ヤクザとマフィアと探偵のニセコイ物語 (七草空斗)
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第1話 オトズレ

どうも投稿者です。
本作品をクリックして頂き誠にありがとうございます。
一応あらすじの方にも書かせていただきましたが、この作品には未成年の飲酒、喫煙の場面があります。もしこの事に嫌悪感、不快感を示される方がいらっしゃいましたらこの作品を読まないことをオススメ致します。
本作品の説明は以上となります。下に書いてあることは当たり障りない雑談ですので興味がない方は飛ばしてください。

さて、話は270°変わりますが他の作品から来られた方々、お久しぶりです。他の作品であんだけいろんな作品の名前を出しておきながら結果名前が上がってないニセコイになりました。取り敢えずメジャーは設定の方をガチっていましてもう少しかかった後(何時になるかは未定)に投稿したいと思ってます。
前書きが長くなってしまいました。
それでは、どうぞ。


「はい、こちら冴島探偵事務所」

 

いつも言われているように声を2オクターブ程下げて事務所の受話器をとる。この1本の電話を受けてから俺の人生は大きな転機を迎える

 

「おう、テツか?俺だ俺」

 

「昼間から呑みに行って今頃電話ですかお父さん」

 

皮肉らしく応対する電話の相手は我が父である冴島遼介、学生の週に二日しかない休みに事務所を任せて呑みに行くような典型的なダメ親父、昨日の昼間っから昔の知り合いに会いに行くだかぬかして息子に事務所を任して呑みに行っているところだ

 

「おう今からこっち来れるか?」

 

「ばーか、日付と時間を見てからそういう事を言うんだな」

 

現在 月曜日の朝7:30いきなり来れるかと言われても学校で勉学に励むという大切な仕事がある

 

「何言ってんだ。そんなの休んで来れば良いだろ、場所は広尾3丁目5-3」

 

学生の本分は勉強という言葉を真っ向から斬り捨ててくる親父。仕方なく今自分が通っている都立の高校に欠席の連絡を入れる。そして着ていた制服を脱ぎジーパンにヨットパーカー、そしてフルフェイスヘルメットを被り愛車であるZZR250に跨り目的の場所まで走り抜ける

 

 

「よう、早かったじゃねえか」

 

伝えられたのは事務所を出て30分ほどの距離にある喫茶店。そこにはうちの親父と大柄な外人そして小柄な初老の男がコーヒーを啜って談笑している

 

「なんだよ、急に呼び出して」

 

俺が不機嫌そうに親父に聞くと親父は目の前のコーヒーを啜る

 

「うちに依頼が舞い込んで来てな。お前にも協力してもらうぞ」

 

「協力するかはその依頼の内容次第。こっちも学生の身分でして、勉強もしないといけないのでね」

 

「親に似ず真面目に育っているね遼介。マスターこの子にもウィンナーコーヒーを1杯」

 

大柄な外人の男性がマスターにコーヒーを頼むと俺を親父の横の席へと招き入れる

 

「勉強なら心配せんとも大丈夫だぞ、なんせ仕事は学校でもやって貰うからな」

 

学校で仕事と言われてもピンと来ず少し考えていると横にいる小柄な初老の男性が依頼の内容を話し始める

 

「まあ、いきなりで訳が分からんだろうから俺から少し説明しておくわ、まあ君にはボディガードみたいな事して貰いてえんだ」

 

学校でボディガード?訳が分からず困惑した表情でいると

 

「実はね僕はギャング、彼はヤクザのトップの者なんだよね」

 

「は?ギャング?ヤクザ?」

 

まあ当然ながら今の今までヤクザやギャングなんかには殆ど関わりが無い高校生がいきなりギャングとヤクザのトップに会ってるんだ驚きもする。だけどそれ以上に

 

「おい親父。学生にギャングとヤクザの手伝いしろって?本気か?後、何でこんな大物と知り合いなんだよ」

 

前の仕事を聞いたら貿易商だかビジネスマンだか警官なんて適当な事ばっかり言って挙句の果てには行商人だ。どうせ言えない様な裏の仕事でもしていたのだろうと考えていたが流石にこんな知り合いが出てきたらこっちとしては本当に真っ黒な裏の人間なのではと真面目に考えてしまう

 

「もう少し話を聞け、これからが本題だ」

 

そんな息子を前にして淡白な反応を示す親父対して多少の怒りも覚えたがそれをぐっと堪えて話を聞き直す

 

「それで僕達が頼みたいのは私の娘と彼の息子の事なんだ。まあ早い話2人を守って欲しいって事」

 

「うちとそことの組同士で小競り合いをしてる訳、それでこれから組同士で抗争になるかも知れねえわけよ」

 

「まあそうならないようにある案を考えて実行しようとしてる訳なんだけど」

 

「その案って?」

 

「そこの2人の子供をくっつけるって話よ、これなら(やっこ)さんらは手を出せんだろうしな」

 

うちの親父らが冷静に自情を説明する、説明が終わると同時にコーヒーが出てくる。出てきたコーヒーを啜り考え状況を飲み込む

 

「なるほど、それじゃあ俺は何をすればいい」

 

「最初に言った通りだよ、2人を守り抜けば良いんだよ」

 

「でも、2人は恋人同士でそれを構成員に話せば一件落着ならそれで終わりじゃねえの?」

 

「それがね、この事を2人ともまだ知らなくて。実はこの2人偽物の恋人なんだよね」

 

「そこでお前の出番ってわけよ、もし2人がこの事を了承して付き合う振りをしても何処かでボロは出る。それをお前が何とかするんだ、それが今回のお前の仕事」

 

「つまりは2人の秘密を守るってことね」

 

「そういう事」

 

そう言い残してうちの親父はコーヒーを啜り席を立ちタバコを吹かしに行く。それについて行くように後を追う

 

「何でそんな事を親父に頼むんよ?」

 

「だから言っただろ、知り合いに会いに行くって。こんな事頼める知り合いは殆ど見つかんないだろうしな、って事で頼んだぜ」

 

「はいはい、アルバイトの頭金として一本貰うぜ」

 

セブンスターのBOXから1本拝借して火を付ける

 

「朝っぱらからいいご身分だな非行少年」

 

「週初めから勉強熱心な学生に学校を休ませた親父が何を言うか」

 

煙と共に溜息にならない息を空を見上げて吹き上げる




何か質問、意見、要望などありましたら感想の方によろしくお願いします。出来る限り返信致しますが感想を返せない場合もありますのでそこはどうか悪しからず。


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第2話 ハジマリ

この頃は春に移り変わり新生活の準備を始めてる方もいらっしゃる季節ですね。皆様はどのようにお過ごしでしょうか?どうも投稿者です。
最近は時期も時期で余りすることも無くスラスラとこの小説を書くことが出来ました。はい、第2話です。
最近では周りがMHWの話をよくしますがそんな中私はポケモンのパールを久しぶりに起動してます。やっぱり久々にやる懐かしのゲームは楽しいですね。今はガブリアスを育成している所で楽しくやっています。(ポケモンガチ勢ではないのでそこまで厳選はしていません)
新しい生活が始まる季節ですが、たまには昔のゲームなどをプレイするのもいいのではないでしょうか。
長々と書いてしまいましたが本編です。
それでは、どうぞ。


親父が依頼を受けたのが三日前。あの後2人の関係資料を貰い読みふける

 

「何だかなぁ」

 

自分で入れたウィンナーコーヒーを啜り天を仰ぐもそこには汚れた天井と電球の切れかけた蛍光灯があるのみ

 

「どうしたテツそんな顔して」

 

親父というものは帰ってくるや否や俺に書類を渡してすぐ部屋でおねんね、昼過ぎにやっとこさ起きたと思ったら開口一言目が「後、言い忘れてたけどお前凡矢理高校に転校って形になるから宜しく」なんて、寝る前に言うべきだろう

 

「転校っても俺はどこに住めば良いんだよ、こっから凡矢理まで毎日バイクとかなら謹んでこの依頼断るぜ」

 

「なんだそんな事で悩んでたのか、そんな問題ならもうとっくに解決してるぞ」

 

「ん?どういう事よまさか毎日親父が送ってくれるのか?」

 

冗談交じりにコーヒーを啜りながら聞くと

 

「一条の屋敷に住み込みで働いて貰うことになったから」

 

予想の届かないような答えをうちの親父たまに言う。って言うかヤクザと同居って親的には大丈夫なのか?

 

「まあ明日から頼むぞ」

 

はぁ、うちの親父はどうして何時もこうなのか。落胆しながらベランダに出てタバコに手を伸ばす

 

 

翌日

 

いつも通り学校に行き転校に関する書類などに記入する、そして放課後。いつもなら御学友と共にゲーセンにでも駆け込むが、今日からは立場が違う。家に戻りライダースーツを履きこみフルフェイスヘルメットを被る。

愛車であるZZR250に跨り一条家へと走り出す

 

学校が終わってからという事もあり少し遅めの出発になってしまったが約束の時間には間に合った様子。一条家の庭先にバイクを止め中に入っていく

 

「うわっ、何だこれ」

 

親父の仕事のせいで何度か修羅場を潜ったアルバイト・テツ君でさえ驚くのも無理はない。何せ辛うじて玄関先は残っていたものの玄関を開けるとそこ居たのは、護衛対象の一条楽に銃を向けている銀髪オールバックの男と、桐崎千棘に日本刀で斬りかかっている刺青をいれた男、どちらも緊迫した状況。しかもその周りにはヤーさんやギャングがずらっと

 

正直、依頼をすっぽかして帰りたいが冴島探偵事務所の受け持った仕事を必ずこなすというモットーを果たす為にも帰る訳にはいかない

 

「おっ、来たか坊ちゃんこっちだ」

 

あの、こんな緊迫した場面で呼びつけないで下さい。みんな見てるんで、ヤーさんギャングみんな見てるんで・・・

周りのヤーさん達もこんな所にライダースーツの高校生が居ることに困惑している模様。これは腹を括って行くしかねえな

 

「誰だ貴様」

 

銀髪の男性がこちらを向き直す。銃は下ろしてもらえると助かるんですけどねぇ

 

「どうも、冴島探偵事務所から来ましたアルバイト探偵です」

 

「来たね、紹介するよ僕達の友人である冴島遼介の息子さんの徹君だ。こっちが千棘と楽くん」

 

「冴島って言ったらあの!」

 

「あの冴島さんの息子さん!?」

 

うちのダメ親父の名前を出した瞬間この場にいるヤーさんとギャングが一瞬にして顔を顰め(しかめ)、一斉にざわめき出した。

 

「これは、冴島さんのご子息でしたか!これは失礼を!」

 

銃を向けていた銀髪の男性までもが謝ってくる状況。うちの父親本当に何者なんだよ・・・

 

「あの、御二方。俺はどうしたら良いですかね?」

 

「あぁ、ちょいと待っててくれな。んじゃこっちも紹介するかこれから2人のボディガード兼サポートをしてくれる冴島徹くん」

 

「冴島探偵事務所から来ました冴島と申します。この度は依頼をうちの所長である冴島遼介が受けましてその依頼で来ました」

 

なるべく親父の口調を真似ながら自己紹介をするその方が探偵ぽっく振る舞えるからだ

 

「待ってくださいボス!お嬢のボディガードは私共で致します」

 

「組長!俺らも同じ意見ですぜ、いくら冴島さんの息子さんでも・・・」

 

「まぁまぁ、おめえらが不安になる気持ちも理解できるが木を隠すなら森って言うだろ。学生には学生って訳よ。第一、おめぇらが学校に居たら通報されるだろ」

 

「うんうん、そうだよ。クロードもこれで納得してくれるかな?」

 

「ですがボス・・・子供、高校生にお嬢のボディガードを任せるのは些か抵抗があります」

 

ギャング側のクロードとか言う銀髪の幹部らしき男はまだ納得しきれて無いようで他に何か反論できる余地はないかと考えている

 

「なら、サシで実力を見れば良いじゃねえか大幹部さんよ」

 

不意に壊れた扉の奥から聞き慣れた声が飛んでくる。そう、今回の依頼の元凶で、我が父である冴島遼介の声が

 

「親父!」

 

ジーンズにヨレヨレのセーターと平日夕暮れの中年男性の格好とは思えない様な着こなしをしセブンスターをふかしながら入ってくる。周りのヤーさんギャングが一同に目を見開き動揺している

 

「おう、来たんか遼介」

 

「あぁ、ここらに新しいパチ屋が出来たって聞いてその帰りでな」

 

「パチ屋って、子供に仕事をほっぽり出してか?」

 

「お前が適任だったから任せたまでだ」

 

「はぁ、バイト代は高く付けておくぜ」

 

他人の家のましてやヤーさんとギャングの抗争が始まりそうな時に自分家の恥をさらけ出している中クロードと呼ばれる男が会話に入り込んでくる

 

「冴島さん、サシと言われましても・・・我々にもメンツと言うものが有りまして。流石に冴島さんのご子息と言われましても子供相手にサシは・・・」

 

クロードと呼ばれる男は困惑して冴島父の方を見つめる

 

「うちの倅はそんなヤワじゃねえよ。なあテツ」

 

「ギャングと殴り合いさせようとする父親初めて見たわ。まぁそれが依頼に必要ならば喜んではしないけど生活の為だからね。やるよ俺は」

 

「だってよ。メンツが大事ならウチのをホッキョクグマの檻に入れて脱出出来たら合格ってのでもいいぜ」

 

顔色も変えずにこんな事を言う父親に息子の命をなんだと思っているんだと一言文句の一つも言ってやりたいとこだがここは抑えておく。相手の幹部の方は顔を引き攣らせながら

 

「本気ですか?自分の息子の命を・・・」

 

相手さんも俺と同じ事を思っていたらしく顔を真っ青に染める

 

「なら、サシで勝負するか?」

 

「・・・ボス」

 

「あぁ、ボクは大丈夫だよ。遼介の息子だ心配はして無いよ」

 

まあ信用されてるようで。うちの父親の息子ってだけでよくこんな信頼を置いてもらって。前から疑ってたがうちの親父は本当に裏の人間なのではと疑ってしまう

 

「分かりました、ではうちの部下と武器なしのサシで勝負して頂きたいと思います」

 

「クロードはそれで満足するかい?」

 

「勿論、うちの部下は皆が皆優秀だと思って居ますので」

 

まぁそんなこんなでサシでの勝負に。

相手は白人で金髪で身長はざっと見親父並かそれ以上ボクシングで言えば階級はヘビー級かと、こちらは177のウェルター級、力押しは余り賢い選択ではないと言える

 

もちろん武器無しサシでの勝負、男はやる気十分と言ったところで構えは上段、ボクシングのフォームを取る。相手さんはボクシングの使い手の様子。対してこちら力なく腕を上げ腰くらいの位置で構える格好を取る。

構えていた白人の方が痺れを切らしたのかこちらへと距離を詰めて

左ジャブ、左ジャブ、右ストレートのコンボを打ち込む。こちらはそのコンボを難なく逸らし屈んだ体制からみぞおちに思い切り左ストレートをお見舞いする。確かに相手は怯むも怯んだだけの様子。あんまり殴るのは得意ではない。大柄な外人には効きにくいし何せ筋肉の壁である外人の胸元を殴ると手が痛くなってくる。相手は顔色も変えずに構え直し数秒間、間合いを取り続け

次はこちらから相手の懐に飛び込み左フックをフェイクで入れ相手はガードの体制を取る。そこを狙って相手の右手を両手で下に引き寄せ体制を崩し首を左手で持つ。瞬間ヘビー級の外人がいとも簡単にすっ転ぶ。そして倒れた外人の左腕を持ち上げ股下に潜らせトライアングルランサーを決める

 

「CQCからのプロレス技か。立ち技で勝てないと踏んで寝技に切り替えたな」

 

親父が冷静に解説をする。俺はトライアングルランサーの締め方を強くする床に転がっている白人は大量に吹き出す汗と呻き声を上げている

 

「認めてくれた?駄目なら多分この人の腕が折れると思うけど、こっちも生活がかかってるんで」

 

クロードと呼ばれる男は重々しく口を開く

 

「・・・分かった、二人のボディガードは君に任せよう」

 

「おい、竜お前も大丈夫か?」

 

「はい、分かりやした!学校での坊ちゃんの警護はお任せします!」

 

両幹部のお墨付きを受け冴島徹は何とか仕事に就けるらしい

勿論こんな事をさせた親父からは特別給としてパチ屋で稼いだ1万をしっかり回収しておいた

 

 

 




2話連続でニセコイ本編に入らないのはいかんだろ。
次は、次こそは本編に入りたいです(願望)
この作品はかなり賛否両論あると思いますが、どうか暖かい目で見てもらえれば有難い限りです。
前書きにも書いた通りここ最近はゆとりがあるのでストックを作れたらいいなぁ、と思っています。
それではまた次回



