ゼノブレイド2.5 (ナマリ)
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プロローグ

クリアの感動忘れぬうちにと思って書かせていただきました。
ゼノブレイド2はUIがクソと言われていますが、UIの意味を僕は良く知らないので僕にとっては欠点がないゲームです。属性玉付けて割りまくるの楽しいですよね。


俺達の住む世界。アルスト。

 

 

 

 

かつて、この世界は“雲海”と呼ばれるものに覆われていた。

聞いた話だが、雲海とはその名の通り雲が海のように広がっていたらしい。

 

その世界で、人々は怯えていた。

 

俺達は巨神獣(アルス)と呼ばれる大きな生物の上に家をたて、水を汲み、作物を育てて生活している。

しかし、巨神獣(アルス)には寿命があり、その寿命が尽きれば巨神獣(アルス)は雲海の中へ沈んでしまう。上に住んでいた生き物達は共に沈むか、もしくは別の巨神獣に移り住むか…

しかし、寿命がある以上、どの巨神獣(アルス)に移り住んでも結果は同じだ。そのうえ、巨神獣の数は今までにないスピードで消えていく。

やがてすべての巨神獣(アルス)が滅び、このアルストにはもはや雲海しか残されないことになる。

その事実に人々はただ怯えるしかなかった。

 

 

 

 

 

しかし、世界にはまだ希望が残っていた。

雲海の中に大きくそびえ立つ…世界樹。アルストが出来るはるか前、世界樹の上にある世界。そこで人はこの世界を作り出した神と共に暮らしていた。天空に築かれた、豊穣(ほうじょう)の大地。昼を夜にするも、雨を晴れにするも、自由に変えることができる理想郷…“楽園”と呼ばれるその世界。

 

楽園がもし本当にあるのなら、この世界は滅び行く運命から救われる。

国々が残った巨神獣(アルス)を奪い合うことも、人々が怯える必要もなくなる。

 

 

 

 

 

 

―――それを信じ、楽園を目指した一人の少年が居た。

雲海から物資を引き上げ、それを売る。数多といるサルベージャーの一人だったその少年は、深き雲海の底に沈む古代船で、一人の少女と出会う。

 

“天の聖杯”―――神が生み出したという特別なブレイド。その胸には翠玉色(すいぎょくいろ)のコアクリスタルを持っているという。

その運命は偶然か、それとも必然か。それを見つけた少年は“イーラ”と呼ばれる組織。少年に依頼をしたその組織の一人が少年の胸を貫き、少年は死んだ。

だが、彼は薄れゆく意識のなかで、聖杯の少女と出会う。そして少女は少年にあることを頼む。

 

 

 

「私を、楽園へ連れて行ってください」

 

 

 

そして少年は天の聖杯と同調し、そのドライバーとなった。

少年は自らの命を救った少女の願いを叶えるため、草原を駆け、荒野を駆け、山をも越えていく。

だが、その道筋は茨の道。

聖杯を狙う組織、聖杯を破壊せんとする者。

彼ら剣を交えるのは、聖杯のドライバーとなった者の宿命だろうか。

しかし、少年は最後まで楽園を目指すことを諦めなかった。

聖杯の少女を囲むように守るのは、彼だけではない。

 

白い虎のような姿のブレイドを持つ、グーラ人の少女。“人工ブレイド”と呼ばれる存在と同調したノポン族の少年。

帝国の宝珠と呼ばれるブレイドと共に剣を振るう男装の麗人。雷を纏う大剣を操るブレイドと。(カメキチ)柄の眼帯を身につけたドライバー。

 

彼らと共に居るからこそ、少年は楽園を目指すことができた。

交錯する思いに、少年達を襲うあらゆる勢力に、それぞれの過去。それらを乗り越えついに少年は楽園へ辿りつく。

 

 

 

 

 

 

「これで終わらせる―――そして進むんだ…!」

 

「未来に!」

 

 

翠玉色(すいぎょくいろ)に輝く大きな剣が、光を纏って振り落とされた。

 

 

 

「これが私にできる最後の手向けだ―――後は託したぞ、わが子達よ―――」

 

 

 

 

 

 

少年の旅は無駄ではなかった。

その旅は、この世界に大きな変化をもたらした。

 

―――凍り付いていた時が流れ出したかのように。明けるはずのない夜が明けた―――

 

雲海はその姿を変え、空の色を反射する大きな水たまり、“海”へと姿を変えた。

 

巨神獣(アルス)は雲海の上から海の上へとその生息地は変わり、数多くの巨神獣(アルス)は一つとなり、一つの大地へと変化していく。

 

人々は滅び行くこの世界に怯える必要はなくなった。むしろ、新たなる世界が生まれたのだ。

 

少年はこの世界を救った英雄として讃えられ、共に旅した仲間も共に讃えられた。

そして今もどこかで幸せに暮らしている――――――

 

 

 

 

その少年の名はレックス。

壮大な物語の後、彼は自らのブレイド、二人の天の聖杯と共に旅をしているという。

――――――それが残る最後の記録。今の彼がどこで、何をしているのか。

それは誰も知りえない。

 

 

 

 

 

 

これは、俺が直接見たわけではないし、雲海が海になる瞬間を体験したわけではない。

俺は生まれた頃からこの雲海のない世界に生きている――――――多くの巨神獣(アルス)が一つとなった、今でいう“アルスト大陸”があることは、今となっては普通のことだ。

 

既に雲海が無くなってから20年。あらゆる国々は突然の変化に適応するのは簡単なことではなかった。

しかし、土地を奪い合う戦争をする必要はなくなったといえる。

数年の月日をかけ、新たなる新天地を開拓している国もあれば、未だ巨神獣(アルス)の上、もしくは中で過ごしている国も存在する。

 

 

 

雲海のなくなったこの世界で、俺は確かに生きている。

 

 

 

 

 

そして、俺は戦っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

つながれたこの未来を守る為に。



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第1話 「出逢い」
“サルベージャーの一団” 


本編開始です。原作のあのキャラクターが登場します。

ゼノブレイド2で一番の推しはニアちゃんです。最初見たときからエンディングまでずっとかわいい。


――――どこまでも続く、広大な大地。このアルスト大陸はかつてのスペルビア、インヴィディアなどの大国の巨神獣(アルス)

一つとなって生まれたもの。人々は、新たなこの大地に息づいていた。

 

 

 

 

 すべての巨神獣(アルス)が一つになったわけではなく、今もなお島のようにところどころに点在している巨神獣(アルス)も存在する。

その巨神獣(アルス)の一つが、アヴァリティア商会の管理する“ゴルトムント”。

したたかな商人達の共同体。以前よりもこのゴルトムントに来る人々は多くなり、訪れる3割はノポン族。

4割は物資の買い物客。残る3割はサルベージャー。

 

 

 

 

 雲海が無くなった後、雲海の代わりとして彼らが飛び込むのは青い海。白かった雲海とは違うその姿に最初は怯え飛び込むことができなくなったサルベージャー達。雲海がなくなったことによってサルベージャーは過去の職業になるのではないかと危惧されていたこともあった。しかし、雲海から海に変わっても海の底には旧文明の遺産や多くの物資が残っており、中にはいまだ見たことのない宝まで。サルベージャーは過去の職業となるどころか、より発展していった。

 

 

 人々で賑わうゴルトムントのバザール。中心には海の底から引き上げられた宝を鑑定する交易所。

その交易所のすぐ横には、依頼や指名手配犯などの多くの情報が載せられている中央掲示板が存在する。

 

「やれやれ…」

 

 一人の初老の男性が、中央掲示板に貼ってある一枚の貼り紙をはがす。その貼り紙には「早い者勝ち!グーラのマル秘サルベージポイント!」と大きな文字で書かれていて、その文字の下には小さく座標が書かれていた。

 

「どうしてその貼り紙を剥がすんだ?」

 

 

 初老の後ろに立つ、みずぼらしい服を着たがたいの良い男が初老に話しかける。

初老は大勢の買い物客の話し声にかき消されそうなほど小さい声で返事をする。

 

 

「詐欺だよ。近頃サルベージャーを狙ってこんなウソの情報を書いた紙を張るやつがいる。困ったもんだよ。

こいつらさえいなければ、私の仕事はほぼ皆無。休みがとれるというのに…」

 

「ほう?こんなデマカセだと分かりやすいものにひっかかるサルベージャーがいるのか?」

 

「どうだろうねぇ。頭の良いサルベージャー達ならこんなものにひっかからないと思うよ。私だったらこんな

怪しいものは無視して、おとなしくそこらへんでサルベージするがねぇ…」

 

「面白いな、こんなのにひっかかる奴らは・・・」

 

 

 がたいの良い男性はそう呟き、買い物客の中へと消えていく。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

 深い森、高い湿気に包まれながら、サルベージャーの一団は重い荷物を持って、前へ前へと進んでいく。

先頭にはリーダーと思われる坊主頭の男性、後ろにはサルベージャースーツを来た三人の男、そのすぐ後ろにはサルベージに使う器具を台車で引いて運んでいる、15才ほどの少女。すぐ隣には大きな黒猫のようなブレイドを連れた一人のドライバー。全員で6人である。

 

 

「ねぇ、リストさん…もうそろそろ休憩にしませんか…?はぁ…」

 

 台車を引いている少女が、先頭の男性へ声を出す。

 

「どうしたミント?交代してまだ30分だぞ?」

 

「長いって…私はもうクタクタ。もう歩けないです…」

 

 ミントという少女が引く台車はだんだんとスピードを落とし、ついに止まった。

 

「そんなんじゃ、一人前のサルベージャーは遠いぞ?」

 

 ミントのすぐ目の前を歩いていた若いサルベージャーがミントにそう言った。

 

「俺は3時間台車を引いた。」

 

「俺は2時間。」

 

「俺は1時間だぞ。」

 

 先頭のリストという男性から後ろへと順に、自分達が台車を引いた時間を言っていく。

 

「みんなは成人で、しかも男でしょ…私はまだ15だし、女だし…」

 

「弱気になっていいのか?若い奴ほど体力あるんじゃないのか?」

 

 ドライバーの男性がミントの肩をたたく。

 

「うっさい。じゃああんたが代わってよ」

 

 ミントはドライバーの男性に厳しい一言。

 

「俺の任務はお前達の護衛だけだ。それ以上のことはやらん」

 

「はぁ、めんどくさいドライバーだね…言っとくけど、あんたのとこの傭兵団が一番安かったから依頼したの。

一応お金は払ってるんだから、ちゃんと仕事してよ?」

 

「もちろんだ。アニマ傭兵団最強のドライバーであるこのリリオがしっかりと護衛しよう!」

 

 ドライバーの男は腰のツインリングを天にかかげてそう言った。

 

「はぁ…」

 

 ミントはそれを見てため息をつく。

リーダーのリストは、身に着けている腕時計に目をやり、驚いたように言った。

 

「もう20時か…」

 

「ミントの言うとおり、そろそろ休憩タイムにしますかねぇ?」

 

 前から2番目の男が、リストの肩をたたく。

 

「そうだな。無理は禁物。今日はここでキャンプにするぞ!」

 

 その発言と同時に、ミントは両手を上げて喜んだ。

 

「やったー!ようやく休憩だ!」

 

 

 

 一団は足を止め、台車の中から折りたたみ式の大と中のテントをサルベージ道具をどかして取り出す。

サルベージャー5人が協力して取り出した大と中のテントを開く。一瞬で開くため、当たらないように注意を払う。

テントの準備を終えたら、再び台車の前へと進み、今度は台車の中から大量の布団を取り出した。

バケツリレーのように布団をテントの中へと運び、テントの準備は終了した。

 

「さぁて、ここからが私の出番だ!」

 

 ミントは台車から鍋やフライパン、食材の入った材料取り出す。リストやリリオ、他の者達はテントの中で談笑している。

そんなことは気に留めず、彼女は料理の支度を続ける。次にポケットからマッチや塩、胡椒などの調味料を取り出した。

今度は箱の中から1匹、魚を取り出してまな板の上へ。

 

「さてとぉ…」

 

 包丁を取り出したかと思うと、鱗を丁寧に取り除き、一気に魚の骨を取り除く。

右半身と左半身になった魚をさらに二つに切り、一匹の魚は4つに分けられた。

再び箱から魚を取り出し、同じような作業を6回続け、5匹の魚が30の刺身へと分けられた。

分けられた刺身は、フライパンの中へと入れられ、ジュージューと音を立てて焼かれていく。

 

 魚が焼かれていくのと同時に、フライパンの中でソースが作られる。材料はマヨネーズに塩と胡椒。

そして即席のタルタリソース。

 

「おいしそうな匂いだな…」

 

 リリオが鼻をすました。

 

「タルタリ焼きだな。ミントの得意料理だ。」

 

リストがリリオに語りかける。

丁度そのすぐ後、料理は完成。四人のサルベージャーとドライバー、ブレイドがテントの外のキャンプの

火を取り囲み、円になって座る。

 

「さぁてと!いっただきまーす!」

 

「「「いっただきまーす!」」」

 

 ミントの合図の後に全員がいただきますの挨拶を行い、一斉にミントの作ったタルタリ焼きを食べる。

口に入れた途端、みんなの顔が笑顔になっていく。それと同時に話も弾んでいくようだ。

 

 

 

「旨いな…お前、サルベージャーの前職は料理人か?」

 

リリオがミントに聞く。

 

「それ、褒めてるの?貶してんの?」

 

「褒めてるんだ。こんな旨いものはここ数年は食ってない。」

 

「うちのドライバーさんはケチでねぇ。いつも質素なもんしか食ってないんだ」

 

 リリオのブレイドである、“クロヒョウ”が口を開いた。

 

「仕方ないだろ?うちの傭兵団は安いからこそ続いてるようなもんだし…」

 

「安い分、仕事は適当だよねー」

 

「でもうちのドライバーはその中でも真面目に仕事してる方よ?同僚のリクスなんて仕事放棄は日常茶飯事でねぇ」

 

「うっわ、リリオってマシなほうなんだ…」

 

「マシってなんだよ。確かに大手のフレースヴェルグには劣るけどさ…」

 

「じゃ、どうしてリリオは傭兵団で仕事してるの?」

 

「稼いだお金で昔の仲間に仕送りするためだ。」

 

 リリオは胸に下げたロケットペンダントを開き、中の写真を懐かしそうに見る。

 

 

「俺、グーラのイラーダ村ってとこの出身なんだ」

 

「イラーダ村?聞いたことないね…」

 

「無理もない。20年以上前に野盗に襲われて滅びたんだ。グーラの端で、元から人に知られてないんだ。」

 

「そうなんだ…じゃ、そこの生き残りなの?」

 

「ああ。俺を含めた子供しか生き残りが居なくてな。野盗に復讐しようと思ったことだってある。」

 

「復讐を?」

 

「コアクリスタルを盗んでな。でも結局クリスタルは元の持ち主に返したし、復讐もしなかった。

俺達の代わりに、その持ち主のドライバーが野盗に敵討ちをしてくれたんだ。しかも身寄りのない俺達に居場所をくれたんだ。」

 

「へぇ、不思議な話があるもんだね」

 

 

 ミントがリリオのロケットペンダントを見ながら言う。

 

 

「そこで俺は仲間と一緒にサルベージャーになったんだ。」

 

「リリオって前職サルベージャーだったの!?」

 

 ミントが驚いた声を出す。

 

「ああ。ドライバーになってからはこっちの方が儲かるからこっちをやってるけどな。うちの傭兵団では

満足するような額が稼げるとは言えないが…」

 

「まぁ、傭兵団の中で一番安いとこだし…」

 

 クロヒョウがため息をつく。

 

「俺を助けてくれたドライバーの人はサルベージャーでもあったんだ」

 

 リリオは立ち上がりながら言った。

 

「―――俺はいつかその人を超えたい。サルベージャーとしても、ドライバーとしても。」

 

「そんじゃ、まずはドライバーとしてしっかり働いてね?」

 

 ミントが立ちあがったリリオの手を引いて座らせた。

 

「さっきモンスターに襲われたとき、ちょうどトイレでいなかったし…」

 

「仕方ないだろ、下半身丸出しで戦えるかっての。」

 

 

 

 そんな会話を交わしながら、ミントの作ったタルタリ焼きはすべて無くなった。

夕飯も食べ終え、それぞれが汚れた皿をミントに手渡す。ミントはその汚れた皿を台車の中に雑に置く。

 

「さ、もうそろそろ寝る時間だ。全員寝床に入って体を休め。」

 

 リストが中心で命令し、ミント含めた他のサルベージャーが返事をする。既にリリオとクロヒョウは寝床についていた。

ミントはテントの中に入り、サルベージスーツに付いている取り外し可能のヘルメットを外して横になる。

その瞬間、何かを思い出したのか、おもむろの自分のリュックの中からアンティーク調のオルゴールを取り出した。

 

「これこれ…っと。」

 

 オルゴールを開くと、美しいメロディが流れる。その曲を聴くと、どこか懐かしい気持ちになれるのだ。

 

「それ、さっき拾ったオルゴールか?」

 

 ミントの横で寝ていたリストが気付いた。

 

「あ、ごめんなさいリストさん…起こしちゃいました?」

 

「いや、なかなか寝付けなくてな。もとから起きてた」

 

 リストは微笑み、ミントの持つオルゴールに手を伸ばす。

 

「この曲―――グーラの子守唄だな」

 

「知ってるんですか?」

 

「ああ。昔トリゴの町に行ったとき、トリゴリウトの路上ライブがやっててな。そこで聴いたことがある。」

 

「グーラの子守唄…なんというか、心の奥に沁みる曲ですね…」

 

 ミントがオルゴールを手の中で鳴らしながら、感傷に浸る。

 

「そろそろ寝ろよミント。明日も歩くんだからな。」

 

「あとどのくらいで着くんだろ…」

 

「うーん…3時間は歩くだろう。」

 

「げっ、まだ3時間もあるんですか…」

 

「疲れたくなかったら早く寝ることだな。おやすみ」

 

 リストはそう言うと布団を首までかけて眠りに入る。

 

 

 

 

 

「おやすみなさーい…」

 

 ミントも布団をかけて眠りに入ろうとする。

――――しかし、枕に耳をつけた瞬間、足音のようなものが聞こえた。




果たして、ミントが聞いた足音の正体とは…?


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“謎の少年と野盗”

寝ているミントに忍び寄る謎の影。一体何者…?


ズザッ――――ズザッ――――

 

 動物の足音と違うのがすぐ分かった。テントの中から見えるその影は人の姿をしていた。

ミントは目を細めて寝たふりをしながら、その影を目で追う。

すると、その影がテントの中へと入ってきた。

 

「どこだ…おーい…」

 

 声から察するに少年だろう。寝ている人を起こさないように小さな声で何かを探す。

ミントのいるところへ近づき、ミントのリュックの中をガサガサとあさる。

 

「あったあった…」

 

 ミントの拾ったオルゴールを発見すると、それを手に掴んでゆっくりとテントの外へと向かう。

少年がテントの外に出た瞬間。

 

「誰ぇ?」

 

 ミントが少年に聞こえるような声で、イタズラに声を出した。

少年は驚いたようで、少し飛び上がった。

 

「にゃ、にゃ~ん…」

 

 少年はとっさに猫の鳴きマネをしてやり過ごそうとする。

 

「なんだー、猫かー。」

 

ミントは軽い口調で返事をする。

 

「へへっ、ちょろいな…」

 

 少年がそう言って歩き出した。

 

「―――こんなところに猫がいるわけないでしょーが!」

 

ミントがテントから飛び出て少年に飛びかかる。

 

「うわっ!起きてたのかよ!?」

 

少年は飛び出したミントを見て即座に走り出した。

 

「待てぇい!ドロボー!」

 

 

 

 ミントが暗い森の中を駆ける少年を追跡する。足元は倒れた木やコケが生えていて走りにくいが、少年も同じように走りにくいらしく、逃げる、追うどっちも遅いスピードだった。

 

「はぁ…はぁ…待てーい!」

 

ミントはだんだんとスピードを上げ、ついに少年に追いついた。腕を掴み、引っ張って後ろに投げた。

 

「ぐおっ…いきなり何すんだよ…!」

 

仰向けになった少年はミントに腕を掴まれながら、不服そうに言う。

 

 

少年は()()()()をしており、背中には紅緋色(べにひいろ)の大剣を背負っていた。大剣が背中に当たり、苦悶の表情を浮かべていた。

 

 

「私の拾ったオルゴール、返してもらうからね!」

 

ミントは少年が手に持っていたオルゴールを奪い取った。

 

「やめろって!おい!」

 

「ふぅ、取り返したぁ。」

 

少年は腕を振り払い、立ち上がってムッとした顔になった。

 

「これ、俺が落としたオルゴールなんだよ」

 

「本当にぃ?証拠は?」

 

「証拠たって…人の物盗むのは良いこととは言えないぞ」

 

「盗んだんじゃなくて“拾った”の!サルベージャーの合言葉その2!」

 

 ミントはオルゴールを持った手とは反対の手を出し、ピースサインを出す。

 

「拾った物は誰のものでもサルベージャーの物!」

 

「嘘つけ。本当の合言葉は“助けられたら助け返せ”だろ。」

 

「あー…そうだった…かなぁ?」

 

少年はその瞬間にミントの手の中からオルゴールを奪い取り、闇の中へと消えていく。

 

「ああっ!逃げるなこのドロボー!」

 

ミントが追いかけようとするが、時すでに遅し。走り去る音は聞こえるが、姿は見えなくなった。

 

「あーあ。逃げられちゃった…」 

 

「まぁいいか。速く戻って寝よ…」

 

ミントは消えたオルゴールと少年を諦め、ジメジメした森の中を進み、キャンプ地へと戻る為に歩みを進める。

だんだんとキャンプ地へと近づくにつれ、なぜか違和感を覚える。

 

 

「―――なんだか騒がしいな」

 

 

既に寝静まったはずなのだが、キャンプ地がどうも騒々しい。その上、なんだか熱気まで感じる。

だんだんと近づくと、そこには驚くべき光景が待っていた。

 

数十対のターキンと、それを率いている野盗。その中に一人のドライバーとブレイド。

ブレイドによるものなのか、あたり一面に炎が広がり、仲間達は逃げられない状態で野盗達に拘束されていた。

 

「あれって―――野盗!?それにターキン…どど、どどうしよう―――!」

 

ミントが地団駄を踏んで焦る。

傭兵のリリオがツインリングを持って野盗に戦いを挑むが、ターキンに後ろから頭を殴られて気絶した。

 

「あぁ、まったくあの傭兵は―――」

 

ミントは気付かれないよう、燃え移っていない木の後ろに隠れて様子を伺った。

 

「チッ、ドライバーは一人だけかよ…」

 

一人のドライバーがリリオとクロヒョウを掴みながら言う。クロヒョウは必死に抵抗しようとするが、既に縄で縛られてしまっていた。

 

「おい野盗共、とっととこいつら連れて戻るぞ!」

 

ドライバーが野盗とターキン達に合図を出し、ターキン達はテントや台車の中から色んなものを盗んでいく。

仲間達がうつむいている中、リストが突然こちらを向く。

 

「ミント―――?」

 

「あぁ?」

 

ドライバーがリストの向く方へと目をやり、ミントの存在に気付く。

ミントは驚き、しりもちをつく。

 

「まぁだ仲間が居たのか。見たところドライバーではなさそうだな…おいターキン共!」

 

ドライバーの男がターキン達に指示を出す。

 

「逃げろミントッ―――!早く――!」

 

「あのサルベージャーのガキを始末しろ。ガキは生かしておくと厄介だ!」

 

ターキン達が短剣や弓矢を持ってこちらへと向かってくる。野盗とドライバーは仲間達を連れて奥へと消えていく。

 

「あ…あぁ…!」

 

ミントは再び、来た方向へと戻るように逃げる。ターキン達自体の足は速くないが、彼らは弓矢を持っていた。

 

「来ないで!来ないでぇ!」

 

ドライバーでもなければ戦いに長けているわけでもない。しかもターキン一体ではなく数体を相手にするなど

無理というもの。ミントは逃げるしかなかった。

 

しかし、一体のターキンが放った矢がミントの足へ直撃し、ミントはその場に倒れこむ。

 

「うぅ―――ぅっぐ――」

 

突き刺さった部分から血がだんだんと溢れ出てきた。痛みのあまりこれ以上走れそうにはない。

ターキン達がだんだんと近づいて来る。中には木の上からこちらに弓矢を向けてくる者もいる。

 

「こんな――所で――」

 

ターキンの一体が短剣をミントに向けて振り上げた。もうダメだ――――――――――――

 

 

 

 

そう思った瞬間。

 

 突然炎がミントを狙ったターキンを包み込み、ターキンは燃える体を近くの水溜りで消化し、どこかへと去っていく。

紅緋色(べにひいろ)の大剣を持った、銀髪の少年が目の前に立っていた。

 

「おい!大丈夫かよ――――」

 

「さ…さっきのドロボー!」

 

「んなこと言ってる場合かよ!」

 

 まだ数体のターキンが残っていて、少年へと剣を向け、襲い掛かってくる。

少年は大剣を振りかざし、ターキンからの攻撃を巧みに退けていく。

 

「あぁもうめんどくせぇ! フレイム――――ノヴァ!」

 

 大剣を回転させ、吹き出た炎がターキン達を襲う。

ターキン達はこの攻撃に怯えたのか、次々と逃げていく。

 

「また来たら厄介だ…おい!逃げるぞ!」

 

「へ?逃げるって――――」

 

少年はミントの手を引いて走り出す。

 

 

 

「ちょ―――ちょっと待って!いきなり走らないでよ…痛ッ!」

 

ミントは少年の手を握りながら立ち止まり、先ほど怪我した部分を押さえる。まだ血が出ている。

 

「怪我してたのかよ…大丈夫か?」

 

少年はしゃがみこみ、持っていた布で怪我をした足を巻く。

 

「あ、ありがと…」

 

ミントは少年を見ながら照れくさそうに礼を言う。

 

「早く逃げるぞ。じゃないとまたターキン共が追いかけてくる。」

 

少年は再びミントの手を握って走り出そうとする。

 

「だから待ってって!助けに行かない――――っと!」ミントは握られた手を振りほどいた。

 

「嫌だ。厄介事には巻き込まれたくないんだよ。」

 

「そんなこと言わないでよ!みんなは――――――私の大事な仲間と師匠なの!見過ごして私だけ逃げるわけにはいかない!」

 

「んなこと言うなよ…俺は関係ない。」

 

「そりゃそうだけどさ…さっきあんたの戦い見たけど、なんか強そうだし。雇った傭兵よりも」

 

「んな…」

 

「頼りになるのはあんたしか居ないの!お願い!」

 

ミントが手を合わせて頼み込む。

 

「頼まれたって俺は…」

 

 

 

「分かった――――じゃ、これは返さないからね。」

 

ミントは懐からオルゴールを取り出す。

 

「――――ん゛に゛ゃ゛っ゛!?なんでお前がそれ持ってんだよ…」

 

「さっきターキンとの戦いで落としてた。こっそり拾ったの。」

 

「サルベージャーの前職はひったくりか?」少年が嫌味交じりに言う。

 

「うっさい。返してもらいたかったら助けに行く。いいね?」

 

 

「――――分かったよ。助けに行けばいいんだろ、助けに。」

 

少年はしぶしぶ承諾した。

 

「その代わり、助けに行く以上のことはしないからな。護衛とか…」

 

「分かってるって!あんたって結構優しいんだねぇ?」

 




紅緋色の大剣を持つ謎の少年…一体何者なのか?

ここでキャラクター紹介

〈リリオ〉
自称、アニマ傭兵団最強のドライバー…とは名ばかりで、まともに仕事をしてくれない傭兵。
グーラのイラーダ村出身の28才。昔はサルベージャーだったが、ふとしたきっかけでドライバーになり、その後は仲間のために傭兵として働くようになった。
黒い豹のような姿をしているブレイド、クロヒョウが相棒。クロヒョウの性別はメスで、リリオに厳しい態度をとるときもある。


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“野盗のアジトへ”

敵ドライバー、ブレイドの名前が明らかになります。
ホムラとヒカリでいったら自分は僅差でホムラ派です。


◇◇◇◇◇◇

 

 

野盗にさらわれたミントのサルベージャー仲間を助けるために、まずは襲われたキャンプ地へと向かった。

もう朝も近いというのに、グーラの下層は未だに暗い。

 

「ずいぶんと色んなもの盗まれたみたい…」ミントがテントの中から出てくる。少年は消えた焚き火の近くで木の実を拾った。

 

「これは―――あいつら、例のコアクリスタル狩りの奴らか?」

 

「ん、何か見つけた?」

 

「なぁ、お前らって―――どうしてここにサルベージしに来たんだ?」

 

「うーん…ゴルトムントの掲示板でいいサルベージポイントがグーラにある…って書いてあったから。」

 

「あぁー…そりゃ詐欺だな。」

 

「へ?詐欺って?」

 

「近頃、サルベージャーとかドライバー狙ってウソの情報貼り付けたりする奴らが多いんだよ。つまり―――」

 

ミントの表情が曇った。

 

「あいつら、最初から私達を狙ってた…ってこと?」

 

「そうだろうな。だから夜に襲撃したんだ。」

 

「それって―――騙されてたってこと!?」

 

ミントが声を荒げた。

 

「何それぇ!腹立つ奴らぁ!」

 

少年は拾った木の実をミントに見せる。ミントはそれを見て不思議そうな顔をする。

 

「何それ?」

 

「野盗の落としていった物だ。これはグーラの上層でしか取れない…たぶん、上層にアジトがあるはずだ。」

 

少年は歩き出し、上層へと向かう為に奥へと進んでいく。

 

「あ、ちょっと待ってよ!」

 

 二人は森の奥へと進み、今にも落ちそうなツタを登りながら、だんだんと上層へと近づいていく。

光が見えてきた。そのまま光へと進むと、外には大きな平原。“ゴルドア大平原”が広がり、

太陽がちょうど出てきた所だ。

 

「あー!久々に太陽の光浴びた!」

 

ミントが手を挙げて大きく伸びをする。

 

 平原には多くのアルマや、ヴォルフ達がそれぞれに生活している。遠くには縄張りバルバロッサが見える。

いつものように平原を徘徊しているようだ。

 

「トリゴの街からここに来るときにあのデカゴリラに襲われてね…うちの傭兵すぐに倒れちゃってさ。逃げるの

大変だったよ…」

 

「バルバロッサに襲われてよく生きてたな…」

 

 少年が少し感心したような声で答えた。平原を見渡すが、野盗の姿は見えない。ふと足元を見ると、そこには

大きな猫が歩いたような足跡があった。

 

「これは―――リリオのブレイドの足跡かな?」

 

「ってことは、この足跡を追っていけば奴らのアジトに辿り着くかな。」

 

 少年が足跡を見ながら、前へ前へと進んでいく。ミントもそれに続くように歩いていく。

 

「そういえばさ、なんであんたはあそこに居たの?」

 

「あそこって?」

 

「ほら―――オルゴール取り返しに来たってことは、ずっと付いてきてたってことでしょ?」

 

「―――まぁ、取り返すチャンスを伺ってた。結局寝静まった後になったけど。」

 

「私が拾った後からはずっと?」

 

「そうだな。落としたオルゴールどこだって探してて、お前が拾ったのを見かけてな。」

 

「そん時に普通に返してって言えば良かったのに…」

 

「いや、だってさ―――いきなり知らない人に声掛けるって―――気まずくないか?」

 

「気まずいって…あんたもしかして、人見知り?」

 

「―――そんだけで人見知りって決め付けんなよ。助けにいくのやめるからな。」

 

「あぁっ、ごめんごめん!助けてくれたらご飯とかおごってあげるし、ね?」

 

「ならいいけど。」

 

 どこまでも続きそうな足跡をひたすら辿りながら、出会ってまだ数時間の少年と会話を交わし続ける。

ミント曰く人見知りなその少年に何か話題を振っても、すぐに途絶えてしまう。

しかし、あることを尋ねると、思ったよりも話が弾んだ。

 

「あんた一人みたいだけどさぁ…仲間とか居ないの?」

 

「ん?別にいないけど…」

 

「ずっと一人でうろちょろしてたの?」

 

「うろちょろって何だよ。旅してるんだ、旅。」

 

「へぇ、旅人かぁ。自由でいいねぇ」

 

ミントは少年に笑いかけた。

 

「そんな自由ってもんじゃない。飯食うために金稼ぐのも大変なんだよ。」

 

「お金稼ぎならサルベージとかやってみたら?ゴルトムントなら体験するの安いし。」

 

「サルベージは苦手だ。昔やって溺れかけたことがある…」

 

そう言うと少年は苦い顔をする。

 

「あぁ…そりゃ災難だったね。」

 

 そんな話を続けているうちに、気付けば双樹の丘へと着いていた。ここから眺めるゴルドア大平原も中々の絶景である。

 

「野盗共はこんないいところにアジト構えてんだ――贅沢だねぇ。」

 

ミントがそう言って振り向くと、少年が足跡の先を眺めていた。

 

「穿岩の門…昔、ここに野盗の本営があったんだって。」

 

ミントが少年の見つめる岩の門を、同じように見つめながら言った。

 

「たぶん、そこがアジトだろうな。よく注意して行こう。」

 

 少年が踏み出す。岩の門を通り、鳥のような姿をしたチアル・ランナーを横目に進んでいくと、洞穴が

目に飛び込んできた。

 

「あそこが野盗のアジト…」

 

「足跡が続いてる。きっとあの中だ。」

 

少年は岩の後ろに隠れながら、洞穴を覗く。

 

「―――ん?誰も居ないぞ―――」

 

少年は洞穴のほうへと走り出す。ミントもそれに続いていく。

 

 洞穴の中には数十個の腐った木の実や肉が入った箱が無造作に並べられており、中心には焚き火の痕のような

ものがある。

 

「随分昔のやつみたいだな。奴らのアジトはここじゃない―――?」

 

ミントは肩を落としてがっくりした。腐った食べ物の入った箱に腰をかける。

 

「はぁーあ。せっかくここまで来たのにぃ…」

 

「でも、この足跡は新しい物だ。このあたりのモンスターに似たような足跡を持ってる奴は居ないし…」

 

「途中で間違えたのかもしれないよ? 戻ってまた探しに…」

 

 ミントが立ち上がった途端、カチッという音が鳴った。箱が壊れた音でも、何かを落とした音でもない。

その音が鳴って数秒後、ゴゴゴゴという音と同時に三人通れるほどの穴が壁に現れた。

 

「こんなものを搭載してるだなんて…」

 

「箱が扉を開けるスイッチだったのか。じゃあ奴らの本当のアジトはこの先ってことか―――」

 

 

 

 少年が現れた穴をくぐっていく。細い道を壁の松明が照らしており、穴は地下へと続いている。

ミントは少年に続いて穴をくぐっていく。

しばらく先に進むと、少し広い通りになってきた。2つに分かれる道を左に進み、さらに広くなると同時に、

誰かが奥から歩いてくる。

 

「やっばい、見つかる!」

 

ミントは小さな声で少年の肩を叩き、後ろに下がって見つからないよう隠れた。

 

「はぁ…めんどくせぇなぁ…とっとと始末すりゃいいのに。」

 

 野盗だ。松明を持ってぶつぶつ愚痴を吐きながら横切っていった。

野盗は気付いていないが、少年がそろりと野盗の後ろへ行き、大剣で思いっきり殴った。

 

「ひっ、いきなり大胆に…」

 

ミントが口を押さえて言った。

 

「峰打ちだ、安心しろ。」

 

 少年は倒れた野盗の持ち物を漁り、数本の鍵を手に入れる。

 

「やっぱり。きっとどこかに閉じ込められてるんだ。」

 

 少年は鍵をポケットに入れて先へ進む。ミントは倒れた野盗を落ちていた棒でつんつんとつついた。

まったく起きない。

さらに先へ進むと、今までで一番広い場所に出た。野盗が使う武器が乱雑に地面に置かれていて、天井には

クモの巣がたくさん張っている。数人の野盗が輪になって何かを囲んでいる。

 

「一体のブレイド…チッ、取れるコアクリスタルは一個だけか…まぁ仕方ねぇ、レアブレイドなだけマシだ。」

 

「どうするショット?とっとと殺すか?」

 

 野盗の囲む中心には、仲間達を襲ったドライバーとそのブレイド、そしてリリオとクロヒョウがそこにいた。

リリオは手錠をかけられていて、クロヒョウは両手と両足を縛られていた。

 

「悪いけど、私はコアクリスタルに戻ってもあんた達には従わないから!」

 

「おやおや猫ちゃん?ブレイドは同調したドライバーに嫌でも従うってルール知らないのか?」

 

ドライバーのブレイドがクロヒョウを煽る。

 

「よせよバクエン。前の記憶がねぇからそんなルールだって曖昧にしか覚えてないんだぜ?」

 

バクエン、ショット…ミントはその名前に聞き覚えがあるようだった。見つからないように隠れながら

助けるチャンスを伺う少年とミント。

 

「ショット…もしかしてあいつら、ペルフィキオの奴ら…?」

 

「ペルフィキオ?なんだそれ?」

 

「知らないの?今指名手配されてるテロ組織。コアクリスタルを狙ってるっていう…」

 

「テロ組織…随分やばい奴らに喧嘩売ることになるなぁ…」そう言って、少年は大剣に手をかけた。

 

 

 

「―――なんだ?この変な感覚は…?」ショットのブレイド、バクエンが不思議な感覚に囚われる。

 

「どうしたバクエン?」

 

「ブレイドか…?だが…」



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“炎のドライバー”

たくさん溜めておいた作品を投稿しているのでこんなに更新スピードが早いのです。
そろそろ尽きそうなので今後遅れるかもしれません。


「ブレイブゥ…エンドォ!」

 

少年が大剣を構え、大きく弧を描き、炎を纏ってショットに攻撃する。ショットは腰に携えた(つるぎ)でその攻撃を受け止め、弾き飛ばす。

 

「ガキか…?なんでこんなところに居やがる?」

 

「私の仲間を助けに来たの!その人を離して!」

 

ミントが物陰から出てきてリリオを指差した。

 

「森に居たガキか。チッ、ターキン共は使えねぇな…」

 

ショットが野盗達に合図を出し、野盗達はダガーを持って少年とミントに向かっていく。

 

「わざわざ傭兵に頼み込んでここまで来たかぁ?そこまでこいつらが大事か?」ショットが(つるぎ)をミントに向けながら言う。

 

「確かに傭兵としてはあんまり役に立たないけど…私の料理を美味しいって言ってくれたの!」

 

ミントがその場で拾った剣を使ってショットへ突進するが、すぐに弾き飛ばされてしまった。

 

「遠まわしに役立たずって言われてるわよリリオ?」

 

「確かに役立たずだな俺は…足かせと手錠外せないし…」

 

野盗の相手をしていた少年は野盗を払いのけ、ミントのほうへと走る。

 

「おい!無理すんなって!」

 

少年がショットの攻撃を避けながらも、ショットへと攻撃を繰り出していく。

 

「ダブルスピンエェッッジ!!」

 

回転しながら大剣を振り回す攻撃に、ショットは後退させられた。

 

「クッ…おもしれぇアーツじゃねぇか…誰から習った?」

 

ショットが攻撃を防ぎながら少年に問いた。

 

「母さんとひいじいちゃんから習ったッ…戦いになら自信はある!」

 

少年が再び大きく剣を振りかざし、ショットはそれに再び後退させられた。

 

「仕方ねぇ…バクエン!頼むぞ!」

 

ショットが(つるぎ)を後ろで補佐していたバクエンへ投げる。バクエンはそれを受け取った。

 

「あいよ!覚悟しなぁ!」

 

バクエンが空中に(つるぎ)を浮かばせ、少年へ向けた。

 

「フレイムストライクゥ!」

 

その一声で(つるぎ)は炎を纏い、少年に突撃し、その周りで回転し始めた。

 

「何だとッ!?」

 

「終わりだァッ!」

 

炎を纏いながら回転する(つるぎ)はだんだんとスピードを上げ、炎の竜巻を上げた。

野盗の相手をしていたミントは、それを横目に見た。

 

「あっ…そんな!」

 

炎の竜巻に巻かれ、少年はもう焼き焦げた…

そう思った瞬間、炎の竜巻は突然水の竜巻へと姿を変え、地面に落ちていった。

その中からは無傷の少年が。そして少年の持っている大剣の中心に開いた円形の空洞部の中には「水」…という文字が浮かび上がっていた。

 

「水の力だと…?バカなッ…!?」

 

バクエンは動揺しながら、(つるぎ)の先から火炎を放出させて少年に攻撃をするが、少年も同じように大剣の先から水流を出してその炎をかき消し、その水がバクエンを包み込んだ。

 

「おいバクエン!(つるぎ)を返せ!」

 

水に苦しむバクエンから剣を半ば強引に奪い、その剣で大剣を弾く。

 

「炎に水かァ…随分と厄介な技持ってんじゃねぇか!」

 

ショットは(つるぎ)で少年に次々と攻撃を加え、アーツを放つ。しかし、少年はまったくひるまずに攻撃を大剣で受け止める。

 

ミントと戦っていた数人の野盗は少年の能力に怖気づいたのか、だんだんとアジトから逃げるように去っていく。

 

「チッ、低賃金の野盗共は使えねぇなぁ…ッ!」

 

残った2人の野盗はミントではなく、ショットと共に少年にターゲットを変えて剣を交えていた。

その隙にミントは先ほど野盗から奪った小さなカギのひとつでリリオの手錠を解き、クロヒョウを縛っていた縄を切る。

 

「すまない、せっかく傭兵として雇われたのに助けられるなんて…」リリオが申し訳なさそうな顔で、そっと涙を流す。

 

「いいんだって。とにかく…」ミントがリリオの手にカギを握らせる。

 

「これで捕まってるほかのみんなを助けて逃げて。」

 

「お前は逃げなくていいのか?」

 

「あの人に助けてってお願いしたのに、私が勝手に逃げちゃダメだと思って。」

 

「―――悪いな。トリゴの街までみんなを護衛して帰ろう。お前も無事でな。」

 

リリオがクロヒョウに合図を出し、ミント達が通ってきた道へと走っていく。

 

その傍らでは、少年がショット、そして二人の野盗と戦っていたが、既に二人の野盗は疲れきっていていた。

 

「ドライバーが逃げ出したか…1個だけでもコアクリスタルとれりゃ良いと思ってたんだがな…ァッ!」

 

ショットは怒りに任せて(つるぎ)を振るい、少年を何度も後退させるが、少年も負けじとショットへ攻撃を繰り返す。

ミントも少年に加勢し、野盗の短剣を振るってショットへ攻撃を加える。

少年が自分の予想よりも強かったが、自分はドライバー。ショットは一切怖気づくことなく、少年とミントへアーツを繰り出していく。しかし、ショットに力を送るバクエンは野盗と同じように疲れきっていた。

 

「悪いがショット…このままでは俺の力を完全に発揮できない…」

 

「一旦退くってか。仕方ねぇ…」

 

ショットは(つるぎ)に火を纏わせ、大きく振りかぶって炎を放つ。

 

「だが―――ここまでしてやられてたんだじゃ退けねぇなぁ!」

 

ショットがさらに炎を大きくして少年へ突きつける。少年は水の力で防ごうとするが、防げないほど大きな炎。

 

「ダメだッ…火力が強すぎる…!」

 

前も見えないほど大きな炎。その中からショットが(つるぎ)を掲げて少年に切りかかる。

 

「生意気なクソガキめぇ!終わりだァッ!」

 

「…危ない!」

 

突然、ミントが少年とショットの間に割って入る。少年を斬ろうとした(つるぎ)を、ほぼ壊れかけの野盗の剣で防ぎ、鍔迫り合いとなる。

 

「お前…なんでッ…!?」

 

「こっちから頼んだんだもの…オルゴール盗られたまま死なせたくないし…ッ」

 

しかし、壊れかけの剣は段々と音を立ててひびが大きくなっていく。

 

「女のガキが調子に乗りやがってェ…!」

 

ついに剣が粉々に砕け、ミントはその衝撃で後退してしまう。

その瞬間、ショットが(つるぎ)でミントの胸を貫いた。

 

「ぐ…あッ…!?」

 

その時間1秒も足らず引き抜き、ミントはその場に倒れこんでしまう。

 

「お――おい!お前ッ…何で!?」

 

少年が倒れこんでミントを腕に抱える。

それを横目で流し、ショットは剣を鞘に納める。

 

「邪魔された借りはまたいつか返してやる…またなぁ!」

 

アジト中に響き渡るほどの高笑いをしながら、ショットはアジトから逃げていき、バクエンもそれを追う様に去っていく。

 

 

今、この中には血にまみれた少女と、それを抱える少年がいるだけ。

地面には既に血が大きく広がり、息は絶え絶えになっていた。

 

「どうして…俺を庇う必要なんてなかったのに―――」

 

「だって―――助けてって頼んだんだし―――死なせたり怪我させたりしたら―――ダメだと思ってさ…」

 

途切れ途切れの声を出す。今にも消えてしまいそうな命の灯火。

ミントはポーチに手を入れ、オルゴールを取り出し、少年の手に握らせる。

 

「これ―――返すよ。ごめんね――こんなことに巻き込んじゃってさ―――」

 

手に握られたオルゴールを少年は見つめた後、再びミントに目をやる。

 

「おい…こんなところで死ぬなよ―――ッ」

 

「いいんだ―――これで、お父さんとお母さんのところに行けるし―――」

 

ミントは少年に笑顔を向けた。

 

しかし、すぐにその笑顔は消え、腕は脱力し、眼を閉じた。

 

「おい―――起きろよ―――おい!おい!」

 

どんなに体を揺さぶっても、もうその瞳が開くことはなかった。

 

少年はそれに気付いた時、一瞬思考が止まってしまった。どうすればいいのか。目の前で、さっきまで元気

だった人間が動かなくなったのだ。

数分間の間、色々なことが頭の中を駆け巡った。そして、彼の中で一つの決断に辿り着く。

 

少年は着ていた上着を脱ぎ、動かなくなったミントの胸に手をかざす。

 

 

その瞬間、青い球に二人は包まれた。

すると、だんだんとミントの背中まである大きな傷が治っていく。

 

気付けば、その傷はなかったかのように、完全に治っていた。

すると、もう動かなくなったはずのミントの瞳が開く。

 

「―――ん…あ…」

 

ミントの開いた瞳は、何よりも先に少年の胸を見た。

 

「あんたのそれって…コア…クリスタル…?」

 

少年の胸には、ひし形のコアクリスタルが埋まっていた。しかし、それはただのコアクリスタルではない…

今まで見たことが無いような色をしていた。噂に聞いていた翠玉色(すいぎょくいろ)のコアクリスタルでも、青いコアクリスタルに赤が混じった色でもない…輝くような金色をしていた。

 

「ブレイ…ド?」

 

「あんまり喋るな。治癒が上手くできないから。」

 

「あ…うん―――」

 

いまだ、二人は青い球に包まれている。

 

 

 




少年の持つ謎の能力とは…

ここでキャラクター紹介その2

〈ショットとバクエン〉
コアクリスタルを狙うテロ組織「ペルフィキオ」の一員。
ショットがドライバーで、バクエンがブレイド。剣型の武器を持ち、属性は炎。
炎の竜巻を起こす攻撃を繰り出す。
ショットは残忍な性格で、バクエンも同じく残忍だが、ショットと比べて情けない部分が存在する。


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“旅をする理由”

第1話完結編。次回から投稿スピードが不安定になるかもしれませんが、それでも待って下さると嬉しい限りです。


◇◇◇◇◇

 

 

 

「ふぅ、今日はほんっとうにいい天気だねぇ!」

 

双樹の丘。野盗のアジトのすぐ外。既に真上に上がった太陽に照らされながら、ミントが伸びをする。

その後ろには、野盗からサルベージャー達を救った少年が自分の大剣を磨いていた。

 

「それにしても…」

 

ミントが後ろを振り返った。

 

「あんたがブレイドだったとはねぇ―――驚きだよ。確かに普通の人間が炎とか水を出せるわけじゃないし…」

 

少年に近づき、その顔を覗く。

 

「あんたのドライバーさんは?どこに居るの?―――もしかして、迷子になっちゃったとか?」

 

バカにしたような笑いをしながら、少年の肩を叩く。

 

 

 

「―――言い忘れてたけど、俺はブレイドじゃない。」

 

「へ?どゆこと?」

 

目を丸くしたあと、少し考える。

 

「じゃあ…いわゆるマンイーターとか?」

 

「違う」

 

「ブレイドイーター?」

 

少年が首を横に振る。

 

「じゃあ…あんた一体なんなの?」

 

「知ぃらない。生まれつきこういう能力持ってたんだ。炎とか水を操る能力。戦い以外ではあんまり人前で見せないようにはしてるんだけど。」

 

少年が立ち上がり、剣を右手で支えながら言う。

 

「へぇ…そういえば確かに、さっきお母さんがいるとか言ってたしね。」

 

 

 

「―――あぁ。旅に出てからはもう数年会ってないけど。」

 

少年がすこし悲しげな目をする。

 

「旅…ね。どうしてあなたは旅をしてるの?」

 

少年はその問いを聞き、すこし間を空けてから口を開いた。

 

「楽園…知ってるだろ?世界樹の上にあるっていう…」

 

双樹の丘から少しだけ見える…海の中にそびえたつ、大きな樹。

世界樹と呼ばれたそれは、昼夜不思議な輝きを放っている。

 

 

 

「楽園に行って、父さんを探しに行くんだ。」

 

「父さんを?」

 

「…ああ。俺が幼い頃に楽園へ行ったまま。母さんと約束したんだ。

必ず、父さんを連れて帰ってくるって。」

 

少年は拳を握り締めて言った。ミントはそれを聞いて即答した。

 

「連れて行ってあげてもいいよ。楽園に!」

 

 

「…へ!?ほ、本当に!?」

 

少年が目を大きくしてミントを見つめる。

 

「ま、楽園とまではいかないけど世界樹の下らへんまでは行ったことあるし…」

 

その後、付け足して言った。

 

「それに私、サルベージャーだし。こう見えて色々なところ行ったことあるんだよ?」

 

「本当に―――いいのか!?俺を…楽園まで連れて行ってくれるって…!」

 

「いいよ!」

 

その言葉の後、ミントはピースサインを少年に突きつけた。

 

「サルベージャーの合言葉その2!“助けられたら助け返せ”…だからねっ!仲間まで助けてもらった上に、私の命だって救ってくれたんだもん。お礼せずに帰ることなんてできないよ。」

 

ミントが優しい声で少年の肩を叩いた。

 

「いやー…人助けってするもんだなぁ!」

 

少年が嬉しそうな声を出した。

そしてミントに目をやると、ミントは握手を出していた。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったよね。私はミント!見ての通りサルベージャーだよ。あんたは?」

 

 

 

「俺はリュウギ。まぁ…旅人かな。」

 

「へぇ――…面白い名前だね。よろしくね!リュウギ!」

 

リュウギがミントの手を軽く握り、初めて大きな笑顔でミントを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

第1話 「出逢い」

 



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第2話 「コアクリスタル盗難事件」
“ペルフィキオとゴリラ”


眠いので一応投稿です。今回はあのゴリラが登場します。


「もーっ!今日の収穫はゼロだなんてとーんだ役立たずだも!」

 

 暗い部屋の中、天井には色が落ちたシャンデリラ。窓は汚れきっていて、黒い毛のノポンは薄汚れたソファにふんぞりかえっている。

 

「全く…ボスに合わせる顔がないも!」

 

「仕方ねぇだろ?まさか銀髪の変なガキに邪魔されるとは思わなんだ。第一…サルベージ罠作戦を考えたのはお前だろうが。」

 

 剣を腰に携えた男が、壁にもたれかかっている―――ショットだ。

 

「うっさいも!そもそも、お前部下なのになんでそんな偉そうなんだも!上司には敬語使えも!」

 

「何が上司だ…ふっ」

 

 ショットが薄ら笑いを浮かべた。

 

「あんたが金払ってくれるから俺はしぶしぶ動いてたんだぜ?払わないんだったらこんな仕事とっくのとうにやめてんよ。」

 

「もももっ…唯一の部下がこれとはこのガーン様も親父に次いでとんだ不幸者だも…」

 

ガーンと名乗るノポンが肩を落とす。…ノポンに肩なんてあるのだろうか。

 

「俺は最初からあんな作戦乗り気じゃなかったんだ。確かにあんな辺鄙なところ、サルベージャーだったら傭兵を雇うはずだって考えは当たりだが、何人も雇うわけないだろ?抜けてんなぁ…ガーン様は。」

 

 ショットが皮肉を込めて言い放つ。

 

「ももっ…確かにその通りっちゃその通りだも…」

 

「第一、コアクリスタル集めて何をするつもりだ?」

 

「決まってるも。たくさん戦力を集める為だも。」

 

「だが、同調資格の持たないガーンが持ってどうする?」

 

 ショットのブレイド、バクエンが口を開く。

 

「俺が同調するわけじゃないも。ボス…もしくはアリアとかが同調するんだも。俺の役割はお前を使ってたくさんコアクリスタルを集めて届けることだも。分かったらとっととコアクリスタル狩り行ってこいも!」

 

「お言葉だと思うが、もうあの作戦は使えないと思うぜ?ガキのせいでサルベージャー達は逃げられた。既にウソっぱちのもんだって言いふらされてるはずだ。」

 

「確かにそうだも…じゃあ今度の作戦は…」

 

 

 

「全く、お前らはまたコアクリスタル狩りに難航してんのか?」

 

 

 突然、暗闇の中から野太い男の声が聞こえた。その声が聞こえた数秒後、シャンデリラの小さな光がその男を

照らしていく。

みずぼらしい服を着た、がたいの良い金髪の男。

 

「アルジェント…何しに来たんだも?」

 

「お前らが困ってるように見えたんでなぁ…退屈だったからついでに寄ってきたってハナシだ。」

 

 アルジェントという男が、髪をなびかせながらバクエンのもとへ近寄る。

 

「悪いが、お前の助けは必要ない。」

 

 バクエンがアルジェントの肩を押す。

 

「別にお前らに手を貸そうってわけじゃない。ただ、面白いものを見せてくれたお礼もしようと思ってな。」

 

「面白いもの?そんなの見せた覚えはないが…」

 

 ショットが頭をかきながら言う。

 

「あの炎と水を操る少年…そうそう見ることはできないレア者だ。それと出会えたお前は随分運がいいな。」

 

「運が良い?ウソ言え。あのガキのせいで奴らを逃しちまったんだ。」

 

「そんなこと言うなよ。そうそう見れるもんじゃないんだぜ?めぐり合わせてくれた神に感謝しろよ?」

 

アルジェントがショットの肩を叩き、再び暗闇の方向へ歩いていく。

 

「炎と水を操る…それってもしかしても!?」

 

突然、ガーンが何か分かったかのような声を出す。

 

「あ、そうそう…礼を忘れてたな。」

 

アルジェントが振り返る。

 

 

「トリゴの街にスペルビアの輸送船が停泊しているらしい…中身は大量のコアクリスタルだ。」

 

そう言うと、アルジェントは暗闇の方向へ後ろ向きに進み、消えた。

そのことを聞いたガーンはショットにそっと目配せをする。

 

「はいはい…盗ってこいってんだろ?―――行くぞバクエン」

 

壁にもたれかかっていたショットは壁から離れ、鞘の剣に手をつけて暗闇へと歩いていく。

 

「大量に盗ってきた時の報酬…分かってんだろうな?」

 

ショットがガーンのほうを振り返って言った。

 

「はいはい―――まったく卑しい部下だも。」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 すでに日も落ち、夜行性のモンスターが凶暴化する夜――――――その中、ゴルドア大平原を突っ切ろうと走る二人の影。

 

「気付いたら夜だよ!全くぅ…ッ」

 

「うっさい!早くここ抜けないと面倒だよ!」

 

 緋紅色の大剣を持った少年、リュウギとサルベージャースーツに身を包む少女、ミントが走りながら言い合う。

 

「ミントが変な草に見とれてたせいだろ!」

 

「あれは薬草!しかもそうそう取れないレア物なの!珍しいもの好きの私としてはやっぱり手が伸びるというか…」

 

 走る二人を見つめる巨体。オレンジ色の毛と茶色の毛が入り交じり、大きな拳と凶悪な顔を持っているゴリラ…

 

「おい…バルバロッサがこっち見てるぞ!」

 

 縄張りバルバロッサという名前のゴリラが二人に気付いて迫ってくる。

二人はさらにスピードを上げて逃げる。

 

「リュウギが大声出すから気付かれたんでしょーが!」

 

「ミントだって大声出してただろぉー!」

 

 巨体の強面ゴリラがありえないスピードで近づいてくる。その強さはレベルで表すなら81と行ったところだろうか…

リュウギが試しに大剣を振るってみたものの、歯が立たないなどというレベルではない。むしろゴリラを怒らせてしまった。

まずい。一発殴られたら確実に殺られる。

そう確信したリュウギとミントはさらにスピードを上げてゴリラから逃げる。

しかし、二人の前に大きな翼を持ったリガール・ローグルという鳥が現れる。

 

「うおっ、なんだよいきなりィッ!」

 

 二人はリガールの攻撃を避け、先へ進んでいく。

二人を狙ったゴリラのパンチはそのままリガールを攻撃した。殴られたリガールははるか遠くへ吹っ飛び、星となって消えた。

 

「ひいぃ…あんなのに殴られたらひとたまりもないよ…」

 

 ミントが怯えた顔で星となったリガールを見た。

進めば進むほど、明るい街と、その騒がしさを五感に感じる。このグーラ最大の街、トリゴがだんだんと近づいてきた。

今の時点で、二人が目指すのはこのトリゴの街である。

 

「近づいてきた!」

 

「よし…あともう少しで…ッ!」

 

 さらにスピードを上げてゴリラから逃げる二人。

だが、何かが遅かった。

ぶぅんというゴリラが風を斬る音が聞こえた瞬間、グォォンという音が頭中に鳴り響いた。

 

「ちょっと…リュウギ!?」

 

あたりこそはしなかったが、バルバロッサの強烈なパンチがリュウギの頭をかすった。しかし、かするだけでも

致命傷と言われるこのパンチ。

 

一瞬にしてリュウギはその場に倒れてしまい――――――死んだ。

 




縄張りバルバロッサって上のレベルになっても強いですよねぇ。
Lv.90なのにボコボコにされました。うーん下手糞。


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“タルタリ焼き”

タルタリ焼きってどんな料理なんでしょうね。この中では想像を含めて書いています。
あと合体したアルス達がどんな形だとかはエンディングを少し無視してしまうかもしれません。


「はあっ!?」

 

リュウギが目覚めると、そこは既に誰かの家の中だった。

 

「ようやく目が覚めたんだ…心配したよ。殴られたまんまずっと起きなかったんだもん。死んだかと…」

 

「俺も死んだかと思った…花畑というか、楽園が見えたというか…」

 

「ふふっ…ま、生きててよかった。死んだ人に礼なんて弔辞しかないし。」

 

二人は思わず笑い出してしまった。

 

「良かったぁ!やっぱ死んだんじゃなかったんですねぇ!」

 

 突然、扉が叩くように開いた。サルベージャースーツを着た数人の男性が部屋へ駆け込んでくる。

 

「ちょっと!リュウギは人見知りなんだからそんな風に接したら驚いちゃうでしょ!?」

 

「俺は猫かっての…」

 

リュウギがため息をつく。

 

「君がリュウギくんかい?」

 

サルベージャーの中の一人、坊主頭の男性、リストがリュウギに声を掛ける。

 

「は、はい…そうですけど…」

 

「ありがとう。君のおかげで俺達は野盗達に殺されなくて済んだ…心から感謝する。」

 

