豊饒の女主人に住んでいたのは間違っているだろうか? (コトコト)
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その少女との出会い
『ダンジョン』、それは得体も知れない
だがしかし、やはり
『魔石』それはモンスターにとっての生命力の核、つまり心臓でありそれを砕かれるとモンスターは絶命する。それには魔力が込められており様々な加工が施され防具や武器などになる。これこそがダンジョンの危険に見合う利益でありそれを稼ぎ換金することで生計を立てる者たち、冒険者が存在する。
そしてこの物語の主人公である赤目白髪のウサギのような少年、『ベル・クラネル』もその若さながら命をかけダンジョンに入る。冒険者なのだ。
「あれ?エイナさんいないな」
ここは『ギルド』、先ほど説明したダンジョンの管理や冒険者が取ってきた魔石の換金、そして冒険者のアドバイザーなどを仕事とする機関だ。
いつもならダンジョンへ向かう冒険者やそれを手伝うサポーターなどで賑わっているが今は太陽はまだ上がっておらず人影は少なく静まり返っている。
ベルは今、ダンジョンから上がってきたばかりであり取ってきた魔石を換金しようとギルドの受付を訪れていた。人がいないのはギルドでも同じ事で、人が集中する時にギルド側も職員を集中させるためこのような人がいない時間帯はギルド側の職員も少ない。
「魔石の換金をお願いします」
気だるそうながらも綺麗な笑みを保つ受付嬢に魔石を渡し『ヴァリス』を受け取る、そのまま受付嬢に礼を言い昇り始めた日が差し込む出口へと歩き出す。
少年が去りまた一段と静けさに包まれたギルド内
「ん〜、眠い。にしてもさっきの子、確かエイナの...」
先ほどの少年冒険者の顔を思い出しながら同僚であり友人である知り合いを思い浮かびながら気になったことを口にする、すると
「私がどうかしたの?ミィシャ」
先ほど思い浮かび上がったばかりの友人がそこにいた、整った顔に知的を覚えるメガネ、そして特徴的な耳。自分の昔からの付き合いである友人だ。
「エイナ、そういえばさっきエイナの担当のあの子が出てったよ。」
面倒見のいいエイナの性格を理解している彼女はエイナを安心させるためにそう言った、そのはずなのだが。
「えっ!ベル君が!ちょっとそれって今!?」
それを聞くと同時に焦りや少しの怒りを現すエイナをなだめる。
「まぁまぁエイナ、そろそろ冒険者がたくさん来るし。その子にもすぐ会えるでしょ」
「すぐ会えたらいいんだけどねぇ」
「ずいぶん乙女っぽいこと言っちゃって...まさか!ついに仕事人間のエイナにも恋の予感が」
「ち、違うって。私はただベル君が危なっかしいから気にかけてるだけで...ってそうじゃない」
ため息をつきながら自分の持ち場へ戻る友人。その姿は正しく看板娘ならぬ看板受付嬢だ、流石ハーフエルフといったところだろう。
「彼全然ダンジョンに来ないのよ」
「やっぱ恋する乙女じゃん!」
「だから違うって。ベル君田舎からはるばる1人で来たみたいなの、それなのにダンジョンにも全然入らないし、しっかり生活できてるのかなぁ〜って思って」
普段エイナに褒められようと必死にアピールしている冒険者から見たら正しく羨ましい言葉の連続だろう。それほどにベルという冒険者はエイナの保護欲をそそるのだろう。
しかし自分達は受付嬢、仕事についてはしっかりと見切りをつけるべきだと思い彼女は友人に言った。
「別にいいじゃん、私たちの仕事はダンジョン関係の冒険者のサポートでしょ、ダンジョンの外の事まで面倒見てられないっての。エイナはお節介過ぎだって」
そう言ってもエイナの顔は曇ったままであり続けて言った。
「問題は別にもあるのよ」
「別にも?それってどんな?」
「・・・ってないのよ」
エイナは確かにそう言った、聞こえるはずなのに彼女はその言葉を受けきれず。
「え?」
そう返した。そしてエイナははっきりと言った。
「ベル君ね、ファミリアに入ってないのよ」
___________________________________________________________________
「いやぁ〜、やっぱダンジョン帰りの日の出は格段に綺麗だな〜」
僕、ベル・クラネルは冒険者だ。今はその仕事帰り、つまりダンジョンから自宅に帰るところだ。
先ほどいった僕の職業、冒険者はダンジョンという魔物がいっぱいいるところに行ってその魔物から命からがら魔石というヴァリスに換金できる物とか稀に魔物が落とすドロップアイテムとかを集める仕事だ。
このダンジョンという迷宮の上にあるオラリオではたくさんの冒険者がいる。だけど僕はその他の冒険者とは少し違うかもしれない。
まず1つは僕がダンジョンから戻る時間帯だ、大体の冒険者が早朝にダンジョンへ向かい昼間や夜などに帰ってくる。だけど僕の場合は少し違う、僕の場合は必ず早朝に帰るようにしている。
理由は様々だけど一番の理由はある程度の自由があるからだろう、いくらダンジョン内のモンスターが無限に近いと言っても同業者がいればやりにくい、他の冒険者がいなければ好きなだけ狩れるしこうして日の出を見たり誰もいない街を散策するなどの楽しみがあるからだ。
2つ目は僕には神様がいないという事、この神様というのは人の名前とかそういう役柄ではなく本当の神様だ。
1000年前にこの地上に降り立った不変不滅の
僕のアドバイザーのエイナさんは早く神様を探して眷属にしてもらえっていうけれど、実際今でも結構やれてるしこのまま5階層らへんで稼ぎ続けてもいいと思うんだけど...
まぁ以上が僕が他の冒険者と少し違う理由だ。まぁたくさんいる冒険者の中で僕みたいなのも1人いてもあまり影響がないからこのスタイルを変えるつもりもないしこれはこれでいい事もある。さっきの日の出だったり...
「この匂いは...」
まだ人影の少ない街から漂ってくる香ばしい匂い、ダンジョンからの帰りでヴァリスには随分と余裕がある、僕は豪勢な住宅が立ち並ぶ北メインスリートへと向かった。
北メインスリートはギルドの関係者や高級住宅街が隣接し、僕が知る限り富裕層が住んでいる地域のイメージがある。何より目立つのは少し遠くに見える大きな城のような建物だ、噂によればどこかのファミリアの拠点らしい。
その他にも商店街としても活気付いており服飾関係ではオラリオの中でも有名なところで僕の友達もそこで働いている。しかし今僕がここに来たのはそれらの事とは一切関係なく、僕はそれを得るために北メインスリートの脇へと入った。
「おはようございま〜す」
「おぉベル。今日は早かったな」
北メインスリートの脇にある小さな露天、もう顔馴染みとなっている店主のおじさんに挨拶をする。僕はここに来た理由はこの露天に売ってる商品、『じゃが丸君』を食べるためだ。
じゃが丸君はジャガイモから作られた食べ物だ、外見から見たら鮮やかさもないただのジャガイモ料理だがこれがなんとも美味しい、カリッとした食感に香ばしい味わい。今ではこうしてダンジョン帰りに出来たて一番のじゃが丸君を食べるのが日課となっている。
「ん〜!美味しい」
僕はこうしてじゃが丸君の美味しさを堪能しながら帰路に着く、帰る場所はこの北メインスリートからそれほど遠くない場所、西のメインスリート、その中でも一段と大きな作りをした酒場。
その名も『豊饒の女主人』
・・・・・
僕はじゃが丸君を完食した後変えるために西のメインスリートへの最短距離、つまり路地裏を進んでいるわけだがそこで予想外の事態に遭遇した。
「女の子が...倒れてる」
その女の子は長く綺麗な黒髪を粗末なゴムで2つに結び、見たことない白い服をきている。見たところ目立った怪我もなければただの行倒れに見える。この辺りでこの服装は見かけないため王国とかから来たのかな?そして何よりも
「かわいいな」
その顔には愛嬌があった、人を見た目で判断するのはいけないけれど。
「え〜っと...大丈夫ですか?」
「・・・」
返事がない、どうやら寝てしまったようだ、さてどうするか。
恥ずかしいことに今の僕はあまり裕福というわけではない、言うなれば一般より少し貧乏だ、今はなんとか住み込みで働かせてもらってるがそれもいつまでもつかわからない。はっきり言ってこの子を拾ったとしても今の状況がいい方向に進む可能性は低いだろう。ここは見なかった事に...
『あなた、ここに住んでるんですか?』
『よければ、私と一緒に働いてくれませんか?』
教会の隠し部屋で細々と暮らしていた僕に手を差し出してくれた彼女を思い出す。
あの時彼女に会えなかったら、僕はこの子のようになってたかもしれない。
「仕方ないか」
ミアさんには何とか頼むとして僕ももう少しダンジョンに入る頻度を多くすれば何とかなるだろう。僕はそう考えながらその少女を背負い豊饒の女主人へと向かった。
この時僕は思いもしなかっただろう、この女の子がどんな存在で、そして自分の大切な家族になるとは。
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その少女、女神につき
・・・どうしよ
僕の住ませてもらっている豊饒の女主人は西のメインストリートにある大きな酒場だ、一見してみればおしゃれなカフェにも見えるが冒険者などにも常連が多い人気の酒場だ。人気の理由として外せないのは従業員だろう。
従業員は皆女性でヒューマンやエルフ、獣人など様々な種族が働いている。そして何よりも皆可愛いということだろう。実際従業員を見るために来る客も多く、それが人気の理由の1つにもなっている。だがしかし、やはり酒場なので酔っ払った客などが従業員にいかがわしいことをするのも珍しくない、だがそこも心配はいらない。
なぜなら豊饒の女主人の従業員は強いからだ、どのくらいかといえばそこら辺の冒険者なら簡単に倒せるほどで何よりも女将であるミアさんはたいていの荒事は一喝で収めることができるほどだ。
ちなみに僕はここで住み込みで働かせてもらっているが従業員ではない(僕男の子だしね)、僕のやることといったらただの裏方、それもミアさんの手伝いくらいだ。
豊饒の女主人の開店時間は冒険者が帰る時間帯、つまり昼頃だ、なので今はいつもならば開け放たれたままの扉は閉まっており準備中と書かれた札が吊るされている、そのため今店内には客はいない。そのためわざわざ裏口から入らずともこうやって正面から入ってこれるわけだ。
「まだ起きてはないか...」
今も背中に背負っている少女はすっかり眠ってしまっている。この子が誰だかわからないけどここまで連れてきてしまったら後戻りはできない。僕はもう一度覚悟を決め我が家の戸を開けた。
・・・・・
店の中はまだ暗く、椅子が丁寧に机の上に置かれていた、まだ少し汚れが目立つ。どうやら掃除を始めたばかりのようだ。
「ただいま準備中にゃ...ふにゃ〜」
欠伸をしながらそう言ったのは緑と白を基準とした可愛らしい服装、つまりこの店の服を着た
「おはようアーニャ。眠そうだね、昨日は眠れなかったの?」
「んにゃ?なんにゃベルかにゃ、ダンジョン帰りかにゃ?」
入ってきたのが僕とわかるとアーニャは手に持った箒を止める。ちなみにアーニャも含めこの店で働く全員僕より年上だ、そのため僕も最初はみんなに敬語を使ってたけれど結局この店独特の雰囲気に影響されて今では敬語を使うことが少なくなってきている。
「そうそう、久しぶりだったから少し長く居てね、ところで他のみんなは?」
「クロエとルノアは買い出し、リューは厨房」
「あれ?シルは?」
僕は名前を呼ばれていない1人について聞いた、するとアーニャは深くため息をつき遠い目をする。
僕は思いつく限りの予想を言った。
「もしかしてまだ寝てる?」
「ご名答にゃ、まったく随分と気持ちよさそうな寝顔だったにゃ。私はこんなに眠い中掃除してるのに」
恨めしそうに言うアーニャ、眠さからかその目はどこか虚ろだ。
「ははっ、用事が済んだら手伝うよ。ミア母さんは?」
「自室で今日の予約を確認して...るにゃ...」
そう言いかけアーニャは口を小さく開いたまま唖然として僕を見ていた。
「ん?どうかした」
「にゃっ...にゃ!にゃ!にゃっ」
そう口で発しながらアーニャは立ち尽くしたままだ、持っていた箒は手から離れ床に「バタンッ」と音を立てて落ちる。だがそれを気にせずにアーニャはずっとあるところを一点に見つめていた。僕の背中にいる少女を...