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第3話 ショニチ

オープン戦も残り数試合となりセ・パ両リーグの開幕まであと残り2週間となりました。どうも投稿者です。
平野投手や牧田投手のメジャーリーグ移籍や上原投手の日本球界復帰やイチロー選手の古巣復帰などニュースもあり今年のシーズンも楽しみに待っていいる今日この頃。
話は変わりますが今回の第3話ですが少し不快に思われる方がいるかもしれませんがどうか温かい目で見て頂ければ嬉しい限りです。
では、どうぞ
いい前書きが思いつかなかった(ボソッ


朝 寝ぼけ眼で頭を上げ一つ大きく欠伸。いつもと同じ日常。いつもと同じ朝。ここまではいつもと同じシチュエーションだけどいつもと全く違う。なぜだって?それは

 

「おはようございやす!冴島の坊ちゃん!もうすぐ朝食出来ますぜ!」

 

そう、いつもと違うのはこの環境。ヤクザとの同居生活

 

「おはようございます、竜さん」

 

「ん?まだ眠そうですね、洗面所で顔でも洗ってきたらどうです?」

 

「ん、そうする」

 

二度寝したい衝動を抑え竜さんの言った通りに洗面所に向かう

はずだった

 

「ここどこよ」

 

ヤクザと同居を初めて1日目しかも着たのは昨日の夕方、家の構造なんて覚えてるわけもなく寝ぼけながら歩いたらこのざま、道に迷った。

 

「広すぎだろこの家・・・うちの何倍だ?」

 

それもそのはず昔の武家屋敷のような造りから外門から家の周りを囲う庭、池、更には大きな蔵までご丁寧に造り込んでいる

呆気に取られながら歩くこと数分、テツくん台所にご到着。とりあえず中に誰か居ないか確認する為中に入る

中に入るもそこには調理済みの朝ごはんがあるのみ。皿が2列に並んでいて手前側の皿だけ無いということは多分この家の料理人が料理を運んでいる途中なんだろう、仕方ないので中で待つことにする。

大きな台所にはその大きさに相応の冷蔵庫と調理用品の数、この家の朝食は毎朝手が込んでいる手作り料理と見た。そんなこんなで台所をウロウロしているとコーヒーメーカーを発見コーヒーは既に出来ている様子でカップを一つ拝借し飲ませてもらう。

コーヒーを注いでいる途中にこの台所の主が戻って来る、どんな人かと振り向いてみるとそこには護衛対象の一条楽くん。こちらの顔を見るや緩んでいた顔が急に引き締まりと言うか引き攣りながらこちらを見ている

 

「コーヒー頂いてたけどまずかったかな?もしダメだったら申し訳ない」

 

原因がコーヒーだと思い謝罪を入れる

 

「ぇ、あ、あぁ、良いんだコーヒーは、起きたんだ。えっと・・・冴、冴」

 

「冴島 徹。おはよう一条楽さん」

 

「冴島だったなうろ覚えでゴメンな、あと俺の呼び方は楽でいいよ」

 

「そうか、分かったなら俺もテツでいいよ」

 

「分かった、所でテツ。何で台所なんかに居たんだ?」

 

「あぁ、朝のコーヒーブレイクでも・・・って言えたらカッコイイんだけどな、実は迷っててそれで洗面所を台所担当に聞こうと思って」

 

大変恥ずかしい話ではあるが事実なので仕方が無い、素直に打ち明け洗面所の場所を聞くことにした。楽は不思議そうにこちらを見つめてくる

 

「あれ?なんか変なこと言ったかな?」

 

楽がハッと我に戻ったかのように

 

「いや、この人が昨日の外人を倒した人と同一人物って事に驚いて」

 

家の中で道に迷っている奴と昨日俺が同一人物だと言われてもピンと来ないのは俺も百も承知だがズバッと言われると流石にくるものがある

 

「洗面所は階段の下だから、後洗面所で顔洗ったら昨日みんなが集まってた大広間に来いよな朝飯置いておくから」

 

「了解、ついでにその朝食にコーヒーをプラスで」

 

「あぁ、分かった」

 

楽に軽く手を振り洗面所に向かう。洗面所に到着し冷水で顔を洗い目を覚まし大広間へ歩き出す

 

 

大広間

 

ここに来ての初めての食事。昨日の夜はここいらの地域を知るのも護衛をするには必要と思い愛車であるZZR250を飛ばし凡矢理市内を1回りして来たから外食で済ましてきた

もちろんお代は経費から引かせていただきました

 

「おっ、冴島の坊ちゃん!目は覚めやしたか?」

 

「えぇ、スッキリしました」

 

周りにいるヤーさん達に挨拶をしてからお盆に置いてあったコーヒーを啜る。寝ぼけている時に飲んだ時とは違ってかなりいい豆を使ってるのが感じ取れる。

 

「頂きます」

 

食事前の合掌をし、箸を持ちお盆に盛られた料理を食べていく。ふっくらと炊けたお米、皮がパリッと焼けた魚、あっさりとした味噌汁、どれをとっても家に居た時は食べたことがない逸品ばかりだ

 

「美味い、なんだこれ?こんなにうまい料理初めて食った」

 

「でしょう?なんせうちの坊ちゃんが作る料理はどれも最高ですからね!」

  

美味い、この言葉に限る。そう思いながら朝食を平らげていく

 

「ふぅ、ご馳走様でした」

 

「お粗末様でした」

 

食事も終わりお盆の方を下げに行こうとすると後ろから楽が歩いてくる

 

「お盆なら俺が持っていくぜ」

 

「あぁ助かる」

 

楽にお盆を渡し自室の布団を畳に行く、勿論自室までさまよいながら

 

やっとの思いで自室まで到着し布団と畳んでいると玄関先からインターフォンが鳴り響く。やくざの家への来訪者に少し興味を持ったので玄関まで向かう、今度は迷わずに

 

「ごきげんようダーリン、突然なんだけどデートしない?」

 

 

「は?」

 

突然の事で楽はあっけに取られている、まぁ無理はないよな昨日いきなり恋人同士とか言われて次の日にはデートだなんて  

 

「は?なんで俺がデートなんてしなきゃいけないんだよ」

 

まぁ当然の反応だな、でも

 

「何言ってるんですかい。恋人とデートに行くのなんて当り前じゃないですかい」

 

これ、この一言に限る。というわけでデートに行く二人、勿論俺は同行せず愛車のZZR250を走らせ町の中を観光していく夜とは違う町の風景が見れる

 

「まぁ仕事中なんで遊べないですけどね」

 

観光といっても好き勝手に行きたい場所に行っているわけでは無くちゃんと護衛対象を確認できる位置にバイクを置いて二人の様子を観察している。今は楽がどこか別の所にいるようで桐崎千棘さん1人で立っている。本当なら若い女の子でもナンパしてお茶でも一緒にしたい所だが、そうあの四人組の・・・

 

そんなことを考えていると護衛対象に四人の男の影が

 

「あー、面倒だな」

 

二人に気付かれたくないというのもあるがヤーさんギャングにもあまり気付かれたくない。いくらボディーガードとは言えデート中にまで尾行してるのがばれるとうちの事務所の顔を汚しかねない。まぁヤーさんギャングも尾行してるし大丈夫か。

事務所の顔の問題もあるがそれ以上に距離の問題もある。気付かれない様にと反対車線で観察していたのでバイクを連れて反対に行くのはちと時間がかかる

 

「いやぁすいませんねぇ、こいつ日本語ぜんぜん喋れなくてさぁ」

 

お、楽のナイスフォローで四人をかいくぐって行く。こんな調子でやってくれたらこっちとしても仕事が捗るんだがな

 

そのまま二人は公園に向かいベンチに腰かけている。公園内までバイクを連れて行くのは流石に目立つので二人に感づかれないような位置を取って様子を見守る

 

「あれ?一条君?」

 

「お、小野寺?どうしてこんな所に」

 

楽は知り合いの女の子に会ったらしくなぜか動揺している、ま、何かトラブルに発展する気も無いので今の所は流しておく

 

「ダーリン、ごめんねぇ思ったより時間かかっちゃってぇ」

 

桐埼千棘さんが多分周りのヤーさんギャング達にアピールしようとしてラブラブカップルぶりを発揮したが間が悪かったらしく三人が硬直し知り合いの女の子が戸惑っている。

 

「え、ダーリンってことはってその、えっとつまりその付き合ってて・・・」

 

「いやいや、違う違う違う、なんで俺がこんな奴と!」

 

「そうよ誰がこんな!」

 

と反論を互いに並べるも後ろに居るヤーさんギャング達に気付き反論が止まる。

あー、これはやばいな。もしこんな所で二人がボロを出せばうちの仕事も今日で終わり。またあのろくでもないスリリングな生活に元通り。何より学校を辞めさせられてまでここに来たんだ、学業が本文である学生からしたらたまった物じゃない。あまり仕事はしたくないものだが些か仕方がない

 

「ねぇねぇそこの大和美人ちゃん。ちょっと良いかな?」

 

「え?」

 

まずはこの沈黙を破って、可愛い女の子に声をかける。仕事中にナンパというのは気が引けるが俺の今後が掛かっているので仕方が無い。

 

「あ、もしかして三人でお買い物中でしたか?」

 

「え?いやそうじゃないですけど・・・」

 

「なら良かった!もしかしてお買い物終わりでばったり友達と会っちゃった感じですかね?」

 

「えぇ、まぁそんな感じです・・・」

 

ここまで話して少し動揺してるのが見て取れる

 

「あぁ、申し遅れました私、冴島探偵事務所の冴島と言う者でして」

 

「え?探偵さんが何か御用ですか?」

 

「実は、あるものを探していまして・・・」

 

「あるもの?」

 

「そう、私のハートを落としてしまいまして」

 

「ふふっ、貴方のハートですか?」

 

お、いい感じ

 

「えぇ、ですので一緒に探して頂きたくて。せっかく一緒に探して貰うのなら飛び切りの美人が良いと思いまして」

 

「び、美人だなんてとんでもない」

 

「いえいえ、あなたほどの美人この世には居ませんよ」

 

「え?」

 

「そう、天国まで行かないとね」

 

「ふふっ、お世辞でも嬉しい事をありがとうございます。でも、ごめんなさい一緒に探すのはちょっと無理です」

 

「そうですか・・・仕方ないですね」

 

そう言って、楽の知り合いの可愛い女子をお姫様だっこする

 

「ええぇ!?」

 

「んな!」

 

女の子は驚き楽に関しては嘆きにも憤怒にも取れるような声を上げる

 

「なら、貴女を送り届けることにします」

 

「えっ、でも、あ、その・・・・」

 

「おま!」

 

動揺のちにこちらに向かって何かを言おうとして来る楽。それをシッという仕草で抑えアイコンタクトで周りの目を気にさせる

 

「あの!」

 

「シッ、ごめんねちょっと静かに」

 

女の子を制止させ二人の元から離れて行きバイクの近くまで辿り着くと顔を真っ赤に染めた女の子を地面に下す

 

「ごめんな、いきなり抱きかかえちゃって」

 

女の子は少しの間ボーっとした後に

 

「あ、いえ大丈夫です!こちらこそごめんなさい!」

 

「ハハッ、謝る事ないのに。いきなり声掛けちゃってごめんな」

 

口調を先程のナンパしていた時からいつもの口調に変え再度謝る

 

「ちょっと仕事でああするしかなくてさ。さっきも名乗った通り冴島探偵事務所の冴島 徹と申します。何かお困りごとがありましたら依頼の方を宜しくお願い致します、って言ってももしかしたらあのダメ親父が断るかもしれないからその時は俺に連絡してね」

 

軽く事情を説明しうちの探偵事務所の名前も売っておく

 

 

「仕事ってもしかして一条君と千棘ちゃんの事ですか?」

 

「あー、詳しいことは話せないけど分け合って二人のボディーガードみたいなことをしている」

 

「あ、もしかして私何かいけない事してました?」

 

「ん?いや君がじゃなくてあの二人がね、もしあそこであの二人が口を滑らしたら俺の仕事がなくなる所だったよ」

 

苦笑いを浮かべながらバイクを持ってくる

 

「もし良かったら送らせてくれないかな?迷惑掛けちゃったし」

 

「え?いやでも、冴島さんの迷惑になるし」

 

「ハハッ、こちらが迷惑を掛けたから善意の気持ちで送って行くんだ、遠慮しないで乗って頂けないかな?」

 

少しへりくだった言い方で頼む。こちらとしてもヤーさんギャング達の抗争に巻き込みそうになったんだ少しくらいはお礼をしないと気持ち良く事が終われない。

 

「わかりました、そこまで言うのならお願いします」

 

「よし、それじゃあヘルメットの方被って貰って良いかな?」

 

申し出を断られなかった事に少し安堵しサブのヘルメットを渡し家の住所を聞きバイクを走らせる。運良く警察の御厄介になる事にはならずに目的地の和菓子屋おのでらに到着する

 

「ご実家和菓子屋さんだったんだね」

 

「えぇ、うちの和菓子は美味しいんですよ」

 

「そうなんだ、なら少し貰って行こうかな」

 

「ありがとうございます!」

 

和菓子屋に入り色々な和菓子を集英組のみんな分の和菓子を買っていく。支払いは昨日親父から頂戴した1万円を使う

 

「今日は送って頂いてありがとうございました」

 

「いやいや、こっちが迷惑掛けたからそのお詫びに送ったまでだよ、所で一つ聞きたいことが有るんだけど聞いて良いかな」

 

「答えられる事なら良いですよ」

 

「君は一条楽とはどういう関係なの?」

 

「えっ、えぇー!ど、どういう関係って、あの、そのぉ・・・」

 

「ハハッ、質問が悪かったね。君と一条楽はどういう知り合いなの?」

 

「い、一条君とは高校のクラスメイトです!」

 

顔を真っ赤に染めて慌てふためきながら答える女の子。その姿は年相応に見えとても可愛く見える

 

「そっか、同じ学校なんだね」

 

「は、はい!」 

 

「質問に答えてくれてありがとうね大和撫子ちゃん」

 

女の子はまた顔を真っ赤にしてこちらを見る。その姿を背中に残しバイクに跨りフルフェイスヘルメットを被る、エンジンをかける前に後ろを振る向き

 

「君が望むなら一条楽とそういう関係になれるかもね、それじゃあまた会おうね」

 

俺はそう残してバイクを走らす

 

女の子は最初は恥ずかしそうに眼を見開いていたが「また会おう」と聞いて少し不思議そうに首を捻るのであった

 




小野寺さんがチョロインみたいに見えてしまう・・・
自分で書いていても少しチョロく見えてしまってちょっと不安ですが投稿者としては楽しんで頂ければ嬉しいです。
次回は多分早めに出せると思うのでゆっくり待っていてください。


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第4話 テンコウ

第4話です(前書き放棄
前回から合わして前書きが酷いことに・・・
もう前書きに書くネタが尽きてしまいましたので
では、どうぞ


 

三日目ともなるとこの武家屋敷で起きるのも慣れてくる。一昨日、あの後に家に帰るとどっから察知してきたのか玄関前で待っていた楽が俺の肩を揺らして女の子とあの後どうなっただとかどうしてナンパなんかしたのか等を、半狂乱になりながらこちらの返答の隙を与えず聞いてくる。楽の質問全てに答え終わる頃には夜も更けていたのでそのまま就寝。昨日は愛車のチューニングに更けこんでいた。幸い楽は機嫌を直してくれていた様子。

今日の朝は転校して初日という事で楽よりも早く学校に向っていた

 

学校

 

家から乗ってきたバイクを学校近くの駐輪場に止め学校に向かって歩いてく。

学校内に到着し職員室に向かう。職員室に到着しドアを三度ノックし扉を開き自分の名前、今日が転校初日であることを伝える

 

「君が冴島君ね、副担の福田です。まぁ副担っても年に何回か会うだけだから覚えてなくても良いけどよ」

 

「これから宜しくお願いします福田先生」

 

「お、礼儀正しいじゃねえの。書類関係は君の親父さんがやってあるから君は朝のHR中に挨拶するだけで良いよ」

 

「分かりました」

 

朝 8:40 教室

 

担任の日原教子先生とも挨拶をかわし教室前にスタンバイしておく

 

「おー何々、お前ら付き合う事になったって?いいねー青春だねー良かったなぁ席隣で」

 

「よくないですよ!キョーコ先生まで!みんな聞いてくれ!あれは誤解で・・・」

 

廊下の外でも一応様子は見える、というか扉も空いているので内容も聞こえてくるので状況を説明すると楽がみんなに弁明しようとして居たが外を見て絶句、外にはクロードさんが監視中。そして周りが誤解なのかとざわざわし始めそれを少しは板に付いてきた芝居で回避することに成功。んでもってHR中

 

「ほーい、それじゃあ朝HR始めるよー。ついでに転校生も紹介するよー」

 

本来それがメインなのではないかとツッコミを入れたい所だがHRに集中する

 

「んじゃ、挨拶よろしくね」

 

先生に言われたので一歩前に出て自己紹介を始める

 

