スロー・ナ・ライフ ーTS転生した精霊の日常ー (メガネ愛好者)
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第一話 千歳さん、転生する
どうもお久しぶりです。メガネ愛好者です。
この作品を投稿する経緯については後程活動報告にて述べさせていただきます。
一先ずは、暫しの間この作品をお楽しみいただけたらと思います。当分……いや、この作品が完結するまでは他の作品に手を出す気はありませんので。
それでは。
どうも初めまして。自分、
趣味は読書と昼寝。基本マイペースでいい加減な性格だと自分は思うんだけど、知人の話によるとなんだかんだ言って真面目なやつとのこと。自分としては人に言われるほど真面目に生きてたつもりはなかったと思うんだけどね。なんでやろ。
そんな千歳さんですが、今、非常に面倒な事に巻き込まれていたりします。何せ自分、気づけば自宅どころか戸籍すらなくなってしまったものでして……
おそらくは住民票なども無くなっていると思われる。持ち物も一切合切消えており、つまるところ現状の千歳さんはホームレスの仲間入りを果たしてしまったようなんだ。……なんだか無性に切なくなってきた。帰る場所がないって結構心に来るものがあるのな。
そんな宿無し職無し無一文な千歳さん、どうしてこのような事になってしまったのかというと……簡潔に述べ、千歳さんが『転生者』という奴だからだ。
転生とは所謂生まれ変わりを意味し、転生者とは生まれ変わった人間のことを差す。千歳さんが元いた世界では近頃割と頻繁な程に小説やアニメに取り入れられている要素の一つだな。
中でも『異世界転生』という、死後に別の世界に転生してなんやかんやすると言った作品をよく見かけるようになったけど……今の現状、まさにそれ。
どうやら千歳さん、今話題の異世界転生を果たしてしまったらしいんだ。
……しかも、
「えぇ……?」
まさかの展開に思わず情けない声が漏れてしまったのは致し方無きこと。それだけ千歳さんが受けた困惑は計り知れなかったと言うことさ。
前世では成人手前の男性だったって言うのに、今ではその面影さえ何処へやら。視界に映る自身の両手は今や見慣れた男の手ではなく、力を込めれば折れてしまいそうなほど細く染み一つない綺麗な女性のそれにしかみえなかった。自分の意志通りに動かせる当たり、この手が自分のものであることは疑いようもないっぽい。
更にはその手前、前世で言うところの胸板にあたる場所には……服(?)越しからでも十分わかる程の膨らみが確認出来る。出来てしまった。
そこから連鎖的に、千歳さんはあることに気づいてしまう。……気づいてしまった。
見なくとも分かる。触れずとも分かる。自身のある場所から、男の象徴ともいえるであろう”アレ”の感覚が……無くなっていることに。
「…………マジか」
その感覚に思わず天を仰ぐ。
頭上には雲一つない澄み切った青空が広がっていたが、千歳さんの気持ちとしては、空を覆いつくす程の曇天が広がっている気分だった。
自身の体に現れた変化。頭では理解出来なくとも、心では何故か納得してしまっている自分がいる。
——性転換——
どうやら男性であった千歳さんは、疑うべくもなく女性として生まれ変わってしまったらしい。
……因みに、何がとは言わないけど……未経験だった。何がとは言わないけど……ッ!
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そもそも何故千歳さんは転生することになったのか? なんてことはない。前世で死んで、『神様』とやらに出会って、どういう訳か転生することになった。ただそれだけのこと。
やけに落ち着いてないかって? いやいや、これでも結構戸惑ってるからね? ただこの状況に千歳さんの頭が追い付いていないってだけ。その上で深く考えることをやめたからか、割かし心は落ち着いているだけにすぎないんだ。頭ん中は未だに訳が分からずアッパラパーさ。……え? そこは思考を止めちゃダメだって? 知ってる。
でもいいじゃん。どうせ自分は死んでしまった身だし、死んでまで額に皺を浮かべてウンウン唸る必要も無いと思うんだ。ぶっちゃけ悩んだところでどうにかなる訳でもなし、別にもうどうでもいいかなーとさえ考えていたりするぐらいさ。
極論だけど、世の中なるようにしかならんしね。取り繕ったところでどうしようもないんなら、千歳さんは心の赴くままやりたいようにするだけさ。
要は――「せっかくだし、脳みそ空っぽにして生きていこうぜ!」ってことだね! ……今思うと、この時の千歳さんは半ば自棄になっていたんだと思う。今更ながら計画性皆無な方針に流石の千歳さんも笑えないです。自分で決めたことだけども。
そんなこんなで千歳さんは神様と名乗る存在に出会ってしまったわけだけど、どうやら自分が死んでしまったのにはいろいろと深い事情があるらしい。
事の顛末やそれに対する処遇やらを語り始める自称神様。それに対して千歳さんは……別に今更話をまともに聞く気もなかったので、ついつい聞き流してしまった。半分寝惚けていたと言っても過言じゃないね。『趣味昼寝』は伊達じゃないってことさ。
それに「どうせなるようにしかならないんだろ?」と投げ槍気味にもなってたし、そうなってもしょうがないと言える程に現実味が沸かなかったんだ。だから千歳さんの対応は悪くないはず……え? 対応云々よりも態度が悪いって? 知ってる。
そうして、まるで校長の長話を居眠りで乗り越えるが如く自称神様の事情説明を適当に聞き流していると、最後に神様は「実はこれが本題」と言わんばかりに問いかけてきたのだった。
その内容は簡単に言えば「己が望み述べよ」って感じだった気がする。……多分。半分寝惚けてたから少し自信はないけどあってる筈だ。
とりあえず無難に「充実した堕落生活。訳して駄ライフを送りたい」って言ったんだっけ? 見事にダメ人間な回答だけど、大多数の者は一度ぐらいそうありたいと願うと思う。千歳さんもその例に洩れなかったってだけのことさ。
――――その結果が
何だろうね? 金持ちに
そもそも何故に性転換? 別にそのままでもよかったじゃん。意味不明にも程がある。一体神様は何を考えてこの姿にしたのやら……
…………うん、不毛だわ。いくら考えたところで神様の考えなんてわかる訳もないんだし、この件は後回しにしよう。
何より今は性転換したことよりも、これから自分が何をしたらいいかを考えた方がいいのかもしれないしさ。
転生したとは言っても、別に千歳さんにはこれといってやりたいこととか無いんだわ。『願い=駄ライフ』ってことになるぐらいだし、元々何か目標に向かって頑張るタイプでもなかったからなぁ……どうしたものか。
一先ず性転換のことは頭の隅に追いやり、今後の方針を決めていこうと思う。何をするにしてもまずはそこからだ。
「とは言ってもなぁ…………うん?」
ここで今更ながらに気づいたことだけど、どうやら声も以前と比べてだいぶ変わっているみたいだ。
前世の自分は少なくとも女性とは間違われないであろう少し低めの声だった。それが今では女性寄りの凛々しい声に変わっているのだ。
流石に性転換程ではないにしろ、多少の驚きはあると言うもの。救いとしてはロリ声とかアニメ声じゃなかったことかな。その点だけは評価しよう。……本当によかったと安堵せざるを得ない。
さて、少し本題から逸れてしまったけど、まずは一つ一つ状況を整理していこうと思う。それから今度の目的を決めるのも遅くはないだろうし。
確か神様の話によると「地球であることに変わりはないが、間違いなくそこは異世界である」とのことだ。所謂パラレルワールドってやつだろうか?
まぁ異世界っていうんだから、全く同じ地球であるとは限らないんだろうね。そこから察するに、もしかすると何か千歳さんが知らない常識がこの世界にある可能性も否定できないという……前途多難だ。
そんな訳で、ここにきて千歳さんは初めて周囲の状況を確認をすることにした。
何せ未だに千歳さんは自身の両手と胸部の膨らみ、そして見慣れつつも僅かに違和感を覚える
後はチラチラと視界を遮る深緑色の髪の毛もそうなんだけど……今は見なかったことにする。例え前世と髪の色が変わっていたとしても、一々気にしていたら日が暮れてしまうというもの。性転換した以上の衝撃が無い限り、ここからは多少の変化は些細なもんだと流すことにしよう。
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結論から言うと、もう何から何まで異常事態過ぎてよくわからんことがわかりました。最早頭の中が混乱しすぎてアッパラパーの思考放棄寸前である。
というのも、そもそも千歳さんが現状いるこの場所事態がそもそも異質異様すぎてどう判断すればいいのか困ってるんだよ。元の世界でもそう見ることはない、寧ろ平凡な日常を過ごしているだけならまず生で見ることはないであろう平凡とはかけ離れた光景――
――小規模とはいえ、
「いやこれどういう状況?」
ホント訳がわからない。流石に急展開すぎやしないかコレ? いやまあ転生なんて事態がそもそも急展開っちゃ急展開なことなんだけど……それにしたってだろこれは。もっとこう、赤子からとか転生後の自室で目覚めるとか、そういった穏やかな始まり方になるもんじゃないの普通? こんな破天荒な再スタートになるとは流石に予想外なんだけど……
……とりあえず現状を再確認しよう。今はとにかく落ち着いて現状の理解を深めるべきで自暴自棄になるにはまだ早すぎる。頑張れ千歳さん、まだ第二の人生は始まったばかりだぞ!
そんなわけで改めて周囲の状況を再確認してみたんだけど……うーん、ホントどう判断すればいいのやら……
一言でいえば"廃墟"だった。
このクレーターのせいなのかどうかは定かじゃないけど、周囲にある建造物のほとんどが酷い有り様になっている。まるで強い衝撃を受けて壊れたかのようにボロボロだった。
ビルの壁には大小様々な亀裂が走り、ガラスは残らず木っ端微塵。周囲に人の気配は感じられず、まるで人が滅んでしまったかのような哀愁漂う光景だった。
一体何が原因でこんな有り様になってるのか検討もつかない。そもそもこのクレーターは何さ? 綺麗な円を描くように抉れてるし、それこそまるで隕石が落ちたみたいで――
…………あれ、この状況……もしかしなくても千歳さんが原因だったりする?
いや千歳さんとしては全く身に覚えがないんだけど……この状況、どうにも千歳さんが多少なりとも関わっている気がしてならない。流石にこれで無関係とは考えられんよなぁ……
何がどうなって出来たかまではわからないけど、過程を考えたところで結果が変わる訳でもない。千歳さんはそっと事実から目を逸らすことにした。
いやだって完全に地雷でしょこれ。酷い有様の街並みに直径5m程のクレーター。その中心に佇む不審な装いの
この場の光景を誰かに見られでもすれば、間違いなく面倒なことになりかねない。転生して早々警察沙汰とか嫌だぞ。
ともかく、今はこの場から離れることが先決だと思う。このままここにいてもしょうがないし、面倒事に巻き込まれるとわかっていて待ち受けるなんて、そこまで千歳さんはマヌケじゃない。
「……って、早速かぁ」
クレーターから離れようとした千歳さん。しかしそこで、まるで見計らっていたかのように、そして先程の予感を裏付けるが如く、千歳さんの第六感的な何かが『遠くから迫りくる何か』を捉えたのだった。
何となしに第六感とか言っちゃったけど、多分あってると思う。というかそうとしか言えないような感覚なんだよねぇ、この感じ。
まだ距離はあるけど、間違いなく
……激しく、嫌な予感がしてしょうがない。それはもう、近づいてくる何かと遭遇した瞬間、この先の未来が確定してしまうレベルで。……それも悪い方向に。
よし、フラグは全力回避するに限る。ここは身を隠させてもらおう。
とりあえずは急いでクレーターから脱出し――――何気なくジャンプしてみたけど、一気にクレーターの外まで跳ぶことが出来てしまった。どうなってんのコレ?――――ある程度クレーターから距離を置いたところにあるビルの陰に身を隠す。
そのまま立ち去ってもよかったんだけど、後学の為にも何が来るのかぐらい確認しておきたかったのだ。流石に正体ぐらいは知っておきたいし、正直何が来るのか気になるところ。
それに、出来ればこの世界について何かしらの情報も欲しいからね。もしも対象が言葉を介する生命体なら、その会話に聞き耳を立てて情報を頂くとしよう。
ビルの陰に隠れ、ひっそりとその時を待つ。……なんだろ、この前世でやったステルスゲーを彷彿とさせる状況は。やばい、少し楽しくなってきたかも。
そうして密かに心を高揚させながらクレーター外周を見張ること数分後……
「空間震の発震源に到着。『精霊』は……やはりいないわね」
「隊長、どうします?」
「総員! 周辺を警戒しつつ辺りを散策! 決して単独で動く事が無いよう複数人で行動し、見つけ次第すぐさま合図を送りなさい! 全員で対処するわよ!!」
「「「了解!」」」
……目のやり場に困るようなボディースーツ姿の女性達が、近未来的な武装を装備して空から降りてきたのだった。
(なんじゃありゃ……)
クレーターに降り立った女性達、その数ざっと二十人程。軍隊で言うなら一個小隊ぐらいはいるだろうか?
全体的にまだ学生ではないかと思われる少女ばかりで、成人を迎えてそうな者は極僅か。ただのコスプレ集団と言っても通じそうな程、これまた現実味の湧かない光景が視界の先に広がった。
(この世界、大丈夫なのかなぁ……明らかに未成年な子に銃を持たせるとか、そこまで殺伐とした世界なのだろうか? あまり考えたくないなぁ)
世界のブラックさを垣間見てしまったことで、これから先の未来に僅かばかりの不安が募る。学生が懐から当たり前のように拳銃を取り出す世界……駄目だ、生きていける気がしないよ……
と、ともかく今は情報収集だ。せっかくの情報源なんだし聞き耳を立ててみよう。なんだかんだ言ってあんな物々しい装備を身に着けているぐらいだし、彼女達の情報はそれなりに有用性がある筈。…………あるよね?
