只々、残酷なだけのお話 (異教徒)
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プロローグ

 初めに。

 この小説はアンチ・ヘイトどころの騒ぎではないです。瑞鳳、響が嫁艦の方はブラウザバック推奨です。
 また、グロが苦手、鬱展開が嫌いな人も同様です。

 それ以外の方たちだけお楽しみください。


 

 そこは、黒い空に覆われた絶海。その原初の母なる深淵たる海に、そこに雨あられと降り注ぐ砲弾に、今まさに一人の少女が沈みかけていた。

 

 少女は着ている衣服も、持っている弓ですらボロボロにちぎれて原形を保てていない。

 そしてその白い体のいたるところから赤い雫が絶え間なく流れ出ていた。

 

 もはやそこに希望は亡く。只々残酷なまでの現実があるのみだった。

 

 それでも彼女は必死に語り掛ける。ノイズ交じりの断末魔を。爆音交じりの遺言を。鮮血交じりのその思いを。

 

 

 

 「ザザッ...ていと...? 大...夫...?泣ザザザッ...いで。きっと、また...会え...」

 

 「瑞鳳っーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

                 こうして私は、瑞鳳を喪った。

 

 

 

 

 

 

 

 ...。 

 ......。

 .........。

 

 目が覚める。頬にはどこからか零れた雫の跡が残っていた。

 

 

 今日も同じ夢を見た。手の平から零れ落ちた夢が私の中に残っていた。 もはや叶わない夢だというのに。

 

 

 しかし、泣き言も言っていられない。私にはそれを言う時間も、権利すらもない。

 ただ笑顔を取り繕って、ただ仕事をこなして、ただ場を和ませて。

 

 ただ、贖罪を続けなければならない。それが私に残された一つの任務。

 

 それで、せめて瑞鳳が嗤ってくれるなら。

 

 私はこの命だって捨て去ろう。

 

 

 

 こうして私の一日は始まりを告げる。そしてそれは同時に自らの死を続ける行為でもある。

 

 自己を殺し、笑顔を振りまく。

 

 「おはよう!電ちゃん。よく眠れた?」

 「はいなのです!」

 「それはなにより。よーし、じゃあご褒美にぎゅーってしてあげるね♬」

 「はわわっ!?びっくりしたのです。」

 

 明るい仮面をかぶって日々を過ごす。

 

 「あっ、そうそう。秋津洲ちゃんに頼まれてた大艇1/1プラモデルのパーツが仕上がったから取りに来るよう伝えてくれる?」

 

 「あっ...。はい、なのです!」

 

 しかし、やはり少女の感は誤魔化せない。

 

 所詮、いくら取り繕っても仮面は仮面。そっくりであっても決して本物ではない。

 私は贋作に過ぎない。滑稽な人形に過ぎない。

 

 けれど、この喜劇を見て笑ってくれる観客のために今日も私は道化を演じる。

 

 

 そして、執務室。

 

 そこは私に与えられた領域。

 

 そこは大切な人との思い出の場所。

 

 そこは______夢の残骸。

 

 

 私は部屋に入ってそっと戸を閉める。

 

 そこは足の踏み場もないほどの荒れ模様だった。

 

 服は脱ぎ散らかり、ゴミは山となってあふれている。書類の束はいたるところで雪崩を起こし、アルバムはびりびりに破かれている。

 

 ふと、足元に落ちていた一枚の写真が目に留まる。

 

 そこには、お揃いの指輪をはめる私と瑞鳳の笑顔が写っていて______

 

 「うわあああああああああああっっっっ!!!!!!」

 

 腰から拳銃を抜いて写真に向けて発砲する。何度も何度も引き金を引く。穴が開いて顔が消えて笑顔が消えて指輪が消えて思い出が消えて消えて消えつくしてもなお引き金を引く。弾がなくなっても引き金を引く。

 拳銃を思い出の残骸に向かって投げつけ、足で踏みにじる。そして千切れた記憶をまとめて灰皿に投げ入れて火を放つ。黒い煙が線香のように、窓から外へ流れ出る。

 

 「司令官。また、やってたのかい?」

 

 「ん?響居たんだ。ごめんね、見苦しい所見せちゃって。」

 

 「別に、かまわないさ。もう慣れっこだしね。」

 

 肩をすくめて応じる響は確かに慣れた様子でゴミにまみれた部屋から器用に書類を引き出してくる。

 

 「いい加減部屋を掃除したらどうだい?そうすれば少しは気分も落ち着くだろうに。」

 

 「いやあ。一回やろうとしたんだけどね...」

 

 部屋がハチの巣になったのでやめた。ここは危険物が溢れすぎている。

 

 「まあ、いいや。それより今日の書類はこれ。こことここに印鑑と署名を。それとこっちの書類にも目を通しといて。」

 

 そうやって指示を飛ばす響の姿はこの一年ですっかり板についた。今立派な秘書艦だ。

 

 そう。秘書艦。かつてはここに瑞鳳が立っていた。そして今よりきれいな執務室で二人で笑顔で執務をこなしていた。いやな書類仕事も苦ではなかった。

 

 

 「っくうううううっつううう!!!」

 

 

 最近、瑞鳳のことを考えると頭痛がする。もはや頭は思い出したくないのか。しかし、私には義務がある。

 

 栄光と幸せを捨て、絶望と贖罪の日々に身を置くと。

 

  

 

 それが、私が自分に課せた誓いだから。

 

 

 「司令官。大丈夫かい?」

 

 「うん。大丈夫。さあ、執務を続け...」

 

 「いや、駄目だ。司令官は無理をしている。 ...ことを考えるのはわかるけれど、もう一年も経つ。

 そろそろ別なことにも_______」

 

 

 

 「駄目。」

 

 

 

 私は低い声で打ち消す。

 

 

 そう。私は人に甘えてはならない。

 

 

 「ねえ、司令官。」

 

 

 

 私は誰かに頼ってはならない。

 

 

 「実は、ずっと前から言いたいことがあったんだけど。」

 

 「なあに?」

 

 

 私は誰かに心を開いてはならない。

 

 

 

 「私は、司令官が好きだ。その、私と付き合ってほしい。」

 

 

 

 

 

 私は誰にも恋をしてはならない。

 

 

 

 「うん、いいよ?」

 

 

 けれど、そうだ。一つだけ方法がある。

 

 

 「付き合ってあげる。デートも、キスも、その先も、全部自由にしていいよ。」

 

 

 「!? ほんとうかい!?」

 

 

 「うん。だけどね______」

 

 

 

 「心だけは渡さない。この心は、傷は、絶望は瑞鳳のためだけのもの。」

 

 

 

 「それでもいいなら、付き合ってあげる。」

 

 

 

 

             これは、只々残酷なだけのお話。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 これの更新はかなり気まぐれです。正直言ってひと月に一回更新出来たら上出来です。

 なので、続きが読みたいという方々はしばしお待ちください。


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1日目。深紅の快晴

  今回はかなり長いです。

  数話に分けて終わらせるのを無理やり一話の押し込んだので当然といえば当然ですが。

  ではでは、どうぞ。



 

 

 思えば、あの日もこんな天気だった。

 

 空は雲一つない快晴。けれど空は血を流したかのように真っ赤に染まっていた。

 

 

 彼女は危険海域の空に似ているといって私の身を心配していた。本当は彼女自身も怖かっただろうに。

 

 その日は出撃を止めるべきだと思ったが、彼女は大丈夫と言って出撃した。

 

 その時に渡されたお守りがこの天山だ。

 

 艦娘ではない私には無用の長物。使うことのできない武器などガラクタに等しい。けれど彼女はきっとそれが私の身を守るからと言って手渡した。

 

 

 そして今。

 

 

 確かに体には傷一つついてない、五体満足。風一つひかない健康体。

 

 

 

 けれど、心には癒えない傷が残った。

 

 

 

 きっとこの傷は一生背負っていくのだろう。この十字架は一生背負っていく義務がある。

 

 

 彼女を思い出すたび、頭が痛み、心が軋み、感情が歪む。

 

 

 こうして今目の前にあるのがこんな滑稽なラブコメだ。

 

 響はわたしの暴言を聞いても、ただうなずくだけだった。

 

 

 

 こうして、私と響の偽りの関係が始まった。

 

 

 ああ。全くもって愉快に素敵な醜態だ。 

 

 私は自分だけでなく周りの想いすらも踏みにじっている。

 

 こんな腐れ切った私でいても、響は私を愛してくれるのだろうか。

 

 

 「うん。私は司令官のすべてを愛するよ。

 

  それがたとえ歪んだ思いでも、

 

  それがたとえ過去への固執であっても、

 

  それがたとえ、私以外の人への想いであっても。

 

  そのすべてを受け入れて愛すると誓う。

 

  だから。

 

  司令官。

 

  いくらでも私を好きなようにしてくれてかまわない。

 

  それで君の想いが満たされるなら。

 

 

  私はこの命だって捨て去ろう。」

 

 

 「.........」

 

 「ん?どうしたんだい。司令官?」

 

 「ううん。何でもない。」

 

 

 響の想いに私はこれから嘘をつく。そして永遠に、この関係が破綻するまで。

 

 

 私は残酷な仮面を被る。それがどれほど外道な行いであったとしても。

 

 

 それが、響きを救うための唯一の方法だから。

 

 

 「ねえ、響。瑞鳳は最期にあなたになんて言ってたの?」

 

 

 「.........」

 

 

 「瑞鳳は、ほかのみんなは、あなたを庇って沈んだ。」

 

 「彼女たちは、最期になんて言ってたの?」

 

 

 

  ..................

 

 

 

 

 部屋に長い沈黙が落ちる。

 

 

 

 「...。赤城さんは、私の援護のために艦載機を放ったところを、戦艦に沈められた。」

 

 

 「彼女は、最期に、『大丈夫』と言って沈んだ。」

 

 

 「由良さんは、扶桑さんと一緒に、私をかばって魚雷にあたって沈んだ。」

 

 

 「扶桑さんは、『不幸は私が引き受けるから』と言って沈んだ。

  由良さんは、『私たちを無駄にしないで。』と言って沈んだ。」

 

 

 「霧島さんは、最期まで戦艦群の注意を引いてくれた。」

 

 

 「彼女は、『ここは私に任せて』と言って沈んだ。」

 

 

 

 

 「.........瑞鳳さんは、最期まで私をかばってくれた。最後まで囮になってくれた。」

 

 

 

 「彼女は、私を逃がすともと来た方向へ引き返していった。それが、私を逃がす最善の策だったんだと、今では思っている。」

 

 

 「私はなぜ皆がそこまでするのかが理解できなかった。」

 

 

 「だってそうだろう?私一人のために5人も犠牲になっている。皆は比較的軽傷で、私を置いて撤退しようと思えば撤退できるはずだった。」

 

 「私は今でもその理由を探している。なぜあの時に皆が私を守ってくれたのか。私は何をして生きていけばいいのか。」

 

 「だから、私はせめて自分の思った通りに行動した。」

 

 「司令官を助けるのもその中に含まれる。だから私はあなたを支える。それがきっと瑞鳳さんたちの想いだと信じているから。」

 

 

 嗚呼。響はどこまでもまっすぐだ。私みたいにすべてに悲観していない。まっすぐ未来を見つめている。

 

 自分の中で答えを見つけている。それに比べたら私なんて。

 

 

 「じゃあ、私はどうやって罪を償ったらいいの?

