのと同じタイミングで、杉崎がぽつりと呟く。
「個性をなくすのが更生だって言うんなら……なんか俺、ずっとこのままでいいって気もしてきました」
「…………」
桜野が死んだ目で杉崎を見る。知弦も教科書から視線を上げ、椎名姉妹も暴走をやめて杉崎を見る。俺も思考の海から意識を戻し、杉崎を見る。
「俺だけじゃなくて、ここに居る生徒会メンバー、全員、ちょっと頭おかしいでしょう?」
「ちょ、だから、私は──」
「はい、黙ってようねー」
桜野が立ち上がり、反論しようとするのを、口を塞いで止める。そして、俺から逃れるために抵抗を始める。杉崎は満面の笑みを浮かべて、全員を見回す。
「でも俺、ここにいる頭のおかしいメンバー、大好きだよ」
「…………」
桜野の抵抗が収まる。桜野を開放すると、赤面しながら咳払いし、着席した。
知弦と椎名姉妹も、温かい視線を杉崎に向ける。
「俺の、ハーレムは、多少性格に難があっても、容姿さえよければモーマンタイなのさ! ああ、なんて心の広い俺! さあ皆! 遠慮しないで俺の胸に飛び込んでおいで!」
『…………』
……杉崎、調子乗りすぎだ。全員がそれぞれの作業に戻っていった。
杉崎が嘆息していると、小さい声で、ぽつりと、桜野が呟いた。
「……いいわよ、杉崎は、そのままで」
「? なんですって?」
「……なんでもない」
桜野は嘆息し、「あーあ、私、変だと思われてるのかぁ」と、また机にくたーっとしていた。
「ええと、それで俺、明日からどうします?」
その杉崎の質問に、全員がちらりと杉崎を見る。
そうして、全員が一瞬微笑し、また自分の世界に入っていった。
……生徒会は今日も平和なり、っと。
ギリギリ間に合いませんでした……。
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5.恋する生徒会①
「恋、だけじゃ駄目なのよ! 愛に昇華してこそ、ホンモノの《恋愛》なの!」
微妙に
「そ、そうですね。ええ、愛は、ないといけませんよ」
「そうよね!」
「え、ええ」
「ねー」
「……ええ」
杉崎が桜野に言い負かされる。憐れ杉崎。
そんな杉崎は隣にいる
「あのお子様会長は、ホント正論ばかりだから、時折反論の余地あねぇんだよ……」
「あー、それは分かる。いやだよなー、正論って」
「『悪いのは分かっているけど、そういう問題じゃないんだよー』っていう感じのこと、多いだろ、世の中。でも、正論を振りかざすヤツっているわけよ。そうやってふんぞり返るヤツっているわけよ。……アレみたいに」
二人は、とても偉そうに胸を張る桜野を見る。
「そう言ってやるな、二人とも。今回の相手は桜野だ。多少は心を広く、な」
「そうは言っても、クロさん」
「今回はちょっと、な」
二人に諭していると、斜め前にいる
「
「あー、分かる。人に迷惑かけてない限り、あんまりそういうことに口出しされてくないよな。それが正論であることなんて、こっちも分かっているんだからさ」
「ゲームは自己満とは言えるけどね」
「そ、そうですそうです!」
「あー、あたしもあるなー、それ。あたしは……信号つき横断歩道でも、どう見ても車が来てなかったら渡っちゃうんだけど……」
「確かに、ルール的に見たら違反だよな、それ。でも……なんかアホらしいよね。特に俺の地元なんて田舎だから、視力1・5の俺が左右見ても、地平線まで車がない時あるわけよ。それなのに、信号待ってるのって……なんか、酷く虚しいっていうか」
「急いでるときは特にそうだな」
「注意されたら、そっちが正しいから、甘んじて受けるしかねーけどな。ううん、まー、悪いのはこっちなんだけど。こっちなんだけどだー。ってなるよな」
俺と杉崎、
「でも駄目よね、ルール違反」
『うっ……』
「テレビゲームは目に悪いから、ほどほどに」
「あぅ」
「横断歩道は、ちゃんと信号確認して渡りましょう」
「うぅ」
「クーちゃんは常に私といること」
「なぜだ!?」
「まぁ、私は暗い中クーちゃんとゲームもするし、信号やクーちゃんより自分の視力を信じるけど。ゲームでダメダメになったこの視力をねっ!」
『一番駄目じゃん(ですよ)!』
「っていうか、なんで毎回俺が出てくるの!?」
正論を振りかざすくせに自分には特例を認める、一番イヤなタイプこと知弦。……ホントになんで毎回俺と一緒なんだ?
