オーディナル・スケール 少し違う世界の物語 (夜桜の猫の方)
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始まりは何時だって平和なのさ

木綿委は桐ケ谷家の一員です。

最初は勝手が分からないのと、相方が無意識上から目線の奴なので
ちょっと癪に障る事が多いかと思いますが
フッと、鼻で笑って遠慮なく誤字脱字を指摘してやってください。
さて、お目汚しはこれくらいにして

では、どうぞ(ゝω・ )ノシ


唐突だけど、僕こと”ユウキ”は一世一代の勝負に直面している。

ゴクリと口の中に溜まった唾液を飲みこみ、目の前の好敵手(きょうだい)に笑みを向ける。

が、好敵手はそれを不敵な笑みで返し、左腕を頭上に掲げる。

ならば――某ヤサイ人の様に構え

 その刻を待つ

 

「行くぞ、ユウキ」

「準備はとっくに出来てるよ、キリト」

 

僕達の視線が絡まりバチバチと火花が散っているけど意識の外へ!

ただ目の前の好敵手だけへ視線を注ぐ

体は熱い、だけど心は水面の様に清んでいる

 

そして、一切音のない世界で、2人の呼吸が合わさり

 

「シッッ!」

「—――ッッ!」

 

ほとんど同時に両腕を動かして勝負に挑む!

スローになる世界、お互いしか目に入らない

決着は—――ただ一撃!!

 

「「この勝負、絶対に負けられないッ!!」」

 

 

僕達は両腕を突き出してッ!!

 

 

 

 

 

「「最初はグッ!!じゃんけんポン!!!」」

 

和人 パー 

木綿季 グー

 

「しゃぁ!!」

「負けたああーーー!!」

 

桐ケ谷家は今日も平和です。

 

 

「う~、また負けた~~」

「ハッハッハ、まだまだ修行が足りないぞ妹よ」

「うきゅぅ、かず兄が強いんだよ~~」

 

テーブルに突っ伏す僕を—―桐ケ谷木綿季を見て面白そうに笑う兄

かず兄こと桐ケ谷和人とのジャンケンから僕達の一週間は始まる

何故かって?それは

 

「次は絶対お姉ちゃんって言わせてやる!」

「俺も負けるつもりはないよ」

 

勝った方がその週の兄、または姉になるのだ

最初は遊びの一環だったけど、今じゃ僕達は本気で勝ちに行っている

なんていうか、双子の兄弟にお姉ちゃんって呼ばれると

背徳感っていうか、良い意味でゾクゾク~ってするから…

 

「お姉ちゃ~ん!元気なら朝ごはんの準備手伝ってー!」

「はーい!今行くよ!かず兄もお皿くらいは手伝ってね」

「あいよ。2人の作る朝飯、楽しみにしてるよ」

「ほんと!じゃあ張り切って作るからね!」

「張り切り過ぎないでくれよ」

 

そう言いつつも笑っているから一段と気合が入るんだよね!(そこ、苦笑とか言わない)

あ、でも月曜の朝はなるべく軽い物がいいかな

 

 

「あ、やっと来た。おはよう」

メニューを考えながら台所に来たら僕達の妹こと 直葉ちゃんが朝食をほとんど作り終えた所だった

あちゃ~、つい長引いちゃったかな

 

「おっはよー!ごめん、遅くなって。今週は僕が手伝うよ」

「おはよう。さてさて、今日の朝食は、っと

  ほほ~玉子焼きにトーストですか、直葉シェフ」

「誰かさん達が遊んでたからね~時間なくて」

「「あれは遊びじゃないんだよ」」

「真顔で言わないで。あと、やっぱり仲いいよね2人とも」

 

呆れられてる?いや、気のせいかな

と、そんな事より

 

「スグ、僕が手伝える事は残ってるかな?」

「う~ん、あ!じゃあお味噌汁をお願い」

「おっけー。パパっと作っちゃうよ」

「お兄ちゃんは、コレをテーブルに並べて」

「ああ。おお、すげー良い匂い」

「勝手に食べないでよ」

「わ、分かってるって」

「かず兄は食いしん坊だからね~。はい、出来たよ」

「木綿季も似たもんなもんだろ。てか、早いな」

「インスタントだからね。それより、早く運ぶよ!」

「はいはい、いま手伝いますよっと」

 

スグが作ってくれた朝食がテーブルに並べられていくと同時に

出来立て特有の良い匂いが胃を刺激して

 

「もう我慢できない!いっただっきまーす!」

「あ!ちょ!‥‥たく、いただきます」

「いただきます。時間ないからって慌てないでよ」

「「はーい!」」

 

 

 

「ねえ二人共、今日は帰ってくるの遅いかな?」

「ほふぃ?」

卵を乗せたパンに舌鼓してるとスグが唐突にたずねてきた

う~ん確か今日は予定はないはず

「僕は無いよ。」

「俺もだ。でも、急にどうしたんだ?」

「えっとね、実は二人に手伝って欲しい事があって」

なんだろう?スグも言いにくそうにしてるけど、可愛い妹の頼みは

最初から断る気はないよ。

そう思いつつ汁物をすすっていると

「アマノムラクモノツルギのドロップモンスターが出現して「「ゴフッ!」」うわぁ!

  ど、どうしたの二人して?」

の、喉が痛い。いや、そんなことより

 

「本当なの!?その情報ってどこ発信!個人サイトなの、公式なの!」

「お、落ち着いて。ちゃんと公式の情報だから、ほら。」

 

スグがタブレットを渡してくれて和人と一緒に覗き込む

そこはあるゲームの公式サイトの今日の朝に更新されたリアル定期イベントが表示されていて

 

「えっと、埼玉は……あった!しかも結構近いよ」

「本当だ。しかも、時間も学校帰りで丁度いいな。」

 

確かに、一度やってみたかったんだよね。学校帰りに一狩行こうぜ!!って

 

「それで、どうかな?二人にも来て欲しいんだけど……」

 

そんなの、答えは決まっている

 

「勿論だよ!絶対行くからね!」

「ああ。こんな面白いことを見逃す方が無理ってもんさ」

「ありがとう二人とも!じゃあ、待ち合わせ場所は現地の駅前集合って事で」

「了解。にしても、遂に最上級武器のドロップモンスターが出てきたか」

「やっぱり強いのが来るかな?」

 

どんなモンスターがくるんだろ。う~ん!今からでもワクワクが止まらないよ!

そうと決まったら朝ごはんを美味しく食べ

 

「あの、いい気分で水を刺すようで悪いけど…時間大丈夫?」

「「え…………あ」」

 

時計は無情にも8時を回りました

---------------------------------------------------

 

「つ、疲れた~~。」

「大丈夫?木綿季」

グデーと机に突っ伏す僕を見て、笑いながらも心配してくれる友人に返そうとしたけど

今は休ませてほしい

 

「明日奈、肩揉んでほしいなーなんて」

「もう。明日はちゃんと時間作りなさい。」

「は~い。さすがに明日からは……うん。」

 

僕はかず兄より起きるのが遅いからな~

スグに頼むのも…う~~ん、背に腹は変えられないか

 

「ほんとに起きられるの木綿季?」

「あ、あははは……」

 

明日奈の半目からスススと視線を合わせないでいると

 

「もう。それより、行くんでしょリアルイベント」

「え?」

 

あれ、明日奈って今日は稽古の予定があったと思うけど

それにリアルイベントって………

 

「察しが悪いなー。オーディナルスケールのリアルイベントだよ。」

「え!?明日奈も来れるの!?」

「う、うん。理由は分からないけど急にお休みになっちゃって。

  だから放課後に時間ができてぇ!?」

「そうと決まれば直ぐ行こう今すぐ行こう!」

「ま、まって。引っ張らないでってばーーー!」

 

さあ、いざ決戦の舞台へ!ちょっと時間ないし駅まで遠いけど

ま、なんとかなるさ

あ、かず兄とは駅前集合だよ。

 

ちなみに、この光景を見ていた生徒達は

「明日奈さんが地面と水平に翔んでる」

 

―――――――――――――――――――――

 

 

駅前には今日も人が多い。

学校や会社帰りの人 市内とは違う新天地に行く人 ただ集まっている人

どの人間も活気に満ちていて、見ていて面白い事この上無い

 

「……はぁ」

 

いや、訂正――ほんの少しだけつまらないや

 

「いたいた!おーい、かず兄ー!」

「ゆ、ゆう、き。ちょっと、休ませ、て……」

 

突然聞こえた元気な声に視線を向けると、同じ学校の制服を着た少女達が

ずっとベンチに腰かけて空に指を走らせていた青年(?)に駆け寄っていた

回りの視線を集めているとは知らずに

 

(あの人、男性だったんだ)

「ごめん、待った?」

 

一番視線を集めている、活発な背の低い女の子が申し訳なさそうに言うけど

青年は気にしてないと笑みを返していた

 

「ところで………アスナは大丈夫か?」

「だ、大丈夫だよ、キリト君」

 

盛大に肩で息をしているけど精一杯の笑顔で返している女性は

同性でもみとれてしまう美貌が台無し………いや、ロングの髪から見え隠れするうなじが

とても、困惑的です。視線を集めている原因の一端は彼女かもしれない

 

「このあとのレイド戦の体力は残って無さそうに見えるけど」

「で、電車で少しは休めるから。」

「ごめんねアスナ。僕、ついアスナが一緒に来てくれるのが嬉しくって。」

「俺もユウキと同じだけど、まだ時間はあるから。ゆっくり現地へ行こう。」

「……うん、ありがとう。」

 

(レイド戦?時間はある?何かのイベントかな?)

 

正直、興味は大いに擽られている。

彼らの後を追えば面白いものが見れる可能性が高い

思考から浮上して三人を見つめる

ユウキという女の子の頭をキリトという青年が撫でている

ユウキは気持ち良さそうに糸目になっていて、アスナという女性は羨ましそうに見つめている。

お花畑全快のあの光景は、もしかして…………

 

「キリトって人、二股なの?」

 

あ、つい声が。ん?キリトが回りを見渡してる?

 

「どうしたの、かず兄?」

「いや、ちょっと寒気と視線が。」

「大丈夫キリト君?汗かいてるけど」

「だ、大丈夫だって。それよりアスナが良いなら移動しようか。」

「うん。私はもう平気だよ。ありがとね、キリト君。」

 

ああ、三人が行ってしまった。

と、ようやく、回りにいる人達が同じような話をしているのに気付く。

 

「OSのリアルイベントってどこで行われるんだ?」

「確か指扇で下りて、大通りを行った先の公園だったはず。」

「オーディナルスケール。確かオーグマーのゲームだよな?」

「そうそう。なんでもすっごい人気らしくて――」

 

ふむり。オーディナルスケールか………

鞄から水色の片眼鏡のような物を取りだして首回りに装着する

 

「オーグマー、起動」

 

抑揚のない声が空気に溶けた瞬間、眼前に半透明のホログラムパネルが何枚も浮かび上がる。

今日の天気やニュース、駅の時刻表から近くのデパートのタイムセールまで

あまりの情報量に若干吐き気がするも、気を取り直してWeb検索の画面を表示する

空に浮き上がったキーボードに指を走らせ、目的のページを検索っと

それにしても、なぜ私のオーグマーは首周りにつけるタイプなのだろうか?

他の人達は特殊部隊よろしく耳に付けているのに

と今更かなとも言える疑問を頭の片隅に追いやり、表示された公式HPを穴が開くほど凝視する

 

「ARMMO RPG OS(オーディナルスケール)

 

その場所に、このゲームに

私の、少しだけ下らない世界が変わるかもしれない

そんな小さな言葉が脳裏に浮かび、私は無意識に笑みを浮かべていた

 

 

『オーディナルスケールをインストールしますか?』

  →Yes

 




ま、まあこの段階では平和な日常を書いていって
本格的にタイトル通りになるのはもう少し後かな‥‥
あ、まって、待ってください!プレミアちゃんとかユージオ君とか出演決定してますから
もう少しだけ、お待ちください!(親父風)

え、えっと…兎に角、舞台はVR世界じゃなくAR世界なのですが
あれ?と思ったりそれは違うよと論破する前に一言だけ申し上げたいのです!


”ご都合主義は最高だぜ!”

あ、最後に出てきた女の子は次回に簡潔に明らかになります
まあ、そんな少女がいたんだな~くらいでお願いします。
ではまた(ゝω・ )ノシ


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レイド戦≪森の狩人≫

謎の女の子、一体ダリナンダソレハ。



公園には小さな子供から余生を過ごすお年寄りまで沢山の人達が集まる場だが

今日この日に限っては、社蓄絶頂期の10台後半~30才半ばの人まで

いわゆる、プレイヤー達が今か今かとその時を待ちわびていた

まあ、あわよくばイベント戦で活躍して麗しい女性とお近づきに~なんて考えがちらついたりするが

悲しきかな。アニメや小説のように美女美少女が来るなど皆無―――

 

「一番乗り!うわー今日も人がいっぱい来てるね。」

 

来た。活気に満ちたソプラノ声が辺りに響く。

その持ち主は視線が集まっている事に気付く事なく後ろに声を掛けた

 

「おーい!皆速くー。もうすぐ時間来ちゃうよ!」

 

も、もうそんな時間かと視線を外した彼らが

視線を戻した時に息を飲んだり、喉を鳴らしたりしてしまうのは

仕方ない…………と、思う。

 

 

「今日は一段と張り切ってるな。」

「そりゃそうよ。何せ最上級武器が参加しただけで獲得出来るのよ。

  ゲーマーとしては、垂涎もののイベントじゃなかったの?」

 

駅前でスグと合流し、何故か一緒に居た詩乃もイベントに参加するらしく

共に行く事になった。最初は和人を半目で見ていたが、彼が気付く前に明日奈がシノのんと言ってじゃれ合って(?)いるので有耶無耶になってしまった。その後スゴイ目で睨まれたけどさ‥‥

 

「そりゃそうだけどさ、詩乃。何て言うか、やる気の種類が違う?」

「あー。」

それだけで詩乃は察したように視線の中心地へ目を向ける。

「男ってほんとに単純ね。」

「なんの事だ?」

「何でもない。それより、今日は真っ黒黒助さんと言えど

  LAを取るのは、難しいんじゃない?」

 

詩乃が挑戦的に笑みを浮かべ、右手を銃の形にして眉間に合わせる

 

「もしヘマしたら最後は貰うからね。」

「……ああ、楽しみにしてる。」

 

あそこだけ雰囲気が違うと、回りが恐々とする中に飛び込む

小さな影が

 

「かず兄!「ゴフッツ!?」何話してるの?」

「あの、木綿季さん。始まる前からHPを減らすのは辞めてください。」

 

あ、違う突進攻撃(ショルダータックル)だった

ちなみに、明日奈サ=ンの笑顔が3割増しになったのは言うまでもない

なるほど、これが修羅場か。と、回りが静かになったからかもしれない

「君たち、結構面白いね」

そんな小さな声が木綿季に聞こえたのは

え?と、視線を向けると

艶やかな黒髪を風になびかせる『キリト』がいて――

 

「……キリト?」

「ん?木綿季、呼んだか?」

 

和人が後ろから声を掛けて来てちょっと飛び上がったが

何でもないと誤魔化していると

 

ゴーンゴーンと、大鐘の雄大な声が辺りに木霊する。

来た!と、全ての戦士達が戦闘体制に入る

そう、それはたった一言の『魔法の言葉』

 

「「「「「オーディナルスケール、起動!!」」」」」

 

 

 

「ふーん、大きな狼さん」

ソレを見た第一印象がそれ位に軽い物だったけれど、彼等はそうでもないらしい。

確かに背丈は2メートル近くあり、その近くに緑色のバー?が3本あるけど

 

「ヤツの爪は防御特化でもダメージが大きいぞ!気を付けろ!」

 

突如として広場に現れた巨狼に、果敢にも飛び込んでいった人たちから悲鳴が上がる

彼等が振るう槌や剣を物ともせずに白爪を振るい

 

「わりぃ!やられた。リスポーンは30秒かかる!」

「だああ、こっちもだ」

 

その場の人間達の悉くを凌駕する攻撃力、なにより速い

観戦者である私の視線すら振りきって肉薄、強襲。たったこれだけで終わりだった

地方のレイド戦だし~などと、ゲーム感覚で戦っていった人たちが殲滅される

その狼の名は≪The Forest hunter≫森の狩人の二つ名を持つ巨狼

OS内では中型に分類されるが、その素早さだけは他の追随を許さない

反面、耐久は低いのかゲージの1本目が無くなりかけているが、当たらなければどうという事は無いを体現したかのように速い。

並みのプレイヤーは回避すら間々ならずに白爪の餌食になる。

 

「‥‥ちょっと期待外れだったかな?」

「いや、そうとは限らないよ。」

 

独り言に真面目に返されて後ろを振り向けば、長身瘦躯のなぜか白衣を着た男性と

「…‥‥」

ジッと眼下の戦いに目を向ける焦げ茶色のポンチョを被った人

ただ、身長はかなり小さく私の首元辺りくらいまで‥‥145いくかな?

そんな事よりも

 

「そうとは限らない、とは?」

「その言葉通り、と言っておこう。」

 

まったく質問に答えてませんね。私は頭の出来が悪いので意味は解りませんが

まあ―――

「はああああッ!」

“言いたい事”程度は解りますよ

 

「ヤツの攻撃はパリィで弾く。その間に横から攻撃してくれ!」

 

全身黒ずくめ、コートからズボン、果ては持っている剣すら黒で統一された格好をした青年が声を飛ばす。

その間にも巨狼は鋭利な爪を空間ごと薙ぐが

「フッ!!」

青年の手が煙る様に閃き激しい火花が生じる‥‥全部弾いたんだ

そこで初めて≪森の狩人≫が後退した。プログラムにないはずの本能が告げたのか

視線は黒い剣士に注がれている。

だが、青年はニヤリと口端を上げ

 

「今だシノン!」

 

青年が誰かの名を叫んだ刹那、暴力的な音と共に巨狼の顔が爆発する

苦悶の慟哭を叫ぶのに交わる銃声音。音の発生源に目を向けると

水色の髪をした女性が自身の身長は有りそうな狙撃銃を構えていた。

その眼光は獲物を狩るそれの様に満ち足りていて、見ているだけで背筋が凍りつく

彼女の相棒冥界の女神(ヘカートⅡ)が再び咆哮を上げるがステップで躱される

彼女は舌打ちも一つにすぐさま場所を変える。もっと適した狙撃場所へ

「ウガゥゥ!!」

だが、神速に等しい速度を持って巨狼はシノンを狙いつける。己の命を大幅に削った人間を最優先の排除項目として認識する。そのまま頭上を飛び越えシノンの眼前に躍り出ると

 

『ゥヲWおオオオオオOoooオオオ―――――

鼓膜が破けかねない程の不協和音を辺りに響かせる。最も離れている人すら耳を覆い

中には足元をふらつかせる者まで出て来る

勿論、シノンはそれ以上。直接脳を揺さぶられる感覚と余りの大音響に耳を塞いで膝を着く

その致命的な隙を逃すはずもなく頭を噛み千切ろうと獰猛な口を開いた

直後――

 

「「はあぁ!!」」

シノンの頭上を黒と紫の線が走り、盛大な火花を産むと同時に巨狼程の巨体をを弾き上げる

 

「アスナ、スイッチッ!」

「一発強いのを頼んだよ!」

 

黒の剣士が声を上げ紫紺の少女が好戦的に笑う。その間を栗色の鮮やかな影が走る

いや、それだけじゃない。彼女の持つ細剣が夕日の如くオレンジに輝いて

 

「はああああ!!」

 

彼女の剣が流星の様にオレンジの尾を引いて打ち出され巨狼の喉元に突き刺さる

そして激しい音と共に比喩抜きで吹き飛ばした。巨狼は土煙を上げながら壁に激突し

HPバーの2本目を消失させたばかりか3本目を2割近く減らしている

 

「シノン、大丈夫!?」

 

アスナがいまだに片耳を抑えて苦しそうにしているシノンに向き直る

 

「ありがとうアスナ。でも御免なさい、今は耳鳴りが酷くて上手く聞こえないの」

 

シノンがよろよろと立ち上がり慌ててキリトが支えようとするが

 

「私より、ヤツを向いてみなさい。きっと驚くから」

 

そう言って巨狼の方に指を指す。彼らが釣られるように視線を向け

全員が言葉を失った。そこには巨狼を囲むようにHPゲージを2本持った

取り巻きが7体も出現していたからだ。いずれも臨戦態勢に入っている

 

「ここに来て増援か‥‥マズイな、もう皆は疲弊し始めている」

 

銃撃をメインにしている者なら余裕が見られるが、近接戦闘を主体にしているプレイヤーは疲れを見え隠れし始めている。このままでは実質的に無尽蔵のスタミナを持つ敵の方が有利だが―――戦意は衰えていない。むしろさらに上がっている。が、それは焦りから来るものだとキリトは見抜いていた

 

「取り巻きがあれだけとは限らないか……ならば……」

 

ユウキに目配せし彼女が向日葵のように笑顔を浮かべてくれた

それだけで、現金だが“負ける気がしない!”

彼は後ろに振り向き、スゥと息を吸い込み

 

「皆聞いてくれ!あの鳥巻きは最低限の人数で抑え込みボスを叩く!

  取り巻きがこれ以上増える可能性がある以上、早期決着を目指す

  こちらが守備に回る前に、攻勢に打って出る。先陣は……俺達が切り開く!」

 

巨狼に体ごと向き直り漆黒の剣を突き付ける。次で仕留める、そう言外に告げる様に

その横にユウキが立ち並ぶ

 

「急に声を上げたからビックリしちゃったけどカッコ良かったよ、キリト」

「ならせめてニヤニヤ顔を止めてくれ」

 

2人は場違いのようにイチャイチャしてるが

 

「ようし、行くよキリト!」

「ああ、行くぞ皆!!」

 

ほぼ同時に二人が駆けだし、その後を追うように他の者も追随する

巨狼の群れは先陣の二人に雪崩の如く襲い掛かる。

が、狼の群れに飛び込む直前に2人の剣が輝きを放つ。

ユウキの剣は空の様な水色、キリトの剣は薔薇の様な深紅に

そして彼らに狼が飛び掛かると同時に剣が一際強く輝き

 

「はああああ!!」

「ぜぇりゃああ!」

 

片手剣SS(ソードスキル)『デッドリーシンズ』と『ノヴァ・アセンション』

青と赤の剣の暴風が襲い掛かる狼の悉くを吹き飛ばしボスへと駆け抜ける

吹き飛ばされた取り巻きが追い掛けようとするも後続が許さない

 

「取り巻きのモンスターは盾持ちの皆さんが攻撃を弾いてください!

 攻撃隊の皆さんはその隙にソードスキルを、銃持ちの人は顔を撃ってください!

