ひぐらしのなく頃に クロスSS 〜人呼ばし編〜 (がとーショコラ)
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第1話 Hとの出会い/遺された依頼

風都。

その町はかつて、巨大な悪の組織によってガイアメモリと呼ばれる物が撒かれ、涙を流していた。

しかし、その涙を拭う一つのスカーフを持ち、その悪に立ち向かった戦士がいた。

彼はその風貌から、風都市民にこう呼ばれていた。

 

『仮面ライダー』

 

 

 

ひぐらしのなく頃に クロスSS

〜人呼ばし編〜

 

「…………何じゃこりゃぁぁぁぁ! ?」

 

俺、左翔太郎が猫探しという依頼を終え、事務所に帰って来た時の第一声がこれだ。

何故こんな声をあげたかって?

ハードボイルドにキマっていたはずの建物内がまるで殺人現場のように至る所に赤黒い血糊のような物がくっついていたからさ。

そりゃ、こんなもの見たら誰だって叫ぶ。

 

「やぁ、翔太郎。遅かったね」

 

呑気な声と共に部屋の奥から俺の相棒、フィリップが出てきた。

 

「おい、フィリップ!何だよコレ!?メチャクチャじゃねーか!」

 

「済まないね翔太郎。だが、君は知っているかい!?この本を!!」

 

そう言って相棒はある本を俺に見せてきた。

『ひぐらしのなく頃に』と書かれた表紙を目にし、俺は今朝見た広告を思い出した。

 

「『ひぐらしのなく頃に』ってお前、実際に起こった事件を基に作られたっていう」

 

「そうさ!僕も然程興味は唆られなかったんだけど、亜樹ちゃんに頼まれて買ってきたんだ。簡単に解けると思ったんだが、謎が全然解けない!こんなにゾクゾクする事は久しぶりだ!」

 

「で、それとこの状況。何が関係あるんだ?」

 

「簡単さ。クライマックスのシーンにある殺人現場を再現してみたんだ。そうすれば何か分かると思ってね」

 

「成る程って、アホかーーーー!んな事して分かるかーーーー!」

 

突っ込む俺に対しフィリップはまだ何かを考えているようで意に介さない。

 

「このシーンで前原圭一は轢かれそうになる、と証言している。これが事実だとすれば彼が狙われてるのは明白だな………」

 

そんな事を呟きながらフィリップは黒マジックを手に持って壁に何かを書き出し始めた。

それで漸く気付いたが、事務所の壁のそこら中に何かしら書き殴った形跡があり、血糊の現場を含めてかなりカオスな状況になっている事が分かった。

 

「あのなぁフィリップ。そんなに分からないなら『地球の本棚』に行って答えを見ればいいだろ」

 

そう諭す俺に対し、フィリップは呆れたように

 

「いいかい、翔太郎。ミステリーと言うものは自分で答えを見つけるからこそ意味があるんだ。それを答えを最初から見るなんて」

 

と言った。

 

「おいフィリップ。それってまさか」

 

「亜樹ちゃんの受け売りさ」

 

「亜樹子ぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

怒りの頂点に達した俺の声が事務所内に虚しく響く。

亜樹子を探してウロウロするが姿は見当たらなかった。だが、俺の机の上に一枚、不自然に置かれた紙を見つけた。

 

『翔太郎君へ

 

ちょっとした用事でしばらく大阪に帰るね!

いい?フィリップ君が変な物にハマらないようにしっかり見ててよ?事務所を汚したらダメだからね!

 

可愛くて、美人で、「大人」な女性で、竜君のお嫁さんの亜樹子より♡』

 

「……………亜樹子ぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

再び俺の叫び声が虚しく事務所内に響いた。

 

 

 

その日の夜。

フィリップはもう推理に飽きたのか早々に寝てしまった。

悲惨な事務所内を片付け終えた俺はというと………。

 

「うぅ。レナちゃんって娘、スッゲーいい娘なのにこんな過去があったのか………。苦労したんだな………」

「うおっ!?圭一の奴、いくら怖いからって手料理振る舞おうとする女の子にその対応は無いだろ。ハードボイルドじゃねぇなぁ。……豚骨しょうが味って美味しいのか?今度食ってみよ」

「やめろ圭一!レナちゃんと魅音ちゃんにそんなことするな!ヤメロォぉぉぉぉぉぉぉ!………ってもう朝かよ!!」

 

相棒から借りた本にドップリとハマり、朝まで読み耽っていた。

 

「にしても、この雛見沢って所、どっかで聞いた事あるんだよなぁ」

 

 

 

それからその日は特に依頼もなく、マッタリした1日を過ごしていた。

「なあ、フィリップ。雛見沢ってどっかで聞いた事あるか?」

 

「あの本以外でかい?何度もニュースでやってたじゃないか」

 

「ああ。それとは別な何処かで聞いた事あるんだよなぁ」

 

「事件が起こるよりも前にかい?」

 

「ああ。何だったかなぁ」

 

「となると、君が鳴海荘吉の弟子になる前に聞いたか、それとも弟子の時に聞いたかで変わってくると思うけど

 

「ん、ちょっと待てよフィリップ。今何てった?」

 

「だから、君が鳴海荘吉の弟子になる前か後かによって変わるって」

 

「それだ」

 

「え?」

 