「は、はぁ…そりゃあどうも…」

 

あまりこういうことに慣れていないのか、リュウギはつい顔が赤くなる。

 

「そんなに照れなくていいのに。こういう時は「当然ですよ!困った人を見たら助けたくなる性分でございまして!ハッハッハッハ!」とか言うもんだよ?」

 

「別に困った人を助けたくなるような性分じゃないって。オルゴール取り返す為に、まぁ嫌々従ったというか…」

 

「あのオルゴールは君のだったのかい?」

 

「え、ええまぁ…ミントに助けにいかなきゃ返さないって脅されまして…」

 

 ミントはへへへ…と言ってそっと顔を下に向ける。

 

「ミントのせいですまない。いつも変に勝気でサバサバしてるもんでね…」

 

「そ、そんなこと言わなくても良いでしょ!?」

 

 ミントが顔を赤く火照らす。

 

「ハハッ。しかし、グーラの子守唄か…君はもしかしてグーラ出身かい?グーラ人特有の耳は見当たらないが…」

 

「いや、グーラの出身ではないです。」

 

 リュウギがオルゴールを取り出して言った。

 

「お母さんがよく歌ってくれてたんです…たまにホームシックになるときは聞いてて。」

 

「ほう…」

 

「数年家に帰ってないんだってね?やっぱりホームシックってなるんだ?」

 

「ああ。お母さんは優しい人でね…たまに厳しいことも言うけど、本当に俺のことを想ってくれてる。」

 

 

「お母さん…か。うらやましいな―――」

 

 ミントが下を向いた。リュウギが見ると、それは悲しそうな顔をしていた。

母の話で、少し微笑ましいような、どんよりしたような不思議な空気になった。

それを切り裂くようにサルベージャーの一人が手を叩いた。

 

「…さぁて!せっかく命を助けくれたリュウギくんもいますし、ちょっとしたパーティでもします?」

 

「そりゃいいな!ミント、いつもの頼めるか?」

 

うつむいていたミントが顔を上げた。

 

「え?…えぇ!もちろん!今日も張り切って作りまーす!」

 

 ミントが腕をまくって部屋の外へと駆け出す。

それを見てリュウギはきょとんとしていた。

 

「あのー…ここって誰の家なんです?」

 

「ここは家じゃない、宿屋だよ。ゴルトムントに帰るまで俺達はここに居るんだ。」

 

「へぇ…宿屋…でも料理って?」

 

「すぐそこの店が厨房を貸してくれるって言うんだ。ミントの料理は旨いぞ~。食べたらほっぺた落ちるくらいにな。」

 

「ミントは料理が得意なのか…」

 

「得意っちゃ得意だが、皿洗いは苦手なようでな。皿洗いは俺達の仕事だ。」

 

 そう言ってリストは部屋から出て行った。リュウギも追うように部屋から出ていこうとする。

 

「あ、俺の剣は…」

 

 部屋を見渡すと、すぐ頭の上にリュウギ愛用の緋紅色の大剣があった。

 

「良かった良かった…っと。」

 

 それを確認すると、リュウギは部屋から出て行く。

宿屋のすぐ外はトリゴの街の広場だった。既に夜だというのに、街は活気で溢れていた。

頭の上に猫のような耳を持つグーラ人がラコント噴水の前でトリゴリウトを弾いていた。

グーラ人の街ということもありグーラ人が多いが、リスト達のように外からの人々も少なからず街を歩いていた。

 

 

「トアミ・フィッシュにいらっしゃい!魚料理ならうちだよ!」

 

「ティモー楽器でしかトリゴリウトは売ってないよぉ!どうだい!そこの兄ちゃん!」

 

「お母さーん!今日はあまあまういんな食べたーい!」

 

「やっぱりネウロミネンの織物は最高ねぇ…」

 

「おーい!こっちだこっちー!早く来いよー!」

 

 たくさんの人々がそれぞれの会話を交わしている。かつてこのトリゴの街は今より活気がなかったという。

しかし、雲海がなくなり、国同士の隔たりもなくなってからあらゆる国、あらゆる街が栄えたのだ。

このトリゴの街もそんな余波を受けたのだろう。夜であるというのに、昼と変わらないほどの人々の明るさ…

いや、むしろ昼よりも明るいのかもしれない。

 

「やっぱトリゴはいいよなぁ…」

 

 リュウギがそっと独り言をつぶやく。

しかし、木製の家々には似つかないような大きな船が遠くに停泊していた。

 

「スペルビアの船か…」

 

 

 

 

 雲海がなくなってから20年。今もなおこのグーラはスペルビアの支配下にある。

遠くにはスペルビア領主館も見える。グーラの建築方式で建てられているその館だが、その前にはスペルビアの兵士が

突っ立っている。領主の家を守る門番だろうか。

 

 ここからでも見える大きなスペルビアの船は金属でできていて、巨神獣を覆うように作られている。

その大きさ…形から見て輸送船だろうか。中身は食料かコアクリスタルか…

 

「このトリゴにはコアクリスタル保管庫があってな。」

 

「うおっ!?」

 

 突然後ろからリストが現れる。

 

「すまんすまん、驚かせちゃったかな?」

 

「いや、別に大丈夫です…」

 

「定期的にスペルビアがコアクリスタルをこのトリゴに運んでくるんだ。見れば分かると思うが、保管庫はスペルビアの建物で出来ている。つまり金属ってわけだ。」

 

「どうしてスペルビアは本国に保管庫を作らないん…ですか?」

 

「色々と事情があるんだろう。厳重な警備もされてるし、安全ではあるけどな。」

 

「ほぉー…」

 

 リュウギが感心していると、何か良い匂いがしてくる。

 

「くんくん…この匂いってもしかしてェッ!?」

 

 リュウギの顔色が変わる。何かに気付いた顔だ。

 

「ミントの得意料理、タルタリ焼きだ。」

 

「タルタリ焼き…!?」

 

 

「みんなー!出来たよー!」

 

エプロンを着たミントが、すぐ右後ろの扉から出てくる。

サルベージャー一団とリュウギはカフェ・サヴィーの飲食スペースへと向かい、椅子の上へ座る。

どうやら、宿屋とこのカフェは共同で運営しているようだ。

 

「お待ちかねのタルタリ焼き!どうぞ!」

 

リュウギの前にタルタリソースのかかった焼き魚…つまり、タルタリ焼きが置かれた。

 

「うおおっ…これはッ…」

 

「ではみなさん!」

 

立っているミントが手を合わせている。

 

「いっただき…」

 

ミントが言い終わる前に気付いた。リュウギがあいさつもせずに既に食べている。

 

「ちょっとリュウギ!?ちゃんといただきますって言わないとダメでしょ!?」

 

「へぇっ…?あっ、ごめんごめん!腹減ってたもんでつい…」

 

リュウギが口にタルタリ焼きをつめこんだまま手を合わせる。

 

「いただきますっ!」

 

そう言うと再びタルタリ焼きに手を伸ばす。

 

「はぁー…まったく―――いただきまーす。」

 

ミントがあきれ返るような声でいただきますの挨拶をする。その後サルベージャー達もいただきますと合唱した。

ミントはエプロンを脱いで机の上に置き、リュウギと同じ席に座る。

 

「少しはマナーってもん守りなさいよー。みんなでいただきますっていうほどおいしくなる魔法はないんだよ?」

 

「俺、タルタリ焼き大好きなんだよ!母さんの料理が一番だと思ってたけどランキング逆転するなぁこれは…」

 

「…話聞いてる?」

 

「ん…あぁ。マナーっておいしいもんなのか?あと…ミントって魔法使えんの!?」

 

「絶対聞いてないでしょ…」

 

ミントがタルタリ焼きに手を伸ばす。ちょっとした怒りも収まるほどの美味である。

 

「ん~!自分で言うのもなんだけどやっぱ私の手料理はおいしいわぁ…」

 

「俺も同じ気持ち!」

 

リュウギが綺麗に食べ終わった皿をミントに突き出す。

 

「おかわり!」

 

「…えっ!?もう!?早くない!?」

 

 

 

 

楽しい夕食も束の間。男のサルベージャー達は厨房で食べ終わった皿を洗っていた。

リュウギとミントは椅子に腰をかけ、机に体をだらんとさせていた。

 

「あぁ…美味しかった!ミントって前職は料理人か何かか?」

 

「それ、褒めてるの?貶してんの?」

 

「褒めてんだ。いやぁ、朝食が楽しみだ…」

 

「さすがに明日はタルタリ焼きじゃないよ?美味しいまた別の料理!」

 

「マジかぁ!これは早く寝たくなるなぁ!」

 

リュウギが笑顔をミントに向ける。その笑顔を見て、ミントもまた笑顔になる。

 

「しっかし、あんた大食いだねぇ。追加のタルタリ焼き3枚も作っちゃったよ。」

 

「へへっ…ごめんな。近頃草とかしか食ってなくてさ…」

 

「草って…ブフッ」

 

ミントがつい吹きだした。

 

「だってお金ないしさぁ…それに買い物ってのも好きじゃないだよな…知らない人と話すっていうのがつらくて。」

 

「さすが人見知り。リストさんとの会話もなんだかぎこちなかったし?」

 

「仕方ないだろ。あんまり人と話したことなくてさ。」

 

「そのくせ私とはよく喋るじゃん。」

 

「まぁ…ミントは別かな。お母さんに似てるというか…」

 

「それは褒めてるのか…貶してるのか…」

 

「どっちでもないって。」

 

 

「どうした?二人仲良くしちゃって。」

 

「あ、リストさん…」

 

リストが二人に近づく。

 

「しっかし、リュウギくんのせいで洗う皿が増えちゃったよ。もう腕がくたくただ。」

 

「そっ、それはごめんなさい…」

 

「違う違う。たくさん食べるのは良いことだって言いたかったんだ。まわりくどくてすまんな。」

 

「ところでリストさん。」

 

ミントがリストに話しかける。

 

「リリオとクロヒョウの二人はどこ行っちゃったんですか?」

 

「ああ。あいつらは故郷の村に帰ってくるとか言って、グーラの反対側に行っちまったよ。」

 

「故郷…イラーダ村か。」

 

「イラーダ村?」

 

リュウギがミントに聞く。

 

「あんたが助けたあの傭兵。リリオっていうの。20数年前に滅びたこのグーラのイラーダ村ってとこ出身なんだって。」

 

「久々にグーラに来れたし、立ち寄ったってわけか…」

 

「ま、朝には戻ってくるでしょ。まぁ戻ってきてもあんまり役立たない傭兵なんだけどねぇ…」

 

「役立たない傭兵か…なら心配になるな。」

 

「どうして?」

 

「縄張りバルバロッサがうろついてるだろ。襲われないかどうか…」

 

「大丈夫だって。自分の身を自分で守ることぐらい、できるはずだしね。」

 

ミントが一蹴した。

 

「まぁ、そうだな…」

 

 

 

 

そんなたわいのない話をしている間、街はだんだんと静かになっていく。

活気のあった数時間前がウソのように。家々から漏れる光もだんだんと少なくなってきた。

 

「そろそろ寝る時間かぁ…」

 

「随分と大変な一日だったね。」

 

ミントがリュウギの肩を叩く。

 

「さ、二人とも部屋に入って寝るんだ。まぁ、朝早いってわけじゃないが…」

 

リストに言われ、二人は宿屋の部屋へと戻る。

 

「まだ聞いてなかったけどさ、楽園ってどうやって行くんだ?」

 

「ん?…まず、スペルビアに行って…手続きして…それで楽園に向かうんだよ。」

 

ミントが荷物を整理しながら返事をする。

 

「楽園ってそんな簡単に行けたのか…知らなかった…」

 

「昔は誰も行ったことがなかったんだってね。でも雲海が無くなってからは自由に行けるとこになった…ずいぶん不思議な話だよね。私は世界樹登ったことないけど。」ミントが微笑む。

 

「あ、そうそう。スペルビア行きの船は明日のお昼ごろに出発するんだって。だからゆっくり寝てていいよ。

…とは言っても、10時前には起きててね。せめて。」

 

「おう。そんじゃ、おやすみー。」

 

「おやすみー。」

 

リュウギが布団を首までかけて横になる。既に時間は11時…明日の朝食はどんなものだろうと、そんな期待を胸に込めて眠りに入る。

 

 



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“炎の輝公子”

Lv100越えのユニークモンスターが強すぎる。勝てない。


◇◇◇◇◇

 

 

 

スペルビア新帝国、第二コアクリスタル輸送船――――――

 

 

「侵入者発見!炎を操るドライバーであることを確認!現在、コアクリスタル保管室に向かっている!!

総員、コアクリスタル保管室を死守せよ!」

 

 輸送船の中の共同寝室に鳴り響いた。スペルビア兵の隊長だろうか。野太い声を聞き、寝ていた兵士達は飛び起き、武器を構えて寝室から出て行く。

 

「やらせるかよ!」

 

 通路を塞ぐ数人のスペルビア兵。煙式の機関銃を構え、目の前にいるドライバーを狙う。

 

「今すぐその武器を捨て、降伏しろ!すれば発砲はしない!」

 

ドライバーの男は舌打ちをし、剣を構える。

 

「もう一度警告する。武器を捨てろ!」

 

 

「ったく…雑魚共が図に乗るなよォッ!」

 

ドライバーは剣から炎の衝撃を出し、それを食らったスペルビア兵が数人倒れた。

 

「発砲許可!放てぇ!」

 

兵士達が銃を放つ。銃弾は恐ろしいほどのスピード。常人であれば避けることはできない。

だが、相手はドライバー。その銃弾をかわし、懐へ潜り込む。

 

「ぐあぁぁ!」

 

次々と倒れていく兵士。しかし、兵士はどれほど倒しても次から次へと出てくる。

 

「もっとおとなしくやれないのかショット?さすがに複数人相手は辛いだろ?」

 

「雑魚がいくら固まったところで敵じゃねぇよ。フンッ!」

 

ショットの放った斬撃が、次々と兵士を倒れさせていく。

 

「そろそろ保管庫だな。」

 

“コアクリスタル保管庫”と書かれた扉に高温となった剣を突き刺す。瞬く間に扉はどろどろに溶けていく。

 

「ほぅ、想像以上にコアクリスタルだらけじゃねぇか…」

 

船体の半分はあるかというほどの広い部屋。大量のコアクリスタルが綺麗に整列されている。

 

「さてと、持てる分だけいくか。バクエン、お前もやるんだぞ?」

 

「あいあい、分かったよ。」

 

二人は背中から大きな袋を取り出し、コアクリスタルを掴んで袋の中へ入れていく。

コアクリスタル特有の青い光。他に光源となるものもない。この部屋からコアクリスタルがなくなれば、真っ暗になるだろう。

そんなことを考えながら二人は入れ続け、段々とパンパンになっていく。

 

「こんなところだな。よし、とっとと帰るぞ―――」

 

袋にそっとバクエンの袋に目を向けると、袋が下から燃え始めていた。

 

「おっ、おいバクエン!燃えてるぞ!」

 

「なん…!?」

 

その炎はただの赤い炎ではない…青い炎だ。

 

「蒼炎…!?まさかぁ…」

 

ショットが保管庫の入り口を見ると、そこには女性が立っていた。

 

 

 

 

「堂々と忍び込み―――奪うとはな。貴様らが暴れたおかげで我が兵士は医務室送りだ。」

 

その人物は両手にサーベルを持つ麗人。横には“帝国の宝珠”と呼ばれるブレイド―――

 

「炎の輝公子様直々に来るとはなぁ…ちと暴れすぎたか?」

 

「メレフ様、この者…手配犯です。」

 

メレフ…男装の麗人の名前だ。横のブレイドがメレフへそれを伝える。

 

「ショット―――ペルフィキオの者か。炎を操るブレイド、バクエンを連れてコアクリスタルを狙う…

噂には聞いていたが、まさかこれほど大胆とはな。」

 

メレフは両手のサーベルをしならせ、蒼炎を放つ。

 

「行くぞ、カグツチ!」

 

炎の輝公子メレフ、そして帝国の宝珠がショットに向かって走り出す。

 

「やれるもんならやってみなぁ!バクエン!」

 

ショットが剣をバクエンを投渡し、バクエンがそれを受け取り、炎を繰り出す。

メレフはその炎をサーベルで切り裂き、進んでいく。

 

「蒼炎剣!弐の型!明王!」

 

そのアーツが放たれ、バクエンは大きく後退し、ショットに剣を投げ渡す。

 

「さすが炎の輝公子様だなァ!」

 

剣をメレフへと突き、繰り返す。

 

「その強さ…伊達じゃねぇ」

 

「貴様も私の想像以上だな…!」

 

ショットの攻撃をサーベルで受け止め、かわしていく。

 

「行け!カグツチ!」

 

メレフがカグツチへとサーベルを渡す。

 

「分かりました!燐火!」

 

カグツチの攻撃に膝を突くショット。

 

「観念しなさい…この罪は決して軽くはないでしょうね…」

 

カグツチがサーベルをショットに向ける。

 

「悪いが仕事なんでねぇ…!」

 

バクエンが横からカグツチへ火球を投げ、それを受けてサーベルを投げ落としてしまう。

 

「カグツチ!」

 

メレフが落ちたサーベルを拾い、カグツチのほうへと向かう。

 

 

「俺達は帰らせてもらうぜ…?ったく、お前らのせいで十分なクリスタルが手に入らなかったじゃねぇか。」

 

ショットは剣を高温にさせ、壁を貫く。

大きく開いた外への穴へと飛び出す。

 

「待てぇッ!」

 

メレフが走り出したがすでに遅かった。ショットとバクエンの姿はもう見えない。

 

 

「申し訳ありませんメレフ様―――私があの攻撃を避けていれば。」

 

「いや、私がしっかりとサポートしなかったせいでもある―――」

 

互いに顔を見合わせ、メレフは開いた大きな穴に目をやる。

 

「明日の出航は取りやめだな…」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

カンカンカンッ!

カンカンカンッ!

 

頭が痛くなるような音。目を開けるとミントがフライパンとおたまを持って二つを叩いていた。

 

「もう10時半!起きてぇぇぇ!」

 

「起きてる…起きてるって…!だからもう…やめろ!」

 

 

 金属の音と共に目が醒めるのは心地よいものではない。酒を飲んだわけでもないのに頭がガンガンする。

 

「10時までに起きてって言ったのに…全く。もうご飯出来てるから。早く食べちゃって!」

 

しぶしぶ寝室を出て、しぶしぶ朝食が並べられている机へ向かう。

 

「アンカーテールのグリルかぁ…」

 

「あんたが起きないからできてもう30分経ってる。せっかくあんたのために良いの買って作ったのにさ…」

 

「ご、ごめん…食べる食べる。」

 

フォークとスプーンを持って料理に手をつけようとしたとき、ミントが冷たい目でリュウギを見つめる。

 

「え…ああっ、いただきます…」

 

手を合わせていただきますの挨拶をする。そしてフォークで突き刺し、口へ運ぶ。

 

「うぬっ…うっ、旨い…本当に30分冷やしたのか…?」

 

「褒めたって機嫌は治らないからね。食べて片付けたら出発する準備して。リストさんが手続きしてくれるっていうから。」

 

そう言ってミントは部屋へと戻っていく。

申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、そんな気持ちを忘れさせるほど美味しいこの料理…

 

「タルタリ焼きに負けず劣らず…旨いっ…」

 

食べ終え、皿を厨房へと持っていく。皿を置いたら、急いで部屋へと戻る。既にミントは準備を終えていた。

 

「旨かったよ…朝からいいもん食えたって感じだ…」

 

「それもう聞いたって。―――分かったよ。早く準備しなさい。」

 

ミントは薄ら笑顔を浮かべ、リュウギの肩を叩く。少し機嫌が良くなったのだろうか。

リュウギの持ち物といえば、少し大きめのポーチと大剣くらいだ。

ポーチの中にミントが作ってくれたアンカーテールのグリルを入れる。もちろんそのままではなく、袋に入れて。

大剣を背中に持ち、準備は終了。宿屋の主に礼のあいさつをし、外に出る。

 

もう朝の11時。グーラの人々は家を出て、買出しへと出かけだしている。トリゴリウトの弾き語りも既に

この時間から始まっているようだ。

 

「おーい!リュウギくーん!」

 

風車の下にサルベージャーの一団がいた。もちろんミントもその中にいた。近くで買ったのだろうか、チュロスを食べていた。

 

「あ、意外と早かったね準備。」

 

「ああ、荷物も対して持ってないしな…」

 

ミントは持っていたチュロスを二つに折る。

 

「リュウギも食べる?」

 

「え…」

 

ミントがリュウギに差し出したのは今ミントが食いかけていた部分。ミントは気付くと慌てて反対のチュロスを突き出す。

 

「えへへ…」

 

リュウギはチュロスを受け取って口に入れる。二人とも同じぐらいのスピードで食べ進める。

 

「そろそろ受付終わっててもいいと思うんですけどねぇ…」

 

サルベージャーの一人が口を開ける。

 

「確かに。リストさん行ってから2時間だしね…手間かかっちゃってるのかな。」

 

ミントがそっと池と海の間の橋の向こう、主なグーラ人の居住区のあるほうを見る。

すると、リストが歩いてこっちに向かってきている。なんだか悲しげな顔をしていた。

 

「リストさん?どうかしたんですか?」

 

ようやくこちらへやってきたリスト。

 

「残念だが、今日はスペルビアに行けない。」

 

「ええっ!?どうして!?」

 

ミントが驚いて声を出す。

 

 

サルベージャーの一団とリュウギがトリゴの港へと行くと、たくさんの人々が受付の前にたむろしていた。

見てみると、どうやら受付が営業していない。

 

「どうして…?」

 

「それは基地まで行けば分かる。」

 

 

ガレグロの丘を越えて、スペルビアのトリゴ基地へと向かうと、これまたたくさんの人々がいる。基地の中では

何十人ものスペルビア兵が現場検証をしているようだ。人々はいわゆる野次馬。野次馬の侵入を抑えるために

何人もの兵士が道を塞いでいた。

ミントも何をしているのだろうと背伸びをして見ようとする。

 

「どうしたんだろう…」

 

「何か事件でも起きたのか?」

 

リュウギがミントを見ながら言う。

 

「どうやら、昨日輸送船に侵入者が現れたらしい。」

 

「侵入者?」

 

リストが手を組んで説明を始める。

 

「ああ。昨日の夜中のことだ。随分強かったらしくてな、兵士に死傷者も出たらしい。港が封鎖してるのは、

犯人がグーラから逃げ出さないようにするためだ。」

 

「でも、グーラはアルスト大陸の一つになってるよね?港を封鎖しても陸続きに逃走できるんじゃ…」

 

「グーラはスペルビアやインヴィディアと違って、アルスト大陸と繋がっている部分が高所にある。

アルスト大陸に行くにも、大きな壁を乗り越えなきゃいけないわけだ。がんばりパワーがいくらあったって登りきれないぐらいの高さだしな。」

 

「だから港を封鎖するだけで犯人をグーラに追い込めるってわけか…」

 

リュウギが腕であごを支えるように考える。

 

「そういうことだ。だからとうぶんはスペルビア行きの船は出航しない。」

 

「ええーっ!?いくらなんでも困るよそれじゃあ…」

 

ミントが肩を落としてがっくりする。

 

そんな話をしていると、基地の中から誰かが出てくる。

 

「あの人って…」

 

腰にサーベルを携えた男装の麗人。メレ…

 

「メレフ様だぁ~!」

 

突然ミントの目の色が変わる。

 

「うおっ、どうしたんだよミント…」

 

「知らないの?炎の輝公子!メレフ様!スペルビア新帝国の特別執権官で現在42歳!でもその年齢を感じさせないほどの美しい肌!声!髪の毛ッッ!」

 

「おっ、おう…」

 

「ほら見て!」

 

ミントがポケットから何かを取り出す。炎の輝公子の写真だ。

 

「美しいでしょう~!全ての女性の憧れの的だよ!私も大きくなったらああなりたいぃ~」

 

さっきまで不機嫌だったとは思えないほど上機嫌になったミント。その勢いについていけないリュウギ。

 

だんだんと炎の輝公子様、メレフとそのブレイド、カグツチがミント達へと近づいてくる。

1m1m…近づくたびミントの瞳の中のハートが大きくなっていく。

 

「…すまない、そこをどいてくれないか?」

 

メレフがミント達、つまりサルベージャーの一団に話しかけた。

 

「あぁ、すみません…」

 

リュウギがミントの右腕を引っ張ってどかす。サルベージャー達も横へとどく。

 

「すまないな。」

 

メレフがミントを気にも留めず、歩いていく。

 

「メレフ様…あの少女、メレフ様のファンみたいでしたが…」カグツチがメレフに話しかける。

 

「中にはああいう者も居る。まぁ、悪い気分ではないな…」

 

 

「ねぇ!リュウギ!今見た!?私に…メレフ様が私に話しかけてくれたよぉ~!あぁ~!もう死んでも良い!」

 

「いや死ぬなよ!またやらなきゃいけなくなるだろ!」

 



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“黄色い瞳”

スマブラ新作発売ですって!!!!!
これは!!!!!ニア参戦!!!!
しないだろうなぁ。フィギュアか切り札止まりでしょう。
とにかくレックス参戦を心待ちにしてます。


 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「さて、そろそろメレフ特別執権官が来る頃かな…」

 

領事館の中の一室で、一人の男性が紙をとんとんと整理し、机の上に置く。

 

トントン。扉を叩く音だ。

 

「どうぞ。」

 

男性が声を出すと、扉が開いた。

 

「久しいな、パクス。」

 

「お久しぶりです。メレフ特別執権官。」

 

メレフは部屋のソファに腰をかけ、彼女のブレイドであるカグツチも腰をかけた。

 

「セリオスティーでもいかがでしょうか?」

 

「ありがたくもらおう。」

 

パクスという男性はセリオスティーを淹れ、メレフとカグツチの前に差し出す。

 

「そこまで堅くならなくても良いのだぞ。」

 

「しかし…領主であるとはいえ、一応は目上の方ですし…」

 

「近頃、堅く話しかけられることばかりでな。昔の仲間のように心置きなく話せる相が欲しいのだ。」

 

「そうですか…」

 

パクスは自分の分のセリオスティーを淹れ、ソファに腰をかける。

 

「セリオスティー…懐かしい。ホムラの好物でしたね。」

 

カグツチが高貴な振る舞いでティーカップを口へ近づけて飲む。

 

「ホムラか…懐かしい名ですね。」

 

パクスが口を開く。

 

「まだ私が警備長だった頃を思い出します。彼らは強敵でしたね。」

 

「ああ。さすがは天の聖杯だ…彼女が真の力を発揮した今では、帝国最強のドライバーも敵ではないだろう。」

 

 

「あれから早20年ですか…メレフ様のおかげで私はこのグーラの領主まで昇格することができたことを、心から感謝します。」

 

「君はモーフ君よりも有能だしな。それに彼のような野心も持ちえていない。」

 

「わざわざ戦うことは私も好きではありません。戦場よりも、ここのような場所が私にお似合いだと思います。」

 

「ふふっ、確かにそうだな。」

 

メレフが微笑んだ。

 

「ところで例の件だが…」

 

「あぁ、コアクリスタルが盗難されたという件ですね。」

 

「一応私のほうでも調査はしているが、そちらのほうで何か情報は手に入ったか?」

 

「犯人、ショットの顔写真が手に入りました。人相書きよりも忠実です。」

 

パクスは写真を取り出し、メレフに見せる。

 

「私が見た人物と同じだ。」

 

「それは良かった。逃走する彼を撮影したという方が居りましてね。その人物からの提供です。」

 

「ほう…」

 

メレフが写真を見ていると、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。

 

「失礼するよメレフ。」

 

「あら、ワダツミ。」

 

カグツチが部屋に入ってきたブレイドに真っ先に気付いた。

 

「どうしたの?あなたは輸送船の監視をしていたと思っていたけれど…」

 

「私がワダツミに頼んだんだ。ペルフィキオについて調べてくれと。」

 

「なかなか面白い情報が手に入ったよ。どうだい?」

 

「ぜひ聞かせて欲しいな。」

 

メレフが返事をすると、ワダツミは説明を始める。

 

「ペルフィキオ…コアクリスタルを狙うテロリストだね。判明している構成員はアヴァリティア商会前会長、バーンの息子の“ガーン”…炎を操るブレイド、バクエンのドライバー“ショット”。そして2年前、ルクスリアで起きた爆発事件の犯人“アリア”…だがこれは構成員の一部でしかないみたいだ。」

 

「他にもペルフィキオのメンバーが?」カグツチが問う。

 

「ああ。まだ噂でしかないが、フォンス・マイムにその一人が居るという。そして彼らを取りまとめる“ボス”と呼ばれる存在…」

 

「そのボスについて、何か情報はあるか?」メレフが問う。

 

「残念ながら、ボスの正体はまったくの不明だ。各地の情報屋を探ったが、ボスの正体を噂でも知っている人物はいないようだ。」

 

「そうか…」メレフが肩を落とす。

 

「ともかく、今はショットの行方を探るしかないな。グーラに居ることは間違いない。」

 

「メレフ様、もう行くのですか?」

 

パクスがメレフに声をかける。

 

「ああ。私自身で情報を集めようと思う。――――――昔のことを話せるのはネフェル亡き今、私のブレイドと、君、パクスぐらいしか居ないんだ。また来るさ。」

 

「ええ。セリオスティーを用意して待っております。」

 

 メレフはパクス領主に別れを告げ、ワダツミ、カグツチと共に領主館を後にする。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「あぁ、メレフ様~」

 

「まだ言ってんのかよ…」

 

二人はカフェ・サヴィーの椅子に腰をかけている。

 

「リストさんの話によると、最低でも3日は船が出ないのか…3日も何してようかなぁ…」

 

「メレフ様~」

 

「おい、聞いてんのか?」

 

「ん?あぁごめん、メレフ特別執権官のこと考えてた。」

 

リュウギが深くため息をつく。

 

「まったく…どうするんだ?とうぶん船は出ないってさ。」

 

「どうするって、私達が犯人でも捕まえない限り出航しないんじゃない?」

 

「犯人を捕まえる…それだッ!」

 

リュウギは突然立ち上がった。

 

「捕まえるって…犯人を!?」

 

「ああ、そうすれば船も出航するだろ?」

 

「まぁ、確かにそうだねぇ…」

 

ミントが腕を組む。

 

「あー…でもやめた。」

 

「ええっ?どうして?」

 

「厄介ごとには巻き込まれたくないし…」

 

「じゃあ変な決意しないでよっ!」

 

二人が痴話喧嘩を始めだした。そんな彼らに近づく一人の女性。

 

「思いついたこと言っちゃったんだよ、そこまで怒るか普通!」

 

「別に怒ってないって!でもちょっといいかなって思ったの!」

 

 

「あー…すまない、少し話いいかな?」

 

 ミントがその女性を怒りの目を持続させたまま見上げる。

しかし、その瞬間目の色はハートに変わった。

 

「あっ…あなたはッ…メレフ様!?」

 

「少年、このような顔の男を見かけなかったか?」

 

メレフが写真を取り出し、リュウギに見せる。

 

「こいつって…」

 

リュウギは目を大きくして写真を見つめる。

 

「見かけたのか?」

 

「確かに昨日会ったことはあります…でも、トリゴに来てからは一度も見ていません…」

 

「そうか…昨日ということは、グーラにいるということだな?」

 

「はい…おそらく、まだグーラにいるかと…」

 

「すまない。情報提供感謝する。」

 

メレフは少年に礼を言い、立ち去っていく。

 

「待ってくださいメレフさm…メレフ特別執権官!」

 

ミントが大声でその名を叫ぶ。

 

「な、なんだ…君?」

 

「あ、あのー…そのー…」

 

ミントがメレフに近づき、どこからか色紙とペンを取り出す。

 

「サ、サイン下さい!」

 

ミントがメレフにそれを差し出す。

 

「ま、まぁ別にいいが…」

 

メレフは少し動揺するが、その色紙とペンを受け取り、不慣れにサインを描く。

 

「―――すまない、サインなんて普段からあまり書かぬもので…」

 

「そ…そんなことないですっっっ!素晴らしいです!達筆というか…なんというか…」

 

 ミントは顔を真っ赤に火照らし、とても嬉しそうだ。

その顔を見て、メレフもどこか嬉しそうだ。

すると、メレフは今質問した少年へと顔を向ける。

 

「…少年」

 

「え?俺ですか?」

 

 

「―――美しく、黄色い瞳だな。“彼”を思い出すよ…」

 

「え?彼って…」

 

リュウギが少し動揺する。

 

「いきなりすまないな。つい口から出たもので…では失礼する。」

 

メレフは背中を向け、トリゴの街を進んでいく。

 

 

「いいなぁリュウギ…美しく黄色い瞳だってさ。私も言われたいな…「美しく、青い瞳だな…」って!言われたらどうしよ~!フヒヒ。」

 

「なぁミント、あの写真って…」

 

「写真?私はメレフ様しか見えなかったよ。」

 

「おいおい…メレフが見せた写真。あれはペルフィキオのショットだったんだ。」

 

「ええっ!?私を殺した…アイツ!?」

 

それを聞いてミントは顔色を変えた。

 

「許せなぁい…!リュウギ!ショット捕まえようよ!」

 

「ええっ!?俺は厄介ごとはあんまり…」

 

「いーじゃん!捕まえれば恨みもそれほど買われないって!それに復讐ついでにスペルビアまで行く道、開けるし!」

 

 

「…ったくしょうがないなぁ。でも、戦うのは俺なんだからな?」

 

リュウギがミントにそう言うと、ミントは腰から短剣を取り出す。

 

「さっき護身用に買ってきたの。ドライバーほどじゃないけど足手まといにはならないよ?」

 

「分かった。じゃあ行こうぜ。まずリストさんに行くって報告…」

 

「しなくていい!止められちゃうって。黙って行こう。ね?」

 

「あいあい…」




ここで人物紹介

〈メレフ〉
スペルビア新帝国の特別執権官。“帝国の宝珠”と呼ばれるブレイド、カグツチを相棒としている。もう一人、ワダツミというブレイドも存在する。
その強さから、“炎の輝公子”の異名を持つ。
かつて楽園に行った一人。20年経ってもその美しさと強さは健在である。


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“同調”

やっとクロダイル倒しました。想像より弱かったです。
やっぱハナは強化するもんですね。虎虎はけっこうきついですが。


リュウギはしぶしぶミントの言うことに従った。二人はとりあえず、トリゴの街の店で出発の準備を整え、ゴルドア大平原へと向かう。

 

「おーいお二人さん。すぐそこでおいしそうなおむすびもらったんだ。一緒に食べ…」

 

リストがカフェ・サヴィーで腰をかけていたミントとリュウギに話しかけた…が、二人はそこには居なかった。

 

「…おーい、ミント?」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「しっかし、ショットを探すったってどうすんだよ?」

 

「足跡を探すとか?」

 

「足跡?さすがにこれほど時間経ってたらもう消えてるだろ。」

 

「あぁ…確かに。」

 

ミントがうなずく。

 

「そういえば、ショットのブレイドって炎属性だったよね?」

 

「ああ、そういえばそうだったな…」

 

「それじゃあ、逃げ道が焦げてたりとか…」

 

ミントがそっと足元を見ると、草が少し黒く焦げている。

 

「ほぉーら!私の言う通りだ!」

 

ミントが焦げた草を指差し、飛び上がって喜んでいる。

 

「そんなに喜ぶなんてガキかっての。」

 

「いいじゃん、ガキなんだし!」

 

焦げた草は足跡のように続いている。それを目で追っていると、目の前から誰かが歩いてくる。

 

「おい!だから俺はコアクリスタルなんて盗んでないって…痛ッ!」

 

「リリオ!何やってんの!?」

 

リリオ、そしてそのブレイドのクロヒョウがスペルビア兵に捕まり、連行されている最中だった。

 

「おぅ…ミント!良かったぁ…なぁ、こいつらに説明してくれよ!俺はコアクリスタルなんで盗んでないって…」

 

「そうそう!第一、私の属性火じゃなくて土だし!」

 

クロヒョウが必死にスペルビア兵に抵抗する。

 

「やめろ!抵抗するなぁ!」

 

「痛ッ!」

 

二人のスペルビア兵の一人が倒れこむ。

 

「おのれぇ!ペルフィキオォ!公務執行妨害で逮捕だぞォ!?」

 

「うるさいわねぇ…だから私たちは!コアクリスタルなんて盗んでないって言ってるでしょ!」

 

「ぐあああーっ!腕の傷が痛むゥー!」

 

それを見てミントもリュウギも呆れかえる。

 

「この人達が、輸送船に乗り込みそうに見えますか?」

 

ミントが倒れこんでいる兵士を覗き込む。

 

「あぁ。いかにもコアクリスタルを盗みそうだ!悪人面!」

 

「おんっ…言わせておけばこのクソ兵士…」

 

リリオが腰のツインリングに手をかける。

 

「じゃ、この人達がメレフ様を出し抜けると思いますか?」

 

「うーん…確かにそう言われると微妙だな…」

 

兵士は立ち上がった。

 

「たしかに悪人面だが、どちらかというと小物っぽいな。とてもメレフ執権官を出し抜けるとは思えない。」

 

「でしょ?分かったらとっとと離してやって。」

 

立ち上がった兵士はもうひとりの兵士を見つめる。もう一人の兵士はやれやれといった感じで二人を解放する。

 

「まったく…人間違いだなんて失礼な奴らだな。」

 

 

二人の兵士はすぐにその場を立ち去る。兵士は言い争いをしながらトリゴの街へ帰っていく。

 

「まったく。お前が早とちりだからいけないんだ!」

 

「なんだとォ!?ドライバーが犯人だといわれたら真っ先に疑うだろう!?」

 

「メレフ執権官の話によれば、犯人は炎を扱うドライバーだと言っていただろう!あのドライバーは土属性であったのに…」

 

「お前だってノリノリで拘束してたじゃないか!人に責任全部なすりつけるな!」

 

「なんだと!?」

 

「それに、炎と土…二つの属性を操っているかもしれんぞ!?」

 

「二つの属性を操る?ハッ、居るなら見てみたいね!そんなヘンテコブレイド!」

 

そんな言い争いをする兵士を、軽蔑のまなざしでリュウギは見つめる。

 

 

「すまないなミント。また助けてもらって…」

 

「いいんだって。イラーダ村に行ってきたの?」

 

「ああ。もはや何も無くなってた…でも、使ってた井戸だけは健在だったな。まぁ、これほどの時間が経っているしな…」

 

リリオがうつむく。ミントはそれを見て頬をかく。

 

「ん?君は…あぁ」

 

リリオが顔をあげ、リュウギのほうを向いた。

 

「野盗から助けてくれた少年か。あのときはすまない。俺が傭兵としてしっかりしていたら巻き込まなくて済んだのに…」

 

リリオが申し訳なさそうにリュウギの方を向く。

 

「い、いいんですって。おかげで俺の目的も達成できそうだし…」

 

「目的…って?」リリオが聞く。

 

「楽園に行くんです。ミントがそこまでの案内してくれるって言うから…」

 

「助けてもらったんだし、恩返しってこと。」

 

「へぇ…ミント、本当に連れて行けるのか?」

 

「心配いらないって!世界樹の下ぐらいまでは行ったことあるし!」

 

「そ、そうか…?」

 

リリオが不安そうな顔をする。

 

「せっかく助けてくれたけれど、今はお礼ができそうにないんだ。すまない…」

 

「大丈夫です。もうリストさん達に結構なお礼してもらったし…」

 

「お礼は必ずどこかでする。今は感謝だけさせてくれ。」

 

そう言ってリリオはリュウギの肩を叩き、クロヒョウと共にトリゴの街へと向かう。

 

 

「…忘れてた。ショット追わないとね!」

 

 ミントは再び足元を見て、焦げた草を追っていく。

 

 

 

 その焦げた跡を追っていく途中、数体ものモンスターが立ちはだかる。リュウギはミントを守るようにして戦う。

ミントも負けじと短剣で応戦する。

 

「お前は出なくていいって!」襲い掛かるモンスターを退けながら言う。

 

「私も戦うって言ったじゃん!」

 

ミントは短剣を振り回すが、モンスターをかする程度。

リュウギが大きく剣を振り回し、モンスター達は去っていく。

 

 

 

 

「なぁ、しろって言ってるわけじゃないけどさ…」

 

 リュウギが大剣を布で拭きながら話しかける。

モンスターを倒した二人は休憩がてら、丸太の上に腰をかけていた。

 

「ん?何?」

 

「ミントって、ブレイドと同調したことないの?」

 

「んー…あるっちゃあるかな。」

 

「へぇ、あるんだ。―――ってことは、同調できなかったってことか?」

 

「そうだねぇ。サルベージャーになる前、同調できるかと思ってコアクリスタル触ったことあってさ。

―――あの時は大変だったよ。血が体中から噴き出して生と死の間を3日間もさまよってたとか。」

 

「マジか…そりゃ大変だったなぁ…」リュウギが心配そうな目つきでミントを見る。

 

「いやぁ、あんなんなったらもう二度と同調したくなくなるって。」

 

ミントが立ち上がりながら言った。

 

「さぁ行こ。焦げた跡がなくなっちゃうかも。」

 

二人は再び歩き出し、焦げた草を辿っていく。

 

 

 

 

「トリゴの街かぁ。懐かしいな…」

 

トリゴのアーチにもたれかけ、リリオが呟く。

 

「私はこの前初めて来たけどねぇ。」

 

クロヒョウが言う。

 

「まぁ傭兵としてここに来るのは初めてだしなぁ。この前港に着いた時はじっくりする暇もなくすぐ出発しちまったからなぁ。」

 

二人が会話を交わしていると、奥から坊主頭のサルベージャーが歩いてくる。リストだ。

 

「おう、リリオ…ミントとリュウギくん見てないか?」

 

「リュウギ…あの少年か。二人なら平原で通りすがったが…?」

 

「あの二人、何も言わず出かけていったんだ。何考えてるんだか…」

 

リストが同じ場所を行ったり来たりしながら頭を抱えている。

 



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“イラーダ村”

ゼノブレイド2って始めると「することねーなー」ってなるんですけど一時間ぐらいするとやりたいこと決まってくる。最近はニア成分が足りない。


 

◇◇◇◇◇

 

 

古ぼけた屋敷の中、大きな声が響き渡る。

 

「ももーっ!これだけあればボスも大喜びだも!」

 

黒い毛のノポン、ガーンが大量のコアクリスタルを見ながら手をあげて喜ぶ。

 

「炎の輝公子に邪魔されなきゃもう少し取れて来れたんだがなぁ。」

 

ショットが腕を組みながら皮肉そうに言う。

 

「やっぱ良い仕事してくれるも!ほら、給料だも!」

 

そう言ってガーンは袋を取り出し、ショットに手渡す。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ…おい、たったの30万Gかよ?」

 

ショットが袋を手から落とした。

 

「この数ならそれが妥当だも。もっと欲しいならもーっと持ってこいも!」

 

「はぁ、おいバクエン、このクソ上司を焼き払え。」

 

「了解だ、覚悟しろガーン。」

 

バクエンが剣に手を伸ばす。

 

「ひいぃ!それが上司に対する態度かも!金払っただけありがたいと思えも!」

 

ガーンがコアクリスタルの入った袋を盾にする。

 

「そういえばここまで来る途中で兵士が頑なに守ってた倉庫を見つけたな…」

 

ショットが思い出すと、バクエンがガーンに向けた剣を下げる。

 

「ああ、確かにな…あれほど厳重に守っている倉庫ということは…」

 

「コアクリスタル保管庫…だろうな。」

 

「おおっ!じゃあ早速そこに行ってたくさん盗んでこいも!」

 

「ショット、あんまり堂々とするのは好ましくない。」

 

「分かってる。今度は隠密行動で行こうぜ?」

 

バクエンがショットに剣を渡し、腰に携える。

 

「成功したら倍の倍は払ってやるから待ってるもー!」

 

「あいあい、その言葉忘れてなきゃいいが…」

 

ショットが屋敷の扉を開け、外へ出る。

 

「しっかし、ガーンもいい隠れ家を見つけたなぁ…」

 

 古ぼけた屋敷の周りには燃え尽きた木製の家々。まだ昼だというのに木々に覆われたこの場所は真っ暗だ。

ガーンが今住んでいるこの屋敷も半ば壊れかけ。ところどころに焦げた跡が存在する。

しかし、屋敷の周りには住めそうな家はもはや存在していない。

―――ここはかつて村だったのだろうか。まだ使えそうな井戸が中心と思われる場所に存在している。

その井戸の周りには他の場所から持ち寄られたのだろうか、こんな場所には咲かないような綺麗な花が献花してある。

 

「こんな辺鄙な場所に…俺達以外も来てんだなぁ。」

 

 ショットはその花を踏みつけた。花はつぶれ、バラバラになる。

それを見て軽い笑いをこぼし、ショットとバクエンは去っていく。

 

 

 

 

 

「ずいぶんと遠いところまで来たなぁ…」

 

リュウギが額の汗をぬぐいながら、足を進める。

 

「あぁ…跡がここまでしかないや…」

 

ミントが足元を見る。ここまで続いた草の焦げ跡がここで断ち切れていた。

 

「マッ、マジで?」

 

「大丈夫。こっから先はサルベージャーの勘でなんとかなるって。」

 

「勘って…本当に大丈夫かよ…」

 

グーラのかなり奥のところまで来てしまったらしい。ゴルドア大平原に比べると湿気も高く、体中に水が常に纏わりついているかのよう。明かりもほとんど入らず、ほぼ真っ暗である。

 

ミントがサルベージャーの勘に頼りながら、前へと進んでいく。リュウギは不安そうな顔をしながらミントについていく。

すると、少し開けた場所に出た。崩れた建物、壊れかけの看板…かすかに「イラーダ」と書かれていることが分かる。

 

「イラーダ…リリオの村の…」

 

ミントが看板を見つめた。古ぼけた文字である。

 

「あのドライバーさんの村をショットが隠れ家にしてるのか?」

 

門だったのだろうか、壊れかけのアーチをくぐり、村の中へと入る。

中心には井戸が、そしてその手前には新しい花が添えられている。しかし、それは踏み潰されている。

 

「しかし、村全体を隠れ家にしてる…ってわけじゃなさそうだな。どこかの建物を使ってるか…」

 

見渡すと、かすかに明かりが漏れている屋敷を見つける。

 

「あそこね。よぉーし…気付かれないようにそーっと近づこう。」

 

二人は忍び足で屋敷へと向かう。近づくほど、変な笑い声が聞こえてくる。

 

「もーっもっもっも!この報告さえできれば、このガーン様はいっきに昇格だも!もうあんな部下従えなくて

済むんだも!」

 

 

「ノポン…?ショットじゃないのか?」

 

リュウギが首をかしげる。

 

「ノポンでガーンと言えば指名手配犯だよ。ペルフィキオの一員の…」

 

「じゃあそいつがショットの仲間ってわけか…よし、乗り込むぞ」

 

 

ボロボロの扉を勢いよく開き、大剣を構える。

 

 

 

「ももっ!?お前達は誰だも!?」

 

予想の通りガーンは驚く。

 

「あんたがペルフィキオのガーンね!持ってるコアクリスタルを渡しなさい!あと、ショットはどこ?」

 

「むむぅ、お前らはスペルビアの奴らかも!?…でも、なんでガキんちょなんだも?」

 

「俺達はスペルビアじゃない。お前らの悪行のせいで船が出航しなくなった。責任とってもらうぞ!」

 

リュウギが大剣から炎を出す。それをガーンが避ける。

 

「こんなボロい家で火をおこすなも!火事になったらどうするんだも!…ん?」

 

ガーンがリュウギの頭を見つめる。

 

「銀の髪色…炎…お前、もしかしてぇ!?」

 

「は?俺がどうかしたのか?」

 

ガーンがにやりと口角を上げる。

 

「ももももーっ!これでガーン様は昇格間違いなしだも!天国のじいちゃんも喜んでるはずだもー!」

 

そう言ってガーンはコアクリスタルの入った袋を持ち、ボロいソファに腰をかける。

 

「ショットはトリゴのコアクリスタル保管庫に行ったも!あんな部下は煮るなり焼くなり好きにしていいも!」

 

ガーンはそう言うと、ソファの横のボタンを押す。

 

「あっ、おい待てっ!」

 

ミントとリュウギはガーンのところへ走り出すが、突然ソファの下から炎が噴き出し、空へと舞い上がっていってしまった。「もーもっもっもっも!」という笑い声と共に。

 

「あーっ!逃げられたーっ!」

 

ミントが頭を抱えてその場にしゃがんだ。

 

「もうっ!あと一歩だったのにぃ!」

 

「でもショットの居場所は掴めた。あいつを捕まえるだけで十分。」

 

「コアクリスタル保管庫に行ったって言ってたよね?―――既にショット達が出発してるなら、すぐに追いかけないと!」

 

「…そうだな、急ごう。」

 

二人は扉をくぐり、イラーダの村を抜けて来た道を戻っていく。すでにショットがトリゴに到着したかもしれない―――

 

だが、リュウギの頭の中は別のことでいっぱいになっていた。

『銀の髪色…炎…お前、もしかしてぇ!?』

 

 

「なぁミント、あのガーンって奴、俺を見て変なこと言ってたよな?」

 

「あー、ショットがあんたの事を話したんじゃないの?」

 

「でもさ、“もしかして”っていうのはどういう意味だろ、って…」

 

「そんな深く考えることじゃないと思うよ。今は街に急がないと!




ここでキャラクター紹介

〈ガーン〉
ペルフィキオの一員のノポン。黒い毛が特徴。
部下のショットとバクエンを利用し、戦力増強のためにコアクリスタルを集めている。
“ボス”とやらには頭が上がらない様子だが、昇格を狙っている節もある。


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“襲来”

スザクのキズナリングの最後、いつ解放されんだろうなぁ…
気長に傭兵団やってます


◇◇◇◇◇

 

 

 

「ほう、彼女がネフェル皇帝の命を…それは初耳ですね。」

 

「ああ。彼女の能力には驚かされたよ。今はどこで何をしているのだろうな。」

 

トリゴの領事館。メレフは領主のパクスとともに談笑していた。

 

「しかし、ネフェル皇帝の死から既に5年ですか…正直、今の皇帝はあまり好みません。」

 

「言ってしまうと私もだ。だがそれでも彼はしっかりとやってくれている。私自身、大きな文句というものはないな。」

 

メレフがセリオスティーを口に運ぶ。まだ少し熱いようで、息を吹きかける。

 

「今の皇帝が即位してからというもの、法律や刑罰が厳しくなったように思うのです。」

 

「確かにそういった部分はあるな。だがあまり刑罰が甘いと再犯の可能性もあるからな。」

 

そんな話を割って入るように、カグツチが部屋へと入ってくる。

 

「メレフ様。カルマ皇帝から今すぐ戻ってきて欲しいとの通達が来ました。」

 

「そうか…すまないパクス、ショットの捜索の続きを頼んでくれるか?」

 

「分かりました。既にアジトに兵を向かわせております。安心して行ってきてください。」

 

「ああ。すまないな。」

 

メレフが一礼し、部屋を出て行く。

 

「念のため、ワダツミを含めた3人でのみの出発となりましたが、よろしいですか?」

 

カグツチがメレフに問う。

 

「ああ、このような状況だ。少ない人数の方が良い。」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「なんだ?随分と少ない護衛じゃねぇか。スペルビアの奴らは頭いってんのか?」

 

かつてトリゴの花畑と呼ばれるものがあったこの土地。今は巨大なコアクリスタル保管庫が構えられている。

スペルビア製ととれる金属製の建物は、たとえバクエンの炎であろうとも突き破れないだろう。巨神獣(アルス)船とは大違いだ。

 

「アルジェントが偽の情報を回してくれたんだとさ。」

 

「アイツ、なんで俺がここ狙うって知ってたんだ?」

 

「コソコソ盗み聞きしたんだろう。お前がパン買ってる間に俺にそう言った。」

 

 ショットとバクエンの二人は保管庫の近くに立つ大木の上で突撃のチャンスを伺う。

保管庫の前にはスペルビアの兵士が二人。見張りをしている兵士の前に、おそらくリーダーであろう容姿の兵士がやってきて、何かを伝える。それを聞いた兵士は驚くようなそぶりを見せ、うなずいた。

そしてリーダーの兵士が二人の兵士に手を振り、基地のほうへと走って戻っていく。

 

基地のほうを見ると、炎の輝公子メレフと側近のブレイド二人が基地に入っていく。それを発見した数人の兵士は敬礼を行う。

それから数分後、小型の巨神獣(アルス)船が基地から飛んでいく。

 

「炎の輝公子様の乗った船か?これで邪魔されずにすむかもなぁ?」

 

 ショットがバクエンのほうを向き、バクエンはニヤリと笑う。

数十人もの兵士が武器を持ち、基地から出て行く。リーダーと思われる兵士が先頭で命令を出し、それに兵士達が続いてく。

 

「俺達(ペルフィキオ)の一員じゃないくせに役に立つ奴だなぁ…まぁいい。今が好機だ。」

 

ショットは鞘に手を伸ばし、剣を引き抜く。

兵士の数が少なくなった今がチャンス。大木から飛び降りて、二人の兵士の前に現れる。

 

 

 

「なっ…貴様はッ!?」

 

「残念だったなぁ?おとり情報に惑わされたせいでお前らの仲間は来ないぜ?」

 

「保管庫には指一本も触れさせ…」

 

引き金を引こうとしたその瞬間、ショットは目にも留まらぬ速さで兵士の体を切り裂く。

 

「ぬがっ…」

 

倒れこんだ兵士。それを見て怯える隣の兵士。保管庫を守るという役目も忘れ、足が後ろへと進んでいく。

 

「仲間を呼ばせるわけにはいかないんでなぁ…バクエン!」

 

ショットがバクエンに剣を渡し、バクエンは剣に炎を纏わせはじめた。

それを見て兵士は情けない声を出して腰を落とし、逃げ出す。

 

「フレイムトルネードッ!」

 

炎を纏った剣が兵士の周りを回りだし、それは大きな炎の竜巻となった。

 

「さてと、目標は100個だ。」

 

「そんなに持てるか?」

 

「お前はブレイドだろ?70個は持てよ。」

 

ショットは倒れた兵士から鍵を奪い取り、保管庫を解錠する。

炎の竜巻に巻き込まれた兵士は黒こげとなり、竜巻が消えた後にそっと倒れた。

 

 

 

 

ゴルドア大平原を横断するスペルビア軍。

 

「うーんと、確かアジトはセイガル丘陵にあると…」

 

ウソの情報だということを知らない兵士達は整列しながらセイガル丘陵に向かっていく。

 

 

「スペルビアの奴ら?なにやってんだ…」

 

リュウギが並びながら歩くスペルビアを遠目に見ながら不思議に思う。

 

「それより今は街へ急がないと!」

 

「あ、ああ…そうだな。」

 

二人はゴルドア大平原を突っ切り、トリゴの街へと走っていく。

ザインの標木も超え、もうすぐトリゴの街へ着く…そう思った時。

 

「ミント!」

 

前から数人のサルベージャーとドライバーが歩いてくる―――リスト達とリリオだ。

 

「どこに行ってた…!心配したんだぞ!」

 

「ごめんなさいリストさん!」

 

ミントが深く頭を下げる。

 

「まったく…ミント。いつもそうやって勝手に飛び出してはみんなに迷惑かけて…」

 

「え、ええーっと…」

 

リュウギがミントのほうをちらりと見る。

 

「ごめんなさい…私達急いでるんでッ!説教はまた後で聞きます!」

 

ミントがリスト達の間を抜けてトリゴの街へと走っていく。

 

「ああっ!ミント!」

 

リストが手を伸ばすが、捕まえられなかった。

 

「まったく…」

 

と、深くため息をつく。

 

「大変ですね…」

 

とリリオがリストの肩を叩く。

 



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“想い”

ぼくもぶれいどいーたーになりたいなー


 

 

 

ミントとリュウギはトリゴの街を駆け抜けていく。いつもは飽きるほどスペルビアの兵士がいるのだが、何故か全く見当たらない。

 

「さっきの兵士達って全員だったのかな?」

 

「兵士が居ない隙に狙うってわけか…」

 

二人はガレグロの丘を越え、基地隣のコアクリスタル保管庫へと向かう。

兵士が管理しているこの保管庫に近づく街人は全く居ない。瀕死の兵士が二人居たとしても、気付かないようだ。

 

「見て!扉が開いてる…」

 

焦げた兵士と血まみれの兵士がその扉の横に倒れていた。

それを発見した途端、ミントとリュウギが駆け寄る。

 

「大丈夫ですかっ…?」

 

すでに息も切れ切れ。血まみれの兵士は声も出せぬほど苦しんでいた。

リュウギは腕に兵士を抱えている。

 

「治せる…?」

 

ミントがリュウギに聞く。しかし、首を横に振る。

 

「どちらか片方だけしか…。今の俺じゃそれが限界だ。」

 

血まみれの兵士が震えながら、懐から写真の入ったロケットペンダントを取り出す。

途切れ途切れながら、声を出す。

 

「私の家族だ―――彼はまだ若い。  ―――――助けられるなら、彼を助けてくれ…」

 

炎に焼かれ、焦げた兵士を見る。

 

「―――分かった。ごめんなさい。助けに来るのが遅れて…」

 

「いいんだ。とにかくあいつにコアクリスタルを奪われてはならない―――」

 

兵士は切れ切れの息で、苦しそうに声を出す。

 

「私の家族に、悔いはなかったと伝えてくれ―――」

 

そういい残し、兵士の息は絶えた。

 

 

「リュウギは若い兵士さんを頼む。私は先に行く。」

 

「相手はドライバーだぞ。ミント一人じゃ勝てない。」

 

「でも時間稼ぎぐらいにはなれるよ。」

 

「―――せっかく助けた命、無駄にすんなよ」

 

ミントは走り出して保管庫の中へと入っていく。

リュウギは胸の金のコアクリスタルを光らせ、焦げた兵士に手をかざす。

鎧に残った焦げ跡こそは消えないが、兵士の体がだんだんと回復していく。

兵士は目を開け、体を支えられながら起こす。

 

「あなたは…?」

 

「俺のことはいい。そこの兵士さんを連れて逃げてください。」

 

「イツガ…」

 

イツガ、この血まみれの兵士の名だろうか。

 

「しかし…ショットがこの中に…」

 

リュウギが首を横に振る。

 

「それは俺がなんとかしますから、逃げてください。」

 

「…分かった。すまない。」

 

兵士は既に息絶えた兵士を連れ、トリゴの街へと向かう。

リュウギは胸に手を当て、拳を握り締めた。

 

 

 

 

 

―――私はね、ずっと後悔してるの。

 

 

 

―――どうして?

