異世界にTS転生して勇者をやってから死んだら、今度は2000年後にクローンとして蘇生させられてエイリアンと戦うことになりました (トマトルテ)
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1話:エイリアンVS勇者(TS)

 ぼんやりと視界が明るくなっていく。

 

「システムオールグリーン。トラブルなし。遂に蘇生の最終段階に突入しましたよ、ドクター」

 

 緊張したように震える少女の声が耳に入ってくる。

 

「よし。それじゃあ最後のプログラムを起動させなさい。そして……伝説の勇者の蘇生を」

 

 今度は少女とは違い落ち着きのある声が耳を打つ。

 次の瞬間、体に稲妻のような衝撃が走り抜ける。

 それをきっかけに意識が一気に覚醒していく。

 

「……なんだ…ここは?」

「ド、ドクター! 勇者様が目を覚まされました!」

 

 何やら傍で誰かが騒いでいるが、私が初めに動かしたのは耳ではなく目であった。長い間閉じられていたまぶたはやけに重く感じられ、思った以上に時間をかけることになってしまった。しかし、目を開いて私がまず初めに驚いたことは体の不調ではない。

 

「これは電気か…?」

 

 部屋を照らす照明器具目が、私が生きていた時より明らかに進んだものであったことだ。

 私が最後に見た記憶のある照明は松明(たいまつ)や蝋燭と言った非常にレトロなものである。

 電気などという、便利なものはあの時代にはなかった。文明レベルが明らかに違う。

 

「まさか一目見ただけで構造を理解した? 勇者様が生きていた時代にそんなものは無かったはずなのに……やっぱり勇者様は力だけじゃなくて頭脳も並外れているんだ」

 

 私の呟きに対して凄まじい頭脳の持ち主だと(おのの)く声が聞こえるが、全くの勘違いである。

 ただ単に私、いやこの場合は俺と言うべきか。俺は前世というものを持つ。

 よく言う異世界転生というやつだ。ついでに言うと、男から女に性転換もしている。

 

 これは別に望んだわけじゃなく、ただ単に性別が変わるという可能性を忘れていただけだ。まあ、何はともあれ、私には現代日本でオタニートだった前世があるために照明が電気だと分かったのである。だから、あまり感心された目で見られても困る。いや、褒められるのは嬉しいんだけどね?

 

「勇者様、あの、その…私の声は聞こえますでしょうか?」

「……ああ、聞こえているよ。さて、少し話をしようか」

 

 と、そんなことよりもだ。今重要なことは現状を理解することである。

 何故だかやたらと伸びていた自分の金の髪を手で掃い、声をかけてきた少女を緑の瞳で見る。

 ツインテールにした緑色の髪に、パッチリとした青い目が印象的な小柄な少女だ。

 

「あの、勇者様。勇者様は実は…」

「ああ、すまない。その前に君の名前が知りたい。もちろん、そちらに居る御仁もね」

 

 焦ったように話し出そうとする少女を止め、笑顔を見せる。

 すると、少女は頬を真っ赤に染め上げてしまう。きっと、指摘されて恥ずかしかったんだろう。

 しかし、何事も自己紹介というものは大事だ。

 特に私は名前を知らない人の話だと頭に残らない体質なので、大切にしている。

 

「わ、私はクロエ・シールです」

「あたしはルネ・サンクチュアリよ。ドクターって呼んでちょうだい」

「クロエにドクターだね、ありがとう。さて、どうやら君達は私のことを知っているようだけど、礼儀として名乗らせてもらうよ」

 

 クロエ、そして長い紫の髪を腰まで伸ばしたグラマラスな女性であるドクターと握手を交わした後に、自分の自己紹介に入る。

 

「私の名前はフォルテ・イディオール。一応、勇者を名乗らせてもらっている」

 

 名乗りを上げながら、頭の体操も兼ねて自分の半生を思い出す。

 先ほど言ったように私は勇者だ。

 うん。自分でも何言ってんだ、こいつと思うが事実なので仕方がない。

 

 異世界転生した当初の自分は調子に乗っていた。魔王がいると話に聞くや否や、自分が魔王を討つ勇者になるのだと意気揚々と旅に出た。ついでに、口調も勇者っぽくカッコづけしたものに変えている。最初はチートも貰ったし、大丈夫だろうと高を(くく)っていた私。

 

 しかし、旅を続けるうちに気づく。魔王軍も普通にチート級の強さだということに。

 その時は本気で焦った。だって、ノーリスクのはずの旅が、命を懸けた旅に早変わりだよ?