「あ、アーニャこの子はダンジョンの帰「ニャァァァーー!!」
説明しようとするも時すでに遅し、僕の声はアーニャの絶叫に飲み込まれて消えた。
「ベルが!ベルがダンジョンで女の子を攫ってきたニャァァァーー!!」
「えぇーーー!!」
これについては僕も予想外だった。この女の子を見られたら何かしら騒がれると思ってたけどまさか「攫ってきた」と騒がれるとは思いもしなかった。
そしてアーニャがそう騒いで数秒。
ドカッ!
店の奥の階段、その上は住み込みで働く従業員などの居住スペースからその音は聞こえてくるその音は段々と近づいて...少しよろめきながらその音の主は現れる。
現れたのはこれまたかわいい女性、種族は僕と同じヒューマンで豊饒の女主人の看板娘『シル・フローヴァ』、銀髪で愛嬌のある顔はこの店に来る客にも人気だ。
性格ははっきり言ってドジっ子だ、先ほどの寝坊などはよくあることで忘れ物もよくする。まぁそこがシルのかわいいところであり親しまれる理由の1つとも言える。
「アーニャ!ベルが女の子に攫われたって本当!」
案の定こういった聞き間違いをしてしまったらしい、僕もあまりダンジョンには行ってないにしろ女の子に攫われるほど弱くはないつもりだけど。高Lv.の女性冒険者は別として。
「だから違うって...」
「そうにゃ!違うにゃ!ベルが!攫ってきたんにゃーーー!!」
「それも違うって」
「久しぶりにダンジョンに行ったと思ったら女の子を攫ってくるなんて、私ベルをそんな子にした覚えはありませんよ!」
「だからしっかり僕の話を聞いて、この子は道端に倒れてて。ーーーってシルはなんでそんなお母さんっぽいことを」
「え、やだお母さんだなんて、ベルは気が早いですよ///」
「こうなったら私の手で引導を渡してやるにゃ。フシャァーーー!!」
突然照れ始めるシルになぜか戦う気満々のアーニャ、あぁどうしようこれ。正直言ってこの状況はかなりまずい、同僚に追い詰められるというまさに酒場の笑い話みたいな話だけど
つまりいつもだらけてふざけているけどはっきり言って今の僕ではアーニャの相手にもならない。マジでなんとかしなければ...
「アーニャ、シル、少し騒がしい。何かあったのですか?」
そう言いながら厨房から現れたのは僕が今この状況で一番遭遇したくない人物、今もなぜか照れているシルと仲が良く今僕が最も警戒している人物、『リュー・リオン』だった。
その姿はまるで深窓の令嬢を体現したかのように静かで華麗であり冒険者が騒ぎ立てるこの酒場でもその雰囲気を崩さずに仕事を完璧に、その姿はまるで絵本から出てきたかのようだ。そして何よりも特徴的なのは整った顔に特徴的な耳、それは彼女が純粋なエルフであることを証明していた。
エルフ、それは森の賢者とも言われるほどの知識と其れ相応の技術を持った種族。何よりもプライドが高く少なくても酒場で働いたりする姿など想像すらできない種族だ。そして腕っ節も強く彼女の美しい容姿や珍しさから手を出そうとする客や彼女と仲の良いシルに手を出そうとした客などが彼女の手によって何人痛い目にあっているか。僕は良くアーニャたちから聞かされている。
「リュー!ベルがダンジョンから女の子を攫ってきて!私が、私がお母さんに」
「そーにゃ!そーにゃ!」
シルとアーニャの説明を聞きそのまっすぐな目で僕を見るとシルとアーニャを交互に見た。
「なるほど、状況は理解しました。シル、アーニャ。まずは落ち着いてください。」
その目はまさに冷静であり並みの冒険者でも少しばかりの怖いと感想を持つだろう。日々あってる俺からしたら怖いってもんじゃない。
「まずその少女、傷はついてなく服装も戦闘向きとは言い難い。つまりその少女が迷宮にいるとは考え難いーーー」
そうそう、ダンジョンにこんなに少女がいるわけない。
冷静な推理、さすがリューさんだ。これたらこの騒ぎの解決もーーー
「ーーーつまりその少女は、ベルが迷宮帰りに攫った可能性があります。」
リューさん違うよそこじゃない!あってるけどまだ間違ってる!
「はっ!まさかベル」 「にゃっ!まさかベル」
リューさんの言葉を聞くやいなや再び身構えるアーニャと少し笑みを浮かべるシル。あれ?これってシルもう気づいてんじゃない?
「だから違いますって!攫ってません」
僕の必死の弁明も聞かずアーニャが僕に飛びかかろうとしたその時。
「まったく、うるさいったらありゃしない。少しは静かしろ!」
突如として響いた怒声に店内は静まり返る、そしてコツコツという音とともに階段から一回り大きい女性が降りてくる。
「ミアさん!助かりました!」
その女性は『ミア・グランド』、僕をここに住まわしてくれている感謝してもしきれない、豊饒の女主人の女将である。
「ん?なんだいベル、帰ってきたのかい。おかえり。その背中の子はーーー」
色々と予想外なことは起こったけれど、ここからが本番だ。
「ミアさん!話があります!」
ミアさんは僕と周りを少し見て状況を察したのか
「わかった、ついてきな。お前たち、私が戻ってくる前に掃除を終わらしとくんだよ」
ミアさんはそれだけを言い階段を上がっていった、僕は背中に女の子を背負ったままその後をついていった。
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ベルはミアに案内されるまま部屋へ通される。
背負っていた少女はベットに寝かされており今ベルはミアにすべて正直に話した。ダンジョン帰りに女の子を拾ったこと、自分で面倒を見ようと決めたこと。そんなベルにミアは先ほどから頑なに沈黙を貫いていた。
「お願いします!」
懇願するベルにミアは呆れた様子でその光景を見ている。
「わがままを言ってるのは十分承知です。今まで以上にあの子の分まで働きますし面倒も見ます!もし都合が悪くなったら追い出してもらっても構いません!お願いします」
頭を床にこすりつけて懇願する、ミアは変わらずそんなベルを見つめ口を開けた。
「まずは顔をあげな、頭を下げられたままじゃ話もできやしないよ」
ミアがそう言うとベルはゆっくりと顔を上げる、その顔にはすでに揺るがぬ思いが現れていた。そしてミアは少しため息を吐くと話しだす。
「なぁベル、あんた
「えーっと、ちょうど半年ってところです」
「あの子たちとはどうだい?うまくやれてるかい?」
「最初は色々と大変でしたけど。今はなんとかやれてます」
それを聞くとミアはまるで母のような笑みを浮かべ
「そうかい、ならよかった」
と言った。
そして続けて言った。
「あんたがまだ私たちに負い目のようなものを感じてるとしたらそれはお門違いってやつだよ。その子のことについてもね」
「え?」
「そもそもあんたをここに連れてきたのはシルだ、あの子はたまにサボるし寝坊もする。だけどね、
予想もしなかった優しい言葉、ベルは込み上げてきた涙をこらえながら言った。
「ーーーっ!じゃ、じゃああの子は!」
「好きにしな、だけどいざという時は私たちを頼るんだよ」
「っ!あじばどうございます、ミアさーーーん!」
そう言いながらベルは泣きじゃくりながらミアに抱きつこうとするが。
「こらこら、男が簡単に泣くんじゃないよ」
ハンカチを持ったミアに涙を吹かれながら片手で止められていた。
「ああそれとベル、あんたが拾ってきたその子のことだけどーーー」
ミアがそう言いかけた時、今までの騒ぎのせいか後ろの布団で寝ている少女に動きが見られた。
「ん...あれっ?ここはーーー」
起きて周りを見回す少女はまだ完全に目が覚めてるわけではないようで、ベッドから転げ落ちそうになる。僕はすかさず少女を片手で支えて座らせる。
「ふぇっ?なにがどうなって...君は誰だい?」
まだ寝ぼけてるらしく状況が理解できてないためかこまめに瞬きをしながら部屋を見回していた。
「僕はベル!ベル・クラネルです!」
「そうかい、ならベル君とやら。ここは一体どこなんだ?僕はヘファイストスに追い出されてジャガ丸君の海を泳いでたはずなんだが...」
「ここは豊饒の女主人という酒場です。道端で倒れてたのを僕が連れてきました」
夢と現実が混同しているらしく曖昧なことを言い出す少女に生真面目に説明をするベル。
その様子を見ていたミアがふと言った。
「なぁあんた、神様だろ?」
「えっミアさん...それ本当ですか?」
「私も長いこと冒険者やってたからね、それくらいはわかるさ。で?どうなんだい?さっき言ってた『ヘファイストス』って名前にも心当たりがある。で?どうなんだい」
すると少女、女神はやっと事態を飲み込めたのか、少女は少し落ち着いき、こうなった経緯を2人に語り出した。
・・・
その女神は正直に自分のことを話した、後悔からか随分落ち込んでいる。
ミアはそんな女神を見ながら話を整理する。
「そうかい、つまりあんたは下界に降りたけれどヘファイストスっていう友人の元で自堕落な生活をしてたから追い出されたと」
「うぅ、その通りだ」
率直な意見を言うミアに素直にそれを肯定する女神。そして女神は何かを決心したようその話題を切り出した、
「先ほど彼からここが酒場だと聞いた!どんな雑用でもやるからここで働かせーーー」
女神がそういうのを遮るようにミアがが言った。
「なに言ってんだい、ベルがあんたを連れてきた時からそのつもりだよ。そろそろうちの店の手伝いを理由に冒険者としての仕事をサボられるのも我慢できなくなってきたところだしね」
「そこを突かれると申し訳ないです」
ミアの言葉に申し訳なさそうに苦笑するベル、そんなベルを見て女神はふと気になることを言った。
「ベル君は冒険者なのかい?」
そう聞かれるとベルは先ほどのミアの言葉を気にしているからか少し照れくさそうに答えた。
「まぁはい、神様もいませんしあまりダンジョンにはもぐんなーーー」
そこまで言った瞬間、突然女神に手を握られる。いくら女性に囲まれた職場で少し慣れがあるとしても突然のことだったためかベルは反応に困り小さなパニック状態となっていた。しかし当の女神はそんな彼にお構いなしに話し始める。
「なら是非僕のファミリアにぃ」
そう言いかけた時、女神は力なく伸びそして
ぐうぅぅぅ〜
その音が部屋に響いた。
その音を聞いたミアは呆れながらも言った。
「混み入った話は後にして飯にしようか、あんたのことみんなにも紹介しないといけないしね」
そう言い部屋を後にするミア、部屋にはベルと未だ力なく伸びきってる女神が残された。ベルもミアに続いて部屋を出ようとするが女神の様子を見ると、立ち止まる。
「えーっと神様?動けます?」
そう言ってしばらくの沈黙、そしてうめき声に似た声で返答が返ってくる。
「む、無理」
それを聞くとベルは軽く笑みを浮かべ女神に近づいていき
「それじゃあ僕が背負っていきますよ、だからご飯食べたら元気出してください」
そういう時た時と同じように女神を背負った。
「う、うぅ。ごめんよ、ごめんよベル君...迷惑ばかりかけて」
ベルの背中に顔を埋め、そう謝る女神にベルは言った。
「僕は元々神様の面倒を全部自分で見る覚悟で連れてきたんですから、これからもじゃんじゃん頼ってください。大したことはできませんけど、やれることは精一杯やりますから」
それを聞くと女神はプルプルと震えながら静かになる。
「ん?どうしました?神様」
