遊戯王ARC-V -Alternative- (ダーク・キメラ)
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ARC1 奇跡のペンデュラム召喚

ダーク・キメラと申します。
リレー小説の第1話を書かせていただきました。
本作が人によっては不評らしいので素晴らしい感じに自分だったらこうした的なストーリーを描いていきたいと思います。


ここは、どこかの大都市……

 

「ハハハハハ! どうした、その程度か!」

 

ビルが崩れて地上に瓦礫の山を築き、地面には巨大なクレーターがいくつも空き、燃え盛る炎が全てを灰にする。完全に廃墟と化した街の中で一人の少年の高笑いが谺していた。

 

「もっと……もっとだ……」

 

 

『グルルルル……』

『ガアアァ……』

『グオオオォ……』

『ガアアァ!!』

 

 

少年の背後には……

 

 

緑と紅の二色の眼を持つ赤きドラゴン

鋭い牙を持ち顎の下で逆鱗を尖らせた黒きドラゴン

済んだ光を放ち美しい翼を羽ばたかせる白きドラゴン

獲物を喰らおうと牙を覗かせ禍々しき触手を伸ばす紫のドラゴン

 

 

カードに宿る生命(いのち)を具現化させる決闘盤(デュエルディスク)……そこから召喚された4体のドラゴンが雄叫びを上げていた。

 

「お母さん……お父さん……」

「くそっ、何であいつが……」

「もう駄目だ……誰もあいつを止める事ができない……」

「誰か……助けてくれ……」

 

高笑いをする少年と、彼の背後に立ち咆哮するドラゴン。その周りには沢山の人々が倒れ、阿鼻叫喚の声を上げていた。

この廃墟を築いた原因はこの少年の力。彼の行動によって起こった被害は途轍もないものだった。

 

「奴を倒さねえと……」

「あいつを倒さねえと……」

 

彼の周りにデュエルディスクを持つ者、決闘者(デュエリスト)達が現れる。少年を止め、まるで世界を滅ぼさんとする破壊活動を止めるには彼に決闘(デュエル)を挑み、勝つしかないのだ。

 

「ハハハ、まだこんなにいたのか……いいぞ、デュエル開始だ!」

 

機甲部隊の誇る超重量戦車(マシンナーズ・フォートレス)、深海を収めし海皇龍(ポセイドラ)、あらゆる生命を灰塵へと化す炎王神獣(ガルドニクス)、宇宙の力を司る代行者の頂点である太陽を司る神(マスター・ヒュペリオン)……デュエリスト達はたった一人の少年を倒す為だけに強力なモンスターを召喚していく。

 

「フフフ、ハハハハハ! やるな……だが、まだ足りない! まだ、俺は満足しない!!」

 

しかしそれでも少年を倒すには至らなかった……

 

「次は俺の番だ――」

 

少年が召喚したのは夜の星空の色の装束を身に纏った1体の魔術師……

 

「――さあ、統合せよ!!!」

 

『ハァッ!!』

 

その魔術師が魔法を唱えると共に、少年の背後に立つ四体のドラゴンが不思議な光に包まれ、その身を変質させていく。

そしてその光が急激に膨張し、弾け飛んだ時。その光の中から見上げるしかない程の巨大なドラゴンが姿を現した。

 

『ガアアアアアアアァ!!!』

 

そのドラゴンは矮小な人間を蟻でも見るような視線で貫き、咆哮を上げる。それは質量を得た衝撃波と化し、敵意を向けたモンスター達のみならず、自身の主であり半身たる少年に敵対する者達を一瞬で消し去った……

 

「フハハハハハ! さあ、次は誰が俺と遊んでくれるんだ?」

 

少年の行為……それは最早遊びと言える物ではなかった。

巨大なドラゴンの出現……正に世界の終わりと言えるであろう……しかし!

 

 

 

「お父さん……私、決めたよ! 私が彼を止める!」

 

 

 

一人の少女の決意……彼女の行動が世界を変えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュエルモンスターズ……それはカードに宿る生命をぶつけ合わせるゲーム。知恵と勇気による激しいぶつかり合いは多くの人を引き寄せる!

それはこの舞網(まいあみ)市でも例外ではなかった!

 

「バトルだ、《スフィンクス・アンドロジュネス》で《バーバリアン・キング》を攻撃!」

『ストロング石島に伏せカードはない! 万事休すか!?』

「そうはいくか! アクションマジック、《回避》を発動! このカードの効果で《スフィンクス・アンドロジュネス》の攻撃を無効だ!」

『ストロング石島、見事アクションカードを手に入れ、危機を回避したああぁ!!』

 

 

 

質量を持ったソリッドビジョンにより実現したアクションデュエル

 

 

 

「《マスターモンク》で《ジェネティック・ワーウルフ》を攻撃!」

「血迷ったか! 《ジェネティック・ワーウルフ》の方が攻撃力が上だ!」

「アクションマジック、《アップグレード》を発動! このカードの効果で《マスターモンク 》の攻撃力は1000アップだ!」

「何? ぐわあぁ!」

「そして《マスターモンク 》は2回攻撃が可能だ!」

『海楊選手、アクションカードを使い、大逆転だあぁ!』

 

 

 

フィールド、モンスター、そしてデュエリストと一体となったデュエルは

 

 

 

「《タイラント・ドラゴン》よ、《スカイ・マジシャン》を焼き尽くせ!」

「……」

『榊選手、攻撃を受けるにも関わらず、余裕の表情……一体何があるのか!』

「……フッ」

「何!?」

『なんと、《スカイ・マジシャン》が消えたと思ったら《タイラント・ドラゴン》が破壊された!?』

Ladies and Gentlemen(レディース・アンド・ジェントルメン)! お楽しみは……これからだ!」

 

 

 

人々を熱狂の渦に巻き込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天気は快晴、外出にはとてもいい日である。太陽が舞網市を明るく照らしている。

そしてここは舞網市の中でも一番大きいデュエルスタジアム……ここは集いしデュエリスト達がカードを力に変えてぶつかり合う最高の舞台である。

何もない広い平面なフィールドの周りに集まってきた大勢の人々……今日も観客がデュエルを楽しみに観にやってきたのだ。

 

 

「「「わーわー!!」」」

 

「おいおい、最強王者の相手がガキかよ」

「チャンピオンも暇な物かねぇ」

「ストロング石島、やっちまえー!」

「でも対戦相手はあの伝説のデュエルスターの息子らしいぞ?」

 

 

遊矢(ゆうや)……」

 

試合が始まるのを待っている観客達の中にピンク色のツインテールを一人の少女が心配そうにスタジアムを眺めている。彼女の名は(ひいらぎ)柚子(ゆず)、彼女もデュエリストである。

今日のメインイベントはなんと、彼女の友達の遊矢が舞網市のチャンピオンとデュエルをするのである。

そのチャンピオンの試合を観に来た大勢の観客達だが、中にはチャンピオンへの挑戦者が彼女と同い年の子なのだからあまり期待していない者達もいる。

 

「大丈夫だ、柚子。彼ならやってくれるさ」

 

心配そうな彼女を励ますのは父親の柊修三(しゅうぞう)。観客に期待されていない遊矢に対して彼は柚子と一緒に遊矢の試合を見守りに来たのである。

 

「彼は遊勝(ゆうしょう)さんの息子だ。絶対やってくれるさ……彼みたいなエンタメデュエルを!」

 

そして遂に本日のメインイベントが開始された。スタジアムの中央に穴が開き、そこから黄色いスーツを着て眼鏡をかけたチョビ髭な司会者が現れた。

 

『いよいよ、本日のメインイベントのお時間がやって参りました!実況は私、ニコ・スマイリーがお送りさせて頂きます!チャンピオン、ストロング石島に挑戦しますのは……あの伝説のデュエルスター、榊遊勝(さかきゆうしょう)の一人息子、榊遊矢であります!』

 

そう言うと彼は1枚のカードを取り出した。

 

『このスペシャルマッチは、アクションデュエルの公式ルールに則って行います!フィールド魔法、《辺境の牙王城》を発動!』

 

ニコ・スマイリーがカードを発動するとスタジアムのフィールドから次々と草が生え樹が生え、やがて森となった。その森の中から岩や井戸、壁などが出現し、そして最後に巨大な城が現れた。

何もなかった平面な舞台は一気に広い森林と化したのだ。

 

『ご覧ください、この本物と見紛うばかりのリアルな質感!これぞLDSのリアルソリッドビジョンです!』

 

ソリッドビジョン、わかりやすく言えば立体映像である。しかし、それはただの立体映像ではない。草や樹、岩や城、そしてそこから映る影、立体映像として現れた物は全て質量を持ち、その感触はまるで本物である。本物と同等な立体映像、正にリアルソリッドビジョン。

そして現れた城の高所からヘヴィメタルなメイクをした筋肉質の大男が現れる。彼は髪を3本の角の様にセットしており、まるで鬼の様だった。

 

『おおっと、この城に現れたのは、3年間このアクションデュエルの頂点に君臨し続ける最強王者、ストロング石島だー!』

 

 

「来たぜー!」

「ストロング石島ー!」

「今日もいい試合見せてくれよー!」

 

 

「うおおおおおぉ!!」

 

観客達に自身の雄叫びを聞かせる最強王者。彼の登場を待っていた観客達に応えるその振る舞いは正に王者であろう。

 

『その最強王者に挑むのは……若き挑戦者(チャレンジャー)榊遊矢(さかきゆうや)ー!』

 

そしてその王者に続いて次は挑戦者、榊遊矢の出番だ。彼の登場に、観客達は少しの間沈黙に入る。

 

「……」

「…………」

「………………」

 

 

『ゆ、遊矢君……』

 

ーー登場するかと思われていたが、彼は出て来る事はなかった。

 

 

「なんだよ、逃げたのか?」

「おーい、出てこーい」

「逃げてんじゃねーぞー」

「俺達はチャンピオンの試合観に来たんだぞー」

 

 

「もう、何やってんのよ、遊矢~!」

 

メインイベントであるチャンピオンの試合だというのに挑戦者が出てこないのは流石に観客は不服であろう。

流石に友達である柚子も彼の不在に対して何も言えなかった。

 

 

「これじゃ3年前の親父と一緒じゃねえか」

「親子そろって卑怯者だな」

「出てこい卑怯者ー!」

 

 

どうやら観客達が不服な理由はただ「チャンピオンの相手が子供だから」だけではなさそうだ。

 

「息子を引っ張り出せば、榊遊勝も姿を現すと思ったが……くそ、あいつを打ち負かさねば俺は最強王者にはなれんのだ!」

 

不服なのは観客だけでなくチャンピオンもである。

ストロング石島は3年前の事を思い返す……本来、彼はチャンピオンの座を賭ける相手である伝説のデュエルスター、榊遊勝と対戦する筈であった。

しかし対戦の当日、榊遊勝は姿を現さなかった……あの日以降、榊遊勝の行方を知る者はいなかったのだ。彼は死んだのか、誘拐されたのか、それすらも分からずあの日以来彼の在処を知る者はいなかった。

ストロング石島が王者になれたのも榊遊勝の謎の消失による、つまり不戦勝でその座を手に入れたのである。

しかし3年間王者の座を維持し続けた石島にとって榊遊勝と戦わずして手に入れた座の価値は無に等しい。

彼が認めた唯一人の強者を打ち負かせれば彼自身も真の王者と認められるであろう。

今回のデュエル、榊遊矢が挑戦者に選ばれたのは王者の提案であり、榊遊勝の息子を打ち負かせば榊遊勝をおびき寄せられると思ったからなのだ。

 

 

「ねえ、何あれ?」

「ピエロ?」

「チャンピオン、後ろ!」

「後ろ後ろー!」

 

 

「……なんだ?」

「べ~!」

「ぬお!?」

 

観客の指摘を聞くと後ろへと振り返る石島。なんと、そこにはピエロの格好をした少年がいたではないか。

気配もなく背後を取られた事に、流石の王者も驚いてしまった。

しかし直ぐ冷静になると、その道化の正体が直ぐに分かった。

 

「お前……榊遊勝の倅か!これがチャンピオンに対する態度か!」

「これは失礼しました。では、改めてお願いいたします。どうか私とデュエルを!」

 

彼はメイクと帽子を取り、改めて挨拶した。そう、遂に挑戦者榊遊矢の登場だ。

 

「遊矢~!何やってんのよ、もう!」

「はっはっは、そういう事だったのか!遊矢もやるな~!」

 

どうやら榊遊矢が登場しなかった理由、それは道化として突如現れ、観客だけでなくチャンピオンを驚かせようとしていたからなのである。体を張ったサプライズをかけた遊矢の行動に呆れた柚子、しかしその表情は何処か安心していた。

 

「チャンピオン様のお手並み拝見!」

「お手並みだぁ?この礼儀知らずのクソガキが!プロの技で躾け直してやる」

『おおっと、いきなり意外な展開となりましたがこれで舞台の役者は揃いました!それではお二方、アクションカードをお見せください!』

 

鬼の様な大男を驚かした小さなピエロ、怖いもの知らずな彼は大人を更に煽っていく。

しかし形はどうあれこうして役者は揃った、やっと本日のメインイベントが開始される。

普通のデュエルとは違うアクションデュエル。それは、アクションフィールドの中にA(アクション)カードが拡散されており、それを拾うことで自分のカードとして使用する事ができるのである。

 

 

《アクションカード》

アクションデュエルでのみ使用可能であり、アクションフィールドの中に存在するカード。

普通のカードと違い裏側に「A」の文字が付いており、フィールド内に各種2枚存在する。

アクションカードは1ターンに1度しか手札に加えることができず、1ターンに1度しか発動できない。

アクションカードは手札・フィールドのどちらかに1枚しか存在できない。

アクションデュエルは各デュエリストが2種類選び、それ以外はアクションフィールド専用のカードである。

 

 

「私はこのカードを用意しました」

「フン」

『どうやら榊選手は《回避》と《調星》、チャンピオンは《突撃》と《根性》を選んだ様です!』

 

 

遊矢が選んだAカード

 

 

《回避》

アクション魔法

相手モンスターが攻撃宣言してきた場合、その攻撃を無効にする。

 

 

《調星》

アクション魔法

手札・フィールドのモンスター1体のレベルを2個まで上げる、または2個まで下げる。

 

 

石島が選んだAカード

 

 

《突撃》

アクション魔法

自分のモンスターが相手のモンスターと戦闘するダメージ計算時に発動できる。

その自分のモンスターの攻撃力はそのダメージ計算時のみ600アップする。

 

 

《根性》

アクション魔法

自分のモンスターが攻撃力が高いモンスターに攻撃されたダメージ計算時、その戦闘では破壊されない。

その後、自分のエンドフェイズまで自分が受けた戦闘ダメージの半分の数値分、攻撃力がアップする。

 

 

巨大モニターに2人が用意したAカードが表示される!

 

 

存在するアクションカード

 

 

《回避》 2/2

《突撃》 2/2

《調星》 2/2

《根性》 2/2

《???》 2/2

《???》 2/2

《???》 2/2

《???》 2/2

 

 

『さあ、手札5枚御用意を…』

 

2人のデュエリストは手札を用意した……

 

『戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが、モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!見よ、これぞ、デュエルの最強進化形、アクション……』

 

「「デュエル!!」」

 

司会者の掛け声、恒例のアクションデュエル開始の合図と共にアクションカードがフィールドに散り、デュエルが開始された。

 

 

遊矢 LP4000 VS 石島 LP4000

 

 

『アクションカードが散り、闘いの火蓋が切って落とされました!』

「チャレンジャーに好きなターンをくれてやる。言っておくが、先行はドローができないぞ」

 

ストロング石島は王者のハンデとして挑戦者に好きに行動させるようだ。

 

「本家本物のアクションデュエルをご覧に入れてあげます!」

 

そう言うと彼は城にあるジップラインに掴まり、城から降りていく。

 

「先ずは《EMディスカバー・ヒッポ》を召喚!」

『ヒッポ~!』

 

遊矢が降りながら召喚したのは、お洒落な服を着て帽子を被ったピンク色のカバである。

 

 

《EMディスカバー・ヒッポ》

☆3

ATK/800

 

 

「さあ、どうぞ捕まえてごらんなさい!私はこれでターンエンドです!」

 

そう言うと遊矢は《ディスカバー・ヒッポ》に乗り、森の中を駆け始めた。なんと、カバであるにもかかわらず意外と足が速いではないか。

 

 

遊矢/LP4000/EX0

手札4枚

【モンスター】

《EMディスカバー・ヒッポ》ATK/800

【魔法・罠】

---

 

 

森の中を駆ける少年に対して王者は高所から見下ろしている。彼は一体どう出るだろうか。

 

 

「あいつ何やってんだ?」

「何逃げてんだよ……」

「こりゃ駄目だな」

 

 

「もう、何よ!皆遊矢の事馬鹿にして……」

 

観客にとって榊遊勝は勝負から逃げたデュエリスト……その「逃げた」という汚名は息子である遊矢にまで引き継がれてしまったのである。

 

「まあ、好きに言わせておけ」

「権現坂!」

 

遊矢を非難する観客達の態度に怒る柚子だが、柚子の隣に現れたリーゼントをした少年が彼女を宥めた。彼の名は権現坂(ごんげんざか)(のぼる)、見た目は厳ついが遊矢と柚子と同い年である。

 

「今にわかるさ、遊矢の闘い方が……」

 

観客とは対照的に遊矢を応援する権現坂、彼も遊矢の味方なのだろう。

 

「直ぐにとっ捕まえてやる……俺のターン、ドロー!(早速来たか……)」

 

ストロング石島が引いたカードは《バーバリアン・キング》。どうやら強力なカードの様だ。

 

「俺は《手札断殺》を発動!お互いのプレーヤーは手札を2枚墓地へ送り、2枚ドローする!」

「(じゃあ、このカードとこのカードを捨てるか……)」

「そして《蛮族の狂宴LV5》を発動!手札・墓地からレベル5の戦士族モンスターを2体特殊召喚する!蘇れ、《バーバリアン1号》、《2号》!」

 

ストロング石島がカードを発動すると彼の傍に緑と紫の蛮族の鬼が召喚される。

 

 

《バーバリアン1号》

☆5

ATK/1550

 

 

《バーバリアン2号》

☆5

ATK/1800

 

 

『ストロング石島、墓地へ送ったモンスターを利用し、召喚したー!』

「そして俺は2体のバーバリアンをリリースし、アドバンス召喚!密林の奥地から巨木をなぎ倒し、現れるがいい。 未開の王国に君臨する蛮族の王。《バーバリアン・キング》!」

『出た、いきなりチャンピオン石島のエースモンスター登場だー!』

 

 

「良いぞー、石島ー!」

「思い切りやれー!」

 

 

2体のバーバリアンが召喚に必要な生贄に捧げられ、鎧を着た大きな鬼の様なモンスターが現れる。森では隠せないほどの図体のデカさ、あれこそストロング石島を象徴する蛮族の王なのだ。

 

 

《バーバリアン・キング》

☆8

ATK/3000

 

 

「親父には逃げられたがお前は逃がさねえ。バトルだ。《バーバリアン・キング》、《ディスカバー・ヒッポ》を攻撃!」

 

《バーバリアン・キング》は《ディスカバー・ヒッポ》に乗った遊矢へ迫り、小さなカバを潰そうと棍棒を振り下ろした!こんな攻撃を受けたら一溜りもないであろう。

 

「遊矢!!」

「ラッキー!アクションカードゲットだ!」

 

《ディスカバーヒッポ》が走る先は1本の樹……そこにあるのは1枚のカード。

森の中へ拡散されたアクションカードを見つけた遊矢はそれを手にして発動する!

 

「アクションマジック、《回避》!ローリング・ヒッポ!」

『ヒポッ!』

 

なんと《バーバリアン・キング》の攻撃を《ディスカバー・ヒッポ》は見た目に寄らない身軽な動きでジャンプし、回転しながら見事に回避した。

 

『榊遊矢、チャンピオンの攻撃をアクションカードで躱したー! 皆さんもご存知の通り、アクションカードは1ターンに1度だけデュエリストに奇跡を起こすのかもしれません!』

 

 

《アクション魔法》

アクションデュエルでのみ使用可能なカード。

各デュエルリストが2種類選ぶ。

基本スペルスピード2であり、相手のターンでも手札から発動することができる。

 

 

「あいつ、逃げていたと思ったらアクションカードを探してたのか……」

「意外とやるじゃん?」

 

 

アクションデュエルは普通のデュエルと違い、アクションフィールドにあるアクションカードを利用できる。遊矢はアクションデュエルでならこそのプレイングを発揮したのだ。

逃げていた遊矢を非難していた観客達、王者の攻撃を凌いだ事で彼を見る目が少し変わったようだ。

 

「遊矢……!」

「良いぞ、遊矢!お前のデュエルを貫き通せ!お前のアクションデュエルを見せてやれ!」

 

遊矢の評価が少し上がった事で、柚子と権現坂も声援を送っていく。

 

「アクションカードを使いこなすとは流石は榊遊勝の息子……まあいい、カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

 

石島/LP4000/EX0

手札2枚

【モンスター】

《バーバリアン・キング》ATK/3000

【魔法・罠】

リバース×1

 

 

「私のターン、ドロー!よし、アクションカードゲット!(よし、《調星》だ!)」

 

逃げながら走っていた遊矢はアクションカードを拾い、城壁へと登っていった。

そして彼は観客達が見える所でパフォーマンスを行い始める。

 

「さあ皆さん、いよいよクライマックスでございます!私はアクションマジック、《調星》を発動!このカードはフィールドか手札のモンスターのレベルをターンの終わりまで2つまで上げるか下げる事が出来ます!私は手札の《オッドアイズ・ドラゴン》のレベルを2つ下げます!これで《オッドアイズ・ドラゴン》はレベル7ですが、《調星》によって、レベルは5!よってアドバンス召喚に必要なリリースは1体となります!」

 

遊矢は準備を整えると、《ディスカバー・ヒッポ》と共に城壁から飛び降り始めた。

 

「私は《ディスカバー・ヒッポ》をリリースし、アドバンス召喚!」

 

遊矢は飛び降りると同時に道化の衣装を脱ぎ捨てた。道化の中身は学ランをマントの様に着こんだファッション、これが彼の本来の服装である。

そして《ディスカバー・ヒッポ》を生贄に彼が召喚したのは……

 

「さぁ、拍手でお迎えください! 本日の主役、世にも珍しい二色の目を持つ竜! 《オッドアイズ・ドラゴン》!」

『ガアアアアアァ!!』

 

緑と紅の二色の眼を持つ赤きドラゴンが現れる。その体型は恐竜の様なもので、背中には翼の名残の様な物が生えていた。

遊矢は着地と同時に《オッドアイズ・ドラゴン》に乗り移った。

 

 

《オッドアイズ・ドラゴン》

☆7→5

ATK/2500

 

 

「お楽しみは、これからだ!」

「見事なモンスターだ……だが攻撃力は2500。俺の《バーバリアン・キング》には勝てん」

「それはどうでしょうか?私は魔法カード、《フォース》を発動!このカードは相手のモンスター1体の攻撃力を半分にし、その数値を《オッドアイズ・ドラゴン》の攻撃力に加えます!」

「何?」

 

《バーバリアン・キング》からエネルギーが漏れ出し、それが《オッドアイズ・ドラゴン》に吸収されていく……

 

 

《バーバリアン・キング》

☆8

ATK/3000→1500

 

 

《オッドアイズ・ドラゴン》

☆5

ATK/2500→4000

 

 

『榊選手、《オッドアイズ・ドラゴン》をパワーアップさせたぁ!』

「さあ、いきますよ!《オッドアイズ・ドラゴン》は相手モンスターを戦闘で破壊した場合、そのモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与えます!」

「何?《バーバリアン・キング》の攻撃力は3000、《オッドアイズ・ドラゴン》の効果を受けると1500のダメージ……オッドアイズ・ドラゴンの攻撃力2500による戦闘ダメージと合わせて4000のダメージ!」

 

 

計算:2500+(3000÷2=1500)=4000 石島 LP4000→0

 

 

『なんと、《オッドアイズ・ドラゴン》の攻撃が決まればストロング石島のライフはゼロだ〜!これはまさか、榊選手の大勝利か〜!?』

 

 

「おいおい、マジかよ!」

「すげー、チャンピオンを一撃必殺できるのかよ!」

「いいぞー、榊遊矢ー!」

 

 

観客達は榊遊矢がチャンピオンを倒せるかもしれない、アクションデュエルの歴史を変えるかも知れない、そういう期待を抱き始めていた。

 

「さあ、《オッドアイズ・ドラゴン》の攻撃!スパイラル・フレイム!!」

『ガアアアアアァ!!』

 

《オッドアイズ・ドラゴン》は口にエネルギーを貯め、螺旋状に回転する光線を放った!その攻撃はバーバリアン・キングに直撃し、大爆発を起こした!

