リリカルチート物語 (抹茶ミルク)
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プロローグ

にじファンから来ました。
これからよろしくお願いします。


 あ、死んだ……。

 そう確信して俺は目を閉じた。

 身体全体に当たる風がとても強くて瞼を下ろすのも大変だったけど、それ以上に目を開けたままなのは怖かった。

 

 だけど……いつまで経っても思っていた衝撃は襲ってこなかった。

 

 それどころか、先程まで感じていた風も感じない。

 そして数瞬――身体の下に地面の感触があった。

 恐る恐る目を開けてみる。

 

「…………は?」

 

 思わず惚けた声を上げてしまった。

 

「え……なんで?」

 

 俺は地面にうつ伏せになっていた。

 あり得ない。

 だって、俺はさっきまで――――"落ちていた"んだから。

 

 

 ○

 

 

 今日、俺は家族で旅行に来ていた。

 紅葉で有名な山に紅葉狩り。

 インドア派で大して興味も無く親に言われるまま着いてきただけなのだが、なかなかに見ごたえがあった。

 

 山を歩き、紅葉を見る。

 

 それだけなら普通に何万人もの人が行う普通の旅行なのだが……俺はどうやら嫌な意味で"特別"になってしまったらしい。

 紅葉狩りのコースにある全長一〇〇メートルはあろうかという吊橋。

 インドア派である俺はここまで来るのに体力を消耗し、一緒にいる家族から大分離れてしまっていた。

 

 吊橋の丁度真ん中辺りに俺が辿り着いたときには皆はもう橋を渡りきっていた。

 橋には俺一人。別に高所恐怖症ではないが、これだけ高く、さらに細い端の上では若干恐怖を感じ、急いで渡ろうと足を速めたとき……なんだか上手くバランスが取れなくなった。

 

 後ろを見るとロープが切れ橋が落ちていく光景が随分とスローになって目に映る。

 勿論半分以上ある橋を落ちる前に渡りきることなど出来ず、ほとんど動くことも出来ない間に、俺は空中へ放り出された。

 

 

 ○

 

 

「で、気付けばこうなっていた……と」

 

 俺は立ち上がり体の無事を確認した。

 どこも怪我はしていない。

 自身の無事を確認するととてつもない安堵感と先程の恐怖が襲ってきた。

 

「うおおぉぉぉぉっ!」

 

 叫ぶ。

 

「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 絶対死んだと思った。

 でも、まだ俺は生きている。

 

「はぁ~……良かった……マジで良かった」

 

 言いながら拳を握ると、ちゃんと感覚がある。

 

「ホント生きてるよ。にしても……何でだ? つーかここ何処だ?」

 

 落ち着いてきたところで頭の中は疑問だらけになる。

 普通あの状況で助かるはずがない。もし奇跡的に生きていたとしても無傷なんてことはあり得ないはずだ。

 

 とりあえず俺が落ちる前にいたはずの上を見上げる。

 

「…………橋が……ない」

 

 いや、それどころか先程までいた紅葉の綺麗な山ですらない。

 山のように傾斜になってないし、見渡す限り葉が緑の木々が続いている。

 

 森……あるいはジャングルと言った方がしっくりくる景色だった。

 

 こんな場所に見覚えはないし……何よりどうして橋から落ちた俺が無事で、しかもこんな所にいるのか。

 

「なんだよ、この状況……くっそ」

 

 一人悪態を吐く。

 そりゃあ、インドア派な俺は二次創作も好きだし、その中のジャンルであるオリ主物なんか読みながら俺もそんな世界行きたいとか思ったりもしたけどさ。

 

 でも、それと同じような体験をしてみても、ここがそんな世界だなんて楽観視できないし、大体そんな話ではテンプレだった神(笑)にも会ってない俺は何の能力も無いわけで無事に生き延びれる保証も無い。

  

 よしんばそんな都合のいい世界だったとしても俺はオリ主のようになれないだろうと思う。

 

 オタクで卑屈。

 読んでいた二次創作も傍若無人、好き勝手にやって神に貰った力で威張ってんのに何故かモテモテハーレムみたいな所謂最低系が好物だった。しかも俺はそのオリ主に自分でも引くぐらい感情移入して読んでいた。

 

 俺の嫁に認定したキャラは軽く百人は超えてると思う。

 

 そんな俺が何の力も無くアニメとかの世界に行ってオリ主? あり得ない。精々モブキャラか真っ先に殺される役なんじゃないだろうか。

 多分原作キャラとかに会っても話しかけることすら出来ないと思う。

 

 そう思うとあのまま死んでしまっていたほうが良かったんじゃないかとも思えてくる。

 

「グルルルゥゥゥゥッ」

 

 と、思考の海に沈んでいた俺の耳に何かの鳴き声のようなものが聞こえ、意識を戻す。

 前を見ると――

 

「っ!?」

 

 目の前、ほんの二めーとる程の位置に自分と同じぐらいの大きさの狼に似た何かが牙を剥き出して威嚇していた。

 

 声も出ないとはこの事だ。

 突然の恐怖に身体が動かない。

 

「グルルッ」

 

 そんなことなどお構いなしに狼はジリジリと距離を詰めてくる。

 そして――

 

「グルォ――――ッ!!」

 

 口を開けて飛び掛ってきた。

 

「く、来るな来るな来るなぁ――っ!!!」

 

 俺は腰を抜かして尻餅をついて喚きちらしながら無意味な抵抗だろうけど腕をぶんぶんと振り回す。

 

「――ギャンッ!」

 

 振り回して手に何かが当たる感覚とそんな鳴き声。

 目を開けると、

 

「うげ……ゲェェェッ」

 

 数メートル先の木に付いたおびただしい血と肉片、その下辺りに飛び散った狼だったと思われる"もの"の塊。グチャグチャで中のものが飛び散って……それを見た瞬間、吐いた。

 

「…………ひぃっ!?」

 

 吐くときに地面についた手を見ると真っ赤に染まっていた。

 

「これは……俺が?」

 

 あり得ない。

 また、あり得ないことが起きた。

 俺が振り回した手に当たって数メートルも吹っ飛んだ? グチャグチャになるほどの衝撃?

 

「な、なんだこれ!?」

 

 自分の頭の中なのに勝手に言葉が浮かんできた。

 

『あらゆる"力"を操る程度の能力』

 

 そんな言葉が。

 

「と、東方!? え、これが……俺の能力?」

 

 じゃあさっきのは能力で"力"を上げて吹っ飛ばしたのか?

 

 というか……ここって、

 

「東方の世界……なのか?」

 

 そう呟いた時だった。

 地面が揺れ、何かとても強大な存在が現れるような空気が辺りに満ちて、

 

『グオォォォォッッッ』

「なんだ……あれ」

 

 とんでもない音量の声を上げて白い翼の生えた竜が数十メートル先に現れた。

 

「やめて! フリード――――ッ!」

 

 その方角から幼い女の子の叫び声。

 

 フリード? 

 って、リリカルなのは?

 

 え、東方じゃないの?

 

『グオォォォォッ!!』

 

 え? マジでリリカル?



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第1章 出会い編

 ――1――

 

 

 猪……のような動物が此方に向かって歩いてくるのを木に登って上から眺める。

 能力で一撃でアレを昏倒させることが出来る程度に力を上げる。

 

「…………今だっ!」

 

 獲物が真下に来たところで飛び降りて、脳天に拳を落とす。

 声を上げる暇もなく昏倒した獲物が確実に意識がないことを確認して持ってきていた縄で縛り上げ、また能力を使い軽々と持ち上げた。

 今日は大物が獲れた、と俺は気分も良く歩き出した。

 

 

 ○

 

 

 この世界――多分確実にリリカルな世界――に来てしまってから十日あまり経ち、俺は今、ル・ルシエの里で厄介になっていた。

 勿論、ただで人一人を養うほど里も豊かではないため、宿を借りる代わりとしてこうして狩った獲物を提供しているのだ。

 狩り自体は能力の確認の副産物であるため苦にはならない。

 一番最初の獲物は能力を上げすぎて、この世界に来たばかりの頃に出会った狼のような生物のように肉片が飛び散ってしまったうえに、俺が殴った所を中心に五メートルほどのクレータが地面に出来てしまった。

 それから怖いというのもあるし、そんな機会がないというのもあって、能力でどこまで力を上げられるかというのは確認できていない。

 

 まぁ、それは追々分かっていくと思うので置いておいて……今、一番重要なのは、

 

「またここにいたのか」

 

 里の外れで肩に小さい白い竜を乗せて膝を抱えて座り、里の様子を伺っているキャロのことだ。

 あの日――俺がこの世界へやってきた日――キャロは白い竜、フリードリヒを召喚した。キャロが必死に止めようとしたこともあり、幸い村に被害はあまりでなかったのだが、あれほどの力を持つ竜を召喚したことによってキャロは里人から避けられるようになってしまったのだった。

 

「……ショウヘーさん」

 

 キャロは泣きそうな表情でこちらに視線を向けた。

 あ、ちなみにショウヘーとは俺の事である。

 浅月(あさづき) 翔兵(しょうへい)、それが俺の名前。

 

「こんなところで何してるんだ?」

「わたしがいると……みんなが傷つくから」

 

 顔を俯かせるキャロ。

 

「傷つく……ね」

 

 言いながらキャロの肩に乗っている竜を見る。

 白い飛竜、フリードリヒ。

 今となっては、あの巨大な竜も見る影もなく可愛らしくなっている。

 

「わたしはまだフリードを上手く制御できないですから」

 

 キャロがフリードと言った瞬間、肩で「キュクルー」と鳴く姿からはとても暴れるとかいった雰囲気は感じられない。

 けど、確か原作ではこれが原因で里を追い出されるんだよな。

 

「ま、すぐにどうこう出来る問題じゃなさそうだな」

「……はい」

「それよりさ、今日は大物捕まえたんだ。一緒に食おうぜ」

 

 キャロの手をとり立ち上がらせる。

 ここ数日毎日の事なのでキャロも抵抗することなく着いてくる。

 

 今日は焼肉にしようか、それとも鍋にしようか。

 あれは見た目どおり猪肉近い味なのだろうか? だとしたらやっぱり鍋か。

 とりあえず里の長に渡した獲物も捌かれてることだろうから肉を貰いにいかないとな。

 

「では……やはり」

「…………うむ」

 

 村長宅前に着くと、中から数人で話し合う声が聞こえてきた。

 

「キャロには……村を出て行ってもらうしかないじゃろう」

 

 やけにハッキリとその言葉が聞こえてきた。

 

「…………」

 

 立ち止まったキャロえの様子を見てみると、目に涙を溜め、繋いでいる手は微かに震えていた。

 

「あの力は危険ですからな。当然でしょう」

「そうです。あんな力は争いと災いしかもたらしません」

 

 中からは安堵、安心したような言葉。

 それを聞いたキャロは俺の手を振りほどき走り去ってしまった。

 

「…………くそ」

 

 誰に言うでもなく呟いて拳を握り締める。

 キャロをここにつれてきてしまったことに俺は後悔した。

 フリードが暴走してキャロが追放される……俺はそれを知っていたのに何もしてこなかった。それを今更後悔したところでどうなるわけでもない。

 だったら、これからのことを考えよう。

 その方がずっと建設的だ。

 

 まず、キャロは追放される。それは原作から見ても確実だ。

 ただ、その後どうなるか……フェイトに保護されるまでの間はあまり原作で触れられていない。 

 追放から管理局に保護されるまでにも少しの間があったはずだ。その間、キャロは一人と一匹で旅をしていたような描写が漫画版であった記憶もある。

 だったら――俺は覚悟を決め、長の家に入っていった。

 

 

 ○

 

 

「よう、キャロ」

 

 里から少し離れた場所にキャロはいた。

 泣いていたのだろう、目は赤くなっていた。

 

「わたし……どうすればいいんでしょうか」

「どうすれば……って?」

「里を出て……どこに行けばいいんでしょうか」

「里に残るってことは考えないのか?」

「わたしがいると……みんなを巻き込んでしまいますから」

「それでいいのか?」

「……はい。わたしも、わたしの所為でみんなを危ない目にあわせたくないです」

 

 キャロは里を出ることを自分で納得してしまっているようだ。

 

「じゃあさ……どこに行けばキャロの力は危険じゃなくなるんだ?」

「…………っ」

 

 俺がそう言うとキャロはビクッと肩を震わせて俯いてしまった。

 うわ~……俺ひどすぎる。なんつーことを言うんだよ。

 

「だからさ……ちゃんと制御できるようにならないとどこにも行けないんじゃないかな」

「じゃ、じゃあ、どうしたらいいって言うんですか!?」

 

 珍しく声を荒げるキャロ。

 

「うん。だから……上手にフリードを使いこなせるようになろう。そしたら、どこへだって行ける」 

「…………無理、です」

「出来るよ。俺はそれを信じてる」

 

 というか、原作では使いこなせるようになったって知ってる。

 だから頑張ればもっと早く出来ると思う。

 

「俺と一緒に来ないか?」

 

 俺はキャロに手を差し出す。

 

「実を言うと、俺も自分の能力(ちから)を使いこなせてないんだ。だから一緒に頑張ろう」

 

 俺の差し出した手を見つめて黙ってしまうキャロ。

 暫くそうして……

 

「ショウヘーさんは……わたしの力が怖くないんですか?」

 

 そう訊いてきた。

 

「怖くないよ」

「な……なんでですか?」

「だって……キャロは絶対に上手く使えるようになるから」

「…………ふぇ」

 

 笑いかけると、キャロは泣きそうな表情になった。

 

「それにフリードが暴走しても、俺がぶん殴って大人しくさせてやるよ」 

 

 俺の能力ならそれが出来るから。

 

「どっちが先に上手く使えるようになるか競争な!」

 

 もう一度、力強く手を差し出す。

 キャロは泣きながらその手を握り返した。

 

 

 ○

 

 

「これからどこに行くんですか?」

 

 泣きやんだキャロがそう尋ねてくる。

 

「とりあえず……力の制御が出来るようにならなきゃ街になんか行けないと思うからな、え~っと」

 

 言いながらポケットからある物を取り出す。

 

「人の居ない無人世界の方が特訓には良いと思って、長から貰ってきた」

 

 取り出したのはいくつかの世界への転移魔法がセットされているストレージデバイス。

 実はあの後、キャロのこれからについて――俺が一緒に連れて行く、と――長の家に乗り込んで話し合った。

 その結果、これ以外にもいくつかのアイテムと食料を受け取ったのだ。

 

「あと長から伝言、『里の為とは言え、お前には申し訳ないと思っている。恨んでくれて構わない。ワシに出来るせめてもの事といえば旅立つお前にいくつかの贈り物をするぐらいしか出来ない。キャロ、お前は黒き火竜の加護を受けている……だから、いつかきっとお前は稀代の召喚術士になるだろう』ってさ」

 

 伝言なのに長いっつーの!

 ここに来るまでずっと頭の中で繰り返し呟いてなきゃ忘れるわ!

 

「っつーことで、行こうぜ、キャロ! いつかと言わずすぐになってやれよ。稀代の召喚術士とやらにさ!」

「…………はいっ!」

 

 キャロは涙を拭って元気に返事をした。

 うん、原作ではフェイトと出会った当初のキャロは笑わなかったわしいが……そんな風には俺がさせない。子供は笑ってるのが一番だ。

 

 

 

 

「ところで、キャロさんや」

「なんですか?」

「転移魔法っての使ってもらっていいかい?」

 

 長から貰ったストレージデバイスをキャロに渡す。

 

「えぇっ!? わ、わたし転移魔法なんて使ったことないです!」

「長が言うにはリンカーコアがあってある程度魔力があれば誰でも使えるぐらいには簡単に出来るようにしてあるらしい」

 

 だがしかし。

 だが、しかし!

