赤い弓兵と仮想世界 (カキツバタ)
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プロローグ~仮想と現実~

はじめまして。
よろしくお願いします。



ーーー大丈夫だよ、と彼女は小さく微笑む。

 

 

 

 

 

「クソッ…放せ!」

 

 

 

 

一人の少年は運命に抗う。しかし、目の前の少女を救う力が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリト!!…っ」

 

 

 

 

 

 

もう一人の少年は、何も出来ず、ただ呆然と立ち尽くすことしかできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「◼◼◼!頼む…行ってくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…う、あ…」

 

 

 

 

 

行け。行くんだ。騎士から彼女を奪い返して逃げるんだ。

大体、彼女が何をしたというんだ。いつも俺たちを心配してくれるこんなにも心優しい少女が、家族とこの村で幸せに笑い合って生きていくはずの少女が、こんな理不尽でその幸せを失っていいはずがない!

 

 

 

 

 

だが…あんな化け物にどう立ち向かえばよいのだろうか。

 

 

 

目の前に立ちはだかるのは、どうしようもなく高い壁。

 

 

 

話し合う?――――無理だ。そんなことが出来ていればこんなことにはなっていない。

 

 

戦う?――――…出来るのか?本当に、こいつを、倒せるのか…?

 

 

 

――イメージが、瓦解する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足が竦んで、動けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――青年は運命に抗えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、少女は微笑む。目の前の恐怖に怯えながら、それでも彼等を安心させようと。

 

 

 

 

ーーーーさようなら。

 

 

 

キリト、ユージオ、◼◼◼、みんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリスーーーーーーーー!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ろ姿はどこまでも美しく、悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーート。キリト!

 

「…んっ」

 

シノンーー朝田詩乃の声で俺ーー桐ケ谷和人は意識を覚醒させた。

 

「あんた、さっきの話聞いてた?」

 

少しむっとした顔で尋ねるシノン。そうだった。俺はシノンにGGOで今度行われるBoBに出てほしいと言われていて、エギルの店で待ち合わせた。参加の経緯を聞く折につい最近行われたBoBの話になって……その途中、ほんの少しの間意識が飛んでいたようだ。バイトの疲れが出たのだろうか。

とはいえ、俺も何も考えずに聞いていたわけではない。思ったことをシノンに話してみる。

 

「あ、ああ。BoBに出てたサトライザーって奴のことだろ?シノンを倒して『Your soul will be so sweet』…君の魂はきっと甘いだろうとか言ったっていう。…もしかしてだけどさ、そいつ本職なんじゃないか?シノンを圧倒した実力とか、その観察眼とか踏まえるとさ。軍人とかかもな」

 

「えっ……観察眼って、まさかあんたも…」

 

「いやっ、俺が言ってるのは戦場を把握する能力のことだから。そもそも、そんないかがわしいことをシノンで考えられるわけないだろ(なんか殺されそうだし)」

 

「…それはそれでなんかムカつくわね……でも、さすがに軍人っていうのは…」

 

とシノンが言いかけたところに

 

「やっほー、シノのん!」

 

…と俺の彼女でもあるアスナーー結城明日奈がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――アスナがやって来ることを知らなかった俺は、ひどく驚いたものの、二人の説明に納得がいった。確かに俺一人では心もとないだろう。

 

「―――まぁ、二人とも助っ人として呼んだってこと。二人には大会一月前にコンバートしてもらうとして……あんたの怪しいバイトについて、聞かせてもらいましょうか。」

 

 

説明を終えたシノンはじっと俺に視線を向けて思いもよらないことを言ってきた。なんでシノンがそれを、と思うもすぐに納得する。シノンはアスナの親友だ。俺がアスナにバイトの話をした以上、伝わるのは当然か。

 

「…ラースってとこのSTL、ソウル・トランスレーターっていうBMI…フルダイブマシンのテストプレイだよ。本体がやたらとデカイ。」

 

「へー、じゃあそんなに大きいなら、そのフルダイブマシンは業務用?」

 

「いや、…そもそも普通のフルダイブとは別物らしいし、機密保持の為にそこでの記憶は持ち出せないから俺もよくわからないんだ。」

 

「は…はあ⁉」

 

アスナの疑問への俺の答えに、シノンは思わず叫んでいた。

 

「別物?記憶が持ち出せない?どういうことよ」

 

「うーん、大本から説明するか。…量子脳力学ってのがあってな、あのマシンはそれを下敷きに作られたんだ。

 

魂とは何かって、考えたことあるか?…ラースはそこに一つの結論を出したんだ。説明するとだな…脳には脳細胞の構造を支える頭蓋骨でもある骨格、マイクロチューブルってのがあるみたいなんだ。」

 

「は、はあ……?」

 

「その骨は管状で中に光子…エバネッセント・フォトンっていう量子があって、常に確率論的な揺らぎとしてそこにあるんだ。それが人間の心、魂らしい。」

 

何を言っているのかさっぱり、といった様子のシノンと考え込んでいる様子のアスナ

 

「…なら、ラースのSTLは人の魂に直接アクセスするってこと?」

 

アスナは不安げに聞いてきた。

 

「まあそういうこと。光子はキュービットって単位のデータで記録されてる。つまり、脳細胞自体が一つの量子コンピュータとも言える訳だ…」

 

「ちょっとキリト。私もう無理。限界きてる。」

 

「わたしも…」

 

ついに二人とも白旗をあげた。まぁ俺も正直そこら辺はよく分かってはいない。

 

「だよな…まあ話を続けると、ラースはその人間の魂に名前を付けた。それがー」

 

 

「フラクトライト」

 

 

「…人間の魂にアクセス出来るから、記憶の操作も可能だと。」

 

何やら考え込む二人。少しの静寂の後、アスナが口を開く

 

「…もしかして、STLの世界で見たり聞いたり触れたりしたものは私たちの意識レベルでは本物ってこと…?」

 

「そういうこと。」

 

俺はアスナの言葉に頷いた。

 

「…信じられないけど、一度くらい見てみたいかも。デザイナーのいない、現実世界以上のリアルワールドを。」

 

呟くアスナ。それを聞いたシノンが俺に尋ねた。

 

「実際、そんな世界が創れるわけ?」

 

「うーん。厳しいかな。それにはゼロから文明を創る必要があるからな…」

 

「それは随分と気の長い話だね。」

 

と、二人はこの言葉を冗談と受け取って笑った。しかし、いや…恐らく

 

「可能かもしれない。仮想世界の中の時間を加速させるんだ。フラクトライト・アクセラレーション、略してFLA。確か今の最大倍率は3倍だったかな…」

 

「ふぅん…なんかやってることが凄すぎて現実味を帯びない話ね…それってどんな世界だったのかな。」

 

「覚えてはないけど…確か、アンダーワールドってコードネームだった。」

 

そこから何か思い浮かばないものか、とキリトとシノンが揃って首を捻ると、アスナが呟いた。

 

「ラースって名前もだけど、不思議のアリスからとっているんじゃないかな。確か原題は『アリスズ・アドベンチャー・アンダーグラウンド』だったかな」

 

「へぇ…キリト、どうしたの?」

 

「うーん。今何か思いだせそうだったんだけどな…」

 

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ、シノン」

 

「じゃあね、シノのん」

 

「またねアスナ」

 

日も暮れはじめた頃、エギルの店を出て、俺とアスナは、シノンと別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリト君!!しっかりして!」

 

ーー朦朧とした意識の中で、その声を聞いた。意識が途切れる直前に俺は、何か言わなくてはと思い、力を振り絞って…

 

 

 

 

 

ーーアスナ、ごめん。

 




今回は説明回、結構な部分を省略してこの分量に納めたのであっさりしすぎてます。赤い弓兵出てきてからは描写も細かくなると思います。次回も多分キリトの話。ラストくらいに赤い弓兵でるかも。



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出会い~アリシゼーション~

ラストの方に彼を出すといったが、あれは嘘だ。
今回も原作とあまり変わらないので描写は少なめ。

ではどうぞ


空気に、匂いがある。

覚醒直前の断片的な思考のなかで、ふとそんなことを意識した。

ここはどこだろうか。花の匂い。草の匂い。樹の匂いに水の匂い。

聴覚からは小川のせせらぎ。陽気にさえずる小鳥の声や、虫の羽音が流れてくる。

 

少なくとも、自分の部屋ではなさそうだ。俺はもう少しだけ眠りの余韻に漂っていたいという欲を押し退け、両眼を開き、ゆっくりと上体を起こす。

 

「ここは…どこだ」

 

ぽつりと呟く。が、答えは返ってこない。どうやら森の中の開けた草地に寝転んでいたらしい。

何故こんなところにいる?…何も分からない。記憶喪失、なんて物騒な単語が頭をよぎる。

 

まさか、俺は-俺の名前は、桐ケ谷和人。十七歳。川越市で母と妹と三人暮らし。茅場晶彦によって生み出されたVRMMO『ソードアート・オンライン』―ーSAO。ゲーム内での死が、本当の死に繋がるというデスゲームの中で俺はソロプレイヤーとしてダンジョンに潜り、そんな中で色んな出会いがあり、最終的に俺と茅場ーーヒースクリフの戦いで俺が勝利したことでこの事件は終わった。その後、囚われたアスナを救う為にALOーー『アルヴヘイム・オンライン』をプレイしそこでリーファーー妹達と出会ったり、菊岡さんの頼みで死銃事件の調査の為にGGOーー『ガンゲイル・オンライン』をプレイし、そこでシノンと出会ったりした。最近はALOを仲間達と共にプレイしている。ーーよし、大丈夫だ。

やや安堵しつつ、更に記憶を辿る。

 

――俺はエギルの店でシノンとGGOの話をして、アスナと合流してお喋りをしてからシノンと別れ、二人でアスナの家がある世田谷へ向かって…彼女は優しい日溜りのような笑顔をみせて…

記憶は、そこで途切れている。

 

俺は必死に思い出そうとするも、浮かぶのは点滅する赤い光と息苦しさのイメージだけーー

 

ん?そういえば今の俺の服は手持ちの服のどれでもない、麻の半袖シャツだ。そこで俺はようやくある一つの可能性にたどり着く。

 

「……なんだ」

 

要はここは仮想世界ってことか。俺はつい安堵の息をもらす。

経緯はよく分からないがいつの間にかVRMMOにフルダイブしていたらしい。

早速、現実世界へ戻ろうと俺はいつものようにログアウトするためにウィンドウを開こうと手を振るーーしかし何も起こらない。

 

「えっ…?」

 

何度繰り返しても、結果は同じ。右手でも、左手でも。

 

俺は先程よりもさらに大きな不安に駆られる。

よく考えると、この世界は仮想世界というには妙にリアルだ。もしかして本当にどこか関東の森とかにやって来ていたのか…?と、途方に暮れていると、ある考えが浮かんできた

 

「ここが……アンダーワールドなのか…?」

 

思い浮かべるのは、アスナの言葉。アンダーワールドで見たり聞いたりしたものは、俺達の意識レベルでは本物。それが真実ならばこの世界はアンダーワールドの可能性が高い。もはやそう考えるしか頷けない状況だ。しかし、一体何故?

 

……それよりも

 

「みっ…水ぅ」

 

俺の喉の渇きが限界だった。

美しい川の水が喉を潤していく

 

「ぷはぁ~」

 

さて、十分に水分を補給した。先ずはこの森を抜けようと俺が歩き出そうとしたその時、斧だろうか、明らかに人の手による音が聞こえた。その音に俺が振り向くと――

 

 

 

 

 

 

右手にさざめく川面。左手に鬱蒼と深い森。正面にはどこまでも伸びる緑の道。そこを三人の子供が歩いていく。黒髪の少年、亜麻色の髪の少年に挟まれて、麦わら帽子を被った女の子の長い金髪が眩しく揺れる。彼らの後ろには一人の青年がいた。逆光でよく見えないが、その後ろ姿はどこかでーー

 

これはーー記憶……?

 

遠い遠い、もう二度と戻れない日々。永遠に続くと信じ、それを守るためなら何でもすると誓い、しかしあっけなく消え去ってしまったーー

あの懐かしい日々。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Alicization Intersect with Fate

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーあれは、俺達…?

そんな筈のない突拍子な考えが自然と浮かんでいた。

俺は即座にその考えを否定する。

川越市にはここまで綺麗な森や川はないし、あの三人には会ったこともない。

 

しかし、どこか懐かしさを感じたような…

 

奇妙な感覚は拭いきれなかったが、今は進まなくてはならない。

 

…チクチクと残る不安をひとまず忘れることにして、俺は音のする方向へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…一言でいうと、デカイ。森の中に突如として現れた大樹のもはや自然界の樹木とは思えない圧倒的な存在感に、俺は口を開きっぱなしだった。

全長は何メートルあるのだろうか。ALOの世界樹ほどではないとはいえ、天にまで届きそうな巨樹を見上げる。

梢など全くみえない大樹の根元を見ると、誰かがいた。

 

俺は咄嗟に身構える。この世界がどんな世界かまだわかっていない。いきなり襲われるなんてことも有り得るのだ。

しかし、よく見てみるとその人影は俺と同じ歳位の青年で、特に武装などはしていなかった。

俺は一先ず安心し、警戒を緩める。

 

ややウェーブのかかったアッシュブラウンの髪の少年が不思議そうに俺を見て、口を開いた。

 

「君は誰?どこから来たの?」

 

と日本語で少年は言葉を発した。明らかに外国人の顔で凄く流暢な日本語を発したことに衝撃を受けつつも、まず俺は彼の正体――彼がNPCなのか、俺と同じプレイヤーなのかを探ろうとまずは比較的安全な単語を用いて会話を交わす。

 

「――キリト。あっちから来たんだけど、道に迷って…」

 

「あっちって…ザッカリアから来たのかい?」

 

早くも窮地。どう答えるべきか、慎重にならないと…

俺は慌てる心を落ち着けて、ゆっくりと語る。

 

「それが…自分がどこに住んでいたか、どこから来たのかよくわからないんだ…」

 

「…驚いた。《ベクタの迷子》か、ほんとにいたなんて…」

 

「べ、べくた…?」

 

「ある日突然いなくなったり、森なんかに突然現れるひとをそう呼ぶんだ。闇の神ベクタの悪戯だって。」

 

ううむ、雲行きが怪しい。そんなにこの世界の用語をだされてもな…このままでは何も分からないままだ。

ええいままよ、と俺は少年に言う。

 

「…ログアウトしたいんだ。」

 

「ろぐ…?今なんて?」

 

確定した。彼はこの世界の住人だ。少なくとも、ここを仮想世界だとは思っていないらしい。

この反応から、そう察した俺は咄嗟にユージオの問いを誤魔化す。

 

「いやっ、なんでもないよ。ところで泊まれるところってあるかな?」

 

「うーん。シスター・アザリヤなら助けてくれるかも。僕も一緒に行って事情を説明するよ。…あっ仕事があるから、すぐには無理かも」

 

「大丈夫、待ってるよ。よろしく頼む。」

 

「そういえば、名前いってなかったね。」

 

 

 

「僕はユージオ。よろしく、キリト君。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユージオとの話は興味深いものばかりだった。まず、彼らは《ステイシアの窓》という機能が使えるのだ。これは、天命ーー要は寿命を見ることができるのだという。確認の仕方は簡単。右手で物を二回ほど叩き、出てきた《窓》の値を見るだけだ。仮想世界とはいえ、ここはあまりにリアルで、仮想世界という実感が無かったためにこんなことができるとは思っていなかった俺は衝撃を受けた。

 

ユージオは俺と共にパンを食べながら、自分の話をしてくれた。

 

「ずーっと昔は…お弁当を持ってきてくれる幼馴染がいたんだ。でも、その子は…六年前に二人で北の洞窟に探検に行ったときの帰りに迷って闇の国との境にまで来てしまったんだ。そこで彼女はつまずいて、外の地面ーー闇の国に掌をついてしまった。…知ってるだろ?禁忌目録に決して足を踏み入れることならずって書いてある。本当に一瞬の出来事。たったそれだけのことで彼女は整合騎士に目録に違反したとして央都へ連れていかれたんだ……あの時、僕は助けようとしたけど、全く動けなかった…」

 

ユージオはかすかに自嘲の色を浮かべた。

禁忌目録、闇の国、央都、整合騎士…

気になることは多かったが、俺は何と声をかけていいか分からなかった。暫しの静寂の後に俺は訊く。

 

「…その子、どうなったんだ?」

 

「さぁ……審問の後、処刑するって言ってたけど…でもね、キリト、僕は信じてる。アリスは、きっと生きてるって。」

 