そしてポタポタとベルは背中に生暖かい水滴が落ちてきているのに気づく、その異変に気付きそう言った途端
「ゔえぇぇぇ!!、ベルぐぅぅん!!」
先ほどよりも力強く抱きつきながら女神が大号泣していた。
この状況にベルはまたしてもパニックに陥る。
その後途中から事情を知らない買い出しに行っていた2人、クロエとルノアが駆けつけ「ベルが女の子を泣かしたと騒ぎそこへアーニャやシルも乱入、最終的にミアが喝を入れる数分まで騒ぎっぱなしとなってしまった。
出して欲しい他作品のキャラがありましたら感想などとともに書いてください。
注意:他作品のキャラについては出せてもうまく行かせるどころか出せるか自体まだわかりません、そのあたりよろしくお願いいたします。m(_ _)m
-追記-
4月12日
他作品キャラの要望を締め切りにさしていただきます。
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恋と野菜とプレゼント
今回は感想欄に要望があった人物を出してみました。
まぁサブタイでわかると思うけど…
最近ベル君がヨソヨソしい。
ベル君のおかげでこの酒場、豊饒の女主人に働かせてもらって1ヶ月の月日が過ぎようとしている。
初めは住ませてもらってる申し訳なささから心苦しい日々を送っていたけど今ではみんなとも仲良くやれている。
店の仕事も最初はベル君に教わりながら厨房にいたけど今では会計兼ウエイトレスをしている。これもみんなのおかげだし何よりベル君のおかげだ。だけど最近、そのベル君のことで少し悩みがある。
ベル・クラネル、通称ベル君、このオラリオには数年前にやって来て普段は豊饒の女主人でミア君の手伝いで料理とかを作っている。
彼自身もミア君曰く自分に引けを取らない料理の腕前だ、ボクもここに来てから何回か食べさせてもらってるけどベル君の料理は確かに美味しい、ミア君程ではないにしろ小さい屋台くらいなら出しても申し分ない腕だと思う。そんな彼が1ヶ月前、ちょうどダンジョンの帰りに道端で倒れていた僕をここに住まわせてくれた張本人、ボクもあの時ベル君に会わなかったままだとどうなってたか…まぁそんなわけで彼はボクにとっての大切な命の恩人でもある。
ただ最近そのベル君の様子が少しおかしい。今更だがボクとベル君は同じ部屋で過ごしている、理由は単純に部屋が足りないからだ。
最初はシル君やアーニャ君とかが騒ぎ立ててたけどなんとか落ち着いた、未だにシル君はベル君と自分を同じ部屋にしようなどと提案してるけど。まぁ問題はそこじゃない。
先ほど説明した通りベル君は冒険者だ、ボクが来るまではミア君の言った通りここの手伝いを理由に多くても1週間に2回程度しかダンジョンに潜らなかったらしいけど最近ボクがきたおかげでその負担も少し減りアーニャ君たちの話によれば
「前のベルはまさに冒険者もどきそのものにゃ〜」
らしい、まぁボクも彼と同じ部屋だからすぐにわかったけど彼は何故かダンジョンに行くのにあまり気乗りしない性格らしい、それは殺生が苦手とかモンスターが怖いとかではなく、どちらかというとダンジョンの深層に行きたくないような気がする。
そのためダンジョンに潜ったとしても必ず5階層や6階層で帰ってくる、まぁ今まで目立つ怪我とかも見られないしそのあたりでは彼が無事だと安心する・・・ってそうじゃなかった、実は最近になってベル君がダンジョンに行くペースや時間が増えた。
もちろん今まで通り店の手伝いもしてるけど夜にもなればダンジョンへ行き僕が起きる時にはすでに店の掃除をしている、はっきり言うとベル君と2人だけになる機会が減った気がする。というか避けられてる気がする。
まぁ確かにベル君だって男だ、ボクみたいな女の子と一緒の部屋で生活するんだ、それは困ることもあるだろう。だけど、なんというか今更感がすごい、他にも僕との会話をあからさまに避けたりもはや有罪確定だ。
「はぁ〜」
やっぱりボクが何かベル君を困らせてしまったのだろうか、心配のせいかため息が漏れる。
「最近あなた達は元気がない、どうしたのですか?」
そう心配してくれるのはウエイトレスのリュー君、今日はリュー君に買い出しについて教えてもらうことになっている、話によればデメテルファミリアにお得意様がいるらしい。
にしてもデメテルかぁ〜、最近忙しいからタケにもミアハにも会ってないなぁ〜ヘファイストスにも会ってボクがしっかり働いてる事を認めさせないと…
それにしても、最近何か大切な事を忘れてる気がするなぁ〜、気のせいだと思うけど。
「いや最近なんかベル君に避けられてる気がして…はぁ〜」
ボクがそう言うとリュー君も何か思うこともあるような仕草をする。
「私が知る限りベルはたとえ嫌いな相手でもあからさまに避けるような真似はしません、彼は優しいですから」
リュー君はその後に「ですが…」と続ける。
「避ける理由としては苦手意識や怖い相手、隠し事などが可能性としてあります。ちなみに私の場合は前者です」
その横顔はどこか寂しさを感じられた。
確かにリュー君の言う通りボクはここに来てから未だにベル君とリュー君が一緒にいるところを見たことがない。しかしベル君は話を聞く限りリュー君のことを尊敬してるし少なくても嫌ってはいない、苦手意識や怖いなどなら仕方ないけどそんな想像できないなぁ。
「そういえば確かにリュー君とベル君が話してるのは見たことないね、なんでなんだい?」
それを聞くとリュー君は少し落ち込んだ?ような表情になって語り出した。
「最初はどちらかというと私の方が彼を警戒していました、シルが連れてきたとしてもあの職場に男性を入れるのは抵抗がありました。」
まぁリュー君はエルフだし少し訳ありみたいだからそのあたりは当たり前だろう
「ですが流石シルが連れてきた人物です、彼は純粋で優しいですしよく働きます。ですが遅すぎた、私がそのことに気づく時には今の状況になっていたのです」
「えっ!?つまりどういうことだい?」
「おそらく私が心を許すまでに私に対する何かしらの恐怖を持ったと私は考えます。私あまり笑いませんから」
思ったより深刻そうな悩みだなぁ。まぁ確かにボクも最初はリュー君を厳しそうとかそう言う感じにてらえてたけど実際はただ真面目なだけなんだとわかった、今日みたいに教えてくれることだってあるし。
「シルにも相談してもらってるのですが…」
どうやら大きな変化は見慣れないらしい、まぁシル君は神である僕から見ても少しわかりづらい子だから。なんだかベル君を狙ってるようだけど今のところは心配しなくても大丈夫だろう。たぶん。
けれども今は同僚が困っている、ここは僕も力になってあげるべきだ。
「そう言うことならボクに任せてよ、ボクからもベル君にアプローチしてみるからさ」
「本当ですか?それなら心強い」
相変わらず静かな顔だけどどこか感情がこもった声でリュー君が言った。
「もちのろんさ!」
ボクはいつも通り親指を立ててそう答えるのだった。
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「色とりどり鮮やかな野菜だ、さぁ買った買った」
「新鮮さならうちの魚だ、メレンで直送してもらったからな。ガハハ」
「力をつけるなら肉が一番!今なら安くするよ〜」
様々な声が飛び交う市場、所狭しに並ぶ出店にはそれぞれの食材が並びその匂いがこの市場の賑やかさをより一層引き立てる。
そんな市場で、建物と直接隣接している店の前に2人はいた。2人の前には青い髪に薄い化粧をした女性が待ってましたと言わんばかりの様子でいた。
「おっはよう!リューちゃん。今日は何をお探しで?」
「おはようございますブルマさん、今日はーーーー」
2人はいつも通りのやり取りをし、リューは注文を言うと持っていたバスケットをブルマに渡す、ブルマは注文がわかると後ろの家の戸を開けバスケットをどこかへ置くと大声で
「注文入ったわよ!さっさと働きなさい!」
そう檄をとばすと小さなため息をついて戻っていった。
「にしても驚いたわね、よく見たら神がいるじゃない。またミアが厄介ごと抱えたの?」
どうやらヘスティアに気づいたらしく肘をつけながらそう聞いてくる、どうやら注文が来るまではこうして雑談をするのがいつも通りらしい。
「いいえ、彼女はベルが拾ってきたので」
「ボクはヘスティア、よろしく」
初対面で緊張しているのか、ヘスティアはそうぎこちない返事を返す
「私はブルマよ、所属はデメテルファミリア。ここらで商いをしているわ、量は他のより少し少ないかもしれないけど質なら負ける自信はないわ、他にも用心棒とか色々とやってるから困ったら頼りにしなさい。」
「用心棒?」
「はい、ブルマさん達は元は凄腕の冒険者なのです、噂によればデメテルファミリアの創設から今までの影の立役者だとか」
「いやいや、そんな大層な事してないわよ、噂が一人歩きしてるだけ。一応憲兵だっているしそんなことだってあまり起こらないんだかーーーー」
ブルマが笑ってそう言った瞬間。
「だから高いっつってんだろ!」
ちょうど2人の真後ろの店で怒声が響いた。店の商品を見る限りどうやら冒険者向けの簡易薬屋どうやら商品の薬が高く冒険者が文句を言っているらしい。
「ですがこれが定価ですので、上げるも下げるもお客様だけといくわけにもいきません」
覇気のない定員が対応してるが男は聞く耳も持たない。
「ありゃソーマファミリアね、相変わらず必死だこと」
ブルマが呆れ顔でそう言う。
しかし周りはこの騒ぎに気付き始め先ほどとはまた違う、ざわざわと小言のような喧騒へと変わる。
「テメェら何チラチラ見てんだよ!あぁむかつくぜ、ギルドの連中の目は節穴だしよぉ、こいつの薬は高いしよぉ。あぁむかつくぜ」
周りを見回しながらそう怒鳴る男。
今の時間帯ではこの辺りに冒険者は少なく、商人だけである。冒険者がいたとしてもファミリア同士の抗争を避けるため手を出さないのが賢明だろう。そのためこのような客では商人は比較的弱い立場にいることが多いのだ。
「さっさと安くしろ!俺はこんなものに物のためにいちいち金を使うわけにはいかねぇんだよ!」
「ですからお客様、これ以上は安くなどできま「うるせぇ!」ひぃっ!」
叩きつけられた腕、その音に完全にビビってしまった店員。
男の目はどこか狂気に満ちておりもはや正常な判断をする理性など既にないだろう。
「テメェらが悪いんだ!俺ま悪くねぇ!テメェらがグルになって俺を嵌めてんのはわかってんだぞ!俺は悪くねぇ!テメェらが!」
そう同じ言葉を呪文のように叫び続ける男、店員はついに男に見切りをつけたようで。
「お客様!私ももう我慢の限界です!残念ながら私ではお客様のご満足いただけないようですのでもうお引き取りください!」
先ほどとは変わってそう強く言い放つ、しかしその声も男の耳には周りの雑音と同じものであり男の様子は変わらないまま、そして男はついに強硬手段に出る。
「うるせぇ。テメェのことなんか知るか!テメェはさっさと俺に薬をよこせばいいんだよ!」
そう怒鳴ると同時に腰にさしていた短刀を店員に突き出した。
「さっさと持ってる薬袋に詰めて渡せ!言っとくがテメェが悪いんだからな!俺に刃向かったテメェが!」
