GATE ダイアモンドドッグス 彼の地にて斯く、潜入せり (謎多き殺人鬼)
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特地派遣ミッション

20××年

 

~セーシェル海 マザーベース~

 

セーシェル海に位置する巨大な海上基地、マザーベース。

マザーベースには多くの武装したスタッフが警戒しており、武装ヘリが飛び交うなどと要塞の様な面立ちをしていた。

そのマザーベースを占有する組織の名は、ダイアモンドドッグス。(日本人は「ッグ」が聞き取りも発声も苦手なため、勘違いしたままの人が多い)

かつて、ビッグボスとビッグボスを支えたミラー達の行動で核廃絶と言う偉業を為した。

 

今は冷戦も終結した事で一通りの平和を得たが、それでも内戦や紛争は絶えない為、ダイアモンドドッグスの力を必要とする者達の依頼をこなしている。

 

そこで、銃の射撃訓練を行う赤髪の女スタッフがいた。

女スタッフは銃を撃つと、見事に的のど真ん中に当てた。

更に銃を撃つと、同じ位置を何度も撃ち抜いた。

 

「相変わらずやるな・・・リリー」

 

「ッ!?。オセロットさん」

 

リリーと呼ばれた女スタッフはオセロットに敬礼しようとすると、手で制された。

 

「別にそこまで固くなる必要はない。俺はただ、訓練の様子を見に着ただけだ。それで、順調か?」

 

「はい。ダイアモンドドッグスの役にたつ為に日々努力しています。その際あって、常に順調です」

 

リリーはそう無表情で真面目に答えると、オセロットは頷く。

 

「それで、オセロットさんが此処へ着た本当の理由は何ですか?」

 

「何だ、分かってたのか?」

 

「訓練場なら他にもありますし、此処は今は私しかいません」

 

「そうか。まぁ良い、本題に入ろう・・・」

 

リリーの言葉にオセロットはそう言うと、端末を使ってある物を表示させた。

それはニュースで、言語は日本語、街並みからすると、東京とリリーは推測した。

 

「これは?」

 

「これは銀座事件のニュースだ。何でも、銀座で非科学的にも、門が突然現れてそこから神聖ローマ帝国の様な装備をした兵士と怪物が現れ虐殺したららしい・・・その事件は日本の自衛隊が駆け付けた事によって、終息した。日本は門の中に自衛隊を派遣するそうだ」

 

「・・・それが、私に何の関係が?」

 

「・・・リリー=エルクフ。お前にミッションを与える・・・と、ミラーが言っていた。ミッション内容は自衛隊と共に門内の調査及び、敵対勢力への潜入ミッション等だ。あと最初に言っておくが、このミッションは極秘だ」

 

オセロットの言葉に更にリリーの脳内はハテナになった。

そう言うミッションはダイアモンドドッグスの指揮官であるスネークがすれば良いと考えていた。

オセロットはリリーの疑問に察したのか、答える。

 

「スネークは今、他のミッションで手が放せなくなっている。最近になってISやイラクでソ連・・・いや、今はロシア軍が活発に動き、ミッションを受けたスネークも対応に追われている・・・スネークのミッションが終わればすぐに向かえるが、潜入のプロにすぐに来て貰いたいそうだ。」

 

「・・・つまり今、手の空いている私が代役を?」

 

「そうだ。別に珍しい事じゃない。スネークがお前達を送ってミッションを遂行させる事なんてな」

 

「確かにそうですが・・・」

 

確かにスネークは時折、他のスタッフをミッションに送り出す事が何回かある。

その中にリリーも入り、何度もミッションに送られた。

 

「では、リリー。早速だが日本に向かってくれ・・・頼んだぞ」

 

「・・・了解しました」

 

リリーは敬礼をして表彰すると、オセロットは何処かへ消えた。

 

 

後日、リリーはダイアモンドドッグスのヘリで経由して民間の飛行機を使い日本に向かった。



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ミッションの準備

~日本~

 

日本に着いたリリーは飛行機から降り、ターミナルに来るとそこには黒いスーツを着た日本人が三人いた。

因みにリリーの今の服装は極秘と言う事で何処にでもあるレディスーツを着ている。

 

「貴方が・・・リリー=エルクフさんですか?」

 

「そうですが・・・貴方は?」

 

「申し遅れました。私は嘉納太郎と言います。日本の防衛大臣を勤めております」

 

「ッ!?。知らなかったとは言え、失礼しました」

 

日本の防衛大臣としったリリーは遂、癖で敬礼をしてしまうと嘉納は高らかに笑った。

 

「別にそこまで畏まる事はありません。さぁ、車に乗りながら状況を報告しましょう」

 

「はい」

 

________

_____

___

 

リリーは銀座の門へと向かう車の中で、嘉納から現在の状況を聞いた。

今はゲートや銀座は封鎖されており、自衛隊の出陣式が行われているそうだ。

リリーは出陣式には出ず、後からゲート内に入り、ミッションを開始する事になっている。

 

「リリーさん。あれがゲートだ・・・今は封鎖しているが、中にはローマ作りのゲートがある」

 

「あれが・・・」

 

嘉納の指差す方には確かに鉄のドームで封鎖されたゲートがあり、ドームの門が開くと自衛隊が突入していく光景が見える。

 

「さて、我々も次の段階に進む為にも本位総理の元に向かいましょう」

 

「我々、ダイアモンドドッグスを雇ったのはその人ですか?」

 

「まぁ、そんな所だ。自衛隊はあくまで専守防衛と人道に基づいて行動する。その基づきのせいで制限され自衛隊では派手な行動がなかなかできん・・・だからこそ、極秘裏に動き、派手な行動も出来るダイアモンドドッグスに頼んだんだ」

 

嘉納がそう言うと、リリーは納得した様に頷いた。

リリーは嘉納と共に首脳官邸へとやって来た。

官邸へと入ったリリーを待っていたのは、先ほどまで演説して自衛隊を見送った本位総理その人だった。

 

「お待ちしておりましたよ。貴方がダイアモンドドッグスから派遣されたスタッフですね?」

 

「はい。リリー=エルクフ・・・コードネームはウルフ。一般人としては名前で結構ですが、仕事の場合はコードネームでお願いします」

 

「分かりました、ウルフさん。では、本題に入りましょう・・・今後の活動において何か入り用な状況か武装、人材はいりますか?」

 

本位総理の言葉にリリーは少し考える素振りをした後、答える。

 

「サブレッサー付き麻酔銃と同じくサブレッサー付きのAM MRS-4、幾つかの携行品。人材はダイアモンドドックスから支援班と諜報班をお願いします」

 

「ふむ・・・人材や携行品は何とか誤魔化せるが、武器の携行となると・・・」

 

「難しいですか?必要最低限の装備なのですが・・・」

 

「・・・やってみましょう。後はもう無いですか?」

 

本位総理は確認の為にリリーに聞くと、リリーは少し考える素振りを見せた後、また答える。

 

「では、ダイアモンドドッグスのヘリを一機だけ持ち込みを」

 

「ヘリをですか?・・・まさか」

 

「御察しの通り、武装しています」

 

リリーが武装ヘリを一機を特地に持ち込みたいと言う事には流石の本位総理も頭を抱えた。

そんな中、嘉納が本位総理に助け船を寄越す。

 

「防衛省から試作機のヘリを特地で運用すると言っておきます。なぁに、多少は無茶だがやってやりますよ」

 

「・・・お願いします」

 

本位総理はこの助け船に乗る事が出来た事をよかったと考えた。

 

「ありがとうございます。では、私は特地の何処に滞在すれば?」

 

「自衛隊の駐屯地にお願いします。狭間陸将にも伝えてありますのでそのまま行けば大丈夫です」

 

「分かりました。では、5日後に行くとしましょう」

 

「「え?」」

 

リリーの言葉に二人は困惑した。

リリーのいるマザーベースは日本から遥かに遠い。

その為、提示された必要な物はそれなりに時間が必要になる。

 

「あ、あの・・・早すぎませんか?」

 

「大丈夫です。ミラーさんが必ず日本政府は了承すると言って、近海に待機させてますから。流石に時間が掛かりますが5日もあれば待機させてある船が入港します。勿論、持ち込みは貴殿方の采配に掛かってますよ」

 

リリーは無表情でそう言っての蹴ると、本位総理はまた頭を抱えた。

 

~5日後~

 

リリーはレディスーツから標準型戦闘服に着替え、本位総理に提示した必要な物全てを受け取った。

腰にサブレッサー付きの麻酔銃、AM MRS-4を着け、武装ヘリや支援班た諜報班のスタッフ数名。

任務に必要な物を得たリリーは無表情ながらもご満悦だった。

 

現在の時刻は夜中の2時を回っていた。

 

リリーの物は目立ち過ぎる為、ひっそりと夜中に輸送する事になったのだ。

その為、リリーは少し眠たいと思えた。

 

「・・・どんな世界かしら」

 

リリーはそう言って呟いて門の中へと入った。




オリ主紹介

リリー=エルクフ

性別 女

【戦闘班所属】

戦闘S++

研究A

拠点D

支援A

諜報S+

医療B

容姿 血の様に赤い短髪に黒い瞳が特徴。白い肌が特徴的なロシア系白人。

性格 物静かで真面目。常に無表情たが、訳あり。



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新たな企み

~特地 アルヌス~

 

特地へとやって来たリリーはそこで狭間陸将に会い、アルヌス駐屯地にダイアモンドドッグスの拠点を構える事が出来た。

簡易式の拠点ではあるが、武装ヘリの整備やスタッフの収用等には十分な広さはある。

 

今は銀座を襲った軍団が自衛隊と対峙し、戦闘状態になっていた。

他の自衛隊員達は戦闘の用意をしながら興味津々にリリー達を見る。

 

「あれが噂のダイアモンドドッグスから来た潜入のプロか・・・」

 

「俺達よりも実戦慣れしてそうだな・・・」

 

隊員達は口々にそう言っている光景をリリーは気にせず、出撃の準備を続けた。

装備を特に、フルトン回収装置を重点的に点検する等して。

 

________

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__

 

~三週間後~

 

~帝国首都 帝都 元老院~

 

古代ローマの様な建築が立ち並ぶ日本の敵国、帝国。

帝国の元老院では、自衛隊に敗北した事が議論されている。

 

「大失態でありましたな、皇帝陛下。帝国の戦力の何と、六割の損失・・・如何いたしますか?皇帝陛下はどの様にこの国を御導きになるおつもりですか?」

 

「カーゼル侯爵・・・貴公の心中は察する物である。この敗北で帝国に服しておる周辺諸国や異民族が一斉に反旗を翻し、帝都が包囲されるのではと不安なのであろう。・・・痛ましい事である」

 

モルトの言葉にカーゼルは面を食らったような顔をする。

 

「我が帝国は危機に瀕する度に皇帝、元老院そして国民が一つとなって危機を乗り越えてきたではないか?戦に百戦百勝はない。故に此度の戦の責任は追及せぬ。まさか、他国の軍勢が帝都を包囲するまで裁判ごっこに明け暮れる者はおらぬよな?」

 

帝国の皇帝モルトはそう言って、カーゼルをからかう様そして、威圧的に言うと、カーゼル侯爵は悔しそうな顔をする。

そこに、一人の若い議員が出てくる。

 

「しかし、如何がなさるおつもりですか?敵の未知の魔法攻撃により、ご存じの通り六割の損失・・・更に指揮官のゴダセン議員と数十人に及ぶ兵士、そして大量の物資が行方不明となったのです。無論、それでも怯まずに我々は進みました。ですが、そこでパパパ!、と音が鳴り響くと我らの軍が倒れ伏せました。あんな恐ろしい魔法は見た事もありません!」

 

議員がそう言い終わると、今度は鎧を着たスキンヘッドの男が立ち上がる。

 

「何を弱気な事を言っているコルド議員!戦いあるのみだ、属国から兵をかき集めてでも敵と戦うべきだ!」

 

「力強くで戦ってどうする!」

 

「ゴダセンとコルドの二の舞になるぞ!」

 

「戦え!」

 

「引っ込め戦馬鹿!」

 

「何だと!」

 

元老院の議員の言い争いが始まった時、モルトが手挙げて制した。

 

「余はこのまま座視する事は望まん・・・ならば、戦うしかあるまい。周辺諸国に使節を派遣せよ。我らは連合諸王国軍を糾合し、アルヌスの丘へと攻めいる!」

 

モルトの言葉に議員達は一斉に拍手すると、その中でカーゼルがモルトの近くへやって来た。

 

「皇帝陛下。アルヌスの丘は人馬の骸で埋まりましょうぞ・・・」

 

カーゼルの言葉にモルトは不適に嗤う。

 

後日、帝国より使節が周辺諸国に派遣される。 

そして、アルヌスを巡って自衛隊と連合諸王国軍の戦いが決まった事はまだ、知られていない。

 



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戦う事なく・・・

~アルヌス駐屯地 ダイアモンドドッグス臨時拠点~

 

リリーはダイアモンドドッグスの臨時拠点でパソコンを開いていた。

リリーはキーボードを打ち込んで行くと、画面にサングラスとベレー帽を被った男が出てきた。 

 

「どうやら無事に繋がったようだな。・・・久しぶりに話すな、ウルフ」

 

「お久しぶりですミラーさん。・・・ボスは?」

 

「ボスは今もミッションで手が離せない・・・それで、今回は配線の確認以外に何かあるか?」

 

「報告があります。特地においてフルトン回収した敵の中に帝国の要人がいました。名前はゴダセン。日本の敵国、帝国の元老院と言う場の議員だそうです」

 

「やはり、古代ローマと似た体制か・・・」

 

ミラーはそう言って机の上にあった本をリリーに見せる。

それは古代ローマに関する本だった。

 

「元老院・・・その言葉だけでも帝国の体制は分かった。帝国はファンタジーと言う点を除けば古代ローマと酷似している。だが、だからと言ってそうだとは言わないがな」

 

「古代ローマ・・・ファンタジー以外でなら勝てそうですね。それと、ミラーさん。帝国の捕虜達はどうするべきですか?まだ、自衛隊に付き出していないんです」

 

「・・・ゴダセンは自衛隊に渡せ。残りの奴等は出来れば半数程、欲しいが・・・」

 

「掛け合ってみます。帝国兵にもそれなりに有能な者も多数いましたので、殺すのは惜しいです」

 

「・・・そんな所はボスに似たな。では、また連絡してくれ。あぁ、言い忘れていたが無線にも繋がる様にしておいた。お前が装備しているカメラで映像をマザーベースに送る事でミッション時に何時もの様に連絡しあえる筈だ。では、ミッションを続行するように」

 

ミラーはそう言うと、通信を切った。

リリーは通信が切れた事を確認すると、パソコンを閉じた。

それと同時にダイアモンドドックスのスタッフがやって来た。

 

「ウルフ。また敵が来たようだ。出撃準備をする様にしておけと、狭間陸将から話がきた」

 

「分かった。出撃準備をするわ」

 

スタッフにそう言うと、リリーは敵を迎え討つべく出撃準備を開始した。

 

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その頃、連合諸王国軍は駐屯地から離れた場所に陣を張って諸国の王達が会合をしていたが・・・。

 

「帝国軍の司令官が来ぬだと?」

 

「我が帝国軍は敵と真正面から対峙しており今、その場から離れる訳には参りません」

 

帝国の伝令が連合諸王国軍の激で参戦したエルベ藩王国の王デュランにそう言うと、デュランは椅子に座った。

 

「ふむ・・・丘には然程の敵はおらんと思ったのだが・・・」

 

「デュラン殿。帝国軍は我らの代わりに敵を抑えててくれているのだ」

 

「リィグゥ殿・・・」

 

デュランはリィグゥの言葉がどうしても引っ掛かる中、帝国の伝令は最後に告げる。

 

「連合諸王国軍の皆様には明日の朝、敵を攻撃して頂きたい」

 

「了解した。我が軍が先鋒を賜りましょうぞ」

 

「いや、我が軍こそが前衛に」

 

「お待ちください。此度は我々に」

 

明日の攻撃に対して、王達は先鋒を取り合っている中でデュランは静かに考えている。

そして、先鋒が決まると伝令は頭を下げながら言う、

 

「それでは明朝、アルヌスの丘にて・・・」

 

帝国の伝令はそう言って立ち去ると、王達はヤル気満々で話す。

 

「朝が楽しみだな」

 

「我が軍だけで敵を蹴散らしてやるわ」

 

そう言って笑い会うなか、リィグゥは悔しそうにうつ向く。

 

「無念・・・先鋒はならなんだか・・・」

 

「異界の軍勢は少数、我らは号して30万。武功が欲しければ先鋒以外に機会がないと?」

 

「そうとお分かりならどうして先鋒を望まなかった?」

 

「・・・此度の戦は気に入らん」

 

「はは!エルベ藩の獅子と唄われたデュラン殿も寄る年波には勝てんと言う事か」

 

リィグゥはそう言って先鋒を望まなかったデュランを笑うが、デュランはするどい目で帝国の意図を考える。

 

彼らは先鋒を決めるとすぐに軍議を始める。

その会話を静かに、聞き漏らさない様に聞いている者がいると知らずに。

 

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21:39

 

軍議を終えた王達は其々の陣に戻っていき、デュランは一人まだ考えていた。

帝国なら少数の敵ぐらい簡単に攻め滅ぼせる筈であるのに、連合諸王国軍と言う形を取った事に疑問を持っていた。

 

「まさか、奴等は我々を・・・」

 

デュランは嫌な予感がし始めた時、後ろから突然抑えられた。

デュランは抵抗する暇もなく、首を強く締める腕を離させようとした時、首もとに刃物が向けられた。

 

「動くな」

 

デュランはその声を聞いて、女だと直感した。

だが、デュランは王の中では屈強である筈なのに見て分かる程に細見の腕を引き剥がせない。

デュランに冷や汗が垂れる。

 

「お前は誰だ?」

 

「何だ・・・わしが誰だか知らずに拘束しているのか・・・?」

 

「答えろ」

 

鋭い殺気を感じたデュランは冷や汗を流しながらも冷静に答える事にした。

一つ間違えれば、殺されると頭に過ったのだ。

 

「わしは・・・エルベ藩王国のデュラン。お主が何者かは知らぬが、わしをどうするつもりだ・・・?」

 

「他に連合を組んでいる王は何処?」

 

デュランの質問を無視して王達の所在を聞いてきた女。

 

「教える義理はない・・・!」

 

デュランはそう言った瞬間、素早くデュランの片腕を挙げ、挙げた腕を押さえつつ一気に首を絞めに掛かった。

デュランは抵抗しようとするも、拘束は緩む事なく意識を失った。

 

「・・・早く回収しよ」

 

女ことリリーはそう言ってデュランを抱えて外に出ると、誰もいない事を確認し、フルトン回収装置をデュランに取り付けた。

フルトン回収装置は作動し、浮かび上がった時にデュランは少しだけ目を覚ました。

 

「な、何だ・・・」

 

「悪く思わないでね」

 

リリーのその声と同時にデュランは飛んでいった。

流石のデュランもこれには叫び声を挙げてしまい、そのまま叫び声と共に聞こえなくなった。

 

「・・・回収して」

 

《了解。すぐに回収する》

 

「お願いね」

 

リリーはそう言って無線を切ってしまうと、次の獲物を探す。

その後、連合諸王国軍の王達が行方不明となり、その影響で兵達は動揺と混乱の渦に落ちバラバラに潰走した。

 

自衛隊は警戒していたが、いつの間にか敵がいなくなった事とリリーがデュラン達を連行して来た事に唖然としたのは別の話。



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偵察要請

~アメリカ合衆国 ホワイトハウス~

 

アメリカの首都にあるワシントンD.Cのホワイトハウス。

そこで、アメリカ大統領ディレルと秘書が話している。

 

「日本は一体何をしているのかね?亀みたい立て込もってな・・・」

 

「日本の自衛隊は状況の判断や情勢を見極め、要点を押さえる戦略しかありません。それに、仮に立て籠りを止めて攻勢に出ても国民が許さないでしょう」

 

「ふん、特地は宝の山だ。だと言うのに・・・」

 

ディレルはそう言って机の資料を見る。

それは、日本の極秘ファイルの一部でありダイアモンドドッグスが日本に雇われた事を書かれていた。

 

「よりによって・・・ダイアモンドドッグスか・・・」

 

「我が国の・・・いや、全世界全ての核を葬った組織ですね?」

 

「奴等のせいでアメリカの発言力が減ったのは確かだ・・・だが、国民は奴等を英雄視している。奴等が核を葬ったから冷戦は終わった。そう思われている」

 

「実際に冷戦は終わりました。次いでに核の脅威も無くなった事で彼らを英雄視するのも無理はありません」

 

秘書の言葉にディレルは項垂れた。

 

「特地の利権も欲しいが、かつて日本から中国の利権を奪おうとした二の舞になりたくはない。今は、支援のみとする。・・・チャイナがダイアモンドドッグスを舐めて掛からなければ良いが・・・」

 

ディレルはそう言って溜め息をついた。

 

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~特地 アルヌス駐屯地~

 

アルヌス駐屯地にある自衛隊の施設では、狭間と柳田が話していた。

 

「・・・たった一人で、30万の軍を追い返したか」

 

「はい。それも、誰一人として殺さずにです。殺傷できる武器を使わず、麻酔銃によるミッションの遂行・・・並大抵の人が出来る事ではないかと」

 

「ふむ・・・あの若さでそこまでやるとはな・・・」

 

狭間はそう言いながらリリーの資料を見る。

資料の内容はダイアモンドドッグスから送られたリリーの経歴書だが、出生不明、国籍不明、出身不明、年齢19歳と異状な箇所が見受けられた。

 

日本の法が適用すれば、リリーは成人の傭兵ではなく少女兵に当たる。

ダイアモンドドッグスが何故、若く謎が多い彼女が送られてきたのか狭間は疑問に思った。

 

「何故、此処まで経歴が不明だらけなんだ?」

 

「・・・それは分かりません。ただ、彼女は訳ありでその事は彼女がいる時はそれにあまり触れるなと、言われています」

 

「触れるな・・・か。一体、彼女には何があるんだ・・・」

 

狭間はそう呟きながら溜め息をついた。

 

「・・・そうえば、ウルフから捕虜に関して打診があったな?」

 

「捕虜数名の引き渡しですか?流石にそれは・・・」

 

「そうだな・・・だが、彼らなら託せる。そう思える・・・」

 

狭間はそう言って書類に判を押した。

 

 

~アルヌス駐屯地 ダイアモンドドッグス臨時拠点~

 

リリーは臨時拠点で回線を開いてミラーに報告を行っていた。

 

「そうか。捕虜の数名は此方に渡るのか」

 

「はい。ですが、特地から出さないと言うのが条件です」

 

「それで十分だ。お前のサポートの、特地に関する情報や言語獲得は重要だ。今まで使っている特地の言葉、命名するとファルマート語には訛りがある・・・その訛りがある状態では何時かは支障をきたしかねんからな」

 

ミラーはそう言うと、端末を使ってリリーの端末に何かを送った。

リリーは端末を見ると、それは不完全であるがファルマート大陸の地図だった。

 

「その地図は有効に使ってくれ。調査が進めば更に更新され、より詳しくなる」

 

「助かります。では、また報告します」

 

リリーはそう言って回線を切ると、小さく溜め息をついて落ち着いた。

顔は無表情のまま外を見ていると、扉が開かれた。

 

「ウルフ。自衛隊からの要請が来た」

 

「要請?」

 

「何でも、特地一帯を調べるみたいだ。幾つか部隊を出す様だが、万が一の見落としが無いようにウルフに一帯の地域を偵察して欲しいそうだ」

 

「・・・ようするに偵察ミッションね。分かった。狭間陸将に要請を受理すると伝えておいて」

 

リリーはそう言うと、報告に来たスタッフは狭間の元に向かっていく。

リリーはミッションの準備をしに行くのだった。

 

________

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___

 

リリーは武装を整えて臨時拠点の外に出ると、武装ヘリが何時でも飛び立てる様になっていた。

リリーは武装ヘリに乗り込むと、カセットテープを取り出し、スイッチを押した。

 

そのテープはミラーからの物で、ワームホール転送装置と言う物で送られてきた。

最近のワームホール転送装置は長距離からでも転送できる様になっており、マザーベースから特地へと転送できた。

 

しかし、距離が伸びる程に転送出来る物は限られ、マザーベースから特地ではブリーフィング用等のカセットテープが限界だった。

 

《さて、ウルフ。初の特地内部でのミッションだな。今回、偵察がミッションの内容だが特地は我々でも予測できない事態があるかもしれん・・・油断するな。それと、もしミッション中に自衛隊に危機があったら優先して救援に当たってくれ。頼んだぞ》

 

カセットテープの音声が終わると、リリーは外を見た。

武装ヘリは既に飛んでおり、何処までも広がる緑があった。

リリーはそれを見て、瞳が揺らいだ。

 

「(・・・嫌な事を思い出した)」

 

リリーは溜め息を着くと、武装ヘリはランディングゾーンに到着したのか徐々に降りていく。

リリーは武装ヘリの扉を開けて足を乗り出すと、腰にベルトを着けた。

 

暫く飛んだ後、武装ヘリは地面スレスレの所で止まり、リリーはベルトを外して降りた。

 

「気を付けてくれよ。ウルフ」

 

そう言って武装ヘリの操縦者は戻って行く。

リリーはそれを見送ると、ミッションを開始した。



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特地偵察ミッション

武装ヘリから降りたリリーはまず、無線を開いた。

 

「ミラーさん。聞こえる?」

 

リリーの問いに無線は機械音が出ていたが、すぐに無線が繋がって返答された。

 

《あぁ、聞こえている。無線も上手くいったな》

 

ミラーは安堵した様に言うと、リリーは無線で指示を仰ぐ。

 

「ミラーさん。偵察と言っても、先ずは何処から当たれば良いと思う?」

 

《そうだな・・・先ずは簡単な敵拠点や村を偵察してみれば良い筈だ。場所だけでも良いが、出来ればそこにいる人数も調べておいた方が損は無いだろう》

 

「分かった。敵拠点や村を重点的に偵察するわ」 

  

《何かあったら無線を繋げてくれ、カメラで確認し、指示する》

 

ミラーはそう言って無線を切ると、リリーは双眼鏡を使って辺りを見渡す。

辺り一面は草原や山、川に森等と自然豊富だった。

リリーは辺りをくまなく見渡していると、森の中に誰かが見回っている姿を見つけた。

 

双眼鏡でその人物はマークされ、データが端末に送られてきた。 

 

《これは・・・》

 