アリスーーどこか、懐かしい響きだった。

 

「…なら、探しに行かないのか?」

 

「あのねぇ、キリト。天職を放り出して旅になんて出られないでしょ。」

 

呆れ顔をしていうユージオ。どうやらこの世界には天職なるものがあるらしい。RPGとかでいう勇者やら魔法使いやらのことだろう。

 

「あ、ああ。ところでお前の天職って…?」

 

ここだと見えないか、と笑ってユージオは俺を連れて巨樹の幹を回る。長いこと巨樹の外周を回った後、俺は衝撃を受けた。そこには、巨樹の幹にこれまた大きな切れ込みが入っていたのだ。

 

「きこり…?」

 

「まあ、そういうこと。このギガスシダー、恵みをすいとる悪魔の樹を切る刻み手が、僕。」

 

といって近くに置いてあった斧を握るユージオ。

 

「そんな天職もあるのか……この切れこみはユージオが?」

 

「そうだ…と、言いたいところだけどね。この巨樹のきこりは僕で七代目。つまり、七代かけてもこの程度の切れこみしか入っていないのさ。切っても切ってもきりがない。一日に切り込んだうちの半分近くは次の日には元に戻ってるんだ」

 

七代でこの切れこみか…確かに切れこみは大きいとはいえ、七代かけてと言われると小さく見える。何代かサボっていたのではと疑ってしまう程だ。

 

「……なぁ、ユージオ。俺にも手伝わせてくれないか?」

 

「え…?別にいいけど…どうして?」

 

「ちょっと、その巨樹がどんなものか知りたくて…それに、もしかしたら俺が切り倒せるかもしれないだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと全然出来なかった。何度か良い当たりもあったものの、天命は50位しか減っていなかった。ユージオには初めてのわりにはすごいと誉められたが、俺はやや違和感を隠し切れなかった。

 

――他のVRMMOの時や、リアルともまた違う…恐らく今の俺の身体能力は、この歳の男性の平均かやや上程度だろう。そして、この疲れ…VRMMOでも、疲れることはあった。しかしあれは長期間プレイしたが故の疲れであって、剣を振るうという行為に対する疲れではなかった。しかし、この世界では斧を振るう度に筋肉が疲労していった。本当に現実じみた疲れに、俺は違和感を感じた。

 

ルーリッドの村に足を踏み入れた。眼前に広がるのは中世のヨーロッパを思わせる町並み。俺は、ユージオが事情を不思議そうな目で見てくる村人達に説明し、シスターの下でお世話になることになった。

 

「えーっと。あとわからないことは?」

 

「大丈夫。いろいろありがとう。」

 

セルカというシスター見習いの明るい茶色髪の少女に礼を言う。彼女は一瞬だけ表情を緩め、すぐに鹿爪らしい顔に戻ってうなずいた。

 

「じゃあ、おやすみなさい。」

 

「……ああ。おやすみ、セルカ」

 

一人になった俺は、先程出会ったルーリッドの村の人間的過ぎるNPC達に疑問を抱きつつも深い眠りに落ちていった。




次回、ようやく物語が交わり始めます


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出会い~Fate~

ようやく運命が動き始めます。


からーん。

 

「うー、あと十分……いや五分……」

 

「だめよ、起きなさい。」

 

「三分…さんぷんだけ…」

 

尚も肩をつんつんしてくる。セルカは優しいな。直葉なんて布団を剥がして叩き起こしてくるというのに。ようやく俺が起きると、セルカは呆れ顔で

 

「もう五時半よ。早くしないと礼拝に間に合わなくなるわよ」

 

まだ五時半じゃないか…と思いつつ、長そうな説教をセルカが始めたので、そそくさとベッドを降り、シャツを脱ごうとする。セルカは顔を赤くして、

 

「なっ…!と、とにかく、早く来なさいね!」

 

といってそそくさと出ていった。

 

着替えを終えて朝の礼拝を行った。俺は無信仰だが、教会で過ごす以上当然のことだと考え、信仰というよりは感謝をして礼拝した。その後朝食をシスターやここで暮らしている子供たちと摂る。朝食はかなり簡素なもので、正直現実世界のものと比べるとやはり目劣りしてしまう。この大人数だ。シスターたちもそこまで贅沢はいっていられないのだろう。俺は恵まれていたのだといまさらながら実感する。とはいえ、味覚はちゃんと機能するようで、その味はどれも本物のように感じた。

 

 

広場に行くと、そこにはユージオがいた。

 

からーん。

 

丁度鐘の音が鳴り、先程の鐘の音色と違うのだと気づいた。

 

「……なるほど。」

 

「おはよう、キリト。どうしたんだ?」

 

「おはよう。いや、ここでは時計じゃなくて一時間ごとに変わる鐘の音で時間を知ってるんだなって。」

 

「トケイ…?」

 

しまった、時計は存在してなかったのか、と冷や汗をかきつつ時計の説明をする、

 

「えっと……なんか丸くて、三本の針で時間を示しているやつなんだけど…知ってるか?」

 

「うーん……あっ!それって時刻みの神器のこと?大昔にあって、なにか神様の怒りを人々が買って壊されたとかいう」

 

「ん?あ、ああ。それそれ」

 

「キリトのいたところでは、トケイって呼んでたのか…もしかしたら故郷を探すヒントになるかもね」

 

故郷はわかるんだが、帰り方がな…

色々と考えた結果、この国?の首都らしい央都に行くのが一番の近道だろうということになった。

 

「さて、僕は仕事に行かないと。キリトはどうする?」

 

俺は少し考えた。探検もしたいが、央都にいって調べたい俺としては、央都に行くためにユージオが必要だ。それゆえにユージオの天職について調べる必要がある。

 

「…今日も仕事手伝っていいか?」

 

「もちろん、そういうと思ってた。」

 

ユージオはパンを二人分用意していた。そんなユージオに感謝しつつ、この世界のシステムについて考えながら仕事場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「うああ、もうダメだ、もう振れない」

 

俺は悲鳴をあげて斧を放り出して、崩れ落ちた。

ユージオの差し出したシラル水を貪るように飲む。

 

「でも、キリトは筋がいいよほんと。かなりまともに当たるようになってる。」

 

「……それでも、まだユージオには及ばないからな…」

 

溜息をついて座る。

幸い、この世界でもアバターを動かす勘やイメージ力はかなり機能するようだった。

それに、反復練習はアインクラッドでずっとやっていた俺の得意分野だ。根気なら、ユージオにも負けないー。

いや……待て。俺はいま、何か…。

 

ーー!?

 

その思考は突如として感じた「違和感」にかき消された。

 

なんだ、これは。

 

歪み…?

 

森の奥から突如感じた空気に、俺は思わず身震いする。

ユージオも何か感じたようで、

「ーー?」

不安げな表情をしていた。

 

 

ーー予感がする。何かとてつもないものが、現れたような。

 

「ユージオ。…行こう。」

 

見たい。もしかしたらそれはこの世界のシステムに関わる何かかもしれない。もとの世界に戻れるかもしれないと思ったら、恐怖より興味が上回り、呆然とするユージオを連れて俺は森の奥へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

I am the bone of my sword.

――― 体は剣で出来ている

 

Steel is my body, and fire is my blood.

血潮は鉄で、心は硝子

 

I have created over a thousand blades.

幾たびの戦場を越えて不敗

 

Unknown to Death.

ただの一度も敗走はなく

 

Nor known to Life.

ただの一度も理解されない

 

Have withstood pain to create many weapons.

彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う

 

Yet, those hands will never hold anything.

故に、その生涯に意味はなく

 

So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.

その体は、きっと剣で出来ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー暖かい木漏れ日を感じて、シロウは閉じていた瞼をゆっくりと開いた。

 

 

「…どこだろうか、ここは。」

 

ごちゃ混ぜになった記憶を整理しながら起き上がり、状況を確認する。

 

………少なくとも私が本来いるはずの座ではないらしい。あの場所は見渡す限り無数の剣が突き刺さった荒野のはずだ。こんな新緑の森の中ではない。

だとすれば、守護者として召喚された可能性が高い。しかし、いつものようにアラヤからの指令がくだることもなく。ましてや召喚者すらいないーーと。ここまで考えて彼はあることに気づく。

 

「受肉している……?しかも、魔術回路が開いていないとはな。」

 

なぜ、と思うがこうなった経緯が何も思い出せない。それよりも、魔術回路を開くのが先決だな。と私は無理矢理回路に魔力を通そうとする。

ーー懐かしい痛みを感じながら、私は自分の魔術回路の強度が下がっていることに気づいた。あの愚かな鍛錬も、意外と役に立っていたのだなと思いつつさすがにこれは長いスパンの中で強くしていくしかないかなどと考えていると、人の気配を感じた。

 

二人、どちらも少年だろうか。さすがに今、強化や投影魔術は使えない。隠れることもできるが。さて、一体どうしようか。

少し悩んだ後、まずはここが何時の時代の何処なのか知る必要があるな。と、私は二人の少年と話をしようと決心した。

 

 

 

 

この場所に辿り着いた二人の少年はわたしを見て驚いていた。亜麻色の髪をした少年は不思議そうな眼差しを、黒髪の少年は警戒と興味の眼差しをそれぞれ私に向けてきた。その眼差しに対して私はこう答えた。

 

「唐突ですまないが、此処が何処なのか教えてはくれないか?」

 




さっきFGOでなんとなくエミヤオルタが出てくる気がして呼符使ったら、本当に来てくれて声も出ないぐらい驚きました。


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青薔薇の剣

お気に入り登録、感想ありがとうございます。

完全に自己満足で書いている作品ですが、誰かに喜んで貰えるなら嬉しい限りです。

あと作者は投稿のムラがすごいです。

ユージオは悪意がない人なら誰とでも仲良くなれるタイプだと勝手に思ってます。
ではどうぞ


ーーなんだ、あいつは。

 

森に佇む褐色の肌に白髪、赤い外套の恰幅のある背の高い男性という異色極まりない状況に、俺は衝撃を受けた。

なにより、VRMMOとはいえ数多くの死線を潜り抜けてきた俺の本能が、奴は只者でないと訴えてくる。この世界にもこんな奴がいるなんて。もしかしたら、ユージオのいう、整合騎士の一人かもしれない。

俺は万が一、ユージオを連れて逃げられるようにユージオを庇う形で前に出た。ユージオは俺と出会った時と同じく、不思議そうな表情であいつを見つめていた。

奴は俺達を一瞥した後、自分に害意はないと伝えるかのように両手を挙げて……

 

「唐突ですまないが、此処が何処なのか教えてはくれないか?」

 

 

 

 

 

 

ーーーは?

いま、なんと言った…?此処が何処か教えてくれ、なんてそんなことをいうのはーー

 

 

「えっ、もしかして貴方も《ベクタの迷子》なんですか!?」

 

 

現実世界から来た人間<リアルワールド人>しかいない。

 

 

 

 

「ん?ベクタの迷子…?」

 

「ある日突然いなくなったり、逆に森なんかに突然現れるひとをそう呼ぶんですよ。闇の神ベクタの悪戯だって。この説明昨日もした気がする…やっぱり僕たちの村だけでしか言わないのかなぁ。あ!僕はユージオっていいます。隣の彼はキリト。ここはルーリッドの村の近くの森ですよ。」

 

と、俺が呆然としているうちに何も知らないユージオがどんどん勝手に話を進めていく。

 

「おい、ユージオ!」

 

俺はユージオを連れて奴から少し離れて囁く

 

(あいつの正体もわからないのに、話し過ぎじゃないか?)

 

(いや、別に悪い人には見えなかったし)

 

(人は見かけで判断しちゃいけないんだぞ。ほんとに。大体、あいつの名前もまだわからないのに…)

 

「あ!名前聞いてもいいですか?」

 

と、次の瞬間には奴の元にいたユージオ。

……ユージオって現実世界ならたくさん友人がいるんだろうな、俺と違って。と呆れを通り越して尊敬する。

 

「あ、ああ。まずはこちらから名乗るべきだったな。

ーーエミヤシロウ。それが私の名前だ。」

 

……エミヤシロウ。名前的に日本人だろうか。しかしハーフでもこんな日本人はいないような。兎に角彼は、テストプレーヤーか俺を助けに来たラースの職員だろうとあたりをつける。彼なら戻り方が分かるかもしれない。

 

「エミヤさん、ちょっといいですか?」

 

「ああ。それと、二人とも私は呼び捨てでかまわない。敬語で話されるのは慣れないのでね。で、何かね?」

 

「…ログアウトしたいんだけど…」

 

「……ん?『ログアウト』?一体どういう…」

 

「あー!!いや!なんでもない!」

 

予想が外れた。彼は本当の《ベクタの迷子》か、ここが仮想世界だと理解していないテストプレーヤーだ。となると、やはり央都に行くしかないか…

 

「エミヤは、泊まる場所ってあるの?」

 

とユージオが聞くと、彼は少し考えて

 

「…いや、ないな。出来れば紹介してくると有難い。」

 

 

 

俺達は三人で昼食のパンを食べ、エミヤにルーリッドの窓や、天職、大樹の話をした。ユージオはセルカが実はアリスの妹だということや、最近南にゴブリンの集団が現れておかしな事が多いこと、偉い人にしか使えない天命を回復させる《神聖術》の話を俺達にした。

そしてユージオは物置小屋からあるものを運んできた。

俺はそれに腰が抜けるほど驚いた。エミヤはほう、と興味深げにそれを見つめた。

 

「《青薔薇の剣》。おとぎ話じゃそう呼ばれてる」

 

「おとぎ話って…?」

 

「『ベルクーリと北の白い竜』ってやつでね…果ての山脈を探検にでかけたベルクーリは、洞窟の奥深くで白竜の巣に迷い込むんだ。竜は昼寝中で、彼は巣の周りの宝のなかの白い剣を見つけて持ち帰ろうとしたら、足許から青い薔薇が生えてきて、ぐるぐる巻きにされちゃって、倒れた音で白竜が目を醒まして…っていう、話。」

 

続きを尋ねるも、ユージオは長くなるから、と端折ってしまった。

 

「まあ、いろいろあって許してもらって、剣をおいて命からがら逃げ帰ったっていう他愛ない話さ。」

 

「ほう…では今もその竜は…?」

 

エミヤがきくとユージオは少し悲しそうな顔をして

 

「いや…六年前にアリスと探検したときにはもういなかった。あったのは宝の山だけだった。この剣は、三年前に運んできたんだ。ここまで運ぶだけで三月かかったけどね。」

 

俺は不思議そうにしていたエミヤにこっそりとアリスが整合騎士に連れていかれたことを伝えた。エミヤは少し驚き、そのまま黙っていた。

 

 

 

 

俺は暫く剣を見ていて、あることを思いついた。

 

「…ユージオ。今のギガスシダーの天命を調べてくれ。」

 

「…まさか、その剣で打つ気か?」

 

と、呆れ顔でエミヤが訊いてくる。

 

「ああ。」

 

「ええー…はぁ…23万2315だね。」

 

「まあ見てろって。重い剣は重心の移動で振るんだ」

 

と俺は《ホリゾンタル》ーー右中段水平斬りを見せるも、踏ん張りきれずふらつき、ちゃんと当たらず、俺は反動で顔から苔に突っ込んだ。

 

「わあ、言わんこっちゃない!」

 

「…だが、その剣の力は本物らしいな。」

 

とエミヤは大樹の幹を見つめて言った。そこにはギガスシダーにニセンも切り込んでいる青薔薇の剣の姿があった。

 

「な?とりあえず天命みてみろよ」

 

頷き、ユージオは窓を食い入るようにみつめた

 

「…23万2314……切り込んだ場所が悪いんだ。ちゃんと使いこなせれば、もっと天命を減らせたと思う。」

 

「……私にやらせてくれないか?パンの礼もしたいのでね。」

 

ここでエミヤが名乗りを挙げた。しかし、彼でも使いこなせるかどうか…そんな俺の思考を読んだかのように

 

「まあ、任せておけ。」

 

とエミヤはニヒルな笑みを浮かべた。

 

「ああ、ユージオ。ところで…

 

 

ーー別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、天命を2万近く削っちゃうなんて。本当に助かったよ、ありがとう」

 

「いや、やはり慣れるまで少々時間がかかりすぎてしまったよ。きこりも大変だな。」

 

結果的に彼は切れ込みにしっかり当てるのに慣れるまで時間こそかかったが、その後はあっという間に青薔薇の剣を使いこなしてしまった。

…あのあと確かめたあの剣の必要権限は45。俺は38だから、あいつは45よりも高いことになる。彼は一体何者なのか。少なくとも今は害意がなさそうだが…俺は出会ったときから感じている不安を拭いきれずにいた。

