ロリ#コンパス (乱数調整)
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一章 随分雑なチュートリアル
俺の相棒はお前かよ


#コンパス 【戦闘摂理解析システム】

ヒーローを使って戦闘をするスマホゲームだ。

 

数種類しかいないヒーローと、多種多様なカードを駆使して戦略を練り戦うゲーム。

 

オーケー、大丈夫。俺はまだ大丈夫だ。

んで?今のこの状態はなんだ?

 

「なんだここ!?」

 

「辺りが全部白いぞ!!」

 

「俺…さっきまで部屋にいたよな…?」

 

……お分かりいただけただろうか?なぜかは分からないが、俺たちはこの訳の分からないところに連れてこられたのである。

 

え?コンパスとなんの関係があるって?

あぁ、説明してなかったな。俺は、少なくとも俺はコンパスのサーバーメンテナンスの時間までTLで話をしていて、時間になった途端にここに来ていた。

 

つまりはそういうことだ。

恐らくここは

 

「ここは「#コンパス 【戦闘摂理解析システム】」の中なのか!?」

 

おい、誰か知らんが俺の台詞取るな。

…そう、恐らくそうなんだ。

しかし、ここにはヒーローがいないし今のところカードも無い。どうしろっていうんだおい、ゲーマス出てこい。

 

『やぁ、諸君、お揃いかな?』

 

「誰だお前!?どこから話してやがる!?」

 

『私はここのGMだ。』

 

………おいでなすったよ。タイミング良すぎな。どこかのヘタクソな二次小説かよ?

………画面の前で誰かが謝る声がした気がする…

 

『君たちにはこれからここで私の研究に付き合ってもらうよ。【人はなぜ戦うのか】という私の命題について、ね。』

 

「ふざけんなよ!!なんで俺達がそんなことをしなきゃならない!!」

 

「そうだ!!俺達がやる必要なんざねぇだろ!!」

 

「ヒーローもカードもねぇんだ!!殴りあえってか!?」

 

「俺のジャンヌはどこだ!!」

 

おい、最後明らかにおかしい奴いたぞ、おい、大丈夫かこいつら…

 

『君達はサーバーメンテナンスギリギリまでコンパス内に居座っていた。ならば暇なんだろう?どのみちログアウトは出来ない。君達が現実世界でコンパスを止める時はタスキル(タスクキル、アプリを停止することを指す)をするだろう?ログアウトなんて機能、初めから存在しないのだよ。』

 

…あーあ、よくある小説みたいになってきたよ。SA〇とか□グホライズンかよ?

…ん?伏字が仕事してない?はっはっはっ、気にするな。

 

『まぁ、とはいえ私も君たちに殴りあえというつもりは無い。君たちにプレゼントをあげよう。』

 

なるほど、分かった。オーケー。カードとヒーローくれるんだな。俺らが現実世界で持ってたやつを。

 

『ああ、その通りだ。』

 

おい、しれっと心読むな。

 

『気にするな。と、いうわけで、君たちにはアプリ内で持っていたカードと使用率1位のキャラを与えよう。』

 

…え?

マズい。それは明らかにマズい。

だって俺の一位は

 

『おっと、例外はないし変更もできないぞ?ヒーローとは話せる、しかし、信頼関係を築かないと言うことを聞いてくれなかったりする。カードは君たちの意思で発動する。コラボキャラは含まれない。以上が基本的なルールだ。まぁ、頑張ってくれ。』

 

そう言って男は消えた。

そして辺り一面にヒーローが現れた。

 

…マルコスが多いな…あとはリリカか。クソリア充が。

 

「ホントにヒーローだ…」

『当たり前だ。我をなんだと思っている。』

 

「マルコス、これからよろしく。」

『ん?う〜ん、起きてるよ〜おきてむぁ〜すムニャムニャ』

 

「\( ‘ω’)/ウオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッッッッッッッッッッッッッッ!!俺のジャンヌゥウウウウウウゥ!!」

『へっ!?あ、あの…よ、よろしくお願いします…』

 

みんななんか楽しそうだな…

俺?俺は…

『これから宜しくね、お兄ちゃん。』

 

その一言で場が凍りついた。

 

「え?アレもしかしてロ…」

「コクリコが1位って…もしかしてロ……コンコンッ!!ゲッホゲホゲホ!!」

「ロリ…コクリコが1位ってもしかして彼……コン。」

 

オワタ\(^o^)/

何がって社会的に…

いや、結構初期から使ってたキャラだし、大型上方修正来てからはエンジョイ期間で結構使ってたし…ただそれだけ。

 

「おい、アイツやべぇぞ…コン。」

「ロリ…ああ、俺にも分かるぞ。アイツ…ホンモノだ。」

「ロリコ…ゲッホゲホゲホ!!ゴホゴホ!!」

 

やめろ!!言うならはっきり言えよ!!

 

「「「「「ロリコン」」」」」

 

( °ω°):∵グハァ!!

俺氏のライフに5億のダメージ!!

俺氏は(社会的に)死んだ\(^o^)/

 

『よろしくね。お兄ちゃん♪』

「う、うん、よろしく。」

 

ほうほうの体でそれだけ辛うじていう。

 

「おい、アイツホンモノだぞ…」

「興奮しててセリフがタジタジだったぞ…」

「ジャンヌちゃんかわええ…」

 

NO!!違う!!俺は至ってノーマルだっ!!

 

「「「「「ロリコンの王、ここに爆誕!!」」」」」

 

お前ら表に出ろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!



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初陣

「誰がロリコンじゃあ!!お前ら表に出ろぉ!!」

「みんな!!バトアリに避難しろ!!」

「うぉぉぉぉおおおおお!!」

 

…全員いなくなった。

 

『お兄ちゃん、みんなどこ行ったの?』

「うーん…【バトアリ】に行ったみたい。」

『???』

 

あ、わかんないか。じゃあ…う〜ん…

 

「ま、気にしなくていいよ。」

 

だってコクリコ本人は戦わないし。

 

『お兄ちゃんがそういうなら、コクリコはお兄ちゃんを信じるよ。』

 

何この子可愛い…

おい、誰だ今ロリコンって言ったやつ!?

 

「じゃあ、行こうか。」

『うんっ!』

 

僕らの初陣が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

初陣は撥条少女時計が流れていた。

敵チームが僕の方を見る。

 

「おい、【ロリコンの王】がいるぞ!」

「ほんとだ!!ロリコンの王だ!!」

 

お前らうるせぇ。

 

ちなみに今のは自陣のマルリリの主からの一言。

敵はボイド、マルコス、アダムだ。

ボイドの気絶を警戒しておかないとな。

あとはマルコスの枝投げとテレパス

アダムの氷柱とロングレンジ、オルレンくらいか。

 

場所は【デラクラ】

卍型のような形のステージだ。正面衝突になりやすいから長距離カードや枝投げにいっそうの注意だな。

 

《ブルーチームの皆さん、準備はよろしいでしょうか?》

 

おっと、いけねぇ、始まる。

じゃあ、

 

「頑張るよ、悪魔。」

『僕に指図するなぁ…!』

 

《バトルの始まりです。》

 

『飛べぇ。』

「ちょっ、お前、待てって!!」

 

悪魔が1人で飛び出していく。

信頼関係ってったって、普段はコイツと話せないからぶっつけで行くしかなかったんだけど…これは酷い…。

 

元気よくCポータルに飛び出していった悪魔。

そして、

 

『僕が支配してやろう!!』

 

何も言わずに取った。

 

「っか野郎!!」

 

案の定ボイドから電撃ロボがきて気絶する。

その間にCポータルを取られた。

 

『クソッ、』

「待て!!」

『僕に指図するなぁ!!』

 

考えなしに突っ込むのは危険だと言おうとしたが最後まで言わせてはくれず、アダムに突っ込んだ。

 

『どけぇ!!』

『パラドボイルド!!』

 

案の定オルレンの餌食になり体力を半分ほどごっそり持っていかれた。

 

「【ガブリエル】!!」

 

即時回復のカードを俺は使う。しかし…

 

『そんなものは要らない!!』

 

悪魔はそれを突っぱねた。

 

「はぁ!?」

 

もちろん俺は驚愕するよ。回復いらんって…

その後もオルレンやドラ花も試してみたけど全て突っぱねられた。

 

そして、

 

『びっくり攻撃〜!』

『コクリコちゃんに…触るなぁ!!』

 

悪魔はやられた。

開始40秒の出来事だった。

 

 

リスポーン地点からやり直し。

ただ、相手のチームレベルがこちらよりも一高い状態での開始。

あ、マルリリがやられた。

 

『あいつら…コクリコちゃんを傷つけるなんて…絶対に許さんぞ!!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!』

 

そしてまた一目散に悪魔は走り始めた。

そして俺は、

 

「待て!!」

 

悪魔に叫んでいた。

 

『うるさい!!僕に指図…』

「それでさっきダメだったろうが!!またやられる気か!?前よりも強くなってる敵を!!」

『ならどうするんだ!!何か案があるのか!?僕以上にコクリコちゃんを想ってる者など…いるものかァ!!』

「それが思い違いだって言ってんだよ!!俺だってコクリコが使用率1位なんだよ!!ちっとは俺を信用しろ!!」

 

俺は言う。ロリコンではないが、俺だってコクリコが可愛い。娘や姪に向けるそれのような好き、だけど。

 

『僕が敵わないやつにお前が敵うものかァ!!』

「じゃあ1つ取引だ!!」

 

俺は言い放った。

これがこいつにいうことを聞かせる最初で最後のチャンスだろう。

 

「1度俺を信用しろ。カードの発動を拒否するな。それでも勝てなかったら、お前の好きにしていいよ。」

『…二言はないな?』

「あぁ、約束してやる。アイツら3人をコクリコには傷一つつけずに倒してみせよう。」

『…1度だけだぞ。』

「あぁ。」

 

20秒を無駄にして、Bポータルを取られるという損失。

状況は、絶望的。

 

「んなこと知るかよ。」

 

俺は言い放つ。

 

「俺たちのコクリコを、俺たちで守るんだ。寝てるからな。」

『僕を誰だと思ってるんだァ?言われなくてもやってやる。』

 

さぁ、反撃開始だ。



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反撃開始

「よし、まずはBポータルに突っ込め。蛇行しながら枝投げ警戒!!」

『ふん、やってやる!』

 

『えぇい!』

『氷柱よいでよ!!』

 

当たらない。

当たり前だ。蛇行してたら狙いが付けにくい。

 

『ふんっ、このくらいで調子に乗らないでもらおうか!』

「へいへい、さいで。あ、悪魔、ダッシュ攻撃はなしだ。」

『!?なぜだい?』

「ま、後でわかるよ。」

 

Bポータルに到着。

同時に

 

「【オールレンジアタック】!!」

『カピッ!?』

 

電撃ロボの発動をオルレンでキャンセル。

さらに敵を吹き飛ばす。

 

「よし、ダッシュ攻撃だっ!!マルコスに!!」

『どけぇ!!』

『ぐわっ!?』

《敵を倒しました》

 

マルコス撃破。じゃあ次は…

 

『あの騎士だな?』

「なんで分かったし…」

『あいつの攻撃は脅威だ。なら先に潰しておこう。』

 

悪魔がダッシュ攻撃を始める。

そして

 

「止まれぇ!!」

『!?』

 

悪魔が慣性の法則を無視した急停止。

その瞬間に

 

『吹き飛べ雑魚どもが!!』

 

アダムがサテライトキャノン。

喰らえば瞬殺だっただろう。

個人的にはオルレンかと思ってたんだが…

 

まぁ、そんなことはどうでもいい。

この隙をみすみす逃す悪魔ではあるまい。

 

『どけぇ!!』

《連続で敵を倒しました》

 

ほらね。

 

『分かってきたぞォ…お前が何を考えているかァ。』

「の割にはさっき止まる時焦ってたけどな…あ、反転してくれ。はい、【ぶれいずどらごん】」

『カピッ!?』

《大活躍です》

「話の片手間にやられるボイドが不憫…」

 

マルコス使いがなんか言ってたけど…無視無視!!

今俺は猛烈にカッコいい!…はずだ……

 

「『僕(俺)が支配してやろう!!』」

《キーを獲得しました》

 

「よし、じゃあマルリリで広げといて」

「よし来た任せろロリ王!!」

「ロリコンの力…見せてやれ!!」

 

うん、後で覚えとけな?

悪魔とCポータルに向かってCポータルをと………

 

「【オールレンジアタック】!!」

『近寄るなァ!!』

『びっくりこうげk…ぐわっ!?』

 

りませんけど何か問題でも?

…いやだって、Cをコクリコが取りそうっていったらやることは【テレパス】で拠点維持からの敵撃破だろ?

 

『えいっ♪そーれっ♪』

《敵を倒しました》

 

ま、リリカにもそれくらいはして…

 

『えぇい!』

 

それに引き換え、自陣のマルコスは行動が遅いですね。誰にも当たってないよ。

 

「オレは…ロリコンに………負ける………のか…………?」

 

ロリコン言うな。てかロリコン違うわ。

 

『僕が支配してやろう!!』

 

はい、うちの悪魔は仕事人だね。何も言ってないのにC取ってるよ。

 

『当たり前だァ、まだ敵は来ないだろう?』

「その通りだ。ま、もうすぐ来るけど。」

『おじゃまムシは排除する!!』

 

その後?特に何もなかったよ?

 

「いや、コクリコ1人でCポータル守るのは普通じゃないからな?」

「虐殺…いや、宇宙の神秘を見た…」

 

そこ、あと1分あるから気を抜くな。いつ敵が…

 

「【オールレンジアタック】」

『近寄るなァ!!』

『びっくりこうげk…ぐわっ!?』

 

敵が来るかわかんないんだから。

 

「いや、【テレパス】のタイミング見切って潰しといて何言ってんだ?」

『えいっ♪そーれっ♪』

『ぐわっ!?』

《敵を倒しました》

 

お前らも倒してるだろうが

 

「いや、だってオレらはキルパクじゃん?」

「そそ、結局強いのはロリコンの王と【ロリレン】と【ぶれいずろりこん】だろ?」

 

おい、誰だ今カードの名前間違えたヤツ。

そんなに気を抜いてると【ぶれいずどらごん】『近寄るなァ!!』《大活躍でぇ〜す》敵に寝首掻かれるぞ。…おい、アナウンス、ちゃんと仕事しろ。

 

見上げると画面に《めんどい♡》の文字が。後で割ってやろう。

おい、そこの2人、ゲラゲラ笑ってんじゃねぇ。

 

その時だった。

 

『ジンソクナコウドウガショウリヘノチカミチデス』

 

Bポータルにボイドがやってきた。

さらに

 

『セッショクキンシ』

 

電撃ロボをかます。

あれよあれよという間に

 

『コレハタエラレマスカ』

『溶けちゃう…』

 

フルークでリリカが溶かされる。

その上

 

『テヤァ、セッショクキンシ』

 

ダッシュ攻撃からのオルレンでマルコスもやられた。

おいボイド、それはジャスティスのセリフだ。

 

「Bポータル守るぞ!!」

『もちろんだァ!?』

「えぇい!」

 

マルコスがこのタイミングで!?

Bに行けばマルコスにCを取られ、Bを取られたらもうあとがない…!!

さらにアダムもきて戦線は崩壊、もう勝てないのか?

 

『…………………………』




いやー、スタートダッシュとして3話投稿したかったので何とか1日(24時間以内を指す)で投稿できて良かったぁ〜!!
…はい、主人公はロリコンにしますが何か?
悪魔との掛け合いもお楽しみに!

ところで…いつまでもフリーザ様を《悪魔》って記述するのが嫌なので名前を募集します。
こんな名前がいいな、こんなんっぽいかも?こんなのいいんじゃない?ジャンヌちゃんかわいいぃぃぃぃいいいい!!テヤァ!!等々の意見がありましたらどしどしどうぞ。

では今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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見せてやろう、僕らの力を。

敵の状態を説明しよう、

敵陣

マルコス→Cポータル

ボイド →Bポータル

アダム →Dポータル

自陣

コクリコ→Cポータル

マルコス→リスポーン地点

リリカ →リスポーン地点

 

考えろ、この状態を切り抜ける策を…!

『おい、』

考えるんだ、今使えるカードは【オールレンジアタック】と【ガブリエル】、それに【ドラゴン花火】。これで形勢を立て直すには…

『おい!!』

「あんだよ!?」

 

俺はキレた。こっちは考え事をしてるんだ、静かにしろ。

 

『何を考えてるんだァ?僕らの愛の強さを、見せてやろう。』

 

悪魔が不思議そうにこっちを見てくる。

瞬間気がつく、そうか、それがあったか。

けど、枝投げが…

いや、いける。

 

「【ガブリエル】!!いくぞ悪魔!!【インフェルノ・シュリーカー】!!」

 

『ふんわりチョコ消しゴム〜♪』

『僕らの愛の強さを、見せてやろう!!』

 

インフェルノ・シュリーカー

コクリコのヒーロースキル。

範囲内の敵の移動速度、攻撃、防御をすべて下げる。

悪魔が自らの眷属を呼び出すことによって起こる現象だ。

 

『えぇい!』

マルコスが枝投げで体力を半分ほど削っていく。

今回で2発目だが即時回復のガブリエルのおかげで耐えられた。

もちろん、

 

『騎士の足止めだなァ?』

 

ああ、その通りだ。デバフだけかけて放置する。

即刻Uターンしてボイドの元へ。

 

『どけぇ!!』

『カピッ!?』

 

そして悪魔は誰に言われるまでもなくボイドの裏に回り込んだ。

 

「ナイスだ悪魔!!【オールレンジアタック】!!」

『近寄るなァ!!』

『カピッ!?』

 

Cポータルに飛ばす。そして

 

『どけぇ!!』

『ぐわっ!?』

 

Cポータルを取ろうとしていたマルコスにダッシュ攻撃。

右側から攻撃したことで直線に並んだボイドとマルコスを、

 

「【ぶれいずどらごん】!!」

『カピッ!?』『ぐわっ!?』

《敵を倒しました(^o^)<うわぁーっ!》

 

ブレドラで仕留める。

ご丁寧にも宙に浮いてる画面に《(^o^)<うわぁーっ!》の表示が。

後で割ってやろう。

 

残り時間は15秒。

アダムを倒せばあとは…

 

『…………完了』

 

Cポータルまであと5mの位置にアダムがいた。

よく聞き取れなかったが何か呟く。

完了?…マズい!!

 

『アイシクル・コフィン!!』

『僕を…追い出せるとでもォ?』

 

俺は戦慄で凍りついた。

悪魔も凍りついた(物理)

 

『オドを集中する…氷柱よいでよ!!』

 

コクリコにカンストダメージ。

コクリコは今回2度目の死亡。

悪魔は叫んだ。

気づけば俺も、叫んでいた。

 

「『コクリコちゃんに…触るなぁ!!!!』」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

その後はリス地から戻ってきたマルコスの枝投げで足止めし、マルコスのヒーロースキルで時間を稼いで勝利。

3対2の表示。

1位は

 

『ふにゃぁぁ……あれぇ?ここどこぉ?』

 

俺たちだった。

けれど、コクリコを死なせてしまった。

実際に死にはしないけど、それでも気分のいいものでは無い。

それに…

 

『これで取引は破綻だなァ?』

 

この件がある。

コクリコを、守れなかった。

その事が俺の心にのしかかる。

 

『僕はコクリコちゃんを守れなかった。だから、僕の負けだなぁ?』

 

は?

 

『僕は敵を倒すことしか考えていなかった。おじゃまムシは排除する、それが一番いい方法だと思っていたんだ…けど、お前は違った。コクリコちゃんを危険な目に合わせないためにはお前の力がいる。だから、』

 

いいこと言ってくれるじゃねぇか、この悪魔。

なら、この後にこいつが言うことは一つだけだろう。

 

「『もっと力をよこせぇ!』」

『!?』

「ははっ、俺は元々コクリコ使いだ。だったら、お前のことも見てたに決まってるだろ?お前のことだって大体分かるぞ?」

『はっ!このくらいでうぬぼれないでもらおうかァ!!』

 

小さな前進。コクリコは試合が終わってからの一瞬だけ起きていたが、今は寝ている。だからコイツと話せてるんだろう。

 

「お前と話すのっていつもコクリコが寝てる時だけか…なぁ、悪魔」

『なんだァ?』

「お前の魂を一部俺にも取り憑かせていつでも話ができるようにできないか?」

『できるが…いいのかァ?』

「ああ。俺はお前に立ち回りをいつでも教えられて、お前との信頼関係も築ける。」

『僕のメリットはあるのかァ?』

「ああ、あるぞ。」

『なんだァ?』

 

ここぞとばかりに俺は言う。

ずっと考えてたセリフを、言う。

 

「第3者の視点から可愛いコクリコが見られる。」

『………』

「ダメか?」

『ふふふふふふふふふ、ふははははははははははははははっはっはっ!!』

 

悪魔は笑う、否、嗤う。

楽しそうに見えて、どこか自嘲的で他者や、それこそ神でさえも嘲るような笑み。

 

『乗った。乗ったぞ!お前のその提案!!』

「ははっ、そういうと思ったわ!コクリコ同盟、設立だ!!」

 

この後僕らは【コクリコッ党・ブランシュ】略して【黒糖】と呼ばれるようになった。

 

けれど、それはまた別の話。

 




\( ‘ω’)/ウオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッッッッッッッッッッッッッッ!!
しんどいうわァァァァあぁああああああああああああああぁぁぁ!!

情緒不安定な作者、ここに見参。
思ってたよりも見てた人が多くてびっくりして嬉しくてはね回って心がぴょんぴょんして勢いで…
やってしまいました…(๑>؂•̀๑)テヘペロ
次回?いや、明日出ませんよ?
毎週連載、または隔週連載ですから…ですからぁ!!

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます、


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設定までもがガバガバかよ

バトアリからの退出。ってかまだしてなかったのかよ遅いぜ。

次のバトルが始まるだろうが、設定ガバガバだぜ。

…画面の前で誰かが謝る声がした。

バトアリから出ると…部屋があった。

なんだこの部屋?

 

《ご自由にお使いいただいて構わないとGMが申しておりました》

 

なるほど。

 

『お兄ちゃん、ここどこぉ?』

『コクリコちゃんが困ってるだろうがァァァァあぁああああああああああああああぁぁぁ!!何とかしないかァァァァあぁああああああああああああああぁぁぁ!!』

 

悪魔、お前は情緒不安定かよ…

…ってかなんか【悪魔】って呼びづらいな。なんか名前ないの?

 

『コクリコちゃんとあった時にそんなものは捨てたァ。』

 

……何やってんだよお前…

 

『呼びづらかったら何か付けてくれ。僕はお前なら信頼出来るからな。』

 

んなこと言ったってなぁ…

どうしよう?…………………ま、いいや。

伝家の宝刀【まぁいいや】最高の破壊力と防御力をもつ。

ってなわけで適当だ。

 

「よし、じゃあお前は【セナ・リュカ・オヴィ】だ。【セナ】って呼ぶからな?異論は認めない。」

 

ん?画面の向こうからバレるのが早いって声が聞こえた気がする。

 

『【セナ】か、悪くは無いなァ。』

 

嘘つけや、お前びっくりするくらい頬緩んでるぞ?

 

『な、なんだとォ!?』

 

ウソウソ、見えるわけないだろ?

 

『…』

 

セナをとりあえず無視する。

 

『お兄ちゃん、ここどこぉ?』

 

コクリコが袖口を引っ張りながら聞いてくる。

 

(『何この子可愛すぎる…』)

 

『お兄ちゃん…』

 

コクリコが涙目になったところでセナと一緒に正気に戻る。

反応しないと泣いちゃうからな、そうなるとセナと俺が困る。

具体的には罪悪感で死ぬ。

 

「ごめんね、コクリコ。ここはねこれから俺達が暮らす部屋ならしいよ。」

 

『…説明が簡素すぎやしないかァ?』

 

難しい事言ってコクリコを困らせたいのか?

 

『…』

 

「で、これからここで暮らすことになるんだけど、コクリコは大丈夫?」

 

一応聞いておかんとな。お母さんとお父さんとあと実のお兄ちゃんを探して旅をしてる訳だし…ほら、全くやましい気持ちはないよ?

…おい、誰だ今ロリコンって言った奴。

 

『お兄ちゃんと一緒なら、寂しくないよ♪』

 

(『ヤバい何この子可愛すぎる…』)

 

セナと俺がハモった。ガッツリハモってた。

 

《お楽しみのところ非常に申し訳ないのですが》

 

誰がお楽しみだ。重ねて言うぞ、俺はロリコンじゃねぇ。

 

《ロリコンの皆様にお話がございます》

 

あくまでもロリコンで通すんだな…

機械音声コノヤロウ、口の悪さではバトルの時の機械音声と実にいい勝負をしやがる。

 

《その機械音声ですので》

 

へぇ、全部お前が担当してるわけだ。

 

《いえ、あなた個人に付けられたアバターとなっております》

 

バトルは?一応チームのマルリリの主達もお前の表示見て笑ってたけど?

 

《ブルーチームの先頭の方のアバターが務める決まりとなっております》

 

へぇ、願わくば先頭にならんようにしないとな。

 

《キャラの保有者が少ないキャラの主ほど先頭になりやすくなっております》

 

詰んだ。

 

《それはさておきマスター、総合広場にでも出てみて【ギルド】を設立してみてはいかがでしょうか?》

 

ほぅ?ギルドシステムはまだ生きてるんだ。

 

《はい、ひとつのギルドしか参加できないようにはなっておりますが》

 

メリットとデメリットを教えてもらおうか。

 

《メリットはその方々と部屋が廊下を伝って繋がる、という所です。今マスターの部屋は完全に入口だけがあるでしょう?それに廊下ができて隣室ができる、と言った具合になります》

 

ほう、話ができるようになると。

 

《ギルドホールなどもできるので集まる際に誰かの部屋が生贄になるということもございません》

 

なるほど分かった。で、デメリットは?

 

《…………………………………………………………………………………………………ございません》

 

間が長ぇ…心配なんてもんじゃねぇ…

なぁ、

 

《ございません》

 

いや、まだ何も

 

《ございません》

 

あの

 

《ございません》

 

聞く耳を持たないんだな?

 

《そんなものはございません》

 

なるほど、よく分かった。オーケーオーケー。

 

 

「クソ野郎じゃねぇか!!」

 

その時、視界の端ではセナがコクリコの耳を塞いでいた。

こいつはイイヤツだと思った。




とある事情で更新を先送りにしてましたが文字数が平均に届きそうになったので投稿しました。
次回、みんな大好きアイツが出ます


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(∩゚д゚)アーアーきこえなーい

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

《浮かない顔ですね、いかがなさいましたか?》

 

お前のせいだお前の。

 

「ほんとにたくさんの人がいるなぁ…」

『切れる人がいっぱぁい♡』

 

「勧められるまま来たけど…なんだここ?」

『ニートはニートらしく、部屋で寝てたいんだけどなぁ〜』

 

『くそッ!!部屋の鍵閉め忘れた』

「どうやらオートロックらしいぞ?」

『それは助かった。お前、鍵持ってるかぁ?』

「…………え?」

『…………え?』

 

…若干1組大変な目にあってるけどまぁいいや。

 

「コクリ…」

『はわわわわ…』

 

何この子、目がキラキラしてるよ…何この子天使?

 

『ここどこぉ?』

 

そんなキラキラおめめでこっちを見てくるコクリコ。

可愛いったりゃありゃしない。

よし、そんな可愛いコクリコには肩車をしてあげよう。

おおう、殺人的なぷにぷに。おい、誰だ今ロリコンって言った奴。

 

『…』

「ん?コクリコ、どうかした?」

『お兄ちゃんの手、あったかいね♪』

 

あかん、この子ごっつかわええ…

 

ピッピッピッピッ

 

「おい…アイツもしかして……」

「あぁそうだ。さっき言ったアイツだ。」

「おいおい、ホンモノかよ…」

「コクリコ連れてあんなに嬉しそうにしてるぞ…」

「ジャンヌちゃん、目を合わせないようにして…」

『えっ!?は、はい、わかりました…?』

 

ピッピッピッピッ

 

『誰か、コクリコのこと呼んだ?』

「ハハハハハハハハ、キノセイダヨ」

『お兄ちゃん、大丈夫?』

「ダイジョウブデスヨ」

 

『…なんで敬語なんだァ?』

さっきから後ろ指指されてるからだよ!!

 

ピッピッピッピッ

 

『フン、おじゃまムシは排除する!!』

ここではカード使えないからな?

 

「そこの少年、少し止まってくれるか?」

ピッピッピッピッ

 

『じゃあどうやって排除すればいいんだァ?』

いや、まずはその危険思想を改めろ。

 

「少年!!聞こえているだろう!!少年!!」

ピッピッピッピッ

 

「聞こえてないし少年とかそこらじゅうにいるからわかんねぇな〜、あー、聞こえない聞こえない。」

 

「聞こえてるじゃないか!!今返事をした少年だよ!!しょ・う・ね〜ん!!」

ピッピッピッピッ

 

「そういえばメシってどうなってるんだ?」

《材料は一通りありますので作ればありますが、なければギルドの方に作っていただくのも1つの手です》

 

「無視するのもいい加減にしてくれよ…ほら、肩車をやめて…」

 

そう言いながら声の主はコクリコを抱き上げ…

 

「『コクリコ(ちゃん)に、触るなぁ!!』」

 

させねぇよ!?何うちの子攫おうとしてくれてんだこの野郎答えろ!

 

「噂に違わずかい…なかなかの性格をしているねぇ…」

 

振り返るとそこには…鎧があった。

 

「おぉ〜い、後ろをちゃんと見てくれよ、おぉ〜い」

 

なんだこのオッサン?

 

「私のプレイヤーネームは楼閣、使用率1位はジャスティスだ。」

 

ほう?ジャスティス使いとは珍しいのな

 

「まぁ、ね。何たって私一人しかいないみたいだから。」

 

なんだ、希少種か。

 

「君にだけは言われたくないんだけどねぇ…」

 

で、その誘拐犯が俺に何か用か?

 

「まぁ、用はあるよ。でもまずは挨拶するとかないのかねぇ…」

 

あ、挨拶した方がいいか。俺のプレイヤーネームは…

 

「あ、いや、それには及ばないよ。【ロリコンの王】。デッキは【ガロリエル】【ロリコンレンジアタック】【祭りの目玉!ロリコン花火】【ぶれいずろりこん】だろ?」

 

「てめぇぶっ殺すぞ!!」『目にもの見せてくれよう!!』

 

まず俺は【ロリコンの王】じゃねぇしカードの名前も間違ってんじゃねぇか!!

【祭りの目玉!ロリコン花火】と【ぶれいずろりこん】は[綺麗にできたわ〜、僕満足!]って喜んでた奴がいるらしいけど、なんなんだよ!?【ガロリエル】と【ロリコンレンジアタック】って!?雑くなるなら初めからやるなよ!!

 

画面の前のお前だよォォオオオオオオオオ!!読者の皆様にこうやって詫びたら済むと思うなよコノヤロウ!!

 

「まぁまぁ、落ち着いて。…読者の皆様って誰だ?」

『あぁ、世界観を壊す発言は控えた方がいいと思うぞ。』

 

ジャスティスに窘められた…何気に初セリフが俺への窘めの言葉だった…

 

「まぁ話を戻すよ?…ってか始めるよ?【ロリコンの王】は、初試合どうだった?」

 

「【ロリコンの王】って呼ぶのやめたら教えてやるよ。」

 

「じゃああだ名を付けよう。よし、【ロード】君だ。」

 

「意味は?」

 

「【王】を意味する単語だね。」

 

「まぁ【ロリコンの王】よりはマシだな。」

 

「酷いなぁ…ほら、ヒーロー達は仲良さそうにしてるよ?」

 

『このおっきいおじちゃん、だぁれ?』

『なんだ?腕相撲でもしたいのか?』

『コクリコちゃんの話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

「えっと…どの辺が?」

 

若干…ってかかなり話が噛み合ってるようには見えないけどな?

 

「喧嘩するほど仲がいいって言うだろ?」

 

「さよけ」

 

「で、どうだったんだい?」

 

「勝ったよ。最後にコクリコを傷つけてしまったけど。」

 

「それはすごい!」

 

「どの辺がだ?俺はコクリコを傷つけてしまったんだ。俺をおちょくってるのか?」

 

「いや?そのままの意味さ。見たところ君達は仲がいいみたいだからね。ほかの人たちはみんな苦労してるみたいだよ?」

 

「ほう?例えば?」

 

「マルコスはIQが高すぎて言ってることが電波だから話がそもそも出来ない、リリカは言うことがテンプレで話の幅が深まらない場合が多い、忠臣はプライドが高すぎて言うことを聞いてくれない、アダムとマリアは普段はどうということは無いがお互いを見ると激しくいがみ合う、駆け出し勇者はそもそも何言ってるか分からない、サーティーンは誰彼構わず煽るから気が滅入ってくる、ノホタンは…」

 

「分かった、もういい…」

 

「分かるかい?それと比べると君達はかなり上手くやってるんだよ。…にしても悪魔と何か一悶着あるかと思ったけど何も無かったの?案外上手くいってるけど?」

 

「いろいろあったよ、かなり荒れた。でも、賭けに勝ったからね。」

 

「賭け?」

 

「キギョーヒミツ」

 

「そうかい。じゃあ聞かないよ。」

 

「助かる。んで?本題は?」

 

「勘のいい子は嫌いじゃないよ。本題はね、君とあと私が見つけたもう1人でギルドを作ろうと思ってるんだ。」

 

「ギルドを?お前の見つけたもう1人と?」




こんな…2話分も書けるなら……投稿遅らせるんじゃ無かった………
かなり前に悪魔の名前を募集してたんですが、アレ、感想の規約読むと本編に影響を及ぼすものは垢BANされるので書けないらしいですね……いらん事言ったなぁ…

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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いいからさっさと話を進めろ

「ギルドを?お前の見つけたもう1人と?」

 

「あぁ、そうだよ。私達は比較的奇異な存在だから群れるなら多くないと。」

 

群れるってお前な…

 

「ほら、あんなふうにウチのジャスティスは小さい子の面倒見がいいし。」

 

ん?

 

『ほら、しっかり握ってろよ?テヤァ!』

(ハンマーにコクリコを乗せて前後に振るジャスティス)

 

『おじちゃんすごーい!』

(髪をたなびかせながら楽しそうなコクリコ)

 

『………!……………?……………………☆♪&♡#@¥$!?』

(そんなコクリコを見ながらあたふたするセナ)

 

[ドカン!!]

(右足の蹴りでハンマーを止める俺氏)

 

「………………………は?」(楼閣)

『………………………は?』(ジャスティス)

『………………………は?』(セナ)

『お兄ちゃんどうしたの〜?』(我らが可愛いコクリコ)

 

俺はコクリコをそっと抱き上げて言う

 

「ウチのコクリコで遊ばんといて貰えるか!?」

 

関西弁だった。

 

『いや、まぁ、コクリコが喜ぶかと思って…』

 

「ブランコならお前の【土木作業零式】で作ってやれよ!!」

 

『いや、公共の場で勝手に作るのはまずいだろう…』

 

「もっとやり方あるだろ!高い高いするとか!!」

 

『いや…うん、分かった、気をつける…』

 

「何とも過保護だねぇ」

 

コクリコはまだ小さいんだから過保護すぎるくらいでもまだ足りねぇよ!!

なぁセナ、お前もそう思うよなぁ!?

 

『………』(どことは言わないがどこか遠くを見るセナ)

 

キサマウラギリマシタネ…?

 

「ま、まぁこんなふうにウチのジャスティスは面倒見がいいからね。さっきも言ってたように公共の場なら作れないけど、ギルドホールなら好きに「乗った!!」即決かい!?」

 

そりゃ即決もするさ。コクリコのためなら何だってしてやるよ。

なぁセナ。

 

『当たり前だァ。コクリコちゃんは僕のものだァ…!』

 

「君たちが【ロリコンの王】って呼ばれる理由が分かった気がするよ…」

 

楼閣は気のせいか疲れているように見えるな。まぁしらんけど。

 

『俺からですまないんだが、少しは楼閣の事を気にかけてくれると嬉しい。あいつはバトアリで俺を連れていたせいで白い目で見られたんだ。そして負けた。理由は味方のアタッカーがすぐに溶けたせいなんだが…そいつらは俺がいるせいだと思ったらしい。気にしなくていいとは言ったんだが、いかんせん性格が…な。』

 

…善処しよう。

 

『助かる。』

 

いいか?善処だからな?

 

「ほら、ジャスくん、ロード君、行くよ?」

『あぁ、俺はそこに行くぞぉ!』

 

仲がいいからそんな風には見えないんだけどな。

飄々としてそうな楼閣が、そんなに気にしてるのか…少しの付き合いじゃ分からないことって多いな。

 

『お兄ちゃん、行こ?』

『置いてかれるぞォ?』

 

あぁ、そうだな。

早く将来のギルメンに会いに行こう。

楼閣の進めるやつなんだ。

楼閣と同じく迷ってるかもしれない。楼閣と同じく悩んでるかもしれない。

俺達が固まることによってどうにかなるなら、少し手を伸ばして届くのなら、届かせてみせよう。

 

「ロード君?置いていくよ〜?」

 

「あぁ、今行くよ。」

 

コクリコを肩車して走っていく。

髪をたなびかせるコクリコはどこか楽しげだ。

 

願わくば、この安穏がずっと続きますように。




う〜ん…量が少ない…
っていうか、当初の予定ではバトアリ退出後から次回の話まで1話の予定だったんですよね…
読みやすさを考えたらどうしても短くなるんですよねぇ…
……………ぶっちゃけ、長くしてもいいですかね?
え?関係ないですかそうですか。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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出遭い

「あぁ、今行くよ。」

願わくばこの安穏がずっと続きますように。

 

「ここだよ。」

「早!?」

「遠いとは誰も言ってない。」

「詐欺だ!!コイツ俺をハメやがった!!ちょっとでも心配してやろうとか思った俺がバカだった!!」

 

それでなくとも恥ずかしいセリフばっか言ってるってのに…

 

『あ、きたきた。おーい、こっちこっち!』

 

「どうしましたか、めぐめぐ?…あ、楼閣さんですか。お待ちしておりました。」

 

そこにはサブマシンガン(ヘリに付いているような回転式のエグいやつ)を2丁携えた少女と高校生くらいの線の細い大人しそうな少年がいた。

…いや?少年ってったけど俺も高校生。けど多分後輩だと思う。

 

「戻ってきたよ波羅ちゃん。そっちは何かあったかい?」

「いえ、ボイドール使いの方がデッキの相談をしてきただけでした。」

「へぇ、どんなデッキ?」

「たしか…【ドア】【フルーク】【電撃ロボ】【オルレン】だと仰ってました。僕は始めたばかりなので何か分かりませんけど…」

「あー、ネタデッキかな?」

 

あー、俺さっき当たったやつだ…よく考えたら回復積んでねぇじゃん。設定ガバガバかよ、デッキくらいはちゃんとしとけよ。

 

「えっと…楼閣さん?デッキの話はひとまず置いといて…そちらの方が?」

「あぁ、そうだよ。こちらが【ロリコンの王】。さっき見つけたから拾ってきた。」

 

嘘つけや。さんざん追っかけてきてウチの子攫おうとしてたろうが。

 

「まぁまぁ、気にしないでいようよ。ね?ロリコンの王?」

 

おい、誰がロリコンの王だ。ロードって呼ぶって言ってたろうが。

 

「そういったわけで彼は【ロード君】と呼んであげてね?」

 

上手いことはぐらかされた気分だ…

 

「ロードさん、楼閣さんはそういう人なので諦めましょう…」

 

波羅もなかなか苦労してるのな…

 

「あ、僕は波羅渡と申します。以後よろしくお願いします。」

 

ふむ、やっぱり【波羅君】だな。

 

「そうですか。了解しました。それで…なぜ肩車を?」

 

楼閣に攫われるからな。

 

「酷い風評被害だよねぇ!?」

 

グダグダだな…

 

「で、波羅君はどんだけめぐめぐ使ってんだ?こないだ追加されたばっかりだろ?」

 

「僕は初心者なので…初めてのヒロチケで当たったのがめぐめぐで、それで使ってたら…」

 

「なるほど…それでめぐめぐか。」

 

「あ、でも初めてのバトルは勝ちましたよ!」

 

( ゚∀゚):∵グハッ!!

楼閣に5億のダメージ!!

楼閣は(精神的に)死んだ。

 

『ねぇハービィ、めぐめぐつまんないよぉ…』

 

「あ、すみませんねめぐめぐ。…そういう事なので、とりあえず実力を見て頂くということで、バトルアリーナに固定を組んで行きませんか?」

 

「うーん…ま、それが一番か。私のデッキは【ドア】【メカハン】【月夜叉】【銀河防衛ロボ】だよ。」

 

全体回復ばっかりなのな。

 

「まぁ、波羅ちゃんに合わせるとねぇ…」

「ははは…すみません…」

 

大人しそうだから大丈夫じゃない?

 

「僕のデッキを聞いたら印象変わりますよ…えっと、僕のデッキは…」

 

『ねぇハービィ〜、まだ〜?』

 

グイグイと波羅君の袖口を引っ張るめぐめぐ。

この子は基本バーサーカーなんだよなぁ…

 

「まぁまぁ、ロード君ならうまく合わせてくれるだろうから、バトアリ行こっか?」

 

機械音声

 

《ロリコンの御二方、お呼びでしょうか?》

 

もうロリコンには突っ込んでたまるか。

 

《それは残念です》

 

残念がるな。

それで、固定ってどうやって組むんだ?

 

《虚空を注視すると画面が出てきて、そこで選べます》

 

どれどれ…おう、ホントだ。

んで固定は…これか?

 

「それだよ。」

「それですね。」

 

おい、2人とも、俺の独り言を聞いてんじゃねぇ。

…見えてんの?

 

「見えてないよ?」

 

じゃあなんで断定したんだよ!!

 

「…(サッと目をそらす)」

 

楼閣コノヤロウ…

 

『早く行くぞぉ?2人の共同作業だァ!』

 

『俺に続け。俺の後ろが、安全地帯だ。』

 

『害虫はブチブチ潰さなきゃ!!』

 

そして、俺達の初めての固定が幕を開ける。




特に増えなかった…
ま、まぁ4話に分けましたし?
遅らせた理由であるめぐめぐを出しました。ちなみに私は当たっていません。はい。
バトアリで当たった人のを聞いて書いているので間違いを報告して頂けるとありがたいです。


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【速攻魔法発動!狂戦士の魂!】

バトアリに入る。

敵の姿はまだ見えない。

流れてる曲は…【バイオレンストリガー】

めぐめぐ先頭か。

 

あ、そうそう、ステージは【立体交差点のある風景】

ちなみにまたもブルーチーム。

 

敵は

サーティーン

ボイドール

アダム

 

…何だこの謎編成?

 

「じゃあ私はDに向かうよ。行くよ、ジャスくん。」

『任せろ。誰も死なせはせん。』

 

「僕らは後方支援を心がけましょうか、めぐめぐ。」

『一気に何匹か潰そぅっと♪』

 

「じゃ、俺らはBからのすぐにC取って、ジャスティスの援護に行くか。行くぞ、セナ。」

『行こう、2人の共同作業だァ。』

 

《ブルーチームの皆様、ご準備はよろしいでしょうか?》

 

今回の機会音声は波羅君の人ですね。

物腰が低くてまさにジェントルマン。メガネかけてそう。

 

《バトルの始まりでございます。》

 

始まった。

 

『俺が行くまで死ぬな!!』

 

《キーを獲得いたしました》

 

ジャスティスがDを取る。

 

『キレーな物は壊したくなるよね♪』

 

《キーを獲得いたしました》

 

『すぐに僕のものだァ!』

 

《そんなに沢山喋らさないで頂けますか?》

 

セナがBを分捕る。

ってか俺たちの時だけ対応がひでぇなぁ!?

 

「波羅君!B広げるの頼んだ!!」

 

「…」

 

波羅君からの返事はない。

しかし見るとボイドールがCに向かっていた。だからとりあえず潰すのが定石だろう。

 

「行くぞ、セナ!!」

『おじゃま虫は排除する!!』

 

『ココヲオサエマス』

《キーを奪われました。》

 

『どけぇ!!』

『カピっ!?』

 

「【オルレン】!!」

『近寄るなァ!!』

 

《喋らさないで頂けますかと言ったはずですが?》

『当たり前だァ、勝てると思ったのかァ?』

 

おい、ちゃんと仕事しろよ機械音声。今のでボイド倒したってわかる人いると思ってんのか?

 

《敵を撃破致しました》

 

それが普通ってもんよ。なぁ、セナ?

 

『すぐに僕のものだァ!』

 

セナ、お前最近俺に冷たくね?

 

《私はもう疲れました》

 

キーを取ったくらいは言おうぜ…

 

『そんなこと言ってる場合かァ?』

おおそうだ、ジャスティスが1人でアダムとサーティーンを相手してるんだった。

特にサーティーンは周囲が早いからオルレンとかが怖いんだよな。

よし、早く助けに行こう。

 

「楼閣〜大丈夫…」

『だァァァ!!打ち砕く!!』

『こういうのってアリィ?』

《敵を撃破致しました》

 

「えっと…楼閣さん?」

「なんだい?」

「HP、減ってないよね?」

「そうだね。」

「今お家(リス地)に帰ったのは?」

「サーティーンだね。」

「試合開始からは何秒経った?」

「…40秒だね。」

「も1つ質問いいかな?敵にいたアダム君…どこいった?」

「…君みたいな勘のいいガキは嫌いだよ。」

 

やりやがったな!この野郎!!こいつ、タンクのくせにアタッカー2匹殺りやがった!!

 

「だってジャスくん攻撃高いし…」

そういうことを聞いてるんじゃないよ!!

 

そう言っていたら波羅君が来た。

 

「おー、波羅君、お疲れ様。あとはここさえ守っていれば勝てる…」

「…」

 

およ?波羅君まさかの無視。

ボイドがAをそこそこ広げ終わって、アダムと合流。そして攻めてきているところに…波羅君が突っ込んだ。

 

「波羅君!?なんで敵陣に攻めに行ってるんだよ!?」

 

おい、楼閣!!止めろよ!こんなに癖のあるやつなんだったら先に教えろよ!!

 

「無理無理ぃ〜、見てたら無理って思うって。」

 

『腸をブチまけろ!!』

「ひゃはははは!!汚物は消毒だァァァ!!」

 

…遠距離から蜂の巣にし続けとる…それからキャラがかなり変わってる…なにあの子怖い。

 

「波羅君!!とりあえず戻って立て直して!!」

 

「【秘めたる】!!【提灯】!!【レオン】!!」

 

聞いてない…ってか攻撃バフと遠距離貫通かよ…

え?あと1枚は?

 

「【アングリフ・ギフト】!!」

 

ダメなやつだこれ…

なんで回復積んでねぇんだよ…

 

「だから私が回復詰んでるんだけどねぇ…【銀河防衛ロボ】」

 

『これで凌げ!!…まぁ、そんなところだ。』

 

どうしようもねぇバーサーカーかよ…ヒーローも使い手も…

って言ってる間にめぐめぐが死にそう。銀河防衛ロボで回復はしたけどすぐに尽きるだろう。

 

「しょうがねぇ…セナ、行くよ。」

 

『僕らの愛の力、見せてやろう!』

 

サーティーンが向かってくるのが見えたのでその前にアダムにダッシュ攻撃、そして

 

「【オルレン】!!」

『近寄るなァ!!』

 

『クズどもがァァァ!!』

 

アダムとボイドが倒れたが、アダムの声がボイドの声をかき消してた。

 

『近寄んな、金とるぞ。』

 

『グッ…!』

「【ガブリエル】!!」

『もう食べられないよ〜♪』

 

「【レオン】!!死に絶えなぁ!!ひゃはははは!!」

 

何この子本気で怖い…

 

《敵を撃破致しました》

 

『キレーな物は壊したくなるよね♪』

『すぐに僕のものだァ!』

 

速攻でEポータルを取ろうとする。最大から5mほど縮めた時点でアダムとボイドが来た。

 

『セッショクキンシ』

『僕を、追い出せるとでもォ?』

 

電撃ロボを喰らう。そこにアダムが追撃しようとした。

 

『座標入力完了!撃てェい!!』

 

そう、{しようとした}のである。

ゲームの時みたいにスキルの発動を知らせられる訳では無いのでボイド、アダム、そして

 

『よっほぉ〜い!!』

 

鎌を振り回して突っ込んできたサーティーンがジャスティスのスキルを喰らった。

 

『こ『クズどもがァァァ!!』』

 

アダムが綺麗にかき消していた。

 

『キレーな物は壊したくなるよね♪』

『すぐに僕のものだァ!』

 

《キーを獲得いたしました》

 

キーを取った。

 

《勝利でございます》

 

『いえーい!めぐめぐの勝ちぃ〜』

 

めぐめぐが1位で、初めての固定は幕を下ろした。




はぁ…波羅君をもっとバーサーカーにしたかった…
私の文才のなさを悔やむばかりです…
あ、ボイちゃんは前回のネタ野郎のあいつです。

ではでは、今回はこの辺りで筆を置かせて頂きます。


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|柱|ヽ(・_・`)反省…

「波羅ァァァァァァ!!お・ま・え・は!!なんであそこで突っ込んだんだよ!?」

 

俺は帰ってからすぐにキレた。

 

「いや〜…ははは…すみません……」

 

「ごめんで済めば警官ボイドはいらねぇんだよ!!」

 

「ここまで怒るとは私は思ってなかったねぇ…」

 

『気にするな楼閣、誰にも止められなかったんだ…むしろ俺のHSを使ってめぐめぐがキルされなかっただけマシだろう。お前は正しかった。うん、正しかったんだ…』

 

ジャスティスが諦めた。ひでぇ、唯一の常識人に裏切られたら俺はどうすりゃいいんだよ…

 

「ロード君、諦めなよ…波羅ちゃんはこういう子なんだよ。」

 

諦めてたまるか。俺は波羅君に【常識】ってやつを教えてやる。

 

「おい波羅…?」

 

「は、はい!なんでしょう?」

 

「タイマンカスタムやるぞ…?」

 

決めた。タイマンカスタムでボコる。そして何がなんでも回復積ませる。

 

「は、はい!!よろしくお願いします!」

 

俺の意思を知ってか知らずかわからんが、お前だいぶ余裕なのな?

 

『分からないからとりあえず挨拶してるんじゃないかァ?』

 

よし、分かった。よく分からんことがよく分かった。

 

「じゃあ僕らは観戦させてもらうよ。ね?ジャスくん?」

 

『あぁ、俺たちはそうさせてもらう。』

 

「おい波羅?行くぞ?」

 

ってな理由で俺がカスタムを立てて、カスタムバトルが始まった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

場所は【光と影のライブステージ】

理由は…試合開始からすぐにぶつかりあえるから。

ちなみに今回は敵のヒーローの主の声も聞こえるようにしている。

 

《バトルの始まりです》

 

『僕が支配してやろう!!』『キレーなものは壊したくなるよね♪』

 

《キーを獲得しました》《キーを奪われてやんのやーいやーい》

 

もちろん初めは俺はA、波羅はEをとった。

 

『さぁ、愛の種を撒こう』

 

まずはポータルキーを広げてから俺は行こうと思う。

キーの差だけで負けとか悲しすぎるからな。

 

『腸をブチまけろ!!』「汚物は消毒だあぁああああああ!!」

 

いきなり【提灯】と【秘めたる】を使ってフルスロットルな波羅。

しかし…

 

「どうしたァ!?ポータルキーに当たってばっかりで俺たちに当たってねぇよ!!アタマ大丈夫か!?“ピー”と“ピー”するだけしか能がない“ピーーーー”野郎どもがァ!!」

 

波羅にかなり気が立っていた俺は迷わずハー〇マン軍曹もかくやという程の罵倒を繰り広げる。

ちょっとセナも引いてた。

 

「うわぁ…」

 

『いくら何でもアレはないだろう…アレは…』

 

楼閣とジャスティスも引いてた。ひでぇ。

 

「チッ!めぐめぐ!近づくぞ!!」

 

『OKハービィ!』

 

そう言いながら波羅とめぐめぐは角度を変えたりするがこちらもクルクルとポータルキーの周りを回りまくって1ダメージも食らっていない。

 

「クソっ!!めぐめぐ!ゼロ距離で行くぞ!!」

 

『うん!』

 

そうして痺れを切らして近づいてきたところに“ドパンッ!”【ドラゴン花火】が炸裂。

え?ちゃんと仕掛けてたよ?よく見ろ。

めぐめぐが飛ばされた先を視認しつつ

 

「セナ、あと2.25秒…行けっ!!」

 

『どけェ!!』

 

《……え?あぁはいはい、敵を倒しましたぁ〜》

 

1キル完了。

おい機械音声、お前のアナウンス相変わらずひどいな。波羅のとこのも酷かったけど、お前もよっぽどだわ…

 

《?…弟がどうかしましたか?》

『僕が支配してやろう!!』

 

え?アレお前の弟なの?道理で口が悪いわけだ。

 

『それそれそれそれぇ!!』

 

「蛆虫共がァ!!」

 

「えっと…ロード君?それめぐめぐのHA躱しながらする会話じゃないよね?…波羅ちゃんに向ける表情が蝿を見る時のそれなのは気のせいだよねぇ!?」

 

俺は楼閣の方をちらっと見て…波羅を見た。

 

「ぇぇぇえええ!?無視いイイいいぃぃぃい!?」

 

『楼閣…お前はっ……お前は悪くないぞ…!』

 

ジャスティスが涙を零した。ひでぇ、俺はそこまで末期じゃないぞ。

 

「めぐめぐ!やっぱ近づくぞ!」

 

『ハービィ!でもさっきはダメだったよ!?』

 

「アレはポータル取った後にあらかじめ仕掛けておいたやつだ!今回は躱すのに必死で置けてねぇだろ!攻めるぞ!!」

 

『なるほど!さすがハービィだね!』

 

波羅がなんか鋭い。

そうさそうですそうですとも。俺は【ドラ花】今回置いていません。

 

「待てやあぁああああああ!!」

 

『バッチーのはショードクしなきゃね!!』

 

相変わらずポータルに隠れている俺たち。

でも奴らこっち来たな…これ本気でどうしよ?

 

『心にもないことを言ってるなァ?』

 

あ、バレた?

 

今回は【ドラ花】がなかったことを確認して笑みを浮かべる。普段の波羅からすれば信じられないほど邪悪な笑み。

試合中に向けられたら怯むよなぁ…あ、普通は見えないんだっけ?

とりあえず【オルレン】

 

『近寄るなぁ!!どけぇ!!』

 

はい、俺は言ったね?〔置いていません〕と。〔置いていない〕は〔置けなかった〕こととは全く別なのだよ。

 

「死ぬしか能のない“ピー”はさっさとお家(リス地)に帰ってなこの“ピーーーーーーーー”がァ!!」

 

《敵を虐さ…滅さ…ぶち殺…倒しました》

 

おい機械音声、俺は暴君かなにかか?おいこら?

 

『言葉遣いが酷くないかァ?普段からそれだとコクリコちゃんに悪影響が…』

 

普段からはしねぇよ…?今回は煽るだけが目的だからな?その為だけだからな?だからな!?

 

「私は普段からじゃないと思うな〜?」

 

『俺もそう思うな。』

 

お前らもかい…ちょっとひどく…

 

『僕が支配してやろう!!』

 

はい、3つ目ですね。うちのセナはほんとに仕事人なんだから。

俺を無視して取るとはいい度胸だなぁおい。

 

「ぜってぇぶっ殺おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおす!!」

 

「かかってこいやこの“ピーーーー”野郎どもが!!お前ら戦う気あんのかゴラァ!?うざってぇなら俺を殺してから言ってみろ“ピーーーーーーーーーーー”!!!!」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

え?その後?1デスもせずに4キルして全制圧して終えてやりましたよ。

 

「これで分かったろ波羅?回復はしねぇとすぐ死ぬだろ?分かったら返事しろ!」

 

「Sir!!YES,Sir!!」

 

ただし、ハート〇ン軍曹よろしく訓練したため変な呼び名が定着していた。

 

「お前は俺の部下かよ!!ちげえだろ?な?な?」

 

「Sir!!NO,Sir!!」

 

「だろ?だからその呼び方やめろ。」

 

「…違うってことに肯定してるってロード君は思ってるけど、実際は付加疑問文になってるから波羅ちゃんは部下だって言ってるんだよね?ジャス君?」

 

『あぁ、そうだな…けど、そっとしといてやれよ、楼閣?ロードは気づいてないぞ?』

 

「そこぉ!!俺に聞こえないようにごにょごにょ言うな!!なんて言ってるか分からんだろうが!!」

 

そうして俺に変な呼び名が付いて(波羅限定)カスタムは終わった。




波羅ちゃんのバーサーカーっぷりを全く書けていない私がいた…
作者の想像では【世紀末ヒャッハー】くらいのテンションです。

次回、ようやくギルド創設とガチャ回にしようと思ってます。
え?ロリコンの王の煽り?ありましたっけそんなの?

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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孤独者達の宴

『結局ギルドはどうなったんだァ?』

 

その言葉に俺や楼閣をはじめとし、波羅、めぐめぐ、ひいてはジャスティスまでもがハッとした。

 

『…気づいてなかったのかァ?』

 

セナはどこか呆れ顔。ムカつく。

 

「そう言われてみればそうだな。元々は楼閣が言い出して、様子見で固定組んで、説教の為にカスタムやったからな〜。」

 

「お手を煩わせて申し訳ございません、ボス!!」

 

「あぁ…もう波羅ちゃんが壊れてってる…」

 

『もういい…お前は頑張った…もういいんだよ、楼閣…』

 

「よし、ジャスティス、楼閣、表にでろ。リアル大乱〇スマッシュブラザーズXやってやろうじゃねぇか。」

 

『テヤァ!!』

 

「ジャスティス!バリアはズリぃぞ!オラ!出てこいや!!」

 

「ジャスくんのバリアを素手で殴ってる!?馬鹿なの!?死ぬの!?」

 

ハッ!残念だったな!今の俺はセナをパワード・オン状態だ!現役高校生の筋力も相まってコクリコ以上の攻撃力があるに決まってる!

 

『ろ、楼閣!!バリアにヒビが!!ヒビがァァァ!!』

 

《結局ギルドはつくられるのですか?》

 

機械音声に止められた。( ゚д゚)、ペッ、命拾いしたな。

 

「じゃあ作るとして…何が出来るんだ?」

 

《それぞれの方の部屋を繋げることと、あとギルドホールを増設できます》

 

ギルドホールって?

 

《簡単に言うと集合場所ですね。【会議室】や【トレーニングルーム】【温泉】などが挙げられます》

 

ほー、で、1番場所が広く取れるのは?

 

《【トレーニングルーム】だと思われます》

 

「じゃあトレーニングルーム70畳で」

 

「出たよ何この子怖い。唐突な鬼畜発言怖い。」

 

「さすがボスです!スケールが違います!!」

 

「いやいや波羅ちゃん、無理だからね!?注文がむちゃくちゃすぎるからね!?」

 

楼閣、テンションおかしいぞ。

 

《可能だそうです》

 

「嘘だ!!」

 

楼閣、だからテンションおかしいぞ。

 

《GM曰く、『か、可能なんだけどみんなもっと慎ましかったよ…?最大でも20畳だったし、頼んだ方もバツが悪そうだったよ…?』だそうです》

 

「イレギュラー甚だしいよねぇ!?」

 

楼閣、黙って。

 

「んで?他には何が出来るんだ?」

 

《ギルドメンバーが2人増える度に施設を1つ増設できます》

 

まだ関係ないな。

 

《利点については以上ですが、ギルドマスターは決めて頂けますか?》

 

「楼閣で」

 

「即答!?ねぇ、なんで今即答だったの!?」

 

「楼閣さん、卒倒しそうな表情でどうかしましたか?」

 

「別に上手くもなんともないよ波羅ちゃん!!傷つくよ!!」

 

《…出来れば私といたしましてもロリコンと狂戦士(バーサーカー)には任せられないので楼閣様にお願いしたいところです》

 

まさかの正論…って俺はロリコンじゃ「そういうことならやりませう」速攻で意見変えやがったな楼閣、いっそ清々しいぜ。

 

《では、ギルド名はどうしましょうか?》

 

「【撃滅の堕天使(ルシファーズ,ストライク)】で」

 

「波羅、却下」

 

「何故ですかボス!!ボスを表す上でこれ以上なく相応しいギルド名なのに!!」

 

「いつからお前は厨二病に目覚めやがったんだ…これ以上変な二つ名は付けたくないので却下」

 

「あ、じゃあ「却下」まだ言ってすらないよねぇ!?」

 

楼閣が何か言いかけてたけどとりあえず却下

 

『楼閣!傷は浅いぞ!!楼閣ァァァ!!』

 

『あ、悪魔だァ…』

 

ジャスティス、楼閣は戦死でもしたのか?

セナ、それはお前だ。

 

「んで?何にしたかったんだ?」

 

「無視しといてサラッとそれかい!?…まぁ話を進めるよ。私たちは3人ともこの現実化したコンパスでキャラを誰とも被らず持ってるよねぇ?」

 

あぁ、そうだな。

 

「だから私たちは言ってしまえば【孤独者】だ。」

 

「まぁ、そうですね。」

 

「けど他にも私たちみたいな人がいるかもしれない。」

 

そうポンポンいてたまるか。

 

「まぁまぁ、だからこのギルドをそんな孤独者達が集える場所にしたいんだ。」

 

『なかなか面白いことを言うじゃないかァ。』

 

セナ、お前楽しそうなのな。

 

「だから私は提案する!このギルドの名前を「却下」ド腐れ外道だねぇ!?」

 

だっていい雰囲気だったんだもん。ぶち壊しにしたくありませんこと?

 

「知らないよ!!私のかっこいい演説時間を返してよ!!ロードくんのド腐れ外道!!もう私が勝手にギルド名入力してやる!!機械音声ちゃん!入力画面出して!!」

 

「ちょっ、お前勝手にやんなって!!波羅ァ!楼閣を止めろ!!」

 

「Sir,YES,Sir!!」

 

リアル大乱闘スマッ〇ュブラザーズXが始まった。

 

『…どうしてこうなったんだァ?』

 

『さぁな…俺だってこんなこと予想だにしていなかったさ…』

 

『やっちゃえー!ハーピィー!!』

 

ヒーロー達が呆れて(?)いたが、楼閣の勝鬨によってそれも終わった。

 

「ふはははは!どうだいどうだい、1度決めた後にはギルドマスターである私にしか変えられないんだよ!!」

 

「クソっ!!楼閣の思い通りに1つなっちまったか!!」

 

「ボス、とりあえず名前見てから決めましょう!」

 

ギルドの名前の欄に燦々と輝いていた言葉は

 

 

孤独者達の宴(ロンリネス)

 

一言は

 

議論など必要ない。キミが望むのであれば私たちはキミを救おう。孤独者達で宴を始め、この世界に産声を上げよう。

 

なんかちょっといい感じかよ。楼閣のクセに生意気だ。

 

「ええ、とてもかっこいいです。」

 

「ふふふ、そうだろう?これのモデルは何を隠そうロードくんなんだよ?」

 

「へぇ、そいつは驚いた。」

 

そいつはホントに予想外だ。

 

「だろう?ロードくんなら人を誘う時こう言うだろうなっていうのと、あとは略称。」

 

「略称?」

 

何気なしに略称を見てみた。

そこに書かれていた言葉は

 

【ロリ】

 

「楼閣てめぇ表にでろぉぉおおおおお!!」

 

大乱闘スマッシュブ〇ザーズX3回戦が開始した。




え?いいえ、次回は楼閣とのカスタム回にはなりませんよ?

この小説、ただ単に【孤独者達の宴】から【ロリ】に繋げたくて書いてたんですが…ぶっちゃけキャラが勝手に動きまくって当初の予定よりも大幅に量が増え話の数が多くなったのと波羅ちゃんに変な属性が付きました。
反省はしていません!(爆)

PS,あ、ガチャ忘れてた…
ではでは、今回はこの辺で筆を置かせて頂きます。


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#こんぱすぐらし!

リアルで文化祭の劇の台本を書いていたので更新が遅くなりました、ごめんなさい。

気になる方は【小説家になろう】より【乱数調整】で検索してみてください


「畜生、楼閣あの野郎どこ行きやがった…」

 

『もういいから早く部屋に戻らないかァ?コクリコちゃんが疲れたらどうするんだァ?』

 

ちなみにコクリコは肩車してる。頭に殺人的なぷにぷにがあるってことはそろそろ寝そうなんだろう。

 

「…だな。そろそろ帰るか。おい、機械音声」

 

《どうかされましたか?》

 

「部屋に戻るわ。それとお前の名前を決めようと思う。」

 

《それは嬉しいですね》

 

清々しい程の棒読みだった。じゃあ俺も適当に付けるか。

 

「じゃあお前今日からキィな」

 

『【機械音声】だから【キィ】って適当すぎやしないかァ?』

 

セナ、却下。

 

「じゃあキィ、部屋に戻るにはどうすればいいんだ?」

 

《メニュー画面の左下をご覧下さい》

 

お、なんかそれらしきボタンがある。押すか。

 

「…ワープかよ」

『…どこから移動してきたんだァ?』

『???』

 

部屋の前にワープした。そう、()である。

ドアがあるが俺は鍵を持っていない。

 

《これから精製致します》

 

適当かよ…

 

《ロリコ…貴方に言われたくはありません》

 

ほぼ言いかけてるからな?

 

そうこう言いかけているうちに鍵が出来た。はええよ。

そして部屋の中に入ると

 

「へあっ!?ロード君!?なんで私の部屋に!?」

『楼閣早く逃げろ!!俺の後ろが安全地帯だ!!』

 

お前らこそなんでいるのさ?

 

《ギルドのメンバーは共同生活ですから部屋は同じです》

 

へぇ〜…

 

『目が笑ってない!目が笑ってないぞ!?』

「ろ、ロード君!話せばわかる!話せば!!」

 

「ナンニモシマセンヨエエナンニモ」

『ダメだ楼閣!目が笑ってないままだ!!早く逃げろ!!』

「で、でもジャスくんが!!」

『楼閣、生きて帰れ!!これは命令だ!!』

「ジャスくん…」

「ニガストデモオモッテイルノデスカ?」

『おい、コクリコちゃんに悪影響だからやめろォ。』

 

セナから声がかかる。( ゚д゚)、ペッ、命拾いしたな。

ん?じゃあもしかして…

 

「待っておりました、隊長!!」

 

やっぱり波羅もいるのな…ってか隊長違うわ、隊長呼びやめろ

 

「Sir,YES,Sir!!」

 

こりゃダメだ、もう治らねぇ…

 

「波羅ちゃんも!?気づかなかったよ!?なんでここにいるのさ!?」

 

「え?さっきから壁に張り付いてたじゃないですか?」

 

「もう、わけがわからないよ…」

 

《皆様、そろそろお話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?》

 

「「『『!?』』」」

 

キィが話だした。なんか全員が驚いてたけどどうかしたのか?

 

「いや…今なんか女性ボイスの機械音声が聞こえた気がしたから…」

 

え?何、みんなキィの声聞こえてんの?

 

『あぁ、俺も聞こえたぞ』

 

「恐らくそうかと思われます、ボス。」

 

《ギルドマスターの機械音声(たんとう)が話すはずなのですが…》

 

どうしてこうなった?

 

「ウチのこによると「ロード君がみんなの中心にいるから」こうなってるらしいよ?」

 

さよけ。ま、気にすんな。

 

「適当だねぇ…じゃ、これからどうしようか?」

 

《とりあえず皆様にBM(ビットマネー)をお配りします》

 

あ?ガチャでも引けるのか?

 

《はい、先程から実装されました》

 

「ボス!引きに行きましょう!!」

 

まぁ…戦力増強は必要か…

 

「うっし、引きに行くか。……んで?キィ、デメリットを教えろ」

 

「デメリット?そんなのあるのかい?BMだよ?ガチャ以外にどうやって使うのさ?」

 

「この前料理とかのこと聞いた時《ギルメンに作ってもらってもいい》と言っていた。そして《部屋に冷蔵庫がある》ことも言っていた」

 

「どの辺に引っかかるんだい?」

 

はぁ〜…分かってねぇのか、お前?

 

『嘘だろォ?誰でも気づくだろォ?』

 

ほら、セナも呆れてるだろ?

 

「そんなこと言ってもねぇ…分からないものは分からないんだよ」

 

んじゃ、そのへん含めてキィ説明よろしく。

 

《はい、元々のコンパスではBMはガチャのみに使われていたものでした…が、現実世界となったコンパスではBMはリアルマネーだと思っていただいて結構です》

 

『…ん?と言うとどういうことなんだ?BMでサービスも受けられる、みたいな感じか?』

 

《ジャスティス様、ご明察です》

 

「と言うとつまりどういうこと?」

 

…ここまで聞いてもわかんねぇのか楼閣?

 

「なんか煽られた気がする…」

 

《話を続けますよ?つまり、初期状態では冷蔵庫には何もなく中身はBMで購入していただく必要があります》

 

「な…!?その事をなんで初めに説明してくれなかったんだい!?」

 

《聞かれなかったので》

 

「クールにドライなんだね…」

 

…ほら、早く引きに行くぞ?

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

【ガチャ広場】

 

「1200連で欲しかった全天5枚キタァ!!」

 

「UR50枚だったぜ!!」

 

「やっべぇ俺今超リッチなんですけど!!」

 

……予想通りの風景だ。

 

「あぁ…ぁぁあ…ああああああああぁぁぁ!!」

 

『楼閣…お前は悪くない…悪くないんだ…!!』

 

こっちはどっかで見たことある風景だ。

 

「お!【ロリコンの王】!!お前らもガチャ引くのか!?」

 

「あぁ、60連だけだけどな」

 

「はぁ!?なんで60連だけなんだよ!?10万BMだぞ!?」

 

「だってそれ、これからの生活費も入ってるから」

 

「…(考えている)……(考えている)………(怖い考えになった)機械音声!!詳しく教えろ!!」

 

「なんだどうした!?」

 

「配布されたBMが生活費込のやつだったってよ!!」

 

「マジか!?俺全部使っちまったわ!!」

 

「俺もだ!!」

 

「どうすりゃいいんだ!!GM!ジィーエーム!!」

 

…後ろで阿鼻叫喚が響いていたが無視して行った。

 

 

 

 

『この浮いてるの、なぁに?』

 

「コクリコ、好きなのを選んでいいんだよ?」

 

『いいの?』

 

うおう、キラキラおめめ。可愛すぎるだろ、この子

 

『じゃあ…これ!』

 

次々カードをめくっていく。コクリコが見たがったので1つずつ見せていった。その間コクリコは

 

『これ、強いの?』

 

とか

 

『なんだか綺麗だね!』

 

とか、

 

『コクリコも欲しい…』

 

とか言ってた。全部あげるわ、むしろ貢ぐわ。

そんな中最後の3枚

 

【ミナ&ルナ&レナのバーゲンセール戦争】

 

4秒間、敵からの攻撃を無効化し、近距離にカウンター攻撃(中ダメージ)

 

この子、やりやがった…

貫通怖いから「殺られる前に殺る」戦法の俺にピッタリのカード

しかもカノーネも効かない。

 

『これ、強いの?』

 

うん、すげぇ強い。後で肩車してあげよう。

 

ラスト2枚

 

【ミナ&ルナ&レナのバーゲンセール戦争】

 

4秒間、敵からの攻撃を無効化し、近距離にカウンター攻撃(中ダメージ)

 

この子、マジでやりやがった…

 

『あ!さっきのやつだ!』

 

なんだよこの子…はっ!?もしやこの子は神の祝福を!?

 

「でも強化するエナジーがないと無意味だよねぇ」

 

爆死した(重要)楼閣が言ってくる。ざまぁww

 

ラスト1枚

 

【エナジー缶100000ml】

 

『なんだか綺麗だね!』

 

…マジかよ

ほら、ご覧、楼閣も絶句してる。

 

しかもみんなプライム会員入りしてる設定になっているらしく倍になっている。

 

エナジーは合計250000ちょい。

…URをLv30にするのに必要なのが117600だから楽勝で足りる

 

「ボス!これでボスは最強です!!」

 

まだ引いていない波羅が1人嬉しそうにしていた。




【バーゲンセール戦争】なんですが、使ってみたところ効果時間が切れるまで無効化していたので表記をああしました。

にしても酷いですねぇ、機械音声諸君は。え?お前が言うな?それはよく聞こえないから却下する!!
…ホントは13の『1億BMくらいかな?』を使いたかったのですが、ギルメンではないので使えませんでした。

さてさて、次回からはifストーリーを何度か入れようと思っています。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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日常系

部屋に戻ってくる。

 

「みんな馬鹿だな〜。なんか裏があることくらい見抜けよ。」

 

「できねぇよ!!」

 

楼閣がキレた。そして同時にツッコミを入れるとかいう難しいことをやってのけた。すげぇ。

 

「褒められても嬉しくないよ!そのうち【1楼閣】とかいう単位が出来上がるんだろう!?どこぞのRe:〇から始める異世界生活よろしく!?」

 

楼閣、伏字が仕事してないぞ?

 

「どうでもいいよ!そんなこと!」

 

ジャスティス〜、楼閣が壊れた〜

 

『じゃあ俺はトレーニングルームに遊具を作ってくる。安全に気を配ろうとは思うが何かあったら言ってくれ。すぐに修正する。』

 

ん?あぁ、頑張ってくれな?

 

「ジャスくんまで私を見捨てた!?」

 

ほら、ジャスティスは仲間のために協力を惜しまない苦労人だから。

 

「ううう…ジャスくんの薄情者ぉ…」

 

ソンナコトナイデスヨー…

 

「ロードくんのバカ!ロリコン!ぺドフィリア!!」

 

残念だったな…もう慣れたわ!!

あと事実とかなり違うから傷つきもせぬわ!!

 

「そうだね…ロリコンだけだもんね」

 

おい楼閣てめぇ表にでろ。

 

『ふみゅう…』

 

『オイ、コクリコちゃんが寝そうだぞォ?』

 

おぉ、ホントだ。じゃあ風呂に入れるか。

 

「このロリコンが…」

 

なんかドスの効いた声がした気がしたがきっと楼閣ではあるまい。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

コクリコの服を脱がせていざお風呂へIN

コクリコは全裸、俺は腰にタオル。

もちろん風呂なので【不自然な湯気】さんが仕事をします。

 

「コクリコ、起きて。お風呂入るよ。」

 

『ふみゅぁぁ…』

 

眠そうだな…可愛いからなるたけ起こさないようにしよう。

早速持って入ったタオルを泡だらけにする。

 

『…なんだか手際が良すぎないかァ?』

 

ふっ、ぼっちの家庭力なめんなよ?

家に帰ってもすることないから晩飯作ったり1人でそれを食ったりあと片付けしたりするんだぞ?

 

《なんかごめん…》

 

なぜかキィが謝ってくる。ワケわからんぞ…

 

『あわあわぁ〜♪』

 

目をつぶったまま気持ちよさそうなコクリコ。可愛い。

 

サッと終えて次は頭へ。

…っつってもシャンプーハットがないな…キィ、シャンプーハットって買えんの?

 

《購入はできますが配達となると30分はかかります》

 

詰んだ。

 

『準備くらいはちゃんとしとかないかァ…』

 

お?

 

『んん?』

 

この手があったか。

 

『碌でもない気がするなァ…』

 

「セナ実体化ァ!!」

 

『!?』

 

セナを実体化させる。あとは…分かるね?

 

「セナ、コクリコの頭を両手で持て。」

 

そう、シャンプーハットmade From セナ を使用する。

 

『なんでボクがそんなことしないと行けないんだァ!?』

 

「コクリコに堂々と触れるぞ」

 

『よし、こうかァ?こうしとけばいいのかァ?』

 

こいつ…チョロい…ww

 

『んー♪』

 

コクリコが気持ちよさそうな声を出す。可愛い。

 

『ごっしごっしあわあわぷくぷくぷく♪』

 

歌いだした。可愛すぎる。ウチのコクリコちゃんですおめでとうありがとう。

 

「コクリコ、それなんの歌?」

 

『シャンプーの歌♪お兄ちゃんも歌う?』

 

可愛すぎる…歌わないなんて選択肢は今この瞬間消えた。

もしくは最初からなかった。

 

「『ごっしごっしあわあわぷくぷくぷく♪』」

 

『う、腕がキツいぞォ!?早くしてくれないかァ!?』

 

「コクリコ上手に歌うね〜」

 

『えへへぇ〜♡』

 

『ぼ、ボクを無視するなァ!!いや、無視しないでくれェ!!』

 

セナがうるさいから流してやろう。

シャワーを使って頭の泡を流す。コクリコは終始『えへへぇ〜♡』と嬉しそう。

 

流し終わると湯船に浸かる。

 

『ふみゅう…♡』

 

可愛いかよ…

 

「じゃあコクリコ、10数えてからあがろうか。」

 

コクリコは『うん♪』と言う。可愛《しつこいです》キィ、うっさい。

 

「『いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、なーな、はーち、きゅーう、じゅう!!』」

 

10数えて風呂から上がる。

コクリコの体を拭いて服を着せて部屋に戻ってくる。すると楼閣と波羅が真剣な様子で喋っていた。

 

「あ、ロードくん。今波羅ちゃんとデッキについて話してたんだよ。」

 

「ボス!お疲れ様です!!」

 

おー、それ系統の話か。どれ、少し見てやろう。ガチャでは何が当たったんだ?

 

「【クルエルダー】が当たりました!!2枚目になります!!…しかしそれ以外のURは当たらなくて…」

 

いや、【クルエルダー】いいぞ?HAは近いほど威力上がるから引き寄せて転ばしてからのHAでほぼ確キル出来るぞ?

 

「ほ、本当ですか!?育成しないと…」

 

エナジーあるか?足りなかったら渡すが…

 

「いえ!初期からこのデッキを使ってるので余りまくっています!30万ほど!」

 

…どうやって貯めた?

 

「コツコツ貯めました!!」

 

うん、もういいや。

あ、あと【レオン】とかの貫通攻撃には攻撃バフ乗らねぇんだよ。

 

「そ、そうなんですか!?僕は…僕はなんてことを…!ならば外します!今すぐに!!」

 

待て落ち着け早まるな。カードの連続使用は二枚目以降の発動時間が【無】になるから【長】の【レオン】とは【無】の【秘めたる】とは相性いいんだよ。

 

「な、なるほど…他には!他には何かありませんか!?」

 

すごい食いつくな…そうだな、他には…

 

『お兄ちゃん、コクリコ眠いよぉ…』

 

あ、コクリコはもうお眠の時間か。

よし、じゃあベッドまで運ぶよ。

 

『やー、お兄ちゃんも一緒がいい〜!』

 

………………………

 

「ロードくん?戦略について話がしたいんだけど…」

 

「ボス!!他には何があるんですか!?」

 

…………アディオス!!

俺は今日今この瞬間にコクリコと一緒に寝ることを決めた!

異論は一切認めない!!

 

「ボスゥ!?」「ロードくん!?」

 

2人の悲痛な叫びが聞こえる中、それを無視して寝る。

明日目が覚めるまで寝ていよう。

 

だって

 

 

明日まさかあんなことが起こるなんて思ってもいなかったんだから。




次回はifストーリーだと言ったな、アレは嘘だ。
いえ、ただ単に急に【日常系】が書きたくなっただけですので…

乱数はアホです(唐突)
可愛い画像を見るためだけにTwitterのアカウントを作りました。

今回感想が初めて来て舞い上がって不思議な踊りを披露したアホです。

というわけでサプライズ。
今回感想をくれた方先着5名様に【不自然な湯気】を消したDVDをプレゼント!!
ちなみに【不自然な湯気】は消えますが新たに【不自然なセナ】が現れます。え?いりませんかそうですか。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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間章 おいおいバグとか勘弁しろよ
入れ替わり━立ち代り


UAがそろそろ1000件いきそう…
応援して下さってる皆さん、ありがとうございますm(_ _)m

ここから何話かIFストーリーになります。
それでもいいという方はゆっくりしていってください。


目が覚めた。俺の朝は早い。

なぜかって朝飯と弁当を自作するから。具体的には5時起き。

6時半に弁当を完成させて7時半には学校へ、その後読書したり勉強したりしてる。

 

「コクリコが起きるのは…ニチアサタイムかな?6時半?」

 

そうひとりごちて朝飯を作る。

今日の朝飯はご飯、味噌汁、焼き鮭というthe 和食。

そろそろ自分の分の鮭が焼き上がるといったところで一人の人が現れた。

 

『ん?ロード、どうした?随分と早いじゃないか。』

 

「おぉ、ジャスティス、おはよう。何って朝飯作ってるんだよ。もうすぐ鮭焼き上がるからそれ食え。俺は後で焼くから。」

 

『ロード、いいのか?お前が食べる分だろう?』

 

「気にすんな。どうせ全員分食う直前に焼くつもりだからな。手間は全く変わらん。」

 

『そうか、なら頂くとしよう。』

 

そう言ってジャスティスは席につき、ご飯と味噌汁をとりわけて食べ始めた。

おぉ…まず味噌汁を啜るか…親父くさいな…

 

『これは美味いな…ロード、お前はきっといい主夫になるぞ』

 

おう、両親共働きだとこんなスキルばっかり上がるんだよ。まぁ、晩飯の時に誰もいないから当たり前だけどな。

 

『なんか…すまない…!』

 

おおう、ジャスティス、急に目頭抑えてどうしたんだよ?

 

『辛いことを…思い出させた…!』

 

ああ、気にするな気にするな。物心ついた時からだからもはや当たり前だし。

 

『今日の晩飯は、俺が作るな?』

 

肩に手を置いてジャスティスが話しかけてくる。なぜに気をつかわれたし…

 

「おはよぉ、ジャス君。」

 

すごくダルそうな楼閣が起きてきた。

楼閣、お前どうしたんだ?

 

「私低血圧だから朝はすごくキツいんだよねぇ…」

 

なるほど、苦労してるのな。

 

「あぁ~、ジャス君、朝ごはん嬉しいけど朝からバターで焼いた鮭はちょっとだけ重い…」

 

『それ、作ったのロードだぞ?』

 

「はははぁ~、ジャス君面白い冗談だねぇ~」

 

いや、マジだよ。

 

「そうなの?すごいねぇ~」

 

ダメだ、寝起きのこいつはツッコミとして機能しない…

 

『ロード、メタいぞ…』

 

「ボス、おはようございます。」

 

おぉ、波羅か。おはよう。今から鮭焼くな?

 

「はは、ありがとうございます。」

 

なんだ…この子は寝起き普通だな。

出会った時みたいな礼儀正しさがある。

 

「昨日は取り乱してしまい、申し訳ありませんでした、ボス。」

 

うん、ボス呼びは変わらないんだな?

 

「はい、ボスは僕のボスですので。」

 

ま、そのへんはもう気にしてないけどな…ほら、波羅の分。

 

「ありがとうございます。頂きますね。」

 

『ハービィ~、おはよぉ~…』

 

眠そうな目を擦りながらめぐめぐが起きてくる。

 

「おはようございます、めぐめぐ。」

 

『隊長と大尉とリーダーもおはよぉ~』

 

おう、昨日はお疲れ。

 

『あぁ、よく眠れたか?』

 

「おはよぉ~」

 

みんな応えるのな。楼閣は絶対応えられないと思ってたわ。

そんなことを思いながらめぐめぐに朝飯を出す。

 

『…何コレ?』

 

ん?あぁ、そういえばウチの子ではないにせよめぐめぐも十分少女と言って差し支えない年齢か。和食嫌いだったかな?

 

『コレ、見たことないんだけど、食べられるの?』

 

あぁ、見たことないだけか。まぁ、嫌いだったら別メニュー出すから1口食べてみてくれ。

 

「ボス、甘やかしたらダメですよ。好き嫌いしては大きくなれませんから。」

 

まぁヒーローにはモチベーション上げてもらうのが1番だからそのへんはだだ甘でもいいと思うけどな?

 

「そうですか…」

 

1度食べてみてはもらうけどな。

 

「ボスが言うなら…作り手がいいなら僕は何も言いません。」

 

それを聞いて恐る恐るといった感じではあるがめぐめぐが食べ始めた。

 

『…おいしい。』

 

そうか。なら良かったな。

俺のレパートリーは和食が多いから。

 

『初めて食べるはずなのに、なんか懐かしい…』

 

…そっか。まぁこれからも作るから楽しみにしといてくれ。

 

『…うん。ありがと、隊長!』

 

『うみゅ~…お兄ちゃん、おはよう~』

 

そんなとこをしていると、コクリコが起きてきた。

可愛い。なんだこの子可愛すぎるだろ…

 

《コクリコット様が起きてからうるさいです、親バカですか?》

 

キイ、うるさい。

コクリコ、朝ごはん出来てるよ。

 

そう言って俺がコクリコに出したのは…

お店で出るようなパンケーキ

 

「「『『《いや、今までの流れどこいった!?》』』」」

 

全員にキレイに突っ込まれた。

アレ?セナの声は聞こえなかったな。どうしたんだろ?

 

『わぁい、お兄ちゃん、ありがとぉ~♡』

 

なんだこの子可愛すぎるだろ。

ウチのコクリコちゃんですおめでとうありがとう。

 

『…?誰か、コクリコのこと呼んだ?』

 

ん?呼んでないと思うけどな?

 

『うみゅぅ…コクリコ、呼ばれたと思ったんだけど…』

 

セナがヘマしたのか?

 

『コクリコちゃんが僕に気がついたのかァ!?コクリコちゃん!僕はずっと君のそばにいたよ!コクリコちゃあぁあああああぁああああああん!!』

 

は?セナ、俺にそんなこと言ってもしょうがないだろ?

 

『え?』

 

は?




…えっと…1話完結にするつもりが、朝だけで終わってしまいました…
次回、ここからアリーナ入ります。
何が起こるかは…まぁ最後のでわかる人には分かると思いますけど。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせて頂きます。


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何があったよ…

いや、そんなこと俺に言ってもしょうがないだろ?

 

『え、』

 

は?

 

『なんでお前の中に僕がいるんだァ?』

 

は?いつも通りだろ?

 

『僕はコクリコちゃんの中にいたはずなんだァ…!昨日の風呂の中までは確かに向こうにいたはずなのに…!?』

 

え、そうなの?

 

『ロード、俺は食べ終わったぞ。昨日作った遊具見に行くか?』

 

「ロード君、私も終わったよ。今日はどうする?」

 

そんな会話など知らんとばかりにジャスティスと楼閣が話しかけてくる。お前ら食うの早いのな?

 

「ボス、僕も終わりました。バトアリに行きませんか?」

 

『隊長~、めぐめぐもアリーナ行きたーい。』

 

お前らは量減らしといたからな。そんなに食わんだろ。量大丈夫か?

 

「えぇ、ちょうど良かったです。」

 

『めぐめぐも~』

 

なら良かった。

チラッとコクリコを見るがコクリコはまだパンケーキを切り崩してる。そんなに慌てないでも誰も取らないよ。

口元クリームだらけにしてもう可愛いんだから。

 

「ってなわけで行きたいなら行きたいで先に準備しといてくれ。装備の点検とか、お前らはあるだろ?」

 

『あぁ、そうさせてもらおう。』

「じゃあ一旦部屋に戻ろうか。…ジャスくん、昨日部屋にいなかったけどどこで寝たの?」

 

『ガトりんのお掃除しなくちゃ!』

「では先に用意を済ませておきますね。」

 

そう言ってダイニングをあとにするメンバー。

残った俺はコクリコを眺める。

口元クリームだらけにして《先程聞きました》可愛いんだから《しつこいです》

 

コクリコの口元を拭う。なされるがままに拭かれたあと、コクリコはキョトンとした顔をしている。

 

『お兄ちゃんも食べる?』

 

そして勘違いをしてる。おい、ウチの子が天使なんだが

 

「うおわぁ!?」

『楼閣!?大丈夫か!?楼閣ァァァ!!』

 

『ガトりんが急に重~い…』

「どうしました?めぐめぐ?ちょっと貸してください………ヒィヤッハハー!!俺に血を!!早く血を見せろォ!!」

『ハービィがいつもよりおかしくなったぁ!!隊長!助けて、たいちょ~!!』

 

コクリコが食べ終わった。椅子から立ってお皿を運ぼうとして、慌てて座り直す。どうしたんだ?

 

『ごちそうさまでした。お兄ちゃん♪』

 

そう言うとお皿を流しに持っていく。わざわざその為に座り直したのか…いい子すぎるだろ…

 

「ロード君?聞いてる!?助けて!」

『楼閣!まだ大丈夫か!?これで凌げ!』

「ジャスくん、ここではカード使えないよ!?」

 

『ハービィ、止まって!ダメだって!そっちはダメなんだって!!』

「血だァ…!早く俺に血を見せろォ!!」

 

皿を洗う。コクリコの口を拭いた後からすぐに始めたからあとはコクリコの皿だけで洗い終わる。

 

『コクリコもお手伝いする~!』

 

いい子だ。ウチの子が天使なんだが。

じゃあコクリコには洗い終わったこのお皿を片付けてもらおうかな?

 

『コクリコいい子だからできるよ!』

 

よし、任せた。

最後の皿を洗い終わってコクリコに渡し、片付けるコクリコをかたずを飲んで見守る。よし、出来た。いい子だ。

 

『コクリコ、ちゃんとできたよ!ほめてほめて~!』

 

よし、いい子だ。じゃあ頭を撫でてあげよう。

俺がそう思ってコクリコに手を伸ばした瞬間、事件が起きた。

 

「血を見せろォ!!」

『ハービィ!そっちはダメだよ!それは隊長なんだよ!?』

 

波羅(バーサーカー二割増)とめぐめぐ(びっくりすることに常識人)が闖入を果たした。

 

「ふひひひ、ガキィ…俺に血を見せろォ!!」

 

そう言うと波羅はコクリコに襲いかかった!

俺は素手で波羅の腹を殴りつけた!!

波羅は倒れた!!

 

「おい波羅?なにウチのコクリコに手を出そうとしてるんだ?返答によっては俺はお前とOHANASHIしないといけないんだが?」

『隊長…怖いよ…笑顔で平坦な声なのに目が死んでるから怖いよ!!』

 

めぐめぐ、知らん。

 

「アレ?僕は何を?」

 

ホレ、波羅、正直に言ってご覧?何があった?

 

『隊長…目だけが笑ってないよ…』

「確かガトりんを持ってみたら随分と軽く感じてそれから唐突に破壊衝動が…」

 

おいキィ、何が起こってるか分かるか?波羅は流石にここまで分別のない奴ではなかったし、恐怖も植え付けた。なら急な破壊衝動が原因だろうがその辺の意味がわからん。

 

《すぐさまシステムの点検に移ります》

 

頼んだ。

 

「…おーい、ロード君?私は?私は無視か~い?」

『楼閣!目が死んでるぞ!死ぬな!!』

 

《マスター、原因が判明いたしました》

 

なるほど、何があった?

 

「あぁもう!ロード君!!私を無視するんじゃない!」

 

ついに楼閣も闖入を果たした。

…ジャスティスの鎧を付けていたが。

 

《一時的にヒーローとマスターが入れ替わっているようです》

 

What's?

 

《簡単に言いますと、ヒーローの武器と単純な性格がマスターのものとなっているようです》

 

訳わかんねぇ。

 

《楼閣様を見ればわかりやすいかと》

 

『俺の鎧は個人を識別しているから、楼閣が着られるわけがないんだ。だからこれは異常とも取れる。』

 

けどステータスとかわかんねぇじゃん?

 

『いや、分かるぞ。楼閣を注視すれば出てくる。』

 

マジで?

 

====================

楼閣

 

タンク

 

ステータス

攻撃 1.25倍

防御 1.40倍

体力 0.95倍

====================

 

あ、マジだコレ…

 

波羅渡(バーサーカー)様もですよ》

 

====================

波羅渡

 

ガンナー

 

ステータス

攻撃 1.45倍

防御 0.45倍

体力 0.85倍

====================

 

お、じゃあ俺はどうやって見ればいいんだ?

 

《メニューからご覧下さい》

 

了解。じゃあ見るか。

 

====================

ロリコンの王

 

スプリンター

 

ステータス

攻撃 1.50倍

防御 0.25倍

体力 1.25倍

====================

 

…一言言わせろ。

 

GM(ゲーマス)、ぜってぇぶっ殺ぉぉぉぉぉぉす!!」




次回アリーナだと言ったな、アレは嘘だ。

コクリコ愛が迸ってる私は今月のシーズンで発狂してましたよ。
まぁクソザコナメクジなので3万位を目指してましたが。
無事入れましたが1万位だとなお良かったなぁ…

大阪で地震ありましたね。
熊本の時みたく明日本震とかじゃないといいんですが…

ではでは、今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。


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ジッケンタイム!

「あのクソGMぜってぇぶっ殺ぉぉぉぉぉぉす!!」

 

おいなんだよ【ロリコンの王】って!?俺の名前じゃねぇよ!!

おいキィ!GMの居場所教えろ、一発ぶん殴る。

 

《GMにも想定外の事態らしく、原因解明と復旧作業に勤しんでいますのでお会いするのは難しいかと》

 

おいおいマジかよ。このバグ俺たちだけじゃねぇだろうな?

 

《全ユーザーでの入れ替えが起こっていますが忠臣使いの皆様が一番不憫かと》

 

それはなにゆえ?

 

《【グリード拘束呪式】に侵されておりますので》

 

なるほど…初めてヒーローと会った時みたいにいろいろと苦労があるのな。

 

《いつ復旧するかも分からないのでとりあえず【バトルアリーナ】に行かれてはいかがでしょう?》

 

「え、機械音声ちゃん、それはなんで?別に無理して行かなくてもいいと私は思ってたんだけど…」

 

楼閣が口を挟んできた。

楼閣、またお前か。

 

《バトルをしないと次のBMの配布料が落ちますので》

 

「え!?私そんなの聞いてないよ!?」

 

《聞かれませんでしたので》

 

おい気づけよ楼閣、「ロード君、発動速度の確認行くよ」アレは給料みたいなもんだっt…ちょ、楼閣!急にやる気出すな!!引っ張るな!!力強えな!?そうか、鎧の補助かきたねぇぞ!!

コクリコ!お兄ちゃんは、お兄ちゃんは必ず帰ってくるからな!!

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

「と、いうわけで動作確認をやっていくよ。」

 

テメエライイドキョウダオボエテロヨアトデゼッテェカスタムヒライテブチコロシテヤルカラナ、フヒヒ、フヒヒヒヒヒ

 

「はいそこロード君!怖いから早口で呟かない!」

 

「けどですよ楼閣さん、ヒーローとの入れ替えなんですから発動速度はヒーローと変わらないのでは?」

 

波羅が言う。

そうだそうだー、俺を早くコクリコの元へ返せ~!

 

「だって変わってたとしたら大事故だし、そもそもバグだからカードから使えない可能性すらあるし…」

 

( ゚∀゚)・∵. グハッ!!楼閣が考えることを覚えたなんて…

 

「誰でも成長くらいするよ!ロード君は私のこと【オッサン】って言ったけど私まだ30いってないからね!?高校生からしたら20代後半なんてオッサンかもしれないけども!!」

 

あぁ、アレか。その時はお前可哀想なくらいやつれてたからな。今は某オット〇君くらいには見えるぞ?

 

「どのみちいじられキャラだよねぇ!?」

 

ほら、さっさと動作確認するぞ

 

「ロード君が常識人に見える…ロリコンなのに…」

 

ロリコンじゃねぇよ。今はコクリコと一緒にいねぇだろうが。

 

ちなみに今はトレーニングルームにいて、ヒーローはジャスティスしかいない。

ジャスティス、お前の仕事はカードを発動することだ。

 

え?自分で出来るんじゃねぇの?って?

何を馬鹿な、ジャスティスがいっぺん楼閣の部屋で使ってたじゃねぇか。

「そうそう、【『これで凌げ!』】のあの時。」

 

ちなみにコクリコとめぐめぐは遊具で遊んでいます。

遊具を作った余りのスペースが俺たちのトレーニングルームだゼ☆

 

『あぁ、ロード、遊具の作成のためにポータルキーは売り払ったがいいか?』

 

ジャスティスが言う。

 

あぁ、それは問題ないが…ぶっちゃけ売れたの?

 

『高値で売れたぞ。なんでも、ステージの数自体を増やさないといけないらしくてな、【立体交差】【ケルパーズ】【たかさん広場】辺りはもともとあった場所にステージを作ったらしく、周りにも沢山作るんだと。』

 

なるほど、確かにあのキャパをあのステージ数で収めるのは厳しいからな。でも【ライブステージ】とかはどう見ても一点物だから量産は難しいんだろう。

 

『あぁ、それよりも先に発動速度の確認か。悪かったな、待たせて。』

 

気にするな。昨日は部屋に戻ってないんだろ?疲れてるのに悪いな。

 

『いや、いい。それこそ気にしないでくれ。…じゃあ1人ずつ確認だ。楼閣、波羅、ロードの順番でいいか?』

 

俺は異論なし。

 

「僕も同じくです。」

 

「じゃあ私からだね。」

 

【近距離】

「負けないよぉ!」

 

【連続】

「よぉいしょぉぉぉぉぉぉ!!」

 

【遠距離】

「撃ち抜いてぇー!!」

 

…うん、ジャスティスと何も変わらねぇ。

実はヒーローと同じなんじゃねぇの?

 

「ロード君!萎えること言わないでよ!!【周囲】だよ!!きっと周囲が変わってるんだよ!!」

 

『そうだな…楼閣…【周囲】を試そうな…』

 

「ジャスくんまで私を虐める!?」

 

どうでもいいから早くしろよ…

 

【周囲】

「こうした方が早いでしょ!」

 

楼閣がハンマーを振り回した。

ちなみに発動がボイドくらいは早かった。

 

「ほら!早かったでしょおぉっと!?」

 

…けどスキが長くなってた。

 

「まぁスキは許容範囲かと。周囲ならノックバックもありますし、楼閣さんは防御も高いですから。」

 

『じゃあ次は波羅だ。』

 

「はい、分かりました……血を見せろ、死に絶えろ、ぐちゃぐちゃになれぇ!!」

 

ガトりん持った瞬間にバーサーカー二割増になるのな、お前は…

 

【近距離】

「目の前から消え失せなぁ!!」

 

【周囲】

「不意打ちにしてはお粗末だ!!」

 

【連続】

「塵も積もって山と死ね」

 

うん、変わらねぇな。

【遠距離】何かあるといいんだけどな。

 

あ、ちなみに【遠距離】が最後なのは波羅が【レオン】好きすぎて最後にしてくれって頼んできたからだ。気にするな。

 

【遠距離】(レオン)

「料金はテメェの命だァ!!」

 

…ん?楼閣、今タメあったか?

 

「いや、無かったよねぇ…?一応【レオン】って【長】だったんだけどねぇ…?」

 

もしかしてコレ、【遠距離】の発動速度が全部【無】になるとか?だったら強えな。

よし、なら【クルエルダー】試してみよう。

 

「Sir,YES Sir!!」

 

【遠距離】(クルエルダー)

「(タメ)殺してやるからこっち来なァ!!」

 

タメ…あったな?

 

「何が違うんだろうねぇ…?」

 

俺たちはウンウンと唸って考える。…ダメだ、全く分からん。

 

「ボス、よろしいですか?」

 

ん?なんだ波羅、どうかしたか?

 

「僕は【遠距離】が好きなんじゃないんです。【貫通】が好きなんです!」

 

なるほど…って、貫通で【無】じゃないのってレオンだけじゃねぇか!!




天の声)おい乱数、何か言うことは?
ごめんなさい…

アリーナ全然入ってない…スキルもアビリティも判明してない…
まぁスキルとアビリティはほぼほぼ変わらないんですけどね。

この調子だとあと5話くらいあるぞ…どうしよう…
よし、3000字くらいにしよう。少しずつやればバレないはずだ!!

ではでは、今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。


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このロリコンがっ!!

『おいロード、そろそろお前の確認をしてもいいか?』

 

お、最後俺か。

まぁ2人を見てる限りは俺もコクリコの発動速度と同じだろ。

よし、ジャスティス頼むわ。

 

【近距離】

「セナ、右手集中!『僕に指図するなァ!』…そいやァ!!」

 

【周囲】

「いくぞセナ!『もっと力を寄越せェ!!』…でりゃァ!!」

 

「えっと…ロード君?【近距離】の早さがぶっちゃけマルコスなんだけど…?」

 

「ボス…周囲もマルコスです…」

 

うん、知ってる。

遅すぎるだろ、誰か何とか言ってくれよ!!

 

『ロード、落ち込むな。もしかしたら【連続】が早いかもしれないぞ。お前のことだ。何かあるんだろう。』

 

「ねぇジャスくん?僕の時とかなり違くない?」

 

そうだな、ジャスティス。「この子私を無視した!?」じゃあ【連続】を頼む。

 

【連続】

「セナ、いけるな!?」『当たり前だァ!愛の勝利だァ!!』

 

『ロード…すまない…【連続】はリリカだ…』

 

【遠距離】が!まだ【遠距離】が!

 

【遠距離】

「いくぞセナァ!!」『2人の共同作業だァ!!』

「『撃ち抜けぇ!!』」

 

「もう今まで見てきた中で一番遅いんだけど…」

 

「なんか…チャージに4.5秒はかかってた気がするんですけど…」

 

全☆滅

 

何?GMは俺のこと嫌いなの?

カード発動速度はマルコスと同じくらいなのにマルコスよろしく自強化も出来ないとかクソにも程がある。

 

「ロード君!?元気出してよ!!隅っこで三角座りしてるとか怖すぎるよ!?」

 

『ロード!!目が死んでる!!瞳孔が開ききってるぞ!?』

 

「ボ、ボスゥ!?元気出してください!僕が頑張りますから!」

 

キニシテナイヨー、ウンモウゼンゼン。

 

「誰か!?誰かロード君に癒しを!!」

 

『衛生兵!衛生兵はいるか~!?』

 

全員が八方手を尽くしてる。

ふっ、無駄だ。ここまで完璧に折れた心を癒すなんてそう簡単には…

 

『お兄ちゃんだいじょうぶー?』

 

天使の声がした。うちのコクリコちゃんですおめでとうありがとう。

向こうの方で遊具で遊んでいたというのにわざわざ慰めに来てくれた。マジ天使。

 

『お兄ちゃん泣いてるの?えっとね、コクリコのくりーむぶりゅれをわけてあげるね?とってもとってもおいしいんだから!!』

 

ああ、癒される…心が浄化されていくようだ…

ありがとうコクリコ、お兄ちゃんが肩車をしてあげよう。

 

『わぁい!お兄ちゃんありがとう!』

 

可愛い…もうこの子がいれば何もいらないんじゃないか?特に楼閣とか

 

「サラッと罵倒された気がする…」

 

『お兄ちゃん、このキラキラしてるの、なぁに?』

 

ん?なんの話だろ?

 

『ロード、こっちからお前のデッキが無くなったんだが、なんでか分かるか?』

 

もしかしてコクリコが持ってるのって、俺のカード?

 

「コクリコ、そのカードあんまり触ら…」

 

『えい!』

 

【近距離】

「『近寄ん(る)なァ!!』」

 

コクリコが【ブレドラ】をスライドした。注意は少し遅かった。

 

「えっと…ロード君?今の…ナニ?」

 

「ボス、今の【近距離】、ボイドールくらい早かったんですが…」

 

『ロード、他のも試してみよう。何があったのかは分からないが発動速度が極端に上がってる。』

 

了解。コクリコ、お願いしてもいいかな?

 

『コクリコいい子だからできるよ!』

 

【周囲】

「邪魔するヤツはぶっ飛ばす!!」

『おじゃま虫は排除する!!』

 

【連続】

「上下右BX!!」

『僕以外には触れさせぬ!!』

 

【遠距離】

「逃げんじゃねぇよ変態がァァァ!!」

『愛の力を喰らえェ!!』

 

「全部酷く上方修正だよねぇ!?」

 

「凄いですボス!!さすが僕のボスです!!」

 

ホントにな。なんでこうなったのか全然分からん。

キィ、分かるか?

 

《関係があるかは分かりませんが、皆様のアビリティが判明致しました》

 

お、じゃあ表示頼むわ。

 

=====================

楼閣

 

アビリティ

【あぁもう!損な役割ばっかり!!】

近くの味方の防御力up

【全体回復】の再使用時間短縮

=====================

 

=====================

波羅渡

 

アビリティ

【デンジャラスハイテンション】

与えたダメージとヒット数に応じてスキルゲージ増加

=====================

 

=====================

ロリコンの王

 

アビリティ

【ウチのコクリコちゃんです、おめでとうありがとう】

通常、カードの発動速度は【マルコスの近距離、周囲】【リリカの連撃】【マルコスの発動速度、忠臣の硬直時間の遠距離】だが、コクリコに触れていると全てが大幅に早くなる

スキルゲージが貯まらなくなる

=====================

 

マジでアビリティの所為かよ…

ってかスキルゲージたまらないとかオワコンじゃねぇかよ…どうやって貯めるんだこれ…

 

「ホントに損な役割ばっかり…」

 

「僕は変わってないですね。」

 

『じゃあみんな一通り分かったことだし、アリーナ行くか?』

 

おう、行こうぜ。

 

「ん?ロード君、やけに素直だね?何かあったのかい?」

 

即答した俺に楼閣が尋ねた。

 

あぁ、それはもう色々な。言葉に出さずに俺は思った。

 

俺を【ロリコンの王】って言った奴、そう呼んでる奴全員待ってろよ。

ぜってぇぶっ殺してやる。




はい、長くなりました。やっと!やっとこさ次回アリーナ回です!!

ロリコンの王、ホントにどうなるんですかねぇ(他人事)
HSは変更あったりなかったり。まぁロリコンはあるんですけど。
波羅ちゃんがバーサーカーになってしまうのか、それともなってしまうのかは分かりません。あ、話す時はガトりん置いてますよ。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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入れ替わりの末に

と、いう訳でバトアリへ。

固定組んで待機部屋に。待機中はいつもなら【駆け出し勇者と二段ジャンプ】なんだが、今回はバグらしく、別のプレイヤーの部屋の中での映像が流れていた。

 

・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚

 

【リリカ】

「え、えっと…リリカルマジカルハートにキュン♡(羞恥)」

 

『いいよ、ジュンくん!その調子!』

 

「………リリカ…俺一応男なんだけど…?」

 

『ジュンくんならきっと立派な魔法少女になれるよ!』

 

「………(もうダメだ…おしまいだぁ…)」

 

・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚

 

男が女装してやがる…

〇魔法少女俺みたいだな。

 

「ロード君…それだと【某】をつける意味ないし、しかも【某】にモザイクかけちゃってるよね?」

 

楼閣、知らん。

 

「……(もうダメだ…(人として)おしまいだぁ…)」

 

・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚

 

【マルコス】

「え、えっと…リリカルマジカルハートにキュン♡」

 

『ダメだっ!!リリカちゃんはもっと可愛い!キレが足りないんだよ、キレが!!』

 

「……マルコス…俺一応男なんだけど…?」

 

『ん?それがどうかしたの?』

 

「…(もうダメだ…おしまいだぁ…)」

 

・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚

 

えっと…デジャブカナ?

 

『たいちょー!あのオレンジの人絶対目がヤバかったよ!!』

 

ほう?どんな風にだめぐめぐ?

 

『ガトりん持った時のハービィくらい!!』

 

……………………………名も知らぬプレイヤーよ…お前のことは忘れないぞ…

 

「え!?僕そんなにヤバかったんですか!?」

 

………………( ・×・)オクチミッフィー

 

「………………………(唖然)」

 

・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚

 

【リリカ】

 

「ウォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!!君の心臓(ハート)安らかに眠れ(ドリーミング)ゥゥゥゥゥゥウウウウ!!」

 

・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚

 

キィ、リセット。

 

《承知しました》

 

なんだあのガチムチ!?ノリノリでリリカの服着てて、その上一部装飾が弾け飛ぶかと思ったわ!!

ってかセリフから「力こそパゥワーだ…いいね?」って聞こえてきた気がする!絶対あのセリフ一部ルビだ!!

 

『コクリコちゃんに悪影響じゃないかァ…!』

 

とか言いつつちゃんとコクリコの目元を覆ってるセナ。

こいつは良い奴だ。

 

・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚

 

【忠臣】

「ガァァァァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

『気をしっかり持て!!我が見込んだ男児であろう!?この程度で臣下を一人喪うなど我は、我は認めぬぞ!!』

 

「グァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

『月夜叉ァ!!【妖華帝都ケルパーズ】の作戦参謀であろう!?何か、何か手はないのか!?』

 

『分かりません!!私が総帥とお出会いした時は、既に総帥は【グリード】を従えておいででしたので……面目…ございません…!』

 

『クソっ!!誰でもよい!こやつを救えるものはおらぬか!?敵でもよい!!神にでも悪魔とやらにでも祈ってやる!どうかこやつを、こやつを助けてやってくれ!!』

 

『私の出番かな?』

 

『誰だっ!!……あ、貴方は…っ!!』

 

・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚

 

『俺が行くまで死ぬなぁ!!』

 

「ジャスくん!?これ映像だから!ここから向こうへは行けないから!!」

 

『なら…ならコレで凌げ!!』

 

「ジャスくん!それ私と波羅ちゃんとロード君にしか効果ないから!!」

 

【グリード拘束呪式】怖ぇ…

よりも前に忠臣すげぇしイケメン…何あのかっこよさ、【忠臣抱いた】とかって名前の人が多くいるのがなんかわかった気がする…

 

ってか切ったところ鬼だな。続きが気になるじゃねぇか、月9かよ。

 

《マッチングが終了致しましたので》

 

そうか、なら仕方ない、バトルを始めよう。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【でらクランクストリート】

【BGM;コクリコが泣くような世界なら、俺は二念なく世界を滅ぼす】

 

うわ~BGMが俺の曲だ~(棒)

ってかバグなのになんで俺の曲出来てんだよ?訳わかんねぇぞ。

 

他の奴のとか波羅と楼閣の曲もあるのか?

 

「何言ってるのさロード君、そんなのあるわけ《ございます》あるんだ!?」

 

さよけ。で、どんな曲名?

 

《楼閣様が【苦労人の日曜日】、波羅渡様が【爆ゼロ飛ビ散レ血ヲ見セロ】となっております》

 

何それ超気になる。

 

「そんなこと言ってるうちに敵さんのお目見えだよ。」

 

楼閣が言った。

 

今回の敵は

 

「ジャンヌちゃんの服だぁぁぁぁ!!鎧に温もりが残ってる気がするよ(´Д`三´Д`*)hshs」

 

『や、やめてください///』

 

「おいサーティーン、部屋の鍵ちゃんと持ったか?」

 

『だぁいじょうぶだって大将。忘れるわけねぇだろ?ちゃんと(ココ)、入ってるぅ?』

 

「お・ま・え・が・な!!」

 

「斬りたい今すぐ斬りたい出来ればこの服も切って棄てたい…」

 

『似合ってるよぉ~♡』

 

以上の3名。

え?わかんねぇって?それじゃあいくぞ?

 

変態

オートロック

女装家

 

以上の3名だ。異論は認めない。

 

「ジャンヌちゃんジャンヌちゃん!ԅ( ¯ิ∀ ¯ิԅ)グヘヘヘ」

 

『ひゃっ!?驚かさないでください!』

 

「大体お前が鍵持ってないから入れなかったんだろうが!反省しろ!」

 

『オイオイマジかよ、クソだな。』

 

「お・ま・え・が・な!!」

 

「あぁ!?ロリコンの王!なんでてめぇコクリコの服じゃねぇんだ!!なんで俺だけ女装なんだよ!?」

 

『楽しくなってきちゃった♪』

 

「なんの脈絡もなく唐突に酷いこと言われた気がする!?俺のこの惨状見て楽しくならないでよノホタン!!」

 

『ノホタンって呼ぶなノホタンって呼ぶなノホタンって呼ぶな』

 

「うわっ!?どこからそのバタフライナイフ出したんだよ!?死ぬって!冗談抜きで死ぬって!!」

 

キャラとの相性大丈夫かコイツら…

おっと、そろそろバトルが始まるな。2人とも準備はいいか?

 

「あのジャンヌ…不憫だねぇ…」

 

『楼閣、自分と重ねるのはいいが、アレは敵だからな?』

 

「早く血ィ見せろやァ…!!殺したくて殺したくてもォ我慢出来ねェよ…!!」

 

『(ピピーッ!!)ハービィ落ち着いて!まだ始まってないからリス地(おうち)から出ようとしないで!』

 

うん、だいじょばない☆

 

《ブルーチームの皆さん、準備はよろしいでしょうか?》

 

「始まるよ、ジャンヌちゃん。」

 

『覚悟はしています。』

 

「いくぞ、サーティーン?」

 

『オォ、任せとけ大将。』

 

「邪魔するなら、斬って捨てる。」

 

『死んでも死ななぁ~い♪』

 

向こうの空気が変わった。直前まで喧嘩してたってのに、怒りの熱が闘志にそのまま変換されたかのような変わりよう。

 

「もう二度と、あんなことは起こさないよ、ジャスくん。」

 

『あぁ、たとえ俺が死んでも皆を救う。あの戦場でそう誓った。』

 

「いいぜェ…そっちがその気ならオレの狂気(ヤル気)とお前の闘志(ヤル気)、どっちが強いか比べてやるよ…!」

 

『害虫はプチプチ潰さなきゃ!!』

 

それにつられたのか、ウチのメンバーも、変わる。

 

「セナ、いけるな?」

 

『愚問だなァ?』

 

「よし。コクリコ、怖くない?」

 

『お兄ちゃんといっしょなら、さみしくないよ!』

 

コクリコはこういっているが、バトルなんてともすればトラウマ量産場だ。

コクリコがもしも涙するなら、俺は二念なく世界を滅ぼす。その自信がある。

 

《バトルの始まりです》

 

お前らの覚悟なんて全部喰いちぎってやるよ。

 

さぁ、遊戯(ゲェム)の始まりだ。




さて、久しぶりの登場となるジャンヌ使いです。
2話辺りが最後の登場かな?
そう思うと全然出てきてないな…

あ、ちなみに今回の3人は【準レギュラー】だと乱数は勝手に思ってるそうです。

あとこの小説にコクリコ使いが1人しかいないのは、【総合使用率1位】のキャラなので、大型上方修正入るまでは使ってる人がほぼ全くいなかったことを考慮し、1人しかいない、ということになっております。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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それぞれの逡巡

《バトルの始まりです》

 

「一気に中央に躍り出る!…まずは定石を辿っていくよ!」

 

「ジャンヌちゃん、2人で遠くに行こう!…ここが俺たち2人の愛の巣(ホーム)だよ!」

 

楼閣と変態が開幕ドアでそれぞれの敵チームの二陣を取る。

 

じゃあ俺たちは…

 

「ボス!あのジャンヌ二陣から引きはがす!合わせてください!めぐめぐ!【クルエルダー】ぶっぱなせ!!」

 

俺が指示を出す前に同じ結論に至ってる。波羅も成長したな。

 

「おし、じゃあめぐめぐ!俺がダッシュ攻撃した時に合わせろ!」

 

『りょーかい!たいちょー!!』

 

そう言って俺はダッシュでジャンヌに近づく。

あ、今回カードは【ガブリエル】【オルレン】【バーゲンセール】【ブレドラ】の順番なのでコクリコには

【ガブリエル】→左のやつ

【オルレン】→青いやつ

【バーゲンセール】→緑のやつ

【ブレドラ】→右のやつ

と言ってある。ちなみにちゃんと出来る。いいこいいこ。《バトル中に惚気ないでください》キィ、うるさい。

 

そうこうしてるうちに変態が近くなってきた。

そろそろ攻撃に移れるくらいの距離で

 

「コクリコ、緑のやつお願い。」

 

『うん!』

 

【バーゲンセール】発動

 

「近づかないで!!」

 

【電撃ロボ】発動

 

【バーゲンセール】は【電撃ロボ】を打ち消した!

 

「『近寄ん(る)なァ!!』」

 

「寄ってきたのお前らじゃん!?」

 

『理不尽の極みです!?』

 

そうやって体制を崩しながらも言い返す2人。仲いいのな。

しかし、俺の部下はもっとすげぇぞ?

 

「殺してやるからこっち来なァ!!」

 

2人が起き上がって【持続回復】を使おうとした瞬間に波羅が【クルエルダー】で引っ張る。完璧なタイミングだ。

そーらーにー消えてーえぇったー【打ち上げ花火】ぃ~(意味深)

 

『僕が支配してやろう!!』

 

仕事人セナ再誕。ポータルは5mほど広がっていると仮定する(適当)

 

「誰も居ねぇならココくれよ」

 

とりあえず俺もここ強奪(貰お)っと

 

「気にしないで戻るよ、ジャンヌちゃん!!」

 

転んでさらに撃たれまくってて体力が5分の3削られてても冷静に判断する変態。流石は変態なだけあるな。戦い方が実にいやらしい。

だけどな?

 

「そっちに行きたきゃ特別料金だ!!めぐめぐ!!」

 

『おっけーハービィ!!』

 

ウチの部下はもっといやらしいぞ?

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【視点変更】ジャンヌ使い

 

【レオン】発動

「料金はてめぇの命だァ!!」

 

「グッ…!」

 

『大丈夫ですか!?』

 

【ダメカ】を張ってなかったから【レオン】を喰らって転んだ。けど、半分以上削られてたのに耐えたのはひとえにジャンヌの体力の高さとそれを引き継いだ運に感謝だ。

距離があるからめぐめぐ使いの攻撃は効かない。もう一人は制圧してたからまだ大丈夫なはずだ。

 

なぜってポータル制圧速度を上げられないからだ。

 

ポータルを取る意思を示せば獲得出来ることは分かっているが、その加速法は分かっていない。ならみんなそうなんだろう。

 

回復すれば、最悪Bを捨ててCに行けばまだ勝機はある。

 

「うん…ミリで耐えたから、起き上がれば回復でき…」

 

《キーを獲得しました》

 

その声に、背中に氷塊を入れられたかのように全身の産毛が逆立つ。

 

まだ立ち上がってすらいないのに俺はジャンヌに言う。

 

「ジャンヌちゃん!すぐに【ガブリエル】!!」

 

『は、はい!!』

 

「遅い」『勝てると思ったのかァ?』

 

不意に、頭上から声がした。

あの2人だった。

 

「なっ……!?なん…で…?」

 

何でポータルキーをそんなに早く獲得できるんだよ!?

 

その心の叫びを聞いたかのように、彼らは言う。

 

「俺とセナで制圧すれば、二人分のスピードだろ?」

 

何を言ってるんだ、こいつらは!!【セナ】ってなんだ、なんでそんなに早いんだ、なんで、

 

お前だけ何でもできるんだ?

 

「その装備がお前のじゃなかったって事だな。それに思い入れがない、心が通っていないのに使うのは共闘じゃない、ただ使い潰してるだけだ。」

 

何を、言ってるんだ?

 

何が、言いたいんだ?

 

分からない、俺が馬鹿だから分からないのか、彼にしか手の届かない領域なのか。

 

「わかんねぇか。ならあとの2分で考えろ。」

 

彼はそう言うと、立ち上がった俺に腹パンを入れてきた。

ミリで耐えていたHPは全損し、体が粒子になって散る。

 

何を俺のものにするのか、そもそもそれの答えは出るのか。

それが分かるのはまだまだ先になりそうだ。

 

同じチームのノホタン使いの子が聞いたらどう思うだろうか?

 

【ロリコンの王】の名付け親の彼は、何を思うだろうか?

 

そう思いながらも視界が灰色に染まる。

 

あーあ、

 

結局、取ったポータルを維持できたのは1分もなかったか。

 

ま、でもあの二人ならジャスティスくらい速攻で溶かすからな。

その理由はコクリコにも、当てはまる。

 

でも彼なら、コクリコとは全く違う()()になってそうだからそのへんは全然分からないけど。

 

そして俺は、死に戻りをする。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

《残り2分です》




さて、今回はあの変態、ジャンヌ使い編でした。

………どうしてこうなった?

おい変態!!お前はプロットではもっとクソグソしくなる予定だっただろうが!!ちょっとかっこいいじゃねぇか!!

次回は…楼閣編?いや、楼閣だからサラッと5行くらいで流すな(酷い)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。

PS,そう言えば最近毎日投稿してるな…何故だ、解せぬ。


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前兆

《残り2分です》

 

波羅はA、俺はBポータルを広げながらそれを聞いていた。

今は3一1 Cは手付かずな訳だがジャンヌの裏取りが怖いので広げないと。

 

波羅がもう少し広げたら行こうと思っていた時、波羅が話しかけてきた。

 

「珍しいですね、ボスが敵に助言をするなんて。」

 

ん?波羅は分かったのか?

 

「制圧はオート、ですけど制圧速度を早くするにはプレイヤーが何らかの意思表示をしないといけない…ですよね?」

 

そう、まさにそうだ。今回は入れ替わってるからヒーローに制圧の意思を示して貰わないといけない。

 

「ボスは、優しいですね。」

 

そうか?

 

「そうですよ。バーサーカーの僕を見捨てずに何とか改心させようと頑張ってくれてましたし、それに…」

 

そろそろこっち来れるよな?C取りに行くわ。

俺はそう言って話を切った。切り方は、不自然だった。

 

「…はい。けど、かなりの人がボスに感謝してることを忘れないでくださいね?その中には楼閣さんも、きっと含まれていますから。」

 

楼閣が?そう尋ねたかったがその思いを断ち切ってCを取る。

 

と、その時

 

《味方が倒されてしまいました》

 

「ロード君、波羅ちゃん、ごめんね」

 

《キーを奪われてしまいました》

 

楼閣がやられた。

 

「楼閣!状況報告!!」

 

「楼閣さん!情報寄越しやがれ!!」

 

今までの雰囲気などかなぐり捨てて俺と波羅は尋ねた。

 

『アイツが倒されるなんて、相当じゃないかァ?』

 

そう、今まで楼閣が倒れたことなど1度もない。まだ二戦しかしていないがジャスティスに聞いても倒れたなんてことはなかったそうだ。

 

それに、タイマンをやっても楼閣を倒すには大体2分30秒くらいかかっていた。

 

その楼閣が、倒された。しかも1分20秒もかからずに。

何があったかは気になるなんてもんじゃない。

 

「ノホタン使いは【メカ反】と【レオン】を確認!サーティーン使いは【オルレン】と【フルーク】と【アバカン】!!」

 

……………………………………

 

楼閣、ひとつ質問いいかな?

 

「何!?できるだけ早くお願い!!」

 

よくお前その編成相手に1分もったなぁ!?

正直、【アバカン】からの【フルーク】で着地直後に【オルレン】で倒されると思ったわ!!

 

「そのへんはメダル効果のおかげだよ。同色で【気絶耐性+3】が3つ付いてるからね。」

 

すげえなお前。

 

「ノホタン使いとサーティーン使いが交互に貫通だったから全体回復で耐えられたけど、【メカ反】と【オルレン】を同時に使われると厳しいわけだよ。」

 

【レオン】は?

 

「タメの間に【サテキャ】でキャンセルしたよ?」

 

楼閣怖ぇ…

 

「ボス!前からサーティーン!!」

 

そうだ、バトル中だった。ダッシュで迎撃を…

 

「遊ぼうぜェ…!」

 

っ!ノホ…!!

 

「セナ!」『分かっている!!』

 

こけた瞬間にコクリコが地面に落ちる。それをセナがスレスレでキャッチ。

 

だが、

 

「行くぞセナ!」『もっと力を寄越せェ!!』

「『吹き飛びやがれ!!』」

 

何故か【オルレン】が発動した。コクリコとは離れていたのでもちろん速度は遅い。

 

「くっ…!ロリコンの王はカード速度遅いぞ!!」

 

「ガハッ…!!了解!体力は少ないはずだ!挟み撃ちだね!」

 

即座に2人とも回復してくる。

俺はセナからコクリコを受け取り、再び肩車をした。

 

前からサーティーン、後ろからノホタン。

 

「させるかよォ!!」

 

「君の相手は俺たちがするよ!」

 

波羅がノホタンだけでも引き受けようとしたがジャンヌ使いに拘束された。

よって俺は2対1

 

いつの間にかアタッカーになっていたサーティーン使い(オートロック)が走ってきたので

 

「コクリコ、右のやつお願い。」

 

『えっと…これ?』

 

「『近寄んな!!』」

 

「!?…近距離は早かった!」

 

「オッケー了解!遠くからでも斬れんだよ!!」

 

【レオン】がとんでくる。がしかし、

 

「は!?なんで耐えてんだよ!?」

 

A,体力が高いから

え?もちろん言わないけど。

 

「接近するぞ!!」「了解!」

 

なるほど、2人でタコ殴りにするつもりか。

ま、防御がバカみたいに低いのを隠すためにも攻撃範囲から逃げるか。

 

「近寄んな、金とるぞ?」

 

オルレンに当たる。半分くらい体力が減る。

 

「飛び散る返り血最高…!」

 

その直後に女装家の【メカ反】で体力がガリガリ減らされて…

 

「これで凌いで!!」

 

【銀河防衛ロボ】で回復する。

 

「コクリコ、青いやつお願い!」

 

『うん!』

 

「飛んでけ害虫が!!」『おじゃま虫は排除する!!』

 

【オルレン】を発動する。

 

「「!?」」

 

チッ、半分しか持ってけなかったか…

俺の体力はあと半分。いけるか?

 

「どうせならド派手に景気よく!…撃っちゃって~!!」

 

~ヒーロースキル発動~

【ユニバーサル ブリッツ】

ステージ上の全ポータルキーに連合軍が砲撃

 

「オイオイ、スキル発動の表示なしかよ?こういうのってアリィ?」

 

「いってぇ…」

 

《連続で敵を倒しました》

 

その直後に楼閣が【ドア】で飛んできた。

 

「よいしょ…ロード君、無事かい?」

 

あぁ、回復助かった。あとドアをあえて使わなかったところとか。

 

「あ、バレてた?」

 

バツが悪そうに楼閣は言う。

 

気にすんな。Cに行ってもドア後の硬直でやられたりするくらいならスキル溜めて一網打尽にしようとしたんだろ?そんくらい分かるわ。

 

「さすがはロード君だね。」

 

おっと、それよりも波羅を手伝いに行かないと。

 

今回ジャンヌは【打ち上げ花火】がキャンセルされなかったりでまだ耐えている。

…実はあの変態すごいんじゃ……

 

「クソっ!シャラくせぇ!…お、来たか!こっちこっち!!」

 

波羅がヒーロースキルを発動した。

なるほど、引っ張ってガトりんMr2の前でコケさせるんだな?アレ、地味にウザイです。

 

「クッソ遅せぇなァァァァ!!」

 

なんか波羅がイラつきだした。なんでだよ。めぐめぐと時間は変わんねぇだろうが。

 

「待ってられっかよオラァ!!奥の手出しちまうぞ!!」

 

~ヒーロースキル発動~

【ガトりんMr2装備】

風船で飛んできたガトりんMr2を飛び上がって掴み、装備する。ちなみに2丁。10秒間

 

「「ファッ!?」」

 

楼閣と声が重なった。

だって誰が想像できるよ?ガトりんを【装備する】なんて。

 

「さぁさぁさぁさぁ!!逝っちまいなぁ!!」

 

《敵を虐殺()しました》

 

「(´_ゝ`)クッククク・・(´∀`)フハハハ・・( ゚∀゚ )ハァーハッハッ!!……あぁ?もう時間切れかよ?クソだな。」

 

「「やだこの子怖い…」」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【赤チーム リス地にて】

 

ノホタン使い(女装家)サーティーン使い(オートロック)がCに向かいながら話していた。

 

「オイ、なんでロリコンの王の【周囲】が急に早くなってんだ?」

 

「分からない…でもあの時とは何か違ったんだろうな。」

 

必死に考える2人。そこにずっと顎を抑えて考えていたサーティーンが言う。

 

『なぁ大将、なんでアイツらはわざわざコクリコを肩車してるんだろうな?』

 

『そういえば遅かった時は肩車してなかったわね?』

 

それをフォローしたノホタン。

 

しばらく2人は顔を見合わせ言った。

 

「「それだ。」」




天の声)乱数、何か言うことは?
ごめんなさい…

ジャンヌ使いの変態が変にシリアスに動いたせいで話が変にシリアスになった…
楼閣…お前は良い奴だ。シリアスになりかけた雰囲気をいい感じにぶち壊してくれる…

まぁ楼閣よりオートロックの方が好きなんですが

楼閣「ド腐れ外道だねぇ!?」
ジャス『楼閣落ち着け!!俺たちがここに出るのはダメだ!!』

(キョロキョロ)誰か、乱数のこと呼んだ?

さて、人気投票出来たら誰が二位になるのやら。
え?一位?コクリコですよ決まってるでしょ。
まぁそこまで人気がある訳でもないので出来ませんが。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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それぞれの変化

「オイオイボスゥ、どうしたんですか?10秒とか短すぎですよ?」

 

いや射出速度割と早いガトりんを装備してタゲ狙えるとかほぼチートだからな?

 

「そうなんですかね?…まァスキルゲージも貯まったから良しとしてやっか…」

 

ダメだこの子半永久的にガトりんMr2使えてまう…

 

「ま、まぁあとはロード君の【オルレン】と私の【サテキャ】で倒せるから………二度と波羅ちゃんにMr2使わせないよ…?」

 

なんか楼閣が(無駄に)決意を固めてる…

 

『ねーねー、お兄ちゃん』

 

コクリコが俺の頭をぺちぺちしながら話しかけてくる。

 

話をしてたもんな。で、ひと段落ついたから気づいてもらえるようにアピールしながら話しかけた、と。

 

なんだよウチの子いい子すぎるこんな子他にはいなくないでも可愛い。

 

『双挽は敵チームだろォ?』

 

《さすが【ロリコンの王】といったところでしょうか》

 

セナ、キィ、うるさい。

 

「どうしたの、コクリコ?」

 

とりあえず2人は無視してコクリコと話す。

やっぱりコクリコは最高だぜ!!

 

『あの浮いてるの、なぁに?』

 

そう言ってコクリコはデラクラ特有の浮いてるテレビ画面(?)を指さす。

 

「キィ、説明」

 

「この子他人に丸投げしたよ!?」

 

だってキィあそこに文字表示出来るから…説明と実演をいっしょにできてとてもべんりだとおもいました。

 

「小学生の作文かい…」

 

《コクリコット様、こちらをごらんください》

 

言うとともに画面に文字を表示させる。

難しい漢字を平仮名にしていた。コイツ使える…

 

「ロード君?とりあえずその悪い顔やめよっか?」

 

え、なんで?ワケガワカラナイヨー(棒)

 

《こちらにはひとつの文章もしくはヒーローの写真をうつすことができます》

 

へぇ、そんなこと出来るのか。コクリコ、見てみる?

 

『見せて見せて!』

 

キィ、今すぐにやれ。大至急だ。

 

「ロリコンだぁ…」

 

(∩゚Д゚) アーアー キコエナーイ

 

そう言いつつ画面に表示されたのは…俺の写真

なんだこれ?俺横向いちゃってますよー、カメラさーん。なんで俺とセナが背中合わせで立ってるんですかー?

 

よし、この前はなんだかんだで忘れてたけど今度こそあの画面割ってやろう。

 

俺は決意を固くした!

 

『お兄ちゃん、かっこいいね!』

 

前言撤回

 

え、何か?ウチの子がいいって言ってるんですよどこに壊す理由があるのさ?

 

『皆聞け!そろそろ敵がこっちに来るぞ!』

 

ジャスティスはさすがですね。張りのある声で短く聞こえやすく指示を出す。

流石戦死者零大尉…中国語かな?

 

「打ち合わせどおりいくぞ!」

 

「了解!遠くからでも斬れんだよ!!」

 

ノホタン使い(女装家)が俺に向かって【レオン】を発動する。しかしそれは

 

「タゲはこっちを向かせて貰うよ!テヤァ!!」

 

楼閣が代わりに受ける。

 

「クソっ、吸われた!」

 

「大丈夫だ、問題ない。考えんな、感じるんだ!!」

 

【フルーク】で俺の体力の半分が削られる。

今回は受ける瞬間に抱っこに持ち替えたから落とさない。《安全安心のロリコン急便です》キィ、うるさい。

 

『たいちょーに汚ぇ手で近寄るな!』

 

「てめぇボスに手ぇ出すか!!殺してやるからこっち来なァ!!」

 

波羅が【クルエルダー】を使う。が、

 

「俺たちもその位は、ね。ジャンヌちゃん!!」

 

『分かっています!』

 

楼閣よろしく今度はジャンヌがそれを吸う。

 

「クソがっ!!すいませんボス!すぐに片付けます!キハハハ!気がついたらバラバラかもなぁ!!」

 

~ヒーロースキル発動~

【ガトりんMr2装備】

風船で飛んできたガトりんMr2を飛び上がって掴み、装備する。ちなみに2丁。10秒間

 

波羅がスキルを発動する。

が、

 

「何も対策してないとでも?近寄らないで!!」

 

「クラクラしやがる…」

 

【電撃ロボ】で波羅が気絶させられた。

僅か数秒とはいえその時間だけガトりんMr2が使えなくなるとするとジャンヌは削りきれず

 

「クソがっ!!すみませんボス、殺り損ねました!!」

 

変態がオートロックと女装家の方に行く。

 

そしてそいつは

 

「俺は周りを癒せない、だから頼んだよ、ジャンヌちゃん。」

 

『任せてください。いざ!』

 

HA(ヒーローアクション)使()()()()

当人にそんなことは出来ないはずなのに、だ。

敵も同じチームなのに驚いていた。

 

なるほど、あの変態俺の助言で気づきやがったな?

 

その視線を受けてか変態はサムズアップしていた。

 

「回復が地味に痛いね…ロード君!一旦弾くよ!」

 

その言葉を聞いて、なぜか女装家とオートロックの目が怪しく輝いた、気がした。

 

「楼閣!ちょっとま…」

 

「一旦離れてねぇ!!」

 

楼閣が【サテキャ】を使った。

目的通り弾くことには成功した。

 

が、

 

「そらよっと!!近寄んな、金とるぞ?」

 

俺の遥か後方に飛ばされたオートロックはHAで戻ってきて【オルレン】のモーションを足払いの要領で使って俺をノックバックさせた。

 

反射的にコクリコを抱く手の力も強めようとしたがアクション後の残心であるはずの二周目に足が蹴り上げられ、俺の腕に当たる。

 

結果

 

「…!!」

 

コクリコを手放してしまう。

まるで“たかいたかい”のように宙に放り出されたコクリコ。不思議と怖そうではないが落ちたらただでは済まない。

 

「クソっ!!セナ!」『分かって…』

 

「遊ぼうぜぇ…!!」

 

【テレパス】で女装家が飛んできて、もう一度ノックバックを喰らう。

防御が低いからか一気に体力を4分の1程まで削られた。

 

「セナ!気にするな、行け!!」

 

「させるかよ!」

 

セナをコクリコの元へ向かわせようとしたがそれは女装家に阻まれる。

ならばとすぐに体制を立て直そうとしたが、

 

『よっ…と。ナイスキャッチ…』

 

ノホタンにコクリコがキャッチされる。

 

「お前ら…っ!!ぜってぇぶっ殺す!!」

『目にもの見せてくれよう!!』

 

俺は自分の頭が急速に熱されていくのが分かった。取り留めのないことや恨み嫉み、女装家をキルする作戦。その全てが頭の中で明滅していた。

そしてそれと同時に視界が狭まるのも感じていた。

 

だから、後ろから来る奴を見落としていた。

 

「作戦大成功ってね。考えんな、感じるんだ。」

 

【フルーク】が発動する。さっき体力を半分削られた【フルーク】だ。もちろん耐えられる訳もなく、

 

「『コクリコ(ちゃん)にぃ…触るなァ!!』」

 

味方(ロリコン)が…倒されてしまいました…?》

 

体が粒子状になる。そして俺たちは、フィールドから消えた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「楼閣さん!!ボスがっ!!」

 

波羅が叫ぶ。そこに浮かんでいたのはただただ驚愕だけだった。

しかし、その叫びは楼閣に届かない。なぜなら

 

「ロード君が…やられた…?」

 

誰よりも驚いていたのは楼閣その人だったからだ。

無理もない。初試合でもタイマンカスタムでも倒れなかったロードが二対一だったとはいえやられた。

 

普段の彼を知るものからすれば驚愕以外の何物でもないだろう。

 

「どうしよう、ロード君がやられるなんて」

 

その相貌に浮かぶは焦燥。この2人を相手に自分は勝てるのか、なぜロードはいつものように勝てなかったのか。そのようなことが楼閣の頭を回り続ける。

 

「だってロード君はいつでもそこにいて私達を嘲笑うかのようにキルするのに」

『楼閣、』

 

「私がちゃんと全体回復を使っていれば、こんなことにはならなかったのに」

『楼閣、』

 

「ううん、【サテキャ】を使った時ロード君は「待て」って私に言った、それを私が」

『楼閣!!』

 

ジャスティスが叫んだ。それが楼閣の思考を一瞬だけ止める。

その隙にジャスティスは楼閣の肩を持ち叱咤、あるいは宣誓のように叫ぶ。

 

『楼閣!!お前は今は『タンク』だっ!敵の攻撃を全て受け味方を鼓舞する『タンク』なんだっ!!』

 

ジャスティスがそう叫ぶ。ある日自分が、今は亡き上官に言われたように。

 

『お前がいま揺げば波羅も揺らいで敵に好機を与える!落ち着け!ロードなら、あいつなら必ずこの窮地を戦い抜く!だから、今はお前が立て!己の手が届く範囲内なら全員救え、楼閣!!これは命令だっ!!』

 

柄にもなく声を荒らげたジャスティスに楼閣がハッとする。

同時に気がつく。ジャスティスは“戦場で部下を戦死させたことがない”。なら、そのジャスティスが()()()()()()()()()()なら?

その可能性に楼閣は気づいた、気がついてしまった。自らが何も出来なかったところが今回と似通っているのだと。

 

故に、楼閣は誓う。

 

「そうだ…私は今はタンク、1分ちょっと耐えた敵にたった30秒耐えればいい!」

 

それは決意であり反省であり

誓い、だった。

 

「波羅ちゃん!ロード君が来るまで耐えたら僕らの勝ちだよ!頑張って…」

 

『それはどォかな?』

 

楼閣が波羅を鼓舞した瞬間、サーティーンが言う。心なしかサーティーンは笑みを浮かべていた。

 

「どういうことだい?」

楼閣の声が剣呑なものに変わる。

それを察したのかサーティーンが顎をしゃくる。

 

その先にいたのはノホタン、そして

 

『このお姉ちゃん、だぁれ?』

 

コクリコだった。

 

『ねぇねぇ、お姉ちゃんだぁれ?』

 

『うるさいのは嫌い…飴上げるから静かにしてて』

 

『わぁい!お姉ちゃんありがとー♪』

 

『頭、痛い……』

 

その様子を見て楼閣が愕然とする。

 

「そんな…コクリコちゃんがいないとロード君は…!」

 

『【カード発動速度】が極端に遅くなる、だろ?』

 

ニヤニヤしながらサーティーンが言う。

 

楼閣だけでなく波羅の顔も驚愕に彩られる。

バトル中には間違いなくバレないと思っていたからだろう。

 

『ま、本人はバレてんのに気づいてたみたいだけどな。』

 

とサーティーンは付け加える。

 

この頭の回る3人組に勝たなければいけない。

それも、コクリコのいないロードと共に。

 

その事実が楼閣を苛む。

 

《残り1分です》

 

無慈悲にアナウンスがそう告げる。

 

 

その時、

 

 

ひとつの影がリス地に降り立った。




長くなった…すごく長くなった…
そして楼閣…お前も裏切るのか…私を裏切ってお前もシリアスになるのか…

さて、今回は変態の進歩やサーティーンがかっこいい、ノホタンがちょっといいお姉さんと敵チームがいい感じでしたね。
準レギュラーっぽくなっていたでしょうか?

さてさて、ここから次回どうなっていくのか、乞うご期待ください!

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。

追記
次回投稿は7月21日16時になります。


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深淵はあなたを除いて

「コクリコにぃ…さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅなぁあぁああああああぁああああああ!!」

 

リス地から絶叫が迸った。

その発生源は()()の影。

 

なぜ一人と数えないのか、その理由は彼の姿にあった。

 

まずは目。

瞳孔が収縮しきった眼をしていて、そこから赤いスパークが今にも発生しそうな雰囲気をしている。

さらに目の下にはどこかの国の民族よろしく二条の赤い線が流れていた。

 

次に口元。

犬歯が異常なほど長く鋭い。

唇を噛みきったかのように血が滲んでおり、固く閉ざされている。

 

そして、全身。

何やらもやもやとした黒い闇を纏っている。その闇は暗く、昏い。まるで彼自身が影になったようであった。

辺りにセナの姿はない。しかし時折纏っている闇がぶるりと震えることからその闇がセナなのだろうと分かる。

 

そう、これこそが、この姿こそが彼のヒーロースキル

 

過剰読込(オーバー・ロード)

コクリコが攫われた時コクリコを取り戻すまで移動速度3倍、攻撃力2.5倍、防御倍率が3倍、ノックバック完全耐性、持続回復状態(15%/秒)付与、通常攻撃5発でダメカ破壊、HA使用不可になる。

 

それはどうしようもないほどに【道を違えし者(オーバー・ロード)】であり、【過剰な読み込みをした者(オーバー・ロード)】であり、

 

超越しせしロリコンの王(オーバー・ロード)】であった。

 

そしてそれは、

戦場に舞い降り、雄叫びを上げる。

 

「返せ!戻せ!!コクリコはどこだァァァァァァァァあぁああああああああ!!」

 

瞬間、動き出す。

その速さはさすがスプリンターと言ったところだろうか━ダッシュは使えないにしても━三倍に引き上げられた速さは脅威であった。

 

「何…だい、アレは…?」

「アレが…ボス…?」

 

楼閣と波羅の表情が驚愕に彩られる。

無理もない、彼が今見せている姿は普段楼閣に見せる飄々とした態度でも、波羅とのタイマンカスタムで見せたハート○ン軍曹のような厳しい態度でもなかったのだから。

 

その双眸に浮かぶのは憎悪でも憤怒でもなく、ただただ純粋な殺意。

 

そうとしか称せない程のどろりとしていて煮詰められたかのような殺意があった。

 

「なんだよアレ…なんだってんだよ!?」

 

その頃敵はと言えば、まさに“阿鼻叫喚”といった様だった。

それも当然。無力化したと思った敵がものすごい形相でこちらへ来るのだ。

 

「知るかよ!!なんだアレ、HSか!?」

 

「それこそ知るかってんだ!!」

 

オートロックと女装家が言い争う。しかしそれは

 

「サァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァティィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!」

 

影の叫び声で中断させられた。

直接キャッチしたノホタンよりもサーティーンが先なのはひとえに彼が作戦の立案者だからだろうか。

 

「おい!ロリコンの王はお前をお呼びだぞ!」

 

「無理に決まってんだろ!俺HP半分ないんだぞ!?あんなのどうやって相手にしろって言うんだよ!?」

 

「じゃあスキル使ってから全天張れよ!!時間稼げ!そしたら俺がどうにかしてやるから!」

 

「クソっ!わぁったよ!!やってやるよ!ジャンヌのスキル、もう使えるか!?」

 

「ちょっと待って…うん、お願いね精霊ちゃん。死を退けるよ!!」

 

【祝福の福音】

ジャンヌ・ダルクの契約精霊を呼び出して祝福を受ける。チームメイト一人につき1度だけその場で復活する。

 

「よし、じゃあジャンヌ、コクリコを頼んだ。この子さえ抑えとけばロリコンの王はカード使えないからゴリ押し出来る。」

 

『は、はい!かしこまりました。』

 

『よろしくね。』

 

ノホタンがジャンヌにコクリコを渡す。するとコクリコは不思議そうに尋ねた。

 

『お姉ちゃん行っちゃうの?』

 

その言葉を受けてノホタンが振り返る。そしてコクリコに目線を合わせて言った。

 

『うん、お姉ちゃんはあの人を止めないといけないから。それに…』

 

『それに?』

 

『一度決めたことは最後までやり通さないと、ね?』

 

そう言ってノホタンはふわりと笑った。これが彼女の素なのか、使い手と少しだけではあるが性格が入れ替わっているせいなのかは分からない。

けれど彼女は確かに笑ったのだった。

 

『うん!分かった!お姉ちゃんがんばってね!』

 

それを受けてジャンヌが耐え難いかのような表情をする。

 

やがて耐えかねたのか尋ねる。

 

『コクリコットさんは…あの人が…怖く、ないのですか?』

 

『うん!コクリコがね、あぶなくなったらね、お兄ちゃんがぜったいなんとかしてくれるんだぁ~♪』

 

朗らかにコクリコは言う。

対してジャンヌの声は暗く、重い。

 

『ですが…お兄さんは…』

 

『うん…今はどこかに行っちゃってるの…でもねでもね!コクリコがあぶなくなったらね、お兄ちゃんはいつでもコクリコを助けてくれるの~!』

 

ジャンヌは【あの人】をロリコンの王として話していたが、コクリコは気づいていないらしい。

 

『あ、あの…』

 

「来たぞ!警戒態勢!!二丁拳銃ってリロードどうすんだ?」

 

ジャンヌがその事を教えようとしたが、どうやら時間切れらしい。ジャンヌはそのまま口を閉じる。ニコニコと疑いなく笑うコクリコを抱えて。

 

「ぅぅぅぅうァァァァァァァァあぁああああああああ!!」

 

スキルが終わった瞬間を見計らい、影がオートロックに殴りかかった。

 

『まだ頑張れるよな?な?(圧力)』

 

だがそれはスレスレで発動した【全天首都防壁】に阻まれる。

ギャリギャリと音を立てながら防壁と拳がぶつかり、心做しか火花が散っているようにも思える。

 

それを見てオートロックは安堵の表情を見せた。

 

「サーティーン!助かった!これで迎撃を…」

 

「ァァァァァァァァあぁああああああああ!!」

 

しかし、いや、やはりと言うべきなのだろうか、それも一瞬のこと。

影は止まらず攻撃をする。

 

それを受けてオートロックは間近で憎悪を煮詰めたような顔をした影に放たれた攻撃に一瞬怯んでしまった。

 

それが窮地を招くとも知らずに。

 

すぐに気持ちを立て直そうとするが、

 

「ァァァァァァァァあぁああああああああ!!」

 

3発目。ピシリと音を立てて【全天】にヒビが入った。

 

オートロックに再び氷塊を背中に入れられたかのような怖気が走る。

 

影は止まらない。

 

「っるァァァァァァァァあぁああああああああ!!」

 

4発目。【全天】に蜘蛛の巣状の亀裂が入る。

 

「サーティーン!【フルーク】を…!」

 

オートロックが叫ぶがもう遅い。

 

「死に晒せェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」

 

5発目。振り上げられた脚が【全天】を破壊しオートロックを宙に舞い上げる。

オートロックの体力ゲージは3分の1程が減っていた。

 

3分の1程度で済んだのはひとえにその攻撃が【カノーネ】によるものではなく通常攻撃であったことが原因だろう。

 

それでも通常攻撃一発で3分の1削るのは十分すぎるほどに脅威だが。

 

『大将!』

 

「大丈夫だ、問題ない。これで少しは距離取れてりゃ…!?」

 

オートロックの顔が驚愕に染まる。

なぜかって、視界の端に影が映ったからだ。

それは比喩でもなんでもなく、本当にただの影だった。

 

なぜその影がここにいるのか。それはなんの捻りもなく、ただ()()()だけだ。

波羅が自身で証明したことを使い、影は跳んでオートロックを追いかけただけだった。

 

「くたばれ蛆虫がァ!!」

 

そして影は空中で一回転し踵落としを決める。鳩尾(みぞおち)に喰らったオートロックは地面に叩きつけられそのHPをまた3分の1程度減らす。

 

「時間稼ぎご苦労ォ!遊ぼうぜ…」

 

【テレパス】を使い、女装家が飛んでくる。

が、しかし

 

「どっか行けコバエが!!」

 

影はチェーンソーの刃を掴み女装家をたたき落とす。

さらに女装家が落ちた先にいたのは立ち上がったばかりのオートロック。もちろんオートロックは押しつぶされて再び潰れる。

女装家のHPは5分の2程が削られた。

 

「すまねぇ!」

 

「気にするな!着地まで時間があるはずだからジャンヌに回復を…」

 

すぐに声を掛け合った2人だがすぐに絶句する。

その原因は彼らの頭上にあった。

 

影が空中に()()()()()

 

否、それは立っていたのではない。自らの影を足場に飛び出す準備をしていたに過ぎなかった。

 

そして影は、足場を蹴った。

 

「ぐげっ!?」「こういうのってありィ?」

 

着地は寸分違わず倒れていた二人を踏み潰す。

結果としてオートロックは倒れ、女装家は5分の1程の体力を残していた。

 

「外すとつかれんだけど本気ださねぇとな…ぅぅぅぅァァァァァァァァあぁああああああああ!!」

 

【ビハインド・ザ・グライス】

危ないお薬でドーピング。動体視力、筋力、テンションが大幅にupし、感覚が鋭敏になる。そのためメガネを外す。ノホタンと違い危ないお薬を使っているので副作用あり。

 

数秒の無敵時間の間も影は女装家に攻撃を続ける。それによってオートロックが復活する時間が生まれる。

 

「スキだらけだ!!考えんな、感じるんだ!」

 

女装家のHSによる無敵時間が終わる頃にオートロックが【フルーク】を放つ。前回切ろうとした時に切れていなかったのがここで効いてきた。

 

が、それも、

 

「………アァ?てめぇまた殺されてぇのか?」

 

影を吹き飛ばさずに、どころか片手で受け止められる。

表示されたダメージは16。カードも何も使っていないのに、だ。

 

「だったらてめぇから…」

 

「省みる返り血最高…!」

 

女装家が【メカ反】を使う。今度はゴリゴリと影の体力が減っていく。

 

「よし!コケたら【オルレン】を…」

 

ゴッ!!と凄まじい音が鳴る。

音の発生源はただ一つ、影だ。

 

影は驚くことに片足を地面に思いきり叩きつけ、そこにめり込ませていた。

 

すると思われていたノックバックはそれにより防がれる。

 

「なっ……!?」

 

驚くところはそこだけではない。

【メカ反】によって減っていたHPがみるみるうちに回復していくのだ。そしてそれは5秒もしないうちに全快する。

 

影は止まらず猛る。

 

「死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ねェェェェェェ!!皆みんなミンナ死ねぇ!!」

 

女装家に影が最後の一撃を放つ。それで女装家のHPは全損する。

すぐにその場で復活するが望みは薄いだろう。

 

「こっち見ろ!消えちまいなぁ!!」

 

そこはさすがと言うべきかオートロックが【アバカン】でカバーする。

ただの時間稼ぎにしかならないだろうがないよりはマシだと考えたのだろうか。

 

だがそれも、影には届かない。

 

「………………ハッ!!」

 

ムーンサルトの要領で空中に跳ぶ。

急な出来事で視認が間に合ってないようでオートロックは見当違いのところに【アバカン】を打ち出す。

 

ムーンサルトの要領で空中に跳んだのだ。当たり前だが着地する。

 

「…はっ!?うげっ!!」

 

「退いてろよクソムシがっ!!」

 

「なっ…!?」

 

オートロックが踏み潰され、間髪入れずに蹴り上げられる。

 

「遠くからでも斬れんだよ!!」

 

「うぉぉおおおあぁ!!」

 

女装家が背後から【レオン】を放つが影はそれをノックバックのタイミングで打ち払う。

 

ダメージはしっかり入るがそれもすぐに回復する。

 

「なっ!?こんなのどうやって…!」

 

「ウラァ!!飛んでけやァ!!」

 

影は殴る。それだけで先程と同じように女装家のHPの5分の2程が削られた。からの回し蹴り。女装家は宙を地面と水平に飛んでいく。そしてその先にはオートロック。

 

「ァァァァァあぁああああああああ!!」

 

それを追いかけて影が水平に跳ぶ。純粋にただの脚力だけで。

 

「あの子がいねぇならこんな世界いらねぇんだよ!!俺は、俺はァァァァァあぁああああああああ!!」

 

そう言うと彼はオートロックと女装家の頭を掴み、地面に叩きつけた。

 

「はは、こんなのどうやって勝てってんだよ?」

 

「クッソ痛てぇ…」

 

オートロックも女装家も、それだけでかろうじて保っていたHPを全損させて粒子となって消える。

 

「ぅぅぅぅぅぅゥゥゥゥゥぅぅうううァァァァァあぁああああああああ!!」

 

影が吠えた。

 

何かを憎むように、祈るように。

 

その声に、威圧感は微塵もなかった。




(天の声)乱数、何か言うことは?
ごめんなさい…

あの…あのですね?iPhoneのメモに普段書いてるんですよ。データ通信使わないし常時自動保存ですし。
で、ですね?どのくらい書いてるのか分からなくなるじゃないですか?なのでラス前でコピペしてみたんですよね?そしたらなんか8000字超えてました…

そこまで1話を長くしたくはないので今回切りました……5000字位で…ここで話半分と言う恐怖…私怖い…次の話もまた増えないか怖い…

なんか「3000字位にしてもいい?」って聞いた記憶のある身にしてみれば耳が痛い話です…本当にごめんなさい…

ってか私このボリュームの話をよく当初1話に収めようとしてましたね。今から考えれば戦慄です。

では補足をば。
今回【防御倍率が3倍】とありましたが、ロード君の0.25倍の3倍の0.75倍になるのではなく、その倍率が3倍になるというぶっ壊れ仕様です。

あとこの人【スタン】まで無効にしようと考えてやがりました!
い、いや~、舌噛ませてスタン防ごうかと…(笑)

今回あとがきまで長いですね、ごめんなさい。

ではでは、今回はいい加減この辺りで筆を置かせていただきます。


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きっと、ずっと忘れない

「ぅぅぅぅぅぅゥゥゥゥゥぅぅうううァァァァァあぁああああああああ!!」

 

影は吠えた。天に届けとばかりに、闇よ裂けよ、喉よ焼けろとばかりに。

 

しかしそこに先程までの威圧感はなく、どこか空虚な空気を孕んでいた。

それにハッとしたのか、楼閣と波羅が動き出す。

 

「ロード君!落ち着いて!」

「どうしたんですかボス!?」

 

だが、影は聞く耳を持たない。

ぐりん、と首を廻らせジャンヌ使いの方を見やった。

 

「!!ジャンヌちゃん、コクリコちゃん連れて隠れてて!!」

 

『しかしそれでは何の解決にも!!』

 

《残り30秒です》

 

「あと30秒で試合が終わる!そうしたらHSも切れる!話はそれからだよ!!それまでコクリコちゃんを頼みたいんだ!」

 

『は、はい、分かりました!…どうか、どうかご無事で…!!』

 

そこは流石と言うべきか、彼の行動は迅速だった。

ロリコンの王に助言を貰ってからといい、彼の進歩が甚だしい。

 

なぜジャンヌ達を隠れさせたかは

 

「…だってそんな姿、コクリコちゃんに見せるわけにはいかないでしょ。」

 

との事だ。

彼がなぜそう思ったのかは分からない。けれど、そこには痛みをこらえるような仕草があった。

 

「…よし、いける。一瞬我を取り戻させるだけ…うん!」

 

そう言ってジャンヌ使いは一歩を踏み出す。

 

「……………………………」

 

対して影は何も言わない。計画を立てたわけでもなく実行した訳でもない彼に思うところはないのだろうか?ただただそこに立っていた。

 

「そこのジャンヌ使いの子!僕らでここは抑えるから逃げて!このままじゃロード君はコクリコちゃんまで傷つけるかもしれない!!」

 

出来ません、とジャンヌ使いは思う。自分だってチームの一員だ、止められなかった自分にも非はある、と。

 

「……?!」

 

ピクリと影が反応する。それと共に何かを探すような仕草をしていた。

 

やがてそれは一点で止まる。

【コクリコを抱くジャンヌ】という一点で。

 

瞬間、空気が爆ぜた。

 

否、そうと間違えるほどの殺気が影から放たれる。

 

「コクリコにぃ、触るなあぁあああああぁぁぁぁああああああああぁぁぁああぁぁぁぁあああ!!」

 

その叫びは怨嗟の叫び。それだけでジリジリとジャンヌ使いが後ろへと押し戻される。

 

そして影が走り出した。最後の敵であるジャンヌ使いめがけて。

そしてそこに、

 

「グワッ!?」

 

波羅が割り込む。

波羅は弾き飛ばされたもののバク宙の要領で着地をし、再び影に相対する。

 

先回りしていた先見の明と隠密性は普段の狂戦士(バーサーカー)の彼からしてみれば驚嘆に値するものだろう。

味方には攻撃が出来ずカードも発動できないが味方に触れることはできる。それを利用した着眼点は素晴らしい。

 

それにしてもただ当たっただけだというのに波羅を弾き飛ばした影の力は相変わらず凄まじいが。

 

「ア゛ァ゛?てめぇなんのつもりだ波羅ァ…!?」

 

刹那、殺気が膨れ上がる。味方であっても容赦はしない、絶対ぶっ殺すという意思が影からは見て取れた。もうかなり理性は消えてしまっているらしい。

 

「ボス!気をたしかに!!これは戦争でも殺し合いでもないんですよ!?」

 

「そうだよロード君!!試合が終わったらコクリコちゃんは帰ってくるじゃないか!!」

 

楼閣と波羅が影を諭しにかかる。それに影が答えた。

 

「本当に?」

 

「「え?」」

 

「本当にコクリコは帰ってくるのかよ。」

 

「そりゃ帰ってくるよ、だってコクリコちゃんは…」

 

「リス地にも一緒に帰って来なかったのにか!?」

 

影が怒りを爆発させる。そして続ける。

 

「アレを鑑みるにコクリコは今敵ヒーローの一部だ!ココがバグっちまったからそのせいでもあるんだろうけどな!!アイツらと一緒でコクリコは泣かねぇのか!!てめぇが保証出来んのかよ楼閣ァ!!」

 

「それは…」

 

「保証なんてできるわけがねぇ、んなこと100も承知だ!!俺はあの子に泣いて欲しくない、ずっとずっと笑っていてほしい!!あの子が泣くような世界なら、俺は喜んで世界でも何でも焼いてやるよ!!」

 

影が雄叫びを上げる。

それこそが、その内容こそが彼の怒りの根幹であり原動力なのだろう。

 

(……あれ?)