無線からミラーが驚きの声を出している。

 

「どうしたの?」

 

《端末を開いて先程、マークした人物の顔を見てくれ》

 

リリーは端末を開いて確認すると写真があり、先程マークした人物の顔を見ると、その顔・・・正確には耳が異常だった。

その人物は異常な程に耳が長く、まるでおとぎ話に出てくるエルフその物だった。

 

「これは・・・エルフ?」

 

《・・・流石は特地だ。ファンタジーがあるだけはあるな。この目でエルフを見る事になるとは・・・ウルフ。あの森にエルフの集落があるかどうか確かめてくれ》

 

「了解」

 

リリーは無線を切ると、森に向かって走った。

走る速さは恐ろしく速く、人間離れしており、すぐに森の近くへやって来た。

 

「・・・人影無し」

 

そう呟くと、体勢低くして森の中へと入った。

 

リリーは体勢を低くしつつ進むと、見回りなのか数名のエルフが弓を持って巡回している。

 

「(うっかり見つからない様にしないと・・・)」

 

リリーはそう思いつつ、エルフ達の行動の状況次第で体勢を変えつつ進むと、森が少し切り開かれた場所に出た。

そこには木の上に家が建てられ、地面に井戸等の施設があった。

 

《どうやら此処がエルフの集落らしい・・・確認はした。またこっそりと抜け出してくれ》

 

「了解・・・」

 

リリーはエルフの集落を確認した事で森から抜け出そうとした時、何かが羽ばたく様な音が聞こえた。

羽ばたく音は異常に大きく、リリーは辺りを見渡した。

 

「なに・・・」

 

リリーは警戒を続けていると、空から炎が降り注いだ。

リリーは幸いにも離れた位置にいた為、当たる事はなかった。

 

《な、何だ・・・あれは・・・!》

 

ミラーの声に反応してリリーは空を見ると、そこにはメタルギアやサイファーのサヘラントロプス並みのドラゴンがそこにいたのだ。

リリーは身構えていると、ミラーは静かに言う。

 

《ウルフ。まだ奴はお前に気づいていない。逃げるんだ・・・!》

 

「りょう・・・あれは」

 

リリーは了解したと言いかけた時、向こうにドラゴンから必死に逃げる男女を目撃する。

 

「・・・ミラーさん」

 

《駄目だ・・・!まともな武器も無いのにあのドラゴンに見つかる覚悟で助けるつもりか・・・!》

 

ミラーの言葉にリリーは暫く静止していたが、リリーはエルフ二人の元に駆け出した。 

 

《戻れ・・・!》

 

ミラーの制止を聞かず、リリーはエルフの男女の元に走り続ける。

エルフの二人はドラゴンの炎にもうすぐ焼かれようとしていた。

二人は抱き合って目を強く握って自身の死を受け入れようとしていた時、ドラゴンの顔にリリーが銃弾を浴びせた。

 

「此方よ、トカゲ・・・!」

 

リリーはそう叫んで銃弾を浴びせ続けていると、ドラゴンが巨体を活かした体当たりを仕掛けてきた。

 

《ちッ!避けろウルフ!当たったら死ぬぞ!》

 

ミラーは咄嗟にそう指示すると、リリーは素早く避けた。

リリーは避けると、銃弾を浴びせるが全く歯が立たない。

 

「固すぎる・・・!」

 

《ウルフ!お前の元に武器を手配した。その武器を使って奴を迎撃するんだ!》

 

「了解」

 

リリーはそう言うと、武器を構えた。

ドラゴンはリリーに殺意を向けており、エルフ二人はその隙を突いて逃げたのかいなかった。

 

「これで、戦いやすくなったわ」

 

リリーはそう言うと、武器の到着までどうするべきかと考えていると、ドラゴンは何を思ったのか飛び立ち始めた。

 

「何、かしら?」

 

リリーは警戒していると、ドラゴンは何処かへ飛んでいってしまった。

リリーは辺りを警戒しつつ、空を見渡したりしたが本当にドラゴンはいなくなった。

 

「・・・はぁ」

 

リリーは溜め息をついて、先程の男女のエルフを探しにいく。

辺りが燃えて行く中、リリーは歩き続けていると井戸を見つけた。

 

「・・・まさかね」

 

リリーはそう言いながら井戸のそこを見るとそこには案の定、エルフがいた。

しかし、女のエルフだけで男のエルフの姿はなかった。

 

《男の方は何処へ?》

 

「・・・分からない。でも、取り敢えず女の方は保護するわ」

 

リリーはそう言って再び井戸の中を見ると、エルフは怯えて此方を見ている。

 

「・・・救出しないと」

 

リリーはエルフを救出する為、近くにあった紐を井戸の底へ垂れ流した。

エルフはその紐を見て、かなり戸惑っている。

 

「早く出なさい。凍死するわよ」

 

リリーはファルマート語でそう話すと、出てくる様に促す。

だが、怯えて紐を取ろうとぜず、警戒され続けている。 

 

《ウルフ。仕方ない・・・直接中に入って救出するんだ。・・・慎重にな》

 

「了解」

 

リリーは垂れ流していた紐を適当な場所に頑丈に結ぶと、紐を伝って中に入った。

中に入ると、怯えきったエルフがそこにいた。

 

「・・・大丈夫?」

 

リリーは無表情でそう呼び掛けるも、怯えきって声も出せないのか首を横に振るだけだ。

リリーは静かに近づいてエルフの前で屈み、そっと抱き締めた。

 

「・・・大丈夫。大丈夫だから・・・」

 

リリーはそう言って、エルフの首元に麻酔銃を撃った。

エルフは首元に麻酔銃を撃たれた事で、眠った。

エルフを眠られた時、ミラーからの無線が入った。

 

《酷く衰弱しきっている・・・フルトン回収では無理だ》

 

「分かった。でも、武器輸送でヘリは出払っているんでしょ?」

 

《・・・仕方ない。そのヘリで回収するしかない。それまで持ちこたえてくれると良いんだが・・・》

 

ミラーはそう言って無線を切り、リリーはエルフを担いで井戸を登り始めた。

 

人を抱えての脱出だった為、時間が掛かってから井戸を抜け出したリリーは井戸を出ると外は焼け野原になっており、空は暗く夜になっており、更には雨が降り注いでいた。

リリーは外に出ると、少しでも雨が凌げる場所へ行くとエルフを寝かせ様子を見る。

 

「確かに酷く衰弱してる・・・」

 

エルフは荒い息をたてながら眠っており、苦しそうに汗をかいている。

リリーは簡単な治療は出来てもそれは応急処置でしかなく、応急処置で寿命は延ばせても命までは延ばせい。

 

「・・・早く来て」

 

リリーはお手上げとも言える言葉を呟きつつ、エルフに応急処置を開始する。

せめて、到着まで持ちこたえさせる為に一晩中、エルフの看病する事になった。




炎龍出ましたが、まだ炎龍戦ではありません


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銀座の英雄

こんなタイトルですが、伊丹との関わりは低いです


長い応急処置の中、リリーは腕で汗を拭うと道具をしまった。

それは応急処置が終了したと言う意味であり、エルフの容態は安定したと言っても過言ではなかった。

 

「・・・雨、止まないな・・・」

 

リリーは黒い空を見上げた後、懐からファントムシガーを取り出すと口に咥えて端末の電子の火を出して着けた。

 

ファントムシガーは電子タバコの一種で、体感時間を速める事が出来る代物だ。

電子タバコの為、健康にも害はなくボスも愛用する。

リリーの場合はタバコを吸うと言うより、ただ体感時間を速める目的で使用すると言っても過言ではない。

 

「・・・はぁ」

 

《タバコか?》

 

不意に無線が入り少し驚いたリリーだが、リリーは落ち着いて無線を取って応答する。

リリーは無線の声がミラーではないと考え、ある人物の名を出す。

 

「・・・オセロットさん?」

 

《そうだ。所で、お前は未成年だろ?何で、タバコなんか持っているんだ?》

 

「これは電子タバコみたいな物です。害は無いし、それに時間を速められる」

 

《そう言う事じゃなくてな・・・まぁ良い。それより、ウルフ。この集落に自衛隊の部隊が到着する。それももうすぐだ》

 

「自衛隊の部隊が?」

 

リリーはファントムシガーを片手にオセロットに言うと、またファントムシガーを口に咥える。

 

《あぁ。何でも、コダ村経由でそこに来るらしい・・・諜報班からの報告だ》

 

「・・・そう。なら、この子も助けられるんじゃないかしら」

 

そう言ってエルフの方を見ると、落ち着いて寝息をたてて眠っている。

 

《確か、その部隊に医療に詳しい奴がいたな・・・接触して託すか?》

 

「・・・接触するわ。所でオセロットさん」

 

《何だ?》

 

「・・・ミラーさんは?」

 

リリーの言葉にオセロットは溜め息をつきながら話す。

 

《また・・・ハンバーガーを作っていてな・・・》

 

「・・・あぁ」

 

その言葉にリリーは全てを察した。

ミラーが昔、今は老衰して亡くなったコードトーカーと一緒にハンバーガー作りに奔走していた話があった。

 

それも、ダイヤモンドドッグスの資金をちょろまかしてだ。

 

本人曰く、へそくりだと言っているそうだがオセロットが資金の採算が合わないと言う事で、結局、オセロットに怒られている。

 

「まぁ・・・パクス・ハンバーガーナは悪い意味ではないし・・・」

 

《資金をちょろまかす様なせこい平和はいらん》

 

オセロットはそう言って無線を切ると、リリーはファントムシガーを捨てた。

リリーは空を見ると、曇りだが雨は降っておらず、リリーは立ち上がった。

 

「・・・自衛隊を探さないと」

 

リリーは雨が止んだ集落跡をエルフを担いで進む。

 

_________

_____

__

 

 

リリーは暫く歩いた後、向こうからエンジン音が聞こえて来た。

リリーは先ず、本当に自衛隊なのかを確認する。

 

特地では何が起こるか分からない。

もしかしたら、自衛隊が不意の遭遇戦になり自衛隊員が人質に取られた状態で走っている可能性だってある。

 

リリーは双眼鏡で自衛隊の車両を確認すると、車両から数名の自衛隊員が降りてきた。

その中に黒髪の女自衛官がおり、双眼鏡には医療ランクがS+とあった。

 

《いたぞ。あの女自衛官だ。どうやら、自衛隊だけの様だ・・・至急、自衛隊と接触し、エルフを見てもらうんだ》

 

無線に出たのはミラーだった。

リリーはその声を聞いてミラーに対して皮肉を言った・・・いや、彼女にとっては皮肉と言うわけではないが。

 

「・・・ミラーさん戻ったんだ」

 

《良いから行け!》

 

ミラーに怒鳴られてリリーはエルフを担いで歩く。

下手に走って誤射なんてされたらたまらないからだ。

リリーは自衛隊の元に歩くと、案の定武器を構えられた。

 

誰何(だれか)!」

 

年配の男がそう叫ぶと、リリーは臆する事なく自分の身分を言う。

 

「私はダイアモンドドッグスのウルフ。保護したエルフを見て欲しい。今は応急処置を施しているけど、本格的な治療が必要・・・この部隊に医療に長けた人がいる筈よ」

 

リリーはそう言うと、自衛官は互いを見てからリリーに頷く。

リリーは自衛官の案内で自衛隊の車両にエルフを運んで行くと、車両内に寝かせた。

そしてエルフを寝かせた後、黒髪の女自衛官がエルフの様子を見る。

 

「・・・衰弱してる・・・でも、応急処置で何とか意識を保ってるわ・・・。兎に角、濡れた服を脱がせて!」

 

黒川の指示で茶髪の胸が大きい女自衛官が頷いてハサミで服を切る。

処置は進み長い時間が過ぎた後、遂に治療は終わった。

 

「はぁ・・・一命は取り留めたわ。貴方の適切な応急処置のおかげよ」

 

「・・・戦場で何度も経験したから。・・・慣れっこよ」

 

リリーはそう言って車両から降りると、空を見上げた。

二人の女自衛官は不思議そうに見ていると、空から大きな音が響いた。

 

《此方、ピークォド。ランディングゾーンに到着。待機する》

 

それは、ダイアモンドドックスの武装ヘリで集落跡の中心に地面スレスレで飛んでいる。

 

「私はまだ任務を続行する。エルフの件だけど・・・任務である以上は乗せてあげられないわ」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!それなら一度帰還すれば」

 

茶髪の女自衛官がそう叫ぶも、リリーは無表情で返答する。

 

「・・・野暮用があるの。とてつもなく危険な」

 

リリーはそう言って武装ヘリに乗り込んだ。

 

「そういえば、この隊の隊長は誰?」

 

「お、俺だけど・・・」

 

そう言って出てきたのはどう見てもさえない自衛官だった。

まるでやる気がない、そう思える風に見えてしまう。

だが、リリーは隊長の自衛官が何処かただ者ではない事を予感した。

 

「・・・名前は?」

 

「えーと・・・伊丹、燿司・・・ですが?」

 

「・・・そう、後で協力してくれた事をお礼に行くから。また、会いましょう」

 

リリーはそう言って敬礼すると、武装ヘリの扉を閉めて飛び立った。

これが後に、ダイアモンドドックスのウルフと銀座の英雄伊丹燿司との出会いだった。

 

飛び立つ武装ヘリの中で、リリーは静かに目を閉じていた。

そこで、無線が繋がりリリーは無線を手にした

 

《それで?野暮用とは何だ?》

 

ミラーが無線でそう聞いて来ると、リリーは迷わずこう言った。

 

「・・・あの胸くそ悪いトカゲを葬る」

 

リリーはそう言って目を見開くと、その瞳にはとても鋭く光った金色の瞳があった。




捕捉情報

リリーの普段の瞳は黒色です。

この金色の瞳は後々、語らせてもらいます


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ドラゴン退治

武装ヘリは飛び続け中、リリーは武器を念入りにチェックした。

そんなリリーをミラーは止めるべく必死に説得する。

 

《止めろ!あの化け物相手にやり合うつもりか!武装ヘリ一機と、小銃・・・勝ち目はないぞ!》

 

「・・・勝ち目はある」

 

リリーはそう言って手を伸ばしたのは輸送される筈だった武器だ。

大型の筒で、スコープが搭載されている。

 

「・・・ハニービー。威力も申し分なく、更に追尾機能もある・・・ミラー。こんなのどうやって?」

 

《・・・少し無理をした。だが、それがあっても許可はしない!》

 

ミラーがそう言った瞬間、アラームがなった。

 

「ウルフ!大きな熱源を関知した。・・・奴だ。しかも、数人の人影の熱源もある!」

 

《・・・無視しろ》

 

操縦士からの報告にミラーは冷酷にリリーにそう言うが、次の言葉で決定的になる。

 

「確認した所、あの自衛隊の部隊が奴と交戦している!」

 

「確か・・・自衛隊が危機に陥っていたら優先して救援するんでしたよね?」

 

リリーの言葉にミラーは項垂れると、リリーは操縦士に指示を出した。

 

「奴の元に向かうわよ。自衛隊の救援・・・それが今のミッションよ」 

 

「了解!」

 

操縦士はレバーを操作すると、救援ポイントに向かって行った。

 

________

_____

__

 

 

リリーが武装ヘリで駆け付けている頃、伊丹達は民間人を守りながらドラゴン・・・正式名、炎龍を相手に応戦していた。

だが、巨体とブレスそして強靭な鱗を前に苦戦を強いられていた。

 

「くそ、どうすれば・・・!」

 

伊丹が悪態をついた時、無線が突如繋がった。

 

《伊丹さん。聞こえますか?》

 

「え、ウルフさん?」

 

伊丹は急に繋がったリリーからの無線に戸惑っていると、リリーは続けて言う。

 

《これより、貴方達に加勢する。私が来るまで持ちこたえて》

 

リリーはそれだけを言うと無線を着ると、伊丹は困惑した表情で無線を見る。

 

「・・・持ちこたえろ、て言われてもな・・・」

 

伊丹がそう呟いた時、後ろから声を掛けられた。

伊丹は振り向くと、そこにはあのエルフがいたのだ。

伊丹は困惑していると、エルフは必死に自身の目を指差して何かを知らせている。

 

「・・・そうか!目だ!目を狙え!!」

 

伊丹はエルフの言いたい事を理解すると、目を狙う様に指示する。

隊員達も目を狙って一斉に発砲すると、炎龍は怯みあがった。

 

LAM(110mm個人携帯対戦車弾)、準備出来しだい直ちに()て!」

 

伊丹がそう指示すると、隊員がパンツァーファウストを構えた。

 

「おっと、後方の安全確認」

 

「「「「「「馬鹿!早く射て!!!」」」」」」

 

つい、訓練通りの事を隊員がしてしまうと一斉に隊員達が突っ込んだ。

パンツァーファウスト3を隊員が撃とうとするも、突然の揺れで誤って引き金を引いてしまい、狙いがずれてしまった。

 

「外れるぞ!」

 

伊丹がそう叫んだ時、自衛隊の車両の後ろの扉が開かれ、そこからゴスロリの服を着た少女が器用に車両の上に乗った。

そして、少女はとても少女が持ちそうにない巨大なハルバードを炎龍の足元に向かって投げると、炎龍は体勢を崩し、そして体勢を崩した炎龍の腕にパンツァーファウストの弾が命中した。

 

炎龍は片腕を失い、雄叫びを挙げると飛び立とうとした。

だが、それを許さない者が現れた。

 

「・・・これより、支援攻撃を開始する」

 

それはリリーの乗る武装ヘリが現れ、炎龍に向かって機関銃やミサイル等を一斉に発射したのだ。

武装ヘリによる一斉攻撃に炎龍は飛び立てず、更に重症を負う。

 

武装ヘリは攻撃を終えると横向きになり、扉が開かれリリーがハニービーを片手に現れた。

 

「トカゲ。せめてもの情けよ・・・受け取りなさい!」

 

リリーはそう言ってハニービーを向けると、ロックするのと同時に発射した。

ハニービーは狙った場所を追尾し、正確に命中した。

炎龍は再び雄叫びを挙げると、力無くゆっくりと力尽きた。

 

「・・・ミッション完了。自衛隊に接触して安否を確かめる」

 

《・・・はぁ、分かった。もうお前に任せる》

 

リリーの言葉に呆れながらも放り投げる様に了承するミラー。

武装ヘリは伊丹達の元に降り立つと、リリーはヘリから降りた。

 

「大丈夫?」

 

リリーはそう伊丹達に言うと、唖然とした様な顔でリリーを見る。

 

「本当に・・・傭兵なの・・・?」

 

伊丹がそう聞くと、リリーは首を傾げた。

 

________

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__

 

炎龍討伐後、伊丹とリリー達は犠牲になったコダ村の難民達を埋葬した。

難民達は炎龍によって殺された者達の死を悲しみ、嘆く姿を見せ、リリーはそれをただ、"何の感情も無い"様に見る。

 

《何だ。珍しく悲しげだな?》

 

「・・・ほっといて」

 

ミラーはまるでリリーの感情が読み取る様に言うと、リリーはそっぽを向いた。

 

《・・・お前の境遇は分かっているつもりだ。だが、助けられない命もある》

 

「・・・分かってる。でも・・・これは酷いわ」

 

リリーはそう言って難民達を見ると、中には親を亡くした子供の姿もあった。

リリーは子供達を見て、拳を強く握った。

 

「・・・殺して良かったわ」

 

リリーはそれだけを言ってファントムシガーを取り出し、電子の火を着けようとした。

 

「ウルフさん」

 

「・・・なに?伊丹さん」

 

「いや、伊丹で良いです・・・今回の戦闘。協力を感謝します」

 

伊丹はそう言って敬礼すると、リリーはファントムシガーを口に咥えて電子の火を着けた。

煙が立ち上る中、リリーは伊丹に聞いた。

 

「・・・難民達はどうするの?」

 

「・・・近隣の親族や街にいくそうですが・・・怪我人や老人、子供は置き去りにすると・・・」

 

伊丹は頭をかきながらそう言うと、リリーはそっとファントムシガーを口から放した。

 

「・・・置き去り・・・ね。はぁ・・・それで?保護するの?」

 

「まぁ、そのつもりです。置いて行く訳にもいかないし」

 

「・・・そう。なら、武装ヘリを使って良いわよ」

 

リリーの言葉に伊丹は驚いた顔でリリーを見る。

 

「別にミッションを終えて帰還するつもりだったから。それに、一部でもヘリに乗せて行けば負担も減るでしょ?」

 

「助かります」

 

伊丹の言葉を聞いて、リリーはファントムシガーを吸おうとしたが、どうしても吸う気にもなれず捨てた。

 



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交流 前半

炎龍襲撃から数時間後、武装ヘリの中でリリーは仮眠から目覚めた。

あの襲撃でかなり疲れが出ていた為、ヘリに乗り込んで何名かを乗せた後、リリーは眠気に襲われて仮眠を取ったのだ。

 

リリーはヘリの中を見ると、中は怪我人と子供の数名がおり、全員が寝ていた。

子供の一人に至ってはリリーに抱きついて寝ている者もおり、リリーは起こさない様に動かない様に座った。

 

________

_____

__

 

~アルヌス駐屯地 ダイアモンドドッグス臨時拠点~

 

武装ヘリは伊丹達よりもいち速く辿り着くと、リリーはヘリの扉を開けた。

リリーがヘリから降りると、ダイアモンドドッグスのスタッフや自衛隊が集まっていた。

 

「ウルフ。副司令から難民は自衛隊が預かる事になったそうだ」

 

「・・・そう、別に構わないわ。別に預かる為に連れてきた訳じゃないし」

 

リリーはそう言うと、ダイアモンドドッグスのスタッフと自衛隊が難民達を連れて行った。

リリーは少し溜め息を着くと、拠点内へと歩いて行った。

 

_______

____

__

 

 

~とある村 酒場~  

 

村にある酒場では、ある話が盛り上がっていた。

それは、炎龍に関する噂話で酒場では炎龍襲撃の生き残りが話していた。

 

「「「「は!?炎龍を倒した!?」」」」

 

「そうさ!この私が見たんだ!」

 

「出任せだ!」

 

「寝惚けてたんじゃねぇのか?」

 

「ふん!信じないなら良いさ!」

 

生き残りの女の話を笑う男達に女はそっぽを向いた。

その話に聞き耳を立てていた者達がいた。

 

「どう思いますか騎士ノーマ?」

 

「どうって・・・汚い酒場に不味い酒としか・・・」

 

「ノーマ。我々はアルヌス偵察の勅命を受けて此処におるのだぞ?」

 

「声が大きいぞグレイ」

 

聞き耳を立てている者達は騎士風の男女で、炎龍の噂話に興味を示していた。

 

「それで?どんな話だハミルトン」

 

「はい。流行りの噂話です。何でも緑の服を着た傭兵団が炎龍と戦い、片腕を奪ったそうです。そして、空から奇妙な怪鳥とそれに騎乗する神兵が現れ、炎龍を討ち倒したとの事です」

 

「ドラゴンと言えど、翼竜や新生竜等がおりますし・・・」

 

「本当の炎龍だよ、お客さん」

 

騎士達の前に女がやって来た。

 

「ははは!私は騙されんぞ!」

 

ノーマが笑うと、女はまたそっぽを向いた。

そこで騎士の一人、ハミルトンは詳しい話を聞く為に、金貨を1枚取り出した。

 

「私は信じるから詳しく聞かせて?」

 

ハミルトンがそう言った瞬間、突然金貨が消えた。

いや、掠め取られた。

 

「ありがとうね若い騎士さん!これは取って置きの話をしないとね」

 

女はそう言って炎龍退治の話をし始めるのだった。

 

_______

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__

 

 

~アルヌス駐屯地 ダイアモンドドッグス臨時拠点~

 

拠点内でリリーは睡眠を取っていた。

立て続けのミッションに流石に疲れを感じ、自分の部屋での睡眠を取る事にしたのだ。

 

リズムの良い寝息を立てて眠るリリーの元に扉を叩く音が響いた。

 

「・・・うぅ・・・はぁ~」

  

リリーは扉の叩く音で目を覚ますと、扉を開けた。

 

「何よ、騒がしいわね・・・」

 

「ウルフ、実は・・・あのなぁ、服をちゃんと着てから出てくれないか?」

 

「ん?」

 

リリーは下を向くと、上ははだけた黒いインナーで下はズボンすら履かず、下着が丸見えな状態だった。

リリーは暫く自分の姿を見ていたが、自分の部屋の中に戻った。

 

数分後、服装を整えたリリーが出てきた。

 

「・・・何か、ごめん」

 

「それ、俺の台詞じゃないのか・・・それ?」

 

リリーに謝られたスタッフはそうツッコミと、咳払いして用件を言う。

 

「リリー。伊丹耀司の事を覚えているか?」

 

「伊丹・・・?あぁ、あの人ね。それがどうしたの?」

 

「いや、これは俺達のススメでもあるんだが・・・自衛隊や難民達と交流をしてみたらどうだろうな・・・なんて」

 

「・・・交流?・・・何で?」

 

リリーにそう聞かれると、スタッフはどう言えば良いか頭をかき始めた。

 

「だーかーら!交流して、人と接する事に慣れるんだよ!お前、コミュ症なんだから!」

 

「失敬ね・・・コミュ症に近いのよ」

 

「どのみち悪いわ!」

 

スタッフはリリーに対するツッコミを終えると、息を整えて咳払いしてから用件を続ける。

 

「これは副司令やオセロットさんの要望でもあるんだ。良いか?誰でも良いから会話してこいよ」

 

スタッフはそう言ってブツブツと言いながら歩いて行くと、リリーは首を傾げながらスタッフを見送る。

リリーは交流の件をどうするべきか考えたが、交流する事を決めた。

何故なら副司令のミラーやオセロットの二人からも言われたら断るなんて出来る筈がないのだ。

そこでもし、ボスからも言われたらチェックメイトだ。

 

「交流と言ってもね・・・」

 

リリーは悩みながら難民達の元に向かって歩いて行くと、そこでは難民達の名簿を付けているのか伊丹の部隊と難民達がいる。

 

「名簿でも付けてるの?」

 

「あ、ウルフさん。まぁ、名簿を付けないと誰が誰だか分からなくなりますかね」

 

「それはそうよね・・・」

 

リリーはまるで興味なしと言う様な態度に伊丹が苦笑いしていると、リリーは服の袖が引っ張られる様な感触を感じ、見てみると女の子がいた。

 

「お姉ちゃん。怪鳥の人?」

 

「怪鳥?」

 

リリーは怪鳥と言う単語の意味が分からず、首を傾げると女の子は続ける。

 