 

「だけども俺ってリンカーコアがあるのかどうかすら分からないんだよね。よしんばあったとしても魔法なんて使ったことないのです」

「えぇ――――っ!? だ、だっていつも凄い力で」

「……あれは魔法じゃないんだ」

「レ、レアスキルですか!?」

「ん、まぁそんなとこかな」

「で、でもわたし……もし失敗しちゃったら」

「大丈夫大丈夫! それでも俺がするより成功する確率高いって!」

「そ、そんなぁ~……」

 

 最後までかっこつけたかったけど無理でした。

 

 

 ――2――

 

 

「キャローっ、そろそろ戻るぞー!」

 

 もうすぐ日も落ちるので訓練は終わりにしようと思って、少し離れた場所で大きくなったフリードに言うことを聞かせているキャロに声をかける。

 

「はいっ!」

 

 振り向いたキャロは額に浮かんだ汗を腕で拭って元気に返事を返してきた。

 

「フリード、戻って!」

 

 そうキャロが命令するとフリードは素直に従い元の小さい姿に戻った。

 

「キュクルーッ!」

 

 一鳴きして、キャロの肩にとまる。

 そしてとててと走ってくるキャロ。

 俺のところまで辿りついたキャロと二人、並んで歩く。少しすると中々に立派なログハウスが見えてきた。

 立派とか自画自賛だが、俺が作った。

 

 

 

 ○

 

 

 ちなみに、ル・ルシエの里を出てから一年程月日が経っている。

 幸いキャロが使った転移魔法は成功し、俺たちはこの無人世界へやってきた。

 ここには大型の生物(A'sでヴィータが戦ってたようなのとか)も多く、俺やフリードの訓練の相手には事欠かない。

 

 キャロのフリード制御も大分上達し、最初の頃は暴走させてばかりだったものの最近では感情が高ぶってしまわない限り、ほぼ完璧に制御できている。

 力の使い方に関してはもう言うことはないほど順調だ。

 だが――

 

「キャロ、俺が料理作るから火熾して」

「だが断る」

 

 凄くいい笑顔で言われた。

 

「なぜに? 俺、料理するから火頼む。な?」

 

 用意した包丁と訓練の時に狩った獲物を見せながら頼む。

 

「断固拒否」

「だからなんでだよ!?」

「疲れてるんですよ!」

 

 キレられた。

 

「い、いやいやいや! 俺だって疲れてるからね!?」

「成人男性のショウヘーさんと子供の私を同じだと思わないでください!」

「そんなこと思ってないけど……お前滅茶苦茶元気じゃん! 働けよ!」

「嫌です!」

「嫌ってお前……何でだよ!?」

「働きたくないでござ――いたいっ!」

 

 キャロの言葉を遮って頭を軽く叩く。

 昨日教えたネタじゃねーか。

 

「何するんですか。コブになって頭が大きくなったらどうするんですか!」

「いいじゃねーか。身長伸びて。このチビがっ!」

「なっ!? 侮辱されました! 謝罪と賠償を要求します! 具体的には食後のスイーツを毎日ください!」

 

 帽子越しに頭をさすりながら涙目で睨んでくる。

 ほんと、力に関しては問題ないのに……なんでこんな性格になってしまったのか。

 まぁ、子守唄と絵本の変わりにネタ話を毎日した俺の責任だけど。

 

 原作知ってるだけに、あのキャロがここまで図太くなるなんて思わなかった。

 

「はいはい。成人男性も真っ青な高カロリーなスイーツを毎食後出してやるよ。ただし残すなよ?」

「なん……だと……」

 

 戦慄の表情で震えるキャロ。

 

「なんという鬼畜。スイーツは食べたい、でも食べたら確実に太るメニューとは……なんて鬼畜! そんな究極の選択を迫るなんて!」

「火を熾せば今日の今日の食後は普通のスイーツを出してやろう」

「わーい! ショウヘーさんだい好きー!」

 

 なんという変わり身。

 はぁ……ほんと、どうしてこんな娘になっちゃったんだろう。

 

 

 ○

 

 

 キャロは寝るときも帽子を取らない。

 原作ではそんなことなかったと思うんだけど、ここのキャロはそうだ。

 今も帽子は着けたまま涎を垂らして寝ている。 

 

 ちょっと前、興味本位で寝ているキャロの帽子を取ろうとしたことがあった。

 取るぞ、と帽子に手をかけた瞬間、キャロは目を開き俺から距離をとった。帽子を押さえ「スケベ! 変態! ロリコン! ショウヘーさんのエッチスケッチワンタッチ――――ッ!!」という死語を叫び飛び出していった。

 あ、ちなみに「ワンタッチ」の部分が「乾電池」の地方もあるらしいよ! これ豆知識な!

 

 まぁ、そんな訳で帽子には一方ならぬ何かがあるらしい。

 

 が、風呂のときは外すし、暑かったりしても外すので別にそんなに拘りないんじゃないかとも思う。

 

 え? なんで風呂で外すなんて知ってるのかって?

 

 そりゃ勿論、一緒に入っているからに決まっとろうが。

 

 でもこれだけは言っておきたい。ストライクゾーンは広いと自負している俺だが、まだ欲情してないぞ。 

 生意気だし。

 初めて一緒に入ったとき、純粋な笑顔で俺のゴールデンお玉さんを握りつぶそうとした愚行は忘れていない。

 奴は天然のクラッシャーだ。

 

 それは置いておいて、ずっと言っているがキャロの力の制御に関してはかなり良くなった。最近では召喚魔法も覚え、原作同様鎖とか召喚する。

 

 が、使い方がおかしい。

 前にあまりの空腹で見境なく喰った亀の甲羅(三メートルぐらいの大きさ)を召喚した鎖で縛って(勿論、亀甲縛りである。亀の甲羅だけに)振り回す。

 

 後方からフリードにブラストフレアを撃たせ、ブースト魔法で強化した自分が亀甲縛りの亀の甲羅を武器に突っ込むという超前衛的な戦い方。

 しかも「うりゃあぁぁぁぁ!」とか叫びやがる。

 

 やっぱり育て方を間違えた気がする。

 

 

 ――3――

 

 

 そんな感じでキャロの現状に関しては分かってもらえたと思う。

 

 続いて、俺の『あらゆる"力"を操る程度の能力』についても色々と分かったことがある。

 

 最初に言っておく。

 この力は非常にチートだった。

 

 まず、最初から使っているように純粋に"力"を上げることが出来る。巨大生物を軽く数百メートル吹っ飛ばすなんて朝飯前だ。

 次に狩りをしていた時に気付いたのだが視力や聴力も無意識に上げていたらしい。

 それに気付いた俺は早速"力"とつくものならなんでも出来るのかと試してみた。

 

 結果から言ってしまうと……出来た。

 今までの"力"は本当に殴る力だけを上げていたようだが、理解して使ってみればそれ以外にも操作できた。

 

 まず試したのは脚力。

 ジャンプしたら軽く数十メートル飛んだ。

 着地までの落下がかなり怖かったのは内緒だ。

 

 次に体力。

 一日中走っても息一つ乱さなかった。

 

 それから、戦闘中に動体視力を上げてみた。

 相手の攻撃がスロー再生のようにハッキリ見えるようになった。

 

 とまぁ、こんな感じで身体能力全般を上げられる。

 勿論、身体能力で全ての能力を上げることも腕力など一部だけ上げることも出来るが、それが分かってからは身体能力全てを上げるようにしている。

 動けるようになると楽だし。

 

 しかも一度操作すると、もう一度能力を使って下げない限り、そのままの身体能力がデフォになる。

 とりあえず、この世界の生物じゃ俺に傷一つ負わせられないぐらいの身体能力に設定してある。

 

 それから能力で色々出来ると分かって試しているときにちょっとした怪我を負ってしまった時のことなのだが、回復力を上げてみると一瞬で怪我が治った。

 

 他にも生命力、気力、精神力とか良く分からないものから魔力、霊力、妖力、神力と言った俺のいた世界ではなかったはずの"力"。さらに重力、引力、斥力なんてものも操作できた。

 魔力とかは一つずつ上げてみると微妙な違いがあるので違う力だと言うのは分かった。ただ神力だけは段違いだった。

 魔力や霊力を一〇〇使って起こす様な現象を神力ならたった一の使用量で起こすことができた。

 

 つっても、全部無限に上げれる俺には関係ないけどな。

 

 そして、この力がチートたる所以。

 今まで試したことを踏まえ「出来るんじゃね?」とか軽く考えてやってみたら出来てしまったもの。

 

 それは――――

 

 あらゆる"能力"ですら自在に操ることが出来たのだ!

 しかも東方や色んな作品の能力だけではなく『自分で考えた能力』ですら操れてしまったのだ。

 

 フランドールの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』で近くの岩を壊そうと思ったら、手のひらに目みたいなものが浮かんできた。きゅっとしたらドカーンってなった。

 

 あと、境界も操ってみた。

 空中に指でピーっと線を引いたらそこからぱっくり割れてあの目とかだらけの空間が見えたのには感動したが、ちょっと怖かった。

 あそこに入る勇気は俺にはまだない。

 

 しかもこの能力、俺以外の相手にも使えるのだった。

 日々傷だらけになるキャロに後々傷が残らないように回復力を高めてやれば一晩寝れば大抵治るし、気付かれないように毎日少しずつキャロの魔力を増やしていってるのは秘密だ。 

 

 StSの原作開始までにSランクぐらいまで増やしてしまいたい。出来ればもっと増やしてキャロ無双とか見てみたい。

 

 亀の甲羅振り回しながらナンバーズフルボッコとか見てみたい。

 んでバインドの変わりに亀甲縛りで拘束とか超見てぇ……。

 

 あと、全然関係ないけどフェイトさんの真ソニックフォームは是非生で見たい。それに、なのはさんが戦ってるときに下から除いてみたい。

 この二つは絶対に達成させてみせる。

 

 

 ○

 

 

「霊○――――んっ!」

 

 人差し指を突き出して叫ぶ。

 結構離れた位置にいる巨大生物に向かって十メートル級の霊力の塊が飛んでいく。

 

 接触、爆発。

 砂煙が晴れるとピクリとも動かない巨大生物が居た。

  

「なんですか、その理不尽な威力。溜めも全く無いじゃないですか! フリードのブラストフレアの何倍の威力ですか! あの程度の威力しかないのにブラストフレアーとか叫んじゃった私が恥ずかしいじゃないですか!」

 

 キャロが何故かキレていた。

 

「いや、知らんがな……」

 



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第2章 地球へ……編

 ――1――

 

 

 さて、ル・ルシエの里を出てかれこれ二年が経とうとしている。

 

「キャロ」

「ふぐ……なんですか?」

 

 食事中、キャロに話しかける。

 ちゃんと口の中のものを飲み込んでから返事をするキャロはそんなとこだけまともに育ったらしい。

 

「そろそろ、別の世界に行ってみないか?」

「ふぇ? どうしたんですか、急に。行ってみたいですけど」

「いや……キャロも力の制御はほぼ完璧だし、そろそろいいかなって」

 

 実際、キャロはもう殆ど暴走させることはなくなった。

 俺も能力に関しては思いつく限りの事は試したしな。

 

 何より……この二年、訓練と称し暴れまくった所為か、そろそろこの世界の生態系がおかしくなってしまう気がした。というか、ちょっと変わり始めてしまっている。

 地形も所々変わっちゃってるし。

 

 何よりこの二年間、キャロとしか話していない。 

 そろそろ人と関わりたい。

 あと、買い物とかしたい。

 まぁ、能力でなんでも作り出せるんだけど……服とか雑誌とかもないしデザインとか考えるのメンドクサイんだよね。

 

 だから俺は普段着にはこっちに来たときの服を複製して使ってるし動くときには大好きな漫画キャラの服を着ている。

 この世界だとそれほどコスプレって感じに見えなくて堂々と着れるんだよね。

 良く着るのはフジリュー版封神演義の太公望、伏義、王天君から気分に合わせて選んでいる。

 

 そんな俺が幼女の服なんて分かるはずもなくキャロには原作のバリアジャケットと同じものを着せている。

 普段も訓練のときも。

 

「でも、どこに行くんですか? ミッドとか?」

 

 ミッドはマズい気がする。

 なんか面倒事に巻き込まれそうというか……。

 俺もキャロも管理局に属してないわけだし。

 

 あっ! てか、このままじゃキャロの機動六課入りがなくなるんじゃね? 

 それどころか、キャロをどうやって管理局に所属させるんだ……。

 ……ヤベェ、変な汗出てきた。

 ま、なるようになるだろ。うん。

 

「地球行かね?」

「地球……って確かショウヘーさんの故郷でしたっけ」

「そうそう」

「それどんな人外魔境なんですか。行きましょう!」

「あれ? なんかおかしくね? 張り切るのはいいけど、おかしくね?」

 

 なにはともあれ、こうして俺達の地球行きが決定した。

 別の世界であっても地球は地球。年代だって大して変わらないから、とりあえず俺は普段着で良いとして……キャロはどうしよう。

 このままじゃ確実に注目を集めるぞ。

 

「とりあえずキャロはこれに着替えてくれ」

 

 即席でシャツとスカートを作ってキャロに手渡す。

 キャロは受け取った服を引きつった顔で見つめ――

 

「無理です。これは着れないです。ありえないほどダサいです」

 

 突き返してきた。

 え、ダサい……だと。

 確かに俺はセンスがあるとは思わない。

 特に女の服なんか余計にだ。

 適当に作り出したとは言え、ここまで言われると若干へこむ。

 気になったのでキャロから返ってきた服を広げてみた。

 

「…………ダセェ。マジ、ダセェ」

 

 思わず自分で言ってしまうほどダサかった。

 それは……ちびまる子ちゃんの服だったのだから。

 

 

 

 ○

 

 

「良し! 着替えたな?」

「はい!」

「荷物は?」

「完璧です!」

 

 アレから試行錯誤の末、訳分かんなくなって制服にスクールベストというどこの私立小等部ですかという感じになった。

 まぁ好きだけど。

 パーカーでも良かったけど夏だったら悲惨だなと思ってこっちにした。

 

「それじゃ、いくぞ!」

 

 言って、スキマを開く。

 行きたいと思えば多分行ける。

 除いただけだけどル・ルシエの里とミッドは行けた。

 多分地球も大丈夫。

 

 転移魔法は使えない。

 だって正確な位置が分からないから登録出来ないし。

 てことで、今出来る唯一の方法がスキマを使った移動なのだ。

 

 俺はキャロの手をとってスキマに飛び込んだ。

 

 

 ○

 

 

「……よいしょ、っと」

「きゃっ! な、なに!?」

「え、えぇ!?」

 

 スキマを潜るとそこには……金髪と紫髪の美女達が驚いた顔で此方を見ていました。

 

「あ、ども」

 

 とりあえず挨拶してみた。

 

「ど、どうも」

 

 紫の方……月村すずかは警戒しながらも返事を返してくれた。

 

「何普通に挨拶してるのよーっ! アンタ何!?」

 

 怒った表情で詰め寄ってくるのは金髪のアリサ・バニングス。

 

「何と言われても」

「急に現れたってことは……アンタも魔導師な訳!? なのはの敵!?」

 

 え? 最初から敵認定?

 

「ア、アリサちゃん落ち着いて。管理局の人かもしれないよ?」

「あ、そうか。で管理局の人?」

「いや、違うが」

「やっぱり違うんじゃない! じゃあはのはの敵なのね!?」

「えー」

「あ、ショウヘーさん! あそこから良い匂いがします! コレは良いスイーツの匂いです! 食べに行きましょう!」

 

 こっちはまるっきり無視で少し先の店に走っていくキャロ。

 その店には『翠屋』という看板があった。

 

「あ、じゃあ、あの店で話しません?」

 

 とりあえずこの二人をどうにかしよう。

 

 

 ――2――

 

 

「それで……アンタ一体何なのよ」

 

 翠屋店内。

 同じテーブルに座り、半目で睨んでくるアリサがそう尋ねてきた。

 すずかは苦笑しつつケーキを馬鹿食いしているキャロの世話をしてくれていた。

 

「何って言われてもね」

 

 何て答えりゃいいんだ……旅人?

 

「旅人?」

 

 そのまま答えてみた。

 

「はぁ!? 何それ! 馬鹿にしてんの!?」

 

 やっぱりこの答えは違ったらしい。

 さて、どうするか……この二人は悪い奴じゃないのは分かってる。

 でも、二人からなのは達に伝わって変な風に管理局に関わられるのは避けたい。

 関わるにしてもこちらから、ちゃんと準備を整えたうえでという風にしたいしな。

 

「ん~、とりあえず……管理局を知ってるってことは魔導師の知り合いが居るってことでいいか?」

 

 知らないふりで質問する。

 

「そうよ! アンタが犯罪者なら突き出してやるんだからっ!」

 

 鼻息荒く捲くし立てる。

 

「犯罪者ではないよ」

 

 今現在、ここの支払いは能力で作り出したお金で済ませようとしているが。

 仕方ないよな。お金ないんだもん。

 

「存在が犯罪ですけどね」

 

 ケーキを食べながらキャロがふざけたことをぬかす。

 

「お前……あ、すいませーん! 伝票別々にしてくださーい」

「わぁ~! ごめんなさいごめんなさい! 嘘! 嘘です!」

 

 店員さんに声をかけると必死になって謝ってきたので許してやることにする。

 

「あの……二人はどういう関係なんですか?」

 

 すずかがおずおずと質問してくる。

 

「どういうって?」

「え~っと……その、ご兄弟には見えないので」

「そうよ! 髪の色からして違うじゃない!」

 

 あ~、確かにな。

 なんかすずかの視線も怪しいものを見る感じが含まれてるし。

 

「関係ねぇ……」

 

 考えながらキャロを見る。

 俺の視線に気付いたキャロがケーキを飲み込んで任せろとばかりに頷いた。

 

「ただならぬ関係です」

「ぶはっ」

「ごほっ」

 

 俺とアリサが同時に紅茶を噴き出した。

 

「ちょ、おま、なんつーことを」

「え、違うんですか?」

「全然違うだろ!」

 

 二人の目つきがやばいぐらい鋭くなってるよ!

 

「ロリコン……」

「……誘拐?」

「違うから! 二人が思ってるような関係じゃないから!」

 

 くっ、やべぇ……二人の視線が半端なく冷たくなっていく。

 しかも、椅子動かして距離とられるとか泣けてくる。

 

「違うって……俺達は――」

 

 

 

 ○

 

 

 普通に全部説明してしまいました。

 

「キャロちゃん」

 

 すずかは涙ぐんでキャロを抱きしめ、

 

「アンタ……良い奴だったのね」

 

 アリサは俺に微笑んでます。

 

 俺が説明したのは三つ。

 俺は一応魔導師だが訳あって旅をしていた。

 キャロの里に厄介になっていたがキャロが追放されると知った。

 俺が保護した。

 

「話は分かったけど……なんで管理局に連絡しなかったのよ」

 

 アリサが言った。

 

「うん。連絡すれば保護して貰えたんじゃないかな」

 

 続けてすずか。

 

「ま、保護はしてくれるだろうね」

「だったら何で? キャロぐらいの年齢で旅なんてつらいんじゃない?」

 

 心配そうにアリサが言うが、

 

「え? コイツ見てそう思う?」

「どういう事ですか」

 

 意外な事をといった表情を作ってキャロを指差すが、キャロに不機嫌そう手を払われた。

 

「あ、あはは……」

 

 苦笑するすずか。

 

「それに、保護はしてくれるだろうけど……将来は確実に管理局入りさせられてキャロの力を使われるだろうね」

 

 管理局は力があれば子供だろうと何だろうと容赦なく使う。

 裏で違法なことしてるってのも原作知識で知ってるしね。

 

「ま、そんな訳でキャロが自分の道は自分で決められるようになるまでは俺が面倒みようと思ってるわけだよ」

 

 建前ではね。

 実際StS始まったら巻き込む気満々だし。

 その後管理局にいたいってんならそれは俺が口出すことじゃない。

 

「ふ~ん。でもなのは達に言えばそんなことにはならないと思うわよ」

 

 アリサの言葉にすずかも頷いている。

 

「そのなのはって人は知らないけど……所属する組織自体に怪しいものがあるんだから、安心は出来ないな」

 

 今の管理局は上のほうは屑が多いし。

 てか、こんだけ嫌がってるんだからなのは達に言うのはそろそろ諦めてほしい。

 

「あ、アリサちゃん、すずかちゃん! 来てたんだ!」

 

 と、店の奥の方から田村ボイスが聞こえてきた。

 

「…………」

 

 振り向くと、長い髪をサイドテールにした高町なのはが手を振って近づいてきていた。

 

「なのは……いたの?」

「うん! 明日はお休みだから仕事が終わったら急いで帰ってきたんだよ!」

「なのはちゃん、久しぶりだね」

「うん。久しぶりすずかちゃん!」

 

 楽しそうに話す三人。

 

「…………」

 

 俺は冷や汗ダラダラだった。

 

 

 ――3――

 

 

「それじゃ、詳しい話を聞かせてもらおうかな」

 

 アリサとすずかから簡単に俺達の説明を受けたなのはが良い笑顔で仰った。

 くそぅ……なんの躊躇いもなく俺達のこと話しやがって。

 

「…………フ」

 

 ア、アリサのやろう……俺の方見てニヤッて笑いやがった!