 そこが弱点です!」

 

アスナが声を張り上げ実際に狼の一体をポリゴンへと変える

それに焚き付けられたかの様に他の者達も雄叫びを上げてSSを振るう

次々と取り巻きを打倒していく中、2人と巨狼の戦いも佳境に入っていた

もはや避ける事もなく狂う様に白爪や巨牙で空間ごと薙ぎ払う

が、キリトが黒剣を振るいそれらを全て叩き落しユウキがソードスキルを矢継ぎ早に繰り出す。

余りに息の合った連携に他の者達が息を飲む中、巨狼が乾坤一擲の突進攻撃を放つ

普通のプレイヤー達ならばなす術も無く吹き飛ばされていたが

この二人は『絶剣』と『黒の剣士』である

ユウキとキリトの剣が紅の閃光を放ち左右対称(シンメトリー)の様に構える

弓の如く腕を限界まで引き絞り力を溜め、同時に解き放つ

 

「「≪ヴォーパルストライクッ!!≫」」

 

ジェットエンジンの様な咆哮が剣から放たれズドンッと激しい音と共に巨狼の肩に突き刺さる。その威力は巨狼の体を突き破り風穴を開けるほどだった

そして、その風穴から亀裂が走り森の狩人を覆っていく。それが全体にいきわたった瞬間

ガラスが砕け散る音と共に霧散し青色のポリゴン片と変わる

しばし放心していた二人だがピコンという軽い音とともに視線を上げれば

 

   『Congratulations』

 

直後、爆発するようにプレイヤー達が歓声を上げた

 

 

 

「………勝っちゃった」

「どうだい、中々に面白かっただろう?」

「ええ。想像以上です」

 

今も、イベント戦の勝利にお祭り騒ぎのプレイヤーと観戦している人達の惜しげもない拍手がこの場を包み込んでいる。正直言えば私も熱気に当てられたのか拍手を送っていた。

うん。これは想像以上に……

 

「アキヒコさん!」

 

む?今のは誰の声?と視線を向けると、焦げ茶色のポンチョを来た人が興奮した様子で

この人に話しかけていますね。会話は細々としか聞こえませんが

 

「本当に……かい?……彼が()()()()()()と、そう感じたのか?」

「感じた、ではなく確信しました。」

「そうか。では、プレミヤは彼と共に行くと良い。」

「はい。ありがとうございます、アキヒコさん」

 

ふむ。思わず盗み聞きしてしまいましたが

(結論から言うと深く突っ込みを入れない方がいいですね)

そうと決まればすぐに帰りましょう。もうお腹いっぱいですし

触らぬ神に祟りなしともバッチャが言ってましたし。

 

「おや、君は彼らの所に行かなくていいのかい?」

 

思いっきり触ってきましたね。

 

「私は見るだけで十分ですから。それに、彼女達とは知り合いでもありませんし」

 

そう言うとアキヒコという人は驚いた顔を向けた。一体何をそんなに驚いているのだろうか?

う~~ん……あ、多分さっきの真っ黒黒助の人との事でしょう

 

「そうか。いや、気に障ったなら謝罪しよう。なにせ、先程の黒い剣士君と

  ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……そーですか」

 

失礼と思いつつも生半可な返事しか出来ない。いや、私から見ても似ていますからね。

そこ、私が男顔だろとか思ったヤツ来なさい。死神チョップ叩き込みますから

 

「似ている、か」

 

頬杖をついて先程の少女達と話している青年をジッと見つめる

普通なら他の男性が嫉妬の眼差しを向ける所だが、逆に暖かい目で見たり

さっきの激励は良かったぞとか、アンタ強いな、なんて言われて称賛されたりしている

あまり褒め慣れてないのか頬を赤く染めて俯いている

片手で顔を覆っているけれど、こちらからは丸見えだ。でも、どこか嬉しそうな表情に

思わず可愛い人と思ってしまうのは悪く無いっと、思わず微笑んでいたではないですか

あ、あれ?サラリと肩から零れる黒髪を手で掬った時に気付きましたが

 

「何時の間にか姿が見えませんね、あの二人」

 

まあ言い方は悪いですけど、厄介事の種が私に来なかっただけマシと考えましょう

だって、あのプレミアという子―――心臓の音が聞えませんでしたし

 

「ま、今となってはどうでも良いですけどね」

 

もう一度彼らに目を向けると、キリトと言う青年が首を傾げて何かを見ているようですが

あれは……白い箱?大きさは手の中に収まる位の小さな箱ですね。

あ、ユウキさんかな。彼女に連れて行かれてしまいました。どうやら帰路に着くようですね

よく考えたらもう夕方を過ぎてしまいますね。

 

「あ、今晩のご飯を買い忘れました。」

 

今からでも間に合うかな?何となくですが狼肉が食べたいですね

―――別に、あの大きな狼が美味しそうに見えていた訳ではありませんよ。

ええ、そんな筈がありません。私に誓ってありませんとも

 

 

 

 

安い誓だなーと思ったのは内緒です。

 

 

 

「ねえかず兄、さっきから見ているソレなに?」

「いや、俺にも良く分からないんだ。ただ、貰った人が人だから」

「それってお兄ちゃんの友達から貰ったの?」

「いや、初対面だけど「「「「え!?」」」」何だよ、皆して……」

 

妙な沈黙が下り、皆の視線が段々と痛くなって

 

「キリト君、知らない人から貰ったって大丈夫なの?」

「えっと、それは俺の事?それともこの箱の事?」

「どっちもに決まってるでしょ!」「うグ!」

「犬じゃないんだから、変な物貰わないの」「あの、シノンさーん。その言い方は」

「おにーちゃん」「迷惑は掛けないよ……たぶん」

「…………」「せめて何か言ってくれ!?」

「あ、うん、ごめん」

「解った話す、話しますから!!」

 

地味にユウキのなにも言わないのが一番キツイ。あと、謝られるのも

 

「これは茅場晶彦って人から貰ったんだよ」

 

「茅場晶彦?それって天才ゲームデザイナーって呼ばれている、あの茅場?」

「知ってるの、シノン?」

「私もそこまで詳しくないけど、確か何か大きなARゲームを開発した人みたい」

「シノンの言っている事は間違ってないよ。そんで、造ったゲームってのはコレだな」

 

そう言ってオーグマーをトントンと軽く叩く。皆は首を傾げていたが

やがて明日奈が驚きに満ちた声を上げる。

 

「あ!もしかしてオーディナル・スケールの事!?」

「正解。正確にはその一端を担ったって話だぜ。

なんでも、あるVRゲーム開発していたらしいけど途中で打ち止めになったらしい。」

 

理由は俺にも解らないけどなと続けて手元の箱を眺める

茅場さんがあの場に居た事は驚きだがそれ以上に困惑していると言ってもいい。

 

『もしも、君が現実世界だけではなく仮想世界すら()()()()()()()と思っているなら

  君に頼みたい事がある。』

『……は、はあ。』

 

あの時は思わず受け取ってしまったが、改めて受け取った箱を眺める

立方体の形をしており、大きさは片手で持てるほど小さい。あと、汚れ一つない純白ってとこかな。あ、もう一つあった―――まるで、命が宿っているみたいだ。

 

「気のせいか。兎に角、中身は帰ってからだな」

 

その後、他愛ない話をしてそれぞれの自宅へ帰路についた。

ふと、空を見上げれば途切れ途切れの雲から星空が見えていて思わず立ち止まってしまった。

 

「おにーちゃん、置いてくよー」

「かず兄、どうしたのー」

「何でもない!今行くよ」




茅場と話していたキリト似の子はGGOのキリコさんと同じ容姿をしています。
性格は旅する灰の魔女さんを意識しています。別段チートキャラでもありません。
ええ、ちょっと人の心臓の音が聞えたり、他にも色々と出来たりしますが
至って普通の女子高生です。ホントデスヨ

次回ー>「初めまして」やら「こんにちは世界」やら
やっとタイトル回収できる……はず。


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堕ちた少女と巫女の記憶

どうしてこうなった。
あと、ちょっとだけ注意して読んでください。
相方の得意分野がこれでもかと入っているので。


髪は黒色。腰ほどまで伸びていてバルコニーに流れる陽気な風が緩やかに靡かせていました。瞳の色も黒。それもただの黒ではなくオニキスの様に美しい漆黒でした

ただし、顔立ちと身長は十代半ばと言って良いでしょう。

しかし、夜が明ける朝日と雄大なビル群が立ち伸びる都心を眺めるその少女は優雅と言えるでしょう。寝間着の黒のパーカーから伸びる雪の様に白い脚線が朝日を浴びて美しく扇情的に見えました。

はい、私です。 ………ごめんなさい。一度やってみたかったんです

近くのテーブルに置いたカップを取り、瑞々しい桜色の唇に合わせコーヒー

ではなくホットココアを飲み干します。

 

「…ほ。朝はこれに限りますね~」

 

都市を照らす太陽の光は眩しいけど嫌でない。むしろ、暖かな日差しが冷め切った体を撫でる感覚が癖になっていると言いますか

あ、どうでも良いですかそうですか。ふむり、()()()()()()()が新鮮過ぎて眠るに寝付けなかったですが今は許しましょう。それほどまでに私にとっては衝撃でした。

同じテーブルに置いていたオーディナル・スケール専用のスティック型コントローラーを取ってまじまじと見つめます。昨日はコレで素振りをしていたから中々寝付けなかったのかな?

 

「らしく、ありませんね。」

 

そう言いつつ頬が緩むのは止まりません。止める気もありません

さ、早いですが朝食でも食べて昨日の続きとゆきましょう。

そう意気込んで台所へ向う途中、ピンポーンと来客が来た事をベルが知らせます。

誰でしょう?一戸建ての住宅なので大家さんでもありませんし回覧板は昨日回しましたし。はーいと玄関を開けます。

そこに立っていたのは若い男性でした。

社会人なのか紺のスーツを身に纏い()()()()をかけていました。

それ以外はコレと言って特徴はありません。

 

「あの、どちら様です………………」

 

私が言葉を区切ったのは目の前の男が何か粗相をしたからではありません。

その手首を見たからです。ついでに言えば先ほどの陽気な感情も霧散していました

 

 

 

――――本当、サイアク。

 

 

「何の用ですか、赤眼のXaXa(アカメのザザ)

「貰いに、来た」

 

空気すら凍死するほどの視線と声と態度で出て行けと言外に告げたが効き目なし。

おまけに()()()()()

 

「………何を所望で?」

「永遠の、絶望と、再生」

「数は」

「3本で、いい」

「……40万と3071円、現金以外お断り」

 

心すら無表情になり値段だけ突き付けるとザザ(コレ)は膨らんだ茶封筒を無言で渡す

中身を確認することも無く無造作に掴み、台所に向かう。袋をベッドに放り投げ

ちょっと古びた白い冷蔵庫を開ける。凍らしていた()()()()()()()()()()()()()を取出し、それを床に叩きつけたい衝動が沸き上がるがクロムの仮面で潰す。

―――ほんと、嫌になる(殺したくなる)

 

「………」

「………」

 

会話なんてない、したくない。早く消えろとだけ込めて物を渡してドアを閉めようとする

だが、その直前

 

「お前の、面白い物(全て)は、等しく潰える。それは、現実でも、例外ではない」

 

ドアを閉める手を止め、射殺す視線でどういう意味だと問う。

しかし、ザザは耳に残る卑屈笑いだけ残して去ってしまった。

問い詰める気は………………ない

 

「…………ッチ」

 

舌打ち一つを盛大に打っても気分なんて晴れない。当然、食事する気も起きない

シャワーでも浴びて流してしまおう。この気分も空腹も、殺意と嫌悪感さえも

脱衣所で衣服を乱暴に脱ぎ、ある物を取ってシャワー室へ入る。

そのまま冷水を頭から被り、無心になって水を浴び続ける。

それでも、このドス黒い感情は止まらない流される事なく濁流の様に溢れ出す

 

「ッ!!」

 

とうとう抑えきれなくなって、持ち込んでいたナイフを鏡に突き刺す。

バリと罅割れた鏡は一片も零れることなく堕ちた少女を映している

体を穢された事など一度もない純潔な白い体。

だが、少女が平穏に生きる事を、この黒い感情と今にも吐きそうな表情。

そして、ザザの手首にあるモノと同じエンブレムが許さない。

10年前に焼き付けられた刻印――笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の焼印

それが二つ。左胸のやや右とお腹の下辺り。つまり、()()()()()に当たる部分

これが意味する事は

 

少女()の生涯は血と骸に埋まれ、少女()の産む子供は殺人鬼の人形と化す』

 

何度も刃で切りつけた、何度も消えてと突き刺した

でも、消えない。消える事ない呪い。私が行った切り傷(反逆)は善の人達によって消えた。そして、ヤツラは求めた。人を殺せるモノを、(道具)を―――

 

「なに言ってんだか。この心は……私も同じでしょうに。」

 

悲劇のヒロイン(し▼うじ■)演じて(生きて)楽しいですか?

ねえ、嗤ってみなよ、(●つ■んき)

 

 

なんだ、笑える(嗤える)じゃん。てか風邪ひきますね。早く上がりましょう。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

夜が明けてから数刻、時計の針がどちらも真下を過ぎた頃

自他共に認めるパソコンオタクこと俺――桐ケ谷和人がデスクトップパソコンを眺めていた。勿論PC用メガネはしているとも。最近目が悪くなってきたし

 

「バックシークエンス83%。プログラムインストール98%。

  データ保存シークエンス99っと、100%になった。」

 

で、俺は今何しているかと言いますと、茅場さんから貰った謎の箱の解析中。

どうやらUSBケーブルでパソコンに繋げられたのでインストール中というわけだ。

ちなみに木綿季と直葉はまだ寝ている。昨日のイベント戦(恥ずかしいから詳細は言わない)

の疲れもあるだろうに、その日の夜は珍しくご馳走にフルコースと3人だけでパーティーを開いたんだ。

二人とも疲れているのに腕を振るって用意してくれた料理は最高で、思わず涙ぐんでしまった。

まあ、イベント戦の発破の事も散々言われたが……

木綿季と直葉が格好良かったよって言ってくれたのが救い。

でももう許して。和人のライフはもう0よ!

その後、疲れて眠ってしまった妹二人は寄り添うようにソファーで眠ってしまい

2人に毛布を掛けてから後片付けを終え、さて眠っている二人でも撮影してやろうと

魔が差した。そのおかげで二人から『すきだよ……和人(お兄ちゃん)

と言われたのでこれは明日の朝にネタになるなと思ったしだいです。

その時の顔はこれ以上にない程に真っ赤だったけど(俺が)

本当にいい妹達に恵まれたよなーと思いつつ部屋置きのコーヒーメーカーで一杯を注ぐ

他の所とは比較にならんとか、妹達とイチャ付きやがってこのラノベ主人公とか

友人たちの言っていたのはこの事だったらしい。今度、何かしてやろう。

…………彼女作りとか?絶対、拳が飛んでくるな。

そう思いつつコーヒーを飲んでいるとPCから音が鳴る。

どうやらシークエンスが全て終わったらしい。

てことで起動ッと

 

「さて、蛇が出るか鬼が出るか。今からたの「蛇でも鬼でもありません」

  へ?」

 

声を遮る様に俺以外の声。少女の様に高いソプラノの声が聞こえ部屋の中を見渡す

だが、俺以外誰もいない。言ってしまえば木綿季と直葉の声でもない。

じゃあ誰が?と疑問に思っていると

 

「こっちです。貴方の目の前です。」

「うわぁ!ま、またって、目の前?」

 

目の前にはPCしか……いや、画面中央にいつの間にか()()()()

ショートヘヤーでお下げの髪型をした10歳と言っても良い程の女の子

来ている服は巫女を彷彿させるかの様な蒼いワンピース。

そして、腰に下げた細剣(レイピア)。画面の中であっても銀の輝きを放つそれは

少女に、以外にも様になっていた。

うん、言葉は冷静だけど中味は?マーク一杯てねハハ!

…………もう、どーにでもなれ

 

「えっと、君は?」

『初めまして。私は“プレミア”といいます。』

「プレミアさんね。俺は和人、桐ケ谷和人だ。よろしく?」

『はい、よろしくお願いします。』

 

うん。コミュニケーションは大事なのだよ諸君。(元ボッチ)が何言ってんだっての

ふと疑問に思ったのだが、彼女はAI?それとも茅場さんと一緒に働いている人?

そんな事を考えていたらプレミアさんが画面近くに寄って来た。

 

『あの、オーグマーを起動してくれますか?』

「へ?どうして急に」

『実際に目と目を合わして話した方が腹を割って話せると、アキヒコさんから聞きました』

 

アキヒコさんって。でも、今も実際に目と目を合わしているような

あ、その上目づかいに俺は弱いんだって。主に妹達のせいで

 

「わかったよ。オーグマー、起動!」

 

俺の音声からオーグマーが起動する。途端に意識が()()()()()()感覚に襲われるが

なんとか押さえつける。数秒もしない内に視界内に大小様々なホログラムが浮かび上がる。

さて、これで良いかなと画面の少女に向き直ると、彼女は一つ頷いて

 

『プログラム(リアル)、顕現開始!コード、『プレミア』!!』

 

一際高い声で呪文の様に何かを唱えた直後、画面が白い閃光で覆われる

余りに眩しく目を背けると()()()()()()()が側を通り抜けていく

それは部屋の中央に集まり段々と集合していく。

 

「これは、一体……」

 

幻想的とも取れる光景に唖然となる和人。そんなものお構いなしに集合は続く

やがて、ふわりと宙に上がり、青が眩い白へと変わっていく

眩い光は目を貫いて痛みすら感じるがそれでも見続けていると

中央に、人のようなシルエットが…………

和人がそれを凝視しようと目を凝らした瞬間、今まで以上に光が強く輝き思わず腕で遮る

しばらくして腕を取ると、先程の所に()()()()()()()()()()()()がいて

白い破片を散らしながら落下し始めていて

 

「危ない!」

 

咄嗟に飛び込みなんとか受け止める。急な運動を行ったからか足が痛むけど

それよりも驚愕が大きかった。

この少女の()()()()()を感じる、と。

この暖かさは、重さは真実だと()()が告げていた。それこそ、木綿季や直葉と何ら変わらない現実の物だと。だが、彼女の巫女服の様な格好は変わってない。

なにより腰に下げた剣帯が、そこに収まっている細剣(レイピア)が非現実だと訴えている。そして、今も不安定な()()()が走る手足。

和人の脳のキャパシティーが限界を迎え始めた

 

「君は、一体……それに、さっきのはなんなんだ?」

 

プロジェクト(リアル)彼女はそう言った。そして、今

此処から導き出す答は――――まさか………

 

「君は、AI、なの「やっと、やっと会えました。()()()()()

 

和人の胸に顔を埋め、声を湿らせながら言う()()

いや、実際に声を殺して泣いている。

………これじゃあ、さっきの質問は聞けないな。

そう思いつつ慰める様に頭に手を置いた瞬間

『逃げろッ!!プレミア!!』

脳内を埋めつくす光景(ソレ)と声に絶句する。顔は良く見えないが

黒いロングコートに青と黒の二刀を振るう青年(誰か)

青年が対峙するのは闇に覆われた巨大な何か(絶望を纏う災禍の化身)

彼は()()()()()で咆哮を上げソレに立ち向かっていた。

そして、それから目を背ける様にノイズが走った瞬間、場面が切り替わる。

紅い。紅い黄昏空は終焉を告げる様に酷く不気味で

背けていた視線を戻すと、目につくのは地面に突き刺さった青と黒の剣(墓標)

それにフラフラとした足取りで近づき、目前で崩れ落ちる()()()()()()()()()()

その隣には寄り添うように銀の細剣が、鍛冶屋の槌が、水色の羽をかぶせる短剣が

風と炎を纏う二振りの刀が、巨大な斧と大剣が、冷たい狙撃銃が、紫紺の両刃剣が

金を施した短剣が、音符を施した槍と二振りの剣と蒼い大剣が、黒い巨剣に寄り添う細剣が

青い巫女服を着た少女(プレミア)の目の前で輝きを失っていた(死んでいた)

 

「あ、ああ、●▼ト、ア■ナ、▲ズ、●リカ、リ―▲、■ライ▼

  エ▼●、スト●ア、▲ノ■、ユ■キ、▼リア、セブ■、●▼ン

  スメ▲ギ、ジェ●シ▲、お姉ちゃん―――ああ、あ、ああ――」

 

誰も少女の声に答えない。誰も返事(生きて)しない。目線を凝らすと

その奥にも、さらに奥にも続いている“剣の墓標”。そこに居るのは少女(プレミア)だけだった。少女の心が砕けるのは必然だった。

 

「ああ、アあアああ、あア―――――――――――」

 

少女の慟哭が響き渡る。たった一文字を、ごめんさいと、いやだ、と

それを()()()()()()()()()()()俺は、俺は―――――

 

 

『同情か?哀れみか?』

違う。そんなものじゃない。これは―――怒りだ。

『この光景は()()であり()()()()()()だ。』

そうか―――

『だから、君が抱く怒りはエゴであり、ただの自己満足だ』

そうか――――で、()()()()()()()()

『ほう』

そうだ、この感情はエゴだ。それで俺が動いたって自己満足かもしれない。

でもな――

「そんな自己満足(エゴ)()()()()()を変えてやる」

差し当たって、まず最初にいつまでも泣いている彼女(プレミア)を泣き止まそうか

 

 

 

和人がプレミアの近くまで寄り、涙を流す彼女を()()()()()

プレミアの慟哭が止み、白衣を着た長身瘦躯の男が目を見開く

 

「悪い、遅くなった」

『――――――キリト』

 

和人――キリトがもう一度強く抱き、プレミアから離れる。そして

地面に突き刺さった『ダークリパルサー』と『エリシュデータ』の柄を握る。

その瞬間流れ込んでくる情報圧。だが、それは懐かしく心地よい物だった。

 

「スゥ―――――ラアァ!!」

 

深呼吸から気合一声に地面から相棒たちを引き抜く。

それと同時に波紋の様に広がる青と黒の煙。ソレが急速に広がり

紅い黄昏を暖かい夜空へ

焼け焦げた台地を命芽吹く草原へ変えていく。

その大地に佇む剣士、いや、剣士(仲間)たち

 

「さあ、行こうか」

 

プレミアは涙を流したまま、小さな花の様に――――

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ハッと目の痛みに目を閉じれば、先程の光景は無くなっており

いつもの自分の部屋に和人はいた。

さっきのは何だったのだろうかと目線を下げれば、泣き止んだが離れないプレミア

 

「過去、そして確定した未来か………」

 

アレがただの寝不足による妄想だとは考えられない。それ程までに鮮明で

現実(リアル)だったのだ。

そして、俺と話していたあの男。恐らく茅場さんだと思う。

彼は最後の瞬間何かを言っていた気がする。それも()()()()()()()()()()()

嫌な予感しかしないが、一先ずは

 

「ほら、プレミア。俺と話したい事が沢山あるんだろ?」

「はい」

「なら、そろそろ話そうぜ。直葉や木綿季が来るかもしれないから」

 

今の現状を見られたらロリコンと間違われるよな。と冷や汗を欠いていると

ガチャリと

 

「かず兄、さっきから女の子の声が…………」

 

あ、ユウキ=サン。なんとタイミングの良いことで

 

「あの、木綿季。これには太平洋並みに深いワケが

「やっぱり、和人はロリコンだったんだね」

「待て、俺はロリちょっとまって!“やっぱり”って言ったか!?」

「しんじ、信じてたのに…………」

 

いよいよ泣き出した木綿季に和人が話を聞いてくれと言おうとするが

木綿季は駈け出してしまう!