攻撃は通った。つまり榊遊矢の勝利……大勢の人がそう思っていた。

 

「これで俺の勝ちだ……!」

『ガアアアアアァ!!』

 

遊矢が勝ったと思い、《オッドアイズ》が勝利を祝杯するかの様に雄叫びをあげるが……

 

『ウガアアアァ!!』

 

なんと、《バーバリアン・キング》はスパイラル・フレイムを受けても立っていた!そして高みの見物をしていた筈のストロング石島はいつの間にか姿を消していた。

 

 

石島 LP4000→1500

 

 

「何!?」

「危なかったぜ……俺はアクション魔法、《根性》を発動していたのさ」

 

外からは見えないが、スタジアムのモニターにストロング石島の姿が映っていた。モニターを見る限り、彼は城の内部へ移動していた様だ。

 

「このカードの効果で《バーバリアン・キング》はこの戦闘では破壊されん!」

『あーっと、ストロング石島、彼も見事アクションカードで危機を逃れたー!』

 

そう、ストロング石島は森の中を駆け巡っていた遊矢の様に城の中でAカードを探し回っていた様であり、無事見つけて敗北を免れた様だ。

しかし石島の表情には汗が流れていた。挑戦者を侮っていた事が仇となり、必死にAカードを探したのであろう。

 

「残念だったな、《オッドアイズ・ドラゴン》の効果が発動するのは『戦闘でモンスターを破壊した場合』なんだろ?破壊されなければダメージもないってわけだ。だがそれだけじゃねえ!更に《根性》の効果で俺が受けた戦闘ダメージの半分を《バーバリアン・キング》に加えるぜ!」

『ウガアアァ!!』

 

《オッドアイズ・ドラゴン》の攻撃を受けた《バーバリアン・キング》は文字通り《根性》で耐えたかの如く気合が入り、更にパワーアップしていく。

 

 

《バーバリアン・キング》

☆8

ATK/1500→2750

 

 

「くっ……」

「更に罠発動!《バーバリアン・リベンジ》!このカードは《バーバリアン》を攻撃したモンスターをダメージ計算終了時に手札に戻す!」

「何!?」

『ガアアアァ!!』

 

罠カードの効果により、遊矢を運んでいた《オッドアイズ・ドラゴン》が消滅した。

 

「更に《バーバリアン・リベンジ》の効果で俺が受けた戦闘ダメージを相手にも返し、俺のライフは今受けたダメージ分、回復する!」

 

 

石島 LP1500→4000

 

 

「うわあああぁ!」

 

 

遊矢 LP4000→1500

 

 

「榊遊勝のデュエルなどその程度だ……」

『なんとストロング石島、大ダメージを受けたかと思ったら、回復したー!それだけでなく、遊矢選手にダメージを返したー!』

「そんな……!」

「まずい、遊矢のフィールドにモンスターがいない……」

 

石島の形勢逆転に動揺する柚子と権現坂……一撃必殺のチャンスを逃したどころかこのままでは遊矢が負けてしまうかもしれない。

 

「くっ……俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

遊矢/LP4000/EX0

手札3枚(オッドアイズ・ドラゴン)

【モンスター】

【魔法・罠】

リバース×1

 

 

《バーバリアン・キング》

☆8

ATK/2750→4250

 

 

『《フォース》の効果が切れ、《バーバリアン・キング》の攻撃力が元に戻るー!』

「元通りどころかパワーアップしてる……!」

「さあ、俺のターン!ドロー!少し遊ばせすぎたか……俺は《蛮族の狂宴LV5》を発動!」

 

高みの見物をしていたストロング石島も城から飛び降りた。ここから彼も本気を出すのだろう。墓地から《バーバリアン1号》と《2号》が蘇る。

 

 

《バーバリアン1号》

☆5

ATK/1550

 

 

《バーバリアン2号》

☆5

ATK/1800

 

 

「俺は2体の《バーバリアン》をリリースし、《バーバリアン・キング》の力に変える!バトルだ!《バーバリアン・キング》でお前にダイレクトアタックだ!」

『ウガアアアアアァ!!』

 

 

《1号》と《2号》は王の生贄となり消滅し、《バーバリアン・キング》は高揚した!

そして《バーバリアン・キング》が無防備な遊矢に迫ってくる。

この攻撃が通れば間違いなく遊矢の負けになるだろう。

 

「ま、まだだ……アクションカードを!……あった!」

 

遊矢はこの危機から抜けるために走り出し、アクションカードを探し出した。

次のカードは意外と早く見つかった。遊矢はただ逃げ回っていたのではない。フィールド内を駆け巡ることでアクションカードが置かれている場所を把握していたのだ。アクションカードは1枚しか握れないが場所を把握しておけば例え調べていない場所でも検討をつけることができ、速やかに取ることができる。

そして遊矢は木に引っかかっていたアクションカードを手にした!

 

『榊選手、Aカードを上手く手に入れたぁ!』

「よし、このカードは……げっ!」

『アクショントラップ、《投石》発動!』

「あいたぁ!」

 

遊矢の意志とは関係なく、デュエルディスクが読み取ったアクションカードが発動される。すると遊矢に向かって石が飛んでいき、そして遊矢の頭に軽く当たった。

 

 

遊矢 LP1500→900

 

 

『どうやら榊選手、手にしたAカードはアクショントラップ《投石》だったようです!』

 

 

《アクション罠》

アクション魔法とは違い、カードを手にした時点で強制的に発動されるAカード。

基本、手にしたプレーヤーにとってデメリットを及ぼす。

 

 

《投石》

アクション罠

このカードを手にしたプレーヤーは600ポイントのダメージを受ける。

 

 

「くっ……」

 

アクションカードにはアクション魔法以外にもアクション罠というカードがあり、このカードは基本自分にデメリットを与えるまたは相手にメリットを与える効果を持つ。

最悪遊矢は後者を引いてしまった。

そんな遊矢に《バーバリアン・キング》が無慈悲に近づいてくる。

 

『頼みのAカードにも見捨てられたか、榊遊矢万事休すか!?』

「くっ……」

『『『カバカバ~~♪』』』

 

迫りくる《バーバリアン・キング》の前にサンバ衣装を着た3色のカバが立ちはだかり、踊り出した!

 

「……何だ?」

『なんと、これは一体どういうことか!榊選手のフィールドに3体のモンスターが現れた~!』

「――速攻魔法、《カバーカーニバル》!!この効果で俺の場に《カバートークン》を3体特殊召喚する!」

 

 

『『『カバカバカバ~~♪』』』

 

 

《カバートークン》x3

☆1

DEF/0

 

 

「何だあのモンスター?」

「何あれ、おかしい~!」

「見てママ~あのカバ達踊ってる~!」

 

サンバの衣装を着て踊りをしている3頭のカバを観て観客達は笑い出した。あまりにもシュールな光景なのでウケたのだろう。

 

「目障りなモンスターだ!」

『ウガアアアアァ!!』

 

しかし《バーバリアン・キング》の攻撃は止まらない。プレーヤーを攻撃できないならせめてモンスターを、と《バーバリアン・キング》の棍棒は《カバートークン》を粉砕した。

 

「危なかった……」

『どうやら榊選手、Aカードが外れた時の保険も用意してあったようだ~!』

「ふん、何安心している?壁モンスターを増やして時間稼ぎのつもりか?甘いわ!《バーバリアン・キング》はリリースした戦士族モンスターの数だけ追加攻撃できる!」

「えっ!?」

「その目障りなカバ共を叩き潰せ!バーバリアン・スマッシュ!!」

『ウガアアァ!』

 

《バーバリアン・キング》は2体目3体目へと続けて棍棒を振り、一瞬で粉砕した。遊矢を守った壁は1ターンしか持たなかったのだ。

 

『ストロング石島、その圧倒的な力で榊選手のモンスターを殲滅させたー!』

「まずい……!」

「命拾いしたな……俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

 

《バーバリアン・キング》

☆8

ATK/4250→3000

 

 

石島/LP4000/EX0

手札0枚

【モンスター】

《バーバリアン・キング》ATK/3000

【魔法・罠】

リバース×2

 

 

『榊選手、首の皮1枚繋がった!しかし反撃の手はあるのか!?』

「くっ……」

「さあお前のターンだ、ドローしろ。それとも親父の様に尻尾を巻いて逃げるのか?」

「嫌だ、俺は逃げない!俺のターン、ドロー……」

「……(俺の伏せカードは自分のモンスターに貫通能力を与える《メテオ・レイン》!そして攻撃してきたモンスターを手札に戻す《バーバリアン・ハウリング》!次のターンで確実に仕留める!)」

「……(手札にモンスターしかいない状況でどうすれば……)」

 

このままではどうにもできない遊矢はこの状況から何をできるか手札を確認する。

 

 

手札のモンスター

 

 

《EMドクロバット・ジョーカー》

《EMソード・フィッシュ》

《オッドアイズ・ドラゴン》

《時読みの魔術師》

 

 

モンスターしかいない手札……このままでは次のターンに確実に仕留められてしまうであろう。

 

「(やっぱり俺に父さんの代わりは……)」

 

どう足搔いてもこの状況を奪回することはできない。もはや遊矢に手段は残されていないのだ。その事実を理解し、遊矢は失意する……

 

「……」

 

 

 

―泣きたい時は笑え―

 

 

 

「!!俺は……《EMドクロバット・ジョーカー》を召喚する!」

 

遊矢は紫と黒の衣装をした芸者を召喚した。

 

 

《EMドクロバット・ジョーカー》

☆4

ATK/1800

 

 

 

―大きく降れば、大きく戻る―

 

 

 

追い込まれていた遊矢は父親の言葉を思い出した。そして彼が身に着けている結晶のペンダントが振り子の様に揺れていく。

 

 

「《EMドクロバット・ジョーカー》の効果を発動!このモンスターが召喚に成功した時、EMモンスターを1枚手札に加えることができる!俺は《EMウィップ・バイパー》を手札に加える!」

「(俺の手札はモンスターしかない……モンスターだけじゃこの状況は切り返せない……でも!)」

 

 

 

―怖がって縮こまっていたら―

 

 

 

「何も出来ない……勝ちたいなら勇気を持って……前に出ろ!」

 

消えた父親の言葉を思い出しながら、彼は踏み出し始めた。

デュエルはまだ終わっていない、遊矢は次の行動に出た。

 

「俺は……墓地の《シャッフル・リボーン》を除外し、効果を発動!《ドクロバット・ジョーカー》をデッキに戻し……ドローする!」

「《シャッフル・リボーン》……そうか、俺が発動した《手札断殺》で墓地に送っていたのか」

「揺れろペンデュラム!大きく……もっと大きく……ドロー」

 

《ドクロバット・ジョーカー》が消えて遊矢が引いたカードは《星読みの魔術師》。

結局引いたカードはモンスターカード、そして召喚権も使ってしまったので壁を残すこともできない。

しかし、その時何かが起こった!

 

「!!」

 

《星読みの魔術師》、《時読みの魔術師》、そして《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》、3枚のカードの姿が変わり始めた。褐色のカードに……緑色が加わったのである。

 

「俺は、スケール1の《星読みの魔術師》とスケール8の《時読みの魔術師》で……ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

「私」から「俺」へと一人称を変えた遊矢……その気迫は失意しかけた時よりも強い意志を感じさせていた。

遊矢がデュエルディスクの両端にカードを置くと背後に白い衣装の魔術師と黒い衣装の魔術師が現れ、そのモンスターから(1)と(8)の文字が映る。

 

「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!」

「な、何が起きている……」

 

遊矢の行動に驚くストロング石島……いや、驚いているのは彼だけではないだろう……

デュエルの歴史は長い。しかし「スケール」や「ペンデュラム」という言葉も、モンスターカードをあの様に使った事例はデュエルの歴史に存在してはいなかったのだ。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!出でよ、我が僕のモンスター達よ!」

 

そして遊矢が召喚宣言をすると2体の魔術師の間からモンスターが現れる……

 

「《EMウィップ・バイパー》!」

『シュルル……』

 

先ずは帽子を被った紫のヘビ

 

 

《EMウィップ・バイバー》

☆4

ATK/1700

 

 

「《EMソード・フィッシュ》!」

『シャー!』

 

続いて頭部に鋭い刃が付いてサングラスをかけた魚

 

 

《EMソード・フィッシュ》

☆2

ATK/600

 

 

 

「《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」

『ガアアァァアアアァ!!』

 

そして最後は二色の眼を持つ赤きドラゴンが再び現れる!しかし《オッドアイズ・ドラゴン》であったモンスターは名前が変わっただけでなく前のターンと違って姿が変わっていた!

体は一回り大きくなり、頭部には白い角が生え、翼の名残のようなものも大きくなり、緑と赤の珠がついていた。

その姿は正に進化した様なものだ。

 

 

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

☆7

ATK/2500

 

 

「い、一体どういうことだ……一気にモンスターを3体も?ペンデュラム召喚?」

 

ペンデュラム召喚……デュエルチャンピオンにまで名を上げた自分ですら見たこともない召喚方法にストロング石島は驚愕を露わにする。

念の為、彼は司会者に確認を求めた。

 

『しかし、システム上にエラーが出ないということは……』

 

同じように長い間様々なデュエルの実況を行っていた、すなわち様々なデュエルの場面を目撃しそれに合わせた実況を行うために必要な知識と経験が豊かであるニコ・スマイリーも驚愕に声を震わせていた。

しかし不正なプレイが行われれば即座にエラーを起こす、ある意味ではデュエルにおいてリアルタイムで動作し続けるルールブックといえるデュエルディスクにエラーや警告が発生している様子はない。

 

榊遊矢のデュエルディスクに細工がされていてエラーを起こさないようにしているイカサマの可能性ももちろんある。しかし相手のデュエルデータを常に受信しているこちらのデュエルディスクもエラーを起こしている様子はない。

昔は相手のデュエルディスクのシステムを麻痺させる事で特定のカードを発動させず、有利にデュエルを進めることが出来るような闇パーツも出回っていたらしいが、今はそんな事が起きないようもしもシステムに突然の麻痺などのバグが発生した場合はこちらもエラーや警告が発生するようになっている。しかしその類の警告も当然ながら発生しない。

 

「召喚は……有効?」

 

つまりデュエルディスクは正常に動作を行っており、ペンデュラム召喚なる未知の召喚法に対するエラーを出していない。

それはすなわちペンデュラム召喚はルール上デュエルモンスターズの正式な召喚法であると認められているに等しく、石島は愕然としながらそう呟くことしか出来なかった。

 

「先ずは《EMソードフィッシュ》の効果を発動!このモンスターが特殊召喚に成功した時、相手モンスターの攻撃力・守備力を600ポイント下げる!」

 

《ソード・フィッシュ》が分身し、《バーバリアン・キング》に分身の雨が降り注ぐ!

 

 

《バーバリアン・キング》

☆8

ATK/3000→2400

DEF/1100→500

 

 

「更に《ウィップ・バイパー》の効果を発動!このターン、1体のモンスターの攻撃力・守備力を入れ替える!」

『シャアアァ!』

 

次に《ウィップ・バイパー》が尾で《バーバリアン・キング》を叩き、地に伏せた!

 

 

《バーバリアン・キング》

☆8

ATK/2400→500

 

 

『なんと、攻撃力3000の《バーバリアン・キング》の攻撃力が一気に500に!!』

「バトルだ!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》、《バーバリアン・キング》を攻撃!!」

 

攻撃しようと遊矢は再び《オッドアイズ》に跨る!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》はエネルギーを溜めながら《バーバリアン・キング》へと走り出す。

 

「そうはいくか!罠カード、《バーバリアン・ハウリング》を発動!攻撃してくるモンスターを手札に戻し、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「時空を見定める《時読みの魔術師》よ!その精緻なる力で、我を守護せよ!時読みの魔術師のペンデュラム効果!自分のP(ペンデュラム)モンスターが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで罠カードを発動できない!インバース・ギアウィス!」

 

ストロング石島は遊矢の猛攻に立ち向かおうと罠カードを発動しようとするが、《時読みの魔術師》が魔法を唱えると石島の罠は発動を封じられ、セットされた状態に戻った。

 

「くそっ……ならば!」

 

ストロング石島がジャンプすると、木に引っかかっていたAカードを手に取った。罠カードがだめなら次は魔法カードで止めるつもりだろう。

 

「よし、アクションマジック、回避だ!」

「天空を見定める《星読みの魔術師》よ!その深淵なる力で、仇なす敵を封じよ!星読みの魔術師のペンデュラム効果!自分のPモンスターが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法カードを発動できない!ホロスコープディビネイション!」

 

ストロング石島がアクション魔法の発動を宣言しようとすると、《時読みの魔術師》に続いて次は《星読みの魔術師》が魔法を唱え、石島のアクション魔法の発動を封じ、そのカードを手札に戻した。

 

「何?アクションマジックも無効か!くっ……」

「今だ、《オッドアイズ》よ!その二色の眼で、全てを焼き払え!螺旋のストライク・バースト!!」

 

進行した《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は口から強烈な螺旋状の光線を再び放った!

その威力は前の時よりも遥かに強く大きく、質量と化した光線はその周囲を吹き飛ばす!

《バーバリアン・キング》は必死に《オッドアイズ》の攻撃を受けようとする。

 

「くっ、だが次のターンで……」

「《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の更なる効果!モンスターと戦闘を行う時、戦闘ダメージを2倍にする!」

「に、2倍だと……!?」

『ガアアアアァ!!』

「これで……ジ・エンドだ!」

 

二色の眼の竜(オッドアイズ)の攻撃がチャンピオンを象徴する蛮族の王(バーバリアン・キング)を包み込み、消し飛ばし、その主である石島も飛ばされた!

 

「ぐっ……うわあああぁ!!」

 

 

石島 LP4000→0

 

 

「勝ったの……?」

「ああ……」

「「「…………」」」

 

現役チャンピオンを打ち負かした挑戦者を見届ける柚子達……チャンピオンの敗北を目にし言葉が出ない観客達……

 

「あ……あれ?」

 

そして、その一瞬の沈黙の中、チャンピオンを倒した榊遊矢も唖然としていた。彼も今一瞬、自分が何をしたのか理解してなかったようだ……

 

 

遊矢 WINNER

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued......