「だって、怪鳥から降りてきて乗せてくれた人だもん」

 

「あぁ・・・ヘリの事ね。あれは生き物じゃないの」

 

「生き物じゃないの?」

 

「えぇ。あれは簡単に言えば馬車の様な乗り物なの。分かった?」

 

リリーは無表情ながらも優しくそう言って頭を撫でた。

すると、リリーの回りに子供達が笑顔で集まってきた。

 

「え、何でこんなに集まっているの?」

 

いつの間にか集まった子供達にリリーが困惑していると、無線から爆笑したような笑い声が飛び込んだ

 

《ふはっはっはっはっ!リリー。お前、本当に子供に好かれやすいんだな。はっはっはっはっは!》

 

無線に出たのはオセロットで、オセロットはリリーのこの事態に爆笑していた。

 

「え、えーと・・・ウルフさん。その無線の人は・・・」

 

「オセロットさんよ。ダイアモンドドッグスのボスの戦友で、スタッフの訓練を着けてくれる人よ」

 

《よろしくな、伊丹》

 

「あ、はい・・・」

 

オセロットの挨拶に伊丹は戸惑いながらも答える。

リリーは困った様に囲んでくる子供の対処に追われていると、また無線が入った。

 

《リリー。折角だ・・・遊んでやれ》

 

「ミラーさん・・・でも」

 

《それも交流の内だ。子供相手なら下手に気を使った言葉は使わなくても良いだろうしな》

 

ミラーがそう話すと、リリーは回りの子供達を見る。

子供達は期待に満ちた笑顔でリリーを見ており、リリーは溜め息をついて答える。

 

「・・・分かりましたよ。遊べば良いんでしょ」

 

リリーの諦めた様な言葉に、子供達は喜んだ。

そこに申し訳なさそうにあの時、エルフに治療を施した女自衛官が来た。

 

「すみません。此方で面倒を見てるのに・・・」

 

「別に良い・・・確か名前は・・・」

 

「そうえば挨拶してませんでしたよね?私は黒川です」

 

「ウルフ。それが今の名前」

 

「今?」

 

黒川が不思議そうに聞くと、リリーは答えた。

 

「ウルフはコードネーム。本名は・・・今は言えない」

 

リリーはそれだけを言うと子供達に引っ張られる様に連れて行かれる。

 



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交流 後半

静粛の中、リリーは静かに息を潜めて時間が過ぎるのを待っていた。

薄暗い狭い場所に僅かな隙間を頼りに辺りを見渡して人影が無い事を確認していく。

 

「・・・誰もいない」

 

リリーがそう呟いた時、向こうから叫ぶ声が聞こえてきた。

 

「ウルフお姉ちゃん!もう、降参だよ!出てきて!」

 

リリーはそれに促されて立ち上がると、後ろから驚いた様な声がした。

 

「な、何これ!?」

 

「箱に足が生えた!?」

 

リリーは現在、段ボールを被っており今の体勢は段ボールを縦に被って足を出している状態だった。

因みにこの状態になると、早く坂を降りれられる特典付きだ。

リリーは段ボールを脱いで後ろを見ると、そこには沢山の子供達がいた。

 

「ウルフお姉ちゃんだ!」

 

「その中にずっといたの?」

 

「うん、ずっといたわよ。鬼が降参したからかくれんぼは私の勝ちね」

 

リリーは子供達に誘われて自衛隊から教わったと思われるかくれんぼで遊んでいたのだ。

特定の範囲を決めてから、リリーは大人が隠れるに適した場所は無かった為、潜入用の段ボールを使ったのだ。

 

因みにリリーは段ボールが好きだが、その話は別の機会に語る。

 

リリーは段ボールを被ったまま数分間、全く動かずにいただけで勝ってしまったのだ。

 

「お姉ちゃん隠れるの強すぎるよ・・・」

 

「仕事柄だもん。隠れるのが上手くないと仕事できないから」

 

リリーはそう子供に言って撫でてやると、回りの子供達も自分達もとばかりに寄ってくる。

リリーは少し対応に困りつつも、一人ずつ頭を撫でてやる。

 

「困った子達ね・・・ん?」

 

リリーは撫でながら向こうの広場に目が入った。

広場では自衛隊が格闘訓練なのか素手で組み合っている。

 

「へぇ・・・中々の動きね・・・」

 

自衛隊の素早い身のこなしにリリーは静かに見ていると、服を引っ張られる感触がし、リリーは下を見た。

そこには子供達が首を傾げていた。

 

「お姉ちゃん。どうしたの?」

 

「・・・自衛隊の訓練を見てた。中々、良い動きをするからつい、見てしまったの」

 

リリーは正直にそう言うと、子供の一人が提案した。

 

「だったらもう少し近くで見ようよ!見てるだけなら怒られなさそうだし!」

 

「え、でも・・・」

 

「行こ!」

 

リリーは子供達の成すがままに連れられて自衛隊の格闘訓練をしている広場の近くまでやって来た。

近くで見ると更に迫力が増し、子供達も興奮気味だ。

 

リリーは子供達に害が及ばない様に気を配って訓練の様子を見る。

 

暫く、訓練を見ていると自衛隊の訓練が止まった。

リリーは何かあったのかと考えていると、教官の自衛官と思われる人物がやって来た。

 

「すみません・・・少し、お時間頂けますか?」

 

教官の自衛官はリリーに向かってそう言うと、リリーは首を傾げつつ、何だろうと考えた。

 

_______

____

__

 

 

伊丹は難民達の名簿を書き終えて施設内を歩いていると、向こうがやけに騒がしかった。

 

「何だ?」

 

伊丹は歩いて行くとそこで見たものはリリーが自衛官を相手にCQCをかましている姿だった。

リリーが次々と入れ替わる様に来る自衛官を投げ飛ばしたり、カウンターを決めたり、挙げ句の果ては連続で殴り気絶させてしまっている。

 

「え!何で!?」

 

伊丹は驚いて大声を出す間にも、リリーはまた自衛官を投げ飛ばした。

これを最後に立っているのはリリーと教官の自衛官と子供達そして伊丹ぐらいだった。

 

「な、何やってんだ・・・?」

 

伊丹は唖然としているとリリーは一通り自衛官達投げ終わったのか、汗を拭きながら歩いてきた。

 

「あれ、何で伊丹さんが此処に?」

 

「いや・・・名簿を書き終わったから帰ろうとしてたらさ・・・何してんの?」

 

「自衛隊の訓練を手伝ってた。格闘術をやってたんだけど、自衛隊は実戦経験が無いに等しい位に浅い・・・そこで、教官から実戦向けの訓練を着けてくれと言われたからCQCを叩き込んだ」

 

リリーは平然と答えると、子供達を連れて遊びに戻って行った。

また唖然とする伊丹の元に教官の自衛官が肩に手を置いた。

 

「・・・お前だけじゃない」

 

そう、伊丹の心中を察する様に言うと教官は気絶している自衛官達に水をぶっかけていくのだった。

 



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イタリカへ

交流と言う名の子供達の遊びに何度か付き合って数日が経ち今日、リリーは武器の手入れをしていた。

銃を丁寧に拭いたりパーツに支障はないか確認していると、向こうから足音が聞こえリリーは音のする方を見た。

 

「ウルフさん」

 

「伊丹さん。どうしました?」

 

「いやぁ、実はね。レレイ達がイタリカへ飛竜の鱗を売りに行く事になってさ~。人手の件もあって手伝ってくれないかな~・・・てね」

 

「・・・レレイ達とは難民達の事ですね?別に自立の為なら別に構いませんが・・・別に私を連れて行かなくても充分では?」

 

リリーの鋭い指摘に伊丹は触れられたくない所を触れられたと言わんばかりに顔を引き攣る。

 

「・・・見張りですか?」

 

「・・・はい」

 

伊丹はもう誤魔化せないとばかりに肩を落とすとリリーは武器を手入れする手を止めて立ち上がった。

 

「まぁ・・・別に良いですよ。出発は何時ですか?」

 

「今日です」

 

「・・・急ですね」

 

「明日は国会の参考人招致がありまして・・・実はウルフさんの事が野党にバレたみたいです」

 

伊丹の言葉にリリーは納得した。

ようするに日本の政治を変えようとする野党にダイアモンドドッグスの情報をリークしたという事だ。

日本政府も流石にバレた以上は武装するリリー達ダイアモンドドッグスを見張る必要が出たと言う事になる。

 

「・・・あぁ、それで取り敢えず監視ですか?面倒な事をやってしまう前に」

 

「はい・・・因みに俺はリリーさんを見張る役です」

 

伊丹はそう言うとリリーは嫌でもイタリカに行く事になっていたと察するが、そこは気にしなかった。

 

「・・・はぁ、伊丹さん。今日出発ならもう準備は出来ていますよね?」

 

「はい。後はリリーさんの了承だけでしたが、もう貰いました」

 

「確かに言ったわね。じゃぁ、先に行ってて。万が一の備えとして武装の準備をしてくるから」

 

リリーはそう言って臨時拠点の方へと準備しに向かった。

 

_______

_____

___

 

 

リリーは武装を整えてやって来ると既に伊丹達はおり、出発の用意が出来ていた。

 

「お待たせしました。伊丹さん」

 

「いえ、此方こそすみません」

 

二人は軽くそう会話するとリリーは早速、車両に乗り込むと中には自衛官の他に杖を持った少女と黒いレースの付いた服を着た少女そしてあの時のエルフの少女がいた。

 

「あ、あの!」

 

リリーは車両に乗る前にエルフに声を掛けられた。

 

「なんですか?」

 

「・・・あの時、助けてくれてありがとう」

 

「当然の事をしたまでです。あのまま見捨て行ったら後味も悪いですし」

 

リリーはそう言うと今度こそ車両に乗り込んだ。

伊丹達も車両に乗り込むと、出発した。



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車両内の交流

帝国の都市イタリカへ翼竜の鱗を売りに行く伊丹一行はそれぞれ会話して盛り上がっていた。

魔法使いの少女レレイは自衛隊の装備に興味津々で、エルフのテュカは少し落ち着きのない様子だが、ゴスロリ服を着たロゥリィがテュカの耳元で何を言ったのか顔を赤く染める。

 

そんな中でリリーはただ黙って目的地に着くのを待っていた。

そんな中でロゥリィがリリーに話し掛けてきた。

 

「ねぇ、貴方は緑の人とは違うの?武装があの人達と異なってるんだけど?」

 

「はい。私はダイアモンドドッグスと言う傭兵組織のスタッフです」

 

リリーはそう言うと、スタッフは聞き慣れない単語なのかテュカが首を傾げた。

 

「スタッフ?」

 

「スタッフは各部門で仕事をこなす人の事を示します。私は戦闘班の所属。主に依頼での部隊派遣ですが、必要ならば単独でのミッションを遂行します」

 

「た、単独!それ、大丈夫なんですか・・・?」

 

「・・・大丈夫ではないですが、慣れてますので」

 

テュカはこの時、リリーがやる仕事を聞いて自衛隊もダイアモンドドックスの様にやるのかと予想する。

ロゥリィも流石に単独で軍相手に戦う事に驚いて微笑みから無表情の顔にしていたが、すぐに微笑みに戻る。

 

「へぇ、そっちの世界の傭兵は凄いのね」

 

「何回もボスに訓練を着けられたら身に付きますよ」

 

「ボス?」

 

リリーのボスと言う言葉にロゥリィはやはり聞き慣れないのか意味が理解出来なかった。

リリーはそれを察して教える。

 

「ボスは組織の貴殿方の世界で言う、首領です。ボスはまたの名をビックボスと言う名前を持ち、かつて世界を救った伝説の兵士です」

 

リリーはそう言った瞬間、車内から驚きの声が挙がった。

発信源は自衛隊からの物で運転していた自衛官の倉田がハンドルを切り損ねそうになったりする程に驚いていた。

 

「う、ウルフさん!それ、本当ですか!?」

 

伊丹は驚愕の顔でそう聞くとリリーは答える。

 

「えぇ・・・本当ですが・・・?」

 

「ま、マジっすか・・・冷戦時代のじいちゃん達に散々聞かされた人が出てくるなんて・・・」

 

「れい、せん?」

 

倉田の冷戦と言う言葉に反応したレレイがそう聞くと、自衛官でおやっさんこと桑原が答える。

 

「昔、俺達の世界で世界を何度も滅ぼせる様な兵器を何千いや、何万発も保有していた二つの国が対立していた時代だ。対立していたが、戦争はしなかった・・・お互いに兵器、核を使う事を躊躇ったからだ。だが、それでも核の量産は止めず、軍の戦力拡大競争を続けたんだ。戦争の危機スレスレでな」

 

桑原の説明にレレイ達は背中を凍りつかせた。

 

無理もなかった。

 

世界を何度も滅ぼせる様な兵器を持つような大国が対立していたと聞けばそうなる。

もし、レレイ達の世界に兵器が使われればと思えば心中は嫌でも察っし、ロゥリィですら背中を凍りつかせたほどだ。

桑原は三人の反応に流石に不味かったと思ったのか補足を入れた。

 

「俺達の国にはその兵器・・・核はない。だから、此処で使われる事はない」

 

「日本には核がない?」

 

「非核三原則」

 

レレイの疑問にリリーが一つの単語を話す。

 

「日本では非核三原則と呼ばれる物があるの。持たず、作らず、持ち込ませず。この三つで非核三原則よ。日本は核の最初にして最後の標的・・・広島や長崎と呼ばれる場所で核を受けた。その後、降伏して暫くして国を立て直した後、漁船が核の実験に巻き込まれた。それが切っ掛けで日本を中心に非核化運動が始まって非核三原則が作られた。今は日本処か世界に実弾の核は無いけどね」

 

「どうしてないの?」

 

テュカがそう聞くと、リリーは無表情でこう答えた。

 

「ボスが全ての核を回収して破棄したからよ。未だに諦めていない国に何度も潜入しては回収、破棄を繰り返してね」

 

リリーの説明にレレイ達はダイアモンドドッグスは凄いと言う印象を与え、伊丹達には伝説と呼ばれたビックボスが実在する事に驚きつつもイタリカを目指す。

 

暫く走らせた後、倉田が何かに気付いて車両を止めた。

 

「隊長。前方に煙が見えます」

 

「おいおい、また煙か・・・別の道でそうなってるのか?」

 

「と言うより、近づいてますよ」

 

伊丹と倉田の言葉を聞いてレレイが車両の運転席と助手席の近くに行くと借りた双眼鏡を使って見る。

 

「あれは・・・何かを焼いているのかまたはカギ」

 

「カギじゃなくて火事な」

 

「かじ」

 

レレイの間違いを伊丹が指摘するとレレイは発音して直す。

レレイの理解能力が高いと感じたリリーは少し驚いているも無表情を崩さない。

 

「どうしますか隊長?」

 

「・・・まぁ、行ってみるしかないよ」

 

伊丹が行くと言う判断をすると、倉田が車両を走らせた。



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防衛協力

~イタリカ 南門~

 

イタリカの目の前までやって来た伊丹達はそこでボロボロになっている城壁を見た。

明らかに戦闘になった後であり、リリーはAM MRS-4を持って何時でも戦闘に入れる様にする。

 

「何者だ!敵でないなら姿を見せろ!」

 

城壁に立つ金髪を束ねた騎士風の男がそう叫ぶと、伊丹は困った様な表情を見せる。

 

「どうしようかな・・・」  

 

伊丹がそう呟くと、レレイが徐に立ち上がる。 

 

「私が出る」

 

「いや、どう見ても外は危険だし」

 

「なら、私も行くわ。矢避けの加護をしておけば射られても大丈夫だよ」

 

レレイに続いてテュカまでそう言うと、ロゥリィが手を挙げた。

 

「なら、私も行こうかしらぁ」

 

「ロゥリィもか。はぁ・・・なら俺も行く。他の皆は」

 

「私も行くわ」

 

伊丹の言葉を遮る様にリリーがそう言うと、伊丹達はまた溜め息をついて了承する。

五人は車両から降り門へと歩いて行き、伊丹が門の前に立った。

 

「・・・よし、叩くぞ」

 

伊丹が二、三回程、門を叩く。

 

門を叩いて暫くしても反応がない。

 

伊丹は首を傾げていたその時。

 

「よく来てくれた!」

 

そう叫ぶ声と共に門は開かれ、伊丹は門の扉に顔面を勢いよくぶつけて倒れた。

この状況に四人は唖然としつつも、事の発端である扉越しに立つ赤髪の高級な物と分かる鎧を着ている女性に注がれた。

 

「・・・何やってくれるんですか?」

 

リリーがジト目でそう言うと、女性は少し戸惑いつつも下を見て気絶する伊丹に気付いた。

そして、再びリリーの方を見て一言。未だに

 

「え、え・・・わ、妾・・・が?」

 

「「「「うん」」」」

 

女性の言葉に四人は同時に頷くと、リリーは溜め息をついて伊丹を担ぐ。

 

「兎に角、入れて貰えますか?」

 

「あ、あぁ・・・」

 

リリーは了承を得ると伊丹を担いで中へと入った。

リリーに続いて三人も中へ入った所で、リリーは無線を使って外にいる自衛隊に連絡を入れる。

因みに赤髪の女騎士はテュカに説教されている。

 

「此方、ウルフ。現在、街へと入った。伊丹さんは顔面を強打して気絶、目覚めるまで待機する。どうぞ」 

 

「此方、富田。了解」

 

リリーは一通り報告して、自衛隊が早まった真似をしない様に防ぐと、伊丹の元にやって来て容態を確認する。

まだ起きそうにないとリリーは分かると、取り敢えず顔に連続ビンタを食らわしてみた。

 

「痛たぁ!痛い痛い痛い!」

 

リリーの連続ビンタを受けて飛び起きた伊丹は両方の頬を押さえながらリリーに文句を言う。

 

「何するんですかウルフさん!?」

 

「いえ、気絶してたり眠ってる相手を殴ると目覚めたりするので取り敢えずビンタを」

 

「殴っちゃ駄目でしょ!?そこは揺すって起こす方でしょ!?」

 

「ボスは強烈な蹴りを入れて起こすんだからマシよ」

 

伊丹はリリーの言葉にマジでと言わんばかりの顔でいると、徐に立ち上がり無線で状況を報告し始める。

リリーは伊丹を起こし終え、辺りを見渡すとどう見ても正規の兵士でない者達ばかりで数人の騎士を含め、ボロボロだった。

 

「・・・誰か状況を説明してくれないかしら?」

 

リリーの言葉に兵や騎士、レレイ達も含めて全員指揮官と思われる赤髪の女騎士の方へ一斉に視線を向けた。

 

「わ、妾が・・・?」

 

赤髪の女騎士が自分を指差しながらそう言うと全員一斉に首を縦に振る。

そこに茶髪の女騎士が前に出て高らかに言う。

 

「お前たち帝国第三皇女ピニャ・コ・ラーダに対して無礼であろう!」

 

茶髪の女騎士はそう言い終わると、リリーやロゥリィを除いて伊丹達は驚いて声を挙げた。

 

_________

______

___

 

 

伊丹達はイタリカの現状を城内を歩きながらピニャから聞いていた。

 

イタリカは帝国の貿易の拠点として置かれているが先代イタリカの領主フォルマル伯爵が急死した事でフォルマル伯爵の二人の娘が現当主のミュイ伯爵令嬢の後見人争いが勃発した。

暫くイタリカは二人の嫁ぎ先の兵で治安を安定させていたが、異世界出兵の際に二人の夫が戦死、イタリカに構っている暇がなくなり治安は悪化。

今、分かる様に盗賊どもが押し寄せて来ていると言う事だ。

 

「まさか、あの軍団がこの様な惨事を持って来るなんてね・・・」

 

リリーはそう呟きつつ、デュラン達を思い出す。

 

連合諸王国軍を率いていた王達は自衛隊の監視下の中でアルヌス駐屯地で過ごしている。

デュランは意外と何処でも適用できる器なのか時々、様子見に来るリリーを自分の娘の様に接したりもする。

 

もし、彼らが自分達の国の兵士が賊となって民間人を襲っていると知ったら悲しむだろうと言わんばかりにリリーは思った。

 

「ミュイ殿は仮にも当主とはいえ、11歳。軍を率いろと言うのは酷な話だ・・・故に妾が代わりに指揮をしている」

 

ピニャはそう言い終わると、一つの広い部屋へと入る。

伊丹達も続くとそこには椅子に座る幼い少女がおり、この少女がミュイだと嫌でも分かった。

 

「此方におられるのが先程話したイタリカの現当主ミュイ殿だ」

 

「は、初めまして・・・」

 

ミュイは緊張しているのか声を震わせながらそう言う。

リリーはミュイを見て同情する。

 

幼くして父を亡くして当主になり、二人の姉が争い、そして盗賊の襲撃で危機に陥る等と不幸に見舞われる。

そんなミュイにリリーは可愛そうになってくるのだ。

 

ミュイを上座にピニャ、ハミルトンと伊丹達は向かい合う様に座る。

 

「では、お前達は盗賊の撃退に協力してくれるのだな?」

 

「えぇ、こんな状況じゃ鱗を売るどころではありませんしね」

 

伊丹はそう言うとピニャはイタリカの地図に指を指して配置する場所を指示する。

 

「お前達には南門の守備を任せる」

 

「南門・・・ね」

 

リリーは地図を見て南門を見る。

 

南門は特に変わった地形ではなく、近くに畑等の平地とも言える物しかない。

来た時には畑に生えている作物は無かった為、もう収穫された後だとリリーは考えた。

 

「・・・少々、厄介かしら」

 

潜入において重要な潜める、隠れる場所が極端に少ない地形にリリーは頭を悩ませる。

リリーの潜入技術はビックボスに匹敵はする・・・だが、匹敵するだけでビックボス程の変体的な潜入まではいかない。

 

ビックボスの潜入は悟られない事は勿論、兵士の真横であろうと気付かせないまま進む。

ビックボスなら極端な平地でも対処する事は容易でもリリーには難関だった。

 

「(・・・やるしかないわね)」

 

リリーは溜め息を軽くつきつつ戦いの計画を練る。

 

________

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~05:34~

 

南門の守備を開始した伊丹達は城壁から回りを見張っていた。

リリーは双眼鏡で辺りを見渡していると幾つかマーキングが付いた。

マーキングの付いたのは斥候らしき馬に乗った盗賊が数名だった。

 

リリーは双眼鏡で斥候を見ているとそこに伊丹がやって来た。

 

「どうですか?」

 

「・・・斥候が数名。恐らく私達の事は知られてると思います」

 

「そうだろうね・・・」

 

伊丹はそう言いながら城壁にもたれる。

 

「・・・伊丹さん。この陣営、可笑しくありませんか?」

 

「あぁ・・・南門を守るのは俺やウルフさんを入れて13人のみ。此処を手薄に見せて敵を誘い込み、奥の第二次防衛線を決戦場にするつもりだよあの姫さんは」 

 

伊丹はそう言うとリリーは予感が当たったと考え再び双眼鏡を覗くと、もう斥候はいなかった。

 

「・・・どうせ、敵なのだからと消耗品にしたのでしょうね。でも、あの姫は詰めが甘いわ。一度は突破された南門とは言え、敢えて攻め込んでいない門を攻める可能性だってある。その考えもなく一点集中で守りを固めるのは愚策よ」

 

リリーはそう言うと第二次防衛線の方を見ると、多数の民兵が待ち構えている。

 

「・・・じきに夜になるよ。暗視装置持ってる?」

 

「自前のがあります」

 

リリーはそう言って暗視装置を見せた後、城壁から降りて行った。

リリーは降りる道中、無線を使ってスタッフに連絡を入れた。

 

「私よ。頼みがあるわ」

 

リリーは用件を伝えた後、歩いて行く。



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イタリカ攻防戦

~02:58~

 

太陽が完全に落ち、真夜中の3時近くになる。

リリーは暗視装置を着け、双眼鏡で敵が来ないかを見張っていた。

暗視装置を着けたリリーの視界は暗闇の広がる中でも昼間の様に見えた。

双眼鏡でリリーが辺りを見渡し続ける中、リリーは東から騒ぎ声と明かりが急激に広がるのを感じとり、東を見ると東門付近が燃えている光景を目撃した。

 

「・・・やっぱり」

 

リリーは盗賊が別の門を襲撃した事が当たった事に最悪だと言わんばかりに溜め息をついた。

そこに慌てて走ってやって来た伊丹がやってきた。

 

「ウルフさん!」

 

「分かってる。やっぱり別の門を襲撃したようね・・・伊丹さん。貴方は隊を動かす準備をしてください。私は東門へ向かいます」

 

リリーはそう言うと助走を着ける体勢になると、伊丹は困惑の表情になる。

 

「あの、此処から東門までかなり距離があるんだけど・・・」

 

「問題ない」

 

リリーはそう言い終わると、目を金色に輝かせて走りだし出した。

その速さは軽く自動車並みで伊丹を唖然とさせたまま走り去った。

 

________

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__

 

~イタリカ 東門~

 

東門では既に門は破られ、盗賊が入り込んでいた。

 

東門の守備をしていたノーマは盗賊により殺され、東門を制圧した盗賊は次の目的として奥で柵の向こうに陣取る民兵を死体を投げる、蹴る等して挑発して誘い出そうとしていた。

誘いに乗れば民兵は数が多くとも、練度に勝る盗賊には勝てない。

 

ただ死に場所を求める盗賊の醜い挑発に我慢の限界を迎えた一人の青年が飛び出そうした。

 

だが、青年は飛び出す所か逆に奥へ投げられた。

民兵は青年が投げられた場所を見るとそこには既に東門へとたどり着いたリリーがいた。

 

「・・・そこで見てなさい」

 

リリーは青年にそう言うと、柵の外へと歩いて出た。

盗賊はリリーを見ていやらしい目付きで見ており、リリーをどういたぶろうかと考えている。

 

「おいおい、嬢ちゃん。一人で出てきたら駄目だろ?」

 

「それとも俺達に遊ばれたいのか?」

 

盗賊が笑ってリリーに手を出そうとした時、突然盗賊の腕をリリーが握ると素早く捻った。

捻られた盗賊は大きな叫び声を挙げてリリーから手を放せようともがくが全く、放せなかった。

 

「このクソガキが!」

 

盗賊の一人が剣を手にリリーの後ろから斬り掛かるも、リリーは見えていると言わんばかりに捻っていた盗賊を斬り掛かった盗賊に投げつけ、右手で腰からAM D114を取り出して盗賊の頭や胸に発砲する。

 