 

 

 

―――助けられる命を助けられなかった。 だからこそあなたに言いたい。

   救える命があるなら、救ってあげて。

 

 

 

 

 

 

頭の中に、母の言葉が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

「そこまでよショット!」

 

突然後ろから聞こえた声に、ショットが振り返る。

 

「なんだぁ?騒がないようにしたってのに…」

 

その顔を見てショットは驚いた。バクエンも体の炎がさらに燃え上がった。

 

「あん時のサルベージャーのガキ…なんで生きてやがる?」

 

「まぁ一度死んだけど…でも今は生きてる!よくも私を一回殺してくれたわね!」

 

「ハッ!生き返ったってわけか?邪魔すんなら…もう一度殺してやるよ!」

 

ショットはクリスタルをありったけ詰めた袋を置き、(つるぎ)の鞘に手をかけ、構える。

 

「うぉーっ…煽ったはいいけど殺気がすっごい…」

 

ミントも短剣に手をかけ、互いに見つめあう。

 

「いち…にのぉ…さん…ッ!」

 

ショットが(つるぎ)を抜き、走り出した。ミントはその攻撃を受け止めようとするが、反撃の間もなく後ろへと飛ばされる。

 

「ぐっ…やっぱり私一人じゃダメか…」

 

「なんだ?その程度の覚悟でここまで来たのか?」

 

ショットが近づく。その(つるぎ)は既に炎を帯びていた。

ショットが(つるぎ)を振ろうとした瞬間、ミントとショットの間に炎の壁が割って入る。

 

「チッ、またお前かよ…」

 

紅緋色の大剣を持ったリュウギがゆっくりと歩いてくる。大剣の中心には「炎」の字が浮かび上がっている。

少年は悲しげな目でショットを見つめる。

 

「約束したよなぁ?邪魔された借りはいつか返すと…ッ!」

 

ショットは(つるぎ)を大きく振り上げ、リュウギへ落とす。すぐさま大剣を構えて受け止める。

 

「お前のせいでスペルビア行きの船が止まった…それに…」大剣でショットの(つるぎ)を払いのけた。

 

「お前のせいで…母さんの想いを…叶えられなかった…」

 

「想い?なんだそりゃあ?」

 

ショットが次々とアーツを繰り出していき、リュウギがそれを受け止めていく。

 

「誰も死なせないって…!でも今の俺じゃそれができなかった…!」リュウギは強く拳を握る。

 

「ガキのくせにいっちょ前なこと言いやがって!せいぜい自分の力不足を悔いるんだなぁっ!」

 

「黙れぇーっ!」

 

リュウギが剣をはねのけ、ショットへと攻撃を繰り出していくが、ショットも同じようにそれをはらいのけていく。

 

「所詮ガキだな…あんときと攻撃の仕方がまったく変わってねぇ…」

 

攻撃を受け止め、次々とカウンターを繰り返し、ついにリュウギの腹を叩く。

 

「ぐぅっ…」

 

「アッハッハ!いい気味だなぁ…おとなしく見逃してくれるなら命を助けてやってもいいぜぇ?」

 

「誰が逃げるか…俺はまだ…」

 

腹に加えられたダメージは大きい。大剣を支えにしてようやく立ち上がる。

 

「…ったく、しぶとい奴だなぁ…バクエン!」

 

ショットがブレイドに剣を投げ渡し、バクエンはあの攻撃を繰り出した。

 

「フレイムトルネードッ!」

 

炎の竜巻。コアクリスタルも共に巻きながら立ち上っていく。

 

「水の力…俺に手を貸してくれ…」

 

リュウギがそう唱えると、大剣の文字が「水」へと変わった。

そして炎の竜巻とはまったく逆、水の竜巻を繰り出す。

しかし、前よりも高い火力なのか、すぐにその水の竜巻は蒸発し消えてしまった。

 

「そんな…っ!」

 

「くたばれぇっ!」

 

炎の竜巻がリュウギを包み込み、リュウギはその中で悶える。

 

「リュウギ!」

 

ミントは走り出すが、床に落ちたコアクリスタルにつまづいて転んでしまう。

炎の竜巻の中から、リュウギが現れた。苦しみ、嗚咽する。

 

「うっ…ぐぅっ…」

 

「はぁ…たいしたことねぇ奴だな…」

 

ショットがリュウギの髪を掴み上げ、その顔に語りかける。

 

「二つの属性の操るだなんて珍しいブレイドだと思ったが…ハッ、珍しいだけだったなぁ…!」

 

ショットはその固い拳をリュウギの腹へ入れる。

 

「ぐぅはぁ…っ」

 

ミントはそれを拳を握りながら見つめている。

 

「私が…もっと強かったら…」

 

ミントが足をつまずいたコアクリスタルに目をやる。

 

「コアクリスタル…」

 

コアクリスタル。それは亜種生命体“ブレイド”を生み出す不思議な結晶…

常に青い光を放ち、八面体の形をしている。

生まれながらにして武器を持ち、ブレイドを使役するドライバーに力を供給する。

コアクリスタルから生まれたブレイドは人との絆を大切に想い、それを微かながら記憶し、次の世代へ受け継いでいくという。

ドライバーが死ねば、ブレイドはコアクリスタルに戻る。

今つまづいたこのコアクリスタルにも、かつてドライバーが居て、共に戦ったのだろうか。共に絆を深めたのだろうか。

 

 

気付けば、ミントはコアクリスタルを手に取っていた。

 

「ミント…何やってる…!」

 

リュウギがショットに腹に蹴りを入れられながら、ミントを見つめていた。

 

「あぁ?同調しようってのか?」

 

ショットがミントに気付く。

 

「やめろ…お前は同調できないんだろう…?」

 

「同調できない?ハッハッ!血まみれになるところをこれから見るのかぁ…見ものだなぁ?」

 

ショットがリュウギの腹に足を乗っけ、手を膝に乗せミントを見る。

 

「確かに私は同調できなかった。―――でも、このままじゃやられるだけ…」

 

ミントはコアクリスタルを握り、胸に近づける。

 

同調する時の光、そして衝撃波が発生する。

 

「お願い。―――私に力を貸して―――」

 

ショットは黒い笑みを浮かべ、リュウギは苦しむ顔を浮かべている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はツバキ。これからは俺が君を守る。」

 

 

 

 



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“ツバキ”

どうしてアイオーンよりゴリラのが強いんでしょうね。
いっそゴリラ仲間にしてアイオーンぶっ叩けばいいのに。


大きな光の中から、ナックルクローを持った男が現れた。

ツバキ…その人物は体中に青いラインが走り、黒い体に顔は無機質。耳は槍のようにとがっている。

ブレイドだ。

 

 

「まさか…同調した…?」

 

リュウギが驚きの顔を浮かべる。

 

「馬鹿な!?同調資格のない人間が…ブレイドと同調できる筈ががない―――」

 

バクエンが驚嘆した顔でツバキという名のブレイドを見つめる。

ツバキはミントに手を伸ばし、掴むのを待っている。しかし、ミントはツバキをずっと見つめていた。

 

「…あぁもうじれったいな!早く立てよ!」

 

ツバキがミントの手を引っ張り上げて立たせる。

 

「え?あぁ…ごめんごめん…」

 

「―――ったく。新しいドライバーさんはこんなトロいのか?心配でたまらないな…」

 

ツバキがため息をこぼす。

 

「と、トロくなんてないよ!ただ…ブレイドと同調できたのが不思議で…」

 

「不思議に思うのは後にしろ。今は…あいつを倒すんだろ?」

 

ツバキがショット、そしてバクエンの方へと目を向ける。

 

「ほらよ。とりあえず…勘で行け。」

 

ツバキはナックルクローをミントに手渡す。そしてナックルクローを装備した。

 

「へぇ…これがブレイドの武器かぁ…」

 

ミントが恍惚の表情でナックルクローを見つめる。

 

「おい、来るぞ!」

 

「ええっ!?」

 

ショットが(つるぎ)を大きく振り、ミントのほうへと向かっていた。

 

「うおォッ!?」

 

ミントがとっさにナックルクローを顔の前で構え、ショットの攻撃を防ぐ。

 

「生き返ったり…同調できないはずなのに同調したり…お前ほど俺の腹の虫を怒らせたやつはいねぇ…!」

 

「悪いけど、私はこう見えて運が良いの!」

 

ミントがナックルクローを思い切りショットの腹へと入れる。

 

「ぬぐぁっ!?」

 

ショットはその攻撃を受け、大きく後ろに後退する。

 

「ツバキ!お願い!」

 

ミントがナックルクローをツバキに渡す。

 

「おう!俺の底力見せてやるぜぇ!」

 

ツバキが大きくジャンプし、空から拳を掲げて突き落とす。

 

「ランディックブレイク!」

 

その攻撃が当たった瞬間、石や土が跳ねて飛び散った。

 

「土属性か…よし!」

 

リュウギは大剣を持ち、ミントとツバキのほうへ走り出す。

 

「ミント、コンボだ!」

 

「え?コンボって?」

 

「まぁ見てなって!」

 

大剣の文字が「炎」に戻り、リュウギは天に大剣を掲げる。

炎を纏った大剣で、ショットとバクエンを保管庫の外へと飛ばしていった。

 

「ざっとヴォルケーノ…ってとこだな!」

 

「コンボ?―――ヴォルケーノ?―――なにそれ?」

 

「ブレイドコンボ。ブレイドが属性にあった攻撃を出し、相手に大ダメージを与えるってわけだ。」

 

「へぇー…そんなのあるんだ。」

 

リュウギとミントは走り出し、外へと飛ばされたショットとバクエンを追う。

 

「ショット…これは予想外だ…」

 

「あぁ…だが所詮ガキだ。追い詰めていい気になってるところを叩く!」

 

バクエンがショットに力を送り、ショットは金色のオーラを纏って走り出した。

 

ミント、ツバキ、リュウギとショット、バクエンの戦いが再び始まった。

ミントはナックルクローを装備してショットに次々と攻撃を与え、リュウギも大剣を振るう。

ショットはその攻撃を跳ね返しながら、反撃のチャンスを伺っている。

 

「ハッ!その程度の攻撃でぇ…俺を倒せるとでも思ってんのかぁッ!」

 

二対一。本来なら劣勢であるはずだが、ショットはそれを感じさせないほどの気を感じさせ、逆に二人がだんだんと劣勢になっていく。

 

「ごめん。私あんまり戦ったこと無くて…」

 

「仕方ないさ。サルベージャーなんて戦う職業じゃないだろ?」

 

話を交わしながらも、劣勢は変わらない。ショットとバクエンのその強さは伊達ではない。

攻撃を避け、的確に剣を突いてくる。

 

「どうした?運が良いんじゃないのかぁ?」

 

「うっさい…!」

 

ショットの攻撃を受け、リュウギは後ろに下がっていく。

 

「ダメだ…このまま戦っていても、あいつを倒すのは難しい―――」

 

「ハッハッ!降参するってのかぁ?」

 

ツバキがショットの方を向く途中、何かが目に入る。

 

「なぁ、あいつのブレイドって炎属性だろ?」

 

「あぁ。そうらしいけど…」

 

「なら水に弱い。あれを見てみろ」

 

ツバキが指さした先は大きな給水塔。

雨などで水を貯め、作物を育てる為に利用するのだ。

 

「そうか―――給水塔か!」

 

リュウギがミントのほうを向く。

 

「あと少しだけ走れるか?」

 

「もちろん!どこまでだって走るよ!」

 

3人は駆け出し、コアクリスタル保管庫から遠ざかっていく。

 

 

 

 

「あいつら…逃げるつもりか?」

 

「逃がすものか。借りはしっかり返さなきゃなぁ!」

 

ショットとバクエンは走り出し、逃げた三人を追いかける。

 

「ミント、お前のアンカーショットって使えるか?」

 

「え?使えることは使えるよ。ただあんまり得意じゃないけど…」

 

「十分。来るぞ!」

 

 

「ここまで逃げてなんのつもりだ?」

 

リュウギはその問いに返答せず、剣の先から炎を放つ。

 

「芸がねぇ奴だなぁ…その程度の攻撃、かすりもしねぇよ!」

 

炎を(つるぎ)の先で受け止め、弾かれた炎は給水塔の支柱に直撃。

支柱は熱され、赤く溶け始めている。

 

「よし、今だ!」

 

リュウギが合図を出し、ミントがアンカーショットを放ち、給水塔に突き刺さる。

 

「ぐっ…おもっ…」

 

ツバキが手を添え、ともに引っ張る。

その様子を見て、ようやくショットとバクエンは背後に給水塔があるのに気付いた。

 

「給水塔…まさか!?」

 

バクエンとショットが足を後ろに引いたのと同時に、給水塔はこちら側へと向かって倒れた。

大量の水が流れだし、バクエンに覆いかぶさる。

 

「ぬ…ぐぅ」

 

「どうしたバクエン!この程度…」

 

「ダメだショット…体が濡れて力が送れない…!」

 

バクエンは苦しみながら、水の中で倒れ、膝をつく。

 

「チッ…あいつら、どこへ消えた…?」

 

ショットが剣を持ち、あたりを見回す。

その時、頭上で赤い光が灯された―――炎だ。

 

リュウギが大剣に炎を纏わせ、大きく構えている。

 

「終わりだ…!バーニングゥ―――ソードォォーッ!」

 

炎を纏った大剣を大きく振り落とす。ショットは力の送られていないその(つるぎ)で攻撃を防ごうとする―――

しかし、その勢いに耐え切れず(つるぎ)は破壊されてしまった。そしてあたり一面に大きな爆風が広がった。

 

 

 

 

 



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“事件の収束”

メツ「小僧…俺は止まんねぇからよ…小僧が止まらない限り、その先(アイオーン格納庫)に俺はいるぞ…!だからよ、止まるんじゃねぇぞ…」(ほったらかしてクエスト消化しに行く)


◇◇◇◇◇

 

 

「パクス様、メレフ特別執権官が帰還しました。」

 

「やっと戻ってきたか…」

 

パクスは重い腰を上げた。

トリゴ基地で起きた給水塔破壊事件。現場検証を共にグーラの領主、パクスは行っていた。

メレフが小さな巨神獣(アルス)船から、二人のブレイドと共に走ってやってくる。

 

「給水塔が破壊されたというのは本当か?それにペルフィキオの…」

 

「まずは現場を見ていただけたほうが早いかと。」

 

パクスはメレフを事件の現場へと案内した。

倒れた給水塔のタンクの中には少しながら水が残っており、こぼれたはずの水はすでに蒸発。

あたりの草は全て燃え尽きて灰となっている。

事件現場は野次馬が侵入できないよう封鎖され、数人のスペルビア兵達が調査を行っている。

 

「ずいぶんと悲惨な状況だな。これでは作物を育てる水が足りなくなる…」

 

「今の時期、雨はなかなか降らないし…」

 

メレフのブレイド、カグツチが倒れた給水塔を見る。

 

「しかし、随分と懐かしい風景だな。」

 

「ええ。昔も、まったく同じものを見ましたね。」

 

「ああ。だが明らかに違う点が一つ。」

 

メレフは給水塔の前に倒れている男性に目を向ける。

 

「レックスはここまでしなかった。」

 

顔は白く、既に息絶えているショット。その横には輝きを失ったコアクリスタルが一つ。

 

「盗難事件の犯人、ショットは死亡。横のコアクリスタルはおそらくバクエンのものかと。」

 

パクスが調査書を受け取り、読み上げている。

 

「それで、犯人の目撃情報は?」

 

「給水塔が破壊された直後、銀髪に赤い大剣を持った少年、そしてコモンブレイドを連れたサルベージャーの少女がここから逃走するのを数人が目撃しています。

その者達による犯行の可能性が高いかと。」

 

「なるほど…分かった。すぐに捜索を願おう。」

 

メレフがパクスに指示を出すと、一礼を行い、数人の固まった兵士の下へ走り寄る。

それを見届けた後、メレフは再び(むくろ)となったショットを見つめた。

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…走った走った…」

 

トリゴの街から遠く離れたところまで走ってきたリュウギ一行。

すでに日は落ち、夜も近い。

 

「なんとかショットは倒したけどさ…給水塔壊しちゃったし…」

 

「あー。こりゃ戻れないなぁ…」

 

リュウギが深くため息をつく。

 

「戻っても逮捕されるのがオチね。これじゃスペルビアまで行けないよ…」

 

「随分と無計画に行動するもんだなぁお前ら。」

 

ツバキが二人を見ながら言う。

 

「最初に給水塔見つけたのはお前だろ?」

 

「ま、打開策を見つけたという点では褒めて欲しいけどな。」

 

「勢いでやっちゃったけどさぁ…どうする?」

 

ミントがナックルクローをがちがちとこすりながら言う。

 

「どうするったって…」

 

「なんだ?随分困ってるみたいだな。」

 

大きな黒猫のようなブレイドを連れた一人のグーラ人がこちらへと向かってくる。

 

「リリオ…」

 

「よっ。トリゴでスペルビアの奴らが徘徊しまわっててさ。どうも落ち着かないもんだから散歩してたんだ。」

 

「は、はぁ…」

 

リリオがミントの手を見つめ、その後後ろのブレイドに目を向けた。

 

「ブレイド…ミント、お前もしかして…?」

 

「ツバキだ。よろしくな。」

 

ツバキがリリオとそのブレイド、クロヒョウに握手を出す。

 

「コモンブレイドなのね。私みたいなレアブレイドじゃなくて。」

 

「別にコモンブレイドだからって悪いわけじゃないだろ?」

 

「あら、別に差別して言ったんじゃないわよ?」

 

ツバキは手を引っ込み、クロヒョウに小さな怒りの眼差しを向ける。

 

「事件のせいでとうぶんは船が出ないみたいだな。これじゃリュウギくんとの約束果たせないな。」

 

「うん…」ミントがうつむく。

 

「合法とは言えないが…スペルビアへの船を出すことならできる。」

 

リリオがそう言うと、リュウギは顔を挙げ、嬉しそうな顔でリリオを見つめる。

 

「えっ…!?本当!?」

 

「あ、ああ…知り合いに造船所持ってる人が居てな…」

 

「良かったぁ…最初からそれ言ってくれれば良かったのにぃ!」

 

ミントがナックルクローで少し強めにリリオの腕を殴る。

 

「痛ッ!…だって合法じゃないんだし?そうそう簡単に出せるもんでもないからさ。」

 

「ありがとうリリオさん!」

 

リュウギはリリオの手を掴み、思いっきり振る。

 

「よぉし来い!ウモンさんの造船所まで案内してやる!」

 

リリオは自信たっぷりに胸を張り、グーラの奥へと歩いていく。

リュウギとミントは顔を見合わせ、笑いあいながらリリオへついていく。

ミントのブレイドとなったツバキはそんな二人を見つめ、無言でついていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2話 「コアクリスタル盗難事件」

 

 



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キズナトーク“トリゴリウト”

番外のキズナトーク編となっております。
各話の最後に数個は入れていきたいと思います。

ちなみにどこのタイミングだとかはなく、時系列完全無視です。


~トレイタ風車広場 ラコント噴水にて~

 

ミント「見て!トリゴリウトのライブやってるよ!」

 

リュウギ「今そんな場合じゃないんだけどなぁ…まぁ見ていくか」

 

 

トリゴリウト弾き「~♪」

 

 

ミント「すごく上手いねぇ、あんなに弾けるなんてうらやましいなぁ」

 

リュウギ「この曲はグーラの子守唄かな」

 

ミント「良い曲だよねぇ。リュウギがオルゴール落とさなかったら今頃知らなかったよ」

 

リュウギ「確かになぁ。ミントが楽園に連れて行ってくれるっていうし、落として正解だったかも。」

 

ミント「びっくりしたんだよ?いきなり崖の上からオルゴールが降ってきたもんだから。」

 

リュウギ「よく壊れなかったなぁこれ…」(オルゴールを取り出す)

 

ミント「意外と丈夫なんだね。」

 

リュウギ「うん。音色に変わりはないし。」

 

ミント「しっかし高級そうなオルゴールだね。どこで買ったの?」

 

リュウギ「特注品だよ。まぁ高かったけどさ、母さんが旅でホームシックにならないようにって。」

 

ミント「確かにマザコンだし、必要なのかもね。」

 

リュウギ「誰がマザコンだよ!?」

 

ミント「だって、よく母さん母さんって言ってるじゃん。「母さんとの約束」だとか。」

 

リュウギ「何だよ、母さん好きじゃ悪いのか?」

 

ミント「別に悪くないよ。むしろマザコンなんてうらやましいぐらい…」

 

リュウギ「ん…あぁなんかごめん。」

 

ミント「いいっていいって。ところでお母さんから何か教えてもらったりとかしたの?」

 

リュウギ「なんでそんなこと聞くんだよ」

 

ミント「気になるじゃーん。母の背中を見てどんな風に育ったのか、とか!」

 

リュウギ「まぁ…母さんに幼い頃から楽器触らせられてたから、楽器は得意だな。」

 

ミント「へぇ。楽器できるんだ!じゃあトリゴリウトも?」

 

リュウギ「もちろん。大体の楽器なら弾ける。」

 

--------------------------------------------------

 

ミント(なんて返答しようか?)

 

 →私、楽器苦手なんだよね…

 

 →じゃあなんか弾いてみてよ

 

--------------------------------------------------

・「私、楽器苦手なんだよね…」の場合

 

ミント「私、楽器苦手なんだよね…」

 

リュウギ「そうなのか?やってみたら結構簡単だと思うけど…」

 

ミント「リコーダーとかって口と指使うし、ギターなんて指が開かないし…」

 

リュウギ「練習すればできるようになるって。」

 

ミント「それに、どうしてドの音の次がレなのか分からないし、それにどうしてドの音を鳴らしたらドの音が鳴るのかってことも分からないし…」

 

リュウギ「そんな概念的なことを説明しろと言われても…」

 

ミント「それにドの音ってどう聞いたってドに聞こえないし…どちらかというとボとかじゃない?」

 

リュウギ「もういいもういい…なんだか頭痛くなってきたって…」

 

ミント「料理は得意だけど楽器はさっぱりなんだよね。」

 

リュウギ「いやー、正直ここまでできない人は始めてだな…」

 

--------------------------------------------------

 

・「じゃあ、なんか弾いてみてよ」の場合

 

ミント「じゃあ、なんか弾いてみてよ」

 

リュウギ「いいよ。ちょっと待っててな」

 

 

店員「ありがとうございましたー」

 

リュウギ「一番安いけどそれでも結構な出費だなぁ…」

 

ミント「楽しみー!」パチパチパチ

 

リュウギ「じゃあ、少しだけ…」ポロリン

 

 

通行人「おぉ…いい音色だ…」

 

トリゴリウト弾き「ほぉ…」

 

 

リュウギ「これで終わりかな…ん?」

 

ミント「いやー、上手いから人がずいぶん集まっちゃったみたいで。」

 

トリゴリウト弾き「ここまで上手い人は初めて見たよ。俺なんかまだまだだなって…」

 

クピィタピィ「こんな逸材そうそう居ませんも!うちの事務所入ってみませんかも?」

 

リュウギ「え?ああ、別にいいです…」

 

クピィタピィ「そんなこと言わないでほしいも!これほどの腕前の人は、探したってそうそう見つかるもんじゃないんですも!だから是非!うちの事務所に!」

 

リュウギ「うわぁ、なんだか面倒なことに…」

 

ミント「それほどの腕前ってことだよ。やってみたら?」

 

リュウギ「いいって!それより俺達急いでるし…じゃまた!」ササーッ

 

ミント「あっ!ちょっと待ってよ!」ササーッ

 

クピィタピィ「あっ、逃げないでほしいですも!待ってくださいもー!」

 

 

 




なんだか台本とかみたいな感じになってますが一応原作再現(?)です。
もちろん本編はいつも通りなのでご心配なく


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第3話 「光」
“ウモンの造船所”


ナナコオリよりスザクのキズナリング解放するほうがキツいと思う。


 

 

「ここがウモンさんの造船所だ。」

 

リリオがボロく、壊れかけの建物を指差す。

 

コアクリスタルを狩るテロリスト、ペルフィキオの一員であるドライバーのショットとの戦いの中で、リュウギとミントはトリゴの給水塔を破壊してしまった。

してしまったというより、ショットを倒す為にやむを得ず。

給水塔を破壊したのに簡単にスペルビア行きの船に乗せてくれるなんて都合の良いことは起こらないと、さすがに悟った二人は、傭兵のリリオの紹介でスペルビア行きの船に乗せてくれることになった。合法ではない、かといって違法かと言われると微妙なライン。

しかし、それでも今はスペルビアへ行くのが先であるので、そんなことは気にせず二人…いや、ミントの新しいブレイド、“ツバキ”も入れた3人はリリオの案内に従う。

 

「おぉーリリオ!こんなところに何しに来たんだも?」

 

緑色の老人ノポンが建物の中から出てきた。この人が造船所の主、ウモンさんだろうか。

 

「実はスペルビア行きの船がなくなっちゃってさ…船を借りたくて。」

 

「あぁ、またなんかやらかしたのかも?」

 

「もう泥棒まがいのことはしないって。」

 

リリオとウモンは古くからの知り合いなのか、そんな会話を交わす。

3人はそれをボケーッを見つめている。

 

「その子達は誰だも?」

 

「あぁ、俺の知り合いだ。世界樹まで行く為にスペルビアに行きたいんだとさ。」

 

「世界樹まで?どうしてだも?」

 

「まぁ、色々と…」

 

リュウギが自分の頭を撫でながらいう。

 

「…深くは聞かないでおくも。丁度整備したばっかりの船があるからそれを使うといいも。」

 

ウモンはそう言うと、造船所の中へと案内する。

中もボロボロで、こんなところで巨神獣(アルス)船の整備ができるのだろうかと少し不思議に思える。

そんな造船所の中心に、小さな巨神獣(アルス)船が停まっている。

 

「乗り捨てOKだも。こいつは自分で帰ってくるから心配はしなくていいも。」

 

ウモンはその巨神獣(アルス)船を見つめて説明を始めた。

 

「操作はリリオにやってもらえばいいも。もう出発するも?」

 

「はい!できればもう。」

 

ミントが喜んで声を出す。ウモンは少し驚いたようだ。

 

「それならいってらっしゃいも。」

 

三人、そしてリリオとクロヒョウが巨神獣(アルス)船に乗り込む。

リリオがハンドルを握ると、すぐに船は動き始める。

 

「ところでさミント。」

 

「ん?何?」

 

「リストさん達には…どうするんだ?何も言ってないけど…」

 

「あー…確かに。」

 

「それなら後で俺が説明しとくよ。」

 

リリオが運転しながら言った。

 

「スペルビアまで送り届けた後はすぐにグーラに帰るし。二人も急いでるだろ?」

 

「…まぁ。ずっと滞在して捕まったら嫌だし。」

 

「そんじゃ、明日の朝には着けるようにスピード上げていくぞ。」

 

リリオが足元のアクセルのようなものを踏むと、船はさらに加速していく。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

巨大なアルスト大陸の一部、周りと違って光のまったく当たらない場所――――――

そこに大きな黒い船が停泊し、周りは基地のようになっている。

 

「ふっふーん!もっもっもー!」

 

黒い船の中…ではなく、その上から黒い毛のノポン、ガーンが現れた。

 

「いいもの見つけちゃったもー!これでガーン様は昇格間違いなしだもー!」

 

「ずいぶんとご機嫌ねぇガーン。」

 

黒い船の中から、長髪の女性が複数の手を持つブレイドを率いて現れた。

 

「アリア!ふっふーん!お前には教えてやらないもー!これは俺の手柄なんだも!」

 

「どうせ大したことじゃないんでしょ?」

 

「今度ばかしはすごいんだも!ま、教えないからせいぜい悔しがるといいも!」

 

「…ところで、あんたコアクリスタル狩りは?」

 

「それなりに手に入れたも。」

 

ガーンはどこからか袋を取り出した。その中には大量のコアクリスタル。

 

「まぁ。ずいぶんとあるじゃない…こんだけあれば数体犠牲にしても替えが効くわねぇ」

 

黒い船の中から、大量のコモンブレイドが現れる。アリアというこの人物のブレイド達だろうか。

 

「アリアは何やってたんだも?」

 

「ちょっと暇つぶしで流れ者ドライバー達を始末してたの。ねぇラゴウ?」

 

複数の手を持つラゴウというブレイドは、無言でうなずく。

 

「ところで、ボスと“アイツ”は何やってんだも?」

 

「ボスは最近連絡ないわねぇ。アイツならあの女を探してる。ついでに故郷でお仕事中みたいだし?」

 

「いつボスが帰ってきてもいいように、ガーン様はここでゆーったりしてるも。アリアはアイツのところに行ってこいも。」

 

「私もちょっとゆーったりしようかねぇ…ん?」

 

アリアが基地の奥に目を向けた。

 

「ここに来るのも久々だな。元気にしてたか?」

 

金髪の男性、アルジェントが二人の目の前に現れた。

 

「前よりもブレイドの数が増えたな。狩りのついででか?」

 

「えぇ。面白いことは見つかったの?」

 

「俺にとっては面白いが、お前らにとってはどうだかな……?」

 

「どうしたんだも?」

 

「残念な話だが、ショットが死んだ。ついでにバクエンもな。」

 

その宣告を受け、アリアは目を丸くして驚いている。ガーンは知っていたかのような顔だ。

 

「ま、なんとなくそんな気はしてたも。あんな部下いなくなってせいせいするも。」

 

アリアは軽蔑の眼差しでガーンを見つめるが、そんなことはガーン自身気にしてはいなかった。

 

「あ、そうそうアルジェント。お願いがあるんだも!」

 

「なんだ?お願いって?」

 

「人工ブレイドの設計図、盗んできてほしいだも。」

 

「なんだ?失くしちゃったのか。」

 

「そうだも。崇高な計画を進めるために必要になるも。お願いだも~」

 

「仕方ねぇなぁ。つまんなくはなさそうだしな。」

 

「休憩しなくていいの?」

 

「休んでて面白いことに出会えなきゃ損だしな。首長くして待ってろよ~?」

 

アルジェントは黒い船に乗り込む。中に居た数多のブレイド達が降り終わった後、黒い船は出発した。

 

「さて、アルジェントが帰ったきたら私も出発しようかなぁ。さて、休憩タイム。」

 



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“両親”

スザクのキズナリングようやく全部解放しました。長かった…


◇◇◇◇◇

 

 

 

「そういや思ったんだけどさ。」

 

「ん、何?」

 

巨神獣(アルス)船に乗り、スペルビアを目指す5人…ブレイドを含めて。

リュウギとミントは体を乗り出して、風を感じている。

そろそろ夜も明けてきそうだ。

 

「ミントの父さんと母さんって、どういう人なんだ?」

 

「私の、父さんと母さん?」

 

「ん…あぁごめん。最初にミントが死ぬとき、父さんと母さんのところに行けるって言ってたからさ…」

 

「まぁ気になっちゃうよね…」

 

ミントはうつむきながら言った。

 

「私の父さんと母さんはもう死んじゃってるんだ。まだ私が5歳ぐらいの頃に。」

 

「どうして死んじゃったんだ?モンスターに襲われたとか?」

 

「いや、殺されたの。」

 

「殺された…?」

 

「うん。父さんと母さんは旅人でさ。リベラリタス島嶼郡(とうしょぐん)にちょうど寄ってたんだ。そこで金髪の男に道を聞かれたんだ。」

 

辛い思い出だが、ミントはその時の様子を思い出しながら語る。

 

「父さんと母さんは道を教えて、そのまま立ち去ろうとしたんだけど―――突然、その男が父さんと母さんを後ろから刺し殺したの。」

 

雨が痛いほど激しい夜だった。

 

「私は怖かった。父さんと母さんを置いて逃げていった。」

 

その男は父と母を殺し、満悦といった顔をしていた。

雨のせいで泥となった地面を走るのは辛く、体力もより奪われる。

その男は返り血を受けた顔でこちらを見ていたが、追いかけようとはしていない。

 

「それで、近くにあったイヤサキ村ってとこで保護された。旅人だったから地元とか、ふるさとっていうのがなくて。」

 

リベラリタス島嶼郡(とうしょぐん)のイヤサキ島に存在する、古王国イーラの英雄、アデルが築き上げ、別名“英雄の村”とも呼ばれるイヤサキ村。

サルベージが盛んで、村の子供はここで雲海に潜る練習を幼い頃からするという。雲海がなくなった後は、青い海へと飛び込む。

 

「そこで去年までずっと世話してもらってたんだ。私の故郷だよ。」

 

「へぇ…」

 

「ま、父さんと母さんが居なくても私は強い子だし。村の人達からは気が強いってよく褒められてた。」

 

「それ、褒められてるっていうか?」

 

「こう見えて、村じゃ一番サルベージ上手かったんだよ?めったに手に入らないものをよく引き上げてたし。

…それで去年から一人前のサルベージャーになるために、リストさんとこで修行ついでに働くことになったの。」

 

「中断していいのか?いくら俺のためとは言っても…」

 

「いいっていいって!恩返しのが大事だしね?」

 

ミントはリュウギに笑顔を返した。

 

「ところで、リュウギのお母さんと、楽園に行ったっていうお父さんはどんな人なの?」

 

「んー…父さんは俺が2歳ぐらいの頃からいないもんだから、ほとんど記憶にはないなぁ。」

 

「そっかー。やっぱお父さんと会ってみたい?」

 

「もちろん。俺の目的だしな。

―――母さんはそんな父さんのことが大好きでさ。昔っからしつこいぐらい父さんの話聞かされて。」

 

「うらやましいね。お母さんとそんなに話してみたかったなぁ。」

 

「母さんとそのブレイド、あとひいじいちゃんと4人…いや、ひいじいちゃんは巨神獣(アルス)だから実質3人かな。」

 

巨神獣(アルス)?あんたのひいじいちゃん巨神獣(アルス)なの?」

 

「別に血は繋がってないけど。ひいじいちゃんの上に家構えて、海を回遊しながら生活してたんだ。」

 

巨神獣(アルス)に家建てて住んでるんだぁ…すっごい。結構金持ちなんだ?」

 

「別に金があるからそこに家を建てれたってわけじゃないけどさ。」

 

「今度行ってみたいなぁリュウギの家。巨神獣(アルス)に家構えてるなんて初めて聞いたよ。」

 

 

「おいミント。そろそろスペルビアに到着だ。」

 

リリオの運転する巨神獣(アルス)船がスピードを落とし、崖に停泊した。

全員準備を終わらせ、巨神獣(アルス)船から降りる。

 

スペルビア新帝国。

機械技術がアルストで最も発達した国家であり、軍事力もアルスト一。

このスペルビア新帝国はアルストの3つの国家の中で一番最初に遷都を始めた。

それもそのはず。このスペルビアの巨神獣(アルス)は最も寿命が近く、今にも滅びそうであったから。

機械技術のせいで帝都アルバ・マーゲンを除く国土の大半が荒廃し、資源不足に陥っていた。

そのため、どこよりも先に開拓を始め、以前よりも安定した生活を送ることが出来るようになった。

 

アルスト大陸と一体となったスペルビアの巨神獣(アルス)は膝をついた形となり、皇宮を除いた他の施設や街などはすべてアルスト大陸へと

移った。砂漠に囲まれた土地から、草原に囲まれた土地へと変わったのだ。

ちなみに「新」帝国となっている理由は、スペルビアがアルスト大陸を中心とする国家となったことと、前皇帝、ネフェルの死から新たに生まれ変わったということから。

そんな今もなお、機械技術を利用し発展を続けている。

 

 

「ここがスペルビアかぁ…どこからか勇ましい音楽が聞こえてきそうだね。」

 

ミントがスペルビアの大地を見渡す。

 

「さて、俺の役目はここで終わりかな。」

 

リリオが手を叩き、その言葉を発した。

 

「グーラに帰っちゃうんだよね?」

 

「あぁ。リストさんに報告しないといけないし、スペルビアからじゃアニマ傭兵団の本部には行けないしな。」

 

「ありがとうリリオさん。おかげで助かったよ。」

 

「これで恩は返した。また困ったことがあったら助けてやるからな。」

 

リリオとクロヒョウは再び巨神獣(アルス)船に乗り込み、すぐにその場から去っていった。

 

「ばいばーい。」

 

ミントが手を振って見送った。

 

「よし、さっそく世界樹までの船を確保しに行くか…」

 

リュウギとミント、そしてツバキは歩みを進め、スペルビアの帝都、アルバ・マーゲンへと向かう。

スペルビアの大地は草原に囲まれ、草花、生き物が息づいている。

 

 

 

 



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“スペルビア新帝国”

今更ながらタイトルこれで良かったんかなーって思います
もうちょい捻ればよかったなぁって(


 

 

「ひっろいなぁ。帝都まで着くのにどれくらいかかるんだろうな?」

 

ツバキがため息をこぼした。

 

「大丈夫。もう帝都は目の前に見えてる。」

 

「マジかよ。はえーなぁ」

 

リュウギが指をさした先にはスペルビア特有の金属の建物の集合体。つまりそれがスペルビアの帝都、アルバ・マーゲンだ。

3人が数分歩くと、もう帝都に着いてしまった。

 

「なかなか栄えてるね。トリゴ以上だ。」

 

ミントが少し驚く。

この帝都アルバ・マーゲンは大国の中心であるため、人々の行き交う数はトリゴをはるかに凌ぐ。

あまりにも人が多すぎるからか、すこしうるさいくらいだ。

 

「世界樹までの出航状況ってどこで見れるんだろ?」

 

「掲示板とかじゃない?」

 

周りを見渡すと、すぐに掲示板が見つかった。

掲示板には手配書や仕事の要望などが貼られているが、出航状況は書かれていない。

 

「あっ、この手配書ってガーンじゃない?」

 

「凶悪指名手配犯ガーン…賞金は20万G…」

 

「に、20万…すっごぉーい!こんだけあれば1ヶ月は苦労しない!」

 

「この前捕まえとけばよかったかなぁ…」

 

「今は出航状況調べるんじゃなかったか?港まで行けば分かると思うが。」

 

「あー確かに。」

 

3人は掲示板横の帝都の案内図を頼りにスペルビアの港へと向かう。

帝都を通り抜ける途中、大きな茶色の山を見つけた。

それはかつてのスペルビアの巨神獣(アルス)。大きなエレベーターが巨神獣(アルス)の肩まで繋がっており、そこには皇宮ハーダシャルが存在する。

ここからでは小さく見えるが、実際はとても大きいのだろう。

 

帝都を通り抜けると、大きな港が見えてきた。

スペルビアの船以外にもインヴィディアなどの巨神獣(アルス)船も停泊している。

 

「この辺りに受付あるかなぁ?」

 

「そこの行列じゃねぇか?」

 

ツバキが指をさした先に長い行列が。並んだらかなり時間がかかりそうだ。

 

「うわぁ…なっが…」

 

「仕方ないよ。気長に並ぼう。」

 

リュウギがそう声をかけると、その行列に並びだした。

 

「そこで運行表もらった。」

 

「おー。世界樹行きの船って出てるかな?」

 

ミントが一覧表を指で追っていく。

 

「あったあった。うーんと…3日後か。物資運搬で行くらしいね」

 

「物資運搬で行くのか?」

 

「そうだよ。前に世界樹まで行ったときも物資運搬のついでに行ったし。」

 

「へぇ、普通の船じゃ行かないのか。」

 

「だってあの世界樹だよ?いくらなんでも普通の船は出てないよ。」

 

そんな話題を交わしていても、いっこうに列は進まない。

すぐ近くでチョコットを買って食べたり、すぐそこの玩具屋でこそこそスニーキングなるボードゲームを買って遊んだり、ちまちまと列が進むのを待つ。

 

「あーっ!今ズルしたでしょ!?」

 

「してないって!こういうルールなんだよ」

 

「いや、説明書を見るとそんなルールはないが…」

 

ツバキが箱の中から説明書を出した。

 

「え゛っ!?でもいつもこういうルールで…」

 

結局、勝利したのはミントだった。リュウギはどこか腑に落ちない様子。

すでに数時間経過し、日も落ち始めていた。

立ちながら列を待つのは神経をかなりすり減らす。みな眠そうにして、うつろになり始めていた。

 

「次の方ー、どうぞー」

 

「あっ、もう次か…」

 

ようやく自分達の番となった。さっそく用件を言う。

 

「なるほどなるほど…世界樹まで行きたいと…」

 

受付のおばさんが手元の紙にペンで何かを書きながら、こちらをたまにちらちらと見る。

書き終わったのか、こんなことを言った。

 

「それで、手形は?」

 

「は?手形?」

 

ミントがボーッとそんなことを言った。

 

「そう。世界樹まで行くには通行手形が必要なの。持ってないとか?」

 

「え、えーっと…通行手形…うーん…」

 

「ミント、手形持ってるのか?」

 

小声でミントにささやく。

 

「も、持ってるわけないじゃん…そんなの知らないって…」

 

「早くしてくれませんかねぇ…後ろに人がたくさん並んでるんだから」

 

嫌味たっぷりに受付おばさんが言う。

 

「あのー…手形ってどこで手に入るんですか?」

 

「はー。そんなことも知らんとはねぇ…あんた、どこ出身?」

 

「リベラリタスのイヤサキ村…」

 

「そんじゃそこの村長さんに手形もらわんとダメだよ。国か村の長の許可としてもらわないと。」

 

「ええーっ!?でもうちの村長さん頭固いしなぁ…手形なんてくれそうにないし…」

 

「持ってないならとっとと下がりな」

 

受付おばさんに言われ、3人はしぶしぶ受付から外れた。

 

「ねぇリュウギ、あんたどこ出身?」

 

「言ったろ。ずっと巨神獣(アルス)。の上で暮らしてたって」

 

「あー…そっかぁ…」

 

ミントはうつむき、一呼吸置いて再び話し出した。

 

「ごめん。手形が必要だったなんて知らなくて…」

 

「…まぁ俺も知らなかったんだし、仕方ないって」

 

「これからどうしようか…」

 

「もう遅い時間だ。どこかの宿で一旦休憩としよう。」

 

ツバキの提案に賛成し、近くの宿屋ジャルカマロに泊まることになった。

 

 



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“宿屋ジャルカマロ”

とうとう話のストック分が尽きました。
もうすぐ休みなので書きまくっておきます。


「えっ!?借りる部屋は一つだけ!?」

 

「仕方ないでしょ、節約しなきゃダメだし。あっ、リュウギとツバキは同じベッドで寝てね。女の子にいたずらしないように。」

 

「誰もしないって!」

 

その横でツバキは小さな舌打ちをした。

3人は泊まる部屋へと入り、荷物を置いた。

 

「見て見て!この宿屋って温泉があるんだってぇ!」

 

ミントが宿でもらったスペルビア観光案内をリュウギに見せながら言った。

 

「温泉かぁ。ここ数年は入ってないな…」

 

「やっば!女時間はあと20分だって!ちょっと温泉入ってくる!」

 

ミントは荷物を持って駆け出し、部屋から出て行く。

 

「はっや…」

 

 

その後、20分も経たないうちにミントが濡らした髪を拭きながら戻ってきた。「あんたたちも入ってきたら?」と言われ、ツバキとリュウギはしぶしぶ温泉へと向かった。

 

 

「あぁ~…良い湯だなぁ…」

 

リュウギが湯の中から顔を出した。

 

「なぁリュウギ、お前のそれって…」

 

ツバキが手で顔を拭きながらリュウギの胸を見る。

 

「コアクリスタルだよ。金色なんて珍しいだろ?」

 

「つまりはお前もブレイドか?」

 

「いやー…ブレイドではないかな。似たようなもんだとは思うけど…」

 

「なるほど。大体わかった…」

 

「分かったって何がだよ。」

 

「ま、ミントには内緒にしといてやる。」

 

「いや、ミントも知ってる。」

 

「マジかよ」

 

「別に隠してるわけじゃないし。ブレイドと同じで、なかったらそれはそれで俺の命が危うい。」

 

「しっかし金色かぁ…うらやましいな。俺の青色なんてありきたりだよな?」

 

「まぁそうかな。でも世の中には翠玉色のブレイドなんかもいるし。」

 

「天の聖杯…か。」

 

「あれ、ツバキ知ってるんだ?」

 

「あぁ。前のドライバーの記憶はないが…言葉や常識、知識とかは忘れてないからな。」

 

「へぇー…」

 

数分温泉の中で雑談した後、二人は温泉から出て宿の部屋へと戻る。

 

「どうだった?男二人、みずいらず?」

 

「まぁ、そんなとこかな。」

 

「もう一人女の子の仲間欲しいなぁ。一人で温泉はすこし寂しかったよ。」

 

「そりゃそうだろうなぁ…」

 

と、リュウギが相槌をうつ。

 

「それとさ…ごめんね。楽園に連れて行くって言ったのに…」

 

「気にしなくていいって、じっくり考えよう。他に方法あるかもしれないし…」

 

リュウギはタオルで頭を拭きながら、布団の中へと足を入れる。

 

「疲れたし今日はもうおやすみー。」

 

「はいはい、おやすみー。」

 

ミントが返事をし、同じように布団に入る。

 

「俺は…」

 

ツバキが言うと、ミントが指でリュウギのベッドを指す。

 

「そっち」

 

「はぁ…これでも俺はミントのブレイドだってのに…」

 

ぶつぶつ言いながら、しぶしぶリュウギの布団にもぐりこんでいく。

 

 

 

 

宿屋ジャルカマロに数人もの足音が入ってくる。スペルビアの兵士達だ。

宿屋の主人の前で立ち止まり、先頭の女性が声を出した。

 

「銀髪の少年にブレイドを連れたサルベージャーの少女がここに泊まっていると聞いたが…」

 

「あぁ、そんな子達なら確かに泊まっているけど…」

 

「どこの部屋だ?」

 

「204号室かな…何か問題でも?」

 

「犯罪者なのでな。危険人物は私達が対処する。」

 

そう言うと、兵士の一団は階段を登り、204号室へと向かう。

204号室に辿り着くと、鍵のかかっていなかったその扉を開け、大の字になって寝ているミント、むさくるしそうに眠る

リュウギとツバキに銃口を向ける。

 

「うーん…あっつ…ん?」

 

頬に冷たいものが触れ、ふいに目が覚めた。

 

「なん…!?だこれ…」

 

スペルビアの兵士達が自分達に銃を向けている。

 

「動くな。手を挙げろ」

 

リュウギは命令された通りに腕を挙げた。

 

「何々騒がしい…ひゃっ!?」

 

ミントも合わせて目が覚めて驚いた。

すると、扉の外から腰にサーベルを携えた女性が入ってくる。

 

「トリゴでの給水塔破壊の容疑で逮捕する。皇宮までご同行願おうか。」

 

「メッ…メレフ様ァ!?」

 

ミントが頬を赤くして手でおさえる。

 

「惚れてる場合かっての…」

 

 



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“スペルビア皇宮”

ずっとゼノブレイド1とエキスパンションパスやってました。
っていうのも事実なのですが書く気力がなくただサボっていただけです…
これからも不定期になりますが、応援していただけると幸いです。


深夜。スペルビアの兵士に囲まれながら、膝をついた巨神獣のいるところまで歩かされている。

 

「ねぇ、いつになったら手錠外してくれんの?」

 

ミントが手錠をがちゃがちゃを揺らしながら、隣の兵士に問う。

 

「…」

 

「ねぇ?」

 

「…」

 

兵士は一向に黙ったまま。

 

「はぁー…」

 

「まったく…せっかくメレフ様と居れるってのにこんな男臭い兵士だらけ…」

 

深いため息を吐きながらつぶやく。

 

「どこに連れて行くつもりなんだよ?」

 

「皇宮にある留置所だ。明日の裁判でお前達の刑が決まる。」

 

先頭で進む麗人が、こちらを振り向かずに口を開いた。

 

「裁判…刑って…」

 

「ねぇねぇ!そこってちゃんとトイレとかお風呂とかついてるよね!?」

 

「残念だけどお風呂はナシ。でもトイレはついてるわよ?個室じゃないけど。」

 

ブレイドのカグツチがミントのほうを向いて言った。

 

「まさか同じ部屋…ってことはないよね?」

 

「…」

 

「ちょっと!?何黙ってんの!?」

 

しばらく歩き続けると、かつてのスペルビア帝国の巨神獣の膝の近くまでやってきた。

巨大なエレベーターに乗り込み、5分間ほど揺られ続けてついに皇宮へとたどり着いた。

 

「これがスペルビアの皇宮…」

 

「リュウギ見て!すっごい高い…」

 

今いるのは巨神獣の肩の部分。下を見下ろそうとするが兵士に腕を掴まれ、そのまま皇宮のほうへと

連れられていった。皇宮に入ってすぐ左の小さな扉をくぐると、長い階段。

その階段を下りていくと、たいまつでのみ照らされる狭い牢屋があった。

 

「留置所ってか…牢屋じゃん…」

 

リュウギがそんなことをつぶやいていると、牢屋の鍵が開けられ、そのまま3人はその中へと入れられた。

 

「次に来るのは明朝だ。おとなしく待っていろ。」

 

「変なこと考えたらさらに刑が重くなるかもしれませんし。」

 

そう言ってメレフとカグツチは去り、囲んでいた兵士たちもその後をついていった。

 

「…」

 

3人は互いに顔を見合わせながら下を見る。

 

「で、どーすんのよこの状況!!」

 

ミントが鉄格子に頭をぶつけながら言った。

 

「あんな状況じゃ攻撃したって返り討ちにされるだけだし、とりあえずここまで来たものの…」

 

ツバキが口を開く。

 

「ところで刑ってどんなのが来るんだろ!?死刑とか無期懲役とか…」

 

「そんなのいちいち待ってられないって。」

 

リュウギが大剣を手に提げ、力を込める。

 

「こんなところで立ち止まっちゃいられない。早く脱走しよう」

 

リュウギは剣に炎を纏わせ、鉄格子に浴びせた後、水の力で急激に冷やした。

 

「おぉー…」

 

「これで…ソードバッシュ!」

 

鉄格子が一気に破壊された。

 

「早く出ろ、行くぞ!」

 

「いきなり出ろって言われても…どうやって逃げるの?」

 

「来た道を行くと近いけどバレそうだしな…」

 

来た階段の道があるのとは逆の方向にも道が続いているのを発見し、リュウギがそちらを指さした。

 

「こっちから行くぞ!」

 

 

「おい、どこへ行く!」

 

後ろから機関銃の発砲する音が聞こえた。

 

「あちゃー…見つかったか」

 

「ええい、とにかく走るぞ!」

 

リュウギが走り出し、ミントとツバキもそれについていく。

 

「おい、待て! こちら地下牢屋エリア!脱走者だ!今は食堂へ向かっている!」

 



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“脱走”

そういえば1作目のほうのゼノブレイドもクリアしました。
ザンザさん好きです。ああいうキャラ大好きです。


 

◇◇◇◇◇◇

 

しばらく道を進むと、鉄製の扉を見つけた。

 

ガチャリ。

 

扉の先には兜を脱いだ兵士たちが数十人集まって、おかゆを食べていた。

 

「あれは…」

 

「さっき捕まえた指名手配犯だ!」

 

兵士達がこちらに気付くと、すぐに側にあった機関銃を持ち出した。

 

「うわぁまずい!どうしよう!」

 

「…ええい、とにかく突っ切るぞ!」

 

リュウギの大剣の中心の文字が「炎」に変わり、炎を噴出させながら走り出す。

ミントはナックルクローで兵士達を攻撃し、退けていく。

 

すでに皇宮中に知れ渡っただろうか。食堂を抜けた先には既に銃を構えた兵士が待ち構えていた。

 

「アースドライブ!」

 

ツバキの技で兵士達を吹き飛ばし、倒れた兵士たちを踏みつけながらさらに進んでいく。

 

「ねぇ、もうこれヤバいんじゃない?」

 

「炎の輝公子が来る前になんとしても出ないと!」

 

皇宮は思ったよりも広く、曲がり角を何度も曲がり、今度は会議室のようなところへ出た。知らせが皇宮中に広まったからか、誰もおらずがらんとしている。

 

「誰もいないな…」

 

「一旦ここに隠れる?」

 

「いや、隠れてもまた来るだろ。…」

 

その瞬間、外から足音が聞こえ、会議室の中に隠れる。

 

「ごめんね。私のせいでこんなことになっちゃって…手形のこと知ってれば捕まらずに楽園に行けたのに。」

 

「いいって。とにかくここから生きて帰るのが先だ。」

 

兵士の足音が聞こえなくなった瞬間に部屋から出て、近くにあったエレベーターに乗り込む。

 

「敵が目の前にいるかもしれない。構えろよ。」

 

ツバキが言い、二人はエレベーターの個室の中で敵の攻撃を構える。

しかし、その先には誰もいなかった。

 

「出口が見える!」

 

「よし、このまま突っ走って…」

 

3人がエレベーターから降り、出口に向かって走り出すが、突然、青い炎が目の前を塞いだ。

 

「蒼炎…まさか!」

 

リュウギが大剣を構え、炎の先を目を凝らして見る。二刀流のサーベルを持った炎の輝公子メレフが現れた。

 

 

「捕まって早々に逃げ出すとは…命知らずも居たものだな。」

 

「悪いがこんなところで捕まってる時間は無いんでね。楽園への道、断たれてたまるか!」

 

「楽園だと?」

 

メレフが刀を構えながら問う。

 

「なぜ楽園を目指す?」

 

「母さんとの約束なんだ。楽園に行って父さんを連れ戻す!」

 

「確証はあるのか?父が本当にそこへ行き、今もそこに居るという」

 

「ないさ…でも」

 

リュウギは拳を強く握り締めた。

 

「父さんは死んだりなんてしない!母さんは誰よりも父さんのことを知ってる!」

 

「私は助けてもらったし、その恩返しってことで」

 

「ほう?本当に楽園を目指すというのか…」

 

「ならばその意志、等しく力で見せてみろ、少年!」

 

メレフは両手を広げてサーベルを構えた。

 

 

 

それと同時にリュウギも大剣を振り上げ、ミントも構える。

 

「メレフ様と戦えるなんてこれ以上ない経験というか…」

 

「何言ってんだ。行くぞ!」

 

大剣の中心の文字が炎に変わり、大きな炎波を出した。

メレフはサーベルで打ち消し、カグツチに剣を投げ渡す。

カグツチはリュウギに迫り、サーベルの乱撃を喰らわせる。

大剣で防ぎ、最後の一撃をかわして横から思い切り剣を降った。

 

「ダブルスピンエッジ!」

 

「ぐあっ!」

 

カグツチが叫んだ。

メレフが駆け寄り、剣を持ってさらに攻撃を加えた。

 

「横から!」

 

ミントがナックルクローを剣に突きつけた。

 

「戦うのは気がひけるけど、やらないといけないなら!」

 

「まだまだ初心者だな…その程度の攻撃!」

 

メレフは二人の攻撃を退け、後退する。

カグツチと剣を分け合い、そのサーベルをしならせる。

 

「蒼炎剣・弐の型・閻魔!!」

 

大きな炎が迫る。大剣の文字を「水」に変え、迫り来る炎を蒸気へと変えた。

 

「水だと!?」

 

「あの少年、今まで炎の技を使っていたはずでは…」

 

「ただのブレイドではないようだな… ならばこちらも全力で!」

 

メレフとカグツチが走り出し、炎の弾を出現させる。

それを水の弾で次々と蒸発させていく。互いの体にはいまだダメージはないが、疲れは溜まりはじめていた。

 

「フレイムノヴァ!」

 

巨大な球状の炎がメレフを包み込む。

 

「この程度か!」

 

それを破壊し、リュウギのほうへ走り剣を振る。

 

「今だ!ツバキ!」

 

「ああ!ランディックブレイク!」

 

さらに土の球がメレフの周りに現れ、攻撃を行う。

サーベルの一太刀でそれらを破壊する。

 

「コンボか…だがその程度の攻撃!カグツチ!」

 

「陽炎!」

 

大きな炎の球が二人を攻撃する。

 

「ぐっ…」

 

「私がメレフ様をひきつける。その内に一撃を!」

 

「ああ、頼む!」

 

「言っとくけど、殺さないでね?」

 

「了解!」

 

ミントが走り出し、メレフに攻撃を加える。

 

「芸がなさすぎるぞ!」

 

「ツバキ!」

 

ナックルクローを投げ渡し、ツバキが手を大きく広げた。

 

「アースエンド!」

 

土の塊が勢いよくメレフへと攻撃し、カグツチがそれらを燃やして炭と変えた。

 

「これで…!」

 

大剣の文字が「水」から「斬」へと変わった。

 

「ハアァァァーッ…」

 

強く力を込め、剣を振る。

 

「ディバインソード!」

 

水の玉がメレフとカグツチの周りに浮かび、爆散した。

その衝撃に二人は後退した。

 

「ぐっ…今の攻撃は…」

 

ミントがナックルクローを腰に戻し、リュウギはその剣の先をメレフに突きつけた。

 

「これで分かっただろ。俺の力…邪魔されるわけにはいかないんだ。」

 

地面に落ちた水溜りに炎を向け、煙が出現。

その煙が消えた後、三人の姿はなかった。

 

「逃げられたか…」

 

メレフは落ちたサーベルを拾いながら言った。

 

「メレフ様、あの少年の攻撃…」

 

メレフは顔を暗くし、地面を見つめた。

 

「メレフ特別執権官!」

 

後ろから数人の兵士が現れた。後ろからワダツミもついてきたようだ。

 

「すまない。ペルフィキオの調査をしていて遅れてしまった。それで脱走した者達は?」

 

ワダツミが言った。

 

「すまない、逃げられてしまった。」

 

「そうか…」

 

「ワダツミ、それに兵士の皆に頼みがある」

 

「はいっ!なんでございましょうか!」

 

「今すぐ帝国内の船をすべて停止させろ。彼らをなるべく早く捕まえるんだ」

 

「了解だよ」

 

「ですがメレフ執権官…」

 

「もうあの少年はいいのではないでしょうか?給水塔を破壊したとはいえ、彼らより大事なことが…」

 

「いや、あの少年…ただの犯罪者ではない。二つの属性を操り、あの攻撃…」

 

「メレフ様、カルマ皇帝へ報告へ行った方がよろしいかと。」

 

「そうだな。ワダツミ、あとは頼んだぞ」

 

メレフとカグツチは近くのエレベーターに乗り込み、ワダツミの周りの兵士は敬礼をしていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ここまで逃げてきたけど…」

 

ミントは手をつき、ゼェゼェを息を吐いている。

街から離れた原っぱに横たわっている。

 

「これでもうスペルビアの船も使えないだろうね…」

 

「まぁ…仕方ないさ。」

 

リュウギがため息をつく。

 

「それに宿もな。」

 

「えーっ!じゃあ今日は野宿する…ってこと!?」

 

「まぁ、仕方ないだろうな…」

 

ツバキが腕を組んでいると、風に吹かれて一枚のチラシが飛んできた。

 

「ん?なんだこれ…」

 

チラシには下手な字で「簡単なアルバイト!」と書いてある。

 

「おいミント、これ…」

 

「何々、“トラ・ブレイド研究所…サルベージと部品集めしてくれる人募集中だも…”」

 

「何だそれ?」

 

リュウギが顔を覗いた。

 

「アルバイトついでに泊めてくれるかも…」

 

「んなことあるかよ」

 

「一応!ダメもとで行ってみようよ!」

 

ミントが強く言った。

 

「確かにこのままじゃ何も出来ないしな…行くか。」




ここでキャラクター紹介
〈カグツチ〉
メレフのブレイドであり、「帝国の宝珠」と呼ばれる蒼炎を操るブレイド。代々スペルビア皇帝に仕えている。
連結型のサーベルを持っており、しならせ色々な形に変えることが出来る。
コアに戻る前の日記を肌身離さず持っており、そこには過去の出来事も書かれている。
リュウギの正体をメレフと共に探ろうとする。


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“トラ・ブレイド研究所”

2週目はカオスですね。ホムラ連れ去られたのにホムラが横にいるんですもの。それでレックスがなよなよしてるんですもの。よくわかんないですね。


もう日も沈み、闇が世界を覆いつくす。

リュウギとミント、ツバキがチラシに書いてある地図を頼りに進んでいく。

どうやらブレイド研究所があるのは街からかなり離れたところらしい。

 

アーチ上の地形を抜けた先に、木製の建物が見えた。

中からはがちゃがちゃと騒がしい音が聞こえ、家の前には巨大な看板が立っている。

「トラ・ブレイド研究所」

 

 

「ここかなぁ?」

 

「看板見る限りそうだろ。」

 

3人は建物にあった扉に近づき、3回ノックをした。

しかし、中の騒ぎはいっこうに消えず、誰も出てこない。

再び3回ノックした。

 

