不健全鎮守府SS (味付けた孫)
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不健全鎮守府SS

不健全鎮守府の鈴谷が好きすぎてやってしまったんだ。
後悔はしていない。


 爽やかな朝の日差しに鳥の囀り。

 うむ、実にいい朝ではないか―――。

 

 「提督、コーヒーです」

 「…サミダラァ。テメー気がきかねぇなァ…この爽やかな朝をそのクソマズコーヒーで台無しにしろってーのかァ、ア゛ァ゛!?」

 「ヒドっ!…全く、人の好意を無下にして楽しいですか?後、五月雨です」

 

 俺の執務机にマグマのように熱いコーヒーを置き自分の席に戻る全体的に青い奴。

 人生に絶望したようなレ●プ目を余すところなく披露する我が右腕は、好意という名の嫌がらせを残したまま秘書艦席に腰掛け澄まし顔で書類を眺めている。

 

 全く、姉の顔が見てみたいものなのだよ。

 

 「………マズ」

 

 俺が無理すれば飲めなくもないが好んで飲むものでは決して無いモノを啜る姿をチラリと横目で見た某ハリネズミのカラーリングをした秘書艦は、すっと席を立つと戸棚から羊羹を小皿に取り出し竹串を刺して執務机にコトリと置いた。

 

 「お茶請けにどうぞ」

 「そういう気遣いをコーヒー以外のベクトルに向けろよ、ゴマダレェ…」

 

 相変わらずそういうところがムカつくなコイツ…。

 

 「嫌ですよ。私のアイデンティティに口出ししないで下さい。後、五月雨です」

 「なぁにがアイデンティティだ、アイアン・メイデンみてぇな拷問飲料生み出すしか出来ねぇ能無し君がよォ!」

 「はいはい」

 「適当に返事するんじゃないよ!この子は」

 

 耐久性を重視した分厚い鉄板の扉をノックする重厚な音が執務室に響く。

 

 「あぁ?入れェ!」

 「失礼します!新しいアイテムを開発しました!ハッキリ言って自信作です」

 

 鉄扉を開き入ってきたのは、倫理観をドブに捨て去り、人を人とも思わないマッドでバッドガイなドM軽巡、夕張だった。相も変わらず季節感をガン無視したへそ出しルックで無い胸を張っている。

 

 「くだらねーもんだったらテメーのア●ルにバールぶっ刺して直腸引きずり出した上でちょうちょ結びにしてやるから覚悟しとけ」

 「ヒッ」

 

 俺の言葉に夕張は顔を青くしてはいるが、口元がひくひくと動き、悦びを隠しきれていなかった。

 一体何がコイツをここまでの変態魔獣(ファッキンモンスター)にしてしまったのか甚だ疑問である。

 

 「大丈夫です!自信作ですから!」

 

 そう言ってフラグを回収しなかった試しがないのが夕張という艦娘だ。

 

 「今回開発したのはこちら!性格逆転薬キミノ7type-1です!」

 

 夕張が取り出したのは密封ビニール袋に入れられたピンク色の怪しげな錠剤。

 

 「足がないな」

 「足なんて飾りです」

 

 いつものくだりを終え、俺は夕張に続きを促す。

 

 「この薬は文字通り飲んだ人物の性格を逆転させる効果を齎します。強気な人間は風が吹いただけで怯えるようになることでしょう!まさに中身が誰かと入れ替わった如く!」

 

 その時、俺に電流が迸った。その勢いたるやあつかりし青春を彷彿とさせる程の凄まじさ。

 

 「つまりはアレかね。貞淑な者が飲めばビッチも真っ青のド淫乱に変貌することもあると?」

 「はぁ…お、恐らく?」

 

 「夕張ェ!!!!」

 「はい!四つん這いになります!!」

 

 バッと床に四つん這いになった夕張の肩を優しく撫で付けると、俺はそのまま両肩を抱えながら立ち上がらせてまさに生き別れた兄妹の再会のように強く抱きしめた。

 

 「…オマエはやればできる子だと信じていたのだよ。あぁ、何という日だろうか、長年信じ続けたものが今、そう、今まさに報われたのだ!!」

 「え!?ちょ、あれ!?て、提督!?そ、その!!く、苦しいんです…けどぉ…そのぉ恥ずかしいし…」

 

 俺はケツのポケットから財布を手に、万札を5枚ほどスタイリッシュに取り出し夕張の薄い胸とブラの間にスタイリッシュにねじ込んだ。

 