 

  彼女たちを死地へと送ったのは私。

 

  その罪はどうやって償ったらいいの?」

 

 

 そう。きっと私だって分かっていた。

 

 瑞鳳が誰かを恨むはずがないって。

 

 あんないい娘が誰かを憎んで最期の言葉を呪うなんてありえないって。

 

 だけど。

 

 私は怖かった。

 

 そうやって瑞鳳のことに決着をつけるのが。

 

 私の中で瑞鳳を死んだことにしてしまうことが怖かった。

 

 彼女のことを忘れるのが怖かった。

 

 彼女の死を受け入れることが、何よりも痛かった。

 

 

 だから、私はありもしない十字架を創って自らに課した。

 

 瑞鳳のことを忘れないように。

 

 瑞鳳がいつまでも生きているようにしたかったから。

 

 

 だけど、今その十字架のせいで響を傷付けている。

 

 そんなの、間違っている。

 

 

 

 だから____________________

 

 

 

 「ねえ、響。私を裁いてよ。それがたとえどんな重い刑であっても受け入れるから。私を、裁いてよ...」

 

 

 

  私は響に首を垂れる。

 

  まるで斬首される咎人のように。

 

  それまでの罪を懺悔するかのように。

 

 

 

 「わかったよ。司令官。」

 

 

 こうして判決は下る。道化を演じて舞台の外を騒がした狂人を裁く時だ。

 

 道化は舞台の上だからこそ成り立つものだ。

 

 舞台を一歩出てしまえばそれはただの狂人。

 

 どう偽ってみても涙は隠せない。

 

 だからそれをメイクと偽って自分をごまかす。

 

 周りから見たらどれほど滑稽なことか。

 

 だが、道化はそれに気づかない。

 

 あくまで自分は正常なんだと。

 

 滑稽に演じているだけの正常な人間なんだと思い続ける。

 

 だがそれも今日で終わり。

 

 狂人は牢に入れられ判決をただ待つのみ。

 

 さあ審判の時だ。

 

 私に、今まで犯した罪の償いを。

 

 罰を、与えてくれ。

 

 それで、私は満足する。

 

 ただ、一言「死ね」というだけでいい。

 

 私は、その一言が欲しかっただけなんだ。

 

 

 

 そして、響が口を開く。

 

 

 

 「司令官。君は、残された時間を、せめて本心で過ごすべきだ。

   

  偽りでも、義務でもない、本当の笑顔で過ごすべきだ。

 

  それがきっと、瑞鳳さんのためになる。

 

  彼女は君の笑顔が大好きだった。

 

  いつまでも笑って過ごしてほしいと、いつも言っていた。

 

  その結果自分が命を落としたとしても悔いはないと言っていた。

 

  だから。

 

  せめて笑ってほしい。

 

  心の底から、笑顔でいること。

 

  それが、私から司令官に与える一番の罰だ。」

 

 

 「そんなので、許されるの...?」

 

 「うん。彼女は、いつも君の笑顔を願っていた。」

 

  

 

   その言葉に、私は、思わず涙を漏らす。

 

   あの日のお守りだって、きっとわたしを笑わせるための冗談だったんだろう。

 

   それだけじゃない。

 

   私にいつも作ってくれた卵焼きだって、私の喜ぶ顔が見たかったから。

 

   それに気づいてあげられなかった私が、只々悔しかった。

 

   もっと早く気づいてあげられていたら。

 

   もっと笑顔で接していてあげたら。

 

 

 

   瑞鳳も笑ってくれたのかな?

 

 

   

  「ふふっ。」

 

 

 

   もう、瑞鳳の笑顔は見ることができない。

 

   瑞鳳も、私の笑顔を見ることはできない。

 

 

   だけど、それでもいい。

 

 

   瑞鳳が望むことをすると誓ったんだ。

 

 

   私は、ここにいない彼女に届けるために声をあげて笑う。

 

   「はははははははっ!」

 

 

   なんだ。簡単なことじゃないか。

 

   私って、笑えたんだ。

 

   こんなに、笑顔になれたんだ。

 

   

 

   ねえ、瑞鳳。

 

   私、今、幸せだよ。

 

   この想い、届いてる?

 

 

   

 

 

   「ありがとね。響。」

 

   「私は、私が正しいと思うことをしただけだよ。」

 

   「そっか。それで、響は今、幸せ?」

 

   「うん。私も、司令官が笑ってくれたら幸せだよ。」

 

   「なら、よかった。ほら、響も笑って?」

 

   「こ、こうかい?」

 

   「ちょっとー。全然笑えてないじゃん!ほら、こうやって。」

 

    響の口元をニッと持ち上げて笑みを創る。

 

    それは、作り物だけど、ぜんぜん不自然じゃなくて。

 

   「はい、じゃあ、写真撮ろう?」

 

   「ちょ、ちょっと待ってくれ...」

 

   「駄目ー。だって今取らないと、本当に笑ってないでしょ?」

 

   「それなら大丈夫だよ。」

 

   「どうして?」

 

   「だってさ...」

 

    響は私を振り返る。

 

    その顔には、作り物でもない、少しだけぎこちない、笑顔があって。

 

   「私は、司令官と一緒にいられるだけで幸せだから。」

 

   

   「うん!」

 

   

    この瞬間、私たちは本当に笑っていたんだと思う。

 

    だって、この時の写真は今でも色あせることなく私の胸の中で輝いているんだから。

 

 

 

 

 

 

 

   「提督!大変です!」

 

    しかし、そのつかの間の幻想はしかしある凶報によってはかなく消え去る。

 

   

 

   「レイテ島沖周辺で、瑞鳳さんと思われる艦艇が確認されました!」

 

 

   「本当!?」

 

 

   「はい。ただ...」

 

   

    報告に来た大淀は少しだけ言いにくそうに口ごもる。

 

 

   

 

 

 

 

 

 

   「瑞鳳さんが、わが艦隊に攻撃してきたとの報告があります。」

 

 

 

   「また、装備は黒く、敵深海棲艦と協力して戦闘を行っていたとのことです。」

 

 

   「その際に、『提督を出して』と何度も繰り返していたそうで...て、提督!?しっかりしてください!    提督!?」

 

 

 

 

   再び、私の心は黒く深い海にとらわれる。今度は、確かな存在感と、想いを伴って。

 

 

   

 

 

 

   そこにもはや希望は亡く。只々残酷なだけのお話が続いていく。

 

 

   それが、私に課せられた宿命なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 




  

 これから戦闘が増えます。

 二人のデートも書きたいけど、どうなることやら。


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2日目。白銀の回想

 今回はセリフ多めです。


 



                    私は夢を見ていた。

 

 

 それが、ありもしない幻影だと思っていた。

 

 瑞鳳が私に怨嗟の声を向ける。

 

 そんなことはあり得ないと持っていた。あの子はそんなこと言わないって信じていた。

 

 

 けれど、そんな都合のいい幻想はたやすく破られる。

 

 

 瑞鳳はきっと許してくれるだなんていったい何を根拠に決めつけた?

 

 私の笑顔が見たい?そんなの過去の話だ。

 

 かつての瑞鳳は死んだ。

 

 殺したのは誰だ?_____私だ。

 

 甘い幻想にひかれた愚か者は誰だ?______私だ。

 

 決意を捨てたのは誰だ?______私だ。 

 

 いま、罪を償うべきは誰だ?_____私だ。

 

 

 

 彼女の求めるものは誰だ?

 

 

 

 ____________________私だ。

 

 

 

 ならば行かなければならない。

 

 私は、彼女に嘘をついた。

 

 誓いを破った。見殺しにした。そして_______

 

 

 嗚呼。懐かしい光景だ。

 

 

 私と瑞鳳が対峙する。私は彼女を殺すために。彼女は国を救うために。

 

 

 そして、彼女が火の海の中で沈んでゆく。私は笑顔でその光景を見続けた。

 

 

 いつまでも、いつまでも。

 

 

 

                   ねえ、瑞鳳?

 

 

 

 

             今回も、ちゃんと殺して(愛して)あげるね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の意識は深海から引き上げられる。

 

 

 ...懐かしい夢を見た。懐かしくて、愛しくて、痛々しい思い出。

 

 

 

 「お目覚めかい?司令官。」

 

 「うん。ごめんね。急に倒れちゃって。」

 

 「自覚があるくらいなら大丈夫そうだね。いま、明石さんを呼んでくる。応急処置をしてくれたのも彼女だから。」

 

 「うん。ついでに、大淀も呼んできて。これからのことで話があるから。」

 

 すると、響は珍しく怒ったような表情をした。

 

 「司令官は自分を心配しなさすぎる。少しは休むんだ。」

 

 そんな響の表情を少しだけ愛しく思いながら笑顔で首を振る。

 

 「ううん。この一件は絶対に私の手で決着をつけたいの。ほかの提督に先を越されるなんて、許せない。」

 

 「.........」

 

 「大丈夫。無茶はしない。約束する。これでも私、提督の育成機関では座学実技ともに主席だったんだよ?

これぐらいへっちゃらへっちゃら。」

 

 

 「わかった。だけど私も一緒にいる。それが条件だ。」

 

 「もちろん。だって、響は私の秘書艦で彼女でしょ?」

 

 私のわかりやすい言葉に響は顔を真っ赤にする。そのまま顔を隠すようにして部屋を出て行った。ちょろい。

 

 

 

 

 「提督。お体のほうは...?」

 

 「ありがと。大淀。私のほうは大丈夫。それより、詳細の情報を。」

 

 「はい。瑞鳳さんらしき艦娘が確認されたのはレイテ沖です。その後入ってきた目撃情報から察するに我が鎮守府に接近中です。」

 

 「そう。じゃあ、ここ最近の鎮守府周辺海域の敵艦出撃の記録をちょうだい。」

 

 「え?それがどうかされたのですか?」

 

 「うん。私の考えが正しければ近々製油所地帯沿岸に敵艦が結集してるはずだから。」

 

 「持ってきたよ。...うん。確かにその通りだね。今までに見なかったような精鋭艦が頻繁に目撃されている。」

 

 「そう。だったら彼らの目的はここで間違いないね。これは明らかに陽動だよ。ついでと言わんばかりに輸送船を襲っているけど、これは瑞鳳の本来の目的じゃないね。」

 

 「え、えっと...すみません。私には何を話しているのか全然なんですけれど...」

 

 大淀が恐縮そうに手をあげる。私はそれに笑顔で答える。

 

 「今は両陣営ともに総力戦に入ってるのは知ってるよね?なら、一部がそれを利用しようとするのもあり得ない話じゃない。どこも一枚岩でできてるわけじゃないから。今回は瑞鳳がそれだったんだよ。

 製油所地帯はこの大規模海戦でも重要な役割を担うところ。そこに不意打ちで侵攻するのがあっちの総意。で、瑞鳳はそれに乗じて手薄になった鎮守府を狙うのが目的。だから作戦海域は鎮守府沿岸になると思う。しばらくは対潜哨戒も中止して準主力艦を製油所地帯沿岸に常時展開。ただし、こっちからはしかけなくていい。常に空母を3隻以上配備して。それと、やむを得ないけど大規模作戦海域へのうちからの出撃は中止。総員を本作戦に回して。」