「そうだ、おやっさんから聞いたんだ。雛見沢ってワード」

 

その時、俺の脳内には、当時の光景が思い浮かんでいた。

それは、おやっさんと依頼達成の記念に外食に行った時だった。

珍しくおやっさんが自分の過去の事を話してくれた。

それも、失敗した過去を。

会話の内容はこうだ。

 

『翔太郎。俺は過去にたった一度だけ、依頼を達成できなかった事がある。』

 

『おやっさんが?』

 

『雛見沢村、知ってるか?』

 

『確か、毒ガスが充満して滅んだ村でしたよね?よくテレビでやってた………』

 

『俺はな、あの事件が起こる3日前、依頼のついでに雛見沢に行ったんだ』

 

『えぇ!マジっすか!?』

 

『マジだ。その時に一人の女の子に出会った。古手梨花って言ってな、綺麗な長髪の少女だったよ』

 

『はぁ』

 

『その娘がな、こう言ったんだ。未来が分かる、自分はもうすぐ死ぬんだってな』

 

『え、自分が死ぬ未来が分かるって』

 

『普通は簡単には信じないだろう?俺もそうだった。彼女にそんな事を簡単に言ってはいけないって諭した。だが、彼女は次の瞬間、とても悲しそうな、絶望したような目をして何処かへ行ってしまった。そして3日後、あの事件が起きた』

 

『そんな………』

 

『翔太郎、俺はな……………………………なんだ。その時は…………』

 

「いけね、肝心なところが思い出せねぇ」

 

だが、おやっさんなら何かしら資料を遺してくれてるはずだ。

俺の勘がそう訴えていた。

そこで過去の依頼の資料を漁りに漁った。

そして、1時間が過ぎた頃

 

「…………見つけた。これがおやっさんが雛見沢について調べた資料」

 

その表紙には『HINAMIZAWA REPORT』と書かれていた。

 

 

「フィリップ、『地球の本棚』に入ってくれ」

 

資料を一通り読み終えた俺は地下に戻っていたフィリップに声をかけた。

 

「いいけど、どうしたんだい翔太郎?」

 

「雛見沢の事件についてもっと詳しく知りたい。これは………」

 

「これは?」

 

「おやっさんが俺に、いや、俺たちに遺した依頼だ」

 

「………分かった。検索を始めよう」

 

そう言ってフィリップは『地球の本棚』へと入っていった。

 

『知りたい項目は“雛見沢事件の真実”。キーワードは』

 

「一つ目は“雛見沢”、二つ目は“オヤシロ様”、三つ目は“鬼隠し”」

 

『“hinamizawa”と“oyashirosama”と“onikakushi”だけでは絞り込めない。他に何か無いのかい?』

 

「………………」

 

『翔太郎?』

 

「追加キーワードは、“東京”だ」

 

『“tokyo”………1冊に絞れた。けど、これは…………』

 

 

「ん?どうした?フィリップ」

 

『この本、読めないんだ。何か鍵が掛かっている。ダメだ、どうしても開かない。翔太郎、他にキーワードは無いのかい?』

 

「…………いや、無い」

 

『そんな』

 

フィリップはそう言うと、地球の本棚から帰ってきた。

 

「これじゃあ気になって夜も眠れない!」

 

「ん?でもお前、昨日はさっさと寝たじゃないか」

 

「昨日?あぁ、何だか凄く眠くてね。仕方なく寝たんだ」

 

「へぇ、珍しいな。一度のめり込んだら簡単には戻ってこないお前がそうなるなんて」

 

「で、どうするんだい?キーワードが分からなきゃ事件の真相が分からないよ?」

 

それを聞いた俺は、ある決断をした。

 

「分かった。それじゃあ俺が今から雛見沢に行ってくる。最後のキーワードが無いか、探してくる」

 

「本気かい翔太郎?風都から碌に出たことの無い君が行くのは危険だと思うが」

 

「でもそうしなきゃ分からないだろ?なぁに、死ぬ訳じゃないんだ。危なかったらさっさと帰ってくるさ。あ、あとガジェット全部借りてくぜ。何があるか分かんねーからな」

 

その決断が、俺の人生にとてつもなく大きな影響を与えた。

後に、フィリップや亜樹子、照井やサンタちゃんにウォッチャマン、クイーンにエリザベス、マッキーや刃さんなど、風都の皆と永遠に別れる事を覚悟しなければならなくなる日が来るなんて、その時の俺には分かっていなかった。

 

 

「ふー、ここが雛見沢への入り口か。こっから見た感じ、かなり廃れてるな」

 

それは、まさしく廃村だった。

 

「さすがにもう毒ガスはねぇよな?心配だから一応こいつに任せるか」

 

そう思って俺は擬似メモリをバットショットを雛見沢に飛ばした。

それから暫くして帰ってきたバットショットが撮った写真を見た。

 

「村の中も思った以上に廃れてるな。建物もほとんど倒壊してて何が何だか分かんねーな」

 

そう言いながら何枚も写真を見る。

 

「ん?これは確か、古手神社だったよな?なんか、人影っぽいのが写ってるような………。ハハ、まさか」

 

内心ではドキドキしながら次の写真を見た。

 

「これは………祭具殿か?ん?これにもやっぱ写ってる………」

 

そう。写真には巫女服を着た、角を生やしたような少女が写っていた。

 