 

 

 

 

ルーリッドの村にまた新たなベクタの迷子がやってきた。さすがに村の人も二日連続は流石に怪しんだが、ユージオとエミヤの話術でなんとか切り抜けた。

エミヤはシスターに泊めてもらう恩返しがしたいと家事の手伝いを自ら申し出たらしい。シスターも最初は少し手伝ってもらうだけと考えていたが、エミヤの仕事あまりの完璧ぶりに感動し、彼がいる間は彼に主に任せることにしたらしい。その日の夕食は感動を覚える位旨かった。……エミヤは執事かなにかなのだろうか。セルカもキリトさんと違って素晴らしいですね、と誉めていた。…あながち否定できずに、耳が痛かった。

 

 

 

 

 

 

「うっはあ~」

 

風呂に浸かって俺は今日の疲れを癒した。

…もう俺がこの世界にきてから三十時間以上が経つ。今の俺は大ピンチでもあり、ラースの真の目的を探る大チャンスでもある。

ーーそしてあの赤い外套の男、エミヤ。彼は本当に只のNPCかテストプレーヤーだろうか。ユージオはすっかり打ち解けたようだが俺は彼を信じきれない。なぜなら彼の目はーー

 

「あれっまだ誰か入ってるの?」

 

声が脱衣場から聞こえてきた。恐らくセルカだろう。

 

「あ…セルカ。キリトだ。もう上がるから。……あと、今夜時間あるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、話って?」

 

「…アリス。君のお姉さんのこと。ユージオから聞いたんだ」

 

「…そっか。ユージオ覚えてたんだ…今でもアリス姉様のことがなにより大切なのね…」

 

「セルカは……ユージオが好きなんだ?」

 

俺が言うとセルカは顔を真っ赤にして言った。

 

「なっ、そんなんじゃないわよ!………なんだか、堪らないの。みんな私と姉様を比べる。ーーユージオはそんな人じゃないけど私を避けてる。姉様を思い出すからって。…そんなの私のせいじゃない!私は、姉様の顔すら憶えていないのに……」

 

小さな背中が震える。俺はどうすればいいのかわからなかった。しばらく沈黙が続く。

 

「…ごめんなさい。なんだか、少しだけ楽になったわ。」

 

「……君はセルカだ。アリスじゃない。自分は自分だから、自分にできることをすればそれでいいんだ」

 

「……そうね。あたし…自分からも、姉様からも逃げてたのかもしれない………もうこんな時間。あたし戻るね。明日は安息日だけどお祈りはあるからちゃんと起きるのよ」

 

「が、頑張ってみる。」

 

一瞬だけ微笑んで、セルカは部屋を出ていった。

俺は瞼を閉じてアリスの姿を想像しながら眠りについた。

 




倒しても構わんのだろうとか言って天命10分の1くらいしか削れなかったエミヤさん。彼は頑張ったんだ…許してやってくれ。

次回は来週のどこかで


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果てへ

感想、お気に入りありがとうございます

細かい描写って難しいですね。大まかな流れだけ決まっているので、早く展開を進めようとしてあまり描写が出来ていません。

感想、誤字報告、アドバイス等お待ちしております

ではどうぞ


からーん。

 

鐘が鳴ると同時に目を醒ました俺は、やればできるものだ、と思いながらベッドから降り、窓を開け放つと、大きな伸びをして朝の冷たい空気を胸一杯に吸い込んだ。

 

着替えてから井戸に向かう途中、朝食の準備をせっせとしているエミヤと遭遇した。

 

「おはよう、キリト。時間通り起きれたようでなによりだ」

 

「おはよ。大変そうだな、子どもたちもたくさんいるから量も多いし、他の家事もやってるんだろ?」

 

「いや、そうでもないさ。私の周りには大食いが多くてな、この程度では満足してくれなかったよ……キリトは洗濯か?」

 

俺の抱える麻の服を見つめてエミヤが訊く

 

「ああ、ちょくちょく洗わないと天命の減りが早いらしいからな」

 

「そうか…ところでキリト、セルカを知らないか?シスターが突然姿を消した、と不安げに言っていてな。彼女のことだからすぐに戻ってくると思うが」

 

「セルカが……?」

 

 

 

 

 

 

 

胸騒ぎが収まらないまま、礼拝を済ませて朝食を食べた。広場へ向かい、少し経つと広場に入ってくる亜麻色の髪を見つけ駆け寄った。

 

「やあ、おはようキリト」

 

「おはようユージオ」

 

「今日は休みだから、キリトとエミヤに村を案内しようと思って。あれ?エミヤは?」

 

「あいつは朝食の片付けをしてから、近所のルーナおばさんに手伝って欲しい事があるとか言われて連れてかれたよ」

 

「あー…あの人押しが強いからね…それにエミヤも頼まれたら断らないだろうし」

 

と、苦笑いのユージオ。確かにあの威圧感と勢いは値切りをする大阪のおばちゃんに並ぶものがあったな…

 

「それより…朝からセルカがいなくなったんだ。探すの手伝ってくれないか?」

 

「ええ?セルカが?」

 

ユージオは心配そうに眉を寄せる

 

「ああ。こんなこと初めてらしい。ユージオは、セルカの行きそうな場所に心当たりはないか?俺は昨日、セルカとアリスの話をしたから、もしかしたらーー」

 

そこまで言って俺は今更ながら、胸騒ぎの正体に気づいた。

 

「ーー果ての山脈だ!セルカはアリスの話を聞いて、そこに向かったんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇキリト……もしかしたらだけど、まだエミヤのこと信頼してないよね?」

 

半ば駆け足で山脈へと向かいながら、ふいにユージオが訊いてきた。

 

「…ああ。まだあいつが信頼できるのか分からないからな。会ってからまだ一日だ」

 

「そんなこといったら、僕達も出会ってから間もないでしょ。そんなことないと思うよ?たった一日で村の人からも頼りにされてるし、僕には悪人というよりはむしろ正義の味方に見えるかなぁ。何か、他に信頼できない理由があるんでしょ?」

 

ユージオは、こういうところで妙に勘が鋭い。溜息をつき、俺は言う

 

 

「ーーあいつは、多分、人を殺したことがある」

 

 

それが彼が望んだものなのかは分からない。だが、あの目は、かつて人を殺した、と語ったあの少女が、昔していた目にどこか似ている。彼を見たときなんとなく、彼は大切な人を切り捨てることが出来る人間なのだ、と思ってしまった。もし、その予感が本物だったら……

俺はユージオたちを少しでも殺すかもしれない存在に、たとえ村の人々があいつを受け入れても、警戒心なく接することができない。俺はもう、仲間を失いたくないんだーー

 

 

「そんな…エミヤはそんな人じゃないよ。そんなこと、できるわけがない」

 

ーー?ユージオの言い方に少し疑問を覚えた。もしかしたら、この世界の人々にとっての禁忌目録は強制力のあるルールなのだろうか、だとしたらそれを破れたアリスは一体ーー?

 

「…俺も信じたいさ。だからこそ、俺はあいつの口から本当のことを訊くまではエミヤを信じない」

 

「……はぁ、全く君ってやつは……分かった。セルカを見つけたあと、エミヤに本当のことを訊こう。いいね?」

 

「ああ」

 

道中の踏まれた跡から子どもが果ての山脈に向かったことはわかっている。セルカが万が一にも闇の国に入ってしまわぬように早く連れ戻さなくては。そうして俺たちは果ての山脈へと足を進めていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたよ、この洞窟だ」

 

俺達はようやく大きな洞窟の前に到着した。洞窟はかなりの高さと幅があり、勢いよく流れる小川の左側に、二人が並んで歩けそうな岩棚が張り出していた。奥のほうは真っ暗闇で、時折凍りつきそうに冷たい風が吹き出してくる。

 

「おい、ユージオ…灯りはどうするんだ?」

 

と、俺が訊くとユージオはいつの間にか拾っていた一本の草穂を掲げた。俺が唖然とするなかでユージオが口を開く

 

「システム・コール!リット・スモール・ロッド!」

 

シ、システムコール!?、と驚いたのも束の間。草穂の先端に青白い光が灯った。神聖術だよ、練習したんだ、とユージオは微笑む。言葉の意味は知らないらしい。俺は改めて此処が仮想世界なのだと実感する。

 

「…なあ、俺にも使えるか?」

 

「素質のある人なら一日でも使えるし、出来ない人は一生掛かっても出来ないって。さすがに今すぐには無理じゃないかな」

 

興味本位で訊いてみたが、魔法ーーいや神聖術を使うのはすぐには無理そうだ。ここでは一先ず諦め、洞窟の中へと足を進める。途中で凍った水溜まりに踏み割られたようなヒビが走っていた。

 

「…間違いないみたいだな。全く…無鉄砲というか恐れ知らずというかなんというか」

 

と、俺がぼやくとユージオは不思議そうな表情をして、

 

「別に、此処にはもう白竜もいないし、それどころかネズミやコウモリすらいないよ?」

 

どうやら変なエネミーとかは出てこないらしい。そうか、と力を抜こうとしたーーその時だった。

妙な音と樹脂の焼けるような匂いと僅かに混ざる生臭い獣臭、そしてーー

 

きゃあああ!!!…と女の子の悲鳴が聴こえてきた。

 

「まずい!」

 

「セルカ……!」

 

俺とユージオは同時に叫ぶと、凍りついた岩に足を取られつつも全力で走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー少し前、ルーリッドの村

 

「助かったぜ!兄ちゃん」

 

「いやなに、大したことはしていないさ。また何かあったら遠慮なく言ってくれ」

 

エミヤはルーナに連行され、荷台を動かすのを手伝った後、壊れた鍬の修理、老人の荷物運び、洗濯の手伝い、料亭の手伝いetc.…とにかく目に入った困っている人々を助けて村中を奔走していた。勿論、シスターの頼みーーセルカの捜索も兼ねてだ。しかし村中を探しても、セルカは見つからなかった。

 

 

ーーこの村を見たときには随分と驚いたものだ。喧嘩こそするが、決して力で他者を踏み躙るようなことはしない。正に私がかつて渇望していた平和な世界そのものだと言える。人間は、こんなにも善良な生物だったのだろうか、等と考えていると、出会った時のキリトの言葉が思い浮かんだ。

 

ーー『ログアウト』。確か、ゲーム等で使う言葉のはずだ。私はゲームなど、昔友人に誘われて一度だけやった記憶しかないが。さらにあのステイシアの窓。となると、此処は電脳空間か…?

 

思い浮かぶのは月の聖杯戦争。しかしあそこは精巧に作られてこそいたが、どこか無機質で機械的な空間だった。この世界にあるのは、本物としか思えない草木と街並み。人々も、とてもAIだとは……ーーふと、何か思い浮かびそうだったが、その思考はシスターの声に遮られた。

 

「こんにちは、エミヤさん。……セルカは…?」

 

「……いや、村中を探してもいなかったよ」

 

首を振ると、シスターは悲しげな表情をした。

 

「……そうだ、キリトさんとユージオに弁当を届けてくれないかしら、彼らもさっきから見かけなくて…果ての山脈の方向に少年二人が走っていったという噂を聞いたのだけれど」

 

……何か、嫌な予感がする。

 

「了解した。私が責任を持って届けよう」

 

と、シスターから弁当を受けとり、私は果ての山脈へと向かった




Q、なんでキリトはエミヤを信じてないの?

A、原作の今後を知っている方はご存知だと思いますが、キリト君は色々精神的に限界が見え始めています。多くの死を見てきて、もうこれ以上誰も死なせたくないので、得体の知れないエミヤさんに警戒しているのです。


Q、エミヤに話を訊く機会けっこうあったやん?

A、現実世界の話もすることになるのでアンダーワールド人がいるときは無理。朝の会話では二人とも用事があって忙しい&セルカのことで頭がいっぱいでチャンスを逃す。あとキリト君はコミュ障

これから少しずつ補足もしていきます


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正義の味方

今回は少し短め。

世界史が好きなのですが、意外とFate好き内でなかなか話が合う人がいないので『Fateで分かる!世界史』とか漫画で出版してくれるって信じてます。ギリシャ神話にケルト神話、北欧神話にギルガメッシュ叙事詩、アーサー王物語、アレクサンドロスの遠征に、ローマ帝国の繁栄etc.…ネタは尽きません。


感想、誤字報告、アドバイス等お待ちしております

ではどうぞ


俺達は全力で走り続けた。呼吸は乱れ、空気を求め喘ぐ度に激しく胸が痛む。しかし、速度を落とす訳にはいかない。セルカを犠牲になど出来ないのだ。

 

不意に、行く手の岩壁にオレンジ色の光が揺れた。どうやら奥はドームのようだ。俺達は意を決して同時に飛び込んだ。

 

すべてを視ろ、そして最適な行動を起こせーー可能な限り早く。

 

ほぼ真円のドーム。床は氷に覆われ、端の方にはセルカが倒れている。中央部分だけ大きく割れていて、その周りに三十を超える『異形』が集まっていた。

 

身長は俺の胸ほどまでしかない。しかし、その体躯は幅があり、異様に長い腕と鋭い爪は逞しい。革の鎧と、鋳物の蛮刀を身につけ、肌はくすんだ灰緑色

ーーRPGではお馴染みの低級モンスター《ゴブリン》そのものだった。

 

なんだ、と俺はほんの少し安堵した。ゴブリンのステータスというのは、大抵かなり低く設定してあるのだ。

 

しかし、こちらに気づいた一匹が視線を向けた瞬間。俺は骨の髄から凍りついた。その異様に大きな黄色い目玉には、僅かな不審と驚き、そして残忍な悦びと飢えーー悪意があった。

 

こいつらも只のプログラムじゃない!?

俺はここまでに、この世界の住人の正体に行き当たっていた。彼らは恐らく何らかの人造メディアに保存された、《人工フラクトライト》なのだ。恐らく、現実世界の人間のデータを基にフラクトライトを生成し、赤子から成長させる。それ以外にこの状況を説明出来ない。

つまり、ラースの目的はーー真なるAI、人工の知性を創ることだ。人間を鋳型にすることで。

 

しかし、このゴブリンは人間のそれとは思えない。ならばこの本物としか思えない強烈な悪意は一体ーー?

等と考えていると、先程のゴブリンが、笑い声を上げ、喋った。

 

「おいおい、見ろよ!まーた白イウムの餓鬼が二匹も転がりこんできたぜぇ!」

 

途端に、ゴブリン達の喚き声が溢れ、こちらに餓えた視線をぶつけてくる。

 

「どうする、こいつら捕まえるかぁ?」

 

「男のイウムなんざ、売れねぇよ。そいつらは殺して肉にしろ」

 

殺す。

その言葉に俺は少し戸惑う。もし、この世界で俺が死んだらどうなるのだろうか。セルカや、ユージオは一体どうなるのだろうか。とにかく、やるべきことはひとつ。

 

「ユージオ、セルカを助けるぞ」

 

凍りついていたユージオの体がぴくりと動き、うん、という答えが返ってきた。やはり芯は相当強いらしい。

 

「まずは前の四匹を突破。俺は左、ユージオは右のかがり火を池に倒せ。そしたら床の剣を拾って俺のうしろを守ってくれ。俺がでかい一匹を片付ける。……行くぞ一、二、三!」

 

俺達は雄叫びを上げながら走りだす。その様子に驚いたゴブリンは眼を丸くして立ち止まっている。そこに全力のタックルをお見舞いする。ゴブリン達を倒したらすぐ俺とユージオはかがり火に飛びつき、水面へ蹴り飛ばした。

 

暗闇に包まれるなか、ほのかな青白い光がみえる。ユージオの神聖術による光だ。どうやらゴブリンはその光が苦手らしい。顔を覆ったり、うずくまったりしている。俺達は、今がチャンスだ、と剣を拾って駆け出す。

 

「ぐるらぁっ!この《蜥蜴殺しのウガチ》樣と戦う気かぁ!」

 

「違う!戦うんじゃないーー勝つんだ!」

 

そう自分に言い聞かせるように叫び、距離を縮める。剣を左肩目掛けて袈裟懸けに斬り降ろすが、敵の反応も予想以上に早く、肩当てを砕くに止まった。横殴りに振り回される蛮刀をぎりぎり掻い潜る。

がら空きの脇腹へ水平斬りを放つが、やはり防具を弾いただけで、手傷を負わせられない。

単発攻撃では埒があかない。そう判断した俺は、SAO時代に何度も練習し覚えた《ソードスキル》の型を再現しようとする。その刹那、剣が微かに赤い光を放ち、体が自然に動いた。その連撃は敵の身体に手傷を負わせた。

 

片手剣三連撃技《シャープネイル》は、正真正銘の本物だった。《ライトエフェクト》と《システムアシスト》が稼働したのだ。つまり、ソードスキルは存在する。以前《ホリゾンタル》を使った時には成功しなかったのに何故、と考えを巡らせていた俺は失念していた。

此処が只のVRMMOでないと。

 

ゴブリンはポリゴンのモンスターと違い、攻撃を受けても一瞬も動きを止めようとしなかった。そして振り回された刀を俺は回避できず、吹き飛ばされた。

 

「キリト!!」

 

ユージオの叫びが聞こえ、かすり傷だと返そうとするも、左肩から全身の神経が焼ききれるほどの痛みが弾け、涙が溢れた。

 

「っ~~!!!??」

 

こんな、仮想世界が、あって、たまるか……!