 いや、全面的に魔王軍を舐めていた私が悪いんですけどね。

 まあ、何はともあれチートを活かしながらも必死に鍛えて魔王は倒した。

 

 ……その代償として自分の命を落とすことになったけどね。

 というか、今更だけどかなり重要なことを忘れてたことに気づく。

 

「さて、まず確認したいことがあるのだが……私はなぜ生きているんだ?」

 

 私死んだはずだよね?

 

 魔王を倒すために命を懸けた奥義を放って死亡とかいう、無茶苦茶熱い死に方をしたはず。

 二回目の人生は、誰かのために死にたいとは思ってたから、自分的には満足な死にざまだった。

 まあ、ともかく私は死んだはずなのだ。天国かと思ったが、2人の様子からしてそれも違う。

 

 となると、あれだろうか。

 

「まさか、私の遺体からコピーでも作ったのかい?」

 

 SF映画とかでよくあるクローン技術で復活させたとか。

 これで私も銀幕デビューだなと、冗談を言うつもりで2人の方を見る。

 

「うそ……また当てた」

「流石は伝説の勇者といったところかしら。……頭のキレが半端じゃないわね」

 

 ピタリと正解を言い当ててしまった私に慄く2人。

 というか、私本当にクローンだったんだ。

 いや、本体が死んだのは確からしいから、クローンと本体で殺し合う危険性はないらしいけど。

 しかし、そうなるとなんでクローンが作られたか、か。

 

「理由は……そうだな。何者かと戦わせるためかな?」

 

 今回こそ冗談になるだろうと笑って言う。

 だって、クローンとくれば刃牙道だろう。武蔵さんポジで戦えるとか痺れる。

 そう言おうと思っていたのに、またしても2人して硬直している。

 もしかして、また当たっていたのだろうか。

 

「……本当にあなたには驚かされるわ。いえ、あたし達の認識が甘かったのね。2000年前に死んだ勇者だからといって、侮っていたあたし達を許してちょうだい」

 

 頭を下げるドクターに思わず面を食らう。

 いや、謝られても別に怒ってないから戸惑うんだけど。

 というか、2000年も経っていたの?

 遂にキリストさんと同年齢になったのかと思うと、何か感慨深い。

 

「別にそれぐらい構わないさ。それに推測が当たった理由だって、勇者の役目などそれしかないと思っただけだよ」

 

 一先ず、頭を上げてもらうように頼む。こういうのには正直慣れていないからね。

 

「それよりも、私は一体どこの誰と戦えばいいんだい?」

 

 そして、追撃とばかりに話題を逸らす。

 まあ、私としても誰と戦うのかは気になるところではあるしね。

 現代の勇者とタッグを組んで、復活した魔王と戦うとかなったらすごく嬉しい。

 時空を超えた超タッグここに結成とか言ってみたい。

 しかし、そんな私の淡い希望はあっさりと覆されることになる。

 

「―――エイリアンです」

「……それは地球外生命体という意味でのエイリアンかな?」

「はい、そのエイリアンです」

 

 エイリアン……魔王じゃないの? 勇者が遂に宇宙に進出しちゃうの? 思わず混乱して黙り込む私を、先程までと同様にあっさりと受け入れたと勘違いしたのかドクターとクロエが淡々と補足説明を加えてくる。

 