急所を当てられた盗賊は次々と倒れて行き、次にリリーは左手から近接戦闘用のナイフを取り出してすぐ近くにいる盗賊を斬りつけ止めの発砲をしていく。

 

これはビックボスがかつて使っていた独特のCQCを参考にしたリリー独自のCQCだった。

右手にハンドガン、左手にナイフにして投げ技を殆どしない代わりに武器による戦闘に特化させた物だ。

近づいてくる敵にはナイフを使い怯ませハンドガンで撃ち、中距離ならハンドガンのみで戦闘を行う。

 

盗賊はリリーのCQCに次々と倒れて行く中、AM D114の弾が切れた。

盗賊はリリーからの発砲が止むと好機と見て、攻撃を仕掛ける。

 

「今だ!今までの借りを返してやれ!」

 

盗賊の一人がそう叫ぶと、盗賊達は次々と向かってくる。

そこでリリーはAM D114を真上に放り投げると、素手で盗賊を殴り、蹴り、投げ飛ばす等で対応し、一通り片付くとAM D114をキャッチして素早くリロードして構えた。

 

リリーの勇猛さに盗賊は怯んでいると、そこに真上から何かが降りてきた。

リリーは目を凝らして見てみると、そこにはロゥリィが巨大なハルバードを手に立っていたのだ。

 

「ロゥリィ・・・?どうして此処に?」

 

リリーはそう質問するとロゥリィは楽しそうに笑う。

 

「ふふ、貴方だけ戦いを楽しむなんてズルいわぁ。私も混ざるわよ」

 

「・・・戦いを楽しんでない。寧ろ、今すぐに終わらせたいのよ。こんな下らない戦いを」

 

リリーがそう言うと、盗賊はリリーの下らない戦い発言が非常に不愉快なのか怒りの表情になっている。

 

「貴様・・・戦いが下らないだと?我々はエムロイへの讃歌として殺戮と死を捧げているのだぞ・・・それが下らないだと!!!」

 

「それが下らないのよ。何が殺戮よ・・・何が死よ・・・本当に、下らない」

 

リリーがそう言い終わると盗賊は怒りのあまりリリーに向かっていく。

リリーは目を再び金色にすると素早い動きで盗賊をCQCで倒していく。

ロゥリィもハルバードで盗賊を凪ぎ払っている。

 

二人で盗賊を相手に暴れていた時、向こうから車両が走って来ると、自衛官の栗林が銃にナイフを着けた所謂、銃剣にして盗賊に突っ込んできた。

 

「栗林さん。貴方まで」

 

「私だって戦えますよ。自衛隊ですから」

 

栗林はそう言うと向かってくる盗賊を相手に見事な格闘術を見せる。

リリーは戦闘をしながら栗林を見ていると、オセロットからの無線が入る。

 

《あの自衛官、かなりの腕だ。是非、ダイヤモンドドッグスのスタッフに加えたい物だ》

 

「流石に無理でしょ。彼女は自衛隊どころか日本を捨てたりする様な人には見えませんよ」

 

《そうか。あの格闘の技、良いセンスだと思ったんだが・・・》

 

ビックボスに続く人材オタクのオセロットがそう言い終わった時には盗賊の殆どが駆逐されていた。

伊丹達の援護もあって後ろを心配する事もなく戦闘に専念出来た事もあるが、盗賊にはまだ五、六百程の軍勢がいる。

リリーは流石に疲れると思った時、無線が入った。

 

《此方、ピークォド。これより支援攻撃を開始する》

 

「分かったわ。でも、街中で撃たないでよね」

 

《分かってるよ。ウルフ》

 

リリーはそれを聞いて空を見上げると、ダイヤモンドドッグスの武装ヘリが現れた。

 

「おい一丁、音楽を鳴らすか!」

 

「OKだぜ!」

 

ヘリの操縦席に座る二人はそう言ってスイッチを押すと、装備されているスピーカーからワルキューレの騎行が鳴り響いた。

盗賊達が動揺していると、武装ヘリの対地ミサイルが盗賊達に牙を向いた。

激しい爆発で盗賊達が吹き飛ぶと、続いて機体の左右に取り付けられた機銃による掃射が始まり、外にいる盗賊達は逃げ惑ったり抵抗したりするも、逃れられる者はいなかった。

 

「これで外は大丈夫ね」

 

リリーはそう呟いた瞬間、リリーの耳に大量の音が聞こえた。

その音は今、流れているワルキューレの騎行と同じ物でリリーはまさかと考えていた時、案の定、自衛隊の武装ヘリが数機現れた。

 

「ダイアモンドドッグスに遅れを取るなよ!」

 

自衛隊の武装ヘリも攻撃に入った事で盗賊の軍勢は更に速く数を減らしていく。

リリーは聞いてないと言わんばかりに溜め息をつくと、性懲りもなく向かってくる盗賊をCQCで凪ぎ払う。

 

《ウルフ。そろそろ、弾薬が無くなるだろ?受けとれ!》

 

ピークォドがそう言うと、空から段ボールが降ってきた。

そして、そのまま段ボールは城壁にいた盗賊の頭らしき男の頭に当たってしまい、頭はそのまま落ちてロゥリィのハルバードに突き刺さる。

 

《・・・今のは事故だ。そう、事故だ》

 

ピークォドの言い訳にリリーは一言だけ言う。

 

「・・・馬鹿」

 

《そりゃねぇだろ!あれは不可抗力だぞ!》

 

ピークォドの言葉にウルフはまた溜め息を着くと、無線から別の声が聞こえた。

 

《城壁内の敵を掃討する。至急、退避されたし》

 

それは自衛隊からの退避警告で、リリーはそれを聞いてすぐに離れた。

ロゥリィは伊丹に、栗林は冨田に担がれて退避すると掃討が開始された。

 

自衛隊の武装ヘリによる機銃掃射に盗賊は堪らず倒れていき、遂に盗賊は戦意喪失する。

 

《此方、ピークォド。支援攻撃を終了、次の指示があるまで待機する》

 

「此方、ウルフ。了解。お疲れ様」

 

リリーは戦闘がやっと終わったと思いつつ、ファントムシガーに電子の火を着けて一服しようとした時。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

突然の叫び声が響き渡り、リリーはその方向から来る足音に反応し、素手によるCQCで向かってきた相手を投げて取り押さえた。

 

「・・・子供?」

 

リリーが取り押さえたのは子供で、兜や鎧まで着けている事から盗賊の一味と推測した。

 

「貴方・・・戦いは終わってるのよ。無駄な行為は止めなさい」

 

「終わってないぞ!父ちゃんを殺したお前を殺してやるまでは!」

 

「ッ!?」

 

子供が無駄な抵抗をしてきたのはリリーによって殺された盗賊の中に子供の親がいたのだ。

リリーはまだジタバタしている子供を押さえつつ、放心しているとヘリから降りてきた自衛官達がやって来て子供を連れていった。

 

リリーはその姿を見守った後、虚しげに自分の手を見る。

そこには、先ほどまで戦闘をしていたとは思えない程に綺麗な手があったが、今のリリーの目には血だらけの手にしか見えていなかった。

 

「・・・復讐、ね」

 

リリーはそう呟いた後で、今度こそファントムシガーを吸った。



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緊急ミッション

盗賊の殲滅を終えたリリーはファントムシガーを吸いながら自衛隊の盗賊捕縛の作業を眺めていた。

盗賊は性別や年齢関係なく一ヶ所に集められ、リリーを狙った少年も例外は無かった。

 

リリーはファントムシガーを片手に軽く溜め息をつくと、向こうから高い動物の雄叫びがリリーの耳に入った。

振り替えると、そこでは茶色の毛並みをした馬が暴れており手がつけられない状態だった。

 

自衛隊の一人が馬を射殺しようと銃を構えたのを見てリリーは一瞬でかけよると自衛隊員の銃を押さえた。

 

「待って」

 

「ウルフさん!待ってと言われましても・・・」

 

自衛隊員は戸惑っていると、リリーは馬の方へと歩み始めた。

自衛隊員がリリーを止めようとしたり馬に銃口を向けている中、リリーは馬の近くまやって来た。

馬は落ち着きがなく暴れ続けており、リリーは暴れる馬にそっと近づくと手綱を手にして馬に素早く跨った。

 

馬はリリーを振り落とそうと暴れるが、リリーは振り落とされない様に乗りつつ馬の手綱を勢いよく引っ張った。

馬は大きく前足を上げて落とすと、馬は多少暴れはするものの落ち着きを取り戻す。

 

「・・・落ち着いたわね」

 

リリーはそう呟くと軽く馬を撫でる。

 

「馬の扱いに慣れているのですか?」

 

「えぇ・・・戦場で車両での移動が出来ない、使えない事があるわ。そんな時に馬の様な移動手段が必須になるから扱いに慣れていないといけないのよ」

 

リリーの言葉に自衛隊員達は納得した。

確かに車両が使えるなんて贅沢な話が常にある訳ではない。

特にこの特地では車両なんて物を調達する事など不可能だ。

 

「・・・俺、乗馬を習った方が良いかな」

 

自衛隊員の一人がリリーの馬に跨がる姿を見ながらそう呟く。

これが後に、自衛隊初の騎兵部隊である第一騎兵隊と呼ばれる現代において非常に例外的な騎兵精鋭部隊を作る切っ掛けになるとはこの時は誰も知らない。

 

リリーは馬を落ち着かせた後、降りて回りにいた住民に聞く。

 

「この馬は誰の?・・・かなり良い馬だわ。こんな馬はそうはいないわ」

 

「その馬は・・・盗賊の一人が乗っていた物です。あそこに寝かされている盗賊の死体がそうです」

 

リリーは見てみるとそこにはまだ年若い鎧で武装した少女が深い眠りに着くように死んでいた。

身なりからして元は貴族か何かの出だとリリーは直感した。

 

「そう・・・なら、この子を貰っても良いかしら?」

 

「構わないと思いますが・・・ご自身の愛馬にするおつもりですか?」

 

「えぇ・・・こんな良い馬をほって置くなんて出来ないわ」

 

リリーは無表情ながらも何処か機嫌の良い雰囲気を出しながらそう言うと自衛隊員の一人に近づく。

 

「この馬を貰っても良いかしら?彼らは構わないと言ってるけど?」

 

「構わないなら良いと思いますが・・・」

 

「そう。なら貰うわ」

 

リリーはそう言って馬にフルトン回収装置を取り付けているとオセロットからの無線が入る。

 

《馬か・・・この広いファルマート大陸を移動していくには打ってつけだな》

 

「はい。しかもかなり良い馬です。これからの移動を大きく助けてくれる存在になってくれると思います」

 

《そうだな。ボスが乗るDホースも良い馬だ・・・その馬がDホースの様な存在になるかは・・・お前次第だと思えよ》

 

オセロットはそう言って無線を切ると、同時に馬はフルトン回収装置に浮かされてそのまま飛んでいってしまった。

 

「回収をお願い。ちゃんと連れて帰ってよ?」

 

《了解。ちゃんと連れて帰るよ》

 

ピークォドがそう言うとリリーはそれを聞いて思い出したかの様にピークォドに伝える。

 

「あと、後でライディングゾーンへ来て。一度、アルヌスへ戻るから」

 

《了解》

 

リリーは伝え終えると元の場所へと戻って行った。

それから暫くしてライディングゾーンへやって来た武装ヘリにリリーは乗り込み、そのままアルヌスの臨時拠点へと帰還していった。

 

_________

______

___

 

~17:35~

 

リリーは武装ヘリの窓から外を眺めていた時、リリーの元に無線が入った。

その無線はミラーの物でリリーは無線を取った。

 

《ウルフ。帰還中に悪いが緊急ミッションだ。イタリカから帰還中の第三偵察隊の伊丹耀司が薔薇騎士団と言う組織の捕虜にされてしまった》

 

「伊丹さんが捕虜?・・・ちょっと待って。イタリカから去る前に皇女のピニャと条約を結んだと聞きましたが」

 

戦いの後、伊丹は自衛隊の代表として終結の為の条約をピニャと結んでいたのだ。

その中に互いに手出ししてはならない事も含まれていたのだ。

 

《入れ違いだろうな。此方は無線を使えるが彼等は人による伝言、つまり伝令によって情報を得る。例えピニャが条約を守ってもその部下に伝わっていなければ意味はない》

 

「・・・中世とは面倒なのですね」

 

リリーは改めて中世の面倒な文明レベルに頭を抱えると、ミラーはミッションを伝える。

 

《お前にはこれからイタリカに戻り伊丹耀司を救出する事だ。警備は民兵とイタリカへの入城を確認された薔薇騎士団だ。警備は厳しいが第三偵察隊の面々と合流し、彼等と協力しつつ何としても伊丹耀司を救出するんだ》

 

「了解」

 

リリーはそう言うと無線は切れた。

 

「・・・聞いた通りよ。イタリカ付近へ向かって」

 

「了解」

 

リリーの指示で武装ヘリはイタリカ付近へと方向転換し、飛び立って行く。



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救出作戦

~イタリカ郊外~

 

~19:54~

 

リリーはイタリカ付近まで武装ヘリで来ると送られて来た今回のミッションが録音されているブリーフィング用のカセットテープを回した。

 

《今回、皇女ピニャとの条約を結んだ伊丹耀司がピニャの部下である薔薇騎士団に捕縛された。諜報班の報告によると伊丹は激しい暴行を加えられた後、縄に縛られ馬に引き摺られてイタリカへ向かったそうだ。これは帝国側や自衛隊側にも予想だにしなかった条約違反ではあるが、このまま事が大きくなれば余計な争いを生みかねない。ウルフ。至急、第三偵察隊と合流し、伊丹を救出してくれ》

 

カセットテープがそこで切れると、ライディングゾーンに着いたのか武装ヘリはゆっくりと降り立ち始めた。

リリーは武装ヘリの扉を開けると足を出してベルトを着けて待機する。

武装ヘリは地面スレスレの所まで降りると、リリーはベルトを外して地面へと降りた所で武装ヘリは飛び立っていく。

 

《気を付けて行ってこい。ウルフ》

 

ピークォドの去り際の言葉をリリーは聞いた後、早速、第三偵察隊がいるとされるポイントを端末に出した地図で確認してから合流すべく向かっていく。

因みに手に入れた馬は既にアルヌスへ運ばれた後である為、留守番だ。

 

_________

______

___

 

~20:13~

 

リリーは合流地点にやって来ると、そこには暗闇に紛れる様に伏せてイタリカを双眼鏡で偵察する第三偵察隊の面々がいた。

リリーは体を屈ませながら近づくと、自衛官の倉田の肩に手を置く。

 

「うぉッ!?な、何すか!」

 

倉田は驚いて振り替えり、他の面々も振り向くとリリーの姿が入った。

 

「倉田さん。せっかく上手く暗闇に紛れてるのにそんな大声を出すのは落第点ですよ」

 

「いやいやいや、いきなり肩に手を乗せられたら驚きますよ・・・心臓が止まるかと・・・」

 

倉田はそう言って溜め息をつくと、リリーは双眼鏡を使ってイタリカの警備をしている兵士達にマーキングしつつ、状況を聞く。

 

「状況は?」

 

「分かりません。隊長が此処に連れ去られたのは分かっているのですが・・・肝心の隊長の安否が不明です」

 

「・・・そう。なら、出来る限り探り出して見つけないといけないわね。私が潜入する。私が伊丹さんの居場所を見つけたら無線を寄越すから場所を聞いたら助け出して」

 

「分かりました」

 

リリーはそれを聞くと行動を開始した。

素早く、静かにイタリカに接近すると巡回する民兵二人がやって来た。

リリーは素早く身を隠すと民兵二人が話している。

 

「くそ、あの薔薇騎士団とか言う奴ら偉そうにしやがって・・・!」

 

「全くだ。戦いもしてない癖に偉そうに命令ばかり・・・」

 

民兵二人は薔薇騎士団に不満足を漏らしつつ歩いて行くとリリーは暗闇に紛れて進んで行く。

途中、多くの民兵が巡回していたが見つからない様に突破したり、気絶あるいは麻酔で眠らせていった。

 

「・・・ん?」

 

リリーは更にイタリカ内を探索していた時、薔薇騎士団の騎士が歩いているのを見つけた。

騎士を見つけたリリーの元にミラーからの無線が入る。

 

《薔薇騎士団の騎士だ。奴らを尋問すれば伊丹の居場所が分かる筈だが・・・やり方は任せる》

 

ミラーの言葉を聞くとリリーは静かに素早く近づくと騎士の首を締めナイフを突き付ける。

 

「伊丹さん・・・いや、貴方達が捕虜にした男は何処?」

 

「だ、誰が教えるものか・・・!」

 

「次は殺す。答えろ、今すぐ」

 

リリーは軽くそう脅すと、騎士は流石に死ぬのは嫌なのか身震いした。

 

「・・・イタリカの・・・フォルマル邸に・・・そこにポーゼス様達が連れていった・・・」

 

「・・・そう、ならもう用は無いわ」

 

リリーはそう言って首を絞めに掛かる。

騎士は必死に悶えるがリリーの力には勝てず、そのまま気を失った。

 

《聞いたな?》

 

ミラーはそう聞くと、リリーは無線を手にした。

 

「此方、ウルフ。伊丹さんはフォルマル邸にいると情報を手に入れた。至急、フォルマル邸に向かって。道中の兵士は数人程片付けてるから少しずつ楽にして進んで」

 

《分かりました。これより、フォルマル邸に向かいます》

 

無線が切れると、リリーもフォルマル邸に向けて歩いて行く。

 

_________

______

___

 

~20:45~

 

リリーはフォルマル邸までやって来ると、侵入経路を探す。

辺りを回って邸宅を見ると、窓が一つだけ空いていた。

リリーはそこから物音を発てない様に入ると麻酔銃を取り出して構えながら進む。

 

邸宅内を静かに進んでいると、廊下の向こうから足音を聞き、リリーは素早く身を隠す。

廊下を渡って来たのは猫の様な耳を生やした眼鏡のメイドで、リリーに気付かないまま通り過ぎて行った。

 

《あれが獣人と言う奴か・・・気を付けろ。相手は人間の倍以上の聴覚や嗅覚を備えている可能性が高い。万が一の時は気絶させるか眠らせるんだ》

 

ミラーはそう言って無線を切ると、リリーは気を取り直して進む。

リリーは暫く進むと、大きな両開きの扉が目に入り、近づくと声が聞こえる。

 

「あぁ、どうすれば・・・」

 

「ピニャ様。やはり此処は謝罪されてはどうかと」

 

「妾に頭を下げろと?」

 

「では、戦いますか?盗賊の大軍を殲滅した自衛隊と怪鳥の戦乙女と」

 

「・・・分かっている」

 

中から聞こえてくる声を聞いたリリーの元に無線が入る。

 

《やはり事故か・・・だが、奴ら謝罪一つに悩んでいるようだな》

 

「報復、しますか?」

 

《よせ。俺達の目的は伊丹の救出。余計な争いはせず、伊丹を連れ戻す。奴らの不手際なら此処は部屋に入って直接返還を要求しろ》

 

「もし、抵抗したら?」

 

リリーの言葉にミラーは迷わず答える。

 

《お前の好きな様にしろ。ただし、殺すな》

 

「了解」

 

リリーは麻酔銃をしまうと両開きの扉を開け放った。

突然開け放たれた扉に驚きの顔をする椅子に座る赤髪のリリーと同い年と思われる女と少し焼けた肌をしている男、更に金髪ロールと銀髪の短髪の女がいた。

 

「な、何者!?」

 

金髪ロールの女は腰に差す剣を抜いてくるが、リリーは恐怖も抱かずそのまま近付いていく。

 

「くッ・・・この!」

 

「よせポーゼス!」

 

ポーゼスと呼ばれた女は平気で近付いてくるリリーに恐怖を抱いたのか斬り掛かるも、リリーは素早く剣を避けポーゼスの片腕と鎧を掴むと勢いよく投げつけた。

 

「ぐはぁッ!?」

 

ポーゼスは床に叩きつけられる。

ポーゼスは床に叩きつけられると気絶してしまい、リリーはそれを確認するとピニャを見る。

 

「・・・貴方がピニャ殿下ですか?」

 

リリーはそう言うとピニャは背筋が凍った。

イタリカ攻防戦において飛び出そうとした民兵の若者を奥に投げた後、増援が来るまで無傷で暴れまわったリリーが今、目の前にいる。

その現実がピニャの頭に響く中、リリーはまたゆっくりと近づく。

 

「今回の件は事故であるのは知っています。だから伊丹さんは返して貰います。良いですね?」

 

リリーの言葉にピニャは頷く。

今のピニャは恐怖で声が出ず、頷くしかなかったからだ。

 

リリーはピニャの頷きを確認するとリリーが開け放った扉から足音が聞こえてきた。

リリーは振り向くとそこには年輩の女性がいた。

 

「お待ちしておりました。伊丹様は部屋でお休み頂いております。よろしければご案内致しますが?」

 

「お願い。・・・他に誰か来てないかしら?」

 

「はい。伊丹様のお仲間達が既に伊丹様の元におられます」

 

リリーはそれを聞いて無線を手にする。

 

「此方、ウルフ。伊丹さんを見つけましたか?」

 

《此方、富田。隊長は無事です》

 

リリーはそれを聞いて無線を切ると、年配の女性の方を向く。

 

「改めてお願いするわ。伊丹さんの所へ案内して」

 

「では、此方へ」

 

リリーは女性に連れられて伊丹の元へと向かった。

 

「所で、怪鳥の戦乙女とは何ですか?」

 

「貴方様の異名です。あの怪鳥を操るだけでなく、あれだけ勇猛な戦いをする可憐な少女・・・まさに戦乙女と言う訳です」

 

リリーはそれを聞いて聞かなければよかったと心底後悔して無表情のまま顔を赤くした。



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救出成功?

リリーは女性の案内で伊丹の元に来るとそこでは楽しげに話す伊丹達がいた。

リリーは安堵してベットに寝かされている伊丹の元へ行く。

 

「伊丹さん」

 

「あ、ウルフさん・・・」

 

リリーは伊丹の元に近づくと安否を確かめると、リリーは安堂する様に溜め息をついた。。

 

「特に障害が残る様な傷は残してませんね。全く・・・此処は仮にも戦場、無茶をしないでください。偶発的な事故だったから良かった物の・・・」

 

「あはは・・・すみません」

 

伊丹は苦笑いで謝ると、本当に分かっているのかとリリーは疑ってしまう。

 

「それで?彼女達の処遇はどうするつもり?」

 

リリーの問いに伊丹の世話をしていたメイド達が緊張した面持ちで見ている。

どうやら自衛隊がイタリカを滅ぼすと考えている等がリリーでも読める。

だが、厳しい処遇はあっても自衛隊は自衛隊の行動の出来る範囲でしか行動はしない・・・つまり、まずイタリカは滅びないし、戦闘にすらならない事をリリーは知っているから聞いたのだ。

 

「いや、今回は事故だしお咎め無しと言う事で」

 

「そう・・・別に貴方がそう決めたなら良いけど」

 

リリーは素っ気なく言うと近くにある椅子に座った。

 

「結局、助けに来た意味は無くなったわ。全く・・・お互いにとんだ災難かしらね」

 

「あはは・・・苦労を掛けてすみません。本当に・・・」

 

伊丹は目線を反らしながらそう言うと、リリーは双眼鏡を取り出して眺めながら言う。

 

「別に良いわ。それよりも良い人材がいなかったのが残念なのよ」

 

リリーの人材集めもとい敵兵の拉致行為は敵兵の捕縛と言う事で一応認められている。

リリーの集めた帝国兵や騎士に傭兵等は骨は折れるが、言う事を聞くようになると段々馴染んでいき、ダイアモンドドッグスの今ある班に配属され、銃等の火器は流石に与えてはいないが、役に立っている。

 

「そういえば・・・どうやって兵士の才能を見抜いているんですか?どの人材も的確に才能にあった班に置いていってますし」

 

倉田がそうリリーに聞くと、リリーは双眼鏡を見せた。

 

「この双眼鏡よ。これはね、相手の能力、スキルを見る事が出来てマーキングも可能にしてあるの」

 

「へぇ、じゃぁ自分はどんな感じになんすか?」

 

リリーは倉田に言われて双眼鏡を見てみると結果はこうなった。

 

戦闘C

 

研究E

 

拠点C

 

支援A

 

諜報B

 

医療C

 

 

「・・・平凡ね」

 

「平凡すか・・・」

 

リリーの言葉にがっかりする倉田の横から栗林が来た。

 

「じゃぁ私は!」

 

リリーは双眼鏡を覗くと結果はこうなった。

 

戦闘S+

 

研究E

 

拠点C

 

支援D

 

諜報C

 

医療C

 

スキル:"格闘徽章"

 

ユニークスキル説明:CQC及び接近戦においての戦闘が大きく向上。

 

「戦闘能力が高いわ」

 

「よっしゃ!」

 

栗林は素直に喜ぶと伊丹が指を自分に指しながら聞いてくる。

 

「じゃぁ、俺は?」

 

「貴方も?」

 

「興味本意で・・・」

 

伊丹の言葉にリリーは双眼鏡を覗き込むと飛んでもない結果が出てきた。

 

戦闘S+

 

研究C

 

拠点C

 

支援S+

 

諜報A

 

医療B

 

スキル:"怠けた精兵" レンジャー 

 

ユニークスキル説明:普段は怠けているが、いざとなると自身の能力を大幅に向上させる。

 

「・・・嘘。かなり高いし、しかもスキル二つも持ってるだけでもあり得ないのに、ユニークスキルまであるなんてかなりあり得ないわ・・・!」

 

「もう一つは兎も角・・・隊長はレンジャーでしたね・・・そうえば」

 

富田はそう言うと伊丹は回りをキョロキョロと見渡して動揺していると、リリーは伊丹の両手を握った。

 

「伊丹さん!ダイアモンドドッグスで働きませんか!貴方の様な規格外の人材はなかなかお目に掛かれないわ!ボスに頼んでお給料を多く貰える様にするから!」

 

「お、落ち着いて!?ウルフさん!」

 

リリーの人材マニア魂に火を付けてしまった伊丹は普段から大人しげなリリーが此処まで興奮するのは見た事もない為、焦る。

 

他の隊員達も唖然としてしまっている中、ミラーからリリーへの無線が入る。

 

《落ち着けウルフ!お前は何でこう珍しい人材を見つけたら興奮するんだ!》

 

「ミラーさん!ですが、ユニークスキルを持っている時点で回収したいです!もう回収してマザーベースに送ってしまいたいです!だからもう早くフルトンしたいです!」

 

