笑顔の魔法を叶えたい (近眼)
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アニメ一期:笑顔の魔法を叶えたい 始まる前の自己紹介


ご覧いただきありがとうございます。


本作品はオリジナルの登場人物が9人も登場します。メインキャラを除くともっと多いです。
読んでいる途中で「こいつ…何者だ…?!」ってなったら読みにくいかなーと思ったので、登場人物一覧を作成しました。
最初に見てしまうのもよし、忘れたら見返すのもよし。お好きなようにご活用ください。


ネタバレ回避!!!って方はブラウザバックですよ!!




 

・波浜 茜(なみはま あかね)

17歳、156cm、45kg。誕生日:2月2日

 

本作品の(一応)主人公。音ノ木坂の3年生。にこちゃん至上主義で体力の無い絵の天才。絵以外でも、照明などの「色に関わる分野」についてはかなり幅広く才能を発揮している。ちなみにパワーもない。

 

「はろー皆様、波浜茜です。にこちゃんが世界一可愛いことを証明しに来ました。おしまい。」

 

 

・滞嶺 創一郎(たいれい そういちろう)

15歳、208cm、145kg。誕生日:5月28日

 

音ノ木坂の1年生。とりあえずでかい。細身ではあるが、信じられないくらい筋肉が詰まっている。髪型をオールバックにしてサングラスをかけているので色々怖い。

 

「滞嶺創一郎だ。腕力には自信がある。車くらいなら軽いだろ。あ?怖くねぇよ」

 

 

・水橋 桜(みずはし さくら)

17歳、178cm、65kg。誕生日:8月13日

茜の友人。音楽の天才であり、最強の音感と作曲・演奏センスを持ち、世界的に支持されている。穂むらに入り浸る和菓子好き。季節によらず常にロングコートを着ている。暑そう。

 

「水橋桜だ。音楽くらいしか能がねーが、まあ気にすんな」

 

 

・天童 一位(てんどう いちい)

18歳、178cm、75kg。誕生日:9月7日

茜と桜と共に演出請負グループ「A-phy(えーさい)」を運営するリーダー。脚本家として世界的に活動しており、支持も厚い。しかし飄々としていてくだらないことを言いまくる圧倒的ネタ勢。

 

「はーいどーも世界に名だたる天童一位さんだぜー!!え?知らない?またまたそんな恥ずかしがらなくてもいいんだぜ?ほんとに知らないの?そんなぁ」

 

 

・雪村 瑞貴(ゆきむら みずき)

17歳、168cm、52kg。誕生日:12月7日

天才ファッションデザイナーとして活躍する、両足を失った少年。両足を失くしても特に悲観せず、車椅子にミシンと大量の布を乗せて今日もあっちこっちで服を作っている。結構捻くれている。

 

「…雪村瑞貴だ。服が欲しければ言うといい。それなりのものは用意しよう」

 

 

・藤牧 蓮慈(ふじまき れんじ)

17歳、170cm、67kg。誕生日:6月26日

17歳にして大学の医学部医学科の博士号を持つ最強の天才。右腕と右眼を失っている。彼に出来ないことはないとさえ言われるが、結構空気を読めないため言動がだいたい腹が立つ。

 

「藤牧蓮慈だ。まあ、私に出来ないことなどほとんどないからな、何か困ったら助けてやろう」

 

 

・湯川 照真(ゆかわ てるま)

15歳、162cm、47kg。誕生日:No data

サヴァン症候群の天才少年。花陽の隠れた幼馴染。藤牧とは違って科学・工学において非常に高い技術と知識を持つが、対人能力が低いためあまり知られていない。

 

「…湯川照真だ。…………花陽、なんとかしてくれ」

 

 

・御影 大地(みかげ だいち)

18歳、186cm、72kg。誕生日:3月8日

舞台や映画で活躍する天才俳優。その天才ぶりは、役さえ与えられれば老若男女問わず何でも演じられるという点で誰もが知っているほど。当然女装する。知名度が高く、礼儀も正しい。天童と仲が良く、彼の作品にはほぼ必ず出演している。

 

「御影大地です。僕の舞台、よかったら見に来てくださいね」

 

 

・松下 明(まつした あきら)

18歳、164cm、50kg。誕生日:1月20日

若干18歳で国立大学の准教授を務める。文学部所属であり、あらゆる時代のあらゆる国の文書を片っ端から解読している。小説や詩も自身で執筆し、その際は柳 進一郎(やなぎ しんいちろう)と名乗っている。

 

「えーっと…松下明、またの名を柳進一郎と申します。僕の著作や論文、ぜひ読んでください」

 

 





最後まで読んでいただきありがとうございます。

また詳細を忘れたら、いつでも戻って来てくださいね。


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序文:うちの幼馴染はダイナマイトかわいい

近眼と申します。拙作を読んでいただきありがとうございます。

拙い文章ですが、頑張って書いていきます。




 

「スクールアイドルやるわよ!!」

 

 

 

僕の幼馴染が放課後にそんなことを言い始めたのは高校1年の時。共学化された音ノ木坂学院は、その甲斐もなく男子生徒はさっぱり入らず、この学年では男子生徒は僕だけだった。非常に気まずかったが、3クラスあるこの学年でたまたま幼馴染が同じクラスだったのは相当僥倖だったと言える。まあおかげでこのちょこまか動く幼馴染とばっかりしゃべることになったけど。

 

 

「ちょっと茜、聞いてる?!」

「聞いてる聞いてる、聞いてますよまったく。何でとは聞かないけど、思ったより決断が早かったね」

「そりゃもう、A-RISEのライブ見ちゃったらやらざるを得ないわよ!」

 

 

この幼馴染…矢澤にこちゃんはもう驚くほどアイドルが好きで、自分もアイドルになる!と言って何年経ったか数えるのがめんどくさくなったくらい昔からドルオタだ。だったらアイドル養成所でも行きなさいよとは思うけど、この子の家はそこまで裕福ではないので普通に高校行くのが限界だったのだろう。勉強できないなりに頑張って公立高校に入ったわけだし。あと「スクールアイドル」というものが台頭してきたのも都合がよかっただろう。普通に高校行きながらアイドルもできる…かもしれない、って感じで。

 

 

で。

 

 

「A-RISEねえ」

「何よ。知らないとは言わせないわよ」

「君が散々教えてくれたのに知らないわけないだろう」

「ふふん、やっぱりA-RISEともなると茜みたいな凡人にも名が知れ渡っているのね…!」

「だから君が一方的に教えてきたんだろうに」

 

 

そう、A-RISEという名のスクールアイドル。同じ秋葉原のUTX高校で結成された女の子3人組は、急速に人気を集めて一世を風靡するほどの存在となっている。確か同い年だったはずだけど、大したもんだよねほんと。

 

 

だけどそれよりも。

 

 

「でもメンバーに当てはあるの」

 

 

確か彼女もそこまで友達いなかった気がする。いないことはないと思うが、始終僕に話しかけてくるあたりで察せる。まあ僕も友達いないわけだけど。だって男子だし。

 

 

「まず茜でしょ」

「待って」

「…あとは勧誘で頑張るわ」

「待って。まず勝手に僕を勘定にいれないで。しかも僕以外当てはないのかよ」

「大丈夫、茜小さいから多分女装いけるわ」

「ふざけろ」

 

 

小さいのは否定しない。身長157cm、体重47kgじゃそこらの女子より小さいし軽い。だからって女装するほど割り切れない。あと僕は踊れない。

 

 

あともう一つ理由がある。

 

 

「何より『本職』に差し障るから無理だよ」

 

 

僕はグラフィックデザイナーとして仕事をさせてもらっている。元々絵を描いてネットにあげてたのが会社のお偉いさんの目に止まり、お誘いを受けたのだ。それなりの報酬ももらえるし、在宅勤務だし、時間縛られないしで高校生の身にはありがたい処遇だ。ただ、あんまり学校と本職以外に時間がほぼ取れないのは困ったところ。まあバイトしてると思えばいいか。

 

 

「うー、それ言われると困るわね」

 

 

机にへたばってのび〜っとしながら唸るにこちゃん。猫っぽい。いや猫っぽいとかの前のその机僕の机だから。っていうか本職に差し障らなかったら本気で女装させる気だったのか。こわ。

 

 

「やれるとしてもマネージャーくらいだよ」

「じゃああと3人は集めないと部活としては承認してもらえないのわけね」

「しまった、やるとは言ってないのにいらんこと言ったせいで頭数に入れられてしまった」

「やらないの?」

「やるけどさ」

 

 

まあ、なんだかんだ言って彼女に協力しないという選択肢はない。

 

 

幼馴染がずっと昔からの夢を叶えようとしているんだ。それを一番近くで見てきた僕が、「そうなの、頑張れ」で送り出すのは薄情が過ぎるし、個人的に気に入らない。

 

 

大事な人のためになら、きっと何だってできる。

 

 

「自分で言っといてなんだけど、無理しなくてもいいのよ。だってあんた…」

「無理なんかないよ。にこちゃんのためなら僕は何だってできるから」

「…平気な顔で恥ずかしいこと言わないでくれる?」

 

 

こっちを気にかけてくれる優しい幼馴染に笑顔で返事をすると、当の幼馴染さんは顔を赤くしてそっぽ向いてしまった。アイドル目指すくせに照れ屋なのは大丈夫なんだろうか。

 

 

「ははは、ごめんごめん。ともかくメンバー集めないとね。どうやって勧誘するの?」

「そりゃチラシ配って宣伝するのよ」

「まあ王道だね。で、チラシはどうするの?」

「…」

「…」

「…茜、頼んだわよ」

「だと思ったよ」

 

 