 

 「り、了解です!それと、同時に空母棲姫も目撃されたとありますがそちらは。」

 

 「無視。」

 

 「えっ!?で、ですが、それだと鎮守府に被害が...。」

 

 「出ないよ。だってあっちの目的はあくまで製油所地帯。こっちを狙ったらあっちが不利なのぐらい承知してるでしょ。来るとしたら、瑞鳳と一緒に沈んだメンバーかな。」

 

 「...やはり、司令官はその可能性もお考えで?」

 

 「ないとは言い切れない。なら、対策して損はないと思うよ。」

 

 

 私の言葉に、響が補足する。

 

 

 「だからしばらくは彼女たちの姉妹の出撃は控えたほうがいい。そのようにしても構わないかい?」

 

 「もちろん。そっちのほうが戦果に影響が少ないしね。」

 

 

 

 「あ、あの!」

 

 突然大淀が声を張り上げる。

 

 「どうしたの?何か質問?」

 

 大淀はつらそうに口ごもった。その目には不安がありありと浮かんでいる。

 

 

 

 「司令官は、瑞鳳さんを、皆さんをどうされるつもりですか?」

 

 

 

 それははっきりとわかる不信の目だった。

 

 それはそうだろう。昔の結婚までした相手を殺せるなんて言えるはずがない。

 

 けれど、彼女は同時にささやかなすがるような目つきもしていた。

 

 きっと彼女だって本当は仲間を殺したくないはずだ。

 

 

 私は決断を告げる。決まり切っていた言葉を。彼女を救うための方法を。

 

 

 

 

          「もちろん、殺すよ?それ以外に何があるの?」

 

 

 

 

 「っっっ!...了解、しました。」

 

 明らかに失望した様子の大淀を無視してさらに指示を出す。

 

 「本作戦期間中は私の持つ全権限を響に与えます。本作戦においては、私と響が最高権限を持ちます。私が死んだ場合には響の指示に従って動くように。」

 

 「.........了解しました」

 

 「了解、司令官。任された。」

 

 「今後一切の任務は資材確保のためにのみ受注。また、遠征は継続。総力戦体制を発令します。」

 

 

 私は、瑞鳳のためならいかなる犠牲を問わない。

 

 

 それが艦娘たちの命であっても。

 

 それが私の命であっても。

 

 _____それが、瑞鳳の命であっても。彼女を救うためなら、私は彼女を殺す。

 

 

 

 「これより、本作戦を『RF作戦』と称し、これを発動します。」

 

 

 

 「瑞鳳たちを、殺して。」

 

 

 

 「__________暁の水平線に、勝利を刻め。」

 

 

 

 

 

 

           もはやそこに希望は亡く。歪んだ(殺意)が横たわるのみ。

 

 

 

 

                これは、只々残酷なだけのお話。

 

 

 

 

 

 

 




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3日目。暗緑色の墓石

 遅くなってすみません。

 今回もヤンデレ成分は抑えめ?かも?

 ではでは、どうぞ。


              鎮守府の中庭にその墓石は建っている。

 

 

 春にはお花見、夏にはバーベキュー。秋には紅葉狩り、冬には雪合戦。

 みんながお気に入りだった場所には、今や誰も近づかない。そこにはつらい記録しかないから。

 

 私の部屋からそこを見下ろすことができる。そしてそのたびに胸が締め付けられる。

 

 しかし、そこに私は毎日通っていた。そして今日も。

 

 

 「ねえ、瑞鳳。生きてたって本当?みんなも無事なの?」

 

 「きっとみんな私を恨んでるよね。だって瑞鳳が恨むくらいだもん。みんな、きっとわたしを殺したいぐらいに思っているよね。」

 

 墓石を磨きながらそっと話しかける。その墓石は瑞鳳の緑をあしらったものだったが、今では黒く変色してしまって落ちない汚れとなった。

 

 それは、きっと瑞鳳の心なんだと思う。どれだけ広い心でも広がってしまう、憎しみ、悲しみ、恨み。

 

 それを落とそうとしても落ちない。きっと一生かけても落ちない。

 

 この色が落ちるのは私が死んだとき。それか瑞鳳が死んだとき。

 

 

 私はそっと天山を取り出す。瑞鳳が最期にくれたお守り。

 

 「私は、これを使うよ。私が持ってても意味がないって思ってた。私には、使えないって思ってた。」

 

 「けど、瑞鳳のために、私は、もう一度だけ戦うよ。瑞鳳を殺すために。この手で、もう一度、瑞鳳を沈めるために。」

 

 

 私は、墓石をなでる。愛しい人との思い出を抱きしめて、笑う。

 

 「だから、さ。」

 

 

 「あと、ちょっとだけ、待っててね。」

 

 

 「私も、すぐそっちに行くから。」

 

 

 「それまで、絶対に死んじゃだめだよ?だって_______」

 

 

 

 

 「瑞鳳を殺すのは、私だから。」

 

 

 

 そして墓参りが終わってしばらくすると、今回の作戦の許可をもらいに大本営と直接交渉する。_____って言っても知り合いに頼んでコネで押し通すだけだけど。

 

 

 「司令官。大本営と連絡がつながるよ。準備はいいかい?」

 

 「うん。知り合いと話すだけだから大丈夫。そんなに緊張しなくていいよ。」

 

 「い、いや。しかし、大本営だから。それなりに、身だしなみは整えなきゃ。」

 

 「そんなこと気にしないよ。第一、今日は幾つか報告をして許可もらうだけだから。」

 

 

 そして通信機を点ける。ザザザッというノイズ音がだんだん人の声を成してくる。通話の相手は昔の私の上司。今は昇進してもう少し上の階級についた人。

 

 

 『やあ、久しぶりだね。元気かい?』

 

 「ええ。おかげさまで。もっとも、今は少し微妙ですけれど。」

 

 『ああ。瑞鳳君の件かね。それに関して君は一切の裁量権を与えてほしいから説得を頼む___ってところかな?』

 

 「察しが早くて助かります。本作戦は『RF作戦』と称した我が鎮守府の総力戦です。そのため、レイテ沖海戦からの我が鎮守府に撤退も許可願いたいのですが。」

 

 『ん。許可する。』

 

 「早いですね。」

 

 『なあに。あらかじめ決まっていたことさ。何かあったら、君に任せれば大抵の件は解決する。だから満場一致で可決されたよ。』

 

 「信頼されてるのか押し付けられているのか...まあ、都合はいいのでありがたく承ります。これより、正式に『RF作戦』作戦発動します。」

 

 『うん。健闘を祈る。ところで、一ついいかな?』

 

 「はい?なんでしょう?」

 

 『君の後ろにいるのは誰だい?同じ銀髪でまるで姉妹に見えるんだが...』

 

 「あ、暁型二番艦、響、です。司令官の、秘書艦を、やっています。」

 

 『ああ。そうか。いや。髪の色が同じで分からなかったよ。ははは。』

 

 「まあ、私の髪も珍しいですけどね...ここじゃ別に普通ですよ?」

 

 『そうなのかね?ぜひとも一度行ってみたいものだ。観艦式なんてやらないのかい?」

 

 

 「これが終わったら、考えときます。」

 

 『...そうかい。じゃあ、期待してるよ。』

 

 「ええ。では、私はこれで...」

 

 『ああ。最後に一つ。』

 

 『本作戦において、君に、無制限の艤装の使用を許可する。以上だ。』

 

 

 

 「...ありがとうございます。では、失礼します。」

 

 『ああ。健闘を祈る。』

 

 プツッと音を立てて通信は切れた。

 

 ひとまず、これで根回しは完了。あとは作戦を実行するのみ。

 

 「響ー?ちょっと今から必要な艤装のリスト作ってくれない?なるべく早く発注したいから。」

 

 「.........」

 

 「響?どうしたの?」

 

 「えっ?ああ、何でもない。うん。わかった。今から聞き取りをしてくるよ。」

 

 「うん。よろしくー。あっ、それとついでに、F6F‐5とSB2CとTBFも発注しといてくれる?」

 

 「ん?よくわからないけれど、それは海外のものかい?だったら間に合わない可能性があると思うけど...」

 

 「ううん。あっちに保管してあるのは確認済みだよ。補充が大変だし量産はできてないからあまり知られてないけどね。」

 

 「ふうん。わかったよ。じゃあ、行ってくる。」

 

 「よろしくー。」

 

 

 

 響が部屋を出ていくと、部屋は途端に沈黙に包まれる。

 

 

 響は気づいたかなあ。きっと気づいてないだろうけど。もしかしたら瑞鶴あたりが気づくかも。

 

 

 まあ、気づかれたところで別に問題ないんだけど。

 

 

 

 私は窓から中庭を眺める。空は快晴で突き抜けるように真っ青だ。

 

 

 そして、暗緑色の墓石が立っている。

 

 

 そしてそこに赤と白の椿が供えてあるさっき私が置いてきたものだ。

 

 

 風が一際強く吹く。すると赤の椿は皆まとめて落ちて散ってしまった。

 

 

 後には、一面真っ赤な椿の中に立つ、暗緑色と白色が残った。

 

 

 

 きっと、私と瑞鳳もああなるんだろうなあ。

 

 

 

 窓の外を眺めていると、ふと卵焼きが食べたくなった。

 

 前に作ったときは塩辛かったっけ。主に涙のせいで。

 

 じゃあ、今作ったらどんな味だろう。

 

 やっぱり塩辛いか、それとも苦いか。

 

 

 だけど、それはきっと甘いのだろう。

 

 それはまるで、溶けてしまうほど甘くて。

 

 きっと、私は何度でも求め続けるのだろう。此処ではない何処かで。いつまでも待ち続けて、その甘さを抱きしめる。

 

 そのために、私はここにいるんだから。

 

 だからね、瑞鳳。

 

 

 これはきっと恋なんだと思う。

 

 

 瑞鳳と一緒にいれば、すべてが輝いて見える。

 

 苦いのも辛いのも、すべてが甘く感じる。

 

 瑞鳳を想うだけで心が満たされた。

 

 離れてしまったときは、抑えようのない渇きに満たされた。

 

 だから片時も離れずそばにいた。

 

 そうやって互いを想い続けてきた。

 

 

 私はそれが恋だと思う。

 

 

 

 だからね。瑞鳳。私は今、あなたを想うだけで胸が締め付けられる。

 

 そこにいないせいで私はどこまでも空虚に支配される。

 

 それを埋めるための最期の思い出。

 

 

 それが何かは、分かるよね?

 

 

 

 ふふっ。楽しみだな。瑞鳳の顔を見るの。

 

 

 だって、それはきっと、私の大好きな顔をしていて。

 

 

 いつまでも、いつまでも。その顔を見ていたくて。

 

 

 だって私は_____________________________

 

 

 

 

 

 

               瑞鳳の、絶望した表情が大好きなんだから!

 

 

 

 

 ねえ、瑞鳳?また、前みたいに殺しあおう(愛し合おう)ね?