「現在この地球は火星からの侵略を受けている真っ最中なの。地球側もなんとか反撃しようとしているんだけど、技術力に差があり過ぎて歯が立たないのよ」

「ですが、最近の研究でエイリアンは魔法が弱点だということが分かったんです」

「そのために魔法を使える私を蘇らせたというわけか……」

 

 2人からの説明に思わず頭を抱えたくなるが、人前なので我慢する。

 というか、何でこの世界はファンタジーからSFに変貌を遂げているのだろうか。

 劇的ビフォーアフターだってここまで急激な変化は見せないだろう。

 そんな呆れと同時にある疑問が浮かぶ。

 

「しかし、何故私を蘇らせたんだい。魔法が弱点だと分かったのならそれで対抗すればいいだけの話だろう」

 

 魔法で対抗できるのなら、わざわざ死人を蘇らせる必要もない。むしろ、こんなことに貴重な時間を使う方が非難されそうだ。そんな私の素朴な疑問にドクターが渋い顔で答えてくれる。

 

「現代人からは魔法が使える適性が無くなってしまったのよ」

「……技術が発展し過ぎたせいか」

「そう。使わない筋肉が衰えるように、平和で豊かになった世界では魔法は必要でなくなった」

 

 現代人は魔法が使えない。その説明にあっさりと納得してしまう。

 人間が猿から進化する際に木を昇る力を失ったのと同じことだ。

 

 火をつけるのに魔法は要らない。ライターがあればいい。

 敵を倒すのに難しい魔法を使う必要もない。ただ銃の引き金を引けばいいだけだ。

 2000年の間に発展した技術が、人間から力を奪ってしまったのだろう。

 

「上手く行かないものだな。便利になって却って出来ないことが増えるとは」

「そうね。人間って不便なものよ」

 

 思わず苦笑してしまうと、ドクターが疲れたように笑って返してくれる。

 何だか、お近づきになれたみたいで嬉しい。

 この調子でクロエとももっと仲良くなろうと思った所で、けたたましいサイレンが鳴り響く。

 

「これは…?」

「エ、エイリアンが攻めてきたことを知らせる警報です!」

「このタイミングでなんてついてないわね……」

 

 慌てながらも説明してくれるクロエ。あからさまに険しい顔になるドクター。

 その顔を見て私は覚悟を決める。どうせ、二度も死んだ身だ。

 戦うことに拒否感などない。何より、そのために生き返らせられたんだ。

 戦おう。相手が誰であったとしても。だって、私は勇者なんだから。

 

「私が出よう。すまないが剣と盾を頼む」

「勇者様、危険です!」

「……クロエ。フォルテの言う通りにするわよ」

「でも、ドクター幾ら何でも…」

 

 立ち上がり武器を求める私を心配してクロエが止めようとしてくれる。

 戦うために蘇らせたにも関わらず、止めようとしてくれるなんて本当に良い子だ。

 私の中でクロエの好感度が爆上げするが、それはそれ、これはこれである。

 

 戦いに出るといった以上止まる気はない。

 そうクロエに告げようとしたところで、私はお互いの勘違いに気づく。

 

「1万機のUFO相手に剣と盾だけで挑むなんて無謀です!」

 

 ……え? 1万機? 聞き間違いじゃなくて?

 

「クロエ落ち着きなさい。確かにレーザ銃やビームサーベルに比べれば、ただの剣と盾で挑むのは愚かに見えるわ。でも、戦闘において使い慣れていない武器を持つのはそれ以上に愚策よ。フォルテはそのことを考えて剣と盾と言ったのよ」

 

 余りの数に声が出ずに硬直している私を放置して話が進んでいく。

 何かドクターがクロエを諭しているが、全くの誤解である。

 私は単純に武器をくださいという意味で『剣と盾』と言っただけだ。

 というか、レーザー銃とかビームサーベルとか物凄く使ってみたいです。

 

「それでも1人で1万機に挑むなんて無謀過ぎます!」

「忘れたの、クロエ? 勇者の伝承には1万の軍勢を1人で壊滅させた話があったはずよ」

 

 おかしいな。自分の話のはずなのに初耳だ。

 

「そ、そう言えばそうでしたね。しかも傷ついた仲間を庇いながらでの戦いで、無傷で切り抜けたんですよね!」

 

 何それ、怖い。

 1万軍勢相手に無傷どころか、傷ついた仲間を庇いながらとかもう化け物だよね?