手伝うと言った手前断れないけどさ。

雑務を全部僕に投げる気じゃないよなこの子。

 

 

 

 

 

 

チラシを用意して、2人でビラまきして。

 

 

にこちゃんが初めて人を連れてきた時には2人で引くほど喜んだ。

 

 

最終的にはダンサー5人、マネージャー1人で部活承認要件を満たし、無事「アイドル研究部」は発足した。名前をつけたのはにこちゃん。スクールアイドル部にしなくていいのか聞いたら、

 

 

「私たちはスクールアイドルの枠にとらわれないのよ!」

 

 

などと大層なことを言ってた。ほんとに好きなことに関しては全力投球の子だ。眩しい。

 

 

初ライブはそんなにお客さんいなかったけど、結構お褒めの言葉を頂いた。もちろんダメ出しもあったけど、にこちゃんは全部踏み越えていくつもりのようだ。頼もしい限り。

 

 

舞台衣装はやっぱり僕に投げられ、まあ確かに手先器用なのは否定しないけど、5人分の衣装を作るのは骨が折れた。でもまあ、にこちゃんが笑顔でいてくれるなら文句は言わないし、なんだかんだ僕も楽しかった。

 

 

 

 

このまま順調にスクールアイドルやってくれるのかと思ってた。

 

 

 

 

にこちゃんは好きなことに対しては妥協を許さなかった。

 

 

他のメンバーの子はそれに耐え切れずに、1人、また1人と抜けていってしまった。僕も必死に引き止めたけど、1人としてここに繋ぎ止めることは叶わなかった。

 

 

2年生に上がるよりも前に、部員は僕とにこちゃんだけになってしまった。

 

 

それからにこちゃんはあんまり笑顔を見せないようになってしまった。

 

 

僕はにこちゃんの笑顔を取り戻したくて、あっちこっち駆けずり回った。メンバーを探したり、ビラまきしたり。寝る間も惜しんで頑張っていた。

 

 

 

 

「…もう、いいわよ。茜。そんなに頑張らなくて」

 

 

放課後の部室で、にこちゃんが机に突っ伏しながら、呟くほどの音量で僕に言った。もう全部諦めてしまったような声で、でも反論も許さないような鋭さで、新しいチラシを描いてた僕の手は動かなくなってしまった。

 

 

「私は、あんたと一緒にいられる場所ができただけで満足だから」

 

 

そう言って彼女は顔を上げ、静かに笑って見せた。笑っていたけど、その裏で泣いているのが僕には見えた。

 

 

「…そうか」

 

 

僕も笑って返した。

 

 

僕の笑顔は、彼女にはどんな笑顔に見えただろう。僕がにこちゃんに見たように、泣いて見えただろうか。彼女はそれ以上何も言わなかった。

 

 

 

 

にこちゃんの笑顔は魔法だ。

 

 

その笑顔を見る人みんなに笑顔を伝播させる、世界一平和で宇宙一尊い笑顔の魔法。

 

 

僕はその笑顔を守りたかった。

 

 

また心から笑ってほしかった。

 

 

今回は守れなかったけど、彼女は生きてるから、取り返せる。

 

 

諦めない。たとえにこちゃん本人が諦めても、僕が彼女の夢を諦めない。

 

 

取り返しがつかなくなる前に。

 

 

 

 

 

僕が。

 

 

波浜茜が。

 

 

にこちゃんの笑顔の魔法を叶えるんだ。

 

 

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

実は既に20話くらいまで書いてあります。

ちょこちょこ修正しつつ適度に投稿していこうと思います。

どうぞよろしくお願いします。


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にこちゃんってお友達いたのかよ



ご覧いただきありがとうございます。

ふと見たらお気に入り登録して下さった方がいらっしゃいました。嬉しくてあと10年くらい生きられそうです。私ちょろい。でもお気に入り登録して下さった方ってどうやって確認するんだろう。

メインパーソンがにこちゃんなので最初の方の穂乃果たちの頑張りは必然的に全カットとなります。ショッギョムッジョ。

というわけで、どうぞお楽しみください。




 

 

「廃校ねえ」

 

 

ついに3年生になってしまって、しかも以前から囁かれていた廃校の噂が遂に現実味を帯びてきた。帯びてきたどころか、一定数に満たなかったらもう廃校と言われてるんだから王手だ。

 

 

「…今更廃校って言われても驚かないわよ。今年の1年生なんて1クラスしかないらしいじゃない」

 

 

僕のつぶやきに、にこちゃんが弁当箱の中の卵焼きをつっつきながら返事をした。ちなみにここは部室であり、教室ではない。1年のうちに色々目立っちゃった僕らはあんまり友達とかできなくて、教室よりもここにいた方がはるかに居心地がよかった。いや僕はいいんだけどにこちゃんはそれでいいのだろうか。心配だ。

 

 

「クラス替えがないのがいいことか悪いことか、とは思うけどね。僕とにこちゃんもクラス変わっちゃったし」

「一緒でもどうせここでお弁当食べてここで駄弁って帰るんだから同じよ。…そんなことより、卵焼きが甘くないんだけど」

「いいじゃないか卵焼きは本来甘くない」

「嫌よ。私は甘いのが好きなの」

「辛いよりマシだろう?」

「辛くしようものなら出禁にするわよ」

「そこまでか」

 

 

僕ら2人の弁当は僕が作っている。前はにこちゃんのお母さんが作ってたんだけど、お仕事が大変になって手が回らなくなってきたから僕が代わった。食費も僕が持ってるけど、本職のおかげでどうせ僕のお金は余るから問題ない。しかもにこちゃんのお母さんがとても感謝してくれる。

 

 

「それよりも茜、英語教えなさいよ」

「人にものを頼む態度じゃないよね」

 

 

卵焼きをもりもり食べながら勉強を教えて欲しいとおっしゃるにこちゃん。卵焼き結局食べるんじゃないか。文句言ってたくせに。

勉強に関しては、まあ見ての通り?できる子じゃない。頭悪いわけじゃないだろうに…って授業中寝てるからか。

 

 

ちなみに僕は常に1位である。1位波浜茜、2位絢瀬絵里、3位東條希。これが入学当初から変わらない学力のヒエラルキーである。ちなみに絢瀬さんは生徒会長で東條さんは副会長。僕はアイドル研究部マネージャー。なので僕は影が薄い。きっと、こいついつも1位だけど誰?って感じだろう。

 

 

全く構わないけどね。

 

 

「いいじゃないのよ、私とあんたの仲でしょ」

「いいんだけどさ。授業終わったらね」

「授業出たくない」

「馬鹿言ってんじゃないよ。放課後ここに来るからその時ね」

「ぶー」

 

 

弁当箱の隣に突っ伏すにこちゃん。ふてくされてても可愛いけど、勉強はやろうね。僕も別に授業聞いてないけど。

 

 

 

 

 

昼ごはんを食べて教室に戻る。にこちゃんとは違うクラスだけど、絢瀬さんと東條さんは同じクラスになった。まあ向こうは僕を認識してないと思うので気にしない。…いや、この学年で男子って僕だけだから知ってるかもしれない。あれ、そうすると学年1位が誰かもモロバレじゃないか。困った。嘘困ってない。

 

 

僕の席は廊下側の一番後ろなので、教室全体がよく見える。絢瀬さんは窓際一番後ろなのでもっとも見にくい位置だが、金髪故に視界には入りやすい。入学当初から冷たい印象まっしぐらの彼女は、素晴らしい美貌とスタイルで尊敬を集める一方であんまり積極的に関わる人は少なかった。東條さんくらいだろう。生徒会メンバーですら一歩引いてる気がする。一歩引いてるというか崇拝してる感じもするけど。

 

 

そんなどうでもいいことをぼさっと考えていたら、不意に視界に誰かが入ってきた。

 

 

「ちょっといいかしら」

「よくないよ」

「えっ」

「…冗談だよ。そんな露骨にショック受けないでよ」

 

 

絢瀬絵里その人だった。お隣に東條さんもいる。ショックをうけてるけど相変わらず凛とした佇まいで、まさに氷の女王と言ったところ。エルサかな。

 

 

まあそれは置いといて。何の用だろう。咄嗟に冗談が出てしまったけど、ここで会話打ち切りとかないよね。それは非常にいたたまれなくなる。

 

 

「別にショックなんて…」

「それで、何か用かな」

「弁明もさせてくれないのね…。学年1位って何かの間違いじゃないかしら」

「えりち。そんなこと言ったらあかんよ」

「何か用かなー」

 

 

勝手に会話しないでちょうだい。

 

 

「ほら、えりち」

「もう…。あなたが波浜茜くんで間違いないわね?」

「違うよ」

「えっ」

「いやだから冗談だってば。ツッコミ待ちなの。間に受けられると困っちゃうよ」

「希、私こいつ嫌い!」

「ごめんえりち、うちも波浜くんの気持ちわかる」

「もう!」

 

 

顔を赤くして涙目でうずくまる生徒会長様。あれ、氷の女王がかき氷お嬢ちゃんになってきた。もしかしてこの子からかうと面白いんじゃなかろうか。

 

 

まあでも話が進まないので冗談言うのはもうやめとこう。

 

 

「結局用事は何なのかな」

「…今度はちゃんと答えるわよね?」

「答える答える」

「…本当に?」

「どんだけ警戒するのさ」

 

 

うずくまったまま顔を半分だけ机の端から覗かせてこっちを見る絢瀬さん。何歳だこの子。上目遣いで妙に色っぽいからにこちゃんがいなければ落ちてた。いや流石に落ちないか。

 

 

「実は…あなたが普段どうやって勉強してるのか聞きたくて」

「そんだけかい」

「で、実際どうなの?よければノート見せてほしいのだけど」

「ノート?別にいいけど」

 