文章のミス、地の文の少なさなど指摘があったら遠慮なく申し付けください。
それでは次の作者さん、お願いします。


因みにペンデュラム召喚前に登場した《EMドクロバット・ジョーカー》はPモンスターではなく、効果もこの様になっています。


《EMドクロバット・ジョーカー》
効果モンスター
星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守 100
(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。
デッキから「EMドクロバット・ジョーカー」以外の「EM」モンスター1体を手札に加える。


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ARC2 困惑の実演デュエル

ARC-V第2話となります。
今回の話はシューティング☆さんに書いていただきました
どうもありがとうございます。


ストロング石島VS榊遊矢のデュエル終了後、榊遊矢がインタビューを受けている映像が映っているモニターを軽く視界に収めながら、いくつものモニターや機械が置かれた司令室のような場所で、メガネで長身の青年は物思いに更けながら考え事をしている。彼は赤馬零児(あかばれいじ)、レオ・コーポレーションという大企業の社長を若くして務める天才にして苦労人だ。レオ・コーポレーションは零児の父がリアル・ソリッドヴィジョンを開発したことで一大企業の道を歩みだし、それに伴いデュエル関連のシェアNo.1を誇る企業だ。

 

「…ペンデュラム召喚…か」

「社長、分析結果、でました」

「出たか。結果は?」

「やはり召喚パターンはペンデュラム、反応が出たポイントは、ここですね」

「時間帯から考えても、このときの、ストロング石島と榊遊矢のデュエルでしょうね」

「そうか…なら、このデュエルのデータ入手、リアルソリッドヴィジョンのシステムログを確認してくれ」

「「「はい!」」」

 

その場にいた数人が返事をし、部屋を出ていく。…そして青年は再び考え事をする。今回の反応が意味することを。そして…。

 

「……あの男が残したデータ、そして今回の出来事…何か関係があるのか?」

 

 

 

ストロング石島に勝った翌日、雲はあるが絶妙な具合に浮かび、きれいな空を演出している。そんな中、榊遊矢はとても機嫌良く所属するデュエル塾、遊勝塾へと鼻歌を歌いながら向かって行く。そのうち軽くスキップしそうだ。何せ昨日はチャンピオンのストロング石島とデュエルをし、勝った、という事実があるからだ。微妙に記憶が飛んでいる部分があるが、そんなことは別に構わない、ちょっと重要っぽいけど大体どういうことかは分かっている。問題ないさ、と軽く考えているからだ。…その軽く考えている重要事項が後に惨事繋がることを、今はまだ知らない。

 

「よーし、今日も張り切っていくぞー!」

 

こんな感じでお調子者の榊遊矢、河原沿いにあるかなり特徴的な建物…宇宙ステーションとか著名な建築家が設計したと言っても思わず信じてしまいそうなあまりにも特徴的な構造をした遊勝塾へと到着、建物へと入っていき…数分後、絶叫を上げる。塾長の柊修造から、あることを告げられたからだ。

 

「えええええええええ!!!!ぺ、ペンデュラム召喚の、実演デュエル?!」

「え、どうした遊矢」

「あ、え、あ、えーっと…ど、どうして今?」

「ああ。昨日のデュエルの後からペンデュラム召喚を見たいって電話が殺到してな…他にも取材の申し込みとかもあったが、取材となるとお前との相談が必要だから、返事は待ってもらっている。うまくいけば塾生も増やせるし、遊矢のお父さんで、オレの先輩の榊遊勝が立ち上げたこの遊勝塾も盛り上げられる、一石二鳥だと思ってな」

 

この遊勝塾、元は榊遊矢の父親で元チャンピオンにしてエンタメデュエリストの榊遊勝が立ち上げ、塾長をしていたが…今現在その榊遊勝は行方不明、タイミングも合わさって悪い噂が立つ、現塾長の教え方が微妙など様々な要因が重なった結果、講師は塾長の柊修造ただ1人、塾生は遊矢、柚子、小学生の原田(はらだ)フトシ、鮎川(あゆかわ)アユの4人と少なくなり、閑古鳥が鳴く始末。

 

「すぐにって電話が多くてね…どうせなら熱がまだ冷めないこのタイミングを逃す手はないわ!今回のこれで、遊勝塾の運命がかかっているわ!遊矢、がんばって!」

「いや、がんばってって言われても…」

「がんばって、遊矢兄ちゃん!」

「遊矢兄ちゃんならできるって!」

 

小学生二人のうち、太っている少年が原田フトシ、赤い髪の少女が鮎川アユ。どちらも元気いっぱいだ。

 

「いや…その……実はオレ、ペンデュラム召喚って、あんまりよく…分かって、ないんだ」

「…え…」

「「「「えぇーーーーーー!!!!!???」」」」

 

遊矢を除いた4人はもちろん叫ぶ。叫ぶしかない。昨日できてたじゃないか、あんまりよく分かってないってどういうことだよ…となるのが普通。もっとも昨日のも少し不可解なところはあるが。

 

「き、昨日できてたじゃない!?よく分かってないってどういうことよ!!」

「実はいうと、ペンデュラム召喚したときの記憶が、飛んでいて…」

「そ、それじゃあペンデュラム召喚できないの?!」

「その時どうしてたかは、テレビで流れたたから大体分かってて、できないってわけじゃないけど…」

「う~、どっちなんだよ遊矢兄ちゃん~」

「あー、いや…だから、ちょっと練習したい、です。さすがにこのままやったら大変なことになりそう…」

 

やってはいけない類のミスを犯したらこの塾がどうなるか分からない。さすがにすぐ潰れることはないがただでさえ経営は火の車、そこから灰になって真っ白に燃え尽きることもあり得る。ペンデュラム召喚のときの記憶が飛んでいることを軽く見ていたがかなり重い事態になってきた、ペンデュラム召喚についてもっと知るためにも練習が必要だ。

 

「…分かった。ただ、実演は1時間後。できるだけ急いでくれ。柚子、遊矢の練習に」

「話しは聴かせてもらった!」

「え、権現坂?!いつの間に」

「近くを通りがかったときにここから絶叫が聞こえてきてな…来てみればこうだ。遊矢!自分がしたことを分かってないとはどういうことだ!」

「いやオレでもそれは分かんないから困ってるんだって!」

「まあそれは別にもう構わん!行くぞ遊矢、練習に付き合おう」

「!ありがとう、権現坂」

 

ついさっき来た権現坂が先導する形となり、デュエルフィールドへと向かう遊矢と権現坂。権現坂は父親が塾長を務める権現坂道場の所属で跡取りだが、遊矢や柚子との縁から遊勝塾に来ることがある。何よりトレーニングの際にここの近くを通る、ここでデュエルをしていくことだって多いのだ。

 

「柚子、タツヤくん、アユちゃん、観覧スペースに行ってくれ。オレは見学に来た人達に対応しておく」

「お父さんだけじゃ不安だから私も一緒にいるわね」

「あ、すまない…」

「じゃあオレ達は見に行ってるぜ!」

「塾長も柚子お姉ちゃんもがんばってね!」

 

 

そして見学者の足止めと入塾希望の確認を塾長や柚子がしている間に練習のためデュエルをしていた…ところ、遊矢はさっそくあることに気が付いた。様々なモンスターカードが、ペンデュラムカードに変化しているのだ。例えば昨日、ペンデュラム召喚をする直前に召喚した《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》はスケール8のペンデュラムモンスター、効果は《オッドアイズ》、《魔術師》、《EM》のモンスターをサーチする、という紛れもない強化がされた上でペンデュラムカードとなっていた。

 

「…あれ?」

「どうした、遊矢」

「いや…いろんなカードがペンデュラムに変わってる…《オッドアイズ》や、《時読みの魔術師》、《星読みの魔術師》だけだと思ってたけど…」

「デッキを確認していないのか」

「いや~、つい…」

 

…このとき、気が付いていれば…この後起きる悲劇を、避けられていたであろう。あってはならない、間違いを。

 

 

こうして1時間後、とうとう実演のときがやってきた。見学者はどこのデュエル塾にも所属していない小学校低学年を中心に高学年ぐらいの小学生ばかりだ。そして今回のデュエル、遊矢の相手は柊柚子だ。そして遊矢はというと…ペンデュラム召喚をしっかり理解しようと必死だ。かなり表情が強張っている。

 

「(ペンデュラム召喚は、この…スケールの数字が重要で、ペンデュラムゾーンに置かれたペンデュラムモンスターにあるスケールの数字の間にあるレベルのモンスターが出せる…スケール1とスケール8なら、2から7、スケール2からスケール7なら3から6、ペンデュラムモンスターは破壊されたらエクストラデッキに表側で送られる…よし、覚えた)」

「遊矢!準備はいいわね!」

「え?あ、ああ!」

「うーん……それなら…フッフッフ…このストロング柚子が相手よ榊遊矢!」

「す、ストロング柚子って、もしかしてそれストロング石島の真似…」

「さあかかって来なさい!!」

 

そう言い、身構えている自分の幼馴染みである柚子を見て、遊矢はすぐに緊張を解そうとしていると分かり…気合いを入れ直すため、両頬を叩く。軽く後が残るが、気合いが入り、デュエルに集中できそうだ。

 

「ああ、行くぞ!」

[準備はいいな二人とも!行くぞ!アクションフィールド、オン!《プレーン・プレーン》!]

 

塾長の宣言と共にリアルソリッドヴィジョンが展開され、デュエルフィールドが広大な草原へと変化し、遊矢と柚子は手早くアクションカードをそれぞれ2種類選択する。遊矢は《回避》、《調星》とストロング石島のときと同じものを、柚子は《トップウインド》、《奇跡》の2枚を選択した。

 

選ばれたカード

○遊矢

・《回避》

・《調星》

 

○柚子

・《トップウインド》

・《奇跡》

 

トップウインド アクション魔法

①自分及び相手フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体ずつを対象に発動できる。そのモンスターを表側守備表示に変更する。この効果で表示形式を変更したモンスターは次の相手ターンの終了時まで、表示形式を変更できない。

 

奇跡 アクション魔法

①自分フィールドのモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターはこのターン、戦闘では破壊されず、そのモンスターの戦闘によって発生する戦闘ダメージは半分となる。

 

 

・フィールドのアクションカード

・《回避》 2/2

・《奇跡》 2/2

・《トップウインド》 2/2

・《調星》 2/2

・《???》 2/2

・《???》 2/2

・《???》 2/2

・《???》 2/2

 

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る!」

「見よ、これぞデュエルの最強進化系!」

「「アクショーン…」」

 

「「デュエル!」」

 

柚子 LP 4000

 

遊矢 LP 4000

 

アクションデュエル恒例の口上と共にアクションカードがフィールドに飛び散り、デュエルが開始される。先攻は柚子だ。遊矢が先攻のほうがいいのでは?というが、ペンデュラム召喚は手札消費が激しくなりやすい、なのでドローできる後攻を選んだのだ。

 

「まずは私の先攻!手札から魔法カード、《独奏の第1楽章》を発動!このカードは私のフィールドにモンスターがいないときに発動できて、デッキからレベル4以下の《幻奏》モンスター1体を特殊召喚する!さあ来て!《幻奏の音女アリア》!」

 

《幻奏の音女アリア》 ☆4 ATK 1600

 

さっそくデッキから紫の短髪の少女が現れ、軽く歌声を出す。頭にはヘ音記号のようなものがついている。なお、特殊召喚されたアリアは自分フィールドの《幻奏》モンスターに効果対象と戦闘破壊に対する耐性を与える効果を持ち、一工夫しなければ突破は難しい。…リリースすればいいじゃんとか言わない。

 

 

「続いて、自分フィールドに《幻奏》モンスターがいるとこで、手札から《幻奏の音女ソナタ》を特殊召喚!そして手札から《幻奏の音女ソロ》を通常召喚!特殊召喚した《幻奏の音女ソナタ》がフィールドに居る限り、私の天使族モンスターの攻撃力、守備力を500ポイントアップさせる!」

 

《幻奏の音女アリア》 ☆4 ATK 1600→2100

 

《幻奏の音女ソナタ》 ☆3 ATK 1200→1700

 

《幻奏の音女ソロ》 ☆4 ATK 1600→2100

 

青い8分音符を、髪を含めた体のところどころにつけた緑色の長い髪をした少女、ソナタと腕に連桁の音符をつけた、髪が少しハ音記号に似た黄緑の髪をした少女、ソロが現れ、歌声を奏でる。そしてソナタの歌声がアリア、ソナタ、ソロに力を与え、その力を上げる。

 

「これでターンエンド!」

 

柚子 手札1 LP 4000

【モンスター】

《幻奏の音女アリア》ATK 2100、《幻奏の音女ソナタ》ATK 1700、《幻奏の音女ソロ》ATK 2100

【魔法・罠】

なし

 

「よーし…Ladies and Gentlemen!観客の皆様、これより榊遊矢によるエンタメデュエルの開幕です!ではまずは私のターン、ドロー!さて、皆さまは何を楽しみにここに来ました?」

 

「決まってるよ!」

「ペンデュラム召喚!」

「さあ早く早くー!」

 

口調を変えスイッチにし、エンタメデュエルを行うため意識を集中する。無論、エンタメデュエルの本髄、楽しませることを忘れないようにしながら。

 

「ではさっそく参りましょう!私は手札から、スケール8の《時読みの魔術師》と、スケール5の《EM(エンタメイト)バブル・ドッグ》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

《時読みの魔術師》Pスケール (8)→(4)

 

《時読みの魔術師》と頭にシャンプー容器の上部をつけた犬が光の柱に現れる。だが今まさにやらかしていることに気が付かない榊遊矢。そしてそのまま、ペンデュラム召喚へとデュエルは進む。止めるものなんていない、ここには進めるものしかいないのだ。

 

「これで私は、レベル6と7のモンスターが同時に召喚可能!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!出でよ、私のモンスター達!」

【ブー!ブー!】

 

…揺れるペンデュラムも天空に描かれる光のアークも現れず、デュエルディスクは警告音を出し、ペンデュラム召喚のための処理は行われない。…遊矢は気付いていない、いやこれはあるまじきミスだ。何せ、自分のデッキに入っているカードの効果を完全に把握しきれていないなどデュエリストとしてはあるまじき行いだからだ。エンタメデュエリストなら効果も含め人を楽しませるためなおさらだ。

 

「…ぺ、ペンデュラム召喚!」

【ブー!ブー!】

 

「あれ?」

「なんだどうした?」

「ペンデュラムできないの?」

「なーんだ、つまんないの」

「やっぱあれズルだったんだ」

 

「(あ、あれ?!な、なんで?!ちゃんと、オッドアイズを召喚できるスケールのはずだよな?!オレ間違えて………)」

「え、あれ?!(と、《時読みの魔術師》の数字が、8じゃなくて4?!どういうこと?!)」

 

観客からブーイングが上がる中、遊矢、柚子の頭の中は大混乱。特に遊矢は結構自信を持ってペンデュラム召喚を行ったが結果はこれ。混乱する中、デュエルディスクのプレートにあるペンデュラムモンスターをしっかり確認し……とうとう気が付いた、自分がおかした重大なミスに。それに気づいたとき、遊矢自身でも自分の顔が一気に蒼褪めていくのが分かるように思えた。

 

「あっ…(《時読みの魔術師》って、片方が《魔術師》か《オッドアイズ》じゃないとスケールが4になるのか?!)」

「あって何遊矢」

 

ヤバイ、殺される、これがバレたら柚子に後で殺される…遊矢の頭は急激に冷え一気に恐怖が押し寄せる。柚子は結構過激だ。殺されるはさすがに言い過ぎだが確実に痛い目を見るのは避けられない。《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》をペンデュラム召喚したいがためにこうしたがこうなってしまいとても焦っている。とにかくこの場はどうにかして切りぬけなければ…。

 

「もう行こう」

「え、ちょっと!まだデュエルは…」

「どーせ負けだって」

「ストロング石島のときもズルしたんだな」

「ざーんねん、ペンデュラム召喚見れると思ったのに」

「も~!遊矢兄ちゃん何やってんだよー!」

「でも何か様子がおかしくない?」

 

見学者の感情は一気に期待から失望へと変わり、ドンドン帰っていく。そして遊矢の様子がおかしいのは主に恐怖からだ。間違いなく柚子の怒りが大噴火する。せめてバレないようにしなければならない、バレたらこの後柚子にハリセンで何度も叩かれるのは避けられない。

 

「は、ははは!ペンデュラム召喚は次のターンまでお楽しみに!私はモンスターを1体セット、カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

遊矢 手札2 LP 4000

《時読みの魔術師》(4)=《EMバブル・ドッグ》(5)

【モンスター】

セットモンスター×1

【魔法・罠】

リバース×1

 

若干上ずった声を出し、必死にエンタメデュエルをしようとして逃げるように素早くターンを終え、その場からアクションカードを捜しに走り出す。…その様子を見て、幼馴染みである柚子は気が付いた。あ、こいつやらかしたなと。

 

「…ゆ・う・や~!!!」

「ひっ!」

 

今回に関しては、場所はともかく遊矢が悪い。練習中に《時読みの魔術師》、そして同等のスケール変動効果を持つ《星読みの魔術師》を《魔術師》、《オッドアイズ》以外のペンデュラムモンスターと組み合わせてペンデュラムスケールをセッティングしたことがなかったとはいえ、これは重大なミスだ。キレないわけがない。

 

「覚悟しなさい遊矢!私のターン、ドロー!バトル!《幻奏の音女アリア》でセットモンスターを攻撃!!」

『ヒッポ~!!』

 

柚子の怒りを受けてか柚子のモンスターの表情が険しく見える気がするがきっと気のせいだ。気のせいだからセットモンスターの《EMディスカバー・ヒッポ》の姿が露わになってディスカバー・ヒッポがビックリして逃げ出そうとして破壊されたのも気のせいだ、そうだと思いたい遊矢。

 

「続けてソナタ、ソロでダイレクトアタック!!」

「えーっとアクションカード…はない!速攻魔法、《カバーカーニバル》!《カバートークン》3体を特殊召喚!」

『『『カバー!』』』

 

《カバートークン》×3 DEF 0

 

カバー!と現れたサンバの恰好のカバ3匹。その場でカバカバ鳴きながら陽気に踊る。これでこのターン、ダメージは受けないで済む。

 

「ならソナタ、ソロで《カバートークン》2体を攻撃!!」

 

攻撃対象にされたカバートークンは、攻撃対象になった途端にビックリして逃げ出そうとして破壊される。さっきも見た光景だ、《幻奏の音女》たちの表情が変わらず険しく見えるのはきっと柚子の怒りが強くてそう見えるだけだ、そう必死に思う遊矢。だが現実は非情、表情が険しいのは事実だ。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

柚子 手札1 LP 4000

【モンスター】

《幻奏の音女アリア》ATK 2100、《幻奏の音女ソナタ》ATK 1700、《幻奏の音女ソロ》ATK 2100

【魔法・罠】

リバース×1

 

「待ちなさい遊矢ー!!」

「い、いえ待ちません!私のターン、ドロー!…ほっ…皆さま、ご心配をおかけして申し訳ありません!少々トラブルはありましたが、これよりペンデュラム召喚を行いたいと思います!」

 

皆さま、と言っても観客となる見学者は一人を残して全員帰り、それを塾長が止めようと必死になるも効果がなく、観覧スペースにはフトシとアユ、そしてその2人と年が近い少年1人を残すのみとなっている。ペンデュラム召喚ができないと分かれば帰ってしまうような人しかいなかったのだ、1人の少年を除いて。

 

「遊矢兄ちゃんみんな帰っちゃったよー!」

「1人残ってるけどみんな帰ったよー!」

 

「……では速攻魔法、《サイクロン》を発動!ペンデュラムゾーンの《EM(エンタメイト)バブル・ドッグ》を破壊!ペンデュラムモンスターは破壊されたら、エクストラデッキに表側で置かれます!そして手札からスケール4の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》をセッティング!そして《時読みの魔術師》のスケールは、もう片方が《オッドアイズ》のため、8に戻ります!」

 

ペンデュラムの練習で学んだ事についてもう1つあった。どうやらペンデュラムカードはセッティングをする場合、それは魔法カードを発動する行為として扱わるらしく、フィールドでも魔法カードとして扱われる様だ。そしてペンデュラムカードが置いてある場所は(ペンデュラムゾーンとでも呼ぶべきか)フィールドに2ヶ所あり、そこにカードがあると新しいカードを置くことが出来ない。他のペンデュラムカードに変えたければ《サイクロン》の様なカードで除去しなければならないのだ。

 

《時読みの魔術師》 (4)→(8)

 

「…はー、そういうこと…《時読みの魔術師》の効果、ちゃんと覚えてなかったわね」

「うっ…スケールは4から8、これでレベル5から7のモンスターが同時に召喚可能!今度こそ揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!現れよ、私のモンスター!」

 

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と《時読みの魔術師》、2体のペンデュラムモンスターが浮かぶ光の柱の間に今度こそペンデュラムが現れて揺れ、光のアークが描かれる。そしてその中心から1つの光が舞い降りる。

 

「レベル7!《EM(エンタメイト)》の王様、ただいまご到着です!《EMキングベアー》!!」

 

《EMキングベアー》 ☆7 ATK 2200

 

それは、王冠を被り、マントをつけ、立派な服を着た…クマだ。目からやる気をあまり感じられないため王とは思えないが、これでもちゃんとキングである。…王様である。しかしペンデュラム召喚の成功により、観覧スペースの3人は小学生なのも相まって興奮気味だ。

 

「来たー!ペンデュラム召喚!」

「しびれるぅ~!」

「これが、ペンデュラム召喚!」

 

「…や、やったじゃない遊矢」

「バトル!そしてバトルフェイズに入ったことで《EMキングベアー》の効果発動!このカードの攻撃力は、私のバトルフェイズ中には私のフィールドの《EM(エンタメイト)》の数×100ポイントアップします!…残念ながら《EM》はキングベアー1体だけのため、100ポイントアップです」

 

《EMキングベアー》 ATK 2200→2300

 

「いけ、《EM(エンタメイト)キングベアー》!ソナタを攻撃!」

「手札の《幻奏の音女スコア》を墓地へ送り、効果発動!このカードは私の幻奏モンスターが戦闘を行うダメージ計算時に墓地へ送ることで、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力・守備力をターンの終わりまで0にする!」

「…えっ…」

 

《EMキングベアー》 ATK 2300→0

 

遊矢 LP 4000→2300

 

キングベアーは手を組み、腕を振り下ろしソナタを攻撃しようとした、しかし!ソナタの背後から突如として現れた青い髪の少女の歌を聴いたキングベアーは思わず聞き入ってしまい、あっけなくソナタによって破壊されてしまう。遊矢の手札は0、フィールドにはトークン1体、アクションカードは1ターンに1枚、万事休すだ。

 

「…これで、ターンエンド」

 

遊矢 手札0 LP 2300

【モンスター】

《カバートークン》DEF0

【魔法・罠】

なし

 

「さあ覚悟しなさい!私のターン、ドロー!」

「(まだだ!柚子は《奇跡》を選んでいたし、オレは《回避》を選んだ、なら今見えるあのアクションカードがそのどっちかなら、1700のソナタ、2100のどっちかで攻撃を受け、モンスターが増えない限り、オレのライフはギリギリ残る!!)届け―!!!」

「手札から《幻奏の音女ソナタ》を特殊召喚!バトル!ソナタで、カバートークンを攻撃!!」

「あっ…」

 

《幻奏の音女アリア》 ☆4 ATK 2100→2600

 

《幻奏の音女ソナタ》 ☆3 ATK 1700→2200

 

《幻奏の音女ソロ》 ☆4 ATK 2100→2600

 

《幻奏の音女ソナタ》 ☆3 ATK 1200→2200

 

アクションカードに手が届いたのも束の間、新たにモンスターを増えないなど希望的観測にもほどがあると言わんばかりにソナタが特殊召喚される。とはいえ柚子の幻奏には上級モンスターが何体かいるため別にそう思っても仕方ない。だが現実は無情、よりにもよって2体目のソナタが特殊召喚され、幻奏モンスターの攻撃力は合計1000アップした状態となる。そんな中、遊矢が手にしたアクションカードは…。

 

「…アクションマジック、《回避》…」

「もう1体のソナタでカバートークンを攻撃!そのままアリアでダイレクトアタック!」

 

遊矢 LP 2300→0

 

柚子 WINNER

 

憐れにも《カバートークン》は回避して間もなく同じ顔に攻撃され破壊、そのままアリアの攻撃が遊矢を直撃、ライフは0となりデュエルは終了。ペンデュラム召喚の実演デュエル、気付けば遊矢の完封負けで終わったのだった。

 

 

「遊矢ー!自分のカード効果を把握してなかったってどういうことよ!!」

「いだ!…だ、だからごめんってば。テレビで効果言ってたから、その、うっかり、確認するのを忘れてて」

「うっかり、じゃない!」

「いだあ!」

 

どこから取り出したのか柚子は、遊矢の頭をハリセンでバシバシ叩く。見ている側はいつもどこからハリセンを出したんだろうと疑問に思いつつ巻き込まれないよう離れたところで見ているが、やられている側からはただ痛い、それ以上でもそれ以下でもない。そんなデュエルフィールドの状況を見て、観覧スペースのアユ、フトシは、はあー、と溜め息、一方もう1人の少年は苦笑している。そんな観覧スペースに、塾長が暗い顔をしてやってきた。どうやら止められなかった様子。

 

「はー、ダメだ、もう…ん?君は…」

「は、はい。山城(やましろ)タツヤです。…あの、この塾に入れてもらえませんか!」

「…え?…い、いいのかい?ほ、本当に?本当に、いいのかい?」

「はい。遊矢さんのペンデュラム召喚もしっかり見られました、何より…楽しそうですから。他の塾も見ましたけど、ここなら他にはないこともいっぱい学べると思ったので…よろしく、お願いします!」

「ほ、本当にいいのかい?い、いいならこの入塾届けに記入を…ああ、でもその前にこの入塾届けを家に持ち帰って、ご両親とちゃんと話しをしてそれで記入やハンコを押して持ってきてくれ。柚子―!!遊矢―!!この子が入ってくれると言ってくれたぞーー!!!」

 

「「え?!ホント!!?」いだ!」

 

柚子も遊矢も思わず塾長を見た。そして遊矢は顔を上げた途端に止まることのできなかった柚子のハリセンを受ける。だが今回のハリセンはどうやらここまでのようだ。柚子の顔は先ほどの険しい表情と変わってキラキラした目の笑顔になっている。

 

「1人だけでもいないよりはずっといい!やったわ遊矢!」

「ああ!」

 

こうして遊勝塾に山城タツヤという新たな仲間が入り、これで5人…そのうち小学生が3人となった。間違いなく小学生3人は仲良しになれることだろう。




《EMキングベアー》……当時はあんな驚異的なカードになるとは思わなかったよ
今だと《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》のペンデュラム効果忘れる人いそう


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ARC3 奪われたペンデュラム!?使い手はあの沢渡さん!