「ここここここここここれって、ししししししししし心霊写真!?」

 

バットショットを放り出しそうになり、なんとかそれを抑えると体が震えだした。

 

「あ、新手のドーパントか?いや、それは無いよな。ガイアメモリがここまで普及してるって話、聞いたことねぇし。てことは本当に幽霊か?」

 

そこから俺は暫く考えた。

ビビって帰るのか、それとも真実を調べるために危険を犯して祭具殿に行ってみるのか。

 

「よし、行くか」

 

最悪の事態を想定して、いつでも変身できるように準備してから俺は祭具殿を目指した。

息をなるべく止めて、スタッグフォンに登録された『風都くんマーチ ロングver』を最大ボリュームで流しながら。

 

 

(ここが、祭具殿)

 

村に入って5分。

息継ぎをせずに目的地まで行く事ができた。

俺は入り口に近付き、周りに何も無いことを確認してからドアを押した。

予想外にもドアは軽く開き、中に入る事が出来た。

 

(ここにあのお化けだかドーパントだかがいる可能性があるってこったな。頼むから出てくるなよぉ〜)

 

そう思いつつ調査をしていると、一つの光るビー玉を見つけた。

 

(何だ、コレ?)

 

不思議に思った俺はそれを拾い上げ、マジマジと見つめた。

次の瞬間…………。

 

「なっ!一体なんだ!?」

 

それが強く光り出し

 

「フィリップ、変身………」

 

変身する前に俺の身体を包み込んだ。




『ひぐらしのなく頃には』
「つまり君は、事件が起こる前、1983年6月以前の雛見沢にいるって事かい?」
「みー、翔太郎はロリコンなのですよ」
「惨劇なんて、この俺が止めてやるよ」
「フハハハハ!この前原圭一の前にひれ伏すがよい!!」
これで決まりだ。


P.S.時代設定を少し。
1983年 6月 雛見沢事件発生

1990年 赤坂、大石に出会う。

1999年 鳴海荘吉、スカルになる。

2008 ビギンズナイト

2009 WのTV放送での内容

2010 フィリップ 消滅

2011 フィリップ帰還

2012 『ひぐらしのなく頃に』出版

2作のわらじで大変ですが、楽しいので頑張ります!
応援、よろしくお願いします!!


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第2話 Hとの出会い/寒村にて

『ひぐらしのなく頃に』
今回の依頼は……
「『ひぐらしのなく頃に』ってお前、実際に起こった事件を基に作られたっていう」
「亜樹子ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「おやっさんが俺に、いや、俺たちに遺した依頼だ」
「なっ!一体なんだ!?」


昭和58年6月。

これは、私に定められた命月だ。

詳細には、綿流し祭りが終わって数日後、何者かに殺される。

私はそれを何度も繰り返してきた。

そこで貴方は思うでしょう。

殺されたはずの私が何故、“何度も”なんて言えるのか。

仏教用語で言う、輪廻?

それは合っているようで違う。

正確には、オヤシロ様の力。

彼女の力のおかげで私はいくつもの世界(カケラ)を渡り歩いてきた。

でも、どこに行っても同じ。

最後には殺される。

最早希望なんてものはどこにもない。

そう諦めかけた時、奇跡を起こした男がいた。

彼の名は前原圭一。

いくつもの困難を乗り越え、沙都子の叔父の帰還という最悪のシナリオさえ打ち砕いた男。

皆を信じ、協力する事の大切さを教えてくれた男。

しかし、そんな世界でも結局は殺された。

だが、確かな希望を見た私はとある決心をした。

もし失敗してもこれが最後だ。

だからこそ、皆の力を信じ、借りよう。

皆でのりこえよう。

そう思い、最後の世界(カケラ)に飛び込んだ私が最初に目にしたものは……

 

「何?この男」

 

祭具殿の中で大の字になって気を失っている男だった。

 

 

 

ひぐらしのなく頃に クロスSS

〜人呼ばし編〜

 

朝日が顔を照らし、俺の意識を覚醒させる。

目を開けると知らない天井が視界に飛び込んできた。

 

「ここは………」

 

起き上がって周りを見ると、いやでもただならぬ状況だという事を理解させられた。

 

「何で俺、こんな所にいんだ?」

 

そこは、留置所だった。

 

 

あの後、俺は大石蔵人という刑事の取り調べを受けた。

この男がまた、嫌味な奴だった。

 

「えぇ〜と、名前は左翔太郎さん。風都在住で年齢は○歳。職業は自称探偵。罪状は古手神社祭具殿への不法侵入。通報者は古手梨花。これで合ってますね?」

 

「罪状と職業の自称って所以外は」

 

「では何故、祭具殿に居たんですか?それもわざわざ風都から雛見沢に来てまで。交通機関を使えば5時間はかかるというのに」

 

「だから分かんねぇんだって。野暮用で雛見沢まで来たのは覚えてっけど、そっからの記憶はまるで無いんだ(まあ、嘘だが)」

 

「おかしな事を言いますねぇ、左さん。都合のいい部分だけ覚えていないなんて。………おや?ちょっと失礼」

 

大石はそう言うと一旦取り調べ室を出た。

別の刑事に呼ばれたようで、何か話していた。

 

「はぁ、何でこんな事になってんのかなぁ。それに大石の奴、昭和58年6月1日って言ってたけど、何言ってんだか」

 