 正確には千の軍勢相手に殿を務めて命からがらに切り抜けただけだから。

 話を盛らないで。私が化け物みたいじゃん。

 

「ええ、そうよ。他にも敵を睨んだだけで心臓麻痺を起こさせた話もあったわね」

「一喝しただけで数万の軍勢を震え上がらせて撤退させた話もありましたね!」

「敵に捕まった仲間を取り戻すために、たった一人で城を落とした話は正直痺れたわ」

「はい! さらには魔王軍幹部が誰かに見られていると気づいた次の瞬間には、勇者の矢で射抜かれていた話なんかもいいですよね!」

 

 盛り過ぎィイ!? いくら伝説だからって盛り過ぎでしょ!

 

「歴史書に書かれていたとはいえ長年疑問視されていた話だけど、こうして本人に会ってみたらそれが全て事実だって分かるわ」

「はい。私も歴史書はおとぎ話だと思っていましたが、勇者様の聡明さを見て事実だと確信しました」

 

 やめて、そんな信じ切った目で見ないで。全部嘘だってすごく言い辛い。

 あなた達の知る歴史は大幅に捏造されているから。

 というか、歴史書の癖にやたらと盛った奴誰だよ。絶対に許さないからな。

 

「勇者様、私達はあなたの全てを信じます」

 

 疑って、クロエ。信じるだけじゃ真実には辿り着かないよ。

 

「フォルテ。あなたが蘇生したときのために、ちゃんと伝承通りの武装は揃えているわ。安心して、あなたが戸惑わないように現代技術は使ってないから」

 

 そこは現代科学の英知を結集させてよ、ドクター。

 そもそも、UFOが相手だよ。剣と魔法でSFチックなレーザーとかに勝てるわけないじゃん。

 唐突なクロスオーバー蹂躙に全私が戸惑ってますよ?

 

 というか、下手しなくても核兵器クラスの攻撃とかあるよね。

 大真面目に生きて帰れる気がしないんですけど。

 

「……案内してくれ」

 

 でも、断れない。期待の眼差しを向けられたら答えずにはいられない。

 悲しいけど、これ勇者の性質なんだよね。

 

「はい! こちらです!」

 

 張り切ってクロエの後ろについて私も走り出す。

 ぶっちゃけ逃げ出したい。でも、期待も裏切りたくない。

 そんな心の弱さから真実を言い出せずに、黙ってついていくとさらに衝撃の事実が待っていた。

 

「これが伝承通りに復元した勇者様の武装一式です」

「……輝いているな」

「そりゃあ、あなたが直接使っていたのじゃなくて新品だからね」

 

 ポツリと零した私の言葉にドクターが当然だろうという顔をする。

 いや、確かに新品の方が輝いているのは当然だと思う。

 でも、私が言いたいのはそういうことじゃない。

 

 マジで、ピッカピカのギッラギラに鎧や剣が輝いているのだ。

 

「伝承通りに自ら光を放つ聖なる鎧を再現するのは骨が折れたわ」

「ドクターなんて三日ぐらい寝てませんでしたもんね」

「ホント、そうよ。まあ、あなたにこれを渡せるのならその苦労も吹き飛ぶけどね」

「……そうか」

 

 凄く良い顔で言ってくるから、そんな機能はついていなかったって言えない…!

 

 私が本当に使ってたのは、こんなに輝いてないし、やたらと装飾に凝っていたわけでもない。

 というか、再現途中で明らかに戦闘向きじゃないって気づかなかったんだろうか?