リレー小説第3話

今回は会話パートをカイナさん
デュエルパートをノウレッジさんに執筆していただきました。


「――で、奪い取ればいいの? そのペンデュラムカードってやつを」

 

タン、と金属製の何かが突き刺さる音が、敢えて弱い照明により薄暗く演出された一室に響く。ダーツの的が並んでライトアップされたのが目立つそこで何か不穏な会話が行われていた。

 

[そうだ。手段は問わない]

 

デュエルディスクの通話機能で会話しているのはどうやら青年らしい声をしており、その話を聞きながらカウンター席に座る少年はカウンターに置いたダーツを手に取るとこともなげに正面へと投げる。再びタン、という音が響いた。

 

[手に入れて我々に渡してくれれば、君の望むレアカードと交換しよう]

 

「ふ~ん……了解」

 

その言葉を聞いた少年は黙っていれば女性を魅了するであろう端正な顔をニヤリと歪ませて笑い、もう一度ダーツを投げる。

タン、と音を立ててダーツが刺さったのは一枚の新聞記事。つい昨日行われたストロング石島とのエキシビジョンマッチに勝利した遊矢が大きく映された写真の、まるで遊矢の顔を正面から額、鼻、口のど真ん中を貫くようにダーツは刺さっていた。

 

 

 

 

 

「まったくぅ。ペンデュラム召喚を完璧に出来るようにって徹夜で特訓して、居眠りして夢にまで出てくるなんて……」

 

「ま、まあ……柚子が突っ込んでくれたおかげでちゃんとウケたわけだし……」

 

キーンコーンカーンコーンと放課後を示すチャイムが鳴る。ここは舞網第二中学校、遊矢と柚子の通う学校だ。

放課後になり帰路につく遊矢を呆れた様子で隣を歩く柚子が叱り、その言葉に遊矢が苦笑しながら誤魔化そうと試みる。

昨日のペンデュラム召喚の実演でなんとか取り繕ったのはいいが遊勝塾の宣伝としてはほとんど大失敗の結果を鑑みた遊矢は親友である権現坂に頼み込んで徹夜で特訓、ペンデュラム召喚を完全にものにした……のはいいのだが、徹夜の特訓が祟ったのか授業中に居眠りした挙句寝ぼけてペンデュラム召喚の口上を授業中に唱えてポーズまで取ってしまい、先生に思いっきり叱られてしまっていた。まあ正確に言うなら叱ったというかハリセンでツッコミを入れたのは柚子なわけだが。

 

「そういう事じゃなくて――」

 

しかし真面目な柚子は誤魔化される事なく、むしろ睨む力が強まっている辺り火に油を注いでいる。遊矢も「こりゃしばらく説教は止まんないな」と苦笑交じりに諦めの念を心に宿した。

 

「「「遊矢兄ちゃーん!」」」

 

「「ん?」」

 

だがそれを遮って遊矢を呼ぶ声が聞こえた二人は校門に目を向ける。そこには遊勝塾の生徒であるアユとフトシ、そして正式に入塾したタツヤの姿があった。

 

「よお、皆。どうしたんだ?」

 

「あのね、このお兄ちゃんが遊矢お兄ちゃんに会いたいから紹介してくれないかって」

 

「このお兄ちゃん?」

 

遊矢の言葉にアユがそう言い、柚子がアユの指差す方を見る。

 

「初めまして」

 

そこには前髪が跳ねたような濃い金髪で後ろ髪がやや茶色がかった金髪をこちらは寝癖一つない整った髪型をした、端正な顔の遊矢と同い年の少年が人当たりのいい笑みを浮かべて人懐っこい明るい声で挨拶をしていた。

 

「君が榊遊矢君かい? 僕は一組の沢渡(さわたり)シンゴ。よろしくね」

 

挨拶しながらフレンドリーに握手してくる少年――沢渡シンゴ。突然のそれにあっけにとられた様子の遊矢は「あ、ああ……」としか返せていなかった。

 

「テレビで見させてもらったよ、ストロング石島とのデュエル」

 

シンゴは元来そうなのかペラペラと、ストロング石島とのデュエルをテレビで見たこと、素晴らしい大逆転は正にエンターテインメント、特にペンデュラム召喚はサイコーだったと遊矢にマシンガントークで話す。

 

「ペンデュラムカードだっけ? ああいうレアなカードは特別な人間が選ばれて使えるようになるんだろうね」

 

そんな美辞麗句を受け、満更でもないのか遊矢がうへへとしまりのない顔を見せた。

 

「沢渡君、だっけ? 遊矢をあまりおだてないで」

 

その遊矢の様子を見た柚子が調子に乗るからあまりおだてないでとシンゴに注意した。

 

「いやいや、本当にそう思っているだけさ」

 

それに対しシンゴは本心から言っているだけだと返答、柚子に視線を向ける。

 

「それに、君のような可愛い子が一緒にいるなんて。榊君が羨ましいね」

 

「ま、まあ。可愛いだなんて……」

 

まるで呼吸でもするように柚子をタラシ込むシンゴ。やはり褒められて悪い気はしないのか、柚子もぽっと頬を赤く染めた。それによって柚子からの敵意が消えたのを見計らったシンゴは再び遊矢の方を向く。

 

「ねえ、榊君。よければ僕にもペンデュラム召喚を見せてもらえないかな?」

 

「え? ああ、もちろんいいよ! じゃあ一緒に遊勝塾に――」

「いや、ペンデュラム召喚ならもっと相応しいステージを準備しているよ。五時からLDSのセンターコートを抑えているんだ。もちろん貸し切りだよ」

 

「えぇ!? あのLDSのセンターコートを……」

「貸し切ったぁ!?」

 

シンゴのお願いを褒められて上機嫌になっている遊矢は快く受け入れ、遊勝塾に誘おうとする。しかしシンゴはLDSのセンターコートを貸し切っているからそこを使おうと答え、その言葉に遊矢と柚子が声をひっくり返して仰天する。

するとシンゴは自分の制服の襟につけているバッジを見せる。それは「LDS」という文字をそのまま使ったようなシンプルなバッジである。

 

「僕はLDSでも優秀な生徒だからね。それに父親も次期市長と期待されているんだ。少し頼んだら快く貸してくれたよ」

 

シンゴのその言葉にアユ達が「すごーい!」と盛り上がる。LDSは舞網市どころかデュエル業界でも最大手のデュエル塾。その設備も最先端のものを使用しており、遊勝塾とははっきり言って比べ物にならない程のものだろう。

 

「そこまでしてもらったなら無下にも出来ないな。いいだろ、柚子?」

 

「そ、そうね……うん。遊勝塾の代表として、ライバル塾の視察ってことで。お邪魔させてもらうわ」

 

遊矢が柚子に確認を取ると柚子も自分なりに折り合いというか正当な理由を付けてライバル塾に足を踏み入れる事を許可する。

 

「ありがとう。じゃあついてきてよ」

 

シンゴは自分のお願いを快く受け入れてくれたことに笑顔でお礼を言うと踵を返して歩き始め、遊矢達もその後について歩き出す。

 

(……全て計算通り)

 

自分の後ろをわいわいと喋りながら歩く遊矢達の気配を感じながら、シンゴは彼らに見られないよう背を向けたままニヤリと笑みを浮かべてみせた。

 

 

 

 

 

「ようこそ、LDSへ」

 

シンゴがそう言い、自動ドアが開くとアユ達が目を輝かせる。そこに広がるのは広大な広間――ここだけでも遊勝塾のデュエルスペースより広いがこれは生徒達の談話やデッキ構築に使ういわば自由室でありデュエルスペースはまた別の場所である。

ここで説明しておこう。LDSとはレオ・デュエル・スクールの略称であり通称。舞網市に本拠地を置くレオ・コーポレーション直営のデュエル塾で、業界最大手の名に恥じず最高の設備、最高の講師、最高のカリキュラムをモットーにした、デュエル業界でも多数のエリートデュエリストを輩出した正にエリート養成塾である。

なおアユがその内容を「遊勝塾にないものが全て揃ってるのね!」と表現、それを聞いた柚子が「どうせうちはボロですよ」と拗ね、フトシが「安いところだけがいいところ」とフォローにならないフォローを行っていた。

 

「でも、ないものがあるってのは本当だよなぁ」

 

遊矢が壁に貼られたポスターを見ながらそう呟く。遊勝塾で教えているのはデュエルにおいて基本中の基本になる部分とアドバンス召喚のみ。それに対してLDSはその基本を抑える部分を全ての塾生が学んだ後、そのアドバンス召喚のみならず儀式召喚やさらに深いプレイングを学ぶ総合コースと最近発展し始めたエクストラデッキを利用した召喚法である融合召喚、シンクロ召喚、エクシーズ召喚に特化したコースを生徒が選ぶことが出来るのだ。

 

「ん?」

 

ポスターに書かれたカリキュラムを読み上げている遊矢に、彼の後ろを歩いていた少年が何かに反応したように立ち止まって振り返る。しかし遊矢がその視線に気づく頃には既にその少年は再び歩き出していた。

 

「遊矢! 何してるの?」

 

「センターコートはあっちだよ」

 

「あ、ああ。ごめんごめん!」

 

柚子が呼び、シンゴが行先を指差して行くように促す。友達を待たせたことに遊矢は謝りながら彼らの元に駆け寄った。

それから遊矢達はセンターコートへとやってくる。その広さは既に一つのスタジアムと言ってもよく、恐らく本来は多数のデュエリストが同時にデュエルする事を想定しているのだろう。それを貸し切ったというところからもシンゴの影響力がうかがい知れそうだ。

 

「やあ、沢渡さん。待ってましたよ」

 

するとそのセンターコートで待っていたらしい三人の男子が歩き寄る。

 

「あの子達も君のファンなんだ。彼らに君のペンデュラムカードを見せてもらえないかい?」

 

「え? でも……」

 

シンゴの言葉に遊矢は怯む。カードは自分の大切な相棒、それを軽々しく見せるなんて出来ない。

 

「少し見せるだけだからさ?」

 

しかしそう返そうとする前に少しだけと言われ、前もってファンだと言われると弱いのか遊矢は二枚のペンデュラムカード――[星読みの魔術師]と[時読みの魔術師]をデッキから取り出す。と、シンゴはやや乱暴にその二枚のカードを奪い取って三人の男子の方へと持っていった。

 

「すげー! これがペンデュラム召喚に使うカードかー!」

「俺も欲しー!」

 

未知のカードを見た男子が喜び、それをシンゴが「ダメダメ」と制して二枚のカードを自分に手に取り返す。

 

「これは君達のカードじゃない」

「ちぇー」

 

その言葉に三人の男子がぶすくれ、シンゴはニヤリと笑う。

 

「だってこれは――」

 

彼はそう言いながら遊矢達の方に振り返る。

 

「――俺のコレクションになるんだから」

 

その彼の言葉は、先ほどまでの人懐っこさなどどこにもない。むしろ相手を威圧するようなものへと変化していた。しかもそれだけではない。

 

「え!?」

「ちょっと、どういうこと!?」

 

「俺さぁ、レアで強いカードが好きでさ。弱いカード入れるの、嫌なんだよねぇ。だから、こいつは貰ってやるって言ってんだよ」

 

ペンデュラムカードを自分のコレクションにする。というシンゴの言葉に遊矢が驚き、柚子が怒鳴る。それに対しシンゴは悪びれる様子もなく、むしろ威圧するように笑いながら高圧的な様子でそう答えた。

 

「そのために私達を呼び出したの!?」

 

「だけじゃないよ? だって手に入れたら使ってみたいじゃん」

 

柚子の怒髪天の言葉にシンゴは笑いながらそう言って、自身の取り巻きに「ペンデュラム召喚を見たいよな?」と煽っていく。

 

「そのためにセンターコートまで抑えたんじゃん」

 

「で、でも……」

 

「あれぇ? 俺なんかとはデュエルしたくないのかなぁ?」

 

シンゴの身勝手な要求に遊矢は言い返そうとするが、その前にシンゴが威圧していく。すると彼のデュエルディスクに通信が入り、[No Image]の文字と共に通信が開始された。

 

[その辺にしておけ。君の仕事はペンデュラムカードをこちらに渡す事だ]

 

「ああ、中島さん? 俺の目的は違うんだよねぇ、最初からこのカードが欲しかったし」

 

通信相手の言葉に対し、シンゴは笑いながらそう答えて「欲しいレアカードと交換だろ? んじゃ俺が欲しいのはこのレアカードってことで」とまで言ってみせる。

 

「なに!? そんな勝手なことを!――」

「いや、いい」

 

中島と呼ばれた男性は通話相手のシンゴに怒号を上げる。だがそれを制する静かな声がそこに聞こえた。

 

「やらせろ」

 

その言葉と共に通信室に一人の青年が入ってくる。その姿を認めた中島はその相手を「社長!」と呼んだ。

 

「そのままやらせるんだ」

 

社長と呼ばれた青年はそう、シンゴの邪魔をせずそのまま続けるように指示を出すのであった。

 

「と、いうわけで」

 

社長と呼ばれた青年の指示が聞こえたのか、中島が何も言わなくなったから勝手に進めているのか。シンゴがパチンと指を鳴らす。

 

「え、ちょっと!? 何をするのよ、離して!!」

「「「遊矢兄ちゃーん!!」」」

 

それを合図にシンゴの三人の取り巻きが柚子とアユ達を捕まえた。

 

「やめろ! 柚子たちを離せ!!」

 

「心配しなくていいよ。俺達のデュエルに協力してもらうだけさ」

 

「デュエルに!?」

 

遊矢の言葉にシンゴは静かにそう言って、おもむろに自分の制服の内ポケットに手を入れた。

 

「そうだ。貰ってばっかじゃ悪いから……これ、全部くれてやるよ」

 

そう言って彼は足元に向けてカードの束を投げ捨てる。

 

「君にピッタリのクズカードをね!」

 

床にぶつかったショックでばらけたカード、それは単体では使いどころの少ないカードだった。

 

「クズだなんて……なんで、こんな事を……」

 

シンゴの言葉を聞いた遊矢は悲しそうに目を細め、シンゴが投げ捨てたカードを拾い集める。

 

「フィールドは俺が決めるぜ? か弱き姫達を閉じ込め、ここにそびえ立て!」

 

遊矢がカードを拾い集めている隙にシンゴは勝手にデュエルに使用するアクションフィールドを決定、右手を上げてぱちんと指を鳴らした。

 

「アクションフィールド・オン! ダークタウンの幽閉塔!!」

 

その言葉と共にアクションフィールド発生装置が起動、センターコートにアクションフィールドが展開されていく。

 

「お姫様にはさ、塔に幽閉されてもらわないと」

 

「きゃああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「柚子ー!!!」

 

展開されるのは闇夜に閉ざされた静か且つ不気味な大都市。柚子たちはいつの間にかその大都市の中でもひと際巨大な塔のてっぺんに立っており、しかもその塔はぐんぐんと伸びていく。その光景に柚子が悲鳴を上げ、遊矢も次々と立ち並ぶビルを飛び越えて柚子達を追いかけた。

しかし遊矢は一歩間に合わず、彼の立つビルの伸長は止まるが塔はぐんぐんと伸びて遊矢と柚子達を引き離していく。フトシが「どうなってんだよこれ!」と叫び、タツヤが「ソリッドビジョンだけど実体化してるから、僕達も影響を受けてるんだよ!」と説明口調で叫んでいた。

 

「みんなー!!!」

 

柚子達が囚われた塔は最終的に大都市の中心に広がる巨大な川にかかる橋、その中央にそびえ立つ結果に終わる。遊矢は柚子達を助けるためにその塔へ向けて走っていた。

 

「助けたいのならさぁ、俺とデュエルしろよ。遊矢君」

 

「沢渡……」

 

しかしその先にシンゴが立ちはだかり、ニヤリとした笑みでの彼の言葉を聞いた遊矢はやるしかないと腹をくくったかデュエルディスクを取り出して左腕に装着。

 

――ERROR

 

「くっ!」

 

その時デュエルディスクからエラーが出る。原因は先ほどシンゴに二枚のペンデュラムカードを取られた事でデッキ枚数がルール上決められた40枚未満になってしまった事、遊矢は苦しそうに唸ると先ほどシンゴが投げ捨てたカードの束からカードを取り出してデッキに投入。デュエルディスクのオートシャッフル機能によってデッキがシャッフルされる。

同時にデッキ枚数が足りないエラーも解消された事でデュエルディスクがデュエルモードに移行、リアルソリッドビジョンシステムによるデュエルブレードが展開された。

 

「やっと覚悟が決まったようだな……それじゃ、行ってみようか!!」

 

その様子を見たシンゴもそう言ってデュエルブレードを展開。掛け声を上げた。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る!」

「見よ、これぞデュエルの最強進化系!」

「「アクショーン……」」

 

「「デュエル!!!」」

 

沢渡 LP 4000

 

遊矢 LP 4000

 

シンゴとその取り巻き三人によるアクションデュエル恒例の口上と共にアクションカードがフィールドに飛び散り、デュエリスト二人の掛け声が重なることでデュエルが開始されるのであった。

 

 

  ☆

 

 

選択されたアクションマジック

榊遊矢:回避、ワンダーチャンス

沢渡シンゴ:奇跡、ノーアクション

 

アクションカード

《回避》:2/2

《奇跡》:2/2

《ワンダーチャンス》:2/2

《ノーアクション》:2/2

《???》:2/2

《???》:2/2

《???》:2/2

《???》:2/2

《???》:2/2

《???》:2/2

 

 絶対に負けられない、遊矢は周囲の状況と手札を見て決意を漲らせた。

 アクションフィールド『ダークタウンの幽閉塔』は近代的な夜の工場街だ。町の真ん中を大きな川が流れ、そこに陸橋が掛かっている。柚子達がいるのはその橋脚の最上層である。

 

(まずは何に於いても柚子達の安全を確保しないと!)