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そうして視界の先にいる集団を警戒しつつ聞き耳を立てること数分――断片的にだけど、ある程度の情報を彼女達から得ることに成功した。
話をまとめると、どうやらあの集団はクレーターの発生原因を探っているようだ。
そして、その原因というのが――
「精霊かぁ……」
『精霊』という謎に満ちた生命体の仕業なんだとか。
つまりだ。これまでの状況から察するに……
千歳さんは、精霊に生まれ変わったってことなのだろうか?
精霊……なんだろ、違和感が仕事してない感じがする。
普通なら「千歳さんが精霊とかありえないから」と笑い飛ばしているところなのに……精霊と聞いて、何故だか不思議と心にストンと落ちてしまった。
自分が精霊だと言われても全くの違和感がない。これを例えるなら……「お前は人間だ」と言われ、「なに言ってんの君?」と素で返すぐらい当然のことのように思えてしまう。
「千歳さん……人じゃなくなっちゃったかぁ……」
サヨナラ人生! 今日からは『千歳さん・タイプ=スピリット』だ! なんてね。
転生ときて性転換からの別種族。非常識なトリプルストレートに千歳さんの頭がそろそろどうにかなってしまいそうだ。正直に言ってもう処理しきれんのです。……元からとか言っちゃダメよ?
とりあえず、一度何処かゆっくりと落ち着けるところで頭を休めたいな。流石に現状が訳ワカメすぎる。……もうこの際、マジで考えることをやめて本能のままに生きた方がいいのかもしれないなぁ。多分、きっとその方が精神的には楽になりそうだし。……え? 流石にそれは駄目だって? 知ってる。
唯一の救いは、自分が
その知識とは主に三つ。『霊力』『霊装』『天使』についてだ。
まず霊力についてだが、これは単純に精霊に宿る力の源とでも思ってもらえればおk。所謂ファンタジーで言うところの魔力ってやつかね?
そんな霊力には様々な使い方が出来る。ぶっちゃけ万能と言えないでもない実用性があるみたいで、後で試すけど服装を変えられたりも出来るらしい。
後は霊力を集めて打ち出すと言った、所謂『霊力弾』なるものを放つことも出来たり、単純に身体能力を上げることも可能。これについてはさっきの大ジャンプがそれに当てはまる。無意識ながらに使っていたようだ。
なるほど、確かに使い方によっては千歳さんの願いでもある駄ライフを送ることだって出来るかもしれない。そう言った意味では、神様は千歳さんの願いを聞き入れてくれたのかもね。
次に霊装についてだが……正直に言うと、これに関してはあまり触れたくなかったりする。
というのも、実は今着ている服が霊装に当たるものなんだけど……簡潔に言うと、今の千歳さん、かなり際どい衣装を身に纏っております。
上から順に説明していくと、まず丈の短い黒のタンクトップの上から金色の蔦のような模様があしらわれている深碧色のストールを右肩と首元を隠すように纏っている。……尚、タンクトップの丈が短いのに合わせてストールも上部にしか纏っていないせいで、自然と千歳さんのお腹が丸見えになってしまっているのにはあまり触れたくないところ。
だって普通に恥ずかしいし。へそやら腰やらも丸見えなので、ホントに恥ずかしい。元男にコレは酷じゃあないかね神様よ? 無駄にスタイルがいいせいで普通に似合っているのがなんか悔しいです。そして虚しいです。
次に下だが、こちらは腰にストールと同じ金色の蔦の模様があしらわれた深碧色の腰布を巻いている。その下は……ご想像にお任せ。
一つだけ言っておくと、腰布は左前の辺りでバックリとスリットが入ってるんだけど……見方によれば
また、腰布の結んでいるところには手持ちサイズのランタンのようなものがぶら下がってる。なんだかこのランタン一つで今の服装に『墓守』のような印象を抱いてしまうのは何故だろう? ……あ、天使の名前がそっち関連なのも理由かも。天使の名前については後程紹介するので少し待っててな。
さて、話は戻ってランタンのことなんだけど……その中には淡く光る青色の焔が灯っていた。
なにこれ? なんで青いんだろ? たまにガスコンロで見る青い炎に気持ち近い気がするけど……ちょっと違う。
この焔はそれよりも薄く、今にも消えそうな程に弱々しく思える。
試しにランタンへと手を近づけてみると、なんと不思議なことに冷気を感じた。
冷たい。焔なのに冷たいのだ。流石精霊、よくわからんものをお持ちのようで……とりあえずこれは保留で。
最後に金色の蔦の紋様があしなわれた茶色のロングサンダルを履き、ついでとばかりにお馴染みの金色の蔦で鎖骨まである深緑色の髪を首の後ろで一纏めに結べばあら不思議。
霊装——〈
「どうしてそうなった」
今にも顔から火が出そうです。
もう何も言えねぇ。際どい……際ど過ぎんぞ神様ァ!
主に肌の露出がホントもうっ! ——って感じで羞恥心がマッハで爆走するレベルで身悶えてしまいそうなんだけど!? 今はそんな場合じゃないから自制してるけどっ、ホントなんなのさこの霊装は!? 趣味ですか!? 神様貴方の趣味なんですかー!?
……あ、ヤバい。意識したら恥ずかしさがまた込みあがってきた。耐えてくれっ、もう少しだけ耐えてくれ! 千歳さんの粘土メンタルッ!
そしてここで新たに悲報。羞恥心にメンタルが殺されそうになっている千歳さんですが、その心に反して体は全くと言っていい程、着ることに抵抗を示していないっていうね。
どういうことさね。違和感仕事してくださいマイボディ。何しれっと着こなしちゃってるのさマイボディ? なんだか自分に裏切られた気分だよ……これではあの集団と同じくコスプレした人だと思われかねないじゃないか。人のことを言えないとはまさにこの事よ……くそっ、涙出てきたっ。
――ただし、そんなコスプレもかくやと言ったような衣装ではあるのだが……忘れてはいけない。これもまた、精霊が有する力の一端だということを。
改めて説明するが、霊装とはいわば『鎧』だ。
それが意味する通り、この……墓守風コス? も見た目に反してとんでもない耐久力と防御力を備えているのだ。
知識によると、ちょっとやそっとの脅威なら軽く跳ね除けるとのこと。おそらく、あの集団が持つ重火器程度なら余裕で耐えられる程の頑丈さはあるようだ。銃弾を弾くストールor腰布とかパネェ。
また、霊力によって常に状態維持されているのか、霊装には汚れや皺が全くつかない。雨に濡れることもないし、破れても一瞬で修復される。更にはどんな環境にも適応し、常に快適な着心地を約束するとか。
何処のセールストークだよと一瞬思ったけど、どうやら嘘偽りない事実のようだ。因みにこの状態維持は霊力で拵えた服にも適用されるっぽい。
ともかく、現状ではこの霊装を着ていればある程度の安全は保障される。例えそれが露出多めの墓守風コスであったとしても、安全性を考えるなら今はこの姿のままでいた方が良さそうだ。……まぁ安全性が確保されればすぐにでも着替えますけどね。それまでは無心でいようそうしよう。そうしないとマジでつらい。
余談だけど、たまたま近くのビルの窓ガラスに映った今の千歳さんの顔が……髪や目の色は違ったけど、何だか見覚えのある顔つきをしていました。
(あれ……この顔つき、若い時の母さんに似て……)
どうやら今の千歳さん、完全に別の女性として生まれ変わったという訳ではないようです。
ある意味前世の名残と言うのかもしれないけど……なんだか複雑な気持ちである。しかも下手すると元の方よりも美人に見え――ヒッ! さ、殺気!? どこから!?
そして最後に天使についてだが、これは霊装とは真逆に位置するものだ。
天使というのは精霊が持つ強大な力の象徴と言えるだろう。
霊装が何者にも脅かされない絶対的な鎧であれば、天使は迫りくる脅威を振り払う絶対的な矛。何かしら特殊な能力を宿した武器とのことだ。
それでその武器というのが――――っ。
「ヤベ……あいつ等こっちに向かって来てるわ」
新たに得た知識を整理している間に、どうやらあの集団(とりあえず今は『
ジャンプした時ぐらいしか霊力使ってない筈なのに……もしかして、精霊って何もしてなくても霊力を出してたりするのか? それとも霊装が問題だったり? そうなると霊力で拵えた服もアウトなんじゃ……もしそうだったとしたら、後で何かしらの対策を考えないといかないな。
(とにかく今はここから離れるべき……いや、相手がこっちの霊力を辿っているとすると、今から逃げて上手く撒けるか? 贅沢に言えば、可能な限り千歳さんが精霊であることは隠したいんだけど……)
ビルの陰から迫りくるASDを視界に捉えつつ、これからどう行動すべきか検討する。
相手が背部のスラスターによって空を飛ぶ以上、いくら身体能力を強化したところで追いつかれる可能性もない訳じゃない。ASDの話を聞いた手前、可能な限り彼女達とは関わりたくないと言うのが本音だ。
ASDの会話を盗み聞きしてわかった事だが、あいつ等の目的は『精霊の討伐』……要は千歳さんを殺す事が目的みたいだ。
精霊が現れる度に空間震が起き、そのせいで街が滅茶苦茶になってしまう。だからこそ精霊を討伐することが出来れば、その後に予想される空間震を無くすことが出来るかもしれない――つまりはそういうことらしい。
うん、千歳さんの予感は間違ってなかった。だってあのままクレーターにいれば、会敵即殺が如く銃ブッパだっただろうからな。流石に転生して早々死にたくはない。
その上、例えその場を後にしたところで顔バレしてたら意味がない。街中で偶然鉢合わせでもしてみろ、目も当てられんよ。
…………よし、決めた。
現状で掲げる千歳さんの目標は……この三つにする。
まず『死なない事』『顔バレしない事』
そして――『人を殺さない事』だ。
いくら相手が殺しに来てるとしても、千歳さんは元々平和ボケした日本人だ。施設損壊はまだいいが(いやよくはないんだろうけど……)、人殺しは流石に抵抗がある。想像するだけでも忌避感や嫌悪感が湧くぐらいだし、千歳さんに人殺しは無理だろう。
だから千歳さんは、人を殺さない。例え相手が殺しに来ていても、それを理由に千歳さんが相手を殺めることはない。
『出来るだけ』ではなく『絶対に』だ。
――まぁその分、容赦なく無力化させてもらいますがね?
んじゃ、唐突で悪いが……天使の名前のご開帳だ。
「……〈
■■■■□□□□□□□□□□□
『ソレ』は、突如として彼女達を襲った。
空間震警報。それは精霊の現界――空間震の発生を予期し、住民の避難と対精霊部隊――通称『AST』の出動を意味していた。
現状、精霊の存在は世間に知られていない。下手に
そしてそれは同時にASTの存在もまた秘匿されることに繋がってくる。故に、ASTは住民が避難した後に出動せざるを得ないのだ。
例え、精霊が既に現界していたとしても……
今回も例に洩れず、住民の避難が終わったのを見計らい出動する予定だったAST隊員達。
しかしここで、想定外な事が起きた。
幸いなことに、空間震が発生した周辺の避難は既に終わっていた。しかしそれでもまだ避難し終えていない場所が多数あったのにも関わらず、空間震は発生してしまったのだ。
今までなら少なくとも住民が避難するまでの余裕はあった。何せ住民が余裕をもって避難する時間を儲ける為に、あらかじめ余震を感じ取って知らせる空間震警報を設置していたのだから。
しかしその常識が、今回の件で覆された。
警報が鳴り響く中、完全に避難が終わっていない中、轟音と共に空間震は落ちた。
これにASTは目を疑ったであろう。そして口を揃えて言葉を漏らしてしまう。――「早すぎる」と。
急いで発信源へと向かうも、そこに精霊の姿はなかった。
規模的にはまだ小規模ではあったものの、隊員達は気が気でない。
――もしこれが、避難が終わっていない場所で起きたら――
最悪の事態を想像し、数名の隊員が息を呑む。そんな中で今回現界したであろう精霊の危険性を察知したASTの隊長は隊員達に指示を出す。
空間震が起きてから多少時間が経ってしまったとはいえ、まだ精霊が近くにいるかもしれない。それならば次がないよう精霊を見つけ出し、これを討伐する。もしかするとその場から動いていない可能性も十分にある為、どちらにしても油断は出来ない。
隊員達は即座に頷く。今回のような事が繰り返すなど悪夢以外の何者でもないのだから。
僅かに残っていた霊力を解析し精霊の追跡を始めるAST。
そして彼女達はその霊力を辿り、人類を脅かす災害がいるであろう予測地点へと向かったのだった。
――しかし、そんなAST達の覚悟を嘲笑うかのように、『ソレ』は彼女達の前に姿を現した。
「何、アレ……?」
誰が呟いた言葉かはわからない。しかしその言葉は、ここに居合わせた隊員全員の想いだっただろう。
――今まで、彼女達が遭遇した精霊達は例にもれずその全てが美目麗しい少女の姿だった。同性ですら心を奪われかねない程の圧倒的な美貌を持つ絶世の美少女達。それが隊員達にとっての『精霊』という認識だった。
しかし、此度現界した『コレ』は違う。
大きさは2m程。全身を黒い靄で覆っているせいか、全貌がいまいちわからない。目を凝らすもそれが一体何なのかまではわからなかった。
しかし、これだけは言える。
「ば、化け物……っ」
『ソレ』は
そもそも生き物であるかさえ疑わしく思える。動物のような姿かと思えば、鳥のような姿にも見え、次の瞬間には魚のような姿にも見えてしまう。
形状を留めることなく常に変化を繰り返し、次々に別の何かへと変貌する。挙句には生物の骨格ではない姿になることも。
これを『異形』と言わずして何と言う? まるでそう言わんばかりのおぞましき姿に隊員達は次々と顔を青ざめていく。
既にこの時点で一部の隊員は心が折れかけていた。
圧倒的な力を持つ精霊とは異なり、『ソレ』はそこに存在するだけで彼女達の精神を直接干渉し、蝕み始めていく。
目の前の存在は、この場にいる者全てに『未知』と言う名の『恐怖』を擦り付けた。
本能が危険を察知する。「今すぐ逃げろ」と心が叫ぶ。――それなのに、動けない。
あまりにもおぞましい姿の『ソレ』を目視した瞬間から、まるで体を縫い付けられたかのようにピクリとも動かない。その上、目を逸らすことさえも叶わなかった。
場は強制的に静まり返る。それは異様な程に、異質なまでに、それこそ自身の激しく動悸する胸の鼓動が聞こえてくるほどの静寂がその場に満ちていく。
しかしその静寂は、長くは続かなかった。
突如として変化を止めた未知の生物。
最終的に球体へと姿を変えた『ソレ』は、急激に膨れ上がったかと思えば、次の瞬間には粉々に
――ブワァッ!!!