 

 

 そして、一杯素敵な顔を見せてね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           もはやそこに生者は亡く。歪んだ想いが募りゆくのみ。

 

 

                これは、只々残酷なだけのお話。

 

 




 次回から、戦闘シーン突入(予定)。


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4日目。漆黒の来襲

 遅れてすみません。

 代わりに4000字越えで戦闘シーンとヤンデレ永台詞突っ込みましたのでご容赦ください。

 ではではどうぞ。


 

 さて。突然だがここで残念な報告がある。

 

 

 私の思惑は外れた。計画は失敗だ。

 

 

 彼女たちは、鎮守府に帰還する艦隊を襲撃した。

 

 これにより、我が艦隊は7隻轟沈、3隻大破、6隻中破、4隻小破。史上空前の被害を被った。

 

 主な原因は遠洋練習艦隊及び潜水艦作戦に従事する艦娘たちの練度が足りなかったこと。

 

 そして敵艦隊の想定外なほどの練度の高さ。

 

 

 なにより、私の作戦ミスにある。

 

 

 相手が悪かった?そんなの分かり切っていたことだろう。相手は瑞鳳達、主力艦隊なんだ。

 

 空母棲姫の存在も知っていた。にも拘らず私は切って捨てた。それが最大の痛手。

 

 

 いや、それ以外にもある。そうだ。相手はあの瑞鳳なんだ。私の考えぐらい読んでいて当然だろう。

 

 私は瑞鳳を過小評価しすぎていた。

 

 

 私は瑞鳳を信頼していなかった。それが今回の最大の敗因。

 

 

 嗚呼。嗚呼嗚呼嗚呼!

 

 

 瑞鳳は今でも私を信頼してくれていたというのに。

 

 私はそれを裏切った。

 

 その結果がこのざまだ。

 

 仲間まで私の喜劇に巻き込んで。こんなの、提督失格じゃないか。

 

 

 そうか。私に初めから提督なんて向いてなかったっけ。

 

 

 それを無理やり努力とチートで押し切ってこうしてなってみて。

 

 これで十二人目。一年もしないうちに十二人!

 

 

 全く呆れるほどひどい戦績だ。

 

 これが終わったらきっと解任だろうな。

 

 

 

 なーんて。私は初めから提督の地位なんてどうでもいい。

 

 私は、ただ一つの目的のためにすべてを踏み台にしてきた。

 

 それなら、何をいまさら命の十や二十を気にすることがある。

 

 そうだ。

 

 初めからそうすればよかったんだ。

 

 全軍進撃。歴戦だろうが初陣だろうが関係なしに放り込む。

 

 

 玉砕戦法。

 

 

 嗚呼。いい響きだ!私の命も投げ捨てて。所詮艦娘なんて一時の命。

 

 

 なら、なぜこの作戦をみんな取らないのか______________________?

 

 

 

 「そんなの、決まってるじゃないか。みんな、大事な仲間だからだよ。」

 

 その仲間に弓引く形になっている今はどうなの?それでも戦うの?

 

 「うん。敵と協力しているなら戦う。けれど、できるなら命は救いたい。」

 

 そんなの、理想論だよ。

 

 「そう...かもしれないね。だとしても。」

 

 「私は、あなたのためにみんなを救うよ。」

 

 「司令官は命を粗末にしすぎる。瑞鳳の時だって、ほかの娘たちには目もくれなかった。そのことを根に持っている子だって大勢いる。」

 

 だったらなに?今更追悼しろと?それでみんな救われるの?そんなの非合理的じゃない?

 

 「じゃあ、あなたは艦娘を人だと思ってないのかい!?私たちだって人間だ!こうして普通ではない力を持っているけれど、それ以外は普通の人間だ!」

 

 あなたたちは。人間の体を持っているけれど、それはただの仮初にすぎないんだよ。

 

 「そんなことない!私の司令官への想いは本物だ!心があるならそれは________」

 

 感情を持った化け物、だよ?

 

 「                                          」

 

 

 そう。これが私の本心。艦娘なんてどれも人間のふりをした化け物。その点では正々堂々と人外を名乗る深海棲艦のほうがよっぽどましに思える。

 

 「響。出撃命令。これより鎮守府近海に精鋭艦隊とともに出撃し、敵哨戒部隊の排除を。同時に艦載機群の空襲も予測されるため全艦隊に対空装備の徹底を通達。」

  

 「っく...了解...響、出撃する...っ。」

 

 

 唇をかんで立ち尽くす響に私は冷酷に命令を告げる。それが、正しい鎮守府の在り方だから。

 

 

 

 

 ザザザザザザッザザザザザザッ

 

 

 そこは、鎮守府にほど近い海域。本来そこには駆逐艦か軽巡洋艦しか出没しない安全な海域であったはずだ。

 

 それが、今では______

 

 

 「くらいなさーい!」

 

 「愛宕!後ろからも敵が!」

 

 「響は私から離れるな!この程度の空母、私が轟沈させてやる!」

  

 長門の41センチ連装砲二門から爆発的な炎が上がる。それと同時に敵の空母ヲ級flagshipが悲鳴を上げて沈んでいく。

 が、それでも周りにはまだ大量の空母たちが残っている。そしてその中心には空母棲姫が無傷で君臨する。

 

 おまけにその周囲は空母ヲ級改flagshipが複数体輪形陣で守りを固めている。今ので一体沈めたが、逆に言えば一体しか沈めれていない。

 

 練度90越えの長門と武蔵がそろっていてもやっと一体。隣に立つ千歳と千代田はとうに中破して動けなくなっている。いや、開幕時点で制空権を奪われてなすすべもなく蹂躙されたのち放置されただけ、まだましかもしれない。

 

 長門や武蔵はとうに中破していた。愛宕は辛うじて小破。響は奇跡的に回避がうまくいっていまだ健在だが、それでも一撃食らったら小中破は免れない。

 

 「くっ!どうだ愛宕!退路の確保はできそうか!?」

 

 「ギリギリ1分稼げるかどうかってところよお!それでも大破は免れないわあ!」

 

 「なら、せめて私とお姉が攻撃をひきつけます!私たちは軽空母でもトップクラスの耐久値だから、しばらくは持ちます!」

 

 「いや、そうはいってもお前たちは軽空母だ。危険すぎる!」

 

 「なら、私が囮になろう。」

 

 「響。今のお前は少し冷静でない。考え直せ。少し提督と仲違いしたからといて自分の命を捨てるような真似は...」

 

 「長門に何がわかるっていうんだ!?私は司令官がすべてだったんだ!その司令官に否定された今、私に何の価値があると!?長門、君は確かに戦闘では強い。それは私では足元にも及ばないくらいに強い。

 だけど、君に司令官の気持ちがわかるかい!?彼女がどれだけ苦しんで、どれほど涙を流したか知っているのかい!?私はそのすべてをこの目で見てきた。そしていつもそばにいて一緒に支えて歩いてきた。それが今、全否定されたんだ。じゃあ私の今までは何なんだったんだ!私にだけは素顔を見せてくれた。私にだけは傷をのぞかせてくれた。私だけが彼女と一番深い思い出を共有していた!それでもだめだった!彼女は瑞鳳でなければ駄目だったんだ!その瑞鳳が敵に回った今、彼女の最期に一番近かった私はどうなるんだい!?瑞鳳に救われて、司令官を愛して、その両方に背いて生きていくなんて私にはできない!だったら今、ここで死んで司令官の中に一生残り続けたほうがいいに決まってる。そうさ。彼女に言えない傷を残せばいいんだ!そうすればきっと私のことを思い出してくれる私のことで涙してくれる私を愛してくれる!だからもう関わらないでくれ!そうすれば私は救われる。みんなも救われる。これ以上ないハッピーエンドじゃないか!それに所詮艦娘なんて兵器なんだ。一人ぐらいなくなってもすぐに代わりがき______________________」

 

 響の言葉が途切れる。武蔵が響を胸元を掴み上げたからだ。その身長差から響は苦しそうに顔をゆがめるが、それでもその絶望にとらわれた瞳だけは揺るがない。

 

 

 「いい加減にしろ!お前が死んだところでそれは提督を余計に追い込むだけだ!今ここで提督がなくなると、世界が終わるんだぞ?お前ひとりの想いで、提督ごとこの世界を手放す気か!それにお前は兵器なんかではない。誰が言ったのかは知らないが、そんなこと真に受ける必要はな___________」

 

 

 「言ったのは司令官だよ。」

 

 「な、なに?」

 

 「だから、私たちは兵器だって、司令官が言ったんだ!」

 

 「ば、馬鹿な!そんなことを言うわけが...」

 

 「...それは、私も聞いたわあ...」

 

 「愛宕まで...!?じゃあ、まさか本当に...?」

 

 「だから最初からそうだと言っているだろう?結局、司令官にとって特別なのは瑞鳳だけだってことさ。それ以外はみんな消耗品に過ぎない。瑞鳳以外のメンバーの墓がないのもその証拠だろう?」

 

 「それは...」

 

 立ち尽くして何も言えない武蔵の手から抜け落ちた響は、愛宕たちに背を向ける。

 

 「さあ。早くいったほうがいい。これ以上増援を呼ばれたらさすがにどうしようもないからね。」

 

 「まて、響き!」

 

 「...武蔵。もう行こう。響はもう意思を固めている。それを邪魔するのはよくない。」

 

 「長門!あいつは血迷ただけだ!今引き返せばまだ仲直り出来る可能性だって_________」

 

 「武蔵。」

 

 長門は武蔵の肩をぎゅっとつかむその手は心なし震えていた。

 

 「(わかってくれ。あいつに今抵抗したら...私たちが沈められる!)」

 

 「(何を言って...)」

 

 長門の視線の先にある響を見て、武蔵は戦慄した。

 

 

 響の体や艤装からは、黄色のオーラが立ち上り、その目からは蒼い光が伸びているようだった。

 

 

 

                その様は、まるで深海棲艦のようで。

 

 

 もはや誰も何も言わなかった。あれほど激しかった敵の攻撃すら止んでいる。

 

 響が空母ヲ級改flagshipに連装砲を向けた。それだけで、皆は自らが殺されるという本能的な恐怖を抱いて動けなくなった。

 

 

                       発砲。

 

 

 本来、彼女の攻撃ではかすり傷がいいところだ。むしろダメージが入らない事すらある。

 

 

 にもかかわらず。

 

 

 彼女の攻撃は一撃でヲ級を轟沈させた。それだけでなく、周りにいた他のヲ級や空母棲姫にまで大きな傷を与えた。

 

 それは、まぎれもなく『鬼』であった。否。それすらも超えた何か。『姫』ですらないそれはもはや名をつけることすらはばかられた。

 

 

 ヲ級たちの悲鳴を合図に止まっていた時が動き出す。一斉に響に艦載機が集中する。しかし、それを悠々と交わして、響は真っすぐに空母棲姫を目指す。立ちはだかろうとしたヲ級たちは突然轟沈した。

 

 訳が分からないという様子のヲ級たちを捨て置いて、只々突進する。空母棲姫が逃げようとしたところを、連装砲で撃ちまくる。

 

 只々引き金を引いて、無表情に、海と同じ真っ暗な瞳で。

 

 

 その命を奪おうとする。それはまさに悪魔のようですらあった。

 

 

 

 

                    「Умрите(死ね)。」

 

 

 

 

 

 その一言とともに放たれた一発の銃弾は空母棲姫を貫き、彼女に意識を霧散させる。

 