 

「和人のランスロット~~!!!」

「いや、FGOは関係ないだろう。

そうじゃなくて、待って!お願いだから話を聞いてくれ!!」

「?」

 

急いで木綿季を追い掛けた和人だが

直葉に泣きついてさらに混沌が加速したとだけ言っておこう。

あと首を傾げているプレミアさん。貴方が原因ですよ。

 

「えっと、ごめんなさい?」

 

天使だから許す。以上!ホラ、プレミアさんも追い掛けないと(純粋スマイル)

 

「誰だかしりませんが、解りました」

 

よし、任務遂行。

 

『令呪を持って命ずる!ユウキお姉ちゃん、ヴォーパルストライク!』

『うわ~~~!!和人のバカ~~~~!!!』

『待て、待って!!ぎゃあああああああああ!!!!』

『えっと……これが修羅場というものでしょうか?』

だいたい合ってるとだけ言っておきましょう。




うん、何故かキリト君が主人公してらっしゃる。
あっれれ~おっかしいな~。プロットの段階ではヒロインだったのに。
いや、ヒロインか。絶望した彼女に次元とか仮想空間とか超えて抱きしめに行くとか
やっぱヒロインじゃん!(錯綜)


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プレミアが生まれた場所

『キャラ崩壊注意!!』

うん、重い。全体的にキリト君がヒロイン兼主人公してらっしゃる。
まあ、最初だし仕方ないよね!次回からユウキメインだしね!
だからユウキファンの皆さんは武器をしまってくださいお願いします。


『キリト、朝です。朝ごはんの時間だとリーファが言っていますよ。』

「ん……むぅ……」

 

そろそろ夜も気温が高くなってきた今日この頃

早めに布団を取り替えていたので少し肌寒いと思い毛布を手繰り寄せようと手を伸ばし

 

『ひぃ!』

 

突然、脳に響くように高いソプラノの声――と言うより悲鳴が聞こえてきた。

半場寝ぼけて怠い体を起こし目を開けると

 

「キリトは朝から大胆です。」

 

ベッドの上に独特な青巫女衣装のプレミアが座っており、雪のように白い頬を若干朱に染めている。

そして何故か手から伝わる()()()()()()()()()。不思議に思い視線を向けると

プレミアの太ももに手を這わしている手が―――あ!?

 

「ごごご、ゴメンッ!!?」

 

初速からトップスピードで手を引き羞恥やらナンやらで後退りし

あ、と声が聞えた瞬間に後頭部を壁に強打する。ついでに肘も

つか、ドンではなくゴンッ!と響いたため相当痛いとプレミアは思っていた

事実、和人は「うおおおぉぉぉぉぉ~~」と言いながら蹲っている。

と言うより、プレミアが見えている時点で気付いたがオーグマーをしたまま寝たのか首も痛い

と、呻き声を上げる和人を見ながらプレミアは首を傾げていた。

ユウキの頭はよく撫でるのに何故自分に触れただけでこうも驚くのか?と

和人が無様に唸っていると、プレミアなりに結論が出たのか

 

『キリト』

「は、はい!!」

『触りたいのですか?』

「ほわァ!?ななななぜ!?」

『ユウキにはよく頭を撫でるのに、他の女性には奥手だとリーファから聞いたので

  私も撫でて欲しいのです』

「あ、あ~そういう

『あと、リーファからキリトは欲求不満だと

「ちょっと待って!!?俺はそんな事一度もないいやこれも誤解を生む発言だけどユウキだけで満足できちゃうというかいやこれもダメだ

  ほかの女性には恐れ多いというかユウキには壁が無いというかつまりそう言う事だ!!」

『は、はあ。』

 

ゼエゼエと肩で大きく息をする和人に首を傾げながらも何となく解ったと言うが

和人は朝から体力の6割を持っていかれたと嘆息する。

プレミアが桐ケ谷家に来てからもう3日は経つが、その間にプレミアに振り回されっぱなしだった。

主に、俺が。木綿季や直葉とは最初こそ訝しめ―――いや、俺だけが説明していた時だけだったな。

最初から木綿季は持ち前の元気さと無邪気さですぐに打ち解けて、俺が寝るころには直葉とも楽しく話していたな。

俺達はなんだかんだ言いつつ、新しい(家族)を受け入れていた。

ん?妹が多すぎる?いや、これだと長男だと言うのに肩身が狭くって。

でも、木綿季や直葉、会って数日のプレミアは俺の事を慕ってくれている。

俺か?愛する妹達を無下に扱うとでも?シスコンでも何とでも言いたまえ!中が悪い妹や姉がいる人には

悪いな、ここは(勝ち組)通行止めだ。

 

『あ、今リーファから連絡が。……どうやら早く来なさいとの連絡です。』

「スグは俺達のオカンだからな。じゃ、お母に怒られない内に行こうか。」

 

ベッドから下りて体を伸ばした後、先程の会話を思い出してプレミアを近くに招く。

頭に?マークを出しながらも近寄ってくれたプレミアに

 

「さっき羨ましいって言ってたからな。ちょっと、失礼して。」

 

ポンと深い海を彷彿させる髪色の頭に手を置き、木綿季にするように優しくそれでいてこっちの温度が伝わる様にちょこっと押して撫でる

最初は驚いたのか肩を浮かせたが、今はホニャと表情を崩しているので間違っていないのだろう。

しかし、手から伝わる髪質や温度は現実のそれと驚くほど変わりない。

彼女は、言ってしまえばオーグマーが見せるホログラムの一つであり

AI、つまり生身の肉体を持っていないのだ。

 

(だけど、プレミアは既存のAIのレベルには当てはまらない。)

 

異端ではない。()()()なのだ。受け答えから考察、表情、そして()()

何となく、自分でも自分に辟易しながらプレミアの事について尋ねたのだが

プレミアはそこらのAIの超強化版()()()ではなく

電子的に複製された魂―――人工フラクライトという物らしい。

詳しい話は木綿季と直葉がいたから話せなかったけど

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。らしい

しかも、そのプロジェクトには茅場晶彦の名前があったらしい。

俺は聞いた当初は困惑と驚愕と―――ほんの少しばかりの忌避感を覚えてしまった。

そのような非人道的行為を人間が、ひいては()()茅場がいる組織で行っていたのかと

そんな心の忌避感にプレミアは気付いた。いや、気付かせてしまった。

だから、プレミアが今にも消えてしまいそうな程に儚く笑って

俺が息を飲んでいる間に立ち上がった瞬間

 

俺は自分で自分をぶん殴った。それこそ歯が折れて出血する程に強く

ギョッとして振り向いたプレミアを引き寄せて何処にも行かないように。消えてしまわないように強く抱いたのを今でも覚えている。

勿論、電脳世界の住人である彼女は何時でも抜け出せたのだが、彼女は放心したかのされるがままだった。

 

『なぜ、AIである私を抱きしめるのですか。私は、人間ではないのですよ。』

 

呟くように、それこそ拒絶するように言葉を漏らした彼女に

俺は『ごめん』と言った。

 

『AIとか人間とか、そんな事は最初からどうでも良かったんだ!ただ、俺がバカで、どうしようもない大馬鹿野郎だったからだ!!』

『意味が解りません。キリトの言う事は()()()回りくどいんです。』

『ああ。ああ。ならストレートに言ってやる。

  君は、プレミアは人と同じ教養を持っている。人の様に考察だってできる。』

『言語プログラムです。そこらのAIにだって入ってます』

『プレミアは人間(俺達)の様に体温だって、重さだって、こうして触れ合っている。』

『それは、オーグマーの疑似感覚に過ぎません。本当の私は、あの箱ですから。』

『君は、プレミアは、()()()()()()()()()()()!』

『それは……私が学んだ不完全なものです『不完全なのは当たり前だ!』ッ!?

  それは、どういう……』

 

『心も、感情も人間もAIも(誰だって)最初は不完全なんだ。そこに両者を隔てる境界なんて無い。

  嬉しかったらさっきみたいに笑って、不意に触れられたら恥ずかしがるんだよ。

  大切な人を失ったら()()()みたいに声を上げて泣くし、喜んだら溢れ出る程に涙が止まらない。

  こんなにも、こんなにもプレミアは沢山の感情(想い)を持っているのに

  それに気付かなかった俺がバカだったんだ!大切な家族()の心にも気付けない馬鹿野郎だったからだ!』

『和人は、こんな私を、プレミアを家族だと思ってくれているんですか』

『当たり前だ!!こんな簡単な事にも気付かない馬鹿な兄貴で、本当に『なら』

『…………なら、もっと強く、何処にも行かないように強く抱き寄せてください。

  じゃないと、どこかに、消えてしまいそうになるから……』

『ああ。『もっと強くです!!』ああ!!』」

 

その後は、俺の体温を、温もりを求める様に痛いくらいに抱き合って

俺は誓ったんだ。この子を、何としてでも守るって。

ああ、子供の、15年程度しか生きてない少年の一時の迷いと言う奴がいるかも知れない。

そんなの知った事じゃない。あの時の記憶に感化されたわけじゃない。

これは、俺が()()()()()が決めた事だ。誰にも文句は言わせない。

それに、兄貴っていう生き物はな――妹の事になると誰よりも最強になるんだよ。

……うん、最近で言うと、あのイベント戦の発破みたいに。あの時を学校でもからかわれて転げまわったのはここだけの秘密。

いや、ホントに、明日奈みたいにいかないな~としみじみ

 

 

「さ、直葉の朝食を食べて来るよ。今日は学校休みだし、どうしようかな?」

『そう言えば、今日は休日と言うものでしたね。それなら……』

 

ちょっと名残惜しそうにしているプレミアに思わず微笑んでしまうのは悪く無いはず。

べ、別に、ロリコンじゃないんだからね!   なにやってんだ俺。

と別方向に気が沈んでいた俺の眼前に地図が現れる。それはグーグル先生のホログラム地図で、既に何処かを目的地として設定されている。

 

『今日、この場所にキリト達と一緒に生きたいのです。私が、生まれた場所です。』

 

その場所は()()()()()()()()()()()

プレミアが生まれた場所。そして≪オーディナル・スケール≫を開発したゲーム会社。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

朝食を食べ終わりプレミアが先ほど言った事を二人にも伝えたのだが、直葉は部活らしく行けないそうだ。

ちゃっかりお土産を頼む辺り内の妹はしっかりしているな~と。

ちなみに明日奈達にもメールで送ったが全員が用事があるそうで。

…………俺、嫌われてる?

 

「かず兄は嫌われてないから大丈夫。多分、皆は買い物に行くんじゃないかな?」

「そっか。あれ?何で木綿季は買い物だって解るんだ?」

「か、勘かな。女の勘って……そんな事どうでもいいからさ!早く準備しよ!」

「お、おう。」

 

なんだ、木綿季の奴。急にあたふたと慌てだして。

ん~それにしても木綿季と二人っきりか。あれ、それって

 

「二人っきりって事は、デートって事になるのか?」

「ででででデートおぉ!!?い、いや、兄妹だよ!?ただ二人で行くのんは変わらないでひょ!?」

「呂律まわってないぞ。あ~ま~……別に、良いんじゃないかな。」

「~~~~!!す、直ぐに準備してくるから!!」

 

あ、赤くなって行ってしまった。うむ、何か怒らせるような事しただろうか……

やっぱ俺って嫌われてるのかな……おにいちゃん悲しい。あ、脳内に琴の音楽が

 

『キリト、私もいるので三人でデートですね。』

「ん?あ、そっかプレミアもいるから……デートじゃないな。」

『違うのですか?辞書によれば男女二人の営みや爆発するべき存在と書かれてますが』

「プレミアさん、それは誤情態だから違うな。あと、それは辞書に失礼だから。」

『そうですか。では、いずれかの機会にデートと言うものを教えてください』

「ああ、その内な」

 

何時の間にかプレミアとデートする流れになってしまった。プレミア恐ろしい子!

まあ本人が純粋さ100%。だから俺もついつい答えちゃったけどさ。

別にいいかなと思ってしまうあたり、俺はつくづく妹に甘いシスコンなんだろうな。

 

『キリト?なんだか楽しそうですね』

「ん?ああ、そうだな。」

 

とりあえず、今は恥ずかしいから誤魔化しておいて準備しよう。

俺も半端な服装じゃ木綿季に悪いからな。

 

 

駅を乗り継いで東京の六本木までやって来た俺達は駅で買ったサンドイッチ片手に目的地に歩いている。

ちなみに、俺の服装は黒のジーンズに深青のシャツにベスト。その上に銀のラインが入った黒のちょっと大きいパーカーだ。

あと、プレミア(箱)を入れるためにちょっと大きな背負いバッグと割と軽装だ。

本当は明日奈達がプレゼントしてくれた(なぜに)空色のマフラーがあるのだが

 

「さすがに都心は暖かいな。もしかして、マフラーしてると暑いか?」

「うんん、むしろ……やっぱ何でもない。大丈夫だよ」

 

隣で笑う木綿季に貸している。ちなみに木綿季は俺以上に軽装で一見すると紫のニットワンピースに黒タイツに黒スニーカーと

急いで着替えて来たと勘違いしそうになるが、ニットワンピを脱いでもブラウスにショートパンツを着ている、らしい。

あとヘヤバンドをしていて、VR空間のユウキと同じモノだ。

そして極めつけは髪型だ。なんと、二次元でしか見た事のないサイドテールなのだ!紅魔族のフランちゃんなのだよ!

つまり、天使だ。異論は認めない。思わず「……かわいい。凄く似合ってる。」と言ってしまった。

そんな軒並みの感想しか出なかったのだ。最初は天使を見た時の放心。で、何故に軒並みな感想かと言うと

 

『どう、かな?明日奈やスグ達が考えてくれたんだけど…」

 

と、ちょっと頬を染めて上目づかいに聞いてくるんだぞ。撃沈しない方がおかしい

表面は妹をほめる兄を装ったが、心は!叫びたがっていたんだ!!実際に心は叫んだ。

勿論、移動中はドキドキさせられけど……木綿季がくしゃみをいた時にやっぱり妹なんだなと立て直せたからだ。

その時にマフラーを巻き兄としてしっかりしないとな、と誓った。

その2秒後の向日葵のような笑みの『ありがとう、和人』で砕け散ったけどな。かず兄でなく和人と言われて

こっそり心臓を抑えたのは内緒にしてくれよ。

 

『キリト、ユウキ、着きました!ここが≪ラース≫です!』

「ここが?へ~すっごい大きなビルだね。」

 

いつにも増してテンションが高いプレミアと木綿季の声にハッと現実に戻れば、いつのまにか目的地に到着したらしい。

俺も目前に建っているビルを見上げる。天を衝く、なんて言わないが周りに比べると高い方なのだろう。

AR世界のゲームとして最高峰の人気を誇る≪オーディナル・スケール≫を世に出した企業で

プレミアの生まれた(造られた)場所。

 

「でも、どうやって中に入るの?かず兄はアポ?って取っているの?」

「いや、プレミアが話を付けたんじゃないのか?」

『大丈夫です!その点はご心配なく。さあ、行きましょう』

 

ムフーと胸を張っているプレミヤに大丈夫かなと疑問は尽きないが、とりあえず当たって砕けろで行こう。

企業見学……は厳しいだろうな

なんて一人で悩みの溜息を吐きつつエントランスに入るが……誰もいない?

 

「あれ?これだけ大きいなら受付の係さんとかいると思うんだけど」

『あ、あれ?おかしいですね。ラースは24時間体制のブラック企業だとヒガさんから聞いたのに』

「ブラック企業って。それより、ヒガさん?それは……」

『はい。私を産んでくれたチームの一人だそうです。』

「……なるほど。とりあえず、受付の人が来るまで待ってようぜ」

 

そう和人が言った瞬間、横手のエレベーターが開き迷彩服を着た小柄な男性が出て来る。

 

「いや~やっぱVRにずっと入ってると肩が凝るっすね。」

 

―――――――――――――――――――――――――

 

≪ユウキ視点≫

 

「……なるほど。とりあえず、受付の人が来るまで待ってようぜ」

 

和人の言葉にそうだね、と返そうとした直前にエレベーターが開いて

何故かよくテレビで自衛隊の人が来ている服を着た男性が肩を回しながら出て来る。

身長は、結構小柄でかず兄より小さい。でも金髪だし顔は日本人ぽくない?

僕が言葉を発せないでいると和人が少し前に出て

 

「あの、すいません。ここの関係者ですか?」

「ん?だれっす…………」

 

驚かせないように声を掛けたはずなのに、男性はまるで()()()()()()()()()()()驚愕を顔一杯に表している。

僕とかず兄が顔を合わせ困惑していると

 

『ヒガさん!』

 

とかず兄から声が響く。それからかず兄があーと言った後、スマホの画面を驚き固まっている男性へ向ける。

その画面ではプレミアちゃんが手を振っていて『私です!プレミアです!』と言っている。

そこで、ようやく硬直(スタン)が解けたのか画面を凝視し

 

「ほ、本当にプレミアちゃん?じゃ、じゃあっすよ、君達が『キリト君にユウキちゃん』っすか!?」

 

なぜ僕達のアバターネームを?と訝しむと、どうやらプレミアちゃんが教えたらしく

かず兄が証拠としてオーディナル・スケールの身分証明書(プレイヤープロフィール)を提示する。

僕も慌てて同じプロフィールを見せると納得したように頷いた。

でも驚きは隠せないのか額をしきりに拭っている。

 

「ほ、本当っすね。ああ、申し訳ないっす。茅場先輩の子がまさか高校生に預けられるなんて

  結構ビックリしたもんすから」

「いえ、お気になさらず。」

「…………ここに来たって事は、プレミアちゃんは……」

『はい。()()()()()()()()()二人には私が人工フラクライトだと打ち明けました。』

「……そうっすか」

 

男性が我が子の成長を見守る父親の様に微笑む。それだけで、この人がプレミアちゃんをどれだけ大切に本当の娘の様に思っているって僕には解った。それはかず兄も同じなのか微笑んで

あれ?

 

「かず兄?顔が青いけどどうしたの?」

「あの、プレミアさん。先日お話って、どこまで話したんだ?」

 

あ、そっか。だから僕達の事をこの人が知ってたんだよね。

でも、なんでかず兄が血の気が引いたように顔が青いんだろう。

そして、先程よりも温かい目でかず兄に視線を向けると

 

「和人君。君はプレミアちゃんを俺たち以外で受け入れてくれた素晴らしい人であり

  同時に俺達プロジェクトの人間には欠け外のない人物なんす!

  だから、プレミアちゃんの事、よろしくお願いしますっす!」

 

大の男性が頭を下げて本気でお願いしていた。驚愕と同時に、それ程までに愛されているんだと思うと

こっちも身が引き締まる思いだ。絶対、和人も同じだろうと目を向けると

なぜか()()()()()()()()()()()()()()()それでも僕と同じことを感じていたらしい

 

「こちらこそ、根本がどうであろうとプレミアはもう家族の一員です。絶対にこの手を離さないと誓ったんです。」

「僕も、同じです。プレミアちゃんは僕達に任せてください!」

『キリト…ユウキ…』

「ああ、ありがとうっす!」

 

男性――ヒガさんは顔を上げると笑みを浮かべて礼を言ってくる。

う~ん、でも、お礼を言いたいのはこっちなんだよね。

ちら、っとかず兄の方を向くとやっぱり同じらしい。

 

「ヒガさん。御礼を言うのは俺達の方です。」

「へ?」

「プレミアを産んでくれて、出会わせてくれて、ありがとうございます。」

 

かず兄に続いてお礼を言うと、最初は呆けていたけど段々と涙ぐんでいくヒガさん

 

「―――—ああ、もう。感動で泣いたのって久し振りっすよ」

 

小さく言ったけど、僕達にはしっかりと聞こえていた。かず兄は今はそっとして置こうと目で言ってきたので

大人しく待っていると、ヒガさんが振り向きこの上ない満ち足りた顔で提案して来た。

 

「二人とも遠路遥々プレミアちゃんと来てくれた恩人っすからね。

 どうっすか、ラースの見学もとい、プレミアちゃん達の()()()に会うってのは。」

 

勿論、さいっこうに歓迎するっす!と提案してくれた。あと、プレミアちゃんが端末の中で目を輝かせている。

そのままかず兄と話すと、僕に視線を向けたので勿論頷く。僕も会ってみたいからね!

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。」

「オッケーすよ!じゃあ早速っとその前に……これにプレミアちゃんを繋いでくれるっすか」

「は、はい。良いかプレミア?」

『はい!勿論です。」

 

かず兄が受け取った片手ラジオのような物にケーブルを差し込むと

突然に和人の頭上の空間が歪み始めた

 

「か、和人うえ、上!!」

「上?上がどうしたって……え!?」

 

変化はソレだけに留まらず、その亀裂から蒼い何かが出て来て落下し始めた。

僕がギョッとして驚くのと、和人がその何かを受け止めるのはほぼ同じだった。

思わず踏鞴を踏む和人だが、落ちてきた()()を見て驚愕の表情を見せる

 

「ふう。ありがとうございますキリト。」

「ぷ、プレミア」

 

そこには、家と同じように実体化したプレミアちゃんがいた。

 

 

 

僕達は驚きも抜け出せずに半場引っ張られるようにラースを案内させてもらった。

プレミアちゃんがブラック企業何て言ってたけど職員の人は楽しく談笑したり会話に花を咲かせたりしていた。

ただ、こっちを向いた時に一様にして全員が()()()()()()()()()()()唖然とするんだ。

う~ん……プレミアちゃんが実は会社の中でも機密情報だったからとかかな?

 

「さ、着いたっすよ。ここが、俺達の研究部屋っす。たぶん皆驚くっすよ~!」

 

そう言ってたどり着いたのはたぶん8階辺りにある一部屋。

あれ?この階はこの部屋しかないんだ。疑問に思ったけど気にするほどじゃないかな。

比嘉さんが陽気に声を上げながら「ただいまっす~。それとお客さんっすよ~」

と言いながら入っていくものだから僕達も慌てて追いかける。

入る前までは聞こえていた話し声が、僕達が着た瞬間に波が引くように途切れて行った。

勿論、全員が驚愕したり唖然としたり。いいかげん気になってきたかな~と思い、不意に和人に視線を向けると

何かを思案するかのように周りを見渡していた。怪訝に思って僕も周囲を見渡すと

誰もが驚きを隠さない中、ただ一人(比嘉さはん抜いて)驚く事無くこちらに歩み寄る白衣の男性が目に留まった。

その人は僕達の前まで来ると、僕達の顔をしっかりと確認し

 

「初めまして。いや、久し振りと言った方がいいかな。

  私は茅場晶彦という者だ。プレミアの生みの親であり、今はあるゲームの総監督を任されている研究員さ」

 

そう言って握手を求めるかのように手を差し出す男性――茅場晶彦さん。

この人が、プレミアちゃんの父親でオーディナル・スケールの開発スタッフトップの一人。

かず兄が自己紹介と握手を返したので慌てて同じようにする。その時には他の皆さんも幾分か冷静さを整えていたらしい。

 

「さて、積もる話も沢山あるだろう。それに、私も自分の娘がご迷惑を掛けてないか気が気でないからね。」

「か、カヤバさん!」

 

親子二人のやり取りに周りが微笑む中、和人だけはその奥に視線を縫い付けていた。

僕も追って視線を向けると

そこに有ったのは()()()()()()()()()()()だった。部屋の6割を占める巨大な大地には

緑はもちろん、山や海。人が生活しているであろう街まで投影されている。

まるで……一つの世界みたい

息を飲む僕達の視線に気付いたのか、茅場さんが僕達の隣に立ち子供の様に自慢げに話す。

 

 

「驚いたかい。アレが、あの世界こそが()()()()()

 その名もSWORD ARt ONlinE The ORiJin  (ソードアート・オンライン ジ・オリジン)

  ≪SA:O≫それが、私達が造る世界(ゲーム)の名前だ。」




はっはは。ちゃんとこの世界にもSAOはあるぜ!
オリジンだけど。ついでに言えば主のVITのスラパが壊れてプレイできないけど!!