そうこうしていると、ようやく桜野が自己陶酔の世界から帰ってきた。「よっこらせ」と席から立ち上がる。
そうして、ホワイトボードに書き出される今日のテーマ。
「『校内の風紀の乱れについて』……ですか。なんか、すげぇ定番ですね」
杉崎の呟きに、桜野はくるりと、笑顔で振り返る。
「定番だからこそ、常に生徒会が真摯に取り組むべきテーマでもあるのよ」
「それに、今一度話し合う必要があるってことは、そういうことなんだろ」
「う……」
桜野と俺の二人からの正論にショックを受ける杉崎。確か今日の星座占い最下位が、杉崎の天秤座だったはず。こんなところに影響が。憐れ杉崎(二回目)。
ボードのテーマを見て、知弦が首を傾げる。
「でも、こういうもは風紀委員に任せるべきじゃないかしら。それに、この学校、割と皆いい子でしょう? 少なくとも、他校に比べたらかなりの優良校だと思うけど」
確かに、知弦の言う通りだ。近隣高校の「音吹高校」は荒れている。他の学校も、あまりいい噂は聞かない。
そんな中、生徒会システムが功を奏しているのか、モラルをもって行動してくれている。「皆で学校を作っている」という意識が高いのだろう。
だからか、風紀委員も生徒会も、そんなに仕事は忙しくない。そんな学園において、わざわざ生徒会で議題に取り上げてまでただすような風紀の乱れなんて……。
しかし、そんな考えに喝を入れるように桜野が大声を上げる。
「なに言ってるの! 乱れているわ! 主に……その……せ、性がっ」
「性?」
真っ赤な顔でそんなことを言うロリ会長に杉崎が尋ねなおす。桜野は「そ、そうよっ」と自分を取り繕いながら話を続けた。
「副会長のせいかもしれないけど。最近、どうも、その、校内でナンパな光景を見ることが多くなった気がするのよっ! その……男女が手を繋いでいたりとか……」
「どこがナンパな光景だよ」
「クロさんの言う通りですよ。手繋ぐぐらい、そんなに問題にするようなことですかね?」
「も。問題よ! 二人っきりでっていうならまだしもその、生徒がたくさんいる前で手を繋いで歩くなんて……不謹慎よ! 学びや舎たる校舎でなんということを……」
「はぁ」
普段からエロゲをやっている杉崎はもちろんのこと、俺や知弦、椎名姉妹もやはり、ぴんと来てないようだった。桜野が少し過敏すぎるような気がする。
姉が、「はーい」と手を挙げる。桜野は「はい、
「会長さんは知らないかもしれないけど、そんなのより大変なことしているのなんて、いくらでもいるぜ? 放課後の校舎内を見てみなよ。ちょっと人気の無いところにいけば、キスは勿論、セッ〇スしている光景なんて、結構な確率で目撃──」
「な──」
桜野が絶句する。しかし、姉はそのまま続けた。
「まー、確かに乱れている言っちゃ乱れてるけどさ。別にいいんじゃねーの? それで誰かに迷惑かけてるわけでもねーんだし。ま、そういう場所通りかかるとすげぇ気まずいけどさ。それこそ愛し合っているってことだろ」
「そうだな。少しは加減してほし気もあるがな。俺は昨日今日と、二日連続で生徒会室に来る前に──」
「退学よ────────────────────!」
言葉の途中で絶叫された。最後まで言わせろよ……。桜野は顔を真っ赤にしながら続ける。
「そ、そ、そんなことしている人を見かけたら、今後は、全部退学! 問答無用で退学! お、おかしいわよ! ここをなんだと思っているの!」
「フラグを立てるための場──」
「杉崎は黙ってて! プレイステショーン5が出るまで!」
「期間なげぇ!」
杉崎の発言権が無くなった中、知弦があくまでマイペースで、クールに告げる。
「でもそれは仕方ないわよ、アカちゃん。性の乱れなんここだけの話じゃないし、生徒会が動いて止められるものでもないわ」
「止めるんじゃないの! 排除するのよ!」
「そんなことしたら、キー君じゃないけど、かなりの生徒が消えちゃうわよ、この学校」
「仕方ないわよ!」