「あのー、すみませーん!チラシ見て来たんですけど…」

 

ついに扉がガチャリと開いた。

中からは白い毛の小さなノポンが出てきた。

 

「もーっ!ついにバイト来たも!師匠ー!」

 

ノポンが扉を閉めた後、走っている音が聞こえた。

数分後、また再び扉が開いた。今度は茶色の毛の大きめのノポンが出てきた。

 

「ほんとだも!人に会うのは久しぶりだも!さぁさぁ!中に入ってくれも!」

 

そのノポンに背中を押され、3人はその中へ入っていった。

中には大量の機械がギシギシと音を立てて動き、いたるところで歯車が回っている。

奥からはさきほどの白いノポンと二つの小さな銃を腰に携えた男性が現れ、その後ろから走って機械を体にまとわせた少女がやってきた。

 

「トラのブレイド研究ナカマだも!」

 

「ブレイド研究…?」

 

リュウギが首をかしげた。

 

「その名の通り、この世の全てのブレイドを研究し、世のためになるようなことを目指しているんだも」

 

「へぇー…」

 

ミントが腕を組んで言った。

 

「ちなみにあそこに居るのは僕の弟子のウマ、その横にいるのは世にも珍しいエーテルツインガンを持つウマのブレイドのアスカ、そしてトラの最大の発明!人工ブレイドのハナだも!」

 

「ほぉ、人工ブレイド!」

 

ミントが驚いて声を出した。

 

「ハナって言いますも。よろしくお願いしますも!」

 

「それじゃあウマは三人を客間に案内しても。トラはお茶持ってくるも!」

 

トラという茶色いノポンが人工ブレイドを連れて奥に消え、白いノポン、ウマに連れられるがままに奥の部屋へと案内された。

 

ふかふかの赤いソファに透明なテーブル。さっきの部屋と比べて小綺麗だ。

3人はそっと腰をかけた。

 

「3人はやっぱりアルバイトで来たのかも?」

 

「え?えぇまぁ…」

 

リュウギが頭をかしげた。

 

「良かったもー!あのチラシ貼ってから全然人が来なかったんだも!これで10ヶ月になるも!」

 

「10ヶ月も…」

 

「まぁ怪しいチラシだったし…」

 

「そういや名前聞いてなかったも。オトコの子のほうはどんな名前だも?」

 

「俺はリュウギ。色々あって街の宿で泊まれなくなってさ…」

 

「私はミント。バイト代はいらないからちょっと泊めてほしいなぁ…って」

 

「俺はツバキ。言うことは特にない。」

 

「そーなのかも!大丈夫だも!うちの研究所は広いし、師匠の心も広いからきっと泊めてくれるも!」

 

「おー!そりゃ良かった!」

 

ミントが手を叩いて喜んだ。

 

「せっかくだから見て欲しいものがあるも!」

 

ウマが後ろを振り返り、カーテンを開ける。

 

そこにはさきほどの茶色いノポン、トラとその人工ブレイド、ハナが立っている絵が飾られていた。

 

「師匠はアルストで初めて人工ブレイドを作り出した大天才だも!しかもいくあてのないウマを拾って弟子として受け入れてくれたノポンの鑑だも!」

 

「へ、へぇー…」

 

「もー!ウマ!それトラがやろうと思ってたのにー…」

 

トラが扉から現れた。人工ブレイドのハナがお茶の置かれたお盆を持っている。

 

「師匠!この子達、宿に泊まる金がなくて、アルバイトついでにここに泊まりたいらしいも!」

 

「もちろん大丈夫だも!見たところ女の子のほうはサルベージャーかも?」

 

「はい、そうです!」

 

「良かったもー!ちょうどサルベージしてほしいものがいっぱいあったんだも!…でも今日はもう遅いからまた明日だも!」

 

「ご主人、そろそろご飯の時間にしますかも?」

 

ノポン二人のペースにのせられ、3人はハナ特製の夕飯を食べることに。

あまあまういんなが皿いっぱいに載せられ、二人のノポンとウマのブレイドががつがつと食べている。

3人も負けじと食べ始める。

 

「この武器すっごいも!後で調べみてもいいも!?」

 

食事中、トラがリュウギの傍に置かれた大剣を舐め回すような目つきで見る。

 

「え?別にいいけど・・・」

 

 

「ええっ!?リュウギくんってブレイドなのかも!?金色のコアクリスタルだなんて珍しいも!」

 

ついつい口を滑らせ、ミントが言ってしまった。

 

「あっ、ごめん…」

 

手をあわせ、申し訳ないという顔でリュウギを見つめる。

 

「ブレイド研究してきて2、30年!そんなブレイドは初めて…」

 

「師匠、リュウギくんたちも困惑してますも」

 



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“ブレイドの種類とその存在について”

モナドっていいですよね。振り回してみたいです。漢字が浮き出る剣なんてもはや男のロマンの具現化じゃないですか。


◇◇◇◇◇◇

 

 

食事の後、リュウギは紅緋色の大剣や、胸のコアクリスタルをトラに見せた。

 

「ほー…青色でも、赤混じりでも、翠玉色でもないも…」

 

トラが首をかしげながらじーっと見つめる。

 

その頃ミントはお風呂を借りていた。浴室は汚いが、入れないよりはマシだ。

 

風呂場を抜けると、リュウギとトラ、そしてウマが椅子に腰かけその剣をまじまじと見ている。

それを横目にしながら進んでいくと、図書室があった。

 

図書室といえるほど大きくはなく、本棚が5つしかない。しかし本はパンパンに敷き詰められている。

 

「どれもブレイドに関するものばっか…」

 

ブレイドの秘密、ドライバーは語る、天の聖杯について…ブレイド研究所に相応しい本ばかりだった。

だがどれもほこりを被っている。まったく読んでいないのだろうか。中にはブレイド関係なく「萌え萌えパンジーちゃん読本!!」なる本も。トラの趣味だろうか。

苦笑いで本棚を目で追っていくと、一つの本に目がついた。

 

「“ブレイドの種類とその存在について” 著者:エチェル・C・レビア…」

 

その本を手にし、かぶったほこりを手ではたき、表紙をめくった。

 

 

「基礎知識 ブレイドとはコアクリスタルから生まれる亜種生命体。ドライバーと同調することによってその姿を持つ―――」

 

「天の聖杯 神が生み出したという特別なブレイド。記録によると僕(デバイス)と呼ばれる兵器を使役していたという。黒き聖杯、メツはアーケディアのマルベーニと同調し、翠玉の聖杯、ヒカリはイーラのアデルと同調した―――」

 

「ブレイドイーター 亡国ユーディキウムの技術によって、人間にコアクリスタルを移植することによって生まれる存在。すべてのコアを移植されればブレイドと等しい存在となり、一部であればそのブレイドの能力が扱えるようになるという―――」

 

「マンイーター ブレイドに人間の心臓などといった細胞と融合させることによって生まれる。ブレイドにとってドライバーと共に生き続けることができる方法。人間の細胞を手に入れたブレイドは普通のブレイドと異なり、さらなる能力を有するという―――」

 

事細かにあらゆる種類のブレイドについて書き記されていた。ミントの知らないところまで。

 

「いろいろなブレイドがいるものだねぇ…」

 

再びページをめくると、そこには見たことも聞いたこともない単語が載っていた。

 

 

 

「ハーフ…ブレイド…?」

 

「ハーフブレイド 前例はわずか一体のみ。ユーディキウムでのマンイーターと人間との交配実験により生まれた。人間の細胞とコアクリスタルの完全なる融合であり、成長すれば天の聖杯をも超える強力な存在になるのだという。一説によるとマンイーター、そしてブレイドイーターの存在はハーフブレイド誕生の副産物だと言われている――――」

 

 

「私には病に侵された愛する娘がいる。不死であるブレイド…その力があれば助かるかもしれない。私はこのブレイド研究による成果、そして知識をこの本に書き留めた。この記録があなたの手助けとなるよう。」

 

最後のページはこの言葉で終わっていた。

 

「何見てるんですも?」

 

突然ハナが顔を覗き込んできた。

 

「うおぉっ!?…なんだハナちゃんか。ごめんね、勝手に本読んでて。」

 

「心配ないですも。ご主人は大量に本を買ってまったく読んでないんですも。実質ゴミみたいなもんですも。」

 

「ゴミって…」

 

「それ面白かったですも?」

 

「まぁまぁかな…でもドライバーになりたての私には有益な情報得られたかなって。」

 

「それはよかったですも。さぁ、明日に備えて早く寝ますも。」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「おいっちにーさんしー」

 

ミントが外にあるサルベージポイントで準備体操をしているようだ。横でリュウギがじーっと見ている。

既に太陽は真上。もうお昼だ。

 

「早速シリンダ持ってきたも!」

 

トラが家の中から大量のシリンダの入った箱を持ってきた。

 

「すごーい!これって全部ゴールドシリンダじゃん!!」

 

「倉庫の中に眠ってたけどまだ使えると思うも」

 

「私金欠だからノーマルしか使ったことないんだよね~。たまに贅沢してシルバー使うぐらいで…」

 

「そんなに変わるもんなのか?」

 

リュウギがゴールドシリンダを一つ取った。

 

「当然!でも初めてだからなぁ…まぁ物は試しか!」

 

ミントがメットとシリンダを装着。

 

「行ってきまーす!」

 

サルベージポイントから飛び上がって海へと飛び込んだ。

水しぶきをリュウギとトラはじーっと見つめていた。

 

「大丈夫かな…」

 

「そんなことより、リュウギくんにも頼みがあるも!」

 

「えっ?俺にも?」

 

予想していなかったという顔。

 

「当然だも。ウマと一緒にこの植物をとってきてほしいも」

 

トラが一枚のメモを手渡す。

 

「オイルリーフ…潤滑液ってことか…」

 

「これが一番エコで一番使いやすいんだも。お願いするも!」

 

「了解。」

 

「ってわけで出発するも!」

 

突然奥からウマとそのブレイドが現れた。

 

「うおっ、びっくりしたぁ…」

 

◇◇◇◇◇◇



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“オイルリーフ”

4ヶ月ぶりですね。何もしてませんでした。本当にごめんなさい。


◇◇◇◇◇◇

 

「ほう…つまり、その少年は二つの力を扱っていたと・・・?」

 

スペルビア新帝国皇宮。皇帝陛下は玉座で肘をつき、メレフからの報告を聞いていた。

 

「はい。水と炎…相対する二つの属性攻撃。相手が炎による攻撃しかしないと思い、油断してしまい…」

 

「不思議だな。ただの人間が、しかも二つの力を同時に扱うとは――――ブレイドだとしても。」

 

皇帝は腰を上げ、メレフに近づく。

 

「そう気に病むことはない。既に帝国内の船は全て停止したんだろう?ならば彼らが逃げることはないはず。」

 

「君にとって捕まえるのは容易なことだろう?メレフ特別執権官。その者の操る力は既に把握しているはずだ。」

 

「――――彼の繰り出した技、見覚えがあるのです。」

 

メレフの脳裏に、かつて共に戦った少年の、後姿が思い出された。

 

「なるほど。ならば更に放っておくわけにはいかないな。」

 

皇帝がメレフに後ろ姿を向けた途端、皇帝の部屋への扉が開き、中から書類を持った男が現れた。

 

「カルマ陛下。世界樹への交通手形の認証書、インヴィディアとの貿易に関する書類…大量に溜まっている分、今日こそ終わらせてもらいますからね」

 

「あーゴウ…今はメレフ執権官との大事な話を…」

 

「そう言ってまた逃れるつもりですか?」

 

書類を机の上に勢い良く落とし、それを叩きながらゴウと呼ばれた男は皇帝陛下をむ。

 

「・・・わかった。わかったよ。」

 

皇帝は歩き出し、椅子を引いて机に座った。

 

「メレフ、この件については君に任せる」

 

「それにその炎と水を操る少年…私の目の前に連れてきてくれないか?」

 

「了解しました。カルマ陛下。」

 

メレフは扉へと近づく。

 

「ああ。天国のネフェルのためにも…ね?」

 

メレフはうなずき、そのまま扉の奥へと消えた。

 

 

 

 

 

「二つの属性を操る力か…」

 

「ようやく、手に入れるチャンスが来たということか。」

 

カルマは書類を片付けながら、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「なぁウマ、オイルリーフってどこにあるんだ?けっこう森も深いところまで来たけどさ…」

 

「オイルリーフは森の中でも深い、ふか~いところにあるんだも。茶色い葉っぱが特徴的だも。」

 

「茶色の葉っぱかぁ…ここまでで一枚も見てない。ってことは…ないんじゃないか?」

 

リュウギは頭をかいた。

 

「ところが!アスカさえ居ればすぐに見つかるんだも!アスカ、頼むも!」

 

「わかりました!」

 

アスカは胸に手を置いて気を集中させた。

 

「これは…」

 

「アスカは土属性なんだも。普通のブレイドと違って感覚を極限まで研ぎ澄ますことができるんだも!」

 

「へぇ~…」

 

数十秒後、アスカはハッとして指を森の奥へさした。

 

「あちらから油の感覚がします」

 

「それじゃあそっちにレッツゴーだも!」

 

「本当にあるのか・・・?」

 

3人が指差したほうに歩きながら、リュウギは半信半疑でついていき、ウマはいつも通りだというような

 

表情で進んでいく。

 

「これって…」

 

リュウギが一枚の葉っぱに目をやる。それは紛れも無く茶色の葉っぱ…オイルリーフだった。

 

「そうそう、これがオイルリーフだも。」

 

「へぇ…なんか油っこいなこれ」

 

「せっかくだから葉の苗木ごと持って行きましょう。これは水無しでも1年は持つんですよ。」

 

「1年も?不思議な植物だなぁ…」

 

リュウギがちらりと周りをみると、オイルリーフが大量にあったことに気付く。

 

「これも全部持ってくか?」

 

リュウギが一つのオイルリーフの苗木を引き抜いてウマに見せた。

 

「一本で十分だも。それにあんまり持ってくとここのオイルリーフが絶滅しちゃうも。」

 

「あーなるほど…」

 

リュウギがそれを再び地面に戻そうとするが、

 

「いや、やっぱこれも持ってくも。」

 

「今いらないって…」

 

「十分といらないはまったく違う意味だも!これはウマの特別開発に使うんだも!」

 

「特別開発・・・?」

 

「ここだけの話、師匠の開発はマンネリしてるんだも」

 

「美少女系の才能は天才的だけどそればっかりだから弟子のウマとしてはなんというか…もっと別の方法でオトコの心を刺激するものを作ってほしいんだも。」

 

「はぁ、オトコの心…」

 

リュウギはそれを聞いて首をかしげる。アスカは地面になぜか耳をあてている。

 

「何度説得しても曲げてくれないからウマが作ることにしたんだも。熱い熱いオトコの心にぶっ刺さるような新たな人工ブレイドを!」

 

「厳密には人工ブレイドの技術を応用したエーテルスーツですけどね。」

 

アスカが地面から耳を離し、そう言った。

 

「その名もストロングファイター!“着る”人工ブレイドだも!これがあればブレイドを使役することなくブレイドにも等しい力を扱うことができるんだも!!デザインもかっこよくすれば大儲け間違いなしだも!」

 

「我々ブレイドとしては複雑なところですが同調できない人達にとっては人工ブレイド以上に扱いやすいかもしれないですね。」

 

「ストロングファイター・・・ねぇ。」

 

リュウギが立ち上がると、突然アスカがホルスターからエーテルツインガンを取り出し、リュウギのほうへ向けた。

 

「うおっ!?いきなりなんだよ!?」

 

「やはりさっきからブレイドの気配がすると思ってました…」

 

「いや、俺はブレイドじゃ…」

 

「違います。別のブレイドの気配…」

 

「アスカは他のブレイドの気配も感じることができるんだも」

 

ウマが小声でリュウギに言った。リュウギはそっとアスカの後ろ側に回り込み、銃口から避けた。

 

「1体だけじゃない。5体ほど…」

 

「こんな森の奥に…オイルリーフ探しにきた人かもしれないも?」

 

「まさか。そんなブレイド引き連れてオイルリーフ探しに来るようなところじゃないだろ…たぶん野盗か何かだ。」

 

その時、奥の森から話し声が聞こえてきた。

 

「なぁ親分、誰かの話し声が聞こえまっせぇ?」

 

「ようやく人がいたかぁ…早速殺っちまうかぁ!」

 

アスカは威嚇射撃をして後ろへと走り出した。

 

「こちらは3人…相手は最低でも7人…逃げます!」

 

「お、おう…」

 

「ひぃぃ!ウマは美味しくないもー!」

 

3人は姿が見えない追跡者から逃げるために森の中を走っていく。気付けば相当奥まできていたようで、出口の光は全く見えない。

逃げる途中、突然アスカが右に急旋回した。ウマはアスカにつかまっていたからいいものの、リュウギはそれに追いつくことができなかった。その先は崖になっていた。

 

「うおおっ、ちょっと待っ…うわぁぁぁーっ!」

 

そのまま崖の下にリュウギは落ちてしまった。

 

「リュウギィィィィ!」

 

ウマの叫びもむなしく、リュウギの姿は見えなくなった。しかし、追跡者はまだ二人を追い続け、二人も逃げるしかなかった――――――――

 

 




書き溜めが残っているので、今月分は投稿できるかな・・・って感じです。


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“池のほとりで”

スマブラ発売されましたね。テスト期間なのでできないですが終わったらソフトとファイターパス買います。レックスくん使いたいし。ニアちゃんのMiiコスあるの最高ですよね。実質参戦なのではないでしょうか。


◇◇◇◇◇

 

「う、う~ん…」

 

リュウギが目を覚ましたのは、日のあたる小さな池だった。

 

「痛ってぇ…曲がるなら曲がるって言ってくれよ…」

 

リュウギは怪我をした腕を行けで洗いながらつぶやいていた。血でにじんでいない池の水を少し飲んだ。

 

「しっかしずいぶん落ちたなぁ…研究所までどれぐらいかかるか…」

 

「…スペルビアにもこんな自然があるんだな――――」

 

 

近くの葉っぱに触れながら呟いた。その時、奥の草むらが揺れる音が聞こえた。

 

「珍しいね。こんなところに人が来るだなんて。」

 

「誰だ!?」

 

リュウギは大剣を構えた。

 

「いきなり物騒だなぁ。僕は丸腰だよ?」

 

「えっ?ああ…ごめん」

 

その青年は銀髪をしていた。「ごめん」と聞いて、少し微笑んだ。

 

「驚かせちゃったかな。しかしスペルビアの…しかもかなり奥地に。一体何しに?」

 

「ちょっとしたアルバイト…みたいなもんで。オイルリーフってのを探しにきたんだ。」

 

「オイルリーフ・・・僕の世界では聞いたことがないな。こんな奥地に生えているのかい?」

 

「そうらしい。あんたも道に迷ったのか?」

 

「そんなところだね。いかんせんここらに来たのはほとんど初めてで…」

 

「あんたこそ何をしにここに?」

 

「…探し物をしに来たんだ。君と同じさ。」

 

「はぁ…」

 

銀髪の青年はリュウギの持つ剣をじっと見つめた。

 

「その剣…一回見せてくれるかな?」

 

「さすがに見ず知らずの人に武器を見せるわけにはいかない。」

 

リュウギは断った。

 

「まぁ…そうだよね。ただ、僕は少しその武器のことを知っている」

 

「・・・は?」

 

「僕なら君の武器の力をもっと引き出すことができる」

 

「何言ってんだ?これは父さんから貰ったんだ。俺の母さんと知り合いぐらいしか知らない…それに、母さんにあんたみたいな知り合いはいない。」

 

「厳密には君の持っているそれではないけどね。」

 

「…どういうことだよ」

 

「まぁ、一つヒントだけあげるよ」

 

「ヒント?」

 

「その武器の本当の力を出すためには…願うんだ。自分が何をしたいのか、何のためにそれを振るうのか…それは君の欲しい力を発現させる。」

 

「わけの分からないこといって、俺を混乱させようとしてるのか?」

 

「まさか。」

 

すると、突然奥からさきほど聞いた野盗たちの声が聞こえてきた。

 

「…あいつら!?」

 

「早速僕が言ったことを試してみると良い。しかしいきなり言われても何をすればいいか分からないだろう?」

 

「君の敵は人間だけじゃない。敵はブレイドも引き連れている…敵はブレイドさえ倒せば無力化する――――言いたいことは分かるね?」

 

「見つけたァ!」

 

屈強な男が、ブレイドの剣を持って襲い掛かってきた。

 

リュウギは大剣で攻撃を受け止める。

 

「そんなこと言われたって…つまりどうすればいいんだよ!?」

 

「親分、俺にもやらせてくださいよぉ!」

 

横のひょろひょろな小さい男がブレイドの武器であるボールを投げつけてくる。

 

「ぐぅっ!?」

 

銀髪の青年は少し離れた。野盗は二人しかいないが、ブレイドを5体も連れている。

 

「ブレイドさえ倒せば無力化する…つまり…」

 

ドライバーはブレイドの力無しでは戦うことはできない。戦う為には自らの拳を振るうしかなくなる。

つまり、倒せばいいのはブレイドだけ。ブレイドを倒す…

 

 

そう強く念じた時、大剣の円形部に新たな文字が浮かび上がった。「剣」――――――――

 

「うおおっ!」

 

リュウギが男を退け、後ろのブレイドを貫いた。その瞬間、ブレイドはコアクリスタルへと戻った。

 

「ミチ…?ミチィ!」

 

男はもう一人のブレイドから武器を受け取り、再びリュウギへと攻撃を繰り出す。

 

「貴様ァ!よくもミチを!!」

 

リュウギは攻撃を避け、また別のブレイドに攻撃を加える。

たったの一撃で、次のブレイドもコアクリスタルに戻った。小さな男が連れていたブレイドに狙いを定め、一刀。残る二体のブレイドも裂き、二人のドライバーはただの人間へと戻った。

 

「こ、こいつ…たった一撃でブレイドを!?」

 

小さい男は恐れ、コアクリスタルを置いたまま逃げていった。

 

「貴様ぁ…覚えていろォ!」

 

屈強な男はコアクリスタルを持ち、逃げ去っていった。

 

「僕の言ったとおりだろ?」

 

リュウギは大剣を構えたまま震えていた。

 

「俺・・・一撃でブレイドを…コアクリスタルに…」

 

「君が得た力・・・それはブレイドを一撃でコアクリスタルに戻す能力だ。たとえできなかったとしてもブレイドには大きなダメージを与えることが出来る。」

 

「あんた…一体何者なんだ・・・?」

 

「それはいずれ分かる。僕の探し物はもう見つかった。君も、オイルリーフ以上のものを手に入れた。」

 

「新しい力・・・」

 

リュウギは剣を地面に突き刺し、頭を抱えた。

 

「しかしこれが君の剣の持つ本当の力ではない。いや、君自身の力と言うべきかな。」

 

「もしも本当にピンチに陥った時、思い出すといい。君自身の持つ光…誰かのために、それが自分だとしても、救う為に力を使いたいと願うんだ。」

 

 

「それが君の持つ(モナド)だ。」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

気が付くと、リュウギはベッドの上で目を覚ました。

 

「ようやく目が覚めた?」

 

目の前にはミントが座っていた。

 

「あぁ…俺、いつの間に?」

 

「なかなか戻ってこないから探しに行ったんだよ。倒れてたからここまで運んできたの。感謝してよね」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「全く。探すのに苦労したんだぞ…」

ツバキが隣でぼやいた。

 

 

「ごめんも!逃げるのに夢中で助けられなかったんだも!」

 

すると、奥からウマが土下座しながら現れた。

 

「私もあの時助けに行けばよかったです。すみません…」

 

アスカもウマの後ろから現れた。

 

「いや、いいっていいってそんな。俺ももうちょい気が付いてればよかったんだし…」

 

リュウギは頭をかきながら言った。ミントはそっと立ち上がり、奥へと歩いていった。

 

「今日はタルタリ焼きだよ~。分かったらほら、立って夕飯作り手伝って!」

 

「マジで!?」

 

リュウギは目を輝かせながら、ベッドから勢い良く立ち上がった。

 

 



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“新たなる力”

スマブラやっと買えました。思ったよりCPU強くて満足です。シュルクはまだ出てないです。


 

 

「う~ん…」

 

リュウギが包丁を持ちながら、食材を睨んでいる。

 

「どうしたの?」

 

「剣は使えるんだけどさ…包丁ってのはなんというか…扱うのが難しいというか…」

 

「なぁに?ヘタれてんの?ほら、貸してみなさい!」

 

ミントは包丁を奪い取り、魚を思いっきり真っ二つにした。

その後は丁寧に鱗を取り、骨を引き抜いて4枚になるまでカットした。

 

「ほら、これぐらいできるでしょ?」

 

ミントがリュウギに包丁を手渡すが、リュウギは不服そうな様子。

 

「ミントは料理上手いけどさぁ…俺はこういう細かい作業は苦手で・・・」

 

「トリゴリウト弾きがそれ言う!?」

 

そんな言い争いをしていると、後ろからトラが現れた。

 

「ご飯まだかも?なんならハナKS(家政婦)モード起動するも?」

 

「大丈夫!料理は私一人でなんとかなるって!」

 

ミントは洗剤とスポンジをリュウギに手渡した。

 

「なんだこれ?ソースでも作るのか?」

 

「皿洗い!これは食い物じゃありません!」

 

 

 

 

 

二人がそう言っている間、ブレイド研究所に一人の男の影が忍び寄る。

 

「ここが研究所か?ずいぶんとボロっちいなぁ…」

 

 

 

 

ドンドン。と扉を叩く音が聞こえた。

 

「トラが出るも」

 

トラがずんずんと扉のほうへ向かっていく。ウマは奥のほうでなにやら作業をしていて、ミントとリュウギは料理の手伝いをしている。

 

「はーい、どなたですかも…」

 

突然、爆発音と共にトラが吹き飛ばされた。

 

「うおっ!?何だ!?」

 

リュウギが皿洗いの手を止め、置いていた大剣を持って構える。ツバキも奥から現れ、料理の腕を止めたミントに武器を投げ渡す。

 

「い、いきなり何するんだもー!」

 

「ご主人、大丈夫ですかも!?」

 

開いた扉のところには、金髪の男が立っていた。

 

「ノポンか…なぁ、人工ブレイドの設計図は…どこにある?」

 

「い、いきなり吹っ飛ばした奴に渡すわけないも!」

 

「渡す気はないか…なら、無理にでも手に入れるか?」

 

男はトラを思い切り蹴り飛ばし、トラは巨大な機械に埋もれてしまった。

 

「ご主人!?ご主人!?しっかりしてくださいも!!」

 

「し、師匠ー!よくも師匠を!!」

 

ウマはアスカからエーテルツインガンを受け取り、男に向かって銃を撃った。

男はその銃撃を避け、研究所の中へと入っていく。

 

「あ、おい待て!」

 

リュウギとミントは男の後を追う。

そこはトラの研究室だった。壁にはハナら人工ブレイドの設計図にそれらの武器などが飾られていた。

男はその設計図を奪い取り、飾られていた人工ブレイド「ハナJD」の武器セイバーも奪った。

 

「おい、それを返せ!」

 

リュウギは剣を振りかざし、男に振り下げたが、セイバーにより防がれた。男はそれをひるがえしてリュウギのわき腹に一刀した。

 

「ほぉ?なかなか振り心地がいいじゃないか。この俺にぴったりの武器だなぁ?」

 

ミントはナックルで男に殴りかかる。いくら早く殴っても男の防ぐスピードはとても速く、まったく効かなかった。そして窓ガラスを破り、ミントは外に投げ出されてしまった。

 

「うぅ・・・ぐっ・・・」

 

ミントは強いダメージを受け、腹に受けた痛みにもだえていた。男は壊れた窓から出てミントの髪を握り顔を上げさせた。

 

「知ってるぞ…この蒼い蒼い瞳…俺がかつて殺した男にそっくりだ。」

 

「あんたが殺した…男?」

 

悶えながら男に聞く。

 

「その男は一人じゃなかった。女と、それとガキとも一緒だったなぁ…」

 

それを聞いた途端、ミントは目を見開いた。

 

「なるほど。お前はあの時のガキかぁ!俺はこう見えても記憶力が良いんだよ!」

 

「うあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ミントが男の手を振りほどき、男の腹に殴りこめようとするが、手で押さえられ、そのまま吹き飛ばされてしまった。

リュウギやウマ、ツバキらが研究所の中から飛び出してきた。

 

「ミント!!大丈夫か!」

 

リュウギがミントの傍へと駆け寄る。

 

「あいつだ…あいつが私の父さんと母さんを…!」

 

「ミント…」

 

リュウギはミントを話した後、男に剣を向けた。

 

「お前―――――誰なんだ!?何が目的で…」

 

「俺の名前はアルジェント。ペルフィキオの新顔でな。ちょっと設計図取ってこいって言われたから仕方なくな?」

 

「そんな軽口叩けるのも今だけだも!アスカ!」

 

ウマがアスカに武器を渡し、アスカは二つの銃を合体させてライフルへと変形させ、渾身の一撃をアルジェントに喰らわす。

 

「やったも!?」

 

しかし、アルジェントは立ったまま微動だにしなかった。

 

「ったく。今のは…なかなか痛かったな」

 

アルジェントはそう言うとセイバーに炎を纏わせ、炎の弾丸をリュウギらに喰らわせた。

リュウギは水の力で防ごうとするが、その圧倒的な火力に水はすぐに蒸発してしまった。

 

「ダメだ・・・!この炎、ただの炎じゃない!」

 

「どうした?その程度かよぉ!」

 

セイバーを無尽に振り回し、リュウギはその圧倒的な力の差に押し負け、地面から火花を散らしながら転がされた。

ミントはナックルクローにこれでもかというほど力を込めてアルジェントに飛び掛る。

 

「どうしてッ!!どうして私の父さんと母さんを!!」

 

「退屈だったんだよ?分かるか?」

 

「人の期待を裏切り殺す…これ以上に心が躍ることがあるか?ないよなぁ!」

 

アルジェントはミントの攻撃を跳ね返し、ミントは投げ飛ばされた。飛んでいったナックルをツバキが拾い、再びアルジェントに攻撃を繰り返す。

 

「愉快犯というわけか!貴様ほどの外道は見たことが無いな!」

 

「生まれたばかりのくせによく言う奴だなァ!」

 

ツバキは腹にセイバーの一撃を喰らい、激しく後退した。

 

「あぁ…つまんねぇなぁ」

 

「もっと張り合えるかと思ったのによ…なぁ?」

 

アルジェントは倒れたリュウギを見下ろしながら言った。

 

「どうすっかなぁ~…今ここで殺すか?でもそうだとつまんねぇしなぁ…」

 

 

アルジェントはセイバーを地面にうちつけてかちかちと鳴らし、刃の先をそれぞれに向けた。

 

「たった一人でこの強さとは…」

 

「攻撃を与える隙がない…」

 

床に倒れこんだツバキと、アスカがエーテルの弾丸を撃ちながら言った。アルジェントは弾の一つ一つを弾き返している。

リュウギが息をとぎれとぎれにしながら、水の大きな弾丸を作り出し、アルジェントに向かって放つが、巨大な炎に包まれ、水蒸気爆発を引き起こし、全員吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた。そんな中でもアルジェントは平然としていた。

 

「どうして・・・?あれだけの攻撃を受けたのに…」

 

「いまいちなんだよなぁ?もう少し気張ってくれないとなぁ…」

 

アルジェントが地面にセイバーをかちかちと打ち鳴らし、数回鳴らした後止まり、セイバーはミントのほうへ向けられた。

 

「まずはお前からだ。両親のもとへ送ってやるぜぇ?」

 

アルジェントはミントにセイバーを向けながら近づく。

 

「どっちに行くかなぁ…天国か、地獄か…」

 

ミントは必死に怪我をした足を引きずりながら後ずさる。

 

「その恐怖に歪んだ顔を見るのは最高だなぁ・・・」

 

アルジェントは笑いを浮かべながら近づいていく。

 

アスカはウマに片方を渡し、二人はアルジェントに銃を撃つが、まったく効果はない。

 

「あいつは炎の力、それもただの炎じゃない…水の力じゃ弱くて打ち消せない…」

 

リュウギが剣を地面に突き立てながら言った。その時、ある言葉を思い出す。

 

 

 

――――――――その武器の本当の力を出すためには…願うんだ。自分が何をしたいのか、何のためにそれを振るうのか…それは君の欲しい力を発現させる――――――――

 

 

欲しい力、ミントに迫るアルジェントを倒す力…

剣に力を込め、それを強く願う。

 

 

すると、突然頭にイメージが流れ込む。赤く光る瞳に白い機械的な顔。ずっと眠ってい

たそれは突然息を吹き返し、備えていた二つの武器を展開させ、それを“こちら”側へ向けた。

 

「うおおおぉぉぉぉぉーっ!!!」

 

リュウギは大剣を空に掲げた。アルジェントはミントに向けたセイバーを下ろし、リュウギのほうを見た。

大剣の中心の円形の穴には新たな文字が浮かび上がっていた。「光」――――

 

 

 



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"因果律予測とメレフ"

今年も終わりですね。年始までには4話の始まりまで投稿できたらいいなと思います


 

 

 

その瞬間、空が光り、白い光の矢が降り注いできた。

 

「何…!?」

 

アルジェントは即座に身をかわし、すんでのところで光から逃れた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

リュウギは光を纏った剣を下げた。光の力を行使するのはそうとうな体力が必要らしい。

 

「なんだなんだ・・・?その程度かぁ!?」

 

アルジェントは疲れきったリュウギに向かって走り出す。

リュウギがアルジェントに目を向けると、突然視界が赤みかかったものになった。アルジェントの動きに軌跡が現れ、アルジェントの形の軌跡はリュウギの近くにまで近づき、素早い攻撃を加えた。その瞬間に赤い景色は元に戻り、アルジェントはさきほどの位置に戻っていた。そしてアルジェントが再び向かってくる。それは今見た軌跡と同じルートで向かってきていた。

 

「そうか、予測か…!」

 

アルジェントが近づき、その攻撃をリュウギは受け止めた。

 

「なんっ!?」

 

光の纏った剣を素早く男の横腹に加えると、アルジェントは遠くへと吹き飛ばされた。

 

「ハハッ、なかなかやるじゃねぇか…」

 

リュウギは光を剣の先から発射し、アルジェントに攻撃する。しかしその攻撃はかき消された。

 

「何で!?」

 

「思った以上の収穫だな…また会える日を楽しみにしてるぜ?」

 

そう言うとアルジェントは後ろの海の中へと飛び込み、姿を消した。

 

「逃がさないも!」

 

ウマが海に向かって連射するが、その姿は見えない。

 

「ももーっ…」

 

リュウギは剣を落とし、息をハァハァと吐いた。

 

「大丈夫?」

 

ミントがリュウギに近寄る。怪我した足を引きずりながら。

 

「お前だって、足怪我してるだろ…」

 

「このぐらい大丈夫だって。」

 

ミントがリュウギを抱えて研究所のほうへ足を伸ばす。

 

「ねぇ、さっきのあれ…リュウギ、前からあんな力使えたっけ?」

 

「いや、俺も初めてだ…」

 

「ミントが危ないって思ったから…さ。必死に頭の中でどうやってあいつを倒すか考えてたら…」

 

その瞬間、突然蒼い炎が目の前に立ちふさがった。

 

「こんなところにいたとはな。スペルビアの全兵を投じてようやく見つけたぞ」

 

「メ、メレフ様!?」

 

炎の輝公子メレフが兵士と二人のブレイドを連れて現れた。

 

 

「こんなところまで・・・!」

 

リュウギはミントを離し、メレフに大剣を向ける。ミントもツバキからナックルクローを受け取った。

 

「どうしてスペルビアの炎の輝公子様がこんなところにいるんだも?」

 

ウマがアスカと顔を見合わせる。

 

「この者たちはグーラの給水塔を破壊した犯人だからだ。」メレフが答えた。

 

「そりゃあいけないことだも!でも全兵挙げてわざわざすることかも?」

 

「まさか。他にも聞きたいことがたくさんあるのでな…特にそこの少年には。」

 

リュウギはキッとした顔を見せた。

 

「なら、俺を倒したら答えてやる!」

 

リュウギはメレフに挑む。それにメレフは腰のサーベルを掴み、攻撃をかわし、横から攻撃をする。

リュウギとメレフはつばせりあいとなった。リュウギは体力が減っているからか、押し負けていた。

 

「教えろ少年!貴様はなぜ炎と水の力が使える!?」

 

「知るかよそんなもん!」

 

そこにミントが割り込み、メレフのサーベルに蹴りを入れた。リュウギは少し後退したメレフに炎撃を加えるが、メレフがサーベルから刀に武器を変え、逆に水流でその炎をかき消した。

 

「なんかよくわかんないけど、アスカ!加勢するも!」

 

「了解です!」

 

二人は走り出し、メレフに射撃した。

 

「やらせるかよ!」

 

メレフの後ろについていた数人の兵士がウマたちに射撃。避けながら兵士達のほうへとつっこんでいく。

 

「それはこっちのセリフだも!アスカ!」

 

ウマがアスカにツインガンを渡し、アスカは高く跳ね、ツインガンを合体させてライフルとし、エネルギーを溜めた。

 

「アースブレイク!」

 

土の力を込めた砲撃が兵士らを吹き飛ばした。

 

「メレフ様!」

 

メレフのブレイドであるカグツチがメレフに声をかけ、メレフは二つあるサーベルのうち片方をカグツチに渡し、攻撃の構えをとる。

 

「「蒼炎剣・参の型・不知火!!」」

 

リュウギは強力な攻撃に大きく後退させられたが、それでもメレフに向かう。

 

「少年!教えろ、貴様の母を!父を!一体何者だ!」

 

メレフは走りながらリュウギに問いた。

 

「そんなこと知ってどうするつもりだ!?」

 

再びリュウギとメレフはつばせりあいになる。

 

「ならば問おう!貴様の母は…」

 

メレフはリュウギにだけ聞こえる大きさで人の名前を呟いた。リュウギはそれを聞いて目の色を変えた。

リュウギは再びメレフに押し負けたが、再びメレフに向かう。

 

「どうして―――――どうして母さんのことを!?」

 

「図星か…ならばもう逃がすわけにはいかないな!」

 

「させるか!」

 

リュウギは再び剣の真ん中の文字を「光」に変え、空から光の矢を降らせた。

 

「なんだと…!?」

 

メレフはその攻撃を避けようとしたが、その攻撃の一つを喰らってしまった。

 

「メレフ様!」

 

カグツチがメレフに駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「光の力…やはりあの少年は…」

 

メレフはサーベルのひとつをカグツチに手渡した。

 

「カグツチ、ワダツミ、殺さぬ程度にとどめを!」

 

メレフとカグツチ、ワダツミは必殺技の構えをとった。

この威圧にリュウギは後ろに下がってしまった。光の強い力をまだ制御はできていなかったため、疲れ果ててしまった。

 

「させないもー!」

 

突然、研究所のほうからトラがハナと共に走ってきた。

 

「トラ!?ハナ!?」メレフは目を丸くして驚いた。

 

「ハナ、JKモード!」

 

「了解ですも!」

 

ハナは子供の姿から、成長した姿に急変した。そしてロケットやミサイルをメレフたちに向かって撃った。

 

「ちょっとご主人の手当てしてましたも。遅れてすみませんも!」

 

ハナは頭を申し訳なく下げながら言った。

トラはハナからアームズという武器を受け取り、メレフらに攻撃をする。

 

「メレフ!こんなことやめるも!!」

 

「トラ、たとえ昔の仲間だとしても邪魔をすることは大罪になる!それでも邪魔をするつもりか!」

 

トラは歯を食いしばり、メレフらの攻撃を反射していく。

 

「ウマ!」

 

トラがウマを呼んだ。

 

「師匠!なんですも!?」

 

「研究所の近くに小さな船があるも!それに乗って逃げるも!」

 

「でも師匠!」

 

「こっちのことは気にしなくていいも!早く行けも!」

 

ハナはリュウギらを掴んで船のあるほうへ飛んでいく。

ウマとアスカはトラたちのほうを時折振り返りながら走っていく。

 

「奴らを逃がすな!」

 

「ハッ!!」

 

兵士たちがウマたちを追いかけるが、既に全員船に乗っていた。

 

「ハナちゃんはいいの?」

 

ミントがハナに聞いた。

 

「ハナはご主人のブレイドですも。ご主人の手助けするんですも!」

 

と言ってハナはトラのほうへ飛んでいった…が、すぐに戻ってきた。

 

「そこのボタン押すと発進しますも。スピードの出しすぎには気をつけるですも」

 

「ああ、ありがとう!」

 

そしてハナはまたすぐに戻っていた。

 

ミントがボタンを押すと、船は急発進した。乗員はリュウギとミントとツバキとウマとアスカ。

 

「クッ!」

 

メレフはトラを弾き飛ばし、船に向けて蒼炎を放ったが、届かなかった。

兵士達も銃を撃つが、意味はなかった。

 

「メレフ様、ここからではもう…」

 

カグツチが言った。

 

「一度ならず二度も逃すとは…」

 

メレフはサーベルを腰に据えた。

 

「トラ、なぜ少年達を逃した?」

 

トラはうつむきながら答えた。

 

「リュウギのことを見てると、なんだか…」

 

「アニキのこと、思い出したからだも。」

 

 

 

 

 

 

 

 

第3話 光



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第4話 「雷轟」
"セイリュウ"


今年も終わりですね。失踪多かったですが頑張って1月の終わりまでは失踪しないように・・・


アルジェントとの戦いの直後にメレフらスペルビア軍に襲撃されたリュウギら。トラの手助けにより、その場からなんとか逃げ出すことが出来た。

 

 

「ねぇ、思ったんだけどこの船ってどこに向かってるの?」

 

ミントがウマのほうを向いて聞いた。

 

「うーん…たぶんそのまままっすぐ進んでるだけだと思うも。」

 

既に夜は明け、既に朝日も昇っていた。

 

「じゃあ行き先とか関係なく?」

 

「恐らくはそうかと。」アスカが答えた。

 

「えぇー…このまま進んだって何もないよ?」

 

「そこ、ハンドル着いてる。」

 

リュウギが立ち上がり、船についていたハンドルのところへ歩き出した。

 

「あっ、本当だ…っていうか、体大丈夫?」

 

「少し休んだからな…たぶん。」

 

「たぶん…って」

 

「もっと体を大事にしてほしいも!」

 

ウマが一喝した。

 

「それで、どこに向かう?」

 

ツバキが声を上げた。

 

「あ、ツバキ居たんだ」

 

「最初っから乗ってたのにな…」

 

ツバキはため息をついた。

 

「俺の…家でもいい?」

 

リュウギが言った。

 

「リュウギの家?」

 

「どうしてメレフが母さんのことを知っていたのか…知りたくてさ。母さんに聞こうと思って。」

 

「お母さんそこに居るのかも?」

 

「ああ。5年ぶりぐらいかな…家に帰るのは。」

 

「あんたの家って巨神獣(アルス)の上にあるんだよね?一度行ってみたかったし行こうよ!」

 

そんなミントの一言に後押しされ、一行はリュウギの住んでいた家…巨神獣のところへ行くことになった。

 

 

リュウギが運転する船は他の巨神獣らを過ぎていき、小さな入り江に着いた。

 

「ここらへんにいるはず…」

 

リュウギが船で入り江の中に入ると、小型、でも大きい巨神獣が目の前に現れた。

 

「…誰じゃ?こんなところに…」

 

巨神獣が口をきいた。

 

「ア、アルスが喋ったも…!」

 

「ひいじいちゃん!俺だよ!俺!」

 

「その声は…まさかリュウギか?」

 

巨神獣がこちらを振り向いた。

 

「おぉー!懐かしいのお。かれこれ5年ぶりじゃなあ!」

 

「元気にしてた?」

 

「わしはまだまだ現役じゃ!これでも泳ぐ速度はまだ変わらんぞ?」

 

「この人…人かな?」

 

「いや、違うと思う」

 

ツバキが指摘した。

 

「この方がひいおじいちゃん?」

 

「なんじゃ、お客さんを連れてきたのか?」

 

「ああ。ちょっと母さん達に会いたくなってさ」

 

「とうとうリュウギもホームシックになるとはのう」

 

リュウギが船から巨神獣に乗り移った。巨神獣の上には茶色い屋根の2階建ての一軒家が建っていた。ところどころにツタが伸びており、あまり手入れされていないように見える。

玄関には一つのポストがあった。リュウギがその中を確認するが、何も入っていなかった。

リュウギは家のドアを開け、家の中を駆け巡る。

 

「母さーん!母さーん?」

 

 

 

「人がいるような気配はしないけど…」

 

ミントが家をじーっと見ながら言った。

 

「なあひいじいちゃん、母さんは?」

 

「言い忘れとった。母さんは何やら用事があるから数か月は帰ってこないぞ」

 

「ええっ!?」

 

「あらー…」

 

ミントがリュウギを見ながら言った。

 

「そんな…久々に会えるかと…」

 

「まぁまぁ。そんなに気を落とすなよ」

 

ツバキが肩をたたきながら言った。

 

「で、またどっか行くも?」

 

「いや、疲れたしな…」

 

リュウギは腕を組んで考えた。

 

「あの、巨神獣さん」

 

ミントが巨神獣に向かって声をかけた。

 

「なんじゃ?」

 

「今日一日、泊めてもらえませんか?」

 

「別にわしはいいが…リュウギはどうだ?」

 

「確かに休んだほうがいいよな。無理に疲れてる中で動くのは危ないし。」

 

「それじゃあ一日巨神獣の家でお休みするも!」

 

巨神獣がそれを見てコホンと咳き込んだ。

 

「わしにもちゃんと名前というものがあるんじゃが。」

 

「どのような名前ですか?」

 

アスカが聞いた。巨神獣は再び咳をした後に言った。

 

「セイリュウじゃ。泊まるのはいいがどんちゃん騒ぎだけはしてほしくないから頼むぞ」

 

 



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“写真”

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

リュウギの家、巨神獣セイリュウの上で一晩を過ごすことになった一行。寝室などは2階にあった。

 

「ええっ!?私がリュウギの部屋で!?」ミントが大声を上げた。

 

「俺と一緒の部屋ってわけじゃない。俺は母さんの部屋で寝るってこと」

 

「えー、どうして?」

 

「だって、母さんはミントたちのこと知らないし…知らない人が自分のベッドで寝るって嫌だろ?」

 

「あー確かに…」ミントはうなずいた。

 

「ってわけで俺はもう寝る。おやすみー」

 

そう言った途端に何かが後ろからぶつかってきた。

 

「さすがに男女が同じ部屋っていうのはアレかなーって思って。おやすみー」

 

リュウギが振り返るとツバキが居た。

 

「全く。どうして寝るときはいつもお前と同じなんだろうな」ツバキが言い、リュウギは深くため息をついた。

 

「リュウギー!ウマたちはどこで寝ればいいも!?」

 

「あー、奥に敷布団あるから…」

 

リュウギが部屋の奥に入り、敷布団を出してきた。

 

「もう部屋ないからここで…」

 

「廊下で寝ろっても!?」ウマが怒った。

 

「あー…もうしょうがない!全員こっちの部屋で!」

 

リュウギが一喝すると、全員リュウギの母親の部屋に入っていった。

既にリュウギの部屋で寝床に入っていたミントがつぶやいた。

 

「はぁ、どうして女子は私だけなんだろ…」

 

ミントがつぶやき、寝返りをうつと、一枚の写真が机の上に飾られていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「あー…もう朝か…」

 

リュウギが周りを見渡すと、男全員が雑魚寝していた。

リュウギは寝ていたツバキをつんつんするが、起きない。

 

「はぁー…」

 

「母さん、こんな光景みたら怒るだろうな…」

 

リュウギはつぶやきながら寝ている体をよけ、部屋から出てミントの寝ている部屋へと向かった。

 

「なんだ、もう起きてたのか。」

 

扉がすでに開き、ミントは中にはいない。そして下の階からは料理をしている音とにおいがした。

ゆっくりと目をこすりながら階段を下りていくと、思った通りミントが料理をしていた。

 

「おはよう!」

 

ミントが朝だというのに元気に声を出した。

 

「あー、おはよう…」

 

そう言ってゆっくりとテーブルの椅子に腰を掛けた。

 

「ねぇリュウギ」

 

「ん、何?」

 

「あんたのお母さんって意外とかわいいんだね」

 

「あー、そうだな…」

 

と言ったが、それを聞いて驚いた。

 

「…って何で見たの!?」

 

「んー…あんたの部屋に家族写真?みたいのがあったから見たの。」

 

「むー…」頭を抱えて赤面した。

 

ミントはエプロンを脱いで置き、リュウギに近づいた。

 

「リュウギに似てかわいかったよ?目とか髪とか…」

 

余計にリュウギは赤面した。

 

「か、勝手に人の写真見るなよ!あーっ!!!」

 

「そうそう。朝ご飯はあまあまういんながあったからそれを焼いたやつね。ほら、みんな起こしてきて!」

 

リュウギはしぶしぶ、赤面しながら上の階に向かった。

しかしみんなはすでに起きていた。

 

「リュウギ、どうしたも?」

 

「あーっ!!!ウマ母さんのベッドに乗るなーっ!」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

「おー!すっごく美味しいも!」

 

「ところでさミント。これってどこで買ったの?」

 

「んー?これはへぇー、しょこのたなにはいってたから…」

 

口いっぱいにあまあまういんなを入れながら言った。

 

「えっ…?腐ってなかったですか…?」

 

「焼けば同じだってぇー!」

 

「ももも…」グギュルルルル・・・

 

ウマの腹が鳴り出した。

 

「ちょ、ちょっとトイレ行ってくるも!どこだも!?」

 

「そっち…」

 

リュウギが腹を抱えて指差した。ウマがダッシュで入っていく。

 

「は、早く出てこいよ…!」

 

ミントはそれを見てもあまあまういんなを食べ続けていた。

ツバキは神妙な面持ちでミントを見た。

 

「お前は…大丈夫なのか?」

 

「サルベージャーだしまともじゃない料理も時たま~食べるよ?それにもともと胃は強いほうだし」

 

「腐ってるものも旨くするなんて…!良いのか悪いのか…おい!ウマまだか!」

 

リュウギがトイレの扉をどんどん叩きながら言った。

 

 



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"荒波"

クリスマス過ぎましたね。何もしてませんでした


◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「あー、お腹一杯になったね!」

 

ミントが腹をぱんぱん叩きながら言った。

 

「ウマは昨日の飯も一緒に出しちゃったも…」

 

「あんなに旨くて最悪な料理は初めてだ…」

 

ウマとリュウギの二人は少し顔色を悪くしながら家を出た。

 

「俺達ブレイドは排泄…なんてあまりしないが」

 

「なんとなく悪いものを食べたという感じはします」

 

アスカとツバキの二人が言った。

 

「そんなにヤバかった?ごめんね。いつも自分の調子に合わせて作っちゃうもんで」

 

「まぁ、悪い才能ではないと思うけど…」

 

リュウギがつぶやいた。

 

「さて!みんな出発の準備は整った?」

 

ミントが大声を出すと、全員ポーチやら鞄を取り出した。

 

「セイリュウさん!一日ありがとうございました!」

 

「なんじゃ?もう行ってしまうのか?」

 

「ここにずっと居るわけにもいかないしさ。俺達にも目的ってものがあるし」

 

リュウギがいまだに腹を抱えながら言った。

 

「寂しくなるのぉ。まぁわしは昼以外はずっとここにおるから、たまに顔を見せにきてくれよ」

 

「セイリュウさんはお昼何をなさっているのですか?」アスカが聞いた。

 

「そりゃあ運動に決まっておるじゃろ。ずっとここにいたら体がなまってしまうからな」

 

セイリュウが答えた。

 

「じゃあひいじいちゃん、また」

 

「おう。気を付けるんじゃぞ」

 

一行は船に乗り込み、ミントとウマとリュウギはセイリュウに腕を振りながら別れた。

 

 

 

「で、どこに向かう?」

 

ツバキが聞いた。

 

「少なくともグーラとスペルビアには行けないな…」

 

「お尋ね者だしね。」ミントが答えた。

 

「そういえば、リュウギ達って何が目的なんだも?」ウマが聞いた。

 

「世界樹に行くんだ。俺の父さんが昔居なくなって…」

 

「私はリュウギに助けてもらったから恩返しついでに世界樹の道案内…だったんだけど、世界樹に行くには通行手形が必要だのなんだので…」

 

「俺はミントのブレイドだからついて行ってるだけだ。」

 

ツバキがそっけなく行った。

 

「ウマはどうするの?研究所は…スペルビアにはウマも戻れなさそうだけど」

 

「ああ。ウマには助けてもらった…けど、あんまり巻き込みたくないしな。」リュウギが言った。

 

「ウマは…」

 

ウマがうつむきながら言った。

 

「ウマには…その…あの研究所以外、帰るところがないんだも」

 

「帰る場所が?」ミントが聞いた。

 

「はい。ウマには昔いろいろと…」アスカが言おうとしたが、ウマに止められた。

 

「そのことは今言わなくてもいいも!ウマにとってはあそこが居場所なんだも。そこに帰れないなら、リュウギ達に着いていくしかないも。」

 

「そう…なんだ」ミントがうつむいて言った。

 

「ってわけでウマの心配はしなくていいも!リュウギ達のお手伝いするも!」

 

そう言った途端、突然大きく船が揺れた。

 

「何だ!?」

 

運転をしていたツバキが言った。

 

「嵐!?でも雨雲なんか空には…」

 

リュウギが上を向きながら言った。海を見てみると、波がとても荒くなっている。

 

「まずいも!船の中に水入ってきてるも!」

 

「ちょっと待て!俺がなんとかする!」

 

リュウギが大剣の文字を「水」に変え、海の水をしずめようとする。

 

「ダメです!効きません!」アスカが船にしがみつきながら言った。

 

「クソッ、駄目か!」

 

船の中に水が大量に入ってきていて、ところどころからギシギシという音が聞こえる。

 

「まずい!このままじゃ壊れ…」

 

ミントがそう言った途端、船が破壊してしまい、全員海に投げ出され荒波にもまれて流されていった。

 

「ミントー!ウマ―!…」

 

そうリュウギは叫んだが、あえなく波にもまれ沈んでいった。

やがて荒波はもとの穏やかに海に戻った。それを見て静かに、誰かが笑った。

 

「これで計画が楽に進むといいのだが。」

 

そう言うと、その人物は持っていたサーベルを腰に据えた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

『ママ、あれって何?』

 

『傭兵団だよ。依頼とかそういうのを受けて、ドライバーの人たちが仕事をするんだ』

 

『すごーい!』

 

『傭兵…なんだか、あの人のこと思い出すなぁ』

 

『あの人?誰?』

 

『かつて私たちのために命を賭けて守ろうとしてくださった、この傭兵団の元団長です』

 

『そうそう。体デカくて顔も怖かったけど、いい人だったな』

 

『ねぇ、リュウギ』

 

『何?』

 

『私はね、ずっと後悔してるの』

 

『どうして?』

 

『助けられる命を助けられなかった。 だからこそあなたに言いたい。

――――――救える命があるなら、救ってあげて。』

 

 



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"フレースヴェルグ傭兵団"

明けましておめでとうございます。今年も良い年になるといいですね。気が早いですがE3が楽しみです


 

 

「母さん…」リュウギは目の前の人の頬に触れた。

 

「わ、私はあんたの母さんじゃないよ!!」

 

ミントが手を振りほどき、顔を赤くして大きく後ずさりした。

 

「なんだ、ミントか」

 

「“なんだ”って何よ“なんだ”って!」

 

ミントは怒って腕を組んだ。

 

「なかなか起きないから心配してたってのにぃ・・・」

 

「ああ、ごめん」リュウギは頭を下げた。

 

「ま、無事で良かったよ」

 

「ところでツバキとかは・・・」

 

「俺ならここだが」

 

ツバキががばりと立ち上がった。

 

「あぁー、居たんだ」

 

リュウギが言った。ツバキはムッとした顔をした。

 

「ところでここは・・・」

 

リュウギがそう言うと、ミントが突然ライトを照らした。

 

「暗いところでしっかり照らせるんだ。」

 

「明るくなったけどどこだか・・・。そういえばウマ達は?」

 

「分からないの。このあたり探して見たんだけど見つからなくて・・・」

 

「ここには流れつかなかったか・・・無事だといいけどな。」

 

「まだ奥の奥までは調べてない。いるかもしれないだろ?」

 

そう言ってツバキは奥へと歩き出した。

 

「あっ、一人で勝手に行かないでよ!」ミントとリュウギが走ってついていく。

 

 

しばらく歩くと、暗いのはだんだんと無くなり、不思議に壁や植物が光っている洞窟のようなところへ出た。

 

「うーん、なんだか見覚えあるんだけどな・・・」リュウギが腕を組んであたりを見渡す。

 

「来た事あるの?」

 

「ああ。昔母さんと来たことが・・・」

 

すると、突然上の方から声がした。

 

「お?あんなところに遭難者か?」

 

突然二人の強面のドライバーがブレイドを連れて降りてきた。

 

「誰!?」ミントが身構えた。

 

「なぁに、悪いようにはしないさ。あんたらここで迷ってんだろ?」男の一人が言った。

 

「迷ってるというか・・・迷い始めたというか・・・」リュウギが答えた。

 

「ならブレイド含めて3人ご案内!」

 

 

3人は二人のドライバーにつられて、さらに洞窟の奥へ進み始めた。

 

「大丈夫?なんか怪しくない?いきなり囲まれていやらしいこととかされない?」

 

ミントがひそひそとリュウギの耳元でささやいた。

 

「お前にはいやらしいこととか考えないだろ。」

 

「しっつれいね!私だって一応女…」

 

「どうやら着いたみたいだぞ?」

 

ツバキが言うと、二人とも静かになった。

開けた場所にいくつものテントとお店が立ち並び、たくさんの人がそれぞれに暮らしている様子が見て取れる。

 

「ここって・・・村?」

 

「ああ。しかも傭兵団の村だ!」

 

リュウギが突然二人のドライバーを追い越し、村の奥へと進んでいく。

 

「あっ!いきなり走り出さないでよ!」

 

リュウギがしばらく走ると、目の前に赤い鳥のような姿をしたブレイドが現れた。

 

「おいおいリュウギ!お前が来るだなんて聞いてないぞ!」

 

「久しぶりだなスザク!」

 

リュウギはそのスザクという鳥にようなブレイドと握手を交わした。

 

「そのー・・・お知り合い?」ミントが聞いた。

 

「ああ。ここはフレースヴェルグ傭兵団だ。昔っから時たまお世話になってたんだ」

 

「フレースヴェルグ・・・あの一番人気の!?傭兵団!?」ミントが驚いた。

 

「ってことは…ここはインヴィディアだ!」

 

「その通りだ。お嬢ちゃんいきなりドライバーさんに脅されて怖かったろ?」スザクが言った。

 

「そりゃあ強面の男がいきなり現れたら・・・」

 

ミントは体を抱きながら言った。

 

「というかリュウギ、こんな大傭兵団と友達なんて意外と人脈広いんだね~」

 

「って言ってもここくらいしか知り合いはいないけどな…」

 

リュウギが頭をかきながら言った。

 

「ところで、何の用があってここに来たんだリュウギ?」

 

「実は海で荒波に飲み込まれてさ。気付いたらインヴィディアに」

 

「それは大変だったな。まぁとにかく今はこの村でゆっくりするといい。」スザクが言った。

 

「ところで、ノポンもここに流れ着いてこなかったか?」リュウギが聞いた。

 

「ノポンねぇ。ついさっき一匹来たぜ。」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ももーっ!離すも!ウマは美味しくないも!」

 

「あっ!ウマ!」ミントが叫んだ。

 

「ああーっ!ミントにリュウギ!助けて欲しいも!野蛮な人たちに食われるも!」

 

「別に食べようとしてるわけじゃなさそうだけどな・・・」リュウギが言った。

 

たくさんの子供達がウマをふかふかと触っていた。

 

「これ見てもそう言えるも!?子供達がウマのことを食べようとしてるんだも!アスカは見てて助けてくれないんだも!!!」

 

「はいはい。今助けますよ」

 

ミントが子供達を離した。

 

「はー、死ぬかと思ったも!」

 

「ありゃどう見てもじゃれあってるようにしか見えなかったけどな・・・」

 

「いや、すみません。私にはちょっと手が負えなくて。」アスカが奥から現れた。

 

「ウマが波に飲まれて気絶しているときにサウラーに食われる夢を見たらしく・・・」

 

「ほんと怖かったんだも!!!」

 



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"影"

冬休みも終わりですね。新学期は欝です
今年なにかゼノブレイド2に動きがあって・・・欲しい!