そんな事をボヤいていると、大石が戻ってきた。

 

「左さん。貴方の言っていた職場について調べさせてもらいました。結果ですけどね、貴方、嘘を吐いていませんか?」

 

「嘘を吐く?」

 

「鳴海探偵事務所で探偵をやっていると言ってましたよねぇ?」

 

「ああ」

 

「そこの所長である鳴海荘吉さんに聞いたんですが、貴方のような人は居ない、とおっしゃっていましたが?」

 

「え?おやっさんが?」

 

鳴海荘吉という言葉を聞いて、俺は一種の興奮を覚えた。

おやっさんはフィリップを助けた時、つまりビギンズ・ナイトで殺されたからだ。

それからドーパントの能力で1度、ディケイドに会った後に1度、そして大道克己の事件で1度会った(当然俺の世界では故人だから本物ではなく、別の世界や偽物、俺が見た幻覚などだが)。

いつもハードボイルドを貫いている俺だが、この時ばかりは驚きのあまり立ち上がってしまった。

 

「勝手に立ち上がるんじゃないよ!!」

 

大石はそれを見て俺の頭を掴み、テーブルに叩きつけた。

 

「質問してるのはこっちなんだよ!本当の事を言え!お前みたいな適当言う奴が一番ムカつくんだよ!こんな玩具持って何がしたいか知らんが、いい加減にしろ!」

 

大石はそう言うと俺を投げ飛ばし、机をひっくり返した。

その弾みでスパイダーショック、スタッグフォン、フロッグポッド、デンデンセンサー、そしてWドライバーが地面に落ちた。

俺は頭に血が昇るのを抑えて冷静に対処するように心がける。

 

「い、言うから落ち着いてくれねーか」

 

ふと、ある作戦を思いついた俺は大石に言った。

 

「一つだけ確認したら本当の事を言うから」

 

「本当だな?」

 

「あ、あぁ、本当だ」

 

大石は暫く、何か考えてからドカっと椅子に座った。

 

「ふぅ。で、だ。確認したいことは俺の手荷物についてだ」

 

「手荷物ぅ〜?」

 

「ああ。俺が身につけていた物はこれで全部か?他には無いのか?」

 

そう言うと大石は怪訝な顔をして俺を見て、部下を呼び、書類と共に床に散乱した物を確認していった。

 

「これで全部だが?」

 

(バットショットとメモリ一式が無い。となれば、後は賭けだな)

 

「さぁて、吐いてもらいましょうか?約束ですからねぇ」

 

「いや、今は言わない」

 

「はぁ?」

 

「こっちは言うとは言ったが、すぐに言うとは言ってない。俺の気が向いたら」

 

そこまで言うと、俺は殴殴り飛ばされた。

 

「そんな屁理屈、通用するか!!警察を弄んでそんなに楽しいか!?えぇ!?ふざけるのも大概にしろ!!」

 

大石は暴力のプロらしく、殴った所はさほど痣にはならないが、確実にダメージを与えてきた。

それが10分ほど続いた時、大石の部下が息を切らせて取り調べ室に入ってきた。

 

「大石さん!実は……」

 

部下はそう言うと大石に耳打ちをし、俺を椅子に座らせた。

それを聞いた大石は舌打ちをしてドカドカと取り調べ室から出て、何かを確認した。

しばらくして大石は不満そうな顔をして

 

「出ろ。被害届が取り消された。自分の遠縁だって古手梨花が証言した」

 

と言った。

俺はこれを待っていた。

バットショットとメモリ全てが抜き取られたこと、『ひぐらしのなく頃に』で説明されていた古手梨花の性格と言動、俺が見つかった場所。

これらから総合して考えて、古手梨花が俺の事を助けに来ると踏んで判断した。

当然これにはいくつもの賭けに勝たなければならなかった。

古手梨花が俺の所有物を何かしら持っている事、俺に対して興味を抱く事、そして、急いで俺のいる所に来ること。

この3つの賭けに全て勝つことで俺は本当の事を話さずに警察署から出れる。

 

「さて、俺がここにいる理由もなくなったんだ。さっさと出してもらおうか」

 

伸びをしながらそう言うと、大石は悔しそうな顔をしながら形だけの謝罪をし、俺を釈放した。

 

 

 

警察署を出た俺を待っていたのは古手梨花と、もう一人、角(!?)の生えた少女だった。

 

「お前が左翔太郎なのですか?」

 

俺を見た彼女はそう言うと、俺にバットショットとメモリを返した。

 

「聞きたいことがいっぱいあるのです。………少し付き合ってもらおうかしら?」

 

年相応の態度とは一転し、大人びた表情と共に語りかけて来た彼女に動揺しながら

 

「あぁ、勿論さ。俺もお嬢ちゃん方に聞きたいことがあるんでね」

 

と答えた。

そこで俺達は少し離れたエンゼルモートという、メイド喫茶のような所へ行った。

 

「え、ここは」

 

「私の知り合いが経営している店よ。変なことしようものならすぐに取り押さえられるから」

 

「なるほどね」

 

俺と古手梨花ともう一人の少女。

側から見れば奇妙な組み合わせの3人はそれぞれの欲しいものを頼んだ。

 

「さて。どこから話そうかしら」

 

水を啜りながら古手梨花は言った。

が、俺はそれを遮って話し始めた。

 

