異世界転生!メラルー(亜種)でも成り上がれますか? (モンスター親衛隊)
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00.序章(必読ではありません)

処女作です。よろしくお願い致します。


 深い深い森の中。鬱蒼と生い茂る木々の間で三匹の黒猫は自身の体の半分もある大きな編み籠を背負い、一生懸命に大地を踏みしめていた。一番後ろにつく二足歩行の黒猫は体躯が先頭の二匹に対し非常に華奢であり、まだ生まれて間もない子供だろうか、何処か歩き方も覚束ない。それを知ってか知らずか前列の二匹はその眉間に深く皺を刻み、足早に大地を蹴っている。

 

 いつもの獣道に差し掛かったところで、突然前列の二匹のうち目付きが鋭く尖っている方が口を開いた。堪えきれなくなったという様子であった。

 

 

 

 

「お前があそこであんな余計なことしなけりゃ、今頃俺達だって月猫祭の準備に取り掛かれてた筈なんだにゃ!」

 

 

 余程祭りを楽しみにしていたのだろう。金色の虎毛が特徴の黒猫はその目を更に鋭利な刃物の如く尖らせて、とぼとぼと着いてくる黒猫に声を荒げる。華奢な黒猫の肩がびくっと跳ねる。すると、一番背の高い黒猫が大きく溜息を吐いた。

 

 

「黙って歩けないのか虎丸。」

 

 

 言動や態度から察するに、どうやらこの中での年長者は彼だ。虎丸程目付きが鋭い訳ではないが、その瞳からは他の追随を許さない何かが感じ取れた。長の息子であるという片鱗がもう現れ始めているのだ。

 

 

 しかし……、

 

 

「だって!黒牙さんも巻き込まれてるんすよ?」

 

 

怒り心頭である虎丸はそれすらも伝わらない。

 

 

 

 華奢な黒猫は目尻に涙を浮かべて必死に謝っている。そんな姿を見て黒牙は口許に嘲笑を浮かべてこう吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

「お前もそろそろだろうな。」

 

 

 

 

華奢な黒猫の動きが一瞬ぴたりと止まる。その場の空気も同様に、先程まで不満を漏らしていた虎丸でさえ、その言葉の意味を分かりかねているのだろう、ただ眉間に刻まれた皺が一層深みを増しただけだった。

 

 

 洞窟の地下にあるメラルーの集落に戻ると、一番に出迎えたのは虎丸の姉、虎子だった。集落のメラルーの話を聞くに虎子は帰りの遅い弟を一時間前からこの入口前で待ち続けていたのだという。何でも最近、この辺に夜行性の狂暴な龍が出たのだとかいう噂のせいもあるのだろう。

 そんな中、一番後ろについていた華奢な黒猫は集落の長に呼ばれ、一匹とぼとぼとまた歩き出した。

 

 

 

 長の目の前で深々と頭を下げた華奢な黒毛は、顔を上げて話を聞いて欲しいと言われ、言う通りに耳を傾ける。

 

 

 

 

「お前がこの地に生まれて早3年、これまで様々ことがあった。そして、お前の裏切り行為はこれで3回目。とても残念に思う。わしはこれ以上"わしの息子である"お前を傷ものにはしたくないのだ。」

 

 

分かってくれるな?わが息子よ。そう後に付け足して、長は悲しそうな顔をちっぽけな黒毛に向けた。だがしかし、その瞳の本質には全く我が子を慈しむような美しい感情は籠っていなかったように感じられる。寧ろ、そこには何の思いも籠っていなかったように感じられるのだ。小さな黒猫にももう長の言いたいことが分かってしまった。ちっぽけな黒猫は言わないで欲しかったのだ。或いは、その四肢を俊敏に働かせ、今すぐにでもこの場から離れたいと強く思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前にはもう此処が故郷だと口にしないで欲しいのだ。」

 

 

 

 

 

 