 

なるほど、勉強熱心な真面目さんだ。ノートの取り方とかにコツがあると踏んでのことだろう。まあそんなわけないんだけど。

 

 

パラパラとノートをめくる絢瀬さんの表情は何か面食らったような変な顔してた。何というか、「砂糖だよ」って言われて砂渡されたみたいな。いや表現が難しいんだよ。

 

 

まあそりゃそうだろう。

 

 

「あの、落書きしか描いてないんだけど」

「そりゃ落書きしか描いてないからね」

「授業中?」

「うん」

 

 

授業なんて本職の仕事しかしてない。流石にパソコンやらペンタブやら持ってくるわけにはいかないので、ノートにラフを書き殴るだけだけど。

 

 

「…勉強はいつしてるの?」

「そりゃ学校でしてないなら家でするでしょ」

「あの成績は独学ってこと…?」

 

 

なにやらショックを受けている絢瀬さん。学校で先生に習うより気に入った参考書使ったほうがいいと僕は思うんだけど、どうなんだろう。

 

 

項垂れている絢瀬さんをぼさっと見ていると、隣の東條さんが不意に教室の入り口に向かって声をかけた。

 

 

「あ、にこっちやん」

 

 

東條さんの視線の先にはなにやら隠れてこっちを見ているにこちゃんが。まあ、さっきから射殺すが如き視線を向けてくるので僕は気づいてたけど。

 

 

「どうしたのにこちゃん。ジェラシーかい」

「違う!茜ちょっとこっち来なさい」

「あと3分で授業始まるけど」

「どうせあんた授業聞いてないでしょ!」

「いや僕じゃなくてにこちゃんがさ」

 

 

ずかずか教室に入ってきて僕の腕を引っ張るにこちゃん。これはジェラシーだ。間違いない。東條さんと絢瀬さんは、というかクラスのみんなが呆気にとられてぽかんと口を開けて見ていた。まあ反応に困るよね。

 

 

廊下まで引っ張ってこられた僕はにこちゃんと窓にサンドイッチされていた。はたから見るとにこちゃんが壁ドンしてるように見える。残念ながら僕は壁ドンされてもときめかないよ。

 

 

「茜、何か言うことあるんじゃない」

「にこちゃん友達いたんだね」

「うっさいわね!」

 

 

さっき東條さんがにこちゃんを「にこっち」と呼んでいたから、きっと2人は友達なんだろう。友達でないのに愛称呼びは流石にレベル高い。

 

 

「希と絵里は去年ちょっと仲良くなったのよ!」

「確かに去年もクラス違ったけど、友達できてたんだ。っていうか絢瀬さんもか」

「そうよ。あんたみたいにぼっちじゃないの」

「大差ないだろう」

「ある!っていうかそんなことどうでもいいのよ!何であんた希と絵里と仲良くなってんの!」

 

 

にこちゃんに友達ができてたのは喜ばしいことなんだけど、それよりもジェラシー全開のにこちゃんをどうにかしなきゃいけない。何で仲良くなってんのと言われても困るし、だいたい今さっき初めて喋ったばっかりだぞ。

 

 

「いやさっき話したのが初めてだから仲良しとは程遠いかと」

「本当でしょうね」

「嘘つく意味がないだろうに。何がそんなに気に入らないのやら」

 

 

にこちゃんが息巻いて答えようとしたところで本鈴が聞こえた。流石に本鈴鳴ったら授業に向かう素振りくらいは見せなければまずいだろう。にこちゃんが。

 

 

「ほら授業始まるよ」

「うー、放課後ちゃんと部室来るのよ!逃げるんじゃないわよ!」

 

 

そう言って走り出すにこちゃん。いや廊下は走ってはいけないよ。あと放課後は英語やるんじゃなかったのか。

 

 

廊下走ってるのを先生に見つかって叱られるにこちゃんを尻目に、僕は自分の教室にのんびり入るのだった。

 

 

 

 

 

授業が終わって放課後、早速部室に向かおうと鞄を担ぐ。絢瀬さんと東條さんに呼び止められたけど、ごめんね、にこちゃん最優先。軽く断って失礼させてもらった。

 

 

というわけで、死地部室なう。扉開けたらにこちゃんが仁王立ちしていた。目の前で。部屋に入ってきたのが僕じゃなかったらどうすんだ。

 

 

「やあにこちゃん、今日もかわいいね」

「うるさい!今日の昼の続きを聞かせてもらうわよ!」

「にこちゃんかわいいよ」

「ちょっと、聞いてんの?」

「にこちゃんかわいい」

「話逸そうったってそうはいかないわよ」

「ほんと超かわいい」

「ああああもおおおおおお!!やめて!やめなさい!!」

 

 

とりあえずべた褒めしておく。うーん、照れてる。かわいい。顔真っ赤にして頭をぶんぶん振ってツインテールを振り回している。おお、ナイススイング。

 

 

「そんなことより!絵里とか希とかとは友達じゃないっていうのは本当でしょうね!」

「そんなに僕に友達いてほしくないのかい」

「違うわよ!」

「じゃあ何さ」

「なんか…その…茜が女の子と話してると腹たつの!」

「やっぱりジェラシーじゃないか」

「うー!」

 

 

ほんと可愛いなにこちゃん。

 

 

「じゃあ僕はどうしたらいいのさ」

「…え?」

「え?って」

 

 

まさかほんとに友達かどうか聞くだけの用だったの。

 

 

「友達ではないわけだけど、今後の彼女らとの関わりはどうして欲しいのさ」

「…どうしてほしいんだろう」

「嘘やん」

 

 

この流れだったらあんまり関わらないで!って要望通すところじゃないのかな。うーん、そう考えるとなかなかのヤンデレ具合だ。いやいやにこちゃんヤンデレちゃうし。

 

 

「でもにこちゃんが嫌がることはしたくないから、今後絢瀬さんと東條さんとの接触は控えようかな」

「え?!それは…」

 

 

にこちゃんがハッとした表情で声を上げた。なんか、それは違うよ!って言いそうな表情だ。論破されそう。

 

「どうしたの。友達か僕かどっちを取ろうか迷ってるの?」

「…あーもう!わざわざ言うな!!」

「あふん」

 

 

言ってみたら図星だったらしく、教科書投げられた。痛いよ。教科書って意外と痛いんだよ。だってほら、背が硬いじゃん。

 

 

「そうよ!茜も絵里も希も大事よ!みんな仲良くしてほしいのわよ!!」

「じゃあ仲良くしようよ」

「でもそしたら茜が…」

 

 

話が進まないよにこちゃん。

 

 

「一回仲良くしてみればいいじゃないの。やっぱりにこちゃん的に嫌って言うなら距離取るし」

「それはそれで絵里と希が傷つきそうよねぇ…」

「何事も犠牲がつきものだよ」

「怖いこと言うんじゃないわよ」

 

 

にこちゃんファースト派としては他の誰かがどうなろうと知りません。人間的にどうなんだろうかって感じではあるけどしゃーない。

 

 

「というわけでにこちゃんと一緒に仲良くしてみるね」

「…うん」

 

 

なんだかんだ押し切った。にこちゃんには友達が大いにこしたことはないからね、にこちゃん笑顔になるかもしれないし。

 

 

その後、微妙に納得いかない様子のにこちゃんを引き連れてそのまま帰った。流れで帰っちゃったけど、そういえば英語勉強してないじゃん。してやられた。

 

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございました。

自分で書いてて長いなとは思いました。約4,000字でした。4,000字って長いんですね。

しばらくオリジナル展開が続きますが、途中から原作に合流します。それまでオリジナル駄文にお付き合いください。精進します。


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やりたいことは好きなだけやらなきゃ損だと思う



ご覧いただきありがとうございます。

またお気に入り増えていました。感想もいただきました。更に10年寿命伸びました。嬉しすぎたので次話投げます。ほんとちょろいわー。

あと、海未ちゃんお誕生日おめでとうございました。来年までに海未ちゃんがハッピーエンドしてたらおまけ書きたいですね。進まないんですよ話が。

というわけで、どうぞご覧ください。

ちなみに突然シリアスしたりするのでご注意ください。


 

 

「はあ、スクールアイドルを始めた子がいると」

「そうなの。廃校を阻止するためにって言ってるんだけど…」

「えりちは自分が頑張ってるのに余計なことしてほしくないんやって」

「希の言い方だと私が嫉妬してるみたいじゃない!」

「違うのかい」

「違うわよ!私はスクールアイドルみたいなリスクの大きい方法には反対って言ってるの」

 

 

放課後の教室で勉強会をしている折に、絢瀬さんがそんな話をしてくれた。2年生3人組がスクールアイドルを始めたと。僕としては後継者が出てくれて嬉しい限り、あわよくばにこちゃんも入れてくれと切に願うわけだが、生徒会長様はあんまり乗り気じゃない様子。こりゃ一回様子見てあげた方がいいかもしれない。

 

 

にこちゃんと友人関係でわちゃわちゃした翌日、ちょうど絢瀬さん&東條さんが「勉強を教えてほしい」と相談してきたので快諾しておいた。そしたらにこちゃんもいつの間にか乱入していた。そんなわけだ。

 

 

つまりこの場にはにこちゃんもいるわけだけど、

 

 

「…ぐう」

「静かだと思ったら、寝てたのね…」

 

 

ぐっすり寝ていた。そんなに勉強が嫌だったか。

 

 

「起こしましょうか」

「いーや、ほっといて。スクールアイドルの話をしてる時に起きたらそれはそれでうるさいから」

「にこっちはほんとにスクールアイドル好きなんやね」

「スクールアイドルっていうかアイドルがね。それにしても、その子たち、君が承認してやらないと、部を作るなりしないと非公認扱いにならないか」

 