俺は、現実世界の痛みにはまったく慣れていないのだ。VRMMOではヒットポイントの減少でしかなかったのだから。俺は、魂に直接アクセスするという言葉の意味をようやく知った。

 

「…………取り敢えず、お前らを八裂きにして食い散らかしてやる……!」

 

痛みに悶絶している間にウガチが俺の目の前に来ていた。

 

俺は、終わるのか。降りおろされる刀を眺めながら、しかし、その刃は俺の元へは届かなかった。

 

「キリトーーーーッ!!」

 

気づいた時には目の前で真っ赤な血を流して倒れているのは、亜麻色の髪の少年。

 

「ユージオ……っ」

 

俺よりも何倍もひどい怪我を負ったユージオを、必死に助けようとにじり寄るも、二人の間に先程のゴブリンが立つ。

 

「邪魔が入ったが、まぁいい。お前もすぐにあいつと同じ所に連れて行ってやる」

 

と、無造作に刀が降り降ろされる。

 

 

 

ーー真っ赤な夕焼けの下、道を歩いている。

俺の手を握るのは、亜麻色の髪の少年と金髪のお下げの少女。ーーなぁ、■■■も来いよ!と、俺が誘うのは後ろを見守るように歩く一人の青年。彼は少し驚いた顔をすると、微笑んで、そっと少女の手を握る。

 

そうか……これは……

 

走馬灯の様に駆け抜けていった光景。俺はそれを知っている。守れなかったあの日々。

 

 

 

 

ーーふざけるな。俺達は、こんなところで意味もなく、お前みたいなヤツに、殺されてやるものかーー!

 

 

 

 

振り降ろされる刀。しかし、その刃はまたしてもキリトに届くことはなく。

 

 

「ーー投影、開始」

 

 

一人の男の手で阻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全く。君たちも無茶をする…」

 

現れた男ーーエミヤの両手には中華風の夫婦剣が握られ、それでウガチの刀を受け止めている。それが放つオーラは、神器に似たものを感じる。

 

「なんだぁ?てめぇ、誰だ。邪魔すんな。俺はこれからこいつらをぶっ殺すんだからよぉ!!」

 

「…出来れば手を引いて欲しいものだ。折角のシスターの弁当が無駄になってしまう。

ーーキリト、動けるな。私が敵を引き付ける。その間にセルカを助けて、ユージオを救え」

 

セルカとユージオを救うためなら、この程度の痛みなど耐えられる。エミヤの言葉に俺は頷く。

 

「もういい。こいつごと、殺してやる!行くぞてめぇら!」

 

ウガチの掛け声に合わせて、ゴブリンの大軍がエミヤに向かってくる

 

「ああ、誰だ、という質問だがーー」

 

 

「ーーただの、無銘の英霊さ」

 

 

 

その背中は頼もしく、まるで『正義の味方』のようで

ーーーーそれでいて、どこか悲しかった。

 

 

 

 




文才が欲しいです

次回は多分また週末に


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セルカの決意

SAOの三期、楽しみです。まあ個人的には原作の新章の方が気になりますが。

型月は、exterra linkもいいけど早く月姫リメイクを……あと何年待てばいいんですか

取り敢えずアリシゼーション編までは書ききる予定です。

ではどうぞ


放たれる攻撃は防ぐか躱す。

 

迫って来る敵は殺すか避ける。

 

あとはただ、ひたすらに敵将へと進んでいく

 

 

 

 前方から敵が十体、さらにその後方に六体、最も奥に敵将を確認。弓矢がやや後方から3発飛来。更に背中側に剣持ちが二体、弓持ちが四体、左右からの敵を八体確認。

 

 

 

 脅威確認。

 

 行動選択。

 

 解析せよ、思考せよ。

 

 

迫る二発の矢を躱し、一発を落とす。前方から迫る敵を回避。その勢いを殺すことなく更に二体を斬る。左右からの剣撃をそれぞれ受け止め、弾き、出来た隙を突く。四方からの同時攻撃は身体強化で回避。

魔術回路が痛むが気にせず、迫る敵を斬っていく。

 

十体程斬ったところで他の敵に動揺が見え始める。その隙を突いて更に四体を倒す。ーー敵将まで、あと10メートル。

 

片をつけるか。と、一気に距離を縮める。振り下ろした剣は、大きな蛮刀に防がれる。そこから身を捻る様に繰り出した回し蹴りは、敵将の肩に当たり防具を破壊した。

 

「ごるらぁっ!!」

 

と、繰り出される敵の横凪ぎを素早く回避して、距離をとる。追撃しようと迫る敵に、両儀の夫婦剣ーー干将・莫耶を投擲する。まさか自ら武器を捨てるような行為をするとは思っていなかったのか、敵は驚いた顔をしたが、その剣を持ち前の俊敏さで避け、

 

「馬鹿め!これで終わりだぁ!!」

 

と、躍りかかってくる。ーーしかし、避けた筈の干将・莫耶が再び敵将を襲い、背中に大きな傷をつけた。

 

「ーーなっ!?」

 

干将・莫耶は互いに引きつけ合う性質を持っているーーーそして、エミヤはこの隙を逃さない。再び千将・莫耶を投影し、がら空きの首へと勢い良く剣を振るーー

 

 

 

脅威撃破。

 

戦闘終了。

 

溢れ出す血は人間のそれ。エミヤはその事に少し困惑するも、その首を持って周りのゴブリン達に告げる。

 

「ーーこの通り、貴様らの将は消えた。これ以上戦う理由は無いはずだ。……まだ戦うというなら、相手になるが」

 

『それ』を視認した瞬間、ゴブリン達は恐怖で顔を歪ませ、次々に逃げ出して行った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユージオ!!」

 

エミヤがゴブリン達を引きつけている間に、俺はユージオの方へ勢い良く駆け出した。

 

青ざめた瞼はぴくりとも動こうとしない。ほんの少し開かれた唇に弱々しい息遣いをかんじるが、今にも止まってしまいそうだった。

 

俺は右手でユージオの肩を叩き、天命をみる。残りの天命は244。恐らくあと八分程しか、時間は残されていない。

 

「……待ってろ、すぐ助けるから」

 

考えろ。

思考を止めるな。

最適解を導け。

 

今度は、ドームの隅で倒れているセルカの元へ全力で走る。幸い、大きな怪我はしていないようだ。

 

「セルカ!!…目を醒ましてくれ!!」

 

すると、ライトブラウンの瞳が見開かれ、喉の奥から小さな悲鳴が漏れるも、俺を認識したようでひどく驚いた顔をしていた。

 

「キリト……なの?」

 

「ああ、助けにきたよ。セルカ」

 

その瞬間、セルカは顔をくしゃっと歪ませ、俺に抱きつく。俺はセルカを両腕で抱え走り出した。

 

「泣くのはまた後で!それよりユージオが…!」

 

すぐにセルカにユージオを診てもらう。セルカはユージオの深い傷に触れた途端、その手を引っ込めてかぶりを振った。

 

「……無理…こんな傷…あたしの神聖術じゃ…」

 

あたしのせいで、、と泣くセルカ。

 

「無理でもいい、やってみるんだ!君は次のシスターなんだろう!?アリスの後を継いだんだろ!?」

 

セルカの肩がぴくりと震え、しかし力なく落ちる

 

「……ごめんなさい…私は姉様のようには……ごめん…ごめんね、ユージオ…」

 

どうすればいい、と焦っていると

 

 

 

「ーー君にしか掛けられない言葉があるんじゃないか?セルカが悩みを打ち明けた、君だからこその言葉が」

 

ーーああ、そうだな

 

俺は一つ深呼吸をしてセルカへ叫ぶ。

 

「馬鹿野郎っ!!ユージオは、君を、助けに来たんだ!俺だってそうだ!()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

セルカの肩が大きく揺れる。

 

一瞬の静寂

 

「ーー高位神聖術を試すわ。キリト、エミヤ、協力して」

 

その瞳に、もう迷いはなかった。

 

俺はセルカに言われた通り、ユージオの右手を、エミヤは左手をしっかりと掴む。そしてもう一つの手でセルカの手を掴む。

 

「システム・コール!ーートランスファー・ヒューマンユニット・デュラビリティ、ライト・トゥ・レフト!」

 

セルカを中心に、大きな光の柱ができ、次の瞬間異様な感覚に包まれた。

 

天命を人から人へ移動させているのだろう。ユージオの傷が徐々に良くなる一方、俺の全身を強烈な寒気が襲う。エミヤやセルカも、顔色がどんどん悪くなっていく。

 

「二人分でも……まだ、足りないなんて…」

 

「キリト…もう、止めておけ。後は、私がーー」

 

息も絶え絶えにエミヤが言ってくる。が、彼も無茶をしているのだろう。

 

「…馬鹿……俺が、やめたら、お前がーー」

 

まずいな、声も出せなくなってきた。それでも、友のためなら俺はーー

 

 

 

 

ふと、誰かの手を感じた。

 

 

 

『…待ってるから、いつまでも……セントラル・カセドラルのてっぺんで、あなたたちを……』

 

 

黄金の光が俺達を包み、圧倒的なエネルギーの奔流がユージオを癒していったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徐々に感覚が失われてゆく。

 

英霊とはいえ、受肉し、まだ未熟な魔術回路で投影と強化を繰り返したのだ。天命の消耗も激しいのだろうな、と自嘲気味に思う。

ここで消えれば、また座へ戻り、守護者として存在し続けるのだろう。そう思うと少し名残惜しいが、懸命に生きようとする彼等を救えるのなら仕方ない。

 

キリトとユージオを救うため、残り全ての天命を注ぐーーーそれは、誰かの手によって阻まれた

 

 

ーー君は……?

 

 

 

その輝きは、あの日の『憧憬』のように眩しく

 

触れたその手は、どこか懐かしかった

 




忙しいのと、いろいろで次回は未定。なるべく早めの更新目指します。


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教会にて

どうでもよいですが、オジマンとキャスギルの誕生日ボイスの程よいツンデレ感が好きです。



「…なぁ、エミヤ。出会ったときに俺が、『ログアウト』って言ったこと、覚えてるか?」

 

「あぁ。私もそのことに関して、少し気になっていてな…」

 

俺達はあの後、意識こそないが、なんとか一命を取りとめたユージオを抱え、今にも倒れそうな身体を引摺りながらどのくらい経ったのだろうか、ただひたすらに歩み続けてルーリッドの村へと帰ってきた。セルカは教会に戻った途端、倒れるように眠りについた。一体なにが、とボロボロの俺達を見て心配してくれるシスターに事情を説明した。シスターは暫くの間茫然としていたが、やがて『…セルカを助けてくださり、ありがとうございます。この子、あの子のことになるといつもつらそうな顔をしていたから…。とはいえ、起きたら説教をしなくては。お二人とユージオも、早くお休みになって』と言って優しくセルカの頭を撫でていた。そして俺の部屋でユージオをベッドに寝かせ、腰を下ろす。それだけで一気に疲れが溢れ出したが、俺にはまだしないといけない話があるのだ、と自分を鼓舞し、立ち去ろうとするエミヤを引き止めて今に至る。

 

今、ユージオは寝ている。話をするなら今しかない、と俺は前々から思っていたことを彼に確かめる。

 

「――現実世界の人間、だろアンタ」

 

「…ふむ。何をもって現実と呼ぶのかにもよるが、確かに私はこの世界とは全く違う世界から来たのだろう」

 

やはり、彼は現実世界からやって来たプレイヤーか。しかし、今の言い回しには少し違和感を感じた

 

「だろう…?」

 

「この世界に来た経緯が思い出せない。しかも受肉しているときた」

 

「受肉…?」

 

「あぁいや、こちらの話だ。あまり気にするな」

 

「……やっぱアンタもわからないか。取り敢えず、俺よりもこの世界のことを知らなさそうだから同じ現実世界の人間として説明しとくと、ここは『アンダーワールド』。人工フラクトライト―― AIの世界だ」

 

「……やはり、ここは電脳空間だったか。となると月の聖杯戦争か…?しかし、ムーンセルの仕業とは思えない…それに他のサーヴァントの気配は一向に…」

 

「?」

 

エミヤは俺の話を聞いてなにやら一人でブツブツと考え事をし始めた。なにか、勘違いをされている気がしなくもないが、そのまま説明を続ける

 

「えっと、説明を続けると俺達は、この世界にログインしたは良いものの出られなくなってる。だから俺は、ラースがこんなことをしてる理由と脱出方法を見つけるために央都へ行こうと思ってる」

 

「……状況は概ね理解した。この世界から、元の世界に戻る鍵が央都にあるということだな。ところでラースとは一体何かね」

 

「なっ!?……まさかラースも知らないなんて。ラースの奴ら、ちゃんと説明してないんじゃ…」

 

昨今、インフォームド・コンセントは常識だと言うのに…いや、もしかしたらエミヤは説明されたときの記憶も何らかの手違いで思い出せなくなっているのか?それならこれまでのこともうなずける。

 

「ラースは簡単に言うと、この世界を運営してる企業のことだ」

 

「ほう。ムーンセルでなく一企業か。となると、目的は営利ではないのか?これほどリアルな世界だ。公表してしまえば莫大な利益を得られるからな」

 

「いや、そうじゃない。ラースの目的は恐らく真の人工知性を生み出すことだ…何故、そんなことをするのか。俺やエミヤをこの世界に送った本当の理由は何なのか。それを俺は確かめたいんだ。エミヤだって帰りたいだろ?」

 

「確かに、ラースとやらが私をこの世界に送り込んだというのなら、その理由は気になるが…」

 

「…アンタ、もしかして戻りたくないのか…?」

 

「…そうだな。私のいた場所は辛いことばかりだったからな。この平和な世界が、少し名残惜しいのかもしれない」

 

――そうだ。彼はいつも、こんな悲しい瞳をしているのだ。俺は以前から募っていた思いを打ち明けるように、彼に尋ねた

 

「―――なあ、人を、殺したことってあるか…?」

 

彼は少し息を飲み、暫くの沈黙の後に語りだした

 

「…あぁ、殺したさ」

 

予想はしていた筈なのに、その言葉が俺に重くのし掛かる。わかってはいたのだ。三十を越えるゴブリン達の攻撃をたった一人で受け、あのウガチを殺した。その動きは熟練しており、彼が如何に戦場慣れしているかが伺える。軍人かなにかだったのだろう。人の死など当たり前の世界で生きてきたのかもしれない。…それでも俺は心のどこかで、否定して欲しかった。俺が黙っていると、彼はそのまま話を続ける

 

「――ただ人々を、救いたかったんだ。そして、己の理想を貫くために多くの人々を殺して。殺した人間の数千倍の命を救ったよ。――けど、その先には何もなかった。」

 

――その人生は、なんて寂しく、歪んでいるのだろう。

 

「何度も後悔し、自分を責め続けた。結局私はただの愚か者だった、と」

 

「それは、」

 

――違う、と。そう口にしようとするも、何も言えない。当たり前だ。俺だってあの日あのとき、殺した奴らの顔が忘れられない。彼等を思い出す度に、自分を責め続けている。そんな奴が、彼の言葉を否定できるはずがないのだ。

 

「――けど、『答え』は得た。だから()は、自分が殺した人々を背負いながら……それでも、頑張っていくんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ、人が寝てたときになんて話をしてるのさ。まぁいいけどさ?」

 

あの後、まだ仕事があるのでな、と立ち去るエミヤを見送った俺はずっと考えに耽っていたが、突然ベッドから聞こえた声に一気に現実へ引き戻された。

 

「うぉっ!?ゆゆゆユージオ!?怪我は!?大丈夫か?」

 

「このとおり。お陰様で元気だよ。むしろ動きたいくらい」

 

そう言ってベッドから勢いよく起き上がるユージオ

 

「そうか…よかった。…もしかして、話、聞いてた?」

 

「人が寝てるのにあんな話されたら、そりゃ起きるさ」

 

しまった。いくらユージオといえど、迂闊に現実世界のことを知られては何が起こるか分かったものではない。彼等が自分自身は人工物なのだと知ったらどうなるのか。最悪、存在が消滅しまうかもしれないのだ。

 

「ユージオ…お前どこから起きてたんだ?」

 

溢れる焦燥感を悟られまいとしながら、ユージオに尋ねる

 

「んー。キリトが、殺したことあるか?とか物騒なことを言い出してからかな」

 

「そ、そうか」

 

よかった。どうやら現実世界のことまでは聞いていなかったようだ。俺は安心して力が抜けてしまい、そのまま床に崩れ落ちてしまった。

 

「ちょっ!?…危ないなぁ。疲れてるんだろ?もう休みなって」

 

そう言ってユージオは自分が寝ていたベッドに俺を寝かせた。

 

「あぁ。……っと、ユージオ。お前を助けたのは、セルカだ。礼はちゃんと言っとけよ?」

 

「分かった。おやすみ、キリト」

 

「おやすみ、ユージオ」

 

ユージオが部屋から出ていった次の瞬間に、俺は深い眠りについた。

 

 

―――こうして俺の長い一日は幕を閉じた。

 




Q,エミヤさんが無銘っぽかったり、snアーチャーっぽかったりするのは何故?