 まさか管理局に関わるのが面倒だからって話したさっきの話信じてないな!?

 確かにまともな事言ってるようで適当なこと言ってたけども。

 キャロが利用される? ハッ、今のコイツがそんなタマかよ! 図太い神経しとるわ!

 

「え~、お断りします」

 

 丁重にな!

 

「それじゃあ連行しますね」

 

 だからその笑顔が怖いよ!

 A's終わってるから既に魔王なのか……。

 

「ね、お姉ちゃんと一緒に来てくれるよねキャロちゃん?」

 

 俺では埒があかないと思ったの、かなのははキャロに話しかけた。

 だが甘いな、高町なのは!

 

「断固拒否」

「な、なんで!? ど、どうしてかな?」

 

 即答したキャロにうろたえるなのは。

 

「怪しい管理局員には着いてっちゃ駄目だって言われてるので」

「ぶっ」

 

 興味なさそうにケーキを食べながら言うキャロに思わず噴き出してしまったが、なのはに物凄い勢いで睨まれたので咳払いで誤魔化す。

 

「え~っと……近くに信頼できる人がいるんだけど会ってくれないかな? ちょっと話聞かせてくれるだけでいいから」

 

 それでもめげずにキャロを誘うなのは。

 この近くにいる信頼できる人って……リンディか?

 

 絶対会いたくない。

 あの人相手に口で勝てる気がしない。

 

 そんなことを考えている間にもなのはのキャロへの説得はヒートアップしていた。

 

「だから、お話してくれるだけでいいの!」

「…………」

「リンディさんなら悪いようには絶対しないから!」

 

 やっぱりリンディか。

 

「旅してるって言うけど、キャロちゃんぐらいの歳でそんな生活は辛いと思うし……学校とか行ってみたくない? 友達も沢山出来るよ」

 

 てかなのは、真剣だしキャロのこと本気で心配してくれてるのは伝わってくるんだけど……キャロ自身がいい加減鬱陶しいって表情になってきてるぞ。

 今の生活が辛いとか本人が言ったわけでもないのに予想で話しちゃ駄目だぞ。

 つーか、コイツ嬉々として亀の甲羅振り回して巨大生物追っかけてるんだぞ。

 

「だからね――きゃっ!」

 

 と、キャロが急に話しているなのはの胸を鷲掴んだ。

 

「その程度の戦闘力(バストサイズ)で私の話を聞けるなんて思わないでください。私の話が聞きたいならもっと揉応えのあるオッパイを用意してきてください。ボン、キュッ、ボンを所望します」

「な、ななななな…………」

 

 胸を隠すように押さえ後ずさるなのは。

 

「あ、貴方! どういう教育してるんですか!?」

 

 怒りの矛先が俺にきた。

 なんでだよ……俺だってこんな風になるなんて思ってなかったよ。原作の純粋なキャロを返してくれ!

 

 

 

 ○

 

 

「なのは!」

 

 赤い顔で睨まれ気まずい空気の中、弾ける様な声で店内に入ってきた人物がなのはに声をかける。

 

「フェイトちゃん!」

 

 そちらをみたなのはも破顔して対応する。

 

「帰ってきてるってはやてに聞いたから急いできたんだ」

「そうなんだ。フェイトちゃんもお休み?」

「うん。たまには顔見せなさいって母さんが言うから……昨日こっちに」

 

 その人物はフェイトだった。

 

「ボン、キュッ、ボン……だと」

 

 フェイトを見てキャロが慄(おのの)いた。

 まぁ……分かる。

 フェイトさん……スタイル凄すぎです。

 もう、なんつーか……プルンプルンしてやがる。

 しかも美人。日本受けする美人。

 思わず結婚申し込んでしまいそうになったね。

 

(キャロ……二人の世界に入ってる今の内に撤退するぞ)

 

 俺は念話(実は使えるのだ)でキャロに言う。

 

(で、でも……折角のアレを揉まずに帰るなんて)

(お前いつからおっぱい好きになったんだ? おっさんみたいだぞ)

(乙女におっさんとかどういうことですかっ! 人間誰しも大きいおっぱいには惹かれてしまうものなのです。ということで揉んできます!)

(ふざけるな! 俺だって揉みたいのに何でお前だけ揉むんだよ!)

(ふふん。私は幼女なので問題ありません。ショウヘーさんは犯罪です)

(ぐぎぎぎぎ……そんなこというならお前を管理局に差し出すぞ)

 

 悔しいので反撃しようとそんなことを言ってしまった。

 だがキャロは――

 

(なっ! 私を売るって言うんですか……あ、だけど管理局に保護されればあのおっぱいを揉むチャンスも増えますよね)

 

 あれ……満更でもない?

 

「あの!」

 

 キャロが二人の世界に入ってるなのはの袖を引く。

 

「あ、キャロちゃん。どうしたの?」

「私、お話しても良いです」

「ホント!?」

「はい」

 

 な、なんという行動力。

 

「なのは、その子は?」

「うん、実はね……」

 

 なのははフェイトにキャロの事を説明する。

 

 

 

「お、俺を無視して話が進んでいく……だと?」

「アンタ、空気ね」

「ア、アリサちゃん、そんなこと言っちゃ駄目だよ」

 

 アリサに嘲笑われた。

 すずかの優しさが身に染みた。

 惚れてまうやろー。

 

 

 ――4――

 

 

「つまり、貴方は旅の途中、偶然キャロさんの里で宿を取っていた。キャロさんは力を暴走させてしまい里を追放、貴方がキャロさんを保護し、共に無人世界で生活しつつ力の制御を学んでいた……間違いはありますか?」

 

 状況説明ありがとうございます!

 あれからなのは達に連れられハラオウン家にやってきた俺はリンディさんに大体本当のことを話した。

 勿論、俺の正体や能力については話していない。

 さすがに話せないし、キャロにも言わないように言い聞かせてあるし理解してくれている。

 

「本当だったんだ……ちょっと嘘だと思ってたわ」

 

 後ろでアリサがひどい言い草をしていた。

 俺はアリサに近づいていく。

 

「お前、ひどいよな。信じない挙句、人が知られたくないって言ってた管理局の人間に話すんだから」

「確かにアンタとあの子の関係については納得したわ。全部本当のこと言ってるとは思ってないけど大筋はそうなんでしょ」

「だったら、なんで」

「でも、アンタが怪しいってことは変わらないのよ。魔導師のアンタが何で魔法のないこの世界に来たのかとか、管理局に会いたがらないのはやましい事があるからなんじゃないのかとか」

 

 まぁ、管理局についてはなのは達から聞いた情報ぐらいしかないから警察みたいなもんだと思ってるんだろうな、アリサは。

 警察に会いたがらない俺は何かやましい事があるんだろう、と。

 

 

「だから、さっき話しただろ? キャロのことを考えてだよ」

「それは……なのは達なら信用出来るって言ったでしょ?」

「高町さんがそうだといって管理局がそうだとは限らないだろ」

「……どういうことよ?」

「この世界の管理局みたいな組織だってそうなんじゃないのか? 良い奴もいれば悪いことする奴だっている」

 

 とりあえず、なのはの事は高町さんと呼んでいる。

 イキナリ名前で呼ぶとか有り得ないだろ。

 心の中は別として。

 

「それは……そうだけど」

「組織なんてそんなもんだ。俺は色んな世界で旅してきたから管理局にもそんな奴らがいるってことも知っている」

 

 実際は原作知識だが。

 しかもそれが管理局の最高幹部だもんな。

 

「だから知られたくなかったんだよ」

「う…………っ」

 

 ため息を吐く俺にアリサがたじろいだ。

 

「ま、今更どうしようもないけどな。それに確かに高町さん達は信用できそうだし。このさい話ぐらいはしてもいいと思ってる」

 

 俺はともかくキャロのことは本気で考えてくれてたのはわかったし。

 

「わ、悪かったわね……」

「…………」

「な、なによ?」

「いや、まさか謝られるとは思ってなくて」

「私だって謝ることぐらいあるわよ! それに……もっとちゃんと話せばよかったと思ったし。そうすればあの時よりはアンタの言うことも考えただろうし」

 

 と言っても、あの時はあそこでなのはが乱入してきたから話を続けるどころじゃなかったしな。

 ま、ちゃんと話すとアリサも良い奴だってのは分かる。

 怪しい奴が自分の居るところに現れたら普通疑ってかかる。

 しかも相手は魔導師なわけで、もし何か企んでるような奴だったら周りに被害が出る可能性もあったわけだしな。

 

「なんにしても、初めからなんの疑いもなく人を信じるような奴よりお前の方がずっと信用できる人間だってのは分かったよ」

「っ!? ……な、何言ってんのよ! バカじゃないの!?」

 

 

「コホン……何故すぐに管理局に連絡しなかったのですか?」

 

 今まで他人には聞こえないぐらいの声で話していたのだが、最後にアリサが大声を出したところでリンディが話をも元に戻しにきた。

 てか、やっぱこの手の質問かよ。

 なんて答えよう……なんか、何て答えても碌なことにならないような気がする。

 正直キャロについては全部話してもいいんだよな。原作でもフェイトに保護されてからのキャロは幸せそうだったし。

 なんならこの場でキャロをフェイトに預けてもいいぐらいだ。

 

 キャロのことと言い訳して、なんだかんだでフェイトに定期的に連絡をとることで二人の中は親密に……あれ? これ、メッチャ良い案じゃね?

 

「よし、キャロ!」

「……なんですか?」

「なんで冷たい目線をくれてやがるのかは知らんが、お前さえ良かったら俺じゃなくてここの人たちに面倒見てもらうか?」

「どんなこと考えてそんな結論に至ったのかは、そのだらしない顔を見れば大体想像はつきますけど……バカですか? 私みたいな子供を利用するとか腐ってますね」

 

 なんかマジですげぇ冷たい視線なんですけど。

 

「利用とか、お前人聞きの悪いこと言うなよ」

「実際そうでしょう」

 

 そうだけど。

 

「あの、そろそろ話を戻してもらっていいかしら」

 

 すぐに脱線する俺達に笑ってない目で話しかけてくるリンディさん。

 

「ちゃんと力は制御できるようになりましたか?」

 

 リンディさんはキャロに尋ねる。

 

「完璧だし」

 

 不敵な笑みのキャロだし。

 

「あなたは魔導師だということですが……ランクは?」

 

 キャロはスルーして今度は俺に問いかけてきた。

 

「ふ、俺のことが知りたいのか?」

「ええ、知りたいわね」

「ま、教えてもいいんだけどね。どうせ、いつかは教えるつもりだし」

 

 原作キャラゲットだぜ、を狙ってる俺には避けては通れない道だしな。

 

「でも、ただで教えるのもあれだし……ちょっとゲームしません?」

「ゲーム?」

 

 リンディさん以外にもこの場に居るキャロ以外全員の声が重なった。

 俺はキャロに近づき――

 

「俺たちは逃げますんで、捕まえることが出来たら全部話しますよ」

 

 そう言ってキャロを抱えあげる。

 

「逃げられると思ってるの?」

 

 なのはとフェイトがそれぞれ待機モードのレイジングハートとバルディッシュを取り出す。

 

「思ってます。では」

 

 そして、俺はスキマを開いた。

 

「ふ、サラバダー」

 

 スキマに入る直前、キャロが言い残した。

 サラダバー。

 

 

 

 ○

 

 

「うわー! マジ焦ったー!」

 

 スキマで元いた無人世界のログハウスに帰ってきた俺は安堵のため息を吐いた。

 

「実はさっきの緑髪の人にマジでビビッてたショウヘイヘーイでしたとさ」

 

 うっせ!

 マジ迫力あんだもん。

 笑ってるのにさ。

 さすが提督だね。

 

「ま、なのは達と出会えたのは良く考えりゃ幸運だったな」

 

 会えないより会えた方が良いに決まってる。

 それがどんな状況だってな。

 何も知らないより、実際会って何をしたかによって今後とれる対策も考えやすくなるからな。

 

「とりあえず風呂にでも入ってよく考えよう」

 

 変な汗いっぱいかいたし。

 

「ほう……私の背中と髪を洗いたいと申したか?」

「自分で上手く洗えないくせに何言ってんだか……まぁ、洗ってやるからさっさと用意しな」 

「わ~い! お風呂ー!」

 

 着替えを取りに駆けていくキャロだった。

 

 俺はロリコンじゃないぞ?

 まだキャロには欲情してないからな!



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第3章 お助け編

 ――1――

 

 

「困ってる人を助ける……って、どうしたんですか、急に良い人ぶって」

 

 これからについて、数日悩んだ末に出した結論を告げると、疑問を感じた表情をするキャロ。

 突然だから意味が分からないのだろう。

 それはいい……だが、最近のキャロはナチュラルに冷たいのだがどういうことだろうか。

 

「良い人ぶるってお前……俺超良い人じゃん」

「凄まじい妄想ですね」

「妄想じゃねーし! 事実だし!」

「まぁ、どうでもいいですけど」

 

 お前、俺に興味なくね?

 すっごいぞんざいなんですけど。

 

「それでどういう風の吹き回しですか」

 

 お前、それじゃ俺が心から困ってる人を助けたいって思ってない奴みたいじゃないか。

 ま、確かに打算的計画だけど。

 

 困ってる人を助ける。

 それを続けてればいつかは管理局の耳にも入るはずだ。

 管理局的には自分達以外がそんなことをしてりゃ気に喰わないって思うかもしれない。

 けど、それは管理局でも一部で、なのは達はきっと人助けしてる俺達の話ならちゃんと聞いてくれるはずだ。

 主人公組は、そのぐらいお人よしが集まってるからな。

 

 それによってこの前のように初めから怪しまれているような状態にはならないはずだ。

 もっと友好的に接してくれる……と思ってる。

 

 そんな感じにキャロに説明して、

 

「つまり、これから管理局……というかあの人らに関わっていくにはこれはとても重要なことなのです!」

 

 という言葉で締めくくった。

 

「色んなところに行けるんならそれはそれでいいですね」

 

 方向性は違うみたいだけどキャロも別に嫌そうにしてないみたいだ。

 

 今、キャロに話した以外にも理由はある。

 困ってる人を助ける……それは、きっと力を使わなきゃいけないことだってあるはずだ。

 今でこそこんな性格のキャロだが、なんだかんだ言って原作と同じように優しいところは残ってる。

 そんなキャロが昔、自分の力が上手く制御できなくて人を傷つけたことを忘れているはずがない。

 だから、その力で人を助けられるってことを教えて上げられるし、原作までに実戦を経験しておくことは悪いことじゃない。

 

 俺だってキャロとの訓練以外で人を相手にしたことなんてないし、今の内に経験しておきたい。

 

 自分らのためにもなって、人に感謝されて(あわよくば謝礼なんかも貰えるかもしれない)、これからなのは達に関わっていくにもプラスになる。

 

 いいことだらけじゃないか。

 

 こんな素晴らしいことを思いついた俺は自分を褒めてやりたいね。

 

 

 ○

 

 

 と、言うわけでやってきました別世界。

 スキマを開いた先、そこは小高い丘の上で、結構遠くまで見渡すことが出来た。

 文明レベルは恐らくそんなに高くない。

 ビルとか、そういう建物は見えないからだ。

 ここが、この世界に於けるとんでもない秘境とかでもない限り、恐らくル・ルシエの里のあったアルザス地方と同じぐらいの文明レベルだと思う。

 

「ここに困っている人がいるんですか?」

 

 スキマから出たキャロが荷物を地面に置き、周りを見渡しながら訊いてきた。

 

「そのはずだ」

 

 多分、きっと。

 スキマを開くときに『困っている人のいる世界へ行きたい』と思って開いたらここに繋がった。

 

 スキマは結構便利だ。

 前だって『地球に行きたい』と思ったら海鳴に繋がったのだ。

 何で海鳴だったのか。

 それはきっと、ここがリリカル世界だと思ってた俺が『地球=海鳴』だと心のどこかで思っていたからだろう。

 

 だから多分、今回も同じで、きっとここには困っている人がいるはずだ。

 

「ざっと見た限り……さっきの世界と違って大型の生物は見当たらないな」

 

 キャロと同じように周りを見てみて、最初に思ったこと。

 

「これなら、この世界は人が住んでる可能性は高い」

 

 人を脅かす生物が少ないのだから当然だ。

 前の世界は多分、魔導師でもランクが低けりゃ戦えないし、そんな所で人が安心して住めるわけがない。

 

 次元世界へ転送できる魔法があるこの世界。 

 地球のように管理局の管理外ならまだしも、管理世界であるならそこに住むメリットが殆どない。

 

「じゃあ、まずは人里を探すんですか?」

「だな」

「メンドクサイですね」

「おま、新しい門出にイキナリそれはないだろ」

「門出だろうがなんだろうがメンドクサイ物はメンドクサイんですよ。あ、私ここで待ってるんで探してきてください」

 

 何、このガキ。

 超やる気ないんですけど。

 

「ふざけるなよ……てか、スキマで人の居るところに直接行きゃいいだろ」

「あ、そうでした。それホントに便利ですよね!」

 

 ホントそうね。

 

「ふふふ、羨ましかろう?」

「羨ましいです。本当に足として良い人材ですよね」

「そうだろ、そうだろ…………あれ? それ褒めてる?」

「褒めてますよ」

「……そうか」

「移動手段として」

「なに? その歳で男を足呼ばわり……だと……?」

「そういうのいいですから、さっさとスキマ開いてください」

「あ、はい。分かりました」

 

 キャロに顎で使われる俺だった。

 

 

 ――2――

 

 

 困っている人を助けよう作戦。

 あれからまた一年程月日が流れていた。

 原作開始まであと一年程。

 

 

 ○

 

 

「お二人とも、本当にありがとうございました」

 

 村人数人に頭を下げられ、村を出る。

 

 今回は違法魔導師による誘拐事件から村の子供数人を救出した。

 俺もキャロもこの一年で対人戦闘にも慣れ、難なくこの事件を解決できた。

 

 この一年で俺達の事も大分知れ渡り、管理局の耳にも入った。

 スカリエッティや最高評議会関連の施設はスルーしていたので指名手配とかにされることはなかった。

 やってたら多分、あいつらはなりふり構わず俺達を捕まえようとするはずだ。

 

 こんだけ知れ渡ったらそろそろいいかな?

