【完結】恋姫†孫呉まったり史 (妙義)
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1.劉備軍辞めます

 快晴の空の下、男は北郷一刀、天の御使いと言われる一刀君と談笑していた。何の事もない世間話だったが、男の仲間が少ない劉備軍の中で二人にとって気の休まる時間であった。そんな二人がまったり話し込んでいると、空から男の顔に布切れが降ってきた。男は思わず顔から布切れを取る。

 

「うわ、なんだこれ」

「あ、それって下着じゃ……」

 

 二人が空を見上げると烏が悠々と飛んでいた。あいつがこれ盗んだのかと女物の下着を男が見ていると、目の前の一刀君の顔がみるみる青ざめていった。悪い予感がしつつ振り返ると、そこには鬼、じゃなかった般若、でもない関羽が修羅の形相で立っていた。

 

「岳! 何故桃香様の下着を握りしめている!」

「え? あ、これ桃香のなの?」

「貴様が盗んだのか!」

「いやいやいや違う! 違うから! 落ち着けって!」

「そ、そうだ愛紗、これは烏が盗んで偶然岳の所に降ってきたんだって!」

「岳、お前ご主人様にまで嘘を吐かせて!」

「あ、こいつ話聞いてねえ」

 

 問答無用と関羽が怒りに任せ青龍偃月刀を岳の脳天に振るう。その一撃をいつもの事と岳は慣れた様相でひょいっと避けた。そして一刀君が関羽の一撃が大地に叩き付けられた余波で吹き飛んだ。

 

「愛紗お前やりすぎだろこら」

「うるさい! 岳! 神妙にしろ!」

「先に刀を納めろっての! 怒ると暴力振るい出すのはお前の悪癖だって昔から言ってるだろう!」

 

 

 

 岳と呼ばれた、飛騨穂高。真名を岳という男は関羽雲長とは幼なじみであった。ついでに言えば転生者である。岳はこの世界がイカれた三国志の世界だと知っている。まあ知ったからと言って一般人だと思ってる男は、別に何か出来る訳でもないと思ってるので流されるまま生きている男である。

 

 生まれ変わったと気付いたのは物心がついた頃で、古代中国だと気付いたのは少し成長した頃、イカれた三国志『恋姫』の世界だと気付いたのは幼なじみの関羽雲長とかいう黒髪の美少女が真名を愛紗と名乗った時である。

 

 やべー世界に来たと岳は思った。何故かなつかれた幼なじみに何故か武の稽古とかいう暴力を強制され、その時間が苦痛過ぎたので親に頼み込んで私塾にて文字と算術を学んだ。算術に関しては現世の記憶があるので平気だったが、その分漢文には苦労もしたがなんとか読み書きを覚え、関羽の暴力から逃げる暇潰しに幾つかの書物も読み解いた。まあ関羽はそれでも襲ってきたので、なんとか関羽をやり過ごす為に鍛えもした。具体的に言えば勝てないけど防御に徹すれば負けないくらいにはなった。

 

 関羽には勝てないが、もしかしたらチートを貰ってるのかも知れないと岳は思い始めた。元々、この世界の男性には能力制限があるのではないかと思っていた。なんせ要職皆女性の世界である。岳が出会った男全て、能力に上限キャップ設定されてるんじゃねってくらい武門学門、共に皆成長がある一定ラインでピタリと止まる。が、それが岳には無い。更に容姿は新日本プロレスのオカダカズ○カに似ている。これは勝ち組だと思い喜んで岳は勉学に励んだ。

 

 そして気が付くと神童扱いされていた岳は、村から都へ行かされて学ぶ事となるのであるがそこで本物のチート神童(金髪ドリルチビ)に出会い、その才能を目の当たりにし「やっぱ俺凡人やな、チートとか無かった」と悟った。むかついたので金髪ドリルチビにはグレンラガンという渾名を私塾の中で広めてやった。きっと頭の両サイドのドリルで漢王朝を天元突破するだろう。ちなみに高笑いおっぱい金髪ドリルさんはゲッター2と名付けた。都ではグレンラガンやゲッター2に何故かしょっちゅう絡まれながら、真面目に勉強する事をやめた岳はそこそこ学んで適当に過ごし適当に文官としてそれなりに働いて給金貰って生活していた。だがある日関羽with劉備、張飛とかいう疫病神とエンカウントしたのが運の尽きで、そのまま桃園三姉妹の旅に巻き込まれてしまったのだ。

 

 貧乏で権威も無い水戸黄門のような旅を強制される日々。そして旅の中で遂に一刀君を拾い「原作始まった。逃げたい。どうせ美女美少女全部一刀君のものだし」と思っていたが、一刀君が案外良い奴だったので流されるまま現在に、公孫サンの城で公孫サンにタカるという仕事をするに至る。岳は本当に思う。白蓮まじごめんと。

 

 

 

「一体なんの騒ぎ!?」

「にゃはは、愛紗が岳相手に暴れてるのだ」

「はわわ……」

「あわわ……」

 

 関羽の暴力をひたすら岳が避け、大地に大穴が幾つも空いた頃にようやく騒ぎを聞きつけた劉備と張飛にはわわとあわわがやってきた。

 

「桃香、愛紗を止めて!」

「桃香様! 岳が桃香様の下着を盗んで!」

「だからやってないって!」

「だったらその手に持つ下着はなんだ!」

「だから一刀君も言ったように空から降ってきたんだって!」

「そんな訳あるか!」

「確かに! でも事実なんだって!」

「あ、愛紗ちゃん落ち着いて! 岳君、わ、私の下着欲しかったの?」

「欲しいかと言われれば愛紗のより全然めっちゃ欲しいけど盗んだりしないって!」

「岳! 貴様!」

「いや可愛くて癒される桃香と怖くて面倒臭い愛紗ならだれでも桃香を選ぶと思───」

 

 岳君吹っ飛んだー。関羽の一撃がクリーンヒットし空中をクルクル回り地面に頭から突っ込む見事な車田落ちである。実は車田落ち、慣れてるから割りと平気である。

 

「いや岳はほんとに盗んでないからね?」

「ご主人、まだ岳を庇って」

「あ、愛紗ちゃん、下着くらい別にいいから、ね?」

「にゃはは、愛紗は自分の下着じゃなかったから怒ってるのだ」

「り、鈴々!」

「いつつ……、なんで無実でぶっ飛ばされないといけないんだっての……」

「岳、まだ言うか!」

「F○CK!」

 

 再び関羽がその刀を横凪ぎに振るう。首を刈り取るかの如く一撃を、岳は両手に着けている鉄製の手甲で関羽の手元と刀の中央部を同時に握り抑え止めて見せた。怒り任せの一撃ならば、いつも軌道が同じなので岳は止める事が可能なのだ。要は慣れてるのである。

 

「いやお前頑なすぎだろ。少しは信用しろっての」

「ふん、素直に認めれば信用してやってもいいぞ?」

「……は?」

 

 関羽の言葉に岳の心に引っ掛かりを覚える。信用してやってもいい。仕官していた所から無理矢理連れ出してどの口が言うのかと岳はむかついた。

 

「……ほっほー、幼なじみの俺を強制的に旅に巻き込んで、今まで散々ぶっ飛ばしといて、盗人扱いしてどの口が言うかこら」

「……むっ」

 

 関羽はこの時点で気付いた。あっ、これほんとに岳やってないなと。しかしここまで言っては関羽も引けなくなってしまっていた。関羽がここで引けるくらい素直であればこの二人の仲だってもっと進展していた事であろうが、ツン成分と嫉妬神とかいう面倒臭い性質なので仕方ないね。

 

「……だからなんだと言うのだ」

「わーったよ、俺盗人なんだな。そんな奴と一緒に居たくないよな? 俺もう抜けるわ。しょっちゅうぶっ飛ばされるしやってられるか」

「──ッ!」

 

 岳の言葉に関羽の肩が怯えた子犬のように震えた。ぶっちゃけ岳なら分かってくれる、受け入れてくれると思っていた関羽の甘えにより関羽にとって最悪の展開になった。いやしょっちゅうぶっ飛ばしてるなら残当だと思うよ。

 

「ちょ、岳考え直せって! な? 愛紗も意固地になってるだけだから!」

「そうだよ! 私下着の事なんて気にしてないから、そんな事言わないで! 愛紗ちゃんもなんとか言ってよ!」

「……ふん、出ていきたければ出ていけばいい」

「愛紗ちゃん!」

「あ、愛紗さん本当にそれで良いんですか?」

 

 慌てた孔明が関羽の目をじっと見ながら問う。しかし関羽は孔明から目を逸らし黙ってしまった。孔明は思う。劉備達が規模を大きくする為に岳は必要な人材であると。武が立つ。学もある。そして都で学んだ人脈もある。武は関羽や張飛程ではない。学も孔明やホウ統程ではない。しかし両面を支えれる人間というのは希少である。ほら、KOEIゲーで初期武将にオール75くらいの人間が居たら初めは便利に使うでしょ? 後半適当な城に置物になって忘れるけど。まあ男の上限が50くらいな世界なので岳はめっちゃ希少な存在なのだけど。

 

「じゃ、そういう事で」

「岳!」

「岳君!」

 

 関羽は幼なじみである。岳とて関羽が意固地になってしまっているだけというのは気付いている。しかし関羽のその性格がそのままでは良くないと岳は思っていた。劉備の、義勇軍は大きくなる。関羽には視野を拡げ懐深くなって欲しかった。自身が出ていく事で関羽にその事を分かって欲しかったのだ。

 

 後、ぶっちゃけ関羽にぶっ飛ばされるのが嫌というのが多分にある。そもそもそれが嫌で勉強して都に行ったんだし。こうして岳は劉備軍を去っていったのであった。

 

 

 

 

 騒動が落ち着いてから一刀が気付く。

 

「……あれ? 岳、さっきもしかしてFU○Kって言った?」

「確か言ってたねー。ご主人様、ふぁ○くって何の事?」

「それ俺のいた世界の汚い言葉で……。いやまてまて、岳にそんな言葉教えてない。……あれ? 岳って俺と同じ世界の人間なのか?」

「「「「「え」」」」」

「ちなみに意味は糞」

「はわわ……。愛紗さん」

「い、いやそんな筈はない。だって私と岳は幼なじみで、幼少の頃から知っていて、お互いを信用していて!」

「ソウダナ」

 

 一刀が関羽の言葉に棒読みで返した。その信用、多分一方通行だよと普段の岳との会話から一刀は察していたが、流石に口には出せなかった。ぶっちゃけ岳は関羽を怖がってただけとは決して言えない。武神が刀振り回してしょっちゅう襲ってくるとかそりゃ怖いわ。

 

「でも、岳さんはご主人様と同じ世界の知識を持っている可能性があると言う事でしゅよね? そうだとすると……」

「雛里ちゃん、多分岳さんは愛紗さんに言ってないように今まで誰にも言ってないんじゃないかな。都で仕官して普通に働いてたって事だし、それを利用するつもりも無いんだと思う」

「朱里ちゃん、でも何か切っ掛けがあればどうかな? だって……」

 

 孔明とホウ統がチラっと一刀を見る。いや言ってやるなよ。一刀君ただの学生だったんだから仕方ないんだよ。それでも顔とち○ことあやふやな三国志の知識だけで大陸を制する事が出来る男だぞ一刀君は。この世界で生まれて関羽に鍛えられて文官として仕官出来る男と比べてやるなよ。

 

「……あ、つまりご主人様も愛紗さんが鍛えれば岳さんみたいになるんじゃないかな」

「雛里ちゃん、それだよ! ……愛紗さんの鬱憤もそれで晴らせるし」

 

 孔明がなんかひどい事をボソッと言った。恐ろしい事を思い付いた伏竜鳳雛のせいで一刀君の受難が始まる。大丈夫だろ。原作主人公だし(適当)




一刀もギャグ枠で一刀に毒舌は吐くけどアンチする気はない。

投稿ペースはゆっくりだと思います。


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2.曹操とはわりと仲が良い

 勢いで劉備軍を飛び出した岳は、無計画にとりあえず南下する事にした。が先立つもの、つまりは金子が無い。そもそも劉備軍は貧乏だったのでしょうがない。しょうがないので盗賊等をしばきながら路銀を稼いで南下していたのだが、ある地域を越えた辺りで急激に盗賊が減った。治安が良いのは良いことであるが、これでは路銀が稼げない。仕方ないのでその辺の街でとりあえず仕官してみるかと岳は考えた。もうちょっと劉備達と離れた辺りで仕官しようと思っていたが、背に腹は代えられないのだ。

 

「誰かと思ったらお前か岳」

「あ、すいません間違えました帰ります」

 

 岳は面接の為に城の一角にある部屋に入室すると、部屋にいた面接官の顔を見ると同時にUターンして逃げようとしたのだが即座に肩をガシッと掴まれ逃げさせては貰えなかった。

 

「まあ待て」

「嫌だ帰る!」

「お前を帰したら私が華琳様に叱られてしまうからな」

「ていうかなんで秋ら……シュウシュウが面接してるんだよ。暇なのかよ」

「何故今合っていたのにわざわざパンダのような呼び方に呼び直した」

「てへ。冗談だよ淫乱」

「淫乱なのは閨で華琳様に弄ばれている時の姉者だ」

「姉の痴態をさらっとばらす秋蘭凄い」

 

 岳が何も調べずにホイホイ仕官しちまったこの街は曹操孟徳の治める街であった。面接官は夏侯淵である。そして昔、私塾で曹操をグレンラガンと名付け広めたのはこの男である。悪気はあった、反省してないがこの男の持ち味です。

 

「都の官僚を辞めて義勇軍で遊んでいたと聞いていたが、岳のほうから華琳様を訪ねてくるとはな」

「なんで俺の動向知られてるんですかね。ていうか知らなかったんです。適当に旅して路銀無くなったからちょっと仕官しようかと思っただけなんです。街で皿洗いでもして路銀稼ぐ事にするから帰して下さい」

「ふふ、岳が皿洗い? 面白い冗談だ」

「義勇軍じゃ雑用ばっかりしてたから慣れたもんよ」

「……雑用として岳を使う?」

「そりゃ人手少ないしそういうもんだろ」

「……相変わらずだな。確か賄賂を拒否して官僚を辞めたとの話だったか」

「え、何その話知らな────」

 

 岳の話を遮り、喉仏に冷たいものが当たったのを感じ思わず口を閉じてしまった。懐かしい嫌な予感がした。

 

「あら、本当にいるのね」

 

 その予感は当たっていた。岳の喉に当てられていたのは曹操が構える大鎌……ではない。岳が昔、曹操に面白半分で特注しプレゼントした巨大なブーメラン、その名をグレンブーメランという。その鋼鉄製のグレンブーメランが岳の喉にぴたりと貼り付いている。

 

「随分久しいわね、岳」

「相変わらずだなグレンラガあべし」

 

 グレンラガンと言おうとしたら脳天にグレンブーメランを殴り付けられた。まあ正直斬られなかっただけマシだと思う。そしてこの二人はいつもこんな感じである。別に曹操はからかわなければ理不尽な暴力を振るってくる事もないのにも関わらず、岳は本能的に曹操をからかってしまうからしょうがないね。

 

「貴方こそ本当に相変わらずね、会えて嬉しいわ」

「脳天割りながら言う台詞じゃないよね」

「貴方が悪いんじゃない。それくらい我慢しなさいな」

 

 ブーブー文句を垂れる岳に笑いながら曹操が言う。仲が良いなこいつら。私塾時代、袁紹を含めた三人は結構仲が良くそれこそ学生のノリで馬鹿を沢山やったようだ。そして本当にヤバい事は袁紹が袁家の力をフル活用して揉み消すのである。馬鹿二人と一緒とか華琳様面倒見が良いですね。

 

「それで? 仕官しに来てくれたと聞いたわ」

「いやすいません帰ります」

「あらどうして? 貴方なら歓迎するわ」

「いやだってしゅ────」

「チェストオオオオ!!!」

 

 お前は薩摩武士かと言いたくなる気迫の叫びとともに突如背後から現れた夏侯惇が幹竹割りをするかの如く斬りかかってきた。チェストの語源は「知恵を捨てよ」である。まさに脳筋にふさわしい掛け声を上げた夏侯惇にパブロフの犬が如く反応した岳は、咄嗟に振り返り両手の鉄製の手甲をクロスさせて夏侯惇の剣を挟み込んだ。

 

「ちぃっ!」

「舌打ちしてんじゃねえよ死ぬだろうが!」

「ふん、お前なら死なないだろう」

「なんだよその阿呆な信頼いらねえよ淫乱!」

「淫乱だと? それは華琳様に弄ばれる私の事だな!」

「認めちゃったよこのアホの娘! あとこの様子見て姉者は可愛いなとか言ってんじゃねえアホ妹! そして微笑ましく見守ってんじゃねえグレンラガあべし」

 

 再び岳の脳天に、今度曹操にセガサターンでもプレゼントしようかと思うくらい綺麗にグレンブーメランが直撃した。関羽と夏侯惇の一撃を避けれても曹操の一撃は食らってしまう。ボケが突っ込みを避けられないのはしょうがないね。

 

「本当に相変わらずね貴方は」

「グレ……ああもう分かったから構えないで下さいお願いします。華琳も相変わらずキレの良い突っ込みだ事で」

「貴方が馬鹿を言うからでしょう?」

「否定のしようがねえ」

 

 項垂れる岳を曹操がくすくす笑う。どんな私塾時代だったか良く分かるね。

 

「正直、貴方なら先に麗羽の所に行くと思ってたから今ここにいるのは意外だわ。義勇軍なんて入って、ついに狂ったかとも思ったのだけれど」

「華琳様は義勇軍から岳を連れ出す算段をしていましたからね。ついでに袁紹の所に行った場合の連れ出す算段も」

「秋蘭、余計な事を言わないで頂戴。……で、金子が無いなら暫くうちで仕事手伝いなさいな」

「ここで働かなくても皿洗いなら得意だから平気平気」

「……何故そんなに嫌がるのかしら?」

 

 夏侯惇が襲ってくるからですと。田舎で関羽から逃れたと思ったら都で夏侯惇が襲ってくるとか生前どんな悪行積んだのかと岳は問いたい。岳には前世の記憶はあるしそんな覚えはないのだけれど。本人としては一応普通の日本人だったはず。なのに何故義勇軍の関羽から逃げて、仕官してまた曹操軍で夏侯惇に襲われなければならないのかと岳は言いたい。ついでに言えば袁紹軍に行かないのは突っ込みの華琳がいないと収集がつかなくなるからです。ちなみに曹操と袁紹は岳がいないと微妙に仲が悪い。三人セットじゃないと仲良く出来ない模様。グループだとよくあるやつだね。

 

「貴様華琳様の誘いを断るのか!」

「お前のそういう所が嫌だって事だっつーの!」

 

 再び夏侯惇が剣を振るう。一ノ太刀を半身だけ動き避ける。ニノ太刀は鉄甲で受け流す。三ノ太刀に行かせまいと剣を踏みつけ床に深く突き刺す。ぐぬぬと怒る夏侯惇に岳がどや顔で返す。しかしそのどや顔は一瞬で崩される事になる。

 

「何をしていますの?」

 

 岳にとってこの場で最も嫌な声が聞こえた。昔、曹家に遊びに行った時に出会ったツンツン男嫌い美女の声である。実家に遊びに行くくらい曹操と仲良かった模様。曹操が唯一家に連れてきた男、岳。そしてその事の意味を察しない辺りがこの男らしい。

 

「あら、ちょっと視界に入らないで貰えます? 男の顔など視界に入れて目が腐ったらどうしてくれますの? まったく私の視界に入るなんて言語道断ですわ。あら? ……床に穴が空いていますわ。この城内で暴れるなんて馬鹿なのですか? 備品も床を直す材料もそれに掛かる人件費も住民の税金で賄わなければならないのですよ? お金が無限に湧いてくるとお思いですか? 即刻直して下さいますか? ああ、貴方が触ったら床が腐るかも知れませんので床に触れずに直して下さいますか?」

「暴れたのは春蘭で床に刺さってる剣も春蘭の物なので春蘭の給金から差し引くのが良いと思います」

「ちょっと誰が喋って良いと言いました? ああ耳が穢れますわ。今ので体調を崩してしまったら打ち首にしますから。ま、良いでしょう。では春蘭の給金で修理の手配はしておきますわ」

「な……」

「いいですわね?」

「……はい」

 

 有無を言わせず夏侯惇をも黙らせたのは曹家の金庫番、曹洪。怒涛の罵りを受けながらなんとか夏侯惇の給金のみのダメージで済ませた岳は、やっぱり曹洪は半端ねえと思った。体調崩したら打ち首はレベル高いわ。あと岳はMではない。罵られても喜べる人間ではない。あとデレまで持っていける程ツンツンしてる人間に付き合いたくないって割りと普通の思考だと思う。作者は曹洪好きだから犬にでもなんでもなります。

 

「栄華の扱い、相変わらず上手いわね」

「あれで!?」

「普通の男なら罵られた時点で顔真っ赤にして反論して更に叩き潰されるもの」

「まじかよ。適当に流せよと言いたい」

「うちも大きくなるつもりだから栄華にも少しは男に慣れて欲しい所なのだけれど……。岳、やっぱり貴方うちに来ない?」

「あー、……じゃあ大陸一回りしてからでもいいか?」

「ええ、いつでも歓迎するわ」

 

 勿論適当に吐いた嘘である。夏侯惇と曹洪がいる曹操軍なんて誰が入るかと岳は思っている。口約束なんてすぐ忘れるやろくらいにしか思っていないが曹操が忘れるとか絶対無いんだ。無いんだよ。ていうか前世の記憶あるなら曹操軍入るだろ勝ち組やぞとも思うが、襲われるわ罵られるわ良いことなさそうだし残当。

 

「紅蓮螺巌、天元を突破する者の意だったわね。天元とはこの国において即ち天子様を指す言葉。私塾時代、身内だけで面白可笑しく言ってた時とはもう違うわ。口にすれば朝廷に反意有りと見なされ処罰されかねない。気を付けなさい」

「分かったからその強烈な突っ込みやめて。頭砕けるわ」

「だって貴方から貰ったこれ凄く殴りやすいもの」

「何そのめっちゃ笑顔。注意してくれるのはありがたいけど、優しいか優しくないか分かり辛いわ。でも実は気に入ってるんだろ、その渾名」

「ふふ、見てなさい。この名に相応しい程に、貴方の期待に応えて上げるわ」

 

 曹操、違うんだ。頭の両サイドのドリルを見て思いつきで名付けただけなんだ。天元突破は後付けなんだ。これバレたらガチ切れされる奴じゃねえかとふと岳は思ったが、まあこの時代でグレンラガンなんて知ってる奴いないから平気やろ(フラグ)

 

「……という訳で給金前借り出来ますかね?」

「まったく……しょうがないわね」

 

 こうして曹操軍に入る気なぞこれっぽっちもないのに金子だけ借りて岳は曹操の街を後にした。曹洪辺りがキレてたのは言うまでもない。そしてこの金子を返す気も無い。曹操騙すとか後が怖くないのかと言いたいが、借りた本人はすぐ忘れる模様。絶対後でろくなこと無いわ。

 

 

 

 

 

 場所は変わり幽州は公孫サンの城。公孫サンは最近気になっていたある疑問を劉備にぶつけていた。

 

「なあ桃香、最近岳君見てない気がするんだけど」

「あ、白蓮ちゃん。……実はね────」

「ええ、岳君が出ていっただって!? あっちゃー、まじかー」

「どうして白蓮ちゃんがそんなに落ち込むの?」

「いや、実は麗羽……袁紹の奴に文で『今、岳君の面倒は私が見てるから』って自慢の文を出しちゃったんだ」

「……白蓮ちゃん、話が良く分からないよ?」

「岳君、結構都でも人気だったっていうかさ。ほら、男なのにあれくらい強くて勉学も立つ奴なんて他にいなかっただろ? だから袁家とかも目を付けてたって聞いたからちょっと自慢したくなっちゃってさ」

「……へえー」

 

 気のせいであろうか。劉備の目から光が少しづつ消えているような気がする。ていうかそれ悪手過ぎるぞ白蓮。自慢したくなる小市民っぷりは理解するが、袁家に喧嘩売るとかこの時代で生きていけると思ってんのか。あ、出世諦めたんですかね? そして劉備の変化に気付かない公孫サンは続ける。

 

「こんな事なら私が岳君を口説いておけば良かったかな、なんちゃって。ほら、私だって州牧なんだし良い男捕まえる事だって……って桃香、ちょ、顔怖い」

 

 公孫サンの言葉に劉備の雰囲気がガラリと変わる。目からハイライトが消えて笑ってるのに笑ってない。ドス黒いオーラが劉備の身体から涌き出て、やっとそれに気付いた公孫サンが慌てる。

 

「白蓮ちゃん、いくら白蓮ちゃんでも岳君に手を出したら怒るよ?」

「あ、あれー? 桃香さん? 人が変わってません? なんか黒い闘気みたいなのが立ち上ってきたぞー? わ、分かったから、頼むから落ち着いて! じょ、冗談だよやだなー桃香、分かるだろ?」

「なんだー良かったー。……白蓮ちゃんなら分かってくれると思ったー」

「あ、あははははは……」

 

 一応元に戻った劉備にドン引きしている公孫サン。何あれ、まさか五胡の妖術かと公孫サンの思考は大混乱に陥っている。関羽ではなくまさかの劉備が何かに覚醒しつつある模様。

 

「あ、あと最近街で天の御使いが空を飛んでるって噂を聞いたんだけど本当か? 北郷何やってるんだ?」

「あー、それなら愛紗ちゃんの仕業だから大丈夫だよ!」

「……あ、そう」

 

 公孫サンは一瞬で悟った。絶対大丈夫じゃない奴だと。でも今の劉備にはなんとなく関わりたくなかったので触らない事にした。心の中で、北郷死ぬなよと思う。ちなみに関羽が鍛え劉備が甘やかす飴と鞭は、孔明の絶妙なコントロールによって一刀の精神のギリギリを攻めている模様。可哀想だからやめて差し上げろ。

 

 

 

 

 

 更に場所は変わり袁紹の城。荒れ狂う袁紹を文醜と顔良が必死に宥めていた。公孫サンのせいである。

 

「全兵力を挙げて幽州に進撃しますわ!」

「ちょっ、駄目ですって麗羽様!」

「そうですよ麗羽様、大義も何もまったくないんですよ!? 今そんな事したら私達が漢王朝から反逆者扱いされますよ!」

「でしたら! 白蓮さんの首だけで良いから今すぐ持ってきなさい!」

「無茶ですよ麗羽様、相手も一応州牧ですよ!」

「きぃぃー。悔しいですわ! 白蓮さんに挑発されたのですよ!」

 

 奇行ならわりといつもの事だが、いやまあそれもどうかとは思うけどともかく袁紹がここまで好戦的に荒れる事は珍しい。宥めながらふと顔良が床に粉砕された竹簡であろう残骸に気付いた。

 

「あ、もしかしてその粉々に砕かれた竹簡が原因ですか?」

「そうですわ! よりにもよって! 岳さんと! 白蓮さんごときが仲睦まじくしていると自慢してくるなんて!」

 

 二人は悟った。それは袁紹にとって一番駄目な奴だと。

 

「……あっちゃー、それ完全に麗羽様の地雷踏んでるよ」

「とにかく麗羽様、今は無理です。せめて時勢を見て下さい!」

「……分かりましたわ。時が来たら真っ先に幽州から攻め落とす事にしますわ。見てなさい白蓮さん! 岳さんは白蓮さんでも、華琳さんでもなくわたくしの物ですわ! おーっほっほっほっほ!」

 

 とてもしょうもない事で幽州の、公孫サンの死亡フラグがにょきっと生えました。こんな下らない理由で攻められたくないね。でも袁紹は止まらないと思う。袁紹アホだし。袁紹アホだし。




(やばい奴らに)愛され系主人公。リアル私の為に争わないでフラグを中華全土に撒き散らしている模様。


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3.流されるまま黄色

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「ああ、鈴々か……いてて……」

 

 今日も元気に関羽にぶっ飛ばされた一刀を心配した両手に何やら抱えた張飛が声を掛けた。一刀はほぼ毎日空を飛ばない日が無いというくらいぶっ飛ばされていた。たまに、柔らかいふとももの上で目の前で広がる柔らかそうな大きな双丘という視界で目覚める事が出来る劉備の膝枕という幸せが待っている事もあるがたまにである。幸と不幸のバランスが釣り合っていない。

 

「愛紗はやりすぎなのだ。お兄ちゃんはお兄ちゃんで岳じゃないのに」

「あはは……」

「愛紗達は急いでるみたいだけど、急に強くなんてなれないんだからゆっくりお兄ちゃんなりに頑張れば大丈夫! それまでは鈴々達に頼れば良いだけなのだ」

「あれ、鈴々が天使に見えてきた」

「天の御使いはお兄ちゃんなのだ。お兄ちゃんボケたのかー?」

「そうじゃないんだけど……まあそうとも言うか」

「それに岳がやってた体捌きはお兄ちゃんに合ってなさそうなんて愛紗が分からないはずないのに、それを教えるなんておかしいのだ」

「えっ、ちょっとそれどういう事?」

「お兄ちゃんは体が硬いから岳がやってたグニャリとかふにゃーっとかより、さっとかしゅっとかのほうが合うのだ」

「ごめん鈴々よく分からない」

 

 張飛の言う事が抽象過ぎて理解出来なかった一刀だが、張飛から見て今の自分の動き方に違和感を感じている事は分かった。鈴々に教えて欲しいと頼むととりあえず立てと言われた。言われるがままに一刀は立つ。そしてそこで腰をグッとか、そこでガッとか言われ始めはまったく分からなかったが、要は腰を入れるポイントとか脚を踏み出すタイミングを指示しているらしい事を理解してから一刀の動きが自身でも分かるくらい格段に良くなってきた。

 

「おお! 鈴々凄い!」

「これくらい見てれば分かるのだ。愛紗だって落ち着けばすぐ分かると思うのだ」

 

 なんでも無いと言いつつ自慢気な張飛の頭を一刀が思わず撫でると、張飛はにゃははーと嬉しそうに笑った。一刀、久しぶりに心から癒される。ていうか何気に張飛が周りをよく見てる。

 

「あ、お兄ちゃんに肉マン買ってきたからお兄ちゃんに上げるね。訓練頑張って」

「ありがとう……。な、なあ鈴々たまにでいいから今みたいに教えてくれないか」

「でも鈴々教えるの上手じゃないって言われた事あるから……」

「そんな事ないよ、鈴々に教えて欲しい」

「そっそうまで言われたら仕方ないのだ。しょうがないから鈴々もお兄ちゃんに教えてあげるのだ!」

 

 子供扱いされる事が多い張飛は一刀に教えを請われた事がとても嬉しそうだった。ただ、張飛は手加減が出来ない。関羽は手加減が出来る。それを知ったのは組手を初めてやった時であるが、それから頑張って手加減しようとする張飛に一刀はむしろ感謝するのである。今のところ、一刀の本当の癒しは張飛翼徳である。

 

 

 

 

 

 

 

 曹操の元を去り更に南下したある日、岳は飯屋で美人なお姉様達と意気投合し、楽しく呑んで調子に乗り店にいた全員の酒代を奢ってしまい曹操から借りた金子が無くなってしまった。こいつどうしようもねえな。しょうがないので岳は盗賊狩りをしようと山に入るという珍しくアクティブに動いた結果、偶然にも盗賊に襲われている家族二組に出くわした。盗賊をしばくついでに家族を助けて金子も手に入り気を良くした岳は、別にやることも目指す場所も無いので家族が目的地に着くまで同行する事にしたのだが、この選択がそもそも間違いであった。

 

 一組の家族は農民であり、近年の不作と領地の重税で食いっぱぐれるというこの時代にしてわりとスタンダードスタイルな家族。もう一組は賄賂を拒否し上司に虐められたという貧乏役人の家族であった。食べるに困った二組の家族は偶然ある目的地を目指す道中で出会ったらしい。その目的地は最近話題になりつつある黄巾党の砦である。黄巾党の党員は三種に分かれていた。一つは首謀者達の熱狂的なファン。一つは国を憂いた革命を夢見る狂者。そしてもう一つ、一番多いのが食べるに困った農民等である。恋姫なら三姉妹に出会わなければ黄巾党内部に直接関わる事は無いだろうと思っていた岳、不覚を取る。

 

 ボロい砦に辿り着いた岳はそこでようやく目的地の正体に気付いた。まあ砦の中の人間みんな黄巾を頭に巻いてたら流石に気付くわ。やべえ。帰ろう。タダ飯を食べたらと、すぐに引き返さずとりあえず炊き出しをしていたのでその列に並びタダ飯を食べ、眠くなったので立つのは明日でいいかとその辺で適当に寝た。翌朝目が覚めると助けた家族達から改めて礼を言われ、あれよあれよとその砦の指揮官に紹介されなんか流れで働く羽目になった。正直逃げなければと常々思っていたのだが、ここの砦には王朝や役人の腐敗で苦しみ逃れてきた人達ばかりで、ある種の情が芽生えてしまい見捨てる事が出来ずにグダグダそこに留まる事になる。

 

 つまり今、岳は頭に黄巾を巻いている。

 

 都の官僚から義勇軍からの黄巾党とか落ちぶれっぷりが半端ねえ。転生者ならまず選択しないコースを、流されるまま選んでしまっている。こいつ本当に運がねえな。完全に曹操の所に行っておいたほうが良かったと思うが、岳は今のところそうも思っていない。ここはアホの娘袁術の領地である。まったく重要拠点ではないこんな場所に誰が攻めてくるというのか。だいたい重税から逃れてきた農民達が勝手に農作業して自分達の飯作って食べているだけの場所である。まさかこんな所攻めるなら他に重要な場所沢山あるわと岳はどーんと構えていた。

 

 アホの娘がアホたる所以はアホだからである。とりあえず何処でもいいから黄巾の拠点を落として手柄を立てよと指令を出して、別に他の黄巾に食料支援とかもしていない岳がいる拠点も狙われた。岳、涙目である。まともな装備もないボロい砦で兵力として数えられる人間はおよそ百名。対して袁術軍はちゃんと装備した兵士三百名である。攻城戦には三倍の兵をとは良く言うがアホのくせにちゃんと三倍の兵を用意して攻めてきたのである。