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≪1話≫ 笑う棺桶、そして・・・

やっと1話DAZE☆
……1話から話が重い。あと、ネタバレくらった人はゴメンね(てへ


何処までも”雄大”で地平線の彼方に聳え立つ山々は”偉大”で

仰ぎ見る空は鮮明に”透き通って”いて、時折吹く暖かな風が僕の髪をなびかせる。

 

「……キレイ……」

 

たぶん、この世界を見た誰もが抱く思いだと僕は思ってる。それくらい

()()()()()()()()()()()()。だから、こんなにも心を奪われている。

 

「木綿季」

「ユウキ、こっちです!」

 

風と共に僕に声が掛けられる。そっちに向き直れば和人とプレミアちゃんが手を振っていた。

早くこっちに来てーと言ってるみたい。

 

「はーい!今行くよ!」

 

返事をして二人に駆け出す。ここは大自然あふれる悠久の世界≪アイングラウンド≫

今はまだ、()()()()()|()()()()()()()世界(ゲーム)世界(ゲーム)世界(ゲーム)世界(ゲーム)世界(ゲーム)》》

 

―――――――――――――――

 

お頭(ヘッド)、準備出来ましたぜ。」

 

人が従来する大通りのを外れた路地裏に、一様に顔を隠した者達が集まっていった。

その数20弱。サングラスや口元だけマスクで隠す者。ガイコツの様なマスクを被る者。

ポンチョだけ被る者。様々な人間がいるが()()()()()()()()()()()()を持っている

それはー―笑う棺桶

 

「OK。んじゃ、行こうか。」

 

ポンチョを被る者が先導し他の物が続く。彼がトップだというのは明らかだが

その人物だけ身に纏う雰囲気が違う。まるで、本物の殺人鬼の様に―—―

その集団が大通りに出た瞬間に奇異の目が集まるが誰一人として萎縮などしない。

むしろ見せる事が目的と言う様に手を振る人間までいる程だ。

誰一人として振り返さないが。

 

――――――――――――――――――

 

若干の気怠さと同時に目がチカチカする奇妙な感覚に襲われながら僕は目を開ける。

途端、眩しい光が網膜を貫いて目を瞑った。

 

「あっはは。大丈夫か木綿季。」

 

未だ痛い照明の光に、目を徐々に開ければ最初に視認できたのは僕を覗き込んでいる和人。

あれ?僕、いつの間に寝ちゃって?

と、頭に違和感があり手を伸ばすと何か硬質の感触が。

 

「…和人」

「どうした?」

「僕、いつの間に頭が石像になっちゃったの?」

「……く、あっははは!」

 

突然にお腹を抱えて笑いだす和人にジトーと視線を指していると

彼はまったく悪びれずにゴメン御免と言い、僕の喉に手を伸ばす。

そして、カチャと何かが外れる音が……あ!!

 

「やっと気付いたか。まだ起き難いだろうけど頭だけ持ち上げられるか?」

 

まさか……と頭に感じる硬質の感触に思い当たり、和人の言う通り頭だけ持ち上げる。

そして彼が僕の頭に()()()()()ヘルメット型の機械を取る。

その瞬間に髪が少し引っ張られるが、そんな事は気にしないほど

―—―恥ずかしかった。ものすっっっごく恥ずかしい!!

()()()()()()()()()()()()()けど、それを抜きにしても先ほどのアホの子発言と捉えられてもおかしくない自分の発言に顔から火が出るほど恥ずかしい!!

 

「木綿季、間違いは誰にでもあるんだ。むしろ、ちょっと可愛かったぜ。」

「~~~~!?よ、余計なお世話だよ……」

 

羞恥のあまりに顔を背けると、妙に暖かい目でこっちを見ているラースの人達が

だからそういうのが恥ずかしいんだって!

 

「キリト、ユウキ。目覚めたんですね。」

「おう、プレミア。まあ、木綿季はダイブ慣れしてないから休憩は必要だけどな。」

「僕はARが専門なの。そういうキリトは平気そうだね。」

「こっちは元VRプレイヤーだからな。()()()()()()には慣れているんだ。」

「……あの感覚は僕は慣れないかな~」

 

あの魂が抜ける感覚はどう慣れろと言うのだろうか。時々当たり前の様に人を超えるからかず兄は恐ろしい。

僕の兄が人外な件について!実際、華奢な体格と姉と間違え割れるほどの女顔さえ除けば何でも出来るのに

料理や裁縫まで出来てしまう事に、女として負けた気がしたのは内緒。

――実はちょっと泣いた。でも、今気になるのは誰が僕の(和人)を嫁に貰うのだろう。

語弊がある?世の中そんなの気にしてたら始まらないよ!

 

「お~い、木綿季さん?いま変な事考えてませんでしたか?」

「なんでもないよ!それよりもさ、僕、ダイブ中の記憶がないんだけど……。」

「あ~~、それはだな「それはまだ開発中だからよ」

 

和人の後ろから端麗な女性が顔を覗かせる。神代と書かれたプレートを付けている。

 

「神代さん。開発中って事はやっぱり……。」

「ごめんなさい。疑っている訳じゃないの。ただ、茅場さんは万が一でも外部に漏らしたくないみたい。」

 

そこでチラっと後方に視線を向ける。が、ラースの人達が誰もいない空間に向かって声を掛けている光景に首を傾げる

 

「木綿季、今オーグマー着けてないだろ。ほら、ジッとしててくれ」

また恥ずかしさで顔を背けそうだったが和人に抑えられオーグマーを付けられる。

羞恥を誤魔化す様に「オーグマー起動!」と言いさっき場所に目を向ける

そこにはラースの人達と楽し気に話すプレミアがいていつもより表情が明るい。

やっぱり気の置けない本当の家族はここの人達なんだな~と思っていると、ポンっと頭に手が置かれた。

 

「かず兄?」

「俺達もいつか、ああいう風になれるよう頑張ってこうぜ」

「……うん!」

 

二ッと顔を綻ばせる和人に頷き大分良くなった体を起こす。

何回か肩を回すと、起きたのに気付いたのかプレミアちゃんが走り寄って来た。

その時に時計を確認したら15時を過ぎていた。ダイブ前がお昼前だから結構潜っていたみたい。

あ、お昼食べてない。それを自覚したからかお腹が空いて来た

 

「お目覚めましたね、ユウキ。気分はどうですか?」

「うんそれは良好。でも僕すっごくお腹すいちゃって」

「ユウキらしいです。では、下の食堂に行きましょう!」

「プレミアちゃんに言われたくはないよ~。」

 

ここの案内は任せてくださいと言わんばかりに張り切るプレミアちゃんの後を追う。

部屋から出る際に振り返ってお邪魔しましたと言うと、また遊びに来てくれーとちらほらと声が上がる。

どうやら僕達の仲はいつの間にか和人とプレミアちゃんが繋いでくれたらしい。

あ、あれ?かず兄は何処に……

 

「木綿季、誰か探してるのか?」

「うわぁ!か、かず兄~驚かせないでよ。」

「お、おうゴメン。」

 

いきなり横に現れたら心臓が止まるじゃないか!と続けようとして

何処か心ここに有らずの和人を訝しんでいると

 

「ユウキ、キリト。行きますよ!」

「あ、はーい。ほら、かず兄!ボサッとしてないで食堂に行くよ。」

「あ、ああ。お邪魔しましたー!」

 

 

 

 

 

「……どうして俺は記憶があるんだ?」

「かず兄?」

「いや、何でもない。それより、食堂ってどんなメニューが有るんだ?」

「ふっふふー。それはですね―—―

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

≪同時刻≫

 

お洒落なカフェのテラスで遅めの昼食を取っている一人の少女がいました。

腰まである艶やかな黒髪を風になびかせハムサンドを食す様はとても優雅と言えるでしょう。

しかし、その顔つきは10代後半と言うには童顔でまだあか抜けていません。。

髪と同じ黒い瞳に飲み物のカフェオレを映しつつホウっと一息。

 

そう、私です。

 

白いノースリーブのシャツに薔薇色のフレアスカート。

アクセントに鮮やかな緋色のリボンで襟を止めているので胸元が見える心配も無し。

後はブーツを履いていますがコレはどうでも良いでしょう。

 

「それにしても平和ですね~。」

 

普段はアイツ等に会いたくないがため引き籠る事が多いですが

こんなにも良い天気や!とテレビで言ってたので外出する事に。

念のために―—万が一のポケ〇ンで色違い理想個体が出るくらいの確率でアイツ等と出会ってしまった場合の

一応の保険もありますが、使わないに越したことはないでしょう。

 

「さて、遅めの昼食も取りましたし次はどこに行きましょうか」

 

ハムサンドを食べ終え、飲み干した紙コップ諸共ゴミ箱にシュー―トした私は椅子に掛けて置いた黒コートを羽織ります。うう、やはりサイズが3回りほど大きいですね。ネットの買い物はコレだから信用できません!!

裾が引きずらないか気にしながらも街を歩いて行きます。こんな時は箒に乗って空でも飛びたいですね~

 

「ま、ALOじゃありませんし無理ですよね。」

 

ちなみにALOは箒でなく羽根で空を飛んだりします。が、今はどうでも良いですね。

何となく、本当に何となく周りを見渡し

  ―—―言葉を失った。

 

視線の先には周囲の奇異の視線を集めながらもビルに入っていく怪しい集団。

それだけなら無視しました。でも、その集団が付けていた”エンブレム”は

 

「なんで、なんで≪ラフコフ≫がいるんですか……」

 

しかも、少しだけ視界に映った()()()()()()

あれは、ラフコフの(トップ)PHO(プー)

呼吸が荒くなる。背筋の震えが止まらない。視界が段々と狭くなり指先から力が抜けていく。

何故、滅多に人前に表さないプーが、()()()()()()()()()()()()―—―

 

パンッ!

 

気絶寸前にまで混乱していた意識が”銃声”によって引き戻される。

再び視線を戻せば先ほどより人が減ったラフコフと()()()()()()()()()()

それを周囲の人も近くしたのか金切り声を上げ混乱の一途をたどる周囲の人々。

 

「本当、シャレになってませんねッ!!」

 

私は急いで誰にも見つからないように建物の裏手に周り込み、周囲に人がいないか確認する。

人気がいないのを確認したら鞄から一応の保険―—―茶色い拳銃を取り出す。

コートは邪魔になるから脱ぎ捨て、銃の、デザートイーグルの安全装置を外し装填する。

 

「……ハー。……面倒事に首を突っ込みたくはないですが……」

 

3日前にXaXa(ザザ)が毒物を買ったから私も他人事では済まされない。

あれは人を物理的に殺す物じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

もう一度深呼吸し心を落ち着かせる。

もし、ラフコフの人員と出会ったら

 

『撃ち殺す」

 

人を外れた外道に赦す慈悲はない。ダンと壁を蹴り駆け出す。

裏手に扉は無かったが道は続いている。恐らくこの先に非常階段があるはず。

まずは、そこに居るであろうラフコフのメンバーを殺し退路を作る。反動も威力も馬鹿でかいが躊躇している場合じゃない。速く、速くと懸命に駆け出し、確認のため通路の曲がり角で止まろうとすると

 

 

 

「―—―和人!!目を開けてよ和人!!!」

 

 

全身の毛が逆立つ。もう、犠牲者が……

ガリッと音が出るほど歯を擦らせ止まる事なく曲がり先に飛び出す。

開けた視界の先には”胸元を抑えて倒れている女の子とその子を必死に揺さぶる少女”

そして、”右手に注射針を持つローブを来たラフコフの男”

そこまでで十分だった。躊躇などなく照準を合わせ引き金を引く。

ズドンッ!!とおおよそ銃の音ではない咆哮を上げ、次の瞬間には男の右肩から血が弾ける。

いくら威力が強くても所詮は拳銃。せめて徹甲弾なら吹き飛ばしていたのに

 

「ナニ!?貴様、は!?」

 

ああ、その途切れ途切れの声、ザザですか。何やらガイコツマスクが割れて額から血を流していますが

まあ、どうでも良いです。

 

「死んでください。」

 

二発目を撃ち、弾丸は吸い込まれるに眉間へと――――

 

―――――――――――――

 

「ん?なんだか外が騒がしくないか?」

「確かに、言われてみれば職員の人達が慌ただしい様な気がする。」

「何かあったのでしょうか?」

 

プレミアちゃんのオススメを三人で食べ終わり、これからどうしようかと雑談していたら

突然、外の職員たちが慌ただしくなり始めた。

まるで()()()()()()()()()()()()

 

「ただ事じゃないな。まるで、何かから必死に逃げているような……」

「やっぱり和人もそう思う?コレ、さすがにおかしいよ。」

「待ってください。今、監視カメラに接続して状況を…………」

 

眼前にホログラムを投影したプレミアちゃんが固まる。

不審に思って僕と和人が映像を覗き込むと

 

「な!?」

「………うそ、だよね。これって……殺され、てる……」

「ッ!!」

 

血溜まりに沈むラースの職員と拳銃を持ち顔を隠した男たちが映っていた。

その映像に言葉を失うと同時に吐き気を覚える。

人が、死んで―—―ガタンッ!!

 

「プレミア!!」

「放してください!彼らを今すぐ助けないと!」

「………今言っても()()になるだけだ。それに、襲撃犯が二人とは限らない。」

 

苦虫どころじゃない。今にも自分が飛び出しそうな顔をしながらプレミアを引き留める。

僕も、頭の片隅で理解してしまった。

”無力”あまりにも無力な僕達に出来る事はないと。

プレミアちゃんが脱力したように椅子に座り裾を握り締める。そしてハッと気づいた様に声を上げる。

 

「カヤバさんは、上の人達はこの事を」

「しまった、上の人達が気づく術がない!」

「!!そうだよ、すぐに知らせに行かないと!!」

 

プレミアちゃんの言葉に僕達は急いで立ち上がる。その瞬間ガチャリと食堂のドアが開く音が。

全身の毛が逆立ち体が動かなくなる。すぐさま和人が僕達二人を背に庇うけど

ドアを開けたのは上にいた職員さんで、盛大に息を切らしている。

 

「君達はまだここに居たのか。いや、ある意味行幸か…。」

「カルベさん!今、下で」

「ああ。大体の状況はもう掴んでる。上の人達はもう避難しているから

  さ、君達も速く逃げよう。」

 

一通り捲し立てた後、非常口と書かれたドアを開ける。どうやら職員しか開けられない扉らしい。

上の人達が避難した時いて僕とプレミアはホッと息を吐いたけど、和人だけは険しい顔をしたままだ

和人?と声を掛けようとしたら手を掴まれて和人に引っ張られる。

何か、()()()()

 

「………和人君。二人を任せた。」

「はい……。」

 

そう言って和人に何かを渡す。プレミアちゃんも見えていたのか首を傾げたけどすぐにハッとして

和人に引っ張られた。そして、僕達三人だけ入って扉が閉められる。

突然ことに振り向くけどそこには何故か壁しかなくて

 

「行こう、二人共。」

「キリト!かや「行くんだッ!!」

 

プレミアちゃんの言葉を遮る様に和人が歯を食いしばって叫ぶ。

彼女は和人の手を振り解こうとして―—辞めた。

そのまま俯き覚束ない足取りで和人に付いて行く。そのまま僕たち以外の足音がしない階段を……………

まって、()()()()()()()()()()()()()

そんなの、おかしい。幾ら早くても下から、それも走っているなら階段の音が上下から聞こえるはず。

上の階は最上階でもない。それなのに音がしない

―—―まさか

 

「茅場さん達は避難していない?」

 

瞬間、プレミアちゃんは体を震わせ和人は一層握りを強くする。

痛みすら起こる強さだけど僕には唖然とした感情が多かった。避難しない職員にも

まるで、見捨てる選択をした和人にも

 

「俺は、掌の上にあるモノを守るのに精一杯なんだ……」

 

まるで自分を卑下するかのように吐かれた言葉に僕はハッとする。

和人が異様な程に普段通りなのは()()()()()()()だと。そして、和人は大切な人達数人とその他大勢と言われたら”大切な人達”を選ぶと吐いた。”それ程までに俺は無力だ”とも

 

「キリト……」

「さ、そろそろ出口に着くけど警戒しよう。外に襲撃犯が待ち構えている可能性は高いからな。」

 

プレミアちゃんが声を掛けると()()()()()()()()()で警戒を促す。

多分、和人は無理をしている。それを僕達の前ではアレで最後とばかりに振舞っているんだ。

……僕達を心配させないように。

和人、と声を掛けようとした時、ガチャリと扉が開く。職員の人かなと視線を向けると

 

「ひッ!―—―」

 

喉から掠れた悲鳴がです。出てきたのは口元だけマスクで隠した男性。

そして、手には血に濡れたナイフを握っていて、目が血走っていた。いっそ狂気的なまでに。

男性が此方に気付き目を見開く。それは驚愕じゃない≪歓喜≫だ。そして、階段を駆け上がって来る!

それを理解した瞬間に足から力が抜け、同時に、手の温もりも消えた。

 

「―-え?」

「グあァ!アグフィは!?」

 

突然の事に驚き固まる中、男性が悲鳴を上げて転げ落ちる。ナイフが音を立てて地面に落ちる

そして、いつの間にか階段に倒れていた和人がナイフを拾い男性に駆け出す。

刹那、僕は和人がしようとする事が脳裏に横切って

 

「和人だめだよ!それだけはダメッ!!」

 

僕の制止の声が聞えたのか首元を狙って放たれたナイフが急降下し男性の太ももを深く切りつける。

飛び散った血が和人の声にかかるが、気にもせず顎にナイフの柄を強打させる。

ゴスと鈍い音がして男性が力尽きたかのように倒れる。そして、ハーと息を吐く和人横顔に言いようのない不安を覚える。

 

このままじゃあ、彼が一人で何処かに行ってしまう

 

唐突に浮かんだ言葉に、気付けば和人の手を握っていた。

 

「木綿季今はこんな事してる場合じゃ「お願い、少しだけでいいから。」

 

心の底から来る寒気に声を震わせながら懇願すると、和人は言葉を噤んでされるがままになった。僕は少しでも恐怖を払いたくて和人の手を手繰り寄せる。怖かった。和人が、映像で見た人の様に血に涼むのが……

 

 

 

「少し、落ち着いたか」

「……うん。ごめんね、こんな事してる場合じゃないっていうのに」

「いや、誰だってこんな状況じゃ仕方ない。」

「……本当、ゴメン。プレミアちゃんは?」

「今、先に行ってもらってる。たぶん、そろそろ連絡が来るはず。」

『キリト、聞こえますか?』

「プレミア?ああ。聞こえているよ。」

『この先には誰もいません。それと、私が活動できるのはこのビル内までです。』

「やっぱそうだよな。」

『ごめんなさい。』

「いや、仕方ないよ。後は俺達に任せてくれ」

『…………はい。無事で、いてください。』

 

その後、程なくして和人のオーグマーから音が鳴る。プレミアが帰って来た音らしい。

つまり移動しなきゃいけない。けど……震えが止まらない。

その時、頭に掌が乗せられる。

 

「大丈夫。木綿季は絶対に守るから。さ、あと少しだ。行こうぜ。」

「……うん。ありがと、かず兄。」

 

まだ震えは止まっていないけど、何とか歩ける程にはなった、と思う。

でも何故だろう―—―嫌な予感が止まらない。

程なくしてドアの前まで辿り着いてしまう。でも、嫌な予感は止まらない、振り払えない。

和人の手を掴もうとして、辞める。これ位耐えないと、彼に背負わせてばかりになってしまう。

 

(それは、嫌だ。)

 

ここまで無茶をさせて、慰めて貰って、これ以上は彼が潰れてしまう。

今更何を、と言うかもしれない。でも、もう限界なんだ。僕も、和人も。

そこまで考えた時、和人が勢いよくドアを開く。瞬間、風が僕らの間を通りぬけ

外の世界を意識すると同時に僕らは走り出す。

すぐにでも、1秒でもここから離れたかった。そして、曲がり角が直ぐそこにと思った時

()()()()()()()()()()

 

――――え?

 

視界の端にはさっきまでいなかったはずの誰かが立っており、右腕を振り上げている。

太陽の光を反射しているのか、眩しくて詳細が解らないそれに視線が釘付けになる。

避けられない。そう確信した時にグイッと引っ張られる感覚。そして、横転する視界の奥では右腕の注射針を振り下している骸骨のマスクをかぶった人が立っていた。

ゾワリと全身の毛が逆立つ。さっきの男と違う。濃密で粘土質な酷く嫌な雰囲気を放つ人物にこれ以上ない恐怖が全身を支配する。

 

「木綿季、俺が惹きつけるからその間に逃げろ。」

「か、和人!?なにを言って「勿論、俺もすぐに逃げる。大通りに出れば奴も追って来れないはずだ。」

 

恐怖と混乱で動けない僕を庇う様に和人が立ちふさがる。骸骨のマスクの男は滑稽なモノを見たかのように、耳障りな声を響かせる。

 

「ほう。まさか、子供が俺に、一人で、無謀にも立ち向かうとな。」

「無謀なんかじゃないさ。アンタのソレを叩き落せば、二本目を抜くより俺のナイフの方が速い。だから、大人しく引くといいぜ。」

「フッ、ほざけ!!」

「走れ、木綿季!!」

 

二人が駈け出したのより遅れて転がる様に逃げ出す。恐怖と涙が溢れだしそうになる。今にも崩れ落ちそうなほど足が震えている。でも、そんなことしたら和人が死んじゃう―—―

 

「誰か、誰かいませんか!」

 

声を震わせながら叫ぶが足音すら帰ってこない。恐怖が限界を超えて足が竦む。それでも、止まっちゃいけない!

また、()()()()()()()()()()!如何しようもなく無力な僕は助けを呼ぶことしか出来ないのにッ!!

もう一度声を上げようとした刹那

 

ブシュと、異様な音が耳朶を震わせる。

 

弾かれた様に足を止めて振り向くと、仮面の一部を砕かれて頭から血を流す男とナイフを手放して蹲る和人

 

「和人!!」

 

骸骨マスクの男が和人を蹴飛ばし、ボールの様にこっちに吹っ飛んでくる。地面を何回か転げまわってようやく止まった和人に駆け寄るが、様子がおかしい。明らかに蹴られた腹部ではなく左胸を抑えている。

そこからは()()()()()()が手の間から零れていて苦悶の声を上げる。

その光景に今度こそ心が砕け散った音を聞いた気がした。

 

「ぐ、ああ。ああああああ!!」

「和人、しかっりしてよ!ねえってば!」

「あ、はあ!はあ……ゆ、ゆう、き。にげ、ろ」

 

胸元を抑え、苦悶の声を上げていた和人から力が抜け目を閉じる。まるで、死んでしまったかのように

 

「和人、嘘だよね和人!!目を開けてよ和人!!!」

 

どんなに呼びかけても揺さぶっても目を開けることも無い。

死神の鎌が、和人の首を刈り取ろうとする幻視して視界が明滅する直前

 

ズドンッ!!と耳を劈くような激しい音が耳に響く。何?と顔を上げると、肩に穴が開いたさっきの男と

その奥に≪黒い髪と瞳の少女≫が銃を持って鋭い眼光を見せていた。

 

「ナニ!?貴様、は!?」

「―—―死んでください。」

 

もう一度さっきの音が響き、弾かれたように男が倒れ込む。え?と思う間もなく男が蹴り飛ばされ視界から消える

代わりに、さっきの女性が立っていて見下ろしていたが、和人の状態に顔から血の気が引く。

 

「ザザ、何て事を!……ああ、もう!!間に合ってくださいよ!!」

「な、何して「貴方はそのまま抑えてて!死なせたくないんでしょう!」

 

手に持った拳銃を放り投げ僕の対面に座ったかと思うと、和人の衣服を破いて液体が溢れている部分に手を伸ばす。余りの剣幕と理解の外が立て続けに起こるが、死なせたくないの一心で言われるがままに補佐をする。

 

「……思ったより中に入り込んでいますね。今からだと半分も抜けませんが0よりましですね。

  少々古臭いですが、手段は選べません。」

 

そんな事を呟いたかと思うと和人の傷に口を当てて血を吸って……て!?

 

「な、急になにを!!」

 

突然の事に慌てだすと、彼女は吸うのを止め腰から水筒?を取り出し中の水を口に含む。すると盛大に吹き出した。その後も盛大に嗚咽を溢し、何度も水を含んでは吐き出していく。

何だろう……ちょっとだけイラっとしてる自分がいる。

あ、待って。吐き出した水が血の色のほかに緑色や血とは違う鮮やかな赤が混じっている。

まさか、液体を吸って吐き出している!?何かの間違いで摂取するかもしれないのに!?