 

基本的にスクールアイドルは好き勝手やるもんじゃない。練習場所とか資金とか諸々必要ということで、部活として機能するのが一般的だ。学校側から直々に承認もらうこともあるらしいが、まあ面倒ゆえに普通やらない。部活承認に人数が届かないときくらいだ。事実にこちゃんもアイドル研究部を発足させたわけだし。

 

 

で、部活承認人数は5人。

 

 

普通に足りてない。

 

 

「そうよ。だからまずメンバーを揃えて来なさいって」

「っていうか僕らアイドル研究部に入ればいいだけな気もするけど、その存在はちゃんと伝えてあるの?」

「…それは」

「…意外とせこい戦い方するね絢瀬さん」

「余計なお世話よ」

 

 

基本的には同じような活動内容の部活は承認できない。場所と予算がもったいないからだろう。だったら今機能停止中のアイドル研究部に入ってくれれば何も問題ないのだけど、その存在を意図的に隠しているらしい。

 

 

「まあ君のやり方を邪魔するつもりはないけど。でもスクールアイドルはにこちゃんに必要だからね、僕は彼女らを支援するつもりで動くよ」

「…何よ、全然味方してくれる人がいないじゃない」

「東條さんがいるじゃないか」

「希もあの子たちに肩入れするもの」

「そんなことないよ。うちはいつもえりちの味方や」

 

 

なんだか複雑な感じになってるけど、まあいいや。絢瀬さんの友達になるのはいいけど、あくまで最優先はにこちゃんだ。

 

 

「まあ廃校は僕も気分がよくないし、如何なる手段でも応援することにするよ。それより今は勉強だ勉強」

「…あなたは落書きばっかりしてるじゃない。」

「ラフと呼んでくれ。勉強は家帰ってからやるよ」

「勉強風景も見たかったのに」

「使い終わった参考書でも見るかい」

「いいの?それなら見せてもらおうかしら」

 

 

そんなこともあろうかと、鞄に突っ込んでおいた参考書を引っ張り出す。表紙が擦れて、中の紙も寄れて汚れたひたすら汚い本が数冊。

 

 

「はいどーぞ」

「こ、こんな風になるまでやり込んでるの…」

「そんなもんでしょ」

「いやいや、ここまで汚れてるんは見たことないで…」

 

 

お二人にドン引きされる。そんなに変かなあ。

 

 

とりあえず話は勉強に戻ったのでにこちゃん起こそう。

 

 

「にーこちゃん、朝だよー」

「んむう」

「あっ可愛い」

 

 

起きずにむにゃむにゃしているにこちゃんを見てつい本音が出てしまった。絢瀬さんと東條さんを見たら冷ややかな目線をくれた。どうしたの。寒いよ。視線が。

 

 

「あなた、息をするようににこを可愛いって言うわよね」

「流石にひくわ」

「何を言うか。にこちゃんが可愛いのは自明だから何度言おうと恥ずかしくないぞ」

「ペットやないんやから」

「それ採用」

「やめなさい」

 

 

名案をいただいたのに却下されてしまった。

 

 

「いいじゃないか。にこちゃんがお手してくれたら幸せだよ。ねえ、にこちゃん」

 

 

にこちゃんの方を向いて声をかけたら、にこちゃんの体がビクッ!っとはねた。他2名は驚いているけど、僕は気づいていた。にこちゃんを呼んだタイミングで既に起きていて、僕が可愛いって言ったせいでなんか起き辛くなってしまったことはお見通しだ。

 

 

 

うん、ごめんにこちゃん、反省してる。

 

 

 

後悔はしていない。

 

 

「…、ぐ、ぐう」

「寝たふりしてもダメだよにこちゃん。不自然な寝息はすぐわかる」

「何でにこの寝息に詳しいのよ」

「そりゃ何度も一緒に寝てるからねえ」

 

 

ガタン!!と3方向からでかい音がした。僕以外の3人が一斉に立ち上がった音だ。どうしたみんな、トイレかい。連れションかい。女の子って連れション好きだよね。でもその割には表情が深刻だよ。彗星でも降って来たのかい。降ってきても僕とにこちゃんは入れ替わらないよ。

 

 

「ちょおおおおおおおおっとおおおおおおおお?!?!その言い方だと誤解生むでしょおおおおおおおおお!!!!」

「やっぱ起きてんじゃん」

「に、にこ、まさかあなた…!」

「にこっち、大人になるにはまだ早いんじゃ…」

「違う!違うから!!そういうのじゃないから!!誤解よ!宇宙ナンバーワンアイドルがそんな汚れたこと…!」

「なんだい。あんなに喜んでたのにその物言いは酷くないか」

「茜は黙れえええええええっっ!!!」

 

 

立ち上がった理由がなんとなく想像できたので、敢えて煽ってみる。そしたら、バッシいいいいんといい音のするビンタが飛んできた。痛い。

 

 

「おぶう」

「違うの!そういういかがわしいことはいっっっっっさいない!ないんだからああああああ!!!!!」

「ちょ、わかったから落ち着きなさいにこ!波浜くん死んじゃう!」

「そんなに揺すったら波浜くん首折れるよにこっち」

「あうあう」

 

 

完全にテンパったにこちゃんに全力で揺すられる。意外とパワーあるねえ。おかげで首もげそう。ごめんて。

 

 

ちなみに一緒に寝た、というのは、にこちゃんの弟くんと妹ちゃんの寝かしつけをやっていたってだけ。にこちゃんと2人でやってたんだけど、いつもにこちゃんが速攻で寝ちゃうから寝息はよく聞いた。ついでに寝顔もよく拝んだ。役得というやつだ。しかもにこちゃんとご両親に喜んでもらえる。最高。

 

 

「もう帰る!!」

「待て待てにこちゃん、それなら僕も帰る」

「ついてくんな!」

「あふん」

 

 

遂に鞄を持って飛び出しちゃったにこちゃん。追いかけようとしたら教科書が飛んできた。だから教科書は武器じゃないって。

 

 

「…何というか、あんなに元気なにこは初めてみたわ」

「にこっちいつも不機嫌そうにしてるもんね」

「やっぱりそうなのかい」

 

 

にこちゃんの奇行を見て呆然とする生徒会役員共。ぽつりと言った言葉は彼女らが思っているよりはるかに大きな意味があった。

 

 

友達できたくらいじゃ笑顔にできないのか。

 

 

「にこちゃんほっとけないし、僕も帰るよ。君らはどうする?」

 

 

今更にこちゃんには追いつけないだろうけど、このまま居残るのもなんか気に障る。一応にこちゃんを追うため、ということにして帰ろうと思ったが、絢瀬さんと東條さんを置いていくのも気が乗らない。ジェントルマンだからね。え?何か文句ある?

 

 

「私たちは一度生徒会に寄ってから帰るから心配いらないわ」

 

 

要らぬお世話だった。

 

 

「そうかい、それじゃあまた明日ということで」

「ええ。気をつけて帰ってね」

「ばいばーい」

 

 

3人で教室を出て、鍵を閉めて別れる。鍵は絢瀬さんが返しておいてくれるらしい。便利だ。

 

 

 

 

とは言っても、走るつもりもないので普通に歩いて帰る。まっすぐ帰るつもりだったけど、何かピアノの音が聞こえてきたからちょっと寄り道して音楽室に向かった。途中で音楽は途切れてしまったけど、流石に3年目ともなれば音楽室くらい直行できる。

 

 

音楽室にたどり着くと、誰かが自分が来た道とは違う道へ走り去っていくのが見えた。にこちゃん以外にも廊下ダッシュを厭わない子がいるとは。

 

 

それはさて置き音楽室へ入場。

 

 

「…今度は誰?」

「僕だけど」

「いや誰よ」

 

 

音楽室には1人の女の子がいた。赤い髪のつり目の女の子。ピアノの前に座っているから、多分この子がピアノを弾いていたんだろう。

 

 

「僕は波浜茜、3年生だよ。今度はって、さっきも誰かいたのか」

「ええ。2年生の変な先輩が曲作ってくれって」

「曲?」

 

 

自分も名乗らんかいって文句言おうと思ったけどちょっと後回し。2年生の子が、曲を作って欲しいと。確かスクールアイドル始めた子も2年生。もしかして。

 

 

「スクールアイドルの子に頼まれたのか」

「何でわかったの?!」

 

 

僕の問いに驚愕で答える赤髪少女。目を見開いておっかなびっくりこっちを見ている。反応が面白いけど後回し、予想通りだ。だけど作曲担当もいないのによくスクールアイドルやろうと思ったな。ノープラン極まるね。

 

 

「しかし、作曲っていっても歌詞はあるの?」

「さっき貰ったわ。これ見てもダメだって言うなら諦めるって」

 

 

そう言って四つ折りの紙をひらひらさせる赤髪少女。ちゃんと作詞担当はいるようだ。あとは衣装担当がいればいいけど…心配だ。

 

 

「私はスクールアイドルなんてチャラチャラしたのは嫌いなんだけど」

「へえ。僕は2年前スクールアイドルのマネージャーやってたけどチャラチャラしたつもりはなかったなあ」

「うぇえ?!あなたスクールアイドルやってたの?!」

「マネージャーね」

 

 

すごい叫び方するなこの子。そしてすごい申し訳なさそうな顔してるけど、それよりも年上には敬語使おうね。面倒だから訂正しないけど。あと僕はスクールアイドルじゃないからね。マネージャーだからね。

 

 