 この鎧に入ったやけに気合の込められた紋章とか私見たこともないんだけど。

 

「ピッタリだな……」

「歴史書の伝承通りに作りましたから」

 

 外見は形しか似ていないくせに、着てみるとマジでピッタリだった。

 何で、そういう所はちゃんと伝えてるんだよ、歴史書。

 マジで私を虐めるために書いたんじゃないだろうかと疑ってしまう。

 まあ、どういう理由だろうと書いた奴は絶対に許さないけど。

 

「……行ってくる」

「はい、ご武運を。……あ、でも勇者様相手は空を飛ぶUFOですので、何か乗り物に乗らないと」

 

 このままでは、歴史書を書いた奴への怒りで叫んでしまいそうだったので、さっさと剣と盾と鎧を身につけて出陣しようとする。しかし、そこでクロエに止められてしまう。確かにクロエの心配はもっともだ。しかし、私だって伊達に勇者をしていたわけじゃない。

 

「“Holy Wing(ホーリーウィング)”」

「これは…魔法?」

 

 魔法を使って自分の背中に光の翼を生やす。

 その時にやたらと伸びている金髪が、バサァとなびいてしまうのが素直に邪魔だ。

 クロエが綺麗と呟いてくれているが、もし生きて帰って来れたら後で切るとしよう。

 

「これで私は空を駆けることができる。移動の心配は無用だ」

 

 心配するのなら、レーザー銃とかに明らかに見劣りする武装の心配をしてくれ。

 失望の目を向けられるのが怖いから言わないけど。

 

「では、行ってくる」

「は、はい」

「言わなくていいと思うけど、一応気をつけて」

 

 正直、メチャクチャ言って欲しいです。でも、振り返らない。

 だって、勇者は振り返らない存在だから。

 

「あれが……UFOか」

 

 窓から飛び出し、ちょろっと空を見た瞬間に軽く絶望した。

 だって、冗談抜きで1万機のUFOが空を埋め尽くしてるんだもん。

 満員電車の中で下痢をもよおしてしまった時の絶望感を遥かに超えるよ、これは。

 

「神よ、大いなる神よ。汝の怒りを雷へと変え、罪深き者共を裁き給え……」

 

 でも諦めずに魔法の詠唱を始める。勇者なんだから逃げるわけにはいかない。

 効くかどうか分からないけど、取り敢えず戦おう。私にはそれしかできないのだから。

 

「“Holy Judgment(ホーリージャッジメント)”!」

 

 取り敢えず、出し惜しみ無しで最上級魔法を放つ。

 巨大な光の雷が天からUFOに落ちていくが、果たして効くかどうか。

 そう、不安気に見つめていると、予想に反してUFOはバッタバッタと地上に落ちてきた。

 

「魔法が弱点というのは本当なのだな」

 

 取り敢えず、一縷の希望が見えたことに安堵しつつ、私の方に落ちてきたUFOを真っ二つに斬って爆破させておく。中からエイリアンが出てきたら面倒だから仕方ないね。

 

「しかし、本番はここからか」

 

 再び空を見上げる。全く減ったように見えないUFOだが、先程よりは絶望しなかった。

 具体的に言えば、学校に消しゴムを持って来るのを忘れた程度の絶望で済んだ。

 

「はるばる宇宙の彼方から来た客人には悪いが、故郷の土で眠れると思うなよ?」

 

 自分を奮い立たせるために、いつも以上にカッコをつけて声を出す。

 そうだ。自分は既に二度も死んだ身。せいぜい派手に暴れるとしよう。

 そうして、今度こそは真っ当な歴史書を書いてもらうのだ。

 

 歴史の捏造はもう勘弁だ。ついでに、カッコイイタイトルもつけてもらうとしよう。

 それぐらいの役得はあってもいいはずだ。そうだな、タイトルは……。

 少し考えたところでパッといいアイデアが浮かんだので、UFOに突撃しながら呟いてみる。

 

 

「エイリアンVS勇者」

 

 

 映画化されたら大ヒット間違いなしだ。

 




色々な要素を組み合わせたらこんな感じになりました。


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2話:クローン戦争の始まりだ

 

 エイリアンに人権はない。故に殺してもOK!