 

「な、何してるの!!そんな事したら、君が!」

「ゴホッ!ケホ!……はぁ、ご心配なく。これが今は一番手っ取り早い方法なので。」

「だからと言って、自分を蔑ろにするのは「結果的に」

「……結果的に、彼の劇薬を2割を取り除くことが出来ました。」

 

そう、かもしれないけど!……そう言われてしまうと何も出来なかった僕は何も言えなくなる。

効き目など殆どありませんしと言われたら本当に言えなくなってしまった。

未だ気絶したままの和人を強く抱き寄せる。鼓動は弱弱しいけど、しっかり感じる。僕が息を吐く。

それに、と彼女は言おうとして後方を一瞥する。その視線を追おうとして少女に遮られた。

 

「今は、彼女を連れて行くのを優先しましょう。」

「は、はい…………え?彼女?」

 

彼女なんて、女性は僕とこの少女しかいないのに。キョロキョロと周りを見渡す。すると、少々呆れたように少女が声を出す。

 

「あのですね、貴方が腕に抱いている人ですよ。」

「え?」「え?」

「…………和人は男ですよ」

「えェ!?嘘ですよね!?だって、こんなにも「それ以上は禁句です」ア、ハイ。」

 

て、つまらない漫才している場合じゃない。和人を背負って運ぼうとすると彼女が肩を貸してくれる。

今は顔がちょっと赤いけど、自分を顧みず和人を助けてくれた辺り、たぶん良い人なのかな?

でも、さっき……

 

「ああ、さっきの男なら生きてますよ。銃弾を弄って殺傷性を低くしましたから。」

 

何故か()()()()()()ヒラヒラと銃を見せていたけど何故だろう。嘘を言っているようにしか思えない。

 

「そっか。」

「―――――まあ、嘘ですが。」

 

今不穏な言葉が聞えた気がしたけど努めて無視する事にする!今は和人が最優先。

こんな事を続けていたからか幾分か冷静になった頭に唐突に思い浮かぶ。

 

「あ、救急車呼んでない。」

「それなら警察の人達と一緒に来るのでは?一応都心に近いですし、と、噂をすれば何とやらですね。」

 

視界の奥、混乱と興味本位で中々のカオスになっているラースビル前に視線を巡らせる。いた。人垣の後ろの方に救急車両が見える。

 

「あと、もう少し。和人、もう少し耐えて……」

「…………」

 

女の子が応急手当をして先程よりは表情が柔らかくなったけど、それでも時折苦しそうに苦痛の声を漏らす。

だが、いくら鍛えていると言っても10代半ばの少女。裏通りを抜け、視界が開けた途端、足腰に力が入らなくなって崩れ落ちる。倒れると思って目を閉じるけど、何時まで経っても地面の感触なんて来ない。不思議に思い目を開くと、彼女が僕たち支えていた。

 

「貴方も大概無茶してましたか」

「あ、ありがとうございます。」

「……礼を言われる身ではありません。」

 

それだけ言った後、先程よりも和人が軽くなった気がした。目覚めたの?と顔を見るが目覚める兆しすら見えない。多分、この人がさっきより深く支えてくれているからかな。

でも、目を合わせずに俯いているのはどうして……

僕達が路地裏から抜け出し、やじ馬で集まっている人達を避けて救急車両に着くと隊員の人?が血相を変えて走り寄って来る。僕達は事情を手早く説明し、和人が車両に運ばれる。僕が親族と話すと一緒に来てくださいと言われたので、さっきの人にも行こうと振り向いた時

 

「hello!愛しき日本国の諸君たち。」

 

唐突に、不遜に、まるでショーの一部だと言う様に声が上がる。波が引くように喧騒が止み、先程声を上げたポンチョを羽織り顔を隠した人物に注目が集まる。周囲の奇異の視線や警察隊の剣呑な視線に臆することなく

むしろ、注目する事が目的とばかりに話し始める。

 

「今日はこの会社の()()()()に付き合ってくれて迷惑を掛けたな。なに、さっきの一連は明日の正午……フュー。今日の夜にでも解るだとよ。ようするに()()()()()()は今日の夜に全国に伝わるって事だ。

さあ、馬鹿騒ぎしまくれよ愛する人間ども。ただの仮想世界が現実になる日だ……アハハハハハ!!」

 

醜悪に下卑た笑いを響かせ、ホログラムの様に唐突に消えてしまう。それを受け、周囲の人達は誰となく去って行く。たぶん、彼等はあの男の言葉を真に受けたんだ。当事者である僕達を除いて

 

「あれはプーじゃない。でも、伝える事は同じなはず。……下郎め」

 

隣に立っていた女の子が苦虫を噛んだような表情で呟く。それより”プー”ってさっきのポンチョ男?

でも、プーじゃない?何故、彼女はそんな事を知っているの。

ねえ、と話しかけようとしたら救員の人達だけが一段と慌ただしなった。

 

「人手が足りないんだ、早く来てくれ!」

「あ、ああ。なに慌てているんだ?今までの一連はドッキリだって

「バッカ!()()()()()()()()()()()のがドッキリか!?」

「―--え?」

 

それが誰が言った言葉かも解らない程混乱する。心臓が、止まる?

和人()が―—―死ぬ

隣から息を飲む雰囲気が伝わり、救員が途端に血相を変えて飛び出す。僕が認識できたのはそこまでだった。

 

「おっと、危ない。いや、コッチは手遅れかな。」

「大丈夫か!君!」

「大丈夫じゃないですね。彼女はその車の中の彼の親族で―—―

 

ブツリと。テレビの電源が落ちる様に目の前が真っ暗になった。

 

 

 

「あれ、ここは……真っ暗で何も見えないや。」

 

気が付いたら光一つない暗黒の空間に立っていた。自分の手足は見える。でも、1m先に何があるのか解らない。

途端に恐怖が込み上げてくるけど頭を振って追い出す。そこで、ハッと気が付く。

 

「そうだ。和人はどうなったの?」

 

嫌な予感。それも、喉を閉められるような錯覚に陥った途端に駆け出す。速く此処から出たくて。一秒たりとも止まりたくなくて、何事も無かった。何もなかったようにあの笑顔が見たくて、自分を優しく包み込んでくれる暖かな夜のような彼に会いたくて一心不乱に駆け出した。そして、視界の奥。闇と同化するように佇む和人が視界に映る。思わずホッと息を吐こうとするが、代わりに出たのは掠れた声で。

なんで、如何して、そんな()()()()()()をしているの!

 

「和人!!」

 

いろんな感情が頭に渦巻いてその中の恐怖だけが鮮明に警告する。≪彼は死ぬ≫と

和人は僕の声が聞えたのか儚く微笑んで、ナニカを呟いた。震えが足先から全身に伝わり必死に手を伸ばす。

だけど、もう少しの所で彼が砕け散る。その瞬間、頭が真っ白になって、飛び散る破片をかき集めようとするけど

唐突に落ちる錯覚に陥る。違う、落ちているんじゃない。沈んでいるんだ。何も聞こえない。誰もいない水の中に

 

「誰か、助けて……僕達を…だれか……

 

ああ、力が、抜けていく。水の感触も、思いも、何もかもが消えていく。

もう何も見えない視界でなけなしの力を込めて手を伸ばす。

 

でも、誰もいないのに、誰が助けてくれるんだろう?そんなノイズ混じりの声が遠くに聞こえ、また目を閉じた。

 

 

 

しばらくすると、完全な暗闇が少しだけ晴れた。詳しく言うとちょっと痛いかな

 

「……ここは?」

 

目を開けると見しらぬ天井が目に入る。僕の部屋でも、言ってしまえばリビングの天井でもない。鉛みたいに重い体を起こすと、椅子に座っている女装した和人……じゃない。確か、僕達を助けてくれた女の子だ。

その子はん~!と小さく欠伸をし、眠たげな眼で僕と視線を合わせる。

 

「あ、どうも。こんにちは。もう夕方ですが。」

「こ、こんにちは。」

「さて、貴方が起きたなら”彼”の所に行きましょうか。」

「彼?……あ、和人は!?和人はどうなったの!!」

「それを今から確認するんですよ。口で言うより目で見た方が速いので。」

 

立てますか?と伸ばされた手を取って立ち上がる。僕が寝ていた部屋から出ると看護師や病衣を来た人たちが前を通り過ぎていく。ここは、病院?

 

「ここは、≪横浜港北総合病院≫という場所です。」

「よ、横浜?でも、ラースがあったのは六本木じゃ……」

 

それに答える事無く女の子は進んでいく。すれ違った人たちと時折会釈しながら歩いていく事数分。誰一人いないフロアに辿り着いた。いくら病院とはいっても静かすぎる。僕たち二人以外の足音も、人の気配すら感じない。

ちょっと、嫌な所だな。

 

「倉橋先生、和人君の妹さんを連れて来ましたよ。」

「紺野君と、妹さんは初めましてですね。僕は倉橋と言います。桐ケ谷君の主治医をしております。」

「は、初めまして。桐ケ谷木綿季です。あ、あの!かず「直接見よう。」

 

僕の声を遮って女の子が入りましょうと倉橋先生に促す。それに少しじれったいと思いつつも口を紡ぐ。僕より、この人の方が医療に関しては知識が深い。その人が見た方が早いと言うのなら……

 

「紺野君……」

「仕方ないと思います。≪メディキュボイド≫に関しては説明が難しいですから。」

 

メディキュボイド?それと和人に何の関係があるの?たぶん、答はこのドア一枚を挟んだ向こう。そして、倉橋先生がドアを開き僕と紺野さんはその中へ足を踏み入れた。そのドアの横のプレートには≪第一特殊計測機器室≫と書かれていた。

 

部屋の内部は妙に細長い部屋で、奥に今と通ったのと同じドアがある。右側にはいくつかのモニタを備えたコンソール(?)が設置されている。左側は一面横長の大きな窓だけど、ガラスは黒く染まって内部を見ることが出来ない。

 

「このガラスの先は()()()なので入ることが出来ません。了承してください。」

 

そう言って、空中に指を走れる。すると、微かな振動音と共にガラスの色が薄れて透明になっていく。

その向こうは一見して小さな部屋だと思った。でも、奥行がかなりあるので本来はとても広いんだと思う。

なぜ小さいと思ったか。それは、部屋中を大小様々な機械たちが複雑に混在しているからだ。

だから、中央のジェルベッドに気付くのが時間がかかった。

僕は限界まで顔を近づけてベッドを凝視した。

ジェル状のベッドに沈むように誰か―—恐らく和人が横たわっている。胸元まで白いシーツが掛けられているが、それ以外の喉元や両腕、例外的に左胸の位置から様々なチューブが周囲の機械に繋がっている。恐らく、と言ったのは、彼の顔を覆うようにベッドと一体化した白い立方体に覆われているからだ。見えるのは唇と顎だけ。直方体の上部には様々なホログラムが踊っており、その奥に簡素な文字で≪Medicuboid≫と書かれていた。

 

「……和人……」

「…………」

 

僕は声に出てるか解らない程に掠れた声で囁いた。つい半日。いや、それよりも前まで握っていた手が、僕を安心させてくれた体温が、心が温かくなる笑顔が―—―たった数メートルの分厚い壁が隔てている。

震えはじめる手足。荒くなる呼吸を息を吐いて無理矢理抑えて、背を向けたまま言葉を絞り出すように訊ねる。

 

「倉橋、先生……和人は、和人はあんな風にならなきゃいけない程……酷い、状態なんですか……?」

 

答えは、酷く惨酷なモノだった。

 

「≪虚血性心疾患≫……一般的に≪狭心症≫や≪心筋梗塞≫と呼ばれる症状です。ある年ではHIV/AIDSを上回った死亡数を出し、和人君はその中でも【ターミナル・ケア】と呼ばれる状態です。」

 

「ターミナル・ケア……通称、()()()()()




メディキュボイドに入るのはキリト君でした。何とな~く知ってたって言われると私は悲しい。あと、最後にアレ?と思った人は主の語彙力と文力が著しく欠けてるという事で
許してください、何でもしますから!
次回、ユウキが我武者羅に走る話。


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≪2話≫僕は走り出す

ユウキ編はシリアスで書いていきます。シリアスタグを入れた方がよいのでしょうか?
そして前回の後書きで我武者羅に走ると言ったな、あれは嘘だ。
長くなって2万とか文字数が超えたので二つに分けて投稿します。ユウキ編は出来るだけ1話当たりの文字数を少なくしてサクサク投稿したいじぇ。なお、前回(必死に目を逸らす


その部屋には耳が痛いほどの静寂が満ちていた。狭い横長の部屋には一人の少女が壁に体を預ける様に立っていた。異様な程震えている体を両腕で抱いる少女―—ユウキは壁から体を離し、正面のガラス壁に手を触れる。

 

「………」

 

声が、出ない。彼の名前を呼ぶたびに胸が引き裂かれる感覚に陥ってしまう。それを、その痛みを背負わなければいけないのに

――――—怖い。人の命を、痛みを背負う事がこんなにも痛いだなんて知らなかった……!

彼が成し遂げようと背負っていたモノも、こんな形で終わらせてしまったのも

 

「……全部、僕のせいだ……!」

 

倉橋先生や助けてくれた少女―—紺野さんに彼の今の状態を聞かされ、僕は目の前が真っ暗になった。

二人が言う虚血性心疾患は、簡潔に言えば心臓に血液が行かなくなる病気らしい。血管の中の血液が固まり動脈硬化が発生する。最悪の場合―—手術が間に合わず死亡してしまうケースが多いと。でも、彼の場合は動脈硬化が()()()()発生するらしい。しかも、一定時間が過ぎれば動脈硬化が消えてしまう前例にない異端すぎる病気で、医者である先生達にはどうする事も出来ないみたい。だけど、倉橋先生が言うには問題はそこじゃない。

 

『心臓に送る血液の流れが止まった際、人間は本能的な恐怖と地獄のような苦しみを味わいます。それを、彼は何度も何度も……こんなの、いつ彼の精神が崩壊するか……』

 

心臓が鷲掴みにされるなんてモノじゃない。彼はこの奇病に掛かっているせいで、≪心臓が完全に停止するのが先か≫≪精神が崩壊するのが先か≫の死の淵に立たされている。先生達も全力で手を尽くすらしいけど、余りにも奇病すぎて、現状では≪メディキュボイド≫に頼って痛みから彼を遠ざけて精神の崩壊を防ぐしか手段がない。

 

「……あぁ…」

 

コンっとガラスから音が響く。木綿季がガラスに額をぶつけて項垂れていた。冷たくなった手を伸ばすが分厚い壁がそれを拒む。どうしようも、如何しようもない程に依存していたと今になって木綿季が理解する。和人と木綿季は、どちらも桐ケ谷家に養子縁組として引き取られた子供だった。和人が5歳の時に、木綿季は6歳の時にそれぞれ桐ケ谷家へやって来た。当初は普通の『兄弟と家族』の様に生活していたが、二人が10歳の時に養子縁組で本当の家族は解らず、和人に至っては離別している現状だった。

 

(あの時、もう誰が本当の家族で周りを疑って疎遠になった和人を励ましたっけ。)

『たとえ本当の家族じゃなくても僕は和人の”家族”だから!!』

 

そのすぐ後に和人が思いっきり顔をしかめて『何言ってんだコイツ』みたいな事言って来たから掴み合いで言い合いの大喧嘩になったんだっけ。どっちも本音を言いあって、子供ゆえの裏表のない心の吐露に和人が折れて『……がんばる』て言ってくれたのが凄い嬉しかったのを今でも昨日の様に思い出せる。あれからお姉ちゃんって和人に呼ばれて、調子に乗っちゃって色々失敗を繰り返しちゃったけ。今では僕がかず兄なんて呼ぶのが昔は信じられなかったな~。

 

………もしも、もしも今何でも願いが叶うなら……あの時みたいに、明日奈(アスナ)珪子(シリカ)里香(リズベット)達と楽しく過ごしていた時みたいに………その為なら、僕の全部を投げ打ってでも和人を助けるのに……助けたいのに!

 

「何も、出来ないなんて………」

 

無力感に打ちのめされて膝から崩れ落ちる。目頭が熱くなって頬に冷たい水が流れる。胸を占めるのは虚無感なのかな?何もないこの手が涙で濡れていくのをただ茫然と眺めているだけだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――—

「木綿季………」

 

妹が体を震わせて両腕で自分を抱いているのを俺はただ見ている事しか出来なかった。状況は既に倉橋先生から聞いている。生と死の狭間を彷徨っているって事もな。だが、虚無感に打ち震える妹をただ見ているだけなのが最も苦しい。心臓に血液が行かない?地獄のような苦しみが周期的に精神を蝕む?そんなの―—―眼前の光景に比べれば虫以下の些細な事だ。

 

「あの時……ナイフを振り下すのに躊躇しなければ結果は変わっていたのかもな。」

 

階段の時の様に咄嗟でない。自分から人を殺す事に躊躇してしまったからこそあんな体たらくを見せてしまったのだ。その結果がどうだ?

もう二度と話せない。触れられない。プレミアだって助ける事も出来ず動けないでいる。それを木綿季のせいとは言語道断だ。全て自分の為体の結果だ。

 

「本当、何やってるんだろな。」

 

木綿季がガラスに額をぶつけて項垂れる。そんな痛々しい姿を()()()()()()()()()。こうやって、俺達は見当違いな場所で泣き崩れるだけなのか。和人と木綿季が床に崩れ落ち痛い程の沈黙が落ちる。もうどうしようもないと目を瞑った時、ソレは聞こえてきた。ジジッジジとノイズの様な異音。突然の事に飛び起きた和人は、木綿季の眼前に黒い扉が鎮座している事に気付く。

 

「こんなの、いつの間に……?」

 

和人がソレに興味本位で触れた瞬間、内側から響く厳かな音と共に扉が開く。そこから現れた2()()に和人は目を見開き固まった。2人は言葉短く和人に()()をもたらした。

――――――――――――――――――――――――――――—

 

「神様でも、悪魔だって構わないから………僕は、どうすればいいの?和人が死ぬ位なら

 

いっそ、この命だって。そう続けようとした瞬間、()()()()()()()()()()()()()。それと同時に聞えて来る(思い出す)

 

『なに馬鹿な事を言ってんだ木綿季は。』

 

バッと顔を上げるが視界に入ったのは目が赤く泣き腫れている僕の顔だけ………違う。右耳に付けたままだったオーグマーが明滅してる?たしか、未読メッセージがあるサインだっけ。ここが病院だと忘れてオーグマーを起動させてメッセージを開く。差出人は、プレミアちゃん?

 

『直に電話が出来る場所に来てください。和人と話せるので早く―—―』

 

最後まで読む事なく僕は立ち上がり部屋の外へ駆け出す。廊下を出た目の前にはフロア地図があり、横の階段から屋上に行けるみたい。逸る気持ちそのままに駆け、屋上へ続く扉を乱暴に開ける。そこは中庭と同じような花園(ガーデン)になっており花の香りが鼻腔をくすぐる。つい立ち止まって見入ってしまうのを気合で押さえて花園のオーグマー使用許可場所まで走ってプレミアちゃんに電話を入れる。1コールすらもどかしくて気が狂いそうな心を必死に押さえつけてその時を待つ。そして、3コールで彼女の声が聞えて来た。

 

『ユウキ!やっと繋がりました!一時はどうなる事かと』

「プレミアちゃん!和人と話が出来るってどういう事!?」

『ユウキはキリト一筋ですね。少し妬けてしまいます。』

「あ、えっと……その……」

『冗談です。いま、和人と変わりますね。』

 

頬に熱が集まるのを感じながら、オーグマーからノイズの様な音が耳に入り

 

『…………よう。木綿季』

 

懐かしい(和人)の声が聞こえて来る。それと同時に、胸の奥から溢れて来る感情(言葉)

 

『お、おーい。木綿季さ「ごめんなさい……」……え?』

「ごめんなさい……ごめんな、さい……!」

『ゆ、木綿季さーん……』

 

溢れて来る謝罪の言葉に和人がたじろいで言葉を掛けられずにいる。

謝って済む事じゃない。だが、木綿季の感情はそれだけじゃなかった。

 

「……………くやしい……」

『え?』

()()()()!!如何して”いつも”和人だけ酷い目に合って、(木綿季)は何も出来ないのッ!!」

『木綿季……』

|()()()()()()()()()()()()あの時(二年前)だって》》あの時(二年前)だって》》あの時(二年前)だって》》!今だって!蹲って何も出来ない僕が悔しいよッ!!」

 

木綿季は謝罪じゃない慟哭を叫んだ。憐みなんてより、どうしようもない程に無力で泣いているだけの自分が大っ嫌いで、それでも何も出来ないこの身に絶望している。彼女の謝罪はそんな現実への敗北感から来るものだった。

 

「和人……ごめ『良かった。木綿季がまだ諦めてなくて』……うぇ?」

 

オーグマー(電話)越しに、彼はいつもの様に笑って僕に言葉(勇気)をくれる。

 

『悔しいって事は……天に、知らない誰かに命運を預けるんじゃない。|()()()()()綿()()自分(木綿季)自分(木綿季)自分(木綿季)》》が掴み取りたいって事だよな?』

「うん。僕は出来るなら……いや、僕自身が(和人)を助けたい!」

『ま、真っ正面から言われると恥ずかしいのですが……』

「僕は本気だよ。」

『ああ、解ってる。だけど、俺もただ待ってるだけのお姫様は御免だぜ。』

 

彼が言った事に首を捻っていると、不意に目の前の空間が歪み始める。突然の事に固まる木綿季を置いて異変は広がり空間が黒くノイズが走る様に乱れ始める。本能的な危機感から離れようとするが、打ち出されるように歪みから転がり出た人物に目を見開いて硬直する。転がり出てきた人物は首を捻りながら立ち上がり木綿季に向き直るって何時もの様に微笑みを浮かべる。

 

「よ、木綿季」

「かず、と。どおして……」

「ああ、いや。この体はプログラムの集合体だぞ。プレミアと同じ」

 

それを証明するかのように呆然とする木綿季の頭に手を伸ばすが、触れる事が出来ずに通り過ぎる。注意深く見れば彼の体はプレミアとは違い向こうが透けて見え、時々ブレる。だが、プログラムの集合体と言うには真に迫った眼差しで木綿季を見据え、絞り出すように話す。

 

「……俺は木綿季に卑怯な事を今から言う。勿論、木綿季が拒めば何もなかった話になる。でも、それでも木綿季が頷いてくれるなら……」

「和人?何の事?」

 

和人はこれ以上にない程に渋面を浮かべながらも口にする。

 

「木綿季。どうか現実世界で動けない俺に代わって()()()()()()()。」

「……は?」

「今から説明する。まず、ラースを襲った連中がオーグマーのプログラムを書き換えてとんでもない()()()()にしてしまったんだ。」

「…………え?」

 

思わず耳に付けたオーグマーに触れる。帰って来たのはヒヤリとした冷たい感覚だけで、それが凄く恐ろしい。

 

「大丈夫。今は安全だ。オーグマーがAR拡張機から殺人器具へとなる条件はただ一つ”OS(オーディナル・スケール)でのHPの全損時”のみ。その場合のみオーグマーが過重電圧を脳に送り、装着者の脳を高圧電流でスキャンするようにプログラムを書き換えた。その時の高出力スキャンにより脳は焼き切れて修復不可能なダメージを追い……死亡する。」

 

死ぬ。何回も聞いた単語が木綿季の精神を激しく揺さぶる。そんなのあり得る訳ないと叫びたいが、彼の真剣な目が嘘でないと告げている。

もし、もしもOSでHPが尽きれば……死ぬ?