チャラチャラしたのは嫌いと言う割には嫌そうな顔をしていないので、なんかスクールアイドル始めた子がうまいこと説得したんだろう。なかなかカリスマのある子じゃないか。

 

 

にこちゃんほどではないけど。

 

 

「そうだよ。今は部長のマネージャーだけど」

「?」

 

 

首を傾げる赤髪ちゃん。なんだ割と可愛いじゃないか。

 

 

にこちゃんほどではないけど。

 

 

「まあそんなことより、言う割には乗り気に見えるけど」

「そ、そんなこと…」

「スクールアイドルの子にはなんて言われたの?」

「え?えっと、チャラチャラしてそうに見えて大変なんだって」

 

 

へえ。

 

 

意外と真に迫ること言うじゃないか。

 

 

2年生の子たち、だいぶ興味が湧いてきたぞ。

 

 

「確かに実際大変だけど、よく理解できたね」

「…腕立て伏せやらされたのよ」

「はい?」

「それも笑顔で」

「はあ」

 

 

何をさせてるんだか。まあ、笑顔で踊るの大変だぜって言いたかったのだろうけど、腕立て伏せじゃなくてもよかろうに。ステップとかさ。

 

 

「散々だったわ」

 

 

髪の毛をくるくるしながら言う赤髪ちゃんは、やっぱり言う割には嬉しそうだ。ピアノを弾けるし作曲もできるのなら、音楽好きと見て間違いないだろう。結局この子もスクールアイドルに興味を持ってしまったということだろう。メンバー増えるかも。5人まで増えるかはわかんないけど。

 

 

そうしたら、絢瀬さんもアイドル研究部の話を出さざるを得なくなる。

 

 

そして必ず新生スクールアイドルたちはにこちゃんの元へやってくる。

 

 

そうなれば、あとはにこちゃんを引っ張りこむだけだ。

 

 

楽しくなってきた。

 

 

にこちゃんの笑顔が、いつの間にか近くなってきた。

 

 

「何笑ってんのよ気持ち悪い」

「失礼な子だな」

 

 

不本意ながら顔に出ていたらしい。いけないいけない、ポーカーフェイスでなくちゃ。

 

 

「で、君は作曲するの?」

「…私は、」

 

 

聞いたら、とても辛そうな顔をして言葉を詰まらせた。何か重大なものを抱えているんだろう、実は指が動かないとか。指がないとか。いやそれだったらピアノ弾けてないか。

 

 

「私の音楽は、もう終わってるから」

「何々聞こえない」

 

 

精神的な話だった。なんだい。

 

 

「だからっ!私の音楽は終わってるって言ってるの!」

「いやセリフが聞こえないんじゃなくてさ」

 

 

なんか勘違いしてるようなのでしっかり言っておく。まあ僕がわかんないように言ったんだけどさ。

 

 

今僕が聞きたいのは君の予定がどうとかじゃないんだ。

 

 

「君の本音が、聞こえないって言ってるんだ」

 

 

真剣な表情でまっすぐ赤髪ちゃんを見つめると、表情を引きつらせて固まってくれた。にこちゃんから「凍りつくからやめて」と評判の表情だ。もちろんやめない。便利だもの。

 

 

「君がどうしたいか、だよ。君の事情は知らないけど、やりたいことを我慢して諦めていかなきゃいけない未来なんて悲惨でしかないんだよ」

「そっ…そんな、知った風に言わないでよ!」

「だから知らないって言ってるじゃないか。君のことは知らないけど、僕のことはよくわかる。どんなに足掻いたって泣き叫んだって取り返せない未来があることを知っている。だから言ってるんだ、取り返しがつくうちに後悔しないようにしろって」

 

 

赤髪ちゃんは黙っていた。急になんか重そうな話を振られて反応に困ってるんだろう。よくある。いやそんなに頻繁にはないか。ないわ。

 

 

「さあ、もう一度聞こうか」

 

 

一歩近づいて告げる。赤髪ちゃんの表情は夕陽が逆光になっていて見えないけど、目が潤んでるように見えた。怖がらせすぎたかなあ。

 

 

なんにせよ、彼女の後押しはしてあげなければなるまい。ここまで言った責任もあるし、新生スクールアイドルのためでもあるし、何よりにこちゃんの笑顔のためだ。

 

 

「君は、どうしたいの」

「…、私は、」

 

 

一回目に聞いた時と同じ切り方をして、しかし声は震えていたし、もっと長い時間をかけて言葉を選んでいるようだった。

 

 

そして、答えが紡がれる。

 

 

「…わからない。わからないわよ…!」

 

 

そう言ってその場で泣き崩れてしまった。えー、これ僕が泣かせた感じか。やだなあ、にこちゃんに怒られそう。黙ってよ。

 

 

赤髪ちゃんは数分泣いた後に結構すぐ復活し、立ち上がった。意外と精神の強い子だ。にこちゃんに次ぐくらい。まあ立ち直ったならなんの文句も言うまい。初めから文句なんてないけど。

 

 

「まあ答えはゆっくり出せばいいか。だいたい僕が答え聞かなきゃいけないわけでもないし」

「あれだけ言っといてあっさりしてるわね…」

「そういう人種なの。まあ日が落ちる前に帰りなさい、ご両親心配するでしょ」

「…そうするわ」

 

 

鞄を持って立ち上がる赤髪ちゃん。相変わらず仏頂面してるけど、ずいぶん柔らかい表情になった。ちょっと気が楽になったのか、とにかくいい顔だ。涙の跡がなければ。

 

 

「…顔洗って帰りなよ。涙の跡がすごいから」

「誰のせいだと思ってるのよ…でも、」

 

 

文句を言ってから、少し恥ずかしそうにこっちを見る。何々告白かい。やだなー初対面なのに。ってそんなわけないか。

 

 

「その…ありがと」

 

 

礼を言って頭を下げる赤髪ちゃん。プライド高そうな子なので頭を下げる光景には少し驚いた。しかし、はて、お礼を言われることしただろうか。寧ろ泣かせたからって言って怒られそうなんだけど。あれ、もしかして親御さんに報告したりしないだろうかこの子。やだ怖い。

 

 

「何のお礼かわかんないな。僕は先に帰ってるよ、幼馴染が僕を置いて帰っちゃったし」

 

 

後が怖いので、後ろで何か言ってる赤髪ちゃんは放っておいってさっさと帰ることにする。ついでににこちゃんも怒ってそうだ、追いかけてこなかったって言って。はあ、困った。

 

 

家に着いてから、赤髪ちゃんの名前を聞くのを忘れてたことを思い出した。まあいっか。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございました。

6,000時超えてました。ノリノリですね私。文章自体はだいぶ前にできてはいましたが。

途中で波浜少年がなんか意味深なこと言ってますが、登場するオリキャラはだいたい後ろ暗い過去があるので気にしないでください。暗い過去持たせとけばカッコよくなるとか思ってないです。ええ、思ってないです。


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嘘つくときは堂々とつけば案外バレない



ご覧いただきありがとうございます。

ソロアルバムⅢが楽しみで仕方ないんですが、そういえばお金ないんでした。貯めなきゃ。でも意地でも全員分欲しいからかなりのお値段が…お高い…仕方ないけどお高い…。お金大事ですね。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

僕は今、学校に行く前に神田明神という地元の神社の無駄に長い階段を上っている。いや本当に長い。つら。

 

 

なぜわざわざ早起きしてこんな疲れることをしているかというと、東條さんに、新生スクールアイドルの子たちが毎朝ここで練習していると聞いたから。彼女が何でそんなこと知ってるのかと思ったけど、ここで巫女さんバイトしてるらしい。なんかタロットカードとか持ってるし、神妙なものが好きなんだろうか。でもタロットは神道とは関係ないよね。和洋折衷かな。

 

 

頑張って石段を登り終えると、4人の女の子が目に入った。3人は知らない子で、1人は知ってる子。この前の赤髪ちゃんだ。オレンジ髪の女の子とひとつのイヤホンで曲を聴いている。おや、キマシタワーかな。

 

 

歩いて近づくと、茶色っぽい髪のトサカが生えた女の子がこっちに気がついた。くりっとした目でなかなか可愛い子だ。にこちゃんには及ばないけど。あと背が…僕より高いな。はあ。

 

 

まあなんにしても、赤髪ちゃん以外の3人が新生スクールアイドルだろう。取り敢えず挨拶せねば。

 

 

「どうも、おはよう。君たちがスクールアイドルの3人かな」

「え、お、おはようございます…」

 

 

トサカ少女がちょっと警戒しながら挨拶を返してくれた。いい子だ、いい子だけどなんか悪徳商法にやられそうで心配。トサカ少女の返事で残り3人もこちらに気づいたようだ。赤髪ちゃんと、黒髪ロング撫子と、オレンジ髪少女。君たちキャラ濃くない?え?僕ほどじゃない?聞こえない聞こえない。

 

 

「えっと、どちら様でしょうか…」

「おっと失礼、3年唯一の男子生徒である波浜茜です。よろしくね」

「先輩だったんですか?!てっきり1年生かと思ってました!!」

「オレンジちゃん僕はとっても傷ついたよ」

 

 

絶対このオレンジちゃん、身長見て言ったよね。同級生には男子生徒いないから1年生だと思ったわけだ。泣いていい?