◇◇◇◇◇◇

 

インヴィディアのフレースヴェルグの村で休むことになった一行。ミントたちは酒場ヴァーゲルでテーブルを囲っていた。

 

「ミント達未成年なのにお酒飲んでいいのかも?」

 

「これはお酒じゃなくてセリオスティーっていうの。この味結構好きなんだよねぇ~」

 

と言いながらミントはテーブルに肘をつきながら飲んだ。

リュウギを除いた4人でテーブルを囲み、談笑していた。リュウギはというと隣の宿屋でスザクと話していた。

 

「そう…なんだ。」

 

リュウギはうつむいたまま宿屋から出てきた。

 

「んー?リュウギどうしたの暗い顔して?」

 

「スザクに聞いたんだ。母さんここに来なかったかって」

 

「それで?」ミントが聞いた。

 

「来たには来たらしいんだけど、数ヶ月も前なんだってさ」

 

「そうなんだ…」ミントはセリオスティーを口に運んでから言った。

 

「それでここ。インヴィディアの首都のフォンス・マイムに行ったんだってさ」

 

「・・・それでさミント」リュウギが重々しい表情で言った。

 

「どうしたの?」

 

「母さんの件は世界樹に行くことと関係無いし、それにミント達には俺のせいで厄介なことに巻き込んだし・・・だから・・・」

 

「もう、着いてこなくて大丈夫だって思ったんだ」

 

「はぁ・・・」ミントがため息をついてカップを置いた。

 

「言っときますけど、私もあんたと一緒でスペルビアに指名手配されてるの。」

 

「だからさ、アヴァリティアとかに帰って普通にサルベージャーとして暮らしてて欲しいって…」

 

「…私とは居たくないの?」ミントが少し涙目になって言った。

 

「いや、そういうことじゃなくて・・・」

 

ミントは立ち上がってリュウギに近づいた。

 

「最初に言ったでしょ。命を助けてくれたから恩返しするって。」

 

「だから世界樹行くことに関係あろうと、迷惑かかろうと、死ぬことに比べたら屁でもないって!」

 

「ミント・・・」

 

「それにあんた一人じゃ不安だしさ。どちらかと言うと人見知りだしねっ!」

 

そう言ってミントはリュウギの腹に一発殴りを入れた。

 

「グフォッ!?」

 

「やっぱり私みたいなのが居ないとまだひとりぼっちの旅になっちゃうと思うしね!」

 

それを後ろから見ていたウマとアスカは咳払いをした。

 

「それじゃ、明日はフォンス・マイムまで行く?」

 

「え?ああ・・・母さんもまだ居るかもしれないし・・・たぶん。」

 

「それじゃあ明日の出発に向けて出発!」

 

「残念だが、フォンス・マイムに今行くのは難しいだろうな」

 

突然、後ろから黒い豹のようなブレイドを連れた傭兵が現れた。

 

「えっ?どうして…って!?」

 

「よぉ、久しぶりだなミント」

 

「あんたは・・・」リュウギが腕を組んで考えた。

 

「誰だっけ?」

 

その傭兵はずっこけた。

 

「いやいや!お前らをスペルビアまで送ってやっただろ!?」

 

「リリオ!どうしてこんなところに!?」ミントが言った。

 

「あー、言われたら思い出したわ」

 

「誰だも?」ウマとアスカが頭をかしげて言った。

 

「あんまり役に立たない傭兵っていうか・・・でも優しい人では・・・あると思うよ?」

 

ミントがウマたちにひそひそ言った。

 

「おいおい、聞こえてるぞ」リリオが言った。

 

「まぁ、私としても役に立たないってのはその通りだと思うんだけど。」リリオのブレイドが喋った。

 

「役に立たないとはなんだ!?本気出したらアルスト最強クラスだぞ!?」

 

「そうなんだぁ・・・」ミントが冷たく言った。

 

「全く・・・せっかく俺がフォンス・マイムへの道開いてやろうと思ってたのに・・・」リリオが腕を組んで言った。

 

「それで、フォンス・マイムへの道がないってのはどういうことなんだよ?」リュウギが言った。

 

「行く途中までの地面に崩落してるところがあってな。大ジャンプか浮かんだりでもしない限り先には進めない」

 

「だから俺がこの土属性の相棒、クロヒョウと一緒に道を直してやろうと思ったんだけどなーどうしよっかなー」リリオが上を向きながら言った。

 

「ところでリリオはどうしてここにいるの?」ミントが聞いた。

 

「ちょうどその壊れた道のところでモンスターと戦っててな。俺があまりにも強すぎたからぶっ壊しちまって・・・」

 

「あんたのせいじゃないかも!」ウマが言った。

 

「それから足を怪我してて一週間ここに滞在してたんだ。元から直すつもりだったしな」

 

「どちらにせよ、直さないとフレースヴェルグの人達には不便じゃない?」

 

「あぁー・・・確かにそうだな」リリオがうなずいた。

 

「とにかく、俺たちは明日出発だからまだいいよ」リュウギが言った。

 

「俺も明日直すつもりだった。足がまだ不調子だし・・・」リリオが足を掴んで言った。

 

 

「おいアニマの傭兵、バイトの時間もう5分過ぎてんぞ」

 

スザクが空から羽ばたいて現れた。

 

「ああーっ!そういや忘れてた・・・じゃあまた明日な!」

 

「ではみなさんごきげんよう。」

 

リリオとクロヒョウは走って村の奥へと消えていった。

 

「まさかアイツがここに居るだなんてねぇ」ミントが言った。

 

「ま、道直してくれるって言ってたし・・・」リュウギが腕を組んで言った。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

「あらアルジェント。帰ってきたの?」

 

「せっかく戦地に行って設計図取ってきたんだぜ?ガーンはどこにいる?」アルジェントは奪っ

 

てきた設計図をひらひらさせながら言った。

 

「ガーンなら奥の部屋よ。」ふかふかの椅子に座りながらアリアが言った。

 

アルジェントは感謝は言わず笑顔を見せて奥へと向かった。

 

「ところでアルジェント?」アリアが言った。

 

「どうやらボスが“ターゲット”を見つけたらしいわ。どこにいるかは分からないらしいけど」

 

「なるほど・・・」

 

「ところでどうしてボスは・・・ターゲットを狙ってるのかしら?」アリアがアルジェントを見て言った。

 

「なんだ?知らなかったのか?」アルジェントは軽蔑したように言った。

 

「全ては“新たなる聖杯”―――そのためだ。まぁボスが言ってないってことはお前らにはまだ早いってことだ。」

 

「それどういう意味かしら?」

 

「さぁな?俺達の目的はこの世界を手に入れること・・・そこに辿り着くための方法なんて知らなくてもいいだろう?とりあえず今はボスに任せておけばいい。」

 

「はいはい。めんどくさい新入りだこと。」

 

アルジェントは背中を向けたままアリアの前から姿を消した。

 

「アリア、ツナヨシから伝言だ」

 

奥から何本もの腕を持つブレイド・・・ラゴウが現れた。

 

「あの女の居場所が分かったと。」

 

「じゃ、そろそろ行きましょうかね・・・」

 

アリアは部屋を出て、黒い巨大な船に向かった。

 

 

 



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"マジもん"

冬休みの宿題が終わってないです。なんてこった・・・



◇◇◇◇◇◇

 

その日の夜は珍しくミントの手料理ではなかった。ミントは自慢の腕が振るえないことに少し不満げな様子だった。

そして翌日。全員準備をしてから宿屋を出た。

 

「じゃあスザク、行ってくるよ」

 

「また暇があったら顔出しに来いよ」

 

「ああ。」

 

そう言って全員はフレースヴェルグの村を後にした。

しばらく進むと、リリオが言っていた崩れた道を見つけた。

 

「これがリリオが壊したっていう・・・」ミントが道をかがんで見た。

 

「想像以上にぶっ壊れてるも。近づいたらこっちの足場もぶっ壊れそうだも!」

 

ウマがそう言って後ろに下がった。

 

「なんだお前ら、来るの早いな」

 

後ろからリリオとそのブレイドが現れた。

 

「さて・・・ここで俺達の絆の力を見せるとするか!」

 

「しょうがないわね」

 

クロヒョウはしぶしぶといった感じでリリオに近寄った。

 

「道よ、元に戻れェーッ!」

 

リリオはツインリングを天にかかげ、土の力をこめて放った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・何も起きないぞ?」

 

ツバキが言った。

 

「あれ?おかしいな・・・土の力よ!」

 

何も起こらない。

 

「なぁクロヒョウ、なんでだと思う?」

 

「単純に私一人の力じゃちょっと無理だってことよ。」

 

「そんな・・・」リリオがうつむいた。

 

「土の力があればいいんだも?」ウマがツインガンを手にして言った。

 

「まぁ、一体じゃ無理なら2、3体でやらないといけないからな・・・」

 

「なら、俺たちも手伝おう」

 

ツバキがミントにナックルクローを手渡した。

 

「え?何するって?」

 

「今コイツがやったようにするんだ。難しいことじゃない」

 

リュウギ以外が全員崩れた道の前に立った。

 

「じゃあアスカ、土の力お願いするも!」

 

「了解です!」

 

「ではいくぞ・・・」リリオが力を溜めている。

 

「「土よ戻れーッ!」」

 

「つ、土よ戻れぇー・・・」ミントが少し恥ずかしげにしながら叫んだ。

 

すると、崩れていた道はみるみる元通りになり、頑丈な土の橋になった。

 

「おぉー!」リュウギは拍手した。

 

「はぁー・・・あんなこと言うなんて恥ずかし恥ずかし・・・」

 

ミントが顔を真っ赤にしながら顔を叩いた。

 

「初めてにしてはなかなか上手かったぜ?」リリオが肩を叩いた。

 

「別にあんなセリフ言わなくても良かったんじゃないの?」

 

「まぁ・・・気合を込める為だ。無言でやるより良いだろ?お前らだってアーツ放つときは技名言うだろ?」

 

「それとこれとは別だって!」

 

「ま、面白かったからいいんじゃない?」リュウギが直った橋を渡りながら言った。

 

「お、面白かった!?」ミントが走って追いかけた。

 

「いやぁ…若いっていいよな」リリオが腕を組んでうんうんとうなずきながら言った。

 

「リリオの兄ちゃんは何歳なんだも?」

 

「次の誕生日で30になる。時間が経つのは早いよな…」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

直った橋を渡り、インヴィディアの奥へと向かう一行。

 

「ずいぶんと開けたとこに来たな」ツバキが見渡していった。

 

インヴィディアの象徴ともいえる光る花びらが舞うその景色はとても美しいものだった。奥には街が見え、それもまた美しい造形だった。

 

「あれがフォンス・マイムかな?」ミントが言った。

 

「その通りだ。なかなか立派な街だろ?ここからでも見えるほど大きい。」リリオが言った。

 

「・・・って、なんであんたまだついてきてるの!?」ミントが驚いた。

 

「フォンスマイムに俺のところの傭兵団の本部があるからな。帰るのはなんだかんだ1ヵ月半ぶりか・・・」リリオが遠くに見える街を見ながら言った。

 

「とにかく。今はフォンスマイムまでまっすぐ進もう」リュウギが言い、全員歩き出した。

 

 

 

「残念だったな、ここから先は通させへんで!」

 

突然フードをかぶった二人組が巨大な亀に乗って岩陰から現れた。

 

「何あれ・・・観光名物?」ミントが指さして言った。

 

「やれやれ、またこいつか・・・」リリオが頭を抱えて言った。

 

「ここから先に進みたけりゃ、有り金・持ち物全部置いていけや!」

 

「極端だも」

 

「だから誰?」ミントが聞いた。

 

「ふん、この顔見たらきっと腰抜かすで・・・」

 

二人組はフードを外した。

 

「ふっ・・・」男はドヤ顔でリュウギ達を見つめた。

 

「だから誰よ?」ミントがばさりと言った。

 

「なんやと!?このワイを知らんやと!?」

 

「はぁー・・・遅れてる。遅れてるわ」隣の女性・・・ブレイドが言った。

 

「ならここで覚えていってもらうで!ワイの名は・・・」

 

「ジーク!」「B!」「(アルティメット)!」「玄武(ゲンブ)!」

 

「と書いてアルティメットと読む!アルスト最強のドライバーや!」

 

「へー・・・」リュウギが一つ知識を覚えたようにうなずいた。

 

「でも亀に乗ってたらなんというか・・・迫力ないよ?」ミントが言った。

 

「それもそうやな」男とブレイドは亀から降りた。

 

「てか、ドライバーならワイのこと知ってるかと思ったんやけどなぁ・・・なぁ、ワイってそんな知名度ないか?」

 

「そうか?ウチはドライバーの中でも有名なほうやと思うで?」

 

「ハハッ!そうよな、そうよなぁ!」ジークという男とそのブレイドが言った。

 

「あのー・・・盛り上がってるところすみませんけど、通させて・・・」

 

「アカン。通りたければこのワイに勝ってみぃ!」

 

男は大剣を見せ付けて威嚇した。

 

「いや、いい」

 

リュウギはそのまま男を避けて進もうとする。

 

「いやちょっと待ちぃや!」

 

二人はリュウギたちの前に再び立ちふさがった。

 

「なんだよ、めんどくさいドライバーさんだね!」ミントが言った。

 

「ところでその巨大な亀なんだも?」

 

「こいつはカメキチ!ワイらのアイドルや!」

 

「ずいぶんとでかいアイドルだな」ツバキが言った。

 

「しかしまぁここまで舐められたらドライバーの名がすたるで!ってわけで言うわ」

 

「いいか、最近のインヴィディアはどうにもモンスターが凶暴で並みのドライバーなんかが進んだらすぐに死んでまうんや。分かるか?」

 

「はぁ・・・」リュウギが小さく答えた。

 

「せやから、せめてこのワイに勝てないと・・・」

 

「フォンス・マイムまで行くのは無理やで!」

 

再び男は大剣を見せ付けて威嚇した。ついでに笑顔も見せた。

 

「うわぁ・・・こいつマジもんだ・・・」リュウギが引いた。

 

「どうする?」リリオがツインリングに手をかけて言った。

 

「来るなら…やるしかない!」リュウギは大剣を取り、構えた。

 

「ほぉ?ようやくやる気になったようやな・・・!」

 

「ほら、カメキチあっちに下がっとき」その男のブレイドが巨大な亀を戦線から下げたところで、戦闘が始まった。

 

 

 



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"極・雷神斬光剣・改"

新学期が始まると鬱
ちなみにこの4話は全部完成しました。とうぶんは失踪しないはず・・・


◇◇◇◇◇◇

 

 

ジークが大きな大剣に電撃を纏わせて振りかかってくる。リュウギは後ろに避け、右から剣を叩きつけるが、大剣で防がれてしまう。

 

「ハッ!その程度かいな!」

 

「こっちにもいるよ!」

 

ミントがナックルで思い切りジークの右頬を殴った。

 

「グフォ!?」

 

吹き飛ばされるが、すぐに大剣を地面に突き刺して止まった。

 

「なかなかやるやないかぁ・・・」

 

ジークは後ろに下がり、ブレイドが前に出てきた。華奢な体なのにこれが振り回せるのか・・・と見るが、大剣の柄の部分だけを取って杖のような形にしていた。

 

「ライトニングフォース!」

 

電気を纏った杖の杖の先から放電させ、リリオ以外吹き飛ばされた。

 

「今の攻撃を受けて並に立っていられるなんて・・・」そのブレイドは驚いた。

 

「へへっ・・・俺はただのドライバーじゃないからな!」

 

リリオはツインリングを思い切りジークに向かって放った。

ジークはブレイドから大剣を受け取り、それを防いだ。

 

「思った以上にやるドライバー達やなぁ!」

 

ジークは大剣を振り、電撃の風を鳴らした。

リュウギ達は腕でそれを防いだ。

 

「しかしこの究極アルティメット技を防げるかぁ・・・?」

 

「究極アルティメット?なにそれ」ミントが笑って言った。

 

大剣をかかげ、今まで以上に強いエネルギーの電気を纏わせた。

 

「轟力降臨!」

 

そしてジークは跳びあがり、

 

極・雷神斬光剣(アルティメット ライジングスラッシュ)・改!!!」

 

そう叫びながら大剣を振り落とす…

 

 

グキィ!!!!

 

「ア゛ア゛ー゛ッ゛!゛!゛!゛」

 

大剣に電撃を纏わせながら、ジークはおぼつかない歩き方になった。

 

「ど、どうしたんや!?」

 

「ア、アカン・・・着地の衝撃で腰を・・・やったわ・・・」

 

電撃の纏った大剣を転びそうになりながらおっとっととぶんぶん振り回す。リュウギたちの近くに近寄り、それをリュウギたちは伏せて避けた。

 

「ぬ…ぬおおーっ!」

 

岸壁に大剣をうちつけ、壁には「極」という文字に小さく「改」と浮かび上がった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・もうワイも年か・・・」

 

壁に手をかけてよりかかり、腰をさすりながら言った。

 

「もう無理してこの技は出さんほうが・・・」

 

「ねぇねぇ・・・それ・・・」ミントが壁に指をさした。

 

「なんや?」ジークが壁を見ると、さっき壁に放った極・雷神斬光剣・改のところにひびが入り、それがだんだんと大きくなり、そして・・・

 

「ぎぃやぁぁぁぁぁ!!」

 

大きく崩れ、ジークとそのブレイドは岩崩れに巻き込まれてしまった。

 

「あれ・・・なんだったの?」ミントがリュウギに聞いた。

 

「さぁ・・・バカなんだろ」

 

4人と4体のブレイドは再びフォンスマイムに向け歩き出した。

岩崩れに下敷きになった二人を無視して。

 

「助けないのかも?」

 

「大丈夫だろ」リリオが言った。

 

後ろに下がっていたカメキチが崩れた岩に近寄り、口先をつんつんとした。

すると突然岩の中から二人の手が飛び出し、フォンスマイムのほうへ指さした。

 

「フォンス・マイムはあっちのほうやで~!」

 

「達者でな~!」ジークが手を振った。

 

「な?言ったろ?」リリオがそれに指さして言った。

 

「ばいばーいだも!」ウマが手を振りかえした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「あんな変なやつもいるなんて、世界も広いよね~」ミントがポーチからあまあまういんなを取り出しながら言った。

 

「いいなー。俺にもくれよ!」リリオがよだれを垂らして欲しそうに見つめた。

 

「はい。一本だけね」

 

「おーセンキュー! お前らはいらないのか?」リリオがリュウギたちを見て言った。

 

「いや、俺達はいいや・・・」

 

「ウマ達、あまあまういんなには良い思い出が無いんだも・・・」

 

「こんなに美味しいのにか?」リリオがあまあまういんなをかじりながら言った。

 

「美味そう・・・なんだけどな」リュウギがあまあまういんなを見つめて言った。

 

 

リリオが3度目にあまあまういんなを口に入れた瞬間、遠くから女性の叫び声が響いてきた。

ミントはポーチを閉じ、声の聞こえたほうへ走り出した。

しばらく走ると、一人のドライバーとブレイド、そしてその後ろには一人の緑の髪の色をした女性が。6体のシュリブに襲われていた。

 

「大丈夫ですか!?」ミントが遠くから叫んだ。

 

「よし、ここは助太刀しよう!」リリオがツインリングを手にし、女性達の下へと走っていった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「これで全部か」

 

リュウギがシュリブの頭部に一刀し、シュリブ達は全滅した。

 

「大丈夫ですか?」ミントが倒れた女性に手を差し伸べた。

 

「ありがとう・・・」

 

リリオが女性をさきほどまで守っていたドライバーに声をかけるが、そのドライバーはリリオのほうを向かなかった。

 

「なぁ、許してくれよ。色々事情があったんだよ」

 

「お前のその事情のせいで、アニマ傭兵団は俺とナルマさんしか居なかったんだぞ!?」

 

ミントはそれを見てため息をはいた。

 

「全く・・・」男は腕を組んでふてくされた。

 

「はぁ・・・」リリオもため息をはいた。

 

「お姉さん、お名前は?」ミントが女性に聞いた。

 

「私はイオン。あなたは?」

 

「私はミント。ここからフォンスマイムまでは危険らしいし、同行しますよ」

 

「ありがとう。助けてもらった上に・・・」イオンは頭を下げた。

 

「ところで、そこのドライバーさんは誰だも?」

 

「あぁ、こいつはリクス。俺の所属するアニマ傭兵団の仲間だ。」

 

「とにかくリリオ。フォンスマイムに着いたら3人でお前の今後について話し合うからな。」

 

「はいはい・・・」リリオは下を向きながらうなずいた。

 

「・・・リリオも大変なんだな」リュウギが言った。

 

「傭兵ってのは楽な仕事じゃないからなぁ・・・」

 

 



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"フォンス・マイム"

まだまだ冬も寒いですね。そういえばこの冬、東京はまったく雪が降りませんでした。
それはそれでなんか悲しいですね。


 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

フォンス・マイムへの道中はなかなかに大変なものだった。10人で歩くとなるとそれだけ道幅を歩くのも大きくなり、モンスターにも襲われ続けた。

 

「どうしてイオンさんは傭兵雇ってあんなところに居たんだも?」

 

「あそこまでいかないとインクロナナフシって虫が見つからないから。劇場で働いてて、そこのオーナーさんが必要だっていうから」

 

「イオンさん劇場で働いてるんだ」ミントが言った。

 

「幼い頃からそこの劇場の人にお世話になっててね。今はその人亡くなっちゃったけど・・・大事な劇場なんだ」

 

「俺も昔何回か見たことがあるな。なかなか面白かったぞ」リリオが言った。

 

「アニマ傭兵団ってフォンスマイムにあるのか?」リュウギが聞いた。

 

「ああ。ドライバーになってどうしようか迷っててな。すぐにアニマのナルマさんからスカウトされたんだ」

 

「だというのに数ヶ月も居なくなるなんてな」リクスが横で言った。

 

「だから色々と事情があってさ・・・」

 

インヴィディアの幻想的な風景など目もくれず、ただただ岩の道を進んでいく。すると階段が目の前に現れた。

 

「ここから先がインヴィディアの首都、フォンス・マイムだ。」リリオが足を止めて言った。

 

たくさんの農産物がとれるセースロア水田を抜け、正門を抜けると、そこにはお店が立ち並び、人々が夕飯のために買い物をしている。

 

「さて。リリオ行くぞ」

 

リクスはリリオの耳を引っ張り、歩き出した。

 

「いてて・・・そんな乱暴にすんなよ」

 

「じゃ、リリオばいばーい」ミントが手を振った。

 

「じゃ、また今度ね」クロヒョウがそう言って、リリオの後についていき人々の中へと消えていった。

 

「ここまで連れてきてくれてありがとう。これはお礼ね。」

 

イオンがポケットから劇場のチケットを渡した。

 

「一枚で10人分なの。もしも他のところに行くことがあったら、最後でもいいから見に来てね。」

 

「そんな、お礼だなんて・・・」

 

「せっかく助けてくれたんだから・・・ね?じゃあ私はここで。見に来てね!」

 

そう言うと、イオンは待ちの奥へと走っていった。

 

「行っちゃった・・・」

 

「しかし、結構人がいるなぁ・・・」リュウギがあたりを見回して行った。

 

「あっ、お母さん探すんだったね。じゃあまずは情報収集だね。」

 

「その前にまず宿を探すも。疲れて歩けないも!」

 

「なんだぁウマ?あの程度でもうへこたれたのか?」ツバキが言った。

 

「ノポンはブレイドと違って疲れやすいんだも!」

 

「どうするリュウギ?」ミントが聞いた。

 

「宿を探してから。その後に情報収集だな」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「フフフ・・・とうとうできたぞ!!今回のは最高傑作だッッッ!!!!」

 

暗い部屋で机に向かいながら一人の男が叫んだ。

 

「ツナヨシさん。インクロナナフシ持ってきましたよ」イオンが扉を開けて入ってきた。

 

「ありがたいが・・・少し一人にさせてもらえないか?僕はこれまでにないぐらい最高の脚本が書けた・・・!コールさんもきっと天国でこれを見て感動して涙をちょちょぎれさせていることだろうなぁ!!あーっ!僕の才能は素晴らしいッッ!!」

 

「ここ。置いておきますよ」イオンがインクロナナフシの入った袋を机の上に置いた。

 

「脇役どもめ・・・僕のことをつまらないだと?ふざけるなァァ!!だがこれはつまらなくなんてない・・・最高の・・・最高のストーリーだァァァ!!!」

 

イオンは叫ぶツナヨシを横目に見ながら扉を閉めた。

 

「全く。うるさい脚本家だよな」男がイオンに話しかけた。

 

「でも、あの人のおかげでこの劇場は続けてこれたし・・・」

 

「でも、あんたもそろそろ限界じゃないのか?」

 

「えぇ・・・でも・・・」

 

 

 

 

 

「これは劇場でやるにはもったいない・・・そうだ。カラムの遺跡・・・」

 

「ねぇねぇ!また新しい物語ができたのォ?」奥から一体のブレイドが現れた。

 

「あぁカムイ。今度のは最ッ高・・・傑作だよ。」

 

「僕達の時代が、すぐそこに・・・!」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「うーん・・・」

 

リュウギが宿屋のソファに座り、テーブルとにらめっこをしている。

そこにミントが現れ、リュウギの隣に座った。

 

「宿屋の人たちに一通り聞いてみたけど、お母さんらしき人は見かけてないってさ」

 

「そうか・・・」

 

リュウギは目をつむり、少し考えた後に口を開いた。

 

「やっぱり、お母さんはもうインヴィディアには居ないのかな」

 

「どうだろうね・・・そもそも、まずその人を見かけたことが無いって人が多くて」

 

「・・・そもそも、ここフォンス・マイムに来てない?」

 

「まさか、ここまで来る間にモンスターにやられたとかも!?」

 

「まさか。お母さんはモンスターに襲われて死ぬような人じゃない。」

 

リュウギはきっぱりと言った。

 

「となると、別のところへ行ったとか・・・」アスカが言った。

 

「目的を元に戻そ。世界樹まで行く方法、探そう」ミントが言った。

 

「・・・そうだな。」リュウギが言った。

 

「ま、一応明日も探して、居なかったら世界樹への行き方を調べよう」

 

「世界樹への行き方・・・」リュウギがうつむいた。

 

「こっそり船に乗るとか?」

 

「さすがにスペルビアに手配されてる上にそれはリスク大きくないか?」

 

「あー・・・確かに」

 

「明日のことは明日のことだも!そんなことよりお腹空いたも!」

 

「そうだね。じゃあ今日の料理当番は私!」ミントが胸を叩いて言った。

 

「ウマは遠慮するも・・・」

 

「ウマは勘違いしてるって!今日こそ本当に私が料理上手なこと教えてあげるから!」

 

「俺達はミントみたいに胃強くないからさ。腐ったのだけだけはやめろよ?」

 

「まったく軟弱な男達・・・」ミントは深いため息を吐いた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

夜も明け、インヴィディアの巨神獣に朝がやってきた。しかし早朝は人の数も少ない。

うっすらと朝の霧がかかっている。

リュウギは早く目が覚め、ふと外を散歩しようと思い立ち宿屋の外へと足を進めた。

 

「なんか不思議・・・だなぁ」

 

意味も無く、人気のないフォンス・マイムをただただ歩いていた。

しかし、しばらく歩くと男達の声が聞こえてきた。

建物の裏でトレーニングにはげんでいた。おそらく傭兵だろうか。

 

「アニマ・・・いや違うか」

 

インヴィディアはもともと巨神獣の中の国だからか、アルスト大陸が生まれる前とは大きく変わっていないのだという。しかし、アルスト大陸と地続きになったからなのか、以前よりも人の数は多いらしい。

 

「っていうけど・・・本当なのか?」

 

しばらく歩いていると、男の怒鳴り声が突然響いた。

 

「どういうことやねん!金払われんて!」

 

「せやで!ウチら古毛布にくるまれながらも旅人待っとんたんやで!」

 

先ほどのアルスト最強のドライバーが一人の男と口論をしている。

 

「そんなこと言われてもなぁ・・・あんたたちがそこで旅人を待ってる間、こっちの商売が十分潤ったんだ。もう仕事はない。」

 

「なんやと!?このジーク・B・(アルティメット)・玄武様を敵に回すとはいい度胸しとるやないかぁ!」

 

「やめなって!腰治ったばっかでそれ持ったら・・・」

 

ジークが大剣を持った瞬間に崩れ落ちた。

 

「ア、アカン・・・まだダメや・・・」

 

「ま、他のバイト探しなー?」

 

男はそう言って去っていった。

 

「あいつも大変なんだな・・・」リュウギは横目に見ながら歩き去った。

 

その後、フォンスマイムの掲示板に足を進めた。そこに一つ、気になる貼り紙がされていた。

「天の聖杯の伝説!アルスト再生物語!」

 

 



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"パジェナ劇場"

前書きがなんか余談みたいになってきてるなぁって

ゼノブレイド2も3回ぐらいクリアしたのでそろそろ1作目のほうを二回目クリアとかしてみたらいいかなーって


◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「気分転換にこれを見ようと?」ミントが貼り紙を見ながら言った。

 

「あぁ。イオンさんからチケットもらっただろ?母さんも居ないみたいだし・・・さ」

 

宿屋のソファに座りながら言った。

 

「アルスト再生物語・・・ですか」

 

「天の聖杯って、お話でしか聞いたことないも」

 

リュウギはふと自分の大剣に目をやった。

 

「天の聖杯か・・・」

 

「神が生み出した伝説のブレイド・・・」ミントがつぶやいた。

 

「なんだそれ?」ツバキが言った。

 

「この前トラさんの研究所にあった本にブレイドのことが書いてあって。思い出したの」

 

かつてこの世界を滅亡の危機へと陥らせた存在、そしてその世界を救済した存在。

20年前に目覚め、この新生アルストを作り出したと言われる天の聖杯は再び伝説の存在となっていた。

 

「しかし天の聖杯だなんて実在するのか?」ツバキがぶっきらぼうに言った。

 

「うちの師匠が見たことあるって言うから実在するも!これは保証するも!」

 

「実在するとしても今どこで何してんだかな。そのドライバーさんも」

 

「それを知るために今から劇場行くんじゃない」ミントが言った。

 

「ウマ、見たことないから楽しみだも!」

 

「そろそろ始まる時間らしいし、レッツゴー!」

 

ミントがチケットを持って劇場のほうへと走り出した。

 

「おっ、おい待てよ!」ツバキが言い、全員走り出した。

 

 

 

「パジェナ劇場…ここかぁ。」ミントが見上げて言った。

 

他と同じインヴィディア式の建物で出来ていた。ところどころにひびが入っていたりツタがのびているところからその年季も感じられた。劇場にはアルスト再生物語のポスターがいたるところに貼られていた。もうすぐ開場だと言うのに劇場に足を運ぶ客はほんの数人しかいなかった。

 

「なかなか古い建物だな。」ツバキが言った。

 

「そろそろ開演だも!早く行かないと見れなくなるも!」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

「もうすぐ始まるってのに・・・人が少なくないか?」

 

「う~ん・・・時間的にもまだ昼だしね。夜とか人が多いんじゃない?」

 

劇場のざわめきは開始のベルと共に止んだ。

明かりに照らされ、ステージに仮面を被った男が現れた。

 

「おぉ、神よ!このアルストはこのまま、滅び行く運命なのか!いや、私は違うと信じている!かつてこのアルストを救ったあの英雄アデルのように、再びこの世界が救われると!」

 

そのセリフの後、ワイヤーに吊られているのか、緑色の光を帯びた服を着た仮面の女性が降りてきた。

 

「あなたはかつてこの世界を救ったという天の聖杯!この世界には再び、滅びの危機が迫っている!あなたの力を貸してはくれないだろうか!?」

 

天の聖杯と呼ばれたその女性は男性の手をそっと取った。

 

「ほぉー・・・」ミントが感心しながら見ていた。

 

「天の聖杯・・・ねぇ・・・」

 

「ねぇ、リュウギは・・・」

 

ミントがリュウギのほうを向くと、いびきをたてて眠っていた。

 

「寝るんかいっ」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ふあぁぁ・・・宿屋より寝た気がする」

 

劇場から出て、すぐ近くのベンチに座っていた。

 

「自分から誘って寝るの?」ミントが言った。

 

「でもさ、退屈じゃなかったか?」

 

「確かに想像以上につまんなかったけど・・・マル・・・なんだっけ?それが出てきた所はそこそこ面白かったよ」

 

「俺ほとんど寝てたからなぁ・・・」

 

「ウマもあんま面白くないと思ったも。でも寝なかったも!」

 

「俺も寝てたからな」ツバキが言った。

 

「私はじっくり見てましたが」アスカが言った。

 

「うーん、チケットが無料だったからなんか良かったものの・・・」

 

「おや、僕の脚本に何か文句があると言うのですか?」

 

劇場の奥から赤ぶち眼鏡の青年が現れた。

 

「全く。僕の素晴らしい脚本を分からないとは・・・とんだ愚民も居たものですね」

 

「ちょっと!いきなりお客さんにそれはないんじゃない?」

 

ミントがつっかかった。

 

「これ以上の批判は許しませんよ。劇場にお客が入らなくなったらコールさんから受け継いだこの劇場が続かなくなりますから」

 

男が鼻をかけて言った。

 

「まぁまぁ!お客さんにそんなこと言わないで!」

 

間にイオンが割って入った。

 

「しかしこの子たちは劇場の批判を・・・」

 

「批判は受けるもの。ね?今は新作で忙しいんでしょ?」

 

「あぁそうだな・・・今度は今までのを越える傑作だ!誰にもつまらないと言われないほどの!」

 

「そうなの・・・」イオンは冷たく返事した。

 

「確かに、こんな人たちに構っている暇はないな。部屋で完成させてくるとしよう!」

 

男は劇場の奥へ走り去っていった。

 

「ごめんねミントちゃん。あの人ちょっと気難し屋で・・・」

 

「気難しいというレベルではないと思うが・・・」ツバキが冷たく言った。

 

「イオンさんも大変だね。あの人の下で働いてるんですか?」ミントが質問した。

 

「えぇ。この劇場は大事なおじいちゃんから受け継いだものなの。あの人が今は支配人みたいなもので、あの人のおかげでこの劇場は存続している形で。」

 

「それで、あの人は?」リュウギも質問をした。

 

「彼はツナヨシ。前にこの劇場に勤めてたコールって人の弟子なの。」

 

それからイオンはツナヨシについての説明をベンチに座り、始めた。

 

「20年ぐらい前にこの劇場の公演を見て感動して、それでコール・・・おじいちゃんの弟子になりたいって懇願したの」

 

「おじいちゃんは当時もう先も長くなかったから、最後に弟子を取るのに躊躇はなかったの」

 

「それでツナヨシは劇場に通いながらおじいちゃんにお話の作り方とかを学んだの」

 

「ツナヨシはとても良い子だった。おじいちゃんのためになんでもしてくれたし、同じぐらいの年の私の遊び相手にもなってくれた」

 

「本当にツナヨシはおじいちゃんを心から尊敬してたの。だからその分、おじいちゃんが亡くなったときのショックがとても大きかったの」

 

「それから段々、彼は変わりはじめていって、知らないうちにブレイドと同調したり・・・」

 

「彼はコールさんに教えてもらったとおりにやってる。自意識過剰だと思われるけど、彼はまるで批判をおじいちゃんへのものだと思ってああなってしまうの。」

 

「そうなんですか・・・」ミントがうなずいた。

 

「だから・・・ごめんね。」

 

「いや、いいんです。どちらにせよ、忙しくてあんまり来れないですし・・・息抜きみたいなものですし」

 

「そうだよね。でも来てくれてありがとう。」イオンが少し頭を下げて言った。

 

 

「おーい!そこのサルベージャーの女の子!」突然インヴィディア人の男が走ってきた。

 

「あの人は昨日の・・・」

 

「君が言っていた人、さっきそこで見かけたんだ!」

 

「ええっ!?」ミントが驚いた。

 

「昨日言っていた人?」リュウギがぽかんとしている。

 

「つまり、リュウギのお母さん!」

 

「え"え"っ"!"?"本当!?」

 

リュウギがそれを聞いて走っていき、みんなもそれに着いていった。

走っていく途中、ミントは振り返ってイオンに手を振り、イオンもそれに手を振りかえした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ついに完成したぞ・・・最高のシナリオが!!」

 

「へぇ~♪ようやく完成したの~?」カムイと呼ばれたブレイドがその横でまじまじと原稿用紙を見つめている。

 

「それに"あの女"もこの町にいるらしい・・・今こそ計画を実行する時!」

 

「カムイ・・・今までのは起承転結のうちの"起"でしかない。ここから"承"が始まる!」

 

「へへへ~♪楽しみだねぇ!」

 

「コールさんもこの物語には喜ぶはずだ・・・さぁ、アリアに連絡を頼むよカムイ。僕は準備を始めよう・・・!」

 

 



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"誘拐事件"

カラムの遺跡への大階段。あんな長い階段現実にあったらとても登れませんよね。すぐに高すぎて怯えると思います。


 

◇◇◇◇◇◇

 

男性に連れられて、リュウギの母親がいたというレストランの中へ。

なかなか盛っているレストランで、人々の話し声の騒ぎがとてもうるさいほどだった。

 

「う~ん・・・」リュウギが目を凝らしてあたりを見渡した。

 

「居ないねー・・・」ミントも同じくあたりを見回す。

 

そこに先ほどの男性が、レストランのレジから歩いてきた。

 

「すまない。君の母親らしい人は既にお店を出てしまったらしい・・・」

 

「でも、それならまだ近くにいるかもだも!」

 

「よし、探しに行こう!」リュウギが言った。

 

そう言った途端、レストランの奥からクロヒョウに手をまわしたリリオが現れた。

 

「あっリリオ」ミントが見た瞬間に言った。

 

「すまない!実は俺お金が無くて食事代払えなくて・・・何でもするから払ってくれないか!?」リリオは手を合わせてお願いした。

 

「いきなり図々しいも」

 

「ってか、なんでここに居るの?」ミントが聞いた。

 

「いやぁこっぴどく叱られたからさ・・・やけになって来たものの」

 

「なんでお金を持ってないんですか?」アスカが聞いた。

 

「財布を忘れてさ・・・ハハハ」

 

「言っとくけど、そんな理由でお金を払いは・・・」ミントが言おうとしたが、あることを思いついて続きを言った。

 

「払ってもいいよ。その代わり傭兵さんのリリオにお願いがある」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「なるほど、母親探しをリリオさんに任せるとは・・・」アスカがうなずきながら言った。

 

「リュウギは自分で探しに行きたかった?」ミントが聞いた。

 

「いや、むしろこうやって買い物もできるし、ついでに母さんも探せるし」

 

リュウギは店のリンゴを手にとって言った。

 

「ね?名案でしょ?」ミントがアスカのほうを向いて言った。

 

「これとか母さん喜ぶかな・・・」リュウギが花屋の近くで一つの草をとって言った。

 

「何これ?マタタビ?」ミントが草を見て言った。

 

「うん」

 

「いやぁ、こんなもので喜ぶとは思えないも・・・」

 

 

だんだんと日が沈み、巨神獣の中であるこのインヴィディアの中も増して暗くなり始めてきた。

 

「モンスターの素材売ると以外にお金が手に入るもんだねぇ」ミントが買い物袋を両手に持ちながら言った。

 

「サルベージの方が儲かると俺は思うが」ツバキも買い物袋を持っている。

 

「インヴィディアはサルベージポイントぜんぜん無いからさ・・・」ミントが答えた。

 

「ウマ、持つのもう疲れたも・・・そろそろ宿屋に戻ろうも?」

 

「そうだな。帰るとするか・・・」リュウギの合図で、全員宿屋へと戻った。

 

夜になると宿屋に泊まる人は多くなるらしく、宿屋の外にまで行列が出来ていた。リュウギたちは既に数日分の部屋をとっていたため、泊まる宿がなくなるということはなかった。部屋に戻り荷物をしまうと、ミントは例のごとく宿屋の厨房へと買った材料を持って歩いていった。

 

 

「にしても、なかなかリリオ来ないな」リュウギがミントの作ったタルタリ焼きをほお張りながら言った。

 

「お母さん、いないんじゃないかも?」ウマもほお張りながら言っている。

 

「食べながら喋るのは行儀が悪いよ?」ミントがリュウギとウマの頭を叩いて言った。

 

「お前が言えたことかよ・・・」リュウギが言った。

 

「サボってる可能性もなくはないが・・・」ツバキがそっと言った。

 

「確かにあるかもね。リリオのところ行こうか・・・」

 

ミントがそう言った瞬間、宿屋の下の階から駆け抜けてくる音が聞こえてきた。その音はだんだんと近づき、リュウギ達の泊まっている部屋に入ってきた。

 

「うおっ!?リリオか!?」扉の近くに立っていたツバキが衝撃で倒れた。

 

「リュウギのお母さん見つかったの?」ミントがタルタリ焼きを口にほお張りながら聞いた。

 

「お前もやってんじゃん・・・」リュウギが呟いた。

 

「いや、違う・・・パジェナ劇場のイオンさんが誰かに攫われたって・・・」

 

「え"え"っ"!?」

 

ミントはすぐに飲み込み、扉を開けて走り出した。

リュウギたちもすぐにその後をついていった。

外では野次馬たちがパジェナ劇場の前にたむろしていた。

ミントはその間をかきぬけて、劇場の前に貼ってあった一枚の紙を見た。

 

「イオンは預かった 分かっているだろう? 来い」という文が書いてあった。

 

「何これ・・・」ミントはそれを見て驚愕した。

 

「何があったんですか?」アスカが野次馬の一人に聞いた。

 

「ついさっきだ。一体のブレイドがいきなりイオンさんを攫ってこの貼り紙をはりつけてどこかに消えたんだよ!あんな目の前で誘拐するだなんてなぁ・・・」

 

「そんな堂々と・・・」アスカが驚いた。

 

すぐにミントは再び人の間をかきわけてリュウギ達の前へ。ミントは貼り紙のことを話した。

 

「"来い"・・・一体誰に向けて?」

 

「誰にだなんてそこはどうでもいいの!イオンさんを助けに行かないと!」

 

「どうやら既に国の保安隊が捜索しているらしいが・・・」リリオが言った。

 

「だからって何もしないわけにはいかないよ!!私達も探そう!」ミントが一喝した。

 

「あ、ああそうだな・・・」

 

すると突然、リリオの同僚であるリクスが現れた。

 

「リリオ。どこをほっつき歩いているのかと思ったらこんなところに・・・」

 

「リクス・・・すまないが俺はちょっと用事があってな」

 

「悪いがその用事に耳を傾けている暇はない。団長がお呼びだ」

 

そう言うとリクスはリリオの耳を引っ張った。

 

「うおおい・・・」リリオがそのまま引っ張られていってしまった。

 

「と、とにかく・・・イオンさんを探さないと!」

 

「少し心当たりがあるんだ」リュウギがつぶやいた。

 

「心当たり?」

 

「イオンさんが居る場所・・・あまり人が来ない場所・・・」

 

リュウギは腕を組んで考えて言った。

 

「カラムの遺跡・・・たぶんあそこだ」

 

「母さんから、あそこにフレースヴェルグの前の団長の墓があるって聞いたんだ」

 

「それでどうしてカラムの遺跡になるの?」

 

「そこで一度人が誘拐されたことがあったらしくてさ。今回みたいに・・・」

 

「なるほど、それを知ってカラムの遺跡に行った・・・という可能性もあるな」ツバキが言った。

 

「それで、カラムの遺跡はどこにあるんだも?」

 

「あっちだ」

 

リュウギが指を指した先はインヴィディアの大階段があるセーヴィント宮殿広場。

 

「あの大階段を登った上にある」

 

「か、階段登るの・・・確かに誰も近づかないわけだ・・・」ミントが肩を落として言った。

 

「でもそんなこと言ってられない!イオンさんを助けに行こう!」ミントが腕を挙げ、全員大階段のほうへ走っていく。

 

 

 

「あれは…」

 

一人の女性が、走っていくリュウギ達を後ろから見ていた。

 



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"カラムの遺跡"

物語はこのあたりからだんだんと加速していきます。予定では・・・


◇◇◇◇◇◇

 

 

ところどころが崩れているここはカラムの遺跡。数百年、いや数千年前からあったとされるこの場所はとても迫力のあるものだった。

しかしそれには目もくれず、リュウギたちは前へと足を進める。

 

 

「ツナヨシ・・・どうして!?」イオンは信じられないという目をしながらツナヨシを見つめる。

 

「すまないなイオン。 コールさんに送る―――最高の物語のためなんだ」ツナヨシは腕を縄で縛られたイオンの顎をクイッと持って言った。

 

「大事な大事な登場人物・・・だよね♪」ツナヨシのブレイド、カムイが馬鹿にするように言った。

 

「大丈夫さ。君の役目はこれだけ。なんと言っても僕の、大事な大事な昔からの知り合いだからね・・・」ツナヨシはニヤリと笑いながら言った。

 

カラムの遺跡の奥にあるカラム劇場。かつての戦闘によりその広い劇場は半分ほどの大きさになっていた。

 

「それでツナヨシ、本当に"あの女"は来るの?」ツナヨシの横で何本もの腕を持つブレイドを横に据える女、アリアが言った。

 

「リサーチ済みさ。彼女はこの町にいる・・・下ではあれほどの騒ぎさ。イオンのことを忘れていなければ必ず来るはずだ」

 

「あの女って・・・誰?」イオンが聞いた。

 

「そう焦らなくてもいいよイオン。見れば必ずわかるはずさ」

 

石を蹴り走る音が聞こえてきた。

 

「どうやら"あの女"が来たらしい。丁重にお迎えしようじゃないか!」ツナヨシは両手を大きく広げた。

 

 

「イオンさん!大丈夫!?」

 

「ミントちゃん!?」イオンが叫んだ。

 

 

「お、お前はさっき僕の劇場を批判した!?」ツナヨシは目を丸くして驚いた。

 

「ミントちゃんが言ってた"あの女"・・・?」イオンが聞いた。

 

「違うっての。どういうことツナヨシ?」アリアが聞いた。

 

「まさか違う人が来るとは・・・これは計算外でした・・・」

 

「イオンさんは返してもらうぞ!」リュウギが大剣の文字を「炎」に変え、炎の塊をツナヨシの方へと放った。

 

 

「ふん・・・まぁいいでしょう・・・!私の最高の物語を批判した罪を味あわせてやる!」ツナヨシが腰に据えていた双剣を構えた。

 

「ねぇツナヨシ・・・」アリアが声をかけた。

 

「こいつらを殺せばコアクリスタルが手に入る。ついでに僕のストレス発散もできる。一石二鳥だろう!?」

 

「はいはい分かった分かった・・・やってやろうじゃない!」アリアは自らのブレイドからエーテルキャノンを受け取り、リュウギたちへ放った。

 

「イオンさんは下がってて!」ミントがイオンを後ろへと下げ、ナックルクローを取り出した。

 

「所詮ワンカットしか出ない脇役がでしゃばりやがって!」ツナヨシが目には見えないスピードでミントに近寄り、双剣による連撃を繰り出す。

 

「悪いけどこっちからしたらあんたの方が脇役だっての!」ミントは攻撃をかわし続けた。

 

 

「アスカ!脚本野郎に一発お見舞いしてやれも!」ウマがツインガンをアスカに渡した。

 

「了解です!」

 

「あらあら、隙ありね?」アリアが溜めていたエネルギーをアスカに向けて放つ。

 

「しまった!」アスカは防ぎきれずにもろに喰らい吹き飛ばされた。

 

「アスカ!」ウマが駆け寄る。

 

「クソォッ!」リュウギが大剣をアリアに向けて振り下ろした。

アリアは舌打ちをしてキャノンで攻撃を受け止めるが後退した。

 

「バーニングソード!」

 

リュウギは大剣に力を込め、アリアとツナヨシに対し思い切り振り下ろした。

 

「ぐあぁっ!?」ツナヨシとアリアは吹き飛ばされた。

 

「なぁんだ。案外大したことないじゃん?」ミントが笑って飛ばす。

 

「舐めやがって・・・!」アリアがつばを吐いた。

 

「まさか・・・主役にピンチはつきものですよ?ここからが本番だ!カムイ!」ツナヨシは双剣をカムイに投げ渡した。

 

「イヒヒッ!最終章・・・かにゃ?」カムイが双剣を手に持ち、剣の先からエネルギーを出し赤いフィールドを展開した。

 

「…なんも起きないも」ウマが言った。

 

「そんなハッタリ攻撃!・・・」

 

ミントが走り出しツナヨシに攻撃を加えようとするが、突然ナックルクローの青く輝く刃が消えた。

 

「ウソッ!?なんで・・・」そう言った途端、ミントはツナヨシに捕まり、腹に思い切りの蹴りを入れられた。

 

「ハァッ・・・うっ・・・」

 

「お前・・・何したんだ!?」リュウギも走り出し、ツナヨシに攻撃しようとするが、途中で力尽きる。

 

「なんだこれ・・・力が上手く出ない・・・!?」

 

「これがカムイの持つブレイドに対する能力・・・!」ツナヨシが手を広げて言った。

 

「ダメだミント・・・!力が送れない・・・!」ツバキも苦しそうにしている。

 

「いいですか?ドライバーの使う武器はブレイドからエーテルエネルギーを送り込まれることによってその力を発揮する―――」

 

「そしてカムイはそのエーテルの流れを操ることができる!こちらへより多く送り込むことも、そして流れを断ち切ることも!」

 

「何だと・・・!?」ツバキが言った。

 

「アスカ!ツインガンを渡すも!」

 

「ダメですウマ・・・エーテルの流れが完全に断ち切られてます!エーテルの弾丸は発射できません!」

 

「そんな・・・どうしろって言うんだも!」

 

「どうしろもこうもないでしょう?あなた達の負け・・・とっとと死んでコアクリスタルを私達に謙譲しなさい?」アリアは小馬鹿にして言った。

 

「そんな・・・」ミントは力の送られていないナックルクローを地面に突きつけた。

 

「ミントちゃん・・・」

 

「私達は大丈夫です・・・イオンさんはもう逃げてください!」ミントが叫んだ。

 

「でも・・・」

 

「まったく、とんだ時間の無駄だった・・・さぁ、茶番はここで終わりとしましょう!」

 

ツナヨシはミントに向かい双剣を振りかざした。

ガキンッ!という音がした。ミントは力の送られていない武器で必死に攻撃を抑えていた。しかし15歳の少女と大人の男性では力はまったく違っていた。

 

「無理に抗わないほうが身のためですよ・・・?」

 

「やめろぉ!」リュウギは息をぜぇぜぇはぁはぁと切らしながら大剣に必死に力を送り込み、ツナヨシに一発の炎を喰らわせた。

 

「くっ・・・それほど衰弱しているのに・・・無駄なことを!」

 

「俺達はこんなところで立ち止まれないんだ・・・!こんなところで死ぬわけにもいかない・・・!」

 

「悪いけど私達にも目的ってもんがあるの。邪魔しないでくれる?」

 

「目的・・・?」リュウギは首をかしげた。

 

「その遂行のためには・・・あなた達は邪魔なの」

 

「そういえばツナヨシィ?こいつらもしかしてガーンやアルジェント達の邪魔したっていう・・・?」

 

「確かに!何度も何度も邪魔してきたのは君たちかぁ!」

 

「まさかお前達、ペルフィキオの連中か!?」リュウギは驚いた。

 

「その通り!だとすると話は早い・・・ここで死ねぇ!」ツナヨシは更に力を込めてミントを押す。

 

 

「ウマ、さっきからどうも不思議なんです・・・」

 

「どうしたんだも!?アスカ!」

 

「ここにいるブレイドは私にツバキ、リュウギさんに奴らを加えて5体のはず・・・しかし8体居る気配がするのです・・・」

 

「まだ3体居るのかも!?」

 

「―――どういうこと?」アリアがツナヨシに言った。

 

「知らないねぇ!今はこいつらを殺すほうが先だ・・・ァ!」

 

 

 

彼らの戦いを、物陰からひっそりと誰かが見ていた。

 

「駄目です!今出てしまってはペルフィキオの思うつぼ・・・」

 

「でもこのままじゃ・・・!もう見ているだけなのは―――」

 

「しかし、"あの時"と同じ状況・・・今出たとしても・・・」

 

「だけどこのままじゃリュウギが・・・もう迷わないってそう決めたんだ!」

 

「しかしお嬢様・・・!」

 

物陰から見ていた女性は腰のツインリングに手をかけた。

 

 

 

「今度は大階段のほうから二体のブレイドの気配がします!」

 

「何だと?」ツナヨシが言った。

 

「しかしどちらも普通のブレイドとは違う・・・欠けた気配が・・・」アスカが悩ませながら言った。

 

「誰かが来てる・・・?」リュウギが呟いた。

 

 

 

 

「うおおおおおーっ!!!」

 

野太い声が大階段を貫きカラムの遺跡へと響かせた。

 

 

「この声は・・・」

 

女性はツインリングから手を離した。

 

「任せたよ、亀ちゃん」

 

 

 



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"雷轟のジーク"

これで第4話は終わりとなります。たぶん5話は週末か来週ぐらいになりますね。最近はコメントなどもよく寄せてくれて励みになってます。その期待にそえられるよう少しずつですが他の人の作品も参考にしたりしてます。



 

 

 

「何だ!?」ツナヨシはミントから手を離し、揺れる足元に驚いていた。

 

「轟力降臨!」

 

極・雷神斬光剣(アルティメット ライジングスラッシュ)・改!!!」

 

大剣を持った男が電撃を纏わせながら大ジャンプ。地面に思い切り叩きつけ地面に「極・改」という文字が浮かび上がった。

 

「ぐああああーっ!?」ツナヨシたちは衝撃に吹き飛ばされた。

 

「へへっ・・・腰は・・・なんともないようやな!」

 

「あんた・・・この前道を塞いだ・・・!?」ミントが驚いた目つきで男を見た。

 

「大丈夫か?いきなりでびっくりしたやろ?」後ろから女のブレイドが走ってきてミントの手を掴んだ。

 

「ま、まぁ少し・・・ね。」

 

「どうした銀ボン?今は寝る時間ちゃうで!」

 

「銀ボン・・・?俺のことか?」リュウギが答えた。

 

「他に銀髪のボンはおらんやろ!」

 

 

「今の攻撃・・・!まさか貴様雷轟のジークか!?」ツナヨシが男を指差して言った。

 

「なんや、知れわたっとるやないか!」

 

「そしてルクスリア王国第一王子・・・ジーフリト・ブリューネ・ルクスリア・・・!」ツナヨシが付け加えた。

 

「そんな奴がなんでここに・・・!?」アリアが驚いた顔を見せた。

 

「ジーフリト・ブリュー・・・えっ!?王子!?」ミントが驚いた。

 

「まだ王子・・・なのか・・・」リュウギが言った・

 

「ふん、ジーフリト・ブリューネ・ルクスリアいうのは仮の名前や・・・」

 

「ワイの本当の名は!」

 

「ジーク!」

「B!」

「極!」

「玄武!」

 

「極と書いてアルティメットと読む!アルスト最強のドライバーや!」

 

ジークは大剣を構えツナヨシたちのほうへ向けた。

 

「"お前ら"がここにいるって聞いてなぁ!この雷轟のジーク様が駆けつけたんや!」

 

「だが雷轟のジークといえど・・・カムイの技には意味はない!」

 

再びエーテルの流れを操るフィールドを作り出した。

 

「ふん、なんやその程度か?」

 

ジークは目に見えぬ早さでツナヨシの腹に大剣をつきつけた。

 

「その技じゃエーテルエネルギーを操るだけ・・・武器自体までは消されへんっちゅうわけやぁぁぁぁぁぁぁーっ!」

 

青い刃の消えた大剣で思い切りツナヨシを吹き飛ばした。

 

「力技ァーッ!」ツナヨシは叫んだ。

 

「お、おいツナヨシ!どうすんだこの状況!」

 

「まだだ・・・脇役が一人増えた程度でうろたえる僕じゃない・・・!」ツナヨシは双剣でジークに迫る。

 

「よっしゃチャンスやでリリオ!」

 

 

「行けクロヒョウ!ファイナルブレイカーエンドだ!」リリオが叫ぶと、横のクロヒョウがツインリングにエネルギーを込め、ツナヨシのブレイド、カムイに放った。

 

「ぐにゃっ!?」カムイが吹き飛ばされ、、フィールドは解除された。

 

「カムイ!」

 

「あんたも来たのかも!?」

 

「ついそこで会ってな!目的は同じだ!」リリオが叫んだ。

 

 

「ちぃっ・・・脇役どもが揃いも揃って・・・!」ツナヨシが腕を押さえながら言った。

 

4人のドライバーとリュウギに囲まれたツナヨシら。

 

「お前らのことは保安隊に通報済みやで。とっとと正義のお縄につけや!」ジークが叫んだ。

 

「ツナヨシ!この数じゃ場が悪い・・・出なおすわよ!」アリアが言った。

 

「仕方ない・・・今回はあなた達の勝ちとしましょう」

 

カラムの遺跡の下から、突然黒い大きな船が出現した。

 

「この船・・・まさか!?」ジークが目を丸くした。その瞬間、黒い船は砲撃した。

 

「しかしこれで僕達ペルフィキオが完全に負けたと思わないほうが良い・・・」

 

アリアは黒い船に飛び乗った。

 

「この僕をここまで怒らせたことを後悔する日が来るだろう!それまで震えて待っていればい・・・」

 

そういい終わる前、何かにつまづいてバランスを崩した。

 

「うおおっ・・・とっ・・・とぉ!?」

 

そのままツナヨシは黒い船に乗ることなく、カラム劇場から落下した。

 

「ツ、ツナヨシー!」カムイが落ちたツナヨシのほうへと飛び出した。黒い船は少し高度を下げたあと、どこか遠くへと消えた。

 

「クソ、逃げられてしもうたか・・・」

 

「いやー、王子の登場結構かっこよかったで?」

 

「せやろ!ああいうまさに真打登場・・・みたいなぁ?」ジークとそのブレイドは談笑した。

 

ミントらは呆れた顔でそれを見つめた。リュウギは違い、ツナヨシが転んだ何かを見た。

 

「あれって・・・墓?」

 

墓には「アクィラ・バローネ・ソル・エステリオーレ ヴァンダム」と書かれていた。

 

リュウギはその墓へと近づいた。

 

 

 

 

「お嬢様・・・」

 

「行こう、ビャッコ」

 

物陰から見ていた女性と、獣のブレイドは大階段を静かに降り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4話 雷轟

 

 



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第5話 「母」
"ヴァンダムの墓"


最近あんまりゼノブレイド2できてないですね。他のことで忙しくt(ry


 

 