 痛々しい事実を遠回しにした言葉はちっぽけな黒毛の心をいとも容易く潰して見せた。それは、端的にお前はクビだと言われるよりも、もっとずっとちっぽけな黒毛にとって辛いことだったのだ。心のどこかで期待していたのだ。ちっぽけな黒猫のちっぽけな理想はこの時、涙と共に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (それだけは言って欲しくなかったんだ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




序章です。
次のお話から主人公視点に切り替わります。
地下に集落があるというのは完全に捏造です。
長くなると思いますが、お付き合い頂けれぱ嬉しい限りです。


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01.早くも死亡フラグが立ちました

 集落から勘当されて早2日。最初は故郷がない虚しさと勘当された悲しさで胸がいっぱいで、全然食欲とか湧かなかったけど、流石にもう限界を感じる。そう思った矢先、タイミング良く自身のお腹の虫が騒ぎ出したので、取り合えず食べ物を探そうと思う。

 

 

 確かこの先に川があった筈……、先ずはそこで水分補給しよう。

 

 

 

そう考えて、立ち上がった私の耳が僅かな物音を捉える。それはどうやら人間の話し声のようだった。段々とこちらに近づいてくるそれに、思わず私は反対方向に駆け出した。人間達の中には私たちメラルーを見ると積年の恨みを晴らすかの如く武器を片手に追い回してくる性質の悪いのがいるからだ。私も元は人間。勿論、人恋しさに人間に近づこうとしたこともあったものだ。しかし、悲しきかな。過去に私はそれでボッコボコにされて帰って来たメラルーを知っている。

 

 

 

 少し走ったところで歩きに切り替えてそのまま真っ直ぐ前進していると、土地が開けた所に着いた。恐らく先ほどいた場所からここまででそんなに距離は無いとは思うが、流石にリーチや体力の関係でどうしても息が切れてしまう。食料もそうだけど、早くこの体力をなんとかしなきゃね。襲われ難いとは思うけど、大型モンスターに襲われた時の対処法も考えないとだし。

 

 

 そんなことを一匹悶々と考えながら、ごろごろとした石の上に膝をついて渓流の水を手ですくって口に流し込んだ。二日振りの水分だ。飲めるだけ飲んでおこう。そう考えた私は何度も水をすくって口に流し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「うーん、水飲み過ぎたなあ。」

 

 

 飲めるだけ飲んで置くのではなく、ある程度飲んだら、きちんとした入れ物を作ってそれに汲んで持ち歩けば良かったのだ。あほだなあ、と一匹呟いて草で編まれたバッグに目を落とす。そう言えば、バッグの中に小型のナイフを入れて持って来た筈だからそれで、竹なんかを削ってモリでも作れば良いんじゃないだろうか。それ一つで武器になるし、渓流の魚も捕まえられそうだ。一石二鳥じゃないかと、私はゆっくり立ち上がると竹林の方に歩を進めた。途中またしても人間と鉢合わせになりそうだったので、別ルートを通ってなんとか竹のある所まで来ることができた。物凄く遠回りをした気がするが、命には変えられない。この際、この不満は全て魚にぶつけるとしよう。

 

 

 大体一時間と少し経っただろうか。やっと完成した水筒と自身の相棒モリを見て軽く達成感に満たされるが、鳴り止まないお腹の虫を鳴き止ませるべく、私は今度こそ近道で渓流に戻った。行きよりも大分早く着いたように感じられる。やはり、かなり遠回りをしていたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ばしゃばしゃ、と鳥の水浴びのような忙しない音を立てるのは私の相棒。え?モリを使うのってこんなに難しいの?おっかしいなあ。既に体力は虫の息だ。想像していたものとは遥かに掛け離れた状況に、このままでは、一生捕まえられないかもしれない、そう感じた私はバッグから大きな網を一つ取り出した。この網は地べたに寝たくないからとハンモック用に持って来たものだったが仕方ない。綺麗に畳まれたそれを広げると渓流の流れに沿って網を設置する。それから魚が網にかかるまでの間、私は水筒に水を汲んだり、バッグに渓流の小石10個と傍に生えた木々の落ち葉や木の枝を沢山詰めた。因みに、なんでこんなことをしているかと言うと、正直ここには長居したくないのだ。ここは土地としては開けていて、大型モンスターも余裕で闊歩できるからだ。特に最近はこの辺でアオアシラを見たメラルー達が多いとの噂だ。アオアシラは気性も荒いし、大型モンスターの中ではそんなに大きくないため、超ちびである私も危険だろう。ああ、そう考えたら震えが止まらない。