 

 岳は袁術とは面識が無い。袁紹に助けを請うかとも思ったが従姉妹仲が悪い事を思い出し、余計拗れそうなので止めた。曹操は後が怖いので止めた。岳は私塾時代のある遊びを思い出す。曹操が袁紹に頼み二百名程私兵を集い、廃城を使って攻城戦ごっこや籠城戦ごっこをやっていたのだ。勿論やった事実等は袁家が揉み消しているが、その攻城戦ごっこ等は兵力差を十倍や二十倍にする事もあった。何故なら曹操がチート過ぎるからである。負けると癇癪を起こしていた袁紹が面倒だったので上手く引き分け判定に持っていくという高度な遊びを曹操がしていたのが岳の印象に残っていた。

 

 都で官僚やっていた事が何故かバレた岳(主に酒のせい)は、頼られてしまいその時の曹操の指揮を必死に思い出しながら采配を振る。それに際し、布石としてまず岳は己の真名を全員に渡した。

 

 真名。それはこの世界において、命と同等の価値がある魂そのものだったり、自分の一人称として初見殺しに使う奴がいたり、飯旨かったと食堂の店長に真名を名乗ったり、初対面の人間に普通に名乗ってしまう奴がいたり、ゲームやってると人によって価値観が様々でまさに『恋姫』らしさが出ていると思えるガバガバ過ぎるもので非常に価値が分かり辛いものであるが、一応魂と同等と言われているそれを預けた。俺の命を預けるからお前達の命も預けてくれと言った趣旨の行動である。その行動に感動した砦の人達は岳の采配をよく守った。

 

 ぶっちゃけ岳は風習に合わせているだけで別に自身の真名なんてニックネームくらいにしか思っていないから、こうすれば言う事聞いてくれるだろうという超便利なものくらいにしか思っていないので皆の感動は無意味なんだけどね。まあその結果、怪我人こそ出たもののなんとか死者ゼロで、実は装備だけまともで練度はクソ雑魚だった袁術軍を追い返した。そしてその時、この男は調子に乗った。

 

 

「この俺を倒したかったらあと十倍は兵を連れてこい」

 

 

 後に余計な事を言ったと後悔するのは勿論この男である。

 

 

「岳様、凄いです!」

「様とか付けなくていいから」

 

 岳を慕ってくれる娘。貧乏役人家族の娘で岳が救った娘、その名を呂蒙子明、真名を亞莎という。一つ言っておくが、この娘は自分に自信が無いという欠点を抱えている為、盗賊くらい自分で倒せる事に気付かなかったが、岳が来なければ最終的には自分で倒していただろう。岳も名を聞いた時、助けた事やここに来た事の必要の無さに気が付いた。この男は本当に持っていない。が、史実に於いて陸遜と共に関羽絶対殺すマンであるこの呂蒙は岳にとって神様的存在である。ていうか亞莎ちゃんまじ可愛い。なんで亞莎ちゃんヒロインの二次少ないんですかねぷんすか。

 

「それで亞莎様」

「ええっ! わっ私なんかに様なんて付けるのはやめて下さい!」

「いや俺はもう将来絶対君に感謝しそうな気がするから」

「……私もやめますから様なんて付けないで下さいっ」

「あはは、じゃあ今日も始めようか」

「はい!」

 

 呂蒙の武器は手甲と暗器、岳に武術を教えて欲しいと頼んだ呂蒙に同じく手甲を使う岳は喜んで教えた。これが将来打倒関羽に繋がるのであればと喜んで教えた。ついでに曹操に孟徳新書とかいう自己アピール本の草案の為に散々嫌々付き合わされて暗記した孫子の曹操の解釈等を教えていた。この男、打倒関羽を必勝の物とする為に魔改造する気である。武術は関羽や夏侯惇に鍛えられ、学問は曹操にしれっと仕込まれている知識。曹操さん何しれっと教え込んでるんですかね。それらを惜しみなく教え、更に言えば出会いで命を助けられている呂蒙の心は、そりゃあ揺れ動くのは仕方ないかも知れないが、この男には対関羽対策とかいう下心しかない。なんでや亞莎可愛いやろうが! あとこれ恋姫だからその対策意味あるか分からないぞ。お前の行動大体悪手になるからな。

 

 

「岳様大変です!」

 

 そんな呂蒙と訓練をしていたある日、再び袁術軍が攻めてきた。その数、ちゃんと前の十倍の兵三千也。ボロい砦で百対三千とかいう頭悪い戦が行われる事になるのである。しかも相手の旗印には「孫」の字である。農民百人(怪我人有)対ちゃんと訓練を積んだ兵士三千(旗印は孫)。

 

 

 詰んだなこれは。




二話投稿でこんなにお気に入りと評価貰えたの初めて!
もうなんにも怖くない!(マミるフラグ

皆様ありがとうございます。主人公がまったりするのはまだ先な模様です。文章おかしいと言われますが、初投稿時よりはこれでもマシになって……るよね? きっと。


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4.孫策と出会う裏で曹操にバレる

 さあ戦だというその前に砦の黄巾党から使者が袁術軍、まあここでは孫策軍と言わせてもらうが、孫策軍の元へやってきた。命乞いかと思う孫策は対応した周瑜に話を聞いた。

 

「冥琳、黄巾側から使者が来たって?」

「ああ」

 

 周瑜の顔は険しい。孫策は回りくどい事は聞かず率直に周瑜に内容を聞く。

 

「それでなんて?」

「『此方側には我々が無理矢理連れて来て労働を強いている農民や老人、子供がいる。邪魔なので戦闘前に引き渡したい』だそうだ」

「そもそも農民の集団だって話だったわよね?」

「ああ、相手側の指揮官は自分が汚名を被ってでもせめて非戦闘員だけでも生かしたいという事だろう」

 

 そこまで言ってやっと周瑜の顔が少し、自嘲気味に笑った。孫策には周瑜が相手の指揮官を惜しいと思っているのだろうと読み取れた。それを聞いた孫策とて同じ思いになった。

 

「へえ~? 農民百で兵三百を追い返したって話だし、黄巾にしては面白そうね。会ってみたいわ」

「まあすぐに済むだろう。生きていたら話でもしてみるといい。あの程度の規模の砦で三千も相手にしては二日と持たんさ」

 

 生きていたら。当然の大前提である。今から三十倍の兵力で、吹けば倒れそうな砦へ攻め入ろうというのだ。その二階建ての継ぎ接ぎが目立つ恐らく雨漏りもひどいだろう砦は見るからに囲いも急拵えで防備を最低限強化してなんとか戦に間に合わせたという感じが強い。

 

「そうね。……ていうかあのまったく防衛に向いてなさそうな砦で三百相手に守り勝つって凄いわね」

「それには同感だな。それでどうする?」

「受けましょう。その農民は私達の邑に連れていくわ」

「いいのか? 袁術が口を出してくるかも知れんぞ」

「構わないわ。大方税に耐えかねて逃げ出した農民達でしょうけど、ここの砦は奪略もせず自給自足してたんでしょう? 今の時代、労働力は貴重だもの。袁術なら黄巾は全滅させたって報告しとけば大丈夫よ。袁術にとって黄巾や農民の命なんて蜂蜜より軽いんだから」

 

 勿論、袁術が後で知り難癖を付ける可能性も高い。だから周瑜も即答は控えたのだ。だがその主は受け入れると答え、その答えに周瑜は優しく頷いた。常に凜として隙の無い周瑜の、そんな一瞬が孫策は好きだった。周瑜が待たせていた使者に受け入れると伝え、使者は朗報を手に砦に帰っていった。

 

 

 使者を出し孫策側の了承を得た岳は、老人、子供、怪我人を直ぐ様全て孫家側に引き渡した。そして出した使者に頼んでいた相手側の将の名前を確認して絶望した。

 朗報が悲報に変わる。孫策と周瑜がいる。ラスボス級がこんなしょうもない戦場に現れるとか想像を絶する事態だったろう。可哀想に。

 バーサーカーモードに入ったら呂布級になる相手、通常でも関羽級、そして作中屈指のチートである「勘」とかいう理不尽過ぎる正解を選択する能力を持つ孫策。それだけじゃなく孔明や荀文若級の軍師である三国一の放火魔こと周瑜までいる。つまり岳の物語はここで終了する事は明白であり仕方ないので次作は涼州メインで書くかと作者も考えるレベルである。

 

「ていうか亞莎は何で残ってるの? あっちの組に行って生きてって言わなかったっけ?」

「父や母は岳さんの策で助かります。それに私の今の命は岳さんに救われたものです! 私は最後まで岳さんに付き合います! ……それに将来って言われちゃいましたし」

「将来をそう取っちゃうの……、いやそもそもここで死んだら将来もクソも無いんだけどね」

 

 今、砦に残っている戦力は岳を含めて僅か六名。残りは、というかほとんどの人間を岳はしれっと孫策側に避難させていた。当初、岳が考えていた策は自身が無双する事である。先の戦闘で分かったのは、何十名かくらいなら一度の戦闘で一人で殺れるという事である。つまり三国志演義で呂布がやっていた、籠城しつつ一人で戦場に出て何十名か殺して帰るとかいう頭演義呂布戦法で相手をビビらせながら日を稼いで相手の糧食が尽きるまで粘ろうと思っていた。しかし、相手に孫策がいる時点で不可能となった。タイマンで勝てるわけねえ。なので岳は策を切り替えたのである。岳の目的は防衛ではなく皆の生存である。なのである意味この時点で岳にとってはほぼ勝ちと言ってもいいかも知れない。

 

「それで岳さんは一体どうなさるつもりですか」

「ああ、それは────」

 

 

 

 

「雪蓮、お前が自ら行く必要は無いだろう」

「だって他はともかくその指揮官はそこそこやりそうって話じゃない? せっかくこんなつまらない戦場に来たんだもの。それに私がいる以上、ここには孫家の旗が立っているわ。ならこの私が先陣を切らなければならない。分かるでしょ? 冥琳」

「まったく……」

 

 困った顔を見せながらも周瑜も孫策を止めない。やがて、戦場に開戦を告げる銅鑼の音が鳴り響く。だが。

 

「……冥琳、おかしくない?」

「……ああ」

 

 孫策も周瑜も相手は当然籠城を選択すると考えていた。その通り相手は討って出る様子はない。それどころか動きがない。砦に人の気配がほとんど無いのだ。

 

「実は受け入れたのが相手の全員で中にはもう誰もいないとか?」

「それだったら完全に食わされた事になるな。あと見計らって内部から反乱されたら面倒だが、少なくとも使者だった者や指揮官だけは中にいるだろうし、受け入れた者達を見る限り反乱もなさそうだ。……誰かある!」

 

 周瑜は様子を見る為にまず兵を一人砦に向かって走らせた。砦から迎撃が無い、というより反応がまったく無い事を確認し更に十名、百名と近付け砦を開門させた。しかしやはり中に人の気配は無い。

 

「本当にいないのかしら?」

「相手は黄巾だと油断するなよ雪蓮」

「分かってるわよ」

 

 数名を先行させた後、孫策と周瑜は砦の中に入る。人気の無い、少し不気味な様相の砦に押し入り、その小さな砦の二階の最奥。そこに一人いると報告を受けた二人はそこに出向いた。そこにはこの砦の指揮官となっていた岳が静かに立っていた。

 

「ッ!」

 

 岳を見ると同時に名乗りもせず孫策が最速で南海覇王を抜いて斬り掛かった。現在大陸で最も不意討ちに慣れていると思われる岳は、南海覇王をその身に付けた鉄甲で涼しい顔ながらも内心ひやひやしながらなんとか受け止める。

 

「あはっ、やるじゃない♪ ってあら? 貴方、前に酒代奢ってくれた……確か飛穂高。こんな所で会うなんてね!」

 

 孫策が楽しそうに笑った。周瑜も孫策の空気が変わったのを感じこの男はやるなと思った。そんな二人の思考を完全に無視して岳が大声を上げる。

 

「今だ!」

 

 岳が大声で叫ぶと砦の門が急に閉じられた。何事かと砦の内外で騒ぎが起こるがそんな中、一人静かに孫策が岳の目をじっと見ていた。そして数秒、間を開けおどけたように口を開いた。

 

「あー、嫌な予感がしてきた。ねえ、ちょっと話聞いてくれない?」

「ええーこれからが良い所っていうか、俺の見せ場っていうか……」

「だって私死にたくないもの」

「……雪蓮、何を言っている?」

「冥琳、こいつ私達と心中するつもりよ」

「何だと?」

「……なんでバレるの?」

「やっぱりね。目がそう言ってるもの、なんとなくだけどね」

 

 孫策が肩をすくめ、もう戦う意思など無いのだと南海覇王を鞘に納める。その様子を見て岳も拳を引いた。案外素直ねと孫策は笑いながら岳に聞く。

 

「ねえ、貴方なんで黄巾党にいるの?」

「成り行きでさあ。ここ農民しか居なかったから見捨てるのもねえ」

「……はあ。貴方ねえ、情に流されてたら死ぬわよ?」

「分かってるつもりなんだけど性分っていうのかなあ」

「それで? 命を懸ける程、よっぽどここの人達に良くして貰ったのかしら?」

「いや、頼られたからってのもあるけど。黄巾に入ってる連中を官軍が、袁術が生かすとも思わないから一度戦いに入っちゃったら命懸けるしかないだろ?」

「戦わずに逃げればいいじゃない」

「戦いが始まる前ならいざ知らず、同じ飯を食べた人達を見殺しにして一人去る? それはやだよ」

「だから己が罪を被ってここの人達を逃がしたって事ね」

「……黙秘する」

「いいわ! 気に入った! ねえ、貴方うちに来ない? 歓迎するわ」

「雪蓮!」

「冥琳、いいじゃない。この砦の黄巾の残党は私が全員殺した。そういう事にするわ」

「まったく、少しは軍師の話も聞け」

「あら? いつも頼りにしてるわよ冥琳、大好きよ?」

「……はあ」

「ちょっと待った。先にして置かなきゃいけない大事な話がある」

「何かしら?」

「俺は前にいた義勇軍で下着泥棒の罪で追い出された男だよ? そんな奴入れるの?」

 

 岳の言葉に大声を上げて孫策が笑った。

 

「なーにそれ、どーせ冤罪でしょ?」

 

 孫策は一笑した後、言い切った。

 

「いやまあそうなんだけど、信じるの?」

「ええ、信じるわ。貴方がそんな事する訳無いわ。勘だけどね!」

 

 孫策は笑顔で初対面の岳を信じると、そんな事をする筈がないと言う。その言葉で岳の腹は決まった。

 

「分かった。でもまず先に……中止ー! 皆中止ー!」

 

 岳が中止と大声で叫ぶ。

 

「……何の合図かしら?」

「いや、今の砦は扉を閉めて、土嚢で扉の外を埋めて脱出不可能にしてる途中の筈だからさ。敵将がこの部屋に来たら時間稼いで放火の準備してこの砦ごと袁術軍の将もろとも焼き払う予定だったから」

「自分と砦ごと私達を焼き払う気だったの? あっぶない事考えるわね。正気なの?」

「ここに残ってる六対三千で敵将を討ち取る方法って他に思い付かなかったからなあ」

 

 

 

 岳が自身の策を呂蒙に告げた際、呂蒙は泣きながらそんな事はしないでと懇願した。岳の策はこうだった。敵将は、ほぼ間違いなく先陣を切り最奥までやって来る筈なので、合図をしたら呂蒙が砦の扉を外から閉めて土嚢を少しでもいいから積み扉を開けられなくする。残りの四人がもう一度合図をしたら建物の四隅から放火、そこから逃げ出そうとするであろう敵将と室内で戦闘をして時間を稼ぎ、相手の逃げる時間を無くしてメガンテをかますという作戦であった。内心周瑜に本当の放火を見せてやるとか思ってたようだ。ヤケクソで自身とかいうクソを燃やしてこれがほんとのヤケクソってアホか。犠牲を自身のみで済ませ実質一人で三千人の部隊の敵将を、孫策と周瑜という英雄を相手に相討ちに持ち込む算段を付け、その一歩手前まで行ったのだ。赤壁とかいうメインイベント、というか三国志が消えるような真似やめろよ。

 

「呆れた策だな。敵将がわざわざ乗り込んでくるとは限るまい」

「普通は来ないだろうけど、来るって確信があった。だって、そっちには『孫』の旗印が上がってるんだから」

「……こちらの性質まで見切っての策か」

「悪くないだろ?」

「いや、悪いな」

「えー……」

「これからは孫家の一員になる。自身の命を粗末にするな」

 

 周瑜のイケメン(?)っぷりに岳は男として負けたような気がした。ていうかそういう発想してる時点で完敗だと教えてあげたいが、周瑜は心からイケメン(?)なのでそのうち完敗している事に気付くのは明らかである。

 

 

「岳さん!」

「亞莎!?」

「岳さん、良かった、良かったです!」

 

 急いで来たのであろう、息を切らせながら現れた亞莎が泣きながら岳の胸に飛び込んだ。

 

「亞莎、なんで砦の中にいるの!?」

「嫌です! 岳さんを一人置いてなんて私には無理です!」

 

 岳の胸でわんわん泣きながら言う呂蒙を撫でながら、対関羽用秘密兵器まで殺す所だったと岳は安堵した。そっちかよ。いやそもそも孫策と周瑜殺したら三国の建立ムリゲーって所に頭が回ってない所が岳の岳たる所以だと思うわ。抜けている。

 

「あら? その娘に良い所を見せたかったって理由ならさっきの理由よりよっぽど人間らしくて私は良いと思うわよ?」

「ふむ、そういう事か」

 

 そんな二人を見て孫策と周瑜はそう納得したのだった。そして悪戯を思い付いた孫策が言う。

 

「もしどーしても下着が欲しくてその娘から下着が貰えなかったら私に言いなさいよ? 私のあげるから♪」

「ええ!? 岳さん私のしっ下着が欲しいんですか!? 私なんかの下着なんて貰っても……でも岳さんが言うなら……恥ずかしいですけどっ」

「いやいやいやまてまておいこら孫策」

「あはは、冗談よ冗談♪」

 

 

 

 

 黄巾党が各地を暴れ回る。つまりそれは劉備達が公孫サンの元から離れる際にごっそり兵を連れて出ていき各地を転戦しているという事である。劉備達ほんとひで。そんな劉備達がついに曹操軍と出会った。

 

「ああ、俺は北郷。俺の国では名が真名みたいな物だから姓だけで勘弁してくれ」

 

 この名乗りは散々岳に一刀が注意されていた事である。相手によっては名を名乗れば真名を強制的に名乗ってお前も預けろという趣旨に取られるから死にたくなかったら注意しろと言われていたのである。

 

「へえ、天の国とは変わっているのね」

 

 曹操はそう返した。変わっているで思い出し、なんとなく一刀に問い掛ける。

 

「ねえ北郷、月打亜痛って知ってるかしら?」

「ぶふぅ」

 

 曹操からまさかの単語に北郷が吹き出した。そして曹操を見て笑いを堪えるのに必死になった。頭の両サイドにドリルが付いてる奴にゲッター2とか言われたら仕方ないね。

 

「何故笑うのかしら」

「いやだって……いやまてまて、ゲッターって俺の国のアニメ……物語に出てくるロボ……巨人の名前だぞ!? なんで曹操が知っているんだ!?」

「……それを言うなら私は字は名乗っていない筈だけれど何故知っているのかしら。まあいいわ、ふむ」

 

 曹操の目の前の不思議な衣を着た男はゲッター2を天の国の物語の巨人の名前と言った。この男がこの国に来たのは最近だと言う。ならば何故、曹操の悪友はこの名を知っているのか。確信を深める為に更に問う。

 

「では紅蓮螺巌は?」

 

 恐らく初めにグレンラガンと言われていたら多分笑っていたであろう一刀は、ゲッターからの順番だったのでなんとか堪えた。笑ったら殺されていた一刀君、セーフ。

 

「あ、ああ。それも天の国の物語で、とても熱くて王道って感じの、革命を起こすとにかく人気がある話さ」

「熱くて王道で革命を起こす人気がある物語が紅蓮螺巌、名前を聞いたら吹き出してしまうのが月打亜痛……ふっふふふふふ」

 

 何故か笑い出した曹操に劉備軍一同が困惑する。笑った後、曹操は機嫌良さそうに劉備に言った。

 

「劉備、黄巾が落ち着くまでの同盟の件、受けて上げるわ。それと北郷に聞きたいのだけれど」

「えっと、俺で分かる事なら」

「……天の国出身で長く離れている人間が聞いたら思わず驚いてしまう事って何かないかしら?」

 

 岳、曹操に天の国出身がばれて元々ロックオンされていたのに本格的に狙われ始める模様。そして話の流れで岳が曹操の知り合いだと分かり、一刀君は岳の悪ふざけのせいで死にかけた事を悟るのであった。




一つ、大事な事なのですが、作者は別に関羽が嫌いとかじゃなく無印の関羽が好きです。
張飛のお姉さんしてて世話焼きで嫉妬したりするけど基本御主人様に従いますな無印愛紗。真になって他の恋姫のキャラ立ちの為に嫉妬と暴力が強調されお姉さん要素や御主人に従う感を削られた関羽はあまり……。仕方ないと思うけど真になって犠牲になったと思うんだよね。異論は認める。


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5.董卓軍は人手不足

「きっつー。なー賈クっちー。人手足りひんのやけどどうにかならんの? 恋はともかく、まあ華雄も口には出さんやろーけどそのうち限界来るで」

 

 洛陽宮中、心底疲れたという様子の張遼が軍師である賈クに意見を言いに来た。董卓軍は人手が少ない。いや、人だけなら宮中から借り出せばいいのだが、信用に足る人間がいないのだ。それだけ董卓軍は洛陽の中でも孤立していたが、それでも黄巾相手に奮闘していた。

 

「ごめん霞、無いものは無いわ。どうにか今の面子でまわして」

 

 賈クはその意見をばっさり切った。まあ張遼とてそんな信用足る人間がほいほい見つかるとは思っていない。一人を除いて。

 

「はあー。……なあ、岳っちは? 最近見てへんけど岳っちなら頼めばウチら手伝ってくれるんちゃう?」

「……岳ならとっくに辞めて洛陽離れてるわ」

「はあー!? ほんまに!? ちょ、ウチなんも聞いてへんよ!?」

 

 出撃、出撃、出撃を繰り返していた張遼は初耳だと賈クにどういう事だと食ってかかるが、賈クは張遼から目を逸らし力無く言う。

 

「……辞めたものはしょうがないでしょ」

「まあ確かに最近顔出してこんなーって思うとったけど、ウチらも忙し過ぎてすれ違いになっとるだけかと思うとったわ。ていうかあいつウチに一言も無しかい! 友達がいのないやっちゃな! 賈クっちなんで岳辞めたか聞いとるん? なんでウチらん所に引き込めんかったん?」

「……知らないわよ」

「ほんまに?」

 

 張遼の問いに賈クが黙ってしまった。これは何かあったのだろうと張遼が再び問おうとした時、後ろから董卓に声を掛けられた。

 

「霞さん」

「月か」

「こちらへ」

「……了ー解」

 

 賈クを残し、董卓に促された張遼は董卓と共に別室に移る。張遼の目に映った賈クは悲しそうな顔をしていた。

 

 

「あの、詠ちゃんを責めないであげて下さいね」

「ん? 月はなんか知っとるん?」

「実は岳さんは詠ちゃんのあの日に巻き込まれて、その後しばらく私達の所に顔出さなくなっちゃって……」

 

 賈クにはまれに訪れる不幸の日がある。一日中、自身と周りの人間に不幸がコントかと言いたくなるくらい降り注ぐ日で、その日が来ると賈クは部屋から出ずに一日を過ごすのだ。何故か不幸に唯一見舞われない董卓がその日は賈クの食事やらなにやらの面倒を見る。

 

「あー……。まあしゃあないかなー」

 

 張遼は自身が巻き込まれた事は無いが、巻き込まれた人間の話だけなら聞いた事がある。敵陣に投げ込めば相手壊滅するんちゃうかと張遼は思った程だが、その前に自陣が壊滅するかとその案は諦めた程だ。

 

「その顔出さなくなった時期に岳さん何かあったらしくて辞めちゃったらしいんですけど、詠ちゃん自分のせいだって……」

 

 董卓の所に顔を出さなくなった岳は、実は何進に賄賂要求されたりしていた。どうやって金工面するべと考えていた岳だったが、関羽に(岳視点では)偶然出会い半ば強制、しかし金銭の工面が面倒だった事もあり劉備達に巻き込まれる事も有りかと血迷ったのだ。その後すぐ後悔したが、辞めた経緯もあり賄賂を拒否し身分を捨てた清廉潔白な男と認識されているらしい。

 

「でも賈クっちあの日になると部屋に引き込もって月以外誰も近寄れなくなるやろ?」

 

 ふと張遼が疑問を口にする。賈クはあの日が来ると董卓以外は近付けない筈だと。

 

「それが……その日だって気付かずに岳さんを招いたらしくて」

「まじかー。 ってあれ? 部屋に招いた? あの詠が?」

「あはは……そうみたいです」

 

 董卓命の賈クが自室に男を招いた。張遼に衝撃が走った。いつの間にそんなに仲良くなったのかと。董卓の所に茶を飲みに顔を出していたのは知っている。呂布の家族である動物と良く遊んでいたのも知っている。そして自身とも良く酒を呑みに街に繰り出していた。だが誰も男女の関係は無く、張遼も馬鹿をやれる親友として付き合える距離感が好きだった。だが、賈クはそこから一歩踏み込んだという。その事に張遼は複雑だった。

 

「……んであの日に巻き込まれて、しばらく岳が遠ざかっていた間に辞めたせいで引き止められなかったと。まあ、そら賈クっちに同情するわ。……抜け駆けはされたのは複雑やけど」

「霞さんも岳さんと仲良かったですからね」

「それ言うたら月もやんか」

「私は……その……詠ちゃんみたいに勇気出ませんでしたから」

「……そやな。ウチかて馬鹿やってる関係変わるの嫌やったし。そうやって勇気振り絞って、んであの日やったか。辛いな」

「……そうですね」

「はあー。しゃーないな。ほんならそんな賈クっちの為に黄巾でもしばいて少しでも安心させたろーやないか」

「はい。霞さん、大変だとは思いますが」

「なーに、賈クっちが絞り出した勇気に比べたら大した事あらへんよ!」

 

 ま、何も解決してへんけどしゃーないなと張遼は笑って再び戦場に戻っていく。詠は強かったんやなと友の勇気を胸にして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪蓮、この邑はおかしい」

 

 いつも通り仕事もせず木の上で酒を飲んでいた孫策。そんな彼女を見つけた、彼女の陣営に加わり真名を交わした岳が同じく木に登り彼女から酒を分けてもらいながら思った事を率直に言った。

 

「何かあったの?」

「俺、この邑に来てからまだ一度も襲われてない」

「はあ? 邑の中で襲われる訳ないでしょ。まあたまに暴漢もいない事もないけど、私達の治める邑がそんなに治安悪いとでも思ったの? 失礼しちゃうわ」

「いやいや、俺今まで住んでた所でこんなに長い間襲われないなんて初めてなんだけど」

「荒れ過ぎっていうか殺伐し過ぎな所に住んでたのね」

「ど田舎の邑と洛陽に住んでました」

 

 田舎では関羽に襲われ、洛陽では夏侯惇に襲われ、仕官したら宮中で陳宮にしょっちゅう飛び蹴りされていた。どこでも誰かが襲ってくるのがデフォだったので襲われない事に逆に不安を感じているという。ただ、陳宮に関して言えば避けられたし当たっても大して、まあ関羽や夏侯惇に比べればであるが痛くないのでわざと受けていた。避けるとそれはそれでギャーギャーうるさいからである。

 

「洛陽って今そんなに治安悪いの? ま、安心なさい。少なくとも日常で襲われる事なんてないわ。普通の邑だもの」

「これが普通……これが桃源郷?」

「……まあ気にいって貰えるのは嬉しいんだけど、なんか可哀想になってきたわ。ま、なんか知らないけど呑んで忘れなさい♪」

「さっすが雪蓮♪」

 

 

「……二人で昼間から何をしている」

「オワタ」

「やっほー、冥琳も呑む?」

「雪蓮! 仕事が溜まっているだろう! 仕事に戻れ!」

「ちょっとー。なんでそこで私だけに言うのよー。ぶーぶー」

「……岳は明日の分まで終わらせている」

「ちょっとー何それー。岳の割り振り少ないんじゃない?」

「多くはないが雪蓮と同じくらいはあった。今度から倍に増やすがな」

「え」

「……岳って武官でしょ?」

「周家の伝手で洛陽にいた飛穂高という人物の話を聞いた。文官、それも役は大長秋。袁家……袁紹の後ろ楯を持つ同世代の男の出世頭。合っているか?」

 

 洛陽で働いていたとも話を聞いた周瑜が一応岳の事を調べた結果、本人が言っているより遥かに大物だった事が発覚した。ていうか自覚が無いだけである。本人的には適当に仕官して適当に仕事していたつもりである。

 

「ま、まあでも俺パシりみたいなもんだったし。書類は割りと得意だったけど」

 

 この岳の言葉も嘘ではない。ただ、パシりしていた相手が何進だったりしていただけである。書類だけは期日を守り、後の自分の仕事はわりと部下に任せていたのだ。

 

「宦官の最高位じゃない……岳ってち○こ切り落としたの?」

「落としてない! 宦官なんかなるか! 麗……袁紹が仕事用意してくれるっていうから任せたら凄い役職用意されててびっくりしたのは事実だけど、断固拒否したら袁家の力で宦官とかその辺有耶無耶にしてくれて」

「そこから義勇軍で雑用やってから黄巾党? 歴史に名を残せそうな転落っぷりね。大長秋……ねえ岳、様とか付けたほうがいい?」

「いやほんとやめて。ていうかもう辞めたし」

「岳、聞いた話の中に出てきたのだが洛陽で岳と岳の部下がやっていたという『ぴーでぃーしーえーさいくる』というのはなんだ?」

「PDCAサイクル? まあ、簡単に言えば仕事を効率良く改善していく方法みたいな。楽をしたかったから皆でやれば効率上がるんじゃねえかなと思って」

「……具体的には?」

「えっと────」

「雪蓮、どうする?」

「採用で。ていうかなんにでも応用効きそうね」

「そうだな。岳、孫家で上手く使う為に煮詰めるから付き合え。雪蓮は仕事しろ!」

「うっへー……」

「はいはーい」

 

 岳、ほんの少しずつ孫家に現代的思考を植え付け始める。ちなみに、岳は辞めたと思っているが袁家介入により休職となっているだけでまだ大長秋なので本当はめっちゃ偉いのだが本人がこんなのなので意味が無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女が関羽……へえ、岳から話は聞いているわ」

 

 曹操軍と合流した劉備軍。その中でもとびきりの武勇を魅せる関羽を目にした曹操の、岳から話を聞いているという言葉にぴくりと関羽が反応する。

 

「『美しい黒髪で、戦う姿は舞の様』だ と」

 

 岳がその様に言っていたのかと関羽は口を開かずとも、そうか岳が私をそんな風に誉めていたのかと内心うっきうきになる。その言葉を聞いた一刀が、あっやべ、止めないとと思うがもう遅い。

 

「『あの舞はきっと俺を殺す為の呪術の類いかなんかだと思うんだ。じゃなきゃあんなに毎日襲ってくるもんか。あいつ頭おかしいんだよ』ですって」

「な……!?」

「あちゃー……」

 

 どや顔で告げる曹操、岳から聞いていたので言っちゃったよこいつと思う一刀、初耳だとショックを受ける関羽。いや曹操よ、多分お前に言った理由はお前の所のアホの惇ちゃん止めてくれって事を遠回しに言っただけだと思うぞ。

 

「曹操さんは岳さんの事詳しいんですね♪」

「ひえ」

 

 一刀が思わず悲鳴を上げる。言葉尻に♪なんて付けているが、言葉を発した劉備の目に光は無く紫色のオーラのようなものが立ち上がっていた。まるで殺意の波動に目覚めたリュウってこんな感じだよなと一刀は思う。

 

「ふふ、劉備。貴女そんな顔も出来るのね。面白いじゃない。私塾時代の話で良ければ聞かせてあげましょうか?」

「……是非お願いします♪」

 

 対する曹操がこの程度で怖じ気づく訳も無く、お互いの背後からゴゴゴゴゴと擬音が可視化出来そうな程の迫力があった。これが後の蜀と魏の王。この空間にいると胃に穴が開く。一刀がそう思っていると袖を引っ張られた。

 

「ここにお兄ちゃんがいてもしょうがないからもう行くのだ」

「あ、ああ」

 

 張飛に促され、共に一刀は天幕を出た。出た途端にぶわっと汗が吹き出した。

 

「まったく、いない人間の事で争ってもしょうがないのだ」

「ほんとにな」

 

 げっそりしている一刀に張飛が話題を変えた。

 

「お兄ちゃんも大分腕を上げたのだ。今日も三人倒した所見てたのだ」

「あはは……、鈴々良く見てるね?」

 

 最前線で暴れる関羽や張飛と違い、一刀は少し下がった位置で戦っていた。

 

「そりゃあ、お兄ちゃんが危なそうだったらいつでも蛇矛を投げて助ける準備だけはしてたから」

 

 鈴々の言葉に一刀はちょっと泣きそうになった。

 

「鈴々、ありがとう」

「にゃはは。鈴々はお兄ちゃんの『ししょー』だから当然なのだ」

 

 俺の心の支えは鈴々。一刀はそう思った。




いつも誤字報告ありがとうございます!