「悪いが俺から話させてくれ。まず、いくつか確認したい。君の名前は古手梨花だな?」

 

「そうよ」

 

「で、君は?」

 

「わ、私は古手羽入なのです」

 

「なるほど。俺から抜き取ったのはメモリとバットショット、つまりカメラだけか?」

 

「ええ。そうよ」

 

「次に、今は昭和58年6月1日で合ってるな?」

 

「ええ、合ってるわ」

 

「なるほど。分かった」

 

「確認したい事はそれだけ?」

 

「ああ。大事な事が分かったからな」

 

「大事な事?」

 

「古手梨花、古手羽生。キチンと自己紹介をしよう。俺の名は左翔太郎。職業は探偵で風都在住。そして」

 

ここまで話すと俺は一旦息を置いた。

そして、最も重要であろう事を彼女達に伝えた。

 

「俺は君達で言う、未来の世界から来た」

 

しん、と空気が凍る…………ような気がした。

驚くかと思ったが彼女はさほど驚かず、再び水を啜りながら

 

「だと思ったわ」

 

と言った。

 

「悪いけど、貴方が未来から来たことぐらい既に予想していたわ。大石があんたを連れて行く前に持ち物全部確認したけど、使い方が分かるものがカメラしかなかったもの。それと変な小箱みたいなのも興味があったから抜き取っておいたわ」

 

「あ、さいですか」

 

「それで、今度はこっちから聞くけどいいかしら?」

 

「ああ」

 

古手梨花は俺に3つ質問した。

俺が来た時代のこと。

古手神社で倒れていた経緯。

そして、雛見沢で起こる惨劇についてだ。

俺はそれについて正直に答えた。

すると彼女は納得したらしく、

 

「左翔太郎、貴方はどうしたいの?」

 

と聞いた。

雛見沢までやって来た理由はただ一つ。

だから俺は

 

「あんな惨劇が起こったんだ。俺はそれを止めたい」

 

と正直に答えた。

すると古手梨花は羽生とコソコソと相談し、

 

「翔太郎。貴方を信用するわ。で、泊まる所はあるのかしら?」

 

と聞いた。

 

「いや、無いが」

 

「そう。なら、私達と一緒に住む、というのはどうかしら?」

 

それを聞いた時、俺の中でとてつもない葛藤が生まれたが、結局折れてそれを承諾した。

 

 

店を出た時はとうに20時を過ぎていた。

古手梨花はさっきまで店にいたような大人びた雰囲気は無く、年相応の振る舞いをしていた。

 

「な、なぁ羽生ちゃん。梨花ちゃんって二重人格か何かか?」

 

「違うのですよ、翔太郎。梨花は色々あってあんな性格になってしまったのです」

 

「色々、ね」

 

“色々”。

その言葉に思いを馳せていると、梨花が羽生に近付いて耳打ちした。

すると、彼女の顔はみるみる青くなっていき、涙をちょちょ切れさせた。

 

「あうあう、酷いのです酷いのです!ぼくはそんなつもりは無かったのです!」

 

「お前が悪いのですよ羽生!家に帰ったら罰を与えるのです!にぱー」

 

梨花ちゃんの弾けるような笑顔が、何故か俺には魔女が笑っているかのように見えた。

 

 

それからまた、暫く歩いた俺たちは大きな倉庫のような所についた。

2階に該当する部分の窓から明かりが漏れていた。

 

「お、おい。これが」

 

「そうなのです。これが僕たちのお家なのですよ。にぱー」

 

輝くような笑顔でそう答える梨花ちゃん。

俺は意を決してそのドアに手をかけた。

すると、突然『ひぐらしのなく頃に』の一節が頭をよぎった。

 

“古手梨花と北条沙都子は互いに身内を亡くしていた。だからこそ二人は協力して生活していた。住む場所は廃れた倉庫。まだ13にも満たぬ少女二人が生活するのは大変だろうが、彼女らは幸せそうだった。”

 

(そうなるとあそこにいるのは)

 

一呼吸置き、ドアを勢いよく開けた。

すると…………

 

ガシャーーーン!!

 

突然頭上から大きな金盥が落ちてきて俺の頭を直撃した。

 

「あふぇぇぇ」

 

間抜けな声を上げながら、俺の意識は闇の中に消えた。

 

 

 

朝日が顔を照らし俺の意識を覚醒させる。

目を開けると知らない天井が視界に飛び込んできた。

しかし、どこからか立ち込めてくる美味しそうな匂いが昨日のそれとは違うことを示していた。

 

「目が覚めたのですか?」

 

梨花ちゃんがそう言いながら襖の端からヒョッコリと顔を出した。

 

「梨花ちゃん、確か俺は上から落ちてきたタライに当たって」

 

「そうなのです。それについて謝りたいという娘がいるのです」

 

彼女は台所らしき所に向かって『来い来い』と手をひらひらさせた。

すると、奥から金髪の単発少女がしおらしく現れた。

 

「この娘は北条沙都子なのです。翔太郎の頭に落ちてきたタライを仕掛けた犯人なのです」

 

「あ、あー君が」

 

突然の事に少々混乱しつつ北条沙都子のデータを頭の中からかき集めた。

 

(確かこの娘は年相応な、生意気な娘だったって書いてあったよう…)