刃物を取り出し正気ではない冒険者、店員に先ほどの威勢はなく腰が引けてしまったのか尻餅をついた状態で震えていた。周りにいたもの達ももはや男が正気ではないことを瞬時に悟ると男がいる一帯から離れ他の店の者達も店に身を隠す、残っているのはヘスティア達のみ。
「あぁん?なんだテメェら!見てんじゃねぇ!」
短刀を突き出し威嚇する男、しかしヘスティアを除く2人にその行為は脅しの意味を持たないだろう。ブルマが静かに告げる。
「ねぇあんた、謝るなら今のうちにしておきなさいよ」
「なんだとテメェ!謝れだと?なんで俺が!テメェらが悪いんだろ、俺は悪くねぇ!」
刃物を振り回し怒鳴り散らす男、しかしブルマはそんな男など気にも止めず続ける。
「商売で少しくらいの暴言も、軽い脅しだってそのぐらいは許してあげるわ」
「何言ってんだテメェ」
「でもね!そんな物騒なものを出すなら話は別よ、私たちと交渉したいなら頭を使って口でしなさい。武器を使いたいなら迷宮にでも行くことね」
「このアマ、好き勝手言いやがって」
ブルマの発言が気に障ったのか男はゆっくりとした足並みでブルマたちの方へ歩いていく。そんな時だった。
「先ほどからうるさいぞ貴様、負け犬のように喚き散らすのなら他所でやるんだな」
その声はブルマたちの頭上、ちょうどベランダと思われる高さから響いていた。そして地面を蹴る音がすると同時に頭上に影が1つ横切る。
「ここは商売をするための所だ、その気がないならとっとと失せるがいい」
そう言いながら男の目の前に腕を組んだ状態で着地する男。
逆立った黒髪に険しい顔、青い作業着を着ているがその作業着越しからでもしっかりと確認できる。そして何よりわかるのはこの男から溢れ出す自分への自信やプライド。それらはどんなものにも平等に、この男が強者という事を認識させる。
突然の謎の男の登場に周りに避難したりと身を隠していたもの達からはその男の自信からか安堵の声が溢れる。このような強そうな男の前なら大人しく退散するだろうと思ったのだろう。
「あぁん?なんだテメェ!」
しかしそんな希望も虚しく、すでに正気を失っている男は目の前にいる男が自分とは違う、さらなる高みの次元にいることすら気づけづに持ってる凶器を突き出し脅す。しかし体の危機感知能力は目の前の男の強さを思い知っているようで小刻みに震えている。
「体は震えてるがこの俺に挑むその威勢だけは感心するな。来い、お前のような凡人の弱者と俺のようなエリートにして強者の格の違いを思い知るがいい」
男はそう言うと薄く笑みを浮かべながら自分の首元を指差す。
人体の中でも外界に近く顔と胴体を循環する血を運ぶ血管が密集している部位を指差しその男は凶器を持つ男に対して「来い」と言った。その行為が挑発という事は誰にでもわかることだった。その男のふざけた行為に周りからも不安げな様子が現れる。
「わかったよ…ならお望み通りーーー」
男はそう小さな声で呟き
「ーーーその生意気な面を真っ赤に染めてヤラァァ!!」
大きく振りかぶりながら男の首めがけて振り下ろした、なのに男は一向に避けるどころか動くそぶりすらせずそのまま立ち続ける。あたりからはそんな男の末路を悟った誰かの悲鳴が市場に響いた。
「せいぜいLV.2といったところか」
悲鳴が響き終わった後、失望混じりの声がした。その声は少なからずのその場にいたもの達を驚愕させ、その男に凶器を突き立てた男にとっては恐怖そのものだった。
突き刺していたはずの凶器は刃から崩れ落ち、その心許ない姿を晒していた。
「その錯乱した様子と先程までのうるさいく喚き散らしたのを見るにダンジョン内で信じてたものに裏切られ身ぐるみでも剥がされたか…」
その言葉を聞くと男はハッと我に帰りその声のぬしを睨みつける。
「図星か…裏切られたくらいでこのザマとはくだらん。ダンジョンではモンスター以上に同業者にも十分警戒するものだ、それが仲間だとしても。その覚悟がないくせによくそこまで行けたものだ」
「うるせぇ!お前に俺の何がわかる!」
そう叫ぶ男の目は先ほどのようなやけになったものとは違う、それよりも純粋となった憎しみが見える。
しかしそんな憎悪すら意に介さず、まるで道端の意思を見るような、価値のないものを見るような目で男は続ける。
「俺の何がわかるだと?笑わせるな。俺が貴様をわかったところでそれは時間の無駄というものだ、そもそも貴様と俺とは悩むものすら違う。貴様がエリートである俺に勝てぬように、エリートの俺が貴様の気持ちなど知りもしないことは当然のことだ」
そう言い男の手から凶器だったものを落とし言った。
刃物を失った男は先ほどの威勢が嘘かのように縮こまっていた。
「俺も久しぶりの戦いで少し大人気ないことをした、これに懲りたらダンジョンなどに潜らず冒険者を辞めて商人でも始めるんだな。2度同じことで済むと思わないことだ」
だがその「ダンジョン」という言葉が再び男の怒りへの点火剤になったのか男は震える足のまますでに背を向け歩き出している男へ飛びかかる。
「言ったはずだ、
飛びかかる男に背を向きながらそう言い放った時にはすでにその男の真後ろで自分へ飛びかかった男を見下ろしていた。
そして右手をゆっくりと男へ伸ばすように動かし
「ーーーーーーーー」
何かを口で唱えると同時に男の手から光が発射され男に直撃する。その衝撃によって巻き上げられた砂煙が止む頃には地に伏した敗者とそんな敗者には目もくれず立ち去る勝者の姿があった。
___________________________________________________________
「この俺が手塩にかけて育てた野菜だ、さぁ受け取るがいい」
「何が『さぁ受け取るがいい』 よ、あんなのさっさと片付けなさいよね」
先ほどのボク達の目の前で暴漢を圧倒したこの人、ベジータと名乗っていて男。近くに来てもよくわかるその存在感と溢れ出る自分への自信を感じる、そしてさっきの出来事からも第一印象は怖いと思ってたんだけど…
「そもそもあなたの手塩にかけた野菜ってあなたの仕事はそれだけだからそりゃ手塩にかけるでしょうね、なんなら他の仕事もやってみる」
ブルマ君が挑発じみたことをいうけど
「ふんっ、この俺様が仕事をしてるだけでもありがたいというのに。欲張りなやつだ」
ベジータ君はその言葉もどこ吹く風のようで気にもしない。
そんな様子にブルマ君は続けてあれこれ言い続けるかベジータ君は変わらない態度を続けた。
そんな2人の様子を見てた僕はふと未だ賑わう市場から大通りへ向かうひときわ目立つ1人の少女の存在に気づいた、背丈や雰囲気からはベル君と同い年くらいかな、桃色の髪に丁寧に結ばれた2つの髪がはためいている。
その少女は顔がよく効くらしく騒動の内容を道行く人に聞いたり売店から食べ物などを貰いながら大通りへと向かっていた。そしてボクの目を何よりも引いたのはその少女が背負っている物だった。
それは布のような者に全体を包まれてはいるが、それでも隠しきれない大きさだった。だけど少女はそんなの気にするそぶりも見せず自分の体よりもひとまわり大きいソレを背負いながら器用に人混みをくぐり抜けていった。
見た感じの雰囲気といいその子は人間だけど冒険者とは違う雰囲気だった、表すなら今目の前にいるベジータ君ととても似たような雰囲気だった
「ブルマ君あの子…」
ボクがその子の事を聞こうとブルマ君に声をかけた時、ボクはしゃべることすら忘れその少女に目が釘付けになった。
正確にはその少女の先にいる人物、その人物は白い髪に綺麗な赤い目をした少年で少女を見つけると相変わらずの明るい笑顔で手を振っていた。少女も彼を見つけると大きく手を振り勢いよく彼に抱きつく。彼も顔を赤らめながらもまんざらでもない様子だった。
その少年は間違いもしない、ボクを助けてくれた少年。
ベル・クラネルだった。
___________________________________________________________
夕日が射す一室、その一室には1人の女神がいた。
純白の衣服に整った容姿、その可憐なる姿は平凡な一室には似合わず浮かべる不機嫌な顔も似合わないものだった。女神ヘスティアは部屋の一角、彼が彼女の為に譲ってくれたベットの上で座っていた。
(むぅ〜、ベル君のバカ!)
べそをかきながらも彼女の決意は固かった。
(ベル君め!大方あのドロボウ猫に色目遣わされて貢がされてるんだろう。ベル君のことだからそうに決まってる、この際ベル君に問い詰めてボクのファミリアにしてやる)
ベルを自分のファミリアの一員にするという当初の目的は無事思い出せたヘスティアだったがすでに彼女の脳には昼間の光景が染み付いており思い出すたびに歯をくいしばるのだった。
(ボクだって!ボクだって……)
その時近づいてくる足跡をヘスティアは感知した。
リズムの様な足取りを聴くに随分とご機嫌らしい、その様子にヘスティアは苛立ちを覚えながらも行動を開始する。
「ただいま〜…って誰もいないよね…」
そんなヘスティアの企みも知らず部屋へと帰る少年ベル、静かにドアをあけ中へ入ると誰もいないと思ってるのか服の内ポケットにあるナニカしっかりと確かめ部屋へと入る。
「おかえりベル君!」
「えっ!神様!?どうして?」
突然の人物に驚くベル、しかしヘスティアはそんなの御構い無しに崩さない笑みのまま行動に移る。
「さぁさぁ疲れてるでしょ、ほぉら座った座った」
ヘスティアは素早くベルに近づき手を引いて座布団に座らせる。そしてヘスティアは椅子をドアを塞ぐ様に置くとそこに腰を下ろす。その表情は笑みのままだがベルは直感的にそれが少なくても喜びなどから出る笑みではないと感じた。
「えぇと…神様、何かありました?」
ヘスティアの機嫌を損ねぬように慎重にそういうベル。
座布団から様子を伺うように椅子に座る少女を見上げる少年、その光景だけでもベルにとっては予想外だった。
「それはこちらの台詞だよベル君、今日も君は今の今まで迷宮にいたのかい?」
「あぁ…ハイ今日はずっとダンジョンに「嘘だね!」ぎくっ!」
すぐさま否定されそれが嘘だということが顔に出る、この様子を見れば神であるヘスティアでなくとも彼が嘘をついてることがわかるだろう。マズイと感じ始めるベルに嘘をつかれたことで更に気に障ったのかヘスティアは既に先ほどの笑みから不機嫌さがすぐにわかる表情となる。
「今日の昼時、随分と楽しそうだったじゃないか」
「えぇっと……あれはですね…」
問い詰めるヘスティアから顔を逸らしなんとか言い訳を考えようとするベル、しかしヘスティアは待ってくれないようでーーーー
「ベル君の………ベル君のバカぁぁぁ!!」
そう怒鳴ると同時に椅子を蹴りベルへと飛びかかる。ベルも突然の事で反応できず、反応できたとしてもなす術がないので自然と飛びかかるヘスティアを受け止める形となる。
「えっ!ちょっ、神様」
「バカバカバカバカぁぁぁーーーー」
ベルの胸に飛び込むとヘスティアはそう叫びながらベルの胸をぽかぽかと叩き続ける。ベルは突然のヘスティアの行動の対処で慌ててるようでぽかぽかと殴るヘスティアをなんとか鎮めようとするがどうすればいいのか困りそれと同時に押し付けられた柔らかい2つのソレの感触にも重なってどうすればいいかヘスティアを乗せたままオロオロとしていた。