前日の争いが嘘のように綺麗な青空だった。

カラムの遺跡にぽつんと建てられた墓の前で、リュウギは合掌した。

 

「その人って誰の墓なんだ?」リリオが聞いた。

 

「母さんと父さんが世話になった人らしくて。前に母さんとインヴィディアに来たときに教えてもらったんだ」

 

「ヴァンダム・・・ワイも名前なら聞いたことがあるなぁ」ジークがつぶやいた。

 

「しかし戦いに集中して墓があるの気付かなかったなぁ」ミントが言った。

 

「あぁ。何はともあれ墓が壊れなくてよかったよ」リュウギはポケットからタオルを出して墓石を拭き始めた。

 

「――――私も最近、お墓参りしてないなぁ」墓石を拭いているリュウギを見つめてミントが言った。

 

「で、これからどうするも?」

 

「ねぁジーク・B・極・玄武・・・さん?様?」ミントがが悩ましげにジークの名前を呼んだ。

 

「ハハッ!ジークでええで」ジークは笑いながら言った。

 

「ねぇジーク。あんたって王子様・・・なんだよね?ルクスリアの」

 

「せやで。それがどうしたんや?」

 

「私達、世界樹に行きたいの」

 

「ほぉ?なんでや」ジークは腕を組んだ。

 

「母さんとの約束なんだ。世界樹にいる父さんを探しにいきたくて」

 

「それで行くには王様とかの手形が必要らしくて・・・色々あってとれなくて。ジークは王子様らしいし・・・だったら好都合かなって思って」

 

「なんや、意外と図々しいんやな」

 

「っていうか、なんであんたここに居るんだ?」ツバキがジーク達を見て言った。

 

「何や、ついてきて悪いんか?」

 

「それでジーク、お願いできる?」

 

「もちろんやで!その代わりルクスリアへの渡航代は負担してくれるよな?」

 

「まぁそのぐらいなら!」ミントはうなずいた。

 

「すまんなぁ、王子今一文無しなんや」ジークのブレイドがミントに耳打ちした。

 

「王子様なのに?」

 

「スリにあってなぁ…仕方なくバイトとかで小銭稼いでたんや」

 

「それを言うなや・・・」ジークがためいきをした。

 

「そういえば気になったことがあるんだも」

 

「なんや?」

 

「どうしてジークは助けに来てくれたんだも?」

 

「それはやな―――― 最初に戦ったとき、お前らなかなか強くてなぁ。他のドライバーらに比べれば格上でな。気に入ったんや。それに・・・」ジークが言葉を溜めた。

 

「なんか、お前ら見てると懐かしく感じてな。どうもちょっかい出したくなったんや」

 

「へんな奴だも」

 

「へんな奴ってなんや!?へんな奴って!?」

 

「それにワイ、ツナヨシいう奴らが大階段登っていくの見てたんや」

 

「「「ええっ!?」」」

 

「けどまさかそいつらがペルフィキオだなんてなぁ。お前らが上っていったからちょいちょいと後を追ってたんや」

 

「俺も抜け出して階段を上る途中に会ってな」リリオが言った。

 

「しかしジークさんがいなければ私達は負けてました。」アスカが言った。

 

「まぁ恩人だしねぇ。王子様にちょっとだけ貸し作っておきたいし」ミントが言った。

 

「そんじゃ交渉成立や!よろしく頼むで~」

 

「あ、そうそうウチは自己紹介してなかったなぁ。サイカやで!簡単やからすぐに覚えるはずや」ジークのブレイド、サイカが自分を指さして言った。

 

「お前達の旅の安全を願ってるぞ。じゃあな」

 

リリオが手を振って歩き出した。

 

「あれ?リリオはついてこないんだ」ミントが言った

 

「団長にこっぴどく叱られたからな。これ以上空きを作ったらそれこそ俺はクビになっちまう」

 

「それではみなさんごきげんよう」クロヒョウがミント達にお辞儀をしてリリオについていった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

インヴィディア近海に、一艘の巨神獣船が近づいていた。

 

「カルマ陛下、まもなくインヴィディアへと到着します」

 

「本当にインヴィディアで合っているのか?」カルマ皇帝は指をこすっている。

 

「はい。目撃者の証言によると少年らの乗った船はインヴィディア方面に向かったと」

 

「しかし・・・」カルマは一息置いてから言った。

 

「女王陛下に何の報せもなく巨神獣船を近づければ何事かと騒ぐであろう」

 

「いえ、既にラゲルト女王への報告は済ませております」

 

「ならば良かった。下がってよい」

 

兵士は頭を下げてその部屋を去った。

カルマは部屋の奥にある皇帝専用に赤と金で飾られた椅子に腰をかけた。

インヴィディアの巨神獣へと近づくスペルビアの巨大な巨神獣船。逆にインヴィディアのほうからは一艘の巨神獣船が出発した。

その船にはリュウギ達を見ていた女性が乗っていた。

「この船はルクスリア行きゲンブ港到着となります。途中インヴィディア領アヴァリティア商会商人港へと停泊します」と、放送から聞こえてきた。

 

「あれはスペルビアの巨神獣船・・・」

 

「インヴィディアへと向かっていますね」

 

女性は顔を下げ、海を見た。

 

「お嬢様・・・」

 

「大丈夫。後悔なんてしてないよ」

 

 

 



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"約束"

ゼノブレイド2も発売して1年以上ですか。ゼノブレイド3はいつ頃出るでしょうか。


◇◇◇◇◇◇

 

 

リュウギ達はフォンス・マイム港で出航の手続きを受けていた。

港には何艘もの巨神獣船が停泊しており、中には整備を受けている船もあった。

 

「ねぇジーク、ルクスリア行きで・・・いいんだよね?」ミントが受付でチケットにサインしていた。

 

「ん?ああそうやで」

 

「じゃあこれでよし・・・っと」

 

「あれ、お金は払わないのかも?」ウマが財布を取り出した。

 

「サルベージャーなら無料で船に乗せてもらえるんだよーん」ミントが言った。

 

「そうだったのかも!ウマもまだまだ世に疎いも」

 

「出航まで6時間かぁ・・・どうやって時間潰そうか」

 

「それまで宿屋で休もう。昨日は相当疲れたしさ」リュウギが言った。

 

「そうですね。無理は禁物です」

 

一行は宿屋へと戻った。昨日の騒ぎがなかったかのように街はいつも通りの風景に戻った。

宿屋では出発への身支度をした。ミントはその中でも早めに終わらせ、こっそりと宿の外へと出た。

ツバキは自分の身支度の途中、彼の好きな小説である「ブレイド戦術~上級者編~」が無いことに気が付いた。

 

「おいミント、貸した俺の本はどこに・・・」

 

ツバキがあたりを見回しても、ミントの姿はなかった。ツバキはとりあえず一番近かったリュウギに声をかけた。

 

「なぁ、ミントどこに行ったか知らないか?」

 

「ミントなら外に行ったの見たけど・・・」

 

「ったく、外か・・・」

 

「俺、身支度終わったし探してこようか?」

 

「ああ頼む。俺はあの本がないと安心できないんだ」

 

 

そんなわけで、リュウギはツバキに頼まれミントを探しに町へ出た。

どこにいるかと見渡すと、案外あっさりと見つかった。ミントはパジェナ劇場の前に立っていた。

 

「あ、いたいた・・・」

 

リュウギが近づこうとしたが、劇場の中からイオンが出てきた。少し下がり、建物の陰から様子を見ることにした。

 

「あらミントちゃん」

 

「イオンさん・・・」

 

ミントは突然頭を下げた。

 

「ごめんなさい!私達もうインヴィディアから発たないといけなくて、劇場が閉まるっていうのに何もできなくて・・・」

 

「それにツナヨシって奴のことも・・・」

 

イオンは首を振った。

 

「いいの。劇場は潰れるわけじゃないから」

 

「それにあなた達のせいじゃない。ツナヨシのことを見抜けなかった私のせい、攫われた私のせい。あなた達を危険な目に遭わせて、むしろこっちが謝りたいくらいよ」

 

「もし、何かできることがあったらと思って来たんです」

 

「何かすること・・・ねぇ」

 

イオンは腕を組んで考えた。

 

「なら、一つだけ頼みがあるわ」

 

「ツナヨシを連れ戻してきてくれる?」

 

「ええっ!?ツナヨシを!?」

 

リュウギは陰ながら不安そうな顔をした。

 

「あいつを連れ戻すって・・・」

 

 

「あの人、本当はあんなのじゃないの。きっとペルフィキオに関わったせいで・・・」

 

「前にも言ったとおり、あの人は師匠であるおじいちゃんを尊敬しているの。だからあんな狂った姿は見たくない。だから一発ひっぱたいて目を覚まさせてほしいの」

 

「分かりました!一発どころか百発ぶん殴ってきます!」ミントは自分の胸を叩いた。

 

「お願いね。それまでにはここで準備して待ってるから」

 

 

ミントがイオンとの話を終わり、宿へと戻るかと思いきや別のほうへと歩き出した。

 

「ったく、どこに行くんだよ・・・」

 

リュウギはついていることをバレないように隠れながらミントのあとを追う。

 

「・・・ってなんで俺はストーカーみたいなことを」

 

するとミントが急に止まった。

 

「あっリリオ!探してたんだよ~」

 

ミントはリリオを見つけるとそちらのほうへ歩み寄った。リュウギはそれもまた背後から様子を見ることに。

 

「あぁミント、ルクスリアに行くんじゃないのか?」

 

「まだ出航まで時間があってさ。ちょうど会えて良かった」

 

「俺を探してた?」

 

「変な人ねぇ。リリオなんかに用があるなんて」クロヒョウがミントに近づいた。

 

「変な人ってなんだよ!?一応は俺のブレイドなのに・・・それで用ってのは?」

 

「それはね・・・」

 

それを見ていたリュウギは目を丸くして驚いた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ええっ!?リリオに仲間に入れるのかも!?」

 

「なんだよ、俺が居ると不安か?」

 

なんとリリオがリュウギ達の仲間に入るというのだ。

 

「ええやないか!騒がしいのはワイ嫌いやないで!」

 

「そうそう!リリオも結構役立つってこと知ったし・・・ね?」ミントがリリオを見つめた。

 

「ようやく分かったか!」

 

「でも一応"傭兵"としてついていくだけだから・・・」クロヒョウが言った。

 

「その通り。最後には代金貰うからな」

 

「なんだ、用心棒じゃねぇか」

 

「それで、傭兵団の人達とは大丈夫だったのか?」リュウギが聞いた。

 

「ああ、そうだな・・・」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「話の途中に抜け出すなんてなぁ・・・」

 

ランプひとつしかない薄明かりの部屋の中で、リクスはリリオを見ていた。

 

「・・・すまない」

 

「お前、この部屋をよく見てみろ。」

 

リリオはそう言われ、部屋をなめまわすように見た。

 

「俺達アニマ傭兵団は、あのフレースヴェルグと違って金も場所もない。フォンス・マイムの格安のボロ家を借りてなんとかやってるんだ」

 

「かつてこのアニマ傭兵団はインヴィディア一の傭兵団だった。だがだんだんと他の傭兵団に流れ人は居なくなっていった」

 

「俺達はイラーダ村の生き残りだ。サルベージャーとして行き詰っていた俺達をナルマさんが拾ってくれた」

 

リクスは深く息を吸い、神妙に言った。

 

「だから俺達は借りを返さないといけない。遊んでる場合じゃないんだ」

 

「俺は遊んでるわけじゃない!」リリオは正座から立ち上がった。

 

「ならどうしてすぐに帰ってこなかった?」

 

「それは・・・金が無くて・・・」リリオは顔を落とした。

 

「それはお前が傭兵としてしっかり仕事をせずに金を払ってもらわなかったからだ」

 

「他の傭兵団に世話になって、プライドはないのか?」

 

「俺はプライドだのそんなので動いてるんじゃない。しっかりと感謝してる」

 

「なら、もうふざけた仕事はしないことだな」

 

「依頼はきちんと遂行して、終わったら金を貰ってすぐに帰ってこい」

 

「あの時は集団で野盗に囲まれて・・・」

 

リリオは拳を握って深く下を見つめた。

 

「俺、依頼されたんだ」リリオが口を開いた。

 

「依頼・・・?」

 

「あぁ。ミントに旅についてこいって」

 

「あの女の子にか?」リクスは顎をさすった。

 

「俺の腕を見て、仲間に欲しいって」

 

「それは傭兵としての依頼か?」

 

「・・・ああ」

 

「終わったら本当に戻ってくるか?」

 

リリオは下を向いたままだった。

 

「・・・約束できないんなら」

 

その時、部屋に一人の老人が入ってきた。

 

「ナルマさん・・・」リクスが言った。この杖をついた、既に70は過ぎたであろう老人がナルマだった。

 

「どうしたリクス?なぜリリオに行かせない?」ナルマは腰をさすりながら言った。

 

「しかし、このままリリオに勝手にさせればアニマ傭兵団は・・・」

 

ナルマは2回咳払いをした。

 

「この傭兵団も長くはない。もう縛られなくてもいい」

 

「ですが・・・」

 

「借りを返したい気持ちはよく分かる。だがもう充分に返させてもらったよ。この傭兵団のことを考えてくれたということをね」

 

リクスは下を向いた。

 

「リリオ、行ってこい。私の弟子としてしっかりと働いておくれ」ナルマはリリオの肩を叩いた。

 

 



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"スペルビアの来航"

ぜんぜんゼノブレイド関係ない話なんですけど、キングダムハーツ3買いました。あと大神。そのため更新頻度が遅れます。なんとか失踪しないようにしないと・・・ゼノブレイド3もいつでるかわくわくしますね。


◇◇◇◇◇◇

 

 

リュウギ達は準備を終えて、フォンス・マイム港へと向かった。

途中、ジークが3回ほど転んだことを除けば何の問題も無く着くことができた。

 

「〝なにが何の問題も無い"やねん!ワイ3回も腰打ったんやで!?」

 

「すぐにサイカさんに直してもらったんだから何の問題もないでしょ?」ミントはジークの腰を見つめながら言った。

 

「このぐらいの年になるとなぁ、痛いんやで・・・ほんま・・・」

 

リリオは別れゆくフォンスマイムの街を振り返って見た。

 

「また当分は帰ってこれないだろうな・・・」

 

「さぁ!ルクスリアに向けて出発!」ミントはポケットからチケットを出して全員に配り、巨神獣(アルス)船に乗り込んだ。インヴィディアタイプの巨神獣船で、二体の巨神獣が一つの船を吊っている形だった。ウマは興味津々にそれを見つめていた。

 

「この船はルクスリア行きゲンブ港到着となります。途中インヴィディア領アヴァリティア商会商人港へと停泊します」

 

発進の少し前に放送が入った。これは数回繰り返された。

 

「インヴィディア領アヴァリティア商会?」リュウギが大剣を磨きながらミントに聞いた。

 

「アルスト大陸の一部一部は大国が領として持ってるんや。アヴァリティア商会はインヴィディアに吸収されて、一部の大陸を分け与えてもらってるんや」

 

「だからインヴィディア領・・・ってことか」

 

「そこからゴルトムントだとかのアヴァリティアの巨神獣が出てるんだよ」ミントが指を立てていった。

 

「へぇー・・・」リュウギは大剣を磨き続けた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

白く輝く雪が降るほどに冷たい風が吹くこのルクスリア。その中心にある王都テオスアウレはエーテルの力により、外に比べて少しだけだが温かい。しかし、そんな王都から外れたスラムは外と同じように冷たい風に晒されている。

このスラムには何人もの浮浪者が住んでいる。中にはブレイドを連れている者も。炎属性のブレイドが焚き火を作り、その周りに浮浪者が集まる。しかし、一人の男だけはその炎に近づこうとはしなかった。

その一人の男のもとに、白き虎のブレイドを連れた女性が近づき、一つのパンを彼に与えた。

 

「あなたは・・・」

 

「久しぶり。元気だった?」女性は彼に笑いかけた。

 

「元気では・・・ないです」男はうつむいた。

 

「・・・そっか」女性は下を向いた。

 

「・・・私は何度も何度もあなたに命を助けてもらいました」男は口を開いた。

 

「どうして何度も私を救ってくれるんですか・・・?」

 

「さぁ、なんでだろうね・・・」女性は一息置いてから口を開く。

 

「ねぇ、皇帝陛下」女性は男を見て言った。

 

「私はもう皇帝じゃ・・・」

 

「私にとっては、あなたがスペルビアの皇帝だよ」女性は男に微笑みかけた。

 

「ね。ネフェル陛下」

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

フォンス・マイムの港に、一つの巨大な巨神獣船が停泊した。その巨神獣には金属が張られており、インヴィディア人はすぐにそれがスペルビアの巨神獣船だと分かった。

 

「あれはスペルビアの巨神獣船か?」

 

「どうしてスペルビアがインヴィディアに?」

 

スペルビアの巨神獣船を見て、フォンスマイムの街は騒ぎになった。

巨神獣船の搬出口が開き、スペルビア兵に囲まれ特別執権官と皇帝が現れた。

 

「本当に行くと報告したのか?」

 

「えぇ、もちろん・・・」皇帝の隣の兵士が答えた。

 

すると、彼らの前にインヴィディアの兵士を連れた、大柄な体格の女性が現れた。

 

「おやおやラゲルト女王。突然の訪問失礼した」カルマ皇帝がラゲルト女王に頭を下げた。

 

「もう少し穏やかに来られないものですか?」ラゲルトと呼ばれた女性はカルマを威圧的に見つめた。

 

「すまない。整備済みの皇室用巨神獣船がこれしかなくてね。それで・・・例の少年はそちらに居るか?」

 

「兵士に情報を探らせたところ、あなた達の言う少年達は既に発ったといいます」

 

「なるほど・・・一足遅れたということか」

 

「それで、その少年らはどこに行ったか・・・?」皇帝の横に居た特別執権官、メレフが口を開いた。

 

「つい先ほどルクスリア行きの巨神獣船が出航しましたが」ラゲルトが答えた。

 

「ならばそれに乗った可能性が高いな。ラゲルト女王、情報提供感謝する」

 

「その少年は危険人物と聞いたが、どのように危険なのかまだ聞いていない」ラゲルトがカルマにつっかかった。

 

「一つだけお答えしましょう。我々だけが知る・・・"楽園"での事件に関連していると」カルマが神妙な面持ちで答えた。

 

「楽園での事件・・・?」メレフはその言葉を始めて聞いた。

 

「悪いがメレフ執権官、君は知ってはいけない立場にある」カルマがメレフの肩を叩いた。

 

「騒がせて失礼した。情報提供感謝するラゲルト女王。我々はルクスリアへと発とう」

 

「次は手土産でも持ってこない限り、入港は許しませんよ」ラゲルトが圧をかけた。

 

「忙しくてね。本国から土産を持ってくるのを忘れた。また次の機会に渡しますよ」

 

カルマらスペルビア帝国の者たちは巨神獣船へと戻った。

 

「メレフ、ルクスリア王国のゼーリッヒに連絡を頼むよ」

 

「了解しました」

 

メレフは答えると、カルマとは別の方向に進んだ。

 

「楽園での事件・・・気になりますね」メレフの横に居たブレイド、カグツチが聞いた。

 

「あの少年との関連か・・・」メレフは小さく動揺した。

 



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"ルクスリアへ"

気が付けばこの小説も1年経っていたようです。時が経つのは早いですね。気づいたらおじいちゃんになってるかもしれません。おじいちゃんになる前にいろんなことをしないとダメだなと感じました。
さすがにこの作品はおじいちゃんになるまでには完結させます


◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ここがルクスリアかぁ・・・さっむい」

 

既に巨神獣船はルクスリアに到着し、リュウギらは王都へと向かうことになった。

 

「アルスト大陸と融合しても、元のゲンブのエーテルが弱いからなぁ・・・まぁ雪景色なんてここ以外見られんし、ワイとしては誇りやで?」ジークが雪を掴んだ。

 

「しかしこれほど寒いなんてな・・・事前に調べて防寒具でも買えばよかった・・・」と言った後にリリオは大きなくしゃみをした。

 

「・・・っと」リュウギは大剣の先から炎を出した。

 

「あったかいもー!」ウマが大剣に手を向けた。

 

「いやぁ、やっぱり炎使える奴がいて良かった~」ミントも大剣に近づいた。

 

「奴ってなんだよ奴って」リュウギが少し怒って大剣の先から水を出した。

 

「冷たッ!」ミントが引いた。

 

その飛び出した水は地面に落ちたと同時に、氷へと変化した。

 

「ほら、こんなに寒いんだよ!?」ミントは氷になった水を指さして言った。

 

「・・・うぅん」ジークはリュウギを見ながらなにやら考えていた。

 

「王子、どうしたんや?」サイカが聞いた。

 

「どうして銀ボンが炎や水出せるんやろな・・・って思って」

 

「まぁ、世の中天の聖杯だとかおるからなー、ああいうタイプのブレイドがいてもおかしくないんちゃう?」サイカが答えた。

 

「・・・銀ボンってブレイドだったんか?」

 

「どう見てもそうやろ、王子分からなかったんか?」

 

「特に気にしてなかったわ」

 

 

雪がふりしきるルクスリア。遠くにはエーテルの灯火が見え、王都までの道にはところどころにエーテルライトが設置されており、雪のせいで見にくい視界は少しだけ見えるようになっている。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

ルクスリアには、かつて聖杯大戦の影響で溶解した聖戦の跡地が存在する。今もなおよりつく人は少ない。しかしそこに一人の男が歩いている。

 

「無駄に広ぇなぁ…」

 

金髪の男は前へ前へと進んでいく。そして目の前に現れた長い階段を上っていく。その先には石造りの建物があった。

 

「この中か…」

 

男はその建物中へと入った。狭い建物の中には、コアクリスタルによく似た物体があった。男はそっとそれに触れた。

 

「これがサンクトスチェインって奴か…ボスの奴、これが切り札になると…」

 

◇◇◇◇◇◇

 

ルクスリア王国、王都テオスアウレ。ミントはあまりに寒かったからからか、数少ないお金を使ってマフラーを買っていた。

 

「いやー、さすが雪の国なだけあって、マフラーもほかのとこより暖かいねぇ!」ミントはさっそく買ったマフラーを首に巻いて温まっていた。

 

「なぁ、後で俺にも貸してくれよ」リュウギがマフラーを引っ張る。

 

「あんたは自分で火出せるんだからいいでしょ?」

 

「このマフラーはワイの知り合いが作ったやつなんや」ジークもマフラーを引っ張った。

 

「へぇー、マフラー職人に知り合いがいるのかも?」ウマもマフラーを引っ張った。

 

「せやなぁ、昔ルクスリアはお世辞にも栄えてはいなかったんや。そんな時にワイが王子としてちょっと支援したんや。なかなかええマフラーやろ?」ジークがさらにマフラーを引っ張る。

 

「なぁ王子」サイカがジークの肩を叩く。

 

「ん、なんや?」

 

「ミント、顔青なっとるで」

 

ミントは3方向からマフラーを引っ張られているので、首が絞められてしまっていた。

 

「あっ、ごめん」リュウギがマフラーを離し、ウマとジークも離した。

 

「はぁ、はぁ…死ぬかと思った…」

 

「俺も体が一瞬消えかけた」ツバキが自分の手を見て言った。

 

「洒落にならないって…」ミントが首をさすりながら言った。

 

ミントがリュウギ達に怒っていると、遠くからリリオが何かを持って走ってきた。

 

「おーい、言われてた英雄アデル焼き、買ってきたぞー!」

 

「おう、ありがとな!」ジークがリリオからアデル焼きを受け取った。

 

「すっごい辛そう…」ミントがそれを見て、鼻をつまんだ。

 

「どうして英雄アデル焼きと言うんでしょうか?」アスカもアデル焼きを見た。

 

「かの英雄アデルは漢やからなぁ。辛いものは漢の食べ物やからな!」

 

「でも、アデルは辛いもの苦手らしいな?」サイカが言った。

 

「ま、まぁ旨いものは旨いからなぁ…」ジークが口に運びながら言った。

 

「なのに英雄アデル焼きって…」リュウギが言った。

 

「ところでジーク、王様に手形もらうっていうのは…」ミントがアデル焼きをひとつもらった。

 

「あぁ、親父にアポせんとな…数か月ぶりやからちょっとした手土産でも持って話つけてくるわ」

 

ジークはサイカに呼びかけ、「行ってくるわ」と言ってテオスアウレの中の大きな建物へと歩いて行った。

 

「で、どこで待ってればいいんだも?」

 

「そんな長くはかかんないだろ」リリオは近くのベンチに腰を掛けた。

 

「しっかし、きれいなイルミネーションだね」ミントがあたりを見回した。

 

ルクスリア王国。ほんの20年前まで鎖国していたが、紆余曲折あって他国との貿易などを始めた。今やその雪景色はアルスト大陸唯一のため、

多くの観光客が訪れるようになり、闇市も合法に手に入れた商品を売り出す商店へと姿を変えた。周りにはルクスリア特有の装束を来た人だけでなく、

グーラ人と思われる人々や、インヴィディア人もみかけられる。ほかの国々と比べて特に発展が著しい国である。

 

「ちょっと観光してみよっかなー」ミントが立ち上がった。

 

「俺は疲れたからいいかな…」リュウギが大剣をさすりながら言った。

 

「悪い虫には気をつけろよ」ツバキが念を押した。

 

「大丈夫だって。ジーク来たら私が来るまで待っててって言っといてー」

 

ミントは財布を片手に歩きだした。

 

「思ったより町の中はあったかくて良かったも」ウマが言った。

 

「町の中まで寒かったらどうしようかと思ったよ…」リュウギが大剣をタオルで磨き始めた。

 



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"観光"

ゼノブレイド2をプレイしてからもう1年以上経つとは。
この作品も構想もオチも考えてはあるんですが筆が進まない。誰しも悩むところ。



◇◇◇◇◇◇

 

ジークが向かった先は王宮テオスカルディア。ジークの父であり、ルクスリア王国の王であるゼーリッヒ王の王宮である。

王宮の前では王宮の使いと思われる兵士が話を交わしていた。

 

「おーい!ワイやで、ジークやで~」

 

ジークが腕を振って兵士たちに声をかけた。

 

「殿下!?無事だったのですか!?」兵士が驚いた様子でジークを見た。

 

「何言っとるんや。ワイが死んだかと思ってたんか?」

 

「それはインヴィディアに発った後に消息が途絶えてましたから…」兵士が言った。

 

「ま、まぁ色々あってな…」ジークが自分の髪をくしゃくしゃになでた。

 

「王子がスリにあったりしてなぁ…」サイカが言った。

 

「ところで、オヤジいるか?」ジークが聞いた。

 

「ゼーリッヒ王なら居ますが…」

 

「じゃ、お邪魔させてもらうで?」

 

ジークはずけずけと奥へと歩いていった。

 

 

 

玉座に座る白いひげを生やした老人。古ぼけた杖を横にたずさえていた。隣の兵士からの報告を受けているところ、目の前にジークが現れた。

 

「親父ぃ、久しぶりやなぁ!」

 

老人は咳を一度してから声を上げた。彼こそがルクスリアの王ゼーリッヒだ。

 

「ジークか…この頃便りがないと思っておれば、こう唐突に現れるとはな」

 

「いや…まぁ色々あってなぁ」ジークが頭を掻きながら言った。

 

「しかし久しく顔を出したということは、それなりに重要なことでも?」ゼーリッヒ王が聞いた。

 

「親父に聞きたいことがあってな…」ジークは深呼吸をした。

 

「どうして世界樹に行くために手形が必要になったのか…前までは手形なしで行けたはずや。親父なら知ってるかと思ってな」

 

ゼーリッヒ王はそれを聞いて一瞬間を置いてから口を開いた。

 

「残念だが、お前の思うような答えは私の口からは言えない」

 

「そういうと思ったで?」

 

そう言うとジークは自らの名前が書いてある書類を広げて見せた。

 

「手形さえあれば世界樹まで行けるんやろ?親父が言わないならわいが直接見てくる。行きたいっちゅう仲間のためにもな」

 

「あー、確かにな」サイカが横でうなずいた。

 

「直接見に行くか…」ゼーリッヒ王は少し考えた。

 

「どうや?不純な動機やないで?」

 

「すまないが、今快く手形を与えることはできん」ゼーリッヒ王は広げられた書類にハエをはらうような手でおしのけた。

 

「ええっ!?なんでや!?息子の頼みなんやで!?」ジークは驚いて目を丸くした。

 

「――――今、ということだ。明日まで少し考える時間が欲しい」

 

「なんや、手形だけでそんな考えるんか?」ジークは疑いのまなざしを向けた。

 

「まぁまぁ王子。親父さんもこう言うとるし今日は一旦帰るで?」

 

「しゃあないな。じゃ、また明日来るで~」ジークは書類をひらひらさせながら玉座の間から出て行った。

 

 

ゼーリッヒ王は重い腰を上げ、近くの兵士を呼んで言った。

 

「スペルビアのカルマ皇帝にこのことを報告してくれ。なるべく早めにな。明日までに返事がもらいたい」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「なかなか品揃え良いねぇ~…」ミントは店の商品を吟味していた。

 

「どうですお客さん?今なら500Gでこの高級ツボが買えるんですよ~!お買い得ですよ~」

 

「うーん、ツボはかさばるかなぁ…」ミントはツボを売っていた店を後にした。

 

ミントはテオスアウレの町を観光していた。思ったよりも広く、人も多いほうだ。

いろんな店が立ち並び、衣類や家具、食べ物のほかに本屋も見かけた。特に気になったのは「英雄アデルの歴史」。少し立ち読みをしていた。

 

「どうです?こちらの本なんかもおすすめですよ?」

 

「あ、そういうのはいいです…」ミントはやや引きながらその本屋を後にした。

 

 

「結構見たし、そろそろ帰ろうかなぁ…」ミントがそう思い、後ろを見ながら歩きだした途端、誰かに当たりその人は倒れてしまった。

 

「ああっ、すいません! 大丈夫ですか?」

 

ミントが手を伸ばしその人を起き上がらせる。身長は高い大人だが貧弱そうな体でやせ細っていた。ぼろぼろの服を着ていたが、その服にはどこか高貴な印象も感じられた。ひげと髪はぼさぼさで青色をしていた。

 

「い、いえ…大丈夫です」

 

その男は立ち上がるとすぐに立ち去ってしまった。

ミントはその男に対して、不思議な感覚を抱いた。

 

「今の人、ただの人じゃない…」

 

「そらそうやろ。あれは浮浪者や」

 

ジークが突然ミントの後ろに現れた。

 

「うわぁっ!?びっくりした!?」

 

「ホームレス問題はルクスリアの問題のひとつ。急激に経済成長したもんでそれに乗ることができず堕ちた人が多くてなぁ。どうや?観光は楽しめたか?」

 

「そっちこそ、手形はどうだった?」ミントが聞いた。

 

「ま、それは宿に帰ってからやな」



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"任務"

展開は考えているのですが、そこまでの間、間を考えるのが大変ですね。物書きになるとはとても険しい道。



 

◇◇◇◇◇◇

 

宿屋に戻り、ジークは王宮でどのような対話をしたかを話した。

 

「手形はもらえなかったのか?」リリオがアデル焼きを頬張って言った。

 

「明日もう一度来るよう言われたけど、もらえんと思うんだよなぁ…」ジークは腕を組んで言った。

 

「そうそう簡単に世界樹には行けないってことや。今も昔も」サイカがジークの肩を叩いた。

 

「だけどもらえなかったら?」リュウギがミントに聞いた。

 

「そうしたら…船借りて無理やり世界樹に忍び込む?」ミントがナックルでジェスチャーをしながら言った。

 

「そんなの法外だし、リスク高すぎるも」ウマがつぶやいた。

 

「だよねぇ…」ミントは落胆した。

 

「ま、親父は頭固いが意外と柔軟なところもある。そこにワイは賭ける」ジークが真剣なまなざしをして言った。

 

「聞くまではわからないからな。もし行くことになったときのためにしっかりの体力は備えておくことだ。寝るぞ」

 

ツバキがそう言うと、みんなは疲れたからなのかだんだんと部屋に戻り寝始めた。

しかしミントはなかなか寝付けない。リュウギもだった。

 

「布団が冷たい…」ミントがぼやいた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

雪に覆われたこのルクスリアだが、朝が来たのは明確に分かった。雪により薄暗いが、夜よりも明るい。単純な理由だった。

朝日の光に照らされリュウギは目を開けた。

いつも通りミントが先に起きて朝食を作っていた。リュウギはみんなを起こし、朝ごはんへの支度を始めた。

みんなと同じように準備をする中、リュウギは窓の外にルクスリアの兵士たちがたむろっているのを見た。

 

「なぁジーク、あれって王宮の…」

 

「あぁ、ワイのこと探しとるんかなぁ?ちょっと行ってくるわ」

 

ジークがそう言うと、荷物をほったらかしにしたまま宿の外へと向かった。外で兵士たちに軽く会釈をしてから話を始めた。

 

「ほーら、みんなご飯できたよー!」ミントが料理をもって机に置いた。

 

「まーたタルタリ焼きかもー?」ウマがぼやいた。

 

「いいでしょ美味しいんだから!」ミントがフォークとスプーンを用意しながら言った。

 

「そうそう。食えないよりはずっとマシだよ」リリオがタルタリ焼きを口に運びながら言った。

 

「リリオは昔貧乏だったの」クロヒョウが横から言った。

 

「別にいいだろ、村が無くなってたんだから」

 

そのような話をしている中、ジークは外で兵士たちと話していた。

 

「親父がなぁ…それで、行くのはワイとサイカだけか?」ジークが言った。

 

「いえ、お連れ様達も一緒に来てほしいとの願いで」

 

ジークはそれを聞いて腕を組み、少し考えた後に答えた。

 

「わかった。その代わり何もしないって約束はできるか?」ジークが顔をこわばらせて言った。

 

「も、もちろん、それは…」兵士がうろたえながら答えた。

 

「んじゃ、頼むで~」ジークが兵士の肩を叩いて宿の中へと戻っていった。

 

 

「いや~、腹減った。さっそく朝飯食べよ…」ジークがそう言いながら部屋に戻ると、既にリュウギ達がすべてたいらげていた。

 

「ああーっ!ワイの分は!?」ジークがまっさらの机を見て言った。

 

「あ~…ごめん、全部食べちゃった」ミントが頭を下げながら言った。

 

「なんでや~!!」ジークが後ろに倒れた。一日の原動力である朝飯がないとは…そんな気分だった。

 

「まぁまぁええやん、後でアデル焼き食うたら?」サイカが倒れたジークの頭を撫でて言った。

 

「そうやな…ワイだけで食うたるからな!?…ってか、なんでサイカまで全部食べとんねん!?」ジークがつめよった。

 

「まま、過ぎたことは水に流して…」サイカが引きながら言った。

 

「ところで、兵士たちはなんと言っていたんだ?」ツバキが聞いた。

 

「ああ、手形のことについて、ワイとリュウギ達に話があるんだと」

 

「話?」リュウギが言った。

 

「ま、何もしないとは約束したから大丈夫やと思うが…」ジークが言った。

 

「何もしない?何かされるんだったの?」ミントが聞いた。

 

「え?ああ、まぁ心配しなくていい。とっとと親父んところいって手形もらってこようや。」

 

ジークの発言に少し疑問を抱くミントだったが、今はその言葉を信じることにした。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

王宮に向かうリュウギら一行。王宮は少し古ぼけた遺跡のよう。ジーク曰くこの王宮とこの都市は古くからあるという。遺跡のように古ぼけているのも納得だ。

王宮に変わった様子は全く見られなかった。兵士たちは相変わらず同じところを警備していた。ジークに連れられ、王宮の奥へと入っていった。

そしてたどり着いたのは玉座の間。そこに座っていたのは白いひげを生やした老人。この人がルクスリア王であろうか。そうとうな年であるのは一目見て分かった。

ジークは王に対して手を軽く振った。

 

「よう、親父ぃ」

 

ある程度王に近づくと、ミント以外がひざまずいた。ミントは一瞬何をしているのかと思ったが、そういえば王の前であったと思い出し、ミントもおぼつかないながらもひざまずいた。

ジークはひざまずかなかったが。

 

「それで、どうして全員で来いって言ったんや?ただ断るってわけじゃないやろ?」

 

「その通りだ」王は座りながら答えた。

 

「ジークよ、私からはどうして世界樹があのような状況になったかは説明できない。しかしお前達が行きたいというなら、条件付きで行くのは許可しよう。」

 

「条件付き?」ミントが疑問に思った。

 

「あのような状況…?王様、王様なら世界樹で何が起きたのか知ってるんですか?」リュウギが質問した。

 

「本当に知りたいのなら自分で確かめに行くといい」

 

「…それで、条件というのは何ですか?」アスカが聞いた。

 

「このルクスリア、巨神獣(アルス)ゲンブの頭にある神聖なる鎖(サンクトスチェイン)を回収してきてほしいのだ」王は厳格な顔つきで言った。

 

「サンタクロ…?」ミントが言った。

 

「サンクトスチェイン。でもどうしてわざわざそれを?」サイカが言った。

 

「あれは先のイーラの出来事の後、我がルクスリア王国が再びサンクトスチェインを管理することになった」王は説明を始めた。

 

「なぜ回収を命じるのか。近頃ゲンブの様子がおかしく、サンクトスチェインによる影響があるという可能性が浮上した。そのため君たちに回収を頼みたい」

 

ジークは少し考えてから口を開いた。

 

「なんでワイらなんや?兵士に行かせればええやないか」

 

「彼らでは少々危険が伴う。それに道を詳しく知っているジークとサイカが行けば…と思ってな。約束通り手形は出す」

 

「なるほど、ただじゃ世界樹までの手形はくれない…ってわけか」リリオが言った。

 

「リリオ、王様の前」クロヒョウが指摘した。

 

「なるほど、分かった。ってわけでとっとと回収してとっとと戻ってくるで」ジークが言った。

 

「くれぐれも怪我のないようにな」王が言った。

 

王からの命令はゲンブの頭はへ行き、サンクトスチェインを回収すること。しかしどのように頭へと行くのか…

ミントは王宮から出た後、この都市テオスアウレがとても高いところに位置しているのを思い出した。

 

「ねぇジーク、どうやってゲンブの…頭まで行くの?」

 

「ああ、それなら下層まで下りていけばすぐに着くで」心配ないというようにジークが言った。

 

「下層まで…?」ミントは驚いた。どのようにして下まで行くのか…

 



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"下層へ"

最近筆が進まない。と言ってもキーボードなんですけどね。
ニアちゃんはかわいいですね。1年以上経ってもそう思います


◇◇◇◇◇◇

 

 

「なるほど、ゼーリッヒ王も頭が良い。あそこまでおびき寄せるとは」

 

スペルビアの皇帝、カルマが画面を見ながらつぶやいた。エーテルカメラで撮影している映像だ。ゼーリッヒ王の玉座の間を映している。

 

「しかしこれで我らの捕獲作戦も完遂できるというわけだ。ゼーリッヒ王には感謝しかない。」

 

「捕獲作戦…?」カルマの横で書類を読んでいたメレフが言う。

 

「言い方が悪かったかな。しかしジーフリト王子が彼らと行動を共にしているとは。確か君の旧友だったかな?」カルマがメレフのほうを向いた。

 

「ただの旧友です。少年らを捕まえるには彼を利用するのも手かと」メレフが冷たく言い放った。

 

「確かに。しかしあまり親睦を深められても困るな。彼が予想外な行動を起こして邪魔をしては…」

 

そう言った途端、カルマ達の乗っていた巨神獣船が大きな音を立てて止まった。

 

「ようやくルクスリアに着いたか。ゴウ、準備を」

 

カルマが言うと、奥からゴウが現れた。ぐちぐちとぼやきながら迫ってきた。

 

「皇帝陛下、通常より早く船を動かしたためにエンジンは整備工場行きです。ここまで急ぐ必要が…」

 

カルマは指でゴウの口をおさえた。

 

「急ぐ必要がある。それに帰りは“この船”じゃない…」カルマは小さな笑みを浮かべた。

 

「さぁまずはゼーリッヒ王に謁見だ。時間がないから兵士に執権官、それとゴウ、急ぐぞ」

 

カルマは早歩きになり、部屋を出ていった。メレフは近くに置いてあったサーベルを腰のさやに装着し、カルマと同じように早歩きで部屋を出ていった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

リュウギたちは下層へと向かうため、街から出た遺跡を通っていく。遺跡は何百年も経っており、雪の間から見える床は今にも崩れ落ちそうなほど

ひびで割れていた。

 

「ねぇこれ大丈夫?歩くたびにみしみし言うんだけど…」ミントが不安そうにサイカに話しかけた。

 

「あぁ大丈夫やで?意外としぶとくてなぁ。アーツ百発打ちこんだって崩れへんで?」

 

「本当かなぁ…」ミントが不安そうに床を見つめた。

 

「もももーっ!」ウマがバランスを崩し、遺跡から落ちそうになった。リリオがなんとか手を引いたので落ちずにすんだ。

 

「よそ見せずに歩けよ?」リリオが言った。

 

「死ぬかと思ったも…」ウマがほっと胸をなでおろした。

 

狭い足場に音がみしみしと立つ。歩くだけで不安がどっと押し寄せる。さらに下に降りるたびに風は強くなり、さらに体が冷える。道中モンスターが現れ、戦闘をしなければ体は温まらなかっただろう。スパイドやモスーンなど虫のモンスターが多く、あまり虫を好まないミントはキャーキャー言いながら戦っていた。

 

「ねぇ、倒した?倒した?」

 

「大丈夫。もう動かない」リュウギが剣の先っぽで蜘蛛形モンスターのスパイドをつんつんと突く。

 

「いちいち虫に怯えてるようじゃプロのドライバーにはなれんぞ?」ツバキが言った。

 

「小さいのはいいの、小さいのは!ここのは全部おっきいし…それに私サルベージゃーだから!」

 

「気温が低いとその分モンスターも大きくなるのかもなぁ、いや、そんなことはないか…?」ジークが一人で考えていた。

 

 

そんな話をしているうちに最下層へと着いた。しっかりの地面がある感覚に一同はホッとした。ジークとサイカは慣れっこというような感じだったが。

ジークの話によると、サンクトスチェインがある方は大きな門のようなところだという。雪の中にほのかに光る大きな赤い光がそれだとはっきり分かった。

下層からはさっきまで居たテオスアウレが遠く上に見える。

 

「あれがテオスアウレ?」リュウギが浮かぶテオスアウレを見ながら言った。

 

「ずいぶんと高いところにあるやろ?それで落ちないのはやっぱゲンブのご加護…みたいなもんやな」ジークが言った。

 

テオスアウレの下を見ると、緑の光が下層の地面と繋がっているのが見えた。ゲンブのエーテルエネルギーであの街が空に浮かんでいるのだろう。

この世界の不思議の一つをじーっと見つめていると、後ろからターキンの群れが弓矢を乱射しながら迫ってきた。

 

「野生のターキン!?」ミントが叫んだ。

 

「ターキンは社会的だから野生なんて存在しないも」ウマが冷静に突っ込んだ。

 

「さしずめ旅人狙いでしょうね」アスカが言った。

 

「邪魔するんゆうなら容赦はしないでぇ!」ジークが大剣を振りかざして叫んだ。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

ゲンブ港にスペルビアの巨神獣が停泊した。いかつい兵士達の先導しているのは特別執権官メレフ。兵士たちに守られているのは皇帝カルマ。

雪道を超え王都テオスアウレへ。ルクスリアの民は突然のスペルビアの来航に驚いていた。興味を持った子供がスペルビア兵のもとへ走っていくのをその母が止めた。

 

「あれが王宮か。ゼーリッヒ王とは私が話す。メレフ達はここで護衛に回ってくれ」

 

カルマが命令すると、兵士たちはすぐに持ち場についた。王宮を守るように固まった。メレフはというと、自らの2体のブレイドと共に王都の中を歩き始めた。

 

「メレフ様、知っていますか?」カグツチが話しかけた。

 

「どうやらネフェル陛下がこのルクスリアで生きているという噂…」カグツチは周りの兵士に聞こえないように静かに話した。

 

「まさか、そんなことあり得るはずがないだろう」メレフが言った。

 

「しかし実際にネフェル陛下と思われる人物がこの街に…」

 

その一言にメレフは神妙な面持ちで地面を見つめた。

 



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“ゲンブの頭にて”

久々なので色々ガバガバなところがあるかもしれませんが…
今月中には5話完走したいですね。


◇◇◇◇◇◇

 

ターキン達をしりぞけたリュウギ達。想像以上にターキンの数が多く、苦戦を強いられたがなんとか退けることができた。

 

「ヒイッ!ワルカッタワルカッタ!」

 

片言の言葉を離しながら、傷ついたターキン達は慌てるように遺跡のほうへと逃げていった。何か光るものを落としながら。

 

「はぁ、はぁ…この年で動くのもきついもんやで…」

 

ジークは大剣を降ろし、腰を落として座り込んだ。リュウギはターキンが落とした光るもの、不思議な模様のネックレスを拾い上げた。

 

「ネックレス…?ターキンが?」

 

ターキンがネックレスを持っているだなんて珍しい。ターキンは他のモンスターと比べてある程度の社会性を持ち合わせてはいる。

しかしどちらかというと原始的なもので、このような加工されたネックレスを持っているのは…

 

「盗んだのかな?」

 

「なにそれ、綺麗なネックレス!」

 

リュウギが持っているのを、好きな食べ物でも目の前に出てきたかのように目を光らせてミントが見ている。

 

「ターキンが落としたんだよ」

 

「ターキンのくせにこんな高価なもの持ってるだなんて…」

 

リュウギは静かにネックレスをポケットに戻した。しかしそのネックレスの模様はどこかで見たことがあるような…しかしそんなことは気にせず、ゼーリッヒ王に頼まれたサンクトスチェインのもとへ向かうことに。

降る雪はだんだんと勢いを増し、氷の刃のように肌につんざいていく感覚。

寒さに震えてジークは大きなくしゃみをする。サイカが「どしたん?ついに寒さに負けるようになったんか?」と聞くと、ジークは強気に「ちゃうわ!鼻に雪が入っただけや!」と答えるが、すぐに2回目のくしゃみが飛び出た。

しばらくすると、ほのかな明かりがだんだんと鮮明に見えてきた。ついに聖大列柱廊にたどり着いたのだ。ここを抜ければサンクトスチェインのあるゲンブの頭にたどり着く。

 

「思ったよりも遠いし寒かったね~」

 

ミントが手袋の上から手のひらに温かい息を吹きかける。

 

「お前はいいよな、マフラーにサルベージャースーツ着て…」

 

コモンブレイドであるツバキは服を着る必要が無い。そのため実質全裸のようなものであった。

 

「今考えたら相当寒そうだね・・・」

 

ミントが寒そうに小刻みに震えるツバキを見ていた。

リュウギは炎を纏った剣をたいまつ代わりにして歩き始めた。寒がっていたツバキにウマたちはそれに群がるように歩いていく。

 

「なんていうか、土属性ばっかで炎がいないのがなぁ…」

 

リリオはクロヒョウをちらりと見ながらぼやいた。クロヒョウは足で雪をリリオに向けて飛ばした。

寒いルクスリアの気候に耐えながら進んでいくと、次第にこれまでとは違う別の開けた場所に出てきた。ジーク曰く、ここがゲンブの頭らしい。

しかしそこは遺跡にまるで溶けた建造物が固まったようなものが壁や地面などあちらこちらに見える不思議な空間だった。

 

「わずかですが、焦げた臭いがしますね」

 

感覚が敏感なウマのブレイド、アスカがそれを見ながら言う。

 

「ここは昔大戦で使われていた場所だったんや。せやからこんな様相になっとる」

 

「ってことは、巨神獣の体を溶かすぐらいの熱で…」

 

ミントが好奇と恐れを重ねた瞳で辺りを見回す。

 

「未だに焦げた臭いがうっすらするぐらいの激しい戦いだったのかも?」

 

「そんな時代に生まれなくて良かったな…って思っちまうな。」

 

リリオの発言後、リュウギが一行の中で最初に足を踏み出した。

 

「サンクトスチェインはこの先にあるんだろ?なら早く行こう」

 

未だ経験したことが無いほどの大戦が行われていたというこの場所。しかしそんなことは既に過ぎたことである。リュウギは過去のことよりも、早く用事をすませたいのだった。

奥に進んでも進んでも寒さは変わらず。しかし現れるモンスターの強さは上がっていく。寒さにも敵にもマケズ、ゲンブの頭の中を進んでいく。

目の前に現れたのは長い階段。ジークはこの先だと指をさす。

 

「この先にサンクトスチェインがある。そいつを回収して戻ればお仕事は終わりや」

 

「ところでサンクトスチェインって何?」ミントがジークに聞いた。

 

「お前らも知っとるやろ?天の聖杯が操るっていう(デバイス)のこと」

 

「天の聖杯は知ってるけど、デバイスは詳しく知らなくて…」

 

「20年前なんて大変だったんだぜ?アルスト中のあちらこちらにデバイスが襲い掛かってきて。今時の若いもんは知らないんだなぁ」

 

リリオが小ばかにするようにつぶやいた。

 

「ちなみに、ウマの師匠はデバイスの研究もしてたんだも!」

 

「リュウギは知ってる?」

 

ミントがリュウギのほうを振り返り聞いた。

 

「俺?あんまり知らないなぁ…世間には疎くて」

 

「ま、今となってはデバイスは動かへんし、知らんくても心配はないけどな」

 

そういうとジークは階段を上り始めた。腰はまだ少々痛むらしく一度後ろに転びかけるが、サイカが後ろから押して事なきを得た。

しばらく階段を上ると、小さなドームのような建物。この中にサンクトスチェインはあるのだという。

その建物に向かい歩き始める一行。しかしアスカは不穏な空気を感じた。

 

「――――ブレイド?」

 

「アスカ、変な顔してどうしたのかも?」

 

「さきほどから違和感がしていたのですが…後ろからブレイドと小さな足音が聞こえるのです」

 

「ってことは誰かに後ろから着けられてる…?」

 

ミントが言い終わった瞬間、突然黄色いネットが現れミントとツバキを縛るように包んだ。

 

「ミントッ!?」

 

リュウギが駆け寄り、階段のほうを目を向けると黄色いネットが飛んできてリュウギの体も縛られてしまった。

全員逃げる暇もなく、突然の襲撃に為すすべはなかった。

 

「これ…エーテル遮断ネットだも!」

 

「何これ…動けないんだけど!」

 

ミントが必死にもがくが、外れる気配はない。

エーテル遮断ネットに包まれ、床に倒れこむ。すると階段のほうから遮断ネットを撃ってきた者たちが現れた。

 

「やれやれ、ようやく捕まえることができたか」

 

奥から現れたのは二本のサーベルを持つ女性とその配下…スペルビア兵達とメレフであった。

メレフは倒れたミント達を見下すように歩き始めた。

 

「ここまで来るのに我が国は多額の予算をつぎこんだ。どうしてくれるつもりだ?」

 

「予算って…俺たちを追わなきゃいい話だろ?」

 

ツバキが口を動かす。

 

「そうそう!いくらなんでもそこまでして…」

 

「って、メレフやないか!なんでワイまでこんな目に遭わなきゃいかんのや!」

 

ジークがメレフを見て叫んだ。

 

「ジークか、久しいな」

 

「いやいや、久しいとかちゃうくてなぁ…なんでこんなひどいことすんねん!」

 

サイカもメレフを睨んでいる。

 

「力づくでその少年たちを捕まえるよりかはこちらのほうが楽だからな。それに皇帝陛下も来ている。陛下の身に何かあったら…な」

 

メレフがそう言うと、兵士たちの後ろから青い髪を流した短髪、高貴な装束を身に着けた男性が静かに歩いてくる。その後ろにはカバンを持った、秘書のような男性が。

アスカは彼を神妙な面持ちで見つめていた。

 

「君たちが…グーラの給水塔を破壊した者たちか。」

 

男は静かに言う。

 

「あんたがスペルビア帝国の皇帝…陛下?」

 

ミントが鋭い目つきで見つめる。

 

「おっと、私の名前を紹介するのを忘れていたね。私はスペルビア新帝国皇帝、カルマだ。ちなみにこっちの真面目そ~なのは私の秘書のゴウだ。よろしく頼むよ」

 

カルマはゴウのほうに手をのべて紹介した。

 

「よろしく…?」

 

リュウギはカルマのその言葉に疑問を抱いた。

 

「そりゃあこれから共に宴会をする相手…よろしく以外に何と言えばいいと?」

 

その言葉にメレフは驚きの目をしていた。

 

「え、宴会!?陛下、そのようなことは聞いておりませんが…!」

 

「おや、言ってなかったか?せっかくだから宴会の場で給水塔を破壊するような犯人はどのような人物か…見定めようと思ってね」

 

メレフは動揺した様子でリュウギ達のほうをちらちらと見る。

 

「ワダツミもカグツチも宴会の準備をしている。場所はルクスリア王宮だ。さぁメレフ、この者たちを連れて行こうか」

 

「ちょ、ちょっと待って…いきなり捕まって宴会って状況が呑み込めないんだけど…」

 

「そうだもそうだも!」

 

ミントとウマは声を上げるが、問答無用に兵士たちに持ち上げられてしまう。

 

「宴会に行きたくないのか?特上のタルタリ焼きにデザートにめろめろめろんパフェが出るのだが…」

 

カルマがそういうと、リュウギは目の色を変えた。

 

「タルタリ焼き!?しかも特上!?」

 

その目はとても輝いていた。

 

「あんた…この状況でそんなに喜ぶ?」

 

ミントはリュウギに対して冷ややかな目を向けた。

 

「さて…行こうか」

 

カルマが言うと、リュウギ達を持ち上げてスペルビア兵たちが歩き始めた。

 



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"宴会"

ゼノブレイドがそろそろ9周年らしいですね。ゼノブレイド2の9周年なんて恐らくあっという間に来てしまうことでしょう。
時間が経つのは早いものです。




◇◇◇◇◇◇

 

ルクスリア王宮、食堂の間。

何メートルもある金色の長机に、大きな特上タルタリ焼き、さらには山のように積まれた雲海蟹クリームコロッケ。

見たことが無い茶色いスープ。ほのかにオニオンの香りがする。湯気が出ている様子から見ると、完成して間もないようだ。とにかく、いつも見るような一般的な食卓とは違うことは明白だった。

それを見てミントは下品なぐらいよだれを垂らし、ウマはどれから食べようか吟味しているようだ。

 

「すっごい旨そうだけど…毒、入ってないよな?」

 

リュウギが慎重に皿の上に乗った料理を鼻でかぐ。全員の中で一番最初に料理を口にしたのはジークだった。

口に入れた瞬間、まるで楽園にたどり着いたかのような顔を浮かべた。

 

「う、美味い…!なんちゅう美味さやー!!!」

 

まるで野獣のように料理を口にしていく。それを見てミントは少々引いているようだった。

 

「美味いのは当然だ。何ならこの料理はアルスト一の料理集団“火龍団”を手配して作らせたものだからな」

 

カルマが自信満々というようにジークの後ろへと歩いてくる。

それを聞いてミントもタルタリ焼きを口に入れる。

 

「―――!!!」

 

「これは…私が作るタルタリ焼きよりも美味しい…!!」

 

「悔しいっ!!!悔しいけど手が止まらない――!」

 

ミントは目に涙を浮かべながらタルタリ焼きをがつがつと喰らっていく。

ミントのほかに、この卓上にいる者は皆まるで腹をすかした獣のように食べていく。

 

「ほんとだ…すっげぇ美味い…!」

 

リュウギもその美味しさに魅了されてしまったようだ。

しかしツバキはなにやら神妙な面持ちであった。

 

「確かに料理が美味いのは認めるが…スペルビアの皇帝陛下?なぜ俺たちにこんな贅沢を…?」

 

「せっかく世界一の料理を食べているのにそんなことを聞くのか?」

 

カルマも口に料理いっぱいの状態であった。それを一気に飲み込み答えた。

 

「確かに君たちはいわゆる犯罪者の類だ。だが私にも人情というものがあってね。そこの銀髪の少年と取引がしたくてな。」

 

カルマはそう言うと、リュウギのほうへ目を向けた。

 

「お、俺?」

 

「メレフから話は聞いた。君はどうやら三つの属性の力が使えると…炎と水、光の力を」

 

「まさか、皇帝陛下リュウギの力を利用しようと…?」

 

ミントは食べる手を止め、カルマに聞いた。

 

「まさか。そのような力を持つ者は野放しにはできないからな。我々で保護させてもらおうと」

 

「俺を…保護?」

 

リュウギはその一言に小さな安堵と大きな不安を抱いた。

 

「マンイーターなどといった特殊なブレイドは知っているだろう?君はマンイーターではないが、その力から悪者に利用され、もしくは差別主義者から迫害される…そんなこともあり得る。私は君のためにと思っているのだ」

 

「迫害?リュウギはそんなことされないと思うけど…」

 

「たまたま運が良かっただけだろう。実際特殊なブレイドは残念ながら忌み嫌われる。もし君の力が広く知れ渡れば少なくとも良い結果にはならないだろう」

 

カルマはグラスに注がれたワインを片手に語る。

 

「私は慈悲深くてね。そんな特殊なブレイドである君の存在を知り、放っておけなくなったのだ。いきなり捕まえて保護するというのでも良かったのだが…暴れられると困るのでね。この宴会を開いて私たちは君に敵意が無いということを示したかったのだ」

 

「にしてもずいぶん手荒な真似だったも…」

 

「それに我々のもとに来てくれるのであれば、極上タルタリ焼きは毎日のように提供するし、不自由な生活はさせない」

 

カルマの目は真剣であった。リュウギはそれを信じているようだ。

 

「陛下、気持ちはありがたいんですが…俺は母さんとの約束で、父さんを探すために楽園に行かなきゃいけないんです。それにタルタリ焼きはミントの作るほうが好きだし…」

 

リュウギは申し訳なさそうにカルマに答えた。ミントの顔は少々赤くなった。

 

「な、何言ってんの!そんなこと言われたらちょっと嬉しい…」

 

そう言ってミントはリュウギの頭をひっぱたいた。「いてっ」とつい声が出てしまった。

 

「これは君の罪を帳消しにする理由もあるのだがな。そこのミントくんにウマくん、そして彼らのブレイドの罪も。」

 

「ももっ!つまり逮捕されちゃうってことかも!?」

 

「なんともな交換条件ですね…」

 

アスカが口を開いた。

 

「まぁすぐに決断してくれとは言わないさ。明日の朝にでも答えを聞こうか」

 

そう言うとカルマは手を叩いた。料理もほとんどなくなり、正装したルクスリアの使用人たちが料理を下げていった。

 

「さて、スイーツは別腹かな?」

 

カルマがそう言うと、使用人たちが今度は1メートルもあるほどの巨大なパフェにスイーツの盛り合わせを運んできた。

 

「スイーツもあるの!?」

 

ミントの目はさらに光った。

 

「悪いがワイはもう食えん…食い過ぎた…」

 

ジークの腹は見るからにパンパンといえる様子だった。サイカはそれを見て失笑していた。

スイーツが机に運ばれてくると、全員再び獣のように喰らっていく。カルマはそれを見て笑っていたが、その笑顔はどこか不可思議であった。

 

「ところで親父ィ、サンクトスチェインのことはどうするんや…?」

 

ジークが父であるゼーリッヒに問いをぶつけた。この宴会にはもちろんルクスリアの王であるゼーリッヒも相席していた。

 

「あぁそのことだがジーク…アレは嘘だ。」

 

「う、嘘ぉ!?」

 

「カルマ皇帝に依頼されてお前たちを誘導したのだ。すまなかったな…」

 