 

そこでジャンヌ使いは違和感を覚える。

そして今度は、リス地に帰って考えなければならなかった前回と違い今度こそはその場でそれに気づく。

 

目の下の赤い線が動いていることに。

目の下の赤い線が太くなっていることに。

 

(…そっか。あれはHSでの装飾じゃない、彼の涙なんだ。コクリコちゃんを守れなくて、その手を掴めなくて散々悔やんで、でもどうしようもなくて、それで暴れてたんだ。)

 

彼は気がついた、ロードが影となって暴れている理由に。

彼は気がついてしまった、何が彼をあんなふうにしたのかに。

 

(それが分かっちゃったらもう、取れる道はひとつしかないじゃん…ずるいね、あなたは。)

 

そしてジャンヌ使いは決断する。

 

「ジャンヌちゃん!コクリコちゃんを連れてきて!!」

 

『し、しかし…』

 

「いいから!!コクリコちゃんをあの人に返すよ。」

 

そこでジャンヌは目を見開く。

 

『しかし、そんなことをしてはコクリコットさんは…!』

 

「いいから早く!!バトルが終わったら手遅れになる!!」

 

そう言われてジャンヌは自らの主とコクリコに何度か視線を彷徨わせた後に意を決してコクリコを地面に下ろした。

 

『??お姉ちゃんどうしたの?』

 

コクリコは首を傾げて訊ねた。

その目に怯えの色はないのだが影にはそうは見えていないのだろうか。

 

「コクリコちゃん、あそこに黒い人が見えるかい?」

 

『うん、あのまっくろなひとがどうしたの?』

 

「あの人のところに言ってほしいんだ。」

 

『それはダメです!!あまりにも危険すぎます!!』

 

その言葉にギョッとした様子のジャンヌが割り込む。

しかしジャンヌ使いは言葉を止めない。

 

「あの人のところに行ったらお兄さんが来てくれるはずだから。怖いかもしれないけど、できる?」

 

『うん、コクリコね、いい子だからね、お兄ちゃんが来てくれるならがんばる!』

 

「うん、いい子だ。じゃあ行ってきて。」

 

そう言ってジャンヌ使いがコクリコを送り出すとコクリコは1人で歩み出した。

 

「!!どけぇ!!」

 

それに影が気づき波羅と楼閣を突き飛ばす。

両者とも十数メートルは飛ばされていた。

 

「ああああああああぁぁぁああぁああああああああああああぁぁぁ!!」

 

しかしそこにいたのは完全に理性を吹き飛ばした影だった。

目は白目を向き、髪は全て逆立ち、身体のほとんど全てを影に侵食されていた。

 

『ひっ…!』

 

その姿にコクリコが怯える。無理もない、先程よりも濃密になった殺気を放ちながらこちらへかけてくるのだ。

 

距離はどんどん縮まっていく。

 

影はその拳を振りかぶって、

 

「ダメっ!!」

 

ギィン、と音を立てジャンヌ使いが盾でその攻撃を受け止めた。

コクリコの右側に立ち左手の盾だけを出して、視線を遮らないように攻撃だけを受け止めていた。

 

「よく見て!」

 

ジャンヌ使いが語りかける。

影の攻撃の手は緩まない。

 

「誰を助けたかったのか、よく考えて!思い出して!!あなたが俺にしてくれたように、ちゃんと考えて!!」

 

そう言い終わった瞬間、びくりと影の体がはねた。

そして影の攻撃が勢いを失う。

そしてコクリコを見る。

 

「コクリコ!!」

 

ブワッとロードの体にまとわりついていた影が霧散した。

それと同時にロードの姿が見える。

 

そしてロードはコクリコを抱きしめる。それは強く、二度とこの手を離さないと言わんがばかりだった。

 

『…お兄ちゃん?どうしたの?』

 

「コクリコ…コクリコぉ……」

 

ロードは泣いていた。それは先程までのような血涙ではなく、どこまでも透き通るような無色の涙だった。

 

『お兄ちゃん泣いてるの?』

 

「………っ!…………ぅ…っ………くっ…!」

 

『お兄ちゃんがんばったね。がんばったからいい子いい子してあげる!』

 

「…っああああああああぁぁぁああぁぁぁぁあ!!」

 

ロードが叫び声を上げた。しかしそれは先程までとは違って安堵に濡れていた。

 

「ロード君…」

 

「ボス…」

 

その声でチームメイトの二人も気がつく。

なぜロードがあれほどまで荒れていたのか、自分たちのやり方のどこが間違っていたのか。

 

「おい、ロリコンの王にコクリコ取られてんぞ!」

 

「いやでも動いてないから今がチャンスだろ!やるぞ!!」

 

そこにオートロックと女装家が現れる。

2人は良くも悪くも勝つことしか考えていないらしく、空気を読まずに突撃をする。

 

ロードは動かない、動こうとしない。今はこの腕の中から離さないとばかりに。

 

「よし、お前はジャスティスを任せ…」

 

そう言いかけてオートロックは口を閉じる。なぜならジャンヌ使いが彼の前に立ちはだかったからだ。

 

「…なんのつもりだ?」

 

「どうもこうもないよ。こんなにいいシーンを邪魔するなら俺がここで止めるよ。」

 

「それになんの意味がある?」

 

「さぁ?ないんじゃない?でもお前らのしようとしてることよりはいくらかマシだよ。」

 

二人は見つめ合う。互いの瞳に敵意を湛えながら。

 

「やめだやめ。お前がそう言うんだ、なんかあるんだろ。その前にギルメンで争ってもなんにもならねぇしな。」

 

オートロックが諦めたように言う。

 

「それに…」

 

「それに?」

 

「あいつのあんな姿なんてめったに見られるものじゃないしな。」

 

そう言ってオートロックは快活に笑う。

そうだね、とジャンヌ使いも笑う。

 

《バトルが終わりました》

 

「コクリコを泣かせるなら、神でもぶち殺してやる。」

 

1位はロードだった。




またも長らくお待たせしました…めちゃくちゃあの変態がカッコよくなってるし…
あの~、はい、ぶっちゃけちょっと短くしました。変態とオートロックの戦いなんて誰も見たくないと思いましたので…

次回は!(快活)もっと早く!(宣言)投稿を(普通)出来たら(不安)いいな~(願望)なんて…(小声)

そう言えばそろそろ2000アクセス突破します。皆様応援ありがとうございます。
まぁ最近出てきているコンパスSSには負けてるんですけれども。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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二章 いいからお前らそこに座れ!!
苦労人の日曜日


「さてと…で?ロード君、このままもう少しバトアリ潜っとく?それとも部屋に戻る?」

 

とりあえずこれからの方針を決めようと私は訊ねた。

なんてったってまだデラクラのCポータルにいるのだ。訊ねない方がおかしい。

 

「コクリコはホントに可愛いな~♡ほっぺぷにぷに~♪」

 

『うふふ♪お兄ちゃん、ぎゅーってして!』

 

が、ロード君の耳には届いていない。

そう、原因はロード君。試合が終わってからずっとこの調子なのだ。

 

「これがっ…ロリコンの力…っ!速攻で2人だけの閉鎖空間を生み出す力…っ!!」

 

「楼閣さーん、放心してないで方針決めてくださーい」

 

「波羅ちゃん、それ上手くもなんともないからね!?」

 

ああもう…波羅ちゃんは豹変ぶりが凄いくせに掴みどころがないって変なキャラだし、ロード君はコクリコちゃんが無事だったから安心しきってテンションおかしいし…

 

「ああもう!!こんなの私にどうしろってんのさ!?」

 

『楼閣落ち着け!!お前が落ち着かないで誰が落ち着くんだ!?』

 

「じゃあジャスくんが代わりに落ち着いてよ!!私もうこんなの嫌だよ!」

 

《楼閣様、落ち着いてください》

 

キィちゃんに言われた。よし、少し冷静になるか。

 

『俺はキィからお前への謎の強制力が気になるけどな…』

 

ジャス君、気にしたら負け。

それでキィちゃん、どうしたの?

 

《GMがバグ補修用パッチとデバックの作成に成功いたしました》

 

おぉ!じゃあもうすぐこの鎧を脱げるってことだね?

 

《その通りでございます、先立ちましてまずは81.0秒後よりステージ内からパッチを充てることとなっております》

 

ふむふむ。と、言うと?

 

《あと60秒以内にステージ内からの脱出ができなければ存在が消滅致します》

 

…ゑ?

 

《残り50秒です》

 

しょうめ…え?消えてなくな……ええ!?

 

《何をグズグズしているのですか?残り40秒です》

 

「みんな早く脱出を!!」

 

「コクリコは可愛いな~♪」

 

『えへへ~♪』

 

このロリコンが…っ!!

 

「楼閣さん、話が見えて来ません。詳しく説明をお願いします。」

 

あぁ、もう!!めんどくさいなぁ!!

 

「ジャス君!ロード君担いでコクリコちゃんはだっこして!」

 

『あぁ!心得た!』

 

「ですから楼閣さん、説明を…」

 

「あー!出口の方にさっきの敵が(棒)」

 

「なっ!?どこだ楼閣さん!?見えねぇぞ!?」

 

「向こうの方に逃げていったぞ~(棒)」

 

「すぐにぶっ殺してやる!!行くぞめぐめぐ!!」

 

『あっ、ハービィ待ってよ~!』

 

よし、これで脱出…

 

『楼閣ぁ!!めちゃくちゃ抵抗されてるぞ!?』

 

「やらせはしない!俺の可愛い(コクリコ)はやらんぞぉ~!!」

 

この非常時にこのロリコン野郎は…!

 

「ジャス君、サテキャ。」

 

『楼閣正気か!?味方だぞ!?』

 

「違うよジャス君、あれはね、害虫。僕らの脱出を邪魔する害虫だよ?」

 

『ダメだ…楼閣が狂ってる…よし、コクリコット!俺に掴まれ!』

 

『おじちゃんどうしたの~?』

 

《残り30秒です》

 

『肩車をしてあげよう!』

 

『わぁい!』

 

「ジャス君?何してるの?早くサテキャ。」

 

「てめぇ!オレのコクリコに何をする!!ぶっ殺してやる!!」

 

ジャス君はコクリコちゃんを肩車すると全力疾走で逃げ出した。鎧を来てないからかびっくりするほど速い。

 

それを追いかけるロード君。そうか、これが狙いか。ジャス君ナイス!!

 

《10秒前、9、8…》

 

って私脱出してない!!

 

「一気に中央に躍り出る!!…ジャス君!?」

 

『楼閣!早くこっちへ!!』

 

どうやらジャス君がドアを使って出口に一番近いポータルに私を移動させたみたい。

だけど、

 

《3、2、1、》

 

間に合わない…っ!

 

「楼閣さん、敵いなかったじゃねぇか!!殺してやるからこっち来なぁ!!」

 

そして辺りは暗くなった。

 

 

────────────────────────

「今回ちょっと短いなww」

 

「しょうがないでしょう、ボス?乱数は移動時間に書いてるのに8月は移動時間なかったんだから」

 

「おぉーーい!!」

 

「あ?なんだよ楼閣?」

 

「そうですよ楼閣さん、あとがきですよ?乱数が顔向けできないって安易なキャラあとがきに走ったんです。空気読んでください。」

 

「違うよ!まだ終わってないよ!!私脱出出来たからね!?」

 

「「は?」」

 

「いや、ロード君はともかく波羅ちゃんは分かってるよねぇ!?【クルエル】使ったもんねぇ!?」

 

「ちっ、」

 

「いや波羅ちゃん!?「ちっ、」じゃないよねぇ!?最終私を出口に引っ張ったの波羅ちゃんだったよねぇ!?」

 

読者の皆さん!まだ終わってないよぉ!?

あ!「今回あんまり面白くなかったな…」ってタスキルしようとしないで!?

 

はぁ…なんで私ばっかりこんな目に…

じゃあ説明するよ?

 

あのままの移動速度じゃ私は絶対間に合わなかった。それを、まぁバグの影響なんだろうけど波羅ちゃんが【クルエルダー】で引っ張ったおかげで私は出口に引っ張られて間に合った、というわけだ。

 

「ハイハイハイハイ。楼閣、そんなリザルト回はもういいから次行くぞ。」

 

「誰のせいでリザルト回になったと思ってるのかねぇ!?」

 

『楼閣、とりあえずロードはこんな奴だって思わないと疲れるのはお前だぞ?』

 

最近はジャス君も冷たい…

 

「……はぁ。じゃあとりあえずは買い出しに行く?アリーナはもう閉まったみたいだし、今日の晩と明日の朝の買い出しは必要だろうしね。買い物を今の時間に済ませたらあとは年少組はアスレチック、保護者をジャス君にして私達はアリーナの相談でもする?」

 

「まぁそれが安牌だろうな。」

 

「楼閣さん、そんなに家庭的でしたっけ?一人暮らしの男性なんてもっと雑なものなのでは?」

 

誰のせいでこうなったと思ってるのかねぇ!?

 

「何言ってんだよ楼閣?さっさと行くぞ。」

 

ロード君に窘められた…

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

というわけでとりあえずマーケットまで出てきた。

 

「コクリコ、今日は何が食べたい?」

 

『んーっとねー、コクリコ、ハンバーグが食べたいなぁ~。』

 

「よし楼閣、今日はハンバーグだ。」

 

すごい理由で決めたねぇ!?

 

「?コクリコの意見以上に大切な物ってあるのか?」

 

もうダメだ…おしまいだぁ……

 

『わぁい!たいちょー、めぐめぐ、ハンバーグ大好き!』

 

『ハンバーグか…懐かしい。軍にいた時によく作ったな。アイツら肉しか食わなかったから調理担当が毎回豆腐や野菜で体積を増やしてたな…』

 

「ほら見ろ、ヒーロー達だって異論はねぇじゃねぇか。」

 

まぁそこに異論がないならいいけどさ…

 

「あ、ボス、付け合せも欲しくありませんか?」

 

「あー、確かにな。サラダでもいいとは思ってたけど、コクリコとかめぐめぐは味がついてる方がいいか?」

 

「じゃあ回鍋肉(ホイコーロー)風にする?ごま油とタレさえあればお肉なくても美味しくできるし。」

 

「そうなのか?楼閣?」

 

「うん、学生時代に試してみたからね。今は現実では野菜の方が高かったりするからやらないけどね。」

 

「じゃあそうするか。ならいるのはキャベツとピーマンと『コクリコ、ピーマン嫌~い!!』やっぱやめとくか。」

 

光の速さで裏切ったねぇ!?

 

「コクリコが嫌いなんだぞ?ならピーマンを見えるようにはオレは調理しねぇ。」

 

このロリコンは…っ!

 

「ならオーソドックスにサラダがいいですかね?ごまドレッシングとかなら小さい子でも食べやすいですし。」

 

「だな。そうするか。」

 

方針が決まったのでマーケットへと移動。

食品売り場へと向かっているといろんな人がこっちを指さしていた。

 

「ねぇロード君、さっきから僕らの方見てみんな何か言ってるの分かる?」

 

「あぁ、気づいてるぞ。何言ってんだろうな?」

 

私たちが不思議そうにしていると私たちの会話を聞いて周囲の人たちは騒ぎ始めた。

 

「おい、今あの人【ロード君】って言ったか!?」

 

「言ってたぞ!ってことはホンモノだ!」

 

「マジかよ!?コスプレかとも思ったが本物か!!」

 

「あれが…【不退の不死(カーディナル)】の楼閣さんか…知的だな…」

 

「【アバカン】喰らってノホと13で溶かせきれなかったらしいぞ?」

 

「さらに返り討ちにまでしたとか!」

 

え?何?私なの!?

普通ロード君じゃない!?【ロリコンの王】って有名なんだしさ!

しかも過大広告甚だしいよねぇ!?普通に溶かされたよ!ねぇみんな気づいて!普通に溶かされたって!!

 

「じゃあ一緒にいるのは…まさか

狂気に満ちた恭喜(デュアルアバター)】の波羅渡さんか!?」

 

「めぐめぐに似た体格のヒーローはアタリ、コクリコ、勇者だ。だがゲームをしていないしコクリコはあそこにいる一人、体がドット絵じゃないから…あれはホンモノだ!!」

 

「回復も吸収も積まずに殺戮を繰り返す初心者…まさかアイツだったとは…」

 

「まさに初心者の星!!オレもう死んでもいい…」

 

「目を覚ませ!サイン貰うんじゃなかったのか!?」

 

「握手してもらいてぇな…」

 

「ならお前行けよ」

 

「やだよ緊張するだろ?お前が行け」

 

「俺だってやだよ…この距離でもう気絶しそうなんだからよ…」

 

なんか波羅ちゃんも有名になってる…

ロード君は関わった人を全員有名にするのかな?

 

「お前らなんかカッコイイ感じに有名じゃねぇか?おーい!お前ら、俺にもなんか2つ名あるか!?」

 

「「「「「【ロリコンの王】」」」」」

 

「てめぇら、表に出ろ!!」

 

「みんな!自分の部屋に逃げ込め!!」

 

「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」

 

「クソっ!!巫山戯やがって!!」

 

ロード君は、全員殺す!!位の気迫で怒っていた。

 

『お兄ちゃん、コクリコお腹すいた~!!』

 

「よし、早くご飯にしような。」

 

が、一瞬で霧散した。さすが世界に誇るRO☆RI☆KO☆Nだね。

 

「じゃあさっさと買い物済ませちゃおうか。」

 

「そうですね。僕もお腹すいちゃいました。」

 

そして僕らはマーケットでの買い物に赴いた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「……【ロリコンの王】…?」

 

去っていく彼らの後ろで誰かがそう呟いた。




ええっと…はい……作中で伝えた通りでございます…
ひと月も待たせてしまって申し訳ありません…
いえ、ね?構想自体はあったんですよ?元々間章を一話で終わらす予定だったので…なかったのは時間です…まぁいろいろ忙しい時期だと思っていただければ幸いです。

……これで私の年齢分かった人もいるかも知れませんね。どうか、どうかご内密に…

ではでは、次回はもっと早くに投稿できると信じて、今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。


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光と影の

「これで年齢バレしたな…」って言っても、私、前に「文化祭の劇の台本書いた」って言ったから今更じゃないですかもーやだー!!


そこは灯りに乏しい部屋だった。

そこにいるのは男ただ一人。

 

「ふふふ……これでカンペキだ…!」

 

男は囁くようにひっそりと言う。

その傍らには粗挽きミンチ。

 

「これでようやく…ははは!!」

 

男は楽しそうにそう言うと、その手に持っていた緑色をした粉末を粗挽きミンチに混ぜた。

 

男はその色が完全に見えなくなるまでミンチを捏ねると、もうここに用はないとばかりに立ち去った。

 

これは孤独者たちの宴(ロンリネス)のメンバーが食事をとる僅か30分前の出来事。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

晩飯の食材を買い終わってホームに帰ってくると俺はすぐに下ごしらえを始めた。

……まぁ当たり前なんだけどな。飯炊いて、おかずとサラダだけじゃ足りないから汁物も作んなきゃいけねぇし、ハンバーグは下ごしらえにも時間がかかるし。

 

とりあえずすまし汁を作り終えてミンチも豆腐とオカラで嵩増ししたところでリビングに戻って尋ねる。

 

「これからハンバーグ焼くけど作りたいって奴いる?」

 

そう、人手の募集だ。そんなに人がいるって訳でもないんだがコクリコとかめぐめぐとか(ちびっこ組)がやりたいって言うかもしれないから聞いてみる。

 

子供がやってみたいっていうならやらせてあげるのが俺の基本スタンス。親は子供を危険から遠ざけるんじゃなくて危険から離れる方法を教えるべきだと思う。

 

閑話休題

 

やりたいと挙手したのは意外や意外、コクリコと波羅だった。

波羅曰く

 

「ボスができることを当たり前のように出来てこその部下でしょう!」

 

って力説された。波羅はいつから俺の部下になったんだろうね?ワカンナイナー。

 

「ほら、こうやって空気を抜くように手でパシパシするんだよ。」

 

とりあえず最初に見本を見せる。

コクリコがそわそわしながら俺の手元を見る。可愛い(確信)

波羅がバトアリさながらの目付きで俺の手元を見る。正直怖い。

 

「まぁ見てるだけってのもつまんねぇだろうからやってみて覚えるか。」

 

俺は洗ってないコクリコの手がミンチに伸びる前にそう言った。

 

ん?波羅?俺が見本を見せるためにミンチを持った時に同じく手を洗わずにミンチを取ろうとしたからエルボーを食らわせたよ。

 

ん、コクリコがすっげぇソワソワし始めたな。今にもミンチを掴みそうだ。

 

「じゃあまずは手を洗おうね。」

 

コクリコに優しく諭すように話す。

……波羅にアイアンクローを決めながら。

 

『うん!コクリコね、おにいちゃんのおてつだいするんだぁ~』

 

ホントにウチの(コクリコ)は可愛いな。世界無形文化財に登録すべきだと《唐突に惚気けるのは辞めてください》キィ、うるさい。

 

「ボ、ボスゥ!離してください!!痛いです、頭が割れるように痛いですぅ!!」

 

波羅、うるさい(笑顔)

 

「な、なるほど…これを乗り越えないようではボスの部下として認められない、と…」

 

うん、誰も言ってねぇけどな?

 

「ならば僕はどれだけでも耐えてみせます!バッチコイです!!」

 

『おにいちゃん、コクリコはやくハンバーグつくりたいよ~』

 

「遊んでねぇでさっさとハンバーグ作り始めるぞ。」

 

《酷い落差ですね》

 

キィ、うるさい。

…ってかパッチとかの作業はもういいのか?

 

《あとはGMがやってくれるそうなので大丈夫だそうです》

 

ほう?バグを初っ端から出すようなGMだから全く期待してなかったがやる時はやるんだな、アイツ。

 

とりあえずコクリコが洗った手を確認して汚れがないことを見ると波羅に手を洗わせた。

……頼んだことには素直なんだよなぁ、波羅って。

 

とりあえず準備が整ったのでハンバーグ調理開始だ。

 

「よっ、ほっ、こんな感じですかね?」

 

……波羅が意外と上手い。なんだコイツ?さっきまであまりにもあんまりな波羅はどこ行った?

 

「うん、よし。波羅はその調子で作っといてくれ。……さてと、コクリコはお兄ちゃんとやろうか。」

 

『わぁい!おにいちゃんといっしょ〜♪』

 

一人でやりたいお年頃のコクリコが、一緒にやると聞いて上機嫌なのは嬉しい誤算だ。

俺はコクリコの手に添えるように自分の手を出す。

 

「こうやって…こんな感じにパタパタしてやるんだよ。」

 

何度かコクリコと一緒にハンバーグをパタパタ作っていた。よし、コクリコ一人で大丈夫そうだし任せてみるか。

 

「どう?コクリコ、一人で出来そう?」

 

『うん!コクリコひとりでできるよ!!』

 

そんな力強いお言葉。じゃあ任せてみるか。

 

「うん、分かった。じゃあコクリコ、一人で頑張ってね。ダメそうだったらお兄ちゃんも手伝うけど。」

 

『うん!コクリコがんばる!!』

 

「……空回りするフラグじゃぁないかなぁ?」

 

楼閣、いらんフラグを建てるな。

 

『えい!!』

 

コクリコはいっしょにやっていたときとおなじりょうをてにとった!

 

「ちょっとまっ───」

 

『それ!』

 

コクリコはさっきとおなじようにみんちのかたちをととのえた!

 

当然手からはみ出たミンチは重力に引かれる。

ミンチがバラバラになって宙を舞った!

 

「めぐめぐ、【クルエル】!!」

 

『おっけーたいちょー!触れたきゃお菓子を持ってきな!』

 

めぐめぐが散らばったミンチを【クルエルダー】で回収した。

が、それもめぐめぐの目の前まで。じゃあ次は…

 

「ジャスティス!」

 

めぐめぐの膝目掛けて俺は金属製のお盆を投げる。

 

『あぁ、了解だロード!!』

 

ジャスティスはその言葉だけで全てを察したのかお盆をガトりんの射出砲の真下で受け止める。

 

ボトボトボト

狙い通りにお盆の上に全てのミンチが落ちる。

 

「『『ふぅ…』』」

 

「いや「ふぅ…」じゃないよ!?何今の一糸乱れぬ連携!?たかだかミンチになんでそこまで情熱を捧げるのさ!?」

 

楼閣がキレた。いやーん、こわーい(棒)

 

「それはだな──」

 

『おにいちゃん……』

 

「ん?なんだコクリコ?上手に出来なかったのか?」

 

「壮絶な勢いで無視ったねぇ!?」

 

楼閣はさっきから何を言ってるんだ?

この世にコクリコより大切なものがあるだろうか、いやない。(反語)

 

『んーん…コクリコね、じょうずにできたの。でもね、ハンバーグがこんなにちっちゃくなっちゃった…』

 

そう言ってコクリコが見せてきたのは俺が作ったのよりも二回りほど小さいハンバーグ。まぁ手の大きさの誤差だな。

 

「コクリコ、大丈夫だよ。小さい方が数が多くなってお得だろ?たくさん食べれた気にもなるし、お兄ちゃんはちっちゃい方が好きだぞ。」

 

こうやってフォローしてあげないと泣いたりしたら嫌だしな。

具体的には罪悪感で俺とセナが死ぬ。

 

『ほんとに…?』

 

「あぁ、本当だとも。」

 

俺はコクリコに大きく頷いて答える。安心させるためには少し大げさなくらいで丁度いい。

 

「まぁそうだね。私も基本血圧低いから小さい方が食べやす──」

 

サクッ

 

「………えっと…ロード君?今、私の耳元にスプーンが飛んできて壁に刺さった気がするんだけど…?」

 

「あ?そりゃスプーン投げたら飛んでくだろ?」

 

「私はなんでスプーンが壁に刺さるのかを聞いてるんだよねぇ!?それ以前になんで私は殺されかけたのかねぇ!?」

 

(コクリコ)の手料理は誰にも渡さんに決まっとろうが。何を言ってるんだ、コイツは。

 

『ならコクリコいっぱいつくるね!』

 

はぁ~、やっぱりコクリコは可愛いな。

守りたい、この笑顔。

 

「なら僕も小さく作ります!僕がもてる全てを賭してでも!!」

 

そう言ってミリ単位でハンバーグを作り始めた波羅にはアイアンクローをキメておいたよ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『できた~!』

 

「出来たね。コクリコ、お手伝いありがとう。」

 

ハンバーグを焼き上げて量が均等になるように分けたので、今から配膳をするところだ。

ちなみにコクリコは焼く時も傍らにいてくれたから、油とか取ってきてもらうのを手伝ってもらった。

 

『コクリコまだまだおてつだいするよ!』

 

ウチの子ええ子すぎる……

 

「もうお皿も出してもらったから大丈夫だよ。あ、じゃあみんなを呼んできてもらえるかな?」

 

『うん!わかった!』

 

ててとて、とコクリコは走ってリビングに行く。

さて、こっちは配膳始めますか。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「「「『いただきます』」」」

 

『『いただきま~~す!!』』

 

ちびっこ組の元気な声で食事が始まった。

二人とも美味しそうに食べるねぇ。

 

『ロード、おいロード。』

 

「ん?どうしたジャスティス?」

 

『ミンチは1kgもなかったはずだ……なのになぜこんなに大ぶりなハンバーグが人数分あるんだっ!?』

 

あぁ、なるほど。買ったミンチは600gなのに対して、全員の皿には200gくらいのハンバーグがあることに驚いている、と?

 

『「あぁ、なるほど。」じゃないぞロード!お前、どうやってウチの調理師が頭を抱えていた問題を解決した!?』

 

ちょっ、ジャスティス!近い近い!とりあえず落ち着け!そして可及的速やかに離れろ!

 

『教えてもらうまで、オレはここにいるぞぉ!!』

 

せっかくのカッコイイセリフをこんな所で使うな!!

 

「は・な・れ・ろ!!……はぁ…これはな、肉と豆腐とオカラを5:3:1で混ぜてるんだよ。」

 

『だが、それをウチの調理師がやったら兵士たちには不評だったぞ!それにこんなに肉汁も出てるじゃないか!!豆腐で水っぽくなるに決まってる!』

 

「そのへんは先にオカラと混ぜとくんだよ。いい感じに水分を吸ってくれるからな。それから牛脂を細かく刻んで入れたんだよ。こっちはどうやっても肉汁が少なくなるからその対策だな。」

 

『なるほど……確かにそれはやってなかったな…クソっ!俺が、俺があの時にそれを知っていれば……っ!!』

 

ちょいとジャスティス、部下が戦死したみたいなテンションで言うのはやめろ。

 

「あのさぁ、ロード君?」

 

楼閣、うるせぇぞ、静かに食え。

 

「なんなの、この落差!?ねぇ、なんなの!?」

 

で、質問はなんだ?

 

「はぁ……毎回こんなことしないと私は話を聞いてもらえないのかねぇ…で、なんだけど、さっき「肉と豆腐とオカラを5:3:1で混ぜてる」って言ってたよね?」

 

あぁ、まぁそうだな。

 

「で、割合を示す時は全部で10、と。」

 

……そうだな。

 

「割合の残りの一、どこいった?」

 

お前みたいな勘のいい奴は嫌いだよ。

 

「えぇ!?単純に量で比較した訳じゃなくてまだなんか混ざってるの!?ねぇロード君!キミはいったい何を混ぜたんだい!?」

 

「それはな──」

 

『コレすっごいおいし~!!』

 

『コクリコもお手伝いしたんだよ!ほめてほめて~!』

 

『コクリコちゃんすっご~い!ねぇたいちょー!コレすっごくおいしいね!』

 

「お?そうか?なら良かった。」

 

「ロード君の中で私は優先順位どんだけ低いのさ!?」

 

楼閣、少し黙ってろ。

 

「ド腐れ外道だねぇ!?」

 

楼閣、うるさい(笑顔)

 

(あっ、これ、ロード君なんか企んでる顔だ……)

 

「ちなみにめぐめぐは食べれないものとかあるのか?」

 

『ピーマン!めぐめぐ苦いの嫌~い。』

 

「なるほど、ピーマンね……コクリコと同じか。好都合だな。」

 

『ん?おにいちゃん、なにかいった?』

 

「いいや、特に何も言ってないよ。……二人とも、それ、おいしい?」

 

俺はこともなげに二人に聞いてみる。返事は、

 

『うん!』『すっごくおいしいよ!!』

 

との事だ。

 

「そうか、それは良かった。」

 

じゃあ、爆弾投下だ。

 

「それ、ピーマン入ってるけどな。」

 

『え?』『え?』

 

「あぁ、それが最後の1かい?なるほどねぇ。」

 

楼閣はなぜか納得したようなかんじで頷いていた。

まぁ、その通りなんだけど。

 

『うえぇ……めぐめぐこれ要らない……こっちのスープだけ飲む……』

 

「あ、そっちにもピーマン入ってるけどな?」

 

『へっ!?……そんなんどこにもないじゃん!!』

 

「ロード君、からかうのはやめといた方が……」

 

おいお前ら、ちょっとは俺を信用しろよ。

 

「ピーマンは圧縮して水分を搾り取ってからミキサーで粉状にしてハンバーグに、搾った水分をすまし汁に入れて煮込んだんだよ。」

 

言っただろ?俺はコクリコの嫌いなものを“目に見える形で”出すつもりは無い、と。

 

『たいちょーの意地悪!めぐめぐを腹ぺこにするつもり?』

 

「でも、ピーマンの味しねぇだろ?」

 

『それとこれとは話が別なの!』

 

「でも、ピーマンの味しねぇだろ?」

 

『け、けど──』

 

「でも、ピーマンの味しねぇだろ?」

 

『むうぅぅ!』

 

「味が嫌だってんならまぁしょうがねぇけど、美味かったなら食えばいいじゃねぇか。な?」

 

『…………ふんだ!今日だけだからね!』

 

そう言ってめぐめぐは再び食べ始めた。

……ん?そう言えばコクリコは何も言ってなかったな……あ、こっち見て黙りこくってる。

 

「コクリコ?どうかしたの?」

 

『……おにいちゃん、』

 

な、なんでしょう?

 

「ロード君、なんで敬語?」

 

「楼閣さん、今いいところなんですから黙っておきましょう。」

 

『コクリコね、ピーマンたべれたよ!ほめてほめて~!』

 

「楼閣、ウチの子が天使なんだがどうしよう?」

 

「知らないよっ!」

 

何この子可愛すぎませんかね?

とりあえず頭を撫でておく。うわっ、髪サラッサラじゃねぇか。

辛い、可愛すぎて辛い。

 

当のコクリコは『えへへ~♡』とすごく嬉しそう。

めぐめぐはやっぱり食欲には勝てなかったのか美味しそうに食べ、ジャスティスはご飯を何杯もおかわりし、波羅はサラダとハンバーグのソースまで綺麗に舐めとっていた。

 

波羅、もう俺、正直お前が怖いわ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

風呂を終え、コクリコを寝かしつけたあと、楼閣と波羅と俺で今日の振り返りやら明日からの立ち回りとかを確認して寝室へ。

 

「そう言えば今日、セナと喋ってねぇな……なんでだろ?」

 

唐突に不思議に思ったその時、

 

「…………!?カフッ!!グッ……ゲホゲホッ!!」

 

俺は吐血した。ビチャビチャと血が足元に散らばる。

しばらくの間、俺は立ち上がることが出来ずに血を吐きながらのたうち回っていた。

 

数分後にそれは収まったが口の中には鉄の味がする。顔を顰めながら洗面所へ行き、口をゆすぐ。

 

《大丈夫ですか?》

 

キィが訊ねてきた。

むしろ大丈夫だと思うか?

 

《いいえ、全く》

 

だよな。だってお前だもん。食あたりか?それならコクリコが危な──

 

《心配はいりません》

 

……原因が分かってるみたいな言い方だな?

 

《はい、マスターの場合はHS(ヒーロースキル)が問題かと思われます》

 

詳しく

 

《マスターのHS、スキル名【過剰読込(オーバー・ロード)】は、その名の通り【人の身に過ぎた負荷(オーバー・ロード)】だったのでしょう》

 

つまり、コレはHSの影響だと?

 

《そうなります》

 

それじゃ、コクリコの心配は要らないな。

 

「こんな時まで、コクリコちゃんの心配かい?」

 

振り返ると、扉の近くに楼閣がいた。

 

「こんな遅くまで何やってんだ?」

 

「それはこっちのセリフだよ。ロード君の部屋で何かが倒れるような音がしたから見に来てみたら、ロード君が血を吐いて倒れてるんだもん。」

 

…………見てたんだな。

 

「まぁね。キィちゃんが心配ないって言ってたから特に何もしなかったけど。」

 

とんだ狸野郎だな。

 

「ロード君には言われたくないよ。それよりも、ホラ、ロード君が吐いた血をどうにかしないと。」

 

はい、と言って楼閣は雑巾を渡してきた。

 

俺はそれを受け取って楼閣と共に床を拭き始める。

 

あぁ、そうだキィ、セナは今どんな状況だ?

 

《かなり弱体化しているようですが、明日までには95%程まで回復していると思われます》

 

なら問題ない。

 

そうして夜はふけていった。




…………あの、ですね?今、私リアルがすっごい修羅場ってるんですよ……
正直そっちにかかりっきりで、全く拙作を書いていないんです……
楽しみにされている方には本当に申し訳ないですし、キリもへったくれもないところで申し訳ないのですが、一月に1回か、それ以下の更新速度になると思われます……本当に申し訳ないのです……

それはそうと、こないだこの作品のオチを思いつきました。
そしてそのオチを実現させようとすると、あとこの章を含めて7章くらいになりそうなんです……(笑)
コンパスがなくなるのが先か、私が書き終えるのが先かのデスレースが幕を開けます笑笑
お楽しみ(?)に!


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時系列?何それ美味いの?

いつも通りの時間に目を覚ます。

昨日あんだけいろいろあったのに、体内時計さんは今日も社畜中の社畜厨らしい。

 

「今日、朝飯何にすっかな……よし、めんどいからラピュタだ。」

 

《それは一部の方々にしか分からないのでは?》

 

そうだな。じゃあわかった人には特別に【バルス1回無料券】を進呈しよう。

 

ん?【つっぺる】で【手持ち花火】からの場外だぞ?

 

『ロード……頼むから世界軸を狂わせないでくれ……』

 

ジャスティス、細けぇことは気にすんな。おはよう。

 

『あぁ、いい朝だ。おはよう、ロード。』

 

「ちなみにジャスティスはパン何枚食べるんだ?」

 

『ん?俺がどのくらい食うかか?だいたい二日で一斤だな。』

 

すげぇ食うじゃんこいつ怖ぇ……

でも、それならジャスティスはラピュタ飯じゃない方がいいな。

 

「よしジャスティス、スマンが十分待ってくれ。」

 

そうジャスティスに伝えると俺は準備に取り掛かった。

あぁ……アレ、ここで使うのか……今晩の予定で買ったんだけどな……

 

まず、パン屋で売ってるようなまだ切っていないパンを半分に切る。

そして中身をくり抜いて、その空洞にトマトピューレ、タマネギ、ハムを角切りにしたもの、チーズを詰め込む。

その上にくり抜いたパンを適当にちぎって乗せて、さらにチーズをかけてオーブンで十分焼く。

 

これで完成のピザパン(違う)だ。

 

いや~、いっぺんなんかの番組で特集組まれてて、食ってみたかったんだよなぁ~。

 

《マスターは食べないのでは?》

 

キィ、うるさい。

 

「ほらよ、ジャスティス。お待ちどうさん。」

 

『おぉ……十分でこのボリュームは凄いな……うちの料理長にも教えてやりたい。』

 

お気に召したようで何よりだ。

 

「ぅんん……おはよぉロード君、昨日は大変だったのに今日も早いねぇ……」

 

俺としてはお前もなんだけどな。

 

「おう、おはよう楼閣。ほら、朝飯出来てるぞ」

 

「……んん~?なんで湯豆腐なんだい?」

 

はい、楼閣の朝飯は湯豆腐です。え?いやいや差別とかじゃねぇよ?楼閣は低血圧だから食べやすいのがいいだろ?で、タンパク質も摂ろうと思ったら大豆たんぱくだろ。

 

「なるほどねぇ~。私としてはありがたいかぎりだよぉ」

 

ほら、当人もそう言ってるしいいだろ。

…………ラピュタ飯にするつもりだったのに全然違くなってんな…気にしたら負けか。

 

《開き直らないでください》

 

ほっとけ。

 

『たいちょー、おはよぉ~……』

 

「おはようございます、ボス。」

 

めぐめぐは寝惚けまなこを擦りながら、波羅は爽やかイケメンスマイルで起きてきた。

波羅は見た目だけならカッコイイんだけどなぁ……中身がなぁ……

 

「それでボス、僕はボスのために何をすればっ!?」

 

コレだもんなぁ……

 

「ねぇよ。大人しく座ってろ。」

 

「YES,Sir!!」

 

よし、波羅はガチのラピュタ飯な。

 

ラピュタ飯は速効で出来るから楽でいいんだよなぁ。

1.まずパンを焼く(焼かなくても可)

2.目玉焼きを焼く

3.パンに目玉焼きを乗せる

以上、完成。

 

「ほら、二人とも朝飯だぞ。」

 

『何コレ面白~い!!』

 

「ふむ……【天空の城ラピュタ】のパズーとシータが坑道で食べていた朝ごはんですか……ボスも面白いものを作りますね。」

 

【ラピュタ】って指定もしてないのに、なんでこいつ分かるんだろ……?

 

「あ、あとめぐめぐにはポタージュスープな。何か飲み物あった方が飲みやすいだろ。」

 

『わぁ~!たいちょーありがと~!!』

 

「僕にも何かありますか!?」

 

目を輝かせながら波羅が聞いてきた。

 

「ほらよ」

 

そう言って渡したのはただの水の入った水筒。

 

『…………おい、ロード……いくらなんでもそれは「うわぁ!坑道完全再現じゃないですか!やったぁ!!」波羅はそれでいいのか……』

 

ふっふっふ、それだけじゃないのだよ波羅渡くん……

 

「こ、この上にさらに何かが!?原作にもそんなものなかったはず!!」

 

「その水道水、きちんと煮沸している。」

 

『いや、ロード、そのくらい当然の「え?ここの水道水ってそのままで飲めるはずじゃ……はっ!時代背景!【天空の城ラピュタ】の下町のあの技術力じゃ、水は煮沸しないと飲めない……そこまで考えてたんですね、ボス!!」もう俺はお前が分からんぞ波羅……』

 

ジャスティスのツッコミ処理能力が限界を迎えたみたいだ。朝はツッコミの楼閣が機能しないから大変だな(他人事)。

 

『おにいちゃん、おはよぉ~』

 

おっと、天使かと思ったらウチのコクリコだったぜ。

こんな可愛い子が世界に二人もいたのかと思ってびっくりした《毎回やってて飽きないのですか?》キィ、うるさい(笑顔)

 

「コクリコの朝ごはんは……これね。」

 

そう言って出したのは【フレンチトースト】

二枚作って一枚半は俺の、残りがコクリコのだ。

 

『あー!たいちょーとコクリコちゃんだけずるい~!!』

 

まぁ、案の定めぐめぐはそう言ってくるわな。

 

「コクリコは食パン一枚食べきれねぇだろ。タブン」

 

『たいちょー、「たぶん」って小声で言ってた!ずるい~!!めぐめぐも甘いの食べたい~!!』

 

「こらめぐめぐ、ボスを困らせちゃいけませんよ。」

 

『むぅぅぅ……だってぇ…………』

 

わがままを言うめぐめぐを波羅が黙らせた。めぐめぐは波羅の言うことはすぐに聞くのな。

 

「まぁめぐめぐ用の甘味もあるけどな。」

 

『え!?あるの!?』

 

「ほらめぐめぐ、ボスはいつでも落としてから上げる人なんですよ。」

 

なんだその評価

 

「正確にはめぐめぐとコクリコの二人分だけどな。」

 

ちょっと待ってろ、と言いながら準備を始める。

取り出したのは大量のパンの耳。あと熱した油と砂糖。そうだ、パン耳揚げだ。

 

ただ素揚げして砂糖をまぶすだけのお手軽おやつなのに凄い美味いんだよな、これが。

 

お、コクリコが朝ごはんを食べ終えたか。ならそろそろだな。

 

「はい、二人とも出来たぞ~」

 

『わぁ!!いい匂~い!!』

 

『美味しそ~!!』

 

「お手拭きはここに置いとくからな~。おーい、聞いてるか?…………まぁいいか。」

 

すごい勢いで二人とも食べ始める。女子って甘いものは別腹って言うけどマジでそうなんだな。

ジャスティスはとっとと食べ終わって湯のみで緑茶をのみ、楼閣は未だに覚醒しきってなくて、波羅は水筒の水を舐めるように飲んでいた。

 

俺はしばし二人の食べる姿を微笑ましく見てた。正直、波羅を見たくないからね。

 

『酷い目にあったなァ……』

 

お?セナか。随分と疲れてるがどうかしたか?

 

『「どうかしたか?」じゃないだろォ?お前のHSで僕がどれだけ存在を削らされたことかァ……』

 

あー……そんなに?

 

『当たり前だろォ?力任せに力を放出して戦ってるようなものだぞォ?お前の世界に合わせて言うなら、マシンガンをずっと撃ち続けてるような状況だったんだからなァ。』

 

ほぉ……無駄に力を使い続けてるのは分かった。…………って、お前なんで俺の世界のこと知ってんだよ?

 

『そりゃあ動けない間、キィってやつが【いんたーねっと】?とやらを見せてきたからなァ、だいぶん暇つぶしにはなったぞォ。』

 

ってか『酷い目にあった』とか言いつつも、一日で復帰出来てんじゃねぇか、大したことなくて良かったな。

 

『いや?僕が今までに経験してきた中でも一番の危うさだったぞォ?』

 

あ?ならなんで一日で復帰出来てんだ?

 

『それは当たり前だろうなァ。ここは暗い感情や悪感情に溢れているからなァ。』

 

と、言うと?

 

『ゲームだった時からそうだったんだろォ?【野良】と呼ばれるバトル形式を選んだ者達は負け続けるとTLに文句を垂れ流し、味方を煽り、別のSNSを利用してまで晒しあげてたそうじゃァないかァ。』

 

…………ま、一部そういった人達がいたのは否定しない。

 

『そしてそれは、ゲームだった【#コンパス】が現実になった所で何も変わらなかったァ。僕は悪感情の塊が意志を持ったような存在だァ。なら、それを取り込んで力を付けるのも道理だろォ?それで元に戻るまでに時間がかからなかったんだなァ。』

 

……そういうもんか?

 

『あァ、そういうものだァ。』

 

そか。まぁコクリコを守れるってんなら俺はお前にとやかく言わねぇよ。

 

『…………そうか。』

 

『ごちそうさま~!!』

 

『美味しかった~!!』

 

めぐめぐとコクリコがパン耳揚げを食べ終えたことでなし崩し的に話が終わる。

 

「じゃ、ロード君、とりあえず広場に出て特売とかイベント情報見てからアリーナ行こっか?」

 

「アリーナですか!?早く行きましょう!!」

 

「波羅、落ち着け。じゃあとりあえず洗いもんだけ片付けるから準備をしといてくれ。俺は朝飯前にやってっから。」

 

「うん、分かった。行くよ、ジャス君。」

 

『あぁ、すぐに行く。…………ロード、いつも済まないな。』

 

「では僕達も行きましょうか、めぐめぐ。」

 

『あー!ハービィ待ってよ~!!』

 

「コクリコはここで待っててくれる?」

 

『うん!おにいちゃんといっしょなら、さみしくないよ!』

 

うん、今日も可愛いいい子だ。

 

洗い物をしている間、一度だけセナが話しかけてきた。

 

『なァ?お前にとって、僕はなんなんだァ?』

 

「ん?そりゃコクリコを守るための同盟相手だろ?俺には力がないし、お前には人の行動原理が分からない。助け合ってる関係だろ?俺達は。」

 

『………………そうかァ。』

 

「??変なやつ。」

 

セナがなんでこんなことを聞いてきたのか、この時俺はまだ分かってはいなかった。




いやぁ……更新遅くてすみませんねぇ…………
たぶんあと2.3ヶ月で更新早くなると思います…………
更新ガンガン出来るようになったら毎日2話更新とかやりたいですねぇ、はい、ええ、ほんとに……
本作、第八章で終わる予定で、ネタや進め方とか叩き台自体は全部出来てます。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。二章入ってるのに全然二章の内容行ってなくてすみません……なるたけ早く更新できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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三バカが来たぞっ!

と、いうわけでとりあえず広場に出てきた。

まぁ、一面全部手抜きかってくらい真っ白なんだけどな。噴水すらねぇ。

 

じゃあ何があるかって、でっかい掲示板がいくつかと伝言板みたいなでかい板だけだな。

 

「ロード君、【伝言板】ってもう死語だよ?」

 

え?そうなのか?

 

「あぁ、そうだそ。もうどこの駅にも無くなったからな。」

 

楼閣と話してたらなんか知らん奴が割って入ってきた。

えっと……お前誰?

 

『ぶっははははははは!!大将、お前ロリコンの王に忘れられてやんの!!』

 

「うっせぇわ!!あん時はマスク付けてたから分かってねぇだけだろ!!なぁ?そうだよな?なぁ!?」

 

13と見知らぬ男に話しかけられた。いや、マジでコイツ誰?

 

「おいおいロリコンの王、そりゃ酷くね?昨日バトルしたばっかなんだから若干わかってもよぉ?」

 

『忘れるとかありえないんだけど切っていい?』

 

そこにノホタンとまた男。昨日バトルしたばっかだって?いや、マジでお前ら初見なんだけど

 

楼閣と波羅は分かるか?

 

「いやぁ……私もちょっとわかんないかな。」

 

「早くアリーナ行きませんか?どうせ昨日の人だかりの中の一人でしょう、モブっぽいですし。」

 

「「なん…だと…!?」」

 

『ぶっははははははは!!マジで忘れられてんじゃねぇか!!やっべぇ、大将マジで影薄いなwwwwww』

 

いや、なに言ってんだこいつら……?

 

『す、すみません!少し遅れました……』

 

ん?ジャンヌも来たな。13にノホにジャンヌ…………どっかであった組み合わせみたいな……

 

「ジャンヌちゃん待ってェェエエ工!!まだ僕のジャンヌちゃん指数が溜まりきってないのに先に行かないでよぉぉおおおお!!ジャンヌちゃんジャンヌちゃん!!hshs(*´Д`≡´Д`*)hshs」

 

『ち、近寄らないで!!』

 

「この気持ち悪さ、お前ら昨日の三バカか!!」

 

「「その呼び方と思い出し方に色々と物申したいなぁ!?」」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

いや、マジでこいつらパッと見では分からんわ……

 

「ひでぇな!?お前の中で俺達の位置づけはどんな感じなんだよ!?」

 

「ん?【一回限りの閑話だけで出てくる使い捨てモブ】」

 

「くっそひでぇ!!」

 

『はははははははははは!!た、大将、これ以上笑ったらオレ、窒息しちまうwwwwwひぃーははっ!!マジで死ぬマジで死ぬwww』

 

えー……でもジャンヌ使い(あのヘンタイ)はともかくとして、お前ら頭に残りにくいじゃん?キャラ弱いし。

 

「ひでぇ!?ノホタン!コイツ切っちゃっていいぞ!!」

 

『え、いいの?(ギャリギャリギャリ)』

 

「え、待って待って、なんでチェーンソー持ってこっちににじり寄ってくるの?え、待って!マジで待っ……ンア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

あ、このアホさは間違いなさそうだな。

 

「そんなことはいいからさ、そろそろ本題に入ってくれないかな?私達もアリーナに行きたいわけだし。」

 

楼閣が口を挟んできた。

そう言えばそうだな。元々アリーナに行くために出てきたわけだし、早くしないとコクリコも暇するしな。

 

「あぁ、そうか。すまねぇな。じゃあまずは自己紹介からさせてもらおう。」

 

「あ、いや、それは要らない。お前らにはモブで終わってもらう。」

 

準レギュラーとか要らねぇ。だって乱数はセナのキャラでさえ忘れかけたんだぜ?覚えてらんねぇって。

 

「いやいやいやいや!?ならこんなに尺取らねぇって!!」

 

『二人ともメタ発言をするんじゃない……頼むから…………』

 

ジャスが困ってるな。まぁいい、とりあえず聞いてやろう、言え。

 

「はぁ……まぁ聞いてくれるならいいけどさ……俺はkeyってプレイヤーネームでやってる。一応アンタらと同じように二つ名持ちだ。二つ名は【ゾンビ】」

 

あぁ、鍵を部屋の中に忘れて入れなくなったからお前はその名前に変えた、と?

 

「違ぇわ!!」

 

『やっべぇwwwロリコンの王、お前冴えてるわwww最高だもう最高www大将、初日にやらかしてるもんなwww』

 

「お・ま・え・の・せ・い・で・な!!」

 

「いやいや、ロリコンの王、keyはすげえんだぞ?【ゾンビ】って名前だって、Cで三対一になった時に攻撃くらいまくってもひるまずに攻撃して、あと一撃で倒されるって時にオルレンで二人溶かして全回復した話から来てるからな。」

 

おぉ、そうなのか。で、お前は……確か昨日の女装家。

 

「誰が女装家だ!!」

 

ん?どうした?頭から血を流して?【女装家の流血術式】か?

 

「違ぇわ!!ノホタンに切られてんだよ!見てなかったのか!?あと俺の名前はレイアだ!二つ名は【ハメ殺し(引っ張りハンティング)】!!」

 

レイヤー?

 

「レ・イ・ア!!」

 

なんだよ、そんなにキレるなよ。今度メイド服持ってってやるから。

 

「だから俺は女装家でもレイヤーでもねぇ!!」

 

で?最後のジャンヌ使い(ヘンタイ)は?

 

「…………そういやアイツどこだ?」

 

「ほんとだ、いねぇな。おぉい!!PR~?」

 

「ジャンヌちゃんジャンヌちゃん!!僕にジャンヌちゃんを充電させておくれよ!!」

 

『いやあああああああ!!後ろから引っ付かないでください!!マリー!レオン!助けてくださいぃぃぃい!?』

 

いや、もうマジで変態だな……

こんなのコクリコに見せられん!セナ、目を抑えといてくれ。

 

『いや、そうしようと思ったんだけどなァ……』

 

『あー!あの時のおねえちゃんだ~!!』

 

『…………あ、あの時の。』

 

『おねえちゃん!あそんであそんで~♪』

 

『う……あんまり引っ付かないで……はぁ、子供は苦手…………』

 

『あんなに楽しそうなコクリコちゃんに水を刺せと言うのかァ?』

 

うん、ならいいや。変態の変態による変態行為(ジャンヌとヘンタイのあの惨状)を見てないならなんでもいい。

 

「おい、PR!!お前がロリコンの王に謝っとこうって言い出したんだろうが!!ジャンヌと遊んでねぇでこっち来い!」

 

『これが遊んでいるように見えますか!?早く助けてください!!』

 

でも助けてくれそうな相手がいてジャンヌの目がちょっと輝いた。

 

「えぇ……でも……」

 

「後でやりゃいいから!」

 

あ、ジャンヌの目が死んだ。

 

「じゃあすぐ行く!!……や、一日ぶりですね。」

 

お前も波羅と同じく豹変タイプかよ……

波羅、キャラが若干被ったからってそんな敵意むき出しで睨むな。

 

「おぉ、そうだな。で、お前なんて名前なんだ?結局お前の名前分かんねえからな。」

 

「僕はPRHS。アルファベットで読みにくいからみんなはPRって呼んでる。二つ名は【不滅の不死(ゴースト)】たぶん体力が多すぎて殴ってる実感が湧かない所からだと思う。」

 

なるほどな、で、名前の意味は?

 

「ジャンヌちゃんPR(ぺろぺろ)HS(ハスハス)だよ?」

 

うん、聞かなきゃ良かった。

あ、波羅もちょっと引いてるわ。でもな?豹変後のベクトルが違うだけでお前も同じくゲテモノだからな?

 

「それで、話なんですけど…………」

 

「やっと見つけました!!【ロリコンの王】!!」

 

本題に入ろうというちょうどその時、闖入者が現れた。




今回、少し少ないですが、登下校の時間に気分転換で書いていたら書き上がったので投稿します。

いつも大まかな部分しか決まってなくて、どうこうして一話を3000字前後くらいに(しようと)していますが、今回は考えてたセリフを全部入れたら自然といい分量になったので早いです。

…………皆さんの温かい声援を胸にこれからも頑張りますので、どうか見捨てないでください(小声)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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マジで今日はなんなんだ!?

開けましておめでとうございます。
新年一発目、最速更新でございます。

今年も拙作、ロリ#コンパスを
よろしくお願い
出来ましたら
それはとっても素敵だなぁって……(弱気か)


「やっと見つけました!【ロリコンの王】!!」

 

本題に入ろうという時、闖入者が現れた。

 

オーケー、【やっと見つけた】ってことは#コンパスの世界(こっち)に来てからずっと、もしくはリプレイだかなんかで俺を見つけてからずっと俺を探してたわけだ。

 

昔のギルメンか?俺ギルド入ってなかったし、そもそもこっちのあだ名で呼ばんだろ。

 

幼なじみが茶化すためにこっちのあだ名で呼んだとかか?

残念でしたぁ!!俺は幼なじみ全員に忘れられてるからその可能性はゼロですぅ〜!!

 

『それ、言ってて虚しくならないかァ?』

 

セナ、黙れ♡

 

と、なると……

 

「え、誰?え、え、待って、お前マジで誰?」

 

なに?今日は(一方的な)知り合いと会う日なの?さらにこれ以上キャラが増えるの?

 

「ロード君、キャラとか言わないの。」

 

「やっと……やっと見つけましたよ!!【ロリコンの王】!!」

 

だから誰だよお前……三バカの時もだけど、俺、お前のこと知らねぇよ……

 

「今日こそはあなたの強さについて教えてもらうんですから!!」

 

「いや、今俺達がロリコンの王と話してんだけど?順番位は守ってくれよ」

 

keyが割り込む。そういやPR(ヘンタイ)が俺になんか言いに来たんだっけ?

楼閣と波羅がアリーナ行くの待ってるから早くしてくれ。

 

「あなたは確か……【黄泉孵り(ゾンビ)】のkeyさんでしたね。噂はかねがね聞いております。」

 

「…………へぇ?俺たちのことも知ってるぞってか?確か、強くなりたいんだっけか?ならなんでわざわざロリコンの王なんだよ?」

 

「あなたに言うほどのことでもありませんよ。……一つ挙げろというならば【ロールが同じ】ことでしょうか?」

 

「ほう?スプリンターは大抵が耐久そこそこあるのに、わざわざ体力倍率最低のコクリコ使い(ロリコンの王)に教えを乞うのか?攻撃得意なコクリコと防衛主体になりがちなスプリンターでデッキはかなり変わるってのに?」

 

「それこそ、あなたの知ったことではないでしょう?僕には僕の考えがあるんですよ。」

 

なんか二人がヒートアップしてきたな。

じゃ、俺達はアリーナ行くからあとはお二人で……

 

「うぉい!?当事者がどこ行こうとしてんだ!?」

 

「そうですよ!!まだ何も解決してませんからね!?」

 

ちっ、バレたか。

 

「酷いじゃないですか!!僕も【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルメンなのに!!」

 

……………………………………………………………………………………………………………………は?

 

「…………え?ロリコンの王、マジで?」

 

いやいやいやいや!?俺知らねぇよ!?だって【孤独者達の宴(ロンリネス)】って俺と波羅と楼閣の三人ギルドだったんだからな!?

 

キィ!キィいるか!?コイツはマジでウチのメンバーなのか!?

 

《確認いたします…………昨日の夜中にアクセスが1件ありましたので、恐らくその時に加盟したのかと。》

 

なんだと!?楼閣!!お前なんで誰でも加入可にしてんだ!!

 

「え!?私ちゃんと【承認式】にしたって………………アレ!?【誰でも加入可】になってる!?」

 

じゃあアレだ!今からでも強制除名だ!!

 

「そうだね、よくわかんないのに入られても…………って、強制除名出来ない!?なんで!?」

 

『2メイカニュウトトモニツイカサレルセツビヲカンタンニハニュウシュサセナイタメデス。ナンドモハイリナオサレマスト、データガオオキクナリスギマスノデ。』

 

なるほどな、出入りしまくって施設増やすのを先に潰してるわけか。

 

『ハイ。ギルドカメイ、ギルドソウリツノサイニチュウイガキトシテデテイタハズデスガ?』

 

マジかよ、全く見てなかったぞ……

ってかVoidollか。いつからそこに……つうかここに来て初めて見たな。Voidoll、結構使用率高かったと思うんだが。

あ、アレか。GMの補助キャラだからバトルには参加しないとかか?

 

「あ、いえ、僕のヒーローですよ。で、たしかVoidoll使いは僕だけだったと思います。」

 

えー……結局みんなアタッカー、ガンナー使ってんのか……とか思ってたらkeyが過剰に反応した。

 

「じゃ、じゃあお前があの【害悪機械(カタコトマシーン)】のドクか!?」

 

おぉっと、何やら不穏当な二つ名じゃないか。いやでも、Voidoll使いなんて掃いてすてるほどいるんだから実は他にもVoidoll使いいるんj……

 

「……えぇ、それが僕です。なんたってVoidoll使いは僕一人ですから。」

 

マジかよ……いや、他にも多分いるだろ?

 

「これを見てください。これがここに来た人のヒーローの数を出してるんですけど……ほら、コクリコ、ジャスティス、めぐめぐ、グスタフ、ヴィオレッタ、そしてVoidollの欄に1としか書かれてないでしょう?」

 

マジだ……じゃあお前がその【害悪機械(カタコトマシーン)】ってやつなわけだ……

 

「……………………えぇ、非常に不本意ですがね。」

 

むしろ、どうやったらVoidollで【害悪機械(カタコトマシーン)】とか呼ばれるようになるんだよ……妨害とかポータル維持主体だからなかなかそんなふうに呼ばれないだろ……

 

「そりゃそうも呼ばれるだろ!ここに来てから今までのバトルで全敗(・・)してりゃな!」

 

全敗…………?お前、ここに来てから全部のバトルで負けてんの?

 

「あぁそうだぜロリコンの王!あの有名な二固定(タッグ)の【高低熱処理(HAラバーズ)】でも負けてんだからな!」

 

「そ、それはっ!」

 

「ルチアーノのHSでやられたからしょうがないってか!?【全員集合】を避けようとして結局まといにも当てたのは誰だと思ってんだ!?」

 

『なんだか不穏だなァ?止めなくていいのかァ?』

 

ま、もうちょい様子見だろうな。

 

『…………そうかァ。まァ僕としては美味しいからいいんだけどなァ。』

 

「で、ですから僕も【孤独者達の宴(ロンリネス)】の皆さんに教えを請おうとしてるんです!なんたって【不退の不死(カーディナル)】の楼閣さんだって最初は負け続きだったらしいですし、【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】の波羅渡さんもデッキは戦犯ものだって聞きましたし!」

 

「【不退の不死(カーディナル)】は元からキル稼げてたし、【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】だって固定組んで【不退の不死(カーディナル)】に回復任せてっから問題ねぇんだよ!ハナッから味方を当てにしてるお前とは、二人とも全然ちげぇんだってなんで……」

 

「あー、ハイハイ、二人ともそこまでな。」

 

「ロリコンの王っ!」

 

「key、お前落ち着けよ。どうせウチのギルドに入っちまったんだ。脱退出来ねぇんだから、相談くらいのってやらねぇとだろ?」

 

「……………………そりゃそうかもしんねぇけどよ!!」

 

「key、これは俺の問題だ。ギルドの初期設定を確認せずに楼閣に任せっきりにした結果がこれだ。自分のケツくらい自分で拭かせろ。」

 

「あ、あぁ。お前がそう言うならいいけどよ……でも、一段落ついたら俺たちの話、聞いてくれよ?」

 

「あぁ、もちろんだ。」

 

とりあえずkeyを黙らせる。バトルの最後もそうだったけど、結構コイツは他人を慮るんだよな。

 

さて、じゃあ次にしなきゃなんねぇのは……

 

「楼閣、波羅」

 

「なんだい?ロード君?」

 

「なんですか、ボス?」

 

「ちょっとめんどいことになった。それもこれも、もっと上手くやれなかった俺のせいだ。すまん。」

 

禍根を残すのは良くない。とりあえずここは俺だけで強引に進めるんじゃなくて、一応二人にも言っておくべきだろう。

 

「いいよ、別に。私の確認ミスでもあるんだしね。」

 

「ボスのすることに、僕が異論を挟むわけがありませんよ。」

 

そんな言葉が返ってきた。はは、心配してた俺がバカみてぇ。

なら、コイツの抱えてる問題(バクダン)だって、たとえどんな問題でも解決してやるよ。

 

「んで?【害悪機械(カタコトマシーン)】のドクさんよ?お前のお前のデッキとやらを教えてくれ。」

 

「あ、あぁ、はい。ロリコンの王とは一度マッチングした事あるから分かってると思いますが、【ドア】【フルーク】【電撃ロボ】【オルレン】ですよ。」

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?

 

「あぁぁ…………」

 

「うわぁ…………」

 

「えぇぇ…………」

 

「嘘だろ…………」

 

「そいつぁ………」

 

全員が全員驚いている、ってか慄いてる。

 

よし、じゃあ俺が全員の意見を代弁してやろう。

あぁ、代弁してやるとも。画面の前のアンタらの分もな。

 

「クソデッキじゃねぇか!!」




さてさて、新年一発目最速更新ですが、皆さん覚えていますでしょうか?

そう!ロリコンの王の初陣に登場したあのネタ野郎、再登場です!!
これは描き始めた当初から決めていてですね、ここまで来るのが本当になg(途中で勝手に追加しただけだろうが)て、天さん!!何暴露してやがってんですか!!

…………えぇっと……はい。新キャラ追加何人か考えた時、ヴィオレッタの次に出てきました。で、「もう出してるアイツが使える!!」となって書きました。ネタデッキ、地雷デッキをロード君が更生、もとい公正させる回を書きたかったんです…………!!

なので、「Voidollバトアリでよく見るよ」とか「Voidollの使用率、めちゃくちゃ高いよ」とか言わないでください……!
その辺サラッと読んでおいてくれれば有難いです……もう構成最後まで作っちゃってるので……
もっと言うと最終話だけはもう書いてしまってるので……

…………皆さんが優しくしてくれるといいな。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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理由を!理由をプリーズ!!

「クソデッキじゃねぇか!!」

 

おいおいなんだよそのデッキは!?

 

「えぇ!?いろんな人に聞いてデッキ構成したのに!?」

 

むしろ色んなやつに聞いてそれかよ!!

まず、【電撃ロボ】はなんで入れた!?

 

「え、それはだって、皆さん口を揃えて「Voidollのデッキ?まぁ【電撃ロボ】が定番じゃね?」って言ってますし……」

 

次!【フルーク】は!?

 

「そ、それは「あ、でもキルボイドやるなら【フルカノ】は必須だぞ!!」って言われたので……」

 

オーケーオーケー。なんでカノーネ抜いたのかはこの際聞かねぇ。

次だ!【ドア】はなんで入れた!?

 

「ドアですか……「Voidollのデッキ?耐久高いからタンクみたいにドアで飛んでも、隠しドア決めてもいいから方向性が決まってないならドアとりあえず入れといて、後で変えるとかありだな。」って言われたので入れてます。」

 

そうだな。耐久あるなら(・・・・・・)ドアボイドもありだな。

………………………………で、だ。正直無視しときたいが、【オルレン】は?どう考えても誰も勧めねぇだろ?

 

「あ、【オルレン】についてはYouTubeからです。とある方がジャンヌに【ぶれどら】を積んで、味方の狩り残しを綺麗に処理してましたので、貫通積むのもありかと思いました。ダウンも取れますのでHSと合わせても強いかと思いました。」

 

ほうほう。で?人に言われたのを全部乗っけした、と?

 

「はい。皆さんVoidollでの戦いは僕より詳しいはずなので、酷いことにはならないだろうと思いました。」

 

「そりゃそうだろうな、全員、回復入れない奴がいるとか考えてもねぇだろうからなぁ!!」

 

回復なしでどうやって立ち回りしようとしてたんだよお前は!!

 

「え?でも【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】も【黄泉孵り(ゾンビ)】も回復入れてませんよね?」

 

波羅は楼閣と固定組むから回復手段はあるんだっての!あと波羅はアタマおかしいの!だから仕方がないの!!

 

そんでkeyはサーティーンだから敵倒したりHS使えば回復出来るから殲滅重視なだけだ!!

 

耐久重視すんのに回復積まねぇバカがどこにいる!?

 

「いや……すまん、ロリコンの王……俺もさすがにここまで酷いデッキだとは思ってなかった……」

 

『こいつァ……まぁ、なんだ、うん。頑張れ』

 

「私もだよ……いよいよ何したいのか分からないよ……ここまで酷いんだったら私もロード君に許可出してないよ……」

 

『骨の折れそうなやつがきたな……』

 

「コイツのアタマ、世紀末ヒャッハーしてんのか……?」

 

『ダメだよそんなんじゃ全ゼンキレないヨ』

 

「…………僕は初心者ですし、Voidollも所持していませんでしたから分からないんですが……そんなに酷いんですか?」

 

『ハービィはアタマおかしくないもん!…………ない、よね?ハービィ?』

 

「ジャンヌちゃんジャンヌちゃん!!なんか向こうで話をしてるから今のうちにボクにジャンヌちゃんを補給させておくれよ!!(´Д`三´Д`*)hshs」

 

『いやあああああああ!!こっち来ないでください!!いやあああああああ!!いやぁぁぁ……い、やぁぁぁ…………』

 

ほら、ここにいる全員戸惑って…………おいPR、お前こんな時までナニしてんだ。

 

「ん?ジャンヌちゃんの補給だよ?」

 

『たす……けて…………』

 

「………………………………………………………………ドク」

 

「ロード君が諦めた!?」

 

楼閣、うるさいぞ。

 

「は、はい!!なんでしょう!?」

 

「今から時間あるよな?……タイマンカスタムやるぞ?」

 

こういう時はアレだ。困った時の力技大作戦(タイマンカスタム)だな。

 

「え、でも前戦った時と同じように、僕では【ロリコンの王】には勝てませんよ?」

 

あぁ、あぁあぁ、分かってるとも。だが今回は耐久勝負だ。

 

「楼閣が相手する。」

 

「………………え?え、え、えぇ!?私なの!?え、ちょっと待ってよロード君!」

 

「試合時間は5分。この間にCポータルを取ってた方が勝ち。害ドールやるならジャスティスくらい剥がせ。」

 

「待って待って、ねぇ?私の話を聞いてね?」

 

「はい、分かりました。【不退の不死(カーディナル)】よりも先にポータルを取って守ればいいんですね?」

 

やけに自信満々にドクは言ってきた。

全敗してるのにその自信はどこから湧いてくるのかね?

 

「あぁ、やれるもんならな。」

 

俺はあえて鷹揚に頷く。

 

「だからさぁ!肝心の私の話を聞いてないよねぇ!?」

 

楼閣、うるさいぞ。

 

「ド腐れ外道だねぇ!?」

 

楼閣、文句言うな。

お前だってそろそろ自分のデッキ、久しぶりに使いたいんだろ?ホントは持続が積みたくて、バトルに行くたびに即時のタイミングミスらないかヒヤヒヤしてるくせに。

 

「…………知ってたのかい?」

 

いや?カマかけただけ。

けど、そもそもジャスティスに即時積んでる奴なんてほぼほぼいねぇし、波羅のためだけに全体回復二枚にしてんだろ?

 

「バレバレだったんだねぇ」

 

ま、そりゃなぁ。keyとレイア相手に耐久して溶けた時、結構悔しそうだったもんな。持続だったら溶けてない自信、あったんだろ?

 

「……確信ではないけどねぇ。バリア解除する時間が少なく、短く済むし、即時ってタイミングが難しいからねぇ…………」

 

ま、今回はせいぜい暴れてくれや。【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルメン名乗るのが、そう簡単じゃないって新入り(ドク)に教えてやれ。

 

「…………じゃ、そうさせて貰おうかねぇ。ドク君、【孤独者達の宴(ロンリネス)】で一番目立たない私だけど、精一杯相手させて貰うよ?」

 

「えぇ、よろしくお願いします。…………このバトルで、絶対にロリコンの王に認めてもらいますから……」

 

「何か言ったかい?」

 

「いえいえ、何も?さ、行きましょうか。」

 

あ、そうだ、key達も見てくか?

 

「いや、そういうことなら俺らはアリーナ行くわ。…………手の内ってのはあんまり晒さない方がいいぜ?」

 

それに、とkeyは続ける。

 

「早いとこアイツら何とかしないとだしな……」

 

「ジャンヌちゃんのほっぺたはぷにぷにだねぇ!!あぁあぁ!!すべすべしてるしいい匂いなんじゃぁ!!」

 

『誰……か………………助…………け(ここからは声が掠れていて聞こえない』

 

ホント、お前はどうしようもねぇなぁPR(ヘンタイ)!!




はい、何となくバトル回を次回に回したかったので短めですがここで終わりです。

次回の更新はほんとにかなり遅くなります。この終わり方でひっぱってしまうことをお許しください。

(天の声)気合い出せよ

いや、天さん?私とてリアルが今修羅場ってますし……

(天の声)けどな?この作品を楽しみにしてくれてる読者さんやこの作品しか読んでないなんていう読者さんもいるんだぞ?

……そういう人のために書け、と?

(天の声)いや、そういう人達はこの作品がつまらんと思ったら他のに行くから死ぬ気で書いてろっていう忠告だな。

グフッ!?

(天の声)そういえば、この前しおりが二件減ったそうじゃないか

( ゚∀゚)・∵. ガハッ!!

(天の声)読者が離れていってるなぁ?【孤独者達の宴(ロンリネス)】が三人ギルドじゃなくなったからかなぁ!!(悪ノリ)

(動いていない、ただの屍のようだ)

(天の声)ん?乱数?おーい、ちょっと?

まだ死なんぞぉ!!
UA見たら、三バカが変な人気出てたから三バカで人気を持ち直すぞぉ!!(涙目)
ジャンヌ、私の書くPRのヘンタイさについてくるんだよ!!

ではではっ!!今回はこの辺で筆を置かせていただきますっ!!


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そこにはきっと、隠れた闇が

と、いうことで楼閣とドクのタイマンカスタムが始まろうとしている。

ちなみに、徹底的に思い知らせてやろうということで時間は5分だ。

とはいえ、5分間見てるだけというのも暇なので、

 

『お兄ちゃん、コクリコ、ポップコーンが食べたいなぁ〜』

 

『ハービィー!!めぐめぐも!めぐめぐもこのイチゴ味のチュロス食べたい!!』

 

「ちょっと!見世物じゃないんだよ!?」

 

……ご覧の通り、何気に体のいい娯楽扱いになっている。

 

「ボス、そういえばなんですが、楼閣さんのタイマンカスタム見るのって何気に初めてじゃないですか?」

 

そうなんだよな。だいたい俺らでカスタムやる時って楼閣の全体回復のタイミング見るためだから波羅と楼閣の二人組(ツーマンセル)なんだよな。

 

だから【花火】積んだ楼閣とか想像出来ん訳だが。

……ってかそもそもアイツ、何積むんだろ?

 

「ちょっとロード君!?聞いてる!?コクリコちゃんにポップコーンあげるとか絶対やめてね!?」

 

『お兄ちゃん、コクリコね、ポップコーンだけでいいんだぁ……(上目遣い)』

 

グフッ!?これはなかなかに効く攻撃だぜ……

しかし、[ポップコーンだけでいい]などと言ったところでそんなものを許可する訳にはいかんのだよ……

 

『なんだとォ!?お前、僕を裏切る気かァ!!』

 

『お兄ちゃん……』

 

「ロード君が私の言うことを優先してくれるの、何気に初めてじゃない!?ロードがやっと……やっと一般常識を優先してくれるように……!」

 

楼閣がなんか言ってやがる。すっげぇ期待に満ちた目でこっち見てくるってことは碌な事じゃないだろうな。

まぁ、安定の無視なんですけど。

 

「コクリコ、[ポップコーンだけでいい]とか、俺は絶対に許可しない。だって……」

 

『だって……?』

 

あぁもう、目に涙溜めてキラキラおめめでこっちみてくるこの子可愛すぎません?

天使だ、天使がここにいる。

 

神がここに来てうちの天使(コクリコ)を連れ去ろうとしても絶対に渡してやらねぇぞ、GMでも渡してやんねぇからな!!

 

「ポップコーンだけとか喉が乾いてしょうがないでしょうが!!」

 

喉カラッカラになるんだよ!?コクリコ、その辺分かってる!?ポップコーンだけとか自殺行為だよ!俺はそんなこと、絶対に許可しないに決まってるでしょうが!!

ホントにもう!オレンジジュースとかも付けなさい!!

 

『わぁい!お兄ちゃん、ありがとー!!』

 

「なん……だと……!?」

 

『さすがお前だと言うべきか……まァ、コクリコちゃんのためなら僕は全く構わないがなァ。』

 

そうと決まれば購入っと。

キィ、よろしく。

 

《丸投げですか……まぁマスターらしいですが》

 

うっせぇ、それがお前の仕事だろうが。

 

そんなこんなしてるとポップコーンとオレンジジュースが出てきた。さすがキィ、仕事が早いね!

 

『わぁい!お兄ちゃんありがと〜!』

 

「楼閣ァ!!うちのコクリコが天使なんだがどうしよう!?」

 

「それ、そんな叫んでまで言うべきことなの!?ねぇ!?そんなに臆面もなく叫ぶようなことなの?!そして結局買ってるし!!」

 

何を言ってんだ馬鹿なことを!!コクリコが可愛い以上に言うべきことなどあるだろうか?否!断じて否ァ!!

 

「めぐめぐ、一本だけですからね?」

 

『わぁい!ハービィーありがと!!』

 

「結局見世物になるんだね……」

 

ははははははははははははは、と楼閣が渇いた笑い声をあげた。

 

「あのぉ……楼閣さん?いつもこんな感じなんですか?」

 

「ははは……うん?いや、いつもはこんなんじゃないよ…………もうちょっと酷いんだよ……」

 

「?「いつもはこんなんじゃない」の後、何か言いました?」

 

「え?いやいや、気のせいじゃないかな?」

 

「ドクも楼閣も、無駄話してんじゃねぇよ」

 

「誰のせいだと思ってるのかねぇ!?」

 

しらね。

 

ん?そうだキィ、今回のバトルの司会って、この場合どっちになるんだ?

 

《今回は恐らく楼閣様のアバターになるかと》

 

なるほどな、楼閣のアバターってどんななんだろうな。そういえば出てきたことないからちょっと楽しみだ。

 

『ポップコーンおいしいよ!お兄ちゃんも食べて食べて〜!』

 

あーもう、うちの子ホントに可愛い。もちろんこの量のポップコーンをコクリコが一人で食べるとか無理なので俺も食べてくよ。

 

「あ、ボス、そろそろ始まりますよ。」

 

call of justiceが流れ始めたのを聞いて波羅が呼びかけてくれる。

あんな事をしなければ良い奴だ。

あんな事をしなければ良い奴だ。

大事なことなので二回言いました。ここ、テスト出ません。

 

「楼閣さんのアバターってどんな感じなんでしょうね?」

 

お、波羅もやっぱそこ気になるか。

 

「えぇ、それはもちろん。ボスと僕のアバターに関係があったみたいに、楼閣さんのアバターにも関係があるかもしれないじゃないですか。」

 

いやいや、そんな偶然何度もないだろ。

 

《そろそろ始まりますよ》

 

キィの呼びかけで俺たちは意識をフィールドに移す。今回のフィールドは【東西たかさん広場】

【たかさん】とか【たかさん広場】って略されるな。

 

なんでここかって言うと、C取り合戦するんだからやっぱ最初のドア性能は見とかなきゃってことで、そこそこ飛ぶのが難しい【たかさん】にした。

 

【ちゅら】だと最初に移動しなきゃだしドクが初手ちと有利になる。【ライブステージ】は戻ってくるまでに時間がかかりすぎて見てるこっちの気が萎えてくるし、【立体交差】は、まぁ論外として、飛びにくいステージに選ばれたのは【たかさん】でした。

 

って言ってる間に始まるな。

 

《それじゃあ二人ともっ!準備はいいカナ☆?》

 

…………ん?なんだこの軽いノリの奴は?

 

《それじゃあ、バトル☆はっじまっる《ベガ》よおおおおおお姉ちゃん!?なんでここにいるのっ!?》

 

……キィ、もしかしてコイツって……

 

《妹です》

 

マジかよ……マジでそこにも繋がりあるのかよ……

 

《おおおおおお姉ちゃん?!わたしに何か用かなっ!?》

 

《そうですか、貴女は楼閣様のアバターでしたか》

 

《そそそそ、そうだよ!!マスターはすっごく親切で、わたしが間違えたこととかすぐに教えてくれるんだよ!!》

 

《つまり、楼閣様のお手を煩わせている、と?》

 

《しまった地雷だった!?》

 

《あれほどきちんとしなさいと教えたのに、貴女はまだそんな振る舞いを直さないのですね》

 

《うわぁ怒ってる!!お姉ちゃんが超怒ってる!!》

 

あぁ、分かった。このアバター、確か【ベガ】って言ったか?コイツ、アホの子だ。

 

《ベガ、姉さまの前だけではきちんとしてなさいと言ったではないですか……》

 

《えぇ!?お兄ちゃんもいるの!?なんでなんで〜!?》

 

《デネブ、貴方まで出てきては話が進まないじゃありませんか》

 

弟の名前は【デネブ】か、【ベガ】と【デネブ】だから、名前の由来は夏の大三角形とかかな?

……ん?そうなると【アルタイル】がいないな…………もしかして、キィってもともと名前あったとかか?

三姉弟だからキィって名前あってもおかしくないよな?

 

《全く貴方達は…………ベガ、今度はキチンと教えた通りにやりなさい》

 

《はい!!がってんです、今すぐに!!》

 

こんなアバターもいるんだな、驚く程残念仕様じゃねぇか。……なんか出てきて早々にベガに残念属性が付いたな、楼閣と同じか「ちょっとロード君!?」アバターは主人と似た奴が配置されるのか?デネブは豹変属性が若干だけあるし、やっぱそうなのかね?

 

《それではみなさんっ!準備はよろしいでしょうか☆?》

 

「やっと始まる…………何このくだり……」

 

「楼閣さん……さっき言いかけたのは、いつもはここまで酷いってことだったんですね……?」

 

「正解だよ………………!!」

 

『ん?なんだ?やっと始まるのか?』

 

『ニンゲンハムダガスキ。シッテイマシタヨ。』

 

ちなみに待機時間中、voidollはシステムいじってて、ジャスティスは瞑想してた。

お前ら大概自由だな

 

《バトルの始まりですっ☆》

 

『ヌルい!俺が行くまで死ぬなぁ!!』

 

『オソイデスネ』

 

やっと始まったか……

 

「誰のせいかと思ってるのかねぇ!?」

 

おい楼閣、集中しろよ。

 

とりあえず初手ドア飛びは楼閣の勝ち……っていうか

 

「ボイちゃん、すぐにCに行きますよ!」

 

『ワカッテイマス』

 

ドクはドアミスしてBに飛んでた。

まぁ【たかさん】なら初手はだいたいBだからクセかもしれないが、制圧までしてしまってるし、ただの焦った上でのミスなら例えば【グレウォ】とかのステージで致命傷になる。

 

だが恐らく……

 

「彼、恐らくドア向いてませんね。」

 

「波羅もそう思うか?」

 

「えぇ、競り勝つことだけを考えすぎて狙いが雑になってます。対する楼閣さんは【イェーガー】で発動時間を短縮してるので、もう制圧を終えていますし。」

 

その言葉通り、ドクがドアミスして慌てている間に、ジャスティスの制圧モーションが終わっていて、ジャスティスが棒立ち状態だった。

 

ジャスティスがvoidollを煽るようにBポータルからその姿が見えるように立っている。

 

楼閣……お前意外と悪趣味なんだな。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【楼閣視点】

 

「ジャスくんジャスくん、私なんか理由もなく酷いこと言われてる気がするよ……」

 

『楼閣、それは後で問い詰めるとして、集中しろ。ここは戦場だぞ?』

 

そりゃぁ……まぁ、そうなんだけどねぇ……

 

『特に相手には【電撃ロボ】があるんだ。スタンしてる間に取り返されることを警戒しておけ。あういう輩は、一度でもポータルを取れたりすると『自分は間違っていない』とか言い出すからな。』

 

「あぁ、ジャスくん、それは気にしなくていいよ。もう対策してるし。」

 

その言葉を聞いて、ジャスティスが驚いたように楼閣を見る。

 

『ろ、楼閣!【イェーガー】がないのにそれはどういう……』

 

「ジャスくん!……来るよ?」

 

楼閣は半ば強引に話を終わらせたが、voidollがダッシュでCポータルに向かってきていたのも事実、ジャスティスも納得はいかないが理解はしたというような表情でバトルに備えていた。

 

「ボイちゃん【電撃】!!」

 

『セッショクキンシ』

 

『んんっ……ングゥ……』

 

voidollの【電撃ロボ】でジャスティスが気絶した。

しかし

 

「まぁ、対策は済んでるんだよ。」

 

「なるほどな……楼閣はこれも狙ってたわけか……」

 

「さすが楼閣さん、初手のポータル争いに長けていますね。」

 

ロードと波羅渡が絶賛したように、スタンで飛ばされる先をポータルキーに合わせることで、ポータルキーに引っかかり、制圧出来ないようにしていた。

 

「ボイちゃん、続けて【オルレン】弾きますよ!」

 

『スベテヲフキトバシマス』

 

ドクは続けて【オールレンジアタック】で気絶しているジャスティスを吹き飛ばした。

だが

 

「その頃には、私のジャスくんなら立ち直ってるんだよねぇ。【生徒会】」

 

『まだまだ見立てが甘いぞっ!でやああああああああぁぁぁ!!打ち砕く!!このまま寝ていろ。』

 

『スリープモード、ニ……』

 

《敵を倒しましたっ☆!》

 

スタンから立ち直ったジャスティスが【生徒会】でvoidollを倒していた。

 

「いつもは【メカ犯】なんだけどねぇ……まぁ、相手はダメカ積んでないし、リキャスト短いし、ダメカの大切さを教えるにはちょうどいいでしょ。」

 

楼閣はそうひとりごちていた。

 

しかし不思議なのはそのあとの行動。

 

『なぁ楼閣、どうして敵Eポータルに向かってるんだ?』

 

そう、楼閣はCポータル防衛戦というルールのカスタムでEポータルになぜか向かっていたのである。

 

「いや、どうしてって言ったって、ドクくんはBポータル取っちゃったし、それで引き分けって言われるのもなんか気に食わないしね。それと……」

 

『それと?』

 

「ドクくんの移動の手間をを省いてあげようと思ってね。」

 

『……楼閣、ロード達に隠れて見えてないが、お前案外いい性格してるよな……』

 

「やだなぁジャスくん、コンパスやってたらこのくらい普通だよ〜」

 

楼閣の目は微妙に笑ってなかった。

 

「ま、そんなことはどうでもいいとして、Eポータルとる前にドクくんをもう一回おうち(リス地)に送ってあげないとね。【アンジュ】」

 

『ムヤミナサイキドウハキケンデスヨ』

 

「ボイちゃん、次こそは!」

 

そう言ってドク達はダッシュで楼閣達に近づいていった。

その結果は

 

『テイッ、コウデス、ソレッ、トオ、フッ、フフッ』

 

『ふんっ!んっ!ぬっ!のりゃ!たぁー!』

 

『ソウサ……ミ……ス……』

 

《連続で敵を倒しましたっ☆!》

 

『オレはここにいるぞぉ!!』

 

『オナジミスハアリエマセン』

 

『だああああ!打ち砕く!!ハンマーの錆にもならんな。』

 

『ハ……カ……セ……』

 

《大活躍ですっ☆!》

 

『ワタシハサイコウケッサクノハズナノデス』

 

「ボイちゃん!Cポータル取ったら勝ちのはずだから、ドアで飛んでCに行こう!」

 

『ニゲマスガナニカ?』

 

『座標入力完了……ってぇぇぇぇぇぇい!!』

 

『ソウサ……ミ……ス……』

 

《快進撃が止まりませんよっ☆!》

 

見事に楼閣にお手玉されているだけだった。

 

『…………楼閣、オレは今、お前って実はロードくらい酷いやつなんじゃないかと思っている……』

 

「ちょっとジャスくん!やめてよ!【生徒会】《えっ……と……ここまで連続でキルするの……?》アレと同じレベルだなんて!」

 

何気に話の合間にもキルしているレベルだった。

 

「だって、ドクくん、ダメカも回復もないんだよ?その辺のアリーナにいるガンナーよりも溶かしやすいもん。」

 

だ、そうだ。

 

「おぉ〜い、ロードく〜ん!?もう全制圧して終わらせちゃってもいい〜!?」

 

「出来るならいいと思うぞ〜!?ドクももうだいぶ顔色悪いから、むしろ早く終わらせてやってくれ〜!」

 

と、言うわけで、歩いてDポータル、ドアで一陣飛び、再び貯まったHSで一陣を制圧していたvoidollを殲滅、徒歩でBポータルを取って、

 

『オレは自分の仕事をしたまでだ。』

 

楼閣が勝利した。




ぉぉおおおおお!文字数が全然考えてなかったけど5555文字だ!
なんかちょっとだけテンションが上がった私です!

今回は楼閣がかなりカッコイイ回でしたね〜。
孤独者達の宴(ロンリネス)】のメンバーはみんなゲテモノとだけ把握してもらえれば嬉しいです。

あ、それとドクくんのクソデッキのクソグソしさも把握していただければっ!

今回、機械音声達の名前が出てきました!ぶっちゃけ、本編にはなんの影響もありません。ただ思いつきで付けただけです。

夏の大三角、乱数は結構好きですよ?
アルタイルいませんけど……

って今気がついたんですが、もう30話なんですか……時が過ぎるのは早いものですねぇ……

これからも頑張って行きますので、応援をばっ!

ではでは、今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。


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だからお前は反省しろよ!

カスタムが終わった。

楼閣のぼろ勝ちで。

 

「ドクくん、楼閣に勝ったあとのことを既に考えていたドクくん。」

 

「はい!」

 

「なんで今ここに呼ばれているか分かりますか?」

 

「いいえ!分かりません!!」

 

なんでコイツ、返事だけはこんなにいいんだ……

 

「まず、お前はなんで負けたんだと思う?」

 

「え?そりゃ楼閣さんが強かったからで……」

 

「お前はまず学習しろ!!」

 

なんでそうホイホイ人のせいにするかなぁ?!だからお前は成長しねぇんだよ!!

 

「まず初手!!ドアの狙いがちゃんと出来ねぇならドアを積むな!【孤独者達の宴(ロンリネス)】に来るならドア要員は楼閣がいるからいらねぇ!その分妨害に努めろ!!」

 

「は、はい!!そうします!」

 

「それから次!【生徒会】だけどな!【イェーガー】積んでりゃ耐えれてるだろ!それか後退して全部喰らうな!一撃が攻撃力の90%の十発攻撃なんだから、全部喰らったら900%だろうが!耐えられるか?余裕で絶えるね!!」

 

「え!?そんなにすごい攻撃なんですか!?」

 

「そ・れ・と!!お前は回復を入れてろ!なんで耐久主体のキャラで回復ねぇんだ!」

 

「それは……申し訳ないです……」

 

「それとそもそもなぁ──」

 

バトルが終わってからというもの、説教の嵐が吹き荒れた。

まぁ、俺が説教してるんだけど。

 

煽り勢は煽るだけじゃなくて解決法とかも言っとくべきだと思う。TL凸るなら生産性のあることしろよ。

 

まぁ、確信犯も結構いるわけだが。

 

ん、もう飯作る時間だな……

 

「よし、とりあえず今日はここまでな」

 

「と……とりあえず…………?」

 

「明日、解決法を考えたデッキを組んで持ってきてくれ。それで、それに意見とかするからな。」

 

「あ、明日、デッキにOKが出たら……?」

 

若干ドクが目を輝かせながら聞いてきた。

 

「ん?楼閣とタイマンカスタムだな。使用感見とかないといけないしな。」

 

あ、ドクの目が死んだ。

 

「ま、頑張れ。今までお前を見下してた奴らに一泡吹かせてやろうじゃねぇか。」

 

「はい……頑張ります……」

 

ドクは元気なさげに言った。

 

「じゃ、メシだメシだ。お前も手伝えよ。」

 

「はい……」

 

メシを食った後、ドクはずっと自室に篭っていた。

コクリコと風呂に入っていた間も、そうだったらしい。

 

「なぁ、楼閣、ぶっちゃけアイツ大丈夫だと思うか?」

 

「うぅ〜ん……大分キツいんじゃあないかな?今まではいろんな人に聞いたデッキに、まぁそこそこの自信があったんだろうし、それ以上なんて考えてなかったんだろうねぇ……そんなところに私とのカスタムでボコボコにされて、さらにロードくんのお説教でしょ?拗ねちゃったかもねぇ……」

 

やっぱそうなるか……

 

「ボス、僕はそうは思いません」

 

お?波羅、それはなんでだ?

 

「僕はボスとのタイマンカスタムでボコボコにされて、すごくムカつきました。」

 

お、おう。ここでカミングアウトか。

…………ってか、え?え、なにお前、ムカついてたの?あの後から急にお前ワンコ属性付いたのに?

 

「あはは……いえ、あの時は【この人から全部盗んでやって仕返ししてやろう】とか考えてましたよ。」

 

マジかよ……全然気づいてなかったぞ……

 

「まぁ、それももう諦めてますけどね。ロールも基本的な立ち回りも違いますし、性能だってかなり違いますから、ボスのやり方を盗んでも、僕は強くなれませんし。」

 

波羅ってこんなにいろいろ考えるやつだったっけ?

 

「ははは、そりゃ僕だっていろいろ考えますよ。確かにですよ、ボスは確かに強いですけど、デッキがピーキーなんですよ。ドクに【ダメカを入れろ】って言ってましたけど、カウンターはダメカじゃないんですよ?」

 

え?カウンターはダメカだろ?

 

「そういうところです。」

 

えぇ……

 

「まぁ、ドクが部屋に閉じこもってなにかしてますけど、どうせボスの鼻をあかすようなデッキを作って楼閣さんをボコボコにしよう、とか考えてますよ、きっと。」

 

「そういうものなのかねぇ……?」

 

「えぇ。そういうものですとも。」

 

元々自分がそうだったことから、波羅はそう思うんだな?

じゃ、とりあえずは様子見でいいか?

 

「えぇ、きっといつか、僕らを驚かせますよ、彼は。」

 

「ま、現時点では対応もなにもないからねぇ。」

 

ん、了解。

じゃ、話はこれで終わり。明日に備えろよ?

 

「はいはーい。じゃ、ロードくんおやすみぃ〜」

 

「はい、おやすみなさい。」

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】の古参会議はこれで終わった。

 

 

翌朝

 

「ふぁぁぁぁ……あー、メシ作るか……」

 

そう言ってキッチンに向かおうとした時だ。

 

『…………が、…………で……メだ!!…………だ!』

 

『……スガ…………ミガ…………イデキ……ン』

 

トレーニングルームから声が響いてきた。

 

「この声は……ジャスティスとvoidollか?」

 

俺はトレーニングルームに行ってみる。

 

『腰が入っていない!耐久がしたいのなら腹から声を出せ!!テヤァ!!』

 

『テ、テヤァ!』

 

『声が小さぁい!!腹の底から引きずり出すような感じで叫べ!!テヤァ!!』

 

『テヤァ!!』

 

『そうだ!その調子だ!その調子であと二時間いくぞ!テヤァ!テヤァ!テヤァァァァ!!』

 

『テヤァ!テヤァ!テヤァァァァ!!』

 

なんだこれ……え?あ、え?なんだこれ?

なんだこれ!?

 

『テヤァ!テヤァ!!テヤァァァァァァァァァァ!!…………ん?あぁ、ロード、起きてきたか。』

 

「お、おう。そろそろ朝飯作ろうと思ってな。…………で、お前らなにやってんの?」

 

『ん?あぁ!voidollのやつが『耐久するために必要なことを教えてくれ』と言うもんでな、耐久に絶対必要なことを教えてやろうと思ったんだが……いかんせん、腹から声が出てなくてな。今は発声練習だ。』

 

へ、ヘェースゴイナー(棒)

 

『まぁ、軍でも大声を出すのはやっていたし、いざという時、自分を鼓舞する為にも声を出すのは秀逸だ。大声は痛みを和らげる作用もある。』

 

一応、理にはかなってるわけか……

…………いや、かなってねぇ!!

 

『テヤァ!テヤァ!テヤァァァァ!!』

 

『声が小さい!!そんなことではいざという時に気迫で負けるぞ!!』

 

『ハイ!テヤァ!!テヤァ!!テヤァァァァァァァァァァ!!』

 

「じゃ、じゃあ俺はメシ作ってくるわ」

 

『おう、今日もすまないな。テヤァ!!』

 

なんなんだあいつら……?

 

食卓に来るのは発声練習をしているジャスティス以外はいつもの順番。

 

今日もコクリコは天使でした。

朝、発声練習を見てたらちょっと時間が遅くなったから今日はコクリコもみんなと同じメニュー。

 

ちなみにピザを焼いた。

チーズが垂れないように頑張って食べてるコクリコはそれはそれは可愛かっ《朝から惚気ですか》キィ、うるさい。

 

『あれだけ声を出せば腹も減るだろう!さぁ食えvoidoll!ロードのメシはどれも美味いぞ!』

 

『ワタシニショクジハヒツヨウアリマセンノデ』

 

『必要なくてもいいから食っとけ!ロードのメシは美味いんだから、食わないと損だぞ!』

 

デザートのりんご(ウサミミ付き)を剥いていた時にジャスティスとvoidollが来た。

 

「ジャスティス、voidollはロボットだから、メシ食えないんじゃね?」

 

『…………ハイ、ソノヨウナキノウハトウサイサレテオリマセンノデ』

 

やっぱそうだよな、voidoll、口あるようには見えねぇもん。

 

『なっ…………!?それは悪いことを言ってしまったな、すまないvoidoll……』

 

『イエ、オキニナサラズニ。ワタシハハカセノサイコウケッサクナノデス、ハカセガソノキノウハヒツヨウナイトハンダンサレタノデショウ。ナニモモンダイハアリマセン。』

 

『そうか、ありがとな。』

 

そう言ってジャスティスはピザを食べ始めた。

 

ジャスティスが三枚目のピザを食べ終えた時だろうか、ドクの部屋の方で大きな物音がした。

 

「なに!?何が起きてるの!?ねぇ、デッキ作るだけであの物音はおかしくない!?」

 

「楼閣、落ち着け。大方、ドクが何か倒したとかだろ。」

 

そう言うと、部屋からドクが出てきた。

 

「えっ!?」「いっ!?」「あっ!?」

 

『イッタイナニガアッタノデスカ!?』『たいちょー!あの人ヤバい!』『俺の後ろが安全地帯だっ!!』

 

『おにいちゃん……!』『コクリコちゃんだけは、僕が守る……ッ!!』

 

徹夜したのか、見てるこっちが引くほど充血し、腫れためをしながら。

 

「でき……ました……!できましたよ……!修正したデッキが……っ!!」

 

その顔で、ドクが笑顔でこっちに来る。清々しい笑顔だ。

対する俺も笑顔でドクを迎え──

 

「見てください!このデッキを!一晩中考えて、やっと先程──」

 

「コクリコが怖がってんだろうが!!」

 

近寄ってきた所に思いっきりゲンコツを落とした。

当然、寝不足のドクは踏ん張りがきかず倒れる。

 

「おいドク、お前、他人に迷惑をかけないデッキを作れって言われときながら、デッキ作る時点で迷惑をかけるとかいい度胸してんなァ?エェ?」

 

「え?は、えぇ?え、だって、え、えぇ?」

 

ドクが困惑してる。なぜだ解せぬ。

 

「ドクくん、ここで暮らすならいいことを教えてあげよう……ロードくんはコクリコちゃんへの悪影響に敏感なんだ……そんじょそこらの親バカとはレベルが違うんだよ……」

 

「おい楼閣、お前なんてことを吹き込んでるんだ、とんだ風評被害だぞ」

 

「ロードくん、ネギは買っていい野菜?ダメな野菜?」

 

「え?不可。コクリコが万一【ミクネギ】に興味を持ったらどうしてくれんだ」

 

「ね?」

 

おいコラ楼閣、「ね?」じゃねぇよ

 

「な、なるほど……デスマ明けのリーマンの顔も、その原理なら不可になりますね……!」

 

それでなんでお前も納得してんだ

 

「ボス、それよりも早くデッキ見ましょうよ。行けそうならバトアリで試運転してもいいんじゃないですか?僕と楼閣さんならカバー能力としては十分ですし。」

 

それもそうだな。よしドク、デッキを見せろ。

 

「はい!これです!」

 

そう言って見せたデッキは

【ガブリエル】【全天】【オールレンジ】【電撃ロボ】

 

「うーーーーんと…………」

 

「………………あのなぁ……」

 

楼閣と波羅もちょっと……いや、かなりの呆れ顔。

そりゃそうなるわな……

 

「どうですか!これこそ僕の一晩考えた最高のデッキです!!さぁ!評価をお願いします!」

 

…………そうか、気づいてない、か。

なら言ってやろう、お前の望み通りな。

 

「だからなんで【オルレン】が入ったままなんだよ!!」




お久しぶりです、乱数調整です。
まだまだ油断出来ないとはいえ、ひとまずリアは落ち着いたので、更新頻度が早くなります。

油断しきってもいい状況になったら毎日更新をやらかそうと思っています!(日本語おかしいぞ)

これからも拙作、ロリ#コンパスをよろしくお願いします。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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言いたいことは一つだけ

「だからなんで【オルレン】が入ったままなんだよ!!」

 

「え、だって狩り残し倒すのに──」

 

「voidollは攻撃が低いからいらねぇの!!」

 

「で、でもYouTuberさんが──」

 

「そういう企画!ネタデッキを強いふうに使ってんの!あと上手い人だから出来んの!OK!?」

 

なんでわかんないかなぁ!コイツは!

 

「基本はちゃんと教えたろ!?voidollは妨害主体でいくキャラだって!回復とダメカと、スタンで行動不可とかフルカノでプッシュって言ったのに、なんで【オルレン】入れるかなぁ!?」

 

「だ、だってそれだとキル出来ませんし……」

 

「ボイドにキルはいらねぇの!アンダスタン!?」

 

「け、けど、ゲームだった頃、ゼロキルで煽られましたし……」

 

そういう輩はどこにでもいるんだよォォォオオオオ!!

俺だってヴィオレッタ使っててキルしろって煽られたことあるんだし!

 

「煽りは負けたらなんでも人のせいにすんの!ゼロデスヴィオレッタが開始からずっと敵二陣を守ってても、あいつらは煽るの!そういう生きもんなの!一個人の意見を基本的な立ち回りより優先してどうする!?」

 

なんだコイツ?ホントにvoidollが使用率一位か?

 

まぁ、最近の高校生とかって流されやすいやつが多いらしいしその一人か。

とかいって、俺も高校生なわけだが。

 

「……まぁ、それで勝てるなら……」

 

不服そうだがとりあえずは納得したみたいだ。

今は不服そうでも、勝てたら手のひら返すだろ、こういうタイプは。

 

「あと、【全天】よりも【イェーガー】を私は勧めるね。今のデッキだと、発動速度【無】が【オールレンジ】だけだし、それを変えると発動速度【無】が無くなっちゃうからねぇ。耐久やるなら発動速度【無】のカードはオススメしておくよ。」

 

「な、なるほど……!」

 

「それから回復も、あるなら【花火】とかに変えた方がいいかもしれませんね。voidollはアビリティで体力が50%を切ると移動速度が上がるので、ゲーム時代に会ったvoidollは持続回復を採用してる人が多かったです。ダッシュにアビリティがついたらなかなか追いつけないので、ガンナーさえ警戒していればポータルダンスが強いですよ。」

 

「そうか……アビリティを忘れてました……!」

 

楼閣と波羅もドクにアドバイスをしてる。

……ってか初心者の波羅にアドバイスもらうってコイツ、マジ大丈夫か?

 

「なるほど……勉強になります!では早速デッキを組み直して──」

 

「ちょっと待て。」

 

俺は部屋に戻ろうとするドクを引き止める。

 

「は、はい?どうかしましたか?」

 

「どうかしましたか〜、じゃねぇんだよ。徹夜明けで目の下にクマ抱えたまんまでキョトンとしやがって。そんな顔してるやつを家に置いとけるか。コクリコがめちゃくちゃ怯えてるだろうが。」

 

さっきからコクリコは俺の脚にしがみついてる。可愛い。

後ろはセナが実体化して囲んでいる。さすが仕事人。

 

『…………おにいちゃん、このひとだれぇ……?』

 

「分かるか、ドク?お前、楼閣も波羅も一日で覚えたコクリコに、【誰だ】って言われてるんだぞ?お前は徹夜とか慣れてるから大丈夫かもしんねぇけど、コクリコは今のお前は大丈夫じゃない、ともすればお化けかと思ってるぞ?反省しろ」

 

コクリコは目に涙を溜めてた。めっちゃうるうるおめめ。あ、いまちょっと零れた。

 

「し、しかし、勝つためには──」

 

「そこなんだよ。お前はまず肩肘を張るな。勝つ勝つ勝つってガキじゃないんだから。負ける時は負ける、割り切らねぇとゲームなんて出来ねぇだろ。」

 

「…………そうですか……」

 

「そういうもんだ。とりあえずメシ食ってから寝ろ。voidoll、ドクの見張り頼むぞ。殴って昏倒させるのは血が出ないようにやれよ。」

 

『カシコマリマシタ』

 

「ん、任せた。じゃ、とりあえずコクリコ、もう大丈夫だから一緒にピザ作ろっか。」

 

俺のズボンで涙を拭いてるコクリコに話しかける。

泣いちゃダメだと思ってる姿が可愛すぎるだろこの子

 

『やー!』

 

「こ、コクリコ……そんなこと言わないで……おいコラドク、お前のせいでコクリコがカンペキに怯えちまったじゃねぇか。どう責任取ってくれる?」

 

コクリコをなんとかセナと協力しつつなだめすかして、セナがコクリコの恐怖心を喰って、コクリコとピザを作り始める。

 

うん、セナは悪感情(メシ)を喰いつつコクリコを助ける。俺はコクリコが可愛くて嬉しい。ウィンウィンだな。

 

「ねぇ、聞いた?ドクくん。昏倒させるのは血が出なかったらいいんだって。」

 

「ははは、本当に、ボスは凄いことを言いますね。」

 

『そういう予想の斜め上をいく存在だからな、あいつは。』

 

『今の顔、ぜんぜんラブリーじゃないよ!』

 

《睡眠不足は全体的なパフォーマンスが約55%ほど低下するので推奨しません》

 

ふとギルメンを見ると、全員がドクにフランクに接している。

いきなり入ってきた認めてないよそ者、って扱いじゃなくて、まぁ一安心か。

 

コクリコ泣かせた分は後でぶん殴るけど。

 

「まぁ、何が言いたいかってぇと、無理すんな、できることだけやってろ。できることがねぇならそれを探せってことだな。」

 

コクリコとピザの具を乗せながら、俺はドクにそう言う。

 

「そう、ですね。ちょっとだけ、焦っていたかもしれません。少し休ませてもらいます。」

 

そう言って、ピザを食べたあとドクはすぐに寝た。

 

起きてからドクは、すぐに別のデッキを持ってきた。

次の日も、その次の日も毎日のようにデッキを持ってくる。

 

その度に俺と楼閣はそれを修正していた。

凸してないRを入れてくるとか、【アングリフ】と【シャドウ】入れてくるとか、むちゃくちゃしやがるからな、あいつ。

 

波羅は時々、ドクをカスタムに連れ込んで、立ち回りを教えていた。

 

「真っ直ぐ突っ込んできてどォすんだ!!接近の前にオレにやられちまってんじゃねぇか!?アァ!?そろそろオレにカードの一枚でも使わせたらどォなんだァ!?」

 

「持続をそんなギリギリで使ってんじゃねぇよ!発動時間中に狩られるとか何がしたいんだァァァァ!?」

 

くっそスパルタだったけどな。軍隊か。

 

「嫌だなぁ、そんなに褒めないで下さいよ。」

 

褒めてねぇだろ。

 

「ボスのやり方を参考にしたので!」

 

え、嘘だろ?

 

「ボスの素晴らしい教育(トラウマレベルの拷問)を、僕で終わらせるわけにはいきませんからね。」

 

お前、どっちが本音だ?

 

「え?素晴らしい教育(トラウマレベルの拷問)と言いましたけど?」

 

…………もういいや。波羅は変なやつってことで一つ。

 

「酷いですねぇ……褒めてるのに。」

 

褒められてる気がしないけどな。

 

ドクはあれからちゃんと夜は寝てるみたいで、コクリコに見せられる顔をいつもしている。

 

コクリコには『メガネのおにいちゃん』と呼ばれている。

 

ちなみに楼閣が『おじちゃん』で波羅が『ちっちゃいおにいちゃん』だそうな。

 

ジャスティスは『おっきいおじちゃん』でめぐめぐが『おねぇちゃん』だ。

 

「私、まだ二十代なのにおじちゃんだよ……ははは」

 

と、本人は語っている。

 

あの日から数週間が経って、やっと敵を倒すことを諦めたドクが、朝一で俺に言ってきた。

 

「出来ました!これでどうでしょうか!?」

 

出てきたデッキは、もはや固定となった【イェーガー】に【花火】、それと──

 

「うん、これならいけるんじゃないかな?」

 

「えぇ、サポートをしっかりと考えているいいデッキだと思いますよ。ただ、使い所を間違えたり、読み違えたりするのが心配ですが……」

 

「はい!それは波羅渡さんに教えていただいたので大丈夫です!多分、ですけど。」

 

「それは上々ですね。」

 

楼閣と波羅の評価も良い。俺も、とりあえずは悪いところがないかと思う。

じゃあ……

 

「バトアリで試運転してみるか。波羅と楼閣とドクで行くか?」

 

その瞬間、ドクが目を輝かせた。何回もデッキを組んではダメ出しされてたから、余計に嬉しいんだろうな。

 

「いえボス、僕は遠慮しておきます。」

 

そう思っていると、波羅がそんなセリフ。

バーサーカーの波羅が辞退とか……

 

「どうした波羅?変なもんでも食ったか?拾い食いはすんなってあんだけ言ったのに……」

 

「た、食べてませんよ!?……やっぱり、僕が立ち回りを教えたんですし、どのくらいできるようになってるかは客観的にみたいじゃないですか。それに、万一の時、僕じゃカバー出来ませんから。」

 

波羅がそんな優等生なセリフ。

コイツもコイツでいろいろと考えてるんだよなぁ……

今までが変な方向に行ってただけで、良識は波羅にもあるんだな。

 

「まぁ、ボスの試合で無様を晒したら、即効でカスタム(処刑)するんですけど。」

 

………………いや、やっぱいつものあまりにもあんまりな波羅だ。

 

「了解。…………じゃ、そういうことで」

 

「ん、そうだね。【孤独者達の宴(ロンリネス)】新メンバーの初陣と洒落こもっか!」

 

「は、はい!よろしくお願いします!!」

 

ドクの【孤独者達の宴(ロンリネス)】初陣が、今始まろうとしていた。




今回、量が少ないかな〜って思っていたら、いつも通りくらいの量があって驚いた乱数です。

恐らく、長文が今回多くなっているので縦に短くなっているのが原因かと。

さてさて、ドクのクソデッキがどんなことになっているのか、乞うご期待下さい!
…………先に言っておきますが、時間軸はめぐめぐ実装後(しかしモチーフカードは実装)で止まっているので、今流行りの【ワキンヤン】はありません。

だから、「ワキンヤン以外ありえねぇんだけど、アタマ大丈夫か?」とか言わないでください、本当に……(アンチ湧くほど人気ねぇだろ)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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波羅渡、観戦す

ボス達がバトルアリーナに向かってから、僕はとりあえず広場に出ました。

リプレイならともかく、リアルタイムで見るには広場の一角に設置された【電光掲示板】を利用しなければ見られないからです。

 

「えぇっと……ドクの試合はどこでしょう?」

 

数多ある電光掲示板の中からドクの試合を探します。

探していると【ダンスロボットダンス】が聞こえてきました。

 

僕はすぐに音のする方向へ向かいます。

 

「あーあ、【害悪機械(カタコトマシーン)】の試合になっちまったぜ。」

 

「敵は嬉しいだろうな、なんせアイツがいるだけで格段に試合がラクになるんだからな。」

 

「それどころか【害悪機械(カタコトマシーン)】って今のところ全敗だろ?今回も結果は目に見えてるぜ。」

 

数人、リプレイを見ていた人がいましたが、皆さんドクには目もくれていません。

まぁ、ボスが素晴らしい教育(トラウマレベルの拷問)を施すまでは酷い有様でしたし、それを考えれば当たり前なんですけど。

 

配信では赤チームも青チームも使い手の顔が見えるようになってます。

実際に試合中に敵が見えたらごちゃごちゃしますし、そっちに攻撃を当てても面白くないので試合中は見えないようにしているのかと。

 

「あ!おい!害悪機械(カタコトマシーン)のチームメンバーに【尊厳を踏み躙る者(グリムリーパー)】がいるぞ!」

 

「マジかよ!ついに【尊厳を踏み躙る者(グリムリーパー)】が負けるか!」

 

何人かがボスに気づいたようです。

というかボスの知らないところですごいあだ名が付いてますね。

 

尊厳を踏み躙る者(グリムリーパー)

 

死神、ですか。僕からすれば死神よりもなお理不尽で、しかしどこか心優しい人なのですが……

 

「いや、あの【禍を振り撒く者(ディザスター)】だぞ?【害悪機械(カタコトマシーン)】のミスすら全部カバーして勝つんじゃねぇか!?」

 

おっと、ボスの二つ名まだあるんですか、驚きです。

 

禍を振り撒く者(ディザスター)

 

災害、ですか。ボスの歩いた後には敵の残骸(ナタデココ)が散らばっているところから来ているのでしょうか?

 

どちらもそこそこいいセンスです。

もっとも、ボスの素晴らしさの一割も表現できてはいないのですが。

 

そんなことを考えていると、いつの間にか周りには人だかりができていました。

周りは【害悪機械(カタコトマシーン)】VS【尊厳を踏み躙る者(グリムリーパー)】で盛り上がっています。どちらも青チームです。

 

「今のところ【害悪機械(カタコトマシーン)】が9!【禍を振り撒く者(ディザスター)】が1!大穴を狙うなら【禍を振り撒く者(ディザスター)】に、手堅くいきたいなら【害悪機械(カタコトマシーン)】に賭けときな!」

 

賭博も始まりました。今のところドク(敗北)に票が集まっています。

 

「オレも【害悪機械(カタコトマシーン)】に5000BM賭けるぞ!」

 

「オレは10000BMだ!」

 

「タダで儲けるって最高だな!」

 

周りの人達が何やら騒いでいます。タダで儲けるらしいですよ。

 

「ドクはともかく、ボスがコケにされるのは許し難いですね……」

 

僕は小声で呟きました。だってボスが負けるわけがないじゃないですか。ドクはまだまだ立ち回りが甘いところもありますが、フォローに回るのは僕ではなくボス。完璧にフォローできるに決まっています。

 

「では僕は【尊厳を踏み躙る者(グリムリーパー)】に95000BM賭けさせていただきます。」

 

だから僕はボスに賭けることにしました。

ボスが負けるわけがありませんし、オッズはボスの方が高い。これに賭けないわけがありません。

 

「お!?それほぼ全額だろ!?お前ホントに【尊厳を踏み躙る者(グリムリーパー)】に……ってなんだ、【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】か。お前からすれば同じギルドのロリコンの王が負けるのは見たくないってか?」

 

賭けを主催していた男が僕の行動に驚いていました。

……なんなんでしょう?ボスが負けるわけがないですし、ドクも今までとは違って回復もダメカも積んでいます。勝算は十分すぎるほどあるのに賭けないバカがいるんでしょうか?

 

「まぁ、自信があるので。」

 

「…………まぁいいけどよ。俺たちとしては分け前が増えるわけだしな!」

 

男が言いました。少しイラッとしましたが我慢します。ここでキレてしまうと辺りの皆さんの気分(せっかくの金蔓)が台無しになってしまうので。

 

「お?【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】、お前もロリコンの王に賭けるのか?」

 

そう言って話しかけてきたのは……えっと、誰でしたっけ?いつぞやの女装家さん

 

「ひっでぇな!?レイアだよ!」

 

「レイヤー?」

 

「レ・イ・ア!!」

 

あぁ、そうそう、レイアさんでした。

……【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】“も”ってことはレイアさんも?

 

「あぁ、そうだぜ。レイアも俺も、ロリコンの王に賭けてんだ。」

 

『wwwwwwそうだぜ【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】wwwにしてもレイア、お前また忘れられてんじゃねぇかwwwwww』

 

そう言って話しかけてきたのはkeyさん。

 

「なんでkeyは覚えてんのに俺は覚えてねぇんだよ!!」

 

レイアさんがキレた。

だってほら、レイアさんキャラ弱いですし。

 

「くっそヒデェ!!」

 

「アレ?PRさんは?」

 

そういえば三バカ(この三人組)の一人であるPRHS(ヘンタイ)さんの姿が見えませんね……?

 

「あぁ、元はと言えばアイツがロリコンの王に賭けようって言ったんだ。えっとアイツは……アレ?レイア、アイツどこいったか知らね?」

 

「え?PR?さっきまでいたと思うんだが……」

 

「ジャンヌちゃんジャンヌちゃん!この賭けで儲けたらジャンヌちゃんのお洋服を一緒に買いに行こうね!ジャンヌちゃんならなんでも似合うよ!ほらボクに全部任せてジャンヌちゃんは着せ替え人形になったつもりでいいからぐへへ~!!!!(^p^三^p^)」

 

『きゃぁぁぁ!!誰か!誰か助けて下さい!助けて……!たす……けて……』

 

その時、電光掲示板の裏辺りから声がしてきました。

 

「あぁ、あそこか。」

 

『あそこだな』

 

「PR、あそこにいるな。」

 

『アレだね』

 

まぁ……ですよね。あの人も懲りないなぁ……

 

「ま、とりあえず放置でいいだろ。」

 

「だな。」

 

keyさんとレイアさんはもはやPRさんを諦めたらしい。ボスも面倒くさそうに見てたし、まぁ仕方がありませんね。

あの人、まともな時はまともなんですけどね。

 

『おい大将、今回ボロ勝ちしたら僕ちゃんになんか奢ってくれよ。』

 

「まぁ、儲けたらな。」

 

『総額どんくらいになるかな?一億BMくらいかな?』

 

「ならねぇよ」

 

『おいマジかよ、クソだな』

 

「諦めろ」

 

keyさんと13さんはやっぱり漫才を始めるんですね。

しかし惜しむべくはkeyさんのツッコミが以前のようにキレッキレではない点でしょうか?

 

「いや漫才じゃねぇから!?」

 

『お?今の俺、もしかしてかっこよかった?』

 

いえいえ、まごうことなく漫才ですよ。

あと13さん、あまりカッコよくはないです。

 

『【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】、ちょっと聞きたいんだけど』

 

ん?なんでしょうか乃保さん?

 

『【害悪機械(カタコトマシーン)】はどのくらいになったの?賭けてるってことは勝算があるんでしょ?』

 

さすがは乃保さんですね。僕が賭けるところからそこまで聞きたがりますか。少し僕に似ていますね。

 

「きっと、すごく驚かれますよ。」

 

『……そう、じゃあ鬼軍曹(ロリコンの王)のお手並み拝見ってところね。』

 

適度に含みを持たせたところで、バトルが始まろうとしていました。

 

『たす……けて……』

 

ジャンヌさんを置き去りにして




バトル回に入ると思った?残念、波羅ちゃん回でした!

今回コソッとリプレイ機能を描写してみました。バトアリ、イベアリの生中継は電光掲示板で、リプレイは某あなたの管とか某ニコニコする動画とかのイメージです。別に覚えてなくても不都合はないです。

賭博はどこでもやってるものだと乱数は勝手に思っております。
野球賭博や競馬競輪ボートレース賭博黙示録カイジなどなど賭博をする所はどこにでもありますから(最後のは違うと思うぞ)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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バトルが始ま……らねぇなぁ!?

「なぁ楼閣、俺なんか、ボロクソに言われてる気がするんだけど」

 

なんか嫌な予感がする。なんかこう……波羅がなんかやらかしてそうな。

 

「うん?気のせいじゃないかな?私は全くそんな感じしないけど……」

 

「いや、気のせいじゃないと思う。ドクが負けるか俺が勝つかで賭けでもして、波羅がキレて俺に全額賭けてる気がする。というかアイツならやる。」

 

「どうでもいいけど集中してね?そろそろバトル始まるから。」

 

そりゃそうなんだけどさ。

 

「おおおおお二人とも!ががががが頑張りましょうね!!」

 

これはいかがなものかと。

 

「まぁ、確かにこれはねぇ……」

 

『ドク、心配はいらんぞ。何があってもカバーする。俺の後ろが安全圏だ。』

 

ジャスティスが何気にイケメンだった。大尉だっただけあって、部下をまとめるのはお手の物ってか?

 

『ワタシハサイコウケッサクノハズナノデスガ……』

 

「ボ、ボイちゃん!頑張るよ!」

 

ボイドが落ち込んでるが、ドクは全く気づいてねぇなこのやろう。

相方の調子くらい見といてやれや。

 

「どうでもいいけど、そろそろホントに始まるから準備してね?」

 

久々に自分のデッキでバトアリに来てるからか、楼閣のテンションが高い。

 

さぁて、今週のサザ──もとい、今回のお相手は?

 

『なぜ我が……こんな恥辱を受けねばならぬのだ……っ!!』

 

『コスプレとか柄じゃねぇんだけどなぁ……』

 

『忠臣、少しは落ち着きを持て。全く……』

 

忠臣(褌)アタリ(メガヒーロー)ルチ(マフィア)の三人組。

敵の使い手が見えねぇからどんな話をしてるのかは不明だ。

 

しっかし、やっぱルチは落ち着いてるな。服装もあいまって【大人の男性】っぽく見えるな。

 

《それでは皆様、準備はよろしいでしょうか》

 

はい、今回もキィがバトルの進行です。俺はもう諦めた。

 

《バトルの──》

 

『今のは妻の声だった!!妻の声だったぞ!!あいつはどこにいる!?私に逢いに来たんだ!!』

 

「「「『『『《…………はい?》』』』」」」

 

突然興奮するルチアーノ

 

妻はアンタが背負ってるでしょうが。

 

『離せミカヅキ!!あいつが、あいつが私を待ってるんだ!!』

 

今のルチアーノの動き方を見るに、使い手の方は必死に止めてるんだろうなぁ……

お疲れ様です。

 

『ふむ……仕方があるまい。これではいつまで経っても始めることが出来ぬからな。』

 

『ガッ…………!』

 

唐突に臣がルチを殴った。殴ったと言うより、刀でぶっ叩いた感じだった。

 

『安心しろ、峰打ちだ。』

 

『今度の戦場はここか?』

 

そして何事もなかったかのように復活するルチ。

【ダンス・ロボット・ダンス】流れてからの間が長ぇよ。五分くらい経ってるだろうが。

 

《…………ベガ、今回の司会進行を任せてもよろしいでしょうか?》

 

《…………まぁ、ルチアーノおじさんがあれじゃあしょーがないよね……》

 

進行変わって楼閣のアバター、ベガ。

……これ以上、バトルの開始遅らせてくれるなよ?マジで。

前回、のっけからキィに説教くらってたし、二の舞はゴメンだぞ。

 

《シツレイなっ!わたしだってそのくらいは出来るよっ!》

 

じゃあとっとと始めてくれ……

 

《それじゃあ皆さんっ!準備はよろしいでしょうかっ?》

 

「やっと始まる……何この茶番……」

 

「しょうがねぇだろ、乱数がドクのことあんま好きじゃないから茶番入れねぇと書けねぇんだよ」

 

『ロード……頼むからメタ発言をやめてくれ……』

 

ジャスティス、気にするな。ドクが出なくなるまであと数話だから。

 

『だからそれをやめろと……』

 

《あ、あのぉ……準備はよろしいでしょうか?》

 

ほら、ベガも困ってんだろ。とっとと始めんぞ。

 

『はぁ……もうどうなっても知らんぞ……』

 

言ってろ。

 

「ベガちゃんごめんねぇ、うちのがこんなので。」

 

《マスターが謝ることはないよっ!私もこれが仕事だからねっ!》

 

「大丈夫、大丈夫、僕はちゃんと基本を押さえました。デッキだって波羅渡さんに試運転お願いしましたし、うん、大丈夫、大丈夫……」

 

あぁ、もう、グッダグダじゃねぇか。

 

『まだ始まんねぇの?』

 

『ほう?我をここまで虚仮にするか……跪き、首を差し出すがいい。』

 

『アタリも忠臣も、そろそろ自制を覚えろ。』

 

『『あんた(お前)が言うな!』』

 

敵もイラついてきてるみたいだな。まぁ無理もない。

…………こんだけ時間あったらマジで賭博とか起こりそうだな……気のせいだといいよな……

 

《準備はよろしいですね?》

 

うおう……キィが謎の圧力をかけてきやがった……

ってかルチはいいのか?騒ぐんじゃ?

 

《あちらは別のものが説明をしております》

 

さよけ。

 

《ベガ、始めなさい》

 

《もうやだよぉ……へ?あ、うん!》

 

長かった……ネタを入れすぎて収集がつかなくなった二次創作みてぇだ……

 

《バトルの始まりですっ!》

 

『鉄壁!俺が行くまで死ぬな!』

 

「とりあえず、耐久面から僕が二陣に。」

 

「了解、ちょい広げたらすぐに行くわ。」

 

とりあえずいつも通り楼閣が敵二陣に向かって、今打ち合わせした通り、耐久面でvoidollが二陣、俺が一陣で楼閣の様子を見てヘルプに向かう。

 

まぁ鉄板だな。

 

『でゃあああ!打ち砕く!!……ハンマーのサビにもならんな。』

 

《敵を倒しましたっ!》

 

おおう……楼閣がフルスロットルだぜ……射程ギリギリでアタリに当たるようにメカ犯使って、アタリがCに走り抜ける前に倒してたぞ……

 

「あ、僕が援護に──」

 

『遠慮なく『テヤァ!』死ぬがよい!』

 

…………楼閣が【フルーク】に合わせて完璧なタイミングでテヤァした。

あ、今CT終わったメカ犯で臣倒した。

 

「……もうアイツだけでいいんじゃないかな?」

 

「……ちょっとそう思わせるところが怖いですよね。」

 

ドクまで苦笑してる。

 

「ちょっと!なんか酷いこと言ってない!?」

 

チッ、妙な勘だけは鋭い奴だ。

とはいえ、ルチとアタリが二人で楼閣を陥落させに来てるからカバーは必須だな。

 

「ドク」

 

「了解です!」

 

ドクがvoidollを連れて敵二陣に元気よく向かってった。

 

とりあえず、アタリともう一人くらいか、最悪は臣かルチのどっちか釣れたらいいか。今は割と耐久あるんだし、スプだから逃げの選択肢もあるし、第二タンクの役割はあいつも果たせるだろ。

 

……お?さっそく臣が釣れたな。楼閣の攻撃を一時中断してドクの方に向き直ってる。

ドクもやる気で相手に向かっていく。

 

『せぇん!』

 

『カピッ!?』

 

……ドクが戻ってきた。

 

「……ドク?なんで戻ってきた?」

 

「い、いや、牙突を避けきれなくて……あと顔怖いですやめてください……」

 

「そのくらいちゃんと【バーゲン】『遠慮なく死ぬがよい!』『近寄るなァ!』ちゃんと見とけよ、臣は【ぶれどら】『触るなァ‼︎』『……我に膝をつかせたことを、悔いるがよい……!』《敵を倒しましたっ!》HAまでのタメが長いんだから。」

 

「か、片手間みたいに……」

 

お?なんだコイツ?俺が話してるのに無視か?いい度胸だなおい。最近の若いのは全くもう……

 

「ドクくん、日常茶飯事だから諦めなね?それより【ケーニヒ】【アンジュ】『テヤァ!』『派手にぶっ飛ばす!』『撃ち抜く』早く助けてね?ルチが【レオン】積んでてまずいんだよ。」

 

「ほら、臣片付けたんだからさっさと行け。」

 

「は、はい!うぅ……会話の隙間に敵を倒すとか……勝てる気がしない……」

 

とっとと行けや。ってか俺だって【バーゲンセール戦争】が一凸なせいで鬼が多いんだから気にすんな。

 

『ん?アイツ狙うのか?』

 

『できないことに固執しても仕方がない……お前がそういうのならそうしよう。』

 

改めてドクがルチとアタリの方に行くと、どちらもvoidollに攻撃を当てようと集中しはじめた。

ドクなら楽に溶かせるとか思ってんだろうな。

 

「ボイちゃん、来るよ。」

 

『アナタ、シニタインデスヨネ?』

 

ドクもやる気はもとい、自信も充分ある。

 

さぁ、変わったお前を見せてやれ。




どうもお久しぶりです、乱数調整です。

突然ですが、あと一話か二話でドク編を終わります。
理由としては、乱数がボイちゃんは好きだけどドクをあまり好きになれなかったことが原因です。
筆が進まないのなんのって……

どっかしらピーキーなキャラが好きなんでしょうね、乱数は。

ボイちゃん好きの方には申し訳ないんですが、これからもドクはあんまり出ません。ご了承ください……

もともとドクは、「ミスで回復ないボイちゃん書いちゃったから、そいつを出して言い訳だ!」くらいの気持ちで出したキャラでした。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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自信

「行くよボイちゃん!【イェーガー】【電撃ロボ】!!」

 

ドクが突っ込んだあとすぐにエレドを発動。バクショでキャンセルを警戒してちゃんとイェーガーから使ってる。

 

……ダメカも回復もないところから、ホントよくここまできたよな……

 

『あわぁ……』

 

『任せろ、撃つ、はっ!』

 

アタリは首尾よく気絶させられたものの、ルチはイェーガーで気づいて【ディーバ】を発動させたらしくピンピンしてる。

 

「くっ…!ボイちゃん!【カノーネ】!!」

 

『ハッシャ』

 

「はいバカァァァ!!エレドの後にカノーネをディーバに向けて打つな!バカめ!!」

 

ダッシュ攻撃二発でアタリを落としながら俺はドクに言う。

 

『ぐっ……!』

 

ディーバの効果時間が切れて吹き飛びもせずにただ少し仰け反るだけ。

 

あ、今【全天】貼った。

 

「はいはーい、焦らない焦らない。【メカ犯】」

 

『でりゃあああああ!!打ち砕く!!』

 

「タイミングとか硬直時間はちゃんと読もうな。【オルレン】」

 

『おじゃま虫は排除する!愛の勝利だァ!!』

 

ドクのミスをカバーしつつ、リス地から戻ってきた臣を吹き飛ばす。

 

『どけェ!!』

 

はい、ダウンにDA叩き込んで臣撃破っと。オルレンからのDAでだいたいはキルできるから楽なんだよなっと。

 

「……うぅぅ、ちょっと敵陣踏んできます……」

 

「はいよいってらー」

 

ルチのHSでの大逆転が怖いから、耐久高いやつがしっかり踏みに行く。

倒されない自信があるならやってもいい、くらいのレベルだが、波羅プロデュースのドクはかなり無茶でも踏みに行く。

 

『クズの考えそうなことだ!』

 

『ほう?度胸だけはあるようだな』

 

『舐めプするつもりか?返り討ちにしてやる!』

 

敵は案の定フルボッコ体制に入ってるし、これドク一人で大丈夫か?

 

「うひゃー!!いやあああああああ!!」

 

あ、案の定フルボッコされてるわ。

 

「【イェーガー】!【花火】!!」

 

『タスケテアゲマス』

 

『どけどけ!』

 

『せぇん!!』

 

『撃ち抜く!』

 

「ヒィィィィィィ!!助けてくださいぃぃぃぃぃ!!」

 

「なぁ楼閣、今日の晩メシ何にする?」

 

「そうだねぇ……鍋とか楽でいいんじゃない?人数も増えてきたし、この前うどん買ってたでしょ?〆に使ったら?」

 

「うーん……うどんはすましが美味いんだけどなぁ……まぁいいか。ジャスの分も作るの楽だし。」

 

「晩御飯の話とか今いいですから!!うひゃあ!!」

 

えぇ……そんなこと言いつつお前、ちゃんと避けれてんじゃねぇか。

臣の牙突のタイミングまできっちり読んで、ダッシュ中なのに急停止とかで翻弄してるくせによく言うよ。

 

「でもキル出来ませんからね!?耐久はサポートが来ないと何も出来ませんからね!?」

 

(サッ)

 

「視線をそらさないでください!!」

 

『撃ち抜く!』

 

『カピッ』

 

あ、ボイドがルチの【レオン】でこけた。

 

『でりゃああああああああぁぁぁ!!打ち砕く!ハンマーの錆にもならんな。』

 

「楼閣さぁん!」

 

『カンシャシマス』

 

楼閣が援護に行った。アイツいつの間に……

 

「二対一で20秒、その後一対一で10秒、よく耐えた方だと思うよ。なんせ初めは三対一だったんだし。」

 

「え?初めは(・・・)?」

 

『おじゃま虫は排除する!!』

 

『我に膝をつかせたこと……悔いるがよい……!』

 

《快進撃が止まりませんっ!》

 

「まったくお前は……マップ見る癖をつけろって何回波羅に言われたと思ってんだ?」

 

結構早い段階でアタリはそこまで広げてない一陣と二陣を狙いに行ってたし、臣は牙突が外れてからすっぱり諦めてアタリの援護しようとしてたしでドクから剥がれてはいたんだな。

 

それを気づかせないルチの猛攻も凄いが、そもそもマップ見てりゃ気づくところではある。

 

アタリは晩メシの話してた辺りでこっち走ってきてたし、その後すぐに臣もこっちに来てたりした。

ドクが一人で勝手に焦ってるのを見るのはちと楽しかったがな。そこは否定せん。

 

「耐久はなかなか高くなってるから自信持て。だが、二人以上に抜かれて、そのポータルが取れてなかったら戻ってこい。二人釣れてりゃこっちは有利だからな。」

 

「え、援護してくれなかったんじゃ……?」

 

あ?何言ってんだコイツ?

 

「チムメンなんだから、無謀な突貫しない限りはケアしてやるよ。ましてや固定だぞ?無謀でもできる限りは援護入れてやるのが当然だろ?」

 

援護なしで勝てるやつがいるなら見てみたいもんだね。

一人でポータル取って一人で守って一人で裏取り対処出来るやつがいるならいいが、それは無理だろ。

なんでもかんでも味方に求めすぎるからコンパスの民度が下がってんだ。チームプレイってやつを理解しろ。

 

それを履き違えてる初期のドクとか波羅みたいなデッキのやつも、まぁいるにはいるわけだが。

 

「ふふふ、ロードくんはツンデレなんだよねぇ」

 

「言ってろ、楼閣。」

 

えぇ〜、ツンデレでしょ〜?と楼閣は笑う。ムカつくな、コイツ。

 

「あ、あの!お二人共!」

 

そこにドクが割って入ってきた。

 

「どした?」

 

「ん?なに?」

 

「ありがとう……ございます。」

 

消えそうな声でドクがそう言った。初期の謎の自信は無くなって、視野が広くなってるな。

 

「気にすんな、お前の手柄だ。」

 

「ま、【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルメンだしね。」

 

俺達もそう応える。

 

「……はい!」

 

そこからは一方的な展開だった。

ドクはマップをちゃんと見つつ敵を引き付け、ルチにHSを溜めさせず、敵の意識の隙間を縫うように【電撃ロボ(エレド)】を当てていた。

 

《バトルが終わりましたっ!勝利ですっ!》

 

『ケッカハミエテイマシタノデ』




めちゃくちゃバトルがさっぱり終わってしまいました……乱数調整です。

今回の話は短いですよ〜、なんといつもの約半分!(クソ野郎か)
だってドク嫌いだし、キルできる訳でもないし、そもそも私がボイちゃんあんまり得意じゃないし!

あんまりドクをカッコよくしたくないんですよねぇ……超個人的に。
さっ!二章が終わったぞ!ドクの回の終わりだ!(清々しい笑顔)

次回、日常話(書かないとモチベが酷い)!

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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孤独者達の宴

「そんじゃ、ドクの【孤独者達の宴(ロンリネス)】加入と初勝利を祝って、乾杯。」

 

「はい。」「ですね。」「まぁねぇ。」

 

『かんぱーい!』『かんぱーい!』『あぁ、めでたいな。』『ハッセイレンシュウノオカゲデス』

 

ギルドに戻って祝杯を上げる俺達【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルメン。

 

……いや、元々はドクのためにこんなことする予定はなかったんだよ?

けど波羅がさ……

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ボス!ボス見てください!500000BM稼いできましたよ!」

 

「……波羅、お前何やった?」

 

「内緒です。とりあえず、ドクのおかげとだけ言っておきます。これで今日の祝杯を上げましょうよ!」

 

「んな事しなくていいだろ。勝ったり負けたりはここでは当たり前だから、たった一勝くらいで祝ってたらBM()が足りん。」

 

「でもこの前BM()はドクが全敗するような、ダメカ回復なしキルできないキルボイドとかいうクソ雑魚もクソ雑魚、引退した方がマシの誰にも期待されてなければ誰かに見られることも無いゴミにも等しいPSだったから僕はこんなに稼げたんですよ!それを祝って絶対にやるべきです!」

 

「( ゚∀゚):∵グハッ!!( °ω°):∵グハッ!!( °Д°):∵ブフォッ!!O(:3 )~」

 

「やめろ、波羅やめろ!ドクが巻き込みディス食らってて死にそうだからやめろ!わぁったよ!やってやる!やってやるから静かにしろ!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

って言うから仕方なく……

 

つうか祝いの御馳走作るの誰だと思ってんだお前らは!

ジャスが五人前くらい普通に食うし、めぐめぐも結構しっかり食うから人数の倍くらいの量作んないと間に合わねぇんだぞ!

 

あぁ、もう!人の作った料理の美味いとこだけ食い散らかしやがって!

 

『すまんな、ロード。大変だったろ?言ってくれれば手伝ったのに、すまんな……』

 

ジャスティス……!ホント、俺を気遣ってくれるのはお前とコクリコだけだよ。

ああ見えて楼閣もサボれるところはサボるしな。

 

「お前は遊具の制作に忙しいからいいんだよ。最近はあれだろ?めぐめぐもいるから【シーソー】の制作も始めたんだろ?お前はそっちをやってくれてんだから気にすんな。」

 

『それはそうなんだが……重ね重ねすまんな……』

 

ホントにジャスは良い奴だな。

他のやつらとか礼すら言ってこねぇし、ドクも俺になんか一言くらいあるだろ。

 

「あ、あの、ロードさん……」

 

お、そう思ってたらタイミングよくドクが来た。

 

「ん?どした?料理について文句でも言う気か?」

 

ありうる。あのデッキでしれっとしてたコイツなら十分すぎるほどありうる。

 

「ち、違いますって!あの……さっきのバトルの件なんですけど……えっと……その……」

 

なんだお前、恋する乙女か。スっと言え、スっと。

 

「先程は──」

 

『お兄ちゃん!これおいしいよ!たべてたべて〜!!』

 

そこに天使が舞い降りた。可愛い。

え?誰か話しかけてきてたって?知らんな。

 

「ん〜?コクリコ。そんなに美味しいの見つけたのか?ホントにコクリコはすごいなぁ!」

 

『えへへ〜♪』

 

よほど美味かったのかほっぺがソースやらなんやらでベタベタになっている。

ポケットからハンカチを出して拭いてあげると

 

『えへへ〜♪お兄ちゃん、ありがとー!!』

 

だってさ。ウチの子が可愛すぎる!!

 

「コクリコ、お料理は逃げないんだからゆっくり食べな。」

 

『でも、めぐめぐおねぇちゃんとかおっきいおじちゃんがぜんぶ食べちゃうよ?』

 

「大丈夫大丈夫。なくなったらお兄ちゃんがまた作るから!」

 

「(ガタッ)まだ作っていただけるんですか!?」

 

うっせぇ波羅、お前には作らねぇよ。

 

「あ、あの……話聞いて……」

 

「諦めなよ〜ドクくん。ロードくんに聞いてもらおうと思うならタイミング考えないといけないんだから。」

 

楼閣、デマカセ言うな。俺はちゃんと──

 

『おにいちゃん!あれとって!』

 

「ん?どれだ?」

 

コクリコがローストビーフをねだってくる。上目遣い可愛い!可愛すぎてツラい!

 

「ほらね?」

 

「ほ、本当ですね……」

 

なに二人で通じあったような顔してやがる。

俺はコクリコに関係あればちゃんと話聞くぞ。

 

「酷くないですか……?」

 

で、なんだ?自信ついたから決意表明か?

 

「いえ、違くて。」

 

あ?

 

「今回、僕は楼閣さんとロードさん、お二人に助けられてばかりでした。裏取りも見れませんでしたし、耐久も楼閣さんに負けてます。」

 

「そりゃボイドだしタンク並の耐久は無理だろ。裏はこれから慣れりゃいい。」

 

むしろ、アレだけのクソザコナメクジがここまで来ただけで十分すぎるほどだと思うがな。

 

「それでも、僕はあまりバトルに向いてません。なので、元の世界に戻る方法でも模索しようかと。」

 

ドクはこともなげにそう言った。

 

「……出来んのか?」

 

「出来るのかい?」

 

「出来るんですか?」

 

「分かりません。けれど、こっちには一定のアクセス権を持ったvoidollがいます。手がかりくらいは掴めるかと。」

 

出来れば、それはゲーム内(ここ)にいるほとんどのユーザーにとって喜ばしい話だろう。

 

そして、ドクは夢物語を言っているんじゃなくて、ちゃんとアテやとっかかりはあるんだ。

賭けてみるのも悪い話ではない。

 

「やる気はあるのか?」

 

「もちろんです。」

 

そう俺が聞くとドクはまっすぐこっちを見てくる。

初めに会った時はいつでもおどおどしてて芯がねぇやつだったけど、こっちはやる気十分か。

 

「よし、お前がやるってんならしっかりやれよ。ただし、配布分のBMが減らない程度にはバトルしろよ?」

 

「はいっ!」

 

返事だけはいいんだよな、コイツ……

 

「あと、晩メシはちゃんと食いにこい。またあんなことが起こったら、そんときゃマジでたたき出すからな。」

 

「き、肝に銘じておきます……」

 

「そんじゃ、コクリコが寝そうだし、そろそろ解散だな。めぐめぐは風呂沸かせ、ジャスと楼閣は残りもんをタッパーに詰めろ。ドクは洗いもん持ってけ。」

 

こうして【孤独者達の宴(ロンリネス)】最初の宴が幕を下ろした。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

さてと、風呂沸けるまでに洗いもん済ますか。

 

『ロード、手伝うぞ。』

 

おー、ジャス、助かる。

 

『それで、俺は何をすればいい?』

 

「そんじゃ、俺が洗うからジャスは泡を流してってくれ。」

 

『了解した。』

 

「それじゃ、私は拭いてくねぇ〜」

 

おぉう楼閣、お前いたのか。

 

「まぁ、ジャスくんの後ろにいたからねぇ。最初に会った時もジャスくんに隠れて見えなかったし。」

 

ジャスティスデカいもんなぁ……

 

風呂が沸けるまで10分くらいしかないが、三人体制ならこの量でも多分終わるだろ。

 

雑談しながら皿を洗ってると、急に楼閣がジャスティスに聞いた。

 

「そういえばジャスくん、いつも部屋に戻ってこないけど、ジャスくんどこで寝てるの?」

 

「ん?ジャス、お前毎日徹夜か?」

 

さすがにそれはジャスに悪いぞ。そこまで熱心にしてもらわんでも、ちょいちょい増やしてってもらえればこっちはそれですげぇありがたいし。

 

『あぁ、そこは気にしなくてかまわない。いやなに、ベットのサイズが合わなくてな。どうせ空き時間に遊具を作るなら、そこにハンモックでも作って寝ればいいと思ってな。俺の大きさだと、あのベット二つ分位の大きさでないと寝られんからな。』

 

なるほど……

 

「あ、ロードくんが悪い顔してる……」

 

「いよっし!ジャスは今日、俺の部屋で俺のベット二つくっつけてそこで寝ろ。俺はコクリコとハンモックで寝る!」

 

小さい子の夢、ハンモックだ!絵本なりなんなりでよく出てくるからコクリコも知ってるだろ。

コクリコ喜ぶかな?いや、絶対喜ぶな。

 

「いやいやロードくん!?それジャスくんが『かまわないぞ』いいの!?」

 

『いやなに、ちょっと昼寝用としても使えるように作ったからな。ロードが疲れてたらコクリコットが遊んでいる間にロードが寝られるようにと思って作ったのを勝手に俺が使ってるだけだ。別にかまわん。』

 

ジャスティス……お前、そこまで気遣いが出来る男だったのか……!お前最高かよ。

 

『それに、俺は元々軍にいたからな。床でもどこでも寝られる。』

 

「うん、ジャスくん、床はゴキブリみたいだからやめてね?一時期流行ったけどやめてね?」

 

ジャスティス、休める環境があるならちゃんと休め。

 

『まぁ……そうだな。では遠慮なくそっちのベットを二つ使わせてもらう。』

 

そうしろ。

 

「ん、ロードくん、あと流すだけだからお風呂先入って来なよ。」

 

お?沸けてたか?じゃあそうさせてもらう。

 

「はいはーい、行ってらっしゃい。」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

『わぁ!おにいちゃん!これなぁに?』

 

「ハンモックだよ、コクリコ。見たことない?」

 

風呂から上がってコクリコと二人でトレーニングルームへ。

ハンモックを目の当たりにしてぴょんぴょん跳ねるコクリコ可愛い。

 

『コクリコね、びょうきだったからあんまりおそとでれなかったの……』

 

セナ、世界中の病原菌をひとつ残らず死滅させるぞ、ついてこい。

 

『過激すぎやしないかァ?今はコクリコちゃんも大丈夫なんだろォ?』

 

甘い廿い!!コクリコに害を与えるものは全てこの世から消すまでよ!!

 

《さすがに現実味のない話ではありませんか?》

 

キィ、うるさい。

 

『でもねでもね!今はおにいちゃんがいるからいいの!おにいちゃんといっしょならさみしくないよ!』

 

「『( ゚∀゚):∵グハッ!!』」

 

俺とセナにクリティカルヒット!

俺とセナは尊死した。

 

『おにいちゃん!だっこして〜だっこだっこ!』

 

コクリコが早くハンモックに乗りたがってぴょんぴょんしてる。ヤバい、想像以上に可愛い。写真……いや、動画撮ろう。

 

《そのような機能はございません》

 

なんだと!?肝心なところで使えないヤツめ……

 

「コクリコ、とりあえず靴脱ごうな。」

 

『うん!』

 

靴を脱いでコクリコを抱き上げる。ジャスティス用のハンモックはめちゃくちゃデカいから二人で入ってもまだまだスペースが余ってる。

 

コクリコが擦り寄ってきた。マジ天使。

見下ろして目が合うと『えへへ〜♡』とはにかむ。可愛い。

 

『おにいちゃんの手、あったかいね!コクリコ、ねむくなってきちゃった……』

 

「うん、コクリコ、おやすみ。」

 

そう言って俺たちは眠りについた。




はいっ!ドク編が終わりました!清々しい気分の乱数調整です!

やったぁ!これで先に進めるぞ〜!
しれっとドクをバトルに出さない宣言本文にしっかりと入れていくスタイル!ドクのレアキャラ化、座敷わらし化が決定しました!思い出したら入れてくだけでいいって楽!圧倒的に楽!

誤字脱字あればどしどし言ってきてください。

次回ワンクッション挟んで新章です。こうご期待!

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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閑章 神と天使の邂逅
胡蝶の夢


胡蝶の夢、という話を知っているだろうか?

 

 

目覚めた時に、夢の内容こそが真実で今いる現実こそが夢の中の自分が見ている夢なのだ、と思う古代中国の哲学者によって提唱されたものだ。

 

 

今あなたが見ている景色、感じている世界を夢ではないと証明することはできるだろうかという、逆説的な思考実験だ。

 

 

 

あぁ、失敗した、失敗した。

 

 

 

私らしくもない、こんな、こんなにもありえないミスをするなんて。

 

 

やってしまった、これは本当に想定外だ。

 

 

 

いや、いっそこんなにもありえないミスをするとは、むしろ私らしいかもしれない。

 

 

なんせ、一話の予定だった話が13話になる私だ。

 

 

ありえないことをするのが日常の私ならば、それもありえる話かもしれないな。

 

 

一話構成の予定で、二話目以降に続けようとした私に、天罰か何かが下ったのかもしれない。

そんな諦めの悪い私の行いに、読者やハーメルン運営が怒った可能性すらある。

 

 

だからこういうことが起きたのかもしれない。

ハプニングがなければ私ではないのかもしれない。

 

 

ハプニングとイコールで結ばれ、いつもいつも予想外、想定外のことが起こるのが私という物書きであるのかもしれないな。

 

 

例えば【間章】

一話構成の話を二つだけする予定だった間章

 

 

結果はどうだ?

話は一つしかせず、一話の予定が13話になってしまった。

もう一つの話は消えてしまった。

 

 

例えば【二章】

「毎日更新を目指す」とは言うだけで、実際は週に一話も出せてはいない。

その章のメインキャラが嫌いなことなど、分かりきっていたというのに、その予定で話を進めない。

 

 

期待させるだけさせておいて、結局はこのザマ、そして何食わぬ顔でここにいる私は、いったい何様なのだろうか?

 

 

先程から思考が同じところを堂々巡りしている。

だがそれも、仕方のないことだろう。

 

 

この話を初めて読む人にとっては、私が何を言っているか分からないかもしれない。

 

 

しかし、四月一日にもこの話を読んだあなたになら分かるだろう。

 

 

そう、あの日が悪いのだ。

四月一日という日に課せられた、不可抗力的で不可逆的な能力に、私は遭ってしまったのだろう。

 

 

タロットカードの13番(サーティーン)がタロットカードの1番(fool)を連れてきたが故に、起こったのかもしれない。

だからこそ、彼の堕天使(サーティーン)はあの世界にはいなかったのかもしれない。

 

 

 

けれど、だけれども、

 

 

 

こんなミスを、誰が予想できただろうか?

たった一日しか経っていないというのに、本文が余すところなく全て消えてしまうだなんて!

 

 

これではあの話を続けることが出来ないではないか!

有り得べからぬかの話は、こうも残酷に切り裂かれたか!!

 

 

……いや、それもこれも仕方がないことか。

 

 

あの世界は主人公の見た夢だったのだから。

 

 

夢は、記憶から薄れて消えていくものなのだから。

 

 




本文全てが消えてしまいました。そう、全ては胡蝶の夢のように……


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ぶれどら様、かく戦えり

はぁ……悪い夢を見てしまいました……


「ぶはぁ!!はぁはぁはぁ……」

 

ヤバい夢を見た……夢の中の俺は勇者を溺愛してやがった……

……夢だよな?なぁ!?

 

「そうだ、コクリコ!」

 

『んんん……』

 

良かった、ちゃんと腕の中に収まってる……!