 

「ごめんなさい!ですわ」

 

「へ?」

 

「圭一さん用に仕掛けたトラップがまさか初対面の殿方に炸裂してしまうなんて………」

 

「あ、あー」

 

これが素なのかどうかは分からないが、意外すぎる素直さに年甲斐もなく面食らった。

 

「あー、沙都子ちゃん?別に気にしてないぜ?引っかかった俺にも非はあるわけだし」

 

「ですが!」

 

「沙都子」

 

なおも食い下がろうとしない沙都子ちゃんに対し、梨花ちゃんの待ったがかかった。

 

「沙都子、翔太郎もこう言っているのです。これ以上の問答は無駄なのですよ」

 

「……でも……」

 

「沙都子のトラップマスターとしてのプライドが許さないのも分かるのですよ?ですが、いつまでもこんな事してても時間の無駄なのです」

 

「……………」

 

「どうしても自分が許せないのなら、それ以上のトラップを圭一に仕掛ければいいのです」

 

そう梨花ちゃんが言った瞬間、沙都子ちゃんの顔に生気が急に戻った。

 

「そうでございますわ!翔太郎さんに当ててしまったのは申し訳ないでございますが、それ以上のトラップを圭一さんに仕掛ければいいんですわー!それこそ、圭一さんの貧相なモノがちょん切れるぐらいな凄いモノを作りますわー!!おーほっほっほっ!」

 

沙都子ちゃんは何か、とんでもなく物騒な事を言いながらその場を離れた。

 

「さて、翔太郎。気分はどうかしら?」

 

「ん?別に大したことはねぇよ。それより、さっきから美味しそうな匂いがするんだが」

 

「え?ああ、朝ごはんに肉じゃがを作ってたからかしら」

 

「なるほどな。羽入ちゃんは?」

 

「羽入?羽入ならあそこよ」

 

梨花ちゃんが指をさした先。

そこに羽入ちゃんは仰向けに倒れていた。

泡と涙を大量に吹き出しながら。

近くに放ってある『超極辛!キムキムチ!!』の空き容器が転がっていることからとんでもない“惨劇”が起こっていることが容易に想像できた。

 

「お仕置き激辛キムチ丸々一容器コースよ」

 

梨花ちゃんは涼しい顔でそう言った後、ご飯を食べるかどうか聞いてきた。

 

「ああ。でも、少しだけ待っててくれねーか?」

 

俺は懐にあるWドライバーを確認すると、梨花ちゃんの返事も聞かず倉庫から出た。

出るときに

 

「これがああなって、圭一さんのオットセイがちょん切れてブツブツ」

 

とかなり物騒な事を呟きながら必死にトラップを仕掛けてる沙都子ちゃんがいたが、気にしない事にした。

 

 

 

「さて」

 

倉庫から少し離れた所。

周りに誰もいない事を確認した俺はWドライバーを装着した。

瞬間、フィリップの意思が伝わって来た。

 

(翔太郎!無事かい!?)

 

(あぁ、なんとかな。ただ、ちょっと面倒な事になってる)

 

そこから俺は自分に起きた事を説明した。

 

(………と、いうわけだ)

 

(なるほど。つまり君はつまり君は、事件が起こる前、1983年6月以前の雛見沢にいるって事かい?)

 

(今は6月2日だがな)

 

(それで、君はどうするつもりだい?)

 

(決まってんだろ)

 

ここまで思うと、俺は一呼吸置いた。

 

「みー、翔太郎はロリコンなのですよ」

 

遠くで梨花ちゃんがとんでもない事を言っている気がしたが気にせずに俺の思いを伝えた。

 

(惨劇なんて、この俺が止めてやるよ)

 

(…………そうか。分かったよ翔太郎。君がそのつもりなら僕も全力で協力しよう)

 

(あんがとよ、相棒)

 

(なに、気にすることはない。だが、無理だけはしないでくれ。“昨日”の記憶(イエスタデイ)や“老い”の記憶(オールド)とは違い、君自身がタイムスリップしている。それがどんな影響を及ぼすか分からない)

 

(ああ、分かってるよ。相棒。最後に、すまねぇが『ひぐらしのなく頃に』に関する情報を“地球の本棚”で調べといてくれねーか)

 

(…………分かった。1時間後にまたドライバーを着けてくれ。それまでに調べておく)

 

(頼んだぜ)

 

そこで、俺とフィリップの“会話”は終了した。

Wドライバーを懐に閉まって倉庫に戻った。

 

 

 

翔太郎との“会話”を終えた後、フィリップは一抹の不安を感じていた。

 

(翔太郎がいるのは昭和58年6月2日。これはおそらく事実だろう。しかし、翔太郎がそこに居たという記述は見当たらない。そうなると)

 

そこまで考えると、フィリップは2つの可能性を呟いた。

 

「最悪、翔太郎はタイムパラドックスに巻き込まれるか…………、雛見沢大災害に巻き込まれて、死ぬ」

 

自身の発言にゾッとしながらフィリップは意を決し、“地球の本棚”に入った。

 

『検索を始めよう。最初のキーワードは………』

 

 

 

倉庫に戻った俺を待っていたのは沙都子ちゃんの軽蔑するような視線とニッコリ笑う梨花ちゃんだった。

 

「お、おい、どうしたんだ?」

 