 

 

 

 焦る心持ちでそっと網を見れば、なんと複数の魚がかかっているではないか。急いでそれを陸へ引き上げる。陸の上でびちびちとのたうつ新鮮な魚ににやけが止まらない。何せもう二日も何も食べていない。加えて、最近食べれてなかったサシミウオや重くて運搬が困難なためちょっとした高級食材として扱われるハリマグロなんかも入っているのだ。これがにやけない訳がない!

 

 

「ふふふ、大漁だあ。」

 

 

 この時、私は念願の食料が取れたという事実にばかり気を取られ、すぐ傍にある木々が怪しく揺れたことなど微塵も気が付かなかったのだ。

 

 

 私が魚が入った網をサンタクロースのように担いで運ぼうとしたその時だ。とうとう、その気配の主は私の前に姿を現した。私は思わず硬直する。

 

 

 

 青い絵の具に苔を溶かしたような青緑の体毛に、土色に角質化した表皮、そして鋭い爪。アオアシラだ。一瞬にして私の気分は崩れ落ちた。なんでなんでなんで。

 

 

 

 

 なんでよりによって今なんだよぉぉー!!

 

 

 その時、背中側でぴちぴちと跳ねていた魚が突然最後の力を振り絞るかのように暴れだした。私は思わず前のめりによろめく。眼前に迫る青緑に恐怖故に声を出すことも許されず、そのままそれにぶつかった。

 

 

 しかし、相手に下を見る素振りは無く、ただ首を傾げただけだった。よかった、まだ気づかれていないのかな。そう思った刹那、顔の横を紅葉色の何かが通り過ぎる。次に、奴の咆哮が私の耳をつんざいた。

 

 

 いっ!?やばい!このままじゃ本当に………!

 

 

 視界の隅では小さな魚が元気よく泳いでいる。あっちに行ってみたり、こっちに来てみたり、どうやら八方塞がりらしい。退路は………、………退路?

 

 

 そうだ、退路は自分の力で切り開くものじゃないのか。

 

 

 

 アオアシラの爪が眼前に迫った時、私は持っていた魚を網ごと手離すと力一杯前足で地を蹴り、前転で奴の又の間を通り抜ける。一瞬のことに、流石の奴も動揺していた。今だっ!!!私は私の持てる全ての力で大地を蹴る。

 

 

 

 あの小さな魚は例え行く手が八方塞がりに見えようと、退路を諦めなかった。生きることを諦めなかった。

例えそれが、本能的なものであっても、私はあの小さな魚に感謝する。あと一秒でも決断が遅れていたら、私は今頃あの恐ろしい爪の餌食となっていたことだろう。甦った恐怖に苛まれた体がまた、震え始めた。

 

 

 足の震えが止まらない。不味い、このまま走ったら……。

 

 

 

 

 次に地に足が着いたとき、私の足はぐぎりと嫌な音を立てた。瞬間、勢いをそのままに投げ出され私は近くの木に頭を強打してしまう。

 

 

 

 

 

 

 ああ、意識が………。アオアシラが追って来ている気配はない。私は少しの安堵と共に朦朧とする意識を手放した。

 

 

 

 

 

 




次話では師匠(モンスター)に出会った主人公ちゃんが奮闘します。


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02."師匠"との出会い

師匠が誰になるかネタバレしてしまってますねこれは。
(※この発言もネタバレ)