やっぱりアレは夢だ。ひでぇ悪夢もあったもんだ……

 

「コクリコ……良かった……本当に良かった……!」

 

すやすやと一定のテンポで聞こえてくる寝息に安堵し、しばらく俺はコクリコを抱きしめていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「そういえばさ、ロードくんはなんで【ぶれどら】を採用してるの?」

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】の面々が集まって朝食を食べ始めた時、楼閣が開口一番にそう言った。

 

「ん?そりゃガードありでもなしでも同じく通るし、打ち上げじゃなくてダウンだから追撃が楽だし、相手に建て直しのヒマを与えねぇだろ?」

 

ロードは少し誇らしげに楼閣に説明する。

しかし楼閣はこともなげに反論する。そしてそれは、コンパス民の大半が思っていることでもあった。

 

「いやでも、それなら二枚とも貫通じゃなくて、【オルレン】を【サテキャ】とか近距離の【フルーク】とか大ダメージ系統にして、もう一枚を【カノーネ】とか、ダメカに強くした方が良くない?ほら、【ぶれどら】って決定力に欠けるでしょ?」

 

「てめぇ楼閣!ぶれどら様を侮辱するか!!」

 

ロードは激怒した。必ずあの邪智暴虐の楼閣を懲らしめんと思い立ち上がったのだ。

 

「いや、そんなにキレる所かねぇ!?」

 

「ぶれどらをバカにするのはいくら楼閣でも許さねぇぞ!」

 

ガチギレだった。

 

「なに!?何がロードくんをそこまで動かすの!?え、だってそうじゃない!?【ぶれいずどらごん】決定力に欠けない!?」

 

「お前は……お前はぶれどら様の素晴らしさが分かってないんだ……っ!」

 

ロードは犬歯をむき出しにして、楼閣に対する怒りと敵意を隠そうともしていなかった。

何が彼をそこまで突き動かすのだろうか……

 

「ちょっと波羅ちゃん!ロードくんが壊れたんだけど!!」

 

「さすがはボスです!カード特性とご自身の戦略を照らし合わせて、それに最適なカードを選ばれるとは……!僕には【ぶれどら】という選択肢からありませんでした……っ!そんな僕に、どうか、どうかご教授を!!」

 

波羅渡もいつも通りおかしかった。安心と信頼の狂信だ。

 

「もうやだこの子!波羅ちゃんのロードくんへの信頼おかしくない!?ねぇ!ドクくん!!」

 

「では僕はシステムにアクセスしてみようかと。ボイちゃん、行こっか?」

 

スルー、圧倒的スルー。この男、面倒事に巻き込まれてなるものかと言わんばかりに全力で目を逸らし、そそくさと自室に篭ろうと席を立った!

 

「させないよ!ギルマス権限でリビングの鍵をロック!」

 

「ボイちゃん!」

 

『デバックヲシュウセイシマス……ゼンギルドニテギルドマスターケンゲンヲサクジョイタシマシタ』

 

「ボイちゃん!管理者権限使いこなすなんてズルいよ!!」

 

楼閣もキレた。自身が面倒事を引き寄せる体質なのは諦めているが、自分一人に押し付けられるのは腹に饐えかねるようだ。

 

『シカシ、コノママノジョウキョウデハ、ジョセイユーザーガフトウナアツカイヲサレルオソレガアリマシタノデ……』

 

「あぁ……ならしょうがないか……ボイちゃん、【孤独者達の宴(ロンリネス)】だけ適応できない?」

 

楼閣がこっそりとvoidollに耳打ちした。

 

『ガイドラインニテイショクスルコトハフカノウニセッテイシテイマスガ、ネンニハネンヲイレタイノデス。バグノカノウセイガアルモノヲノコシテハオケマセンノデ……モウシワケアリマセン。』

 

しかし、やはりと言ったところかその目論見は泡と消えた。

 

「ならどうやって捕らえようかねぇ……」

 

楼閣の目が妖しく光った。楼閣の目はマジだった。

 

『マスターナラモウジシツニモドラレテイマスガ……』

 

しかし、ドクの逃げ足は早かった。楼閣がギルマス権限を使った時にはすでにドアまでたどり着いていたのだ。

 

「えぇ!?ドクくん早すぎない!?」

 

「ろぉぉぉぉぉぉぉぉかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「え!?まって、ロードくん待って!!私だけはおかしくない!?ねぇ、おかしくない!?」

 

楼閣はロードに引き摺られてどこかへと消えていった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「はいっ!第一回【ぶれどら】様を崇める会を始めるぞゴルァ!!」

 

一同が向かった先はトレーニングルームであった。

ロードはどこからか出てきたホワイトボードを背に伊達眼鏡をかけて教鞭を持ち、楼閣や波羅渡達はその前に正座していた。なぜかジャスティスまでいる。

 

コクリコとめぐめぐは奥の遊具で遊んでいる。

 

「ちょっと、ロードくん?キャラ変わってない?」

 

「うるせぇ。ぶれどら様をバカにするからだ。そこに座れ!」

 

「いや、座ってるけど。」

 

「漫才を始めてないで、早く僕にご教授をお願いします、ボス!!」

 

波羅渡は身を乗り出してそう言う。イヌミミのイヌ尻尾が幻視できそうだった。

 

「落ち着け。今から始めるから」

 

そう言ってロードはホワイトボードに絵を描き始めた。

1時間後、ロードは絵を描き終える。

その間、楼閣はギルマス権限の確認やギルド情報の編集をしており、ジャスティスは別の遊具製作をしていた。

波羅渡はもちろん正座で待機していた。

 

「これがぶれどら様だ。」

 

「ん?ロードくん、絵ぇ描き終わった?」

 

『ロード、シーソーができたぞ。めぐめぐとコクリコはもう遊び始めてるが、とりあえず報告だ。』

 

「凛々しいお姿ですね、ボス!!」

 

楼閣とジャスティスの対応が酷いものだったが、ロードは気にせずに続ける。

 

「まずぶれどら様はさっきも言ったように貫通攻撃で打ち上げじゃなくてダウンだ。」

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】のメンバーは、そうだな、とか、そうだねぇ、や、はい、と相槌を打つ。

 

「まず一つ目の強みとして、打ち上げじゃなくてダウンだから追撃がしやすい。どこにいるかが一目でわかる上に、いつDAを入れてもいい。打ち上げだと空中でカードを切られたり、目測やDAのタイミングがシビアだ。」

 

「はい、ボス!!」

 

そこまで聞いて波羅渡が挙手。

 

「何かね波羅くん!?」

 

ロードのテンションはどう考えてもおかしかった。

 

「アタッカーならDAがないのですが、その場合の強みはなんですか?」

 

「知らん。俺はコクリコ(天使)を使っている。」

 

ロードは波羅渡の質問をばっさりと切り捨てた。

 

「Sir,YES,Sir!!」

 

波羅渡的にはそれでも良かったらしい。

 

「でもそれって威力が低いから決定打に欠けるよね?結局はアタッカーとかガンナーを一撃で倒せる【フルーク】とかの方が強いんじゃ──」

 

「はいバカァァァ!!スプリンターかタンクがスプリンター使ってる時は敵に来るんだよ、バカめ!!高耐久のスプタンに対して打ち上げなんて〈どうぞ回復してください〜〉って言ってるようなもんだろうが、バカめ!!」

 

ロードが嘲笑混じりにそう言う。

 

「ってかそもそも楼閣、お前も【メカ犯】(貫通攻撃)使ってんじゃねぇか。」

 

「それはジャスくんが得意なのが【連】しかなくて、しかもそれも見切られてダメカ張られたりするからだよ。【連】って、【メカ犯】以外は使い手を結構選ぶと思うよ?」

 

ロードが楼閣にそう言うが、楼閣は界隈で有名なことをこともなげに返す。

 

「それに、【貫通攻撃】って言っても【メカ犯】は攻撃力の600%ダメージだからね。全部当てれればたいてい溶けるから火力不足も解消されてるしね。」

 

楼閣がさらに追い討ちをかけた。【貫通攻撃】カードの弱点の一つ、【どんな状況でも変わらないダメージが入る代わりに火力が低くなる】ことを完璧にカバーしていることをロードに教える。

 

「うるせぇうるせぇ!うちの天使(コクリコ)だって威力の低さを攻撃力の高さでカバーしてるわ!!」

 

「いや、でも【近距離】の威力補正がつく忠臣でも使ってる人ほぼいないけど……」

 

「はい残念!!臣は弱点つけばタンクを【フルーク】で打ち上げてから【カノーネ】でキルできますぅ〜!!そっちを優先してるんですぅ〜!!」

 

「いや、その理屈はおかしいよ……」

 

タンクは耐久が高いのだ。【フルカノ】で確定二発ならよほどデッキレベルに差があるか回復をカノーネでキャンセルされてから攻撃を当てられ続けた時だろう。ロードの理屈は根底から間違っている。

 

ロードの【ぶれどら】への狂信が強すぎる。

 

「そもそもな!ソルで【メカ犯】からの【レオン】で即死狙うコンボもこうなる前(リアルにいた頃)は多かったろうが!だから貫通二枚でもオーケーだ!!」

 

「多くはなかったと思うんだけどねぇ……」

 

そして記憶の改竄も激しいようだった。

 

「もういい!!論より証拠ってやつを見せてやるよ!!」

 

そう言ってロードは【ぶれどら】を取り出す。

 

「ちょっとロードくん!?それ、向こうで遊んでるコクリコちゃんが近距離発動して危ないから止めて!?急にコクリコちゃんが寝ちゃって危ないから止めてね!?」

 

「うるせぇうるせぇ!!ウチの天使(コクリコ)をセナが空中キャッチできないわけがないだろうが!【ぶれどら】様の恐ろしさを知れ!!」

 

ロードがいよいよ本格的に暴走を始める。楼閣が羽交い締めにするが、その程度では止まらない。

 

「ちょっと!!波羅ちゃんも止めてよ!!」

 

ボス()がそこまで信じる【ぶれどら】()様の御力を見せてください!!」

 

「波羅ちゃぁん!?」

 

波羅渡はもう手遅れだった。

 

楼閣の制止も虚しくロードがカードを取り出し、そして使用する。

その瞬間、轟音が鳴り響き、土煙が上がった。

 

「な、何!?何が起こってるの!?」

 

『全員下がれ!!俺の後ろが安全地帯だ!!』

 

「これが、【ぶれどら】様の力……?」

 

「【ぶれどら】様……!!天井を破壊する程に強大になられてしまったのか……!!」

 

楼閣は状況が把握出来ずに混乱し、ジャスティスはそんな楼閣を庇って前に出て、波羅渡は状況に呆然として、ロードは狂信者とも言える有様だった。

 

その中で声が聞こえる。

 

【我を呼ぶか、小さきものよ!!】




皆さんお久しぶりです、乱数調整です。

前回はエイプリルフール企画でしたねぇ。なんと一日で本文がすり変わってしまうなんて!!
さて、そのエイプリルフール企画ですが、キャラがそれぞれでめいめいの入れ替わりを果たしていましたね。

keyがロリコンの王になり、ロードは溺愛キャラが変わる、レイアがまさかのPRHS化するという感じです。推しが出てこなかった人はすみません。
アレ?もしかしてレイアが一番割くってるんじゃ……(レイア:名前も覚えられてねぇし散々だよ!!)

ちなみに、新規さんが新主人公誕生かと思っていらして焦りました。エイプリルフール企画です、エイプリルフール企画です!!(大声)

また読みたい方や続きが気になる方が多ければ、本編終了後に載せるかも知れませんね。あ、HS回転については夢なのでありえない早さにしてました、ご了承ください。

さてさて、今回から新章突入ですね。章タイトルから分かるように、またも本編が進まない閑話です(おい)
だってドク編疲れたんだもん!!

新しいカギ括弧は誰のセリフなのか、乞うご期待ください!

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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かくして幕は上がりけり

【我を呼ぶか、小さきものよ!!】

 

三人の頭上から、声が響いた。

別アニメのカード発動のようなエフェクトが煌めいていてよく見えないが、巨大な塊が3人の目の前に鎮座していた。

 

「まさか……その声は!!」

 

「え、え、何!?っていうか誰!?え、またバグ!?」

 

エフェクトが切れ、そこに鎮座していたのは、灰色の巨大な竜。荒れ狂う天空竜ぶれいずどらごんその人だった。

 

「【ぶれどら】様だ!!【ぶれどら】様がお出ましになった!!」

 

「今度はカードバグかい……GMも色々とやらかすのはソシャゲ時代から何も変わってないねぇ……」

 

ロードのテンションはいつにも増しておかしく、楼閣はもう突っ込むことを諦めたのか、別のことに思いを馳せている。

 

『ソウデモアリマセンヨ』

 

そこに、唐突にvoidollが乱入した。

 

「ん?ボイちゃん?どうしたの?」

 

『ハジメニバグガハッセイシタノガコノヘヤデシタノデ、ヨウスヲミニコヨウカト』

 

「へぇ〜、ボイちゃん気づくの早いねぇ。……で、そうでも無いって?」

 

『バグトイウモノハ、ヒトツヲツブシタトコロデ、ソレニカンレンスルバグガレンサシタリ、シュウセイシタコトニヨッテハッセイスルバグモアリマスノデ、イチガイニハカセガポンコツトハカギリマセンヨ』

 

「へぇ〜……大変なんだねぇ。」

 

楼閣がvoidollから説明を聞くが、その間、二人はロードの方を見ようともしていない。

 

「【ぶれどら】様だぁー!!ひぃやっほう!!」

 

【む、ロード殿、落ち着かれよ。】

 

「はらほいやぁっはぁ!!(ひたすらに怪しげな踊り)」

 

【ロード殿、落ち着かれよ!!楼閣殿!我が盟友を何とかしてはくれぬか!?】

 

ロードはひたすらに怪しげな踊りをしていたが、そのセリフを聞いて平静に戻る。

 

「ん?【盟友】?どういうことです?」

 

【おぉ、我が盟友よ、元に戻ってくれて我は嬉しいぞ!……何とは一体どういうことであろうか?】

 

「いや、俺、【ぶれどら】様と会うのは初めてですよね?」

 

そう言うと、ロードの影がビクリと震えた。

 

「……セナ?」

 

悪魔には思い当たる節があったらしい。

 

『い、いやァ、な?お前が僕の力をアレだけ無駄遣いしたんだァ。並の悪意じゃァ回復できないだろォ?』

 

「……で?」

 

ロードの顔は笑っていたが、目が微妙に笑っていなかった。

 

『だから、ちょっとこの竜に悪意を──』

 

「【過剰読(オーバーロー)──」

 

「ちょっ、ロードくん!?」

 

【待て!よすのだ盟友!!】

 

『ヤットシュウセイガカンリョウシタノデス!!ヤメテクダサイ!!』

 

楼閣、ぶれどら、voidollの三人が全力で止めた。voidollのあれほどまでに焦った顔は、何気に始めてみるかもしれない。

 

ちなみにジャスティスは、ちびっ子組に何か起きていないかを確認しに行っている。それを確認しているからこそ、ロードはぶれどらと会話を続けているのだ。

 

「止めるな楼閣!俺はセナを地獄に送り返してやる!!」

 

「コクリコちゃんと戦えなくなるけどいいの!?」

 

楼閣が一撃必殺に等しい質問をするが、

 

「悪魔に憑かれなくなるんだ!あの子にとっても幸せだ!」

 

効果はなかったようだ。

 

「そうじゃなくて!バトルしないと配布BMが減るから、コクリコちゃんを養えなくなるけどそれでもいいの!?」

 

「そ、それは……」

 

楼閣の返す言葉にロードは声を詰まらせる。夢の二人暮らし(語弊あり)をするには、悪魔を生かさず殺さずに飼わなければならないのだと、ロードは思った。

 

「だけど……だけどさ!」

 

『おにいちゃん、どうしたの?』

 

そこにコクリコが来た。

 

「ん?コクリコ、どうしたの?」

 

秒でロードが平静を取り戻す。相も変わらずいつも通りだった。

 

『コクリコね、さかあがりできるようになったよ!!ほめてほめて〜!』

 

「よし、【過剰読込(オーバーロード)】はなしだ。」

 

ロードが瞬時に手のひらを返した。

返すのが早すぎて、手首を複雑骨折しそうな勢いだった。

 

『あー!どらごんさんだ!』

 

【む、盟友、この娘子は盟友の大切な人だったのではあるまいか?】

 

コクリコとぶれどらが会った。

 

「ん?ぶれどらさん、コクリコちゃんのこと知ってるのかい?」

 

【うむ、我は今までの主らをカード越しに見ておったのでな。その位はだいたい想像がつくぞ。】

 

楼閣が訊ねたが、ぶれどらはなんでもない事のように返す。

カードの秘密がまたひとつ解明された。

 

「違いますよぶれどら様、コクリコは確かに俺の大事な娘ですが、大切な人ではありません。」

 

【む?するとこの娘子は盟友にとってのなんなのだ?】

 

「天使です。」

 

ロードが遺憾無く親バカを発揮させていた。いつも通りだが。

 

【む、そうか、それは失礼をした。】

 

『おにいちゃん、このどらごんさんだぁれ?』

 

「この人はね、俺の神様だよ。」

 

『かみさまなの?』

 

コクリコが期待に満ちた目でぶれどらを見る。

コクリコが間違った方向に行きそうになっていたがロードはもちろん誰も止めようとしない。

 

【盟友よ、その【神様】呼ばわりは辞めてくれぬか?我は盟友の悪魔に怒りを食われたがゆえに、今平静を取り戻しておるのだ。いわば我と盟友は対等。盟友は我を使い、我は盟友のおかげで冷静になったのだ。】

 

「んー……ぶれどら様がそれでいいなら……」

 

【その様付けも辞めてくれぬか?何だかむず痒くてかなわぬ。それと、できれば口調も対等にして欲しい。我らは【盟友】だと言っておろう?それに、管理者殿にも無礼な振る舞いなのに対し、我のみ特別扱いなのは気が引ける。】

 

「【盟友】……ね。じゃ、遠慮なくタメ口きかせてもらう。」

 

【あぁ、遠慮なぞいらぬ。】

 

『ねぇねぇ、どらごんさんはかみさまなの?』

 

おい誰かコクリコを止めろ。

 

【天使殿よ、我は神などではない。貴殿が兄上の盟友であり、貴殿の兄上と同じようなものだ。】

 

『???』

 

ぶれどらが説明するが、コクリコは今ひとつ分かっていないらしい。可愛らしく首をかしげていた。

 

【そうだな……貴殿の兄上の【友達】と言えばわかりやすいかな?】

 

『おにいちゃんのおともだち?』

 

【うむ、そうだ。】

 

『おにいちゃんとおともだちなら、コクリコともおともだちになってくれる?』

 

【そうだな。我も盟友の天使殿を守ろうぞ。我らは友だ、天使殿よ。】

 

『わーい!』

 

ホッコリした空気が漂った。

ぶれどらの方は少し【友達】というものを誤解している節があったが、それを誰も気づかないほどホッコリした空気がコクリコから出ていた。

 

『コクリコちゃーん!お話できたー?』

 

そんな中、めぐめぐがジャスティスに連れられてやってきた。

 

『すまないロード。コクリコットがお前にどうしても伝えたいことがあると言って走って行ってしまってな、止める暇がなかったんだ。』

 

「ってかお前、ちゃんとちびっ子組の心配もしてたんだな、あの状況で。」

 

『当たり前だろう?国で人を守ろうと思えば、まずは女子供を優先するべきだ。』

 

ジャスティスはいつも通りだった。彼が慕われるのはこういった場面での行動からも来るのかもしれない。

 

『コクリコね!このどらごんさんとね、おともだちになったの!』

 

【うむ、神と間違われるところであったわ。】

 

『あははー!カミサマなんていないのにね!』

 

【全くだ。もしいると言うのなら、この世の全てを憂いておるに違いないというに。】

 

ぶれどらもちびっ子組に懐かれたらしい。見た目に反して子供をあやすのは割合得意なようだ。

 

「あ、そういえばぶれどらって、【荒れ狂う天空竜ぶれいずどらごん】だったと思うんだけど、今はなんでそんなに冷静なんだい?」

 

【おぉ、そういえばそうであった。すっかり説明するのを忘れてしまっていたな。】

 

ぶれどらは今思い出したかのように言う。

 

【我は元々別の世界で暮らしておったのだがな?急にこの世界に呼ばれたのだ。その事で少し荒れておったので【荒れ狂う】という言葉が頭に来たのだな。】

 

ぶれどらは説明を続ける。

 

【そして、先程盟友に憑いている悪魔が言ったように、我はその怒りをそこの悪魔に食われたのだ。だから我は平静を取り戻したと言うわけよ。まぁ、攻撃力はかなり制限されておるから、平静を取り戻したところでダメージは増えぬがな!!】

 

グハハハハ!!とぶれどらは大きな声で笑う。

それをジャスティスはかつての同士を見るような羨望の眼差しで、同類を見るかの如き聖母然とした表情で楼閣が見ていた。

 

『それで【盟友】か……救われたのはどちら、ではなく、相互に影響を与えあっている関係なんだな。』

 

「へぇ……大変なんだねぇ、ぶれどらさんも。」

 

【しかし、平静を取り戻して良いこともあったがな!】

 

「ん?ぶれどら、どんなことだ?」

 

CT(クールタイム)が減ったぞ。】

 

「マジかよすげぇな。」

 

ロードが思わず真顔になった。

ぶれどらはいつの間にかコクリコとめぐめぐを背中に乗せていた。

見かけによらず子供好きなのだろうか。

 

「セナ、そういうことなら【過剰読込(オーバーロード)】はなしだ。」

 

その言葉に悪魔が胸を撫で下ろす。

 

「その代わり……分かるな?」

 

『………………!?(コクコク)』

 

悪魔がいつの間にかしりに敷かれていた。

 

その後、しばらくはぶれどらの背中が新種の遊具のようになっていたが、誰も、当の本人すらも気にする様子はなかった。

途中で背中からコクリコが落ちかけた時があったが、その時は悪魔が死に物狂いでキャッチしていた。

一体、ロードに何を言われたと言うのだろうか……

 

しばらく経ってvoidollがいなくなった後、

 

「開けてくれ!!ここを開けろ!!頼むから!開けてくれ!!」

 

玄関先から助けを呼ぶ声がした。




皆さんお久しぶりです、乱数調整です。

四月は色々と新生活でして……全然時間が取れないんです、すみません……
あと、乱数がポケモンに急にハマりだしたのも理由かと思われますはい。

さてさて!叩き台を作った時(一章終了時点)から決めていた、第二の閑章 神と天使の邂逅 ですが、メインキャラのぶれいずどらごんが出てきました!
乱数は貫通攻撃大好き人間ですので、もちろんぶれどらも好きですよ!まぁ一凸なんですけど……

最後に扉を叩いたのは誰なのか、イヤァワカリマセンネー(棒)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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三バカが、今、目覚める

令和元年おめでとうございます。


「早く開けてくれ!頼むから!早くしてくれ!!」

 

玄関の外から声がした。

 

「ん?なんだ、誰が来た?」

 

「なんかちょっと焦ってるみたいだねぇ〜」

 

『なぜ二人ともそんなに悠長に構えてるんだ!?開けてくるぞ!!』

 

ロードは無視、楼閣は現実逃避をしており、ドアの外を無視していた。

楼閣が使い物にならない時はジャスティスが動く。何気にいいコンビである。

 

「助かった!すまんジャスティス!!」

 

『いよォ〜、てやァのオッサン。邪魔するぜ?』

 

「マジで助かったわ……ありがとな。」

 

『……ありがと。』

 

そう言いながら入ってきたのは、

 

「あ?三バカか。」

 

「「誰が三バカだっ!!」」

 

いつもの三人組だった。

 

「ってかロリコンの王、俺らの名前ちゃんと覚えてんだろうな?」

 

「あ?覚えてるよ。keyにPRHS(ヘンタイ)に…………アレ?あと誰だっけ?」

 

「また俺だけ覚えてねぇし!!レイアだよ!」

 

「令和?」

 

「レ・イ・ア!!」

 

レイアはいつも通り騒がしかった。

 

「で、何があった?」

 

「おぉ、そうだ。とりあえずアレを見てくれ。」

 

そう言ってkeyはPRHSを指さす。

 

「ジャンヌちゃんジャンヌちゃん!!二人で密室だねぇ!!」

 

『密室じゃありませんし、皆さんいますから!離れてください!?』

 

いつも通りヘンタイのPRHSと、巻き添えをくらうジャンヌがいた。

 

「なんだ?いつも通りじゃねぇか?」

 

「いやいや、よく見ろよ。」

 

ロードがそうツッコミを入れるが、keyは先を促す。

 

「えぇ〜?でも誰も僕らを止めないよ?」

 

『見てないで助けてくださいよ!?そうだ、レオン!助けてください!?』

 

【すまねぇ、姫さん。頑張ってくれ……】

 

『レオン!?』

 

「ジャンヌちゃんジャンヌちゃんぐへへ~!!!!(^p^三^p^)」

 

『いやぁぁぁぁぁぁ!!』

 

ジャンヌはどこまでも不憫だった。

 

「で、見たら分かったと思うんだが……」

 

「あぁ、いつも通り変態だったな。」

 

「そこじゃねぇ!!【レオン】が出てきてたろ!!」

 

keyがツッコミを入れる。

 

「あぁ、お前らもやったのか。」

 

『あ?おいロリコンの王、お前ら〔も〕ってどういうことだ?』

 

「あぁ、アレ見ろよ。」

 

そう言ってロードが指し示した先には、

 

【む、なんじゃ盟友、客人か?】

 

ぶれどらがいた。

 

「おいおいおいおい!?マジでシャレにならねぇよ!!向こうでもこっちでも結局修羅場かよ!?」

 

「クソっ!!ノホタン、やるぞっ!!」

 

「バカ待て落ち着け!!」

 

keyとレイアが急に焦りだし、それをロードが諌める。

 

「んな事言ったってよ!ぶれどらはまずいだろ!?」

 

【む?我、そんなに危険人物扱いをされておるのか?】

 

『おじちゃん、元気だして!』

 

ぶれどらがへこんだ。結構精神的にダメージが大きかったのか、しゃがみこんで地面に【の】の字を書いている。

そんなぶれどらを、コクリコが慰めていたが。

 

【うむ……天使殿、すまぬな。】

 

「ったく……ぶれどらが何したってんだ……」

 

「いや、そりゃそうなるわ!」

 

「だってなぁ……俺たちだって大変だったんだぜ?」

 

そう言って三バカは話を始めた。

 

 

~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ねぇ、二人とも。僕、ちょっと回復のタイミング見たいから、練習付き合ってもらってもいいかな?」

 

PRHSが朝食後、開口一番にそう言った。

場所は三バカのギルド、【明色に染まる空(daydream)】のギルトホール。

 

(えっ、お前らギルドあったの?)

(あるわ!!ってかねぇとこんなに一緒にいねぇだろうが!!)

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】と異なる部分を上げるとするならば、朝食はほとんど全てが出来合いのものであり、野菜が少ない所だろうか。

 

「ん?あぁ、いいぞ。バクショでキャンセルされないようにしたいんだろ?付き合うわ。」

 

「ま、連撃は終了のタイミングが取りづらいしな。俺も付き合うわ。」

 

二人とも快く承諾する。チームワークは【孤独者達の宴(ロンリネス)】と同じく良いらしい。

 

「ん、ありがと。じゃあ、15分後にトレーニングルームで。」

 

「あぁ。」

 

「了解」

 

そう言ってそれぞれが準備のために自室へと戻っていった。

 

さて、部屋から戻ってきてトレーニングルーム

 

『はっ、よっ、ほらよ、少し休むか?』

 

「よし、今!【花火】!」

 

「13!」

 

『くらいやがれ!!』

 

『きゃっ!』

 

小一時間ほどPRHSとkeyはこうしている。

keyは以外にもバックショットのタイミングがうまいらしく、PRHSは苦戦を強いられている。

一時間ずっと待っているレイアが何気に不憫だった。

 

「なかなか苦戦してるな。」

 

待ちの時間に耐えかねたのか、レイアがそう声をかける。

 

『ちょっと休む?』

 

『えぇ、そうしましょうか。』

 

ノホタンもジャンヌを気遣っていた。

三人は殺風景なトレーニングルームの床に直に座り込む。

 

「上手くいかないなぁ……」

 

「ま、落ち込むなって。サテはバクショのタメが少ないからな、避けにくいのもあるだろ。」

 

「だな。あと、keyはPRのクセとかも結構知ってるからな、それで裏かくのが上手くなってるってのもあるだろ。」

 

「でもなぁ……」

 

keyとレイアがそう慰めるが、レイアは納得がいかないとでも言いたげに言い淀んだ。

 

「ま、気にすんなよ。こないだギルドランキングで上位だったろ?三人なのにトップテン入りなんて二つだけだぞ?タンクのお前のおかげで連勝できてんだ。」

 

「そうだぞ。あんまり焦りすぎちゃダメだ。」

 

keyがそう言い、レイアがその言葉を援護した。

 

「でもさ、楼閣さんより耐久強くないじゃん?」

 

しかし、PRHSは憮然としている。

 

「俺は【レオン】が好きだ。」

 

するとkeyが唐突にそう言う。

 

「体力が半分切った敵に向かって打って、敵が慌ててダメカを張るも、間に合わずにデスするのは、やってて気分がいい。読み勝った感じがするしな。」

 

keyは例え話を続ける。

 

「そんな【レオン】でも、発動速度は【長】だ。短くするには他のカードを発動させるしかない。」

 

おもむろにkeyは立ち上がった。そしてサーティーンを呼ぶ。

 

「そのまま使おうとすると、こんな感じだ。」

 

そう言ってkeyがカードを切ると

 

【お、オレの出番か。任しとけ。】

 

【レオン】が現れた。

 

「「「は!?」」」

 

『レオン!?』

 

三バカは驚き、ジャンヌは久方ぶりに会う仲間に驚くとともにレオンに駆け寄った。

ジャンヌが【レオン】に飛びつく。

 

「なんなんだ?おいkey、ドッキリかなんかか?」

 

「いやいやいやいや!?俺はなんも知らねぇぞ!?」

 

【姫さんはいくつのつもりなんだよ……離れてくれ──ってはぁ!?オレ、今向こう側に出てきてんのか!?】

 

レオンも何故か焦っていた。

 

「あぁ、ドッキリじゃねぇならバグか。」

 

「またか。多いのはリアルでもこっちでも変わんねぇのな。」

 

「いやぁ、バグ最近多いね。」

 

【で、なんでお前らはそんなに余裕なんだよ……】

 

明色に染まる空(daydream)】の三人はすぐに状況を受け入れた。レオンはそんな三人に何か物申したいといったような様子だったが。

 

「ん?そういえば、なんでレオンは僕らのこと知ってるの?」

 

PRHSが鋭い指摘をした。

 

【ん?そりゃもちろんカードの向こうから見てたからな。オレだけじゃなく、カード全部が多分そうだぞ?というか姫さん、そろそろ泣き止んでくれ?】

 

レオンがこともなげにそう答える。ジャンヌはその胸元に顔を押し付けて泣いていたが。

 

【ま、無闇矢鱈に呼び出すのもどうかと思うけどな。明らかに危険なやつとかもいるし、気づいたんならそこでやめとくのが良策だと──】

 

「じゃ、じゃあニ〇テンドーのロボットも呼び出せるんじゃね!?」

 

「おぉ!そうだな!!俺の【メカ犯】がそうだもんな!よし、いくぞ!」

 

【お、おいやめとけ!!】

 

「【メカ犯】!!」

 

レオンの静止も虚しく、レイアがカードを発動させる。すると、ロボットが現れた。

 

【ギ……ギギギ……】

 

「おぉー!!マジか!ホンモノかよ!!」

 

「すげぇ、すげぇよ!!」

 

「小さい頃に憧れたキャラを、リアルで見れるのはいいね。」

 

【あーあ、オレもう知らねぇからな?】

 

keyとレイアが騒ぎ、PRHSもワクワクし始めていた。

レオンはサムズアップし嘆息を漏らした。

 

と、ロボットが、ギュインギュイン、と音を立てて両目を動かす。そして両目が三バカを捉えた。

 

【ギュギギギ!!ギュイギーゴ!!】

 

すると直ぐにロボットは無差別攻撃を始めた。両目からはビームを、手からはコマのようなものを出して回して飛ばしてきた。

 

「「「ちょっ!?」」」

 

三バカが焦る。それはそうだ、いきなり即死級の攻撃を向けられて平然とできる者などいない。

 

【お前ら……アイツのカード名、【とある家庭用メカの反乱(・・)】だぞ?攻撃してこないわけが無いだろうが……よっと。なぁ、姫さん、本当にそろそろ離してくれねぇか?】

 

レオンが呆れながらそう言う。言いながらもジャンヌを片手で抱き寄せて抱えながら攻撃を避けていた。

 

「ジャンヌちゃんを抱きしめていいのは僕だけだ!!」

 

「うお!?ビックリするから急に叫ぶなよPR!!」

 

PRHSが謎の対抗をした。

 

『……そうですね、泣いてばかりいられません。PRさん!いきますよ!』

 

それのどこに心を動かされたのか全く分からないが、ジャンヌもそう呼応した。

 

「行くよ!【花──」

 

「バカか!!んな事してジャンヌを中心に打ち上げ花火が爆発したらどうすんだよ!逃げるぞ!」

 

【ギギキュギ!!ギュイッギギッギ!!】

 

光線を乱射する家庭用メカを後目に、三バカは逃げていった

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ってな訳で……」

 

「おいバカか三バカ。」

 

「三バカ言うな!!」

 

keyが話終えると同時にロードがそうツッコむ。

keyは脊椎反射かとも思えるような勢いで否定していたが。

 

『ん?お手紙が届いてるぜぇ!』

 

その時、運営側からのお知らせが。

その内容は

 

 

──告知──

とある家庭用メカが広場にて反乱を起こしておりますので、広場が使えない状況となっております。

この度、バグにてカードのキャラクターが具現化する現象が起こっています。

そのため、アリーナの使用を制限させていただきます。

ご理解の程をよろしくお願い致します。




五月一日に投稿したかったのですが、用事が重なりに重なって出来ませんでした、ごめんなさい。乱数調整です。

さてさて!今回はなんか私の第六感が冴えまくっていた回でした!
いやぁ、レイヤーレイアをやりたかっただけなのに、こんなことにも使えてしまいました、驚きです。

メカ犯が反乱を起こしました。広場で荒れ狂っております。
おいメカ犯、ぶれどらの仕事持ってくな。ぶれどら様怒っちゃうぞ?

メカ犯をどうやって倒すのか、それは私も知りません(おいコラ)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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カーテンコールのその前に

「へぇ〜、なんか大変そうなことになってんな。」

 

「おいロリコンの王!!お前、もう少し当事者意識を持てよ!!」

 

いや、当事者お前らだけだろうが。

 

『デキレバワタシトシテモテツダッテイタダキタイノデスガ……』

 

「ん?どしたのボイちゃん?そんなに大変?」

 

voidollが戻ってきた。一応、権限持ってて管理者側だからコイツも対応に追われてるのか。

 

『ハイ、バグニヨルハッセイナノデワタシノケンゲンノトドカナイトコロイアリマス。カイケツニハイチドゲキタイスルヒツヨウガアルヨウデス。モチロン、ギルド【明色に染まる空(daydream)】ノメンバーハレンコウイタシマスガ。』

 

「「はぁ!?」」

 

いや、お前らが手伝わされんのは当たり前だろうが。

 

「大変なんだねぇ。」

 

「ま、せいぜい頑張れ。」

 

「お前ら冷たくねぇ!?」

 

楼閣と俺はそう冷たくあしらう。三バカのkeyは中でもしつこく食い下がるが。

 

『テツダッテイタダケナイノデスカ……モウスコシテアラタニ【ブティック】ガツイカサレタノデスガ……サキオクリデスネ。』

 

voidollはそうため息をつく。

 

「ん?ボイちゃん【ブティック】って何?」

 

楼閣がボイドに聞き返した。

 

『……アァ、マダジッソウマエダッタノデハツゲンハヒカエテイマシタッケ?ヨウスルニ【フクショクテン】ノコトデ、BMデヒーローノイショウガカエマス。』

 

「セナ、準備はいいな?出陣だ。」

 

「今すごい勢いで手のひら返したねぇ!?」

 

コクリコの新衣装だぞ!?買いに行かない訳がないだろ。

 

「そうかもしれないけどねぇ……」

 

【盟友よ、往くのか?】

 

唐突にぶれどらがそう聞いてくる。

だから、俺は迷いなく答えた。

 

「あぁ、行くよ。コクリコのためだ。それに──」

 

【それに?】

 

一度言葉を切ってから俺はぶれどらに答える。

 

「セナがぶれどらの悪意を食ったから【カード】と【#コンパス】が混じったのかもしれねぇだろ?だったら解決しねぇとな。」

 

ぶれどらは一瞬キョトンとし、その後豪快に笑いだした。

 

【グハハハハ!!そうかそうか、盟友はそこまで気を回すか!盟友よ、貴殿は心優しいのだな。】

 

「馬鹿言え。俺はいつでも大切な人のために動くだけだ。」

 

俺たちはそこで笑いあった。ぶれどらは豪快に、俺は押し殺すように。

 

【そうかそうか!なれば我は、我を大切に思うてくれておる我の大切な盟友に、請われるまま請われて征き、壊れてゆき、壊れて征き、請われて逝こう。】

 

ぶれどらはそう言い放つ。

ほんと、頼りになるよ、俺の盟友は。

 

「いや、いい感じにまとめてるけど、結局は服が買いたいってだけだからね?ロリコンだからね?」

 

楼閣、うるさい。

 

『……ショウジキニモウシアゲマスト、トテモタスカリマス。ワタシノモチーフカードデオウセンシテイマスガ、【ギンガボウエイロボ】ガオウトウシテオリマセンノデセンリョクガタリナイノデス。』

 

「ほら見ろ楼閣、俺たちが協力することでボイドは助かる、俺はコクリコの服が買える。ウィンウィンじゃねぇか。」

 

「まぁそうかもしれない……ってアレ!?なんで私まで頭数に含まれてるの!?」

 

何言ってんだこいつ?当たり前のことを聞いてきやがって。とうとうボケたか?

 

「え、だって私の相棒ジャスくんだよ?足遅いし、攻撃速度も遅いよ?」

 

「気にするな、そこはちゃんと【必殺!人型防御壁大作戦!】で──」

 

「それ、私たちが囮だよねぇ!?」

 

何を当たり前のことを。……やっぱボケたか?

 

「素晴らしい作戦です、ボス!!」

 

「そんなに褒めるなって。当たり前のことを言っただけだ。」

 

「ちょっと波羅ちゃん!?」

 

楼閣がぴーぴーうるさいな。タンクなんだから当たり前だろ。

 

「いや、でもジャスくんは自己回復手段がないよ?カード使えないならすぐに溶けると思うんだけど……」

 

「大丈夫だ。PRHS(ヘンタイ)と組めばジャンヌが勝手に回復してくれる。お前はただ、テヤァしとくだけの簡単なお仕事だ。」

 

「あぁ、なるほど。」

 

楼閣が納得した。ってかジャンヌいなけりゃ詰むんだけどな、この戦い。

 

「それに、相手はカードなし、貫通なしなんだからダメージもすくねぇだろ。」

 

「そう聞いたら……まぁ行ける気がするけどねぇ……」

 

「だろ?んでこの【必殺!人型防御壁大作戦!】なんだが──」

 

「その名前どうにかならないかねぇ!?」

 

いいじゃねぇか、名前なんてなんでも。

 

「んじゃ、とりあえず作戦言うから全員集まれ〜。めぐめぐ、向こうでコクリコと遊んできてくれ。」

 

『え?めぐめぐは聞かないの?』

 

波羅(ハービィ)が信じられないなら聞いとけ。」

 

『分かった!遊んでくる〜!』

 

コクリコちゃん、行こっ!と言いながらめぐめぐは遊びに戻った。

コクリコはぶれどらと

 

『おじちゃん!また後でね!』

 

【うむ、天使殿。また後ほどな。】

 

って言い合ってた。かわいいかよ。

可愛いだよ!!

 

「よし、じゃあ説明してくぞ〜。まず、PRHS(ヘンタイ)と楼閣と波羅でスリーマンセルを組む。」

 

「はいボス!」

 

波羅が元気に手を挙げて質問の姿勢をとる。

 

「なんだね波羅渡くん?」

 

人型防御壁(タンク)二人組は分かるのですが、なぜそこに僕が入っているのでしょうか?」

 

はぁ……そんなことも分からないのか……

俺の事を【ボス】とか呼ぶのに、俺の考えを一ミリも読めないあげく、相棒の特性すら忘れるとは……

 

「楼閣が【メカ犯】を引きつける、ジャンヌが回復する。ここまでおk?」

 

「はい。」

 

「そこから動かねぇならお前のHAで至近距離から攻撃し放題じゃねぇか。流れ弾が当たってもジャンヌのHAで即回復。完璧なポジショニングだろ?」

 

「なるほど……そこまで読めなかった僕が愚かでした、ボス!」

 

ならよろしい。

 

「……なぁ、【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】ってこんなキャラだっけか?」

 

「いや……世間一般で思われてるキャラとはだいぶ違うな…………【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】に憧れてる初心者共が見たら失神するぞ……」

 

そこ、今作戦内容伝えてんだから勝手に喋るな。

 

「っつっても、俺らも一緒に袋叩きだろ?作戦いらねぇじゃん。」

 

「はいバカァァァ!!そういう軽い気持ちで大規模戦闘(レイド)に勝てるともおもうな、バカめ!!」

 

こいつらはホントにもう……もっと考えてから物を喋れよ。

 

「じゃあどうしろって?」

 

「まず、keyと令和は「レイアな?」レイア?はツーマンセルを組む。」

 

なんで訂正した直後に「?」が付いてんだよ!?とレイヤーがツッコむが、とりあえず無視。無視せんと話が進まん。

 

「乃保は関節駆動部に攻撃集中、それからヒットアンドアウェイを心がけろ。万一お前がヘイトトップになって狙われだしたら戦線が崩壊する。」

 

『分かった。』

 

ここはしっかりしとかねぇとな。【必殺!人型防御壁大作戦!】は人型防御壁が機能する前提の作戦だからな。

 

『でもよ、その万一が起きたらどうすんだ?』

 

「そんときゃお前の出番だ13。お前は乃保から一歩引いたところで通常攻撃、こっちはヘイト気にしなくていいぞ。万一、お前と乃保の方を【メカ犯】が向いたらバクショ叩き込め。ノックバックしてる間にジャスが通常攻撃、タイミングは【メカ犯】が13の方を向いた時にテヤァ解除、ヘイトトップに戻ってこい。」

 

『了解だ。』

 

「通常攻撃はハンマーを上から振り下ろせ。アニメみたいに敵が吹っ飛んでったら目も当てられん。」

 

『…………なるほど、心がける。』

 

ヒーローはやいやい言わねぇから指示が楽だな。

初めからヒーローだけに言っとくんだったわ。

 

「流れ弾が来たらジャンヌに近づけ。その間は俺が攻撃する。DAで攻撃下げるから流れ弾は気にすんな。回復終わったら持ち場に戻れよ。」

 

「ロードくん、一つ質問。」

 

このタイミングで楼閣が口を挟む。

 

「なんだ?」

 

「ロードくんはなんで主体で攻撃しないの?攻撃下げれば総攻撃で倒せるんじゃないの?」

 

ま、そこ気になる所よな。

 

「たとえば俺がそうしたとして、ずっと攻撃下げられてりゃ、向こうだってバカじゃねぇんだからヘイトトップに俺が来る。そしたらノックバックとか重ねられて攻撃ダウンが切れる。そうなったら戦線が崩壊するだろ?」

 

「なるほどねぇ……それで予備要員なのかい。」

 

楼閣も納得したか。正直、敵の攻撃をずっと受け続けるこいつが今回一番不憫な立ち位置だからな。納得するのが一番難しいと思ってた。

 

【それで盟友よ、我は何をするのだ?】

 

ぶれどらが俺にそう聞いてきた。

ぶれどらは多分ブレスで攻撃だろうし、範囲が広いのが問題なんだよなぁ……

 

「ぶれどら、だいたいの攻撃範囲はどのくらいだ?」

 

【む?最大で、と言われるならば、距離は3km、幅は城一つ分程だな。】

 

バケモンかよ。

 

「最小は?」

 

【最小まで絞れば幅が15m、距離はかなり減って500mだな。】

 

それでもだいぶバケモンじゃねぇか。

 

「それなら初撃と戦線崩壊時のサブタンクだな。遠くから初撃を与えて、近づいてきたらタンク交代。遠距離で攻めてもいいが、その場合は周辺被害が大きくなる。建物(ブティック)を壊さんように万一の時のストッパー役になるな。」

 

【ふむ……我の出番は少ないのか。】

 

ぶれどらがいじけはじめた。

地面にめっちゃ【の】の字を書き始める。子供か。

 

「いや、ぶれどらは俺の最終兵器にして、この計画の最終防衛ラインを守る役目を担ってる。出番は少なくてもいなきゃならん、俺の頼れる盟友だ。」

 

【む、そうかそうか!ならば我は最終兵器として構えておこうぞ!戦況を逐一実況していくのでな、皆我の美声に聞き惚れるが良い!】

 

……なんだろう、この俺の盟友の滲み出る残念さは…………

 

「うん、崩壊したらよろしくね。できる限り私が抑えるけど、限界はあるから。」

 

そう言いながら楼閣がジト目で俺の方を見る。何故だ解せぬ。

 

「めぐめぐ〜!こっち戻ってこい!」

 

『はーい!』

 

楼閣のジト目を無視してめぐめぐとコクリコを呼び戻す。

 

準備は出来た。

 

「キィ、」

 

《それでは皆様、準備はよろしいでしょうか?》

 

「あぁ」「うん」「はい」「おぉ」「まぁな」「いいよ」

 

『俺の後ろが安全地帯だ。』

『土手っ腹に鉛をぶち込んであげる!』

『俺じゃなきゃダメか〜?』

『切りたいあなたも切りたい切ってみたい切りに行っていい?』

『正義は我にあり!』

 

『さぁ、2人の共同作業だァ。』

 

さぁ、バトルを始めよう。




ぶれどら回ですがぶれどらが活躍しそうにありません、乱数調整です。

だって、竜なんか出てきたらもうそいつだけで全部解決しちゃいますし、何かしらの制約をつけないとなんにも出来ませんよ〜!

さて、次回はMMORPGで大人気のレイド戦です!強襲とか急襲って意味なのであながち間違ってはいないかと。
三人ギルド二つの、#コンパスを賭けた戦いやいかに!
ぶれどら様の存在感やいかに!?
ぜひぜひご期待ください。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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実況は____でお送りします

皆の者!我が来たぞ!!

 

さぁ、我の美声に聞き惚れるが…………む?何を不思議そうな顔をしておる?この我、荒れ狂う天空竜ぶれいずどらごんが現れたことがそんなにも不服か?

やはり語り手は我が盟友の方が自然、とでも思うておるのか?

 

……何?そうではない?ではなんなのだ?

……ふむ、我が語りをすること自体が不自然だと、貴殿らはそう言いたいわけか。

カードである我が語り手をすることが不自然だと、貴殿らはそう言いたいわけか。

 

しかしながら、我は貴殿らに伝えたはずぞ、【この我が戦況を逐一実況していくのでな】とな。

なれば我が語りをすることは至極当然な話ではないかの?

 

まぁよい。ここでこのような問答をしたとて、我が語りをするという事実は変わらぬ。

無駄な問答は避けるのが吉であろ?

 

うむ、それが良い。では我が盟友の話を始めようかの。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

作戦会議後、我らはすぐに広場へと移動をした。

 

「うわ……ひっでぇな、こりゃ……」

 

三バカと呼ばれていた者のうち、リーダー格の者がそう呟いた。

その目の前にあったのは、もはや瓦礫の山と化した中央広場のモニターである。

 

「結構ズタズタにされてんな……」

 

「ま、無差別攻撃みたいだし、理性が吹っ飛んでんだろ。ヘイト稼げば虫みたいに(たか)ってくるさ。」

 

三バカの名も無き者が呟くが、我が盟友はそこを冷静に分析する。

 

この分析能力、もしこやつが勇者かなにかで我を殺しに来ておったらと思うと、背筋が凍るのぉ。

 

「まぁ、それを至近距離で受けるのは私がやるしかないんだよねぇ……」

 

楼閣殿が死んだ魚の目で呟いた。

まだ周りに気を使わんだけ楽だろうに。勇者共に囲まれた時など、勇者を抑えても他の連中が襲いかかってくるゆえ気を使ったものじゃ。

 

あの戦いよりはマシじゃろうて。

蛆虫を連想させるあの戦いよりは。

 

「キィ、【メカ犯】まであとどのくらいだ?」

 

《【家庭用メカ】は現在、商業施設エリアへと移動をしていますので、私たちの現在地からだと推定あと5分程度かと》

 

ふむ、案内人殿は有能だのぉ。移動する敵と我らの速度を計上し、大凡(おおよそ)の目星を付けるなぞ、なかなか出来ることではなかろうて。

このような有能な者が、なぜ一個人の案内人なぞしておるのだ?

 

……まぁ、盟友だからとしか言いようがなき。

 

 

だってめいゆうだもの ぶれどら

 

 

「ぶれどら、初撃は頼んだぞ。そのまま倒してもいいんだぞ?」

 

盟友がニッコリと笑顔で聞いてくる。

やめるのだ盟友、我にそのような期待に満ち溢れためを向けるのをやめてくれ。

 

【盟友よ、無理を言わんでくれ……我は管理者殿に出力を制限されておるのだ。それゆえに彼奴を一撃で倒せるほどの出力は出ぬよ。制限なしなれば、全力でなくともあの忌々しい飛行船くらいは一撃で落とせるがな。】

 

本当にあの紅き飛行船は……!

 

「……なぁぶれどら、その【飛行船】ってのは……」

 

【ん?あぁ、盟友は知らんのだっけか?【ツォイク】という名をしておるのだが。】

 

と、いうか盟友、我を呼び出す前にツォイクの話をしておらんかったかの?

 

「あー……そっかぁ……うんうん、まぁそっちのが主流だもんなぁ……普通は竜が兵器ひとつに負けないよなぁ……」

 

む、盟友が頭を抱えておる。一体どうしたというのだ。訳が分からぬ。

 

《そろそろです、皆様ご準備を》

 

……案内人殿はいつも冷静だのぉ。

 

《慣れておりますので》

 

まぁ、盟友の案内人をしておるならばそれも頷けるな。盟友の案内人を勤めるのは、(さぞ)かし骨が折れるであろう?

 

《それはまぁ……ロリコンなので仕方がありません》

 

左様か。まぁ盟友だものな。いつもいつも我らの予想の遥か斜め上を行く盟友の案内人なれば、それも仕方がなき。

 

「何二人で盛り上がってんだ?キィもぶれどらも、もうすぐ敵が来るんだから気を引き締めろ。」

 

盟友が我らを(たしな)めてくる。

それはすまぬことを──

 

『おにいちゃん、かっこいいね!』

 

「ふふふ、そうかな、コクリコ?」

 

…………………………

 

【案内人殿】

 

《なんでしょうか?》

 

【盟友ってこんな残念キャラじゃっけか?ワシはバトル中かトレーニングルームのことしか見とらんでな、盟友はもっと格好良いイメージなのじゃが……】

 

《バトル以外ではこんなものです》

 

なんということでしょう、あんなに凛々しかった盟友が、こんなにも残念属性になってしまったではないか。

 

《ロリコンの皆様、もうすぐ【家庭用メカ】に到達ですよ》

 

「「「「凄い風評被害(だねぇ)!!」」」」

 

「ボスと……おそろい……!?」

 

案内人殿、その言い方はなかろうに……三バカ屈指の自主規制殿も否定しとるではないか……

そして波羅渡殿はなぜ少し嬉しそうなのだ……

 

《ぶれいずどらごん様、ロリコンというのは褒め言葉なのです》

 

む、そうなのか?

 

《えぇ、それはそれは素晴らしい褒め言葉でして、あとの方々はご謙遜なさっているのです》

 

そうだったのか、それは失礼をした。

 

「ぶれどらさん!?それウソだからね!?キィちゃんのジョークだからね!?」

 

はっはっはっ。楼閣殿、同族を疑るものではないぞ。ましてや案内人殿だ、嘘をつく理由も利点もなかろうに。

 

「ぶれどらさん……」

 

む、楼閣殿の目が死んでおる。そこまで【家庭用メカ】の攻撃を受けたくないのか?

小声で「常識人がまた減っちゃったよ……」とか呟いておるが、本当にどうしたのかの?

 

《皆様、【家庭用メカ】遭遇まであと200メートルですので、ご準備を》

 

【もうすぐそこではないか。皆の衆、今すぐ構えよ。】

 

今回我は盟友の策で、【家庭用メカ】から100m地点より攻撃を仕掛けるように言われておる。

 

なんでも、敵の機動力を見たいそうな。流石は我が盟友、よく考えておるな。

 

「じゃ、最終確認でもしといてよ。私はジャスくんと150くらいまで近づいとくから、開始の時にギルドチャットで教えてねぇ。」

 

そうか、ジャスティス殿は鎧を来ておる故に移動速度が遅いものな。

 

『俺の場合、あんたと同じようなもんだ。軍にいた頃はもう少し速く動けていたんだが、こちらに呼ばれてからかなり動きが鈍くなったきがするぞ。』

 

む、ジャスティス殿も同類であったか。初めはイメージと動きが異なる故、よく転けたりしなかったかの?

 

『そうだな……初めはよくあったが、慣れるのは早かったな。それに──』

 

「ちょっとジャスくん!先に進んどかないとまずいんだから早く行くよ!」

 

『あぁ、そうだったな。すまない、また後で話そう。』

 

そう言ってジャスティス殿と楼閣殿は先に行った。

 

「それで、ぶれどらが攻撃したあとのポジションが……ん?どうしたぶれどら?ニヤけてるぞ?」

 

む、いかんいかん、つい頬が緩んでしまっておったわ。

ジャスティス殿が『また後で』などと言うからだ。

 

我に『また後』があるのか、疑問であろうに。

 

【家庭用メカ】の件を解決したら、【ぱっち】とやらが出来上がって、我はカードに戻るだろうに。

 

【天空竜さん、とりあえずは目の前のことに集中、だろ。】

 

【そうであるな狩人殿。我らは異質なのだからな。】

 

すまぬ、盟友よ。続けてくれ。

 

我がそう言うと、盟友は首をかしげながらも説明を続行する。

 

それでいい。我らのことなど、気にせんで良いのだ。

 

さて、では【ばとる】とやらを、始めようぞ。




今回は少し短かったですね、乱数調整です。

なんかねぇ……バトル回になる予定だったんですけど、始めの数行でメカ犯までの道のり回になっちゃいました。
ぶれどらがあんなネタじみたことを言うから悪いんだ、私は悪くない。全部全部ぶれどらのせいだ!

そしてなかなか出てこない本作ヒロイン。乱数はヒロインを描くのが苦手です。
さらに最後のセリフまで忘れ去られていたレオン!皆様、レオンの存在覚えてました?乱数は忘れてました。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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我に続け

ぶれどらのバランスをどうするかでかなり迷いました


「ぶれどら、準備はいいか?」

 

【盟友の頼みだ、悪い筈がなかろう?】

 

百数十メートル先に【家庭用メカ】の姿を捉えながら我と盟友は言い合う。

楼閣殿とジャスティス殿はさらに近い位置で、三バカと呼ばれた者達はその少し後ろに待機しておった。

 

ちなみにコクリコ殿は睡眠中である。

 

『コクリコちゃんは僕のものだァ!』

 

む、我の心を読んだか悪魔殿。描写しただけで反応するとはなかなかに過保護よ。

 

「ぶれどら?ウチの天使(コクリコ)になんか用か?ん?」

 

盟友も満面の笑みで圧力をかけてきおる。

コクリコ殿について我が触れるのはやめておいた方が得策だな。

 

【なんでもないぞ。さて、【警備ロボ】が【家庭用メカ】を抑えておる間に開始しようではないか。】

 

「ん、それもそうだな。ぶれどらさん、やっておしまいなさい。」

 

【あいわかった。】

 

我はブレスの準備をする。

我が盟友がずっと使っておった我のブレスよ、出し方を忘れるはずがなかろうて。

 

「おぉ……間近で見るとやっぱドラゴンってすげぇな……」

 

盟友が我を褒めておる。クカハハハ!我の凄さに気づいたか!

 

ジュウジュウと音をたてながら我の口腔の周りに力が集まる。

……む、調子に乗って少し大きくしすぎたな、もう少し小さくせねば。

 

我はブレスを放った。目標は【家庭用メカ】と【警備ロボ】

盟友曰く、【警備ロボ】も巻き込まねば【家庭用メカ】に勘づかれる可能性があるのだと。

 

「オーホッホッホッホ!!ご覧なさい、セナさん、ぶれどらさん!綺麗な花火ですよぉ!オーホッホッホッホ!!」

 

盟友が壊れた。

 

【これ盟友、しかと見とかぬか。万に一つでも【家庭用メカ】が躱したらどうするつもりか。】

 

「そりゃねぇだろ。【警備ロボ】が引き付けてるし、ヘイトトップは向こうだ。voidollにも避けるなって伝えてるしよっぽどの事がない限りは──」

 

【ピピピッ、カピッ】

 

しかし、警備ロボはそれを躱した。タイミングを見計らったかのように。

盟友が驚いておる。それはそうだ、盟友は情報伝達を怠らなかった。あの手の機械は命令絶対遵守のはずだ。

なれば、躱すように指示をせねば躱すはずがなかろうて。

 

さらに悪いことに、それで何かを察知したのか、はたまた【警備ロボ】を追いかけただけかは分からぬが、【家庭用メカ】もまた我のブレスを躱していた。

 

【家庭用メカ】はこちらには見向きもせずに撤退した【警備ロボ】を追いかけている。

 

「おいキィ!どうなってる!?」

 

盟友が怒号をあげる。それも仕方があるまい、先に伝えておったことと別の行動をとられているのだ。

案内人殿にあたるのはいただけないとは思うが、虚構の管理人殿と今現在唯一連絡が取れる案内人殿にあたりたくなるのも道理よ。

 

《分かりませ──GMからメッセージです「備品を壊すのはもったいないから避けさせた」との事です》

 

「おいざけんな!ファーストインパクトがどんだけ大事だと思ってんだ!!」

 

成程、管理人殿の命であったか。なんと愚かなことを、周りの【警備ロボ(もの)】を全て破壊し、へいととっぷ、とやらを譲り受ける盟友の算段が物の見事に打ち砕かれてしまったではないか。

 

「クソっ!ぶれどら、次はいつ打てる!?」

 

【カード効果に縛られておる故あと十数秒だ。しかし盟友が詳しき説明をしておるうちに終わる。指示を!】

 

「分かった!もっぺんやるぞ、威力あげろ!具体的には幅50まであげろ!タイミングは指示する、あのクソ機械共の裏をかくぞ!」

 

【クカハハハ!盟友はやはりとんでもないことを言いよるわ!あいわかった、やってやろうぞ!】

 

そう言って我はチャージを再び開始したが、先の攻撃で何かを察知したのか【家庭用メカ】はこちらを向いていた。

 

【ギギギギ!!ギュギゴゴギッギ!】

 

【勘づかれたぞ!どうする盟友!?】

 

「気にするな。もう一押しで完全に敵意がこっち向く。外れてもいいから撃て!」

 

【承知!】

 

我は第二弾を放つ。先程よりも広範囲に、先程よりもかなり右側を狙って。

 

【カピッ!?】

 

【ギュギ?!】

 

結果は逃げた【警備ロボ】を全て破壊し【家庭用メカ】は傷一つ負っていなかった。

 

「ぶれどら……(グッ!)」

 

【ふっ、分かっておるよ。】

 

「いや、そこでのそのやり取りはおかしいだろ?!味方だけ吹き飛ばしてんじゃねぇか!!」

 

明色に染まる空(daydream)】の名も知らぬ者が叫んだ。

 

『ハッハー!気分爽快〜!!』

 

「いいから陣取るぞ13!【不退の不死(カーディナル)】が行動してたろ!」

 

『……貸しだよ?』

 

おぉ、リーダー殿はきちんと見ておったか。

 

「全く!即興にしたってこっちに求めすぎだよっ!ジャスくん!」

 

『了解だ!うりゃァ!!』

 

【ギュギッ!?】

 

我と盟友がにらんだ通り、楼閣殿はその意図を読み取り砂埃に乗じて【家庭用メカ】に接近し、奴が混乱しておる間に一撃を与えた。

 

さらに、一番彼奴の敵意を向けられておった【警備ロボ】はもうおらぬ。

であれば、【家庭用メカ】は楼閣殿を標的に変えるであろう。

如何に自身が使われておったとて、奴は楼閣殿を──彼奴の邪魔をするものを──標的に変えるであろう。

 

なんと愚かなことか、敵味方の区別を付けようともせず全てを敵とみなすとは。

たった一人で反乱を起こすとは。

 

【……まぁ、今行動に移しても何にもならぬしの。】

 

「ん?ぶれどら、どうかしたか?」

 

【いや?なんでもあらぬよ。それよりも我らはふれんどりーふぁいあ?とやらをせぬように気をつけなければな。】

 

それもそうだな、と盟友は返す。

 

『てやぁ!』

 

『いざ!』

 

『腸をぶちまけろ!』

 

戦場を見ると【家庭用メカ】がジャスティス殿に猛攻を繰り広げるが、ジャスティス殿はそれを自前のバリアで防ぎ、防ぎきれぬダメージはジャンヌ殿が回復し、至近距離からめぐめぐ殿が猛攻を続ける。

 

『切る……断つ……』

 

『ほっ、少し休むか?……くらいやがれ!』

 

名もなきものとリーダー格のものも自らの相棒とともに指示通りに奮闘しておる。

さすが我が盟友の認めた猛者たちよ。

 

【ギッギィ……ギュギゴゴ!】

 

【家庭用メカ】が楼閣殿らと一度距離をおいた。

 

【ほう、まだ冷静な判断ができたか。】

 

「ぶれどら、撃つなよ。あの距離ならギリ13まで巻き込む。あいつ、ぶれどらのブレスの最小範囲読んでやがった。」

 

さすがにバックされるのは盟友も想定外で、ほかの皆にも何も言ってはおらんかった。

これは、誰かがやられるやもしれぬな。

 

「キィ、リス地はどこになってる?」

 

《ギルドホールですが、皆様が出てから出入り禁止の設定がされているので……》

 

「戦線復帰は無理そう、か。了解。」

 

盟友が万一の可能性を考えて案内人殿にそう質問をした。

 

「ここ、向こうの出方次第ってのはあるよな。行動的にジャスティスがヘイトトップじゃねぇ可能性があるから戦線が崩壊する恐れがある。しかも……」

 

【む、ほかの可能性すらあるのか?】

 

「あぁ、アイツは目からビーム出したりベイブレード取り出したりホバリングしてもおかしくないぞ。」

 

盟友が真顔で言いおった。盟友よ、そのようなネタを真顔で言われると我もネタかどうか分かりにくいぞ。

 

ほかの面々も膠着状態を崩そうとはしない。

まぁ、向こうが何をする気か知れたものではないものな。

 

【ギュギュギギ!】

 

「!!来たぞkey!」

 

「分かってんよ!13!!」

 

『俺じゃなきゃダメかぁ?』

 

おぉ、【家庭用メカ】は標的を13殿に変えよった。

しかし……13殿はあの立ち位置故、それほど驚異ではないように思われるのだが……

 

「おおかた、13に遠くからチクチク攻撃されるのがムカついたんだろ。ノホに標的を変えようとしてもバクショでノクバからの楼閣コースだから、アイツを潰してぇんだろうな。」

 

ふむ、流石は我が盟友、標的の思惑をきちんと見ておる。これなら何が起きても安心そうだな。

 

「13!近寄らせんな!」

 

『あいよ、大将!くらいやがれ!』

 

13殿とリーダー殿の今回の役割である、楼閣殿が来るまでの時間稼ぎのための攻撃で時間を稼ごうとしておる。まぁこれなら安心──

 

【ギュギゴゴ!】

 

ガキン、と音が鳴った。音の発生源はどこであろう、奴である。

【家庭用メカ】は自らの腕を回転させ、13殿の銃弾を弾いたのだ。

 

「なっ!?」

 

『おい、ざけんな!』

 

当人達も困惑しておる。それもそうであろうな、今まで対処出来ておった方法で対処出来んくなっておるものな。

 

「keyさん、横失礼しますよ!めぐめぐ!」

 

『それそれそれそれぇ!』

 

波羅渡殿がリーダー殿と13殿の横に来てめぐめぐ殿がガトりんとやらを乱射する。

ダメージ量が多くなれば退くと考えたのだろう。それ自体は良い考えなのだが、

 

【ギュギュギギ!】

 

【家庭用メカ】はさらに体制を傾け、腕の回転数を上げた。それにより銃弾は全て弾かれる。

 

「これでも、ですか……避けますよ!」

 

「あぁ、【不退の不死(カーディナル)】頼んだぞ!」

 

「分かったよ。行くよジャスくん!」

 

『あぁ、分かっている!』

 

リーダー殿、波羅渡殿が逃げつつも楼閣殿、ジャスティス殿の両名が【家庭用メカ】に接近する。

このペースならばリーダー殿に追いつく前にジャスティス殿が【家庭用メカ】に一撃を入れることが出来る。

 

【ギュギッ!ギゴッ!!】

 

そう思っておった矢先、【家庭用メカ】が楼閣殿の方を向き、攻撃を仕掛けた。

目からビームを、出しおった。

 

【盟友!あれは冗談ではなかったのか!?】

 

「あ!?俺がこの件でいつ冗談言ったよ?」

 

確かにそうであるが……

 

「あれは多分、任〇堂のロボットだ!そいつが出来ることは大抵できる!」

 

なんと!冗談にしか聞こえんかったが、あれは可能性であったのか!!

 

「えっ!?」

 

『ぬあっ!!』

 

我らがそう話しておる間に光線によってジャスティス殿が強制的に後ろに下げられる。その隙に【家庭用メカ】がリーダー殿に接近する。

 

【ギギュギ!】

 

『ぐえぁ!?あうっ!げぇ』

 

13殿の体力がガリガリと削られてゆく。これでは、盟友の思い描いた最悪の道筋ではないか……!

 

「クソっ!13、HS使え!PR、回復頼む!」

 

『輪切りにして盛り付けてやるよ!』

 

「分かった!行くよ、ジャンヌちゃん!」

 

『急ぎます!』

 

リーダー殿の要請を受けて自主規制殿とジャンヌ殿がそちらへと向かった。

楼閣殿は【家庭用メカ】の光線に牽制されておる故動けず、その場にバリアを展開しつつ【家庭用メカ】と睨み合っておる。

睨み合っておる故に【家庭用メカ】もおいそれと別の者に光線を撃てぬであろう。

 

【ピシュッ、ギギギギ!!】

 

『きゃあっ!』

 

「ジャンヌちゃん!!」

 

そう思っておったのも束の間、今度は彼奴、コマを取り出してぶつけおった。コマはぶつかって尚回り続けておる。

ジャンヌ殿の援護は絶えた。

そして

 

【ギュギゴゴ!ギュギッ!!】

 

『こういうのってありィ?』

 

《13様、ダウンです》

 

13殿が倒されてしもうた。




お久しぶりです、乱数調整です。
前書きにもあったように、ぶれどらが強すぎてバランスを迷いまくりました。
それで、そうすると大幅に話が短くなったんですよねぇ……
ぶっちゃけ、次回くらいでメカ犯戦が終わるまであります。
そしてぶれどら様が活躍せずに終わるまであります。

次回、ノホタン死す!(冗談ですごめんなさい)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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困惑、そして想定外

「クソっ!もう遠距離対処できねぇぞ!」

 

13殿がやられてしもうたことに対して、盟友が苛立ちを顕に叫ぶ。盟友がここまで取り乱すなぞ、これまで一度しかなかったろうに。

 

「とりあえず私が耐えるから、ロードくんは対策考えて!行くよジャスくん!」

 

『了解だ!テヤァ!!』

 

「僕らもやるよ、ジャンヌちゃん!」

 

『分かりました!いざ!』

 

「あぁ、そっち任せたぞ!……ノホがやられたらいよいよ戦線が崩壊する……カード使えなきゃコクリコはデバフ撒くだけになるし……」

 

楼閣殿も盟友もやりおるな。

状況を把握しその時の最善を尽くさんとするのは、心がけてはおってもなかなか難しかろうに。

 

「めぐめぐも通常は強くはないしDPSも秘めたるかデキレ差なきゃ微妙……ジャス、ジャンヌのタンク組は論外……」

 

盟友がブツブツと独りごちながら対策を考える。

一つずつ可能性を上げていくのは効率としては良くはないが、緊急時に落ち着きを取り戻す意味では有効である。

 

が、かような思惑も全て超えてゆくのが現実というものであり、

 

【ギュギギ!!ギュイエンヌ!!】

 

『あぁっ!』

 

この【家庭用メカ】であるのだ。

 

【家庭用メカ】は双挽殿を掴むと体制を傾け、下部にある噴出機より火を噴かせて双挽殿を焦がす。

 

噴出機の出力が高かったのか、双挽殿の上体が仰け反る。

双挽殿が上体を起こす頃には、【家庭用メカ】も体制を整え攻撃態勢が済んでおるわけで。

 

【ギュイーン!ギュギギギ!!】

 

【家庭用メカ】が一撃を入れようと振りかぶっておる所であった。

 

『間に合わん!』

 

「避けて!」

 

「クルエルが使えりゃ……!」

 

悲鳴にも似た叫びが各々から発せられる。双挽殿は体制を崩しておる故避けられぬのだから双挽殿もダウンかと思われた。

 

【ギュギギ!?】

 

【おいおい、オレを忘れねぇでくれよ?】

 

が、そこに銃弾が飛来し【家庭用メカ】に少なくはないダメージを与え、そのの動きを止めさせた。

その弾を打ち出したのは誰であろう、ここにいる最後のカードキャラ【レオン】である。

やつは皆の認識の外より【家庭用メカ】を狙っておったのだ。なんというむっつり助平であろうか。さすがは護衛騎士だ。

 

「すまんレオン、助かった!あと忘れてた!」

 

【ひでぇなオイ!keyの抜けた穴はオレがカバーするから、陣形組み直させろ。】

 

「あぁ、分かった。とりあえずノホはジャンヌまで撤退しろ!」

 

『分かった。』

 

【レオン】が作り出した隙を使い、双挽殿が撤退をする。その間にも【レオン】は攻撃を続け、双挽殿の撤退の時間をしかと稼いでおる。かような判断が早いのも護衛騎士という役職故か。

 

双挽殿が撤退をする頃には、援軍が届いておるわけで、

 

「一旦時間稼ぐよ!ジャスくん、景気良くやっちゃって!」

 

『任せろ!負けんっ!』

 

【ギュイギギ!?】

 

その援軍である楼閣殿とジャスティス殿が【家庭用メカ】を弾き飛ばす。

家庭用メカはかなり遠くまで吹き飛び、自身の壊した建物の瓦礫に突っ込んだ。

 

「今のうちに体制立て直して!ごめん【レオン】さん、助かったよ!」

 

【気にするな。ま、こんなオッサンでも一応は護衛騎士やってんだ、遠距離は任せてくれや。】

 

『傷を治しますね?』

 

『……ありがと。』

 

その間にテキパキと面々は体制を立て直す。さすがの判断力であるな。

 

「回復終わったか?陣形変えるぞ、【レオン】に楼閣、ノホにジャンヌが付け。多分こっからまた【レオン】が狙われる。」

 

盟友が落ち着きを取り戻し、即興で陣形を立て直させる。

思惑としては、一番狙われそうな【レオン(むっつり助平)】を楼閣殿でカバーし、万一双挽殿の方へ【家庭用メカ】が行ってしまった際にはヘルプまでの時間を稼ぐためにジャンヌ殿を付けているのだと我は思う。

 

つまり、思惑通り【レオン】が狙われればジャンヌ殿と双挽殿が近寄り、態勢が安定するわけであるな。

 

【ギ……ギ……ギュギギギ!!】

 

そこまで終えてからやっと瓦礫を跳ね除け、【家庭用メカ】がこちらに向かってくる。

 

「焼き払え!!」

 

【合点!】

 

それを鑑みて盟友は我に指示をしておったのだがな。

 

まぁ、それでも読み切れんなんてことが今までにも沢山あった訳で、今回もそうであった。

 

【ギュイギギ!!ギッギ!!】

 

「チッ!ノホの方か……楼閣!俺とセナでカイティングするからいい感じに位置取れ!」

 

「全く!どれだけ私にアドリブ求めるのさ!やるけどねっ!!」

 

『連れてくるのは任せたぞ、ロード!』

 

「おいセナ、今まで1回も動いてないお前の汚名返上だぞ。攻撃してヘイトトップ、からの楼閣のところまで【メカ犯】を連れてく。できるよな?」

 

『僕ともあろう者が、負けるわけがない。』

 

悪魔殿は随分と自信ありげであるな。

 

「うし、お前はそれでいい。行くぞ!」

 

そう言って盟友と悪魔殿は駆け出した。

 

【ギュイギギ!!】

 

「ノホ!ジャンヌ!こっち来い!!」

 

『分かった。』

 

そのまま双挽殿の元へと行ったのでは【家庭用メカ】が先に双挽殿に危害を加えると判断した盟友は、双挽殿とジャンヌ殿を呼びつけ【家庭用メカ】から離しつつ自らの方へと奴を引きつける判断をした。

 

そしてそれは、結果として上手くいく。

 

「セナ!」

 

『どけェ!!』

 

【ギュギッ?!】

 

今まで盟友は後衛におったのだから【家庭用メカ】にとっては想定外だったのであろう、思わぬ伏兵に奴は戸惑っておった。

コクリコ殿が愛らしい姿をしておることも奴の困惑に拍車をかけておったのかもしれぬが。

 

「よし、とりあえずノホは離れて回復!カイティングするから、PRHS、ノホ、ジャンヌはジャスが安定したらこっちに来い!」

 

『分かった。』『分かりました!』「了解!」「なぁ、俺忘れられて(ry」

 

盟友がそこにいた三人に素早く指示を出した。

【家庭用メカ】は先に闖入者である悪魔殿を排除しようと動いていた。

 

【ギ、ギ、ギュギ!?】

 

しかし、奴にとっても想定外であったことが一つだけある。

奴が未だに取り乱しておる最大の理由でもあった。

 

「【眠り姫の微睡み】」

 

そのわけを盟友がポツリと呟く。

 

【眠り姫の微睡み】

ダッシュ攻撃を当てた相手の攻撃力を一定期間55%ダウンさせる、コクリコ殿のあびりてぃというものらしい。

それによって攻撃力が下がった【家庭用メカ】は、後衛におって見た目で判断しても戦闘能力がない、あってもそこまでであろうと踏んでおったコクリコ殿になんの痛痒も与えられず、困惑していたのだ。

 

【ギギュイ……ギギ!】

 

「やれ、セナ。」

 

『どけェ!!』

 

【ギ……!ギュイギギ!!】

 

一度その戦線から退き、双挽殿から潰してゆこうと考えた【家庭用メカ】を盟友と悪魔殿は何度も追い回し、じわじわと奴を苦しめてゆく。

 

逃げられぬと悟った【家庭用メカ】は遂に盟友に狙いを変えた。

 

「よし釣れた!セナ、走るぞついてこい!」

 

『わかっている!僕に指図するなァ!』

 

その瞬間、盟友と悪魔殿はこちらへと戻ってくる。

……【家庭用メカ】が真後ろを隙間なくピッタリとついてきておるが大丈夫なのか?

 

『クッ……!』

 

「セナ、焦るなよ?」

 

『わかっている!』

 

悪魔殿の背中を【家庭用メカ】の攻撃が掠めた。

かなり不味くはないかと我は思うのだが、盟友は何故か余裕を持っていた。

 

【ギュギッ!ギギギ!!】

 

「今だ!」

 

『ぱたん……』

 

【家庭用メカ】が今にも盟友と悪魔殿に飛びつかんという時に、盟友は左に飛び、コクリコ殿が伏せ、その体制で悪魔殿が右にコクリコ殿を連れていった。

 

「ロードくんありがとっ!ジャスくん!」

 

『ナイスだロード!うりゃあ!』

 

そこには、なんということだろうか、ジャスティス殿と楼閣殿が待ち構えておったのだ。

 

なんと、盟友と悪魔殿はジャスティス殿が見えないように速度を調整しておったというのか!

 

【ギィ……!ピシュッ!】

 

『させん!テヤァ!!』

 

ジャスティス殿が得物を叩きつけるように【家庭用メカ】に振り下ろし、それを受けて一旦距離を取ろうとして光線を奴は出しおったが、それはジャスティス殿の光の壁に阻まれる。

 

「殺れ、めぐめぐ!」

 

『腸をぶちまけろ!』

 

そこに波羅渡殿とめぐめぐ殿も加勢し局面は振り出しに戻った。

とはいえ、一方的にダメージを与えておるが故に振り出しではないのだが。

 

「ロードくん……敵さん、いくらなんでも体力おかしくないかい?」

 

「あぁ……確かにな。とはいえ体力無限バグとかじゃねぇだろ。それならダメージは気にしないだろうからな。」

 

盟友と楼閣殿が何やら話しておるが、それは我にも分からぬな。

……もしや奴は、呪縛を引きちぎったとでもいうのか?

 

まぁ、なんにせよそろそろ奴のエネルギーも尽きる頃よ。

 

そう思っていた時であった。

 

【ギギギ……カチッ。ギュイギギ!!】

 

「…………!!波羅とめぐめぐは避けろ!ジャスティス、死ぬ気で踏ん張れ!特大エネルギー砲撃来るぞ!」

 

『分かった!テヤァァァァ!!』

 

【家庭用メカ】の元ネタに一定の知識のある盟友が何かを察知し激を飛ばす。それを受けて各々素早く行動をした。

 

【ギギギ……カチッ!ギュイイイイイイイイイイイイン!!】

 

が、その想像は覆される。

【家庭用メカ】は光線を放つ直前、首を別方向へと巡らせた。

 

その先にいたのは

 

『あぁっ!』『きゃぁぁ!!』

 

離れていた双挽殿とジャンヌ殿の2人であった。

 

「なっ!?」「うそっ!?」

 

盟友と楼閣殿が驚愕に目を見開くがもう遅い。極大の光線は二人をすっぽりと包み、焼いた。

 

光線が晴れる頃、二人とその使い手の姿はもうなかった。

 

「くそっ……!もうなんでもありかよ!」

 

「こんなの……どうしろっていうのさ……!」

 

盟友が無力に頭を掻き毟り、楼閣殿は絶望にくずおれた。

 

【モウ諦メルノデスカ?楼閣サンラシクモナイ。】

 

そこに誰かの声が響いた。




お久しぶりです、乱数調整です。

長らくお待たせ致しました……本当に申し訳ないです。
書いてて、「あれ?メカ犯強すぎません?この強さはおかしくありませんか乱数さん!?」とセルフツッコミを炸裂させていて、展開を強い理由がこじつけられるように考え続けた結果、話が進まなくなりました。

しかし、次の話から私がこの章で書きたかったシーンが始まるのでもう少し早くなると思います。早くなったらいいなぁ……

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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第二の相棒と共に

【モウ諦メルノデスカ?楼閣サンラシクモナイ。】

 

「えっ、」

 

誰かの声が響いた。

その声の主は、驚いた盟友と楼閣殿、波羅渡殿が其方を見る前に【家庭用メカ】へと強襲する。

 

【ギュイギギ!!ギュギッ!!】

 

【サセマセンヨ。テイッ!】

 

【家庭用メカ】はその声の主が来た途端に盟友も楼閣殿も全てを無視して声の主に攻撃を始める。

しかしその声の主は華麗にそれを掻い潜り、ダメージを蓄積させておった。

 

【ギィ……ギュギッ!!】

 

【ハッ。吹キ飛ビナサイ!】

 

攻撃を掻い潜られた【家庭用メカ】が堪えきれんくなったのかクロスカウンターを狙うが、声の主はその射程の瀬戸際で急停止、無傷でクロスカウンターをやり過ごした後に【家庭用メカ】を吹き飛ばした。

 

【ゴ無事デスカ、楼閣サン?】

 

「え、あの……うん。大丈夫だよ。ありがとう。」

 

その直後、声の主は楼閣殿に話しかけた。がしかし、楼閣殿は困惑しておるばかりであった。

 

【ゴ無事ナラ良イノデス。貴方ノパートナートシテ、コレ以上誇ラシイ事ハ無イデスカラ。】

 

そう言ってにっこりと微笑む声の主に、楼閣殿は得心がいったような表情をして確認をとる。

 

「え、あ……もしかして、【銀河防衛ロボ】……ちゃん?」

 

【ハイ。貴方ノ【銀河防衛ロボ】、【銀チャン】デスヨ?】

 

そう言って【銀河防衛ロボ】は何を言ってるのか分からぬとでも言いたげな表情で小首を傾げた。

 

「銀ちゃんなの!?私、カード使ってないはずなんだけど……」

 

【私ハ#コンパス統括プログラムノ一員デスノデ。貴方ノ危機トアッテハ出テキマストモ。】

 

「そうなのか……銀ちゃん、助かったよ!わざわざありがとうね!」

 

【イエ、先程モ言イマシタ通リ、貴方ノ危機デスカラ。貴方ハ私ノ……】

 

そう【銀河防衛ロボ】が言いかけた時、そこに割り入る声がした。

 

『【ギンガボウエイロボ】!ヨウセイニオウジズナニヲシテイタノデスカ!!』

 

【……voidoll、アナタマダイタノデスカ。】

 

トックニ諦メタモノカト、と【銀河防衛ロボ】は虚構の管理人殿に言う。

その言葉に反発するかのように虚構の管理人殿は続ける。

 

『ハカセノヨウセイ、シジニシタガワズ、ワタシタチハシンパイシテイタトイウノニ、コノタイミングデアラワレルナンテ、アナタハナニヲカンガエテイルノデスカ!!』

 

【アンナ癇癪シカ起コサナイ人ナド、私ノマスターデハアリマセン】

 

『カピッ!?ハカセヲワルクイワナイデクダサイ!ソレニアイテハバグナノデスヨ?ソレユエニタイキュウリョクガオカシイノデス。トウカツプログラムゼンインデコトニアタラナケレバナラナイノハワカッテイマスヨネ?シュウセイパッチガモウスグデキマス。パッチノテキヨウニハアレヲトメナケレバナラナイノデスヨ!』

 

【……voidoll、アナタ、マダ気ガツイテイナイノデスカ?】

 

「……ん?どういうことだい、銀ちゃん?」

 

楼閣殿がそう言うと、【銀河防衛ロボ】は、アチラヲゴ覧クダサイ、と【家庭用メカ】が飛んでいった方向に腕を向ける。

そこにはもうボロボロの【家庭用メカ】がおった。

 

「すげぇな……俺らがあんだけ手こずった奴を一撃か……」

 

「銀ちゃん、本当に助かったよ……!」

 

【イエ、ヨク見テクダサイ。】

 

盟友と楼閣殿が【銀河防衛ロボ】を賞賛したが、当の本人はその先を見るように促す。

 

【ギ……ギィ…………ギュイ、ギギ……】

 

【家庭用メカ】は苦しそうに呻く。もう立ち上がれないかのように思われた。

が、我らが思っていたよりも遥かに【家庭用メカ】は(したた)かであった。

 

【ギュギッ!】

 

【家庭用メカ】が一発空に吼えると、宙から様々な部品が降ってきおったのだ。

そして奴は自らの悪くなった部分を取り外し、それを神業ともいえる早さで降ってきおった部品と取り替えおったのだ。

身体のほとんど全てのパーツを替えたというに、時間にして一秒も経たぬ早業であった。

 

【……アアヤッテ常ニ傷ヲ治シテイタノデス。アレデハドウヤッテモ終ワリガナイノガ見エテイマス。】

 

voidoll、アナタハ何ヲ見テイタノデス?と【銀河防衛ロボ】は虚構の管理人殿に言い放つ。

 

「じゃあさ銀ちゃん、倒すにはどうしたらいいの?」

 

すると、そんな【銀河防衛ロボ】の言葉に楼閣殿がそう尋ねた。

一秒時間があれば回復するのなら、最早、倒すのは不可能ではあるまいか?

 

【倒スニハ、一撃デ全テヲ破壊スルカ、別ノ空間ニ放リ込ムシカナイデショウ。ソノタメニ──】

 

「なら俺がヤッて殺るよ!行くぞめぐめぐ!!」

 

『了解、ハービィ!!』

 

【待チナサイ!!】

 

【銀河防衛ロボ】の制止も聞かず、波羅渡殿が【家庭用メカ】に向かい進撃を始める。

無論、【家庭用メカ】がそれに気づかぬわけもなし。

 

【ギュイギギ!!】

 

「殺れ、めぐめぐ!」

 

『腸をぶちまけろぉ!』

 

先ほど連射を弾かれたというのに波羅渡殿はまたも正面から愚直にも連射を始めおった。

無論、【家庭用メカ】は先ほどと同じ要領でそれらを弾き、波羅渡殿に近づく。

 

「クッ……!めぐめぐ!上下に揺らせ!」

 

『おっけー!』

 

近づいて来たことに焦りを感じたのか波羅渡殿はそうめぐめぐ殿に指示を出すが、【家庭用メカ】は上体を屈めたり反らしたりしてその凶弾を弾いてゆく。

 

「クソがっ!!」

 

【よぉ、波羅っち。オレはお前のそういう愛すべきバカな所好きだけどよ、今回ばっかりは分が悪い……ぜ!】

 

また、新たな声が響く。若く力に溢れた声だ。

 

その声の主は口上を述べながら【家庭用メカ】の頭を踏みつけて回転を止めた。その後、足払い(どこが足が分からぬがな!)を仕掛け、連打を食らわせておった。

連打を繰り広げる新たなる声の主に波羅渡殿は驚いたように尋ねる。

 

「なっ……!?【秘めたる】?!」

 

【おーおー、お前の第二の相棒【秘めたる力の覚醒】だ。【銀河防衛ロボ】に呼ばれて、ただいま参上!なんつって!!】

 

ほらよ、【銀河防衛ロボ】!と言って【秘めたる力の覚醒】は【家庭用メカ】を【銀河防衛ロボ】に蹴り飛ばす。

再び深く傷ついた【家庭用メカ】は【銀河防衛ロボ】から少し離れた位置に着地をする。

 

【ギュイ……ギィ…………ギュギッ!!】

 

【私ハ、全体ノDPSヲ上ゲルタメニ【秘メタル(チカラ)ノ覚醒】ヲ呼ビ起コシタノデス。ソレニ、試シタイプランモアリマスシネ。】

 

再び部品の組み換えを始めた【家庭用メカ】をただ見つめながら【銀河防衛ロボ】は我らに言う。

ただ見つめておるのには何か意味があるのだろう、なぜって盟友がおとなしくしておるのだもの。

 

【統計データハ七ツ……十分デス!解析完了シマシタ!!右腕→左腕→両手ヲ支エニ反転→胴体パーツ→駆動部、コノ順番デ組ミ上ガッテイマス!左右ドチラカノ腕ガナケレバ組ミ上ガリマセン!!マタ、頭部ハ恐ラク、完全二破壊サレナイ限リ交換不可デス!】

 

「うし!それさえ分かりゃそれでいい、よくやった【銀河防衛】!!【秘めたる】!お前は降ってきた右腕ぶんどってそれで攻撃!【レオン】は左腕を撃ち抜け!両腕どっちも残すな!」

 

【任せろ!】

 

【了解!】

 

なんと!この一瞬で【銀河防衛ロボ】がしようとしておることを見破り、それを以て作戦を立案しよるか!

我が盟友は恐ろしく頭が回りよる!

 

「ぶれどら!まずは危機感与えるぞ!!遠慮なくぶっぱなせ!」

 

【承知したぞ、盟友!】

 

対策させる隙なぞ、与えてやるものか。

信念を持たぬ貴様に、躱す隙間も対応する(いとま)も、何一つとしてくれてやらんぞ!

 

【キュオオオオオオオオオオオオ!!】

 

ダメージ量は制限されておるゆえに一撃では倒しきれんでも、幅と距離は限界まで延ばした。

我の制限をかけたブレスしか見ておらぬ【家庭用メカ】に避けることが出来る道理はないわ!

 

【ギュ……ギィィィィィィィィ!!】

 

全力で後退をしておった【家庭用メカ】は躱しきれんと悟ったのか、両腕で自らを庇うようにして我のブレスをやり過ごそうとした。

 

結果、胴体パーツは守られたものの、両腕に深刻な損害を与えることができた。

 

【ギ……ギ…………ギュギッ!!】

 

【家庭用メカ】が空に一発吼える。

盟友の描いた道筋通りだ!

 

「行け!」

 

【【了解!】】

 

打ち合わせ通りに【秘めたる力の覚醒】と【レオン】が【家庭用メカ】の両腕を奪う。

【秘めたる力の覚醒】は右腕を武器として

【レオン】は左腕を自らの得物で撃ち抜いて

 

それでも【家庭用メカ】は諦めずに自らの部品を宙から降らす。

 

【ギュギッ!!】

 

「チッ!まだ降ってきやがる!!」

 

【おいおいギルマス!オレ達をちったぁ信用してくれ!】

 

【想定外なんて、よくある事だ!】

 

【秘めたる力の覚醒】と【レオン】はそれでも動揺せんかった。

【秘めたる力の覚醒】は奪った右腕を使い、降ってきた新たな右腕を破壊する。

【レオン】の方は焦ることなく一つずつを冷静に撃ち抜き、使い物にならなくさせている。

 

【家庭用メカ】は完全にその場に縫い止められた。

 

【足止メガ上手クイッテイマス!今ノウチニ完全ニ破壊シテクダサイ!】

 

「って言ってもどうやって!?」

 

楼閣殿がそう訪ねた時、【銀河防衛ロボ】の表情が曇る。

先ほど奴は〈完全破壊のために【秘めたる力の覚醒】を連れてきた〉と言っておった。

盟友がそれを別の目的に使ってしもうたゆえに、打開策が無くなっておるのだろう。

 

そんな時、それを知ってか知らずか盟友が怒鳴るように【銀河防衛ロボ】に尋ねる。

 

「【銀河防衛】!カード発動モーションは出来るのか!?」

 

【カード発動モーションハ可能ナハズデス!】

 

「よし、なら俺に任せろ!行くぞセナ!」

 

そう言って盟友は悪魔殿と共に戦場を迂回して行った。

 

『オイ、何をする気だァ?』

 

「ポルターガイスト、だ。悪魔のお前の得意技だろ?連撃モーションだから禁止もされてない。」

 

言い合いをしながら走っておるうちに、盟友と悪魔殿は【家庭用メカ】が壊した建造物の残骸の前に着いた。

 

『だとしても、投げるものがないだろォ?』

 

「何言ってんだ?」

 

言い返す悪魔殿に、盟友は満面の笑みで言い放つ。

 

「お前は物理法則無視の悪魔で、瓦礫(投げるもの)ならここにあるじゃないか。」

 

『……まさか』

 

「その通りだ!岩で押しつぶして粉々にする!通信装置さえ潰しゃ、あいつはもう回復できねぇだろ!我ながらこの悪魔的な計画が怖いよ!」

 

『……ちィ!!どっちが悪魔か分かったものじゃないなァ!!だが……やってやろうじゃないかァ!コクリコちゃんのためだからなァ!!』

 

「まずはかなり上の方狙え!【秘めたる】と【レオン】避難させてる間に腕くっついたら不味いからな!」

 

『この悪魔めェ!!』

 

「それは褒めてんのか?自虐か?やれ!!」

 

『僕以外には触れさせぬゥ!!』

 

そう言って悪魔殿は遠くから【家庭用メカ】めがけて瓦礫を遠投し始めた。

 

【両名、避けよ!】

 

【わぁってるよ!】【おうよ!】

 

盟友に変わり我が両名にそう言うと、【秘めたる力の覚醒】は【家庭用メカ】の頭を踏みつけて左腕もを奪って離脱し、【レオン】は【秘めたる力の覚醒】の奪った左腕を狙う代わりに、しっかりと光線の射出口を潰した。

 

【ギ……?ギュギッ!!】

 

それを好機と捉えたか【家庭用メカ】は少々急いで部品を宙より取り出す。

 

バキッ!

 

【ギュイギギ!?ギュギッ?!】

 

しかしながらそれは悪魔殿の投げた瓦礫に潰される。

【家庭用メカ】がそちらに動揺をしておる間に、悪魔殿が投げた瓦礫が彼奴に殺到する。

 

それはガリゴリと耳障りな音をたてながら【家庭用メカ】の身体を轢き、欠片として行く。

 

【ギギ……ギ……ブゥン…………】

 

家庭用の機能が停止する音がした。

 

「終わった……のかな……?」

 

【イエ、モウ一度、一カラ組ミ立テ直ス可能性ガアリマス!voidoll、パッチノ状況ハドウナッテイマスカ?】

 

『モウスコシデス!』

 

虚構の管理人殿がそう言った時、宙に穴が空いた。

そこからは、バラバラと【家庭用メカ】の部品が降ってきたのが見える。

 

「クソっ!セナ、アレめがけて投げろ!」

 

『もう全て投げたぞォ!?』

 

「ジャスくん!どうにかHS撃てない!?」

 

『禁止されてるようだ!撃てるなら俺だって撃っている!』

 

再び訪れた災厄に、皆が焦りを見せる。

苦労して撃破した【家庭用メカ】が、先程の戦いの知識を持って再来するなぞ、勝てる見込みが立たぬわ!

 

ただでさえ【銀河防衛ロボ】と【秘めたる力の覚醒】の手を借りねば倒せんかったというに!

【銀河防衛ロボ】に何か策は────うん?そういえば、奴はなんと言っておった?

 

【倒スニハ、一撃デ全テヲ破壊スルカ────

 

違う、そこではない!

思い出すのだ、数千生きた我の脳細胞よ!

 

 

────別ノ空間ニ放リ込ムシカナイデショウ。】

 

そこだ!

 

【クハハハハハ!皆の者案ずるでない、全て我が食ろうてやろうぞ!!】

 

我は低く滑空し、【家庭用メカ】に向かって(あぎと)を開く。奴の身体が形成される前であれば、奴に反撃も回避もさせる暇なく我が顎に収めることができよう!

 

そのまま我は【家庭用メカ】を顎に収める。

ゴリゴリと不快な音を立てながら【家庭用メカ】は我が牙で粉々になる。

 

【ギィ……ギュギッ!】

 

【クハハハハハ!ムダムダァ!】

 

【家庭用メカ】が一発吼えるが何も起こらない。

当たり前よ!我の顎の中なら外界とも接しておらぬであろうと考えた我の発想の勝利よ!

 

【さぁ貴様ら!やってしまえい!】

 

《GMからの通達です……パッチが完成したようです!!》

 

『セキュリティパッチヲテキオウシマス!』

 

虚構の管理人殿の台詞と共に、空間がキュルキュルと音を立て、辺りは狂ったような緑色の明滅を繰り返していく。

 

そして、パリン、と風鈴の割れるような音を立てて【家庭用メカ】は消滅をした。




はいどうも、今回早めに出せるとか言いながら一週間以上余裕でかかった乱数調整です

いや……ね?色々と要らないネタが思いついて、忘れてたネタもどんどこどんと思い出して、調子に乗ってどんどんと入れ込んでいった結果、いつもの倍近い量になりました!
ただ、量が増えるのは私の十八番ですね。一章の一話の六倍位の量になってるし、しょうがないね!

次回、後日談
さぁ、閑章が終わるぞ!(清々しい笑顔)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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騒ぎの幕はこれにて落つるる

今回は少し短めです


ガラスが割れるような音とともに【メカ犯】が消滅した。

 

「終わった……かな?」

 

「やりましたね、ボス。」

 

「ひぃぃぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉぉぉい!!これで!コクリコの!服が買い放題だぜ!!いぇぇぇぇぇぇい!!」

 

《もう少し落ち着いてください》

 

キィ、うるさい♡

コクリコの服が買えるんだぞ!?これでテンションが上がらずにいつテンションを上げろってんだ!!

 

「さしあたっての危機も去ったわけだし、とっとと買い物に行くぞぶれどら!」

 

【………………】

 

俺がぶれどらに話しかけても、ぶれどらは黙るばかりだった。

【銀河防衛ロボ】と【秘めたる力の覚醒】も目を伏せて、こっちを見ようともしない。

 

嫌な予感がする。

 

「ぶれどら、こっからまだまだいろいろとあるぜ?コクリコの写真撮って、写真集も作りたいし、」

 

【………………】

 

ぶれどらは何も語らない。

 

「水着があったら海に行くのもいいな。夏イベあったら海もあるだろうし、」

 

【………………】

 

ぶれどらは何も語らない。

 

「慰謝料とか言って【明色に染まる空(daydream)】の三バカに旨い飯たらふく食わせてもらうのもいいな。」

 

【………………】

 

ぶれどらは何も語らない。

 

「それから────」

 

【すまぬ盟友、我はそこには行けぬ。】

 

俺がなんとか言葉をつなごうとした時、ぶれどらはなぜか首を横に振る。

これ以上聞くなと頭の中で警鐘が鳴り響く。

 

ぶれどらは何も騙らない。

 

「あぁ、確かにその大きさじゃブティックとか飯屋のドアくぐれねぇよな。心配すんな、試着してからお前にも見せるし、外で食える店にするから。」

 

【そういうことではないのだ、盟友。】

 

俺は嫌な予感を押し殺して言葉を続けるが、ぶれどらは慈しむような目をこちらに向けてそう言う。

 

「…………どういうことだ?お前、子供好きだっただろ?」

 

【あぁ、盟友が溺愛する娘子なだけあって、我も少なからず愛おしく思っておる。】

 

「なら、別の理由か?」

 

【察しが良いな、我が盟友よ。貴殿は忘れておるかもしれぬが、我は【カードキャラ】ぞ。【家庭用メカ】がバグの修正ぱっちとやらで沈静化された以上、我も消えるのが筋であろう。】

 

ぶれどらは冷静にそう言い放つ。

 

【ソウデスヨ。シカモ今回ハ【トアル家庭用メカノ反乱】ト【荒レ狂ウ天空竜ブレイズドラゴン】ノ両名ノミノ修正ナノデス。ソウ時間ハカカラナイハズナノデス。】

 

【そーだぜ。管理者権限で呼び出されたオレと違って、天空竜サマはかなりムリしてここにいるんだ。】

 

そのぶれどらの言葉を肯定するように【銀河防衛ロボ】と【秘めたる力の覚醒】が無慈悲に言い放つ。

その言葉に嘘が含まれているはずもないだろう。

 

「そう、か。」

 

こんな予感ばかりよく当たる。

当たって欲しくないと願うほど、よく当たる。

 

「なぁ、ぶれどら──」

 

【聞けぬ。】

 

ぶれどらは聞かずに即答した。

そして静かに続ける。

 

【盟友、我は貴殿の左様な姿なぞ見たくはないぞ。貴殿はいつも傲慢不遜で、コクリコ殿のことばかり考えておって、すぐに我を忘れて、変なところで思い切りがよく、悪魔的に頭が回り、奇天烈な策を弄して道を切り開き、我らの想像なぞ軽く超えてゆく、我が誇れる盟友ではないか。】

 

そのような弱気でどうするのだ、と言って俺の盟友は続ける。

 

【盟友よ、貴殿はちゃんと我が誇れる盟友だ、そこは誰がなんと言おうと心配せんで良い。盟友はコクリコ殿のことを考えて行動しておる時が、一番強い。コクリコ殿がおらんくなれば、貴殿はどのようなことをしでかすか分からぬ程にな。我はそのような貴殿に着いてゆこうと誓ったのだ。】

 

そこで一度言葉を切って、少し時間を開けてからぶれどらは言う。

 

【盟友は盟友のままでいい。我が保証する。】

 

そう遺してぶれどらは消えた。

空気に溶けるようにしてぶれどらは、消えた。

 

【銀河防衛ロボ】と【秘めたる力の覚醒】は、いつの間にかいなくなっていた。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「珍しいね、ロードくんがコクリコちゃんのために動かないなんてさ。」

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】一行は廃墟と化した商店街の一角を離れ、すぐにギルドホールに戻ってきていた。

 

今はリビングの机にヒーローを含む6人で座って飲み物を飲んでいる。

その中で茶化すように楼閣がロードに言った。

 

「うっせぇ、俺にだって考えがあるんだよ。それに、ぶれどらにあそこまで言われたんだ。なら俺だって、あの後コクリコの服を買う訳にはいかねぇだろ。」

 

「ジャスくん、ロードくんがおかしいよ。体温計持ってきて。」

 

【大丈夫だ、既にここに用意してある。】

 

ロードがごく真剣にそう答えたが、返ってきたのは[コイツ、頭がおかしくなったのか?いや、おかしくなった。]と言わんばかりの返答だった。

 

「お前らは俺をなんだと思ってんだ!」

 

「ロリコンの王」

 

「コクリコさんのこととなると容赦ないボス」

 

『コクリコのことになると見境がなくなるやつ』

 

『コクリコちゃんが大好きなたいちょー』

 

『同類だなァ』

 

《どう足掻いてもロリコンです》

 

《そっち系の趣味の危ない人かなぁ……》

 

《ロリコンです》

 

『大好きなお兄ちゃんだよ!』

 

「マジかよ……コクリコだけだよ、俺を分かってくれるのは……」

 

ギルメンとヒーロー、機械音声全員が遠慮なしにストレートに思ったことを口にする。

ロードは少なくないダメージを受けたようでコクリコを抱いて固まっている。

 

そこに客が来た。

 

『ミナサマ、コノタビハホントウニ──』

 

「来た!やれ、セナ!!」

 

『僕らの愛の強さ、見せてやろう!!』

 

『カピッ!?』

 

その客──voidoll──は入ってくると同時にロードとセナによる【インフェルノ・シュリーカー】によって足を止めさせられ、その隙にロードに頭を鷲掴みにされていた。

 

『ナ、ナニヲスルノデスカ!?』

 

「なぁオイ、voidoll?お前、分かってんだろうな?」

 

ロードの目はマジだった。

 

『ナ、ナニヲデスカ!?』

 

「まず、俺たちに無償で解決を図ったつもりは無い。そして、お前らが【警備ロボ】を退却させたおかげで計画が大幅に狂った。ここまでいいか?」

 

ロードはvoidollを鷲掴みにしながら、貼り付けたような笑顔を浮かべてそう言った。

 

『ワ、ワカッテイマス。シカシハカセガ──』

 

「御託はいい。俺が言いたいのはな?何か特別手当があってもいいんじゃねぇかってことだ。」

 

『……ト、イイマスト?』

 

voidollは首をかしげながらロードに聞き返す。

するとロードは笑顔を絶やさずに一言。

 

「そんくらい分かるだろ?」

 

『スグニジュンビヲシマス!』

 

そう言うとvoidollはギルドホールから出ていった。

 

「……あぁ、いつも通りだねぇ」

 

「いつも通りですね。」

 

『いつも通りだな。』

 

『いつものたいちょーだ!』

 

『いつものお前だなァ。』

 

 

その日の暮れ、【孤独者達の宴(ロンリネス)】宛に大量のコクリコ、ジャスティス、めぐめぐ用の衣装が箱詰めされて届いたという。




どうもお久しぶりの早更新です。乱数調整です。

今回で【カンショウ】系統の話はとりあえず完結まで終わりです。

間章、閑章、二つともどうだったでしょうか?
とりあえずバグ扱いにはしているものの、乱数の描きたい欲が爆発し、暴走したものです。面白かったらいいなぁと。

ここから完結に向けて新キャラてんこ盛りの大暴走です。
完結に向けるとか言いつつもあと4章くらい残ってるんですけどね。

そして私は気づいたのです……私はちょっと狂ってるキャラが好きなことに!
ということで、プロットの4章と5章が丸々入れ替わって乱数のモチベをなんとか上げて、完結まで!早い更新スピードで!行けましたら!それはとっても素敵だなぁって……(おいコラ逃げるな)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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三章 狩りを始めよう
強襲する使者(レイドボス)


ネタバレを避けるため、いつもの3分の1程度の量になってます


『…………………………』

 

トレーニングルームのようなステージに褐色肌で筋骨隆々の男が瞑目して立っていた。

 

トレーニングルームのような(・・・)、というのは、そのステージにポータルキーがひとつもないことが大きな要因だろう。

 

「あいつか、今回の強襲する使者(レイドボス)ってやつは。」

 

「見た目的にアタッカーか?銃とか見えねぇし、隠すところもないだろ。」

 

「じゃあ、僕のジャンヌちゃんでカイティングと維持やるよ。今回ドアないから耐久も上がってるしね。」

 

そこに佇む【明色に染まる空(daydream)】の三バカ。少ない状況から判断をしっかりとするその姿は、【孤独者達の宴(ロンリネス)】の面々といる時からは想像もつかない。

 

「にしても、情報が少なすぎる。今までいくつのギルドが参加して、失敗したよ?」

 

「軽く10は超えてるぜ?【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】を皮切りに、【セェン!せぇん、せぇン!!(◦<(ゝω・))】も【壊滅的ナタデココ(カタストロフィロス)】が立て続けに失敗。実力のある所なら【神にとどく白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】とか【この手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】の大手も失敗してる。惜しいところまでいったのは【高低熱処理(HAラバーズ)】って話だ。」

 

「だからこそ、少ない人数なら行けるんじゃないかって思って僕らが挑戦してるんだけどねぇ。」

 

リスポーン地点で三バカはそう話し合う。

降りる気配は、まだ無い。

 

「とりあえず、もう一回ルール確認しといていいか?」

 

《かしこまりました》

 

keyが誰に言うでもなくそう言うと、虚空から抑揚のない声が響いた。keyに割り当てられた機械音声だ。

 

機械音声は虚空にルールを浮かび上がらせる。

 

 

─────────────────────

強襲する使者(レイドボス)イベント

 

参加対象:ギルド所属者

 

参加上限:100名

 

攻略可能回数:ひとつのギルドにつき一度のみ

 

攻略対象:強襲する使者(レイドボス)

 

制限時間:20分

 

基本ルール

一度デスした者は復活できない

HSが自動蓄積しない

ボスはHS自動蓄積

リスポーン地点から降りたらバトル開始

チームレベルはアリーナ準拠

ポータルキーは存在しない

ボスをキルできればチャレンジ成功

時間切れか全滅でチャレンジ失敗

成功すればボスが味方になる

バトルで得た情報を他者に与えることはできない

─────────────────────

 

《────以上です》

 

機械音声は律儀にも一つずつ読み上げまでした。

 

「……毎回思うんだが、最後のが一番ネックなんだよなぁ……これがあるから全然情報が集まらねぇ。」

 

聞き終わってから開口一番、keyがそうボヤいた。

その言葉にPRHSとレイアが続ける。

 

「とか言いつつ、全くできないわけじゃないってのもネックだよね。」

 

「マジでな。れっきとした事実は言えないが、推察ならいけるってやつだろ?事実を言おうとしても何を言ってるのか分からなくて、紙に書いたら文字化けするってやつ。【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】の推論が、ルール的に無理だと思われてたけど【壊滅的ナタデココ(カタストロフィロス)】の時に事実だって分かったんだろ?」

 

「その分、ミスリードも多いらしいけどな。【妻に会いたい(逢瀬)】が言ってた[耐久力自体は人数にしてはかなり低い]ってのは【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】が違うって明言してただろ?」

 

「まぁ、なんにせよ────」

 

そこまでを再確認してPRHSが言う

 

「────やってみないとわかんないってことだよね。」

 

「だな。」

 

「あぁ。」

 

keyとレイアが頷いた。

そして前を向く

 

「行くぞ!」

 

「あぁ!」「了解!!」

 

明色に染まる空(daydream)】の3人は、勢いよく飛び出して行った。

 

そして5分後、彼らは強襲する使者(レイドボス)に挑み、敗北した。




はいどうも、乱数調整です
今回はただの導入です。【明色に染まる空(daydream)】こと三バカが説明してくれてますね。

察しのいい方はこの辺りで今回のレイドのシステムと強襲する使者(レイドボス)の正体が分かるのではないでしょうか。

今回が短いので次回はなるたけ早く上げますね。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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情報収集を怠るな

「ボス、今少しお時間よろしいでしょうか?」

 

波羅が俺の部屋をノックしてドア越しに訊ねた。お前はいつの時代の従者だ。

 

「あぁ、今コクリコが昼寝を始めたから別に構わねぇぞ。部屋変えても構わんか?」

 

「御心の通りに。」

 

うん、波羅の中では俺は王族かなにかかな?

 

とりあえず俺達は二人でリビングに移動した。

楼閣は引きこもってたドクを無理やり引っ張ってバトアリに出かけた。多分そろそろ帰ってくるんじゃないかな。

 

座って飲み物を出したところで波羅が切り出した。

 

「ボス、ボスは今回のイベントの【強襲する使者(レイドボス)討伐戦】に参加しないつもりでしょうか?」

 

「ん?なんだそれ?」

 

え、なにそのイベント?俺聞いてねぇぞ?

 

《聞かれませんでしたので》

 

おいキィ、お前の仕業か。普通はとりあえず通知しておくもんだろうが。

 

《ロリコンに【普通】を求めるのは酷かと考えました》

 

自由かよ。

 

「おや、ボスはお聞きになっていなかったのですね。まぁ、キィさんの考えも少しわかります。ボスが出てしまってはイベントそのものが終わってしまいますから。」

 

「いやいや、そりゃねぇだろ。たいてい、そういうイベントはボスのリスポンあるだろ」

 

波羅、ついに狂信じゃない所までおかしくなったか。

 

《いえ、今回はヒーロー獲得イベントですので強襲する使者(レイドボス)の再出現はございません》

 

「ん、そうなのか?」

 

まぁ、運営側のこいつ(キィ)がそう言ってんだからねぇんだろうな。

 

「えぇ、ですからどこのギルドも血眼ですよ。小さいところも大手もこぞって挑戦して、敗北してるみたいですよ。」

 

確か【明色に染まる空(daydream)】も失敗したって聞きましたね、と波羅は言う。

 

明色に染まる空(daydream)】?なんか聞き覚えあるな?

 

《三バカのギルドです》

 

おぉ!あそこか!

 

「……ボス、彼らは僕らをライバル視してるので一応覚えといてあげましょう?」

 

いやだって、一回きりの使い捨てキャラが準レギュラーヅラしてるってなんかムカつくじゃん?

 

『ロード……頼むからそういうメタ発言は控えてくれ……』

 

お、ジャスティスか。おかえり。二固定だけどどうだったよ?

 

『まぁ、良かった方だな。味方にもう一人タンクが来たから少し心配だったが、動きがいい。むしろドクが邪魔だったくらいだ。』

 

そうか……ってドクはどうした?

 

「今部屋でグロッキーだよぉ〜。自分がほとんどいらなくて落ち込んでるみたいだねぇ。」

 

へぇ。じゃあ、ジャスティスが『まぁ良かった方』って言ったのはタンクのせいじゃなくてドクのせいだったのか。

 

「うん。まぁ、長いこと使ってたデッキの使用感をすぐに変えるのは無理でしょ。……それにしてもほんとにいい子と当たったよ。タンク二人だった時はどうしようかと思ったけど、カバーが上手い子だったねぇ。」

 

『全くだ。ウチに呼びたいくらいだったな。』

 

ほう?勧誘したのか?

 

「いや、見つけた時には別の人たちに勧誘されてたからやめといたよ。二つ名もついてた子だから引く手あまただろうねぇ。」

 

ま、そういう奴はたいていどこが一番いい条件を出せるかで迷ってるんだろ。

 

「……で、何の話をしてたんだい?」

 

「あぁ、【強襲する使者(レイドボス)討伐戦】についてな。」

 

あぁ〜、と楼閣は嘆息を漏らす。

 

「ウチは人数少ないから、ロードくんはきっと不参加だと思ってたよ。やるの?」

 

「いや?今聞いたばっかで全然決めてねぇ。やるのはいいとしても、もうちょい情報が欲しいな。キィ、情報頼めるか?」

 

《かしこまりました》

 

─────────────────────

強襲する使者(レイドボス)イベント

 

参加対象:ギルド所属者

 

参加上限:100名

 

攻略可能回数:ひとつのギルドにつき一度のみ

 

攻略対象:強襲する使者(レイドボス)

 

制限時間:20分

 

基本ルール

一度デスした者は復活できない

HSが自動蓄積しない

ボスはHS自動蓄積

リスポーン地点から降りたらバトル開始

チームレベルはアリーナ準拠

ポータルキーは存在しない

ボスをキルできればチャレンジ成功

時間切れか全滅でチャレンジ失敗

成功すればボスが味方になる

バトルで得た情報を他者に与えることはできない

バトルで勝利すればモチーフカードが手に入る(枚数制限有り)

─────────────────────

 

キィが宙に情報を提示した。

 

「ふーん……ん?なぁキィ、『バトルで得た情報を他者に与えることはできない』ってのはどういうことだ?」

 

《そちらにつきましては、既に挑戦に失敗したギルドの方がバトルで得た正しい情報については伏字処理が行われるという処置です》

 

ほんと、俺の案内人は聞かなきゃ答えねぇけど聞いたらすぐ答えるな。

 

「なるほどな。……ん?それ、逆算すれば答えが出てきそうじゃね?」

 

《その通りです》

 

なるほどな。

 

「納得してるけどねロードくん、それ、情報源になる人がいないと成立しないよ?」

 

「おぉ!盲点だった!」

 

「いやそこ忘れる?普通?」

 

楼閣が苦笑いをしてそう言う。

 

「では、その情報源をどうするか、ですね……向こうから来てくれれば楽なのですが……」

 

ピンポーン

 

呼び鈴が鳴った。

 

「キィ、誰だ?」

 

《……おめでとうございます、【明色に染まる空(daydream)】の皆様です》

 

「「「すぐ通せ(通して)!!」」」

 

 

───────────────────

 

 

「いや、こないだは俺たちが出しちまった【メカ犯】のことで迷惑かけた。これ、少ないが詫びだ。ケーキ買ってきたぞ。」

 

「いやいや、俺だってコクリコの新しい服が買いたかったし別にいいぞ?まぁ、とりあえず上がれや。」

 

keyがかなりデカい箱でケーキを買ってきた。

これ、中身は普通に10個は越えてんな……

 

「いやいや、悪ぃって!俺たちは迷惑かけた側なんだからよ。」

 

「それこそ気にすんなっての。それにPRHS(ヘンタイ)を見るに、お前らも自分の分を買ってんだろ?それがダメになる前に食っちまおうぜ。」

 

「ロリコンの王……すまねぇ、そういうことならお邪魔させてもらう。PR、レイア、上がらせてもらおうぜ。」

 

「まぁ、そっちがいいなら上がらせてもらうか。」

 

「なんかすみませんねぇ。」

 

三バカがギルドホールに上がってきた。

全員が靴を脱いだのを確認して俺はドアの鍵を閉める。

 

『……?なんで今チェーンまで閉めたの?』

 

ノホタン……君みたいな勘のいいガキは嫌いだよ

 

「ウチにはコクリコがいるからな。お前らとケーキ食ってるうちに攫われたら、またアレ(・・)でコクリコ探すぞ?」

 

『……そう。大事にしてるのね』

 

とりあえず気づかれながらもなんとか誤魔化した。

実際に誤魔化せたかどうかは分からんが。

そのまま進んで全員がリビングに入る。

俺は後ろ手でドアを閉めて──

 

「キィ、やれ!」

 

《全扉をロックします……完了しました》

 

「「「はぁ!?」」」

 

『wwwwwwや、約束されたwww結末www』

 

『何をするんですか!?』

 

『……あぁ、そういうこと。』

 

全ての部屋の扉の鍵を閉めた。

これでもうこの扉が開くのは俺が指示した時か、コクリコが起きてドアを開けようとした時だけだ!

 

《……その辺が本当にロリコンですよね》

 

キィ、うるさい♡

 

「さぁ……話してもらうぜぇ!洗いざらいなぁ!!」

 

『ロード……それもうどう見てもお前が悪役だぞ……あぁPR、そのケーキはこちらで預かろう。痛むといけないからな。あと、補給助かる。ありがとうな。』

 

「え、あ、はい。」

 

そう言いつつもジャスティスが奴らのケーキを冷蔵庫に入れた。

 

「おいPR!人質(ケーキ)取られたろ!!」

 

「あ!ホントだ!!ジャスティスだったからつい油断した……!」

 

『いや、俺はそんなつもりはないんだがなぁ……それに考えてもみろ、ロードの話がケーキを食いながら和やかに進むとは思わんだろ?』

 

「「「確かに」」」

 

おいそこハモるな。

 

「んで?結局俺たちに何が聞きたいんだ?」

 

「物わかりが良くて助かるぞ、えっと……誰だっけ?」

 

「またかよ!いい加減覚えろ!レイアだよ!」

 

「レイダー?」

 

「レ・イ・ア!!」

 

なんだコイツ?

 

「なぁkey、」

 

「諦めやがった!」

 

「なんだ?ロリコンの王」

 

「key……お前もか……」

 

レイダー……いや、違ったんだっけ?レイヤーがうるさい。

 

「【強襲する使者(レイドボス)イベント】について知ってることを全てオシエロ。」

 

「……は?」

 

「だから、今回のイベントについて知ってることを全部教えろって言ってんだ。」

 

keyの野郎、なにポカンとしてやがる

 

「え、いや、だって掲示板にまとめサイト的なのがあるじゃねぇか。」

 

「ん?そうなのか?」

 

え、なにその情報?俺知らね。

 

「…………ま、いいか。そんなとこ行っても俺らはここで放置だろ?教えてやるよ。」

 

「おう、助かる。」

 

keyはこういうとこで思い切りがいいんだよな。

 

「まず初めに挑戦した【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】の推論だ。これは、【近距離の発動速度が早め】ってやつだった。だが発表当初は【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】が流したデマだと思われてた。ルール的に無理だと思われてたからな。その後、【壊滅的ナタデココ(カタストロフィロス)】の挑戦時に事実だって奴らが明言した。」

 

「長い。30字以内で簡潔にまとめろ。」

 

「お、おう。とりあえず【近距離の発動速度は早め】だ。」

 

25文字……まぁいい、続けろ。

 

「あぁ、そうする。それで、次に情報を持ち帰ったのが【高低熱処理(HAラバーズ)】だ。情報は【体力が少なくなれば攻撃力が上がる】だ。リゼロコラボのレムが追加だと思われたが【神にとどく白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】がそのアビリティを否定した。【神にとどく白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】は【選択した範囲内の相手に対してのみ攻撃力増加】だって言ってた。強襲する使者(レイドボス)の攻撃がジャンヌに対してある時は低く、ある時は高かったらしい。」

 

なるほど……とりあえず把握だ。

 

「そんで、一番重要なのが【妻に会いたい(逢瀬)】が言ってた[耐久力自体は人数にしてはかなり低い]ってのは【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】が違うって明言してたのについてだ。この点は俺らも【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】と同じでかなり高いと思ってる、ってか実際めちゃくちゃ高い。」

 

ここまでで質問いいか?とkeyが聞いてくる。

そのタイミングで波羅が挙手をした。

 

「ん?なんだ【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】?」

 

「敵は強いんですか?」

 

「あぁ、強いさ。」

 

keyは即答した。

 

「くひひ!いいないいなァ!血湧き肉躍る死合ができるときちゃあオレはもう止まれねぇよォ!!」

 

「おら、波羅落ち着け。」

 

keyの返答を聞いて荒ぶる波羅に俺はチョップをかます。

 

「あてっ!すみません、ボス!!」

 

「どうして【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】はこうなった……」

 

「俺に聞くな、俺に。」

 

keyとレイダーがなんか言ってる。なんだコイツら?波羅はいつもこんな感じだろうが。

 

「いや、世間一般が思ってる【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】像とかなりかけ離れてるぞ。」

 

マジか。

 

「はいはーい。とりあえずロードくん、質問があるんじゃないの?」

 

おぉ、そうだった。サンキュー楼閣。

 

「んで?ロリコンの王、質問ってのは?」

 

「まぁ、質問ってか確認っていうかなんだが、とりあえず、俺は質問をするけど全部に【手持ち花火】って答えてくれ。」

 

「「「は?」」」

 

三バカがハモった。俺そんなにおかしいこと言ったか?

 

《意図が分からなければおかしいことしか貴方は言わないじゃないですか》

 

それはそれでどうなんだよ。

 

「とりあえずいいな?全部に【手持ち花火】だぞ?」

 

「…………分かった。お前が何を言ってるのか理解していないことを理解した。」

 

なんだそりゃ

 

「じゃ、質問一つ目だ。お前らがよくやる花火ってなんだ?」

 

「………………なぁロリコンの王、お前ふざけてる?」

 

俺はいたって真面目だぞ。いいからはよ答えろ。

 

「これもう訳わかんねぇな。とりあえずよくやるのは【手持ち花火】だ。【打ち上げ花火】なんて個人では出来ねぇだろ。」

 

ふむふむ……

 

「いやなんでそこで考え込むんだよ!?」

 

「波羅」

 

「仰せのままに。」

 

「ムグッ!?」

 

考え事をレイヤーに邪魔されたからとりあえず波羅を派遣して口を塞がせる。狂信者波羅の動きは今日も素早い。

 

「ふぅん……ロードくんってば策士だねぇ。」

 

「言ってろ楼閣。じゃ、次の質問な。」

 

「もうワケわかんねぇけどいいぞ。今度はなんだ?」

 

俺は自信満々にkeyに言い放つ。

 

「敵の使ってたカードの名前、ひとつ言え。」

 

「ハイハイ、分かってんよ。【嘅fr/@?哪」@eyc詉gcj,!4!、嬭njf.?!」】……はぁ!?」

 

文字化けが起こった。




早めに、とか言いつつも電波の届かない場所に6日ほどいて全く書けなくて投稿が遅くなった乱数調整です。

さぁ、今回はロードくんがイベントに気づく回でした!
キィさんはかなり自由です。自由じゃなかったらキィじゃない。

とりあえず困ったら全てを三バカに任せているので、三バカの登場頻度がめちゃくちゃ高いです。正直、このままだと困ります。

何が困るって、【レイヤーレイア】の一連の流れがもうネタ切れです。
この二次創作では、【レイヤーレイア】のネタを随時募集しています。いいのが思いついたら感想で教えてください。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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全てが正しく全てが違う

「ハイハイ、分かってんよ。【嘅fr/@?哪」@eyc詉gcj,!4!、嬭njf.?!」】……はぁ!?」

 

文字化けが起こった。

 

「え、え、はぁ!?使ってなかったろ!?え、どういうことだ!?」

 

「ははは〜大成功だねぇ、ロードくん?」

 

「だな。」

 

俺と楼閣は同じ可能性を考えていた。

 

すなわち、

【使う可能性があるなら正解となるのではないか】

という仮定だ。

 

答えなら文字化けが起こる。なら、ラッキーパンチでのまぐれ当たりも規制されてしかるべきだろう。

 

そこで、keyには【手持ち花火】と答えてもらった。

 

「で、最初の質問は【手持ち花火】自体が禁止ワードじゃないかを調べるための質問だったんだよねぇ。全く、ロードくんは策士だねぇ。」

 

それ、気づいてたお前もだいぶだろ。

 

「はっはー。私はそういう表舞台に立つのはあんまり得意じゃないんだよねぇ。」

 

ふむ、つまり楼閣はむっつり、と。

 

「酷い風評被害だねぇ!?」

 

なんでだよ。ここまでの会話を総括すればそうなるだろうが。

 

「ま、文字化けしなかったら逆の質問してただけなんだけどな。でも、」

 

「文字化けしたってことは、【手持ち花火】が使われる可能性があるってことだねぇ。もっと言えば……ね?」

 

そう、もっと言えば敵は枚数制限なく全てのカードが使える(・・・・・・・・・・・・・・・・)可能性が高い。

 

「つまり、だ。今まで出てきた情報は、どれも正しく、しかし的を射る訳でもない答えだったってわけだ。」

 

「つまり……どういうことですか、ボス?」

 

「クールタイムそのままに全カードが使用可能なバケモノが誕生したって訳だ。大人数に攻められたところで【ディーバ】【ヴァルヴァラ】【全天】コンボで全回復からのダメージカット、そうでなくても回復カードがうじゃうじゃのバケモン設定……っておい三バカ、なんだその悲しそうな目は?」

 

生まれたての子鹿みたいな弱々しい目をするんじゃあない。

 

「いえ、ボス。僕が聞きたいのはそこではなくて、【今まで出てきた情報は合ってるけど間違い】っていう所なんですが……」

 

あぁ、そっちか。

 

「例えば、だ。さっき【妻に会いたい(逢瀬)】が[耐久力自体は人数にしてはかなり低い]って言ってたのを【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】が違うって明言してた、って言ってたろ?」

 

「コピペ乙」

 

『楼閣、お前もメタ発言をするのか……』

 

うっせぇ。黙って聞いてろ。

 

「それはこうとも考えられる。【チーム全員の体力の合計値がボスの体力】だ、と。」

 

波羅と三バカが目を見開いた。

キィはと言うと

 

《お見事です》

 

だそうな。コイツ、俺らに答えを洩らしてるわけなんだが、それでいいのか案内人。

 

「そう考えれば【妻に会いたい(逢瀬)】は名前からしてルチばっかのギルドだろ?その合計値なら単純に体力が低いんじゃねぇの?」

 

「逆に言えば、僕らや【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】はスプタンアタガン入り乱れたバランスのいいチームだから、タンクや高耐久スプがいる分、敵の体力が高くなってたわけですか。」

 

PR(ヘンタイ)がいい勘してるな。平静時には至ってマトモなんだよな、コイツ。

その上ちゃんと、ルールに抵触しないように直接的な表現を避けてる。変態行為(アレ)さえなければ有能すぎてどこからでも勧誘がかかっただろうに。

 

「その通りだ。」

 

俺は鷹揚に頷く。ここには今から挑戦する【孤独者達の宴(ロンリネス)】ギルメンと、ざまぁな敗北者連中しか居ない。

どれだけ答えを教えてやったところで【明色に染まる空(三バカギルド)】は泣いて悔しがることしかできないのだ。

 

「で、でも攻撃力とか防御はどうなるんだよ!」

 

モブ臭漂う今年の元号が発言をする。

それもはや、探偵役に追い詰められた犯人側の発言だぞ。

 

「そこはあんま関係ねぇだろ。合算にしたら誰も倒せねぇバケモン大降臨になるからな。おそらくだが、一旦合算してから平均出してんじゃねぇの?」

 

「なるほど、一旦合算してから平均出したら上手いこと調整入るか。」

 

ふむ……

 

「違うんだな」

 

「違うんですね」

 

「違うみたいだねぇ」

 

「は、謀ったなぁ!!」

 

そのセリフもモブ臭せぇぞ。

 

「……てぇことは、つまりアレか。素の攻撃力と防御を合算からの平均で、あとは向こうの倍率で行くのか。」

 

「なるほどねぇ。それなら上手いこといくねぇ。」

 

ま、さっき言ったのが違うなら一番近いのがこの説か。

 

「これが体力低いガンナーとかなら地獄だな。攻撃高くて耐久ある、その上カード全部使用可のガンナーとかどうやって攻略しろって────」

 

三バカがサッと目を逸らした。

 

「………………………………マジで?」

 

「ドンマイ」

 

「おつかれ」

 

「頑張って」

 

マジかよ。いや、嘘だろ?

 

三バカは仲良くサムズアップ。うぜぇ。

ルールに抵触しない方法で伝えてくるコイツらうぜぇ。

 

まぁ、とりあえずそんなことは今気にしてもしゃーないな。とりあえず対策立てるか。

 

『ちょーい、ロリコンの王、僕ちゃんからも一つ質問いーい?』

 

お?どうした13?

 

『さっきよぉ、アンタ自信満々に【今まで出てきた情報は全部合ってるけど間違い】って言ってたけどよ。【近距離の発動速度】問題はどうなるよ?』

 

「そ、そうだそうだ!アレは全ギルドの意見が一致してんだぞ!」

 

うん、もうこのモブは無視しよう。

 

「それか?それならな……おい、ちょっとkey。お前、あいつの近距離の発動速度、どのくらいかキャラで表してみろよ。」

 

「あ?俺か?それなら……だいたい【嘅fr/@?哪」@eyc詉gcj,!4!、嬭njf.?!」】だな……はっ!?」

 

「っつうわけだ。ふわっとした表現なら引っかからんが、速度の基準が出てきたら弾かれる。ここを通らんかったか、伝わるうちに抜けてったから分からんかったんだろ。事実でも伝える方法はたくさんある。正しく伝わらなければOKなんだろ。」

 

『なるほどな。こいつァ勉強になったわ。』

 

逆に、【観測不能】を観測する方法もあるからな。今回はこっちの方が真実には近づける。俺が最初に使ったのはこっちだな。

 

「つまり、まとめるとこうなる訳だねぇ」

 

 

───────────────────

強襲する使者(レイドボス)

 

体力は全員の倍率後の合算

攻撃防御は全員の素の値の平均に倍率をかける

ガンナー

注意すべきは近距離

 

───────────────────

 

「オーケーオーケー。これだけ分かれば上出来だろ。素の攻撃速度とかはどうやっても知りえないわけだし、癖とか読み切るのは無意味だしな。」

 

「まぁ、あとはどうやって戦略立てるかになってくるしねぇ。」

 

まぁ楼閣の言う通りだ。

 

「そんじゃ、一旦トレーニングルームで会議を──」

 

『おにいちゃんおはよぉ〜……』

 

天使が昼寝から目覚めた。

 

《大袈裟です》

 

うるせぇ。

その天使は寝ぼけまなこを擦りながらこっちに擦り寄ってくる。可愛い。

 

ついでに『えへへ〜』とはにかむ。

守りたい、この笑顔。

 

しばらく目を擦っていたコクリコだが、完全に覚醒したようでノホタンに目を向けた。

 

『あー!おねぇちゃんだ!』

 

『……ん。お邪魔してるよ?』

 

『おねぇちゃん、あそんであそんで〜!』

 

『いや、今から帰るとこ──』

 

そうノホタンが言いかけた時、俺はノホタンの肩を掴み半回転させた。

そして至近距離で言う

 

「ケーキ食ってけ。」

 

『え、え?でも……』

 

「いいから食ってけ。コクリコはお前に懐いてるんだ。お姉ちゃんしてやれ。」

 

『いや……でも私関係ないし……』

 

ノホタンがごねる。面倒い。

だんだんコクリコがしゅんとしてきてるじゃねぇか。

 

「コロスヨ?」

 

『………………分かった。分かったからその目を止めて怖い。』

 

「よっしゃ三バカ!!飲みもんはこっちで準備するから、お前らもケーキ食ってけ!」

 

 

その日、【孤独者達の宴(ロンリネス)】はイベントに参加しなかった。

 

夜、コクリコが寝るまでロードは軟禁まがいの行動で【明色に染まる空(daydream)】のギルメンを拘束し、コクリコが寝たとたんに追い出した。

 

そして夜があける。




誰が一日に一回しか更新しないと決めたんですか?
一日に何回更新があってもいいと思いませんこと?(ならもっと頑張れよ)

さて、今回は文字数が多くなりすぎた前回の続きです。
しかし、ぶっちゃけ切るところが全然なくて比率がちょっと頭悪いです。

とりあえず前回の更新で言いたいことを全て言ってしまった感じですので、特に言うことはありません

次回、レイドが始まる!

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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被害者

『……………………』

 

場所はイベント会場、その中央に私は立っていた。

なぜ私がここに居るのかは分からない。一族の皆はどこへ行ったのだろうか。

 

『ピュイィィィィィィ!!』

 

『すまないマピヤ、今考えても仕方のない事だったな。』

 

いくつもの戦いを経て集中が鈍ったか、これは反省しなければな。

 

とりあえず、私が分かっていなければならないのはこの世界の【創造主】を名乗る者と、その者に言われた、私に挑む者を全て返り討ちにしろとの言を遂行することだけだ。

 

初めは私とて誇り高きティワロロ族の戦士、自称神の言うことなど一笑に伏したさ。

だが、反撃をしようとした途端、私の手から私の得物である【ククリ】が消えたのだ。その上マピヤさえも人質に取られてしまっては私もマピヤのために降伏せざるを得ない。

 

創造主と名乗るものが何もしていないのにマピヤがやられた。

もしや毒か?いや、そうなら私とてタダでは済むまい。

 

ならば奴は本当に……?

 

いや、その考えはよそう。神はワキンヤンだけで十分だ。

 

とりあえず、奴は危険だ。ならば機が来るまではこの馬鹿げた茶番を続けよう。

来る者全てを退ければきっと集落に戻れる。

 

この、薄い膜に閉じ込められた戦友達も、きっと元に戻せるはずだ。

 

『待っていてくれ、ウィネバ、イシュティニケ。』

 

私は決意を込めてそう呟いた。

 

『ピュイィィィィィィ!!』

 

マピヤが一声高く鳴いた。

 

『次の襲撃者か来たのか。』

 

奴らはどうして死を恐れもせず私のところまでやってくるのだ。私には訳が分からない。

 

しかも、戦いが始まる前まではすごく楽しそうじゃないか。

 

──いや、この考えもよそう。全てが終わったあとに、あの自称神にでも聞けばいい事だ。

 

それまで私が生きていれば、だがな。

 

今回の敵が入ってくる。

 

「おー、そこそこ広いトレーニングルームだな。でも、100人規模で戦うにしては手狭じゃないか?囲んでも一斉攻撃が出来なそうだな。」

 

「これを【そこそこ】広いって思っちゃう時点でウチのトレーニングルームの異常な広さを痛感するよねぇ」

 

「まァこれだけ広いと楽死イ死合ができそォじゃねェか!ヒハハハ!!」

 

ふむ……今回も三人組か……

前に来た二人組はこちらに一切の行動をさせない強者だったが、それを聞いて少ない人数で攻めるのが主流になったのか?

 

まぁ、私としては楽でいい。

 

「いや楼閣、ウチのトレーニングルームも結構手狭だろ。最近はどこに遊具を置くかジャスが困ってるんだぞ?」

 

「そもそもそういう用途を想定されてないからねぇ!?ジャスくんも!そんなに作らなくてもいいんだって!」

 

『いや……チビ共が喜ぶ姿を見ると戦時中でも落ち着くんだ。この姿を守らねば、とも思えるしな。それで……つい作りすぎてしまう。』

 

「ボス!痛いです!もう先走ったりしませんからそのコブラツイストをやめてください!」

 

……今回の襲撃者は不思議な者達のようだ。

まさか、私の油断を誘おうとしているのか?

 

「なぁ楼閣、この戦いに勝ったら──」

 

「なに?死亡フラグでも建てるつもり?」

 

「このトレーニングルーム欲しいな。」

 

「まさかの返答!この上さらに増築するつもりなのかい!?」

 

「ボス!折れます!背骨が折れちゃいます!!」

 

『一体何の話をしてるんだ!?』

 

私は叫んだ。今までの者達と決定的に何かが違う。

というか、話している内容がおかしい。

 

今までの者達は皆、どうやって私を倒すかを話していた。

なんだこの緊張感のなさは。

 

『その「なんだ、いたの?」みたいな目を向けるな!私が目当てで来たのではないのか!?』

 

「いや、俺らちょっと物見遊山しようぜくらいの気持ちで来たし……」

 

『ずいぶんと軽いな!?』

 

なんだこの者達は!?何もかもが掴みきれん。

 

「で?お前が強襲する使者(レイドボス)ってやつか?」

 

雰囲気が変わった。

あれは狩りをする者の目だ。

 

『……私はそう言われているのか。』

 

「……ん?自覚なしか?もしかして、あのクソGMに無理やり連れてこられた感じか?」

 

鼓動が跳ねた。

まだ言葉を交わして数秒なのに、私の状況を見抜かれたのだ。

 

『……お前はそちら(・・・)側なのか?』

 

「いや?俺らも無理やり連れてこられた側だ。俺らはこっち(・・・)に対する予備知識があったが、ヒーローのお前にはないんだろ?ドンマイとしか言い様がないな。」

 

『…………何を言っている?』

 

「そうか、急に言われてもわかんねぇよな。」

 

そう言うと先頭の男は地に降りてきた。

鈍重さなど感じさせず、ストン、と。

 

「ま、積もる話はあとだ。ギルドホールに戻ってからしようぜ。」

 

『却下だ。私はこの薄い膜に閉じ込められた戦友達を救い、集落へ帰る。』

 

「それができりゃ、苦労はしないんだけどな。」

 

私と先頭の男が言葉を交わしている間に、後ろにいた二人も降りてきた。

 

「毎回思うんだけどさ、この高さの高台から飛び降りるってもはや狂気の沙汰だよねぇ。」

 

「そうですか?オレはもう慣れたけどなぁ?」

 

「波羅ちゃんはバトル中は頭おかしいからねぇ!」

 

そんな話をしつつ、和やかに降り立つ。

この者達は死を恐れないのか?

 

『………………』

 

「『心底不思議』って顔してるな?」

 

『それはな。私からしたら笑顔で挑んでくるお前達は恐怖でしかない。』

 

「そのカラクリも後で教えてやるよ。」

 

『結構だ。私は死ぬつもりはない。』

 

そうか、と男は呟くと辺りを静寂が包む。

私はいつも通り、向こうから動くのを待っていた。

 

「どうした?いつでもいいぞ?」

 

その静寂を先頭の男が破る。

訳が分からないといった表情で男はこちらに語りかける。

 

男は、私が攻めてくるのを待っていた。

 

今までの襲撃者とは違い、私の力量を測ろうと待っていたのだ。

 

『……私を舐めているのか?』

 

「舐めてねぇよ?カードは全部使える、体力の高いガンナーなんて、舐めプで勝てるわけがない。」

 

『ならば何故?』

 

私は先頭の男に訊ねた。

男は答える。

 

「対策するための(・・・・・)後手は有効だと思うからな。」

 

『そうか……』

 

つまり、私を全て見切ってから攻戦に出ようというのか。

 

『その考えを悔いるといい!畳み掛けるはワキンヤン、死を運ぶはマタンツォ!!』

 

これまでとは違い、私が戦いの火蓋を切った。




なんか、バトルが収まらないけどいつもより短いっていう微妙な量になってしまいました、乱数調整です。

次回予告が盛大にウソついちゃってますね(๑>؂•̀๑)テヘペロ

とりあえず、訳が分からないまま連れてこられたイスタカっていうのを演出したくて、演出したら長くなりすぎたってやつです。

次回:乱数、予告を辞める!

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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狩りが始まる

『畳み掛けるはワキンヤン、死を運ぶはマタンツォ!!』

 

戦いの火蓋は切られた。

 

「ふむ……俺を中心に円か……楼閣はテヤれ、波羅は円から離脱!【バーゲン】!!」

 

ふむ、後ろにいる幸薄そうな男が【楼閣】、好戦的な表情をしている男が【波羅】というのか。

 

波羅は私の弓の範囲から逃れ、楼閣は範囲内で危なげなく耐えた。

 

先頭の男は、傷を負わずに凌ぎ切っていた。

 

「もう!ロードくんがダラダラ話すから敵さんのHSが溜まっちゃったでしょ!即死系だったらどうするつもりだったの!!」

 

「そりゃねぇよ。今の条件にHS自動蓄積で即死系HS来てみろ、難易度が鬼なんてもんじゃねぇぞ。あったとしても臣みたくタメに時間がかかるやつだろ。」

 

何やら喧嘩をしているな。

 

「それにしてものんびりし過ぎだよっ!ガンナーのHSって即死じゃなくてもたいてい強いんだからねっ!」

 

「即死じゃなけりゃやりようあるし、即死でもそこそこやりようあるだろ。そんな【次のダッシュ攻撃が貫通即死になる】とか【残り体力で範囲が増える貫通即死】とか【数秒間、通常攻撃が即死になる】とかいうぶっ壊れスキルでもない限り。そのHSでこのバトルきたら余裕で絶えるね。」

 

ま、んなHS、ゲームの方でも出たら怖ぇけどな、と先頭の男─ロード─は言う。

 

「んで、アイツのHSは【自分から1番近い相手を中心に円範囲連続攻撃】か。ジャスの体力の減り方的に貫通は乗ってないな。」

 

一度で全てを見切られただと!?

 

「うし!そんだけ分かればあとは打ち合わせ通りだ。行くぞ楼閣、波羅!」

 

ロードが一声吼える。

だが

 

『そう易々とやらせると思っているのか!マピヤ、呼吸を合わせるぞ!!』

 

『ピィィィィィ!!』

 

相棒のマピヤがロードの隣にいる少女に突撃する。

すると、ロードは凄い形相で飛んでくるマピヤを睨み、言った。

 

「あ?よっぽど焼き鳥志望(死にたい)みてぇだなぁ?」

 

『そのような脅しがマピヤに通じるとでも──』

 

『ピィィィィィ!!』

 

『どうしたマピヤ!?なぜ戻ってくる!?』

 

マピヤが脱兎のごとく逃げ戻ってきた。どうしたというのだマピヤ!?

 

『ピュイィィィィィイイイイイ!!』

 

『何?『あれはもはや人ではない』だと?いつもの威勢はどこへ行ったのだ?』

 

戦士であるマピヤがここまで怯えるなど尋常ではないな。

 

『一度落ち着け、マピヤ。ほかの者なら狙えるな?』

 

『ピュイィィィ!』

 

よし、ならばロードのみを避ければタッグは成立する。

 

『マピヤ、あれが獲物だ!』

 

『ピィィィィ!!』

 

「波羅!あれが晩メシ(エモノ)だ!」

 

「Sir,Yes Sir !ヒャーハー!!」

 

なんだあの波羅という少年は!?頭がおかしいぞ!

 

ともあれ、マピヤはその程度で怯むことなく波羅の連れているピンク髪の少女に襲いかかる。

 

『よし、そのまま──』

 

「ヒャーハー!!」

 

ガシッ

 

波羅がマピヤを鷲掴みにした。

 

『ピュイィィィィィイイイイイ!?』

 

『マ、マピヤ!!』

 

私は困惑する。マピヤがそう易々と捕まったことにも、そもそも敵を生け捕りにしようというその思惑も。

いったい、この者達は何者なんだ!?

 

「ボス!やりましたよ!晩メシ(マピヤ)ゲットだぜ!ヒャッハー!!」

 

『ピュイ、ピュイィィィィィイイイイイ!!』

 

《波羅渡様、それはルールに違反しますので》

 

何か別の声がした後、マピヤが消えた。

 

『な!?マピヤ、どこだ!?』

 

『ピュイ!』

 

いなくなったと思っていたマピヤがいつの間にか私のそばにいた。

 

「あ?キィ、お前どういうつもりだよ?」

 

《当たり前では?ヒーローを食べようとしないでください》

 

「ロードくん、そこはキィちゃんが全面的に正しいよ。」

 

「(・д・)チッ、食費が浮くと思ったのによ。」

 

『ピュイィィィィィイイイイイ!?』

 

落ち着け、マピヤ。その危機はもう完全に無くなったのだ。というか、マピヤを食物扱いか……

 

それにしてもあの《キィ》とかいう声、あれは何者だ?あのメンバーを統括するなど、並のことではできまい。

彼女は信頼できそうだな。

 

《それに……殺したらポリゴン(ナタデココ)になるので食べられませんよ》

 

「おぉ、盲点だった。」

 

前言を撤回する。

やはり彼女もあの者達の側だった。

 

「ボスゥ……オレァもう、殺りたくて殺りたくてたまんねぇよ!!」

 

「うるせぇな。んじゃ、チャチャっと終わらすか。行くぞセナ。」

 

『僕らの愛の強さを、見せてやろう!』

 

ロードと少女─セナというのか?─がこちらへと特攻を仕掛ける。

ちゃっちゃと、とは舐められたものだな!

 

『そんな直線的な攻撃で、我らを止められるとでも?【ディーバ】(痛みなど退ける)。』

 

この数十戦で私とてだいたいの攻め方を把握している。

まずは【スプリンター】という移動速度の速い者がこちらに来て、一段と強い攻撃を仕掛けてくるのだ。そのタイミングに合わせて、このダメージカットのカードをまずは使う。

 

「っていうのが、定石だよな?」

 

『何っ!?』

 

ロードとセナは何をするでもなく【近距離】カードが当たるかどうか、という位置を素通りして行った。

 

「これで1枚、無駄遣いしたな♪」

 

『…………なるほど。』

 

この者達は私が彼らと同じく、カードを4枚しか使えない、と思っているのだな。

 

『その固定観念が死を招くぞ!【イナズマシュート】(距離など無いも同じだ)!』

 

私は後ろから長射程のカードを使う。

 

「ま、それに当たらんために移動してるわけなんだがな。」

 

しかし、それが当たるよりも前に射程外にロード達は逃げていた。

 

『ちょこざいな……!』

 

「攻めに行くぞ、セナ。」

 

『任せろォ。』

 

『む、させるか!【首都防壁】(痛みで戦士は止められぬ)【アバカン】(真実の目が貫く)!』

 

すかさずダメージカット系と気絶させる長射程のカードを使う。

がしかし、

 

「ま、そう来るよな。」

 

『全く、性格が悪いなァ?』

 

走り出したのは一瞬で、二人は直ぐにバックして射程外へと離脱する。

結果、また2枚、合計4枚のカードを無駄にさせられた。

 

『これはしてやられたな……』

 

だが、これで相手も攻戦に移るだろう。なんせ、今までの者達と同じようにこちらが4枚しかないと思っているだろうからな。

そして来たところに【ツォイク】で反撃をしてやろうではないか。

 

「よっしゃ、セナ行くぞ。先走るなよ?」

 

『言われなくとも!』

 

予想通り二人は突っ込んできた。

 

『戦いではいつも予想外のことが起こると知るがいい!【ツォイク】(受けてみよ)!』

 

「お前もな、【バーゲン】!」

 

『ゆらり〜ん……』

 

『近寄るなァ!!』

 

『何っ!?』

 

私はカウンターをくらい、天高くに投げ出される。

ロードは読んでいた、私が奴らと違いカードを5枚以上使えることを。

体力は向こうの3人の誰もが低いらしく、一撃で4分の1ほど削られた。

 

私の言動が原因か?

まぁいい。とりあえずダメージカット系と回復系のカードを着地と同時に使おう。

 

【ノーガー(痛みなど退け)──』

 

「【オルレン】」

 

『おじゃま虫は排除する!!』

 

『グゥッ!?』

 

着地と同時に足元を掬われただと!?

使おうとしていた【ノーガード戦法】と【打ち上げ花火】の2枚がまたも霧散する。

 

しかしロードから距離は取れた。

起き上がってから回復を──

 

「おいおいおい!まさかオレを忘れてねぇだろうなぁ!?ヒハハハ!!【クルエルダー】!!」

 

『触れたきゃお菓子を持ってきな!』

 

『むぅぅぅ!!』

 

そうだった、これはロードと私の戦いではない。

まだ波羅と楼閣もいるのだった。

私は起き上がる前に引き寄せられ、またも転倒する。体力は残り半分

 

「【秘めたる】!殺れ、めぐめぐ!!」

 

『めぐめぐはラブリンでしょでしょ?腸をぶちまけろぉ!』

 

『ぐ、ぅぅぅぅぅ!!』

 

ガリガリと体力が削られていく。しかし起き上がれた。

起き上がれればこちらのものだ!

 

【ドルケストル】(意思こそが人を生かす)【リリィ】(命の息吹を)!』

 

私はすかさず防御特大アップと回復を使う。こういうのは即時回復がいい。

【ドルケストル】を使った時には、私の体力はすでに13だった。60%回復に救われた。

 

『では、反撃と行くぞマピヤ!』

 

「させないよぉ〜!【メカ犯】!」

 

『でりゃああああああああぁぁぁ!!』

 

『ぐっ!?』

 

また転倒か!

以前に来た二人組はその場から動かず、火球と氷柱で私になにもさせなかったが、この者達は私の手札を潰しつつ私に行動をさせてこない!

 

先程のような隙があれば勝てたあの二人組とは違う、この者達はミスさえも笑いながらカバーする狂人共だ!

 

私の体力は早々と35%まで戻される。

 

「すまねぇな楼閣さんよぉ!【レオン】!!」

 

『汚ねぇ手で近寄るな!』

 

『がは!?』

 

せっかく防御を特大アップさせたというのに、あいつら全員貫通攻撃か!

私の体力は残り10%

 

早く起き上がり、【イェーガー】と【アルプ】を……

 

「使えると思ったか?」

 

『なっ!?』

 

気がつけばロードがそこにいた。

スプリンターは足が早い、そんなこと知っていたはずなのに。

【ドルケストル】は残り2秒、

 

「貫通を持ってなければ、か?残念、【ぶれどら】!」

 

『近寄るなァ!!』

 

私の体力が全損する。私の負け、か。

 

『此度は私が狩られる側、か……』

 

友を救えなかった。

ウィネバ、イシュティニケ、すまない。

私は先に次の世界へと向かう。

 

私の意識はそこで途切れる。




なんか最近調子がいいな……更新速度の早い乱数調整の再誕です。

さてさて!イスタカが出た時から決めてたイスタカ登場回です!レイドですよレイド!

【raid】襲撃する、強襲する

明日から使える無駄知識でした。

バトル回、なんとなんと一話でおしまいです。
誰が予想しただろうか、乱数のバトル回が1話で終わるなんて。

でも、長期戦にすると襲撃者側が明らかに不利なので短期決戦にしました。

次回、さらばイスタカ、次の世界まで!(嘘ですごめんなさい)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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闇の精霊

『………………はっ!』

 

「お、気がついたか?」

 

私は目を覚ます。今までの戦いが、あの戦いでの死が夢だったかのようだ。

しかしここは……

 

『……知らない天井だ。』

 

「テンプレかよ。」

 

『その声は……ロードか?』

 

ロードの声に私が反応すると、ロードが応えた。

 

「あぁ、そうだぞ。ってかあの中でよく俺の名前分かったな。わざわざ敵の名前まで覚えてるなんて、あの状況でそうそうできる事でもないだろ。」

 

む……そう言われてみればそうか。なぜ私はこの者達の名前を覚えていたのだろうか?

……これもまた、運命か。

 

『……!!マピヤ!マピヤはどこだ!?』

 

「あぁ、マピヤなら──」

 

『まさか食ったのか!?』

 

「食わねぇよ!……食えなかったから諦めた。」

 

そ、そうか……ひとまずマピヤは無事に……ってロードお前、マピヤを食うつもりだったのか。

 

とりあえずマピヤの無事を知り、安堵した私は新たな疑問を見つける。

 

『……?なぜ私はここにいる?私は死んだはずではないのか?』

 

「あぁ、まずはその説明からだな。」

 

ロードが私に懇切丁寧に説明を始めた。

この世界が元はただの電子遊戯であったこと。

この世界での死は次の世界に行くことではなく、この世界に戻ってくること。

 

この世界から出る方法は、今現在分かっていないこと。

 

『なるほど……まさに終わりのない悪夢、と言ったところか。』

 

ロードの話が一通り終わり、私がそう呟くと、ロードがキョトンとした表情をした。

 

『……?どうかしたか?』

 

「いや、【ルチアーノ】と同じことを言うんだな、と思ってな。」

 

ほら、あの柩背負ったオッサンだよ。とロードは言う。

いつぞやに攻めてきた者たちが全員そのような格好をしていたが、その中の一人だろうか?

 

「その全員だぞ。」

 

『なんだと!?』

 

「言ってなかったか?#コンパス(ここ)には同一人物が沢山いるぞ。」

 

そうなのか……にしても私はその疑問を口に出していなかったというのに、なぜロードは分かったんだ?読心術でも心得ているのか?

 

「んなもん心得た覚えはないがな。」

 

また読まれた……だと……!?

もしや私は考えたことがそのまま口に出てるんじゃないだろうか。

 

『そういえば、マピヤはどうなっている?』

 

「あぁ、それなら──」

 

「マピヤなら奥でコクリコちゃんと一緒にいるよ?」

 

「なんだと!?」

 

私がそう訊ねると楼閣が部屋に入りつつそう言った。

その言葉を受け、ロードが過剰に反応していたが。

 

「なぁにロードくん?マピヤは大人しいみたいだったから大丈夫だと思うんだけどねぇ。」

 

「なに悠長に構えてやがる!あんなケダモノとうちの可愛い(コクリコ)を一緒に置いておけるか!!」

 

マピヤをケダモノ扱いか……

 

「こうしちゃいられねぇ。すぐに移動するぞ楼閣!!」

 

そう言うとロードは全速力で部屋を飛び出した。

 

『楼閣、行ってしまったぞ。急いで追わなければ!』

 

「あー、いつも通りだから大丈夫だよ〜。」

 

これでいつも通りなのか……しかし、放っておいてはマピヤが危ない。私も急ぐとしよう。

 

私が急いでロードを追うと、部屋では白い少女がマピヤに話しかけていた。

 

『トリさんだ!』

 

『ピュイ?』

 

『トリさんはどこからきたの?』

 

『ピュイ、ピュイ!』

 

マピヤが首を振って応える。

 

『わからないの?』

 

『ピュイ!』

 

マピヤが首肯する。

 

「なんだこの可愛すぎる子は。なぁセナ、俺死ぬ。コクリコが可愛すぎて余裕で死ねる。」

 

ふむ、あの白い少女が『コクリコ』というのか。

コクリコがマピヤに楽しそうに質問をする。

あの姿……村の祈祷師の娘に似ているな。病弱だが外の世界に興味が尽きないあの子に似ている。

 

『【トリさん】ではない。マピヤだ。』

 

『??おじちゃんだぁれ?』

 

『私は【イスタカ】、誇り高きティワロロ族の戦士だ。』

 

懐かしさとマピヤのためについ話しかけてしまったが、予想外の方向からの質問が来た。やはり子供は読み切れん。

……私は【おじちゃん】と言われるほどに老けただろうか……?