 

 そんな、狂気染みた思考を持ちながら今日も今日とてエイリアンと戦う勇者。

 その名もフォルテ・イディオール。まあ、要は私のことなんだけどね。

 

「どうした! 勇者の首が欲しくはないのか?」

「■■■■ッ!」

「■■■■■■■ッ!?」

 

 剣を振り、魔法を放ちエイリアンを駆逐していく。

 UFOから降りてきた奴らが人間ぽかったらやり辛いなぁと思っていたが杞憂だった。

 グレイ型エイリアンですらなく、まさに映画に出てくる化け物らしいエイリアン。

 きっと高度な技術なども、他の星から奪って侵略を繰り返してきたのだろう。

 

「さあ、死ね! ()く死ね! 今すぐ死ねッ!」

 

 それを知った私に慈悲などというものはない。

 魔王軍を殺したのと同じように、ただひたすらに血に塗れながら殺していく。

 許しなど請わない。そもそも死にたくないなら攻めてくるんじゃない。

 一度そっちから喧嘩を売ってきた以上は、どちらかが死ぬまで終わると思うな。

 

「駆けよ、風神! “Wind(ウィンド) arrow(アロー)”!」

「■■■■ッ!?」

 

 風の矢を360度に放ち、群がっていたエイリアンをハチの巣に変えてやる。

 その度に生暖かい緑色の血が噴き出して、体を汚すが気にしてる暇もない。

 エイリアンは殺しても殺しても湧いて出てくるのだ。

 1人でやるには正直辛い。

 

「■■■■■■■ッ!!」

「しまッ! 後ろから!?」

 

 そんな余計なことを考えていたのが災いしたのだろうか、隙をつかれて一体のエイリアンに羽交い絞めにされてしまう。クソ、単なる攻撃なら受け流せる自信があったのだけど、羽交い絞めでは逃げられない。何より、動けなければ数の暴力に蹂躙されるだけだ。

 

「この…!」

「■■■■!」

 

 どこか勝ち誇ったように声を上げるエイリアン。

 それを見た他のエイリアン達も勝鬨の声を上げる。

 マズい、このままだとエイリアンに犯される薄い本になりかねない。

 

「く…殺せ!」

『…………』

 

 あれ? なんで急に黙ったの? もしかして言葉が通じるのだろうか。

 だとしたら、すごく恥ずかしいことを言った自分が恥ずかしい。

 というか、エイリアン達も『く…殺せ』もののエロ同人を知っているのか。

 なんか、少し親近感が湧いてきた。

 

「―――そんなことを言っている場合か?」

「誰だ…?」

 

 そんなところに聞いたことがあるような、初めて聞くような声が聞こえてくる。

 だが重要なのはそこではない。エイリアン語ではなく、人間の言葉ということ。

 すなわち、味方が来たということだ!

 

「“Holy(ホーリー) flame(フレイム)”!」

 

 私がそう確信すると同時に、白い炎が私の周り一帯を覆い焼き尽くしていく。

 普通ならば私もエイリアンと仲良く火葬されているところだがそうはならない。

 私の鎧は聖なる鎧なので光属性の魔法は効かないのだ!

 

 ……まあ、魔法軍は基本闇魔法だからこうして役に立ったのは凄い久しぶりなんだけどね?