 

 

「す、すみません!穂乃果、謝って下さい!」

「わわわ、ごめんなさい!」

 

 

ちゃんと謝れる子で何より。不躾な子じゃなくてよかった…いや不躾かもしれない。

 

 

「大丈夫、敬語使えるだけそこの赤髪ちゃんよりマシだよ」

「うぇえ?!」

 

 

また変な声を出す赤髪ちゃん。面白いなこの子。

 

 

「まあそんなことより君たちも名前教えてよ。スクールアイドル、興味あるしさ」

「本当ですか?!」

「うぉあ、近い近い」

 

 

興味あるといっただけで、オレンジちゃんはものすっごい顔を近づけてきた。この子あれだ、一般の男性の前に出しちゃいけない子だ。きっと周りもご本人も危ない。

 

 

「私、高坂穂乃果って言います!スクールアイドル始めました!!」

「おーけおーけー、わかったから離れようか。近い近い」

 

 

さらにぐいぐいパーソナルスペースに侵略してくる高坂さんを、両手を前に出して制しながら離れるように告げる。怖いよこの子、とにかく勢いが怖い。

 

 

「穂乃果、離れなさい!…すみません、穂乃果はいつもこんな感じなので…。私は園田海未と申します。よろしくお願いします」

「私は南ことりです。よろしくお願いします」

 

 

高坂さんを無事引き剥がしてくれたお二人が自己紹介をしてくれる。黒髪の大和撫子が園田さん、アッシュブロンドのトサカちゃんが南さんだそうだ。お二人はまともであるらしい、ありがたい。

 

 

「で、赤髪ちゃんは?」

「うぇえ、私?!」

 

 

君も名乗ってないでしょうに。こら髪の毛くるくるして誤魔化さない。

 

 

「私の名前なんて」

「この子は西木野真姫ちゃんです!」

「ちょっと!」

 

 

リークありがとう高坂さん。赤髪ちゃんが西木野さんだということが判明した。よかった。

 

 

ん?西木野?

 

 

病院の?

 

 

お金持ちじゃん。

 

 

まあそれはおいといて。

 

 

「結局曲作ったんだね」

「何のことよ」

「はいはい嘘つかない」

「何のことよ!」

 

 

徹底して誤魔化す西木野さん。顔真っ赤だよ、全然誤魔化せてないよ。恥ずかしいのかな?

 

 

「あれ、波浜先輩と真姫ちゃん知り合いなんですか?」

「一回泣かせた仲だね」

「えっ」

「何であなたわざわざ自分が悪者になるような言い方するのよ。っていうか泣いたことは言わないで!」

 

 

面白いじゃん。みんなの反応が。ちなみに犠牲になるのは僕の信用。うん、割に合わないな。

 

 

「先輩ちょっと…ごめんなさい」

「待った待った別に暴力振るったとか暴言吐いたとかそんなバイオレンスな話じゃないからね。西木野さんの本音が聞きたいんだって言ったら泣いちゃったんだよ僕は悪くない」

「何で全部言うのよ!」

「だって誤解を解くには全部説明するしか」

 

 

ドン引きしてる3人にちゃんと説明したら今度は西木野さんに怒られた。何だこれは、まさに八方ふさがり、四面楚歌。味方いないじゃん、助けてにこちゃん。いやにこちゃんに女の子泣かせたってバレるのは避けたい。自力で乗り切るしかないじゃん。はあ。

 

 

「まあ、泣かせた件については僕の配慮不足だよ、ごめんね」

「だから言わないでって…。でも、あれは私が勝手に泣いちゃっただけだから気にしないで」

 

 

というわけで被害者の言を頼らせていただく。これで被告人は無罪放免なはず。無罪放免だよね?ちょっと3人組を見てみると、いややっぱりまだ引いてる。にこちゃんヘルプ。いやだめだ、女の子泣かせたことを知られたら以下略。

 

 

よし、諦めよう。

 

 

如何に引かれようとも僕にはにこちゃんがいるし。

 

 

「まあいいや、僕はもう行くよ。君たちも早くしないと遅刻するよー」

 

手をひらひら振りながら石段に向かう。後ろの方で時間を確認してわーきゃーしてるのが聞こえるけどほっといた。

 

 

 

 

で、お昼ご飯はいつものように部室でお弁当。

 

 

なんだけど、

 

 

「僕が悪かったからお弁当食べな」

 

 

今、にこちゃんは機嫌を損ねちゃってる。理由は明白、僕が朝にこちゃんを呼びに行かなかったからだ。ちゃんと「用があるから先行くよ」ってメールしたんだけどね。それでもにこちゃんがご機嫌斜めなのは、きっと僕の「用」が女の子たちに会うことだったのが原因だろう。可愛いかよ。

 

 

「ほらほら今日は卵焼き甘くしたからさ。ちゃんと食べよ」

「…」

 

 

卵焼きを凝視しながら、しかし黙って動かないにこちゃん。お腹は減ってるんだろう、どうせ僕を困らせるためのやせ我慢だ。そんなもん効かないというのに、困ったちゃんだ。あ、しまった僕困ってる。ちゃんと効いてる。さすがにこちゃん。

 

 

「新しくできた、スクールアイドルの子たちに会ってきたんだってね」

「その通り。誰に聞いたのかな」

「希が教えてくれたわ」

「意外とおしゃべりさんだ」

 

 

というか、僕が東條さんの言葉に従って会いに行き、それをにこちゃんが知るまでを計算しての発言だったのかもしれない。だったら怖い。スピリチュアル怖い。

 

 

「…スクールアイドルなら、私がいるのに」

 

 

ふてくされて呟いた声は、小さいながらもこの静かで狭い部室では良く聞こえた。今日もジェラシーが捗るねにこちゃん、かわいいわ。

 

 

「今は活動してないじゃないか」

「またやっても誰も見てくれないし」

「僕がちゃんと見てるよ」

「…だったら茜専用のアイドルでいいわ」

 

 

おっと危ない発言だよにこちゃん。ここで僕に襲われたら誰も助けは来ないからね。茜専用なんて言っちゃいけないよ。決して興奮したわけではないけど。興奮したわけではないけど。

 

 

「宇宙ナンバーワンアイドルがそんな消極的でどうするのさ」

「何よ、あの子たちと一緒にスクールアイドルやれって言うの?」

「なかなか楽しい子たちだったし、やる気も満々だったよ」

「ふん、やっぱり新しい子たちの方が興味あるんじゃない」

「どうしたのにこちゃん、今日やたら面倒くさい子になってるよ?」

 

 

にこちゃんジェラシーは割と慣れたもんだけど、今日はいつもよりしつこい。おそらく僕が他の女の子に興味を持ってることと、他の子たちのスクールアイドル活動に首突っ込んでるのが気にくわないんだろう。しかし僕もにこちゃん再起のための努力は惜しみたくない…。どうしようか。

 

 

「どうもしてないわよ」

「それならほら、お弁当。はいあーん」

「むー」

 

 

箸でにこちゃんの弁当箱の卵焼きをつかみ、彼女の方に差し出すと、案外素直に口を開けた。うん、かわいい。そしてちょろい。

 

 

はむっ、と卵焼きを口に含んでもぐもぐするにこちゃん。親鳥気分でにやけてしまいそうになるが、いけないいけない、ポーカーフェイス大事。

 

 

無事卵焼きを飲み込んだにこちゃんがこっちを睨む。あれ、意外とちょろくなかったかな。

 

 

「茜…あんた…」

「僕何かしたかな」

「卵焼き甘くないじゃない!」

 

 

ダァン!と机をぶっ叩くにこちゃん。女の子がそんな悪鬼の表情するのはだめよ。

 

 

「だって嘘だし」

「ほんっとに!息をするように嘘つくわねあんた!!」

「こらにこちゃん、机叩いちゃだめだよ」

 

 

引き続き机バンバンを続けるにこちゃんをたしなめる。あんまりやると主ににこちゃんの手のひらがやばい。

 

 

「あームカつく!」

 

 

とか叫びながらがつがつ弁当を掻き込むにこちゃん。やっぱりお腹減ってたんじゃないか。あと女の子の食べ方じゃないよにこちゃん。元気になったようで何よりだけど。

 

 

一気に弁当を食べちゃったにこちゃんは弁当箱を引っつかんで思いっきり立ち上がる。おお、荒れてるねえ。僕のせいか。

 

 

「放課後ちゃんとここ来なさいよ!」

「お勉強会はどうすんのさ」

「サボる!」

「こら」

 

 

堂々と宣言するねえ。それについて苦言を呈そうかと思ったらダッシュで出て行ってしまった。全くせわしない子だ。あと廊下走ると危ないよ。

 

 

 

 

「私たちも明日の準備が忙しいから、どちらにせよ今日は勉強会はできなかったから気にしないで」

「生徒会でちゃーんと管理しんと、みんな混乱するから。ごめんね」

「いや僕は頼まれてる側だから一向に構わないよ」

 

 

昼ごはんの後教室で絢瀬さんと東條さんににこちゃんの奇行を伝えたらこう言われた。明日は部活動紹介だか何だかあるんだっけ、大変なことだ。ちなみに我らがアイドル研究部は不参加。にこちゃんがやらないって言ったらやらないのだ。

 

 

「それより、明日は波浜くんはどうするん?」

「明日?明日何かあったかな」

 

 

東條さんに聞かれて疑問符を浮かべる。別ににこちゃんとデートとかの予定は入っていないはずだ。部活動紹介とか関係ないし。そんなこと考えていたら、東條さんが怪訝な顔をしているのが目に入った。なんだい。

 

 

「波浜くん、穂乃果ちゃんたちから聞いてないん?」

「ホノカチャン…?ああ、スクールアイドルのオレンジちゃんか」

「オレンジちゃんて」

「高坂さんだったっけ。特に何も聞いてないけど」

「スクールアイドルのライブ、明日なんよ」

「なんと」

 

 

知らなかった。ってそういうことは真っ先に言いなさいよオレンジちゃん、お客さん集まらなくても知らないよ。行くけど。

 

 

行くけど、観客としていくつもりじゃないんだよなあ。

 