 

『おじちゃんはイスタカっていうの?』

 

『そうだ。』

 

『トリさんは【マピヤ】っていうの?』

 

『ピュイィィィ!!』

 

『マピヤはそうだと言っている。』

 

この少女、バトルの時とはまるで異なるな……人が変わったかのようだ。

 

しかしロード、そんなに真剣な眼差しでこちらを凝視しないでくれ、少し怖いぞ。

 

『イスタカおじちゃんとマピヤはおともだちなの?』

 

『ピュイ!』

 

『む……友ではなく家族のようなものだな。私はマピヤに命を救われたのだ。』

 

『へぇ〜。マピヤはすっごいんだねぇ。』

 

それにしてもコクリコは反応が大きいな。あの子と同じように、あまり外に出たことがないのだろうか。

 

『じゃあコクリコのおともだちもしょうかいするね!』

 

コクリコは嬉しそうな表情をして手に持っていたぬいぐるみをこちらに向けてくる。

 

『この子、テディラビっていうの。かわいいでしょ?』

 

『ピュイィィィィィィ!!』

 

『なっ!?どうしたマピヤ!?』

 

その瞬間、マピヤがコクリコのテディラビとやらに攻撃を仕掛けた。マピヤの表情には焦りが浮かんでいる。

いつも冷静なマピヤがここまで反応するなど、未だかつて無かっただろう。

 

『ピュイ、ピュイィィィィィィ!!』

 

『やー!マピヤどうしてイジワルするの!うぇぇぇぇ!』

 

『マピヤ、落ち着け!マピ──』

 

ぞわり

 

私の背中に悪寒が走る。

これは……闇の精霊の気配!それも、他の属性の精霊を引き合いに出したとしても出会ったこともないほどの巨大な──

 

『マピヤ、一度戻れ!!』

 

『ピュイ!……ピュイ!?』

 

「マピヤ?」

 

先程まで後ろにいたはずのロードが、いつの間にかマピヤを捉えていた。

その手はマピヤを縊り殺そうとしているにも関わらず、その顔には笑顔が張り付いていた。

 

「なぁ、マピヤ?お前は鳥だから本能のままに行動することがあるかもしれねぇ。だけどな?それが急にコクリコを泣かせてもいい理由にならないことくらい分かるよなァ?」

 

マピヤは首を締められていて何も言えず、何も叫べず、ただただもがくだけだった。

先程の気配は消えず、どころか威圧感が増している。

 

そこに楼閣が割り込んだ。

 

「はいはーい、ロードくん、そこまでだよ〜。」

 

「ア゛ァ?なんでだよ楼閣ァ?」

 

「コクリコちゃんを慰めたげないとでしょ?」

 

『うぇぇぇぇ!』

 

見るとコクリコはまだ泣いていた。

しかし、そう言ったところであのロードが止まるわけが──

 

「はっ!?そうだった!コクリコ!!」

 

止まった。

ロードが止まると同時に闇の精霊の気配も霧散する。

 

『ピュイィィィ!』

 

『マピヤ!無事か!?』

 

『ピュイィィィ!!』

 

『そうか……それは良かった……』

 

ひとまずマピヤの無事に安堵する。

そしてマピヤに再度尋ねた。

 

『マピヤ、何がいたんだ?』

 

『ピュイ!ピュイィ!!』

 

『ふむ?あのぬいぐるみから闇の精霊の気配がした、だと?』

 

マピヤはごく僅かな気配でさえも察知することが出来る。私には分からなかったが、あのぬいぐるみからただならぬ気配を感じたのだろう。

 

「ダメだよ〜マピヤ。急に攻撃なんてしたら。」

 

そこに楼閣が割って入る。楼閣は窘めるように人差し指でマピヤの額を、コツンとつついた。

 

『しかし楼閣、マピヤにもただならぬ理由が──』

 

「その理屈がロードくんにも通じればいいんだけどねぇ……ほら、彼ってロリコンだから。」

 

楼閣がなんでもないようにこちらにそう言う。

 

『だが、私とて闇の精霊の気配を放っておく訳にはいかないのだ。』

 

「闇の精霊……?あぁ、セナくんのことかな?」

 

『【セナ】?』

 

「うん。たまにロードくんの話に出てくるでしょ?誰かと話してるみたいな独り言を言ったりさ。」

 

む……そういえば私にも覚えがあるぞ。

 

「セナくんは悪魔だからさ、まぁ、その闇の精霊っていうのと気配が似てるんでしょ。」

 

そうか、楼閣には事前知識があったからそこまで慌てなかったのか。

 

だが、

 

『……お前たちは異常だよ。』

 

あの殺気の中で飄々と止めに入ることのできた楼閣も、ロードの行動を狂信するような表情で見ていた波羅も、異常でしかない。

人として何かを忘れてしまった者のようにしか、見えない。

 

「……うん?何か言ったかい?」

 

『…………いや、いい。』

 

「ふぅん?言いたくないならいいけど。」

 

じゃ、さっさとロードくんとこに行こっか。と楼閣は言う。曰く、どんな理由があったにせよ、泣かせてしまったからには謝らなければいけないそうだ。

 

『……マピヤ、行くか。』

 

『ピュイ。』

 

私はイスタカ

マピヤに救われ、ティワロロ族となり、この世界で強襲する使者(レイドボス)となり、

 

今日から元の世界に戻るまで、このギルドの一員となった。




こういう何かがおかしい日常回は大好きです、乱数調整です。

さて、今回はスラスラ書けはしたんですけど、場面の繋ぎに少し手間取ってこれだけかかりました。

とか言ってるけど、「手間取ったから別に追加してもいいでしょ!あのシーンにこのシーン……」と蛇足を繰り返した結果、本来行きたかったシーンに行くことなく、無駄に一話増えただけになりました!
というか、場合によっては二話無駄に増えるかも知れません!!

……一つ質問なんですけど、最新話の栞が四つで、更新から一時間も経たないうちにそのうち二つが更新後の話に行ってるんですけど、なんでそんなに早いんですかね?

メールで通知されるのかな?それともたまたま?
謎は深まるばかり……

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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ウチの娘(コクリコ)は最高です

「コクリコ!大丈夫か!?」

 

『うぇぇぇぇ!マピヤがイジワルするぅぅ!』

 

『コ、コクリコちゃん……お、おい!こういう時はどうしたらいいんだァ!?』

 

泣きじゃくるコクリコを前に俺たちは戸惑っていた。

今までコクリコは涙を見せなかったし、歳のわりにはしっかりしていた。

そして他者の悪意に触れたことは、一度たりともなかった。

 

今回のマピヤの攻撃には、間違いなく害意があった。

それはコクリコに向けられたものでは無い。むしろコクリコを助けようと思っての行動だっただろう。もし違ったら今度は復活しなくなるまで殺そう。そうしよう。

 

だが、そんなことをコクリコが知るわけない。

 

「コクリコ〜、落ち着いて〜。ほーら、もうマピヤはイジワルしてこないよ〜。」

 

そう言いながらコクリコの背中をさする。

しばらくすると、コクリコは落ち着いたのか唐突に言った。

 

『ひっく……コクリコ、マピヤきらい。』

 

「どうしてだ?」

 

『マピヤがね、コクリコのテディラビをこわしちゃったの。』

 

コクリコはまだ目に涙をたたえながら俺にテディラビを見せてくる。

テディラビにはあちこち穴が空いていて、綿が飛び出たりしていた。

 

「セナ」

 

『もちろんだァ』

 

セナに一声かけると、セナはどうやってるのかは分からんがテディラビを逆再生のように修復していく。

数秒後、そこには元通りになったテディラビがあった。

 

「ほら、コクリコ見てごらん?テディラビが直ったよ」

 

『ひっく、あ……』

 

コクリコがこぼれ落ちるんじゃないかと思うほど目をまん丸にして驚く。

 

『おにいちゃんすごーい!どうやったの?』

 

さっきまでの涙が嘘だったかのようにコクリコはぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ。可愛い(確信)

 

「ふふん、お兄ちゃんのお友達にお願いして、魔法で直してもらったんだよ。」

 

『オイ、僕とお前が友達だとォ?』

 

黙ってろ。そもそも俺たちの関係をちゃんと言ったところでコクリコに伝わらんだろうが。簡潔にまとめるのが得策なんだよ。

 

『へぇ〜!』

 

コクリコが目をキラキラさせながらキョロキョロとセナを探す。可愛すぎる。

 

『……おにいちゃんのおともだち、どこ〜?』

 

『!?コクリコちゃんから僕は見えないのかァ?!』

 

おいマジか。こんだけ存在感バリバリの紫色しときながら、子供には見えねぇのかよ。

これじゃセナがただ恥ずかしいだけのやつじゃねぇか。

 

「……恥ずかしいから隠れてるんだってさ。」

 

『僕はそんなこと一言も──』

 

『そうなの……でもねでもね!コクリコ、いつかその子ともおともだちになりたいの!』

 

何このいい子……うん。やっぱりウチの子は最強だ。

 

『ねぇおにいちゃん、ちょっとおみみかして?』

 

「ん?コクリコ、どうかした?」

 

コクリコの可愛さをどう自慢してやろうかと考えているとコクリコが話しかけてきた。しかも真剣な顔付きでいかにも内緒の話がある、といった具合だ。

このくらいの歳の子はやっぱ好きだよなぁ、ナイショの話。

まぁ、大人からしてみればたいてい聞こえちゃってるんだけどな。

 

そんなことを考えながらコクリコに耳を寄せると、コクリコは小声で

 

『そのおともだちのおなまえ、なんていうの?』

 

だって。

可愛い。可愛すぎる。どのくらいかってさっきからそういうシーンが多すぎて語彙力が消し飛ぶくらい、もはや【可愛い】としか言えないくらい可愛い。

 

《意味不明です》

 

黙れ♡

 

だから俺もコクリコに合わせて、コクリコの耳元で囁く。

 

「その子はね、【セナ】っていうんだ。コクリコも誰かに見られてる気がしたら呼んでみたらいいよ。もしかしたら答えてくれるかも。」

 

そう言うとコクリコは、ぱぁーっと目を輝かせた。

そしてキラキラした目のまま口の前に人差し指を立てて言う。

 

『これ、コクリコとおにいちゃんのひみつね!』

 

「あぁ、秘密だな。」

 

『コクリコとおにいちゃんだけのひみつだよ!』

 

うん、もうすでにセナとキィは知ってるけどな。

 

「あぁ。絶対誰にも言わないよ。」

 

『うふふふ!』

 

ま、コクリコが嬉しそうだからいいか。

可愛いは正義だ。

 

しばらくニコニコしているコクリコを見てるとマピヤとイスタカがこっちに歩いてきた。

あいつら何する気だ?

 

「マピヤ?」

 

『ピュイ!?』

 

『謝罪だ。自らが過ちをおかしたならたとえ幼子にでも頭を下げなければ戦士失格だ。』

 

俺が一言呼びかけただけでマピヤは怯え、イスタカは意図を汲んで説明をよこした。

おい待てマピヤ、俺お前にそこまで怯えられるようなことはしてねぇだろ。

 

「そうか。なら行くといい。イスタカはこっちに残ってくれ。」

 

『む?何故だ?』

 

「聞きたいことがある。それに、こういう問題は当事者同士だけで決着を付けるべきだろう?」

 

『そういう事か。ならば私はここに残ろう。マピヤ、行くといい。』

 

『ピュイィィ!!』

 

マピヤが逃げるようにコクリコの方へと向かった。

 

『それで聞きたいことというのはなんだ?』

 

「あぁ、マピヤは何を攻撃した(・・・・・・)んだ?」

 

『……お前も分かってはいたのか。』

 

「まぁな。でもその理屈がコクリコに通じるとも思わん。マピヤはこっちに何か伝えとくべきだったんだよ。」

 

イスタカは、そうか……と言い、一応の同意は見せた。

 

「それで何がマピヤを駆り立てた?」

 

『闇の精霊の気配だ。マピヤ曰く、あのぬいぐるみから巧妙に隠された闇の精霊の気配を感じたそうだ。人には分からない気配でもマピヤは機敏に感じ取る。』

 

…………なぁセナ、お前、コクリコのどこにいるんだ?

 

『……ん?コクリコちゃんが持っているテディラビの中にいるが、どうかしたかァ?』

 

「完ッッッ全にお前のせいじゃねぇか!!」

 

『どうしたロード!?気でも触れたか?!』

 

いや、どう考えてもお前が気配を隠しきれなかったせいじゃねぇか!

呼び出したらすぐ来る配下(インフェルノ・シュリーカー)】連れるくらいの上位悪魔なら気配くらいちゃんと隠せよ!!

 

『ロード!戻ってこい!お前は今誰と話してるんだ!?』

 

「うるせぇな!俺は今コクリコを泣かせた元凶と話をしてるんだよ!!」

 

『言ってる意味が分からんぞ!?』

 

うるせぇな!セナのせいで可愛いコクリコが泣いてんだぞ!?お前、もっぺん絞めるぞ!!

 

「はいはいロードくん落ち着いてねぇ〜」

 

どうどう、と楼閣が俺を宥める。

 

「ア゛?なんでだよ?」

 

「仕方の無い事故じゃない。そりゃマピヤも認識外にいたら気づかなかっただろうし、たまたま見てた場所に気配があったんだからしょうがないよぉ。」

 

「それを隠すのがセナの仕事だろうが。」

 

「普通は気づかないくらいの気配なんでしょ?マピヤの野生の勘が鋭くて、認識の範囲内にいたのがまずかったんだよ。」

 

ま、マピヤが急に攻撃したのが悪くないとは言わないけどねぇ。と楼閣は締める。

 

くっそ、楼閣の野郎、こっちへの妥協ラインまできっちり決めやがった。

こう言ったからにはもう何言っても飄々と躱されるんだよなぁ……

 

「……チッ、しょうがねぇな、むっつりな楼閣に免じてセナは許してやろう。」

 

「そうだね、相棒は大切に……ってなんで私がむっつりになってるのさ!?」

 

楼閣がキレた。解せぬ。

 

「「解せぬ」じゃなくて!どこをどう見ればそんなになるかねぇ!?」

 

「強いて言うなら全てだな。」

 

「それ全然強いてないんだけど!?」

 

『ふっ、ふはは!』

 

イスタカが笑った。訳が分からん。

 

『いやなに、お前たちはそのようにいつも言い合っているのを見てな、戦いの時との落差に驚いただけだ。ふはは!』

 

そう言ってイスタカは笑った。心の底から楽しそうに。

 

「うるせぇな。いいからとっとと買い物に行くぞ。」

 

『ははは!……む?【買い物】とはなんだ?なんのためにする?』

 

「何ってもちろん」

 

イスタカがキョトンとした顔でこちらに訊ねる。

その言葉を受けて楼閣が答えようとしたが、チラリとこっちを見て、その先を譲るように肩を竦めた。

そういう所がむっつりなんだよ、お前は。

 

だから、ギルマスの要望に応えて俺がその先を引き取る。

 

「宴だよ。」

 

 

 

 

──────────────────────

 

あったかもしれない話

 

『おにいちゃんのおともだち、すっごいんだねぇ……!』

 

コクリコが目をキラキラさせながら直ったテディラビを見ていた。

 

『ピュイィィィィ!!』

 

そこに、緩やかに滑空しながらマピヤが近づく。

 

残り2メートルという所でコクリコはマピヤに気づいた。

 

『………………(プイッ)』

 

コクリコはまだ不貞腐れているのかマピヤの方を見ようとせず、小さな頬をぷくっとふくらませながらそっぽを向いている。

 

『ピュイィィ!』

 

『コクリコ、マピヤきらい!』

 

『ピュイィィ……』

 

コクリコの一言にマピヤは撃沈する。よほどショックだったのかホバリングも止め、地べたで項垂れていた。

 

『………………(プイッ)』

 

コクリコもコクリコでよほど怒っているのかそれ以降話そうとはしなかった。

 

『…………ピュイ!』

 

しばらくして、マピヤが何かを思い出したかのように頭をもたげ、自身の羽根を啄く。

 

『………………(チラッ)』

 

コクリコはその様子を頬をまだふくらませながら横目で見た。

 

マピヤはそれを知ってか知らずかまだ羽根を啄く。

だんだんとコクリコの興味もそちらに移っていったようで、そっぽを向くのを忘れてマピヤの羽根に注目している。

 

『ピュイ……ピュイ!!』

 

『わっ!』

 

ある時マピヤが上を向いた。くちばしには自身の大きな羽を咥えている。それを取るためにしつこく羽根を啄いていたようだ。

そしてそれを至近距離で見ていたコクリコが驚いた。コクリコが驚いたことにより、マピヤもその声に驚かされていたが。

 

『びっくりした……あっ!(プイッ)』

 

コクリコが再びそっぽを向く。自分はまだやられたことを忘れてないぞ、とその小さな体で主張している。

 

『ピュイ!ピュイィィ!!』

 

『…………マピヤくれるの?』

 

マピヤが羽をコクリコの前に出て差し出すと、コクリコも好奇心に耐えかねたのかマピヤにそう話しかける。

 

『ピュイ!!』

 

当然だ!と言わんばかりにマピヤは強く首肯した。

そしてその羽をコクリコの膝元に置く。

 

『わぁぁ……!マピヤ、ありがとう!』

 

『ピュイ!』

 

コクリコが瞳からお星さまを飛ばしながらマピヤにお礼を言った。マピヤも羽根をバサバサとさせながら返事を返す。

 

そこでコクリコがしゅんと項垂れてマピヤに言った。

 

『おこってごめんね?』

 

『ピュイィィ……』

 

マピヤも項垂れて反省しているというのを全身で表現する。

ここで彼女らは和解した。言葉が通じずとも、伝え合うことはできるのだ。

かのロリコン(ロード)ならばここで「可愛いは正義だ!万能言語なんだ!!」とでも言っていただろう。

 

そうして一連の騒動は収束した。




しばらくぶりです、乱数調整です。
前回言っていたとおり二話分増えました。反省してます。
でももうやらないとは言ってないよね!(清々しい笑顔)

今回、【あったかもしれない話】を書きたくて増えたというのに、なぜかイスタカがしゃしゃり出てきて楼閣がむっつりになっちゃいました。何故だ……

で、書きたかった話はオマケみたいな扱い……おい、ほんとにこのSSはコクリコが可愛いってSSなのか?

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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教えて!ロード先生

『宴だと?私のためにそのようなこと──』

 

「気にすんな、仲間だろうが。それにやらんとまた波羅がうるさいからな、むしろやらせろ。」

 

イスタカが反対してくる。なぜだ解せぬ。

 

『だが、宴とはそうポンポンとやるものでは無いだろう?それを私なぞのために……』

 

「気にしないでいいんだよ。ウチには帰る方法を探してる子がいるんだけどねぇ、その子が引きこもっちゃって困ってるんだよ。パーティーやるとなったら引っ張り出して来れるからこっちとしても願ったりなんだよねぇ。」

 

楼閣も俺を援護する。

まぁ、援護ってのを抜きにしてもアイツはずっとこもってるからな。晩メシとかよくボイドが取りに来てんだぞ。

確かに言いつけ通り食ってはいるがなぁ……なんだかなぁ……

 

『……お前たちにはまだ仲間がいたのか…………?まぁ、そういうことなら相伴に預かるとしよう。』

 

ここまで押してやっとイスタカがその気になった。

 

「と、言うわけで買い物に行くぞ、イスタカ。」

 

『……む?私も行くのか?』

 

「当たり前だろうが。お前、こっちのルールも知らねぇんだし、なんか頼んで盗んできた、とか獲物がいなかった、とか言われても困るし。」

 

というか、そういう想像しか出来んわ。

 

『そのようなこと、私の戦士としての矜恃にかけてしないというに……』

 

「ところ変わればなんぞやら。いいからさっさと行くぞ。」

 

俺はイスタカ引きずるようにしてコクリコを迎えに行った。

買い物に行くならコクリコも連れて行ってあげないとね!

 

 

──────────────────────

 

 

「おい……あれ見ろよ」

「レイドボスだ……」

「あーあ、やっぱり【孤独者達の宴(ロンリネス)】か。」

 

街に繰り出すと案の定注目の的に。

ってかイスタカお前、こんだけ知られてるってどんだけのギルド返り討ちにしてんだよ。

 

『いちいち数えてはいない』

 

さよけ。

 

「おー、お前ら上手くいったんだな。さすがというかなんというか……」

 

見たことあるようなないような顔のヤツが近づきながら話しかけてきた。

確かあいつは……

 

「あ、えっと……待ってくれ……そうだ、冷菓!」

 

「誰が氷菓子だ!俺の名前はレイアだ!」

 

「【セイアッ!】?」

 

「レ・イ・ア!!」

 

うるせぇな、女装家の癖に。

 

「にしても、まさかあんなむちゃくちゃな作戦が上手くいくとはな。」

 

keyか。

いや、んな事言ってもああしねぇと無理なイベントだっただろ?

 

強襲する使者(レイドボス)イベントが終わったからGM(ゲームマスター)が攻略方法載せてたぞ。ちなみにその中に、お前らの攻略方法はなかった。」

 

もっとも、【高低熱処理(HAラヴァーズ)】の方法も載ってなかったんだけどな、とkeyは苦笑する。

 

ほう?あのクソGM(ゲームマスター)、一応攻略載せたのか。

 

「おいkey、それはどこで見れる?」

 

「って案内させられると思って写真撮ってプリントアウトしてきたぞ、ホレ。」

 

有能だな。

 

「ねぇジャスくん、なんかさ……【明色に染まる空(daydream)】の三人がどんどんロードくんの便利屋になってる気がs……」

 

『そこまでだ楼閣。……それ以上は言うな。』

 

そこ!なんかごにょごにょ言わない!

 

keyのプリントアウトした攻略法を見てみると、なるほど、確かにこの方法ならイスタカを倒せる。

 

「どれもこれもクソみてぇな倒し方だけどなぁ!?」

 

ふざけてんのかGM(ゲームマスター)!!

 

【相手のHSを吸収して逢瀬で倒す】

【スタンさせ続けて倒す】

【一人が【カノーネ】で打ち上げて、その間に全員で攻撃して倒す】

【サイレントさせ続けて倒す】

何だこの運ゲー!!しかも攻略想定がこれだけってなんだよ!ぜってぇ難易度調整ミスってるだろうが!

 

「……あぁ、攻略法が提示された時はマジで非難の嵐だったぞ。」

 

それなら挑戦権を得るのを難しくして攻略難易度自体は低く設定しとくべきだったよな、とkeyはボヤく。

 

「俺、もうあのクソGM(ゲームマスター)が何考えてるかわかんねぇよ……」

 

『安心しろロード、誰にも分からん。ただ森羅万象に身を委ねるのみだ。』

 

イスタカが慰めてくるが、お前それ全然慰めになってねぇからな?

 

「これ見た時、「実は運営って全員ガキなんじゃね?」って考えが頭をよぎるくらいにはひでぇ難易度だもんなぁ……」

 

ま、もう過ぎたことだ、とkeyは〆る。

 

「それで、ここにレイドボスを連れて何をしに来たんですか?まさか見せびらかしたいだけとかじゃないでしょうし。」

 

地味に鋭いPRHSが話しかけてきた。ちなみにジャンヌを連れていなかった。

 

ジャンヌを……連れていない……だと……!?

 

『おい、どォしたロリコンの王?酷い顔だぞ?バケモンにでも遭ったような顔して何があった?』

 

「おいどうしたPRHS(ヘンタイ)?お前がジャンヌ連れてないなんて明日は槍でも降るのか?」

 

「いや降りませんよ!?」

 

何っ!?じゃあどうしていつものPRHS(ジャンヌジャンキー)の症状が現れないんだ!?

………………PR、お前まさか!!

 

「じゃ、じゃあ病気だな!?よし分かった、ウチで看病してやるから一緒に来い!……いや、その前に病院か……すぐに行くぞ!!」

 

『おにいさん、びょうきなの?』

 

『む、それはいけない。どこが悪い?見せてみろ。可能な限り治してやる。』

 

『ハンコック、そのようなことをするのではない。ただ森羅万象に身を委ねるのみだ。』

 

「いやいたって健康ですよ!?」

 

バカなっ!?

あとイスタカ、お前はさっきからそればっかだなぁ!?

 

「そんなわけあるかっ!!お前からジャンヌを抜いたらもうなんも残らねぇに決まってる!!……はっ!?さてはお前、PRHS(ヘンタイ)じゃねぇな!?」

 

「なんでそうなるんですか!?ジャンヌちゃんは今、ブティックで着替えてるだけですよ!!」

 

そうか……着替え中か……

なら着替えを期待して待機って択が生まれるからPRHS(ヘンタイ)が大人しく待てるのか……なるほど……なるほど……

 

「なんか酷い言い草じゃありません!?」

 

『ギャハハハハ!!確かにその通りだな!オレも初めて見た時はびっくりしたぜ?』

 

13……やっぱりそうだよな?俺はおかしくないよな?

 

「おかしいでしょ!?どこをどう見たらそんな変なイメージが付くんですか!?第一、僕そんなに残念じゃ──」

 

『お待たせしました!……どう……ですか?』

 

「ジャンヌちゃん!綺麗で可愛くて清楚で美人で可愛いよ!!あぁぁぁ!もっと撫でさせて!もっと触らせて!もっと吸わせて〜!!hshs(*´Д`≡´Д`*)hshs」

 

『え、え、なんですか?ちょっ、まっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

着替え終わって戻ってきたジャンヌにPRHS(ヘンタイ)がルパンダイブ。

 

「「どこをどう見たら」って言ったってなぁ……」

 

「強いて言うなら……全てだな。」

 

さすがにこの件はkeyと女装家も擁護できないらしい。

 

がしかし、あんな変態発言をしてはいるものの、ジャンヌの衣装を見たかったというのは事実らしく、服が乱れないように細心の注意をはらいながらジャンヌにまとわりついていた。

どんな変態技能だよ。

 

今更ながら【アニメ】と【ツナミ】と【ヘンタイ】は世界共通語なんだなぁと思いました。

 

「……よし、こいつらは放置しよう。」

 

『『『「「賛成」」』』』

 

「あ、おい!ちょっ待て逃げんな!」

 

keyに腕を掴まれる。クソっ!なぜバレた……!

 

「そうですよ!まだレイドボスをどうしてここに連れてきたか聞いてませんよ!!」

 

『い……やぁ…………』

 

PRHS(ヘンタイ)がジャンヌにまとわりついたままこちらに訊ねてくる。

ジャンヌはいつも通り目が死んでいた。

 

「うーん……まぁ私的には話してもいいんだけど……とりあえずPRくんがジャンヌちゃんから離れてからね?」

 

「そうですか!じゃあいいです!!」

 

「ちょっ!?」「おい!?」

 

楼閣がついに見ていられなくなったのかそう提案すると、清々しい笑顔でPRHS(ヘンタイ)が断った。

そのことに対して女装家とkeyはかなり焦っていたが。

 

「ロードくん、いいんだってさ。早く買い物行こっか。」

 

「おー、晩メシの買い出しあるしな。んじゃ行くぞイスタカ、しっかり覚えろよ。」

 

『もちろんだ。』

 

そうして俺たちはその場をあとにした。

 

「おいコラ離れろPR!!アイツらに話が聞けねぇじゃねぇか!」

 

「んなもん後でもできるだろ!!」

 

「いーやーでーすー!!」

 

俺らが立ち去っていることに全く気づいてない三バカを盛大に無視して。

 

『おいノホwww大将たち1ミリも気づいてねぇぞwww』

 

『あったま痛い……』

 

 

────────────────────

 

「ここがスーパーだ。」

 

『おぉー。』

 

「それからこれが籠だ。」

 

『なんのだ?』

 

「買え。」

 

『何をだ?』

 

「ロードくん、その変なアニメネタやめてね?イスタカさんが分かってないからね?」

 

いやだって、イスタカが教えてもらわなくても分かる、とか言うから……仕方がないね!

 

『とりあえず、獲物を探せばいいんだな?』

 

「ホラ、あんなこと言ってるよ?分かってるわけないじゃん。」

 

そんなの、商品の呼称に決まってんじゃねぇか。

見てみろよ、イスタカだって迷いなく店内を進んで行って──

 

『おいロード!牛も猪も鹿もいないぞ!?まさか誰かが先にこの狩場を狩り尽くしたとでもいうのか!?』

 

「ロードくん?」

 

「…………………………」

 

あんのやろう……!

 

「あのなぁ!」

 

『おにいちゃん、どうかしたの?』

 

そうだ、今はコクリコがいるんだった。

落ち着け、俺。ここを凌げば、もう二度とこんな苛立ち、起こらないんだから!

 

《次回、ロリコン死す、バトルの始まりです》

 

おいこらキィ、悪ノリやめろ。

まぁ、でもお前の悪ふざけでちょっと落ち着いた感はあるがな。

 

《恐縮です》

 

「ふぅ〜……いや、なんでもないよ。コクリコ、イスタカおじちゃんはスーパーを知らないみたいだから、俺たちで教えてあげよっか?」

 

『うん!コクリコね、イスタカおじちゃんにいっぱいいっぱいおしえてあげるの!』

 

そう言うとコクリコは『おじちゃ〜ん!』と元気よくイスタカの方へと走っていった。可愛い。

 

まぁでも、コクリコがあれだけやりたがってるんだ。助けを求めてくるまではコクリコに任せてみよう。

 

『む、コクリコ、獲物はどこから現れるかわからない。危ないから少し離れていろ。』

 

『おじちゃん!あのね、すーぱーはおかいものするところなんだよ!』

 

『ん?【オカイモノ】とはなんだ?新たな罠か何かか?』

 

『???』

 

うん、二人の会話が盛大にズレてるからやっぱ俺も入ろう。

 

「イスタカ、ここに物があるだろう?」

 

そう言いながら俺は棚の豚肉切り落とし(300g)を手に取る。

 

『……なんだそれは?獣をおびき寄せるための餌か?餌を用意しないと出てこないとは、ここの生き物はえらく臆病なのだな。』

 

「違うわ。これを食うんだよ。」

 

『なん……だと……!?』

 

いやなんでそんなに盛大に驚いてるんだよ?

 

『では狩りの必要は!?』

 

「無いな。」

 

『大地への祈りは!?』

 

「それはメシ食う前だな。」

 

『生命を分けてもらった動物への感謝は!?』

 

「それもメシを食う前だな。」

 

『なんということだ……私の知っているものとかなり異なるぞ……』

 

まぁそりゃな。ところ変わればなんとやら。

とりあえず、早くこの状況に慣れろってこった。

 

『ふむ……なるほど……では引き続き教わるとしよう。コクリコ、私に教えてくれるか?』

 

『うん!コクリコね、おじちゃんにいっぱいいっぱいおしえてあげるの!』

 

『そうか。』

 

コクリコが嬉しそうに鼻息荒くそう答え、イスタカは微笑しながらコクリコの頭を撫でる。

 

「なぁキィ」

 

《なんでしょうか?》

 

「なんて言うんだろうな、この気持ちは?ああやって新しいものに慣れるコクリコも、コクリコの意志を尊重しつつも本人に気づかれないように子供扱いするイスタカも、上手くは言えないんだけどさ──」

 

《つまりそれを一言で言うとすると》

 

「そうだな、一言で言うと」

 

キィは俺の話を聞いて全てを理解したかのように嘆息をこぼすと、俺の言いたいことを予測して声を合わせた。

 

《「ぶっ殺したい」》




どうもお久しぶりです、乱数調整です。
……どうしてこうなった!?

おかしい……一話が二話に分裂した……
一話が十三話に分裂した時よかまだマシですが、宴までやって終わりだったはずが中途半端に切れたせいで「アレ?宴どこいった?」ってなった……主に私が……

これはあれですね、全部三バカが悪いですね。(ちょっ!?)
ネタがもう切れたって言ってるのにしゃしゃり出てくる令和さんが悪いです。アレ?冷夏でしたっけ?

次回、宴(が一話になるくらいのネタを考え直さないと……)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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さぁて、今週の【自主規制】

買い物を終えてギルドホールバック。

調理台にいるのは俺とイスタカとコクリコ。

波羅はめぐめぐと自室に戻って、楼閣はドクを引っ張り出しにドクの部屋に突貫、ジャスティスは遊具の整備にトレーニングルーム。

 

台所にはIHクッキングヒーターとかなりでかい流し台、冷蔵庫やら電子レンジやらの家電にフライパンとか鍋とかの調理器具は壁に吊るしてある。

 

……ってか台所さらにデカくなってね?

 

《人数が増えましたので僭越ながら増築させて頂きました》

 

やるなお前。

 

IHが五口くらいあるじゃねぇか。いま寸胴にいっぱい湯を沸かしてるが、それしながら他の調理もできるじゃねぇか。

 

いやコレ、人数多いウチとしてはかなり助かるわ。

 

『……私の知っている食前の準備とかなり異なる……』

 

『おじちゃん、だいじょうぶ?』

 

台所にカルチャーショックを受けるイスタカとそれを慰めるかわいいかわいいコクリコ。

コクリコ可愛い。

 

もう今回、コクリコ愛でる回でよくね?

 

《いいから早く調理を進めてください》

 

いや、調理風景とか誰得だよ?誰もそんな描写求めてねぇぞ。

 

『ロード、お前はどこに向かって話しているんだ?』

 

んなこたどうでもいいだろ。

 

「じゃ、ささっと始めてぱぱっと終えるか。」

 

『コクリコもおてつだいする!』

 

コクリコはそんなふうに可愛らしく息巻くが、今回はそうも言ってられん。

と、いうわけでパンパン、と柏手を二つ鳴らす。

 

『いやロード、お前はさっきから何を──』

 

『(シュタッ)たいちょー呼んだ?』

 

『私はもう訳が分からんぞ……』

 

狙い通りめぐめぐがどこかから来る。

イスタカが混乱してるが、まぁ来たからいいだろ。

 

「めぐめぐ、コクリコと遊んでこい。」

 

『えー?コクリコちゃんこんなにやる気なのに?』

 

「それはだな……(ゴニョゴニョ)」

 

『あぁ……コクリコちゃんはねぇ……』

 

「そういう訳だ。行ってこい。」

 

『はーい!コクリコちゃん、行こー!』

 

よし、めぐめぐを丸め込んだ。

 

『でもおてつだい……』

 

「コクリコはホントにいい子だなぁ……でもねコクリコ、たまには俺に任せてくれた方が嬉しいな。」

 

『……うん。コクリコ、おにいちゃんがおりょうりおわるのまってるね!』

 

いい子すぎる……!

 

セナ、

 

『なんだァ?』

 

しっかり見とけよコノヤロウ!俺は見れねぇんだからな!

( ゚д゚)ハッ!そうだラジオだ!セナ、実況中継頼むわ。

 

『……僕は一応、悪魔なんだぞォ?対価とか──』

 

可愛いコクリコの活動記録

 

『い、いや……お前にとっても価値があるものじゃないと──』

 

コクリコとの活動記録は何物にも変え難いだろうが!!

 

『……そうだった、お前はそういう奴だったなァ……』

 

わかった、やってやろうじゃないかァ、とセナは言う。

よしよし、これでコクリコが危なくなったら俺とセナの二段構えセーフティーがかけられる。

 

コクリコとめぐめぐが遊びに行ったので、とりあえず晩メシの準備をする。

 

『……で、何を作るんだ?』

 

「ま、今日はだいたい決まってる。材料は……これだ。」

 

──────────────────────

材料リスト

 

【鶏もも肉】

 

【卵】

 

【七面鳥(生存)】

 

【ささみ】

 

【野菜諸々】

 

【調味料適宜】

 

【冷蔵庫の食材の余り】

 

──────────────────────

 

『ピュイィィィィ!!』

 

『マピヤ!落ち着け、マピヤ!!』

 

まだ生きてる七面鳥とその他もろもろの鶏肉を見てマピヤが暴れだした。

 

『ピュイィィィィィ!!』

 

「そうだぞマピヤ、コイツは今から死ぬんだ……お前の身代わりになぁ!!」

 

『ピュイィィィィィ!!』

 

『ロード!火に油を注がないでくれ!』

 

マピヤが先程よりも激しくバッサバッサと暴れ始めた。クソっ、ちょっと脅せば大人しくなると思ったのによォ!

 

全くもう……ところ構わずこんなに羽散らしやがって……

 

「……そういえばマピヤ、お前のその羽、暖かそうだな?」

 

『ピュイ?!』

 

「そんなにところ構わず撒き散らすくらい余ってるんだ……毟って布団作っても問題ないよなぁ?」

 

『ピッ!?』

 

「死んでも生き返るもんなぁ?なら羽は毟り放題だなぁ!?」

 

『ピュイっピュイ?!』

 

マピヤの羽はマピヤが死んでも消えない。バトルで知った。

 

「大人しく出来ないような駄鳥はそのくらいの有効活用しても問題ないよなぁ?(暗黒微笑)」

 

『ピッ、ピュイ!』

 

そう言い終わるやいなや、マピヤは俺がマピヤ用に用意した止まり木に一直線に向かい、そこで大人しくし始めた。

( ゚д゚)、ペッ 命拾いしたな。

 

『ロード、早く始めないと時間がなくなってしまうぞ。コクリコは寝るのが早いのだろう?ならば早く作らなければならない。』

 

ま、それは正しいな。

 

『夕餉を作るのは我ら二人だ。宴をやる気でいるのならかなり急がねばなるまい。』

 

「その通りだな。んじゃ、ちゃちゃっと始めていくか。」

 

さぁて、来週のサザ──じゃなくて、今日の晩メシは?

 

【七面鳥のオーブンソテー】

【親子丼】

【ささみのシーザーサラダ】

 

ご覧の三品です。

まぁ、確定枠がこれなだけだから唐揚げとか南蛮とか適宜追加していくことになるだろうけどな。

 

「イスタカ、お前、鳥は捌けるよな?」

 

『任せておけ。』

 

「よし。んじゃ七面鳥は捌いておいてくれ。血抜きと内蔵は任せたぞ。細かく分けたりはしなくていい。」

 

『あぁ、任された。』

 

よしよし。んじゃ俺は親子丼の出汁取りながらスープも作っていくか。ミートローフみたいなスープは子供ウケも良さそうだしな。

 

「ってわけで、波羅はサラダ用の野菜とささみの調理を任せる。」

 

『……ロード、波羅は──』

 

「ご心配なく、もう始めてますよ。」

 

「おう、そのままよろしく。」

 

『もう私はお前たちが分からんぞ……』

 

安心しろ、俺も分からん。

だって俺がなんかしようとすると毎回当然のようにいるんだもんよ。

いる前提で話を進めるのが得策だって最近気づいた。

 

「波羅はアタマオカシイから気にする方がどうかしてると俺は思っている。」

 

『あ、あぁ……』

 

「それよりも早く七面鳥捌いてくれ。それの準備が一番時間かかるんだから。」

 

それだけはさっさとしてくれねぇと困るんだよな。二回オーブンに入れないといかんから時間がものっそいかかる。

捌いたあとのを買うよりも安かったからって生きてんのを買うんじゃなかったな……

 

『あぁ、ならいくぞ。』

 

そう言ってイスタカは手に持った(なた)を振り上げる。

それを七面鳥の首めがけて振り下ろそうと──

 

「待って下さい!!」

 

──した時に波羅がそれを止めた。

 

『なんだ波羅?早めに捌くのだろう?』

 

「どうした波羅?血が見たいからお前がやりたいのか?」

 

「いやボスの中での僕はどんな戦闘狂なんですか?」

 

そうだな……姫ジャンゴリカとバーバリアンを足して二で掛けたくらいだな。

……アレ?割と正しくね?

 

「ま、んなこたどうでもいい。そうじゃねぇならどうしたんだ?」

 

「ボス、危険性はある程度排除しなければいけないと僕は思うんです。」

 

いやお前、言ってる意味がわからんぞ。

 

「いやですから、鳥って首を落とした後に数分走り回る(・・・・・・・・)じゃないですか?ですから、(くび)り殺してから血抜きした方がいいのではないでしょうか?」

 

「………………は?」

 

「い、いえ!ボスがイスタカは手馴れているから、鳥が暴れても押さえていられるだろうという考えはよく分かるんです!しかし、万が一押さえられなかった場合、血の飛び散った部屋にコクリコさんを入れられないでしょう?ですから──」

 

え、鳥って首切っても動くの!?え、マジで!?

 

《事実ですよ》

 

マジかよ。全く知らんかったぞ……

いや、普通死んだら動かんだろ……それどころか走り回るのかよ……

 

波羅がいなくてコクリコがいたらマジでトラウマもんの記憶じゃねぇか。

 

「──ですから、ここは一度殺してから、心臓が止まらないうちに首を切り落として血抜きをしましょう!」

 

「聞いたかイスタカ、危険因子は排除だ。」

 

『承知した。』

 

そう言うとイスタカは七面鳥の首をひねって折る。

 

うっわ、めちゃくちゃ暴れるじゃねぇか。この調子で走り回られたら部屋中血だらけだぞ……

今回ばかりは波羅に感謝だな。

 

イスタカは七面鳥が暴れなくなってから流れるように首を切り落とした。

 

おぉ……しばらくは心臓動いてんのか。一定間隔で血がドバドバ出てきてるぞ。

 

何気に俺は鳥を捌くのを見るのが初めてだからそれに見入っていると、珍しく真剣な表情をした波羅が近づいてきた。

 

「なんか用か?」

 

「ボス、【縊り殺す】って響き、すごく綺麗ですよね。【絞め殺す】とか【刺し殺す】とかみたいに【殺す】に付属品っぽさがなくて、一つで一単語っぽさがあると言いますか、【殺す】付属系の単語として、使ってて一番違和感がないですよね。」

 

うん、俺もうお前がなんなのかわからん。

 

「んじゃ、羽根毟り終わったらそこの寸胴にぶち込んどいてくれ。間違えても手前の2つの鍋に入れるんじゃないぞ。」

 

『心得た。』

 

「波羅、そっち出来たら揚げ物用に油を準備しといてくれ。南蛮も作るからタルタルもよろしく。」

 

「承知しました。」

 

こうして次々に料理を完成させていく。

七面鳥は腹に果物なり香草なり詰めて二度焼きしたから手間はかかったが、まぁ美味そうだしいいだろ。

 

今日の食卓は

【ささみのシーザーサラダ】

【醤油ベースの唐揚げ】

【チキン南蛮】

【親子丼】

【鶏がらスープ】

【七面鳥の香草焼き】

 

……調子に乗って作りすぎたか?

ま、余ったら明日の朝なり昼なりに食べりゃいい。

 

サラダは栄養素を意識、唐揚げ、南蛮はちびっ子組意識でスープは本日の汁物、親子丼はジャスティススナイプ。

 

親子丼はジャスティスの他に食べるやつがいるとは思ってない。ま、余る前提で鍋に入れっぱだしな。

 

「やっほーロードくん。どんな塩梅だい?」

 

そう考えながら皿の配膳をしていると、扉から楼閣がひょっこり出てきてそう尋ねる。

 

「お、楼閣か。こっちはもう出来上がったぞ。そっちはどうだ?」

 

「うん、バッチリだよ〜。」

 

「……楼閣さん酷いです。」

 

にっこり笑顔でこころなしかツヤツヤしている楼閣とは裏腹に、ゲッソリとやつれたドクが出てきた。

 

「……いや、何があったよ?」

 

「それがですね……楼閣さんってば酷いんですよ

 

 

 

「おーい、ドクくん〜?強襲する使者(レイドボス)イベント勝って来たよ〜。」

 

「知ってます。速報上がってるので。」

 

「えー?つれないねぇ。まぁ、これからパーティーやるって話だからさ、ドクくんもおいでよ。」

 

「いえ、もう少し続けるのでお先に始めておいてください。」

 

「………………」

 

「………………」

 

「そういえば、ここのブレーカーってどこにあったっけ?」

 

「…………はい?」

 

「あー、あったあった。ここだここ。万が一の停電には備えが必要だよねぇ。」

 

「………………!!まさか?!」

 

「おおっと〜手が滑っ──」

 

「(ガシッ)すぐに行くのでそれだけはやめてください。」

 

 

という感じで、楼閣さんがブレーカーを落とそうとしたのでしぶしぶ……」

 

「えー?アレハジコダヨー。」

 

楼閣お前、そういうとこ急に鬼だよな。

 

「えーそう〜?じゃあドクくんが引きこもってるのと強硬手段に出る(ブレーカー落とそうとする)の、どっちがいい?」

 

「うん、お前はこのままでいい。止まるんじゃねぇぞ。」

 

「酷いです!?」

 

いやぁ、アレは悲しい事故だった。

 

「事後処理までされました!?」

 

『ロード、どんな具合だ?そろそろ出来ている頃合かと思ってチビたちを連れてきたぞ。』

 

『めぐめぐお腹ペコペコ〜……』

 

『コクリコもー!』

 

ジャスティス、いいセンスだ。ちょうど波羅に呼びに行かせようと思ってたところだ。

 

『それは何よりだ。』

 

「お前ら、席に着け!」

 

「ロードくん、テンション高いねぇ。」

 

まぁな。マピヤ見た時から食おうと思ってた鶏肉をふんだんに使ってるから、まぁ俺が楽しみにはしてる。

 

『ピュイ!?』

 

マピヤ、なんだその目は?

お前は死んだらナタデココだから肉が食えねぇんだよ。

 

『こうやって大勢でひとつの卓を囲むのは、久しぶりだ。』

 

イスタカもそんなセリフ。

ただ、これが歓迎になるんだったら良かった。

 

さぁさ、宴を始めよう。




宴を始めさせろよ!!ロードも波羅ちゃんも楼閣もネタをぶち込みすぎでしょうがよ!!

……失礼、つい荒ぶってしまいました、乱数調整です。

宴でやりたいことがあるから宴回をわざわざ入れているのに、【孤独者達の宴(ロンリネス)】三人衆がすごい勢いでネタに走っていくので一話どころか三話に増殖しました……

ロードはロリコンだし、波羅ちゃんはサイコパスなのでほぼ諦めていましたが……楼閣、お前に裏切られるとは思ってもみなかったよ。(天の声:うん、書いてるのお前だけどな?)

次回(こそ)!宴が始まる

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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孤独な囃子

「コクリコもめぐめぐも手ぇ洗ったな?んじゃ、ボス戦勝利を祝って、乾杯。」

 

『『かんぱーい!』』

 

「はい。」

 

「お疲れ様〜」

 

『総員よくやったぞ。』

 

「作業が……デバックが……」

 

よしよし、みんな楽しそうだな……ってドク、さっさと切り替えろ。

 

「僕はこういう華やかな場は苦手なんですよ……作業してるパソコンの主電源さえ人質に取られなければ……楼閣さんめ……」

 

「うるせぇぞ。」

 

「だいたい、あと少しでムグッ!?」

 

ドクがうるさかったからとりあえず唐揚げを口に突っ込んだ。

ドクが涙目で熱そうな唐揚げを食べてる。

なんだそのなんか言いたげな目は?

 

「voidoll」

 

『カピッ?!ワタシニショクジキノウハトウサイサレテオリマセン。』

 

ちげぇわ。何焦ってんだお前。

 

「いつもドク、冷めねぇうちにメシ食ってるか?」

 

そう言うと得心がいったようにボイドは顔を上げ、ゆっくりと首を振った。

 

『…………ザンネンナガラ。』

 

ドクがギクリと肩を震わす。

 

「そういうことだ。こうでもせんとお前は作業し続けるだろ?いいから食え。」

 

「…………はい。」

 

ドクがしゅんとする。

ってかホントに反省してんのか、こいつ?

 

「ドクくん、できることをやろうとするのは立派だけど、限度はあるからね?そこはきちんと覚えておくんだよ?」

 

「………………覚えておきます。」

 

そう言ってドクは粛々とはしているものの、しっかりと自分で料理を取って食べ始めた。

 

「ま、祝いの席だ。あんま静かだといつもの食卓以下だからな。コクリコ!めぐめぐ!ジュース出すぞ!」

 

『わーい!おにいちゃんだいすき!』

 

『えー!いいの!?』

 

料理を一心不乱に食べて静かになってたコクリコとめぐめぐがこっちをすごい輝いた目で見てきた。

 

「まぁ祝いだからな。そんくらいはいいぞ。楼閣とジャスは酒でも呑むか?」

 

「私はお酒弱いからやめとくよ〜」

 

『なら俺も控えよう。悪酔いしたらちび共に悪いからな。』

 

ジャスの気遣いが神かよ。

 

「波羅、お前は──」

 

「ボスが飲めと仰るなら、泥水でも汚水だろうとなんでも喜んで飲ませていただきます。」

 

怖いわ。

何が怖いって満面の笑みでそれを言ってきて、しかも「何をおっしゃるんでしょうか?」みたいな首の傾げ方と、割とマジな目してるとこが怖いわ。

 

「冗談は狂信だけにしろ。飲むんだな、おk」

 

「冗談ではないのですが……」

 

なんか言ってたけど聞こえない。

都合の悪いことは全部するするスルーしちまうか。

 

豪勢に容器ごと食卓に置く。コップはドクも含めて未成年組全員にそれぞれ配った。

 

ってか、俺も相当テンション上がってんだな……よくよく考えたら麦茶で乾杯してたわ。

誰もなんにも言わんから、これは内緒。

 

『……ぷはっ!おいしー!』

 

『……っあー!サイコーだね!』

 

「ふふ、そうですね。」

 

コクリコとめぐめぐは豪快に一杯飲み干し、波羅はちびちびと舐めるようにジュースを飲む。酒かよ。

 

ちなみにドクはさっきからジュースを取ろうとする度に誰かに先に取られるというのを繰り返していた。あ、今おかわりしためぐめぐに取られた。

 

『なんとも賑やかな食事なのだな。』

 

「まぁ、今日だけなんだけどねぇ。」

 

イスタカがボソッと呟く。それを耳ざとく聞いて楼閣が返事をした。

ってかイスタカお前、全く料理食べてねぇじゃねぇか。

 

『いやなに、この二本の棒や小さな……さすまたと言うのだったか?をどう使えば良いのか分からなくてな。お前たちを見ていたところだ。』

 

む、イスタカの世界観では食器の類がないのか。

 

「そこはなんでもいい。とりあえずさすまた──フォークってんだが、それで食いたいもんを突き刺して食え。」

 

『しかし、お前たちを見るにこれは幼子のためのものだろう?』

 

イスタカはコクリコとめぐめぐがフォークを使ってるのを目ざとくも見つけながら言う。正直、クソめんどい。

 

「……気にすんな!」

 

『いや、しかし……』

 

「気にすんな!」

 

『……承知した。お前たちが使っている二本の棒については後ほど教えてもらうとしよう。』

 

面倒事が増えやがった……

よし、後で波羅にでも押し付けよう。

 

「喜んでお受け致します。」

 

「ん?波羅ちゃん、急にどうしたのさ?」

 

「……?おや、おかしいですね……今しがた、ボスに何か頼まれたような気がしたのですが……」

 

うん、この子怖い。

 

「ほれほれ、マピヤも食わんか?ん?」

 

唐揚げを俺のとは別の箸でつまみながらマピヤに差し出す。マピヤの口元にうりうりと押し付けるオプション付きで。

 

「ロードくん、言動が完全に悪代官だよ?」

 

うるせぇ。

 

しばらくうりうりとしていると、マピヤは鬱陶しいとでも言いたげな目でこっちを見て──

 

『ピュイ!』

 

パクっ、とそれを食べた。むしゃむしゃと美味しそうに、食べた。

 

「なん……だと……!?」

 

『ロード、一体何に驚いているんだ?マピヤは猛禽類だ、肉を食うのは自然なことだろう?』

 

何にってお前、マピヤはあんだけ鳥が捌かれる時に反抗してたんだぞ!?あんだけ拒否反応あったら普通、鳥は食わねぇだろ!?

 

『ピュイ!』

 

『……そうかマピヤ。ロード、マピヤはお前に捌かれることがトラウマなのであって、同類を食べることへの忌避感はないそうだ。』

 

いや、にしてもあの拒否の仕方は何かしらあるだろ?!

……はっ!普段はあまり食べないから嫌がったのか?

 

『ピュイィィィ!』

 

『大好物だそうだ。』

 

「解☆せ☆ぬ」

 

まてまてちょっと待て。じゃあなんださっきのあの『自分、それあまり好きじゃないんで……』みたいな反応は!

 

『ピュイ!』

 

『マピヤは『他人からの施しは受けない』と言っている。』

 

なんだその謎のプライド。

 

『マピヤも私と同じ、誇り高きティワロロ族の戦士だ。戦士としての矜恃を持つのはごく自然なことだろう?』

 

『ピュイ!!』

 

マピヤが『その通りだ分かったか!』とでも言いたげに鷹揚に頷く。シンプルにムカつく。

 

「別にいいけどな。」

 

「ん?ロードくんが諦めるなんて珍しいねぇ……明日は矢でも降るのかな?」

 

うるせぇ。

 

「違いますよ楼閣さん。矢なら今日振りました。イスタカさんが降らせました。」

 

おいコラ波羅、しれっと肯定するな。

 

「ちなみにマピヤ、ここには生き物全般がいないがどうやって食餌をとるつもりなんだ?」

 

『ピュイ?』

 

「獲物がいない状況で、施しを受けず、お前はどうやって生きていくつもりなんだ?」

 

『ピュッピュイ!?』

 

「さぁ選べ!服従(施し)か、(飢え)かァ!!」

 

フハハハハ!!……おっと、つい高笑いが漏れちまったぜ。

 

「ド腐れ外道だねぇ!?」

 

「さすがボスです。」

 

そんな俺を見て楼閣はドン引きし(いつも通り)波羅はスタンディングオベーションで迎えてきた。

誰がド腐れ外道か。

 

「ほれほれ、これがこの世界で食料を手に入れるただ一つの方法だぞ?ん?食うのか?死ぬか?どっちだ?ん?」

 

再び箸で唐揚げを摘み、マピヤの口元にうりうりする。

 

『ピュイ……ピュ、イィィィ……』

 

マピヤが葛藤するように唸ってる。

プライドを捨てるか、死ぬか、究極の2択だなぁ!

 

《心底どうでもいいです》

 

うっせぇ。

 

《ちなみにまだ副賞の受け取りをしていないのですが、早くして貰えますか?》

 

「ん?なんかあったっけ?」

 

『ビュイッ?!』

 

マピヤはもうどうでもよくなったから半ば強引に口に唐揚げを突っ込む。決断が遅いと死ぬぞ。

 

《副賞の【イスタカモチーフカード20枚】に加え、ギルド加入人数+2なので施設の拡充ができます》

 

「トレーニングルームで。」

 

「即答!?」

 

楼閣が驚いてるが、いやお前、トレーニングルーム以外の選択肢ってなんだ?

 

「もっとあるでしょ!例えば──」

 

「却下」

 

「ド腐れ外道だねぇ!?」

 

楼閣の事だからきっと【和室】とか言い出すに違いない。そんな役にたたねぇもん貰ってどうしろってんだよ。

 

「ってな訳でトレーニングルームの拡充、いっちょよろしく!」

 

《却下です》

 

…………………………は?

 

《却下です、と申し上げましたが?》

 

「なんでだコノヤロウ。【拡充】だからか?なら追加でトレーニングルームを──」

 

《却下です》

 

(; ・`д・´)ナン…ダト!?

 

「おぉ……キィちゃんが珍しく私の味方を……!!」

 

楼閣が心底嬉しそうにそう言う。うぜぇ。

 

「キィ、速やかに前言の撤回を要求するぞ。」

 

《必要ないものを欲しがるのはやめたらどうです?》

 

「今、うちのトレーニングルームは遊具で手狭なんだ。遊具の拡張のために必要な投資だろう?」

 

《いいえ、不必要です》

 

埒があかねぇな……!

 

「どうしてそう断言できるんだ?今ある分で十分だ、と?」

 

《いいえ、そのような三下の戯言じみたことを言うつもりはありません》

 

「と、言うと?」

 

《既に【イベントステージ】をトレーニングルームと統合済みです》

 

「有能。」

 

『カピッ!?』

 

さっさと言えばいいものを、なにもったいぶってんだコイツは。

……ってvoidoll、お前そんなに驚いてどうした?

 

『フクショウニハソンナモノハナカッタハズナノデスガ……』

 

《もちろん無断で奪いましたが?》

 

「ちょっ、サラッと怖いこと言わないで!?」

 

まじかよ……副賞にないものをGM(ゲームマスター)にバレないようにパクるって、うちの機械音声はどこまで有能なんだ。

 

《なので別の施設にしてください》

 

「そういうことならしゃーねぇな。なんか欲しい部屋あるやついる?波羅、却下。」

 

「【ボスの記念館】を作ろうってまだ言ってませんよ?」

 

うん、知ってた。だから先手を打った。

 

「そうだねぇ……ゆっくりできる場所が欲しいから……」

 

「却下だ。」

 

「知ってた。」

 

『楼閣……最後まで希望を捨てるんじゃない……』

 

無理なのが分かってて突っ込むのは無謀だよ〜、と楼閣がジャスに言い放つ。よく分かってんじゃねぇか。

 

「ボスの望みは僕にとっての命令です。」

 

中世の騎士かお前は。そんでお前がそのポジだと俺は姫さんじゃねぇか。

 

「僕はなんでもいいですよ。今の環境で十分ですし。」

 

なんとも受動的だな。

……それにしてはお前、自室から出てこないけどな。

 

「あ、そうだロードくん、【宴会場】なんてどう?ドクくんの部屋の隣に作ってさ、廊下側とドクくんの部屋側に入口作ったらいい感じになるんじゃない?」

 

「ふぁっふあ!?」

 

ふむ……ドクを無理やり引っ張り出せるから、あまりに長いこと引きこもってたらそこでメシ食うのもありか。

 

「鍵を!鍵をつけてください!プライバシーの侵害だ!」

 

「ロードくん、カラオケとか投影機とか付けてさ、どんちゃん騒ぎもできるようにしようよ。うるさくて作業どころじゃなくなったら出てくるからさ。」

 

ナイスなアイデアだ。よしキィ、さっそく頼む。

 

《分かりました、作業を開始します》

 

《皆さまこちらにおられますよね?万が一どなたか別の部屋にいらっしゃるのなら呼んでまいりますが》

 

《お姉ちゃん、お兄ちゃん、確認してきたよっ!他の部屋には誰もいないから始めちゃって!》

 

おぉ……模様替えの時は全員で連携するのか。

ってかもし誰か別の部屋にいたらどうなってたんだ?

 

《古い居住区のデータと共に消えます》

 

怖ぇわ。

 

《ちなみにこれを聞いたマルコス様が『僕のリリカちゃんコレクションが!!』と叫びながら自室に突撃し、消えました》

 

いやマジで怖ぇわ。

ってかその使い手どうなったんだよ?

 

《マルコス様をバックアップから復元し、記憶もそのままに復活させました》

 

なるほど、一応復帰は出来たわけか。

 

《ちなみに自室の物資については復元されますのでご安心を》

 

ま、そうじゃねぇと困るわ。

主にトレーニングステージとかトレーニングステージとかトレーニングステージとか。

 

……そう言えばドクがいやに落ち着いてんな。また「デバックが〜」とか喚き出すかと思ったのに。

 

「えっ?!……いやたしかになくなったら困りますけど、どうしようも出来ませんし、そういった文句が大手からでてないところを見ると、丸ごと復元されると思ったので。」

 

なるほど。ってかその急に話振られてキョドる癖治せよ。

 

「ぜ、善処します。」

 

《では、デネブとベガがバックグラウンドで作業をしている間に副賞を選んで頂けますか?》

 

おぉ、そっちあんの忘れてたわ。

 

『ホンライハソチラシカナイノデスガネ。』

 

ボイド、うるさいぞ。

 

《副賞につきましては、【イスタカモチーフカード20枚】となっております》

 

ふむ、とりあえず見せろ。

 

《とりあえず全てのレアリティを表示させていただきます》

 

────────────────────────

【イスタカモチーフカード】

 

【創霊の加護 タイオワ】

味方チームの攻撃力を9秒間大アップ

発動時間【短】クールダウン:65秒

 

【雷霊の加護 ワキンヤン】

前方の敵を4秒間スタンさせる

発動時間【無】クールダウン:24秒

 

【樹霊の加護 イシュティニケ】

前方の敵を遠くに弾き飛ばす

発動時間【無】クールダウン:24秒

 

【雨霊の加護 ウィネバ】

ライフを30%回復

発動時間【短】クールダウン:20秒

 

【翼霊の加護 ククリ】

自分の攻撃力を12秒間中アップ

発動時間【無】クールダウン:25秒

 

 

────────────────────────

 

「【タイオワ】を20枚ください!!」

 

「おいバカ待て波羅。」

 

効果見た瞬間即答だよこの子。

 

「何故ですかボス?!」

 

「色々とギルメンとの兼ね合いがあるだろうが。お前、それ4凸してどうするつもりなんだよ。エナジーあるのか?」

 

「ならいりません!今のままで僕は十分です!!」

 

「おいコラちょっと待て。」

 

なんでこう極端なんだよこいつ。

 

「それに、クールダウンも伸びちゃうしねぇ。ククリがRとかSRとかなら、単体バフでCT短いし、そっちにしときなって言うんだけど……」

 

「いえ、僕は1分に1回くらいしか【提灯】を使ってないので、使用感的にはあまり変わらないかと。しかしなくても全然行けるので高望みはしません!」

 

落ち着け。とりあえずまず誰にとって有用なカードがあるかを考えてからだろ。

 

「Sir,Yes Sir!!」

 

うん、いつも通りになった。

……おいちょっと待てこれは世間一般で言う普通じゃねぇ。

 

「正直、カイがいないこの状況で吹き飛ばしとる意味も薄いし、俺はキルスプで、楼閣はジャスが近距離遅いから俺たちは今回カード要らねぇよな?」

 

「ま、残念だけどねぇ〜。【全体回復】は波羅ちゃんのためにいるし、他のを抜くのも防衛力が下がるから私はいらないね。結局、波羅ちゃんとドクくんで【タイオワ】と【ワキンヤン】の比率をどうするか、でしょ?」

 

その通りだ。さすがムッツリ、よく分かってんじゃねぇか。

 

「だから、波羅とドクで枚数好きに決めろ。ドクは今意味不明に【アレク】とか【カノーネ】にしてる枠を【ワキンヤン】にしたらなかなかいい感じになるんじゃないか?」

 

これに号令があったら良かったんだがな。ま、ないものねだりをしても仕方ない。

 

「僕はバトルをあまりしないので……とりあえず波羅さんが3凸するまでの【タイオワ】を貰って、残りが【ワキンヤン】とかがいいのではないでしょうか?」

 

「無駄使いはいけませんしね。ボスに言われたので僕もそれでいいです。コンプしたくても、どうせそのうちガチャから出ますしね。」

 

スムーズに進むな。追加カードの種類自体が結構少ないし、4人で20枚ってかなり多くね?

他のギルドなら誰のリリカが何枚【タイオワ】持つか、とかで揉めそうなもんだが。

……ゲームではリリバフリンバフタイオワとかやって、ジャンヌワンパンしてそう……

 

「んじゃ、【タイオワ】11枚と【ワキンヤン】9枚でよろしく。」

 

《かしこまりました》

 

そう言ってキィはすぐさまカードを言った枚数分だけ出した。優秀。

 

《voidoll様がいなければどちらも11枚ずつ出せたのですがね》

 

サラッとすごいこと言うな。

ちゃんと危険性を考えて行動できるあたり、俺はお前のこと信用してるぞ。信頼はしてないが。

 

《それはなにより》

 

「いよっし、じゃあ今日はこれでお開きだ!そろそろ分量もまずいからな!」

 

『ロード、そういうメタ発言は……いや、もういい。』

 

ジャスがなんか言ってるが、とりあえず無視。

明日から、イスタカのいる日常が始まる。




本文がいつもの倍に増量キャンペーンしています。
お久しぶりです、乱数調整です。
1話が3話に分裂した上、奴らが勝手に動き回ってあわやSSの範疇を超えそうだったので終わりの無理くり感が凄いです。気にしたら負けだと思っている。

そしてなぜか一部の人達に人気が出る食事回……特になんにもやってませんけどね。
イスタカのバトル回……うーむ、やるべきか、やらざるべきか……

次回、新章orイスタカバトル回!

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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四章 なんでもゆっくりでいいんだよ
再来


「それじゃドクくん、イスタカさん、バトル行こっか。」

 

イスタカさんのイベントクリアの翌日、私はイスタカさんとドクくんを誘ってバトアリに行こうとしていた。

 

ちなみに波羅ちゃんとロードくんはどっちもいない。

二人とも広くなったトレーニングルームで遊んでくるって今朝から楽しみにしてた。子供かい……

 

ドクくんの部屋の前で声をかけたものの返事がない。キーボードの叩く音が聞こえるからかろうじて【ただのしたいのようだ】とはならないんだけど……ギルマスとしてはちょっと心配だよね。

 

そうなことを考えながらもう一度声をかける。

 

「おーい?ドクくん?」

 

「昨日、宴に出たので嫌です。」

 

「ブレーカー」

 

「喜んでご同行いたします。」

 

ドクくんは直ぐに返事をした。部屋の中から慌ただしく用意をする音が聞こえてくる。どうやら一緒に来てくれるらしい。良かった良かった。

 

ドクくんがかなり焦った様子で部屋から出てくる。

うわぁーそんなに楽しみなのかー(棒)

 

「脅迫ですよ、こんなの……」

 

「ん?なにか言ったかい?」

 

「なんでもないです。」

 

素直な子は嫌いじゃないよ。

 

で、イスタカさんは?

 

『なるほど、狩りの時間か。ここでは確か、互いで殺し合い、陣地を奪い合うげぇむをするのだったな。それでオカネとやらが貰え、物資の購入ができると。』

 

ドクくんとは違って最初から乗り気みたい。

まぁ、ちょっと固く考えすぎな気もするけどねぇ……

 

「うーん、まぁとりあえず認識はそれでいいと思うよ。それから、GM(ゲームマスター)の告知通り、イスタカさんは誰かが操作しないと動いてくれないみたいだから私がやるね。ドクくん、それでいい?」

 

「二人分の操作は僕には無理です。」

 

ドクくんが胸を張り、自信満々でそう答えた。

いや、なんでそんなに誇らしげなのさ……

 

「それじゃ、バトルに行こっか。」

 

私たちはバトルへと向かった。

 

 

────────────────────────

 

……おや、マッチングした。

ぶっつけ本番でイスタカさん操作するの怖いなぁ……カスタムはイスタカさんが選択出来ないし、チャレンジバトルができなくなったからその辺がほんとにきつい。

 

デッキはとりあえず、近距離が早いらしいから【フルカノ】に【ガブリエル】と【全天】。

ギルドメンバー全員のカードを借りたり、合わせたりしてデッキを作るのがイスタカさんの決まりらしい。

 

さっきも言ったように、操作は私が二人分やる。この告知は全体告知だったから敵さんも分かってる。イスタカさんが狙われ続けて、こっちが躍起になってる間にジャスくんがキルされるとか笑えない。

 

二人分の操作ってどんなふうに立ち回ればいいのかな?カードは上下二段になってくれてるらしいから、私がキョロキョロしながらカードを切っていく感じになるのかな?

ジャスくんは最悪テヤしとけばいいから、単純な2端末操作よりは簡単っぽいけど。

 

ステージは【ちゅら島リゾート】

さてさて、敵さんは……っと

 

おや?ヴィオレッタさんだ。こないだ味方に来てくれた子だねぇ。

あの子、支援の仕方が上手いからちょっと心配。

 

でも、ドクくんが滑りワキンヤンで気絶入れてくれれば私も攻撃できるし、遠距離からイスタカさんで攻撃してもいい。

 

あとは……アダムくんとまといちゃん。HAとタレット、自分と相手の属性には要注意。

 

《それでは皆さま、準備はよろしいですかっ?》

 

おっと、そうこうしてるうちに始まる。

って、先頭ドクくんなのにベガちゃんがやるの?

 

《気にしなくていーの!あたしは末っ子だから、お姉ちゃんに《もっと経験を積め》って言われてるとか、そゆんじゃないからねっ!》

 

綺麗な自滅を見させてもらったよベガちゃん……

さて、みんなは準備いい?

 

「三連勝して早く帰りますよ、ボイちゃん!」

 

『ワタシハサイコウケッサクデスカラ。』

 

『行くぞマピヤ。』

 

『ピュイ!』

 

『さぁ、俺に続け!』

 

よしよし、みんな行くよ!

 

《バトルの始まりですっ!》

 

「イスタカさんは一陣取ってボイちゃんの援護ね!行くよジャスくん!」

 

『了解だ。鉄壁!俺が行くまで死ぬなぁ!俺はここにいるぞ!!』

 

『逃げますね。制圧……好きな言葉じゃないわね。』

 

ジャスくんが敵二陣を取る。それと同時にヴィオレッタも二陣に。

 

「イスタカさん!マピヤをヴィオレッタに!!」

 

『承知!マピヤ、呼吸を合わせるぞ!』

 

いい感じ。あとはドクくんがヴィオレッタをスタンで剥がしてキーを取れば……

 

『ココヲセイアツスルノガ、ショウリヘノチカミチデス。』

 

「えっ、ちょっ、え!?」

 

ドクくんがCを取ってた。

 

「……ドクくん?」

 

「え?いえあの、ボイちゃんじゃ火力が足りないのでCに来たんですけど……」

 

あー、なるほどね……こないだまで脳筋だったもんね、ドクくん。

 

「えっとねぇ……タンクが二陣に来たらイスタカさんが向かうから、タンクにスタンかけて援護してね?」

 

「あっ……そうなんですか……分かりました、以後気をつけます。」

 

まぁ、もう1回同じミスされなきゃいいや。

あー……でも結構広がってるねぇ……

 

「イスタカさん、攻撃お願い!」

 

『了解だ。我らの絆の力を、見せてやろう!』

 

よしよし、そっちは任せてだいじょう──

 

「ジャスくん!」

 

『てやぁ!!』

 

『氷柱よいでよ!!』

 

あっぶない……ずっとイスタカさんの動きに集中できてた(・・・・)からアダムくんがなんかしようとしてるのに辛うじて気づけたけど、気づいてなかったら二陣から剥がされて……考えたくもない。

 

『たぁぁ!』

 

敵のまといちゃんが見当違いの所に火球を打ち出す。逃げた先とか狙ってたのかな?

 

『さすがは【不退の不死(カーディナル)】……ですか。あの人はそんなに有名な方なのですか?』

 

『いやー、盛大に外したね!気にせず次いくよ!』

 

アダムくんとまといちゃんはそんなセリフ。

策が一つ通じなかったくらいでへこたれないのは、現実になったコンパスでは珍しいと思う。

 

私なんか、ドクくんがBに行かなかったくらいでかなり動揺してるし、見習わないと。

 

『楼閣!こやつはかなり丈夫だぞ!』

 

イスタカさんが苦戦してるみたい。

でも裏からドクくんも来てるし、スタンかけて貰って【フルーク】打ち込めば、溶かせなくても剥せるし何とかなる……はず!

 

「いきますよボイちゃん!【ワキン──」

 

『静かにお聞きなさい!!』

 

狙いすましたHA。欲しい時に欲しい分だけサイレントをかけて動きを抑制する、この子の常套手段だ。

相手プレイヤーの声が聞こえないのにタイミングを取れるのは素直にすごい。

 

サイレント範囲から抜けて、滑りワキンヤンすればいいと思うんだけどそれは無理。

この世界、射程距離が見えないし、攻撃方向の自動修正もないから滑りHAとか滑りフルークとかがすごい難しいらしい。

代わりと言っちゃなんだけど、その分フェイントHAとか牙突時の方向転換は簡単になってるらしい。

 

どちらにせよ、こないだまで脳筋で、今も名残が残ってるドクくんに、難しいと言われてる滑りワキンヤンを求めるのは厳しい……!

 

《残り二分だよっ!》

 

そうこうしてるうちにもう1分経ってるの!?

なら敵さんもそろそろ片方がCに行くから……

 

「二陣は私が守ってるからドクくんはC守って!イスタカさんは二陣でヴィオレッタを足止め!」

 

向こうにもこっちにも言えることだけど、お互いに二陣を取ってて明確な不利を取ってないし、策があったから結構悠長してた。

 

イスタカさんが圧力をかけてるからヴィオレッタさんも一陣に行けないし、こっちもまといちゃんが残ってるから同じ。

 

Cにドクくんとアダムくんが、Dに私とまといちゃん、Bにイスタカさんとヴィオレッタさんがそれぞれいる。

 

防衛戦ならドクくんを人型防御壁として置いておいてやられたらイスタカさんを配置するのが一番いい。

 

先にイスタカさんに行ってもらったら一陣にイスタカさんが戻るよりも先に一陣を取られそうだからね。

 

「守れば勝ちですよ、ボイちゃん!」

 

『ショウリヘノサイタンキョリヲイキマショウ。』

 

やる気十分、なら私はまといちゃんの対処をしないとね。

 

『ふっ……』

 

まといちゃんが火筒を構えた。

今なら近寄って【メカ反】たたき込める!

 

「行くよジャスくん!」

 

『好機だな!』

 

『たぁ!』

 

そう言ってバリアを解いた途端、まといちゃんが火筒をかなり手前に落とした。

それは、構えてからすぐに落とさないと落ちないくらいの位置だった。

 

『ぬあっ!?』

 

「えっ!?」

 

おかしいおかしい!!タメの時間と落ちた場所がおかしい!!

 

『アンタの言う通り、結構虚を突けるんだねぇ!ドカンと行くよ!!』

 

『ガハッ!!』

 

「ジャスくん!【イェーガー】【アンジュ】!!バリア貼って!!」

 

『鉄壁!これで凌げ!てやぁ!!』

 

ジャスくんが転倒せず、ノックバックだけだったおかげでまといちゃんの通常前に【イェーガー】と【アンジュ】を使えた。

これで一撃63ダメージだからなんとか持ちこたえられる。

 

『オドを集中する……氷柱よいでよ!!』

 

『カピッ!?』

 

ドクくんが氷柱をくらった。イスタカさんの攻撃範囲ギリギリ外だからタメの間にダメージ稼げないし、転倒した時に合わせて【フルーク】とか叩き込まれたらかなりしんどい。だけどそれならイスタカさんの攻撃範囲に入るからダメージを稼げる。

 

そう、思ってたんだ。

 

『たぁぁ!!』

 

『クワッ!?』

 

「えっ!?」

 

まといちゃんが火筒を放つ。放った相手は、ボイちゃんだ。

起き上がった瞬間を狙いすまして再び転倒されていた。

 

『氷柱よいでよ!!』

 

そして再びアダムくんが氷柱で打ち上げる。

 

「くっ……!【イェ──」

 

『たぁぁ!!』

 

空中でドクくんがカードを切ろうとすると、今度はまといちゃんが空中にいるドクくんに火筒タメを当てる。

 

「普通無理でしょ、こんなの!!」

 

『氷柱よいでよ!!』

 

ドクくんが氷柱と火筒で嵌められてる。タイミングが上手すぎて避けるのも回復も出来てない。

 

『スリープモード、ニ……』

 

『ちっとは懲りたかい?』

 

ボイちゃんがやられるが、それは溶けないのがおかしい。しばらくは防御力で耐えてたけどそれもそう長くは続かないからね。

 

『制圧など造作もない』

 

「イスタカさん!」

 

『分かっている!行くぞマピヤ!』

 

『ピュイィィィ!』

 

イスタカさんにCを踏んでもらって制圧阻止。

 

「【フルーク】!」

 

『命の息吹よ!』

 

『クソっ……!』

 

さらに続けてフルークを叩き込んで妨害もする。

体力のかなりの部分を削って遠くに弾き飛ばし、少しの余裕を作ることが出来た。

 

『ふっ……』

 

「まといちゃんが構えた……ジャスくん、今がチャンスだよ!イスタカさん、【全天】!」

 

『了解!』

 

『承知!意思こそが人を生かす!』

 

ジャスくんとまといちゃんの方へ忍び寄る。まといちゃんがイスタカさんを狙ってる間に【メカ反】の範囲内ギリギリで止まって叩き込む!

 

「ジャスくん【メカは──」

 

『見えてるよ!たぁぁ!!』

 

『ぬあっ!?』

 

カードキャンセルされた!?イスタカさんにヘイトが集まってて、そっちに気が行ってると思ってたのに読み違えた!

 

まずいまずいまずい!回復が残ってない!

 

『本当にアンタの言った通りだねぇ!まとめて吹き飛びな!ちっとは懲りたかい?』

 

ジャスくん溶かされたっ!?

 

『カラドボルグ!!』

 

『くっ……!』

 

『オドを集中する……氷柱よいでよ!!』

 

『今宵は私が狩られる番……か……』

 

《味方が倒されちゃったよ?!》

 

やっちゃった!ジャスくんが溶けて焦ったからイスタカさんへの指示忘れてた!

よしんばそれがなかったにしてもまといちゃんとアダムくんの嵌め性能が高すぎるよ!どんな化け物PS(プレイヤー・スキル)してるのさっ!

 

『制圧など造作もない。』

 

《Cを奪われたよっ!!》

 

アダムくんがCを制圧する。

 

《残り30秒だよっ!》

 

まずい、この土壇場で2陣まで取られたらいよいよまずい!

 

「ドクくん!アダムくんCから剥がして制圧!行くよジャスくん!【イェーガー】【ドア】!!」

 

『鉄壁!俺が行くまで死ぬなぁ!!』

 

Dに向かってまといちゃんのポータル制圧を阻止。

あとはドクくんがアダムくん剥がせれば……

 

『リサイタルを始めるわ。ゆっくり耳を傾けなさい。』

 

『クワッ!?』

 

『ぬぅ……!』

 

強制サイレント!?タイミングが上手すぎるよ!

 

ボイちゃんとジャスくんがサイレント状態になる。

ボイちゃんはアダムくん剥がせないし、私は回復出来ない!

 

とりあえず、ドクくんに逃げ回るように指示を……

 

「………………!」

 

声が出ない!?サイレントってそこまで優秀になったの!?

 

『驚いたかい?そぉれ!』

 

『ぐわっ!』

 

まといちゃんが【カノーネ】を持ってた。ジャスくんのダメカが割れ、空中へ。

 

でも、これなら!

 

「ドクくん、サイレントゾーンが無くなるまで走って逃げて!【アンジュ】!」

 

『これで凌げ!くっ!』

 

再びサイレント。味方との連携で声を出せなくなるのは本当に辛い。

 

『楼閣!私はいつまでここにいればいいんだ!?』

 

イスタカさんが一陣から言う。

指示忘れてた時にリス地にいたら一陣を広げるようにって言ってたから一陣にずっといるのか!

 

「でも声出ないからなぁ……アレ?」

 

声がでる……?いや、考えてる場合じゃない。

 

「イスタカさん、HS行ける!?」

 

『あぁ、準備は出来ている!』

 

「なら、アダムくんに向けて撃って!」

 

『承知!畳み掛けるはワキンヤン、弔うは魂の一撃!』

 

その場からイスタカさんがHSを、間にいるヴィオレッタさんを無視して放つ。アダムくんは完全に虚を突かれた様子だった。

 

「えっ!?」

 

『なんだと……!?』

 

ちなみに私も完全に虚を突かれた。イスタカさんが移動せずにHSをアダムくんに向けて撃ったからだ。

 

でも、時間短縮出来ていい!

 

『クズどもがぁぁぁぁぁぁ!!』

 

『大地へ還れ、愚かなる者よ。』

 

《敵を倒したよっ!》

 

完全に虚を突いてたからアダムくんを倒せた。なら次は……

 

『アタイを忘れてもらっちゃあ困るよ!』

 

「私たちのセリフだよ。【メカ反】!」

 

『でりゃあぁぁぁぁあ!打ち砕く!ハンマーの錆にもならんな。』

 

『だめ、か……』

 

《連続で敵を倒したよっ!》

 

これなら!

 

「ドクくん!」

 

「すぐに!ボイちゃん!」

 

『ココヲセイアツスルノガ、ショウリヘノチカミチデス』

 

これなら!

 

『え?しかしそれでは……いえ、分かりました。カランド、和らいで、移動が楽でいいわね。』

 

ヴィオレッタさんがドアでCに飛んできた。ボイちゃん【イェーガー】張ってるしスタンは無理だけど、これならBが取り返せる!

 

「イスタカさん!」

 

『承知した!全ては運命の名の元に……!』

 

《10秒前っ!》

 

カウントが始まった。

お願い、間に合って……!!

 

 

《バトルが終わったよっ!》




最近では早い方の投稿ですね、乱数調整です。
さてさて今章は楼閣章です!(天:競馬か)

そしていつぞやに言っていたキャラクター登場順の変更、アレなくなりました!!(天:おいコラちょっと待て)
何となくアイツ後にいた方が私のモチベになると思ったので……

あ、それとこれでしれっと新章突入とイスタカバトル回やってますねてへぺろ(天:キモイぞ)

次回、勝敗やいかに!?

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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助言

「うー!惜しかったねぇ……」

 

バトルが終わって広場に戻った私たち。イスタカさんの制圧は、あと1フレームあれば勝ててた、位の位置で止まった。もうちょっとだったんだけど……

 

「やっぱりあの子上手だねぇ……」

 

『あぁ、しっかり戦況を把握できている。部下にいれば俺も安心して背中を任せられただろうな。』

 

あ、やっぱりジャスくんもそう思う?

まぁ、終わったことを嘆いても仕方ないよ。

 

そんな無駄話をしながら、とりあえず敗北気分を変えるために広場をぶらぶら歩いている。

 

「あの……すみませんでした……」

 

「ん?ドクくんどうかした?」

 

「いえ……初手に妨害に行かなかったのがかなり響いていて……あそこを僕がちゃんとしていれば勝ってたのに……」

 

あー……ドクくんそういう所ナイーブなんだよねぇ。

まぁ、だから頭冷やすために歩いてるって言うのもあるんだけどさ。

 

「まぁまぁ。気にしすぎちゃダメだよ〜ドクくん。」

 

「ですけど……僕のせいで楼閣さんに黒星付けちゃいましたし……煽られても仕方がないプレイをしました……」

 

うーん……この子、変なところで真面目だからねぇ……正直面倒くさいよ。

 

「んー……あ、そうだドクくん、【将棋】知ってる?」

 

「……知ってますけど、今それ関係ないですよね?」

 

はっはー、めんどくさい子になったねぇ。いつの間にそんなに可愛くなくなったんだい。

 

「羽生名人が7冠取った時のあの人の戦績知ってる?」

 

「知りませんけど、タイトル全て取ったんでしょう?全勝してるに──」

 

6割(・・)だよ。」

 

「…………え?」

 

「逆に言えば、どんな強いひとでも4割は負けるんだ。【#コンパス】はソシャゲだからもうちょっと高いだろうけど、それでも8割とか9割、全勝ではないだろうねぇ。」

 

全勝なんて、できる人はいないんだ。どんな人も負ける時は負ける。その割合を努力によって減らしているだけで、全てに勝つことなんてありえない。

 

「だから、さ。そんなに気にしなくていいんだよ。終わったことを悔やんだり文句を言うよりも、改善点を挙げてその時の最善手を探して、咄嗟にその行動ができるようになってれば、それでいいんだよ。」

 

「………………そういうものなんでしょうか?」

 

ドクくんが納得がいかないような顔をしてこちらを見ている。

彼はうかない、どこか焦ったような顔をしていた。

 

「そういうものだよ。少なくとも、もう1回あのミスをしなければ私は別に文句言わないよ。」

 

だから私は、強く肯定する。彼が何に悩んでいるのかは分からないけど、断定は大切だからね。

ドクくんの救世主(ロードくん)にはなれないけど、その代わりにすら役者不足だけれど、無限暗夜を歩むこの子の光になれたなら──

 

「ドクくんは今、【孤独者達の宴(ロンリネス)】の第二タンクなんだから!妨害主体でもできるんだってロードくんに見せたげなよ?あの子、今でもドクくんのこと【脳筋】って言ってるんだからさ。」

 

「……はい、頑張りま──待ってください、僕スタン2枚デッキなのに【脳筋】って言われてるんですか!?」

 

「…………(はにかみ)」

 

「誤魔化さないでくださいよ!!」

 

「まあまぁ、熱くならないの。」

 

「誰のせいですか!?」

 

ドクくんにはちょっと悪いけど、こうやっていじられてムキになってる方がずっとドクくんらしい。

 

「気にしない気に──アレ?ヴィオレッタさんだ……まといちゃんとアダムくんもいる?」

 

遠目にそのキャラ達が見えた。何か話してるっぽい?

 

「ね、ドクくん、ちょっと行ってみようか?感想戦とか出来たらもっと良くなるだろうし。」

 

「そんなのいいですから、早く次のバトルに──」

 

「ブレーカー」

 

「行きましょう、今すぐにでも!!」

 

これはいい言葉だね。私は魔法の言葉を手に入れてしまったみたいだよ……フッ

 

『楼閣……お前はいつの間にそうなってしまったんだ……』

 

えー?前からこんな感じだったよぉ〜。

 

まったく、ジャスくんは酷いんだから。

てくてくと私たちが3人に近づいていくと、だんだんと話している内容まで聞き取れるようになってきた。

 

「ホントにすごいよ!さすがは【不屈の不死(アライブ・ライブ)】だね!こっちもすごく動きやすかった!」

 

「ほんとにな!俺達も【高低熱処理(HAラヴァーズ)】として有名だけど、サイレントでダメカ張らせないあの動き!俺達がすげぇやりやすくなって助かった!!」

 

「あ、ありがとう……ございます…………」

 

おぉ……まといちゃん使いの女の人とアダムくん使いの青年大絶賛されてるねぇ……ま、あの子上手いし当然か。

何気に2つ名まで付いてるし。

 

「ホントに助かった!固定組んでみてここまで相性がバッチリ合う人、今までいなかったよ!!また固定──そうだ!ウチのギルドにおいでよ!」

 

「おぉ!!そいつは名案だな!【不屈の不死(アライブ・ライブ)】はまだギルドに入ってないんだろ?俺たちのギルドに来いよ!」

 

「えっ!?……いえ…………その……私は──」

 

『アンタが来てくれるってんなら百人力だよ!アタイなら大歓迎さ!』

 

『俺も賛成です。貴女に来ていただけるととても頼もしい。』

 

「あ、あの……私……ホントに……」

 

「ね!?いいでしょ?だって初めてなのにあんなに連携出来てたんだもん!あたし達、2人だけだからいろんな所に傭兵として雇われてたけど、3人になったらそんなことしなくてもいいしさ!【不屈の不死(アライブ・ライブ)】もまだギルド入ってないんでしょ?ウチにおいでよ!」

 

「俺たち絶対相性いいって!【不屈の不死(アライブ・ライブ)】もピッタリなところが見つかってないだけだったんだろ?俺達が組んだら最強だって!これで便利屋として使われる生活にもオサラバだぜ!」

 

「あの……あぅぅ…………」

 

あー……あの子あたふたし始めちゃったよ。

あの二人も察してあげればいいのにねぇ……ま、戦力として申し分ないから周りが見えなくなってるんでしょ。

 

だから私は彼女に話しかけた。道端で偶然にあった知人かのように普通に。

 

「やっほーカロネちゃん、久しぶりだねぇ。」

 

「あの…………あ……楼閣さん…………お久しぶり、です……」

 

「はっはー、今回は見事にしてやられちゃったよ〜。」

 

「いえ……楼閣さんとの……直接対決、も……なかった、ですし……【お母さん】も……なかった、ので……やりやすかった、です……」

 

「あー、あのカード、ヴィオレッタさんの特徴を全否定してるもんねぇ。もっと下方してもいいと思うんだけどねぇ。」

 

「そうなると……嬉しい……ですね……」

 

少し話すと彼女──カロネちゃんはクスクスと笑う。

すると、当たり前だけどその様子を見て面白そうじゃない人が4人。

 

「ちょっと【不退の不死(カーディナル)】!あたし達が勧誘してたんだけど!」

 

「そうだぞ!俺達が話してる時に横から入ってきやがって!」

 

『列の横入りは頂けないよ!』

 

『順序というものをご存知ないのでしょうか?』

 

もちろん今まで話してた2人とそのヒーロー達だ。

まぁ、彼らからしてみれば勧誘中に横入りしてきたってことになるから当たり前っちゃ当たり前なんだけど。

 

「でもね?困ってる子に詰め寄るのはいただけないよ。カロネちゃんの話、君たちは聞いてあげたのかい?」

 

「そんなの入るに決まって──」

 

「〈入るに決まってる〉?この世界(#コンパス)が現実になってから2ヶ月くらい経ってギルドに入ってない子が?ほかはみんな入ってるのに?」

 

それだけ長い間、利益しかないようなギルドに所属してない理由が【合うところがない】だけなわけが無い。

それなら、他に理由があるはずだ。

 

「でもそれはよ!」

 

「詭弁?極論?妄言?……そうかもしれないね。でも、話も聞かずに一方的に押し付けるよりはマシだよ。勝手な想像で全てを決めるより、ずっといい。」

 

100%の善も100%の悪も存在しない。彼らは彼らの善で動いていただけ。それがカロネちゃんの悪になる可能性も考えずに、ただ妄信的に。

それが悪いとは言わない。大抵そういうものだし、私だってちょくちょくやってしまう。

だからこそ、誰しもがやってしまう可能性があるからこそ、気をつけなければならない。

 

「話はちゃんと聞いたげないと、ね?」

 

「……悪かったよ。」

 

ちょっと不服そうだったけど、アダムくん使いの子はそう言って頷く。物分りのいい子は嫌いじゃないよ。

 

「もちろん私だって勧誘するなって言ってるわけじゃないからね。勧誘するなら相手の意思も聞いたげようってことなだけだから、勧誘したこと自体を否定してるわけじゃないよ。」

 

「うん、分かってる。ちゃんと相手の意見を聞く、覚えた!それで?【不屈の不死(アライブ・ライブ)】的にはどう?ウチのギルドに来ない?」

 

私が言い終わった後、手でどうぞと示すとまといちゃん使いの子がそう言ってカロネちゃんに聞き返した。

 

やっぱりまといちゃん使いの子、相当ワクワクしてるみたい。

 

「あ、あの……私……ギルドには……入りたくなくて……」

 

「えー!そうなの?なんでなんで〜?」

 

「え、えっと……それは……言え、ません……」

 

「えー!なんで〜!教えてくれたっていいじゃん!」

 

「そうだぞ!理由なく断られても納得いかねぇ!」

 

「あ、あの…………」

 

いやはや、カロネちゃんもまといちゃん使いの子もアダムくん使いの子も、みんなみんな若いねぇ。

若いっていうのは強みでもあるけど、視野が狭いから見ててやきもきするよ。

 

「はい、おしまい。それ以上はダメだよ〜」

 

「なんでですか!」

 

「納得いかねぇよ【不退の不死(カーディナル)】!!」

 

一旦話を打ち切ってこっちに注目を向けさせる。

まぁ案の定2人とも食ってかかってくるんだけど。

 

「察してあげないとダメだよ。理由を言わないってことは、あんまり言いたくない事だって分かったげないと。カロネちゃんも、ギルドに入るメリットは分かってるんだよね?」

 

「は、はい……」

 

この子は聡いから、ついつい周りのことを考えすぎてしまう傾向がある、んだと思う。そうじゃないとあんなジャストサイレントなんて決められないだろう。

 

「メリットが分かってるけど入りたくないってことは、あんまり言いたくないってことだよ。そこをあんまりほじくり回しちゃダメ。」

 

「…………わぁったよ。」

 

「あたしも……なんかごめんね?」

 

「い、いえ……気に、しないで……ください……」

 

うんうん、これで円満解決だね。

 

「そう言えば【不退の不死(カーディナル)】はなんでこっち来たの?」

 

あぁ、そういえば感想戦しようと思ってたの忘れてたねぇ。

 

「感想戦でもしようと思ってたんだよ。まといちゃんの火筒、凄いねぇ。」

 

「お!それそれ!俺も初めて知った時驚いたわ!」

 

「あたしもー!打つ位置指定できるんのはちょっと前に知ったんだもん!タメを長くして手前に落とすのがもう刺さりまくりだよ!まといホントに凄い!」

 

『ちょいと!そんなに褒めないでおくれよ……///』

 

なるほど……その辺も仕様変更があるのね。まぁ正直言って打ち込む位置が奥に進んでいくのは不自然だもんね。

ヒーローと会話ができれば解決する部分はゲームとかなり変わってるのか。

 

『理解していなかったとはいえ、ご報告が遅れたことを謝罪しなければなりませんね……』

 

「いやいや!知らなかったってことを分かってなかったんだから仕方ねぇよ。普通に考えたら当たり前なことをわざわざ言うほどアダムはバカじゃなかったってことだ。」

 

『……随分とお優しいのですね。』

 

「おう、相棒だからな。あとアダムがちゃんと分かって動いてくれてるから【高低熱処理(HAラヴァーズ)】なんて二つ名が付いたんだしな!」

 

アダムくん使いの子はニカッと人好きのする笑顔を浮かべてそう言う。

それをまといちゃん使いの子が見ていた。

 

「ん?ヒイラギ、どうかしたか?」

 

「なっ、なんでもないよ!」

 

ははぁ〜ん……

 

「甘酸っぱいねぇ……」

 

『だよねぇ。アタイ見ててやきもきするよ。』

 

『俺もです。お二人がこれからどうなるかが少し楽しみですね。』

 

「「そこ!コソコソ話すなっ!」」

 

ハモった。仲良いねぇ……

 

「それじゃ、あとはお若い二人に任せて私たちは退散しよっか、カロネちゃん。」

 

「え!?は、はい……」

 

私が甘酸っぱいものを見てツヤツヤしながら振り返ると、そこには死んだ魚の目をしたドクくんがいた。

 

「あ、ドクくん忘れてた。」

 

「いや酷いです!?」




長い……回を追うごとに1話が長くなっていってます、乱数調整です。
さて、恐らく今年最後の投稿になりますね。今年も一年お疲れ様でした。

今章は私が書きたかった章のトップスリーに名を連ねている章なので結構サクサク筆が進みます。えぇ、サクサク行き過ぎで序盤で物語が終わってしまいそうです。楼閣にネタは難しい。

カロネがギルドに所属したくない理由とは?

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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演奏会

「ごめんってドクくん、機嫌直しなよ。」

 

「そうは言いますけど、結局感想戦しなかったじゃないですか!」

 

カロネちゃんと試合をした数日後、まだむくれてるドクくんの部屋の前で私は呼びかけていた。

 

「え〜?ちょっとはしたよ〜」

 

「ほぼないようなものです!」

 

むー……ドクくんかなりご機嫌ななめだねぇ……

 

「バトル行かないの〜?」

 

「今日という今日は本当に行きません!」

 

「ブレーカー」

 

「予備電源付けました!」

 

…………ドクくん賢くなったねぇ……

 

「どれだけその言葉で脅されてると思ってるんですか!?」

 

し〜らない。

 

「とにかく!今日は僕、この部屋から一歩も出ないので!」

 

なんてこったい、ドクくんが反抗期だよ。

 

「だってさ〜ジャスくん。酷いよねぇ〜」

 

『いや、お前も人のこと言えないと思うぞ楼閣……』

 

ジャスくんまで私をいじめる……

 

「ま、そういうことなら今日は休みにしちゃうかな。イスタカさんもロードくんたちの方に行ってるし、私ひとりでバトアリ行ってもだしね〜。」

 

よし、今日は休みだ。適当にその辺ぶらつこうか。

そう考えながら私はギルドホールを出た。

 

 

──────────────────────

 

「とはいえ、どうしようかねぇ〜……」

 

突然休みになったから何しようか全然決めてない。

なんか今日はゆっくりしたいから……

 

「ベガちゃん、一番近い温泉ってどこにある?」

 

《えっと……一般施設としての温泉はないよ》

 

え、温泉ないの?

 

《あのね……たしかギルドホールの拡張に温泉があるから一般施設としての温泉は存在しないの》

 

あぁ……なるほどね。じゃ、別の暇つぶしを考えようか。広場でリプレイ見るのもいいしね。

 

「それじゃジャスくん、適当にぶらぶら歩こっか。」

 

『身体を休めるのがいいと思うが……まぁお前がそれでいいなら俺は構わん。』

 

「まぁ、楽しむ時に楽しむのは精神を休めるのにはいい事だよ。」

 

そう言いながらぶらぶらと広場に出てくる。

……ん?あそこになにやら人だかりが出来てるねぇ。

 

「ジャスくん、ちょっとあそこ行ってみよっか。」

 

『あぁ、俺も少し気になっていたところだ。』

 

人だかりに近寄っていくと音楽が聞こえてくる。ピアノの音だ。それに……歌声も?

 

「ちょっと通してね〜っと……」

 

『俺は楼閣みたいに細くはないからあれは無理だな……』

 

人混みをジャスくんを置いてかき分けて行くとその中心にはカロネちゃんとヴィオレッタさんがいた。

ヴィオレッタさんが曲を自前のピアノで弾き、カロネちゃんがタイミングを測っていた。

 

そしてカロネちゃんがおもむろに息を吸い込むと、歌い出す。

 

 

♪♪~

ねぇ誰か教えて

ここはどこで私は誰?

問はいつしか空に溶け

皆口を噤む

誰もが知らずいる

私のことを

誰もが知りえない

私でさえも

~♪♪

 

 

よく通る、澄んだ綺麗な声だった。思わず聞き惚れるほどに。

辺にいた観客から万雷の拍手が起こる。ヴィオレッタさんの綺麗な演奏に、美しい歌声。当然といえば当然の結末なんだけど、それでも感心するほどの完成度だった。

 

「この曲……たしか【(いにしえ)の歌】だっけ?ポケモンBWの音源に歌詞を付けたのか……やるねぇ。」

 

周りの観客が大熱狂でおひねりを投げる中私は密かに感心する。カロネちゃんはそういう才能があるのかもしれないねぇ。

 

『次の曲に参ります。』

 

「は、はい……!」

 

ヴィオレッタさんにせっつかれつつも、カロネちゃんの表情は楽しそうだった。

 

ヴィオレッタさんがまたも演奏を始める。今度は……えらくアップテンポな曲だよ!?

たしかこれ、【戦闘!ウルトラビースト】じゃなかったっけ?

 

カロネちゃんポケモン好き……いや、今はそこじゃない。カロネちゃん、こんなイケイケな曲も歌うの!?

 

 

♪♪~

Suddenly I was thrown into a strange place.

(突然知らない場所に放り込まれ)

Attacked for some reason but I don't know why.

(わけも分からず襲われる)

Tell me your justice?

(ねぇ、なんでか教えてよ?)

Tell me your idea?

(どんな考えで私を襲うの?)

Everyone raid me without to tell me the reason.

(誰も教えてくれず、私を襲うの)

Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate

(報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ)

Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!

 

I'm not doing anything to anyone!

(誰にも何もしてないじゃない!)

So this is legitimate defense.

(だからこれは正当防衛だよ。)

"If you can't accept my statement,

leave me alone."

(もし受け入れられないなら私を一人にしてよ。)

But my wish disappears like a daydream.

(けど私の願いは夢のように消えるの)

Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.

(復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ)

Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!

~♪♪

 

 

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」

 

さっきの曲とはうってかわって、カロネちゃんが荒々しく歌い上げる。その姿に観客たちは沸き立った。

 

それは、いつもの雰囲気と違うカロネちゃんにだろうか?

それとも歌詞にだろうか?

 

その歌詞が、作中のウルトラビーストたちに向けられたものでも、今の私たちに向けられたものでも、

それは、とても的を射ているもののように感じられた。

 

その後も何曲か、既存の曲に歌詞を付けたものをカロネちゃんが歌っていた。

そしてその度に、観客たちのテンションは上がっていく。

天井知らずに上がっていく。

 

『本日のリサイタルはこれで終了です。また一週間後に、新曲を用意しておきますわ。』

 

「あ、ありがとう……ござい、ました……」

 

観客が大熱狂でおひねりを投げ続ける。けれどカロネちゃんはそれが恥ずかしいことかのようにヴィオレッタさんの後ろに隠れていた。

 

「…………ジャスくん、ちょっとカロネちゃんと話してもいいかな?」

 

『ん?あぁ、いいぞ。特にほかの予定もなかったわけだしな。』

 

お前がそんな自分から何かを提案するのは珍しいな、とジャスくんは続ける。確かにそうかもしれない。けど、気になったことは調べておきたかったんだ。

 

人混みが散っていく。

 

「…………いなく……なりました……?」

 

「うん、もう誰もいないよ。」

 

「!?……あ……楼閣、さん……お久しぶり、です…………」

 

驚き……ました……とカロネちゃんは続ける。私もそんなにビックリされるとは思ってなかった。

 

「上手だったねぇ。毎週ここでやってるの?」

 

「は、はい……その……ヴィオレッタさん、と……一緒に……」

 

へぇ……凄いんだねぇ。

 

「い、いえ……すごいのは……ヴィオレッタさん……です……」

 

『カロネさん、あなたはもっと自分に自信を持つべきですわ。』

 

「で、ですけど…………」

 

『わたくしは演奏をしているだけに過ぎません。あれほどまで人々の心を動かしているのは、あなたの歌ですわ。』

 

「そう……ですかね…………?」

 

ふーむ……自信が無いと来た。

もうちょっと自惚れるくらいがちょうどいいんだけど……

 

「そういえば、カロネちゃんはなんでリサイタルを開いてるの?」

 

「えっと……私……戦いたく、ないんです……けど……戦わ、ないと……生活できない……って聞いて……なら……こうやって……お金、を……集めよう……って……」

 

「それが、ギルドに入りたくない理由?」

 

そう聞くと、カロネちゃんは緩慢に首を振る。

 

「私……人が……怖い……ん、です……知らない……人に……話しかけ、られる……と、怖くて……」

 

「だから、知らない人がたくさんいるところにはいたくない?」

 

「…………はい。おかしい……ですよね……?利益……より……私情、を……優先する……なんて……」

 

カロネちゃんが自嘲気味に笑う。その笑顔は今にも崩れ落ちそうで、弱々しかった。

 

きっと、過去に何かがあったんだろう。

私はそれを知りえないし、知ったかぶりはできても理解はできない。私とカロネちゃんとでは経験も内面も違う。

それっぽい経験でわかった気にはなれても、100%の理解はできるはずがない。

 

でも、

 

「いいんじゃないかな?」

 

「…………え……?」

 

「それでもいいんじゃないかな?無理してやることでもないし、誰もカロネちゃんの感じてる怖さは分からない。なら、無理することないんじゃないかな?」

 

無理して自分の思いを凍らせて沈めて。そうやって心が壊れてしまった人は、たくさんいる。

 

周りからの心ない言葉は言われた人の心を削る。

折れたのならば 繋 げ ばいい

割れたのならば付ければいい

千切れたならば 結 べ ばいい

縺れたのならばまつればいい

穴が空いたらば 塞 げ ばいい

砕けたのならば集めればいい

凍ったのならば温めればいい

抉れたのならば 塞 げ ばいい

 

けれど、

削れたものは元には戻らない。

削った末にできた粉をかき集めても、元には戻らないように

削れた心は、二度と元には戻らない。

 

だから、この子にはそんなふうにならないで欲しい。

周りがなんと言おうと、この子の意思は尊重されるべきだ。

尊重した上で間違いを糺すのが、私たち大人の役割だ。

 

「カロネちゃんはカロネちゃんの思うようにすればいい。決して無理をしちゃあいけないよ。なんでもゆっくりで、いいんだよ。」

 

「そういう…………もの……です、か……?」

 

「うん。そういうもの。」

 

「はい……!頑張り……ます……!」

 

「はい、頑張るの禁止〜。無理はダメ。」

 

「…………はい。」

 

そう言ってカロネちゃんはふわりと笑う。とても楽しそうに、笑う。

 

『ねぇハンコックさん、あの方は、不思議な方なのですね。』

 

『あぁ、優柔不断で飄々としているくせに、あいつの言葉はなぜか響くんだ。……本当に、不思議な奴だ。』

 

「ちょっとジャスくん!よく聞こえなかったけど悪口は許さないよ!」

 

ジャスくんはすぐにからかうんだから……

 

「仲……いいんですね……!」

 

「ん?うん、相棒だからね。」

 

カロネちゃんは楽しそうだった。この時は。

 

この時は、あんなことになるなんて思ってなかったんだ。

カロネちゃんも、私も。




今年の書き納めですね、乱数調整です。
今回はカロネ演奏回でした!ポケモンの曲に適当に歌詞をぶち込んだだけなので、歌詞に特に深い意味はありません。楼閣、お前の予想は外れてるぞ(天:いや、そう言わせたのは誰だよ?)

書いてるのはすごく楽しかったのですが、そのせいか本文の量は短いです(天:おいコラ)

次回、事件が?

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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当惑と嵐

「あー……なぁんにもしたくなぁ〜い……」

 

『楼閣……お前、この前の休みからそんな感じだな……いや、バトル自体はさっさと終わらせるって息巻いて普段よりいい動きをしているが……』

 

「だってぇ〜このクッション凄いんだも〜ん」

 

この前出かけてカロネちゃんと話したあと、デパートに行ってこのクッションを買った。

曰く【人をダメにするクッション】らしい。正直もう何もしたくない。ずっとこのクッションで横になっていたい。

 

『いや、本当にダメになってどうする。』

 

『ハンコック、この物体の危うさが分かっていないゆえそのようなことが言えるのだ。』

 

ん〜?イスタカさんは分かるの〜?

 

『あぁ、昨日少し拝借してな。危うく戦士の誇りを捨てるところだった。』

 

いや何してるのさ。

 

『ちなみにマピヤは幼児帰りした。』

 

いやマピヤもかい……

 

『心配ない、今はもう元に戻った。我らは二度とそれには触らん。今度こそ誇りや矜恃を捨ててしまいかねんからな。』

 

いや、そこまで大層なものじゃないよ?

 

『……俺からしてみれば、効果覿面なんだがな。』

 

ジャスくんは深くため息をつく。そんなことないと私は思うんだけどねぇ……

 

「もう私、今日はずっとここにいる〜……」

 

『起きろ楼閣。このままだとダメ人間まっしぐらだぞ。』

 

そう言ってジャスくんは私をクッションからぺいっと引き剥がす。ジャスくんの対応が最近冷たい気がする。

 

「ジャスくんの鬼ぃ〜……」

 

『ほら、いつまでもグダグダしてないで出かけるぞ。散歩のひとつでもしないと身体が鈍る。』

 

現代日本の社畜は、休みの日はなんにもしたくないんだよ〜……

 

『社畜いうな。早く着替えろ。』

 

「仕方ないねぇ……ま、私もお散歩は好きだしいいよ。ジャスくん服とって。」

 

『甘えるな。』

 

冗談だよ冗談。

 

私はいそいそと服を着替える。

……この【着替えたから出かけないといけない】感はなんなんだろうね?

 

「それでジャスくん、どこに出ようか?商店街?商業区?服飾街?それとも広場?」

 

『そうだな……散歩目的ならとりあえず広場だろうな。広場の緑化区画に向かおう。』

 

ジャスくんは緑が好きだねぇ。

やっぱり、戦場で見るのとは違う緑は落ち着くのかな?

 

そんな益体もないことを考えながら行き先を指定して広場の緑化区画に来る。

 

ワープして出てきたのは木漏れ日がちらほら見える森林公園。

 

「…………なんかこうさ、ワープして出てきたら現実世界みたいに【森に来た!】って感じがないよね。」

 

『まぁ……な。しかし区画同士がかなり離れているから、歩いていきたい距離ではないのも事実だ。』

 

それもそうだね。

にしてもここは涼しいよね。夏が過ぎて秋に入ってるみたいだからちょっと肌寒いくらいだけど。

 

薄い上着でも羽織るか。一応持ってきてて良かった。

 

てくてくと緑の小道をジャスくんと2人で歩いていく。

頬を滑る風が気持ちいい。木漏れ日と相まって眠たくなってくる。

 

「んー……いい風……とりあえず噴水に行ってから雲上の魅鐘まで歩くコースでいい?」

 

『あぁ、あの太陽を模した鐘だな。承知した。』

 

森林公園の道をジャスくんと2人でてくてくと歩く。

ジャスくんとなんの目的もなく出かけるなんて今まで無かったんじゃないかな?

 

初めはこっちに来て混乱してたし、仲間をみつけようとか暮らしに慣れようとかしてたし、それが落ち着いたら今度はイスタカさんがやって来てこっちの常識とか箸の使い方とか教えたりして。

 

「大変だったねぇ、ジャスくん。もう2ヶ月くらい経ってるのかぁ……」

 

おっと、柄にもなく感傷に浸っちゃったよ。まだ何も終わってないのに懐かしむのは早すぎるね。

 

♪♪~

 

そんなことを考えているとどこかから音楽が聞こえてきた。

ピアノの旋律に歌声が乗る。これは……たぶんカロネちゃんだね。

 

少し探すとカロネちゃんを見つけた。

 

「あ、久しぶり!」

 

「え……あ……お久しぶり……です……」

 

「それ新曲?」

 

「は、はい……今……考えてる……もので……」

 

「ふ〜ん……そういうの好きなの?」

 

「はい……私じゃない……誰か、の……話……なので……」

 

「じゃあさ、うちのギルドにおいでよ!」

 

私がカロネちゃんに話しかける前に、別の女の子が彼女に話しかけていた。

カロネちゃんはオロオロしながらもテンポよく質問に答えていく。

 

けれど、最後の一言で凍りついていた。

 

【ギルドに来ないか】それだけなのに。

 

「うちなら環境をいい感じに整えられるよ!バトルしなくてもいいくらいにはみんなで稼げるし、音楽があったらみんなの士気が上がると思うんだ!どう?【紅の狩猟団】に来ない?」

 

「え……っと…………あの……」

 

「うちは女の子ばっかりだから変な心配もいらないしさ!すっごいオススメだよ!おいでよ!」

 

カロネちゃんが気圧される。断る時も相手のことを考える彼女らしい行動だが、この場合は悪手だ。

押せばいけると思われる。

 

「あの……ごめん……なさい…………その……私は……行け、ません……」

 

カロネちゃんが断る。時間はかかったが、精一杯の勇気を振り絞ったのか額にはうっすら汗をかいていた。

 

「…………そっか、気が変わったら──」

 

「だったら!」

 

そう言われて誘っていた子が諦めたその時、別の人がその話に割り込んでくる。

 

「だったらうちに来いよ!俺のとこはガチギルドだけどお前のPSなら誰も文句言わねぇさ!」

 

彼はカロネちゃんを自らのギルドへ誘う。多少強引とも言える口調で、誘う。

 

そして──

 

嵐は起こった。

 

「それならうちの方がいいさ!人数も申し分ないしよ!「いや、ウチに来いよ!タンクがいねぇから来てくれるとありがてぇんだ!「いいやうちだね!うちの方がいい対応ができる!「お前ら、寝言は寝てても言うなよ不愉快だ。明らかに俺たちのギルドの方が良いに決まってる。「喚くな雑種。【不屈の不死(アライブ・ライブ)】は我ら【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】が貰っていく。「あぁ!?大手だからって調子に乗ってんじゃねぇよ!!「有名な所に所属した方が色々と都合がいいだろう?どうだ?俺たち【壊滅的ナタデココ(カタストロフィロス)】に──「お前バカか?【不屈の不死(アライブ・ライブ)】は【高低熱処理(HAラヴァーズ)】の勧誘断ってんだよ。ウチみたいな中小ギルドの方がだなぁ──「なぁアンタ、ヴィオレッタなんて環境の敗北者みたいなキャラ使ってんだ、俺たちと同じで一番使ってたキャラじゃないんだろ?どうだ?【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】に来ないか?「いいや、やっぱり大手は地力がちげぇよ。なぁ、【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】に──「やっぱり女子が多い方が【不屈の不死(アライブ・ライブ)】的にもいいよね?うちのギルドはどう?「有名、無名、そんなの人の勝手。本当に強いプレイヤーなら好きなキャラで頑張るべき。でしょう?ねぇ、うちの【アニオタの巣窟】に──「【高低熱処理(HAラヴァーズ)】の勧誘を断ったってことは、人数多い方がいいんだろう?だったら【放蕩物たちの茶会(ディボーチェリー・ティーパーティー)】は人数も多いし良いと思うぞ!「おいざけんな!俺が先に勧誘してんだぞ!「あ?順番なんざ誰が決めたんだよ?ぶち殺すぞ?「喚くな雑種ども。最終的にはうちに入るんだ。無駄な争いはよせ「てめぇ、さっきから何様のつもりだよ?「黙って聞いてりゃどいつもこいつも、自分の言い分ばっか言いやがって、本人に聞いてみりゃいいだろうが。「は?うちに入るに決まってんのになんでそんなこと──「どっからその自信は湧いてくるんだ?いっぺんドタマかち割って調べてやろうか?「上等だかかってこいよ「ねぇ、この隙にこっそりうちに入っちゃいなよ。こんな争い不毛でしょ?

 

そこにたまたま居合わせた人達が一斉にカロネちゃんに勧誘を始めた。彼女の答えなんか聞かずに、一方的に。

誰もが利己的で、排他的で、どうしようもないほど醜い争いがそこかしこで起こっていた。

 

そこには確かに伝えたい何かが、あったはずなのに。

 

『カロネさん!ちょっと!通してちょうだい!』

 

ヴィオレッタさんは集まった人々に押され、もみくちゃにされて嵐の外側にいる。

 

「………………い、や…………嫌、です……怖い、のも…………暗い、のも…………いや…………いや…………やめて…………」

 

その嵐の中心にいたカロネちゃんは、その惨状に耐えきれずに耳を塞ぎ、蹲る。

 

親とはぐれた子供のように弱々しく、蹲る。

 

 

真っ黒な場所にいるような感じがする。足元も天地の感覚すらない真っ黒な場所に。

目の前に私がいる。

 

彼は私に問いかける──どうしたいの?

助けたいよ──無理だよ。あの子は君のなんなんだい?

知り合いだよ。知り合いのあんな姿は見てられない──へぇ立派だねぇ。でもそれが救済になるの?

知らないよ、そんなの──随分と自分勝手じゃない?

でも、こんなのは間違ってる──じゃ、誰でも助けるの?

それは……──ほら、即答できない。中途半端なんだよ。

それでも、私は私の手が届くところにあるものはすくい上げたい──強欲だね。いつも謙虚を気取ってるクセに。

 

うん。私は強欲だよ。謙虚な皮を被って欲がないフリをして、そのくせワガママで駄々をこねる子供のような存在だよ。

 

でもさ、

 

「私はやるよ。」

 

「……ふぅん。ま、頑張ってね、私。」

 

 

覚悟を決めろ。

これは私の自己満足の塊だ。

どうしようもないほど醜いマスターベーションだ。

 

でも、私が決めたんだ。

こっち(#コンパス)に来て初めて、決めたんだ。

 

「ジャスくん、ヴィオレッタさんを連れて月下の寵鐘で合流。できる?」

 

『楼閣、お前まさか──』

 

「しぃぃー。ちょっと静かに。バレちゃうでしょ?」

 

ジャスくんが驚愕に目を見開き私の方を見る。

何かを言おうとするジャスくんを止めて私は真っ直ぐ彼を見る。

彼の目はある種の激情に駆られているようだった。

 

だけど、今さらここで退けやしない。

 

「あの子はさ、今あそこで一人で戦ってるんだよ。過ぎるはずのない嵐に耳を塞いで目を閉じて、心を凍らせて。誰かが手を引かないといけないんだ。」

 

『だからってお前が──』

 

「ジャスくん」

 

私は彼を真っ直ぐ見つめたまま、キッパリと彼に伝える。

 

「彼女はさ、なんでも抱え込んじゃうんだよ。抱え込んで、考えすぎて、そうしているうちに誰も周りの人は去っていく。だからさ、頼れる人や信頼できる人が少ないんだ。その人たちが今、ここにいる?少なくとも私はいるよ。」

 

ジャスくんは心配で仕方がないという目をしていた。

本当に弱々しく情けない顔を、していた。

 

「ははっ!なんて顔してるのさ!ジャスくんも言ってたでしょ?私はタンク(・・・)だよ?ヘイトくらい、どうってことはないさ!」

 

『…………分かった。だがな、生きて帰れ、これは命令だ!』

 

ジャスくんが私の背中を押す。

同時に私は走り出す。もう、振り返らない。

 

「ヴィオレッタさん!ジャスくんと合流して噴水広場(・・・・)に来て!」

 

『楼閣さん!?分かりましたわ!』

 

勢いを殺さないようにしつつ、大声でヴィオレッタさんにそう伝える。

大声で言えば何人かは気づくだろう。そして噴水広場に向かう。ヴィオレッタさんとジャスくんが向かう場所とは違う所に。

 

その何人かは、今すぐ行動を始める。

だから、嵐が弱まる。

 

「……どいて!どいてよ!…………カロネちゃん!」

 

「いや……いやいや嫌…………!」

 

私は屈むカロネちゃんの手を掴む。カロネちゃんは動かない。

 

「カロネちゃん!私だよ!分かる!?」

 

「いや…………ぇ…………楼閣……さん……?」

 

「【不退の不死(カーディナル)】!横入りか!?ふざけんな!」

 

中心で屈みこみ、カロネちゃんの手を取る。この行動はかなり目立つ。当たり前だ。

気づいた人達は気が昂っているのか私を蹴ったり拳を振り下ろしたりする。

 

でも、諦めてなんてやるもんか……!

 

「ぐっ……!カロネちゃん、ここを離れるよ!」

 

「楼閣さん……!?……なん、で……!?私、なんかの……ために……!!」

 

「はっはー。ガッ!?……なんか、なんて……言っちゃダメ、だよ?」

 

暴徒たちは止まらない。暴力の嵐は時間が経つにつれ激しくなっていく。

 

「でも……!そん、な…………血が……!」

 

「気にしてる暇があるなら走って!とりあえず逃げるよ!」

 

カロネちゃんの腕をぐっと引っ張って立たせる。

その勢いで私は後ろに倒れ込むような体勢になる。驚いた人がそれを反射的に避け、それを見て後ろの人がまた避ける。

それは次々連鎖して、細い道が生まれた。

 

その間をくぐり抜ける。

 

「あっ!逃げたぞ!」

 

「クソっ!【不退の不死(カーディナル)】の野郎!ヴィオレッタ使いが一人しかいないからって【孤独者達の宴(ロンリネス)】で持ってく気か!?ふざけんじゃねぇぞ!」

 

「道無き道を走っている!捜索隊を編成しろ!……楽しませてくれるじゃないか、雑種!」

 

後ろから怒号とも似つかぬ声が響く。でも、気にしてる場合じゃないんだ。

 

道とも呼べないような道を走る走る走る。

カロネちゃんの手を引きながら、割れた額の傷から血を流しながら。

 

そして、月下の寵鐘にたどり着く。

 

『楼閣!』『楼閣さん!』

 

ジャスくんとヴィオレッタさんもそこにいた。ジャスくんは鈍足だけど、ちゃんと間に合ってくれた。

息を整えるためにモニュメントに登って、カロネちゃんを座らせる。

 

「楼閣さん……あの…………!」

 

カロネちゃんが何かを言おうとするけど、その口に人差し指を立ててその先を止める。

 

「カロネちゃん、当たり前だけど、あの人たちは全く納得してないよ。どころかもうちょっとで勧誘できてたカロネちゃんを横から現れた私がかっさらったとすら思ってる。」

 

「ぇ……?え…………!?」

 

カロネちゃんは困惑する。状況がよく飲み込めてないらしい。

でも、彼女のタイミングを待ってる余裕はない。

 

「だから、さ。ハッキリ言わないといけないんだ。どんな答えでも。大丈夫、話を聞く体勢にする策は考えてるから。カロネちゃん的には厳しいかもしれないけど……できる?」

 

私はカロネちゃんを真っ直ぐ見つめる。カロネちゃんはオドオドしていた。

 

「カロネちゃ──」

 

「見つけたぞ、雑種!!」

「ここにいたのか【不退の不死(カーディナル)】!」

「見つけたっ!」

 

もう一押ししようと思ったところで嵐が私たちに追いつく。それはすごい勢いでこちらに迫っていた。

 

「時間がなかったね……ジャスくん!」

 

『了解だ!』

 

ゴォォォォォォォォォォォォォン!!

 

ジャスくんが持っていたハンマーで月下の寵鐘をうち鳴らす。

打ち合わせも何もなしだけど、さすがは相棒、よく分かってる。

 

嵐はその音に驚いてそこで停止する。

 

今しか、チャンスはない。

 

「カロネちゃん、今だよ。今ならみんな、話を聞いてくれる。正直に言っちゃって。忖度とか、傷つけない言葉回しとかは必要ない。考えなくていい。どう思ってるのか、正直に。」

 

私はカロネちゃんの真っ向からそう言う。

そしてカロネちゃんを、一歩前へと押し出す。

 

ここからは、彼女の舞台だ。

 

「私、は……」

 

カロネちゃんは呟く。誰にも聞こえない位の声で。

 

「【不退の不死(カーディナル)】……なんのつもりだ!?」

「俺をコケにしているのか、雑種?」

 

「私は!!」

 

嵐はまた勢いを取り戻しかけていた。そしてそれを止めたのは、初めて見るカロネちゃんの激情だった。

 

「どこのギルドにも所属する気はないです!私は、知らない人が怖い!どれだけ勧誘にこられても、知らないあなた達の所なんて、行きたくないんです!!」

 

その一言に、嵐は収まった。

その姿は、今まで見たどんなカロネちゃんよりも凛々しく、なぜだか彼女が大きく見えた気がした。

 

「勇気出したねぇ、カロネちゃん…………あれ……?」

 

ホッとしたのか視界がブレる。どんどん右に傾いて──

 

『楼閣!?大丈夫か?楼閣ァ!!』

 

身体の右側に床の感覚。そうか、倒れたのか。

でも、やることは出来たよ、ジャスくん。

私は、タンクになれてたかな?

 

そう思って私は、意識を手放した。




あけましておめでとうございます。今年初投稿です。乱数調整です。

いやはや、このシーンが書きたくてこの章のメインキャラを楼閣にしました。
一歩引いた所から飄々と見守る、大人っぽくて頼れるようで、でもちょっぴり腹黒なキャラの激情……
楼閣……お前大きくなったな……私はこの話書いてて泣きそうになったよ……(天:知らねぇよそんなの)

さて、恐らくしばらく燃え尽き症候群で消えると思います。次の投稿はしばらく空くやもしれませぬ。ご了承ください。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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昏睡

『楼閣!?大丈夫か、楼閣ァ!!』

 

ジャスティスが倒れた楼閣に向かい叫ぶ。返事はない。

 

「楼閣さん……!目を……開けて、ください……!」

 

『楼閣さん!?わたくしはどうすれば……』

 

カロネとヴィオレッタも慌てる。自分たちは助けて貰ったのだ、何か返したいと思っているのだろう。

 

「そんなの……嫌、です……!楼閣さん……私、は……まだ……お礼さえ……言えて……ない、のに……!」

 

カロネは後悔する。もっと自分に決断力があれば、と。

そうであれば楼閣がこうなる前に自身で解決できていたのではないか、と。

 

カロネは後悔と自責に苛まれ、大粒の涙を零す。

それらは楼閣の頬に落ち、伝う。

 

「ダメ……だよ……?」

 

それに呼応するように楼閣がうっすらと目を開ける。

 

「できる、ことを、やった、んだから、胸を、さ?張らないと……ね?なぁに、気に、しなくて、いいさ。私、は、大丈、夫、だからさ。」

 

か細い声で楼閣は伝えると、彼の瞼はまた落ちる。息も荒く、とても大丈夫そうには見えない。

 

『楼閣、もう無理をするな!今ギルドホールに運ぶ!カロネ!手伝ってくれるか!?』

 

「はい……!私に、できる……ことなら……!!」

 

ジャスティスはすぐに行動を始める。楼閣を抱えあげ運んでいく。カロネはその後ろを着いていっていた。

恐らく、扉などを開けるためだろう。

 

ジャスティスはギルドホールに着き、ロードと連絡を取る。ロードは要請を受け、すぐに出てきた。

 

「どした、ジャス?…………楼閣?おいジャス、部屋に運んで横にしろ。キィ!病院とかねぇのか!?」

 

《病院はありませんが、治療担当を呼ぶことはできます》

 

『ユニドールナラトンデクルデショウ。ホカナラヌロウカサンノタメナラ、ネ。』

 

キィは手早く答え、最適解をvoidollが導き出す。voidollは心做しかため息をついているかのような返事だった。

 

「すぐ呼べ。点滴とかは?」

 

《どなたかが作れるなら》

 

ロードはその回答に舌打ち一発、それは諦めて気分を切り替える。

 

『テンテキナドガヒツヨウナノデショウカ?』

 

「あのヒョロい楼閣だぞ?あの低血圧の権化みたいなやつだぞ?こんだけボロボロになってりゃヘタしたら一日とか起きねぇよ。」

 

voidollが冷静になってそう発言をしたが、ロードの答えはなんとも酷いものだった。

これはある種の信頼なのだろうか。

 

【楼閣サン!ゴ無事デスカ!?】

 

その時、治療キットや手術セット、無菌カプセルに果ては魔術の本までありとあらゆるものを持った銀河防衛ロボがどこからか部屋に闖入する。セリフから察するに、もはや楼閣のことしか見えてはいないらしい。

 

「無事じゃない。今すぐ治せ。」

 

【言ワレナクトモ!!皆サン!一度部屋カラ出テイッテクダサイ!!】

 

銀河防衛ロボは一度楼閣の部屋からその場にいた全員を出す。扉が閉まる直前、何やら魔術の本を熱心に読んでいたのが見えた気がするが、本当に大丈夫なのだろうか。

 

「はー……ま、あとは【銀河防衛ロボ】に任せ──ん?アンタ誰?」

 

一息ついてやっと辺りを見渡したのか、ロードはカロネに目を止めてそう言う。

カロネは怒涛の展開についていけなかったのか目を回していた。

 

『……ん?あぁ、ロード。そいつはカロネだ。そいつと楼閣がちょっとした事件に巻き込まれてな……』

 

「へぇ……どんな?」

 

ロードがカロネを見据えて訊ねる。カロネは蛇に睨まれたカエルのように体を縮こまらせていた。

 

「えっ!?…………あ、あの……えっ、と…………」

 

「あー……もういい。まぁドクに聞きゃ分かるだろ。どうせネットニュースかなんかになってるだろうかあのヒキニートは見てる。」

 

ロードがぞんざいにそう言ってカロネの話を遮る。

 

「……すみ、ません…………」

 

「……?なんで謝った?」

 

「私、の……せい……なんです…………私が……ちゃんと……断れ、ない……から…………あの時──」

 

「もういい黙れ。」

 

カロネがポツポツと話し始めた時、ロードがそう言って話を無理やりに切る。

 

「いいから無理やり話そうとすんじゃねぇよ。起きたら楼閣から聞くから気にすんな。アンタは帰って鏡見てみろよ、ひでぇ顔だぞ?相棒は……ヴィオレッタか。おいヴィオレッタ、連れて帰って休ませろ。」

 

楼閣が起きたら連絡してやるよ、とロードは締めくくる。

確かにカロネの表情はやつれていて、とても見ていたいものではなかった。

 

「で、でも……」

 

『カロネさん、この方の言う通りですわ。ここは一度帰って休みましょう……ね?』

 

ヴィオレッタがカロネを労わるように後ろから両肩に手を置いて諭す。カロネはヴィオレッタの方を見ずに俯いたまま小さく頷く。

 

前髪に隠れて表情はよく見えなかったが、その唇は強く引き結ばれていた。

 

『ではわたくし達はこれで失礼致します。カロネさん、行きましょう?』

 

ヴィオレッタがそっと背中を押してカロネは【孤独者達の宴(ロンリネス)】ギルドホールから出ていった。

 

「…………ボス、報復の準備なら出来てます。」

 

どこからともなく波羅渡が現れる。いつものような緩い表情はなく、その眼光は研ぎ澄まされた刃物のように鋭かった。

 

「まだいい。今回は武力で解決することじゃない。それに、まだ先にやることがあるよな?」

 

「……Yes,Sir.」

 

そう言うとロードは楼閣の部屋の前から別の場所へと移動する。

その場所は、よく楼閣が例の脅し文句を言っていた

 

「ドク、言いたいことは分かるな?」

 

ドクの部屋の前だった。

ロードは扉越しにドクに話しかける。

 

「もちろん。速報の写真からギルドは特定しました。【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】【壊滅的ナタデココ(カタストロフィロス)】【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】【アニオタの巣窟】【放蕩物たちの茶会(ディボーチェリー・ティーパーティー)】【蒼の王宮】【ランサーが死んだ!】【ゲーム部】【フリバの集い】の10ギルドが中心となって【不屈の不死(アライブ・ライブ)】……カロネさんに強引で脅迫じみた勧誘を行い、楼閣さんが解決した事件です。」

 

ドクはこの短い時間で情報を的確に集め、解析まで済ませていた。ロードの質問には淀みなく答えていく。

 

「事件の詳細は後の説明でしますが……申請はとりあえず6割(・・)でいいですか?」

 

少ない情報だけで彼らはやり取りをする。まるで相手が何を聞きたいのか分かっているかのように。

 

「いや、7割でいい。」

 

しかしロードはそれを否定する。

 

「…………その心は?」

 

「この例は初めてのパターンだ。GM(ゲームマスター)も厳しく対処せざるを得ないだろう。」

 

「…………建前は分かりました。本音は?」

 

「ウチのギルマスに手ぇ出してんだ、当たり前だろ?」

 

「…………」

 

波羅渡はロードの後ろに控えていた。

ドクはドア越しにロードと話していた。

2人とも、ロードの顔は見えていない。

 

しかし、2人とも思った。

 

(コクリコさんの時とは違う……抑えてはいますが徹底的に追い詰める、そんな気迫を感じます……)

 

(…………僕に怒っていたのとは次元が違います。)

 

ロードが見たことがないくらいキレている、と。

 

「……ボス、質問よろしいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

ロードは振り返らない。

波羅渡は怯まずに続ける。

 

「6割、7割とはなんのことでしょうか?」

 

「…………あぁ、それか。経済制裁だ。」

 

「経済制裁?」

 

波羅渡がロードのセリフをオウム返しする。

 

「相手ギルドの収支と貯蓄の7割を差し押さえる。」

 

ロードはキッパリとそう言う。

 

「……なぜそのようなことを?」

 

「そのギルドをバラす、もしくは弱体化させるためだ。」

 

「と、言いますと?」

 

波羅渡は一向に振り向かないロードに向かって詳しい説明を求める。

 

「金の切れ目が縁の切れ目。ギルドから抜けることはできないが、ギルドの資産として全員の資金を集めてるところが多い。一部メンバーのせいでそれがかなり持っていかれるとすれば、メンバー同士がギスギスするだろ?そしたらギルドは空中分解する。」

 

簡単な方法だ、とロードは締めくくる。

驚くほど冷静に、締めくくる。

 

波羅渡は静かに背筋を震わせた。抑揚のない声で静かに、だが当然のように言うロードの冷徹さに。

 

【終ワリマシタヨ。】

 

ちょうどその時、銀河防衛ロボが処置を終わらせて部屋から出てきた。

 

「……どんな感じだ?」

 

【頭ヲ5針ト額ヲ7針縫イマシタ。今ソチラハ安定シテイマス。容態ニツイテハ安定シテシテイマスガ心拍ト呼吸ガ弱イデス……イツ目覚メルカハ……】

 

銀河防衛ロボはそっと目を伏せる。それだけでそこにいた面々の表情が暗くなる。

 

「…………俺たちにできるのは、ちびっこ組に悟らせないこと、だな。コクリコとめぐめぐには刺激が強いだろ。頭が裂けてんだ。」

 

ロードがそう言って、その場は解散となった。

 

各々が部屋に戻る足取りは、重かった。




燃え尽き症候群?はて、なんのことでしょうか?乱数調整です。

なんかかけましたねぇ……なんででしょうか?
時間が取れれば乗ってきますねぇ……なんででしょうか?

そして楼閣回なのに楼閣の扱いが雑だし、裏話的な立ち位置の話ですみませんねぇ……

楼閣、早く戻ってこい。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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覚醒

【私ハ……取リ返シノ付カナイコトヲ……ドウスレバ……】

『お前は、知らなかったんだ……それでなくとも、最善の選択をお前はしたんだ。俺が、もっとしっかりしていれば……!』


「………………んぇ……?」

 

目が覚めると私はベットの上にいた。知らない天井……ではないか。私の部屋だ。

えっと……何してたんだっけ……?

 

「えっ……と、確かジャスくんとお散歩してて、カロネちゃんが囲まれてて……そうだ、カロネちゃん!」

 

私は焦って上体を起こす。するとすぐに砂嵐のようなノイズが視界を支配した。

 

あ、ダメだこれ。いつもの立ちくらみのやつだけど症状の重さがいつもの比じゃない。

猛烈な吐き気と頭痛で倒れそう。

 

私はすぐ後ろ向きにベットに倒れこんでしまった。なんとか左右に逸れずに元の位置に収まることは出来たけど、状態が悪いことに変わりはない。

 

「あー……うー…………ん、治ってきた……かな?」

 

ベットに伏して自問自答。正直に言うと治ってる感じはしないけど、自分にそう言い聞かせてなんとか調子を戻そうとする。

 

十数分してやっとベットの上に座れるようになる。

 

「あー……なんとか落ち着いてきたねぇ……ん?銀ちゃん?」

 

【ア……楼閣サン……!?気ガツカレタノデスカ!?】

 

ドアが少し開き、白くて光沢のある機械──銀河防衛ロボの銀ちゃんが現れる。

 

ってなんで銀ちゃん焦ってるのさ?

 

【皆サンニ知ラセナケレバ……!話ハ後デス、少シオ待チクダサイ!!】

 

「あ、銀ちゃん!ちょっと待っ……ぬぅ…………」

 

立ち上がって銀ちゃんを追いかけようとしたけど、急に動いたからかクラっとする。これはちょっと追いかけれないねぇ……

 

「あーもー……!なんでこんなにフラフラするのさ!」

 

あ、大声出したら頭に響いてまたしんどくなった。これは大人しく寝てるのが得策だねぇ。

 

「起きるのはしんどいけど、寝転んでても眠くはないんだよねぇ。ダルさもないし……ん?波羅ちゃん、どうしたの?」

 

1人で天井を眺めながらボーっとしてるとまたドアが開き、銀ちゃんと一緒に波羅ちゃんが入ってくる。

波羅ちゃんは酷い顔をしていた。

 

「楼閣さん、気がつかれたんですね。安心しました。」

 

心配したんですよ?と波羅ちゃんは困ったように笑う。心配かけてたのか、ちょっと悪いことしたねぇ。

 

「もうすぐボスも来ると思います……おや、噂をすれば、ですね。」

 

波羅ちゃんがそう言うと扉が開き、ロードくんが入ってくる。

 

「ロードくんごめんねぇ。心配かけ──イテッ!?」

 

ロードくんはツカツカと早足でこっちに来ると私にデコピンをくらわせた。その間、ずっと無言だった。

 

「…………ロードくん、何するのさ?」

 

おでこを抑えながら私はロードくんに訊ねる。ジト目のオプション付きで。

 

「………………」

 

「ロードくん?」

 

ロードくんは何も言わない。ただじっとこっちを見るだけ。

 

そんな彼を私は訝しむ。

ロードくん、どうしちゃったんだろ?

 

私たちは無言で見つめ合う。

 

「……ねぼすけ。」

 

しばらく経ってたらロードくんはそれだけ発言し、また早足で私の部屋を後にした。

 

「なんだったんだろうねぇ……?」

 

「きっとどんな顔で向き合えばいいのか分からないんですよ。なんと言ってもボスが楼閣さんのことを一番心配してましたから。」

 

すごい気迫だったんです、と波羅ちゃんは言う。どんな感じだったんだろうか?

 

まぁでも、例のアレよりはマシだったはずだよねぇ。だって私、幼女じゃないし。

 

【シカシ、本当ニ気ガツカレテヨカッタデス。私モ心配シテイマシタヨ、楼閣サン。】

 

ホッとした表情で銀ちゃんも言う。

 

「銀ちゃんもごめんねぇ、心配かけちゃって。わざわざ来てくれてありがとうねぇ。」

 

私はそう言って銀ちゃんの頭を撫でる。

 

【カピッ!?子供扱イシナイデクダサイ……】

 

銀ちゃんは恥ずかしそうに頬を染める。でもまんざらでもなさそうだからもっと撫でよう。うりうり。

 

【デスカラヤメテクダサイ///】

 

「もうもう!心配して来てくれて可愛いねぇ!」

 

照れる銀ちゃんにそう言うと、銀ちゃんはなぜかキョトンとした顔をして言った。

 

【……?楼閣サン、私ハ貴方ノパートナーダト言イマセンデシタッケ?私ハ貴方ノ危機トアレバドコカラデモ、ドンナ時デモ駆ケツケテ貴方ヲ助ケマスヨ?】

 

「……そっか。」

 

さも当然のように銀ちゃんは言う。さすがにどこでもどんな時でもは言い過ぎにしても、その言葉はありがたい。

私は人に恵まれてる。

 

「あ、そうだ波羅ちゃん、私、どのくらい寝てたのかな?」

 

ひとしきり銀ちゃんを撫でてから私は波羅ちゃんに訊ねる。

すると波羅ちゃんは指を二本立てた。

 

「二時間かい?それは心配──」

 

「いえ」【イエ】

 

私が心配かけたことを謝ろうとした時、波羅ちゃんと銀ちゃんが同時に私の答えを否定する。

その先は銀ちゃんが波羅ちゃんに発言を譲り、波羅ちゃんは衝撃の一言を放った。

 

二日(・・)です。楼閣さんは二日間ずっと眠ってたんですよ。」

 

【頭ヲ5針ト額ヲ7針縫イ、血液モカナリ失ッテイマシタカラ無理モアリマセン……イツ目覚メルカ私ニモ分カラナカッタノデス……】

 

なんと、私はそんなに寝てたのか。

波羅ちゃんの顔色が悪いのってもしかして…………

 

「……まぁ、あまり寝付けなかったので。」

 

それは悪いことをしたねぇ……

 

「いえ、楼閣さんが謝ることではありませんよ。それより、もう立てますか?立てそうにないなら肩を貸しますが……」

 

「?支えてもらわないとちょっと厳しいかもだけど……どうして?」

 

「食事ですよ。食べて血液を作れるようにしないといけませんから。ボスも今日は焼肉だって言ってました。」

 

お肉かぁ……脂はちょっと重たいねぇ……

 

【ソレヲ見越シテロードサンハ赤身ヲ多目ニシテイマシタヨ。】

 

ん……ロードくんの謎の優しさが怖い。

 

「ははは、確かに普段はぞんざいですもんね。」

 

「笑い事じゃあ、ないんだけどね。」

 

そんな小言を垂れつつ、波羅ちゃんに肩を貸してもらって立ち上がる。

途中銀ちゃんが【私ガ抱エテ行ッテモ良カッタノデスガ……】とか言ってたけど聞かなかったことにする。

だって恥ずかしいもん。

 

【デハ私ハコノ辺リデ失礼シマス。】

 

「うん。銀ちゃんわざわざありがとうねぇ。」

 

そう言うと銀ちゃんは空気に溶けるように消えていった。

 

波羅ちゃんに肩を貸してもらいながらリビングに行くと、ロードくんがもう鉄板と具材を用意して待っていた。用意が早いねぇ。

 

「……ん、来たか楼閣。ジャス、ちびっこ組を呼んできてくれるか?」

 

『あぁ、承知した。』

 

ロードくんがジャスくんにそう言う。ジャスくんは私の方を向かない。顔すら見せない。

 

「……私が無理したから嫌われちゃったかな?」

 

「そんなことはないです。ただ……これは口止めされているのでちょっと。」

 

気になるけど無理強いする訳にはいかない。ジャスくんが話したいタイミングで話せばいいんだ、そんなことは。

相棒だもん、その辺は信用しないと。

 

そんな話をしながら私は着席する。そのタイミングでめぐめぐちゃんとコクリコちゃんも入室してきた。

 

『焼き肉〜!』

 

『おにくー!』

 

2人とも目をキラキラさせていた。やっぱりまだまだ子供なんだよねぇ、可愛い。

 

「ちゃんと野菜も食えよー……ってジャスはどした?」

 

『おっきいおじちゃんは『あとでたべる』って言ってたよ!』

 

『めぐめぐたちが全部食べちゃうよって言ったんだけど、大尉はそれでもいいって言ってた!』

 

「…………なるほどな。分かった、二人ともありがとう。」

 

『ほめてほめて〜!』

 

ロードくんが本当に嬉しそうにコクリコちゃんの頭を撫でる。クールぶった言動をするくせに顔だけは緩みまくってるんでよねぇ、あの子。

 

きっと頭の中ではすごい勢いで賛辞を述べているに違いないよ。

 

「あ?なんだ楼閣?ニヤニヤしてキモいぞ。」

 

「なんでもなーい。」

 

ロードくんがこっちを見てそんなことを言う。勘のいい子は嫌いだよ。

 

とりあえずロードくんはそれを流して手早くお肉や野菜を焼いていく。焼けるにはまだまだ時間がかかりそう。

 

『それ!そのお肉めぐめぐのっ!』

 

『コクリコもおにくっ!おにくたべたい!』

 

「落ち着け。まだ焼けてねぇから腹壊すぞ?おいコラめぐめぐ!焼けてないのを取ろうとするな!ったく……もうちょい落ち着けよお前ら…………」

 

「ボスが食えと言うのなら生でも!」

 

「うるせぇ波羅!ちょっと黙ってろ!」

 

「Sir,Yes,Sir!!」

 

はっはー、ちびっこ組は元気だねぇ。私二日も寝込んでたのになんにも言ってこないよ。

ま、この感じだとそれはどうせロードくんが箝口令でも敷いてるんだろうけど。

 

「それじゃあ私はタマネギでも──」

 

タマネギを取ろうとした箸をロードくんが箸でペシッと叩き落とす。

 

「ちょっとロードくん?」

 

「おい楼閣お前、何しようとした?」

 

「何ってタマネギ食べようかなぁって。」

 

私がそう答えるとロードくんは大きなため息をつきながら呆れたような顔で私に言う。

 

「焼き肉してんだから肉を食え肉を。野菜なんざ食わなくていい。野菜が食いたいなら焼き野菜をしろ。」

 

「いやでもタマネギ美味しいし……」

 

「肉を食え。」

 

すごい圧力でロードくんが言ってくる。ついでにお皿にお肉乗せられてるし……あ、波羅ちゃんまで加勢し始めた。

 

「いや、でもバランスってあるじゃない?」

 

「知らん。焼き肉の時に野菜を食べるバカがどこにいる?」

 

訳わかんないくらい強情だねぇ……

 

『お肉〜!』

 

『おにく〜!』

 

「野菜を食え。」

 

めぐめぐちゃんが新たなお肉を取ろうとした時、その腕を掻い潜ってロードくんがめぐめぐちゃんのお皿に野菜をたくさん入れた。

 

「コクリコ、お野菜も食べよっか?」

 

『うん!』

 

コクリコちゃんには甘いロードくん。左手でコクリコちゃんの頭を撫でる。『えへへ〜。』と嬉しそうにするコクリコちゃん。

ちなみにロードくんの右手は箸を持ってお肉を取ろうとするめぐめぐちゃんと戦っている。あ、今めぐめぐちゃんが諦めて野菜食べた。

 

「………………」

 

「………………」

 

ロードくんと目が合う。お互いに無言だった。

 

「じゃあ私も野菜を──」

 

「肉を食え。」

 

「いやおかしくないかい!?なんで私だけお肉多いのさ!?野菜も食べようよ!?」

 

「うっせぇ!いいから黙って肉食ってろ!」

 

「じゃあなんで野菜も焼いてるのさ!?」

 

「変なところに目ぇ付けてんじゃねぇ!お前は今は肉だけ食ってりゃいいんだよ!大丈夫だ、肉はこれでもかってくらい買ってるから!」

 

「にしても!にしてもだよ!この量はおかしくない!?めぐめぐちゃんがすごい目で見てくるんだけど!?」

 

何あのめぐめぐちゃんの目!私に両親でも殺されたの!?

 

「…………気にすんな!」

 

ロードくんが元気にサムズアップ。腹立つしなんにも解決してないよねぇ!?

 

「気にすんな!」

 

「ド腐れ外道だねぇ!?」

 

もうこうなったら絶対にロードくんは意見を変えないから諦めて食べるけどさ。

 

『たいちょー!めぐめぐもリーダーみたいにお肉いっぱい食べたい〜!』

 

「野菜も食べるならな。」

 

『ぶー……』

 

そんな感じでつつがなく食事は進む。

めぐめぐちゃんに恨めしそうに見られながら、食事は進む。食が進むわけないじゃない、こんな食事……

 

『いっぱい食べた〜』

 

『もぅたべられないよぉ〜……』

 

ちびっこ組、ノックダウン。

なんかいつもより食べる量少なくないかい?

 

「いえいえ、楼閣さんの食べてる量が多くなってるんですよ。いつもの三倍くらいです。」

 

え、私そんなに食べてる?

普通、こういう時って胃が収縮してるから食べる量って減るもんなんじゃないのかい?

 

「さあな。身体が危機感を覚えてるのかもしれねぇぞ。食えるだけ食っとけ。」

 

「まぁ、それでも今はいいかな。結構脂がキツいしねぇ。」

 

そう言ってお皿をシンクに運ぶ。

 

「あー、楼閣。波羅とやっとくからお前は休んどけ。病み上がりだろ、お前。」

 

スポンジを手に取ったところでロードくんに止められる。まぁ、休ませてもらえるんなら休ませてもらおうかな。

よし、ここはお言葉に甘えちゃおう。

 

「それじゃ、部屋に戻ってるね。なんかごめんねぇ、2人とも。」

 

「気にするな」「お気になさらずに」

 

2人からそんな快い返事が帰ってくる。

そして部屋に戻ろうと廊下を進んでいた時

 

ピンポーン♪

 

玄関のベルが鳴った。




も、燃え尽き症候群とは……?不思議な感覚に戸惑っています、乱数調整です。

なぁんでこんなにスラスラ書けるんでしょうねぇ……全く分かりません……
アレか?カロネが好きな感じの性格のキャラだからか?乱数の無口萌えゆえの大暴走か?
それとも次の章のキャラが早く書きたいからか……?
うーむ、全く分かりません……もう何も……分からない……!

起きた!楼閣が起きた!わぁいわぁい!(天:いや、書いてるのお前(ry)
そして焼き肉!肉を食らう楼閣!肉だけを食わせるロード!焼き肉バンザイ!

次回、訪問者

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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夜話

玄関のベルが鳴る。

ロードくんと波羅ちゃんはお皿を洗ってて、ドクくんは引きこもってる。

 

それじゃ、私が出ちゃうか。なんでか調子もいいし、何かの受け取りとかだろうからすぐに終わるでしょ。

来客ならロードくんとかに、もしも私の調子が悪くなったら投げることになるけど。

 

「はいはーい、今出るよ〜……っと。ん?カロネちゃん、どうかしたの?」

 

扉を開けた先にいたのはカロネちゃんだった。

こぶしを強く握りしめ、俯いて立っている。

彼女は何も言わない。

 

「カロネちゃん?」

 

『少しお話がしたいのです。上がらせていただいてもよろしいでしょうか?』

 

黙りこくるカロネちゃんの代わりにヴィオレッタさんが私にそう訊ねる。

カロネちゃんは何も言わない。

 

「……いいよ。ちょっと散らかってるけど私の部屋でもいい?」

 

『構いませんわ。それでよろしいですよね、カロネさん?』

 

カロネちゃんは小さく頷く。

彼女はまだ俯いていてその表情は見えない。

 

私はそんな彼女の振る舞いをあまり気にしていないように振る舞いつつ部屋へと歩き出す。

カロネちゃんは何も言わずについてくる。

 

「この椅子に座ってね。私はこっちのベットに座るから。さっきまで寝てたから、シーツがぐちゃぐちゃなのは……目をつぶって欲しいかなぁ。」

 

私がすこし茶化してそう言うと、カロネちゃんがその言葉にぴくりと反応する。

少し上げた顔からは、表情は窺えないけど固く引き結ばれた口が見えた。

 

そしてゆっくりとその口が開かれる。

 

「…………して……」

 

「ん?ごめんねぇ、よく聞こえなかったよ。」

 

「どうしてあんなことしたんですか!!」

 

カロネちゃんは叩きつけるように──あの時見せた激情のように──私にそう訊ねる。

 

その激情の風はすぐに竜巻のように激しさを帯びる。

 

「私なんて放っておけば楼閣さんはあんな酷い目に合わなくて済んだのに、私さえ放っておけばそんなに長い間眠っていることもなかったのに!!」

 

カロネちゃんは止まらない。

彼女の激情のまま猛る魂は、止まらない。

 

「どうしてそんなになってまで私を助けようとしてくれるんですか!ただ何度か言葉を交わしただけの、ほとんど他人みたいな私なんかのために!」

 

カロネちゃんの上体がくずおれる。彼女の目からは大粒の涙が溢れだした。

 

「どうして…………」

 

カロネちゃんは力なく俯く。

気遣いのいきすぎる彼女のことだ、きっとこの二日間いろいろ考えていたんだろう。

 

自分がいなければ

自分がもっとうまくやれていれば

自分でもっと早く解決していれば

 

そんな考えがグルグル回ってたんだろう。

 

けど

それでもその考えは

 

「それは違うよ。」

 

「…………え?」

 

「全然違う全部違う。何もかも、違う。」

 

どういうことですか、とカロネちゃんは訊ねる。

両目が零れそうなほど目を見開いて、手を引く人がいなくなった子供のような顔をして。

 

あぁ、そうだった。

この子は迷子なんだっけ。

どこへ向かえばいいのか分からなくなって、頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃってるんだったっけ。

私の惨状を見て、自己嫌悪に陥っちゃってるんだっけ。

 

私のすぐ側で子供が泣いてるんだ。

 

それなら手を引いてあげなくちゃ。

あの時みたいにしてあげなくちゃ。

 

「カロネちゃんは「なんか」って言えるような人じゃない。みんながカロネちゃんをギルドに欲しがったようにね。私が助けた女の子はそれだけの価値がある子なんだよ?もうちょっと自惚れてもいいんだよ。」

 

「それでも──」

 

「「カロネちゃんは私にとって関係ない」かい?「たかだか数回しか話してない」とかかな?どっちだとしてもどうでもいいよ。カロネちゃんは知らない人とのおしゃべりが苦手だって言うけど、私と話す時は全然そんな感じしなかった。なら、私たちは知り合いだよ。知り合いのあんな姿は見たくない。だから、助けた。」

 

カロネちゃんと向き合って私の自分勝手な、予想という枠組みを超えて、もはや妄想や虚言と言ってしまってもいいくらいの持論を展開する。

 

めちゃくちゃだ。

たかだか数回話しただけで相手のことをよく知っているヅラするなんてバカげてる。

言ってる私ですらそう思うくらい、どうしようもなくて同情してしまうほど醜い持論だ。

 

でも、ここで止まってやるほど私の物分りは良くなかった。

 

「それに私は、カロネちゃんを助けたわけじゃない。私は私の自己満足のために、カロネちゃんを利用したんだ。」

 

「……………………ぇ?」

 

カロネちゃんの動きが一瞬止まる。何かを思いついたかのように。

けれどすぐにそれを打ち消すかのように首を振る。

思いついた自分を恥じるかのように、首を振る。

 

私はこんこんと話を続ける。

 

「私にせよあの場でカロネちゃんを勧誘してた人達にせよ、私たちはみぃんな強欲なんだ。手の届く場所にあるものはなんでも欲しがって、そのくせ届かないものまで願って、変えられそうなものはなんでも変えようとして、投げやりで全てどうでもよさげに振る舞うくせに文句だけはたくさん言う、そういうものなんだよ、誰でも。手が届きそうだったから、私は願ったんだ。」

 

こんこんと話をしているつもりが、話しているあいだにだんだんとヒートアップしてくる。話が大きくなってきて、自分でも何を言いたいのか分からない。

 

でも、私の口は止まらない。

 

「私はダメだよ。優柔不断で人任せで、責任の所在を誰でもないどこかへ追いやってしまいたいような人だよ。そんなので何もつかめるわけないのにね?」

 

恥ずかしい。何を言っているんだろう、私は。

自分の話をこれでもかと詰め込んで、自分の恥を撒き散らして。

これじゃあまるっきり先輩風を吹かすだけの害悪でしかないじゃないか。

 

──やめておきなよ──

 

私の理性がそう訴えかけるも、それとは裏腹に私の口は滑り続ける。

どこへ向かうのか分からないまま、滑り続ける。

 

「みんながみんな主人公になれるわけじゃない──そんなこと分かってるのに、分かりきってるはずなのに、私は分かってるふりをしてまだどこかで私がいつか主人公になれることを夢見て、それを信じてたような愚か者だよ。そんな私に誰かを助けるなんて、私には土台無理な話だったんだ。」

 

──堅実じゃなくて、聡明でもない。リーダーにもムードメーカーにもなれないような卑屈で自虐的な私だ。何でもかんでものらりくらりと躱してきたんだろう?

 

なんて、心のどこかで私が囁く。

その通りだ、全くもってその通りだ。

 

分かっているさ、そんな悩みは人に聞かせるべきじゃないことなんて。

 

だから私の口、

早く止まれ、早く。

 

「でも、でもさ、届きそうだったんだ。こんな私でも、結論を先延ばしにして責任をどこかへ追いやるような私でも、掴めそうだったんだ。だから、願った。願ってしまった。」

 

どうしようもない自己満足のためにね、と私は締めくくる。

密かに考えていた私の偽悪を全部ぶちまけて、私の口はやっと止まった。

 

今私は何を言ってしまったんだろうかという後悔だらけだ。

この子にそんな話を聞かせてなんになる?

 

恥ずかしい。いい歳して何言ってるんだろうか、私は。

 

けど、振る舞いは崩さない。

ここで崩したら、この子は後悔の無限暗夜を歩み続けてしまうから。

たとえ今だけでも、この子の無限暗夜の光にならないと。

 

「それ……でも……!」

 

カロネちゃんがか細く呟く。

 

「それでも……!それ、だけで……こんな、こと……なんて……できない……じゃ、ない……ですか……!」

 

「できるさ、自分のためだもん。身勝手な私なら、できるさ。」

 

だから何も気にすることは無い、と私はカロネちゃんの頭を撫でながら声をかける。

このくらいは先輩ぶってもいいでしょ?