A,都合上本来は無銘なのですが、作者の個人的希望でsn要素を入れときました。snアーチャー格好いいからね。実質FGO寄り。まぁ、そこらへんは気にしないでください。


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アインクラッド流


女難の相 A+
自身に[女性]からのターゲット集中状態を付与(1ターン)&回避状態を付与(1ターン)&防御力をアップ(3ターン)&NP獲得量を大アップ(1ターン)

女達による数々の修羅場を潜り抜けてきた者だけが得られるスキル。一部の男性からは尊敬(哀れみ)の眼差しが送られる。



 

 

暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。怖い。暗い。暗い。怖い。暗い。怖い。怖い。暗い。怖い。怖い。怖い。怖い。暗い。暗い。暗い。暗い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。暗い。暗い。暗い。怖い。怖い。怖い。怖い。痛い。痛い。暗い。暗い。痛い。痛い。痛い。暗い。暗い。痛い。痛い。暗い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。辛い。痛い。辛い。辛い。辛い。痛い。辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。

 

 

 

 

 

 

 

…寂しい。

 

どこまでも続く、この暗闇が。私は恐ろしくて仕方がない。

 

私のこころは何処へ行ったのだろう。

 

私のこころに、がらんと開いた空っぽのあなが、痛い。

 

あれからどれほど経ったのか。

 

1ヶ月? 2ヶ月? 半年? 1年? 10年?…もしかしたら、1時間も経っていないかもしれない。

 

―――嗚呼、こんなにも、愛おしい

 

傍にいてくれるだけで、どれほど幸せだったか。

 

いつも私の髪を撫でてくれる、力強くて優しい手。

大丈夫だ、と暖かく包み込んでくれる声。

よく私を背負ってくれていた逞しい背中。

いつも作ってくれる優しさで溢れた料理。

不器用で、優しい。それでいて繊細な硝子のような心。

 

感じることのできるすべてが眩しかった。

 

――戻ってくる、と。そう私に告げた。

 

それなら、私はいつまでも待ち続けましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――暗闇のなかで、少女は一人、この闇を照らす光を求め続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…助けてよぅ、お兄ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とユージオとセルカは次の日の朝、シスターに呼び出されて村の広場を訪れた。そこに居たのは村の人々だった。みんな俺達の顔を見て、安堵していた。

 

話を聞くと、昨日は日が暮れても子供が3人帰ってこないと捜索隊を出そうか話し合い、出発する寸前までいったそうだ。そこに帰ってきた俺達から事情を聞いたシスターが止めに入ったらしい。

 

彼らの思いやりに感謝しようと、俺が声をあげようとしたとき、村の人々の中から一人の男性が出てきた。ルーリッド村の長でセルカとアリスの父、ガスフト村長だ。

 

……嫌な予感がする。慌ててシスターに助けを求めようとするも、シスターはその笑顔()で、『セルカを助けてくれたのは感謝するけど、あんな無茶したら叱られるべきだよね』という意思を伝えてきた。

 

なんでさ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、村長からの叱責を受けた俺達は事情を説明しろと迫られ、北の洞窟に野営していたゴブリンの集団のこととを話した。村長達は子供の戯言だ、と笑い飛ばしたが、

『では、これを見てもまだ戯言だと言えるかね?』

と、ウガチの生首をもってエミヤが現れた。持ってきてたのか…と少し驚いていると、エミヤは俺達の説明は正しいこと、自分とこの首が証明していることを語った。エミヤは村人からの信頼も厚い存在だ。そんな彼が正しいと言い、得体の知れない生首がある。それだけでも効果はてきめんで、彼等は子供の戯言だとは言えなくなった。

議題は村の防衛に移り、エミヤは彼らにずっとアドバイスをしていた。

 

俺達はそのまま開放され、セルカは教会、俺達はギガスシダーの元へと向かい、別れた。

 

 

 

 

 

 

打楽器のように軽やかに澄んだ音が、空高く拡散した。どうやらユージオも調子が良いらしい。竜骨の斧を軽々と使い、かなり真芯に当てている。それも当然だろう。今朝、自分の《窓》を開いたときにオブジェクト・コントロール権限、システム・コントロール権限、天命の最大値が大きく上昇していた。つまりレベルアップしていたのだ。

 

それとなくセルカにも確認したところ、神聖術が妙に上手くいく気がするらしい。セルカは戦闘はしていない。つまり、俺達4人がパーティー扱いされ、全員に経験値が入ったのだろう。

 

そこはまだわかるのだが、やはり気になるのは…

 

「…なあ、ユージオ。お前が倒れてたとき、誰か…女性の声とか姿とか感じなかったか?」

 

「?…セルカのこと?……うーん。言われてみれば、なにか暖かさを感じたような」

 

『セントラル・カセドラルで待ってる』そう言って俺達を救った誰か。そして、死を予感したときに走った走馬燈のような光景。渦巻く思案を一度中断し、作業に集中する。

 

「いや、なんでもない。次は俺の番だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、俺が竜骨の斧を振るっているとエミヤがやって来た。どうやら彼の的確なアドバイスでスムーズに議論は進んだようだった。

 

家事が出来て、戦闘能力も高く、お人好しで人々から信頼され、人助けが趣味、頭も切れるときた。…もはやただの人間には思えなくなってきた…どこの主人公だよ。

 

などと考えていると、エミヤは手伝いたいと申し出てきた。俺達の調子はさほど悪くないので断ろうかとも考えたが、折角手伝ってくれるのだ。人手は多くて損はないと判断し、手伝って貰うことにした。

 

「すまない。今日は色々と世話になって…」

 

「気にするな。シスターには今日くらい休めと言われていたが、何もしないではいられない性分でね。丁度手持無沙汰だったのだ」

 

「あはは、相変わらずだねエミヤは。それと、改めて――助けてくれて、ありがとう。あっもちろんキリトも」

 

「人をそんなついでみたいに言わないでくれ…」

 

「ごめんごめん。…でも、本当に感謝してるんだ。君達がいてくれなきゃ、僕もセルカも助からなかった」

 

「そういえば…セルカにはちゃんと伝えたのか?」

 

「もちろん。早朝に教会の近くで会ったときにね」

 

なるほど。だから今朝はセルカの機嫌が良かったのか。俺は今朝のセルカの言葉を思い出す

 

『私、自分らしく生きたい。姉様の代わりじゃない、私自身として。……だから、その……ありがと』

 

と、顔を赤らめて足早に去っていった。彼女が幸せに生きられるよう、俺も応援しないとな。ふと、横に目を移すと、エミヤが少しだけ驚いた顔をして突っ立っていた。

 

「エミヤ?さっきからずっと固まってどうした?」

 

「…ん?ああ、いや。『ありがとう』という言葉も、久方ぶりに聞いてな。―――この言葉を聞くのは、こんなにも嬉しいことだったのだな。」

 

「………」

 

彼の顔は驚くほど穏やかで、逆に少し悲しくなった。彼はたくさんの人々を殺し、たくさんの人々を救ったと語った。ならばせめてでも感謝されるべきだ。しかし彼は、ありがとうの言葉すら、ずっと聞いていなかったのだ。それでは、殺戮に意味を感じることができない。自分は目の前の人々を救ったのだ、と感じることすら許されない。そんな、機械的な殺戮の日々を送っていたのだと思うとむなしくなる。

 

「私のことはこれくらいにして、仕事にかかるぞ」

 

「お、おう」

 

そうだ。俺も仕事に集中しないと。俺は央都に向かわないといけないのだから。ふと、俺はあることを思い付いた

 

俺は、傍にあった一本の剣――青薔薇の剣を掲げる。

 

「キリト、持てるのかい、その剣が?」

 

「………なるほど、経験値か。」

 

唖然とするユージオと、少し驚くも納得した様子のエミヤ。

 

二人を前にして俺は片手剣単発ソードスキル、《ホリゾンタル》を繰り出す。技のイメージと融合したシステムアシストが動きを加速させ、斬撃に凄まじいスピードと精密な標準を与える。痛烈な衝撃音が轟き、ギガスシダーの巨木がびりびりと震えた。

 

ユージオは口をぽかんと開け、エミヤも驚いた顔をしていた。

 

「今のは……剣術かい?その、流派の名は……?」

 

俺は一瞬考え、こう言った

 

「アインクラッド流だ」

 

咄嗟に思い付いた名だが、それ以外にはあり得ないと感じた。俺の技は、あの浮遊城で身に付け、磨いたものだ。

 

数秒後、顔を上げたユージオの眼には毅然とした強い輝きがあった。

 

「――僕に、アインクラッド流剣術を教えてくれ。もしかしたら、何かの規則に違反するかもしれないけど……」

 

ユージオは少し顔を俯く。

 

彼は今、葛藤しているのだ。掟と、自分の意思とで。

彼は運命を自分の意思で切り拓こうとしている。

 

エミヤも理解しているようで、彼の葛藤を見つめる。

 

「……でも、僕は…強くなりたい。なくしたものを……取り戻すために。僕に、剣を、教えてくれ」

 

彼は、その一歩を踏み出したのだ。

 

 

「…そうだな。キリト、私にも教えてくれないか?」

 

ユージオはまだしも、さすがにエミヤからこの申し出が出てくるとは思ってもみなかった俺はとても驚いた。

 

「えっ!?…エミヤはもう、剣術として完成してないか?」

 

彼の剣技は洗練されていて、今更他のものが入ってくるのは烏滸がましく感じる。それに、悔しいが俺よりも強いのだ、エミヤは。

 

「確かに私は生涯をかけて、己の限界まで技を磨いたつもりだ。…まぁ言ってしまえば、君の剣に興味が湧いたのだよ」

 

「……解った。二人とも、付いてこれるな?」

 

――こうして三人での、修行が始まった。

 



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臆病者の闘い

感想、お気に入り登録ありがとうございます。

知らぬ間にUAが増えていてびっくりしました。

今回はいつもより、少し長めです。

ではどうぞ


早速、修行に取りかかろうとした俺達だが、何せ剣は青薔薇の剣一本しかない。取り敢えず、俺がこの剣で型を見せてから、二人に反復練習してもらうか……ん?剣?

 

「なあ、エミヤ」

 

「なにかね?」

 

俺が話しかけると、近くにあった、ギガスシダーほどではないが大きめな木の上からエミヤが飛び降りてきた。

 

「…そんなところで何してたんだ?」

 

「この周囲を眺めていたのだよ。本当に国境沿いだな、ここは。あそこに微かに見える建物のようなものが在るところが、央都かね?」

 

「え?ここからじゃ、かなり遠くて央都なんてどんなに背伸びをしても見えないはずなのに…」

 

と、不思議そうな顔をするユージオ。…もしかして、視力も異常に良いのかこいつ…

 

「……この距離なら、もう少し鮮明に見えても良いはずだが…これも受肉した影響か?」

 

「どうした?」

 

「いや、なんでもない。ところで、こんな話をするために呼んだ訳ではあるまい」

 

おっと、本題を忘れるところだった。改めて俺はエミヤに尋ねる。

 

「ああ、そうだった。…俺達を助けに来たとき、エミヤ何か中華っぽい双剣持ってただろ?もしかして、あれって神器じゃないか?」

 

そう言うとエミヤは、『投影、開始』と呟く。するとまるで手品のように俺のいう双剣が現れた。

 

「これのことか。」

 

「ちょっ!?待て待て!!今何したんだ?」

 

俺もユージオもこの奇妙な光景に目を丸くしていた。

 

「ああ、これは……この世界でいう、神聖術のようなものだ。…恐らく仕組みは違うがね」

 

「な、なぁユージオ…」

 

「こんな神聖術、聞いたこともないよ。多分、セルカも知らないと思う。それにこんなに短い詠唱で、こんなことができるなんて……なぁ、エミヤ。君ってもしかして天職はものすごい神聖術師なんじゃないか?」

 

「いや、まさか。私にはそんな才能はない。精々三流がいいところだ」

 

どうやら、ただの神聖術でもなさそうだ。俺もALOで多くの魔法を見てきたが、何もないところから武器が出てくる魔法など、見たこともない。リズが聞いたら卒倒しそうだな……あえていうなら、召喚魔法や転移魔法といったところだが…それには確か、かなり長い詠唱が必要だったはずだ。それにどうにもしっくり来ない。それよりも、一番気になるのは―――

 

「まぁ、私の場合少々特殊ではあるが……説明すると長いのでな。詳しい話はまた今度にするとしよう」

 

「ちょっと、エミヤ」

 

俺はエミヤに近づき、小声で話す。

 

(お前、何で魔法使えるの!?現実世界から来てるんだよな!?)

 

(いや、これも話すと長いからまた今度…取り敢えず、この魔術…君の言う魔法は私固有のものだ。これだけ伝えておく。)

 

エミヤ固有の魔法?つまり、エミヤはALOみたいな魔法の使えるVRMMOから、コンバートしてきたのか?いや、ここは恐らくSAOが基になっている。もしかして、エミヤはSAOサバイバーで、オリジナルスキルとして魔法が使えたのか?流石に、現実世界で実は魔法があって魔法使いでした、なんてことはないだろう。いくらなんでも現実味が無さすぎる。

 

俺は先程よりもさらに混乱し、頭を抱える。

 

「しかし…今回キリトが教えるのは片手剣の技だろう?この剣は使わないな。」

 

そう言うと今度はその双剣が一瞬にして消えてしまった。そしていつの間にかエミヤの手に握られていたのは二本の片手剣だった。その片方を俺に渡してくる。

 

「無銘の剣だが、どちらもなかなかの業物だ。使用難度は青薔薇の剣より少し低いだろうが、練習には適しているだろう」

 

その言葉通り、青薔薇の剣や先程のエミヤの双剣には少し劣るが、十分に良くできている剣だった。

こんなものまですぐに出せるとは…

 

俺の頭はすでにパンク寸前だった

 

 

 

―――とにかく、なんやかんやあってようやく俺達は修行を開始したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲高い音が空へと響き、森全体を揺らしてゆく。

 

「せああっ!」

 

ユージオの放った片手剣単発ソードスキル《ホリゾンタル》は仄かに赤く光るエフェクトライトを放ちながら、吸いこまれるように切れこみの中心へと向かっていった。

 

俺が型を見せて、二人はそれを模倣する。ユージオのセンスはなかなかのもので、俺が何度か型を教え込むと少しずつだが出来るようになっていった。…もしかしたら、俺よりも覚えが早いかもしれない。俺もうかうかしていたら、あっという間に抜かれてしまうだろう。

意外だったのはエミヤの方だ。彼はすぐに習得してしまうものだとばかり思っていたが、最初は意外と苦戦していた。本人曰く、自分には剣で戦う才能は無く、人一倍努力する必要があるとか。とは言え彼も、常人に比べれば相等早い速度で習得していった。

 

こうして練習を続けていた、ある日、

 

ついにその時はやって来た。

 

 

 

ぎぎぎっ

 

水平斬りを受けた巨樹が、それまでにない不気味な軋み声を発した。

俺達は唖然とし、次いでギガスシダーの幹を振りあおぐと、驚愕で凍りついた。

地面の方が傾斜しているのでは、と錯覚するほどに巨樹が重力に屈して頭を垂れる光景は非現実的なものだった。

 