《送るな!拉致になるし、フルトンしたら負傷している伊丹が死ぬだろうが!兎に角落ち着け!》

 

リリーはミラーの言葉を聞いて深呼吸し始め、伊丹は無線から聞こえた死ぬぞと言う言葉に背筋が凍った。

 

「・・・落ち着きました」

 

《はぁ・・・全く。伊丹の無事は確認されたんだ。アルヌスに帰還しろ》

 

「了解しました」

 

リリーは無線を切ると立ち上がった。

 

「では、私はアルヌスに帰還します」

 

「はい。ご迷惑をお掛けしました」

 

伊丹の言葉を聞いてリリーは少し頭を下げてから外に出た。 

リリーはその後、ヘリを呼んで今度こそアルヌスへと帰還していった。



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日本へ

~アルヌス駐屯地 ダイアモンドドッグス臨時拠点~

 

リリーは帰還後、自身の部屋で参考人招致に備えて身支度をしていた。

標準型戦闘服から軍人が着るような平服を着て、ダイアモンドドッグスのベレー帽を被っていた。

 

「・・・これで良いわね」

 

リリーは自分の見た目に何も問題は無いと確認すると一息つく。

そこにリリーを呼びに来たスタッフがやって来た。

 

「ウルフ。そろそろ行くぞ」

 

「分かったわ」

 

このスタッフはリリーのお目付け役として同行する事になっている。

何故、お目付け役が必要なのかと言うとリリーは19歳。

日本では間違いなく未成年である為、念のため保護者としてスタッフを付けておく事をミラーが指示したのだ。

 

「全く・・・面倒くせぇ事になったな・・・」

 

「しょうがないわよ。一応、アルヌスは日本の物って事になってるんだから」

 

リリーは面倒くさそうな雰囲気を出しつつも仕方ないと割り切った。

リリー達は日本に繋がる門の前へ来ると、そこには自衛隊の平服姿の伊丹、栗林、富田等の第三偵察隊とレレイ、テュカ、ロゥリィ等のリリーと同じく参考人招致に呼ばれた三人がいた。

 

「お待たせしました伊丹さん」

 

「ウルフさん・・・と」

 

「テファニだ。暫く世話になる」

 

ティファニは手を出すと、伊丹はそれに答える様に握手した。

場の雰囲気が和み始める中、一台の黒塗りの車がやって来た。

車は止まると運転席からアルヌス駐屯地に所属する柳田が降りてきた。

 

「悪い悪い。手続きに手間どっちまった」

 

柳田はそう言って後部座席の扉を開けるとそこからピニャとリリーが投げ飛ばして気絶させたポーゼスの二人が出てきた。

リリーは二人を凝視した後、伊丹の方を見る。

 

「伊丹さん。何故、あの二人が?」

 

「いや、ピニャ殿下が直接謝罪したいと・・・」

 

伊丹は困った様な表情でそう言った後、柳田の所へ行って何か話している。

リリーはその光景を眺めていると、話は終わったのか伊丹が戻ってきた。

 

「・・・じゃぁ、行きましょうか」

 

伊丹は苦笑いしつつそう言うと閉じられていたドームの扉がゆっくりと開かれていき、中にある門が姿を現した。

リリーは門似足を踏み入れようとした時、オセロットからの無線が入る。

 

《リリー。分かっているとは思うが、日本には武器は持ち込めない。万が一の時は現地で調達してくれ》

 

「分かったわ」

 

《それと、今回のゲストはお前だけじゃない。その辺は覚えておいてくれ》

 

「・・・?。了解しました」

 

オセロットの言葉が分からずに返答すると、無線が切れた。

リリーは日本へと赴くべく、門の中へと足を踏み入れた。

 

_________

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~日本~

 

ゲートを潜り終えると最初に目にするのは現代の象徴とも呼べるビル等の大きな建物が建ち並ぶ銀座の町だった。

伊丹達やリリー、ティファニには当たり前の光景だが特地から来たレレイ達には摩天楼の様な光景だった。

 

伊丹は手続きの為、係の所に行く間、リリーは普段から武器を装備している為、あまり落ち着けずにいると向こうから三人の男達がやって来た。

 

「伊丹二尉」

 

ロングコートを羽織った男がそう言って伊丹の元へと近づいていく。

リリーは何処か気に入らないと思っていると男は続ける。

 

「情報本部から参りました駒門です。皆さんのエスコートを仰せつかっております」

 

「お宅、公安の人?」

 

「分かりますか?流石は英雄だ」

 

駒門は嫌みたらしくそう言う。

 

「たまたまだよ」

 

「たまたまねぇ・・・。あんたの事は調べさせて貰ったよ。給料泥棒と呼ばれてるあんたが何でレンジャーなうえにSなんだか?」

 

駒門のSと言うと言葉に栗林がもはや女の子とは思えない叫び声を挙げた。

 

因みにSとは、特殊作戦群・・・通称、特戦群。

 

米陸軍のグリーンベレー、デルタフォース等を範として編成された自衛隊の特殊部隊だ。

 

「嘘よぉ!嘘だと言って!こんな人がレンジャーなうえに特戦群!?」

 

「悪かったな」 

 

伊丹はそう言い、駒門は笑っている。

リリーはそれを聞いてやはりただ者ではなかったと確信し、より一層に伊丹を勧誘しようと目論見始める。

 

そんな状況の中、ティファニの所にオセロットの無線が入る。

 

《ティファニ。リリーがまた人材魂に火を着けたら・・・》

 

「止めます。全力で止めますから心配しないでください」

 

ティファニは胃がチクチクと痛むのを耐えながらそう返答する。

伊丹達は駒門のエスコートで輸送用のバスに乗って移動を開始した。

因みに栗林はバスの後ろの席で現実を見られずに落ち込んでいる。

 

_________

_____

___

 

~東京 銀座~

 

バスは伊丹達を乗せて銀座の町を走る。

 

レレイ達は初めて見る銀座の町並みに興味津々で見ている。

 

「あれ何かしら?」

 

「木に装飾が施されている」

 

「何かのおまじないかしら?」

 

三人はクリスマスツリーを見てそう言うと、リリーは彼女達に説明する。

 

「あれはクリスマスツリーと言って今のこの日、クリスマスに飾り付けられるの。知恵の樹と象徴され、聖樹とも別名で呼ばれているわ。言っておくけど、あれは普通の木だからね」

 

リリーの説明に三人は納得すると、次々とリリーに質問してはリリーはそれを返していく。

それを繰り返していく内に最初にやって来たのはスーツ等を扱う店だった。

 

そこでテュカはレディスーツの試着をすると、スリムな体型とラインが上手く合わさってとても似合っていた。

 

「へぇ、スタイルが良いとスーツも似合うわね。レレイとロゥリィはどうする?」

 

「いや、これで良い」

 

「私もこれ、神官の正装だもの」

 

二人はそう言うと伊丹は会計を済ませた。

リリーとティファニは元から平服なのでスーツは必要なかった。

 

次に昼食の為、牛野家にやって来た。

出された牛丼にレレイ達は美味しく食べていると、向こうの席からティファニが大声で泣いていた。

 

「旨い!旨いぞ!うぅ・・・!」

 

「て、ティファニさん・・・!少し静かにしてください・・・!」

 

「だってよ・・・アメリカのレーションのせいで旨い物が食えなくてよ・・・!」

 

ティファニはガッツキながらそう言うとリリーは溜め息をついた後、伊丹達と店員の方へ向いて申し訳なさそうに頭を下げる。

 

昼食を食べた後、伊丹達は遂に国会へとやって来た。

今回の炎龍の被害での審議とダイアモンドドッグスが雇われた経緯等の議題がある。

 

リリーはバスから降りた後、ピニャとポーゼスがいない事に気付いて伊丹に聞いた。

 

「伊丹さん。あの二人は何処へ?」

 

「あぁ、あの二人は非公式での来日だから別の会場に行くんだよ」

 

伊丹の言葉に納得すると、リリーは国会議事堂へと足を踏み入れて行く。



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参考人承知

~東京都 国会議事堂~

 

国会議事堂内では参考人招致に呼ばれた伊丹やレレイ達、そしてリリーが来るのを待っている議員でいっぱいだった。

暫くざわつく国会議事堂内に伊丹達が入って来ると、待ち受けていた記者達が一斉にシャッターを切った。

 

テレビ局の放送も伊丹達の事を伝えており、世界が注目していた。

 

伊丹達は席に着くとさっそく、参考人招致が始まった。

 

「それでは答弁を始めてください」

 

国会議事堂を纏める委員長がそう言うと野党の女性議員である幸原が特地の被害者数約150人と書かれたボードを立てた。

 

「単刀直入に申します。特地における特地甲種害獣、通称ドラゴンによる被害は何故でしょうか?」

 

「伊丹二尉」

 

委員長に促されて伊丹は席を立って答弁台に行くと説明を始める。

国会議事堂にいる議員達は銀座の英雄とされる伊丹が真面目な話をすると思っているが、伊丹はそれを嘲笑うかの様に発言を始めた。

 

「それは・・・ただ、ドラゴンが強かったからだと思います」

 

「なッ!?何をふざけた事を言っているのですか!150人の犠牲者を出したのですよ!」

 

「それに関しては残念だと思います」

 

「なら、自衛隊の非を認めると言う事ですね?」

 

幸原はそれを言うとニヤリと笑った。

リリーはその顔を見逃さず、幸原は自衛隊の非を炙り出したいだけだとすぐに分かったが、伊丹が自分が不利になるような事はしないともリリーは分かってもいる。

 

その為、伊丹は幸原の予測を外す言葉を出した。

 

「いえ、不足していたのは銃の威力です!」

 

「・・・は?」

 

「自分達が扱う銃はドラゴンに対して豆鉄砲同然でしたよ。もっと、強力な武器があればと・・・例えばレールガンとか」

 

幸原は伊丹を責めようとした時、一人の議員が手を挙げ委員長が当てた。

 

「えぇ・・・伊丹二尉が言う事は大方間違ってはいません。ドラゴンから回収した鱗を分析した結果、モース高度の9と硬い物質が検出されました。火を吐き、空を飛び、銃では歯が立たない装甲・・・まさしく空飛ぶ戦車と言えるでしょう」

 

議員がそう言い終えると、幸原は伊丹を責めるのを諦めた。

幸原は次にレレイを責めるも自衛隊に非は無いと断じられ、テュカも同じだった。

そして、次に目を付けられたのはリリーだった。

因みに今回は任務と言う訳ではない為、本名を使っている。

 

「リリー=エルクフさん」

 

名前を呼ばれて答弁台に立ったリリー。

その姿を議員達はざわつく。

 

「まだ若いな・・・」

 

「まさか、本当に19歳か・・・?」

 

「あんなに若いのに傭兵か・・・」

 

「あの真っ赤な髪は染めてるのか・・・?」

 

それぞれの感想を言う中、答弁が始まる。

 

「リリーさんにお尋ねしますが・・・何故、傭兵であるダイアモンドドッグスが日本の特地調査に雇われているのですか?それも極秘で」

 

幸原はダイアモンドドッグスを答弁に出せば必ず形勢逆転ができると踏んでいた。

しかし、リリーは無表情なままで答える。

 

「簡単な事です。極秘でも雇われたから仕事をしているだけです」

 

「い、いえ・・・そうじゃなくて・・・何故、極秘なのですか?」

 

「日本では憲法によって激しい行動は出来ない。その為、派手に動ける私達が雇われたました。自衛隊では制限された行動を取り、出来る限り殺傷はせず、結果を残す・・・それだけです。後、人命救助も私達の仕事の内に入ります」

 

リリーの言葉に幸原は唖然とした。

傭兵が無殺傷、人命救助を掲げているのを信じられないないのだ。

傭兵は国家に属さない兵士、人を殺すのが仕事なのだと言う偏見もあって余計に混乱したのだ。

 

「そんなに驚きますか?私達は確かに人を殺す事はあります。ですが、救える命は救う・・・例え依頼に反する事であろうとです。私達はPKOからの依頼だってあるくらいなんですから」

 

PKO。

 

平和維持活動の略でその名の通り、平和を維持する為に動く組織だ。

その名が出た事で国会議事堂は混乱する。

 

「PKOだと・・・!?」

 

「何でPKOが関わるんだ・・・?」

 

議員達がそうざわついていると、国会議事堂の扉が急に開かれた。

 

「もう良い。それ以上、クライアントの名を出すな」

 

リリーは声のする方を見ると、そこにはミラーが現れたのだ。

 

「ミラーさん!?」

 

「全く・・・お前は感情が先走るといつもそれだ。クライアントの名を暴露してどうする」

 

「・・・す、すみません」

 

リリーは落ち込む様な動作をすると、ミラーは補助杖を付きながら答弁台に立った。

 

「遅れてすまない。俺はカズヒラ=ミラー。ダイアモンドドッグスの副司令を任せられている」

 

「ふ、副司令!?」

 

ミラーの突然の登場と副司令と言う驚きが合わさって伊丹は叫んだ。

国会議事堂もまさかの大物に動揺が走った。

 

「俺も答弁をするつもりで此処に来たんだが・・・幸原議員。もうリリーの答弁は終わりか?」

 

ミラーの問いに幸原は頷くと、ミラーはリリーを席に戻した。

 

「で、では・・・カズヒラさん。貴方はダイアモンドドッグスの副司令をされていると申していますが、具体的にはどの様な活動を?」

 

「部隊派遣は勿論、PKOの活動、DDRの活動等と幅広く扱っている。」

 

「PKOだけでなく、DDRまで!?」

 

幸原は驚くとミラーは答える。

 

「俺は正直に言えば子供が嫌いだ。特に銃をぶっぱなす奴等はな。だが、だからと言って放置する訳にはいかない。子供は子供らしくしていれば良い、銃を撃つのは俺達の様な血と泥を啜る様な兵士で良い。それだけの考えだ」

 

ミラーの言葉に回りは静かになった。

ミラーの言葉には厳しさと重みがある・・・だが、それと同時に優しさもあるのだ。

これには非を探す野党側の幸原も責めるに責められなくなった。

下手に非難すればダイアモンドドッグスを正義だと信じる団体に逆に非難されかねないからだ。

 

「他に無いのか?」

 

「で、では最後に・・・何故、そこにいるリリーさんは例外なのですか?彼女は後一年とはいえ、未成年ですが」

 

「・・・彼女は自分の意思でダイアモンドドッグスのスタッフとして働いている。こればかりは止められなかったんだ・・・一応、働ける年齢に入るしな・・・」

 

ミラーはそう言って溜め息をつくと、幸原は完全に諦めた。

リリーの国籍が日本ならまだ押し通せる内容だが、リリーは国籍不明と言う名の未国籍。

つまり、どの国でも国籍で通じる法律が適用しないのだ。

 

「ミラーさんの答弁を終わります・・・」

 

幸原がそう言うと、ミラーはリリーの隣の席に座った。

リリーはすぐに何故、ミラーが此処にいるのか聞いた。

 

「ミラーさん。何故、貴方が此処へ・・・?」

 

「日本政府に正式に依頼させる為に話を着ける為だ。バレた以上は正式な物にして、無理なら撤退だったがな。話は着いた。任務は続行、正式な依頼になったからには規模の大きい派遣も可能になる筈だ」

 

「それは助かりますが・・・叩かれません?」

 

リリーはそう聞くと、ミラーは微笑む。

 

「俺は日本人でもあるんだぞ?この国の有り様はだいたい分かる・・・この日本には左翼と対等にぶつかれる程にダイアモンドドッグスの支持派がいる。それが抑止力となり、無理を通せたと言った所だ」

 

ダイアモンドドッグス支持派。

 

世界から核兵器を取り除いた事でダイアモンドドッグスは世界から恐れられると同時に圧倒的な支持を集めていた。

その支持は左翼の中にもおり、核兵器を葬ったダイアモンドドッグスは正しく正義の組織に写っているのだ。

 

ミラーはそれを利用して自ら日本に事前に赴き、交渉の末に正式の依頼としたのだ。

 

「さて、お前にはこの日本国内で俺の護衛をしてもらう。俺は戦えなくはないが・・・この体だ。まともに動けんだろうしな・・・」

 

ミラーの体は右手と左足を失っている。

その気になれば義手や義足を取り付ける事は出来るが、ミラーは亡くなった仲間の痛みを忘れない為に敢えてそのままにしている。

 

その為、片腕と片足と言う状態で常にいる。

 

「・・・はぁ、分かりました。出来る限りの事はしますよ・・・」

 

「助かる・・・俺も久し振りの日本だからな。支店・・・ゲフン、里帰りだと思わせて貰う」

 

「今、支店と・・・」

 

「里帰りだ・・・!」

 

二人はヒソヒソと話している間に答弁は終わってしまい、伊丹達と共に国会議事堂を後にした。



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動き出す影

参考人招致を終えたリリー達はそのままバスで・・・ではなく、地下鉄を利用して移動していた。

 

何故、地下鉄なのかと言うとリリーの元に日本で内閣公認で活動中の諜報班からアメリカ、ロシア、中国、北朝鮮等と言った国々からレレイ達を拉致しようと工作員を送り込んで来たらしい。

 

その工作員の中には他のPF勢力やISIS、イランのアマド政権からも送られている。

 

日本もこれを察知し、対抗策を練ってはいたが一早く伊丹の逃げ足が働いたのかバスを利用した囮を使い、伊丹達と共にリリー達は地下鉄で移動中であった。

 

「まさかこれ程の勢力が工作員を放ってくるなんて・・・」

 

「それほどまでに特地は価値が高すぎると言う事だ。今回、奴らを欺いて進む事になる・・・奴らは恐らく銃等の武装もしてくる筈だ気を付けろ。今の奴等は何処から仕掛けて来るか分からんからな」

 

ミラーがそう言った瞬間、地下鉄の電車は駅に止まるとそこから駒門が乗り込んできた。

 

「どうだった?」

 

「あんたの言う通り連中は引っ掛かってくれたよ。これで少しは足止めになるが次のプランを」

 

駒門がそう言い方時、伊丹が何かに気付いたのか電車の前側を見た。

 

「此処で降りるぞ」 

 

「え?ちょ、待て!」

 

伊丹は次の駅で全員を下ろすと、駒門は文句を言った。

 

「困るな・・・俺達にもプランと言うのが」

 

駒門がそう言いかけた時、アナウンスから先程の電車が途中で止まって通行止めと言う知らせが入った。

リリーは電車が途中で通行止めと言うのは異常で、明らかに工作の動きがあると分かった。

 

「ミラーさん・・・」

 

「今回、サイファーに関わる組織の名は出てはいない・・・だが、気を引き閉めろ。奴等も特地の利権を欲しがらないと言う保証は無いからな」

 

ミラーはそう言って伊丹達と共に進んで行く。

リリーはティファニと共に辺りを警戒しつつ移動すると大きな広場に出る。

伊丹はスマホを取り出すと何を見ているのか分からないが画面を静かに見ている。

 

リリーは何処かに行く宛はあるのかと思っていた時、リリー達の隙を突いた引ったくりと思われる男がロゥリィの武器であるハルバードを引ったくった・・・筈だったが重さに耐えきれずそのまま地面とキスをした。

 

「たく、何やってんだが・・・」

 

「あ、駒門さん」

 

伊丹が止める前に駒門がロゥリィのハルバードを持ち上げ様とした時、骨が鳴る音が駒門の耳に響いてそのまま倒れた。

 

所謂、ぎっくり腰だ。

 

駒門はそのまま呼ばれた救急車に乗せられて行ってしまった。

 

「・・・どうするのですか?」

 

リリーは伊丹に聞くと、伊丹は唸りつつも質問の答えを出した。

 

「そうだね・・・取り敢えず、行く宛はあるからそこに行こう」

 

伊丹はそう言うと歩き出し、リリー達も伊丹に着いて行く。

その姿を遠くから観察する者がいた事に気付かず。

 

観察者は伊丹達を捉えていると無線を使い、連絡を取った。

 

「大佐、俺だ。ターゲットを確認した」

 

《なら、ターゲットは特地に帰るまでに必ず予定にある例の場所に行く筈だ。そこまで尾行し、作戦通りに回収してくれ。例の場所は最も目立たずに回収できるポイントだからな》

 

「分かった・・・だが、どうして俺が拉致紛いの事をしなくちゃいけないんだ?しかもマスターミラーまでいるのにだ」

 

《これは大統領の直々の命令だ。無視は出来ん・・・》 

  

「・・・そうか。分かった、任務を続行する」

 

観察者はそう言うと無線を切ると、ターゲットである伊丹達の後を着けて行く。

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伊丹はある少しボロいアパートにやって来ると、そのまま開けた。

伊丹はそのまま中に入って行くと中は暗く、明かりがあるとすれば奥にあるパソコンか何かの電子機器の光だけだった。

 

「エアコンぐらい着けろよ。この部屋寒いぞ」

 

伊丹がそう言うと、奥から眼鏡を着けた女性が這いずる様な勢いで出てきて伊丹がコンビニで事前に買ってきたおでんに飛び付く。

 

「あ、あの・・・誰ですその人?」

 

富田がそう聞くと、伊丹は驚く事を口にした。

 

「あぁ、これは俺の元嫁さんだ」

 

元嫁。 

 

その言葉を聞いたミラーやリリー、ティファニを除いて富田達は驚きの声を挙げたのだった。



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観光

※タイトルに観光と書いていますが、全く観光してません。

あと、今回はビックボス(ファントム)の初登場です


伊丹の元嫁である理沙の家に転がり込んだ伊丹達はそれぞれ移動の疲れを取る為に休む。

富田はカーテン越しから外を見張り、ピニャとポーゼスは何を見ているのか薄い本を読んでおり、リリーはそれを覗こうとするとミラーに引っ張られて阻止される。

 

「あれは見るな・・・お前の教育に悪い」

 

ミラーの言葉にリリーは頭をハテナにしてミラーを見ると溜め息をつく。

 

「良いか、あれだけは見るな・・・あれを覚えられて趣味になんてされたら堪ったものではない・・・」

 

ミラーはそう言うとリリーはまだ疑問を持っているも、深くは追及しなかった。

理沙の家に転がり込んでから暫く経ってから伊丹達は見張りを立てつつ眠りについた。

 

だが、リリーは少しの眠りにつく事もせずただ、毛布にくるまり静かに時間が過ぎるのを待った。

リリーの睡眠は安全地帯と判断した場所でしか取らず、戦場等の危険地帯においてはほとんど睡眠を取らない。

 

現在の状況は何時、工作員が来るか分からない戦場のような緊張状態の中でリリーは眠る事は出来なかった。

 

「(何時までたってもこんな物なのね・・・)」

 

リリーは昔、ボスに拾われてマザーベースで初めてまともに寝れた。

だが、数年も経ってそれでも戦場に戻れば同じ事を繰り返し、長期に渡る任務になると寝付けない夜を連続で迎える事も度々ある。

 

リリーは眠れない夜の中、静かな空間を黙って過ごす。

 

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翌朝、陽射しがリリーの顔を照らすとリリーは起き上がり辺りを見る。

部屋には伊丹達が寝ており、起きているのは見張っている栗林だけだ。

 

「おはようございます栗林さん」

 

「おはよう。貴方起きるの早いわね」

 

「えぇ、何時もの事です・・・すみません、本来なら私達も見張りをするべきなのに」

 

「良いのよ。此方がホストなんだから任せてゆっくり寝てて良いんだから」

 

栗林の言葉にリリーは本当に申し訳なさそうにしていると、伊丹達も起きたのか次々と起き上がる。

ロゥリィは起きると祈りを捧げ、伊丹達はそれぞれ移動の準備に入る。

 

「さて、準備も出来た事だし遊びに行きますか!」

 

伊丹はそう言うと栗林は呆れ顔で伊丹に言う。

 

「隊長、それ所じゃないですよ・・・ただでさえ、追われてるのに」

 

「俺のモットーは食う、寝る、遊ぶ、ほんのちょっと人生だ。それに、工作員も人の多い都市部じゃ手を出してはこないだろうしね」

 

伊丹がそう言うと、理沙を筆頭に思い々に観光してみたいと言う声が挙がった。

リリーは別に日本に来たのが初めてと言う訳でもないので興味はなかったが、ミラーは切り出す。

 

「俺も少しばかり用がある。すまないが付き合ってくれるか?」

 

「はい。ケミカルバーガーの支店の事ですね?」

 

「馬鹿!ただの用事だ・・・伊丹とな」

 

ミラーは誤魔化す様に言うも全く説得力がないが、伊丹と用事とは何なのかとリリーは疑問に思う。

こうして東京の街を観光する事になり、一度全員で都内に向かってから其々の目的の場所へ行く。

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伊丹、ミラー、リリー、ティファニは目的の場所から少し寄り道してオタクが好みそうな雑誌を伊丹が買って目的の場所である公園に着いた。

 

「ミラーさん。伊丹さんと此処で何をするのですか?」

 

「ある人物に会う為に来た・・・と、言えば良いな。言っておくとその人物はお前も会った事がある」  

 

ミラーはそう言った時、向こうから空港でリリーを出迎えた嘉納がいた。

 

「待たせてすまないな」

 

「嘉納大臣・・・!?どうして此処に?」

 

リリーは驚くと、嘉納は高笑いする。

 

「なぁに、こう見えて俺はそこにいる伊丹とはオタク仲間でな。時間が出来ればこうして会う事もある」

 

嘉納はそう言うと伊丹は嘉納に近づき手土産を手に挨拶する。

 

「太郎閣下。お久しぶりです」

 

「おぉ、いつもすまんな。大臣をしていると時間が中々できなくてな。それと、ミラー副司令もよく来てくれました」

 

「いえ、今夜の警備体制の確認に来ただけですから」

 

ミラーはそう言い終わると、嘉納は伊丹からの手土産を受け取った後、ミラーと伊丹を横に置き、リリーとティファニは後ろから周囲を警戒しつつ歩き始める。

 

「さて・・・今回の件だが、まるで世界から工作員を送り込まれている様だ」

 

「特地は宝庫とも言える土地だ。資源、土地、汚染の無い環境に加えて文明レベルも此方が圧倒的だ。其処らの小さな武装勢力でも中世レベル文明の国なら簡単に一国を破壊し尽くせる程にな・・・だから、世界は欲しがる」

 

嘉納の言葉に追従するようにミラーはそう言うと嘉納は苦笑いする。

ミラーの言った事は筋がとおっており、嘉納はただ苦笑いするしかなかった。

 

「確かに、な・・・その気になれば日本だけで戦争を終わらせる事は多少の無理をすれば出来なくはない。だが、それじぁ日本が今まで守ってきた平和憲法が何だったのかの話になる」