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6.まったり戦争

「平和だなー亞莎」

「えええええ!? 岳さんっ、今戦場ど真ん中ですよ!?」

「よっ、はっ、いやまあ命の危険は無いし」

「流れ矢を叩き落としながら言う事じゃないです!」

 

 

 袁術の治めるここ揚州はアホみたいに治安が悪い。己が蜂蜜を食べる事のみに力を入れて治世が適当だから仕方ない。そんな揚州は黄巾党がうようよゴキブリの様に延々と湧き出る。一隊見つければ三十隊は余裕でいる。そして便利に扱われる孫家は当然黄巾狩りに駆り出される。

 

 戦。戦。戦。袁術の、というより張勲の策により孫家の面々は現在州内でバラバラに戦っていたが、流石に敵の数が多すぎると孫策の訴えにより孫策、周瑜、おまけで岳の元へ黄蓋と陸遜が合流した。兵力は五千。その内、孫家の一員になって日が浅い岳に任された兵力一千。孫策がいかに岳を買っているか解る兵力である。

 

 孫家の、孫策の戦い方は苛烈である。虎の娘はやはり虎、獰猛な牙を持って敵を喰い散らかすのだが、その戦いは岳にはまったく合っていなかった。守る事に於いては超一流と言ってもいい岳は、攻めるという事に於いて平凡より少しマシな程度であった。戦においても一対一でも同様である。

 

 孫策と岳が試合をした。孫策が岳を一方的に攻める間、その猛攻を受け凌ぐ岳の防御を長々破れなかった孫策はたまに隙を見てカウンターを狙う岳に業を煮やし、攻めるのをやめ、そっちから来たらどう? と言った。自分から攻める事が少ない岳は攻めあぐねたが、ついに殴りかかるとあっさり孫策にカウンターを決められ倒された。自分から攻めるのは本当に苦手なのである。

 

 この岳を使った孫家の新しい戦術は、わりとひどい。まず、岳と副官となった呂蒙が千を率いて敵を釣り出す。なんだ大した兵力じゃねえなとそれより大軍が押し寄せる。自軍より二倍、時に五倍、十倍近い黄巾を、野戦で受け止める。そこに横から、背後から孫策達が襲い掛かるという完全に撒き餌として使われるようになっているのだが、冒頭のようにどれだけ黄巾がこようが余裕綽々と受け止め孫策達の奇襲を待つのだ。

 

 野戦で同数以上の敵を受け止める。戦初めは野戦であった筈なのに気が付いたらまるで簡易的な籠城戦の様にその場で戦場を作り替え、スパルタの兵かと言いたくなるくらいな堅牢さを作り出す岳は鼻歌を歌いながら戦場のど真ん中、いや最前列でのほほんとしていた。私塾時代に曹操相手にしょっちゅう籠城戦やってた岳、黄巾相手に守り負けする訳がない。ちなみに自分から攻めると相手が同数以上ならほぼ負ける。でも曹操さんちょっと岳を鍛えすぎじゃないですかね。

 

「大丈夫大丈夫。将がどっしり構えといたら兵も安心するでしょ?」

「どっしりと言うかまったりしてますね」

 

 岳と呂蒙は陣の奥では無く、孫家方式に則り最前線で黄巾を相手にしていた。岳が相手の攻撃を捌いて呂蒙が討つ。二人セットなら孫策だって相手に出来る。二人は呑気に会話しているが絶賛敵をしばき倒している最中である。呂蒙子明、大分岳に感化されている。

 

「あ、雪蓮様達が敵陣側面に突撃しますね」

「お、じゃあ少し陣下げて敵陣を縦に薄く伸ばして横っ腹を喰い破り易いようにしようか」

「はいっ!」

 

 今日も元気に黄巾狩り。世が荒れている筈なのに岳にとって何故か平和と思える日々である。武神級が不意討ちする日常に比べたら黄巾党と真っ正面で戦う日常は平和なんだろう。

 

 

 

 

 

「祭さん、さっき冥琳が探してたよ?」

「うん、おう岳か。まあ一杯付き合わんか」

「頂きます!」

 

 周瑜に言われて黄蓋を探していた岳は、その本人を見つけ一緒に酒盛りを始めた。こんな奴に探しに行かせちゃ駄目だって。

 

「はあ~。生き返るわ~」

「大袈裟な奴じゃのう」

 

 岳が酒を飲み、蕩ける様子を見ながらふふっと笑い自身も酒を口に運ぶ黄蓋は凄く楽しそうである。

 

「いや、最近なんか亞莎が酒に厳しくて」

「この前やってた全裸芸のせいじゃろう? あれは笑ったのう。全裸になり鍋一つで股関を隠し鍋を高速回転させるあれじゃ」

「やってる途中で亜莎にどつかれて気絶させられたあれか」

「そこまで含めて笑ったがのう」

 

 酔っ払い、愉しくなりアキ○100%を披露したは良いものの呂蒙が恥ずかしがり強制的に止められた宴を思い出した。

 

「まあ雪蓮辺りもめっちゃ笑ってたしいいか」

「冥琳は物凄く呆れておったのう。ま、お主の暴走は亞莎が止めるじゃろうて。良い嫁を貰ったのう?」

「嫁?」

「違うのか?」

「どっちかっていうと……妹的な感覚?」

「ふむ……亞莎本人に言うでないぞ。わしはあの娘の悲しい顔なぞ見たくないからのう」

「へいへい。……嫁かあ。考えてなかったなあ」

「ではお主の言う厳しい妹がおらぬうちに呑め」

「祭さん分かってる~。じゃあ祭さんも鬼軍師がいないうちに」

「お主も分かっておるのう」

 

 二人は笑いながらお互いの杯に酒を注ぐ。と、二つの影がその杯を覆った。ん? と見上げるとそこには鬼軍師と最近厳しい妹が立っていた。

 

「二人共何をしている」

「……ぬう、抜かったわ」

「祭殿」

「息抜きじゃ! たまには息抜きも必要じゃ!」

 

 孫家の宿将、駄々っ子になる。いつもの事である。

 

「ずっと抜いていたら呼吸も止まり死にます。老体の息の根、なんなら私が止めましょうか?」

「ぐ……」

「今日は逃がしませんよ」

「わ、わしだけじゃないぞ! 岳だっ……て」

 

 そんな駄々っ子をばっさり切り捨てる周瑜。そんな周瑜に怒られた黄蓋は岳を巻き込もうと振り返ると、岳は既にパーフェクトな土下座スタイルで呂蒙に平伏していた。

 

「岳は亞莎に任せます。では行きましょうか祭殿」

「くうう、せめて杯に注いだ最後の一杯を」

「祭殿!」

 

 名残惜しそうに杯を見ながら周瑜に連行される黄蓋。全裸芸はやってないので許して下さいと呂蒙に懇願するも、そもそも仕事中ですと怒られる岳。既に尻に敷かれている感じが半端ないが、こんな日常こそ平和だなと馬鹿をやりながら岳は思うのである。そして怒りながら泣き出した呂蒙を何故か岳が謝りながら慰めるというよくわからない事になるまでがこの二人らしい流れである。もう嫁でいいんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一刀さん、お疲れ様です」

 

 一刀が関羽にボコられ、もとい訓練を終え疲れたと岩場に腰を掛けていると孔明が水を竹筒に入れて差し入れしてくれた。

 

「ああ朱里、ありがとう」

「今日は雛里ちゃんがいつも頑張ってるご主人様の為に料理作るって張り切ってました。私も手伝ったんですよ?」

「おおお……」

 

 ロリは天使。一刀の中で生まれた法則である。

 

「鈴々ちゃんも匂いにつられたみたいでもう待ちきれないみたいですよ」

「あはは、鈴々らしいな」

 

 孔明は、一刀の飴と鞭を劉備と関羽に任せるつもりだった。だが、その劉備が岳が出ていき様子が変になってきたので、孔明は張飛を一刀の元へそっと誘導したのだがこれがハマった。その上、どうやら一刀が張飛や自身のような、まああまり孔明としては認めたくないのだが幼い容姿の娘の近くにいるほうが落ち着くようになったようである。このまま行けば一刀の性癖もそっちに変わるのかな? そうすれば後々やりやすくなるかも知れないと鳳統と話しこの路線で行く事に決めた。流石軍師、汚い。

 

「じゃあ行きましょうかご主人様♪」

「ああ」

 

 チョロインになりつつある一刀の明日はどっちだ。今のところ鈴々しか救いが無いけど頑張れ一刀。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恋殿っ! この辺りに黄巾党はもういないのです。皆、恋殿の強さに恐れをなして逃げてしまったのです!」

「……そう」

 

 陳宮が呂布に周辺に放った細作からの報告を伝えた。何せ呂布が黄巾党本体、三万という大軍をたった一人で壊滅させたばかりである。恐れをなして逃げるのは仕方ないと思う。正直、萌将伝はこの時の真紅の呂旗のエピソードの為だけにあると思う。後は知らない。思い出すと悲しくなるから知らない。真紅の呂旗、やり過ぎだけど凄い熱かった。一対三万で相手壊滅とか化け物過ぎ。関羽、張飛、無印だと趙雲も混ぜて一対三で互角以上だったからね……。そんな呂布と一対一で正面から斬り合い余裕を崩さずめっちゃ持たせた曹操様ほんとチート過ぎ。絶対関羽とか夏侯惇より強い。流石に最後危なくなってたけど。

 

「……ねね」

「はいっ! 恋殿に言われた通り逃げた連中に黄巾を巻いた我々の細作を混じらせているのです! 黄巾本体の居場所が解るのも時間の問題かと!」

「……ん」

「恋殿、動きますか?」

「……お腹減った」

「では洛陽に帰りましょうぞ!」

「……ん」

 

 黄巾党本体の居場所が分かり各地の諸侯に通達され、一堂に会する決戦となるのはもうすぐである。その通達を受けた諸侯は、黄巾党の最後と腕を鳴らす者、それじゃあ多分岳もどっかに混じってくるでしょうねとほくそ笑む者、何故か岳に会えると確信している者など様々であるが、岳の平和な闘争の日々が終わるかも知れない。




今回短いです。全部ランス10が面白過ぎるのが悪いです。神ゲー過ぎる。ランス10の事を語りたい方は感想欄じゃなくて活動報告にコメントお願いします(いねえだろうな)
今年は当たり映画も多いし良い年だ。マジンガーとかグレイテストショーマンとか最高だった。……デッドプール2もアベンジャーズも控えてるしマーベル好きには楽しみ過ぎる年。


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7.ついでに黄巾党は滅びた

※最新号のヤングアニマルに載っていたベルセルクのネタばれと最近のはじめの一歩のネタばれがあるのネタばれしたくない人は絶対読まないで下さい。


※最新号のヤングアニマルに載っていたベルセルクのネタばれと最近のはじめの一歩のネタばれがあるのネタばれしたくない人は絶対読まないで下さい。


※大事な事なので二回書きました。


 黄巾党本拠地が見つかり、諸侯に討伐令が下り孫策軍も袁術の代理として参加する事になった。各陣営から三名、本陣天幕へとのお達しを受け、孫策、周瑜、それと孫策がなんとなく面白そうだからという理由で岳を連れて参加する事になった。岳は後ろで大人しくしとけばいいかと特に何も考えず生返事を返したが、すぐ後悔する事になった。

 

 天幕に着き、孫策達の席はそこだと案内を受け席に向かうと岳の目の前に小さな身体に自信をたっぷり詰め込んだチートオブチート、曹操がででーんと現れた。岳は身長が高いのでその身長差は大人と子供の様であるが、内面に詰め込まれた自信からかその身長差を曹操は感じさせない。だが、岳はこの身長差を弄る事が好きである。

 

「岳、久しぶりね」

「あれれー? 華琳の声が聞こえるぞー? おかしいなー見当たらないぞぐはあ、ちょお前ひでぶ、ぎゃああ」

 

 わざと更に背伸びをし、キョロキョロ周りを見渡し見えぬと言った岳に躊躇無く腹パン、屈んだ所で一瞬顔を合わせてニコリと笑い即座に足払い、そして踏みつけ。身長差を弄られる事が嫌いな曹操、容赦なし。

 

「あら、さっきまで私の目の前にいた友人が見当たらないわ。どこに行ったのかしら」

 

 意趣返し。踏みつけたまま曹操が周りをキョロキョロと見渡し、そのあと足元へ転がった岳を見下しニコリと笑う。

 

「あら居たの?」

「こんにちは、そして今日の華琳の下着は紫」

「死になさい」

 

 下から見上げた岳が目の前に見えた下着の色をサムズアップしながらめっちゃ良い笑顔で言った。そして曹操はおもいっきり岳の腹を蹴飛ばした。残当。むしろ羨ましいまである。孫策と周瑜、完全に置いてけぼりである。だがどうみても岳が悪いので呆れと失笑しか出ない。

 

「華琳さん普通死ぬと思うんですが」

「貴方が悪いわ。我慢なさい。……で? 満足したかしら?」

「今日はこの辺で勘弁してやるわ!」

「そう、それは良かったわ。立ちなさい」

「再度踏みつけたまま言われても立てないんですがそれは」

「あら、気が付かなかったわ」

 

 蹴飛ばした直後再度踏まれた足元からようやく解放された岳が立つ。再度下着をガン見してたのは内緒である。話が進まないのです。

 

「ふうー、やれやれ。で、何か用?」

「ええ、まあ大した事ではないのだけれど」

 

 曹操がチラリと天幕の隅の劉備陣営にいた一刀を見る。ゴクリと少し緊張した一刀から岳に視線を戻す。天幕の中央を陣取る袁紹がいつもならしゃしゃり出て来ているだろうに今じっとしているのは事前に曹操が袁紹に話を付けているからである。曹操が早速一刀から聞いていたいくつかの世間話に引っ掛かるか試す。

 

「はじめの一歩の幕内一歩、ぱんちどらんかあになって宮田と戦わずに引退したそうよ」

「えええええええええ!?」

 

 一つ目で見事に引っ掛かった馬鹿が一名。まあ知らなかったらそうなる。けど折角なのでそのまま続ける曹操。

 

「……べるせるくのきゃすか、妖精王に正気に戻して貰ったのにがっつを見て蝕を思い出してまた発狂したそうよ」

「はああああああああ!?」

「あと名探偵こなんの黒幕は工藤優作」

「あ、それはなんとな「それは嘘よ」嘘かい! ……あれ、なんで華琳がそんな事……あ」

 

 ようやく、岳が嵌められてる事に気が付いた。そして一刀が大声を上げる。

 

「やっぱり俺と同じ国出身じゃないか!」

「ナ、ナンノコトカナー。ボクワカラナイヨー」

「もうシラを切っても無駄よ」

 

 そしてもう無駄なのに急に片言になってなんとか誤魔化そうとする馬鹿一名の逃げ道を切り捨てる曹孟徳。

 

「ちょっとなになに? すっごく面白そうな話してない?」

「袁術の代理の虎の娘、だったわね。申し訳ないのだけれど、今岳について大事な話をしているの」

「だったら私だって関係あるでしょ? 岳は私の所の将なのよ?」

「……ちょっと待って。今、『将』と言ったかしら。『客将』の間違いではなくて?」

「ええ、私に忠誠を誓ってくれたわ」

 

 あ、これはやべえと逃げ出そうと振り返り全速で駆け出そうとした岳だったが襟首を曹操と孫策両方からガシッと掴まれ逃げ損ねる。

 

「なんで逃げ出そうとしてるのよ。堂々と私の所で将やってるって言えばいいじゃない」

「大陸一周りしたら私の所で働くって約束したわよね? それともまさかこの曹孟徳を欺こうとしたとでも言うのかしら。それならば勿論それ相応の覚悟と言うものがあるのでしょうね?」

「岳! お前が孟徳さんにゲッターとかグレンラガンとか言うから危うく俺死亡フラグ踏み抜くところだったぞ!」

「おーっほっほっほっほ! これで岳さんはそこの北郷さんとやらと同じ天の国とやら出身で間違いないのですわね! 岳さん、挙式はいつになさいますか?」

「ちょっと麗羽? どさくさに紛れて馬鹿を言わないで頂戴」

「あら華琳さん、わたくしは本気ですわよ?」

「……尚の事悪いのだけれど」

「待って待って、岳って天の国出身なの? え、じゃあ最近噂の天の御使いってまさか」

「あ、それは俺です。北郷です」

「ええ……。冥琳」

「混乱するのは分かるがそこで私に振るな雪蓮。私が分かる訳ないだろう」

「そうよね、岳……ってあれいない」

 

 場が良い感じにカオスになった隙にいつの間にか掴まれた上着だけを残し岳がその場から消えていた。曹操と孫策の隙を突くとか無駄に凄い事をやってのけた岳、責任感まるで無い。

 

「くっ、麗羽と言い合いしている隙に上着だけ脱いで逃げるなんて!」

「ほんとおっちょこちょいですわね華琳さんは」

「……貴女にだけは言われたくないわ」

「あー、誰でも良いから説明してくれないかしら?」

「あ、俺で良ければ」

「助かるわ。えーと北郷だったかしら。私は孫伯符よ」

「……曹操と孫策と劉備と知り合いとか岳ほんと何考えてここで生きてきたんだか」

「ちょいーっす! いやー遅れてもうたわ! うちは洛陽、董卓軍の張文遠や。皆よろしゅうってなんかえらい騒がしいな?」

「春蘭! 岳を追って!」

「は!」

「え、その真名ってまさか飛穂高の事!? ここに岳っち来てるん!」

「岳の知り合い増えた。どうなってるのあいつ」

「えーっと、説明まだかしら?」

「おーっほっほっほっほ!」

 

 もはや天幕の中は収拾不可能となってしまった。発端となった人間が逃げ出してしまったので。その本人は天幕から自陣に向けてとりあえず逃げろや逃げろと猛ダッシュしていた。

 

「岳君こっちこっち」

「お、おう?」

 

 物陰から聞こえた声に反応し思わずその物陰に身を寄せた岳は、その声の主を見て驚いた。

 

「あ、あれ? 桃香? 天幕の中にいなかったっけ?」

「あ、岳君ちゃんと私の事見てくれてたんだ、嬉しいな。曹操さんがね、まず私が話をするからって言って話をさせてくれなかったんだ。ひどいよね。私だって岳君と話したかったのに。それに岳君が天の国の人間かどうかなんて、岳君は岳君なんだから岳君自身は変わらないのにね。あ、勿論凄いなって思うよ? 内緒にされてたのは少し寂しいけど気持ちは分かるし。あ、ここにいる理由? 朱里ちゃんがね、あの天幕内の展開予想しててくれて騒ぎになったらここで待ってたら岳君が通る筈だって教えてくれたんだ。岳君があの場から消えたのは正解だと思う。うん、あのままだったら岳君きっと物扱いされちゃうと思うんだ。ひどいよね。あ、でもね? 私達の所だとそんな事ないから大丈夫だよ。だって私達の所にはご主人様もいるし、天の御使いって言ったらご主人様の事だって皆知ってるから岳君が隠したいなら私達の所が一番だと思うんだ。ううん、それだけじゃないよ! 私が岳君と一緒に居たいなって思ったから私達の所に来て欲しいなって……あはは、言っちゃった。でもでも、本当だよ? ね、岳君私達の所に戻ってきてくれないかな。ほら、私ね、岳君といると今こんなに胸がドキドキしてるんだよ?」

 

「ちょ、え、は?」

 

 久しぶりに会った劉備がなんかおかしくなっていた。混乱する岳は劉備の話しがそもそも半分も頭に入って来なかったが、劉備が岳の手を取り自身の胸に手を当て心音を聞かせようとした、つまりおっぱいを揉ませたので半分どころかまったく入らなかった。仕方ないね。

 

「ファンタスティックおっぱい。ヤックデカルチャー。おっぱいファンタジスタ万歳」

「え、なにかな、それ天の国の言葉かな? もしかして喜んでくれてるの? だったら嬉しいな。恥ずかしいけど岳君だったらもっと触っても大丈夫だよ? 私ね、岳君がいなくなってからようやく私の中で岳君がどんなに大きかったか気が付いたんだ。ごめんね。私、ほんと馬鹿だった。お願いだから、戻ってきてくれたら嬉しいな。えへへ、まだ触ってくれるんだね。ね、……触るだけでいいの?」

 

 上目遣いで大きな双丘を触らせながら誘う劉備に、ついに思考回路はショート寸前今すぐマジンゴーと岳が劉備にガバッといこうとしたその時、殺気を感じた岳が劉備を抱えて跳んだ。跳んだ瞬間、岳の居た場所に青龍偃月刀が全力で叩き付けられ轟音と共に地面に巨大なクレーターが出来た。

 

「貴様桃香様と何をしている!」

「……はっ! 俺は一体何を!?」

 

 関羽の声で我に返った岳が、とりあえず劉備を降ろして関羽と面と向かう。

 

「もう、駄目だよ愛紗ちゃん、岳君と会ったら言う事があるって言ってたでしょ?」

「う……そうでした……。つい、いつもの癖で……岳!」

「ふえ?」

「その……なんだ、曹操殿から私との稽古が辛かったのだと聞いた。……反省している」

「あ、はい」

 

 合ってるけど違う。稽古っていうか暴力でしかなかったから。しかもついさっきも有無を言わさず襲ったよね!? と声を大にして言いたい所を、話が拗れそうなのでグッと呑み込みなんとか岳は無難に返す。

 

「そ、そうか! 分かってくれるか! では私達の所に帰ってきてくれるな!」

「それとこれとは話が別だと思うの」

「何故だ! 今、許してくれたではないか!」

「許してないわ! ていうか謝罪にもなってないわ! もし丁寧に謝罪されてもそもそもお前に対する恐怖は消えんわ!」

「な、なんだと……」

「そこで驚くとかどんだけだよ」

「でも岳君、さっき戻ってもいいかなって思ったでしょ?」

 

 ぷにぷにっと劉備の双丘が岳の二の腕に当たる。

 オーイエス。戻っていいかも知れないと岳が脳では無く下半身で思考し始める。おっぱいファンタジスタにツーゴール決められまともな思考不可能。このままハットトリックを決められ劉備軍に戻ってしまうのかと思われたその時、洛陽で聞き慣れた気迫溢れる猛獣の雄叫びが聞こえ目が覚めた。

 

「岳、ここかー!!!」

「げえ、春蘭!」

「死ねー!!!」

「いやいやいやお前探せとか言われて来たんじゃねえの!?」

「忘れた!」

「くそ、華琳の奴このタイミングで差し向けるにしちゃ間違ってるんじゃねえの!?」

「貴様華琳様がくそだと言ったか!」

「言ってねえよ!? 言葉句切る場所勝手に変えるんじゃねえ!」

 

 襲い掛かる攻撃をひたすら避けながら岳は文句を言うも、まったく聞かない夏侯惇は全力で斬り掛かる。避けまくる岳を斬りつけるのが楽しくなってしまっている模様。とその時、横から夏侯惇の剣戟を止める一筋の光。関羽の青龍偃月刀である。

 

「貴様、岳に何をしている!」

「なんだ関羽。私が岳に何をしようが関係あるまい!」

「なんだと? 岳に不埒な真似は許さんぞ!」

「貴様こそ岳に暴力を振るっていたのだろう! 不埒というなら貴様だろうが!」

 

 どっちもだよ。と岳は心の中で叫びつつ、二人が剣を合わせて牽制し出したのを見計らい再度全力で駆け出した。もう、ここに平穏など無い。この陣に平穏がないなら逆にあっちなら平穏なんじゃねえかなと頭がおかしくなった岳は、なんと黄巾党本拠地に一人で突っ込んだのだった。

 

 

 

 

 

 黄巾党本体との戦は、孫策軍所属の飛穂高が一番槍を務めた。勇猛にも一人単独で敵本拠地に特攻した飛穂高に続いたのは曹操軍の夏侯惇と劉備軍の関羽。たった三人、敵本拠地の中で暴れに暴れた三人により指揮系統が大混乱を起こした黄巾党を、先陣を切った飛穂高を探せ……じゃなかった飛穂高に続けと連合軍が一気呵成に強襲。三人が荒らしまともな対応が取れなくなった黄巾党は連合軍の凄まじい速度の進軍により呆気なく崩れ去ったという。この黄巾党を殲滅した戦いのMVPは勿論飛穂高であろう。この時の勇猛さを目撃した諸国は皆が飛穂高を自陣に迎えたいと思ったという事になっているらしい。

 

 どさくさ紛れで潰された黄巾党哀れ。そしてどさくさついでに何故か飛穂高は董卓軍に混ざって洛陽へ向かったらしい。来てなかった筈の呂布が何故か来ていて、いつの間にか首根っこ掴まれていて逃げ損なった男がいたらしい。




最近の思考↓

ランス10面白い。二次増えろ。もっと増えろ。

むしろ自分で書く? 書いちゃう?

気が付くと「熱気バサラ提督の「俺の歌を聞け」鎮守符」とかいう謎作品を3000字程書いているという謎


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8.岳死ねば良いと思ってきた

「では失礼しますっ!」

 

 孫策が周瑜の執務室を訪れると、大量の書簡を抱えた呂蒙とすれ違った。声を掛けようかと思ったがバタバタと走り去ってしまい孫策はため息を付いた。

 

「ねえ冥琳、あの娘働き過ぎじゃない?」

「そうだな。いくら言っても休まない。困ったものだ。……岳が戻ってきた際に少しでも罰が軽くなるようにとでも思っているのだろう」

「ほんと健気よね。あんな娘に好かれてる岳は幸せよ。ま、勝手にいなくなった訳だし何もしない訳にはいかないのは確かなんだけど……呂布に連れ去られたって目撃も多いしその辺り難しいわよねえ」

「そうだな。で、どうするつもりだ?」

「戻ってきたらって事? そりゃ勿論怒るわよ? でもそれで終わりにするわ」

「天の血を孫家に入れる為、か」

「ええ。元々あれだけ優秀な男なんて他探しても見当たらないんだもの。候補ではあったけどこれで確定ね。まあ亞莎には悪いけど、種だけ貰えれば良いし。だから拉致されて仕方なかったと言う事にするわ。ほんとは連れ去られた事を抗議したい所だけど、相手が相国配下の将軍ともなるとねえ」

「……戻って来たら、な」

「まあ、そこはねえ」

 

 黄巾党との戦いが終わり三ヶ月、邑に戻っていた孫策達はあの戦いの前に発覚した岳の事実と交遊関係を考える。

 

「董卓の所から戻るにしても、金髪のおチビちゃんと仲良さそうだったものねえ。酒を呑まずにあそこまで砕けた岳は初めて見たわ。後は袁紹と……ああ、劉備もだったわね」

「董卓や袁紹、曹操と知己ならば、袁術の下にいる我々の所に戻ってくる選択肢を選ぶのは賢いとは思わんな」

「あら、そうかしら。元々そっちに行くつもりだったらもう行ってた筈でしょ? きっと行きたくない理由があるのよ。それが何かまでは分からないけど」

「まあ、それはそうかも知れんが「失礼するぞ」」

 

 孫策と周瑜が会話をしている中に何やら真剣な顔付きの黄蓋が慌てた様子で割って入ってきた。

 

「今しがた洛陽から訪ねてきた男が書簡を策殿に渡してくれと言ってな。いま客室に待たせてある。わしが先に目を通させてもらったんじゃが一刻も早く策殿に読んで貰わねばと思うてのう」

 

 言いながらその書簡を孫策に突き出す黄蓋に、余程緊急の要件なのだろうと何も言わず受け取り孫策はその場で書簡に目を通す。それは岳からであった。

 

 

 

『こんにちは。今、洛陽にいます。行軍中や洛陽に着いてから何度も脱走しようとしてますが、その度に呂布に捕まり逃げられません。戻ろうと思ってますがしばらく帰れそうにありません。その代わりでは無いけど、こっちで知り合った華陀にそちらで冥琳を治療してくれと頼みました。一人でこっそり吐血してたよ。ほっといたら後、数年で死ぬんじゃないかな。華陀の治療は珍妙奇天烈でこいつ頭おかしいのか? って思うかも知れないけど間違いなく大陸一の名医なので生温かい目で見守って下さい。じゃないと冥琳が死ぬので』

 

 

 

 読んだ孫策の顔が一気に険しくなった。その顔を見た周瑜が訝しげに声を掛ける。

 

「どうした雪蓮、何が書いてあった?」

「岳から……近況よ。後、冥琳」

「なんだ?」

「吐血したって本当?」

「……何を馬鹿な事を言ってる」

「岳がこっそり見てたって」

「……そんな訳あるまい」

「嘘ね」

「……何?」

「今まで黙ってたけど、冥琳私に嘘を吐く時、眼鏡の弦をくいくいってする癖あるの。祭!」

「ではこの文は誠か! 冥琳来い! 岳が華陀を呼んでくれておる! 早速見てもらわんとな!」

「あ、ちょっと、待って下さい!」

 

 ずるずると黄蓋が周瑜を引き連れて部屋から出ていった。ちなみに眼鏡くいくいは真恋姫のラジオの孫策ゲスト回で言ってたから間違いないよ。そして吐血を見たというのはどうせもう病気抱えてるんだろうと適当に岳が書いた嘘である。けど当たってた模様。そして華陀が勇者王の様な叫びと共に人には見えない病魔とガチバトルとかいう頭おかしい治療を始めるのはもうすぐである。岳が注意書きしてなかったら止めてただろう。部屋から出ていった周瑜の後を追いながら、孫策は思う。

 

「冥琳の病気、私ですら気が付かなかったわ。どう感謝すればいいのやら……とりあえず私の『初めて』でいいかしら? ……男と初めてなのは間違いないから悪くはないわよね?」

 

 ため息を吐きながら、孫策はこの恩はどうしようかしらと書簡を見ながら思う。岳がこの世界に来て、初めて前世の知識を活用したのがこれだというのは勿論誰も知るよしもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄巾の乱で名を挙げた劉備が中山国安熹県の尉に任命された。その与えられた城の一室で一所懸命に政務に取り組む一人の男とそれを見守る幼女がいた。

 

「これでいいかな?」

「……はい、これなら手直しも要りません。ご主人様は呑み込みが早くて助かります」

「はは、手伝える事は手伝わないとね」

 

 孔明や鳳統から手解きを受け政務を覚える一刀。仕事量を二人が抑え教えながらとはいえ、少しずつ確実にこなせるようになっていた。

 

「すいません。本来ならご主人様ばかり色々させるなんて無茶をさせる訳にはいかないと分かってるんです……」

「人手が足りないからね。もうちょっと俺の手際も良ければ良いんだけど」

「ご主人様は良くやってくれていましゅ!」

 

 あ、噛んじゃったとマジカル帽のツバをきゅっと掴み照れる顔を隠す鳳統。やばい可愛いと思う一刀は確実にそっちの道に進みつつある。

 

「ありがとう。でも朱里や雛里の仕事量に比べたらね」

 

 自身に教えながらその十倍以上の仕事をこなす怪物、伏龍と鳳雛とつい自分を比べてしまう一刀。

 

「いえ、そんな……。鈴々ちゃんの仕事まで一刀さんやってますし」

「鈴々、机に向かって仕事出来る娘じゃないからなあ」

「黄巾党の時だって百人長として兵を指揮出来てました。一刀さんの成長は凄いです。自信を持って下さい」

「あはは……、でもつい周りを見ちゃうからなあ」

 

 つい比べてしまう、関羽や張飛との武の差。孔明や鳳統との知の差。それを纏める大徳劉備。そして同じ日本出身である岳。自身がそれらに劣っている事は自覚している。

 

「一刀さんは一刀さんです。……私や朱里ちゃん、鈴々ちゃんの言う言葉じゃ足りませんか?」

「そんな事ない! 皆が居てくれるから俺だって頑張れるんだ」

 

 一刀が落ち込みそうな時、一刀には支えてくれる幼女、じゃなかった仲間がいる。それだけで一刀は頑張れる。幼女を愛でる……じゃない仲間と共にこの世界で生き抜く為、日々一刀は成長している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『黄巾の乱の鎮圧を持って相国を辞し涼州へ戻ります』

 

 黄巾党の本拠地の発見、諸侯に指示を出し見事黄巾党を討った董卓が祝いの席で切り出した。留める者、留める振りだけする者、出ていけという態度を隠さない者様々であったが、董卓が洛陽に留まっていた唯一つの理由は天子様、つまりは皇帝を思っての事であった。幼き皇帝とその妹は驚きを隠さない。「朕を見捨てるのか」と目が訴えている。が董卓の意思は変わらない。

 

『私は涼州の田舎者。そもそも都の空気や水が合わなかったのです。それに私には都の光は眩しすぎます』

 

 何の事はない。董卓は使い潰されつつある疲労困憊である大切な仲間を取った、それだけである。

 

「岳からせめて情報が集まりやすくて潜り込みやすい勢力にくらい斥候を放てと言われてたお蔭でギリギリ、間に合ったわね」

 

 董卓の軍師、賈クが溢す。つまりは袁紹の所に潜り込んでいた者から「反董卓連合結成の動き有り」との情報が入ったのだ。情弱董卓、まさかの情報戦を制す。

 

「天子様には申し訳ないけど、これ以上詠ちゃんや皆に無理させられないから。……ごめんね詠ちゃん。今まで頑張ってくれたのにこんな事になっちゃって」

「ううん、いいのよ。月が決めた事なんだから。誰一人、反対なんてしなかったでしょ。そういう事よ。霞なんて露骨に喜んでたじゃない。『月の為やったらいくらでも頑張ったるけど正直疲れたわー』って。僕達だけで洛陽の守護、天子様の守護、黄巾党の殲滅……いくら頼られたとはいえ正直もう無理があるわ」

 

 

『私が洛陽から離れた後の洛陽の守護……そうですね。三公を輩出した名門汝南袁氏の袁紹殿など如何でしょうか。大陸一豊穣であると言われる冀州を治める手腕もありますし──』

 

 董卓はその場で袁紹を持ち上げ誉めに誉めた。袁紹の人となりは岳から聞いていた。勿論袁紹にもそのような内容の書簡を先に送ってある。袁紹がこれに気を良くしない訳がない。「おーっほっほっほっほ! 董卓さんも良い所があるじゃありませんか」と、まあ岳は地位を手に入れてから寄越せと言えば良いかと意気揚々と洛陽に来た袁紹を待っていたのはぶら下がった地位を狙う毒蛇共との政争である。勿論食い付きやすいようぶら下げたのは董卓である。そしてその醜い争いを横に隙を見て董卓軍はさっさと洛陽から出ていったのだ。

 