「……アカちゃん。生徒会長は、風紀の乱れを正すのも大事だけど、まず最初に生徒のことを考えるべきなんじゃないかしら。『生徒』の『会』の『長』なのよ」
「う……」
知弦は非常に大人だった。桜野もたじろいでいる。
しかし、桜野は、知弦の説得にも、やはり応じなかった。「やっぱり駄目!」と再度叫ぶ。知弦は諦めたように両手を上げて、俺たちに首を振る。
そんな中、これまで場を静観していた妹が、おずおずと手を挙げた。「はい、真冬さん」と桜野に当てられ、小さく口を開く。
「ま、真冬も、そういうのはあまり得意じゃないですけど……その……したい人には、させてあげればいいかと……」
「したい人?」
「い、いえ、そういう意味じゃなくてっ!」
杉崎の質問に、妹は桜野以上に真っ赤になる。そんな妹の意見に、桜野が「駄目よ!」と、珍しく妹にまで大声をあげる。妹は「ひぅ」と涙目になってしまった。
毎日投稿とか、私には無理ですわ……。してる皆様を尊敬しておりますわ。
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5.恋する生徒会②
「そんなだから、若者の性の乱れが酷いって批判されまくるのよ! どこかで歯止めをかけないと駄目なの! このままじゃ、幼稚な学生がどんどん普通に子供をうんじゃう世の中になっちゃうわよっ!」
「いや、昔はもっと低年齢で嫁いでいたような……」
「と、とにかく! この学校では、そういうことはあってはならないのっ!」
「どうしてですか」
「私が会長だからっ!」
『…………あー』
なんか皆、妙に納得した。確かに桜野のおさめる学校は、もっと純粋であるべきかもしれない。
しかし……。
「そうは言っても、
「え?」
「な、
「ええ。怪談と同じですよ、会長。スリルを楽しんでいるんですよ、そういう人は。だから、むしろ生徒会が躍起になって規制したら、かえって逆効果になるおそれもあるんじゃないでしょうか」
「む、むむ。杉崎にしては珍しく真っ当な意見ね……」
「そりゃそうですよ! クロさんからパスされたってこともありますが、学校でセ〇クス出来ないなんて、夢がないでしょう! 折角学校を舞台にしたエロゲなのに! エロCGに学校シチュがなかったら、興醒めですよ!」
「……とりあえず杉崎を退学にしたら、この学校の校風はかなり改善する気がしてきたわ」
桜野が額に手をやる。杉崎、今のは弁護不可だ。
しかし、桜野はいたって真面目に悩んでるようだ。全員で顔を見合わせる。
そんな中、少し真面目なトーンの声になった杉崎が桜野に訪ねる。
「そういう会長こそ、恋とかしないんですか?」
桜野は「そうねぇ」と呟く。
「たとえしたとしても、ケジメをもって交際するわ」
「ま、それは正論ですけど」
それこそが恋愛の醍醐味というか、なんというか……。人それぞれだし、答えなんてないようなもんだしな。……難しいな。
妹が口を開く。
「で、でも、その、授業中にいちゃついてる……というわけでもないんだったら、一応、けじめはついているとも思いますけど……。こ、校舎内とはいえ、放課後は、もう、生徒それぞれの時間とも言えますし……」
「そうかしら? 私は、制服から私服に着替えるまでは、生徒としての自覚を持つべきだと思っているけど。……不純異性交遊は駄目」
「う……」
桜野正論。制服と私服の差は大きい。
……不純かどうかは一概に判断しづらいけどな。
「桜野はどうしたい?」
「けじめ……けじめをつけてほしいかな……」
「なるほどな……」
うまい落としどころはないものか。
そう考えていると、知弦がペンを回しながら提案する。
「じゃあ、生徒会からのお知らせとして、ちょっとした警告を記したプリントでも配ればいいんじゃないかしら。アカちゃん、それじゃ不満?」
「ん、んー」
桜野は納得いっていないのか、腕を組んで唸っている。
「警告じゃなくて、禁止したいの」