 

「だが、終わらせるしかない・・・その為の講和工作の筈だろ?」

 

「まぁな・・・」

 

ミラーの言った講和工作とは、日本が武力ではなく話し合いによって戦争を終わらせる為の物だ。

講和工作は駐屯地が築かれてから始まり、そこから講和の為の情報収集から始まり、皇女のピニャとのパイプを得た事で講和工作を本格化する予定だ。

 

「終わらす為の工作か・・・まぁ、戦争が終われば何でも良いがな。さて、伊丹二等陸尉」

 

「はい!」

 

「貴官にはこれより、箱根山の旅館に行って貰う。箱根山には選りすぐりの護衛も付ける。頼んだぞ」

 

「了解しました」

 

伊丹は了解すると、嘉納は満足そうに微笑むとミラーが前に出る。

 

「では、箱根での警備体制の確認を」

 

「あぁ、分かっているさ」

 

嘉納とミラーは互いに警備の情報を確認し、今夜に備え始める。

その姿を見ている者がいるの知らずに。

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~イラン南部 上空~

 

イラン南部の上空には、ダイアモンドドッグスのマークが描かれた武装ヘリが飛んでいた。

その中には眼帯をし、額に角の様な破片が剥き出している男が鎮座し、端末を開いて指示を出していた。

 

その男の元に無線が入り、男は無線を取る。

 

《スネーク》

 

「オセロットか。どうした?」

 

《特地のミッションを受けているリリーいや、ウルフの報告だ。現在、ウルフは日本で国会の参考招致に向かいミラーと合流。その後、色々と歩き回ったみたいだが・・・今日は箱根の旅館に泊まるそうだ》

 

「そうか」

 

スネークは素っ気なくそう言うとオセロットは溜め息をつく。

 

《スネーク。確かに彼女は優秀だ。だが、彼奴は仮にもお前の・・・》

 

「分かっている。だがな・・・いつまでも心配していたらウルフは俺から離れられなくなる。何時かは離れなければならない時が必ず来る」

 

スネークはそう言うとオセロットは呆れつつもスネークに言う。

 

《彼奴はあんたの"血"を受け継いでいる。ビックボスではなく、他ならぬファントムとしてのあんたの 》

 

「・・・そうだな。だが、彼奴自身がそれを認めない。俺と言うビックボスとしての存在に一番狂信的とも取れる忠誠心によってな」

 

スネークは溜め息をつき、オセロットはスネークの心中を察する。

スネークもスネークでリリーを心配している。

それがオセロットに伝わるとオセロットは話を戻す。

 

《ウルフの報告は以上だ。そっちの成果は?》

 

「カズの予想通りだった。廃棄された施設でメタルギアを見つけた。タイプは分からないが、まるで要塞だ」

 

《要塞?》

 

「巨大な所を含め、ありとあらゆる場所に武装を施してある。中にはレールガン、核ミサイルが積める様にもされていた」

 

《レールガンだけでなく、核までもか・・・!まさかイランでメタルギアが作られていれだけでなく、核武装が出来る様にされているとはな・・・》

 

オセロットは核搭載可能のメタルギアと聞いて驚きを隠せずにいると、ある事に気がつく。

 

《肝心の核は?》

 

「分からん・・・だが、核を搭載する事が出来ると言う事は核は作られている可能性は否定できなくなる」

 

《・・・そうか。もし、そうならまだまだ長丁場しそうだな。ウルフにはスネークはもう少し長くなるとでも言っておく》

 

オセロットはそう言うと無線を切り、スネークは暫く考え込む様な素振りをした後、端末に指示を出す。



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狼の過去

伊丹達は指定された箱根の旅館にやって来た。

 

旅館に入ると先ずは旅館にある露天風呂に入る事になり、男と女に別れて脱衣場へと入って行く。

リリー達は服を脱いでいると、ロゥリィが窓の外に振り向き、不審に思った栗林が聞く。

 

 

「どうしたの?」

 

「・・・誰か、此方を見てるわ」

 

ロゥリィがそう微笑みながら言うとリリーを除いた女性陣が驚きの声を挙げた。

 

「まさか・・・隊長が覗き!」

 

栗林が真っ先に伊丹が覗きをしているのかと伊丹を理不尽に疑っている。

リリーは気にも止めずに服を脱ぐとさっさと風呂場へと向かっていく。

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リリー達は風呂場へと来るとそこには広い露天風呂があり、湯は湯気が多く立ち込めていた。

 

「わぁ~広い浴場!」

 

「とても広い」

 

「此れだけの浴場は帝国にもないぞ」

 

「殿下、此処は異世界です・・・」

 

「そうだった・・・!」

 

それぞれの感想を言ってロゥリィは早速入ろうとするも、栗林に体を先に洗う事を言われて断念する。

リリー達は体を洗ってから浴場に浸かると恋ばなが始まった。

ポーゼスが富田と気があったり、理沙が伊丹と別れた経緯について等と話す中、話がリリーの元に転がる。

 

「ねぇ、貴方は何でその若さで兵士をしているのかしら?」

 

「兵士をしている理由?」

 

ロゥリィに聞かれてリリーは考える素振りを見せた後、ロゥリィの目を見て答える。

 

「私は・・・ただ、戦場でしか生きられないから兵士として立っているだけよ」

 

「戦場でしか生きられない・・・?」

 

栗林が疑問を浮かべるとリリーはその理由も答える。

 

「私はダイアモンドドッグスに入る前は・・・ISISの子供兵として活動していたの。その頃は六歳で」 

 

リリーの言葉に栗林は驚くと、リリーは続ける。

 

「私が物心ついた時には沢山人を殺してた。大人が殺せと言えば殺して、尋問しろと言われれば拷問をした。私はそんな中、何の疑問もなく殺して戦場を転々としたわ。そんな時、ビックボスに出会った」

 

「ビックボス・・・」

 

「えぇ・・・ビックボスよ。ビックボスと初めて戦場で見えた時は本当に死ぬと思ったわ。私がどんなに攻撃しても、罠を仕掛けてもそれを避けて私にCQCを仕掛けてくる。私は戦場で初めて恐怖を覚えると同時に、ビックボスに興味を持てた。だから、負けて連れ帰られた時にはビックボスの為に戦いと思えた」

 

リリーはそう言うと、ロゥリィが問う。

 

「だからダイアモンドドッグスの兵士を?」

 

「そうよ。でも、最初はミラーさんやオセロットさん達から子供は駄目だと言われたからその間、認められたくてどさくさに紛れてビックボスに着いていったりしたわ。その度に叱られたりしたけど諦められなかった。でも、転機はあった。私がダイアモンドドッグスに入れる様になった最大の理由・・・私が14歳の時に発生したアウターヘイブン蜂起でね」

 

「アウターヘイブン蜂起って、あの核を武装しようとした組織が起こした事件?」

 

「栗林。アウターヘイブン蜂起とは何?」

 

栗林にレレイがそう聞くと、栗林は説明する。

 

アウターヘイブン蜂起とは、南アフリカの奥地にアウターヘイブンと呼ばれるPFが誕生したのだ。

多くの優秀な人材、数多くの武器・兵器を抱え、更に核武装をしようと目論んだ核を拒む日本にとっては最悪な存在として知られている。

 

「結局、アウターヘイブンは壊滅したらしいけど主犯は分かっていないのよね」

 

「それもそうよ。だって、うちのボスだもの。主犯は」

 

「・・・え?」

 

「だから、主犯はビックボス。ダイアモンドドッグスの総司令よ」  

 

「え、えぇー!?」

 

栗林は叫び出し、理沙達は訳が分からないとばかりに首を傾げる。

 

「な、何で!ダイアモンドドッグスは核を廃絶させた組織でしょ!?」

 

「・・・理由は分からないわ。でも、何かしら変な案件に関わってたみたいだけど教えてくれなかった。でも、その時も私はどさくさに紛れてビックボスに着いていたんだけど、忌々しい偽蛇にビックボスが殺されかけて私が担ぎ出さなかったらビックボスはこの世にいなかったのは確かよ」

 

「あのビックボスが殺されかけた・・・と言うより、偽蛇って誰よ?」

 

「・・・さぁ、もうこれ以上は言わないわ。でも、アウターヘイブン蜂起が切っ掛けで私はいつの間にか大人として扱われてダイアモンドドッグスの仲間になったのはたしかよ・・・少し逆上せた。私は上がるわ」

 

リリーはそう締めくくると温泉から出て行った。

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~箱根山~

 

20:45  

 

リリー達が温泉を満喫していた頃、箱根山の奥地ではスニーキングスーツを着た男が無線を繋げていた。

 

「此方スネーク。箱根山に到着した」 

 

《よし、此処までは予定通りだ。今回のミッションは分かっている通り、来賓の招待だ。手荒な真似をして連れて来ない様に。それと面倒な事に他の勢力からの工作員が既に潜入し、自衛隊相手に戦っている。お前には工作員と自衛隊の戦闘を掻い潜りつつ、箱根山の旅館まで潜入し、来賓を招待してくれ》 

 

「・・・あまり気が乗らないが」

 

《分かっている・・・だが、気を付けて貰いたい事があるとすれば、かつてお前と二度も互角の戦いを仕掛けてきたブラッドウルフがいると言う事だ》

 

スネークはそれを聞いて嫌そうな顔をする。

 

「ブラッドウルフか・・・彼奴は俺を目の敵にして襲い掛かってくるから相手にはしたくないぞ・・・」 

 

《まぁ、参考招致に呼ばれた時点で相手にするしかないだろうが・・・兎に角、ミッションを開始してくれ。後、言い忘れていたが回収にはフルトン回収装置を使用してくれ。頼んだぞ》 

 

「分かった。これより、ミッションを開始する」

 

スネークは無線を切ると麻酔銃を構えつつ行動を開始した。



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箱根山の死闘

リリーは先に部屋へ戻って来ると、同時に無線が入った。

無線を取ると連絡相手はオセロットだった。

 

《やっと戻ったかリリー。早速だが、諜報班からの連絡で奴等が動いた事が分かった。至急、来賓を守れ》

 

「ミラーさんは?」

 

《ティファニがいる。彼奴も腕のある奴だ。安心してミッションを行え。後、浴衣姿で出るなよ?お前の手持ちにある標準型戦闘服オリーブドライを着てから向かえ》

 

「了解しました」

 

リリーは無線を切ると早速、自分の手持ちからオリーブドライの標準型戦闘服を取り出すと浴衣から素早く着替えた。

無線機も装着するとリリーは少し深呼吸し、自身を落ち着かせてから中庭に出る。

 

「・・・コードネーム、ウルフ。これより、ミッションを開始する」

 

完全に仕事モードになったリリーはそう呟き、山の中へと入って行った。

 

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その頃、箱根山では工作員と自衛隊による激しい・・・とは言わない静かな戦いが勃発していた。

その戦いは工作員が一方的に自衛隊に撃たれる構図になっており、自衛隊を素人と舐めていた工作員は焦りを覚える。

 

「くそ、奴等は素人じゃなかったのか・・・!?」

 

工作員がそう悪態をついた時、頭を撃ち抜かれて絶命する。

工作員の頭を撃ったのは他ならぬ自衛隊員で、山の木や草に紛れながら次々と工作員を射殺する。

 

「彼奴らやけに数が多いな」

 

「他の国からの工作員だけじゃないって情報もある。だから無駄に装備も陣形もバラバラなんだろうな」

 

「そうか・・・ぐぉッ!」

 

その言葉に自衛隊員は納得すると、いきなり顔を殴られて倒れた。

もう一人の自衛隊員は異変に気付いて銃を構えようとしたが、掴まれて近くにあった木に向けて投げ飛ばされ気絶する。

自衛隊員を襲ったのは潜入ミッションを行うスネークで、スネークは自衛隊の標準装備の89式小銃を拾うと旅館に向かう。

 

「・・・ん?」

 

スネークは山を進んでいると、前に数人の工作員が旅館を目指しつつ、辺りを警戒している。

スネークによって自衛隊が無力化されたのを良い事に誰にも狙われずに進んでいるのだ。

 

「厄介だな・・・」

 

スネークは他の工作員に先を越される可能性を考え、先を急ごうとした時、目の前にいた工作員が突然、首を押さえて苦しみ出した。

スネークは驚いて身を隠しつつ様子を見ると、首を押さえている工作員は少し宙に浮いており、明らかに見えにくい紐か何かで首を絞められているとしか考えられなかった。

他の工作員は何とかしようとするが、既に遅く首を絞められて工作員は絶命した。

 

「て、敵だ・・・!敵が近くにいるぞ!」

 

「何処だ・・・何処にいるんだ!」

 

工作員達は慌てながら辺りを警戒し始めた時、工作員の一人に人影らしき物が飛び掛かり、工作員の銃を奪うと工作員を撃ち殺す。

他の工作員も気付くが、すぐに撃ち殺され絶命し、全滅する。 

スネークは目を凝らして影を見ると、そこには血の様に赤い短髪をしたリリー本人がいた。

 

「ブラッドウルフ・・・!」

 

《スネーク。ブラッドウルフを見つけたのか?》

 

「あぁ・・・明らかに以前よりも強くなっている。下手に戦えば勝ち目は薄いのは確かだ」

 

《なら、出来る限り見つかるな。見つかっても出来る限り戦闘はせず、奴から逃げる事を優先しろ》

 

「・・・了解だ」

 

スネークは無線を切ると抱腹で突破しようとした時、運悪くスネークは枝を踏んで折ってしまい、その音に気付いたリリーが現地調達で得た銃を構える。

 

「・・・何かいる」

 

リリーは静かにスネークの方へ来るとそこには、段ボール箱があった。

 

「・・・段ボール箱?」

 

リリーは首を傾げるもすぐに段ボール箱がある事に疑問と確信を得た。

 

「・・・成る程ね。この近くにいるのかしら?偽蛇は」

 

リリーはそう言うと、銃を段ボール箱に向けると一発だけ発砲する。

段ボール箱は少々へこみながらも貫通する。

 

「・・・この中にいないのね。なら、惜しい事をしたわ。この形状の段ボールは中々御目に掛かれないのに・・・勿体ない事をしたわ」  

 

リリーは溜め息をつくと向こうへ歩いて行く。

肝心のスネークはと言うと案の定、段ボールの中に潜んでいた。

スネークは段ボールを脱ぐと脇腹に被弾した傷を押さえつつ応急処置をする。

 

《スネーク大丈夫か!》

 

「あぁ・・・何とかな。奴も段ボールをこよなく愛する一人である事を忘れていたのは失態だ。それよりも危なかった・・・あのまま乱射されていたら死んでいた」

 

《元は段ボールだからな。紙の箱と言うとその名の通りの紙装甲で銃弾を防げる訳がない》

 

スネークに指示するキャンベルはそう言い終わると、スネークは応急処置を終える。

 

「兎に角、このままミッションを」

 

スネークはそう言い掛けた時、後ろから殺気を感じとり前へ転がる。

スネークは振り向き様に89式小銃を向け、見てみるとそこには向こうへ行った筈のリリーがナイフを片手に立っていた。

スネークは此処にリリーがいる事で嵌められた事に気付くも、冷静に対処する。

 

「やっぱり避けるのね・・・偽蛇いや、ソリッド」

 

「ブラッドウルフ・・・やはり気付いていたか」  

 

「その言い方、止めてくれないかしら?その異名は捨てた物。今は・・・ただのウルフよ」

 

リリーはそう言うと、現地調達で得た拳銃とナイフをクロスさせたCQCの構えを取ると、スネークもCQC の構えを取る。

スネークはどうにかして逃げる算段を建てようとするが、リリーの走る速度は常人を遥かに越えている為、逃げ切るのは難しいとスネークは考えている。

 

「何故、そこまで目の敵にする?お前に恨まれる筋合いはないぞ」

 

「分からないの?貴方はアウターヘブン蜂起でビックボスを殺そうとした。例え私達が悪だと言われようと・・・ビックボスを殺そうとした貴方を許さないし、何よりスネークのコードネームを名乗って良いのはビックボスただ一人よ」

 

リリーはそう言うと、スネークに襲い掛かる。

スネークは素早く接近してきたリリーのナイフを避けると、リリーは拳銃をスネークの腹に向けて撃とうとする。

 

スネークはそれに気付き、拳銃を掴み素早く照準をずらすと発砲音が響き、スネークは間一髪で避けた。

 

スネークは拳銃の銃弾を避けると、リリーの拳銃を持つ腕を捻り、拳銃を落とすと背負い投げを仕掛けた。

 

「ぐッ!?」

 

リリーはまともに背負い投げを受けるも、素早く立ち上がり振り向き様にナイフでスネークの頬を斬りつけ、スネークの頬に赤い血が流れる。

 

スネークは袖で血を拭き取ると、身構えてナイフを構えるリリーに合わせて時計回りに動きつつ隙を伺う。 

 

「・・・やるわねソリッド。全く隙がないわ」

 

「お前こそな。まるでビックボスやリキッドを相手にしている様だ」

 

互いにそう喋りつつ、一歩も譲らないにらみ合いをする中、スネークがリリーに蹴りを入れる。

リリーは咄嗟に避けるも、ナイフを蹴り飛ばされしまい木に刺さってしまう。

スネークはリリーが武装を無くしたのを見計らい更に攻撃を加えようとするが、リリーも負けじと素手によるCQC を仕掛ける。

 

互角の戦いを繰り広げる中、両者共に掴み合いになって押し合いになる。  

リリーは特殊な身体能力を使っているが、スネークを押しきれず、リリーは苛立ちを覚えたその時、向こうから急速に誰かが走って来る気配を察知した。



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狼と蛇

箱根山でリリーとスネークによる戦いの最中、二人は急激に近付いてくる気配に警戒していると、やって来たのはハルバードを片手に持ったロゥリィだった。

 

ロゥリィは浴衣でしかも血塗れの状態で現れた事で二人は固まってしまった。

ロゥリィは楽しげに歩いて来ると、微笑みを浮かべる。 

 

「あら、リリー。随分と面白そうな事をしているわね」

 

ロゥリィはそう言うと、立ち止まる。

スネークは聞き慣れない名前とロゥリィのインパクトある登場に困惑しつつも気になる箇所を呟く。

 

「リリー?誰の名前だ」

 

「・・・ロゥリィ。今はコードネーム・・・偽名の方を言って欲しいわ」

 

リリーは額に手を当てた後、スネークはリリーの名前だと分かると納得する。

この場にいるのは既にターゲットだと把握しているロゥリィとスネーク、そして敵対するリリーのみなのだ。

故にすぐにリリーの名前だと分かった。

 

「また随分と女らしい名前だな?」

 

「知らないわよ。この名前を付けたのはクワイエットさんなんだから・・・」

 

「おい、また知らない名前が出てるぞ。せめて分かる様に話してくれ」

 

リリーの言葉にソリッドがますます混乱すると、ロゥリィがハルバードを軽々と軽く振るってスネークに矛先を向けた。

 

「このおじさまも、殺しても良いのよねぇ?」

 

「ッ!?」

 

スネークはロゥリィの言葉を聞いた瞬間、身も凍り付く様な感覚を受け、身構えるとリリーが制する。

 

「待ちなさい。ソリッドは私の獲物よ・・・やりたかったら他の工作員にしなさい」

 

「へぇ、何だか訳ありみたいなね・・・良いわよ。他の所へ行くわ」

 

ロゥリィがそう言って立ち去ろうとした時、リリーは思い出した様に何かに気がつき、ロゥリィを引き留める。

 

「待ってロゥリィ。ミラーさんに伝言をお願い」

 

「伝言?」

 

「帰りが遅くなるから先に来賓を連れて行って欲しい、私はソリッドを止める・・・それだけを伝えて」

 

「・・・分かったわ。頑張ってねぇ」

 

ロゥリィはそう言うと、今度こそ暗闇に消える。

残されたリリーとスネークの間には火花が散っていた。

 

「・・・退くつもりはないのか、ウルフ」

 

「退くつもりはないわ・・・ソリッド」

 

二人の答えが食い違い、リリーとスネークは身構えた。

戦いの続きを行うべく、リリーとスネークは互いに飛び掛かる。

_________________

___________

______

 

~自衛隊 指令部~

 

その頃、防衛大臣である嘉納が指揮する指令部では混乱が起きていた。

箱根山で工作員と自衛隊員による戦闘は予想され、作戦の通りに事を進めていた。 

だが、数人の自衛隊員と連絡が取れなくなり、慌てて現状の把握に努めている。

 

「アーチャー通信不能!」

 

「セイバー通信不能!」

 

「くそ、いったいどうなってやがる・・・!」

 

嘉納は予想外の事態に焦りを見せ始めた時、オペレーターの一人が映像を見て動きがある事を発見した。

 

「嘉納大臣!山中にて動きがあります!」

 

「映像を拡大して分析しろ。急げ」

 

オペレーターは指示通り、映像を拡大して解析するとそこにはリリーとスネークによる格闘戦が繰り広げられていた。

互いに殴り、蹴り、掴んで投げる等と見ている方も痛くなりそうな程に激しい戦闘を行っていた。

 

「おいおい、どう言う状況だ・・・これ?」

 

「わ、分かりませんがリリーさんが敵工作員を相手に戦闘を行っているのは分かります・・・」

 

嘉納達は困惑する中、見られているとは思っていないリリーとスネークの格闘戦は増して行く。

_______________ 

__________

_____

 

場所は戻り、リリーは回転して勢いを付けスネークに蹴りを入れ、スネークはその蹴りを入れた足を掴んで勢いよく引っ張るとリリーを転ばす。

リリーは素早く立ち上がると身構え、スネークに殴り掛かるがスネークに腕を掴まれねじ曲げ押さえられる。

 

「ちッ・・・!」

 

舌打ちをしたリリーは腕をねじ曲げられる痛みに襲われつつも、肘でスネークの脇腹を殴りつけると、傷を的確に殴られて怯んだスネークの隙を突いて逃れると背負い投げを仕掛ける。

だが、スネークは高い身体能力で地面に叩き付けられる前に足で着地して態勢を立て直すと、リリーに裏拳を仕掛けけ、リリーは裏拳を腕で受け止め防ぐ。 

 

「貴方もしつこいわね。あまりしつこいと女性に嫌われるわよ?」

 

「どのみちミッションを行うしかないんだ。俺だってお前と遊んでる暇はない」

 

「遊び、ね・・・私だって遊んでる暇はないのよ」

 

リリーはそう言うと身構え、スネークも同じ様に身構えた時、両者の無線が入る。

 

《これ以上はよせ、ウルフ》

 

《お前もだ、スネーク》 

 

「オセロットさん・・・!」

 

「大佐・・・!」

 

二人は入ってきた無線で動きを止めると、互いの指揮官の言葉を待つ。

 

《ウルフ、ミラー達は既に箱根から脱出した。もう此処には用はない。今すぐ、ミラー達と合流してくれ》

 

《スネーク、ミッションは失敗した。来賓は箱根から脱出、もはや招待は不可能だ。直ちに日本から脱出するんだ》

 

互いに命令を聞いて無線が切れた後、リリーは無表情ながらも勝ち誇った雰囲気を出し、スネークは項垂れた。

 

「今回は私の勝ちかしらね」

 

「その様だ・・・だが、このミッションは明らかに様子がおかしい。そもそも断るつもりだったんだがな」

 

「・・・貴方、変な弱味を握られた?」

 

「・・・オタコンが人質にされてな。今回のミッションを受けなければ無事では済まさない。受ければミッションの成否を問わず、解放する約束でな」

 

リリーはそれを聞いて疑問に感じた。

ミッションの成否を問わず人質を解放するのは流石に破格の条件なのだ。

むしろ、信用できる事なのか分からないのにスネークは平静でいる。

 

「・・・普通、失敗したら口封じされちゃうんじゃないかしら?」

 

「それは恐らくない・・・俺は保険だったんだ。だから、目標を回収しようが回収しないだろうが関係がない、ただ言われた通り来賓を招待しろ。俺を此処に送った奴らはそう言った」

 

「・・・で、貴方はこれからどうするつもり?」

 

「そうだな・・・今はオタコンを取り返しに行く。奴等が約束を破る、或いは破ったら・・・奴等を葬る。じゃあな、無線の向こうにいるオセロットに伝えてくれ。また大事を起こそうとするなら・・・今度こそ、殺すと」

 

スネークはそう言うと、山の中へと消えていきリリー一人が残された。

リリーはスネークのオセロットを殺すと言う言葉に不機嫌になった時、リリーの元に無線が入る。

 

《何をしているリリー?奴の言う事を気にせず合流を目指せ》

 

「・・・彼奴は、貴方を殺すと言ってきたのですよ?気にしないなんて出来る筈がありません。だって、ダイアモンドドッグスの仲間達と一緒に貴方にも多くの事を教えてくれた恩師の一人なんですから」

 

《だからと言って気にしたら負けだ。今はミッションに集中する事、それを考えておけ》

 

オセロットは悪くないと思いつつそう促すと、リリーは不満げな雰囲気を出しつつも、ミラー達と合流する為に歩き出した。

 

「・・・オセロットさん」

 

《何だ?》

 

「・・・オセロットさんは、自ら大事を起こして混乱を起こすような事はしませんよね?シャドーモセスではREXの破壊を目的で致し方なくリキッドに従った・・・それだけですよね?」

 

リリーの問いに暫く無言が続くが、オセロットは返答する。

 

《そうだ。あの時、REXを破壊する為に仕方なく奴に従っただけだ。結果としては・・・REXは破壊したが、リキッドにはまんまと逃げられ、REXの演習データが何者かによって流出・・・メタルギアの亜種が各地に産み出される結果になった》

 

オセロットは溜め息をつくと、リリーは申し訳なさそうな雰囲気を出す。

それに気付いたオセロットはリリーを気遣う様に言う。

 

《別に気にする事はない。あの時の事は誤解しない方がおかしかった。まぁ、お前のおかげで今でも右腕はぴんぴんしているしな》

 

「・・・そうですか」

 

オセロットの言葉にリリーは少し元気を取り戻すと、ミラーの元を目指して歩き出す。

 

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~アメリカ合衆国 ホワイトハウス~

 

大統領が住むホワイトハウスでは、大統領のディレルは電話をしていた。

 

「そうか失敗か・・・別に構わん、人質は返してやれ。奴を敵に回しては厄介だからな。あぁ・・・後は適当に後始末しろ」

 

ディレルはそう言うと、電話を置いた。

ホワイトハウスにある大統領執務室にあるソファーに腰を掛けてコーヒーを飲む男がいる。

 