 「ひゃん!?何するんですか!!」

 「それで回らない寿司でも食べ給え、夕張君」

 「はぁ…くれるというなら貰いますけど…」

 

 そんな俺達をいつもの腐ったような瞳で見つめる無駄に髪の長い青い奴が「ドン引きです」などとほざいていたが、安心しろ間違ってもテメーには使わねーよ。

 くっくっく、この薬さえあれば、この鎮守府で奇跡的な程に性格破綻者ではなく、身持ちも硬そうな浜風ちゃんはそれこそ泣いてレ●プをせがむイケナイ子へと変貌を遂げるであろう。

 

 「えーっと、ちなみにですね、このキミノ7type-1は遅効性で効果が出るのに時間が掛かるようです」

 「ふむ、どの程度だね?」

 「…10時間以上、といったところでしょうか?ちなみに現在進行系で実験中といいますか」

 

 コイツ…何という悪魔。自分の実験の為ならば誰を犠牲にすることも厭わないということか。

 まぁ、誰が犠牲者かはあえて問うまい。まさに夢のおクスリの礎となるのだ…少々の犠牲は目を瞑ろう。

 

 「ちなみにですね提督…。お体に何か変調は…」

 

 前言撤回だ。俺はこの悪魔をミンチにしても許せねぇ。

 

 ビタンッ!!(ビンタ)

 

 「ぱるさっ!!」

 「オイオイ、オイオイオイオイ、テメェ、ハマカZの件忘れたわけじゃねぇよなァア!?」

 「痛い…違いますよぉ~…本当は私自ら飲むつもりで…その、提督、昨日の夜の事覚えてますか?」

 「そのくだりからしてよォー、もう嫌な予感しかしねーんだよ!!覚えているからビンタしたんだろーがよぉ!?」

 「はは…牛●屋さんのコーヒー美味しいですもんね…」

 

 ちなみに昨日の夜、自販機のベンチのとこで夕張と会い、あの忌まわしい事件の焼き直しのようにカップ式の牛●屋さんのコーヒーを買い…。

 

 「まぁ、提督が飲んでる時に気付いてはいたんですが、提督が飲んだらどうなるのかな~と思いまして」

 

 ビタンッ!!(ビンタ)

 

 「ろめろっ!!」

 「夕張オメーよぉ?死ななきゃ何してもOKとか思ってんじゃねぇだろぉなァオイ?…俺はここの何だ。言ってみろォ…夕張ィ」

 「て、提督です」

 「そうだ。俺はここのトップってわけだ…。その俺に人体実験とは恐れ入るナァ?マッドM軽巡君よォ?下克上でも狙ってんディスカー?アァ!?」

 

 「まぁいいじゃないですか。何も起こっていないなら失敗じゃないんですか?お茶どうぞ」

 

 そう言いながら五月雨は執務室のテーブルに湯呑みを3つ置いた。

 失敗だと言われて納得いかなそうな不服顔をした夕張がテーブルの湯呑みを手に取り、マグマのように熱いお茶を啜った。確かに、俺の体には何の変調もない。ならば問題は――――

 

 「無いわけねぇだろぉがあああカスがあああ!!!」

 

 ビタンッ!ビタンッ!!(往復ビンタ)

 

 「ブバッあづ!?あ゛づぅいぃぃぃ痛いッ熱いッ!?」

 

 朗らかな表情でお茶を啜っていた夕張に往復ビンタをかます。マグマのように熱いお茶が顔面に掛かった夕張は執務室の床をゴロゴロと両手で顔を抑えながら転がった。

 

 「酷い…」

 「うるせーよサミダレェ!コイツがやったことのほうがよっぽどだろうが。悪魔の人体実験だぞ」

 「故意じゃないじゃないですかぁ…あつい…火傷しました」

 「元に戻す薬は作ってんだろーな?何かあってからじゃおせーんだよ。無いなら今すぐ作れ、作れなかったら穴という穴にバ●ブ突っ込んで男子公衆便所に放置するからな」

 「ヒッ!?」

 

 最低のクズですね。などと呟きながら呑気にお茶をすする青い奴を横目に、それはコイツのほうがよっぽどだろうがと答えようとした俺の視界がぐにゃあ…と歪む。

 さながらそれは、栄光の勝利への道をたった一度のギャンブルで失った人間のように目の前の世界をぐにゃあ…と歪めていく。マズイ、何だコレは…い、意識が…ぐ、おお…。

 

 「て、提督?ま、まさか…始まった!?始まったよ!五月雨ちゃんっ!!」

 「や、そんな初めてポケ●ンの進化見る小学生みたいに興奮されても…大丈夫ですか?提督」

 