「これも岳が袁紹の人となりを前もって教えてくれてたお蔭ね。岳のお蔭で僕達は標的にされる事を避けられたわ。……ありがと」

 

 賈クが示した感謝。岳にまったく記憶がない。全部その場のノリで話していた事なのでそりゃそうだろう。

 

「ところであんた、地方で武官やってたって本当?」

「ま、まさかー。俺生粋の文官だよ? 得意技は書庫の整理だよ?」

「あんたくらい処理能力に長けてる人間を書庫の整理になんか使わないわよ。人手足りないんだから手伝ってくれるわよね? ……あの日だけは逃げてもいいから」

「……悪かったって。もう逃げないからそんな顔すんなって」

「いいのよ。僕が悪かったんだから」

 

 逃げ出すのを諦めた岳は董卓軍で文官となった。岳が思ってたより遥かに賈クのあの日に巻き込まれて逃げた事を賈クが引きずっていたのでなんか可哀想になってきたのだ。

 

「いやほら、よく考えたら俺頑丈じゃん? 月ちゃん以外で詠のあの日に付き合えるのってもはや俺くらいじゃないかなって」

 

 慌てて取り繕う岳。もうそれ良く考えなくても告白みたいなもんなんだけど言ってる本人は気付いてない。

 

「あれ、詠の顔真っ赤?」

「あんたのせいでしょ。……ありがと」

「お、おう?」

 

 詠ちゃんや良かったね。岳はいつか背中刺されて死ね。

 

 張遼が孫策から岳の武勇を聞いていたのでバレて武官もさせられるのはこの後すぐである。大部隊を張遼が指揮、防衛戦は岳、主に遊撃として華雄、自由に一人でいつの間にか現れ暴れる呂布とかいう恐ろしい軍団の誕生である。

 

 

 

 そして董卓が涼州へ戻る事により涼州が二つに割れる事となる。




今まで書いた物で展開がオリジナルにならなかった事が無い。

作者にはヤンデレをうまく使う技量が無いので批判は甘んじて受けます。申し訳ないです。チャレンジした結果がこれです。でも出した物は引っ込めないのでこのまま行かせて下さい。ここから手直しすると完結させる自信がありません。いつも結を決めてから書き始めてるので途中修正とか出来ない駄目作者なんです。完結させるほうを優先させて頂けたらと思います。


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9.涼州内乱勃発

「しッ!」

「ぐ!?」

 

 バシっと腕を打たれた一刀の手から訓練刀がこぼれ落ちる。

 

「ぐう……降参だよ、星」

「ふむ、随分と上達なさいましたな? 主よ」

 

 劉備達の元へ仕官した、公孫サンの客将だった趙雲が一手指南した一刀を素直に誉めた。

 

「そうかな?」

「ええ、幽州に居た時ならば始めの一撃で終わっていましたぞ? 主はもしかしたらあの一撃を馬鹿にしてるのかとでも思ったのではありませんか? あれが幽州に居た時の主が愛紗に打たれていた一撃。それを主は軽く弾いて見せた。徐々に速さを上げて五合、私の槍に合わせて見せた。これを上達と呼ばずになんと呼びましょう」

「でも星は全然余力あるよね」

「それは当然。私とて鍛練を続け我が武勇を磨き続けておりますからな。そう簡単に追い付かせはしません。ですが、幽州の時と今。間違いなく我が武と主の武の距離は縮まっていると言っていい。ふふ、これは私も鍛えがいがあるというもの」

 

 笑いながら率直に実力を、努力を趙雲子龍という紛れもない実力者に誉められた一刀は、背中がむず痒くなった。

 

「うん、ありがとう、星。そう言われると嬉しいね」

「主の目標は……やはり岳殿辺りなのではありませんか?」

「やっぱり分かるか?」

「うむ。同性の目標なら分かりやすいですからな。しかし岳殿が目標であるならば、今の主でも勝ち目はある」

「……やり方次第って事?」

「然り。岳殿は此方から攻める前提であれば私とて崩すのは容易ではありません。しかし岳殿から攻めさせれば今の主でも受ける事は可能でしょう」

 

 成る程と趙雲の言葉をしっかり胸に刻む一刀。と、それを見守る腐れ幼女軍師二人が「岳さんがタチ! ご主人様がネコ!」「でも、頑張って攻めるご主人様を余裕で受ける岳さんも有りなんじゃないかな!」「それだよ!」となにやら興奮しているのはまあ腐ってるからしょうがない。

 

「まあ岳殿と戦いたいと言うのであれば、いつまでも岳殿が攻めるに弱いという点をそのままにしているという考えは甘いと思っておいた方がいい。普段昼行灯を貫いておるが一流の武人よ」

 

 趙雲の指摘にコクリと頷く一刀と、「攻めるに弱いと見せかけてって展開有りだよね!」「ゴクリ……」と興奮を隠せない腐ってる幼女。あと岳は不可抗力で鍛えられただけで精神面は決して一流の武人ではないので自分の弱点を直す奴でもない。死なない点に特化してるだけだからね。

 

「さてと……おや?」

「うん、星か」

 

 ちょうど二人が稽古の合間に会話している所に関羽が一刀をぶっ飛ばしに、じゃなかった訓練をしに来た。

 

「すまんな愛紗よ。主は今私が稽古をつけて腕を打ってしまった。今日はもう剣は持てぬであろう」

「む、そうか」

「私で良ければ愛紗の相手をしてもいいがどうだ?」

「では頼む」

 

 趙雲がそう言って促しその場を離れる二人。趙雲は離れる際に一刀にウインクをした。いつもの関羽との稽古であればこの程度、腕を打たれたくらいでは終わらない。それを分かって趙雲が関羽との相手を代わってくれたのだと一刀は気付いた。趙雲は良い女なのだ。趙雲がもうちょっと小さくて胸が無ければなと思ってしまった一刀は病気一直線である。一刀は訓練を見守ってくれていた孔明と鳳統を見る。二人は一刀の視線に気付き笑みを返した。その笑みを見て、一刀は剣を強く握り素振りを始めた。やる気出すのはいいけど、その笑みは闇が深い暗黒の嘲笑だからなと教えてあげたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺境の地、後漢の火薬庫、涼州。涼州放棄論が都度都度論じられる程に荒れた地である。反乱や異民族の進入が後を絶たず、勅使となりたがる人も居らず中央の政争に負け押し付けられた人間が勅使となり無能をさらす場所となる。反乱が起き、それを鎮圧に行った奴らが反乱に加わってヒャッハーし始めるとかいうフリーダムさがこんな土地いらねえよバーカと思われる一因であるかも知れない。そんな涼州を現在纏めているのは馬騰から軍閥を受け継いだ馬超である。だって恋姫に涼州の主要な、っていうかなんで韓遂いないの。おかげで作者のフォルダの中に韓遂主人公のバトルオブ恋姫涼州とかいう謎作品が眠って……まあその辺りはどうでもいいか。とりあえず脳筋錦馬超が七光りで受け継いだ。まあ土地柄脳筋で何の問題もないと思う。強いし。

 

 そんなお漏らしで有名な馬超が治める辺境の地、涼州へ董卓らが凱旋した。中央で功績を積み名を上げ黄巾党を鎮圧した地元の英雄の凱旋である。ミーハーな連中は董卓を持ち上げる。地元思考の強い馬騰を知っている人間は馬超を持ち上げる。あ、これはまずいと思った董卓陣営は馬超にすぐに書簡を送った。涼州で派閥を作る気などないと。馬超に従うと言った内容であったが、馬超さんたら読まずに董卓の元へ直接話を聞きにやってきた。脳筋は考える前に動くからなあ。そしてその話を聞いた岳は何故か慌てて隠れたらしい。

 

「久しぶりだな、仲穎殿」

「はい、お久しぶりです孟起さん」

 

 董卓と馬超、二人は顔見知りである。董卓と馬騰が知り合いだから娘の馬超も知ってるくらいの薄い関係だ。馬騰が洛陽に顔を出した際に娘を連れて来た事がある、それくらいの関係である。

 

「そっか、それを聞いて安心したぜ」

「はい、折角反乱が落ち着いてきた涼州を再び戦場にするのは本意ではありませんから」

 

 二人の会談はあっさり進んだ。董卓が引くのであれば馬超だって文句は無い。裏で何か企んでいるのでは? とか考えないのが馬超らしい。誰かこいつに軍師を付けてやってくれ。一応、恋姫では馬岱が馬超を支えるポジションではあるのだが、何故か今ここにいなかった。

 

 

 

「あれー? 岳兄様久しぶり! ってかこんな所で何してるのー?」

「あ、蒲公英!? ちょ、静かに、見つかっちゃうから」

 

 その馬岱と、馬岱に兄様と呼ばれた岳の話声が天幕の外から聞こえてきた。その二人の声を聞いて馬超が董卓と、まあほとんど話は終わっていたが話の途中にも関わらず天幕から出る。董卓もどうしたんだろうと馬超に付いていく。そして董卓と共にいた賈クも同様に。

 

「ひっさしぶりだな岳。てかなんで樽に入ってんだ?」

「な、なんでだろうね翠」

「蒲公英、馬に水をあげようと樽覗いたら岳兄様が入ってたからびっくりしちゃった」

「あはははー……、では!」

 

 樽の底を抜き、スクッと樽から足が生えたように立ち上がった岳はそのまま猛ダッシュしようとしたが樽の縁を馬超に掴まれスッ転んだ。

 

「ぐはあ」

「おいおい、なんで逃げるんだ?」

「……あの、孟起さんと岳さんは知り合いなんですか?」

 

 状況が分からない董卓が馬超に訊ねる。

 

「ん? ああ、母様が決めた許嫁ってやつだけど」

 

 馬超の発言に董卓陣営がピシッと固まった。

 

「ほら、母様と仲穎殿に会いに洛陽に行った時あっただろ? で、その時に岳もいたじゃないか。んであたしは良く分からなかったけど母様が岳に飯に行くかってあの時誘ってて、それで飯の時に母様が岳を気に入ってって流れだったよな? 蒲公英?」

「うん、大体そんな感じ!」

「……無理やり決められたのですか?」

「無理やり? 親に相手を決められるのなんて珍しくないだろ? 何言ってんだ?」

「……岳さん、馬騰さんに無理やり決められたのですか?」

「いや、無理やりというかなんというか……」

 

 旨い飯と酒しか覚えてません。正直真名を交換した事も覚えてません等と口が裂けても言えない岳。翌日、馬超が許嫁になるとか凄い事になってしまったとガクブルった岳はまだ洛陽で務めていた曹操に相談した。正直にどうしようと。曹操は言った。「とりあえず逃げ回りなさい。英雄馬騰は私が倒し屈伏させ発言を無かった事にしてあげるわ」と。岳は何言ってんだこいつと思ったがとりあえずその後、馬騰に会わないようにしたのだった。但し、たまに洛陽に来た馬超と馬岱とは会っていた模様。何の意味もない。

 

「おい、仲穎殿。あたしの母様が決めた事に文句あんのかよ?」

「本人が嫌がっているのであれば文句がありますね」

「ああ!? ちっ、まあいいや。とりあえず岳は貰っていく……ってあれ?」

 

 掴んでいた樽の中身が無い。振り向くと呂布に抱えられてぐったりしている岳がいた。逃げようとしたが呂布に当て身をされて逃げ損なった奴がいるらしい。但し気絶しているのでこの場をとりあえず諌める事も出来ないという。まあぶっちゃけ起きてたほうがこういう状況だと火に油を注ぐ人間なので寝てたほうがマシだと思う。

 

「おい、岳を寄越せ」

「ね、姉様!? あれ、呂布だよ!?」

「知るか!」

 

 涼州民であれば、呂布の強さを知らぬ訳が無い。勿論馬超とて知っている。しかし脳筋涼州の長が相手にビビって引く訳にもいかないという事は、馬騰から受けた涼州帝王学で学んでいるのである。もっと色々教えてあげといて下さい。チラっと呂布が董卓を見た。

 

「恋さん、岳さんを渡さないで下さい」

「んだと?」

「お引き取り下さい」

「……てめー、人の旦那拐ってタダで済むと思うなよ?」

「まだ、旦那じゃないですよね? 頭を冷やされては如何ですか? お引き取り下さい」

 

 一切董卓が譲らない。

 

「私は仲間を、家族を守る為に洛陽から涼州へ戻りました。岳さんは私の大切な仲間です。お引き取り下さい」

 

 隠れたり逃げようとしてた岳を見て嫌々だったのだろうと判断した董卓は岳を守る為に馬超と敵対する事に決めた。

 

「……いいんだな?」

「はい」

 

 馬超からすれば旦那を拐われ面子を潰された事になる。馬超の、戦になってもいいのかという問いに迷い無く答えた董卓の目を見て、踵を返した。

 

「蒲公英、行くぞ!」

「ま、待ってよ姉様!」

 

 涼州は真っ二つに別れた。馬超派と董卓派、戦力は均衡した。軍師賈クの取り込み工作が成功したのだ。

 

「月、良かったの?」

「詠ちゃん、私は家族や仲間は売らないよ」

「うん、月がそういうなら僕は何も言わないわ」

 

 信念を貫く董卓と面子を潰された馬超の、馬鹿一名のせいで起きた涼州内乱が始まるのであった。居た堪れなくなった岳は相変わらず逃げようとして呂布に捕まったりして、端から見るとまるで遊んでいるように見えるらしい。呂布と遊んでいるせいで陳宮が蹴り飛ばしに来る回数も増えるし。効かないみたいだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冥琳調子はどう?」

「ああ、身体が軽くなったようだ」

「ふふ、岳には感謝しないとね」

「そうだな。……雪蓮、私にも一杯貰えるか?」

「あら? 珍しいわね、歓迎するわ冥琳」

 

 孫家は袁術の下でバラバラにされているとはいえ周瑜の治療も終わりとりあえず一息と、孫家はまったりしています。




活動報告に中途半端に書いて放置してある一部を書いてます。呉の革命が出たらプレイ終わるまで更新出来ないと思うので、そのうちのどれかを投下しようかなぁと思って。ま、まだ先の話ですが。


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10.そして涼州はカオスとなる

 少しずつ、少しずつではあるが、董卓軍が涼州での戦で前線を押し上げていた。本隊を率いる張遼と馬超とのガチンコバトルを横に、守りの薄い、ほんとうっすーい所を岳が攻め落とし相手が攻勢に出てくる場所の防備も岳が固め、敵陣に突然「……こんにちは」と現れ千単位を単独で屠って帰っていく呂布とかいう訳が分からない兵器に自由にやってと言い、「あんた秘密兵器だから。月の守りに徹しなさい」と華雄を前線に出さないとかいう賈ク文和の采配で、董卓軍は少しずつ前線を押し上げていた。岳が過労死しそう。防衛戦得意で戦が始まるとヒャッハーしないのが岳しかいないから諦めるんだ。

 

 しかし端から見るとアホみたいに働かされている岳は、やはり突如武力98オーバーが襲ってくる訳ではないので本人はまぁこれくらいはいいかと働いていた。岳君の幸せ基準をぶっ壊した軍神さんのせいで岳君が戦に平穏を感じている。

 

「なー詠ちゃんや」

「……何よ?」

 

 もう一人ちびっこ軍師がいる筈なのだが、真紅の呂旗を掲げるとかいう仕事で忙しいのでほぼ一人で涼州全ての戦線の采配を振るう賈クは流石に疲れを見せていた。采配を振るわない場所は岳がいる戦線のみなのだ。その岳が新たに砦を攻め落とし防衛の指揮を取り、本陣に久々に戻ってきた。賈クは岳に流石に文句でも言われるのだろうと覚悟していた。部屋に訪れた岳をチラッと見るも、また机に突っ伏した賈クに岳が声を掛ける。

 

「疲れてそうだけど大丈夫?」

「……それ嫌み?」

「いや顔に出てるから」

「そう。大丈夫。……他の人の前じゃ出さないから」

「疲れてんなー。しゃーない。ぽんぽんしてやろう」

「……ん」

 

 机に伏していた賈クの頭を岳はぽんぽんっと軽く撫でる。子供扱いするなとでも言われるかとも思ったが何も言わず撫でられている賈クにこいつマジで疲れてんなと気付いた。

 

「……あっ」

 

 岳が撫でるのをやめると小さく名残惜しそうな声を出した賈クが顔を上げ、顔を赤らめながら上目遣いで岳に小声で言う。

 

「……もうちょっとだけ」

 

 何この娘可愛い。言われるがまま岳はまた賈クを優しく撫でる。そして内心で思う。誰だこいつと。こんな可愛くて甘えん坊な詠ちゃんは知らんぞと。

 

「ふふ、詠ちゃんも岳さんの前だとそんな感じなんだね」

「!?」

 

 ガバッと顔を上げると、何故か普通にお茶を入れている董卓の姿をこの時やっと賈クが確認した。

 

「ゆ、ゆ、月!? いつの間に!?」

「詠ちゃん、私岳さんと一緒に来たんだよ? はい岳さんお茶です」

「ありがとう月ちゃん。あー染みるわー」

「ぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 本当に疲れていたのだろう。まったく気付いていなかった賈クは羞恥に顔を茹でタコのように真っ赤に染め、呻き声を上げながら再び机に突っ伏した。親友のそんな姿を微笑ましく思いながら、董卓は岳に話を振った。

 

「岳さん。あの件は……」

「洛陽に仲裁を頼む件? 麗羽……袁紹に文送っておいたよ。でも俺からで良かったの?」

「はい。私では洛陽には敵が多すぎますから……」

「月ちゃんみたいに良い娘に敵が湧いてくる洛陽なんて滅びちまえばいいのに」

「それはちょっと……」

「ま、仲裁入るまでに少しでも勝ち分取って話を有利に進めるってのは分かるけど……、馬家が仲裁役の話聞くと思う?」

「それは……その時は覚悟を決めなければなりません」

 

 董卓が下を向き、力強い言葉とは裏腹に悲しい表情を浮かべた。そんな董卓の頭を、優しくぽんぽんと岳が撫でた。

 

「駄目だってそんな顔似合わないから」

「……へぅぅ」

 

 今度は董卓が恥ずかしそうに顔を赤らめた。そして机に伏していた賈クが赤い顔のまま岳を睨んで言った。

 

「ちょっと! 僕の月に気安く触らないでよ!」

「おー、詠ちゃんがようやく何時もの調子になってきた」

「ですね」

「あーもう、二人して笑わないでよ……」

 

 二人は、そして釣られて賈クも笑った。いつの間にか賈クの疲れ果てていた顔に生気が戻っていた。岳の、そういう元気付けが賈クは嫌いではなかった。

 

「ふー、ごめん。月にも心配掛けたみたいね」

「ううん、詠ちゃん可愛いかったよ?」

「あー、あーもうそれは忘れて!」

「ところでさ」

「何?」

 

 それまでと違い、岳が真面目な顔で話を始めた。賈クも岳の顔を見て気持ちを切り替える。

 

「翠……馬超なんだけど」

「うん」

「そろそろ性格的に痺れを切らせて仕掛けてくる頃だと思うんだ」

「痺れを切らせてって……。毎日正面からぶつかり合ってるのに?」

「あー、そうじゃなくてさ。ほら、少しずつ前線押していってるからさ。自分が負けてなくても全体が負けてるなら悔しがって」

「……夜襲をしてくる、とか?」

「多分ね。翠ならそうすると思う」

「ふーん。馬超の事詳しいんだ」

「えええ……そうなるの?」

「冗談よ」

 

 その返しは困ると困惑した岳に意趣返しだと賈クが笑って返した。

 

「詠ちゃんいいなぁ……」

 

 二人のやり取りを見て董卓がボソッと溢した。先程までの冗談を言っていた岳と、今真剣に話す岳。ギャップって大切らしいからね。

 

「それで、馬超に詳しい岳はどうしたいの?」

「その言い方はさ……、まぁいいや。そろそろ夜襲仕掛けてくる。その中に絶対翠もいる。だからさ────」

 

 

 

 

 飛穂高という男の強味は、男にしては飛び抜けた戦闘力。よりも恋姫に珍しく防衛特化型。よりも異常な交遊範囲の広さと誰とでも直ぐに仲良くなるコミュ力の高さが一番だと思う。相手を知り性格を把握し大体こういう行動をするだろうと予測出来るというこの点。これが生きる。つまり岳の予測通りこの晩に馬超を先頭に夜襲を掛けてきたのだ。

 

「糧食だ! 糧食を燃やせ!」

 

 闇に紛れ董卓の陣を襲った馬超が叫ぶ。が直ぐに様子がおかしい事に気付く。

 

「気配が……無い! おい、誰か……なんだ!?」

 

 後ろで駆けていた筈の一頭が急に倒れた。転けた馬を避ける為に矢の様に直進していた一団が崩れる。その少し後ろで悲鳴が聞こえた。避け損ね落馬し一人が絶命した。そして人を踏みバランスを崩した馬が倒れその馬を避ける為に後続が更にバラバラになる。しかし暗闇で状況が判らず避ける事が出来ずに躓き倒れる集団も出てくる。

 

「落ち着け! 皆、一度離れ隊列を……」

 

 そこまで言って馬超が不意に空を見た。暗闇の中に不自然な光。馬が暴れ出した。馬超達目掛けて火矢が降り注いだ。

 

「自陣ごと焼き払うつもりか!? 急いで散らばれ! ……な!?」

 

 馬超達の馬が火を怖れて暴れた。しかしそこは馬と共に生きる涼州の人間。なんとか持ち直し董卓の陣から逃げ出そうとするもいつの間にか董卓の陣の周囲が三重にも簡易な柵で囲まれていた。そして更に馬超達目掛けて火矢が降り注ぐ。

 

 先に一頭、倒れた馬や後続の馬が倒れたのは闇夜の中集団に向け放たれた呂布の投げ槍によるものであった。投げ槍、火矢、逃げられない為の柵は全て岳の指揮によるものである。自身が黄巾の時にやり損ねた、「見たか冥琳、これが放火だ」と三国一の放火魔さんに心のなかで叫びながら仮にも許嫁に向けて意気揚々と火計を仕掛けたのだ。畜生だなこいつ。作戦を聞いた賈クだって「あんたがその計略を馬超相手に立ててやるの……?」と少し引いていた模様。「まあ今は敵だし。やらなきゃ死ぬかも知れないし」と軽く返した岳に、こいつは敵にしちゃ駄目だと賈クも董卓も思ったようだ。実際、知り合い相手なのにその指揮に全く躊躇がない。鬼畜って言葉が似合う。

 

「皆、あたしに続け!」

 

 柵があろうが破ればいいだろうと馬超が勢いよく柵に突撃する。呂布が槍を投げるも、その神業的馬術で避ける。そのまま柵に突撃するその時、馬超に目掛けて投げ網が幾重にも投げられた。馬超がそれを避け落馬。馬超は網から逃れるも自身の親友である愛馬が捕まった。

 

「くぅ……!」

「翠」

 

 落馬し打ち身した馬超の前に岳が現れた。

 

「翠、投降して」

 

 おまゆう。そもそもこの戦の原因お前やぞと言いたい。

 

「まだだ、あたしの槍は折れてない! 岳、勝負だ!」

 

 そして馬超もふらふらながら何故か岳に一騎打ちを申し込み構える。多分混乱して訳が分からなくなってるんだと思う。そして岳は周囲を見渡す。一騎打ちを断れない雰囲気だった。あれ、思ってた展開と違うと岳は困惑する。しょうがなく岳も馬超に向け構える。

 

「錦馬超の槍の冴え、その目に焼き付けてやるぜ!」

 

 馬超の"銀閃"が唸りを上げ岳を襲う。岳は両腕に纏う鉄の手甲でなんとか捌く。関羽の槍よりも素直な筋は、恐らく落馬した影響で鈍り岳も捌く事が出来る。が、相変わらずたまにカウンターを狙うくらいで攻勢に出る事が出来ない。

 

「あたし相手に、手加減するっていうのかよ!!!」

 

 少し余裕が出てきて馬超の槍をひょいひょい捌き始めた岳に馬超が激昂した。岳にそんなつもりはない。攻められないんだもの。しかし、突如馬超の槍が勢いを無くした。その槍をバッと掴んだ岳は、下を向いてプルプルし出した馬超に小さな声で聞いた。

 

「どうしたの?」

 

 馬超は答えない。岳は嫌な予感がした。

 

「もしかして……小さい方?」

 

 馬超が小さく頷いた。周囲の炎に当てられてオシッコ近くなっちゃったんだね。緊張感台無しである。しかし、しかしである。今、岳と馬超の周囲は董卓軍と馬超軍で囲まれている状態である。馬超の様子は今にも漏れそうという感じ。別の意味で岳と馬超に緊張が走る。

 

「ちょ、もうちょいだけ我慢出来ない?」

 

 ふるふると首を小さく横に振る馬超。これはやべえと思う岳。端から見ると、馬超の槍を押し合いながら二人が苦悶の表情を浮かべて接戦しているように見えるのが救いである。大衆の中漏らしちゃうとか可哀想過ぎる、どげんかせんといかんと岳は思う。さっきまで火矢で狙いまくっていたとは思えないね。しかし岳はテンパり出すと自爆特攻を仕掛けてしまう男である。

 

「う……あ……」

 

 チョロチョロっと音がした瞬間、岳が腰に着けていた短刀を抜き自身の腕に思いっきり突き刺した。そして勢いよく抜き血飛沫が馬超に、主に下半身目掛けて降り注いだ。馬超のチョロチョロはほんの少しだった。チョロチョロも匂いも、岳の血飛沫で上書きされた。思ったより血が噴き出したので慌てたのは岳である。やべえと思った岳は腕を上げその血が馬超の顔に掛かる。

 

「待って!」

 

 二人を囲んでいた群衆から馬岱が慌てて飛び出してきた。

 

「岳兄様! 翠姉様を殺さないで!」

 

 は? むしろ救った側なんだけどと岳は思ったが、周囲から見た岳は、拮抗した状態から血飛沫で馬超の目を潰し、腕を振りかざす直前であった。無事誤魔化し馬超の名誉は守られた模様。あと一騎打ちで目潰しとか卑怯ですね岳さん。

 

「……あたしの負けだ。あたしは岳の下に降る」

 

 馬超が勝ったら岳を貰う。馬超が負けたら岳の下に付く。

 ん? 結果ほとんど一緒じゃね? と岳は思ったが、この場では流石にお口ミッフィーした。が、とりあえず投降した翌日、馬超は改めて言った。

 

「あたしは岳の下には降りるけど、董卓の下には付かない」

 

 くっそ面倒臭い事を馬超が言い出した。それだと結局岳が馬超側に行き涼州を割るしか戦を収める方法が無くなる。董卓としても認められる筈が無かった。のだが、ここでアホの袁紹からの岳が出していた文の返信が届いた。

 

 

『洛陽からの仲裁は岳さんにお任せしますわ。岳さんを涼州の州牧に任命しておきますので上手くやって下さいまし。おーっほっほっほっほ!』

 

 Pardon? 嘘やろと三度岳はその文を読んだ。勿論董卓も馬超も読んだ。

 

「元相国と正統な後継者の二人がいるのに涼州に所縁も無い部外者の俺が出来るか!」

 

 岳はその文を何度も踏みつけた。が。

 

「あたしは問題無いぜ」

 

 あたしの旦那だしなと馬超が言う。

 

「翠姉様に勝った所、皆見てるからうちは問題無いと思うよ」

 

 馬岱も言う。あれ勝ち負けに入れていいのかと岳は思うが、周りから見れば勝ちは勝ちなのだろう。

 

「私は元々涼州を統治する為に帰ってきた訳ではありませんし、正式に任命されるのであれば岳さんなら問題無いと思います」

 

 董卓も言った。

 

「月が言うなら僕達はそれに従うだけよ」

 

 賈クも続いた。

 

「……一旦、任命されてそれを誰かに譲渡するっていうのはどうだろうか?」

『駄目(です)(ね)(だ)!』

 

 岳の意見を全員が否定した。そして流されるまま涼州州牧、飛騨穂高が誕生してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ……」

「どうなされましたか、華琳様」

「秋蘭。岳から文が届いたのよ。読んでみる?」

「宜しいのですか?」

「構わないわ」

 

 曹操がとても愉快そうに読んでいた文を受け取り、読んだ夏侯淵は反応に困る。

 

 

『華琳、悪いけどやはり華琳の下に行く事は出来ない。俺は華琳の下、ではなく友として横にいたい。これから来るであろう戦乱の時代、英雄として時代を切り開くであろう曹孟徳を支えるという魅力よりも、華琳の友とある事こそが俺の在り方だと思えて他ならない。なのでとりあえず涼州州牧になりました。強敵と書いて友と読むとか格好良くない?』

 

 

「華琳様、これは……」

「ええ、秋蘭。文はふざけているけれど、私はこれ程熱烈な恋文を貰えて幸せよ」

「恋文……ですか?」

「岳はね、私と同じ視点で未来を見ているわ。これから先、この国は乱れるでしょう。天の御使い。その名を利用せず、対等な立場で岳の言う英雄という、私と同じ立場で私の前に立ちはだかるとね。これが心躍らずにいられようか。胸が高鳴らずにいられようか! ええ、私の前に立ちはだかるといいわ。私が貴方を倒し全力で愛してあげるわ!」

 

 岳、適当に余計な言い訳を書いた文を曹操に送ったが為にその時が来たら全力で狙われる模様。




詠ちゃんに甘えられたい(血涙


恋姫の二次で面白いのが増えてきました。日刊ランキングを賑わす作品がチラホラと出てとても良いと思います。地の文が乱れまくっている妙義の物より読みやすい物が多いですよ。ていうか沢山あるからお前読み専に戻っていいよとか言わないでね(震え声
妙義の物は全部好きに勢い重視で楽しく書きなぐって乱れまくって小説になってないからなぁ……。楽しんで書いてるので勘弁してね!(開き直り


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11.大事なのは馬超のポニーテールとうなじ

「なあ」

「ん?」

 

 私室に入ってきた馬超がひたすら無言で突っ立っていたので取り敢えずと椅子に座らせ、岳が茶を入れる。茶葉、どこあったっけ? といつも月が入れてくれるので自室なのに場所が分からず、見つかった後も四苦八苦しながらなんとか茶を入れ馬超に差し出し岳も座った。そこでようやく馬超が口を開いた。

 

「腕……傷痕残っちまったな」

「ん、別にいいんじゃね?」

「あたしが……良くないんだよ」

「戦場でケガなんて気にする事じゃないんだけどな」

 

 岳は立ち上がり、落ち込んだ様子の馬超の後ろに回りポニーテールをくるくる弄り始めた。馬超の髪を見てなんとなく弄りたくなったらしい。落ち込んでるんだから真面目に聞いてやれ。馬超は自慢の栗色の長い髪を黙って弄ばれていた。

 

「……ッ」

「……あ、痛かった?」

「……もうちょっと、優しくしてくれよ」

 

 髪は女の命とも言う。弄ばれてもいいんですね馬超さん。ほんとにいいのか翠さんや。そいつ許嫁でちょっと顔が良くて男の中で武力トップで身体張って誇りを守ってくれただけの奴やぞ? あれ、問題無いように思えてきた。

 岳は言われた通りに優しく撫でる。そうしているうちに、ふと、どうしようもない感情に襲われた。うなじ。うなじというのは男心を惑わす魅力で溢れているものである。岳はつつつ……と指の腹で馬超のうなじに触るか触らないか絶妙なタッチで触れなぞった。

 

「う……あ……」

 

 ビクッと身体を震わせ艶やかな声を馬超が上げた。そんな馬超を見て、ちょっと興奮した岳はうなじをつぅーっと指で撫でる。

 

「あっ……」

 

 馬超がまた、身体をビクっと揺らした。馬超の身体が少し跳ねた時、馬超の後ろに立っていたにも関わらず岳の目には馬超の胸がゆさりと跳ねたのが見えた。ゴクリと岳が喉を鳴らした。馬超が振り返り少し涙目で言った。

 

「こんなの……お前以外にはさせないんだからな」

 

 

 

 

 

 頂きます。理性が飛んだ岳がルパンダイブを敢行しようとしたその時、「なななな何を昼間っからしているっていうの!」と岳の部屋の扉が吹き飛び、フーフーと息を荒げた詠ちゃんが立っていた。少し顔が赤い。扉の前でちょっと聞いていた疑惑。詠ちゃんがR-18化を止めてくれました。

 

「あんたちょっとは真面目に翠の話を聞いてあげなさいよ!」

「ん? なんで話を聞いてた事を知って──」

「いいから真面目に聞きなさいよ!」

「ひゃい」

 

 詠ちゃんに怒られたので取り敢えず馬超に向かい謝った。

 

「あー、翠。なんかごめん」

「いや、まあ……あたしは岳なら良かったんだけどな」

 

 ちょっと拗ねたようにぷいっと首を振り、少し賈クを馬超が睨んだ。だがそれも一瞬で改めて岳のほうを向いて馬超が言う。

 

「岳」

「ん」

「あたしは岳の槍になる。それが、あたしの誇りを身を以って守ってくれた岳に対してあたしが出来る事だ」

「お、おう」

「あ、後……そういう事したいなら場所と時間は考えてくれよな」

 

 顔を赤らめながら上目遣いで言う馬超にテンションが上がるも、尻をぎゅうと賈クに摘まれ岳のテンションは落ちる。

 

「はい、休憩は終わりよ! 仕事に戻るわよ!」

「詠ちゃん、手加減を、手加減を下さい」

「ふん! ……ばか」

 

 賈クに引き摺られていった岳を見ながら馬超は思う。

 

「……詠も岳を好きなんだよな」

 

 他にも、馬超が知っている以外にも何人も岳を好きな人がいそうだなと馬超はため息をついた。自身の性格が男よりで女らしくないと知っている馬超は諦めそうになる気持ちを奮い起たせる。

 

「駄目だ駄目だ弱気になるなあたし! あたしは許嫁なんだから!」

 