そんな膠着状態の時、ぽかぽかと叩き続けるヘスティアの攻撃がベルの内ポケットには入ってたナニカに当たりそのまま床へと落ちる。それは一目で表すと四角い箱で特に装飾もなければ目立った特徴もない物だった。
「あっ!」
「むっ!」
ベルの驚いた様子を見て何かを察したのかヘスティアはベルにも負けぬ速さでその箱を手に取るとそれを開ける。
そしてその中身によって今度はヘスティア自身が驚かされることになる。
「えっ……」
その箱の中には2つの髪飾りがあった。
青い花弁のような飾り付けのリボンに小さな銀色の小鐘がついており動揺するヘスティアの手の震えに反応して小さくその音色を鳴らす。
「ベル君これは…」
ヘスティアはそう言いながらベルに目を向けるが。
「あぁ…やっちまった……」
ベルは手を顔に置き何かしら後悔していた、ほおが少し赤くなってることから何か照れていることも伺える。そして何か決心を決めると手を退きヘスティアと向かい合う。
「神様!」
「ひゃっ!な、な、なんだいベル君」
ベルの両手はヘスティアの方へ置かれており力は入ってはいないが力が入らないのはヘスティアも同じで2人の顔はすぐ近くで向かい合う。ベルは決心したようでしっかりとヘスティアの顔を見ているがヘスティアの方はベルの態度が先ほどよりも潔く、嘘ひとつない態度の急変に戸惑う一方であり顔を赤く染めながらオロオロとしておりベルの顔をまっすぐに見れなくなっている。
既に先ほどの立場は一転しており攻めるベルを受けるヘスティアとなっていた。
「ど、どうぞ受け取ってください!」
慌てるヘスティアに構わず箱を開けたままヘスティアへと差し出すベル。
「え、え?まさかこれをボクに?」
ヘスティアにそう聞かれるとベルは少し照れながら答える。
「えっと、神様と会った時から髪留めが痛んでるのが目に付いたので…」
「それじゃあ僕を避けたりいつもより迷宮に行ってたのは…」
「僕って周りからよく嘘つくの下手って言われてまして、資金集めも含めて頑張っちゃいました」
「それじゃああの時の女の子は…」
「あはは、見られてましたか。僕あんまに贈物とかしたことないしセンスもあまり自身がないので友達と相談しまして…」
恥ずかしそうにヘスティアからの疑問に答え続けるベル、その顔は今更ながらの恥ずかしさからか赤くなっている。そしてヘスティアも初めは疑った後悔があったのだが今は目の前の少年がそこまで自分のことを気遣ってくれたことを嬉しく思っていた。
ベルは平気なふりをしているがその体の所々は傷などがよく目立っており彼の努力が伺える。
「馬鹿だなぁ……」
その言葉は先ほどの怒りから来るものではなく少し呆れながらもここまで純情な少年に向けた女神の呟きだった。
「なぁベル君」
「な、なんですか」
「これ、つけてくれないかい?」
そう言うとヘスティアは椅子に座り直しベルに背を向ける。
「喜んで!」
ベルはそう元気よく言うとヘスティアの背後に立ち慣れない手つきで髪飾りをつけていく。小鐘の音が部屋に静かに響く。
「ベル君、ありがとう。そしてごめんね」
「いいえ神様、僕は神様に喜んでくれただけで満足ですから。このくらいの傷だってへっちゃらです」
自分の腕などに残る傷に目を当てながらそう答えるベル、甘すぎるその答えを聞きヘスティアは不思議とクスッと笑ってしまう。そしてベルが髪飾りをつけ終わるとヘスティアは立ち上がり綺麗に一度回転してみせる。一回転するだけのその光景だけでもなる音色と合わせて美しいものでありベルはその光景に見惚れていた。
そしてヘスティアはベルに向き直りーーーー
「大好きだぜ!ベル君!!」
ーーーーっと自分の気持ちを言うとともに抱きつく。
「僕もです!神様!」
ベルもそれに応えるようにヘスティアを受け止める。
彼女が言う言葉と少年が答えた意味はそれぞれ違うのだろう、だが今の彼女にとってはそんなことは大したことじゃない。
ただ自分がこの少年のことが好きという気持ちを実感していたかった。いや、それは少し違うかもしれない、なぜなら彼女は初めて少年と出会った時から彼のことが大好きで、今再びその気持ちに気付き実感したのだろう。
そんな彼女の頭の中では既に、先ほど思い出した筈だったある目的すらも、忘却の彼方へと消えていくのだった。
うまくかけたか正直言って自信はないけど個人的にはまぁ満足です。
ちなみに今回ちらっと出てきたベル君の友達も他作品のキャラを少し出してみただけです。
誰なのかわかるかな?
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逃げるはとにかく役に立つ
逃げるは恥だが役に立つ。
そんな言葉をどっかから聞いた気がする、詳しくは覚えてないがとても共感できるので言葉だけは覚えてある。
そもそも逃げる事が恥とされる事に僕は疑問を覚えるけどまぁオラリオの冒険者は戦ってなんぼ、逃げる事が恥みたいに捉えられるのも無理はないだろう。だけど僕の担当アドバイザーであるエイナさんはいつも口を酸っぱくしてこう言っていた。
『冒険者は冒険しちゃいけない』
意味はそのまま無茶をしちゃいけないという意味だろう。おおかたエイナさんは未だに神様の恩恵を受けてない、すなわちファミリア無所属の僕の身を案じて行ってくれてるのだろう。いやエイナさんは優しい人だから僕じゃ無くても同じことを言うんだろうな。
まぁエイナさんのその心配は無用だろう、なぜなら・・・
「僕は五階層までしか行かないしそこにはあまり危惧するべき敵もいない、って続けたかったんだけどなぁ」
そう独り言を言いながら僕は再び目の前のモンスターと向き合う。
そのモンスターは僕をはるかに上回る体格を持ち荒い息遣いをしながら怒号をダンジョン内にこだませる。
『ヴヴゥ・・・ヴヴゥ・・・ヴヴォォォォォォォッ!!』
「なんでミノタウロスがこんなところに・・・君の居場所はもっと下の階層でしょ」
手にした魔石をしまいながらそう言ってみるけど案の定答えは怒号だけ、さてこれからどしよう。
逃げるにしてもここを離れれば最悪さらなる犠牲者が出る。だからと言ってこのままだと色々まずい、こいつがどんだけ
満身創痍なその体を引きずりながらミノタウロスはその巨体を動かし襲いかかる。
いくら瀕死でも相手はモンスター、攻撃方法も間合いも限界を超える可能性がある、彼らも生きているのだから。
その上相手はこっちに敵意丸出しで向かってくる。こっちは戦うつもりなんてないのに・・・
『ヴヴゥォォォォォォォッ!!』
まさしく猪突猛進、覆いかぶさるようにそいつは僕に襲いかかった。
僕は後ろに飛び下げようとするが・・・
(ッ!やばっ・・・)
背後には壁、どうやら壁に追い詰められたらしい。
突如現れたミノタウロスに動揺した自分の落ち度だ。そう覚悟を決めたその時・・・
「え?」
『ヴォ?』
ミノタウロスの巨体に縦一筋の線がはいりミノタウロスは驚きとともに動きを止める。そしてその線を境にその巨体は二つへ別れていきあたりに赤黒い体液を撒き散らす。
僕は突然のことでその場から動けず体を赤黒く染めてしまう。
(あぁ、せっかくの服がボロボロだ。ミリィに怒られるなこりゃ)
ミノタウロスの猛攻と先ほどの体液によって赤黒く染まりボロボロとなった服を見ながら思い浮かぶのはこの服を作ってくれた友人。
(戻ったらまずは謝らなきゃ)
そう思いながらまずは自分を救ってくれた人物に礼をいうためその人物へ視線を移す。
「・・・大丈夫?」
モンスターを一撃で屠り現れたのはそのモンスターとは真逆なほど美しい、女神とも見える人だった。
僕を見つめるその目は黄色く輝き髪も同じような美しい輝きを持っていた。手にしたサーベルには地などついておらずそれはその人の汚れなき姿を現しているようだった。
「あの・・・大丈夫、ですか?」
大丈夫じゃない、全然大丈夫じゃない。別に怪我とかはしてない、問題はその人物にあった。
女神と見間違うような美しい人物、その容姿を見ればたとえ無駄だと知ってても誰だって彼女とお近づきになりたいだろう。少なくとも僕はそう思う。だけど問題は彼女が所属しているファミリアにある。
【ロキ・ファミリア】オラリオにおいて【フレイヤ・ファミリア】と肩を並べるファミリアに所属する第一級冒険者、このオラリオで生活するものなら誰だって一度は聞いたことはある人物。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。それが問題だった。
ロキ・ファミリアは豊穣の女主人のお得意様、よくダンジョンの帰りで宴会を開くとかも聞く。つまり少なからず僕と彼女らは面識があるということになる。
それはまずい、全然大丈夫じゃない。
なんとかしなければ・・・
「・・・・・」
「・・・・・」
しばし沈黙が続く、どうやらアイズさんはあまり話すのは得意ではなさそうだ。そう願いたい。
今はおそらく僕の姿は血まみれではっきりしないだろう。それがせめての救いだ。
だけどこれじゃあ自体の根本的な解決にはならない。何か、何か変化さえ起きれば・・・
「えっと・・・そこの君」
アイズさんがそう言いながら僕に近づく、そんな時。
「おーいアイズ、そっちのミノタウロスは片付けたか?」
そう言いながらこちらに近づく気配がする。声色からおそらく男、アイズさんの仲間から考えるにおそらく同じロキ・ファミリア。かなりヤバイ状況だ・・・いや待てよ?これはチャンスだ。ここでうまく逃げらなければ・・・
「ベート・・・」
「アイズ、そいつは?」
現れたのは
さて肝心なのはここからだ、気づけば血がだんだんと引いてきている。時間がない。
「うわっ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕はアイズさんを呼びながら現れた男へ反応するような様子を見せ周囲を見回す動作をしそのようにできるだけショック状態の哀れな冒険者を装いその場を全力で逃げ出した。
お願いだから覚えてませんように!!
_____________________________________________________
「な、なんとかなった・・・かな?」
少しゆったりとしたペースで辺りを見回しベルは1人そう呟いた。すでにミノタウロスの返り血はある程度消えているが服などについた血はそのままだ、そのため少し周りの目を引くがベルの外見から『新米冒険者がまだ慣れない戦いで返り血を浴びた』ぐらいしか思わないようでそこまで気にする様子はなかった。
だが少し、バベルの塔はいつもより賑わう様子だった。その賑わいの中心にはとある一団がいた。
「おいアレ、ロキ・ファミリアだぜ」
「遠征から帰ってきたんだってな」
そう周りから聞こえる情報からどうやらあの一団はロキ・ファミリアに属する者たちらしい。ベルと同じようなヒューマンからアマゾネスやドワーフなど十人十色のメンバーがそこにはいた。そのどれもがこのオラリオにおいてかなりの実力を持つ者たちなのは冒険者としての感覚がそうベルに知らせていた。
「ちょっとレフィーヤ!それって
ふとアマゾネスの少女がエルフの少女の衣服を見るとそう言いある一点を凝視した。
そこには可愛らしくその服の景観を崩さぬような刺繍がしてありその刺繍も簡素に描かれた小鳥が何かを背負ってるような刺繍だった。
「あれ?こんな刺繍買った時にはなかったのに、それとなんなんですか?