 ガキのようにぴょんぴょんと飛び跳ねながら興奮している夕張と心配のレベルが腹痛くらいの冷静さの五月雨の声を聞きながら、その声に答えることは出来ず、俺の意識は真っ黒な闇へと飲み込まれたのだった。

 

 

  ◆◆◆

 

 「あのぅ…て、提督?」

 

 顔を片手で抑えている私の耳に気遣い気な女性の声が届く。この声は、夕張?私の鎮守府の兵装関係を一手に引き受ける優秀な艦娘…。

 

 「ん、ああ。何やら心配をかけたようだね、少々目眩に襲われただけだ。問題はないだろう」

 「え!?は…はぁ」

 

 怪訝な表情をしている彼女の隣にいる艶やかな青く長い髪をした少女はいつも私の秘書艦をしてくれている優秀な駆逐艦、五月雨だったか…。意識がゆっくりと霧が晴れると同時に今までの自分の艦娘達に対する非人道的な下衆な行いがフラッシュバックのように思い出される。

 

 私は、何ということをしてきたのだ。虫ケラにも劣る非道な行い、決して許されるものではないだろう。様々な艦娘に対するセクハラにパワハラ…暴力…何度殺されても償えるはずもない。

 ただ、私がその自身の行いを悔いて死を選ぶのは逃げだ。私は彼女達に向き合い、真摯に接し償い続けなければなるまい。命ある限り、私は彼女達へ、私の大事な家族達へ愛を注ごう。

 

 「すまなかった、理由はあれどお前をぶったことは行き過ぎた行為だ。こんなに赤くしてしまって…痛かっただろう、本当にすまない」

 「ハァ?…あの、どうしちゃったんですか…頭大丈夫ですか?提督」

 

 私が夕張の赤くなった頬を優しく撫でながら謝罪を口にすると、怪訝な表情をを隠そうともしない夕張が私の心配をしてくれていた。こんな私にまだお前はそんな言葉をくれるのか、何という健気さだろうか?これからは心を入れ替え大事にしなければ…。

 

 「夕張さん…確かそのキヨシ7とかいう薬は性格を反転させるとか言いましたよね?」

 「え?う、うん。キミノ7type-1ね。そうだけど…」

 「恐らくですが、地の底すらも生温い最底辺のゲスであるところの提督の性格を反転した結果、今の提督は天使もかくやという超絶紳士へと変貌を遂げたのではないかと」

 「あー…そ、そうなる?そうなっちゃう?」

 「しかも、性格を反転させるだけならば今までの記憶も残っているのでしょうし、相当な罪悪感を持って死にたいとすら思っている可能性もありますね」

 

 「安心したまえ、五月雨君。死んでは償うことすら出来ないだろう。私は君達にこの命果てるまで尽くそうと思っているよ。…それから、いつもありがとう。感謝している、五月雨君」

 「…あまりの変貌に吐き気すら催しますね、早めにどうにかなりませんか…夕張さん」

 

 直ぐ様に現状を分析した五月雨にやはり優秀な子だと感心しつつ、彼女の言葉に応える。

 何やら、嫌そうな顔を浮かべる五月雨にやはり今までの行いが払拭されることはないのだろうと自らを律し、気合をいれることにする。

 

 何とも言えない空気が包んだ執務室に重いノックの音が響き、鉄扉を開いて朗らかな笑顔を浮かべた空色の髪の少女が元気よく入ってきた。

 

 「ティーーーッス!超絶ヒロイン鈴谷様がお小遣い貰いに来ったよー!」

 「ふむ。鈴谷君か。理由を述べたまえ」

 「…はい?り、理由っすか…?」

 「そうだ。何故、必要か、きちんとした差し迫った理由ならば提督として負担しよう」

 「…え?えーっと……………か、カレーとか食べたいし?」

 「なるほど。君は今、昼食にも困難するほどに金銭が不足しているということかね?」

 「…そうじゃ、ない、デス…」

 

 しゅんと落胆したような表情をし、五月雨と夕張の方に向かって何やら耳打ちをする鈴谷に溜息を吐きそうになるが、それを飲み込むことにする。彼女は私のセクハラや暴力の一番とも思える被害者だ…金で解決などと短絡的なことは絶対にすまい。私にどれだけのことが出来るかは分からないが彼女の心を少しでもケアしなければならない。

 

 

  ◇◇◇

 