 ていうかさっき陥落寸前だったんだけどね。雰囲気に流されやすい男だから。そして徹夜で賈クに仕事をさせられ泣きそうになる岳の姿が執務室にはあったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岳が涼州でイチャコラしている間に、洛陽で異変があった。同じ派閥であった何進と袁紹がついに揉めて喧嘩になった。まあどっちも性格あれだからね。噂では一人の男の話をしていて喧嘩になったとかくだらない醜聞も宮中で囁かれたりもしたが、ぷりぷり怒った袁紹が遂に洛陽から冀州に帰り以前用意していた反董卓連合をそのまま反何進連合へとスライドして準備に取り掛かったのである。

 

 それを聞いた岳は、「あーやっぱりあの二人喧嘩しちゃったか」とボソッと漏らした。賈クは「あんた喧嘩になる事分かってたの?」と聞くと、「性格とか野心やらは似てる所もあるけど、生まれからか敵がい心が強い傾と名門の血筋で高慢な所もある麗羽だから、そりゃあねえ」と返す。賈クは戦慄した。この喧嘩は恐らくただの喧嘩ではすまない。大陸を巻き込む戦になるかも知れないというのに、岳はそうなる事を承知で何進と袁紹を引き合わせたのだと賈クは思った。もちろんただの喧嘩だとしか岳は思っていないがこれも岳の思い描く策の内だとか考えると割りと恐ろしい感じになっちゃうから仕方ないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……岳って流されるまま身を落としたり権力を得たり忙しいわねほんと」

 

 孫策が岳からの文をひらひらさせながら周瑜に言う。

 

「涼州州牧、か」

「ええ、涼州州牧よ」

「それで?」

「『今辞めたら涼州が荒れるって言われるのでしばらく辞められそうにないので帰るのまだまだ先になりそうです』だそうよ?」

「州牧も辞めるつもりなのか?」

「元々権力に興味は無いんでしょ」

「配下に元相国に錦馬超、飛将軍呂布に神速張遼、猛将華雄か。叛意があれば即刻でも国を取れる位置にいるな奴は」

 

 物騒な事を周瑜が呟く。

 

「本人にその気があればねー」

「だが周りが囃し立てればどうだ?」

「そもそも辞めたくて仕方ないのに?」

「……ふむ」

「ま、岳は"まだ"英雄にはならないわよ」

「"まだ"?」

「ええ。"まだ"ね」

 

 いつか自分の意思で立つその日まで。孫策は周瑜にそう言った。その日が来るのを楽しみにしているとも。

 

「しかしな」

「まだ何かあるの、冥琳?」

「いや、辞めたいにしてもうちを選ぶ理由だ」

「なーに、そんな事? 簡単じゃない」

「ふむ」

 

 亞莎に決まってるじゃない。孫策は空いた杯に注いでと周瑜に差し出しながらそう言った。

 

「ではもし岳が私達の元へ来ずに雪蓮の言う英雄、として立ち上がったらどうするのだ?」

「さあ?」

「雪蓮、お前な」

「その時考えるわよ。敵でも味方でも楽しそうじゃない? 勿論、天の御使いとして私達の元でってのが一番良いんだけど」

「……他にも考えが?」

「うーん。状況によっては、ねえ」

 

 状況によって独身のままだったら、その時は蓮華と結んでもらうわ。と孫策は言った。

 

 

 

 

 

「亞莎、何やら嬉しそうじゃのう」

「あ、祭様。えへへへへ」

 

 呂蒙は文を大切に抱えながら幸せそうに笑った。

 

「岳からか」

「はい!」

「奴も筆まめじゃのう。恋文か」

「え、や、ち違いますよお!」

「なんじゃ違うのかつまらん」

「で、でも岳さん私に早く会いたいって!」

「やっぱり恋文ではないか」

「いや、それはそうじゃなくてっ!」

「ふふ、冗談じゃ」

 

 文を抱え幸せそうにしていた呂蒙は皆から、からかわれながらも幸せそうだった。尚、この後涼州で甘酸っぱい事をやっている岳からの文が減っていく事になる。岳死んだほうがいいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 董卓といえば三国志において悪逆の代名詞、魔王とさえ言われる存在である。

 呂布といえば三国志では裏切りの代名詞であり最強とも言われる存在である。

 馬超といえば三国志では蜀の五虎将軍である。

 

 一刀の中のイメージはそんな所である。

 一刀はたまにくる岳からの文で近況を知っていた。岳は筆まめなのである。一刀はその文を要約した。

 

『董卓の下で働いて馬超を焼き払おうとしたり頑張った結果、なんか涼州州牧になってたくさん配下が出来ました』

 

 配下には魔王や息を吸うように裏切る最強や、焼き払おうとした五虎将軍がいるという。……これあいつ死んだわと一刀が思うのはしょうがないと思う。次会う機会はもうないかもなと考えながら、岳のせいでこの世界の流れが三国志からかけ離れていっている事に自分の存在の、三国志の知識というアドバンテージが通じない事に不安も感じた。その事を孔明に漏らすと。

 

「大丈夫です。ご主人様。その知識と現実が離れていったとしても岳さんが原因であるならば岳さんの性格や行動とその知識を照らし合わせればある程度は予想が立つかと思います」

 

 少し考えて孔明がそう返した。え、あいつの行動読めるの? と聞くと、難しいですねと笑いながら孔明が返したが出来ないとは言わなかった事にやっぱり孔明って凄いんだなと一刀は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで、未来に於いて飛騨穂高はこう語られている。

 

──都で役人を務め、農民の反乱の予兆を感じ黄巾党に潜入。そして黄巾党殲滅の際には連合軍の名だたる将の中で一番槍を果した飛騨穂高はその後、董卓を唆し、仲違いする事が分かっていた袁紹と何進を近付かせ、洛陽に政争を起こし都を混乱させる。そして袁紹と何進の仲に決定的な亀裂が入るまでの間に自身は董卓の配下として涼州に入り、主である董卓と涼州軍閥の長、馬超を仲違いさせ涼州内乱を勃発させる。そして混乱の涼州を董卓、馬超の横から掠めとり自身が涼州州牧となる。そして飛穂高の謀略通りに袁紹と何進の仲に亀裂が入り「反何進連合」という大陸全土を戦乱の世へ向かわせる切っ掛けとも言われる戦が起き、涼州州牧として戦に参加し圧倒的存在感を知らしめたのであった。全て、近年の大陸の情勢は飛騨穂高ただ一人の思惑通りに事が進んでいた。その証拠に常に全国の有力者と情報のやり取りをしていた文がいくつも発見されている──

 

 未来の人は誰も流されているままに生きていたなんて思ってないらしい。

 

 

 そして、袁紹から各諸侯へ反何進連合の檄文が届いた。




キリがいいので短めです。


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12.反何進連合前編 女心

 袁紹から『同じ州牧として、"お・な・じ"、州牧として悪何進を討つ為に肩を並べる事、楽しみにしていますわ!』と反何進連合のお誘いが岳の所に届いた。大陸中に送ってんのかよスケールでかいなと岳だけこの事態を他人事のように考えていた。原因お前だけどな。

 

「それで、参戦する。でいいのよね?」

 

 その傍迷惑なデートの誘いを受け、涼州軍の緊急会議が行われていた。岳の側に控えた賈クがストレートに岳に聞いた。

 

「んー」

 

 岳が少し考えて、隣に座っていた董卓に聞いた。

 

「月ちゃん」

「なんでしょうか」

「月ちゃんが何進側、っていうか天子様側に付きたいっていうなら俺も月ちゃんの気持ち汲みたいと思うけどどう?」

「……お心遣いありがとうございます。……後でお願いがありますが、私は反何進連合に参加するべきかと思います」

「……ん」

 

 岳は難しい顔をした董卓の頭をぽんぽんっと優しく撫でた。董卓の顔が少し赤みがかかる。賈クがギギギギギと歯軋りをしたが、口から文句を漏らすのは耐えた。なんで凄く良いタイミングだけたまに気持ち察して女心を刺激しちゃうんですか岳死ね。

 

「じゃあ参加だね。俺は留守番で」

「あんたもろ指名されてるのに駄目に決まってるでしょ!」

「ええ……」

 

 詠の抗議に心底嫌そうな声を出す岳。涼州という異民族の流入が絶えぬ土地柄、勿論居残り組は必要である。そして連合で予想される戦の性質上、涼州の誇る騎馬軍団は野戦に於いては無類の強さを誇るが、今回は余りその機動力と突破力は活かせそうにない。そして城攻め砦攻めが不得意な岳はそれ以上にゴミとなる。

 

「だいたい散々袁紹を利用してるんだから断わろうとか思ってるほうが驚くわよ」

「いやいやこうだったら良いなあと文に書いたら、麗羽が勝手にやってくれるだけだから」

「……あんたのそういうとこ尊敬するわ」

 

 狙ってしたたかに利用したり、天然でやったり……ほんと性質が悪いわと賈クが呟いた。さて居残り組は誰にするかという話で馬岱を除く馬家と、董卓、華雄に任せる事になった。馬超が散々付いていくと主張したが西涼は涼州の要だからと岳が言ったら渋々引き下がった。目の前で「あたしが岳の槍~」と宣言した直後にこの扱いである。こうやって女心を弄んで、気のある振りしたり突き放したりを繰り返して離れられなくしちゃうイケメンホストがよくやるやつですね分かります。本人何も考えてないところがホストより性質悪いんだけれど。

 

 反何進連合とか相手モブだけやんといまいち気合いが入らない岳の首根っこを掴んだ賈クに引き摺られながら岳は連合に賈クと張遼、呂布、馬岱を連れて参加する事となった。戦は完全に張遼に任せるつもりである。いやまあ岳は戦になると面倒臭がってるくせに孫家方式に則って最前線に出てバチバチやっちゃうから、州牧になったんだから自重しろと賈クに強く言われているのではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 反何進連合。曹操はこの日を待ちわびていた。何せあの、曹操の心を震わせた岳からの文を受け取った後の待ちに待った対面である。曹操は冷静を装いつつも、内心ウッキウキであった。さて、なんと言おうか。熱く宿敵として宣言をするべきか。それとも挑発して相手を奮い立たせるか。いや女として岳を誘惑する事で意表を突いてみるべきか。岳よりも早く連合に合流した曹操は岳を待った。相手の出方で幾通りの対処を考えながらそわそわしながら待った。

 

 そしてその時は来た。涼州軍が来た、岳が来たとの報を聞いた曹操は、余裕の表情を保ちながらめっちゃ早足で天幕から出て腕を組み本陣の前で岳を待った。

 

「あ、華琳ちーっす」

 

 岳はチラッと華琳を見て軽く手を挙げ、軽くそれだけ言って立ち止まりもせずさっさと本陣に入っていった。侮辱汚辱屈辱恥辱。憤怒憤慨激憤激怒。曹操の中が一瞬で黒い感情で染まる。後ろに控えていた夏侯姉妹の顔が青白く染まる。

 

──ギリ……

 

 歯軋りをし握り締めた拳の中から血が滴り落ちた。

 

 しかし、しかしである。未だかつてここまでこの曹孟徳の心を弄んだ存在があったであろうか。飛穂高が、友として宿敵と宣言した彼が、まずは曹孟徳の心を弄んで見せたのである。そうか、彼はもう、私の掌の上ではなく私と対等となる存在なのだと私の心内を知って挑発して見せたのだ。曹操が、自身の爪が突き破った掌から流れる血を舐めた。この気持ちはなんなのだろう。今まで以上に、今までより遥かに岳が欲しいと曹操は思った。

 

「……華琳様、傷の手当てを」

 

 夏侯淵がなんとか声を絞り出した。血を舐めた曹操の顔が笑う。

 

 この気持ちが、この味が恋というのかしらね。

 

 曹操はそう言って身を翻し曹操も本陣へ入った。

 

「あら華琳さんもう厠はお済みですの?」

 

 殺してやろうか。本陣に戻った時に開口一番袁紹に言われ曹操はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 連合内にて一つの取り決めがあった。岳の事で騒いではいけないという事である。前回逃げ出して暴走した経緯があるからである。

 本陣に入った岳は、袁紹に手招きをされ袁紹の隣に座った。岳に続いたのは賈クと馬岱の二名。見る人間が見れば、涼州の内乱で敵対した勢力である董卓側の人間、洛陽でも顔の売れている賈クと、涼州軍閥は馬家の人間二名を連れて涼州は一枚岩であるというアピールにも見えるだろう。軍師だから賈クと、勉強したいからと言った馬岱を特に考えなしに連れてきただけである。

 陣の隅に座っている劉備が岳を見て満面の笑みで花のように笑った。後ろに控えているのは複雑そうな顔の関羽と、真剣な顔をして岳を観察している孔明である。

 袁紹の隣、岳の反対側で偉そうにふんぞりかえっているロリっ娘が袁術でその後ろに袁術を甘やかしまくっている張勲と、岳と目が合い小さく手を振る孫策である。そして岳の隣に先程擦れ違った程度にしか岳が思っていない曹操が座った。あと適当な所に普通で有名な公孫サンと後ろにモブがいる。あと適当にモブが沢山いる。

 

「──まずは大切な事を決めなければなりませんわ!」

 

 一通り人間が揃った所で袁紹が言った。誰が総大将やるのかと言い出した。やりたいくせに、自分が相応しいアピールをしまくりながらチラチラ周りを見る袁紹。うぜえ。ていうかお前が集めたんだからお前がやれやと皆が思う。

 

「麗羽が集めたんだから麗羽がやれば?」

 

 どストレートに岳が言った。袁紹はめっちゃ嬉しそうに仕方ないですわねと渋々受ける体で受けた。さてそうなると推薦したのは岳となる。袁紹は岳に「一番槍の栄誉を差し上げますわ!」と言った。岳も「まじで? ありがと」と軽く返した。この連合の先陣など誰も切りたくはない。だが栄誉とか言われて素直に岳が受け取った。馬鹿だから。しかし、あのヒャッハー軍団涼州を纏めあげた男である。何か策があるのだろうと皆が思った。まるでないのにそう思った。

 

「では岳さんの涼州軍のお手並み拝見しますわ!」

 

 最後に袁紹がそう言ったせいで、涼州一軍のみでまず当たる事となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたほんっっっっっとにふざけてんの!?」

 

 涼州軍の陣に戻った賈ク、ぶちギレである。

 

「そうだ虎牢関を燃やそう」

 

 砦攻めが苦手な岳、気にせず火計を提案した。

 

「あんた火計大好き過ぎない!? 駄目に決まってるでしょ! どれだけ重要な拠点だか分かってるの!?」

「いやいや逆に虎牢関があるから洛陽が攻め辛い、そう考えよう」

「逆でもなんでも無いわよ! 王都洛陽の守備の要、難攻不落の要塞虎牢関を焼き払う!? 取り戻した後の洛陽の守護をあんた考えてないの!? だいたい焼いた後しばらく通れなくなるとか考えないの!?」

「洛陽守護しなければいいんじゃないかな」

「……あんたそれ本気で言ってるの?」

「なんで?」

「……………………本気、みたいね」

 

 王都洛陽なぞ不要。漢王朝は滅亡する。岳の発言はそう取れた。

 

「……分かったわ。でも火計は無理よ。火も油も私達一軍だけじゃ足りないわ」

「まじか。うーん……じゃあ、埋める?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虎牢関は歴代王朝の防衛の要として、渓谷に聳え立つ関所であった。横山的に。その虎牢関に何進は兵を大挙し、絶対に落とされないように固めた。そして岳と呂布がその虎牢関の前に立った。岳があの辺、と虎牢関の側面上の崖を指差した。呂布が持ってきた大きな槍を全力で投げた。音の壁を突き破った一投は弾丸、いや砲弾の如く轟音と振動を立て崖を揺らした。虎牢関がざわついた。更にもう一投。更に。倍プッシュで遂に崖が崩壊した。土砂が虎牢関に降り注いだ。岳が「じゃあもう片側も行こうか」と呂布に軽く言う。呂布も頷き反対側の崖目掛けて全力で槍を投げた。

 

 恋ちゃんの槍投げで、虎牢関は何進が用意した大量の兵と共に土砂に埋まった。その場にいた全諸侯が、あらゆる意味でドン引きした。岳君は燃やし損ねたとちょっぴり不満だった。

 

 そして土砂を固めて軍が通れるようになるまで、普通に攻めたほうがマシだったかも知れないくらい無駄に時間が掛かったという。

 

 次は頼むから後方で待機してくれと、皆が岳に頼んだのは言うまでもない。




渓谷の虎牢関は恋姫の背景のあれです。音速は萌将伝のあれです。


機動戦士グンダムセード

とかいう物を投稿しちゃいましたが、メインはこちらです。向こうは息抜きのつもりだったのに向こうのほうが書くの疲れる謎。
頭残念なキラと頭おかしいアスランの話なので人を選ぶと思いますが読む時間あるよ!という方はそちらも宜しくお願いします。


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13.反何進連合中編『人外』呂布と『無法者』岳

 『破天荒』、『無法者』。『人外』の呂布と共に国防の要、虎牢関と幾万の生きたままの兵を埋めた、ときめきメモリアルの主人公の如くヒロイン達の心に爆弾を仕掛けているボンバーマン岳をそう言った者がいた。

 

「かっけー」

 

 それを聞いた岳はそう言った。

 

「あんたそれ誉められてないからね」

 

 それを聞いた賈クが岳にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 虎牢関を実質二人で、一兵も失う事無く常識ってなんだっけ? というやり方で攻略した岳達涼州軍は、以降の関所の攻略では後方に回された。一人派手過ぎる功を立てたのでそりゃあそうだろう。一人勝ち状態であるが、そうはさせじと他の陣営も武功を立てるべく張り切って次々と関所攻略に乗り出した。主力を緒戦で失った何進陣営涙目である。

 

「ちんきゅ~……きぃぃぃっっっく!」

「ぐわあああ(棒読み)」

 

 陳宮程度の不意討ちなぞ大陸一不意討ち慣れしている岳にとって避ける事も造作もないが、避けた後が面倒なので甘んじて受ける。不意討ちセンサーが危険度を勝手に感知して対応を変えている模様。岳君もどんどん人から離れていっている。

 

「で、ねねちゃん何か用?」

「……ふん!」

 

 腕を組み、ふんぞり返るちびっこ。こういう時は大概何かある。

 

「用が無いならこれで!」

 

 そして大体面倒事なので、陳宮が用件を述べる前に岳はそそくさとその場を去ろうとした。君主の風上にも置けぬ奴である。が。

 

「……恋殿の事なのですが」

 

 背中から、恋の事と聞こえてしまえば岳が去る事など出来る訳もなく。

 

「……恋がどうかした?」

「……うう、こやつに相談などしたくはないのです。詠が岳の所に行けと言わなければ……」

 

 めっちゃ失礼な葛藤をしている陳宮から内容を聞き出すまで時間は掛かったが、詠ちゃんまで関わってるとなればと岳は陳宮からその相談の内容を聞き出した。

 

 

 

 

 

 関所を攻める連合を、一人離れた所で呂布が大きな岩の上に立ちぼぅっと眺めていた。赤髪が、軽く風に揺れていた。

 

「恋」

「……ん」

 

 陣からいなくなっていた呂布をやっと見つけた岳は声を掛け、呂布の隣に座った。それまで立っていた呂布も岳につられ座る。二人して戦況をぼぅっと眺めた。

 

「皆の所に戻ろう?」

「……嫌」

 

 岳の言葉に呂布が首を小さく振る。

 

「……恋、怖がられてるから」

 

 表情を変えずに、しかし寂しそうな目をした呂布がそう言った。単騎で三万の黄巾党を殲滅した呂布に今更? と岳は思ったが、その現場は陳宮しか見ていない。今回の虎牢関埋めは皆が目撃しているのだから。

 

「……恋、人じゃないって」

 

 『人外』の呂布。虎牢関攻めの呂布の行いを見て広まった呼び名である。その二つ名と呂布を見ると自軍の兵ですら怯える状況に、呂布は陣から一人離れてしまっていた。

 

「じゃあ恋は俺の事怖い?」

 

 岳が聞くと、呂布は首をふるふると振った。

 

「俺、『破天荒』とか『無法者』とか言われ出したんだけどさ。何するか分からない。人の行いじゃないってさ」

 

 岳は恋のほうを向いて言う。

 

「お揃いだね」

 

 恋も岳のほうを向いた。

 

「……岳は恋、怖くない?」

「可愛いと思うけど?」

「……お揃い」

「そうだね」

「……恋、可愛い?」

「勿論」

「……ん」

 

 恋が岳の腕に抱き付いた。うっひょーおっぱい当たってるぅーなどと声を出す寸前だったがなんとか堪えた。しばらくそのままだったが、上目遣いで恋が岳に言った。

 

「……子供作る?」

「いやいやそれはまだ早いっていうかええええええ!?」

「……じゃあ、後で作る」

「ふえ!? えーと、とりあえず帰ろうか。そうだそうしよう」

 

 ちょっとテンパった岳がそう言うと恋は無言で頷いた。岳君、へたれて誤魔化し後回しにした模様。陣に戻った岳と、腕に抱き付いている恋を見た詠は複雑な表情で岳を見ていた。そして苦虫を噛み潰したような顔の陳宮の奇襲がたくさん増えそうになったが、恋から怒られて涙目になりやめたようだ。それと恋が護衛だと言って岳にぴったりくっついてる時間が増えました。そのうち理性が吹っ飛ぶの不可避。

 

 ていうかそもそも人扱いされなくなったの岳のせいだから責任取ってやれってマジで思う。

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん! 雛里から合図なのだ!」

「全軍! 突撃!!」

 

 曹操軍と袁術(孫策)軍が抉じ開けた城門を、競い合い互いしか見えていなかった両軍を尻目にこれ以上無いタイミングで、鳳統の指揮で劉備軍が両軍が牽制する僅かな隙に割って入ってみせた。

 

「お兄ちゃん!」

「分かってる!」

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃー!!!」

 

 その劉備軍で道を切り開くは張飛翼徳。その圧倒的突進力で劉備軍が城門に一番に突入した。張飛は強い。強いが、その強さに振れ幅が大きい。真に調子が良ければ関羽すら超えて見せる。が、それほど好調な時は稀であった。しかし。

 

「鈴々!」

「大丈夫! 鈴々はぜっこうちょーなのだ!」

 

 劉備軍の可愛らしい軍師二人が言っていた。武功を立てるなら、競い合いこちらから目が逸れるであろうこの瞬間のみであると。一番槍は勝ち取った。しかし、小さな勢力である劉備軍が名を挙げるにはそれでも足りぬと。

 

 絶好調の張飛を先頭に、驚異的な速度で切り開かれる道を一刀が張飛と部隊を繋ぐ楔となっていた。張飛は部隊の指揮を一刀に任せ目の前の敵を斬る。叩く。打ちのめす。一刀は張飛ならばこう動く筈と迷いなく部隊に指示を出す。僅かに漏れた敵を切る。

 

「見つけたのだ!」

 

 敵将発見。これで鈴々の大手柄だと一刀は喜んだ。しかし、張飛が急に止まり一刀の背中をポンっと叩いて一刀を押し出した。

 

「鈴々!?」

「お兄ちゃんに任せるのだ。鈴々はお兄ちゃんの為の"つゆばらい"でもしておくのだ」

「鈴々!」

 

 それだけ言って張飛は周りの敵兵を近寄れぬよう駆逐し始めた。一刀が構える。敵将もそれまで圧倒的な力を見せていた少女ではなく、変な衣を着た男に相手が代わった事で安堵しているようだ。

 

 一刀が斬りかかる。一刀が普段相手にしているのは関羽、張飛、趙雲といった超一流の武将である。勝てる。三合合わせた所で一刀はそう思った。相手が咄嗟に砂を掴み一刀の顔に投げつけた。一刀の片目に入り視界を潰された瞬間、浅くではあるが左腕を斬られた。油断。目潰し等考えもしなかった事だった。生きる為、なんでもする。普段相手にする"武人"が高潔であった為の、一刀の経験不足がモロに出た。

 

「ぐぅぅ」

「ご主人様!」

 

 追い付いた関羽がそれに気付き割って入ろうとした。それを張飛が止める。

 

「鈴々! 何故邪魔をする!」

「これは"武人"同士の一騎討ちなのだ! 愛紗こそ! いつまでお兄ちゃんを、なんだと思ってるのだ!!!」

 

 鈴々が怒鳴った。関羽が蛇矛を握り締める張飛の手から血が流れているのに気付いた。

 

「……鈴々の言う通りだ。すまなかった」

「……まったく、しょうがない姉者なのだ」

 

 二人はそれだけ言って背中を合わせ、周囲の敵に斬りかかった。姉妹が息を合わせれば勝てる相手などいる筈もなく、ただ一刀の勝利を信じて。

 

 "武人"。一刀を張飛がそう言った。その叫びが、一刀の心に響いた。

 

「あああああ!!!」

 

 一刀が叫び斬りかかる。相手が再びまた握っていた砂を一刀に投げつけた。再び一刀の目に入る。痛い、だからどうした。信じて、一刀に大将首を譲った張飛の心に報いる為、今度は目に入るも閉じず、怯まず、だからどうしたと気合い一閃、敵将の剣ごと袈裟斬りにして見せた。

 

「敵将、討ち取ったぞー!!!」

 

 一刀が叫ぶ。

 

「敵将は劉備軍の北郷が討ち取った! これより残党狩りだ!」

 

 関羽が続けて勝利を叫び、掃討戦に移行した。張飛が一刀に近付くのを確認して関羽が指揮を取り始めた。

 

「お兄ちゃん」

 

 鈴々が一刀に声を掛ける。

 

「鈴々、信じてくれてありがとう」

 

 鈴々が満面の笑みで言った。

 

「にゃはは! とーぜんなのだ!」

 

 第二戦は、曹操軍と孫策軍の間隙を縫った劉備軍の張飛が一番槍を果たし、更に敵将の首を劉備軍の、天の御使いと噂される北郷が取ってみせた。こっちのほうがちゃんと主人公してる。

 

 

 

 

 

 

 

「……やられたわね」

「まったくだ」

 

 手柄を小勢である劉備に取られた事を、何にもしてない袁術から嫌味を言われ、やっと解放された孫策と周瑜が言った。

 

「まあまあ、涼州の酒持ってきたから呑む?」

「あら、母様の好きだったお酒ね……って岳、いきなり現れないでよびっくりするじゃない」

 

 アポ無しで、気が付いたら孫策軍の天幕の中に岳が現れた。

 

「いやー、最近厳しくて抜け出すのが大変で」

「自分の所の許可くらい得て来なさいよ」

「とりあえず恋の……呂布の許しだけは得て来ました」

「許し、ねえ。州牧様が配下の許しを得ないと駄目なの?」

「そりゃあそうよ。俺の立ち位置なんてそんなもんよ」

 

 いや多分普通に孫策の陣に行くと言えば賈クだって許可すると思うが、一人で行くと言えば反対されるだろうと思ってこっそり抜けてきただけである。呂布の許可を得たというのは、どうあがいても呂布だけは振り切れないからお願いしただけである。

 

「岳」

「冥琳どうかした? 冥琳も呑もうぜ」

「……岳、華陀の件、本当に感謝している。いくら感謝を述べても足りないくらいだ」

 

 周瑜が感謝を述べて岳に頭を下げた。

 

「雪蓮! 冥琳がデレた! 冥琳がデレたよ!」

「岳、私からも感謝を」

 

 孫策が頭を下げようとした所で岳が止め、周瑜にも頭を上げるよう言った。

 

「こっちがやりたくてやっただけだから、ね?」

「しかし……」

「あー、じゃあ一つ、お願い事してもいい?」

「ええ、私に出来る事なら──」

 

 

 

「──ちょっとそれ本気?」

「本気本気」

「……冥琳、どう思う?」

「話を聞く限り可能、ではある。が、私達の予定も早めなければ私達が逆賊となる」

「その為に涼州軍動かすよ。それならどう?」

「……それならば、利の方が上回る。予定も早めれられる。それまでの時間なら可能だろう」

「なら決定ね。いいわ。岳の頼み事、確かに承るわ」

「よっしゃ、じゃあ難しい話はここまでで呑もう!」

「待ちなさいよ、もうちょっとで来る筈だから」

「来るって誰──」

「雪蓮様、冥琳様、失礼します!」

 

 現れたのは、岳を一途に思う娘。

 

「雪蓮様、お呼びだと聞き──岳さん!? ……岳さん!」

 

 天幕に入ってきた呂蒙が岳の胸に飛び付いた。そして岳が確かに目の前にいると、ずっと張り詰めて頑張っていた亞莎が感極まり涙腺が崩壊した。

 

「岳さん、私、わたしぃぃぃ」

「亞莎……久しぶり、元気だった?」

「はい、はい……」

「亞莎は泣き虫だなぁ」

「岳さんのせいです……」

 

 泣きじゃくる亞莎を撫でながら、岳が孫策に聞いた。

 

「……もしかして俺が来るって知ってた?」

「そんな訳ないじゃない。なんとなく、亞莎を呼んだほうが良い気がしたのよ♪」

 

 やっぱり雪蓮は半端ねえ。岳はそう思った。



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14.反何進連合後編 唇を重ねて

「霞さーん」

「ん? なんや蒲公英」

「結局最後まで後方待機になっちゃいましたねー」

 

 各関所を抜け、眼前に見える洛陽を前にいま正に最終決戦が行われようとしていた。流石に何進も洛陽での籠城は選ばず、洛陽前に布陣していた所が何進の最後の良心だったのかも知れない。

 

「しゃーないやろ。これも計算の内なんやろうし」

「何をするか分からない、これ以上武功を立てられたら困る涼州軍は後方に置いておくだろうから、前の何進軍と後ろの涼州軍に注意を引き付けられているその間に……はあー、軍師って考える事多くて大変」

「うちら武官は難しい事考えんでええねん。今命じられとる事をやり通したったらそれでええ。それと状況に応じて動けるかとかな。軍師かて全部見渡せる訳ちゃうやろ? 恋の事は詠も想定外やったみたいやしな」

「一人で三万って話聞いたし、確かに恋さんならとは思ってはいたけど目の前であれ見せられるとやっぱり皆びっくりしちゃうよねー」

「ま、岳っちが恋の面倒見とったしその辺は大丈夫やろ」

「……その岳さん、今大丈夫かなあ?」

「心配ないやろ。月も付いとるし」

 

 実は今まで常に董卓の元から離さなかった華雄を涼州に置き、更に影武者を立てる事で董卓も涼州にいるように見せかけながら董卓は此度の遠征に同行していた。洛陽にいた頃から賈クが董卓をなるべく表に出さず、袁紹とのすれ違いの時ですら顔を見せない気の遣いようがいま生きているのである。

 

「岳っちが孫家に渡りを付けたらしいし、うちらの本番はそっちや」

「はーい。でも蒲公英、頼むなら曹操さんの所かと思ったよ?」

「曹操の所やと、頼む時に旨味が用意出来んとか言うとったな。曹操の性格的に交渉難しいって。袁紹にはこの件は無理とも言うとったし」

「岳さんって顔広いよね」

「そうやなあ」

「霞さんは岳さん狙わないの?」

 

 生意気な事言うなと張遼がぽかりと軽く馬岱の頭を叩いた。馬岱は大袈裟に両手で頭を押さえ痛がる振りをするが、張遼はそれに取り合わない。

 

「うちの事はええねん。……さ、後方かて戦場は戦場や。集中し」

「はーい」

 

 岳っちなー。岳っちがええって奴多すぎんねんと、霞が小さく呟いたのを、馬岱は聞き逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洛陽から伸びる暗い坑道が一つ。いや正確に言えば皇族のみに伝わる洛陽からの脱出する為の隠し通路はいくつかあるのだが、その一つの坑道を行く人影があった。

 

「くそ、袁紹め」

 

 悪態を隠さないその一人は、指揮を放棄し逃げ出している最中の何進である。

 

「お姉様。あまり急がれては陛下が疲れてしまいますわ」

「……そうだな」

 

 妹の何太后が姉の急ぎ足に苦言を呈す。その後ろに、幼き霊帝と献帝が数名の兵士に付き添われながら無言で付いて来ていた。両陛下さえ、自身の手の内にあれば幾らでもやりようはある。何進の頭の中はどうやって袁紹にやり返すか、それで一杯だった。

 

 暗闇を進む。

 

 一行が進む先に、何進達が持つ灯りに照らされ人影が3つ、坑道に映し出される。

 

「誰だ貴様ら!」

 

 何進が叫ぶ。

 

「……お待ちしていました陛下」

「貴様董卓!」

「月!」

 

 誰か見定めた何進が苛立たしげに叫び、献帝が嬉しそうに董卓の名を呼んだ。

 

「今更貴様が何の用だ!」

「陛下の身に危険が及んだ際、必ずお迎えに参ります、と洛陽を出る際に御約束致しましたから。遅くなり申し訳ありません。空丹様、白湯様、お迎えに参りました」

「月、遅いぞ!」

 

 口調とは裏腹に霊帝が嬉しそうな顔を見せる。董卓に見せるその顔を見て憎々しげに何進が董卓に言う。

 

「今更! 大体貴様もあの袁紹に付いたではないか!」

「違います。袁紹殿でも、何進殿にも付きません。私達は、陛下に仕えているのですから」

 

 

「岳君久しぶりー」

「この空気の中その反応する瑞姫は流石だと思うわ。久しぶり」

「だってー、姉様頭に血が登っちゃってー」

「まあ、しょうがないんじゃね? 大変だったんだろう、色々」

「そうねー。それで陛下まで連れ出して、岳君達に待ち伏せされてるじゃない? 姉様どうにかならない?」

「俺に傾を止められる訳がないと思うんだけど」

「案外岳君の言う事なら聞いてくれるかもー」

 

 

「瑞姫! 何を呑気に世間話をしている! 岳は今敵だぞ!」

「「そうなの?」」

「二人で声を合わせるな!」

 

 元々何進と面識があった岳、賄賂を要求された事もあるが、それは身体で払ってもらおうか的な展開を想定していたクソビッチ姉妹が良い男を見つけた際に手籠めする為に使う常套手段であった。まさか真名まで預けているのにそれくらいで出ていくとは想定外だった。悪戯好き、という点で何太后と岳は割りと気も合う。

 

「やだーお姉様怖ーい」

「瑞姫、傾が怒りすぎて肩で息をし出した。このまま怒らせたら息切れで倒れちゃう」

「え、やだ、お姉様……年?」

「誰がだー!!!」

「きゃー」「認めたのか傾」

「いい加減にしろ!」

 