 なんだか、あったかい。そういえば、私何してたんだっけ……。朦朧した頭でぼんやりそんなことを考える。

 

 

 

 

 

 

「…………は。」

 

 

 重い瞼を上げた私は絶句した。純白の羽衣のような皮膜に陽光に当てられてきらきらと輝く立派な二本の角。その容姿はどこか神々しく、出る筈のない冷や汗が背中を伝わる気さえする。

 

 

 恐怖に体が自然と震え出した時だ。ふいに、濃厚な鉄の臭いが私の鼻を掠めた。

 

 

 

 ……っ、物凄い鉄臭い。もしかして、こいつ怪我してる?

 

 

 そっと立ち上がって、背伸びをして見ると純白の羽衣は所々赤黒く変色していて痛々しい。特に後ろ足が酷く損傷していた。これでは当分動けないだろう。傷の経緯を思わず想像しぞっとしたが、この隙に退散するべく私はそっと足を動かす。

 

 

 

 

「ッグ、グガァッ……!」

 

 

 

 突然背後から聞こえた苦しそうな声に肩が跳ねた。え、起きちゃった?心配になって振り向くと変わらず龍はその瞳を固く閉じていた。どうやら、龍は魘されているようだった。

 

 

 ふと、龍の前足が目に入る。純白の皮膜から顔を出すように並んだ二本の爪は無惨にも全て割れ、その先には真っ赤な血が滲んでいる。私が凄惨な傷痕を思わず凝視している間もずっと、龍はその顔に苦悶の表情を浮かべて必死に何かから逃げ惑うように僅かに手足を動かしていた。

 

 

 

 このまま、放っておいていいのか。私は良心の呵責に苛まれ、頭を抱える。此所は自然界なんだからこんなことは日常茶飯事なんだよ私!起きたら食べられちゃうかもしれない。その時、龍のか細い声が私の耳に入ってきた。

 

 

 

「…ぐっ、誰か……。」

 

 

 

 負けた……。良心に負けた……。私は今近場の小さな池でタオルを濡らしていた。まさか、こんなとこで使うことになろうとは夢にも思わなかったよ。ついでに、保身のためのお魚もここで手に入れた。 で、気づいた。前回渓流での魚取りはモリで、つまり二足歩行で行った訳だが、四足歩行で行った方が当然ながらバランスがとれるし、反応も鋭敏だ。

 

 

 最初からこうしてりゃ良かった……。

 

 

 

 私の心は短時間での多すぎる収穫に複雑な心境になった。あー、切り替え切り替え!そんなんじゃ、これから先やってけないぞ私。

 

 

 

 龍の傍に大量の魚を置いて、その中の1つを手に取った。もうびくりとも動かなくなった魚だが、私にはとても魅力的に感じられる。そういえば、ずっと食べれてないんだよね。今から死の危険に脅かされるんだからその前にちょっと満腹になったって許されるよね。そう思った私はバッグから木の枝を取り出して魚に刺すと、口から火を吹いて一気に焼き上げた。

 

 

 

 実は私、普通のメラルーとは違い。火を吹くことができる。流石に小さくしか出せないが、生活するだけならお釣りが来ても可笑しくない火力だと思っている。暖を取るにしても、魚を焼くにしても炎は必要不可欠。勿論この能力のことは黙っていた。知られたら気味悪がられるだろうし、得しないと思ったからだ。

 

 

 ほくほくの身を頬張った私は、三日ぶりのご飯に視界が歪む。そりゃ、涙目にもなる。あんなことやこんなこと(中略)があったんだから。

 

 

 

 

 

 

 運命の第一ラウンドが始まった。私は毛に付着した血の塊を丁寧にタオルで拭いていく。傷痕に触れないように丁寧に丁寧に。手はマナーモードかよってぐらい震えてるし、これ嫌な予感がするな。途中川のほうでタオルを洗いに行くが、その間も龍が目を覚ました痕跡はない。体制もそのままに龍はまだ魘され続けていた。