「禁止なら既に校則でされてるわよ。現場を先生に押さえられたら、停学ぐらいにはなるんじゃないかしら、現状でも」
「で、でもでも、今はそんなの、あってないような規則じゃない!」
「だったら、今更アカちゃんが新しく規則を設けても、同じような道をたどると思うわよ?」
「う、うぅ」
桜野は知弦に言いくるめられて、泣き出しそうになっている。
「泣くなよ桜野。知弦も悪気があったわけじゃねえ。なあ、杉崎」
「え、ええ。そうですね。それに、最初に会長、言ったでしょう? 愛に昇華してこそ本物の恋愛だって。問題はそこですよね。お互いを本当に思いやる意味での恋愛をしている人まで……会長は、ルールで縛りたいと思います?」
「う……。そ、そんなことは、ないけど。で、でも、今の生徒達って、そんなの少ないと思うっ! 恋に浮かれているだけで、愛なんて無いように見えるもの!」
ふむ。子供っぽい見た目に中身もアレだが、純粋に物事ってやつを見抜いてる。確かに、「愛」を持ってるカップルなんて、そうそういないだろう。
それに、愛があるからってなんでもしていいわけじゃねえ。それでいて、
雰囲気を変えようと思ったのか、姉が唐突に喋り始める。
「そ、そういえばさー。サッカー部のキャプテンとマネージャーも付き合ってるらしいぜー。でも、あのカップル、もう二ヶ月付き合ってるのに、未だに手さえ握れないらしいぞ」
「……そういうのが、健全です」
桜野が呟く。それは、桜野の理想の恋愛のようだ。
杉崎が「じゃあ」と続けた。
「会長は、例えば大学生なら、エッチなことしてもいいと考えますか?」
「……。……ううん。どう、かなぁ。それでも、校内でそういうことするのは、駄目だと思う。それは、会社員も同じだよ。職場とか学校でそんなことしちゃ、駄目」
「手繋ぐのも?」
「駄目」
「帰宅後にいちゃつくのは?」
「いい」
「高校生は?」
「……帰宅後も。ちょっと、駄目」
「大学生は?」
「……ううん、いい、かな」
「なるほど」
桜野の基準は大分分かってきた。すると、そこに珍しく妹が自分から、ハッキリと意見を桜野に告げた。
「ま、
桜野は、「むぅ」とまた考え込む。
この議題のたどる未来を見据え、危機感を持った俺は、どうようい思っているであろう知弦と杉崎とアイコンタクトを交わす。そうしてから、杉崎が動いた。
「会長の言い分は分かりました。それはもっともなことです。正論です」
「そ、そうでしょう?」
杉崎の加勢に自信がついたのか、桜野は目を輝かせて、胸を張る。そこに、知弦と俺が乗った。
「そうね。アカちゃんの意見はもっともだわ。プリントを配って、次の全校集会でも、注意を促しましょう。職員室の方にも連絡して、取り締まりも厳しくしえもらいましょうか」
「それでも気になるようなら、月に何度か生徒会で校内を見回りでもすればいい」
「う、うん」
桜野に笑顔が戻る。が、やはり、どこか浮かない顔をしている。他の意見を聞いたためか、図書の自分の意見を尊重されても納得できなくなっている。
空気を敏感に察した椎名姉妹も加勢してくれる。
「そ、そうだなー。確かに目に余るものはあるから、ちょっとビシッと言うぐらいで丁度いいかもなー」
「で、ですよね。ま、真冬も、あんまり変な光景は見たくないですし……」
それらの言葉を受けて、徐々に桜野も元気を取り戻し始めた。
「そ、そうよね! やっぱりたるんでいるのよ、皆! ここはビシッと言ってやらないと!」
「わー、会長カッコイイー」
「えへん! 次の集会で、ビシッと言うわよ!」
「…………」
少し考える。集会で……純情会長桜野が……性の乱れについて言及……。
(「み、皆しゃん! あ、か、噛んじゃった……。こほん。み、皆さん。ごきげんよう。気候もめっきり夏らしく……。新緑が……。ええと……。そ、それはさておき。
さ、最近っ。そ、そのっ! こ、こ、校内で、は、破廉恥な行為が目につきます! よ、良くないとおもいまひゅっ! ひゅう。と、とみかく良くないです!