大きすぎる自重に耐えきれなくなった巨樹は、石灰のような欠片を辺りに撒き散らしながら周りの樹木共々圧潰していった。

 

 

俺達は急いで避難し、その光景をただ見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤々としたかがり火が、集う人々の顔を明るく照らし出す。楽団の陽気なワルツと、それに合わせて踊る人々の靴音や手拍子が夜空へ舞い上がる。村中が活気で満ち溢れ、喧騒が絶え間なく聞こえてくる。

 

俺達三人は少し落ち着いた場所でその様子を眺めていた。

 

ギガスシダーが切り倒されたことを知った人々はまたも村会議を余儀なくされた。なにやら不穏な意見も飛び交ったらしいが、最終的にはガスフト村長の鶴の一声で、祭を催し、ユージオは法の定める通りに遇することになった。

 

俺はジョッキに入っていた林檎酒を飲み干し、傍らにあったビーフシチューに手をつける。これはエミヤが作ったものだ。口に入れた瞬間、柔らかな肉が溶け出して、芳醇な香りと旨みが溢れ出す。相変わらずだが、エミヤの料理は現実世界と区別がつかない、いやむしろ現実世界で食べた料理よりも美味しく感じる。これだけでもギガスシダーを倒した甲斐はあったというものだ。

 

真実を知り、脱出するために央都へ向かう。その計画の最大の障害だったギガスシダーは切り倒した。あとは…

 

「なあ、ユージオ…お前、このあと……」

 

その続きを口にする前に、甲高い声が頭上から降ってきた。

 

「あっ、いた!何やってんのよ、お祭りの主役が」

 

カチューシャも飾り、赤いベストと草色のスカートを身に付けていた少女―――セルカが両手を腰にあて、胸を仰け反らせて立っていた。

 

「あぁ、折角なので二人に料理を振る舞っていたところだよ。セルカもいるかね?」

 

「えっ!?本当!?………じゃなくて、ダンスに参加しなさいよ貴方達。」

 

くっ、エミヤの誘導も失敗に終わったか、と内心舌を打つ

 

「あ、いや……僕、ダンスは苦手で…」

 

言い訳をするユージオ。俺達も

 

「お、俺も、記憶喪失だし……」

 

「私も、こういった場には慣れていないのでな…」

 

と、次々と言い訳をしていく。そんな俺達に呆れたのか、一つため息をついたセルカは

 

「貴方達ねぇ…やればなんとかなるわよ!!」

 

セルカは俺達を有無を言わせず広場の真ん中まで引きずり、威勢良く突飛ばした。

途端、たちまち踊りの輪に呑まれる。

 

最初は戸惑い、見様見真似で踊っていたが、そのうちどんどん楽しくなってきて、気がつくとステップを踏む足も軽くなっていた。

 

――そういえば、以前もこうしてダンスをしたことがある。シルフの剣士リーファ。彼女の微笑みを思い出し、胸が痛くなる。

 

俺は、早く帰らないと。SAO事件(あのとき)も、彼女はずっと俺の帰りを待ち続けていた。俺には待ってくれる人がちゃんといるのだから。

 

俺がホームシックの切なさに浸っていると、唐突に音楽が終わった。周りを見回すと演台には、ガストフ村長が立っていた。

 

「―――ルーリッドの村を拓いた先祖達の大願はついに果たされた!悪魔の樹が倒されたのだ!我々はこれで、新たな畑や放牧地を手に入れるだろう!」

 

再び歓声が沸き上がる。それが収まると、村長は

 

「オリックの息子ユージオよ、ここに!」

 

すると、緊張の面持ちでユージオが壇上に上がる。隣の男性が父親だろうか。表情は誇らしげというより戸惑っているように見える。

 

「…親子といえど、余り似ていないのだな」

 

と、いつの間にか俺の隣にはエミヤが立っていた。彼の言葉に俺は頷く。なんというか、見た目も髪の色以外似ていない。恐らく精神(中身)も…

 

ユージオが村長の隣に立ち、広場に向き直ると、大きな歓声が浴びせらせる。

 

「掟に従い――ユージオには、自ら次の天職を選ぶ権利が与えられる!」

 

――――なんだって!?

 

ダンスなどしている場合では無かった。ユージオに念押しをすべきだったのだ。ここで、僕は麦を育てますなどと言われてしまえば、万事窮するのだ。

 

そんな俺の心情を知ってか知らずか、エミヤは

 

「なに、ユージオのことだ。そんなに心配することはないさ」

 

と言ってくる。とはいえ、心配を完全に拭いさることはできない。

俺は息を呑みながらユージオを見つめる。

 

ユージオはなにやら迷っていたが、暫くの後、腰の青薔薇の剣の柄を握ると

 

「僕は―――剣士になります。ザッカリアの街で衛兵隊に入り、いつか央都に上ります」

 

静寂の後、村人にはどよめきが広がる。皆、苦々しい顔をして、なにやら話していた。

 

「ユージオ、お前はまさか――」

 

村長はそこで一度言葉を切り、続ける

 

「……いや、理由は問うまい。よかろう、ルーリッドの長として、ユージオの新たなる天職を剣士と認める。」

 

俺はつい、安堵の息を漏らしていた。これで央都に向かうことができる。…そういえば、彼にもまだ聞いていなかったな、と俺が声を発しようとしたその時、

 

「待って貰おう!」

 

と、一人の若者が前に出てくる。セルカから話を聞くと、彼はこの村の衛士長らしい。

俺が見守っていると、なにやら話は二人が決闘をし、勝った方の意見が聞き分けられることになったようだ。

 

俺とエミヤは、ユージオの元へと向かった。

 

「ど、どうしよう二人とも、なんだか大ごとになっちゃったよ」

 

「…もしや、本気の斬り合いか?」

 

「いや、剣は使うけど寸止めだよ」

 

「ふぅん……でも、その剣だとなぁ。いいか、アイツじゃなくて、剣を狙え。《ホリゾンタル》一発で終わるはずだ」

 

「本当に……?」

 

「あぁ」

 

その後なにか考えていたユージオだが、そこにエミヤが現れてなにかを伝えると、すっきりとした表情になった。なにを言ったのか尋ねると、

 

「別に大したことは、なにも」

 

とはぐらかされてしまった。ともかく、ユージオは衛士長と向き合い、ついに試合が始まった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は青薔薇の剣を正眼に据え、左手左足を引いて腰を落とす。

 

「―――始め!」

 

その合図が聞こえた瞬間、相手が仕掛けてくる。

威勢の良い掛け声とともに、彼はそのまま上段からの斬り下ろしを―――しなかった。

 

相手の剣が、空中で大きく軌道を変える。上段斬りに見せ掛けての水平斬り。《ホリゾンタル》での迎撃は難しいだろう。―――《ホリゾンタル》ならば。

 

 

―――あぁ、()()()()

 

 

ユージオは衛士長――ジンクを知っている。彼が決して無能ではないことを。彼の努力を。だから、彼が何か仕掛けてくることは分かっていたのだ。それがただ、漠然と不安だった。それでも。僕はエミヤの言葉を思いだす

 

 

―――不安ならば、それでいい。()()()()()()()()()()()()()()()()()。…お前の力を、見せてやれ

 

 

エミヤにはお見通しだったのだ。

 

 

――僕は、臆病者だ。

整合騎士が怖かったから、アリスを救えなかった。

決まりを破るのが怖かったから、アリスを助けに行かず、巨樹を切り続けた。

また目の前で誰かを失うのが怖かったから、キリトを庇った。

前と同じ過ちを犯すのが怖かったから、強くなろうとした。

 

僕はいつだって怯えながら生きてきた。でも、それでも…君を助けたい。この想いだけは、嘘になどしたくない。

 

――今更、勇敢な騎士にはなれないけれど、君を助けに行くよ。アリス。

 

 

斜め斬り《スラント》――彼は未だ、その名を知らないが――を放つ。それは稲妻の如く閃き、水平斬りの途上にあったジンクの剣を叩き、粉砕する。

 

 

―――その日、臆病者は、運命に抗った。

 

 

 

 




個人的に、アリシゼーション編はユージオが臆病から勇敢になる話ではなく、臆病なまま、それでも頑張っていく話だと思っています。


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スタートライン

ここまでで一巻分(ものすごく省略)ですか…小説書くのって楽しいですけど大変ですね。

お気に入り登録、誤字報告ありがとうございます。

ではどうぞ



――ごめんな。■には、これくらいしか…

 

――…なんで?

 

――ん?

 

――なんで、なんで……謝るの?なんで、こんなに、優しくしてくれるの?

 

――…■は■■■■■だからな。 ――を■■■のは■■■■だろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――行ってしまうの…?

 

――あぁ。■は、■の■■を叶えるために、ここを出る。

 

――■■…?

 

――それはな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深い微睡みから醒める。

 

最近、夢を見ることがある。

断片的に流れる映像。その大部分は欠けていて、何も解らない。自分はただ何も感じることなく、それを眺めているのだ。

 

――それが、少し恐ろしい。もしかしたら、自分は何か、とても大切なことを忘れてしまっているのではないか。

 

漠然とした不安感が募り、目眩がする。こめかみを押さえながら、寝起きで余り動こうとしない脳みそを無理やり回転させる。

 

サーヴァントは本来、睡眠を必要としない。しかし、受肉したことで肉体が食欲や睡眠欲を感じるようになった。とはいえ寝起きで頭が回転しないのは、やはりぬるま湯に浸かり過ぎているといえる。これまで送った日々は、いつどんな理由で襲われてもおかしくないもので、常に最低限の警戒はしていた。勿論、この世界がいくら平和とはいえ可能性はゼロではない。実際に、山脈付近ではゴブリンに襲われる人も出ている。それゆえ若干は警戒するのだが、何分この村は争い事もなく、つい気が緩んでしまう。

 

―――確かにこの村は平和だ。しかし過ごす内に分かったことだが、その『平和』は『絶対的な法による統治』だろう。彼らは天職といい、多くを法によって定められていた。彼らは法に怯えて、必死に()()()()()()()()のだ。

これもまた、一つの平和の形なのかもしれない。しかし、『絶対的な法による統治』には穴がある。恐らく都合よく法を解釈し、悪事を働く輩もいることだろう。

――恐怖心から生み出される平和とは、本当の意味での平和と言えるのだろうか。

軽く頭痛のする頭で思考を巡らせる。

この村にいては、何も変わらないし何も解らないままだ。しかし、私はこの平和に否定的な一方、この世界に残りたい、ここで穏やかに過ごしたいという思いもある。私のいた世界と比べれば、確かにこの世界は平和なのだ。

 

――彼らと共に、央都に向かうか否か。キリトのことだ。恐らく時が経てば、この世界の真実とやらに辿り着けるのだろう。それを知ったとき、私はここで穏やかに暮らすことが出来るのだろうか。引き返すなら今の内だ、と囁く声がある。

 

 

と、からーんといつもの鐘が鳴った。気がつけばかなりの時が経っていたようだ。とにかくまずは朝食の支度をしなくては、と思案を中断し台所へと向かって行った――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも通り5時半に目が醒める。苦手だった早起きが、この世界に来てからは出来るようになった。その事実に、今更ながら感嘆する。これなら、もう直葉に叩き起こされることもないだろう。これもセルカのお蔭だ。と、俺は昨日のことをふと思い出す。

 

 

 

――試合はユージオの勝利。その流れるような美しい剣捌きに、エミヤを除く全員が唖然としていた。

ユージオの勝利を疑っていた訳ではない。俺がみっちり教えたのだ。自慢する訳ではないが、そこいらの衛士ならば勝てる位には鍛えたと自負している。

俺が驚いたのは、ユージオが俺の想像を遥かに越える剣捌きをみせたことだ。片手剣ソードスキル《スラント》。俺が教えても、見せてもいないその技をまさか使うとは思ってもいなかった。

 

思い浮かぶのは、一人で懸命に剣を振り続けるユージオの姿。あの技は、練習の中で偶然見つけたのだろう。しかし、無駄のないあの動き。

もし、この先彼が研鑽を積み、俺と彼が本気で戦う時がきたら一体……

 

 

 

 

やけになって林檎酒を飲み過ぎた俺は、セルカに引きずられるように教会に戻った。

 

『全く、さすがに飲みすぎよキリト』

 

と水を差し出すセルカ。冷たい水が、頭を冷やしてくれる。

 

『その……悪かったな。ユージオと話したかっただろ?明日にはもう…いや、まずは謝らないとな。ごめん。勝手にユージオを連れ出すみたいなことになっちゃって』

 

『……本当、あんたは…』

 

少し頬を赤らめた後、呆れ顔をしたセルカは続ける

 

『確かに少し寂しいけど、嬉しいの。ユージオがあんなに笑うようになって、自分からアリス姉様を探しに行くって決めてくれて。それに、前も言ったでしょ?私は私なりに生きていく――だから安心してユージオを連れて行きなさい。貴方達が、姉様を連れて戻ってくるのを待ってるから』

 

そのあどけなさの残る微笑みは慈愛に溢れていた。

 

『あぁ、ありがとう』

 

『ごめん』と一言口にし、セルカに顔を近づけ、真っ白な額に軽く唇を付ける。

 

セルカは暫く固まり、その後、顔を真っ赤にしてこちらを睨み付けた。

 

『あなた……いま、何を………?』

 

『うーん…《剣士の誓い》みたいなものかな』

 

ひとつ間違えれば禁忌目録違反よ、と呆れ顔のセルカ。

 

『で?誓いって?』

 

『約束だ。必ずアリスを連れて帰ってくるよ』

 

『俺は、剣士キリトだからな』

 

 

 

 

 

 

――今思い出すと少々恥ずかしいものがあるが、まぁ酔いのせいだろう。気にしたら負けだ。

 

俺はいつも通り礼拝をして、朝食を食べた。セルカが俺と目が合う度に顔を赤らめているように見えたのは気のせいだろう。うん。

 

 

 

 

 

 

俺はその後、ユージオと合流し、エミヤの下へ向かった。

 

「なぁ、エミヤ……お前も、来てくれないか?」

 

そう尋ねると、二人とも意外そうな顔を俺に向けてきた。

 

「どうして、私を?別に君達にとって私は…」

 

「え?今更なにを聞いてるんだいキリト。僕らはエミヤとキリトと三人で央都に行くんでしょ?」

 

と二人が言う。どうやらエミヤの驚きは、俺達が自分を必要としたこと。ユージオの驚きは、当たり前のことを聞いていることのようだ。

 

「えっと、無理にとは言わない。けど、エミヤは俺達を助けくれた仲間だから。――友として、一緒に来てくれないか?」

 

「……友、か。」

 

と、エミヤは顔を上げて続ける

 

「…了解した。では、私からも頼もう――どうか、私も連れて行って欲しい。…まだ、アインクラッド流もマスターしていないからな」

 

 

――こうして、ようやく俺達はスタートラインに立ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……枝?」

 

その後、村の人々に挨拶周りをしていた俺達はガリッタ老人に連れられ、あるものを見せられた

 

「ギカスシダーの中で、最もソルスの恵みを吸い込んだ一本がこれじゃ。その剣で切るがよい、」

 

ユージオが剣を構えるも、迷いがあるのか切っ先がわずかに揺れる。

 

「俺がやるよ」

 

と、前に出て剣を受け取り、真っ直ぐに斬り下ろす。枝は綺麗に切れ、それを左手で受け止める。

 

ガリッタ老人はその枝を分厚い布で包むと

 

「これをセントリアのサドーレという名の細工師に預けるがよい。強力な剣に仕立ててくれるだろう。道中、気を付けるのじゃよ。さらばだユージオ、旅の若者、そして紅き荒路を行く者よ」

 

 




――なんだ。どうやら考えすぎていたのは私の方だったらしい。先のことなど考えずとも、目の前に必要としてくれる仲間が、友がいる。それだけで十分だ。

――今は、前へ進もう。友の為に、自分の為に。たとえ、それがどんな結末を迎えようとも――


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閑話休題 その1


ということで番外編です。


あ、もちろんオリジナル設定・オリキャラなのであしからず

修行を始めてから、巨樹が倒れるまでの間のある一日のお話です。

ではどうぞ


「…ふむ。こんな所か」

 

エミヤは街の中心部に位置する人通りの多い大通りを歩いていた。勿論、何の目的もなかった訳ではない。その姿――両手に小麦粉、卵、塩、玉葱、人参、舞茸…大量の食材を抱えている――を見れば一目瞭然である。