 

「キャロ、地球に行くぞ」

 

 きっとなのは達も俺らの情報を耳にしてるはずだ。

 なのは達が知らなくてもリンディは確実に知ってると思う。

 

「またあそこのケーキとシュークリーム食べたいです!」

 

 思い出したのか涎を垂らさんばかりの勢いで目を輝かせるキャロ。

 

「いいけど、前みたいに適当なこと言うなよ?」

「適当なこと?」

 

 首を傾げるキャロ。

 

「俺が怪しい奴だとかロリコンだとかみたいなこと言ったろ」

「全部本当の事じゃないですか」

「違うわ!」

「だって最近、お風呂で私のこと見る視線がねっとりしてきました」

「…………嘘だ」

「気付いて……ないんですか?」

 

 いや、そんなことないはずだ!

 

「大体、一年前から大して体型変わってないじゃないか」

「……カチーン」

 

 怒ったことを口で表現すんなや。

 

「フリード、ゴー」

「キュクルー!」

「いてっ」

 

 キャロの声でフリードが俺に体当たりした。

 

「つーか、そんな風に思ってるくせに、それでも俺と風呂に入ることをやめないとかお前、どんだけ俺の事好きなんだよ」

 

 せめてもうちょっと成長してくれると嬉しいんだが。

 

「はい? 勘違いも甚だしいですね」

 

 まるで蔑むかのような冷たい視線。

 

「いやいや、いくら子供だって嫌いな奴と二人で風呂なんて入らないだろ」

「嫌いじゃない=好き、ってどんだけ単純思考なんですか。私はショウヘーさんが他の子供に手を出す前に、せめてお風呂で私の髪を洗うことによって発散させてあげているだけです」

 

 随分饒舌じゃないか。

 

「ただ単に一人で髪を洗えないという」

「う、うるさいです」

 

 照れんなや。

 ちょっと可愛いと思ってしまったじゃないか。

 

「ま、とにかく地球で変なこというなよ」

「スイーツ」

「諭吉一枚までなら食って良し」

「任せてください。ショウヘーさんの素晴らしさを伝えてあげましょう」

 

 現金なキャロだった。

 

 

 ○

 

 

「ということで、再び海鳴に俺はやってきたぞー!」

「きゃっ!?」

 

 海鳴へスキマを繋ぎ、出たと同時に叫ぶと、すぐ傍で小さい悲鳴が上がった。

 そちらに視線をやると、

 

「あ、あああんた――なんでまたアタシの前に突然出てくるのよーっ!」

 

 飲んでいた紅茶を床に落とし、立ち上がって此方を指差すアリサと、紅茶を両手で持ったまま固まっているすずかがいたのだった。

 

「なぜ居るし」

「ここはアタシの家よ!」

「なん……だと……」

 

 なんでアリサん家に繋がったんだ?

 

「……ケーキ」

 

 優雅にティータイムを楽しんでいたのだろう。

 テーブルにはアリサとすずか、二人の分のケーキが用意されていた。

 

「アリサ……だっけ」

「イキナリ名前で呼ぶとか……まぁ、いいわ。何よ?」 

「ウチの腹ペコ姫がケーキを所望なのだが?」

「知らないわよ! いきなり人の家に来て何言ってんの!?」

 

 相変わらずアリサはナイスツンデレだぜ。

 ツンしかないけどな!

 

「キャロちゃんケーキ食べたいの?」

「はい」

 

 俺とアリサはスルーしてキャロ話しかけるすずか。

 

「はぁ……仕方ないわね。ちゃんと話聞かせてもらうから」

 

 そう言ってアリサは俺とキャロの分のケーキと紅茶を使用人に用意させた。

 

 

 ○

 

 

「で、なんでまたアタシ達の前に現れたわけ?」

 

 新しく入れた紅茶を一口飲んでアリサはそう話を切り出してきた。

 

「聞かれても分からんがな」

 

 何で毎回アリサのとこに繋がるんだ?

 

「はっ!? もしや俺とアリサは運命的な何かで結ばれてるのか!?」

「運命(笑)」

 

 殺すぞ、キャロ。

 

「バカじゃないの?」

 

 アリサも冷たい視線です。

 

「ま、冗談は置いておいて……なんでだろう。もしかしたら俺は無意識的にアリサを意識してるのかもしれない」

「な、何言ってんのよ!? バカじゃないの!?」

 

 顔を真っ赤にするアリサ。

 なんかさっきとは『バカじゃないの!?』のニュアンスが違う。

 

「アリサちゃん……可愛い」

 

 何か照れるアリサを恍惚の表情で見るすずかさんが怖いんですが。

 

「ったく、バカなこと言ってんじゃないわよ」

「そう言いながら紅茶のお代わりを入れてくれるとかアリサさん素敵すぎる」

「う、うるさいわね!」

 

 何かアリサの態度が前と変わりすぎてて怖い。

 

「何かアリサの態度が前と違いすぎてて怖いんだが」

 

 あ、声に出てた。

 何かアリサがビックリした表情で俺を見てた。

 

「そういえば……なんでだろう、前に会った時と違って全然嫌な感じが沸かないんだけど」

 

 アリサがぶつぶつ呟く。

 

「これは……まさかホントに惚れられたか!?」

「妄想乙」

 

 キャロ、お前なんてコケちまえ。

 

 なんて……理由は分かってるんだけどね。

 

 あれは困っている人を助けはじめて間もない頃だった。

 管理局でもない俺らが力になると言っても中々信じてもらえないことが多かった。

 何か企んでるんじゃないかとか、実は犯人の一味なんじゃなんかとか。

 それでも強引に首を突っ込んで解決したりしたけど、でも出来ればやっぱり最初から友好的にしてくれるとスムーズに行くし変に疑われるよりよっぽど良い。

 しかも、一番の問題はどれだけ事件を解決しようとも俺に惚れてくれるような娘が一人も現れなかったことだ。

 助けた中には美人も結構居たのに、だ。

 

 そこで俺は……解決法を模索した。

 そして思いついたのだ。画期的な解決法を。

 それは能力で"魅力"を上げることだった。

 魅力を上げればオリ主特有のニコポができるんじゃないか、と思った。

 

 だが、これは俺の想像を絶したね。

 魅力を最大まで上げた俺はカリスマ性が溢れてしまって会う人会う人皆に拝まれたのだ。

 そこで若干下げてみた。

 拝まれることはなくなった。

 しかし、今度は揉みくちゃにされたのだ。

 それが若くて美人なら大歓迎なのだが……男も女も老若男女問わず揉みくちゃにされたのだった。

 

 本気で恐怖したね。

 若くて美人に抱きつかれたと思ったら次の瞬間にはガチムチのおっさんにガッシリとホールドされたりしたのだ。

 

 これはいつも一緒にいて、俺の能力で色んな能力(抵抗力も含まれる)が上がっているキャロにも効果があったのだ。

 抱きつかれるわ、風呂に入れば息子を触られるわ。

 まだキャロは欲情の対象外である俺もこれにはさすがに間違いを犯しそうになったね。

 我慢した俺を褒めてもらいたい。

 

 そんなことがあって、反省した俺は『初対面でも好意的に見られる程度』まで魅力を下げたのだった。

 

 これで地球組対策もバッチリね!

 

 

 ――3――

 

 

 と、まぁそんな訳で俺は他人から好意的に見られるようになった訳だ。

 

「つーかさ、俺って初対面の時そんなに怪しかったのか?」

 

 あの時のアリサの突っかかり方は凄まじかったからな。

 

「え? ……そうね。怪しかったわ」

 

 即答だった。

 

「なんて言うか……全身から怪しいと言うか胡散臭いオーラが漂ってたわ」

 

 えー、心外なんですけど。

 俺は確認の為にすずかの方を見たのだが、気まずそうに頷かれた。

 

「マ、マジかよ……」

「マジよ。普段だったらさすがにアタシもあそこまで言わないわよ」

 

 俺はそんなに怪しかったのか?

 あれ?

 もしかして……魅力を操作するまで色んな人たちに疑われたりしたのってその所為なのか?

 モテなかったのも、もしかしてそれが原因か?

 

 そういえば……元の世界にいた時も親しい友人なんていなかったな。

 まぁ、そのおかげで二次元の素晴らしさに気付けたわけなんだけどさ。

 そういえば……思い当たる節がないわけでも……ない? 

 

「何唸ってんのよ?」

 

 急に考え込んだ俺に、心配するような気配を纏ったアリサが話しかけてきた。

 

「ちょっと待って! 今なんか凄い大事っぽいこと考えてるから」

 

 アリサの方に手のひらを向けて待って欲しいことをアピール。

 

 そういえば……昔から疑われる事が多かった気がする。

 小学生では誰かが花瓶を割れば疑われたし、誰かの物が隠されたりした時も疑われた。

 何かと疑われることが多かった……。

 初対面の人と話が弾むなんてことはまずなかった。

 苛められる事とかはなかったけど、そういうこともあって俺は他人とあまり関わらないようになった。

 

 そういえば……この世界に来てから人と話すのに抵抗がない?

 キャロだって自然に自分が保護しようとか思い至ったりしたし、超絶美人な、それこそ元の世界では近寄りがたい高嶺の花的存在の原作キャラ達にも何の躊躇いもなく話しかけることが出来ている。

 現実と創作物と知っているキャラという差はあるが、ここは間違いなく今の俺の現実だ。大した差はないだろう。

 なら、なぜ……本当は人と関わりたいと思ってて無意識にそういう能力をつかってる、とかか?

 

「ねぇ、貴方の保護者大丈夫?」

「何か凄い勢いで百面相してるね」

「どうせ大したこと考えてないので放っておいていいです。それよりケーキのお代わりはないですか?」

 

 お前もちょっとは心配しやがれ。

 

 創作物ではあるけれど『とある魔術の禁書目録』の主人公上条当馬は不幸体質と言うか不幸属性だった。

 そうすると俺は……本来、怪しい属性なんかをもっていたりしたのだろうか?

 良く考えるとそうでも思わないと、あれほどの疑われようは理解できないな。 

 怪しい属性……なにそれ嫌すぎる。

 

 ふと思ったけど……なんかおかしい。

 今までは何故か全く考えなかったけど、今こうして向こうの世界の事を考えても全くと言っていいほど帰りたいとかいう気持ちが浮かんでこない。

 両親に会いたい……とも。

 

 家族仲は悪くなかったはずだ。良くもなかったけど。

 旅行は家族みんなで行くし宿の予約も取ってあるって言われたから着いていったけど、そういえばそういう状況でもない限りご飯とか皆揃うときぐらいしか会話もしなかったな。

 学校以外は部屋にいたし。

 

 帰りたいと思わないのは俺の能力ならいつでも帰れると思ってるからか、それともこっちでの生活が充実しすぎてるからなのか。

 ん~……謎が謎を呼ぶぜ。

 

「まぁ、いーか。考えてもよくわからん」

 

 今が楽しけりゃいいじゃん。

 大体俺ってば能力があるから死なないし歳だって自由自在。

 慣れ親しんだからこのままだけどやろうと思えば外見だって変えられる。

 不幸ではないが楽しいこともあんまりない現実と超充実してるこの世界、キミならどちらを選ぶ?

 当然こっちだな。

 

「あっちじゃこんな美人達と話せることなんてまずないし」

「び、美人って……」

「アリサちゃんはともかく私は……」

「ふふん、良く分かってるじゃないですか」

 

 お前はよく言って美幼女だ。

 口にクリームつけて不適に笑ってんじゃないよ。

 

 とにかく、ここは元々は創作の世界である。

 美少女、美女率がパナいのである。

 男として断然こっちが良いのである。

 俺はカワイイ女の子とイチャラブしたいのである。

 

「だからアリサ、俺とイチャイチャしようぜ」

「するかぁ!」

 

 何故だし。

 

 

 ○

 

 

「で、結局何を考え込んでたのよ?」

 

 暫くして全員落ち着いたところで話を戻す。

 

「うん。何か凄く大事なことを考えてたはずなのに実はそうでもなかったぜって結論に至った」

「意味が分からないんだけど……」

「俺にも良く分かってない。けど今が幸せならいいよね?」

「良く分からないけど、幸せならいいんじゃないの?」

「そんな感じに落ち着いた」

 

 やっぱり意味が……と悩むアリサを尻目に紅茶を口に含む。

 うむ、美味い。

 

「アリサはあれだね。ナンダカンダ叫んだって結局は少し話した程度の俺の事でも真剣に悩むぐらい良い人だよね」

「な、何を――」

「すずかさんもそう思うよね?」

「うん。アリサちゃんは優しいよ」

「うがーっ! てか何ですずかは『さん』付けなのよ!」

「それは……なんかアリサはアリサですずかさんはすずかさんって感じだから」

「どういうことよっ!?」

「それだけアリサちゃんが親しみやすいってことだよね。あ、それと私も別に呼び捨てでいいですよ?」

 

 おぅふ……笑顔が眩しいぜ。

 

「それはともかく、ツンデレと親しみやすいってのは同居するのか?」

「アタシはツンデレじゃない!」

「いや、ツンデレだろ。どう見ても」

「ごめん、アリサちゃん。ツンデレだと思うよ?」

「ツンデレ乙」

 

 イェーイと三人でハイタッチ。

 

「ここには敵しかいない!」

 

 アリサにすずかともかなり打ち解けることが出来ましたな!

 よかったよかった。

 

 次は魔導師組とくんずほぐれつ――ゲフンゲフンッ!

 魔導師組とも打ち解けたいものですな。



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第4章 ミッドへ……編

 ――1――

 

 

「今はなのはもフェイトも地球にいない、か」

 

 あの後、アリサにそう聞いた俺は若干拍子抜けしつつ二人と別れた。

 完全に今日、あの二人とそれから出来ればはやても含めた三人と話をしようと思っていたのだが、三人とも忙しい管理局員だしそうそう地球に居ないよな。

 

 ま、居ないなら居ないで前回出来なかった買い物タイムと行こうか。

 そう決めた俺はキャロと二人で歩いている。

 

「まず、服だな。服屋より本屋か」

 

 一着ずつ買うより雑誌を買えば、その本の中の服は全部創りだせるしな。

 

「いや、まずは前に行ったケーキ屋に行くべき」

「お前……アリサん家で散々食っただろ。まだ食うのか?」

「甘いものは別腹って良く言いますよね」

「さっきまで食ってたのも甘いものなんだが」

「それはそれ、これはこれです」

 

 まぁ、やることもなくなっちゃったし、元々はアリサの家ではなく翠屋に行くつもりだったから良いんだけどな。

 

 ため息を吐きつつ翠屋へと向かう。

 そういえば……翠屋は軽食もあったな。

 俺はそっちにしよう。

 

 

 ○

 

 

 翠屋に着いた。

 

「君がなのはが話していた子連れの男性って人かな? なのはとはどんな関係なんだい?」

 

 店に足を踏み入れた瞬間、数多くのオリ主を処刑場(道場)へ導いていくラスボスが登場なさった。

 何か凄ぇプレッシャーを感じる……魅力操作が効いてないのか?

 

「あー……多分そうですけど」

「やっぱりそうか! いや、ピンクの髪のカワイイ女の子を連れてると聞いていたからもしやと思ったんだがね」

 

 店の入り口で話し始めた俺の袖をキャロが引っ張った。

 

「なんだよ?」

 

 俺は『お話(OHANASHI)』フラグ回避に必死なんだよ!

 

「ケーキ」

 

 キャロの視線はケーキが展示されたショーケースに釘付けだ。

 俺の事なんかどうでもいいんすね……。

 

「あの……とりあえず座っていいですかね?」

「おっと、そうだったね。では注文を聞こうか」

 

 キャロはケーキを数種類(多分まだ追加で頼む気でいる)。

 俺は冷たい紅茶とサンドウィッチを注文した。

 

「お待たせ」

 

 注文の品をテーブルに並べ――

 

「それじゃ、さっきの話の続きをしようか」

 

 俺の対面に座る高町士郎。

 なのはパパである。

 

「話……とは?」

「うん。君はなのはとどんな関係なんだい?」

 

 凄い笑顔なのに有り得ない威圧感を感じる。

 

「え~っと……関係と言われても」

 

 一回会っただけだし……。

 ただ、あの時は魅力操作前、変に怪しまれている可能性はある。

 

「いやね、数日前に帰ってきたなのはが、『どうしてももう一度会ってちゃんとお話したいの』なんて言うもんで気になってしまってね」

「そ、そうですか」

 

 追い追われる関係ですなんて言えない……。

 

「あなたの娘さんが必死になって追いかけるような関係です」

 

 キャロ――――ッ!!

 

「お、おま……何を……?」

「どういう……事かな?」

 

 はっ、殺気!?