み、皆さん、健全なお付き合いをお願いします! ぺこり!」)
………….
なんか、余計に悪化しそうだった。全員が同じような想像をしたのか、汗をかいている。
杉崎が慌てて提案した。
「つ、次の全校集会ですけどっ! その、俺が挨拶していいですかっ!」
「ふぇ? 杉崎? どうしたの、急に。そんなに張り切って……」
桜野がキョトンとする。杉崎は立ち上がって続けた。
「い、いえ! ほら、俺みたいなやつだからこそ、逆に、そういう呼びかけが効果的になることって、あると思うんですよ! ほら、こんなハーレム野郎に注意されたら、逆に引き締まるでしょう!?」
「そ、そうかな?」
「そうです!」
たじろぐ桜野に詰め寄る杉崎。桜野は気圧されたように、「わ、分かったわよ」と、杉崎に次の集会の挨拶を任せた。
かくして全員がほっと胸を撫で下ろす中、この件は、どういうわけかこの学校で一番不純な心の持ち主である杉崎が恋に浮かれた生徒達に活を入れるという、カオスな展開にもつれこんでいくのであった……。
「それで、その杉崎君の挨拶はどうだったの?」
次の現場まで車で移動していく中、助手席に座ったキャットが聞いてくる。暇つぶしで話し始めた話だが、どうやら大変興味をそそられたようだ。
「お前なら分かるんじゃねえか? お前もあの学校の生徒会にいたんだから」
「そうね。…………ところで、なんで今日は車なのかしら?」
二人は赤のスポーツカーで夜の街を走っていた。
「ハーレーは今タイガーが改造してる」
「はぁ。彼の新しい趣味には困ったものね」
目的地に到着し、車を止めて降りる。
「俺には明日も生徒会があるんだ。さっさと終わらせるぞ、キャット」
そう言って俺は腰にある鞘からダガーを二本抜き、逆手に持つ。それと同じくしてキャットも太腿のホルスターから拳銃を二丁抜く。
「言われなくても」
そう言って二人はとあるビルに向かって駆けた。
黒兎のキャラをイマイチ思い出せない……(オイ、作者!)。黒兎って、どんなキャラでしたっけ?
ヒロインが知弦さんだけでは物足りなくなってしまったんだ。許せ。
久しぶりに言う気がしますが、誤字脱字報告、評価や感想、よろしければお願いします。
……過去話の付けたしや書き直しなど、訂正が多くてすいません。
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6.遊ぶ生徒会
……そもそも見てくれてる人いるのかな?
「大事なのは勝ち負けじゃないの! 努力したか否かなのよっ!」
しかし……今回はその言葉も、誰の心にも届かない。
なぜなら。
「アカちゃん。とっても見苦しいわよ」
「うぐ……」
桜野は長机に散らばったトランプの山を悔しそうにジッと見つめている。……こうしていると、本当に高校生か疑いたくなるほどに子どもだ。高校生の持つ純粋さではないぞ。
負けた人間がカードの回収やシャッフルをする暗黙の了解があったはずなのだが、桜野がすっかり廃人と化しているため、
杉崎がリフルシャッフルからファローシャッフルに切り替えたタイミングで
それに
「ううん……結構色々やっちゃいましたよね……」
知弦は嘆息した。
「そうねぇ。負けず嫌いの誰かさんのせいで、遂にババ抜きなんて原点回帰までしちゃうほど、主なカードゲームはやりつくした感あるわね」
その発言を受けて、全員が桜野を見る。「うぅ」と唸っている。
そもそも、なぜこうなったのかと言えば。