エルフの少女も初めてその刺繍に気づくようで驚いた様子だった。
「
「ですがこの服は普通の服屋で買ったものではじめはこんな刺繍・・・」
「そこが不思議なのよ!気づいたら刺繍がしてあってね、買った後に縫われたのか買う前から縫われて使い続けたら浮かび上がるのか。しかも人によって発動しない時もある、その他もいろいろと不思議が多いんだよ・・・とにかく!最近オラリオで流行りのラッキーアイテムなんだよ!」
「ですが私が使っていいのでしょうか・・・今回の遠征だって・・・」
「またそれ〜。レフィーヤは考えすぎだって、もっとポジティブに考えなきゃ」
「ですけど・・・」
「ほらほらそう暗い顔しない。アイズもそろそろ戻るだろうし、そんな暗い顔しないの!」
その声を聞きベルはハッと我に帰る、ダンジョンの入り口を少し気にする仕草をしながらとりあえず魔石を換金するためその場を後にするのだった。
_________________________________________________________
場面は少しさかのぼりベルが逃げ出した後のダンジョン。
取り逃がしたミノタウロスを追ってきたアイズとベートはとてつもない勢いで逃げていった少年の行動にあっけにとられていたからか少しその場にとどまっていた。
「なんだあのトマト野郎?アイズ?知り合いか?」
「ううん、知らない子だった」
「そうかよ、ならとっとと魔石回収してずらかろうぜ。みんな待ってるだろうし」
そう言いその場を後にしようとするベート、しかしアイズは少しばかりの違和感を感じていた。
「ん?どうしたアイズ?」
その場に立ち尽くすアイズを見てベートはそうたずねる。それにアイズは自分が軽自他違和感を打ち明ける。
「手応えが・・・なかった・・・」
「手応え?そりゃ瀕死だったからな。お前がその分強くなってんだよ」
ベートはそう言い、アイズは少しの違和感を覚えながら魔石を回収しようとするが・・・
「無い・・・」
アイズがふと呟く。
「あん?なにがだよ?」
そのつぶやきに反応するようにベートが振り返る。
「魔石が・・・無い・・・」
振り返ったベートにアイズは静かにそういった。
「そんなわけあるか」
ベートに は少し焦り気味にアイズとともに魔石の痕跡を探すが・・・
「なんで・・・無いんだよ」
目的のミノタウロスからドロップした魔石を見つけることはできなかった。
別にベートやアイズも魔石が欲しいわけでは無い、金には困ってないしミノタウロスも倒せない相手でも無いからだ。だからこそ、2人にとってこの謎はとても大きく捉えられた。
「あの野郎!まさか魔石だけとって逃げ・・・「それは無い」」
逃走した人物を追おうとするベートをアイズはそう言い止めた。そして続ける。
「私が見た限りあの子は逃げ出すまでずっとあそこで動かなかった。ミノタウロスが死んだ後も」
「ならなんで魔石が。アイズ、魔石ごと切ったなんてことは・・・」
「そんな感じはしなかった、そもそも私が倒した時に魔石があったのかすら今では怪しい」
そうアイズが言うと辺りを再び静寂が支配した。それも先ほどとは比べられぬほど重く、不気味な静寂だった。
「とにかく、まずは戻ろう。それからみんなにも聞いてみよう、もしかしたら何か知ってるかも・・・」
「あ、あぁ・・・そうだな」
不気味な違和感を残したまま、2人はそうして地上へ帰還した。
・
近頃オラリオの冒険者の間で密かな噂になる服に付けられる刺繍のこと。気づいたら服に付けられており刺繍が発言してからは常に何かしらのアビリティが発動状態になるものでありアビリティは持ち主に合うものになる。その性能上からか持ち主以外にはアビリティの影響はなく、売買はされておらず貴重さに拍車がかかっている。
その便利さからどこかのファミリアが作っていたり、天界からの贈り物であったり、神や精霊の作り出すものと噂されているが真偽は不明。
名前の由来は刺繍が共通して武器を背負う小鳥という模様から。決してウォーをブリングするという意味ではない。
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豊饒の女主人での一件
その時の僕はいつも通り魔石をヴァイスに換金して帰ろうとしたその時。
「えーっと・・・ちょっと待ってね。」
そう換金担当の職員さんに呼び止められ・・・
「ねぇ、聞いてるかな?ベルくん」
現在に至る。
僕の担当のアドバイザーさんであるエイナさんにつかまってというか連れられてギルドの応接室みたいな場所に連れて行かれた。
エイナさんはとても美人だ、聞いた話だと数多くの冒険者さんたちもエイナさんの容姿に惹かれてプロポーズをする人もいるらしい。
そんな美人さんと2人っきり、脈がないとわかっていても心は高鳴るものだろう。
「にしても久しぶりだね、最近はダンジョンによくこもるらしいけどあまり会わなかったし」
相変わらず素敵な笑みのままのエイナさん。このまま世間話程度なら良かったんだけど
「ねぇ、聞いてる?ベ・ル・く・ん!!」
「はいっ!聞いてます聞いてます。なんでしょうかエイナさん」
「なんでしょうかじゃないでしょ!前に言ったでしょ、ファミリアに入って
やっぱりかぁ〜。
神様に髪留めプレゼントするのに張り切っちゃったからな、注意されるのはわかってたけどここまでとは。心配をかけちゃってなんか情けないなぁ〜。
「ちょっと!聞いてる?」
「はいもちろん!」
だから元気なところを見せて少しでも安心させないと。
エイナさんにはお世話になりっぱなしだし。
「と・も・か・く!!」
「はいっ!」
らしくなくエイナさんはそう声をあげ言った。
「私もできるだけ協力するから、ベルくん!なんとしてでもファミリアには入りなさい!」
やっぱりそうきたかぁ〜
「ぜ、善処します」
「善処じゃなくて必ず!わかった?」
エイナさんは正しい、神様たちの恩恵を受けてない冒険者がダンジョンに潜るなんて自殺行為だろう、それもこんな頼りない子供ならなおさらだ。だけど僕は正直言ってもうファミリアには入らなくてもいいと思っている。
今のままでもなんとかやれてるし稼ぎも安定している、ファミリアには入らなくてもダンジョンのことはいざとなったらシルさんやベジータさん、神様の友人のミアハ様やお世話になることも多かったガネーシャ様にも相談できる、もちろんエイナさんにも。
確かにファミリアに憧れはある。背中を預けて戦える仲間、家族、ダンジョンないで見かけると羨ましくなることもある。だけど・・・
『俺がお前の師匠になってやるって言ってんだ、お前を上に帰してやるよ』
『お前も気付いてるんだろ?もう限界は近い、
僕には既にその資格もなければ自信もない。
だからもういいんだ。
「良く!ないっ!!」
突然の声で思わず驚く、前を向けばエイナさんが息を切らしながら何か決心した様子でこちらを見ていた。
「あ、あの・・・エイナさん?」
「決めた!」
「何を!?」
「ベルくん、今日の夜予定ある?」
「えっ、あの、一応豊饒の女主人で仕事がありますけど・・・」
「なら私今日の夕飯そこで食べるから、その時ファミリアのことで話し合いましょ」
突然のことで僕が何か質問しようとしても。
「ともかく!今日は夕飯食べに行くから、わかった?」
「ハ、ハイッ!」
結局エイナさんの勢いに押されて承諾してしまった。
そろそろ腹を決める頃なのかもしれない、だけれど
・・・・・
「はぁー・・・どうしよ」
「どうしたんだいベルくん、ため息なんてついて」
夜に向けて裏口で休憩中の僕と神様、僕のため息に神様が心配してくれた。
「実はですねーーー」
とぼとぼとわけを打ち明ける。
「なるほどねー、確かにそれは死活問題だ」
腕を組み悩む神様、すると何かを思い出したかのように
「ベルくんはそこで待っていて、すぐ戻るから!」
そう言うと店の中へと戻っていき数分経たないうちにこちらに戻ってきた、もう1人の足音とともに。
「ボクだけじゃ力不足だと思ってね、心強い味方を連れてきたよ」
そう言い連れてきたのは確かにこの店で頼りになる人だ、ただ僕が少し避け気味になっている人でもある。
もちろん彼女に落ち目など一切なく、これは僕の問題なんだけど。
「リュ、リューさん。お疲れ様です」
「はい、お疲れ様ですベル」
変わらぬ表情のままリューさん。
「それで、確かファミリアについての話でしたね」
「はい、そうですけど。何か心がけることとかありますか?」
リューさんは特に考える様子もなく答えた。
「ベルは確かこの街に来た時、一度ファミリアをまわった。あってますか?」
「はい、まぁ応募しているファミリアには片っ端にお願いして全てに断られましたけど」
思い出すだけで落ち込む、断られることはわかってたけどどこか1つぐらいはと心のどこかに思ってたのも確かだ。その結果、有名なロキファミリアやフレイアファミリアを筆頭にことごとく断られた。
「ならば視点を変えて商業的な目的を持ったファミリアにはいるのも1つ手だと考えます。そろそろ
ここでベジータさんたちの名前を挙げないのはリューさんなりの配慮だろう。
それにしても後の手段はそれぐらいしかないか。確かにデメテルファミリアにはベジータさんやブルマさんを含め知り合いも多いしガネーシャファミリアに至っては色々とお世話になっている。
それらの件も含めて一層の事ファミリアになって恩返しも悪くない気がしてきた。
「ベル、上客が来るにゃ、臨戦態勢にゃ!」
ドアを開けてそう知らせるアーニャが慌てた様子でドアを開けそう伝える。
「わかったすぐ向かうよ。神様、リューさん相談に乗ってくれてありがとうございます
相談してくれた2人にお礼を言い厨房へと戻る。それにしても神様だけでなくリューさんの助言を受けられたのはうれしい、リューさんはいつもかっこいいし頼りになる。できればもっと仲良くなりたいけど・・・
『ここだけの話よ、よく聞きなさい。私たちエルフ族ってのは・・・』
懐かしい声が脳裏をよぎるとすぐさまそれを否定する。
あれはただの冗談じゃないか、エイナさんもしっかりとした人だしあんな性格が強いのはきっと
なんとか自分に言い聞かせ慌ただしくなった厨房へと向かった。
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「ありがとうございます。」
ベルが場を去り、ドアが閉まった瞬間にリューが言葉と同時に完璧なお辞儀をヘスティアに披露した。
あまりにも素早く突然だったためヘスティアも驚きを隠せない。
「な、なぁにたいしたことじゃないさ。リューくんには仕事を教えてもらったお礼もあるし、ボクとリューくんの中じゃないか!」
そう小さな同僚の言葉に微笑むリューだったが少し気になることがあった。
「ところで少し尋ねたいことが」
「ん?なんだい?」
「あなた自身は自分のファミリアを「リュー、ヘスティアぁ〜、ヘルプですぅ〜」
リューの質問はリューの言葉を遮るように発せられたシルの救援要請によって曖昧となる。
どうやら自分たちの出番らしいと話を切り上げ店内へと戻っていく。今夜の上客はオラリオ最強のファミリアの1つでもあるロキ・ファミリア、忙しい夜になりそうだ。
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ガヤガヤと騒がしい店内、穏やかな灯火が疲れた人々の心を照らし、暖かく美味な料理がもてなすここは豊穣の女主人。
中央の席ではオラリオ最強の一角であるロキ・ファミリアによる宴会が始まっておりそこ以外でも今日の疲れを癒す冒険者たちによって賑わっていた。
そんな店内で唯一、静かな様子でカウンター席に座る女がいた。ギルドの職員であるハーフエルフのエイナ・チュールだ。
エイナは現在、この店でとある人物を待っている。待っていると言ってもその人物が遅れているのではない、その人物は現在進行形で彼女と同じ店の中におり今も彼女の眼の前でいつもと違う姿を見せていた。
「3番、4番テーブルお願いします!」
そう指示を出しながら調理器具を駆使し同時にいくつもの料理をこの店の女主人と仕上げていく少年をエイナは見上げていた。
(あのベル君がねぇ)
ついさっき配膳されたばかりの料理を食べる。とても美味しい。
そして再び今の少年と今朝の少年を見比べる。別人と言われても悪くはない変わりぶりだ。
ぶっちゃけ冒険者よりも今の料理人としての彼の方が
(って言ったらさすがに怒られちゃうわね)
そう自らに言い聞かせるがいざという時にはそう言うのも仕方なしと考える。冒険者は厳しい現実と幾度となくぶつかる、少年を違う道へと導くのもアドバイザーとしての役割だとエイナは考えていた。
(それにしても・・・)
料理を口へと運んでいき再び思う。
(本当に美味しいわね、今度教えてもらおうかしら)
・・・・・
「お待たせしました、エイナさん」
エプロンを畳みながらベルはエイナの隣のカウンター席へと座る。
「もう仕事はいいの?」
「はい、ミアさんがあとは自分がやるからお前はこれからのことだからしっかり決めなって言ってくれて」
「そう、ならいいけど」
(仕事先も特に問題なし、まぁ評判はいい店だから心配はしてなかったけど)
「それにしてもベル君がここまで料理が上手だったなんて驚いちゃうな」
彼の料理を食べての感想を率直に述べる。
「いやいや、僕なんてまだまだですよ。今日もミアさんのお手伝いみたいなものですから」
決して誇らず謙遜の姿勢を見せるベルはいつものエイナがよく見る彼だった。
「さてとベル君、まずはじめに君みたいな新人でも募集しているファミリアをまとめてーーー」
そうギルドで持ち出せるだけの書類を見せようとした時、エイナはベルのすぐ後ろの椅子ぐらいの高さにしゃがみ込む謎の物体を発見した。
黒い髪にこの店のウェイトレスの服を来ている様子から無関係ではないはずだが。
「ベル君その子は?」
「ん?」
エイナに言われ、その人物に気づいたベル。
「神様、どうしたんですか?」
(ん?