「・・・ミッションは聞いての通り失敗しました。ですが、例の被験体の戦闘データの確保には成功したそうです」

 

「ご苦労ディレル君。やはり君を大統領にして良かったよ・・・お陰で色々と捗る」

 

男はそう言って不適に笑うと、コーヒーをテーブルに置く。

 

「それで例の被験体は何処に向かっている?」

 

「はい。奴はミラーと言うダイアモンドドッグスの副指令の元に行こうとしております」

 

「当然だろう・・・まぁ、ダイアモンドドッグスはこの際、問題ではない。問題なのは未だに被験体05が野放しになっていると言う事だ。奴には多くの資金、多くの"遺伝子"を費やしたんだ・・・絶対に連れ戻さなくてはならない」

 

「分かっています・・・処で、被験体05の母方であるアノ者はどうしますか?」

 

ディレルがそう問うと、男は再びコーヒーを取ると笑いながら一口飲みディレルに告げる。

 

「まだ、利用価値はある・・・彼女をあの世界に作った施設へ連れて行け。そこで実験を続けさせる」

 

「分かりましたその様にします・・・Mr.ホーク」

 

ホークと呼ばれた男はそれを聞くと満足そうに笑い立ち上がって扉の方へ歩き出した。

その胸にはXOFと書かれたワッペンが見え隠れしつつ呟く。

 

「・・・貴方の無念、私が払いましょう。ビックボスを葬り、再び民族浄化虫による・・・民族浄化を・・・」

 

ホークは不適に笑いながらホワイトハウスを歩いて出て行った。



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帰還

リリーは細心の注意を払いつつ移動していると、道路に出た。

道路には工作員の車とおぼしき大きめのワゴン車が止められており、見張りなのかワゴン車の運転席に男が一人待機している。  

 

《ワゴン車か・・・軍用ではないが、車は車だ。奪えば十分な足になる。やるのはお前次第だが》

 

オセロットにそう言われると、リリーはそっとワゴン車に近づき、回収しなおした拳銃を男に向けた。

 

「手を挙げろ」

 

「なッ!?だ、誰だ・・・!」

 

「手を挙げて、車から降りて」

 

リリーに促される様に男は車から降りると手を上げる。

 

「・・・地面に伏せなさい」

 

「わ、分かった・・・」

 

男は地面に伏せるとリリーは適当な紐で男を拘束すると、車に乗り込みエンジンを付け、車を運転する。

リリーは車を運転しつつ、ミラー達が向かいそうな場所を考えていると、無線が入る。

 

《ウルフ。ミラー達はどうやら銀座に向かう様だ。お前も銀座に向かってミラー達に合流してくれ。それと、その車は適当な場所へ捨てて置け、後は日本の政府がやってくれる》

 

「分かりました」

 

リリーはオセロットに言われた通り、銀座に向けて車を走らせる。

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その頃、ミラー達はリリーと同じく工作員の車を奪い、走らせていた。

暫くして近くにあった自販機に立ち寄りテュカとレレイ、ロゥリィの三人に飲み物を買わせに行かせ、念の為にティファニも同行し車内にはミラーと自衛官の伊丹、栗林、富田と梨沙と寝ているピニャとポーゼスの7人がいる。

 

「・・・あの、ミラーさん」

 

そこで栗林がミラーに話しかける。

 

「何だ?」

 

「後でリリーに聞こうと思っていたんですが、本人から直接聞ける様な事ではなかったので貴方に聞きたいのですが・・・リリーは一体、何者ですか?」

 

栗林の言葉に無言で見つめるミラー。

その空気は冷たく、今すぐに抜け出したいと思える物だった。

 

「何者とは?リリーはリリーだが?」

 

「そうじゃなくて、リリーは明らかに人間業を越えてる・・・車並みの速さ、多数の敵を軽くあしらう異常な戦闘能力。どれもおかしいです」

 

「・・・おかしい、か」

 

栗林の言葉にミラーはどうしたものかと考えていると、ミラーの元に無線が入る。

 

「誰だ?」

 

ミラーは無線を取り、そう素っ気なく言うと、予想だにしない人物からの無線だった。

  

《話してやれ、カズ》

 

「その声はボス!?」

 

「ぼ、ボス・・・て、ビックボスですか!」

 

富田がそう言うと、無線越しにいるビックボスことスネークは笑う。

 

《そう呼ばれてはいるが今はスネーク。そう呼んでくれ》

 

スネークはそう言うと、スネークは再びミラーに話し掛ける。

 

《カズ・・・リリーの事はいつまでも隠し通せる事じゃない。共に戦場で戦えばいつかは知られる》

 

「そうだが・・・」

 

《確かに話すにはリスクがあるかもしれない・・・だが、話さずにそのままにするのは不審を招くだけだ。そうだろ、カズ?》

 

ミラーはスネークの言葉で、裏切り者として追放したヒューイの独断による核査察の案件を思い出した。

ヒューイの独断で核査察に扮したサイファーの実働部隊XOFに襲撃を受け、最初に創設された国境無き軍隊が壊滅に近い状態にされた事を。

スネークやミラー、そして生き残った国境無き軍隊の兵士達は何とか脱出するも、スネークとミラーが乗っていたヘリはサイファーに捕らえられていたパスの内部に仕掛けられた爆弾の爆発で墜落、スネークとミラーは負傷する事になった。

 

《カズ・・・》

 

「・・・分かった。全く、あんたには敵わないな」

 

ミラーはそう言うと、伊丹達の方へ振り向く。

 

「さて、リリーは元々はISIS の子供兵として従軍していた経験がある」

 

「あっ、その話はリリーから直接聞きました」

 

理沙がそう言うと、ミラーはそれなら話は早いと言う様に頷く。 

伊丹と富田は分からないと言う表情をすると、理沙が一通り説明して理解する。    

 

「ISISの子供部隊のリーダー的な立場に立っていたリリーはそこで幅広く活動し、国連軍を相手に圧倒的な戦いを見せた。アメリカ軍はリリーの事をブラッドウルフと言う異名を付け、恐れた」

 

「ブラッドウルフ?」

 

伊丹が分からないとばかりにそう呟くと、栗林は何かを思い出したかの様に喋る。

 

「聞いた事がある・・・私が自衛隊に入りたての時にイランに派遣された先輩が言ってた。イランには国連軍も裸足で逃げ出したくなる血に飢えた狼がいるって」

 

「そうだ。ブラッドウルフの正体は他ならぬリリー本人だ。リリーを相手に国連軍は相当頭を悩ませ続けたのか遂に俺達の元に排除の依頼が届いた。まぁ、結果としては回収しても排除と言う事になるからボスが回収したがな」

 

ミラーはそう言うと笑う。

 

「それでリリーを連れ帰って彼女を調べた。血液、DNA、身体能力、目の変化、武器技能。調べられる事を全て調べ尽くし、結果は・・・分からなかった」

 

「分からなかった?」

 

「あぁ・・・あれだけ調べて彼女の全てが分からなかった。ただ、戦場育ちの影響か感情を示す為の表情を無くしていた」

  

ミラーは溜め息をつくと、ベレー帽を深く被る。

まるで長い間、ずっと悩んでいた様な顔で伊丹達の方へ向く。

 

「良いか?どんなに人間離れしていても、彼女の事を嫌わないでやってくれ。彼女も彼女で悩んで苦しんでいるんだからな」

 

ミラーはそう言うと、車の椅子に深く座り寝息をたて始めた。

そこに飲み物を買ってきた三人が戻ると同時に車は出発した。  

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____

 

場所は戻り、リリーは車で銀座まで来たのは良かったが、思いのほか人手が多く混雑のために通れずにいた。

リリーはハンドルに人差し指で何度もリズム良く叩きながら通る隙を伺っていると、無線がリリーの元に入る。

 

《ウルフ。その人混みはどうやら伊丹達の仕業の様だ》

 

「この人混みを伊丹さん達が?」

 

《あの理沙と言う女がネットを使って情報をあえて流したらしい・・・成る程、確かにこれなら工作員もまともな身動きは取れまい。なかなか良いセンスだ》

 

オセロットは口癖とも言える言葉を言うと、リリーはハンドルにもたれて溜め息を吐く。

確かにこれなら工作員も下手に動けないが、自分も動けないのだ。

リリーはどうするべきかと考えていると、オセロットがリリーに指示する。

 

《この際、車なんて捨てろ。後は日本の公安が始末してくれるだろうからな。もう徒歩でも良い、早くミラー達の元に向かえ》

 

リリーはオセロットの指示を聞き車を乗り捨てると、ミラー達の元に急いで向かう。

野次馬達を押し退けてリリーは進むと、花を供えて犠牲者を追悼する為の献花台の前に伊丹達とミラー、ティファニが立っていた。

リリーはミラーの元に行き、ミラーはリリーの存在に気付くと前に来る。

 

「お前にしては遅かったじゃないか、リリー?」

 

「ミラーさん。無事、工作員の排除が終わりました。少々、懐かしい顔と一戦交えて手こずった為に遅くなりました」

 

「そうか・・・リリー、この日本での最後のスケジュールである事件の被害者である人々の追悼を行う。心の底から哀悼の意を表してな・・・」

 

ミラーはそう言うと献花台に行き、リリーも来ると追悼が始まった。

ロゥリィが手にした花束を献花台に置くと、目を瞑って哀悼の意を捧げる。

回りも哀悼の意を捧げて静かになる中、ロゥリィが追悼を止めた。

 

「鎮魂の、鐘が欲しいわね」

 

ロゥリィがそう言った瞬間、時間を知らせる鐘が鳴り響き、ロゥリィは満足そうな笑みを浮かべた。

 

追悼を終えた伊丹達共に特地に帰還する為、リリーは封鎖されている門付近まで来ると、ミラーはそこで立ち止まる。

 

「リリー。此処でお別れだ」

 

「・・・マザーベースへ戻られるのですね」

 

リリーは少し寂しげに言うとミラーは苦笑いを浮かべた。

 

「いつまでもオセロットに任せっきりと言う訳にはいかないからな。それに、俺が特地にいなくてもお前ならやっていけるさ」

 

ミラーはそう言ってリリーの肩に手を置いて微笑みかける。

ミラーの目にはまだ幼い頃のリリーの姿があり、その姿が見違える程に成長した事を喜ばしく思えると同時に、戦場へと送り出す不安も覚える。

だが、その想いを出さず副司令としてリリーに言葉を投げ掛けた。

 

「頼んだぞ、ウルフ」

 

ミラーはそう言って用意されていた黒塗りの車で戻って行き、リリーは門の中を潜ろうとした時、歓声が挙がった。

その歓声はテュカやレレイ、ロゥリィの名前を挙げている事からファンタジーが好きな人々による物だろうと容易に想像がついた。

 

リリーはそんな歓声を気にせずに中に入ろうとした時、歓声の中にもう一つ名前が挙がった。

 

「「「「「「リリー!リリー!リリー!」」」」」」

 

「え?何で私の名前が・・・」

 

突然、大声で大多数の人々からの歓声に困惑していると、ティファニが苦笑いしつつリリーに言う。

 

「何だか知らないが・・・国会でお前の事をお気に召した一部の人間が広めたんだとよ。麗しいクール系美少女傭兵・・・てな。お陰でネットで一夜にして非公式ファンクラブが設立して予定していた人集めをしてたら話を聞き付けた奴等も集まって倍の規模になっちまったのは別の話だ」

 

「ふ、ファンクラブ・・・?私に・・・?」 

 

「ま、良いじゃないか。慕ってくれる奴等がいても」

 

「・・・慕ってるって、何か違う気がするけどね」

 

ニヤニヤとするティファニにリリーは何処か顔を赤く染めつつもそう答える。

リリーは門の中間辺りまで来ると、ファントムシガーを手にし、電子の火を着けると吸う。

 

こうして日本での参考人招致は終わり、元の任務漬けの毎日に戻った。









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奴隷解放

~アルヌス駐屯地 ダイアモンドドックス臨時拠点~

 

特地に帰還して半月、正式に雇われたダイアモンドドックスは大きく変わった。

特地で何が起こるか分からない為、戦闘班と医療班が送られて来る事になり、ある程度の火力を持つ武器も送られて来る事になった。

 

更にアルヌスに避難してきた或いは移住してきた者達が駐屯地の隣に町を作った為、これからも増える事を考え、拡張の手助けする為に拠点開発班が来て、スタッフの武器整備と武装ヘリの整備の為に技術班も派遣される事になっている。

 

特地で回収して現在、アルヌス警備班スタッフとして働いている者達も含めて賑やかになるとされ、臨時拠点の居住区の拡張も検討され始めた。

 

その為、臨時拠点の責任者としても動くリリーにとっては多忙になりつつあった。

 

「えーと、戦闘班と医療班と拠点開発班と技術班の居住地の場所はこれぐらいで・・・駄目だわ。これでは資源が枯渇しかねないわ」

 

「運ばれて来る資源にも限りはあるからな・・・こうなったら木造でも良いんじゃないか?」

 

「木造・・・検討しておくわ。それよりも私がいなくても大丈夫よね?」

 

「大丈夫だよ、たく・・・おめぇはどんだけ現場監督したがるんだよ。心配なのは分かるが仲間を信じろ」

 

リリーはスタッフが増えると同時に起こった沢山の案件にミッションと拠点開発に関する仕事で大変だった。

 

予定されている班が来るまでに出来る限りの早さで居住区と作業施設を整える必要があり、幸いにも今いるスタッフに拠点開発が出来る者達が多くいた為、居住区と作業施設は急ピッチで作られている。

 

だが、それなりに資源を使う為に枯渇が始まり、現代的な施設を作るのは無理が出てきた。

リリーはミッションの合間に帰ってきては視察して問題は無いかと回って休む暇も無かった。

 

「もうじき、資源の補充が来る。最悪、木造になっちまうと思うが無いよりはマシだと思ってくれるさ」

 

「そうね・・・じゃぁ、ティファニさん。私は次のミッションに行ってくるわ」

 

「もう行くのか?次のミッションは何だ?」

 

「このアルヌスの住民からの依頼ね。ヴォーリアバニーのデリラさんから奴隷にされた同胞を助けて欲しいと言う依頼ね」

 

リリーがそう言うと、ティファニは険しい顔になった。

最近になって、自衛隊からの依頼の他に住民からの依頼を受け付ける様になった。

主に護衛や野生の飛竜退治が挙げられるが、ごく稀にこうした救出依頼が舞い込んでくる事もある。

 

「怒るのも分からなくないわね・・・続きだけど、ヴォーリアバニーは大半は性奴隷として貴族に買われているそうだけど、極限られたヴォーリアバニーは鉱山送りになるそうよ」

 

「おいおい、鉱山送り?。仮にも女なんだぞ」

 

ティファニはそう言うと、リリーは表情を変えずに答える。

 

「性奴隷として役に立たない暴れん坊とか、顔が酷くなっているとかで送られるのよ」

 

「・・・納得だな」

 

ティファニはそう言うとリリーは武装ヘリの元に歩き出す。

リリーが去った後、ティファニは額に手を押さえた後、八つ当たりをする様に近くにあった空箱を蹴り飛ばした。

 

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~帝国領 ウルガヌゥ鉱山付近~

 

リリーは武装ヘリに乗り、送られて来たブリーフィング用のカセットテープを回した。

ブリーフィングは何時も通りミラーの声で始まる。

 

《ウルフ。今回のミッションは避難民デリラからのウルガヌゥ鉱山で強制労働を課せられているヴォーリアバニー達の救出をする依頼だ。諜報班によればウルガヌゥ鉱山は帝国の大商会が採掘している。だが、大商会とは言え多くの傭兵を雇って警備を行っているのか異様に警備も厚い・・・気を引き締めてくれ》

 

カセットテープは切れると、武装ヘリは目的地にたどり着き、リリーは武装ヘリから降りると武装ヘリも飛んで行った。

 

《気を付けてくれ、ウルフ》

 

その無線を最後に武装ヘリは臨時拠点へと戻って行き、リリーはミッションを開始した。

リリーは回りを見るとイタリカで手に入れた馬がおり、オセロットからの無線が入る。

 

《その馬は今回からはお前のバディだ。Dホース同様、移動手段として活用してくれ。ウルガヌゥ鉱山は遠い・・・現地調達可能な車両が無いこの世界なんだ。しっかりと乗りこなしてくれ》

 

オセロットはそう言って無線を切ると、リリーは馬を軽く撫で跨がった。

馬はリリーに答える様に大人しく乗せた後、リリーはウルガヌゥ鉱山を目指した馬を駆けた。

 

馬を駆けている道中、帝国の関所が幾つかあったがリリーは馬を利用したステルスを駆使して突破し、発見も戦闘も無く、ウルガヌゥ鉱山付近へとやって来た。

 

リリーは小高い丘に上りウルガヌゥ鉱山を見渡していると、オセロットからの無線が入った。

 

《着いたな。ウルガヌゥ鉱山は異様に警備が厚いと聞いたが・・・双眼鏡で偵察してみてくれ》 

 

リリーは言われた通り、双眼鏡で偵察をすると確かに帝国とは違う装備だが鎧兜で武装した柄の悪そうな兵士が多数警戒している。

見つけた兵士をリリーはマーキングし終えると、オセロットからの無線が入った。

 

《確かに妙な位に警戒が厳しい・・・鉱山一つに何故、此処まで兵士を配置するのは余程、何か知られたくない何かがあるのかもな》

 

「知られたくない何か・・・」

 

リリーはそう呟くと、偵察を終えてウルガヌゥ鉱山に近づいて行く。

 

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ウルガヌゥ鉱山付近までやって来たリリーは巡回する兵士に注意を払いつつ、内部に潜入していく。

途中、錆び付いたツルハシやトロッコの線路等を見た所、環境はそれなりに最悪な物を意味していた。

十分にまともな道具が無い中での強制労働はとても過酷だ。

下手したら錆び付いた道具しか無いと言う事は予備が無い・・・つまり、壊れたりすれば次の道具が来るまで素手で採掘をさせられている可能性が挙げられる。

 

「最悪ね、本当に・・・」

 

リリーは悪態をつくと、奴隷を収容しているとされる施設に来るとそっと、扉を開けて中に入る。

中も巡回する兵士がいるが、外程ではない為、油断しなければ簡単に突破する事が出来た。

 

ある程度、中に進むと道沿いに二人の兵士が止まって話していた。

 

「なぁ、お前は何でこの鉱山が此処まで厳重に守られているのか分かるか?」

 

「さぁな・・・俺達を雇った金持ちの考えなんて分かりゃしねぇよ。分かるとすれば、黄色い鉱石を取ってるとしかな。此処は呪われている・・・採掘している奴隷どもが謎の病で次々と死んでいって、挙げ句の果てには俺達の様な雇われた傭兵にも害が出始めている」

 

「・・・俺、早く此処を辞めようかな。死にたくねぇし」

 

兵士達は話し終えて巡回に戻ると、ミラーからの無線が入った。

 

《聞いたか?。黄色い鉱石・・・まさか、な》

 

「・・・その、まさかなら」

 

《考えたくはないが、此処で採掘されているのは・・・ウラン鉱石だと言う事になる。核の原料ともなるが何故、この世界でウラン鉱石を・・・》

 

ミラーがそう言うとリリーはウルガヌゥ鉱山がまさかウラン鉱石を採掘しているとはと驚くと同時に、ターゲットが無事なのかと言う不安が出てきた。

 

「先を急ぐわ・・・ターゲット達も働かされていたのなら放射線に汚染されている可能性もあるから」

 

《無茶をするなよ、ウルフ》

 

ミラーからの無線を切ると、リリーは先を進む。 

 

施設内の曲がり角まで来て、曲がり角に持たれる様に背中を着けると巡回する兵士がいないかを確認する。

様子を見た所、巡回ではなく扉の前に立って見張りをする兵士だけで暇そうに大あくびをかいている。

 

リリーは兵士を誘き出す為に左手で指を鳴らすと、兵士は音に気付いて近づく。

そして、近付いて来た兵士をリリーは素早く捕まえると首もとにナイフを突き付ける。

 

「ヴォーリアバニー達は何処?」

 

「ヴ、ヴォーリアバニー達は・・・俺の見張っていた扉の奥の牢屋だ・・・!」   

 

リリーはターゲットの情報を掴むと、念の為に兵士から情報を吐き出させる。

 

「他には?」

 

「お、男の奴隷が一人・・・異世界から、連れてきた・・・!」

 

「異世界・・・?まさか・・・!」

 

リリーはそれを聞いた後、兵士の首を絞めて気絶させて牢屋のある部屋へと入った。

そこにはターゲットのヴォーリアバニー達の他に多くの種族、人間が弱った状態でリリーを見ていた。

リリーは牢屋の一つ々を見ていくと、牢屋の片隅にデカイ体格をした狼男が何かを庇う様にリリーを睨んでいる。

 

「・・・貴方、後ろに誰かを隠してる?」

 

リリーはファルマート語でそう聞くと、狼男は知らんぷりをする様に首を別の方向に向ける。

リリーはしらばっくれる狼男に対して困ったと思った時、一つの案が浮かんだ。

リリーはその案に従って狼男に問う、日本語でだ。

 

「誰を隠してるの?」

 

リリーの言葉に回りの奴隷達は驚いた様な表情を浮かべていると、狼男の後ろから誰かが出てきた。

それは痩せ細った日系の男で、今にも死にそうな顔だ。

 

「ま、まさか・・・今のは、日本語、ですか・・・?」

 

「えぇ、そうよ」

 

リリーは日本語でそう返すと、牢屋の扉の前で屈むと錠を抉じ開けて中に入る。

回りは警戒する中、リリーは気にせずに中に入って男の元に来た。

 

「貴方・・・日本人ね?」

 

「はい・・・銀座を僕の彼女と歩いていたら誰かに襲われて気が付いたら暗い牢屋の中で今は分かりますが訳の分からない言葉で尋問されて・・・喋り終えると此処で強制労働を・・・」

 

「そうだったのね。帝国の斥候の仕業と言った所かしら・・・本当に気の毒としか言えないわ」

 

リリーはそう言うと男は気を失ってしまい、リリーはすぐに気絶したリョウイチの容態を確かめる。

衰弱と過度の労働による疲労、所々に痣がある事から此処でも相当酷い目にあったと考えられた。

此処まで痛め付けられていればフルトン回収は危険と考えられる。

 

「おい、あんた。リョウイチさんの容態が分かるのか?」

 

「リョウイチ?・・・この人の名前ね。かなり手酷くやられたと言うのは分かる・・・このままじゃ死ぬわ」

 

リリーの言葉に牢屋の中はざわつく。 

余程、リョウイチは奴隷達に信頼を寄せられているのだとリリーは考えると狼男が大きな体を折って頼み込んできた。

 

「頼む。リョウイチを助けてやってくれ・・・リョウイチは損しかないと分かっていても俺達を見捨てずに助けてくれたんだ。リョウイチを死なせたくない・・・頼む・・・!」

 

「わ、私からもお願い!」

 

「俺もだ!」

 

奴隷達は次々と頭を下げ始め、リリーは困惑していたが彼等の懇願に心を打たれてリョウイチを担いで彼等に手を伸ばす。

 

「リョウイチは助けてみせるわ。それと、貴方達もね」

 

リリーがそう言うとミラーからの無線が入った。

 

《無茶だリリー・・・ヘリにも限界はある。奴隷達は明らかに収容出来る人数を越えている。残念だがターゲットとリョウイチと言う日本人だけでも》 

 

「助けると言ったら助けます。自衛隊にも協力を仰げばギリギリ補えます。幸いにも此処は帝国領・・・他国を脅かす事なく行動できます」  

 

《彼等が動くのか?》 

 

ミラーがそう言うとリリーは少し間を置いた後、力強く答える。

 

「動かして見せます」

 

《・・・分かった。要請は此方でしておく、流石に日本人が被害にあっていたと言えば動かざるおえないだろうしな》

 

「助かります」

 

リリーはそう言うと牢屋の鍵を開けて行き、奴隷達はリリーを呆然と見つめていた。

 

「何してるの?早く此処から逃げるわよ」

 

「な、なぁ・・・本当は危険な事だって分かっているのにあんたは何でそこまで俺達を助けようとしてくれるんだ?」

 

奴隷の一人がそう言うと、リリーはリョウイチを担ぎながら彼等に言った。

 

「リョウイチと同じ気持ちだからよ。ただ、助けたい・・・救えるならどんなに危険でも助けたいと言う気持ちはリョウイチと同じだから」

 

リリーがそう言うと、奴隷達は歩ける者は立ち上がり、歩けない者は歩ける者達が支えあって共に進む。

道中の見張りはリリーが排除しつつ突破し、遂にライディングゾーンへとやって来た。

 

「此処が脱出する為の場所なのか?ただの丘にしか見えないが・・・」

 

奴隷達が不安に駆られ始めた瞬間、ヘリの音が近づいて来るのが聞こえた。

リリーは空を見上げると、ダイアモンドドックスのヘリと自衛隊のヘリ三機、合わせて四機による編成でランディングゾーンにやって来たのだ。

   

《此方、ピークォド。自衛隊機と共にランディングゾーンに到着。待機する》

 

ピークォドがそう言うとヘリをギリギリまで着けて待機し、自衛隊機もギリギリまで着けた後、数人の自衛隊員が降りてきてリリーの元に来る。

 

「お待たせしましたウルフさん。彼等が保護した方々ですか?」

 

「そうよ。早く此処から離脱しましょう。奴等も馬鹿じゃないから彼等が逃げ出した事にすぐに気付いて追って来るわよ」

 

リリーはそう言うとダイアモンドドックスのヘリにリョウイチを乗せると派遣されて来た医療班スタッフ達の治療を受けていた。

他の奴隷達も自衛隊やスタッフ達の助けを借りてヘリに乗り込んで行く。

 

「これで全員よ」

 

「ウルフさんも早く!」

 

自衛隊員がそう話して手を伸ばした瞬間、辺り一面に霧が立ち込めてきたのだ。

リリーはこの異常な天候に嫌な予感を感じ、辺りを見渡し始めると、遠くに異様な光が見えた事でリリーの予感は的中してしまった。

 

「出して、早く出して!」

 

「ど、どうしたのですか?」

 

「早く!急いで出して!!」

 

リリーの指示に自衛隊員は混乱していると、ピークォドも異変に気付き、自衛隊機に指示を出した。

 

《ウルフの指示に従ってくれ!早く飛ぶんだ!》

 

ピークォドの言葉に自衛隊機は慌てて飛び立った後、一人残されたリリーは静かにAM MRS-4を構えると、リリーの近くに髑髏の様な顔と姿をした集団がリリーを取り囲む。