今日は仕事らしい仕事がなく、また、議題らしい議題もなかった。いつも通り駄弁っていてもよかったのだが、たまたま妹がトランプを持ってきていたため、それで遊びながら喋ろうかとなったのだが……。
典型的な真面目人間たる桜野は「いくら仕事がないからって、生徒会でさすがにそれは……」と渋り気味であったが、杉崎が軽い気持ちで、「会長が勝ったら、そこで遊びはおしまい」と提案したことが、この延々と続くカードゲームの始まりだった。
結論から言って。
「絶望的に弱ぇな、会長」
「がーん」
杉崎の呟きに、桜野が更にダメージを受けてうなだれる。
事実、桜野は絶望的なまでにカードゲームが弱かった。いや、顔に出やすい、戦略とか考えてないなど、ある程度現実的理由はあるが、それを差し引いても、弱い。
こうなると負けず嫌いの桜野、遊び反対の立場を忘れているようで、ゲームが終わる度に、結局はこう言う。
「も、もう一回!」
『…………』
その言葉に、あからさま表情にこそ出さないものの、げんなり気味の生徒会役員。いくら遊び好きのメンバーとは言え、やり続ければトランプ自体に飽きは来るし、桜野が負けるほど緊張感が漂っていて、とてもじゃないが楽しめる空気ではなくなる。
杉崎がシャッフルをしながら「じゃあ、次なにしますー」とやる気のない言葉を桜野に投げかけたあと、姉の方に顔を向け小声で話し始めた。
その一方、俺たちは次のゲームを決める話し合いを始めた。
「まず、どんなゲームをやったか上げていこうぜ。まだやってんないゲームが分かんないからな」
「そうね。さっきまでババ抜きをやっていて、その前には神経衰弱、七並べ、ブラックジャック……」
「ダウトもやったよ!」
「そうね、アカちゃん」
「
大富豪か……。革命などを駆使すればうまいこと桜野を(手を抜いていると悟られずに)勝たせられそうだからだろうか。珍しく妹が意見したが、当の桜野は難色を示した。
「大富豪ねぇ。確かに飽きないゲームではあるんだけど……。今の私は、こう、それだけじゃ満足できないのっ!」
「あ、え、あの……。……どうして、ですか?」
「それこそ、まったりしすぎているのよっ! 大富豪っ! なんか『みんなで和気
「そ、それがいいと、真冬は思いますけど……」
「違うの! 大富豪はいいゲームよ? だけど……今の私のテンションとはそぐわないの! 今の私は……こう、技と技がぶつかり、知略と知略が火花を散らし、運要素がいい塩梅に場を乱す……そんな熱いバトルに勝利することを望んでいるのよっ!」
……その技や知略や運が誰よりも劣るからこその今の桜野の状況なんだが……本人はまるで気付いていないらしい。……厄介すぎるぞ、桜野くりむ。
さすがに妹には荷が重すぎたのか、「す、すいません……」と縮こまる。可哀想に。
それを見かねたのか、ようやく、桜野を制御すべく知弦が動いた。
「じゃあ、アカちゃん。ポーカーなんてどうかしら」
「ポーカー?」
ポーカー? と桜野と杉崎が首を傾げる。
ポーカーか……どのカードを変えるかという戦略性はあるが殆ど運の域のゲーム、なんだが……。
そういうことか。
「そういうことなんですかっ、知弦さん!」
「……こくり」
杉崎も俺と同じ考えに至ったのか、知弦に正誤を聞く。
知弦がカイ○ばりのゆったりした時間進行の中、汗をかきながら杉崎に頷き返す。
ギャンブラー紅葉知弦の策略……コペルニクス的発想の逆転。
つまり、桜野を勝たせるのではない。
俺たちが勝たないのだ!