謎の物体、ヘスティアはそう呼ばれると顔を上げあからさまに不機嫌な顔でエイナを見つめる。
当のエイナは自分を見つめる少女に違和感を覚える。
「ちょっと嫌な奴がいてね、ミアくんにお願いして今日はもう休みにしてもらったんだ。ところでベルくん、そこの彼女は一体誰なんだい?君とどういう関係なんだい?」
そうベルに問い詰めるヘスティアにエイナはいつも通りの自己紹介をする。
「私ギルドでベル・クラネル氏の
「僕はヘスティア。ここで働くベルくんの同僚で同じ部屋で過ごす仲さ、どうぞよろしく」
あからさまな自分に対するその態度、しかしそれは彼女がギルドなどで目にする悪意のあるものではなくとても可愛らしくそして自分たちへの慈愛が自然と滲み出る言葉だった。エイナの違和感はさらに高まる。
そんな時だった、中央の席から男の声が響いたのは。
「なぁなぁアイズそろそろあの話、みんなに披露してやろうぜ!」
「あの話・・・」
男の声とともにその堂々たるメンバーに店内の人々の注目は自然と中央の席へと集まる。
「遠征の帰り、逃げたミノタウロスを5階層で始末した話」
その言葉に3人はそれぞれ反応を見せる。
ベルは自分のことがバレるかという少しの焦り、ヘスティアはあの時のベルを思い出しエイナはギルドの職員という職業柄だった。
「5階層のミノタウロス、当時ギルドでもお騒ぎだったんだから。ベル君、いざとなったら絶対に無茶はしないでね」
「はい、もうあの時はすごく動転してしまって・・・」
「アドバイザーくんのいう通りだぜ、ベルくんが怪我したらボクも悲しいんだから」
(ん?今何か・・・それとなんというか・・・)
ベルの言葉に新たな違和感を覚えるエイナ。そして少し、店内の空気が重くなったようなそんな気がした。
中央の席では男が再び話し出す。
「あの時のトマト野郎、明らかに駆け出しでヒョロくて弱っちいガキが逃げたミノタウロスに追い詰められてよぉ、ソイツアイズが斬ったクッセェ牛の血を浴びて真っ赤なトマトみてぇな姿になってよぉ」
男の言葉に同じファミリアの仲間もそれを聞いていた他の人も笑いをこぼす。
「それでよぉそのトマト野郎、叫びながら逃げてよぉ。ウチのお姫様、助けた相手に逃げられてやんの情けねぇったらないぜ。あぁいう奴がいるから俺たちの品位が下がるっていうかよ、勘弁してほしいぜまったく」
「あの状況では仕方がなかったと思います」
「いい加減にしろ、ベート。そもそも17階層でミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ、恥を知れ」
爆笑する男をそう注意するはエルフの女。しかし男は止まらない。
「あぁん?ゴミをゴミと言って何が悪い!アイズ、お前はどう思う!例えばだ、俺とトマト野郎ならどっちを選ぶんだ?おい!!」
「ベート、君酔ってるね」
既に男の前では仲間の制止も意味をなさない。
「聞いてんだよアイズ!あのトマト野郎が言いよってきたら受け入れるのか!?そんなわけないよな!自分より弱くて軟弱な奴に、お前の隣にいる資格はねぇ!他ならぬお前自身が、それを認めねぇ!!」
その発言はあたかもくだんのトマト野郎以外にも発しているような言い草だった。
「雑魚じゃ釣りあわねぇんだ。アイズ・ヴァレンシュタインにはなぁ!!」
「えっと・・・ベル君は気にしなくていいんだよ、何事も焦らずに慎重に、誰だって初めから強いわけじゃないんだから」
男の言葉が気になったのか、エイナは目の前のまだ駆け出しの少年を気遣う。
「そうだぜベルくん、逆に君は無傷で生還できたことを誇るべきだ。何事も命あっての冒険だからね」
「はい、僕も今回のことをしっかりと教訓にしていきたいと思います」
少年はすこし落ち込みながらも、前向きな気持ちを言葉にする。
「ん?今回のこと?」
「そうそう、服とかところどころが今まで以上に血だらけだったんだから。ほんと肝が冷えたよ」
「本当にすいません」
そのやり取りを聞きエイナの中で一つの仮説が完成する、仮説と言っても既に実説となりつつあるもの。
「ねぇベル君、もしかしてだけど今回のことってまさか・・・」
「えぇっと・・・はい、お恥ずかしながら先ほどのトマト野郎です」
少し照れくさそうな仕草をするベルにエイナはたまらず。
「えええぇぇーーー!!」
エイナの声が店内に響きシンっと静けさが店内を包む。エイナは店内の客に軽く謝罪をするとベルにコソコソと話し出す。
「なんで言ってくれなかったの!」
「いやぁ・・・忘れてました。すいません」
あははと聞き流す少年。
「はぁ・・・まずベル君がこうして無事でいることがまず奇跡って言っていいけど・・・」
そうベルの安否に落ち着いた様子を見せ続けざまに注意をしようとするエイナだったがその言葉は意外な人物、神物によって遮られる。
「ん?おいそこの陰におるやつ」
そう言いながら近づいてくるのは先ほどまであらかた仕事を終えたミアと話していたロキ・ファミリアの主神であるロキ。
酒を片手に目を効かせながらベル達の元、正確にはベルの陰に隠れているヘスティアに近づいていく。
「チッ、嫌な奴に気づかれた」
ヘスティアがさらに不機嫌そうな顔でそう言った。
「やっぱりそうやったわ。すまんなドチビ、あまりにも小さすぎて気づかんかったわ」
軽く酔いながらしゃがむヘスティアを見下すようにそう言う。しかしヘスティアも黙っているわけにはいかない。
「・・・それはそれは、ごめんよロキ、だけどそれは君のためでもあるんだ」
そう言いながらヘスティアは勢いよく立ち上がる、突然だったためヘスティアの豊満な胸はそのままの勢いに乗り上へと押し上げられ。
「ぷげぇっ!」
ロキの顔へと直撃する。
『おぉー』
周囲からその様子を見て少なからず声が上がる。その様子を見て流れは自分にありと感じたのかヘスティアは続けてまくしたてる。
「ボクのこの!」
胸を突き出すような姿勢でロキへと詰め寄るヘスティア、その胸は彼女が動く度に当然揺れる。
「素敵な服を着た姿を見たら!」
揺れる
「君が自分のことをさぁ!」
揺れる
「自分の平原を不憫に思うんじゃないかとさぁ!」
揺れる
「わかってくれよロキ、君のためだったんだよ」
ロキの肩を叩きながら意地悪そうな顔で言う。
「なんやなんや、ちぃとぐらい大きいだけでお高く止まりよって!うちにはデカさではなく美しいアイズたんがおるねん!おいドチビ、おまんの方はどうや!うちにあんな大口叩いたんや随分大きいファミリアなんやろうなぁ!!」
その発言にヘスティアは何も言えず唸り。
「大勢の前でやめてください」
アイズは少し不機嫌になり
(話題を変えたなぁ)
エイナは神達の口喧嘩に呆れかえっていた。
(ってそうだ!)
「神ロキ、ぶしつけながら良いでしょうか?」
エイナが静かにロキへと尋ねる。既に周りはこちらに注目してないことも確かめ本題を切り出す。
「ん?誰や自分」
「私はギルドのエイナ・チュールと申します」
「ほーん、ウラノスとこの子がなんのようや」
「ロキ・ファミリアは現在、新人冒険者の募集などは行っているのでしょうか?」
その言葉と椅子に座るベルを見てロキはあらかた事情を察したのか中央の席に座る自分の子供達に声をかける。
「フィン、どう思う?」
フィンと呼ばれた小人族の少年は少し考え。
「僕としては今回の遠征で人手が必要なのは明白だ。鍛冶師にも協力を仰ぎたいところだね、あの体液は厄介だ。武器がなければどうにも。すぐに参加とは行かないけど・・・ガレス、君の意見は?」
「若いもんがくる分には構わん、良い刺激剤になるかもしれんしなぁ!見たところ鍛えがいのありそうな・・・「おいおいおい冗談だろ!」む?」
そう声を上げ立ち上がるのは先ほどの話をしていた狼人の男。立ち上がりベルに睨みを利かせながら近づいてくる。
「俺は反対だぜ、見るからに雑魚そうなガキを入れるなんてよぉ!」
(や、ヤバっ!)