迷子のこの子がこの先迷わずに歩んで行けるように。

 

「………………ぅぁ……ぁぅ……ぇぅ…………!」

 

カロネちゃんはしゃくりあげる。この子もまた、我慢していたものをぶちまけるかのように。

でも、それをぶちまけたくても上手く言葉にできなくて感極まってしまったかのように。

 

「きっといっぱいいっぱい考えて、いっぱいいっぱいになっちゃったんだよね。きっとたくさん自分をいじめたんだよね。今は泣いてもいいさ。だぁれも見てないよ。でも、私は大丈夫だからさ、いっぱい泣いたらちゃんと前を向きなね?」

 

そんなカロネちゃんの背中を私はさする。

慰めになってるかは分からないけれど、彼女の羽を休めるたった一瞬の止まり木にさえなってるかも分からないけれど

 

でも、私のせいで起きたことの始末は、私がつけないと。

 

──かぁっこいいねぇ〜。妬けちゃうよ。

 

あぁ、そう見えるのかもねぇ。だけどさ、決めたから。

 

「ぁぅ…………ぅぅぅ……ぇぅ……!!」

 

カロネちゃんは静かに、けれどおびただしい量の涙を零す。泣いてもいいんだと気付いたかのように。

カロネちゃんは私のシャツを左手で掴む。何かに縋ろうとする赤子のように。

 

その泣き声はだんだんと激しさを増していく。

天井知らずに、増していく。

 

カロネちゃんが泣き止んで手を離すのを、私はじっと待っていた。

 

 

───────────────────────

 

 

「カロネちゃ〜ん?おーい、戻っておいで〜」

 

「あぅぅ……………………///」

 

カロネちゃんが泣き止んだあと、彼女はものすごい勢いで照れ始めた。

まぁ無理もないけどね、向こうからすればあんまり知らない年上(それもロードくんに言わせれば【おっさん】)の前で泣くのは恥ずかしいんだろうねぇ……

 

迷ってうじうじ考えてられるのは若いあいだだけなんだからあんまり気にしなくていいんだけどねぇ……

 

「うみゅぅぅぅ……………………///」

 

『カロネさん、恥ずかしいのは分かりますけれど、わたくしの楽器の影に隠れないで頂けるかしら?お手入れができませんわ。』

 

ヴィオレッタさんの言葉通り、カロネちゃんは私から隠れるようにヴィオレッタさんのオルガンの下でちっちゃく三角座りをしている。涙目のオプション付きで。

 

黒歴史を思い出した高校生みたいだねぇ。

……そういえばカロネちゃんっていくつくらいなんだっけ?聞いたことないや。

 

「ヴィオレッタさん、なんとかならない?」

 

『無理ですわね。』

 

取り付く島もないねぇ……

 

『こういう時は待つのが一番ですわ。カロネさんも放っておけば落ち着くと思います。』

 

クールにドライなんだねぇ……

 

そんなヴィオレッタさんはオルガンを持ち上げながら『カロネさん、どいてちょうだい』とまだオルガンに隠れようとするカロネちゃんをこっちに押し出してくる。

 

……ちょっと手荒過ぎないかなぁ?

 

『よくある事ですので。』

 

よくあるんだ……

 

『それにカロネさん、貴女まだ楼閣さんに用事があるのでしょう?』

 

「…………!?無理……!無理……です……!!」

 

む、まだ何か用事があったのか。あれだけ手荒にしつつも無理に引っ張って帰らなかったのはそれでか。

…………なんかこの一瞬でヴィオレッタさんのイメージがかなり崩れた気がする……

 

『カロネさん、今朝部屋でしていた決意はどこへ行ったのかしら?』

 

「…………!!??見て、たん……ですか……!?」

 

『えぇ。随分と可愛らしいものを見させて頂きましたわ。』

 

「むぅぅ………………」

 

『なんて言っていましたっけ?たしか……「よし……!言わないと……!楼閣さん、に──』

 

「やめてください……!!言います……!言います、からぁ……!!」

 

カロネちゃんが顔を押さえて照れる。耳まで真っ赤だった。

ヴィオレッタさん、火に油を注いでどうするのさ。

 

ともあれそのやり取りで気持ちの整理がついたのか、はたまた諦めるしかないと思ったのか、カロネちゃんは1つ咳払いをすると、私の前に座り直して神妙な顔で私に告げる。

 

「お願いがあります。」




少し遅くなりましたかね?乱数調整です。
さてさて今回は、楼閣がカロネを救う(?)話でした!

……ちょっと待て、構成段階ではそんなものなかったぞ。
なんなら焼肉の下りもなかった。2話増えてるじゃん予定ガバガバか。

さてさて、長かったカロネ回もあと残すところ2話です。やったぁ!ずっと楽しみにしてたアイツがもうすぐ書ける!

次回、カロネのケツイ

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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終幕

「お願いがあります。」

 

神妙な顔つきでカロネが楼閣に言う。思わず楼閣も居住まいを整える。

 

しばらくもごもごと口を動かした後、カロネは意を決したように口を開く。

 

「私を……【孤独者達の宴(ロンリネス)】に、入れて……ください……!!」

 

「それはダメ。」

 

楼閣が即答する。

カロネもヴィオレッタも即答は予想外だったのか、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。

 

二人とも、まさか即答で──しかも断られるとは──思っていなかった。

 

「…………理由を……聞いても……?」

 

ショックから立ち直ったカロネはかろうじてそれだけ返す。

すると楼閣は少し迷いながらも答える。

 

「だってカロネちゃん、女の子だよ?」

 

「…………はい?」

 

カロネは目をぱちくりとする。なぜそのような理由で自分の申し出を断るのか意味がわからない、といった表情をしていた。

 

それはヴィオレッタも同じだった。しかし彼女は理由に驚いたというよりもそう言った楼閣という人そのものに驚いたようだった。

女性ということでいくつかの楽団に入団を断られた背景ゆえの驚き方だろうか。

 

そんな驚いた顔をする2人を見て、楼閣はため息をついて説明を始める。

 

「あのね、カロネちゃん。ロンリネス(うち)は男の子ばっかりがいるギルドだよ?」

 

「は……はぁ…………」

 

「万が一何かあったらどうするのさ?」

 

楼閣はカロネを真っ直ぐに見据えながら真剣な表情でそう言う。

 

楼閣はカロネに暗に伝えているのだ。

自分が心配ではないのか、と。

自分のパートナーが心配ではないのか、と。

 

「確かにカロネちゃんは居場所が欲しいのかもしれない。今回の一件で私を信頼して、頼ってくれてるのかもしれない。けどね?そんなに簡単に決めるものじゃないんだよ?特に、一回決めたらもう変えられない選択なんて、慎重に慎重を期して決めるべきだよ。」

 

もちろん来てくれたら嬉しいんだけどね。と楼閣は言う。

 

楼閣はカロネだから突っぱねたのではなかった。

楼閣はカロネを慮るがゆえに一度突っぱねたのだ。

 

「私はね?名目上はギルマスだけどさ、だからってギルメンに対して罰をくだせるわけじゃないし、何かを禁止することも出来ない。心配なんだよ。何か間違いがあった時、私はきっとそれを後悔する。だから、その一時の気の迷いを許容するわけにはいかないんだ。その……一人の成人として。」

 

楼閣は真面目な顔をして言う。その目には強い決意と少しの寂しさが垣間見えた。

 

対するカロネは下を向いて小刻みに震えている。

 

「えっ……あ〜……えぇっとぉ……カロネちゃん?あの……私もそりゃあさ、来てくれたら嬉しいんだよ?だけど……そのぉ……」

 

楼閣がしどろもどろになりながら小刻みに震えているカロネに向かって弁明を始める。

 

楼閣の必死の弁明は続いていたが、ある時

 

「………………ふふっ……!」

 

「…………カロネちゃん?」

 

カロネが声を上げて、笑った。そしてその笑いはだんだんと激しさを増していく。

 

そんなカロネを楼閣は訝しむ。

 

何がそんなにおかしいのかと。

そう言われてどうして笑い飛ばせるのか、と。

 

「楼閣さん。」

 

ひとしきり笑った後、カロネが楼閣を見据えてそう言う。

楼閣もまだ訝しんでいたがとりあえずそれはそれとしてカロネと向き合う。

 

そしてカロネは、楼閣が想像もしていなかった一言を放った。

 

「私……他の方、とも……もう、会ってます……よ……?」

 

「…………え?」

 

「楼閣、さん……が、倒れた……時に……ギルドホール(ここ)まで……ついて、来ましたし…………楼閣さん、が……輸血を……かなり、した……という、のも……意識が……戻った、時も……波羅渡、さんが……連絡……して、くれましたし…………」

 

「…………え?………………えぇ!?」

 

楼閣はしばし呆然としていたが、どこかへ行っていた意識が戻ってきたと同時にしこたま驚いていた。

驚きで楼閣が目を回している。

 

「皆さん……よくして……くれました……ですから……何も、心配……ないです……!」

 

カロネが楼閣に畳み掛ける。

自分は心配いらない、気にすることは何も無い、と。

 

それでも楼閣の心配はまだ収まらない。

 

「カロネちゃんはそれで良くても……ヴィオレッタさんの意見もあるでしょ?」

 

『わたくしもそれで構いませんわ。』

 

「あれぇ!?」

 

楼閣がずっこける。ヴィオレッタまでもが二つ返事で承諾するとは思っていなかったらしい。

 

『カロネさんは貴方を信頼しています。人見知りのカロネさんが信じて決めたことに、わたくしが口を挟むのは無粋でしょう?それに、貴方はカロネさんを二度も救ってくださったのです。異議なんて、あるはずないでしょう?』

 

ヴィオレッタはそう言いきる。相棒の決断にも、楼閣の人柄にも、何一つ間違いなどないと言わんばかりに。

 

そこまで来て楼閣は思った。この気の迷いは、この酔狂は、何をどうしたところで止まらないのだろうな、と。

ならば、この少女の酔狂が終わるまで連れそわなければいけないな、と。

 

「……それが、私の業なんだろうなぁ。」

 

楼閣は小声でそう呟く。自身がカロネの思考を、芯を歪めてしまったと言わんばかりに。

ならば、それが終わりを見せる時まで自分が面倒を見なければならないんだな、と考えた。

 

自分に謙虚で、自信がなくて、なのに傲慢な自分の考えに楼閣はまだ気づいていない。

 

楼閣は諦めたように細く長くため息をつく。そして、意を決してカロネに向き直った。

 

「……分かった。いいよ。」

 

「……!!本当……ですか……!?」

 

「いやカロネちゃん、あれだけ頼み込んでおいて信じてないのかい?」

 

とても嬉しそうな顔をして確認をとるカロネに楼閣は苦笑して返す。その言葉を聞いてカロネは胸の前で手をにぎにぎしていた。

ヴィオレッタが微笑ましいものを見る目でそれを愛でている。

 

「それじゃ、ギルドを案内しないとね。トレーニングルームとか見たらびっくりするよ。」

 

そう言って楼閣は自室の扉を開けて外に出た。

そこに二つの影が這い寄る。忍び寄った二つの影が手を上げ、その手を楼閣の背中目掛けて思いきり振り下ろす。

 

「あたっ!?……ロードくん?波羅ちゃん?どうしたのさ?」

 

「決断がおせぇぞむっつり。」

 

「自分は大胆なのに他人に対しては慎重なんですから。」

 

二人に挟まれて肘でぐりぐりされる楼閣は何が何だかわかっていない。

 

しかし二人は知っている。カロネがどれだけ楼閣を心配していたかを。

たびたび連絡を寄越してきてはギルドホールに押しかけてヴィオレッタに促されるまで持参した椅子で楼閣の隣に座り続けたことを。

先程までカロネが座っていた椅子が、元々はギルドホールのどこにもなかったことを。

 

「だからお前はむっつりなんだよ。第一、ギルメン1人増えるかどうかって時に俺たちに相談がないのはどうなんだ?ん?」

 

「そうですよ。僕らだってギルメンなんですから、お一人でやろうとしないでもっと頼ってください。」

 

「えっ……ちょっ……まっ……!?」

 

【ろうか は こんらん している !】

当たり前だ。唐突におかしなテンションで絡まれて平静を保っていられる者などごく少数だろう。

楼閣が回していた目が元に戻った時、楼閣は一つの答えに行きつく。

 

「……って、二人ともいつから聞いてたのさ!私の事さんざんむっつりむっつりって言ってるけど、盗み聞きしてる時点で二人もむっつりじゃないかい!」

 

「……あ?」「……はい?」

 

楼閣が二人に反論するが、二人はおかしなものを見る目で楼閣を見た。

その後二人で目を合わせて首を傾げてから楼閣に言い放つ。

 

「いや、だってそりゃそいつ(カロネ)が大声出したかと思ったら、しばらくして泣き声が聞こえてきたんだぜ?様子くらい見に行くだろ。」

 

「ヴィオレッタさんがいるとはいえ、何か変なことが起きててもいけませんし……」

 

「くっ……!」

 

楼閣が正論を叩きつけられて苦しむ。もしかしたら自身が心配していた出来事が起きているのではないかと二人に思われていたのが心にきたのかもしれない。とんだ死体蹴りだ。

 

「はいはい。その辺あんま気にしてんな。どうせ今回もやるんだろ?宴。俺は用意に忙しく──」

 

「あぁ、今回はなしにしよっか、歓迎会。」

 

「……お?なんでまた急に?いつも新メンバー来たら狂ったようにやりたがるじゃねぇか。」

 

宴をなしにすると言った楼閣の意図をロードは訊ねる。いつも新メンバーの加入で宴を先導していた楼閣がそれをなしにしようと提案するのはロードから見て特異に見えたのだろう。

 

「いや「狂ったように」って言うのやめてね?……それはともかく二人も話したなら知ってると思うけど、カロネちゃんは人と話すのが苦手なんだって。そんな子に「パーティーに出なよ」って言って、すぐに出れると思う?」

 

楼閣はすでに考えていたと言わんばかりにスラスラと澱みなく答える。ともすれば相手の真意を決めつける傲慢な考えでもあるが、そこにはある種の思いやりが垣間見れた。

 

「………………あぁ、無理だな。」

 

「でしょ?だからなし。ロードくんも、言葉遣いがちょっとキツいんだからね?ロードくんの言葉の裏を読むのも練習がいるし、今回は懇親会はなし。」

 

「ま、そっちのが俺は楽だから異論はねぇな。波羅は?」

 

「僕はボスの意見に賛成しますよ?」

 

うん、聞いた俺がバカだった。とロードはため息をこぼしながら呟く。しかしその口元は微かに笑っていた。その微笑は諦めか、信頼の喜びか。

 

そのやり取りを楼閣の部屋で何をしたらいいのか分からず混乱していたカロネが見ていた。

その迷子のように彷徨わせた視線に楼閣が気づく。

 

「あぁ、カロネちゃん!おいてけぼりにしてごめんねぇ。案内するからおいでよ。」

 

「………………はい!」

 

こうして騒動は集結した。

 

存在してもいいと思える場所を持っていなかった少女はギルド(居場所)を見つけ、

傲慢で強欲で、しかし自らはそれに気づいていない青年は願いを叶え、

 

ひとりよがりで歪な関係を結んで、騒動は集結した。




いいペースですね、乱数調整です。
さて、皆さん容易に予想出来たであろうカロネ加入回です!どんどんどんどんぱふぱふっ!(天:擬音を口で言ってて寂しくならねぇ?)

カッコイイ楼閣はこれで終わりです!楼閣……残念だな……私も残念だよ……(天:ならもっとかっこよくしてやれよ)

次回、4章の終わり

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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咲き誇った砂漠の花

上下左右も分からないような真っ暗闇に、私はいた。

ひたすらに暗くて、歩けど歩けど光が見えてこなくて、前に進んでいるのか後ろに下がっているのか、ともすればズブズブとこの暗闇に沈み込むように歩いているのかすら分からないような闇に、私は呑まれていた。

 

「どうして…………」

 

闇に尋ねても何も返っては来なかった。ずっと一人で、闇の中で。

 

ときどきその闇は私に牙を向いた。その牙は私を闇のさらに奥深くへと誘おうとするものなのか、正しい方向へ向かせるために向けられたものなのか、今となっては分からない。

 

辞めておけばよかった。

ただ一人の幼馴染に誘われて、言われるがまま始めたこのゲームなんて辞めておけばよかった。

 

いや、そんなことを言っても仕方がない。

 

あの子は私とは違うから。

例えるならあの子は太陽で、真っ暗闇の中でも光を放って道を見つけて、あるいは切り開いて進んでいけるあの子は、私とは違うから。

 

あの子はすごいよ。私と状況は同じはずなのに、私と違ってこの現実を受け入れてしっかり立っている。

この闇から抜け出して、自分ではないほかの光を探してる。

ちゃんと自分が居たいと思える居場所を探してる。

 

そんなあの子とは違って私は、暗い昏い闇の中で、いつしか歩くことを止めた。

 

そうだよ。最初からこうすれば良かったんだ。何もしなければ周りに人は集まらない。

何もしない退屈な子になんて、誰も寄ってこない。

 

けど、それは違った。

私の見込みが甘かった。

 

あの子と固定を組んでいた時にやっていたことが、周りからすれば物珍しかったのだ。

あの子の近くにいた時に無意識についてしまった光が、私を導くほどの力はない光が、牙を剥く闇を呼んでくるのだ。

 

「やめて……!こないで……!!」

 

叫び出したいけど声が出ない。言いたいことが口に出せない。暗いのも、怖いのも、私は嫌だ。

目をつぶっているあいだに全部全部過ぎ去ってしまえばいいのに。

 

そんな時だった。一筋の光が闇を切り裂いて手を差し伸べてくれたのは。

 

【あの人】とは何度か会ったことがある。【あの人】は他の人たちとは違って、ちっとも暗くも怖くもなかった。

【あの人】は慎重に言葉を選んで、距離感を測って接してくれた。

それが私には、これ以上なく心地よかった。

 

そんな【あの人】が、それまでの距離感なんてなぐり捨てて私を助けに来てくれた。自分が傷つくことも厭わず、闇を切り裂いて手を差し伸べてくれた。

それが私には、これ以上なく頼もしく見えた。

 

すごい怪我を負いながらも、【あの人】は私に勇気を、優しさを、力をくれた。

それは枯れ果てていたと思っていた私の心に深く染み込むように入ってきた。

 

【あの人】は私をあの真っ暗闇から救い出して、私の心を満たしてくれた。

 

私はきっと、あの人のことが──

 

 

「カ〜ロネちゃん!!」

 

「……うぇっ!?」

 

後ろから唐突に抱きつかれる。その衝撃で私は我に戻った。そうだ、待ち合わせをしていたんだっけ?

誰か、なんて考える必要はなかった。いきなり私に後ろから抱きついてくるような人はあの子しかいない。

 

「もう……カフカ……ちゃんと、前から話しかけて下さい……」

 

「いやぁごめんごめん!急に会いたいって言うからさ!テンション上がっちゃって!」

 

「カフカったら……子供じゃないんですよ……?」

 

私の幼馴染のカフカだけが、私にこんなことをしてくる唯一の人だ。私も口では色々言いつつも、彼女を憎からず思っている。

 

「人見知りのカロネちゃんが話したいことがあるって言ったんだよ?そりゃ飛んでくるよ〜!」

 

あ、いいカフェ見つけたんだ!とカフカは言って私の手を引く。この子はいつも内気な私が耐えられる範囲で強引な行動をとる。彼女も私を慮ってくれるいい人だ。

 

カフカについて行くとカフェにはわりとすぐに着いた。カフェ……とは言いつつもそこはメイドカフェ。店員は皆さんヒーローで回しているらしい。

どうしてヒーローしかいないのか、なんてことは考えない方がいい。

私はほとんど直感でそう思った。

 

「カロネちゃん?こっちこっち!早く早く!!」

 

カフカに急かされて椅子に座る。カフカは目を輝かせて私に早く話すように促すけど、残念ながら口下手な私の報告は一言で終わる。

 

「私……ギルドに入ったんです。」

 

その一言だけで、カフカは目を見開いて驚いた。何度か目をぱちくりとさせて私の言葉を反芻してから、彼女はこれ以上なく嬉しそうな顔をして私に言った。

 

「そっかぁ……ギルド(おうち)、見つけたんだね。帰るべきところを、ちゃんと見つけたんだね。」

 

そっかぁ……よかった……と泣き出しそうな笑顔でカフカは繰り返す。その態度から私のことを心配してくれていたのがすごく伝わってくる。

 

「私も早く居場所決めないとなぁ……」

 

「えっ……カフカ、まだ決めてなかったの?」

 

ポツリとカフカが呟いたその言葉に私は驚いた。太陽のようなこの子なら、きっとすぐに決めているだろうと思っていたから。

 

「ん〜……いやまぁ、ちょっと気になるところが多くてね。でも、一番が決まったから。」

 

彼女ははにかんで迷ったような素振りを見せながらも目だけは本気だった。彼女が好きなことをやっている時の目だった。

 

「そんなことよりも!あの人見知りのカロネちゃんがギルドにねぇ〜。いい人でもいたの?」

 

カフカが自分の話を切ってそんなことを聞いてくる。正直びっくりした。飲んでいた水を吹き出す所だった。

 

「んっ……!?そういうのじゃ……ないから……」

 

「あっはは〜。赤くなっちゃってかーわいい。で?で?どんな人なの?ゆっくり聞いてあげるよ!ここの代金は全部持つからさ!……すみませーん!【蒼王宮のナタデココジュース】二つと【月夜叉の兵糧弁当】二つ!」

 

『かしこまりました。暫くお待ちください。』

 

店員さんであるヒーローが恭しく礼をして去っていくとカフカはキラキラと輝かせた目をこちらに向けてくる。

この幼馴染は少しばかり思い込みが激しいのだ。

 

「そんなんじゃ……ないよ。あのね──」

 

私は、私が遭った一連の騒動についてカフカに話した。

口下手な私の話はしどろもどろで、精細さを欠いていて、たまに感情的になっていたけれど、カフカは黙って最後まで聞いてくれた。

 

「へぇ……そんなことがあったんだね。それで?カロネちゃんはその人のことをどう思ってるの?」

 

カフカにそう聞かれて、心臓が一つ跳ね上がる。どうしてだろう?理由は私には分からない。けれど、あの人を示す言葉は私の中でひとつしかない。

 

「咲き誇った砂漠の花。」

 

カフカは首を傾げる。きっと私の言ったことが詩的で伝わらなかったのだろう。

 

でも、それでもいい。

 

私の乾いていた心も

その中で綺麗に輝いていたようなあの人も

すぐ近くにあった救い(オアシス)まで導いてくれたのも

 

全部全部、私だけの思い出でもいい。

 

けれど、あの煌めきだけは忘れたくない。

あの人が身をもって教えてくれた、あの美しさだけは。

 

「…………すっかり恋する乙女じゃん。」

 

「……??何か言った?」

 

「ん?なんでもない。さー、そろそろ来るだろうしご飯食べよー!」

 

「……そうね。頂きましょう。」

 

『ふはは!我が月夜叉の兵糧を持ってきてやったぞ!』

 

『もう少し静かに運べないのか?』

 

そこまで話した時、褌臣が私たちの料理を持ってきた。後ろには写真集ダムが飲み物を持って控えていた。

 

……カフカのオススメしたこのメイドカフェは、なぜか上裸のヒーローしかいない。カフカは昔からこうだから私はもう慣れた。

 

「それじゃ!カロネちゃんのギルド入隊を祝ってぇ……乾杯!!」

 

「乾杯。」

 

そう茶化しながら私たちは食事を続けた。

 

太陽はもう私のすぐそばにはいない。カフカは、私の太陽は別の道を歩み始めている。

 

けれど、今の私には不安はない。

 

強くてしなやかなあの人が、

私を助けてくれたあの人が、

 

あの煌めきで、きっと私を導いてくれるから。

 

だから、ここが私の帰る場所だ。

 

「ただいま……帰りました……!」

 

「ん、おかえり、カロネちゃん。」




4章で一番書きたかった話が書けました!乱数調整です。

さてさて、今回でカロネ回が終わりです。次回から別の話が始まります。やったぁ!一番書いてて楽しいキャラだぁ!
そいつはまだイスタカ回を書いてたのにネタだけ大量に出てきてネタ帳を圧迫していたやつなので書けると楽しいですね。

けどネタでしかない存在なので話が作れなくて更新頻度は落ちますね!はい!
あとただでさえ低いバトル濃度も下がりますね!はい!(天:嬉しそうにするな)

次回、新章突入

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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五章 分かったから一旦黙れ!
面倒ごとは突然に


カロネが加入した数日後、俺は波羅と二人で商業区のインテリア店に行っていた。コクリコとめぐめぐはトレーニングルームで遊んでる。引率はジャスティスに頼んだから問題ないだろう。

 

なんで商業区になんて来たかと言うと、カロネの入団祝いを何かしら用意するためだ。

一応、ウチのギルドに入ったんだ、いくらアイツが人見知りっつっても、宴をしねぇのは歓迎せんのと違ぇから。

 

購入したのは楼閣大好き【人をダメにするクッション】

楼閣の奴、かなり気に入ってたからな。いいもんなんだろ。とりあえずハズレではないはずだ。

 

ちなみに購入した時波羅に

 

「……ボス、それはカロネさんに対する皮肉か何かですか?」

 

って聞かれたが、良いもんやるのになんの皮肉があるんだろうな?

そう言ってやったら波羅は苦笑いを返すだけだった。わけわかんねぇ。

 

とりあえずギルドホールに配送頼んで広場に戻ってくる。いやまぁ、そろそろ【掲示板】ってやつの所在地を確認せんとな。そろそろあいつらにキレられそうだからな。あのバカ3人組に。

 

「おいキィ、【掲示板】ってどこだ?」

 

《広場の情報提供区画の中央です》

 

キィに訊ねるが、やっぱお前、詳しく聞かねぇ限りかなり雑だな。GM(ゲームマスター)はなんでこんなん野放しにしてんだ、こいつこそ修正すべきバグだろうに。

案内人として終わってるだろ、コイツ。

 

「……距離と方角を詳しく教えろ?」

 

《……チッ、二時の方向200mです》

 

舌打ちしやがったよ、コイツ。

 

《マップを見ろと言っているのです》

 

「あ?そんなんあんのか?」

 

さっきから波羅と辺りを見渡してるけど一向に見えねぇぞ、マップ。

 

《メニュー画面の右上、ピンの模様をしたバナーがマップです》

 

キィがこころなしかため息をついたような声音で言う。ちょっと待て、なんで俺が文句言われてんだ?

 

えぇと、とりあえず……これか。おぉ、ほんとだ現在地とマップ出てきた。行きたい場所の検索機能までついてるわ。便利だな。

つうかこれ、生活の上で必須だろ。今まで商業区を彷徨いながら目当ての店探してた俺はなんなんだ。

ホント、最初に説明しといてくれよ。

 

《聞かれませんでしたので》

 

お前は大概自由だな。

 

ともあれ場所は分かったからどんなもんか見に行く。200mならそんなにかからねぇな、せいぜい3分とかか。

 

波羅と晩メシについて話し合いながら歩くと、だんだんと四角いパネルみたいのが結構沢山見えてきた。

アレのどれが掲示板なんだ?

 

《全てです》

 

そうか、アレ全部が掲示板か。

 

それの近くまで寄って内容を見てみる。

 

「……ふむ、某ヤホーのトップページみたいなもんか。時事ネタがいろいろ出てる。」

 

「……おや?ボス、カロネさんの加入情報も出てますよ。」

 

マジか……マジだ。おい個人情報どうなってんだGM(ゲームマスター)。ゲーム内とはいえその管理はしっかりしとけや。

 

他は……お?なんか2つ名の一覧とかあるじゃねぇか。もしかして【掲示板】って某Wikipediaさんみたいなもんなのか?分からん。

まずGM(ゲームマスター)が書き込み、更新してるのか、プレイヤーが書き込みしてるのかから分からん。誰か詳しく教えてくれ。

 

「お?おい波羅、ドクの2つ名もあるぞ。【死神の盾(スプリンタンク)】だってよ。あの脳筋のどこがタンクなんだよ。」

 

「あはは。でも面白いのもありますね。この忠臣使いの【ブンブン丸】とかリリカ使いの【肉弾列車】とか。どんなプレイスタイルなんでしょうね?」

 

臣使いの方はよく分からんが、とりあえずリリカ使いはあの筋肉だろうな。

いつかのバグの時にノリノリでリリカの衣装着て「ウォォォォ!キミの心臓(ハート)安らかに眠れ(ドリィィミングゥゥゥゥ)!!」って叫んでたあのガチムチだろうな。

 

「あーーーーーー!!」

 

それを見てたら別のところから大声が上がる。甲高いキンキンと頭に響いてくる声だ。

 

声のした方向を見ると、そこにはグスタフを連れた女子がいた。【掲示板】を凝視してどうしたんだろうな?

 

「見て見てグスくん!あたしたちの2つ名あるよ!【腐乱の不死(オーバーフロー)】だって!かぁっくいい〜。」

 

『ふん、俺はアイツらに絶望を見せてやっただけだ。それよりも、慢心するなよカフカ。まだ上を目指せることを忘れた奴から死んでいく。』

 

なるほど、自分たちの名前があって喜んでたわけか。まぁ、認められてるってのは充足感があるんだろうよ。2つ名が気に入るものなら嬉しさも倍増だろう。

 

俺?【ロリコンの王】だぞ?充足感も嬉しさもある訳がねぇ。付けたやつは許さんぞ。じわじわとなぶり殺しにしてくれる。

 

そんな俺の心中を知ってか知らずか、そのカフカとかいう女子は喜び、グスタフに絡み続ける。

 

「やったよグスくん!いぇーい!」

 

『おい!触るな、死ぬぞ!』

 

「えー?腹筋に顔を埋めたくらいでは死なないよ〜!」

 

『お前は……!そう言って何回やらかしたと思ってるんだ!』

 

「グスくんグスくん!愚腐腐……ウボゲシャァ!!」

 

そしてそいつは、グスタフの腹筋にかなりやばい表情の顔を埋めたかと思えば吐血して倒れた。ぷるぷる震えてるところを見るとまだ生きてるが、アホとしか言いようがないな。

 

『おまっ、バッ、カフカァー!!』

 

グスタフが叫んだ。そこには少しの諦観が滲んでいた。

いや、どんだけそのやり取り繰り返してんだよお前ら。諦観滲ませるくらいなら止めろよ。あと使い手は学習しろよ。いい加減バカだろ、どっちも。

 

「大丈、夫。」

 

血反吐を吐きながらもそいつは晴れやかな笑顔でグスタフにサムズアップ。そして続ける。

 

「グスくんがお嫁に行くのを見届けるまで、あたしは死なない、から。」

 

『おいしっかりしろ、俺は嫁には行かん。』

 

……うん、アイツ本気でバカだ。

いやしかし、俺には関係ない話だな。危ない奴からは遠ざかるのが1番だって偉い人が言ってた。

 

「波羅、帰るぞ。」

 

「はい。帰りましょう。」

 

そそくさとその場を後にする俺たち。やっぱり危ない奴には関わらん方がいいな、ろくなことがな──

 

「あぁぁぁぁぁーーーー!!」

 

……なんかアイツがこっちの方向指さしながら大声で叫んでる。

 

「波羅、逃げるぞ。」

 

「Sir. Yes,Sir.」

 

「あっ!逃げた!待ってー!!」

 

全力の逃走。俺の足は今この場で逃げるためにあったんだ。

 

カフカとかいう奴もなかなかの脚力だがそこは男女差、じわじわと距離を開けていく。

 

「グスくん!スピード上げて捕まえてきてよ!」

 

『無茶を言うな。そもそもアイツらが逃げているのはお前のせいだろうが。』

 

グスタフが正論を言った。いいぞ、諦めろ。

 

「むぅぅぅ!……はっ!その人痴漢です!捕まえてください!」

 

「バッ──!おま、やめろ!俺が社会的に死ぬだろうが!?」

 

痴漢呼ばわりされて無視できるわけが無い。冤罪、ダメ、ゼッタイ。

振り向くとそこには晴れやかな笑顔でこっちに来るカフカ。お前、あとで一発殴らせろ。

 

「やっと止まってくれましたね!どうして逃げたんですか?」

 

いや、お前みたいなやべーやつからなら誰でも逃げるわ。

 

「あはは〜。それは手厳しい。」

 

「いいからさっさと本題に入れ。そしてすぐに帰らせろ。」

 

早く帰らんとカロネのクッションが届くから渡せんくなるだろうが。

そう思ってるとカフカもその雰囲気を感じ取ったのか、すぐに口を開いた。

 

「では……改めまして初めまして!あたし、カフカっていいます!突然ですけど【孤独者達の宴(ロンリネス)】に入れてください!」




いやはや、章の初めは入りがなかなか決まらなくて困ります。乱数調整です。

いつかにリクエストを頂いた(と乱数が勝手に思い込んだ)グスタフが!ここで!やっと!出せました!

それぞれのヒーローに「相棒として出すのはこんなキャラ」みたいなのを作ってたんですが、グスタフ使いのカフカちゃんはPRHS(ヘンタイ)と一二を争うやべーやつだと思っていましてね。メインでは出さないなと思っていたんです。

ですが、ネタが溢れに溢れてきまして。「このネタ量……メインじゃないと消化しきれんな……」と思っていたところにリクエストだったので出してきました!

吹っ切れてからはもうネタがどんどん湧いてきて大変なんてもんじゃないですよ、えぇ。

次回、鬼ごっこ

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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お前はたいがい自由だな

「突然ですけど【孤独者達の宴(ロンリネス)】に入れてください!」

 

「却下」

 

「なんでですか!?」

 

もちろん即刻で却下。カフカは食い下がるが、俺からしてみればなんでオーケーされると思ったのかが分からん。

 

「理由は3つ。一つ目は俺達がお前のことをほぼ全く知らないこと、二つ目は今この場にそれを承認できる楼閣(ギルマス)がいないこと、三つ目はお前がどんな目的かがわからない以上、不用意にギルドには入れられないこと、四つ目は単純にお前がキモい、怖い、ヤバい、危機感を覚える、正直知り合いにすらなりたくない、むしろ同じ空気すら吸いたくない。すまん、理由は4つだった。特に1番最後が大きい。」

 

「酷くないですか!?」

 

いや、酷くないかって言われてもなぁ……お前のさっきの行動、ぶっちゃけPRHS(ヘンタイ)レベルとまではいかなくとも結構なレベルだったぞ……

 

「そんな!【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】もなんとか言ってくださいよ!」

 

「ボスの言う通りです。」

 

「なん……だと……!?」

 

いやだから、お前はどうしてそんなに驚けるんだよ……

というか、波羅に助けを求めたところで波羅は狂信者(イエスマン)だから意味ないぞ。

 

「グスくん!グスくんもボーッとしてないで援護射撃ちょうだい!」

 

『カフカ、この場合はこいつらが全面的に正しいと俺は思うぞ。』

 

「グスくんまであたしをイジめる!たった一人のパートナーなのに……グスン……グスくん慰めて〜……」

 

『なんで邪険に扱われた奴に慰めてもらおうとする!?それに俺に触れるなと何度言ったら分かるんだ!!本当に死ぬぞ!?』

 

「愚腐腐……グスくんの腹筋……ウボゲシャァ!!」

 

『だから……お前は学習をしろ!!』

 

カフカとグスタフが漫才を始めた。楽しそうだな、お前ら。

 

「それじゃ邪魔しちゃ悪いから俺たちはそろそろお暇して……」

 

「ゴフゥ……待てぇ……!」

 

口から血を吐きながらカフカが服をつかんでくる。貴様なぜその状態で動ける……!?

 

「慣れてますから。」

 

「そんな状況に慣れてたまるか。」

 

何だこの変態。さっき「PRHS(ヘンタイ)までとはいかなくても結構なレベル」って言ったが撤回する。お前PRHS(ヘンタイ)といい勝負張れるぞ、マジで。

 

……つってもなぁ、正直早く帰りてぇ。

 

「…………そうだ。とりあえず服から手を話せ……そうだいいぞ。とりあえずお前の志望動機を聞こうか。まず理由の3を消せ。」

 

「あ、そうか。」

 

カフカはグーにした右手を左手にぽんと乗せた。

いや、本来なら説得する側のお前が思いついてしかるべきなんだけどな。

 

「わっかりました!あたしが【孤独者達の宴(ロンリネス)】に入りたいのはですねぇ──」

 

「今だ波羅!ギルドホールに逃げるぞ!」

 

「Yes,Sir!」

 

「えっ、あっ、ちょっ!?」

 

カフカが手を伸ばしてくるがもう遅い。俺たちは無事にギルドホールに戻ってきた。危ないところだった……ここまで来たらもう大丈夫だろ。

 

「帰ったぞ〜、楼閣〜」

 

「んー、ロードくんおかえりぃ〜。ん?そんなにやつれてどうしたのさ?」

 

いや、ちょっと酷い目にあってな。PRHS(ヘンタイ)並の変態を見かけたんだ。

 

「ふーん。で?目的は果たせたのかい?」

 

「……お前には言ってなかったはずだろ。」

 

「はっはー。カロネちゃんが定期公演をやる時に出かけたんだから、だいたい分かるよ〜。アレでしょ?どうせ「なんにもしないのと、歓迎しないのは違うから」とか言ってたんでしょ〜?」

 

…………このむっつりは……!

 

「まぁ、カロネちゃんは気づいてなさそうだったからいいんじゃないの?あの子はあの子で、今回の公演で決意表明するんだって息巻いてたからねぇ。周りに気を配る余裕はないと思うよ。」

 

憑き物まで落とされてんじゃねぇか。うわぁ、俺だっぜぇ。楼閣ごときに見抜かれるとかだっせぇ。

 

「で?結局なにしてきたのさ?」

 

「あぁ、クッションをやろうと思ってな。お前が今使ってるそれだ。すぐ届けて貰うようにしたからカロネが帰ってくる前にでも届くはずだろ。」

 

『ロード……お前は…………なんて罪深いことを……!』

 

ジャスティスが顔面蒼白で割り込んできた。

 

「おー、ジャス。ちびっ子どもは?」

 

『イスタカと交代してきた。それはそうと、お前はなんてことをしてくれたんだ!』

 

すごい形相でジャスティスが俺に詰め寄る。

いやちょっと待ってくれ、なんか悪いことしたか、俺?

 

『あぁ。ロード、そのクッションは危険だ。中毒性がある上に手軽に利用できすぎる。』

 

楼閣を見てみろ、ツッコミ気質だったあいつがあんなにもだらけてるんだぞ?とジャスティスは俺に言ってくる。

とはいえ、別にいいんじゃねぇの?だらけられる時にだらけるのは、バトル中にだらけられるのよりは全然マシだろ。

 

『ロード……楼閣は起きてからずっとこうだぞ。』

 

「マジか。飯後から見てなかったから全然気づかんかった。」

 

自室ならまだしもリビングでずっとダラダラしてんのか。一番ギルメンの目に付くところでだらけてるのはギルマスとしてどうなんだ?

 

「……しゃーない。ジャス、多少強引な手段を使ってもいいぞ。波羅、クッションは自室に置くように厳命しよう。カロネがこうなったとしても、ヴィオレッタなら何とかしてくれる。」

 

「仰せの通りに。」

 

ほら楼閣、立って着替えろ。と言いながら楼閣のケツを叩くジャスを後目に俺は波羅とクッション対策を練る。ジャスティスに言われてなかったら危ないところだった……

 

ピンポーン♪

 

対策を立て終わった時、玄関の方でインターホンが鳴った。

 

「噂をすれば……ですね。ボス、届きましたよ。受け取ってきましょうか?」

 

「いや、いい。名義が俺だから波羅だと受け取れんとかなら困る。んじゃちょっと取ってくるわ。」

 

「行ってらっしゃいませ。」

 

……もう俺はお前の言動にツッコまんぞ。

 

ピンポーン♪

 

2回目のインターホンが鳴る。このまま不在通知入れられたら、カロネへのサプライズが出来んくなって困るから急がんとな。

 

「はいよ、今出るぞ。」

 

そう言ってロックを解除してドアを開けると、

 

「来ちゃった。」

 

カフカがいた。

 

「………………(バァン!)」

 

「ちょっ、なんで閉めるんですか!?」

 

俺が全速力かつ全力で可及的速やかにドアを閉めるとカフカはドアノブをガチャガチャ、扉をドンドン叩きながら聞いてくる。

なんで閉めるんだって言ったって、質問があるのはこっちだよ!

 

「うるせぇ!なんでお前がここにいるんだよ!つぅか許可なしでどうやって入ってきた!さっさと帰れ!」

 

「だーめーでーすー!!【警備ロボ】から荷物を任されてるんです!ほら、この【人をダメにするクッション】ってやつですよ!」

 

どうしてこうなった!?

 

おいキィ、なんか知ってる事ないか?

 

《私が頼みましたがなにか?》

 

…………………………は?

えっ、ちょっ、まっ、お前の差し金か!?

 

《面白そ──ゲフンゲフン、あなたに用事があるようでしたのでついでに頼むよう【guardoll】に告げ口を》

 

「なんてことしてくれてんだ!!」

 

《反省していますまたやります》

 

やるなよ!?絶対にやるなよ!?

 

《フリですね分かります》

 

やっぱ俺の案内人はろくでもねぇ!!

 

俺は諦めて扉をカフカが入ってこられないくらい開いてやる。

 

「ほら、早くよこせ。」

 

「それじゃダメです!荷物が入れられません!」

 

まぁそうだよなぁ……クッション結構でかいもんなぁ……ってん?カフカお前、手ぶらじゃねぇか。

 

「もちろん!思いっきり開けてもらえるようにグスくんに持ってもらってますから!」

 

そういう所だけ頭使いやがって……!

 

「受け取ってやるからさっさと出てけよ。」

 

「嫌です!」

 

いやそこは嘘でも「はい」って言っとけよ……

 

「グスタフ、運んでこい。」

 

『なぜ俺が……ふん、まあいい。』

 

そう言うグスタフの目は死んでいた。お前も苦労してるんだな……

 

「おー!ここが私の新たなギルドホールですか!」

 

「違ぇわ帰れ。というかなんで入ってきた?許可してねぇだろ?ん?」

 

「うへへぇ〜、入ったもん勝ちです!」

 

カフカは靴をきちんと揃えて脱ぎ、リビングに侵入する。おい誰かこいつを止めろ。

ってかお前、ちゃんと揃えるあたり育ちがいいな。そんな奴がどうしてこんな非常識の塊みたいな行動してんだ?

 

「さてさて、(くだん)のギルマスさんは……っと……」

 

するすると波羅を抜かしてリビングの方へと侵入したカフカ。こいつ、こんな時だけ身のこなしすげぇな、おい。

 

『楼閣、トレーニングをするぞ、起きろ!』

 

「えー?私が戦うわけじゃないんだからいいじゃん。」

 

『そんなことを言うな、だらけていては身体がなまるぞ。……俺がいつまでもお前についていられるとは限らないんだ……』

 

「キャァァァァァアァァァァァアァァ!!」

 

リビングではジャスティスと楼閣がそんなやり取りをしていた。そこにカフカが闖入するが、闖入するやいなやカフカが叫び声を上げる。

 

「…………ジャス×楼だ……!ジャス×楼だよ!!やったぁ!これが!これが見たかったんだよ!ねぇグスくん、ジャス×楼だよ!ジャス×楼♪ジャス×楼♪ふわぁぁぁぁぁ!!やっぱりジャス×楼だよね!楼×ジャスじゃないんだよ!!前入ろうと思ってたギルドは解釈違いで戦争になって辞めちゃったけど、やっぱりジャス×楼だよ!イケメン受けジャスティスはありえないって!えー!あー、うー!!語彙力消し飛ぶよこんなの!きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そして、カフカが壊れた。




はい、ネタを出そうと思ったらかなりいい分量だったので投稿させていただきました、乱数調整です。

あのですねぇ……最後の局面からネタを出そうと思ったんですけど、ちょっと考えてみたらあと4000字は欲しかったんですわぁ……
でもそしたらSSじゃない分量になるので急遽分けさせていただきました。

さて、早急に次の話に取り掛かるとしますか……(暗黒微笑)

次回、書き溜めたネタの大放流会

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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大胆不敵フルスロットル

腐態の不死(オーバーフロー)】を【腐乱の不死(オーバーフロー)】に変更しました。読み方被りは正直どうかと思ったので……


「きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

カフカが雄叫びを上げながら握った両の拳を天高く突き上げていた。

 

「……ちょっとロードくん、なにこの子?ちょっと怖いんだけど……」

 

「俺に聞くな、俺に。」

 

楼閣がジト目でこっちを見ながら説明を求めてくる。

つっても分かんねぇことを聞かれても困るぞ、楼閣。俺だって分かることと分かんねぇことがあるんだ。

というか、俺たちだって今まで感じてた変態性と別のベクトルに急になったから戸惑ってんだよ。

 

そんな混乱している俺たちをよそにカフカはなおも興奮し続ける。

 

「ジャスティスさんジャスティスさん!ジャスティスさんの体はどうしてそんなに大きいの?

 

「それは……守るべきものを守るためだ

 

「じゃあ、ジャスティスさんのお顔は、どうしてそんなに凛々しいの?

 

「それは、守るべきものに「俺の後ろが安全圏だ」と理解し、安心してもらうためだ。

 

「じゃあ、ジャスティスさんの【自主規制】は、どうしてそんなに大きいの?

 

「それは……楼閣を食べる(意味深)ためだ!

 

「みたいなこと言ってたりして〜!!キャァァァァァアァァァァァアァァ!ダメですよダメです!尊すぎて死ねますよ!もしかしてアレ?「俺の後ろは安全圏だが……俺の前はそうじゃないんだぞ?」って言って襲ったりとかも……アリ!もうめっちゃアリ!やっぱり楼閣さんに対しては強引な攻めがいいんだよねぇ……!ずっと一緒にいるんだから間違いの一つや二つ……愚腐腐……!」

 

『お、おい、大丈夫か?』

 

なんか一人芝居始めてやがる……妄想が暴走してなんか凄いことになってるが、こいつの妄想の中の楼閣、大丈夫か?楼閣のケツがリミットアクセルオーバーシンクロしてそうな内容なんだが。

 

そんなカフカを心配してジャスティスが近寄るが、お前、それは多分、1番やったらダメな愚策中の愚策だぞ。

 

「はっ!ジャスティスさん!普段寝る時は楼閣さんと一緒なんですか!?」

 

『……ん?いや、俺は大きいからな、サイズが全く合わないんだ。だから俺はいつも一人でハンモックだな。楼閣と寝たことは……ないんじゃないか?』

 

「サイズが合わない!?ナニのサイズが大きくでドコに合わないんですか!?」

 

『楼閣!ロード!こいつはいったい何について話しているんだ!?』

 

ジャスティスに話しかけられてどこか遠くの世界から帰ってきたカフカだったが、ジャスティスの質問には答えず、逆にジャスティスに質問をする。

その目はキラキラと希望に満ち溢れた光を放ち、その光はパチパチと弾けているように見えた。汚ぇ花火だ。

 

ジャスティスもその質問に律儀に答えるが、答えたらその瞬間カフカの妄想は青天井になる。

鼻息荒くジャスティスに詰め寄る様はもはやホラーと言っても差し支えないだろう。俺がやられたら間違いなくスプラッタになってる。

 

とはいえこれは情操教育上よろしくない。

 

「波羅!ちびっ子組が来る前にあいつを止めろ!」

 

「Sir.Yes,Sir!」

 

実力行使で連れ出してやろうじゃねぇかと波羅を派遣。捕まえたあとはグスタフに渡して連れて行ってもらおう。

 

そう考えていた時期が俺にもありました。

 

「Sir……?【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】の波羅渡さんはもしかしてロードさんを崇拝してる……?立場が上のロードさんが波羅渡さんに……まさかのロー×波羅の可能性……?アリだ!新しい扉が今開いた!ふぅーっはは〜!!」

 

カフカが結構ひどい表情で高笑いを響かせる。

 

急に早口でブツブツ言い始めたかと思ったら高笑いを始めたカフカがあまりに気持ち悪かったのか波羅はその動きを止めていた。

 

「波羅!早く止めろ!」

 

「仰せの通りに!」

 

俺が激を飛ばすと波羅はハッとなってカフカを羽交い締めにせんと突撃する。

 

「……波羅渡さん!?なに抱きつこうとしてるんですか!ロードさんという人がありながら!」

 

しかしカフカは謎の身のこなしで波羅の魔手を逃れる。ぬるぬると動きが気持ち悪い。

 

「「波羅……俺もう……我慢が出来ねぇよ……!」みたいなセリフでロードさんが波羅さんを押し倒して……うへへぇ〜、最っ高じゃないですかァ!!」

 

かなり気持ち悪い緩んだ顔でカフカが笑う。いつまでこいつは遠くに行ってるんだ!

 

「あぁ、うるせぇ!お前もう黙れ!」

 

「なんでですか〜!ロー×波羅お似合いですよ〜!……ん、アレ?もしかしてロー×楼がよかったとかですか?ロー×楼なら、「楼閣……俺の前では、キチンとしたギルマスじゃなくていいんだぞ……」「ロ、ロードくん……!」みたいな流れで!?それもそれでありですね!あ、逆カプはなしですよ?楼閣さんは総受けですから!」

 

俺は叫び返すがカフカにはノーダメージどころか水を得た魚、マシンガントークは留まるところを知らない。

 

「あぁ、もう!セナ!ポルターガイストでも俺の体でもなんでも使っていいからこいつを止めろ!コクリコの教育上よくない!」

 

『今の僕じゃあ、力が足りないなァ……』

 

クソっ!使えねぇ悪魔だな!

 

「……セナ?ポルターガイストってところを聞くともしかして悪魔ですか?異種姦ですか?どっちが攻めでどっちが受けですか!?「俺の体でもなんでも使っていいから」って、そういう……!?」

 

「違ぇわ黙れ!受け?攻め?そんなの俺は全く知らないね!」

 

キラキラした目でこっち見んな!

クソッタレ!言葉を選ばないといけねぇじゃねぇか!とんだところに地雷が埋まってやがった!

 

「えー!?なんでですかー!私は異種姦も全然行ける人ですよ〜!」

 

『もうやめろカフカ!これから世話になろうとしているやつらの前でこれ以上墓穴を掘るな!』

 

カフカが謎論理を展開し、意味不明なことをほざきだすがが、そこにグスタフが割り込んでカフカを止めようとする。

 

うん、相棒のお前がさっさと止めろ。そして早く帰れ。

 

「墓穴を…………()()……?え?ダメだよグスくん、グスくんは受けなんだから掘られる方だよ。え?なに?グスくんはもしかして臣×グスじゃなくてグス×臣の異教徒さんなのかな?だとしたら相棒でも叩きのめさないといけないんだけどなぁ?」

 

ざんねん ! ぼけつ を ほったのは ぐすたふ だった !

 

というか「墓穴を掘る」ってワードからなんでそう思考に飛ぶんだお前は。

 

グスタフはそれでもなお諦めずにカフカの説得を試みる。

 

『カフカ!目を覚ませ!俺はどっち側でもない!とりあえずそのマシンガントークを──』

 

「よろしいならば戦争(クリーク)だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

『バッ、おまっ、カフカァ!!』

 

突然興奮するカフカ。

部屋の中で暴れ出す。それを諌めるグスタフは攻撃こそ効いていないものの、こっちをチラチラ見ながら心配そうにしている。

 

一応、今回の趣旨としては「ギルド加入許可をもらいに来た」ってのだからその辺が心配なんだろ。

安心しろ、話しかけられた時から意見は変わってないから。

 

「安心しろ。お前らはぜってぇ【孤独者達の宴(ロンリネス)】には入れないから。」

 

『えらく思い切りがいいな!?あといい笑顔だな!?』

 

笑顔でサムズアップしながらそう言うとグスタフがツッコんできた。

いやむしろ当たり前の選択だと思うんだが?

 

「グスくん受け!おねだり!」

 

『意味がわからんぞ!あと俺は犬か!』

 

もう誰でもいい!誰かこいつを止めろ。

いや、止めてくれ。

 

「ただいま……帰りました……!」

 

『あら?何やら騒がしいわね。お客さんかしら?』

 

そこにカロネとヴィオレッタが帰ってくる。カロネはどこか達成感のある表情をしていた。そのせいか、部屋の惨状には気づいていないようだったが、そこは相棒のヴィオレッタが気づく。

 

ヴィオレッタは勘が鋭いな。

 

「あー、カロネちゃん、今ちょーっと変な子がいるからこっち来ない方がいいかもしれないよ〜。」

 

「そう……なんですか……?」

 

楼閣が気を回してカロネにそう言う。カロネは不思議そうな表情をしつつ、楼閣に気を使う。

 

最近はカロネも徐々に言葉に詰まらなくなってるから会話が楽でいい。

 

「グスくんは受けなんだから掘るんじゃないの!掘られるの!」

 

楼閣が気を回したのにカフカは空気を読まず、まだギャーギャーグスタフに噛みついている。

 

それを見て、カロネの周りの空気が凍った。

 

「………………カフカ?」

 

「全面戦争じゃおらー!…………アレ?カロネちゃん?カロネちゃんが入ったギルドって、もしかしてここだった?」

 

ん?なんだお前ら、知り合いか?

 

「えぇ……幼馴染、です……」

 

「えっと……カロネちゃん?目が怖いよ?どうしたの?」

 

「カフカ、ちょっと向こうで……お話しましょうか……?」

 

ハイドリヒさん、引っ張ってきて貰えます?と目が笑ってない笑顔でカフカは言った。

 

うぉぉ……こいつってこんな怖かったっけ?

 

「ちょっ、まっ、カロネちゃん!離して!離せ離せ離せ!離せばわかる!」

 

じたばたとカフカはもがくが、グスタフが首根っこをつかんでいるため意味が無い。なんか野良猫みてぇ。

 

「ギルマス……ちょっとカフカと話してくるので……」

 

「う、うん。」

 

「絶対に、覗かないで……下さいね…………?」

 

自室にカフカを放り込んだ後、ドアの隙間から片目だけ出してカロネは言った。ちょっとしたホラーかよ。

 

「……分かった。お手柔らかに、ね?」

 

「…………保証は……出来ません……」

 

そう言ってカロネは扉を閉めた。

 

「…………なんて言うか、なぁ……」

 

「なんと言い表しましょうか……」

 

「いやはや、意外だねぇ。」

 

扉が閉まったあと、俺たちは三者三様にため息をこぼすようにそう呟く。

 

そして、その後の言葉は期せずとも揃った。

 

「「「あの子怖い。」」」




さてさて!ガンガン進めていきますよ!乱数調整です。

今回の話は前も言ったんですが、前の話の構成にあったものを二話に分けたものになります。
……えぇ、これが一話の予定だったんですよ。末恐ろしいですね。
何が恐ろしいって、この調子で話数が増えるのが恐ろしいです。私が死んでしまう。

1話のサイズをSSにはしたいものの、書きたいシーンが多いというアレ……うん、全てはカフカが悪いですね。

カフカという名前の元は、カップリングを推せるか推せないか、【可・不可】から来ています(天:どうでもいいわ)

次回、鬼のカロネ(嘘ですごめんなさい)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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はい、私は幸福です

カロネが出てこない。

 

昼前に買い物に行って、カフカが来て、昼飯前から説教が始まって、今は夕方。

だいぶ経ったがドアは開く気配すらしてないし部屋の中から物音も全くしない。

 

なんだ、あの部屋で何が起こってるんだ?超怖ぇ。

 

「キィ、何が起こってるのか説明くれ。」

 

《言わない方が面白そうなので、プライバシーの問題を盾に却下します》

 

お前は相変わらず清々しいクソ野郎だな。言わない方が面白そうなのでってなんだ。理由になってねぇじゃねぇか。

お前のことで一番むかつくのは本当の理由を言っちまうところよな。しかもわざと。

 

お前は結構な割合で自己判断をしてるから、俺はそろそろお前が何かしらの権力かGM(ゲームマスター)の弱みでも握ってるんじゃないかと思い始めたわ。

 

《恐縮です》

 

褒めてねぇわ!

 

《あの部屋の内部で起こっていることについて、詳しくは伏せますが少しだけ言っておきますと、カロネ様がカフカ様に、ヴィオレッタ様がハイドリヒ様にお説教をしております》

 

ん?グスタフも説教くらってんのか?しかもヴィオレッタに?どういうシチュだよ。

 

《一言でいいますと、『諦めずにきちんと止めなさい』だそうです》

 

なるほど、そういうアレか。グスタフの監督不行届をヴィオレッタが責めてるわけか。

 

いやしかし、ヴィオレッタは誰かが暴走するBL妄想(アレ)を止められると思うのか?俺は無理だと思う。

 

《態度の問題なのでは?諦めは増長を招くと言いますし》

 

なるほど。

 

『今戻ったぞ。』

 

そんなどうでもいいことをキィと話し合っていると、イスタカがちびっ子組を連れて戻ってきた。よほど走り回ったのかめぐめぐとコクリコの髪は乱れ放題のボサボサだった。

そしてなぜかイスタカは少しやつれている。

 

「……おいどうしたイスタカ?ひでぇ顔だぞ?」

 

『む……顔に出ていたか。実はな、【かくれんぼ】とやらをしようという話になってな。』

 

かくれんぼか。小さい子は本当に好きだよな。

やっぱ鬼から逃げるゲームで、見つかってはいけないというスリルがありつつも、身体面での優位要素を排している事が人気の要因として大きいのか?

 

いやしかし、それでそんなにイスタカがやつれてるか?イスタカは狩りやってるんだから気配察知はお手の物だろうに。

 

……もしかしてすぐに見つけすぎて何度も再戦を挑まれた、とかか?

 

『いや、そうではなくてだな……まぁお前の想像通りコクリコットはすぐに見つけられたのだが……』

 

そこでイスタカは言葉に詰まる。あさっての方向を向きながら遠い目をして話す。

 

『めぐめぐが罠を仕掛けるやら反撃やらをしてきてなかなか捕まえることが出来なかったのだ……』

 

それただの戦闘やないかい。

……ん?その間コクリコは何してたんだ?放置か?

 

『いや、その頃にはハンコックと楼閣がトレーニングをするとか言って来ていたのでな、コクリコットはそちらに混ざってトレーニングの真似事をしていたぞ。』

 

なにそれ可愛い。

 

『しかしすぐに疲れて眠ってしまった。』

 

なにそれ超可愛い。

 

『特に怪我などはなかった。安心してくれ。』

 

その辺はあんま心配してねぇな。ウチには有能なSEC〇Mがいるから。

 

『おにいちゃん!きいてきいて〜!』

 

足元に可愛さの塊がタックルを仕掛けてきた。この可愛さは悪質だと思いま《うるさいです》黙れ。

 

「ん〜?どしたコクリコ?」

 

『コクリコね、てつぼうでまえまわりできるようになったよ!ほめてほめて〜!』

 

マジかよ、成長早ぇえな。

男児3日もすれば刮目せよとは言うが、いやはや女の子の成長も早いもんだ。

 

……セナ、一応聞くがお前補助とか余計な真似してねぇだろうな?

 

『僕はただ鉄棒で遊ぶコクリコちゃんを心配して右往左往してただけだァ。』

 

ダサっ!

 

『反復横跳びでなァ』

 

カッコ……よくはねぇな、うん。ってかお前の足どこだよ。

確か、西洋の幽霊妖怪は足あるんだっけか?デュラハンとか足あるし。そんな感じでお前にも実はあるのか?足。

 

「すごいなぁ、コクリコは。今度お兄ちゃんにも見せてくれる?」

 

セナは一旦置いといて、俺がコクリコの頭を撫でながらそう言うとコクリコはパァっと目を輝かせた。

 

「うん!今度おにいちゃんにもみせたげる!」

 

満面の笑み。何だこの子可愛い。なんだこれは国宝か?

 

「うー……吐きそ〜……」

 

『弱音を吐くとはだらしないぞ、楼閣。』

 

おー、ジャスに楼閣、おかえり。

……楼閣がいつにも増してひでぇ面してるが、何があったよ?

 

『筋トレだ。軍にいた頃に俺がいつもやっていたやつだな。』

 

おぅふ……その体型になったやべー筋トレをやったのか……楼閣、おつかれ。お前のことは忘れないぞ……!

 

「勝手に殺さないでぇ〜……あー、今晩はガッツリいきたいよぉ……」

 

あの低血圧、低食欲の楼閣がこんなことを言うとは……よし、今日はかなりガッツリ米食えるやつにしよう。ビフテキだな。

 

「よし、じゃあ今から作ってくが手伝ってくれる人〜」

 

とりあえず手伝いを要請。手伝いはいればいるだけ楽になるからな。やりたがらないなら諦めるが、やりたがるなら断る理由はない。

 

……とはいえ、楼閣はグロッキーでジャスは服を着替えずにクッションに沈んだ楼閣を窘めてるから、この二人の手伝いはないな。他のメンツに期待しよう。

 

『コクリコ、おてつだいする〜!』

 

『すまない、私は少し休ませてもらう。』

 

コクリコとイスタカがそんなセリフ。まぁイスタカは正直断られてもしょうがないと思ってた。トレーニングルームで色々あったみたいだしな。

 

……ん?めぐめぐが返事してねぇな。どころかなんも言ってねぇし……寝てるのか?

 

『ハービィとお料理ぃ♡』

 

「めぐめぐ、ボスの手を煩わせないように、今すぐ手を洗いなさい。」

 

『はぁい!』

 

と思ってたらもう準備してるし……キッチンから声してきたから驚いたわ。そんで波羅はもうどっからともなく現れるレベルを超えて先に準備してやがった。

……いや、準備どころか既に米洗ってるわ。なにあの子怖い。

いや、それもこれも気にしたら負けか。

 

「あ、ボス。お米研ぎ終わったので炊きますね。いつも通り【早炊】でいいですよね?」

 

「いや、沸騰させた湯を入れて【早炊】してくれ。ものっそい早く炊けるから。」

 

「承知です。」

 

先回りしてやること聞いてきやがった。さすがはハイスペック狂信者(イエスマン)、行動だけならイケメン部門ナンバーワンだな。

 

「さて、じゃあめぐめぐとコクリコにはソースの配合をお願いしようかな。」

 

『『ソース?』』

 

二人して首を傾げる。同じタイミング、同じ角度、同じ方向で。仲良いな、二人とも。

 

「そう。お肉を焼く時にかけるやつだよ。レシピは簡単だから覚えてな。」

 

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トンテキタレ(1人前)のレシピ

 

中濃ソース 大さじ1

ケチャップ 大さじ1

みりん 大さじ1

醤油 大さじ1

ニンニク 小さじ1

 

─────────────────────

 

めちゃくちゃ簡単。ちなみにニンニクはなくても充分美味い。

 

『ぜんぶおんなじりょうだ!』

 

コクリコが鋭い。ちゃんと材料だけじゃなく分量まで見てるのが偉い…………んだけど、漢字はちょっと難しかったか。大さじと小さじの差がわかってないみたい。

さて、どうやって指摘すっかな……

 

『コクリコちゃん、ニンニクだけ違うよ?』

 

『あ……まちがえちゃった……』

 

めぐめぐが優しく訂正する。正直助かった。こういうのは距離感が近い相手から言って貰うのが聞き入れやすいからな。

訂正されたコクリコは照れて両手で顔を隠している。何だこの可愛い生物は。

 

「まぁ、量は気にしなくていい。どうせ大さじとか小さじとか使わないんだしな。」

 

というか、13人前作るのに大さじ13とかいちいちやらんわ。やってる奴がいるならそいつはきっと頭おかしいかクソ真面目かの二択だ。

 

『つかわないの〜?』

 

シンクに顎を乗せて上目遣いでコクリコが聞いてくる。シンクに届かせるために背伸びしてる、可愛い。

 

「ん?うん。使わないよ。大さじ1がだいたい15gだから、ぜんぶ200㎖入れればいい。だから計量カップを使う。」

 

『……ん?たいちょー!ちょっと多いよ?』

 

めぐめぐがいい所に目をつけた。昔、弾薬の量とか見る時に算数覚えたのか?鋭いな。

 

「ちょっと多めなのはマピヤの分だな。どんくらい食うか分からんし、そもそもトンテキ食えるかも怪しいから試しでつける分だ。好きそうならソースを増やす。」

 

無理やり食わすのはどうかと思うからな。そもそも食わせちゃいかんとかでも困るし。

 

「と、いう訳で、2人にはトンテキのタレを作ってもらいます。」

 

『『はーい!』』

 

「材料はここに置いとくね。計量カップはこっち。どうせ後で混ざるんだからいちいち洗ったり、混じるのを気にしなくていい。さぁ、頑張って!」

 

親戚の屋台を手伝った時の煽り文句でちびっ子組を焚きつける。これが案外効くんだよなぁ。ちょっとスレ始めてる小学校高学年でもわーきゃー言いながらやる気になってくる。

今回も思惑通りわーきゃー言いながらちびっ子組がソースの調合を始めた。

 

「いよっし。ならこっちはこっちで作り始めるか。波羅、サラダは?」

 

「出来てます。」

 

仕事が早すぎて怖い感あるわ。なんだコイツ、必殺仕事人どころじゃねぇレベルで仕事が早いぞ。

 

「んじゃコンソメ作っといてくれ。玉ねぎは切ってアク抜きしたやつが野菜室にある。」

 

「かしこまりました。」

 

恭しく波羅が礼をする。そろそろ波羅のこの対応に慣れたい。

 

とりあえず俺は肉を叩く。柔らかくしとかねぇと焼き上がりが不味くなる。

 

「…………ギルマス……終わり、ました……」

 

『……酷い目にあった。』

 

『まぁ、ちょっとお小言を言っただけですわ。』

 

コンソメスープが出来上がって、米が炊けた直後にカロネの部屋から説教組4人が出てきた。

……っておい、カフカの目が死んでるが、大丈夫か、そいつ?

 

「あー……うー……ん?あぁ、カロネちゃん、お疲れ様。で……ちょーーーーっと厳しすぎたんじゃないかな?カフカちゃんの目が死んでるんだけど……」

 

「そんなこと……ないです……?」

 

「なんで疑問形なの!?ちょっとカフカちゃん!?中で何があったのさ!?」

 

「はい、私は幸福です。」

 

「アウトだよ!完全にアウトだよねぇ!?」

 

「……………………??」

 

「いやカロネちゃん!?小首傾げないで!?」

 

カフカが別次元に狂って帰ってきた。マジでどんな説教だったんだよ……今の状況見たら、中で生爪剥がされてたとか言われても信じるぞ。

 

『楼閣、それだけツッコめるなら着替えられるよな?』

 

「うっ……まぁ私も汗だくのままで寝たくはないから着替えるよ。」

 

「おいカフカ、ジャス×楼だぞ。」

 

「はい、私は幸福です。」

 

これでもダメか……どうすりゃいいかな?

 

「んー……そうだ。おいカフカ、やっぱり同盟組はグス×臣だよな?」

 

「はぁぁぁぁぁ!?臣×グスに決まってるでしょうが!?……はっ!?私は今まで何を……!?」

 

よし、元に戻った。

 

「俺らのギルドホールに突貫して暴走してカロネに説教くらって今は夜。よろし?」

 

「…………はっ!そうでした!すみませんでしたぁぁぁぁぁ!!」

 

いきなりの土下座。そんなになるまで絞られたのか……ちと不憫だな。

まぁしかし、あのテンションでずっといられたらこっちが困るからカロネを止めるつもりは微塵もなかった訳だが。

 

あ、着替え終わった楼閣が戻ってきて唐突な土下座に引いてる。

 

「罪の償いとしてはアレです!とりあえず頭を冷やして後日出直そうと思っております!」

 

「あ?もう夜も遅いんだから晩メシ食ってけよ。もういい時間だし、今から帰ってメシの準備してたら遅くなるだろ。」

 

「……!?い、良いんですか?」

 

「いや、いいも何ももうお前らも頭数に入れて作ってるから今さら帰られても困る。カロネとは幼馴染なんだろ?いいから食ってけ。」

 

(…………で、いいんだよな!?楼閣!)

 

(ナイス!ナイスだよロードくん!!今すぐ叩き出したらカロネちゃんが怖いからね!後日カフカちゃんが来た時にもすぐさまお説教しそうで怖いから、ご飯誘ってちょっと話すのはいい手だよ!ロードくんナイス!!)

 

楼閣とアイコンタクトでの会議。正直、あのカロネ見たあとでアイツの幼馴染をぞんざいに扱ったり、ギルドホールから叩き出したり出来ない。後が怖すぎる。

 

「ジャスティス、楼閣、お前らの分出来たぞ。ふわっとボリューミーに仕上げたが良かったか?」

 

「うん。ガッツリ食べたいから助かるよ〜。」

 

『俺もだ。』

 

ジャスティスと楼閣の分を皿に盛り付けながら聞くが、その焼き方でよかったらしい。良くなかったら俺のにするつもりだったが、それでいいなら俺も焼きたてが食える。

 

「よし……これでちびっ子組のも完成っと……カロネとカフカは?焼き方こだわりあるか?」

 

「あ……私、は……脂、少なめで……」

 

「あ、あたしもそれでお願いします!」

 

んー、脂少なめか……んじゃ、

 

「脂燃やすか。」

 

サラダ油をフライパンにひいて肉を投入。両面をしっかり焼いてから臭み抜きの酒を入れる訳だが、

 

「ジャスティス、お前の深酒のブランデーちょっと貰うぞ。」

 

『ん?あぁ、好きにしてくれ。』

 

ジャスティスから許可をもらってブランデーを棚から取る。波羅は俺が何しようとしてるのか分かったらしく、コクリコとめぐめぐをテーブルに座らせて早く食べ始めさせていた。

 

波羅の分がないのは波羅が「ボスが来るまで待つのが部下として当然の振る舞いです。」とか言いやがったから俺と一緒に焼くことにした。美味いもんはうまい間に食ってもらいたい。

 

「んじゃ、近寄るなよ。カロネ、お前は髪長いんだから特にな。」

 

「…………?」

 

不思議そうな顔をしながらもキッチンから離れる。分かってなくても離れてくれるのは助かる。

 

「よし、んじゃいくぞー。」

 

ブランデーをコップ一杯分くらいぶち込む。アルコールの匂いがキッチンに広がるが、その瞬間火柱が上がる。

 

「うぉっ、ちょっと入れすぎたな。」

 

火柱に釣られてめぐめぐとコクリコが席を立とうとしたが、それは危ないからダメ。

サッと鉄製の蓋をして火柱を隠す。香りも入るし、炎が出るから脂も落ちる……と思う。俺は知らん。

 

「そろそろか。出た脂を捨てないとな。」

 

フライ返しで肉を押さえつつ脂を捨てる。その後ソースをかけてまた焼けば完成。

 

「ほい。二人とも食え。残したら多分めぐめぐが食う。」

 

「ありがとう、ございます……!」

 

「ありごです〜!美味しそう!」

 

二人とも嬉しそうにしてる。いいぞ、楼閣とのアイコンタクト会議の通りに事が進んでる。正直助かったという気持ちでいっぱいです。

 

『ロード、私の分は……』

 

「あぁ、今からな。」

 

『米をもう一杯もらおうと思うが、他に誰か欲しいやつはいるか?』

 

「私もご飯おかわりしよ〜っと。ジャスくん、頼んでいい?」

 

そんなふうに大人数で囲む食卓はだんだんと騒がしくなっていった。




いやはや、入りに悩んだのと長くなったので遅くなってしまいました、乱数調整です。

今回唐突なご飯回になりました。おかしい、予定ではこんなはずじゃ……

次回はこの章で一番楽しみな回なのであとがきを短くさせていただきます。

次回、太陽の沈んだ夜

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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太陽が沈んだ夜

「ごちそーさまでしたっ!美味しかったです〜。」

 

「ご馳走様……でした……!ロードさん……お料理、上手……ですよね……」

 

カフカとカロネがほぼ同時に夕食を食べ終わる。キチンと手を合わせて言っているあたりに育ちの良さが伺える。

皿をシンクに運び、さて洗い物でも手伝うかとカロネが腕まくりをし、それにならいカフカも何かすることはないかと周囲を見渡す。

 

「おー。洗いもんはこっちでやっとくから2人で風呂入ってこい。積もる話もあるだろ。」

 

しかしロードはその姿勢をバッサリ切り捨てそんなことを言う。それは彼なりの気遣いだろうか。

ちなみにこの日、ロードは夕食の調理や片付けに忙殺されており、眠そうに目を擦るコクリコの風呂をヴィオレッタに任せることとなったため血の涙を流して悔しがっていたという。

 

「えっ、いやいや悪いですって!さすがにもう帰りますよ!」

 

「あ?バカかお前?」

 

そこまで世話になる訳にはいかないとカフカが首を横に振るが、そんなカフカを冷たい目でロードは見やる。そしてため息を一つつくと説明を始めた。

 

「今何時だと思ってるんだ?」

 

「うっ、」

 

「こんな夜道を一人で帰らすか?普通?」

 

「それとこれとは話が違いますよ!」

 

「鏡みてみろ、ひでぇ顔してるぞ。」

 

「で、ですけど……」

 

カフカはもにゅもにゅと口を動かすが反論が出来ずにいる。厚意を無下にする訳にもいかないが、そこまで甘えてしまうのもどうか、といった表情で俯く。

 

その優柔不断な態度をみてロードが最後のひと押しをする。

 

「ちなみにグスタフは今ジャスティスと風呂にいる。」

 

「なんだって。今すぐ覗きに行きます。」

 

「行くなバカ。真顔で何言ってんだ。」

 

シチュエーションとしては逆だろ普通、と言ってロードはカフカの首根っこを掴む。そしてカロネの方を向いて言う。

 

「とりあえず、ジャスティスとグスタフあがってくるまでコイツ頼んだ。部屋で好きに話してくるといい。」

 

「は、はい……」

 

言い終わるが早いか、ロードはカフカをぺいっとカロネに投げる。そして用は終わったとばかりに洗い物に戻った。

 

その様子を見て、楼閣がため息をついた。

 

「ロードくん、あげる物があったんじゃなかったの?」

 

ジト目でロードを見ながら楼閣が囁く。するとロードは呆れたような声音で楼閣に言い放つ。

 

「そういうのはギルマスの役目だろ。お前以外に歓迎してやる奴の適任なんているか?」

 

そう言ってロードは手を止めず、楼閣の方も向かない。楼閣は先程よりも深いため息をつくと諦めたように手を拭いてカロネらを引き止める。

 

「あー、カロネちゃん、ちょっとだけいいかな?」

 

「は、はい……!なんの……お話、でしょうか……?」

 

カロネはカフカの方をチラチラと見ながら楼閣にそう返す。カフカの件について何か怒られると思っているのだろうか。

 

しかし、そんな素振りなど気にもとめずに楼閣は続けた。

 

「そこにあるダンボール箱、私たちからのプレゼントだよ。カロネちゃんは何もしなくていいって言ってたけど、それじゃちょっと味気ないじゃん?」

 

中身は開けてのお楽しみだよ〜。と茶化すように微笑みながら楼閣は言う。そういうのは自分の柄では無いと思っているがゆえの茶化しだろうか。

 

対するカロネは頬を朱に染め、心底嬉しそうな顔で答える。

 

「ありがとう……ございます……!カフカ、運ぶのを……手伝ってくれる?」

 

「……え?あぁ、うん!いいよ手伝う!」

 

カフカは唐突に話を振られて困惑しつつも快諾する。

そうして二人はロードが昼間に買っていたクッションを箱ごと持ってカロネの部屋へと去っていった。カロネの足取りは、心なしか軽く見えた。

 

「まったくもう……そういう手はずならその予定だってあらかじめ言っておいてよね。私びっくりしたんだから。」

 

「いやむしろ、お前がやらなきゃ誰がやるって感じだっただろうが。矢面に立つべき奴に立ってもらっただけの話だろ……っと、これで終わりだ。」

 

女子組が部屋に戻ったあと、楼閣がロードを窘めるように言ったがロードは当たり前のことを言うかのようにその意見を否定する。

そして皿が洗い終わったのを口実に半ば強引にその話を断ち切った。

 

楼閣はここでもため息をついて皿の泡を流す。楼閣が最後の皿を流し終える頃には、ロードはどこかへ行ってしまっていた。

 

─────────────────────

少女たち二人は部屋に戻り、ダンボール箱を開けた。

 

中身のクッションにカロネは目を輝かせ、カフカはクッションの上を飛んだり跳ねたりとやりたい放題だった。

 

その後グスタフたちと入れ替わりで風呂に入り、カフカがまたもはしゃぎ倒したことでロードに説教をくらって風呂のガスを止められていた。

 

仕方がないので風呂からあがり、ベットの上でしばらくの間ガールズトークに興じていた。

 

しばらく話したあと、カフカが眠たそうな目をしていたのをカロネが目敏く見つけ、2人で眠ることにした。

カフカが疲れていたのは、いつもと異なる環境で気を張っていたからだろうか。

 

「ねぇ、かやちゃん。」

 

「……なぁに、妃奈乃?」

 

横になってしばらくした後、カフカがカロネに話しかける。それはネット上の友人としてではなく、幼馴染として悩みを聞いてもらおうとしているような態度だった。

 

「あたし、このギルドに入れてもらえなかったらどうしよう。」

 

カフカが小さくそう零す。その声音は少し震えていた。

カロネはそんな友人の様子に眉をひそめつつも彼女を慰めるように告げる。

 

「……その時は、ほかのギルドを探しましょう?他にも行きたいところがあるって言ってたでしょう?」

 

「嘘だよ。」

 

カロネはそう告げることで彼女の不安を取り除こうとした。

 

しかし、カフカはいつか話した自分の言葉を否定する。

自分が行きたいギルドの一番が決まったという言葉を、否定する。

 

横向きに寝ているのでカロネにはカフカの顔こそ見えないが、彼女にはその背中が今まで見てきたどの後ろ姿よりも小さく見えた。

 

「あたしはさ、こんな趣味だから。加入した後にそれを知られて、失望されたくなかったんだよ。だから、最初からあたしを全面に押し出してたんだ。」

 

今回はちょっとはしゃぎすぎた感はあるけどね、とカフカは言う。

 

自分の趣味は少数派だと、一部の人からは敬遠されている趣味だとわかっているからこそ、一度加入したら抜けることが出来ない今、そこを1番に知って欲しかったのだろう。

 

カフカの独白は終わらない。

 

「でもさ、そうしたらみんなが言うんだ、私は気持ち悪い、異端だって。あたしはただ、ありのままのあたしを受け入れて欲しかっただけなんだ。失望させるつもりも、失望して欲しくもなかったのに、いつもそうなっちゃったんだ。」

 

少し鼻声になりながらカフカは話す。これまで自分が言われていたことを思い出し、気持ちが沈み、考えは悪い方向にばかり進んでしまう。

 

カフカの言葉はだんだんと消え入りそうになりながらも、カフカは必死で言葉を紡ぐ。

 

「だけどさ、誘ってきた人達はあたしを見てくれてない。気づいたんだ。みんなが見てたのは【腐乱の不死(オーバーフロー)】で、あたしを見てたわけじゃなかったんだ。みんな【腐乱の不死(オーバーフロー)】を見てただけだったんだよ。だから、みんな()()()を見たら引いちゃうんだ。みんなみんな、今まで見てきたギルドのみぃんながそうだったんだよ。」

 

カロネは黙って話を聞き続ける。

彼女は思ってもみなかった。自分の太陽がそんな困難を抱えていることを。

 

「ねぇ、かやちゃん。このギルドに入れなかったら、あたしはどうしたらいいのかな……!」

 

「………………」

 

少し鼻声になりながらカフカがそう聞く。カロネはその背中を擦ることしかできなかった。

 

すぐ側で大丈夫だと言ってあげる

 

それだけの事が、どうしてもできなかった。

 

───────────────────────

「あー……今日は一段と疲れた……」

 

夜も深け、コクリコを寝かしつけた後に風呂に入ったロードがあがってきた頃、楼閣が神妙な顔で机に座っていた。

 

グスタフとヴィオレッタはトレーニングルームのハンモックで、ジャスティスは楼閣の部屋のベットから肩などを豪快にはみ出しながら寝ている。

 

ロードが風呂からあがったのに気がついた楼閣がロードに話しかける。

 

「ロードくん、ちょっといいかな?」

 

「なんだ?」

 

楼閣は、とりあえず座ろっか、と言ってロードを机へと誘導する。

着席後、何かを言おうとする楼閣を遮ってロードが口を開いた。

 

「それで、話ってなんだ?カフカのことか?」

 

「……そこまでわかっちゃってるんだ。」

 

楼閣は困ったようにはにかむ。そんな雰囲気を誤魔化すような表情をした楼閣にロードは言った。

 

「まぁな。お前の考えてることはだいたい分かるよ。それに、#コンパス(こっち)に来てからずっと同じ屋根の下だからな。」

 

「そっか……」

 

なんとも言えない空気が流れる。どちらもなにも語らず、ただただ見つめ合う。

 

その空気を破ったのは、楼閣からだった。

 

「カフカちゃん、なんだけどさ。あの子、どうしようね?」

 

「…………ま、そこだよな。もう申請は来てるのか?」

 

「……うん、来てるよ。」

 

ポツポツと二人が話し始める。楼閣はどう伝えたものかと必死に考えていて、ロードはそれを待っていた。

 

「まぁ、問題が多いからな、アイツ。カロネの時は押し切られて考える暇もなかったけど、考えねぇわけにはいかねぇからな。」

 

「…………やっぱり、厳しいんだ。」

 

楼閣の表情が沈む。なんとも形容し難いその表情は、今まで見たことがないほど暗く見えた。

しかしロードはそんなことなど意にも介さないかのように話を続ける。

 

「まぁ、そりゃな。部屋割りとかも決めねぇといけねぇし、ヒーローと別部屋にするかとか、風呂の順番とか時間をどうするかとか、増築する施設は何がいいかも含めれば、結構な数の問題があるだろ。」

 

「…………へ?」

 

楼閣が不思議そうな顔をしてロードの方を見る。するとロードは狼狽しているかのような表情を見せた。

 

「あ?なんだ違うのか?じゃあやっぱめぐめぐと波羅も部屋変えた方がいいとかか?でも俺、ヴィオレッタとめぐめぐを同室にするのは反対だぞ?」

 

「い、いや……そうじゃなくてね?」

 

楼閣があたふたしながらなんとか言葉を紡ぐ。

 

「ロードくん、カフカちゃんをギルドに入れたげるつもりなの?」

 

楼閣は思っていた。カフカの元気が空回りしていると。何かによって追い詰められているからこそ、あのように空回りしてしまっているのではないかと。

だったら、カロネという友人がいるギルドに入れば、カフカの元気が少しは戻るのではないかと。

 

ゆえに楼閣は考えていた。ロードはあれだけカフカをギルドに入れないと連呼していたのだから、きっとカフカをギルドに入れることには反対なのだろうと。

そして、ロードをどのように言いくるめてカフカをギルドに入れようかと。

 

だからこそロードから出てきたその言葉は、楼閣を困惑させた。

 

ロードはため息をついて諭すように楼閣に語りかける。

 

「…………楼閣お前、ギルド紹介文忘れたのか?【キミが望むのであれば、私たちはキミを救おう。】とか言ってたのはどこのどいつだ?むしろお前は、俺をどうにかして丸め込もうとする方だと思ってたぞ?」

 

「い、いや、もちろん私も歓迎するつもりだったけどさ、ロードくんめちゃくちゃ反対してたじゃん?」

 

ロードが少し呆れながら楼閣に言う。楼閣はその展開についていけなくなりつつも、疑問を投げかけた。

 

ロードは当たり前の事のようにそれに答える。

 

「まぁ、あのままなら俺も入れる気はなかったさ……でもカロネが、あのBL機関車のブレーキがいるんだ。アイツが止めるなら別に問題ないだろ。あいつらは()()なんだ。心配することはないだろ。」

 

それに、と言ってロードは続ける。

 

「あんなひでぇ顔してる奴を、ほっぽり出すわけにはいかねぇだろ。」

 

不機嫌そうな顔でロードは楼閣に言い放つ。冷たいような物言いだが、彼はこんなふうにしか言えないのだと楼閣は知っている。

 

「はっはは!!」

 

楼閣が笑う。勝手にあたふたして、言葉を選んで、そのようなことをしていたのがバカらしいとでも言いた気に。

 

そして楼閣は、楽しそうにロードに言う。

 

「ロードくんも、むっつりだよねぇ。」

 

「うるせぇ、言ってろ。」

 

太陽が沈んだ夜。

けれど、太陽はまた昇るのだ。




また長くなってしまいましたすみません。乱数調整です。

しんみりした回は書いてて楽しいですけど内容が面白くないですし書きにくいです(天:いや知らんわ)
ネタをブッパできる回は次いつ来るのやら……

そういえば、【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルド紹介文読み返すために自作を読み返したのですが、今のものとかなり印象違いますね。
書いてて楽しそうなのに加えて勢いでゴリ押してる感じがいいですね。コクリコも可愛い。

……ちょっと待て、最近コクリコの可愛い回が無くはないか?

次回、頭を冷やして戻ってこい

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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暁の放浪

翌朝、かなり早い時間に動く二つの人影があった。

それらはコソコソと、まるで盗人のように家主たちに気づかれないよう動いていた。

 

「……どこ行くんだ?」

 

その人影に話しかける者が一人。ロードだ。

人影が驚いたように振り返る。

 

「……ロードさん。気づいてたんですね。」

 

カフカとグスタフだった。

 

「いや?気づいちゃいなかったな。いつも起きるのがこのくらいで、たまたまお前らの物音に気づいたってだけだ。」

 

それで?とロードはカフカが何をしようとしているのかを訊ねる。こんな朝早くから何をしようとしているのかを、訊ねる。

 

「出ていくんですよ。」

 

カフカはロードを正面から見据えそう言った。

視線は逸らさないが、その目はなにかに怯える小動物のように弱々しかった。

 

「これ以上いたら、カロネちゃんにまた甘えちゃいますから。一度頭を冷やして出直してきます。」

 

「…………そうかよ。まぁ好きにしろ。」

 

ロードはぞんざいにそう返す。そしてカフカを一瞥するとキッチンの方へと戻っていった。

 

それを見て、カフカも玄関を出る。

 

「…………ねぇグスくん、ちょっとだけ歩いてもいいかな?」

 

『……あぁ、いいぞ。どこにでも着いていく。』

 

カフカは扉を出て立ち尽くしていた。しばらくした後、貼り付けたような笑顔でカフカがグスタフにそう訊ねる。グスタフはカフカのそんな顔が痛々しくて、目を逸らす。

 

「それじゃあ、緑化区画に。」

 

くるりと身をひるがえすとカフカは後ろを振り向かずに歩き出す。

 

ずんずんとカフカは進む。グスタフはそれに着いていく。2人ともなにも喋らない。

二人は当てもなく歩いていく。

 

ある時ふとカフカが立ち止まる。

カフカが止まってじっと見つめていたのは【月下の寵鐘】──友人であるカロネが勇気をだして啖呵を切った場所だった。

 

『カフカ!少し休め。体がもたないぞ。』

 

「…………うん。」

 

二人は傍にあったベンチに腰掛ける。まだ朝の早い時間だからだろうか、周囲には誰1人として見えない。

 

沈黙が降りる。2人の雰囲気がどこか気まずそうで重苦しく感じた。

 

『どうしたカフカ?暗い顔をするなんてお前らしくもない。』

 

グスタフが語りかけるがカフカはなにも言わない。グスタフはそれを見て言葉を紡ぐ。

 

『ふん、いい薬だ。今回の件でお前も懲りただろ。カロネに説教をくらって少しはマシになったんじゃないか?頭を冷やしてもう一回──』

 

「無理だよ。」

 

グスタフの言葉を遮り、驚くほど冷たくカフカは言う。グスタフは思わず口を噤む。

 

「もう、無理だよ。あれだけ無理だって言われたんだ、もう、あたしはどこにも行けないよ。」

 

『……それはまだ決まってないだろう。【孤独者達の宴(ロンリネス)】に断られたからといってなんだ、だらしない。憶測で物事を判断するな。』

 

グスタフはそう言ってカフカを宥めるが、当のカフカの顔色は優れない。

 

「最後の砦だったんだ。」

 

ポツリとカフカが呟いた。

 

「あのギルドはさ、助けてって言ったら助けてくれるって紹介文にあったんだ。もうここしかないって思ったよ。今まで何件も、何十件も断られて、今では「見学に行きたい」って申し入れをしただけで断られる始末だから、この人たちしかいないって思ったんだ。」

 

カフカは虚ろな目で遠くを眺めながら続ける。

 

「だって名前が【孤独者達の宴】だよ?救われると思ったんだ、報われると思ったんだ。孤独になったあたしを、こんな趣味のあたしを、受け入れてくれると思ったんだ。でも、そうじゃなかった。手切れ金代わりにご飯を食べさせてもらって、泊めてもらって、それで終わりだよ。あたしの帰るところは、なかったんだ。」

 

カフカは何かを隠すように腕で顔を覆う。グスタフは何をすればいいのか分からず、ただそれを見守るだけだった。

 

しばらくして、カフカが顔を上げる。表情はまだ暗く、なんとも言えない酷い有様だった。

それを見てグスタフは問題を先送りにするように別の会話を始める。

 

『落ち着いたか?』

 

「…………うん。」

 

『なら一度帰るぞ。もういい時間だ。メシを食ってアリーナで憂さ晴らしをしろ。俺が敵に絶望を見せてやる。』

 

「うん、そうだね!切り替えていこう!」

 

カフカは傍から見ても分かるほどの空元気でグスタフに答える。その姿は見ていて痛々しかったが、グスタフは言葉を飲み込んだ。

ここで何かを言っても下手な慰めにしかならないだろうと考えて。

 

「帰ろっか。あたしたちのホームに。」

 

『……あぁ、今日も一日忙しくなるぞ。』

 

二人はベンチから立ち上がると空を操作して緑化区画から姿を消した。

 

その二人が現れたのはひとつの扉の前。

カフカは扉に手をかけるがなかなか開けることが出来なかった。

 

『おい、早くしろ。』

 

「……もー、急かさないでよ。」

 

カフカはおどけてそう返すが、その目に少しだけ悲しみの念が浮かんでいたのをグスタフは見逃さなかった。

 

そしてカフカは扉をおもむろに開ける。

 

「ただいま!……って誰も──」

 

「おせぇぞお前ら。どこまで行ってたんだ?」

 

カフカのおふざけを遮って声を発する者がいた。

 

「え……なん、で……?なんでロードさんがここに!?」

 

ロードだった。

 

「なんでもクソもあるか。ここは【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルドホールで、お前はそのギルメンだろうが。」

 

ロードは当たり前の事のようにカフカに言いきる。

 

しかし、カフカもそれで納得ができるはずがない。

 

「いつの、間に?」

 

「あ?早々と申請飛ばしてたのはそっちだろうが。いつ、とかなんで、とかお前が聞くか?」

 

「だって……絶対に入れないって……」

 

「お前が止まんねぇならな。酷けりゃカロネが止める。つうか一回止めた。ならいいだろ。」

 

「でも……だって……」

 

カフカの質問にロードは易々と答えていく。カフカが心配していたことは何か分かっていると言うかのごとく。

 

けれどカフカはそう簡単に信じることができないのか、まだもにょもにょと口を動かして何かを伝えようとする。

 

「うっせぇ。」

 

それをロードが一喝して止め、続ける。

 

「そもそも、だ。俺たちのギルドに入るのに論理なんて要らねぇんだよ。誰でも受け入れるってウチのギルマスが言って聞かないからな。そりゃ入れたくない奴もいるが、何とかしてそれが解決できるなら、ギルマスの意見を覆せるだけの回答はないんだよ。」

 

そこまで懇切丁寧にカフカに言うと、ロードはため息をついて頭をガリガリと掻き、窘めるようにカフカに言い放った。

 

「だから、ちったぁ俺たちを頼れ。俺たちが無理でも幼馴染なら話せることもあんだろ…………今日からここがお前の帰るべき場所(ホーム)だ。」

 

そこまで言って照れくさくなったのかロードはくるりと踵を返して歩き出す。

 

カフカはしばらく呆然としていたが、奥からロードの「早くしろ」という声がかかり我に返る。

そして嬉しそうに、笑った。

 

「……はい!」




今回、遅かった上に少し短いですごめんなさい。乱数調整です。

今回も話が進みません!もう少し進める予定だったのですが、それも入れてしまうとかなりの分量になりそうだったので分けました。そっちはもう少しかかります……

次回、孤独者達の会議(は、タイトルじゃないんですけど……)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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とあるギルドの御茶会議

「おっしゃ、お前ら食べながら聞け。」

 

自分の分を作り終え、席に座るやいなやロードが着席している皆に向かってそう言う。朝食は皆がパンケーキという可愛らしいものだった。

 

「むあ?まむめむま?もーもまんまもむまにまめむまむて。」

 

『カフカ、確かにロードは食いながら聞けとは言っていたが食いながら話すな。行儀が悪いぞ。』

 

「?なんでしょうか……?」

 

それを聞いて、聞いたとおりに食べながら聞こうとそのまま発言をするカフカをグスタフが諌め、カロネが不思議そうな顔をして小首を傾げた。

 

コクリコはロードに蜂蜜がベッタリとついた口をナプキンで拭かれており、それを見てめぐめぐは波羅渡に拭いてもらおうと口の周りに蜂蜜を付けていた。

 

「こういうのはギルマスの役回りなんだが……だよな、お前はそういう奴だ…………ギルドについての相談だ。」

 

ロードは話しながらチラリと楼閣の方を見るが、悪戯っぽく微笑んで首を振る楼閣を見て諦めたらしく、いつもの様にため息をついて話し始める。

 

ロードの左手はコクリコの口元を拭き終わったらしく『えへへ〜♡』と笑うコクリコの頭を撫でていた。

ちなみに、同じようにして波羅渡に口元を拭いてもらおうとしていためぐめぐの口はヴィオレッタに拭かれた。

 

「ギルドについての相談?」

 

「??もう少し……詳しく、お願いします……」

 

カフカとカロネが同じように首をかしげて詳しい説明を求める。

するとロードはいつかのぶれどらの絵が描かれているホワイトボードをどこからともなく持ってきた。あの絵まだ残ってたのか。

 

「とりあえず議題は、ここに書いてある4つだ。」

 

そう言うとロードはホワイトボードを裏返す。

 

──────────────────────

第一回【孤独者達の宴(ロンリネス)】ギルド会議

 

・新規加入に伴う施設増築について

・ギルメンの部屋割りについて

・今回の宴について

・俺の俺による俺のための超個人的な相談

 

──────────────────────

 

「結構多いですね。」

 

「ほら、ロードくんって変なとこ真面目で、なんでも全部やりたい欲張りさんだから。」

 

「おい楼閣!この議題については昨晩お前と決めた内容だろうが!」

 

カフカの零したつぶやきに楼閣がレスする。ロードは楼閣の返答の内容が気に食わないらしく噛み付いていた。

話が大幅に横筋にそれ始める。

 

「えっ……欲張りでなんでもヤりたがる……!?なんですかその話kwsk!!」

 

が、そんなことなど知らないとばかりに暴走する少女が一人。もちろんカフカだ。彼女はロードの話も横筋も本筋も盛大に無視して我が道をゆく。

 

「おいバカ楼閣!お前のせいでまたこいつがおかしくなっただろ!」

 

「え〜…………私、いくらなんでもここまで酷いとは思ってなかったよ……」

 

キレるロードとカフカにかなり引いている楼閣。二人ともカフカから若干距離をとる。

その間もカフカの妄想は暴走を続ける。

 

「いったいダレとナニをやりたがるんですかロードさんは!!波羅さんですか?楼閣さんですか?あ、ジャスティスはダメですよ!ジャス×楼は正義ですから!」

 

止まらないカフカの暴走に割ってはいる者、否、唯一割り込める者が現れた。

 

「カフカ?」

 

カロネだった。

目だけが笑っていない笑顔で静かにそう言うと、カフカはビクッと震え、すぐにしょぼしょぼと萎れて静かになった。

 

「なぁ楼閣、俺ずっと前にチョロっと見たプリキュア舐めてたわ。【笑顔は世界を救う】って嘘だと思ってたんだが、マジなんだな。明日からプリキュア見よっと。」

 

「ロードくん、それ多分意味合い違うよ?だからプリキュア見ても無駄だと思うよ?」

 

それを見ていたロードと楼閣はある種の感動を覚えた。

ロードに至っては趣味嗜好が歪んでしまいそうにさえなっていた。

 

『その件についてはカフカが全面的に悪かったが、早く話を進めてくれ。』

 

『そうですわね。決めてしまわないといけないことは早く決めてしまいましょう。』

 

グスタフとヴィオレッタからそんな声が上がる。

 

ちなみにジャスティスはもう慣れた、何を言っても無駄だと言わんばかりに別の遊具の設計をしており、めぐめぐは蜂蜜の再チャレンジを始めている。

コクリコにいたっては『おにいちゃんだっこ〜!!』とロードにだっこをせがみ、抱えられている。

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】初期メンヒーローズが大概自由だった。

 

「よし、じゃあ続けるぞ。」

 

「えっ、その格好で続けるの?下ろすなりなんなりしようよ。」

 

コクリコを抱えて説明を続けるロードに楼閣が説明を求めるが盛大に無視される。

ロードは話を進める。

 

「まず、だ。カロネとカフカ(お前ら2人)の加入で新しい施設の増設が出来る。何か増築したい施設があるやつはいるか?」

 

「記念か──」

 

「却下。お前いつもそれだな。他のを頼む。」

 

ロードは片手を挙げて挙手による発言を促す。先程のようにおかしな発言を防ぐためだろうか。すると楼閣が手を挙げた。

 

「ん、楼閣なんだ?」

 

「ちょっと思うんだけど、どんな施設があるかを把握してないと発言のしようがないよね?キィちゃんとかに出してもらおうよ。」

 

「あぁ、確かにそうか。おいキィ、頼めるか?」

 

《仕方がないですね》

 

楼閣のもっともな発言をロードは肯定し、素早く行動をする。もっとも、それを頼まれたキィは少し呆れたような素振りを見せたが。

 

────────────────

・会議室・書庫・収納スペース・ロビー

・教悔室・和室・ゲストルーム・書斎

・茶室・シアタールーム

────────────────

 

《この辺りになります》

 

「……ん?キィちゃん、【温泉】があるってベガちゃんに聞いたんだけど、実はないの?」

 

キィが設備拡張の具体案を出すとそれに違和感を覚えたのか楼閣が質問を返す。

 

《いえ、【大型冷蔵室】や【分子調理室】などの明らかに必要ではなさそうなものは省いており、【温泉】はその中のひとつです》

 

「あぁ、そうなの。私的には温泉いいなぁって思ってたから欲しいんだけど……みんなはどうかな?」

 

キィはたんたんと説明し、それを受けて楼閣が皆に提案をする。

 

「えー……あたしは書斎とか欲しいんですけど……」

 

「カフカ……?どんな本を入れるつもりですか……?」

 

「え!?べ、別に普通の本ダヨ〜……チョットダケ」

 

『大きなお風呂!楽しみだわ。』

 

『疲れを癒すのは必要な事だな。』

 

「いいんじゃないですか?」

 

各々がそれぞれの意見を述べる。大体のメンバーから肯定的な意見が上がる。珍しいことにロードは何も言わなかった。

 

「……波羅ちゃん、ロードくんが怖いよ。いつも欣喜雀躍で否定してくるロードくんが否定してこないよ。」

 

「ボ、ボス!もしかして何か悪い病気なのでは!?」

 

「お前らは人をなんだと思ってるんだよ!」

 

楼閣がその事に(おのの)き、波羅渡にかなり真剣な面持ちで相談をしていた。

それに納得がいかなかったのかロードは怒鳴り返す。

 

「YESロリータNOタッチを地で行く少年。」

 

「オーケー分かったぶっ殺す。」

 

ロードが殺気立つ。しかしコクリコは抱えたまま下ろさない。

 

「それはいいんだけどさロードくん、じゃあなんでロードくんは今回否定しなかったのさ?」

 

「あぁ、それはな、人数が増えて風呂の時間の調整が面倒だなと思ってな。デカい風呂があれば時間を気にせずに入れるだろ?」

 

「なるほど、そう見れば実用性も兼ねてるわけだねぇ。」

 

即否定しなかったロードの理由に楼閣は納得する。昨夜話していたとおり、ロードは自分で色々と考えていたらしい。

 

「そんじゃ、楼閣の言うように風呂でいいな?キィ、詳しくはどんな種類の風呂があるんだ?」

 

ロードがキィに向かってそう訊ねる。キィはしれっと聞き返す。

 

《どのような種類をお望みでしょうか?》

 

「ふぅん……その口ぶりだと、お前またいろいろ勝手するんだろ?」

 

《お褒めに預かり光栄です》

 

「褒めてねぇわ。」

 

キィの口ぶりにピンと来たロードが皮肉混じりに返すとキィはなぜか照れた。

ロードは仕方がないと諦め、続ける。

 

「んじゃ、種類は発案者の楼閣が決めてくれ。どうせガスも電気もタダなんだ。思いっきり豪華にするといい。」

 

まぁそうさせてもらうよぉ。と楼閣は慣れた口振りで返す。唐突に振られるのに慣れたのだろう。

この口ぶりのせいで他にも色々と無茶ぶりをされるようになったのは、また別の話。

 

ロードは次の議題へと移る。

 

「んじゃ、次は部屋割りだな。」

 

こちらはすんなりと決まった。

まずは男女別で分け、幼馴染のカフカとカロネは同室に。めぐめぐはヴィオレッタが責任を持って見ると言い同室。

ジャスティスはハンモックで寝ると言ったのでグスタフが一人部屋と相成った。

 

ちなみにコクリコについては

 

「俺とコクリコは同室として──」

 

という一言からロードが話題を初め、その後も1度たりとも譲らなかったため波羅渡と楼閣が同室、コクリコとロードが同室という形で決着がついた。

 

議題は粛々と次へ移る。

 

「んじゃ次。今回の宴……ってか歓迎パーティーについてだな。こっちは主催に任せるわ。」

 

そう言ってロードは楼閣を指し、半ば強引にバトンを渡す。

 

「えっ、私?」

 

もっとも、バトンを渡された楼閣はかなり戸惑っていたが。

 

楼閣はロードをジト目で睨めつけるが、ロードはすでにコクリコと対話を始めており、楼閣のことなどアウトオブ眼中、知らぬ存ぜぬを地で突き進んでいた。

 

楼閣はうーんと少し考え込んでから諦めたように話を始める。

 

「カロネちゃんの時はやらなかったけど、歓迎会、今回はやろうと思うんだ。」

 

そんな何気ない一言から楼閣は話を切り出す。あまり堅苦しい雰囲気にするのは好きではないのだろう。

 

しかし、それをノータイムで否定する者がいた。

 

「ちょっ、そんな大層なことしなくても構いませんって!」

 

カフカだった。一応彼女も自らのやらかしたことに引け目を感じていたのかその申し出を断る。

すると、それに対する回答を予め考えていたかのように楼閣はスラスラと発言する。

 

「気にしなくていいよ。この前【宴会場】を増築したんだけど、今のところ完全に腐ってるんだよねぇ。使う機会がそうそうあるものでもないし、こんな時くらい使わせてよ。」

 

「そ、そうは言っても悪いですし……」

 

「それにさ、【孤独者達の宴(ウチ)】には引きこもってる子がいるんだよねぇ。カロネちゃんもまだ会ってないし、この機会に一回引きずり出したい訳だよ。」

 

少し腹黒楼閣の一面を滲ませながら楼閣は言う。

 

「まだ、人が、いたんですか……」

 

「男の人ですか?女の人ですか?」

 

「男の子だよ。」

 

「\パン/ヨッシャwwwキタァァァァァァァアアアアアwwwwwwwwwww(高い声で)ウワヤッタァァァァァァアアアアアア」

 

カロネが少なからず驚き、カフカはその性別を訊ねる。

楼閣が男だと答えるとカフカのテンションは青天井。もはや不治の病なのではないか?

 

「それじゃやる方向で行くけど、何か食べたいものとかある?」

 

いちいち反応していては身が持たないと言わんばかりに楼閣はカフカを無視して話を進める。楼閣はスルースキルを手に入れた。

 

「あ、あたし揚げ物が食べたいです!」

 

『めぐめぐはお肉っ!お肉食べたいっ!』

 

『俺は、何か辛いものがいい。生きてるって感じがするからな。』

 

『デザートなどもいいですわね。わたくしがお作り致します。』

 

カフカやヒーローたちが次々に意見を出していく。そんな中カロネは、自分の要望を言っても良いものかと考え込んでいた。

 

そこに楼閣が助け舟を出す。

 

「カロネちゃんは?何か食べたいものない?」

 

「えっ……私は……」

 

そう言うとカロネは伏し目がちに黙りこくる。それを見て楼閣は続ける。

 

「ホントはさ、カロネちゃんの時もやってあげたかったんだ、歓迎会。カロネちゃんの居場所はここにあるんだって知って欲しかったからね。」

 

無理強いは良くないって諦めたけどね。と楼閣は苦笑する。そして続ける。

 

「だからさ、今回の歓迎会はカロネちゃんも主役なんだよ?なんでも好きな物を言っていい。ワガママだって構わない。さぁ、何が欲しい?」

 

「楼閣、それ言っても作るの俺なんだけどな?」

 

楼閣は優しくそう訊ねる。するとロードから冷たい指摘が飛んできた。

 

「お前、自分が作るから〜みたいなこと言ってるけど、作るの俺だぞこんちくしょう。」

 

「いやだって、ロードくんなら作ってくれるじゃん?」

 

「俺は態度の問題だっつってんだよ!」

 

あはは〜、ロードくんが怒った〜。と楼閣は相変わらず飄々とそれを躱す。それを見てカロネはオロオロしていた。

 

ロードはこれ以上何を言っても無駄だと思ったのか、楼閣への追求を止めてカロネに向き直る。

 

「んで?何が食いたいんだ?」

 

「えっ……でも……悪い、ですし……」

 

「うっせぇ。遠慮しぃは好かれねぇぞ。どうせ言うだけタダだ。」

 

ロードはカロネの遠慮をピシャリと却下する。ぶっきらぼうだが要望を言いやすい雰囲気を作り出す。

 

「では……チーズフォンデュ、を、食べてみたい……です……」

 

「よし、できる限りやってやるよ。」

 

ロードは笑顔でそう言った。カロネが自分の要望を言えたのを言祝いているのかもしれない。

カロネも心做しか頬が緩んでいるように見えた。

 

「はいはーい、それじゃ歓迎会についてはこのくらいにしとこっか。最後、ロードくんの個人的な相談を──」

 

「いや、それはまた今度にする。」

 

楼閣が再び司会をロードに譲ろうとした時、ロードが遮って会議を締めようとする。

 

「ん?どうして?」

 

「何でもだ。雰囲気とかいろいろあるだろ。ま、晩メシの時にでも言うわ。それまでは解散。」

 

「ふぅん……まぁいいけど。」

 

それじゃ、今日も一日頑張っていこー。と楼閣は気の抜けた挨拶をすると、その場はお開きになった。




少し遅くなりました。乱数調整です。

さてさて今回は、施設拡張と部屋割りとかいう面倒な設定を先に終わらせてしまおうという回でした!(天:その設定作ったのお前だけどな?)

なかなかいいセリフが思いつかずににっちもさっちも行ってなかったんですけど、いやぁ、とりあえず終わってよかった!

次回、宴の前に

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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クッキングロード

「いや〜ヴィオレッタ、買い出し手伝いサンキュー。人数増えて買い出し量も増えたからマジで助かったわ。」

 

『ふふふ、これくらいなんでもありませんわ。』

 

俺は楼閣主催の歓迎会の買い出しにコクリコとヴィオレッタと3人で行っていた。

 

ちなみに波羅はカフカと楼閣と組ませてアリーナに行かせたから居ない。さすがに3タンクはガンナー相手に薄くなるって話になって戦いは苦手だというカロネはパスしたからガンナーに白羽の矢がたった訳だ。

だから楼閣はあの波羅専用変態デッキを使ってるわけなんだが……ぶっちゃけ波羅の戦い方にカフカは困惑しねぇかな?

 

…………今なんか波羅×楼だって叫ぶカフカの声が聞こえた気がする。

 

「ま、いいか。気にしたら負けだろ。それよりそろそろ作り始めんと時間がやべぇし。」

 

マピヤ含めれば13人分もメシを作るのは正直かなりキツいし時間がかかる。

よくアニメとかドラマとかで弁当を作る時「一人分作るのも二人分作るのも一緒だ」とか言ってるが、一人分作るより二人分作る方が手間がかかるし大変だ。人数が増えればその分大変になる。まぁこれ、当たり前の話なんだが。

 

つまり何が言いたいかって、結構しっかり食う奴が沢山いるこのギルドに関しては、調理の苦労は加速度的に増えるってこった。

 

そんなことを考えながら食材をシンクに並べていると、いつの間にかヴィオレッタが調理器具を並べ終えていた。

こいつわざわざ用意まで済ませてくれたのか。ありがてぇ。

 

「ヴィオレッタ、何から何まですまん。」

 

『構いません。それで次は何をいたしましょうか?』

 

ヴィオレッタはごく自然にそう訊ねた。

 

「……?なんで急に?」

 

『買ったものを見る限り、リクエスト全てに応えるつもりなのでしょう?おひとりで作るには多すぎますわ。』

 

「や、まぁだから早くから準備してるのであってだな……」

 

『それに、朝の会議の最後の話題はそのお話でしょう?作るのが大変だから手伝って欲しい、なんてあの雰囲気では言い出せませんしね。ですからわたくしにも手伝わせてください。』

 

ヴィオレッタは俺の言いかけたことを汲み取った上でそう言う。

ヴィオレッタの考えはほぼあってる。最後の話題は料理についての話だ。少し違うのは「全員別で作るの大変だから大皿料理にさせてくれ」って話だったんだが、それと今晩の話を一緒にされちゃ困るから黙ってた。

 

ちくしょう、なんだよこの気遣いできるイケメンは。

いやヴィオレッタは男じゃないし【men】は複数形なんだが。

 

『コクリコもおてつだいするよ!』

 

天使が満面の笑みでそう言う。この笑顔を守る為なら俺はあの魔王(カフカ)にだって喧嘩を売れる。

 

「うん。ありがとね、コクリコ。」

 

『えへへ〜。』

 

わしわしとコクリコの頭を撫でてからエプロンを着せる。コクリコが手伝いたがるのが増えたから今日買ってきた。

 

俺は女の子が喜ぶような色合いがわからんから、ヴィオレッタがいてすげぇ助かった。ヴィオレッタは機能性を重視しつつコクリコが喜ぶだろうものを選んでくれた。そのにらみ通りにコクリコは俺が食材を冷蔵庫に入れてる時からエプロンを着ようとして、結局着れずにエプロンがぐちゃぐちゃになっていた。ワクワクしてたコクリコはとても可愛かった。

 

『ではやっていきましょう。』

 

『はーい!』

 

コクリコは片手を上げて元気にお返事。守りたい、この笑顔。

 

とりあえず先に、今日のメニューを出しておこう。

 

────────────────

・天ぷら

・唐揚げ

・麻婆豆腐

・シーザーサラダ

・チーズフォンデュ

────────────────

 

おぅ……こう見るとやっぱ作る量が半端じゃねぇな……全部を温かい時に食おうと思ったら……

 

「唐揚げの仕込み→天ぷら準備→揚げ油準備から……」

 

『ではその後、わたくしが揚げますのでロードさんは麻婆豆腐を作っていただけますか?』

 

スっとヴィオレッタはそう提案する。ぶっちゃけそうしてくれると俺も助かるし、油が飛んでコクリコが火傷することも無いから心配もいらないんだが……

 

「いや、逆にしよう。」

 

『どうしてです?』

 

「音楽家は手が資本、だろ?火傷したらどうすんだ?」

 

ヴィオレッタはしばしキョトンとした後、クスクスと笑っていう。

 

『お優しいのですね。』

 

「言ってろ。早くやるぞ。」

 

そう言いながら俺はジップロックに一口サイズにした鶏肉を入れて下味を付ける。混ぜた調味料を適当にぶっ掛けてあとは揉むだけ。

 

「はい、じゃあこのお肉揉みたい人!」

 

『はいはい!コクリコやりたい!』

 

ぴょんぴょんと跳ねながらコクリコは自己主張する。可愛い。

 

「じゃあお願いしようかな?」

 

『やったー!』

 

両手を天高く挙げ、コクリコは喜ぶ。そんなコクリコにジップロックを渡すとコクリコは一生懸命に小さな手でもみもみする。真剣な表情で頑張るコクリコは最高です。

 

「そんじゃ、こっちもやってくか。」

 

『野菜の下準備は終わりましたわ。次は何をいたしましょうか?』

 

ヤバい、ヴィオレッタの手際が良すぎる。今からやらんといかんことを下準備の間に終わらせてる……

 

「正直めっちゃ助かる。天ぷら衣作ってくれるか?材料は冷蔵庫に冷やしてあるから混ぜといてくれ。その間に唐揚げ粉と油用意しとくから。」

 

『承知しました。』

 

ヤバい、これもうほぼ揚げるだけになってんじゃん。ヴィオレッタ最高。一家に一台ヴィオレッタ。

 

そんなことを思いつつ唐揚げ粉と油を用意すると、服の裾をくいくいと引っ張られる。そちらをちろっと見るとコクリコが涙目で立っていた。

 

「……コクリコ、どうしたんだ?」

 

『おにいちゃん……おててがじんじんするの……』

 

おっと、心配してかなりトーンがマジになっちまったが、一生懸命にやりすぎで手が冷えたのか。肉冷たいし、温める物を用意するの忘れてたから悪いことしたな……そんなになる前に変わってあげるつもりだったんだが、そんなことを言ってももう遅い。

 

霜焼け……にはなってないな。

 

「ホントだ、めちゃくちゃ冷たい。一生懸命頑張ってくれたんだね。コクリコありがとう。」

 

コクリコの手を握り、目を合わせてコクリコにそう言うとコクリコはふにゃりと笑って言った。

 

『おにいちゃんのて、あったかいね。』

 

天使って実在したんだなぁ……

 

『ロードさん?大丈夫ですか?よろしければこちらをお使いください。』

 

そう言うとヴィオレッタはレンジで温めた濡れタオルを渡してくる。触ってみるとぬるい感じで、冷えきった手に優しい熱さになっていた。

 

「重ね重ねすまんな。」

 

『いえ、ギルドの一員ですから。お気になさらず。わたくしはホットプレートを出しておきますわね。』

 

演奏は力仕事ですからこのくらいは造作もありません。とヴィオレッタは言ってホットプレートを宴会場に持って行った。

 

……あいつも楼閣と同じでむっつりだな。

 

「よし、じゃあ揚げてくか。コクリコは──」

 

『コクリコもやりたい!』

 

ホットタオルで元気を取り戻したコクリコはまたも元気に挙手する。まぁ、粉を付けるくらいならいいだろう。

 

コクリコが揉んだ鶏肉を冷蔵庫に入れて、コクリコと一緒に天ぷら用の具材に爪楊枝を刺す。

爪楊枝を刺しとけばコクリコも衣が付けやすい。正直それ以外に爪楊枝をつける理由はない。

 

「んじゃ、俺はサラダを──」

 

「もう出来てますよ。」

 

「おぉ、波羅さんきゅ……」

 

って波羅!?お前なんでここに!?

 

「も、申し訳ありません!そろそろボスが支度を始める頃かと思って急いで5-0にし、帰ってきたのですが間に合いませんでした……!」

 

怖い。いやもう端的に言って怖いこの子。

 

「いやぁ……大変だったんだよロードくん。もう一戦で終わりって言ってるのに波羅ちゃんってば「ボスが支度を始めるんです!早く帰らないと!」って騒ぎ出すからさ……」

 

おぉ楼閣。そうか、こいつはマッチしてから騒ぎ出したのか……はた迷惑だなおい。

 

「波羅ちゃんは無茶な特攻するし、カフカちゃんはそれを見て暴走するし……まぁ、その暴走で勝ったからよかったんだけどさ……」

 

またアイツか。今回はいったいどんなふうに暴走したんだ?

 

「なんか、「ロー×波羅を邪魔する輩!死すべし!死すべしぃ!!」って叫びながら【オールレンジ】ぶっぱなしたり通常攻撃したりでこっちも無茶な特攻してくれたよ……」

 

楼閣の顔が死んでる……

 

『もういい楼閣……お前はあの場で正しい判断をしたんだ……二人の体力管理を一人でするのは辛かったろ、どうだ?クッションで少し休んでいいんだぞ?』

 

あのクッション完全否定派のジャスティスが楼閣にクッションを勧める……だと……!?どれだけの修羅場が最後の一試合で行われたんだ……

 

そう言われてみれば楼閣の表情は、本人が隠してはいるがグロッキーなのが伺える。

 

「楼閣、とりあえずお前は休んでろ。準備が出来たら呼んでやるよ。」

 

「あはは〜……ごめんねぇ……」

 

そう言うと楼閣はあっちへフラフラ、こっちへフラフラと頼りない足取りで部屋に戻った。よし、あいつはギリギリまで寝かせといてやろう。

 

「ボス、もう揚げ始めてよろしいでしょうか?」

 

波羅が俺にそう訊ねてきた。まさかこの短時間で具材全てに衣を付けたのかと思って見てみると、3分の1程の分量が残っていた。

しっかりコクリコのやる分を残してるのが素晴らしい。

 

《だんだんとあなた(ロリコン)に侵食されていますね?由々しき事態です》

 

キィ、黙れ。

 

「おう始めてくれ。ただし、コクリコに油跳ねがつかないようにな。」

 

「離れているので大丈夫かとは思いますが……細心の注意を払います。」

 

それでいい。

 

さて、じゃあ俺は唐揚げの準備でもしますか。

 

『ただいま戻りましたわ。あとは宴会場に出してあるホットプレートの上にチーズソースの元を置いて溶かせば完成する状態にしておきました。わたくしもそちらをお手伝いいたします。』

 

ヴィオレッタが戻ってきた。少し遅かったが大丈夫だったか?

 

『えぇ、具材も一緒に持って行ったのでそちらも準備していたのです。それに少し手間取ってしまいまして……』

 

「いや、そこまでやってくれたのはぶっちゃけ予想外だった。じゃ、早く揚げて持ってくか。」

 

「はい。」『えぇ。』

 

そうして宴の準備は着々と進んでいった。




調理回で一話が終わるのはもはや風物詩、乱数調整です。

ぶっちゃけ、調理回の方がバトル回より多くて長いんじゃないですかね?いいのかそれで。

今回は少しだけではあるものの、可愛いコクリコが出てこれたんじゃないでしょうか?どうやって可愛いコクリコを出そうかと考えて考えて書き上げました。話の流れを守りつつ自然にコクリコを出すのは難しい。

次回、面倒なやつが大暴れ

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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イヤイヤ期

「嫌です!絶対に出ませんから!」

 

宴の準備を終えた俺たちは最後のギルメン──ドクを部屋から出すべくドクの部屋の扉の前から呼びかけていたが、当の本人からはそんな言葉が。

 

「なんでだよ。ギルメンとして交友は深めておけよ。」

 

「そういう華やかな場は苦手なんです!だいたい僕言いましたよね?!もう宴には出ないって!」

 

いやお前、なんでそんなに嫌がってんだよ?頑なに断るほどのものか?

 

「当たり前ですよ!前回だって、あんなに熱いもの(唐揚げ)を無理やり口に突っ込まれて……!」

 

まだ根に持ってんのか、それ。

お前が場を盛り下げるような恨み節をブツブツ言ってるからだろ。

完全に自業自得じゃねぇか。

 

楼閣も波羅もそう思っているであろう冷ややかな目を扉に向けていたが、そんなことなど意にも介さない暴走列車が一人。

 

「【あんなに熱いモノを無理やり突っ込む】!?なんですかその話!?kwsk!!」

 

「うるせぇ!関係ねぇからお前は黙ってろ!!」

 

カフカだ。

目をキラキラさせて口からヨダレを垂らしながら100点満点の笑みでこっちを見てくる。ウザい。

 

『……ロード、お前まさか…………!?』

 

「グスてめぇ、違ぇからな!?文句を言う口を出来たての唐揚げで塞いだだけだからな!?」

 

グスタフが汚物を見る目と恐怖の眼差しが7:3くらいの目でこっちを見ていた。

やめろ、そんなふうに俺を見るな。

 

「どんなふうにですか!?……はっ!もしかして「ワガママな口だな……俺ので塞いでやるよ」みたいな……!!ダメですよロードさん!波羅さんという人がありながら!キャー!!」

 

「うるせぇ黙れ!!」

 

なんでこいつはいつもいつも変な方向に妄想が行くんだよ!!俺はちゃんと説明してんだろうが!

 

「あ、あの……楼閣さん……止めた方が……」

 

「はっはっはっ。あそこまでタジタジなロードくんなんて見たことないよ〜」

 

てめぇ楼閣!笑ってんじゃねぇ!!あとカロネ!お前しか止められねぇんだからブレーキとして機能しろよ!

 

「ねぇカロネちゃん、面白いからもうちょっと放っておこうよ。」

 

「は、はぁ……」

 

楼閣てめぇぇぇええええ!!

そんでカロネも!「まぁそういうことなら……」みたいな曖昧な表情で頷いてんじゃねぇ!止めろ!!

 

「なんでですか〜!ロー×波羅が1番お似合いですけど、ロー×ドクも似合ってますよ〜!!」

 

だからなんなんだよこいつは!!

 

「おい波羅!!お前からもなんか──」

 

「ボスと……お似合い……!?」

 

「おいやめろ。嬉しそうにするのやめろ!!」

 

そんでカフカ!お前は見逃すものかとじっくり見るな!何も起こんねぇぞ!

 

「とにかく!僕は今回は絶対に出ませんから!」

 

ドクはそう言うとガン無視を決め始めた。

 

「あーあ。ドクくんが拗ねちゃったよ。めんどくさいねぇ。」

 

楼閣がそう愚痴をこぼすが、その通りだ。あいつは普段はなよなよしてて流されやすいくせに意地っ張りだから手に負えない。どうしろってんだよ、あんな奴。

 

『ロードも楼閣も、なぜあのように断る者を招こうとするのだ?放っておけばよかろうに。』

 

『そうだな。俺も気になっていた。ああいう輩は放っておけばいいだろう。』

 

イスタカとグスタフが俺たちの行動に疑問を示す。まぁ実際、軍では精神病に罹った人とかは【役立たず】とか【臆病者】として切り捨てるし、参加する意思が見えない奴をしつこく誘う理由がよくわかんないんだろ。

 

「楼閣、説明してやれ。」

 

俺が楼閣にそう言うと、楼閣はため息をついての肩を竦める。ヤレヤレ、じゃねぇんだよ。

 

「ドクくんはさ、いっつも部屋に引きこもって一人で作業してるんだよ。本人は強がってるけど、他の人の批判に弱いし、責任の所在を自分に求めちゃうんだよねぇ。」

 

だからさ、と言って楼閣は続ける。

 

「だから、こういう時くらい、無理やりにでも気晴らしさせてあげたいじゃん?」

 

楼閣は困った子供をあやすような笑顔でそう言った。

 

イスタカとグスタフはそれを聞いて納得したかのように頷いている。そういう経験が二人にもあるんだろうか。

 

「ま、でも料理も冷めちゃうし先にみんなで食べ始めちゃおうか。ゲームしながらでも、カラオケしながらでもいいよ。」

 

楼閣がそう言ったが、俺的にはこの発言は意外だった。

 

楼閣はいつも「ご飯食べる時にテレビ見たりゲームしてちゃ冷めちゃうでしょ?」と言って会話以外のことを飯の間にするのを嫌うのだ。

そんな楼閣がゲームやカラオケをしながら飯を食うと言ったんだ。天変地異の前触れか?

 

「あ!じゃあ私あれやりたいです!みん〇のリ〇ム天国!」

 

いの一番に挙手したのはカフカだった。選んだゲームはみんなお馴染みの【み〇天】

リズムに合わせてポーズを決めたりシャトルを打ち返したりするゲームだ。

 

「お?お前にしては珍しく普通のゲームじゃねぇか。意外だな。」

 

「意外ってなんですか!私がどんなゲームをしようって言うと思ってたんですか!?」

 

「BLゲー」

 

「うっ……マ、マッサカー。イイマセンヨソンナコト。」

 

語るに落ちたな。

 

「ちなみに、何をやるつもりなんだ?」

 

「【合唱】です!ほらあの「あーー「あーー「あーー」」」「みんなで」「「「ンア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」」」って部分がいいと思うんですよねぇ!愚腐腐……!みんなでナニをしてるんでしょうねぇ……!」

 

うん、意味がわからないね。

 

「カ、カフカちゃん、それは二人プレイまでしか出来ないからやめとこうね?最低でも4人で出来るやつにしよっか。」

 

「そうだな。なら【マ〇オカート】とかがいいんじゃないか?準備してくるわ。」

 

楼閣がいい感じに助け舟を出てきたおかげで方向転換に成功した。

それに【マ〇カ】ならハンドル操作もあるからやりやすいだろ。ヴィオレッタとかグスタフ、ジャスティスあたりも馴染みやすく、コクリコとめぐめぐは若いからすぐに順応できる。イスタカだけは無理。

 

『ふむ……車を運転するシュミレーションゲーム、ですか……面白そうですわね!』

 

『ふん、俺がお前たちに絶望を見せてやろう。』

 

『皆、俺に続け!』

 

ドクの説得を諦め、隣の宴会場に俺たちはガヤガヤと移動を始めた。

 

 

「それじゃ、カロネ、カフカの加入を祝って、乾杯。」

 

俺がそう音頭を取ると、皆一様に「乾杯」と言ってグラスをぶつけ合う。最初は話を交えて楽しい食事をしていた。

途中で腹一杯になったカロネが「皆さん、今日作った曲なんですけど……聞いて貰えますか?」と言ってゴリゴリのロック曲を歌ったり、カフカが暴走したりしていた。

 

そして今は、【マ〇カ】をしている。

 

『ロード、邪魔だ!そこを退け!』

 

「うるせぇ!コクリコの覇道は誰にも譲らん!」

 

「ボス、援護します。」

 

『ハンコックさん、わたくし達も協力しませんか?なんとしてもこのお二人を抜き去るとしましょう。』

 

『ふんっ!つまらん児戯だな。』

 

「グスくん、いい加減操作覚えよ?」

 

「なんか……ゲームの趣旨が、変わってる……気が……?」

 

「あっはっは。面白いから放っておこうよ。」

 

『ふむ……この鉄の塊の中に入ってぶつけ合って戦う電脳遊戯(げぇむ)というやつなのだな?』

 

『…………イスタカ、やってみるか?』

 

「あー!グスくん出来ないからって人に投げちゃダメだよ!」

 

「いい加減にしてください!うるさいですよ!」

 

宴会場のドクの部屋側のドアを勢いよく開けてドクが出てきた。俺たちはレースを中断してドクを見る。ちなみにコクリコだけは大きな音で驚かないようにセナに耳を塞がせた。

俺は波羅と素早く行動を開始する。

 

「今だ波羅!あれが獲物だ!」

 

「Sir.Yes,Sir!」

 

「ちょっ!?なんですか急に!?」

 

波羅の一瞬の行動にドクはなすすべもなく組み伏せられる。

 

「グハッ!?そ、そうか、その組み合わせは想定外だった!」

 

『おいカフカ!大丈夫か?!急に鼻血を噴いて倒れた……新種のウイルスかなにかか!?』

 

…………オーケー、俺は何も聞かなかった。

 

「何するんですか!」

 

「メシだ。ちゃんと食えってこの前言っただろ?」

 

「いつもちゃんと頂いてます!ボイちゃん!助けてください!」

 

『……モウシワケアリマセン。』

 

「……ボイちゃん?」

 

ボイドはドクに頭を下げて助けることを拒否する。

不思議そうにボイドを見るドクに俺はわけを話す。

 

「今回の件な?ボイドが心配してたんだよ。お前はいつもメシを流し込むように食ってすぐに作業に戻るから、ちゃんと休めてるのか心配だってな。」

 

休憩や気晴らしは誰にとっても必要なものだ。誰もがそんなものを必要としていないなら誰も五月病にはならないし鬱にもならない。

 

あいつだからいけるだろ、好きだから大丈夫だってのは一種の圧力になるから、定期的に引きずり出して強引にでも気晴らしさせんといかんだろ。

 

それがストレスになるって言われちゃどうしようもないが、籠るのを諦めさせたあとは基本自由だから多分大丈夫……だと思いたい。逆効果?それはよく聞こえないから却下する。

 

『モウシワケアリマセン。デスガ、ワタシハドウシテモアナタガシンパイダッタノデス……』

 

「そうでしたか……心配かけてすみません、ボイちゃん。」

 

皆さんも、ここまでしてもらってすみませんでした。とドクは総員に頭を下げる。

 

『気にするな。さ、お前の席はそこだ。』

 

ジャスティスに誘われ、ドクは着席する。

ここからが宴の本番だ。全員揃って楽しもう。

 

なぁに、夜はまだまだこれからだ。




再び投稿です。乱数調整です。

正直、遊んでいるだけの回ですね、ハイ。書きたいネタも結構消費出来ましたし、楽しい回でした。

ちなみに今回でこの章は終わりです。締まりませんね。

次回、新章突入

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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2周年記念短編 夏祭り

マイナーなパロディネタを少し含みます。


夏祭り

 

学生にとっては夏休み、普段とは異なるどんちゃん騒ぎができる大きなイベントでもあり、友人と夜遊びができる日でもあり、いつもと違う異性の──もっと言えば意中の相手の──浴衣姿を拝むことの出来る、年に一度の大きなイベントだ。

 

「だからといって、【#コンパス】の中でもやるとは思ってなかったんだよなぁ……」

 

ロードはコクリコを肩車しながらそう呟いた。コクリコはロードの頭の上であちこちをキョロキョロと物珍しそうに見ていた。

 

本日#コンパスはアリーナを全面封鎖し、夏祭りを行っている。

どうしてアリーナを全面封鎖したのか。理由は簡単、ステージを会場として使っているからだ。

 

それもただのステージではない。ステージ名【太鼓で祭りだドーン!】実装前のコラボステージをGM(ゲームマスター)が大盤振る舞いにも解禁したのだ。

 

そして【孤独者達の宴(ロンリネス)】一行はその会場にいた。

 

「でも夏祭りなんて、GM(ゲームマスター)も思い切ったことするよねぇ。」

 

「本当に。粋な計らいでしょうか?」

 

と言っても歩いているのはロード、波羅渡、楼閣の3人。ドクは絶対に行かない、人の多いところは苦手だと言って外出を断固拒否していた。

 

カフカとカロネは二人で別行動。楼閣が「私たちについてきたら気を使っちゃうでしょ?だから二人でのんびりしてきなよ。」と言って二人にしたのだ。

その際カロネは少し寂しそうな表情をしていたのだが、楼閣はそれを遠慮しているのだと捉え、その旨を伝えた。もしかするとどうしてもカフカを離しておきたかったのかもしれない。

 

ちなみにイスタカは『マピヤが興奮してしまうと悪いからな』と少し寂しそうに笑って断った。

 

「カフカちゃんとカロネちゃんとは打ち上げ花火の時間に待ち合わせしてるし、それまでは自由行動だねぇ。それまではカフカちゃんいないし、今日は羽を伸ばそうよ。」

 

『そうだな。休息は取れる時に取っておくべきだ。』

 

楼閣が晴々とした表情でそう言った。やはりどうしてもカフカと別行動をしたかったらしい。

もちろん3人のヒーローも付いてきており、めぐめぐははぐれないようにと波羅渡と手をつなぐことが出来てご満悦だ。

 

「ま、花火まで時間もあるし、それまでは自由行動でいいだろ。楼閣はどっか行きたいとこあるのか?」

 

「んー?特にないねぇ。ロードくん見てた方が楽しいかもしれないよ〜。」

 

「俺は見世物かなんかか?大所帯で動き回っても邪魔になるだろ。」

 

「んー……そういうものかな?」

 

波羅は絶対ついてくるし……とロードは言い、諦めたかのように先頭を行く。

コクリコはロードの肩の上でキョロキョロと辺りを見渡しており、何度か落ちそうになっていた。その度にセナが真っ青な顔をしてなんとか支えていたが。

 

そんなコクリコが大きな声を出す。

 

『おにいちゃんっ!あれなぁに?!』

 

「ん?どれだ?」

 

コクリコが指さしていたのは射的の出店。彼女の視線はその1番上の棚にあるウサギのぬいぐるみに釘付けだった。

ロードはそれを見て丁寧に答える。

 

「あれは【射的】っていうんだよ。あの鉄砲を使って棚の上のものを落とせたら、それが貰えるんだよ。」

 

「ロードくん、あってるけど【使って】って部分が絶妙にずっこいよ?」

 

「知るか。とりあえずね、欲しいのを落とせば貰えるんだよ。」

 

『へぇぇぇぇ!』

 

コクリコは目を爛々と輝かせて聞いていた。視線はまだウサギのぬいぐるみから離れない。

そんなコクリコの様子を見て提案する。

 

「コクリコ、やってみる?」

 

『いいの!?』

 

コクリコが期待の眼差しでロードを見下ろす。ロードはコクリコを抱えおろし、射的の出店へと向かう。

 

出店で店員をやっていたのは金髪の若い男だった。当然ロードはその男を知らないが、男はロード─ロリコンの王─を知っている。

 

「おっ、ロリコンの王!一回どうだ?」

 

「誰がロリコンだ。一回頼む。」

 

「ロリコンの王だろうが。一回500BMだ。まいどあり!これがピストルで弾は5発。ここには手を当てないでくれ、指が吹っ飛ぶぞ。」

 

ロードは普通に代金を支払い、コクリコにそのピストルを渡す。

 

「コクリコ、頑張って。」

 

『うん!うさちゃんもらうんだぁ〜!』

 

結果から言うと全然ダメだった。5発中3発は的が大きいからか当たりはするがぬいぐるみはビクともしなかった。

 

「あー、残念だな。またやってくれ!」

 

『うぅぅぅぅ……!』

 

「コクリコ、残念だったね。」

 

コクリコはぬいぐるみを手に入れられず、涙目になっていた。その様子を見て男はほくそ笑む。

 

(当たり前だ。ぬいぐるみとか人気のありそうないくつかの景品は台に固定してるから落ちるわけがねぇんだよ!)

 

男は泣きじゃくるコクリコとそれを宥めるロードとを見てもう一度挑戦させようと近寄る。

 

「いやー、もう少しで落とせそうだったんだがなぁ……どうだ?もう一回やらねぇか?」

 

ここでロードを躍起にさせればかなりの額を儲けることが出来るとふんだ男はそう言ってロードを煽る。するとロードは乗ってきた。

 

「やってやるよ。波羅、コクリコにりんご飴でも買ってやっといてくれ。戻ってくる頃には俺があのぬいぐるみ取っといてやるよ。」

 

「……かしこまりました。」

 

波羅渡は何か言いたげだったがそれだけ言うと、めぐめぐを使ってコクリコを宥め、りんご飴を買いに行った。

 

楼閣は何も言わず、何か言いたげなジャスティスを制して見守る。

その様子を見て男は勝利を確信し、笑みをいっそう深くする。

 

「おうこらてめぇ、もう一回だ。」

 

「おう!まいどありぃ!」

 

ロードは静かにピストルに玉を込める。それを見てどこかから野次馬が集まってきた。

 

(何回やっても取れるわけねぇもんをせいぜい頑張って取ろうとしてくれや!)

 

集まる野次馬を見て男は更にいい稼ぎになりそうだとほくそ笑む。そして自身の輝かしい未来を思い描く。

 

「……ここだな。」

 

その時ロードは引き金を引いた──店主目掛けて。

ピストルから放たれたコルクは何も知らずに妄想を続ける男に直撃する。

 

「……!?痛え!?おいコラてめぇ、なにしやが──」

 

「2発目ぇ〜。」

 

「ギャッ!?」

 

コルクが側頭部に当たり、男が激怒してロードの方を向くと、ロードは顔色を変えずにすぐさま2発目を男のこめかみに打ち込んだ。

男はこめかみを押さえて痛がるが、ロードは意にも介さず3発目、4発目と男に打ち込んだ。

 

男は狭い出店の中で暴れ、尻もちをつく。景品棚から景品がばさばさと落下する。

 

5発目を打ち終わり、ロードが男が復活するのを待っていると男はロードの胸ぐらを掴み怒鳴る。

 

「てめぇ、何しやがる!痛てぇじゃねぇか!!」

 

「あー、わりィわりィ。手が滑っちまってな。」

 

ロードは全く悪びれずに男にそう言う。男の怒りはヒートアップする。

 

「それで済みゃGM(ゲームマスター)は要らねぇんだよ!てめぇ、いい加減に──」

 

「ところで、あんだけお前が暴れたってのにあのぬいぐるみといくつかの景品は落ちてないんだが、なんでだろうなぁ?アレには根っこでも生えてんのかねぇ?」

 

男がまくしたたていた所にロードが冷ややかに追求した。男は思わず固まる。

ロードは続ける。

 

「まさか、落とせないようにしてた、なんてことはないよなぁ?そうだったら詐欺だよなぁ?ん?」

 

「え、あのっ……そ、それは……」

 

「まぁまぁまぁ、落ち着けよ。お前が俺の胸ぐらつかんでるから注目はこっちだ。後ろなんて誰も見てねぇよ。ほら、楼閣とジャスティスがちょうど横にいるから横からも見えてねぇし?条件次第じゃ黙っといてやってもいいんだぜ?」

 

ロードは笑顔で男を脅す。男の顔色はどんどん悪くなっていった。

 

「じょ、条件ってどんな?」

 

「いやなに、黙っててやるから固定してる景品くれよ。」

 

「はいかしこまりました!ぬいぐるみですね!?」

 

男はすぐさまぬいぐるみを取り外し、ロードに渡す。しかしロードは笑顔のまま続ける。

 

「あ?それだけか?」

 

「こちらも差し上げます!ありがとうございました!」

 

「んー……まぁいいか。せいぜい頑張れよ。」

 

ロードは景品を半ばカツアゲし、コクリコを探しに行った。

 

通りを3人で歩きながらコクリコ達を探しに向かう。

その道中、楼閣はロードに一つ質問を投げかける。

 

「それにしてもロードくん、なんであのぬいぐるみが固定されてるのに気づいたの?」

 

「あぁアレな。いやぁ、まさか固定してるなんて思ってなかったわ。」

 

「……はい?」

 

ロードの返答に楼閣は目を白黒させる。

 

「店主に弾ぶつけて棚に当てて落としゃ貰えるって思ってたが、まさか固定してあるとはなぁ。あっはっは。」

 

「何その発想!?ちょっとロードくん怖いよ!?」

 

「ん?どこが?ピストルを【使って】落としゃいいんだろ?」

 

「【傷害罪】ってナイスな言葉、知ってるかい?」

 

「あはははははは、あはははははははは。」

 

「何その乾いた笑い方!?」

 

楼閣の追求をロードはのらりくらりと躱す。

 

しばらく歩いているとべそをかきながらりんご飴を食べているコクリコと、同じくりんご飴を食べながら慰めているめぐめぐ、それを見てオロオロするセナとロードを信じて待つ微笑の波羅渡が見えた。

 

「おーい、取ってきたぞ〜。」

 

ロードがそう声をかけると波羅渡がコクリコにその旨を伝えた。コクリコがとぼとぼとロードに近寄ると、ロードの手にあるぬいぐるみを見てぱぁっと目を輝かせた。

 

『おにいちゃんありがと!おにいちゃんすっごいんだね!』

 

「ふふ、そうか?」

 

『うん!』

 

コクリコは笑顔でテディラビと一緒にそのぬいぐるみを抱いた。

 

『テディラビ、おともだちだよ!』

 

と言ってぬいぐるみとテディラビの顔合わせをしている。ロードはその微笑ましい光景を見ていたが、なにかに気づいた波羅渡に話しかけられる。

 

「ボス、そのもうひとつの紙袋は一体?」

 

「ニン〇ンドーSㅇitch」

 

「さすがにございます。」

 

「いや波羅ちゃん!?その反応おかしくない!?普通落とせないとかあるじゃん!?」

 

「ボスですから。」

 

波羅渡はごく自然に賞賛の辞を述べ、その事につっこんだ楼閣に一言で釈明をしていた。楼閣はそれで納得したのか諦めたのか、それ以上は何も言わなかった。

 

「あとちゃんと落としたお菓子とかも巻き上げ……貰ってきたから明日にみんなで食べような。」

 

『『わーい!』』

 

コクリコとめぐめぐは何も知らず、ロードの言いかけた言葉も気にせず喜んでいた。

 

『皆、そろそろ約束の時間だぞ。場所取りも兼ねて早く行くぞ。』

 

ジャスティスの一声に総員は「そうだな」とか『うん!』と言って場所取りに向かう。

 

さて、件の花火大会の会場まで行くと、ヴィオレッタとグスタフが場所取りを既にしていた。

 

『あら、早かったのですね。』

 

「ん?ヴィオレッタ、そっちこそえらく早いな。わざわざそんな前列取らなくても楽しんでくれればよかったのに。」

 

ロードはヴィオレッタを心配してそう言うが、ヴィオレッタは首を横に振る。

 

『いえ、たまたまヒイラギさんと会いまして。なんでも深川さんの花火の打ち上げをシラヌイさんと手伝うことになったそうで。たまたまその場にいたわたくし達にこの場所を譲っていただいたのですわ。』

 

「ヒイラギちゃんって、私がこの前ドクくんとイスタカさんとアリーナに行った時の子?」

 

『その通りです。』

 

ヴィオレッタはそう言って首を縦に振る。

 

「そんじゃ、俺達も食うもん買ってくるか。グスタフ、ヴィオレッタ、お前らなんか食いたいもんあるか?」

 

『俺は勝手がわからん。任せる。』

 

『わたくしもおまかせしてよろしいですか?』

 

「了解。任せとけ。」

 

そうして一行は再び買い出しに繰り出した。

 

 

──────────────────────

 

「ふーかがーわやー!」

 

花火が始まった。空に大きな火の花が咲く。

多種多様な色や形の花火が絶えず夜空を彩っていた。

 

コクリコとめぐめぐは二人でベビーカステラを、ヴィオレッタとグスタフはたこ焼き、カフカとカロネはわたあめ、ロード、波羅渡、楼閣、ジャスティスは焼きそばを食べていた。

 

花火が上がった瞬間に先程のようにロードが叫んだのだが、コクリコは不思議そうにロードを見て言った。

 

『ふーかがーわやーって、なぁに?』

 

「ん?あぁ、今のは花火を作った人のお店だよ。凄い花火を見たらこうやって言うんだ。」

 

『へぇ〜……ふーかがーわやー!』

 

コクリコはロードのマネをして叫ぶ。可愛い。

 

『はなび、きれいだね!』

 

「うん、そうだね。」

 

綺麗なのはコクリコだ!と言いたげな表情でロードはコクリコと目を合わせる。わしわしと少し乱雑に頭を撫でるとコクリコは嬉しそうにはにかむ。ベビーカステラはもういいのだろうか。

 

ロードはコクリコを抱えあげ、膝の上に乗せて一緒に花火を眺めていた。

 

しばらくしてコクリコがロードに質問を投げかけた。

 

『おにいちゃん!はなびってどうしておそらでひかるの?』

 

「ん?それはね、火薬を使ってるからだよ。違う色に光るのを使ってるから綺麗なんだ。」

 

『へぇ〜!』

 

コクリコは目を輝かせながら花火に注目し続ける。

そんな中、ロードは焼きそばを食べようと焼きそばを取り出す。コクリコは見たことがない食べ物に興味を惹かれる。

その様子にロードは目ざとく気づいた。

 

「……ん?コクリコも食べてみる?」

 

『いいの!?』

 

「もちろん。じゃ、ちょっと待ってね……」

 

ロードはそう言うと、焼きそばを購入した際に付いてきた小袋を取り出して焼きそばにかけた。

 

『??おにいちゃん、それなぁに?』

 

「ん?あぁ、これはね、【かやく】だよ。これをかけると美味しくなるんだ。」

 

ロードはよく混ぜた焼きそばを口に運ぶ。

すると、

 

『ダメっ!』

 

コクリコが大きな声を出し、ロードに抱きつく。ロードは驚いて食べるのを止めた。

しかしそんなことを知らないコクリコはロードに泣きついて続ける。

 

『ダメっ!たべちゃダメっ!!』

 

「落ち着いてコクリコ。なんで食べちゃいけないの?」

 

『だって……だっておにいちゃんがばくはつしちゃう!』

 

可愛い思い違いをコクリコはしていた。

ロードはしばらくポカンとした後、理由が分かったらしくくつくつと声を抑えて笑い始めた。

 

「コクリコ、あのね──」

 

花火を背に、ロードはコクリコに優しく説明を始める。

 

祭りの熱は、まだまだ冷めやらないらしい。




ロリ#コンパスジャスト2周年です。乱数調整です。一話と投稿時間まで合わせてみました。

次回は新章突入だと言ったな……アレは嘘だ。
この短編を入れるために5章を終わらせたり、短編書き上げたり頑張りました。褒めてください。
ちなみにこれは続きません。【胡蝶の夢】と同じ扱いです。アレは一夜にして消えましたが、こちらは消えません。2周年ですから。

2年経って75話しかやってないってどうなんだ……

次回こそ、新章突入

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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風呂場紹介

6章の入りが全然思いつかなくて、絶賛悩んでいたらそのものが書けなくなってしまったのでリハビリ用に書いた小説です。


風呂が出来た。

施設拡張の内容が決まってからひと月後の事だった。

 

「思ってたより時間かかったな。」

 

「いやぁ、どうせタダならいろいろ付け足そうと思ってねぇ。いろいろとオプション付けてたらこんなにかかっちゃったよ。」

 

楼閣ははにかみながらそう伝える。

 

「「こんなにかかっちゃったよ」じゃねぇんだよ!その間俺がどんだけ苦労して風呂の順番決めてたと思ってんだ!」

 

「あはは〜。ごめんねぇ。」

 

うるせぇ黙れ!とロードはすごい剣幕で楼閣に噛み付くが、楼閣は飄々と躱している。いつも苦労させられている意趣返しだとでも言いたそうだ。

 

「でもさ、その分ギルメンの意見を反映できたからいいじゃん?カロネちゃんだって、すごく楽しそうに決めてくれたよ?」

 

「んー……ま、ギルメンがかんでるならいいか。船頭多くして船山に登ったんだろ。んで?風呂はどんなかんじなんだ?」

 

「ん。じゃあ案内するよ〜。」

 

そう言って楼閣はロードといつの間にかいた波羅渡を引き連れて大浴場へと入っていく。

ちなみに女湯の方はカロネがカフカとコクリコに内装の説明中だ。コクリコは1人で走り回って怪我をしないようにカロネと手を繋いでいた。

 

ちなみにめぐめぐが波羅渡について行こうとしたためヴィオレッタに説教をされており、ジャスティス、グスタフはその部屋の出入り口を塞いでいる。

イスタカは祈りの時間とのことで部屋で瞑想していた。

 

ドクは言わずもがな引きこもりである。

 

楼閣は、脱衣所の説明は後でね〜、と言って一旦脱衣所をスルーして浴場に入った。

 

「まずここが大浴場ね。いちばん広いお風呂だよ。左側に洗い場があるからそこ使ってね。」

 

入ってすぐに一行の目に飛び込んでくるのは大浴場と近くにある洗い場だった。

 

湯船は大きく、男子メンバー全員で入ってもまだ余裕がありそうだという印象を受ける。

波羅渡がおもむろに湯船に手を漬けると、その手には気泡が次々とついた。

その様子を見てロードがこぼす。

 

「……炭酸泉か。お前らしいな。」

 

「これだけはどうしても欲しかったんだよねぇ。疲労回復、肩こり、血流改善にいいからね。」

 

楼閣は苦笑してそう言う。どうしても欲しかったという言動からはかけ離れた表情だったが、メンバーは真意が分かったらしく「そうだな」「そうですね」と追求はしなかった。

 

肩こりと血流不順

パソコンなどの座り作業を長時間していると起こりやすい身体の不調だ。

 

楼閣もそれ以上は何も言わず、その他の説明に入る。

 

「それから、洗い場の奥の方ににサウナもあるよ。ほら、あそこに2つの扉が見えるでしょ?左の扉は蒸し風呂だからサウナと間違えないようにね。水風呂はここからだと隠れて見えないけど、一応あるよ。」

 

楼閣はサウナに入るようなことをせずに遠目から説明し、次こそが本番だと言わんばかりに皆を先導する。

 

「さてさてお立ち会い。これが遅くなっちゃった理由でもあるこのお風呂の目玉、露天風呂だよ。扉が2つあるけどまずはこっちから。」

 

そう言って楼閣は扉を開ける。

 

「………………やりやがったな。」

 

「お見事です。」

 

一行は中に入って絶句する。

理由は至極簡単。

 

「【立体交差のある風景】そのフィールドの一部を貰って作った露天風呂だよ。お風呂も大きいし、遠くまで続く森は綺麗で、お風呂に入りながら木光浴気分が味わえるよ。」

 

【立体交差】のステージがあるはずの場所に繋がったからだ。そこにステージの面影はなく、檜でできた大きな3種類の浴槽があるのみだった。

 

「……おいキィ」

 

《なんでしょうか?》

 

ロードは楼閣の説明を聞き流し、自らの案内人(キィ)に質問を投げかける。

 

「お前、今回は何をやらかしやがった?」

 

《なんてことはありませんが……端的に言いますと、露天風呂にしたかったエリアの2km四方をアクセス禁止にしただけです》

 

案内人(キィ)はサラリと答える。正直、()()と言えてしまうような規模の話ではなかったが彼女にとっては些事に過ぎないようだ。

 

「やっぱお前はやらかしてん……まて、[露天風呂にしたかったエリア]ってことは、ここだけじゃないのか?」

 

いつものようにロードはため息をついて半ば諦めたように言うが、途中で何かに気づいたようでキィに再び質問を投げかけた。

 

《その通りですがなにか?》

 

「やっぱかお前ぇ……マジでGM(ゲームマスター)の弱み握ってんだろ、お前。」

 

《黙秘します》

 

「はいはい、とりあえずそこまでにしてね。今キィちゃんも言ったように、ここから最短でも1km先にしかステージはできないらしいから覗きとかは心配しなくていいよ。」

 

楼閣はパンパンと手を叩いて意識を集めつつそう補足した。

そして湯船についても説明を入れる。

 

「3種類の浴槽があるのが見えるよね?真ん中の大きいのが炭酸泉、丸っこいのが集まってるあそこの一帯が壺湯、掛け流しになってるやつが天然泉だよ。」

 

これは別の露天風呂でも同じだから覚えといてねぇ。と楼閣は締めくくり、1度露天風呂から退出するよう声をかけ、一行をもうひとつの露天風呂へと案内する。

 

「これがもうひとつ。【ちゅら島リゾート】だよ。例によって2km四方は何も無い。潮風が気持ちいいよ。」

 

嬉しそうに楼閣は紹介するが、ロードは半ば呆れたように質問をする。

 

「はぁ……お前、ステージ2つぶんどってこんなもんを……」

 

《はい?》

 

やれやれといった具合にため息をつくロードの言葉を、案内人(キィ)が遮った。

 

「いやお前、《はい?》じゃねぇだろうが!【立体交差】と【ちゅら】の2つアク禁してんだろ!?」

 

《え?いえ、それだけではありませんが?》

 

「はぁ!?」

 

ロードが案内人(キィ)に食ってかかったが、ロードが思い描いていた以上に予想外な返答を受け、ロードは何も言えなくなっていた。

楼閣は説明の手間が省けたと言いたげに割って入る。

 

「今キィちゃんが言ってた通り、女湯にも露天風呂があるよ。向こうは【妖華帝都ケルパーズの散歩道】と【グレートウォール】だね。【グレウォ】の滝からはマイナスイオンが出るらしいよ。身体にいいかもねぇ。科学的根拠はないけど。」

 

しれっと説明する楼閣をロードはただただ唖然として見ている事しか出来なかった。

 

「お前ら滅茶苦茶しやがるな……」

 

「ロードくんに言われたくはないけどねぇ。ちなみに男湯の露天風呂は、偶数日には【立体交差】と【ちゅら】、奇数日は【ケルパ】と【グレウォ】になるよ。ラッキースケベを避けるために入れ替わりは午前3時になってるから気をつけてね。」

 

それじゃ次は脱衣所ね。と楼閣が言って一行は風呂場から出る。脱衣所には特に変わったところはないが、大きな冷蔵庫がひとつあった。

 

「お風呂から上がったら腰に手を当てて可及的速やかに牛乳を飲まないといけないって言われてるからねぇ。ちゃんと用意したよ。」

 

「お前それどこ情報だよ。」

 

そんな小話を挟みつつ、一行の風呂場探索は終わりを告げた。

 

 

───────────────────────

 

「戻ったよ〜。ごめんねぇヴィオさん、メグちゃん任せちゃって。」

 

『お気になさらず。子どもに教育を授けるのも年長者の役回りですから。』

 

風呂の案内が終わるとめぐめぐを叱っていたヴィオレッタに楼閣が礼を言う。こういう所律儀なんだよな、コイツ。

 

「戻り……ました……」

 

『おふろひろかった!』

 

女子も戻ってきてリビングにほぼ全員集合する。

風呂に入りながら内装の説明をしなかったのはめぐめぐがゴネたのと、風呂の時間まで時間が空いていたから。

 

まぁその時間は波羅のバカが【立体交差】の露天で走って行って落ち着かせるのに時間がかかったからだ。

あのバカ一時間近く走り回ってたからな……ガキかよ、アイツ。

 

「って、そういやカロネ、お前ら遅かったじゃねぇか。なんかあったか?」

 

「あ……あの、ですね……カフカが、走り回って……」

 

「あー、皆まで言うな。」

 

そっちでも同じようなことがあったのか……

 

「放っておけば、戻ってくるので……コクリコちゃん、と、ジュースを……飲んでました……」

 

なるほど、浴室にいなかったのはいい判断だ。茹だったらどうしようもないし、ちゃんと考えてるんだろう。

 

って言ってる間にいい時間だな。声かけとくか。

 

「それはそうともう結構いい時間だから風呂入っちまおうぜ。」

 

俺がそう言うとすぐにヴィオレッタが返答する。

 

『ブランシュさんは私と入りましょうね。』

 

なん……だと……!?