 

「ありがとう、助かっ……た」

「やはり驚くか。まあ、無理もない」

 

 何はともあれ、援軍にお礼を言おうと思い顔を向けると信じられないものが目に飛び込んできた。何故か? 何も生前の仲間が時空を超えて助けに来たという展開ではない。かと言って、クロエ達が魔法を習得してきたわけでもない。

 

 驚いた理由は単純明快。―――目の前に“私”が居たからだ。

 

「私…だと…?」

「なるほど…驚いている自分の表情とはこういうものなのか」

 

 ドッペルゲンガーと会ったら死ぬという話を思い出して愕然としている私に、“私”は呑気に話しかけてくる。いや、自分で言っていてなんか訳が分からなくなってきた。

 

「一先ず理由を説明しておこう。私は…いや、私達はクローンだというのは分かっているな?」

「ああ……」

「クローンというなら当然増産も可能だ。というよりも、別々の機関がそれぞれでクローンを作ったために私達が2人居るという状況になっている…らしい」

 

 そこまで言って、軽く眉をひそめる“私”。

 その仕草が余りにも魅惑的で一瞬ドキリとしてしまうが、よくよく考えてみるとあれは私だ。

 絶対、内心では意味の分からないこの状況に文句を言っているはずだ。

 

「まあ、愚痴を言うのは後でいい。今為すべきことは分かっているだろう、私?」

「フ、やはり考えることは同じか。ああ、分かっているともさ」

 

 “私”と並び立ち、エイリアン達と向かい合う。

 数が増えたと言っても所詮は2人。それに比べて相手は千を優に超える。

 一騎当千の英雄が居てもなお、安心できる差ではない。

 だが、そこに何の問題があるだろうか。

 

「敵の数が多いな、私」

「いや、大したことはないさ“私”」

 

『今日は私と“私”でダブル勇者だからな!』

 

 2人で一度は言ってみたかったセリフを言って悦に浸る。

 え? 自分とやっているだけだから一人芝居?

 こういうのは細かいことは気にしたらダメなんだよ。

 

「さあ、行こう!」

「ああ! エイリアン共に勇者の恐ろしさを教えてやろう!」

 

 2人してニヒルに笑い、エイリアンの大群の中へと駆けだしていく。

 今度こそ、誰にも邪魔されない戦いの始まりだ。

 と、思っていたのだが、今度は私達の脇を縫うように援護魔法が飛んでくる。

 それ自体は非常にありがたい。

 ありがたいのだが、前例が前例のために2人して顔を見合わせる。

 

「……まさかと思うんだが」

「奇遇だな。恐らくは私達の考えは一致している」

 

 覚悟を決めて2人同時にバッと魔法が飛んできた先に振り向く。

 

「フ、自分を援護するというのもおかしな気分だな」

「それを言うのなら、自分で肩を並べること自体おかしいだろう」

「私だけで軍隊を作り上げている今となっては、その程度は些細なことだろう」

「もしも、あの時代にこの技術があったら魔王軍も三日で滅ぼせていただろうな」

 

 ―――やっぱり私だった!

 

 しかも、今度は1人や2人じゃない。完全に軍隊を組んで来ている。

 その光景を簡単に言うなら、メタルクーラの大群を見たときのような感じだった。

 というか、エイリアンからしたらまさにそんな感じだと思う。

 だって、明らかに怯んで足を止めているんだもん。

 

「援護は任せろ、私!」

「怪我をしたのなら“私”が治そう」

「流石に大群相手に2人は辛いだろう。“私”も出る」

「全員で合体魔法を撃つのはどうだ? きっと凄まじい威力になると思うんだ」

 

 話しているのはどいつもこいつも“私”。なんか、ずっと見ていたら頭がおかしくなりそうな光景だ。なので、私は乾いた笑いを浮かべながらエイリアン達に向き直る。元はと言えば、エイリアン達が全ての元凶なのだ。少しぐらい、八つ当たりしたって許されるだろう。

 

「これからお前たちが相手にするのは、無限の勇者。勇気の極致だ。恐れずしてかかってこい!」

「フ、心震えるセリフだ。やはり、“私”を最も理解するのは私と言う訳か」

 

 大声で啖呵を切っていると、ぞろぞろと私の周りに“私”が集まってくる。

 やばい。誰が誰やらさっぱりわからない。いや、全員私なんだけどね。

 

「さあ、行こう。この戦いはこの星に生きる全ての命を守る聖戦だ! 正義は我らの手にッ!」

『オオオオオッ!!』

 