 

ここ――カンツォーネの街は、ルーリッドの村より東に15kmほど進んだ場所に位置している。片道は早くても三時間、普通に歩けば四時間はかかると言われ、村の人々は精々安息日に馬を使って出かける程度だ。しかし、辺境の地に在るルーリッドの村にとっては近辺に在る数少ない街であり、最も栄えている街である。

 

ルーリッドの村は基本的に生活に困る様な事はない。

日用品や食料も売られており、足りないものは自給自足をしたり、近所の人々が助け合ったり、たまにやって来る行商人から購入したりしている。また、カンツォーネよりも比較的近い村や街に赴き購入することもある。

 

カンツォーネへは、いくらエミヤと言えど片道二時間近くは掛かる。では何故わざわざやって来たのか。

 

ルーリッドの村は確かに生活には困らない。――しかし、忘れてはならない。この村はギカスシダーという名の巨樹によって村の恵みが吸いとられている。エミヤは、修行の最中に着実にその巨樹の天命を削っている二人の少年を思い浮かべる。彼等は今も懸命に修行をしているに違いない。今日は休んだが、その分精進しなくては、とエミヤは決意を固める。

――話を戻すと、まだ恵みが残った場所では作物を育てたり、放牧などもしているが、明らかに他の村よりも全体量が少ない。するとどうなるか。心優しい村人とは言っても商人は商人。当然、作物の相場は高くなり、設定価格も必然的に上がる。村人は自分の稼いだ分のほとんどを生活費にもっていかれる。それは現実世界でも変わらないだろうが、その酷さは日本と比べられない程である。特に教会は多くの子供たちの分の生活費も賄わなくてはならない。だからこの村の娯楽文化はここまで発展していないのか、とエミヤもそんな結論に至る。

 

――つまりは、()()()()生活には困らないということである。

 

同じ金額でも、もっと多くの食材を手に入れられる。村の人々の話からそう判断したエミヤはカンツォーネの街へ赴いたのである。

 

では何故カンツォーネだったのか――それは単純に一番栄えているからである。

 

もっと近い村や街も、ルーリッドに比べると安価で種類も豊富だ。しかしそれはあくまでも『ルーリッドの村基準』での話だ。…やはり料理をする以上、色々とこだわりたいのだ――これも、見た限り平和なこの世界ゆえにできることだ。この世界が一面戦場であれば、そうは言っていられない。

 

ともかく、そんなこんなでカンツォーネの街へやって来たのである。

 

街は活気で溢れ、商人達の威勢の良い声があちこちから飛び交う。路上の一角では楽団が陽気な音楽を奏でている。やはり、この辺りで最も栄えている街だけあって人通りも多い。エミヤは今、首もとがやや大きく開いたやや薄めの黒地シャツにそれよりも濃い黒の長ズボンを履いて、この街を歩いている。流石にいつもの赤い外套姿では目立ち過ぎるし、怪しまれると考えて見繕ったものだ。ルーリッドの人々からすれば、出会ったときからあの姿だったため、むしろこちらの服を着ているときのほうが不思議がられたものだ。

 

しかし繁栄の度合いによってここまで文化の発展も違うのか、と改めて感心していると、

 

「お~い!そこの兄ちゃん!あぁ、アンタだ。買い物だろ?買ってけよ!どれも新鮮で安くて美味しいぜ?」

 

ハチマキを着けたおじさんに呼び止められて寄ってみると、そこには沢山の魚が並んでいた。

 

「そうか魚か……ではそこのニジマスを」

 

そう言ってニジマスを数尾ほど購入する。魚は鮮度が保たず、数日と経たずに天命が尽きてしまう。食べるなら今日の夕飯だろう。しかしニジマスか…色々と調理法はあるがさてどうしようか、と考えていると

 

 

――何処からか、歌が聴こえた。

 

 

微かに聴こえてくるその透み渡り、心に染み入る様な歌声に吸い込まれるように、気がつけば路地裏に足を踏み入れていた。

 

 

そこに立っていたのは一人の少女だった。

 

キリトやユージオと同い年位だろうか、鮮やかな藍色の髪を結い上げ、真っ白なワンピースを身に付けている。その瞳はどこか憂いを帯びていて、あどけなさと大人っぽさを併せ持つその姿はどこか儚く見えた。

 

少女はエミヤに気づき歌を中断すると、振り返って不思議そうな顔をして彼に尋ねる

 

「…?貴方は……?」

 

「いや、すまない。君の美しい歌声につられてしまってね。良かったら、そのまま聴かせて貰えるとと嬉しいのだが」

 

その返答に彼女は目を丸くした後、少し顔を赤らめ、

 

「…ありがとう。でも、人前で歌うのはまだ恥ずかしいわ。……それに、奴等ももうすぐ来そうだし」

 

「ん?奴等?」

 

「……私は、《ドゥラーク》だから………来たわ、こっちへ」

 

少女はエミヤを連れて幾重にも曲がった路地をどんどん進んでいく。すると後ろからは

 

――なんだよ、あの女。ま~た逃げやがった。

 

――チッ、まぁいい。次に会ったら痛い目見せてやる

 

等といった声が聞こえてきた。少女もその声が聞こえていたようで、繋いでいた手が少し震えるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く路地を歩いていると、先程の大通りに出てきた。

 

「……先程の彼等は…」

 

すると少女は微笑んで、

 

「大丈夫。あんなのはいつものことだから……あっ、自己紹介、してなかったわ。私の名前はノア、よろしくね。えっと…」

 

「エミヤだ。よろしくな、ノア」

 

そう言って、ノアの小さな手をしっかりと握る。すると、

 

ぐぅ~

 

と、何処からか腹の虫が鳴いていた。

 

「…良かったら、昼食でもどうかね」

 

「………」

 

彼女は顔を赤らめ、コクリと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の家は思いのほか大きな家で、白が基調である壁は所々が汚れていた。

 

中は、比較的綺麗で――いや、何もないのだ。何処を見ても殺風景。最低限のものしか置かれておらず、綺麗に整頓されているのも相まってどこか奇妙な光景だった。

 

そんな中、エミヤは棚の上に飾られた一枚の写真を見つける。そこに写っていたのは大陽のように明るい笑顔を見せるノア、その両隣にはノアの両親だろうか、優しく微笑む男女の姿があった。

 

 

「…本当にいいの?料理を作ってもらうなんて」

 

「勿論、歌の礼だとでも思ってくれ。それに私は好きでやっているのだからな」

 

と、ノアに応えて早速料理に取りかかる。

 

材料は先程大量に買った食料。ここで二人分消えても恐らくは大丈夫だろう。

 

先程買ったニジマスを慣れた手つきで捌いていく。

 

容器に移したニジマスに料理酒と塩をかけて10分程置いておく。

 

その間に他の食材の下拵えだ。玉葱は半分に切ってから薄く切る。人参は細切り、舞茸は軸を取って食べやすい大きさに。

 

浸けたニジマスは布で水分をとり、野菜と共に浅型の鍋へ。皿で蓋をして蒸し焼きにする。

 

暫くすると、美味しそうな匂いが辺りに充満する。

 

 

 

 

 

「さて、完成だ。頂くとしよう」

 

「わぁ…!この料理は?」

 

「ニジマスを蒸し焼きにしたものだ。一般的にはサケやサワラで作ることが多いが、今回はニジマスを使ってみたのだよ」

 

現実世界でいえば、ホイル焼きである。しかし、この世界にはまだ、アルミホイルもキッチンペーパーも存在しない。ゆえに落し蓋や、布で代用した。これまで経験したなかでそんなことは当たり前のようにあったので、慣れている。

 

「へぇ…よく分からないけれど、美味しそうね。じゃあ早速…」

 

「「いただきます」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に美味しかったわ」

 

「そう言って貰えるとありがたいよ。ところで、一旦落ち着いたところで聞きたいのだが…」

 

「…私が何故《ドゥラーク》なのか、でしょ?」

 

「いや、まずはその《ドゥラーク》とは何かを教えてほしい」

 

「えっ!?貴方、《ドゥラーク》も知らないの?……よっぽど幸福な場所で生きて来たのね…」

 

やや皮肉めいた口調に眉をひそめる。……どうやらこの世界は思っていたものと少々異なるらしい。

 

「――私の家庭は、そこそこ裕福な家だったの。父と母と私、三人でささやかながら幸せに暮らしていた。父は医師をしていて正義感の強い明るい人で………母はこの街一番の歌手で、とっても優しい人だった。私は母の歌ってくれる子守唄が、本当に好きだった。

 

……けど、そんな幸せな日々は続いてはくれなかった。

 

…父が、人を殺したって。私も母も信じられなかった。何度も何度も町長に訴えた。あの父が、そんなことをする筈がない、と。でも、誰も聞き入れてくれず、結局父は整合騎士によって処刑された。母はその後、精神を病み、父を追うように病死した。人々は残された私を蔑み、恐れて迫害した。

《ドゥラーク》とは神を信仰しなかったり、生まれつき身体を満足に動かせない人やルールを破った人、その血縁者に対する蔑称のことよ。神様の怒りに触れた呪われし者達だ、ってね」

 

「………」

 

やはり、この世界でも人間の負の本質は変わらないようだ。他者を蔑むことで仮初めの優越感を得る――それは例えどんなに法で縛られていようが変えられない人の性。誰が悪いとか、何が悪いとかそんな話ではない。人々はこれと向き合い続けなくてはならないのだ。

 

村長達が、アリスの存在をまるでいなかったかのように振る舞っていたのはそのためか。ノアの時とは違ってアリスは村長の娘。また、村の人々は村長やセルカの人柄をこれでもかというほど知っている。故に村の人々は安易に彼等を蔑むことは出来なかったのだろう。もしもアリスとセルカが、村長の娘でなく、村の人々との信頼関係も築くことが出来ていなかったら、と考えると恐ろしくなる。それほどの苦痛を、目の前の少女はたった一人で背負っているのだ。

 

ノア――どんなに他者から蔑まれようと、神を信じ続けた預言者と同じ名を持つ少女が、神に呪われた者だと蔑まれるとはなんという皮肉だろうか。

 

 

 

沈黙の後、少女が口を開く

 

「……ごめんなさい。重苦しい話になっちゃって。…でも、私は大丈夫だから」

 

「…君は、本当に強いな」

 

気丈に振る舞う彼女の鮮やかな藍色の髪を、そっと撫でる

 

「――けど、そんなに抱え込まなくてもいいんだ。苦しさや、辛さ、悲しさは一人で背負わずにさらけ出すべきものだ――そうでないと、本当に笑えなくなってしまう」

 

「あ…」

 

暫くそのままでいると、彼女がポツリと語り出す。

 

「…私、歌手になりたいの。母が、『歌は私達の人生を素敵なものにしてくれるのよ』って…父は、いつも、『ノアは俺の世界一の娘だ』って……」

 

ノアの双眸からは大粒の涙が溢れる。エミヤはそっと震える彼女を抱きしめる

 

「……寂しいよ。辛いよ……お父さん、お母さん……」

 

 

――その声はどこまでも遠く、澄んだ青空へと反響していった





ということで、次回に続きます。

ニジマスって塩焼きのイメージが強いですけど、色々出来るんですよね。レシピは『衛宮さん家の今日のごはん』を参考に。もちろんあちらは鮭でしたが、海がないのに迂闊に海へ行く筈の鮭にしてよいものか、と考えたのでニジマスにしました。

因みにエミヤさんの服のイメージはEXTRA CCCの黒色の現代衣装です。


~疑問コーナー~

Q.何故に受肉してるの?

A.ネタバレになるので多くは語りませんが、メタ的理由は弱体化させるのに、受肉させとくのが都合良かったからです。ほら、最初から宝具大量に投影されたり、アイアムザボーンオブマイソードされてもあれじゃないですか。因みに現状エミヤさんが投影出来るのは慣れ親しんだ干将・莫耶と無銘の剣達、あとアイアス4枚位です。他のものも頑張れば投影出来ますが、魔術回路への負担を考えると、すぐに投影出来るのはこれくらいかな、と。自分の想像以上に弱体化してました。大丈夫!これから強くなるから…(多分)


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閑話休題 その2

全力で遅くなりました。番外編後編です。

apoコラボイベを周回しまくったり、私生活でちょっとしたトラブルに巻き込まれておりました。


ではどうぞ


「ところで、君は何故《歌手》ではないのだ?」

 

「え?」

 

「いやなに、《歌手》になりたいということは今は《歌手》ではないということなのでは、と思ってな」

 

「…まぁドゥラークを知らないなら、知らなくて当然か。全く、どんなところで育ってきたんだか…いや、この街が特殊なのかしら…?……そうだといいなぁ」

 

 

――あの後、少し吹っ切れた様子のノアは《ドゥラーク》も知らないエミヤに世間知らずな貴族でもしってるわよ、と呆れ、心配だから彼のために色々教えてあげると言い出した。

もちろんエミヤは丁重に断ったが、彼女もなかなか折れない。

 

彼は冷徹な守護者である以前にお人好しだ。嘗て抱いた彼の根底にある万人を救いたいという理想は、無限に等しい刻のなかで人々にも、その理想にすらも裏切られ続け、摩耗した今でも彼を突き動かす。

そしてこの世界の影響もあるのだろう。今の彼は、守護者として淡々と仕事をこなす冷徹さが薄れ、お人好しな面が強く現れている。

 

故に彼はどうしてもといわれて断るわけにもいかず、その好意を甘んじて受けることにした。

 

実際、この事は彼にとっても好都合だったのだ。ルーリッドの村の人々との会話で知った事は意外に少ない。やはり辺境の地なのが大きな要因だろうか。天職がある以上、仕事を怠るわけにもいかず、出掛けられるのは安息日の一日程度。それゆえ村人はあまり遠出も出来ないため、なかなか情報も入って来ない。

彼も最低限この世界の常識とやらは知っておきたかった。それと――この世界そのものについても。

 

キリトから訊いた話では、どうやらこの世界は仮想世界のようだ。

 

豊かな木々の香りや鳥のさえずり、

 

青く渦巻き流れゆく川のせせらぎ、

 

雨上がりに漂う湿った落ち葉の匂い、

 

道の両側にところ狭しと並ぶ店々の猥雑な活気

 

そのどれもが本物のように感じるだけあって、その驚駭の念は想像以上のものであった。

 

――偽物か本物かなどと考えていてはいけない。時に偽物は、本物よりも本物である。

 

確かにその通りだろう。何をもって現実とするのか、何をもって本物とするのかなど考えていても意味がない。『そこにある』と認識している時点でたとえそれが虚像であろうと、確かにそれは存在しているのだから。

それに、偽物が本物に負ける道理はないのだ。

 

 

ノアはエミヤを連れて街を歩いていた。どうやら、先程はできなかった買い物をするらしい。

街の人々はノアに対して何かしてくるものかと思っていたが、街を歩いていても意外と何の反応もなかった。というよりはむしろ避けられている感じだった。

ノア曰く、最初の数年はひどいものだったが、そのうち彼らも飽きはじめ、今ではノアを避け、最低限のやり取りだけを行うようになったという。今でもドゥラークと蔑んでくるのは街の中流貴族くらいなものだと言っていた。

 

買い物の道中、彼女は掟や禁忌目録のことについて教えてくれた。曰く、公理教会と呼ばれる組織が人界を統治しており、彼らは央都セントリアにあるセントラル・カセドラルという純白の巨塔から人界を監視している。公理教会には司祭、元老の他に整合騎士という武官がおり、世界の秩序を守っている。また、禁忌目録は最高司祭のアドミニストレータという人物が作ったのだとか。

 

アドミニストレータ……確か、管理者という意味をもつ言葉だ。その人物が意味を知って名乗っているのかは知らないが、どうやらその人物がこの世界の鍵を握っているらしい。

 

そして話題は天職の話へと移り、冒頭に至る訳だが。

 

「普通、家族は代々その天職を引き継いでいくもの。私も本来は医者か歌手の道を歩むはずだった。けど…」

 

「けど?」

 

「普通、子供は10歳になった時に天職を与えられるの。そしてその天職は街の町長や貴族が決める…ドゥラークの子供を、彼らが望み通りの天職に就かせると思う?……だから私はもう、歌手にはなれないの」

 

「……」

 

だから彼女はあんなに人目のつかない場所で歌を奏でていたのか。彼女は人々の前で歌うことが出来ない。歌ってしまったら何か掟に違反してしまうのでは、という恐怖心と、ドゥラークの癖にぬけぬけと、と罵られるものだと思ってしまっているがゆえに、彼女は一歩を踏み出せず。諦めようとしている。

