青い星のきせき (レオニス)
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第0章 新たなる世界


「それでは、これより新大陸へ向け出航する」
「君たちに導きの青い星が輝かんことを」





そこは鬱蒼としたジャングルだった。

幾層にも重なった古代樹の葉が日光を阻み、地より湧き出る水が溜まり、池を作る。

空は晴れ、花が咲き、鳥は歌い、竜が闊歩する。豊かな生態系が織りなす野生生物の楽園。

 

そんな楽園の中を何かを探し、進む一組の人影があった。

 

「はぁ~めんどくせぇ、なんでオレさまが、んなことしなきゃいけねぇんだよ」

「しょうがないだろ、先生達の頼みなんだ」

 

端正な顔つきを歪めて、いかにも不満たらたらな様子で先を歩いているのは赤茶けた髪の少女だ。

無造作に束ねられたぼさぼさの髪を背中にたらし、へそや背中、二の腕等、体の半分以上を表に晒した赤茶けた解放的な衣装を身に纏ったその姿は、鍛え上げられた体と抜群のプロポーションを惜しげもなく周囲に晒している。しかし、少女らしからぬ野性的かつガサツな態度と表情により、色気というものは全く感じられない。だが、そんなことは些細な問題だ。なにせ彼女の腰からは髪色と同じ色をした尻尾が生えているのだから。

 

「それにそんなに嫌なら断ればよかったじゃないか、ジャナフ」

「はぁ!? んなもん無理に決まってんだろ!! おめぇも見てただろ!? レイアの姉御の

 『行かなかったら毒付きサマーソルトの刑ね♪』って言わんばかりの視線をよぉ!!」

「ああ、あれは完全に脅しだったよなぁ…………」

「クソがぁ!! いったいオレさまが何したっていうんだ!?」

「器物破損、勝手な私闘、先生からの命令無視、イベントへの無断欠席、その他諸々……

 要するに普段の行いってところだな。こだいじゅちほーの暴れん坊さん?」

「クソォ!! ダチ公まで!!」

「はははは」

 

そして、その少女をなだめて(?)いるのは武骨な大剣を背負う筋骨隆々な青年だ。

肌の上に直接、首周りを覆うような毛皮でできた装備を付け、その他は軽装の鉄製の装備で身を固めており、筋骨隆々な体格と合わさりワイルドな印象を見る者に与える。奇妙な姿かたちをした少女への打ち解けた態度からは、互いの関係が長い付き合いなのを感じさせた。

 

「はぁ…………しっかし、あのでっけえ古龍に船ごと乗り上げて無事にやってくるたぁ、派手な連中だぜ」

「ああ、流石は向こうの大陸の精鋭ってところだな。

 まあ、全員が無事ってわけにはいかなかったみたいだが」

「乗り上げた調子に看板から落ちたんだっけか、オレさま達が今探してるやつら。

 下手したら死んでんじゃねぇか? オレさまやおめぇらじゃあるめぇし」

「どうだろうな。普通のやつならまだしも、落ちたのはギルドから直々に推薦された奴だそうだ。

 そんな奴が簡単に死ぬことはないんじゃないか? 少なくとも先生達はそう考えてるみたいだ」

 

二人はでっけぇ古龍こと、熔山龍:ゾラ・マグダラオスに乗り上げた船に乗っていた者の内、行方不明になった推薦組のハンターと編纂者を探しにこのジャングル―――――否、“古代樹の森”に捜索にやってきたのだった。

 

「まーそういっちゃそうか………………ん? この匂いは…………」

「どうしたんだ?」

「オレさまの知らねぇ匂いだ。それと海の匂いとジャグラの同胞の匂いもするな」

「ドスジャグラスの匂いか? 確か“過活性化個体”のドスジャグラスがこの古代樹の森に

 出没してるって、レウス先生が言ってたけど、まさか…………?」

 

今の風向きはちょうど海側から陸側に向かってほぼ垂直に吹いている。

二人の現在地がジャングルのほぼ中央であることから逆算すると、匂いの主は海辺のエリアにいると推測できた。そして、そのエリアはドスジャグラスの行動域と一致している…………

 

「――――――っ!!」

「ちょ、ジャナフ!?」

 

そこまで思考が追い付いた瞬間―――――――赤茶けた髪の少女、ジャナフは駆けだしていた。

 

「やべぇ予感がする―――――ダチ公!! わりぃけど置いてくぜ!!」

「――――――っ!! 分かった“野生解放”して先に行ってくれ!! こっちもすぐに追いつく!!」

「おう!!」

 

一瞬遅れて状況を理解したらしい青年はすぐさまこの場においての最適解を下す。

それに応え、少女の体に秘められた力が解放される。

 

「オラオラオラァ!! 邪魔だ邪魔だぁ!!」

 

少女の眼が燦然と輝くのと同時に、開け放たれた背中から一対の小ぶりな翼が出現した。

そして、オーラを纏った腕で邪魔な障害物を殴り飛ばし、後で青年が追い付けるよう唾でマーキングしながら、最短距離で匂いの元へと直行する。その荒々しい蛮勇に満ち溢れた行進はもはや人間業ではなく、彼女が人外の存在であることをはっきりと示していた。そして、数分後、彼女の視界が開け―――――――――――――――――

 

―――グロォオオ!!