 「ね、ね。サミー。提督どうしちゃったわけ?何かオカシクね?ヤバイ薬でもキメちゃった?」

 「当たらずとも遠からずというかほぼ正解してるのがすごいですね。実は――――」

 

 「…は、マジ!?バリすごくね…超マッドじゃん!やっべーじゃん!は?んじゃ今のテイトクって私らに罪悪感バリバリの何でもする奴隷ってこと!?うっひょー!超Coolじゃーん」

 

 コイツ最悪だなとその時の五月雨と夕張の心はシンクロしていた。

 

 「テイトクぅ?鈴谷にしてきたこと覚えてるんだよねー?人としてー最低のことしてきたって自覚あるぅ?ありますかねー?んー?どうなのかなー?お返事が聞こえませんなー?まずは土下座からはじめてみよっかー?それから出すもん出してもらおっかなァ?あ、つってもテイトクの粗末なモンじゃなくてお金ね?マニーですよマニーィ」

 

 こんなにも人は醜くなれるのかとその時の五月雨と夕張の心は信じる心を失いそうになった。

 

 「…私が頭を下げるだけでお前の胸がすくというのなら何度でも下げよう。ただ、お前にしてきたことは金でどうこうしたくはない。それは、分かってもらえるだろうか?」

 

 提督は何の躊躇いもなく鈴谷の面前に膝を突いて土下座を敢行した。

 その情けないはずの姿は今の提督によって逆に男らしさを抱かせる程のものだった。

 

 「…う、ぐ。も、もういいし!そんな姿で鈴谷の心を満たせると思ったら大間違いだし!」

 「もういいのか?なら、何でも言うがいい。今の私に出来ることならお前のために尽くそう」

 「…あ、ぅ。(は?いやいや、あの変態テイトクにドキドキするとか絶対ありえねーし!ないない!!ぜってーねーし!)」

 

 鈴谷は超絶ゲスだったが、それ以上に超絶チョロインだった。これでは鎮守府内のビッチ扱いもやむ無しである。提督の男らしい真摯な瞳に顔を真っ赤にした鈴谷は俯きながらぼそぼそと口を開く。

 

 「じゃ…鈴谷をカレー食べに連れてくし…もち、テイトクの奢りだかんね…」

 「全く、お前は欲がないな…ほら、それじゃあ行こうか。鈴谷」

 

 提督の優しい手つきが鈴谷の頭を一撫でし、鈴谷は完全にナデポに陥った。

 

 エロゲーヒロインも真っ青なチョロインっぷりに五月雨と夕張はうわぁと白目を剥くのだった。

 

 

 

 

 提督が車を出し、鈴谷と街へと向かう。鈴谷のオススメのカレー屋で昼を済ませると、提督は鈴谷の手を取り気分転換も必要だろうとウィンクをかまして街をぶらつくことにした。

 

 「何か気になるものでもあったか?」

 「え?あーこの服可愛いなーって…あーでもビッチとか言われる私には似合わないか、あはは」

 「似合う似合わないなど試着してみなければ分かるまい。ほら、入るぞ」

 「え、ちょちょ、テイトク!?ゴーインだし!!」

 

 鈴谷がアパレルショップのショーウィンドウをじっと見つめているのに気付き、提督は鈴谷の自虐的な言葉をスルーするようにショップの中へと彼女の手を引いた。

 店内に入ると提督は店員に二三、言葉を交わすと、鈴谷に試着室に入るように促した。

 

 「あのー…テイトク。き、着たけどぉ…で、でもさ!これ全然鈴谷に似合ってねーっていうか!やっぱ脱ぐね!!もうちょい待ってて!」

 

 カーテンの端から顔だけを覗かせた鈴谷に、客観的な意見も聞けと、鈴谷の押さえていたカーテンを開いた。

 

 「ちょ!……ご、ゴーインだし…せ、セクハラじゃん…もぅ」

 

 花柄の厚手のワンピースに少しだけだぼついた桃色のカーディガン。鈴谷は俯いたまま体の前を腕で隠すような仕草でもじもじとカーディガンの裾を弄っている。

 

 「ふむ。私にはとても似合っているように見えるが?可愛らしいぞ鈴谷」

 

 「…は?……~~~~~~~~っ!!へ、変態!ばか!セクハラだし!あんま、見んなぁ…」

 

 「はは。それは出来ない相談だ。何故なら鈴谷、それは買ってそのまま行くからな」

 「え!?ちょ、て、テイトク!?鈴谷恥ずいんですケドーーー!!」

 

 鈴谷は店員に試着していた洋服のタグを外してもらい、着ていた服を紙袋に詰めてから二人でショップを後にした。

 