 岳と、岳に抱き付いた何太后に何進が完全に気を取られた瞬間、呂布が一瞬で陛下の周りにいた兵士を気絶させた。そして両陛下の前に立つ董卓と呂布。

 

「くっ」

「岳さんありがとうございます。……仲、良いんですね。そこまで聞いてませんでした」

「いや、ていうかなんで瑞姫が乗ってくれたのかという」

「だってー、岳君なら今こうしておけば私も姉様も殺さないでしょう?」

「ま、まあねえ」

「……へぅ」

「……岳」

「はい、調子乗りましたすみません」

 

 抱き付きめっちゃ胸を押し当てる何太后に、鼻の下が伸びてきた岳に対し少し不満そうな顔を見せた董卓と無表情の呂布に、思わず岳が謝った。

 

「ふん、これでは私が馬鹿みたいではないか。岳、涼州軍を貸せ。袁紹を討つのに協力しろ」

「な、瑞姫。自分で馬鹿だって認めたのにまだ諦めてない傾を俺が説得なんて無理じゃね?」

「お姉様……お姉様は馬鹿じゃありません。少し冷静さと辛抱強さと人望が足りないだけです」

「お、お前ら~!」

「恋!」

「……ん」

 

 岳が一声、呂布に声を掛け、呂布の姿が消えた。何進の背後に現れほんの軽く首筋に手刀を入れ、何進を眠らせた。

 

「何太后様、……協力ありがとうごさいます」

「構わないわよ? まだ死にたくないし」

 

 岳達と、何太后が先に何か打ち合わせをした訳ではない。何太后がこの場の空気を読み行動しただけ。咄嗟にそれが出来るからこそ今まで姉を支えてこられたのだろう。ただ、何太后は岳の腕に抱き付き離れない。胸をこれでもかとぷにぷに押し付けている。

 

「そーれーよーりー、岳君辞めちゃって私寂しかったんだからね?」

「瑞姫、胸! 胸、当たりまくってる!」

「なーに、岳君、何が当たってるのー?」

「いや思いっきり言ってるけど!? ちょっと離れてくれないかな!?」

「えー、なんでー?」

「いやだから、ああ、月と恋の目線が絶対零度に冷たい!?」

「……陛下の御前です。そろそろ」

「はーい」

 

 また後でね、とだけ言って手を離した何太后と冷や汗が止まらない岳を尻目に呂布が両陛下の前に付き、董卓が二人に寄り添い歩き始めた。岳は倒れていた何進を担いで何太后にからかわれながらその後ろを歩いた。何太后がここまで岳の方に付きまとうのは、既に両陛下を見切った、という事なのだろうなと董卓は吐き出しそうになったため息を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼するわ。孫伯符殿とお見受けします」

 

 洛陽を探索中の孫策に賈クが涼州軍を抜け出しこっそり会いに来た。

 

「あら、来たのね。岳から聞いてるわ。えーと、賈文和殿?」

「細かい調整をね。周公瑾殿と打ち合わせをする前に挨拶をと思ってね」

「そう。……ふーん?」

「……何でしょう?」

 

 舐めるように賈クを見る孫策。何こいつ怖っと警戒する賈ク。しかし賈クの思惑とは孫策の返しは違った。

 

「いーえ? 岳ってこんな感じの娘が好みなのかなーって」

「は、はあ!?」

「見た目はなんとなく(亞莎に似てる気がするから)分かるけど、もうちょっと大人しそうな娘が好きなのかと思ってたわ。好みの範囲広いのね」

「ちょ、何を言って──」

「ああ、うちの娘、そっちに一人連れていって貰うわ。そっちもその方が信頼出来るでしょう? 聞いてる話だと数名、こっちに滞在する事になるんだし」

「え、ええ。それはそうね」

「という訳でうちからは呂蒙を出すわ。岳とは将来を誓い合った仲らしいから宜しくね?」

「あ、あいつ……また……もう……」

「また?」

「はあ……、涼州に許嫁もいるし、他にも無自覚に女の子口説いてるわ」

 

 頭を抱えながら吐き捨てるように言った賈ク。それを聞いて孫策は笑った。

 

「いいじゃない。それくらいじゃないとね。『無法者』で『破天荒』で『天の御使い』なのよ? 男の中で飛び抜けて優秀。けれどこっちの常識で計れない。面白いじゃない。だから岳はいいのよ♪」

「……一緒にいるほうは大変なんだけど?」

「あら、じゃあ私が貰ってあげるわ」

「あげないわよ! だいたい岳は物じゃないわ!」

 

 ぷんすかと孫策の元を離れ周瑜を探し始めた賈クを見て、あの娘も岳の事好きなのねーと楽しそうに孫策は眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「探しなさい! まだ城内にいますわ!」

 

 洛陽城内で怒号が響く。何進軍を破った連合軍は我先にと洛陽に入り、何進と両陛下を探した。洛陽の様子を見て直ぐ様炊き出しを始めた劉備軍を除き、一番遅く洛陽に入った涼州軍も茶番だと分かっていながら全軍に何進の捜索を命じた。

 

「ういーす」

「お、岳っち。そっちは大丈夫なん?」

「ん、月と恋が見てるから。あんまり俺がこっちにいないのも怪しまれるからって」

「まぁせやな」

 

 連合が入り乱れ大混乱の城中、岳は董卓と別れしれっと涼州軍に合流した。

 

「岳っち」

「ん?」

「月の願い、叶えてくれてありがとな」

「おう。……そろそろかな?」

 

 日の傾きを見て、岳が呟いた。そろそろ賈クが袁紹陣営に潜り込ませている兵士が騒ぎ出す時間だった。

 

『何進が東に逃げたらしいぞ!!!』

 

「ほないこか」

「行きましょか」

 

 城内に響く偽報を聞いた二人は、袁紹の元へ呑気に歩きだした。

 

 

 

「岳さん! 何進は逃げたらしいですわ!」

「聞いてる。東だって?」

 

 袁紹が何やら田豊に指示を出し、田豊が慌てて岳の横を駆け抜けて行った。相変わらず苦労してそうな顔してんなあと、割りと他人事のように思った。一番間接的に苦労させてるのは岳である。

 

「ええ、今軍を急遽東に向ける為編成させている所ですわ!」

「参ったね。今涼州から連絡があって、異民族が大挙して侵略してきたらしいからそっちに行かなきゃいけないのに」

「それは……岳さん、こちらはお任せ下さいまし。この、わ・た・く・しが見事何進めを討って見せますわ!」

「麗羽なら大丈夫だね」

「もっちろんですわ! おーっほっほっほっほ!」

 

 岳との会話で気分を良くした袁紹が上機嫌でその場を後にした。冷たい目で張遼が見ていた。岳はその張遼を見ないようにしていた。今日は目線が怖い日だと思っていると、袁紹が去り直ぐに代わるように曹操が夏侯惇を伴い現れた。

 

「あら、岳」

「おう、華琳に春蘭か。お、春蘭両目あるやん」

「はあ? 何を言っているんだ貴様──」

「春蘭、控えなさい。……そう、良く分からないけど、貸しが出来たのかしら?」

「どうとでも」

 

 察しが良すぎるのも考え物だなと岳は苦笑しながら言う。反董卓連合が起きなかった。だから夏侯惇の片目も助かった、等と言うつもりなどまったくない。言ってもそれを言う自分が頭おかしい奴に思えてならなかったからというのもある。

 

「そう。で? 貴方達も東へ?」

「いや、涼州に攻めて来た異民族の対処に戻らなくちゃいけなくなったから麗羽に一言ね」

「へえ。……そう、いいわ。何を企んでいたか、聞かないであげる。それでチャラにして頂戴」

「あーやだやだ。これだから天才曹孟徳は恐ろしいわ」

「ふふ、『破天荒』と名を上げた貴方に言われるとは光栄ね。……私は麗羽と共に軍を動かすわ。『漢』の忠臣としてね。貴方も、国を守る盾として『漢』の忠臣、それを示しなさい。ま、分かってるでしょうけど?」

「『無法者』の方が聞くけどね。含み持たせまくった助言、痛み入ります」

「今なら皆が城内と東に注視しているわよ? あら? 涼州は西だったかしら。途中まで同行出来なくて残念だわ」

「いやもう……華琳さん勘弁して」

「貴方のせいで踊らされるのだもの。これくらい、いいじゃない。じゃあ私は行くわ。また会いましょう」

 

 話すだけ話してさっさと曹操もその場を離れた。曹操が離れたのを見送った岳からドッと汗が吹き出した。ほとんどお見通し。見逃されただけ。そう思えてならなかったからだ。

 

「はー。あれが曹孟徳かいな。噂には聞いとったけど、確かに器が違うな。なあ岳っち。あれほとんどバレとるんやないの?」

「多分ね」

「それ大分不味いんちゃう?」

「大丈夫、華琳だし。やるときゃ正々堂々、真っ正面から来るよ。だからきっと華琳の中だけで仕舞っておくよ」

「……信頼しとるんやな?」

「そりゃあね。華琳だもの」

 

 ふーん、と張遼は複雑そうな顔をする。なんというか、ある意味誰よりも曹操を信頼しているのは岳なのではないか、と思えたからだ。

 

「後ろに控えとったあっちは?」

「春蘭? 大丈夫。馬鹿だから」

「ある意味信頼しとるんやね」

「春蘭だからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 東へ何進を追った袁紹達であったが、懸命の捜索にも関わらず足取りを掴む事は出来なかった。両陛下と共に岳が匿っているとは、賈クすら思わなかった事である。めっちゃ怒られたらしい。涼州軍は異民族侵攻を理由に他陣営に先駆け洛陽から離れた。その内、董卓と呂布、張遼と馬岱と少数の兵が荷馬車と共に途中で別れ一路南下し、孫策の邑へ向かった。送り届けた後に張遼と馬岱は涼州へ戻ったが、董卓と呂布、それに両陛下と何進、何太后というとんでもない爆弾が孫策の手元にやってきたのだった。

 

 孫策は洛陽探索中に見つけた玉璽を袁術に献上し、調子に乗りはしゃいでいる袁術を尻目に打倒袁術の為、各地に散らばっている孫家の重臣達と、孫呉樹立の為の最終準備を始めた。囮として袁術軍本体を一手に引き受けるという涼州軍がいなければまだ準備に時間が掛かっていただろうが、むしろこれ程早く孫家が立ち上がるとは予想していないであろうタイミングで攻める事が出来る事を、孫策に天運が向いているのだと孫家の誰しもが思ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────董卓が、涼州軍と別れる離れ際

 

「月、余計な者まで押し付けちゃってごめん」

「いいえ、恋さんもいますし」

「まあ、どうしても無理そうなら傾は猿轡でも噛ませて納屋にでも放り込んでおけばむしろ喜ぶ性癖だって瑞姫が言ってたから」

「ふふ。分かりました」

 

 岳の言葉を冗談だと思った月。本当の事です。

 

「岳さん」

「ん?」

「私達は、岳さんがいなければ私達は何進さんの立場になっていて討たれていたのは間違いありません。そして今回のような、危険を承知で我が儘まで言ってしまって……」

 

 ポンポンっと月の言葉を途中で遮り、岳が軽く頭を撫でた。

 

「やりたくてやっただけだから気にしちゃ駄目だよ。月が笑顔じゃないと皆悲しむでしょ?」

「へう……」

 

 月は赤面して俯いてしまった。あれ? なんかまずい事言ったかなと岳が月の顔を覗き込む。月が顔を上げる。

 

 

 そして唇と、唇が重なりあった。

 

 

 岳が、あれ、口になんか当たった? と考え、あれ、月の顔近くない? と気付き、唇……月の唇柔らかい、と気付くまで数秒。

 

 

「岳さん、お慕いしています」

 

 

 別れ際に董卓の放った言葉に、少し離れた場所でにやにやしている涼州軍と、硬直している賈クと呂蒙の姿があった。




プロットが長すぎたようです。まだ半分行ってません。タイトル詐欺言われてもしょうがない。蓮華まだ出てないし……。思春も小蓮も明命も。そりゃあ半分行ってないわ。


リクエストが多く来るので限定していたアレを5月中はチラ裏に移しとくので見たい人はどうぞ。


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15.この時代の大体の原因

 董卓達を見送った岳は背後から感じたプレッシャーに負け、いつものように逃走しようと試みたものの、先読みしていた賈クが仕掛けていた簡単な草結びに引っ掛かり盛大にズッコケた。顔を上げると、むーっと拗ねた呂蒙と冷たい顔で見下す賈ク、それに賈クの指揮で岳が逃げられないように兵士達が取り囲んでいた。プロな人にはその視線はご褒美ですが岳君にはご褒美ではないのです。

 

「これが包囲殲滅陣という奴か」

 

 岳が呟いた。

 

 殲滅対象は岳一人だやったぜ死ね。

 

 詠ちゃんはどっかの界隈で超有名な戦術の使い手だったかと項垂れた岳。まあ本当の包囲殲滅陣はかなりクレイジーな戦術で岳ですら使用を躊躇う物であり、詠ちゃんとか反対する事間違いない戦術だけれども。そんな項垂れた岳を、呂蒙が袖に仕込んでいた暗器で岳を一瞬で縛り上げた。そして岳は、賈クが何処からか持ち出した猿轡を噛まされ荷馬車にそのまま乗せられて、ドナドナドーナと涼州へ運ばれていく。そんな州牧様を、兵士達は見なかった事にした。

 

 

 

 

 そして涼州に着いた岳は事の顛末を聞いた馬超にとりあえずしばかれた。

 

「……はあ、まあ、岳だしな。もっといるとは思ってたさ。……それで勘弁してやるから。優しいあたしに感謝しろよな」

「ふぁい」

 

 超必殺技ゲージがMAXとなった馬超は、龍虎乱舞の如く乱舞系の、更にガード不能とかいうチート仕様の槍技を閃き防御特化の岳がまったく反応出来ず、ボッコボコされました。馬超が人の域を超えた瞬間である。顔がギャグマンガの如くパンパンに腫れズタボロで正座している岳。むしろその程度で済んだ岳が凄いかも知れないが、多分こいつギャグ補正とかいう最強補正でも掛かってるんじゃねえかな。そんな岳に呆れながら、でも少しすっきりした顔で馬超が一息吐いた後に言った。

 

「……でも結局岳はどうすんだよ。……あたしだって、その、岳の嫁になるって思ってたんだし、その孫家から来た娘だってそうなんだろ? 月もだし、……それに詠もなんだろ?」

「ちょ、今言うの!? ……はあ」

 

 馬超の呟きで巻き込まれた賈クは一瞬慌てる。何もこんな時じゃなくても、雰囲気も何もない今じゃなくてもと賈クは思ったが、今の今まで言葉にするタイミングを失い続けていた為、もう今しかないのだろうなと諦め岳と向かいあった。岳の目は瞼が腫れ上がっているので半分も開いていない。

 

「……そもそも、言葉で伝えようとしたのは僕が一番最初なんだから。岳を部屋に呼んだあの日、覚えてるでしょ?」

 

 あれそうだったの? と呆気に取られた顔をしている岳に、やっぱり分かってなかったのねと賈クはため息を吐いた。

 

「そういう事よ。僕の気持ちはその時から変わってないわ」

「ほえー」

「……他人事みたいに言われると流石に僕も傷付くんだけど」

 

 

 非現実的過ぎる。夢? なーにこれドッキリ? 美人美女からこんなに好かれるなんて有り得ないと岳の頭がどうも現実を理解しようとしない。時代が時代なので、立場が上がれば親や上役が勝手に婚姻相手決めるだろくらいに思っていたし、だけれど結局最後は愛紗が何処からともなく現れて拉致られ小間使い的に尻に敷かれながら生きていく人生になるのだろうと思っていた。だからこそ許嫁となった翠にだって悪いから一切手を出していない。どうやって許嫁の縁を切ろうか曹操に相談して、面倒臭い事に曹操が打倒馬騰を決めちゃったから全部見なかった事にして自分の中では有耶無耶にした気分になって誤魔化し続けているのも、面倒事は最終的に愛紗に拉致られるまでとか思っていたくらいである。

 

 ある意味軍神関羽への厚い信頼とも言える。

 

 

「……ま、今回の件ではっきり分かった事があるわ」

 

 賈クが、岳ではなく集まっている皆に向けて話始めた。

 

「僕が分からなかったのは、許嫁である翠を涼州に入っても直ぐに正妻として迎えなかった事よ。だってそうでしょ? 涼州を手に入れる、そして纏めるならそれが一番早いもの。でもそうしなかった」

「……どういう事でしょう」

 

 何が言いたいのだろうとジッと賈クの目を見て黙っている馬超の横から、呂蒙が声を上げた。

 

「反何進連合で、世間的には天子様も首謀者の何進も行方不明という事になったわ。間違いなく、この状況を利用する者が現れる。例えば袁紹とかね。勢力を拡大する良い口実を手に入れたのよ。『誰々が天子様を拐った』だの『誰々が何進を匿っている』だの声を上げながら意気揚々と攻めるでしょう。それが無実であれ、戦の口実であればそれでいいの」

「……戦が終わって領土を手に入れれば、後はどうとでも誤魔化せると?」

「ええ。きっと大陸中にその波が広がり、初めの口実なんて有耶無耶になっていくでしょうね。この大陸は荒れるわ。間違いなくね」

 

 ゴクリと息を呑む呂蒙とマジかよと驚く岳。原因完全に岳なんだけどな。

 

「岳はそこまで見越してまだ婚姻をしてない。そうでしょ?」

「お、おう」

 

 分かってるんだからと賈クが言う。何の事か分からないけどとりあえず返事をする岳。

 

「どういう事だよ?」

 

 難しい事は嫌いな馬超が聞く。

 

「外交の手段として残しているのよ。婚姻という強い同盟を結ぶ手段をね。情勢がこうなるのを、そんな前から見越して……いや、計画して、かしら? 岳の思惑に気が付いた時、僕は身が震えたわ。だってそうでしょう。僕達が涼州に入ったのも、袁紹と何進を揉めさせたのも岳なんだから。そしてそれは、反何進連合が起こる事もこれからくる戦乱の世も、この涼州に入る前から岳の頭の中には描かれていたという事なんだから」

 

 どや顔で賈クが語った岳の計画に、『なんだってー!』と岳も含めて皆が驚愕する。結果そうなっただけで岳にそんなつもりは一切無い。無いんだよ。しかし、一連の行動から、そしてこの後の行動も含めて歴史家からは岳はこう呼ばれている。

 

『黒幕』飛穂高、と。

 

 

 

「ん? じゃああたし達はどうなるんだよ」

「正室は政略的な物、正室を迎えた後に側室としてって事になるでしょうね」

「……側室かよ」

「形はそうでしょう。不満なら引けば?」

「今更引けるか!」

 

 何故かしれっと詠ちゃんまで嫁になる前提で話が進んでる。ぎゃーぎゃー揉める様子を、考える事を止めた岳が眺めていると、とととーっと駆け寄ってきた亞沙が岳に真剣な目で言った。

 

「岳さんっ!」

「な、なに亞沙?」

「私っ! 皆さんに負けませんからっ!」

 

 亞沙の眩しさに、岳の心が痛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんやかんやで豫州刺史に任命された劉備は言った。

 

「私達はご主人様の下で纏まっているので、とりあえず名目上は私ですけど、ご主人様を代表として扱って下さい」

 

 これには全員が驚いた。そもそも反対だがやるにしても流石にまだ早いと孔明も鳳統も反対したらしいが劉備が押し切ったのだ。というか劉備の様子がおかしい。原因は分からない。反何進連合で何度も顔を合わせたのに怖かったから目すら合わせようとしなかった岳が原因では無いと思う。多分ね。ここから劉備は少しずつ、表に立つのを止め一刀を支える立ち位置に変わっていく。表向きは変わらぬ笑顔で。

 

 

 そして同じく岳が一切目を合わせなかった人物がもう一人、鬼嫁、じゃない軍神関雲長である。

 

 関羽は凹んでいた。それを気取られないよう一人で青龍偃月刀を振る。振る。振る。

 

「精が出るな、愛紗よ」

「……星か」

 

 ただひたすらに青龍偃月刀を振っていた関羽の下へ趙雲がやってきた。

 

「悩み事でもあるなら聞いてやるぞ?」

「……分かるか」

「うむ。天下の関雲長の青龍偃月刀の切っ先がここまでぶれるのだからな。まあ大方、岳殿の事であろう?」

「……そうだ」

「では何を?」

「以前ご主人様の訓練の時に星に止められ星と剣を交わした時に言われた事、先の闘いで鈴々に言われた事を考えていた」

 

 以前、趙雲と訓練をしていた一刀に訓練をつけにきた関羽を、趙雲が止め関羽をそれとなく連れていった際に趙雲が言った事があった。「愛紗は加減がきかない。それでは殿方に嫌われるぞ」と。まあ趙雲なりの冗談でもあったのだが。そして張飛には一刀をいつまでも子供扱いするなと怒鳴られた。振り返ればその通りだと思った。そしてそれは幼なじみである岳に対してもそのまま当て嵌まるのである。先の連合で岳が目すら合わせなかった事とそれらの事で、ああ、成る程嫌われるだけの事をしてきたのだなと自覚したのだ。それに気付き、謝ろうと思った。だが、目すら合わせぬ岳に二の足を踏んだ。怖かったのだ。そして機を逃してしまった。

 

「謝りたかった。だが謝れなかった。それを悔いている」

「ならばまた会う時に謝れば良かろう。謝罪を受け入れぬような男ではないだろう? 美髪公殿の想い人は」

「……うむ」

 

 いや割と受け入れない小さな人間だぞ岳は。そんなに器大きくないぞ。まあ岳の場合は関羽に関しては諦めてる所が大きいから謝ったらめちゃめちゃビビりながら受け入れそうでもある。

 素直に自分の気持ちを受け入れた関羽の表情は角が取れたように優しい笑顔であった。そしてそんな顔を見て趙雲は思う。

 

「ふふふ。可愛いな愛紗よ。その顔を見せれば男なぞコロリといくだろうに」

「な!?」

「照れるな照れるな。本当に可愛くなったものだ」

「うう……」

「まあ冗談はこれくらいにしてだ。桃香様の事なのだが……いや、ご主人様が不満な訳ではないのだが、いかな心変わりかと思ってな」

「ああ……私も桃香様に聞いてはみたが、ご主人様なら大丈夫だよとはぐらかされてしまってな」

「愛紗もやはりそれか」

「ああ、話してくれるのを待つしかないかと思う」

「そうか。では私もそうするとしよう。愛紗よ、一杯付き合わないか?」

「仕方ないな。お供しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 暫しのち、やはり一番先に動いたのは袁紹であった。

 だって元々、口実手に入れたら真っ先に公孫サン攻める宣言してたんだもの。河北四州の覇者っていう響きがカッコいいとかいう理由も一つ。でもそれより公孫サンに岳の事で煽られたと思っている事を未だに根に持っていたのである。つまり、戦乱の世の開戦を告げる狼煙の火種となったのはやはり岳である。もはや大体岳のせいにしとけばそれで正解な状況となっている。どうしてこうなった。




エタったと思った?

私は思いました。


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16.孫家の革命、ここに成る

『通行許可? わたくしと岳さんの仲ですもの、勿論宜しくってよ! ただ、わたくしはちょっと北へ出ていますの。お会い出来ないのが残念ですわ。白蓮さんをけちょんけちょんにしたら、その後にちんちくりんの華琳さんもけちょんけちょんにして迎えに行きますので楽しみにして下さいませ!』

 

 

 

 

「……という訳で通行許可と、この後の袁紹軍の動向が分かりました」

 

 岳が袁紹からの書簡を片手に賈クの執務室へやってきた。その書簡を渡された賈クが読み、頭が痛くなったのか手で頭を押さえ机に突っ伏した。

 

「……ちょっと待って。突っ込みが追い付かないわ。袁紹って馬鹿なの? なんで周りは止めないの?」

「私塾の成績は曹操より上で一番だったぞ。ただの馬鹿なら大陸一豊かな州を維持出来る訳ないだろ。でも煽てに乗りやすく調子に乗りやすい上に調子に乗ったらとんでもなくアホになるだけで、しかもそうなったら周りの制止も聞かないだけだぞ」

「……袁紹の軍師って大変そうね」

「そりゃ話聞かないからな」

「あんたも大概だけどね。それでガラガラの袁紹の領土も通っていいって? それ僕達に墜とされたいの?」

「墜としても袁紹軍本体は生きてるし、周りの城からわらわら兵が出てきて囲まれる絵しか浮かばないけどね。どうせやるなら……焼いちゃう?」

「それこそあり得ないからやめて。そんな事したら人心が離れるどころじゃないわ。振りじゃないからね。ほんっとうにやめて。けど本当に袁紹はあんたに甘いわね。袁紹と婚姻を結べば?」

「麗羽は顔も容姿も良いけど性格がやべえから……」

「でもあんた手のひらで転がしてるじゃない」

「近くにいないから性格を利用出来てるだけで……。そりゃなんとか出来る時もあるけど基本マジで言うこと聞かないから。そりゃあ、あのおっぱいは魅力的だけどさあ」

「……ふーん。おっぱいね。どーせ僕はあんなに大きくないわよ」

「そうだな」

「そこは優しい言葉をかけてくれる所じゃないの!?」

「普通にあるし詠ちゃんの魅力は別に沢山あるから」

「……ばか。で、袁紹の領土通るのは良いとして、更に曹操の領土も通らなくちゃ行けない点はどうするのよ。月達みたいに少数ならともかく軍を動かすのは誤魔化せないわよ」

「大丈夫。袁紹軍の鎧と旗パクってあるから」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「麗羽の軍が領内に侵入したですって?」

「はっ」

 

 夏候淵からの報告に曹操が訝しむ。袁紹は北を攻める為に軍を動かした、そう聞いたばかりだったからだ。威力偵察かしら? でもあの麗羽が?

 

「……面白そうね。捕らえなさい」

「それが……」

「どうかしたのかしら」

「はっ。あまりに速く捕捉出来ないと」

「……麗羽の軍、なのよね」

「はい。確かに金色の鎧の騎馬の軍勢だったと」

「戦闘は?」

「ありません。領内を不規則に駆け回っているとだけ聞いています」

「秋蘭、今までその騎馬隊が目撃された場所を纏めて……桂花! 今までのその騎馬隊の行動から次に現れる場所を予測なさい」

「はっ!」

 

 曹操の指示でいつ、何処でその騎馬隊が目撃されたかの情報を直ぐ様夏侯淵が纏め、それを猫耳フード軍師が地図を見ながら熟慮する。恐らくはと、候補を三つ、曹操へ伝えると曹操は少し考えた後に一つに絞った。

 

「ここね。恐らくそろそろ小競り合いくらいしているでしょう」

「分かるのですか?」

「ええ、長い付き合いですもの」

 

 曹操の答えに袁紹との付き合い、と考えた者が多い。だが、夏侯淵は即座に気付いた。

 

「あやつの仕業ですか」

「そうでしょうね。挨拶に行くわ」

 

 もはや確信を持って曹操が言った。猫耳が急いで軍の出立の準備に掛かる。笑顔を隠さない曹操を見て、なんだか良く分からないが夏候の姉が怒った。

 

「おのれー! なんだか良く分からんが岳を斬りたい気分だ!」

「流石姉者、理解せずとも本能で嫉妬するとは大したものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なー岳っちー。話通りならそろそろ曹操のお嬢ちゃんが追い付いてくる頃ちゃうん?」

 

 騎馬隊のみで編成された袁紹軍の鎧を着た涼州軍は、神速の張遼と錦馬超の用兵によってただの金ぴかでは有り得ない速度で曹操の領土を駆け巡っていた。袁紹軍の兵士が一般兵なら、この軍勢はハマーン様とシロッコ相手に百式で挑んだ全盛期クワトロくらいの能力である。追い付ける訳がない。ここに来ているのは岳と馬超、馬岱に張遼といった涼州でも馬術を得意とする武人である。岳? 付いていくので必死で指示なんて出してないよ。

 

「一戦するか?」

 

 馬超が岳に聞く。だが岳は首を横に振る。

 

「やるのは袁術の所で。でもなんかしてから行きたいよなあ。でも燃やすなって詠ちゃんに散々言われたし……そうだ」

 

 岳が何かを閃いたらしい。その岳の顔を見ながら張遼がため息を吐いて言った。

 

「あかん、絶対ろくな事考えてない顔や」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……華琳様……」

「…………」

 

 曹操が、その目的地に辿り着いて最初に目撃したもの。城壁へのでかでかとした落書き。怒りに震える曹操に、配下一同怯えている。

 

 

 

 

『曹操貧乳ちんちくりん』

 

 

 

 

 

「殺す! 何をしているの! 全軍で追いなさい! 絶対に逃がすな!」

 

 曹操の怒号が大地に響いた。そのあまりの覇気に自軍の兵士達ですら耐えきれず失神したものが多く出たという。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ岳、あんなので効果あるのか?」

「そやな。子供のいたずらやろあんなん」

「大丈夫大丈夫。……ほら」

 

 岳達の背後から土煙が上がる。大軍であるのが遠目からでも分かる。怒りの曹操軍、アホの惇ちゃんを筆頭に偽袁紹軍に襲いかかる。

 

「うっひゃー。効果有り過ぎて引くわ」

「どれどれ……先頭は……よっし、後は逃げ切るだけだぞ!」

「追いかけっこならあたしらに勝てる訳ないしな!」

 

 機動力で勝る涼州騎馬軍とランボー並みに怒った曹操軍の、ギリギリ付かず離さずを保ちながら追いかけっこが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉者! まずい! 止まれ!」

「何故止める秋蘭! 華琳様の命に逆らうのか!」

「姉者! 一杯食わされている! ここは袁術の領土だ!」

「な!?」

 

 アホの惇ちゃんが一途に岳達を追い回し、岳達がなるべくめちゃめちゃに見せかけながら巧妙に進路を惑わし続けた結果、曹操軍はいつの間にか袁術の領土内に侵入していた。

 

「早く引き返さねば……ちっ」

 

 見ればいつの間にか消えた岳達の軍勢に変わり、袁術の軍勢が迫ってきていた。

 

「暗愚のくせにこういう時だけ動きが早い! 姉者!」

「分かっている!」

 

 こうして曹操軍と袁術軍の小競り合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こーも上手く行くと思わず笑ってまうな!」

「まったくだ!」

「尻が痛い」

 

 痛快だと笑う張遼と馬超、馬に乗り続けて尻が死んだ岳。走り詰めの馬達を休ませる為、予定通りに月達のいる邑へ向かい一晩休んだ。そして最強の戦術兵器である呂布が合流したのである。

 

「後は孫策達と時を見計らって南陽を襲うんやろ?」

 

 張遼が呑みながら岳に聞いた。

 

「そうだね」

 

 岳も呑みながら、既に酔っ払った頭で何も考えずに答えた。

 

「でも領線で一悶着しとるうちに一当てするのも有りなんちゃう?」

 

 張遼が言う。別にただ言ってみただけである。

 

「やっちゃう?」

 

 岳が軽いノリで答えた。詠ちゃんが居たら止めたであろうが、この場の最高責任者は岳である。こうして早速ノリノリで涼州勢だけで南陽を奇襲したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーに冥琳、頭痛いの?」

「……そういう雪蓮こそ、苦虫を噛み潰したような顔をしているぞ」

「……まあねえ、一応、これ私達の宿願だったはずなんだけどねえ」

 

 

 城門を呂布が破壊して一気に城内まで雪崩れ込んだヒャッハー涼州軍。一当てとか言ってたくせに調子に乗って城内に討ち入りして「我々は孫策軍だ! 袁術ぶっ殺す!」とか叫びまくりながら手当たり次第暴れに暴れた。呂布が怯える袁術と守ろうとした張勲を捕まえて縛り上げ、玉座に転がしといた。暴れるだけ暴れて満足した涼州勢は、とりあえず孫策らに「やっちゃった」とだけ連絡して楽しそうに帰っていったという。

 

 孫家の宿願。それは岳が調子に乗って涼州の騎馬隊がヒャッハーしてしまった為、孫家の出番が無く叶う事となった。




実は孫家が呉を建国する裏でも黒幕が動いていたらしい、という話。


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17.孫家の次女、怒る

「姉様! きちんと説明して下さい!」

 

 破壊、いや粉砕された南陽の城門にどん引きしたりしながら、城に辿り着いた次女孫権は待っていた長女孫策に食ってかかった。

 決起の為の準備を整え、逸る気持ちを抑えながら待っていた孫権は、ついに姉から決起の知らせが来たと文を受けとると、そこにはこう書かれていたからだ。

 

 

 

『終わっちゃった。ごめんね? 南陽に来て。急がなくても大丈夫よ』

 

 

 

 この文を見た時に孫権がどれだけ落ち込んだ事か。姉は、孫家の宿願たるこの大事な戦から私を外したのだ。そんなに姉から見て私は頼りないのか。そんなに私は信用出来ないのかと、孫権は文を握り締め悔し涙を流した。

 

 岳は筋肉ハゲ達磨の尻の穴に頭突っ込んで窒息して死ね。

 

 急ぎ決起の為に集めていた兵を纏めて一路南陽を目指すと、途中合流した孫尚香と黄蓋も同じ文を受け取ったという。万が一の事を考えて末の妹と、共にいた黄蓋を外した。というのは孫権も分からないではない。だがそれなら尚の事。私はなんなのだと孫権は悔しさで握り拳が震え、爪が皮膚を破り血が滴り落ちた。戦から外された悔しさがある。そして時間が立つに連れ、姉への怒りへと徐々に感情がシフトしていった。だから南陽に辿り着いた孫権は、会うなり姉を問い詰めた。未熟だからだと、頼りにならないと言われても良い。理由があるなら、姉妹同士包み隠さずきちんと説明すべきだと思ったからだ。

 

 