「ってか、王子それ気づかなかったん?」

 

サイカはジークに微笑を浮かべた。

 

「ええっ!?ってことは全員…知っとったんか!?」

 

「まぁ、なんとなくで…だけどね」

 

ミントが口中クリームだらけで答えた。

 

「ところで皇帝陛下、メレフ様は…?」

 

「メレフならブレイドと共に君たちの持ち物検査をしている。どうやら腹が空いていないようでな」

 

「持ち物検査…?」

 

リュウギはここに来る途中、武器を含めた持ち物をすべて抜き取られたことを思い出した。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

少々薄暗い部屋の中、メレフとそのブレイドであるカグツチとワダツミがリュウギたちの持ち物を調べていた。

 

「これは…オルゴールですかね?」

 

カグツチが小さな箱を開けると、中から綺麗な音色が聞こえてきた。

 

「グーラの子守唄か。」

 

メレフはその音色を聞きながら調べ物を続ける。

 

「シリンダーに予備のカメ柄の眼帯に人工ブレイドの本…」

 

「特に危険そうなものは武器以外にはありませんね」

 

カグツチが調べながら言った。

 

「メレフ、この少年の赤い剣…どこかで見たことはないか?」

 

ワダツミが重ねられた武器の中から、リュウギの剣を取り出した。

 

「彼との戦いの中で不思議に思っていたが…」

 

円形の穴が開けられた赤い剣。

 

「天の聖杯、メツはこれと似たような武器を、色はホムラの武器と非常によく似ていますね…」

 

「やはり“彼ら”との関係性は強いといえるだろうな…」

 

メレフは再び持ち物を調べていくと、ひとつ、ライトに照らされ光るペンダントを見つけた。

 

「このペンダントの紋様、どこかで見たことが…」

 

ワダツミがメレフに近づき、そっとつぶやいた。

 

「これはスペルビアの…スペルビアの紋様だ…」

 

メレフは目の色を変えた。その瞳は驚きに満ちていたようだ。

 

「悪いがカグツチ、ワダツミ、私はすこし退出させてもらう!」

 

メレフはそういうと扉を吹き飛ばすように開き、走り去っていった。

 

「あのペンダントはスペルビア皇家のもの…」

 

「ということは…」

 

ワダツミとカグツチは互いに目を合わせた。

 

メレフはルクスリア王宮を走り抜け、宴会の行われている食堂へと走りこんでいった。

その形相は恐ろしいもので、王宮を警護していた兵士たちは恐れおののいていた。

もちろんそれは食堂の中でも同じ。あのカルマでさえも迫力に負けているようであった。メレフはリュウギのもとへとペンダントもって駆け付けた。

 

「少年!このペンダントはどこで…!?」

 

「え、えぇっとこれは…」

 

「ルクスリアでターキン倒したら落としたの」

 

ミントがフルーツを頬張りながらリョウギの代わりに答えた。

 

「ありがとう…!」

 

それを聞くとメレフは再び走り始めた。

それを見たカルマはどこか不機嫌そうにスプーンを皿にかちかちと打ち付けている。

 

「あのペンダントは…まさかな」

 

全員がスイーツを食べ終わり、カルマは手を叩いた。

 

「これで宴会は終了だ。特別にルクスリア王宮で泊まる許可が出ている。朝までゆっくりと休むと良い」

 

そう言うと、使用人たちが食べ終わった皿などを片付けに入ってきた。

 

「あぁ~美味しかった。満腹になると眠くなってくるもんだね…ふあぁ」

 

ミントは大きなあくびをかきながら腹を叩いた。リュウギは何かが足りないというようにまわりを見渡している。

 

「ところでさ、リリオどこに行ったんだ?」

 

「そういえば宴会にいなかったも」

 

「あら、リリオなら緊張のあまりトイレに行ってるわよ」

 

突然クロヒョウが現れて答えた。

 

「うおっ、唐突に…あんたはどこ行ってたの?」

 

「私もああいう宴会は好きじゃなくて。別室で別のもの食べてたの」

 

「キャットフードかなんかか?」

 

ツバキがあざ笑いながら言った。

 

「ああいうほうが私は好きなの」

 

クロヒョウは不機嫌そうに答えた。

しばらくすると、リリオが真っ青な顔でリュウギ達の前に現れた。

 

「ようやく出てきた、傭兵さん」

 

「これ以上ないってぐらい腹が痛かったぜ…宴会は?」

 

「宴会ならもう終わったけど」

 

リュウギは冷たく答えた。

 

「何ッ!?お、俺の分は!?」

 

「あぁ…ごめん、てっきり居るもんだと思って…」

 

ミントは舌を出しながら申し訳なさそうに頭をかいた。

 

「俺も…ッ!食べたかったのに…ッ!」

 

リリオは膝をついて大粒の涙を流した。

 

 

 



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"正体"

ゼノブレイド2のSS、なかなかたくさんありますが今のところほとんどの作品を見れていません。ようやく楽園の子をすべて見たところなのです。
面白いゼノブレイド2のSSがあったら教えてください。見てほしいって自分の作品を宣伝するんでもいいのです。なんならこれから書いてもらっても構いません。
見た作品をこれからの糧としていきたいですね。
そのためにもまずはこの5話の早期完結を…
早く6話に…



 

◇◇◇◇◇◇

 

夜も更け、リュウギ達はカルマに言われた通りルクスリア王宮内で一日を終えた。

それまでは特に目立ったことはなく、安全に一日を終えることができた。しかしリュウギは翌朝、カルマへの返事をどうするか未だ悩んでいた。

そんなことを考えながら、日は昇る。

普段吹雪くルクスリアは珍しく快晴。部屋に空いた小さな窓からもその光が確かに確認できるほどだ。

 

リュウギはまだ暖かい布団を上げ、部屋を出て外へ出た。

特有の気候のため、晴れていてもその寒さは変わらないが、昨日よりは温かく感じられた。

 

ルクスリアの巨神獣、ゲンブの体から見えるそびえたつ世界樹は今日も不思議な輝きを放っていた。しかし一度、大きな蛇のような影がそれを横切った。巨神獣だろうかと考えたが、そんな巨神獣は見たことも聞いたこともない…

すると後ろから誰かがコツコツとあるいてくる音が響いてきた。物陰に姿を隠し、誰が来たかを確認する。

青い髪をしたカルマ皇帝であった。いつもの秘書、ゴウは連れておらず一人でこの晴れたルクスリアを、神妙な表情で見ている。さしずめリュウギの答えが自分の思い通りのものではないと思っているのだろう。

そこに今度はルクスリアの国王、ゼーリッヒが杖をこんこんとつきながら歩いてきた。その両脇には二人のルクスリア兵士。

 

「ゼーリッヒ国王。この度は王宮を貸していただき感謝いたします」

 

「なに、我々にとって今回の件はとても重大だからな。今の世界樹に彼らを向かわせるわけにはいかないからな。どんな理由をつけてでも彼らを引き留めなければ。」

 

ゼーリッヒは重く口を開いた。リュウギはこの言葉に少し驚いていた。保護というのは嘘なのだろうか、世界樹で一体何が起きているのか…ついつい聞こうと前に出ようと思ったが、ことがややこしくなると困るので踏みとどまった。

 

「我々の巨神獣船を使用しようとも思いましたが、整備にコアクリスタルの管理、その他ペルフィキオらの調査書類の検査などで繁忙していましてね」

 

「ペルフィキオか…今巷で跋扈しているテロ組織のことか。前に王都で彼らによる爆発事件があった。その時の後処理は実に大変なものであった。」

 

「彼らの逮捕・調査は我々スペルビアが中心に行っております。それに彼らにあの少年が渡れば…」

 

カルマはゆっくりと地面に目を向けた。ゼーリッヒはたずさえた立派な白髭を一度さすり口を開いた。

 

「そろそろ時間にもなろう。私は別室で待機している。君の技量に期待している」

 

ゼーリッヒはそう言い残して、両脇の兵士を連れて屋内へと入っていった。途中、兵士がカルマの方を振り向いてその仮面の間から目を覗かせ、カルマはそれに対し不敵な笑みを浮かべた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「それで、私たちはここで待ってればいいの?」

 

ルクスリアの食堂に再び集まったミント達。リュウギとカルマ皇帝の話し合いが終わるまでここで待っていろと言う。

 

「ああ。なるべく早めに終わらせるよ」

 

「私たちのことなんか気にせず、あんたの思うこと考えてることを言えばいいよ」

 

ミントは少々強めにリュウギの肩を叩いた。

 

「しっかしスペルビアは好き勝手にうちの王宮使うなぁ。親父の許可を得てるとはいえ…」

 

「確かに。親父さんも知らんうちに丸くなったんかなぁ?」

 

サイカがジークに答えた。ジークは顎を触りながら考え事をしているようだ。

アスカはこの状況に少し不安と疑問を抱いていた。彼らの周りにはルクスリアの兵士たちが護衛、というより警護についている。

しかしなぜスペルビアの兵士ではなくルクスリアの兵士なのか…そんなことを考えていた。

 

そんなことを気にもせず、リュウギはカルマの待っている部屋の中へと入っていく。

その部屋は王室に似ている様相だったが、ところどころにほこりがかぶっている。昔使われていたのか、それとも倉庫のようなものか…いや、倉庫というのは違うだろう。明らかにその広さを見て考え直した。

カルマは奥の椅子に座り、こちらに目を向けた。

 

「さてリュウギ君…と言ったかな?君の答えは決まったか…」

 

カルマは歩き出し、リュウギのもとへと近づいた。

 

「我々のもとで保護されるか、それとも逮捕されるか…少なくとも逮捕より保護のほうが君にとっても仲間にとっても有益だとは思うが」

 

「気持ちはありがたいです。でも俺は母さんとの約束で…」

 

「君の母親か…」

 

カルマは小さく微笑む。どこか考えを巡らせているように。

 

「深くは聞かなかったが、君の言う母との約束……確か父を探しに楽園に行くと?」

 

リュウギは小さくうなずき答えた。

 

「俺が幼い頃に、楽園に行ったっきり。だから俺が行って連れ帰るんだ」

 

「何故君の父は楽園に行った?もう無くなったあの“楽園”に」

 

「楽園が…無くなった?」

 

リュウギは驚きのまなざしでカルマを見つめる。

 

「既に楽園など存在しないのだよ。とうの昔からね。今あるのは世界樹にそれに連なる太古のテクノロジー…君の父は何故楽園に―――いや世界樹に向かった?」

 

「俺は知らない。母さんも知らない。ただ楽園に行ったとだけ…」

 

「なるほど、知らないとは…あの男もずいぶんと説明不足なのだな」

 

「あの…男?」

 

カルマは頭を掻きながら言葉を連ねていく。

 

「君の父と私は会ったことがある。何度もね」

 

「父さんと…会ったことが…!?」

 

「本当に…勇敢で…正義感に溢れ…強き男だった。おかげで我々の計画に大きく泥を塗った」

 

カルマの足はだんだんと小刻みに歩き出す。まるでいらだっているかのように。

 

「そうそう、我々から君には特上タルタリ焼きに、自由を与えるといったな。少し嘘が混じっていた」

 

カルマはリュウギのほうへ振り返りこう言った。

 

「“我々”というのはスペルビアではない…ということだな」

 

「スペルビアじゃない…?どういうことだ…?」

 

リュウギは彼の言葉をまったく理解していないようであった。すると突然カルマは顔の色を変えリュウギの腕を強くつかんだ。

 

「お前を探すためにどれほどの時間と金をかけたか―――!お前の母から聞き出そうと思っていたが手間が省けた…ようやく見つけたぞ、ハーフブレイド!!」

 

まさに鬼のような形相でリュウギの黄色い瞳を睨む。まるでその瞳に誰かを重ねるように。

 

しかし、その空間に別の声色が響いた。

 

「その話、私にも聞かせてくれないだろうか?カルマ陛下」

 

カルマが目を向けたその先には、ワダツミが腕を組んで壁にもたれかかっていた。

 

「ワダツミ…!?なぜここに…!?」

 

カルマの目の色がさらに変わった。

 

「メレフに頼まれてね。君の行動に存在が怪しいと踏んだからだ。どうやら彼女のカンは当たっていたようだな」

 

「今の話をすべて聞いていたか?」

 

「もちろん。首から尾までね。」

 

カルマは震え、得意な顔をしているワダツミを睨んだ。

 

「全く…ここまで周到に準備を重ね露見しないようにしてきたのだがな…」

 

ワダツミは腰に携えた青い刀を抜いた。カルマへの威嚇だろうか。カルマは武器という武器は何も持っておらず、抵抗する術はない。

リュウギはそっとカルマに掴まれた腕を外し、二歩ほど後ろへ下がる。

 

「カルマ皇帝陛下―――やはりあなたがあのクーデターを首謀したのだな」

 

突然ワダツミの後ろから、青い刀身のサーベルを両手に持ったメレフ、そしてカグツチが地面を怒りからなのか踏みしめながら現れた。

 

「すべてはネフェルから聞きました。あなたが彼を陥れたと」

 

カグツチの口から発された「ネフェル」という名前。スペルビアの前皇帝の名…リュウギは母からその名を度々聞いたことがあった。

 

「ネフェルが生きていただと…?まさか、彼の心音が止まったのは確実に確かめたはずだが…」

 

カルマはその一言を言ってしまい、口を手で覆う。

 

「おっと、つい口が滑ってしまったようだな。だがもう既に信頼は地に落ちているようだ―――メレフ、君はとっても優秀な左腕だった。ネフェルが君を信用していたのも当然だな」

 

「その少年を何に利用しようとしていた?皇帝の立場にまで上りつめ、いったい何を企んで…」

 

その瞬間、水を纏った別のサーベルがメレフの背中を切り裂いた。突然の攻撃に倒れこむメレフ。カグツチが「メレフ様!」と叫び肩に手をのせた。

 

「ぐあぁっ……… お、お前は――?」

 

メレフが後ろを振り向くと、両手にカグツチのとよく似たサーベルを携えたゴウが兵を率いて立っていた。

 

「やれやれ……カルマ、しっかりと周りに注意していないから…」

 

「この展開は予想の範囲外だったのでね。だがこうなった時お前が来てくれるのは想像してたがな」

 

ゴウはリュウギを目で追いながらカルマの元へと歩み寄っていく。

 

「ゴウ、そのサーベル…まさかお前は…?」

 

ワダツミがゴウの持つサーベルへと目を向ける。カグツチの炎とは異なり、水を宿しているようで、青い刀身からは水滴が垂れている。

 

「そう、私はブレイドだ。この姿のままでいるよりは人間のふりをして関わるほうが都合がいいのでね…ッ!」

 

ゴウはそう言うと、サーベルを伸ばしてワダツミに振りかざした。ワダツミは持っていた刀で防ぐが、伸びたサーベルが刀にからみつき、刀はその手から外れてしまった。ゴウはもう片方のサーベルをワダツミへぶつけ、壁に吹き飛ばした。

隙を見てリュウギは逃げようとしたが、ゴウの率いていた兵士…それもルクスリア兵によって両腕を掴まれた。今は武器を持っておらず、抵抗はできない。

 

「やれやれ、詮索していなければルクスリアごと穏やかに海の底へ沈めたものを」

 

カルマは倒れこんだメレフとワダツミらに目を向けてつぶやいた。

 

「しかし面倒なことになりました。こちらでプランBへ変更の旨を」

 

ゴウは連絡装置と思われる機械を取り出し、カルマへと手渡した。ピーッという機械音の後にカルマは口を開いた。

 

「ツナヨシか?予定外の事態が発生した。プランBへ移行する。あとは上手くやってくれ」

 

そう言うとカルマは機械をゴウへと戻した。

 

「ツナヨシ…まさかあんたって…!?」

 

リュウギは得意げになっているカルマのほうを見つめた。

 

「そう、スペルビアの皇帝というのは本来の私の立場のカモフラージュに過ぎない―――私の正体はペルフィキオのボス。メレフが邪魔さえしなければここまでの失敗はゼロだったのだがな…」

 

「貴様がペルフィキオの…ボスだと!?」

 

「そうそう。誰もまさか皇帝がテロ組織のリーダーとは思うまい。最高の立場であったよ――――その少年をこちらまで連れてこい」

 

ルクスリア兵士に掴まったリュウギがカルマの元へと運ばれていく。それを見たメレフが言葉を放った。

 

「ルクスリアの兵…まさかゼーリッヒ国王も貴様らと!?」

 

「まさか。彼はこんなことをするような悪人ではないよ。邪魔になるから今頃は牢屋にでも入っていると思うがね。それにお前の仲間も…」

 

カルマはリュウギの睨む目を見つめた。それを見てカルマは爆笑する。

 

「ハッハッハッ!長年待ち望んだ存在が今や目の前に…」

 

「俺はお前らの言いなりなんかに…ッ!」

 

言い切る瞬間、カルマの右拳が腹へ入った。衝撃にリュウギは気絶してしまう。

 

「この少年は我々が貰う。兵士、それに―――アルジェント。こいつらを王宮の牢屋にぶち込んでおけ」

 

兵士たちの後ろから金髪の男…アルジェントが現れた。

 

「貴様…ッ!」

 

カグツチはメレフの腰に携えていたサーベルを取り、アルジェントに攻撃しようとするが…突然サーベルの青い光が失われた。

 

「何故ッ…!?ああっ!」

 

アルジェントに蹴られてメレフの元へと吹き飛ばされてしまった。

 

「少々横暴がすぎるんじゃないか?アルジェント」

 

「せっかくこの王宮にはブレイドの力を無効化する機能がついてるんだ。使わなきゃ宝の持ち腐れだろ?」

 

アルジェントが傷ついたメレフとカグツチを担ぎ上げる。

 

「こいつらのことはお前に任せた―――それと、はどうした?」

 

「あれならツナヨシ達に渡しておいた。じゃ、気張っていけよ」

 

アルジェントは二人を持ち上げ、兵士は気絶したワダツミを運び、共に部屋を出ていった。

カルマは気を失ったリュウギの顎を持ち上げ、不敵な笑みを浮かべている。

 

「さて―――ここからが本番だ。 新たなる聖杯との同調――― その唯一の鍵―――」

 

カルマはゴウからサーベルを受け取り、部屋に張られた古びた大きな窓を水流で破壊。ゴウはリュウギを持ち上げ、二人は晴れたルクスリアの王都へと飛び出していった。

 

 

 

 




今回ので色々明らかになったと思います…第5話での衝撃展開はまだまだこれから。序の口です


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"牢屋にて"

筆がなかなか進みません。筆じゃなくてキーボードなんですけどね。
ゼノブレイド2もそろそろ3週目のクライマックスまで遊んでます。毎回書くたびにやってますからね。それでも矛盾が出てしまう…設定が細かになっているので、そろそろオフィシャルアートワークスとかが欲しいところです。


◇◇◇◇◇◇

 

アルジェントからルクスリア兵に渡ったメレフとカグツチ。兵士の群れはルクスリアの王宮、テオスカルディアの硬い廊下を歩いていく。

冷たい風がふきすさぶ道を抜け、怪しい翠玉色の光を放つラインが走る頑丈な牢屋が見えてきた。その中へ気絶しているメレフとカグツチをまるでゴミを捨てるように乱暴に投げ入れた。投げられた衝撃でメレフは「ぐぅっ」と声を上げた。

 

そのメレフに駆け寄ったのは茶色のポニーテールのミント。髪を揺らしながらメレフの肩を叩きながら起こそうとする。

 

「おい、どこ行くつもりや!」

 

ジークは青い刃を失った大剣を振りかざすが、兵士に当たる前にその硬い石の扉が閉められてしまった。

 

「ったく…一体全体どうなっとんねん!急に衛兵が襲い掛かってきて…」

「その上こんなところに閉じ込められて…」

 

サイカは大きなため息をついた。青い刃を失った、ジークの抱える大剣を見つめながら。

 

「この感覚…エーテル遮断網を使われているのと同じですね……」

「でもでも、ウマたちぐるぐる巻きにされてないも?」

「この牢屋全体にエーテル遮断網と同じのが張られてる。いうなら結界みたいなもんや。この中じゃエーテルエネルギーを使ったアーツを撃つことはできん。つまりは……どうしようもないってことや」

 

ジークは座り込んで、今日の朝剃った短いひげを擦る。この牢屋全体に張られたエーテル遮断の光は見る分にはとても綺麗だが、同時に恨めしく思える。ジークはすっと倒れているメレフに目を向ける。メレフはうっすらを目を開く。

 

「おうメレフ、ようやく気ぃついたか」

「メレフ様!大丈夫ですか!?」

 

ミントがメレフの耳元で叫ぶ。あまりに大声だったので、気がはっきりと醒めた。

 

「あ、あぁ…大丈夫だ」

「あんまり大声出さないでくれる?ただでさえこの牢屋狭いんだから」

 

横で倒れこんでいたカグツチも起き上がる。床に座り込むジーク、壁に走る翠玉色のラインを見て、二人は頭を抱えた。

 

「この部屋は…王宮の牢屋か。ここではブレイドの武器を使えない…」

「さてメレフ。上で何があったか話してもらおうか」

 

ジークは大剣を床に置き、胡坐をかいてメレフを見つめる。

 

「そういえばリュウギは?メレフ様は来たのに…」

「すまない。少年は…カルマ陛下、いやカルマに攫われた」

「攫われた?無理やりなんて話が違うやないけ。まさか話を断ったからワイらは…」

「まさか。裏切ったのはカルマのほうだ」

「カルマ…皇帝陛下が?なぜ?」

 

ツバキの問いに、メレフとカグツチは上であった出来事を話した。カルマがペルフィキオのボスであったこと、ゴウがブレイドであったこと、リュウギが連れ去られたこと…

 

「おいおいちょっと待て、カルマ皇帝が…ペルフィキオのボスやて!?」

「驚きやわ!そんな人には見えへんかったで!?」

 

ジークとサイカは漫画のような驚き方をして後ろにすってんころりんと転んだ。

 

「カルマの近くに居ながら気付けなかった私の責任だ―――申し訳ない」

「メレフ様は悪くないですよ。誰だって裏の顔がある…それには普通気づかないものだもの」

 

ミントの励ましにメレフの強張った顔は解かれた。

 

「だけどリュウギが連れ去られたこと…それは見過ごしておけないよ。早く助けに行かないと!」

「しかし一体ここからどうやって抜け出す?武器が使えなきゃアーツは撃てない。それに分厚いここの壁…破壊ってのも無理な話だ」

 

リリオの言うことはもっともだった。窓は格子どころか存在しないし、ここは城の中でも中心部。破壊して出るのは不可能に近い。

 

「なぁメレフ、前ここからどうやって出たんや?」

 

ジークが問いただす。その話によると、昔メレフは同じこの部屋に閉じ込められことがあるらしいが、仲間の協力も得て脱出できたという。

 

「ハナの力で脱出できたんだ。だが…」

「残念だけどあれは人工ブレイドのエーテル炉を使って脱出できたの。今ここに居るブレイドは全員、天の聖杯でもなければ人工ブレイドでもない―――武器が使えない今、その脱出法は使えないわね」

 

全員、カグツチの言葉を聞いて肩をがっくしと落とした。

 

「そうだウマ、ウマって人工ブレイドの技術を使って何か作ってるとか…もしかしたらエーテル炉とか?」

 

ミントがウマの方を向く。しかしウマは首を横に振った。

 

「残念ながらまだ未完成なんだも。エーテル炉も超小型サイズでしかもエーテルエネルギーを生産することにまだ成功してないんだも!」

 

それを聞いて、全員再び肩を落とした。メレフは光る壁に手をつけた。

 

「すまないネフェル。お前の願いを叶えられそうもない…」

「ネフェル…?そういやお前昨日突然出て行ったよな?どこに行っとったんや?」

 

涙交じりの瞳のメレフに問う。メレフは深く息を吸った後に答えた。

 

「ネフェルは…生きていたんだ。今回カルマの悪行を暴けたのもネフェルのおかげだ―――」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

「どこだ―――どこにいる―――ネフェル!」

 

メレフは王都の中を、輝くペンダントを手に走る。

このペンダントはスペルビアの皇家のみが持っているもの。カルマはまた別のを持っている。しかし柄に、金色のふちに青い模様。これはまさにスペルビアの前皇帝、ネフェルが持っていたもの。

ネフェルが生まれたすぐ後、メレフは皇家の鍛冶職人からこのペンダントを渡してくれと頼まれた。この赤子が次の皇帝となる。その証としてこのペンダントを、と。

男同然に育てられてきたメレフは、心に潜むいわば「女心」を隠してきた。本当はかわいいものが好きなのに、そんな些細なことも隠して。

そんな彼女にとって赤ん坊なんてそれはかわいいかわいいもの。会いたくて仕方なかった。ネフェルに会いに行くことを最初は父に断られていたが、カグツチはそんな父を食い止め、メレフは渡されたペンダントを届けにスペルビアの荒れ地を駆けて行った。

皇室御用達の産婦人科へ行き、自らが皇室のものだと伝えようやくネフェルのもとへたどり着き、このペンダントを首にかけた。

 

それからネフェルは成長し、首にかけることはなくなったが、このペンダントを肌身離さず持ち続けていた。

そんな思い出のペンダント。メレフは忘れるわけがない。

ネフェルが死んでしまう前日、このペンダントを持っているのを確かに見た。もし生きているのなら、これを持っていたはずだ…

王都テオスアウレはとても冷えている。しかしそんな寒さを顧みず、ただ最愛の義弟を探しに走る。

 

走る中、目の前に浮浪者と思われる人物が歩き去っていくところを見た。浮浪者はテオスアウレの奥のほうへ、奥のほうへと歩いていく。

メレフは静かにそれを追いかける。もしネフェルが生きていたとしたら、立場上、表には出れない…ならば浮浪者として生きているかもしれない。

そんな望みを持ちながら浮浪者の住むスラムへと入っていく。

 

「モット、モット撫デテ!」

「わかったわかった。ほらあまあまういんな。」

「コレモイイケド!モットン撫デテ!」

 

数匹のターキンに囲まれている男。その男の声に聞き覚えがあった。

メレフはゆっくりとその男の元へと歩いていく。

ボサボサにはなってしまっているが…青い髪。そしてかつてネフェルがかぶっていた羽の皇冠をかぶった一匹のターキン…

 

「ネフェル―――」

 

つい口から出てしまった。青い髪の男はターキンを両手に抱えながら、メレフを見つめる。

 

「義姉…さん…?」

 

男はターキンを抱えながら、後ろへと静かに下がる。

 

「ネフェル…本当に…ネフェルなのか―――?」

 

メレフはだんだんと彼に近づいていくが、あちらはだんだんと引き下がっていく。

 

「どうして…ここが…」

 

その瞬間、男が抱えていたターキンが槍を持ってメレフの前に立った。

 

「コノ人、傷ツケジャダメ!コノ人、イイ人!コンナ僕タチノコト、助ケテクレテ…コノ人、怯エテル!」

 

ターキンはメレフの膝のあたりを当たらないよう槍でつっつく。

 

「私は傷つけに来たんじゃない…探しに来たんだ…」

「もしそうなら…どうして今更…?」

 

男は立ち上がり、二匹のターキンを後ろに下げた。

 

「これだ…これを見てくれ!お前が生まれた日、私がプレゼントしたものだ―――」

 

メレフはペンダントを取り出す。しかしそれは一瞬でターキンに奪われてしまった。

 

「コレ!コノ人ガクレタモノ!」

「サッキ落トシタトオモッテタ!」

 

ターキンは武器を落としてメレフを見つめた。

 

「返シニ来テクレタノ?」

「あ、ああ…」

 

おぼつかない返事に、ネフェルは微笑を浮かびながら答えた。

 

「覚えてますよ。もちろん」

 

男の名はネフェル。ネフェル・エル・スペルビア。死んだと思われていたスペルビアの前皇帝だ。

 

 



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"兵士たちの真実"

5話が終了したらちょっと休ませていただきます…
ここだけの話、原作同様に10話の予定です。ただそこまでたどり着くのにどれだけかかるか・・・
みなさんの期待にそえるよう早めにやっていきたいですね。



 

◇◇◇◇◇◇

 

メレフはネフェルの口からそのことを聞いて驚く。 クーデターを首謀者をメレフだと思っていたこと。

 

「まさか…私がそんなことをすると!?」

「私も最初はそんなはずはないと思ってました――しかし兵士の会話を立ち聞きしていると、義姉さんが企てていると…」

「一体だれがそんな噂を…」

「それにクーデターが起きて私が逃げているとき、私は確信したんです。義姉さんが剣を持って私の名前を呼んでいた…切羽詰まっていたあの時、まるで私の命を狙っているかと―――」

「あの時私はクーデターを抑えようと…」

「もちろん後になって私は考えました。義姉さんがそんなことを起こすはずはないと。しかし新たな皇帝が即位し、義姉さんがその傍にいると知った時、私にはもう居場所はないのだと、そう思ったんです。それに今現れたとしても、義姉さんが、民が受け入れてくれると…そのことに不安で…」

 

ネフェルは大粒の涙を流し、地面に膝を落とした。メレフはゆっくりとむせび泣くネフェルの肩に手を回した。

 

「今までお前のことを忘れたことはない。それに今の今までお前に苦しい思いをさせてすまなかった―――」

 

必死の懺悔をメレフは口から漏らしていく。ネフェルは涙を、薄汚れた着物の袖でそっとこする。

 

「一つだけ聞きたいことがあるんです。今の皇帝カルマ…彼はどうして皇帝に即位することに?」

 

ネフェルにとってそれは疑問であった。カルマという名前は、即位するまで一切知らなかったのだ。何せ皇帝というのは忙しい身分。親族・親戚関係は小さな事しか聞き入れることができなかったからだ。

 

「彼の名は“カルマ・ノックス・スペルビア”。お前からすると遠い親戚だ。お前以外では私に次いで3番目の皇位継承権を持っている。しかしクーデターが起こるまで彼は行方知れずだった」

「行方知れず?どうして…」

「皇族でありながらもカルマの一族…ノックスの一族は皇位というものに興味がなかった。それゆえ我々とはほとんど一切の関わりを持たず、主にブレイドの研究を行っていた」

「ブレイドの研究を―――?」

 

メレフの口からカルマについての詳細が語られた。カルマの一族は皇位でありながらその立場に興味を持たずブレイドの研究をひたすら行う。

初めて聞くその情報にネフェルは興味津々であった。なにせノックスの一族は名前しか聞いたことが無かったからだ。深いことまでは知らされることはなかった……

 

「しかしブレイドの研究の中、法王庁(アーケディア)に目を付けられたのだという。法王庁にとって、深くブレイドの研究をされるとマンイーターなどの技術が漏洩すると恐れたのだろう。ゆえにノックスの一族はマルベーニの聖断によって淘汰されたのだという。カルマは奇跡的に生き延び、隠居生活を行っていた…すべてカルマから聞いた話だがな」

「それからどうして皇帝へと?」

「彼はスペルビアの内情について調べていたのだという。クーデターが何者かによって計画されていると……それから焦った反政府派はクーデターを引き起こした…それを押さえつけてくれたのがカルマだ。お前が死んだと噂された後―――次に皇帝に即位するのは誰かという話になった。最初はカルマのことを快く思っていなかったが、血液検査により皇族の血が流れていると判明し、カルマはクーデターを抑えた功績から皇帝へと即位した―――というわけだ」

「しかし義姉さんはなぜ皇帝にならなかったのです?女流皇帝というのは禁止されているわけではありません。私が生まれなかったら玉座にあなたが座っていたはずでしたし。あなたがなっても良かったはず…」

「私はあまりにも長く執権官の立場に身を置き過ぎた。選ばれなかったというより、私自ら辞退したんだ」

 

ネフェルはメレフから聞いたカルマの事実を聞き。考えを巡らせ、ある一つの問いを生んだ。

 

「本当にカルマは―――クーデターについて調べていたのでしょうか?もしかしたら、クーデターを首謀していたのは彼かも―――」

「まさか。自ら首謀して自ら抑えつけるなど…」

「自作自演。そういう可能性もあるのではないですか?自らクーデターを操り、それを抑えつけた風にする…そして功績と自らの血から皇帝に上りつめようと…」

 

メレフはその言葉を聞いて、カルマに対する疑いを覚えた。それと同時にあることを思い出す。

カルマがなぜ少年のことを聞いた途端に目の色を変えたこと、「私の目の前に連れてきてくれ」という言葉…心の底に会った皇帝陛下への不信感が、大きくなったような気がしたのだ。

 

「いや、カルマはただ皇帝に即位することが目的なのではない…もし、何かしらの計画を立てて皇帝の座に―――」

「カルマが計画を?」

「私は行かなければならない。この胸騒ぎ―――ただの焦燥ではない。ネフェル。必ず私が迎えに来る。だから決してここを離れるな」

「分かっていますよ。この生活もつまらないわけではないですが―――あのままというのも悔しいですから」

 

メレフはネフェルの顔を覚え、最後に敬礼をしてから再び王宮のほうへと走っていった。

 

「バイバイ!マタネー!」

 

ターキンは走り去るメレフに手を振った。

 

◇◇◇◇◇◇

 

メレフからネフェルとの会話の一部始終を話した。ジークは顎をさすりながら、サイカは腕を組んで聞いていた。

 

「カルマがペルフィキオのボスなんやら、最初から銀ボンのことを狙っていたと…?」

「いや、ペルフィキオはリュウギじゃなくて“あの女”って人を探してた。もしかしたらリュウギに関係のある人物かも…」

「どちらにせよ、カルマの言葉通りなら少年のことを最初から狙っていたのは確かだ。皇帝というあらゆる情報が入ってくるその立場を利用し…」

「確かにリュウギは強いも!だけどペルフィキオにとって大きな戦力になるのかも?しかもリュウギが納得いってないなら、おとなしく従うはずがないも!」

「確かに。リュウギの力を奪おうとしてるとか…?」

 

リリオの言葉に一同はハッとした。ペルフィキオの狙いがリュウギの力を奪うことなら…命を奪うのと同じことかもしれない。ミントは力を失った武器を硬い石のドアにたたきつける。

 

「このままここに閉じ込められてたって、リュウギを助けられない!早く行かないと!」

「だがどうやって脱出するんだ?適当にぶん殴ってたって拳が痛くなるだけだろ?」

 

ツバキの言葉にムッとするミント。「うるさい!殴ってればひびぐらい入るでしょ!」と荒々しく答え、壁殴りを続ける。

 

「やれやれ…」

 

呆れるツバキ。それと同時にアスカは何かを感じたようで、ミントを壁から引きはがす。

 

「ちょっと!?何すんの!」

「ブレイドの気配を感じます。今扉の向こうに―――」

 

そういい終わる直前、扉が吹き飛ばされた。とびちった破片が頭に当たり、リリオは後ろに倒れてしまった。

その先に居たのは2匹のターキンにワダツミ…

 

「ターキン…?まさかネフェル!」

 

ワダツミの後ろから現れたのは青い髪の男…ネフェルだった。

 

「なかなか迎えにこないから、こちらから迎えに来ましたよ」

「兵士に掴まっているところを助けてくれてね。あー、陛下?いやネフェル…」

 

今は皇帝の座ではないネフェルのことをなんと呼べばいいやらと少し困惑するワダツミ。「あなたの好きなように呼んでください」と言われたので、ワダツミは小さな声で「陛下」と呼ぶ。

 

「さきほど、二人の男が少年を抱えながらゲンブ港に向かうのが見えました。嫌な予感がしたので義姉さんたちにこのことを伝えようと思ったんです」

「なら、リュウギはゲンブ港に連れ去られた…なら急ごう!」

 

ミントがそう言うと、一同は武器を手に進む準備だ。しかしジークは指してほしいとばかりに突然手を挙げた。

 

「悪いがワイは親父のところに先へ行く。すぐに追い付くから先行っといてくれ」

「すまんなぁ、王子ずっと親父さんのこと心配してて」

「大丈夫!ジークは親父さん助けに行ってきて!」

「おう!」

 

ジークは大剣を手にする。しかし出発の前にネフェルから一言。

 

「ここに来た時、いや王都全体で兵士の様子がおかしいんです。気を付けてください」

「確かに、ルクスリアの兵士が突然我らに刃を向けた…さらに国王であるゼーリッヒに対しても、と」

「ここの兵士は親父に対して忠誠を誓っとる。クーデターなんて起こさへんと思うが…カルマにたとえ賄賂を渡されたとしてもな」

「とにかく今は助けに行くことが先決じゃないか?カルマにアイツを背負ったまま逃げられたら…厄介なことになるぞ?」

 

確かにツバキの言う通りだ。ミント達とジークは分かれ、それぞれは走り出す。

 

◇◇◇◇◇◇

 

ミント達と分かれ、父であるゼーリッヒを助けに行くため王宮テオスカルディア内を駆け回るジークとサイカ。

ジークを見るや否や刃を向けてくるルクスリアの兵士に対し、ジークはすまないとつぶやきながら叩き斬っていく。

ここの兵士のことは王子である彼は分かっているつもりだった。しかしどうしてカルマの側についたのか―――

それを考えながらジークとサイカは王宮を再び駆けていく。ゼーリッヒが捕まっている場所…ともかくしらみつぶしに探していく。

王宮をもう何周しただろうか。未だ父は見つかっていない。

 

「親父ィ!一体どこにおるんや!」

「もしかして既にもう…」

「何を演技悪いこと言ってんねん!あの親父がそう簡単に死ぬか?」

 

小さな喧嘩をしている二人の前に、再び兵士が現れる。ジークはそのサイカの剣でアーツを繰り出していく。時折サイカに武器を渡し、必殺技を繰り出しながら。

サイカの武器が兵士の槍と一瞬つば競り合いになる。その時、サイカは戦いの中であることに気づく。

兵士の目に…光が無い。どこか虚ろで…

しかし襲い掛かってくる相手に油断はできない。行動不能に一度落とす。

 

「なあ王子、この兵士たち…目が虚ろになってたんや。それにそれに、いくら呼びかけても返事すらせんし…」

「返事が無い…確かにな。こいつらただワイらに反旗を翻してるんじゃない…どことなくそんな気すんな」

 

まだ王宮に探していない場所がないかと、王宮をもう一周することに。その途中でジークはあることを思い出す。

 

「そういや…前にエーテル加速機があった場所、まだ見てないな」

「確かに。あれから立ち入り禁止になっとったから…」

「たぶんそこや、とっとと行くで!」

 

エーテル加速機と呼ばれる物がある場所…白雪の回廊と呼ばれる場所へ向かうため、王宮を下へ下へと降りていく。その途中で何度も何度も兵士と剣を交える。戦いを繰り返し疲弊した体に鞭打ち、ようやく最下層へとやってきた。

 

「やはりここやな。普段はここ大きな扉で閉められとるはずや。でも今は開放されとる…」

 

階段を降り、巨大な機械が中心にズーンと佇む巨大な広間へと出てきた。その機械の前で縛られているのは…まぎれもなく父親のゼーリッヒであった。

 

「親父!大丈夫か!」

 

駆け寄ろうとするジークだったが、目の前に鉄の弾丸が撃たれ後退する。

「誰や!」と叫ぶ。弾丸の現れた場所はエーテル加速機の上。金髪の男がスペルビアの兵士の常備武器、機関煙銃を肩に乗せる。そしてブレイド研究所から盗んだセイバーを片手に座っている。

 

「ようやく来たかぁ。雷轟のジークさんよぉ!」

 

何メートルもあるエーテル加速器の上から男がジャンプで降りてくる。落下ダメージは無いようだ。

 

「お前、何もんや?」

「ペルフィキオのメンバー、アルジェント…そのジジイは牢屋に入れようと思ったが、別の場所で縛っておいたら誰が来るかと思ってなぁ」

「人の親父好きに扱いやがって…!」

「なぁに、俺に勝てば素直に返してやるよ」

 

しかしジークとサイカはそれを聞いて失笑する。男が持っている武器はスペルビアの銃に人工ブレイドの武器。ただの人間が扱うものではない。

 

「ブレイドもなしに…そんなものでどう戦うっていうねん?」

「俺にはむしろ十分すぎるぐらいさ」

 

アルジェントは弾丸を放ち、セイバーを振りかざす。しかしそれは雷轟のジークの前には無意味。その素早さで弾丸を打ち返し、セイバーを受け止める。

 

「なんや、威勢だけか?」

「ほんの小手調べだぜ?雷轟のジークさんがどの程度か知るためのな…ッ!」

 

アルジェントは銃を捨て、空いた片手に黒いエネルギーの弾を生み出し、それをジークの腹へと突きつける。突然の攻撃にジークは腹を抱えて倒れこむ。

 

「王子!大丈夫か!?」

 

サイカがジークへとエーテルの流れを止め、歩み寄る。

 

「なんや今の攻撃…お前、まさかブレイドか!?」

「どうだろうなぁ?もしそうだとしたら…どうする?」

 

アルジェントは再び手に黒き弾丸を生み出し、それをセイバーに宿す。

 

「ブレイドだろうが人間だろうが……親父に手ェ出すなら許さへんでぇ!」

 

ジークは飛び上がり、その大剣…紫電三式轟に何万ボルトかという電気を纏わせ、アルジェントに振りかざす。

 

「轟力降臨―――極・雷神斬光剣(アルティメットライジングスラッシュ)・改!!!」

 

その一撃は強力だった。セイバーで防ぎきれずアルジェントはエーテル加速機に打ち付けられ、失神した。

サイカは腰を痛がるジークをさする。二人はゼーリッヒの元へ行く。

 

「親父!大丈夫か!」

「ジークか…すまんな、あの男の目論みを見抜けず…」

「そんなことはええねん!怪我はしてないよな?老体に無理してないか…」

 

サイカは心配するジークを見て微笑んでいる。ジークはそれに不服そうである。

 

「なに笑っとんねん!」

「いや、親父さんのことそんなに心配する王子、全然見れんから!」

「ワイが未だに反抗期かなんかか思っとるんか?」

「そういうことやなくてなぁ…」

 

そう言いながらも二人は笑っている。

 

「って、そんなことより親父!本来の予定では、カルマと一体何を考えてたんや?」

「少年を保護し、世界樹へと行かせない……もしお前たちが世界樹へ行くなら―――どうしても行かせられない理由があるのだ」

「なんや水臭いなぁ!その理由、教えてくれんか?」

「悪いが各国の首脳しか知ることができないことなのだ。お前が王族でも、それを伝えられない理由がある……それに伝えたとなれば、ルクスリアは協定に反したとみなされ…」

「なんなら、別の首脳から聞いたるわ。ルクスリアに無駄な責任乗せられんしな」

「王子、話分かるようになったんやなぁ、偉いわぁ」

「さっきからワイのことバカにしすぎやろ?…ともかく、無事なら安心したわ。これから銀ボン…あいつのことを助けに行く。親父は別のところに避難しといてや」

「ジーク…ありがとう」

 

その言葉にジークは顔をほてらせ、頭を恥ずかし気に掻きむしる。

 

「なんや、“ありがとう”て…恥ずかしくなるやないか」

「ウチが親父さん安心なところに連れて行くわ。王子は先行っといて」

「おう、任せたで!」

 

サイカが足腰の悪いゼーリッヒの肩を持ち、白雪の回廊を歩いていく。ジークはそれを少し見届けた後、大剣を背中に戻して出発の準備だ。

 

「よっし、行くで……」

 

そう歩き出したジークに後ろから再び黒い弾丸が撃たれた。その攻撃に倒れるジーク。

 

「お前…気絶してなかったんか…!?」

「あの程度で気絶するほど俺は弱くねぇよ。しっかし父子の愛かぁ…素晴らしいねぇ」

 

倒れこむジークの周りをまわるように歩くアルジェント。ジークに近づき、髪の毛を掴んでその顔を前に持ってくる。

 

「どうしてお前んとこの兵士が裏切ったか…気になるよなぁ?…俺の力だよ。人の脳に入り込み思考や行動を操る力…指を一発鳴らすだけで俺の思い通りに動く。」

「洗脳か…うちの大事な大事な兵士を操りやがってぇ……!」

「見たところお前はあいつらの元へ行くみたいだな…ちょうどいい。お前は役に立ちそうだ」

 

アルジェントは得意げな顔を見せつけ、髪を掴んだ手とは逆の手で指をパッチンと鳴らした。

 

 

 

 

 

 



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"水のドライバー"

受験期かつすごく忙しいですが、6月中にはなんとかこの5話を終わらせたいなぁ・・・と思っております。


 

 

◇◇◇◇◇◇

 

一方、カルマの行方を追うミント達。王都の人々は少なからずこの騒動に気づいている様子で、通り抜ける途中でもその混乱はわかるほどであった。

雪道を通りぬけ、ゲンブ港前のリザレア広場へ。途中モンスターと何度も遭遇したが、戦って経験を積んでいる暇はない。リュウギ救出が先である。

ゲンブ港にたどり着くと、そこには巨大な黒い船…戦艦だろうか。

 

「あれはスペルビアの巨神獣船ではない…あれは…イーラの戦艦か!?」

 

それを見て真っ先に反応したのはメレフであった。吹雪く中では見えづらいが、重厚な装甲を纏ったそれは鉄の獣のような威圧感を感じる。

 

「あの中にリュウギが!?」

「あの船が出発する前に救出するぞ!」

 

ツバキの合図で一同は戦艦にとびかかる…ことはなかった。黒い戦艦の中から、カルマがゴウと共に現れたからだ。

 

「しつこい連中だな…そんなにあの少年が大事か?」

「もちろん!大事な仲間だ!」

「貴様らの企みに少年が必要ならば、我々にとってあの少年は大事ということになる」

 

その中でも一番カルマに対し感情をむき出しにしていたのはネフェルであった。そのこぶしを握り締めてカルマを睨む。

 

「カルマ…!皇帝の座を利用し、人々を陥れるような真似をするなど…許せません!」

「ネフェル―――この死にぞこないめ。死んでいないならもう一度殺すだけだ」

 

リリオとメレフの、そしてネフェルの言葉にカルマは口を尖らせる。ゴウから武器を受けとり、ミント達の前へと現れる。

 

「そんなに大事なら…力づくで奪って見せろ。私は正々堂々と立ち向かうがな」

 

カルマは水を纏った武器を両手に。サーベルを振り風を切るとその空気は水滴へ変わり、水の弾丸となりメレフ達へと飛ばす。蒼炎のサーベルでそれをすぐさま打ち消す。

 

「だけどそっちは一人!輝公子様と含めてドライバー4人相手に戦う気かも?」

「舐めてもらうと困るな…私はペルフィキオの―――ボスだぞ?」

 

カルマは水を纏い、音よりも早くメレフの前へ移動し、そのサーベルでメレフを吹き飛ばす。あまりの速さにメレフとカグツチは驚いているようだった。そこから間髪入れずにカルマのサーベルはミントとウマ、そしてリリオを狙った。水の力を宿すそのサーベル。炎の力を持つカグツチのサーベルとは相反する属性。ただの反対属性というだけでなく、その水の力はまさしく鉄をも裂く激流のごとく凄まじいものであった。

 

「なんて速さ…!手も足も出ない!」

「ミント、ここは一度アイツを崩してダウンさせ…」

 

しかしその動きを行う前に再びカルマの攻撃が一同を吹き飛ばしていく。

 

「その程度か…?炎の輝公子を仲間に入れたとて私に手も足も出ないとは哀れだな……」

「貴様の好きにさせるかッ!カグツチ!」

 

カグツチがメレフへ送るエーテルの流れを金色に変える。それを見計らい、メレフはアーツを繰り出す。

 

「蒼炎剣!弐の型!明王!」

 

蒼き炎がカルマを覆いつくす。しかし全くその攻撃は効いていないようだ。

 

「バカな!?」

「炎を打ち消すもの、それは清き水……貴様の持つ蒼炎などゴウの炎の前には無駄なのだよ…ッ!」

 

カルマがゴウに水のサーベルを手渡す。サーベルは蛇のようにうなり、滝のような水を迸らせながら襲い掛かってくる。

 

「フォール・オブ・テンペスト!!」

 

ゴウのその技名と共に、流れ出る水はミントたちを覆いかぶさり、爆発するかのように爆散した。

 

「まさか…こんな…っ!」

 

ミントはもはや腕が上がらない。倒れこみ、ただカルマの顔を睨むことしかできなかった。

 

「さてと、君たちを始末すればいいとは思うが…いかんせんこの国の住民に計画がバレてしまった可能性がある。これを他の国にまで伝えられると我々は困るのだ――――巨神獣ごと沈んでもらおうか」

 

カルマが見つめたその上空には、太陽の光がさしこむゲンブの背中の穴。しかし太陽は大きな影によって隠される。

紫色の、まるで蛇のような巨大な僕(デバイス)に。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「やめて…どうしたんや王子…ッ!」

 

雪道に黒く引きずられた跡が残る。屈強な体躯をした男が女性を引っ張っている――

男に引きずられているのは…雷の力を操るブレイド、サイカだった。そして引きずっているのは彼女のドライバー、ジークだった。

ジークの目は虚ろになり、大剣を片手に雪道を歩いている。サイカの呼びかけに一切耳を貸さない。まるで死人が歩いているように……

 

「離して…離して…っ!」

 

サイカが必死にジークの手を離そうと叩くが、一切痛がるような素振りはない。一体何を考えているのか、サイカにはまったくわからない。こんなジークは何十年もの間一度も見たことが無い。

突然豹変した彼にサイカは涙を浮かべながら抵抗を続ける。

 

その瞬間、弐つのリングがジークの腕に激突した。衝撃でその手からサイカは離された。

 

「ツインリング…?誰や…?」

 

サイカは落ちたリングを手に、このリングの持ち主を探すと…

 

「やれやれ、本当に亀ちゃんは手がかかるねぇ…」

 

誰かがこちらへと歩いてくる。その声にサイカは聞き覚えがあった。懐かしい声だ。

 

「その声…あんた…!?」

「ほら、そのツインリング返して」

 

その人物はサイカの手からツインリングを奪い取り、ジークへと向ける。

 

「ビャッコ、頭ぶっ叩いて亀ちゃん正気に戻すよ!」

「承知!」

 

白い虎のようなブレイドと共に、その人物は大剣を構えるジークへと走り出す。

 

 



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”もう一つの力”

思ったより長いです。休憩入れながら読んでね。
6000文字しかないけど・・・

次回はなるべく早めに・・・


◇◇◇◇◇◇

 

黒い巨神獣(アルス)戦艦の中。リュウギは両手を縛られ、まるで十字架に貼り付けられているように壁に捕まっていた。彼が目を覚ましたのは、そうなってから5分後の事だった。

 

ゆっくりと目を開く。起きたばかりなので視界に少し靄がかかっているようだ。だんだんと目の前が鮮明になっていく。さっきのカルマとのやり取りは夢か・・・と一瞬思ったが、手足が思うように動かない。夢ではなかったようだ。

すぐに抜け出そうと腕に力をこめ引きちぎろうとするが、切れる気配はない。見てみると、鉄でその手錠はかけられていた。縄ならまだしも、これなら引きちぎれるわけがない。だんだんと鉄の冷たい感触が腕に染みてくる。

 

「クソッ、どうすれば・・・」

 

リュウギは再び力を込めるが、やはり意味はない。深くため息をつきながら、今後どうなってしまうのかという不安がだんだん大きくなっていく。

不思議にとらえられている部屋はとても静か。リュウギの出すあらゆる音以外はまったく響かない。外からも一切の音は聞こえない。

 

「どこなんだよここ・・・」

 

リュウギ本人はここが黒い巨神獣戦艦の中とは知らない。しかしペルフィキオの場所であることぐらいしか分からない。

またため息をつき、あがくのもやめようとし始めたリュウギの耳に、自分ではない、誰かの声が響いてきた。

 

「諦めるのかい?こんな所で」

 

その声には聞き覚えがあった。スペルビアの森の中で聞いた声だ。

 

「君はこんなところで挫折するような者じゃない。前に言っただろう?君には、自身の持つ光があるって」

「あんたは・・・?」

 

その声の主はリュウギの視界の外から現れた。銀髪の青年――― 密室に近いこの部屋のどこから現れたのだろうか。

 

「僕は君がこれから進む未来へ導く者。このままここで縛られたままじゃ、僕としても困る」

「なら助けてくれよ」

「それはできない。これは君に与えられた試練のひとつだからさ」

「俺にアドバイスだけするのか?するならもっと具体的に・・・」

「君の持つ力を、君が願うように使う。それが唯一の打開策だ」

「でも今の俺は剣を持ってない。あれ無しじゃ俺は何も・・・」

「本当に…? 違うさ。あれは君の力の一部を引き出すものに過ぎない。本当の力は剣なしでこそ発揮することができる」

「そんなこと言ったって・・・」

「そうやって君が悩んでいる間に、どれほどみんなが苦しんでいると思う?」

 

突然、黒い部屋に映像が投影された。後ろから放たれた光が、リュウギの目の前の壁に映し出される。

その映像の中では、ミント達がカルマと戦っていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

「あれは・・・まさかサーペント!?ありえない、あれは・・・」

「だがお前たちの前にアレはいる。(デバイス)の復活もまた我々ペルフィキオの狙いの一つ」

「デカい・・・あれとも戦わないといけないの!?」

 

ミントが戦いの中で傷ついた左腕を抑えながら、上空に浮かび上がる紫色の影を見つめる。

やがてその影は大きく体を反らし、ミント達の遥か上―――

巨神獣、ゲンブの体にその紫の体を叩きつけた。

その衝撃で大きく揺れる。バランスを崩し倒れる一行。カルマはそのサーベルを支えとして倒れることはなかった。

 

「まもなくゲンブは海の深くへと沈む。真実と共に消えるがいい」

 

カルマがそのサーベルをミント達に向ける。

 

「まさか・・・こんなところで死ぬわけにはいかないんだよ・・・!」

 

リリオがツインリングを握りありったけの力を振り絞って走り出す。そのリングはまるで磁石のように転がる土や石を引きつけ、大きな岩の刃と変わった。

それを思いきり振り上げ、カルマの頭を狙う。

だがその攻撃は無意味だった。カルマはサーベルから水の弾丸を発射し、その土と石の塊は水を含んで崩れ落ちた。

 

「なぜ・・・っ!?」

「土も石も水を含めばもろくなる。貴様らの属性攻撃は何一つ俺に勝てない」

 

カルマはサーベルを振るいリリオを吹き飛ばす。ここまでの攻撃は何一つ意味がなかった。

 

「さて、そろそろ出航の時間だ。私は一足先に脱け出させてもらうよ」

 

そう言うとカルマは巨神獣戦艦の方へ進んでいく。

 

 

――――いいのかい?ここで君は立ち止まるのかい?