 それから二人は色々と小物店や書店、ゲームショップなどを冷やかし、そのまま少しだけお高目のお店で夕食を済ませて鎮守府へと帰路につく。

 

 鈴谷は少し顔を赤くしたままでお高目のお肉がチョーやばかっただの、あーやっぱりゲーム買ってもらうんだっただのとひっきりなしに話していたが、やがて鎮守府が近付くと口数は減り、駐車場に着く頃には完全に無言になった。

 

 

  ◆◆◆

 

 「着いたぞ…」

 「あ、うん。あー結構楽しかったかも…だし」

 「…そうか」

 

 鈴谷は自分の服が入った紙袋をくしゃりと音を立てて抱きしめるようにして俯いていた顔を上げた。その顔は今まで見たこともないほどに真剣で、真っ赤で、こちらを射抜くように開かれた瞳は潤んでいた。

 

 「テイトクさ、自分に出来ることなら何でもするって言ったよね。じゃさ、キス。して」

 「…は?おま、なに」

 「鈴谷ばっかドキドキして何か、ズルいし!!…テイトクは平気そうにして何かムカつくし…。いいから、して!じゃなきゃもう絶対許さないし!」

 

 頬を赤く染めたまま目を閉じ、絶対にギャグなんかで終わるはずないと俺を信じている鈴谷の頬に手を添えて、その額に口付ける。

 

 「…っ。て、テイトク?」

 「…これから長いんだ。急ぐ必要、ないだろ?今日はこれくらいで勘弁してくれ」

 「…ぷっ。テイトク顔あけーし…」

 「はぁ、当たり前だ」

 「…そっか。当たり前、か。んじゃ鈴谷帰りまーす!またねテイトク!」

 

 車のドアを閉めて寮へと駆けていく鈴谷を尻目に俺はハンドルに額をぶつけた。

 

 「……はは、殺せよ」

 

 魂が抜けるほどに脱力した俺は先程の自分の失態を思い浮かべ慟哭を上げる。

 

 「何やってんだ何やってんだ俺はぁぁぁあああぁぁ…くそくそくそ、まだ薬が完全に抜けてなかったとは言え…鈴谷にデコチュー…だとぉおおお!?フザケルナァ畜生めぇ!!」

 

 俺は夕張のくそ生意気な顔を思い浮かべ、絶対に許さない絶対にだ。と心に怒りの炎を灯すのだった。

 

 

 

 

 「ヒギィィィィィィ!?あひ…おひり、しんじゃ…う」

 「あ?もう死んでるから安心しろやあカスがあああああああああ!!」

 

 執務室の隅で土下座姿でケツを高く上げた夕張のア●ルからはスタン警棒が生えていた。

 俺は夕張のケツに唾を吐きかけてから執務机へと戻るとスタイリッシュに胸ポケットから煙草を取り出した。

 

 「煙草なら喫煙所に行って下さい」

 「堅いこというんじゃないよ、サミダリューン」

 「ならコーヒー3杯につき煙草一本吸っていいですよ。後、五月雨です」

 「チッ、テメェのコーヒーなんざ1杯でワンカートン吸い尽くしても割に合わねーんだよ」

 

 大人しく胸ポケットに煙草を収めると青いいなせな秘書艦は「出涸らしです」と湯気を吐き出す湯呑みを置いて戻っていく。

 

 「で、本当に覚えてないんですか?」

 「あぁ?何疑ってんのかしんねーけど気がついたら朝だったっつってんだろーが」

 

 別に興味もなさ気に「ふーん」とこちらをちらりともせずに書類に目を通している。

 興味ねーなら聞くなっつーの。

 

 重厚な鉄扉を馬鹿みたいに叩く音が執務室に響き、俺は声をあげる。

 

 「アァ!?入れェ」

 「ティーーーッス!テイトク貴方の愛しの鈴谷が来ましたよー!」

 「帰れ!くそビッチが!くせーんだよ!」

 

 「ええまぁ?分かってましたよ!?絶対こういう展開だろうなーって?ち、チクショー!トキメキを返せよォ!!!バーーーーーーーーカ!!!」

 

 「何がトキメキだ。ビッチ風情が生いってんじゃないよ。んで、何だったんだアイツは」

 「さぁ?」

 

 俺が執務机の椅子に腰を掛けると足が引き出しに当たり、中に入っている革張りの小さな箱がカタンと音を立てた。

 

 「で、本当に覚えてないんですか?」

 「しつけーな、お前…」

 

 



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