「いや、だからね? 決起しようとしてたら終わっちゃってたのよ。嘘じゃないから! 私だって今まで我慢してた鬱憤晴らす場所無くなっちゃってモヤモヤしてるんだから!」

「まったく説明になってません!」

「だって岳が『やっちゃった』とか言い出すんだもの」

「だってじゃありません! ……誰ですかそれは?」

「えっと、天の国出身で元大長秋でそのあと黄巾党にちょっと入ってて、虎牢関を埋めて破天荒とか言われて今は涼州州牧の……」

「酔っ払っているのですか! そんな適当に何人も組み合わせたような人間がいると私が信じるとでも思うのですか!! ふざけないで下さい!!!」

 

 未熟だから。頼りないから。そう言われる覚悟で姉を問い詰めた孫権は、姉の口から出た酔っ払ってふざけたような回答に怒りがどんどん膨らんできた。孫策は自分でも、これ酔っ払ってふざけて回答してる時と大差ないなと困った。

 

 なので岳は筋肉ハゲ達磨にディープキスされて思いっきり吸われて窒息して死ね。

 

 

「本当よ! いや私も口にしてみて、無いなーとは思ったけど本当よ!」

「……では仮に本当だとして、何故涼州州牧の名がここで出てくるのですか!」

「いやそこは話せば長くなるっていうか……蓮華、怒らないで聞いてくれる?」

「……内容次第です」

「いやー、実はね────」

 

 砦で自身と砦ごと孫策を焼き払おうとした出会い、周瑜の病気を見抜いて大陸一の名医を連れてきてくれた事、そこまでは孫権も黙って聞いていた。成る程、冥琳の事があるからその人物を信頼するのだろうと理解もした。その後、天の国出身と発覚して一人で黄巾党本体に突っ込んでいった事。行方不明になったと思ったら涼州州牧になっていた事。大袈裟だと思っていた関を埋める暴挙を口笛吹きながらやっていた事などを聞かされ、理解出来ない、関わってはいけない類いの人間なのでは? と孫権は頭が痛くなってきた。孫権は正しい。でも味方にするとやっかいだけど敵だとくっそやっかいだと思うぞ。

 

 だから岳は筋肉ハゲ達磨のふんどしに顔突っ込んで金の玉袋で窒息して死ね。

 

 そして岳に頼まれ、領内に天子様姉妹に何進、何太后、董卓、呂布といった面々を匿っていると聞かされた。孫権はフリーズした。面子がやばすぎるからそりゃそうだろう。だって最近まで国の頂点にいた人間ばかりだもの。しばしの硬直から脱した孫権は物凄い剣幕で姉を怒鳴った。

 

 

「姉様!!!」

「怒らないでって言ったのにー」

「怒るに決まっています! 私達が反何進連合の何進のように大陸中から狙われかねないではないですか!!!」

「大丈夫だと思ったのよ、勘だけどね」

「……ッ」

 

 姉の勘が神懸かっている事は知っている。姉の横にいる冥琳も黙っているという事は了承済みなのだろう。だが。そんな姉に今、抗議出来るのは私しかいないのだと孫権はぐっと飲み込みかけた言葉を絞り出す事にした。姉の判断は破滅の道だと、分かってはいるだろうが警告をするのが自身の仕事だと思ったからだ。

 

 蓮華は真面目可愛い。なので岳は……えーっと、あれだ。とりあえず死ね。

 

 

「姉様、あまりに危険過ぎます。確かに涼州州牧は約束を守り打倒袁術に力を貸しに来てくれたのかも知れません。ですが、こちらの都合などお構い無しに勝手に攻めて勝手に帰る。私は姉様と違い彼を知りませんが、彼と組むのはあまりに博打染みているとしか思えません。それにやはり抱え込んでいる人間が危険過ぎます。涼州へ即刻帰ってもらうべきです」

 

 ドがつく程の正論を吐いた孫権に、「あははー」と笑って誤魔化す……のは無理だと、冷や汗を流しながらチラッと周瑜に助けを求めるも、相変わらずだんまりを決める周瑜に少し孫策は拗ねた。「自分でなんとかしろって事ね、冥琳は厳しいんだから」と心の中でため息を吐いた。とても孫権に「実は貴女に嫁に行って貰おうと思っているの」なんて言える空気ではない。というか印象が悪すぎる。

 

 そんな空気の中、奴が現れた。

 

 

「やっほー」

「あれ? 岳、帰ったんじゃなかったの!?」

 

 帰ったはずの岳が何故か戻ってきた。こいつがその州牧かと孫権が睨む。

 

「華……曹操がいつまでも国境に兵を巡回させてて隙間が無くて帰れないとは予想外」

「どーせ何かしたんでしょ」

「いや、完全に身に覚えがないんだよなあ。なんでだろう」

 

 この男、本気で言ってるから質が悪い。

 

「まあ、あの娘は黄巾党の時も連合の時も貴方に随分執着してるみたいだったからねえ」

 

 嘘なら孫策もすぐに見抜いただろうが、本気で不思議だと思っている岳に慰めの言葉を掛けた。まさか理由が落書きで悪口を書いたからなど、流石に孫策も分かるまい。この空気から岳を利用してさっさと脱出してしまおうと孫策は思った。

 

「まあ言いたい事は沢山あるんだけど。ほら、積もる話もある事だし行きま「姉様!!!」……はい」

「涼州州牧!!! 貴方もよ!!!」

「はい」

 

 岳はよく分からないが、とりあえず孫策と共に素直に返事をした。しばらく帰れそうにないから月の所にいると言いに来ただけだったが面倒な事に巻き込まれたかも知れないとだけ思った。

 

 完全にお前のせいだけどな。

 

 お互い名乗ってもいないが、なんとなく逆らわないほうが良さそうな気がした岳は、孫策と共にそれからぷりぷり怒った孫権にドップリと説教される事となった。孫権に説教される岳を見て、存外相性が良いのではないだろうかと周瑜は思ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様、お疲れ様です」

「朱里こそお疲れ様。……うまく出来たかな?」

「ええ、問題ないかと」

 

 劉備に代わり本格的に劉備軍、いや北郷軍の代表としてこの世界に来て初めて一刀は礼儀作法を叩き込まれ始めた。所作にぎこちなさは勿論ある。元々只の学生であった一刀に古代中国の礼儀作法なぞ分かる筈がない。しかし劉備に代わり様々な人間と会い、交渉する術を身に付けなければならない。勿論孔明や鳳統が助けてはくれるが、主として、全て助けてもらい相手から操り人形かと侮られるような振る舞いではいけない。

 

 此度は近くの集落の族長との面談だった。事前に孔明と入念に会話の内容を打ち合わせた。臨んだ面談の内容は細部の違いはあるもののほぼ孔明の予測と同じであった。孔明も一刀の横に控えてはいたものの、面談は一刀一人で済ませる事が出来た。唐突に増えた仕事に加え、孔明や鳳統から所作の指導、しかし今までやっていた武の稽古も減らさない。端から見て一刀は多忙を極めた。幼い軍師達も彼を休ませたい。だが時間が圧倒的に足りないのだ。

 

「そっか。良かった。朱里達のお蔭だね」

「いえ、ご主人様の努力の賜物です」

「ありがとう。朱里達がしっかり教えてくれるお蔭だよ。一人じゃ何も出来ないから。これからも指導頼むよ」

「……はい」

 

 一刀は音を上げない。一番辛い筈なのに、笑顔で感謝を述べる一刀に孔明は心から感謝した。

 

 さしもの孔明も、幼女から躾をされている時間に一刀が幸せを感じ、ご褒美だと思っているとは思うまい。



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18.二虎競食の計

短いです


「品の無い挑発しちゃってごめんね?」

 

 

 曹操は突如城内に現れて謝る我らが岳君に、とても複雑な気持ちでため息を吐いた。ていうかどうやって忍び込んだんだろう。岳の能力がどんどんおかしくなっている。

 

 曹操にとって岳は元々欲していた人材である。いや、欲していた男である。岳の才覚を見出だし育てたのは自分だという自負が曹操にはある。曹操が私塾時代を楽しき思い出に思えるのはこの男と、袁紹と三人でめちゃくちゃやっていたからだ。

 

 天の国出身を隠し、自らの身一つで魔都洛陽で成り上がったという事実。いくら袁紹のコネを使ったとは言え、毒蛇だらけの宮中で生き残るだけの政治力があったという事になる。それは曹操には無かったものだ。岳はお茶飲んで遊んでただけだけど。

 反何進連合で今や大陸中にその名を轟かせる事となった暴挙は並み居る諸侯の度肝を抜いた。何をしでかすか分からないこの男を敵に回してはならない。味方にもしたくない。あの場にいてそう思わなかった人間がいただろうか。あの瞬間、この大陸で最も精神的に優位に立ったのは間違いなく岳である。本人は何も考えてないけど。

 大陸中の人間が曹操と岳を比べれば、曹操を信じ付いて来てくれる大切な仲間以外、少なくとも現在は岳を脅威だと言うだろう。

 

 かつて岳は曹操を天元突破する者だと言った。頭の両サイド見て言っただけだけど。

 岳は曹操に並び立つ為に相対したいと曹操からすれば熱烈な恋文を送った。ただの断る方便だったけど。

 

 

 岳こそ、己の覇道を最も信じている人間なのだろうと曹操は思った。

 

 現在、大陸は次なる舞台に移行しようとしている。今最も天下に近いのは言うまでもなく袁紹である。調子に乗るとバカだが、戦前に相手より多く兵と物資を用意し物量押しで戦う。そんな単純かつ最も優れた方法を取れるのが袁紹の強さである。袁紹が河北を制すれば次は自身との戦になる、というのは間違いないだろうと曹操は見ていた。曹操が袁紹に勝つには策に策を重ねなければならない。先日、曹操はその差を埋める為、青州黄巾党を幕下に迎えた。確かにその差は縮まったが、縮まったというだけだ。

 

 だが、先日その差を更に埋める出来事が起こった。

 

 以前、恋文を貰った後にスルーされたあの挑発が無ければ、果たして曹操はあの落書きを見た事で全力で追えと言っただろうか。袁術軍とぶつけられ一杯喰わされたと知った時、散々踊らされた曹操は流石にぶちギレていたのだが、その後思わぬ出来事が起こった。袁術が孫策に破れたとの報が入ったのだ。これには戦をしていた袁術軍も浮き足だった。袁術軍からすれば攻めてきた曹操軍と戦っている間に帰る場所を失ったのだ。ここで曹操が大陸最強のカリスマを発動した。なんと袁術軍をその場で口説き落とし、そのまま併合したのである。

 

 河北の情勢が無ければ、恐らく曹操はそのまま南下し孫策と戦になったであろうが、流石にそこまでは望まず曹操は城へ戻った。そして現れた岳を見て、腑に落ちた。

 

 曹操の思い人が、袁術軍を併合するお膳立てをやってくれたのだと曹操は理解した。ただ単純に、岳が支援をと申し出ても曹操は首を縦には振らない。それは岳とて理解しているだろう。曹操の性格を理解している岳だからこそ、こんな回りくどいやり方で支援をしてくれたのだ。そして袁術軍を併合し終わった今だから、岳は目の前に現れたのだと曹操は理解した。

 

 話を聞いた孫権に怒られて、悪かったかなーと思って謝りに来ただけです。

 

 

「……貴方は、そう言う物言いをするのね」

 

 あくまで、落書きの謝罪に来た。という形を取る岳に曹操は微笑んだ。感謝を言ってもこれでは岳の気遣いを台無しにしてしまう。そういう気遣いを、曹操は好きだと思った。いやほんとに謝罪に来ただけだけど。

 

「……駄目?」

「良いわ。確かに傷付いたけど不問にしてあげる」

「まじで!?」

 

 やったぜ! と言う岳に可愛いなと微笑んでしまった曹操は岳の前ではポンコツ華琳様である。

 

「岳」

「ん?」

「麗羽とは何か話をしたかしら。例えば……貴方の婚儀について、とか」

「え? あー」

「したのね?」

 

 いっつも袁紹との話は適当にやっているので岳は全然覚えていないが、そういや先日の文にそんな事書いてあったなと思い出した。

 

「華琳と決着着けたら迎えに行くとかなんとか言ってた気がしないでもない」

「そう」

 

 袁紹もやはり同じ気持ちという事を確認した曹操は、岳に向き合い力強く言った。

 

「ええ、決着が着いたら迎えに行くわ。私がね。待ってなさい」

 

 

 

 それは死刑宣告か何か? と岳は思った。

 

 後の世の話になるが、袁紹と飛穂高との間で袁紹が曹操を攻める。という事をやり取りする文が残っている。そして数的に不利にあった曹操を飛穂高が陰ながら支援した、という事実が曹操の手記に残っている。この事から、飛穂高が袁紹と曹操の共倒れを狙った、自らを餌とした二虎競食の計を仕掛けたのだ。というのが後の歴史家の定説となっている。つまり、全部岳君が悪い。

 

 

「ま、とりあえずお茶でも飲んでいきなさいな」

「やったぜ」

 

 曹操の寝室にて、一服茶を飲んだ岳は何か盛られていたらしく気付いたら岳のアレが勃起していた。そして部屋を訪れたネコ耳軍師に見つかり大騒動に発展し、城内で勃起したまま壮大な鬼ごっこが始まった。逃げる途中、飛び込んだ部屋が曹洪であり、タイミング良く、いや悪く男嫌いな曹洪に勃起した一物を顔面に押し付ける事になる事案が発生したりしながらなんとか逃げた岳を見て、久しぶりに岳に仕返しが出来たと曹操は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という訳で謝ってきた」

 

 岳から、曹操の城に忍び込んで曹操に謝ってきたと聞いた孫権は頭が痛くなった。そもそも、孫家の血筋のせいとも言えるが、怒りのまま初めて会った、しかも立場ある人間に説教してしまった自分を恥じ、冷静になった後に孫権は謝罪した。岳は「いや悪いのはこっちだから」と孫権の謝罪を受け入れて、あの件は岳の懐の深さを示す、で終わった筈だった。なのでいきなり同盟国でもない曹操の、しかも寝室に忍び込んで謝罪してきたなど言われては「なにこの人」と孫権がドン引きしてもしょうがないと思う。

 

「……流石、破天荒って事かしら。州牧殿自ら謝罪に向かわれたのも、その行動も驚きです」

「いやー、照れるわ」

 

 褒めてないわと心の中で突っ込む孫権は、やはり関わってはいけない人物だわと改めて思った。




ついに来週孫呉の血脈が発売されますね!
作者は当然買います。なのでプレイ終わるまで投稿出来ないかも知れませんが皆さんも買うでしょうから問題無いよね!新キャラねじ込むかも知れませんがいいよね!インターネットラジオで風音様が一番売れて欲しいって言ってたから皆買おう(ダイマ


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19.劉備、消える

 後に平和と豊穣の神として奉られる孫策は周瑜に言った。

 

「ねえ、思ってた感じと違うんだけど」

 

 後に交渉の神として奉られる周瑜は孫策に応える。

 

「……岳に言え岳に」

 

 

 

 

 

 特に戦をする事もなく国を手に入れた孫家は、結果的に自軍の戦力を失う事なく後々厄介になりそうな袁術軍を曹操に押し付ける事に成功していた。本人達は「あ、そういえばそうね」くらいの意識である。そして曹操は戦力の増強に成功したものの、当然想定外に増えた万単位の兵を食べさせる為の膨大な食糧が必要となり、その対処に苦慮する事となった。

 

 孫家にとって最も大切なのは、やっとの思いで取り返した建業であり大陸の王となる事ではない。だから周瑜は曹操に話を持ち掛けた。「互いの不干渉、不可侵を条件として兵糧を安く譲ろう」と。曹操も背に腹は代えられない。孫家からすれば、元々袁術軍を養う分の糧食を金に換えるだけである。流石にプライドの塊である曹操はこのまま受ける事には難色を示したが、配下も「ご飯無いんですお願いします」と曹操を説得。交渉により多少の条件の緩和を足したものの、不穏分子となりえる元袁術軍を押し付けた上で更に曹操の祖父の代から溜め込んでいた金子を手に入れるという事を労せず成し遂げた。曹家の貯蓄、無くなる。あれれー? 誰のせいかなー?

 

 そして、本来であればここから南部の統一に戦国時代の東北の様にグダグダかつ血で血を洗うにも関わらず、三国志的にはやはり伊達正宗が登場するまでの東北みたいな地味な時代に突入する筈であったのだが、曹操から巻き上げた金子で豪族を抱き込む事に成功した為に戦なんぞ無く交渉のみで孫家は統一に成功した。なので本来ヒャッハー状態になる筈だった孫呉は、まったくヒャッハーせずに暇なのでひたすら富国の為の自治に精を出す事となる。周りが戦ばかりだと言うのにまったく戦をせずにどんどん国力だけ大きくなり、あそこは平和だし豊からしいと周りからどんどん人が流れてくる事にもなるのである。どうしてこうなった。

 

 

 あ、そういえば幽州はなんやかんやあって特に面白くもなく攻めてきた袁紹によってあっさり滅びました。

 

 

 サクッと白蓮をやっつけた袁紹は返す刀で高笑いしながら曹操を攻める……かと思いきや、「田畑の収穫の時期だから帰りますわ!」と言って一旦領土へ帰って行った。袁紹の周囲の人間は「麗羽様が私怨より政を優先しただと……」と驚きを隠せなかったらしい。直ぐ様攻めてくると思っていた曹操は訝しがるも、袁紹の性格上どうせすぐに攻めてくるだろうと何時でも出兵出来るよう備えていた。が、来ない。収穫が終わっても来ない。しかし曹操側から攻める訳には行かない。戦力比は袁紹が上なのだ。わざわざ戦線を伸ばし、糧食の不安を抱えながら不利な攻城側に回る訳にはいかなかったからだ。袁紹とやるならこちらの領土に引き込んでからだと決めていたからだ。

 

 曹操は袁紹に踊らされていた。曹操はその事実に苛立ちを隠せない。でも春蘭が夜伽でストレス解消の犠牲になるから問題無いね。しかし肝心な所はおばかになる袁紹が曹操を小馬鹿にしたような行動を意図して取るだろうか。

 

「岳さん、たんとお食べ下さいまし」

「ヒャッハー」

 

 実はどさくさ紛れに袁紹の元を訪れていた岳。袁紹は戦よりも岳を歓待する事を優先した。ただそれだけである。喧嘩より男を取っただけである。そんな事を知らない曹操は袁紹に良いように振り回されていると思い苛立ちを隠せない。こいついつも岳のせいで苛ついてんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私決めた!」

 

 一刀にトップを引き継ぎ引きこもり気味になっていた劉備が、周りから見れば突如決意を固め、劉備のお世話係となっていた孫乾というメイド忍者と一緒に置き手紙を残して消えたのだ。

 

 

『私ずっと考えてたの。だって袁紹さんだって曹操さんだって、他にも沢山岳君の事が好きな人一杯いるのになんで皆一つに成れないんだろうって。ほんとは私一人だけの物にしたいなーって思った事だって勿論あるけど、そうじゃなくて岳君なら皆一つに纏まる事だってきっと出来ると思うの。でもね、分かったんだ。その為にはきっとこの国が邪魔なんだなって。だから私、一度この国っていう枠組みを壊す事にするね。そしたら皆一つに成れると思うんだ!』

 

 

「……置き手紙については他言無用だ。とにかく桃香様を探せ!」

 

 完全にあかん事、クスリでもやってんちゃうのかと言いたくなるような事が書いてある手紙を関羽が即座に握り潰し、劉備捜索の指揮をとった。劉備軍、いや北郷軍の面々の顔は大なり小なり焦りや悲しみの色に染まっていた。

 

 

「皆、そんな顔してたら民も兵も不安になる。大丈夫、桃香は見つかるさ。だから俺達がそんな顔して皆の不安を煽るような事をするのはやめよう!」

 

 

 そう言って仲間を励ましながら、民の事を第一に考えたのはいきなりトップ張れやと無理難題を押し付けられていた一刀だった。勿論劉備の捜索はしながらも、皆を励ましながら民の不安を消していった一刀は、劉備が消えるという最大のピンチの中で名実共に北郷軍のトップとしての信頼を獲得していった。その一刀は内心、「桃香、五胡を纏めて襲ってきたりしないよな……?」とか思ったりもしたが、まさか五胡に加えて南蛮とクシャーナ朝(インド)まで統一してラスボスとして襲ってくるなんていくら魅力チートでもないよね! ……ないよね?(フラグ)

 

 あ、どうでもいいけどこーそんさんとかいうモブっぽい人が北郷軍に加わりましたけど特に描写はないです。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、あんた何やってたの?」

「え、袁紹軍の内部調査を少々……」

「へえ? そう。袁紹の所で六十日ぶっ続けで宴会する事が調査、ねえ?」

 

 散々贅沢を楽しんだ岳が、一人だけ二月も遅れて涼州に帰ると速攻で詠ちゃんに捕まりしばかれ踏まれながら怒られるというご褒美を頂いた。宴会して遊んでいたのはもろばれである。

 

「……私達から離れて随分楽しそうじゃない。……ばか」

「ちょ、やめ、あ、そこ踏んじゃやああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「……益州を?」

「はい。劉備様の後継者である北郷様に益州をお救い頂きたく……」

 

 

 その言葉は苦しい。無理がある。劉姓というのは特別な姓である。しかしながらやたらめったら自己申告で「俺は光武帝の遠縁や」「俺は中山靖王の遠縁や」「じゃあ俺は劉邦の遠縁で宜しく」と劉姓を名乗る者は増えまくった。どれくらい増えたかと言えば、現代中国においても五大姓に数えられるくらい爆増した。しかし劉備玄徳は違う。いや実際くっそ怪しいけど公的に中山靖王の末裔やねと漢王朝からお墨付きを貰っているのだから、そんじょそこらの劉姓を名乗るチンピラとは格が違うのだ。しかしそんな劉備でも劉璋とかいう魯恭王であった劉余(景帝の第4子)の末裔という歴としたホンマモンの劉姓の持ち主からしたらゴミみたいなもんだろう。そんな劉璋の悪政に苦しんでいるので同じ劉姓を持つ劉備に助けを求めたら劉備がいなかったとか益州の人かわいそう。

 

 

「そもそも益州に行くには荊州を跨ぐ事になってしまいます」

 

 

 孔明は言う。一刀達のいる豫州の西、荊州の更に西に益州はある。そして荊州は孫策の地である。孫策が北郷軍をわざわざ通してやる義理などない。ついでに言えば南の揚州も孫策の地である。北と東は曹操。……あれ、詰んでない?

 

 

「それでも困っている人がいるなら放っておく訳にはいかないんじゃないかな。そもそも俺達は『義』によって立ち上がったんだ。それを捨てたら俺達じゃなくなる。……青臭いのは分かってるんだけど」

「それでこそ我らが主です」

「にゃはは。悪い奴は鈴々がやっつけてやるのだ!」

 

 

 一刀の言葉に趙雲が答え、張飛が蛇矛を掲げながら叫び、皆が頷いた。漢王朝の腐敗と圧政から民を救う為に義勇軍を作り立ち上がったのだ。始まりの桃園三姉妹の長女こそ不在であるが、州牧という地位についても、驕らず、忘れず、民と向き合い民の為に戦う事は変わらない。それを一刀が示したのだ。

 

 

「……分かりました。少し時間を頂けますか」

「ごめん、朱里。無茶を言って」

「いえ、ご主人様に仕える事が出来て良かったと心より思いました」

 

 

 孔明の本心である。無茶に無茶を重ね押し付けられながら、それでもめげずに、それでも真っ直ぐに前を見て進む一刀に感謝し支えようと心から思ったのだ。そしてロリっ娘にそんな事言われた一刀は真面目にやってきて報われた! と心から喜んだという。孔明や鳳統、張飛といったロリ……じゃなかった可愛い娘の前でカッコつけたい。カッコつけたいから頑張る。男ならあるよね! 対象の見た目が幼いだけなんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「放火が出来る気がしてきた!」

「またしょうもない事思いついたのね」

 

 

 執務中に急にとんでもない事を叫んだ岳に、またかコイツと呆れ顔になる詠ちゃん。いない間に仕事溜まりまくってんだから仕事しろよと詠ちゃんは思う。

 

 

「いやほら、北郷一刀って友達いるって言ってたろ? 今実質豫州州牧の」

「ああ、『天の御使い』ね」

「実は益州に渡りたいって相談の文が届いて」

「あんな山奥に? それで? 孫策に話通してあげるの?」

「いや、麗羽と華琳がぶつかる日程を教えるだけだよ?」

「どさくさに紛れてって訳ね。……って待ちなさい。なんで袁紹と曹操の戦の日取りが分かるのよ!」

「え? 麗羽に見学に行くから教えてって言っただけだけど?」

「……相変わらず滅茶苦茶ね」

「なのでそれに合わせてうちも雍州貰いに行こう」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 ついに中原の覇者を決める袁紹と曹操の戦いが幕を上げた。それを横に見ながらちょいとごめんよと北郷軍が豫州の民を引き連れて大移動を開始したのだが、曹操は袁紹相手に全力を注ぎ込んでいた為にほぼ素通りとなった。曹操は袁紹と北郷が結託して北郷を囮として曹操の隙を作ろうとした戦略だと思い、その思惑にのってなるものかと勝手に勘違いしてしまったのだが、袁紹がそんな事考えられる訳無い。

 そして、大陸中が中原に注目を集める中、涼州が誇るヒャッハー軍団が気晴らしと息抜きの為に雍州を蹂躙した。呂布、馬超、張遼とかいう無敵の軍団が圧倒的火力で攻めて雍州はあっさり涼州に屈した。尚、長安を燃やそうとした岳は詠ちゃんにめっちゃ怒られて燃やし損ねた。




……あれ?

……主役だれだっけ?


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20.岳の大陸中を巻き込んだ計略

 意気揚々と益州へ乗り込んだ一刀達を待っていたのは劉璋による激しい抵抗ではなかった。一刀達が益州入りしたら善政を敷いていた一刀達を大歓迎する暴徒が勝手に反乱を起こして劉璋は死んだ。で、なんやかんやあって一刀が州牧を継いだ。孔明と鳳統が渾身の政治力を発揮し、そこらの豪族をオハナシで凪ぎ払った結果である。これには一刀も苦笑いである。

 

 

「天使がいた……」

 

 

 黄忠の娘、璃々を見て思わず漏れた一刀の言葉である。尚、恋姫において璃々ちゃんはマジの聖域である為、YESロリータNOタッチという紳士の掟を絶対破ってはならないのである。あと天使とか言ってるけど天の御使いはお前だからな。

 

 一刀が天使に出会った、つまり黄忠や厳顔、あと最近の恋姫で憎まれ役を押し付けられてる桃香loveになる筈だった魏延も無事に北郷軍に加入した。魏延の天敵、馬岱はいない。そして崇めるべき桃香も当然出会ってすらいない。つまり魏延の北郷に対する反発は笑えないレベルになるのが必然。本来であればそこから口説いて抱いて取り込める筈なのに、この一刀の性的嗜好は完全にロリータに向いているので育ちきった、ていうかバインバインな魏延を口説く訳がない。

 

 つまり反乱必至かと思いきや、北郷が民の為に善政を敷き、前線で指揮を取る武人な側面や周りを鼓舞しながら戦う様も見せ、女性に色目を一切使わず、更に子供にとても優しい男性という色欲魔的な面が一切抜けている事によって魏延も素直に北郷を尊敬出来たようだ。大人な女性に興味無いだけだけどな。

 

 なんかふわふわしたうちに益州を制した北郷軍。益州という山脈に囲まれた天然の要塞は北の雍州側を主に守りを固めておけば守りに堅い立地となっている。そしてその雍州は、事実上同盟関係といっていい岳が握っている。後、南蛮は何故か大人しい。なので政やら開拓やらに力を入れる事が出来る期間となった。つまりこの後、蜀を名乗る北郷軍はまったりし始めたのである。

 

 

 

 

 

 

「きいいいいいい!!! 悔しいですわ!!!」

「ちょ、麗羽様! 落ち着いて!」

 

 荒れる袁紹をなだめる文醜。中原の覇者を決める戦い、数に勝る袁紹軍と、将の質と兵の練度で勝る曹操軍の戦いは実に紙一重だった。ていうか袁紹軍が押していたのだが、勝ちが見えた途端に袁紹が調子に乗って「全軍突撃ですわ!」と言わなければ袁紹軍が勝っていた。だが、いつか袁紹が調子に乗って突撃をかましてくると読んでいた曹操が耐えに耐えて、突撃してきた袁紹軍を、最後まで袁紹軍の背後に温存しておいた曹操軍最強を誇る曹純親衛隊『虎豹騎』というムキムキマッチョ軍団が雄々しく袁紹軍の背後を襲って袁紹軍の中核に穴を開けた。混乱する袁紹軍に戦時だけは有能な夏侯の惇ちゃんが機を逃す筈もなく、当然常時有能な妹の淵さんも惇ちゃんの突撃に呼応。戦時の勘は天性のものを持つ曹仁も惇ちゃんの逆サイドからまったく同じタイミングで仕掛け、天才曹操も虎の子である親衛隊を引き連れて自ら斬り込んだ。

 

 逆に言うなればここまで劣勢に追い込まれ、自らまで斬り込まねば勝機を逃すという判断を曹操にさせた袁紹もあっぱれであったが、やっぱり最後はこうなるんですね分かります。

 

 

 

 崩壊した袁紹軍の中から袁紹を救いだした文醜と顔良は、思ったより袁紹が大人しい事を不思議に思った。絶対駄々捏ねて面倒な展開になると思っていたからだ。しかし、初めは悔しがっていた袁紹が、何か考えているのが普段を知る二人からはとても謎に映った。

 

「麗羽様」

 

 逃走先を読んでいたかの如く、三人の前に田豊が現れる。田豊、袁紹軍一の苦労人である。

 

「真直さん、悔しいですが分かっていますわね?」

「はい、準備は出来ています」

「麗羽様?」

「長安へ向かいますわ! まったく、持つべきは善き夫ですわね! おーほっほっほっほっほ」

 

 

 ちなみに結婚してませんよ?

 

 

 

 

 

 

 

 撤退しながら袁紹が取ったのは焦土作戦である。袁紹の領土の全ての城から物資や糧食を、全部長安へ送ったのだ。歴史上最高の嫁入り道具のつもりで全てを持ち出した袁紹。青ざめたのは曹操である。

 

「見捨てるが得策かと」

 

 そう新参軍師郭嘉が提言する。それは人道を無視すれば正しい判断だった。だが郭嘉の主は受け入れぬだろうなとも分かっていた。

 

「倉を開けなさい! 民を救わずして何が王か!」

 

 曹操は郭嘉を一喝した。それでも郭嘉も言葉を続ける。

 

「予備の兵糧全て放出する事になります。もはやしばらく戦どころでは有りません。宜しいのですね?」

 

 曹操は郭嘉の目も見ずに言った。

 

「くどい!」

「……はっ」

「……稟、忌憚のない意見、良く言ってくれたわ。これからも遠慮無く言って頂戴」

「はっ!」

 

 焦土作戦。私塾時代に燃やすの大好きな岳が言っていた戦術であった。曹操の肌にはまったく合わぬ物であったが、それを共に聞いていた袁紹ならそれを取るのもおかしくはないと曹操は思った。実際、効果は絶大であった。向こう数年は戦は出来ぬ事態に陥ってしまったのだ。それどころかもし蝗害が起こったら……これは考えるのも恐ろしい。しかし、大陸にて最も肥沃(ひよく)であった袁紹の土地は奪った。孫策とも不可侵を既に結んである。時間さえ掛ければ、時間は曹操に味方する。こうなるとあの時結んだ不可侵が大きな意味を持ってきた。逃げた袁紹とて建て直しには時間が掛かるであろう。

 

 

 曹操が違和感を感じた。

 

 

 そもそも不可侵を孫策と築いたのは岳が袁術軍を曹操に渡したから(と曹操は思っている)である。その孫策は曹操から受け取った金子による南部の併合直後で国を纏めている最中だと聞いているので容易に動く事は出来ない。

 

 今回の戦と同時に動いた北郷軍は、間違いなく益州へ向かっている筈だと曹操が集めた情報が告げている。悪政と噂の劉璋の後となれば北郷軍もしばらくは動けまい。だが、これほど都合良く動けたのは袁紹の動きを知らねば、つまり岳の手引きが無ければ不可能であっただろう。

 

 曹操には袁紹が逃げたのは恐らく長安の方だと見当が付いた。長安は岳が落としているはずである。袁紹を岳は間違いなく受け入れるであろう。大都市長安であれば袁紹の膨大な物資や兵も受け入れられるであろう。だがいくら袁紹とて大敗の後である。すぐには建て直すのは困難であろう。

 

 曹操自身は岳が昔、いや戦前に袁紹と会っていたという噂から戦前にこの策を岳から授けられた可能性が高いこの袁紹による焦土作戦によってしばらく身動きが出来ない。

 

 

 

 つまり、大陸中が岳一人の手によって戦が出来ぬ、一時的ではあるが平和が訪れたという事になるのではないか。

 

 曹操は身震いした。全ては岳に踊らされていたというの? と。やはり、やはり岳こそ我が宿敵にふさわしいと。いつの間にか自身を超える視野を身に付けていた友を超え、手に入れ夫とし磐石なる国を王として作り上げてみせると誓った。

 

 

 

 曹操よ。全部偶然だぞ?