 私全員で雄叫(おたけ)びを上げて、エイリアンを屠りに行く。

 その異様な光景にエイリアンはもはや、戦意を失っている。

 だが、関係はない。一度喧嘩を売っといて無傷で帰れると思うなよ。

 

 何より、勇者の手から逃れられると思うな。

 

 

 

 

 

 そう、調子に乗っていた時期が私にもありました。

 

「どういうことだ……なぜエイリアンの中に奴が!?」

 

 まさに破竹の勢いで進軍していた勇者軍(みんな私)だったが、想定外の敵との遭遇に全員が慄いている。全員私なのだから、驚くポイントは同じだよね。と、そんなことを言っている場合じゃない。居てはならない敵が現れたのだ。

 

 腰まで伸びた禍々しいクリムゾンレッドの髪。

 絶世の美女を思わせる顔に、スタイル。

 されど、そこから溢れ出す圧倒的な王者のオーラ。

 私が間違えるはずがない。目の前のいる敵は間違いなく。

 

『魔王…ッ!』

 

 全員の声が思わず揃ってしまう。

 それだけの衝撃だったのだ。

 かつて相打ちとなったはずの魔王がエイリアンを守る様に立っていたのが。

 

「魔王! 貴様ともあろうものが何故エイリアンなどの下に!?」

「…………」

 

 そう叫びかけてみるが、魔王の表情はピクリとも動かない。

 いや、そもそも感情などないようにその美貌には何も浮かんでいない。

 これは一体どういうことだろうか?

 

「まさか、奴もクローンとして復活させられたのか?」

「エイリアンが魔王を? 何故だ、“私”」

「私達勇者を復活させようとしている計画をどこかで掴んで、その対抗策として私達最大の敵を用意したのではないか?」

 

 “私”に言われて納得する。確かに、エイリアンならばクローンを作る技術は持っているはずだし、魔法が弱点であることを自分達も自覚すれば何らかの対策を講じるというのはおかしくない。それが、魔王だというのは納得できるが……あの感情の無い瞳はどういうことかと思った時、ある可能性に思い至る。

 

「まさか!」

「私、何か分かったのか?」

「ああ、魔王は知っての通りプライドの塊だ。そんな奴がエイリアンなどに手を貸すはずがない。だから、エイリアンは奴の自意識を奪った状態で復活させたんだろう」

「なるほど。魔王……かつての敵とは言え哀れなものだな」

 

 魔王は恐らく最初は抵抗したんだろう。

 でも、それを元にエイリアンは改造を行い自分の命令を忠実に聞く人形とした。

 魔王を従えるとするならばこれしかない。

 

「報告! 12時の方角から魔王の大群が現れたぞ!」

「やはり魔王もクローンで量産されていたか……」

 

 遠くから聞こえた敵襲の報告に思わず苦い顔をしてしまう。

 魔王は強い。それこそ、私でさえ相打ち覚悟でなければ倒せなかったのだから。

 だが、今はそれ以上に気分を害する事がある。

 

「私の生涯のライバルとも言える魔王を道具扱いにするとはな……」

 

 胸にフツフツと怒りが湧き上がってくる。

 好敵手を愚弄された怒りはきっと、私以外の全員にもあるはずだ。

 なら、全員やるべきことは分かっているだろう。

 

「……討つぞ。我らが好敵手の情けない姿をこれ以上晒させるわけにはいかん」

「無論だ。速やかに倒し、そして……エイリアン共を一人残らず駆逐するぞ」

『オオオオオッ!!』

 

 軍(みんな私)の戦意が最高潮にまで高まる。

 それを受け、私は先陣を切って目の前の魔王へと斬りかかっていく。

 

 

「久しいな、魔王! さあ―――クローン戦争の始まりだッ!!」

 

 

 私達しか死なない優しく醜い戦争を始めよう。

 

 





なぜか続きました。まだ続くかも。
感想・評価を貰えると嬉しいです。


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