 

「なんかいろいろ心配になってきたぞ」

「もう、2人とも、そんなにスクールアイドルが好きなの?」

「僕が好きなのはにこちゃんだぞ」

「ぶれないわね」

「ぶれへんなあ」

 

 

僕らの会話が気に入らないご様子の絢瀬さん。ふくれっ面してるのももっとみんなに見せてやるといい、モテるよ。ここ女の子ばっかだけど。

 

 

「まあ気に入らなくても僕は構わないんだけど、邪魔するのはやめてよ。せっかく一生懸命やってんだ」

「…わかってるわよ」

「わかってんのかなあ」

 

 

僕の周りの女の子、扱いが面倒くさい子ばっかじゃない?東條さんは東條さんで読めないし。新生スクールアイドルも高坂さんだし。西木野さんもツンデレ子ちゃんだし。にこちゃんかわいいし。

 

 

とにかく、絢瀬さん的にはこの状況は面白くないらしい。何がそんなに気に入らないのか知らないけど、この感じではあの子たちの邪魔をしかねない。流石にライブそのものを邪魔することはないと思うんだけど、気をつけるに越したことはないか。

 

 

「まあ僕は邪魔されても問題ないように、彼女らを手伝いに行くわけだけどね」

「え?お客さんとして行くんじゃないの?」

「おっと口が滑った」

 

 

滑らせたんだけどね。

 

 

「ライブでお手伝いなんて、ビラまきでもするのかしら」

「ビラまきしてもいいけど、僕は得意なことがあるからそっちやるよ」

「「?」」

 

 

首をかしげるお二人。まあ見てなさい、僕の本業の実力。グラフィックデザイナーとして意外にも活躍してんだから。

 

 

ここでチャイムが鳴って、授業開始と相成ったため彼女らの疑問は解消されなかったけど、どうせ明日わかるんだからいいか。

 

 

 

 

授業後はお誘い通り部室へGO。にこちゃんは珍しくまだいなかった。掃除当番かなんかだろう。それか居眠りのお叱りを受けてるか。前者であることを祈ろう。

 

 

適当に手近な椅子に座って、にこちゃんが集めたスクールアイドルグッズの数々を眺める。一室の壁を埋め尽くすほど集められたそれは彼女の象徴であり、命。彼女の高校時代はまさにスクールアイドルに支えられている。友達いないし。いや絢瀬さんと東條さんは友達なんだっけ。まあそれは置いといて。

 

 

彼女が求めた夢は破れてしまったけど、やっと今新しい希望が見えてきた。新生スクールアイドルという希望が。

 

 

明日のライブ、大事なことは成功することじゃない。というか初ライブが成功する方が怖い。

 

 

ライブが失敗しても折れない心と。

 

 

ライブを楽しむ心。

 

 

どうか、どうかにこちゃんの心を潤すほど明るい笑顔を見せて欲しい。

 

 

「…必ず守るぞ。にこちゃんの笑顔を、今度こそ」

 

 

小さく声に出して自分自身に聞かせる。誰とも異なる、にこちゃんのための僕の目的。にこちゃんが笑顔を取り戻し、これから先笑顔を失わないように。

 

 

そのためなら何だってしてみせる。

 

 

と、決意を新たにしていると、部室の扉がバァン!と開いた。急いで笑顔を作り直して入り口を振り向く。

 

 

「にこちゃん、そんな勢いよく扉開けたら壊れるよ」

「うるさい!そんなことより茜、これ!」

 

 

そんなことって。扉大事だよ。

 

 

一瞬で僕の目の前に来たにこちゃんが手に持ってる紙をこっちに突きつけてくる。近いよにこちゃん、近くて見えない。

 

 

「ふむ」

 

 

紙を受け取って見てみると、他でもない、新生スクールアイドルのライブのお知らせのチラシだった。手書きを印刷したものだろうけど、まあまあセンスあるチラシだ。っと、注目するポイントが違うか。

 

 

「結成して間もないのにもうライブですって!身の程知らずにもほどがあるわ!」

「うん。確かにちょっとこの辺の配色が」

「そんなとこ気にすんなーっ!!」

 

 

にこちゃんにチラシを取り上げられた。ああ、まだ精査の途中だったのに。

 

 

「チラシが問題なんじゃなくて!ライブよライブ!ぜっっっったい悲惨なライブになるに決まってるわ!!」

「でも行くんだろう」

「いっ………行かないわよ!」

 

 

結構な間があったけど突っ込まないでおこう。にこちゃんが「行かないってことにしてる」なら僕も行かないことにしておく言い訳になるし。

 

 

「まあにこちゃんが行かないって言うならいいけどさ」

「そっ…そうよ、行く意味なんてないわ、ちょっと期待してなんかもいないし!」

 

 

期待してたんかい。

 

 

こりゃ絶対行くな。

 

 

「そうかい。どっちにしろ明日は本職の仕事も詰まってるし、一緒には行動できないな」

「そう、それは仕方ないわね」

 

 

あっさり納得するにこちゃん。いつもならぎゃあぎゃあ文句を言ってくるところなのにね。別行動で好都合だというのがバレバレだ。ほんとかわいい。

 

 

「さ、僕も本職の準備したいし、今日は早めに帰ろうか?」

「そうね。たまには早く帰ってもいいわね!」

「今日もにこちゃんの家寄っていいかい」

「もちろんよ。こころもここあも虎太郎も会いたがってたし」

「最近寄ってなかったもんねえ」

 

 

同時に鞄を背負って部室を出る。僕はしばらく前からにこちゃんハウスにお邪魔して、矢澤家のお子様の相手をしたり、ご飯作ったりしている。通い妻かよ。通い婿か?まあいいや、とにかくそうやって仲良くさせてもらっている。なかなか家に帰ってこないにこちゃんのご両親へのせめてもの恩返しだ。

 

 

「久しぶりだしハンバーグ作ろうか」

「ほんと?!…んんっ、こ、こころたちも喜ぶわね」

「主に喜ぶのはにこちゃんだろう」

「うううううっさいわね!」

 

 

仲良く並んで帰るのも久しぶりだった気がする。たまにはこんな平和な帰路もありだな。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございました。


ちなみに私自身はグラフィックデザイナーのお仕事が何なのかさっぱり知りません。絵を描くのは好きなんですけど。


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暇な時に限って案外やることがない


ご覧いただきありがとうございます。

お気に入りが増える毎に感激で寿命が伸びております。おかげさまで還暦までは生きられそうです。頑張ります。

さて、そろそろμ's初ライブとなります。同時に波浜ボーイの本領発揮回です。天才だらけの一端です。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

というわけで、今日は新生スクールアイドル、「μ's」の初ライブだ。…μ'sって誰がつけたんだろう、ギリシャ神話の女神様だったと思うけど、9人だった気がする。三分の一しかいないじゃない。君たち3人じゃない。いいのかな。

 

 

今日は珍しくにこちゃんは一緒じゃない。おおよそどっかで潜伏してライブ会場である講堂に侵入するつもりだろう、読めてる。僕もわざわざにこちゃんの邪魔はしない。むしろ支持する。

 

 

授業も早く終わるしありがたいけど、講堂を使うのはμ'sだけじゃなく、演劇部が使った後らしい。時間的に機材のセッティングは間に合わないだろう。

 

 

間に合わないだろうから、授業サボって講堂に来た。

 

 

皆勤賞?いらないよ。もう働いてんだし。

 

 

講堂にはすでに、演劇部が依頼したのであろう照明業者が機材の搬入・設置を行っていた。うん、ありがたい。ちょっとお金渡せばμ'sの出番にも貸してくれるんじゃないかな。

 

 

こう見えて、業界じゃトップランクに有名人だし。

 

 

「みなさんおはようございまーす。お久しぶりな方が多いですね」

 

 

「…?どちら様…って、えええええ?!茜さん?!何であなたがここに?!」

「えっ茜さん?!嘘、どこ?!」

「先輩、茜さんって誰です?」

「バッカお前、SoSの本名だよ!サウンド・オブ・スカーレット!」

「ま、まじっすか?!あんな小さい人が?!」

「新人さん聞こえてるよ」

 

 

…とまあ、このくらい有名人だ。

 

 

ペンネーム「Sound of Scarlet」…CGや3Dなどの多方面でのグラフィックデザインを始め、3DCGアニメーションムービーなどの動画、舞台演出や照明演出、空間デザインや服飾デザインなどのリアルでの演出まで、視覚に関わるあらゆるデザインを1人で全て請け負うデザイナー界の神童…って某百科事典に載ってた。大げさだよ。誰が神童だよ。神童ならもっと身長をくれ。ほんとに。切実に。

 

 

とにかく、僕個人への依頼以外にも、大手からドマイナーまで様々な業者から、こっそり後ろ支えとして仕事を依頼されるためだいぶ顔が効く。海外にも効く。すごいでしょ?