まるで風船が割れたかのように破裂した『ソレ』は、破裂と同時に中から何かを噴出する。
それは、その身に纏っていた黒い靄だった。
「――ッ! 総員、退避ッ!!」
いち早く正気に戻ったASTの隊長は、周囲の隊員に叫びかける。
あの靄が何かまではわからない。だが、それが何かまではわからなくとも、どうするべきかは理解出来る。
あの靄に触れてはいけない。絶対に何か良くないことが起きる。
隊長の叫びによって一部の隊員も正気に戻り、後方への退避を開始した。
しかし、全てではない。まだ正気を取り戻せていない隊員達は、迫りくる黒い靄を前にしても動けずにいる。
そして黒い靄はその場から逃げられなかった隊員達を――呑み込んだ。
――【
何処からか響いた言葉。直接脳に語り掛けるようなそれに伴い、黒い靄に変化がもたらされる。
隊員達を覆った靄は、隊員一人一人を包み込むよう流動したかと思えば一瞬の内に黒い繭のような形状へと姿を変えた。
繭に捕らわれた隊員達は背部のスラスターによって空中に留まっていたが、それが今黒い繭によって遮られた事でそのまま地上に自由落下を始めてしまう。繭自体は弾力性があるのか、地面に落下しても弾む程度で済んだのは不幸中の幸いだろうか……
やがて周囲に広がった黒い靄は霧散し、後には靄から逃れた隊員達が、焦燥した表情で黒い繭に捕らわれた仲間を救出する光景が広がった。
周囲を見渡しても、あの謎めいた『ナニカ』の姿は見えない。どうやらこの場から離れたか
その事に安堵のため息を溢す隊員達。しかしそんな隊員達の心情は晴れなかった。
此度の精霊……と言っていいのかもわからない未知の存在を取り逃してしまった。それはつまり、またあのおぞましい存在と対峙せねばならないことを意味していたから……
――某日某所、未確認の精霊(仮)が現界する。
特異な空間震と非生物的な姿。今までにないパターンで現界した異形の精霊(仮)――精霊と称してよいかどうかもわからない未知の存在だが、かの対象が放つ霊力波からは精霊のそれと合致していた為、現状は精霊と同じ扱いとする――は、此度の出撃でASTに大きな打撃を残す。
そのおぞましき姿は周囲に恐怖を無差別に振り撒き、黒い繭に捕らわれた隊員達の一部は精神に異常を来すまでに至った。
極度の恐慌状態。暗闇に対し過剰なまでの拒否反応を示すようになってしまい、一種の
現状では精神安定剤の飲用による症状の緩和が行われているが、完全に回復するまでには至っていない。
これ以降、かの症状が確認された隊員は精神の不安定さにより一時戦線から離脱。症状が完治され次第復帰するかは隊員達の意思を尊重するとのこと。
されど、回復以降に再発症の可能性もないとは言い切れない。十分に警戒すべし。
理不尽な暴力による蹂躙ではなく、強制的な精神への干渉と後に現れる後遺症という今までにない傾向、それに加え予測できない空間震の発生という脅威から――対象の危険度を『AAA』と暫定。
————以後、かの対象を識別名〈シェイド〉と命名する。
因みに時間軸は原作の
次回。千歳さん、とある精霊と○○になる。それでは。
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第二話 千歳さん、葛藤する
どうも、メガネ愛好者です。
→千歳さんに家族が出来ました。
それでは。
『天宮市』――それが今千歳さんがいる土地の名称だ。
今から大体30年程前、日本で起こった空間震による未曾有の災害――東京と神奈川の間を綺麗に吹き飛ばしたとされる〈南関東大空災〉の被災地を再開発して出来たのがここ、天宮市だ。
天宮市はいわば最先端技術が集中した街だ。
どうやら再開発の際に、実験と称して多岐に及ぶ最新の技術を「これでもか!」と言った具合に詰め込んだらしい。
とはいえ、規模が規模なだけに街全体の開発が済んでいる訳でもなかったりする。開発途中の土地や未だ手付かずの場所も多く、後者に至っては30年の月日によって草木が生い茂る場所へと変貌していた。
ただそれも上手い具合に街の外観として馴染んでいるので、無理をしてまで開発する必要もないだろう。
――とまぁ、天宮市について軽く説明した訳だけど、勿論の事ながら前世の日本にこのような街は存在しなかった……筈だ。
正直断言できない。千歳さんはそこまで地名に詳しい方でもないし、もしかしたら自分が知らないだけであったかもしれないからね。……とは言っても、流石に全く同じとまではいかんだろうけど。
こうして前世との相違点を並べてみると、改めてこの世界が神様の言う通り
あ、別に疑ってたわけじゃないよ? ただ何かしらの確証が欲しかったんだ。「実はドッキリでした!」なんてこともありえないとは言い切れないからね。
……あー、いや、それはないか。流石にドッキリで性転換するとか常識の範疇を越えてるし。
因みに、空間震などを抜きにすれば多少科学技術が進歩しているといった具合で、基本的には前世の日本とほとんど変わらないかな。
これに関しては心底安堵した。流石に今よりも生活水準が低い環境で暮らすだなんて堪えられないからね。一昔前のヨーロッパ染みたファンタジーな世界への転生となると、どうしても衛生面や治安状況に不安が残るし、そういった意味では比較的現代に近い世界に転生したのは幸運だったとも言えるんじゃないかな?
後は見知らぬ公共施設や企業団体などがあったりしたけど、そこはそういうものだとあまり気にしないことにした。何でもかんでも気にしていたら疲れるからね。些細な変化はスルーの方向で。
ともかく、見慣れぬ土地でも勝手が異なる訳じゃあないんなら問題ない。言ってしまえば住む環境が変わったってだけなんだから、そこまで深刻に悩むこともないだろう。例え何かしらの支障が出て来たとしても、大抵のことなら
とは言え油断、慢心は禁物。何が起こるかわからないのが人生(?)だからね。適度な警戒は怠るべからずってとこさ。
「……よし、こんなもんかな」
――そんなこんなであれから
……え? 唐突すぎるって? 知ってる。
まぁ確かにいきなりと言えばいきなりすぎて、釈然としない気持ちも多少なりあるかもしれない。
なんで家があるのか、戸籍はどうしたのか、何よりこの三年の間に一体何があったのか……気になることが沢山あるだろう。
でもね……この三年間、色々あったんだ。「あら? 千歳さんが求めた駄ライフは何処に?」ってぐらい波乱に満ちた三年間だったんだ。とてもじゃないけど、朝のちょっとした時間に回想を挟む程度の時間じゃ足りないよ。……あまり思い出したくないこともあるし。
一先ずこの三年間に起きたことは追々話すとして、今はそれよりも先にやるべきことをやらなきゃならんのです。
朝食をテーブルに並べた後、ちょっとした達成感を感じながらリビングにある掛け時計に視線を向ける。
(そろそろ起きたかな?)
時刻を確認した後、着ていたエプロンを脱ぎつつ“あの子”の眠る部屋へと歩を進めるのだった。
この家には千歳さん以外にも住人がいる。
その子とは今から二年程前に偶然出会い、その場の流れで共に行動するようになった。いつしか傍にいるのが当たり前のような関係になり、今では一人の家族として一緒に暮らしている
彼女の部屋の扉の前に立ち、数回ノックする。
……反応がない。ならば突撃だ←
「ゴ○ブリッ!」
「――ギャァァァアアアッ?!」
何処にでも蔓延る夜の帝王の名を声高々に唱えながら、普通に扉を開けて入室する。同時に部屋の中から断末魔のような叫び声が聞こえたが、とりあえずはスルーで。
部屋の中を伺うと、千歳さんの髪の色よりも明るい緑色の髪の少女がキッと威嚇するような眼差しでこちらを睨んでいた。
「おはよー
「……ねぇ、その前に言うべきことがあるんじゃないの?」
「え? 言うべきこと…………あぁ、今日の朝食は七罪の要望通りオムレツにしたよ?」
「いやそうじゃなくて――」
「結構いい感じに出来たし、千歳さんとしては冷めない内に食べてほしいかなー」
「……ハァ、もういい、なんでもないわよ」
のそのそとベッドから這い出てくる彼女の名は
歳は(書類上)14歳。少し前に中学二年生になった天使のような美少女だ。
天使のような美少女だ!!
華奢な体躯に猫のような愛くるしさを持ち、
性格も年頃の少女のそれで実に好ましい。オシャレに人一倍気を使ったり、少し自分に素直になれないところもあるけれど、それもご愛嬌と言う奴だね。可愛い。
そして常日頃から自身の美貌を損なわないよう、日々の手入れを欠かさない努力家でもある。そのかいあってか、学校では多くの男子の心を射止めているとか。
女子からも羨望の念を集め、それに驕らず寧ろ謙虚な姿勢でオススメの美容品等を教えあったりしているので、邪険にされることもなくそれなりの友人関係を築いているようだ。流石七罪。
結論、うちの妹が凄く可愛い。
そんな最愛の妹の寝起き姿を脳内フォルダに記録しながら眺めていると、それに気づいたのか七罪がジトッとした眼差しを此方に向けてきた。
「何こっち見てニヤニヤしてるのよ」
「んー? いやー、いつ見ても七罪は可愛いなぁって思ってた」
「なにそれ、口説いてるつもり? 残念だけど、あんたに褒められても別に嬉しくもなんともないんだけど」
「別に口説いたつもりはなかったんだけどね。千歳さん、思ったことは素直に白状する精霊ですから!」
「……もういい、先に食べてて。顔洗ってくるから」
「そのぐらいは待ってるよ。七罪と一緒に食べたいしね」
それを最後に七罪の部屋を後にする。
出ていく直前、七罪が何か言いたげな表情を顔に浮かべていたけど……あの様子だと多分聞いても教えてくれないな。
なので無理に聞こうとはしない。精霊にだってプライバシーはあるのです。……まぁなんとなく予想はできるけどね。多分「無断で人の部屋に入るな!」ってところかな?
□□□□□
リビングに戻り数分ほど待っていると、中学校の制服に着替えた七罪がまだ少し眠気が抜けきっていない雰囲気を漂わせながら入ってきた。
白のセーラー服を違和感無く着こなす七罪。うむ、抱きしめて頭を撫でたくなる程の可愛さである。……実際にやろうとすると天使を使ってまで拒むから出来ないけども。そんなに嫌なのか……
「……いただきます」
「うん、召し上がれ」
自身の席についた七罪は用意されていた箸を手に取り、そのまま手のひらを合わせて一礼する。そうして七罪が食べ始めたのを皮切りに、自分も同様に一礼した後食事を取り始めていくのだった。
今日の朝食はご飯に味噌汁、オムレツとホウレン草のお浸しを用意した。やっぱり朝はしっかりと取らないとね。……まぁ、七罪と出会う前の千歳さんだったら、朝は食べないかカップ麺辺りで済ませてたんだろうけどさ。
だって千歳さんの当初の目的って『充実した堕落生活を送ること』じゃん?
朝から昼の間は惰眠を貪り、夕方過ぎにようやく目覚め、それから深夜まで趣味に没頭するような社会人とは思えない生活だ。今の現状でそれが叶っているとはとてもじゃないが言い難い。
思い返せ千歳さん。自分は今、どんな生活サイクルを繰り返している……?
朝早くに起きては朝食を用意し、七罪を見送れば家の掃除と夕飯の買い出し、空いた時間でこの世界の漫画やラノベを読み漁り、夕方に差し掛かれば夕飯の準備を始め、七罪が帰ってきたら夕飯を食べたりお風呂に一緒に入ったり、後は寝る時間がくるまで七罪と遊んで……
「――って、なんだこの子供のいる新妻みたいな生活は!?」
「ちょ、いきなり叫ばないでよ……食事中なんだから慌ただしくしないで」
「あっ、ハイ」
七罪の冷静な指摘に意気消沈する千歳さん。――だかそれとこれとは別問題。
おかしい……なんで千歳さん、こんな規則正しい生活送ってるの? 駄ライフはどうしたし。堕落するどころか前世よりも健康的な生活を送ってるんですが? 何しれっと今の生活受け入れてんの? おかげで心の中が爽やかな気持ちで満たされているんですけど?
「その辺り、どう思う?」
「……逆に聞くけど、それのどこがいけないわけ? 不満でもあるの?」
「不満がないから問題なんだ」
「意味がわからないわ……」
千歳さんの言ってることが理解出来ないと言った様子で額に片手を添える七罪。解せぬ。
「前にも言ったけど、千歳さんは精霊になる前まで男だったんだ。それも常にグータラでテキトーで昼寝が趣味な駄目人間で、それに加えて掲げる目標が『充実した堕落生活』とかいうロクデナシだったんだよ!? それが今はどうだ!? これじゃあただの世話焼きお姉さんじゃないか!!」
実を言うと、七罪には千歳さんが元男性だったってことは話してある。
流石に別の世界から転生したことは伏せているが、七罪にはあまり隠し事はしたくないからね。全てとはいかないけど、話せることは全て話したつもり。
あの時のことは忘れない……そう、話を聞いた七罪が「あぁ、そういう設定……」と言いたげな、不憫な者を見るような眼差しを送ってきたことを。設定ちゃうわいっ!