 

「そ、そんなの……どうして、僕にソレを……」

「奴らは殺しこそ最大の快楽だがそれと同じように人をモルモットの様に試しているんだ。オーグマーのランキングによる報酬欄を開いてくれ。」

「う、うん。………えぇ!?和人、これって!」

 

木綿季が開いたランキング報酬欄。そこには、木綿季の今の順位≪6078位≫と書き換えられた報酬―—≪2500万≫と表示された莫大な金額だった。思わず開いた口が塞がらなくなった木綿季の耳に和人の舌打ちが聞えて来る。

 

「奴らは命を懸けさせる代わりに巨万の富を餌に犠牲者を増やす算段らしい。この餌に喰いつこうとして社会は間違いなく荒れる。最悪、()()()()()()()()()が起こるかもしれない。」

「うぁ……」

「木綿季!!」

 

今にも吐きそうな程に顔を青くして蹲る。木綿季のトラウマが現実で蔓延する事に視界がグニャリと歪むが、和人に続けてと言う。彼はでも、と渋っていたが遂に折れて話し始める。

 

「これを防ぐ手段は色々あるけど、一番速いのは―—―()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうな。」

「どういう、こと?」

「奴らがプログラムを書き換える直前、ラースのスタッフが……茅場さんが置き土産を残したんだ。ランキング1位になったヤツが望むなら、このゲーム(世界)を終わらせられるってな。もしも、邪な考えを持つ奴が1位になった場合、このデスゲームは終わらず奴らの勝ち。逆に、正義の味方ってヤツが1位になれば俺達の勝ちってわけだ。」

 

和人は脳筋思考だろ?と言うが目は全く笑ってない。彼自身、今直ぐにでも木綿季からオーグマーを取り上げて命を懸けるデスゲームから遠ざけたいと切望している。でも、それ以上に、彼女なら正義の味方としてデスゲームを終わらせる事が出来ると確信している。勿論、和人もただ見ているだけじゃない。彼も、また―—―

 

「もし……もし1位になれば、和人を救う事が出来るの?」

「それは………」

 

恐らく、このデスゲームは多大な死者をだす。どれだけ木綿季が我武者羅に足掻こうがちっぽけな身一つの彼女では死者0なんて虫のいい話がある訳ない。だからこそ、このゲームに幕を下ろす英雄にはそれ相応の報酬が出て来るだろうと和人は予想するが……彼女はそれ抜きで俺を救うらしい。その目に欲望など片鱗も見せない。あるのは、ただ家族を救う純粋な願いだけ。

だから、かもしれない。

 

「出来るさ。木綿季なら。」

「………うん!」

 

和人は、世界で最も卑怯者だと自分を卑下しながら彼女に道を示す様に(地獄へ)と言葉を紡ぐ。

 

「木綿季……この現実世界を、皆を救ってくれ。」

「――――—任せて。だから、少しだけ待っててね。」

 

木綿季が頷いて笑みを見せると、和人は胸が引き裂かれる思いを必死に隠し彼女に右手を伸ばす。木綿季も彼の手を包み込むように両手を伸ばすと―—ほんの少し。風が吹けば消えてしまう程に小さな温度が掌から伝わって来た。木綿季が目を瞑り子供の様に胸に抱きよせて目を開くと、もう誰もいなかった。けど、両手に、胸の中に彼の暖かさがあるみたいで……

 

「やってみせるよ。必ず―—」

「お姉ちゃん]

 

呟いた言の葉が夜空に溶けると同時に、後ろから声を掛けられて振り向くと直葉と、父と母がそろって立っていた。三人とも先程までのやり取りを聞いていたらしく顔を歪めている。

 

「木綿季、あぶ「お母さん。僕は何と言われたって辞めるつもりはないよ。」

「………死ぬかも、しれないんのだぞ。」

「覚悟の上……なんて、本当は少し怖い。でも、それ以上に何も出来ないまま泣き崩れるのは嫌なんだ。」

 

二人が僕を心配してくれるのは痛い程伝わってくる。けど、僕の意思はそれ以上に硬い。死ぬのが怖くないって言ったら嘘になる。でも、これを乗り越えて和人を救うことが出来たら

 

「僕は、過去に向き合う事が出来るから………だから、お願いします!僕を、()()()()()()()()!!」

 

僕が頭を下げると三人から息を飲む雰囲気が伝わって来る。でも、そんなの当たり前だ。誰だって子供を死地に飛び込ませる親はいない。だから僕は反論されたりオーグマーを取り上げられたりしても何とかすると覚悟を決めていたけど、帰って来たのは別の回答だった。

 

「なら、私も戦う。」

「す、直葉!?何ってるの、死んじゃうかもしれないんだよ!!」

「その言葉をそのまま返すよ。私だって何も出来ないのは嫌なの!」

 

う、と反論できない僕にお父さんが空を仰いで溜息を吐く。

 

「まったく。娘達を一人でに死地に向かわせる等、許す訳なかろう。」

「ご、ごめんなさい。でも!」

「ところで母さんや。家の息子(和人)を傷付けたツケを払って貰おうと思うのだが……」

「そうね。このツケは社会的に払って貰わないとね……」

 

普段温厚な両親が額に青筋を立ててラフコフを社会的に駆逐しようと計画を夫婦間で立てる光景に娘二人は冷や汗を流しつつ絶対に怒らせないようにしようと心に誓う。

 

「木綿季」

「は、はい!」

「…………絶対に生き残りなさい。」

「は、は、え?」

「本当は、ほんとーは貴方達からオーグマーを取り上げて常に目の届く場所に置いておきたい所だけども、助けたいのでしょう?」

「う、うん。」

「なら約束して。絶対に生きて帰ってくる事。貴方は一人で戦っている訳じゃないって事。それを約束して。」

「…………解った。何があっても、絶対に死んだりなんてしない。」

 

母が頷いて父は厳格な雰囲気を少しだけ緩ませたが、流石は一家の大黒柱。激情に駆られながらも生きて帰れと約束する。絶対に保護にしちゃダメな約束を3人に誓う。僕は家族を見渡して大きく深呼吸する。そして

 

「それじゃあ、助けよう!僕達で!」

 

「「「おーーー!!」」」

 

それから直葉達は和人の所へ行くと言い、僕は少しだけ夜風に当たりたかったので後でエントランスで待ち合せと言っておいた。ベンチに座って感じる風はもう冬の様に寒い夜風じゃない。暖かな心地よい風が僕を包み込んでくれる。しばらくすると、誰かが此方へ歩いてくる音が聞こえてきた。もしかして見回りの警備員さんと思いつつ視線を向けると、黒目黒髪の少女がランタン片手に立っていた。

 

「おや、奇遇ですね。こんな所に木綿季さんがいるとは……」

「えっと、紺野さんで合ってるよね?」

「む?どうして私の名前を……と思ったら、倉橋さんが呼んでいましたね。」

 

隣、良いですか?と聞かれたのでコクリと頷くとランタンを僕達の間に置いて座り、埼玉と同じ星空を見上げる。僕も釣られて見上げると息を飲むほどに幻想的な光景が目に入った。視線を遮るものは何もなく、視界一杯の星空に魅入られる。思わず感嘆の声が出てしまうと、隣に座った彼女が呟く。

 

「………紫苑」

「えっと、君の名前?」

「そうです。紺野 紫苑(こんの しおん)。まだ名乗ってなかったな~と思ったので。」

「あ!そう言えば。僕は桐ケ谷 木綿季って言います。」

「ええ、知ってます。だって、見ていましたから。」

「?」

 

思わず首を傾げ紺野さんを見つめると、彼女は僕に向き直り浅く頬杖を突いて微笑む。彼女は同性の僕でも息を飲むほど綺麗だから、ちょっとドキッとしたのは内緒。

 

「木綿季さん。私にも和人君を助けるのを手伝わせてくれませんか?」

「………へ?えと、如何して?」

「如何してと言われると厳しいですが…………しいて言うなら……」

 

そこで言葉を区切って空を見上げたかと思うと、苦々しい表情で息を吐いた。

 

「罪滅ぼし……とは言わないでも、いい加減奴らに心底腹が立った、とでも言っておきますね。」

「は、はあ。」

「如何でしょうか?信用出来なければ蹴ってくれても構いませんが……」

「うんん。僕は信頼してる。」

「ほう……それは何故?」

 

試すように聞いてくる紫苑に僕は笑みを向けて答える。この人の事はよく知らないけど、それでも理屈抜きで信頼できる。それはたぶん……

 

「だって、僕達の事を助けてくれたでしょ。」

「はあ………え、それだけですか?」

「うん。ソレだけで十分だよ!」

 

彼女は驚いたかのように口を開いていたけど突然俯いて何かを呟く。風が邪魔して聞こえなかったけれど、彼女が顔を上げた時に呆れるような笑みを浮かべていた。

 

「君はそう言う人なんですね。裏表のない、天真爛漫な人」

「そーかな?自分じゃよく解らないや。」

「そうですよ。それで、返事はOKと受け取っても?」

「勿論!でも、OSは……」

「デスゲームですよね。流石に知ってます。」

 

彼女はそれだけ言って立ち上がり、そろそろ帰らないと体が冷えてしまいますよと言って出口へ歩きはじめる。置いて行かれないように僕も走り始めた時、暖かな夜風が背中を押してくれた気がした。




ユウキ編の始めまりだぜ!ぶっちゃけこのキリトとユウキは自己否定が原作より増し増しなので、こんなの木綿季じゃない!と思うかもしれませんが、そこは長い目で見ていてください!
作者のスタンスとしては≪主要人物は死なない≫との法則があるので。(その分、原作よりシリアス)次回は………キリト君の出番です。


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《閑話》語られない剣士の物語

《閑話》は裏でキリト君が何しているかを簡潔に書いていきます。基本は短い。


木綿季に現実世界を任せた俺は、向こうから接触(コンタクト)してきた茅場さんとプレミアの送り物。SA:O(ソードアート・オリジン)にログインする準備をしている。なんでも、茅場さんが言うには今のままOS(オーディナル・スケール)で1位になっても≪ラフコフ≫に使い潰されるだけだと推測したらしい。あの狂人達が何をするのか俺にはちっとも解らないが、茅場さんは”自分も狂人だから”だと言っていた。その真意は測り兼ねないけど………現実で動けない俺に今出来るのは、これしかない。

 

『キリト君。これは、≪ゲーム≫であって≪遊び≫ではない。君の肩にはOSプレイヤーの全員の命が乗っていると思ってくれたまえ。』

 

その言葉は誇張でも比喩でもなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。というふざけた話だった。どうやらラフコフは殺人こそ至上の快楽と考えているらしく、希望に集まった―—―木綿季の様なプレイヤー達を絶望の底に叩き落す算段らしい。

 

『その最悪の結末(バットエンド)を打破するために、君が誰よりも早くSA:Oをクリアしなければならない。その後の事は私に任せてくれたまえ。』

 

なるべく時間は稼ぐがね。そう言って彼は去ってしまった。この世界に≪現実世界の人間が入って来る(ログイン出来る)のは”一週間後”。逆に言えば、正式サービス開始の一週間は俺も身動きがロクに取れないらしいが………レベリングは出来る。そして開始と同時にその間に得た知識をフルに活用して攻略する。ラスボスは、恐らく()()()()。見るだけで足が竦み、触れただけで剣士たちが灰と消えるあの存在に勝たなきゃいけない。けど、問題はない。

 

「死んでもいいゲームなんて温すぎるぜ。」

 

木綿季がデスゲームを行っているんだ。あの程度のボスに勝たずして誰が顔向け出来るってんだ。そのためにも………

 

「プレミアは木綿季に付いていてくれ。」

「な!?待ってください。私も一緒に戦います!」

「いや。こっちはデスゲームじゃないし、何より木綿季はまだ10代も半ば。死という恐怖で精神的に壊れてしまうかもしれない。だから、もしも時の為にプレミアが付いていてくれ。頼む。」

「…………わかりました。」

 

彼女が頷いてくれたのに安堵しながら俺は携帯に入っている連絡帳のデータを渡す。

 

「これは……アスナ達の連絡先?」

「もし木綿季に何か……いや、俺がSA:Oにログインしたら直ぐにそこに書いてある全員に連絡して欲しい。明日奈達を巻き込む形になってしまうけど、背に腹は代えられない。」

 

解りましたと彼女が頷くと同時にログインの準備が終わった。

早速あの世界に―—―と行こうとしたら服を捕まれた。

 

「プレミア?」

「気をつけてください。キリトのアカウントは無理矢理サーバーから引っ張り出した物です。何かしらの不具合が起きるかもしれません。」

「………分った。ありがとな、プレミア。」

 

不安に顔が陰るプレミアの頭をポンポンと手を乗せて視線を上げさせ、木綿季や直葉によくやる様に微笑んで見せる。俺は大丈夫。そう伝わる様に微笑むと彼女は服を離してくれたのでSA:Oへログインするための扉を開く。厳かな音共に開いていくが、待ってられないとばかりに自分から開けて飛び込んでいく。

 

 

まずは、今日中にレベル20まで上げる。そう思いつつ浮遊感に身を任せた――――—

 

 

 

「グオオオオォォォォ!」

「のわあああああああッ!!」

 

任せた結果がコレだよ!?何でログインした先が()()()()()()()なんだよ!?おまけにその場にいたモンスターにルパンダイブする始末。始めから魅せるOPだな~なんて呑気に現実逃避していたのが運の尽き。結果としてゲーム開始1分でドラゴンと鬼ごっこというrta走者も真っ青な現状になっているのだが………

 

「鬼畜ゲー過ぎませんか茅場さーーーん!!!」

 

体長4メートル近い龍の隙を付いてインベントリを開いてみるも、最悪が絶望に変わっただけだった。見事に武器も防具もない。これでどうやって戦えばいいんだ!?

ちなみに、今の俺のステイタスは≪Level.1≫は始めたばかりだから仕方ない。一方、後方で突進体制に入っているドラゴンは………って!?マズイ回避ッ!!

 

「ガアアアアアアァァァァァ!!」

「うわっつぐ!!あ、危なかった………」

 

空間を巨体が猛然と駆けた後には薙ぎ倒された木々と抉られた地面が見えるのみ。そして、その奥で頭を振っている見た目がRPGでよく出て来る4足歩行のドラゴン。奴にピントを合わせるように注視するとHPバーと名前。そしてレベルが表示される。

 

『インファイト・リザート Level.27』

 

ハッハハ!!………なぁにコレェ?

 

「そう言えば、これがオープンフィールドの特徴だったな。」

 

古今東西、オープンフィールドにおいての初見殺しが今の俺の現状だ。一番初めのマップに沸く(ポップする)埒外のモンスター。慢心した冒険者を絶望に叩き落す()()()()()。その存在の圧倒的な力量差に死に戻り(リスポーン)した方が早いのでは?と最初は思ってたけど………俺のHPはレッドゾーンに到達している。遭遇した初めに尻尾での薙ぎ払いに直撃してここまで減らされたのだ。咄嗟に初期武器を割り込ませて防御したが、剣と防具は耐久値を0にし、HPは1だけという状態だった。それだけならばまだ絶望はしないけど

 

痛覚遮断(ペインアブソーバー)が機能していないのは辛いな。」

 

直葉の防具無しでくらった腹パンとはレベルが違う。背骨が飛び出したと思う程の衝撃に、暫く動けなかったほどだ。勿論、止めを刺される前にミルタンク宜しく転がって逃げたけど。

 

「さすがに、ミンチになるのは嫌だな。」

 

インファイト・リザートの鋭い眼光に膝を着きそうになるが必死に耐える。なぜなら、先程の突進と()()()()()()()()()()で思い付いた作戦があるからだ。それに、武器は()()()()()()()

 

「…………いくぞ…」

「グオオオオオオオォォォォ!!」

「フッ!!」

 

インファイトは巨体でレベルは高いが初期マップのモンスター故に隙が大きい。特に、先程の突進と前足での大振りのスタンプ。この二つを誘発させる。不意に来る尻尾や頭部での薙ぎ払いはバックステップで躱し、噛みつきや稀に吐く近距離のブレスは潜り込んで回避する。仮想世界にはある程度慣れているけど、それよりも体が動く。生身の体を動かしているかのように『ラグ』がない。そのまま噛みつきの範囲外、前振りの範囲内という絶妙な立ち位置を保っていると、ヤツが右腕を大きく振りかぶる。

 

(今だ!)

「オオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

 

今まで以上に大きく距離を取ってスタンプの振動ごと避けて、一心不乱に岩壁に駆け出す。後方から唸り声が響いてくるが怯むことなくメニューを開き、いつでも取り出せるようにしておく。俺が今から行うのは一種の賭けだ。成功したらダメージを負わせるし、失敗したら死ぬ。タイミングは、慎重かつ大胆に!

 

「よし、後は………来た!」

 

壁に手が触れる所まで走り振り向くと、作戦通りにインファイトが突進体制に入っている。やっぱり、奴はブレス系統の攻撃が得意ではない。そして、自身すら制御できない攻撃だからこそ出来る作戦。

 

「さあ、そのまま来い!」

「オオオオォォッッ!!!!!」

 

埒外の巨体が突っ込んでくるのには目を逸らしたくなるが、ギリギリまで惹きつけ

 

「ここ、だぁ!!」

「―--グヒュゥ!?」

 

地面と龍のほんの数センチしかない隙間に体を躍らせて回避した結果、奴は破壊不能オブジェクトである岩壁に激突し無防備な姿を晒している。好機は今。と素早く立ち上がり無防備な龍の背を駆け上がっていく。そして、首裏の鱗に覆われていない部位まで走り三角飛びの要領で崖を使って飛びあがる。未だ、目を回している龍を見下ろしながらメニューから目的のアイテムを顕現させる。

 

その名は―—―≪闇を払う者(ダー■リ■ルサー)の意思≫()()()()()()()()()()()()()。それを勢いをそのまま奴に振り下す。

 

「おおおおおおぉぉぉッ!!!!らあぁ!!」

 

刹那の抵抗感の後、肉を切り裂く感触と共に地面に落下する。なんとか着地したが、剣の余りの重さによろけて転んでしまう。咄嗟にインファイト・リザートに振り向くと、奴は体中から水色の光を溢れさせ軽快なサウンド音と共にポリゴン片へと姿を変える。

 

「…………か、勝った………」

 

文字通り、死中に活を見出したためにドッと疲れが巻き起こりその場に尻餅を着く。そして、あの龍をHPが自傷で削れていたとは言え()()()倒した剣を見つめる。

 

「レベル27を一撃か。一体、どんな性能をッ!?」

 

アイテムを二度タップする事に詳細が見れるのだが、そこに書かれていた数値に絶句する。

 

 

闇を払う者(ダー■リ■ルサー)の意思≫ 作成者―—●ズ■ット

 

刃折れのため装備時の補正大幅ダウン

HP+12000/SP+120/STR+250/DEX+140/AGI+85/攻撃速度+7%/与ダメージ+150%

装備可能筋力値―—250

『其の者は闇を払う剣の墓標なり』

 

「なん、だコレ。」

 

ぶっ飛んだ補正値とか名前が文字化けしているとか色々気になるが

 

「これでも刃折れって事だよな。修復したらさらに補正値が上がるのか。しかし、何故俺のストレージの中に入っているんだ?」

 

茅場さんかプレミアが情けとしてサービスしてくれた?考えられるのはそれしかないけど………

 

「兎に角、さっきの様な作戦は禁止だな。流石に卑怯すぎる。」

 

そう心に誓ってアイテムをインベントリにしまう。ひとまず本来の拠点となる≪始まりの街≫に戻らねば。そしてまずは情報収集。情報は最も大事なステータスだからな。と、必死に俺のレベル21から目を逸らしつつ今後の予定を立てていくが………………

 

 

「やっぱり、レベリングで使う位は………いやダメだ!そもそも耐久値が0になりかけている!」

 

はあ、と肩を落として街へ向かう俺で合った。それより、()()()()()()()()()()()

「あ……」と言葉を失う俺は空を見上げる。そこには清々しい晴天が空の果てまで広がっている。

 

「とりあえず、東に向かって歩こうかな。太陽上る先に人はありってね。」

 

 

 

 

此の後、さらに3時間彷徨ってマップ最東の村に着いたのはここだけの秘密。≪始まりの街≫に着いたのはさらに4時間後の話。

 

「うん。もう、今日はログアウトしよう。」

 

さすがに、初日の7時間でレベル30に入るとは思わなかったよ。それも痛覚遮断無しで。

木綿季はこんな無茶は現実でしないでくれよと全力で自分を棚上げしつつ、ログアウトボタンを押したのだった。




こっちは、やっつけ作業の息抜きで進行します。原作2巻みたいに飛び飛びで進むかも?あと、キリト君が使った剣はHR基準。ちょっと盛ったけど。基本、ソードスキルもアニメとHR基準になります。あと、こっちではクロスオーバーとして他作品のキャラを出したいな………出します(迫真)


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≪3話≫そうだ、レクチャーしてみよう。

4コマ漫画みたいにタグが変わりますがあと一つ増えればタグ欄は完成です。
やったね多恵ちゃん!タグが増えるよ!


あの後、泥の様に眠ってしまい起きたのは昼過ぎになってしまった。OS(オーディナル・スケール)でランキング1位となって―—―実際には1位の権力を使って―—和人の虚血性心疾患と言う病気を完治して貰おうと意気込んでいる時に紫苑がやって来た。

なぜか頭を下げて

 

「どうか私に稽古をつけてください木綿季様。」

「いいけど……どうしたのさ急に。」

「いえ、あのーよくよく考えてみればOSの事を何も解っていなかったと言いますか………」

「だから、僕に稽古を?」

「はい。ですが時間が惜しいと言うなら別にしなくても」

「大丈夫だよ。むしろ、中途半端な知識で戦いに望むのは危険だからね。」

 

情報というリソースは自らの命を救う命綱にもなり得る。と、エギルや和人が言っていたような………情報は数だよ兄貴!