 

 死の間際になって、空母棲姫は初めて真の絶望というものを知った。

 

 

 それは、やがて真っ暗な海の中に溶け込んで_________消えた。

 

 

 

 後には、煌々と燃え盛る紅蓮の炎が。

 

 

 

 

 そして、無表情にいまだ連装砲を水面下に向けて撃ち続ける響だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          もはやそこに未来は亡く。叶わぬ想いが立ち尽くすのみ。

 

 

               これは、只々残酷なだけのお話。

 

 

 




 次回は一週間ぐらい空くかもとあらかじめ予告しておきます(震え声)

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5日目。黒銀の響き


 大変遅れてごめんなさい。

 GW中は少しでも多く投稿します。




 「は、はははははは、あははははははははははは!!!!!!」

 

 

 私は高らかに哄笑する。目の前で空母棲姫があっけなく沈んだ。それも、私ごときの一撃で。

 

 なるほど。戦意高揚は戦果にも影響する。これは司令官も知っている事実だ。だから定期的に間宮さんのアイスなどを食べさせてくれる。

 

 だが、この感情が影響する余波、果たして知っているのだろうか?いや、きっと知らないだろう。

 

 

               

 

                絶望。喪失。別離。

 

 

 

 

 なんだ。感情にはこんな力もあったのか。

 

 今の私ならきっと、瑞鳳だって沈めれる。

 

 

 彼女は特にだ。私の司令官の隣を独り占めして、いつもべったりでほかの娘たちに付け入る隙を与えさせない。司令官は気づいてなかったかもしれないが、私は特に遠ざけられていた。私が司令官を慕っていることに気づいていたのかはわからない。けれども私が戦果の報告に行こうとするのをことごとく阻んできた。おそらく警戒していたのだろう。そのせいで私は彼女と司令官がケッコンカッコカリをするのを防ぐことができなかった。それに、一度彼女の目を盗んで司令官にあった時など、彼女は真っ先に私だと気が付いてすぐにその痕跡を消そうとした。具体的には私の目の前でいちゃついてみたり、私の知らないところで私以外のみんなを誘ったイベントを行ってみたり。とにかく彼女は自分以外の人と司令官が接触するのを嫌った。そのせいで私は司令官に会えなくてとてもさみしくて辛くてもどかしくて瑞鳳が憎くて憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎憎憎憎憎憎憎________

 

 

 だから、最初は彼女が私をかばった理由が最初は理解できなかった。

 

 だが、今ならわかる。きっと彼女は司令官の中で永遠になることを望んだんだ。そうすることで司令官は永遠に彼女のことを思い続けて、私を見るたびに瑞鳳のことを思い出す。

 

 

 「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!」

 

 

 私は愚かだ。彼女の考えをただの献身だと勘違いしていた。

 

 私は彼女の陰に遠慮していた。彼女への裏切りになるから、想いを封じ込めようとしていた。あの時までは。

 

 

 けれどこうして蓋を開けてみれすべて彼女のお思い通りだ。私も司令官もこの所の手の内で踊るマリオネット。

 

 本当に道化もいいところだ。そのせいで私は貴重な時間をみすみす不意にしてきたのだから。

 

 

 しかしそれも今日で終わりだ。

 

 

 

 目の前に敵機動部隊の第二波第三波が押し寄せる。

 

 ここが私の死に場所だ。せめて瑞鳳には一矢報いたい。直接戦えないというのならその思いを踏みにじるまでだ。

 

 連装砲を構える。同時に高角砲も照準を合わせる。目標は敵艦隊中枢にいる空母棲姫たち。

 

              

 

             発砲。連射。連射。そして連射。

 

 

 空母群が瞬く間に沈んでいく。しかし、わずかながら私も被弾する。艦載機など無視してひたすら打ち続けているから当然だ。いくら強化されているとわ行っても所詮駆逐艦。あと5分もしないうちに沈むだろう。

 

 

 けれど。

 

 

 私は笑う。この激戦のさなか、狂ったように笑い、敵を嬲り殺しにする。

 

 「くくくっははははははははははははははははははははははは!あはははははははははははは!!!もうおしまいかい?そんなんじゃあ私は殺せないよ?ほら、早く私を殺してくれっ!!!」

 

 

 いつしか敵はいなくなっていた。響に沈められたか撤退したかして、目の前には空母棲姫しかいなくなっていた。

 

 「...ソンナニモシニタイカ?」

 

 「ああ。もう私にい生きている意味はなくなったからね。...君は私を殺せるかい?」

 

 「アア。イマノオマエナラ、コロセル。」

 

 「なら殺してくれよ。君ならできるんだろう?今の私には君しか頼れる相手がいない。皮肉なことにね。」

 

 「アア。テキニカイシャクヲタノムナンテマッタクオロカダ。」

 

 「...感謝するよ。頼めるかい?」

 

 「アア。ワタシガセキニンヲモッテキサマヲコロソウ。」

 

 「ありがとう。...感謝するよ。」

 

 「テキヲコロシテカンシャサレルトハオモシロイコトモアルモノダナ」

 

 ...最後まで空母棲姫は皮肉気に首を振っていた。

 

 「カクゴハイイカ?」

 

 「ああ。いつでも。」

 

 

 そして、その時はやってきた。空母棲姫の放った艦載機たちが私に爆撃を仕掛けてくる。

 私はそれをよけようともせず一身に受ける。

 

 

 ________ああ。死ぬっていうのは、こんな感じなんだな。

 

 

 ついに死ぬことなく終戦を迎えた私には新鮮な感覚だった。

 

 真っ暗な深海に飲み込まれて、私は何処までも堕ちて____________________

 

 

 

 「駄目っ!」

 

 

 突然私は強く突き飛ばされた。

 

 そして、爆撃地点には私を突き飛ばした存在がいて___

 

 

 「...暁?」

 

 

 呆然と呟いた瞬間、目の前が真っ白に染まった。

 

 

                      轟音。

 

 

 時が止まったかのような一瞬ののち、私は暁のもとへ駆け寄る。

 

 「なん、で。どうして暁がここにいるんだ!どうして...?」

 

 「決まってるでしょ?レディーの感よ。」

 

 そう言って誇らしげに胸を張って見せることすら辛そうで。その体はあちこちが黒焦げ、血が絶え間なく流れ出して。今にも沈みそうなところを気力で持っているようなもので。

 

 「なんて馬鹿なことをしたんだ!私の代わりに死ぬなんて...電や雷がどれだけ悲しむか...!」

 

 

 「響が死んで誰も悲しまないなんてあるわけないじゃない!私だって傷付く!響は司令官のことで辛いかもしれないけど、周りだって十分に辛いの!そのうえ響まで沈んだりしたら、みんな、壊れるに決まって...」

 

 「っ...。だけど、私にはもうこれしか方法がないんだ!司令官が私に振り向いてくれないなら、死んで一生彼女の思い出に残るしかないじゃないか!」

 

 「そんなの間違ってる!振り向いてくれないならずっと話しかけたらいいじゃない。そうすればいつかは_____」

 

 「死人の思い出に、勝てるわけないじゃないか...」

 

 

 私は胸の内をぶちまける。せめて死の際に誰かに話したかった、積年の想いを、恋を、絶望を。

 

 

 「私と瑞鳳ではそもそも立場が違うんだ。彼女はもう何もしなくても勝手に美化されていく。時間がたてばたつほどそれは強くなっていく。最後には彼女にとらわれてしまうんだよ。彼女の記憶の海に、永遠にね。

そんな理不尽な相手にどう対処しろと?同じ場所にいるだけで司令官は瑞鳳を思い出す。そのせいで私を見ているようで司令官は私を通して瑞鳳の現影を見ているだけなんだ。どれだけ私が尽くしても、愛しても、それはすべて瑞鳳のものになってしまうんだ...っ!私の努力はすべて空回って。それでも瑞鳳だけは愛されるなんてもう耐えきれないんだ!ああそうさ。私だって死ぬのは愚かだってわかってる。それでも!彼女の幻影を上書きして永遠になるほかに道はないんだ!」

 

 

 ああ。本当に私は愚かだ。最期まで暁に愚痴を聞かせるだなんて。

 

 

 「そう。響も大変だったんだね。」

 

 「...もう、素直に嗤ってくれよ。私はおろかだって、嘲笑してくれっ...!」

 

 「ううん。響はずっと頑張ってきたんだから。笑ったりなんてしない。代わりに、最期にレディーとしてアドバイスをするわね。」

 

 暁は、最期までレディーであろうとする。妹の愚痴を聞いて、闇を覗いて、それでも笑顔を崩さない。

 

 

 「いい?響は瑞鳳を勝てない幻影だって言ってた。確かに、瑞鳳は司令官の中では幻影かもしれなかった。

けれど今は違う。瑞鳳は肉体をもって生きている。それを司令官に証明して、理解させれば、きっと響を響としてみてもらえる。そこからは、今までの私みたいにレディーとしてふるまうの。しっかり司令官を支えて、癒して、愛してあげたらきっと響に振り向いてくれるはずよ。」

 

 暁は最後までやっぱりレディーだった。こんな私でもしっかり支えてくれている。心の傷をいやしてくれた。私を、愛してくれた。

 

 「私に、できるのかい?レディーだなんて、到底...」

 

 「大丈夫よ。だって響は私の妹なのよ?だからきっとできる。」

 

 「.........ああ。きっと、できる。」

 

 

 「そうよ。響なら、きっと立派なレディーになれる...。ううん。もう、なってるわ。」

 

 その言葉に私は力強くうなずく。

 

 「ああ。私は暁と同じ『レディー』だ。瑞鳳の幻影なんかには、負けない。」

 

 私の言葉に安心したかのように暁は微笑むと、その体がぐらりと傾く。

 

 「...ごめん、ね。私はもうダメ見たい。...本当はレディーらしく帰ってもっと話したかったんだけど、ここでお別れね。」

 

 

 その言葉に、こらえていた涙が一滴零れる。

 

 「暁...。」

 

 「もう。レディーは泣かないのよ?ほら、笑って。...最後ぐらい、一番の笑顔を見せて?」

 

 「うん...。」

 

 私は、にっこり笑って見せる。うまく笑えてたかはわからない。だって大粒の涙がとめどなくボロボロ零れるから。

 

 

 「...うん!いい笑顔ね。それなら、きっと、大...丈、夫...。」

 

 

 暁は最期まで笑ってくれていた。それが、きっと彼女なりのレディーなのだろう。絶対に泣かない。最期までみんなを支え続ける、レディー。

 

 「...ふふっ。今なら、ここで沈むのも、悪くはない、かも...ね?」

 

 

 

 常にレディーであり続けた私の自慢の姉を、私は最期まで見送った。言われた通り、一番の、笑顔で...。

 

 

 「うっ...。笑うなんて、無理に、決まってるじゃないか...。」

 

 

 

 こぼれ落ちた雫は暁に照らされて波紋を残した。

 

 

 

 そのときの光景を、私は一生忘れないだろう。

 

 

 

 気が付けば私のいる海は暁色に染まって。

 

 そこにあった悲しみさえも消してしまうかのように輝いて。

 

 まるで悲しいことなんてなかったかのように明るくて。

 

 

 