「元は男だった筈なのに、今では七罪に言われて身嗜みを整えるようになるわ、口調も少しずつ女性寄りになるわ、気づけば女性ものの下着やスカートを着用しても抵抗を感じなくなるわ、トイレや更衣室で意識せずとも女性の方に入るわ――てかもうこれほとんど女性のそれだよね!? 九割がた女性になってるよね!? 男だった千歳さんどこ行った!? 迷子か!? この歳で迷子になったか千歳さん!? それとも家出したのか千歳さん!? お願い戻ってきて! このままだと元男だったことさえ忘れそうなんだよぉ!!」
うがーっと頭を抱えて振り乱す千歳さん。
いやホント冗談抜きでヤバいと感じる時があるんだよ。最近でいうと「そういえば千歳さんって元は男だったっけ?」なんて感じでたまに思い出すレベルで忘れかけてるし、思い出しても寧ろ元男だった事に違和感を感じる始末……あれ、千歳さんって前世は男だよね? なんだか自信がなくなってきた――って、いやいや、男! 男だから! なに疑心暗鬼になっとるんや自分!
……でも、転生してから既に三年。その間ずっと女性として暮らしてきたからなぁ……肉体に精神が引っ張られでもしてるのだろうか? もうわけわかんねーや……
そんな千歳さんの葛藤に対し、七罪の反応はというと――
「ふーん」
「割りとドライ!? ちょ、七罪さん? 流石に反応が素っ気なさすぎやしませんか?」
「だって、あんたが元々男だったとか、グータラでロクデナシだったと今更聞かされても……正直どうでもいいし」
「え、えぇ……」
どうしよう。妹に前世の自分全否定されたんだけど。どうでもいいって……なんだか姉の奇行に妹が嫌気を差しているようで心が痛いよぉ。本当なのにぃ……
目に見えて落ち込み始める千歳さん。そんな千歳さんを前にして、七罪は呆れたような表情を向けてくる。
「そもそも、そうなったのは
「……はい? 何言ってるのさ? 千歳さんは別に好きでこうなった訳じゃ……」
「……あぁ、うん。そうね、そうだったわね……」
「……七罪?」
七罪の不可解な返答に千歳さんは首を傾げてしまう。そんな千歳さんの反応に対して七罪はブツブツと何か呟いてるが、何を言っているのかまではわからなかった。わかったことは……七罪の様子から、先程言った言葉に嘘偽りはなかったということだけ。それだけは七罪の様子から何となく察したが……
それだと何か? 千歳さんは望んでこうなったと? それは自分自身の意思で女性らしくあろうとしたってことか?
それは……ないんじゃないか? だって千歳さんは元々男だし……男……の、筈……
…………あれ?
そう、だったっけ? どうだったっけ……いや、千歳さんは元男なんだから、それが女になりたいだなんて、ましてや
……………………
……まさか、考えた、のか? そうなりたい、そうだったって……自分は女だったって、自分の意思で――
「――ッ、な、何だ? なんか、頭が……痛、い……あ、あれ? 千歳さんって確か……」
頭の中で続く自問自答に何か思い出しそうになった瞬間、まるでそれを拒むかのような鈍痛が頭に響く。それは頭の中をグシャグシャにかき混ぜられているかのようで、正直あまりの痛みに泣きそうになる。それほどまでに酷い頭痛が千歳さんを襲い、その痛みに思わず頭を押さえてしまう。自分が何を考えていたのかさえ忘れてしまいそうだ。
でも、気になる。その痛みを堪えてでも知りたい欲求にかられた千歳さんは、まとまらない思考を無理に動かすことにした……
自分は今、何を思い出そうとしていた? というか……
不意に見えてくる疑問。それについて頭を整理しようとするも、そうする度に頭痛が酷くなっていく。
上手く考えがまとまらない。でも気になって気になってしょうがない。正直にいって、そろそろ痛みに耐えるのも限界なんだけど……ここは頭痛を我慢してでも思い出すべきなのかな? だって……なんだか胸がモヤモヤするし。
それに、千歳さんは何か大事な事を忘れている気もするんだよ。それが何なのかは見当もつかないけど……話の流れから察するに、多分性転換のことで何かあったような気が――
……いや、大事な事ではなかった、か? どちらかと言えば——
「ストップ」
「――ッ、え、あ……?」
不意に届いた七罪の声。その声を聞いた瞬間、モヤモヤとしていた気持ちが一気に霧散した。警報のように続いた頭痛もピタリと止み、後には何も残らない。
押さえていた手を下ろし、茫然と正面を向く。そこには……悲痛な面持ちを浮かべながらも、何処か安堵したような雰囲気を纏う七罪がこちらに視線を送っていた。
「な、七罪……あのさ――」
「思い出さなくていいわ」
「……え?」
「思い出さなくていいの」
「いや、でも……」
「千歳」
「……でも、
「
「――っ」
少し強めに呼ばれたことで、一瞬身を強張らせてしまう。
なんだか七罪に叱られている……というよりも、諭されているような気がしてしまう。変に緊張してしまう自分の内心にも困惑を隠せない。なんなんだ、この感じ……なんか、何もかもが嫌になってくる。
そんな自分の心情を察してか、七罪は先程まで浮かべていた表情を崩し、次の瞬間には真剣みの帯びた険しい表情を浮かべた。
一見すると何か切迫した状況なのかと伺いたくなるような雰囲気を七罪は醸し出しているのだが……その表情を見ていると、何故か安堵してしまう自分がいた。
「無理をしないで」
「……」
「無理に思い出さないで」
「……うん」
「無理に考え込まないで」
「……うん」
「無理に溜め込まないで」
「……うん」
「つらいなら、頼って」
「…………」
「私を頼って」
「それは……」
「そんなに私は頼りない?」
「そんな、ことは……」
「なら、頼りなさいよ」
「…………」
「ねぇ、頼ってよ……」
「七罪……」
「お願い……」
「…………わかった」
七罪の言葉一つ一つが、何故だか重く感じてしまう。同時にそれらの言葉一つ一つが、虚言ではなく
不思議と心にすんなり届き、声を聞く度に心が安らいでいく。そうして先程までの焦燥に駆られていた感情を優しく解きほぐしていった。
……考えすぎ、だったのかもしれない。
別に深く考えることなんてなかった。考える必要がなかった。だってそれは
辛い記憶に蓋をするのは……別に、悪いことじゃない。
「というか、正直どうでもいいのよそんな事。あんたが元男だろうが性同一性障害者だろうがニューハーフだろうが、別にどうでもいいし」
「――いやいやいやいや! それは流石にどうかと思うんだけど!? 性同一性障害はまだいいとしてもニューハーフはないから! 絶対ないっ! 別に女体願望があった訳じゃないからそこは勘違いしないで!? ……いや、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ……あったかも、しれない……かな? なんて――」
「……うわぁ」
「ごめん今の忘れて。だから引かないで。そんな目で千歳さんを見ないで。死にたくなるから」
先程とはうって変わって、七罪のあんまりな暴論につい冷静さを欠いてしまった千歳さん。そのせいか、思わず余計な事を口走ってしまった。
いや、だって……ねぇ? 女体に気にならない思春期の男子なんている? どうなってるのかとか普通は気になるもんじゃないかなぁ……まぁ流石に「女になりたい」なんてことを考えたことはないけども。女体に興味はあっても女体化には興味ないのです! ……ホントだよ? だからそんな軽蔑したかのような視線を向けないで七罪。向けるなら先程までの慈愛に溢れた眼差しをプリーズ。
……それはそれで恥ずかしいな。嬉しいけども。
「……なんにせよ、あんたが男でも女でも私にとってはどうだっていいの。瑣末な事でしかないわ」
「え、えぇ……それはそれでどうなのさ?」
「いいの。だって……私にとっての千歳は
「……? それって――」
「――ごちそうさま。それじゃ、後片付けよろしく」
「……え、ちょ、七罪!? 千歳さん会話どころかまだ食べ終わってもないんだけどー!?」
結局最後まで自分のペースを崩さなかった七罪は、何やら意味深な言葉を残して話を切り上げてしまった。気づけば七罪の前に並べてあった朝食が全てなくなっている。どうやら千歳さんがヒートアップしている間も箸は進めていたようだ。ちゃっかりしてるぜ。……まぁ自分に関しては自業自得だけども。
ぐぬぬ……なんだか有耶無耶にされた感じがする。千歳さんにとっては割りと重要なこと……だった筈なのになぁ。
「千歳」
「んぐっ……んー? なにー」
このまま腐っていても仕方がないので、残りの朝食を胃袋に納めていく。すると、不意に七罪から名前を呼ばれた。
なんだろうと思い七罪の方を向くと、廊下に続く扉の前で七罪はドアノブを握りながら背中を此方に向けている。
そのまま七罪は呼び掛けたにも関わらず、背中を向けたまま黙りこんでいる。どうしたのかと声をかけようとすると――
「……いつも、ありがとう。オムレツ、美味しかった」
それだけ言って、リビングを後にした。
出ていく直前、ほんの少しだけ此方に顔を向け、耳を澄ませていなければ聞き逃してしまいそうな程に小さな声で呟いた七罪。しかしそれでも、その呟きは、しっかりと千歳さんの耳に届いた。
「……なんだかなぁ」
暫くの間七罪が出ていった扉を見つめた後、再び残りの朝食を口に含んでいく。そうして咀嚼を繰り返しながら、先程の言葉を脳裏で反芻した。
――私にとっての千歳は今の千歳だもの――
『
七罪の言葉は、きっと『今の千歳さん』に向けた言葉だろう。……『昔の千歳さん』ではなく、『今の千歳さん』に。
……もしも、千歳さんが『昔の千歳さん』のままだったら、今の言葉を聞くことはできただろうか?
何事にもいい加減で無気力だった自分を、果たして彼女は慕ってくれただろうか? ……そこまで思考し、ふと思う。
「……どうでもいいな」
七罪の言葉に感化されたのか、重要なことだと考えていた悩みが粗末なことのように思えてきてしまう。
だってさ? いくらここで頭を悩ませたところで、もうどうしようもないじゃないか。別に女性寄りの思考になったからって、それで男心を捨てなきゃいけない訳でもないし、何より男だろうが女だろうが……千歳さんであることには、変わりない。
今を蔑ろにしてまで前世の自分に拘る必要もないだろう。前世は前世。今は今。そう割りきって生きていく方が……気楽でいい。
それに……
「にしても……そっかそっか、美味しかったかー……にひひ」
七罪が出ていく前に残した言葉に、自然と笑みが溢れてしまう。
女というのも、存外悪くないのかもね。
七罪に優しい世界。――代償に千歳さんが情緒不安定気味に。どうしてこうなった←
その内に千歳さんと七罪の出会い話や、千歳さんが七罪を溺愛する理由について触れていこうとは思います。
因みに、七罪の容姿は11巻のメイド服姿の七罪を思い浮かべて貰えればヨロシ。あのストレートヘアーの七罪です。
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第三話 七罪、過去を振り返る
どうも、メガネ愛好者です。
……次話書くのだけで何ヶ月かけてるんや自分。
その上、シリアス低めとか言いながら今回ガチシリアスじゃないか。何故だ……何故シリアスになってしまうんや……
スローライフ書きたいのに気付いていたらシリアス書いてた。しかも何度書き直しても余計にシリアス度が増すばかり——
……うん、私、きっとこういう小説しか書けないのね(悟)
気を取り直して……今回は七罪視点です。
『七罪が今の平穏な日々を手に入れるまでの物語・全編』になります。
ほのぼのなんて期待するな。何事にも暗い過去は付き物なんです……
あ、ここで注意事項。
七罪ちゃん、いろんな意味で暴走します。
それでは。
PS.タグ変更並びに前話に変更点があるので、未読であればそちらを先にご覧いただけたらと思います。
リビングを後にした七罪が向かった先は洗面所だった。
今や見慣れた洗面台の前に立ち、傍に置かれていた歯ブラシを手に取れば慣れた手つきで歯についた汚れを落としていく七罪。
別に霊力を使えば汚れとは無縁の生活を送れるのだが、現状での霊力運用はあまり好ましい手段とは言えなかった。
いくら七罪が千歳に
もしもそこでASTを始めとした彼方側の存在――〈ラタトスク〉はともかく、DEMなどに勘づかれでもすれば、今の生活も儘ならなくなってしまうのは確実だろう。例え千歳がすぐ傍にいて再封印出来る状況だったとしても、下手をすればその一瞬の間に洩れた霊力をどこかしらの観測機が拾ってしまう可能性もある以上、極力日常生活において七罪は精霊の力を使わないよう心掛けていた。
千歳と暮らしていくには人間として生きていかなければ都合が悪い。どれだけ手間が増えようとも、それを無視してまで今の平穏を壊す気など七罪にはなかった。
そんな彼女は歯ブラシから流れるシャカシャカといった小気味良い音を耳に入れつつ、物思いに更けていた。
(あれからもう二年、か……)
脳裏に浮かぶはあの日の光景。
それは七罪が初めて現界した日――彼女にとっての
□□□□□□□□□□□□□□□
二年前、私は一人茫然と街を彷徨っていた。
今の自分とは比べようもない程にみすぼらしい姿、それこそまるで捨て子のような雰囲気を纏っていた私に頼れる人なんて一人もおらず、誰かを頼ろうにも周囲の者から向けられるのは嫌悪感を露わにした眼差しと拒絶を示す心無い言葉のみ。
「近寄るな」「話しかけるな」「邪魔だ」「どっかにいけ」
その言葉一つ一つが私の心に突き刺さる。無理に関わろうとすれば物理的に突き放そうともしてくる始末……
正直、限界だった。
人の目から逃れ、人通りの少ない路地裏へと身を隠した私。ひんやりと冷たいコンクリートの壁に背中を預けつつ、私はそのまま身を縮こまらせた。
――私が一体何をしたの? なんで私がこんな目に合わなきゃいけないのよ……――
今思い返してみても腹立たしくて仕方がない。訳も分からないまま知らない場所に放り出された挙句、そのまま放置されるとかふざけんじゃないわよ。理不尽にも程があるでしょうが。もしも仕立て人が目の前に現れたとしたら、私は迷わずソイツの顔面に向けて拳を振り抜いていたわね。……まぁそれは今でも変わらないけど。
でも、その時の私が真っ先に抱いた感情は……苛立ちではなく、恐怖心だった。
頼れる相手は一人もいない。通りには大勢の人がいるのに、誰一人として私のことを気にも留めてくれない。まるで私一人が世界から隔離されているかのような、そんな錯覚さえ覚えてしまう。
寂しかった。心細かった。そして何より……一人でいるのが怖かった。
孤独感、疎外感、劣等感など、そうした負の感情が時間が経つごとに心を埋め尽くしていく。心臓が締め付けられるように苦しくて、頭の中はぐちゃぐちゃで、目からは止めどなく涙が溢れてきてしまう。
そうしてとうとう堪えきれず、泣き叫びそうになった時……私の前に、アイツが現れた。
『……どした、迷子にでもなったか?』
ぶっきらぼうな物言いとは裏腹に、何処か親近感が湧いてくる朗らかな表情を浮かべたアイツ――小汚い姿の私を見て顔を顰めることもなく、純粋な親切心のみで歩み寄ってきたときのアイツの姿が、今でも脳裏から離れない。
そして、不安に塗れた私の心を優しく包み込むかのような安心感を抱かせるアイツの雰囲気に……私の心は呆気なく傾いた。