「えぇー、今日から凡矢理高校のこのクラスに転校になりました冴島徹と言います。前はしがない都立高校に通っていましたが親の仕事の影響で凡矢理市に来ることになりこの高校に転校になりました、これから1年間どうぞ宜しくお願いします」

 

親父の仕事云々は少し嘘っぽいところもあるがまぁOKだろ

 

「あ、あー!あなたは!」

 

自己紹介を終えると真っ先に反応した女の子が居た

 

「あ、この前は迷惑掛けちゃってごめんね大和撫子ちゃん」

 

最大級の笑顔で女の子に返事を返してあげる。女の子はまた顔を赤く染めて下を向いてしまう本当に大和撫子って感じで可愛いなこの子

 

この後クラスがどんちゃん騒ぎとなったのは言うまでもない。ついでに言うと楽もかなりの敵意を向けてきていた

 

「んじゃ、冴島は後ろの席な」

 

「分かりました」

 

指定された席に向かい腰を下ろす

 

「よ、俺は舞子集。宜しくな」

 

「おう、宜しくな舞子君」

 

「集で良いぜ、所で小野寺さんとはどんな関係で?」

 

隣の席に座っていた舞子集くんが小野寺さんという人との関係について聞いて来る

 

「小野寺さん?小野寺さんって誰?」

 

「ん?ほらさっき飛び切りの笑顔を返してたあの子」

 

そう言って集は一昨日の楽の知り合いの女の子を指差す

 

「あぁ、彼女?関係って言ってもナンパして振られて家まで送り届けただけの関係だけど」

 

「お、おうなんかすごい関係だな」

 

「まぁナンパって言っても止むに止まれぬ事情があってな」

 

「そうなのか~」

 

事情を全て話きると集は面白い記事が上がって来なかった新聞記者の様な感じで新しく話題を振ってくる

 

放課後

 

今日は1日学校に慣れるのに大変でかなり疲れが溜まっている。こんな日にはニコチンが欲しくなってくる

そんな事を思っていると前から猛スピードで走ってくる小野寺さん

 

「あ、小野寺さん」

 

「さ、冴島さんこんにちは」

 

「冴島さんだなんて、同級生なんだから他の人と同じ様な呼び方で良いよ」

 

「あっ、ごめんなさい」

 

流石に同級生にさん付けで呼ばれるほど老けてはいないので他の人と合してもらう事にする

 

「今凄いスピードで走ってたけど何かあったの?」

 

「なっ、なんでもないよ!」

 

口では何でもないと言っているが明らかに何か焦っている素振りを見せている

 

「まぁ、落ち着いて深呼吸してみなよ」

 

「深呼吸?」

 

小野寺さんは言われた通りにスーハースーハーと深呼吸をし少し落ち着いた様子

 

「落ち着いた?」

 

「うん、なんかごめんね」

 

「いや、大丈夫だよ。何かあったの?もし手伝えることが有ったら声掛けてね」

 

「あっ、うんありがとう。でも大丈夫だから」

 

小野寺さんは笑顔でそれじゃ、と別れを告げ学校を後にし駐輪場に向かい愛車であるZZR250を取り出し走り出す

 

 

 

 




何とか次回の前書き迄にはネタを補充しておきます。
それではまた次回


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第5話 コウカン

セ・パ両リーグも開幕しまして今年も野球の時期が始まりました。
どうも、投稿者です。
10割打者小林や岡本くんが2戦連続3ランを叩き込んだり、西武打線が開幕戦から11得点と大暴れするなどで今シーズンも楽しみなシーズンになりそうです。
野球の話はさておき本編になります。
それではどうぞ


今日は家庭科の調理実習でケーキを作る事に。普通調理実習って最初は簡単なスープとかじゃないかとか思ったけど、スープなんかよりケーキの方が普通に嬉しいし。これはこれで

 

作るのはショートケーキ。1人で食べるには少し大きいかもしれないが4号を1ホール分作る。一応親父と二人暮らししていた事もあり自炊は得意な方。と言ってもレシピ道理に混ぜて切って作るだけなので味は人並み。

小麦粉などを測っていると周りの女子がザワザワし始める

 

「なんかザワザワしてんな。集、何か知ってるか?」

 

こういう事にはかなり目ざとい集に材料を混ぜながら聞く

 

「ん?さっき楽にも聞かれたんだけど、今クラスの中で今日のケーキを好きな奴に渡すっていう流れでよ。男子全員ソワソワ女子に関しても誰に渡すー?とかで盛り上がってるわけ!」

 

いいよなー、俺もほしいなーとか言いながら集が俺の肩をトントン叩いてくる。なるほどそんな流れが出来てるとは知らんかった、楽に関しては何故か胃薬を用意しようとしてるし。どんだけ食べる気なんだよ・・・

 

「あ!小野寺さん!」

 

「ねえねえ、小野寺さん!良かったら俺のケーキと交換しない?」

 

「いやいや!オレのと!」

 

話をしてた俺らの横を走り過ぎてクラスの大半の男子が小野寺さんとケーキの交換を懇談している。小野寺さんモテモテだなー、というか調理実習中に走んなよホコリ舞うし危ないし。周りがザワザワしている理由は分かったけど貰う相手もあげる相手も居ないので黙々とショートケーキを作り続けている。楽は桐崎さんのケーキを一緒に作ってあげている。仲いいじゃんとか思ったけど声に出したらぶん殴られそうなので心の中に留めておく

 

自分のケーキはチャッチャかチャッチャか作り終わったので2人の作業を椅子に座って傍観している

 

「出来た〜〜!!桐崎特製ショートケ〜〜キ〜〜!!」

 

オーブンから取り出したケーキは丸焦げになっていて最早ショートケーキとは言えない物になっていた。見るからに地雷臭がするケーキを楽は彼氏と言うことで試食する事に。クラス中が楽に対してご愁傷さま的な雰囲気を向けていたが1口味見をした楽の顔は曇るどころか驚きの顔に

 

「・・・うめえ」

 

「え?それ美味いの?」

 

流石にお世辞だろうと思ったがあの見た目でどんな味なのか気になったので2人に許可を取って1口頂く

 

「あ、本当だ俺のよりうめえわ」

 

見た目こそ酷いものであったけども味に関してはショートケーキそのもので尚且つレシピ通りに作った俺のケーキよりも断然美味かった

俺の反応に驚いたのかクラス中で桐崎さんのケーキを試食し、みんながみんな美味い美味いとベタ褒め。桐崎さんが楽に振り絞ってお礼をするも見事に楽がそのお礼を一切し殴られてる。ああいう所が無ければ仲良しカップルなんだけどな

 

自分のケーキは流石に1人では食べきれない量なので食べずに家に持って帰って竜さん達にご馳走することに。さっさと片付けを終わらせてエプロンを脱ぎ教室の外に向かうとぶっ倒れてる楽とアタフタと混乱している小野寺さんが

 

「どうしたの?そんなに慌てて」

 

見た感じは楽が倒れて混乱してる感じ。それならば先生を呼べばいいだけ。他の理由があるかと思い話を聞いてみる

 

「い、一条くんが倒れちゃって!」

 

「いや、それは見たらわかるけど。どうしてこうなったの?」

 

小野寺さんは少し恥ずかしそうに言おうか迷った後に

 

「実は私のケーキを食べて・・・」

 

「は?ケーキ?」

 

・・・え?いやイマイチ状況が理解できない。楽は小野寺さんのケーキを食べて倒れたのか?もし小野寺さんのケーキを食べたとして倒れるほどか?

少しの思考の後にある事を思い出した。

 

「ああ、多分楽の奴腹壊してたんだわ」

 

楽が実習中に胃薬だなんだと言ってたのを思い出す。あれは沢山食べ過ぎて腹を壊すから胃薬を必要としてたのだと思っていたけど実は元々腹を壊してたらしい。だから小野寺さんケーキを食べた時は限界だったんだろう。そういう風に解釈をしておく

 

「え?」

 

「あいつ最初の方に胃薬がなんだって言ってたからさ」

 

「え?そうだったの?そしたら一条くんに悪い事しちゃったな」

 

何か安堵したような申し訳ないような顔をして後ろにいる楽を見つめる小野寺さん。俺は楽を背負い上げ小野寺さんの方に向き変える

 

「そう言えば楽にあげたケーキってまだ残ってる?」

 

「え?一条くんは1口しか食べなかったからまだまだ残ってるけど・・・」

 

「それじゃあそのケーキ貰ってもいい?勿体ないし代わりに俺のケーキあげるからさ」

袋の中に入れていたケーキを小野寺さんに渡す

 

「で、でも悪いよ折角一生懸命作ったケーキなのに私なんかに」

 

小野寺さんは困り眉になり断ろうとする

 

「和菓子屋の娘さんに折角だから味見して欲しいんだよね。まぁ、楽みたいに上手くはないけどね」

 

苦笑いを浮かべてハハハッと笑う

 

「あと小野寺さんのケーキ食べてみたいし。ああ、でも楽の為に作ったケーキだもんね。俺なんかが食べちゃ駄目か」

 

楽の為にと言うワードに反応して小野寺さんの顔がカーッと赤くなる。やはりと言うか何というかやっぱり可愛い

 

「そそ、そんな事ないよ!一条くんには食べて貰えたし捨てるのは勿体ないから」

 

「よし、それじゃ交換ってことで」

 

背負っていた楽が落ちてきたので持ち直してお互いのケーキを交換する

 

「んじゃ俺は楽を保健室に運んで行くから。またな」

 

「うん、またね冴島くん」

 

小野寺さんの横を通り過ぎ保健室に楽を寝かしてから教室に戻り小野寺さんに貰ったケーキを開け1口放り込む

 

「ゔっ・・・」

 

横に居た集が俺の異変に気付き声をかけてくる

 

「お?どうしたテツ?楽みたいに腹でも壊したか?」

 

「だ、大丈夫。意地でも腹は壊さないから」

 

いつもは余り表情豊かな訳でもない俺だけども今回ばかりは顔面を蒼白にし、かなり歪な顔をする。そんな顔を見てか集も驚きで声が出ない様子

 

「・・・お、おうそうか。・・・なんかあったら俺に言えよ」

 

去り際に肩をポンポンと叩いて自分の席に戻る集。集が座るのを見送った後にただひたすらに小野寺さんの作ったケーキを食べ進めていく。今になって楽が腹を壊した理由が分かり若干の後悔を残しつつも授業前までには食べ終わらせる。桐崎さんや周りのクラスメイトが言うには何かに取り憑かれたようにただひたすらにケーキを食べてて怖かったとの事。放課後に会った小野寺さんには美味しかったと伝えておいたが後で宮本さんにあの時俺は目が据わってなく怖かったと言われてしまった始末




タグに不定期更新とか書いといて1週間スパンで投稿してますが、多分来週からは不定期になると思います。
もし1週間スパンで投稿していたら頑張ったんだなと思ってください。
それでは、また次回


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第6話 オウチデ

ゴールデンウィークという大型連休も終わり、学生の皆さんは部活動やテスト勉強が忙しくなってきた頃だと思われますが皆様いかがお過ごしでしょうか。
どうも投稿者です。
最近は鼻風邪の方が酷く何をするにも鼻水が止まらない状態でして、この時期になりますと花粉症の方も鼻水が辛い時期だと思いますが気紛れにこの作品を読んでいただければ幸いだと思います。

投稿の方がかなり開きましたが見てくださっている方々には楽しんで頂けれれば幸いです。

それでは、本編の方をどうぞ


数日が経ちクラスの雰囲気にもなれ始めたある日

 

「一条くん家で勉強会開きたいんだけど良いかしら?」

 

一条家での勉強会が執り行われることに

 

「へー、テツって楽ん家に居候してるんだな」

 

「ちょっと訳あってな、親父の仕事の事情でここに済ませてもらってる」

 

今日の勉強会に集まったのは宮本さん、小野寺さん、桐崎さんに楽と集と俺の6人

 

部屋に行くまでの道のりで桐崎さんがソワソワしてたり楽が小野寺さんに無視されたりとみんなのいつもと違う一面が見える

部屋に着くと桐崎さんが「なんか臭うわねこの部屋」なんて言うもんだから笑ってしまったのはご愛敬。小野寺さんは楽の部屋の臭いを嗅いでいる。臭うからって女子が男子の部屋の嗅ぐのはどうなのか

 

「坊ちゃん、お茶が入りやした」

 

楽が部屋に友達を連れてきたのがよほど嬉しかったのか竜さんが上機嫌でお茶を持ってくる

 

「おう、サンキュー竜」

 

「あ、私も手伝うよ」

 

竜さんからお茶を貰った楽の手伝いをしようと小野寺さんが楽の持っているお盆を一緒に持った時に手が触れたのか2人がお茶を吹っ飛ばす

 

「うわあ!」

 

空中に熱々のお茶が舞う。このままでは小野寺さんか楽にお茶がかかってしまうと思いとっさの判断で脱いでた学ランを舞ったお茶を囲うように受け止める

 

「2人とも大丈夫か!?」

 

「あぁ、小野寺は大丈夫か!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

2人の安否を確認し床に散らばった湯のみをお盆の上に戻す

 

「冴島くん、大丈夫!?」

 

「大丈夫か?冴島」

 

「あぁ、大丈夫、2人とも怪我はない?」

 

「でも、湯のみの中のお茶がかかって・・・」

 

「ん?これか?こんなの大した事ないよ、逆にお茶の匂いでワイシャツがいい匂いになったよ」

 

冗談を飛ばしながら学ランを羽織るが学ランの方にもお茶がかかっていたようでベチャベチャに濡れている。流石にこのまま濡れた学ランを羽織るのも嫌なので自分の部屋に戻り上だけパーカーを羽織ってくる。制服は明日も学校があるのでハンガーに掛けて天日干しにしておく。ついでに竜さんに雑巾を用意してもらい畳にシミがつかないように拭いていく

 

「冴島くん、本当にごめんなさい!一条くんも部屋にお茶こぼしちゃって」

 

「良いって小野寺。小野寺が無事で良かったよ」

 

「うん、全くだ。誰も怪我しなかったから良しとしようよ」

 

小野寺さんが楽や集になだめてもらい勉強会が始まる

カバンを開きプリントを見てある事に気づく

 

「あ、どうしよ」

 

「ん?テツどうした?」

 

集が俺の反応に気づき声をかけてくる

 

「いや、せっかく勉強会に誘ってもらったのにプリント全部学校で終わってたわ。いやーすまんね」

 

「は?学校って何時やったんだよ?」

 

「数学の後の10分休みに終わらせてたの忘れてた」

 

今の今まで気づいてなくみんなで勉強する気だったのだがまさかこんなアクシデントがあるだなんて

 

「え?お前それ10分で終わらせたのか?」

 

「ん?授業が終わってすぐだったし、やり方を覚えてたから早く出来ただけだよ。それじゃあ、やる事無いみたいだしちょっと部屋に戻って制服見てくるかな」

 

部屋に戻り天日干しにしておいた制服を下ろし雑巾を使い水分を抜いていく

制服の水っけもだいぶなくなり、この部屋に戻ってきてから数十分が経っていた。そろそろ戻らないと一緒に勉強会を開いた意味が無くなるので楽の部屋に向かうことにする

 

部屋に入るも楽と桐崎さんの姿が見えない

 

「あれ?楽と桐崎さんは?」

 

「一条くん達なら高級なお茶を取りに蔵まで行ったよ」

 

「今頃2人でいい感じかもねぇ」

 

ふふふ、と不敵に微笑む集に宮本さんの鉄拳が飛んでくる

 

「にしてもさ、遅くない?」

 

確かに。俺が部屋に戻った後、数分立ったあとに取りに行ったとしても今の今までお茶を取りに行ってるのは些か遅すぎる気がする

 

「んー、確かに遅いかもな、もう20分くらい経ってるしな」

 

「もう5時になるし呼びに行ったほうが良いよね」

 

「んじゃ、みんなで蔵まで行きますか」

 

途中、集が「やはり蔵の中でいい感じかも」と笑っていたが又しても宮本さんの鉄拳が炸裂する

 

蔵の前まで着くも目の前にはクロードさんが何故か居る

 

「あれ?クロードさんじゃないですか、どうしたんですか?」

 

「ん?あぁ、これは冴島さんのご子息の。お嬢を見ませんでしたか?」

 

少し困り顔をし、桐崎さんが見当たらないという趣旨を伝えてくる

 

「桐崎さんだったら楽と一緒に蔵の中に居ると思いますよ」

 

「お嬢が一条楽と蔵に!?」

 

そう言い残すとクロードさんはドアを押し破る

 

「お嬢!ご無事ですか!帰りが遅いので冴島さんのご子息に話を聞いてみれば!」

 

クロードさんが確認の為に蔵の中に呼びかけをしたと同時くらいにクロードさんの動きが止まる、そして左の胸ポケットに手を伸ばす

 

「あ、あぁ」

 

「小僧、いくら恋人同士とはいえそういう事はまだ早いのでは!」

 

何がクロードさんの逆鱗に触れたのか興味が出たのでみんなと一緒に蔵の中を覗く

 