 

 リアルソリッドヴィジョンのデュエルでは死者が出る危険性を常に孕んでいる。あんな天を衝くような塔から落ちては、下が川でも助からない。

 

「俺は《EMウィップ・バイパー》を召喚!」

『シャ~!』

 

 縦横無尽に駆け回るには地上より建物の上を走った方が良い。そう判断した遊矢が呼び出したのはストロング石島戦でも活躍した鞭状の蛇。その体はウィップの名に恥じぬ伸縮性を持ち、尾をマスターが持った状態で工場の屋上まで伸びて噛むと、今度は体を縮めて遊矢を引き寄せる。

 

「ターンエンド!」

 

 幸いにも塔までそう距離は離れていない。途中のアクションカードを駆使してあそこまで辿り着ければ、後は存分に沢渡とデュエル出来る筈だ。

 

 

 

榊遊矢

LP 4000

手札4枚

EM ウィップ・バイパー

 

 

 

「俺のターン!」

 

 移動に必死になる遊矢を見て、沢渡はほくそ笑む。お前の目論見はすぐに崩れるだろう、と。

 

「ドロー!」

 

 引いたカードは《時読みの魔術師》、早速奪い取ったカードが来た。

 が、モンスター効果はPゾーンのカードを守るというもの。つまり単体では使えないカードである。

 取り敢えず壁にでもするか、と安易な考えで手を伸ばした時だった。

 

『待て』

 

 いきなり通信が入った。

 誰からかは言うまでもない、今回のクライアント・赤馬零児である。

 

「あ? アンタいつの間に俺のアドレスを……」

『そんな事はどうでも良い。今重要なのは、君が《時読みの魔術師》を召喚しない事だ』

「はぁ? そんなの俺の勝手だろ?」

 

 沢渡シンゴは基本的に自分中心の我儘お坊ちゃんだ、他者に指図される事を嫌う。上から目線の零児の指示は逆効果だ。

 

『まだだと言った筈だが』

「――っ!」

 

 ただし何事にも例外はある。

 通信越しに聞こえる零児の声に只ならぬ威圧感を覚えたシンゴは、たった今ドローしたカードに指先を移し替えた。

 

「い、イヤだな、何ムキになっちゃってるのかな」

 

 或いは自分に言い聞かせるように、言い訳するように呟きながら手札からモンスターを呼び出す。

 通信越しの声に恐怖など感じていない、これも計算の内だと宣いながら。

 

「オレは《ライトニング・ボード》を召喚!」

 

 

ATK:1400

 

 

 呼び出したのは電気を放つダーツの的。地面と水平になったその上に乗ると、《ライトニング・ボード》は一定の速度で移動を開始した。どうやらお互い、共通してまずは足を確保する事にしたらしい。

 そんな沢渡のモンスターを見て遊矢は心の中で舌打ちした。こちらは自分で走り鞭で跳んでいるのに、あちらはホバークラフトのように飛んでいる。これでは柚子達の安全を確保するための時間を稼げない。

 既に皆が閉じ込められている(塔の上の開放的な部分に置き去りにされているので、こう言って良いのかは微妙だが)陸橋は目の前、救出は諦めて相手を倒す事に専念すべきかと戦略の変更を考えた時だった。

 

「あった、アクションカード!」

 

 運は我に味方した、と目に付いたカードに手を伸ばす。《ワンダーチャンス》辺りを引ければ、人質救出より先に沢渡シンゴを倒せるし、ポピュラーな《回避》や《奇跡》なら攻撃をやり過ごせる。この際最悪でも相手のアクションマジックの発動を潰す《ノーアクション》でも良い。

 これで戦況を有利に、と橋に着地して落ちていたカードを拾うと――

 

「な、トラップ!?」

 

 そのアクショントラップ《ブレイクショット》は、手にした瞬間に自軍にパワーダウンを強いる、文字通りの罠である。

 

 

ATK:1700→900

 

 

「うぃ、《ウィップ・バイパー》!?」

「ははははは、《ブレイクショット》とはツいてなかったな!」

 

 発動を宣言すらせずに起動した罠カード、《ブレイクショット》。それが消えると同時に突然現れたビリヤード玉に鞭蛇はペシャンコに潰されてしまった。

 しかも運の悪い事に ビリヤード玉は巨大過ぎた。ゴロゴロと転がる本来ポリエステルや木製のそれは橋をメチャクチャに揺らして穴ぼこだらけにし、あっと言う間に致命的なダメージを叩き込んで行った。

 

「うわぁああああ!!?」

 

 唐突にあがる悲鳴に目を向ければ、塔から落ちかけているフトシの姿が。懸命に柚子・タツヤ・アユが引き上げようとしているが、大きく揺れているせいで苦戦しているようだ。

 

「フトシ、大丈夫かぁ!!」

「デュエルに集中して遊矢! しっかり、フトシ君!」

 

 柚子の細腕のどこに落ちかけの少年1人を支える力があるのか驚きだが、あちらはまだ大丈夫そうだ。だが再び塔が揺れれば今度こそ危ないかも知れない。

 

――ここでデュエルしちゃダメだ!

 

 想像より遥かに脆い鉄塔から離れるべく、平たくなった《EM ウィップ・バイパー》を抱えて走り出す遊矢。

 

「逃すか! バトルだ!」

「《ウィップ・バイパー》の効果発動! 《ライトニング・ボード》の攻撃力と守備力を逆にする!」

 

 

ATK:1400→1200

 

 

「構うもんか! 《ライトニング・ボード》で攻撃! ライトニングダーツ!!」

「っ、だったらこのアクションカードで!」

 

 沢渡シンゴの繰り出す追撃を躱すべく、遊矢は再び近くに落ちていたアクションカードを拾った。しかし……。

 

「またアクショントラップ!?」

「残念でした〜! そいつは《ジャンプショット》、今度は400ダウンしてして貰うぜ!」

 

 

ATK:900→500

 

 

 ビリヤード玉再び。橋の真上で重量のある球体がいくつも暴れ回って鞭蛇を轢き潰し、グラグラと鉄塔を砕く勢いでぶつかり揺らす。この橋の耐震性はどこに置いて来たのだと文句を言いたいレベルだ。

 当然、《ライトニング・ボード》の攻撃は止まる筈も無く、雷の矢は躊躇いなく遊矢のモンスターを撃ち抜いた。

 

「ぐぁぁあああああああ!?」

「きゃあぁああああああ!?」

 

 

LP 4000→3300

 

 

 超巨大ビリヤード玉を避けつつ吹っ飛ばされる遊矢に、激しく揺れる橋に翻弄される柚子達。

 

「俺はこれでターンエンドだ。で、塔の方もこれでエンドかな?」

 

 

 

沢渡シンゴ

LP 4000

手札 5枚

ライトニング・ボード

 

 

 

 何がおかしいのか、笑いが堪えられないといった風のシンゴだが、そんなものに構っている余裕は無い。

 既に橋桁の片方は完全にワイヤーごと陥落しており、沢渡が待ち構える方へ行く事は出来ない。おまけに塔の上層に置いてけぼりにされた柚子達は命の危機。今まさに転げ落ちかけたフトシを柚子が残る年少2人を抱えつつ支えているが、彼女か彼女が力点代わりにしている鉄鎖が千切れるのが先か。いずれにせよ楽観的な見方は一切出来ない状況である。

 

「フトシ君、大丈夫!?」

「大丈夫か、フトシ!?」

 

 いつしか遊矢は柚子をストロング女、と揶揄した事があるが、今の彼女はまさにそれだ。四肢に青筋が浮かぶ程に力を込め、僅かずつフトシを引き上げている。だが所詮は少女の細腕、しかも年少者2名を支えるのと並行。落とさないようにするだけで精一杯らしい。

 一先ずフトシの安全が確保されたのを見届けた遊矢は、鉄塔から離れるべく宵闇の川に向かって一息で飛び出した。

 

「俺のターン!」

 

 男の子なら泣かないの、と少年を叱咤する幼馴染の声を聞きながら、手札のモンスター1体をディスクのブレードに叩きつけるように置く。

 

「来い、《EMアメンボート》!」

 

 呼び出したのは大人より大きなアメンボ型のモンスター。背中に人が乗れる小さなスペースが確保されており、遊矢のデッキに於ける水上移動用のモンスターだ。

 

「《アメンボート》は、1ターンに1度だけ自身を守備表示に変える事で、攻撃を無効にする効果を持つ! 悪いけど距離を取らせて貰う!」

「おいおい、逃げの一手か? エンタメデュエルの名が泣くぜぇ?」

「――分かってるさ!」

 

 一瞬、怒りに任せて言い返そうとも思った。だがそれは自身が信じる父のデュエル、エンタメデュエルの名に泥を塗るも同じ事だと思い直した。

 憧れの父なら、こんな場面ですら観客を盛り上げるショーの演出にしてしまうのだろう、そう考えると、自然と頭が冷える。

 手札を見れば、中にはデュエル開始前にバラ撒かれた内の1枚《ブロック・スパイダー》の姿が。今は使えないが、必ずこれが助けてくれる。自分でも何故か分からないが、遊矢はそう信じていた。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

榊遊矢

LP 3300

手札 3枚

フィールド

:EM アメンボート

:伏せカード1枚

 

 

 

――《ライトニング・ボード》の効果は自身をリリースして6以上のモンスターをサーチする効果、状況を一発で打開するものじゃない。

――最低でも凌げるこのターンの後が、勝負だ。

 

 そう考えて只管に橋から離れようとする遊矢を見て、シンゴは愉悦を抑えられないと言った感じでダーツを投げる真似をする。

 

「シュッ。フィニッシュしてやるよ。俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードは《リリース・トレード》、《トランスターン》と似た効果を持つが、場では無く手札に呼び込むカードだ。

 レベル5の何を引き込むかと考えていると、再び通信が入った。

 

『良いカードを引いたな』

「あ?」

『そのカードを使え』

 

 淡々とした上から目線は気に食わないが、シンゴにとって彼は今回の依頼人だ。自分も知らない目的があるのだろう。

 渋々、引いたカードを手札に加えず発動した。

 

「マジックカード《リリース・トレード》を発動! 俺の場のモンスターを1体リリースし、1レベル上のモンスターを手札に呼び込む。俺はレベル4の《ライトニング・ボード》をリリース!」

 

 デュエルディスクの液晶に、シンゴのデッキの中にあるレベル5のモンスターが表示される。どれにした物かと考えていると、あるカードが目に留まった。

 

《星読みの魔術師》

 

 そのカードを見た瞬間、彼は全てを理解してそれを選択した。クライアントはこれをやりたかったのか、と。

 

「やっぱり俺みたいな超レアな人間が、超レアなカードを使うべきなんだ……。俺、カードに選ばれ過ぎぃ!」

 

 おかしくて堪らない、腹筋が攀じれる程に愉快で仕方ない。自らの絶対性を保証する手札が、自然とその口を愉悦に塗れた物に変える。

 

『さぁ、そのカードをセッティングだ!』

「おうよ! 俺はスケール1の《星読みの魔術師》と!」

『スケール8の《時読みの魔術師》で!」

「『ペンデュラムスケールをセッティング!』」

 

 デュエルディスクの両端に配置される2枚のカード。刻まれた各々数字、1と8が空中に躍り出て、光を放つ。

 

「これでレベル2から7のモンスターを同時に召喚可能!」

『ペンデュラム召喚!』

 

 天に生まれた光輪から、光が放たれモンスターを形作った。

 

「レベル5《パワー・ダーツ・シューター》!」

 

 1つ目の光は橙色の武骨な男の姿に。

 

「レベル6《ロケット・ダーツ・シューター》!」

 

 2つ目の光は紅色のシャープな女の姿に。

 

「そして最後はレベル7《アルティメット・ダーツ・シューター》だ!」

 

 3つ目の光は青色の大柄な男の姿に変化した。

 即ち、ペンデュラム召喚の成立である。

 

 

ATK:1800

ATK:1900

ATK:2400

 

 

  ☆

 

 

「嘘、だろ……」

 

 別の場所でモニターしていた赤馬零児が、この状況に「良し」と短く呟いた時、遊矢は反対に絶望的な言葉を口から吐き出していた。あまりにも弱々しい声に、最初は自分の声だと気付かなかった程だ。

 

「ハハハハハハハ! ペンデュラム召喚、最高だぜ! そして榊遊矢、ペンデュラム召喚が出来たからには、お前はもう用済みだ!」

「くっ!」

「バトル! 俺は《パワー・ダーツ・シューター》で《アメンボート》を攻撃!」

「《アメンボート》!」

 

 持ち主の指示で無数の矢を放つオレンジの狙撃兵の攻撃を避けるように水上を滑るアメンボ、しかし避けても次弾がすぐに飛んで来る。何か対策を取らねば1300のダメージは避けられない。

 必死に回避する中、ふとその眼は水上に浮かぶ「A」の文字を持ったカードを捉えた。

 

(アクションカードを、いや……!?)

 

 ふと遊矢の脳裏に過ぎるのは、これまで拾った2枚のカード。どちらも罠カード、自分を追い詰める獅子身中の虫だった。そして今回フィールドに散らばったカードは――あくまで目分量だが――公式戦の16枚より多いように思えた。

 しかもアクションデュエルだというのに、相手は自分と同じ距離を移動しながらアクションカードを拾っていない。

 

(このアクションフィールドそのものが罠か!)

 

 恐らく沢渡シンゴは最初から遊矢がアクションマジックを多用する戦術であると知っていた筈だ。そしてアクショントラップを多々含むこのダークタウンを展開したに違いない。つまり、まんまと遊矢はシンゴの掌の上で踊らされていたという事だ。

 このフィールドでアクションカードに頼ってはいけない!

 

「《EMアメンボート》の効果発動! 自身を守備表示にして、攻撃を1度だけ無効にする!」

 

 手札に形勢を覆す手段は無い。頼みの綱は前のターンに伏せたカード1枚。

 《アメンボート》が羽をドーム状に畳み、ダーツの狙撃を回避すると同時、対岸へと向かわせる。水上では身動きが取れない、このままでは狙い撃ちだ。

 そしてその狙い撃ちの状態を終わらせる程、相手は甘くなかった。

 

「外したか! なら《ロケット・ダーツ・シューター》で攻撃ィ!!」

「くっ!!」

 

 《アメンボート》の効果はもう使えない。続けて放たれた紅色の連射の前に、移動の足にしていたモンスターを破壊され、遊矢は水上に放り出された。

 

「まだペンデュラム召喚した攻撃できるモンスターは残ってるぜぇ? 《アルティメット・ダーツ・シューター》でダイレクトアタック!!」

 

 バッと背後を見る。放り出されたせいで背後に陸橋の橋脚が真後ろに来てしまった。これを受けたら流れ弾でブリッジはアウトだ。

 

「罠カード《EMコール》発動! ダイレクトアタックを無効にする!」

 

 

EMコール

【通常罠】

(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時に、その攻撃モンスター1体を対象として発動できる。

その攻撃を無効にし、守備力の合計が対象のモンスターの攻撃力以下となるように、デッキから「EM」モンスターを2体まで手札に加える。

このカードの発動後、次の自分ターンの終了時まで自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。

 

 

 辛うじて追撃を防ぐ遊矢。両端の陸からはかなり距離があり、泳いで渡るのは難しそうだ。

 幸いにも橋脚が水面に接している箇所には人が立ってデュエルするだけのスペースは十分ある。

 

「(ダメージを、受けちゃいけない。攻撃を防ぐか、攻撃させないようにしないと。塔がこれ以上傾いたら柚子達が危ない!)

 《EMコール》は攻撃を防ぐと同時、デッキから合計守備力がその攻撃力以下になるようにエンタメイトを2体まで手札に加える。俺はデッキから守備力800の《EMヒックリカエル》と守備力1000の《EMチアモール》を手札へ!」

 

 これで彼のモンスターは攻撃終了、自分のライフは3300と大分残っているから精神的に余裕がある。

 そして《ヒックリカエル》は水属性でその名の通りカエル型モンスター、《アメンボート》に代わって水上移動を任せられるだろう。

 まだ勝負はついてない、ここからが勝負だ。

 

「くく、ククク……」

 

 そう思った時だった。

 

「な、何がおかしいんだよ……!」

 

 沢渡がまた笑い出したのだ。

 妙だ、既に彼の場に攻撃できるモンスターはおらず、手札は1枚きり。もう手は無い筈だ。

 

「く、ハハハハハハハハ! そりゃお前、カードに愛され過ぎてて、俺の勝利がお前がいくら足掻いても揺らがないんじゃ笑いたくもなるって話だろぉ?」

「何……!?」

「今からその証拠を見せてやるよ!」

 

 そう言うとシンゴは、最後の手札をディスクに力いっぱい押し込んだ。

 

「俺は速攻魔法《ハーフ・ハット・トリック》を発動!

 こいつは俺のフィールドに『ダーツ』モンスターが3体いる時、1番低い攻撃力の奴に2回目の攻撃権を与える。しかも残った2体の攻撃力の半分だけパワーアップするぜ!!」

「何だって!!?」

 

 

ATK:1800→3950

 

 

 不味い、と手札を見る。手札にあるのは先程加えた2枚に《ブロック・スパイダー》と罠、魔法カードが1枚ずつ。状況を覆すには至らない。

 

「今度こそ終わりだな、榊遊矢!」

「くっ!」

「遊矢!!」

「「「遊矢兄ちゃん!!」」」

 

 2枚のアクショントラップに起因する戦闘ダメージが痛かった。あれさえ無ければ辛うじてライフが50残ったのだが。

 狙いを定める《パワー・ダーツ・シューター》の鋭い鏃がこちらに向けられ、遊矢は焦って周囲を探す。こうなるともう頼れるのはアクションカードしかない。と、橋脚の隅の方に1枚のカードを見つけた。

 もうこうなったら罠でもデメリットでもアレしかない。縋る様な思いで遊矢は手を伸ばした。

 そんな遊矢の姿を見て、シンゴはほくそ笑む。

 

(馬鹿め、このフィールドのアクションカードは、外周に置かれた8枚以外はぜーんぶトラップなんだよ! こんなフィールドのド真ん中に置いてあるカードに何が出来る!)

 

 アクションマジックを多用する遊矢を陥れる作戦は上手く行った、最早勝利は揺るぎ無い。

 

「トドメだぁ!」

「う、ぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

――何でなんだ、父さん!?

――ペンデュラムって俺だけの力じゃなかったのか!?

――どうしてあんな酷い奴も使えるの!?

――父さん!!!

 

 心の中で父親に訴える少年に、無情にも矢の雨が降り注いだ。

 

 

  ☆

 

 

 水上をもうもうと覆う爆煙を見て、沢渡シンゴはニヤリと笑った。

 今のは決まった。ジャストキルじゃないのはイマイチ気に食わないが、まぁノーダメで勝ったのだからそれで良しとしよう。

 ほら、今も榊遊矢のライフが減っている電子音がディスクから――

 

「……あ?」

 

 おかしい。相手のライフが切れたら『ピー』という音が鳴る筈だ。なのにそれが鳴らない。

 

 

榊遊矢 LP:3300→2900

 

 

「はぁ!?」

 

 それどころか、相手のライフが殆ど減っていない!

 馬鹿な、と目を見張る少年は、伽藍堂だった筈の相手のフィールドにカードが増えている事に気付いた。

 

「残念だったな、沢渡。俺は《ブロック・スパイダー》を特殊召喚させて貰った」

「何ぃ、どういう事だ!?」

「俺が拾ったカードはアクショントラップ、《ハードサモン》。デッキの1番上のカードを装備魔法扱いにして、手札のモンスターを特殊召喚するのさ」

 

 

 

ハーフ・ハット・トリック

【速攻魔法】(オリジナル)

(1):自分フィールドに「ダーツ」モンスターが3体いる時に発動できる。

自分フィールドの最も攻撃力が低い「ダーツ」モンスターは他の「ダーツ」モンスターの攻撃力の半分だけ攻撃力がアップし、このターン2回攻撃できる。

(2):自分フィールドに「ダーツ」モンスターが1体のみ存在するバトルフェイズ終了時、墓地のこのカードを除外して発動する。デッキから1枚ドローする。

 

 

 

ハードサモン

【アクショントラップ】(オリジナル)

(1):デッキの1番上のカードを装備魔法扱いにして発動する。そのカードは以下の効果となる。

●手札のモンスター1体を攻撃力・守備力を0にして攻撃表示で特殊召喚する。その後、自分はフィールドのモンスターの数×100ダメージを受ける。

●このカードがフィールドを離れた時、装備モンスターを破壊する。

 

 

 

「こいつでデッキトップにあった《モノマネンド》を装備して、手札から特殊召喚したんだ」

 

 

ATK:0

 

 

 ふぅ、と遊矢は額の汗を拭う。間一髪、辛酸を舐めさせられたアクショントラップに救われるとは皮肉なものである。

 

「チッ、バトルを巻き戻したってワケか。だったら――」

「待てよ沢渡。まだこっちの行動は終わってないんだぜ?」

「何?」

「知ってるか、《モノマネンド》はどんな物でもソックリに作る奇術師が使っていた粘土。姿だけじゃなく、その能力も真似てしまう魔法の粘土なのさ!

 そう、《ブロック・スパイダー》は特殊召喚した時、デッキから同じ名前のモンスターを呼んでくれるんだ! 来い、もう1体の《ブロック・スパイダー》!」

 

 

DEF:100

 

 

 即座に現れるサングラスを掛けたレゴブロックの蜘蛛。

 互いが互いの前に蜘蛛の巣を張り、あっと言う間に遊矢と沢渡の間に巨大な糸の壁を作り上げてしまった。

 

「それがどうした! 攻撃力0と守備力100の雑魚モンスターに何が出来る!」

「沢渡、こいつらはお前がくれたカードだ。お前のカードが俺を助けてくれるんだ」

 

 カードを馬鹿にする沢渡に対し、淡々とどこか皮肉げに伝える遊矢。

 元々《ブロック・スパイダー》は遊矢のエンタメイトのデッキには入っていなかったカードだ。しかし沢渡に2枚カードを奪われデッキ枚数が減った際、応急処置として2枚1組で機能するこのカードを入れた。それが恩返しのように彼を救ったのだ。

 

「あ? 俺がそいつを?」

「そうだ、デュエル開始前にバラ撒いたカードの中にあったんだ、覚えてないのか?」

「ハッ、レベル低すぎて覚えてまっせーん!」

 

 おどけてカードを貶し続けるシンゴに、遊矢は「なら教えてやる」と不敵な笑みを浮かべてディスクを構え直した。

 

「《ブロック・スパイダー》がいる限り、お前は他のモンスターには攻撃できない。そしてそれが2体並んだ事で、《ブロック・スパイダー》達はお互いの網でお互いに守り合うんだ! “ブロック・ロック”!」

「な!?」

「これでもうお前のモンスターは、攻撃できない!」

「クソッ、計算外の事をしやがって! ターンエンド!」

 

 お互いの間に張られた網を前に、攻撃を封じられる沢渡のモンスター。これで少なくとも次のターンに繋げる事は出来た。

 そしてターンの終わりに《ハーフ・ハット・トリック》の効果が切れ、パワーアップしていたモンスターのステータスも下がる。

 

 

ATK:3950→1800

 

 

 

沢渡シンゴ

LP 4000

手札:0枚

フィールド

:アルティメット・ダーツ・シューター、ロケット・ダーツ・シューター、パワー・ダーツ・シューター

 

 

 

「俺のターン! マジックカード《EMキャスト・チェンジ》を発動! 手札の『EM』を好きな枚数だけ見せてデッキに戻し、戻した枚数+1枚ドローする! 俺は手札を3枚戻す!」

 

 手札の3枚の『EM』達、《ヒックリカエル》《チアモール》《セカンドンキー》をデッキに戻し、オートシャッフル機能でデッキを混ぜる。

 鉄塔の傾きは依然として強く、ごく僅かずつだが更に傾斜が激しくなっているように見えた。

 だがその上で頑張っている幼馴染のためにも、恐怖に必死に抗っている子供達のためにも、負けるワケにはいかない。どういうつもりで柚子達を巻き込んだのかは知らないし知りたくもないが、絶対勝ってやるという義憤が次から次へと溢れて来る。

 

「ドロー!!」

 

 引いたカードの内の1枚に目をやる。

 少々使い所が難しい罠カードだが、遊矢個人としては仲間の力を合わせるという所が気に入っているカードだった。

 お誂え向きと言うべきか、それを可能にする魔法カードも同時に引いた。

 

――後は運次第、か

 

 どの道、このアクションフィールドでアクションカードに頼る事は出来ない。さっきは藁にも縋る思いで手を伸ばしたが、あんな奇跡が2度も3度も起こるとは思えなかった。

 

「1体目の《ブロック・スパイダー》を守備表示に!」

 

 

ATK:0→DEF:100

 

 

「そして2枚カードを伏せて、ターンエンドだ!」

 

 打てる手はこれで全てだ。後はこの伏せたカードに賭けるしかない。

 

 

 

榊遊矢

LP 2900

手札:3枚

フィールド

:ブロック・スパイダー×2

:伏せカード2枚、モノマネンド(装備魔法化)

 

 

 

 この壁がいつまで耐えられるか、それが勝負だ。

 

 

  ☆

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 戦況の膠着に、シンゴは苛立ちを感じた。キーカードのペンデュラムモンスターを奪ったのに瞬殺できない。罠だらけのフィールドに嵌めたのに罠が相手を救った。自分が捨てたカードが自分の首を絞めている。その事がどうしようも無くフラストレーションを募らせていた。

 何か逆転できないかと引いたカードを見れば、通常魔法《クリケット・クローズ》。発動には2枚の魔法カードが必要だが、今自分の魔法・罠ゾーンは空っぽである。

 このままターンを終わらせるしかない、と思った時、再び通信が入った。

 

『ペンデュラムカードは今、恐らくマジックカードになっている』

「あ? マジックカード……?」

 

 いきなり何を言うんだと思ったが、相手の言いたい事はすぐに分かった。

 ああ、そういう事か。

 

「く、ふははははははは! やっぱり俺ってば、カードに選ばれてる~!」

「何!?」

「俺はマジックカード《クリケット・クローズ》を発動! 俺のフィールドのマジックカードを2枚無効にする事で、お前のカード1枚の効果を無効にする!」

「な、2枚のマジックカードって、どこにも無いじゃないか――!?」

「ふふふ、残念だったなぁ! セッティングされたペンデュラムカードは、マジックカードとして扱うんだよ!!」

「!?」

「俺は2枚のペンデュラムカード、《星読みの魔術師》《時読みの魔術師》を無効にする!」

 

 無情にも奪った自分のカードの光は消され、ただのカードへと戻された。凛々しくも恐ろしく自分を見下していた魔術師達は、跡形も無くその姿を失う。

 

「そして俺はお前の場の《モノマネンド》の効果を無効にする!」

「しまっ!?」

「アクショントラップの効果で装備カードになっていた《モノマネンド》は与えられた効力を失い破壊! そしてフィールドを離れた時の効果で装備モンスターも破壊だ!」

 

 沢渡の猛攻は続く。『装備カードである』という情報を消され通常魔法に戻された奇術師の粘土は光の粒になって消失。しかし『フィールドを離れたら』というデータが墓地に行った時に戻り、装備していた片方の《ブロック・スパイダー》を道連れにするように掻き消してしまった。

 これで遊矢のフィールドにいるのは守備力100の壁モンスター1体のみ。

 

「お前、伏せカードでこのターン守れるとか思ってねぇよなぁ?