俺がそう言うと、沙都子ちゃんは肩を震わせながら

 

「し、翔太郎さんのフケツーーー!梨花のような少女が好きで祭具殿に侵入したなんて変態の極みですわーーー!」

 

と叫び、手に持ったボタンをポチッと押した。

次の瞬間、四方八方から俺を目掛けて大量の爪楊枝が飛んで来た。

 

「ぎにゃぁぁぁぁぁ!」

 

またもや間抜けな声を上げながら俺の体は針ダルマになった。

 

「みー。悪いと思ってるのですよ翔太郎。ですが色々あって沙都子に変な説明をしちゃったのです。にぱー」

 

「に、にぱーじゃ………ね、え」

 

何か言い返そうとしたが、気を失うように足元から崩れた。

 

「…………ぎにゃぁぁぁぁぁ!」

 

が、倒れた衝撃で刺さった爪楊枝が更に食い込み、その痛みですぐに覚醒した。

話を聞くに、沙都子ちゃんが何故俺が祭具殿に入ったのか聞くと、梨花ちゃんがあのセリフを言ったかららしい。

どうやらそれを間に受けたらしく、ああなったようだ。

その後、何とか沙都子ちゃんの誤解を解き、朝ごはんにありついた。

匂い通りの味でとても美味しく、小学生が作っているとは思えない味だった。

そこから約1時間後、男の子1人に女の子3人ががこの倉庫を訪れた。

 

「ぎにゃぁぁぁぁぁ!」

 

直後、男の子の悲鳴が響いた。

 

 

その後、その子達と顔合わせ兼自己紹介(既に済ませた梨花ちゃんと羽入ちゃんを除く)をした。

 

「俺は左翔太郎だ。職業は探偵。何か困った事があったら何でも相談してくれ」

 

“探偵”という職業が意外だったのか、彼らは少し騒ついた。

しかしすぐに収まり、一人一人自己紹介をしていった。

 

「あ、それじゃ私から。名前は園崎魅音。中学3年で部活の部長。趣味はゲームかな」

 

この子が園崎魅音。活発なリーダー格だが、ダム抗争の時は先陣切って戦ったらしく、雛見沢に対する愛は人一倍強い。

 

「お姉の次は私ね。園崎詩音と言います。お姉とは双子の妹です。見分けが付かなかったらガサツな方がお姉、可愛らしいのが私って覚えてくださいね♡」

 

「詩音〜!」

 

この子が園崎詩音。園崎魅音の妹で、実家とは離れて暮らしているらしい。

一説によるとこの姉妹は何らかの確執があって、実は仲は良くなかったのではないかと言われていたが、この様子を見る限りだと、そんな風には思えない。

しかし、園崎詩音は過去に想い人である北条悟史が“オヤシロ様の祟り”に会ったらしく、今でもその事を引きずっているとか。

 

「ねーねーの次は私ですわ!知っていると思いますが、名前は北条沙都子!お料理とトラップはおまかせですわー!」

 

次に北条沙都子。北条悟史の妹で、彼が“オヤシロ様の祟り”に遭った後、梨花ちゃんと同棲してる。

ちなみに、料理が得意だが、ブロッコリーとカリフラワーの見分けが付かないらしい。

 

「えっと、竜宮レナです。かぁいいものが大好きです。よろしくお願いします」

 

竜宮レナと名乗っているが、本名は竜宮礼奈。

何らかの理由でレナと名乗っているらしい。

ちなみに、この子に関してはちょっと注意をしなければならない。

『ひぐらしのなく頃に』によると雛見沢大災害が起こる直前、雛見沢分校を乗っ取り、生徒たちを人質にして立て篭もった。

その時に宇宙人がどうとか言っていたらしいが、一体何が彼女をそうさせたのかは謎のままだ。

 

「最後に俺だな。名前は前原圭一。雛見沢分校に通ってます。あと、俺も最近引っ越して来たばかりでここの地理はあんまり詳しくないです」

 

最後に、この子が前原圭一。

雛見沢分校立て篭もり事件解決の功績者。

何かしらの事件を起こし、それから逃げる形で雛見沢に来たらしい。

 

「みんな、よろしくな」

 

そう言いながら俺は18にも満たないこの少年少女達の抱える闇の深さを感じながら、密かにこの子達を守る事を誓った。

 

「ところで、何でここに集まったんだ?」

 

俺がそう聞くと、彼らはハッとしたような顔になり、ヒソヒソと話し始めた。

 

(何だ?)

 

そう思って見つめていると、魅音ちゃんがこっちを向いてこう言った。

 

「翔太郎さん!君を我ら部活動の特別部員として認める!」

 

「は?特別部員?なんじゃそりゃ?」

 

「くっくっく、我らの部活は………」

 

その後、熱く何かを言っていたが、半分以上理解できなかった。

ただの罰ゲーム付きのゲームをするだけだという補足を受けて漸く理解したのは秘密だ。

 

「さて翔太郎さん!どうする!?我が部に入らない!?」

 

一通り説明しおえた魅音ちゃんが手をこちらに差し伸べる。

入るつもりなら手を取れ、という事だろう。

 

「当然、入るぜ。だが、最初の数ゲームは参加を見送らせてもらう」

 

「へ?何で?」

 

「ちょっと電話したい相手がいるからな。席をしばし外させてもらうぜ」

 