「一条くん、やっぱりここに・・・」

 

蔵の中の2人を視界に捉えるとそこには桐崎さんが楽を押し倒してキスをする様な体制に

 

「お、お、お邪魔しましたー」

 

その状況をみて小野寺さんは宮本さんを連れて猛スピードで正門を抜け帰っていく

 

「楽、お前まさか・・・」

 

「しっ、してねーよ!」

 

今日も1日平和に終わりました




何時もこの作品を見て頂いてありがとうございます。
また投稿ペースが開くかも知れませんが気長にお待ち頂ければと思っております。
それでは、また次回お会いしましょう。


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第7話 スイエイ

前回の6話でサブタイを書き換え忘れ、更にその事に気付いたのがこれの投稿前日だったポンコツ投稿者です。
北海道は暑いですね、気温も30度を超えるとかもう真夏日みたいなもんですな。
こんなクソ暑い中皆さん学校や会社への出勤お疲れ様です。
暑いと言えばプロ野球の交流戦ですね、セ・リーグの6球団全勝やヤクルトのアチアチ打線なんかは見ものでしたね。

前書きが長くなりましたが本編です。どうぞ


突然だが今、俺は水泳部の練習に混ざっている。何故かって?そりゃあ

 

 

 

「そう言えばテツってさ前の高校でなんか部活とかやってた?」

 

「ん?いきなりどうした楽?」

 

突然楽に部活動に所属してるか聞かれる

 

「いや、テツって前にあのデッカイ外人を簡単に倒したじゃんか、だから何か運動の一つでもやってたのかなって思ってよ」

 

「いや、何もやってないけど、あぁいうのは全部やんごとなき家庭の事情により習得したものだからな」

 

「そっか・・・ならさ、水泳とかって出来るか」

 

「水泳?まぁ速くはないけど人並み位になら」

 

「じゃあ一緒に水泳部の練習手伝ってくれねえか?」

 

「は?水泳部?なんでよ」

 

「いや、宮本が手伝ってくれって言ってて、行くなら多いほうがいいだろ?」

 

「まぁ、確かに。分かったそれじゃあ俺も手伝いに行くわ」

 

という訳で絶賛部活動中です

 

「あぁ一条くん、と冴島くん?」

 

「手伝えって聞いて手伝いに来ました」

 

宮本さんに楽に連れてこられた事を話すと何かバツの悪い顔をする。そんな宮本さんを見ていると後ろの更衣室から小野寺さんが出てくる、それを見て楽が感謝感激雨あられ的な顔をしている。

少し察した事があったので宮本さんの元に行き察した事を報告する

 

「宮本さん宮本さん?」

 

「何かしら冴島くん」

 

「あの2人ってもしかして・・・」

 

「えぇ、多分あなたが思っている通りだと思うわ」

 

言い切る前に宮本さんが答えてくれたので疑惑が確信に変わる

 

「じゃあ俺って、お邪魔かね?」

 

「まぁ、はっきり言うと邪魔ね」

 

「やっぱり?んじゃ俺は御暇しますかね?」

 

「別にあなたが居るのが悪い訳でもないし好きに泳いでて良いわよ」

 

「本当?なら端のレーン使わせて貰うね」

 

宮本さんに許可を貰い端のレーンで耐久クロールと洒落込む。何往復かが経つと横から楽に呼ばれたのでレーンを越えて楽や小野寺さん桐崎さんが居る所まで行く。桐崎さんは端っこで座ってるけど触れないでおこう

 

「小野寺に泳ぎ方を教えたいんだが手伝ってくれないか?」

 

「俺は良いけど。ワンツーマンで教えた方が楽は嬉しいんじゃない?」

 

「まぁそうだけど。って違う違う!俺1人じゃ明日までに間に合わないから手伝って欲しいんだよ!」

 

楽が顔を真っ赤にして訂正する。よくこれで周りにバレないな、逆に感心するわ

 

「ふーん、ま、そういう事にしておきますわ。んで俺は何を教えれば良いの?」

 

「あぁ、クロールで25mゆっくりと泳いできてくれないか?何か参考になるかも知れんし」

 

「それなら桐崎さんにやって貰えよ、桐崎さんの方が身体能力高いだろうに」

 

「ハイレベル過ぎて参考にならん」

 

あー、何となく察したわ。だから桐崎さん端っこで座ってたんか。後でジュースでも奢ってあげるかなーとかそんなことを思いながら隣のレーンに移り飛び込み台にスタンバイする

 

「えー、先ず飛び込む時の姿勢ですが体全体を叩き付けるように入るのでは無く指先から顔、肩、胸、腰、足の順番に入る様にして少しの時間だけ潜水します。

飛込み水面に辿り着いたら右左交互にクロールの形で動かします、ここでの注意点は手を動かす時に手を叩き付けるよう水面に叩き付けるのでは無くここも指先から水に入れる様にします。

もう一つの注意点で出来るだけ水中から手を離さないようにクロールをしてください。

水中で水を掻く時間が増えるとその分タイムも伸びます。

次に息継ぎですが体力に自信がなければ息継ぎをする方向を決めてその方向とは逆の手を動かしている時に顔を動かしてない手側で息継ぎをします。

今の事を踏まえて俺の泳ぎ方を見ておいてください」

 

結構細かい所まで一応事前に教えておき飛び込み台からプール内に飛び込む、ある程度の潜水時間を越えて水面に到着しゆっくりとクロールを始める、手の動かし方やバタ足の仕方などに気を付けながら泳ぎ続ける

25mを泳ぎ切り二人がいる所まで上がって行く

 

「結構ゆっくりやって見たけどなんか収穫あった?」

 

「ごめんなさい、よく分からないです」

 

小野寺さんは申し訳なさそうにこちらに謝罪してくる

 

「あぁ、良いって良いって。最初はみんなこういうもんだから」

 

謝ってくる小野寺さんを宥め笑顔で返す

 

「楽、先にバタ足手伝ってあげといて。俺はビート板持ってくるから」

 

「おう、分かった。小野寺、頑張ろうな」

 

「うん、宜しくね一条くん!」

 

2人であどけない初めて付き合ったカップルの様に練習に励んでいる

いいねえ、これが青春かね

俺はビート板を取りにプールサイドまで歩いていく

 

「ありがとうね、冴島くん」

 

「ん?なんの事かな宮本さん?」

 

「とぼけないで良いわよ、2人きりの時間を作ってくれたんでしょ?」

 

「そんな事は無いよ偶然ビート板を使う事になって偶然俺が取りに離れて仕方なく2人で手を取り合ってバタ足する事に成っただけだから俺は何もしてないよ。そう、偶然2人の仲を深めるシチュエーション成っただけだよ」

 

「そう、ならいいわ。でも偶然にしてもそういう状況を作ってくれた貴方には感謝するわ」

 

「ならさ、感謝ついでに一つお願い聞いてもらって良いかな?」

 

「なに?私に出来る事ならするけど」

 

「るりちゃんって俺も呼んでいいかな?」

 

「別に良いけど、こういう事なら小咲辺りに言ってあげれば良かったのに、貴方の転校してくる前に2人で何かあったんでしょ?小咲が転校生にあんな反応したの初めて見たわよ」

 

「小野寺さん?小野寺さんとは特に何も無いよただナンパしたされたの関係だから」

 

「何その関係、そりゃあ小咲も驚くわね。ナンパ師が学校の同じクラスまで来た訳だからね」

 

「ははっ。ま、ナンパしたって言ってもうちの仕事の為に仕方なくやった事だからね。お詫びに家まで送るまではしたけどね」

 

「そう言えば貴方のお父さんって何のお仕事してらっしゃるの?桐崎さんもだけど随分と変な時期に転校してきたから少し気になるわ。後なんで一条くんの家に住んでるのかもね」

 

「うちか?うちはしがない探偵事務所をやってるよ。今回の転校は親父が面倒な依頼の最中らしくてね今は邪魔だからって事でうちの親父が楽の父さんと知り合いらしくてそこに居候の身って訳」

 

流石にヤーさんギャングの抗争を止めるための派遣探偵なんて一般の人には言えんのでなんとなーく濁して伝えとく

 

「一条くんの家庭もまぁまぁ大変そうだけど、貴方の家も中々大変そうね」

 

「ははっ、そうかな?まぁ、話は戻るけど小野寺さんに下の名前で呼ばしてくれって言わない訳だっけ?あれはね小野寺さんは小野寺さんって感じだからかな」

 

「小咲は小咲だからってどういう事?」

 

「んー、まぁ簡単に言えば俺なんかが小野寺さんを小咲ちゃんなんて呼んじゃいかんと思ってさ。俺は彼女みたいに心が綺麗な子を名前で呼んじゃいかんと思ってね」

 

「それじゃあ私の心が綺麗じゃ無いようにきこえるけど?」

 

「いやいや、るりちゃんも充分綺麗な心の持ち主だよ?でもね俺も色々な仕事をさせられてきたけど彼女ほど一途な子は見たことないね。あんな綺麗な子に近付きすぎて汚してしまうのは忍びないしね」

 

「貴方も色々大変そうね」

 

「るりちゃんこそ小野寺さんと楽の鈍感さには困ってるんじゃない?」

 

「それはあるわね。それじゃあ桐崎さんは?」

 

「人の彼女をちゃん付けで呼ぶのはちょっと・・・」

 

「・・・確かにそうね」

 

「んじゃ、そろそろ戻りますかね。あのまま2人にイチャイチャさせるのも良いけどこっちも明日までに小野寺さんを一通り泳げるように特訓しないといけないしね。それじゃ、またねるりちゃん」

 

「ええ、また後でね冴島くん」

 

るりちゃんとの他愛もない話(2人の時間を作る時間稼ぎ)を終え2人の元へ向かう

 

「おーす、待たせたな。順調か?」

 

「おせーよ、ビート板取りに行くのにどれだけ時間かけてるんだよ」

 

「まぁまぁそう言わずに、小野寺さんと2人っきりの時間はどうだった、楽?」

 

「マジで最高だった。ありがとう」

 

楽は右手を差し出してくるのでその手をガッチリ握り深く握手をする

小野寺さんは頭に ? を浮かべている

 

「それじゃあ続きやりますか。楽、お前は手とお腹どっちが良い?」

 

「は?何だよそれ?」

 

「まぁまぁ、どっちがいいか選んでくれ」

 

楽に手を持つかお腹を支えるかという選択肢を出すが理解してないようで悩んでる、こうやって悩んでるのを見てるのも面白い

 

「それじゃあ手かな」

 

「OK、んじゃ小野寺さん楽と手を繋いで貰っていいかな?」

 

「へぇ!?い、一条くんと手を繋ぐの!?」

 

「お、おいテツ、何言ってるんだよ!」

 

「え、いや普通にさっきみたいに手を繋いでバタ足して欲しいだけなんだけど」

 

楽と小野寺さんは顔を真っ赤にして「や、やっちまった」みたいな顔をしてる、集がこうやって楽たちをからかってる理由が今ならわかる。めっちゃ楽しいなこれ

 

「楽は手の方を頼んだぞ、それじゃ小野寺さんはバタ足始めてね」

 

「うん、一条くん手、離さないでね」

 

「お、おう」

 

小野寺さんがバタ足を始めて少しすると太腿から下が水中に沈んでいく。沈んでいく太腿をビート板で持ち上げる

 

「ひゃあ!さ、冴島くん!?」

 

「ど、どうした小野寺!」

 

「ほら、太腿から下がどんどん下がってるよ、もうちょっと背筋はピンと張って」

 

ビート板をお腹の方に移動させて水面近くまでお腹を支える、太腿の方は左手で膝関節辺りを持ち上げる

 

「さ、冴島くん。恥ずかしいよ・・・」

 

小野寺さんは顔を赤くするも姿勢を保つために楽の方を向き続ける、それを見て釣られて楽も顔を真っ赤にする

 

「ほら、もう少し頑張ってバタ足しようね?」

 

小野寺さんが俺の言葉に反応して良い体勢をキープしてバタ足を続ける。それを見てゆっくりとお腹の下からビート板を抜き去る

 

「ぜっ、絶対離さないでね?」

 

いい感じに小野寺さんがバタ足をしていたと思っていたら不意に楽が小野寺さんの手を離す。いきなり手を離したから当然ではあるが支えを失くした小野寺さんは全身プールの中に浸かり込む

 

「わー!?小野寺さん大丈夫!?」

この後男2人で小野寺さんをプールサイドまで運び謝り尽くしている

 

「すまん!小野寺!」

 

「本当に申し訳なかった!」

 

「ううん、こっちこそ上手く出来なくて・・・」

 

「いや、オレは全然・・・。どうする?少し休むか?」

 

「ううん、せっかく一条くんと冴島くんが教えてくれてるんだもん。私頑張る・・・!」

 

小野寺さんのキラキラした笑顔により楽の心が撃ち抜かれる。あっ、元々撃ち抜かれてたか

 

「2人とも喉渇いたんじゃない?飲み物買ってくるよ」

 

「あ、私も行くよ。一条くんお茶でいい?」

 

「え?お、おう」

 

小野寺さんや桐崎さん、るりちゃんと自動販売機まで飲み物を買いに行く。一時とはいえ、美人3人と一緒の行動が出来るなんて神様が居るならガッチリと握手をしてからハグをしたい所

 

まぁ、そんな幸せな時間は長く続く訳もなく会話もみんなと何を買うかくらいで終わってしまう始末。みんなの飲み物を自腹で持ち少しばかりの経済力を見せてみんなでプールサイドまで戻って行く

 

「楽ー、お茶買ってきたぞー」

 

遠目から見てプールサイドで何か弄っている様な仕草をしていた楽がこちらを振り返ると手元には何かの鍵らしい物を握しめている

 

「一条くん・・その女子更衣室の鍵、どうするの?」

 

何かを訴えようとする楽だったけれども女子二人にボコボコにされ縄に繋がれる

 

まぁ、なんだかんだあって小野寺さんが多分免罪だろうという判決を下したので縄を解いて練習を再開する。因みに俺はニコチンが切れたので家庭の用事という名目でニコチンを摂取しに家までバイクを飛ばして帰宅する




次回は今週中に出したい(願望)


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第8話 テキタイ

期日内投稿余裕でした。どうも投稿者です。
暇な時間にちょこちょこ書いてたら意外に早く上げることが出来ました。
このペースで投稿していきたい(願望)

それでは本編どうぞ。


朝、欠伸を噛み殺しながら学校の階段を登り廊下を曲がる。胸元に何かがぶつかった感覚を覚え下を向くと他の高校(多分東京23区外)の制服を着た生徒が目の前に居る

 

「悪ぃ、大丈夫か?」

 

パッと、1歩後ろに下がり謝罪をする

 

「こちらこそ注意力が散漫だった、申し訳ない」

 

目の前に居たのは、やや蒼に近い黒髪でやや中性的な顔立ちをしている男っぽい、多分転校生。見た所男にしては身長は160ちょっととやや小柄。だがかなり鍛え上げられたであろう。細身ながら筋肉質な体

 

「どうした?私の体をじっと見て」

 

目の前の転校生は首を傾げながらこちらを見返してる

 

「いや、怪我はしてないかと思ってな。大丈夫そうだな」

 

「あぁ大丈夫だ。ぶつかってしまって済まなかった。それじゃあ失礼する」

 

転校生がこちらを半身で避ける。その際に左胸辺りが少し変に膨らんでいるのを見つける。これが職業病という奴か。膨らみが何か何となく察する

 

「あぁ、あと一つ。言い忘れてた」

 

転校生は足を止める。振り向きこちらを見ているのを確認し自分左肩をトントンと叩き

 

「そんな物騒な物はきちんと気付かれないようにしないと」

 

指を銃の形にしバンッと撃つ真似をする

 

「貴様ッ!?」

 

1歩後退し学生服の胸元から何かを取り出そうとする転校生

 

「ストップストップ。ここでそんな物を取り出すなよ」

 

左手で動きを静止させ1歩近づく

 

「貴様、何者だ?」

 

転校生は胸元から手を抜かずに質問をしてくる

 

「しがない高校生。最近してるアルバイトでよくそういう代物見てる関係で少し気になってね。別にあんたとドンパチやりたい訳じゃないから。教育機関でそんな物を打っ放すのはやめて欲しいしね、今どきに珍しい勉強熱心な高校生としては。あと周りの目も気になるし」

 

転校生は周りを見渡し注目の的になってる事に気付き胸元から手を離す

 

「うん、宜しい。んじゃ俺はこれから授業があるから。また会ったらその時はそんなギラギラした目じゃなくてもうチョット笑顔で話したいもんだね」

 

転校生に背中を向け教室に歩き出す

 

「あ、そうそう。多分俺以外誰も気付いていないから。気にしなくていいよ」

 

それじゃ。と手を振りながら教室に向かって行く

 

教室

 

「うーっす。オハヨー」

 

教室へ入ると楽たちが気付いたようでこちらへ挨拶を返してくる

 