 

「いや、あのですね? 追いかけるといいましても……」

 

 前回の出来事を話す。

 俺とキャロが魔導師だけど、管理局の魔導師じゃないこと。

 地球に来たときにアリサ達に見られ、なのはにそれがバレたこと。

 その事について色々と話を聞きたいというなのはから逃げたこと。

 

「…………」

 

 全然信じてくれてなさそうな顔をしていた。

 

「キャロ、お前からも本当だって言ってくれよ」

「…………」

「キャロ?」

 

 返事をしないどころかこちらに視線もくれやがらない。

 キャロは悲しげな瞳で自身の前に積まれた空の皿を見ていた。

 

「お姉さん! ケーキ全種類追加で!」

 

 俺はカウンターに居た高町桃子に大きい声で告げた。

 途端――

 

「今の話は本当です」

「そうなのかい?」

「はい」

 

 士郎さんは『ふむ』と頷いてから、

 

「なんで逃げたのかな? またウチの店に来たということは別に疚しい事がある訳ではないんだろう?」

「え~っと、ですね……実はキャロはですね」

 

 俺はキャロと過ごすことになった経緯を説明した。

 

「それで……管理局は万年人手不足なので……捕まったら、俺はまだしもキャロも局員として働かされてしまうかもと思ったので逃げてしまったんですよ」

 

 実際はキャロをフェイトに押し付けようとしたことは黙っておいてそれらしいことを言っておいた。

 

「そうか……確かに、自分の意思とはいえ、当時小学生だったなのはも普通に働かされていたな」

 

 顎を指でさすりながら考える士郎さん。

 

「でも……それなら何でまたウチに来たんだい?」

「それは……後々考えたら、管理局はともかく娘さんは信用できそうだし、ちゃんと話してみようかなって思いまして」

「なるほど、分かった。君は中々の好青年のようだね。キャロちゃんを引き取りちゃんと育てているのだから」

 

 威圧感が消え、人の良さそうな笑みになる。

 

「ケーキ、お待たせしました」

 

 と、そこで桃子さんがケーキを運んできてくれた。

 

「わ~い! ありがとう、お姉さん!」

「どういたしまして。ふふ、こんなに素直で可愛い元気な子、悪い人に育てられるわけないわ」

 

 嬉しそうにケーキを貪り食うキャロを見て微笑む桃子さん。

 素直で可愛い……?

 元気なのは認めるが、素直で可愛い……だと?

 

「なんだ桃子。聞いていたのか?」

「聞こえたのよ。大きな声で話してるんだもの」

「それもそうだな!」

「ええ」

 

 豪快に『はっはっは!』と笑う士郎さん。

 早くも桃色空間が出来つつある。

 

「それより残念ね? 折角なのはに会いに来てくれたのに、あの子またお仕事に行っちゃってるからいつ帰ってくるか分からないの」

「忙しいみたいだからなぁ。連絡もこっちからしないと全然してこないんだ」

 

 自分で行って自分で悲しくなってる士郎さん。

 

「連絡……とれるんですか? 地球にいないんですよね?」

 

 まぁ、向こうの世界の通信機でも持ってるんだろうけど一応聞いておく。

 

「ああ、なんだか別の世界でも使える携帯電話のようなものを貰ってね」

「あ、そうだ。ちょっと連絡してみましょうか」

 

 そう桃子さんが提案する。

 

「え、良いんですか?」

 

 正直会えるまで何回も来るとかキャロが太りそうなんで遠慮したいです。

 

「ええ、ここではちょっと使えないから着いてきてくれるかしら?」

「あ、はい」

「ケーキ持って行ってもいいですか!?」

 

 ショーケースの中のホールケーキを指差すキャロ。

 

「ふふふ。それは後でね。シュークリームで我慢してくれるかしら?」

「はい!」

 

 シュークリームをいくつか受け取るキャロ。

 何か恥ずかしい気分になった。

 

「店員が誰も居なくなるのは拙いな」

 

 そう言って士郎さんは接客に戻っていった。

 

 

 ○

 

 

 桃子さんに連れられ高町家のリビングへやってきた。

 

「じゃあ連絡して見るわね」

 

 俺らの前に通信機を置いて、桃子さんが操作する。

 暫くすると目の前にウィンドウみたいなものが現れ、その中になのはの顔が映っていた。

 

「どうしたのお母さん。何かあ――」

「やっほ」

「シュークリームうまし」

 

 なのはの言葉の途中で俺は画面に向かって片手を挙げ、キャロは俺の隣でシュークリームを食べていた。

 

「な、なんでぇ――――っ!?」

 

 

 ――2――

 

 

「な、なんでそこにいるんですかっ!?」

 

 なのはが驚いたように、自分の実家のリビングにいる俺達に質問してくる。

 

「色々あって、ケーキ食べに来たらこうなった」

 

 掻い摘んで説明する。

 

「全然わかんないよっ!?」

 

 だろうね。

 

「実は……かくかくしかじか、あれこれこうなってこうなった」

「よ、余計わからない!!」

「ケーキ食べてたらこうなりました」

「ケーキ!?」

 

 なんだ……お前は腹ペコキャラでも目指してんのか?

 

「まあ、ふざけるのはこれぐらいにして、簡単に言うと……」

 

 ここまでの経緯を説明する。

 

「ちなみにアリサとすずかとは仲良くなりました」

 

 実は連絡先も交換したんだぜ?

 実は俺もキャロもこの通信機を持っているのです。

 今まで色々な世界に行って、使ってる人を見て良いなと思って創ったのです。

 でも今までは俺にはキャロ、キャロには俺、それだけしか連絡先が登録されてなかったのです。 

 ……淋しかったのです。

 

 なので、仲良くなったので二人分の通信機を創り出してプレゼントしたのだ。

 

「なので高町さんもあの二人に連絡先を教えてあげれば喜ぶと思うのです」

「? ……教えてるよ?」

「こっちのじゃなくて今使ってる通信機のです。二人も同じの持ってます」

「なえっ!? いつの間に!?」

「俺がプレゼントしたからです。ちなみに連絡先は交換済みなのです」

 

 まぁ、そんな話はどうでもいいとして、本題。

 

「まぁ、それよりも高町さん。俺達は高町さんに用があってやってきたわけですけども……」

「あ、そう言えばそう言ってましたね。でも私……仕事で当分地球へ帰る暇がないんですけど」

 

 だろうね。

 どうするか……。

 

「ちなみに高町さん、今ドコに?」

「え……ミッドですけど」

「ミッドのどこですか?」

「……教導隊の食堂ですけど」

 

 管理局の中か……それはマズイな。

 

「キャロ、ミッドのケーキ屋に興味」

「ない訳がなかろうもん」

「あ、そうですか。……って事でミッドのケーキ屋に居るんで、出来ればフェイトさん連れて二人で来てください、では」

「え、ちょ、ケーキ屋ってドコ!?」

 

 俺にもわかりません。

 なのはの声を無視して通信機を桃子さんに返却する。

 

「よし、ミッドへ行こう」

 

 俺はミッド(の安全な場所と念じて)へ向けスキマを開いた。

 

 

 ○

 

 

「ここがミッドか」

 

 まるで未来都市じゃないか。

 地球が進化した感じか……俺には良く分からんが凄いんだろう。

 

「さて、じゃあケーキ屋でなのはとフェイトを待つか。キャロ」

「あっち」

 

 キャロが指差す方へ歩く。

 実は旅するようになってから分かったのだが、キャロの感(主に自分の興味のある事についてだけ)が凄いことになってるのだ。

 だから多分、キャロに着いていけばミッドでも一番と言っていいぐらいに美味しいケーキ屋に辿り付けるはずだ。

 

「あ、最初からミッドで一番のケーキ屋にスキマ開けばよかったかも」

 

 ま、初めてのミッドを眺めて歩くのも良いかもしんない。

 

 

 ケーキ屋はすぐに見つかった。

 店に入ってすぐにキャロは数種類注文して、店内に備え付けられているテーブルで食べ始めた。

 俺はもう甘いものはいらないので飲み物だけ買って同じテーブルに座り、ここに来るまでに買っておいた地球とミッドのファッション雑誌を眺める。

 

「お、キャロ、これ着てみない?」

 

 俺は目にとまったページをキャロに見せる。

 

「……変態ですか? それ日常で着ろってありえないです」

「はぁ?」

 

 俺がキャロに見せたのは子供っぽくもあり夏らしくもある可愛い感じのワンピースだったのだが、キャロの反応がおかしい。

 

「大体、私にそれが着れるとでも? 嫌味ですか? 死にますか?」

 

 俺は雑誌を自分の方に向け確認する。

 その理由がすぐに分かった。

 

「違ぇーよ! 誰がお前のビキニ姿なんか見たいよ!?」

 

 それは俺の見たページの隣のページが水着特集の表紙で、グラビアアイドルばりのモデルさんが海をバックにビキニで写っていたのだった。

 キャロはワンピースではなくこっちが目に入ったようだ。

 

 だがキャロにビキニはない。

 まず下はともかく、上は支える物がないからポロリが確実だ。

 それはそれで有りかもしれんが、キャロなら絶対的にスク水系だろうが!

 あっ、隣のページと掛け合わせてワンピースタイプも捨てがたいな。

 

「それはそれでムカつく物言いですね」

「ビキニはまだ早いっつの。せめてあと五年は成長してから言え」

 

 あれ……? 

 五年後のキャロで……着れるか?

 

「凄い失礼な事考えてる目で見てますね」

「……あと七年は経ってから言え」

「二年増やした……だと? ふざけてますね。五年後覚えてやがれです」

 

 はっ、五年後にこんなんが着れるようになってたら俺がプレゼントしてやるよ。

 是非着てくださいって土下座してな!

 

 男らしくない? 

 そんなことない。だってキャロだぜ?

 確実に美人に成長することが分かりきってるんだぜ?

 それでビキニが着れるような体型になってるんだぜ?

 

 見る為に土下座ぐらいするだろうが!

 

 まぁ、キャロがそんなグラマラスボディ(笑)に成長するとは思えんが。

 確か漫画版では十四歳でもペッタンコだったはずだ。

 

「おお、楽しみにしといてやるよ」

「く、何ですか、その哀れみのこもった眼差しは……」

 

 残念だよキャロ。

 お前に勝ち目はないのさ。俺には原作知識があるからな。

 

 さらに俺の能力があればお前をフェイトやシグナム以上のボディにしてやれるんだけどな……絶対しないけどな!

 そのままのキミでいて欲しい……俺はそう思うのです。

 

「いつまでもスク水の似合うキャロでいて」

「殺しますよ」

 

 おお、怖い怖い。

 

 

 ○

 

 

 そんなこんなでキャロと二人、和気藹々と過ごすこと数時間。

 カランコロンと店の扉が開かれる。

 

「や……やっと、見つけたのっ!」

「場所くらい……聞いておこうよ、なのは」

 

 入ってきたのは息を切らしているなのはとフェイトだった。

 

「やっと来たね。お二人さん」

「やっと来たって……どれだけ探したと思ってるんですかっ!」

 

 なのはがちょっと怒っていた。

 

「いや、俺もどこのケーキ屋に行くのか分からなかったし、そもそもミッドに来たのは初めてだし。まぁ座りなよ。疲れただろ?」

 

 俺は二人に座るよう進める。

 

「疲れただろ……って、誰の所為だと思ってるの」

 

 と言いながらなのはが座る。

 フェイトもなのはの隣に座った。

 

「まぁ、まずはお疲れ様と言っておこうか」

「おつかれ」

 

 俺とキャロがそれぞれ言いながら片手を挙げる。

 

「なんだろう……すっごくムカつくの」

「なのは……私もだよ」

 

 二度目の出会いも最悪だった。

 

 あれ……俺、二人と仲良くしようと思って来たんじゃなかったっけ?

 

 

 ――3――

 

 

「今日はお話聞かせてくれるんだよね?」

 

 店内に現れてから暫くして息を整えたなのはが、俺達と同じテーブルについて言った。

 

「うん。じゃなかったらわざわざ会いに来ないし」

 

 なのはを見ると探し回らされたことに若干怒っているものの、前回会った時よりも表情が柔らかく見えた。

 警戒心も薄そうだ。

 

 フェイトも同様だった。

 腰掛けて紅茶を飲む、それだけで絵になるってどういうことだよ。

 

「てか、一年前に一度会っただけの俺が良く分かったよね」

 

 こっちは原作っていう形で知ってるし、アリサは出会いからしておかしいし二度目の登場も一度目と同じだったから分かりやすいと思うし。

 それに比べなのはなんて年中事件追ってるようなもんだからあの程度のこと慣れてるだろうしな。

 

「そりゃあ…………一度会ったら忘れられないの」

 

 なんだと?

 その言い方……まるで……

 

「まさか……俺に惚れてる?」

 

 みたいじゃないか?

 

「そんなわけないの」

 

 すっごい冷静に言われました。

 てか表情がないってこういうことを言うのか、と初めて知りました。

 さすが悪魔呼ばわりされるだけのことはあるぜ。

 

「あんな逃げられ方したんだもん。忘れられないよね」

 

 フェイトが苦笑する。

 苦笑ですら美しい。

 フェイトさんマジ天使だし、これ。

 

「フェイトさんマジ天使」

「ふぇっ!?」

 

 真っ赤になるフェイトがマジで可愛い。

 なにこの娘、持って帰りたいんですけど。

 

「あ、やべ、ついうっかりくちにだしちゃったぜー」

「うわーめちゃめちゃ棒読みだー引くわー」

 

 お前もな。

 つーかお前ホントに何でも返せるな。芸人にでもなった方がいいよ、もう。

 

「真面目に話して欲しいんだけどな」

 

 ふざけていると笑顔だが完全に目が笑ってないなのはがそう言った。

 なのはさんマジ悪魔。

 

「なのはさんマジ――っ!?」

 

 慌てて口を塞ぐ。

 これはついうっかりで言ってしまおうものなら死亡フラグになってしまう。

 

「マジ……なんですか?」

 

 ど、どうする、俺。

 

「なのはさんマジ女神って言おうと思ったんですよ、ええ。ホント女神のようにお美しいですよね」

 

 とりあえず褒めて褒めて褒めまくれ!

 女が怒ったときは褒めるか謝るかだってどこかで聞いたことある気がする。

 

「そ、そうなんだ。なんだ! 変なこと言おうとしてるのかと思っちゃったよ!」

 

 なのはも褒める言葉には弱かったらしい。耳まで真っ赤だった。

 

「なのは……」

 

 なんかフェイトさんは俺が誤魔化したってのに薄々気付いてるのか生暖かい眼差しでなのはを見ている。

 

 誤魔化しだけど、なのはが可愛いのはマジ。

 さすが主人公。

 少しぐらい悪魔的で暴力的なお話するからってそんなのマイナスにならないぐらいのレベル。

  

 これだけ可愛いのに『美しい』って言われただけで真っ赤になるとか……言われなれてそうなもんだけどな。

 あ、綺麗すぎて近寄りがたいって感じなのか。

 なるほどなるほど。

 

「まぁ、とりあえず自己紹介からでもしますか」

 

 話を戻す。

 うん、自己紹介って大事だよね。

 お互いを知ることは話をする上でとても大切だと思う。

 

「俺は浅月翔兵。好きなタイプはフェイトさんです」

「えぇっ!?」

 

 急に言われてフェイトがうろたえる。

 そんなんを見るだけで萌える。

 

「高町なのはです」

「フェイト・T・ハラオウンです」

 

 何か合コンみたいになった。

 

「キャロ・ル・ルシエです。好きな泳法はバタフライ。嫌いな泳法は平泳ぎです。ケーキがあれば食べます」

 

 意味わかんねぇから。

 つか泳法ってお前……泳いだことないだろ。

 しかも最後の『ケーキがあれば食べます』って自己紹介じゃなくね?

 あ、ちなみにキャロは原作同様、ル・ルシエを名乗ってます。

 

「そ、そうなんだ」

 

 なのはが苦笑している。

 

「ど、どうして平泳ぎが嫌いなのかな?」

 

 こんなふざけた自己紹介でも健気に会話を広げようとするフェイトはホントに天使じゃなかろうか。

 

「え、だって卑猥じゃないですか」

「ひ、ひわいっ!?」

「…………」

 

 予想外の返答にフェイトが再び赤く染まる。

 なのはも固まっていた。

 

 平泳ぎが卑猥って……お前、全国の平泳ぎ選手に謝れ。

 

「あの、こいつの事はほっといて良いんで話を進めましょう」

 

 キャロの言うことを一々聞いていたら埒があかん。

 

「えっと……良いんですか?」

 

 一足早く回復したなのは。

 

「良いんです。ケーキでも食わせときゃ大人しくしてますから」

 

 そう言ってケーキを追加で注文する。

 こいつ今日一日でどんだけケーキ食うんだろう。 

 明日から当分甘いもの無しだな。

 

「ふん、ほっとくとか言うのは気に食わないですけどケーキには罪はないので、まぁ許してあげましょう」

「そりゃ、どうもありがとうございますね」

 

 生意気なことを言ってケーキを食べだすキャロだが、ほっぺにクリームがついてるのを見てなのはもフェイトも何か微笑ましそうにしている。

 こういうとこだけ見れば子供らしくて可愛いんだけどなぁ……普段の言動の所為で台無しである。

 

「あ、そう言えば俺らの事知りません?」

 

 自己紹介を終え、聞いてみる。

 

「へ? そりゃあ知ってますけど……前に会いましたし」

 

 まぁ、今のは俺の聞き方が悪かった。

 

「そうじゃなくて、色々してる二人組みってことで何か思い当たりませんか?」

 

 俺がそう言うと二人とも考え込む。

 

「――あっ!」

 

 少ししてフェイトが声を上げた。

 

「そう言えば……ここ一年ぐらいで誘拐グループとか犯罪者を捕まえたり、魔法生物とかで困ってる世界を救ったりしてる二人組みが、確か黒髪の青年と帽子をかぶったピンク髪の少女」

 

 やっぱり管理局にも名前知られてたか。

 いやぁ、色々した甲斐がありましたな。

 

 しかし、知られてるのは予想通りだけど、いざそんな風に言われると照れるもんだなぁ。

 

「それが俺達なのです」

 

 俺は自分とキャロを指差して言った。

 

「え、えぇ!?」

 

 フェイトが驚く。

 

「え、え? フェイトちゃん、それホントなの?」

 

 どうやらなのはは知らなかったらしい。

 教導隊で忙しかったのかな?