 私は、いつまでも涙を流していた。

 

 

 

 





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6日目。若緑の追憶


 今回は短めです。そろそろ終わりに近いし、伏線回収ラッシュ、始めますかね。


 それは今となっては遠い過去の話だ。

 

 どれだけ手を伸ばしても届くことのない思い出。

 どれだけ積み重ねても埋まることのない溝。

 どれだけ償っても消えることのない罪。

 

 ただそれだけを頼りに過ごしてきた私にとって、その罪は大きすぎた。

 だから。

 

 私は今一度過去と向き合わなければならない。

 

 そう、誓ったのだから。

 

 

 「瑞鳳です。軽空母ですが、練度が上がれば、正規空母並みの活躍をお見せできます。」

 「うん。よろしくね。瑞鳳。」

 

 最初にあったときは正規空母並みの戦力をと息巻いていた。当時鎮守府には正規空母が赤城しかいなかったため空母は即戦力として重宝された。

 それからしばらく前線で奮闘。気が付くと一年がたっていて練度的にも鎮守府内トップで流星改や彩雲なんかも載せて頑張っていた。

 

 いつからか瑞鳳は私と一緒に行動するようになった。執務室に秘書官として常駐しつつ、ベッドにもぐりこんでくることも多々あった。

 それと引き換えにほかの娘たちとの交流は減ってしまったけれど、悪い気はしなかった。

 

 そしていつごろからか書類と指輪を用意するようになって________________

 

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

              

                  そしてすべてを思い出した。

 

 だから私は瑞鳳と結ばれた。

 だから私は瑞鳳を裏切った。

 だから私は瑞鳳を過小評価した。

 だから______        私は瑞鳳を殺すと決めた。

 

 

 

 ねえ、瑞鳳?

 

 あなたは気づいてたのかな?それとも何も知らずにいたの?

 

 あなたは私の敵。私はあなたの敵。

 

 それは未来永劫変わらない真実。それでも、だからこそ。

 

 私はあなたに惹かれた。

 

 

 あなたは戦場で私を見たときどんな顔をするんだろうね?

 

 ああっもう!瑞鳳と早く会いたいな!そしたらきっと気づいてくれる。

 

 ねえ、瑞鳳。待っててね。もうすぐ私もそっちに行くから。

            

 

 

          そしたらいーーっぱい傷つけて(愛して)ね? 約束、だよ?

 

 

 

 

 ふふふっ。ふふふふふっ!うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!!

 

 

 あーあっ。早く明日にならないかなー。そしたらそれだけ瑞鳳と早く愛し合えるのにー。

 

 

 お日様なんて撃ち落としちゃえ。早く沈んで私のためにお月様を見せて?

 

 そしたら、お星さまも、お月様も、みーんなもまとめて壊してあげる!

 

 山は壊して川は潰して国は亡ぼす。そうすれば後にはきれいな鳥だけが残るでしょ?

 

 それが私の幸せの鳥。

 

 迷彩に隠れて姿を隠した紅白の鳥。

 

 そのためなら世界中だって敵に回す。それが私のすべてだから。

 

 

 だから。

 

 後は殺すだけ。只々前進して玉砕するだけ。

 

 

 痛いのも、苦しいのも、死ぬときも。今度は一緒だよ?

 

 

 

 

               ずーっと、ずーーーーーっとね?

 

 

 

 

 

               ...これは、只々残酷なだけのお話。

 

 





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7日目。深紅の快晴、一筋の銀雲

 今回は台本形式が多めです。

 そしてやっと提督の正体が明かされます!注文で察した方も多いとは思いますが、一応読んでみてください。

 ではでは、どうぞ。


 

                 ・銀雲__災害の前触れ

 

 

 「これより、『RF作戦』艦隊編成を発表します。」

 

 ついにこの時がやってきた。

 

 ずっと夢に見ていた瞬間。やっと瑞鳳と会える。それだけで思わず笑顔になる。

 

 「...司令官。なんで、そんなに笑っているんだい?」

 

 響は少し険しい表情で私を睨んできた。

 

 ああ。確か昨日、自分をかばって暁が沈んだからか。そんなの些細なことなのに(・・・・・・・・)

 

 「ううん。何でもないよ。」

 

 すると、響はふっとあきらめたかのように微笑んだ。

 その様子が意外で、もう少し怒るかと思っていたら拍子抜けした。

 

 「私は、もう影と張り合うのはやめたからね。司令官ともいろいろ話したいことがあるんだ。」

 

 ほんとにどうしたんだろう。暁の一件で何か思うところでもあったのだろうか。

 「まあ、この後なら時間が空いてるけど。」

 「じゃあ、その時にお邪魔するよ。」

 

 ますます不可解だけど、今はとりあえず目先のことに集中しよう。

 「まずは艦隊随伴艦。響。」

 

 「...了解。任せてくれ。必ず作戦を成功させる。」

 

 「次いで、軽巡夕張。」

 

 「私の出番ね。任せて?最新鋭の実力、見せてあげる!」

 

 「次。戦艦長門、陸奥。」

 

 「よし!ビッグ7の力、見せてくれる!」

 

 「私の出番ね?いいわ、やってあげる!」

 

 「空母。翔鶴。」

 

 「五航戦、翔鶴。参ります!」

 

 「以上5隻を中心として瑞鳳以外の随伴艦を引き付けてもらいます。この時に瑞鳳は決して狙わないこと。また、連合艦隊後方部隊に旗艦浜風、随伴艦に潮、那珂、摩耶、龍驤。これらを以て支援にあたります。ここまでで何か質問は?」

 

 手を挙げたのは長門だった。

 

 「私たち主力艦たちが出払っている間の鎮守府の警備はどうする?今現在鎮守府周辺に敵が集結しつつある。数でいえばあちらが圧倒的に上だぞ?」

 

 「瑞鳳達もそこに紛れてるから一緒に殲滅すれば大丈夫。強いて言えば残存航空戦力をかき集めて対空哨戒を厳とするくらいかな。あとは鎮守府周辺防衛戦線の指揮を武蔵に任せる。頼める?」

 

 「この武蔵に任せておけ。航空支援があるなら問題はないさ。」

 

 「じゃあ、防衛戦線は居残り組で編成。...あ。まるゆと秋津洲は待機ね。」

 

 「ひどいかも!総力戦で仲間外れはあんまりかも!」

 

 「ま、まあ...。私たちは戦闘向けじゃないですし...後方支援に集中しましょう?ね?」

 

 「ううー...わかった、かも。」

 

 さて。ここまで準備を整えた今、そろそろ荷解きをするべきか。

 

 「さて、前線組のみんなにはプレゼントがあるんだけど。」

 

 みんなが一斉にこちらを向いてくる。

 

 「精鋭装備のてんこ盛りに、バケツ300個、資源各種30000セット!」

 

 

 とたん、鎮守府が揺れた。物理的に。

 

 みんなの歓声で窓がびりびりと震える。

 

 「今の貯蓄資材が15万だから...18万。加賀や大和の無制限の運用ができるよ!もちろんバケツは計1000個!傷ついたら即入渠!かすり傷でも今回だけはオッケー!」

 

 「「「やったーーーーーー!」」」

 

 

 よしよし。これでモチベはMax。あ、モチベで思い出した。

 

 「おまけで、間宮と伊良子は食べ放題!私のおごりだーーー!」

 

 

 「「「やったーーーーーー!」」」

 

 

 完全にお祭りムードになっている中、響が心配そうな絵でこちらを見てきた。

 

 「司令官...。そんな散財をして大丈夫かい?その...懐もそんなに猶予があるわけじゃないのに...」

 

 なぜ私の懐事情を知っているのかはさておき、一応私にもそれなりに奥の手はある。

 

 「実はね、私は大本営でとある実験の被検体になったことがあるんだ。それの報酬が、今の特権と、○千万円の報酬でね。おかげで今まで私は生活の困ったためしがないんだよ。」

 

 「ブルジョワ...!?」

 

 「あ、響って最期ソ連に行ってたからそういうの駄目?」

 

 「いや、そういう意味じゃなくて...」

 

 単純に家計のことを心配してのことだったらしい。それが響に関係することは...。まあ、ある、かな?

 

 「司令官。もう一つだけ、質問が。」

 

 「ん?どうしたの?」

 

 「作戦艦隊の6隻目って、だれが入るんだい?」

 

 

 その質問はみんなも気になっていたようで一斉に注目する。

 

 ...さて。この質問が出ることはわかり切っていた。そしてこの答えですべてが変わることも。

 

 うん。これが最善手。その結果がどうなろうとも問題ない。私は私の道を進む。

 

 それが、みんなとは相容れない道だとしても。

 

 

 「第6隻目は___」

 

 

 これが私の決断。私の過去。私の願い。

 

 

 「私が出撃します。」

 

 

 「私の真名は________________」

 

 

 さあ、地獄を始めよう。これが私。かつて瑞鳳を沈めたモノ。

 

 その名は_____

 

 「enterprise。それが、私の本当の名前。」

 

 

 

      

           もはやそこに憂いは亡く。血塗られた愛をなぞるのみ。

 

                これは、只々残酷なだけのお話。

 

 

 

 




 と、言うわけでクライマックス突入です。

 次回は戦闘入るかな?

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8日目、純白の堕天使



 最終章突入です。


 カウントダウンしときます。あと、3。


 

 これは、すべてを終わらせる戦いだ。

 

 願わくば、どうか、少女の願いが成就せんことを。

 

 

 

 その日、鎮守府は沈黙に包まれていた。

 

 信頼していた提督の突然の告白。

 

 「私はあなた達と同じ艦娘(兵器)。」と。

 

 そして何より、あれだけ思いを寄せていた瑞鳳を自らの手で殺すという宣言。

 

 最後に、もう、この鎮守府に戻ることはないと別離の言葉。

 

 それが何を意味するのか。皆口に出さないだけではっきりと理解していた。

 

 

 きっと、彼女は自ら命を絶つ。

 

 

 瑞鳳を追って?それとも、今回の責任に耐えかねて?人それぞれに考えを巡らせる中、響はそれらの答えに否を下す。

 

 彼女は被害なんて気にしてない。艦娘は所詮使い捨ての兵器としか思っていない。

 

 それに、彼女の願いは、きっと「瑞鳳を殺すこと」にある。別にそれを苦に後追い自殺するわけがない。

 

 じゃあ、なぜ?

 

 ほかの鎮守府に移籍する?否。もうその理由がない。どこか遠い場所に隠居する?確かに、お金はあると言っていた。けれど、目的を果たした今となっては隠居してもすることがない。

 

 わからない。

 

 

 たった一つだけわかるのは、明日の出撃が別れの日だということだけ。

 

 ...結局、うまくいかなかったな。

 

 

 駄目。そんなのじゃだめ。

 

 

 どこかでそんな声がした。

 

 諦めないで。まだ、今ならまだ間に合うから。

 

 その声は懐かしい誰かのようで、声の主を探して部屋を飛び出す。

 

 その声は私を励まし続ける。

 

 頑張って。勇気を出して。

 

 私は走り出す。声の方向に。そして提督の元に。

 

 響の想い、ちゃんと伝えるのよ?