 

「じゃあ、何処か広い所に行こうか。流石に、病院で剣を振り回すのは危ないからね。」

 

少女移動中―—―に聞いたけど、基本的な事(安全ルールや使用上の注意)は知っている様で戦闘面に関してだけは知らないみたい。

 

「ええっと、僕も教えるのは初めてだから上手く伝わらないかもだけど、始めようか。」

「はい。お願いします。」

「まず、紫苑のステイタスや武器ってどんな感じかな?」

 

OSはランキングによって決まる『基本ステイタス』に、レベルアップやイベント戦で手に入る『振り分けポイント』の合計値がその人のOSのステイタスになっている。他にも、『武器や防具のボーナス値』や『アビリティによる増減』もあるけど、今回は割愛。

 

「武器はメインに≪大鎌≫サブに≪ハンドガン≫ですね。」

「あ、結構珍しい組み合わせだね。う~ん…となると中距離でダメージを稼ぐ戦闘スタイルになるのかな?僕も余り大鎌には詳しく無くて……ゴメン。」

「いえ。それよりも、『ソードスキル』って何ですか?」

「それは、口で説明するより見て貰った方が早いかも。」

 

ちょっと離れてもらうと訓練用の案山子を呼び出して付近に人がいないか確認する。それからOS専用のコントローラーを出してっと

 

「………綺麗な剣ですね。」

「そうだよね!僕のお気に入りで“マクアフィテル”って言うんだ」

 

僕が持っている剣は紫色を帯びたアメジストの様な幅広の両刃片手剣で、一目見た時から不思議な親近感を持った剣だった。直葉ちゃんが言うには僕に似合っている剣と言ってくれた。

 

「それじゃ、行くよ。まずはSS(ソードスキル)を使わない攻撃から」

 

剣を案山子に向け右腕一つで中段に構えて呼吸を一つ。すると、全身から余計な力が抜けていくのが感じられる。

 

「はッ!!」

 

地を蹴って瞬く間に標的に接近し剣を振り下ろし、返すように斬り上げる。すぐさま後ろに跳んで与えたダメージを確認する。基本攻撃なので二つのウインドウが案山子の頭上に表示されていた。

 

「981と990ですか。私が昨日やった時は200ちょっとだったのに……」

「僕はイベントに参加する事も多いし、順位も高いしレベルも74だからね。紫苑もいつかはこれ位のダメージが出せるようになるよ。むしろ、大鎌の特徴的にもっと出せるかも。じゃ、次はソードスキルを―—―の前に、一回オーグマーを外してくれるかな?」

「何故ですか?」

「ソードスキルを撃つためにはステイタスの装備画面でソードスキルの選択をする他に、コントローラーのボタンを押さないと発動しないんだ。オーグマーを付けていると分かりにくいからね。」

「なるほど」

 

彼女がオーグマーを外したので近寄ってボタンがある所を見せる。ちなみに、僕は付けたままなので手の感触だけで当たりを着けている。戦闘中は気にならないけどね

 

「このボタンはコントローラーを起動するものと思っていましたが、ソードスキルを発動するためのモノだったのですね。」

「そう。このボタンを押すと………」

「おお、剣が光り出しました!」

 

元々アメジストの様な輝きを持っていた剣が淡い光を纏う事によって一種の宝剣と見間違うほどの美しさを持った。僕も最初は感動して、振ったら壊れてしまうのでは?と危惧していたけど一度使ったらそんなものは杞憂だと如実に語ってくれた。

 

「それじゃあ、ソードスキルを放つからよく見ててね。」

 

再び案山子に向き直り、再度ボタンを押して剣を発行させる。

 

「ソードスキルを発動させるためには≪初動モーション≫が重要になるんだ。例えば、今から放つ≪スラント≫はこうやって………」

 

剣を上段から背中に回し溜めるような姿勢になると、視界の端に水色の光が見える。そして、機械的な女性の声が脳内に響いてくる

 

『片手剣SS(ソードスキル)≪スラント≫』

 

それが聞えた瞬間に駆け出し水色の軌跡を描きながら裂帛の声を上げて剣を振り下す。

横で見ていた紫苑には、先程より木綿季が加速したかのように感じられた。

 

「やああああ!!!」

 

振り下した剣が強く振動し対象に直撃したことを木綿季に知らせる。水色の軌跡は容易く練習用の案山子を切り裂きポリゴン片へと姿を変えさせた。

紫苑が中々カッコいいですねと口を開いたが、()()()()()()()()()を見て硬直する。

 

「………ダメージ“9661”って高過ぎじゃありませんかね…」

「確かに高いけど、この剣には≪SS(ソードスキル)の与ダメージ上昇≫が付いてるから。それも加味してのダメージかな。」

「その剣って、あれ?その剣は何処に?」

 

木綿季の右手には何も握られてなく剣を落としたのか?と周りを見るがどこにもない。キョロキョロと見渡す紫苑に笑みを零しながら説明する。

 

「剣はソードスキルを撃ったから一時的に消えているだけだよ。しばらくすれば、ほら。」

 

シャリンと音がして木綿季の手元にマクアフィテルが現れる。時間にして5秒程度だが、戦闘中に突然武器が手元から消えるのは初心者にとって怖い事なのではと紫苑は思った。木綿季もそれを解っているのか話を続ける。

 

「確かに戦闘中に武器が消えるのは怖いけど、それ以上に見返りも大きいし何よりカッコいいからね!」

「あ、それは私も解ります。見ていて惚れ惚れしましたよ。」

「そう!あ、でも気を付けなきゃいけない事もあって。SSには再使用不可時間(クールタイム)が設定されていてその間は同じSSは使えない。戦闘中に使用できるのはスキル欄に設定した技―—つまり4種類までしか使えないんだ。」

「………クールタイム。武器が消えていたのとは別の時間って事ですね。」

「そう。あと、さっきのスラントみたいな単発技なら気にしなくて良いけど、連続技を途中で辞めてしまったら本来の2倍くらいかな―—武器が消えちゃうから気を付けてね。」

 

その後、スイッチやらローテーション等を伝え、解らなければその都度答えるといった感じで説明を受け大体は紫苑が理解した所で、ふと疑問に持ったことを聞いてみる。

 

「そう言えば、木綿季達は対人戦やイベント戦で攻撃を弾いていましたよね?あれはどうやったのですか?」

「ん?結構簡単だよ。相手の振る剣よりも『早く振って垂直に当てればいい()()』だから。ちなみに誤差角度は10度までだよ。」

「………さらっと凄い事言ってますが、自覚してますよね?」

「?」

「もう何も言うまい。ちなみに、ソードスキルを弾く事は出来ますか?」

「勿論出来るよ。目には目を、ソードスキルにはソードスキルを!!てね。ちなみに銃弾も弾く―—斬る?事も出来るよ」

「……そんな人いませんよね?」

「大丈夫だよ。弾道予測線(バレットライン)って言う赤い線が出て来るから、そこにタイミングよく斬撃かソードスキルを当てれば弾けるよ。」

「…………銃の初速は現実と同じ速度だとマニュアルに書いてあったと思いますが」

 

紫苑の言葉に首を傾げてそんなに速いかな?と呟く木綿季に唖然とさせられる。つまり、この人はコ〇ンの蘭さんよろしく銃弾を避けれるどころか叩き切ると。

 

(そういうのはゲームの中だけで納めてください!)

「あ、明日奈からメールだ。ええっと……ダイシーカフェに緊急集合、だって」

「なら今日はここまでで、明日もお願いできますか?」

「うん!それじゃあまた明日。またね紫苑!」

 

手を振って駆けていく木綿季を見送りって、紫苑は少し練習しようとオーディナル・スケールを起動しようとした時、ふと気になって()()事を呟く。

 

「木綿季……か。どうして私が敬語で話したりすると慌てるのでしょうか?」

 

う~ん。謎は謎のまま。

 

 

「お姉ちゃん。何だか焦っていたような気がする。」

「木綿季の事?確かに普段通りに振舞っているようで逸る気持ちを抑えられないでいたわね。」

「それ、解っててお父さんに行かせたの?」

「さあ、どうかしら?」

 

病院から借りたPCを操作しながらコーヒーを飲みつつ書類を書き、たまに携帯を操作しつつオーグマーを操作する母の何時もの光景を直葉は横目に見つつ思案する。昨日の一件でお姉ちゃん(木綿季)は精神崩壊の一歩手前まで追い込まれたと倉橋先生は言っていた。でも私達がお姉ちゃんを見つけた時は普段の様に明るく元気な姿とまでは行かなくても比較的明るかったはずだ。

だけど

 

「やっぱり、()()()かな?」

 

窓から見える公園で、今はオーグマーを外しているので女子高生が必死に腕を振り回している光景を見つめる。傍から見れば微笑ましい光景だが本人はいたって真剣なのか時折首を傾げたり頷いたりしている。

その仕草や表情が、まるで―—――—

 

「ねえ、お母さん。お兄ちゃん(和人)にさ()()()()っていなかったりしない?」

 

桐ケ谷家の母―—翠はその質問に手を止め直葉に向き直る。その質問の()()()()()を理解したからこそ、作業片手に答えていい事でないと向き直ったのだ。だから、直葉も向き直り真剣な目で翠を見つめる。

そして、翠から出てきた言葉は直葉にとって耳を疑うような事だった。

 

 

()()()()()()()()()

でもね、一人はもう他界して、一人は()()()()()()。誘拐されたのはまだ物心ついたばかりの『次女』でまだ犯人も本人も見つかってない。

他界してしまった長女さんは病気で……名前は確か―—

 

 

紺野 藍子(こんの あいこ)という女の子だったわ」

 

―――――――――――—

 

お父さんに送ってもらった僕はサイコロの看板があるお洒落なお店へと歩いていく。正直、明日奈が緊急集合って言った時は皆で旅行に行くか突発的なイベント会議だったりするのだけれど、今回はどっちだろう?

 

「それとも、和人の事?」

 

プレミアちゃんとも連絡が取れないし…なんて一人呟いていたら目的のカフェが目の前に。危うく通り過ぎる所だったと冷汗をかきつつ扉を開けると、すでに僕以外の皆は集まっているようだった。あれ?と思ったけど、よくよく考えたら僕がさっきまでいたのは横浜で、ダイシーカフェは東京に有るんだったと思っていると明日奈が血相を変えて走って来て両手を広げて!?

 

「あ、明日奈!どうしたの急に」

「如何したもこうしたもないよ!こうしないと木綿季は何処かに行っちゃうと思ってぇ―」

「ハイハイ明日奈。木綿季が困って……ちょっと嬉しそうだからそのままで良いわ。」

「………リズ、助けて、くれないの?」

 

明日奈にムギューとされながらカウンターの近くまで手を引かれ座らされる。そう言えば店主であるエギルさんがいないなーとふと思ったが、それ以上に僕は話せないでいた。

和人の事を。

朝は紫苑にOSでの戦いを教えてしまったが、あれだって本当はしたくなかったのだ。それでも「では、私は木綿季さんの知らない所で命潰えるのですね。」と言われてしまったから。

 

それ以前に、僕は彼女に似ているとだけで和人の面影を乗せているんだ。前は顔が似ているとか話し方が明日奈達と初めて会った時と似ているとかだったけど 

今はそうじゃなくなっていたんだ。まるで、彼その者か―—―和人の双子の姉を相手にしているような

 

「木綿季。私達ね、知っているの。和人の―—―奇病の事」

「ッ!?そ、それは………」

「まったく。兄妹そろって水臭いわね!!」

「あいた!?」

 

リズが声を上げながら僕の額を指ではじく。予想外の強さに涙目に泣ていると、いつの間にか明日奈の抱き着く強さが柔らかくなっている事に気付く。思わず明日奈を見上げると彼女は怒ったような、それでいて泣いているような表情をしていた。

 

「昨日、キリト君から電話があったの。『木綿季を助けてやってくれ』て」

「私達が和人さんを助けるために、OSでランキング1位を取れば良いんですよね」

「私達だってキリト君を救いたいって気持ちは同じ。だから、私達も一緒に戦わせて欲しいの。」

 

明日奈と珪子ちゃんが本心から彼を救いたいと言ってくれている。でも、僕はそれに頷く事なんて出来ない

 

「二人の気持ちは嬉しいけど、やっぱりダメ。二人を失う事なんて出来ないよ……」」

「それってOSのある噂の事?≪HPが全損したら死ぬ≫って言う荒唐無稽な噂」

「………うん。」

「でも、それは結局のところ噂話だって」

『いいえ。噂ではありません』

 

突然、店内に響いた誰でもない少女のような声に明日奈がビクッと肩を震わせて声のした方を見る。すると、そこには先程までいなかった緑の作業服?を来たプレミアちゃんが座っていた。幽霊がてんでダメな明日奈が悲鳴を上げようとして、何かに気付いたのか訝しむ目を向ける。

 

「えっと、貴方は………」

「私はプレミアです。貴方はアスナですよね」

「どうして、私の名前を?」

「ユウキに聞いたからです。綺麗でカッコ良くて「ぷ、プレミアちゃん!今まで何処に行ってたの!?」

 

危うくプレミアちゃんが口を滑らせる前に僕が割り込んで話をぶった切る。それを知られてしまったら弄られる事間違いないから!ただでさえ妹っぽいと珪子ちゃんに親近感を持たれているのに………

 

「プレミアさんと木綿季は知り合いなの?」

「あ、うん。それも含めて皆に説明するよ。」

 

プレミアちゃんの事を説明すると、最初は驚いて、触れられるし温かみも感じられるプレミアちゃんに本当はAIではなく生身の人間では?と思われたけど、オーグマーを外せば見えなくなるので彼女がAIだと理解したらしい。でも、彼女が普通とは違うAI。人工フラクライトを持った電脳世界の本当の人間と言うのは伏せて置いた。

皆はそんな事ないと確信出来るけど

理由はやっぱり“偏見”

僕達と同じ魂を電脳世界で、それも人の手によって創り出されたとなれば嫌に思う人が沢山出て来る。僕達がそれを持たなかったのは多分、和人とプレミアちゃんの会話を聞いていたのが大きいと思う。あの会話を聞いていなければ………どうなっていたかは解らない。

 

「それで、噂ではないってどういう意味かしら?」

 

里香―—リズがプレミアに先ほどの意味を問う。プレミアは言葉ではなく、空中に指を振ってある新聞記事とニュースを皆に見せる。

 

その記事の内容は、昨夜に和人が言っていた事が現実になった記事だった。

 

 

 

『Hello,オーディナル・スケールをプレイしている諸君。私は、GM(ゲームマスター)とでも呼んでくれ。さて、今回のお知らせは諸君にとってもっとも最高でhotなニュースだ!既にテレビで発表されているようにオーディナル・スケールは()()()()()()()()()()()となった。HPが全損してしまえばオーグマーが君達の脳を高出力スキャンしてその負荷に耐え切れず一部が焼き切れてしまうといった風にな。』

 

画面中央に浮遊する赤ローブの物体から声が発せられる。男性か女性か。子供か老人か。その全てが混じり合って不可解極まりない声が木霊する。ローブの周辺にはその声明が嘘でない事を如実に語る様に記事が何枚も漂っている。

いわく

『鹿児島県で男性二人、子供4人がオーディナル・スケールのイベント戦で意識不明の重体』

『山梨県のある所では参加した全員が病院送りとなり死亡者すら出された。

  原因は―—―修復不可能な程のダメージを首裏から脳にかけて負った』

等。死者、重傷者含め総被害者数は200人を超える未曾有の大事件となっている。

生き残った人たちも、等しく≪記憶≫が著しく欠如していたりもする。

その被害者で共通している事は、オーディナル・スケールでHPが全損した者が倒れたという事。

 

『ハーイ。そう言う事でOSで死ぬと現実でも死んでしまう可能性があります。

 

その代わり、報酬は弾みますよ………ホラ、1万位以内だと2500万!5000位以内なら2倍の5000万円の報酬金に、イベント戦での報酬も100万から3400万までの袖振りが良い事よ。あ!ヘッ――—』

 

そこで音声が途切れてまったく別の、それこそ体の底から畏怖が沸き上がるような声質へと変わる。

 

『つまり、これは“ゲーム”であっても“非現実”ではない。“現実”と“人間”を試す“デスゲーム”だ。』

 

無機質に放たれた言葉はまるでモルモットに話しかけるそれである。さっきまでとは違う声に体が無意識に震えるけど息を吐いて押し殺す。

そこで、また口調が変わる。

 

『だからよ、見せてくれよ!人間同士の醜くも美しい“殺し愛”って茶番をよ!!!』

 

 

 

 

明日奈達はその動画を見終え唖然としているが、木綿季とプレミアの様子がおかしい事に気付く。拳や服の裾を強く握っており、木綿季は見た事もない様な親の仇以上に怒りを乗せた目をしていた。

 

「木綿季、あんた……」

「ごめん。僕、もう行かないと」

「待って!行くって何処へ「明日奈達は来ないで!!」

 

明日奈の腕から抜け出して店外へ行ってしまった木綿季を追おうと立ち上がろうとしたところでプレミアが扉の前に立っていた。

 

「ユウキは私に任せてください!アスナ達は()()()()()()()()()()()()()()があるなら私を追って来てください!」

 

プレミアの言葉と迫力に里香と珪子は固まってしまうが、明日奈だけは動じる事無くプレミアの前まで歩いて行った。その瞳は覚悟など最初っから出来ていると言わんばかりだった。

 

「プレミアさん。私も行きます。キリト君を助けたいって気持ちは変わりませんし、何より、木綿季を一人に何てさせませんから。」

「死んでしまうかもしれませんよ。」

「絶対に死にませんし死なせたりなんかしません。皆で、皆で生きてキリト君も助けて、またここに集まってパーティーでもしたいですから。」

 

聖母の様に微笑んで簡単に言ってしまう明日奈に負けましたと言ってお店の外に出るために明日奈のオーグマーに触れると、プレミアを白い膜の様な物が覆ってゆき吸い込まれるようにオーグマーに入ってしまう。そして、電話をしているように耳元からプレミアの声が響く。これで、外に行けますと説明受けていざ外へと扉を開けようとし、今度は肩を叩かれる。振り返れば里香と珪子が呆れたように立っていた。

 

「えっと、如何して二人とも呆れた顔を?」

「いやぁ、アンタは惚れた相手にはとことん尽くすタイプだったのを忘れていたわ」

「ふえ!?ほ、惚れて………」

「明日奈さんのお陰で踏ん切りがつきました。私も追い掛けます!」

「ほら!ボウッと立ってないで早くドアを開けなさい!」

 

里香に押し出される形で店外に出され―—―ドアの隙間からエギルさんがまた()()()来いよと言っていた―—辺りを見渡すが木綿季の姿が見当たらない。

 

「木綿季のやつ、何処に行ったのかしら」

「プレミアちゃんは木綿季を探すことは出来る?多分、まだ近くにいるはず」

『もう少し待ってください。今、ユウキのオーグマーにハッキングを掛けて位置情報を割り出しますから』

 

じれったいとばかりに明日奈が歩き始めた所で詩乃から『木綿季の事』とメールが届く。それを素早く開くと

『木綿季が走って行ったけど喧嘩でもしたの?』

と書いてあったので素早く『木綿季を追って!後で何でも驕るから!』とメールを返信する。

 

『出来ました!ユウキの位置を地図に表示しま―—―—ああ!!』

「ど、どうしたのプレミアちゃん!」

『大変です!直ぐにユウキを追ってください!ユウキはイベント戦闘にたった一人で飛び込みました!!』

 

三人から血の気が失せすぐさま駆け出す。形振り構わず駆け出す三人に周囲の人がギョっとして道を譲るが気にする事も惜しいとばかりに木綿季の元へ駆けていく。

 

「木綿季が戦っているって本当なの!?周囲にプレイヤーは?」

『ユウキの他に―—―5人のプレイヤーが。いずれもHPはレッドゾーンに近いです。あ、1人だけユウキと一緒に戦ってますが、その人はユウキの何倍もランキングもレベルも下です!』

「木綿季ッ!!」

 

 

 

ユウキが剣を、隣の少女が身長と同じくらい長い槍を正面の大型ゴーレムに向けている。二人はHPはそれほど減っていないが後方の4人はレッドゾーン手前まで削られて復帰できそうにない。

 

「ユウキさん、助けてくれてありがとう。でも、まだ若い貴方が無茶をする必要は…」

「僕は大丈夫。こう見えて強いから。それよりも集中して

 

 

―—―—サチ。」

 

少女―—サチは複雑な顔をしていたが、ユウキの順位を見て目を丸くする。自分よりも年下の子がこんなにも高いだなんてと驚いていると

眼前の優に3メートルを超える岩石の巨人が動く。

≪The Titan≫ ギリシャ神話の巨人の名を持つモンスターは人を簡単に潰せそうな腕を振り上げユウキ達に振り下した―—―—




タグの”原作設定の交換”とはこの事です。何、AIDS?う~む、これ以上キリト君を虐めるのは……おや?デス☆ガン=サンが此方を見ている。ああ、何処かに行ってしまった。
さて、次回は如何やってユウキと黒猫団を紡いでいこうかな(無計画……?)
ちなみに、次女さんは転生者ではないです。
あと木綿季のお姉さんの名前はあいこでした!本当に申し分けない!


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≪4話≫ コルチカムを抱く少女

『コルチカム』は花の名前です。9月から10月に咲く美しい毒花で
花言葉は
≪私の最良の日々は過ぎ去った≫と≪危険な美しさ≫


『オオオオオオォォオオオオ―—―』

 

大の大人を易々と圧潰(あっかい)させる巨椀が降り下される。その腕だけで小さい僕なんかは受けきれずにHPを全損させてしまうかもしれない。

 

でも、当たらなければ意味はない。

 

巨椀を横ステップで躱して腕を斬りつけるが、岩石モンスターの特徴の例に漏れず、与えるダメージが軒並み低い。それでもゴーレムのHPがドットではなくmm単位で削れていく光景に後方から息を飲む気配が伝わって来る。

だが、ユウキは埒が明かないとばかりに懐に潜り込むと、剣を大上段に構える。

その『初動モーション』をOSが検知し、彼女の剣が水色の輝きを纏う。それと同時に脳に直接響く機械的な女性の声

 

『片手剣SS(ソードスキル)≪バーチカル・スクエア≫』

 

ゴーレムの体の中心線に、面打ち、斬り下し、斬り上げ、全力上段切りの4発が叩き込まれる。切っ先が描いたライトブルーの正方形が余韻と共に強く輝き、ゴーレムのHPを大幅に削る。

だが、SSの代償として一時的な武器消滅(アームロスト)状態となり、ユウキと言えど後退を余儀なくされる―――普段の彼女ならば。

 

『オオオオォォォ―—―』

 

懐にいるユウキを危険人物と捉え、日本の巨椀を振るい対象を排除しようとするが()()()()()()。空気を唸らせる横薙ぎも、プレイヤーを等しく圧潰する振り下しも当たらない。

地面と巨椀の間の空間に体を滑りこませ、大振りな振り下しは懐に潜り込んで躱す。一見してその絶技―—自らを(かえり)みない行動(プレイング)―—に観戦している人々は圧倒されるが、当事者である彼女の疲弊は計り知れない。

 

(タゲが僕一人に集中しているから攻撃の隙が生まれない!これじゃあ、ジリ貧だ。早く、早く何とかしないと………時間が…!!)