そう、ポーカーなら自分の手札を「役ができないように」調整すればいい。
ポーカーでのイカサマのバレ難さが段違いだ。一瞬の勝負。ゲームの途中で悟られることはまずないだろう。捨て札を伏せて場に置くというルール上、上がり役を第三者が予測することが極めて困難なためだ。しかし、対戦数が多くなり、何度も何度も全員がワンペアが続けば流石にバレるだろう。
これは危険な賭けだ……。だが、充分挑む価値がある。
生徒会室で今、過去最大の戦役が始まろうとしていた。
しかし……俺達は、勝ちに行くんじゃない。
そう、これは、相手を勝たせるための。尊い戦い。
桜野以外が目を合わせ、大きく頷いた。
「いいだろう。カードを取りな!」
「え?」
「面白い! ポーカーは俺が最も得意とするギャンブルの一つだ」
「ちょ?」
「真冬も「魂」を賭けて臨みます!」
「待ってッ!」
「Good!!」
「ほんと待ってぇッ!?」
「
「みんななんで盛り上がってるの!?」
のちに桜野は語る。この時の五人の背後に「ゴゴゴ……」という、いかにもな文字が見えていた、と。
『OPEN THE GAME!』
「私一人蚊帳の外!?」
そうしてこの戦いは始まった……。
「俺のターン! ドロー!」
「ちょ、杉崎!? なに勝手にゲーム始めてるの! っていうか、ポーカーってそういうゲームじゃないでしょう!」
「……今のはただの挨拶です。昔、決闘者と書いてデュエリストと呼ばれた俺なりの流儀です」
「は、はぁ。まあ……ポーカーやるのはいいけどさ」
桜野が一人戸惑う中、杉崎はもう一度だけ念入りにシャッフルし、一つ深呼吸。そうして、全員の顔を確認し、カードを配り始めた。
シャッシャッとカードを配る小気味良い音だけが生徒会室を満たす。桜野は既に場の空気への質問より、次の勝負に関心が向かったようだ。自分に配られるカードを一枚ずつ即座に確認しては、真剣に次のカードを待っている。
全員に五枚ずつ配り終える。俺達はそれぞれ、手持ちのカードの確認にかかった。
ちなみに、このゲームのルールは単純。
手札を見て、
初めにカードを配られた桜野がカードを捨てる。
五枚。
『!?』
全員の顔に緊張が走る。
何か思い当たることがあるのか、杉崎が桜野に話しかけた。
「あ、あの、会長」
「なに? 杉崎」
「その……参考までに、今捨てたカード、見せてもらってもいいですか?」
「? いいわよ? あ、ズルとかする気?」
「い、いえ! じゃあ、俺も手札確定してからにしますから!」
杉崎はそう言って、順番に倣って交換を済ませ、桜野の捨て札を確認する。
「な……そんな……。まさか……。そんなことが許されるのか……神よ」
杉崎はがっくりと崩れ落ちる。その反応に俺と桜野以外の生徒会メンバーは、次々と自分の手札を確定、「私に見せて!」「あたしにも!」「ま、真冬にも!」と、桜野の捨てた五枚のカードをひったくった。
そうして……全員が一様に、ショックを受ける。
俺がため息を吐き、桜野が「え、ちょ、な、なに?」と戸惑う中……彼らは、既に、生ける屍と化していた。
最後に桜野のステカードを確認した妹の手から、はらりとそれが落ちる。
A・A・A・K・K。
フルハウス。
初手から、フルハウス。
それを捨てた桜野は。
「捨て札とかどうでもいいじゃない。そんなことより早くっ!」
おそらく、というより、確実に。
「というわけで、オープン!」
桜野が高らかに告げる。
ブタ・ブタ・ブタ・ブタ・ブタ・ブタ。
桜野を含め、全員がブタ。
そうして、桜野が、杉崎達にとって核にも匹敵する禁忌を、口にする。
「むー。出ると思ったんだけどな……ロイヤルストレートフラッシュ」
『…………』
全員が思った。
『(こいつは……真性の……)』
悟った。
世の中には、『絶対』があるのだと。
桜野がカードゲームで圧勝する日は、『絶対』来ない。
各々が絶望に包まれている中、桜野が自主的にカードをかき集めながら告げる。
「じゃ、次なにするー?」
『!?』
椎名姉妹の目が同様で激しく揺らいでいる。知弦も冷静を保てず、胸の辺りを苦しそうに押さえている。杉崎も、桜野を怯えた目で見つめる。
絶望のどん底にいるみんなを眺めながら、俺は今日一番の大きなため息を吐いた。そうして桜野に、こう提案する。
「まあ待て、桜野」
「ん? なに?」
桜野が疑問で首を傾げながらこちらを向く。生徒会メンバーは期待の眼差しで俺を見る。
「一回限りのポーカーなんてつまらないだろう? どうだ、もう一回やらないか?」