「っく!! どいてぇ!!」

 

――――――ドスジャグラスに組み伏せられている見知らぬ女の姿が目に入った。

 

「やっぱ、めんどくせぇことになってやがんなぁ!!」

 

ちら、と横を一瞥すればインナー姿の男がこちらに駆けてきているのが見えた。

武器はなく、防具もなし。あるのは腕に装備したスリンガーと今にも喰われそうな女を

身を挺して助けようという気概のみ。

 

(船から投げ出された時に装備無くしやがったか!! だがその根性は気に入った!!)

「おいゴラァ!! テメェ、うちの仲間に手ぇ出してんじゃ―――――――――――」

 

ただ、本能が叫ぶままに吠え、高台から跳躍。腕にオーラを最大限に展開し、

叫び声に反応したドスジャグラスの横っ面に――――――――

 

「ねぇ!!」

 

―――――全体重を乗せたブローを叩き込んだ

 

 

――――グギャアァァ!!

「ええ!?」

「はぁ!?」

 

予想外の一撃を受けて、情けない悲鳴を上げながら吹き飛んでいくドスジャグラス。

そして、突然現れた少女が起こしたあまりにもありえない光景に仰天する人間二人。

 

「とぼけたツラしてねぇで、とっとと走りやがれ!! この先に調査拠点がある!!」

「は、はい!!」

「あ、ああ!!」

 

一瞬硬直した二人にエリアをふさぐ障害物を殴り飛ばした少女の激がとぶ。

それで我に返った二人は共に言われるがまま、調査拠点に向かって走り出した。

 

「ジャナフ!! 間に合ったか!?」

「どーにかなぁ!! さっすがオレさま、これで大丈夫だろ―――――――」

「まだだ!! もう一体“過活性化個体”がここに来る!! それもアンジャナフだ!!」

「オレさまの同胞ォ!? マジかよぉ!!」

―――グオオォォォォ!!

「きゃあぁ!!」

「ちょ!?」

 

だが、安心できたのはほんの一瞬。高台より雄たけびと共に重量感たっぷりに登場してきたのは、赤茶けた体毛に特徴的な顎を持つ獣竜種、蛮顎竜:アンジャナフ。そして、まずいことにアンジャナフの着地場所は一番後方を走っていた丸腰のハンターとそれ以外の三人の間。二組に分断されてしまった。

 

「ああ、もう!! なんなんだよここはぁ!!!!」

 

ハプニングの連続にとうとう我慢ならなくなった丸腰のハンターの叫び声がフィールド中に木霊する。

しかし、それはあまりにも迂闊だった。

 

「あ、あのバカ!!」

「やばい!!」

 

その叫び声に反応したアンジャナフは丸腰のハンターを標的としてとらえた。

流れるように背中の一対の羽を展開し、そのアギトをもって胴体をかみ砕かんとせま

 

 

 

 

「全く、騒がしい音の方にやってくればこの始末とはな」

 

 

 

 

――――ることはできなかった。

 

―――グオォォォ!?!?

「なっ!?」

「これは!?」

「今のは炎ブレス!?」

 

突如、上空から飛来した炎ブレスがアンジャナフの頭部に着弾。けたたましい音を立てて爆発し、その突進を止めたからだ。そして、間髪入れずに上空より降ってきた影が怯んだアンジャナフを足で掴み、投げ飛ばした。

 

「ここは私が引き受ける、君たちは早く中へ」

「先生…………!!」

 

凛とした声でそう言い放ち、丸腰のハンターと吹き飛ばしたアンジャナフの間に降り立ったのは、既存のリオレウスの防具に似た装備に身を包み、頭部から一対の翼を、腰からは赤と黒の模様のある尻尾を生やした女性。炎のような真紅の髪をはためかせ、アンジャナフを睥睨する様は周りにいる全ての生命に、この地の王の到来を思わせ、翻弄されていた人間達に安心感を抱かせた。

 

「あ、ありがとう。だが、あなたは一体…………?」

 

調査拠点と古代樹の森を隔てる門に向かいながらも、疑問を口にする丸腰のハンター

その問いに女性は咆哮を上げるアンジャナフをなおも見据えながら、こう答えた。

 

「私はレウス。リオレウスのフレンズだ。推薦組のハンターよ、ようこそ新大陸へ!!」

 

 

 

 

 






ここは新大陸。青い星に導かれ、人と竜が共存する楽園――――――――



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