 

リュウギに問いかける。リュウギは映像のをただ見ることしかできない。

 

「俺は・・・父さんを探す。母さんとの約束だ。それにミント達をこのままここで死なせるわけにはいかない・・・!」

「そう。君にはやるべきことがまだ残っている。ここでペルフィキオのものになってはいけないよ」

「だけどこの手錠はどうやっても外せない・・・」

「外す必要なんてないさ。君の持つ力を最大限に発揮すればいいだけさ」

「俺の持つ力・・・?」

 

リュウギは必死に自分の持つ力を頭の中で考える。炎、水、光・・・しかし、剣なしでは何一つ使えない・・・

いや、使える。

 

意識を腕に集中させる。静かな黒い部屋に絶叫する声が響き渡る。

力を込め続けると、リュウギの腕にかかっていた手錠は次第に赤く変色していき、形が変化していく。やがてそれは溶けて地面にポタポタと落ちていく。

一気に腕を広げる。すると赤くなった手錠は音を立てて破壊された。リュウギの腕には炎がまとっていた。それはだんだん消えていき、リュウギは黒い部屋の扉を開き、その部屋から出ていく。

 

「・・・あっ、そういえばあんたは・・・?」

 

リュウギは銀髪の青年の事を思い出し、部屋に戻るが、そこに青年の姿はなかった。そこにあったのはリュウギがいつも振り回していた紅緋色の剣だけが残っていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

カルマとゴウはミント達を後目に、黒い巨神獣戦艦の中へと入っていこうとしていた。

しかし、彼の入ろうとした巨神獣戦艦の中から、リュウギが炎を纏った剣を手に現れた。

勢いよく振りかざし、カルマは突然現れたリュウギに動揺していたのもあってか、大きく後ろに吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐっ・・・貴様、なぜ!?」

「さぁ、俺はただ俺の持つ力で脱け出しただけだ」

 

カルマはそれを聞いてフッと捨てるように笑い、リュウギを睨みつける。

 

「さすがだな・・・ハーフブレイドの力を侮っていたみたいだ・・・!」

 

カルマの笑いはだんだん大きくなっていく。今やカルマはリュウギ、そしてミント達に挟まれている状態だ。

 

「リュウギ!自分で脱出したの!?」

 

ミントが離れたリュウギを呼びかける。まさか一人で脱出できたとは。

 

「ああ!心配かけたな! ―――で、カルマ。ハーフブレイドって何のことだ・・・?」

 

リュウギにはそれが疑問だった。カルマの口から放たれた「ハーフブレイド」という聞いたことのない言葉。不思議な存在である自分は何者なのか、リュウギにとって気になること。

 

「人間とブレイドの完全なる融合体…人間の細胞を取り込み究極の力を手にする存在。お前のことだよ」

「俺がハーフブレイド・・・?」

「そして我々の念願・・・!それがお前だ。ハーフブレイドは必要なのだよ・・・さて、次は脱け出せないようにさらに厳重に縛っておかないとなぁ・・・!」

 

カルマがリュウギのほうへ走り出していく。

リュウギは剣を構え、炎を纏わせカルマに一直線に放つ。しかしその炎はすぐにサーベルから放たれた水流によってかき消された。

纏っていた炎はかき消されたが、それでも立ち向かうしかない。炎の消えた剣を手に突き進み、カルマのサーベルとぶつかり合う。やがて鍔競り合いへと持って行った。

 

互いに強い力で押し合い、ギリギリと火花が飛び散る。鍔競り合いの中、カルマとリュウギの位置が反転した。カルマはもう片方のサーベルでリュウギをミント達のほうへ弾き飛ばした。

リュウギは剣を支えにして立ち上がる。

 

「私たちも行くよ!」

 

ミントがリュウギの肩を叩いて言った。

 

「しかし我々の使える属性は炎に土、そして水・・・どれも奴には意味がない」

 

メレフがカルマを睨みながら淡々と語る。

 

「まさか!忘れた?リュウギはもう一つ属性を持ってる!」

「ああ。この力なら・・・!」

 

リュウギが剣を天に掲げると、空から光の粒子が剣めがけて落ちてきた。

その瞬間、その剣の中心の円穴に“光”という文字が浮かび上がる。

リュウギは出力の高い光の力をだんだんと使いこなしてきたようだ。流れ込んでくる力の奔流に耐え、カルマに向かい白き光線を放つ。

カルマはそれを鼻で笑った。サーベルで弧を描き、目の前に巨大な水滴を作り出す。その水滴は放たれた光線を曲げ、曲がった光線は壁に―――つまり巨神獣の体に激突した。

 

「バカな!?なぜ!?」

 

リリオがそれを見て絶句した。もちろん彼だけではなく、そこにいた者はみなその芸当に驚いていた。

 

「単純なことさ。水は光を屈折させる。即ち、貴様らの技は何一つ通用しない」

 

カルマが水滴を竜のような形に変化させ、リュウギたちを襲わせた。

水といえどもその力は強い。強い激流となった竜がすべてを巻き込んだ。

 

「そんな・・・光の力さえも通用しないだなんて・・・!」

「お前たちはブレイドの力、それに頼るばかりだ。敵の属性を理解し、利用する・・・それが戦いであり、真のドライバーだよ」

 

カルマが倒れたリュウギにサーベルを向ける。

 

「さて、我々と来てもらおうか」

「敵の属性を理解し・・・利用する・・・」

 

リュウギはカルマの言ったその言葉を反復する。カルマのブレイド、ゴウの属性は水…しかし、炎もヒカリも一切通用しない。ならば・・・

 

「そうか、これなら行ける!」

 

リュウギはカルマのサーベルを弾く。後退したのを見ると、すぐさま剣の属性を変える。

相手と同じ属性、“水”…剣に水をまとわせ、両手で持ち中心で構える。

 

「ディバインソード!」

 

剣にまとった水は刃に代わり、大きくしなる。それをカルマめがけて振り下ろす。

しかしカルマはその攻撃を意にも介していないようだ。それもそのはず。彼のブレイド、ゴウの属性は水。同じ属性で攻撃しても、威力は増すばかりか、むしろ下がる。

特に属性を熟知しているカルマ相手では。

カルマは水を纏うサーベルでその攻撃を弾く。弾かれた水は水滴となり、空中に浮かびだす。

 

「とうとう頭がおかしくなったか?水に水をぶつけたって意味はない」

「ああ。ただの水ならな・・・」

 

リュウギが手をかざした瞬間、浮かび上がった水滴が青く光りだす。

その光はカルマの周りに不思議なドームを作り出した。不思議に思っていると、体に違和感が生じ始める。

戦いの中でついた擦り傷や打撲痕がだんだんと消えていくのだ。それと同時に疲れた体がだんだん癒されていく。

 

「何のつもりだ・・・?」

「俺の持つ水の力じゃただ体を癒すことができるだけ。だけどお前の持つ水の力も合わせれば・・・」

 

リュウギが拳を前に持っていき、ドームを潰すように手を強く握る。

 

「俺の持つもう一つの力、“生命の再生”を暴走させられる!」

 

そう言い放った途端、ドームの青色が濃くなった。それと同時にカルマの全身に激痛が走った。

 

「なんだ・・・これは・・・!?」

 

カルマの体のいたるところがだんだんと膨れ上がっていく。まるで風船のように。

細胞が暴走を始めている証拠だった。皮膚が無理に再生しようとし、まるで虫が中を這っているかのようにグチグチと音を立てて痙攣している。

血管もそれに耐えきれず、だんだんと破裂していく。膨れ上がった皮膚も同様に破裂を繰り返す。

 

「貴様・・・ッ!最初からこのつもりで・・・!」

「あんたの言った通り、相手の力を利用しただけだ」

「カルマッ!」

 

ゴウがカルマを助けようとドームの中に入ろうとする。しかし、手を入れたとたんにゴウの皮膚が暴走したのがわかった。恐れをなしたのかゴウがすぐに手をひっこめた。

 

「その技は・・・」

 

メレフにはリュウギのこの技に見覚えがあった。かつて見た。“彼女”の能力と全く同じ――― メレフはリュウギに近づこうとする。しかし、その瞬間誰かがこのドームを破壊して割り込んできた。

 

「まったく、ハーフブレイドってのは恐ろしいねぇ」

 

金髪の男・・・アルジェントだ。血を垂らしながら倒れこむカルマの肩を持つ。

 

「今回は俺たちの負けだ。(デバイス)も一旦止めておいてやる」

「貴様・・・!」

 

ミントがアルジェントに向かって、その疲れた体に鞭を打ちながら走り出す。ナックルクローで攻撃しようとするが、いとも簡単に片手で攻撃を止められてしまう。

 

「なかなかいいリアクションだったぜ。次は最高のステージを用意してやるよ。じゃあまたな」

 

アルジェントはカルマを抱えながら黒い巨神獣戦艦の中へと走っていく。

メレフが追い付こうと走り出すが、サーベルを片手にしていたゴウがそれを足止めする。

巨神獣戦艦は砲台から鋼鉄の弾丸を連射され、土煙が舞う。

それが撒いた後、既にそこに巨神獣戦艦の姿はなかった。

上空に浮かんでいた紫の(デバイス)、サーペントの姿も見えなかった。

 

「クソッ、逃したか・・・」

「すごいよリュウギ!まさかあんな技も使えるだなんて!」

「いやいや、ついひらめいたからさ。できるか確証はなかったけど・・・」

 

悔しがるメレフを横に、ミントとリュウギが談笑し始める。

 

「だけどいいのかも?カルマ達逃しちゃったも。」

「アイツらの目的は最初からリュウギだけだ。俺たちじゃない。また来たら追い返してやればいいのさ」

「ですがカルマはスペルビアの皇帝。いきなりペルフィキオということになって逃げてしまった・・・色々と問題は積み重なっています」

 

ウマの質問に静かに答えるツバキ。それと比べて冷静に洞察するアスカ。

カルマは曲がりなりにもスペルビア皇帝という地位がある。いきなりその人物がテロ組織のボスであると発覚した今、情勢が混乱するのは避けられないだろう。

 

「私でよければ、皇帝代理を勤めます」

 

手を挙げたのはネフェルだった。彼は元スペルビア皇帝。リリオははにかみながらネフェルの方を向く。

 

「確かに、元皇帝陛下が皇帝やってくれるならそれ以上のことはないわな」

「まずはスペルビアに戻り、議員たちに事の次第を説明し、そのあとに首脳会談を開くのはどうでしょうか。姉さんも一緒に・・・」

 

メレフはただリュウギの事を見つめていた。リュウギがカルマに対して行ったあの攻撃。やはり、この少年は“彼女”と無関係ではない…

それは彼の耳元でささやいたあの言葉からすでに確定していたことだが、今まさにそれは間違いないものになった。

 

「少年、やはり君の母親は・・・」

「どうしました?」

「いや…すまない。皇帝に決まるまでの間、代理として頼まれてほしい」

「もちろんです。ワダツミ」

 

ネフェルがメレフの隣に立っていたワダツミを呼んだ。

 

「はい、陛下」

「これから王宮のほうへ向かってスペルビアの兵士達を救出したいと思っています。一緒に来てくれますか?」

「もちろんだとも」

「しかし一人で危ないぞ。私も・・・」

「心配しないでください。ホームレスでしたが、ターキンに鍛え上げられて戦えるようになったんですから。従姉さんたちはほかにやること…あるんでしょう?」

「ああ。カルマ達がどこに去ったか探らなくては・・・」

 

ネフェルはメレフ、そしてミント達に手を振って、テオスアウレのほうへと雪道に足跡を残しながら去っていく。

 

「だがカルマ達の行方を探る前にひとつ確認しなければならないことがある…」

 

メレフがミントと談笑するリュウギにだんだん近づいていく。しかしまたそこに乱入者が現れた。

 

「すまん、遅れたぁ!あのカルマの野郎はどこに行ったんや!」

 

ジークが紫電三式轟を手に、電光石火のごとく割り込んできた。

 

「あっ、ジーク。カルマ達ならもう逃げていったよ」

「なんやて!?あの野郎、ゲンブを痛めつけるだけ痛めつけおって・・・それにあのアルジェントとかいう男も一発殴ってやろうかと思うてたのに・・・」

「フフフッ・・・たく王子はほんと運ないわ」

 

サイカが歩きながらジークの近くへやってくる。

 

「ジーク、お前なかなか戻ってこないと思っていたら・・・」

「すまん、いろいろあってな・・・まぁ恥ずかしいから言わんけど」

「王子、アルジェントに洗脳されてなぁ。私に襲い掛かってきたんやで?」

「それはそれは・・・」

 

ミントがジークに少し憐みの目を向けていた。

 

「い、言うなって・・・ま、ニアが助けてくれたんやけどな」

 

その言葉を発したとたん、場は凍り付いた。

 

「―――ジーク、今なんて言った?」

 

リュウギが聞き返す。

 

「え?ニアが助けてくれて・・・なんや、どうかしたんか?」

「その人はどこに行った?」

「テオスアウレの方に・・・」

 

リュウギは何も言わず、雪道を駆け抜けていった。焦るように、顔に笑みを浮かべながら。

 

「どうしたんや銀ボン、あんな慌てて・・・」

「ジーク、どうしてニアはここに・・・?」

「いや、んなもん知らんがな。ワイの頭ぶっ叩いて洗脳解いて、久々に会って『よっ』って交わしてそんで・・・」

「ともかく、皆、あの少年を追うぞ!」

 

メレフもまた目の色を変えていた。合図を出し、ミント達を連れて走り出していく。

 

「一体全体どういうこっちゃ?」

 

ポカーンとするジークとサイカ。メレフとカグツチ以外はほとんどどんな状況なのか分からないまま、ただ後ろを追っていくだけだった。

 




次回はようやくあの人が・・・


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"母"

ついに書きたかったところまで来ました。しかし思ったように書けず・・・
いずれ本作全てをリメイクしてみたいですね。


 

 

◇◇◇◇◇◇

 

王都テオスアウレ。フードを深くかぶった女性と、獣のブレイドがエーテルのほのかな光で照らされている閑散とした街を歩く。

さきほどの騒動で、街の者はみな怯えて屋内に避難してしまっていた。流れた噂では「ペルフィキオが襲撃してきた」とのこと。あながち間違ってはいないが・・・

そんな中、落ち着いたことに気づいた一つの商店が「CLOSED」の看板を「OPEN」に変更した。

店主は店頭に急いで商品を並べ、一息つくと椅子に腰かけた。それを見てすぐさま、フードの女性と獣のブレイドが近づいてきた。

 

「あぁ~…久々に動いて肩凝った。早く別の国に逃げないとなぁ」

「しかしお嬢様、とうぶんは外への船は出ないはずです。それまでどこに隠れましょうか?」

「あー、確かに・・・」

 

女性は頭を抱えながら、店に並べられた商品をまじまじと見つめる。そのうちの赤い果物に指をさし、「これ下さい」と店主に言った。

店主は「あいよ。120Gだ」と口を動かしながら果物に手を伸ばし、布で出来た袋の中に入れて女性に渡した。

女性は「ありがと」と呟いてその店に背を向けた。

 

「ま、ともかく下層に移動してどこかあったかい場所見つけて、数日はそこで暮らすしか・・・」

 

閑散とした街に目を戻すと、そこには一人の少年が彼女を見ながら突っ立っていた。

紅緋色の剣を片手に彼女のことを涙目で見つめている。少年が―――リュウギが、小さく呟いた。

 

「母さん・・・」

 

剣を腰にしまい、少年が走り出す。

女性は向かってくる少年から逃げようとはしなかった。涙目の瞳はだんだんと大粒の涙を流していく。その顔にはかすかな笑みが浮かぶ。やがて少年は彼女の胸の中にバンッと勢いよく飛び込んでくる。

ぐすりぐすりとあふれる涙。泣くあまりヒクッとひきつる声を押し殺して声をあげた。

 

「俺・・・俺ずっと母さんと会いたくて・・・寂しくて・・・」

 

涙の粒はだんだん大きくなり、その頬を落ちていく。飛び込まれた女性―――“母”と呼ばれたその人は優しい顔でゆっくりとその頭を撫でる。

 

「そんなに泣くなよリュウギ・・・ごめんね。寂しい思いさせて」

「家に帰っても居なかったから・・・ひいじいちゃんが母さんは用事があるから数か月は帰ってこないって・・・俺、ずっと・・・ずっと・・・」

 

リュウギは胸でわんわんと声を上げて泣く。ずっと寂しかった想いを発散していく。

そんな彼に再び声をかけたのは、隣の獣ブレイドだった。

 

「お坊ちゃま・・・元気そうですね」

「ビャッコ!相変わらず毛並みいいな!」

「ええ。お嬢様がいつもクシで整えてくれますから」

 

ビャッコと呼ばれた獣のブレイドは彼に対しほほえみを浮かべた。

女性がリュウギの頭を撫でながらそっとつぶやいた。

 

「さて、どうしようかな・・・」

 

そんな二人と一匹の後ろから、数人が駆け寄る音が静かなこの王都に響いた。

それぞれが不思議なまなざしで見つめる中、そのうちの二人だけは怪しいまなざしを光らせていた。

 

「ニア」

 

その声の主はメレフ。リュウギの頭を撫でるフードを被った女性に向けられてものだった。

「うっ・・・」“ニア”と呼ばれた女性はバツが悪いという顔をして小さく唸る。

リュウギはそれに気づかないのか、ミント達に大声で声をかける。

 

「みんな・・・ごめんいきなり走り出しちゃって・・・・・・でもでも!ようやく母さん見つけたんだよ!」

 

リュウギが“母”と呼んだその人物をまるでみんなに自慢するかのように紹介した。

 

「その人がリュウギのお母さん?確かに似てるかも・・・」

 

メレフの後ろから現れたミントがリュウギの母親を見つめる。

しかし母はだんだん後ろに下がっていく。

それを制止するかのようにメレフが母に問いかける。

 

「やはり、私の推測は間違っていなかったようだな」

「ええ。ニア、あなたにはいろいろと聞きたいことがあるの…」

 

カグツチが言い終わる前に、遅れてジークがサイカと共に現れた。

 

「いきなり走り出すなって!ただでさえ結構疲れてんのに・・・」

「あれ?リュウギなんでニアと・・・」

 

リュウギがその母と共に一緒にいるのを不思議に思っているようだ。リュウギもそれに対して疑問を浮かべる。

どうしてメレフにジークが母のことを知っているのか?

 

「母さん、メレフのこと・・・知ってるの?」

「うん、懐かしい仲、だからね…」

 

その視線は一つのところに集められている。リュウギとその女性のもとに。

リュウギの母は視線を彼らのもとには向けず、ただ下をうつむき続けていた。

 

「ジーク、あの少年と共にいて何も気づかなかったのか?」

 

メレフがジークに語り掛ける。メレフの横のカグツチもまたそれに便乗する。

 

「どうしてあの少年、リュウギが炎と水、そして光の力が使えるのか、考えたことはない?それにさっき彼が使ったあの技・・・」

「え?そりゃあそういうブレイドやから・・・」

「違う。―――なぜその力なのか…それはリュウギがニアとレックスの子供であり、ハーフブレイドだからだ」

 

その一言にその場が凍り付いた。

 

「え・・・」

 

 

 

「「えええええええええええええええーーーっっっ!?!?!?!?」」

 

一番わかりやすい反応をしたのはジークとサイカだった。

リュウギの母・・・ニアはそれを聞いて悲しみの表情を浮かべた。

 

「いやいやいや!ありえへん!ありえへんて!」

「せやせや!だってレックスはホムラにヒカリと一緒に・・・」

「だからこそ、だ。ニアからは聞きださないといけないことが山ほどある。なぜレックスとの間に子供がいる?」

「それは・・・」

 

ニアは答えに迷った。リュウギはその状況を呑み込めていないようだった。

 

「どういうことだよ?俺が母さんと父さんの子供で何が悪いんだよ」

「そうだもそうだも!そもそもレックスって誰も?」

「ウマ知らないの?天の聖杯のドライバーで、楽園に行って世界を救ったっていうあの英雄の・・・」

 

ミントがちんぷんかんぷんというウマに説明をしてあげた。ウマは「うーん、なんか知ってる気がするも」と答えた後、ミントとウマは顔を合わせた後、リュウギのほうを再び向き「ええーっ!?」とジークとサイカほどではないにしても驚いた。

 

「リュウギが・・・天の聖杯のドライバーの子供!?」

「それってつまり・・・お父さんすごい人だってことだも!ウマのパパなんて花粉玉吸いすぎて死んだのにも!」

「レックス・・・まさかお前あいつの息子・・・!?」

 

リリオも目を丸くして驚いているようだ。クロヒョウとアスカも驚いていたが、ツバキはまだ誕生したばかりなのでよくわからないようだ。

そんな驚きの中、メレフとカグツチの言葉が空気を裂いた。

 

「人間とマンイーターの間で交配した存在、ハーフブレイドの前例はたった一つしかない。かつ、その前例ではハーフブレイドが巨神獣を一つ墜としたとある」

「ここまで言えばわかるわね?ハーフブレイドは危険な存在なの。だから・・・」

「我々の手で保護させてもらうぞ、少年」

 

メレフはその腰からサーベルを取り出し、リュウギと地面を見つめるニアに向かえて構えた。

メレフにとって、ニアとレックスの息子・・・すなわち、マンイーターと天の聖杯のドライバーの息子。ただの子供でもなければ、ブレイドではないことは明白であった。

 

「・・・させない」

 

黙っていたニアの口が動く。その腰にぶらさげたツインリングを手に構え、すぐさまリュウギの目の前に飛び出す。その手のツインリングはメレフに向けられている。

 

「母さん・・・?」

「私にとっては唯一の、そして大事な息子なの…!たとえメレフでも、手出しだけは絶対にさせない!」

 

ニアとビャッコはメレフを前に勇ましく構える。メレフは「はぁー…」とため息をつきながらも、足を止めない。

 

「保護するだけだ。乱暴なことは一切しない」

「ウソ!最近のスペルビアの乱暴っぷり、知ってるよ」

「あれはカルマが・・・言ってもわからないようだな。ともかく、少年は保護させてもらう。邪魔をするなら・・・」

 

メレフがサーベルを振るうと、メレフとニアの間で火花散る戦いが始まった。

メレフが振るったサーベルは蛇腹のごとく蒼い炎をまといながらしなる。ニアの持つツインリングはそれをはじき返すが、サーベルの先端が右腕をかすった。

すぐさまメレフは次の攻撃に入る。今度は二つのサーベルを高く舞い上げ、思いきり地面にたたきつけた。蒼炎の壁が現れ、それがニアの左右に巻きあがる。

ニアはツインリングの一つをメレフのほうへ投げる。空いた片手でニアは花や葉のようなものを纏った青い曲剣を生み出し、その剣の先からあふれ出た水が蒼炎を打ち消す。

メレフは放たれたツインリングを避け、すぐさま曲剣を持つニアへと走り出す。向かってくるメレフに対し、ニアはその曲剣で攻撃を受け止め、鍔迫り合いとなる。

 

「さすが特別執権官様…!腕が鈍るどころか、前よりも強くなってる」

「当たり前だ。20年という長い月日の中でずっと鍛錬を怠っていたとでも?」

「まさか、こっちだってなんもしてないわけじゃないから!」

「ちょ、ちょちょちょお二人さん待ちぃや!」

 

二人の間に大剣を持つジークが入り込んできた。

 

「まぁまぁ、そんないきなり剣立てて戦うなって!せっかく久々に会えたんやないか!お茶でも一杯飲みながら・・・」

「邪魔をするな」

「亀ちゃんは黙ってて!」

 

二人が思いきりジークを蹴り飛ばす。そのまますぐに二人は戦いを再開。

 

「メレフ!大体もうカルマ居なくなったんやしリュウギを保護する理由なんてないやろ!どうしてそこまで・・・」

「さっきも言ったはずだ、ハーフブレイドは危険だと。カルマの目的とこれとは関係ない。さっきまで共闘していたのはカルマにハーフブレイドが渡らないようにするため・・・奴らに奪われないためにも、なんだぞ」

「そうやってリュウギを閉じ込めるつもり・・・なんでしょ!?」

 

ニアが曲剣で思いきりメレフのサーベルを破る。メレフは意にも介さず態勢を立て直す。

 

「それは保護した後にどのような行動を取るかによる。まずはそのためにも…」

「一体これは何の騒ぎですか?」

 

王宮の方からネフェルとワダツミ、そして数人のスペルビア兵たちが現れた。

 

「ワダツミ、少年を保護する。手を貸してくれるか?」

「ああ、もちろんだ」

 

ワダツミが返事をし、右手をあげて兵士に行けと命令をする。

 

「ワダツミ、何をするつもりですか!?」

「陛下、心配は要りません。これは我が国、いやアルスト全体のため。説明はまた後で致します」

 

ワダツミが刀を手に迫り始める。

横から唖然として見ていたミント達は呆然と座っているリュウギに向かってそっと耳打ちする。

 

「ね、ねぇリュウギ!なんか狙われてるみたいだけどどうする・・・!?」

「俺は保護なんて受けないさ。こんなところで立ち止まるわけにはいかない・・・」

「じゃあ・・・」

「逃げるも!」

 

ウマが言った途端、リュウギ達は向かってくるスペルビア軍とは反対の方向へ逃げ始める。ジークとサイカは「えーっ、ちょちょ・・・あーもうしょうがねぇわ!」

と言いながらリュウギ達についていく。

 

「母さん!母さんも一緒に!」

 

リュウギがニアに声をかける。ニアはいまだメレフと交戦中。攻撃を受け止め続けるだけで、一切攻撃をする隙がない。

そこにビャッコが落ちていたツインリングを口に咥えてメレフのサーベルを落とす。

ニアはそこに反撃・・・はしなかった。逃げるリュウギ達の後に追い付こうとビャッコからツインリングを受け取り走り出した。

 

「待て!」

 

メレフが再び蒼炎の壁を生み出し、それでニアを囲もうとするが、リュウギの剣から放たれた水流がそれを打ち消した。

リュウギはその剣をメレフへと向ける。

 

「逃げるつもりか少年」

「ああ。俺は母さんとの約束を守る。楽園に行って・・・父さんを見つける。それまでは絶対に立ち止まらない」

「その願いのために、この世界が危機に見舞われてもいいのか?」

「俺がハーフブレイドだかなんだか知らないけど、俺は絶対にそんなことはしない。それも母さんとの約束だからだ」

 

水を纏っていた剣の姿が変わる。中心の文字は「光」となり、まばゆい光が剣から発され、メレフら兵士をすべて包み込んだ。

包み込む閃光はやがて消えた。光に麻痺する瞳を凝らし、リュウギ達が立っていたところを見るが、そこにはもはや誰も居なかった。

 

「また逃げられたか・・・」

「従姉さん!一体どうして彼らを襲って・・・」

 

メレフが深く息をつく。

 

「ハーフブレイド。あの少年こそがそれだったのだ。天の聖杯を凌駕する力を得るのに一番近い存在・・・」

「ハーフ、ブレイド・・・?」

 

ネフェルはその言葉を反復した。ブレイドにそんな種類がいたとは・・・

 

「底知れぬ危険性を持った存在など、野放しにはできないだろう?」

「ですが・・・」

「本国に戻ったらすぐに捜索隊を派遣する。―――その前に、ネフェル。首脳会談の準備をしておいてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

第5話 母




なんと壮大なレクニアだったのです。
といっても伏線は結構単純なのでみなさん分かっていたかもしれませんが・・・
次回からは第6話。次話は早く終わるといいなぁ(


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第6話 「再会」
"父の記憶"


明けましておめでとうございます。今年こそは完結・・・できなくても8話まで完結ぐらいはさせたいですね。努力次第です。応援してくれたら嬉しいです。


 

俺の中の父の記憶は、本当に少ししかない。一つは、父が肩車をしてくれたこと。もうひとつは、父が俺たちから別れを告げる時。

 

「ねぇ、いつ・・・帰ってくる?」

「分からない。数か月か、一年か」

 

母は俺の手を握って父を見つめていた。父の後ろ姿―――その背中はとても大きかった。その当時、俺はまだ3才でもあったからだと思う。背中には傷ついた赤い剣を携えている。母からの話では、その剣はとても大事なものだという。その剣をずっと見つめていると、父はこちら側に振り返った。

こちらへと歩み寄り、頭を掴めるほど大きな手で―――俺の頭をくしゃくしゃにさせた。

 

「リュウギ、母さんのこと、頼んだよ」

 

俺はその言葉を聞いたとたんになぜだか涙が溢れて仕方なかった。まだこの時は何もわかってないはずなのに。涙を流してひきつった声で俺は父に聞いた。

 

「本当に帰ってくる?」

「・・・ああ。必ず帰ってくる。俺が居ない間をよろしく」

 

父はそう言うと、俺の頭を最後に一度だけポンと叩いた。今度は母の方を向き、父と母は互いに抱き合って別れを告げた。

父はそのまま小さな船に乗り込み、水平線のかなたへと消えていった。

 

母の背中は大きかった父の背中と比べると、かなり小さい。時が経つにつれ、見た目は変わらないのに背中はだんだんとやつれていくのが分かった。

父が出かけてから三か月。父は帰ってこない。

それでも母はずっと父の帰りを待っていた。俺が夜にベッドの中に入った後でも、母は暗いリビングでずっと待っていた。

深夜に目が覚めて父を待つ母に聞いたことがある。「どうしていつもそこで待ってるの?」

 

「もし帰ってきたら、アタシが一番最初に迎えたいから」

 

疲れた顔でむりやり笑顔を繕って俺に向けてくれた。その日はそのまま母の隣で朝まで過ごしていた。

時が経つにつれ、母はさらに辛くなっていくようだった。

1年、2年…5年…母は止めることなく、ずっとリビングで父を待っていた。ある日、リビングから泣き声が聞こえてきた。階段を下りてリビングに向かうと、そこでは母が泣いていた。その隣ではビャッコが母の背中を撫でていた。ビャッコはいつも母の隣で一緒に父を待っていた。もっとも、すぐに寝落ちしてしまっていたが。

俺も母の元へ駆け寄り、その背中をさする。母は泣きながら声を出した。

 

「本当に帰ってこないんじゃないかって・・・寂しくて・・・寂しくて・・・」

 

今となっては、何年も帰ってこない夫には愛想にどうして愛想を尽かさないんだろう?・・・と考えてしまうが、母は違うんだろう。母は、誰よりも父のことを愛しているからだ・・・直接ではなく、ビャッコからそのことを聞いたのだが。

 

ただずっと父を待つ母の姿が、今もなお思い出される。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

カンッカンッカンッ!!!

 

フライパンとおたまをぶつける甲高い音がすぐ目の前で発せられる。どんなに深い眠りに落ちた人でもこの音を聞けば頭痛がしてたちまち目覚めるだろう。リュウギもその一人だ。

 

「うるさいって!まともに起こしてくれよ!」

「起こそうとどんなにゆすったって起きないんだもん!朝ごはんできたから食べに来て~」

 

ミントはおたまを回しながら部屋から出て行った。リュウギが頭を抱えながら立ち上がる。

 

「あぁ~・・・いってぇ・・・」

 

部屋から出ると、そこは見慣れた我が家。どうして自分の家に帰ってきているのだろう・・・頭がガンガン痛むせいで上手く思い出せない。ミントが言った通りとりあえず食事が出されているであろうリビングへと足を運ぶ。

リビングへたどり着くと、そこには美味しそうなタルタリ焼きが並べられていた。すでに何人かは食べ始めている。その中には、母であるニアの姿も。

一瞬リュウギには目の前に母がいることが信じられなかった。ついさっきまで母が出る夢を見たのだから、夢と現実の区別がいまいちついていないのだ。だんだん頭の痛みが引いてきて、どうして我が家に帰ってきたのか思い出されてくる。

 

「そっか、たしかスペルビアの連中から逃げて・・・」

 

巨神獣のゲンブから逃走したリュウギ一行は、巨神獣船無しで海へと飛び込んだ。波に流されながらも必死に泳いでいると、目の前にセイリュウが現れたのだ。そのまま拾われ、皆は疲れを癒すために寝床に入ったのだ。とはいえその時は必死だったので細かいところまでは覚えていないが。

 

「んんんー!なんやこれ!すっごい美味いやないか!」

「ほんとほんと!まぁ宴会の時に出されたのよりは落ちるけど・・・」

 

ジークとサイカはミントのタルタリ焼きのおいしさに驚いている。ミントはそれを見て微笑んでいる。

なんだか目の前の光景がいまいち本物だとは信じられにくい。家にこれほど人が来たことはないからだ。

 

「すごい美味しい・・・こんな美味しいタルタリ焼き食べるのは久しぶりだよ・・・」

「いやーニアさんにそこまで言ってもらえるなんて嬉しいな~」

 

ミントは母の隣に座っている。反対側にはビャッコが。せっかく久々に会えたんだから自分が母の隣にいたいのに・・・なんてことを思っていたが、もう15才なのでそんなわがままは言わないと決め、母の目の前の席に座る。

 

「しかし・・・こんなに美味しいとレックス様のために必死に料理を勉強したお嬢様がかわいそうです」

「余計なこと言うなよビャッコ。ほら、リュウギはアタシのとどっちが好き?」

「えっ?俺は・・・ミントのほうかな」

「そ、そんなぁ・・・必死に何年もかけて練習したのに・・・」

 

母の作るタルタリ焼きはリュウギの好物だった。そもそもタルタリ焼きが食卓に出たのは父が同じくタルタリ焼きが大好きだからだ。母はもともと料理が苦手なため、何年もかけてタルタリ焼きを作れるようになった。とても美味しいが、ミントの作るタルタリ焼きにはかなわない。

ほのぼのとした食事の中、リリオが口を開いた。

 

「ところでリュウギ、これからどうするんだ?世界樹に行くためにルクスリアまで行ったが、手形はもらえずじまいだ」

「スペルビアにインヴィディアにルクスリア・・・大きな国はどこも回っちゃったしね。しかもどこでも指名手配されてるはず・・・」

 

クロヒョウの言う通り、今やどの国でも手配されているだろう。手形をとろうとしても今の状況では厳しい。

 

「うーん、どうしよっかな~・・・・・・ツバキ、どうしたらいいと思う?」

「俺に聞くのか?そうだな・・・無理やり世界樹まで行くっていうのはどうだ?」

「それいいかも!せっかくだしセイリュウさんに聞いてみよっか!」

 

ミントが外へ出てセイリュウのことを呼ぶ。疲れた様子でミントのほうへ振り向いた。

 

「あのー、ここから世界樹までって行けます?」

「無理じゃ。途中で手形の確認されてつっぱねられるのがオチじゃ」

「それを無理やり行くっていうのは・・・?」

「昔だったらできたかもしれんがのぉ。今はそれほどの体力もないし、第一検問所には武装した巨神獣までおるんじゃぞ?わしどころか全員死んでしまう」

「そっかー・・・ごめんなさい」

 

ミントは落ち込みながらリビングへと戻ってきた。

 

「はぁ・・・どうしよ」

「ごめん、俺のせいで・・・」

 

リュウギが世界樹を、楽園を目指す理由は母との約束。楽園へと向かった父を見つけるためだ。

しかし目の前に母親がいる・・・ニアはリュウギが起きる前に既にミント達から話を聞いていた。どうして楽園を目指すのかということを。

 

「リュウギ、もうレックスのことは・・・・・・お父さんのことはいいんだ。」

「えっ?でも母さん、お父さんとは会いたくないの?」

「今はこんな状況なんだ。無理して危険に遭うのはきっと望んでないよ」

 

リュウギは下をうつむいた。それを見てジークはため息をついて声を上げる。

 

「本当にええんか?レックスのこと、ニアは知りたくないんか?」

「もちろん知りたいさ。でも・・・」

「・・・最後の望みはアヴァリティア商会やな。もし手形を手に入れるんならそこしかない。もっとも、指名手配されてる確率は高いだろうけどな」

「確か、アヴァリティアはルクスリアやスペルビアとほとんど同程度の地位を持ってるんだっけ?」

 

サルベージャーであるミントは自らの仕事場として立ち寄ることも多いアヴァリティアのことは知っている。

 

「ええ。今はインヴィディアの傘下ですが、最近は国として独立するという噂が立っているほど発言力も高いですから」

 

世界の情勢には詳しいのか、ビャッコも会話に参加する。

 

「あそこなら手形も発行しとる。それに現会長のニルニーとは知り合いやしな。もし行かないって言っても、ワイとサイカだけでも行くで」

「どうして行くんだ?」

 

ツバキが気になったのかジークに聞いた。

 

「気になるんや。どうしてボンが楽園に行ったのか。世界樹で一体何が起きたのか・・・気になってな。国の要人が誰しも秘密にしとる。」

「きっと隠さなきゃいけないような何かがある気がするんよ」

「どうする?リュウギにニア。無理に来いってわけじゃないんやけど」

「俺は・・・俺としては、父さんに会いたい。母さんにだって父さんと会わせたいし」

「・・・・・・リュウギがそう言うなら。私も応援するよ。でもペルフィキオの連中はきっとまた狙いに来る」

「大丈夫大丈夫!リュウギがいれば心配ない!」

 

ミントがリュウギを満面の笑みで肩を叩く。

 

「・・・そっか。じゃ、決まりだね」

「じゃあ次の目的地はアヴァリティア商会ってことか。懐かしいな~・・・」

 

リリオが昔の思い出にふけっている中、ウマは不安そうな顔をしていた。

 

「ほ、本当にアヴァリティアに行くのかも?」

「どうしたんだウマ?嫌なのか?」

「い、嫌ってわけじゃないも!ただ、行くなら早めに帰りたいも・・・」

 

意味深な発言にどこか思うところがあるのか、アスカも同じように不安そうな顔を浮かべていた。

 

 



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"サイオク村"

今月中にはあと1,2本更新出来たらいいなぁと思ってます。やる気が出てきました。


 

◇◇◇◇◇

 

場所はスペルビア新帝国、皇宮。今から各国による首脳会談が始まるようだ。参加するのは開催国であるスペルビア、そしてインヴィディア、ルクスリア。公正を期すためにインヴィディア領アヴァリティア商会、そしてイヤサキ村などを含むスペルビア領リベラリタス自治区の代表も参加するという。

 

突然の首脳会談に何より驚いたのはスペルビア帝国民だ。港に見慣れない巨神獣船が大量に停泊している様子を見て、様々な憶測を飛ばした。

 

「戦争でも始めるんじゃないか?」

「スペルビアはなにかまずい事でもしたのか?」

「ルクスリアまで来てるのを見ると、ペルフィキオに関わることじゃないのか?」

 

ペルフィキオに関わること……それは正解だった。首脳会談の議題はペルフィキオの目的がハーフブレイドを手に入れること、そしてそのハーフブレイドというのがニアとレックスの息子であるリュウギであるということが明らかになった今、各国はどのような動きをするのか……ということ。

ネフェル、メレフを中心にインヴィディアからラゲルト女王、ルクスリアからはゼーリッヒ。リベラリタスの代表に呼ばれたのはイヤサキ村の村長、ブラットという初老の男性だった。全員が席に座ったと確認し、ネフェルは口を開いた。

 

「突然の首脳会談の申し入れ、受けてくださりありがとうございます。」

「いきなりスペルビアの皇帝が変わったと聞いたときは驚きましたが…まさかあなただったとは。てっきりすでに死んでしまったものだと」

「皇帝の座を追われ、この立場に戻るまで長い年月がかかりました。一度死んだとされた人間が声をあげるのはとても難しい事でしたから」

 

ラゲルトの驚きに対し、ネフェルは淡々と説明を行った。

その横に座っていたメレフが事の次第を話し始めた。

カルマが実はペルフィキオのボスであったということ。ネフェルを追いやったクーデターは彼らが起こしたものだということを。

 

「カルマがペルフィキオの・・・?つまり私たちはヤツに騙されていたということですか!?スペルビアはいったいどのように責任を取るつもりで・・・」

 

事の次第を聞き、激情したブラット。メレフはペルフィキオのメンバーを全員逮捕することこそが我々に課された責任だということを話した。

 

「……それで、そのペルフィキオの連中がどこにいるのかということはすでに分かっているのか?」

「いいえ。つい先ほどペルフィキオの捜索隊を派遣したところです。スペルビアの今持っている情報網の限りを尽くして捜索しています」

「なるほど……しかし必然とはいえ皇帝を突然変えるとはな。国民の混乱も大きくなるだろう」

「それについての心配はない。この事件が収束するまでネフェルが新皇帝に即位したということは国民には隠し通すつもりだ。騙すのは気が引けるが、混乱に乗じてペルフィキオの連中が動き出したら我々にとっては不利だからな」

「ほう…」

 

メレフとブラットがにらみ合う。その間に入ってきたのはゼーリッヒだった。

 

「その捜索隊にはハーフブレイドの少年、リュウギとその一行を捜索する命は出しているのか?」

「もちろんです。ジーク王子のことも……」

「いやはや、とんだ身侭な息子で申し訳ない」

「ペルフィキオの捜索、並びに逮捕。そしてハーフブレイドの少年、リュウギの保護を第一の目的として我々は動きたいと思っている。各国の力添えをいただきたい」

「構わないが……そのハーフブレイドの少年は天の聖杯のドライバーの息子だと聞いた。ならば楽園陥落の事件のことを……」

「楽園陥落…?」

 

メレフはその言葉を聞いて目を丸くした。楽園に関連する事件は前にカルマとラゲルト女王の話の中で聞いた。そのことだろうか。

 

「各国首脳のみ知っている楽園での事件のことですね…噂には聞いたことがあります。スペルビアの皇帝となった私として聞きたいと思っています」

「首脳のみというのなら、私は退席いたします」

「いえ、メレフ執権官、あなたも聞くべきだと思います。私よりも長くいたのですから、あなたにも知る義務があると私は思います」

 

ネフェルの言葉を聞き、「分かりました」と答えメレフは座る。ネフェルが口を開こうとした途端、ラゲルト女王が咳払いをして声をあげる。

 

「ところで、アヴァリティア商会代表として来るはずのニルニーはどうしたのです?」

「ああ、彼ならかなりのご多忙ということで今回は来られないとのことで……」

「多忙のため来れない?まるで私たちが暇を持て余しているみたいじゃないか!」

 

ブラットが声を荒げる。

 

「落ち着いてください。彼は特別にこちらの通信器具で顔と声だけの形で参加することになっています」

 

そう言うと、奥からアヴァリティアのニルニー直属のノポンが二人、画面のついた通信器具を台車のようなもので運んできた。バッテリーのようなものを機械に差し込むと、画面にニルニーの顔が表示された。

 

「これは…まさかモルスの地の技術で?」

「いいえ、前からアルストにあった技術でスペルビアのものです。もっとも高価なため他の国にはほとんど出回りませんでしたが…」

 

画面の奥のニルニーが咳ばらいをしてこちらを向いた。

 

「これはこれはみなさんお揃いで嬉しいですも。とりあえず大事な用件だけ伝えてほしいですも。ここ数週間分の書類を一気に片付けている途中で手も足も耳も離せないんですも」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「ここがアヴァリティア商会じゃ」

 

セイリュウに頼み、リュウギ達はアヴぁリティア商会へとやってきた。手形を発行する最後のチャンス。ここを逃したらあとは諦めるか強行突破か……

 

「……私の知ってるアヴァリティアとは違うみたいなんだけど……こんなに自然、豊かだったっけ?」

 

辺りには直径10メートルはあるような大木が何本も生えており、木と木の間には橋がかけられ、木の中には街灯のようにランプが埋め込まれている。あたりにはノポン族が数匹……数人歩いている。

 

「ここはアヴァリティアはアヴァリティアでも中央港ではないみたいやな」

「この辺りはサイオク村と呼ばれるノポン族の住処ですね。中央交易場や港で働くノポン達が多いと聞きます」

「でもなんで中央港じゃなくてサイオク村に?ひょっとしてひいじいちゃん間違えた?」

「間違えるわけがないじゃろ。年はいってもボケとらん。お前らはスペルビアから逃げてきたんじゃろ?ならお尋ね者になっていてもおかしくはない。いきなり港に現れるのはリスクがありすぎるからのぉ」

「へー。意外と頭良いんだね」

「なんじゃ、おぬしはわしのことを馬鹿にしとるのか!?」

 

ミントの発言にすこし憤るセイリュウ。アスカとリリオがまぁまぁとなだめる。

 

「どうしてサイオク村なんだも!中央港に行ってほしいも!」

「それは今説明したやろ……」

「このまま中央港に行っても見つかるだろうし…どうしよっか…」

「それなら、ウチに服とかあるからそれで変装していけば?」

「じゃ、そうしていくか」

 

セイリュウをなだめながらリリオが賛同する。リュウギ達は家へと戻り、タンスなどから使えそうな衣服を持ち出してきた。

ジークとサイカはフードがあるので平気と言い張って、頑なに着ようとはしなかった。

ミントはサルベージャースーツでは目立つのでリュウギの服を借りた。その姿は少年っぽく見える。リュウギはなぜか耳付きポンチョを着ることに。

 

「なんで俺が…母さんが着ればいいのに」

「いいじゃんいいじゃん!似合ってるよ!」

 

各々服を着替えてセイリュウに一抹の別れを告げてアヴァリティア商会中央港へ向かい歩き出した。

 

「恥ずかしいなぁこれ…」

「まさかこんなの着てるとは思われないだろうし、いいんじゃない?」

「ミントは男みたいだな」

「そりゃあ男の服だし」

 

ウマはアスカに抱えられて進む。アスカがダボダボな服をきてその中に入っている。「脚でも怪我したのか?」とリリオに聞かれたが、すぐに適当な言い訳を作って言い逃れた。ウマにとってサイオク村はなるべく来たくない場所なのだ。その理由は―――――

 

「ウマ!見つけたも!」

「ももっ!?」

 

リュウギ達がサイオク村を半ばまで進んだ時、突然後ろから声がかかった。

 

「ん?ウマの知り合い……」

「な、なんで分かったんだも!?見えないはずだも!?」

「ウマからは独特のニオイがするんだも!このクマの鼻はごまかせないも!」

「んなこと聞いたことないも!姉ちゃん嘘つきだも!」

「言ってなかっただけだも!アスカ!ウマ連れてこっち来るんだも!」

「は、はいぃ……」

 

アスカはウマを連れてクマと名乗った赤いノポンのもとへと歩み寄る。

が、その途中でウマは服の中から飛び出て逃げ出す。

 

「こ、こんなところで捕まるわけには行かないんだも!」

「逃がさないも!」

 

クマがそう言うと、どこからともなく数匹の小さいノポン達が現れ、すぐにウマを囲んだ。

 

「もももっ!リュウにアオにキツネに……」

 

およそ10人ほどもいるノポンの名前を読み上げていくウマだったが、全員の名を呼び終わる前に彼らに捕まってまるで胴上げのように連れていかれた。

 

「ああーっ、ちょっとウマをどこに…」

「ウマには少々お灸をすえなければならないんですも!悪いけどウマはお借りしますも!」

「えーっ!?でも…」

「ウ、ウマとアスカのことはいいからリュウギ達は先行っててほしいも!」

 

心配するリュウギとミントをよそに、ウマとアスカはノポン達に連れ去られていく。

 

「…で、どうするんだ?」

「ま、まぁウマの知り合いみたいだったし…大丈夫だろ」

 

ツバキが連れ去れていくウマを見ながらリュウギに問いた。しかし連れていかれてしまったので、どうしようもないので、このままサイオク村を抜けてアヴァリティア中央交易港を目指すことに。

まさかウマがアヴァリティアに行くのに乗り気じゃなかったのはこのことか…ということはみんな頭の中で考えていた。

 



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"アヴァリティア商会"

ギリギリ2月中の更新です。3月はもっと更新出来たらいいなぁ。
ゼノブレイドとは関係ない話なんですけど、テイルズオブシンフォニアをプレイしております。
なんか終盤の世界観がゼノブレイド2っぽいなって思っている最中です。


 

 

アヴァリティア商会はアルストが統合されアルスト大陸となった後、その未開拓地に大きな交易港を作り出した。どの国よりも先に。一番乗りだった。

ノポンは非常に多欲で、降り立って2年ほどで大きなアヴァリティア商会中央交易港ならびに交易場を作り上げた。前アヴァリティア商会の会長のバーンの失脚から立て直した会長代行ニルニーはその腕を買われ、今やアヴァリティア商会の会長となった。そこからのアヴァリティアの発展は凄まじく、ノポンの人口も大幅に増えた。新たな居住区としてサイオク村などといった村や町が交易港周辺に作られていった。

今やアルスト中の物資がここを中間とするといっても過言ではないほど巨大になっていき、他の商会もほとんどがアヴァリティアに吸収された。

中央交易港にそびえたつノポンの上にノポンが立って金のインゴットを持っている通称「肥やしの像」はアヴァリティアの名物である。

 

そんな話をビャッコから聞きながらリュウギ達は気づけばアヴァリティア商会の中央交易港に着いていた。

せわしなくノポンを含めたあらゆる人々が歩き回っていて、見ていて目が疲れてくる。

 

「いたっ」

 

ミントの頭に落ちてきたのは星型のねじ回しだった。どうして上から・・・と見上げてみると、頭上ではケーブルに吊り下がったトロッコが動いていた。

この中央港は巨大な木製の建物で囲まれていて、かなりの高さがある。見てみるとエレベーターなどもいたるところに設置してあり、あらゆる階層で様々な取引がされているのが分かる。市場もここからまっすぐ見えるところだけでなく、いろんな階層にあるようだ。建物と建物をこのケーブルトロッコで行き来して物資を運搬しているのだろう。

 

「ま、後で返しに行こ」

 

ミントは落ちてきたねじ回しをポケットに突っ込んだ。

 

「手形を手に入れるにはまず手続きが必要だな」

「まずはアヴァリティアの会長の許可が必要やな。ニルニーは旧知の仲や。特別受付に行ってアポ取ってくるわ」

 

ジークの提案により、一行は特別受付を目指すことに。

 

「なんだかトリゴみたいだな」

「ゴルトムントっぽくも感じるけど…」

 

建物や床には木だけでなく金属も使われているようだ。雰囲気としてはトリゴの街が近いだろうか。

中央の建物へと近づいていく。扉は無く、開いた入口を通っていくと、目の前にカウンターがある。受付だろうか。受付にはノポン族が座っている。座っているというより、椅子の上に立っていると言った方が正しいだろうか。ジークはそのノポンに話しかける。

 

「ここでは物資の配送や物資の状況を確認する受付ですも」

「アヴァリティア商会の会長に会いたいんやが、どこの受付でそういうのやっとるんや?」

「ニルニー会長は今ものすっごく忙しいんですも。でもまぁ一応確認してみるといいですも。会長関連受付は5階ですも」

「おおきに」

 

5階へはエレベーターで行くことになった。受付のすぐ横にあったので総勢9人で乗り込むことに。

 

「おい、狭すぎるだろ」

「ツバキが幅とってるでしょ」

「なぁ、もう少しだけ奥行ってくれないか?」

 

さすがにエレベーターに9人は狭い。ここのエレベーターは動くのがすごく遅いらしく、5階まで行くのに4分もかかった。階段で行った方がよかったかも…と全員後悔した。

エレベーターから降りると、今までの雰囲気とは異なる、豪華なフロアが目の前に広がった。

赤いカーペットの先には会長関連受付が。その横にはおそらく会長室があるであろう扉が。

ジークは受付のノポンのもとへと行く。

 

「今会長さんと謁見できるか?」

「会長さんは様々な書類の整理ですっごく忙しいんですも。お引き取り願いたいも」

「ほーん。じゃあ一言だけ伝えてくれるか?」

「それぐらいだったら大丈夫ですも」

「じゃ、『雷轟が来た』と伝えてくれ」

「了解ですも。時間割けなくて申し訳ありませんも」

 

ジークはノポンに頭を下げて後退した。

 

「えっ?会長さんと会えないってことは謁見できないんじゃ…」

「心配すんな。ワイが来たと知ったらニルニーも書類放り投げてワイらと謁見してくれるはずやからな」

 

心配するミントにジークが自信満々に答える。

 

「いやー、亀ちゃんよりは書類とると思うよ?雷轟が来たってだけじゃあまりにも弱すぎると思うけど…」

「なんやニア、ワイのことそんな軽~く見とるんか?」

「っていうか、亀ちゃんは私たちといることがすでにスペルビアとバレてるだろうし、もしアヴァリティアにリュウギの件がバレてたらそのまま逮捕されちゃうんじゃ…」

「……確かに。ま、まぁニルニーはそんなことせぇへんやろうし……それにノポンの兵士相手だったらワイらのが強いやろ」

 

ハハッと笑うジークに一同は少し不安を感じた。

次のエレベーターが来るのを待っていると、後ろから声がかかった。

 

「ニルニー会長があなたたちと会いたいと言っていますも」

「えっ、本当?」

「当然やろ。ま、お尋ね者ってことがバレてなきゃいいけどな……」

 

まさか雷轟と言っただけで…と驚くニア。会えるのなら会うしかない。一同は会長室へと入っていく。

会長室は外の小綺麗な様子と違って、山のように重なった書類だらけだった。

当たって崩れないように、まっすぐ慎重にニルニー会長のもとへと行く。

 

「あの……ニルニーさんですか?」

 

ミントが目の前の書類だらけの机の先にいるノポンに声をかける。

 

「いかにも、私がニルニーですも。ところでどうしてジーク様がここに来たんだも?」

「手形欲しくてな。世界樹への」

「だめですも。そう簡単に渡せるものじゃないんですも」

「ええやないか。ワイとニルニーの仲やないか」

 

ニルニーと話をつけるジーク。リュウギはそっとサイカに聞いた。

 

「なぁ、ジークとニルニーって仲いいのか?」

「それほど濃密な関係があったわけちゃうけど……立場的に似てるし、しばしば会ったり話したりしてたからやな~」

 

ニルニーとジークの話は続く。

 

「もし発行するってことを了承しても、少なくともこの書類を全て片付けたあとですも」

「この書類全部って…」

 

リリオが見渡す。山になっている書類はゆうに100は超えていてもおかしくない。

 

「一か月ぐらいかかりますも」

「ええっ!?そんな待てないよ!」

 

ミントが声をあげた。

 

「アヴァリティアの会長は代々忙しいんですも。とくに他の商会と合体したせいでさらに仕事量が増えたんですも」

「そうなんだ……」

「悪いですけども他をあたってほしいですも」

 

一同は肩を落としながら会長の部屋を出ていく。ジークは「別でニルニーと話したいことがある」と言って部屋に残った。

 

「ジークどうしたんだ?」

「さぁ、ウチにもわからんね」

「ところでさ、ニルニーは私たちがお尋ね者ってこと知らないのかな?」

「あの様子じゃ、まだ知ってないみたいだね」

 

ミントの問いにニアが答えた。

 

ジークはリュウギ達を扉の向こう側に締め出した。この部屋に残るのはジークとニルニーだけ。

ジークは書類に手を付けているニルニーに話しかける。

 

「なぁニルニー、手形のことやないんだが……ひとつ聞きたいことがあるんや」

「何ですか?なるべくすぐに答えられるような質問で…」

「世界樹で……あの上で一体何があったんや?」

 

ニルニーは手を止めた。まぶたを閉じて考え、ジークにこう答えた。

 

「それにはお答えできませんも」

「親父もそう言っとった!なんで言えないんや?そんなに隠さなきゃいけないことなんか?」

「これは重要機密事項なんですも。各国首脳にそれに連なる立場の者のみ知っている――― それは外部に情報が漏れないためなんですも。下手に言ってそれが外に漏れたら……」

「ワイはそんなことせぇへん。なぁ教えてくれんか?ボン……レックスは世界樹に言ったって聞いた。それと関係あるんか?」

「な、なんでそのことを……まさかさっきのニアさんが……」

「ほら、いい加減吐いたらどうや?」

「……」

 

ニルニーは一呼吸おいて答えた。

 

「やっぱり答えらえませんも。吐けば私、いやアヴァリティアそのものの立場が危うくなりますも。今は独立を講じている中。下手なことはできませんも」

「そうか……なら、仕方ないな」

 

ジークは肩を落としてニルニーに背中を向け、部屋を出ようとする。

 

「手形の件、もう一考だけ頼むわ」

 

その一言を遺してジークはニルニーの部屋を出ていく。

 

「……すみませんも。でも、これはアルスト全体に関わることなんですも」

「レックス様……事は解決したのでしょうかも……」

 

ニルニーは窓から世界樹をのぞむ。

 



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設定など
キャラクター設定


自分での確認用も兼ね備えて作りました。
今のところ判明していることを中心に人物などを紹介しています。
つまり内容が進めば紹介されていく内容も増えていくということです。随時更新していくので、見ていただくと嬉しいです。

いま現在はキャラクター設定のみですが、のちに舞台設定などもあわせて紹介できればなと思います。



---------人物設定---------

 

~パーティサイド~

・リュウギ

胸に金色のコアクリスタルを持つ、銀髪の不思議な少年。

楽園へと消えた父を探す為に旅をしている。少々口は悪いが、根は心優しい。人見知りでもある。

紅緋色の大剣を背中に持ち、大剣の中心にある円形の空洞部に文字が浮かび、その文字通りの属性、アーツに変化する。

彼の属性は炎と水と光。なぜブレイドではない彼がこのような力が使えるのかは…

ちなみに好物はタルタリ焼き。

 

・ミント

リベラリタス島嶼郡のイヤサキ村出身。元気がとりえの新米サルベージャーの女の子。

リュウギに仲間、そして自分の命を救ってくれた恩返しのためにリュウギを楽園へ連れて行くことを決意する。

彼女自身にはブレイドとの同調資格はなく、戦闘はリュウギ任せ。…のはずだったが、何故かツバキと同調することに成功する。

料理が得意で、彼女の作るタルタリ焼きは絶品とのこと。

 

・ウマ

スペルビア新帝国の端っこの“トラ・ブレイド研究所”でトラ博士の助手をしているノポンの少年。

エーテルツインガンの武器を持つブレイド、アスカと同調している。

ほぼ一人で人工ブレイドを作り出したトラを神のように崇めているが、その趣味はほぼ正反対で、変身物が好き。

人工ブレイドの技術を応用した「ストロング・ファイター」を作るのが夢。

 

・リリオ

自称、アニマ傭兵団最強のドライバー…とは名ばかりで、まともに仕事をしてくれない傭兵。

グーラのイラーダ村出身の28才。昔はサルベージャーだったが、ふとしたきっかけでドライバーになり、その後は仲間のために傭兵として働くようになった。黒い豹のような姿をしているブレイド、クロヒョウが相棒。

 

・ジーク

「ジーフリト・ブリューネ・ルクスリア」…というのは彼曰く仮の名前。

本当の名は「ジーク・B・極・玄武」。厨二気質の45歳。ルクスリア王国の王子でもある。かつて天の聖杯、そのドライバーと共に旅をしていたが、今はわけあってインヴィディアでバイトをしている。特徴的な口調をしている。

彼のブレイドであるサイカのコアクリスタルを移植したブレイドイーターではあるが、近頃腰痛に悩まされている。

 

・ツバキ

ミントと同調したナックルクロー型の武器を持つブレイド。少々口が悪い。ドライバーであるミントのことを最優先に考えている。

自身が所詮コモンブレイドであることにコンプレックスを抱いている。

 

・アスカ

ウマと同調しているツインガンという武器を持つブレイド。性別は男性。

優しく丁寧語で話すことが多い。ウマの行動にすこし困ることも。感覚を極限まで研ぎ澄ます能力があり、オイルリーフのある場所や、ブレイドの数を直接見ずに判断することができる。

 

・クロヒョウ

リリオと同調しているブレイド。厳しい姉御気質で、高飛車なメス。

 

・サイカ

ジークのブレイド。ジークと同じく特徴的な口調。

ジークの勝手にはよく悩まされている。しかしそれを温かく見守っている。

 

~ペルフィキオ~

 

・ボス

アリアたちが口にする、ペルフィキオのボスであると思われる人物。時折メンバーに命令を下すことがある。"あの女"なる人物を探しているらしい。

 

・アルジェント

リュウギ達の前にたびたび現れる謎の人物。「面白いこと」を最優先に行動する。「面白いこと」のためには手段を選ばない残忍、冷酷な人物で、ミントの両親を「娯楽」のため殺害した。いろいろと怪しい部分があり、アリアは完全に信用していない。

ブレイド無しで数人を同時に相手にするほどの強さを持つ。

 

・ツナヨシ

フォンスマイムにある劇団の脚本を努めている男性。物事を脚本、アドリブ、脇役などと表現する癖がある。

前座長コールの一番弟子で、昔彼に自身の書いた物語を褒められたことから脚本家の道を目指すようになる。しかし、彼の書く脚本は良く言えば分かりやすい。悪く言うと単純なもので、あまり評判は良くない。

その正体は組織ペルフィキオの一員。カムイというブレイドと同調している。世界の支配を最高のストーリーだと思っている。その行動原理は亡くなったコールへアルスト全体を舞台とした最高の物語を見てもらいたいから。

 

・ガーン

ペルフィキオの一員のノポン族。配下を利用してコアクリスタル集めを行っている。リュウギを見て何かに気づく。アルジェントに人工ブレイドの設計図をとってくるように依頼する。あまり自分からは動こうとしない主義らしく、コアクリスタル集めもショットとバクエンに任せている。

 

・アリア

ペルフィキオの一員。ラゴウと呼ばれるブレイドを中心に多くのブレイドを率いている。

高飛車な性格で、人の命を奪うことをためらわない非情な性格だが、ショットが死んだと聞いたときは驚いていた。

 

・ショットとバクエン

ペルフィキオの一員。

ショットがドライバーで、バクエンがブレイド。剣型の武器を持ち、属性は炎。

炎の竜巻を起こす攻撃を繰り出す。

ショットは残忍な性格で、バクエンも同じく残忍だが、ショットと比べて情けない部分が存在する。一度ミントを殺害した。野盗を利用してコアクリスタル集めを行っていた。上司ともいえるガーンには失礼な態度をとる。野盗に逃げられてからは情報からコアクリスタル輸送船を襲ったり、保管庫を襲ったりと過激な行動に出る。リュウギらに邪魔をされた末、給水塔を利用した戦法に押され、とどめをさされ絶命する。バクエンもコアクリスタルへと変わった。

 

~その他~

 

・メレフ

スペルビア新帝国の特別執権官。「炎の輝公子」の異名を持つ。皇帝が変わった今でもその役職は変わらない。

カグツチ、ワダツミの二体のブレイドと同調しており、給水塔破壊の犯人であるリュウギ達を逮捕するために何度も立ちはだかる。リュウギの能力や属性に対してある人物を重ね、リュウギの正体を掴もうともする。現皇帝であるカルマを表面上は忠誠を誓っているが、同時に怪しんでいる。

 

・カグツチ

メレフのブレイド。サーベルという武器を使用する。メレフの補佐的役割で、戦闘の際はワダツミと交代しながら戦うことも。

 

・ワダツミ

メレフのブレイド。ともに行動することは少なく、離れて別の仕事をすることが多いが、ときおりともに行動することも。

 

・カルマ

現スペルビア新帝国皇帝。前皇帝ネフェルの死後に載冠した。メレフを信頼しているが、

メレフを利用し、リュウギを捕獲しようともしている。

 

・ゴウ

カルマの秘書。帝国の中では最もカルマに忠誠を誓っている。

 

・ゼーリッヒ

ルクスリア王国の王。すでに老齢であり、ひげは白く足も不自由になってきている。

リュウギ達にルクスリアのアルス、ゲンブの頭部にあるサンクトスチェインの回収と引き換えに世界樹への手形を約束した。

 

・ネフェル

スペルビア帝国前皇帝。10年前に起きたクーデターによって死亡したとされているが、実は存命しており、ルクスリアでホームレスとして過ごしている。

 

・トラ

かつて天の聖杯、そのドライバーと旅をしていたノポン族の男性。ハナ、キクという人工ブレイドと共にスペルビアの端っこの研究所で日夜ブレイド研究にいそしんでいる。バイトとして来たリュウギ、ミントに優しく接する。

 

・セイリュウ

リュウギから「ひいじっちゃん」と呼ばれる小型のアルス。背中に一軒家を構えている。

どこの国にも属さない小さな入り江でひっそりと暮らしている。

 

 

 

・ニア

グーラ出身のサバサバした性格の少女。かつて天の聖杯、そのドライバーと共に旅をしていた。その正体はマンイーター。その旅が終わった後の消息は不明である。

 

・レックス

リベラリタス島嶼郡のイヤサキ村出身のサルベージャーの少年。天の聖杯と呼ばれる特別なブレイドと同調した。

その後彼は全てのブレイドを使役し、己の思い描く事象を実現できる“マスタードライバー”になり、もう一つの天の聖杯、メツを打ち倒し、アルストが希望ある世界へと変えるきっかけを作り出した。天の聖杯と共に旅をしていたというのが最後の記録であり、その後の消息は不明。

 

 

 



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