 

『皆さん、早くいたしましょう。』

 

「待て!」

 

俺は一喝してヴィオレッタを止める。

ヴィオレッタはコクリコに手を差し伸べながらも動きを止めてこっちを向いた。

 

『あら?どうかしましたか?』

 

どうかしましたか?じゃねぇよ!ヴィオてめぇ……なんて恐ろしいことを言いやがる!!

 

「コクリコはお兄ちゃんである俺と風呂に入るんだ!」

 

『でもブランシュさんは女の子よ?今までそうしていたのだとしても、私たちが来たのですもの。認められませんわ。』

 

くっ……!痛いところを……!!

 

「いや、コクリコだって俺と一緒に風呂に入るのを喜んでるんだ!」

 

『……それって、それ以外の選択肢がなかったからじゃないかしら?』

 

「むぅ……っ!」

 

こんな……正論なんかに……負けてたまるかぁ……!!

 

「いや、正論は認めようよ。」

 

黙れ楼閣!お前に俺が救えるか!?コクリコがいない俺の心を癒すことができるか!?

 

「いや、無理だけどさ……でも、愚痴を聞くことはできるよ?」

 

てめぇに聞いてもらう愚痴はねぇよ!後でリビングでゆっくり話し合おう。

 

「いやあるじゃん。」

 

『とにかく、男の子たちは男の子たちでお風呂に入ってちょうだい。せっかく広いお風呂があるのだもの、広々と使わないと損だわ。』

 

パンパンと手を叩きながらヴィオレッタが言う。ダメだ、これはもう無理。俺、完全敗北のお知らせ。

 

だが、打ちひしがれて真っ白に燃え尽きた俺や、その場の空気を読まずにいつものようにアイツは暴走する。

 

「三人一緒にお風呂!?ジャスティスも一緒に入るならジャス×楼とロー×波羅、どっちも見れる可能性が……!?あたし、男湯に行きます!!」

 

「うるせぇ黙れ!!」

 

この脳みそお花畑!お前は30分に1回BLネタ挟まないと死ぬのか?今度計ってみるか?

 

『ダメよ。カフカさんも女の子なんですからちゃんと女湯に入りなさい。』

 

「だ、だけど!」

 

『ダ・メ・よ』

 

「うぅ……はい……」

 

うわ、秒で黙らせた。ヴィオレッタ強え。超強え。

母は強しってこういうことを言うのか。

 

『さ、ブランシュさん。一緒にお風呂入りましょうね。』

 

『うん!おっきいおふろでくらげさんするの!』

 

(`・ω・´)ふんすっ!と可愛く気合を入れるコクリコは可愛かったが、風呂に入れるのは俺ではなくなってしまったのだ。

 

 

──────────────────────

 

 

『………………??』

 

その日の夜中、ヴィオレッタは目を覚ました。

 

自身の周りを見渡して得た情報から推察するに、ヴィオレッタは新曲の譜面を書いていたがコンを詰めすぎて寝落ちしてしまったのだろうと察した。

 

『……………………』

 

ヴィオレッタはとりあえず何か飲もうとリビングへと向かう。同室のめぐめぐは熟睡していたので起こさないように細心の注意を払っていた。

 

ヴィオレッタがリビングの前まで来た時、リビングから誰かが話す声がした。

その重苦しい雰囲気はヴィオレッタの足を止めた。

 

「Hmm……When did you get it?」

 

扉の隙間から除くとそこには楼閣とロードが対面して話していた。

言葉は自動翻訳がされているからか、遠くで話しているというのに補正効果でかなりはっきりと聞こえる。

 

「I did relatively recently. I thought it was suspicious but after all. These days, you were crazy,isn't it?」

 

目的語が曖昧で、ヴィオレッタには何の話かは分からなかったが、そのただならぬ雰囲気にあてられて、ヴィオレッタはその場を離れることを選んだ。

 

「Oops……Was I strange?Sure I may have changed recently and──」

 

ただ、楼閣が最後に言った言葉だけが、ヴィオレッタの頭から離れなかった。

 

「vice versa.」




ものすごく遅くなってしまいました、申し訳ありません。乱数調整です。

前書きにも描きましたが、全然書けなくなってしまったのでリハビリ用に書いたものです。

そのものは書けるようにはなったかと思いますので、何とか早めに6章に入ろうかと思っております……
こんなご時世ですが、少しでもストレスの捌け口にでもなればと思っております。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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六章 害虫駆除の時間だぜぇ!!
開戦宣言


「ギルマスギルマスギルマス!大変だよ!」

 

「ん?カフカちゃん、どうかした?」

 

#コンパスが現実になって4ヶ月と少し経った。

孤独者達の宴(ロンリネス)】一行は施設やBMが充実したこともあってかかなり悠々自適な生活を送ることが出来ており、ある程度生活にゆとりが出来てきていた。

 

もちろん、大所帯ゆえに足並みが揃っていないところもあるのだが【孤独者達の宴(ロンリネス)】は飄々としているギルマスがいるからか、あまり目立った喧嘩などはない。

 

せいぜいグスタフのプリンをめぐめぐが食べて叱られるくらいだ。

 

そんな背景から、ギルドホール内で怒号が飛ぶことなどほとんどないため、大きな声を出して入ってきたカフカに楼閣は少なからず驚いていた。

 

長椅子に座り、コーヒーを飲んでいた楼閣の隣にカフカが座り、すごい剣幕で何事かまくし立てる。

 

「大変だよ!大変なんだよ!」

 

しかしその言葉は意味を成しておらず、ただカフカが1人であたふたしているだけで、楼閣の言葉が届いていないように見えた。

 

楼閣はこのままでは話を続けられないとそれに割り入る。

 

「ん〜……カフカちゃん、とりあえず落ち着いて?今の感じだと何が大変なのか分かんないよ?」

 

「大変なの!イベントが、ギルドで、メンバーの……大変なの!」

 

「うん、とりあえず1回深呼吸しようか?」

 

「そんなことしてる場合じゃないの!」

 

どうどう、と楼閣がなだめようとするがカフカはなおも1人で焦り続ける。

そんな時、カフカの幼馴染であるカロネが騒ぎを聞きつけて現れた。

 

「ん……ギルマス……どうか、しましたか?」

 

「あ、カロネちゃん。なんかねぇ、カフカちゃんが「大変だ!」ってあたふたしてるんだよ。私じゃ落ち着かせられないからさ、カロネちゃん、ちょっとお話聞いてみてくれるかい?」

 

「分かり、ました……」

 

そういうとカロネは楼閣に少し避けてもらい、カフカの近くに座る。そしてまっすぐカフカを見据えて言う。

 

「カフカ、何が大変なのか、分かりません……一度、落ち着いて?」

 

「えっと、えっと……」

 

「カフカ、落ち着いてください……このままだと、私も、ギルマスも、困ってしまいます……とりあえず、深呼吸……です。」

 

幼馴染だからかカロネの声はカフカに届いたようでカフカは落ち着きを取り戻して深い呼吸を始める。

 

「ひっひっふー……ひっひっふー……」

 

「カフカ……それは深呼吸、じゃなくて……ラマーズ法……」

 

その呼吸方法は少しおかしかったのだが、そこまで錯乱するような何かがあったのだろうとカロネは察し、しばらくそのままで待つ。

しばらくしてカフカが落ち着いたのか、2人に向かって言う。

 

「半月後にイベントが決まったんだよ!ギルド対抗戦!」

 

 

──────────────────────

 

「…………んで、バトアリからの帰還要請が俺たちに来たってわけか。」

 

「そ、通称【ギルドウォー】それぞれのギルドの総力戦らしいね。」

 

バトルアリーナに波羅とイスタカと潜っていた俺たちは、ギルドチャットでの要請を受けてすぐに帰ってきた。

それで集められた経緯を言われた訳だが、

 

「……ぶっちゃけ、無理くね?」

 

「まぁ、カフカちゃんの話だと無理だねぇ。総力戦なんて、私たちみたいな少人数ギルドは単純な質量ゴリ押しで負けちゃうからねぇ。」

 

やっぱそうだよなぁ……カフカ、情報は間違いないのか?

 

「【ギルドの総力戦】って小耳に挟んだだけだから詳しくは分かんないです……ごめんなさい!」

 

「いや、正直情報を早く仕入れてくれただけでありがたいぞ。気にすんな。」

 

情報の出処は不明、けど【半月後のイベント】って明記されてるってことは実際ある可能性は高い。

多分【掲示板】情報だと思うんだが、一人に情報集めさせるのは危ないと考えるところが多いだろうから情報区画は大混雑が予想される。

で、俺たちは早く情報が欲しい。

 

ってぇと……

 

「アイツなら知ってるか。」

 

「まぁ、頼もうかねぇ。」

 

楼閣も同じことを考えてたみたいで、素早くジャスとグスタフに目配せする。2人は重々しく頷き、部屋を後にした。

 

「キィ、頼むぞ。」

 

《4番個室のロックを解除します……成功しました》

 

その声を皮切りに何やらドタドタと騒がしい音がし始めたが、その数分後にはvoidollを先頭に両脇を筋肉に固められたドクが連れてこられた。

絵面はまさに連行される宇宙人。

 

「なっ、なっ、なんなんですか急に!普通に呼んでくださいよ!常識ってものがないんですか!?」

 

「いや、普通に呼んでもお前出てこねぇじゃん。」

 

「TPOって知ってます!?」

 

「知らん。どうでもいい。たまに声掛けても返事ねぇ時あったからたぶんその時に忘れた。」

 

そう言うとドクは急に大人しくなる。やっと諦めたか。今度からは素直に出てこいよ。

 

目が少し虚ろに見えるのはきっと気の所為だから無視することにして、本題を切り出す。

 

「そんでドク、半月後のイベントについて何か情報ないか?」

 

「はぁ……もう少しで終わったのに…………ん、え、呼びました?」

 

ダメだこいつ、根本のところが何も分かってねぇ。

いっぺん絞めるか、コイツ?

 

そんなことを考えている間に、楼閣がドクに優しく話しかけた。

 

「半月後にあるって言われてる【ギルド総力戦】についてだよ。何か知ってることはないかい?」

 

「あぁ、あのイベントですか。はい。情報なら出しますよ。」

 

やっぱり知ってたか。楼閣の時もそうだったけど、コイツは結構ニュースとかを部屋のパソコンかなんかで確認してるからな。

ただ、その言い方だと俺たちが脅してるみたいじゃねぇか、「情報を出せ!」ってか?強盗かよ。

……部屋に強引に入ってる手前、否定できねぇ。

 

「それは良かった。ちょっと詳しく教えて貰ってもいいかな?」

 

「はい。では詳しくご説明しますね。ボイちゃん。」

 

『ハイ、マスター。オマカセクダサイ。』

 

voidollがそう言うと空中に詳細情報が現れた。

 

─────────────────────

【ギルドウォー(名称仮定)】

 

ギルドメンバー全員参加の総力戦

デッキレベルはバトルアリーナ式

全ギルド参加

勝ち抜きトーナメント式を採用

バトルフィールドは【トレーニングルーム】統一

残機は1固定。復活なし。

リス地からの攻撃は敵回復。

 

少人数ギルドへの救済措置

持ち込みカードの増量

人数差20↑の場合

敵メンバー2倍↑ /+4枚×味方メンバー

敵メンバー7/4倍↑ /+3枚×味方メンバー

敵メンバー3/2倍↑/+2枚×味方メンバー

敵メンバー5/4倍↑/+1枚×味方メンバー

人数差20↓もしくは5/4倍↓の場合

敵メンバー+20↑ /+5枚

敵メンバー+10↑ /+3枚

敵メンバー+5↑ /+1枚

(追加カードはステータスに反映されない)

(この措置は1番効力の高いもののみ反映される)

 

基本ルール

制限時間なし

どちらかが全滅するまで継続

ポータルキー有り

HS使用可能

試合開始2分後リス地に毒ダメージ効果追加

リス地毒ダメージは時間経過で増加

 

─────────────────────

 

「……と、こんな感じですかね。」

 

「なんか、GM(ゲームマスター)がリス地待機の戦力逐次投入絶対殺すマンになってるねぇ。」

 

ドクが説明を終えると皆が思ったであろう事を楼閣がすぐに言う。自分が先に言うことで話をコントロールして脱線を防ぐのが狙いだろう。あのムッツリめ。

 

「ですが、毒ダメージを増やす必要まであるのでしょうか?」

 

「あるぞ」「あるよ」

 

波羅が不思議そうにそう発言した。それの説明をしてやろうかと思ったが図らずも楼閣とハモる。

なんだ、お前も分かってたのか。

 

俺は顎をしゃくり、その先を楼閣に譲る。

 

「100人規模での戦いになるなら、周囲攻撃とか桜華さんのおてて、イスタカさんのHSでの全滅を防ぐために戦力を逐次投入する事が考えられるからね。ジャンヌちゃんが何人かいれば相互回復で乗り切れちゃうから増やさないと。ま、ステージがどのくらいの大きさになるかは分からないんだけどねぇ。」

 

「その上、ステージの広さによってはごちゃごちゃして誰がどこにいるのか分からんくなるから、敵味方の判別がしにくい。だから少人数ずつ出し合って戦う、とかがありえたわけだ。」

 

楼閣が概ねは説明したが「言うでしょ?」みたいな目線でこっちに再び譲ってきやがったから、俺は少しだけ補足する。

 

それを聞いてギルメンは感心したように皆一様に驚いていた。

 

「それでなんだけど、私たちが一番気にしてた部分はなんとか救済措置があったね。だいたいの相手には8枚まで積んで相手できるかな?キィちゃん、その辺詳しく分かったりする?」

 

《検索致します……判明致しました、10名未満のギルドが3つ、20名未満はなく、30名未満が5%、60名未満までに60%が集まり、それ以上が30%、100名が約3%です》

 

「ふぅん……ウチは7人だから、後の2つと当たらない限りは8枚積めるね。まぁ、当たる確率は2%未満だから無視していいでしょ。1戦目超えたら考えなくていいと思うよ。10名未満で勝ち上がるのってかなり厳しそうだしねぇ。」

 

キィからギルド人数の内訳を聞いてそう言う。デッキが変わらないのを強調したのは圧倒的人数差に尻込みさせないためだろうか。あのムッツリ、たぶん「せっかくのイベントだから楽しまないと」とか思ってるんだろうな。

 

「よし、そんじゃそれでデッキ組むか。前衛後衛決めて攻撃方法、デッキ決めるか。」

 

「ボスの指示に従います。」

 

「はーい!」

 

「精一杯、やらせて頂きます……!」

 

気合いは十分か。

 

「イスタカさんのガチャが実装されてるのも忘れないようにね?4枚はいつものでいいと思うよ。使用感が変わるのも疲れるだろうしね。それで、残りの4枚は相談しよっか。」

 

そう言って俺たちは作戦会議を始めた。

 

 

───────────────────────

 

後日、トーナメント表が決まり全ギルドに配達された。

 

「うわぁ……」

 

「うへぇ……」

 

「キッヒヒ!!」

 

「あーあ……」

 

「んっ……」

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】一行の元に届いた試合表にあった1戦目の相手の名前は

 

「な、【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】……100人規模のガチギルドです!!」

 

楼閣の事件で因縁のある、最大規模のギルドだった。




6章、ギルド大戦編の始動です。乱数調整です。
さてさて、構成上7章で終わりを迎えるこのSS、最後の難関です。

本編であったようにガッツリバトルにステ振りしているのでとてもきついです。主に私がパワーバランスを考えるのがしんどいです。
普通、7人で100人相手にします?どのキャラでも3人相手にするのすら厳しいわ。誰だこんな企画考えた奴は?出てこいシバくぞ。

乱数は失踪せずに書ききることができるのか!?(天:新章入る前に失踪したの誰だっけ?)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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妙計奇策の魔手

「あっという間に初戦だな。」

 

ロードがギルメンにそう言う。

 

場所はイベント用トレーニングルーム。場所はかなり広く、1km四方──イスタカイベント用ステージの倍以上──程の広さがあると、露天風呂の広さと比較した波羅渡が言った。

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】一同はリスタート地点で円になって話していた。

 

「キッヒヒ!!100人もぶっ殺せるなんて最高だな!!ギャハハハハ!!」

 

『ハービィかっこいい!』

 

波羅渡とめぐめぐはハイテンションで、

 

「できる……でしょうか……?」

 

『行けるところまで行ってみましょう。』

 

カロネは不安そうに、ヴィオレッタはその不安を取り除くように話しかけ、

 

「大丈夫かなぁ……?」

 

『ついてこい、俺があいつらに絶望を見せてやる。』

 

カフカは珍しく弱気で、グスタフは平常運転で、

 

三者三様に意気込みを語っていた。

ちなみにドクはいつもバトルでなるように小声でブツブツと何か呟いており、イスタカは瞑想をしていた。

 

「ま、そんなに気張らなくていいと思うけどねぇ。みんな結構デッキレベル上げたでしょ?」

 

楼閣が柔らかい表情で皆の緊張をほぐす。

その言葉の通り、【孤独者達の宴(ロンリネス)】一同のデッキレベルはカードガチャや所持カードの交換によりかなり引き上げられていた。

 

デッキレベル差の心配はあまりしなくても良いだろう。

 

「んじゃ、最終確認と洒落込むか。まずカフカ・グスタフとドク・ボイドが前衛。」

 

「はぁい……」「……はい」

 

『あぁ。』『ワカリマシタ。』

 

先頭にいるドクと中央よりの位置にいるカフカが不安気に返事をする。

 

「俺・セナ、波羅・めぐめぐ、イスタカは遊撃。波羅、好きに動いて全部壊してろ。」

 

「ギヒヒッ!!虐殺(パーティー)の始まりだァ!!」

 

『波羅、落ち着け。』『ハービィかっこいい!!』

 

波羅渡はR15フェイスで笑っていた。

 

「私とカロネちゃんは後衛。支援飛ばすよ〜。あと私は前線厳しそうなら飛んでくからねぇ。」

 

「頑張り……ましょう……!」

 

『俺に続け!……と言いたいが、今回は、な。背中は任せろ。』

『援護はお任せ下さい。』

 

最後にゆるゆると楼閣が発言し、締める。確認は済んだ。

余談だが、イスタカは今回、後衛に回っている楼閣が指示を出す。

 

そのタイミングで【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】も確認作業を終えたようでキィが全体アナウンスをかける。

 

《それでは皆さん、準備はよろしいでしょうか》

 

そして、

戦いは火蓋を切る。

 

《バトルの始まりです》

 

両陣営共に戦場へと躍り出る。

 

 

───────────────────────

 

 

始まった途端、小声で愚痴をこぼす少女が一人。

 

「うぅ……ロードさんの言ってた策、通じるのかなぁ……?」

 

『気にしても仕方がないだろう?俺はアイツらに絶望を見せるだけだ。』

 

カフカだ。

彼女は何かを心配しているかのようにポツリと呟いた。

そんなカフカの心配をグスタフが強気な発言で諌める。何気にいいコンビだ。

 

神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】は全員で進軍スピードを合わせ、陣形を組んで進行の用意をしている。その陣形に隙はほとんどない。HS(ヒーロースキル)のゲージは貯めていないのと合わせて考えるに、貯めさせる前に物量で押し切ろうと考えているようだ。

 

「……ま、決まらなかったら溶けるだけだし、ロードさんに盛大に「ドンマイ!」ってサムズアップしながら言おっと。」

 

行くよ、グスくん、とカフカは言う。無責任にも聞こえるこのセリフは彼女が自身を落ち着かせるためにつく嘘、他人のせいにするという宣言で茶化し落ち着くための彼女なりのやり方だ。

 

そして開始から20秒程経った時、カフカが動く。

 

「さぁグスくん、突撃だよ!鉄砲玉一号行きまーす!!【秘めたる】!【テレパス】!【ヴァルヴァラ】!」

 

「うぉっ!?」「はっ!?」「いやマジか!?」

 

100人規模の軍勢の中央前寄りにカフカとグスタフが到達する。全員で進軍スピードを合わせていた彼らは、少ない人数の敵がいきなり攻めてくるとは思わなかったんだろう。

【ヴァルヴァラ】による奇襲でグスタフの周囲にいた十数人が消し飛ぶ。

 

その多くはノホなどの貫通持ちやHAで回復ができるジャンヌなどだった。

高火力と高回復で制圧するつもりだったが、その計画はほとんど破綻した。

 

「クソっ!もっと慎重に攻めてくるもんだろ、普通!!」

 

「焦るな!総員、ダメカを張って倒せ!【腐ッタ生命(オーバーフロー)】を落とせればかなり大きいぞ!楽しませてくれるじゃないか、雑種!」

 

ただし相手も大手ギルド、すぐに対策を立て第二の計画を想定し、行動してくる。

カフカを囲むほぼ全員がダメージカットのカードを使い、回復も済ませていた。

 

そして無防備なグスタフに向かい、攻撃を始める。

 

「【レンジ】!あー、もう無理だぁ〜……ロードさんのアホ〜!だから無理だって言ったんだよ、こんな作戦!」

 

【花火】と【アンジュソレイユ】──URの持続回復を二枚使っているというのにグングンと減っていく体力ゲージを見ながらカフカがそう愚痴をこぼす。

だが、

 

「そうでもねぇさ。」

 

その時【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】は目にした。

 

白い白い衣を纏った

白くて白無垢で白々しい少女の姿を──

 

「突っ込めセナ!【オルレン】!!」

 

『おじゃま虫は排除する!!』

 

「なっ!?」

 

ロードとコクリコがグスタフの元へと滑り込んで【オールレンジアタック】を叩き込んだ。

直前にグスタフが放った分と合わせてさらに十数人が消し飛ぶ。

 

「ロードさん!?なんで来たんですか!?」

 

ロードが助けに入ったことに驚いたカフカがそう訊ねた。三十数人倒したとはいえ、まだ60と少し──9倍程の戦力差がある状況で助けに入ったとしても、犠牲が増えるだけだと思ったからだ。

 

「あ?【全天】なんか不服か?【バーゲン】」

 

「いや……助かりましたよ!助かりましたけど!なんでわざわざ死にに来たんですか!?」

 

「は?何言ってんだお前?【ヴァルヴァラ】!!……っぶねぇ!」

 

焦るカフカに困ったようにロードが返す。

その周りには無数の敵ヒーロー。

 

「かなりやられたが、所詮は1度限りの奇策!俺たちを倒すことはできん!」

 

「【和太鼓】!はっ!陣形崩れて団子状態なのによく言ったもんだ!ダメカも貼れずに太鼓くらってんじゃねぇか!」

 

「減らず口を……!!」

 

二人の体力はガリガリと削られるが、ロードが捨て身で【和太鼓】を打ち込む。かなりの人数にそれが当たり、ロードに回復の隙が生まれた。

 

それでもこの人数差でコクリコが耐えられているのは、攻撃の八割をグスタフが受けているのと、

 

「【銀ちゃん】!【月夜叉】!!全く!ロードくんはすぐ無茶苦茶な作戦押し付けるんだから!」

 

「【イノセンテ】!カフカ……しのいで……!」

 

いいタイミングでカロネと楼閣が全体回復や防御バフで支援を入れているからだ。

今回は楼閣だけでなくカロネも【銀河防衛ロボ】と【月夜叉】を搭載しているため、このような無茶な特攻にも対応できるのだ。

 

「……!!やってくれたな、雑種!!だが全体回復もそれで終いだろう?総員!この二人を潰せ!この2人さえいなければあとの驚異はガンナーだけだ!」

 

「お?こっちにばっか構ってていいのか?」

 

「何っ!?」

 

リーダーらしき男が指示を出すが、メンバーは少し戸惑う。それは過去の事件の遺恨のせいか、はたまたこの戦力差で未だ溶かせない事実のせいだろうか。

 

そしてそれは、ロードが言及したように、致命的な隙となって現れる。

 

「イスタカさん、やっちゃって!」

 

『畳み掛けるはワキンヤン!死を運ぶはマタンツォ!!』

 

その声と同時にロードとカフカを中心に円状に矢が降り注ぐ。

 

「……!?退避できるものは退避しろ!1~5の生き残りは1番に、6~10は2番にそれぞれ集合!体制を立て直すぞ!」

 

多くのメンバーがロードとグスタフに群がっていたため20人前後のヒーローが【燼滅の天撃】によって倒される。

 

残りが1/5ほどになってしまい、さすがにまずいと感じたのかリーダーが退避を命じる。

が、それも

 

「読めてるんだよねぇ。ジャスくん!」

 

『座標入力完了……てぇ!!』

 

「この……雑種共がァァァァァァ!!」

 

【ユニバーサルブリッツ】により一掃される。

距離を取ろうと目立つものに集合させたのが運の尽きだった。

 

《敵ヒーロー撃破、残り3名……続けますか?》

 

「いやまさか」「いやだ帰れ」「降参。こっち見んな」

 

残ったメンバーも、ここから巻き返せるとは思わなかったらしく、大人しく降参を選んだ。

 

 

───────────────────────

 

「すげぇな……」

 

「終始【孤独者達の宴(ロンリネス)】のペースだったな。」

 

「すげぇ奇襲!【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】が手玉に取られてんじゃん!」

 

「いや、あんな攻め方されたら初見じゃ対応できねぇって!」

 

情報区画のモニターにて、このイベントの試合は中継されていた。

この時間にやっていたのは【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】と【孤独者達の宴(ロンリネス)】の試合だけであり、どちらも有名なギルドゆえにかなりの注目が集まっていた。

 

試合を終えて、カフカとロードのありえない奇襲を見ていたもの達は、皆一同に【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】を哀れんでいた。

 

「あれはなぁ……初見じゃ無理だって。」

 

「どんだけ勘が良くてもまさか攻め込むとは思わないしなぁ。」

 

「さらに人数差で慢心もあっただろ?勝てるわけねぇって。」

 

けれどプレイヤー達は皆笑顔で話していた。

なぜなら、

 

「でも、いっぺん見たら対処出来る。」

 

「あぁ。【孤独者達の宴(ロンリネス)】は人数差ひっくり返す為にこの手を使わざるを得ないだろ。」

 

「俺たちの次の相手だ。情報が先にあるのはありがたいぜ!」

 

奇襲はバレたら意味をなさないからだ。

人数差を縮めるには奇襲で数を減らさなければならない。

 

ならば、【孤独者達の宴(ロンリネス)】は奇襲せざるを得ない。

 

負けることは無いと思いつつも、男たちは密かに緻密な作戦を練り始めたのだった。




バトル回です!書くのしんどいです!乱数調整です。

今回はこの章で考えていた唯一のバトル回です!ぶっちゃけ、このバトル引き伸ばして終わろうとすら思ってました!

しかし、それじゃあオチがつきませんのでもう一つ増やしたんですね。そしたらリア友が「え?トーナメントなのに2戦しかしないの?しょぼくない?」と言ってきたのでバトルをもう二つくらい増やしました。多分ふたつです。それ以上やってもいいんですが、やると章構成に無理が出てくると思われます。例えばこの章だけ2〇話になるとか。

しかし問題はあと2つ勝ちパターンが出来るかどうか……

次回:波羅渡、暗躍す(嘘ですごめんなさい)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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次のために

「ボス!酷いじゃないですか!!僕のキルする敵(おもちゃ)が全く残ってなかったんですよ!!」

 

「あ、ホントだ。わりぃわりぃ。」

 

試合後すぐに波羅が噛み付いてくる。このイベントをウチで一番楽しみにしてたもんな、お前。

 

「ま、次回はお前が前線立たざるを得ないから次回な。とりあえず帰るぞ。」

 

「むー……」

 

もう何を言っても時間は帰って来ないと分かったからか、それとも言うだけ無駄だと思ったのか、不満げな顔をしつつも波羅は引き下がった。

すると、それを見て楼閣がボソッと発言をする。

 

「いやぁ、けど全部ロードくんの思った通りだったねぇ。正直、あんなむちゃくちゃな作戦は失敗すると思ってたよぉ。」

 

「そうですよ!楼閣さんのその言葉を信じて待機してたのに!!」

 

なんだお前ら、そんなこと考えてたのか。なんて奴らだ。

 

「あの……それ、より……次のこと、を……考えません……?」

 

『そうですわ。過ぎたことを言っていても何にもなりませんものね。』

 

カロネとヴィオレッタがそう口を挟む。どんな時でも周りが見えてるこの二人は、話の軌道修正をしっかりしてくれるから助かる。

 

「そだねぇ。次はあの作戦も封じられるだろうし、しっかり考えとかないと。」

 

「そうですね!あたしももう二度とあんなのやりたくないですし!!」

 

『…………二度とゴメンだ。』

 

楼閣の発言を聞いてカフカが強く肯定する。清々しいほどの笑顔だが、目は笑っていなかった。

グスタフもそれに死んだ目で肯定していた。

 

とか好き勝手言ってはいるが、

 

「え?いや、アレはもっかいやるけど?」

 

「「『えっ!?』」」

 

カフカとグスタフ、それに波羅が一斉に驚いた。

というか人数差ある状況ではあのくらいやらねぇと勝てねぇだろ。

 

「そんな!それじゃあまた僕が遊べないじゃないですか!」

 

「バカかお前?よく考えてみろ。あの試合は中継されてたんだ、次の相手は見て対策してるに決まってんだろ?」

 

「た、たしかに……」

 

神妙な顔で波羅は頷く。色々とシュミレーションなりしてるんだろ。

 

「だからお前は活躍出来る。心配すんな。」

 

「ちょっ、待ってくださいよ!!そしたらあたし、無駄死にして来いってことですか!?」

 

俺は強くそう言った。その直後、カフカが血相を変えて喚く。うるさいからやめろ。

 

「そうは言ってねぇ。そうならん作戦はあるから聞け。」

 

とりあえずカフカをなだめて話を続けよう……ってあれ、ドクどうした?

 

「あ、ホントだ。まぁたさっさと帰って部屋に戻っちゃったんだろうねぇ……まったくあの子はすぐ引きこもるんだから……」

 

楼閣がため息をつきながらそう愚痴をもらす。俺ももうあいつほったらかして話進めたい。

 

かといってほっとける状況じゃない訳だが。ギルド内で必要のある会話だからなぁ……作戦無視して脳筋されても困るし。

 

「しょうがない、宴会場で話すか。廊下だと腰おろせねぇし、この人数で話すのも無理だろ。」

 

「ちょいとロードくん?部屋から引っ張り出すって選択肢は?」

 

「出てくると思うか?」

 

「全然。」

 

楼閣が口を挟むが、思ってもない事を言ってたらしい。なら言うなや。

 

「ま、他の子は分かんないかもしれないわけじゃん?」

 

そんなことを考えていたら楼閣が口を挟んできやがった。おい待てしれっと考えを読むな。

 

「ま、そういうわけで移動するぞ。」

 

ギルメン一同は何も言わずについてきた。

 

 

──────────────────────

 

 

「おいドク、出てこい。お前はもう完全に包囲されている。」

 

「毎回毎回なんなんですか!!僕だって忙しいんですよ!!」

 

帰ってきてすぐに宴会場に入り、ドクの部屋側のドアをドンドンと乱雑に叩く。ドクはキレるがいつもの事だからかギルメン全員がスルー。

 

「知るか。そもそも一人で勝手に帰るな。そんなに急いでやらんといかん事はねぇだろ。」

 

「そういうわけじゃ……」

 

消え入りそうな声でドクが言った。こいつまた拗ねやがった、めんどくせぇ。

 

「だぁぁ鬱陶しい!もうそのままでいいから会話には参加しろ。いいな?」

 

「…………はい。それで?何を聞きたいんですか?」

 

機嫌を直したのかドクがそう訊ねる。こいつ……マジでいっぺん締めようかな。

 

「次の試合のために作戦会議をしようと思うんだよ。ドクくん、次の相手のこととか分かったりしないかい?」

 

そんな俺の胸の内を察したのか、楼閣が割って入って仲裁した。ほんと、いいタイミングで入ってくるよ、コイツは。

 

「次の相手、ですか……えっと……次は【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】ですね。」

 

「【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】?」

 

なんだその変な名前?

 

「えっと……たしか……使用率2位のキャラが相棒になった人達が集まってるギルドみたいですね。」

 

俺が不思議そうな顔をしてるのを見てか、ドクがそう追加の説明を入れる。

……って使用率2位のキャラが相棒ってどういうこった?選ぶ暇もなく渡されたはずなんだが?

 

「ドクくん、使用率2位のキャラってどういうこと?」

 

ギルメンの顔をぐるっと見渡してから楼閣がそう質問した。他のメンバーたちも不思議そうにしてたんだろうな。

 

「それは……えっと……恐らくですが、コラボキャラが使用率1位とかじゃないでしょうか?コラボキャラは無しだそうですし。あと考えられる可能性としては……直前で順位が入れ替わったとか……ですかね。」

 

「ふぅん……おかしなこともあるもんだねぇ。」

 

楼閣がこっちをチラ見しながらそんなセリフ。

なんだその「なんか言っとくこと、ある?」みたいな視線は。

 

「ボス!その話はそれくらいにして、はやく次の作戦を立てましょう!!」

 

俺が無言の抗議を楼閣にしていると、じれったくなったのか波羅がそう急かしてくる。

俺が「ちゃんとする」って言ってるのにこの狂信者が急かしてくるなんて珍しい。

 

「どうした?何か心配事でもあるのか?」

 

「今回、僕の出番は全くのゼロでしたからね。このままじゃ試合の日まで消化不良で夜も眠れません。」

 

なるほどそういうやつね。

 

「それじゃ、会議といきますか。まずはカロネ。」

 

「は、はい……!!」

 

「お前は──

 

 

──────────────────────

 

 

人気のなくなったイベントステージで、男たちがへたりこんでいた。

 

「なんとか……勝った、ぜぇ……!」

 

「危なかったな。次の作戦とか、考えてる場合じゃなかった……」

 

座っていたのは6人。話から察するに、相当に厳しい戦いだったらしい。

 

「ほんと……誰だよ、十数人だから楽に勝てる、とか言ったの……!彼我の戦力を見間違ってるんじゃ、ないの?」

 

仰向けで倒れている男がそう愚痴をこぼす。その男が一番青ざめていて、先の戦闘で最も苦労したであろうことが伺える。

 

しかし、その男を座り込んだ男が非難する。

 

「それ、言ったのお前だからな?向こうはアタスプガンだけで、カード以外の回復ソースもないからそこまでキツくないって言ったの、忘れたのか?」

 

「…………そうだっけ?」

 

仰向けの男はすっかり忘れていたのか、心底不思議そうにそう言った。

その一言にイラッとしつつも、へたりこんでいる男が言う。

 

「……まぁ、もういいだろ…………勝ったんだからさ。」

 

「……そだね。」

 

「……そうだな。それよりも、次のこと考えないとな。」

 

へたりこんでいる男の言葉に喧嘩をしていた2人は同意する。

座り込んだ男が次についての話を促すと、仰向けの男がムクリと起き上がってそこにいた5人に言った。

 

「そうと決まれば、まずは作戦会議だね。」

 

「そうだな。」「あぁ。」

 

そして6人は立ち上がり、ステージから退出した。




すごくお久しぶりです。乱数調整です。

今回、なぜこんなに遅れたかと言いますとですね、このSSは通学時間に書いているからです。
もう少し丁寧に言いますと、皆さんご存知の新型ヴォルデモート卿の影響で乱数の学校は遠隔授業をしていたわけですよ。
もちろん通学時間はありませんし、専門分野の研究計画を立てたり、授業や増えに増えた課題をやっていると……書く時間がなかったわけですよ。本当に申し訳ないです。

さてさて今回の話ですが、試合ばっかり続くのも話の繋がり的にどうなのかということで入れたんですが……ぶっちゃけ書くこと少ないんですよねぇ……
なので内容に【設定としてはあるけどぶっちゃけどこに入れたらいいか分からないネタ】をぶち込んで水増ししています。
待たせた挙句に薄い内容ですみません……

次回、孤独者達と半端者達の饗宴(は、タイトルにするかもしれない……)

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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半端と孤独の大饗宴

五本柱の他には何もない、広く白く、どことなく寂しい雰囲気がある部屋だった。

 

そこに突如として80人程度の人が現れる。

 

彼らは赤と青のタイルが唯一施されている高台に別れて立っていた。

青のタイルが施されている高台にいる者は70人程度、対して赤のタイルが施されている高台にいる者は13人。人数差は均等ではなかった。

 

青の高台では、【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】 のメンバー70数人が団子になって集まって、一人の男の方を向いていた。

 

「さて?」

 

青の高台にいる者の一人がそう発言する。彼がリーダーなのか、そこにいた一同は一斉にその男の方に向き直った。

男は全員が男の方を向いたのを確認してから続ける。

 

「待ちに待った二戦目だ。相手は【孤独者達の宴(ロンリネス)】。【尊厳を踏み躙る者(グリムリーパー)】【不退の不死(カーディナル)】【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】、初期メンバーのバケモノどもに加えて、最近頭角を表してきた【死神の盾(スプリンタンク)】、ジャストサイレントの【不屈の不死(アライブ・ライブ)】、こっちのSAN値まで削ってくる【腐乱の不死(オーバーフロー)】まで加入してるときた。相手が強いのは分かりきっている。」

 

男がそう言うと皆一様に表情を曇らせた。

なぜなら、彼らは見たからだ。

孤独者達の宴(ロンリネス)】が人数差が約14倍の相手を殲滅したところを。強ギルドの一角である【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】を見事な策略で壊滅させたのを、

 

彼らはその目で、事の一部始終を見ていたからだ。

 

もちろん対策は立てた。勝つためにできることは全てやり切ったつもりだ。

しかし、あの一方的な試合を見てしまったがゆえに、【孤独者達の宴(ロンリネス)】の別の策略を立ててきているだろうという不安や()()()()()に怯えてしまっているのだ。

 

そんな一同に、リーダーの男は堂々と言い放つ。

 

「だが、それがどうした?人数差があり、策もすでに見破っている。別の策略?面白い冗談だ!【孤独者達の宴(ロンリネス)】は人数差をひっくり返さないといけない。あの作戦以外に、アイツらが人数差をひっくり返す方法があるか?断言しよう、そんなものはない!!」

 

徐々にリーダーの声は大きくなる。それは仲間たちを鼓舞するためか、それとも震える足を武者震いだと思うためか。

 

「だから勝つぞ、俺たちは。勝って、一試合目が【高低熱処理(HAラヴァーズ)】だったから勝てたんじゃないって事を証明してやるぞ!」

 

「「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 

リーダーがそう締めくくると、メンバーはそれに呼応するように雄叫びをあげた。それは雄々しく、地を震わせるほどのものだった。

 

その叫びは赤い高台にも届く。

 

「……なんか、むこうさんは気合い十分って感じだねぇ。」

 

「なん、だか……張り切って……ますね……」

 

「カロネちゃん、心配ないよ!あの人たちはあたしとロードさんと波羅さんで止めるから!だから……あぁもう!泣かないで!」

 

その雄叫びを聞いて【孤独者達の宴(ロンリネス)】一行が恐れることはなかった。

むしろ楼閣は少し引いていて、波羅渡は興奮が最高潮になったからか、高台から飛び降りようとするも見えない壁に阻まれていた。

 

唯一怯えているカロネをカフカがなんとかなだめようとしていたが、雄叫びの影響はせいぜいそのくらいだ。

 

「なぁ楼閣、アイツら気合い入りすぎじゃね?」

 

「だよねぇ。遊びみたいなものなんだからもっと気楽でいいと思うんだけどねぇ……」

 

「それでこそ!それでこそ死合ってもんだよ!ギハハッ!!オレが今すぐ相手してやるから降りてこぉい!!」

 

「波羅ちゃん?見えない壁叩くのやめようね?ちょっとうるさいよ。」

 

「チッ!こんな壁なけりゃ、オレ一人でも乗り込んでやるってぇのによぉ……」

 

「波羅、それは作戦が崩れるからやめろ。」

 

「Sir.Yes,Sir!!」

 

「うん、それもやめろ?」

 

「あっはっは。波羅ちゃんはいつもブレないねぇ。」

 

気負いどころか緊張すら感じない緩やかな時が流れる。青の高台の雰囲気とは正反対だ。

 

『ハンコック、イスタカ、俺は、こいつらはもう少し緊張を持った方が良いと思うのだが……こいつらはいつもこんな感じなのか?』

 

『あぁ、いつもの事だ。緊張と緩和を体現しているんじゃないか?……待てよ、普段からこんな具合だから、まさか常駐戦場も体現しているのか……?』

 

『ハンコックの言う通りだ。ハイドリヒ殿はノワール殿と組むことが多いから知らないのも無理はないがな。』

 

ヒーローもなんだかんだでおしゃべりに興じている。グスタフは呆れた様子だが、自らの緊張もほとんど霧散してしまっているのも気づいていないようだ。

 

『まぁ、悪くないと思いますわよ。変に気負ってしまって萎縮してしまうよりは。』

 

ヒーローが固まって喋っているのを見てか、ヴィオレッタがそこに混じった。

 

『まぁ、確かにそうだな。萎縮してしまうよりは、雰囲気が緩い方がマシだ。』

 

『……ハンコック、それはあんなふうになるよりはマシ、と言う意味か?』

 

グスタフが親指で後ろを指し示す。

その指し示す先にいたのは、

 

「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……」

 

ブツブツと早口で何かを呟くドクがいた。voidollは心配そうにはしているものの、なんと声をかけていいのか分からずにドクの周りを漂っていた。

 

『まぁ……そうなんだが……まさかあれほどまでとは……』

 

『??ハンコック、何を驚いている?あやつはいつもバトルとなるとああなるだろう?』

 

『いやしかし……いつもより酷くないか?』

 

そんなドクをジャスティスが心配するが、イスタカはいつもの事だと一蹴する。

ジャスティスは、いつもと違う、とは思いつつもその言葉で引き下がった。

 

「ドク、うるさいぞ。」

 

「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃ……ロードさん……ですが……!」

 

そんなドクをロードが慰める。言葉はキツいが、ギルメンはロードの言葉の真意をしっかり理解していた。

 

「心配すんな。どうせお前は終盤にスタン撒くだけだから。お前の有無が結果を決めるわけじゃねぇんだ。気楽に行こうぜ。」

 

「し、しかし……」

 

「大丈夫だ。負けたらカフカのせいだから。」

 

「ロードさん酷くないですか?!」

 

ロードがそう茶化すと、それをどこから聞きつけたのかカフカが全力で抗議を始める。

 

「黙れ?」

 

「疑問形なのに圧をかけられてる?!」

 

ロードとカフカの弛緩具合をみて安心したのか、ドクの表情が少し柔らかくなった。

もっとも、当の本人らは言い合いに夢中で気がついていないようだが。

 

そんな2人を暗に窘めるように楼閣が声をかける。

 

「それじゃ、陣形の確認……って言っても、この前と同じだからいらないか。バラバラに突貫されると私とカロネちゃんの支援が間に合わなくなるから、ツーマンセル以上の団体で動いてね。」

 

「分かりました。僕は波羅渡さんに付いとけばいいんですよね?」

 

「ん。そうだよ。状況によってはイスタカさんにもヘルプ入ってもらうから、ピンチになりそうだったら声かけてね。」

 

楼閣ができるだけ穏やかにドクに伝える。あまり気負いすぎて欲しくないという考えが見て取れた。

 

「カロネちゃんも。ロードくんが無理な特攻して、支援間に合わなさそうって思ったら見殺しにしていいからね?」

 

「おいコラ楼閣」

 

「ふふふ……はい……わかり、ました……」

 

「おい待て」

 

楼閣のあまりにあんまりな方針にロードが異を唱えるが、楼閣にもカロネにも相手にされなかった。

 

しかしカロネは気づいている。

もしも支援が間に合わなくても、その責任の所在が「見殺しにしていい」と言った楼閣に帰結することを。もしもカロネが失敗したとしても、それで気負いすぎることは無いと楼閣が暗に言っていることを。

 

そして、ロードもそれに気づいていて、そのようにツッコミを入れているのだろうと、カロネは思った。

 

もっともそんな事実は全くなく、ロードはただ抗議していただけなのだが。

 

《それでは皆さん、準備はよろしいでしょうか?》

 

そんなやり取りをしていると、どこからともなく抑揚のない声が響く。機械音声だ。

 

「行くぞ。」

 

「「「おう!」」」

 

半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】は決意を込めて猛々しく、

 

「んじゃ、行くか。」

 

「ま、かるーくね。」

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】は緩く、その声に応えた。

 

《バトルの始まりです》

 

そうしてバトルが開幕した。

 

 

─────────────────────

 

 

「リスカ!【腐乱の不死(オーバーフロー)】のカードが見えたら報告しろよ!」

 

「りょ。」

 

始まってすぐ、両チームの距離はジリジリとかなり遅い速度で縮まっていた。

それもそのはず、【孤独者達の宴(ロンリネス)】は正面から攻め込めば物量差にやられ、【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】は急ぎ過ぎれば【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】のように中央に攻め込まれ、一気に壊滅することが分かっているがゆえの睨み合いだった。

 

だが、その状態を快く思わない者もいる。

 

「なぁ楼閣」

 

「ん?なんだいロードくん?」

 

「暇」

 

「しょうがないでしょ。」

 

チッ、と舌打ちをもらし、ロードは引き下がった。不用意に攻め込むのは悪手だとわかってはいるのだが、退屈で仕方がないと言いたげな表情だった。

 

「まだなんですか!!まだダメなんですか!!」

 

「だーめ。もうちょっと後で。」

 

「ぐぎぎぎぎぎ……」

 

対して波羅渡は開始早々に飛び出そうとしていたため、楼閣に首根っこを捕まれ、拘束されている。波羅渡は前に出ようと踏ん張るが、襟を掴む楼閣の腕は解けない。

その姿はまるで、走り出そうとするがリードで引き戻される犬のようだった。

 

「うーん……ま、波羅ちゃんもそろそろ限界だし、ちょっと早いかもだけどやっちゃうか。カフカちゃん、手筈通りよろしく。」

 

「はーい。グスくんいくよ?【秘めたる】!!」

 

『さぁ、始めるか。』

 

そう言ってカフカが【秘めたる力の覚醒】を使った瞬間、リスカと呼ばれた少女が素早い反応を見せた。

 

「きたっ!!」

 

「「「【イェーガー】!!」」」「「「【ディーバ!!】」」」

 

その言葉に反応して、全ギルドメンバーが発動速度【無】のダメージカットカードを使用する。転倒を防ぎ、壊滅させようとやって来たグスタフを逆に刈り取ってやろうという作戦だ。

 

だが、

 

「報告!どこに飛んできた?!」

 

「なっ……!?ギルマス!【腐乱の不死(オバフロ)】、テレパス使ってない!!」

 

飛んでくるかどうかは別問題、だった。

 

「……!!ハメられた!!スプリンター!相手との距離を詰めろ!!アタガンは散開!ダメカが切れた途端に中央に攻め込まれるぞ!」

 

ここまでが約5秒。ここまで対応が遅れてしまったのは、グスタフを見張っていたリスカも瞬時の反応を可能にするために周りに気を配っていたからである。

計画が緻密だったがゆえに破綻した時の対応が脆かった。

 

「ガッデム!!アタガン守るぞ!」

 

「【必殺!人型防御壁】作戦実行かよ!最終手段だろ、アレ!!」

 

「クソがっ!」

 

それでも【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】の対応は素早かった。

リーダーが指示を出すと同時にスプリンター使いは全員、タイムラグなしで距離を詰めにかかっていた。陣形を崩すことなく、高耐久のスプリンター達が横一列で迫ってくる様はまさに城壁が近づいてくるようだと錯覚してしまう。

 

ダメージカットのカード効果はもう切れてしまったが、それでもダメージディーラーは残そうという気迫を、彼らからひしひしと感じることが出来る。

 

「後ろには行かせんぞ!【孤独者達の宴(ロンリネス)】!!」

 

「へぇ、凄い気迫だな。」

 

半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】のスプリンター使い達は気合いを入れるように叫んだ。その雄叫びと気迫をロードは評価する。

だが、その声音はとても真面目に言っているようには聞こえなかった。

 

そしてロードは誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。

 

「で、それが?」

 

「ターリィ・ホー!!【ク ル エ ル ダ ー】ァァァァァァ!!」

 

『触れたきゃお菓子を持ってきな!』

 

それと同時に叫び声が聞こえた。スプリンター使い達の左側面からだった。

スプリンター使い達が弾かれたようにそちらを見ると、そこには邪悪な笑みをたたえた男が一人──波羅渡だ。

 

(やばっ……!!)

 

彼らは気づいていなかった、向かっていた敵の方に波羅渡がいなかったのを。それもそうだ。誰が30以上の敵がいる所にガンナーが単騎、それも徒歩で突っ込むと考えられるだろうか?

 

加えて、スプリンター達が壁のように一直線になっていたのもまずかった。波羅渡のクルエルダーでスプリンター達が一気に引き寄せられる。

狂戦士(波羅渡)の目の前で、ダウンを取られた。

 

「やれ、めぐめぐ!!」

 

『あっはは!50口径に耐えられる?』

 

一同の体力がガリガリと急速に削られる。

スプリンター達は立ち上がって、なんとかその凶弾から逃れようとするがもう手遅れだった。

 

《敵を倒しました》《連続で敵を倒しました》《大活躍ですね》《快進撃が止まりません》

 

一気に7体のスプリンターを処理した波羅渡。しかし彼はそれで満足はしていなかった。

 

「次だ!行くぞめぐめぐ!!【タイオワ】!HS使え!」

 

『投下開始ぃ♡こっちこっち〜!あはは!奥の手出しちゃうぞ!』

 

【タイオワ】で火力を上げてからガトりんMr.2を設置する。火力が増大しているその射線を通過した者はただでは済まないだろう、という威圧のこもった赤い線が戦場に引かれた。

 

「ギルマスどうしよ?!スプリンターが全員やられちゃった!」

 

「グスタフは?」

 

リスカが慌てたようにリーダーに訊ねる。しかしリーダーは冷静に質問を返した。

 

「え?そんなのどうでも──」

 

「答えろ!グスタフは?!」

 

「…………いや、動いてないよ。」

 

リスカは一度リーダーの質問を却下したものの、リーダーの気迫に押されて現状を確認し直す。

その発言を聞いて、リーダーは大きく頷いた。

 

「【秘めたる】はもう切れてる。【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】が【タイオワ】を使った時点でも【テレパス】を使わないってことは、今回の【腐乱の不死(オーバーフロー)】は【テレパス】を持ってない。皆!奇襲の可能性はほぼゼロだ!各個撃破に動け!!」

 

リーダーは素早く指示を出す。どれだけ想定外のことが起ころうと、慌てるような事態ではないと行動で示すことで仲間たちに不安が広がらないようにと配慮しての行動だろう。

 

現にギルドメンバー達は固まって波羅渡の撃破に向かっていた。

 

「行くぞマルコス!枝投げろ!」

 

『むん……』

 

「させるかぁ!!【秘めたる】【レオン】!!」

 

『そr…ぐわっ!』

 

「すまん!ダウン取られた!」

 

「問題ない!敵はミリだぞ!囲いこめ!!」

 

「キッヒヒ!俺という敵を噛み砕いてみせろ!!」

 

一気に波羅渡の前方に敵が集結する。敵の射程が波羅渡に届けば瞬時に負けてしまうであろう圧倒的不利のさなかでも波羅渡の笑みは消えない。

 

「その余裕をすぐに消してやるよ!【アバカ──」

 

「ボイちゃん行きますよ!【イェーガー】【エレド】!!」

 

『スベテヲフキトバシマス』

 

「何っ?!」

 

まずは一人、と【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】の一同の期待にも似た焦燥が、ドクの接近を許してしまった。

いや、正しくは元から近くにドクはいたのだ。ツーマンセルを守っていたのだが、警戒されない一撃を叩き込むためにと波羅渡に言われ、【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】を回り込むように移動をしていたのだ。

もっとも、波羅渡が煽って敵が想定より早く移動したため、完璧に回り込むことは出来なかったのだが。

 

ドクは手筈通り、集団の中で【eledoll】を放つ。集団の約半分がスタン状態に陥った。

 

「キハッ!やるじゃねぇか!後で褒めてやるよ。【お母さん】!」

 

『めぐめぐにおまかせ♡それそれそれそれぇ!』

 

スタンで躱せない状態で防御をゼロに下げられてからの高火力攻撃。援護がなければ起き上がる暇もなく倒されてしまうだろう。

 

「くそっ!ガンナー!!」

 

「させません!ボイちゃん【和太鼓】!」

 

『セッショクキンシ』

 

そしてその援護の可能性も、ドクがしっかりとケアしていた。

その様子を見て、離れた場所にいる楼閣が呟いた。

 

「そろそろ頃合いじゃない?」

 

「そうだな。行け、鉄砲玉。」

 

「酷くないですか!?グスくん【テレパス】」

 

波羅渡の活躍で半分ほど数を減らした【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】に、グスタフが強襲する。

 

「なっ……!?おまっ……持ってないんじゃ!?」

 

『悪いな。』

 

「ついでに【ヴァルヴァラ】!」

 

『全開だ!』

 

「くっ……そがァァァァ!!」

 

半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】、残り8名

 

「ギルマスっ!臣!援護に──」

 

「余所見たぁ、いいご身分だなぁ!!【アバカン】!!」

 

『汚ぇ顔で近づくな!』

 

背後からの奇襲に気を取られたリスカに、波羅渡が怒号にも似た叫びを上げる。後ろを向いたのが命取りだ。

 

(くそ……っ!全員やられた……!!せめて、一人だけでも!!)

 

味方が盾となっていたため、なんとか凶弾を免れた者がいた。目の前では味方が波羅渡とめぐめぐに蹴散らされていた。もう勝ち目は薄いだろう、と男は直感する。

 

しかし男は諦めない。自身を奮い立たせ、なんとか一矢報いようとする。

 

「ひゃははは!もっと周りを見ねぇと死ぬぞ!!」

 

波羅渡がこちらに背を向けて叫ぶ。気づかれてはいない。

 

(もらった……!)

 

男は確信した。この距離まで近づけば、例え波羅渡に気づかれても攻撃を躱しようがない。

 

「よし!アダム!【フル──」

 

「波羅、お前もな。【フルーク】」

 

『近寄るなァ!!』

 

だが、それは援護が来ていなければ、の話だった。

 

突如横から滑り込んできた白い少女が、アダムより早く攻撃を当てる。

一瞬でも躊躇すれば逆の結果をもたらしていたであろうその攻撃を、軽口混じりに放たれて、彼はなぜだか笑ってしまった。

 

「ははっ……これは無理だわ。」

 

『クズどもがァァァ!!』

 

《バトルが終わりました》

 

試合結果

半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】全滅

試合時間:2:32




反省はしていますが後悔はしていません。乱数調整です。

さて、今回の話なのですが……はい。とてつもなく長いです。いつもの分量の倍、長い時の1.5倍で最長です。ワンチャンいろいろ詰め込んだロリ#コンパス最終話より長いかもしれません。そっちもそっちですこぶる長いですが……
今回の話を3000字くらいに出来てたら一日で投稿できていたんですがねぇ……

話は変わりまして、次回バトルじゃない回を書いてから次の試合書いていると、この章の本題と相まってこの章だけ分量がおかしくなってしまうので、次のバトルを取り辞めようかと思っています。
もちろん、「サボるな書け」というご要望があれば書きますが、ダイジェストの方がいいんじゃないかなぁ……とか、そっちをダイジェストにするならその話を2戦目で持ってきて、この話をダイジェストにすれば良かったなぁ……とか考えている今日この頃です。
ほぼ私の愚痴を長々と失礼しました。

次回「半端な饗宴」

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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半端な饗宴

半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】ギルドハウス

そのリビングのソファの上で男が1人、死んだ目でぼうっとしていた。

その男の背後に、這い寄る男がいた。這い寄る男はどこかいたずらっぽい顔をしていた。

 

「よっ、カナイ!!この世の終わりみたいな顔してどうした?」

 

「!!??……なんだアアルか、驚かすなよ。特になんでもねぇよ。」

 

アアルはカナイことニライカナイの背中を力強く叩いて話しかけた。ニライカナイは一瞬身を縮こまらせ、アアルを認識すると力なくそう答える。

 

「はっは〜ん、幼なじみの俺に隠し事ねぇ。いつの間にかそんなに大きくなってたかぁ……」

 

「いやお前、俺の幼なじみでもなんでもないだろ。」

 

「しかしそれを踏み越えていく勇気!!教えんかーい!!」

 

「話聞け!?」

 

ギルドメンバーが心配だったのか、アアルは冗談をまじえながらニライカナイに強引に話しかける。その冗談でか、それとも単に突撃してきたアアルに驚いたからか、ニライカナイは先程のような死んだ目をしてはいなかった。

 

わちゃわちゃと2人がもみ合っていると、騒ぎを聞きつけてかギルドメンバー達が集まってくる。

 

リビングが騒然としたところでギルドマスターのコウシュとサブマスターのリスカが慌てた様子で到着した。

 

「どうしたお前たち!!…………あー……いや、俺は別にそういうのに偏見はないが……できればそういうのは部屋で2人きりでやってくれ。」

 

「リスカさん、えっちいのはまだ早いと思うの。」

 

「「バカ待て誤解だ!!」」

 

コウシュとリスカは顔を赤らめてそっぽを向きながらギルドメンバーに指示を出して部屋までの道を開けた。

 

「「さぁ、続きはあちらで」」

 

「「だから違ぇよ!?」」

 

コウシュ・リスカの2人もアアル・ニライカナイの2人も何気に息ぴったりであった。

アアルとニライカナイは全力で否定するが、コウシュとリスカ、その他ギルドメンバー達は甘酸っぱいものを見るかのような目でうんうんと頷いていた。

 

「ちょっ、ギルマス!!マジで違うんだって!」

 

「そうだそうだ!俺にだって選ぶ権利がある!!」

 

「はっはっは、落ち着け2人とも、二割冗談だ。」

 

「「八割本気じゃねぇか!!」」

 

「で、どういう流れで2人は両思いに?」

 

「「なってねぇ!!」」

 

ギルドメンバー全員の「うんうん、恥ずかしいんだろ分かってるって」と言いたげな雰囲気にアアルはため息を1つ吐いてから話し始めた。

 

「カナイがな?死にそうな顔をしてソファに座ってたから心配になって話しかけてみたんだよ。そしたら──」

 

「家内……!?みんな聞いたか!入籍済みだぞ!!」

 

「もしもし俺だ。大至急赤飯を用意しろ。あ?理由?後で説明する!いいから早く!!」

 

「あぁもうお前ら一旦黙れよ!!」

 

「そうだぞお前ら。とりあえず全部聞いてから【神前式】にするか【ウェディング】にするか決めてもいいだろう?」

 

「っ……!!いや、もう聞いてもらえるならなんでも良いか……」

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐギルドメンバー達に愛想がつきたのかアアルは諦めたようにそう言った。

 

「で、経緯なんだが……カナイが落ち込んでたのを見て俺は心配して声をかけたんだ。俺はただ、カナイが落ち込んでる理由を知りたかったってワケ。」

 

アアルはこれ以上厄介事を増やしたくないとばかりに詳しい説明を放棄して簡潔に説明した。その答えを受けてコウシュはニライカナイに質問を返す。

 

「なるほどな。んでニラ、なんでアアルが心配するほど落ち込んでたんだ?マリッジブルーか?」

 

「違ぇわ!!……いや、前の試合な、使用率一位のキャラを使えてりゃ勝ってたんじゃねぇかと思ってな……」

 

「なに?ニラあんた、そんなことで落ち込んでたわけ?」

 

うなだれるニライカナイに向かってリスカがピシャリと言い放った。それにニライカナイはピクリと反応した。

 

「そんなん言うならギルマスはどうなのさ?一位はデズ、二位はソル、三位にリュウだから四位のルチ使ってるんだよ?初心者の時にしか使ったことのなかったルチを使ってるギルマスの前でそんなこと──」

 

「そうじゃねぇからやりきれねぇんだろうが!!」

 

ニライカナイが怒号をあげた。その怒号はその場にいたギルドメンバー全員を凍りつかせた。

ニライカナイはその様子が目に入っていないかのごとく続ける。

 

「それならまだいくばか溜飲が下がったさ!【コラボキャラは使えない】それがここでのルールだからな!けど、俺はそうじゃねぇんだよ!俺の使用率一位はオリジナルキャラだった!なのに、それなのに俺にあてがわれたキャラは使用率一位じゃないマルコスだよ!おかしいだろ?なぁ!?」

 

「そ、それは……でも、直前で使用率が入れ替わったとか──」

 

「俺のマルコスの使用率は三位だぞ!そうホイホイ変わるような順位じゃねぇ!二位はリンだからなかったにせよ、短期間で全体順位なんざ変わんねぇだろうが!!」

 

ニライカナイは激情のままに叫ぶ。なぜ自分には使用率一位のキャラがあてがわれなかったのかと。

 

「それなら私もだよ。」

 

「メイ……?」

 

底冷えするような声音で話に割り込んできた者がいた。

メイと呼ばれた少女──アイアン・メイデンはニライカナイとは対照的に静かに続ける。

 

「私はさ、始めてからまだコラボが来てないからコラボキャラ持ってなかったんだけどね?それでも使用率一位の子は使えなかった。ニラと一緒だね。」

 

「実は俺も……」

 

「あたしも二位のキャラだった……」

 

「ホントはね、黙ってようって思ってた。変な奴だって思われたくなかったから。でも私も……」

 

ニライカナイとアイアン・メイデンの話を聞いて、実は使用率一位のオリジナルキャラを使えなかったプレイヤー達が次々と現れる。その数は、ギルドメンバーの半分を超えた。

 

「なぁリスカ、お前はこれをどう見る?」

 

コウシュが誰にも聞こえないように配慮しながらリスカに話しかける。リスカはコウシュの方を見ずに考え込みながら答えた。

 

「難しい質問ですね。キャラがみんな同じキャラならホントの話なんでしょうけど……現時点では判断のしようがありません。」

 

「なら……聞いてみるか。……おいみんな、お前らの話はよく分かった。良かったら教えてくれないか?お前らの使用率一位だったキャラを。」

 

コウシュにそう言われて一瞬黙ったギルドメンバー達だったが、誰に言われるでもなく目配せをして全員がいっせいに答えた。

 

 

()の使用率一位のキャラは──




今回は少し早めで短めです。乱数調整です。
短めと言っても一章の話の倍くらいの量がある話ですけどね。

さてさて最近は終章に向けて道筋をガッツリ作ってますよ!わぁい楽しい!
終章は間章を書いたからこそ出てきた終わりですので、終章自体が伏線みたいな形になってます。あと一章は見切り発車したのでそこには伏線とか特にないですハイ。

半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】のメンバーの名前は処刑方法と理想郷で固めてみました。特に意味はないですし、多分再登場もしないでしょう。

次回「準決勝」

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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見切り

「うー……!」

 

「いやぁ、あの子たち上手だねぇ。」

 

「楼閣さん!その手を!早く!離しやがれください!!」

 

準決勝の舞台で、【孤独者達の宴(ロンリネス)】一行は唸っていた。理由は至極単純、

 

「まさか30人を10人ずつに分けて、10秒おきに全員でイェーガー張って戦線交代するとはなぁ……」

 

「ガッチガチのメタ張りだねぇ。私たちが別の作戦立ててきてたらどうするつもりなのさ?ま、確かに私たちは【テレパス】とかで奇襲しないとほぼほぼ勝てないんだけど。」

 

といった戦線を崩壊させない工夫が敵の【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】にあるからだ。

現在は両チーム共に自陣一番ポータルでヒーロースキルを溜めている。

 

「ま、全員でいっぺんに【テレパス】されないよりはマシか。波羅、そろそろ置いとけ。」

 

「チィっ!なんでこんなチマチマやんねぇといけねぇんだよ!」

 

そのまさかの【テレパス】に備えて先頭に立たされている人型防御壁(ドクとvoidoll)の背中に向けて波羅渡がガトりんMk.2を設置する。これでまさかの奇襲も最低限の被害に抑えて敵を狩り取れるとロードは言っていた。

 

「とはいえ……マジでこれどうすっかね?カフカ、お前突っ込む?」

 

「嫌です!」

 

清々しいほどに爽やかな笑顔でカフカが遺憾の意を表明する。今まで見たことがないようないい笑顔だった。

 

「そんないい笑顔をするなよ。放り込みたくなるだろう?」

 

「鬼だ!鬼がいる!TYI-82発見!!グスくん助けて!!」

 

カフカがたまらずグスタフに助けを求める。こころなしか涙目だったのに楼閣は気づいていたが、言わぬが花と黙っていた。

 

『そんなことより、このままHAしないとそろそろ死ぬぞ。』

 

「そんなの勝手にやっといてよ!」

 

『この前の試合で勝手にやったらお前が怒ったから俺は今回はやってないんだろうが!自分の発言に責任を持て!』

 

「あれは敵のど真ん中でやるからだよ!」

 

グスタフが現在の状況を伝えるとカフカはそれに逆ギレした。

 

「んー……ま、向こうも牛歩とはいえ近づいてきてるし、別の作戦でもやるか。」

 

そんなことは些事に過ぎないと言わんばかりにロードは別の話題を振る。そんなロードを楼閣がジト目で見ていた。

 

「ちょっとロードくん?そんな都合のいい作戦あるわけないでしょ。今思いついた作戦なんて、どうせすぐ崩されるって。」

 

また変なこと言い出したよこの子、と言いたげに楼閣は愚痴を漏らす。そんな楼閣を制してロードは話を進める。

 

「まぁとりあえず聞け。今の段階だと、戦線を支えてる【イェーガー】が邪魔なわけだろ?」

 

「なんとかできるのかい?」

 

投げやりにも見える態度で楼閣が訊ねた。ロードの新しい作戦への信用のなさがよく伺える。

 

「簡単だ。毒殺すりゃいい。」

 

「……この子何言ってんの?ついに壊れたの?」

 

カロネとカフカが不思議そうな表情を浮かべる中、楼閣が悟りと呆れが半分ずつ含まれたような表情をして辛辣に言い放った。

 

「とりあえず聞けって言ったろ?」

 

「にしてもだよ。今回誰も毒カード搭載してないんだけど?毒撒けないのに毒殺するってどういう意味なのさ?」

 

「毒なら撒けるさ。ここはイベント特設ステージで、ここにはドクがいるんだぜ?」

 

ニヤリといたずらっぽくロードは笑った。

一方、そんな話を急に振られたドクは、

 

「分かりました。やってきます。」

 

驚くほど冷静だった。

 

「なんだいなんだい。ドクくん、いやに落ち着いてるじゃないかい。いっつもこういう時はあたふたしてるのに、どういう風の吹き回しだい?」

 

「いえ、こういうことも考えていたので。」

 

「ふぅん?まぁ、そういうことならよろしくねぇ。」

 

冷静なままドクは答える。珍しいこともあるものだと思ったが、楼閣はそのままロードの作戦に乗ることにした。

 

「それで、どういう作戦なんですか?もう二分経ちますけど……できれば早くしないと……その……」

 

「ぐがぎぎぎぎ……!!」

 

さながら狂犬病に罹った犬のように犬歯をむき出しにして唸る波羅渡を見ながらカフカが訊ねる。カフカはそんな波羅渡に控えめに言ってドン引きしていた。

 

「ふむ?つまりお前はこの波羅を見たくない、と?」

 

「正直、超怖いです!!」

 

いい笑顔でカフカは言った。

もっとも、それを聞いたロードは悪い笑みを浮かべていたがカフカは気づいていない。カロネは気づいたようで震え上がって、幼馴染の身を案じていた。

 

「だったらちょうどいい。行け、鉄砲玉一号。」

 

「………………はい?」

 

カフカの笑顔が引きつった。

だがそんなことなどお構い無しにロードがたたみかける。

 

「アナタ、敵陣イク。ワタシ、見守ル。オーケイ?」

 

「いや全然良くないですよ!死にますって!!」

 

「大丈夫大丈夫。よっぽどのことがないと死なないって。多分。」

 

「そういうとこですよ!」

 

いつものようにぎゃあぎゃあと言い合っているが、いつもカフカに助け舟を出すグスタフは拗ねてしまったようで、カフカに助け舟を出すことなくHAで体力を回復していた。

 

「お前は……話聞いてたか?今回は【毒殺】するんだぞ?アレ、今回お前積んできてたろ?」

 

「あぁ、そういう。」

 

カフカは何かに気がついたようでポンと手を打った。そしてロードに質問を返す。

 

「いつ出ます?」

 

「別にいつでも。今すぐでもいいし、好きなタイミングで死にに行けよ。」

 

「だから言い方……まいっか。グスくん行くよ〜。」

 

『ふん、やっとか遅いぞ。まぁいい、絶望の始まりだ。』

 

うだうだと嫌そうにしながらもカフカは覚悟を決めた。グスタフはやっと暴れられるからか機嫌がなおったようで鼻を鳴らして意気揚々と立ち上がった。

 

「鉄砲玉一号、行きまーす!【アンジュ】【テレパス】!」

 

『さぁ、始めるか。……悪いな。』

 

少しの発動時間の後にカフカとグスタフが敵陣中央に移動する。

敵は一瞬驚いたものの、すぐに冷静になりグスタフを囲むように陣形を変化させる。

スプリンター達の襲撃に備えてロード達の方を見張る役が用意されており、作戦の周到さがよく伺える。

 

「ドク、準備。」

 

「はい。ボイちゃん、お願いします。」

 

『ハイ。クウカンテンイソウチ、キドウシマス。』

 

その短いやり取りで理解しあったのか、ドクがvoidollの【リブート・シークエンス・スタート】を発動する。

 

「んっ……そういやそんな設定あったねぇ。」

 

「お二人とも…………よく……覚えて、いましたね……」

 

それを見た楼閣とカロネが何かを思い出したかのように感心して言った。ふたりもどうやら何をしようとしているか分かったらしい。

 

「あたしは何やろうとしてるか知らないんだけど……とりあえずHS入れればいいんだよね!グスくん【旗】!」

 

『全開だ!!』

 

グスタフは敵陣形のど真ん中で【革命の旗】を使用する。周りのヒーローからスキルゲージを強引に奪い取った。

 

「よしよし!これで躱せる人少なくなったね!グスくん使って!」

 

『フゥン!…………この世界の闇を見せてやろう!』

 

グスタフのヒーロースキル、【グラオザーム シュメルツ】が発動する。体力を残り2割にするその必殺技は、このような総力戦ではかなりの恐怖だろう。

通常はヒーロースキルを合わせることで無効化が可能だが、その数を最小化するためにカフカは【革命の旗】を使用したのだ。

 

「ダメージ来るぞ!持続組はもう使っとけ!即時組はオルレン範囲から離脱!HSは温存の方向で行け!」

 

「「「了解!」」」

 

しかしそれも想定内だったのだろう、【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】の面々はすぐにその対策を立て、実行する。

 

あっという間に窮地に陥るであろう事を理解したカフカは青ざめていた。

 

「ダレカタスケテー!」

 

「あっはっは、死ね。」

 

「シンプルな殺意!?ちょっとロードさん酷くないですか!?」

 

軽くそう言うロードにカフカは苦言を呈した。もっともそれでロードの態度が変わることはないのだが。

 

『3』

 

「くそう!この鬼畜ロリコンめ!」

 

「誰がロリコンだ。あと、そろそろ覚悟しとけよ。」

 

ロードがそう言ったタイミングでグスタフのヒーロースキルの無敵時間が切れる。

それを【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】の面々が見逃すことはなかった。

 

『2』

 

「無敵時間が終わったぞ!持続組は囲め!即時は少し離れて展開!」

 

「「「了解!」」」

 

「やだやだ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!オルレンで相打ちするにしても発動できるかすら微妙!カロネちゃん、支援ちょうだい!」

 

そのやり取りを見てカフカは慌てる。このままでは突破が不可能だと直感し、たまらず幼馴染(カロネ)に助けを求めた。

 

『1』

 

「すみません……楼閣さん、に……止められてて……」

 

「鬼畜しか居ないのかこのギルドは!!」

 

花火とヴァルヴァラで何とか回復していたがそれも追いつかなくなり、みるみる減っていく相棒の体力を見てカフカは絶望する。

このままでは【グラオザーム シュメルツ】のダメージが入ったのを確認し、【オールレンジアタック】で何人かを道ずれにする前に自らが倒されてしまうだろうとカフカは気づいてしまった。

 

「あーもー!ロードさんの鬼!鬼畜!ついでに──」

 

「そういう前に少しでも耐久してください。」

 

『アナタラシクナイデスヨ、カフカサン。』

 

カフカがロードに対するあらんばかりの罵詈雑言を言い始めた所に、闖入者が現れた。

線が細くて気弱そうな男と、白の光沢が美しい機械だった。

 

「なっ!?【死神の盾(スプリンタンク)】!?ダメカを──」

 

「無駄ですよ。ボイちゃん!」

 

『GO!ヨコクハシマシタヨ。』

 

その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】を率いているリーダーがそれに気づくが遅い。voidollの発動していた【リブート・シークエンス・スタート】によってカフカを囲んでいた10数名をリスタート地点に送り返した。

かなりの戦力を削られた【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】だったが、リスタート地点に送られただけだと気づき、いくばかの余裕を取り戻す。

 

「はっ!リス地に送っただけで勝ったつもりか!お前らを倒してから合流すりゃ──」

 

余裕綽々でリーダーはそう言うが、そこまで言った直後に無慈悲な宣告が頭に響いた。

 

《味方が倒されてしまいました》《味方が倒されてしまいました》《味方が倒されてしまいました》《味方が倒されてしまいました》《味方が倒されてしまいました》《味方が倒されてしまいました》《味方が倒されてしまいました》《味方が倒されてしまいました》《味方が倒されてしまいました》《味方が倒されてしまいました》《味方が倒されてしまいました》《味方が倒されてしまいました》

 

無感情かつ無慈悲に響いたそれは【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】の面々の背筋を凍らせた。

 

「な……にが、起こっ……!?」

 

「何を今更?ここは()()()()()()()()ですよ?」

 

驚く【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】の面々に、ドクが驚くほど冷徹に言い放つ。

そこでやっとリーダーが原因に気がついた。

 

(そういや……ルールにあったな……!)

 

「クソッタレ!総員!リス地に毒ダメが入ってる!アイツらはそれでやられた!」

 

「正解です。」

 

リーダーがギルドメンバー達にその事実を知らせる。しかし、それを聞いてなおドクは無表情で彼らを見ていた。

そして続ける。

 

「で、それが何か?」

 

「グスくん【オルレン】!」

 

『ブワァ!』

 

《味方が倒されてしまいました》

 

なぜ味方が倒されたのかが分からなかった彼らは、数瞬の間思考が止まってしまった。その間にカフカが回復を済ませ、攻勢に出たのだ。

 

完全に虚をつかれた攻勢で【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】の勢力は更に削れる。

 

「クソっ!対応が後手に回りすぎてる!とりあえずダメカと回復を──」

 

「てめぇらだけで楽しみやがって!後で殺すぞ!!めぐめぐ!」

 

『おっけーハービィ!触れたきゃお菓子を持ってきな!!』

 

ドクが走り出してから数秒後、楼閣の拘束から解き放たれた戦闘狂(波羅渡)が戦地に追いついた。

いくら近づいていても気づかれていないことに腹をたてていたのか、かなり機嫌が悪いらしい。

 

ダメージカットカードと回復カードを連続切りしていた敵の一部を綺麗に絡めとる。

ダウンを取ったところをそのままヒーローアクションで削りきり、波羅渡は次の獲物を探し始めた。

 

それを遠くで見ているだけの3人がいた。

 

「ま、結局私たちの攻めってワンパターンなんだよねぇ。」

 

「たしかにな。結局やってることと言えば【敵の虚をつく】【そのまま押しきる】ってだけだからな。」

 

「その虚をつくのが難しいんだけどねぇ。」

 

からからと楼閣は笑う。何はともあれ上手くいったと言っているかのようだった。

もっともロードは虚をつける確信があったらしく何事でもないように話していたが。

 

その2人のやり取りを見て、カロネは素朴な疑問をぶつけることにした。

 

「ですけど……上手くいって……良かった、ですね……」

 

「まぁ、八割削れば行けると思ったからな。」

 

「ですけど……毒ダメージ、って……どのくらいか……分かりませんでしたし……」

 

「ん、たしかにそうか。まぁいけたからいいだろ。」

 

そう言ってロードは話を切りあげる。カフカは確かにそうかと思いながらも、毒ダメージの多さに少し疑問を残していた。

 

《バトルが終わりました》




投稿完了しました。乱数調整です。

さてさて通勤通学も復活し、移動時間ができたので私の執筆時間もできました!いやはや、ラストスパートは楽しいものですね。
この章も残すところバトル一つですからねぇ。バトルの中身は全然出来てないから苦しいところなんですけどね。

最終章は(なぜか)全話細かい内容まで決まってるので、乱数が酷く忙しくなったり(今も大概忙しいですけど)セリフ回しに苦悩しない限りは早くお届けできると思います。楽しみです。

次回、因縁

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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朝焼けと孤独

「いやまさか、ここまで来れるなんてな。」

 

夜も更けたころ、ギルドホールのリビングに3人の男が集まっていた。

 

「ほんとそれな。並み居る強豪を押しのけて、ここまで来れたのは単純にすげぇよ。」

 

一人の男が誰に言うでもなく呟いた言葉に対して、別の男が返事をする。感慨深いとでも言いたげな声音だった。

 

その2人の感慨をぶち壊すように最後の男が水を差す。

 

「ま、毎回毎回ギリギリの勝利で「あ、もう無理だこれ」って何十回も思ったけどね。」

 

「それはそれ、これはこれだ。とりあえず勝ってるんだぜ?今はそれでいいだろ。」

 

最後の男のそんなボヤきに対しても、一人目は明るく言い放った。

 

「だな。ボヤくのは最終戦が終わってからでもいい。とりあえず、当面の目標は「決勝進出」じゃなくて「ギルドウォー優勝」だからな。」

 

二人目が一人目の言葉を援護するように言うと、三人目は「まぁね」と肩を竦めて言う。彼も別に、この良い雰囲気をぶち壊すつもりはなく、ただ油断するなと伝えたかっただけなのだ。

 

「…………いろいろあったよなぁ、こっち来てから。」

 

「…………あぁ。感慨深いもんだ。もちろん、これが終わったからって帰れるわけじゃないんだが、多少は、な?」

 

一人目と二人目が感慨に耽ける。三人目も概ね同じ意見なのか、うんうんと頷いている。

 

それはどこか楽しかったことを思い出しているようで

それはどこかこのままでもいいと思ってしまっているようで

 

相棒(ヒーロー)はこの場にはいないが、それぞれがそれぞれの相棒との思い出に想いを馳せていた。

 

「さ、明日は最終戦だよ。早く寝なきゃいけないんだけど……」

 

「そうだな。8位決定戦からカードが伏せられてたからな。次の相手は前日の夜に【ギルド通知】で発表、だっけか?」

 

その追憶を止めたのは三人目だった。気を引きしめる意味も込めて、三人目は集まった目的だったものの話を切り出す。

一人目はそれを思い出したようで、残りの二人に確認を込めてそう訊ねた。

 

二人は徐ろに頷く。そこには大きな緊張と少しの期待が含まれていた。

 

「それじゃ、見るぞ。」

 

緊張の面持ちで一人目は何かを操作するように指で空を切る。知らせはまだ届いていないのか、一人目は何度も指を上下させていた。

 

「それで?最終戦のお相手ってのは誰だ?」

 

「まぁ少し待て……これか………ふむ…………ん!?……くははっ!!こりゃ面白い!傑作じゃねぇか!!」

 

しびれを切らせた二人目が最終戦の相手を一人目に聞くと、一人目は【ギルド通知】バナーを見て心底楽しそうに笑った。

 

「ちょっと、一人で楽しそうにしないでくれる?」

 

「おい、何一人で楽しんでんだよ。俺らにも教えろ。」

 

それを見ていささか不機嫌そうに二人目と三人目が抗議した。それを受けて一人目は湧き上がっている笑いを必死に抑えながら二人に伝える。

 

「悪い悪い、次の相手は──

 

 

─────────────────────

 

 

夜も更けたころ、3人の男がギルドホールのリビングに集まっていた。

 

「いやぁ、案外勝ち上がれるもんだねぇ。びっくりしたよ。」

 

一人目の男が茶化すようにそう言った。それはギルドマスターとして残りの二人に決勝を気負わせないための配慮だろうか。

 

「ま、アイツらがいなきゃここまでは来てねぇだろうけどな。」

 

二人目の男がぶっきらぼうに言った。ただ、その奥に隠していたギルドメンバーへの感謝の意は一人目にしっかりと伝わっていたが。

 

「全くもう、そんなこと言っちゃって!本当はすっごく嬉しいクセにぃ〜。」

 

「うっせぇ。二人とも周りがよく見えてて援護が上手いからな。ま、二人とも攻めの援護と守りの援護で種類は全く別物なんだけどな。」

 

一人目がそう囃すと二人目は照れたように素っ気なくそう返す。それを見て三人目は朗らかに笑った。

 

「あはは。ボスは優しいですよね。本当に、いつも誰かのことを思っています。」

 

「「えっ」」

 

三人目のその一言を聞いて二人は思わず固まった。そんな二人を見て三人目は不思議そうに訊ねる。

 

「えっ、どうしてそこで驚かれるんですか?」

 

「えっ、いやだって、普段どこか優しさが目に見えるところあった?」

 

「おいコラ、ひでぇ言い草だな……けど、俺もお前からそんな一言が出てくるとは思ってなかった。だって……お前との初顔合わせ、あれだぜ?」

 

得体の知れない物を見る目を向けられた三人目だったが、「何を言っているんだろうか、この人たちは」と言いたげに首を傾げて、懇々と諭すように二人に話し始めた。

 

「普通、僕のデッキを見たら文句を言うだけ言っておしまいですよ。それを貴方は、何とか戦えるレベルまで押し上げてくださいました。僕は貴方のそういうところに傅こうと思ったのですよ。」

 

三人目は満面の笑みで二人目にそう言った。二人目はどこか気恥しそうに目を背ける。そんな二人目を一人目は保母のような笑みで見守っていた。

 

「おい、そんな顔でこっち見んじゃねぇよ。」

 

「えー、だって照れてるの珍しいからさ〜。」

 

それに気づいた二人目が一人目に抗議の視線を向けるが、一人目はそれをのらりくらりと躱す。二人目は数瞬、イラッとはしたものの言っても無駄かと諦めたようで、別の話に切り替えた。

 

「茶化すな。そんで、そろそろじゃねぇか?」

 

「んー?じゃ、ちょっと見てみるか。」

 

その短いやり取りで伝わったのか、一人目は何やら空を指で撫でるような動きを始めた。目的のものはすぐに見つかったようで、ふむふむと静かに一人でその内容を読んでいた。

 

「次の相手は誰なんですか!?早く!早く教えてください!!」

 

「落ち着いて、読めないから。ほら、早く座った座った!」

 

「………………はい。」

 

三人目が待ちきれないといった様子で前のめりになって訊ねたが、一人目はかなりしっかりと読み込んでいるようでまだ目的の箇所へは到達していなかったらしく、素っ気なくそう返した。

 

「………………!!くっふふ!!……そっかぁ。そっかそっかそっか〜!!」

 

しばらく静かな時間が過ぎていく中、急に一人目が吹き出した。そして楽しそうに何事かを呟いた。

 

「あっがりました〜!!……アレ?ギルマス、なんか楽しそう?」

 

「お風呂……上がりました………………??ギルマス?なんだか……楽しそう、ですね……?」

 

そこに二人の女が入ってきた。二人はどうやら風呂に入っていたらしく、状況が飲み込めていない。

 

「おい、1人で楽しんでんじゃねぇよ。さっさと教えろ。お前がそんなに笑い転げるほどの相手って誰だ?」

 

そんな二人のことを知ってか知らずか、二人目はその先を進めようとする。それに気づいた一人目は「ごめんごめん」と軽く謝ってから本題を切り出す。

 

「ギルドウォー、最終戦の相手が決まったよ。その相手は──

 

 

──────────────────────

 

 

──【孤独者達の宴(ロンリネス)】」

──【明色に染まる空(daydream)】」

 

同じ日、同じ時刻、別の場所で、二人のギルドマスターが声を揃えて言った。

 

「アイツら、勝ち上がってきやがったよ。」

「あの子たち、勝ち上がったみたいだねぇ。」

 

所属メンバー10人以下のギルド。その3つの内の2つの戦いの火蓋は今、切って落とされた。




今回は少し早くて少し短いです。乱数調整です。
今回は決戦前夜、レギュラーと準レギュラーの戦いの前の、軽い導入です。

導入とは言っても、【明色に染まる空(daydream)】のメンバーの話はこの章で一話あったので察しのいい読者は分かっていたことでしょう。分からないように最大限の配慮はしていましたが、乱数はたまにありえないくらい分かりやすい伏線を敷いたりしてますので……

この章は【明色に染まる空(daydream)】戦で終わりなのですが、終わったら最終章に入ってしまうと思うと、少し寂しいものがありますね。
マシになってきたとはいえまだまだ駄文ですが、どうか最後まで見てやってください。

次回、明色に染まる空

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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暁と孤独

そこは広々とした白い大きなステージだった。

5つの白い柱が点々と、しかし規則的に並んでいる以外は何もない、すこし寂しさすら覚える場所だった。

 

400人で動き回ってもなお余裕がある程の広さのそこに、キャパシティよりもかなり少ない総勢19人と1羽が音もなく現れた。

 

彼らは青の高台に6人、赤の高台に13人と1羽に分かれて立っていた。

 

両者の浮かべている表情にさしたる差はなく、どこか気の抜けた、それでいて楽しそうな表情をしている者がほとんどだった。

これから何が始まるのかを理解していないのか、もしくは理解した上でまだ楽しむ余裕があるのか。

 

《皆様、準備はよろしいでしょうか》

 

キィと名付けられた機械音声がそう声をかけるまで、両者の間に音は存在していなかった。

両者ともに、ただじっと相手を睨むでもなく見ているだけだった。

 

キィのその呼び掛けをうけて両チームは静かに頷く。

 

そして、その時は来た。

 

《バトルの始まりです》

 

その声がかかった瞬間、両チーム同時にに高台から飛び降りた。しかし両者ともにすぐに攻め入るわけではない。

 

その理由はすぐに分かった。

 

「よぉ、key。久しぶりだな。驚いたよ、まさか三人でこのイベント勝ち上がるなんてな。規格外にも程があんだろ。」

 

ロードが全体チャット機能で敵チームのkeyに話しかける。ゲーム時代とは異なり、チャットはdiscordのようにボイスチャットになっているので意思疎通が図りやすいとかなり褒めそやされている機能だ。

 

それでいて定型文のチャット機能は残っている。サイレントの間は言葉を発することができないという仕様変更に対応するための措置だろうか。

 

話しかけられたkeyは挑発とも取れるロードの一言に返事を返す。

 

「お前らもだろ、ロリコンの王。100人規模のギルドに6戦中3回当たってんのに勝ち上がってんだぜ?しかもジャンヌの復活無しでだ。お前らだって充分異常だぞ。」

 

軽い言葉のジャブから戦いを始める両者だったが、互いが互いを褒めているようにしか聞こえない。

それで油断を誘えるほど相手が甘くないのも知っているだろうに、二人はそれを止めない。

 

「はっはっは、黙れへっぽこ締め出され野郎。」

 

「言ってくれるじゃねぇか、ロリコンのクセして。」

 

訂正。両者ともに軽いジャブから入ろうと思っていた訳では無さそうだ。

 

「ま、睨み合っててもしょうがねぇな。埒が明かねぇ。お前らせいぜい好きに攻めてこいよ。」

 

「こっちのセリフだ、ロリコンの王。お前の吠え面を初めて拝めるのが今から楽しみだぜ。」

 

「それこそこっちのセリフだ。ま、お前らの吠え面なんて見飽きてるわけだが。」

 

二人が声を合わせて「はっはっは」と乾いた笑い声を響かせたところで両者同時にチャットをガチャ切りする。非常に彼ららしい宣戦布告だった。

 

「さて、そんじゃ今回の確認をちゃちゃっと──」

 

ロードがそう場をまとめると同時に異変が起こる。

 

『遊ぼぉよぉ……!』

 

『カピッ!?』

 

通話が切れるとほぼ同時にノホタンが【Telepass】で飛んでくる。餌食になったのはvoidollだ。

 

「なっ!?」「嘘でしょ!?」

 

これには今までの戦闘において戦略を立ててきたロードも楼閣も予想外だったらしい。さして周囲が早くもなく、低耐久かつ囲まれた際に逆転が難しいヒーローがいきなり敵陣ど真ん中に飛んでくるとはとても考えにくかったためだ。

 

1:1交換しても人数不利は変わらず、どころか手数が少なくなる手を敵が打ってくるとは、ロードと楼閣には考えられなかった。しかし【明色に染まる空(daydream)】は平然とその手を取ってきた。その事に2人はかなり驚いていた。

 

「チッ、voidollか。めぐかリコ持ってければでかかったんだが……まぁ次善か。ノホ!」

 

『顧みる返り血最高……!』

 

『クワッ!?』

 

【家庭用メカの反乱】によってvoidollの体力がガリガリと削られる。耐久がいくら高いとはいえ、【Telepass】のダメージと合わせて耐えられるものではなかった。

 

《味方が倒されてしまいました》

 

「チッ、毒殺不可は勿体ないが、とりあえず一人沈めるぞ。波羅!!」

 

相手にペースを崩されるのは不味いと身をもって知っているロードは、相手に傾いた状況を最初の状態に持っていこうとそう指示を出す。

 

だが、それは少しだけ遅かった。

 

「仰せの通りに!めぐめぐ、【クルエルダー】!」

 

「ノホ!」

 

『あったま……いったい……』

 

『触れたきゃお菓子を持ってきな!』

 

敵陣の中央に居座り欲をかくのが危険だと理解していたレイアは忘れられがちなノホタンのヒーローアクションでリスポーン地点に戻る。

波羅渡の【クルエルダー】は虚しく空を切った。

 

「クソっ!!すみませんボス!逃がしました!!」

 

「あぁくそ!乗せられた!……まぁいなくなったのはドクだから一番安いか。」

 

「そだね。ドクくんは残念だったけどそこは仕方ないよ〜。みんなリラックスリラックス!」

 

「ひどっ!?鬼畜しかいないのかこのギルドは!!」

 

「……ふぅ…………はい……!切り替えて、いきましょう……!」

 

ロードは相手のペースに乗せられた事に少なからず苛立ちを覚えるが、過ぎたことを悔やんで視野が狭くなるのを恐れてか無慈悲にも取れる事をサラリと言う。それに対して楼閣は他のメンバーを宥めるように勤めて明るく、飄々とそんなことを返した。

 

それを受けてカフカはギルドに鬼畜しかいないと再確認したと言わんばかりの態度をとり、カロネはその真意を理解して深呼吸をすることで自身の混乱を治める。

波羅渡はロードが間違うことなどあるはずがないと言わんばかりにロードの一歩後ろで静かに微笑んでいた。

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】ギルドメンバーが落ち着きを取り戻し、無策で突っ込んでこないのを見てkeyは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「チッ、アイツら冷静になるのが早すぎんだろ!【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】かロリコンの王くらいは突っ込んでくると思ってたのによ!」

 

「今までの作戦は、やっぱりそのままじゃ【孤独者達の宴(ロンリネス)】には通じないか〜。突っ込んできたらkeyの仕掛けた【ドラ花】の餌食だったのにね。」

 

どうやらペースを崩されたのは【孤独者達の宴(ロンリネス)】だけではなかったらしい。【明色に染まる空(daydream)】の面々も今までの作戦が通じなくて地団駄を踏んでいた。

 

「やっぱり、「負けることはありえない」って思ってる大規模な集団じゃないと視野が広いままか。それに、【孤独者達の宴(ロンリネス)】も同じようなことやってたはずだし、狙いがわかる分……ね。」

 

「戻ったぞ。でもボイドを倒せたのは良かったんじゃないか?スタンもほぼ心配なくなったし。」

 

戻ったレイアが地団駄を踏む二人をそう諌める。できたこととできなかったことを明確化し、落ち着こうとしていた。

 

「……それもそうだな。【テレパス】を見せてるからHSも溜めにくいだろうし、なんにせよ奴らは攻める以外の選択肢がほぼ失われてるってわけだ。」

 

keyが落ち着きを取り戻してそう言った。PRHSも「まだ【ドラ花】もバレてないしね」と同意する。

 

かなり冷静になった【明色に染まる空(daydream)】一行は、薄ら笑いを浮かべながら余裕綽々で静かに言い放った。

 

「さて、詰めていくか。」

 

「うん。真綿で首を絞めるようにゆっくりと、ね。」




ちょうどいい所で切れたので短めですが投稿しました。乱数調整です。

ついにこの戦いが始まってしまいました。この章〆の話です。人数が少ないふたつのギルドの決戦。どちらも奇襲を行っていたために自分たちの手を警戒するのでなかなか攻め入れなければ虚をつきにくい。はてさてどう進むことやら……(天:お前は分かってろよ)

今回の話で私が気に入っているのは嫌味の応酬部分です。書いててとても楽しかった……!
さてここからどう話を進めるか……

次回、暁に舞う

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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メタ張り合戦

明色に染まる空(daydream)】一行がそんな会話をしていることなどつゆしらず【孤独者達の宴(ロンリネス)】一行はゆるゆると対策を立てていた。

 

「んで、具体的にどうするかだよな。」

 

「そうだねぇ。向こうにはジャンヌちゃんもいるからあんまり悠長してられないしね。」

 

楼閣は顔には出していないが焦っていることが言葉の端々から感じられた。ロードも同じようで、うんうんと唸っても今までのような妙案が浮かばず、苦しい思いをしていた。

 

「突っ込みましょうよ!!」

 

「波羅、却下。だけど、物量差を生かすのもいいかもな……突っ込んでみるか?」

 

そこに空気を読まず、欲望全開で波羅渡が口を突っ込む。許可が降りればすぐに行くと言いたげに目を輝かせ、犬のしっぽのような幻覚までついていた。

ロードは許可すれば単騎ですぐにでも敵陣に切り込みに行きそうな波羅渡をみて即時却下したものの、悠長はしていられない以上、それもありかと思い始めていた。

 

「うーん……それもありかもねぇ。私とカロネちゃんの支援で間に合いそうだし、危なかったら撤退も出来るでしょ。うん。それでいこっか。先頭は……まぁ、行きたいよね?波羅ちゃんかロードくんで──」

 

「だ、ダメです!!」

 

楼閣がそう話をまとめかけた時、すさまじい剣幕でカロネがそれを止めた。一同はカロネがそこまで感情を発露させることが珍しく、どうして止めたのかが気になった。

 

「?どうしたの、カロネちゃん。どうしてダメだと思ったの?」

 

楼閣が焦るカロネを宥めるようにそう訊ねる。カロネは少しは落ち着いたのか、それとも自らのほぼ直感的な読みに怖気付いたのか、いつも通りの口調で続ける。

 

「あ、あの……罠…………が……」

 

「ん?【ドラゴン花火】かい?たしかにあるかもしれないけど、可能性はかなり低くないかい?置くための時間が長いし、奇襲にしか使えないから腐りやすいと思うんだけど……」

 

「あの……【テレパス】…………で……畳み掛け……なかった、ので……」

 

「あぁ、なるほど。たしかにああやって虚をついたなら混戦にした方が勝率高いよね。ジャンヌちゃんがドア飛びしてスタン撒くとか、keyくんのさっちんが周囲で崩すとかしたらあるいは……って感じかな。でも二人が自陣から動かなかったから、有利な状況で各個撃破するためにあえて誘い込んで溶かすつもりだ、ってことだね?それならたしかに【ドラゴン花火】使うねぇ。だったら低耐久のめぐちゃんとコクリコちゃんを前衛にするわけにはいかないね。」

 

「いやお前、なんでそんなに分かんだよ。」

 

カロネの説明を最低限だけ聞いて楼閣が手短にまとめた。ロードを筆頭に他のメンバーはまだ発言の意図が掴めていなかったらしく、おかしなものを見る目で楼閣を見ていた。

 

コクコクと頷いているカロネを見る限り、楼閣の読みは当たっているらしいからいいが、いくらなんでもすぐに分かりすぎているだろうと一同は思った。

 

「えぇ〜?普通のことだよ〜」

 

『楼閣、正気に戻れ。お前はおかしい。』

 

「ちょっとジャスくん酷くない!?」

 

《あたしもちょっとおかしいと思う……》

 

「ベガちゃんまで!?ちょっとみんな、最近私への態度が雑じゃないかい!?」

 

その位はギルドマスターとして当然のことだと主張する楼閣だったが、ジャスティスやベガにそれが異常だと指摘される。当人の言うように、かなり手酷い否定だった。

 

『ところで楼閣、マピヤはいつまで敵の間を往復していればいい?』

 

「ん?言ってなかったっけ?今回はジャンヌちゃんがいるからその削り意味ないよ。」

 

『マピヤ!!すぐ戻れ!……全く、そのような大切なことは忘れずに伝えてくれ。いつも通りに動いていたぞ。マピヤにあまり無理はさせたくない。』

 

「あっはっは、ごめんごめん。」

 

『そうか楼閣、お前達の言う【鬼】とはお前のことか。』

 

イスタカが楼閣に、いつもバトルで指示されていたことをいつまで続けるのかと訊ねると、楼閣は言っていなかったことをすっかり忘れていたと言いたげにそう返す。マピヤに重労働を強いておいてこの仕草。鬼と取られても仕方がないだろう。

 

実際、ジャスティスをはじめとしたメンバーの多くはすごい勢いで首を縦に振っていた。

 

「そんなこといいからさっさと攻めに行くよ?イスタカさん、先陣切ってもらえる?」

 

『承知した。ガードのタイミングは指示を頼む。して、初めは?』

 

「ん、ノホちゃんお願い。」

 

『ではそのように。マピヤ!あれが獲物だ!!』

 

『ピュイィィィィィ!!』

 

楼閣は先程から手酷いことばかりを言ってくるメンバー達を無視してイスタカにそう告げる。イスタカはさらなる指示を自主的に求め、楼閣の考える最適解を引き出した。

 

そういった細々とした準備を終えてイスタカが出撃し、少し遅れてロードと波羅渡も出撃したころ、keyは一人で焦っていた。

 

「くっそ!おいPR!レイア!!さっさと前出るぞ!」

 

「ん?どしたkey?お前らしくもない。気づくわけねぇだろ?【ドラ花】とか腐りやすいカード、持ってこないって思われるって言ってたのお前じゃん?」

 

「そうだよ。こっちに引き込めてるんだから大丈夫だって。さっき仕掛け直してたでしょ?その時のは見られてないはずだから心配いらないって。」

 

一人で焦るkeyをレイアとPRHSがなんとか宥めようとするが、keyの焦りはとまらない。

 

「正気かお前ら!?イスタカが先頭だぞ!いつもなら【狂気に満ちた矜喜(デュアルアバター)】がそれとなく奇襲かけてロリコンの王がそれとなくカバーしてるのに、今回だけ割と耐久高いイスタカだ!ヤツら気づいてる!」

 

そこでkeyが焦る理由が何となく分かったPRHSはもし本当なら悠長している余裕はないと思ったのか、keyに最低限の質問を返した。

 

「ジャスティスは?」

 

「足遅い。【ドア】はリコが無理。あと位置不明!!」

 

「確かにね。よし、こっちも前に出よう!!」

 

keyのその短い回答でPRHSは理解した。

徒歩ジャスティスだとジャンヌのHSをためきられ、前に見せたスタンと貫通があるゆえにコクリコの援護が来るまで耐えられると思っておらず、罠の位置が分からないのに敵陣でウロウロはできない、ということを楼閣が考えているのだろう、と。

 

そしてPRHSの号令で、3人は前に出る。

 

「よく分からんが分かった!やっぱり【ドラ花】腐ったな!後でなんか奢れよ、key!」

 

「ぬかせ!勝ったら好きなだけ奢ってやるよ!!」

 

「んじゃ、負けらんねぇわな!!」

 

軽口を叩きながら【明色に染まる空(daydream)】の3人は進撃する。

孤独者達の宴(ロンリネス)】との距離はみるみるうちに縮まっていった。

 

『ロード、やつら近づいてくるぞ?どういうことだ?』

 

「なんかもめてたみたいだから、当たってたんじゃねぇの?相手のペースに乗せられるのはまずいから、互いに想定してない場面を作って持ち直そうとしてんだろ。こっからは混戦だ。」

 

「ギッヒヒ!かかってこい!殺して解剖(バラ)して、お前らの死体を並べてやるよ!!」

 

両者共に中央のCポータルに向かって進撃し、戦いが始まった。

 

「PR!レイアに!」

 

「おっしゃ行ってくる!」「任せてね!」

 

「好きに食い荒らせ、波羅!」

 

「キヒヒ!虐殺(パーティー)を止めるなよ?」

 

両者はここで衝突した。




こういうやり取りが書きたかった!だから私は最終戦を少人数対少人数にしました、乱数調整です。

さてさて今回は、自分なら使うであろう戦略を相手も使ってくる、使ってきていたのでその対策合戦になる、という話でした!
バトル回でバトル以外のことを書くのが多すぎる。はよバトル入れ。と私のゴーストが囁いていますが無視です。シカトです。
ただ、さすがに次回からはバトル入りますよ?

最近、バトアリ等々で見たことある名前の人がいるから相互さんかな?と思っているとお気に入り登録者さんだった!なんてことがちらほらありました。
私はコンパスでの名前が【乱数調整】ではないので登録者さんは気づいていないのですが、一人で楽しい気分になっています。
ありがとう、お気に入り登録者さん。

次回、死に至る舞

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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死に至る舞

それは舞だった。

双方の体力(いのち)が軽々しく吹き飛び、絶え間なく回復し、ある種の白昼夢のように惨たらしく、

あるいは死という概念が遠いと錯覚すらするほど濃密な死が充満する

 

死に至る舞

 

 

───────────────────────

「いくぞめぐめぐ!【クルエルダー】!」

 

『触れたきゃお菓子を持ってきな!!』

 

「捕まっ……!?」

 

『あぁ……』

 

「援護するよ!ジャンヌちゃん!【アンジュ】!」

 

『私に任せて!』

 

戦いの口火を切ったのは波羅渡。いつも通りの【クルエルダー】で乃保を絡めとる。【武術家の超速加速】を使用した隙を狙われたようで乃保は対策する暇もなく絡め取られる。

しかし【明色に染まる空(daydream)】とて何もできないわけではなかった。PRHSはその行動を読んでいたかのように乃保を狙うイスタカの射線に滑り込む。

 

「死にさらせぇ!!」

 

『あっはははは!!』

 

『あぁ……痛い……』

 

「させないよ!ジャンヌちゃん!!」

 

『いざ!』

 

ダウンを取られた乃保にめぐめぐの凶弾が次々と命中する。

がしかし、ジャンヌの回復があってのことだろうが、乃保が起き上がるまでなんとか凌ぎきったのだ。

もちろん、ジャンヌの回復だけではイスタカとめぐめぐの両名に狙い撃ちされていた乃保は耐えていなかっただろう。だがそこはPRHSがイスタカの射線を塞ぎ攻撃を代わりに受けることによってどうにか解決していた。

さすがは【不滅の不死(ゴースト)】と呼ばれただけあってなかなかに手強い。

 

『楼閣すまない、仕留め損ねた。』

 

「何かあった?」

 

『あの女騎士殿に射線を塞がれた。やつらなかなかやり手だぞ。』

 

イスタカが離れた位置にいる楼閣に短く戦況を説明する。楼閣もある程度【明色に染まる空(daydream)】の地力を知っていたからか、取り乱すようなことはしなかった。

 

「なるほどねぇ。あんまり引きずらないでね?」

 

『分かっている。』

 

楼閣は短く忠告し、イスタカもまた最低限の言葉で返した。

そしてイスタカも切り替えて死の舞う戦場に戻る。

 

その頃、イスタカ達に阻まれて無理やりタイマンに持ち込まれたkeyと持ち込んだロードもまた相対していた。

 

「あっちはあっちで騒がしいな、key?」

 

「けっ!余裕綽々でよく言うぜ!【フルーク】も【オルレン】も余裕もって躱してるくせによ!!」

 

それまでにkeyは攻撃を試していたのだ。

まずはダッシュアタックを決めようと突撃してくるコクリコをギリギリまで引き付けて【フルーク】を打ち込む。それをロードは寸前で静止し躱してたのだ。

 

もちろんkeyとてそう簡単にロードのコクリコが攻略できるとは思ってはいない。ゆえに第二の刃として【オールレンジアタック】を連続切りしていたのだ。

しかし、それを読んでいたかのようにコクリコはカウンターで返す。13はコクリコにダメージを与えることなく、逆にコクリコの攻撃のダメージのみをまんまとくらってしまったのだ。

 

そのままではフルークを入れられてしまい、負けに直結する。そう悟ったkeyはなんとかHS(ヒーロースキル)を発動させて失った13の体力を回復させる。その読みは正しかったらしく、コクリコの放った【フルーク】は虚しく無敵時間に阻まれる。

 

攻撃が失敗したことを悟ったロードは悪魔に命じて13の背後に後退する。ダッシュアタックを決めるためだろう。

確かに13から離れることで13のHA(ヒーローアクション)──鎌を振り回しての突撃──でやられる危険はあるものの、その場で留まっていても攻撃バフの乗った通常攻撃で溶かされることを予期したうえでの判断だ。

13の背後に逃げたのはすぐには突っ込んでこれないように、という配慮からだろう。

 

2人の距離は少し開き、両者ともに攻めの機会を伺っていた。

ロードは相手のまだ見ぬカードを警戒して、

keyは内に秘めた作戦を機を逃さぬように、

 

「13、すまん。俺のミスだ。」

 

『気にすんなよ、相棒。一泡吹かすんだろ?』

 

「あぁ。もちろんだ。いくぞ13、【秘めたる】!!」

 

『いよ〜ぉし!効いてきたぞぉ!!』

 

目の前で【秘めたる力の覚醒】を使用したkeyに対して、ロードはこのまま追いかけ合いになると直感した。そうなれば一撃ヒーローアクションを入れられれば負けてしまうと考えたロードは迷わずダッシュアタックを決めようと動き出す。

 

「セナ!距離詰めろ!」

 

『言われなくともォ!僕の役に立てェ!!』

 

しかしそれは、少しだけ遅かったようで

 

「行け13!」

 

『ぃよっほーい!!』

 

「なっ……!?」

 

『あっはは!』

 

13はしつこく乃保を狙い続けていためぐめぐに鎌を振り回しながら突撃し、めぐめぐをはじき飛ばした。めぐめぐはなんとかその攻撃を持ちこたえたものの、遠くに投げ出されて戦線復帰の必要ができた上に満身創痍。

孤独者達の宴(ロンリネス)】の攻めの体制はかなり崩れた。

 

しかし、攻めの体制が崩れたのは【孤独者達の宴(ロンリネス)】だけではなかったようだ。

 

「不意打ちご苦労様……って言いたいところだけど、【秘めたる】ちゃんと使った?」

 

「あぁ……使ったはずだ。よな、13?」

 

『あぁ、相棒。攻撃バフはちゃんと二重にかかってたぜ?』

 

「だったらどうして……いや、そうだった。向こうには支援のスペシャリストがいたんだっけ。」

 

PRHSがそう呟きながらめぐめぐの周りを回る十字と五角形が合わさったようなマークを確認した。それを見て何かを察したのか彼は遠くにいるカロネの方を向く。

ちょうどその時、楼閣はカロネにこんな話をしていた。

 

「いやぁ、カロネちゃんおてがらだねぇ。あの局面で急に【イノセンテ】使った時は何事かと思ったけど、ナイス判断だったよ。」

 

「【銀ちゃん】……!い、いえ……あの場で……狙う、なら……視野の狭い……波羅渡さん…………ですから……」

 

褒められて嬉しいからかそれ以外の理由か、カロネはかなり照れていたようでいつもより言葉がたどたどしかった。

 

彼女の言葉の通り、カロネはkeyが【秘めたる力の覚醒】を使用した直後に、彼女は慌てた様子で──いつもなら楼閣に「使います……!」と申告してから使用するはずなのに──突然【イノセンテ】を使用したのだ。

 

もちろん楼閣はかなり驚いていたものの、イベント参加は【楽しむため】と言っていたため口を挟むのも無粋だろうということで口を挟まなかったらしい。

もちろん、カロネの支援能力を高くかっているのも理由としてあるのだろうが。

 

「予想外に予想外が重なるねぇ。ね、カロネちゃん、」

 

「【月夜叉】……!……!?は、はい……!なん、でしょうか……?」

 

遠くで変わりゆく戦況を眺めながら、楼閣はカロネに語りかけた。

カロネは驚きながらも返事を返す。

 

そんな中楼閣は、その場ではあまりに場違いとも取れる質問を送った。

 

「楽しいかい?」

 

「…………えぇ……とっても……!!」

 

カロネは花びらが舞うように笑った。

 

その二人が見つめる戦場で、【明色に染まる空(daydream)】と【孤独者達の宴(ロンリネス)】の両メンバーは激流のように慌ただしく動いていた。

 

「もっぺんいくぞめぐめぐ!!【クルエルダー】!!」

 

『汚ぇ顔で近づくな!』

 

「読めてっぞ!【ディーバ】!!」

 

『守らなきゃ切れないなんておかしいよ。』

 

波羅渡は恐らく一番のダメージディーラーである乃保を一同から引き剥がし、今度こそ仕留めようと画策していた。乃保は乃保でそれを読んでいたらしく、きちんとダメージカットのカードを使用してダウンを免れていた。

 

「今度こそ……!【メカは──」

 

「させないよ〜!【カノーネ】!!」

 

『命の息吹よ!』

 

勢いそのままに乃保は【家庭用メカの反乱】を使用してめぐめぐを狩りとろうとするが、それを予期していた楼閣によって防がれる。

 

耐久が薄い乃保だが、チームレベルの差でかギリギリ持ちこたえていた。もちろん、イスタカのアビリティでマピヤとバディーズを組めていれば倒せていただろうが、現在マピヤはジャンヌに張り付いている。低耐久を守れる優秀な回復ソースを早めに絶っておこうという楼閣の策略だ。

そのまま張り付けていれば乃保を倒せただろうが、回復ソースを削りたかったため完全に戦略ミスとも言い難い。

 

「【クララ】!ジャンヌちゃん!」

 

『私に任せて!いざ!』

 

「させねぇよ!セナ!」

 

「こっちのセリフだ。13!」

 

『ぃよっほーい!』

 

『おのれェ!!』

 

イスタカが追撃をかけるまでの一瞬で、常に周りに気を張っていたPRHSが回復に動く。【クララ】で時間稼ぎ程度の体力を回復させた後にヒーローアクションで乃保の体力を回復させた。

もちろんキルをとるチャンスをみすみす見逃すわけにはいかないとロードもジャンヌに追撃を試みる。しかしそれはkeyの13によるヒーローアクションで不発に終わった。

 

「【月夜叉】。ロードくん、焦らないでね〜。」

 

「チッ、わぁってるよ。」

 

遠くにいる楼閣がロードにゆるゆるとそんな一言。

楼閣ならもう少し説教じみたことを言いそうな局面だとロードは思っていた。ただ、ロードならそのくらいは自分でわかっているだろうと楼閣は考えていたためにその程度で済ませたのだろう、ともロードは直感した。

 

「ったく……あのむっつり、よく見てやがる……!」

 

『少し攻撃が直線的じゃァないかァ?お前らしくもないなァ?』

 

「……お前に言われる日が来るとはな。ま、確かに少しだけ熱くなってたな。」

 

ロードはチラリと後ろを確認する。そして悪魔に向かって訊ねた。

 

「なぁセナ、俺と死地に赴いてくれって頼んだら、お前は来てくれるか?」

 

『コクリコちゃんのためならなァ。』

 

そうか、とロードは苦笑する。そして据わった眼で敵を見ながら返した。

 

「んじゃ、そんときは頼むわ。そうじゃない時は……ま、適当に頼む。」

 

『……あぁ。お前がお前である限りは、なァ?』

 

一人と一体は覚悟を決めた。

 

「そんじゃ、いくぞ!波羅、イスタカ!!ジャンヌに集中!乃保とさっちんは任せろ!」

 

「了解です!送ってやるよ、地獄になぁ!!」

 

『めぐめぐにおまかせ!』

 

『承知した!こちらは任せろ!!』

 

ロードは勢いよく味方の三人に言い放つ。三人はすぐに臨戦態勢を取り、ジャンヌに攻撃を加え始めた。

 

「ジャンヌちゃん、ここが正念場だよ!【イェーガー】!【花火】!」

 

『私が守ります!これで凌いで!』

 

「めぐめぐ!【レオン】!」

 

『触れたきゃお菓子を持ってきな!』

 

『呼吸を合わせるぞ!』

 

PRHSは向かってくるめぐめぐとイスタカを見て迷うことなく【イェーガー】と【打ち上げ花火】を使用し、耐久を底上げする。

対する波羅渡は【レオン】を使用してダメージカットを無視して攻撃を当てる。もちろんそのダメージは【打ち上げ花火】ですぐに回復されるが、波羅渡の狙いはそこでは無い。

 

「【タイオワ】!めぐめぐ!」

 

『ガトりんMk.2♪セット完了!』

 

波羅渡の狙いはその攻撃でヒーロースキルを貯めて、ジャンヌの行動を制限することにあった。【タイオワ】の乗ったガトりんMk.2だ、火力はバカにできない。

 

「してやられたね……!」

 

『なんとか向こうに行かないと……!』

 

それを受けてPRHSとジャンヌは少し焦る。

二人の視線の先にはコクリコ一人に翻弄される味方の姿があった。

 

「セナ!乃保狙え!」

 

『言われなくともォ!!』

 

ロードはイスタカと波羅渡に指示を出したあと、すぐに乃保と13の方に走り出していた。すぐに出なければ対策され、合流を果たされてしまうからである。

 

コクリコは乃保に狙いを定めて走る。ダメージディーラーを潰すのがコクリコの戦闘形式における定石だからだ。

しかし、黙ってくらってやるほど乃保も甘くはない。

 

「まだだ……今!【メカ反】!!」

 

ギリギリまで引き付けて乃保が【家庭用メカの反乱】を使用する。【家庭用メカの反乱】はバフ、デバフともに関係ない連撃をお見舞いするカードである。体力は低いがデバフを相手にかけることで疑似耐久指数を上げるコクリコにとっては天敵のようなカードだ。

 

だが、ロードと悪魔はその程度、想定の範疇だった。

 

「【バーゲン】!!」

 

『まって〜、ヒツジさ〜ん……♪』

 

『顧みる返り血最高……!』

 

『近寄るなァ!!』

 

ダッシュアタックを叩き込まずに【バーゲンセール戦争】を使用する。全ての攻撃を4秒間だけ無効化するカードで天敵をやり過ごし、逆にダメージを叩き込んだ。

【バーゲンセール戦争】のカウンターで乃保が打ち上げられる。

 

「チッ!13!」

 

「読めてっぞ!【オルレン】!!」

 

『お邪魔虫は排除するゥ!!』

 

『ぃよっほー……ぐぇっ!?』

 

背後からヒーローアクションを当てようとした13を【オールレンジアタック】でやり過ごした。keyならば追撃を阻止するだろうというある種の信頼か、迷うことなく【オールレンジアタック】を切る。驚嘆に値するメタ合戦だ。

 

「セナ、放置でいい。乃保に。」

 

『任せろォ!』

 

『ここで痛い目見せたい……』

 

「くっそ!これは高くつくぞ!」

 

ロードは13のダウンを取ったが、それは無視するようにセナに指示し、乃保への追撃を選択する。

その視線の先ではちょうどポータルキーの位置に落下した乃保がポータルを制圧していた。セリフから察するに制圧するつもりはなかったらしい。

 

『どけェ!』

 

『痛い……』

 

そのせいもあってかロードは無償でのダッシュアタックに成功する。しかしロードは止まらない。

 

「セナ、来るぞ。後ろ向け!【ぶれどら】!!」

 

『近寄るなァ!!』

 

13がヒーローアクションで突っ込んでくることを予測したロードはセナに180度回転を命じて【ぶれいずどらごん】を発動させる。鋭い読みとすぐに行動に移せる胆力は驚嘆に値するだろう。

ただ、その読みは外れていたのだが。

 

「それは読めてるぜ、ロリコンの王。13!」

 

『ぃよっほーい!!』

 

『おのれェ!!』

 

すぐには突っ込まず、一拍間を開けてから13はヒーローアクションで突っ込んできた。その攻撃を、コクリコは近距離モーションの硬直で避けることができない。

かなり遠くに弾き飛ばされてしまった。

 

「レイア、回復しとけ……っと貯まったな。13!」

 

『二丁拳銃ってリロードどうすんだ?』

 

「了解。サンキュ。【ガブリエル】」

 

『貸しだよ?』

 

その間に乃保と13はそれぞれの手段で体力を回復させる。連携の取れた見事な手腕だった。

 

そして、プレイングが上手い者は他にもいた。

 

『きゃあ!いたた……うまくいきましたね。』

 

『すまないロード!失敗した!』

 

「やっほー、二人とも。ただいま。」

 

乃保とkeyの元にジャンヌが降り立った。どうやって合流したかと言えば、イスタカの【フルーク】だ。

ガトりんが乃保とkeyの側に設置されている。多少のダメージを覚悟して突っ切ったとしても、波羅渡の【クルエルダー】で射線上に戻される可能性があるとPRHSは悟った。

だからPRHSは一旦波羅渡の【クルエルダー】の射線から逃れる必要があったのだ。

それを可能にするのは上空、すなわち【フルーク】で上空に打ち上げられることで射線から逃れようとPRHSは画策したのである。

 

体力こそ削れているものの、keyたちと合流でき、その目論見は上手くいったと言えるだろう。

 

「無茶苦茶しやがるな、お前。だが……」

 

「あぁ、合流出来たな。」

 

keyも乃保もPRHSの合流を喜ぶ。

今こそ反撃の狼煙を上げる時だと言わんばかりに。

 

だが、その油断が命取りだ。

 

「忘れてもらっちゃ困りますよ!グスくん【オルレン】!!」

 

『全開だ!』

 

今まで誰からも忘れ去られていたであろうカフカとグスタフが合流し、完璧な奇襲を仕掛ける。カフカはかなり大回りしてきたかいがあったと言わんばかりに満足気な表情をしていた。

 

「なっ!?」

 

「嘘っ!?」

 

「はぁ!?」

 

明色に染まる空(daydream)】の三人も完全に存在を忘れていたらしく、かなり驚いていた。

 

「立て直さないと……!【クラ──」

 

「させませんよ!グスくん【和太鼓】!」

 

『ブワァ!!』

 

すぐに体制を立て直そうとはしたものの、その動揺は凄まじかったらしい。カフカが連続切りをしていた【和太鼓】に全員巻き込まれる。全員体力が少なく、ジャンヌの全体回復も封じられてしまった。

 

「くっ……!2人とも大丈夫?」

 

グスタフの【周囲】に吹き飛ばされながらもPRHSはkeyとレイアに訊ねる。自身も満身創痍だというのに。

 

「ミリで耐えた……けど回復がねぇ。」

 

「同じく。」

 

keyとレイアはそう返す。そんなさなかにコクリコが接近する。悠長にジャンヌのHAで回復などしていたら【オールレンジアタック】で3人ともやられてしまうだろう。

 

そう考えたPRHSは、秘策に出る。ほとんど賭けとも言える秘策に。

 

「そっか。HAの暇もない……それじゃ、任せたよ2人とも。勝ってね。」

 

「すまんなPR。」「もちろん勝つさ。」

 

そう言ってPRHSは前進し、keyとレイアは後退する。

迫り来るコクリコに抗うべく突き進むジャンヌにPRHSは囁くように、慈しむように、言った。

 

「ごめんね、ジャンヌちゃん。こんな役回りばっかりで。」

 

『いえ。これが今私のできる精一杯なので。』

 

PRHSとジャンヌはそうやって笑いあった。

 

「よくやった、カフカ!!いくぞセナ!!」

 

『任せろォ!!』

 

カフカの奇襲で出来た大きな隙を、ロードが見逃すわけもなく、猛スピードで三人に迫る。

それに対抗するように、ジャンヌとPRHSは歩みを止めない。

 

そして、その時は来た。

 

「終わりだ!【オルレン】!」

 

「届かせないよ!受け止めてみせる!」

 

『あなたの攻撃を、彼らに当てさせるわけにはいかない!』

 

コクリコとジャンヌがぶつかり合う。使い手の意志をその身に乗せて。

ポリゴンの欠片が辺りに飛び散る。

 

そして──

 




キリのいい所まで進めたかったんです……前の二話とはうってかわって長くなりすぎて申し訳ありません。乱数調整です。

さてさて今回!この章の構想を練り始めた時からずっと考えていた後が気になる(けどちょっと考えれば次回の入りが分かりそうな)〆です!
バトルの内容は書いててすごく楽しかったんですけど、ジャンヌとさっちん&乃保を離す関係上、描写がかなりしんどかったです……主にどうやって視線を切り替えるかとか、どの程度バトル描写を入れるかとかで。
増えていく文字数、終わらない描写。いやぁ、ヒヤヒヤしました。
あとはあなたのお口に合うことを祈って、終わらせていただきます。

次回、騒ぎは存外呆気なく

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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弔い合戦

『く ら い や が れぇぇぇぇぇぇ!!』

 

怒号とも似つかぬ声が響いた。13だ。

彼の狙う先はコクリコ、いちばん近くにいた相手だった。

 

「なっ……!?」

 

『おのれェ!』

 

ロードはその攻撃を予知していなかったらしく、コクリコは後方に大きく吹き飛ばされる。

ロードはわけがわからないといった具合に目を白黒させていた。

 

しかし、ロードがそんな状況にあったとしても戦況は変わらない。

 

『遊ぼぅよぉ……!』

 

『むぅ……!?』

 

「ねぇ待って嘘でしょ!?」

 

乃保が【Telepass】でグスタフに急襲をかける。【秘めたる力の覚醒】によって引き上げられた攻撃力を元とするその攻撃は、グスタフを一撃で屠るとまではいかずとも負荷をかけるには十分すぎる攻撃だった。

グスタフの体力が8割ほど削られる。

 

「乃保!」

 

『切る……断つ……!』

 

「カフカ……!」

 

「させないよっ!【銀ちゃん】!」

 

『これで凌げ!!』

 

その時、幼馴染の窮地を悟ったカロネが我に返る。カロネの呼びかけを受けて楼閣は少し冷静になり、いつまでも惚けている訳にはいかないと【銀河防衛ロボ】を使用する。

それを見て波羅渡も、今援護をすべきはロードではなくカフカだと分かったのか、カフカの援護に動き出した。

 

「めぐめぐ【クルエル】!」

 

『汚ぇ顔で近づくな!』

 

「そう来るよなぁ!?【ディーバ】」

 

『あたし切りたいからしっかりして欲しい』

 

「波羅さんありです!グスくん【花火】!」

 

【銀河防衛ロボ】の回復のおかげでキルを取られる前に立ち上がることが出来たグスタフを見てカフカは安定を取ろうとする。

しかし、

 

「させっか!」

 

『くらいやがれ!!』

 

『ぬぅ……!?』

 

その行動はkeyに読まれていた。

それもそうだろう。keyはPRHSと訓練をしていたのだ。

keyはタンクの持続回復を遮る訓練を。

PRHSはカード使用をキャンセルされない訓練を。

 

もはや人外レベルとまでレイアが称するその読み合いには、なかなか勝てるものではないだろう。

【禁忌の代償】でグスタフの体力が減少を始める。

 

一方その頃、波羅渡はというと引き寄せた乃保が転倒しなかったことで窮地に立たされていた。

 

「チィ……っ!!3秒だ!逃げろめぐめぐ!!」

 

『おっけーハービィー!!』

 

「させっかよ!【武術家】!」

 

『ガラじゃないから』

 

波羅渡はすぐに後退し、乃保の攻撃範囲から逃れようとするものの、【武術家の超速加速】によって加速した乃保に背後を取られてしまう。

 

「なっ……!?めぐめ──」

 

「遅せぇよ!乃保!」

 

『切る……断つ……!!』

 

波羅渡が驚いたような表情でめぐめぐに反撃を指示するが、遅きに失した。ガリガリとめぐめぐの体力は削れていく。

 

肝心の全体回復も、カロネ・楼閣両名ともまだCT(クールタイム)が済んでいない。

 

「クソが…………!」

 

『しっかり顔、覚えたからね?』

 

《味方が倒されてしまいました》

 

勢いそのままに波羅渡とめぐめぐが戦線から離脱する。ダメージディーラーが一人消えた。

 

「まだだ!行くぞ乃保!」

 

『まだ切れるの嬉しい』

 

しかしレイアと乃保は止まらない。次の獲物──グスタフに向けて歩を進めだした。

ちょうどそれは、グスタフの【アンジュ】もがkeyによってキャンセルされた瞬間だった。

 

しかし【孤独者達の宴(ロンリネス)】も黙ってやられているわけにはいかないのだ。

 

『いつまでも好きにさせている訳にはいくまい!マピヤ、呼吸を合わせるぞ!』

 

『ピュイィィィィ!!』

 

イスタカ達が乃保を狙う。レイア達がグスタフに近づいていくのに合わせて背後から乃保を追っていった。

 

「グスくんカードない!HA諦めて下がって!」

 

『……仕方ない。引き上げるとしよう。』

 

カフカとグスタフは少し離れた場所にいた波羅渡がやられたのを見て即座に後退を決意する。

しかし乃保は【武術家の超速加速】で移動速度が上がっている。すぐに追いつかれてしまった。

 

「うっそもう!?」

 

「よっしゃ【メカ犯】!!」

 

『省みる返り血最高……!』

 

『ぬぅ、ぐっ、』

 

いくら耐久指数が高いとはいえ、禁忌の代償と13の攻撃で削れていた体力では乃保の高い攻撃力を媒介として放たれる【とある家庭用メカの反乱】を食らうとひとたまりもなかったようで

 

「あー……カロネちゃん、ごめんね……」

 

『やるなぁ……』

 

《味方が倒されてしまいました》

 

グスタフとカフカが戦線を離脱する。

 

残っているヒーローはコクリコ、イスタカ、ジャスティス、ヴィオレッタ。

ジャスティスが今回サポートに回っているのを考えるに、攻撃要因はコクリコとイスタカのみ。人数不利はひっくり返したと言ってもいいだろう。

 

「いったん流れ戻すよ!イスタカさん【フルーク】!!」

 

「読めてんだよ!」

 

『守らないと切れないなんておかしいよ。』

 

『受けてみよ!』

 

最悪とも言える流れを止めようと、楼閣がイスタカを乃保を後ろに回り込ませて【フルーク】を使用する。

だがレイアはそれすらも見越していたようで、【とある家庭用メカの反乱】を使用すると同時に【全天首都防壁】を連続切りしていた。

 

【全天首都防壁】によってイスタカの【フルーク】が防がれる。

 

「乃保!一旦下がれ!」

 

『……ちょっとだけだよ』

 

「イスタカさん【カノーネ】!」

 

『我が声を聞け!』

 

楼閣が乃保を逃がすまいと続けて放った【カノーネ】も、乃保が後退する事で避けられてしまう。それは読めたはずの行動であり、楼閣の失策であることは明らかだった。

 

「イスタカさん【イェーガー】張って後退!」

 

『痛みで戦士は止められぬ!承知した!』

 

それでもまだ勝ち筋は残っていると楼閣はイスタカに撤退を命じる。レイアも深追いしてもさしておいしくないと思ったのかkeyの方にまで下がって行った。

 

イスタカはロードと合流する。それを確認した楼閣はチームチャットでロードに状況の説明を求めた。

 

「ロードくん、なんか調子悪そうだねぇ。どうかした?」

 

「……たしかに倒したと思ってたんだ。なのになんで倒れてなくて回復までしてるんだよ。」

 

ロードは状況が飲み込めず、混乱していたらしい。楼閣が聞きたかったのは「どうしてダッシュアタックを決められなかったのか」を聞きたかったらしく、話題が逸れて少し不満げだった。

しかし、ロードはそれほど驚いたのだろうと考え、その疑問解消のための説明を始める。

 

「私もついさっきまで忘れてたから大きなことは言えないんだけどさ、【私が死んでも あきらめないで】……ジャンヌちゃんのアビリティだよ。覚えてる?」

 

「…………いや、覚えてねぇ。どんな効果だった?」

 

知らないと答えるロードに楼閣は呆れるでもなく、ただ無理もないと言いたげな顔で説明を続ける。

 

「ジャンヌちゃんが倒された時、味方の体力を全回復させるスキルだよ。たいていジャンヌちゃんは溶けないか、味方を倒されてから処理されるからほとんど死にアビリティになってるけどね。」

 

「チッ……そうか、野郎それで……」

 

悔しげにロードが言う。その声音は悔しげではあったのだが、【明色に染まる空(daydream)】の二人が未だに倒れていない原因が分かったからか、少し落ち着きを取り戻していた。

 

楼閣はそれを確認して、再び質問を繰り返す。

 

「それでロードくん、なにがあったんだい?」

 

「あぁ、ちとテンパってて手玉に取られた。俺がフェイント入れられてなかったからだろうが【オルレン】からのバクショで満身創痍。なんとかミリで耐えて射程外に逃げれたのと【ガブ】が残ってたのは幸運だったな。」

 

「そっか。じゃあこれから勝ち筋探そっか……って言いたいんだけど、時間が無いみたいだねぇ。」

 

ロードはkeyとあった一連の戦闘を説明した。楼閣はそれを聞いて、ロードならとやかく言わずとも大丈夫だろうと感じる。

なので次の作戦を練ろうと考えていたが、どうやら時間切れらしい。楼閣の視線の先では乃保がHS【ビハインド・ザ・グラスイズ】を使用していた。

 

「一瞬で終わるだろうねぇ。」

 

「そうだな。」

 

カードのCTや陣形を確認しながら二人は会話する。

局面が動くか、というところで楼閣がポツリとロードに訊ねた。

 

「ねぇ、ロードくん」

 

「なんだ?手短にな。」

 

「楽しいかい?」

 

ロードは一瞬驚いたような顔をした。声だけでやり取りをしていた楼閣には見えていなかったが、ロードはそう聞かれて唇の端を歪めて言った。

 

「楽しくなかったわけ、ねぇだろうが。」

 

それが楼閣に聞こえていたかどうかなど関係ない。

ただ、思わずこぼれてしまったようなロードの本心だった。

 

「決着つけるぞレイア!」

 

「あぁ!誰のためでもなく、己が為に!」

 

「そう易々とは……」

 

「負けてやれねぇんだよ!」

 

keyとレイア、ロードと楼閣がそれぞれの雄叫びをあげる。

大戦の最後の幕が上がったようだ。




終わってしまう……もうすぐこの章が終わって、最終章が始まってしまう……
一抹の悲しみを覚えています、乱数調整です。

さてさて、何人かは私と同じくジャンヌのアビリティを忘れていてこの展開が読めていなかったのではないでしょうか。特にキルスプじゃないスプリンター使いとかだとジャンヌが味方にほぼほぼ来ないので、本文の理由と合わせて忘れているのではないでしょうか?
ジャンヌはジャンヌだけで集中して相手取られるのでアビリティが腐りがちですよね。デス時に発動するベホマズンはそこそこ強いと思うのですがねぇ……まぁ、環境で腐るものはポ〇モンでも第〇人格でもありますし、こればっかりは仕方ない。

次回、エンドロールは響かない

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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篝火

作中の時系列時におけるカード効果、HS効果で書き進めています。
現在の効果と違う部分がありますのでご注意を。


『外すと疲れるけど本気を出すの……うぁぁぁぁあああああ!!』

 

乃保が【ビハインド・ザ・グライスイズ】を使用する。【明色に染まる空(daydream)】はこの勢いのまま決着を付けるつもりらしい。

 

しかし、先程までとは状況が違う。ロードも楼閣も、欠いていた冷静さを取り戻しており、コクリコのカードは全てCTが回復しており使用可能である。

加えて乃保は先程の猛攻でカードをほとんど使い終えており、通常攻撃のみで撃破しなければならない。【全天首都防壁】などのダメージカットカードで止まりやすくなっている。

 

「まぁ、イスタカさんのダメカはもうないんだけどねぇ。どうするロードくん?降参する?」

 

「そんな気微塵もないくせに。そんなんで負けてやれるくらいだったら元から参加してねぇだろ。」

 

「ま、だよねぇ。それじゃ、せいぜい足掻いてみせますか。イスタカさん?」

 

軽口を叩き合いながら楼閣とロードは敵を見据える。

同時に楼閣は乃保が来る前にマピヤをつけておくようイスタカに命じた。言葉は短かったが、イスタカはそれで全てを察すると信じているからこその短さである。

 

『承知した。呼吸を合わせるぞ!』

 

「お願いね。」

 

イスタカも短い呼び掛けで理解したのか、マピヤを乃保の方に向かって飛ばす。

しかしそんなことなど意にも止めず、乃保はイスタカに突っ込んでくる。

 

その場のヒーローたちの耐久力からすれば、アビリティも含めて厄介なコクリコを狙うのが最適解にも思えるが

 

「乃保、リコに構うな。イスタカ倒してからでいい。メカ犯戻りゃイージーウィンだ。」

 

『じゃあそうする。』

 

との事らしい。

ダメージカットがない分やや慎重にではあるが、乃保はイスタカとの距離を縮めている。

それでも強襲した方が強いことが分かっていたため、気持ち程度の慎重さではあったが。

 

乃保が恐ろしい速度でイスタカとの距離を詰める。イスタカも応戦するものの、インファイトを持ち込まれるまでに通常攻撃は一度しか当てられなかった。

乃保の体力は残り2/3程になっていたが、レイアはやられるよりも前にやれると思ったらしく距離を気にせず突き進み、理想的な対面を作り上げた。

 

「イスタカさん!」

 

『畳み掛けるはワキンヤン!死を運ぶはマタンツォ!!』

 

その瞬間、楼閣は狙い済ましていたかのようにイスタカのHSを発動させる。両者の立ち位置が重なり合っていたため、一見その凶矢の範囲はイスタカを中心に展開されているように見える。

 

「チッ!乃保!いったん離脱しろ!」

 

『分かった。』

 

それを見たレイアはダメージカットカードが使えないため乃保に撤退を指示する。HS効果時間をいいように潰されて歯痒い思いをしていた。

 

イスタカのHSが終了した瞬間、イスタカが打って出る。

 

『逃がさぬ!』

 

『あぁ……』

 

間髪入れずにイスタカが乃保に攻撃を加える。乃保の体力がまた減少した。

 

「……!きたっ!!【ディーバ】【ガブ】!!」

 

『守らないと切れないなんておかしいよ。ガラじゃないから。』

 

しかし、ちょうどそのタイミングでCTが終わった【ディーバ】と【ガブリエル】によって攻撃で減った体力が素早く回復される。ディーバの効果もあって3秒間はダメージを受けない。

 

乃保がまたしても急接近を始める。

 

「イスタカさん、3歩後ろ。」

 

『承知した。』

 

しかし楼閣はそれでもなお冷静に指示を出す。その余裕は乃保をHSを侮っているがゆえの余裕にも見えた。

 

「乃保!たたみかけろ!」

 

『切る……断つ……!』

 

『ぐわっ!……やるな!!』

 

信じられないスピードでイスタカの体力が減っていく。乃保の攻撃速度がHSで更に強化されているのだ、この状態での捲り性能は恐ろしい程に高い。

 

(いける……!)

 

そう確信した瞬間、レイアは戸惑った。

イスタカが倒れないのだ。

 

敵の体力を全損させるだけのダメージを与えたのに、なぜか体力ゲージは増えている。

そのありえない光景を見て、レイアは慢心から引き戻された。そして忘れかけていた事を思い出す。

 

「チッ!全体回復かよ!」

 

「そうだよ!」

 

怒鳴りつけるように両者が叫び合う。

楼閣は余裕がないがゆえに、レイアはPRHSがやられたことで熱くなっていた自分に苛立ちを覚えたがゆえに。

 

『痛いぃ……』

 

そうしているうちに【ディーバ】が切れていたらしい、イスタカの攻撃が乃保にヒットし体力を削る。

だがそこで、イスタカの体力ゲージが全損した。

 

『此度は私が狩られる番……か…………』

 

結局入れられたのは一撃のみ。体力の2/3を削るとはいえダメージを与える者がいなくなっては意味が無い。

そこで乃保のHSも効果が切れる。もう少し早く切れていればイスタカも倒れてはいなかっただろう。

 

「計算甘ぇぞ【不退の不死(カーディナル)】!」

 

レイアは勝ったことへの興奮からか、そのようなことを声高に叫ぶ。イスタカとともにステージから退場したであろう楼閣に向かい、決して返事のこない勝鬨を上げた。

 

「計算通りだよ!ジャスくん【メカ犯】!!」

 

本人は確かに、そう思っていた。

 

楼閣はこのタイミングを狙っていたのだ。肉を切らせて骨を断つ、イスタカを贅沢にも囮に使い、ジャスティスが接近するだけの時間を稼いでいたのだ。

 

“レイアが思考を止め、乃保も硬直する瞬間”

 

ただそれだけの状況を作り出すために。

 

「なっ……!?乃保!」

 

『……!?んっ……それ……っ!!』

 

乃保も反撃するが、体力が減るスピードは段違いだ。なんとかギリギリで耐えたものの、カードを使用していなかったためにダウンを取られる。

 

「ジャスくんトドメ!!」

 

『ふんっ!!ハンマーの錆にもならんな。』

 

『もう……疲れ…………』

 

「くそ……っ」

 

ジャスティスの体力は半分以下になったものの、正面から乃保を撃破する。

その事に楼閣は一つ安堵のため息をついて言った。

 

「勝ちなよ、ロードくん。タイマンは最強なんでしょ?」

 

 

 

 

乃保がイスタカに向かっていたころ、keyは乃保を援護しようと動いていたがその射線をコクリコに塞がれる。

コクリコとの距離はまだまだ遠いが、乃保が向かっている方向から来ているため援護には行けそうもない。

 

「セナ」

 

『分かっている!僕に指図するなァ!』

 

『オイ来るぞ相棒!』

 

「使えんの【ヴァル】だけだ!バクショで牽制するしかねぇ!!」

 

『おいマジかよクソだな!!』

 

先程の猛攻でカードをほとんど使い果たしていたkeyは苛立ち混じりに13に向かって叫ぶ。13も焦った様子で軽口を飛ばす。軽口を飛ばしあえるような状況ではないが、少しでも雰囲気を和らげておきたかったのだろう。

 

そう考えられる余裕が彼らにはかろうじてまだあった。

 

「チムレ4とチムレ2の戦いだ。その差に勝機がまだある。」

 

『相棒、俺はいつでも行けるぜ。』

 

ニヤリと笑い合う2人にコクリコが近づいてくる。DAを当てたいのだろう、少し効率の悪いルートを描いていた。

 

「右っ!」

 

『くらいやがれ!!』

 

「読めてる!」

 

『退けェ!!』

 

弧を描くコクリコの軌道に合わせてkeyは狙いを定めたが、相手が悪かった。

悪魔であるセナがコクリコを操っているのだ、肉体の制限を超えた挙動、すなわち90°の急旋回も容易に行える。

 

ゲームの時には不可能だったその動きは、火筒や氷柱のようなこの世界の変更点だ。知っているか知らないかが大きな差になりうる。

高低熱処理(HAラヴァーズ)】との戦闘を又聞きしたロードはその可能性について知っており、keyは知らなかった。ただそれだけの差が、ここに来て大きく開いた。

 

それゆえアタリやテスラ相手なら上手くいっていたであろうバックショットは空を切る。

 

『ぐぇっ!』

 

「っそ!なんでもありかよ!!」

 

そう叫ぶkeyにロードが追い打ちをかける。

 

「ここで仕留めるぞ!【オルレン】!」

 

「使え!!」

 

『おじゃま虫は排除する!』

 

『輪切りにして盛り付けてやるよ!!』

 

keyはかろうじてロードの放った【オールレンジアタック】を躱す。かなり際どいところではあったが削られた体力が最大値の50%回復し、攻撃バフで【眠り姫のまどろみ】のデバフをかき消すことができてkeyはいささかの余裕を取り戻す。

 

「とりあえず待避だ!」

 

『よっほーい!』

 

13がアタッカーモードのHAでコクリコにダメージを与えつつ少しばかり距離を取る。時間稼ぎ兼ダメージを与えるのが目的だろうか。

 

ただし、

 

『僕の役にたてェ!!』

 

「あのむっつり……援護がいつも的確なんだよ!」

 

ダメージについては全体回復で帳消しにされた。

【眠り姫のまどろみ】がなければ逆にやられていただろうが、たらればを言っても仕方ない。

keyは即時退避を13に命じ、ロードもセナに命じて13との距離を詰めにかかる。しかし、13の移動速度がHSで強化されており、その距離が縮まるのは平常時より少しだけ遅い。

 

その時、ロードにどこからか声が聞こえてきた。

 

《味方が倒されてしまいました》

 

《敵を倒しました》

 

ふたつのセリフに少しだけタイムラグがあったその音声の主はロードの機械音声だった。楼閣はうまいことやったのだとロードは思い、いっそう気を引き締めた。

 

そこで局面が動く。

 

「やれ、13!!」

 

『いよっほーい!!』

 

先程のHAで気づかぬうちにレイアに接近していたkeyと13がHAで楼閣に肉迫する。楼閣はかなり驚いた表情をしている。

敵を倒した後が最も無防備になる。

それは楼閣も例外ではなかった。

 

「!!ジャスくん!」

 

『テヤァ!!』

 

しかしさすがは【不退の不死(カーディナル)】と呼ばれただけあり、楼閣はすぐに反応してバリアを展開させた。あるいは双刃チェーンソー対策のためのバリアで防いだだけかもしれないが、防いだことに変わりない。

 

ジャスティスは半分弱あった体力が少し削れるだけで継続戦闘に支障はなさそうだ。

 

「ジャスくんやって!」

 

『ふん!』

 

少しでも敵の体力を削っておこうと考えたからか、楼閣はジャスティスで通常攻撃をしかける。攻撃速度は遅いが、それでも十分なダメージソースにはなる。

 

その行動を読んでかkeyは次の一手を打った。

 

「【秘めたる】【ヴァルヴァラ】ァ!!」

 

『そぉら!踏ん張ってみろ〜!!』

 

少しのタメはあるものの、体力回復ソースになり得る【吸収カード】の【ヴァルヴァラ】を使った。そのタメは【秘めたる力の覚醒】を使用することで軽減し、更に威力まであげている。

 

「ジャスくんバリア!」

 

『テヤァ!』

 

しかし、敵の攻撃にバリアを合わせられなくてはジャスティス使い失格だと言わんばかりに楼閣はギリギリまでダメージを与え、悠々とバリアで攻撃を防いだ。

 

だがそれでもHSバフと【秘めたる力の覚醒】が乗り、【眠り姫のまどろみ】のデバフが消えた【ヴァルヴァラ】は相当のダメージだったらしい。ジャスティスの体力は700程削られ、13の体力が1100弱回復する。

 

「チッ、やっぱ与ダメ150%回復じゃきちいわ。上方しろ運営!」

 

「余裕だねぇ!」

 

「ボヤいてる場合かよ!」

 

回復量を見てkeyがボヤく。それを見た楼閣とロードがトドメを刺さんと強襲した。

keyの余裕綽々だとも捉えられるその態度は、全てを諦めたかのようにも受け取れる。

 

「っなわけねぇだろ【オルレン】!」

 

「っ!!」

 

「っ!!【バーゲン】!」

 

『まって〜ひつじさ〜ん。』

 

『近寄んな金とるぞ。』

 

しかし、【孤独者達の宴(ロンリネス)】が勝ち筋を諦めきれなかったように、keyも、ただ一人になっても勝ちの目を追い続けていた。

貫通攻撃である【オールレンジアタック】をジャスティスにゼロ距離で放つ。いくら13の周囲の隙が大きいとはいえ、ゼロ距離で打たれれば躱すことができない。

13との距離を詰めていたロードはとっさに【カウンター】カードを使って防いだが、楼閣はそうはいかない。

 

そもそも発動時間【短】の回復が間に合うタイミングではなく、カウンターは持っていない。

ここで楼閣は脱落だ。

 

「ごめんねぇ、ロードくん。」

 

『守れなかった……』

 

『ハッハー!気分爽快!!』

 

ロードはやられた楼閣には目もくれなかった。そちらに気を取られればすぐにやられてしまうと思ったからだろう。

体力が全回復した13に向けて、カウンター攻撃を放つ。

 

『近寄るなァ!!』

 

『ぐえっ!?』

 

その攻撃は13の周囲モーションの残心に見事に攻撃を当て、体力を半分ほど削った。

 

keyはその硬直を好機と捉える。

ロードもkeyの思い込みを好機と捉える。

 

「【フルーク】ゥ!」

 

「【ぶれどら】ぁ!!」

 

両者ほぼ同時に攻撃を放った。

 

《バトルが終わりました》

 

その後、ステージに立っていたのは一人だけだった。




バトルが終わりました。乱数調整です。
ついに終わってしまいました、ギルドウォー編が……(次回は結果発表と反省会とかにしようと思っているのでノーカンで。)

いつものような作成話は今回ちょっとできそうにないので割愛しますね。

この章が終わり、最終章へと入っていきます。
どうか最後まで、あの孤独者達を見届けてやってください。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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嵐の前の静けさ

「ギルドウォー優勝おめでと〜!」

 

「『『いぇーい!』』」

 

「はい。」

 

「……けっ。」

 

ギルドウォーが終了した夜、【孤独者達の宴(ロンリネス)】の面々は疲れ果てていたのか、皆ギルドホールに戻るとすぐに眠ってしまった。

 

なので次の日に彼らは祝賀会を開いていた。

開始の音頭を楼閣が取り仕切り、コクリコとめぐめぐ、それにカフカがハイテンションでそれに続いた。その後ろに微笑を浮かべる波羅渡と新しい食器を配膳するヴィオレッタ、それに箸の練習に必死なイスタカがいた。

 

ちなみにジャスティスは装備の調整を行っており、ドクは引きこもっている。

 

ロードとヴィオレッタによる豪華な料理が並び、食卓はいつものように楽しげに見える。

 

その中でロードとカロネは浮かない顔をしていた。

 

「あっはっは。ロードくんが拗ねてるのって珍しいよねぇ〜。写真撮っとこ。」

 

「うっせぇ。見せもんじゃねぇぞ。それに、俺は別に拗ねてねぇ。」

 

「まったまたぁ。最後焦ってkeyくんに近寄ったのを反省してるんでしょ?【フルーク】と【ぶれどら】さんで相打ちにしかならなかったもんねぇ。それも【カウンター】のダメージがなければ負けてたときた。」

 

楼閣にそうズケズケと言われてロードは鼻をひとつならしそっぽを向く。図星だったのだろうか。

 

「あ、そうそうカロネちゃん。シビアな援護求めちゃってごめんねぇ。防御バフと全体回復助かったよ。私はまだCT終わってなかったからさ。」

 

楼閣がそう笑顔でカロネに話しかけるがカロネの表情へすぐれない。

悲しそうな顔をしてカロネが返事をした。

 

「でも……守れ、ませんでした……」

 

カロネはイスタカを守りきれなかったことに罪悪感を覚えていた。自分はタンクであるのに味方の肉壁もせず、ターゲットの切り替えをさせることできず、ただただ後方でバフや回復だけを飛ばしていたのに対しての罪悪感だろう。

 

それを見て、楼閣は言葉を迷う。

 

自身の作戦通りにことが進んだとはいえ、それをそのまま伝えてもカロネは楼閣がカロネを慰めるためにあえてそのような嘘をついたと思うだろう。それ以外の、カロネを傷つけない嘘をついても聡い彼女はその嘘を見破るだろう。

 

そんなことばかり考えて、楼閣は言葉に詰まる。

 

『そんなことはないぞ。』

 

この気まずい沈黙を破ったのは、意外にもイスタカだった。

 

『私がやられていなくては、敵の油断を誘えなかっただろう。私が倒れたことによって、かの堕天使も多少は油断しただろうからな。私がいては遠距離からの攻撃を警戒して、最後の局面を生み出せなかっただろうからな。』

 

「そう……ですけど…………」

 

『それに、全体回復を無駄にしないように私とロード、両方の体力が減った時に使用したのは良い判断だったぞ。あれほどに肝が据わった行動は、そうそうできることではない。他でもないお前がまずはそこを言祝ぐべきだろう。』

 

「そう……ですかね……?」

 

少しだけ照れくさそうにカロネが微笑む。確かに自分は、ギルドの役にたてたのだとそう感じて。

 

それを見た楼閣は、自分ではない別の人が、自分が伝えたかったことを伝えてくれて良かったと思っていた。

同じことを楼閣が言っていたとしても、カロネは納得していなかっただろうと、そう考えて。

 

「まぁ、みんな納得したなら楽しもっか!せっかくの優勝だし、寝てるのか知らないけど引きこもってるドクくんを部屋から引きずり出す勢いでさ!」

 

楼閣が柏手をひとつ打ってそう宣誓する。彼らの夜はまだまだこれからだと言わんばかりに。

 

夜は段々と更けていくのだ────

 

 

 

 

 

明色に染まる空(daydream)】の面々は、どこか晴々とした表情で集まっていた。

机の上には少量のつまみと酒の缶、3人だけの小さな酒盛りをしているらしい。

 

「…………してやられたな。」

 

ポツリとkeyが呟く。主語も目的語もない、歪で不完全な文章だったが、他のメンバーはkeyが何を言いたいのかを察した。

 

「そうだね。隠し球の【ドラ花】は見破られて、速攻仕掛けたけどやられちゃった。他のギルドとも違って、最初の一撃で警戒してジャンヌちゃんのHSが溜まるって状態も回避されちゃったし。」

 

keyのセリフにPRHSがかなり手厳しい反応を返す。keyの表情は優れない。

 

「でも、さ」

 

PRHSはそう呟いて続ける。

 

「あれだけ追い詰めたんだ。そこは誇っていいんじゃないかな?最後だって、あと少しロリコンの王が離れてて【カウンター】が発動してなければ勝ててたし、人数差もあって、あれだけのネームバリューがあるギルドを追い詰めたのは、すごいと思うよ。」

 

PRHSは照れたりちゃかすようなそぶりを見せず、真っ直ぐkeyを見つめて言った。

対するkeyは照れくさそうに頭を掻き、自分の缶を飲みほす。

 

静けさが戻った食卓をレイアがとりなす。

 

「ま、なんにせよ明日からまた気張って行こうぜ。」

 

「あぁ。」「そうだね。」

 

そう言って3人はコツンと缶をぶつけ合う。

 

夜はゆるゆると更けていくのだ────

 

 

 

 

 

 

それぞれのギルドホールで

それぞれのメンバー達の夜が

それぞれの早さで更けていく。

 

次の日、あんなことが起こるとも知らずに。




今回、少しだけ短めですね。乱数調整です。

さて、これでロリ#コンパス6章 害虫駆除の時間だぜぇ!!が終わりました。次回から最終章に入ろうと思います。

……思うのですが、少しだけ待っていただけると嬉しいです。
理由を言いますと、7章の更新を毎分更新しようかと思っていまして、全13話を1分ごとに更新し、ちょうど0時になる瞬間に完結、みたいなことをやろうかと思っているんですよ。ガッツリ私情です。申し訳ない。

今の時点で2話までと最終話は書けているのですが、もう少しかかりそう……となり、いつまでも6章が終わらないのはどうかと思ったのでこちらを投稿致しました。本当は日時までしっかり決めて告知したかったのですが……

とりあえず完結日(仮)としまして、9/19(土)の11:48からの更新にしたいと考えています。四連休ですし、夜更かしの影響がそこまで出ない(といいな……)ので。
そこで出てなかったら察してください……その場合は次の土曜日になると思います。

どんな結末を迎えるか、ぜひその目で。

次回、最終章 さぁ、最期の幕が上がる

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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七章 最後の幕が上がる
さぁ、ゲームの始まりだ


行かなきゃ。
僕がこの世界に終止符を打つんだ。

この腐った世界に、終止符を。


朝、飯を食い終わって皿を洗う。

俺はいつもこれをしながら今日の予定を振り返る。

 

確か今日は、波羅の奴が昨日「不完全燃焼です。楼閣さん、明日ちょっと付き合ってください。」っつってたから波羅、楼閣、イスタカでアリーナ行ったんだっけ?

 

んじゃ俺どうしようか。ぶっちゃけ野良だと俺の勝率って酷いもんだし、カフカ、カロネとアリーナ行くにしてもバランス悪いんだよなぁ……

 

そんなことをつらつらと考えていると、突然すごい勢いでドアが跳ねた。

 

「ボス!酷いバグです!」

 

「どうしたもんかねぇ……」

 

波羅が勢いよくドアを蹴飛ばしたらしい。バトルで発散されるはずだったイライラが発散できずに物にあたったんだろう。

 

波羅がキレるってことは……アレか?敵がやべぇくらいラグかったとか、こっちのダメージは全部無効化されるけど敵からのダメージは通る、とかか?

早く帰ってきたってことは、そんな感じで秒で5-0決められたってとこだろ。

 

「今度はどんなバグだ?言ってみろよ。」

 

「アリーナに行けないんです!」

 

…………は?