 

「目撃情報からすれば多分そうだろうけど……」

 

 フェイトが言いよどむ。

 

「どうしたの?」

「私も聞いただけだけど、助けてもらった人達はその人達のことを『凛々しくて、まるで英雄のようだった』って言ってるらしいから……」

「……そ、そうなんだ」

 

 ん?

 あれ……もしかしてホントにお前か、ってこと?

 

「英雄」

「凛々しい」

 

 俺とキャロを交互に見る二人。

 

「キリッ」

 

 凛々しくねーから。

 口にクリームついてるから。

 

「お前、凛々しくも英雄っぽくもねーから。ただの幼女だから。……キリッ!」

 

 凛々しいってどっちかってーと俺、だろ?

 

「ぷ」

 

 笑うなや

 

 

 ――4――

 

 

「英雄云々は置いといて、多分それは俺達で間違いないはず」

 

 いい加減話を進めようじゃないか。

 

「まぁ、これで俺達が犯罪者じゃないって信じてもらえますよね?」

 

 そのために頑張ったんだもの。

 

「えぇっと……そうですね」

 

 なのはが頷く。

 

「でも……聞くところによると施設の破壊とかしてるみたいですけど」

 

 フェイトが言いにくそうに話し出す。

 施設の破壊か……心当たりあるわ~。

 うん、何箇所か壊したね……キャロが。

 犯罪グループの施設って分かってたし、被害者救出後の犯人制圧だったからキャロがいつもの甲羅を振り回して暴れたんだけど。

 

「細かいことはいいじゃないですか」

 

 言わないでおこう。

 

「いや細かくは……一応犯罪ですよ?」

 

 え、マジで?

 

「犯罪者のアジトだから別にいいんじゃないの?」

「だ、駄目ですよ!」

 

 なのはが言う。

 

「え、だって高町さん……もうなのはさんでいい?」

「あ、はい。いいですよ」

「じゃあそう呼びます。なのはさんだって極太レーザー魔法砲撃良くぶっ放してるじゃないですか」

「ご、極太レーザー魔法……何か、凄い嫌な言い方なの……」

「あれって結構周り破壊してません?」

「してません!」

 

 あれ? そうだっけ?

 壁抜きとか完全に破壊じゃないのか?

 ああ、脱出とかのためだから仕方ないんだな、きっと。

 

「俺達も脱出の為に仕方なく破壊したんですよ」

「え……地上にあった結構大きな建物が全壊してたらしいんですけど」

 

 フェイトさん聞いただけって割には結構詳しいっすね。

 執務官だし、スカさんのこともあるし、そういうのは結構調べてたりするのかも。

 

「全壊と言えば……全力全壊」

「スターライトブレイカー、ですな」

 

 ナイス、キャロ。

 

「へ、変なこと言わないでっ!」

 

 怒るなのはだった。

 

「うぅ、全然話が進まない」

「なのはファイト!」

 

 落ち込むなのはを励ますフェイト。

 凄く……他人事です。

 

「フェイトちゃんも頑張って!?」

「ご、ごめん」

 

 しゅんとするフェイトになのはが強く言い過ぎたとあたふたする。

 微笑ましい光景である。

 

「まあまあ、二人とも落ち着いて」

「だ、誰の所為だと思ってるのかな?」

 

 え、俺の所為なの?

 まぁ俺の所為なんですけどね。

 

「そ、そういえば……浅月さんは」

「翔兵、もしくは、ショウヘーでいいよ」

 

 フェイトが何か聞きたそうな表情で話し出したところを俺が遮って提案する。

 

「えっと、じゃあ翔兵さんはキャロちゃんを保護してるんでしたよね?」

 

 やべっ、名前で呼ばれるとか想像以上にドキドキするぞ。

 

「まぁ、そうですね」

「えっと……仲、いいですよね?」

「へ?」

 

 ん?

 何か話が全然違う方向に進んでるぞ。

 いいけどね。

 

「仲……良いの?」

 

 俺はキャロに尋ねる。

 

「ショウヘーさんは私にとって……」

 

 お前にとって……なんだ?

 

「ニンジンです」

「嫌いって事か!?」

 

 お前ニンジン嫌いだもんな!

 なんだよ、泣くぞ。

 

「しかしニンジンはカレーにはなくてはならない大事な物だと思います」

 

 なんだよ、照れてんのか?

 好きなら好きって素直に言えよ。

 

「まぁ残しますけど」

「なんなんだよぉ~っ!」

 

 ちょっと喜んだ分ダメージでかいよ!

 

「でもキャロットケーキなら食べます。というか好きです」

 

 なんなんだよ! 

 どうせまたオチがあんだろ!?

 言ってみろや! 俺はもう期待しないぞ!

 

 拗ねはじめた俺の肩を叩くキャロ。

 

「………………」

 

 キャロを見る俺。

 キャロは慈愛に満ちた眼差しで、

 

「キャロットケーキ」

 

 親指を立てた。

 

「うおぉ~ん! キャロォ――ッ!」

 

 泣きながら抱きしめた。

 

「くっそ、お前、くっそ……すいません、キャロットケーキをください!」

 

 俺は店内に響く声でキャロットケーキを注文した。

 

 

 ○

 

 

「やっぱり、仲良いですよね」

 

 一部始終を見たフェイトが言う。

 

「ま、悪いとはいえない」

 

 悪かったら四六時中一緒にはいれないだろ。

 

「…………あ、あの!」

 

 少し黙って何か考えていたフェイトが意を決したかのように声を上げた。

 

「ど、どうすれば子供と仲良くなれますかっ!? キャロちゃんと同じぐらいの男の子なんですけど!」

 

 それは……もしかしてエリオのことか?

 あれ……仲悪いの?

 

「あの、キャロちゃんみたいに笑ってくれないし、表情も少ないし……私、保護者失格なのかな」

 

 何か勝手に落ち込みよる。

 コレは……慰めフラグか!? 

 

「子供と仲良くですか」

「はい」

「そんなもん遠慮しないで思ったように行動すりゃ良いんですよ。俺なんか最初、キャロを巨大生物の前に置き去りにしましたもん」

「…………はい?」

 

 あれ、なんかミスった?

 フェイトさんの顔が怒ってるように見えるんだけど。

 

「な、なにしてるんですか貴方は! 虐待じゃないですか!」

 

 おぅふ……完全に怒ってるよ。

 

「え、だって……」

「だって、じゃありません!」

 

 怖い。

 怖いけど美人。

 メチャメチャ美人。

 

「でも、こんなに元気に育ってますよ?」

「そうかもしれないですけど、そんな危険なことしたら駄目に決まってるじゃないですか!」

 

 フェイトさんによる説教が始まった。

 

「なのはさんなのはさん」

「……なんですか?」

「俺、なんか拙いこと言った?」

「はぁ~」

 

 ため息吐いてないでどうにかしてよ。

 

「その時は良かったかもしれませんけど、もしもキャロちゃんに何かあったらどうするんですか!」

 

 机をバンッと叩く。

 

「それはないです」

 

 断言する。

 いざとなったら助けれるし、回復だって出来る。

 

「確かに大怪我したことはないですね」

 

 キャロが珍しくフォローに回ってくれた。

 

「だよな」

「何度か殺してやろうと思ったことはありますけど」

「マジで!? 初耳なんだけども」

「でもまぁ……そのおかげで制御できなかった自分の力が制御できるようになりましたし、感謝は……そこはかとなくしてます」

 

 そこは素直にしろよ!

 

「キャロちゃん」

「だから、その男の子にもフェイトさんがしたいようにしてあげてください。困ったり照れたり嫌がったりしても」

「で、でも、嫌がってるんだよ?」

「少しぐらい強引に言った方がいいんですよ。家族になりたいなら」

 

 キャロ……お前、何てまともなことを。

 成長、したな。

 

「キャロ……お前……俺の事、家族だと思ってくれてたんだな」

 

 泣けてくるぜ。

 

「はぁ!? べ、別にそんなこと思ってないです!」

「照れるな照れるな」

 

 この、可愛い奴め。

 キャロの頭をグリグリ乱暴に撫でる。

 

「て、照れてないです。き、気持ち悪くニヤつかないでください」

「はっはっは」

 

 素直じゃないのお。

 いつも生意気なくせにそんな風に思ってたとか、お前レベル高ぇな。

 

「…………」

 

 しばし呆然と俺達を見ていたフェイト。

 

「よし! 私もエリオといっぱい話してみます。やりたいようにやってみます」

 

 何かを決意し宣言する。

 

 やっぱりエリオのことだったか。

 

「そうと決まれば早速! 色々参考になりました。ありがとうございます!」

 

 立ち上がるフェイト。

 

「待っててねエリオ!」

 

 凄まじい勢いで店を飛び出すフェイトだった。

 

「…………フェ、フェイトちゃん……え、何この状況」

 

 なのはは混乱している。

 

 

 ――5――

 

 

「……フェイトちゃん」

 

 フェイトの出て行ったドアを見つめ呆然とするなのは。

 しかしフェイトはエリオに何する気なのかね?

 今後もフェイトの子育てについての相談には乗っていこう。そこから何かが始まるかもしれないし。

 同じ話題があれば仲良くなりやすいし、精々困った君でいてくれ、エリオ。

 それだけ相談される可能性が増えるんだから。

 

「なのはさんなのはさん」

 

 それはともかく……今の内になのはを攻略してしまおう。

 …………。

 勿論、恋愛的な意味じゃないよ?

 

「なのはさんって無茶する人でしょ?」

「え?」

 

 ビックリしたように目を見開くなのは。

 

「な、なんでわかったの!?」

「俺だから」

 

 だんでーに笑ってみる。

 

「お・れ・だ・か・らっ」

 

 机をバンバン叩くキャロにムカつく。

 

「冗談はおいといて……結構無理してない?」

 

 原作知ってるからなのはが無茶する奴だってのも知ってるし。

 昔、ガジェットに落とされたことも知っている。

 確か、それがあって色々制限されてるはずだ。

 全力出せないとか。

 

「え、えっと……そんなことないですよ?」

 

 誤魔化そうとしてるのか無理に笑う。

 

「いやいや、実は身体結構ボロボロだったりしない?」

「そ、そんな……ことは……」

「あるでしょ」

「う、うぅ……」

 

 俺の言ってることが当たってるのか、なのはは段々シュンと俯いてしまう。

 

「俺、なんとか出来るよ」

「…………はい?」

「俺、それ、治せるよ」

 

 なんか片言みたいになってる。

 まぁ、ある意味自分の能力の一部を見せることになるから緊張してるってのはあるけども。

 

「ほ、ホントですかっ!?」

 

 おぅ……食いつきが半端ないぜ。

 そんなに全力全壊したいのか……なのは、恐ろしい子。

 

「ホントだけど……俺達のことなんとかしてくれるなら治してもいいよ」

「なんとか……って、どうすればいいんですか?」

 

 お、ちょっと揺らいでる?

 てか俺、性格悪くね?

 こんなんじゃ……フラグ、立たなくね?

 もしかして、無償で治療から惚れたのコンボとかあった?

 

 うおぅっ! 勿体無いことした!

 

「いや、前から言ってる通り、管理局関係を何とかして欲しいんですよね」

 

 こうなったらもう、トコトン行ってやるわ!

 

「……それは」

「基本的に自由に生きたいんで管理局入りは避けたいんですよ、俺は。あ、キャロは別に良いですけど、フェイトさん子供好きそうだし彼女に預けるのもいいかもなぁ」「おい」

「あ、なのはさんでもいいですけど、コレ要ります?」

 

 キャロを指差す。

 

「がぶっ」

「いってぇ――――っ!」

 

 噛まれた。

 

「何すんだよ!?」

「そこに指があったから噛んだだけです」

 

 狂犬か!

 

「あ、あはは……ちょっと、遠慮します」

 

 でしょうね。

 

「そんな訳で俺達を勧誘しようとか調べようとか辞めてもらえるとありがたいんですけど」

「でも、それは……」

「おっと……それだけではあれでしょうから、なのはさんやフェイトさんの個人的な頼みとあらば何かのお手伝いぐらいできると思いますよ? まぁ、外部協力者のようなものと思ってくれればいいです」

 

 勿論、全く関わるなと言ってしまうと原作の皆さんと仲良くなる機会がなくなってしまうのでフォローも忘れない、俺偉い。

 

「でも……」

「局員では出来ないこと……あると思いませんか?」

「うぅ……私一人じゃ……」

 

 頭を抱えて悩みだすなのは。

 

「一人じゃ決められないというのなら、この人にも一緒に考えてもらいましょう」

 

 俺は通信機を取り出し、俺となのはの間に置く。

 

「話は聞かせてもらったわ」

「……リンディさん!?」

 

 ウィンドウが現れ、そこに映っている人物はリンディ・ハラオウン。

 それに驚くなのは。

 

「な、なんでリンディさんが!?」

「実はなのはさん達がこの店に来てすぐぐらいから、俺達の話は全て筒抜けだったのだ!」

「な、なんだってぇー? てか私も知らなかったんですけど」

「言ってないもの」

 

 無言でポカポカ叩いてくるキャロ。

 

「殴るな。ま、管理局が相手だし俺達のこともちゃんと話そうと思ってたし、管理局のお偉いさんの中でもリンディさんはまだ話が通じそうだしな」

 

 まぁ、他にも……本人を目の前にしたら色々言いくるめられて管理局入りさせられそうだし出来れば全部ここで済ませてしまいたいってのがあるけど。

 

「そもそも、いつ連絡先知ったんですか。私は知らないですよ」

「何かリンディさんに繋がったらいいなと思って適当に操作したら繋がった」

「相変わらずぶっ飛んでますね」

「褒めんなよ」

「照れんなよ」

「……あの、いいかしら?」

 

 俺とキャロがじゃれあっているとリンディさんが話に割って入ってくる。

 

「先程の話、なのはさんを治せるというのは本当かしら?」

「マジな話、本当です」

「手伝いということは嘱託魔導師ということで良いのかしら」

 

 ふ、さすが提督、少しでも管理局有利にことを進めたいとみえる。

 

「いえ、それでは管理局に所属したくないという此方の意見が通ってないです。あくまで個人的な手伝いです」

「それは……難しいわね」

「俺達が手伝いたいから勝手に手伝ってる。別に管理局に報告しなくてもいい戦力。それって『この先』では役に立つと思いません? 例えば保有制限、とか」

 

 機動六課ではそのやりくりに色々手を回して大変だったはずだ。

 

「あなた……なにを、いえ、どこまで知ってるのかしら?」

「さあ? ただ次元世界中を旅してると色々な話が耳に入るんですよ」

「管理局に……敵対の意思はない、のね?」

「ええ。リンディさんやなのはさん達には全く」

「なにか含みを感じるんだけど」

「管理局も一枚岩じゃないって事ですよ」

 

 スカさん関係以外で、俺達が解決した事件の中にも少なからず管理局が関わっているものがあった。

 まぁ、それで俺達を指名手配するほどに大きなものではないが。

 

「なるほど……分かりました。その条件を呑みましょう」

「ありがとうございます」

「それで、なのはさんの事、本当に治せるのね?」

「間違いなく。な、キャロ」

 

 俺はキャロに視線を向ける。

 キャロの前で怪我を治すとか、キャロ自身の怪我も治したことあるしな。

 

「はい。それは間違いないです」

「そう……。お願いして、いいかしら?」

「勿論ですよ」

「それじゃあ、またじっくり話したいから地球に来たらウチに来てくださいね」

 

 ニッコリと微笑むリンディさん。

 それは……お断りしたいです。

 

「フェイトも貴方に相談したいことがあるでしょうし、ね」 

「甘い物でも持って是非お伺いさせていただきます」

「そう、嬉しいわ」

 

 あ、乗せられた。

 

「バカですね」

 

 絶望の表情を浮かべていると冷ややかな視線で俺を見下しながらキャロが言う。

 

「それじゃあ、お待ちしてます」

「わかりましたよ! あ、なのはさん治しますけど見られたくないんで通信きりますね!」

「え、あ、ちょ――」

 

 何か言ってたが切った。

 それでリンディさんとの通信は終わった。

 

 

 ○

 

 

「それじゃ、いきますよ」

「……はいっ!」

 

 なのはに向かって手のひらをかざす。

 実際、この行動に意味はないんだけど、それっぽく見せるためだ。

 

「これは……なかなかボロボロだ」

 

 わかんないけどね。

 手をかざしたら分かるってどんなだよ。

 

「いきます」

 

 能力を使う。

 自己治癒力、回復力、生命力とかそれっぽいのをいくつか上げた。

 

「終わりました」

「へ? もう、ですか?」

「うん。もう終わった」

「は、早いですね」

「ま、まあね」

 

 何かシチュエーション次第では言われたくない言葉だなぁ、とぼんやり考える。

 考えてしまったことで無駄にダメージを負ってしまった俺がいる。

 

「一応、半年から一年ぐらいは無理しないように。それだけ我慢すればあとはリリカルマジカルだろーが全力全壊だろーが好きにしてください」

「にゃ、にゃあああああ! な、なんで知ってるの!?」

「リリカルマジカル! 魔法少女」

「リリカルなのは、始まります」

 

 俺とキャロがキリッの顔で言う。

 

「うにゃあぁぁぁぁぁっ!」

 

 真っ赤になって叫ぶなのはであった。



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第5章 タスケンジャー推参、スカさんもいるよ編

 ――1――

 

 

 なのはと別れ、無人世界にある自分の家へ帰ってきた。

 家に入るなり、俺はソファーにダイブした。

 

「あ~、疲れた」

 

 肉体的にじゃなくて精神的にね。

 やっぱ俺、駆け引きとか向いてないわ。

 適当に生きていたい。

 

 ただ……あの後、一時間ほどキャロと二人でなのはを弄り倒したのだが、真っ赤になるなのはが可愛かった。

 あれは弄り甲斐がある。

 悪魔とか嘘のように可愛らしかった。

 あんななのはなら大歓迎だ。

 

「とりあえずの目的は果たしたし……これからどうするかな」

 

 正直言えば、困ってる人を助けよう計画はもうやる意味がない。

 原作まで、あと一年ぐらい。

 

「何しよう?」

 

 よく考えるとやることないぞ……。

 キャロも性格は原作とかけ離れちゃったけど力は制御できるようになったし、俺は俺で自分の能力も大体把握した。

 

 ……マジでやることがなくなった。

 

 どうしよう。

 

「キャロー、何かこれからやりたいことあるー?」

 

 もう考えるのも疲れてきたのでキャロに訊いてみる。

 キャロはソファーにうつ伏せになっている俺の横に座っていた。

 あんま気にしたことないけど、そう言えばいつもこのぐらいの距離にキャロがいることが多い気がする。

 だからなんだって話だけど。

 ちょっと気になっただけだから意味はない。

 

「暴れたいです」

 

 キャロが答える。

 戦闘狂か。

 

「却下」

「じゃあ、もうお風呂入って寝たいです」

 

 うん。そうだね。

 お腹一杯食べたもんね。

 

「あほ。今したいことじゃなくてこれからしたいことだよ」

「あほとはなんですか。お腹一杯で眠いときにいい考えなんて出来るわけないです」

 

 おお、そう言われればそんな気もする。

 でも俺はお前と違ってお腹一杯じゃないけどな。

 俺は話しててあんまり食べてないんだよ。

 てか、そもそもケーキばっかりそんなに食えるか!