「おはよう、テツ。今日転校生くるらしいぜ」

 

「あぁ、転校生ならさっき会ったぜ。中々にイケメンだった」

 

見た目等の容姿をババっと伝える。集はその話を聞くといつにも無くテンションが下がってく。伝えて間もなくチャイムが鳴り席に着く

 

「よーしお前ら。突然だが転校生を紹介するぞー。鶫さん入って」

 

「はい。初めまして。鶫 誠士郎と申します。どうぞよろしく」

 

先ほど会った転校生が教壇に立つ。転校生が挨拶を終えクラスの女子が一斉に転校生の評論会を始める

 

「・・・んん??」

 

さっきまで美男子の転校生とかテンション下がるわーとか言っていた集が何か気付いたような感じ

 

「どうした?転校生に惚れたか?」

 

「いや惚れてはないけど。ちょっと気になる事があってよー」

 

何が気になっているのかを集に聞こうと口を開く。瞬間に周りのざわめきが歓声に変わっていく。そのざわめきへ目を向けると

 

「おー。こりゃまた大胆に」

 

目の前には桐崎さんに抱きつく転校生の姿が。クラス中が騒ぐのも無理はない。各地で「修羅場!?修羅場!?」なんて騒ぐ女子や「これ一条勝ち目ないだろ」なんてからかう男子等で騒然としたままホームルームが終わる

 

この後。楽が桐崎さんの彼氏(偽)として転校生に挨拶に行った時にビーハイブという単語が聞こえる。あの転校生は多分ギャング関係の人間なんじゃねーかなーとか思いながら、話してる3人をパックのコーヒー牛乳を吸いながら見ていると。話が終わったのか転校生がこっちに向かってくる

 

「先ほどはどうも」

 

転校生はさっきよりは優しい目をこちらに向けてくる。

 

「こりゃご丁寧にどうも」

 

胸元を確認する。あれの位置を直したのだろう。触るまでは分からない様に左胸にあったものが隠されてる

 

「教壇の前でも言いましたが改めて。鶫 誠士郎です。」

 

右手を前に出し礼儀正しくお辞儀をする

 

「重ね重ねご丁寧に。冴島 徹と申します。いやー、にしても上手く隠したねぇ」

 

左肩の方を指さす。あぁ、というような顔をして

 

「先ほどは助かりました。お嬢と会えることに少し高揚してしまい。貴方が指摘してくれなければ他の人に気づかれたかも知れません」

 

もう1度ペコリとお辞儀をする転校生

 

「いや。お礼を言われるような事じゃないしな。それよりアメリカンギャングのメンバーだったとはね」

 

「お嬢とその恋人との会話をお聞かれになったのですね」

 

「盗み聞きをするつもりは無かったんだけどね。話の中からアメリカンギャングの組織名が聞こえちゃったもんで。ここに来た理由は桐崎さんの警護とか?」

 

「ええ。まぁ、そんな所でしょう」

 

「ふーん。まぁ、これから1年よろしくな」

 

 

「はい、よろしくお願いします。冴島さん」

 

 

 

食事も終わりパックのコーヒー牛乳を吸いながらバイクのキーを手元で遊ばせる。横では楽がお茶を盛大に吹き出し集の顔と制服に思いっきりぶちまける

 

「大丈夫か?」

 

手にタオルを持ちながら集の元に寄っていく

 

「あれ?楽と転校生は?」

 

集にタオルを渡しながら聞く

 

「なんか場所変えて話があるってよ」

 

集の話を聞き屋上に向かう。何も無いとは思うが拳銃を持ってるやつと楽を二人っきりにするのはボディーガードとしては見過ごせない。屋上に辿り着き扉を開けようと手を伸ばす。ドアノブを回し扉を少し開ける為、力を込める。少し開けた扉の先に見えたのは屋上の柵へと突き出され銃器を喉元に構えられてる楽と構えてる転校生

 

「吐け、目的はなんだ。ビーハイブの直轄区か?それとも組織の乗っ取りでもするつもりか」

 

扉を一旦閉め手から力を抜きノブを元に戻す。今、屋上は「よう、いい天気だな」なんてヘラヘラしながら入れそうに無い雰囲気。一旦どうするべきかと考える。相手は銃を所持してる。そうなると先ず第一に考えるべきは楽の身の安全の確保。少しの考察時間後、楽がヘマを犯さなければ死なんだろうという考えに。結果ドアノブに手を掛けたまま待機という事で2人の出方を見る

 

「あいつはオレの恋人だ!!誰にも渡さねぇ!!」

 

楽が高らかに宣言をする。その言葉に反応し

 

「ほう・・・恋人だと?お嬢に相応しいのはお前の方だと・・・」

 

転校生が殺気立った声を出す。流石にこのままでは楽が死にかねんと判断し出て行こうと扉を開く。扉の先に向かおうと歩を進めるも背後から誰かに肩を掴まれ階段の方に押し込まれる

 

「ちょっ・・・2人ともストップ、ストップ!!

ほらほら何やってんのよつぐみもダーリンも〜。仲良くしなきゃダメでしょ?」

 

桐崎さんに吹っ飛ばされた拍子にぶつけた腰を擦りながら失った出るタイミングを探る

 

「お嬢・・・止めないでください」

 

「え・・・」

 

「お嬢には申し訳ないのですが。私はやはりこの男をお嬢のパートナーとして認める事は出来ない!

お嬢、覚えておいでですか。10年前の。あの日の約束を・・・」

 

「へ?」

 

「!?」

 

「私はあの日。お嬢をこの手で守れるように強くなろうと決めました。

それ以来私はあらゆる訓練試練に耐え!!強くなったのです!それこそ血のにじむ様な努力をして!!

なぜ今お嬢を守るべきはずの男が・・・こんな脆弱で貧弱なもやし男なのですか!」

 

凄い言われようだな。まぁ、片や第一線で活躍し続けてるギャング。もう片方はただの高校生だしな。第一線で活躍してる奴から見たら楽はただのもやしだしな。そこまで自分の主人を思っていたら「こんな奴!」って怒りを覚えるのも無理はないな

 

「お嬢を守れると言うなら。相応の力を見せて貰わねば認められない!!」

 

「一条楽!!お前にお嬢を賭けて決闘を申し込む!!!」

 

「・・・はあ!!?」

 

「私に勝てる実力があるのなら貴様の事は認めよう。だが!私に勝てないようならば。

貴様には地獄以上の苦しみを与えた上で殺す!!」

 

・・・殺すなんて単語が出ちゃったらボディガードとしては出るしかない。扉を蹴飛ばし屋上へと歩みを進める

 

「へいギャング。それは聞けない話だな」

 

突然と開いた扉に皆が目を向け。ギャングの転校生はギロりとこちらを睨み付ける

 

「冴島さん。貴方には関係の無い事だと思いますが」

 

流石ギャング、言葉に圧がある。

 

「いいや、それが残念ながら有るんだな。雇われの身ではあるが一応2人のボディガードをやってる者でね。護衛対象が殺されるなんて聞いたらウチとしても黙ってられんだろ」

 

何かを理解したのだろうあぁ、と呟く

 

「貴方が最近しているアルバイトとはこの事だったのですね」

 

「Exactly。そういう事。だからこっちとしても穏便に行っちゃくれないか?あんまり殺し合いとかは好きじゃないし」

 

「確かにこの日本という国で無闇に銃器を使用すべきでは無いですね」

 

こっちの条件を呑んでくれたのか。ノーゲームの宣言と思われる発言をする

 

「それじゃ・・・」

 

「ですがソレはソレ、コレはコレです。お嬢は大ギャング組織ビーハイブの御令嬢。ビーハイブ(ウチ)としてもこれは死活問題。ここは譲れません。」

 

交渉決裂。どうもあっちとしては意地でも楽と殺り合いたいらしい

 

「そっか・・・なら仕方ねぇな」

 

はぁ、と溜息を付き空を見上げる

空を見上げたまま背伸びやストレッチを少ししてから

 

「しょうがねぇな。おいギャング、お互い譲れねぇもんが有るならそっちが言ってたみたいに互いに決闘で蹴りつけようじゃねえか。その方がはっきりするだろ。もしこれで俺が負けたら後は2人で決闘でも殺し合いでも何でもすればいいさ」

 

「・・・分かった。時間は今日の放課後。場所は校庭だ。一条楽、もし逃げれば殺す」

 

言うことを言い切ると脇目も振らずに扉から出ていく

 

「ど、どうしよう・・・」

 

「あーーもう!やっぱりこうなったか!」

 

「桐崎さん。一つ質問良いかな?」

 

「ん、何?」

 

「あいつってクロードさんの差し金?」

 

「多分。つぐみは小さい頃にクロードが拾った孤児でね。特殊訓練と英才教育を受けて育てられた優秀なヒットマンなの」

 

「ヒ、ヒットマン!?」

 

「因みに昔私にちょっかいかけてきたゴロツキを組織ごと壊滅させた程の超凄腕」

 

「き、聞いてねーぞ!!大丈夫かよテツ!!そんな奴と決闘するのか!?」

 

「んー。まぁ、大丈夫だろ。お前こそ俺が負けたら決闘するんだから気ぃ引き締めて行けよ。んじゃ教室戻るわ」

 

昼間の暖かい日差しにやられたのか眠くなってきた脳を起こし欠伸をしながら教室に戻る。日常と非日常。二つが混ざりあったこんな日には現実逃避にタバコの1本でも吸いたいものだ

 



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第9話 ケットウ

最近は暑いですね。連日日本では猛暑日を観測し、熱中症で倒れる方も沢山いらっしゃるようですし
北海道の方も暑いですが、体感去年よりはまだ涼しい感じもしますね。これから夏休みでお祭りや、花火大会なんかに行く方も多いと思いますが、お体に気をつけていい夏休みを過ごしてください

前書きが長くなりましたが本編です


放課後

時刻は4:30とっくに学生の仕事は終わってるのに事務所の仕事のせいで校庭で絶賛残業中。箱からJPSを一本取り出し親父からかっぱらってきたデュポンで火を付ける。楽達には5時前に来いと言っておいた。この時間帯の校庭に人の出入りは見かけない。

 

「高校生のうちから喫煙とは関心できんな」

 

俺が1本目のJPSを大体吸い終わったところで今回の仕事の対象がやって来る

 

「それはお互い様だろ銃刀法違反野郎」

 

ラスト一口を吸い切り持っていたタバコを地面に落とし靴の裏ですり潰す

 

「よく逃げずに来たな。そこは褒めてやろう」

 

「誰が逃げるかよ。こっちは生活が掛かってるんだ。主人への忠誠心で動いてるお前とは違うんだよ」

 

潰したタバコの吸い殻を拾い上げポケットにしまっておいた携帯灰皿に捨てる

 

「一条楽はどうした?まさか逃げ出したか」

 

「少し遅れてくるように俺が指示した。校内でタバコを吸ってるところを雇い主に見られたらクビにされかねんからな」

 

ハハッと笑いながら言うも相手の表情は変わらない

 

「少しくらい笑ってくれよな。お前と俺がやってる間にどさくさに紛れて楽が撃たれたりしたらたまったもんじゃねえからな。どうせ当たったとしても誤射だなんだで言い逃れされる可能性もあるしな」

 

「私はそのような事はしない。いや、する必要がない」

 

やっと少し表情を崩しフッと笑う

 

「あー、そんなにあいつの事見くびってると足元掬われるぞ」

 

箱からもう一本JPSを取り出す

 

「このコインが地面に付いたときが決闘開始の合図だ」

 

手元に持っているクウォータードルを空中へと弾き飛ばし腰に手を伸ばす。こちらも学ランのポケットに入れてある物を握りしめる

 

コインが地面へとチャリンという金属音を響かせる

互いに構えていた手を取り出し相手はハンドガン。こちらは小さい布状の物を取り出し投擲する

投擲した物に対してハンドガンを構える。が、球状の物体は銃で撃たれるよりも早く破裂し拡散する。中に入っていた石灰と共に

 

「な!?これは」

 

飛散した石灰が一時的ではあるが辺りを白く暗く染め上げる。相手もまさか投擲物が煙幕だとは思っていなかったらしく辺りが見えずにこちらを警戒ている。その隙に左に大きく迂回しながら背後へと近づく。途中に何回かに分け煙幕を投げ視界を常に曇らせておく

中身は野球部御用達ロジンバッグにクラッカーに入ってる程度の火薬とかを入れた代物、確実に殺傷能力はない

 

背後に回り込み辺りは少し視界が開けてくる。相手はハンドガンを構え警戒しながら辺りを見渡す

 

「よう、お目当てはこっちだぜ」

 

瞬間的に体をこちらに向き変えハンドガンを構える

ハンドガンを構えた手を掴み上へと弾く。弾かれた拍子に一発発射する。持ち上げた腕を脇へと抱え込み手から銃を離させる。体を抱え込んだ時に感じる違和感。他のヒットマンとは何かが違う様な感触。ハンドガンを捨てた相手を体をひねりながら投げ叩きつける。悲鳴とも呻き声ともつかない声をあげる相手、体を投げきった時に理解する違和感。他のヒットマンとの違いではなく他の男との違い。投げた後、地面に落ちていたハンドガンを回収する。転校生は背中を打ったのか痛みで立ち上がれない、そんな事はお構い無しに転校生を跨ぎハンドガンを構える

だいぶ痛みも引いてきたのか立ち上がろうとする所を持っているハンドガンで制止する

 

「・・・私の負けだ」

 

悔しそうに唇を噛み締め目の下に涙を溜めている

 

「そうでもないぜ」

 

「え?」

 

驚いたように潤んだ目を上げる

 

「これ以上俺はお前と闘わない。ま、この勝負Drawだな」

 

まだ楽たちが来てないことを確認しJPSに火を付ける

 

「何故だ?この状況誰がどう見ても私の負けなのは明らかだ」

 

「いや、本当なら俺としても楽に決闘なんてことさせたくはないんだがな。だけど・・・あー、なんだ?」

 

こちらが言葉に詰まっていると転校生は理由が分からず困ったような顔を向けてくる

 

「えー、と。・・・はぁ。お前が女性だって気付いたからこっちとしては手は出せない」

 

「あぁ、私は女だがそれがどうした?私を倒さない理由にはならないだろう」

 

「女性と知ってて女性の体を傷つけるのは俺のプライドが許さん。例えそれが大ギャングのヒットマンとしてもな。よってこの決闘は無効だ」

 

構えていたハンドガンから弾を抜き取り、転校生を抱き起こし空になった拳銃を渡す

 

「しかし、トドメを刺さなくとも私がほぼ負けに近かったという事は変えられない事実だ」

 

あちらさんとしては自分では負けだと認めているのに引き分けとして処理するのがプライドに障るのか煮え切らない押し問答が繰り返される

 

「なら、こうしよう。俺の勝ちに近い引き分けで一つだけ俺の要望を聴くってのはどうだ?」

 

転校生は少し考えた後に

 

「うむ、それならば」

 

快くとはいかなかったが一応納得してくれたようで要望を呑んでくれる

 

「んじゃ・・・次の楽との決闘で楽に一切の銃器での負傷をさせない。ま、簡単に言ったら銃は牽制でしか使わないって事で」

 

「別にそれ位ならば。やはり一条 楽の事を思っての要望か?」

 

「ん?いや、学校で人殺しなんて起きたら勉強熱心な学生としては困るから。ただそれだけだよ」

 

タバコの吸殻を拾い携帯灰皿に捨てていると時刻は4:50ほどになり楽たちがやって来る

 

「テツ!大丈夫だったか?」

 

楽や桐崎さんが心配した顔でこちらへ向かってくる

 

「いやー。ゴメンな楽。負けちゃったぜ、しゃあないから後は頑張ってくれよな!」

 

ガッハッハッと笑いながら楽を応援する。振り向き転校生を見る

 

「敵の俺が言うのも何だけどよ。まぁ、頑張れよな」

 

自分が応援を受けたのが意外だったのか目を丸くする。そのまま校庭を後にしようと歩き出す

 

「あ、そうだそうだ」

 

振り返り自分の目元を指差しながら

 

「あの時の泣き顔可愛かったぜ。鶫」

 

鶫は顔を真っ赤にして発砲する。しかし銃口から出てくるのは空気のみ。そして真っ赤に顔を染め、悔しそうに唇を噛み締める鶫の顔が見えた




次は7月中にあげます。では次回お会いしましょう


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第10話 オツカイ

期日内投稿成功しました
という訳で本編です、どうぞ


鶫 誠士郎との決闘から早二日。二日前の決闘も何だかんだで丸く収まった様子で楽と鶫は仲良く・・・はして無いけど、まぁ普通の学生生活が少しずつ戻ってきた。

 

今日は天気も良かったので久々にバイクに跨って学校に向かう。駐輪場にバイクを止めた後に集と会ったので一緒に教室まで雑談しながら向かう事に

 

「そう言えば・・・」

 

「ん?どうした?テツ」

 