 実はさぁ、お前のライフをピッタリ削る方法が無くて困ってたんだよ。強すぎるってのも考え物だなぁ。だが、守備力100の雑魚を用意してくれたお蔭で、計算が完了したぜ!」

「何!?」

「俺は《パワー・ダーツ・シューター》と《ロケット・ダーツ・シューター》をリリースし、《アルティメット・ダーツ・シューター》をパワーアップさせる!」

 

 

 

パワー・ダーツ・シューター

星5

地属性/機械族

ATK 1800/DEF 700

①:自分フィールドの「ダーツ」モンスター1体を対象として発動できる。このカードをリリースする。バトルフェイズの間だけ対象のモンスターの攻撃力は600アップする。

 

 

 

ロケット・ダーツ・シューター

星6

地属性/機械族

ATK 1900/DEF 100

①:自分フィールドの「ダーツ」モンスター1体を対象として発動できる。このカードをリリースする。対象のモンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。

 

 

 

「《パワー・ダーツ・シューター》をリリースした事で、《アルティメット・ダーツ・シューター》の攻撃力は600アップし、《ロケット・ダーツ・シューター》をリリースした事で、《アルティメット・ダーツ・シューター》は守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を超えた数値だけ相手にダメージを与える!」

 

 

ATK:2400→3000

 

 

「攻撃力3000の貫通ダメージ!!?」

「お前のライフは残り2900、守備力100の《ブロック・スパイダー》は文字通り壁にもならないってワケだ!」

 

 2体のモンスターが集束して《アルティメット・ダーツ・シューター》の砲身を強化する。シャープかつ精密な銃身は橙と紅のパーツを付与され、重々しい大砲のような見た目になった。込められているのは相変わらずダーツの矢だが、あんなカノン砲から撃たれたら本物の銃器と大差無い事は間違いない。

 

「今度こそ終わりだ! アディオス、“アルティメット・フル・シュート”!!」

「「遊矢(兄ちゃん)っ!」」

 

 過たず向けられるダーツの砲身、そこから放たれる無数の鏃。超強力な主力クラス、防御を打ち破る鋼の風雨に晒されるには、蜘蛛と少年はあまりにも貧弱であり防ぐ手だても無く。

 ミサイルのように降り注ぐ鉄の乱射に遊矢も、《ブロック・スパイダー》も、そしてその後ろにあった橋脚も、木端微塵に粉砕されていった。

 

 

  ☆

 

 

 大きく傾いていた鉄塔は、足元を砕かれ更に傾斜を強くした。少女の細腕では既に支えられない程にGを全体に掛けて来ており、柚子の手足は最早限界を訴えている。

 それでも死ぬ気で年少組3人を守ろうと、四肢に渾身の力を込めていたが――

 

 つるっ

 

「あっ!?」

 

 本人の心を、肉体はとっくに裏切っていた。湧き出た手汗と弱った膂力はとっくに4人分の体重を支えられなくなっており、一際大きく揺れた時、少女は空中に放り出されていた。

 一瞬だけ感じる浮遊感。それはすぐに大地へ引き摺り落とす地獄への片道切符へと変わる。即ち、落下。

 

「「うわぁああああああああああああああ!!」」

「「きゃぁああああああああああああああ!!」」

 

 下は川か、それとも崩れた橋か、それともその両方か。いずれにせよこの高さから放り投げられたら命が危ない。タツヤ達子供なら猶更だ。

 こんな所で人生が終わるのか、こんな事なら冷蔵庫のプリンを補充しておくんだった、遊矢に貸した450円ちゃんと返して貰うんだった等と益体も無い考えばかりが浮かぶ。

 ああ、違うだろう、そうじゃない事は無いのかと自分の心にツッコミを入れた時だった。

 

「……あれ?」

 

 唐突に落下感が消え失せ、誰かに支えられている感覚が。

 思わず見上げてみれば、そこに居たのは白い法衣にも似た服を着た銀髪碧眼の男性。誰であろう、《星読みの魔術師》である。柚子は右手で抱えられており、左手には自分と共に落ちたアユがいた。

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 フトシとタツヤはと思って視線を巡らせれば、すぐ近くにいた《時読みの魔術師》によって救出されていたようだ。扱いが猫をつまむようで若干雑だが、取り敢えず全員無事らしい。

 

「何だ!? 何で《星読み》と《時読み》が!?」

「沢渡、俺はずっとこの時を待っていたのさ!」

 

 絶体絶命にまで追い込まれ、切り札も無く、防戦に徹してそれも破られ。確かに誰もが勝利を諦めるような状況だ。

 しかして、そこにこそ罠があったのである。

 

「俺は罠カード《エンプティ・フィッシング》を発動していたんだ!」

「何ィ!?」

「《エンプティ・フィッシング》はフィールドの効果が無効になっているカードを2枚、戦闘ダメージを半分にして手札に加える。よって《時読み》と《星読み》は返して貰ったのさ!」

 

 

 

エンプティ・フィッシング

【通常罠】

①:自分が戦闘ダメージを受ける時、 効果が無効化されているフィールドのカード2枚を対象として発動できる。

その戦闘ダメージを半分にし、対象のカードを自分の手札に加える。 対象のカードは自分のエンドフェイズに元々の持ち主の墓地へ送られる。

 

 

 

遊矢 LP 2900→1450

 

 

「これで俺へのダメージも半減、悪いけど形勢逆転させて貰ったぜ」

「チィッ、ナメるなよ! 計算外の事にも限度があるんだ!

 自分バトルフェイズ終了時、俺の場に『ダーツ』モンスターが1体しかいない場合、墓地の《ハーフ・ハット・トリック》を除外する事で1枚ドローできる!!」

 

 ゆっくり降りて来た2人の魔術師達が、人質4人を軟着陸させる。これでもう気兼ねなくデュエルに集中できる。

 

「ごめん、柚子、皆。助けるのが遅くなった」

「良いのよ、お蔭で助かったわ。ありがとう遊矢」

「「「ありがとう遊矢兄ちゃん!」」」

「へへっ……、ああ! どう致しまして!」

 

 遊矢はデュエル中ずっと、意識的にも無意識的にも、柚子に何かあったらと思うと気が気じゃなかった。どうしてそんな風に思ったのかは分からない。だが助けたいと心の底から願ったのは事実である。

 今こうして彼女は助かった。その事がこの上無く嬉しかった。

 

「チッ、イチャついてんじゃねぇよ! 俺はマジックカード《DDos(ディー・ドス)アタック》を発動! デッキから同じ名前のカードを2枚墓地に送り、《アルティメット・ダーツ・シューター》のレベル×200ダメージをお前に与える!!」

「皆、下がれ! ぐわぁっ!!?」

 

 

 

DDosアタック

【通常魔法】

①:自分フィールドの機械族モンスター1体を対象として発動できる。

自分のデッキから「DDosアタック」を任意の枚数選んで墓地へ送る。

この効果で墓地へ送った「DDosアタック」の数×対象のモンスターのレベル×100ダメージを相手に与える。

 

 

 

遊矢 LP 1450→50

 

 

「遊矢、大丈夫!?」

「な、何とか……!」

 

――《アルティメット・ダーツ・シューター》がレベル7で助かった!

 

 DDos、即ち複数のコンピューターからのデータ圧力攻撃によるデータ量の圧迫により、集中砲火を浴びせて来る沢渡。あんなカードまで、と戦闘ダメージと効果ダメージ、更にデッキ圧縮を兼ねた多彩な戦術に、遊矢は密かに舌を巻いた。

 辛うじて残ったライフは50ポイント、ほぼ瀕死。次のターンで挽回出来なければこっちに勝機は無いだろう。

 

「更に《アルティメット・ダーツ・シューター》の効果発動! このターンにカード効果でリリースされた『ダーツ』モンスターを墓地から呼び戻す! 戻れ、《パワー・ダーツ・シューター》! そして《ロケット・ダーツ・シューター》!!」

 

 

 

アルティメット・ダーツ・シューター

星7

地属性/機械族

ATK 2400/DEF 300

①:このターンにカードの効果でリリースした 自分の墓地の「ダーツ」モンスターを対象として発動できる。このターンのエンドフェイズに、対象のモンスターを全て自分フィールドに特殊召喚する。

 

 

 

ATK:1800

ATK:1900

 

 

「俺はこれでターンエンドだ!」

 

 

 

沢渡シンゴ

LP 4000

手札:0枚

フィールド

:アルティメット・ダーツ・シューター、パワー・ダーツ・シューター、ロケット・ダーツ・シューター

 

 

 

 残りライフは50、フィールドにモンスターは0、まさに崖っぷちだな。

 追い詰められていながら、遊矢の心には大きな余裕があった。

 奪われたカードを奪い返したから? 違う。

 自棄になっているから? 違う。

 次のドローを信じているから? 違う。

 それはきっと――

 

「遊矢、頑張って!」

「ああ! 俺の……」

 

 守りたいと思った人が、そこにいるから!

 

「タァーンッ!!」

 

 虹の軌跡を描き、輝く星を散りばめ、最後のドローを引き込む。

 引いたカードは――二色の輝きを持つ眼の龍!

 

「すぅ……、ふぅ……」

 

 父さん、見ていてくれ。

 俺のエンタメを!

 

「レディース・エーンド・ジェントメーン!! お待たせしました、いよいよデュエルも大詰め、このターンは私・榊遊矢のラストターンとなるでしょう! どうか我が渾身のエンタメをご覧あれ!!」

 

 遊矢のエンタメに合わせ、摩天楼の証明が落ちた。こういう所はリアル・ソリッド・ヴィジョンの利点と言える。

 

「さぁさぁまずは舞台を整えましょう! 我が劇団の先鋒は、この2人を置いては語れない! スケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!!」

 

 ディスクの両端に置かれる、先程まで沢渡の手元にあった2枚のカード。

 今度は正しい持ち主の場で正しく発動を認識し、光の柱を2つ生み出した。

 

 

1=8

 

 

「これでレベル2から7のモンスターが、同時に召喚可能!」

 

――揺れろ、魂のペンデュラム。

――天空に描け、光のアーク!

 

「ペンデュラム召喚! 現れろ、俺のモンスター達!」

 

 2本の柱の間に召喚ゲートが形成され、そこから光が落ちて仲間を形作る。現れたモンスターの影は、2つ!

 

「まずはレベル6の《EMカレイド・スコーピオン》!」

 

 

DEF:2300

 

 

 1体目はファンシーな見た目のサソリ。高い守備力を持ち、とあるカードでは何度も防衛ラインの主軸に置かれた頼もしい仲間だ。

 そして。

 

「更にレベル7、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

『キュアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

 

ATK:2500

 

 

 もう1体、遊矢のデッキのエースモンスター。

 真紅の鱗を持つオッドアイのドラゴン。この2体こそ、今回の戦線のメインアタッカーとなるだろう。

 だがまだだ。もう1体、今回の主役を呼び出す必要があった。

 

「ここで俺は手札から魔法カード《死者蘇生》を発動し、墓地のモンスターを1体復活させる!」

「チッ、《ウィップ・バイパー》を呼び戻し、攻守を逆にする気か!」

 

 沢渡のイラついた言葉に、遊矢は静かに「いいや」と首を横に振った。

 

 

 

「俺が呼び戻すのは――、来い! 《ブロック・スパイダー》!」

 

 

 

 沢渡は目を丸くした。よりにもよって遊矢が呼び戻したのは、単体では全く役に立たない《ブロック・スパイダー》。しかも遊矢のデッキに入ってる数は2体であるため、デッキに同名カードが残っていない以上、仲間を呼ぶ効果も使えない。

 

 

ATK:0

 

 

 おまけに攻撃表示と来た。

 

「は、ははは! とんだプレイングミスだな! 攻撃力0のクズカードを出して何が出来るんだぁ? お前のライフは残り50、次のターンで――」

「次なんて無いさ」

「あ?」

 

 このターンで終わらせる、聞き違いで無ければ遊矢はそう言ったか。

 有り得ない、とシンゴは心の中で吐き捨てた。無傷の自分のライフ4000を壁モンスター3体を前にしてこのターンで削り切る等、不可能だ。

 

「無理と断ずる沢渡選手に、それでは次なる演目をご披露したいと思います! 皆様、眩しくても目を閉じないで下さいね! 《EMカレイド・スコーピオン》の効果発動! “カレイドミラージュ”!」

 

 パチンと鳴るマスターの指に合わせ、サソリの尻尾から光が放たれる。光は無数の図形に分かれて空を彩り、闇夜を照らす美しい万華鏡を星空に生み出した。

 

「わぁ……」

「綺麗……!」

「お気に召して頂き光栄です。しかし《カレイド・スコーピオン》の真髄はこれから! イッツ・ショータイム!」

 

 夜空を彩るカレイドスコープの輝きから、光の粒が降り注ぐ。

 その輝きのシャワーが《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と沢渡のモンスター3体に降り注ぎ、赤・青・緑・黄のオーラをそれぞれが纏った。

 

「《カレイド・スコーピオン》の光を浴びた《オッドアイズ》は、その輝きを増し、相手の特殊召喚したモンスター全てに攻撃できるのです!」

「何ぃ!?」

「そして皆さん、《オッドアイズ》のモンスター効果は覚えていらっしゃいますか? このモンスターが相手に与える戦闘ダメージは……?」

『2ば~い!』

「その通り! バトルだ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で《パワー・ダーツ・シューター》、《ロケット・ダーツ・シューター》、《アルティメット・ダーツ・シューター》に攻撃!」

『キュアァアアアアアアアアアア!!』

 

 3体に分裂し、『ダーツ』モンスターに突撃して行くオッドアイの龍。尾で殴打し、鋭い牙で噛み砕き、そして――

 

「“螺旋のストライク・バースト”! そして戦闘ダメージは~?」

『2ば~い!!』

「ですよねー!!? おぅぶっ!」

 

 渦巻く焔で機械仕掛けの兵隊を薙ぎ払った。電気系統がショートしたのか、3体のモンスターは大爆発を起こし、近くにいた沢渡を吹っ飛ばして川へと叩き込んだ。

 

 

沢渡:LP 4000→2600→1400→1200

 

 

 極彩色の炎と煙を上げ、沢渡のフィールドは一掃。残ったライフは下級アタッカー程度であり、次の攻撃が通れば遊矢の勝ちは確定する。

 しかし、遊矢のフィールドにいる残るモンスターは守備表示が1体と攻撃力0が1体。ライフ1200を削る事は出来ない。

 

「ぐ、耐えたぞ榊遊矢ァ! まだ俺のライフは残ってる、次のターンにモンスターを引いて、その雑魚モンスターに攻撃すれば、ライフ50のお前の負け、俺様の勝ちだぁ!」

「おやおや、沢渡選手、どうやらすっかり忘れているようですよ?」

「あ゛!?」

 

 ただしそれは、遊矢に本当に次の攻め手が無い場合である。

 遊矢はこのターン、わざと《ブロック・スパイダー》を攻撃表示で蘇生した。そして伏せカードと手札は残り1枚ずつ。

 そう、この戦いのフィニッシャーにはこのモンスターこそ相応しい。

 

「このデュエル、MVPは誰が何と言おうと《ブロック・スパイダー》。ならトドメの一撃も《ブロック・スパイダー》に担って貰うのは良いと思いませんか?」

「バカかテメェ! 攻撃力0で攻撃して1ポイントでも削れると思ってるのか!」

「確かに、今のままでは不可能です。ならば仲間に援護して頂きましょう! トラップ発動、《EM大加勢》!!

 このカードは、このターンに特殊召喚されたモンスター1体に、手札のエンタメイトを装備し、攻撃力の2倍を与えます!」

「何だと!?」

 

 

 

EM大加勢

【通常罠】

①:このターンに特殊召喚されたモンスター1体を対象として発動できる。

自分の手札から攻撃力1000以下の「EM」モンスター1体を選び、装備カード扱いとして対象のモンスターに装備する。

対象のモンスターの攻撃力は、この効果で装備したモンスターの攻撃力の倍の数値分アップする。

②:このカードの効果で装備カード扱いとしたモンスターは、エンドフェイズに墓地へ送られる。

 

 

 

「俺はこの効果で手札の《EMチア・モール》を装備し、攻撃力を600の2倍、即ち1200アップ!!」

『きゅー!』

 

 

ATK:0→1200

 

 

 これこそ、遊矢が前のターンに『EMキャスト・チェンジ』で引いた罠カード。攻撃力0のMVPにゴールテープを切って貰うための1枚。

 チアガールのモグラの応援を受けて全身に力を漲らせる《ブロック・スパイダー》。パワー漲るオーラを纏い、貧弱な雑魚モンスターと蔑まれていた姿は一変し、キチンと攻撃でダメージを与えられるモンスターに変容していた。

 

「さて、ここで算数の問題。沢渡選手のライフは残り1200、《ブロック・スパイダー》は《チア・モール》の応援を受けて攻撃力1200、ダイレクトアタックが通ったら、沢渡選手のライフはいくら残りますか?」

『ゼロォ~!!』

「正解! 行け、《ブロック・スパイダー》!」

「ひぃっ!!?」

「“スパイダー・スマイター”!!」

 

 哀れ雑魚モンスターと評した蜘蛛の攻撃は、仲間の援護を受けてその本人に容赦無く突撃を叩き込み。

 

「どぅえぁあああああああああああああ!!?」

 

 

沢渡:LP 1200→0

 

 

 ジャストぴったり、そのライフを削り切って、夜空に花火を打ち上げたのであった。

 まるでMVPを祝福するかのように、蜘蛛の巣のような光のアートを宵闇に描いて。

 

 

 

遊矢 WINNER

 

 

  ☆

 

 

「やったぁー!」

「遊矢が勝ったー!」

「やった、やったぜー!」

 

 光の粒子となり、アクションフィールドが空から消え行く。

 月夜の工場街はものの数秒で、元々の存在であったフリースペースのようなコートに戻って行った。

 ここまで叩きのめしてやったのだ、流石に沢渡も参っただろう。「もうカードを盗もうとするなよ」と言い残して去ろうとしたが……。

 

「こうなったら……、力尽くで奪い取ってやるぜ! やっちまえ、お前ら!」

「「「オーッ!!」」」

 

 何と沢渡、今度は暴力に訴えて来た。

 数の上では遊矢達が多いが、5人中3人が子供だし1人はストロングであろうと少女。遊矢達を相手に4人がかりで来られたら太刀打ち出来ない。

 最低でも皆を守らなければと一歩前に遊矢が出た、その時だった。

 

「どぅえ!?」

「ごほっ!?」

「ぐはぁ!?」

 

 意識から外れた一撃とでも言うべきだろうか、死角から青い閃光が飛んで来たように錯覚した瞬間、シンゴの取り巻き3人と――

 

「な、ぶぁっ!!?」

 

 額に強力な一発を受けたシンゴ自身が地に倒れ伏していた。

 一目で伸びていると分かる状況になった4人に対し、そこにはいつの間にか現れた少年がいて、ポツリと呟く。

 

「最後までカッコ悪いなぁ、この人達」

 

 コロコロと細長い棒状の物が転がる中、乱入者に遊矢は問うた。

 

「これ、君が……?」

「さっきの君、すっごくカッコ良かったよ♪」

 

 敢えて質問に答えず、振り返った少年はにこりと笑う。

 年の頃はローティーンに至るかどうか程度か。水色の頭髪を後頭部で無造作に括っており、紺色の丈が短いジャケットを羽織っている。

 次いで、もう1つ重要な質問を少年に放った。

 

「君も、LDSの生徒?」

 

 もしLDSの生徒なら沢渡に代わってまたペンデュラムカードを狙われる恐れがある。さっきまでのパフォーマンスで体力を消耗していた遊矢にとって、それは少々避けたいのである。

 そんなエンタメ少年の懸念もどこ吹く風、水色の髪の少年はニコニコ笑顔を崩さない。

 

「に、なろうかなって思ってたんだけど、やめた!」

「やめた?」

「うん! 僕、君の弟子になる!」

 

 え、と周囲が呆気に取られた。

 

「で、弟子!? 俺の!?」

「うん、どうせ習うなら、面白い人に習いたいからね! 君、僕が()()()に来てから見た中で1番面白そうだし!」

 

 そんないい加減な、と遊矢が思った矢先、次は柚子が少年に質問を投げかけた。

 

「貴方がやったの、これ?」

 

 指差す先には無様に倒れた4人の男、沢渡とその取り巻き。

 もし彼の仕業であるなら、彼は何かしらの格闘技の類に精通していると考えられる。デュエリストに弟子入りするならデュエリストである事は明白。そんな彼がこんな体術をアクションデュエル以外で習うとは思いにくい。もう弟子入りする必要等無いのではなかろうか。

 そんな柚子の質問に「ちょっと気を失わせただけだよ」とおどけたように少年は言ってのける。

 

「僕は紫雲院(しうんいん)素良(そら)。よろしくね!」

「あ、あぁ……」

 

 何だか妙な事になったと感じつつも、取り敢えず差し出された手を遊矢は取るのであった。

 

 

  ☆

 

 

 一方その頃、2人のデュエルを監視していたモニタールームでは、社長の部下・中島は大きく憤慨していた。

 

「すぐに奴らを追え! ペンデュラムカードを奪い取るんだ!」

 

 中島にとって遊矢のカードはこの世に2枚とない超希少なカード、この機会を逃せば次に手に入れられるだけの時は巡って来ないかも知れない。

 だがそんなサングラスの巨漢の言葉を、社長は冷静に遮った。

 

「いや、もう良い」

「な、社長……」

「良いショーを見せて貰った」

 

 LDS社長の赤馬零児は、モニターで照れ笑いしている遊矢を見て、その瞳を細める。

 その面影に、誰かの姿を重ねながら。

 

「榊、遊矢……」

 

 そして、ふと背後であり部屋の奥の方へと視線を向ける。

 

「君もそう思わないかね?」

 

 答えは無い。ただそこには闇が広がるだけ。

 しかし、どこからともなく、ポツリと言葉が漏れ出て漆黒へと溶け落ちた。

 

「……あの2人、よく似ている」

 

 

To be continued



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ARC4 遊矢の弟子!?融合使い紫雲院素良

半年振りですね……

とりあえず無理やりストーリーを進めるように書いた

見直しはしてない


「――俺のターン、ドロー!」

 

 デッキからカードを引く遊矢。彼は今、舞網スタジアムという最高の舞台の中にいる。

 ストロング石島を打ち負かした彼はあの日から凄まじい勢いで実力を上げていき、若きながらプロの道へと進み、急成長したのである。

 そして彼は遂に舞網チャンピオンシップ決勝戦まで辿り着いた。その先にはチャンピオンの座が待っている!