「あら、それは残念ですわ。圭一さんの惨めな姿を最初から見れないなんて」

 

「何だと沙都子ぉ〜!この前原圭一様がお前のようなロリっ娘に何度も負けると思ってんのか!?てか、今日のトラップ、いつも以上に過激だったじゃねぇか!危うく俺のオットセイが千切れるところだったんだぞ!」

 

「いやぁぁぁん!ケダモノぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ばっ、おま、人様が誤解するような事言うなっての!」

 

沙都子ちゃんと圭一君の夫婦漫才を背に、俺は一旦倉庫を出た。

梨花ちゃんの鋭い視線がこっちを貫いている事を感じながら。

 

 

「さて、そろそろ1時間経つが」

 

そう言い、Wドライバーをセットした。

 

(フィリップ、俺だ。何か分かったか?)

 

(………………………)

 

(フィリップ?どした?おい)

 

(翔太郎)

 

(お、繋がったか。で、どうだった?)

 

(………………………)

 

(フィリップ?)

 

いつもなら検索結果をすぐに教えてくれるフィリップだが、この時ばかりは答えるのが遅かった。

嫌な予感を感じ、俺はある事を聞いた。

 

(まさか、雛見沢大災害に関する資料が閲覧できなかった、とか?)

 

(…………………!そ、その通りだ。ヘブンズトルネードの時同様、鍵か掛かってて見れない。もう一つ、キーワードがあればいいんだが)

 

(そうか、分かった。また何かあったら連絡する。またな、相葉)

 

そう告げると俺は一方的に通信を切った。

フィリップが何か隠している事を察したからだ。

それが言えないと言うことは余程の事なのだろう。

だから互いの意識がリンクしている状態は申し訳ないと思いそうした。

 

「にしても、フィリップの奴、暴走しなけりゃいいけどなー」

 

フィリップが隠している事に不安をおぼえながらもあえて明るく振る舞いながら倉庫に戻った。

 

 

 

翔太郎との“会話”が途切れ、フィリップはボーっと立っていた。

彼の目の前には一つの結論が書いてあった。

 

「翔太郎…………、君はこれを知った時、どうするんだい………」

 

そこに書かれていた結論。

それは、『雛見沢大災害の回避=この世界の左翔太郎という存在の消滅』というものだった。

 

 

 

 

「何だこりゃ?」

 

倉庫に戻った後、目にした光景に思わずこの言葉が溢れた。

満面の笑みを浮かべた圭一君がブルマを履いたレナちゃんに膝枕をしてもらい、水着を着た詩音ちゃんがジュースを飲ませてもてもらいつつ、沙都子ちゃんに大きな団扇で仰がせていた。

羽入ちゃんは別の激辛商品を食べてノックダウンし、梨花ちゃんはネコミミメイドのコスプレをしてニャーニャー言っていた。

 

「あれ?魅音ちゃんは?」

 

周りを見回すと、俺の視界に、頭からタンコブを5つほど生やした魅音ちゃんが倒れていた。

 

「フハハハハ!この前原圭一の前にひれ伏すがよい!!」

 

圭一君の高笑いが響いた。

 

 

何があったのか梨花ちゃんに聞くと、今回のゲームはジジ抜きで、ドベの人は各人が罰ゲームを書いたメモ用紙の入った箱から一枚取り、そこに書いてあった事を実行する、というルールらしい。

ちなみに今回は

レナちゃん=ブルマ姿で1位に膝枕

詩音ちゃん=1位にジュースを飲ませる

沙都子ちゃん=1位の命令を聞く(ご主人様と呼ぶ事)

梨花ちゃん=ネコミミメイドのコスプレをして猫の真似をする

魅音ちゃん=沙都子ちゃん渾身のトラップを受ける

羽入ちゃん=地獄の5000倍ハバネロ一気飲み

という内容の罰ゲームを引いたらしい。

 

(なかなかエゲツない罰ゲームを考えるもんだな)

 

そう苦笑していると、こっちの存在に気づいたのか圭一君が

 

「翔太郎さんも勝負しますか?勿論罰ゲームは受けて貰いますけど」

 

と身体を起こして言ってきた。

どうやら俺とプレイをする気満々のようだ。

 

「ふっ、いいぜ少年。大人が敗北の味を教えてやるよ」

 

俺はそう言い、罰ゲームを紙に書いて箱に入れた。

 

「くっくっく、今の俺には最高のツキが回っている!ここで翔太郎さんも倒させてもらいますよぉ」

 

圭一君はそう言うとカードを切り、俺用と自分用に分けた。

 

「さて、始めるか圭一君」

 

「はい!」

 

今、負けられない戦いが始まろうとしていた。

 




『ひぐらしのなく頃に』
「オヤシロ様とは、僕のことなのです!」
「“オヤシロ様の祟り”、か」
「何を調べているんですか?左翔太郎さん?」
「世界最大のメイド帝国を創ること。それこそが私の使命であり野望であり夢なのです!」
これで決まりだ。



漸く第2話投稿です。
遅くなってしまい、楽しみにしていただいた方には申し訳ありません。
ですが、リアルとの関係上、大体付き1更新だと思っていてください。
そして、この話は全12話となっております。
では、次のお話でお会いしましょう!
See you next despair


P.S.誤字修正、ありがとうございます! 4/29


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