 

 

 

 嫌な予感はよく当たる。私の作業も終盤に差し掛かった時、奴は目を覚ました。突然持ち上がった頭に、前足を拭いていた私は思わず飛び上がり、尻餅をつく。

 

 

 

え、うそお。起きちゃったんだけど……。あ、終わった。

 

 

 

 龍はその鋭い瞳で私を射抜くと傍に置いてあった大量の魚に視線を落とした。暫く魚や辺りの臭いを嗅いだりする素振りを見せたが、最後に私に一睨み効かせて魚を頬張り始める。どうやら、余程お腹が空いていたらしく、数分もしないうちに(私から見たら)高く積み上げられていた魚達をぺろりと食べてしまった。

 

 

 

 

「…む、なんだお前。まだいたのか。」

 

 

 

そう言う龍は少し離れた所で様子を見ていた私をまた睨み付けると、不快そうに喉を鳴らす。しかし、どうやらそれがいけなかったのか龍は開いた傷の痛みで苦悶の声を漏らした。

白い龍の毛にじんわりと赤が染み込む様子はとても痛々しく思わず私は数歩近づくが、それに気がついた龍は荒々しく咆哮を上げる。

 

 

 

しょうがないと、思ったこともある。龍が決めたことだから自分にはどうもできないと。あんな身体で咆哮を上げれば、異変を察知した他の大型モンスターに襲われてしまうだろう。反撃などあの傷では到底できるはずもない。

 

 

 

小さい頃から何度も龍の話をされた。龍は獰猛で縄張り意識が強く、他の追随を許さぬ孤高の存在であると。見かけても絶対に近づいてはいけないとも言われた。

 

 

前にもこんなことあった気がする。

 

 

 

 

「あの、良ければこれ使って下さい……。」

 

 

 

だから殺さないでという命乞いに聞こえたかもしれない。でもそれでいいと思った。プライドの高い龍は他の恩恵を滅多に受けようとしないと聞く。

 

 

私はバッグから取り出した薬草を龍の傍に置くと背を向いて駆け出した。

その晩私は自分も足を痛めていることに気がついて、バッグに手を突っ込むが、そう言えば薬草はあの龍に全部やってしまったんだっけなんて思い出す。今から採りにいくのも危険な気がして、私は結局その後直ぐに、近くの茂みで眠りについた。

 

 

 

 

 

 

また、来てしまった。昨日と同じくそこに横たわる龍の毛は所々傷が開いて血が滲んでいる。おそらく、無理矢理立ち上がろうとした結果だろう。

 

私は両手いっぱいに抱えた魚を龍の目の前にそっと降ろした。幸運なことに龍はぐっすりだ。起きる気配はない。だが、昨日龍の傍に置いた薬草は消えていた。

それを見てなんだか嬉しくなった私は明日もここに来ようかなと思った。これはきっとエゴだ。それでもいい。

 

 

 

次の日もその次の日も、雨の日も風の日も、私はあの龍の所へ行った。度々見つかりそうになったものだが、それでもなんとか茂みに逃げたりしてやり過ごした。そうしていくうちに、どんどん龍の傷は癒えていった。

 

 

そして今日であの龍と出会って一週間。もう、立ち上がれるだろう。きっともう大丈夫だろう。この世界に来てから今までメラルーとして生きてきた私がやったことと言えば窃盗ばかりで、それすらもままならず半端者として村から絶縁された。

でも、半端者で良かったのかもしれない。子供の頃から盗みばかりする一族の方針が気に入らなかったのだ。私は新人ハンターや他のモンスターが困っているのを何度も目にしたことがある。

私以外の一族の皆はそれを見てはけらけらと笑っていたけれど、私はどうしても笑う気にはなれなかったのだ。一族の中で、否、メラルーという種族の中で私だけがどこか異端だった。

 

 

 

 