 

「だから寝ると良いと思います」

 

 なんかホントに眠そうにふにゃふにゃしている。

 

「わかったよ……まぁ急いで結論付けることもないし」

「そうです。それがいいです」

「とりあえず寝る前に風呂入って歯磨けよ」

「入ります」

 

 ボーっとした様子でのろのろ動くキャロは見ていてどうにも危なっかしい。

 俺も疲れているが仕方ない。

 

「よっ……と」

 

 立ち上がる。

 

「ほら、行くぞ」

「はい」

 

 キャロの手を引いて風呂に向かった。

 

 

 ○

 

 

「さて、一晩寝て、頭はハッキリしたかね?」

「なんですか、その口調は。似合ってませんよ」

 

 キャロ絶好調。

 

「……まぁ、今の発言は聞かなかったことにしてやろう」

「そんなこと言って、今まで何を言っても怒ったりしたことないですよね」

 

 だってお前、本当に嫌なこと言わないし。

 それに幼女は愛でるものであって傷つけるとか俺には出来ない。

 幼女にひどいことなんて出来るわけないじゃないか。

 

「……なんかバカにされた気配がするんですけど」

「何をばかな……バカにするなんてとんでもない」

 

 幼女は素晴らしいものだよ。

 最近、幼女から少女にシフトチェンジしつつあるキャロだが、少女もまた素晴らしいものなので関係なかった。

 

 だが、まだ欲情はしていない。

 それだけは信じて欲しい。

 俺はまだキャロに欲情していない。

 

「何か眼つきが気持ち悪いんですけど……まぁ、とりあえずいつも通りでいいんじゃないですか?」

 

 気持ち悪いとは何事か。

 

「いつも通りって……困ってる人を助けようの会?」

「お助け戦隊、タスケンジャー」

「なにそれ、ダサい」

 

 しかも二人なのに戦隊て。

 そういえば最近、地球の戦隊物一緒に見たなぁ。

 

「う、うるさいです」

 

 顔を赤くするキャロ。

 

「でも、お前そんなに乗り気だったっけ?」

「別にどうでもいいですけど……お礼に色々貰えるじゃないですか」

 

 確かに今まで色々貰ったな。

 

「あ、そう言えば……この前、お礼にケーキ貰ったけど。お前……もしかして」

「さ、行きましょうか!」

 

 図星だったのか、話を無理やり終わらせるキャロ。

 

「いいんだけどね」

 

 キャロがやる気で他にやることなんてないんだし、断る理由がない。

 

「何してるんですか! 行きますよ!」

「はいはい」

 

 そして、いつものように、困ってる人のところへ行けるように念じながら、俺はスキマを開くのだった。

 

 

 ○

 

 

 繋がったスキマから出る為に、スキマを開き始めたとき、外からなにやら話し声が聞こえてきた。

 

「危険です! 下がってください!」

「いや、しかし、これは面白い現象じゃないか! 私はこんな魔法見たことがない」

 

 何か言い争っているんだが……何か聞き覚えのある、いや~な予感のする声なんだが。

 

「ですが、何があるか分かりませんのでお下がりを。チンク!」

「ドクター、後ろへ」

「仕方ないね。トーレ、なるべく壊さないように頼むよ」

「善処します」

 

 何か凄い嫌な単語がいくつも聞こえたんだけど。

 

「何してるんですか? 早く開けてください」

 

 スキマを開くのを躊躇っていると、後ろからキャロに急かされる。

 

 えぇーい! 男は度胸!

 

 俺はスキマを一気に開いた。

 

「なっ!? 人間!?」

 

 驚いているのは目の前、一メートルも離れてない位置で紫色の羽『インパルスブレード』を構える紫色のショートカットの女性、トーレ。

 

「ほう、面白い。あれは転移魔法だったのか……いや、見たところデバイスを持っていない……ということは、レアスキルの一種かな?」

「ドクター、ぶつぶつ言ってないで下がってください」

 

 そのトーレの後方で銀髪の小柄な女性、チンクに守られるような形でこちらを見てなにやら呟きながら考察しているのは……なのは達の敵であるスカリエッティさん、その人である。

 

 それにしても、なんかチンクの口が悪い気がしたが気のせいだろうか。

 

「え、なにこの状況」

 

 キャロが呟く。

 正直、俺にもわかりません。

 

「あ、あの紫の髪の白衣着た変態っぽいのってもしかしてスカさんですか?」

 

 実はキャロにはスカリエッティの事はある程度話している。

 今までスカさん関係の依頼もあったのだが、それを断るのは何でだと聞かれ危ないからだと、仕方なしに重要なこと意外教えてしまった。

 

 そんな俺とキャロの二人には、スカリエッティはスカさんという呼称で統一されている。

 スカリエッティって言いにくいよね。

 それにスカさんの方がなんとなく親しみやすいじゃない。

 親しんでどうするって話だが。

 

「へ、へんたい」

「ぷっ」

 

 呆然とするトーレと噴き出すチンク。

 やっぱりチンクの性格がおかしい気がする。

 

「ほう。スカさんとは初めて呼ばれるね。なかなか悪い気はしないよ」

 

 なんか気に入られました。

 

「さて、君達は一体何者で、何が目的でここまで来たのかな?」

 

 スカさんが問いかける。

 

「お助け戦隊! タスケンジャー!」

 

 ビシッとポーズを決める。

 

「…………」

 

 無言でキャロにポカポカ殴られた。

 

 

 ――2――

 

 

 さて、スカさんのアジトへとスキマを開いてしまった俺達だが、

 

「先程の転移は実に興味深い現象だったよ。出来れば詳しく調べたいものだね。あ、遠慮せずに飲むといい、別に薬なんか入っていないよ」

 

 なんか食堂っぽいところへ通されてお茶を差し出されていた。

 ちなみにお茶を入れてくれたのはウーノさんだった。

 とても美人でした。

 お茶を入れた後、ウーノさんは俺の対面に座るドクターの後ろに控えている。

 

 ウーノの他に先程のトーレとチンクがいる。

 

 さらにクアットロもいて、此方を伺うようにニヤニヤしている。

 性格……悪そうです。

 

 あ、あと、天井から顔だけ出してるセインが怖いです。

 見た目的に。 

 

 現在稼働中のナンバーズがほとんどここに居た。

 ドゥーエは既に管理局に潜り込んでいるのか見当たらない。

 

 スカさんはやけに友好的。

 トーレは敵意剥き出しで此方を睨んでいる。

 確かトーレって戦闘好きだったよな……見ないようにしよう。

 

「何睨んでるんですか。やっちゃいますよ?」

 

 喧嘩売るなや。

 

「ほう、子供の癖に中々言うな。だが貴様では相手にならん」

「かっちーんときました。私が身体だけ大きい単純そうなあなたに負けるわけないじゃないですか」

 

 お前も十分単純だが。

 亀の甲羅振り回すだけじゃねーか。

 

「ふ、ふふ……面白いことを言う子供だ。私より強いと思っているとはな」

「事実です」

「ならばトレーニングルームで一戦願おうか?」

「上等です。亀甲縛りの刑に処してやります」

 

 コイツラ、何二人で盛り上がっちゃってんの?

 

「マテや」

「止めないでください。どうやってこのオバサンを縛ってやろうか考えてるんで」

「それは非常に見たいけど、あんまり問題起こすな。シュークリームやらないぞ」

「やめましょう。無益な争いは何も生み出しません」

 

 無益な争いしようと思ってた奴が言うセリフじゃない。

 つーかトーレがオバサンって……。

 

「トーレもやめたまえ。彼らは大切な客人だよ?」

「しかし、ドクター……わかりました」

 

 反論しようとしたトーレだがスカさんに一睨みされ引き下がった。

 

 それはともかくとして。

 

「スカさんに調べたいとか言われても身の危険しか感じないんで勘弁してくださいとしか言いようがない」

「ふむ、残念だね。是非調べてみたいのだが」

「断る」

 

 人体実験しか想像できない。

 

「では、君がここへ来た目的を教えてくれないかい?」

「知らんがな」

「……どういうことかな?」

 

 どういうことと言われても。

 偶然としか言いようがない。

 

「困ってる人はいねぇがぁ。あ、スカさん。調べるのはマジ勘弁。そして、眼鏡、テメェーは駄目だ。今ここ」

「よく分からないがクアットロが駄目だというのはわかったよ」

「ドクターッ!?」

 

 俺的に分かりやすく説明したつもりなのだが。

 

「ていうか、何でそこで私が出てくるんですの!?」

「知らんがな」

 

 キャロ、真似すんな。だがグッジョブだ。

 

「このガキ……こ、殺してやりたい」

 

 プルプル震えるクアットロ。

 

「まぁ、実際のとこ、何か言わなきゃいけないような気がしただけ」

「何一つ理解できないですわ!」

「お前は理解できないんじゃない、理解したくないだけだ」

「っ!? ど、どういうことですの!?」

「お前は、性格が、悪い」

「余計なお世話です――――っ!!」

 

 クアットロは叫びながら走り去ってしまった。

 あ、物陰に隠れてこっち見てた。

 無視しとこ。

 

「面白いがあまり苛めないでやってくれないかな?」

「まぁ、もう満足したからいいけど」

 

 今はね。

 あれは苛めたくなる雰囲気を纏ってたからこれからどうなるか分からないぞ。

 

「そんな訳でここまで来たんだけど」

「そんな訳も何も、先程の説明では良く分からなかったのだが」

「スカさん、今困ってることあるんじゃない?」

 

 俺がそう言うとスカさんは目を見開いて驚いた後、おかしそうに「くっくっ」と笑いだした。

 

「そうだね。確かに私は困っている」

 

 困ってんじゃねーよ。

 そのせいでこんな状況になっちまったじゃねーか。

 まぁ、チンクに会えたのは嬉しいけど。

 セインも結構可愛いし、他のナンバーズも稼動したら是非会いたいね。

 

「最近思うように研究が進まなくてね。どうしたものかと考えていたのだよ」

 

 語りだすスカさん。

 話が長くなりそうだったのでチンクを見つめてみた。

 

 やっぱ可愛いわ~。

 眼帯とか厨二的オサレだよね。

 

「…………と、聞いているかい?」

「ごめん、全然聞いてない。それより俺にチンクくれない?」

「あげないよ」

 

 くれよ。

 

「チンクさん、チンクさんや」

「なにか?」

「スカさん好き?」

「嫌いだが?」

「チンク!?」

 

 お、ドクターが驚いてる。

 やっぱチンクさん何かおかしいね。

 

「く、やはりあの時の後遺症か」

 

 何かスカさんが呟いている。

 え、何かあったん?

 でも、それがなきゃ自分が嫌われるはずがないとか言ってるスカさんは引くわ。

 あ、作ったときにそういう風にしたわけね。

 

「あの時ってなに?」

 

 気になったので訊いてみる。

 

「いや、半年ほど前なのだが……ある任務中に何者かの襲撃を受けてね。外傷は修理したし、システムもなんら不具合は見つからなかったのに性格が襲撃前と比べ大きく変わってしまったのだよ」

 

 そんなことがあったのか。

 

「へぇ~、修理ねぇ」

「この子達は皆、私の作った戦闘機人。人間ではないのだよ」

 

 聞いてないが、俺が修理という言葉に疑問を持ったと思ったのかスカさんが説明してくる。

 しかも、どことなく自慢っぽい雰囲気。

 

「人間じゃないとかどうでも良いんでチンクくれない?」

「やだよ」

 

 くそぅ。

 

「その襲撃者って分かってないの?」

「ああ。そのときのメモリーも調べたのだが犯人は全く映ってなかったよ」

「ふ~ん」

「見てみるかい?」

「いいの?」

「何か分かるかもしれないからね。クアットロ、映像を」

 

 未だに物陰に隠れているクアットロに指示するスカさん。

 

「い、いやですわ!」

 

 俺とキャロを威嚇するクアットロ。

 

「はぁ……困った娘だ。ではウーノ」

「はい」

 

 ウーノがなにやら操作して、俺達の前に巨大な画面が現れる。

 

「その瞬間の映像は短いのだがね。何しろ気付いてからやられるまで一瞬だ」

「へぇ~」

 

 それは凄いな。

 チンクって結構強いんだろ?

 確か一対一でゼスト倒したんだし。

 

「では映します」

 

 ウーノがそう言うと、画面に映像が映し出された。

 

 

 ○

 

 

 映像は建物の中を走っているチンクの目線で始まった。

 

 暫く走って進んでいると、

 

「なんだ?」

 

 建物全体が大きく揺れた。

 足を止め辺りを見回すチンク。

 

 暫くして揺れが収まると再び動き出そうとする。

 が、その時、凄まじい音と共に、チンクの近くの壁が吹き飛んだ。

 

「なっ!?」

 

 驚いてそちらに振り向く。

 振り向いた先、自分に向かって物凄い勢いで迫ってくる魔法のようなもの。

 それを見たチンクは驚きで一瞬止まってしまった。

 そこには――――

 

 ○

 

 

「と、まあ、こんなことがあったのだよ」

 

 映像を止め、スカさんが話し出す。

 映像の最後、止まってしまった所為で、自分に向かってくる物体を避けられなかったチンク。

 

 映像を見終わったあと、俺はだらだらと冷や汗を流していた。

 

「……キャロ」

 

 俺は小声でキャロに話しかける。

 

「…………」

 

 キャロも引きつった顔で頷いた。

 

 チンクがおかしくなった原因。

 映像を見た瞬間に分かってしまった。

 

 だって――――

 

 映像の中で、チンク目掛けて迫ってくる攻撃。

 

 それが――――

 

 召喚されたチェーンで縛られた、亀の甲羅だったのだから。

 

 

 

 ――3――

 

 

 確実に犯人はキャロだ。

 他に亀の甲羅振り回すような奴を俺は知らない。

 

「見ての通り、あの攻撃の影響でチンクの様子がおかしくなってしまったのだよ」

 

 スカさんに関わらないようにしてたのに、変な感じに関わってしまっていた。

 キャロの攻撃には相手の精神に何らかの影響を与えてしまうような何かがあるのだろうか。

 

 スカさんはさらに語る。

 

「まぁ、おかしいと言っても私に対してだけなのだがね。他の娘達に対しては今までとなんら変わらぬ態度でいるようだ」

 

 スカさんだけに?

 

「私もたまに酷いこと言われますわっ!」

 

 クアットロも?

 

「どういうこと?」

 

 俺はチンクに問いかけた。

 

「知らん。ただ最近ドクターを見ると弄りたくてしょうがなくなるんだ。あとメガネも」

「……分かります」

 

 キャロが頷いていた。

 まぁ、俺も分かるけど。

 何か弄り甲斐がありそうだもんなぁ。

 

「お前がうつったんじゃね?」

「どういうことですか」

 

 殴るな。

 

「俺にうつすなよ、キャロ菌。はい、バリアはったー」

「バカですか?」

 

 ちょ、強い。

 力、強いから。

 

「何か……知っているのかい?」

 

 俺とキャロのやりとりを見たスカさんが何かに気付いたように言う。

 

「知っていると言えば知っている気がしなくもないし、知らないと言えば知らないような気がしなくもない」

 

 正直に自分達(キャロ)が犯人ですなんて言えるか!

 

「まぁでも……スカさんとメガネにしか被害がないならいいんでない?」

「そうですよ。それにその方が笑えます」

「だよな」

「はい」

 

 別にそこまで大きく変わってるわけじゃないし。

 スカさんとメガネ以外には前のままならそれでいいじゃない。

 

「だがね……私が嫌われるとこれからの計画に支障が」

「嫌われると言っても言われたことはやってくれるんでしょ?」

「まぁ、そうだが」

「なら、いいじゃない。お父さんの事、本当は大好きなんだけど反抗期がきちゃった娘とでも思っておきなよ」

 

 その方が萌えるから。

 

「ほう…何故だか胸が高鳴るね」

「そうだろうそうだろう」

「これが……萌えと言う奴かい?」

「そう! 口では嫌いと言っていても、実はドクター大好きと思っているんです!」

 

 想像したのかスカさんがちょっとニヤけた。

 

「心の底から嫌いなんだがな」

 

 チンクェ……。

 スカさん落ち込んじゃったじゃないか。

 

「てか、スカさん戦闘機人だのなんだの言う割にはみんなのこと好きだよね」

「当たり前じゃないか。彼女達は私の創り上げた芸術品だよ! 愛していないわけがない!」

「親心ってやつですな」

「まさにその通りだよ!」

 

 意外と話せるじゃないか、スカさんよ。

 

「だから早く彼女達の性能を魅せつけてやりたいのだがね。思うように研究が進まなくてそれも出来ない」

「あ、ここで最初の話に戻るんだ」

 

 てか、やっぱ普通じゃないわ。

 戦闘機人の性能を魅せつけるってことは戦闘だろ。

 確実に六課襲撃の前フリじゃん。

 

「研究が進まないねぇ……それはお助け戦隊の管轄外だな」

「荒事専門ですもんね」

「技術とか……無理だろ」

「ぎじゅちゅ……」

「噛んだ」

「噛んでないです」

「噛んだよ。ぎじゅちゅって」

「噛んでないです」

「噛んだってば」

「じゃあ噛んだって事でいいです」

 

 いいですも何も、噛んだだろ。

 

「お、耳まで赤いぞ。恥ずかしいんじゃん」

「恥ずかしくないです。これは身体が火照ってるだけです」

「幼女が何を火照ってんだよ」

 

 エロか?