気づけば私は大声を上げて泣いていた。みっともなく、恥も捨てて、ただただ子供のように泣き喚いてしまった。
そんな私の反応に対し、しどろもどろに狼狽えていたアイツの姿が印象に残る。まさか泣かれるとは思ってもいなかったのだろう、正直すまなかったと思ってる。
……でも、しょうがないじゃない。私は私で限界だったのよ……だから、そこは大目に見てほしい。
アイツは一向に泣き止まない私をどうにか落ち着かせようとしていたが、アイツの慌て様からどうすればいいのか見当もつかない様子だった。……まぁ自分で言うのもアレだけど、気休め程度の慰めを一つ二つ掛けて収まるほど、私の溜め込んだ鬱憤はそこまで生易しくなんかないけれども。
私が受けた傷は決して浅くはない。"誰にも相手にされなかった"という人によっては"その程度"と思うことでも、私にとってはとても耐えられるような事ではなかったのだ。
何せ、その時の私には
精霊のことや一般常識などの最低限の知識は何故かあったけど、それ以外の記憶――私個人に関する記憶は綺麗サッパリ消えていた。自分がどんな性格だったのかさえ曖昧になっていて、暫くはまともに頭が回らなかったぐらいだ。
つまり、いってしまえば私は生まれたての赤子同然……いや、多少の知識はあったからそれよりはマシなんだろうけど、それに近い状態で現界したといっても過言じゃない。
そんな私が周囲の人間達から拒絶に近い形でぞんざいにあしらわれて……傷つかない訳がないじゃない。私は、そこまで強くないんだから……
積もりに積もった感情の発露。それは決壊したダムの如く溢れ出し、自身の意志で抑え込むことなど出来はしなかった。
そんな感情の波を抑え込むのは容易な話じゃない……筈なんだけどね。
気づけば私はアイツに抱きしめられていた。
ただ背中に両腕を回すだけの抱擁。見よう見真似でやってみたと言わんばかりのそれに力加減なんてものはありもせず、正直に言って「へたくそ」以外の何者でもなかった。私のことを落ち着かせたいのかサバ折りにしたいのかどっちなんだと不満を抱く程の粗末な抱擁だった。
……それでも、私はアイツの抱擁を振り解こうとはしなかった。
初めて感じた人の温もり。それは冷え切った私の身体を徐々に温めてくれた。その力強さも苦しさより頼もしさが勝り、密着したことで聞こえる心臓の音が妙に心地良く聞こえた。
胸に込みあがる異様な熱に私の心が満たされていく。出会ったばかりだというのに、どうやら私の心は既にアイツを受け入れようとしているようだ。自分の事ながらチョロすぎやしないだろうか? ……まぁ、いいか。こんな気持ちになるのもアイツだけだし、アイツになら……うん、構わない。
言葉は無かった。慰めの言葉がアイツの口から出ることは始終なかった。……でも、それでよかったんだと今は思える。
建前なんていらない。ただ私のことを見てくれた。私の相手をしてくれた。私という存在を受け止めてくれた。たったそれだけのことが私にとっての救いとなり、歓喜に心が打ち震える。そして感情が抑えられなくなった私は、自然と自分からアイツに縋りついていた。
もう離さない。もう離れない。離れたくなんてないといわんばかりに、私はアイツの――千歳の腕の中で、涙が枯れるまで泣き続けたのだった。
□□□□□□□□□□□□□□□
過去の記憶を思い返している内に手早く歯磨きを終えた私は、鏡越しに今の自分の姿を視界に収める。
鏡に映るは二年前とは異なる私。
サラサラのロングヘアーに健康体を維持した艶やかな肌、猫背は改善され、以前まであった卑屈気な雰囲気などは見る影がない程に霧散している。
私は変わった。変わることが出来た。千歳の助力もあったとはいえ、〈
きっと千歳と出会わなければこうはならなかったと思う。おそらくは未だに自分自身を卑下したまま、変わろうとする努力もせずに天使を使って姿を偽り誤魔化していたのではないだろうか。
〈
今の私が私でいられるのは千歳のおかげだ。千歳がいたからこそ、今私は幸せに暮らせている。
当初は「放っておけなかった」ってだけの理由から始まった曖昧な関係だったけど、今は『家族』という確かな繋がりで結ばれている。お互いに心を許し、少なくとも私は千歳の事を全面的に信頼している。
けれど……
(千歳……)
先程の光景が脳裏によぎる。
記憶が曖昧となり、自身が男なのか女なのか判断できずに頭を抱える千歳の姿。その歪な言動に、自然と私の表情は強張ってしまう。
千歳がああなったのは、私のせいだ。
恥ずかしい話だけど……千歳と出会ってから暫くの間、私は千歳の傍から離れなかった。……離れられなかった。
千歳との出会いを境に、気づけば私は千歳に依存するようになっていたのだ。
それは一瞬でも手を離した瞬間、私の目の前から千歳が消えてしまうような錯覚に見舞われてしまい、その不安から何らかの症状を引き起こしてしまう程のものだった。特に多かったのは過呼吸だ。胸を締め付ける程の強い不安感に呼吸が儘ならなくなり、終いには失神してしまう事もあった。
そんな私の状態に気づいた千歳は、流石にこのまま放っておくことは出来なかったのだろう、暫くの間私の傍にいてくれる事を約束してくれた。何だったらこれから一緒に世界巡りでもしないかとも言う。その提案に、気づけば私は二つ返事で頷いていた。
……それが事の発端。私ではなく千歳にとっての
□□□□□□□□□□□□□□□
千歳は出来る限り私の傍に寄り添ってくれた。
手を繋いでと頼めば握ってくれたし、頭を撫でてと頼めば撫でてくれた。抱きしめてと頼めばあのへたくそな抱擁をしてくれる。
私が求めれば、千歳は可能な限り応じてくれた。嫌な顔は一切せず、私のことを第一に考えてくれた。
私は満たされていた。あの時の感じた不安感など抱くこともなく、ただただ幸福の海に沈んでいった。
……でも、そんな時だった。
常に千歳の傍から離れなかった私は、ふと違和感を感じてしまう。……感じてしまった。
千歳は私との間に何らかの壁を作っている。
確証はなかった。でも、千歳を見ているとなんとなくそうではないかと感じてしまった。
最初の頃はそんな様子もなかったし、私の要求に嬉々として応じてくれていた。……でも、次第に千歳の態度は変化していき、何処か余所余所しい雰囲気を纏うようになってしまったのだ。
何かと私に遠慮したり、壊れ物でも触るかのように接してきたり、挙句の果てには顔を合わせただけで赤面してすぐさま顔を逸らしたりと、どうにも落ち着かない様子を見せる千歳。
特に様子がおかしかったのは、千歳と一緒にお風呂に入るようになってからね。同じベッドに寄り添いながら寝る時も相当だったけど、その時の千歳は明らかに私と距離を置いていた。
因みにその時の千歳の様子は――
『……どうしたの?』
『な、何でもないですよ? いやホントマジで何もないですホント。全然問題ないですハイ。……ホントだよ? 千歳さん、別に緊張してるとかそんな事全然ないから寧ろウェルカムだから!! ……あ、いや、決してやましいことではないから深くは考えないで? 単純に見惚――じゃなくてそうじゃなくて……っ、と、ともかく! 千歳さんは至って平常であるからして七罪ちゃんが気にするようなことは全然ないからゆっくりしていってネッ!?』
『……うん、わかった。千歳がそう言うなら、気にしない』
『お、おう……なんかごめん』
『……? 何で謝るの?』
『あー、その……なんとなく?』
『……へんなの』
早口で何やら色々言ってたけど、その半分も正確に聞き取れなかった私は一先ず追及することをやめ、再び千歳をそれとなく観察する。
その後、何かを我慢するかのようなしかめっ面を浮かべたかと思えば、何かを思い出しては一気に気落ちし、まるで知りたくもなかった現実に直面してしまったかのように愕然とし、終いには打ちひしがれる。そして暫くして顔を上げた千歳が私を視界に収めた瞬間、それまでの悲壮感は一気に霧散したかのように赤面しながら慌てふためき、再び何かを思い出しては気落ちする……そんな無限ループがお風呂から上がるまで続いたのだった。……正直に言って挙動不審過ぎる。
その時の私には千歳の隔てる壁が何を意味しているのかが全く分からなかった。後程その理由を聞いて納得はしたが、その理由にこのときの私が気づけるかどうかと問われれば……答えはNOだ。
分かった事は――千歳が私に対して何らかの感情を隠している。それも、私に知られては不味いような何かを――それだけだった。
ここで私の不信感は急速に増していった。
冷静に見ていれば千歳が私のことを忌避している訳がない事など一目瞭然だ。理由はわからないけど、当時から千歳は私のことを何かと気にかけてくれていたからね。
……でも、当時の私にとってはその壁の存在自体がよろしくなかった。
先程も言ったが、私は千歳に依存していた。
――それも、病的なまでに。
出会ってから数週間で、気づけば私は千歳がいなければ気が狂ってしまいかねない程に依存していた。もしも千歳が少しでも私から何も言わずに離れていれば、途端に情緒不安定になってしまっていたことだろう。
だからこそ、千歳が私に何かしら壁を作っていることに気づき、それを確信した瞬間……私の思考は一瞬で黒く染まった。
『嫌々付き合うぐらいなら初めから私に関わらないでよ!!』
その時の私に心の余裕なんて一切無かった。
千歳は唯一私の事を見てくれた。
千歳だけが私と言う存在を受け止めてくれた。
千歳がいたからまだ私は正気を保っていられた。
千歳の存在そのものが私の心の支えになっていた。
千歳は――
千歳は――――
千歳は――――――
千歳は……私の全てだった。
だから、そんな千歳に『裏切られた』と、そう感じた瞬間————私の
□□□□□□□□□□□□□□□
……次に私が見たのは、凄惨な光景だった。
周囲はまるで現代アートのような、それでいて何処か禍々しさを感じさせる惨状へと変貌していた。
街の建造物は軒並み奇妙な形状と色彩のオブジェへと様変わりしており、その大半が中程から砕け散っている。
罅割れた道路は粘土のように捻じ曲がり、未だ軟性を失っていないのか時間経過に伴い重力に引かれ形状を崩していく。
近くにあった車両や店に並んでいた品物などはそもそもの形状を留めておらず、微かに元の名残を残して周囲に散らばっていた。
そして、私の正面には座り込んだアイツ――
『……おう……目、覚めたか……?』
ボロボロの霊装を身に纏い、全身に裂傷や打撲などの様々な傷を残して血を流す……そんな千歳が、掠れた声で語り掛けてきた。
……そこで、私は悟った。悟ってしまった。
この状況は何なのか、一体何が起きたのか……いや、
やってしまった。
どうしよう。
どうしよう……
……違う。
違う、違うの……
私、そんなつもりじゃ……
こんな、つもりじゃ……
私は……ただ……
私、は……
……私は、取り返しのつかないことをしてしまった。
急速に冷めていく思考に、今までの自分がどれだけ身勝手だったのかを思い知らされ、打ちのめされる。
千歳は裏切ってなんかいない。
寧ろ千歳は私のことを過保護なくらい気にかけてくれていた。
確かに何らかの壁があったのは間違いないけど、誰にだって人には言えないことが一つや二つはあるだろう。
そんな当たり前な事さえ忘れて、私は自分のことを優先した。
千歳は私のことを優先してくれていたというのに、私は私の事しか考えていなかった。
それだけでも最低なのに、その上で私は……千歳を傷つけてしまった。
持てる限りの全力を出し切ったと言わんばかりに、力なく座り込む千歳。きっと千歳は、全身全霊を持って私のことを止めてくれたのだろう……私の視界に映る千歳の有様から、それがどれほど困難な事だったのかが想像できてしまう。
至る所に出来た青痣によって千歳の肌は変色し、裂傷から流れる赤い血が周囲に舞っている土埃と混じりあって千歳の体を汚している。擦り傷なんて数えるのも億劫な程あり、もしかすると何処か骨が折れているかもしれない。
今にも力尽きそうな程に傷つき、衰弱している千歳の姿に涙が止めどなく溢れてくる。埋め尽くさんばかりの罪悪感が心に押し寄せ、私の心を容赦なく抉ってくる。
もしかしたら、私のせいで千歳が死んでいたかもしれない。それ程までの重症を、意識がなかったとはいえ私が与えてしまった。
きっと、嫌われた。
千歳からしてみれば、成り行きで関わりを持ち、親身にしていた相手が急に訳も分からず暴走した上で殺しにかかってきたのだ。これ以上好く理由なんてある訳がないし、嫌わない理由にならない訳がない。
こんな身勝手で執着質な地雷女、嫌って当然だ。
嫌われるに、決まってる……
――そう思っていた矢先、私の視界を何かが埋め尽くした。
『……ごめん』
耳元で聞こえるアイツの声は、今にも消えてしまいそうなほどに弱々しかった。
『嫌じゃ、ないから……』
体に広がる温もりと、普段よりも力のない締め付けが私の体を包み込む。
『……七罪と、いたいんだ』
……なんで、そんなことを言うんだろう。
『ずっと、傍に……いたいんだ』
自分を傷つけた相手に対して、何を……
『だって……だって、
――オレは、七罪が――
□□□□□□□□□□□□□□□
洗面所を後にした私は、身支度を整えた後に玄関へと向かった。
その道中、リビングの扉の前にて一度歩みを止めて、視線をリビングの扉――正確にはその先にいるであろう千歳へと向ける。
「……行ってきます」
あの時のことを思い出してしまったせいか、自然と声が小さくなってしまった。多分これでは千歳に声が届かないだろう……
私の心には未だにあの時の罪悪感が燻っている。
当たり前だ。事はそんな簡単に割り切れるものじゃない。
自身の感情が拗れた結果――例え今は完治して当時の傷跡が残っていなくても――千歳を傷つけてしまったことは事実なんだ。例え千歳が気にしていないからと、それでなかったことにするなんて私には出来ない。出来る訳がない。それに……
(あの時、私が暴走してなければ……)
あの一件の後、千歳は私との間に隔てていた壁の正体を独白した。
千歳が作っていた壁……それは、以前までの自分が男だったということ。
元々は何処にでもいるようなただの一般人だった千歳だが……ある日、とある存在が目の前に現れたと言う。
そいつは自身を神だと誇称した。
……正直に言って、私は胡散臭いと思った。そんな都合のいい奴がいるのかと。
どうやら千歳もそう思ったらしい。というか今でも半信半疑だとか。
そんな胡散臭い存在の手によって、よくわからないうちに精霊にされてしまった千歳。その拍子に肉体が女の体へと変貌してしまったようだ。
今では大分慣れてきたが、それでもまだ女の体に慣れておらず、そのうえ心は男のまま……そんな状況の中、同じ精霊とはいえ元から女である私とどう付き合って行けばいいのかわからなくなっていき、次第にその迷いが態度として現れるようになってしまった――それが、千歳が余所余所しくなった原因だった。
因みに、時折千歳が挙動不審になる原因もここにある。
どうやら千歳は私と過ごしていくうちに、私のことを「女の子」だと意識してしまうようになったみたい。そのせいで冷静にしていられなかったとか。お風呂の時にはそれが顕著に現れたとのこと。
……え? それを聞いて何か思うところはないのかって?