雑談中にふと思い出した事がありそれを集に聞いてみる

 

「鶫が転校してきた日によ鶫に対して何か変な反応してたよな。アレって何だったんだ?」

 

「ん、あれか?噂の美男子が女だったらそりゃ驚くだろ?美男子だと思ったら美少女だったなんて」

 

「それを楽に伝えなかったのは面白そうだったからとかか」

 

「そゆこと」

 

ニヤニヤと集は徹の方を向く。

 

「おぬしもワルよのう」

 

「冴島様ほどではございませぬよ」

 

集がヘッヘッなんて笑い方をしたりして時代劇ごっこをしていると

 

「話は聞かせてもらった!」

 

「何奴!?」

 

と振り返ると楽が背後に楽が走りながらこっちに向かってくる

 

「集、テツ。話は聞かせてもらった!今の話詳しく聞かせてもらおう」

 

という感じに楽に見つかりお縄につくことに。楽も合流し一緒に教室に向かう。集が先に扉を開け

 

「おはよー桐崎さん。今日もかわいいねー!」

 

「うーっす。おはよー」

 

いつもの調子で集が女子に積極的にアピールしていく。俺も集に続いて教室に入ると鶫が集に向けてハンドガンを押し付けている。ふと鶫と目が合う

 

「おはよう鶫。そんな物騒な物を一般人相手に向けちゃいかんだろ」

 

鶫が集に向けていたハンドガンを取り上げる

 

 

今日も平凡、平穏に授業が終わっていく。ここ最近は探偵事務所の方の仕事もこれだけで落ち着いた生活が送られてる。然し、平穏すぎるが故に何か刺激が欲しくなってくる。刺激を求める為に楽が担当している飼育係に向かう

 

 

「おーっす、暇だから手伝いに来たわ」

 

「おぉ、テツ。珍しいな、いっつもさっさと帰るお前がこんなところに来るなんて」

 

「丁度暇してたところだったんだよ。何かやる事ねぇか?」

 

「あぁ、それならクラッシャー加藤とサイクロプス・ゲンガー朱雀の餌やり手伝ってくれよ」

 

「クラッカー佐藤とサイクルブス・ゲンガー朱雀?」

 

「違う違う、クラッシャー加藤とサイクロプス・ゲンガー朱雀だ、そこに居るだろ」

 

楽が指さす先に鶏となんの鳥かは分からんけど鳥が居た

 

「楽ってよ、壊滅的なセンスしてるよな」

 

「え?」

 

「いや、何でもない。自覚して無いならそのまま気付かない方がいい」

 

次から次へと出てくる奇天烈な名前に翻弄されながらも餌やりをしていく。犬猫鳥までは飼ってる学校も見た事はあるけどもワニなんて飼ってる学校初めて見たわ。ワニって飼育になんかの許可証が必要とか聞いたけどあれってどうやって取ったのか

思っていた刺激とはかけ離れた物だったが普通に生活してたら巡り合わないような刺激に受けながら作業を進めていく

 

「そうだ、ハニーよぉ。先生が飼育係の餌買って来いってよー」

 

「えぇ?そーゆーのって普通、業者さんに頼んで持って来てもらうものじゃないの?」

 

「うちは珍しい動物が多いからな、近くのペットショップで直接買うしかねぇんだよ」

 

確かにワニとか飼ってるのうちの学校くらいだしな

 

「お待ちください、お嬢!」

 

鶫がバッと二人の間の茂みから出てくる

 

「お嬢!そのような買い物ならば私が!お嬢にその様な雑事をさせる訳には参りません!」

 

「あ、俺も手伝うわ。動物の餌のメモくれればそれで買ってくるから」

 

「おう、じゃあ頼むかな」

 

楽からのメモ書きを受け取る。そして鶫より先にバイクを取りに駐車場まで向かう。バイクを取り出し校門まで走らせる。校門まで到着しメットを外し鶫を探す

 

「こっちだ、冴島徹」

 

鶫の声に反応して振り向く

 

「おぉ・・・これは」

 

口笛を一つ吹き鳴らしバイクを持って迎えにいく

 

「よう、よく似合ってるじゃねぇか。可愛いぜ」

 

バイクを持って鶫の元へ行くとフリルの付いた洋服にミニスカート、元々高い身長がさらに強調されるように高いヒールの靴という姿の鶫が恥ずかしそうに立っている

集っぽくなるが口説き文句を言ってみる

 

「なっ・・・バッ!馬鹿にしてるのか貴様ァ!!」

 

口では結構きつい事を言われたが顔を赤く染めている辺り照れ隠しっぽく見える。つい面白くて何度か鶫をからかいながらバイクの準備をしていく

 

「んじゃ、行きますか。裏道通るからちょっと遠回りになるけどいいか?」

 

「あ、あぁ。大丈夫だ」

 

交番が近くに無いルートを通りながらペットショップまで向かう。メモは俺が持っているので俺が店主からメモの餌を受け取る。その間に鶫は産まれたての犬を眺めている

 

「可愛いな」

 

鶫の斜め後ろから話しかける

 

「あぁ、可愛いな」

 

「いや、可愛いってのは鶫の方だぜ」

 

「なぁ!?冴島徹!またお前はそうやって・・・」

 

鶫が振り返ろうとする。しかしヒールに慣れてなかったのか足元からぐらりと転ぶ。丁度俺の方に倒れかけたので抱き抱える

 

「大丈夫だったか?」

 

「うわっ!は、放せバカ者!殺されたいのか!?」

 

鶫が離れようと体をくねらせるも俺は鶫を持ち上げ椅子の方まで移動する

 

「え?うわぁ!?」

 

「そんなに暴れるなよ、もう少しの辛抱だから」

 

椅子まで到着し鶫を下ろし捻った方の足からヒールを脱がせる

 

「おー、結構な靴擦れだな。これは歩かんほうが良いな」

 

「大丈夫だ、これくらい」

 

立ち上がり歩こうとするも捻った時の痛みと靴擦れの痛みで上手く歩けてない

 

「無理は禁物。学校に着くまで暴れんなよ」

 

「え?なにを?・・・って。うひゃあ!!?」

 

椅子に座っている鶫の腰を左手で持ち上げ胸元まで寄せる。鶫は思いっきり暴れてくる

 

「ちょっ、だから暴れんなって。落ちる落ちる!」

 

数分経ち鶫も観念したのか落ちないように俺の首元に手を巻いてくる

 

餌をバイク座席に固定し右手で運んでいく

 

「冴島徹、一つだけ聞いて良いか?」

 

鶫が顔を見ながら質問をしてくる

 

「どうぞ」

 

「お前は本当にお嬢や一条楽のボディガードなのか?私にはそれがどうにも引っかかっていてな・・・」

 

流石一流のヒットマン。洞察力も優れてるみたいだ

 

「あぁ、ボディガードみたいな事をしてるよ」

 

「本当か?私には貴様が何か隠しているように感じる。私がお嬢や一条楽に踏み込んだ質問をしようとする度に邪魔されている気がしてならないのだが」

 

「鶫が踏み込んだ質問をしてる時にたまたま俺が会話に入っただけかもよ」

 

「そうか。ならば質問を変えよう。冴島徹、お前はボスに何を依頼された。私にはどうもお嬢と一条楽が付き合っているとは思えない、第一にお嬢にあんな男は似合わない!!」

 

「楽が桐崎さんに似合わないかは知らんが、依頼に関してはうちの事務所にも守秘義務ってもんがあるしな。幾ら依頼主の部下であろうとそう易々と依頼内容は話せない。知りたいなら自分のボスに直談判しな」

 

「冴島探偵事務所・・・。決闘時には知らなかったが冴島徹、貴様はあの冴島遼介(・・・・・・)の息子らしいな。どうりであれだけの身のこなしができる訳だ」

 

「あー、それなんだけどさ。あの冴島遼介(・・・・・・)ってみんな言うけどうちの父親ってそんなに裏の仕事に関わってるのか?」

 

「関わってるも何も・・・我々の業界では知らない者は居ない程の人物だ。かく言ううちも冴島遼介に関わりがある。まぁ、一言で言えばエージェントと言う奴だ」

 

「うちの親父がエージェントねぇ・・・」

 

「冴島遼介は謎に満ちている男だ。冴島遼介にこんなに息子がいた事も冴島徹、お前に会うまで知らかった事だ」

 

「前々から裏の仕事をしてたって言う親父の知り合いに会ってたからなんとなーくそんな感じはしてたけどまさかエージェントと来るか」

 

「まさか冴島遼介が探偵事務所を開いていたとは・・・もうエージェントは辞めてしまったのか?」

 

「そこら辺は俺にも分らん。親がエージェントだった事すら知らんかったからな。後、みんな流石冴島遼介の息子なんて呼ぶけどよ、俺は普通の高校生だから。裏の社会にのめり込む気も無いし、何なら本当はヤクザやギャングと関わる気もないからな」

 

「では何故ボディガードを引き受けたのだ?」

 

「そりゃぁ・・・生活の為だよ。まぁでも1日3食、学校にもちゃんと通える。毎月収入が入る。こんないい条件そうそうないぜ」

 

この後も色々と鶫に質問を受けていると学校に到着する。バイクから餌を下ろし鶫をお姫様抱っこする

 

「ほら、着いたぜ」

 

動物達のゲージを前に鶫を下ろす

 

「すまない、助かった」

 

鶫は頬を染めながら礼を言う

 

「イイってことよ」

 

鶫を庇いながら隣に立ち歩く

 

「なぁ鶫」

 

俺が声をかけたのに反応しこちらを向く

 

「さっき俺はギャングやヤクザと関わる気は無いって言ったけどよ・・・」

 

目の前には楽や桐崎さんがこちらに気づいてやって来る。俺は鶫の方に顔を向け

 

「楽や桐崎さん、そして鶫。お前らは良い奴だ、俺はそう思ってる。そんな奴らをヤクザだギャングだって色眼鏡付けて見れねぇしよ。

だからよ、お前らは別だと思ってる」

 

鶫の肩を支えながらゆっくりと二人の元へ向かう




少しずつ冴島父の正体が判明してきましたが、今の所は本編に絡まないと思います。でも、この結構重要人物なので頭の片隅に留めて貰えれば幸いです
次回は8月に出せたらいいなぁ・・・
また次回お会いしましょう


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第11話 ビョウキ

毎日の様に外に用事があるので外出してますが雨が降ってる以外は快適ですね。いつもならもう少し暑い時期が続くのですか最近は涼しくて良いですね

では本編です。どうぞ


今日は1週間待ちに待った休日。天気も良好、こんな日には愛車の点検か渋谷辺りまで愛車を走らせてナンパに励むかに限る。

 

「おーい、楽。俺これからちょっと出かけるから・・・ってどうした?」

 

楽の部屋の襖を開け中を見ると少し苦しそうにしながら楽がこちらを向く

 

「おう、風邪引いたみたいでな、うつると悪いからあんまこっち来ない方がいいぜ」

 

「おう、分かったわ。他の組員の人達にもそう言っとくな」

 

「おう、悪いな」

 

部屋の中に覗かせていた顔を引っ込めて襖を閉める

一応楽の為に体温計と薬、冷水とタオルを取りに家の中を歩いていく

 

「あ、竜さん。おはようございます」

 

「あぁ、冴島の坊ちゃん。おはよぅございやす」

 

「今、楽が風邪引いてるみたいで体温計と薬、後は冷水なんかが欲しいんですけど、何処にあるか分かりますか?」

 

「坊ちゃんがお風邪ですか!?それは組をあげて看病しなければ!!物は全部こっちで用意しますんで!!」

 

「あぁ、物さえ渡してくれれば自分一人で看病しますんで。じゃあさっき言った物と後マスクの用意お願いします。」

 

「わっかりやしたぁ!!それじゃ急いで用意しますんで!!」

 

竜さん達から物を全部預かってマスクをして部屋に入る

 

「うーっす、調子はどうだ?」

 

ぐったりと寝ていた楽が体を起こす

 

「ばっ!テツ!俺のそばに居るとお前まで風邪引くだろ!」

 

「良いから良いから。ほら、体温計。」

 

問答無用で体温計を渡し楽を寝かせて布団を腰辺りまでかける。楽の体温計がなるまで冷水にタオルを馴染ませて冷やしておく

 

ピピピ

 

「何度だ?」

 

「38.6℃」

 

「完璧に風邪だな。病人は安静にしておけ」

 

布団を肩まで上げて冷やしておいたタオルをよく絞り頭に置く

 

「粥作って来るからそれ食って寝とけ」

 

ピーンポーン

 

玄関からチャイム音が鳴り楽が出ようとするがそれを制止し玄関まで向かう

 

「はいはい。どちら様ですか?」

 

「おはよう冴島くん。ダーリンの具合はどう?」

 

「完璧に風邪だな。粥食わせて寝かせる所。何ならアイツの顔でも見てくか?」

 

「まぁ、そのつもりで来た訳だから」

 

桐崎さんにマスクを渡し楽の部屋まで案内する

 

「んじゃ俺は部屋の前に居るから。なんかあったら呼んでね」

 

「分かったわ。ありがとね冴島くん」

 

台所まで行き桐崎さん用のお茶と楽の為にスポーツドリンクを用意し部屋まで向かう

 

ピーンポーン

 

またもチャイムがなり桐崎さんと共に玄関まで向かう

 

「はーい、どちら様ですか?」

 

「どうも、小野寺です。一条くんのお見舞いに来ました・・・ってあれ?千棘ちゃんも来てたの?」

 

「うん、まぁ彼氏が風邪ひいたって聞いたから」

 

「小野寺さんはどうして来たの?」

 

「さっきたまたま舞子くんに会ってね。そしたら風邪引いてるって聞いたからお見舞いに」

 

「おぉ、それは楽も喜ぶわ。まぁ上がっていきなよ」

 

またもマスクを渡し部屋まで通す

 

「あっ、そうだ。私お粥作ろうと思うんだけど台所借りてもいいかな?」

 

「それ!私も作る!!」

 

「まぁ、良いと思うよ。俺も作って持って行こうと思ってたから」

 

楽に二人と料理する事を伝えてから二人を台所まで案内し材料を掻き集めてくる

 

「まぁ、一応材料は集めて来たから二人で自由に作っててね。俺はリンゴでも切って持って行くから。」

 

リンゴを一つ剥き塩に浸けてから取り出し冷蔵庫で冷やしておく

リンゴを切るのにはさほど時間はかからなかったので二人が使った器具などを洗っておく。

塩が1袋、納豆パック、栄養ドリンクのビン、青汁の袋、etc.・・・

普通のお粥には使わないような物がバンバン使われて行く

 

「「出来た〜!!」」

 

「ん?出来t・・・」

 

色んなものを入れてたのを知っている身からしたら小野寺さんのお粥は綺麗すぎるし、桐崎さんのお粥はもう人の食べるものではない色をしている。正直恐怖すら覚える。

 

「二人の少し味見してみてもいい?」

 

「ん?いいわよ、美味しそうだからって全部食べちゃダメだからね!」

 

大丈夫だよ、と苦笑いを浮かべながら二人のお粥を味見する。

・・・あっこれはダメだ。いつもの楽ならワンチャン行けるかもしれんけど今の楽には絶対に毒だ

 

「・・・ラストにさちょっと味の手直ししてもいい?このままでも美味しいんだけど、どうせなら二人の美味しいお粥をもっと美味しく楽に食べて欲しいし」

 

「そこまで言うなら良いわよ、小咲ちゃんも良い?」

 

「うん、私も大丈夫だよ」

 

「それじゃあちょっと失礼して」

 

先ず、レバーの臭みを取るために長ネギを二人のお粥に入れる、次に大量に入れられた塩でのしょっぱさを抑えるために少し鶏ガラスープを入れ塩分を薄める。鶏ガラスープを入れる理由は黒酢が入った所を見たので中華風に纏めるため。明太子と納豆は・・・どうすれば良いか思いつかねえや。栄養ドリンク、サプリメントは知らん。次に青汁の苦味を抑えるためにハチミツを少し垂らし全体的に味が整うまで火にかけて混ぜる。味の素の顆粒を少量溶かした水を加える。水をドバッと投入。大体のゲデモノでも最終的には味の素で何もとかなるはず・・・はず

 

「・・・まぁ、多少はマシになったか」

 

「え?なんか言った?」

 

「流石女の子、俺が手を加える程じゃなかったかなって思ってさ」

 

適当な世辞を2人に伝え粥を運ぶのを手伝う

 

「出来たぞ楽」

 

楽は病人であるにも関わらず自分で窓を開けて外に顔を突き出してる。

 

「オラ、病人は寝とけ」

 

楽を担ぎ布団の上に座らせて二人の粥を渡す。楽は何かと理由を付けて食べようとしない

 

「坊ちゃん!お体大丈夫ですかー!?