 発情でもしたか?

 恥ずかしいんだろ? ん?

 

「視線がムカつきます」

「そりゃ悪いな」

「がぶ」

「ぐあっ!」

 

 噛むな!

 最近お前噛みつくの癖になってるんじゃないか?

 ふーふ、ペロペロ……嘘、ペロペロはしてないよ。

 ホントだよっ!

 

「そろそろ話に戻っていいかな?」

 

 スカさんが呆れたように此方を見ていた。

 

「チンクをくれるという話だったね?」

「違うよ」

 

 くそ……。

 嫌われてるんだからいいじゃないか。

 

「どうしたら研究が進むと思う?」

「俺、テレビとか叩いたら直ると思ってるんでそういうのはちょっと……」

「ふむ……君はどうかな?」

「私もデバイスが調子悪いときに叩いて直したことがあるのでちょっと」

 

 似たもの同士だね、とか呟かないで!

 

「まぁ、仕方ないか。やはり自分の力で解決するとしよう」

 

 最初からそうしてよ。

 あ、俺達の方からこっちに来たんだっけ。

 

「あ、じゃあもう、お助け出来ないんで帰りますね」

「そうかい。また来るといいよ。君達は中々面白い、良い気分転換になったよ。今なら良いアイデアが浮かびそうだ」

「ならば、次に来るときは甘いものを所望する」

 

 お前はいつでも変わらんな。

 いつまでも変わらないキミでいて……なんて言うか! 少しは変われ!

 

「生憎と私はそういった物には疎くてね。ウーノにでも調べさせておこう」

 

 スカさんも何まともに対応してんすか。

 

「なら俺はチンクさんを所望する」

「それは駄目だよ」

 

 チッ。

 

「じゃあセインでもいい」

「あ、あたしッスか!?」

 

 天井から顔だけ出して驚いている。

 

「それも駄目だよ」

「くそ! じゃあノーヴェかディエチかウェンディでいい!」

「あげないよ」

 

 スカさんのばかやろう!

 あ、あと、さっき言った三人も最初からいるぞ?

 ただ喋ってないだけで。

 何か警戒してるのか近づいて来ないし。

 

「チンクさん、ウチに来ない?」

「ドクターはどうでもいいが姉妹がいるのでな。これから生まれる妹達もいる」

「じゃあドクター以外の皆一緒でいいよ」

「ふむ、それなら」

「チンク! 何を言っているんだい!?」

「私は嫌ですわ!」

 

 折角チンクが乗り気なのにドクターとメガネに反抗される。

 

「まぁ、いいや。また会いに来るし」

「そうか。何故か私もそこの……キャロだったか? に親近感がわいてな。また来るといい」

 

 それは亀的な意味ででしょうか。

 

「あ、スカさん」

「なんだい?」

「さっきチンクさんが言ってたこれから生まれる妹って?」

「ああ、私が作った娘はまだいてね、それが数年以内に稼動するんだよ」

「ほう、娘とな。このむっつりさんめ!」

 

 綺麗な女ばっかりってスカさんも最高評議会もとんだムッツリだぜ。

 

「むっつり?」

「そうじゃないか。こんな綺麗な顔の女の子達にこんなにピッチリしたボディスーツ着せてさ」

「ふむ、これは動きやすいからなのだが」

「絶対嘘だね! 俺は正直エロい目でしか見れないね!」

 

 俺が言うとトーレとチンク以外のナンバーズが身体を隠すように抱きしめてあとずさった。

 

 く、このままじゃ嫌われるじゃないか。

 

「スカさん……こんな罠を張っていたなんて……さすがだぜ」

「私は何もしていないのだが」

「まぁいい。俺は帰る」

 

 スキマを開く。

 

「あ、妹達が動き出したらここに連絡ちょーだい」

 

 スキマに入る前に通信機の連絡先をスカさんに渡す。

 

「ふむ、分かった。必ず連絡しようじゃないか」

 

 スカさんが頷いたのを見てスキマに入る。

 

「よろしく! またな! 可愛い娘を用意しとけよ!」

「甘いもの用意しとけよ」

 

 言い残してスカさん家を後にした。



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第6章 フェイトさんと遊園地編

 ――1――

 

 

 フェイトが仕事休みでエリオのところに行っていると、なのはからの情報で知った俺は大至急で二人の元へスキマを開いた。

 突然現れた俺とキャロに驚いていた二人。

 仕事は休みでエリオに会おうとエリオのもとまで来たフェイトだが、会うことしか考えてなかったために予定はないらしい。

 俺は二人を説得し、四人で地球へとやってきた。

 

 なぜ地球なのか。

 それは、俺がキャロ以外の子供と接したことはほとんどなく、子供と遊ぶといったら"それ"しか思い浮かばなかったからだ。 

 

 

 ○

 

 

「これ、キャロって言うんだけど」

「これとはなんですか。失礼にも程があります」

「見ての通り生意気なクソ餓鬼だけど」

「クソ餓鬼とはなんですか。まるで駄目な大人な癖に言いますね」

 

 だれがマダオか。

 

「まぁ、君と同じぐらいの年齢だから仲良くしてやってくれ、エリオ君」

 

 俺は目の前のエリオにキャロを紹介していた。

 

「あ、あの……宜しくお願いします」

 

 緊張したようにキャロに話しかけ、手を差し出すエリオ。

 この前のフェイトのこともあって心配だったが、見た感じ原作に近い素直で良い子に育っているようで何よりだ。

 

 キャロは差し出された手を握り、

 

「仲良くしてやらんでもない」 

 

 と、凄い上から目線で言った。

 だというのに……エリオは握られた手を見て顔を赤くした。

 

「エ、エリオに初めての友達が……っ」

 

 それを少し離れた位置で見ていたフェイトが口元を手で隠して泣く。

 

 なんて純粋な二人なのでしょう。

 僕にはとても真似できない。

 

「そう言えば……キャロも初めての友達じゃね?」

 

 思いついたことを呟いた。

 

「べ、別に友達が欲しいとか思ったことないんだからねっ!」

 

 無表情でツンデられた。

 

「はいはい。あ、エリオ君。キャロのことはバカでもアホでも適当に呼んでくれればいいよ」

「バカでもアホでもないです。お利口さんです」

「お利口とか……笑わせおるわ」

「その顔を恐怖で歪ませてやろうか」

 

 おお、怖い怖い。

 

「ルシエさん……でいいでしょうか?」

 

 とても子供とは思えないエリオでした。

 

「キャロでいいよ」

「キャロでいいですよ」

 

 被った。

 

「なんでショウヘーさんが言うんですか」

「お前が自分からそんなこと言うとは思わなかったもん……さては、惚れたな?」

「…………」

「いたっ! ちょ、無言で、殴る、な」

 

 なんだよ……変なこと言ってないだろ。

 

「で、では……キャロ、さんで」

 

 いきなり呼び捨ては難易度高いみたいだった。

 

「エ、エリオ……」

 

 フェイトはいつまで感動しているのか。

 

「と、とりあえず、挨拶も済ませたし、中に、入らない? あと、キャロはそろそろ殴るのをやめるべき」

「じゃあ謝ってください」

「な、なにを? う、うそ、ごめん、冗談」

 

 何か殴る力が増したので謝っておいた。

 最近キャロのことが分かりません。

 

 ようやくキャロが殴るのをやめてくれたので四人で券を買い、中に入る。

 

 どこのって……遊園地だよ地球の。

 言わせんなよ、恥ずかしい。

 

 

 ○

 

 

 遊園地に入って、ちびっ子二人は目を輝かせて周りを見ていた。

 

「わ、す、凄い……あ、可愛い」

 

 フェイトも同様だった。

 乗り物を見て驚き、着ぐるみを見て可愛いと言う。

 

 そんな貴方の方が可愛いのですが。

 なにこれ、マジでお持ち帰りしたいんですけど。

 

「キャロにエリオ君や」

「はい?」

「なんですか? あとエリオでいいですよ」

 

 じゃあエリオと呼ぼう。

 

「遊園地に来たからには乗り物は全部乗らないといけません。コレは法律で決められています」

「何を適当な……」

 

 キャロが相変わらず冷めた目で見てくる。

 

「え、そうなんですか!?」

「そ、そうなんだ……知らなかった」

 

 それとは正反対に信じている二人。

 エリオはともかくフェイトが純粋すぎて悪いことしてる気分になってくる。

 ……やめないけど。

 

「本当です。なのでドンドン乗っていきましょう」

「そ、それって……ジェットコースターとかも乗らないと駄目、なのかな?」

 

 フェイトが恐る恐る訊いてくる。

 

「当然です。遊園地まで来てジェットコースターに乗らないとか逮捕されます」

「え、えぇっ!? ど、どうしよう……」

「……怖いの、ですか?」

「は、はい」

「普段、空中を高速で飛びまわっているのに、ですか?」

「あ、あぅ……それとこれとは、関係ないです」

 

 顔を赤くしてモジモジするフェイト。

 

「なんですか、この可愛い生き物は」

「お前もそう思うか。天然でこれだから恐ろしいよな」

 

 キャロと小声で話し合う。

 

「うぅ……でも逮捕されるのは駄目だし……どうしよう」

 

 すごい悩んでいるみたいだ。

 

「ということで早速行こう。早くしないと全部乗れないぞ!」

 

 俺はフリーパスを掲げる。

 

「キャロ! まずは何だ!?」

「勿論ジェットコースターです!」

「どれだ!?」

「一番人気のドラゴンはどうでしょう!?」

「良く分かってるな! 正解だ!」

 

 ドラゴンとはここらで一番長く、一番怖いと評判のジェットコースターだ。

 最初にこれを選ぶとは……やはりキャロは侮れんな。

 

「エリオ!」

「は、はい」

「心の準備は万端か!?」

「はい!」 

 

 こういうのは初めてだろう楽しそうなエリオ。

 

「エ、エリオが楽しそうなのはいいけど……こ、怖いよ」

「大丈夫ですフェイトさん」

「しょ、翔兵さん……」

「怖くないようにずっと手を握って……」

「フェイトさん行きましょう!」

 

 俺が言い終わる前にフェイトの手を引いて歩き出すエリオ。

 

「な……なん、だと……?」

 

 わざと俺の邪魔をしたというのか?

 だとしたらエリオ……お前は俺の敵だ。

 相当勇気、振り絞ったのに。

 

 俺が打ちひしがれていると肩をポンッと叩かれた。

 振り返ると、そこにはキャロ。

 

「負け犬乙」

 

 今の俺は怒りで人を殺せるぞ。

 

「私達もさっさと行きますよ」

 

 キャロに手を引かれ、フェイトとエリオの後を追うのだった。

 

 

 ――2――

 

 

「うっひょぅぉぉぉおっ!」

 

 ノリで叫んでみたのだが、口に空気が入ってきてヤバイことになった。

 てかチンフワ(※チン○ンがフワッてなる例のアレ)がとてつもない。

 もう落下だもん。直角ってか微妙に頭が下向いたまま落ちていく。

 まぁ、股間のむず痒さだけで別に怖いとかは感じないけど。

 

「…………っ!」

 

 後ろを見てみると目を瞑って、手すりをギュっと握り締めているフェイト。

 マジ可愛い。

 エリオは顔が青白くなっていた。

 

「おっひょぉ~ぅ」

 

 そんな二人(ほぼフェイト)に気をとられて気付かぬうちに再び落下。

 不意打ちにさっきより情けない声が出てしまった。

 フェイトとエリオはさっき見た通りだし、一緒に乗り込んだ四人のうち、声を出しているのは俺だけ。

 まさか……

 

「何見てるんですか。変な声まで出して気持ち悪いですね」

 

 キャロの怖がってる顔とかレア物の場面が見れるかも、と隣を見ると無表情にそう言われた。

 

「気持ち悪いとかお前……興奮するだろ」

 

 俺のガラスのハートを傷つけた仕返しにいつもとはちょっと違う切り返しをしてみることにした。

 

「………………」

「やめて! その哀れんだようでいてドン引きな顔で俺を見ないで!」

 

 いつもみたいに酷い事言ってよ!

 って、それも違うわ!

 

「嘘。嘘だから! ね?」

「何が『ね?』ですか……ありえないほどキモかったです」

「キモいって言うな! 仮にキモかったとしても間違いなく俺が目覚めたのはお前の所為だよ! このドSがっ!」

 

 謝りつつ相手を貶すという大技を使う。

 

「……何を開き直ってやがりますか、この変態が。というか、こっち見ないでくれますか」

 

 なんだよ、まるで俺に見られると妊娠する的なその物言い。

 

「ふははは。だが残念だったな! お前の身体ではまだ妊娠は出来ないのだよ!」

 

 はい、論破!

 

「………」

「ふごっ!」

 

 無言で鼻っ面を殴られた。

 超痛い。

 

「まぁ、冗談は置いといて……なんだよ、全然怖がってなくて面白くないんだけど」

「私はショウヘーさんの所為で面白くなくなりました」

「何をバカの事を……最初に見たときから無表情だったじゃねーか」

「え、超楽しんでましたが何か?」

「え」

 

 あれで?

 冷めた目つきで俺を蔑んできたあの状態で?

 

「楽しいなら素直に笑えよ」

 

 子供っぽくない奴め。

 少しはフェイトを見習いやがれ。

 

「ん? もしかして実は怖いとか?」

 

 怖すぎて表情が消えてしまったとか。

 

「はい? ありえな――」

「んだよ! お前、それならそうと言えよ。やせ我慢しやがって!」

「勘違いな上にニマニマしたその顔を叩き潰したいです」

「仕方ねーから手繋いでやろうか? ほれほれ」

 

 右手をキャロに向けて差し出し、ひらひら振る。

 

「…………」

 

 キャロは俺の顔と手を交互に見て、

 

「完全に勘違いですね。大体本当に怖かったらショウヘーさんの戯言なんて無視するに決まってるじゃいですか。それに降りたらその顔面をボコボコにします。マジムカつきます。でも、ショウヘーさんが惨めになるので差し出された手は握ってあげてもいいですよ?」

 

 そんな悪態を付きつつ俺の手を握るキャロ。

 ほんとに素直じゃないな、こやつめ。

 

「あ、ちょっとまって。キャロなんかに構ってないでここはフェイトたんの手を握って高感度アップがオリ主的には正しいのではないだろうか。……よし、キャロ。今すぐ手を離せ」

「死ぬがいい」

 

 アレレ?

 キャロが何か怖いぞ?

 しかも何か甲羅っぽいものが俺の顔面に向かって飛んできてる気がするぞ?

 

「ぐべぇ!」

 

 気のせいでもなんでもなく、キャロに手を強く握られて逃げることも出来ず、俺は顔面で甲羅を受け止めたのだった。

 

 

 ○  

 

 

「くっ……まだ一つ目なのになんという疲労感」

 

 ジェットコースターを降りて呟く。

 主にキャロの所為で。

 

「とりあえずベンチでぐったりしてるフェイトでも見て落ち着こう」

 

 ぐったりしてる姿も天使だね。

 吐きそうな顔してるけど。

 エリオと二人同じ表情してる。

 さすが同じ技術で作られただけはある……関係ないけど。

 だがフェイトのなら……

 

「俺が受け止めてやるぜ」

「変態でーす。ここに変態がいまーす!」

「ちょ……おま、ばかっ」

 

 キャロが大声で心外なことをおっしゃる。

 周りの人の注目を集めてしまったが、フェイトとエリオの二人はこちらが気にならない精神状態なのか視線を向けてくることもなかった。

 

 これは……全部のアトラクションをまわるのは無理か?

 一つ目でこれじゃあ、な。

 

「ショウヘーさん。次はあれに乗りましょう」

 

 腕を引っ張るキャロの視線の先にはドラゴンに次ぐと評判のコースター。

 実はこの遊園地、ジェットコースターだけで五種類あり、しかも全てが『世界の絶叫系、恐怖部門』のTOP10に入っているという代物なのだ。

 

「え~、無理じゃね?」

 

 俺は言いながらフェイトたちを見やる。

 

「そんなことじゃ全部乗ることは出来ませんよ」

 

 それはそうだけど……勢いで言っただけで別に本当に乗らなきゃ罪になるわけじゃないんだぞ。

 

「あの二人が復活するまで時間かかりそうですし、待ってるのも暇ですから乗りましょう」

「……それは確かにそうだ」

 

 だけどあの状態の二人を置いていくのはちょっと心配だ。

 フェイト美人だしナンパとか……。

 『魔力ダメージでぶっ飛ばして』ってイメージが湧き上がってきた。

 まぁ、フェイトがそんなことするとは思えないけど、大丈夫だろ。

 

「よし! 乗るか!」

「その言葉を待っていた」

 

 偉そうに言うキャロ。

 

「お前は何キャラだよ」

「キャロだよ」

 

 知ってるよ。

 ダジャレか!

 

 という訳で、俺達は気分の悪そうなフェイト達を置いてアトラクション制覇へ動き出すのだった。

 




これからの連載は今まで通り2000~3000字程度で一話。
まとまったら今までの話のように纏める形式で行こうと思います。


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