 

そう、先程からユウキが無茶な立ち回りをしているのは『制限時間』という枷があるからだ。ゴーレムのHPは2本目に突入したが、残り時間は6分しかない。視界の奥ではユウキが入る前まで戦っていたプレイヤー達が助太刀に入ろうとするが、暴れ狂う巨人に二の足を踏んで戦線に戻れそうもない。時間がない。その単語が浮かぶたびにユウキの心がざわついて行く

 

刻一刻と残り時間が減る中、まるで疲弊したかのようにゴーレムの動きが鈍る。

攻めるなら今しかないと脳が最速で体を動かす。片手で持っていた剣を両手に持ち替え振りかぶる。すると、ユウキの剣が今度は赤く、紅く、全てを染め上げるかのように薔薇色の輝きを纏う。

 

『片手剣”最上位”SS(ソードスキル)≪ノヴァ・アセンション≫』

 

全力で振り下した斬り下しから片手に持ち替え薔薇色の軌跡を描いていく。先のSSよりも鮮やかに、それ以上に猛々しい剣技が放たれる度に巨体が揺れ、巨神のHPを凄まじい速さで奪っていく。

斬撃が九つ目に入った瞬間、巨神の岩鎧が吹き飛び、弱点と思われる赤色のコアがむき出しになる。ユウキは再び柄を両手で握り剣を大上段に構える。

狙いは―—―赤く発光するコア

 

「はああぁ!!!」

 

薔薇色の流星を描く斬撃がコアに叩き込まれ、激しい音と燐光が辺りに撒き散らされる。ユウキは余韻に浸る事なく顔を上げ、巨神のHPに視線を向ける。

未だ減り続けるHPは1本目に突入しなお勢いが止まらず減少し続ける。それは黄色(イエローゾーン)に入り、なお止まらずに赤色(レッドゾーン)に突入する。

 

 

が、()()()()()()()()()。まだ、倒せていない。

 

「ッッーー!!!」

 

再び動き出したゴーレムから離れるも、SSで気力を出し切ったために足元が覚束なく思ったほど間合いが開けていない。

そして、その距離はゴーレムの最も特異とする間合いだった。突如、ユウキの視界が地震でも起きたと錯覚するほどブレる。

攻撃を喰らったんだ―—そう理解した瞬間にHPは赤色(レッドゾーン)手前まで減少する。急いで立ち上がろうとするも巨神は既に腕を振り上げており、ユウキの剣も戻っていない。

視線の奥で先ほどの少女―—サチが走り出すが間に合わない。

ユウキが歯を食いしばって打開策を高速で思案するが、巨神は無慈悲に腕を振り下し

 

 

 

ゴオオオォォォンと、振り下した腕が爆ぜて巨神が大きく仰け反る。呆気に取られたユウキは爆ぜる直前に()()()()()()()()()()()を撃った人物に振り返る。

そこには、灰が混じった銀色の対物狙撃銃(ウルティマラティオ・ヘカートⅡ)を構えたクリアな水色のショートヘヤーを持ち、緑色のジャケットを着込んだ少女。銃撃の余波でふわりと舞うサンドカラーのマフラーが猫の尻尾の様にも見える。

 

「シノン!」

「さっさと回復アイテムを使いなさい!それまで、そこの人達とソイツを喰いとめるからッ!!」

 

シノンの言葉と共に銃から白い光が漏れ、後方で先ほどと同じ爆発音が聞こえて来る。それをバックに急いで戦線をはなれ、OSのストレージを開き回復結晶を取り出す。『ヒール』と唱えると手の中の結晶が砕け散るが、代わりにユウキのHPが完全に近い所まで回復する。そこで呼吸を整えながらゴーレムに向き直ると、先程の青年たちが攻撃しては速離脱、また攻撃とヒット&アウェイを行っていた。ユウキの様に大きくHPを蹴づる事は無いが、青年たちのHPも盾を持っているディフェンダー以外減っていない。その間にシノンが的確に銃弾を放ちHPを大きく削っていく。

 

(このままなら、あの人達は誰一人欠ける事無く勝てるかな。)

 

呼吸も落ち着き前線へ戻ろうと立ち上がった瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()

え?と動けなくなるユウキの視界で、乱入して来たプレイヤーは嬉々として死にかけのゴーレムに剣を振るっていく。

何で、どうして今?と混乱する頭で考えた時、ユウキの脳裏に昨夜の和人との会話が浮かび上がる。

 

『奴らは命を懸けさせる代わりに巨万の富を餌に犠牲者を増やす算段らしい。』

 

ハッとして乱入したプレイヤーに目を凝らすと、その誰もが10万位以下の順位、最大でも九万位に入ったばかりの人達だった。

つまり、彼等はイベント戦において『最もポイントの取得が高いLA(ラストアタック)』とそれで手に入る強力な武具目当てで戦っているのだ。

 

自らは苦労せず甘い蜜を啜る古来よりの戦法―—『漁夫の利』もしくは『ハイエナプレイヤー』

もし、これが普通のゲームならネット喧嘩や上記の二つを逆に利用する戦法も取れるが、ことOS(オーディナル・スケール)で直面したユウキは彼らに対し『怒り』を覚えていた。

本物の生死が掛かった戦いを、不謹慎でも―—―本当の意味での神聖な闘争を陵辱されたようで

何より、僕達が命を懸けて戦っていた所を土足で踏み荒らされて『お前のやっている事は無駄だった』と告げられているようで―—―

 

「………」

「ユウキ、悔しいけど今の内に戦線を離脱しましょう。OSのシステム上、LAポイントは奴らに奪われるけどそれ以外の貢献ポイントの大半は貴方に行くはずよ。」

 

剣を下し俯くユウキにシノンが近寄る。先ほどの青年たちも訳が分からないとばかりにユウキに集まるが、突然の乱入プレイヤーや自分たちを助けてくれた少女に如何話しかければ良いか迷っていると

ユウキが覚束ない足取りで、未だに堅牢な岩鎧に攻めあぐねているプレイヤー達に歩いていく。

あ!と声を上げたのはサチだったか。シノンはまだ続けるつもりと溜息を溢してユウキを見守るがその様子がおかしい事に気付く。

 

まるで、業を煮やした”幽鬼”のような

 

ユウキに乱入したプレイヤー達が気付き、言外に邪魔だと視線を殺到させるが少女は止まらない。やがて、痺れを切らした気の短いプレイヤーが話かける。

その様子を外から見ていたシノンはヘカートⅡを撃ち込んでやろうと銃を構えるがサチに慌てて止められている。

 

「お嬢ちゃん、アンタは頑張ったんだから後は任せてどっかに行ってな。」

「…………」

「聞こえなかったのか?邪魔だと言ってい「――—いて」…は?」

 

 

「どいて。ソイツを殺せない。」

 

 

俯いていた顔を上げ、素人にすら解る殺気を無差別に叩きつける。ヒッ!と声を漏らしたプレイヤー達の間を通りぬけHPがドット単位で残っている巨神へと歩みを進める。

巨神すらも恐怖で動けなくなったかの様に佇んでいるが、思い出したかのように唸り声を上げながら腕を振るう。

だが、ユウキには酷く遅く見えるその攻撃を、強烈な振り下しで叩き落し巨神の腕を地面に陥没させる。それだけで残りのHPが尽きたのか水色の光を漏らしながら全身を罅割らせていき、ガラスが砕ける音と共にポリゴン片へと散っていく。頭上で勝利を知らせるファンファーレが鳴り響くが、ユウキは気にも留めずにシノン達の所に歩いていく。

 

「木綿季、アンタはねぇ……」

「し、詩乃?どうして怒ってるの?」

 

何故か怒り心頭の詩乃に出迎えられる。先程の青年たちも複雑な表情を浮かべていたが、意を決してと言う風に彼等のリーダーと思われる人が一歩前に出る。

 

「あの、危ない所を助けて頂き、ありがとうございました!」

 

恐らく大学生?くらいの人から頭を下げてお礼を言われた木綿季は狼狽し、お礼を言われる程じゃあと言ったが

 

「それでもです!貴方が来てくれなければ、僕達は今頃倒されていたかもしれない。だから、本当にありがとう!」

 

それから口々に彼らがお礼を言い、頬が熱くなって来るのを感じながらも詩乃に助けを求めるが『自分でどうにかしなさい』と視線で言ってきた。

どうしようと木綿季が悩んでいると、後方から誰かが駆けて来る足音が聞えてきた。木綿季が視線を向けると涙目で駆けている明日奈が走って来て……

 

「木綿季!!!」「ぐふゥ!?」

「怪我はない!大丈夫!心配したんだからねーーー!!!」

「ゆ、ゆらさないで~~」

 

突撃抱擁からグワングワンと体を揺さぶられる。さっきの戦いよりダメージを負った木綿季が力なく首を倒すと、明日奈が背筋が凍る程の視線を向けているのが目に入り一瞬で立て直す。段々と肩に食い込んでゆく明日葉の手に物申す事すら出来ずに言葉を待っていると、明日奈の口が開き説教が始める――—直前で付いて行けずに呆然としている大学生達が目に入る。

 

「あの、貴方方は?」

「あ、はい。そこの木綿季さんに危ない所を助けて頂いたので、何かお礼をしたいと思いまして」

「お、お礼なんてそんな!僕はただ戦っただけで」

「それでも、命の恩人に変わりないので」

 

話が平行線に差し掛かったところで、二人の間にサチが入り込み二人を宥める。

 

「ケイタは落ち着いて。木綿季さんが困ってるよ。それに、お礼って言っても今は満足な事も出来ないでしょ。」

「う!?………いや、まあ、確かに……」

「木綿季さんも、私達は上辺だけの言葉で終わらせたくないの、私達のケジメとして。勿論、本当に迷惑なら断っても大丈夫。今じゃなくても良いんです。今度しっかりとしたお礼をさせて下さい。でも、出来れば受け取ってほしい。」

「………解りました。でも、今日は……ごめんなさい。」

「うん。私達こそ急にごめんなさい。あと、聞きたい事があるのだけど……」

 

そう言って先ほどのリーダー格の青年に目を向ける。彼はそれで気付いたのか邪魔になると気付いたのかもう一度頭を下げて礼を言い4人は去って行った。

 

「あの、僕に聞きたい事って……?」

 

ランキングがそんなに高いとか戦闘中の身のこなしとか?とユウキが思っていたら、彼女は予想のナナメ上の事を行ってきた。

 

「どうして、あんな”自分の命を顧みない戦闘”をしたんですか」

 

しかも、明日奈達がいる前で。当然の如く明日奈達の視線が集中し木綿季の肩身が狭くなるが、それで逃れることは出来ない。

 

「木綿季。どういう事か説明してくれるよね。」

「うん。ちゃんと説明する。でも、ここだと……」

 

先程から視線を投げている野次馬が多いこの場所では話せないと彼女達は察し、であれば少し遠いがダイシーカフェに戻ろうという事になった。

 

「あの、私達はこれから行きつけのカフェで話そうと思うのですが、えっと」

「勿論、私も行きます。あと、名前を行ってませんでしたね。私は”山元 幸歌(やまもと さちか)”と言います。」

 

彼女達がダイシーカフェに着く頃には野次馬もいなくなり、自己紹介なども移動中に済ませた。今は、帰って来た店内でエギルの出した飲み物で喉を潤しつつ木綿季が口を開くのを待っていた。エギルは空気を読んだのかリズに目配せされたのか厨房に入っている。店内には木綿季達以外の客はいない。

始めは躊躇いを見せていた木綿季も、皆がずっと待ってくれていたからか折れ、今の自分をさらけ出した。

 

 

 

「幸歌さん。僕には『助けたい人』がいるんだ。」

 

「助けたい人?それは、一体………?」

 

「御免なさい。詳しくは今は言えません。でも、その人は異病とも呼べる病気に掛かっていて『心臓病』の一種みたいなんだ。」

 

「!?だから、命を懸けてまでOSを?」

 

「うん。でも、あの人は命を懸けてまで僕に戦って欲しくないって思っていると思う。」

 

「だったら!だったら如何して自分の命をぞんざいに扱う様な戦いをしてい「わかってる!!」

 

「僕だって解ってるよ………さっきの戦い方がどれだけ危ないかなんて。」

 

木綿季が声を荒げたのには驚いたが、それ以上に木綿季が見たことも無い程震えている。

その姿は、恐怖に震え、今にも消えてしまいそうな程の少女そのものだった。

 

「自分の命が消える………それ以上に()()()()。昨日まで(そば)にいた(思い出)が、暖かなぬくもりが、大切な(和人)消えて(死んで)しまうのが凄く、怖い。」

 

「昨日から、彼が消える(死ぬ)寸前だって頭に響いて来るんだ。『(和人)が消える』『時間がない』『終末まであと少し』って」

 

「あと何日、何日彼は生きられるの?僕はそれまでに助けられるの?あと何年、何ヶ月、何週間、何日!?

 

   それとも、いま「ユウキ!!!」

 

 

悲哀の独白を遮って暖かな温もりに包まれる。いつの間にか零れていた涙が明日奈の服を濡らすが、彼女は気に止める事無く木綿季を抱きしめる。

 

「明日奈……」

 

「―—―—医療の技術はここ数年で飛躍的に進歩を遂げているわ。難病と言われた心臓病も2年前と比べて比較にならない程に技術が上がっている。

だから、和人君がそんな簡単に死ぬわけない。それに、彼はそんなヤワな人じゃないのは木綿季も解ってるでしょ。」

 

「……………うん」

 

「だからさ、木綿季も自分の命を大切にして、和人君を笑って出迎えよう?僕はこんなにも頼もしくなったぞって。」

 

「……うん!あ、でもちょっと無理はしちゃうかも………も、勿論、自分の命は大切にするよ!

ただ、全部を懸けて戦って、ぶつからなきゃ何も守れないと思うから。

だから、僕は全力で死ぬ気で戦う…と思います。」

 

最後に敬語を使ったのは明日奈の抱擁が痛いくらい締まったからで、背中は柔らかいのに前がめり込んでいると変な状態になっています。だれか助けて~~!!

と救難を出していると、抱きしめるのを止めて僕を真っ直ぐに見つめる。

それからふっと微笑んで

 

「私達が何を言っても木綿季は止まらないって知ってたよ。だから、私もそれを手伝うよ。」

 

「……明日奈…」

 

「私だけじゃない。珪子ちゃんも里香も詩乃も、和人君を助けたいって気持ちは同じ。」

 

呆けている木綿季の頭を乱暴に撫でる里香に今度は一人で行かないでくださいねと微笑む珪子。

普段はぼやかしてツンを出すが、今回は肯定で頷いてくれる詩乃。

俺も勿論協力するぜーと厨房からも声が聞えて来て、私もいますよー!とオーグマーからもプレミアちゃんが声を出す。

彼女達の決意は固く、それこそ木綿季と同じほどに

 

「私達もだけど、木綿季には直葉ちゃんやご両親もいるんだよ。

  だから、一人で抱え込まないで。一緒に和人君を助けよう!!」

 

「うん………うん……ありがと、みんあ……」

 

「兄妹そろって泣き虫で水臭いわねぇ、ホントに。」

 

「うん、ごめんね…………へへ」

 

「………木綿季さん。私にも貴方の大切な人を助けるのに協力させてください。」

 

「ふえ?さ、幸歌さん!?で、でも……」

 

「勿論、今は足手纏いだって解ってる。

  でもね、私にも解るんです。大切な人を失い欠ける悲しみも、助けたいって気持ちも。」

 

「だから、私にも手伝わせてください。」

 

幸歌には、木綿季がその人の事をどれだけ大切に思っているか痛いくらい伝わっていた。それが演技じゃない事も、自分も経験した事が有るから。自分も大切な友人を失ったから。この子にはあんな思いを経験してほしくない。損得なんてゴミ箱に捨ててこの子に協力したい手伝いたいって思ったから申しでた。木綿季もそれを感じたのか涙ぐみながらも頷いて手を差し出した。幸歌はその手をしっかりと握って答える。

 

「エギル!祝いよ!スウィーツを注文するわ!!」

 

「内にデザートの類はねえよ。」

 

「え~~~~。」

 

「なら、これに行ってみるか?女房と俺じゃ都合が合わなくてな、期限も近いし代わりに行って来てくれ。」

 

エギルが渡したのは有名なデパートのお菓子屋さんのチケットだった。

どうやら、彼は商売柄この手の者をよく手に入るらしいが自分たちで行く事は少なく、大半はお客に渡してしまっているらしい。

 

「ふ~ん……て、これ期限は今日じゃない!!何でもっと早く言わないのかしら!」

 

「だから都合が合わなかったと言っているだろう。俺も今思い出したんだよ。」

 

「まあまあ。エギルさん、お言葉に甘えて行ってきちゃいます。ありがとうございます!」

 

「うむ。ありがとエギル。今度は何か注文するわ。」

 

二人が立ち上がる中、明日奈は詩乃と幸歌を誘う。二人共、あまり乗り気ではなかったが木綿季が一緒に行こうと言ったら立ち上がってくれた。

どうやら今の二人は木綿季に弱いらしい。

 

「シノンに幸歌さん。アイツ等はデザートに目が無いから手綱を握っておいてくれよ。」

 

「そうね。善処はするわ。」

 

「あははは。」

 

詩乃は好きにさせてあげれば?と言外に告げ、幸歌は苦笑いを浮かべるだけだった。

エギルの頭痛が痛くなったのは言うまでもないだろう。

二人共早くー!と明日奈から声が掛けられ詩乃と幸歌がエギルに礼を言ってから外に出る。

あれだけあったのにまだ正午の時間帯という事に驚きつつも幸歌は眼前の楽しく話す少女達を見つめる。特に、木綿季と明日奈を。

その光景は、昔の親友と自分とそっくりで―—―—―—

 

「木綿季さんは笑顔が似合いますね。」

 

「?幸歌さん、僕を呼んだ?」

 

「いえ、それよりそのお店ってどんな所なんですか―—」

 

私も、その輪の中に加われる事を嬉しく思いながら親友に誓う。

 

  今度は救ってみせるよ、()()




≪オリジナル設定≫
OSにソードスキルをぶち込んだ
この小説のOSのSSは某箱戦機の様にアナウンスが出る。
ゲームでは使い道の少ないノヴァアが強い(確信)
OSでは回復アイテムの持ち込み可(本来はフィールドに配置される。)
ユウキが幽鬼(ギャグジャナイヨ)
サチの名前はオリジナルです。(一応、黒猫団の全員にオリ名前を付けます。)
シノン△(←は『さんかっけー』と読む)
サチと藍子は親友設定。原作ではユウキの双子なので年下の可能性が……
今回は大学生設定。

次回は戦闘は無し(?)の予定です。百合同士のキャッキャウフフを書いてやるZE☆


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《5話》エっちゃんと呼んでください

女の子って書くのタノシー!けどむずかしぃ



東京の休日は人の海が出来る。そんなことは妄言だと思っていた・・・・・今日までは

 

「明日奈ーーー!!」

 

明日奈が人混みに流されて行っちゃう!突如発生した主婦の波に僕たちは直撃して離れ離れになってしまった。

リズとシリカちゃんは抜け出せたのが確認で来たけど

僕と明日奈は押し潰されない様にするのが精一杯だ!

 

「だれかボスケテ・・・!」

「仕方ないですね。」

「ほえ?」

 

グイ!っと引っ張られると同時に圧迫感が消える。人混みから誰かが助けてくれたみたい

 

「きゃあ!?」

「あ!明日奈も出れたんだね!」

「うん。誰かが助けてくれたみたいで。」

 

リズ達は人混みの向こう側だから迂回する道はないかなーと見渡していると、一人の女の子が人垣をわって出てきた。

この辺では珍しい金髪のメガネを掛けた子だ

 

「・・・・よいしょっと。ふう。エミヤ印の大福無事にゲットです。さて、家に帰ってゆっくりと

  あ、あなた達は先程の。」

「もしかした、私達を引っ張ってくれたのは」

「そうです、私です。お礼に甘いものを奢って下さい。」

 

そう言って彼女なりのジョークをかますが、悲しきかな。明日奈の包容力と母親力の前ではジョークにならずに真面目に返されてしまった。

 

「う~ん、確かまだ一人空いていたわね。分かりました。これからそのお菓子やさんに行くので一緒に行きませんか?木綿季もそれでいい?」

「勿論だよ!一緒に行こう!」

「………ほんのジョークでしたのに」

 

リズたちと合流して目的のお店に6人で各々が気に入った注文をしていく。写真付きだから解りやすいけど

一つに絞れない~!

 

「明日奈はどれにするか決めた?どれも美味しそうで中々一つに絞れなくて」

「う~ん、私もかな。いっそ二つ注文するのも……でも食べ過ぎちゃうし」

「あ!それ良いね。すいませーん!チョコパフェとタンポポアイス?ください!」

「ゆ、木綿季。食べきれるの?」

「では、私は黒餡子を」

「誰か突っ込んでよ~~も~~!」

 

とまあひと悶着あったものの各々の品が届き、百合百合と食べあい等をしていると

里香が聞きそびれていた事を少女に聞いた。

 

「そう言えば、まだ私達はお互いに自己紹介してなかったわね。

  私は篠崎 里香(しのざき りか)。で、こっちのちっちゃいのが綾野 珪子(あやの けいこ)」「ちっちゃくないよ!」

「ふふ。珪子ちゃん可愛い。あ、私は幸歌。あなたの名前は?」

「ご丁寧にどうも。私は『ユニバース・アルトリア・エルタ』まあ、『エっちゃん』とでも呼んでください。

  見ての通り半日系人ですが、パパがアニメ好きなので漢字は入っていません。」

 

そう言って黒餡子をぱくりと一口。どうやら味が気に入ったらしくご満悦な様子。

 

「ここの餡子は星4ですね。甘さは良いのですが欠点はお値段ですか………1ヵ月に15回以上、20回は財布に厳しいですね。」

「なになに?エっちゃんはカフェとかお菓子屋とかよく行くの?」

「ええ。休日や暇が出来るとスイーツ巡りへ行きますよ。主に和菓子屋系が多いです。」

「へ~。和菓子屋か。エルタさんのオススメの和菓子屋ってありますか?」

「幸歌さんも和菓子が好きなんですか?」

「洋菓子よりはかな。優しい甘みが好きというか、そんなところ。」

「ふむり。なら……このお食事処・衛宮というお店です。」

 

その後も届いて来る品に舌鼓を打ちながら話しているとエっちゃんの携帯から着信音が鳴る。どうやら姉からの呼び出しの電話らしい。

 

「エっちゃんってお姉ちゃんいたんだ。」

「はい。手のかかる変な姉です。」

 

困ったような、それでいて嬉しさを隠し切れない笑みで答え席を立つ。

 

「皆さん。今日はありがとうございました。

  姉さんの厄介事の被害を拡大させないために私は帰ります。また何処かで()()()()ので、その時はまた甘いものを皆さんで食べましょう。」

「私達の方こそありがとうございました。ええ。その時はまた」

 

エルタが去った後、不思議な人だったよねーと里香達が話していると

 

「思い出しましたー!!」

 

と珪子が勢い良く立ち上がる。勿論好機の視線を一身に浴びてすぐに座りなおしたが。あ、ほっぺが赤い。

 

「きゅ、急にどうしたのシリカちゃん?思い出したって……」

「あ、はい。先程のエルタさんの事なのですが。私、あの人を何処かで見た事が有る気がしたんですよね。それがずっと気になってて」

「へー。それは私達も見た事があるの?実はモデルさんとか?」

 

里香の言葉にあー。と皆がそうかも?と思うが、珪子は首を横に振って

 

「モデルさんとかじゃなくて『オーディナル・スケール』で見た事があるんです!!確か、ランキングが()()だった気が」

「………え」

「たしか、録画した映像が………あった!」

 

珪子がテーブル上に写した映像には、確かにエルタが骸骨の剣士相手に大立ち回りしている映像だった。

学校のセーラーに黒のパーカーの先ほどの姿とは違い、何処か機械を思わせる漆黒の鎧には薔薇よりも紅い模様が刻まれている。その上に何処かのベーダーさんみたいなマントを羽織っていた。

柄の両端からライトセイバーの様に刃が伸びている剣を、縦横無尽に駆け回りながら剣道でもやっているの?と疑う様な凄まじい速度で振り回している。

 

「ほ、本当にエルタさんですね。」

「そう、ね。でもこんなのあり得るの?渋谷区のパワー型ボス相手に取り巻きを含めて()()()()()()()()()()()()なんて」

 

渋谷区。いや、都市部のボスは大概が出鱈目では済まされない強さを誇っていて最低でも40人の50レベル以上のプレイヤーが必要と言われている。

が、映像で行われている戦闘は―—―いや、もはや殲滅と言った方が正しい。

 

『喰らえ』

 

小手先や罠何てしゃらくせぇ!とばかりに真正面から力で捻じ伏せていく。遠距離の弓矢など映画宜しく打ち返し、ボスの攻撃の悉くを純粋な力で破壊する。

暴力的なステイタスのなせる業か、その様子は『バーサーカー』と言うに相応しい戦闘だった。

 

『………メンドクサイので終わらせますね。オルトリアクター、臨海突破!』

 

彼女が呟いた直後、ライトセイバーが強く、紅く輝く。そして画面が紅に染まり有り得ない加速をしたエルタが骸骨に肉薄し

 

黒竜双剋勝利剣(クロス・カリバー)ッ!!』

 

 

 

 

『Congratulations!』

 

レベル200を超え、ソロ攻略は不可能と言われたボスバトルを制した少女は

 

『お腹すきました。和菓子をください。』

 

世間などどこ吹く風のようだった。




リハビリ。久しぶり過ぎて書き方を忘れたマンです。
エっちゃんのキャラは妄想多め。本気で行けばランキングもっと上でしょ!と思うかもしれませんが、学業があるためこの順位に留まっている設定です。強さ的には5位まで行ける(ただし4位以上は……)

主に型月ではなくFGOを中心に鯖を出していきます。嫁であるアストルフォくん出したい
出したいな~~


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