 

「「「「………」」」」

「遊矢……」

「――来た!」

 

 遊矢の引きを目に観客達も気を引き締まり、柚子もその中で心配そうに見つめている。

 そして遊矢はドローしたカードを確認すると微笑みだした、どうやら彼は最高の引いたカードを引くことができた様だ。

 

「Ladies & Gentlemen!これからお見せします、決着をつけるのに相応しいモンスターを!俺はスケール1の《星読みの魔術師》とスケール8の《時読みの魔術師》をペンデュラムゾーンにセッティング!ペンデュラム召喚!現れよ、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」

『ガアアアアァ!!』

 

《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》が光の柱として現れ、遊矢の真上から光が降り注ぎ、そこからチャンピオンを倒して名を挙げた遊矢のエースモンスター、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が現れた!

 

 

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 ☆7

 ATK/2500

 

 

「これで決まりだ!螺旋のストライクバースト!!」

『ガアアアアアアァ!!!』

「うわあああぁ!!」

 

 

 相手 LP0

 

 

 遊矢 WINNER

 

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は遊矢に応えるかの様に渾身の一撃を放ち、相手モンスターを吹き飛ばし、勝利を収めた。そう、遊矢は勝ったのである。

 つまり……彼は遂にチャンピオンになったのである。

 

『つ、遂に決まったー!勝者、榊遊矢!なんと、あの榊遊勝の息子にてペンデュラムの創始者、エンタメデュエリスト榊遊矢が勝利を収めたー!この舞網チャンピオンの座を手に入れたのは……榊遊矢だー!』

 

 遂に勝利し優勝した遊矢。彼はもう、ただのデュエリストではない、舞網市最高のチャンピオンなのである。

 

 

「おめでとう、遊矢」

「うう、けしからんぞ、遊矢~!!」

「おめでとう!遊矢」

「「「おめでとう、遊矢兄ちゃん!」」」

 

 柚子や権現坂、塾長に母にフトシとアユとタツヤも遊矢を祝福しに集まってくる。

 そして遊矢の父親、榊遊勝も遠くから彼を見守っていた。

 

「皆……(父さん……俺、やったよ。俺のデュエルが、こんなに沢山のみんなを笑顔に……)」

 

 しかし世界は広い。まだ知らない強者が沢山いるのだ。

 君もまだ世界を知らない、そして世界も君を知らない。

 君のエンタメデュエルはまだ始まったばかりだ!

 榊遊矢の冒険はまだまだ続く。

 皆もこれから遊矢を応援してくれ!

 

 

 

 

 お楽しみはこれからだ!

 

 

 

―遊戯王ARC-V  『完』―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっすが師匠~!」

「……え?うわっ!なんだ、お前いきなり!」

 

 そう思っていた瞬間、突然遊矢の前に水色の髪をした少年が飛びついてきた。

 彼の名は紫雲院(しうんいん)素良(そら)。以前、LDSでデュエルで負けた沢渡が腹いせに力づくでカードを奪おうと取り巻きと一緒にに襲われかけた所を助けてくれたのである。

 そんな彼はいきなり遊矢に弟子入りを申し込んできたのだ。

 

「君って凄いよね!僕の師匠になってよ!ね、いいでしょ?いいよね?ねっ!ねっ!」

「あっ、ちょっ、やめ……うわあぁ〜〜」

 

 それにしてもこの少年、遊矢と顔が近いほどを抱きついており、放れる様子がない。

 これが俗に言う「だいしゅきホールド」という物なのか、流石の密着に退いたのか遊矢は素良から離れたいが、全く放してくれない。

 そして遊矢はそのまま底知れぬ闇と沈んでいった。

 

 

「う~ん……はっ!」

 

 

 ――気がつくと遊矢はベッドから起き上がっていた。

 外は日が差しており、起きるには丁度いい時間であった。

 先ほどの終わる終わる詐欺はただの遊矢の夢であったのだ。

 

「な、なんだ、夢か〜〜」

 

 夢から覚めた遊矢はチャンピオンになったというのが夢だったのでがっかりしてしまったが、直ぐ笑顔に戻った。

 確かに遊矢がチャンピオンになったのは夢であったが、ペンデュラム召喚をしてストロング石島に勝った事は夢ではない。

 遊矢のデッキが進化したように彼自身も一皮向けた表情をしていた。

 

「……(俺はもっともっと沢山の人をデュエルで笑顔にできる!きっと……きっと父さんみたいに!)」

 

 そんな遊矢の気持ちを現す様に、今日も快晴である。

 

 

 ☆

 

 

「それにしても何だったんだ、あいつ……沢渡をやっつけたと思ったら突然俺の弟子にしてくれとか……」

「あん!あん!」

「ニ゛ャ~」

 

 LDSで出会った素良という少年、彼は遊矢に弟子入りしたがっていたが当時の遊矢は弟子を取る気がなかったので、彼の志願を断っていた。

 しかし夢に出てきたのは想定外であり、流石に少し気になってしまった。

 そんな思いをしていた遊矢の下に太ったオッドアイな猫と子犬が現れた。

 

「おはよう、アン、コール!」

「アン!」

「ニ゛ャ~」

「アン、お前はまた重くなったな〜!」

 

遊矢は飼い犬のアンと飼い猫のコルに挨拶して、階段を使わずに設置されている何故かあるポールに沿って下へ降りた。

 

「やっぱりお腹空いてたのね。ほら、沢山食べていいわよ」

「母さん、また何か拾って……」

「あ、師匠!」

「師匠? っええぇ!?」

 

遊矢が食卓に入るとそこには金髪の女性が朝食を作っていた。

彼女の名は榊洋子(さかきようこ)、遊矢の母親である。父である遊勝が消失してからは母手一つで遊矢を育ててきた優しくも厳しい母親である。

彼女は可愛もの好きでよく犬や猫を拾ってくる癖があり、アンとコールも元は彼女が拾ってきた動物である。

実はアンとコール以外にも何匹か拾っており、今回もまた動物を拾ってきたようだ。

但し今回の動物は何時もと違い……

 

「そ、素良ぁ!?」

「やあ、師匠!」

 

 今回彼女が拾ったのは一人の少年、それも夢に出てきたあの紫雲院素良である。

 妙な夢から目が覚めた遊矢にとっては正夢である。

 

「何でお前が!?」

「いやあ、なんかうちの前をうろうろしてたからさあ……あたしってば、お腹すいてそうな子をつい拾っちゃうのね」

「だからって子供を拾う事はないでしょ!」

「だって、この子あんたの弟子でしょ?」

「だから師匠じゃないって!」

「え~?」

「『え~?』じゃない! 全く、適当なことを行って上がりこんだ上にちゃっかり朝食まで漁って!(これが正夢ってやつかよ!)」

 

 いくら可愛い物好きでも子供を簡単に入れちゃうのはどうかだが、遊矢もよくこんな偶然が起こったものだと心の中でツッコミをかました。

 

「いいじゃん!だって師匠のお姉ちゃんの御飯美味しいし!」

「え? お姉さん?」

「あ、違ったんですか?ごめんなさい、若くて美人だから僕てっきり師匠のお姉さんだと」

「やだ~! 若くて美人なんて正直な子ね。気に入ったならパンケーキもっと食べていいのよ!」

「母さん! それ俺のパンケーキ!」

「メープルシロップありますか~?」

 

 子供に煽てられたのが嬉しかったのか、彼女は遊矢の分の朝食まであげた。

 

 

 ☆

 

 

 朝食の後、遊矢と柚子は学校へと歩きながら話していた。

 

「え? あの子遊矢の家に来たの?」

「そうだよ。どうやって調べたのかは知らないけど、朝起きたら家で飯食ってて……」

「師匠!」

「――て言ってきて……ってうわ、いつの間に!?」

「師匠の行くところならどこでもついていくよ♪」

 

 遊矢が今朝の事を話している間に、声が聞こえたので振り向いた。すると後ろには素良がいたのだ。

 

「だから俺はお前を弟子にした覚えはないって!」

「僕、師匠のデュエルを見てビビっと来ちゃったんだ!」

 

 遊矢の意志に反して素良はそのまま話を進めていく。

 

「ペンデュラム召喚、あれ凄いよね?あんなの初めてだよ!あれ僕もやってみたいんだよね」

「いや、ペンデュラム召喚はペンデュラムカードないとできないし……」

「じゃあもう1度見せてよ~!ほら、お姉ちゃんも師匠に頼んでよ」

「え、なんで私が?」

「だって師匠も彼女(・・)の言うことなら聞くかもしれないでしょ?」

「ち、違うわよ!」

「違うっての!」

 

 遊矢に頼んでもダメと思った素良は隣にいる柚子に頼んだ。そして素良の「彼女」というワードに柚子は少し顔を赤らめ、遊矢も焦りだした。二人は必至で否定した。

 

「なんで俺がこんなガサツなストロング女と……」

「むっ……」

 

 必死に否定しようと遊矢が発言した「ガサツ」と「ストロング」、その2つのNGワードに柚子が反応し、大きな「バチン」とビンタの音が響いた。いつも遊矢が柚子にハリセンで叩かれる時の音である。

 

「いててて……」

「いったいなんだっていうのよ!私を何だと思っているのよ!」

 

 柚子は頭を押さえた遊矢を置いて先に学校へ向かっていった。

 

「(ペンデュラムカードがあれば誰でもできる……)」

 

 遊矢は頭を押さえながら先ほど自分が言った言葉を気にしていた。

 ペンデュラムカードは遊矢の元に突然現れた不思議なカードであり、初めてのペンデュラム召喚を行ったのも遊矢である。

 しかし、奪われたとはいえペンデュラムカードを使用した沢渡もペンデュラム召喚をすることが出来たのであった。つまりペンデュラムカードさえあれば誰でもできる、ペンデュラム召喚は遊矢だけの特権ではないのだ。

 

 

 ☆

 

 

「師匠~!」

「師匠~♪」

「師匠~~♡♡♡」

 

「ああもう!」

 

 あれから遊矢は学校で素良に付き纏われていた。授業中、食事中、そして用を足している間にまで素良が「師匠」と声をかけてきたのだ。最早ファンを通り越してストーカーである。素良の鬱陶しさに遊矢もイライラしてきた頃だ。

 

「はあ……」

 

 素良に付き纏われ過ぎて心身共に疲れた遊矢は柚子とともに遊勝塾へ向かい始めた。

 

「塾でその顔はやめてよ? うちの塾、ただでさえ不景気なんだから。明るく楽しくエンタメるのがあなたのモットーでしょ?」

「そうだな……」

 

 柚子に諭された遊矢は気を取り直して遊勝塾で明るく出る事にした。

 

「レディース・アンド・ジェントルマーン! 明るく楽しいエンタメの使者、榊遊矢ただいま参」

「あ、師匠!」

 

 この声が聞こえた瞬間、遊矢のストレスが少し増えた。そう、素良が遊勝塾で待っていたのである。

 

「なんでお前が……」

「遊矢、お前に弟子ができるなんて凄いじゃないか!」

「いや、だから弟子じゃないって……」

「お前の弟子なら当然、この塾に入ってくれるんだろうな?」

「ああ、そういうことですね」

 

 塾長であり柚子の父が弟子が入った事に感心したと思えば、塾生が増える事に期待してた事に察して遊矢は白けた。

 

「ねえ、師匠!デュエルしようよ~!」

「だから師匠じゃないって……やらないよ」

「え~デュエルしてくれないの~? 僕と……デュエルしてくれないの……?」

「可愛そうだよ。遊矢兄ちゃん……」

「デュエルしてあげようよ……」

 

 遊矢は弟子と名乗るストーカーの様な少年を相手にする事に乗り気ではなかったが、そんな遊矢に対して素良は上目遣いでお願いしてくる。そしてその素良からの雰囲気に3人組の子供も乗せられてしまった。

 

「別に1回ぐらいいいじゃない。」

「遊矢!俺はお前を挑まれたデュエルから逃げるようなデュエリストに指導した覚えはないぞ!」

「ねえデュエル~!」

「はあ……わかったよ」

 

 柚子も塾長も「デュエルしよう」という空気に入っており、遊矢以外誰も反対する者はおらず、やむを得ず受け入れた。しかしこれは条件をつける好機だと思った。

 

「ただし………これで俺が勝ったらこれ以上俺の周りをうろちょろするなよ。師匠って呼ぶのもなし!弟子入りもなしだからな!」

 

 

 

 

「それじゃあ始めるぞ~!」

「うわあ、楽しみ~!」

 

 遊勝塾のデュエルフィールド、そこには遊矢と素良が待機しており、塾長と残りの生徒は観客席で見物していた。

 

「それじゃあいくぞ!最後に立っているのは貴様か? 俺か? アクションフィールド……『荒野の決闘場』!!」

 

 塾長がアクションフィールドを展開すると、何もない平面のデュエルフィールドが、西部劇に出るような舞台と変化した!

 

 

アクションフィールド:荒野の決闘場

 

 

「それじゃあ、始め……」

「ええ、つまんない~僕、こんなの嫌い~ もっと楽しそうなのないの~?」

 

 塾長が気合を入れて展開した西部劇の舞台だが、どうやら素良にとってはつまらないようであった。

 素良がデュエルしてくれなければ意味がないので、塾長は仕方なく別のアクションフィールドに変更することにした。

 

「それじゃあこれでどうだ!アクションフィールド、スウィーツ・アイランド!」

 

 

アクションフィールド:荒野の決闘場→スウィーツ・アイランド

 

 

 塾長が入力を変えると、西部劇の舞台が消えていき、お菓子の世界へと変わっていった!

 キャンディの柱やクッキーでできた家、綿飴の草原にチョコレートの湖、まさに絵本に出るようなお菓子の世界である。

 

「うわぁ、お菓子の国だ! 美味しそう!」

 

 どうやらお菓子の世界は素良も気に入ったようだ。

 

「それじゃあ始めるぜ!」

「うん!」

「「アクションカード、セット!」」

 

 

 ようやく乗り気になった素良と遊矢はお互いアクションカードをセットし始めた。

 

 

選ばれたカード

遊矢

・《回避》

・《キャンディパラソル》

 

 

選ばれたカード

素良

・《ワンダーチャンス》

・《ハイジャンプ》

 

 

キャンディパラソル アクション魔法

①自分フィールドのモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターはこのターンの終わりまで攻撃力・守備力が200ポイントアップし、相手の守備表示モンスターを攻撃したときその守備力を攻撃力が超えた分だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

ワンダーチャンス アクション魔法

①自分フィールドのモンスター1体を対象に発動できる。このターンの終わりまでそのモンスターが相手モンスターを戦闘によって破壊した場合、そのモンスターは続けて相手にもう1度攻撃することができる。

 

ハイジャンプ アクション魔法

①フィールドのモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターの攻撃力を、ターンの終わりまで1000ポイントアップさせる。

 

 

フィールドのアクションカード

・《回避》 2/2

・《キャンディパラソル》 2/2

・《ワンダーチャンス》 2/2

・《ハイジャンプ》 2/2

・《???》 2/2

・《???》 2/2

・《???》 2/2

・《???》 2/2

 

「それじゃあ始めるぞ……」

 

 アクションデュエルが開始されると共に、外野が開始宣言をし始めた!

 

「戦いの殿堂入りに集いしデュエリスト達が!」

「モンスターと共に地を蹴り!宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る!」

「これぞデュエルの最終進化系!」

「アクション……」

 

「「デュエル!」」

 

素良 手札5 LP 4000

 

遊矢 手札5 LP 4000

 

 

恒例の口上と共に、お菓子ででき、お菓子で溢れ、お菓子に満ちたこのフィールドに、お菓子以外のものであるアクションカードが飛び散る。今回、先攻は遊矢となる。

 

「絶対に弟子にしてもらうからね!」

「絶対に嫌だ!オレのターン!手札から、《EM(エンタメイト)ウィップ・バイパー》を召喚!カードを1枚セットして、ターンエンド!」

『シャー!』

 

《EMウィップ・バイパー》 ☆4 ATK 1700

 

遊矢 手札3 LP 4000

【モンスター】

《EMウィップ・バイパー》ATK 1700

【魔法・罠】

リバースカード×1

 

ムチのように撓り、さらにはある程度伸び縮みもできる《EMウィップ・バイパー》が現れ、エンド宣言と共に遊矢はアクションカードを捜しにウィップ・バイパーと共にフィールドを走る。通常のフィールドならここで《ウィップ・バイパー》の協力の元、《ウィップ・バイパー》をムチのように使い移動するのだが、ここは《スウィーツ・アイランド》、お菓子ででき、お菓子で満ち溢れるフィールド。リアルソリッドヴィジョンではお菓子の質感なども再現しているため脆いところがあり、割と動きづらい足場も多い。ウィップ・バイパーをムチのように扱う以上は巻きつける必要があるため、お菓子に巻きつけると一歩間違えば巻き付けた部分から崩れる。さらにここは厄介な要素が他にもあるがそれはまた後。

 

「よーし、それじゃあボクのターン、ドロー!ボクは手札から、《ファーニマル・ペンギン》を召喚!」

『くぇ~!』

 

《ファーニマル・ペンギン》 ☆4 ATK 1700

 

 

「「きゃー!かわいいー!!」」

「おお、ペンギン!ペンギンだぜ!かわいすぎて、しびれる~!」

「わぁ~!かわいい~!」

 

 

素良が手札から呼び出したのは…かわいい耳宛に天使の羽のような胸飾りをした、とてもかわいらしいペンギン。それが可愛らしい鳴き声をしながら登場するものだから柚子はもちろんフトシ、アユ、タツヤの3人も思わずかわいいと言ってしまう、愛らしい姿。それがペンギン。

 

「おお、かわいい…でも、かわいいだけじゃデュエルは勝てないからな」

「もちろん、この《ファーニマル・ペンギン》はかわいいだけじゃないよ。《ファーニマル・ペンギン》が表側でいるときに1度だけ、手札の《ファーニマル・ペンギン》以外の《ファーニマル》モンスター1体を特殊召喚できるんだ!ボクは手札から、《ファーニマル・ライオ》を特殊召喚!」

『ぎゃおー!』

 

《ファーニマル・ライオ》 ☆4 ATK 1600

 

 

「今度はライオン!ライオンだ!」

「あのライオンかわいいね!」

「もしかしてファーニマルって、動物園デッキ?」

「うーん…なんだかぬいぐるみに見えるけど…」

 

 

「なんだか本当に動物園デッキみたいだな…ペンギンといい、ライオンといい」

「まあボクの《ファーニマル》はただかわいいだけじゃないけど、それは後で。バトル!《ファーニマル・ライオ》で、《ウィップ・バイパー》を攻撃!そして《ファーニマル・ライオ》の効果!《ファーニマル・ライオ》は攻撃宣言時に、バトルフェイズ終了まで攻撃力を500ポイントアップさせる!」

 

《ファーニマル・ライオ》 ATK 1600→2100

 

ペンギンといい、ライオンといい、動物園によくいるような2体を繰り出した素良。と言っても、その2体はどちらもぬいぐるみのように見える。まずはライオで《ウィップ・バイパー》を攻撃する素良。だが《ウィップ・バイパー》がいる以上、それを許す遊矢ではない。

 

「《ウィップ・バイパー》の効果!《ファーニマル・ライオ》の攻撃力と守備力を入れ替える!混乱する毒(コンフュージョン・ベノム)!」

「速攻魔法、収縮をウィップ・バイパーに対して発動!攻撃力を半分に!」

「え?!しまった、ウィップ・バイパー!!」

 

《ファーニマル・ライオ》 ATK 2100→1200

 

《EMウィップ・バイパー》 ATK 1700→850

 

遊矢 LP 4000→3650

 

《ウィップ・バイパー》が毒を吐き、飛びかかっていた《ファーニマル・ライオ》にかかると《ファーニマル・ライオ》の動きが乱れ、地面にそのまま落ち…る前にウィップ・バイパーが光線を当てられサイズが半分になり、さらに混乱状態のせいかファーニマル・ライオはゴロゴロ転がり、ウィップ・バイパーを押しつぶしてしまった。

 