別に何も。正直どうでもいいわね。
だって私は千歳が女だから好きになった訳じゃないもの。だから例え千歳が以前まで男だったからって、それが理由で嫌いになる訳がないじゃない。
言っておくけど、現状ではあの時のこともあるから過度に執着しないよう気をつけているってだけで別に以前の気持ちが消えた訳ではないのよ? 千歳から離れたくないのは今でも変わらないし寧ろ我慢してるせいで日に日にその欲求が増していってるし何だったら今すぐにでも千歳に飛びつきたいぐらいには我慢の限界が近づいているしというかさっき千歳が私なんかを可愛いって言ってくれたんだけど聞き間違いじゃないよねホントなんで千歳はああいうことサラッと言えるのよ反則でしょあぁ思い出したら千歳に抱き着きたくなってきたそう言えば千歳最近は何度も繰り返してるうちに抱きしめるの上手くなっちゃったのよねあの時のへたくそな抱きしめ方の方が私的には好きなんだけど少し残念まぁあれはあれで心地いいから好きだけどそうだ頭も撫でてもらおう千歳って抱きしめるのはへたくそだったのに頭を撫でるのは昔から上手かったからねなんでも今はもう会えなくなった妹に再三せがまれて慣れているとか何それ羨ましい私だって千歳に撫でてもらいたいのに今では私が千歳の妹なのよそれなら私が代わりにその妹さんの分も撫でてもらっても構わないわよねでも自分から強請るのは少し気恥ずかしいしあの時の負い目もあるしで無理に強要するのは抵抗あるしあぁもうイライラするなんであの時の私は暴走しちゃったわけそのせいで千歳に思う存分甘えられないじゃないホント余計な事してくれたわね私自業自得だとわかっていても納得出来ないししたくない――――
………さて、話を戻すわね。
……さっきのことは追及しないで。さもないと床に溢した牛乳を拭き取ったボロ雑巾に変えるわよ。いいわね?
何にしろ、私の一方的な感情の爆発に千歳を巻き込んでしまい、挙句の果てにはそれで千歳を傷つけてしまった訳だ。この時のことは私が全面的に悪いのは明らかだ。
……それなのに、千歳は自分にも非がある、事前に打ち明けていればそもそもこんな事にはならなかった筈だと申し訳なさそうに頭を下げてくる。
そんな訳ない。千歳が悪いなんてことある筈がない。この件は結局私が千歳の事を疑念して邪推したのが事の発端だ。だから、千歳が自身を悪く思う必要なんて何処にもない……その筈なのに――
『だから……うん、
この瞬間から、千歳は私との間に作っていた壁を……
変化はその翌日から現れた。
余所余所しかった態度はなくなり、雰囲気も柔らかくなった。以前まで見せていたガサツな部分も鳴りを潜め、口調も気持ち落ち着きのあるものへと変わっている。
一言で言えば……そう、千歳は
以前までの千歳の仕草や態度からは確かに元男だった時の片鱗が見受けられた。私が千歳の独白を受けてすんなり納得できたのもこれが理由だ。
しかし、その時の千歳――「変わる」と宣言したあの日からの千歳からはそんな様子を一切見せない。やることなすこと全てが女のそれで……
それは……まるで……
『……え? 何さ急に。千歳さんは
千歳は……
ぐおぉぉぉ……じ、自分で書いててあれだけど……七罪が酷い目に会う描写を描く度に心ががが……
……まだ続きます。次回の更新は早めに……したい。
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第四話 七罪、『千歳』を想う
――――デアラが完結してしまった。これがデアラロスか――――
どうも、メガネ愛好者です。お久しぶりです。
一先ず、最終巻を読んで思ったことを一つ…………
――――七罪は幸せにせなあかんなって。
『識別名〈シェイド〉』
それは今から約三年前に起きた空間震にて現界した、精霊と思わしき異形の存在に付けられた呼称である。
周囲に黒い靄を撒き散らし、またそれを身に纏う正体不明の生物。その姿はまるで、この世に蔓延る闇という負の概念をそのまま具現化させたかのような筆舌につくし難い異質さと忌避感を感じさせる姿をしている。そのような見た目と精神に干渉する能力から、対象は〈
現状かの精霊は異形の姿でのみ確認されており、人の姿をとることは一度としてなかった。不特定、不明瞭な形状変化を繰り返す〈シェイド〉はこれまでに確認されてきた精霊と大きく異なる存在と言えるだろう。
何故ならば、現状精霊といえばおおよそ十代前後程の年若い少女の姿でのみ確認されているからだ。
〈プリンセス〉〈ハーミット〉〈ナイトメア〉など、それぞれ異なる容姿であれどいずれも一際整った容姿の持ち主である。それこそ精霊と言うだけあって何処か神秘的な美しさを醸し出していた。
それ故に此度の〈シェイド〉の現界は精霊関係者達に大きな衝撃を与え、各所から疑問の声を投げ掛けられた。人とは異なる姿形に美しさとは正反対の悍ましさを感じさせる〈シェイド〉を、果たして精霊と判断していいのだろうかと。
特に苦悶の声を上げたのはラタトスク機関の面々だった。
彼らの目的のためには"とある少年"が精霊と接触しなければいけない。その上で最終的には精霊相手に
…………あの、視界に入れることすら可能なら避けたい、気の弱い者なら見ただけで発狂する程の醜悪な化け物相手に…………
幼くも聡い司令官はこの事実に頭を抱えざるを得なかった。現実は非情である。
ともかく、彼等にとって〈シェイド〉の出現は想定外以外の何者でもなかった。そのあまりの異例さから一部の者達――――特にASTの隊員達など実際に〈シェイド〉と対峙した者達――――は〈シェイド〉が精霊だと正直に容認することが出来なかったぐらいだ。
最もそれは〈シェイド〉が空間震から現れたこと、並びに〈シェイド〉から霊力波反応が検出されたことから「姿形が異様であれ
そうして多くの者達に大きな衝撃と混乱を与えた〈シェイド〉だったが…………かの精霊の現界から約一年と四ヶ月後、"それ"は起きた。
それは突然のことだった。
七月七日。場所はイギリスのロンドンにて。
その日――――ロンドンの街並みは一夜にして
"異界"……そうとしか表現しようのない異様な光景が
その光景はこれまでの
ありとあらゆる建造物が
それは未だ自分が眠りから覚めておらず、質の悪い夢を見続けているのではと現実逃避してしまう程のもの。それ程までに常軌を逸した光景だったのだ。
その混乱は住民だけに留まらず、外部から来た観光客やマスコミなどをも巻き込む大騒動へと発展してしまう。
幸いにも怪我人や行方不明者などの人的被害は一人として出ておらず、建造物自体もロンドンに本社を構えていたDEM社の協力の元、SSS――――イギリスにおける対精霊部隊――――が
しかし、一度変わり果ててしまったロンドンの街並みを目撃してしまった住民達の心は一様に暗いものだった。
常軌を逸した体験は次第に恐怖心を生み、積もらせる。
いつまた同じようなことが起きてしまえばと、その時は五体無事で済むのかと、当人でさえ知らず知らずの内に肥大化していく。
おそらく此度の事件を経験した者は、この先ずっと忘れない。
未知への恐怖を、無知への恐怖を、既知故の恐怖を。
多くの者の心に刻まれたその恐怖心は、決して消え去ることはないだろう。
こうして後に『ロンドン異界事変』と呼ばれるようになったそれは多くの者に"恐怖心"という深い爪痕を残し、
…………そんなロンドン異界事変だが、公にされていない事実が一つある。
それは、この事件を引き起こした元凶が
世間では原因不明の超常現象だと騒がれる一方で、SSS並びにDEMは今回の件を精霊の仕業ではないかと推測した。何せこのような非常識なことが出来る存在など精霊以外に考えられなかったからだ。
ロンドンの街全域に至るまでの範囲を、地元住民どころか自分達にさえ一切感づかれることなく一夜にして造り変えるなど、とてもじゃないが現実的ではない。例えDEMが誇る
そして、その推測は正確に的を射ていた。
確証を得るためにSSSが復旧作業をする傍ら、DEMは現地に複数の観測機を回し調査した。
変形した建造物、周囲に残された破壊痕、床に散らばる器物の破片。
現場に残されたあらゆる痕跡をくまなく調べ、そして…………それら全てに
…………
□□□□□
ガチャリと玄関の扉を開けると外から少しひんやりとした空気が流れ込んでくる。
今は四月の末。少しずつ暖かくなってきているとはいえ、朝特有の冷えはある。ただその空気を寒いと感じることはなく、寧ろその冷えた空気が心地良く感じる。
一つ深呼吸。外の涼やかな空気を肺に取り込み、大きく息を吐くのと同時に先程までの鬱屈とした気分を払う様に気持ちを切り替えていく。
いつまでも昔のことを引きずってはいられない。私のせいで千歳が歪んでしまった以上、それに報いるためにも千歳が望んだ『
そうする義務が、私にはあるんだから……
「おおっ? あー! 七罪ちゃんおはよー!」
「……おはよ、琴里」
家の敷地を抜け道に出ると、少し離れた場所から底無しに明るそうな声が聞こえてきた。
自身の名前を呼ぶ方に顔を向けると、そこには高校生ぐらいの男女二人と一緒にいる、長い赤髪をツインテールに結んだ同い年ぐらいの少女が頭上で手を左右に大きく振ってる姿が見えた。
彼女は
琴里とは去年の春、中学校の入学式の日に知り合ってからの付き合いになる。クラスも同じで席も隣同士だから関わる機会も当然多くなり、気づいたときにはお互いに名前で呼び合う程に仲良くなっていた。おそらくは千歳以外で私が一番心許してる相手だろう。
そんな彼女は普段と変わらぬ天真爛漫さを全力で発揮しつつ私の元に駆け寄ってくる。……琴里の傍にいた男の人——兄の
私は琴里に返事を返しつつ身構える。……何故身構える必要があるのかって? 仕方ないでしょ。だっていつもの流れならこの後琴里は——
「とーうっ!!」
「やっぱりかぁ……」
——全身を投げ出す形で
空高く跳ね上がった琴里が重力に従って私の頭上に迫ってくる。それを私は冷静に捉えつつ、半歩下がりながら両手を広げて受け止めるのだった。
あることがきっかけで琴里との仲が急速に深まった次の日からこの
「ホント朝から元気よね、琴里って……」
「そういう七罪ちゃんは相も変わらずテンション低いよね!」
「冷静って言ってちょうだい。それに私、朝は弱いのよ」
危なげなくキャッチした琴里をゆっくりと地面に降ろしつつ会話に興じる。相も変わらず活発に話してくる琴里に私は不服そうな態度で相手をするも、内心私はそのやり取りに心満たされていた。
ただ、こうして他愛のない話をして平穏な日常を噛みしめていると……どうしても考えてしまう。
この平穏が千歳の心を歪めてまで得た平穏だってことを。それなのに私は、そんな千歳に甘えたままでいいのかと……
千歳がそう望んでいるとはいえ、本当に私は……このままでいいの?