 

《こいつらはまさか・・・霧の部隊、スカルズ!》

 

ミラーはそう言った瞬間、スカルズ達は銃を取り出してリリーに向けた。



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深まる謎

スカルズ達は銃をリリーに向けると容赦なく発砲した。

銃が乱射される中、リリーは辛うじてスカルズの銃弾を避けるとAM MRS-4を発砲し、スカルズに攻撃を加えた。

 

だが、スカルズの異様な速さで避けられてしまい、攻撃が全く通用しない。

 

《無闇に戦うな!逃げろ!》 

 

「しかし、此処で逃げたらスカルズは間違いなくヘリを狙います!時間を稼がなければ一般人であるリョウイチ達も危険になります!」

 

《だが今の装備では勝ち目もない・・・奴等の速さに追い付くには追跡可能な携行ミサイルが一番だが・・・》

 

「ハニービーは?」

 

《あれは万が一の使い捨てだ。ハニービーの模造品であるキラービーもまだ輸送の途中。つまり、携行ミサイルは無い》

 

ミラーの言葉にリリーはスカルズとの戦いは絶望的に不利だと分かった。

こうして話している間もスカルズの攻撃を避けて攻撃するのがやっとの状態で、リリーは頭を悩ませた。

隠れながら回りの様子を見るとスカルズはまるでリリーの位置が分かっているかの様に近づいて来ては発砲し、リリーは逃げながら撃つ。

そんな繰り返しが続く中、遂にAM MRS-4の弾が無くなり、AM D114を抜くと苦し紛れの抵抗とばかりに撃つも、次第にAM D114の弾も無くなりつつあった。

 

「参ったわね・・・」

 

リリーはそう言った後、一発の銃弾がリリーの左腕を掠めてしまった。

リリーがスカルズの銃弾から走って逃れていた時、スカルズの流れ弾がリリーの左腕に当たり、出血した。

 

「最悪だわ・・・」 

 

リリーは左腕を垂らしながらも、残りの弾が少ないAM D114を構えた  

スカルズはジリジリとリリーに迫り、追い詰めていたその時、空から突如、ダイアモンドドッグスのヘリがリリーの前に急降下して現れた。

 

「乗るんだウルフ!」

 

ヘリの中にはティファニがおり、手を伸ばしてリリーを乗せようとする。

リリーは急いでヘリに近づいてティファニの手を掴むと、勢いよく持ち上げられて中に乗せられた。

 

「離脱します!」

 

ピークォドはそう叫ぶと浮上し、離脱を開始した。

そんなリリー達を黙って離脱させるスカルズではなく、銃を一斉にヘリに向けて撃ってきた。

 

「くそ!これでも食らいやがれ!!」

 

ティファニは武装ヘリに装備されている機関銃を手にするとスカルズに向けて撃ちまくる。

スカルズは難なく避けていくも、流石に常に撃たれていては追撃は出来ないのかそのまま離脱を許した。

_______________

_________

____

 

~特地 上空~

 

リリーはヘリ内でティファニと同乗していた医療班スタッフに左腕の治療を受けていた。

救急スプレーを吹き掛けられて流石のリリーも声を出して痛がったが、すぐに包帯が巻かれて治療は終わった。

 

「今回は掠めた程度だったが、少しずれていたら危なかったですよ?下手したら貫通ですし・・・」

 

医療班スタッフがそう言うと、リリーは巻かれた包帯を鬱陶しいとばかりに左腕を動かしている。

 

「でも、あのスカルズよ?まともな武器もないのにこれだけで済んだのだから良いじゃない」

 

「全く、お前と言う奴は・・・」

 

リリーの言葉にティファニは額を押さえた時、ヘリが揺れる様な感覚をリリー達は覚えた。

 

「何だ今の揺れは?」

 

「風で揺れただけだと思うよ。高度もかなり高く飛んでるし、揺れる程の突風があっても不思議ではないよ」

 

ピークォドがそう言うとリリー達は何処か不安を覚えたが無理矢理、納得させた。

 

「さて、本題だが・・・何故、この世界に全滅したとされていたスカルズがいたのか」

 

「残党が何かしらの影響でこの世界に流れたんじゃないの?」

 

《それはないだろう》

 

無線からミラーの声がすると、二人は身を引き締めた。   

 

「副司令、それは無いと言うのは?」

 

《スカルズは間違いなく、我々の世界で滅ぼした。実際に、ボスが実際にやったんだ・・・アフリカにあったXOFの秘密研究所でな。あのスカルズは新たに作られたスカルズと判断した方が良いだろう》

 

「新たな、スカルズ・・・」

  

リリーはスカルズと言う驚異に不安を覚えると、ミラーは続ける。

 

《問題なのは新たにスカルズが作れたとしても、どうやってこの世界に来たのかだ》

 

「門は自衛隊の厳重な管理下。怪しい奴が通れるとは思えません。突破したとしても、俺達ダイアモンドドッグスが目を光らせています。まず、アルヌスからではないでしょうね」 

 

《その通りだ。俺達はあの化け物を何回も相手にしてきたんだ。そう簡単に見逃したりはしない。では、アルヌスでないなら何処からか・・・それをお前達に探って貰いたい》

 

「分かりました。スカルズの件は任せて下さい」

 

《すまないないつも。スカルズの件は自衛隊には伏せておいてくれ、彼等がスカルズと対峙するのは危険過ぎる。鉱山には自衛隊に近づかせるな。スカルズがその辺りに警戒線を敷いていると思われるからな》

 

「了解しました」

 

リリーは承諾すると、無線は切れた。

ヘリはいつの間にかアルヌス辺りの上空を飛んでおり、もうすぐ臨時拠点のヘリポートへと到着しようとしていた。

 

_________________

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______

 

~アルヌス駐屯地 ダイアモンドドッグス臨時拠点~

 

リリー達を乗せた武装ヘリは臨時拠点に近付いて着地しようとしていたその時、臨時拠点のサイレンが鳴り響き、何事かと窓から外を見ると、武装したスタッフが一斉にヘリポートに集まってヘリに向けて銃を構えている。

 

スタッフの中には赤いベレー帽を被った精鋭スタッフもおり、ただ事ではない事は分かった。

 

「どうしたの!」

 

「無線によるとヘリに何者かがへばりついていると!」

 

リリーはAM D114を片手にヘリの扉を開けてヘリを見てみるとそこにはスカルズがヘリに掴まっていたのだ。

 

「スカルズ!」

 

青白い光が浮かぶ瞳でリリーを見ており、リリーはすぐにスカルズにAM D114を向けて発砲した。

 

スカルズは何発も銃弾を受けるも、全く手を放す気配が無く、逆に銃をリリーに向けて撃とうと構えてきた。

スカルズは、リリーを狙って撃とうと引き金を引こうとした瞬間、スカルズの頭が撃たれて地面に落ちていった。

 

《クリア!》

 

無線からそう聞くと、スカルズは拠点にいたスタッフに狙撃された物と断定し、落ちていったスカルズをリリーは冷や汗をかきながら見ていた。 

音がしなかったのはサブレッサーを使ったライフルで狙撃したと考えると、後の事を誤魔化しやすいとも考えられた。

 

「何故、スカルズが・・・」

 

「拠点内に落ちた!降りて奴が死んだか確かめるぞ」

 

リリーは達はスカルズを落とした後、すぐにヘリポートに着陸させてスカルズの元に来ると、スカルズを取り囲む様に陣形を組み、銃を突き付けるスタッフ達が警戒していた。

 

「・・・スカルズは?」

 

「生きている・・・頭を撃たれて、あの高さから落ちてもな。全く、本当に恐ろしい奴等だ」

 

スタッフの一人がそう言うと、リリーはAM D114を片手にスカルズに近づき、スカルズの銃を蹴り飛ばしてから安全を確認すると、戦闘班がスカルズを回収した。

 

________________

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その頃、自衛隊の駐屯地ではダイアモンドドッグスのサイレン騒ぎで動揺が走っていた。

 

ダイアモンドドッグスの臨時拠点から発生源としたサイレンが鳴り響き、アサルトライフルや機関銃挙げ句の果てには携行ミサイルまで武装したスタッフが慌ただしく走っていたのが目撃されていた。

 

狭間はすぐにダイアモンドドッグスにサイレン騒ぎの説明を求めた所、サイレンはただの誤報で、サイレンを聞いて誤解したスタッフ達が動いだけだと伝えられて終わった。

 

「誤報、か・・・確かに発砲音すらしなかったが、誤報だとしてもこの世界では大げさ過ぎる武装だな。追尾可能な携行ミサイル・・・キラービーと言ったな?」

 

「はい。ダイアモンドドッグスが米軍のハニービーを参考に・・・と言っても殆どパクりですが独自に開発した物であり、ダイアモンドドッグスのスタッフの標準装備の一つだと聞いております」

 

柳田がそう言うと、狭間は腕を組む。

 

「明らかにおかしい・・・幾ら標準装備でも、ほのぼの龍並の敵ではない以上はキラービーを持ち出す事は過剰戦力も良い所の筈だ。彼等がプロならそれが分かる筈なのだがな・・・」   

 

「もしかしたら・・・この世界で炎龍と同格、またはそれ以上の脅威が彼等の前に現れ、その脅威を彼等が隠したのでは?」

 

「隠すとしても、何故だ?脅威となるのなら情報を共有し、共同で討つべきだろうに・・・」

 

「それが出来ない、もしくはその脅威の存在を知らせてはならない。彼等の中でそう考えられていてもおかしくないかと」

 

柳田の言葉に狭間は考えた後、結論を出した。

 

「憶測では判断出来ん・・・今は様子を見よう。彼等が何かを隠しているのなら、その時は考えるしかない」

 

「分かりました。この事は?」

 

「・・・内密にだ」

 

狭間の言葉を聞いて柳田は敬礼すると退出した。



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ヴェノムスネーク視点:闇に隠された研究~前編~

今回はイランで活動するヴェノムスネーク視点です。


~イラン北部 上空~

 

イラン北部の空を飛ぶダイアモンドドックスのヘリ内ではスネークが座って目的地に着くのを待っていた。

 

今回のミッションとして、特地に現れたスカルズの出所をこの世界でも探る為にペーパーカンパニーで隠されたサイファーの研究所への潜入だった。

 

スネークはある程度、目的地に近付くとブリーフィング用のカセットを回した。

 

《ボス。今回のミッションはサイファーの研究所への潜入だ。特地でスカルズが現れた以上は奴等が関与している可能性は高い。ウルフには特地で、ボスにはこの世界で探って貰いたい。相手はサイファーだ・・・油断するな》

 

ブリーフィング用のカセットが切れると、ヘリは目的地に到着し、スネークはヘリの扉を開けて足を乗り出すとベルトを着け、銃の弾を一発余分に入れた。

 

そして、目的地に到着したヘリは地面スレスレに降りるとスネークはベルトを外して降りた。

 

《どうか気を付けて、ボス》

 

ピークォドがそう言って飛び立って行くと、スネークは予め用意した四輪駆動車に乗ると目的地を目指して走る。

 

スネークがある程度走ると、目の前に大きな監視所があり、警備の兵士が多くいた。

スネークは車両から降りると、体勢を低くして監視所に入り込んだ。

無数の監視の中、スネークは巧みに監視網を避けて行き、見付かる事なく監視場を抜ける事に成功した。

スネークは暫く前へと進んで行くと、大きな施設を発見する。

大きな施設を発見すると同時にミラーからの無線が入った。

 

《無事にサイファーの研究所に着いたな。何か情報が残っていると良いが・・・》

 

カズの無線が切れると、スネークは研究所への潜入を開始した。

外側には多くのサイファーの兵士や装甲車や戦車、戦闘ヘリにウォーカーギア等と異様な程に警備体制が厚かった。

 

そんな異常過ぎる警備にミラーから無線が入る。

 

《何なんだこの厳重な警備は・・・兵士だけでなく大量の兵器まで使う警備・・・ボス。この施設には何かある。気を付けてくれ》

 

ミラーはそう伝えると無線を切り、スネークは見つからない様に慎重に進んで行く。

厳重な警備を突破する中、施設の入り口の前を二人の兵士が警戒していた。

スネークはそれを見て装備の中から円盤の様な物を取り出すと、兵士の間に投げ、着地すると同時にスイッチを押す。

すると、円盤から人形が現れて二人の兵士をぶっ飛ばして気絶させた。

その光景を見たミラーから呆れた様子で話し掛けられる。

 

《ボス・・・デコイは普通、囮に使う物だぞ・・・》

 

「良いじゃないか。麻酔銃じゃ二人を同時に眠らせるのはリスクが高い、だからと言って催眠ガスグレネードでは煙を見られるかもしれんからな・・・」

 

《いやいや、人形を見られても駄目だろ?》

 

「気にするな」

 

スネークはそう言うと、二人の兵士を手早く回収した後、施設へ侵入した。

施設内も兵士が巡回しているが外程ではなく、あっさりと突破し、施設の部屋の一つへ入った。

部屋の中には研究に関しての資料が数多くあり、スネークは資料の一つを取ると目を見開いらいた。

 

「これは、リリーの資料か・・・!」

 

それはリリーの幼い頃の写真とリリーの能力に関しての研究結果が書かれていた。

 

《ボス・・・端末をかざしてくれ。詳しく調べたい》

 

スネークは端末をかざすと資料を読み込み始め、暫くすると読み込みは終わった。

それから暫くすると、ミラーから再び無線が入り、資料の調査結果が言い渡される。

 

《ボス・・・資料を調べてみたが、間違いない。リリーは》

 

「此処で生まれた。そうだろ?」

 

《・・・その通りだ。リリーはスカルズに取って変わる為に作られた人工の兵士として計画の一部に組み込まれていた様だ。それが何かの切っ掛けでISISに渡り、俺達の仲間になった》

 

「・・・それで、生まれたからには母親となる存在がいる筈だが、何処に?」

 

《そこまでは書いて無かったが、もはや此処にはいないだろう・・・何たってリリーの母親はかなり有名な科学者だ》

 

「科学者?」

 

スネークはそう聞くと、ミラーは端末に写真を送った。

そこには黒髪の短髪で、リリーに似た顔立ちの白衣を着た女性の姿があった。

 

《彼女はカズハ=ヴィクトル。日本人とロシア人のハーフで、ロシア遺伝子学の権威だ。彼女はロシアの研究施設で手腕を振るっていたそうだが・・・表向きには、22年前に行方不明になっている》

 

「表向きと言う事は・・・誘拐でもされたのか?」

 

《可能性は高いだろうが、彼女の意思でサイファーに力を貸した可能性もあり得る。そんな彼女が行った研究の中には、あらゆる遺伝子を人工的に組み合わせて超人的な兵士を作り出す非合法な研究だ。むろん、これはサイファーでの記録での事だ》

 

「超人的な兵士・・・だとしたらリリーの能力には説明が付く。彼女はカズハの研究によって、カズハ自ら産み落とされて誕生した。そして、何らかの遺伝子を組み合わされたリリーは」

 

《驚異的な戦闘能力を手にした。自身の生きる自由と引き換えに》

 

ミラーの言葉にスネークは項垂れていると、奥の扉が開き、スネークは素早く身を隠した。

スネークは物陰から誰が入ってきたのか見てみると、そこには銃を持たない兵士だった。

兵士は軽装甲の防弾スーツを着て、ヘルメットとガスマスクを組み合わせた様な姿をしている。

そして、胸にはXOFのマークが描かれていた。

 

「あれは・・・?」

 

《ボス。奴に絶対に見付かるな・・・嫌な予感がする》  

 

ミラーの指示にスネークは見付からない様に慎重に動く。

兵士は辺りを見渡しながら巡回し、まるで侵入がいると分かっているかの様に部屋の隅々を覗いてクリアリングを行って来る。

スネークは高い警戒能力を回避しつつ、部屋の扉を開けようとした時、兵士がギリギリの所でスネークに気付き、素早い動きでスネークを掴んで部屋の奥へ投げた。

 

「ぐぅッ・・・!?」

 

《スネーク!》

 

投げれたスネークは頭を軽く振ってから兵士の方を見ると、兵士は扉のノブを尋常ではない力で曲げて使用できなくすると、スネークの方を見てきた。

兵士はゆっくりと歩きながら腰から大型の刃物を取り出す。

 

《気を付けろスネーク!そいつは恐らく資料にもあった人工兵だ!》

 

ミラーの叫びを聞いて、スネークは身構えた。



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ヴェノムスネーク視点:闇に隠された研究~後編~

スネークは身構えながら人工兵と対峙していると、人工兵は刃物をスネークに振るう。

スネークはそれを防ぎ、刃物を奪うと人工兵の首に突き刺した。

スネークは人工兵が絶命した物と考えていたが、人工兵は刃物の柄を突然握りしめたのだ。

 

「・・・ッ!?」

 

そして、首を突き刺された人工兵は何事も無かったかの様に刃物を抜くと、再び身構えてきた。

 

「こいつ・・・スカルズ並みの生命力だな・・・」

 

《やはり普通の兵士とは違うと言う事か・・・ボス、奴の動きに注意して排除してくれ》

 

「了解」

 

スネークは身構えて人工兵に対峙すると、人工兵は素早い動きで走り、スネークに向かって刃物を振るう。

スネークは人工兵の刃物を持つ腕を振るわれると同時に掴むと、体を掴んだ勢いよく背負い投げを仕掛けた。

 

だが、人工兵は空中で体勢立て直し、スネークに裏拳を仕掛け、スネークはバイオニックアームで防いだ。

激しい格闘戦が繰り広げる中、スネークと人工兵の戦いが長期化していく中、人工兵が刃物を突き出してスネークを突き殺そうとし、スネークは素早く避けて通り過ぎた人工兵の一瞬の隙を突いてバイオニックアームの強力なパンチを人工兵の顔に当てた。

 

バイオニックアームのパンチを諸に受けた人工兵は吹き飛んで行き、ヘルメットが外れた状態で倒れて気絶した。

 

《やったか・・・?。スネーク、奴の安否を確認してくれ》

 

ミラーの指示にスネークはAM D114を持ち、人工兵の近くまでやって来た時、スネークは驚愕した。

 

「・・・リリー?」

 

そこにあったのは他ならぬリリーの顔だった。

だが、髪は黒色で特徴的な深紅の髪色をしていたリリーの髪とはかなり掛け離れていた。

 

《どうやら、こいつはリリーの量産型と言った所だろう・・・能力も戦闘も共通し、何より髪色以外では顔立ちも一致する》

 

「つまり、こいつはリリーでもあると言う事か?」

 

《意思を奪われた点以外ではな。奴は何も言わず、問わずに黙ってボスを殺そうとした。つまり、何らかの方法で意思を奪われ言われた事をそのまま実行する・・・思うがままに操れる兵士と言う所だ》

 

ミラーの言葉にスネークは項垂れつつ、人工兵にAM D114を向けた。

 

《ボス。もし、まだ仮説とは言え意思を奪われた人工兵を回収しても仲間になる事は無いだろう。せめて、意思に関係なく戦場に送られない様に楽にしてやれ》 

 

オセロットがミラーの発言に待ったをかけようとしたが、スネークはAM D114の引き金に指を掛け、そして・・・引き金を引いて発砲した。

撃たれた人工兵はそのまま絶命し、血を流している。

 

《人工兵の排除を確認。今回はスカルズに関する情報は得られなかったが・・・ボス、直ちに離脱してくれ》

 

ミラーの指示を受けてスネークは部屋からの脱出方法を探る。

 

出入口は人工兵の異常な力でノブはねじ曲げられて使えず、スネークは辺りを見渡すと人一人程入れそうな通気口を見つけ、スネークは通気口を塞いでいた鉄格子を取ると匍匐して進む。

通気口をスネークは進み続けていると、目の前に鉄格子が見え、スネークは鉄格子を静かに外して外の様子を伺う。

外は施設の部屋の一つで、スネークは起き上がると警戒しつつ部屋を出る為に扉のノブに手を掛けてそっと開けた。

 

スネークは左右を見て兵士がいないかを確認した後、静かに素早く移動し、施設からの脱出を図る。

スネークは移動する中、廊下の歩く二人の兵士を見つけ、スネークは近くにあった部屋へ入り身を隠した。

兵士二人はスネークの存在に気付かずにそのまま歩いて行き、スネークは部屋を出て脱出しようとした時、部屋に資料が置かれている事に気付き、資料を読むと新たな情報を得た。

 

「・・・カズ。とんでもない事が分かったぞ」

 

《とんでもない事?》

 

「どうしてスカルズが特地に現れたのかが関係している・・・」

 

《何だと!?それで、そのとんでもない事は?》

 

「・・・門だ。特地に繋がるもう一つの門がサイファーの手中にある」

 

スネークの言葉にミラーは信じられなかった。

 

特地には日本からの経由でなければ行けない物だと考えられていた。

だが、サイファーは日本とは別の門を手に入れて特地に介入している真実が浮上した事で、その考えは全て崩される事になるのだ。

 

《・・・分かったぞ。何故、特地でウラン鉱石が掘られていたのか・・・何故、スカルズがいたのか・・・もう一つの門があると言う事なら話は簡単だ・・・》

 

「サイファーは既に特地に勢力を伸ばし、特地の何処かで核を作ろうとしている」

 

《特地なら査察など関係ないからな・・・もう一つの門があると言う事を知らなければ特にな・・・ボス、それだけでも大きな成果だ。脱出を再開してくれ》

 

スネークはミラーとの通信を終えると、スネークは先程の資料を端末でスキャンした後で移動を再開する。

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____________

______

 

スネークは研究施設から脱出すると、スネークはライディングゾーンに指定した場所で待たせていたヘリに乗り込むと、ミッション圏外へと脱出した。

 

《ボス。今回手にした情報は目的の物ではなかったが、新たに確認された敵・・・人工兵いや、バイオ兵と言おう》

 

「バイオ兵?」

 

《あらゆる遺伝子を組み合わされた言い方が悪ければ人形生物兵器・・・故にバイオ兵と名付けた》

 

「・・・そうか。それで今回手にした情報だが」

 

《サイファーが門を所有している事。これは非常に厄介な事だ》

 

ミラーの言葉にスネークは項垂れた。

 

アメリカを傀儡して強大な勢力を有するサイファーが、大量の資源と未知の技術や生物が豊富な特地に何時でも介入出来ると言う事はサイファーにとってはとても好都合な資源調達区域と実験場を手にしたと言っても過言ではなく、特地の利益で更に肥大化し、ダイアモンドドッグスの脅威になりえないからだ。

 

「サイファーの門・・・探る必要があるな」

 

《それともう一つ・・・リリーの母、カズハ=ヴィクトルを探す事だ。彼女が何故、サイファーに力を貸したのかを聞き出したい》

 

「だが、そのカズハは何処にいる?資料には」

 

《あったんだ。彼女の居場所が記されていた・・・ボスが入手したあのサイファーの門の情報に》

 

「ッ!?」

 

スネークはそれを聞いてまさかと考えた時、ミラーは伝えた。

 

《彼女は・・・特地のサイファーの基地にいる》

 

 



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拉致被害者

~アルヌス駐屯地 自衛隊医療施設~

 

アルヌス駐屯地には自衛隊とダイアモンドドッグスが共同で医療施設を運営している。

施設は自衛隊とダイアモンドドッグスで別れてはいるが、自衛隊の医療施設は事件の参考人や他国の重要人物を、ダイアモンドドッグスの医療施設は規模が大きいので自衛隊員とスタッフそして一般人を受け入れている。

 

リリーは今回、自衛隊医療施設にて鉱山で強制労働を強いられていたリョウイチこと"村井亮一"から事情を聞く為に訪れていた。

 

「亮一さん。いる?」

 

リリーは亮一のいる部屋を覗くと、そこには今は健康な体になり、体のあちこちを包帯で巻いている亮一がベッドに横になっていた。

 

「あ、リリーさん・・・すみません寝たきりで」

 

亮一は申し訳なさそうにベッドから起き上がろうとすると、リリーはそれを制して近くにあった椅子に座る。

 

「具合はどうかしら?」

 

「おかげで良くなりました。助けて頂いて本当にありがとうございました」

 

亮一の丁寧なお礼にリリーは少し関心を寄せた後、本題を切り出す。

 

「亮一さん。辛いかもしれないけど、貴方の他に誰かいたかしら?確か、彼女がいた事を言ってた気がするけど」

 

「はい・・・僕の彼女の三咲と友達の裕樹とその彼女の紀子の四人です」

 

「つまり、貴方も含めて四人いたのね?」

 

リリーの問いに亮一は頷くと、リリーはこの事態をどうすべきか考える。

特地の国家、帝国が日本人を拉致し、拷問したうえで奴隷に落として強制労働を強いていたのだ。

このまま行けば日本と帝国の講和は成立しない可能性が浮上するのだ。

 

「・・・後の三人の行方は分かるかしら?」

 

「裕樹は、自分と同じ鉱山にいましたが落石で・・・紀子と三咲は分かりません」

 

「・・・そう、お気の毒です。友人の一人を失うなんて・・・もう休んでください。後の二人は必ず見つけて、助け出して見せますから」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

亮一はそう言った後、リリーは病室を後にして医療施設の廊下を歩いていると、ミラーからの無線が入る。

 

《リリー。自衛隊からの緊急ミッションが入った。帝国軍が自衛隊の足止めを理由にルッシュガル地方の各近隣の町や村に対して焦土作戦を行う事が発覚したらしい。既に帝国軍は幾つかの村と町を略奪、放火を行い、畑に塩をまいて駄目にしている・・・それで今回のミッション内容は帝国軍の焦土作戦の妨害。このミッションは端末にリストアップしておく。準備ができしだい出撃してくれ》

 

「分かりました」

 

リリーはそう言って無線を切ると、ミッションに向かう為にヘリを呼んだ後でヘリポートへと向かって歩いて行く。

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~帝国領 ルッシュガル地方~

 

~12 :00~

 

リリーはルッシュガル地方の空をヘリで飛びながらブリーフィング用のテープをセットした。

 

《今回のミッションは自衛隊からの帝国軍の焦土作戦の妨害だ。帝国の焦土作戦を行う部隊は中隊規模。幾ら中世止まりの武装とは言えまともに戦う事はせず、敵のコマンダーを仕留め、大きな混乱を与えてくれ。なお、万が一サイファーの気配を感じれば・・・対応は任せる》

 

ブリーフィング用のテープは切れると、ヘリがランディングゾーンに到着し、リリーはヘリから降りた。

 

《気を付けてくれ、ウルフ》

 

ヘリはそう言うと飛び立って行き、リリーはミッション開始した。



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