そして今、渓流に流れる滝の傍で水汲みに来た筈の私は何故だか訳のわからない揉め事に巻き込まれていた。

 

 

 

「いいか?ここは元々俺達の縄張りなんだ。悪いことは言わん。早く出ていけ。」

 

 

ぐるるると威嚇の声を上げながら今にも爆発しそうな憤怒の感情が籠った瞳を向けるのはリオレウス。対して此方はテツカブラだ。異常に発達した顎をガチガチと鳴らして、無言でリオレウスを鋭く睨んでいる。

 

 

「無視か。何とか言ったらどうなのだっっ!!!」

 

 

そう言うリオレウスの口許からは赤く燃え上がる色が度々顔を出している。余程お怒りらしい。

 

 

「お母さん、僕怖いよぉ……。」

 

「大丈夫よ。大丈夫だからね。」

 

 

そう、実はこの二体の竜は先程からずっと数頭のアプトノスを間に挟んでいがみ合っているのだ。そして、その数頭に運悪くも紛れ込んでしまったのが私。

 

 

ていうか何この状況……。私は水を汲みに来ただけなんだよー。おーい。

 

 

 

なんて言えるわけもなく、隣で震えるアプトノスの親子の足にもびくびくしつつ私はじっと隙を窺うしかない。

 

 

ふ、踏まないでねたたた頼むから……。

 

 

 

その時だ。今の今までテツカブラといがみ合っていたリオレウスがばっと空に視線を移す。それは突然だった。つい先程まで雲一つない晴天だった空は、どこから来たのかも分からない巨大な灰色に飲み込まれていく。灰色の影は未だ空から目を離そうとしないリオレウスやそれを見て好機と思ったのか飛び掛かろうと構えるテツカブラでさえも飲み込んで、やがて光は閉ざされた。

 

渓流は天気が変わりやすく、このようなことが無いわけではない。では、先程から石のように動かなくなったリオレウスは何故こんなにも夢中に空を見上げているのか。それは、この場の空気が尋常ではなかったからだ。普段から空と共に生活している飛竜だからこそ敏感なのかもしれない。

 

空に一つの竜巻が見えた時、今まで石のように微動だにしなかったリオレウスはぎゃあと何かに怯えるような悲鳴を漏らすと、直ぐ様反対方向に駆け出した。テツカブラの飛び掛かりはそれに間に合わず、その爪は空を切り足跡を潰す。相手が逃げる後ろ姿を見たテツカブラは誇らしく空に咆哮した。だが、それがいけなかったのかもしれない。

 

 

咆哮が空に響いた直後だった。私の身体をとてつもない寒気が遅い、私は思わずその場に縮こまって両耳をぎゅっと押さえた。どうやら予感は当たったらしい。

 

ものの数秒も立たないうちに物凄い轟音が地面を揺らして、私の口からぎゃにゃあ!という悲鳴が上がる。暫くして揺れがおさまり、私はそうっと目を開けた。その光景は想像を絶した。

 

 

 

 

辺りに散らばる黒焦げの物体に鮮やかな赤が絡み付いている。発達したあの勇ましい牙は見当たらず、眼球があった筈の場所は黒い空洞ができていた。鼻を掠めたのは吐き気がするような臭いだった。とても形容しがたいが、それはあっという間に私の記憶に深く刻まれた。

 

 

空の王者はこれを危惧して逃げたのだ。テツカブラはそれに気がつかなかった。空の異変に気がつけなかった。只それだけで呆気なくその一生が終わってしまう。なんて、なんて理不尽なんだろう。ただただ、恐ろしいと思った。だが、それが何に対しての恐怖なのかは分からない。自然に対してなのか、それともこの自然災害を起こし得る何者かに対してなのか。

 

 

私はその場にへなへなと座り込んでしまった。体が言うことをきかない。

 

 

 

逃げられない……!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さてはてどうなるのか?
次回もお楽しみに!して下さる方々に感謝です。

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