短いですがキリがいいので


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21.童貞同盟とかいう恥ずかしい噂

 反何進連合とかいう漢王朝の終焉の切っ掛けを仕掛け、戦乱の世の火種をそこらじゅうにばらまき、大陸各所の戦争を意のままに操っている(曹操談)男、『破天荒』『童貞王』『二大童貞の片割れ』飛穂高は言った。

 

「焦土作戦とか俺がやりたかったのに……」

 

 そして詠ちゃんに蹴り飛ばされた。残当。

 

 本当に余談だが、作者は岳の事を処女ビッチ男版と思い始めて、ヤリチン童貞だとリズム感がいまいちだと悩み、むしろ処女ビッチで合ってるんじゃね? などと悩んだ結果、『処女ビッチ』≒『ゼロ・レクイエム』という結論に達しました。尚、世界観に合わないので呼べない模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのっ」

「どしたの亞莎?」

 

 最近岳とあまり話せていなかった関羽絶対殺すウーマンこと呂蒙が自身の好物である胡麻団子を持って岳の執務室へやってきた。賈クも「岳、休憩ね。僕は霞に話があるから外すわ」と空気を読んで離れた。筆頭軍師である賈クは岳と一緒にいる機会が非常に多い。賈クは呂蒙が良い娘である事を知っている。だから岳との仲を深める機会を望むのであればそれとなくフォローしていた。

 

 それは軍師としての計算もあった。何故なら岳は国のトップとして致命的に向いていない放浪癖を持ち、美女美少女から好意を寄せられても最後の一線は越えずにいつまでもふらふらしっぱなしだからである。ついこの前など三ヶ月近く城を空けたのだ。ぶっちゃけいなくても成り立つレベルである。いやいないと馬超達が言うこと聞かなくなるのでまた涼州が荒れちゃうんだけど。

 

 なのでいい加減誰かに手を出してなるべく国に居て欲しいと賈クは思っていた。ここで自分が、とは月の顔がちらついて出来ないのが詠ちゃんらしい所である。ま、なるべくとか思っている時点で詠ちゃんも岳には甘々である。

 

 

 

「これ美味しいね」

「はいっ!」

 

 垂れ下がった袖からちょっとだけ出た両の手で胡麻団子を掴み、もふもふと食べる亞莎可愛いとか思ってたらいつの間にか呂布も現れてもふもふと食べ始めてた。これ一個以外全部恋に食べられる奴やと岳はこの時点で食べるのを諦めた。

 

「でも岳さん良かったんですか? 長安そのまま渡しちゃって……」

「いいのいいの」

 

 長安にやってきた袁紹に岳はそのまま長安を明け渡した。ヒャッハー軍団のストレス解消、ガス抜きが出来たからいいやとか思ってたりする。『長安は俺には都会過ぎるから』とか洛陽を去る時の董卓をほぼパクった台詞を残して岳は長安を袁紹に渡した。元々首都洛陽に住んでいたのに長安が都会過ぎる訳がない。袁紹は、岳がリベンジの機会をくれたのだと思った。だから『いいですわ! 次こそはあのちんちくりんをケチョンケチョンにして差し上げますわ!』と鼻息を荒くしたという。

 

 ぶっちゃけ曹操の防波堤に袁紹を再度利用しただけである。汚い。まあ大都市の運営は慣れているので適材適所と言えばそうとも言える配置でもあるのだが。

 

「あ、あのっ、恋さん、岳さんの分、そのっ」

「?」

 

 吸引力の変わらないただ一つの掃除機かの如く、胡麻団子をどんどん吸い込んでいく呂布に呂蒙が慌てる。

 

「恋、美味しい?」

 

 コクリコクリと頷きながらも食べる手を止めない呂布。

 

「亞莎、恋も美味しいってさ。良かったね」

「……はい」

 

 食べないでとは言えず、ガクリと項垂れる呂蒙。

 

「亞莎、せっかくだし一緒にどっか行こうか」

「……はい!」

 

 深く沈んでいた呂蒙の顔が太陽のようにパアアアっと笑顔で輝きだした。尚、少しの休憩だと思っていた詠ちゃんはもぬけの殻となった執務室を見て当然キレちゃうのだが、しばかれるのは岳一人なので何の問題もないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『二大童貞の片割れ』北郷一刀の元へ、使者が来た。ちなみに世間では岳と一刀は『童貞同盟』という契りを結んでいると言われている。童貞なのに契りを結ぶとか矛盾してると思うの。ていうかなんで童貞だって大陸中にバレてるんだろう。

 

「……同盟?」

「はい」

 

 南部を制定し、『呉』と国名を名乗った孫策から北郷軍に同盟の使者が来た。これは袁紹の河北四州と元北郷軍がいた空き巣となった豫州もとり、皇帝不在の大陸においてついに『魏』を名乗った曹操に対して、我々は曹操の下には入らないというメッセージだ。ついでにどさくさ紛れに北郷軍も『蜀』を名乗った。

 岳君はというと「我々はあくまでも漢の臣下である」というらしくないメッセージを各所に送り付け、国名を名乗る事はしなかった。これに真の臣下である董卓が感動しない訳がなかったようだが面倒臭かっただけである。

 

「未婚である北郷殿と孫家の者が血縁を結べば、大陸南部の平和は磐石である、と我が主孫策は申しておりました」

 

 使者として来たのは孫家の宿将黄蓋である。一刀はその言葉に目を閉じて考える。孫家といえば巨乳軍団である。一刀からすれば胸など無駄脂肪の塊である。巨乳を見るくらいならドラム式洗濯機を眺めているほうがマシとさえ思っている男である。拒否しなきゃ死んじゃうと、チラリと一刀が側に控えていた孔明に目配せすると、孔明がニコリと微笑んだ。え、受けろって事? ほんとに? 本気で無理なんだけどと口に出せず。どうやって拒否しようかと一刀は悩む。

 

「孫家の末娘である孫尚香はまだ幼くはありますが、将ら「受けます。同盟を結びましょう」……うむ、主も大層喜びましょうぞ」

 

 宿将黄蓋、ドン引きである。

 

 当の孫尚香は、「シャオの魅力でメロメロにしてやるんだから!」と孫家で意気込んでおり、それを孫家の面々は温かく見守っているのだが、シャオは可愛すぎるのでマジで内心メロメロになる模様。尚、紳士の精神で童貞は守り抜く事でシャオも「こんなに大切にしてくれるんだ!」と惚れてしまうのであった。



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22.シャオは可愛い(シャオは可愛すぎる)

「鈴々、こんな所にいたのか」

「愛紗……」

 

 

 城から少し離れた川岸に、一人ぽつんと鈴々が踞っていた。城内は一刀の結婚相手である孫尚香こと、褐色天真爛漫ロリ天使サキュバス小蓮が熟女可愛い黄蓋に実はこそっと付いてきていて、一刀と出会っていたのがつい先日の話だ。

 

 

「皆が心配しているぞ」

「……うん」

「隣、いいか」

「……うん」

 

 

 それだけ言って愛紗は鈴々の隣に座った。鈴々が身体を愛紗に寄せ寄りかかる。愛紗は何を言うでもなく唯、鈴々を撫でた。

 

 

「……愛紗」

「どうした?」

「結婚、めでたいのだ」

「そうだな」

「……胸がチクチクするのだ」

「……そうか」

「鈴々、まだおめでとうってお兄ちゃんに言えてないのだ。鈴々、悪い娘なのだ……」

「鈴々……」

「お兄ちゃん、怒ってる?」

「怒っているはずがないだろう? だが凄く心配してたな」

「……城に戻らないと駄目なのだ」

「そうだな。だが、もう少しこうしていても良かろう」

 

 

 そう言って愛紗が鈴々を抱き締めた。鈴々は愛紗の胸で泣いた。何が悲しくて泣いているのか、鈴々は自分でも分からなかったが泣いた。そんな鈴々を抱き締めながら、「あの鈴々が大人になったものだ」といつの間にか自分より成長しているように感じた愛紗であった。

 

 

 

 

 

「か~ず~とー!」

「ど、どうしたんだ、シャオ?」

 

 

 一刀と小蓮は良好な関係を築きつつあった。婚儀は呉で行う予定で、本来ならそこで初めて小蓮と会うはずだったのだが、こっそり小蓮が付いてきちゃったのでしょうがない。予定通り呉で婚儀は執り行うが、その為の準備で忙しくしていた所、いきなり怒鳴り込んで来た小蓮に一刀はびっくりしたのだ。

 

 

「どーしたじゃない!」

「……シャオ、落ち着いて!」

「一刀! 女の子を泣かせるなんて駄目なんだから!」

「待って、話が分からないよ!?」

「聞いたわ! 一刀の事を好きな娘いるじゃない!」

 

 

 そこまで小蓮に言われて一刀は分かった。鈴々の様子は愛紗から聞いていたからだ。

 

 

「一刀!」

「うん」

「一刀の正室はシャオだよ」

「うん」

「一刀の一番はシャオじゃないと駄目なんだから」

「うん」

「だったら良いよ。その娘の所に行ってあげて」

「……シャオ」

「シャオは江東の虎、孫堅の娘よ! 舐めないでよね!」

「……ありがとう」

 

 

 これはもう、この娘には頭が上がらないなと一刀は思った。小蓮からバブみを感じる。最高かよと思いながら一刀は鈴々の元へ向かった。駄目だこいつもう色々手遅れ過ぎるわ。

 

 鈴々を探した一刀は、その姿を見て逃げ出した鈴々を捕まえ、泣かれたり謝られたり怒られた後、婚儀が終わったら鈴々を側室に迎える約束をした。なので婚儀が終わったら直ぐに鈴々と朱里と雛里も嫁になる事になった。

 

 あれれー? おかしいなー。ロリが増えてるぞー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孫呉の首都、建業。孫家の末娘がいなくなり案の定大騒ぎであったが、その建業に黄蓋が出した早馬が届きやっと騒動が収まったのだった。

 

 

「シャオ、やっぱり祭に付いていったみたいね」

「はあ、まったく誰に似たんだか」

「え、冥琳もしかして私のせいだって思ってる?」

「どうとでも思うがいい。まあ、婚儀が嫌で家出した訳ではないとだけ分かればいいさ。小蓮様の行動力と決断の早さは炎蓮様や雪蓮譲りだからな」

「北郷とシャオの印象は良好、ね。婚儀自体は予定通り孫呉で執り行う。第一子は孫呉が引き取る。……うん、いいんじゃない?」

「小蓮様はまだ幼い。お子が生まれるのは先になるが、これで孫呉も天の血を入れるという風聞を手に入れる事になるな」

 

 

 ちなみに一刀は小蓮に手を出すつもりなんてないし、小蓮が大きくなったらそれはそれでストライクゾーンから外れるので子供なんて出来ないと思うよ。ロリコン紳士は伊達じゃないよ。

 

 

「……で、蓮華様はどうするつもりだ」

「どうって……無理でしょ」

「蓮華様なら雪蓮が説得すれば行くと思うが?」

「嫌よ。可愛い妹が嫌がってるなら無理強いはしないわ」

「蜀との同盟が上手くいかなかったら説得していたのだろう?」

「冥琳、せっかく良い事言ったのに台無しにするの止めてくれる?」

「いや、雪蓮がそれくらいの政治感覚を持ってくれているのは私にとっては嬉しい事だとは思ったさ」

「どーかしら」

 

 

 孫策の当初の予定では孫権は岳の嫁に出すつもりだったが、孫権の岳に対する印象が悪すぎる為、孫策は諦めた模様。そして呉から離れる気も無くなってしまった為、蜀との血縁を結ぶ同盟の白羽が末娘に立ったのだ。つまり、一刀君は岳君に感謝してどうぞ。でも、孫権はこの世界で岳をまともな視点で見てる数少ない人物なので調教師として是非派遣してもらいたい。でも蓮華に調教されるとかご褒美でしかないのでやっぱりやめてどうぞ。

 

 

「だが曹操が岳との同盟に動く可能性は?」

「無いわね」

「言い切るな?」

「同盟なんてする性質じゃないでしょ。大陸中を飲み込んで自分の物にしちゃうつもりでしょ? 岳と同盟にしたって血縁無しじゃ正直薄いでしょ」

「曹家の筋の者を嫁がせれば良いだけだろう?」

「それこそ無いわね。ま、魏の中では話くらいは出てるんじゃない? 絶対曹操が首を縦に振らないでしょうけどね」

「まあそうだろうな。だが雪蓮、血縁無しでは薄いと言ったがそれは我が孫呉も同じではないか?」

「それはほら、信頼してるもの」

「……岳を信頼しているのは分かるが」

「周りまでは分からない、でしょ? 大丈夫よ。多分ね」

「ふむ」

「それにほら、いざとなったら子供だけでも作る事にするから」

「本気か?」

「岳以上の男が見つかるとは思えないし、そういう選択肢も当然じゃない?」

 

 

 孫策が岳の子種を狙う事を考え始めた。普通に考えればこんなエロいお姉さんに誘われれば流れに流されるのが当然ではあるが、その流れは上手くいかないんだよ。岳君は終身名誉童貞だから。




最近短くてごめんなさい。投稿ペースを上げたいなと思いまして。

前回の投稿日が、私の誕生日だった事に日付を跨いでから気付きました。悲しくなったのでコンビニでケーキ買って食べました。美味しかったです。

誰か祝って(泣)


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23.凶矢

皆さんコメントありがとう!

あとナチュラルに私を童貞扱いする方々へ一言!

立派な魔法使いなったら覚えてろよ!


 孫呉から婚儀の招待状が涼州に届いた。詠ちゃんは当然お祝いの使者を立てるべく岳の執務室へやって来た。

 

 

『ちょっと呉へ行ってきます』

 

 

 

「……はあ」

 

 執務室に無責任な書き置き。多分自分で行くだろうなと思っていた詠ちゃんは、今更岳が消えようがいちいち本人がいない場で怒るのも無駄だと悟っていた。ため息が出ちゃうのはしょうがないね。そんな詠ちゃんに少し遅れてポニーテールをゆらゆらさせながら翠ちゃんもやってきた。

 

 

「ちぃーっす。……なんだ、岳はいないのか?」

「ああ、翠。はいこれ」

「ん? ……んだよまたか。しょうがない奴だな」

 

 

 賈クから渡された書き置きに苦笑いする馬超。皆慣れちゃってるからむしろ岳の存在意義を疑うね。正直馬一族と董卓組が居れば涼州は完璧なので岳抜きで涼州を運営している事にまったく二人は違和感を持っていないまである。

 

 

「ま、いいか。詠、ちょっといいか」

「ええ、いいわ」

「最近、涼州内への羌族の侵入が減ってきたって話、前の軍議で伝えたろ? あれ訂正する。最近は無くなってる。なんかおかしくないか?」

「……やっぱりね」

「なんだよ。なんか知ってるのか?」

「昔ね、洛陽で情報の大切さを学ばされてから、各地に人を送ったり行商人に金を握らせて常に大陸中の情報を集められるようにしているの」

「それで?」

「羌族だけじゃないわ。匈奴・鮮卑・羯・氐・羌、烏丸、南蛮その他まで一斉に大人しくなってるみたい」

「……もしかしたら羌族を纏められるだけの強え奴が出てきて、一族纏めて一斉蜂起して襲ってくるんじゃねえかって思って話しに来たんだけど、そいつは……」

「もちろん翠の言っている可能性だってあるわ。でももしかしたらそれどころじゃないかもね」

「……誰かが異民族を全部纏めてるってか。ありえねえ、と思いたいよ」

「しかもここ数ヶ月で、よ。……まったく。岳、大丈夫かしら」

「ん? ああ、岳なら心配いらないと思う。岳の訓練の相手誰だと思ってんだよ。あたしに霞に華雄に恋だぜ? この前なんかあたしと霞と華雄で昼から日暮れまでの間、交代で相手してたけど岳の奴ついに一撃ももらわなかったからな。ま、相変わらず攻撃はひょろっひょろだけどな」

 

 

 

 岳の能力の伸びがおかしい。それは置いといて桃香ちゃんの中華滅亡計画は順調過ぎるようだねやったぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の婚儀は蜀王である北郷一刀と呉王孫策の末妹、孫尚香の婚儀である。つまり最古参である関羽雲長が一刀に付いてきているのは当然であって、そこで岳が出会うのも当然であり、「げぇっ、関羽!」と思わず叫んだ岳が何も考えて無さすぎただけである。

 

 

「……岳か」

「アッハイ」

 

 

 呉の王都、建業で城に入る前に出会った事は偶然だった。どうせ城内で会う事にはなるのだが、お互い覚悟していなかったので妙にぎこちない感じになってしまった。

 

 

「……久しぶりだな」

「デスネ」

 

 

 岳君のスキル発動、対関羽耐性ゼロ! 岳は死ぬ!(精神的に)

 硬直からなかなか脱け出せない岳に対して、関羽もまたいつも逃げられていた岳を前にドギマギしてしまった。だがここで言わずしていつ言えようか。意を決した関羽が自分に気合いを入れた。キッと気合いが入ったので思わず睨んでしまった形になり、当然岳のライフはゼロである。

 

 

「岳」

「ハイ」

「……すまなかった」

「ハイ……はい?」

「ずっと、ずっとだ。長い間、私の思い違いで岳を苦しめてしまった。許して欲しい、などと軽く言えた事ではないだろう。許せぬならこの身を斬れと言いたいが……まだ民の為に、蜀の為に死ぬ訳にもいかん。岳、何か償いをさせてくれないか」

 

 

 しおらしく謝罪する関羽を前に岳は思う。『誰だコイツ。傍若無人暴力女関羽以外の関羽なんか知らんぞ』と。そして偽物だと思った岳はその正体を暴く、又は化けの皮を剥ぐべくほぼ停止した思考回路が誤った答えを導き出して関羽の巨乳を揉んだ。確実にこれで殴られるはず! と何故かいつも通り関羽に殴られる事を期待している岳君の思考はだいぶおかしい。

 

 

「あっ……ぅん……ひゃぅ……」

 

 

 関羽は揉まれっぱなしで抵抗をしなかった。『ええっ、本気で誰だよコイツ』と思いながら岳は無抵抗な関羽に謝った。

 

 

「あ、なんかごめん……」

「……いい。岳がそれで許してくれるならなんでもするつもりだ」

「え、今なんでもって言った?」

「命はやれん。だが、気のすむようにしていい」

 

 

 思わず反射的に返した岳だが、関羽が真摯に答えた為にむしろ困惑した。くっそトラウマを植え付けられている岳であるが、ここまで下手に出られたらどうしていいかまったく分からなくなってしまったという。ちなみに思わず胸を揉んでしまったが身体を要求、なんて真似をするつもりは岳にはない。要求すれば愛紗ちゃん健気に応えてくれるのに勿体ないこって。

 

 

「あ、いや、うん。あー、その、あれだ」

 

 

 困惑が全開に出てしどろもどろになってしまっている岳を関羽は黙って待つ。

 

 

「……もう殴らない?」

「我が剣と真名に誓って」

「そう……。……はあ、分かったよ愛紗。いいよ」

「……! 許してくれるのか!」

「まあ、ね」

 

 

 だってこんなしおらしい関羽なんて関羽じゃないもの、と岳は思う。お前殴られたいのか殴られたくないのかどっちなんだ。

 

 

「では昔みたいに仲良くしてくれるか!」

「昔だったら殴られてた記憶しかないんだがそれは」

「あう……」

「だから改めて宜しく、愛紗」

「! ああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなあったが、岳はようやく城に入った。城内に通された岳は孫策の元へ案内された。

 

 

「あら、やっぱり本人が来たのね」

「当然でしょ」

「賈クに怒られるわよー?」

「詠ちゃんはなんだかんだ許してくれるんだよなー」

「あんまり甘えてると見離されるわよ?」

「雪蓮があまり言えた事ではないがな」

「あ、冥琳ひどーい」

 

 

 孫策の元へ通された岳は孫策に周瑜と久しぶり、という感じがあまりしないが久しぶりに会った。ケラケラ笑いながら話す孫策に仕方ない奴だと笑いながら周瑜を見て、詠ちゃんも連れてくれば良かったかなーと岳は思った。

 

 

「じゃあ冥琳、私ちょっと行ってくるから」

「ああ」

「あれ、どっか行くの?」

「ええ、あ。そうだ、岳も来る?」

「……雪蓮、いいのか?」

「岳なら良いわよ。だって私の親友の恩人よ?」

「付いていくのはいいけど何処に?」

「ちょっとお母様に報告にね♪」

 

 

 孫策に連れられて、岳は孫家一族の他は極一部の者しか知らぬ孫家の墓に訪れた。城を出る際、孫権に「姉様、どこへ行かれるのですか?」と聞かれ、「決まってるじゃない、逢い引きよ逢い引き♪」と孫策が酒瓶を片手に応え、孫権に呆れ顔で「……婚儀までには戻ってきて下さい」とため息を吐かれた。孫策の信頼度も戦が無ければそんなもんである。

 

 

「……母様、もうすぐシャオの婚儀が始まるわ」

 

 

 墓に母の好きだった酒を添え、手を合わせ孫策が無き母に報告をする。そんな孫策を見て「雪蓮も人の子だったのか」とすこぶる失礼な事を岳は考えていたが、多分母を見たら「よく人に育ったな」と言うと思うよ。報告を終えた孫策が立ち上がり、岳に向かい合う。

 

 

「岳、良ければ貴方も──」

 

 

 

 

 

 

 

 ──身体が動いた。

 

 大陸一不意討ちに慣れている男が思考する前にフッと身体を反らした。が、反らした方向が不味く孫策にぶつかる。

 

「きゃ、ちょっと岳──」

 

 そもそも狙いは孫策だったのだ。蜀と呉の同盟を良く思わぬ勢力、魏。曹操は正々堂々、覇道を歩む人物であるが拡大した勢力の中には、青州黄巾党や袁術軍の中には良からぬ思考を持つ者もいる。王であれば清濁併呑と考える曹操であったが、馬鹿が手柄欲しさに勝手に暗殺に動いた。

 

「──ッ」

 

 (結果的に)孫策の盾となった岳の身体を矢が貫いた。孫策は瞬時に足元の拳大の石を拾い上げ、姿は見えぬが矢の飛んで来た木の上に全力で石を投げつけた。鈍い音と共に頭を砕かれた人が降ってきた。

 

 孫策は甘い人物ではない。戦闘好きではあるが勝つ為に手段を選ぶ人間ではない。周瑜の取る非人道的な策であってもそれが自陣の為になるならば迷うことなく選ぶ人間である。倒れたまま動かぬ岳を見て孫策は即座に暗殺者に駆け寄った。矢には毒が塗られている。そういった類いの暗殺者は毒瓶と自身が誤って傷を負ってしまった時の為の解毒用の瓶も持っている事を、孫策は知っていた。

 

 腰元に瓶が二つ。どちらが毒でどちらが解毒かなど分かる筈がない。だが孫策は迷わず片方を選んだ。迷っても無駄だからだ。瓶をとった孫策は岳に駆け寄る。

 

「岳、しっかり!」

「あー、うん平気平気……」

 

 顔が青ざめている。一体何処が平気なのか。孫策は岳の矢を抜き血止めのツボを押す。以前会った五斗米道の華佗に戦場で使える技術はないかと聞いて教えてもらった物だった。

 

「ぐぅ……」

「大丈夫、一人では死なせないから」

 

 孫策は手にした瓶の蓋を開け、それを口に含んだ。そうして口移しで岳に飲ませる。孫策の口が痺れる。良薬か毒かの判断は付かない。

 

「岳の治療をしないと……」

 

 岳を抱え、街へ向かう孫策。足元がふらついた。

 

「あ、これ駄目かも……」

 

 岳を抱えたまま孫策は木に寄り掛かった。

 

 

 

 

 

「──雪蓮様!」

 

 城外を回っていた周泰の声が雪蓮の耳に届くのと、雪蓮の意識が落ちたのは同時だった。



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24.漢王朝復興

 残念な事に、岳は死ななかった。クソが。

 

 岳が死んでたら新たな外史として前作主人公のぽち君と岳君とロリコン一刀のカオス三国志~変態仮面が世界をおいなりさん~が始まってしまう所だったから作者的にセーフという事にしよう。

 

 孫策の勘とかいう大陸屈指のチート能力によって、孫策がきちんと当たりを引いていた。ただ解毒剤も身体に悪影響があり孫策も倒れてしまった。孫呉の王と涼州州牧暗殺未遂という大事件により、当然婚儀は延期となった。

 

 城に運ばれ目を覚ました孫策は、岳が自らを盾にして守ってくれたと心配して集まった孫呉の面々に告げる。孫策は婚儀を台無しにしてごめんと末妹に謝った。孫尚香は姉様が無事ならそれでいいと泣いた。

 

 黄蓋が怒鳴る。

 

「報復じゃ!」

 

 孫権が怒る。

 

「姉様を……許さない!」

 

 周瑜は目を閉じ黙る。孫策が言う。

 

「落ち着きなさい」

「これが落ち着いていられるか!」

 

 先代孫堅より娘達を託された黄蓋は怒りを押さえられない。

 

「祭、お願いだから落ち着いて」

「策殿! 何を落ち着いていられようか! 奴らは孫呉を舐めておる! まさか動かぬと言うのではあるまいな!!! それでも策殿は虎の娘か! 炎蓮様であればそんな──」

「祭」

 

 孫策が底冷えするような声を発した。

 

「私が怒っていないとでも思ってるの?」

 

 孫策が発した殺気に、周瑜以外の者の背筋が凍った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曹魏と孫呉は不可侵条約を結んでいる。暗殺者が曹魏の人間だという証拠は無い。目を覚ました孫策は周瑜に指示し暗殺者の死体を回収、首を落とし壷に塩漬けにして曹魏へ送った。『貴女の親友である飛穂高を毒矢で暗殺しようとした人間の首である。当の飛穂高は未だ昏睡状態であり目を覚まさない』との一文を添えて。

 

 曹操はすぐに事実をネコ耳軍師に調べさせ、本当は孫策を狙った物だという事も分かった。曹操は怒り狂った。曹操は暗殺者の一族郎党を皆殺しにし、城外に吊り下げた。荒れ狂う曹操。粛清の嵐が吹き荒れる。曹操の怒りは鎮まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曹操には目を覚まさないと書いてはいたが、残念ながら翌日には目を覚ました岳君。周瑜に続いて孫策の命まで救った岳君に次々に呉の面々が訪れ、最大限に礼を尽くした。岳はただ避けようとしたら孫策にぶつかっただけなんだけど。婚儀が中止となったので、岳は当然涼州に帰る事にした。そこに孫策に周瑜に黄蓋、一刀と関羽に孔明に孫尚香まで同行するという。確かに身体は不調であるが、この大陸の魏を除いたトップ連中が皆同行すると言い出した事に岳の頭が追い付かない。

 

「岳の護衛だけなら私だけで十分なんだけどねー」

 

 いやそもそも孫呉の王が護衛とか頭おかしい。でも周瑜が何も言わない事が、それ以外の何かがある事を岳は察した。が、何かなんて岳には分からない。

 

「岳が寝てる間に一刀達とも話をしてね。涼州に着いたら話すわよ」

 

 いやなんで教えてくれないんですかね。そう思いながら岳達は涼州へ帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 涼州へ戻った岳が、「いやー暗殺されかけたよー」とか言い出した。涼州勢の思考が止まるも、岳が上半身の衣を脱ぎ包帯グルグル巻きで矢傷の癒えぬ身体を見せた事で真実と分かり、同行した面々に問い質した。

 

「魏が孫策を狙い、岳が盾になったって事ね」

 

 賈クが孫策達の話を聞いて、努めて冷静に返した。

 

「関係ねえ! 岳が死にかけた事に変わり無いだろ! 戦だ!」

「……うちかて許せる事と許せん事があるで」

「……。」

 

 馬超が怒鳴る。張遼が賛同する。呂布は無言で方天画戟を握り締めた。皆、一人でも飛び出さんばかりだった。

 

「……それで、皆さん何故涼州まで来られたのですか?」

 

 董卓が岳に同行した孫策達に話を振った。

 

「ええ、大切な話があるの──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──漢王朝の復興。

 

 『蜀』は『蜀漢』とも名乗り漢王朝の後継を名乗っている。『呉』は曹操が『魏』を名乗り幕下に下れと言い出した事への反発から名乗り出した意味合いが強い。そもそも両国に大陸を統一するという意識は薄い。

 

 漢王朝の正統後継者である幼き少帝と献帝。世話役の何太后。漢王朝にて正しき政治を務め高い評価を得た相国董卓。大将軍である何進、同じく大将軍にして名門袁家の袁紹。天下の飛将軍呂布。

 

 この布陣がそのまま岳の所にいるという事実を知る孫策が、蜀に働きかけた。蜀は乗った。勿論、今回の婚儀が流れた事で自身の婚儀も延期となった孔明の私怨ではない。……ないよね?

 

 長安を王都。絶対条件として岳を相国に置き、董卓がその補佐。蜀と呉の領土をそのまま一刀と孫策が統治する事を条件に漢王朝の復興の支持の声を上げる、と。ただし曹操においては元々袁紹の治めていた領土を袁紹へ返還し、一州のみの統治を許可。他は分割し譲渡。守れぬのであれば曹操は『逆賊』となり『官軍』と敵対する事となる。

 

 誇り高い曹操に対して、戦での敗北よりもこれ以上無い屈辱を与える事を提案した孫策。董卓は「陛下が良いと言うのであれば」と条件付きで認めた。そして董卓の保護の下、まともな教育を受けている少帝が許諾。ここに漢王朝の復興が決まった。

 

 飛穂高はこう言ったという。

 

「地位などいらぬ。平和さえ訪れればそれでいい(相国なんて面倒だからいやです)」

 

 飛穂高を支える軍師、賈クは言った。

 

「いいからやれ(いいからやれ)」

 

 

 ちなみに孫策が出したもう一つの条件が、岳との間に子を儲ける事だった。岳の意見は無視して涼州組はそれを了承。別に正室とか言ってないからいいやという事であった。それを部屋の隅で聞いていた何進が妹に聞いた。

 

「なあ瑞姫。岳のアレ、治ったのか?」

「いいえ姉様。治ってないわ」

「……まあ面白そうだから放っておくか」

「私は治そうとしてあげてるんだけどねー」

 

 

 

 

 

 

 劉備が望んでいた世界に近いものが出来上がりつつあった。なので劉備は早く帰ってきてもいいのよ? ちなみに異民族連合はクシャーナ朝を陥落させ、更に西へ西へと勢力を拡大していった。大モンゴル帝国はまだ先だからその辺でやめてくださいお願いします。



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終.ごめん、俺イ◯ポなんだ……(絶望)

 ローマ皇帝、リューイッヒ・ゲントークこと劉備玄徳は言う。

 

「違うの! えるされむとかじゃなくて、漢を、あの、皆聞いてよー!」

 

 やり過ぎた為、組織がでかくなりすぎて内部崩壊を起こしてローマから帰れなくなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、俺インポなんだ……」

 

 夜這いにきた孫策に今にも死にそうな顔で、心底悲しそうな声で岳が言った。

 

「だ、大丈夫よ! 私も頑張るから、ね?」

「おう……」

 

 その晩、もちろん岳は男を見せられませんでした。

 

 岳は鈍感系主人公ではない。ていうか洛陽でクソビッチである何太后に誘われほいほい付いていった男である。そしてそこで気付いた。「勃たねえ」事に。何太后が合流してから、実は何度かどうにかして勃たないか協力してもらった事があるのだ。だが、無駄。美女に囲まれ、好意を寄せられてるにも関わらず、出来ない。岳の一物は排尿しか出来ない。岳は絶望した。そして岳君はやけくそになって今までの滅茶苦茶な行動に至ったのである。死ねとか言ってなんかごめん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ま、それはどうでもいいとして。漢王朝が復興し、曹操に早速勧告が届いた。「そもそも私も漢の臣である。喜んで応じる」と曹操は返した。ネコ耳は言う。「後三年、いえ二年あれば……」それだけあれば糧食も取り戻し、曹操単独で全土と渡り合える力を取り戻せただろう。実際、曹操のポテンシャルは高過ぎるくらいであったが、岳が考案し袁紹が実行した焦土戦術により倉の中身がすっからかんになってしまったのでは戦う術がなかった。

 

「完敗ね……。さて、岳の顔でも見に行くとしましょうか」

 

 曹操は自身の負けを認め長安へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりね」

「あ、華琳ちーっす」

「……ほんと変わらないわね貴方」

 

 

 実質、最高権威者となった岳と面会した曹操は笑った。いつでも変わらないのだ。……本当に生きててくれて良かった。口には出さないがそう思った。

 

 

「それで、私に勝った気分はどう?」

「え、俺華琳に勝ったの?」

「ええ、そうでしょうね。貴方ならそう言うと思ったわ」

「何の事か分からないんだけど」

「ま、いいわ。そう言ってくれるのね。ありがとうと言っておくわ」

 

 

 相変わらず一人で完結する奴だなと岳は思った。曹操よ、そいつポンコツだから何言ってるか分からないと思うぞ。まあ深読みし過ぎて曹操もポンコツになってるけど。

 

 

「……ねえ岳、一つ、聞いていいかしら」

「ん?」

「正室、私の為に空けてくれているのよね?」

「いや、なんていうかさ……」

「? どうかしたの?」

「初めに子供出来た人が正室とか皆が言い出して」

「あら、じゃあ私でもいいのよね?」

「いや良いというか悪いというかその」

「何よ」

「勃たないっていうか」

「……それは私への挑戦と受けとっていいわよね? いいわ! その挑発、乗ってあげるわ!」

 

 

 ──無事勃ちませんでした。華琳様は落ち込みました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『全ての黒幕』である飛騨穂高は、洛陽にて嘆きの声を上げた。そしてこの腐り果てた漢王朝の復興を誓った。『希代の策略家』であった飛騨穂高は、まず全ての膿を出しきる為に反何進連合という戦を起こした。洛陽の腐敗をその戦の中で正した飛騨穂高は、大陸内の腐敗を袁紹、孫策、北郷、曹操と共に排除していった。途中、ぶつかりあってしまった袁紹と曹操。再び大陸内がバラバラになってしまう危機を、自らが傷付くという演出によって再び心を一つにし纏め上げた。

 

「童貞も守れぬ者が国を守れるものか」

 

 そう言って自身の貞操に誓いを立て国を守った『童貞』飛騨穂高は生涯童貞であったという。

 

 まあそんな岳君なんかより『絶大なる侵略者』として中華西部からヨーロッパまで広大な領土を支配した劉備玄徳の方が世界中で名を残しているのは是非も無いよね。劉備玄徳の宝剣がアーサー王の伝説の剣になったとか、厨二な人々の心を擽るエピソード作ってたらしょうがないよね。

 

 『童貞』とかいう称号を欲しいままにし、後生の世界史の教科書にまで載ってしまった岳の明日はいつまでも童貞であった。




拙い話でしたがここまで読んで頂きありがとうございました。

また、なんか書いたら「ち、しょうがねえな読んでやるか」と思って頂けたら幸いです。

近いうちにアンジャ鎮守府復活させるので見てた人、限定解除しておくのでそっちでまた宜しくお願いします!


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