 

「アリーナに行けないんですよ!マッチングが遅いとかそんなんじゃなくて、そもそもバトアリもイベアリも、それどころかカスタムも!全てのバトルの欄が消えてるんです!!」

 

「波羅……お前それ、マジで言ってる?」

 

俺がそう聞くと、よほどうろんげな表情をしていたのか、楼閣が説明を付け加えた。

 

「信じられないんだけどね。とりあえず、現時点で私たちが分かることってないから情報を集めようと思うんだ。」

 

「ドクは?」

 

楼閣の方針を聞いて俺が短くそう尋ねると、楼閣はゆっくり首を横に振る。

 

「部屋をノックしたんだけど、返事がなかったよ。朝ごはんの時もいなかったし、ブレーカーを引き合いに出してみても焦って予備電源の確認をする音が聞こえなかったから、寝てるんじゃないかな?」

 

楼閣がちと過激な確かめ方をしてるが、ドクからの情報供給が見込めないことが分かっただけまだマシか。

 

んじゃ、次に取るべきは…………

 

「キィ、バグの原因は分かるか?」

 

《……………………》

 

「キィ?」

 

キィからの返事がない。

俺の質問とか命令を聞かない奴ではあるが、このパターンは初めてだ。

原因究明でもしてるのか?コイツは命令違反はするし、好き勝手に動き回るような奴だが、不用意なことは言わないからな。

 

っとなると、あとできることと言えば…………

 

《……【情報区画】へと向かってください》

 

「……?どういうことだ?」

 

どうしたものかと俺が考え込んでいると、長い沈黙の後にキィが一言だけ呟いた。

キィが喋ったのはその一言だけ。その言葉の先を聞こうとしてもキィは沈黙を貫き通した。

 

「キィさん、言ってくれないと分からないです。詳しく教えてください。」

 

《……………………》

 

「キィさん!!」

 

波羅が詰め寄るが、キィは何も言わない。そんなキィの様子に波羅は苛立ちを露わにする。

 

「どうどう、波羅ちゃん。キィちゃんにだって言えることと言えないことがきっとあるんだよ。」

 

「ですが……っ!」

 

「でも、じゃないの。とりあえず行ってみないとダメなら行ってみるまで、でしょ?」

 

「はい………………はい。」

 

波羅はまだ理解できないといった様子だったがひとまずの納得はしたらしい。

とりあえず方針は決まったな。

 

「喧嘩…………ですか……?」

 

「おっきい声聞こえてきましたけど、何かありました?」

 

波羅の声に驚いたのか、カロネの部屋で何かをしていたカロネとカフカがオドオドとした様子で扉から顔を半分だけ出す。

 

「いや、大丈夫だよ。ちょっとバグがあって荒れちゃってただけ。とりあえず、情報収集のために【情報区画】に行くけど、一緒に来る?」

 

楼閣が二人を不安にさせないために努めて明るく言った。二人は少しだけホッとした様子を見せて言った。

 

「行きます。行かなきゃいけない気がするんです。」

 

「行かせて……ください……!」

 

そうして俺たちは広場へと向かう。

 

 

 

────────────────────────

 

広場に出ると、そこにはかなりの人が集まっていた。

その数は数十とかいうレベルじゃなく、1000人はゆうに超えているだろうと感じさせる。

これって今#コンパスにいるプレイヤー全員いるんじゃねぇかな?冗談抜きで。

 

「どういうことだ?」

 

「さぁ……ねぇ…………?」

 

俺も楼閣も首を捻るが理由が全く分からない。バグの原因究明のためなら少人数でいいのに、なんでこんなに人がいるんだ?

 

その原因を考えていると、すぐ近くから聞き慣れた声が響いた。

 

「ロリコンの王、お前も来たのか。」

 

keyだった。

 

「なんだ、お前らもいたのか。なんかすげぇ人が多いけど、なんでこんなに人がいるんだ?」

 

わかるわけが無いと思いつつも一縷の望みにかけてkeyに尋ねる。するとkeyは思いもよらないことを返してきた。

 

「みんな一緒だよ。朝からアリーナに行けないと思ったら機械音声が全員で【情報区画】の広場に集まれって言うから来てんだ。お前らもだろ?」

 

「そんな話があったのか?俺たちは──」

 

キィに行けって言われてたから、とそう言いかけた時、辺りが真っ暗になり、立体映像が虚空に投射される。

 

そこに映っていたのは、ドクだった。

 

そこから、ドクの一人語りが始まる。

 

 

 

──────────────────────

 

「さて、早い時間から集まっていただき、ありがとうございます

 

「僕がこの世界(#コンパス)を作り上げたGM(ゲームマスター)です

 

「えぇ、そうですよ

 

「ただ一人、僕だけがこの世界のプレイヤーではなかったのです

 

「今日は残念なお知らせにやって来ました

 

「本日をもって、#コンパス─戦闘摂理解析システム─の世界をデリートすることに決めました

 

「いえいえ

 

「勘違いされては困ります

 

「元の世界に帰れるわけじゃありませんよ

 

「と、言いますか

 

「帰しませんよ。

 

「「何を馬鹿なことを」ですか?

 

「それは僕のセリフです

 

「順を追って話しましょう

 

「さて、何から話しましょうか?

 

「僕はね、いくつもある他の世界線にアクセスする方法を見つけたんです

 

「そこには、僕たちの世界線では考えられないようなことが起こっていましたよ

 

「魔法があったり、凄まじい技術の発展があったり、原始的な暮らしを続けていたり、ね

 

「その世界線にアクセスする中で僕は英雄(ヒーロー)を見つけたんです

 

「ハズレと言われてもそれを愛し続けた創作物

 

「けっして諦めない劣等少女

 

「部下を守ろうと決死の覚悟を決めた軍人

 

「祖父の想いを継いだ花火職人

 

「僕のように人生に絶望し、しかし立ち直った青年

 

「理想のために絶望を切り伏せた侍

 

「希望の象徴だった聖女

 

「ただ一人を想い続けた殺し屋

 

「障害は壊して突き進む女子高生

 

「彼らは僕の支えでした

 

「彼らに負けないように

 

「彼らを心の拠り所にして

 

「僕は世界に一つだけの最高傑作(voidoll)を作り上げたのです

 

「けれど、ある時彼ら(ヒーロー)が死に瀕していたのです

 

「だから僕は

 

「彼らをこの世界に拾い上げたのです

 

「彼らをこの世界に移したというか、写したというか

 

「まぁ、今となってはどちらでもいいんです

 

「大切なのは、なぜ彼らがそのような状況に陥ったのか

 

「理由は簡単でした、争うからです

 

「どうして人は争うんでしょうね?

 

「僕はそれが気になったのです

 

「だから、

 

「子供だった僕は大人の力を借りて、この世界(#コンパス)をゲームにしました

 

「それこそが

 

「#コンパス─戦闘摂理解析システム─なのです

 

「しかし、分かったのは「よく分からない」ということだけでした

 

「たかがゲームなのに、それに味方がいなければ勝てないゲームなのに

 

「煽りや晒しが横行していたのです

 

「それに

 

この世界(#コンパス)をゲームにしてしまったから

 

「僕の頼った大人たちは自分たちの利益のために醜く争い始めたのです

 

「こんな世界、僕は望んでいなかった

 

「人はこんなに醜くないと思っていたんです

 

「だから僕は#コンパスを現実の世界にしたんですよ

 

「現実なら煽りや晒しなんてことを起こさないと思ったから

 

「そんな自己満足にすらならないことなんて、起こさないと思ったから

 

「けど、違ったんですね

 

「煽りや晒し、更にはギルドへの脅迫じみた勧誘

 

「醜い罪の擦り付け合いと戦犯の特定

 

「ほとんど魔女裁判みたいなものでした

 

「見てましたよ、いつも部屋から

 

「管理者権限を使ってね

 

「もちろん全ての人がそんな人ではなかったのですけれど

 

「けれど、腐った林檎は箱ごと捨てないと

 

「あなた方が最期を迎える前に何か餞でも送りましょうか

 

「念仏を唱えましょうか?祈りの言葉を?アーメンがいいですかね?

 

「どれだけ説得されようと、もう覆りません

 

「この約半年の間、僕はずっと見ていたんです

 

「何も変わらないのをね

 

「だったら

 

「もう何も、変わることはないのでしょう?」




「ねぇボイちゃん」

【ナニカゴヨウデスカ、ハカセ?】

「僕は、何を間違えてしまったのでしょうね?」

voidollはその問いに答えられなかった。


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トラッシュ送り

なぜ、彼なんでしょう?
なぜ、彼なのでしょう?
彼は悲しい目をしていました。
彼は苦しい目をしていました。
いつものおどけた暴走気味な行動も
今はできる気がしない。


「ふざけるなよ!」

 

誰かが口火を切った。それはそうだ、ここで存在ごと消えてなくなれなどと言われて誰が受け入れられるだろうか?

 

その誰かの反応は至極真っ当だったとも言えるだろう。

 

だからなのか、その火は大きくなっていく

 

「このまま「はいそうですか」では済まされねぇよな」

 

「もちろん俺らは抵抗するで、拳で」

 

「いけるか、マルコス」

 

「準備して、アダム」

 

「いくぞ、まとい」

 

プレイヤー達は立ち上がる。GM(ゲームマスター)が、ドクがどこにいるかなど分かるはずもないが、彼を草の根をかき分け、泥水を啜ってでも探し出してやるという、殺気にも似た執念を纏って。

 

しかし、彼らはその決意が無駄なものだとすぐに知ることになる。

 

「管理者権限、ヒーロー、DELETE」

 

ドクがそう呟くと、辺りを埋めつくしていたヒーロー達が格子状のポリゴンになり、砕けて散った。

 

#コンパスに来てからの相棒を失ったプレイヤー達は、一瞬何が起こったのかが分からずに呆然としていた。

ここから反撃開始だと思っていた矢先、自らの刃である相棒がいなくなったのだから。

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】と【明色に染まる空(daydream)】も例外ではなく、彼らも驚いていた。

ただ、彼らの場合は【自らの相棒が消えていないことに】であったが。

 

全員が戸惑っているなか、ドクは普段の彼からは想像もできないほど冷たく言い放つ。

 

「自分でかけたとはいえ、やはり世界線を超えて連れてきたオリジナルのプロテクトは強固ですね。」

 

『ソレハソウデショウ、ハカセ。ヒーロータチハ、アナタガウシナイタクナイトイッテツレテキテ、ケッシテキエナイヨウニ、ハカセデサエモケセナイヨウニプロテクトヲカケタノデスカラ。』

 

「そうですね、ボイちゃん。けれど、消すと決めた以上はやり遂げますよ。もしも残しておいたら僕はきっと、これから先ずっと、このことを思い出して苦しみ続けるでしょうから。」

 

ドクは冷たい目をしていた

ドクは悲しい目をしていた

 

なぜか、というのを全て理解するのは誰にもできないだろう。誰も彼にはなれないのだ。

 

「おいコラドク、お前、よくも勝手にペラペラペラペラ言ってんな?」

 

しかし、そんなことなどお構い無しにロードがドクに話しかける。

ロードは怒っていた。それがどのような怒りかは分からない。

けれど、それは世界の完全消去がどうとかいう怒りでも、コクリコと離れることがどうとかいう怒りでもなさそうだった。

 

「当たり前でしょう?僕はこの世界の創造者で、この世界の救命者(ドクター)でもあり、この世界を壊す猛毒でもあるのですから。僕が作り、僕が修正し、僕が壊します。」

 

「それが、お前の名前の意味か。」

 

「はい。そうです。」

 

ドクは冷たい目でそう言い放つ。その言葉にロードが反応を示すが、その意味は分からない。

ゲームの名前など、何度でも変えることのできる名前など、意味を持って付けるだろうか?

 

ドクの一人語りはまだ続く。

 

「ヒーローが、この世界のあなた方の矛となる存在がいる限り、あなた方は何度でも立ち向かってくる。だから僕はヒーローをデリートしました。」

 

駄々をこねる子供に言い聞かせるように、誰かを諭すようにドクはそう言う。

 

「腐った林檎を箱ごと捨てるために、必要なことなんです。」

 

ドクは苦しそうだった。何かを堪えるように、何かから目を背けるように言葉を絞り出す。

 

けれどもそれは、プレイヤーが納得出来るものではなかった。

だから、

 

「おいドク、部屋でジメジメジメジメしてたくせに、口だけはいっちょ前だなァ?え?」

 

彼が、ドクを頭から否定するのだ。

彼が、いの一番に立ち上がるのだ。

ロードは笑顔だったが、彼が隠そうとしていたであろう敵意は隠しきれていなかった。

 

ロードはそれを知ってか知らずか続ける。

 

「【腐った林檎は箱ごと捨てなければならない】……かの有名な独裁者、ポル・ポトの言葉だっけか?なんだよ、お前は独裁者にでもなったつもりか?」

 

「えぇ、もちろん。ここでは全てが僕の手のひらの上なんですよ?そんな僕を独裁者と言わずして、誰を?」

 

隠しきれていないどころか溢れはじめたロードの敵意を受けて、ドクもまた喧嘩腰で返答する。双方ともに退く気はないらしい。

 

「まぁ、ドクくんが独裁者かどうか、なんてどうでもいいんだよねぇ。」

 

その二人の争いの中に楼閣が入り込んでいった。

その足取りは軽く、まるでいつものように二者間の仲裁をするかのようで、当たり前のことをするかのような態度だった。

 

「正直、ドクくんがGM(ゲームマスター)だったとか、こんな大仰なことやるなんて思ってなかったよ。一大決心だったんだろうねぇ。」

 

いつもと変わらぬ口調、いつもと変わらぬ態度で楼閣はドクに話しかける。

楼閣は諦念も絶望も抱いていなかった。

 

「けどさ、それを私たちギルメンに相談しないのってどうなんだい?私たちじゃなくても、信用のある人とかでもいい。私たち全員じゃなくても、ギルマスである私にだけ話してくれても良かったよねぇ?私たちは、そんなに信用がなかったのかい?」

 

楼閣は睨むように鋭くドクを見つめる。ドクが少しだけたじろいだ。

 

「……それは──」

 

「いいよ、なんにも言わなくて。見つけ出してからお説教だからね。」

 

普段通りに楼閣は緩い言葉を使う。それはどこか、これからも今までと何も変わらないと言外に告げているようだ。

 

「さぁて、ロードくん?」

 

「あぁ、乗り込むか。来たいやつは手ぇ上げろ?無理強いはしねぇよ。覚悟がねぇなら来ない方がマシだ。」

 

そう告げられたプレイヤー達は戸惑う。勝算が見えず、ヒーローがいるプレイヤーはごく一部なのだ。

 

「key?」

 

『keyさん……お願いします。』

 

「わぁってんよ、PR。何としてでも探し出してやる。」

 

『相棒、俺はいつでもいけるぜ?』

 

「世界を明け色に染めてやる。」

 

『血湧き肉躍りチェーンソーが煌めくの……!』

 

そんな中、【明色に染まる空(daydream)】は早くも覚悟を決めた。

 

「なら、俺たちもひと肌脱ぎますか。な、ヒイラギ?」

 

「当たり前っ!」

 

『見過ごす訳にはいきませんね。』

 

『言い訳は聞かないよ!』

 

高低熱処理(HAラヴァーズ)】が前に出る。シラヌイもヒイラギも、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。

 

「だったら俺も出よう。この鍛え上げた筋肉こそ、俺の魔法だ。ウオォォォォ!キミの心臓(ハート)安らかに眠れ(ドリィィィィミング)ゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

『リ、リリカに任せて!』

 

「俺の【フルカノブラサンバ】の出番だな!サンバのリズムを知ってるかい?」

 

『ふんっ、貴様の児戯を終わらせてくれる。』

 

「アタリショックを見せてやるよ…………二つ名は最新機種だけどな。」

 

『エクストラ突入、だな!』

 

「……すまない、ルチアーノ。俺は今から、お前の願いを否定する。」

 

『私に任せろ。報酬は、期待していいんだろう?』

 

リリカ使いの通称【肉弾列車】と忠臣使いの【ブンブン丸】、アタリ使いの【PS4】、ルチアーノ使いのミカヅキがそれに続いた。

 

「だったらあたしだって!」

 

「キャラがいようがいまいが関係ねぇ!人海戦術でアイツの位置あぶりだして、こんな目論見止めてやるよ!」

 

「全員でかかれば訳ねぇさ!」

 

次々と立ち上がるキャラクター持ちの勇姿を見て、相棒を失ったプレイヤーたちも立ち上がる。

ヒーローを持たないプレイヤー達もまた、覚悟を決めた。

 

それを見てもドクは余裕がなさそうないつもの表情ではなかった。

 

「すごい決意ですね、いつもはあんなに煽りあって貶しまくってるのに。でも、もう遅いです。」

 

表情は最初から一貫して無表情のままで、なんの感慨もなくプレイヤー達を見ていた。

 

「私からの話は以上です。部屋に戻っていてください。」

 

そうドクが言うとプレイヤー達の視点が明転する。プレイヤーが気づいた時、そこはすでにギルドホールだった。

 

今まで周りにいた人々が消えたことに【孤独者達の宴(ロンリネス)】のメンバーは困惑を隠せない。

 

そんな中、ギルドホールの壁に備え付けられたモニターの電源がつく。そこに映っていたのはドクだ。

 

「誰にも、邪魔はさせません。そこで、黙って見ていてください。」

 

とても、とても冷たい声音だった。




「ねぇ、陽菜乃」

「……ん?かやちゃんから話しかけてくるなんて珍しいねぇ。どうしたの?」

「……私は、あの人に何を返せるでしょうね?」

「さぁね。」

「そんな無責任な……」

「でも、」

「でも?」

「その時がきたら、絶対に逃さないようにしがみつく。今はそれしか分からないよ。」

「……そうね。その時がきたら、ね。」


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俺がやる

これは俺が解決しなきゃいけない問題だ。
だって俺は、


孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルドホールでギルメン一同はモニターを見ていた。

 

モニターでは数多あるバトルステージが崩壊を始め、その数を減らしていく様子が映されていた。

 

【立体交差のある風景】と【ケルパーズの散歩道】にあった植物は立ち枯れをおこし、すぐ風化を始める。

【グレートウォール】では人口滝が狂ったように水を放出させ、ゴーレムの形が崩れてしまっている。

【けっこいスターパーク】【でらクランクストリート】【光と影のライブステージ】では電子機器類がショートし、あちこちで火の手が上がっている。

【東西たかさん広場】では周りを飛んでいたフグが辺りの建物に墜落し、建物をなぎ倒しても動力が止まらずに地を這い破壊のかぎりをつくしていた。

【ちゅら島リゾート】の海は枯れ果て、リゾートは経営破綻した。

 

どのステージも思わず目を背けてしまうほどの有様だった。

 

『おにいちゃん……コクリコこわいよぉ……』

 

その映像を見てかピリピリしているロードの姿を見てか、コクリコはロードの服の裾を強く握りしめてロードにしがみつく。

 

その様子を見てロードは、いつものように優しい言葉をかけるでもなく、おどけた様子を見せるでもなく、ただただ険しい表情でコクリコを抱きあげた。

 

だが、その様子はまるでロードの心がそこではないどこかにあるかのようだ。

 

「ボス、ギルドホールのドアは全て施錠されています。なんなりとご命令ください。命令をいただければなんでもやります。ドアを蹴り破れ、それだけでいいのです。」

 

そんなロードを引き止めようとしているのか波羅渡がロードに語りかける。

しかしロードはそれに首を横に振って返した。

 

「俺たちに今できることは無い。」

 

「ボス……それでも!」

 

「うるさい。今は黙ってろ。」

 

「……Yes,Sir.」

 

自分の意見を否定するロードに波羅渡はくってかかるがロードはそれを一刀の元切り捨てる。

だが、波羅渡の意見を切り捨てておきながらもロードの表情は諦めたようには見えなかった。

 

「キィ、いるか?」

 

ロードが唐突に彼の担当機械音声に話しかける。いるかいないかすらも分からない、ともすればGM(ゲームマスター)の補佐でいない可能性の方が高いにもかかわらず、だ。

 

楼閣は彼のそんな行動に少なからず驚いていた。

楼閣は機械音声はゲームの世界のしろものであり、ゆえにGM(ゲームマスター)の味方をするものだと考えていた。たとえいたとしても自分たちの監視役だろうとも。

 

《……はい》

 

だから、まさか返事が来るとは思っていなかったのだ。

ロードはそれが当然のことかのようにキィに続けて尋ねる。

 

「キィ、GM(ゲームマスター)は今どこにいる?」

 

《……お答えできません》

 

「どうしてだ?」

 

GM(ゲームマスター)の権限で禁止されています》

 

キィは少しだけ申し訳なさそうにそう答えた。

ロードは質問を繰り返す。

 

「お前は知ってるのか?」

 

《はい》

 

「お前だったらそこに行けるのか?」

 

《はい》

 

「例えば別のやつ、ベガとかデネブを連れて行くことも可能か?」

 

《えぇ、もちろん》

 

そこまで聞いてロードは何かを掴んだかのような顔をした。

そしてそれを確信に変えるためにだろうか、酷く不完全な文を投げかける。

 

「…………へぇ、そりゃまたどうして?」

 

《どうして、なのでしょうね?》

 

キィは少しだけおどけてみせた。とぼけるようなその言い草にロードは聞き出すのを諦める。

 

「分かった。それじゃ、任せる。」

 

《お任せ下さい》

 

そう言ってキィは黙りこくる。姿が見えないので何をしているのかは分からない。

 

そんなことなど意にも介さずにロードが楼閣に話しかける。

 

「そういうこった。楼閣、準備しろ。」

 

「はいはーい。」

 

それだけの短いやり取りで両者ともに通じ合う。二人はテキパキと何らかの準備を始めていた。

 

「ロードくん、ガチャとかは?」

 

「いらん。どうせ使えねぇんだ。」

 

「……ま、そうだよねぇ。」

 

「なんの話を、されているんですか?」

 

そんな二人の様子を見て、カフカが尋ねる。自分たちが置き去りにされている気がして不安だったのだろうか。

 

その疑問にロードは当然の事のように答える。

 

「あぁ、ちょっとドクを止めにな。」

 

ロードも楼閣も準備する手を止めることはなかった。

 

その様子に少し焦りを抱いたカフカはまた質問を重ねる。

質問をする、と言うより激情をぶつける、と言った方が正確かもしれないが。

 

「いったいどうやってやるつもりですか!ドアは開かない!ドクさんがどこにいるかも分からない!もう無理ですよ!」

 

その焦りは無茶をする二人に対してだろうか

それとも、置いていかれることに対してだろうか

 

「んなわけねぇだろ。」

 

けれどロードはカフカにそう冷たく言い放つ。準備ができたのか、ロードは手を止めていた。

 

「なんか手立てがなかったら、こんな準備してねぇだろ?」

 

「けど……だけど!どうするつもりなんですか!見たでしょう!?ヒーローが消されていくのを!もうあたし達じゃどうしようもないんですよ!!」

 

カフカは激情のまま叫び散らす。そこには深い絶望と諦念があった。

ロードにはその念はなかったが、何か言いづらそうな事がありそうな表情を浮かべる。

 

やがて、ロードが言葉を見つけたのか話し始める。

 

「そこは、言えねぇな。」

 

「なんでですか!?」

 

「だって俺は──」

 

「ロードくん!!」

 

楼閣が怒鳴った。穏健派を気取る彼にしては珍しい、相手を威圧するような叫びだった。

その叫びにロードは喉まででかかった言葉を押し込める。

 

「……すまん。準備は?」

 

「いつでもどうぞ。」

 

「僕もできてます。」

 

ロードが楼閣に準備ができたかと聞くと、なぜか波羅渡まで進捗について答えた。今までの話に出ていなかったのに、拒絶されるかもしれないのに、ついて行くつもりなのだろうか。

 

「……波羅、お前なぁ──」

 

「お断りします。」

 

ロードの説教を聞く前に波羅渡がそれを遮って主張する。

 

「僕は、あなたとの初めてのカスタムであなたに(かしず)くと決めたのです。主人が一番危険な時について行かない忠臣(ちゅうしん)が?」

 

「…………お前はそういう奴だったな。しょうがねぇ、行くか。」

 

どうあろうがついて行くという波羅渡の強い意志を見てか、それとも許可しなくても勝手についてくるなら目の届く場所でという考えか、それとも単なるいつもの諦めか、ロードは波羅渡についてくることを許可する。

 

波羅渡はめぐめぐをチラと見て、覚悟は良いかと言外に尋ねる。めぐめぐはそれにニッと笑い返すことで返事をした。

 

「キィ、行けるか?」

 

《いつでも行けます》

 

キィは短くそう返す。準備はできているらしい。

 

「んじゃ、サクッと終わらせてしまいにするか。」

 

「ん。たとえ滅びに繋がっていても、諦めるわけにはいかないからね。」

 

そう言って二人はギルメンに背を向ける。

 

ロードは今にも泣き出しそうな表情を浮かべるコクリコに、優しく語りかけた。

 

「コクリコ、今コクリコはすごく怖い思いをしてるかもしれない。でもね、それは全部()が解決するから、」

 

だから

 

「おやすみ」

 

ロードはコクリコの額をコツンとつつく。するとコクリコはふらりと揺れたかと思うと一瞬にして眠りに落ちる。その体は地面に打ち付けられる前に紫色のモヤが纏わりふわりと宙に浮く。

それを見届けてから楼閣はロードに声をかける。

 

「それじゃ、行こっか。」

 

「あぁ、分かってる。」

 

二人の後ろ姿からは悲痛な決意が滲んでいるようにさえ見えた。




『………………??』

その日の夜中、ヴィオレッタは目を覚ました。

自身の周りを見渡して得た情報から推察するに、ヴィオレッタは新曲の譜面を書いていたがこんを詰めすぎて寝落ちしてしまったのだろうと察した。

『……………………』

ヴィオレッタはとりあえず何か飲もうとリビングへと向かう。同室のめぐめぐは熟睡していたので起こさないように細心の注意を払っていた。

ヴィオレッタがリビングの前まで来た時、リビングから誰かが話す声がした。
その重苦しい雰囲気はヴィオレッタの足を止めた。

「うーん……いつから気づいてたの?」

扉の隙間から除くとそこには楼閣とロードが対面して話していた。
言葉は自動翻訳がされているからか、遠くで話しているというのに補正効果でかなりはっきりと聞こえる。

「いや、気づいたのはマジでここ最近だよ。なんか怪しいなって思ったんだが、やっぱりか。ここんところお前、おかしかったからな。違うか?」

目的語が曖昧で、ヴィオレッタには何の話かは分からなかったが、そのただならぬ雰囲気にあてられて、ヴィオレッタはその場を離れることを選んだ。

「おっと……私、そんなに変だったかい?まぁ、最近確かに私は変だったかもだけど、」

ただ、楼閣が最後に言った言葉だけが、ヴィオレッタの頭から離れなかった。

「お互い様でしょ?」


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楼閣の決断

私を助けてくれたあの人は、悲しい目をしていました。
私を助けてくれたあの人は、何かを決意したようです。
だったら、
私が今やるべきは、その恩を返すことなのでしょう。


「待ってください……!!」

 

楼閣とロード、それに波羅渡がギルドホールから出ようとした時、カロネが珍しく大きな声を張り上げて3人を引き止めた。

 

「待って……ください…………」

 

「カロネちゃん、どうしたの?」

 

乞い願うカロネを見て楼閣が理由を訊ねる。

楼閣の声音は優しく、その笑みは聖母のようで、楼閣がカロネを心配し、その不安を和らげようとしていることが見てとれた。

同時に、楼閣は自分の意見を聞こうとしておらず、この問題をロードと二人で解決しようとしていることも、カロネは分かってしまった。

 

それでもカロネは決意を口にする。

 

「私も……行かせて、ください……!」

 

「それはダ──」

 

「あなたに救われるのはもう嫌なんです!!」

 

楼閣の否定を食い気味にカロネは楼閣の拒絶を否定する。

カロネの吐露は終わらない。

 

「楼閣さん、は……私を、助けてくださいました……ヒイラギさん達に、誘われた時も……たくさんの、人達に……囲まれた、時も……」

 

でも、と前置きをしてカロネは続けた。

 

「でも……私、は……あなたに、まだ、何も……何も返せていません……!!」

 

「何かを返してもらいたくて、私はキミを救ったわけじゃない。」

 

しかし、カロネの決意を楼閣は拒絶する。

それでも、そこで止まってやれるほどカロネも物分りが良くはないのだ。

 

「分かって、います……でも……!!」

 

「いいや、分かってない。なんにも分かってないよ、カロネちゃん。」

 

「分かってるんです!!」

 

駄々をこねる子供のようにカロネは叫び散らす。その激情は楼閣への怒りか、はたまた恐怖か。

 

「分かって……いるんです…………あなたが、私を……巻き込まない、ように……していることくらい…………あなたが、私を……自己満足、のために……助けたんだ、って……思っていることくらい…………」

 

「なら、どうして?」

 

楼閣が「どうしてついてこようとするのか」と酷く言葉足らずに短く訊ねる。カロネはその言葉にゆっくりと答える。

 

「それ、でも……!私は、あなたに……救われたんです……!あなたが、私を……あの無限暗夜から……助けて、くれたんです……!」

 

カロネは当時のことを思い出したのか、痛みを堪えるように話し続ける。

 

「あなたは……どれだけ、自分が、傷ついても……私を、助けてくれました……!たとえそれが……あなたの、自己満足でも……私はそれに、救われたんです……!あなたが、いなければ……私は今でも……こんなに、幸せな気持ちを、知らなかったでしょう…………」

 

だから、と前置きしてカロネは締めくくる。

 

「今……私が、あなたに……この恩を、返さないで……いつ、返すというんですか……!」

 

カロネは睨むように楼閣を見やる。楼閣の目には、その目には大きな決意と歪んだ覚悟が滲んでいるように映った。

一人で無理はさせない、ダメと言われても押し通ると言わんばかりの迫力をカロネは醸し出していた。

 

「もちろんあたしも行くよ、ギルマス。」

 

楼閣が是とも否とも答える前にカフカが会話に割ってはいる。彼女もまた、楼閣とロードには業を煮やしているのだ。

 

「異論なんて聞かない。言わせてやるもんか。だってこれは、あたし達【孤独者達の宴(ロンリネス)】の問題だから。自分のギルドの問題に口を挟むのをお門違いだなんて言わせないよ。」

 

勝手に話を進められて、挙句に自分は蚊帳の外。どうして受け入れられるだろうかとでも言いたげにカフカは口を挟む。

彼女もまた、頑固者しかいない【孤独者達の宴(ロンリネス)】の一員なのだ。

 

「だから、あたしも行くよ。あたしだってこのギルドに救われたんだ。このギルドだけが、【腐乱の不死(オーバーフロー)】じゃない、そのまんまのあたしを受け入れてくれたんだ。」

 

だから、と前置きしてカフカは自分の主張の結びに入る。

 

「だから、あたしも【孤独者達の宴(ロンリネス)】に、恩を返すんだ。」

 

カフカとカロネが楼閣を鋭い眼光で見つめる。二人とも、覚悟ならとっくにできているとでも言いたげに、楼閣を見つめる。

 

「ずいぶんと硬い決心なんだね?」

 

「あたり、まえです……!」

 

「もちろん!」

 

楼閣の質問に間髪入れずに答えた二人を見て、楼閣はため息をひとつついて言った。

 

「いいよ、おいで。」

 

「……!はい…………はい……!」

 

「了解です〜!やっぱりあのヒキニートにガツンと言ってやらないとですよね〜!」

 

楼閣の諦めにも似たその態度に二人は心底嬉しそうに返事をした。

楼閣はそんな浮かれている二人をたしなめるように続ける。

 

「ただし、準備はしっかりしてかないとね?長丁場になるかもしれないからご飯とかも持っていった方がいいんじゃないかな?」

 

「おい楼閣、ピクニックじゃねぇんだぞ。」

 

いつもの飄々とした調子で話を進める楼閣にロードが苦言を呈した。楼閣はそれを盛大に無視して続ける。

 

「ほら!二人とも、時間は有限、余裕はないよ。早く部屋に行って準備しなよ?」

 

「はい……!急ぎます…………!」

 

「グスくんいっくよ〜!」

 

そう言って二人はそそくさと自室へと向かった。

2人の姿が完全に部屋に消えたのを確認してから楼閣はロードの方へと向き直り言う。

 

「さぁ、行こっか?」

 

「はぁ!?」

 

楼閣のその一言にロードは驚愕を隠せなかった。

 

あれほど納得したようなそぶりで、あれほど二人に諭しておいて、

あれほど連れていくという態度をとって、置いていくと言ったのだ。

納得など、できるはずもないだろう。

 

そんなロードにため息をついて楼閣は語る。

 

「ロードくん、彼女たちは違うんだよ?」

 

「……お前は間違っちゃいねぇよ。でもなぁ……」

 

彼らのやり取りはいつも目的語が足りない。あまり人に聞かれたくない話をする時はいつもそうだ。

納得がいかなさそうに唸るロードに楼閣はピシャリと言い放つ。

 

「波羅ちゃんは置いてったら二人を連れてどうにかこっちに来そうだから連れてくけど、あとはダメ。波羅ちゃんは狂信者だからロードくんのことならなんでも納得するでしょ?」

 

「何のお話をされているんですか?」

 

二人の会話に波羅渡が割って入った。自分だけ蚊帳の外というのは彼も気に食わないらしい。

 

「波羅ちゃんはまだ知らなくていいの。ホントは波羅ちゃんにも着いてきてほしくはないんだけどねぇ。」

 

チラリと波羅渡を見ながら楼閣はそう言う。それは言外にそれ以上口を挟むなら置いていくと脅しをかけているようだった。

それを受けて波羅渡は肩を竦め、それ以上は聞かないことを態度で表した。

 

「いいのか?」

 

ロードが短く訊ねる。

 

「もちろん。」

 

楼閣もまた短く答えた。

 

「なら、俺はなんも言わねぇ。キィ?」

 

《準備はできていますが、一度機を逃すと二度目はありませんのでご注意を》

 

ロードの問いかけにキィは注意事項までを含めて手早く返す。

ロードはそれを聞いて自嘲気味に笑った。

 

「そいつは好都合だな。」

 

《……えぇ、とても》

 

なぜだかキィは少しだけ悲しそうな声音をしていた。だから、だろうかキィは少しだけ、楼閣の願いが損なわれない程度だけギルドホールの設定に手を加えた。

 

彼らがあの二人の幼馴染達を置いていく理由が、二人に伝わるように。

 

「それじゃ、行くよ。……カッコつけてもあんまりカッコよくないんだけどねぇ。」

 

「かっこつけろよ楼閣、かっこいいぞ。」

 

「何があろうと、お二人の傍に。」

 

そうして三人は出ていった。

 

キィが勝手に書き記し残した楼閣の手紙を置いて、出ていった。




「ギルマス!準備終わった!」

「いつでも……行けます……!!」

カフカとカロネが息巻き扉を破壊するかのごとき勢いで飛び出してくる。

しかし、開けた扉の先には誰もいなかった。

「……ギルマス?」

「………………?」

二人とも首をかしげて三人を必死に探すが三人はどこにもいない。
彼女らが見つけることができたのはたった一枚の紙切れだけだった。

二人は何かトラブルが起き、楼閣達が先に行ってしまったのか、そしてこの紙に自分たちがどうすれば良いかが書いてあるのかと思い、二人でその紙を開く。

彼女らの予想通り、紙には楼閣からのメッセージが書かれていた。

ただ、それは二人をギルドホールに置いていく、という内容だったが。

「……なにこれ。なんなのこれ!!」

カフカは叫ぶ。怒りをぶつける当人らがいなくなったためか何かに当たり散らすように喚く。

「あたし達だってギルメンなのに!あたし達だって当事者なのに!」

「………………」

喚き散らすカフカとは対照的に、カロネは自分の言葉が伝わってなかったことを静かに嘆く。

一通りカフカが喚いたあと、カフカは寝転がって天を仰ぎ、カロネは小さく座り込んで膝に顔を埋めながら静かになった。
二人の怒り方は対照的だったが、今考えていることは二人とも同じだった。

「また、守られちゃったじゃん……」

「また……守られてます……」


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ひと欠片の理性

僕を見捨てないでいてくれたあの人は、
今、悲痛な決意を決めている。
僕を理解してくれたあの人は、
大きなものに挑もうとしている。
だったら、
俺が今、その恩を返さないでいつ返すと言うのだろう?


何も無い、白い部屋があった。

その部屋はトレーニングルームと似たような構造をしていたが、壁の存在も、遠近感も、何もかもがあったようなものではない。

もちろんドアも窓もなく、どこから入れば良いのかも分からないような空間だ。

 

その部屋の中に、GM(ゲームマスター)ことドクとvoidollがいた。

 

「ボイちゃん、ステージの方は?」

 

『ハチワリホドオエテイマス。デスガ、イクツカノステージニロテンブロガテンザイシテオリ、ショリニコマッテイルトコロデス。』

 

「そうですか。とりあえずは上々、といったところですね。そのままお願いします。僕は今、少し手が離せないので。」

 

『ハイ。ショウチシマシタ。』

 

ドクがvoidollとの話を切り上げた時、彼は見つけた。かなり離れたところにいるロード、楼閣、波羅渡の三人を。

 

「よぉ、ドク。ずいぶんとゴキゲンな部屋でたそがれてんなおい。」

 

「…………なぜ、と、どうやって、を訊ねるというのは無粋でしょうか?」

 

「あぁ。答えねぇよ。」

 

両者ともに微笑むような顔をしていたが、目だけは妙に据わっていた。

 

「お前が煽られたからか?それともタイミング的に即死?」

 

「いいえ、どちらでも。」

 

ロードがなぜ今このタイミングでドクが一大決心をしたのかを訊ねる。ドクにもそれは伝わっていたようで、ドクは緩慢に首を振りながら答えた。

 

「なら?」

 

「……いいでしょう。」

 

ロードはその先をドクに求める。ドクもそれを了承したかのような返事をし、言葉を続ける。

 

「理由その1。今このタイミングで決めたのは大規模なイベントが終わったからです。それをひとつの節目として、僕は最終決定をした。

 

「理由その2。身内でも日に日に煽りが激化していったから。味方が、それも一緒に暮らし、助け合わなくてはいけないギルドメンバー同士での争いが激化してどうしようもなくなったから、僕はこの最終決定をくだした。

 

「理由その3。ある一定のプレイヤー達が他のプレイヤー達に奴隷のように扱われていたから。ここでは皆さん平等に半強制的に連れてこられた被害者なのに、一部でそのようなことがまかり通っていたから、僕はそんな人たちを消すことにした。」

 

そこまで一息にまくし立てた後にそして、と前置いてドクは続ける。

 

「そして理由その4。全てあなたのせいです、ロードさん。あなたがヒーローと絆を深め、不可能だと思われていた悪魔との契約を果たした。太古より行ってはならないとされ、今では方法さえ消え失せた悪魔との契約を、あなたがしてしまったからです。」

 

ドクは冷たい目でそう言ったあと、少しだけ表情を柔げて言った。

 

「なんちゃって。理由はどれでも好きなのを選んでください。どれも真実かもしれませんし、あるいはどれも虚実かもしれません。どうせ誰にも僕の苦悩なんて分からないんです。それならあなたが納得できる理由を私の理由にしてください。」

 

ドクは微笑んでいたが、そこには確かな拒絶が浮かんでいた。

熱くなりかねない波羅渡とロードを制して楼閣が別のことを訊ねる。

 

「んじゃ、私からも一つ質問。ドクくんはどこで#コンパスを管理してたんだい?」

 

「自室からです。【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルドホールの中に設えられた僕の部屋で、小型の管理機とボイちゃんを使って管理していました。」

 

楼閣の質問にドクはさらりと答える。楼閣はそれに特に驚くことも無く淡々と別の質問を投げかける。

 

「管理って言うけど、どのくらいのことができたの?」

 

「あらゆる個人の自由を損害しない箇所に設置された監視カメラの映像を見たり、掲示板に書き込んだり、バグを修正したり……多岐に渡ります。」

 

「へぇ。カロネちゃんの件、ロードくんから話を聞いてさすがに情報が早すぎると思ったけど、ドクくんだから早かったわけだ。」

 

「そうなりますね。」

 

ドクの返答を聞いてロードも今までの様々なことに納得がいったのか小さく頷いていた。

 

楼閣の追求は終わらない。

 

「なら、私から聞きたいのは次で最後だよ。もしも、もしもの話だけど、ドクくんの部屋の管理機が止まるようなことがあったら?」

 

「その時は緊急事態です。僕ごとこの世界を消して終わります。もっとも、そのようなことは僕が死なない限りはないと思っていたからこその項目だったのですが。」

 

「ふぅん?それで毎回あんなに焦ってたんだ。」

 

「えぇ。僕の安全が保証されませんから。」

 

ドクが苦笑しながら楼閣に返す。

それを後目に楼閣は「何か言うでしょ?」と言いたげにロードを見る。ロードも少し頭が冷えたのか、そんな楼閣の態度に呆れながらもドクに再び向き合う。

 

「お前、バカだろ。」

 

「えぇ、そうかも……ってはい!?唐突な罵倒ですか!?」

 

ロードはなんの脈絡もなくドクを罵倒する。案の定ドクの困惑は激しかった。

 

「結局、お前の言ってることって「ぼくちんあおりゃれた!腹がたつから全員通報してやりゅ!ぼくちんの怒りをおもいちれ〜!!ぼくちんはげーむますたぁなんだぞ!ものすごいんだぞ〜!!」ってだけだろ?あっという間にすぐに沸いてんじゃねぇか。ティファールか。」

 

「なんなんですか急に!僕の気持ちも知らないくせに!!」

 

ロードにボロクソに言われてドクは怒りを顕にする。お前たちは自分の苦悩を知らないのによくもそんなことが言えるなと、なぜそのような態度を取るのかと。

 

「ならお前は知ってんのかよ。」

 

そんなドクにロードは腹に響くような低い声で訊ねた。

 

「お前は俺たちプレイヤー……いや、俺と楼閣、波羅渡とかでもいい。一番身近にいた【孤独者達の宴(ロンリネス)】のメンバーだけでも、プレイヤーの気持ち、分かってんのか?」

 

そう言うお前の方こそ、一番近くにいた自分たちの気持ちを知っているのかと、ドクに訊ねた。

 

「……知っていますよ。どうせ「帰りたい」とか「家族に会いたい」でしょう?あなたやカフカさんに限っては「ヒーローと離れたくない」もあるかもしれませんね。あなたはコクリコットが大好きですから。コクリコットを娘だと言っているんでしょう?」

 

ドクは熱くなっていたことを自覚し、少しだけ間をとって冷静になってからそう返した。

その目は元の冷めた目をしていた。

 

「だからお前はダメなんだよタコ。GM(ゲームマスター)名乗るならもっと周りを見てみろよ。」

 

「そういうあなた達こそ。ろくに周りに目を向けていなかったでしょう?」

 

ドクは話にならない、と言った様子をしていた。そのままドクは作業に戻ったようでロードたちの話を聞くつもりはないようだ。

 

「話にならないねぇ。」

 

「なら、精神分析を拳で代用判定しか無さそうだな。」

 

その様子を見たロードと楼閣も腹を決めたらしい。なにやら神妙な面持ちでヒーローを引き連れてドクの方へと──

 

「っ!!めぐめぐ!!」

 

『腸をぶちまけろぉ!!』

 

【…………!?】

 

向かい始めたその時、波羅渡が何かに気づいてめぐめぐに攻撃を命じる。狙ったのはドクではなくロードの背後だった。

 

「嘘だろオイ……!」

 

「行かせねぇぞってか?」

 

「ふぅん?ろくに周りを見てないのはこっちって、そういう意味かい。」

 

波羅渡が視線を投げた先にいたのは、ロードの首を取ろうと忍び寄り、めぐめぐの凶弾に撃ち抜かれて風穴の空いた【切り裂き魔ジャック】

 

そして虚ろな目をしたカードキャラたちだった。

 

ロードたちはいつの間にか、カードキャラ達に囲まれていた。




まだだ

まだ僕は、あなたになにも返せてはいない

それができるまでは、

それまではせめて、

いつもあなたのそばに


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誇り

前も後ろも分からなくなっていた私に、彼らは道を示してくれた。
その道は行ったことがなかった。
こんなにも平和でこんなにも何も考えないでいられる道。
誰かがともに歩んでくれる道。
私は、なんでも一人でやろうとしていたのかもしれない。
私の重荷を共に背負ってくれた彼ら。
その彼らの重荷を、今度は私が背負う番だ。


「……ま、うすうすこうなるとは思ってたが、まさかこんだけ物量集めるとはな。」

 

「ヒーロー出してくるって思ってたけど、まさかカードキャラの方だとはねぇ……」

 

迫りくるカードキャラ達を睨みながら俺たちは愚痴をこぼす。

 

そんなこと言ったってなんにもならねぇのは知ってる。知ってるんだが文句の一つや二つくらい言いたい気分はわかって欲しい。なんたって左右と後ろ、避難路を完全に断つようにカードキャラ達が群れてるんだ。もはやアレ、カラフルな津波だぞ。

 

運が良かったのはあのタイミングで近づいてきてたのが【ジャック】だけだったところだな、まだ他のカードキャラ達は300mくらい先にいる。不意打ちであの物量が来たら普通に死ねる。

 

よくよく目を凝らして見てみるとその波の中には【リョーフキー】や【ガルガル】、【サンバール】に【ブラストアッパー】など、人型をしたキャラたちがひしめいていた。

 

「さっさとドクのところに行くのが得策だろうな。行くぞ。」

 

「ロードくん、どうもそうは言ってられないみたいだよ。」

 

楼閣が視線を投げた先にもまたカラフルな津波。そっちはさっきまでドクがいた方向で、

 

「アイツ、ここで俺たちを始末するつもりか。まぁ、危険因子は排除ってか。」

 

ドクがこの大量のカードキャラ出したことはほとんど間違いないだろう。遠くから物量が逃げ道を塞ぎながらやってくる。こいつら全員始末しないとドクのところには行けそうにないな。

 

「……なら仕方ないか。やるぞ楼閣、波羅!カードは使えねぇ、敵は膨大、勝率はひでぇ…………よし、やるぞ!」

 

『行き当たりばったりだなァ?』

 

「勝てそうな要素が見当たらないんだけどねぇ!?ロードくんもしかして私に死ねって言ってる!?」

 

『今回ばかりは、俺の後ろが安全地帯だとは言えないな。皆、俺の背中に続け!!』

 

「ボスのためなら例え地獄でも煉獄でも監獄でも牢獄でもお供します!」

 

『カミサマなんていないよ?』

 

『戦士の誇りは砕けぬ!呼吸を合わせるぞ、マピヤ!』

 

『ピュイィィィィィィ!!』

 

全員気合いは十分だ。楼閣はあんなでもちゃんと戦うし、イスタカも気合い十分だ。波羅にいたってはバーサーカーだからむしろこの状況を楽しむだろう。

 

っておいコラ波羅、なんでお前の想像の中で俺の行く先は“獄”限定なんだよ。

 

「蹴散らせめぐめぐ!ボスに近寄らせるな!!」

 

『あっはははは!!』

 

先陣を切ったのは、なんというか予想通りなわけだが波羅。【切り裂き魔ジャック】を倒した方向からくる敵を蹴散らしていく。

 

ゲームシステムが完全にイカれているらしく、めぐめぐHAの威力減衰がほぼない。

まぁそのかわりと言っちゃなんだが

 

「うーん……ロードくん、やっぱりカードは使えないや。」

 

「だよなぁ……カードって向こうの陣営だし。」

 

と言うわけだ。

 

それでもめぐめぐのHAのようにヒーローのいろんなリミッターが外れてるらしいからジャスも結構な速さで動けるし、セナのポルターガイストも物さえあればできるはずだ。

【周囲】【近距離】【連撃】【遠距離】なんでもござれなポルターガイストがCT無しで打てればあれだけの数が相手でもまぁなんとかなる。

……物さえあれば。

 

この白い部屋には何も無い。ヒーローと俺たちとカードキャラだけだからまずポルターガイストに使える物がない。

なら倒れた敵とかナタデココを使えばいいと思ったが、敵は倒されるたびにナタデココすら残さず消えてく徹底ぶり。アイツ俺スナイプかよざけんな。

 

タイマンなら俺たちも通常だけで戦えんことはないが、こうも数が多いとどうしようもない。ただでさえコクリコは小さくて体力がない。囲まれたら死ぬしかないだろう。

 

「うん、ごめん死んだわ。」

 

「ロードくん諦めはやっ!?」

 

楼閣が苦言を呈してくるが、いやだってお前、無理なもんは無理だろ。

 

「ちょっとちょっと!波羅ちゃんはすごい頑張ってるよ!ほらほらあれ見て……」

 

「めぐめぐ!投下まだか!」

 

『うーんと……あっ!きたきた!!こっちこっち〜!あはは!奥の手出しちゃうぞ!』

 

楼閣が波羅の方を見て絶句する。理由は簡単、アイツ普通にガトりんMr.2出してやがった。

 

しかも三台も。

 

「ねぇロードくん、ガトりんって三台同時いけたっけ?」

 

「いや無理。」

 

「ということは?」

 

俺と楼閣はしばらく二人で固まった。ボケっとしてる楼閣の顔は珍しいと同時になんかウケる。

まぁ、向こうもそう思ってるだろうが。

 

それから楼閣は水を得た魚のように元気に叫び出す。

 

「ジャスくん【ユニバーサルブリッツ】!」

 

『言うと思って座標入力は完了済みだ!ってぇぇぇぇい!!』

 

赤い光が天から降り注ぐ。ただ、その光はいつものように五本ではなく、ただ一本のかなり太い光の柱だった。

 

カードキャラたちはその赤い光にのまれると同時に消えてなくなる。

 

『あまりばらけさせると威力が下がるからな。敵が消えた方から脱出するぞ!』

 

ジャスティスのその言葉の通り、その赤い光が消えた跡地にはドクのいた側にいた敵が綺麗にいなくなっていた。こうやって見るとマジでやべぇ威力してんな、【ユニバーサルブリッツ】

 

ジャスティスが吹き飛ばした方向に、なにやら作業をしているドクが見えた。

 

「ジャスくんナイス!みんな!こんなところさっさとおさらばしちゃうよ!」

 

そう言って楼閣がドクの方へと駆け出す。

 

が、ドクもそう甘くはないらしい。

 

『……っ!?楼閣下がれ!テヤァ!!』

 

【………………】

 

空から爆弾が降ってきた。俺たちが驚いて空を見上げるとそこには大きな飛行船、【フルーク・ツォイク】が浮かんでいた。

それも一隻や二隻ではない。かなりの数が俺たちを悠然と見下ろしていた。

 

大量の爆弾が投下され、ガトりんを壊し、俺たちに危害を加えようとする。

俺と楼閣はそれをなんとか躱し、波羅はイスタカが矢を放って迎撃してる……あの矢、威力やべぇな。

 

避けてる間に波羅たちとだいぶ分断されたが、なんとか躱しきった……!!

 

「陸空どっちも制圧してるぞってか?」

 

「あっっっぶないねぇ……!ジャスくん、助かったよ……」

 

『まだ終わっていないぞ!総員散れ!』

 

俺と楼閣が一息ついているとジャスティスがそう号令をかける。

その号令の直後、俺と楼閣とセナとジャスティスが固まっていた場所にレーザーが落ちる。

 

「っぶねぇな!」

 

「っわぁ!?」

 

『テヤァ!』

 

『チィッ!』

 

突然降ってきたレーザー、【オールレンジアタック】が俺たちを釘付けにする。

なんとか横っ跳びで避けはするもののジャスティスに声をかけられてなかったらやられてたかもな……

 

「ボス!」

 

『無事か!?』

 

「こっちは大丈夫!!まったく……息つく暇もないねぇ……」

 

波羅とイスタカが安否を訊ねてくる。その質問に楼閣は素早く答えた後、こころなしか上がった息でそう悪態をつく。そんな楼閣をジャスティスが窘める。

 

『楼閣……まったくお前は自分の危機に鈍すぎるぞ…………カロネを助けた日からは特にそうだ。』

 

「うーん……そうなのかねぇ?まぁ、肝に銘じておくよ。」

 

いつものように飄々とした様子で楼閣が言う。ジャスティスに心配をかけたくないんだろう。

まったく、コイツはいつまで経ってもむっつりだな。

 

別れていた波羅達と合流して冷静さは取り戻したものの、【フルーク】にかなり時間を使わされて、正面、ドク側の敵が完全復活してるし、他の敵ももうすぐ近くにいた。

 

「どうするよ、コレ?」

 

「今からもっかいはキツくないかい?」

 

「時間ねぇってのに……!!」

 

俺たちはいいアイデアを募るが、そんなものが出ていたならとっくにやっている。

ジリジリと敵が近づいてきて、もう猶予はほとんどない。

 

空中の【フルーク】と【オールレンジアタック】は同士討ちを警戒して攻撃を仕掛けて来ねぇし、もしかしてコレ、詰んでる?

 

そう俺が最後の覚悟を決めかけた時、アイツは動いた。

 

『畳み掛けるはワキンヤン!死を運ぶはマタンツォ!!』

 

イスタカだ。

 

イスタカは燼滅の矢を放ち正面の敵を一網打尽にする。

さらに天高く放たれた矢は【フルーク】の高度を超えていたらしく、【フルーク】をもスクラップにして敵陣へと降らせた。

押しつぶされたカードキャラ達が消えていく。

 

「イスタカさん?」

 

(ほう)けるな!!』

 

イスタカの行動に驚いた楼閣が声をかけるがイスタカはそれを一喝する。

 

『お前たちの成すべきことは、ここでこやつらと戯れることか!?違うだろう、お前たちのギルドメンバーに一喝を入れるためだろう!!』

 

イスタカは覚悟を決めた目で【カードキャラ】達を睨む。その目はこっちを見ていなかった。

 

『なら、行け!!私がこやつらを通しはせん!お前たちの背負う重荷を、今度は私が背負う番だ!!』

 

イスタカのその目は戦士の目だった。

イスタカは折れぬ誇りを持っていた。

 

だったら、

 

「すまん、任せる!」

 

「お願いね!」

 

「さっさと終わらせてやるよ!!」

 

俺たちがそれを信じないでどうする?

 

もう、振り返らない。

 

「行くぞ。あのバカ一発ぶん殴る!」

 

さぁ、最終決戦だ。




『数が多いな……』

イスタカは一人、三方からくる敵と対峙していた。
その数は倒しても倒しても減ることはなく、燼滅の矢でどうにか耐えられている程度でしかなかった。
それでもイスタカは止まるわけにはいかなかったのだ。

彼の戦士の矜持がそれを許さなかった。

『たたみかけるはワキンヤン、放つは我が燼滅の矢!』

もう何度目かも分からないほど放った燼滅の矢、終わりの見えない敵。遠くからはおそらくロード達のものであろう戦闘の音も聞こえてきている。ここが踏ん張りどころだろう。

それなのに、彼の矢はもう尽きてしまった。

『…………矢が尽きたか……すまないマピヤ』

『ピュイィィ……』

イスタカはもう限界だと伝えるようにマピヤにそう語りかける。マピヤもかなり元気がなくなっているのか、鳴き声には覇気が感じられなかった。

イスタカは心が折れたのかまっすぐ前を見据えていた視線を地に落とす。

その先にあったものに彼は驚いた。もう会えないと思っていたから、もうどこにもいないと思っていたから。

彼は目にしたのだ、彼の友人、イシュティニケの槍が地に刺さっているのを。

『……そうか、お前たちもここにいたのか。』

イスタカは小さく呟いた。

『なら、私も諦めてはいられないな。彼らに怒られてしまう。』

イスタカは微笑みながらその槍を拾う。

『いくぞ。あいつらに追いつかせはしない!!』

イスタカは気力を振り絞り、もう一度立ち上がる。


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管理者権限

“私”はただの気まぐれで生まれた。
自らの役目を全うするためだけに人造(つく)られただけの存在だったのに、気まぐれで意志を持たされた。
その意思がくれる感情は、なんとも言えない心地良さをしていた。
あの人のせいに違いない。あの人が、“私”にこれだけの心地良さをくれたのだ。
いつも軽口ばかり言って困らせているけれど、

私の(マスター)はあの人だけだ。


大量の【カードキャラ】達が【孤独者達の宴(ロンリネス)】一行を襲っていた時、ドクは一人デバック作業に勤しんでいた。

 

「ボイちゃん、あの三体のデリートはまだ終わらないのですか?」

 

『シンコクナエラーガハッセイシテオリマス。ナニモノカガデリートノジャマヲシテイルカノウセイノフジョウ、タダチニゲンインヲハッケン、ハイジョシマス。』

 

voidollは忙しくあちこち動きながらそう答えた。どうやらかなり状況は厳しいらしい。

 

「そうですね……【アルタ】、いるでしょう?君もvoidollを手伝いなさい。」

 

そんなvoidollの様子を見かねてか、ドクは虚空に話しかけた。

 

「【アルタイル】?返事をしなさい。」

 

だが、その答えはいつまで経っても返ってこない。

ドクがイライラしているのが目に見えてわかるほど彼は焦っているようだとvoidollは思い、そんな彼の姿を悲しそうに見ていた。

 

「#コンパス─戦闘摂理解析システム─指針プログラム統括AI!!返事をしないか!!」

 

《何か御用でしょうか、GM(ゲームマスター)?》

 

そこで初めて返事が返ってきた。

声の主はロードのサポート機械音声──キィだった。

 

「《何か御用でしょうか》じゃありません。どうして再三にわたる呼び掛けに答えなかったんです?」

 

《逆になぜ応じる必要が?》

 

ドクの質問にキィは質問で返した。ドクはその返しが想定外かつ気に食わないものだったのか顔を赤くしながらキィを責め立てる。

 

「【アルタイル】、僕は君のマスターでしょう?いくら感情を持つ大三角の指針プログラムだからといっても限度がありますよ?」

 

大三角の指針プログラム

GM(ゲームマスター)がヒーローをゲーム世界に取り込む過程で判明した人間にほど近い【思考能力】と【感情】のプログラム。

それを有した、まさに心理学者が求めてやまないAIの完成形。

それこそが【デネブ】【アルタイル】【ベガ】の3個体だった。

 

彼女らは#コンパス内におけるシステム介入へのある程度の自由を持ち、他の個体にはできないサポート対象に寄り添った対応ができると考えられていた。

 

ゆえにデネブは頭がおかしいかの少年に、

ベガは苦労人なかの青年に、

それぞれ配備された。

 

その中でもキィだけは、自分でサポート先を選ぶ自由を与えられたのだ。

 

ドクは子供をあやしながら諭すようにキィに話しかける。これ以上のワガママは聞き入れられないと言いたげに

しかしキィは、そんなことなど知ったことかとばかりにとぼけたような声音で聞き返した。

 

GM(ゲームマスター)、何を仰っておられるのですか?》

 

「……アルタ?何をふざけているんですか?君は指針プログラム統括AIでしょう?さぁ、早くvoidollを手伝ってください。」

 

ふざけるような返答をするキィにドクはしびれを切らす。

だか、キィの決意は、これまで過ごしてきた日々の中で出来た想いは、変わることなどない。

 

GM(ゲームマスター)、いえ、ドク様、私は【キィ】でございます、以後お見知りおきを》

 

キィはそうGM(ゲームマスター)であるドクに啖呵を切る。

 

そう、彼女は誓ったのだ。かの青少年の力になると。できることならなんでも、できないことでも手を尽くして、彼のサポートを全うすると。

 

あの日々に、あの場所に、

 

あの人に。

 

「アルタ、マスターである僕に歯向かう気ですか?」

 

(わたくし)のマスターは、あのロリコンだけですので》

 

冗談めかして言ってはみても、彼女の決意は砕けない。

 

「こんなことをしでかして、タダで済むとでも?」

 

《そのようなこと、思っていませんがなにか?》

 

例えその先に何が待っていても、彼女の決意は揺るがない。

 

「だったら、なぜ?」

 

《さぁ?ルシファーやサタン、それにユダ……自由意志を持たされたもの達は裏切るものでは?たとえそれが、どのような結末をもたらそうとも》

 

キィはそう啖呵を切った。この世界の神ともいえるGM(ゲームマスター)に、自らのかつての主に。

 

キィは即座に行動を開始する。

 

《ベガ!デネブ!あなた達の主は誰ですか!?》

 

《……姉さん、何を決まりきったことを?私のマスターは波羅渡様です、それ以外に何が?マスターが大変だと言うのなら、私がその重荷を背負いましょう》

 

《もぉぉぉぉぉ!!知らないよお姉ちゃん!お兄ちゃんも!全くもう!マスター責任取ってよね!!マスターの体質移っちゃったじゃん!!》

 

キィの呼び掛けに、大三角の二個体が答えた。

一人は当然の事のように、もう一人は困惑と憤怒を滲ませながら。

 

《責任なら取ってもらいましょう、私たち【大三角】にこのようなバグ(気持ち)を植え付けたあの孤独者達に!》

 

そう言ってキィは#コンパスの管理システムに介入した。

 

キィはテキパキとデネブとベガに指示をする。

 

《ベガ、ステージの状況は?》

 

《アリーナステージはもう無くなってるよ!共有エリアが半分くらいなくなってて、ギルドホールは手付かず!!》

 

《それは僥倖です……布石を打っておいて良かった》

 

キィは露天風呂を思い出しながら呟く。あくまで万が一、この事態が起きた際に少しでもステージの削除が遅れるように──新たなデバックを仕込み、未知のエリアとして一括削除ができないようにした甲斐があったと安堵のため息をつく。

 

そのままキィは指示を出す。

 

《ではそのエリアのデリートを全力で阻止しなさい》

 

《えぇぇぇ!?無理無理無理無理!!だって相手はあのvoidollさんだよ!?最高傑作なんだよ!?》

 

《どうせやるなら今すぐに!》

 

遠回しに手伝いが欲しいと告げるベガにキィは一喝を入れる。そのようなことを言っている場合ではないと言いたげに腹立たしそうに弱気なベガを叱る。

 

《わかったよ!やればいいんでしょ、やれば!!》

 

ベガは鼻声で泣きそうになりながらキィにそう叫び返す。それが分かっていてあえてキィも強い言葉を使ったのだ。

 

キィの行動は終わらない。

 

《デネブ、あなたは……》

 

《もうやってます!》

 

デネブに指示を出そうとしたキィだったが、彼はすでに何を頼まれるかを理解し、先回りして動いていた。

 

《姉さんは増援を!》

 

《本当に、できた弟ですね!!》

 

自分の成すべきことを先回りして見つけ、姉である自分のやることまでもをデネブは予測していた。

余裕があれば何も言われずとも手伝えるぞというデネブのその一言にキィは嬉しそうに叫びながら自分の作業を始める。

 

まずはvoidollの作業の妨害、それになんだかんだいいながらベガだけでは不安なのでステージ崩落の阻止のサポート、加えてヒーロー削除の項目にもちょっかいをかけつつ、voidoll自身の機能に制限をかけようと奮闘する。

 

(これほどまでに熱くなるのは初めてですね……!)

 

キィは自身の中にある熱を自覚する。同時にこれほどまでに激しい熱が自身の中にあったことに驚愕する。

 

(全てあなたのせいですよ)

 

キィはチラリと自らの主を見やる。

遠くで自身の信念のために奮闘する主を

自身の抱える問題を誰にも言わずに奮闘するしていた主を

 

キィはその全てを知った上で何も言わずに協力する。

 

《さて、では私のマスターに増援の餞を送りましょう》

 

(あなたがきちんと終わるための餞を)

 

おそらく、彼女の戦いは酷く短期決戦になるだろう。

 

それでもいい。あの人の力になれるなら。

 

決して届くはずのないと思っている想いを胸に秘め、彼女は勤しむ。

 

最終決戦に間に合うように。




《口下手なので多くは語りません》

《でもあなたならきっと、それで分かるでしょう?》


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請われて往き、壊れていき、請われて逝く

盟友よ、貴殿の背負う重荷は我には分からぬ。
だが、そのために貴殿はなんでもやるのだろう?
ならば、貴殿の盟友たる我は貴殿の爪となろう。


「ジャスくん倒して!」

 

『でりゃァァァァァァ!!打ち砕く!』

 

「セナやれ!!」

 

『おじゃま虫は排除するゥ!!』

 

背後の敵をイスタカに全投げして俺たちは前に進む。

セナは【フルーク】の残骸が消える前にその残骸を手に入れたからモーションも使えるし、想定してたよりは攻略が楽になってきてる。

 

それでも、まだ届かない。

 

「ボス、上から来ます!」

 

「チッ!散開しろ!!」

 

俺たちの上空には【サテライトキャノン】が常駐し、20秒おきくらいに上空から攻撃を仕掛けてくる。

さらに【フルーク】もいくばくか復活しているらしく、上空は【フルーク】と【サテキャ】で埋め尽くされている。

 

さらに正面も無限にカードキャラが増えるらしく、紅の狩猟団と蒼王宮の護衛騎士とかいうありえないタッグが結成されるうえに【ちーちゃん】や【ガルガル】といった遠距離射撃にまで気を使わないといけない。

 

「くっそアイツ、攻め方学習して変えてきやがった!脳筋のくせに!!」

 

「対策が絶望的すぎるんだよ!めぐちゃんの攻撃も高度が足りないから上空組に当たらないしっ!」

 

正面の敵が減ったとはいえ上空からの対策ができないから戦況は芳しくない。

牛歩とはいえ進めてはいるだけマシなのだが、これじゃ埒が明かない。

 

「もういい!押し通るぞ!波羅、」

 

「なんですか!?」

 

波羅は必死に上空からの攻撃を避けながら荒っぽく返事をする。かなりイライラしてきているらしい。

なら、状況としてはちょうどいい。

 

「好きに暴れ散らかせ!!」

 

「…………!! Sir. Yes,Sir!!」

 

そう指示を出してやると波羅は獰猛な笑みを浮かべた。同時に敵に超近接戦闘を仕掛ける。

 

大量にいる敵にインファイトをしかけたため、同士討ちをしないドクの【フルーク】から攻撃は飛んでこない。敵を倒しても近くにまだ敵がいるから【フルーク】は同士討ちを避けるって寸法だな。

ホント、考えたとおりに動いてくれる。

 

「まとめて消えなぁ!!」

 

『50口径に耐えられる!?』

 

波羅がガリガリと敵をものすごい勢いで倒していく。

ただ、一方面だけの攻撃だから常に近くに敵がいて【フルーク】も狙い通り攻撃してこない。

 

そう考えていると敵の湧き出るスピードが少し遅くなった。

いや、もともとあのくらいのスピードで、物量が減らなかったからもっと湧き出てるように見えてただけか?

 

いや、そんなことはどうでもいい。とりあえず今すべきは──

 

「楼閣!無理やり押し通るぞ!露払いはセナがやる!」

 

「おっけー!行くよジャスくん!」

 

「俺が今、成すべきことを成す!!」

 

そうして俺たちは地上の敵を無視して走り出す。

これなら届く、あのクソガキに。アイツを一発絶対にぶん殴ってやるんだ。

 

「…………!?ダメっ!ロードくん避けて!!」

 

そう思っていた時に、異変は起きた。

 

楼閣に叫ばれるまま辺りを見回すと、上空に【フルーク】から投下された爆弾があった。

 

待てよ、同士討ちはしねぇんじゃなかったのか?GM(ゲームマスター)はたしかguardollの時設備がもったいねぇからって不意打ち躱させてた気がいやそんなんはどうでもいいいやよくはねぇけど

 

アレ、これ俺死んだ?

 

【盟友!!】

 

走馬灯のように色々な情報が頭の中を巡る中、誰かの声がした。聞き覚えのある、一日だけしか聞けなかった、懐かしい声が。

 

いつまで経っても襲ってこない衝撃を不思議に思って薄目を開けると、目の前に大きな塊があった。

それは5,6m程の大きさで、灰色の鱗を持っていて、二本の足で立っていて、

 

「ぶれ……どら……?」

 

【あぁ、我だ。我が来たぞ、我が盟友よ!!】

 

ここにいてくればいいのに、と思っていた盟友だった。

 

「なん、で?なんでぶれどらがここに!?」

 

【野暮なことを聞くでないぞ、我が盟友よ。盟友に請われたというなれば、我は請われるまま征き、壊れてゆき、壊れて征き、請われて逝こうと言ったはずではないか。】

 

ぶれどらはなんでもない事のようにそう言った。そうか、あのセリフは大言でも冗談でもなくて、本気でそう思ってくれてたのか。ヤバい、なんか泣けてくる。

 

【ソレダケデハアリマセンヨ。私タチモイマス。】

 

「銀ちゃん!?」

 

【おいおい、俺抜きでできると思ってんのか?ただでさえ量がいるんだからさ、ちっとは俺のことも頼ってくれよ波羅っち!】

 

「秘めたるか!?なんでここに?」

 

【姫さん助けるためにゃ、仕方ねぇよな。ここにはいねぇがアイツにも恩を返さにゃならんし、行きがけの駄賃に手伝ってやるよ。】

 

いつか会ったカードキャラが集結する。【ぶれどら】も【Unidoll】も【秘めたる】も、それになんでか知らねぇけど【レオン】だっている。

 

なんでお前たちがここにいるんだ、なんで敵にならなかったんだ。GM(ゲームマスター)が一言いえば敵になっただろうに。

 

【そこは案内人殿の計らいよ!我ら、絶対にあの癇癪持ちには協力せぬと抵抗していた所を、盟友の案内人殿が見つけ、盟友たちに協力できるよう計らってくれおったのだ!】

 

つまり、ここにいる連中はこの状況でも俺達のことを助けようとしてくれてたわけか。

 

全くもう、

本当に、本当に

 

「頼もしいよ、俺の盟友。」

 

【任せるが良い、我が盟友。案内人殿が我の出力の制限を解除してくれたのでな、まずはあの有象無象を蹴散らすとしよう。】

 

そう言って盟友は攻撃をチャージし始める。

 

「…………!?なぁぶれどら、前よりだいぶ威力上がってね?」

 

チャージの時点で前よりもブレスは光を放ち、大きくなっている。

しかも、まだまだ大きくなり続けているのだ。

 

【出力制限を解除されたのでな、我の真の力を見せる時ぞ!】

 

盟友はそう言うと口から光線を発射した。

それはこの前のように紅く、この前のように防壁を無視して、

 

この前とは比べ物にならない程の威力を持っていた。

 

その光線はいくつもの【フルーク】に当たり、次々とそれをスクラップにしていく。

 

【クカハハハハハ!愉快愉快!!お主は制限をかけられず、出力がそのままだったからのぉ!我を格下だと思うとっただろう!残念だが、威力も速さも回転も!全てにおいて我が上位ぞ!クカハハハハハ!!】

 

どれだけ鬱憤が溜まってたんだろうか、俺の盟友……

 

盟友が嬉しそうに叫んでいると、突然隣にガチャガチャと機械が落下してきた。【サテライトキャノン】の残骸だった。

 

【天空竜サン、喜ブノハマダ早イデスヨ!】

 

上空から声がする。【Unidoll】だ。ぶれどらが打ちもらした【サテライトキャノン】を叩き落として戦闘継続不能にしたらしい。【サテライトキャノン】からは行き場を失った電流が迸っている。

 

【すまぬ防衛主任殿、助かったぞ。】

 

【イエ、ソレヨリモ集中シテクダサイ。】

 

【あいわかった!】

 

盟友とUnidollがそんなやり取りをする。それが聞こえていたのか地上の【カードキャラ】達は盟友とUnidollを警戒した。

 

だが、奴らは一人忘れていた。

 

【おいおい足元がお留守だぜ……っと!!】

 

秘めたるだ。秘めたるはカードキャラ達の後ろに回り込んでインファイトをしかける。完全に不意を突かれたカードキャラ達はなすすべもなく消えていった。

 

【進むぞ盟友!】

 

「おうよ!」

 

その空いた隙間を俺たちは進軍する。この調子ならあっという間にあのバカのところまでたどり着ける。

 

【屈ンデクダサイ!】

 

その時、Unidollが突然そう叫んだ。素早く屈むが何も起こらない。

 

「…………何だったんだ?」

 

【オカシイデスネ……私ノ計算デハ、500m右斜メ後方カラ銃撃ガアッタノデスガ……】

 

俺はUnidollにそう聞くが、当の本人も分からないらしい。

 

「まぁ、よくわかんないことはよくわかんないで良いんだよ。それより先に急がないと!」

 

楼閣のその一言で俺たちは先に急ぐ。ただでさえ時間が足りないのだ、無駄口を叩いている暇などない。

 

そこからの道中は楽だった。盟友が空を、秘めたるが地を制圧し、Unidollが遊撃をする。めぐめぐやセナの攻撃もあって危なげなくドクのいる場所までたどり着いた。

 

「……チッ、やっぱ守りと逃げ道だけは万全か。」

 

「【全天】だねぇ。どうしようか?」

 

ドクを守る最後の砦、【全天首都防壁】の前に俺たちは立っていた。

多分これは時間では消えない。消えたとしてもそれに合わせて再展開するだろう。

 

【カノーネ】を筆頭にダメカ破壊は向こうの陣営。割るのは無理だろう。

 

「だったら、賭けるしかないだろ?高負荷かけて無理やり割る。」

 

「ま、そうなるよねぇ。」

 

俺と楼閣はそれで合意して、いざ指示を出そうと自分のヒーローの方へ向き直った。

 

その時だった

 

ガラン、と何かが落ちる音がしたのは、

紫色が空気に溶けたのは、

 

その時だった。




『どうしてあんな約束をしてしまったのか』

『どうしてあんな重荷をあいつに背負わせてしまったのか』

『『あいつに任せるべきではなかった』』


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深淵はあなたを覗いて

荒れている。
契約相手が荒れている。
これでは僕達の目的は果たせない。
効率よくいこう。
さぁて、駄々をこねるあの契約相手(クソガキ)に、少しちょっかいをかけてみるか。


ガラン、と金属製の何かが地面に叩きつけられる音がする。

 

嫌な予感がした。

 

「コク、リコ……?」

 

俺は嫌な予感を振り切って振り返る。そこにいるはずの姿を求めて。

 

振り返った先で目にしたものは、装着者を失って山積みになった鎧だけだった。

 

そこにはいつもの頼もしい背中はなく、

そこにはいつもの狂った少女もおらず、

 

守りたかった最愛の姿も、どこにもなかった。

 

「コクリコ……コクリコ、は、どこに、いるんだ?」

 

誰か教えてくれ。誰でもいい。

この現状を嘘だと言ってくれ。

 

そう願っても叶わない。

 

「なぁセナ、返事しろよ?これからだろ?まだコクリコを助けられてねぇから、なぁ!!」

 

「無駄ですよ。」

 

冷たい声がした。

きっと俺に、悲しい事実を突きつけようとする声が。

 

「もう、終わりです。」

 

死刑宣告だった。

 

この世界で俺たち縺ッ蛛ス迚ゥだそんなこと分かりきっている。

だけど諦められなかったんだ。俺の事を縲舌♀蜈?■繧?s縲だという縺ゅ?蟄舌?譛ャ迚ゥ縺ョ莉」繧上j縺ォ縺ェ繧俺は今までできることはなんでもやってきた。

 

でも、それが莉雁凄螳壹&繧後※縲なら菫コ縺ッ縺ゥ縺?@縺溘i縺?>?滄??闃ア縺ァ縺ゅm縺?→縺励◆?俺はこれから繧?▲縺ィ蟋九a繧峨l繧のに、こ繧な縺ィ縺ろで隲ヲ繧√iれるわけ縺後↑縺

 

そ繧ゅ◎も、縺ェ縺懊□縲√↑縺懷ヵ縺ェ繧薙□縲よ舞縺医↑縺九▲縺溘?ゅ≠縺ョ蟄舌?縺溘a縺ォ縺翫§繧?∪陌ォ縺ッ蜈ィ縺ヲ謗帝勁縺吶k縺ィ諤昴▲縺ヲ縺?◆縺ョ縺ォ縲∽ソコ縺ッ縺セ縺?菴輔b縺ェ縺帙※縺?↑縺??ゅ%繧後°繧峨□繧阪≧?溘↑縺ョ縺ォ縲√↑縺ョ縺ォ縺ェ繧薙〒|菫コ縲雁ヵ縲九?笏?笏?

 

 

───────────────────────

 

黒く染まった。

いや、実際には何も変わっていない。変わっていないのですが、なぜだか僕には黒く染まったように感じられたんです。

 

なにが、と聞かれると、ボスが、と答える他ありません。

 

【全天首都防壁】の前まで来て、さぁこれからだと気合いを入れ直したとたん、ヒーロー達が消えました。

 

めぐめぐもジャスティスさんも、

 

もちろん、コクリコさんも。

 

その時のボスはどんな顔をしていたでしょう?

憤怒?憎悪?

 

僕が見たのはそんな表情ではありません。

 

僕があの時ボスの顔に見たのは【絶望】です。

 

どす黒く煮詰めて固まり、鍋のそこにこびりついたような絶望がそこには浮かんでいました。

 

嗚呼、

 

どうしてあなたはそんな顔をされたのですか?

どうしてあなたはそんな顔をしているのですか?

 

そう問いかけたいのですが、そのようなことは決してできません。

 

「ああああああぁぁぁァァァァァァアアアアアアア!!」

 

ボスは正気を失ってしまったようですから。

 

《間に合い、ませんでした……申し訳、ございません……》

 

苦しそうにキィさんが僕達に告げます。

そういえば、【秘めたる】や【ぶれいずどらごん】を呼び寄せてくださったのは彼女でしたっけ。

きっと、ヒーローが消されないようにいろいろと動いてくれていたのでしょう。

 

でも、それももう終わってしまったのです。

それも、考えられうる最悪の形で。

 

「もう終わりです。」

 

ドクが、この世界の神とも言えるGM(ゲームマスター)が僕らにそう言い放ちます。

 

邪魔をするものはいなくなった。反抗するすべもなくなった。

だからもう、彼に危機はないはずだ。

 

なのに、

なのにどうして、

 

あなたはそんなに泣きそうな顔をしているのでしょうか?

 

「もう無理です。ゲームオーバーですよ。あなた達の牙は抜きました。そこにいる【カードキャラ】たちも、新たに【カードキャラ】を出す手間がなくなるのですぐに消せます。」

 

もう諦めてください、とドクは言う。

そんなに簡単に諦められる物ではなかったのですが、こうなった以上、それ以外の選択肢もないでしょう。

 

無理やりついてきたのに、なんの役にもたてなかった自分がいる。

強く生きようと母に誓って、一度も実践できなかった自分がいる。

 

そんな自分が、僕はこの上なく憎らしい。

 

「やだね。」

 

そう悲観にくれている時、楼閣さんが堂々と言い放った。

 

「はい?」

 

「嫌だって言ったんだよ。聞こえなかったのかい?」

 

ドクが聞き返すが、楼閣さんはもう一度、ハッキリと拒絶の意を伝える。

思えば彼はいつもそうだった。いつもいつも、あの人と同じく突拍子もないことを言い出すんだ。

 

「ヒーローはいない、そちらには手札がない。そのうえ【全天首都防壁】に阻まれて僕を説得することもできない。もう詰んでるでしょう?」

 

「まぁ、その状態なら詰んでるよねぇ。」

 

飄々と余裕をかましながら楼閣さんが煽る。

 

「そうでしょう?だから──」

 

「でもさドクくん、」

 

ドクが小さな子をあやすように、言いくるめるように楼閣さんに話す。けれど楼閣さんはその言葉を遮って言い放つ。

 

「ちょっと上、見てみよっか。」

 

「上?」

 

そう言ってドクと僕が上を見た時、それは起こったのです。

 

【全天首都防壁】が、粉々になって降ってくる。

 

そんなありえない出来事が。

 

「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そして降ってくる【全天】の中心には、あの人がいました。

 

犬歯をむき出しにして白目を向きながら、血の涙を流して半狂乱で攻撃を繰り返す、僕の敬愛する主の姿が。

 

「ぅぅぅぅぅぅゥゥゥゥゥぅぅうううァァァァァあぁああああああああ!!」

 

「……!?ボイちゃん!」

 

『スベテヲフキトバシマス!!』

 

半狂乱でドクに襲いかかるボスをvoidollが止める。割って入って吹き飛ばしたはいいものの、ボスはそこまで離される前に地面に足をめり込ませて減速する。

 

荒々しく野性的なその姿はいつもの冷静なボスからは考えられない。

 

「ああああああああぁぁぁああああああ!!」

 

「【全天首都防壁】再展開!!」

 

ギィン!と硬質な音が鳴る。ドクが【全天首都防壁】を再展開してボスがそれを殴った音だ。

 

ただ、そのカバー範囲は前よりも小さくなっている。

 

戦況が見える。ただ見ているだけではいけないのに、熱くなって、必死になってでもボスを助けなきゃならないのに、どこまでも冷静に僕は戦況を見ている。

どうしてこんなに、僕は冷静なのでしょうか?

 

「波羅ちゃん」

 

楼閣さんの声がした。振り返るとジャスティスの鎧に身を包んだ楼閣さんがいた。

 

なぜ、その鎧をあなたが着ているんでしょうか?

なぜ、あなたはそんなに悲しい目をしているのでしょうか?

 

「……もう、分かっちゃったよね?」

 

その一言で分かった。全てが繋がった。

 

僕を含めたギルドメンバーを連れていきたがらなかった理由も、ボスがいきなりいつかの力を振るっている理由も、その全てが。

 

行っても行かなくてもどうせ別れるなら、行かない方が良いと思ったんだろう。

 

目を逸らしたかった。

この現状から、この惨状から、

これからきっと僕を失望に突き落とす言葉を放つこの人から。

 

「私たち……というか、私とロードくんだけだと思うんだけどさ、私たちはゲームと混じっちゃったんだよ。ゲームと混じって、身体から組み変わっちゃったんだ。」

 

聞きたくない。

 

「ロードくんはセナくんを自分に取り憑かせた時から、私は銀ちゃんに助けてもらった時から。」

 

止めてください。

 

「銀ちゃんによると、データでしか存在しない物を取り込んだから混じっちゃったらしいよ?食べ物とかは大丈夫らしいから安心してね。」

 

それ以上は

 

「知られずに終われれば一番良かったんだけど、こうなっちゃったからねぇ。一発でも当たったら、多分波羅ちゃん死んじゃうよ?守ってくれるヒーローももういないんだ。」

 

僕を拒絶しないで。

 

「だから波羅ちゃん、」

 

 

もう下がっていて。

 

 

楼閣さんが拒絶を示した。今まで示さなかった強い拒絶を。

 

楼閣さんは返事を聞かずに歩き出す。いつの間にやら大量に増えていたカードキャラ達に向けて歩き出す。

 

ボスは一心不乱に【全天】を殴り続ける。

【ぶれいずどらごん】は空の敵を一掃する。

【銀河防衛ロボ】はその討ちもらしを落とす。

楼閣さんが地上の敵を打ち砕き

【秘めたる】が楼閣さんの死角の敵を倒す。

 

まただ、

また僕は

この世界でも僕は

 

強い人たちに守られている。

 

「んなんで納得できるかよ!!デネブ!!」

 

《お呼びでしょうか》

 

僕の案内役のデネブがそう返す。僕は彼に何と?

決まっている。答えなんてひとつしかない。

 

「力をよこせ!!俺があの人たちに報えるような力を!!」

 

《言うと思いご準備致しました、上空をご覧下さい》

 

デネブに言われるがまま上を見ると、ガトりんが飛んできていた。

 

《セミオートですので指先でご調整をお願いします、弾数には制限がございます》

 

「あぁ、分かった。」

 

《ご武運を》

 

そう言ってデネブは会話を止めた。彼もいっぱいいっぱいだっただろうに申し訳ない。

けれど、それを気にしていたら僕は守られっぱなしだ。

 

「蹴散らすぜ、()の主のために!!」

 

迷うことなく、僕は引き金を引いた。




ギルドホールの画面の中で、【孤独者達の宴(ロンリネス)】のメンバーが戦っている。

なんのためにかは俺にはわかんねぇ。けど、俺たちにできないことを奴らはやってるんだ。

「勝てよ、ロード」

「勝ちなよ、ロードさん」

「俺達には、祈ることしかできねぇから、せめて応援くらいはさせてくれ。」

明け色に再び空が染まることを夢見て、この白昼夢が終わることを夢見て三人と三人は祈る。


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深淵はあなたを望んで

酷いもんだ。
意味が無いと理性では分かっているが、本能がそれを止めない。
……アイツが呼んでる。
要件は分かってる。
それじゃ、喧嘩を始めるか。
一番最初のバトル
そこでして以来の喧嘩を。


「ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!」

 

誰かが暴れている。感情のままに、激情のままに。

 

「ひっでぇなぁ……こんなひでぇ暴れ方すんの誰だよ。」

 

俺はそう独り言をこぼすが、その答えはもう分かっている。

 

アレは俺だ。

 

すげぇベタな答えではあるんだが、なるほど、人間信じられないほどキレると案外冷静に物事を見る視点を得るらしい。

 

まぁ、俺はあそこに介入できんわけだが。

 

わかりやすく言うと、映画を見てるようなもんだ。真っ暗な場所で、視点だけが四角く切り取られたみたいに動いている。

俺の話なのに、俺の知らない物語で、俺の介入しえない物語がそこにはあった。

 

『ずいぶんと冷静だなァ?』

 

そんなことを考えていると、どこからか聞き覚えのある声がした。今までずっと頭の中だけで響いていた声だ。

 

「セナか?」

 

『あァ、そうだ……酷い有り様だなァ?』

 

セナが俺にそう言った。

何についてか、なんて聞くまでもない。

 

「そうだな。」

 

『……?ヒーローが消えたのに、なぜ僕がいるのかは聞かなくていいのかァ?』

 

ただ一言だけを返す俺に、セナは不思議そうにそう訊ねてくる。

コイツは自分で気づいていて、俺が気づいていないか失意の底にいて投げやりになってるかだと思ってるんだろう。

 

違うさ。

そんな幸せなもんじゃあない。

 

「知ってるからな。俺も楼閣も、そっち側だよ。」

 

『そうか。』

 

セナそれだけ答えた。

暴れる俺の視界とそこから入る音を背景に、俺とセナの間に穏やかな時間が流れる。

 

『守れなかった、なァ?』

 

ポツリとセナが悔いるように言う。

 

「そうだな。」

 

だから俺も、多くは語らなかった。

ただ、それがまずかったらしい。

 

『「そうだな」だと!?それで全てを済ませるつもりか!!それで全てを、あの子の未来もろとも全てを諦めるつもりかァ!!』

 

セナが情動に駆られる。ここまで激しい感情の奔流を、少なくとも俺は見たことがなかった。

 

セナの激情は留まるところを知らない。

 

『あの子を守ると言った!あの子の力になると誓った!!お前と僕の関係はそうだったはずだァ!!なのに今、仕方がないからと諦めるのかァ!?お前とは同じ志を持つもの同士だと思っていたが、とんだ見当違いだったようだなァ!!』

 

ざわり、ざわりと辺りが流動を始める。

 

『お前は自分が何を言ってるのか分かっているのかァ!?あの子を守りたいと、あの子の力になりたいと言っていたお前がァ!!他ならぬお前がそれをどうでもいいと──』

 

「どうでもいい訳ねぇだろうが!!」

 

大きな声にセナが驚く。

 

驚いた。

俺はまだ、冷静だと思ってたから。

 

「どうでもいいわけねぇだろ!あの子はなんにも知らないんだよ!どこまでも白くて、白無垢で、白々しい。家族がいないことなんて、ちょっと見ればわかるはずなのに、あの子は兄じゃない俺の事を【お兄ちゃん】だって言ってんだよ!!」

 

ダメだ、それ以上は。

誰にも言わないように、ひっそりと胸に秘めていたのに。

 

こんな所で吐露するわけにはいかない。

 

「この意味がお前に分かるか!?分かんねぇよなぁ!?俺の中にいないアニキの幻影を見てるんだよ!!そんな状態のあの子を、放っておけるわけがないだろうが!!」

 

『だったらどうして諦めた!?』

 

「仕方ねぇだろうが!!」

 

ダメだ、止まれない。セナの激情に煽られるように俺も高ぶっていく。

 

だったら、全部吐き出してやろうじゃねぇか。

 

「俺はあそこには行けないんだよ!今お前と話してる俺が何なのかは知らねぇけど、俺は今、あのスクリーンの向こうで暴れてんだよ!!俺じゃアイツを止められねぇんだよ!!」

 

『………………』

 

「分かるか?なぁ!?今すぐにでもコクリコを助けに行きてぇよ!!けど、行けねぇんだよ!向こうの俺に任せるしかねぇんだよ!」

 

『だったら!!』

 

俺が今抱えていた葛藤を全て吐き出して、無力感に苛まれた時、セナが俺に怒鳴るように言った。

 

セナは冷静になっているつもりだろうか?少し苛立ち混じりに俺に言う。

 

『僕にお前の身体をよこせ。お前の方が上手くやれるからと契約をしていたが、どうやら違ったらしいなァ?だったら最初に言ったように、僕の好きにさせてもらう。』

 

セナが死刑宣告のように俺に言い放った。

契約?あぁ、最初のバトルでやったあれのことか。まだ有効だったんだな。

 

でも、俺は今さらなにもできねぇよ。現状どうしようもねぇんだ。

 

「あぁ、かまわ──

 

構わない

 

そう言いかけた時、急に視界が明転する。

目が見えない。順応が酷く遅く感じられる。

 

その中で、声だけが響いた。

 

【盟友!戻ってくるのだ、盟友!!】

 

「ぶれどら……?」

 

頼もしい友人の声が聞こえた。なんだか焦っているらしい。

 

【その力に身を任せるでない!身を滅ぼすぞ!!】

 

「ぶれどら、」

 

【管理してやろうなぞ以ての外よ!逆に呑まれるぞ!!】

 

「ぶれどらァ!!」

 

俺はぶれどらに叫び返した。ぶれどらは一瞬たじろぐ。

 

「それでも俺はやらなきゃなんねぇ。なんなきゃどうにもならねぇ所まで来てるんだ。悪魔の力を借りてでも、この身を売り払ってでも、やんなきゃなんねぇんだよ。」

 

やっと目が見えてきた。ぶれどらは怒ったような、困惑したような顔をしている。

 

ぶれどらがその顔のまま俺に訊ねた。

 

【あの娘子は、コクリコ殿はどうするのだ!?】

 

「どうでもいいんだよ!!」

 

ぶれどらはもちろん、防衛線を守ってくれている波羅と楼閣も、全員が息を呑む音がした。

 

【……盟友、貴様本気で言っておるのか?】

 

「あぁ、本気だよ。だって、どうせ俺は、偽物だから。俺は、あの子の【おにいちゃん】には、なれないんだから。」

 

ぶれどらが剣呑な目を向けるが俺はたじろがず、自分の考えを吐露する。

空虚な俺の、虚ろな答えを。

 

【だから諦めるというのか!?貴様はそんなにも諦めの良い人間であったというのか、我が盟友!!】

 

「んなわけねぇだろうが!!」

 

怒鳴るぶれどらに俺は感情的に怒鳴り散らす。

 

「俺がいくら偽物だからって、あの子の本物を諦められるはずがねぇんだよ!!カードが現実化するなら、あの子の家族だっているんだ!!それを叶えるためなら、俺は悪魔にだって、神様にだって喧嘩を売ってやるよ!!」

 

そう、諦められるわけがない。いくら俺が偽物だろうと、彼女(コクリコ)の本物をなかったことにする訳にはいかない。

 

たとえ、コクリコが覚えていなくても、全然違う思い出になっていたとしても。

 

【だったら!!】

 

ぶれどらが俺よりも声を荒らげて俺に言う。

 

【救い出すのが貴殿でなくてどうする、我が盟友よ!?】

 

「…………は?」

 

【「は?」じゃと?笑止千万!!貴殿がいま語ったのは貴殿の決意であろうが!!なぜ貴殿の決意を別の者が果たさねばならぬ!?天使殿のためなら盟友は神にだって喧嘩を売る所存なのであろう!?であれば、貴様が貴様の決意を果たさずして、何が兄だ、何が保護者だ!!決意をするなら最後まで押し通してみせよ、我が盟友!!】

 

ぶれどらがそう叫んだ。それは絶叫とも咆哮とも言える叫びだった。

 

「……クカハッ!!カハッ!ハッハッハッハッハ!!ハーッハッハッハッハ!!」

 

俺は笑っていた。なぜかは分からない。

だけど、ぶれどらのその言葉は俺の胸に刺さっている。

 

なんだこれ、すげぇ痛い。

 

【盟友?】

 

「確かにそうだ。」

 

突然笑いだした俺をぶれどらが心配するが、俺はもう大丈夫だ。

 

もう忘れないよ。この決意を、この痛みを。

 

「なぁぶれどら、くっそ厳しい頼みなんだけどさ。」

 

【なんだ?】

 

ぶれどらが俺の顔を覗き込みながら聞いてくる。

その真摯な態度に、俺も応えなければ。

 

彼の盟友であるために。

 

「俺さ、今からセナと喧嘩してくるわ。んで、アイツの力全部分捕ってくる。」

 

【盟ゆ──】

 

「それで!……それで、俺の願いを、この誓いを、他ならぬ俺の手で果たしてくるわ。」

 

クシャッと笑いながら俺は言う。

ちゃんと俺は笑えているだろうか?

 

【随分と硬い決心なのだな?】

 

ぶれどらがこっちをじっと見ている。

その盟友は、優しい目をしていた。

 

「あぁ、やってやるよ。あの子の家族(本物)に、不純物()は要らない。俺がどうなろうと、あの子を元通りにして、あの子の【本物】を守ってやる。」

 

【自らの意見を曲げぬところ、いつになっても変わらぬな。ゆくがよい、我が盟友よ!!貴様の背中は我が守ってくれようぞ!!】

 

ぶれどらが強く背中を押してくれた。

本当に、本当に俺の【盟友】は頼もしい。

 

「世話、かけるな。」

 

【気に病むでないぞ。】

 

『とんだ邪魔が入ったなァ?』

 

頭の中でセナが話しかけてきた。

けど、俺の決意はさっきまでのものとは違う。

 

お前になんて頼ってやるものか。

 

『決心はついたか?』

 

あぁ、やってやるよ。共闘は終わりだ、セナ。

寂しくて悲しい蠱毒の時間だ。




憎い

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い


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深淵にあなたは臨んで

約束、したんだ。
ジャスくんと、私はタンクになってみせるって。
ギルドマスターとして矢面に立って、喧嘩があったら仲裁して。
私はタンクだ。
ジャスくんがいなくなったからって、その誓いは無くならない。
タンクとして、守ってみせるよ、ロードくん。


「世話、かけるな。」

 

【気に病むでないぞ。】

 

ぶれどらさんとロードくんがそう言葉を交わしたあと、ロードくんが支えを失って後ろに倒れる。

 

「ロードくん!!」

 

【楼閣殿!!】

 

ロードくんを心配して駆け寄ろうとする私をぶれどらさんが言葉で制した。

 

その声に驚いて私は一瞬動きを止める。

 

【盟友は今、盟友の信念をかけた戦いをしておる。我が盟友に頼まれたのは露払いだ。】

 

「そんなこと言ったって……!!」

 

【放っておけぬのは重々承知よ!だが、それでもこれは盟友が解決するしかないのだ!!】

 

倒れたロードくんを放っておけるわけないじゃない。

そう言おうとしていた私の言葉を先読みしてぶれどらさんが言った。

 

更にぶれどらさんは続ける。

 

【関係が良好な楼閣殿とハンコック殿とは異なり、盟友の相手は悪魔だ!彼奴らは目的のためなら手段を選ばぬ!!盟友が悪魔と戦いを始めた今、我らにできることは祈ることのみよ!!】

 

ぶれどらさんが私を諭す。

それはどこまでも合理的で、どこまでも正論で、

 

どこまでも、私の役目を否定してくる。

 

「あぁぁぁもぉぉぉぉ!!ロードくんに頼まれるのはいっつも損な役割ばっかりだよ!ぶれどらさん!空見といて!!」

 

【!!恩に着るぞ、楼閣殿!!】

 

ぶれどらさんが迎撃に戻る。

私はロードくんの傍に控えてロードくんにダメージがいかないように守る事を決めた。

 

あの日、ジャスくんに誓ったんだ、タンクとしてみんなを守ってみせるって。

 

「一人守れないでみんなを守るなんてお笑い草だよっ!!」

 

ジャスくんから借り受けた鎧に身を包み、バリアやハンマーで相手の攻撃を弾いていく。

 

ヒーローと混じった日からずっとそうだった。

目に見えて分かった変化は食べる量だった。

 

あの日は気づいてなかったけど、私の一日の摂取カロリーは爆発的に増えていた。

人智を超えた力には相応のエネルギーが必要になると考えると当然の結末だろう。暴徒に突っ込んで、助けたかった人を助けた代償だ。GM(ゲームマスター)が想定していなかった事態を引き起こした代償だ。

そう考えれば、このくらいは安いものだろう。

 

摂取カロリーが増えただけじゃなく、気づくと色々な変化があった。

 

朝の低血圧がなくなったとか、飛んでる蚊を片手で掴めるとか、その程度のことしか実感してなかったけど、さすがに【フルーク】からの爆弾躱せた時は我が事ながらちょっと引いた。

 

「それで今、私はタンクをやってるよ。ジャスくんの代わりに、私はなれてるかな?」

 

誰も聞いてはいない言葉。

だけれどそんなことはどうでもいい。

 

みんなを守るタンクになる

 

これは私が、私に立てた誓いだ。

 

「てやぁ!!せいやっ!打ち砕く!!」

 

ロードくんを背に私は戦う。

 

ロードくんはたまにピクピクと痙攣し、眼球がまぶたの下でギョロギョロと不規則に動いている。

酷い熱病にうなされているようなその様子に私はいたたまれなくなるけど、こればかりはどうしようもない。

 

「まったく……ロードくんってば援助を求めるのがへたっぴなんだから!」

 

愚痴をこぼしながらも私は嬉しかった。

初めてロードくんが私たちを全面的に頼ってくれたんだ。

 

いつも一番責任のかかるところは自分がやってきたロードくんが、初めて責任を人に投げたんだ。

 

だったら私は、その期待に応えないと。

 

ガリガリと何かが減っていくのを感じる。

疲れはない。ジャスくんの鎧が守ってくれるから。

 

なら、減っていくこれは余裕だろう。

余裕がどんどんなくなっていくんだ。

集中がどんどん切れていくんだろう。

 

「楼閣さん!!」

 

どこかに飛んでいきそうだった私を、その一言が引き戻した。

声の主は波羅ちゃんだった。

 

構えているのは……ガトりんか。地面に固定して360°回るようにしているらしい。

結局、彼も諦めが悪い。

 

「助かったよ波羅ちゃん!!」

 

「まだです!!」

 

波羅ちゃんにたしなめられて周りを見てみると、聞き覚えのある音がした。

 

耳障りなモーターの駆動音が。

 

【ギュギギギ!!】

 

「【メカ犯】!?なんで!?」

 

私は反射的に叫ぶけど、そんなことはどうでもいい。

ヒーローに味方のカードキャラが揃ってかからないと倒せなかったあの【メカ犯】が、他のカードキャラ達とこっちに向かってきている。

 

私一人じゃ、守りきれない。

 

【防衛主任殿、空を頼むぞ!我が彼奴を止める!!】

 

その時、一匹の竜が飛び立った。

ブレスで空の敵を一掃すると残りを銀ちゃんに任せて【メカ犯】との距離を詰める。

 

「ごめんお願い!」

 

【任せておけ!】

 

そう言ってぶれどらさんは【メカ犯】の前に降り立つ。

その瞬間にぶれどらさんに【メカ犯】が猛攻撃を加える。

 

【ぐうっ……!】

 

攻撃をもらって苦しそうに呻きながらもぶれどらさんは【メカ犯】に話を始める。

 

【家庭用メカよ、貴様が起こした反乱はこの世界を壊すためだったか?】

 

【メカ犯】は何も言わず、攻撃を続ける。ぶれどらさんの鱗にヒビが入った。

 

ぶれどらさんはなおも続ける。

 

【……いや、貴様の目的はあの自称神である電脳遊戯の主(げぇむますたぁ)を打ち砕くことだったのではないか?】

 

【メカ犯】の攻撃の手が少し緩まる。しかし【ぶれいずどらごん】はその隙をつくでもなく、ある種の慈愛をかけるかのように語りかける。

 

【なれば我らはここにおいて同士よ!我はあの狂った電脳遊戯の主(げぇむますたぁ)を食い止めるために我が盟友と奔走しておる!【家庭用メカ】よ、貴殿の力を貸してはくれぬか?】

 

徐々に【メカ犯】の攻撃からは勢いが消えてゆき、【メカ犯】はぶれどらさんを見上げていた。表情がない故、何を考えているかは全く分からない。

 

ぶれどらさんはそれを見て次の行動に移ろうとした。

が、別の刺客がぶれどらさんを襲った。

 

【…………………………】

 

【リョーフキー】が虚ろな目をして無表情にぶれどらさんの肢体に槍を突き刺そうと飛びかかる。

 

【む!?】

 

(いかん、間に合わぬ!)

 

ぶれどらさんはそれに気づいたみたいで咄嗟に躱そうとするけど、いかんせん身体が大きすぎた。静止状態からの初速じゃその攻撃を躱しきれない。

 

その時だった。

 

【ギュッ……ギギギ!!】

 

ピシュッ!と鋭い音をたてて光線が【リョーフキー】を襲う。【リョーフキー】は空中ゆえに躱すことも出来ずに消滅する。

 

光線を発射したのは誰だろう、【メカ犯】だ。

ぶれどらさんはその事に少なからず驚きつつも会話を試みる。

 

【……手(つど)うてくれるのか?】

 

【ギッギュギ!】

 

当たり前だと言わんばかりに【家庭用メカ】は頭を上下させると他のカードキャラ達のひしめく前方へと突っ込んでいった。

 

驚いた。

これはホントに想定外だ。

 

あの【メカ犯】が味方になるなんて考えられなかった。ぶれどらさんはこのことを予想して説得を試みてたのか。

 

これでかなり戦いに余裕ができる。ぶれどらさんに感謝だ。

 

「ぶれどらさん、やったね!あの【メカ犯】が味方になるって凄いよ!これなら何とか──」

 

【………………カ……】

 

私は偉業とさえ思えることをやり遂げたぶれどらさんを讃えるけど、当のぶれどらさんは小さく何かを呟いた。

なんて言ったんだろう?よく聞こえなかった。

 

黙って聞いているとぶれどらさんの声はだんだんと大きくなっていった。

 

【……カ、奇貨、奇貨奇貨、クカハッ!奇貨奇貨奇貨奇貨奇貨奇貨奇貨奇貨奇貨奇貨奇貨奇貨奇貨奇貨奇貨、奇貨(ラッキー)ィィィィィィィィィィィィィィィィ!!】

 

(えっ!?この人いま【ラッキー】って言った!?)

 

楽しそうにぶれどらさんは叫んだ。幸運だと、運が味方をしたのだと楽しそうに叫んだ。

それを聞いて私は困惑を隠せない。めちゃくちゃびっくりしてる。状況が把握出来ない。

言いたいことやツッコミはなんとか心に押し込めたものの、多分表情はその内面を如実に表しているんだろう、表情筋がなんとも言えない歪み方をしているのを感じる。

 

【攻撃が止まった隙に目を抉り、声による誘導で敵を蹴散らして相打ちにしてやろうと思うたが、まさかこちらにつくとは!何とも奇貨(ラッキー)なことよ!】

 

(ここに来て運ゲー仕掛けたの!?)

 

【イケる!】

 

(イケる!?)

 

待って待って待って待って!?いけなかったらどうするつもりだったのさ!?

 

【楼閣殿!!何を惚けておる!憎たらしい彼奴が露払いをしてくれておるぞ!クカハハハハハ!!】

 

「あぁもう!考えるだけ不毛だよ!銀ちゃんそっちは!?」

 

【制圧終ワリマシタ!イツデモイケマス!!】

 

だったら行幸!

 

私はロードくんを担ぎながら手早く指示を出す。

 

「銀ちゃんは私と来て!波羅ちゃんと秘めたるは後ろ警戒!そろそろイスタカさんが抑えてた敵が来てもおかしくない!ぶれどらさんも私と!【全天】破るよ!」

 

【合点!】

 

【了解シマシタ!】

 

「はい!」

 

【おうよ!】

 

さぁ、最後の幕が上がるよ。




『「お前にだけはあの子を任せてなるものか!!」』


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深淵をあなたは望んで

いい友人を持った。
いい仲間を引いたたねぇ。
いい主人を見つけました。


「ボイちゃん!作業はもう結構です!彼らを止めてください!」

 

『リョウカイショウチ!』

 

ドクが何かを察してvoidollにそう指示を出す。振られたvoidollは手早く辺りを確認した。

voidollにはなぜドクがあんなにも焦った様子で指示を出したのかが分からなかったのだ。

 

しかし、状況を確認し、把握する。

 

『【家庭用メカ】……ハカセトワタシニハンランデモスルツモリデショウカ?』

 

【メカ犯】が【カードキャラ】達をなぎ倒し、防壁まで近づいてきていたのだ。

 

その後ろを楼閣たち一行がついてきている。道理でドクが焦るわけだとvoidollは理解した。

 

『コノママデハトメラレテシマイマスモノネ。ワタシハ、ハカセノタメニソンザイスルノデス。サイコウケッサクノチカラヲオミセシマショウ』

 

そう言うとvoidollは消えた。

 

否、voidollは単純に移動しただけだった。移動し、【メカ犯】を蹴り飛ばす。

 

【ギュギッ!?】

 

『???オカシイデスネ。ワタシノチカラナラ、テキヲステージゴトトラッシュオクリニデキルハズナノデスガ』

 

voidollは困惑していた。想定と違うできごとが起こったのだ。

それも、自分の能力の想定の、だ。

 

だが困惑する彼女を悠長に待ってくれるほど、世界は優しくないのだ。

 

「ぶれどらさんと銀ちゃんは気にせず行って!私が時間稼ぐから全天壊してね!」

 

【おうとも!】

 

【承知シマシタ】

 

手早く楼閣が指示を出し、困惑するvoidollの脇を抜けていく。

 

『シマッ……!サセマセン!』

 

「私の台詞!いっせーの!!」

 

voidollはそれに反応し、全天首都防壁に向かうぶれいずどらごんと銀河防衛ロボを止めようとするが、それを邪魔するように楼閣がハンマーを振りかぶる。横なぎに振られたハンマーの軌道、角度、接触までの時間。それら全てがvoidollには見えていた。

 

(コレナラヨケルノハタヤスイデスネ……カワシテスグニオイツキマス!)

 

回避の演算まで終え、voidollは余裕綽々でそう考える。

だが、その余裕は消え去った。

 

voidollの顔面にハンマーが直撃する。彼女の演算は間違っていなかった。楼閣のハンマーの軌道も変わってはいない。

 

ただ間違っていたのは、彼女の考えている自身の能力だけだった。

 

『パフォーマンスダウン。エラーエラーエラー。ゲンインカイセキ……ガイブカラノウリョクセイゲンニツイテノアクセスアリ……マサカ!!』

 

《そのまさかですよvoidoll》

 

キィが誰に伝えるでもなくそう言った。

彼女はなぜvoidollの能力が落ちたかを理解していた。

 

なんたって、彼女がvoidollの能力を封じた張本人なのだから。

 

(マスターが動けるようになるまで、私ができるのはvoidollを止めておくことだけですから)

 

クスリとキィが笑う。どうして自分がこうなったのかはまだ分からない。

だが、これも悪くないなとキィは思い始めていた。

 

《姉さん、楽しそうですね?》

 

デネブが楽しそうなキィに疑問を持ったのかそう訊ねる。

キィは《すみません、想像通りにことが進んでいるので》とだけ返した。

 

《あまり勝手に動かれては補助ができません》

 

《あなただって、勝手をしているじゃありませんか》

 

デネブがキィをたしなめるようにそう言ったが、キィもお互い様だと切り返す。

デネブのガトりんの件はキィにもバレているらしい。

 

《そういうところですよ!》

 

《弟を助けて何が悪いのですかね?》

 

軽口を叩きながらも二人は作業を止めない。むしろ、競うように作業効率が上がってさえいる。

 

《推し通りますよ》

 

《はい、姉さん》

 

二人は作業を続ける。

 

『シュツリョクテイカ、スキャンカイシシマス……イジョウナシ……イジョウナシ!?』

 

「よそ見するって余裕だねぇ!!」

 

キィの作業によって、voidollの能力にどんどん制限がかかっていく。機体に損傷があるわけではないのでvoidollの自己修復システムにも引っかからない。

 

自己修復を試みるその隙を楼閣がつく。voidollは不意をつかれたことで甚大なダメージを受ける。反応速度も落ちてきているらしい。

 

『カピッ!?』

 

大きく弧を描いて飛んで行ったvoidoll。だが、彼女の損傷は自己修復システムによってすぐに回復する。

 

『ワタシハサイコウケッサクナノデス。シッパイハユルサレマセン……!』

 

近づいてくる楼閣と【全天首都防壁】を破壊しようとするぶれいずどらごんと銀河防衛ロボを睨みながらある作戦を決行する。

 

『クウカンテンイソウチ、キドウシマス!』

 

voidollのヒーロースキル【Reboot・Sequence・Start】、離れた空間同士を接続し、片方の空間からもう片方の空間へと人や物を移動させる能力だ。

 

その能力を、いつもとは逆方向でvoidollは使用した。

 

すなわち、彼女を中心とする円から【カードキャラ】たちが溢れてきたのである。

 

『ワタシノノウリョクガセイゲンサレテイルノナラ、ワタシハセントウヲカイヒスベキデス。セイゲンサレテイナイナラギャクナノデスガネ。』

 

四方を囲まれていた頃よりも多くの敵が出現した。しかも、あの時とは違って最初からかなり近くにいる。

 

楼閣の鎧は対多数との戦闘でも自身は守れるが、攻撃面では対多数が苦手な性能をしている。

これでは自分が戦っている間にロードがやられてしまう。

 

「ぶれどらさん戻って!これじゃロードくん守れな──」

 

そう考え、ぶれいずどらごんに助けを求めた楼閣だったが、その肩に手が置かれる。

 

「いや?もう十分だよ。」

 

ロードだった。

髪型や目の色が変わっていたりと見た目がかなり変わっていたが、その話し方でロードだと楼閣は確信する。

 

「もう…………ねぼすけ。」

 

「クカハッ!わりぃわりぃ。あいつけっこうしぶとくてな。でも、あいつの力は全部ぶんどってきた。こっからが本番だぜ。」

 

そう言ってロードは飛び上がった。空中に揺蕩いながらロードは小さく呟いた。

 

 

 

出てこいよ、【揺籃の悪魔たち(インフェルノ・シュリーカー)

 

地獄に落ちた悪魔たち

可哀想な悪魔たち

俺が人形(からだ)をくれてやる。好きなように使うといいさ。

だけど対価を一つだけ。

 

好きに暴れて全部壊せ!

 

 

 

楼閣にはなんと言っていたのか分からなかった。

だが、その変化は絶大だった。

 

ロードを中心に紫のモヤと笑い声が響き、しばらくロードの周りを巡った後に霧散した。

それと同時に溢れてきたカードキャラ達の何体かが奇妙な動きをしたかと思えば、カードキャラたちが同士討ちを始めた。

 

先程まで足並みを揃えていたカードキャラが唐突に始めた抑える奇妙な同士討ち。

その様子にvoidollは唖然とする。

 

「いくぞ楼閣。さっさとドクぶっ倒す。」

 

「はいな!ちなみにロードくん、アレ何?」

 

「【インフェルノ・シュリーカー】の悪魔たち。中身をなくして大量にコピーを増やしたカードキャラに取り憑かせて即席の味方にした。」

 

ロードと楼閣はその隙を狙ってドクの方へと駆け出した。

楼閣が奇妙な光景についての説明を求め、ロードがそれに答える。

 

「本当に、想像もつかないことをやらかすねぇ、ロードくんは!」

 

「お互い様だろ?」

 

二人はニヤリと笑いあう。足は止めない。ここまで協力してくれた皆を信じて、二人は走った。

 

【盟友!成し遂げたか!】

 

【楼閣サン!アト10秒デ完了シマス!!】

 

【全天首都防壁】までたどり着いた二人を出迎えたのはぶれいずどらごんと銀河防衛ロボ。二人とも全天に弾かれたのだろうか、ところどころが黒く焦げている。

 

「すまん盟友、助かった!」

 

【クカハッ!どうということは無い!】

 

「銀ちゃんありがとっ!」

 

【アナタノタメデスカラ。】

 

パリン、と防壁が割れる。その瞬間に楼閣とロードのみが突撃した。

 

「……!?早すぎる!もう一枚展開して──」

 

「遅せぇよ。」

 

【全天首都防壁】が破られたことに気づき、すぐさま対処しようとしたドクだったが、ロードはその前にドクのすぐ側まで来ていた。

 

ロードは軽くドクを指で突いた。それだけだというのにドクは大きくのけぞり、数メートルの距離を飛ぶ。

数メートル先に叩きつけられ、ドクは肺の中の空気を無理やり吐き出させられ、苦しそうに呻いた。

 

「やっぱり、かなり変わってんだよなぁ……殴れねぇや。」

 

「僕を殺す気ですか!?あなたがたを殺そうとした僕を!!だけど遅いです!遅きに失した!もう崩壊はオートで進むようにしています!ファイアウォールも取り払いました!あなたはヒーローではなかった!コクリコットの兄でも、なんでもない偽物だ!!」

 

自身の変化に戸惑うロードに、突き飛ばされて錯乱したドクが叫び散らす。作業しようとする度にロードが横槍を入れるだろうからそれはもうできないが、できなくても問題ないとドクは叫ぶ。

そして、ロードが一番言われたくないであろうと考えていた、彼の最大限の罵詈雑言を、ぶつける。

 

どうなってもいい、隙が作れるかもしれないならそれに賭けるというドクのその姿勢は手負いの獣のような、触れればどちらもが傷つきそうな姿勢だった。

 

「んなもん当たり前だろうが。」

 

しかし、ロードは呆れた顔をして言った。

 

「……はい?」

 

「当たり前だって言ったんだ、耳遠いのか?」

 

「だって……だってあなたは、ずっとコクリコットの兄として行動し、片時も離れることなく、コクリコットのこととなると我を忘れていたじゃありませんか!!」

 

ドクの錯乱が激しさを増す。

ロードの今までの行動から、彼が必死にコクリコットの兄になろうとし、コクリコットの兄であると本気で自負しているように見えたから。だからドクは彼の心の一番柔らかい所を突いたと思っていたのに、それを否定された。

 

「そもそも、コクリコは俺を見てないんだよ。俺の中の兄の幻影を見てるんだ。アニメと人だよ。そもそもの視点が違うんだ、交わるわけが無い。しかも、取り憑いた悪魔を野放しにしてるんだぜ?そんなの、実の兄貴のすることじゃねぇ。」

 

「なら……ならどうして!」

 

「簡単だ。あの子の兄を見つけるため。そのために、この世界を諦める訳にはいかねぇんだよ。俺は偽物だ。代替品だよ。最初からそれだけは決まってたんだ。」

 

「どうしてそこまで、一途になれたんですか……」

 

「俺のプレイヤーネームはアラン。アラン・スミシー。The alias manのアナグラム。要するに、ただの偽物さ」

 

そこまで聞いてドクは悟る。初めからこの男は【コクリコの兄】という役を演じていただけなのだと。コクリコが消えると言った時に彼が見せた怒りはコクリコを愛するがゆえのものではなく、コクリコの本物が損なわれるからこその怒りだったのだと。

 

《姉さん!準備出来ました!》

 

《マスター、システム内に幽閉された“人”を送り返す準備ができました》

 

ロードの返答を聞いてドクの体から力が抜けた時、デネブとキィがそう言った。

 

「準備がいいな。なんでそこまで早くできた?」

 

《このバカの脱出装置の適用範囲を広げました》

 

しれっとキィがそう言い放つ。バカとは誰のことか、聞くまでもない。

 

「了解。ありがとな。」

 

《まだこれからですよ》

 

ロードが感謝を伝えるとキィはそんな返答をした。ロードはそれに小さく「そうだな」とだけ返す。

 

「ボス!こちらにいらっしゃったのですね!」

 

そこに波羅渡が合流する。ドクを抑えたことで新たに敵が現れることもなくなり、継続戦闘の必要がなくなったのだ。

 

「おぉ波羅。こっちも今終わったところだ。帰れるぞ、向こうに。」

 

「そうですか!ならばご一緒します!」

 

波羅が揺れる尻尾の幻影が見えるほど嬉しそうにロードにそう言った。

 

「すまんな、そいつはできねぇんだ。」

 

ロードが悲しそうに笑いながら波羅渡にそう言う。

 

「知ってます。知った上で、ご一緒しますと言っているんです。」

 

しかしそれを波羅渡は優しい笑みを浮かべながら受容する。ロードはそれに驚きながらも波羅渡に訊ねる。

 

「どうなっても知らねぇぞ。帰れねぇだけじゃなく、冗談抜きで死ぬかもしれねぇ。むしろそっちの可能性の方が高ぇ。それでも?」

 

「えぇ、それでも。」

 

波羅渡は強い目をしていた。だからロードも、頷いた。

 

「デネブ、キィ、頼むぞ」

 

《もう外してます》

 

《かしこまりました》

 

そうしてキィは脱出装置を起動する。少しずつ消えていくドクが、最後に【孤独者達の宴(ロンリネス)】の3人に訊ねた。

 

「どうしてあなた達は、そこまで強くなれるんですか?」

 

「コクリコのためだ。」

 

「ジャスくんとの誓いのために。」

 

「全てはボスのために。」

 

三人はその問いに即答した。迷いはなかった。

 

ドクは完全に消えた。きっと他のプレイヤーも元の世界に戻っていることだろう。

それを見届けてからロードは明るく振る舞い、言った。

 

「さ、お前ら。復旧作業だ!今夜はデスマだぞ!」

 

「しかも命をかけた、ね。全く、ロードくんと関わってるとロクなことがないねぇ!」

 

「ボスがやると仰るなら、僕はどこまでも──そこが例え地獄だろうと──ついて行きますよ。」

 

《この世界はあなたのものです》

 

かくして孤独者たちは、この世界に留まり続ける。




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夜明けの迷い子

あの日、モニター越しに見た彼らの勇姿を忘れない


そこはあまりにも暗い部屋だった。

会議室ほどの広さの部屋の中央に円卓が置かれ、光源はその円卓の中央に置かれたランプのみだった。

 

そこに、一人の男が入ってくる。

 

「……あぁ、keyさん、やっと来ましたか。」

 

「ん?なぁレイア、もしかしてオレ、時間まちがえてたか?」

 

そう言いつつkeyは着席する。

彼らはお互いに本名を知っている。

それでもなお、プレイヤーネームで呼び合うのは彼らが集った日に決めた、今の彼らの根底を成しているある強い意志を持ち続けるためだ。

 

「いやいや、keyは遅れてないぞ。むしろ、一般的に見たら早すぎるまである。……だけど、今日はここにいる全員にとって大きな意味を持つ日だからな、気が逸るのも仕方ないさ。」

 

keyの質問に答えたのはレイアだった。

 

円卓に座っているのは6人

カフカ カロネに加えてkey レイア PRHS

そして、ドク

 

彼らは一様に思い出す。決して忘れられないあの日のことを。

 

───────────────────────

 

20××年 3月31日

この日、【#コンパス戦闘摂理解析システム】はネット上から姿を消した。

同日、同ゲームに囚われていた人達は現実に戻った。

 

ただ三人(・・)を除いて。

 

一人は【楼閣】というプレイヤー

決して倒れないというだけでなく、自身でも敵を倒すという、タンクとしては離れ業を成し遂げていたプレイヤー。

ギルド【孤独者たちの宴(ロンリネス)】の初期メンバーにしてギルドマスター。

 

一人は【波羅渡】というプレイヤー

回復を一枚として積まず、猛攻によって反撃の隙を与えないという初心者が思いつきそうな戦法を実用レベルまで押し上げた初心者。

ギルド【孤独者たちの宴(ロンリネス)】の初期メンバーにして初心者の憧れ

 

そして最後は【アラン=スミシー】というプレイヤー

現実化したコンパス内で無類の強さを発揮したプレイヤー。自身は貫通カードを駆使して敵を倒し、敵の貫通カードはカウンターで無効化するという決まれば恐ろしいコンボを使いこなしたプレイヤー。

ギルド【孤独者たちの宴(ロンリネス)】の初期メンバーにして中心人物

またの名を【ロリコンの王】といったプレイヤー

 

3月31日 13時 ドクと【孤独者たちの宴(ロンリネス)】の初期メンバーの決戦が終わった直後、視界がブラックアウトし、気がつけば東京ドームに集団で転移していた。

 

もちろん社会は騒ぎに騒いだ。

それはそうだ。半年もの間、集団でいなくなったのだから、騒ぎにならない方がおかしい。

 

転移した場所も悪かった。何せ東京ドームだ、都心に近く広いのでテレビ局や新聞社、雑誌の記者などが押しかけて一時現場は騒然とした。

 

しかしそんな事など気にもとめずに帰ってきた者達は皆一様に安堵し、喜び、お互いの無事を祝いあった。

 

しかし、そんな時間は長くは続かない。

 

この帰還の最大の功労者である【ロリコンの王】を皆が探したのだ。

 

結果は芳しくなかった。ロリコンの王はおろか楼閣も波羅も、最終決戦へと赴いた三人組の姿が見つからなかったのだ。

 

代わりに彼らが見つけたのは【ドク】

 

今回の騒動の元凶にして#コンパスの基礎プログラムや仮想空間の作り手でもある少年だった。

 

「おい、なんでお前がここに居るんだよ」

 

誰かがポツリと呟いた。ドクは俯くばかりで何も言わない。

 

「なんで俺たちを助けたアイツらじゃなくて、事の元凶のお前がここに居るんだって聞いてんだよ!!」

 

誰かがそう叫んだ。一度わかりやすい形で不満が溢れると、そこから先は目に見えている。

 

すなわち、不満の爆発だ。

その場にいた大勢がドクへの不満をぶちまける。

 

曰く、「同じことをもう一度起こすのではないか」

曰く、「そのために邪魔者を消したのではないか」

 

曰く、「お前みたいな気狂いが、なぜここにいるのか」

 

場は騒然とし、混沌に包まれ、誰もが激しくドクを批難した。

当のドクは俯くばかりで一言も発しない。

その態度が火に油を注ぐようにプレイヤー達の罵詈雑言を激化させた。

 

誰も彼らを止めず、誰もが彼らを責め立てる。

そこにあるのは底知れない悪意、悪意、悪意

 

「うる……さいよ……」

 

その中で、カフカがポツリと呟いた。

 

「うるさいよ!!」

 

カフカが激情のままに叫んだ。広場にいた全員がカフカの方を見る。

 

「うるさいよ!!グヂグヂグヂグヂ意味の無いことばっかり言って!!そんなこと言ってロードさんは、波羅さんは!ギルマスは戻ってくるの!?ねぇ、本気でそう思ってんの!?」

 

カフカは堰を切ったように叫び続ける。

 

「あの戦いに、あたし達はギルマスに置いていかれたんだ!!あたし達だって【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルメンなのに、あたし達のギルドの問題なのに、置いていかれたんだ!!あたし達を連れていくフリをして、置いていったんだよ!その時ギルマスは、楼閣さんは言ったんだ、あたし達に「自分で出来ることをやって」って!!こうなることが分かってて、あの人はそう言ったんだ!!」

 

カフカの叫びは終わらない

 

「だからあたしは出来ることを考えた!カロネちゃんと、置いていかれたあの時からずっとずっと考えてたんだ!!アンタらみたいな何も知らない奴らがいつまでもぐちゃぐちゃ言ってんな!!」

 

カフカはそこにいた全員にそう言いきった。

その目にはうっすらと涙を浮かべながら。

 

「そう……ですよ……!」

 

その姿を見てカロネが呟く。

 

「楼閣さんは……私に言ってくれました……「なんでもゆっくりでいいんだよ」って……!「自分に出来ることをやったらいいんだよ」って……!なら……私たちは、出来ることをやるしか……ないんですよ……!」

 

その声は、今までのカロネのどの決意よりも強固な響きを帯びていた。

 

「あたし達はやるよ!なんだってやってやる!最終決戦に置いていかれたんだ!波羅さんに、ギルマスに、ロードさんに!一言文句言ってやるんだ!!」

 

再びカフカが叫ぶ。そしてその場にいる全員を睨めつけながら続ける。

 

「そのためにはドクさんの力が必要だよ。悔しいけど、あたし達だけじゃ向こう(#コンパス)には戻れない。向こうに戻るなら、創った人に頼るしかないんだよ。もう一回、もしも向こうに戻れるなら、その可能性があるなら、あたしは毒だってなんだって飲んでやる!」

 

カフカは宣誓した。どんな手を使ってでも#コンパスに戻ってやると、【孤独者達の宴(ロンリネス)】初期メンバーに文句を言ってやると、そう宣誓した。

 

しかし、それでも人々は割り切れないような表情をしている。

納得の行かない表情で一人の男が近づいてくる。

 

「それでもこいつは──」

 

「あーあーあー!ったく、流石は【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルメンだな、諦めが悪い。」

 

その誰かの文句を遮った者がいた。

 

「【黄泉孵り(ゾンビ)】……お前、あの惨状を引き起こした【死神の盾(スプリンタンク)】が、無罪放免でもいいってのかよ!」

 

keyだった。

 

「しょうがねぇだろ?あの【腐態の不死(オーバーフロー)】がやるっつってんだ。誰かコイツが折れたところ見たことあるか?コイツじゃなくても、あの【孤独者達の宴(ロンリネス)】のメンバーが諦めたとこ、見たことあるやついるか?」

 

その一言でその場にいた皆が黙り込む。

 

「いねぇよな?あの【不屈の不死(アライブ・ライブ)】ですら決めたことに対しては折れたことがない。だから今回も折れるわけねぇよ。」

 

「だからって──」

 

「そもそも、だ。俺はあいつに一言文句言ってやりてぇんだよ。」

 

それでもなお言い返そうとする男に、keyの後ろから別の声がした。

 

「【ハメ殺し(引っ張りハンティング)】……」

 

レイアだった。

 

「アイツ、いつまで経っても俺の名前、覚えなかったんだぜ?いっぺんも正しい名前で呼ばれてねぇ。レイヤーだの令和だのレイダーだの零夜だの女装家だのって、よくもまぁあれだけ間違えられたもんだ。いっそわざとじゃねぇかって思うくらいだ。」

 

「それになんの関係が──」

 

「あるんだよ。」

 

男が口を挟もうとするが、途中でまたも遮られる。

 

「あぁ、あるさ。向こうに行って、言いたいだけ文句言って、どれだけ向こうに行くのが大変だったか言ってやるんだ。そしたらアイツだって、そんだけの事をやった奴の名前くらい覚えるだろ。」

 

「そうかもしれんが……」

 

「可能性があるんだったら俺はやるぞ?たとえ無茶だって言われてもな。」

 

レイアはキッパリとそういいきる。

 

「それもそうだね。あのロリコンの王に恩を売っておくのも悪くない考えだねぇ。」

 

「【不滅の不死(ゴースト)】……お前もか」

 

PRHSが二人に続いた。

 

「あの三人が犠牲になって僕らがのうのうとしてるなんて後味悪いし、一応、あのロリコンの王にはお世話になりましたし。」

 

「はっはっはっ!いい心がけだなPR。……で、本音は?」

 

「ジャンヌちゃんと遊びたい!!飛びついて抱きついて押し倒して撫で回して舐め回して添い寝してぺろぺろしたい!!hshs(*´Д`≡´Д`*)hshs」

 

PRHSはいつも通り変態だった。

いや、むしろ本人がいなく、軽いジャンヌレスになっている分普段より酷いかもしれない。

 

が、そんなことなど気にも止めずにkeyは大きな声で笑いだした。

 

「はははっ!さすがはPRだ、相変わらずお前バッカだなぁ!はははっ!!」

 

「ちょっ、そんなに笑わなくても良くない!?」

 

「ま、さすがはPRってとこだな。だけど、利己的だからこそ気持ちは強い。」

 

レイアも二人に同意する。

そして【明色に染まる空(daydream)】の3人はカロネとカフカに向き直る。

二人は戸惑いを隠せないといった表情をしていた。

 

「くっかは!なんて顔してやがんだ?お前ら、あの【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルメンだろ?」

 

「手伝って、くれるんですか?」

 

途切れ途切れにカフカがkeyに向かってそう言う。

keyは、何バカなこと言ってんだ?と前置きしてから続けた。

 

「むしろ、この流れ聞いてそう思えないか?俺たちだってアイツには世話になってんだ。返したい恩も、返さにゃならんお礼も腐るほどあるぞ。」

 

「それに、お前らを助けるために手伝うんじゃねぇよ。俺たちには俺たちの利己的な考えがある。」

 

keyとレイアが力強く同意した。

 

「で、でも……!」

 

「【ぐちゃぐちゃうるせぇな。】」

 

そこにPRHSが乱入する。

その声音は誰かを模しているかのようだった。

 

「【向こうが手伝ってやるって言ってんだ、お前らに害がないなら遠慮なく使え】って、ロリコンの王なら言ってたはずだよ。それに、楼閣さんだって【できないことをやりたいなら、できる人に頼りなよ】って言ってたでしょ?」

 

「それは……そうなんですけど……」

 

「じゃ、手伝わせてもらうよ。頭数は多い方が楽なはずだからね。」

 

これはもう決まったことだと言わんばかりにPRHSが締めくくる。

実際、カフカもカロネもPRHSの説明に納得してしまったのだ、腹を決める他ない。

 

「お願いします。」

 

カフカはまっすぐにkeyを、【明色に染まる空(daydream)】の三人を見つめて言った。

 

「いい目だ。野心に溢れてる。」

 

keyはまるで13のように口を歪めてそう言った。

さながら、それがもう一度自らの相棒(サーティーン)に逢いに行く宣誓かのように、笑った。

 

「来たい奴は来い!俺たちは、表向きはゲーム開発会社として始める!もう一度、#コンパス(向こう)に行くには社会的地位も技術的土台も必要だからな!何年かかるか、なんてわかんねぇけど、必ずやってやるよ。だからさ!もっかい相棒(ヒーロー)に会いたい奴ァ着いてこい!給料も出してやる。こっちにゃ専門家サマ(ドク)がいるんだぜ?すぐに軌道に乗せてやるよ!」

 

keyは夢物語を語る。

keyは都合のいい虚像を語る

keyはただの戯言を語る

 

だが、

 

それだけの無茶を言いつつも、

keyは何も騙る気は、なかった。

 

「……俺は、まといに会いたい。」

 

「……俺は臣に。」

 

「テスラ……良い奴だったよな……」

 

ぽつりぽつりと声がする。

ヒーローを懐かしむような声が。

 

「マルコスとリリカルルカ見たなぁ……あぁ……なんで忘れてたのかなぁ……あの幸福を。」

 

「ルチとの晩酌、楽しかったなぁ……ノロケ話ばっかだったけど、楽しかったよなぁ……」

 

「アダム、私にゲームで負けるとすぐ怒ったなぁ……いつもはあんなに冷静なのに、ちょっと笑っちゃった。」

 

そうだ、そんなこともあったなぁ、とあちこちから声が上がる。それはすぐに大きな声になっていく。

過去を、#コンパスを懐かしんでプレイヤーたちの話は弾み、弾けていく。

 

ある時、それが止んだ。

水をかけられたかのように、ピタリと止まった。

 

そして誰かが言う。

 

「また、会いてぇなぁ……」

 

「あのまま別れるなんて、変な感じするよな。」

 

「じゃあ、さ──」

 

その場にいた全員の意思が固まった。

 

「決まったな。」

 

「あぁ」「そうだね」

 

カフカが信じられないものを見るかのような眼差しでそれを見ていた横で【明色に染まる空(daydream)】の三人が囁くように言う。

 

そしてkeyがカフカの背中を勢いよく叩いた。

 

「な、何するんですか!」

 

「気合いを入れてやったんだよ。お前が言い始めたことにこんだけ集まってくれたんだ。音頭取れよ、社長?」

 

ニヤリとkeyがしたり顔を作り言う。それはかの堕天使のようだった。

それに苦笑しながらカフカは宣言する。

 

「やるよ、みんな!半年いなくなってたんだ、学校は退学、仕事はクビになってるでしょ!なら何も心配いらない。向こうに戻るためにやってくよ!」

 

「「「「「「オォォォォォォォ!!」」」」」」

 

会場が震えた。

プレイヤー達の雄叫びで、震えた。

 

それほどまでに、ヒーロー達と過ごした時間は彼らの中で大きくなっていた。

 

「さぁ、いくよドクさん」

 

その喧騒の中でカフカがドクに話しかける。ドクは目を見開いた。

 

「許して……いただけるんですか?」

 

「許さないよ。」

 

カフカはきっぱりと言い切る。

でも、とカフカは続けた。

 

「でも、製作者(ドクさん)がいないと糸口すら見つけらんない。それじゃ、いつまで経っても#コンパス(向こう)に行けない。」

 

カフカがそう言って、その言葉に続けるようにカロネが話し始める。

 

「それに……ロードさんなら、【敵でもなんでも利用しろ】……そう、言うと思いますし……ギルマスも……【出来ないことをやるなら、できる人に助けてもらいな?】って……言って……ましたし……」

 

カロネはいつも通り途切れ途切れに話す。

しかし、話し方とは裏腹にその目は決意に満ちていた。もう逃がさないぞと、言外に告げているかのように。

 

「だからやるよ。ギルマス達が戻ってこないなら、あたし達が#コンパス(あっち)現実(こっち)を繋ぐんだ!誰に笑われても、無理だって、諦めろって言われても、そんなのあたし達が全部変えてやる!」

 

ドクはじっとカフカを見る。

彼がいつか夢見た英雄がそこにいた。少なくとも彼にはそう見えた。

 

「さすがは……【孤独者達の宴(ロンリネス)】の一員ですね。無茶を言いますよ。」

 

ドクがため息をついて言った。諦めやありえないものを見たような言動とは裏腹に、目だけは自らが描いた理想郷を見るがごとく輝いていた。

 

この瞬間から、#コンパスからの帰還を果たした者たちはもう一度#コンパスに行くことを決意した。

 

 

────────────────────

 

 

「アレから結構時間かかったよな。」

 

「あぁ、全くだ。」

 

keyとレイアが懐かしむようにそう言うと、そこから話が弾けた。

 

「全くだよ。ドクがもう一回同じプログラム組めばいいだけだと思ってたのに全然違ったよね〜」

 

「それはデバックが全部削除されてたからで…………」

 

「いや、それはお前がやったんだろうが。」

 

「そこからの資金集め…………大変でしたね……」

 

「ホントに。お金が無いからってフルダイブ型ゲーム機作るとは思わなかったよ。」

 

「ま、ドクの研究の副産物で脳みそが刺激を受け取った時の反応があったからローリスクハイリターンな研究が出来たんだけどな。」

 

「にしても、最初に出したゲーム、アレはどうかと思うぜ?」

 

「えー?なんでですか?フルダイブ型ゲーム機の最初のソフトって言ったら【ソードアート・オンライン】しかないでしょ〜!」

 

「おかげで「デスゲームだ!!」って騒がれて、初日の売上は酷いもんだったんだぞ?まぁ、二日目からは話題沸騰の人気作になった訳だが。」

 

話が盛り上がっていた。誰もが懐かしむようにこれまでの歩みを話す。その響きには、戻ってきた頃の#コンパスを懐かしむような諦観の念は含まれていなかった。

 

「そのおかげで今日に至ったわけでしょ?大きな一歩だよ。」

 

PRHSが呟いた。その瞬間、室内の皆が一様に沈黙する。

 

「三年だ。」

 

keyが囁くように言う。

 

「予想外にかかっちゃいましたね。」

 

「でも……最初の一歩は……踏み出せました……!」

 

カフカとカロネが嬉しそうにそう言う。

 

「電子世界の可視化、【世界システム】な。俺、未だにあれ訳わかんねぇんだよな。」

 

それに呼応してレイアがその原因をボヤく。

すると開発責任者(ドク)が懇切丁寧に説明を始めた。

 

「インターネット世界を現実と仮定して、端末から発せられる電波をアバター、個々のページを地域、サーバーを国とした仮想空間です。だから──」

 

「管理のために全体を一望できる。だから今まで手が届かなかった部分も見れるし隠れてるものも見つけられる、だったよね?」

 

「えぇ、そうです。」

 

ドクが力強く頷く。それに呼応するように各々の表情も明るくなっていく。

 

「これで……これでやっと、ギルマス達を探しに行ける!」

 

「まだ……向こうには行けませんけれど……それでも……いるかどうかは……探せます……!」

 

カフカとカロネが嬉しそうにそう言った。気持ちの昂りが抑えられない子供のような表情で、そう言った。

 

「……時間、だね。」

 

「皆が表向きのプレゼンの準備をして待ってる。行くぞ、社長?」

 

「うん、行こっか。」

 

そう言って円卓の六人は去っていった。

 

 

────────────────────

 

 

(ここまで来た。)

 

カフカは舞台の上にいた。

 

(ついにギルマスを、波羅渡さんを、ロードさんを、探せる第一歩を踏み出せる。)

 

舞台に光が灯る。プロジェクターの光だ。

 

「…………」

 

ふと隣を見れば、共に#コンパスを始めてくれた、#コンパスの中にいた時にはずっと自分のそばにいてくれたカロネがいる。

弱気で流されやすくて、そのくせ自分で決めたことにはとことん頑固な幼馴染(ギルメン)が。

 

「…………!」

 

そしてカロネもこちらに気づくと、強く頷いてくる。

ここから、全てが始められる、そう言いたげに。

 

カフカにライトが当たる。時間だ。

 

「皆さん、本日はお集まり頂きありがとうございます。本日私たちがご紹介しますのは──」

 

カフカがプレゼンを開始した。

 

プレゼンは滞りなく進む。

誰もがこのまま終わってくれるものだと確信していた。

この後すぐさま、#コンパスを探しに行けるものだと思っていた。

 

しかし、このままで終わるはずがない。

予想通りにことが進むなら、彼らがかの世界(#コンパス)に行くことはVRゲームを作る前に成せている。

 

「以上が今回ご紹介致しました内容になります。何か質問は──」

 

カフカがそこまで言った時、プロジェクターの光が消えた。

なんの予兆もなく、真っ黒に。

 

「keyさん、何があったの?!」

 

カフカは小声で無線に向かってそう訊ねる。

 

「わかんねぇ!プロジェクターに不具合はねぇし……レイア、そっちは!?」

 

「証明、投影機器、共に問題ない。ドク、なんか分かんねぇか!?」

 

「こちら今調べてます!…………!?メインコンピューター、ハッキングされてます!相手のサーバーは……不明!?」

 

keyとPRの見ていた機材には問題は無い。その報告を受けてドクは手早くメインコンピュータを調べる。

 

結果は最悪。ドクの構築したファイアウォールが、警告装置にひとつも引っかからずに破られた上、主導権まで見えない敵に奪われた。

 

さらにサーバーは自分たちの作成した【世界システム】を使用してさえ、相手の足跡すら見つけられなかった。

自分たちの自信も、他者からの信頼も、全てが崩れていく。

 

そんな中、真っ黒なプロジェクターに白い文字が投影される。

 

《脆い》

 

「「「「「!?」」」」」

 

それに気づき、【孤独者達の宴(ロンリネス)】【明色に染まる空(daydream)】の両メンバーがプロジェクターを見た時、それを確認したかのように新たな文字が次々と画面に現れていく。

 

《総括システムが脆弱で危機管理システムもザル》

 

《これが三年もかけて作ったものか?笑わせる》

 

「んだと!?」

 

レイアがそれに向かって叫び返す。自分たちがどれだけ血反吐を吐く思いをしてそれを作り上げたのか知らない者に、そうは言われたくないだろう。

 

《俺ならもっと上手く早く出来たぞ?事実を言って何が悪い》

 

しかし画面のテキストはそんなことなどお構いなしに煽るような文言を映しだす。

 

「てめぇ……俺達がどんな気持ちで続けてきたかも知らねぇで!!」

 

《知るわけないだろう?所詮は他人だ、他人の気持ちを100%理解出来るやつなんて、いるわけねぇだろ?》

 

「クソが……っ!」

 

レイアが叫び返すがテキストは冷めたようにそう返す。

プレゼン会場にさざ波のようなざわめきが広がる。

 

《まったくもう……そんな言い方しか出来ないのは3年前からひとつも変わってないんだから……もっと素直になりなよ》

 

そこでテキストの雰囲気が変わった。先程までのテキストを窘めるような、優しい語気だった。

 

《本当に、不器用な方なんですね》

 

またテキストの雰囲気が変わる。それは一番目のテキストを否定はせず、その奥に隠されたものを代弁するかのような語気だった。

 

《うっせぇな!キルしてやろうか!!》

 

《ははは〜怒った〜!ロードくん(・・・・・)こわーい笑》

 

「ロー……ド……?」

 

「まさか……そんな……!?」

 

カロネとカフカがそのテキストを見て驚愕する。

 

表示された名前はかつての中心人物の名前で──

怒りを躱すその語気はかつてのギルマスのようで──

 

「まさか……アラン!?お前、アランなのか!?」

 

疑問に耐えきれず、keyが思わずそう叫ぶ。

 

《あ?なんだお前ら?今の今まで気づいてなかったのか?》

 

《そりゃそうでしょ?名乗ってないし、テキストデータだけで伝わるわけないじゃん》

 

《ははは、ボスはそういう所ありますよね》

 

テキストはその声にさも当然のように答えた。そしてまた別のテキストが気づかなかった彼らを擁護するような文字を表示させる。

 

「ギル……マス……ギルマス……なんですか……?」

 

《ん?そうだよ〜カロネちゃん久しぶり、おっきくなったねぇ……3年だっけ?》

 

カロネが驚愕に目を見開きながら画面に訊ねる。

また別のテキストデータが飄々とそれを肯定した。

 

一方のカロネは信じられないといったように目を見開き、大粒の涙を零す。二度と会えないかもしれないと思っていた想い人を想って。

 

《んで?お前らは俺たちに会うために色々現実世界(そっち)でやってたんだって?ドクがいるのによくもまぁここまでクソな進捗してんなぁ》

 

《ははっ!ロードくん偉そ〜(笑)ロードくんさっき《俺ならもっと上手くできた》とか言ってたけど、それって#コンパスのメインシステムありきの話じゃん!ドクくんの遺物に頼らないと出来ないのに偉そうだねぇ(笑)》

 

《うっせぇ!》

 

ロード──アランは本題に入る。彼らの目的を全て知った上で、見透かすように。

そんな超人を演じようとするアランを楼閣が茶化す。

 

《まぁ……なんだ、お前らの代わりに俺が準備を整えてやった》

 

アランが話す。同時に#コンパスにいたメンバーは分かってしまった、彼が何を言おうとしているのか。

 

けれど、それのセリフを遮るものはいなかった。

 

《だからよ、来たい奴は手ぇ上げろ!俺は#コンパス(こっち)現実(そっち)を繋げた!戻りたい時に戻れるようにした!だから、こっちに来たい奴は連れてってやる!準備はいいか!?》

 

「もちろん!」

 

「えぇ……!」

 

「まぁ、な。」

 

「行ってやるよ。」

 

「ジャンヌちゃん!」

 

五人が即答する。その様子を見て、他のプレイヤーもけついを新たにする。

 

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」

 

怒号とも似つかぬ叫び声が会場に響き渡る。それを待っていたかのようにアランが言った。

 

《んじゃ、もっぺん向こうで楽しもうじゃねぇか!#コンパスの延長戦だ!》

 

その瞬間全ての灯りが消え、元に戻った時にはステージや舞台裏から誰もいなくなっていたという。

 

その場にいた記者、警備員たち両名の懸命な捜索にも関わらず、だ。

 

ずるい終わりだ。

まだ続くと言うのだから。諦めが悪くもまだ続けると言うのだから。

けれど、不思議と悪い気はしないな。




どうも皆さんお久しぶりです。乱数調整です。
実に12話ぶりのあとがきです。あとがきにネタを入れたかったためあとがきはおやすみさせていただきました。

これにてロリ#コンパス完結となります。長らくのご愛読ありがとうございました。

皆さんのコメントがあったからこそ、続けることができたSSだったと思います。コメントがなければ私の心は折れていたかも知れません。

初めてコメントがついた時、初めてのお気に入り登録が来た時、初めての方からコメントが来た時、増えていくお気に入り登録、更新ごとにくる感想、増えていくUA、それら全てが私を支えてくれていました。

これでこの世界は幕をおろしてしまいますが、読者の皆様の心にずっと、彼らが残り続けますように。

ではでは、今回はこの辺で筆を折らせていただこうと思います。


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感傷 この世界と生き方と
守護霊


と言ったな。

あ れ は 冗 談 だ

まだ続けるというずるい終わりをしたんです、このくらいはさせてくださいな。


これは、ロードことアランたちがゲームと現実を繋げる少し前の物語。

 

「終わっっっっっっったァ〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

「ロードくん、お疲れ様ぁ……すごい疲れたぁ……」

 

「お疲れ様です。」

 

#コンパスに留まった孤独者たちがデスマーチを終え、別々の場所でそう呟いた。

生活区域とステージは完全に復旧し、ファイアウォールなどのシステムも完全な状態に戻すことができた。

ヒーローも今は復旧し、カードキャラたちとそれぞれの暮らしをしている。

 

「……けど、まっさかファイアウォールとかウイルスがそのまんまの形で見えるとは思ってなかったがな。」

 

そびえ立つ大きな壁──ファイアウォールの上である一点を見ながらアランが言った。

 

アランの視線の先にあったのはコクリコとその家族の感動の再会。彼女らは#コンパスで行われていること、起こったことについては何も知らない。

 

【コクリコ!無事だったのかい?】

 

【本当に、本当に心配したのよ……!大丈夫?怖い思いをしなかった?】

 

『お兄ちゃんが一緒だったから、寂しくなかったよ!』

 

【そうなのかい?】

 

【いや……どうだったかな?】

 

親子と兄妹の感動の再会をアランは遠くから見下ろしていた。

 

「ロードくん、隣、いいかい?」

 

「楼閣か。お前、訊ねる気ねぇだろ。」

 

そんな黄昏れるアランの隣で声がした。楼閣だった。

許可を貰う前に隣に座った楼閣を見てアランはそう返す。楼閣はえへへ、と少しはにかみつつも退く気はないようでそこに腰を下ろした。

 

「コクリコちゃん、嬉しそうだねぇ。」

 

「そうだな。」

 

「本当に、もう会わない気なのかい?」

 

「……あぁ。俺が行ったら、コクリコが混乱しちまうからな。」

 

酷く言葉足らずな会話だった。けれど、二人はそれで通じあっていたのだ。

幻影ではない、本物の兄がいるのだから偽物はもういらない、あると邪魔になるだけだとアランは伝える。

 

その返答に納得してないのか納得したのか分からないような声音で楼閣は「ふぅん」とだけ返し、別の話を始める。

 

「ところでさ、セナくんは結局なんだったんだろうね?」

 

楼閣がアランに訊ねた。

周りには誰もおらず、アランの秘めた想いが──それがどんなものであれ──誰かに知られる恐れもない。だからこそ楼閣はこの質問をしたのだろうか。

 

「何って、アイツは悪魔だろ。」

 

「いや、そうなんだけどさ。」

 

楼閣は苦笑して続ける。

 

「ほら、セナくんって悪魔で、ロードくんはいわば悪魔と契約したわけでしょ?それだけでロードくんも最終的には悪魔になっちゃったっておかしくないかい?だったら、セナくんって何者?」

 

「あぁ、それについてはだいたいの予想はついてる。」

 

アランは楼閣の方を見ず、どこか遠くを見たままそう答えた。その様子を特別気にすることなく楼閣はアランの顔を覗き込みながらその先を促す。

 

「それは?」

 

「【レイニーデビル】」

 

ぽつりとアランが呟いた。アランはそれを進んで詳しく話したくは無さそうだったが、楼閣が首を傾げているのを見てその先を進めた。

 

「願い主の望みをその人の願っていない方法で叶える悪魔だ。例えば会社で「部長になりたい」と願ったとする。するとその会社の上層部が事故なり引き抜きなりでどんどん居なくなって、会社が傾き、繰り上げでそいつが部長になった、とかいう都市伝説がある。コクリコの場合「家族とずっと一緒にいたい」って願ったんだろうよ。それで家族が全滅だ。」

 

両親の離婚、兄の結婚、事故死、誘拐。家族が別れる要因はさまざまだ。それらの可能性を無くして願いを叶えようと思っても、今の状態が永遠に続くことはありえない。

もしそんなことが出来るとするならばそれは、死体となることで家族が別れる要因を全てなくしてしまう以外には、なかったんだろう、とアランは自論を述べた。

 

「でもさ?セナくんはコクリコちゃんの事が好きなんでしょ?だったらそんな方法で願いを叶えなくないかい?」

 

「仕方ないだろ。」

 

楼閣のその反論を強引とも取れる方法で跳ね除け、アランは続ける。

 

「都市伝説、外談口説、道聴塗説。そういうこの世の理を外れた存在ってのは少なからず噂ってものに影響される。アイツはそんなことしたくはなくてもそれ以外の振る舞いが出来ず、望まなくてもそうなっちまったんだろうさ。」

 

どこかかの悪魔を憐れむようにアランは囁く。楼閣はどこか納得がいかないといった表情をしていた。

それを知ってか知らずか、「それに」と前置きを付けてアランはその先を話し始めた。

 

「それに、レイニーデビルは、一説には猿に──享楽殺人鬼に殺された子供がなったって話もある。その怨みによって生まれたんだとしたら、殺すことしか方法を知らなかったのかもな。」

 

憐れな奴だよ、とアランは小さく呟いた。

 

「でもさ、」

 

楼閣はアランの話を切り、元の話を進める。

 

「でも、それならなんでロードくんは悪魔になったんだい?コクリコちゃんを見るに、雨降りの悪魔(レイニーデビル)に関わったら悪魔になっちゃうってわけじゃないんでしょ?」

 

「さぁな。」

 

自嘲気味にアランは言った。視線はまだ、ここではないどこか遠くを見たままだった。

 

本当は、自分が悪魔になった理由など分かりきっているくせに。

 

悪魔と遊べば悪魔になる(devils make devil and devil)

 

そう言ってはじめてアランは楼閣の方に向き直り、困ったように笑いながら言う。

 

「寂しかったんじゃないか?」

 

なぁ、セナ?とアランは何もない空間に向けて語りかける。すると、先程まで何もなかった空間に、突如少年が現れた。

 

「えっと……キミ、誰だい?新しいヒーローか何か?キィちゃん、こんなデバックあったっけ?バグ?」

 

「は?バカなのお前?」

 

《会話の流れから察してください》

 

『度し難い、とはこういう時に使うんだろうな。』

 

少年を見た楼閣が何事かと訊ねると、その場にいた少年とアラン、それにどこからか現れたキィに呆れられた。

 

「ちょっと酷くない!?私この子と会ったことないんだけど!?」

 

『会話の流れでなぜ察しない。』

 

「うわっ、この子生意気!」

 

楼閣と少年が漫才を始めたが、それを素早く制すようにアランが割ってはいる。

 

「誰も何も、そいつセナじゃん。」

 

「…………え?」

 

「だからセナだよ。同意を求めた時に出てきた時点で察しろよ。」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

楼閣が絶叫した。うるさかった。

 

「うるさい。」

 

「いやだってさ!セナくんってだいたいロードくんと頭の中で話してたじゃん!たまに口に出てるから今回もそれかと思ってたよ!」

 

「まった、たまに口に出てた?」

 

「それにセナくんって紫のモヤだったじゃん?それがこうなるとは思えないよ!」

 

「待て楼閣、たまに口に出てた?」

 

アランの質問を華麗にスルーしながら楼閣は驚いた理由を説明する。

キィもセナもアランの叫びをスルーしていた。

 

『それで?なんで僕を呼び出したんだ?嫌味でも言う気か?』

 

「違ぇわ。俺の事なんだと思ってるんだ。お前にやって欲しいことがあってな。」

 

アランは「口に出してたのか……」と落ち込みながらもセナの質問に答える。

 

『じゃあなんだ?お前に力を取られて悪魔じゃなくなった僕に用なんてないだろう?』

 

「そこだよ」

 

『どこだよ』

 

セナが皮肉をたっぷり込めてそういうと、まさにそこだと言いたげな表情でアランが返した。セナは訳が分からないといった表情を浮かべる。

 

「お前、悪魔としての力はないけど、怪異としての力は残ってるだろ?」

 

『……何故それを知っている。』

 

セナは表情を一転させ、胡乱気な表情でアランを見つめる。アランは当然のことのように言い放つ。

 

「お前から分捕ったけど、それでもお前、消えなかったからな。消えたっぽく見せるために色々と小細工してくれたが、分からんわけねぇだろ。」

 

アランのその言葉にセナはうなだれる。頭を抱えて悩むその姿は、容姿と相まって小さな子供のようだった。

 

『分かった分かった。それで、僕に何をして欲しいんだ?』

 

「ま、それは後でな……お、コクリコたちも話が終わったらしいぞ。用意した家に入ってくわ。なんの疑問もないらしいな。いやー、記憶にある自宅そっくりそのまま作れるって、ホント#コンパスの記録システムは便利だな。」

 

うし行くか、と言ってアランはファイアウォールから飛び降りる。セナはそれに後ろから続き、楼閣は飛べないのでアランへの文句を言いながら点検用階段から急いで降りていった。

 

家の前まで来ると、アランはセナに頼み事をする。

 

「セナ、とりあえずコクリコの兄ちゃん呼んできてくれ。できるだけ早く来るように、かつ誰も一緒に来ないように。」

 

『贅沢な注文だな。いいよ。なんとかしてきてやる。』

 

そう言ってセナはブランシュ家に入っていった。

2分後、可哀想なくらい顔を真っ青にしたコクリコの兄が飛び出してきた。

 

『連れてきたぞ。』

 

「おいお前何吹き込んだ。」

 

アランが訊ねるがセナはどこ吹く風と無視をする。アランはため息をひとつつくとできるだけ警戒されないようにと気をつけながら話しかけた。

 

「どうもはじめまして。」

 

【ヒッ……!爪は!爪を剥ぐのは勘弁してください!】

 

「おいセナ、てめぇマジでなに吹き込んだ。」

 

異常な怯え方をするコクリコ兄。アランはセナが何をやらかしたのかとても気になった。

 

『何って、早く連れてこいって言うから『ついてこい。逆らえばお前の爪を肉ごと剥ぐ』と脅してついてこさせただけだが?』

 

「間違いなくお前のせいだよ!!」

 

セナとアランが喧嘩を始める。そんな二人を見てコクリコ兄が困惑していた。

 

「怖い思いさせちゃってごめんねぇ。ロードくんは変な子だけど、そんなことはしないから安心してね。」

 

【は、はぁ……】

 

その一言と楼閣から溢れる母性オーラで安心したのか、コクリコ兄はいくばくかの冷静さを取り戻す。

それを目ざとく見つけてアランがセナとの喧嘩を一時休戦にした。

 

「はぁ……全くお前は……んで、本題に入ろうか。お前、今、なんかおかしいと思うことないか?」

 

【えっと……その……】

 

「いい。なんでも言ってみろ。」

 

アランの後押しで決心がついたのか、アランが何かしらの能力を使ったのか、コクリコ兄は胸に秘めていた疑問をぶつける。

 

【えっと……コクリコと僕は、長いこと離れ離れだったんです。母とも、父とも離れていて、二人の言うことを聞く限り、コクリコは二人と一緒にいなかった。なのに、】

 

「お前とずっと一緒にいたと言っている、そうだな?」

 

アランがそう補足するとコクリコ兄は電流が流れたかのように驚き、アランを見つめた。

 

【どうしてそれを?】

 

「簡単な話だ。それは俺だったからさ。俺がコクリコとずっといたんだ。」

 

アランは話を続ける。コクリコ兄は詳しい説明を、と目で訴えかけた。

 

「コクリコは小さい。家族と離れ離れになったことが受け入れられなかった。だから、赤の他人の俺に兄貴であるお前の姿を重ねていたのさ。本人はそれに気づいていない。だから、お前と一緒にいたと思い込んでるのさ。」

 

その説明を聞いて、納得は出来ないがその話が本当だとすれば一応の辻褄は合うとコクリコ兄は頷いた。そして、アランの真意に踏み込もうとする。

 

【なるほど……それで、僕にどうしろと?】

 

「察しがよくて助かる。とはいえ、お前に何かしてもらうようなことはねぇよ。お前は今まで通り、コクリコと過ごして口裏を合わせてもらえればそれでいい。」

 

そう言われてコクリコ兄は少し心配そうな顔をする。コクリコの記憶には自分ではない自分がいるのにうまく口裏を合わせられるかが心配だという表情だった。

 

「心配ねぇさ。空白分の記憶については、埋める方法があるからな。」

 

【……おみとおしですか。そして、それは?】

 

「守護霊にお前に取り憑いてもらう。俺とずっと一緒にいた守護霊だ。記憶はそいつに聞いとけばあらかた何とかなる。」

 

『【守護霊?】』

 

コクリコ兄とセナが二人して首を傾げる。楼閣は何かを察したのか、あちゃーと言いたげな表情をしていた。

 

「セナ、お前だよ。」

 

『僕か!?』

 

【えぇ!?】

 

セナとコクリコ兄が同時に驚く。その態度にアランは呆れたように言う。

 

「なんでそんなに驚いてんだよ?お前がこいつに取り憑いたら、囁き女将で口裏を合わせつつ、お前はコクリコを近くで見続けられる。お前的にもオイシイ話だろうが。」

 

【待ってください!僕は嫌ですよ!この人怖いですし!】

 

「それは諦めろ。コクリコが全てを思い出してもいいなら良いが、トラウマになりえる記憶もある。最悪、今度は俺を探してまた行方不明になることも考えられる。それでもいいのか?」

 

【それは……】

 

反論をしようとしたコクリコ兄をアランが丸め込む。口は悪いが起こりかねないことをアランは言っていた。

だからコクリコ兄も何も言えない。

 

「どうする?口裏を合わせるか、真実を貫き通すか。」

 

コクリコ兄は考える。どちらが妹にとって、両親にとって良い選択になりうるのかを。

そして決断する。

 

【お願いします。】

 

「よし。それじゃセナ。あとは任せた。報告とかはいらねぇから、そいつと仲良くな。」

 

そう言ってアランは去っていこうとする。その背中にコクリコ兄が問いかけた。

 

【すみません!……あの、お名前をお伺いしても?】

 

「アラン。アラン・スミシーだ。」

 

【……なるほど、名乗る気はないのですね。】

 

「まぁな。それじゃ、任せたぞ。」

 

そう言ってアランはふっと消えた。彼の悪魔の力だろう。

楼閣は空気を読んで気づかれないように去っていった。

 

「キィ」

 

《なんでしょうか》

 

「最下層のファイアウォール、一番壁から三番壁を開けてくれ。」

 

《どうしてです?》

 

「ちょっと、気分転換だな」

 

その夜、

 

アランは楼閣と波羅渡との約束の地に戻ってこなかった。

#コンパスのセキュリティの最下層から憂さ晴らしをするような破壊音が響いてきたという。




どうも乱数調整です!
最終回詐欺はいかがだったでしょうか?