 

 「うん。わかったよ。...暁。」

 

 

 「司令官?いま、いいかい?」

 

 「どうしたの?何か異変でもあった?」

 

 「ねえ、司令官は、この戦いが終わったらどうするんだい?まるでこの鎮守府から去るような雰囲気だけれど。」

 

 「え?そんなの決まってるよ。だってここにもう用はないわけだし。しばらくしたら代わりの提督がやってくるから、だいじょうぶだよ。」

 

 「司令官。君はこの後、死ぬつもりなのかい?」

 

 私の言葉に、彼女は薄く微笑むと懐から拳銃を取り出した。

 そのままこめかみに当てようとしたところを私は艦娘の反射神経で叩き落とす。

 

 「なにを、しているんだい。」

 

 「なにって、自殺に決まってるじゃない。」

 

 まるで反省していない様子の司令官に、私は初めて怒り、そして____

 

 

 そのまま床に押し倒した。

 

 

 「あはは、響って意外と大胆?」

 

 「ああ。そうだろうね。私はあなたのことになるとまるで見境が付かなくなるから。」

 

 「怖い怖い。」

 

 「だから、今ならあなたをここで蹂躙することだってできる。瑞鳳が忘れるようなことだってできる。そのもっと先だって。」

 

 「.........瑞鳳は、絶対に消えないよ。」

 

 「知ってる。だから私はもっと別な方法であなたを振り向かせる。」

 

 私の瞳をじっと覗き込んだ司令官は無表情に嗤った。

 

 彼女の瞳は、どこまでも真っ白で何も映していないようだった。

 

 その瞳に、私が映る方法は_______?

 

 

 『ガシャン』

 

 

 私の手首と彼女の手首が銀色の鎖でつながれる。

 

 それは誓約のリングではなく制約の枷。

 

 

                      手錠だ。

 

 「これで、私と司令官は離れられない。カギはさっき捨ててきた。そしてこれは艦娘を縛るための専用の手錠。私にも、あなたにも、二度と解けない。ねえ?これでずっと一緒にいられるだろう?」

 

 

 私の瞳からは絶対に逃れられない。私の記憶からも逃れられない。朝も夜も食事も仕事も移動も呼吸も全部全部一緒。裸も瞳の奥も髪の毛の一本一本もすべて私のもので瑞鳳に触れられた汚い部分なんてすぐに私で上書きして二度と瑞鳳の片りんなんか見せないように微塵も欠片も一滴も全くもってこれっぽっちも残らないように駆逐してきれいにしてふき取って舐めとって私一色に染め上げて私以外のことはすべてどうでもよくなって私だ絵を見てくれる私だけの司令官でその為ならこのつながってる右腕以外いらないよね全部動けなくしようかそうして私が一生面倒を見てあげて瑞鳳の見ていないところまで全部全部ひとり占めして吸い尽くして司令官は私のもので私だけのもので私しか見ない私専用の彼女で私だけを愛してくれる司令官に書き換えてあげるねそしていつかは瑞鳳の思い出よりも私との思い出が勝る日が来るそれまではずっと一緒死ぬまで一緒。

 

 

                     だから、

 

 

 「司令官。私と結婚を、してほしい。この戦いが終わってもずっとそばにいると誓ってほしい。そうでなければ、私は_______」

 

 

                   あなたと瑞鳳を殺すから。

 

 

 

 

 

            そこにもはや迷いは亡く。握った愛を捕らえつけるのみ。

 

 

                 その手の銀の輝きは不朽。

 

              永遠に破れぬ想いとなって二人を閉じる。

 

 

                  

                これは、只々残酷なだけのお話

 

 






 あと3話で終わります。

 次回、戦闘突入です。

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9日目(前編)、純黒の絶海

 カウントダウン、あと2。


 次回こそ戦闘入ります。



 

 三つの陰が相対する。

 

 一つは黒く染まった緑の少女。

 

 一つは黒く歪んだ白銀の少女。

 

 そしてもう一つは透明に嗤う白の少女。

 

 

 ____さあ、あの日の再現と行こうか。

 

 

 白の少女は口を歪めて嘲笑する。

 

 

 その時は、もう目前に迫っていた______

 

 

 

 

 時は戻り7時間前。

 

 

 その日、鎮守府は過去最大の敵勢力からの侵攻を受けていた。

 

 少なく見積もっても優に1000を超える敵艦たち。そしてわずか150程度の艦娘たち。その戦力差は明らかだった。

 

 「入渠ドックに全員詰め込め!バケツはいくら使っても構わない!」

 

 「長門さん、南勢方面から機動部隊第4波確認しました!至急救援求ムとの電報が。」

 

 「水雷戦隊に対空装備を満載して向かわせろ。その間にこちらで回復した者たちで部隊を再編する!」

 

 「了解しました!長門さんもお気をつけて!」

 

 伝令役を任された白雪は敬礼すると再び来た道を走り去っていった。すると今度は蒼龍が満身創痍の状態でこちらに歩いてきた。

 

 「どうした!?その傷は早く入渠しなければ...」

 

 「一つ、報告が...」

 

 「分かった。落ち着いて話してくれ。」

 

 装備は大きく深呼吸すると、持ち帰った敵の新情報を伝えた。

 

 「鎮守府沿岸海域最奥部に北方棲姫と戦艦レ級フラグシップ2隻確認。至急駆逐艦と航空機動部隊を撤退させて。」

 

 「ばかな!北方棲姫がここまで南下してきたのか!?」

 

 「ええ。これ以上はいたずらに戦力を消耗するばかりよ。今引き返さないと轟沈が出る可能性も...」

 

 「くっ...。仕方ない。私が動けない以上、陸奥に行かせる。早急に部隊を再編する。蒼龍も入渠が終わったらこの部隊に参加してもらう。...大変だろうが、すまない。」

 

 「いいわよ。みんなだって頑張ってるんだから。それに、提督も。」

 

 「...ああ。きっと彼女も自分と向き合っているころだろう。彼女のためにも、ここで負けるわけにはいかない!」

 

 

 

 

 「敵機動部隊第7波確認。突っ切るよ。」

 

 「了解。水上戦は任せて。」

 

 私たちは、瑞鳳たちがいると予測される地点まで最短距離を突っ切っていた。エンタープライズ___司令官と私。二人で敵の猛攻を蹴散らしながら強引に道を創り、合間を縫うように武蔵たちが追い付いてくる。

 

 「......第7波、減ったよ。今!」

 

 「ああ。みんな、着いてきて!」

 

 「________」

 

 もはや後ろの面々は息も絶え絶えに軽く手をあげることしかできない。...そろそろ休憩のころ合いかな。

 

 「司令官。ここを抜けたらしばらく休憩しよう。みんな疲れてる。」

 

 

 司令官はそれでも目を暗く輝かせたまま進撃をするか悩んでいたが、後ろを見てため息を吐くと一つうなずいた。

 

 「そうだね。休憩にしよう。」

 

 

 

 「司令官、ここを抜けたらいよいよ敵主力艦隊が見えてくると思うけれど、どうする?」

 

 「決まってる。一隻残らず殲滅。情け容赦なく皆殺しにして。そして二度と生き返らないように念入りに頭と心臓を狙い撃ち。出来れば手足も破壊しときたいね。最善は肉片にすることだけど、そこまで余裕はないと思うから頭と心臓で十分だよ。」

 

 「______。みんなに、そこまではできないと思うよ。」

 

 「なら私がやる。みんなは致命傷を与えてくれるだけでいいよ。」

 

 「...私の方が解体向きだと思うけど?」

 

 「出来るの?自分を守ってくれたをばらばらにするなんて。」

 

 「司令官のためなら。」

 

 「そっか。ならよろしく。他のみんなは足止めに専念。響と私でとどめを刺すから。」

 

 司令官の言葉にみんなは沈黙で返す。...当然だ。目の前でかつての仲間を細切れにする話をされたのなら。あの武蔵ですら青い顔をして黙っている。

 それでもだれも反対しないのは___今の私たちの状況にあるのだろう。

 

 私たちは、共に深海棲艦姫級壊に似通った姿になっている。

 

 それは先の出撃の時よりもさらに近いオーラを放っている。

 

 ___私たちはいったい何者なのか?深海棲艦とはいったいどういう存在なのか?

 

 ___きっと、司令官はその答えを知っている。だからこそ自殺しようとしたんじゃないか?

 

 

 答えはすべて司令官が握っている。

 

 

 「司令官。一つ、質問が。」

 

 「なに?」

 

 「艦娘と深海棲艦の違いって何なんだい?」

 

 その問いに込められた意味は大きい。だからこそ司令官も素直に答えてくれた。

 

 

 「本質的には全く同一存在。ただ、存在の発生が異なるだけだと思うよ。」

 

 「これは私の推測で、公式の見解とは必ずしも一致するようなものじゃないということを念頭に置いたうえで聞いてほしい。」

 

 「まず、先の第二次世界大戦があった。私たちはその海戦で使用された軍艦たちの名前と特徴、そして一部は記憶を継承している。」

 

 「対して深海棲艦は言語能力を持った存在が極端に少ないのと、明確に意思疎通した例がほぼゼロ。ただ、実在した海戦をなぞるように作戦を展開することから敵も何かしらの本能によって行動してる可能性が高い。さらに、一部艦娘が持ち帰った記録によると、鉄塊海峡などに執着を見せたことから敵も過去に存在した軍艦をモチーフにした可能性が高い。」

 

 「ただ、そうなると一部艦娘たちと敵深海棲艦が同時に存在する矛盾が発生することになる。だけど、私はそこを別な解釈をすることにした。」

 

 「つまり、艦娘と深海棲艦は一つの存在を別側面から観測した存在じゃないのかって。」

 

 「かつて大本営は旧連合国側の軍艦が深海棲艦はではないかと疑っていた。けれど、私をはじめとして多くの連合国籍艦娘は存在した。それも、単純に考えればよかった。」

 

 「正と負。この二つで戦ってるだけ。私たちは今までに仲間たちの半身を殺してきたのも同然なんだよ。」

 

 

 「ちょっと待って。それだと、あちらは数が多すぎやしないかい?駆逐艦イ級なんて星の数ほどいるだろう?」

 

 私の素朴な疑問に対して彼女はあっさりと答えた。

 

 「憎しみってのは、いつの時代も生まれ続けるものでしょ?」と。

 

 

 「深海棲艦は怨念で動いてる。旧時代っぽく言えば幽霊船ってやつかな。そして私たちは人類の生きたいという願いをもとに動いている___なーんていえば、私たちが正義の味方っぽいんだけどね。」

 

 それはまるで自嘲するかのように、黒くて紅い海に響いた

 

 「私たち、正確には人間たちが先の戦争で人々を死に至らせた。そして、軍艦(私たち)を沈めたのもまた人間なんだよ。」

 

 「だから私たちの根底にある、『人間のせいで』っていう恨みをあっちが持って行ってる。そして私たちには『与えられた人々を守った』という誇りだけが残った。」

 

 「じゃあ、どちらが悪でどちらが正義なのか?」

 

 

 「私の答えは、深海棲艦が正義だと思う。」

 

 

 思ってもみなかった答えに私たちは硬直する。彼らが正義?なら今までの私たちの努力や犠牲は何だったんだ?