「え? まあいいけど……みんなはどうしたい?」
『やりましょう! 是非!』
「うわっ! びっくりしたぁ。わかったよ、もう一回だけね」
「わかったよ。ルールはさっきと同じでいいよな」
「もちろん」
桜野から了承を得た俺は桜野からカードを奪う。そうして、シャッフルをしながら一つ細工をして、
配り終え、各々が手持ちのカードを確認する。
「じゃあ、また私からだね」
そう言って、桜野は配られたカードを先ほどと同じように捨てる。
五枚。
俺と桜野以外のメンバーが驚愕し、目線で俺に訴えてきた。
いったいどういうことだ、と。
「まあ落ち着け。桜野の顔でも見ろよ」
小声でそういうと、全員が一斉に桜野へ顔を向ける。
桜野は満面の笑みでカードを見ていた。
「みんなどうしたのよ? やらないの?」
『いいえ、そんなことは』
桜野の笑顔に驚きを隠せない面々。
「クロさん、どういうことですか?」
杉崎が小声で聞いてくる。
「どういうも何も、あの顔が全てを物語っているだろう?」
そのときに生徒会メンバーに電撃が走った。
「く、クーちゃん、あなたまさか……」
「俺も早く帰りたいんだよね。ほら、早く役を決めなよ」
知弦の質問に答えずに皆を催促する。
いそいそと各々が役を決めていく。
そして。
「じゃあ、いくよー! オープン!!」
勢いよく桜野が告げた。
杉崎が三のツーペア、姉がAのフォーカード、妹が二のツーペア、知弦がQのスリーカード、俺がストレートフラッシュ。
俺の言葉と桜野の顔で安心したのか、全員がきちんとした役を作っている。
最後に。
桜野が手札を裏返す。
誰かの喉がごくりと鳴った。
ロイヤルストレートフラッシュ。
桜野以外の全員がはぁ、と息を吐きながら脱力する。
「私の勝ちね! さすが私! って、みんなどうしたのよ?」
『いえ、別に』
全員の声が揃った。さすがの生徒会役員もなかなか終わらない戦いに疲れていたようだ。
「会長が勝ったので、トランプは終了ですね」
「そうだな。あぁ……長い戦いだったなぁ」
「ここまで長引くなんて、予想できなかったわ」
「真冬ももうクタクタですぅ」
各々が今の感想を口にする。
「なによ、皆だらしないわね。もっと私を褒め称えなさい!」
『わー流石生徒会長、すごいです(棒)』
「すごく適当!」
ふと時計を見ると、すでに一八時を超えていた。
「さ、時間も時間だ。帰るぞ」
「それもそうね」
「今日の生徒会業務、しゅーりょー」
駄弁りながら帰り支度を始める。最後である俺が生徒会室から出ようとしたタイミングで携帯が鳴る。
「すまん、先帰ってくれ。鍵は俺が返しとくからさ」
「わかったわ」
「最後まですいません」
「じゃあ
「相変わらず会長さんは元気だな」
「待ってよ、お姉ちゃん」
いつも通り、騒ぎながら帰って行く生徒会メンバー。その声が遠く。聞こえなくなってから、俺は電話に出た。
「もしもし。何の用だ?」
「君が遅いから電話したんだ。出れるってことは、今から来るんだね?」
電話の相手は優しいテノールボイスの男性だった。
「ああ、悪いな。すぐに向かう」
「うん、待ってるよ。あ、できるだけ早くきてね。キャットが寝ちゃうから」
「わかったよ。じゃあな」
そう言って通話を切り、忘れ物がないことを確認してから生徒会室を出る。扉を開けると目の前に知弦が立っていた。
「知弦……残ってたのか」
「ええ。クーちゃんと帰ろうと思ってね。でも、用事があるなら仕方ないわね」
「んー……知弦も来るか?」
「え?」
「知弦にはいつか話そうと思ってたからな。タイミング的にはちょうどいいかもしれん」
「そう……なら、私も行くわ」
「よし、んじゃあ早いとこ鍵返して向かうぞ」
「ええ。……そういえば、どこに向かうのかしら?」
「ん? 俺の家だけど」
「そう……え? クーちゃんの家?」
「おう。早く来いよ、知弦。置いてくぞ」
「わ、わかったわ。……クーちゃんの、家……」
悶々としていた知弦を連れて、家へと帰る。知弦をこちらの世界に踏み込ませることに多少の罪悪感を覚えながら。
「(さて、タイガーとキャットにはなんて説明しようか)」
夜はこれから深まっていく……。
うーん、オリジナルが絡むと難しくて全然書けないです。
次の話は、多分完全オリジナルになると思います。
更新がすごく遅れて、大変申し訳ありませんでしたぁぁ!!
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