 

――思い浮かべるのは、一人の少年。彼は臆病者でありながらも、確かに、その一歩を踏み出し、今も歩み続けている。

 

キリトは恐らく知らないだろうが、彼は毎日、誰もいない場所で一人懸命に剣を振り続けている。

 

 

――彼の夢はとても眩しく輝いていたのだ。

 

 

エミヤには、目の前で輝かしい夢を諦めようとする少女を見捨てることが、出来ない。

 

「…歌ってみないか?」

 

「……え?……私は歌手に、なれないんだよ?」

 

ノアは目を丸くし、沈黙の後に悲しげな表情で呟く。

 

「――歌は私達の人生を素敵なものにしてくれる」

 

「!」

 

「…君のお母さんの言葉だろう?君の人生も、君自身の歌で変えられるのではないか?」

 

「私、は……」

 

「もちろん、無理強いはしない。これは、君自身が決めるべきことだ。ただ、一つだけ…」

 

――何もしなかったら、

 

何も起こらない

 

 

その言葉は、ノアの心を揺れ動かす。

 

――何も、出来なかった。父を救うことも、母を支えることも、人々に抗うことも。

何も出来ず、いつの日にかドゥラークであることを受け入れ、それも運命のせいだと諦めていた。

 

……でも、変われるのだろうか。この、歌で。

 

沈黙の後、ノアが顔を上げる。まだ、不安は拭いきれてなどいない。しかし…

 

「あなたの……それとお母さんの言葉、信じてみるわ」

 

少女は舞台へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――喧騒に包まれた街に、歌声が聴こえてくる。

 

多くの人々が、その足をとめ、その澄み渡る歌声が紡ぐ美しい旋律に耳を傾ける。

 

爽やかな風が、少女の鮮やかに輝く髪を靡く。

 

その歌声や姿は、人々に嘗ての『歌姫』を想起させる。

 

最初はどよめいていた人々も、いつの間にか静まり返っていた。

 

観衆は次第に増えていき、歌声もさらに街中へ響いてゆく。

 

 

 

――そんな時である。

 

「おいおい、見ろよあのガキ。ドゥラークの癖に歌手気取りで歌っていやがる!!」

 

と、大声で叫ぶ声がする。

その声の主たちは、眼前の観衆を無視して少女の元へ下卑た笑いを浮かべながら向かっていく。

 

「――おい、ノア?ドゥラークの癖に調子乗ってんじゃねぇよ?」

 

と、ノアの腕を無理矢理掴む。

 

「痛っ……放して!!放してっ、くっ!!」

 

ノアは抗おうと、もう片方の腕を使って彼を力ずくで放そうとするが、大柄な男相手では上手くいかない。

 

その男はさらに憤怒の形相になり、ぎりぎり、とさらに腕を強く握る。

 

「ドゥラークが、中流貴族にそんな物言いだと…?()()()()()()()()()()()()()()()()()()仕方ないなぁ、口の聞き方ってやつを、教えてやるっ!」

 

 

ノアに向けられる拳。

 

――不思議と、怖くはなかった。いや、何処かで諦めていたのかもしれない。結局は、彼らには抗えないのだと。

 

だってほら、観衆はみんな彼らの所業を黙認している。

私がドゥラークだから、目の前の彼らがこの街の貴族だから。観衆の人々は決して間違ってなどいない。私も見ている立場ならば同じ選択をするだろう。

 

――だけど、ほんの少しだけ、悲しかった。

 

 

あぁ、でも一人だけ、私に優しく手を差し伸べてくれる人がいた。

不器用で、

意外と子供っぽくて、

放っておけなくて。

 

――それでも、私の正義の味方だ。

 

 

 

 

男の拳は、確かに阻まれた。

 

「『――音楽が何のために存在するかさえご存知ないらしい。

 

勉強や日々の仕事が終わった後、

 

疲れた人の心を慰め元気づけるために

 

音楽はあるのではないか?』」

 

「は?」

 

「彼の劇作家、シェイクスピアの言葉だ。皆、音楽を楽しむために此処にいる。その一時を邪魔しないでもらおうか」

 

「なんなんだよ。そっちこそ邪魔すんなっ!!……っ!?」

 

男が拳を振りかぶった次の瞬間、男の身体は地面に叩きつけられていた。

 

一瞬の出来事に、皆一様に目を見張る。

 

「ヒィッ……!?」

 

驚愕。そして彼が一瞬みせた殺気に恐怖を抱いた男たちは逃げ帰っていった。

 

「…な、んで?」

 

――私の口からまず溢れたのは疑問だった。

 

そして、彼は当たり前のようにこう言うのだ。

 

「…目の前で困っている人がいたら、…出来る限り助けるのは当然だろう?」

 

 

――あぁ、そうか。彼はどこまでも…

 

 

 

 

立ち上がって、再び歌を奏でる。

 

言葉は必要ない。彼はきっと、気にするな。自分で勝手にやったことだ。と、そう言ってしまうから。

 

なればこそ、この想いを歌で届けよう。

 

少女の歌は、カンツォーネの街中に響き渡る。どこまでも。淡い想いを乗せて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノア……」

 

「え?……町長?」

 

――初めての《ライブ》は、ハプニングこそあったが、大盛況に終わった。人々はドゥラークのことなど忘れ、ただノアの歌声に聞き惚れていた。

そして、拍手に包まれながら終わったライブ後に、一人のやや痩せこけた印象の男性――町長が声を掛けてきたのだった。

 

「ライブ……良かったよ。…君のお母さんを思い出した」

 

「……ありがとうございます。それで、私に何か…?」

 

すると町長は、突然ノアへ頭を深々と下げた。

 

「すまなかった…」

 

「なっ…!?か、顔を上げてください。一体…」

 

「君のお父さんのことだ。」

 

「……」

 

「…彼は、私の親友だった。

ある時、私の妻が急に倒れてな…彼のもとへ連れていったのだが、丁度彼は急患を治療していた。しかし、妻の病状は悪化の一方で、とても苦しんでいた。私はそれに耐え兼ねて君のお父さんに言ったのだ。

妻を今すぐ診てやってくれ、と。実際、妻もあと一歩で死ぬ間際だったのだ。その時、もう一人の医者は街にいなくてな…この街でただ一人の医者であった彼は選択を迫られた。

――どちらの命を救うか。

彼は、諦めなかった。どちらも救おうとした。しかし、結局一人、患者を死なせてしまった。その死んだ患者の母親が、発狂して……何やら意味のわからぬことを叫んで右目を押さえながら、

…恐らく人の区別すらつかなかったのだろう。一番近くで寝ていた、先程一命を取り留めたばかりの私の妻に襲いかかってきた。そして彼は私の妻を守ろうと咄嗟に……」

 

「……っ」

 

「…すまなかった。真実を、ずっと話すことが出来なくて。君のお父さんは、確かに人を殺してしまったが、私の妻を、救ってくれた。

……なのに私は、救ってくれた彼の家族を庇護することも出来ず、貴族にも逆らえずに不幸にしてしまった……」

 

「……貴方が謝ることじゃないです。確かにとても悲しかったし、辛かった。なんで私のお父さんが、っていつも思っていた。けど、分かりました。私のお父さんは、最期まで自分らしく生きたんだって。今はそれで、いいんです。」

 

「しかし……」

 

「…でも、わがままを言うと、一つだけ。お願い、聞いてくれますか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――エミヤの言ってくれた言葉は、本当だったなぁ…

 

いつの間にか去っていった一人の男を想う。

 

――全く、最後まで格好つけるんだから…

 

 

 

 

 

――ありがとう。

 




多分また遅くなるかもです。

例の台詞はアポイベの影響でシェイクスピアの本読んでたせいです。

『出来る限り』をつけたのは、全ての人は救えないと嫌でも理解していて、それでも答えを得て足掻こうとするエミヤと、頭では理解していてもその本当の意味をまだ知らない士郎の差を表現したかったのです。全く同じ台詞では違うかな、と。


感想、誤字報告、アドバイス等お待ちしてます。

都合上、基本的には返信はしませんが喜びます。


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少女達の闘い

遅くなりました。
今回は説明回その1。原作と大体同じですね。
状況説明には不可欠なので、原作とあまり変わりませんが許してください。

ではどうぞ


アルヴヘイム南西部、シルフ領首都スイルベーンは夜の帳に包まれ、店々は固く鎧戸を下ろしている。

 

――現在は現実時間午前四時。最もアクセス数の少なく、静寂に包まれた街並を眺めているのは水妖精族(ウンディーネ)の女性。

水色の長い髪を垂らし、窓を見つめるその姿は憂いを帯び、いつも透き通るように白い肌はその白味がさらに増していた。こめかみを抑え、何やら思い詰めているその姿は、まさしく疲労困憊といったところだ。

 

「大丈夫ですか、アスナさん?」

 

「二人とも、無理してたらいざというときに頭が働かないわよ」

 

気遣わしそうに訊ねるのは長い鮮やかな金髪を一つに結っている風妖精族(シルフ)の少女――リーファ。

彼女の声もまた、元気そうに聴こえるものではなかった。

 

そんな二人に忠言(アドバイス)を告げたのはアイスブルーの髪に三角の耳を伸ばした猫妖精族(ケットシー)の少女――シノン。

 

アスナは二人に目を向けると、こくりと頷いた。

 

「うん…あとでベッドを借りるわ。本当、睡眠魔法がプレイヤーにも効けばいいのに」

 

「揺り椅子で寝てるお兄ちゃんは、なかなかに眠気を誘うんですけどね…」

 

リーファの呟きにアスナとシノンは口許を力なく綻ばせる。

 

「それじゃ、改めて……結論から言うと、お兄ちゃんは所沢の防衛医大病院に運ばれた証拠が見つかりませんでした。完全面会謝絶、ユイちゃんも病院の防犯カメラに侵入してもお兄ちゃんは映っていなかった。

つまり、防衛医大病院には居ない可能性が高いです」

 

「「………」」

 

三人の間に重い沈黙がはしる。

 

 

 

 

――事の始まりはSAO…《ソードアート・オンライン》時代のとある出来事まで遡る。

 

 

仮想世界での死が現実世界での死に繋がるというデスゲームの中でも、自分たちから進んでPK…《プレイヤーキル》を行う人々がいた。《レッドプレイヤー》を名乗る彼らは一人のプレイヤー《PoH(プー)》によって組織された。そのギルド名は

 

――笑う棺桶 《ラフィン・コフィン》。

 

彼らは悪逆非道な殺戮を繰り返し、多くの人々が犠牲となった。

 

そして結成から八ヶ月後、アインクラッド攻略組による討伐部隊の手によって壊滅させられた。

 

死闘の末、ラフィン・コフィンで生き残り、牢獄に送られたのは十二人。そのなかにも、死者の中にも《PoH》の名は見つからなかった。

 

 

そして時は流れ、SAOから生還。アスナたちが須藤の手によって仮想世界に囚われた事件も、キリトやリーファを中心に多くの人々の力で解決。何とか現実世界に戻り、平和な日々を送っていたある日、GGO《ガンゲイル・オンライン》で銃で撃たれた人間が現実世界でも死亡しているという不可解な事件…《死銃(デス・ガン)》事件が発生する。

 

キリトがシノン達と協力して突きとめたその犯人は、《ラフィン・コフィン》の生き残りである《赤眼のザザ》そしてその弟。さらに彼らはもう一人、仲間がいた。それが

 

――《ジョニー・ブラック》

 

ザザのSAO時代の相棒で、《死銃》事件の犠牲者のうち二名を殺害した実行犯。しかし、ザザと弟が逮捕されたなか、彼だけは行方を眩ましていた。

 

 

――そしてほんの二日前、事件は起こった。

 

行方不明だった《ジョニー・ブラック》による襲撃を受けたのだ。結果、桐ヶ谷和人…キリトは《死銃》事件で殺害に使われた薬品――サクシニルコリンを注射され、意識不明の重体となった。

 

その場に居合わせたアスナは、すぐさま救急車を呼ぶもキリトは心停止状態に陥ってしまう。

 

――それを何も出来ずにただ見ていることしか出来ない自分が、何よりも悔しかった。

 

その後、奇跡的に心拍が戻りなんとか一命を取り留めたと聞いたアスナは、安堵のあまり失神しそうになったが次いで告げられた、脳にダメージが発生した可能性があり、最悪の場合はこのまま意識が戻らないだろうという言葉で再び不安感に襲われる。

 

直葉に連絡をとり、その日は駆けつけた直葉とキリトの母と共に一夜を過ごした。

 

その後、一旦家に帰ったアスナ。するとキリトの母から連絡があり、自宅近くの病院へ転院することになったはずなのだが……………

 

キリトはどうやら、病院に転院せず何者かによって拉致されたという。この状況でぐっすり寝ろというのは無理な話だろう。

 

「犯人は、キリト君が入院した途端その情報を入手できて、本物の救急車を自分の目的の為に出動させられる人間……そいつのことはもう敵と呼ばせてもらうけど、敵の力はかなり強大なものね」

 

「いっそ、警察に届けるのは?」

 

もっともなシノンの提案だが、アスナはかぶりを振る。

 

「データ上ではキリト君はあそこに存在する事になってる。恐らく警察は動いてくれないわ」

 

「……でも、どうすれば…というかそもそも敵は何でこんなことをしたのかな?お金……はないとして、恨みはありうるけど」

 

「いや、確かにキリト君に恨みを抱く人はいるだろうけど、こんな強大な権力を持つ人物となると……」

 

考え込むリーファとアスナ。そこに、シノンが少し自信なさげに呟く。

 

「あのさ……根拠はないけど、敵はキリトのVRMMOでの能力を求めてたんじゃない?……魂に直接アクセスできるなら、意識不明でもフルダイブは可能でしょ?」

 

「!まさか、ラースが!?」

 

「え?あの、お兄ちゃんがバイトしてたとかいうあそこですか!?」

 

二人が驚き、ラースについて考えていたところ、ユイがやって来てさらに衝撃の事実を伝える。

 

「――キリト君が、ヘリで何処かへ連れていかれた!?」

 

「はい、恐らくは日本の何処かだと考えられます」

 

「なにそれ、ラースってもしかして国とつながってたりするわけ?……キリトにもっとちゃんと聞いておくんだった。あの時は……確か、アリスが何とかって」

 

「ラースっていうのは不思議のアリスに出てくる豚だか亀だかって奴のことね。それにしてもアリスか……キリト君、聞き覚えがあるとかなんとか」

 

「もしかしたら、ラースの研究所で聞いたのかもですね。何かの頭字語かな?」

 

「あっ!それなら確かキリト君が前に……確かアーティフィシャル、レイビル…インテリジェンスみたいな…」

 

「それならば、恐らくArtificial Labile Intelligence……《高適応性人工知能》です。これが、私のようなトップダウン型でなく、ボトムアップ型を示しているとすれば、その人工知能は人間と真に同じレベルに達しうる存在のことですね。」

 

「………そんな、じゃあラースの目的は、真の人工知能を創ること?」

 

「やっぱり、国とつながってるのかな。バイトを紹介したのって総務省の菊岡さんだし…」

 

「でも、国がらみなら隠蔽されてて何も分からない…」

 

「いえ、分かるわ」

 

手段はないというリーファの言葉を遮ったのはシノン。

 

「予算よ。そんな莫大な資金、流石にちょろまかすことは出来ない筈。国会の予算を見たら、何かの名目で予算に計上されてるんじゃないかしら」

 

「えっと………該当するものは見当たりませんでしたが、一つ。海底の油田やレアメタル鉱床を探すためのAIの予算が。優先度に対して額が大きいので、検索フィルターに残ったようです。プロジェクトは《オーシャン・タートル》に置かれていますね」

 

「あ、それ知ってます。確か海に浮くピラミッドみたいな……」

 

「待って。ユイちゃん、その画像出せる?」

 

「はい」

 

そうして目の前に現れたのは、確かに黒いピラミッドのような代物。四方の角からは突起が突き出し、カメの様に見える。

するとアスナが、

 

「でもこの頭のところ、ちょっと平らに突き出してて他の動物にも見えない?」

 

「あー、そうですね。ちょっとブタにも見えますね。泳ぐカメブタだぁ」

 

と、無邪気な声でリーファが言う。直後、自分の言葉に打たれたように両目を見開く。

 

「カメでもあり……ブタでもある…」

 

三人は互いに見つめ合い、声を揃えて叫んだ。

 

「―――《ラース》!」

 




ここで切っておかないと長くなりそうなのでここまで。
次も説明回。そこではちょっとだけオリ要素もあるかと。


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