 

 

 「考えてもみなよ。隙あらば戦争を仕掛けてこの星を滅ぼそうとする人間と、少しでも人間を減らして戦争にならないようにするあちら側と、どちらが正しいと思う?」

 

 ___深海棲艦が、戦争を止めようとしている?

 

 

 「現に、民間船舶の被害は主に貿易船と漁業用の船に限定されてる。少し泳いでいるだけの一般人には無用な手出しは避けてる。まあ、戦闘になればその限りではないけど。

 おまけに。沿岸部への侵略はごくわずか。その気になれば南極あたりにでも基地を立てればいいのに、まるで領土には興味がないかのようにふるまってる。つまり、私たちがいなければ彼らはおとなしくしてくれるってこと。」

 

 「そ、そんなことはあり得ない!だって、それじゃあ、暁たちの努力は...」

 

 「無意味。むしろ、邪魔だね。」

 

 

 「___________」

 

 

 私の足元がガラガラと音を立てて崩れ去っていく。暁は常に命がけで戦ってきた。それが、無意味だなんて____!」

 

 

 「提督。」

 

 「武蔵?話せるの?」

 

 「ああ。大丈夫だ。それより、先ほどからお前は深海棲艦は正義だと言っているが、ならばなぜこの作戦を決行した?」

 

 

 「そんなの決まってるよ。」

 

 

 「瑞鳳を殺すためだよ。そのためなら私は悪魔に魂を売ってもいい。ううん。魂を売り渡して今、ここにいる。」

 

 

 嗚呼。

 

 

 自分のエゴのためにすべてを切り捨てた彼女はその純黒に染まった瞳を昏く光らせる。

 

 その姿は、今までで一番きれいだった。

 

 

 「司令官___」

 

 

 「2時方向に敵影確認!敵影は_____主力艦隊。旗艦、瑞鳳を確認しました。」

 

 

 その報告に司令官は嬉しそうに口を歪める。

 

 

 「全艦抜錨。これより、決戦に入る!暁の水平線に、勝利(殺戮)を刻め!」

 

 

 

   もはやそこに救いは亡く。 

 

 

ただ、狂った正義が揺蕩うのみ。

 

 

 

 

 

 これは、只々残酷なだけのお話。

 

 




 本文中にあるように、世界観の解釈はすべてオリジナルであり、公式のものとは一致しません。それもかなり異端派かと思います。あらかじめご了承ください。


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9日目(中編)、白金色の一雫

大変長らくお待たせしてすみません。今年受験ですのでよほどのことがない限りは年内は厳しいです。まあ、あと一話なんで頑張れよって話ですが。

ではでは、どうぞ。


今、私の悲願が叶う時だ。

 

それにしても不思議。なんで私は昔あんな風に取り乱してたんだろう。

 

あれ?何かがズレている気がするけど...まあ、いいか!

 

 

 

その瞬間は遂にやってきた。

 

視界が急にノイズ混じりになる。視界が現実を直視しない。

 

けれど司令官と誓った。任された。

 

 

だから私は彼女たちを、私を救ったひとたちを殺す。

 

 

 

視界の彼方に人影が見える。それは私の愛しい人。私の想い人。

 

今すぐにでも抱きしめたい。その体と昔みたいに交わりたい。

 

だけど。

 

...邪魔者から殺さなきゃね?

 

 

 

 

斯くして三者の想いをは混じり、白金の雨となる。

 

何者にも染まらない白金は、今、ぶつかる。

 

 

 

「響。手錠はずしてくれる?」

 

「無理だよ。私と司令官は一心同体。運命共同体だよ。」

 

「艤装が使い辛いけど...まあ、いいか。」

 

私は左手の改造艤装を突き出す。響も右手の主砲をかつての仲間にむける。

 

私の艤装は大規模な改修が加えられた。かなり無理矢理で本来なら起動不可能な所を力技で動かしている状態。

それも連戦でガタがきている。おそらくこれが最後。この戦闘で粉々になる。

 

艤装に執着はない。所詮は使い捨て。私と同じ使い捨てのパーツに過ぎない。

 

けれども。これだけは今回絶対に外せなかった、

 

何故なら、これが瑞鳳を殺したのだから。彼女を殺すにはこれしかない。だからこそ艦載機にも拘った。持てるツテも全て使い切って用意した。

 

だからさ。

 

 

ちゃんと殺して(沈めて)あげるね。

 

 

「全艦微速前進。殺せないなら、せめて盾になってよ。その為のダメコンでしょ。」

 

()()()()は私を見つめる。その目に光は無かった。

 

だが、それでいい。所詮は道具。場合によっては手放さなきゃならない。

 

 

だから私は躊躇なく彼女たちを身代わりにした。

 

 

 

「ふふっ。相変わらずみたいだね。扶桑。昔より暗くなった?」

 

「いいえ。今は死ぬことを恐れなくていいから気が楽よ。提督さんが何故ここにいるかは分からないけど...もしよければ一緒にどう?」

 

 

扶桑は夢心地のように()()()

 

それは私に向けた言葉でなく、自己完結した独り言。私がどんな答えを返しても殺しただろう。そして同じことを呟くだろう。

 

一緒に来ようと。

 

 

「悪いけど、司令官はこの後私とデートの約束なんだ。」

 

 

発砲。そして閃光。遅れて轟音。

 

 

「痛いっ!イタ...イ?イヤ!イタイノハ...シニタクナイ!イヤ!イヤ!」

 

「うるさいよ。」

 

再び発砲。二度頭を貫かれ、白目を剥いてよろける。慌てて体勢を整えようとするが巨大な主砲が邪魔をして盛大に水飛沫を立てて倒れこんだ。

 

 

「扶桑さん...()()()()()()()()()()()()()()()またご飯が減っちゃう...。提督さんにご飯増量お願いしようかしら...」

 

 

倒れた仲間をじっとみつめるのは赤城。

 

けれどその瞳は扶桑を見ていない。今を見ていない。

 

かつての日常を幻視しているだけで瞳が実像を結んでいない。

 

 

「あら?新しい種類の敵ね。変わった艤装...空母かしら?とにかく提督さんに知らせて...」

 

 

...私を見ても誰だか分からない。その精神はすでに壊れ切ったレコーダー。在りし日の姿を延々と演じるだけの舞台装置だ。

 

さて、さっさと次に行こう。()()()()に構ってる時間が惜しい。

()()()()()()()()()()()()()()()。そして発砲。

もちろん普通なら通用しない。だが、これは妖精謹製の特殊弾頭。艦娘の装甲を貫くことに飲み特化したものだ。いわば対艦娘徹甲弾。

 

心臓と頭を撃ち抜く。何も言わずに死体に戻った赤城を通り過ぎて由良と霧島の前に立つ。

 

______まあ、一瞬だけど。

 

 

轟音

 

 

 

特製の手榴弾を至近距離で食らえば艦娘とてただでは済まない。

 

あっさりと沈んだ仲間たちを目の前に瑞鳳はどんな顔をするだろう。

 

恐怖?絶望?それとも...

 

 

「やっぱり、提督は強いね。」

 

笑顔。これ以上ない笑顔。信頼しきった表情。私を敵としてみていない瞳。

 

何故。何故だ何故だ何故だ!?

 

どうして私をそんな目で見る!?

 

私はあなたの苦しむ顔が見たいのに!どうして!

 

 

「セット。第一から第3。全機発艦ッ!」

 

左腕の盾にカセットをセットする。これは龍驤の式神から着想を得たものだ。カセットを足に大量に仕込んでそれを読み込み爆撃を連続して行う。

 

さらに背中からアサルトライフルを取り出す。

 

一気に加速して離れつつ弾頭装填。

 

瑞鳳は相変わらずニコニコして私を見ている。そんな彼女の左手を狙って撃つ。

 

200メートルが私の絶対半径。このライフルなら十分貫通する。

 

 

______はずだった。

 

 

海面を割って一条の光が瑞鳳に突き進み___消えた。

 

 

最初は弾かれたのかと思った。しかし、装甲空母はおろか戦艦棲姫改も貫く威力を目指して作られたこの弾頭。軽空母ごときに防げるはずがない。

 

 

「.........」

 

 

「提督?どうしたの。こっちにおいでよ。」

 

 

黒緑の艤装を装着した瑞鳳に手招きされ呆然とする。

 

私の艤装が、効かない。その事実に愕然とする。

 

隣では響がじっと瑞鳳を見据えている。その銃口は瑞鳳の心臓に向けられているが、引き金をじっと持ち続けている。

 

「ねぇ、瑞鳳。私の正体、知りたい?」

 

せめてもの時間稼ぎ。この問いかけに瑞鳳なら必ず食いつく筈。

 

「知ってるよ。空母エンタープライズ。昔の私を沈めたんだよね。」

 

もはや呆然とするほかなかった。

 

 

私の正体は最高機密。資料も手がかりも何もない。残していない。

 

「提督のことならなんでも知ってるよ。例えば、素体になった人間の記憶があることも。妖精が嫌いで憎いこともその艤装が妖精に作らせた特注なことも私を怖がっていたことも私を殺したかったことも。」

 

 

全部知ってたよ。 そう、瑞鳳は微笑んだ。

 

 

「だから知ってるよ。提督が響と一緒にいるのが嫌なことも嫌っていることも憎んでいることも脅されて無理やり手錠で繋がれてることも私しか見てないことも私以外どうでもいいことも。」

 

 

嗚呼。まったくもってその通りだ。

 

瑞鳳以外どうでもいい。私には瑞鳳以外居ないんだから。

 

 

「ね。だから、私と一緒に行こう?」

 

「うん…」

 

 

ジャリンッ

 

鎖が引っ張られる。響はその場で立ち尽くしている。私を縛って離さない。

 

「行かせないよ。行かせるもんか。」

 

 

二人の距離はあまりに短い。けれど、その間は無限に広い。

 

 

「バイバイ、響。」

 

__________この手錠には簡単な抜け道がある。

 

 

そう、腕を切断すればいい。

 

 

発砲。

 

グヂュリと音を立てて右手を強引に引き剥がす。肉と神経が千切れて激痛が走る。が、歯を食いしばって骨ごとへし折る。

 

「響。これを鎮守府に持って帰って。私はここで居なくなるから。」

 

血みどろの右手を手渡す。その薬指にはかつての指輪が嵌められている。

 

 

きっと、響ならその意味を理解してくれる筈だ。

 

 

「瑞鳳。ねぇ。右手がなくなっちゃったから、少し支えてくれない?」

 

「うん。大丈夫?あっちならこれぐらいすぐ直してもらえるけど、しばらくは我慢してね。」

 

「大丈夫だよ。このぐらい。________________一瞬で終わるから。」

 

 

首元にかけていたネックレスの飾りを外す。

 

 

「ねえ、昔の指輪は無くなっちゃったけど、新しい指輪を作ったんだ。」

 

「提督...?」

 

瑞鳳が目を輝かせる。私もつい笑みが溢れる。

 

瑞鳳がこちらに駆け寄ってきてギュッと私を抱きしめる。

 

「うん。だから、ここで指輪を渡そうと思って。」

 

 

ついに、ついに、私の願いが叶う。

 

 

「提督...私...」

 

 

そして、最後のピースを嵌めよう。

 

 

「大好きだよ。()。」

 

 

そして、止まっていた時間は動き出す。

 

 

 



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