「んー? どうしたのだ七罪ちゃん?」
「っ……なんでもないわ。気にしないで」
「そう言われると余計に気になるぞ~?」
「本当に何でもな――あ、こらっ、頬を突くな!」
またもや意識が悪い方に向かおうとしたところで琴里からの介入が入る。ついいつもの癖で誤魔化そうとするも、そんなことで他人の感情の変化に妙に鋭いところがある琴里が誤魔化されるわけもなく、私から話を聞き出そうと執拗に私の頬を突いてくるのだった。
「おー、モチモチスベスベ~。七罪ちゃんのほっぺ柔らか~い♪」
「ちょ、ホントにやめ——ッ、いい加減にしろやあああああッ!!」
「わあ!? 七罪ちゃんが怒ったー!!?」
突いて撫でられ揉まれまくって、これでもかと私の頬を弄り回す琴里に流石の私も我慢の限界だ。……いや別に私はそんな怒りっぽい性格ってわけじゃないんだけど、それでも人がセンチメンタル拗らせてるところをこうも弄り倒されては怒らないまでも苛立たないわけがない。
「こら待ちなさい! さもないとその二つのちょんまげ引きちぎるわよ!!」
「うえっ!? こ、これはちょんまげじゃないのだ!? ツインテールなのだ!?」
「頭から二つも尻尾なんて生え散らかしてんじゃないわよッ!! あんたの頭はお尻か!? お尻のどっから尻尾生やしてんだコラー!!」
「い、言ってる意味がわからないよぉ~!!」
逃げ惑う琴里を冗談交じりに追いかけ回す。正直私も自分が何を言ってるのかよくわかってないけど、こういうのはノリと勢いが大事だ。何事もノリと勢いで突っ走れば大抵のことは自然と上手くいくものよ。…………って前に千歳が言ってた気がする。うん、言ってた言ってた。……多分。
現に先程までの鬱屈とした気分は何処へやら。脳みそ空っぽにして琴里とはしゃぎ倒しているうちに次第にいつもの調子が戻ってきた。何処か気分も楽になってきた気がする。流石は千歳。多分悪い見本とかそっちの部類なんだろうけど、深くは気にしないことにしよう。
「相変わらず二人は仲がいいなぁ」
「うむっ! 琴里と七罪は仲良しなのだ!!」
そうして琴里と戯れていると、さっきまで琴里と一緒にいた男女二人組が追いついて来た。
一人は琴里の兄の士道さん。そしてもう一人が……
「あ、おはようございます。士道さん、十香さん」
「おはよう七罪」
「おはようだ、七罪!!」
どうやら彼女、今は琴里達の家に居候しているらしい。それもあって基本毎日五河兄妹と一緒に登校しているみたいで、加えて
というか琴里と仲良くなってからはほぼ毎日鉢合わせしている気がする。なーんか妙に狙いすましたかのようなタイミングで会うのよね。……まあ別に私は琴里達と登校するのが嫌ってわけじゃないし、態々時間をずらしてまで別々に登校しようって気もないんだけどさ。
一先ず琴里を追いかけ回すのを一旦やめ、士道さん達の方に向き直りながら挨拶することにする。
十香さんとはまだ知り合ってから数週間程度しか経っていないけど、琴里達の紹介もあってそれなりには親しくなれたと思う。現に私が挨拶をすれば十香さんは士道さんと一緒に微笑みながら返事を返してきてくれた。
それにしても……うん、やっぱり琴里みたいな過剰なスキンシップが無い分平和だわ。このまま穏やかな時間が過ぎ去ればどれだけ気が楽なことか……
「うえ~ん! おにーちゃ~ん! 七罪ちゃんがイジメる~!」
「な、何っ、イジメだと!? ダメだぞ七罪! イジメは悪いことだとシドーが言っていたぞ!!」
「いや別にイジメてなんかいませんけど……え、なんで私怒られてるの? そもそもの原因、琴里よね?」
「違ーうもーんっ! 七罪ちゃんが私のツインテールを引きちぎろうとしたのが悪いんだもん! これは七罪ちゃんが悪いことは確定的に明らかですな!」
「……? "ついんてぇる"? シドー、"ついんてぇる"とはなんだ?」
「あー、髪型のことだよ。琴里みたいに髪を左右で結んでるのをツインテールって言うんだ。因みに十香の髪型はポニーテールって言って、結んだ形が馬の尻尾みたいだからそう呼ばれてる」
「なるほど、琴里が"ついんてぇる"で私が"ぽにぃてぇる"というのか……むっ? 七罪は琴里の"ついんてぇる"を引きちぎるつもりなのだな? それはつまり…………ハッ、もしや私の"ぽにぃてぇる"も引きちぎられるのか!?」
「なんでそうなるわけ……? 別に私は————」
「気を付けて十香! 今の七罪ちゃんは悪の組織によって改造されてしまった改造人間、その名も怪人『テール・チギルワー』!! この世のありとあらゆるテールヘアーを引きちぎろうとする極悪怪人になってしまったのだ!!」
「うわなにこの二人めんどくせぇ……」
平和だと感じたのも束の間、私の平和は
最早こうなっては私一人の力ではどうしようもない。僅かな希望を託してこの中で唯一の男子である士道さんに視線を抜けるも、肝心の士道さんは申し訳なさそうに視線を逸らすばかり……相も変わらず頼りにならないヘナチョコ野郎ね。本当にタマついてるのこの人?
「なんか人知れず貶された気がするんだが……」
「気のせいですよ。それよりも士道さん、琴里をどうにかしてください。あなたの妹でしょ?」
「くっ、すまない七罪……俺の力ではどうすることもできそうにない……ッ!」
「何が「くっ」ですか。くっ殺女騎士でもあるまいに……いいからさっさと収拾付けてきてくださいヘタレ男子。あんたそんなんだからいまだ妹にマウント取られるんですよ」
「謂れのない罵倒の中に目を逸らしたくなるような事実をいれてくるのはやめてくれ……」
私の言葉に相当ダメージを受けたのか、片手で目元を覆って私から顔を背ける士道さん。その姿はあまりにも情けなくて…………果たして本当にこの人が
□□□□□
琴里、士道さん、十香さんには秘密がある。
それは琴里と士道さんが〈ラタトスク〉に所属する人間で、十香さんはそんな士道さん達の尽力によって
事の始まりは数週間前、それまではただの一般人だった士道さんが何の因果か偶然にも空間震の発生地点に居合わせてしまった。そこで士道さんは空間震と共に現れた精霊こと十香さんと出会うことになる。
その後のことは……まあ諸々省くとして、結果としては琴里を始めとした〈フラクシナス〉とかいう〈ラタトスク〉の空中艦に乗るクルー達の支援もあって無事士道さんは十香さんの霊力を封印することに成功する。そうして十香さんは今の平和な日常を手に入れたのでした。
――――そんな十香さんが学校に通い始め、私とも面識を持ってからの次の休みの日に私は千歳から何気ない会話の中でその事実を唐突に告げられたのだった。とりあえず千歳にビンタした私は悪くないと思う。
なんで千歳ってそう言う大事な話を世間話の合間にサラッと口走るかなぁ……いや全く無視できない問題なんですけど? それから数日間、私十香さんのことまともに見られなかったんだけど?
しかもそのついでで琴里達の立場も聞いちゃったし……今まで純粋に一般人だと思ってた相手がまさかの精霊関係者ってどういうことよ。その上琴里の裏の顔————〈フラクシナス〉司令官としての琴里は性格が今とは180度変わるってますます意味が分からない。高飛車でドSな女王様って……え、何? そんな感じなの? それが琴里の素なのかどうかはわからないけど、全然想像つかないんだけど……
なんでそんな大事なことを今まで黙ってたのかを聞けば、千歳自身も最近になって知ったとのこと。「これからはバレないよう気をつけようなー」って、そんな呑気な……
もしも私達の霊力が封印されちゃったらどうするのよ。私はともかく千歳が今更天使無しの生活を送れるとは思えないんだけど? 何でもかんでも困ったら天使の力で解決させるスタンスでいる千歳にとっては致命的じゃない。
まあ聞いた限りの封印方法で迫りくるようなら問答無用で返り討ちにするけどさ。何よデートしてデレさせるって。どこのギャルゲーよそれ。しかも成功報酬だか何だか知らないけど、封印した相手の半裸姿を拝めるって何? ふざけてるの? ふざけてるわよね?
……なかったからそんな手段を取ってるのよね。それ以外に手段があるなら態々こんな手段を取る必要もないんだし。
いやでもそれにしたって流石にそれは……俄かには信じられないわよ。もしも情報提供元が
そんなわけで偶然にも琴里達が〈ラタトスク〉に所属してることを知ってしまったわけだけど……それで何か変わったのかと言えば、別にそんなことはなかったりする。実際、琴里達から距離を置くようなことはしてないし。
というか、よくよく考えてみれば別に〈ラタトスク〉相手なら私達が精霊だってバレても構わないのよね。ASTやDEMと違って〈ラタトスク〉は精霊に危害を加えるつもりがないわけだし。寧ろ身の回りの安全や衣食住とか諸々を保証してくれるみたいだから、千歳の負担のことも考えるといっそバレて〈ラタトスク〉に保護された方が都合がいいのかもしれない。
ただ問題は……霊力の封印とプライバシーの面ね。
保護だなんだと耳障りのいいことを謳ってはいるようだけど、要は住める環境を与える代わりに問題を起こさないか四六時中こっちの様子を覗かれ続けるってことでしょ? やってることは物珍しい動物を檻の外から観察してるようなもんじゃない。それを知ってて積極的に保護されたいとは思わないわよ。
そういった理由から今のところは現状維持に留めてる。気づかれなければこのままの生活を送るつもりだし、バレたときは……まあ、しょうがない。無暗に反抗して保護から処理に方針を切り替えられても困るし、おとなしく保護されてあげましょ。……勿論、霊力は封印されてあげないけどね?
――――それはそれとして、ねえ千歳? 「情報提供代として今度の休みになっつんも連れてヘルプよろしくねー」……って、なに? どういうこと? 私、なにも聞いてないんだけど? 次の休みって私と
□□□□□
「そこを退くのだシドー!」
「ま、待て十香、誤解だって! 別に七罪はなんともないから!! 何もされてないから!!」
「む、むう? そう、なのか? ……いやしかし、琴里が言うには七罪は"かいぞーしゅじゅつ"と"せんのーきょういく"とやらをされたと……」
「なんか不穏なワードが増えてるんだけど!? おい琴里! 何十香に余計な知識教えてんだ!!」
「騙されないで十香! そのおにーちゃんは十香を騙そうとしてる! きっと偽物だよー!!」
「なッ――シドーの偽物だとッ!!」
「琴里さぁぁぁんッ!? 話をややこしくしないでくれますぅ!?」
(これ、いつまで続くんだろう……)
琴里のしょうもない発言を火種にどんどん話を盛り上げていく二人を止めにいった士道さん。でも一度火が着いてしまった琴里の悪ふざけはそう易々と沈下することはないのよね。寧ろ周囲を巻き込んでさらに
現に士道さん、止めに行ったくせに呆気なく琴里のペースに乗せられてしまっている。あれじゃ火に油を注いでいるようなものだ、余計に収拾がつかなくなってきてるじゃない。……まあ士道さんが割り込んだおかげでヘイトが私から士道さんに移ったのは助かったけど。そう言った意味では士道さんは役目を果たしてくれたわけだ。ナイス士道さん、あなたの犠牲を私は今日の夕飯の時までは忘れないと思う。
それにしても……こうして三人の様子を傍から見ていると、やっぱりこの三人が〈ラタトスク〉の関係者だってことが俄には信じられなくなってくる。
だって、どっからどう見てもただの仲のいい学生にしか見えないんだもの。まあ私のいないところではどうなのか知らないけど、少なくても今の三人からは何も知らない一般人の雰囲気しか感じられない。だからこそ千歳に言われるまで気づけなかったわけだし。
それでもやっぱり、三人が私に〈ラタトスク〉や精霊のことを隠しているという事実は変わらない。……いや、隠しているというよりは私に話す理由がないってところなんだろうね。琴里達にとって、私は所詮無関係の一般人ないし友達でしかないんだし……そんな私に裏の事情を話すわけがない。
まあ実際のところは無関係どころかそっちが捜し求めている
……でもやっぱり、千歳のことを考えると明かすべきなんだろうか? 現状、千歳にばかり負担をかけてるのは事実なんだし、千歳のためを思うなら……でも……
「……このままじゃダメなのかな」
「いいんじゃないかな? 別に」
「うっひゃあ!?!?」
そうして三人のやり取りを見ながら物思いに耽ていると、まるで私の隙を狙ったかのように突然背後から声をかけられた。
急に声をかけられたことで思わず驚いてしまい、私は情けない悲鳴を上げてしまう。そして突然声を上げた私に今まで騒ぎ立てていた琴里達もなんだなんだと私の方に顔を向け、そこでようやく私の真後ろに立っている人物に気づくのだった。
「あっ、千歳さんだー! おはよー!!」
「ハイおはよう。今日も今日とて朝から元気だねー琴里ちゃんは。そんな子にはエネルギーチャージも兼ねてこの
「わーい! 千歳さん、いつもありがとー!」
背後にいた人物……まあ千歳なんだけど、そんな千歳を見ていの一番に反応したのは案の定琴里だった。
さっきまでのやりとりは何だったのか、千歳が来るなり士道さん達をほったらかしにしてまで千歳に向かっていく琴里。そんな琴里に千歳は
……ぶっちゃけ、さっきまで琴里が騒いでたのってこのためなのよね。
琴里は千歳に会えれば飴が貰えるってわかってるから、千歳が来るまでその場に留まるよう面白おかしく時間稼ぎしてたってわけだ。……そのために毎回暇潰しに付き合わされるこっちの身にもなってほしい。まあ一番の被害者は決まって士道さんだからそこまで疲れるわけでもないんだけど。……寧ろ千歳を相手する方が断然疲れるし。
それはそうとだ。少し千歳には物申したいことがある私である。
「ちょっと千歳!! 急に驚かすようなことはやめてっていつも言ってるわよね!? 心臓に悪いんだけど!?」
「ははっ、いやぁごめんごめん。あまりにも隙だらけな後ろ姿に悪戯心が掻き立てられちゃいまして……つい、ね?」
「つい、で人の寿命を縮めるようなことするんじゃないわよバカ!! 驚かされるこっちの身にもなりなさい!!」
さっきのことを問い詰めようと千歳と琴里との間に割って入って文句を言う私。……決して私のことを無視して琴里と話し込んでる千歳にイラついたわけではない。ないったらない。
そうしておちゃらけた態度で軽口を吐く千歳に私は怒り心頭と言った態度で怒鳴り散らしていると――――
「まあまあ、一先ず落ち着こっかー」
「ムグッ」
千歳は許してと言わんばかりに私のことを引き寄せては抱きしめてくる……?