すいやせん!来るなと言われやしたがつい心配で・・・おや!?彼女がお見舞いに来てくださってたんですか!」

 

「いい彼女ですなぁ」

 

「こりゃ結納も近ぇなぁ」

 

「その上愛人までいるたァ・・さすが坊ちゃん!男の器がでかい!!」

 

「皆さん、楽も風邪なんで部屋で騒ぐのはちょっと・・・」

 

「こいつやぁ失礼しました。実は坊ちゃんに美味しい粥を作って来たんですが・・・」

 

「あぁ、粥ならこちらのお二人が作ってるので・・・」

 

「!?すいやせん坊ちゃん!!彼女がお粥を作ってただなんてつゆ知らず。でしゃばった真似を・・・」

 

「早く彼女さんのお粥を食べてあげてください、早く食べねぇと冷めちまいますぜ?」

 

お粥が来てから無言でお粥を睨んでた楽は覚悟を決めたのか楽は二人の作ったお粥を一気に流し込む

 

「!美味い」

 

味の調整をした甲斐があったようでで少しは(想像よりは)美味くなった様子

 

「ハッハッハ!そうでしょう。愛する人が作ったんだ美味しいに決まってまさぁ!」

 

「それじゃぁあっしらはこの辺で。坊ちゃん、お大事に!」

 

竜さん達が帰った後に楽がこっちを向いてお前何をした的な顔をしてくる

 

「お粥二つも食って口の中しょっぱいだろ。リンゴでも食って口の中さっぱりさせろよ」

 

「お、おう。悪いな」

 

その間に楽にスポーツドリンクが入ったコップを渡し風邪薬を渡す

 

「それ飲んで寝とけ」

 

「皆んな何から何まで悪いな。何も構えなくて」

 

「お前は病人なんだから構えなくて良いんだよ。ほら布団かぶって寝とけ」

 

布団を肩まで掛けて頭に冷したタオルを乗せる

 

 

 

 

 

「・・・寝たか。んじゃ俺は食器と水変えてくるから、二人で楽の看病しといてくれ」

 

そう言い残し洗面所に向かう

 

竜さんが作ったお粥を少し分けてもらい腹を満たした後に組員全員分の食器を洗い冷水を持って部屋まで向かう

 

「あれ?桐崎さん、小野寺さんは?」

 

「ふたりで看病するのは多いからって事で小咲ちゃんは帰したよ」

 

「ん、了解。んじゃ冷水とスポーツドリンク此処に置いておくから。後これ」

 

「ん?何これ」

 

「俺が余りでぱぱっと作ったお粥。口に合えばいいけどお昼食べてないでしょ?」

 

「うん!ありがとう!お腹減ってたんだよねー!」

 

桐崎さんは満面の笑みでお粥を食べ始める

 

「お粥食べ終わったら廊下に出しておいて。後で食器回収するのと同時にコーヒーか何か渡しに来るから」

 

「うん、何から何までありがとうね冴島くん」

 

「いいってことよ。桐崎さんはお客様なんだから」

 

数十分後に食器回収と共にダージリンティーを桐崎さんに渡す。もう時刻は昼過ぎ。食事も終えてしまい一応病人が居るので他の人に菌を蔓延させるのも悪いので庭先で愛車の点検をする事に

今日も1日平和に終わりそうだ




誤字脱字等々ありましたらご報告の方よろしくお願い致します


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第12話 リョコウ

前回投稿からちまちま書いていたらほぼ二年



曜日は金曜から土曜、平日から休日に変わり二度寝には絶好な機会。

 

「起きろー」

 

そんな朝にも関わらず平日と同じように起こしに来る者が1名

 

「休日にまで早起きする義理はないね」

布団を深く被り二度寝の準備を済ませる

 

「今日に限ってはあるんだよ!」

 

布団を剥がされカーテンを開けられ日差しが差し込みたまらず起きる。仕方なく目を開け時間を確認すると時刻は6:45分を回ったところ

重い瞼を開け戸を開く

 

「で、朝っぱらから二度寝気分の俺を起こしてまでする事ってなんだよ」

 

大きな欠伸をしながら広間に出ていく

 

「今日は林間学校だろ、遅刻しないように早く支度して行こうぜ」

 

 

「うぇ?林間学校って何?」

 

まったく聞き覚えの無い単語に素で聞き返すと楽があきれたようにこちらを振り返る

 

「とりあえず支度しろ。一泊二日だから着替えと洗面道具と財布、あとは・・・携帯とかあれば大丈夫だろ」

 

「りょーかぁい」

 

あくびを押し殺しながらとりあえず道具を用意し身支度をしてから楽と家を出る

 

 

 

 

 

 

 

 

学校に着くと皆、旅行ということもあって大きな荷物を抱えワイワイガヤガヤと雑談を楽しんでいる

キョーコ先生がバスの前でメガホンを使い全体に指示を出し、キョーコ先生の指示の後皆が荷物を持ち5,6人のグループを作りバスに乗っていく

学活の時間はほとんど眠気に負け、この旅行の存在すら知らなかった奴がグループを知ってる訳もなく現在置いてけぼりを食らってる。楽に聞こうとしたが桐崎さんと話している様子、邪魔するのも何なので他の人に聞くことに。ふらふらっと探していると鶫を発見

 

「おーい鶫」

 

「む、どうした冴島徹」

 

俺の声に気付き鶫が此方に振り向く

 

「俺って何処の班だっけ?ど忘れしちゃって」

 

ハハッっと苦笑いして鶫に聞いてみる

 

「貴様なら私と一緒の班だろう。早く集合してバスに乗るぞ」

 

「お、そうだったかラッキー。んじゃ一緒に行くか」

 

丁度鶫と班が一緒だったらしく二人で一緒に集合先に向かう

集合先に向かうと俺ら以外の班員が揃ってたらしくすぐにバスに乗り込む

 

俺のバスの座席は後ろから二番目の右窓側。隣には集が座っている。俺のすぐ後ろにはるりちゃん、小野寺さん、楽、桐埼さん、鶫の順で座席に付く

 

「なぁなぁ、集さんよ」

 

「お?何だぁテツ」

 

「あれ仕組んだのお前だろ、というかお前以外いるわけないよなぁ」

 

後ろの五人を指差しながら集に聞く。まぁ聞くまでも無いだろうけど

 

「どうだ?俺のセッティングしたあの座席は」

 

まぁ予想通りの回答が返ってくる。真顔で集を見て、左手をすっと差し出す

 

「やっぱお前サイコーだな」

 

集も左手を握り返し、ニカッと笑い互いに硬く握手をする

 

 

 

(楽にとっては)前途多難なバスの旅が始まる。俺はというとのんびりと集と他愛もない会話をし楽の困った顔を楽しんでいる。楽の困り顔を楽しんで眺めていたが数回目のカーブの時に眠気には勝てずに瞳閉じてしまい、次に目が覚めた時にはすでに林間学校の舞台であるキャンプ場に到着していた

 

「いやぁ、よく寝たわ」

 

朝に訴えていた眠気は一気に消え、気分良くバスから降りる。バスから降りるとキョーコ先生が班行動でカレーを作れとの指示

それを聞いた楽はホテルのレストランを纏めてる総料理長さながらに周りに指示を出している。俺もその周りに漏れずカレー味付けを任命されている

 

玉ねぎが金色になってきた頃に楽の悲鳴が聞こえてくるが俺は現在カレーの味を決める重要な役割を担っている。なのでスルーする方向性で、楽には申し訳ないがあちらで対処してもらう事にしよう

玉ねぎが金色になったので同時並行で茹でていたほかの具材の元へ投入し市販のルーを入れ混ぜ、弱火でコトコトと、とろみが出るまで煮込む。程なくしてカレー完成

カレー完食からのキョーコ先生の指示を受け部屋まで移動。え、カレーの味?俺が作ったからザ・普通に決まってる

とりあえず部屋まで到着。バッとふすまを開けるとよくある和室が二部屋ありかなり広めに設計されている

 

「おー、思ってたよりでけえな」

 

「その上、ふすま越しとはいえ女子と同じ部屋で寝られるなんて!」

 

確かに高校生にもなって女子と同じ部屋で寝るなんてうちの学校くらいだな。にしても集、泣くほどか?

 

「ところで舞子君はベランダと廊下どっちで寝るの?」

 

「あれ?部屋で寝ちゃダメ!?」

 

「日頃の行いって奴だな」

 

「冴島くんもベランダと廊下どっちで寝るの?」

 

「うぇ、俺も?」

 

「冗談よ」

 

フフッと微笑みながらるりちゃんが俺をからかってくる

 

 

ワイヤワイヤとやっていると集による提案で罰ゲーム付きトランプが始まる。途中罰ゲームを決める過程で集が際どい所を攻めすぎてるりちゃんにボコボコにされる

 

「初恋のエピソードを語るとか」

 

「まぁ、それくらいなら」

 

何回目かの集の立案にるりちゃんのGOサインが出る、その代償に集が顔を真っ赤に腫らしながらも罰ゲームが決まる

 

「それじゃあ、ゲームスタート」

 

 

 

 

とババ抜きが何巡かしチラホラと上がった人が出てくる中、あがれなかった3名で最後のビリを決める壮絶な戦いに

 

手持ち

俺 1枚 3

楽 3枚

千棘 1枚

 

俺と桐埼さんがラスト一枚、楽がババ確で俺の引く番に

 

「さぁテツ、早く俺の手札を取るんだ」

 

楽が手札を俺の前にかざし、カードを引く催促をしてくる

 

「……お前ババは左だな」

 

楽の目をじっと見つめ楽に問い掛ける

 

「……根拠は?」

 

楽はスっと視線を落とし何かを確認する仕草をとる

 

「さっきから手札の中で動いてないカードが有る。しかもさっきからあるカードをチラチラ確認してる」

 

「な!?マジでか?」

 

驚くと共にカードをシャッフルしようとする楽だが、シャッフルさせるよりも一瞬早くカードを掴む

 

「嘘だよ。だがマヌケは見つかったな」

 

楽が確認しなかった方のカードを取り確認する、3のカード

対になったカード、その2枚を捨てる

 

「じゃ、桐崎さん、あとは頑張ってね」

 

ニコッと微笑み、湯呑みを取りに部屋の端に歩いてく

湯呑みを取ると、廊下の方からドタドタと足音が聞こえる。音に反応し廊下の方を見るや否や引き戸が開く

 

「こらーーーー!!集合時間はとっくに過ぎてるぞ!!」

 

キョーコ先生が鬼の形相で飛び込んで来る。時計を確認すると既に10分以上の遅刻

 

「うわ、やべもうこんな時間か」

 

「おい、急ごうぜ」

 

 

 

集合時間を大幅に遅れキョーコ先生に叱られた、それはもうこっぴどく

時間は進んで入浴時間直前へ

 

「なぁ楽、この温泉まんじゅうって貰ってもいいか?」

 

机の上に置いてある、まんじゅうを開封しながら楽に要求する

 

「ん?あぁいいぞ、ってもう食ってんじゃねぇか!」

 

らふならひひってひふおおおって(楽なら良いって言うと思って)

 

口の中にまんじゅうを目いっぱい詰め込みながら自分のまんじゅうを開封する

 

「まだ食うのかよ!」

 

楽と絡んでいると集が着替えとタオルを持って此方に向かって来る

 

「二人とも、風呂行こうぜ」

 

「おう、すぐ行く。テツも早く行こうぜ」

 

おふ、すういふ|(おう、すぐいく)

 

軽く返事をし、新しいまんじゅうを口に詰め込む

 

分かった、と軽く返事をし集と共に大浴場へとむかう楽

 

十数分の後、着替えを持ち俺も大浴場へとむかう

 

着替えを持ち廊下を歩いていると眼前には不敵に笑う見覚えがある白人男性

 

「あれ、クロードさん?」

 

「ん?あぁこれは冴島さんのお坊ちゃん。お久しぶりです」

 

浴衣姿ながらきっちりとしたお辞儀を返してくる

 

「いや、そんなかしこまらないでくださいよ。そんな事よりその格好ってどうしたんですか?」

 

「あぁ…たまたまお嬢たちと旅行先が被ったみたいでして。私自身も少し驚いていて」

 

少し言葉に詰まり、何か動揺した様子をみせるクロードさん

 

「あ、そうなんですね。もしかして今からお風呂ですか?」

 

「え?いや、もう上がった所で今から部屋に帰る所で」

 

「へぇ、そうなんですね。……じゃあ、自分もお風呂に入ってきますね」

 

「それでは」っとクロードさんにニコッと微笑み男湯ののれんをくぐる。一見していつもと変わりないような素振りを見せているクロードさんだか先程から少し様子がおかしい。…念には念を入れておく

 

「あ、そうだ。一つ」

 

くるっと反転して

 

「もし楽に何かあったらうちの事務所としても、やることやらせて頂きますから。そのつもりでお願いしますね」

 

「…あぁ」

 

「それじゃあお風呂行ってきますね」

 

クロードさんの返答を聞き、ニコッと笑い脱衣所へと向かう

 

 

 

___________________

 

 

 

少年特有のあどけない笑顔を残しあの少年(冴島徹)はのれんの奥に消えていく。冴島徹。前々から気にはしていたが、もう少し警戒しておくべきかもしれない。いくらボスが認めた人間だと言ってもあの冴島遼介(・・・・・・)の息子。、あれは、あの目は確かにこちら側|(裏社会)の人間だ。ただの少年だと思って油断していたが、お嬢に何かあってからでは遅いのだ、一条のせがれと共に常時警戒しておくべきだな

まぁいいどうせ奴も一条のせがれも二人とも今日で社会的に死を迎えるのだからな・・・

 

「フハハッハハハ!!!」

 

マッサージチェアに座り高笑いをする白人男性

____________________

 

 

クロードさんが言ってた旅行ってのはたぶん嘘だろう。いつもの態度と様子が違ったし、すぐにここから立ち去りたそうなしぐさを見せていたしで。何で嘘を吐いたのかはよくわかんないけど。まぁ、楽と桐崎さん(の秘密)に何かあったら上に報告するだけだし、別にいいか。まぁ何かあっても最悪うちの親父に投げればなんとかなるっしょ

 

 

そんな楽観的な思考の中のれんをくぐり脱衣場に入る。風呂に入ろうと服を縫でいるとふと違和感に気付く。籠に誰の洋服も入っていない。しかも風呂場からは物音がせず風呂場全体で人の気配が感じられない。俺の前には楽や集が風呂に向かってたはず、それなのに誰の洋服もないのはちょっとおかしい

 

「あれ今来たのか?」

 

服を脱ぎながら風呂場のほうを眺めてると不意に後ろから声をかけられる

振り向くと先に風呂に向かっていたはずの楽が後ろから声をかけてこちらに歩み寄って来る

 

「あぁちょうど来たところ。楽さ、お前って俺より先に行ってるって話じゃなかったっけか?」

 

集と一緒に大浴場に向かっていたはずの楽、普通なら俺よりも早く浴場にいるはずなんだが

 

「あぁそうだったんだけど、浴場に向かってる途中でフロントの人に呼ばれてて。まぁ何事もなかったから戻って来たんだ」

 

「フーン、そうだったんだ。お疲れだったな」

 

「まったくだ。それより他の奴が居ないけど皆上がったのか?」

 

楽も同じような違和感を感じたらしく俺に質問してくる

 

「さぁ?俺も今来たばっかだし」

 

「あ、そうだったな。皆もう上がったのかなぁ?」

 

誰も居ない状況に不信感を持ちつつも風呂に入る準備を始める楽。浴場に誰も居ないのは明らかに変だが、楽の言うように全員が俺らとすれ違う前に帰った可能性もある

 

「俺の考えすぎか」

 

そういうことだって偶にはある。そう俺に自己暗示をかけ風呂に入る準備をする

 

ガラガラと扉が開く音と共に楽が景色に対して歓声を上げる

 

「スゲーな、こんな景色初めてみたぜ」

 

 

俺も腰にタオルを巻き、楽に続き風呂の扉を開く。扉の先には露天風呂が広がり周りには大自然が広がっている。空を見上げれば満天の星空。おもわずその場に立ち尽くし星空を見上げてしまう

 

「スゲー・・・」

 

誰もが言えるような軒並みな感想でもう少し何かいい言葉でも思いつかないかと考えたが、この光景を見ているとほかに感想が思いつかない。

本当はもっとこの景色を眺めていたい所だが入浴時間が決まっているためそろそろ体を洗い始める。楽は楽で先に湯に浸かっているようで気持ちそうに体の力を抜いている。俺も頭と体を手短に洗い、湯にゆっくりと浸かる

 

「あ“あ”あ“ぁ”ぁ“^〜」

 

日頃の疲れが溜まった体に熱めのお湯が染み渡りおっさんのような声が出る。温泉の気持ちよさについ頭のてっぺんまでお湯を被ってしまう、まぁ幸いこの湯には楽と俺しかいないので周りの人の迷惑になる事は無いのでゆっくりと潜水を続ける

 

何秒が経った頃だろうか気持ちよく潜水をしているといきなりドボン!と水面が揺れ水しぶきが上がる

突然の出来事に水中から身体を起こす

 

「どうした!?」

 

すぐさま顔に張り付いている水滴を拭い現状を把握しようとする。が

 

「み、見るなぁ〜〜!!!」

 

聞き覚えのある声が聞こえた直後、そこそこの重量がある何かが俺の眉間を襲う

 

「いってぇ!」

 

一瞬、視界を奪われ平衡感覚を失いお湯へドボンする

何が起こったのかイマイチ理解できずに少しパニックに近い状況になっている。少し距離を置きもう一度浮上する

もう一発眉間に飛んでくるのを警戒しながら狙撃してきた奴の面を拝んでやr・・・u????