何よりも危機感を感じたのはベルである。
ベルこそは先ほどのトマト野郎、すなわちあの場にいた彼なら当然
「あぁん?テメェどっかで」
まだ相手が酔っている隙になんとかしなければとベルは事態を迅速にできるだけ穏便に完結させようと行動を開始する。
「エイナさん、大丈夫ですよ。僕のファミリアは僕自身が決めますから、ロキ・ファミリアの皆様にご迷惑はかけられませんし」
その言葉にエイナは納得せざるおえない。ほかならぬベル本人の意思だ、彼の意思を尊重するほかないだろう。これ以上いくのは流石に仕事の範疇を超える。
「そうだそうだ!雑魚はさっさとそうやって引き下がればいいんだよ。」
そう言い元の席へと戻っていこうとする男、しかしその主神だけは変わらずベルを用心深く見続けていた。
すでに酒は抜けており、その瞳は何人たりとも逃さない鋭いものだった。やがてロキは口を開く。
「なぁ自分、うちらに隠し事してるやろ?」
率直な質問。
だがその一言がいかに重いものか、周りの客は気づかず店の生協は変わらぬままだが既にロキ・ファミリアの面々の意識はベル達へと向けられていた。
『神に嘘はつけない』誰だって知っていることだ。下界へと降り力を制限されても神は以前変わりなく神のままでありそんな神を言葉で欺けることなど不可能なのだ。なのでこういった場合嘘でも発するか無理ありにでも話題をそらす、黙秘を貫くなどするのが策だが生憎ベルにとってそのようなものは無縁であった。
「はい、もちろんしています」
はっきりとした言葉で、一時も思考を迷わせることなく、真正面からロキへとそうベルは言った。しかしロキもこの程度のことに臆するわけなどない。
「うちに話してくれへんか?その隠し事」
「そこは隠し事なので、申し訳ないのですが・・・」
変わらず笑顔で答えるベルに対して次の言葉を発したのはロキではなく
「雑魚のくせして随分生意気な態度だな、おい!」
そう突っかかるのは先ほどの狼男、見れば片手に酒を持っており酔いも深くなっている様子だ。
「雑魚は俺らの言うこと素直に聞いてりゃいいんだよ!」
そう言いながら酒を置き、ベルに向けて手を挙げる狼男。
ただそれは単なる脅しのようなものであり、彼も口は悪いが冒険者である。その程度の加減もできるのだ。
しかしその予想とは別に行動を起こした人物がいた。
「なぁっ!?」
それはロキでもヘスティアでも様子を伺っていたエイナでもなければ遠目から見ていたロキ・ファミリアの面々でもなく、陰ながら警戒していた店のウェイトレス達でもない。その人物は渦中の人物、白髪の少年ベルだった。
ベルの目論見からしてみればただのミスだろう。そしてベルにとってそれは仕方のないことだった、飲食店で料理人として働くことにおいて衛生面には人一倍気を配っているからこその行動。単なる職業病と言っていい。
それこそただ狼男の動作によって、机に置かれた酒が落ちてしまい、それをすかさず拾って差し出すことは。
それが自分へ手を挙げた男の方へ向かって、驚くべき速さで、目の前で、動いたことは失敗としか言わざるおえない。
「き、気をつけてくださいね」
酒を机の上に置き、心の中で後悔しながらもそう述べるベル。しかしたまらなかったのは酒の持ち主である狼男である。
新人冒険者を前にしてあのロキ・ファミリアの団員、それも名の知れた実力者が酒の場といえど手を挙げた。当たらないとしても同様もしくは怯えるのは当然といっていい。それが目的だったからだ。しかしよりにもよってわざわざ手を挙げた相手の方へと体を動かし気にしない様子で自らへの気遣いを素早い動作で行った。
このあと起こすであろう狼男の行動など予想たり得るものだろう。
「おいテメェ!」
ベルに向けてそう声を荒げ今にも突っかかろうとする。
今度こそエルフのウェイトレスが行動を起こそうと足音ともに気配すら断ち現場へと駆けつける・・・が、それより先に狼男の体を縛ったのはひとりでに蠢き出したロープだった。
「これ以上は見てられん、少し頭を冷やせベート」
「うおっ!?おい話せ、話せオラァ!」
縛られながらも威勢よく吠えるその様子に再び笑いが沸き起こる。
そして狼男を縛ったと思われる同じくロキ・ファミリアのエルフの女性がやってくる。
「連れが無礼を働いた、すまない」
「いえいえ、滅相もございません。むしろこちらの事情に付き合わせてしまい申し訳御座いません」
いつも以上に丁寧な言葉遣いのエイナにエルフの女性はなんとも言えない表情のままロキにも戻るよう告げる。
「リヴェリアちぃと待ち、今うち柄にもなく考え事しとるから」
縛られた狼男を見て笑いながらそう告げるロキであったがエルフの女性は続けて忠告した。
「おしゃべりはそれくらいにしておけ、このままでは料理が冷めてしまうぞ。よもや作った料理人の目の前で料理を冷ますつもりではあるまいな」
そこまで言われ、ロキはちらりとミアの顔を伺い諦めたようにその場を去った。
ただ深々とお辞儀をするエイナには軽く手を振りあっかんべーをするヘスティアには同じくあっかんべーを返しベルに対しては
(めっちゃ見られてる〜)
変わらず鋭い目つきのままであった。
・・・・・
「お騒がせして申し訳ありません」
「いえいえ、元は僕自身の問題ですし。ファミリアの件については後日僕も気になるところ回ってみます」
エイナに向けてしっかりとベルは言った。
しかしエイナにとってその問題よりも大きな問題があった。
「それよりもベル君、ベル君の知り合いというか近くに神様っている?」
突然の質問、ベルは少し戸惑いながら思考を巡らせ考えられる神物の名を挙げる。
「まずはガネーシャ様ですよね、それとデメテル様、あと神様のご友神であるミアハ様とタケミカヅチ様ぐらいでしょうか?」
思ったよりいるなと思いを巡らせるベル。
エイナはあげられた神たちの中である神がいないことをしっかりと確認した。そして今度はベルのすぐ横に座っている少女の姿をした神様に向けて言った。
「では改めて神ヘスティア」
「ん?なんだい?」
突然自分に降られた話題を不思議に思うヘスティア。
「ヘスティア様は神様ですよね?」
「エイナさん突然どうしたんですか?神様は神様ですよ。当然じゃないですか」
「そうだよボクは神様だよ」
エイナの当然の質問にそう答える2人、エイナはその流れのまま本題を告げる。
「ベル君はすぐ近くにヘスティア様がいるのになんでヘスティア様のファミリアに入らないの?それともヘスティア様がファミリアを作らない理由でもあるのかな?」
もしかしたらヘスティアやベルの事情で・・・そんな考えを隅に置きながら切り出された言葉に2人は初めは意味のわからぬようだったが次第に理解をし始め。
「だあぁぁぁーーー!!」「わあぁぁぁーーー!!」
共に絶叫、それこそ今晩一の大絶叫であり店内を揺らす。幸い店内にいる客は既にロキ・ファミリアだけであり先ほど団員が騒ぎを起こしたからか口を出す様子はなかった。
1人、未だに様子を探る神がニタニタと笑みを浮かべてはいたがヘスティアは気づかない。
「ベル君!そうだよボク神様だったよ!」
「そうでした!神様は神様でした!」
「なんてこった、現状に甘んじすぎたせいで自分が神であることすら忘れかけたなんて・・・はっ!」
頭を抱えながらヘスティアはふと気づいたかのようにある神物へ視線を向ける。
そこには予想通り腹を抱え笑い転げる神がいた。
「傑作や傑作っ!アカン、笑い死ぬ、天界に帰る、召される!」
「ぐぬぬぬぬぅ〜」
「いやぁ今日は一段と酒がうまいうまい!
わざとらしく声を上げる主神注意を促す団員がいるもロキは結局の所、終始笑顔のまま
「ファミリア決まんなかったらうちのところ来てや、歓迎するで〜」
「誰がお前のとこなんか行かせるか!べー!」
苦し紛れのヘスティアの行動を笑い飛ばし帰っていった。
「それでは改めまして神ヘスティアあなたはファミリアを作る気がありますか?よろしければそこにベル・クラネル氏を入れて欲しいんですが」
「もちろんだとも!でもベル君は・・・」
自分に自信が持てずしょぼくれながらもベルの様子を伺うヘスティア。しかしヘスティアの心配はよそに、ベルの心は既に決まっていた。
「もちろん僕は神様のファミリアに入りたいです」
「いいのかいベル君!?ボクなんかで、自分が神様であることすら忘れかけてたボクなんかで!」
「もちろんですよ!僕もまだまだ新米で全然強くなくて料理の腕ばかり上がっていく始末ですから!」
励ましあってるのか貶してるのかわからない口論が2人の間で繰り広げられる。
店内に客はおらず、従業員たちがやっとかと思いながらその顛末を見守る。
やがて2人は静かに見つめあい笑みを浮かべ。
「ベル君!」「神様!」
お互いに抱き合った。
エイナだけでなく他の店員たちも安堵を浮かべる。
「こうしちゃいられない!早速ファミリア入団の儀式をするとしよう、ベル君!」
「はい!神様!」
そう勢いのまま自室へと向かうヘスティアに同じく元気な声で返事を返す。
「ありがとうございますエイナさん!」
ここまで付き合ってくれたアドバイザーにお辞儀をするベル。
「いいよいいよ、当たり前のことなんだから。その代わり明日ギルドに顔出しなさいよ、色々と手続きがあるんだから」
「はい、それではまた明日」
「うん、また明日」
そう外までついてきたベルに告げて自宅へと帰るエイナ、その心に思うことは一つ。
(普通神様って時点で気づくよね?)
「でも、まあいいか」
今日はとにかくすぐ寝よう、色々情報量があってドット疲れた。
そして明日に備えよう。
エイナはそう思い帰路へと着いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ドキドキと胸が高鳴る、階段を上がる度に胸の奥から熱い思いが沸きあがる。
部屋へと入り大好きな彼と対峙する。
既に諦めきっていたことだった。踏ん切りも付いていて、今の生活にも満足していた。だからこそ忘れてたんだけど。
ロキやヘファイストスへの反発というか意地でむちゃくちゃなことも言った。そんな自分が今、何よりもこの瞬間に心をときめかせ待ち望んでいる。
「本当にいいのかい?ベル君、本当にボクの
何度も夢じゃないかと思った。
本当はあの路地裏で今も寂しく倒れて、夢を見ているだけなのではと。だが目の前の少年が、それを現実だと教えてくれる。
彼を目の前にして高鳴る想いが!この歓喜が!
「なにいってるんですか神様、さっきも言った通り僕の方からもお願いします!それに僕達はもう家族みたいなものじゃないですか!」
「〜〜〜!!!」
このままではマズイ、褒め殺される。
いつもならこのまま彼に褒められ続けるのも悪くない、しかしそうしてなぁなぁにした結果が今までチャンスを逃してた原因だ。下手したら目の前で彼をロキに奪われてたかもしれない。
今回ばかりはキッチリと決めなければ!!
そう直感したヘスティアはなんとか自分を奮い立たせファミリア入団、もとい創設の儀式へとはいる。
上着を脱いだベルの背後で
現れたステイタスは初めての入団者にしては高い方だろう。だがヘスティアはベルが最初の眷属であるため比較対象もいなくそこには気づかなかった。
ファミリアに入団する者も千差万別である。オラリオを訪れてすぐに入団しステイタスを刻むもの、他でそれなりの冒険をしてから刻むもの、何らかの事情で他のファミリアからの改宗をして入団する者。
だがそれらに共通するのは
だからこそヘスティアは気づかなかった。
ベルが入団以前にも迷宮に潜っているのに、それにしてはステイタスの上がり方が控えめな事に。
何よりそれはその下に記されたスキルに深く起因していた。
ソレが
しかし彼女は
「ぐへへ、ぐへへへへぇ〜ベル君が、ボクの眷属にぃ〜」
静かに迫り来るソレにすら気づかないほど目の前の少年に夢中となっていた。
そして瞬く間に刻まれた神聖文字がそのスキルを浮き彫りにする。
《スキル》
【
・ウェポンルーキー、あらゆる道具、武具に対して一定の補正がかかる。
・神に対して耐性、特攻を持つ。
・やがて彼らは時代を終わらせる。
見るからに一筋縄では行かない、理解不能で妙なスキル。だがこれも
(流石ベル君!以前からダンジョンに行ってたことは知ってるけどもうスキルまで持ってるなんて!)
今のヘスティアにとっては文字通り彼の
そして更に神聖文字は刻み続ける。
【
・深層から離れるほど一部の経験値のみステイタスに反映される。
・迷宮に拒絶される。
(これは・・・あまり良くないな)
先程とはうってかわりこのスキルに対して懸念の気持ちを覚える。
それはいわゆる
そして最後、予想だにせぬ、不意打ちにして奇襲とも呼べる。神である自らにすら刃を向けるソレが神聖文字で記される。
【
・殺意を持つ際のに比例してアビリティが大幅に上昇。
・全ての存在に対しての殺害が可能。神も例外ではない。
見たことも聞いたこともない、優しい彼に存在してはならないものがそこにあった。
こうして下界におりているものの、根本的に命ある者たちとは文字通り次元の違う自分たちへも向けられたスキル。神殺しを実現させうるその事実に対してヘスティアは
(ベル君・・・君はーーー)
最っ高だよ〜♥
そう喜びを噛み締めるかのように、恍惚した表情を浮かべて見せた。
自らへの殺害手段、永遠であるはずの神の終わりの可能性。
冷たく、静かで、何も無い死への道筋が記されたとしても。
「大好きだよ、ベル君」
今のヘスティアの情熱の前では死という概念すら脅威と映らない。
彼なら許せる、彼だからこそ許せる。
恋は盲目もはや盲信と言うべきか、愛は神をも変えると称すべきか、今の彼女はある意味ハイになっている。
興奮もとい暴走と言っても良いだろう。
(まぁそれはそれとしてスキルはやっぱり誤魔化しとこ、あまり見せていいものじゃないし、何より
それでいて冷静に思考する。
最も彼への献身が最優先に置かれた思考であり、今のヘスティアの脳内は正しく愛しい彼一色であった。
手早く誤魔化しを済ませると記念すべき最初のステイタスを書き写し、
そうしてようやく気づく、先程から返事がない少年が既に眠りについてることに。
眠りを妨げないように、静かに彼の首に口付けをする。
「愛してるぜ、ベル君」
ここから、彼と彼女の
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