抱きしめ…………?
…………………………??
————————ッ!!?!?!?
「な――――っ、なななな、何してッ!? ちょ、やめッ、きゅ、急に抱き着くなあぁあああ!?!?」
「いいじゃん別に。このぐらいただのスキンシップだよ。ほーら七罪、深呼吸深呼吸~♪」
「し、深呼吸って——ッ、い、いい言いから離れなさいよぉ!! わかったからッ!! もう騒がないから早く離してえええええ!!?!?」
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!?!?!?!?
ヤメテヤメテヤメテヤメテエェェェェエエエェェエエ!!!?!!? 死ぬッ、死んじゃうッ、し、心臓が破裂するってやばいやばいやばいヤメテヤメテヤメナイデもっとヤバい胸が痛い千歳の匂いする暖かい苦しい気持ち悪い吐きそう幸せすぎて吐きそう無理無理無理無理無理無理ぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!?!?
「あ、あの……千歳さん? なんか七罪の顔が凄いことになってるんだけど……?」
「にっひひ~……って、あれ? 七罪?」
「あっ……あっ……あう、あうあうあう、あっ――――ふきゅぅ」
「え、ちょ、七罪!? ちょっと大丈夫!?」
(あー……あれは手遅れね。七罪の
――――私の意識はそこで途絶えた。
□□□□□
――――ふと思う。
もしも私が精霊だって周りにバレた時……琴里達は一体どんな顔をするんだろう? って。
この一年で私は琴里達のことを大切な友達だと思えるようになっていた。それは、それまで千歳さえいればいいって思ってた私が初めて千歳以外の何かを求めた瞬間だった。
今や私の中で琴里達は千歳の次に大事な存在になっている。例え琴里達に裏の顔があっても、それを理由に琴里達の友達をやめようとは思わないぐらいには……私は琴里達のことが"好き"になっていた。それは多分、千歳も同じ。
だからこそ、怖い。
もしも琴里達にバレた時……拒絶されたらって思うと、怖かった。
頭ではわかってる。琴里達がそんな薄情な奴等じゃないって。寧ろ精霊だとわかれば全力で助けようと私達のために動くってことはわかってる。
それでも……怖いものは怖いのだ。
なんで黙ってたのか、自分達を騙してたのか、そんな言動を琴里達に向けられたらと想像すると……自分から正体を明かす気にはなれなかった。
本当は封印とか監視とか、そういったのは
"バレるのが怖い"……琴里達を信用しきれない私自分の臆病さが原因だ。
……どうしちゃったんだろう、私。
私は千歳のために生きるって決めた筈なのに……
千歳とただ穏やかな日常を過ごせればそれでよかった筈なのに……
――――なのに今は、琴里達との日常も捨てられないでいる。……千歳と過ごす日常を壊すかもしれない組織に所属してる人達との交流を、やめられないでいる。
本当なら琴里達が〈ラタトスク〉所属であることを知った時点で関わりを断つべきだったのに、それをしなかったのはひとえに私のせいなんだろう。……琴里達との繋がりを失いたくない、私自身の我儘のせい。
つまり、欲張ったんだ。私は。
この日常を捨てられなかった。
琴里が騒いで、十香さんが乗せられて、士道さんが巻き込まれて……そして千歳が隣にいる。
そんな今の日常を……捨てることが、できなかった。
……なんで私達は精霊なんだろう?
精霊じゃなければよかったのに。最初からただの人だったら、こんなことで悩まなかったのに……
――――嫌だ。
失いたくない。壊したくない。
友達と遊んで、家族と団欒して、そうして皆と笑って過ごす、そんな毎日を
このままずっと続けばいいのに! こんな毎日がいつまでも続けばいいのに!!
…………でも、きっといつかはバレてしまう。
だって、例え琴里達のことが大切でも、それ以上に私は……千歳のことが大切だから。
今の日常を失いたくない。琴里達との繋がりを失いたくない。そう思う私が確かにいる。失うことに怯える私がいる。
そんな私が最も失いたくないのが、千歳なんだ。
私のせいで歪んでしまったあの人を、もう私は失いたくない。これ以上
今の私は千歳のために生きてる。千歳が望んだ平穏な日常を送るために生きてる。
だから、私が好きなあの人の為なら私は迷わず
そのせいで琴里達にバレてしまうかもしれない。私が精霊であることが知られてしまうかもしれない。
でもそれは仕方がないこと。千歳のために生きると決めた私にとって、避けられない道。
……それでも、私は我が儘で欲張りだから。
どうしても、考えてしまう…………
琴里、士道さん、十香さん。
もしも私が精霊だって知ったとき……
どうか……お願い。
…………私のことを、嫌わないで。
□□□□□
「――――あ、起きた?」
……意識が浮上する。
瞼を開く。ぼやけた視界で最初に見たのは深緑色の髪と瞳。
それは私が最も安心する色。私の最も見慣れた色。
そして、私の一番好きな
次第にぼやけた視界が鮮明になっていく。改めて見えたのは穏やかながらに少し不安げな表情を作る千歳の顔。
そこでようやく、私が今どういう状況なのかがわかってきた。
(……情けないわね)
千歳に目一杯甘やかされて、それに耐えられなかった。
恥ずかしいとか嬉しいって感情が一気に押し寄せてきて………それで、
結局耐えられなくなって気絶するとか本当に情けない。私ってこんなメンタルクソザコナメクジだったっけ? ……ちょっと信じられなくなっただけで発狂して暴走する程にはクソザコだったわ。ヤバい、涙出そう。
そうして自身のザコっぷりを改めて痛感していたところでふと、今いる場所が家のリビングであることに気づく。さっきまで家の門前にいたはずの私だったけど、どうやらリビングのソファに運ばれて寝かされていたようだ。……千歳に膝枕されて。
膝枕されて。
…………よかった。どうやら今の私は一周回って頭が冷静になってるみたい。抱きつかれた時と同じように取り乱すことにならなくてよかったわ。流石にこれ以上の醜態は見せたくないもの。
「……琴里達は?」
「先に行かせたよ。遅刻させちゃ申し訳ないし。……七罪は、ごめん。今からじゃもう間に合いそうにないや」
周囲を確認し琴里達がいないことを聞くと、千歳からそのような返答が返ってきた。気まずげに苦笑する様子から、私に対する後ろめたさを感じる。
おもむろに時計を確認すると、時刻は既に一限目の授業が始まってるところだった。つまり千歳の言う通り、今から登校しても遅刻は免れない。千歳の後ろめたさは私を遅刻させる原因を作ってしまったことに対してか……別にそんなこと気にしなくてもいいのに。
「そんなわけで、勝手ながら七罪は今日休むことになりました!」
「……え?」
すると突然、千歳がそんなことを言い始めた。言葉通りのことなんだろうけど、何が「そんなわけで」なのかがいまいちわからない。
そう私が疑問に思ってると、千歳は何でもないかのように理由を話し始める。
「いやだって、今から行くってのもめんどいだろ? どうせ遅刻は確定なんだし、それならいっそのこと休んだ方がお得じゃん?」
「お得って、そんないい加減な……」
「"いい加減"でいいのさ、人生何事もね? ……だから別に
「――――っ」
私の心を見透かすかのような言葉を向けられ、思わず息を呑んでしまう。
それは、どういった意味なのか。何を指して言ったのか……なんとなくわかってしまった。
心当たりは多かったけど、多分千歳が指すそれは……きっと私が千歳に感じている罪悪感のことなんだろう。
私は千歳に隠している。――――千歳が
でも、あのときはそうするしかなかった。そうしなければ千歳は
その原因の一端を担ってしまっているからこそ、私は千歳の願いに応えないといけない。千歳が望んだ日常を、千歳が与えてくれた日常を……守らないと。
…………それなのに、千歳は遠回しに"もう十分だ"と言ってくる。
十分なわけ、ないのに…………
「真面目なのは七罪の良いところだよ? そのおかげで千歳さんもいろいろと助かってるし。……ただ、七罪は真面目過ぎていろいろと余計なもんまで背負い込みがちだから、そこはいただけないと千歳さんは思うかな」
「……別に、私は千歳が言うほど真面目じゃないわよ」
「少なくとも千歳さんよりは真面目だよね、うん。……まあそうなった原因がもしかしたら千歳さんにあるのかもしれないけどさ。でも千歳さんとしては、そんな七罪が心配になっちゃうわけでね? だから……その、なんだ…………」
「……千歳?」
そこで千歳は不意に言葉を区切って、何処か言いづらそうに言葉を詰まらせる。その様子から、何かしら千歳は自身のポリシーに反することをしようとしてるのが分かった。
今の状況と流れ、そして千歳の性格から察するに……おそらく千歳が言おうとしてるのは『助言』だろう。
基本的に千歳は自分の考えを相手に押し付けるような真似は好まない性分だから、説得とか助言をするのはあまり好きじゃないらしい。そういうのは良くも悪くも人の在り方を曲げるきっかけになりかねないものだから、不用意に口にしたくはないって……
だから、千歳がもしもそれらを使うときは決まって"自分の性分を曲げてまでも必要だと思ったとき"。そして――――
「七罪、深く気にしすぎんな。
「――――」
――
「七罪、楽しもうよ」
「…………え?」
――――重なる。
「楽しもう、七罪。純粋に今を楽しもう。昔に何があったとか、自分は何をしなきゃいけないとか、そんなもんはどうでもいいんだ。なんだったら忘れてもいい」
――――重なる。
「七罪さっき言ってたよな? このままじゃダメなののかって。もう一度言うけど……いいんだよ、このままで。だってこれは
――――重なって、しまう。
「いいんだ、七罪。……だからもう、一人で抱え込まなくていい。それとも……
「――――違うッ!!」
――――重なって、しまった。
今、目の前の千歳と……
変わってない。
全然、変わってない。
例え記憶が書き換えられていても、例え心が歪んで
どんなことがあっても……千歳の本質は変わっていなかった。
それが分かってしまえば、もう抑えられない。
「わ、私は……わだしはッ、千歳を……っ、わ゛だしの、せいでっ、ぢどせはぁ……ッ!!」
……きっと今、私は酷い顔になってる。
涙が溢れて止まらない。声が震えて上手く喋れない。
何を言ってるのか自分でもわからず、只々感情の波に乗せられた嗚咽ばかりが漏れる。
「ごめんなさいっ、ごめんなさぃ……わだしが、わだしがわるいのっ……! わだしがよわがったからっ! わだしがあしをひっぱったがらっ! そのせいで、ぢどせがっ、ぢどせじゃなくなっでぇ……ッ!」
「…………七罪」
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、ちどせ、ごめんなさいぃぃ……!!」
……私は、千歳の前で何をやってるんだろう。
こんなこと、
――――そんな私を、千歳は何も言わず頭を撫でる。
それは子をあやすかの様に優しく、ゆっくりと髪を梳くように……
刺激しないよう、一撫で一撫で丁寧に……
千歳の手は、昔と変わらず温かかった。
□□□□□
あれから、十数分。
涙と嗚咽が止まるまで、千歳は何も言わず私の頭を撫で続けてくれた。
そのおかげか今は随分と落ち着いた。心なしか気持ちも軽くなった気がする。それに合わせて……千歳に抱く罪悪感も、少し薄れてしまった。
「……千歳」
「なんだい」
未だ膝枕をしてもらいながら、私は千歳に問いかける。
「……千歳は、許してくれるって言ったよね?」
「あぁ」
「……でも、私は自分のことを許せそうにない」
「……そっか」
私の出した答えに千歳は少し悲しそうな顔をする。
千歳は私のことを一心に案じてくれている。だからこそ自分を曲げてまで語り掛けてくれた。そのことについては正直に嬉しかった。私のためにしてくれたことだ、嬉しくないわけない。
……それでも、ダメ。例え千歳が私を許しても、私が私を許せそうにない。
だってこれは私の罪だから。私が勝手に自分自身に与えた罪だから。
だからそれを許せるのは私だけ。例え千歳がそう願っても、この罪の処遇は私にしか決められない。
だから……
「七罪」
「……何?」
そこで再び千歳は口を開いた。同時に私の頭に乗せていた手を再び動かし、また撫でてくる。
……こうして冷静になった今、改めて思うと恥ずかしいわね、これ。まあ気持ちいいからいいんだけど。
そんなことを頭の隅で考えながら、私は千歳の言葉に耳を傾ける。
「七罪が何を隠してるのかは、正直まだよくわかってない。さっきので少しは察せたけど……まだ、はっきりとはわかんない。七罪も言いたくないみたいだし、千歳さんも詮索はしないよ」
「うん……」
「でもね、これだけは言わせて」
そう言って一度動かしていた手を止めると、私に顔を向けて――――
「
――――
…………あぁ、ダメ。ダメよ、千歳。
そんな顔しないで。
そんな顔をされたら、私は……
「……私もよ、千歳」
……あなたにまた、甘えてしまう。
――――本当に、私は幸せ者だと思う。
あの路地裏で千歳と出会って。
千歳と一緒に世界を回って。
そして、千歳と過ごす今の日常がある。
こんな面倒くさい性格の私を受け止めてくれた奇特な
暴走した私のことを見放さず、最後まで手を伸ばし続けてくれた
例え自身がどうなろうとも、"全心全霊"で私に"今"を与えてくれた
――――ありがとう、千歳。
――――大好き。
・うちの七罪は原作と比べてそこまで捻くれてはないです。その分いろいろと拗らせてますけど(若干黒琴里っぽくなってる?)
……え? 琴里と急速に仲良くなった理由? そんなの、好きになった相手が似たような立ち位置の人だったからに決まってんじゃん←
次回からほのぼの書く!(シリアスは"もういやだ"!)
後おそらくは文字数減ると思います。
ぶっちゃけ一話ごとに一万文字以上書いてたらいつまでも上がらんので。(今回だって一万六千ってアホか私)
――オマケ――
トップに表紙絵風のイラストあげときました。参考にどうぞ。
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