「ファーニマル・ペンギンでダイレクトアタック!」

「く…永続トラップ、《EMピンチヘルパー》を発動!相手のダイレクトアタックを無効にし、デッキから《EM》1体を特殊召喚する!ただしこの効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効になる!こい、《EMジンライノ》!」

『ブルル!』

 

《EMジンライノ》 ☆3 DEF 1800

 

《ファーニマル・ペンギン》が腹滑りで勢いよく遊矢目掛け突撃してきたが、遊矢の前にシルクハットに蝶ネクタイをつけたサイが現れ、それに驚いたファーニマル・ペンギンは思わず軌道を変え、攻撃は通らない。

 

「それじゃあカードを1枚伏せて、ターンエンド!それとエンドフェイズだから、《ウィップ・バイパー》の効果が終わって、ファーニマル・ライオの攻撃力は元に戻るよ」

 

ファーニマル・ライオ ATK 1200→1600

 

素良 手札2 LP 4000

【モンスター】

《ファーニマル・ペンギン》(攻)、《ファーニマル・ライオ》(攻)

【魔法・罠】

リバースカード×1

 

「く…まだまだ!オレのターン、ドロー!」

 

 

素良は遊矢の後を追いつつ、アクションカードを捜す…が、観覧スペースにいる小学生3人は、妙だと感じていた。…遊矢や素良はなぜか、アクションカードをスルーしている。観覧スペースから見える範囲とはいえ、1度や2度はともかく目につくアクションカード全てをスルーだ。

 

「ねえ、なんで遊矢お兄ちゃんも素良くんもアクションカードを取らないのかな?」

「もしかして、アクショントラップを警戒して?厄介なアクショントラップでもあるのかな…」

「それよりもなんだか腹減ってくるぜ…」

「遊矢がアクションカードを取らないのは、この《スウィーツ・アイランド》の特徴があるからよ」

「「「特徴?」」」

「アクションフィールドにもテキストがあるけど、それにはアクションカードを使えること、1ターンに1枚しか手札に加えられない、1ターンに1度しか発動できないとしか書いてないけど、それ以外にもフィールドによっていろんな特徴があるの」

「へ~」

「全然気にしてなかった…」

「それってつまり、地形以外にも?」

「もちろんよ」

 

柚子の言葉に耳を傾ける3人。アクションフィールドは地形によって様々な効果をもたらす。今回の《スウィーツ・アイランド》は…。

 

「まあ、うちじゃあまだ教えてなかったけどね。この《スウィーツ・アイランド》、別名アクションデュエル殺しのアクションフィールドって呼ばれているの」

「あ、アクションデュエル殺しの」

「アクションフィールド…」

「このフィールド、お菓子でできているから、キャンディの部分を除けば崩れることもあるし、結構脆いところもある。だから下手に力を加えると足場が崩れることがあるの。デュエル進行には影響はないけど、アクションカードを捜すのには影響は出る。そして…そのアクションカードなんだけど、偽物のアクションカードもあるの」

「偽物?」

「もしかして、お菓子でできた?」

「ええ。遠くから見たら普通、近くで見たらお菓子って分かるものから、近くで見ても見分けがつかないものがある。それがいくつもあるから、アクションデュエル殺しのアクションフィールド、って呼ばれているの」

 

そう、この《スウィーツ・アイランド》は、アクションカードを捜すにも足元や移動先を気にしなければならず、モンスターのこともある程度気にしなくてはならず、どれが本物のアクションカードかを見抜く必要がある。アクションデュエルをするには不利な要素が多いフィールドだ。

 

「一応、プレーンプレーンみたいに特に何もないアクションフィールドもあるけど、やっぱり癖のあるフィールドのほうが多いから要注意よ」

「はーい!」

「アクションデュエル…やっぱり奥が深い」

「それにしても…このアクションフィールドオレの天敵だ…見てるだけで腹減ってくる…」

 

 

ではデュエルに戻って…遊矢のメインフェイズ。ドローフェイズもスタンバイフェイズも特に何もなく、アクションカードもどれが本物か今一分からない。手札は…。

 

「…(とりあえず、ペンデュラム召喚はできる、とはいえ…スケールが、かなり狭い…仕方ない)オレはとスケール8の《EMカード・ガードナー》とスケール6の《EMギタートル》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

光の柱が現れ、体がまるでギターのようになっている亀と、巨大なカードに手足が生え、目ができ、額とも言える場所に所謂星マークのついたモンスターが昇ってくる。

 

「これでレベル7のモンスターが召喚可能!そして《ギタートル》の効果!もう片方のペンデュラムゾーンに《EM》カードが発動したとき、デッキからカードを1枚ドローできる!」

「おっ、いよいよペンデュラム召喚だね!」

「それじゃあ…Ladies and Gentlemen!これよりペンデュラム召喚…の前に、私のデッキの、とってもキュートなヒロインの1人をお呼びしましょう!私は手札から、《EMコン》を召喚!」

『キャハ☆!』

 

《EMコン》 ☆3 ATK 600

 

遊矢が呼び出したのは、青い髪をツインテールにした、頭から角の生えた少女。服は紺色を基調としており…胸を強調している。なお、青い尻尾らしきものが生えている。

 

「そして《EMジンライノ》を攻撃表示に変更し、《EMコン》の効果発動!自分フィールドの攻撃力1000以下の《EM》1体を《EMコン》と共に守備表示に変更することで、デッキから《オッドアイズ》を1体手札に加える!デッキから、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を手札に加えます!」

「へー…あ!アクションカードみーっけ!…よし、本物だ」

 

《EMジンライノ》 DEF 1800→ ATK 200→ DEF 1800

 

《EMコン》 ATK 600→DEF 1000

 

《EMコン》の効果が発動し、デッキから遊矢のエース《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が手札に加わる。そんな最中、素良はアクションカードを1枚手にする。

 

「う…(警戒し過ぎて先に取られた…)それでは行きましょう!ただいまのペンデュラムスケールは、《EMギタートル》の6と《EMカードガードナー》の8、よってペンデュラム召喚できるのは、7!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!現れよ、私のモンスター達!手札からレベル7!雄々しくも美しき二色の眼、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

『キュアアアアアア!!』

 

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》 ☆7 ATK 2500

 

描かれたアークから放たれ降り立った光から現れるのは、遊矢のエース《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。現れるとすぐ咆哮を上げる。

 

「それが師匠のエースモンスターか…」

「師匠じゃないし師匠にならないからな!バトル!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《ファーニマル・ライオ》を攻撃!その二色の眼で、捉えた全てを焼き尽くせ!螺旋のストライク・バースト!!」

『キュアアアアア!!』

 

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が《ファーニマル・ライオ》目掛け走り、飛びあがる。そして口から黒い炎が赤い光線を中心に渦を巻くように放たれ、《ファーニマル・ライオ》に直撃する。

 

「そして《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が相手に与える戦闘ダメージは、2倍となります!リアクション・フォース!」

「うんうん、それじゃあトラップ発動!《ファーニマル・クレーン》!ボクのファーニマルが相手との戦闘、もしくは相手のカード効果で破壊されたら、そのモンスターを手札に戻し、デッキからカードを1枚ドローする!うわ!」

 

素良 LP 4000→2400

 

「それではメインフェイズ2に、ペンデュラムゾーンの《EMカード・ガードナー》のペンデュラム効果発動!自分フィールドの表側守備表示のモンスター1体の守備力は、自分フィールドの表側守備表示のモンスターの元々の守備力の合計となります!私は《EMコン》を選択!私のフィールドにいる表側守備表示のモンスターは、《EMジンライノ》と《EMコン》の2体!《ジンライノ》の守備力は1800、《コン》は1000、よって《コン》の守備力は2800となります!」

 

《EMコン》 DEF 1000→2800

 

「これでターンエンド!」

 

遊矢 手札2 LP 3650

《EMギタートル》(6)=《EMカード・ガードナー》(8)

【モンスター】

《EMジンライノ》DEF 1800、《EMコン》DEF 2800、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》ATK 2500

【魔法・罠】

《EMピンチヘルパー》×1

 

「よーし、ボクのターン、ドロー!…いいカード引いちゃった」

「いいカード?」

「行くよ!手札の《ファーニマル・ベア》の効果発動!このカードを墓地へ送って、デッキから《トイポット》をセットする!そしてさっそく、永続魔法《トイポット》を発動!」

 

素良がデッキからセットし、発動したカード《トイポット》。所謂、ガチャガチャ、ガチャポン…正式名称、カプセルトイだ。大きな球体状のものに滑り台染みたパーツが排出口の先についた上部と繋がる四角い下部、それを支える4つの足と機械染みた腕と手にはめた手袋があり、手には杖を持っている。中にあるカプセルも《トイポット》の大きさに合わせかなり大きそうだ。

 

「《トイポット》の効果!手札1枚をコストに、デッキから1枚ドローする!そしてそれが《ファーニマル》なら、手札からモンスターを特殊召喚できる!違ったら墓地へ送られるけどね。それじゃあいくよ!ボクは手札の《融合死円舞曲(フュージョン・デス・ワルツ)》をコストに、ドロー!」

「うーん…(ファーニマルって特殊召喚を駆使するテーマなのか?…でも、なんか妙なカードを墓地へ送ったような…)」

 

素良が手札を墓地へ送ると、《トイポット》にある硬貨投入口に金貨が現れそのまま投入される。腕が回り、カプセルの排出口からカプセルが1つ転がり出てくる。

 

「ドローしたのは…最高!《ファーニマル・ドッグ》だ!そして《ファーニマル》だから、手札からモンスターを特殊召喚できる!ということで、ドローした《ファーニマル・ドッグ》を特殊召喚!そして《ファーニマル・ドッグ》には、手札から召喚、特殊召喚されたら、《ファーニマル・ドッグ》以外の《ファーニマル》か《エッジインプ・シザー》をデッキから手札に加えられる!」

『ワンワン!』

 

《ファーニマル・ドッグ》 ☆4 ATK 1700

 

 

「きゃー!かわいいー!!」

「すっごくかわいいー!!」

「おお、犬だ!」

「かわい~!」

 

女子2名はかわいらしい茶色と白の犬《ファーニマル・ドッグ》の登場で大盛り上がり、男子2人も盛り上がっている。素良のデッキはどうしてこうも可愛らしいモンスターが多いのだろう。

 

 

「ボクはデッキから《エッジインプ・シザー》を手札に加える!そして手札から魔法カード、《縫合蘇生》を発動!このカードは、墓地の《ファーニマル》か《デストーイ》1体を、効果を無効にして特殊召喚する!ボクは《ファーニマル・ベア》を特殊召喚!」

『クマー!』

「声それでいいのか?!」

 

《ファーニマル・ベア》 ☆3 DEF 800

 

ピンク色の羽のついたかわいらしい熊が、クマーと鳴き声を出しながら現れる。もちろん、観覧スペースは大盛り上がりだ。…もっともこの後、別の盛り上がりを見せるのだが。

 

「そしてボクは手札から魔法カード、《融合》を発動!」

「え、ゆ、《融合》?!」

「このカードは、融合モンスターカードに記されたモンスターを手札かフィールドから墓地へ送って、融合モンスターを融合召喚する!ボクは手札の《エッジインプ・シザー》と、フィールドの《ファーニマル・ベア》を融合!」

 

素良の後ろに光りを放つ渦が現れる。その渦は融合のカードに描かれているような渦に加え、中央部分は青とピンクの2色の渦になっている。

 

「ゆ、《融合》?!」

「え、《融合》?《融合》って確か、LDSで教えているっていう…」

「ねえ柚子お姉さん、《融合》って何?」

「そういやなんだっけ?なんか聞いたような…」

「…私も詳しくは知らないけど…LDSが教えている、特殊な召喚方法の1つのはず…確か、魔法カードを使うとか」

「確かに使っている…」

 

 

「ゆ、融合だって?!」

「うん、これがボクの戦い方さ!野獣の牙に宿りし悪魔の爪よ、雄叫びを上げ切り裂いちゃえ!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを切り裂く戦慄のケダモノ!《デストーイ・シザー・ベアー》!」

『グオオオオ!!』

 

《デストーイ・シザー・ベアー》 ☆6 ATK 2200

 

…《ファーニマル・ベア》といくつもハサミを重ね、不気味な目が見える《エッジインプ・シザー》が渦の中に入り……そこから現れたのは、熊のぬいぐるみ…を、1回四肢と腹と頭を切断して鋏で繋げたような、不気味なモンスター《デストーイ・シザー・ベアー》であった。もちろん、可愛らしいモンスターばかり出していたと思ったら不気味なモンスターをいきなり呼び出し、観覧スペースは先ほどの黄色い声援から一転、驚きと恐怖混じりの悲鳴へと変わる。

 

「きゃあああああ!!」

「く、くまが、くまが~!!」

「な、なんだあれ!」

「あんなモンスターがいるなんて!」

 

 

「な、なんだこのモンスター…」

「ボクのお気に入りだよ。バトル!《デストーイ・シザー・ベアー》で、《EMジンライノ》を攻撃!そしてアクションマジック《ワンダーチャンス》を発動!これで《デストーイ・シザーベアー》を選択し、このターン《デストーイ・シザー・ベアー》が相手モンスターを戦闘で破壊したら、続けてもう1度攻撃できる!」

「なっ…く、何か…!アクションカード…うわあ!」

 

いくら守備表示とはいえ、モンスターを破壊されれば衝撃は起こる。《デストーイ・シザー・ベアー》のパンチにより《EMジンライノ》を攻撃されたことでアクションカードを見つけたもののすぐ吹き飛ばされてしまう。

 

「く…!さっきのアクションカード…」

「それじゃあ《デストーイ・シザー・ベアー》の効果!このカードが相手モンスターを戦闘で破壊し墓地へ送ったら、そのモンスターを攻撃力が1000ポイントアップする装備カードとして装備する!この効果で《EMジンライノ》を装備!」

「な、何?!」

 

《デストーイ・シザー・ベアー》 ATK 2200→3200

 

《EMジンライノ》が、攻撃されて破壊されたにも関わらず、リアル・ソリッド・ヴィジョンではそのままになっていたがその理由は…装備するため。《デストーイ・シザー・ベア》が《EMジンライノ》を丸のみにし、咀嚼するよな動きを見せ、ゲップをする。それに思わずうげー、とでも言いそうな顔をする遊矢。

 

「そして!《ワンダー・チャンス》の効果で、《デストーイ・シザー・ベアー》は、もう1度攻撃できる!さあ、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!」

「まずい、アクションカードを……っ!しまった…アクショントラップ、ライフキャンディー200。相手のライフを、200ポイント回復させる」

「お、ボクのライフを回復させてくれるの?でも少ないな…それに、そのカードじゃあ止められないね」

「ぐ…うわ!」

 

《ライフキャンディー200》 アクション罠

①相手ライフを200ポイント回復させる。

 

 

素良 LP 2400→2600

 

遊矢 LP 3650→2850

 

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が《デストーイ・シザー・ベアー》に殴られ、破壊される。…これにより、《デストーイ・シザー・ベアー》の効果が発動される…ように、見えたが。

 

「…あれ?……まあいいか。《デストーイ・シザー・ベアー》の効果!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を装備!………あれ?……あれ、何も起こらない…?」

 

ペンデュラムモンスターの特性を知らないからか、《デストーイ・シザー・ベアー》の効果を発動させた素良。だが一向に何も起こる気配がない。

 

「…残念だけど、ペンデュラムモンスターは破壊されても墓地へは送られず、エクストラデッキに表側で送られる性質がある!」

「な、なんだって?!」

「1度墓地へ送られないと《デストーイ・シザー・ベアー》の効果は使えない、直接エクストラデッキに送られた《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を装備はできない!」

 

遊矢がこの特性を知ったのはこの前やったペンデュラム召喚実演デュエル前の、権現坂との短い特訓だ。最初は普通に墓地へ送ろうとしたところエラーとなり試行錯誤の結果、エクストラデッキに表側で置くという性質を知った。ちなみに分かるまで割と時間がかかっている。

 

「くっそー…ターンエンド」

 

素良 手札2(ファーニマル・ライオ) LP 2600

【モンスター】

《ファーニマル・ペンギン》×1、《ファーニマル・ドッグ》×1、《デストーイ・シザー・ベアー》×1(攻)

【魔法・罠】

永続魔法《トイポット》×1

 

「オレのターン、ドロー!…Ladies and Gentlemen!これよりデュエルはクライマックスへと突入!これより本日のエンタメデュエルの最終幕となります!まずは手札から速攻魔法、《ペンデュラム・ターン》を発動!ペンデュラムモンスターのペンデュラムスケールを、1から10まで好きな数字に変更できます!その効果により私は、《EMギタートル》のスケールを6から1に変更!これにより、レベル2から7のモンスターが同時に召喚可能となります!」

 

《EMギタートル》 Pスケール 6→1

 

《EMギタートル》の下に浮かぶ数字が6から5、4と下がっていき、1で止まる。これで狭かったスケール幅が、一気に広がる。1ターンのみだが。

 

「レベル2から7か~…どんなモンスターを出してくるの?」

「いえいえ、ペンデュラム召喚の前に、最後の下準備をしたいと思います!私は手札から、《EMソード・フィッシュ》を通常召喚!《EMソード・フィッシュ》は自身の召喚、特殊召喚に成功したら、相手フィールドのモンスターの攻撃力、守備力を600ポイントダウンさせます!」

『シャッシャッシャー!』

「うんうん、それから?」

 

《EMソード・フィッシュ》 ☆2 ATK 600

 

《ファーニマル・ペンギン》 ATK 1700 →1100

 

《ファーニマル・ドッグ》 ATK 1700→1100

 

《デストーイ・シザー・ベアー》 ATK 3200→2600

 

《EMソード・フィッシュ》が無数に分身し、相手フィールドに突撃して破壊しない程度に相手のモンスターにダメージを与える。その影響かは定かではないが、3体とも少しボロくなったように見える。

 

「これで準備は整いました!ただいまのペンデュラムスケールは、《EMカード・ガードナー》の8と、《EMギタートル》の6から変わった1!レベル2から7のモンスターを同時に召喚可能!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!現れよ、私のモンスター達!まずは手札からレベル2、《EMチアモール》!そしてエクストラデッキから甦れ!レベル7、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

『モール、モール!』

『キュアアアアア!!』

 

《EMチアモール》 ☆2 DEF 1000

 

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》 ☆7 ATK 2500

 

光と共に降り立ったのはチアガールの恰好をしたモグラの《EMチアモール》と、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン。それと…また無数に分身している《EMソード・フィッシュ》。

 

「《EMソード・フィッシュ》の効果は、自分フィールドに他のモンスターが特殊召喚されたときにも、発動できます!」

「!つまり、また600ダウン?!」

「正解!」

 

《ファーニマル・ペンギン》 ATK 1100→600

 

《ファーニマル・ドッグ》 ATK 1100→600

 

《デストーイ・シザー・ベアー》 ATK 2600→2000

 

「そして《EMチアモール》の効果!元々の攻撃力と異なる攻撃力を持つモンスター1体を選び、そのモンスターの現在の攻撃力に応じて2つの効果が発動します!元々の攻撃力より高い場合は、その攻撃力がさらに1000ポイントアップ、元々の攻撃力より低い場合は1000ポイントダウンします!そしてこの効果は《EMソード・フィッシュ》の効果発動後に、《デストーイ・シザー・ベアー》に対して発動します!」

「《ソード・フィッシュ》の効果でダウンするのは600、それを2回だから1200…ギリギリ、元々より下回っているね」

「はい、攻撃力3200となった《デストーイ・シザー・ベアー》でも、1200もダウンさせれば元々の攻撃力2200より低い、攻撃力2000となる!」

 

《EMソード・フィッシュ》の分身の突撃が終わった後、《EMチアモール》が《EMソード・フィッシュ》に応援のダンスを見せる。…これにはもう1度気合いを入れねばとでも言うのか、《EMソード・フィッシュ》が無数に分身し、今度は《デストーイ・シザー・ベアー》にそれら全てが突撃していく。

 

《デストーイ・シザー・ベアー》 ATK 2000→1000

 

「バトル!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!《デストーイ・シザー・ベアー》を攻撃!その二色の眼で、捉えた全てを焼き尽くせ!螺旋のストライク・バースト!!そして!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が相手モンスターとの戦闘で与えるダメージは、2倍となる!」

「《デストーイ・シザー・ベアー》の攻撃力は、1000…」

「そして《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は2500、戦闘ダメージは1500の2倍の、3000!これにてクライマックス、リアクション・フォース!」

『キュアアアアア!!』

 

渦巻く黒い炎を纏う赤い光線が《オッドアイズ》の口から放たれ、《デストーイ・シザー・ベアー》は両手を前に出し踏ん張るものの…破壊され、そのダメージが素良へと届く。

 

「うわああああ!!」

 

素良 LP 2600→0

 

 

 

 ☆

 

 

 

「あーあ、負けちゃった……」

「約束、覚えてるよな? 俺が勝ったからお前を弟子には出来な……」

「すっごく面白かったよ、遊矢(・・)とのデュエル!」

「はぁ? それになんで呼び捨て……」

 

 どうやら素良はデュエルに負けた事に関してはあまり気にしてないようだ。それより遊矢は「師匠」と呼んでいた素良が急に呼び捨てしてきた事に驚いたようだ。

 

「だって弟子にはしてくれないんでしょ? だったら僕、遊矢の友達になる! 友達なら呼び捨てでいいよね?」

「はぁ? 何勝手に言って……」

「そうかそうか、君達二人は友達になったのか! 塾生の友達は皆塾生! どうだ君、我が遊勝塾に入らないか?」

「わーい! LDSなんかよりずっと面白そう!」

「じゃあ早速申込書持ってくるからな!」

「はあ……」

 

 師弟がダメなら友人として接すると割り切った素良に対して、塾長は好機到来とばかりによくわからない理屈で素良を引き入れてきた。

 結局最終的に何も変わらないとわかった遊矢はさっきの苦労は何だったのかとため息をついてしまった。

 

「そういやどこで融合召喚を覚えたんだ?」

 

 融合召喚は高度の召喚方法であり、舞網市の中でも使えるデュエリストはLDSに所属している者ぐらいである。

 さっきのデュエルでLDSの生徒でない素良が使っていたのを見て遊矢は少し気になっていたのだ。

 

「皆普通にやってたよ?」

「普通にやってたって、どこだよ? 外国?」

「まあいいじゃん、そんなことは。 僕と遊矢は友達なんだしさ!」

「俺はまだお前を友達だと……」

「よろしくね、遊矢♪」

「勝手に決めるな~!」

 

 

 

つづく



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