「・・・え?おま、え?」

 

聞き覚えがある声の正体。そして俺を狙撃しただろう輩が分かり、それと同時になぜそいつがここに居るのか理解できない

だって目の前には・・・

 

「なんで鶫がここに居るんだよ」

 

俺の目がおかしくなったのか?それとも鶫は実は男だったのか?

この状況の情報量が多過ぎて理解が追いつかない、え?待って、本当になんで男湯に鶫がいるんだよ

 

「それはこっちのセリフだ冴島徹!貴様と一条楽はなぜ女湯に居るんだ(・・・・・・・・・)

 

・・・女湯?何を言ってるんだ。俺はちゃんと暖簾を見て…見て…

 

「あぁ。そういう事かぁ・・・、なるほどなるほど」

 

さっきからの色々な違和感の理由がここに来て合致した、何か違和感のあるクロードさん、誰も居ない大浴場、遅れてくる楽、そして今ここに鶫がいる。全てあの大幹部がした事だったのなら合致がいく

 

「何をほざいている!少しは骨のある奴だと思ってたがそういう奴だったとは!」

 

手に持っている石鹸を再び振りかぶる鶫

 

「ちょ、おい待て。これはトラップだ、早まるなぁ!お前のところのクロードが関わってるんだよ!」

 

クロードという単語にピクっと反応し、振り上げた右腕をそのまま停止させる

 

「クロード様が?何をほざくかと思えば!」

 

「事実だ!さっきもこの暖簾の前で見かけたんだよ。男湯の掛かったここの入り口で!」

 

「何?」

 

互いに互いをにらみ合っていると入口からガラガラと開く音とワイワイと女子の話し声が聞こえてくる

 

「なっ!?もう来たのか」

 

露天風呂特有の蒸気ではっきりとは見えていないがちらほらと入口に人が入ってくる姿が見える

入口を眺めどうしようかと考えているとバシャバシャと湯の中を歩き鶫が俺の前まで向かってくる

 

「一旦私の後ろに隠れろ冴島徹」

 

「お、おうサンキューな」

 

スッと俺の前に立ち隠れるように指示する鶫に一応礼を言い背中に隠れる

 

「貴様の言葉をすべて信じたわけじゃない。後でしっかり理由を聞かせてもらうぞ」

 

「おう、分かった。後で懇切丁寧しっかりと聞かせてやるよ」

 

鶫の後ろから出ていけそうな探す。入口の反対に大きめな岩場や草などはあるが風呂場からできるような場所は見当たらない

 

「冴島徹あそこからは出れないのか?」

 

「ん?おおぉ。でかした鶫」

 

二ッと笑い鶫のさした場所を見据える。そこには関係者通用口と書かれている

 

「でもどうやって誰にも見られずにあそこまで行く?」

 

「私が注意を引き付けておく、その隙にあそこから抜け出してくれ」

 

「分かった。その前に一旦あそこの岩場に移動しておく」

 

いま俺がいる場所だと出口から距離があるため鶫の協力のもと岩場の近くまで向かう

移動中さっと周りの状況を確認するとまだ数人ほどしか入っていないようで入口付近で固まっている

 

「それじゃ頼んだぜ」

 

腰にタオルを巻いて脱出のため鶫と一旦別れ岩場にスタンバイする

 

「あー!見て見てあそこ!タヌキがいる!」

 

あとは鶫の行動待ちでスタンバイしていたのだが、いきなり桐埼さんの大声が聞こえてくる

 

これは合図なのか?でも鶫からは桐埼さんが何か指示を出すとは言っていなかったし

一瞬行こうか考えたが少し考えその場でジッとする

 

その数秒後ガラガラっと戸が開きざわざわと人が入ってくる気配がしてくる

 

「あっ、ぶねぇ・・・」   

 

口元を抑え床に這いつくばり息をひそめる。今出て行ったら一発アウトだった。周りではクラスメイト達であろう会話がざわざわと聞こえてくる

 

人が増え難易度が上がり岩場から一切身動きが取れない

 

「大丈夫か冴島徹」

 

岩場の向こうで鶫の声が聞こえる

 

「あぁ。鶫、今そっちはどんな感じだ?」

 

「残念ながらクラスメイト全員と教子先生が入ってきてる」

 

あぁ詰んだな。そう思考がよぎるなか鶫が続ける

 

「いったん人が引くまで待つしかなさそうだ」

 

そういいながら湯気が立っているお湯が汲んである桶を渡してくる

 

「お湯?」

 

「そこに居たら風邪をひくだろう。これで少しは体をあっためろ。あと」

 

お湯を含んだ大きめなタオルを一緒に渡される

 

「これって・・・」

 

・・・多分だけど鶫の使ってたタオルだよな

 

「それがあれば少しはあったかいだろう」

 

鶫のやさしさを受けて惚れそう、イケメン

 

「ありがとうな。俺のためにわざわざ」

 

「貴様のためではない、この件にクロード様がかかわっているという真意を確かめるためだ」

 

鶫はツンとしたトーンで返してくる

 

「理由はどうであれお礼は言わないと。本当にありがとうな鶫」

 

「いや、れ「そ!そんなことより鶫の初恋の人ってどんな人なのかしら!!」

 

俺の言葉の後に何か続けようとしていた鶫だったが、桐埼さんに話題を振られ他の女子たちから質問攻めにあっている様子

 

 

鶫に汲んでもらったお湯を冷えてきた体にかけながら脱出のチャンスをうかがう。春も終わりかけ徐々に暖かくなってきたとはいえ、さすがに夜になると冷えこんでくる。

そういえば一緒にこの風呂に入ってきた楽は大丈夫だろうか、鶫に会った後から姿が見れてないから少し心配だ

 

楽の心配をしてるとドボーン!!ザバーン!!と激しく動き回る音が聞こえてくる。岩場まで水しぶきが飛んでいるあたりかなり激しく動いたみたいだ

 

激しく水しぶきが上がった後の風呂場はやや落ち着きを戻しのんびりとした雰囲気がただよう。ぬるくなったお湯を体にかけ、晩春の夜の寒さを体に受けながら風呂場にいる人が一人ひとりと上がって行くのを待つ

 

 

 

もう手元のお湯も冷め、寒さに耐えこちらにちゃぷちゃぷした音がこちらによって来る

 

「もう全員風呂場からは出て行った、今なら出られる」

 

視線を上げると入口のほうを向いてる鶫が立ってる

 

「お、おおう。わわっかかった」

 

カラカラに絞ったタオルを腰にまき、震えながら関係者通用口に向かっていく

 

プルプルと震えていると背後からバッとバスタオルがかけられ、反射的に振り向こうとするとがっちりと顔をホールドされる

 

「振り向くな変態!あとこれ!お前の着替えだ。こんな寒い中濡れて帰ったら風邪をひく」

 

「いてててて、あ、あ、りがとうつぐみぃぃ。イタイイタイ」

 

腹部に刺すように着替え渡された着替えを受け取りアイアンクローから逃げるように関係者通用口前に向かう

 

「ちゃんとお礼言ってなかったよな、ありがとうな」

 

そういえばちゃんとお礼を言ってないと気づき、歩きながら話しかけるも俺の足音とお湯の出る音以外に何も聞こえずパッと後ろを振り返る

 

「な、おい!大丈夫か!?」

 

振り返り、床に視線を落とすと鶫が頭を押さえ苦しそうに呻いている

関係者通用口から急いで戻り鶫のもとへ駆け寄る

 

「大丈夫だ、少しふらついただけだ」

 

真っ赤な顔をし、明らかな強がりを言う鶫は前に手を出して制止を促す

 

「こんな時に強がり言うなよ。お前明らかにのぼせてるだろ」

 

ちょっと待ってろ、と被せてもらったバスタオルを鶫に掛け、近くにあった桶に冷水を汲んで手持ちのタオルを冷水につけて持っていく

 

のぼせた鶫は意識が朦朧としてるなかフラフラとこちらに歩いてこようとする

 

「あんまり無理して歩き回るなよ。一旦横になれ」

 

歩いてくる鶫の肩を抑え仰向けに寝かせ、濡らしたタオルを頸動脈付近にあてがう

無理に歩こうとしていた鶫も寝かせると無理に起きようとはせず、目元に手の甲を当ててジッとしている

 

「・・・すまない」

 

辺りをチラチラと確認して他に人が入ってこないか見ているとポツリと鶫がつぶやく

 

「ん、大丈夫か?」

 

鶫に視線を落とし首元のタオルを冷水に漬けまた首元に戻す

 

「あぁ・・・。私のことはもういい、早くここから出て行ったほうがいい」

 

閉じていた眼をうっすらとこちらに向けつぶやく

 

「バカ言え、体調が悪いお前を置いてそそくさ出ていけるような薄情者じゃねえんだよ俺は」

 

それに俺が無事に出れるようにずっと助けてくれたんだ、これくらいしないと申し訳がない

お互いに急に無口になってしまい、ちょろちょろとお湯の流れる音のみが聞こえてくる

 

「そういえば、なんで女湯(ここ)俺が居たのか説明しなきゃな」

 

沈黙に耐えられなくなり、なぜこんな状況になってしまったのか、ぽつりぽつりと独り言のように順を追って話していく

なぜ俺が周りよりも遅く風呂に入りに来たのか、その後クロードさんと男湯の暖簾がかかったこの風呂場前でばったり出会った事、カウンターにかかってきた無言電話に対応してた楽と脱衣所でたまたま合流してから今に至るまでの事を鶫は遮ることなく静かに聞いてくれていた

 

「百歩譲って俺と楽がわざとに女湯に侵入したとしても集が居ないのはありえないだろ?」

 

まぁ集なら「男湯から覗くあの背徳感とスリルがいいんじゃないか」とか力説する可能性もあるけど

 

全部一通り話し、首元のタオルをまた冷やして首元にあてがう

 

「ざっとここまでが俺がここにいる説明。質問意見反論は体調良くなってからな?」

 

一方的に話す感じになったが鶫はコクッと頷くだけで静かにしている

また沈黙が、今度は特に話すこともなく静かな時間が流れる

 

「もう大丈夫だ、面倒をかけてすまないな冴島徹」

 

額に当てていた手をおろし、スッと上半身を起こす

顔を見ると先ほどより顔色がよくなっているように見える

 

「面倒だなんて思ってねぇよ」

 

立ち上がろうとしていた鶫をお姫様抱っこでもちあげる

 

「とりあえず脱衣所までは連れて行くよ、脱衣所に着いたら少し水のんで横になっとけよ」

 

少し抵抗しようともがいてたが、やはりまだのぼせていて力が出ないのか鶫が抵抗をあきらめる

 

「本当にすまない・・・」

 

「謝んなよ、本当なら謝るのは俺のほうなんだし」

 

「・・・そうだな。ありがとう、と言ったほうがいいか」

 

「そうそう、こういう時は感謝してもらった方がこっちは嬉しいの」

 

ペタペタと足音を立てながら大浴場から脱衣場へ移動する。脱衣所で鶫を下ろし、備え付けのウォーターサーバーから水を汲み鶫に飲ませる

 

「ふぅ・・・。本当に助かった、後は一人でなんとかできる」

 

水を飲み落ち着いたのか火照っていた顔は少し落ち着いたように見える

 

「OK、もし体調が悪くなったらすぐ誰か呼べよ?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

鶫は下を向きながらではあったが、落ち着いた表情が見えたのでそのまま脱衣所を後に

脱衣所から大浴場に出て関係者通用口に入る。関係者通用口で鶫からもらった服に着替え静かに誰にも見つからないように自室前まで向かう

 

浴場から出たあとは何事もなかったかのように自室まで歩いていく

自室の障子を開けると中では各々くつろいでいるが楽と桐崎さんの姿が見えない。奥の部屋では小野寺さんが寝ている鶫のことをうちわで扇いでいる

 

集がこちらに気づいて、こっちにこいと手をクイクイっと招いてくる

 

「お、徹どこ行ってたんだよ~。すぐ来るって言ってたのに全然来なかったしさ」

 

「わるいわるい、ちょっと親父から電話が来ててさ。それより楽たちは戻ってないのか?」

 

部屋をチラチラと見渡すがやはり見えない二人のことを聞く

 

「あぁ、なんか二人ともどっか行っちゃたみたいでさ。ま、すぐ戻ってくるでしょ」

 

「フーン。ま、確かにそうだな」

 

楽のことを聞いても特に変な話が出てこない当たり楽もちゃんと逃げれたみたいだな

 

「そんなことよりよ!!明日のあの(・・)イベント楽しみだよなぁ!」

 

「あのイベント?」

 

あのイベントといわれてもこの旅行の存在すら知らn(ry

集の横に腰掛けてそのイベントやらの話を聞く

 

「なんだ知らなかったのか?肝試しだよ肝試し」

 

「肝試し?まぁこういう泊りの旅行だとよくある行事だよな?」

 

俺も小学校の時、学年全員でやったなぁ

そんな事をボヘェっと思い出してると集は「それだけじゃないんだよなぁ」といつもに増してニヤニヤする

 

「それが今回のは普通の肝試しとは一味違うんだぜ?男女が分かれてくじを引いてペアを作る」

 

「おう、女子とペアになれるんならうれしいわな」

 

「それだけじゃないぜ、なんとペアになった男女とは必ず手を繋がないといけない!!」

 

「へぇ面白そうじゃん」

 

やっぱりこの学校は思春期真っ只中の高校生に配慮してるのかしてないのか、男女合同な物が多い気がする

 

「だろ!いやぁ明日が楽しみだな!」

 

軽く「そうだな」と相槌を打ち、ニコニコしている集の横から腰を上げ鶫の寝ている布団の横に移動する

 

「大丈夫か?」

 

「あぁ、問題はない。ただのぼせてしまっただけだ」

 

目元に濡れタオルを被りながらも声色はいたって普通そうだ

 

「そうか」

 

「鶫さん、温泉初めてだったみたいでのぼせちゃったみたいなの」

 

横で団扇を仰ぎながら小野寺さんが教えてくれる

 

「なるほど、初めての温泉だし浮かれるのもしゃーないな」

 

うんうんとわざとらしく首を振り小野寺さんたちと軽く「旅行ってテンション上がっちゃうもんな~」なんて話す

鶫をのぼせさせた張本人ではあるが自己防衛のため『初めての温泉で浮かれてのぼせちゃった鶫』という像を作り上げていく

そんな可哀そうな男の姿に鶫はジトーっとこちらを睨んでいたような気がするが見なかったことにしよう

 

 

「そんな鶫君にいいものをあげよう」

 

そんな雑談の中、某青狸の効果音をマネながら先ほど買ったスポドリを鶫に渡す

 

「本当は風呂上がりの一杯に飲もうと思ったんだけどな。麗しの女性がこうも弱っているんじゃ見過ごせないからね」

 

そんな気が利く男ムーブを偽装しながら自己防衛に必死なクソ男が一匹。ご機嫌取りに必死である

 

スポドリを渡すときに「ごめん」と口パクでフォローを入れる俺に鶫は変わらずジト目でこちらを見る

 

そんなエアやり取りを周りに悟られないようにやっていると楽と桐崎さんが部屋へと戻ってくる

 

「おう、楽どこ行ってたんだよ」

 

「ちょっとあってな」

 

今まで行方をくらませていた楽に集が絡むも楽は力なく集のことを躱す

そしてこちらを見る楽と当事者にしかわからないアイコンタクトを取りお互いの社会的地位の保守の成功を確認しあう

 

そんなことをしていると廊下からはキョーコ先生の緩い点呼が聞こえてくる

 

「・・・ふすま開けたら殺すからね」

 

襖を隔てて準備された男女それぞれの敷布団に皆包まると、るりちゃんの怖い一言が男子(主に集)に向けて発せられる

 

「大丈夫だって~!開けない開けない!」

 

対して集もへらへらと言葉では否定する

 

「とーぜん開けるよな?」

 

この男は躊躇という言葉が無いのかクギを刺された直後にも関わらず襖を開けるチャレンジにかかる

 

「俺は疲れたから寝る」

 

「俺は自分の聖域(サンクチュアリ)に帰る」

 

同伴者(道ずれ)に使用した楽に一瞥され、俺も廊下という安全圏に逃げ込む

 

その後チラッと見た男子部屋には誰も存在を確認されることがなかったのは別の話





あ、次回はそんなに長くならないように気を付けます
投稿日に関してはできるだけ早く出せるように努力します


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