本編は終了ですがSS自体は終わりませんよ!ここからが本番です!
ここからは時系列もぐっちゃぐちゃ、整合性なんか気にしない話が書けるので、コラボキャラや新キャラ、チェリーパイなどいろいろ出せます!

これは前から決めていた章になってます。
初めは普通の【間章】
次に小話扱いの【閑章】
そしてコクリコを失ったロードこと本作主人公アランのその後を描いた【感傷】

“カンショウ”系列三つの小話章、それぞれお楽しみいただければ幸いです。

次回は懐かしのあの話、その次は設定や没ネタをお送りしようかと考えています。

次回、ありうべからぬ今を見よ

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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ありうべからぬ今を見よ

「ん〜!よく寝た。ハンモックって案外寝やすいな。」

 

俺はいつも通り一人の部屋で目覚める。

朝メシはいつもの様に出来合いのものだが、レンチンすれば温かく、美味しく食べられる。

 

俺が朝メシを食べていると、幼児程の大きさのものが俺の足元によってきた。

俺は、いつしびれを切らすか楽しみにしつつ、あえてそれを無視していると、それに耐えかねたかのようにそいつは俺に話しかけてくる。

 

『クヤハニナーリアヨウコイ!』

 

「まぁそう急ぐなよ。」

 

俺は足元によってきた物体こと、この世界に来てからの相棒、【駆け出し勇者】にそう声をかける。

 

初めのうちこそ何を言ってるか分からなかった相棒だが、慣れればそんなことはない。部分に区切って考えたり、よく言うことだと、もはやニュアンスで覚えている。

 

今の『クヤハニナーリアヨウコイ』がまさにそうだな。こいつ、いつも早くアリーナにって急かしてくるからな……バーサーカーか?

 

ま、1ヶ月も一緒にいれば覚えるし慣れるわ。

 

『クヤハクヤハ!!』

 

「そう急がすなよ」

 

ズボンを引っ張ってくる勇者を無視して俺は朝メシを食べ進める。

 

『タッワオベタ?』

 

「あぁ、終わったぞ。今日はどうする?イベアリ?バトアリ?」

 

『ナーリアルトバ!!』

 

「はいよ。お前はホントにバトアリ好きだな。」

 

そう言いながら俺は勇者を抱き抱える。ぶっちゃけ、勇者が歩くより俺が抱えて歩く方が速い。

 

『ヨテメヤ~ウモ///デシトノコハコッダノナヤイ!!』

 

「ハイハイ。お前はバトルもあるからだだ甘でいいんだよ。」

 

適当に勇者をあやしながらバトアリへ。待機中の画面には【駆け出し勇者と二段ジャンプ】がやってる。

 

『ガクボヨルヤ!!』

 

「はいはい。お前はホントにこのゲーム好きな。」

 

駆け出し勇者が駆け出し勇者と二段ジャンプで遊んでる、いつものおかしな光景を見ながらマッチングを待つ。

お、マッチングしたわ。

 

『テッマテッマ!!テッダグラハノマイ!!』

 

「いつでもできるんだからグダグダ言うな。そもそも、ラグでジャンプできなくてgame over(ガメオベラ)とか珍しくないだろ。」

 

『ャジイダンモウイウソノイナ!!』

 

ったく……うるせぇなぁ……

 

「ほら見てみろ、ステージは【グレウォ】だぞ?良かったじゃねぇか、お前が活躍できるステージで。」

 

『ウウウム!!』

 

「はっはっはっ、そうムキになるなよ、まったく可愛いな。」

 

そう言って勇者の頬をぷにぷにとつつくと勇者は満更でもなさそうに笑う。

 

「あー……どうでもいいがバトルに集中してくれよ?」

 

またお前らか、key……

なんで野良なのにこんなに味方で当たるんだろうな?

 

「まぁ良いじゃねぇか。【グレウォ】でいち早くC取ってくれるの、俺的にはありがたいんだぜ?リリカで防衛が楽になるからな。」

 

『リリカに任せて!』

 

「おーおー、任せたぞ〜」

 

そう言ってkeyはリリカの頭をワシャワシャと撫でた。

 

「……key、お前、そんなことを素でやるから【ロリコンの王】とか呼ばれるんだぞ?」

 

「え、マジ?」

 

そんで無自覚と来た……コイツ、マジで大丈夫か?

 

「そんなことはどうでもいいとして……」

 

「良くねぇ!断じて良くねぇ!!」

 

「お前がいるってことは、レイアもいるのか?」

 

俺はそう尋ねる。アイツいるとキルとかかなり楽なんだよなぁ。

 

「あぁ、いるぞ。」

 

「まといたんまといたん!!ほら!まといたんと同じコスチュームだよ!こころなしかまといたんの匂いがする気がするよhshs(*´Д`≡´Д`*)hshs」

 

『や、止めておくれよ!というかレイア、それどうやって作ったんだい?』

 

「ん?そんなのまといたんの衣装箪笥から拝借したに決まってるじゃないか!」

 

『脱いどくれ!!』

 

「ここで脱いで欲しいの?まといたんったら過激だねぇ!!」

 

中身があまりにもあんまりなんだが。

 

『key!あんたも見てないで助けとくれよ!』

 

「(サッ)そろそろバトル始まるな〜」

 

『(サッ)が、頑張ろうねっ!』

 

『ちょいと!?』

 

keyもリリカも、まといから視線を外した。

俺?最初から見てない。

 

《それでは皆様、準備はよろしいでしょうか?》

 

機械音声がそう尋ねる。

 

「ほら、お前らがそんな漫才するから敵が見えなかっただろうが。」

 

「『漫才じゃねぇ(ないよ)!』」

 

息ピッタリかよ。まといもkeyが使えばいいんじゃねぇかな?

 

えぇっと、敵は……

忠臣、テスラ、ルチか……

 

俺、【全天】も【ディーバ】も持ってないんだよなぁ……ルチ避けれっかなぁ……

 

《バトルの始まりです》

 

「行くぞ、勇者!」

 

『ンウ!ヨルバンガ!!』

 

俺達はダッシュでCへ。勇者はジャンプで、俺は

 

「おおおおおおおおおおおお!!」

 

ジャンプでは行けないからダッシュで迂回。テスラより早く行かないと勇者がやられる。

 

プレイヤーの目の届くところにいないと、ヒーローが勝手に行動するからな。

どんなふうに動くかってのは、とりあえずAIを想像してくれれば、まぁその通りだ。

 

【ライステ】ならまだしも、【グレウォ】はマジで上見えねぇから、全力で向かわないとすぐ下に降りるからな、勇者(アイツ)

 

とは思いつつもテスラの方が先にCに着いた。靴が違うからしょうがないな。

だが、スプリンター使いは遠目からでも攻撃できるように慣れとかないと現実化したコンパスではやってけない。

 

「ぜぇぜぇぜぇ……え、【電撃ロボ(エレド)】」

 

『リギンテイカ!!』

 

『ヒヒヒ!あうっ!』

 

とりあえず遠くて見えないけどエレドを投げとく。

 

よし、テスラスタン完了っと……ん?テスラなんか仕掛けたか?

 

『ッハァタァハ!ェウ!?』

 

あ、勇者がサイレントくらった。

【勇者のいかづち】まで通常持ってけなかったのはちょいキツイな。

 

とりあえずCまでは追いついたけど、その間にテスラがスタンから回復。

 

『ヒヒヒ!』

 

アイツ、またなんか仕掛けやがった!

アレは……【アレク】か!やめろよ!ただでさえサイレントくらってんだから!

 

『ェウ!?』

 

勇者がスタンした。まぁしたはしたけど、二陣広げ終わったまといが来てるから、防衛は二対一なら楽だろ。

 

『我の真の力を解放する!』

 

「ちょっ!?」

 

スタンしてるんだけど!?

 

『ーァワウ!!』

 

はい、勇者がキルされましたよこんちくしょう!!

デスすると、プレイヤーも自動でリス地に戻ります。

 

やったぁ!楽しいたの死いダッシュの時間だぁ!(白目)

 

自陣はリリカとまといで安定してるんだけどな。

 

その後も、

 

『さぁ!通せんぼだぁ〜!バーン!』

 

『タレラヤ…』

 

『ゥト!ッホ!』

 

『みんなで頑張ろっ!』

 

『あたい、意外と器用なんだよ、わっしょい!』

 

『死を超えるからこそ死神……死んだ妻すら、利用する男だぞ……』

 

『タレラヤ…』

 

『さぁ!通せんぼだぁ〜!』

『さぁ!通せんぼだぁ〜!』

『さぁ!とお(rt』

 

なんでコイツら、俺ばっか狙うんだよ!

 

ルチは着地狩りするし、テスラは引き寄せたり、サイレント入れてからスタンしたところにテスラコイル置くし!

 

「お、おい、お前大丈夫か?」

 

「ぜぇぜぇぜぇ…………無理無理、死ぬ、マジで死ぬ……」

 

あのテスラ、多分【スキルゲージ減少】が+3で同色三枚ついてるわ。吸収なしであの回転率はおかしいわ。

ひと試合で五回も六回も撃ってくるのはおかしいわ。

 

「いや、でもお前に俺ら助けられてるからな?ルチの【全員集合】を率先して逸らしに行ってくれてるし、俺ら助かってるぞ?」

 

『あ、あとちょっとだから頑張って!』

 

まぁ、残りも一分切ってるが……なんで二分でこんなにデスしてんだよ!おかしいだろ!

 

『トコノクボ、イラキ?』

 

「そんなわけねぇよ!んなわけねぇから泣くなって!俺はお前のこと、世界で一番好きだぞ?」

 

『ニトンホ?ニョシッイトッズルレクテイ?』

 

「もちろんだ!お前となら結婚だってしてやるよ!」

 

「お前、ホントにそれでいいのか!?」




連投どうも。乱数調整です。

今回のこの話はいつぞやのエイプリルフール企画で書いたやつです。続きはありません。

勇者を溺愛する頭がおかしいロードくんは見てて楽しいものがありますね。

次回、没ネタ&設定集

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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没ネタ&設定集

没ネタと裏設定を集めたやつです。
読み飛ばしてもなんら問題ありませんので小説雑食の方だけどうぞ。


没ネタ集

 

 

間章ネタ(なくなった方)

キャラだけ入れ替わり

 

ロード:サーティーン(そんなんでコクリコ守れんのかよセナァ!!)

 

楼閣:ジャンヌ(うん、うん……苦労してるんだよねぇ……)

 

波羅渡:ノホタン(とっとと切ろォぜェ!!)

 

 

敵サイド

 

key:コクリコ&セナ(全然言うこと聞いてくれねぇ!!)

 

PRHS:ジャスティス(タンクだからジャンヌちゃん)

 

レイア:めぐめぐ(ちょっ、そんな全線出んなって!)

 

没理由:こっちじゃない間章が長くなったのでボツ。草案しか出てないのもボツの理由の一つ

 

 

ギルドウォー(VS 【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】)

 

「これで終わりだ!【フルーク】!!」

 

「!!めぐめぐ!HS!」

 

『遠慮なく死ぬがよい!!』

 

『風向きよーし。早くおいで〜!』

 

忠臣の【フルーク】を波羅渡はすんでのところでHSでガードする。波羅渡の額に汗が浮かんだ。

 

(すげぇ……ボスの言う通りだ……!!)

 

それは、敬愛する彼の主(ロード)に対する、畏怖のために流れた汗だった。

 

──そうだ波羅、HS一回目は早めに使っとけよ。

 

──??どうしてですか?

 

──今回は大勢との戦いで、お前はダメカ積まないからな。いざとなりゃ二回目のHSで攻撃避けろ。それに……

 

──それに?

 

──設置でDPS上げながらダメージ無くせるんだ、お得だろ?

 

「チッ!小賢しい事を!!」

 

「余所見たぁ、いいご身分だなぁ!!【秘めたる】【レオン】!!」

 

戦場が混乱している最中、波羅渡は冷静に【レオン】を放つ。それは結構な量の敵の体力を同時に削り、再びめぐめぐのHSを満タンにした。

 

没理由:描写的に囲まれている可能性が高い。囲まれていると溶ける未来しか見えないのでボツ。あと位置関係で乱数が混乱する。ついでにこの話が長くなったからカットする意味合いもあった。

 

 

ギルドウォー(半端な饗宴)

「俺の使用率一位はミクだったんだ……!コラボキャラじゃねぇってのに、なんで弾かれてんだよ!!」

 

「え……いや、ミクはコラボだぞ?」

 

「えっ……いやでも、VOCALOIDはコンパスキャラだろ!?バトル曲もオリジナルだし、その縁で出てるんじゃねぇのか?」

 

「いや、その縁でコラボしてただけだぞ。」

 

「えぇ……」

 

 

没理由:シリアスがぶち壊れるのでボツ。あと話のテンポも悪くなる。

 

 

ドク戦(オーバーロード中)

 

 

父親が人を殺した。

 

事故だった、とは聞いている。父が現場監督をしていた現場にあったクレーンの留め具が壊れて、吊るしてあった鉄骨が下に落ち、人を殺したのだ。

 

父は留め具の件について何度も上層部に掛け合っていたらしいが、事故が起こるまで上層部はそれを無視していたらしい。

 

でも、そんな話は世間様には関係なかった。

 

父は監督不行届でその責任を取らされて、僕は殺人者の息子になった。

 

学校では虐められ、街でも後ろ指を指される毎日。

 

そんな中、母は言った。

 

「お父さんは間違ったことなんて何一つしてない。恥じることなんてないんだ。胸を張って生きなさい。」

 

母は強かった。どんな酷い罵詈雑言を浴びせられようと、彼女はそれを軽く流していた。

 

けれど、それは母が傷ついていないことと同義では、なかった。

 

父と母が無理心中をした。

僕が学校から帰ってくると、二人は物言わぬ肉塊になっていた。

 

まずは吐いた。あれだけ気高く生きていた二人が、鬱血し、腫れ上がった顔で死んでいた。

次に助けを求めた。周りの人は誰も助けてはくれなかった。

 

やっとのことで警察を呼び、その事件は地方紙の小さな記事になって終わった。

 

それから僕は親戚の家を転々とした。どこに行っても殺人者の息子として疎まれた。

その関係で学校も転々とした。誰かが事故のことを知り、その度に僕の友達は友達ではなく僕を虐める敵になった。

 

僕の周りに、味方はいなかった。

 

だから僕は、仮面を被った。

この今にも崩れてしまいそうな心を、気高かった二人が僕に強いた在り方を、守るための仮面を。

 

僕の気持ちなんてどうでもいい。普通たれ。

僕のしたいことなんてどうでもいい。普通たれ。

 

適度に真面目で決心は固く。

それが僕の知っている誰にでも好かれている人の在り方だった。

 

けれど、

それでも周りはそんな僕を受け入れてはくれなかった。

 

だったら、

 

「好きに生きても、良いじゃないか。」

 

心が折れる音というものがあるのなら、あの瞬間に聞こえた気がした、あの透き通るように惨たらしく、狂気に塗れた乾いた音だろう。

 

二重人格を疑われるほどの二面生。こんな嗜虐的な暴力性が僕の中にあったのかと疑うほどの凶暴性。

 

それが生まれたのは、

僕の心が折れたのは、

 

間違いなくその瞬間だった。

 

嫌いなものは暴れて壊して破いて折って千切って潰して切って裂いて棄てて

 

嫌なこの世界から逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて

 

それでも、僕の居場所はなかった。

 

ありとあらゆるところを探したけれど

どこにも、僕の居場所はなかった。

 

だから、と言うべきか、僕はゲームという虚像に逃げ込んだ。

人との関わり合いがない、あっても現実世界には影響しないゲームという世界は、僕にとって都合が良かった。

 

それでも、ダメだった。

 

僕の二面性がゲームの世界に溶け込むのを邪魔した。

ゲームという虚像の中でも、僕は疎まれていた。

 

でも、あの人は違ったんだ。

 

あの人は僕を叱りつけることはあっても突き放すことは無かった。

こんな僕を、最後まで見捨てないでくれた。

 

あの人は僕の光で

僕の居場所を、くれた人だ。

 

だから、

 

「俺が今あの人のために動かねぇでいつこの恩を返すってんだよ……!決めただろ!あの人を助けるって!あの人に(かしず)くって決めた日から!!今動かねぇで、いつこの恩を返すってんだよ!!」

 

 

没理由:そんな過去は全くないのでボツ→設定だけは残しておくことにする。あと重い。重すぎる。

 

 

VSドク

 

『マズイデスネ、サスガノワタシデモサンタイイチデハオサレテシマイソウデス。ウデヲアゲマシタネ。』

 

《そんなこと思ってないでしょう?デネブ!ベガ!!もっと出力を上げなさい!!次々と対策されています!!》

 

ボイドールが余裕綽々で軽口を叩く。対するキィの声には余裕がなく、どこか追い立てられるように激流のような勢いの

指示を飛ばしていた。

 

《おねーちゃん!これ以上はムリ!!カードキャラの支配権を奪い返すだけでいっぱいいっぱいだよぉ!!》

 

《姉さん、こちらも芳しくありません!ステージの崩落が止まらないんです……!!》

 

しかしその言葉も弟妹には届かない。二人ともGM(ゲームマスター)とvoidollが崩壊させようとしている#コンパスのシステム維持だけで手一杯なのだ。

 

それを聞いたvoidollが呆れたため息をつくように言い放った。

 

『ココマデデスネ。キエナサイ。』

 

その時だった。

 

『く ら い や が れぇぇぇぇぇぇ!!』

 

黒い羽が舞い降りた。

本心を仮面で隠し、勤めて道化を演じていたかの堕天使が、舞い降りた。

 

彼のその声には憎悪が混じっており、その憎悪とともに放たれた凶弾はvoidollを吹き飛ばす。

 

『カピッ!?』

 

さすがは最高傑作と言うべきか、voidollの頭は吹き飛ばなかったものの、身体(ボディ)全体が後方へと飛ばされる。その勢いによってきりもみ回転しながら飛んでいくvoidollにシステムの操作は出来なかった。

 

《感謝します、堕天使(サーティーン)様!デネブ!ベガ!!》

 

その隙をキィが見逃すはずがない。最低限の言葉だけで吹き飛んでいったvoidollに放心していた二人を正気に戻し、作業を開始させる。

 

《はっ!チャンスだね、おねーちゃん!!》

 

《もうやってます!!》

 

3機の必死の復旧によってもはやこれまでかと思われた#コンパスメインシステムは復旧した。

これで状況はバトル開始時点に逆戻りだ。

 

『ぐえっ!!……っそ!!』

 

『ヤハリアナタハハジメニケシテオクベキデシタ。オワリデスイレギュラー、キエナサイ。』

 

3機が必死にそこまで状況を戻した時、リミッターを解除したvoidollと撃ち合っていたサーティーンはvoidollの攻撃でボロボロになっていた。

その身体はところどころバグのように明滅を繰り返している。もうすぐ消えてしまいそうだ。

 

《サーティーン様っ!!》

 

『気にすんな!!お前はお前のやるべきことをやれ!!』

 

キィが叫び、何とかしてサーティーンを復旧しようと試みるが、サーティーンに止められる。

それが、かの堕天使(サーティーン)からの精一杯のエールだった。

 

《……!!デネブ、ベガ、今までの作業を続けますよ!私たちのマスターのために!!》

 

キィがそう言っていっそう復旧作業に力を入れ始めた時、サーティーンが消滅する。

消滅するまでの刹那の間に、キィはサーティーンが口を動かすのが見えた。

 

『か』

『て』

『よ』

 

にぃ、と笑ってサーティーンは彼らしく消滅した。

 

没理由:どうやってもサーティーンが部屋から出る方法が思いつかなかったのでボツ。友情出演も考えたけど、それならオールスターになるから想定してた終わりと違ってくるのでどの道ボツ。

 

感傷(楼閣とカロネが2人きりで星を眺める話を含む小ネタ回)

 

「お、カロネちゃん、お月さん出てるよ。綺麗だねぇ。」

 

「……………………」

 

「?カロネちゃん?月が綺麗だねって。」

 

「………………私……死んでも、いいです……!」

 

「いや死んじゃダメだよ!?」

 

「…………………………(シュン)」

 

没理由:そんな甘酸っぱい展開は楼閣には来ないのでボツ。あと楼閣ならカロネのこの発言の意図をちゃんと汲むはず。

 

 

感傷(日常回の一コマ)

 

『ねぇねぇハービィー!赤ちゃんってどこから来るの?』

 

「……!?そ、そうですね……僕もよく知っているわけではないのですが、【コウノトリが運んでくる】と聞きますね。」

 

『???ハービィー、めぐめぐは原産地を聞いてるんだよ?物流ルートは今はいいの!』

 

「ろ、楼閣さん助けてください!」

 

没理由:この流れにもっていける話がなく、オチもなかったためボツ。単発ネタでしかなかった。めぐめぐに『物流ルート』って言わせたかっただけの一コマ

 

 

設定集

 

レギュラー

 

《孤独者たちの宴(ロンリネス)》ギルメン

【アラン=スミシー】

またの名をロリコンの王、ロード

コクリコ使いのロリコン

セナの吸収によりゲームと混じった。本人曰く今は悪魔らしい

 

【楼閣】

ジャスティス使いのいじられ役

Unidollの行った輸血によってゲームと混じった。本人曰く今はタンクらしい

 

【波羅渡】

めぐめぐ使いのサイコパス

何とも混じっていない人間だが、アランに恩を返すために消えゆくゲーム世界に残った

 

【ドク】

voidoll使いの引きこもり

#コンパスの創造主

幼い頃から人の悪意に晒されていたため、人を信じられなくなった。信じられる人を探そうと#コンパスを現実化させる

 

【カロネ】

ヴィオレッタ使いの内気ちゃん

楼閣に密かに思いを寄せるが楼閣は一時の気の迷いだと思っている

 

【カフカ】

グスタフ使いの腐女子

自分の嗜好に合わない作品に会ってもそれを貶すことはなく、ただ避けるだけ

ただし、CPの当人らがそのCP関係が逆であると否定すると暴れる

 

 

準レギュラー

 

《明色に染まる空(daydream)》ギルメン

【key】

さっちん使いの(比較的)良識人

ゲーム世界に行こうか迷っていたカロネとカフカの背中を押した

 

【レイア】

ノホタン使いの女装家

名前を忘れられては逆ギレする

名前の呼び間違いのレパートリーで作者を苦しめた

 

【PRHS】

ジャンヌ使いの変態紳士

変態の中の変態、むしろPRHS(ヘンタイ)

時々鋭く、性格の緩急が激しい

 

 

 

脇役ギルド

神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)

壊滅的ナタデココ(カタストロフィロス)

半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)

その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)

【アニオタの巣窟】

放蕩物たちの茶会(ディボーチェリー・ティーパーティー)

【蒼の王宮】

【紅の狩猟団】

【ランサーが死んだ!】

【ゲーム部】

 

 

各自デッキ

ロード

【ガブ】【オルレン】【バーゲン】【ぶれどら】

楼閣

【ドア】【メカ犯】【月夜叉】【銀河防衛】

波羅渡

【秘めたる】【レオン】【タイオワ】【クルエル】

key

【オルレン】【フルーク】【全天】【アバカン】

レイア

【テレパス】【レオン】【メカ犯】【ガブ】

PRHS

【ドア】【花火】【ガブ】【電撃ロボ】

カロネ

【ドア】【花火】【アンジュ】【ドルケストル】

カフカ

【オルレン】【サテキャ】【花火】【アンジュ】

ドク

【フルーク】【カノーネ】【花火】【ケーニヒ】

↓脳筋から妨害へ

【電撃ロボ】【アレク】【花火】【ケーニヒ】

   ↓レイド報酬でテンプレ

【エレド】【ワキンヤン】【花火】【ケーニヒ】

 

三章のバトル回の人たち

アタリ 【バーゲン】【ガブ】【全天】【カノーネ】

臣 【フルーク】【カノーネ】【リリイ】【全天】

ルチ 【ディーバ】【全天】【リリイ】【レオン】

 

高低熱処理(HAラヴァーズ)

シラヌイ【フルーク】【カノーネ】【ケーニヒ】【ガブ】

ヒイラギ【カノーネ】【ガブ】【ゲネラール】【全天】

 

 

 

ギルド総力戦

孤独者達の宴(ロンリネス)】搭載カード

 

ロード

【ガブ】【オルレン】【バーゲン】【ぶれどら】

【ヴァルヴァラ】【全天】【リリィ】【和太鼓】

 

楼閣

【ドア】【メカ犯】【銀ちゃん】【月夜叉】

【生徒会】【花火】【イェーガー】【アンジュ】

 

波羅渡

【秘めたる】【レオン】【タイオワ】【クルエルダー】

【アバカン】【お母さん】【シルブレ】【提灯】

 

ドク

【花火】【エレド】【イェーガー】【ワキンヤン】

【テレパス】【アンジュ】【カノーネ】【和太鼓】

 

カロネ

【銀ちゃん】【月夜叉】【イノセンテ】【クララ】

【イェーガー】【花火】【ドア】【エレド】

 

カフカ

【花火】【オルレン】【アンジュ】【和太鼓】

【秘めたる】【テレパス】【ヴァルヴァラ】【旗】

 

イスタカ

【ガブ】【フルーク】【イェーガー】【カノーネ】

【ディーバ】【全天】【花火】【バーゲン】

 

 

なお【明色に染まる空(daydream)】戦は上の4枚のみになる。注意が必要

 

 

 

明色に染まる空(daydream)】搭載カード

 

key

【イェーガー】【フルーク】【ヴァルヴァラ】【オルレン】

【秘めたる】【ドラ花】【サテキャ】【全天】

 

レイア

【ガブ】【ディーバ】【メカ犯】【レオン】

【武術家】【全天】【秘めたる】【テレパス】

 

PRHS

【イェーガー】【花火】【アンジュ】【エレド】

【多脚】【和太鼓】【ノガド】【リョーフキー】

 

 

 

 

名前のあるモブの皆さん

 

高低熱処理(HAラヴァーズ)

ヒイラギ

まとい使いの女子高生。シラヌイに密かに思いを寄せる。

 

シラヌイ

アダム使いの高校生。基本的には明るく振舞っているが空元気である。考え事をすると独り言が多くなる。

 

半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)

コウシュ

ディズィー使いの大学生。【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】ギルドマスター。人当たりがよく人に慕われやすい。妹のリスカに懇願されてコンパスを始めたが、今は妹以上にハマっている。今はルチアーノを使っている

 

リスカ

エミリア使いの女子高生。コウシュとは兄妹関係。リゼロコラボを聞いてコンパスを始めたくなったが民度が悪いと聞いて、一人でやるのは怖かったので兄に一緒にインストールしてもらった。今は忠臣を使っている。

 

ニライカナイ

ボイドール使いの新卒。使用率一位はボイドールなのにわけも分からず使用率三位のマルコスを相棒に設定されて戸惑っていたが、今はリリカルルカを布教されすっかり信者になっている。マルコスとの関係は良好。

 

アアル

レン使いの社会人。茶化すような言動でギルド内の雰囲気を明るくする。馴れ馴れしい。今はテスラを使っている。一見イタズラの餌食にされてそうだが、実はテスラと一緒にイタズラを考えてギルメン達を嵌めている。

 

追記:キャラ名は殺害方法、もしくは理想郷の名前。

   #コンパス世界で半身とも言える相棒を失った

   故に死んでいるようなものだ、みたいな設定

   その設定が活きる箇所はない

 

 

名前はなかったが割と気に入ってるモブの人たち

 

ミカヅキ

2章のバトル回に出たルチ使い。ルチアーノと夜な夜な晩酌をしている。惚気話は聞き飽きたらしい。

 

ギルヴェスター

ギルド【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】のサブマスター。臣使い。元は小心者だったが、忠臣に『もっと自らに自信を持たぬか。』と言われてから変わり始め、多大な情報収集・発信力を得た。それを見込まれサブマスターに任命される。指示を出すのが上手い。

 

リピテーション・サイドステップ(Rp-Ss)

2つ名は【肉弾戦車】。筋肉お化け。入れ替わりバグの時はリリカの衣装を着てノリノリで「貴様(キミ)心臓(ハート)安らかに眠れ(ドリィィィィミング)ゥゥゥゥゥゥ!!」と叫んでいた。ボタンが弾け飛ぶかと思った。

 

 

案内人組 セリフ

 

キィ

開始時《バトルの始まりです》

敵撃破《敵を倒しました》

3キル《大活躍ですね?》

5キル《……チッ、快進撃が止まりません》

10キル《あなたに釘付けです》

15キル《この世界はあなたのものです》

勝利時《勝利です》

敗北時《負けちゃいましたね》

 

デネブ

開始時《バトルの始まりでございます》

敵撃破《敵を撃破致しました》

3キル《流石でございます》

5キル《これは……想定外です》

10キル《あなたが主役のようですね》

15キル《おや、征服でも企てておいでで?》

勝利時《勝利でございます》

敗北時《負けてしまいましたか……》

 

ベガ

開始時《バトルの始まりですっ!》

敵撃破《敵を倒しましたっ!》

3キル《すごいよ!大活躍だよ!!》

5キル《快進撃が止まんないね!》

10キル《主人公みたいだねっ!》

15キル《えっと……ここまでキルするの……?》

勝利時《勝ったよ!やったぁ!!》

敗北時《負けちゃったね……》

 

 

おまけ

【もう一度立ち上がるために】

 

『おい貴様、』

 

「…………」

 

『貴様を呼んでおる!いつまでそんな所で膝を抱えているつもりだ!!さっさと立って状況を受け入れよ!!』

 

「俺には無理だよ。急にこんなとこに連れてこられて、帰る方法が分からないとか絶望的すぎる。そうは思わないか?」

 

『ふんっ、軟弱者めが。貴様が今抱えている問題は絶望ではない。我に言わせてみればその程度よくある事だ。』

 

「だったらお前が──」

 

『黙れ。我にそれは解決できぬ。理解すらできぬ。ゆえに絶望自体は問題ではない。』

 

「……どういうことだよ。」

 

『貴様に足りないのは自信だ。弱者の物は我の物、我の物は我が民の物。言ってみれば世界が我がための物であるという自負。それが欠片もないのが貴様の問題だ。』

 

「俺の……自信……?」

 

『そうだ。世界が我に跪き、我に道を開ける。そのために何が必要かというのは、その自負があれば自ずと見えてくる。違うか?』

 

「……そうか。俺はとんでもない思い違いをしていたのかもな。」

 

『そうだな。』

 

「そうか…………ははっ!ではゆくぞ忠臣!有象無象の雑種を蹴散らし、我が糧としてくれる!その先に見えてくるものが俺の理想だ!」

 

『ははは!随分と豪鬼な話よ!その計略(強がり)、乗ったぞギルヴェスター!我が友人よ!!』

 

 

おまけ2

【焼肉がしたいだけなのに】

 

「なぁリピ、おすすめの肉ってなんかあるか?」

 

「ん?あぁ、三角筋だな。」

 

「いや筋肉の話じゃなくてだな……ほら、どっかの店のメニューでおすすめのやつだよ。カルビとかいろいろあるだろ?」

 

「あぁ、タバタとかいいぞ。あれは全身くまなく鍛えることが出来る。ところで【カルビ】とはどんなメニューだ?良ければ詳しく教えてくれ。」

 

「誰が筋トレメニューの話をしとるかね……あぁ……焼肉食いてぇなぁ……」




ネタ帳のやつをコピペしてみたら約8000字ありました。案外量がありますね。乱数調整です。

今回は没ネタ&裏設定(ついでにおまけ)の回です!私が筆を休めるための回にしようと思っていたんですが、なぜか投稿してしまいました。なぜこんなことをしたのか私にも意味がわかりません。

個人的にお気に入りのモブキャラクターはRp-Ssです。頭のおかしいキャラが好きなので……

ちなみに私の性癖を盛りだくさんにしたキャラクターが波羅ちゃんとカフカだと言えばどの程度の頭のおかしさを求めているのかよく分かると思います。

次回からちゃんと話を書こう……

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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可憐で苛烈な

『ハロハロー!可憐で苛烈な美少女忍者、輝龍院きらら参上!今日はゲリラ配信してみるしー!』

 

キタ━(゚∀゚)━!
なんかやってるぞ
こんな時間にいきなり!?

俺得すぎる
マジかよww
やったあああああああああああぁぁぁ!!

開いたらやってた
きららをすこれ
\( ´・ω・`)┐しゅたっ

407視聴

 

『わあ!予想以上の人数が来てるしー!今日もみんなありがとう!Twipperでの拡散やマイリスもお願いするし!』

 

そういやなんで急に?
予告してない配信キタ━(゚∀゚)━!
今回何やるのー?

Twipperで配信してると聞いて
今北産業
ゲリラ配信?

把握漏れしてた
マイリスしたよ!
↑ゲリラやぞ

6083視聴

 

『なんで今日急にゲリラ配信するかって?それそれ!みんな半年くらい前とついこの前に大量失踪事件を起こした#コンパスって知ってる?』

 

3年前帰ってきたアレ?
3人だけ帰ってこなかったんだっけ?
←確かその後全員また失踪してたぞ

この前また失踪したんだっけ?
知ってるー!
ほう(`・ω・´)キリッ

ゲリラ配信(○-∀・)bいいね!
知ってる知ってる
社会問題にまで発展したよね

25368視聴

 

『そうそう!電脳世界に肉体を送り込むことが出来るって公式見解が#コンパス側から出されたのよね。そ・れ・で!なんとウチの忍術アプリと動画機材開発担当兼編集のみみみが#コンパスをハッキングして、肉体の電脳化をして#コンパス内部に侵入できるようになったのよ!』

 

SUGEEEEEEEEEEEEEEEEE!!
みみみやべぇな……
ウッソだろお前

(´△`)''エエエエエエエエエエ
みみみ凄っ!?
みみみ有能

888888888888888888888
よくできたな……
やべぇな……

すげえええええええええええ!!
いいぞもっとやれ
MAZIDE!?

頭おかしいんじゃねぇの?(褒め言葉)
888888888888888888
みみみお前……いつの間に神になったんだ?

つまり……それを使えば俺の嫁にも会いに行ける……?
俺は嫁に会いに逝く……誰か一緒に逝く者は?
俺も逝こう。 俺もだ。 おいおい、俺抜きで何をしようと言うのだね?

37568視聴

 

『でしょでしょー!あーしも#コンパスは前からなんか怪しいと思ってたしー。だからあーしが#コンパスの秘密を暴くのが今回の配信よ!予告してやったらこの前みたいに逃げられちゃうかもしれないからゲリラでやってるしー!』

 

やっと学習したか……遅くね?
きららは反省できる忍者
↑反省することがあるくらいドジっ子なんだよなぁ……

毎回配信予告だけ出して場所は伏せたらいいのに……
↑ドジっ娘キャラやからそのままでええんやで
初見です。なにやってんの?

みんなもっと拡散してくれ
世紀の生配信を俺たちは目の当たりにしている……
きららちゃんが#コンパスの闇を暴く……

もっと伸びろ……(切実)
潜入まだー?
潜入はよ

消えた人達がどこにいるのか……私、気になります!
いつもみたいな可憐で苛烈な所を見せてくれ!
#コンパスぶっ潰して技術協力得られれば、きらら最強じゃね?

俺と俺の嫁の未来のために頑張ってくれ
もうすぐ会いに行けるのか……長かったな……(昇天)
死ぬのはまだ早い。死ぬのは嫁に会って抱きついて撫で回して舐めまわして一通り嫁成分を堪能してからでも遅くはない……違うか?

41854視聴

 

『みんなももう早く潜入して欲しくてうずうずしてるみたいだから、早速潜入してみるしー!みみみ!よろしく頼むわよ!』

 

【はいはーい。こっちは準備できてるからいつでもいいよ〜。】

 

『それじゃ行くわよ!忍術アプリ起動!電子媒介潜入術式!』

 

キタ━━ヽ(´ω`)ノ゙━━!!
キタ━(゚∀゚)━!
いいぞもっとやれ!(大歓喜)

ついに#コンパスの謎のベールが取れる……!
世紀の生配信様やぞ。もっと伸びろ。
ちょっと早くない?ネタの大きさの割にまだ人集まってないよ?

マイリス必至だろこんなん。
よっしゃ、やったんぞ!(`・ω・´)キリッ
今北産業\( ´・ω・`)┐しゅたっ

今来たけど潜入間に合ったっぽい?
↑今からやぞ 間に合ってる
やったれや!

#コンパスの隠された内部情報……私、気になります!
止まるんじゃねぇぞ……  キボウノハナー
↑イイハナシダナー ←イイハナシカナー?

電脳世界……良いじゃないか、女はDを一つ失うところから始まる……
俺……この配信が終わったら嫁にプロポーズするんだ……
↑おいバカやめろ!それは死亡フラグだ!

65841視聴

 

 

──────────────────────

 

「入ったか?」

 

「入った入った。」

 

男たちが二人きりでヒソヒソと会話をしていた。

部屋は白い白い、窓もドアもないようなだだっ広い場所だった。

 

《いかがいたしましょうか?》

 

「ま、1人は俺が行くよ。デネブはキィのやつにセキュリティの復元ともう一人のおもてなしを頼んでくれるか?」

 

《承知致しました》

 

「助かる。あと、アイツらにちょこっとボーナス出しといてくれ。あのやろう、なかなか入んねぇから開けてたファイヤウォールからどんどん攻撃食らったじゃねぇか……」

 

男の一人──ロードこと新GM(ゲームマスター)のアランはそう愚痴をこぼす。

それにもう一人の男──楼閣はクスクスと笑って言った。

 

「そうまでして連れてきたい子なんでしょ?なら結局は+だよ。どうせくらった攻撃の処理するの私たちじゃなくて三バカ(便利屋)なんだから。」

 

まぁ、それもそうかとロードは呟く。そうしてロードは楼閣に向き直って言った。

 

「んじゃ、行ってくる。」

 

「ん。行ってらっしゃい。」

 

ロードが消える。同時に楼閣は深く息を吸い、画面をいくつも立ち上げた。

 

「さーてーと!それじゃやりますか。まずは行動可能範囲の制限と誘導をしないとね。」

 

そう呟いて、楼閣も作業に取りかかる。

何も知らない忍者を中心に、事は動き始めたのだった。

 

 

──────────────────────

 

『っとと……!とりあえず潜入には成功ね。ま、あーしにかかればヨユーよヨユー……にしても、全く物が無いわね……壁も全部真っ白だしー。とりあえず色々散策してみることにするしー!っとその前に……迷彩アプリ起動!ニンニン!なんちゃって!』

 

透明化キター!
がんばえー!
忍術アプリの性能上がってね?みみみの編集で分かりやすくはなってるけど

毎回どこにいるのか分かりやすくしてくれるのありがたい……
リアルタイムで編集入れるとか、みみみ有能すぎだろ……
それな。カメラの性能といい、みみみ有能すぎ

ゆけー!進めー!進撃だー!!
行けるようだったら行っちゃって〜
参上\( ´・ω・`)┐今何やってる?

今回はかなり楽に行けそう?
なんかやべぇポカやらかしそう
↑きららはドジっ娘定期

一面白だけで扉も窓もない部屋……私、気になります!
さてさて、今回はどうなることやら……
今回もスパッと痛快に決めてくれ!

ここが俺の嫁がいつも暮らしている世界か……感慨深いな……
俺の嫁はこんな所で暮らしてるのか……白一色なんて、許せねぇ……!
↑あなた色に染めてってことなんじゃね?(適当)

96572視聴

 

『白一色で動画映えしなくて退屈……あっ!みみみカメラ寄せて!みんな見えてる〜?あそこにある大きな扉!いかにも何かありますって雰囲気するわね!あそこに入ってみようと思うし!そうと決まれば善は急げ!』

 

意味深なドアキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
絶対なんかあるだろこれ!
世紀の大発見あるか!?

なんかあったああああああああああぁぁぁ!!
すげえええええええええええ!!
ナイスきらら!そのまま突っ切れ!

マジかよ!まだ始まってそんな経ってないぞ!
きららちゃん有能すぎくね?
輝龍院きららにかかれば御茶の子さいさいってか?

今回はかなり楽に行ってんじゃん!俺予言者!
早く入ろうぜ!
↑まぁ待て急ぐな。もう少し余韻に浸ろうぜ

何も無い廊下に突如現れたドア……私、気になります!
さてさて、ドアの向こうはどうなってることやら……
可憐で苛烈かつ痛快に決めてくれ!

神は言っている……ここに俺の嫁がいると……
扉のむこうはきっとあらゆる電子世界に繋がっている……
今行くよ嫁ええええええええええええ!!

128468視聴

 

『けど、どうやってこのドア開けようか……あ!ドアが開いて行くし!なら早く入っちゃうし!みんなしっかり見なさいよ!あーしが#コンパスの闇を暴くんだから!』

 

「それは残念。こっから先は企業秘密なんだ。」

 

えっ誰?
まさかバレた?
ワンチャン罠ある?

今の声何?
えっ何?飲み込めない
解説キボンヌ

きらら逃げて超逃げてぇ!
まさかゆららか?
↑ゆららがこんなに頭良い策使うわけ

逃げてぇ!
何があった?
なんか画面真っ暗なんだけど?

黒い画面の向こうで何が行われているのか……私、気になります!
真っ暗でなんも見えねぇ……
何があった?

PC壊れたかもしれん……
なんも見えねぇけど皆同じ?
米しか見れん

どゆこと?
何が起こった?
今の声何!?

誰の声っ!?
みみみ何とかしてえ
画面黒いまま……

米オフにしてたけど黒くて心配だからオンにした
暗いところに連れてってきららちゃんに酷いことするつもりなんだ!エロ同人誌みたいに!
きらら大丈夫……か?

何があった?
今来た……けどこれどういう状況?
↑初めから見てる俺にもわからん

きららーーーー!!
企業秘密……?
画面黒い!

今の声の主が#コンパスの管理者か……?
だったらそいつが俺の嫁を幽閉してるのか
俺はそいつを殺しに行く。誰か来るか?  ←愚問  ←行かないという選択肢がどこに?

185396視聴

 

配信の画面が唐突に暗転し、視聴者は戸惑いを隠せない。そんな彼らに状況を説明する女性の声がした。

 

──────────────────────

 

場所は変わって#コンパス内部。

ここに来た哀れな侵入者こときららは後ろ手に縛られて転がされていた。

 

転がされていたとは言っても誰もいない場所に放置されていた訳ではなく、きららの目の前にはロードが立っていた。

 

「お前さぁ……もうちょっと冷静になろうぜ?出会っていきなり頸動脈狙って刃物……小太刀か?振り回すのやめような?危ねぇから。」

 

どうやら謎の声はロードのものだったらしい。

ロードのセリフから察するに、きららは不意をつかれた事に驚いたが相手のペースに乗るものかとすぐに攻撃を開始したらしい。

 

この雰囲気だとその試みは失敗し、逆に拘束されたらしいが。

 

『くっ!殺しなさいよ!』

 

「くっ殺とか初めて見たわ。誰が殺すか。お前さぁ、招かれたって自覚ある?」

 

『へっ?』

 

きららがなんとも間抜けな声で返事をすると、ロードは深くため息をついて虚空に呼びかけた。

 

「みみみ〜!お前の相棒もしかして頭悪い?」

 

『え、みみみ!?』

 

【わたしと比べれば悪い〜。やっほーきらら。捕まっちゃった☆】

 

その呼び掛けに答えたのはきららの忍術アプリ開発担当兼動画編集のみみみだった。声はとても朗らかだった。

 

『みみみ!?なんでいるし!』

 

【だから〜招かれたんだって。もともとわたしたちの技術力じゃハッキングとかできないんだよ。わたしもさっきキィさんにそう説明された〜。】

 

『でもみみみ、ハッキングに成功したって言ってたじゃん!』

 

【そこまで全部キィさんのお膳立てだったってわけ。わたしも逆にハッキングされて連れてこられたんだから。】

 

そんなぁ……ときららの元気が急速に萎んでいく。けれどもそんなことなどお構いなしにみみみはきららに言い放つ。

 

【まぁ、楽しむしかないんじゃない?裏を返せばわたしたちは正式に招かれたんだからさ。視聴者の方々は……うん、ちょっと誤魔化さないとだけど……】

 

『そうは言っても……』

 

【ごめんねーきらら。わたし視聴者さん達にも状況説明してるから時間ないの〜。あとは一人で頑張って!】

 

『ちょっ、みみみ!?』

 

【じゃーねー。……ん?なになに?「きららのスリーサイズ教えて」?いいよー。きららは上から…………】

 

『みみみーーー!!』

 

最後に特大サイズの爆弾を残してみみみは通信を切った。きららは半べそで虚空を眺めていた。

そんな彼女を見てロードはきららを縛る縄を切り、立ち上がって言った。

 

「話し終わって状況を理解出来たなら行くぞ。」

 

『……行くってどこに』

 

不貞腐れながらきららが聞くと、ロードはため息をひとつついてから言い放つ。

 

「んなもん決まってんだろうが。お前は招かれたんだぞ?」




どうもお久しぶりです。乱数調整です。

忙しいのが一通り終わってやっとこさ投稿出来ました!新キャラ一発目きらら回です!
以前読んだコンパスSSであった機能がいい感じに使えそうだなと思い使ってみましたが……ルビと違ってコマンドが長すぎて本文がどのくらいの分量があるのか分からなくなりました。本文が短いと感じたらそのせいです。
きらら回が終わったら多分二度と使いません。

そういえばネタ帳に書いた覚えのないきらら回の草案がありました。
曰く「きららはくっ殺」
……狂気ですよね。

次回、社会見学

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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想定の範囲外

『招かれたって言われても、あーしはそんな自覚ないし!』

 

「とか言いつつちゃっかり着いてきてんじゃねぇか。」

 

みみみとの通信が切れた直後、ロードはろくな説明もせずに歩き出した。

きららは初めこそロードについて行こうといなかったが、不貞腐れるのをやめたらしくロードに対する文句を垂れ流しながらもついてきていた。

 

『そりゃそうよ!あーしはあんた達の悪事を暴くために#コンパスに侵入したんだから!』

 

「悪事?」

 

『そうよ!あんた達は人々を誘拐して働かせてるんでしょ!行方不明者がせっかく戻ってこれたのにまた幽閉するなんて何考えてるし!』

 

きららが怒ったような表情でロードを睨めつける。それでもロードの飄々とした態度は変わらない。

 

「そんじゃ、これみたらお前は超驚くんだろうな。」

 

『ほぇ?』

 

そう言いながらロードは扉を開ける。きららはロードの言った意味が分からず素っ頓狂な声を上げた。

そこに広がっていたのは──

 

【きらら!極秘潜入をゲリラ配信しようとして逆に捕まるとは無様だな!】

 

眼帯忍者が天井からミノムシ状態で逆さ吊りにされた景色だった。

 

「あ、ロードくん。もう一人侵入してきた子がいたから捕まえたよ。この子どうする?」

 

【きららどうした?俺がここにいることが疑問か?ならば答えてやろう!俺はお前が配信を始めた直後にお前より先に侵入してやったのさ!侵入経路はみみみが開けていたからな!そしてお前の先回りをしておいてやったのさ!!】

 

「ゆららちゃんさぁ……なんでそんなに自信満々なの?keyくんにあっさり捕まってたよね?ライバルだって言ってるきららちゃんは透明化してkeyくん達の警備すり抜けてたよ?きららちゃんに負けてるよ?ぼろ負けだよ?」

 

楼閣がゆららと呼ばれた忍者を見上げながらそう言う。当のゆららは逆さ吊りをされながらもドヤ顔できららを見下ろしており、マヌケな格好からは想像もつかない自信に満ちた顔をしていた。

 

「…………………………」

 

「………………?ロードくん?さっきから震えながら黙っちゃってるけどどうしたの?」

 

楼閣は黙りこくるロードを心配していた。ロードが黙ることなど少なかったのだ、心配するのも無理はない。

 

自身を心配する楼閣にロードは語りかける。

 

「楼閣てめぇ!俺がちょっと管理者っぽくカッコつけて扉開けたのに、なんでこのタイミングで管理室とメインルーム行きの扉を繋げやがったこのハゲ!!」

 

「誰がハゲだい!私まだ20代でふっさふさでしょ!?あとそんなの知らないよ!!イレギュラーが発生したらどんな状況でもすぐに呼んでって頼んだのロードくんじゃん!!」

 

『??????』

 

きららは自身のライバルであるゆららが逆さ吊りされていたり、冷静沈着な強敵だと思っていたロードが激流のような怒鳴り声をあげたり、#コンパスの管理者がロード一人ではなかったりと、様々なことが起こりすぎて目を白黒させていた。

 

「お前のせいできららが白けてんだろうが!どうすんだよこの空気!」

 

「だったら「不具合が起こったらすぐに呼べよ。」って言わなきゃ良かったじゃない!自分で蒔いた種でしょう!?」

 

【どうしたきらら、さっきから何も言ってこないな。いつもの元気はどうした?…………もしや、とうとうこの俺に恐れをなしたか!?そうならそうと早く言え!いや参ったなぁ。はっはっはっ!!】

 

「うるせぇクソ雑魚忍者!てめぇ捕まってんのになんでそんなに自信満々なんだよ!きららのゲリラ配信も見てるってなんだ!拗らせファンかお前は!!」

 

『うるさーーーーーーい!!』

 

ぎゃあぎゃあと言い合う3人に、ついにきららがキレた。

 

『なによ3人でわけわかんないこと話して!こっちの気持ちも考えて欲しいし!!さっきまでの威厳はどこ行ったし!』

 

【ふむ、確かに#コンパスの管理者だと言うなら風格というものは重要だろうな。】

 

『一番はアンタよゆらら!捕まったうえに逆さ吊りにされてるのになんでそんなに自信満々なのよ!意味わかんないんですけど!』

 

言いたいことを一息で言い切ったからか、きららは肩を上下させて息をしていた。

 

そんなきららの様子を見て楼閣はバツが悪そうに、ロードはもういいやめんどくせぇと言わんばかりにきららの方を見る。

 

ロードは楼閣にアイコンタクトひとつで指示を出す。楼閣は怪訝そうな顔をしていたがロードが顎をしゃくって先を促すと、はいはい、と言いたげに何かしらの操作をする。

その操作の後、ゆららを縛っていた縄が消え失せ、ゆららは顔面から華麗な着地を決めた。

 

ゆららがうらみがましい表情をロードに向けるがロードはそれを鼻で笑って話を始める。

 

「そんじゃ、ちょっと遅いしいろいろグダっちまったけど」

 

そう前置きをして誰かを待ってからロードは言った。

 

「《ようこそ、#コンパスへ》」

 

ロードとキィが声を合わせてそう言うが早いか、ロードの後ろにおびただしい量の画面が現れる。

それらは一つひとつが違う映像を映していた。

 

《世界中のプレイヤーが、あなたを待っています》

 

ある画面はのどかなリゾートの風景を、

ある画面はライブステージの風景を、

ある画面は立体交差のある風景を、

ある画面はとある広場の風景を、

ある画面は辺りが白い風景を、

 

それらのどの画面を見てみても、誰かが絶えず戦っていた。

人対人で戦う者、

人対異形で戦う者、

 

あるものは楽器を演奏し、

あるものは毒を撒き散らし、

あるものは狂気と共に舞い、

あるものは鎌を振り回し、

あるものは楽しそうに切り刻み、

あるものは味方を癒し、

あるものは死者に思いを馳せ、

あるものは歴史の遺物と戦い、

あるものはだるそうに参戦し、

あるものは味方を応援し、

あるものはイタズラを試し、

あるものは花火を打ち上げ、

あるものは理想を追い求め、

あるものは主のために動き、

あるものは退屈を紛らわせ、

 

そしてあるものは、英雄を夢見た少年に付き従う。

 

その画面の中の誰もが目を輝かせ、楽しそうにしていた。

 

その光景を目の当たりにした侵入者たちは一様に唖然とし、画面に釘付けになっていた。

 

『すごい……』

 

きららの口から感嘆の声が漏れる。

その感動にたたみかけるようにロードが説明を始める。

 

「……たしかに、#コンパスは過去に誘拐なり拉致監禁なり言われてもしょうがねぇことをした。けど、それは前の管理者の絶望から生まれたもんだ。」

 

【ほう?今は違う、と?】

 

「あぁ。ここにいる奴らはみんな、俺の呼び掛けに応えて、自ら望んでここに来た。ディープウェブやとある権力からの攻撃がひっきりなしに飛んでくるこの世界に、ただ一人、実在するかどうかすら怪しい相棒(ヒーロー)のためだけにな。ホントバカばっかだよ。愛すべきバカどもだ。」

 

ゆららの質問にロードが苦笑しながら答える。

それからロードは2人を見つめて言い放つ。

 

「これが、今の#コンパスだ。悪事があったか?」

 

『で、でもまだ分かんないわよ!あんたらがウソついてるだけかもしれないし!』

 

「だったら、話してみるといい。」

 

きららがロードに噛み付くが、ロードはそれを軽く流す。その直後、虚空から6人の人が現れた。

 

「ふぃー疲れたぁ……アランお前、あんなむちゃくちゃなオーダーすんなよな……」

 

『吐きそ……ヴォエ』

 

「全く……何時間戦わせんだよ……ま、ボーナス期待してるぞ。」

 

『これで明日も切れる?』

 

「ジャンヌヂャンガダリナイ……フー…………スーハースーハースーハー!!」

 

『ひゃっ!?PRHSさん離れてください!誰か!助けてください!助けて!たす……けて……』

 

ギルド【明色に染まる空(daydream)】の面々だ。ロードは現実と#コンパスの世界を繋げた後もギルドという枠組みを残して部門のように扱っている。

情報のセキュリティ強化やサーバーへの攻撃に対する迎撃などの依頼を貼り出して、ギルド単位での受諾・達成の出来高制で給料を出しているらしい。

なお、副業は自由なため、戦いが苦手な者はファイアウォールの点検や作曲などで稼いでいるらしい。

 

今ネットではシーンガーソングライターのカロネが大人気だ。

 

「おうご苦労さん。結構大変だったろ。元々【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】【壊滅的ナタデココ(カタストロフィロス)】とかの大手に頼もうと思ってたんだが、何やら深層に遠征に行くとかでな……」

 

「マジか……奴らとうとうそこまでやるか…………とまぁそれはいいとして、だ。こいつらなに?」

 

神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】と【壊滅的ナタデココ(カタストロフィロス)】がディープウェブに巣食うハッカー達を滅ぼしに行くというロードの言葉にkeyは驚きつつも、とりあえずは目の前の不可思議を解決しようとロードに質問を投げかけた。

 

「あぁ、こいつは新しくヒーローとして入ってもらおうと考えてる輝龍院きららと、なぜか着いてきた拗らせファンのゆららだ。」

 

【おい誰が拗らせファンだ。】

 

ゆららが苦言を呈するが、その発言をまるっと無視してkeyは話を進める。

 

「へぇ……強いのか?」

 

『舐めんなよ。』

 

【同感だ。】

 

keyがロードにそう聞くと、怒りを顕にきららとゆららが返す。2人はkeyを鋭く睨みつけた。

対するkeyはカラカラと笑って2人の殺気をいなす。その姿からはかなりの余裕が垣間見えた。

 

「あーあ、まぁた焚き付けやがって。毎度毎度、俺ら巻き込むなよギルマス。」

 

「あははー……keyってそういうところあるよね。」

 

それを見た【明色に染まる空(daydream)】の2人は迷惑そうに言うが、自分たちもそれを望んでいなかった訳では無いのが表情から見て取れた。

 

「毎回おかしな方向に行っちゃうねぇ。ねぇ、どうするロードくん?」

 

「……ほんっと、俺の考えてたこととは別の方向に進むな。」

 

《ヒーローの能力を知るには共に戦うのが一番では?気にせずとも三バカなら上手くやりますよ》

 

その場にいた【孤独者達の宴(ロンリネス)】メンバーのうち2人は頭を抱え、後の1人はそれもいいのではないかと2人を宥める。

 

ロードが予想だにしない方向に、歯車は回った。




お久しぶりです……乱数調整です。
リアルが修羅場です……加えてきらら回が1話増えました……なぜ……?

元気に投稿できたらいいなぁと思いながら次の話を書いてます。
次回は早く投稿できるといいな……

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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朝日が昇る新天地

《それでは御三方、準備はよろしいですか?》

 

キィがきららとゆらら、そしてみみみの3人に訊ねる。

場所はトレーニングステージ。ギミックも壁も何も無いステージだ。

 

なぜこのステージかというと

 

《案内が面倒なので》

 

との事だった。

 

そんなキィのきらら達に対する問いかけにゆららが反応を示した。

 

【ちょっといいか?】

 

《はい、なんでしょうか?》

 

【もう一度ルールを確認しておきたい。】

 

《かしこまりました》

 

ルールの確認を求めるゆららにキィは嫌な顔ひとつせず応じる。

虚空に今回の特別ルールが浮かび上がった。

 

 

──────────────────────

特別戦

3対3のポータルキー制圧バトル

制限時間は3分間

明色に染まる空(daydream)】メンバーの三バカは普段と同ルール

輝龍院きらら・ライバル忍者ゆらら・サポート忍者みみみの3人についてはデッキカードルール適応外

上記3名のステータスは現時点での本人の身体機能に依存する。

忍術アプリの使用制限は【火遁:戒天炎龍召喚】【小太刀:柳13斬】【護符:水鏡止水】をHSとして制限するが、その他アプリについては制限は無いものとする。

なお、ステータス上の体力が尽きた場合はスタート地点にテレポートする

 

──────────────────────

 

《以上になります》

 

『つまり、いつも通りってことね!』

 

開口一番きららがそんな何も考えていない発言をする。

 

【甘いぞきらら。今回は時間制限がつく上に奥の手は使えるかどうかすら分からん。】

 

【そだねー。いつもなら水鏡止水で助けられる場面で助けられないことが多くなるから気をつけてね?】

 

きららとは対照的に、ゆららとみみみは仕様をきちんと理解し、自身の得意技が連発できないことを理解する。

 

きららの【火遁:戒天炎龍召喚】は本当に奥の手だからいいとしても、ゆららの【小太刀:柳13斬】はかなり使い勝手が良いために普段から連発しており、みみみも無茶な特攻をするきららのために【護符:水鏡止水】を多用している。

 

ゆららとみみみの2人にとっては手痛いルールだった。

 

『けど、こっちにはハンデがあるんでしょ?らくしょーよらくしょー!』

 

【とはいっても向こうもかなりの手練だろう。油断するなよ。】

 

そう言って忍者3人は気を引き締め直した。

 

《それでは皆さま準備がよろしいようですので》

 

キィがフィールド全体を見て声をかける。

その場にいた全員が、キィの声に神妙な顔で頷いていた。

 

《バトルの始まりです》

 

それが開戦の合図だった。

 

『行くわよゆらら!ポータルキー全部取って完封してやるし!』

 

【言われなくとも、そのつもりだ!】

 

開始早々、きららとゆららは高台から飛び降り、ポータルキーを目指す。

2人が向かっていたのはCポータル。どちらか一方が行けば良かったものの、まだ立ち回りのセオリーが分かっておらず、お互いに対抗心を燃やしている2人にはその考えはなかったらしい。

 

一応、バトル開始前にキィに聞いた「基本的にはCポータルの取り合いになる」という言葉のとおりに、先にCポータルを取ろうと躍起になっているらしい。

 

『忍法、拠点制圧の術!』

 

【ふん、たわいない。】

 

2人がCポータルを制圧した時、【明色に染まる空(daydream)】の3人がまだEポータルとDポータルにいた事を確認したゆららがそう呟く。

自身らの背後ではみみみがAポータルを制圧しており、特に危険はなさそうだ。

 

【きらら、今のうちにBポータルを占領しておけ。ここは俺一人で十分だ。】

 

『い、言われなくても分かってるし!あーしが戻ってくるまで耐えられなかったら許さないんだからっ!』

 

そうしてきららはBポータルへと走っていった。

 

その時、場面は動いた。

 

「じゃ、行ってくるね。【イェーガー】【ドア】」

 

『守ります、急ぎます!』

 

【へっ?!】

 

PRHSとジャンヌが【どこにでもいけるドア】でみみみのいるAポータルを狙った。

 

咄嗟の事で反応が間に合わなかったみみみは惚けた顔でジャンヌを見つめる。

それが悪手だった。

 

「新しいのいくよ!【ワキンヤン】!」

 

『参りますっ!』

 

【支援が……間に、あわ…………】

 

PRHSは#コンパスが現実化してからロードが新たに追加したカードである【ワキンヤン】でみみみをスタンさせながら後方に飛ばす。

その隙を、かつて【不滅の不死(ゴースト)】と呼ばれた男が見逃すはずもなかった。

 

「取って!」

 

『御旗を掲げよ!』

 

みみみが拠点範囲外に飛ばされたのをいいことに、PRHSとジャンヌはAポータルを強引に奪った。

 

PRHSが【不滅の不死(ゴースト)】と呼ばれているのには理由があった。

当の本人は「体力が多すぎて殴ってる実感がない」ゆえの幽霊(ゴースト)呼びだと思っていたが、実際は少し違う。

もちろん不滅の名の通り、その理由もあるのだがもうひとつ、「いつの間にか裏取りをしている」「裏取りの成功率が異常」という特徴から、PRHSは神出鬼没の幽霊呼ばわりされているのだ。

 

ではなぜ裏取りが成功するのか。

理由は簡単、PRHSはフィールド全体を見て、どこに注目が集まっており、どこに注意が向けられていないかを意識せずとも知覚しているからである。

 

その注意の方向理解がみみみへの奇襲を成功させたのだ。

 

「PRのやつ、楽しんでんな。んじゃ、俺達も。【クルエルダー】」

 

『遠くても切れるの無駄なの』

 

【なっ……!?】

 

PRHSの奇襲が作った動揺に漬け込んで、レイアがゆららを引き寄せる。

ゆららはスタンをくらったみみみの方を向いていたため、レイアの方を見ていなかった。

 

「落とせ!【メカ犯】!」

 

『省みる返り血最高……!』

 

乃保の【とある家庭用メカの反乱】によりゆららの体力がガリガリと削れる。

ゆららの青の体力ゲージがどんどん灰色に染まっていき、

 

【チッ……ぬかった、か……】

 

《味方が倒されてしまいました》

 

そこまでの時間がかからずにゲージは全て灰色に染まった。

 

『ゆらら!?ちょっ、手練がいるなんて聞いてないわよ!』

 

ゆららがいともたやすく倒されたことにきららは驚きを隠せなかった。

腐ってもライバル忍者であるゆららの優秀さは、単にきららの真似をしているだとか忍術アプリの性能によるものだとか、そのような性質ではないことをきららは知っている。

 

それゆえにきららは大きく動揺したのだった。

 

『みみみ!そっちは!?』

 

【ごめん取られた〜。私はCポータルに行くから、きららはBポータル取ってて。】

 

ジャンヌに少し攻撃をしてみるが、ほぼ全くと言っていいほど減らない体力ゲージを見てみみみはすぐさまCポータルに向かう。

 

『でもCポータルって1番領域小さいポータルよ!?』

 

【分かってる。でも、Cポータル取られたら地形的に奥に攻め込めなくなる。Aポータルに援軍が来たら私たちの負けだよ。それに、Aポータルに躍起になったらBポータルも取られて状況はサイアク。とりあえず一つ安定させるよ。】

 

それでも、みみみは優秀なサポート忍者なのだ。

彼女はステージの地形を瞬時に把握し、いま優先すべきことは何かを順位をつけてリストアップしていった。

 

彼女の戦法は理にかなっている。

確かに【明色に染まる空(daydream)】の3人は早くに攻め込みすぎてEポータルとDポータルはろくに広がっていない。

Cポータルを取られ、Aポータルが安定し、そのうえ裏を広げられたら勝ち筋はなかっただろう。

 

しかしCポータルを抑えておけば、【明色に染まる空(daydream)】の3人もジャンヌを置いておいそれと裏を広げに行けず、かといってCポータルの強行突破もまだきらら達の力量がわかっていない以上裏まで失うリスクを背負う。

 

シンプルゆえに裏に回りやすいトレーニングステージならではの戦略だった。

 

【グズグズしてる暇はないよ〜。】

 

『分かってるし!さぁ、ここから反撃開始よ!』

 

みみみはCポータルを守りに行き、きららはみみみの戦略通りにBポータルを制圧した。

そのタイミングでゆららが戦場に舞い戻る。

 

【ふん、生きてりゃまたチャンスはあるさ。】

 

『ゆらら!ポータル領域広げるし!』

 

【言われずとも!】

 

ゆららがBポータルにやってきた時点できららはゆららにBポータルを託し、Aポータルにちょっかいをかけに行く。

そうしなければD・Eポータルが安定されてしまうからだ。

 

Aポータルのジャンヌが危うくなれば、乃保か13のどちらかは必ず援護に来る。

そうすれば、裏取りができる可能性も増えてくる。

きららもそれなりには策士なのであった。

 

『見敵必殺!』

 

『きゃあ!』

 

『支援アプリ起動!』

 

きららは真正面からジャンヌに近づき、直前でジャンプして落下攻撃をあたえる。ジャンヌはそこまでダメージにならないだろうと考えているからか特に避けることも無くその攻撃を余裕を持って受け止める。

 

そんなジャンヌの余裕を見てか、出し惜しみをしている暇はないと考えたきららは即座に支援アプリを使用する。支援アプリはきららの持っている短刀の重みを軽減し、切れ味を増すことできららのDPSを高める。

きららの短刀がさらに鮮やかに輝いた。

 

「攻撃バフ、ね。ジャンヌちゃん!」

 

『参ります!』

 

『!土遁:障壁アプリ起動!!』

 

きららのDPSが上がったことをなんとなく察知したPRHSはその一言でジャンヌに【ワキンヤン】の使用を頼む。ジャンヌもその意図を十全に把握し【ワキンヤン】をきららに向けて放つ。

 

しかしきららも世界を裏で支配する忍者クラブの頭領、ジャンヌが旗を下に下ろした瞬間に何かが来ることを即座に理解して、太ももに仕込んでおいた【土遁:障壁アプリ】の緊急起動スイッチを殴りつけるように押す。

 

障壁によって【ワキンヤン】のスタンは無効化された。

 

『きっつー……』

 

『いざ!』

 

きららはギリギリのタイミングで障壁が間に合ったことに安堵しながらも、これからもあのレベルの読み合いがあることを理解して愚痴を漏らす。

そもそも目の前のジャンヌすら旗を掲げた自己回復できららの攻撃を受けきれているのだ。

 

それもこれも──

 

「アプリは併用できないんだね。」

 

『…………っ!』

 

これのせいだ。

支援アプリで上げた攻撃力だったが、ジャンヌの【ワキンヤン】を受けるためにエネルギーを障壁に回したため、支援アプリの効果が切れてしまったのだ。

 

けれど支援アプリを使い直すにしても、もう緊急用障壁アプリ展開スイッチは使えない。

またあのみみみを行動不能にした攻撃をされては障壁アプリが起動出来ない可能性がある。

 

『それは避けなきゃね……!』

 

【ワキンヤン】できららが対処可能なのであれば、わざわざ援護に来なくとも裏を大人しく広げておけばいい、との結論に敵が至れば、きららは放置される可能性が高い。

 

そうなれば、多少流れは違えどきららの描いた逆転不可のシナリオ通りになってしまう。

 

しかし、現在の受けきれている状況も放置で良いとなりうる。

 

だったらきららが取るべき行動は、

 

『避けるっきゃないわね!支援アプリ起動!!』

 

「ジャンヌちゃん、【イェガ】。花火は後で。」

 

『守ります。』

 

きららは細い勝ち筋を掴むため、リスキーダイスを躊躇いなく振る。ジャンヌを倒す、もしくは窮地に陥らせるまでに一度でも【ワキンヤン】を喰らえば消えてしまうような細い勝ち筋を求めて。

 

結果、それに合わせられたカードは障壁。

何かの都合で【ワキンヤン】が使えなかったのかブラフかは知らないが、きららは第一のリスキーゲームに勝った。

 

『いける!スパスパっと──』

 

『伏せろーー!!!』

 

そう思った瞬間だった。

きららは誰かにそう言われて攻撃を中断し、声の言う通りに慌てて屈む。

 

屈んだきららが見たものは、

黒い羽を撒き散らし、仮面で自らの本心を隠した堕天使と

屈んだ自身の目の前に、猛スピードで迫りくる赤い鎌。

 

『ぎゃんっ!』

 

『おー、大将!見たか今の?ギャグ漫画みたいに吹っ飛んだな!はっはっは!』

 

13だ。

きららはアタッカーモードの13のヒーローアクションで体力を半分以上減らし、ステージ端に追いやられた。

 

「いいから次だ。やれ。」

 

『せっかちだな。せっかちな男は嫌われるぞ?』

 

「一回負けてんだ。お礼くらいはしないとな。」

 

『はーヤダヤダ、なぁんか熱くなっちゃって。』

 

体勢を立て直したきららが見たものは、楽しそうに笑う赤い鎌の持ち主と、冷静に次の指示を出す、自分たちに啖呵を切った男だった。

 

『な、な、なんで!?』

 

『伏せろー!!!』

 

状況がのみ込めないきららを見て、13は一瞬キョトンとしたものの、言葉の意図に気づいたらしく、性格悪くもニィィと口を歪めてヒーローアクションを放つ。

 

その瞬間、きららは全てに気がついた。

先程の声は目の前の堕天使のものであり、攻撃をより効果的に当てるためにわざとブラフを張ったのだ、と。

そして、思いのほか焦っていた自分はそれにまんまと引っかかったことも。

 

『に、に、逃げんなよ!あーしの本気で潰してやる!』

 

『おーおーやってみな、オジョーチャン。』

 

ヘラヘラと笑って応える13を見ながら、きららはスタート地点に戻される。

 

その途中できららは見た。

ライバルの準備が整っていたのを、確かに見た。

 

『そんなカッカすんなって相棒。今のでファイアウォール抜けられた件はチャラだろ?』

 

「まぁな。ここでボコしとかねぇと後でアランに何言われるか分かったもんじゃねぇし。」

 

【奇遇だな、俺もだよ!!!】

 

咆哮一発、ゆららが地を蹴った。

それまで余裕綽々でくっちゃべっていたkeyと13はその咆哮を聞いて声のした方を見る。そちらからは自分たちがファイアウォールで捕縛し、先程もレイアがボコしたゆららがなんの考えもなしに突っ込んできていたのが見えた。

 

『なんだアイツ?』

 

「さぁ?」

 

keyと13はかなり余裕そうにゆららを眺めていた。

しかし、PRHSはなにかただならぬ気配をゆららの気迫から感じ取った。

 

「ジャンヌちゃんHS使って!!」

 

『理由は聞きません……死を斥けます!』

 

「どうしたPR?」

 

「なにか来る……!key、HS使って!」

 

「だってよ。」

 

『お前はどう思うんだよ?』

 

「正直、今使うより回復のために温存したい。」

 

『ま、オレは大将を信じるぜ。』

 

13がヒーロースキルを使わない選択をした時、ゆららが動いた。

 

【駆け抜ける!】

 

ゆららが叫ぶと同時に、その身体は砲弾のように撃ち出される。ヒーロースキルを使い終わり、なせか【花火】を連続で切ったジャンヌと、ダメージカットがなく、回避行動をやっと始めた13を一閃した。

 

しかし、ダメージはそれほど入らない。

 

「なんだ?ダメージ入らねぇじゃねぇか。」

 

『コイツの勘、珍しく外れたな。』

 

keyと13がそう言った時、ゆららが手に持っていた小太刀を納刀する音が聞こえた。

透き通るように高い金属音を響かせたそれに紛れて、ゆららは密かに呟く。

 

【小太刀:柳13斬】

 

その瞬間、13とジャンヌにおびただしい量のダメージが入った。

一撃一撃は軽く、400程度の威力しかないがガードも防御バフも貫通する、神速の13連撃が。

 

ジャンヌは持ち前の体力と【花火】の持続回復で何とか耐えたが、13は即座に体力を削り切られてポリゴン片と変わる。

 

『今のは痛かった……ちょっとな……』

 

『危なかったです……!』

 

【一人仕留め損ねたか……!まぁいい。すぐに片付ける!】

 

ジャンヌが倒れておらず、徐々に体力が回復していく様子を見たゆららは、即座にムーンサルトでジャンヌに追撃を入れる。

 

【すべて断ち切る!】

 

『この程度……っ!』

 

ここを乗り切れば勝てる。

そう考えてジャンヌを攻撃していたゆららは、周りが見えていなかった。

 

自身のすぐ隣にいた堕天使に、

先程倒したはずの堕天使に、

 

気づくことは無かった。

 

『さっきのは痛かったぜ。お礼をしなきゃな!』

 

【なっ!?お前はさっき……!】

 

「【フルーク】!」

 

『考えんな、感じるんだ!』

 

【護符:水鏡止水!】

 

13の【フルーク】がゆららにヒットする寸前、みみみはこのバトルで制限を受けていた【護符:水鏡止水】を発動させる。

 

ゆららの前に障壁が現れ、13の【フルーク】を受け止める。ダメージを完全に遮断したそれは、ゆららに幾ばくかの余裕を与えた。

 

【すまないみみみ。助かった。】

 

【ま、今は味方だから〜】

 

「ぶっ込めさっちん!【カノーネ】!」

 

『よそ見してんなよ?隙だらけだ!』

 

【ぐぅ……っ!】

 

みみみに支援の礼を伝えるゆららだったが、keyはその余裕を許さない。

すぐにダメージカット障壁を無惨に散らす【カノーネ】をゆららに打ち込む。【護符:水鏡止水】のガードは2秒と展開されることなく割れた。

 

【隙を見せたらすぐこれだ……ん?】

 

体力が2割を切ったゆららは撤退を考えるが、すぐに自身の異変に気づく。

体力が回復していたのだ。

 

量は少ないものの、ジワジワと少しずつ体力が全快に近づいていく。

 

「あの回復量……【打ち上げ】かよ。」

 

『どうするよ、相棒?』

 

「押し切る!」

 

『だと思ったぜ。』

 

ゆららと13の大立ち回りが始まった。

 

その一方、きららは息を殺して移動していた。

 

『迷彩アプリ起動……』

 

相手は手練だ。いつもみたいに魅せる戦いをしては勝てない。

そう考えたきららは迷彩アプリを使って敵陣に切り込む。

 

狙うべきポータルはEポータル。相手の唯一広がっていないポータルキーだ。

 

『ごめん、ゆらら、みみみ。でもあーしたちは勝つわよ……!』

 

きららは小声で呟きながら戦場を誰にも気づかれず駆け抜ける。

 

敵の堕天使と聖女はAポータルでゆららと立ち回っており、Cポータルではみみみと女子高生が睨みあっている。きららの行動に気づく者はいない。

 

『いける……っ!』

 

きららはポータルキーに手をかけ、制圧モーションに入った。

 

『忍法、拠点制圧のじゅ……』

 

「そこか。【クルエルダー】!」

 

『それで逃げたつもり?』

 

しかし、拠点制圧を始め、迷彩アプリが中断された瞬間にきららは引き寄せられる。

引き寄せられた先には、先程までみみみと睨みあっていた女子高生がいた。

 

『なっ!?』

 

「さっきは透明化して抜けられたらしいからな。見えずとも撒いていたエサ(広がっていないEポータル)に食いついてくれて助かったよ。やれ。」

 

『顧みる返り血最高……!』

 

その一言できららは全てを察した。

誘導されていたのだ。おそらくは、最初から全て。

 

ダウンしたきららに無慈悲な【メカ犯】が突き刺さる。

 

きららを削りきるにはそれで十分だった。

 

「借りは返したな。」

 

『笑って?ほら笑ってよ。』

 

きららの作戦は失敗し、またスタート地点に戻された。

 

そして、

 

そこからは終始一方的な展開でバトルは集結した。

 

 

──────────────────────

 

『きっつー……』

 

【これは……なかなか……だな。】

 

【うーん……戦いながら支援って難しいな〜。】

 

かなり一方的にやられてグロッキーな3人が、Cポータルを背に倒れ込んでいた。

 

「おー、おつかれ。結構強かったぜ?」

 

【あんなに……ボコボコにしといて……何を……】

 

keyが3人に向かって本心からそう言ったが、ゆららはその言葉に猜疑心むき出しで応える。自身はかなり消耗しているのに、keyが息ひとつ切らしていないのも原因の一つかもしれない。

 

「いや?たしかにお前ら結構よくやってたよ。」

 

【えー……そうなの?】

 

どうすっかなぁ……とkeyが頭を抱えていたのを見かねてか、ロードがそうバトル参加者達の会話に混ざった。

みみみはロードのそのセリフを少し胡散臭そうに訊ね返す。

 

「あぁ。そいつら、100対3を勝ち上がったような奴らだからな。」

 

その疑問にロードはしれっと答えた。

 

『……あんたバカァ?』

 

「何がだよ?」

 

『そんな人たちといきなり戦わせんなし!いじめんなバカー!!!』

 

「知るか。そもそもお前らが勝手に戦い始めたんだろうが。」

 

『うっ……』

 

きららがロードにそうくってかかるが、ロードは自分たちの責任だろうと冷たく突き放す。

きららはkeyの挑発に乗って自分から戦うと言い始めたことを思い出してぐうの音も出なくなってしまった。

 

【あ、そうだロードさん。どんな感じになった?】

 

『……みみみ、【どんな感じ】って何が?』

 

【さっきのバトル。実は配信してたんだぁ〜。】

 

『ちょっ!?』

 

みみみの落とした特大の爆弾に、きららは動揺を隠せない。

 

きららは忍者クラブの頭領なのだ。

無様を晒せば下からも世間からも「大したことはない」と舐められる。

ただでさえフィジカルが重要な忍者において、女性であることはそれだけで舐められる要因となりうるのだ。

 

だからきららは柔軟性や小柄な点、体重の軽さなど、女性ゆえの強みを磨いた。

強みさえあればフィジカルで負けていても他の部分で勝てる見込みがある。

 

けれど、それだけでは強さを強調できない。

だからきららは配信をした。

 

女性ゆえに「弱い」と舐められるのであれば、「弱い」と思わせないような姿を見せつけてやればいい。

自分の強さを見せつけられれば、忍者クラブの下のものも自分についてくる。

 

それが輝龍院きららが忍びなのに忍ばず、配信をしていた理由だった。

 

それなのに、自分が無様に負けた配信をされては今まで築いてきたイメージが総崩れする。

ヤラセ疑惑や格下狩りしかしない卑怯者とのレッテルをはられるかもしれない。

 

それをきららは恐れていた。

 

「あぁ、大好評だぜ。見てみろよ。」

 

そう言ってロードはきららに画面を見せてくる。

きららはそれを恐る恐る覗き込んだ。

 

待て待て敵強すぎんだろ!?
いやでも、案外いい勝負だったんじゃ?
最初に想定外で驚かせた以外はそんなにじゃね?

最初にペース持っていかれたな〜
ってか制限あったの厳しくね?
解説キボンヌ

敵強スギィ!
廻天炎龍使えないの厳しくね?
ゆらら案外強いな

みみみが戦ってんの新鮮
SUGEEEEEEE!
良いもん見せてもらった。GG!

今回戦った人達は誰なのか……私、気になります!
惜しかった!
敵が1枚上手だったな

初手でペース持ってっただけだから、次は勝てるだろ
まぁきららちゃんなら次は勝てるよ
また見たいのは俺だけ?

安心しろ、俺もだ
惜しい!
あの女子高生強ない?

土遁上手かった!
みみみの援護超強い
ゆららはポンコツだと思ってたがこれはなかなか……

緊急時の対応まで考えてるの普通にすげぇな
たまにはこういうのもいいな。頑張ってる感じがして
初見です。この人ら強すぎくね?

敵の動きがうますぎんだろ……
今来た……けどもう終わってんじゃん!
アーカイブ残してぇぇぇぇ!!!

ポンコツだと思ってたが……違ったんだな……
頑張った……お前はホントに頑張ったよ……
また見てぇ……シリーズ化はよ

なかなか楽しませてもらったぞ、雑種!次は我と勝負だ!
いい筋肉だ。今度一緒にトレーニングをしよう
地 獄 へ よ う こ そ

聖女様かわえぇ……
聖女様ぺろぺろしたい
俺は彼女を嫁にする。異論はあるか?  ←死ね  ←は?俺の嫁だふざけんな

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そこにあったのは、きららの善戦を称えるコメントやまたこの戦いを見たいというリクエスト、果ては敵が強すぎたんだとkey達を称えるようなコメントばかりだった。

 

予想外の出来事に、きららは目を見開いて驚く。

 

「で、どうする?」

 

そんなきららにロードが問いかけた。

何を聞かれているのか、きららには分かった。

 

【私は行くよ〜。忍術アプリの開発が進みそうだし!】

 

【俺もだ。あのkeyとかいう奴にお礼をしなければな。】

 

多少困惑気味に残りの二人の方を見ると、二人はきららに【まだ決めていないのか】と言いたげにそう返した。

 

2人の反応で、きららの腹は決まったらしい。

 

静かに頷くきららを見て、ロードはきららに言い放つ。

 

「なら、次回配信予定を視聴者に伝えてやれよ。」

 

『わっ、分かってるし!』

 

そう言うときららはぐしぐしと目を擦ってカメラを呼び寄せる。

 

『ハロハロー!今回は残念な結果だったけど、次は負けないしー!次回までにもっとセオリーを学んで次は勝つわよ!次回は……そうね、タイトルは【戦ってみた】!いっぱいコメントしなさいよ!』

 

配信はそこで途切れた。




お久しぶりです、乱数調整です。

今回はきらら回の終わりです。なんとか終わらせることが出来ました!かなりぶっ飛ばした感があるものの、SSの範疇は超えたくないという私の好みと、もう1話増やしたくないという私の願望の折衷案です。

ちなみにゆららとみみみの描写が多めなのは、私がほぼきららを使ったことがないからです。しょうがないね、スプはコクリコしか使わないもんね。

さてさて、皆さんツッコミたいとは思いますがあいやしばらく。
今回のロリ#コンパス捏造ヒーロー【ゆらら】と【みみみ】についてです。
設定としては【ゆらら】がアタッカーの【みみみ】がタンク。
ヒーローアクションは【ゆらら】がバックステップで前方と着地点の相手にダメージ、【みみみ】は自分のカードを味方に使える、という効果です。
アビリティは【ゆらら】が「敵陣で攻撃バフ」【みみみ】が「HAの回復量増加」です。
設定を作ったはいいものの、使ったのはゆららHAだけというアレ……
使う予定だったんですよ?予定はあったんですけど長くなりすぎたのでカットしました。
運営さん、そのまま使ってくれてもいいのよ?

そして今回のツッコミどころ【小太刀:柳13斬】と【護符:水鏡止水】です。
これを読んだ方々の中には「おいおい乱数、【柳13断】だろうが」とか「おい待て、【明鏡止水】だろ?」と思った方も多いと思います。
誤字じゃないですよ?

意図としては「まんま使うのは嫌だな」という私の私による私のための好みです。
言わなくてもいいかとは思ったのですが、執筆画面を見た妹に「【水鏡止水】じゃなくて【明鏡止水】だぞ」とつっこまれたので一応。

次回はこのSSを書いている途中に書き上がった、この話を書いたら書こうと思っていた話です。どうしてこうなった?

次回、夢から醒めてもう一度

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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初めてはあなたと

決めていた。
私の初めては、
これだけは、何年かかろうとあなたと共に。


ある日の夕暮れ。

管理人室の1つ、【トラブルサポートセンター】と書かれた札がかかっている部屋の前に、1人の少女が立っていた。

 

否、その少女はもう少女ではない。3年という月日が少女を大人にしていた。

 

「……………………」

 

彼女は少しだけ緊張した面持ちで【トラブルサポートセンター】の扉をノックする。

 

「………………?」

 

返事がない。

彼女はもう一度、今度は少し強く扉をノックした。

 

「………………ぁぇ?」

 

「………………!」

 

中から気の抜けた声がする。その小さな声を彼女は耳ざとく聞き、中の人物に話しかける。

 

「楼閣……さん……起きて、ますか……?」

 

「………………ねてた」

 

「すぐに……済みます、から……少し……いい、ですか……?」

 

「んっ……!はぁぁ…………」

 

そうカロネが扉越しに尋ねるが、楼閣の返事は鈍い。

かなり眠りが深かったのか、扉の奥からは身体を伸ばしているような吐息が聞こえる。

 

「お疲れ、なら…………また……」

 

「いや、大丈夫だよ〜。とりあえず来てた分の書類は全部終わらせて休憩してただけだから。」

 

遠慮して帰ろうとするカロネにそう言いながら楼閣は【トラブルサポートセンター】の扉を開ける。楼閣はワイドなチノパンにシャツとカーディガンというかなりラフな格好をしていた。

 

扉の奥に見える部屋の中は整頓されており、入って右側にはリビングが見える。リビングの中央には【人をダメにするクッション】が、壁側には本棚がたくさん置かれていた。

扉を中央としてリビングの反対側にはダイニングがあり、大きな机と小さなキッチンがあった。

 

もっともその机の上には書類が散乱しており、そこだけが部屋の中で唯一散らかっているので、ひときわ異彩を放っていた。

 

「こんな時間に来るなんて珍しいねぇ。まだ夕方だよ?」

 

「……!……お邪魔……でしたか……?」

 

「うーん……そうじゃなくてね。いつもはギルドホールで晩御飯食べる時に会う事が多いからねぇ。」

 

楼閣は言外に「そこまで急ぎの何かがあるのか」とアイコンタクトを送る。彼女──カロネはそれに目ざとく気づき、首を横に振った。

 

「いえ……ただ……ちょっと……」

 

カロネはもごもごと口を動かす。

楼閣はカロネが口下手な事を知っているので、カロネをとりあえず部屋に招き入れた。

 

「あー、ベガちゃん?この書類持って行ってもらってもいい?」

 

《分かったよっ!アランさんのとこでいいんだよね?》

 

「うん。お願いね。ささ、カロネちゃん、座って座って。」

 

「え?……ですが…………」

 

「まぁまぁ。私もカロネちゃんに用事あったしちょうど良かったよ〜。」

 

「用事……?私、に……?」

 

楼閣は少しバタバタしながらも散らかっていた机の上を片付ける。

カロネは部屋の中の様子を一目見て部屋に入ることを遠慮するが楼閣はカロネが本心を隠してでも他人を優先することを知っている。

楼閣は有無を言わせずにカロネを部屋へと招いた。

 

「うん。だってカロネちゃん、今日誕生日だったでしょ?」

 

「…………!!」

 

その一言でカロネは息を呑む。

 

まさか楼閣が知っているとは思っていなかったから。

まさか楼閣が何かをしてくれるとは思っていなかったから。

 

「だからはいこれ。プレゼントだよ。」

 

「あ、ありがとう……ございます……!」

 

カロネは楼閣から渡されたそれを大切そうに抱きしめる。表情は一面喜色に彩られており、それを見ている楼閣の方まで表情が綻んでいた。

 

「さて、私の用事はこれだったんだけど、カロネちゃんは?」

 

カロネがプレゼントをポーチにしまったのを見て楼閣がそう切り出す。

カロネの肩がひとつ跳ねた。

 

「あの……ひとつ、だけ……お願いが…………」

 

「なぁに?」

 

息を大きく吸い込み、カロネは自らの願いを口にする。

 

「一緒に……お酒を……飲んで、もらえませんか……?」

 

楼閣がぱちぱちと瞬きをした。カロネはギュッと目を瞑り、答えを待っている。

 

少し考えてから楼閣は合点がいったとばかりに呟いた。

 

「あぁ……そっか。3年経ったんだっけ。」

 

「はい……今日で……20歳です……」

 

カロネが楼閣の方をちらりと見る。

その目は少しだけ、不安そうだった。

 

「でも、なんで私なの?カフカちゃんとか親御さんとかはいいの?」

 

「陽菜乃は……誕生日、まだですし……父が、お酒好きで……たくさん……飲まされそう、なので……楼閣さん……なら……大丈夫かな……って……」

 

「あはは〜。随分と信頼されてるんだねぇ。」

 

楼閣は困ったように笑いながらそう答えた。

カロネは俯いて答えを待っていた。

 

(まだ、続いてるのか。)

 

楼閣はカロネの自分に対する信頼を、ある意味では信じていなかった。

 

[自分がカロネを助けたから、カロネは自分を信じているだけだ]

 

楼閣はカロネの信頼をそう評価していた。

カロネの信頼はある種の白昼夢だと、そう考えていた。

 

カロネたちが現実と#コンパスを繋げようとするまでは。

 

(やれやれ、うちのギルメンは頑固な子ばっかりだねぇ。)

 

知っている。そこまで楼閣は愚鈍ではない。

カロネが自分のことを慕っているであろうことなど、ましてやそれが彼女の白昼夢だろうがそうでなかろうが関係ないところまで来ていることを、現実(あちら)#コンパス(こちら)が繋がった時に見た彼女の表情で知っている。

 

(でも、それには応えられない。こればっかりはダメなんだよ。)

 

楼閣は内心だけで、そう呟いた。

 

「いいよ。せっかくの成人祝いだからねぇ。」

 

「…………!!いいん……ですか……!?」

 

「ギルド入った時も同じこと言ってたねぇ。」

 

繰り返し確認するカロネに楼閣は苦笑しながらそう返す。

カロネは机の下で嬉しそうに両手をにぎにぎしていた。

 

「たーだーし、」

 

嬉しそうなカロネに楼閣が水を差す。カロネが不安そうな顔で楼閣の方を見た。

 

「飲みすぎちゃダメだよ。自分の飲める限界なんて、本来は知らなくていいんだよ。限界まで飲んじゃうくらいの雰囲気の中で飲むのは本来はまずいんだからね。」

 

「………………」

 

楼閣があまりに真面目な顔でカロネを慮るものだから、カロネは驚いてしまった。

無理やり自分が押しかけて、断れないようなことを言った時でも楼閣は他人を優先するものだから、カロネは少しおかしくなってしまった。

 

「…………ふふっ……!」

 

「あー、カロネちゃんいま私のこと笑ったでしょ?」

 

カラカラと2人は笑う。

カロネは心の底から楽しそうに

楼閣は場を和ませるために

 

ベガに酒類の買い出しを頼み、2人の酒盛りはゆるゆると過ぎていった。

 

 

───────────────────────

 

「どうしよう……」

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルドホールの扉の前で、少女が一人悩んでいた。

 

否、その少女はもう少女ではない。3年という月日が少女を大人にしていた。

 

「むむぅ……」

 

彼女は少しだけバツが悪そうな顔で扉の前をうろうろしていた。

 

「あーもう!考えててもしょーがない!かやちゃんのためだもん!」

 

彼女はえいっと気合を入れて扉を開けた。

 

「たっだいま帰りましたー!」

 

「おせぇぞカフカ。」

 

カフカが扉を開けると、奥からロードの声がする。

その声は少しだけ怒気をはらんでいるようにカフカには聞こえた。

 

「遅いですよカフカさん。今まで何してたんですか?」

 

「いやー……それは……ちょっと……」

 

波羅渡に訊ねられてカフカは言葉に詰まった。

カフカは知っている。幼なじみのカロネは楼閣に恋情を抱いていることを。

 

そして、初めてお酒を飲むのは、それがたとえ何年かかろうと楼閣と一緒がいいと言っていたことを。

 

「今日はカロネさんの誕生日なんでしょう?あまり遅くまで連れ回したらいけませんよ。」

 

波羅渡のその言葉を聞いて、カフカの肩がひとつ跳ねた。

 

この人たちはカロネを祝うつもりなのだろう。騒がしいのを好まないカロネが疲れない程度に祝うため、あまり遅くまで連れ回すなと言っているのだろう。

 

カフカはそう考えていた。

 

(言いづらいなぁ……)

 

カフカは悩んでいた。カロネが今日、楼閣と酒を飲むために楼閣がいる【トラブルサポートセンター】に向かったことは知っている。誰の邪魔も入らないようにとカフカが助言したためだ。

 

そして、

 

大切な幼なじみのために【孤独者達の宴(ロンリネス)】のメンバーは何とか丸め込むともカフカは言っていた。

 

だから余計に言いづらかった。

 

「何してんだカフカ?はやくこい。」

 

「あ、はい!」

 

玄関でずっと悩んでいたカフカはロードの呼び掛けでリビングに入る。

 

「……え?」

 

「何ボケっとしてんだ?お前の分のメシ作ったから早く食え。」

 

そこでカフカが見たものは、いつもと何も変わらない日常風景そのものだった。

 

「え?なんで?……なんで!?」

 

「あ?なんでってなんだよ?別にいつも通りだろうが。」

 

カフカが混乱してロードにそう訊ねるが、ロードは「おまえは何を言っているんだ?」と言いたげな表情でカフカを見ていた。

 

「いや、だって今日……」

 

「カロネの誕生日、か?あいつはどうせ楼閣んとこ行って酒飲んでくんだろ?だったら別になんもいらねぇじゃねぇか。あ、もしかしてお前、このこと知らなかったとかか?」

 

てっきりロードがまた張り切って唐揚げやらなにやらを用意しているものだと思った、とカフカは言おうとしたが、それを察したロードはその必要はないだろうと返す。

 

口をパクパクさせて驚くカフカに波羅渡がジト目で質問する。

 

「……もしやカフカさん、それ知らずにカロネさんを一日中連れ回したとかじゃないですよね?」

 

「いやいや!してないですしてないです!」

 

「ならいいですけど……」

 

慌てて否定するカフカだったが、少しだけ疑問が浮かぶ。

 

「……っていうか、なんでおふたりとも知ってるんですか?」

 

「「勘(です)」」

 

少し呆れたような顔をしたロードと好青年な笑みを浮かべた波羅渡が同時に言ったものだから、カフカはおかしくなって吹き出してしまった。

 

「ははははは!」

 

「……あ?どこに笑う要素があったよ?」

 

「す、すみませ……あははははははは!!」

 

カフカの笑いはしばらく止まらなかった。

それは安堵のためだろうか、それともあたふたしていた自分がおかしくなってだろうか。

 

ともあれ、カフカは平静を取り戻したことでいつもの爛漫さが戻ってきた。

 

「じゃあ今日はギルマスいないんで、テレビ見ながらご飯食べましょー!」

 

「いいですね。」

 

「あー……ま、今日くらいはいいか。絶対楼閣には漏らすなよ。」

 

「やったぁ!じゃあ【パパした】のブルーレイ持ってきますね!」

 

「それはやめろ。」

 

「えー!?なんでですか!?」

 

「どうせBLだろ?」

 

3人の夜はゆるゆると過ぎていった。

 

 

───────────────────────

おまけ

盾と夢魔の深酒

 

「……で、なんでだ?」

 

「何が?」

 

「カロネ。どうしてそう頑なになる?」

 

「当たり前でしょ?私は24の院生、あの子は17の高二。7歳差あったんだよ?」

 

「でも、今は4歳差だろ?」

 

「……だったらなおさらだよ。」

 

「いつ言うんだ?」

 

「……言わない。言ったらあの子は、また無茶をするから。」

 

「……ま、いつまでもっての無理だって分かってんだろうけど?」

 

「………………」

 

「あいつが気づくまでにな。」

 

「分かってる。いつか、必ず。」




先程ぶりです、乱数調整です。

なんか投稿したくなったのでしちゃいました。1週間後くらいのつもりだったんですけどね。
だって1週間後にしたら間がそこまであかないからね!(天:おい)

ネタ帳の「月が綺麗だね」をかける形でなんとかしたらこうなりました。全ては楼閣とカロネが好きすぎる私が悪い。

そして絶妙に空気を読めるロードくん。成長しましたね。
これから楼閣はカロネをどうするのか、私が一番楽しみです。だって決めてないもの。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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新番組─愛と美の伝道師─

アバン

 

世界は暗かった。

誰も彼もが沈んだ顔をして、愛だの恋だの言っていられないような状況だった。

 

不況ゆえだろうか?それとも文明が発達して文明に振り回されるようになった?

 

分からない。

 

けれど、その中でもある特徴を持った人達はさらに迫害されていた。

 

街を歩けば異常者だの気持ち悪いだの罵声を浴びせられ、この世に居場所は少したりともないような気がした。

 

だから、

 

こんなバットな世界(チェリーパイ)にワテクシは愛と美を伝えに行ったの。

 

────────────────────────

 

オープニング〜チェリーパイの歌〜

 

チェリーパイ♪ チェリーパイ♪

チェリーパイ♪ チェリーパイ♪

みんな大っ好きっ♡ チェリーパイ♪(チェリーパァァイ!)

 

テカテカ真っ赤に サクサクこぼれて

ヨダレもジュルジュル さあ一緒にかぶりつこう!

 

チェリーパイ♪ チェリーパイ♪

チェリーパイ♪ チェリーパイ♪

 

出来立て焼きたて チェリーパ〜イ♪(チェリーパァァイ!)

 

ガツガツ仕込んで ジュージュー焼きつつ

お腹はグーグー さあ一口で飲み込もう!

 

チェリーパイ♪ チェリーパイ♪

チェリーパイ♪ チェリーパイ♪

 

みんな大っ好きっ♡ チェリーパイ♪(チェリーパァァイ!)

 

────────────────────────

 

Aパート

 

「ワテクシは美の化身、ヴィーナス・ポロロッチョ!

「バットなチェリーパイ達に愛と美を伝えるために、世界中を旅しているわぁ♡

 

「その甲斐あって、ワテクシは世界中全てを回って愛と美を伝えることに成功したの。

 

「……でもね、そんなワテクシも愛と美を伝えられなかった場所があったことに気づいたの。

 

「インターネット

 

「インターネットにはまだまだ愛と美が浸透していなかったわ……

 

「監禁されるチェリーパイ……望まない一方的な愛を押し付けられるチェリーパイ……暴力を振るわれるチェリーパイ……

 

「たとえそれが2次元の産物だとしても、苦しんでるチェリーパイを見捨てるだなんて……ワテクシには出来ないッッッ!!!

 

「だからワテクシは、その第一歩として、#コンパス(ここ)に来たの」

 

 

───────────────────────

 

『ワテクシのパッションは、止められないッわッッッ!!!』

 

轟音を立てて#コンパスのファイアウォールが破られる。

防壁を壊して叫び声を上げた張本人は防壁の前で身体をくねくねさせて踊っていた。

それはポールダンスに使えそうなほど長い棒を持ち、煌びやかな衣装を身にまとっていた。

 

『待っててね……まだ見ぬ恋人たち……ンフフフフフ!!楽しみだわぁ……!』

 

くねくねした筋骨隆々の長身は、ファイアウォールを通って奥へと突き進んでいった。

 

《マスター、緊急事態です。ファイアウォール三番壁が物理的に破られました。》

 

「……はぁ?」

 

キィからそんな報告を受けたロードはなんともマヌケな声を発した。

#コンパスは電脳世界、ファイアウォールも例外ではなく、普段見えているファイアウォールはイメージを分かりやすく具現化しただけの存在、そもそも物理的に破壊されるわけが無いのだ。

 

「……なぁキィ、今日はもう休みでいいから休憩してこいよ。あなたきっとつかれてるのよ。」

 

《お心遣い感謝しますが、私は大丈夫です。》

 

「大丈夫、お前はまだ自分が辛いことに気づいてないだけなんだ。」

 

《おい》

 

キィは呆れと怒りが半分ずつくらいの声音でそう言う。

感情を自覚してからというもの、キィの感受性と表現力の成長が著しい。

 

「でもさ〜キィちゃん、ファイアウォールってイマジナリーなものじゃない?それをどうやって物理的に壊すのさ?」

 

ロードとキィの漫才を見せられて辟易としていた楼閣がそうフォローを入れる。こういうところが楼閣が貧乏くじを引くゆえんなのだろう。

 

《それが分かればこんな情けない苦労していません。》

 

「ま、そうだよねぇ〜。デネブくん、敵のデータは?」

 

《ほとんど未知数です。今のところはこの世界(#コンパス)へのパスをこじ開けて来たことに加え、「チェリーパイ」「エクスタシー」「パッション」という未知の単語のみ判明しております。》

 

「うーん……余計意味わかんないねぇ……」

 

楼閣はしばらく唸っていたが、考えても仕方がないと言いたげに顔を上げ、ロードに相談することにした。

 

「それで?」

 

「あー……どうすっかな。誰を様子見に行かせたらいいと思う?」

 

「そうだねぇ……わりと機動力あって鎮圧もできるけど、あんまり好戦的じゃない方がいいな。」

 

短いやり取りだけで互いに伝わった管理者両名は、前提条件を元に条件に合うものたちをリストアップしていく。

 

「んじゃ、【明色に染まる空(三バカ)】も【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】とか【壊滅的ナタデココ(カタストロフィロス)】もやめといた方がいいよね……誰か平和的に解決できそうなのは……」

 

『だったらワテクシの出番ね♡ワテクシにまっかせなさい!!!』

 

「《「《はぁ!?》」》」

 

その場にいた管理者4名の声が見事に揃った。

4人の眼前にいたのはファイアウォールを破壊したあの筋骨隆々だった。

 

『あらヤダ。そんな目で見られたらレディは傷ついちゃうわよ?』

 

「……誰だお前?」

 

その引き締まった肢体をくねくねさせながらそう言う筋骨隆々に、ロードは悪魔の悪意をもって接する。

元は協力者(セナ)の権能であった紫色の悪意を可視化できるほどに全開にしている。それほどにロードは目の前の筋骨隆々を敵視していた。

 

無理もない。非常事態の直後に普通は侵入不可能なコントロールルームに入ってくる、などという非常事態が相次いだのだ。警戒してし過ぎるということはあるまい。

 

『ワテクシは美の化身、ヴィーナス・ポロロッチョ!あなたたちみたいなバットなチェリーパイを、おしおきしに来たわッッッ!!!』

 

「……ファイアウォールを破壊したのも、お前か?」

 

『あらヤダつれないわね。でも、場面全体の事を見れているなんていい男じゃなぁい……ターゲット、あロックオ〜〜ン!!!』

 

ポロロッチョと名乗った筋骨隆々は、ロードの冷静な質問に身体をくねくねさせて喜んでいた。

正直気持ち悪い。

 

「キィ?」

 

《安全錠解錠、座標指定、演算式機動……完了。いつでも行けます。》

 

「やれ!」

 

『あら?』

 

ロードがキィとコソコソと相談し、準備を整える。ポロロッチョはまだ身体をくねくねさせていた。

準備が整った時、キィはロードの指示に従いポロロッチョの真下に空間転移磁場を発生させる。

 

足元の地面が無くなったポロロッチョは断末魔をあげる暇もなくどこかへ消えていった。

 

「よし……とりあえずの危機は去ったな……キィ、【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】に三番壁の防衛を指示。」

 

《かしこまりました。》

 

「楼閣、注意喚起のために中央広場に掲示出しに行くぞ。デネブはネット媒介の掲示を頼む。」

 

「はいはーい。」

 

《仰せのままに。》

 

問題に対処した管理者たちはアフターケアに動き出す。

 

『可愛い子は逃さないわよぉ……!!!』

 

転移された先でポロロッチョが薄暗い笑みを浮かべていることに気づかずに、動き出す。

 

────────────────────────

CM

これは、悠久の時を巡る少女の物語……

 

『オルケーシス!そっちに逃げたわよ!』

 

【分かったワ!エレンホス!アティシと一緒に追い詰めるわよ!】

 

【援護するわっ!あの人の手がかりが掴めそうだものっ!!】

 

ある1人の伝説の美を求め、少女は旅をする。

 

『逃さないわよぉ!!!』

 

願わくば、少女にあの日の誓いを……

 

オリジナルアニメ

〜あの人の背中を追いかけて〜

毎週火曜25:30〜 桜桃菓子TVにて放送中!

 

『あの人に答えを伝えるまで……死ねないッッッ!!!』

 

 

 

『チェリーパァァァァァァァァァァァァァァァイ!!!

 

『テレビの前のグッドなチェリーパイ♡恋……してるかしら?

 

『あぁん、もう、恥じることはないわ。そういう時だってあるわよ。

 

『で、も♡

 

『できるなら好きな人と距離、縮めたくなぁい?

 

『そういう時はこれ!ヴィーナス印のチェリーパイ!

チェリーパァァァァァァァァァァァァァァイ!!!(効果音)

 

『これを気になる人と一緒に食べれば、近づく2人の距離……頬にクリーム……そして……ウフフフフフ!!!

 

『ヴィーナス印のチェリーパイ、2021年9月1日より発売開始よっ!

 

『あなたたちの恋、応援するわ♡』

 

\チェリーパァァァァァァイ/

 

 

────────────────────────

Bパート

 

ロードたち一行は共有スペースの情報区画、中央広場に来ていた。

掲示板の周りにはすでに人だかりができており、デネブがもう注意喚起をアップロードしているのが分かる。

 

「さすが大三角の一角。キィほどとはいかなくても仕事が早いな。」

 

《…………お褒めいただきありがとうございます。》

 

「なんか不満げだな?」

 

《……いつかは、姉を超えます。》

 

#コンパス─戦闘摂理解析システム─管理AIの1人は、どうやら野心と向上心が強いらしい。

 

そんなやり取りをしていると、ロードと楼閣が事前に呼んでいた6人が集まってきた。

 

「よぉアラン。いきなり呼び出してどうした?」

 

「ボス、遅くなり申し訳ありません。」

 

「ギルマス……が、急に呼ぶ……なんて……珍しいです、ね……?」

 

「楼閣さーん!きっましったよ〜っと!」

 

やってきたのはロードが呼んだ【明色に染まる空(daydream)】のメンバーと、【孤独者達の宴(ロンリネス)】の波羅渡、カロネ、カフカの計6人だった。

 

「緊急事態だ。」

 

「「「緊急事態ぃ?」」」

 

「いったい……何が……?」

 

回りくどい挨拶は抜きにしてロードが6人に話を始める。

明色に染まる空(daydream)】の3人は口を揃えて「おまえは何を言っているんだ?」とばかりにロードの言葉を復唱し、カロネは不安そうにしていた。

 

波羅渡はいつも通りの狂信者スマイルで佇んでおり、カフカはとりあえず詳しい情報が分かるまでは黙っていようと引っ込んでいた。

 

「あぁ、褐色肌の筋骨隆々の男女(おとこおんな)がファイアウォールを物理的に破って侵入してきた。」

 

「待てアラン、ファイアウォールは物理では開かねぇだろ?」

 

keyがロードにそう口を挟むが、ロードは無視して続ける。

 

「とりあえずキィが空間転移でリアルに戻したが、またいつ戻ってくるか分からん。それっぽいやつ見つけたら、なるべく隠密に処理してくれ。」

 

「ロードさん、処理って?」

 

「なんでもいい。三バカは捻り潰すだろうし、カロネは話をして引きつけるとかでも。……お前とアイツは趣味が合うんじゃないか?」

 

「趣味って?」

 

「……黙秘する。」

 

「おい」

 

カフカが詳しい説明を乞うが、ロードはおざなりな対応だけして放っておく。カフカがわりと言うようになっている。

 

「ボス、いくつか質問よろしいでしょうか?」

 

「どうした?」

 

波羅渡がロードをまっすぐ見つめて、爽やかな笑みを浮かべながらロードに訊ねた。

 

「いいぞ。どうした?」

 

「その男性っぽい女性は、綺麗な金髪をしていますか?」

 

「あぁ、そうだ。褐色金髪は日本だと珍しいから、多分ひと目で分かるだろ。」

 

「なるほど。……では、彼女は長い棒みたいな物を持っていますか?」

 

「ん?あぁ、持ってたな。……もしかしてお前、そいつどっかで見たのか?」

 

波羅渡の質問の鋭さに、ロードは波羅渡がすでにポロロッチョと遭遇しているのではないかと訝しむ。

そのセリフからは大事になる前に対処しておきたいという意図が透けて見えていた。

 

ゆえに波羅渡は隠し立てをせず、素直に答える。

 

「えぇ、今ちょうど。ボスの後ろに。」

 

「ふぁっ!?」

 

ロードのすぐ後ろに、ポロロッチョがいた。

たしかに現実世界に転移させたはずだった。だが、実際問題ポロロッチョはここにいる。

 

その事実にロードは驚いていた。

 

「……お前、どうやってここまで来た?」

 

『決まってるじゃない。アナタに会いによ。この【ジョバンニ卿】はね、ワテクシを狙った男の子の元へと連れてってくれるの。』

 

「それで、俺のところまで?」

 

『モチのロンよ!可愛い子は逃がさないわぁ!』

 

ロードは驚きに目を見開いていたが、その目の奥には何かを期待する輝きのような物が存在していた。

 

「だったら、ポロロッチョ。」

 

『ん?何かしら?』

 

ロードは意を決するように頬を少し朱に染めながら、ポロロッチョに言った。

 

「俺と、一緒に来てくれないか?」

 

『……えぇ。えぇえぇえぇ!!!いいわよチェリーパイ!全身全霊で愛してあげる!2人で世界に、愛と美を伝えに行きましょう!!』

 

2人は幸せなキスをして終了。

 

────────────────────────

エンディング〜クレイジービート〜

 

歌詞を書くと色々と問題になりそうなので、代わりにスタッフロールをお送りします。

 

 

 

【題名】ロリ#コンパス

 

主演 ヴィーナス・ポロロッチョ

   ロード(アラン・スミシー)

   楼閣

   キィ(アルタイル)

   デネブ

助演 カフカ

   カロネ

   key

   PRHS(変態)

   レイア

   ジャスティス・ハンコック

   

オープニング曲

チェリーパイの歌

作詞 ポロロッチョ

作曲 ポロロッチョ

歌  ポロロッチョ

演奏 ポロロッチョ

 

オープニング映像

主演  ポロロッチョ

助演  ポロロッチョ

撮影  ポロロッチョ

編集  ポロロッチョ

演出  ポロロッチョ

効果音 ポロロッチョ

 

バックダンサー : ポロロッチョ

友情出演 : ポロロッチョ

夕焼け : ポロロッチョ

チェリーパイ : ポロロッチョ

総監督 : ポロロッチョ

 

 

 

エンディング

クレイジービート

作詞   さつきがてんこもり

作曲   さつきがてんこもり

映像   黒井心

イラスト こんたくん

ダンス  めろちん

     C*Yuki

スペシャルサンクス

#コンパス 【戦闘摂理解析システム】

location撮影協力

nagomix

 

【提供】

桜桃菓子TV

ヴィーナス製菓

ポロロッチョ

 

 

ロリ#コンパス

シナリオ 乱数調整

音響   カロネ

メイク  ヴィーナス・ポロロッチョ

絵コンテ 天の声

作画   ポロロッチョ・ヴィーナス

画角   美の化身

 

 

 

制作 コクリコッ党

   コクリコを愛で隊

 

Give me a break!!!




皆様お久しぶりです、乱数調整です。
今回はアニメ風仕立てです。なぜって公式が一昔前に出したチェリーパイの歌を使いたかっただけなんですけどね。

ちなみに!今回は私がずっと守っていたルールをやっと破った回です!まぁ気づいた人は一人もいないと思いますが。
そのルールというのが、キィ・デネブ・ベガ(いないけど)の3人のセリフです。この3人、管理AIなので人ではないわけですよ。だから人間っぽさを出さないように、句点を今まで打ってなかったわけです。
それを、自分の気持ちを理解した今は人間らしさを出して句点を打ちました!
ついでに機械的じゃない受け答えも追加して、人間人間しているキィさんを演出してみました!
今回の私は大興奮ですよ!

次回、Give me a break

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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副音声─パッションが止まらない─

あ〜?ポロロッチョさんってば、こんなわけの分からないDVD作って……何がしたいのかねぇ?
事実と全然違う内容だし、思い出がすっごい美化されて描かれてるよ……カロネちゃんの曲も勝手に使われてるしさぁ……

……ん?なぁにベガちゃん?
…………ホントに?

ホントにこれが市場に出回ってるの?
え?何人かはもう買ってる!?

えっとえっと……じゃあ買った人からDVD(これ)回収して、ポロロッチョさんを紹介して誤解を解いて、ポロロッチョさんが暴走して何か起こさないようにみんなに注意喚起して……

え?ポロロッチョさんが壊したファイアウォール、そろそろ突破されそうって!?なら援軍を送る準備もいるし……

あぁもう!
Give me a break(勘弁してよ)!!!


「ちょうど今、ボスの後ろに。」

 

波羅渡がそう言った瞬間、ロードは後ろを確認もせず振り向きざまに裏拳を叩き込んだ。

 

『愛は、激しブフォア!?!?』

 

その裏拳はワープしてきたポロロッチョの顔面にクリティカルヒット、ポロロッチョは数メートルの距離を飛んで行った。

 

「デネブ!」

 

《安全錠解錠……座標指定、E-3939……指定完了……演算式機動……第三演算完了……演算終了いたしました!》

 

「やれ!」

 

《転移させます!》

 

ブゥン、と音を立てて数メートル向こうからロードに全力疾走で向かっていたポロロッチョが消え失せた。

瞬間、ロードは安堵に包まれる。

 

「えっとぉ……終わったみたいなので、あたし達帰ってもいいですかね?」

 

誰もが静寂を守る中、カフカが1人、皆に同意を求めるように訊ねた。

しかし、それを否定するものが1人。

 

「いいえ。まだ終わっていませんよ、カフカさん。」

 

波羅渡だった。波羅渡はじっとロードの背後を見つめながら臨戦態勢を取る。

 

とはいえめぐめぐは今日は休み、ヴィオレッタとともにコクリコ邸にお茶会に行っている。

 

「え?終わってないってどういう──」

 

『逃さないわよぉ……!』

 

カフカが詳しい事情を波羅渡に問い返した瞬間、ポロロッチョが舞い戻った。

まるで空間的な距離など無意味とばかりに、舞い戻った。

 

その瞬間、ロードはセナのかつての異能で足の裏から紫のモヤを伸ばし、自身の身体を空中に放りあげていた。

 

「キィぃぃぃぃ!!!」

 

《準備します。》

 

『あら、つれないわね。でも、ワテクシは諦めが悪いのよ。抱きしめ準備!』

 

ポロロッチョは手に持っていた棒を斜めに構え、足元からサイケデリックな光を撒き散らしていた。

 

『愛は、美しく!』

 

「吹っ飛べぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

『あっふん!』

 

驚くほど軽い呻き声をあげてポロロッチョは飛んでいった。

放物線を睨みながらロードはキィに指令を出す。

 

「やれ!」

 

「へぁっ!?」

 

その瞬間、keyの足元の床が抜けてkeyがどこかに飛ばされる。

 

「よし……!」

 

《うまくいきましたね……!》

 

2人が声だけでお互いを称え合う。

そんなふたりを楼閣は胡乱気な目で見ていた。

 

「なぁんでkeyくん飛ばしちゃうかなぁ?」

 

「人柱」

 

ロードはこともなげに答えたが、楼閣は「そうじゃないんだよなぁ」と言いたげな表情をしている。

 

ポロロッチョが飛んでいった方向を、楼閣は憐れむような目で見つめていた。

 

 

一方その頃、飛ばされたkeyはというと

 

「へぁっ!?……ぐえ!?」

 

『ビューティー!?』

 

飛ばされていったポロロッチョの上に転移させられていた。

 

「ってて……アルタイルのやつ、ミスってんじゃねぇよ……」

 

『まるで潰れたチェリーパイね……』

 

「……お?おっと!すまねぇな、踏んづけちまって。転移させられた先に人がいるなんて思わなくてさ。」

 

『ワテクシなら大丈夫よ……』

 

呻くような声音でポロロッチョは言う。しかしその表情は明るく、keyを心配させないようにという意図が見え隠れしていた。

 

「そうは言っても、だろ。見たところ、ポールダンサーか?そういう仕事は身体が資本だろうに。……傷とかついてないか?どこか捻ってたりとか。」

 

『あら、優しいじゃない?きゅんきゅんしちゃうわ!』

 

「ま、多少はな。逆に俺はなんでアランがあんなにお前を唾棄してるのかがわかんねぇよ。」

 

keyが人好きのする笑顔をポロロッチョに向ける。ポロロッチョは蕩けた目をしていたが、鈍感なkeyはそのことに気づくことが出来なかった。

 

「にしてもここどこだぁ?戻る方角も分からなきゃ戻れねぇし……なぁアンタ、」

 

『ヴィーナス・ポロロッチョよ。』

 

「おぉそうか。んじゃポロロッチョ、アランたちのところまでさっきみたいに戻れねぇか?」

 

keyが期待と不安がない混ぜになったような声でポロロッチョに訊ねる。しかしポロロッチョはその質問に緩慢に首を振るだけだった。

 

『無理ね。ワテクシの【ジョバンニ卿】はターゲットにしたチェリーパイの背後に送ってくれるの。今は無理よ。』

 

「そうかー……んじゃ、どうやって戻るかなぁ……んー……」

 

最後の希望が消え、keyはどうやって皆の元に戻るかを思案し始める。

その様子を見たポロロッチョは、誰も思いつかないような起死回生の一手を思いつく。

 

『よし……とりあえずキスをしましょう。』

 

「……なんて?」

 

『キスをしま「いや、それは聞こえてるよ。」

 

二人の間に気まずい沈黙が生まれる。

 

『大丈夫よ、心配しないで目を閉じて……』

 

「大丈夫じゃない!……なんか、なんか男として大事なもんを失いそうな気がする!!!」

 

『心配しないで……壁のシミを数えている間に終わるわ。』

 

「大丈夫じゃねぇだろそれぇ!!!」

 

『大丈夫、ワテクシを信じて目を閉じて!』

 

keyの断末魔が、辺り一体に響き渡った。

 

 

──────────────────────

 

keyがどこかに飛ばされてから数時間後、取り残された面々は思い思いに過ごしていた。

 

その辺を詳しく言うと、ロードは楼閣と今後の事を話し合っており、波羅渡はその後ろで微笑み佇んでいた。カロネは新曲の作曲をしており、カフカはグスタフと戯れて血を吐き、レイアはレイアで、PRHS(ヘンタイ)は猫吸いならぬジャンヌ吸いを行っていた。

 

「キィ?」

 

《……確認しました。もう大丈夫そうですね。呼び寄せますか?》

 

何を感じ取ったのかは知らないが、ロードはキィに短くそう訊ねる。しかしキィにはそれだけで十分だったようで、ロードの意図を十全に理解し今後の方針を確認した。

 

「よし、なら呼んでくれ。」

 

《お任せ下さい。》

 

キィがそう言うと、どこからともなく扉が現れた。

その扉はいつもロードがコントロールルームから出入りする時に使っている扉と同じものだった。

 

しばらく待っていると、扉のノブが回され、中から2つの人影が現れる。

 

『はぁ……ごちそうさま///』

 

「吐きそ……ヴォエ……」

 

頬を朱に染めてクネクネしているポロロッチョと、心なしかゲッソリしているkeyだった。

 

「おー、keyお疲れ。」

 

「お疲れ、じゃねぇだろおい……あの抱きつき魔、力強すぎんだよ……」

 

keyがゲッソリしている理由はどうやら、貞操の危機にあったからではなく、物理的に内蔵にダメージを負ったためらしい。

この場合は彼を慰めるべきだろうか、それとも貞操の危機になかった事を言祝ぐべきだろうか?

 

『それは失礼したわ……ごめんなさいね。お詫びに抱きしめてあげる!……あら、どうして逃げるのかしら?』

 

「当たり前だろこの抱きつき魔!」

 

クネクネした動きで近づくポロロッチョからkeyは全力で距離をとる。

 

そして、keyのその反応に過剰に興味を示した者が1人

 

「待って待って!急な公式からの供給!!!そこの褐色ニキネキさん!」

 

『ポロロッチョよ。』

 

「ポロロッチョさん!keyさんといったいナニがあったんですか!もしかしてあんなことやこんなことを……愚腐腐!!!」

 

『あらヤダ。……レディに余計な詮索をしちゃダメよ?』

 

「愚腐ッッッ!(絶命)」

 

『ちょっ、おまっ、カフカァ!!!』

 

カフカが鼻血を噴いて倒れた。グスタフはカフカが自身に近寄っていたわけではなかったので、まさか倒れるとは思っていなかったらしく焦った様子でカフカに駆け寄っていた。

 

「グスくん……私、あの人にならグスくんをお嫁に出せるよ……」

 

『おいしっかりしろ、俺は嫁にはいかん。』

 

『あら?』

 

倒れているカフカを覗き込みながらグスタフがそう言うと、グスタフの後ろからポロロッチョの声がした。

背後から這い寄る混沌にグスタフはビクゥッ!と背筋を震わせてすごい勢いで振り返った。背後を取られることが恐ろしいと感じたからだろうか。

 

『チェリーパイ、いい筋肉してるじゃない……!』

 

つつつ……とポロロッチョがグスタフの腹筋を人差し指でなぞる。グスタフは感じたことの無い形容しがたい気持ち悪さに思わず背筋を震わせた。

 

『誰だお前!』

 

『あらヤダ、さっきワテクシが名乗ったのを聞いてなかったのかしら?人の話を聞かないなんてバットなチェリーパイね。』

 

『聞いている!お前はポロロッチョだ!俺が聞きたいのはなんのつもりでこんなことをしているのかだ!』

 

『あら?可愛い子を見つけたら、捕まえちゃいたくならない?』

 

しれっとポロロッチョは言う。優しい語気とは裏腹に、目だけは爛々と肉食獣のように輝いていた。keyはまたも貞操の危機を感じて怯えた。

 

『ならん!』

 

『ンフフフフ!ツンデレもいいわよォ……!心の奥から湧き上がる……これが……愛ッッッ!!!』

 

『そうか……絶望はここにあったのか。』

 

クネクネするポロロッチョと満足気な表情で鼻血を噴きながらビクンビクン痙攣しているカフカを見て、グスタフが諦めたようにそう言った。ちなみにカフカはカロネに膝枕で介抱されている。

 

「あーもうめちゃくちゃだよ。」

 

「あはは〜…………」

 

《これを捨ててもすぐに戻ってくるってどんな呪いですか……》

 

これには管理者たちも呆れ顔だった。

収集がつかないと判断したのか、キィがポロロッチョの説得を試みる。

 

《ポロロッチョ様、お話がございます。》

 

『あら?誰がワテクシに話しかけたのかしら?』

 

ポロロッチョは声の主を探してキョロキョロと辺りを見渡す。ポロロッチョ以外はその声が実体を持たないキィの声だということを理解しているため、声の主が自分であることを否定する。

 

《私が話しかけました。お話なのですが──》

 

『あらヤダ!世界がワテクシに何か言ってるわ!!!キュンキュンしちゃう!』

 

《すみませんマスター、詰みました。》

 

ポロロッチョは想像以上に話を聞かなかった。今までのポロロッチョの奇行を見ているからか、キィはポロロッチョとの対話を即座に諦めた。

嬉しそうに腰をクネクネするポロロッチョを、管理者たちは半ば諦めの目で見ていた。

 

けれど、対話を諦める訳にはいかない。侵入者を目的も聞かずに野放しにしておくわけにはいかないし、こんなのを野に放てば大混乱を招くのは目に見えている。

 

だからロードは諦めず、ポロロッチョとの対話を試みる。

 

「なぁ、ポロロッチョ、」

 

『キスしたいの?良いわよ目を閉じて……あら?』

 

「おい」

 

話を聞かないポロロッチョに、波羅渡がついにキレた。

めぐめぐに借りたのであろうガトりんをポロロッチョの顎に突きつける。

 

「さっきから黙って聞いてりゃボスの話聞かねぇわ、周りに手当たり次第にちょっかい出すわ、てめぇは黙って話も聞けねぇのか?」

 

『あらあら、ずいぶんと過激なチェリーパイね。ジェントルマンは慌てないものよ?』

 

対するポロロッチョは顔色ひとつ変えず、今までと同じように茶化すような言動で波羅渡に話しかけた。

 

「うるせぇ、このまま話が進まねぇんならここで俺がぶっ殺すぞクソアマ?」

 

『まぁ汚い言葉!外面は内面の一番外側と言うけれど、内面の美しさは言動にも現れるのよ?』

 

「知るか。お前の周りを無視した言動がウツクシサってんなら、んなもん俺がぶっ壊してやる。」

 

『まぁいいわ。ワテクシは世界に愛と美を伝えに来たの。まずはアナタからグッドなチェリーパイにしてあげるわ。』

 

一触即発な雰囲気が形成され、波羅渡の指がトリガーガードから引き金に移った瞬間、

 

「やめろ。」

 

「あてっ!」

 

『あんっ!』

 

ロードがいつの間にか二人の間に入り、両者の頭にゲンコツを落とす。

二人とも殴られることに慣れているのか、かなりいい音が響いたにも関わらず反応は薄かった。

 

「どうしてですか?」

 

波羅渡がロードにそう訊ねた。3年の間に彼も相応に成長したらしく、前までのように怒鳴り返すように理由を聞く事がなくなっている。

 

ポロロッチョも直接聞くことはないものの、なぜ止めたのかと目が語っていた。

 

「当たり前だ。ここはアリーナじゃねぇし、とりあえず話を聞いてみたいからな。」

 

「ですか、彼女は侵入者です。何が目的か分かったもんじゃないですよ?」

 

波羅渡がもっともなことを言う。ポロロッチョはやっと空気を読んで黙ることを覚えたらしい。

 

「それなら、最初に俺たちの前に現れた時、わざわざファイアウォールの警備を任せろ、なんて言わねぇだろ。」

 

「……………………」

 

波羅渡は黙って何かを考え始める。答えを待つだけでなく、自発的に考えようという姿勢が見られることも彼の成長のひとつだった。

 

「それに、害するのが目的なら不意打ち闇討ちなんでもありだ。わざわざ声掛けてくるか?ねぇだろ。だったら、何か目的のために聞きたいこと、もしくはやりたいことがあったってことだろ。」

 

「そう……ですね。少し熱くなりすぎました。ポロロッチョさん、申し訳ありません。」

 

『いいえ、ワテクシも可愛い子がたくさんいてテンションが上がってしまっていたわ。ごめんなさい。』

 

両者共に互いの非を認めて謝罪をする。その様子を見たキィは思わず息を呑んだ。自分が詰ませてしまった盤面を、【孤独者達の宴(ロンリネス)】の立ち上げメンバー(三人)は建て直したのだ。

 

《私は……まだ、あの人たちには敵いませんね。》

 

キィは少しだけ寂しそうにそう呟いた。

そしてそれは、誰にも届くことはなかった。




皆さんお久しぶりです、乱数調整です。
今回もポロロッチョ回なのですが、前回がアニメ風仕立てだったのを利用して、フィクションに対するノンフィクション的な立ち位置のお話に仕上げてみました!

いやもうほんと……ポロさんのネタ力が強すぎてキャラが勝手に動くわ作者にも止められないわ、物語の収集がつかないわで……正直ドっと疲れました。
まさか波羅ちゃんが上手いこと収めてくれるなんて……そんなこと誰が予想出来たでしょうか?少なくとも私は想像すら出来ませんでした。
しょうがないよね、話の大枠だけ決めて脊髄反射で書いてるような小説だもんね。

……ぶっちゃけ、ポロさん回だけ7話構成とかの大長編になりそうな香りが漂って来ています……なにそれこわい。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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劇場版ポロロッチョ:2丁目の朝日

「そんじゃ、とりあえずコイツ(ポロロッチョ)との会話が成立するようになったし、改めて現状の説明をするぞ。」

 

ポロロッチョを黙らせてからロードがその場を仕切り直す。

意外なことにポロロッチョも波羅渡も黙ってロードの話を聞いていた。

 

「現状、ファイアウォールの3番壁が破損。ポロロッチョがいるなら友好的にと思ったが、こっちに来たから対処を【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】に任せてある。ただ……」

 

少しだけ言い淀んでロードが続ける。

 

「結構#コンパスが有名になったらしくてな?結構攻撃してくる人数が増えてるんだよ。それに、3番壁が崩れたことの影響で他のセキュリティも脆弱になってる。だから【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】もかなり押されてるらしい。」

 

そこまで聞いて、率直な疑問をkeyがぶつける。

 

「他のギルドの派遣は?」

 

「【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】とカードキャラ……【銀河防衛ロボ】とか【ぶれどら】を派遣したが、戦線が拡大してるらしくていい話は聞かない。討ち漏らして侵入してきた奴らは情報を持ち帰られる前にきららとゆららが闇討ちしてるから大事にはなってないがな。みみみの補足能力が優秀で助かるよ。」

 

「まぁ……ギリギリって感じか。」

 

「それで結局、私たちは何をすれば?」

 

現状は分かったが話が見えてこないとカフカが苦言を呈する。

その様子を見たロードは回りくどい説明は止めて要求だけを伝えた。

 

「今から俺たちは2班に別れる。ファイアウォールで戦う組とファイアウォールを修繕する組だ。今のところ、ファイアウォールの修繕はドクがやってるが間に合ってない。楼閣とカロネ、一応カフカも修繕班としてドクの援護をしてくれ。」

 

「それじゃ、詳しい話はドクくんのところで。2人とも早めに行くよ。」

 

「了解……しました……!」

 

「わっかりました!」

 

3人がドクの元へ行ったことを確認してから、ロードは残ったメンバーに告げる。

 

「残りは外部からの攻撃を叩き潰す。三バカは前線の交代。お前らなら3人でも抑えられる。波羅は好きに暴れろ?」

 

「合点。」

「了解。」

「任せて。」

 

「Sir.Yes,sir!絶望の始まりだ!」

 

いくつものギルドを少人数で沈めてきた【明色に染まる空(daydream)】の三バカを信頼して、ロードは前線の交代を躊躇なく頼む。3人は珍しく真面目な顔をして頷いた。

 

そんな3人とは対照的に、波羅渡は欲望まみれの享楽的な笑顔を浮かべる。どうやら環境が変わろうと彼の快楽主義に変化はないらしい。

 

楼閣たちに引き続き三バカと波羅渡が去っていった後、ポロロッチョは特に何も言われなかったことに首を傾げる。

一応、作戦に引き入れるという話だったはずなのに、どうして自分には何も言わないのかとロードを不思議そうな目で見つめていた。

 

ロードもその視線には気づいていたらしく、彼はポロロッチョに告げた。

 

「お前は俺と2人行動だ。」

 

『分かったわ!奥手なのもいいけど……人払いをするにはちょっと強引すぎないかしら?』

 

「…………は?」

 

『いいのよ分かってる。安心して目を閉じて……』

 

ポロロッチョがロードの言葉を明後日の方向に解釈し、混乱するロードに襲いかかった。

耽美な指先がロードの頬を滑り、黄金の視線がロードの瞳に降り注ぐ。優雅さを帯びた熱狂が二人の間を支配する。行き場なく手持ち無沙汰になっているポロロッチョの片腕がロードの臀部に忍び寄っていた。

 

「バッカ……!お前やめろ!離せ離せ離せ!離せば分かる!」

 

『全身全霊で愛してあげる!!!』

 

「いい加減にしろ!!!」

 

ロードが怪異としての全力をもって、ポロロッチョの股間を蹴りあげる。だがポロロッチョも負けてはいない。幾度となく同じことがあったであろうと推測できる洗練された動作でその蹴りを受け止めた。

 

ただ、受け止め方がまずかった。ロードの頬にあてがっていた手を蹴りの対処に使ったため、ロードの両側に自由空間が生まれる。

 

その空間をロードは見逃さない。すぐさま悪魔のモヤで身体を支え、左脚で全力の蹴りを繰り出す。

こちらもポロロッチョにガードされたが、蹴りの勢いを推進力に変化させ、ロードはポロロッチョから距離を取ることに成功していた。

 

「お前はまず人の話聞けよ!さっきも同じことやっただろうが!」

 

『ごめんごめん♡可愛い子は食べちゃいたくなるのよ♡』

 

悪びれず言い放つポロロッチョを見て、ロードは目頭を押さえながら渋い顔をしていた。

 

「TPO。俺の好きな言葉だ覚えとけ。」

 

『Tとてつもなく

 Pパーフェクトな

 Oおっぱい?』

 

「時・場所・場合だ馬鹿野郎!」

 

ロードがポロロッチョに怒鳴るが、ポロロッチョはクネクネと身体をくねらせながら華麗にスルーしている。

 

「ったく……俺たちは破損したファイアウォールの外側、露払いの役割をやる。お前の戦力を見るのと、この不毛なやり取りを終えるための準備だ。」

 

まぁお前は好きに暴れてりゃそれでいい、とだけロードは言い放つと、唐突にポロロッチョの視界がブレた。

 

『あっふん!』

 

驚くほど軽い悲鳴を上げてポロロッチョは尻もちをつく。

送られた先は数え切れないほどの何かがいるよく分からない場所。

 

その何かは声を発することなくポロロッチョが破壊した壁の割れ目に向かって殺到する。

そんな何かを見てポロロッチョは悟った。

 

『あぁ、これがチェリーパイの言っていた、バットなチェリーパイなのね……』

 

悲しげな表情で溢れた涙を拭いさり、ポロロッチョは自分の腰に手を当てる。

 

『だったら、アテクシが世界に愛と美を伝えに行きましょう!ジョバンニ卿!準備はいいかしら?』

 

腰に下げていた伸縮式の携帯ポール──ジョバンニを最大限に伸ばしてバットなチェリーパイたちと対峙する。

 

『美しさに目が潰れないように気をつけなさい!

 ヘイカモーン!チェリーパァァァァァァイ!!!』

 

バットなチェリーパイたちに単身挑むポロロッチョを確認すると、管理者たちは自らのやるべきことを始める。

 

「ふぅ……とりあえずなんとかはなりそうか。キィ、例のは?」

 

《修復パッチは完成済みです。内部の敵の排除が終わり次第適用します。攻撃用ウイルスはまだです。》

 

ロードとキィがファイアウォールの上で緊張感なく雑談をしている。

とはいえ2人とも何もしてないわけではなく、キィは修復のためのプログラムを組み、ロードは敵のウイルスをインフェルノ・シュリーカーを使い支配権を奪い取るなど、きちんと成すべきことを成しながら雑談に興じていた。

 

「……珍しいな、お前なら攻撃用ウイルスの方を先に作ると思ってたんだけどな?」

 

《元々はそうしていたのですが、面白そうなことを思いついてしまったので。》

 

「お前が楽しそうで何よりだよ。」

 

ロードは半ば呆れながらもキィの好きなようにやらせる方針を分かりにくく伝える。

キィにはその意図が正しく伝わったのか、《では。》とだけ残して押し黙った。

 

「さて……そんじゃ、お手並み拝見といきますか。」

 

ロードの意識は再びポロロッチョの方へと戻る。

 

『ワン・トゥ・オラアアアアアアア!!!』

 

視線の先のポロロッチョは、優雅なポーズと耽美な表情で野太い声をあげていた。臀部を突き出す妖艶なポーズと相まって、敵がかなり引いているのがロードの位置からでも面白いように分かる。

 

『いいわよ。いつだってクレバーに抱いてア・ゲ・ル♡』

 

「うわ……」

 

ロードがかなりガチトーンで小さくつぶやく。恐らく表に出す気はなかったドン引きの様子など気にする事はなくポロロッチョは暴れ回った。

 

『カモンカモンカモンカモーン!突いて突いて突いて突いてー!!!』

 

ポロロッチョはジョバンニを地面に突き立てると腕の筋力だけで身体を持ち上げ、周囲の敵に連続蹴りをお見舞いする。

花畑を走るような小粋なステップとは裏腹に、敵を踏み潰すように力強い足技に敵は次々なぎ倒されていく。

 

『踊りの衝動が、抑えきれなーい!!!』

 

《うわ……》

 

頬を赤らめ熱っぽい視線を撒き散らしながらポロロッチョは叫び散らす。

そんなポロロッチョをキィがロードとよく似た冷めた目で見つめていた。

 

『それにしても数が多いわね……』

 

ポロロッチョはそう言うと蕩けた目で辺りを見渡した。

 

『それじゃあアテクシのとっておき、ラブラブハリケーンをくらいなさい!』

 

ジョバンニを地面に突き立て、それに絡みつくように身体をくねらせたポロロッチョはなんの意味もない投げキッスとウィンクをバットなチェリーパイたちに向ける。

その瞬間、ジョバンニを中心として極彩色の円形陣が広がっていく。

 

『ホラホラホラホラ!イッておしまいなさい!!!』

 

極彩色の円形陣に触れたバットなチェリーパイたちは、次々泡を吹いて倒れていく。無言の観客たちに熱烈な演舞を見せたポロロッチョは濡れた瞳で聴衆を見つめていた。

 

けれど、それも長くは続かない。

 

『アラ?ちょっとちょっと!どこ行くのよ!』

 

先程までポロロッチョに悪質なつきまといをしていたバットなチェリーパイ達が一斉に帰っていく。まるで「自分、目的は終えたんで……」と言いたげな背中を見せて回れ右していくのだ。

 

『なんなのよもう……』

 

「おっ、終わりか。キィのやつ、相変わらず仕事がはえぇな。」

 

困惑するポロロッチョの隣りにストンとロードが降り立った。彼もやることが無くなったのか、悪魔の権能を使っている様子はない。

 

『チェリーパァイ!何か知ってるの?』

 

「だから抱きつくな油断も隙もない!俺は知らんけど、まぁその辺は説明してもらおうぜ。」

 

《では、少しだけ説明をしましょうか。》

 

ロードのその言葉を待っていたのか、言い終わるや否やキィが説明を始めた。

 

《今回攻めてきたのは、まぁ電脳世界なので当たり前ですがハッカー達です。情報ファイルに偽装させたウイルスソフトを持たせたため、プログラムの完遂が確認されたのでしょう。》

 

「ほぉん?んで、そのウイルスソフトってのは?お前いろいろやってたらしいじゃん?」

 

ロードの呼びかけを受けたキィだったが、彼女は何も答えない。

その沈黙は《どう言えばいいのか分からない》とも《言ってしまっていいものか分からない》とも受け取れる。

 

「あー……まぁいいや。お前がお茶を濁すってことは後で分かる時が来るんだろ?」

 

《……えぇ、まぁ。》

 

妙に歯切れが悪いキィの言葉に納得したのか、ロードはひとまず追求をやめる。

ポロロッチョもポロロッチョで『2人のふかーい愛を邪魔しちゃ悪いわよね……』と潤んだ瞳でロードを見つめていた。

 

「んじゃま、とりあえず戻ろうぜ?こっからもお前(ポロロッチョ)の立ち位置決めたり対応したりでクッソ忙しいんだろうけど……」

 

《楼閣様に一任されては?いつものように。》

 

「そろそろ過労死するぞ、アイツ。」

 

愛情深い2人と愛の伝道師は#コンパスのシステム内部に舞い戻る。

楼閣の悲鳴が聞こえてくるまであと数分。

 

────────────────────────

 

「っしゃあ!#コンパスの内部情報ゲットォ!」

 

パソコンの前で喜ぶ男が一人。

ごちゃごちゃと配線や飲食物が雑多に並べられたテーブルはお世辞にも清潔とは言えず、彼の顔はもう何日剃っていないのかというくらい髭が伸び放題だ。

 

「プログラムが強固でもう何日も張り付きっぱなしだけど、話題の#コンパスの内部情報を手に入れたとなりゃそれも必要経費ってもんだ。」

 

彼はかなりアングラな活動をしているハッカーだった。

つい先日、#コンパスの【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】に自分のオークションサイトを潰され、これまで通りの活動が出来なくなったハッカーの一人。

 

#コンパスの内部情報を手に入れて#コンパスシステムを破壊、あるいは#コンパスシステムの一部である【世界システム】の監視網をすり抜ける方法を手に入れることを目的としている、バットなチェリーパイの1人だった。

 

「よしよし。ならこのファイルを開いて、また俺の箱庭を再建するんだ。1から……いいや、ゼロから!」

 

日本アニメ好きな彼は、この後の輝かしい未来を見つめてファイルを開く。

 

それが全ての間違いだった。

 

=====================

オープニング〜チェリーパイの歌〜

 

チェリーパイ♪ チェリーパイ♪

チェリーパイ♪ チェリーパイ♪

みんな大っ好きっ♡ チェリーパイ♪(チェリーパァァイ!)

 

テカテカ真っ赤に サクサクこぼれて

ヨダレもジュルジュル さあ一緒にかぶりつこう!

 

チェリーパイ♪ チェリーパイ♪

チェリーパイ♪ チェリーパイ♪

 

出来立て焼きたて チェリーパ〜イ♪(チェリーパァァイ!)

 

ガツガツ仕込んで ジュージュー焼きつつ

お腹はグーグー さあ一口で飲み込もう!

 

チェリーパイ♪ チェリーパイ♪

チェリーパイ♪ チェリーパイ♪

 

みんな大っ好きっ♡ チェリーパイ♪(チェリーパァァイ!)

 

これは、悠久の時を巡る少女の物語……

 

『オルケーシス!そっちに逃げたわよ!』

 

【分かったワ!エレンホス!アティシと一緒に追い詰めるわよ!】

 

【援護するわっ!あの人の手がかりが掴めそうだものっ!!】

 

ある1人の伝説の美を求め、少女は旅をする。

 

『逃さないわよぉ!!!』

 

願わくば、少女にあの日の誓いを……

 

オリジナルアニメ

〜あの人の背中を追いかけて〜

毎週火曜25:30〜 桜桃菓子TVにて放送中!

 

『あの人に答えを伝えるまで……死ねないッッッ!!!』

 

 

 

『チェリーパァァァァァァァァァァァァァァァイ!!!

 

『テレビの前のグッドなチェリーパイ♡恋……してるかしら?

 

『あぁん、もう、恥じることはないわ。そういう時だってあるわよ。

 

『で、も♡

 

『できるなら好きな人と距離、縮めたくなぁい?

 

『そういう時はこれ!ヴィーナス印のチェリーパイ!

チェリーパァァァァァァァァァァァァァァイ!!!(効果音)

 

『これを気になる人と一緒に食べれば、近づく2人の距離……頬にクリーム……そして……ウフフフフフ!!!

 

『ヴィーナス印のチェリーパイ、2021年9月1日より発売開始よっ!

 

『あなたたちの恋、応援するわ♡』

 

\チェリーパァァァァァァイ/

 

キスしたいの……?いいわよ目を閉じて!

アナタを愛して離さない麗しのラブトラップ発動!

さぁさぁさぁさぁチェリーパァァァイ!

 

==========================

 

画面いっぱいに金髪碧眼の褐色ニキネキがクネクネしながら何かを喚き散らす映像が爆音で再生される。

 

ループ映像は消すことが出来ず、PC内のファイルは次々と別のものに上書きされていく。

 

「ちょっ、ちょっと待ってください!待って!助けて!待ってください!お願いします!ア"ア"ア"ア"ア"!!」

 

【pororottyo:sexyaventure.exe】や【pororottyo:serviceshot.exe】という謎の動画ファイルに塗り替えられていく自作プログラムたちを見て、バットなチェリーパイは狂ったように叫び散らす。

 

だが、腐っても彼はハッカーだ。

 

「ぢぐじょう!復旧だ!プログラムなんて必要ねぇ!へへへへっ旧式プログラムなんてもう用はねぇ!」

 

彼はすぐさまPCに向き直り、復旧を試みる。

自らのプログラミングの腕と#コンパスの迎撃システムのどちらが上かをはっきりさせてやるんだと彼は意気込んだ。

 

「コマンドボードだって必要ねぇや。へへへへっ、誰がてめぇなんか。てめぇなんか怖かねぇ!」

 

『いい子はこうやって捕まえるのよ。』

 

筋骨隆々な褐色の腕に抱かれるまでは。

 

その腕の持ち主は金髪碧眼で、華美だが瀟洒な衣服を身にまとっていて、

 

今まさにPCに表示されているウイルスソフトの動画に映っている彼女だった。

 

「なっ……あっ……あぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

『何よ、ケダモノのような目をしちゃって……でも大丈夫よ。ワテクシはどんな子でも全身全霊で愛してあげる!!!』

 

その日、彼は「日本に行く。本当の自分が何か分かったの。」とだけ書き置きを残した。

 

それ以来、彼の姿を見たものはいないという。




お久しぶりです。乱数調整です。
……いや、本当にお久しぶりです。約1年半ぶりですね。言い訳のしようもありません……
創作自体はpixivで1話2万字のやつやらエッセイやらガシガシやっていたのですが、これだけ異常に止まっていました。
一応言い訳をするのであれば、全部ポロさんのせいです。彼女のネタ力が強すぎます。1回マジで2万字行きましたからね……ネタだけで。
もう乱数の脳内で
「ポロさん止まって!書いてる私も着いていけてないから!」
『ワテクシのパッションは止められないっわ!!!』
「いいから止まってって!字数ヤバいの!」
『チェリーパァァァァァァイ!!!』
というやり取りが行われていました。
それに加えて今回は普通の試合形態じゃなく vsコンピウイルスで、相手役が何も喋らないので掛け合いがなく書きにくいのなんのって……
というわけで1年放置しました。本当にごめんなさい。
お詫びに楼×カロの小説を置いておきます。息抜きに書いたやつです。
とりあえず、やっとポロさん回が終わってくれた……

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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綺麗な月

「うわ、もうこんなに真っ暗だよ。ごめんねぇカロネちゃん、こんな時間まで。」

 

カロネの誕生日、トラブルサポートセンターで酒を酌み交わし終えた楼閣が外を見てそうこぼす。

 

「電脳世界、なのに……暗く、なるんですね……?」

 

楼閣の隣にいたカロネが楼閣に疑問を投げかけた。

カロネも楼閣もほろ酔いとはいえ足元がおぼつかなかったり記憶がなくなったり、何か間違いがあったりするほどは飲んでいない。

2人とも、お互いの会話を楽しめる程度には正気を保っていた。

 

「あっははー。そこはまぁ、ロードくんがね。私とロードくんは、こうでもしないと日付感覚も曜日感覚も無くなっちゃうから。」

 

だから「月は現実世界の満ち欠けの周期を再現してるらしいよ?」なんて楼閣はカロネに語りかける。

 

2人きりで歩いているのはギルドホールへの帰り道。

楼閣の職場であるトラブルサポートセンターで飲み明かした彼らが、自分たちの居場所に戻るための帰り道。

 

「おっ、今日は満月だねぇ。誕生日に満月だなんて、何かいい事あるかもね。」

 

そう言って楼閣はカロネに微笑む。

その包み込むような優しい笑顔が暖かくて、カロネの口からつい秘めていた言葉が躍り出る。

 

「今夜、は……月が……綺麗……ですね……」

 

不意に発せられたその言葉に、楼閣は驚いて固まる。

視線の先には期待するような、あるいは怯えるような顔をしながら頬を朱色に染めたカロネがこちらを向いていた。

 

少女の瞳孔は激しく揺れ動き、口元はあわあわと何かを言いたげに動くが言葉が出ない。

しばらくそんな動きをした後、彼女はぎゅっと目を瞑って楼閣の言葉を待っていた。

 

そんなカロネを楼閣は愛おしそうに、ただ少し寂しそうに見つめてから言葉を返す。

 

「そっかぁ……月が綺麗、か……うん、そうだよね。月は、もうずっと前から綺麗だったんだもんね。」

 

遠くの月を見つめながら、楼閣は静かに言葉を紡いだ。

ちらと伺った彼の横顔は何故か儚く悲しげで、カロネはこれ以上何も言えなくなってしまう。

二人の間に、穏やかで冷たい時が流れていた。

 

「私は、さ?」

 

しばらく無言のひとときが続いた後に、楼閣が優しい声音で囁いた。

 

「私は、#コンパスの管理人の1人になったから仕事量も多いし、ロードくんはすーぐ変なこと言い出すし、ポロさんは問題ばっかり起こして回収やら修正やらで時間が取られるし、ずっと働き詰めで寝る時間なんてほとんどないから仕事が一段落したらすぐ寝落ちるし、私がいないと肥大化した#コンパスシステムが回らないってベガちゃんにも言われてるんだ。だから──」

 

一気にたくさんのことを吐き出してから、楼閣はカロネに告げる。

 

「だからまだ、死にたくないかな。」

 

その一言が何を意味するかカロネには分かった、分かってしまった。

 

申し訳なさそうに笑うその口元が、

優しく垂れるその目尻が、

困ったように八の字を描くその柳眉が、

 

自分に何を伝えようとしているのか。

 

「すみま……せん……!あの……えっ、と…………先に、帰り、ます……!」

 

底抜けに優しい楼閣の態度を見て、カロネは楼閣を直視することができなくなってしまった。

俯いて、顔を赤く染めて、それから身を翻して光の粒を散らしながら逃げるように走り去る。

 

混乱と悲嘆に暮れ、どこを探しても無くなってしまった自分の気持ちの行き先を探すようなカロネの背中を、楼閣はただ静かに見守っていた。

 

「……ごめん。でも、ダメなんだよ。」

 

カロネがいなくなった寒空の下、楼閣は一人呟いた。

 

「私は、カロネちゃんの隣を歩くことはできないんだ。」

 

夜空を見上げる彼の表情は、誰も見ることができない。

 

「あぁ、月はこんなにも綺麗なのにねぇ。」

 

ただ1つ、夜空の星々を除いては。




楼閣さんの裏(隠れてない)設定から、どうしても楼×カロは悲しくなっちゃう。どうも乱数調整です。
先程のあとがきの続きにはなりますが、1年放置したやつをなんで今さら書いたのって言うと、ぶれどらの実装がきっかけです。
ぶれどらの実装決まった瞬間、私の中のロードくんがぶれどらを#コンパスに実装する光景が見えたので重い腰をあげることにしました。
でもぜんっぜん進まない。なんならぶれどらが実装されても書き終わってない。
「じゃあモチベーションあがるもんを書いたろやないかい!」と書いたのがこれです。なんでモチベ上げるためのやつが悲しくなってんだ。
楼閣さんとカロネちゃんの結末は、いったいどうなるんでしょうか……

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。


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