 

 

「まさかここでお会いできるとは思いませんでしたよ」

「あー半年ぶりくらいでしたっけ。神戸ではお世話になりました」

「いえいえ、あのときは本当に助かりました!…ところで、今日はどのようなご用件で?」

「ああ、あなたたちの後に僕の出番があるから下見に。それにしても結構大掛かりに用意してますねえ」

「個人依頼とは…この学校お嬢様でもいるんでしょうか。ええ、何でも今年は新入生が少ないそうですから、新入部員を集めるのに躍起になってるようでして」

 

 

まあ1クラスしかないもんねえ。でもちょっとお金かけすぎじゃないかな、今後の公演に響かないといいけど。

 

 

「なるほどね。まあこっちも都合がいいですね。申し訳ないですけど、よければ僕の出番まで機材貸してくれませんか?お金は払うので」

「もちろんですよ!お代もお気になさらずじゃんじゃん使って下さい!」

「いやそうはいきませんよ。あなたたちも商売なんだし」

 

 

交渉はすんなりうまくいった。しかも協議の結果、予定の半分くらいのお値段で貸してくれることになった。こっちは実は無償でやってるからありがたいっちゃありがたいけど、あんまり姿勢低くしないほうがいいんじゃないだろうか。業者的に。

 

 

「こんな安くていいんですか?こっちは皆さんの名前は機材提供としてしか載せられないんですが」

「いやいやいや!茜さんの作品に名前を載せてもらえるだけで私たちの評価は激増しますから、むしろこれでも高いくらいですよ!」

 

 

そんなに影響あるかなあ。

 

 

「あと機材の調整見ていただきたいですし」

「それは別料金もらいますよ?安くはしますけど」

「ですよねー」

 

 

流石にそこは譲らないよ。僕も生活があるんだ。

 

 

 

 

 

そうして機材調整を見てあげていたらお昼になった。今日はお弁当はにこちゃんに既に渡してあるので、わざわざここを離れなくていい。というか僕のお昼はおにぎり2個だし。時間ないから。あとお腹の容量。

 

 

おにぎりを講堂の管理室の扉の前でもりもり食べてると、3人の女の子が目の前に現れた。音ノ木坂の制服着てて、リボンの色が2年生だから、μ'sのお手伝いさんかもしれない。演劇部の子かもしれないけど。

 

 

「やあこんにちは、ここを通りたければ僕を倒して行くんだな」

「えっ…えっ?」

「ごめん、謝るからドン引きはやめてつらい」

 

 

冗談言ったらドン引きされた。初対面で冗談はダメなのかな。

 

 

「えっと…あれ、音ノ木坂の方ですか?」

「ですよ。3年生唯一の男子生徒、波浜茜です。よろしくね」

「あ、はい、よろしくお願いします…じゃなくて!私たち、スクールアイドルのライブのお手伝いでそこ使いたいんですけど、大丈夫ですか?」

 

 

大丈夫って何がだい。ってツッコもうかと思ったけどやめといた。学習するんだよ僕は。

 

 

そしてスクールアイドルお手伝い班で合ってた。というかちゃんとお手伝いいて良かった。いなかったらどうしようかと思った。

 

 

「大丈夫も何も君たちを待ってたんだよ。はい名刺」

「待ってたってどういうことですか?しかも高校生が名刺…ってサウンドオブスカーレット?!」

「ヒデコ知ってるの?私知らない」

「私も」

「知ってるも何も!メッチャ有名なデザイナーさんだよ!私すっごい好きなの!この財布のデザインもSoSさん!」

 

 

一般人は知らないかと思ってたけど以外と名が売れてた。ヒデコと呼ばれた女の子がポケットから取り出した財布は、白地に桜色と金色で蔦と花をあしらった可愛らしいデザインの財布だった。確かに、なんか女の子向けにって依頼であんなのデザインした気がする。でもそれを本人の前で出すのはちょっとだいぶ恥ずかしい。やめようか。やめて。

 

 

「わあ!すごくかわいい!」

「私も欲しい…」

「何でもいいけど早く作業始めなさいよ」

 

 

きゃいきゃいし始めたお手伝いガールズに釘をさす。時間ないんでしょ。っていうか僕が爆死するからやめて。

 

 

「っは!す、すみません…。あの、私たちを待ってたっていうのは…」

 

 

ヒデコといった女の子は礼儀正しく頭を下げながら、おずおずといった感じで質問してくれた。状況がわからないながらもテンパらない感じ、いいね。お仕事有能感が出てる。

 

 

「うん、僕もスクールアイドルに興味があるから。許可は取ってないけど、裏方をお手伝いしようと思って。ほら、照明とか音響とか、素人だけじゃ大変でしょ」

 

 

説明してあげると、3人はすっごい笑顔になって喜びだした。大方、ビラまき呼び込みがメインで、舞台関連のことはうまくできる自信がなかったのだろう。そりゃそうだ、そう簡単にできるものでもないし、機材だって限られているのだから。そんな彼女らにとって、僕の出現は正しく渡りに船、といったところだったのだろう。

 

 

「い、いいんですか?!でも確かSoSって依頼料かなり高かった気が…」

「よく知ってるね。僕もお金欲しいから高めにしてるけど、今回はボランティア。無償だよ」

 

 

というかにこちゃんのためだしね。お金もらってる場合じゃないよね。

 

 

さっきの機材調整費はもらったけど。

 

 

「わあぁ…!ありがとうございます!」

「さあ、時間ないし打ち合わせでもしようか?」

 

 

感謝はおいといて。

 

 

僕らは僕らの仕事をしなきゃね。

 

 

 

 

 

「カメラこの辺でいい?」

「んー、もうちょい右!あ、私から見て右!そう、そこ!ストップ!」

 

 

うーん。

 

 

お手伝いさんたち、めっちゃ有能。

 

 

教えたことのほとんどは理解して勝手にやってくれる。おかげでこっちも細かい調整だったりプログラミングだったり専門分野に集中できる。そこらへんの業者より有能だ。雇おうかな。

 

 

「茜さーん!セッティング終わりましたよー!」

「んー、ありがとね。こっちはまだ時間かかりそうだけど、君ら手が空いてるならビラまきとかしてあげて」

「手伝うこととかないんですか?」

「ないね。ここらはもう専門家の領分だから、変に首突っ込まない方がいい」

 

 

準備が終わったお手伝いガールズが戻ってきたけど、あいにくちょっと人任せにできない仕事をしている。なので体よく追い払う。というか実際人寄せはしないとヤバいと思う。

 

 

「そうですか…」

「ほら、シュンとしないで。まだやることあるんだから、友達のために頑張ってらっしゃいな」

 

 

しょげてるお手伝いガールズの背中をペシペシ叩いて励ます。励ましになってるかはわかんない。ほとんど人を励ましたりしないもん。でも、3人ともちょっと元気になって「いってきます!」って言ってパタパタ出て行ったから多分成功だろう。いいだろ成功で。

 

 

さて、1人になったわけだし、やるべきことはやってしまおう。まず音楽再生、それに合わせて照明演出プログラム作成、切り替えタイミングは手動。カメラワーク設定、音響調整、その他諸々。μ'sの子らの要望に極力沿うように全て整える。彼女らの動きから、1番映える画面を予測する。後で動画上げるだろうし、どうせなら綺麗に撮ってあげたいもんね。

 

 

一通り作業を終えて外に出たら、業者の方々が丁度来たところだった。演劇部の出番が近いということか。軽く挨拶して管理室を後にし、ちょっとうろついて時間を潰すことにする。

 

 

 

 

 

あっちもこっちもいろんな部活が新入生を交えて活動していた。1年生自体が少ないけど、いや、だからこそか。みんな気合が入ってる。外に見える運動部たちはほぼ女子高なのに素晴らしくテンション高い。むしろ女性の方がテンション高い可能性もあるけど。

 

 

そんな中、ビラまきしている一団が。μ'sの3人と、お手伝いガールズ3人。ビラは配れてるようだけど、さて、実際何人が来るものか。受け取った人数がそのまま来るわけないし、下手したら全く来ないかもしれない。

 

 

まあ、実際、正直なところ。

 

 

誰も来なくてもしょうがない。

 

 

知名度ゼロから始めたらそんなもんだ。僕らのときはたまたま人が来てくれたけど、それでも両の手で足りる人数。メンバーの知人とか、そんなレベル。

 

 

そこで折れないかが問題なんだ。

 

 

そこで折れちゃ、続かない。

 

 

にこちゃんを交えて活動したら、また2年前の二の舞を演じる羽目になる。

 

 

彼女らは、今後もスクールアイドルを続けるなら。

 

 

人がいなくたって、誰も見てくれなくたって、楽しく歌って踊れるべきなんだ。

 

 

それが、アイドルってもんだろう?

 

 

なあ、にこちゃん。

 

 

 

 

 

正直なところ、することは全くなかったので気まぐれに屋上に来てみた。何故か知らないけどなんか綺麗になっている。誰がこんな辺境の地を掃除したのかと思ったら、あちらこちらに複数の足跡が見えた。

 

 

懐かしい感じがする。規則的に、しかし完全に一定ではないような足跡。きっとダンスの練習でついた跡だろう。μ'sの3人は意外にもこんなところで練習していたわけだ。まったく、邪魔が入らないとはいえ、直射日光が直撃するうえに雨風強い日は使えないというのに。無茶する子たちだ。

 

 

僕らは狭いながらも部室はちゃんとあったので、机をしまってそこで練習していた。以前は今ほどにこちゃんのコレクションは多くなかったし、物も少なかったから案外余裕があった。踊る場所には相応しくない気もしたが、安定して練習できる環境ではあった。今のスクールアイドルたちにはそれすらないらしい。それでも負けずに練習してきたのだ。曲も作れないくせに。

 

 

彼女らなら、にこちゃんと一緒にいても離れないでいてくれるだろうか。

 

 

いや、早計はよくない。やっぱりちゃんとライブを見届けてからだろう。どれだけの気概でスクールアイドルをやろうと思ってくれているのか、しっかり見てから判断しよう。

 

 

正門に目を向けると、μ'sの3人がお手伝いガールズ3人に残りのビラまきを託して校舎に戻るところだった。まだ演劇部がなんかやってる時間のはずだけど、衣装に着替えたりまあいろいろやることがあるのだろう。僕は彼女らに遭遇しないようにもう少し時間をおいて行こう。あくまでこっそりお手伝いしないといけない。いやいけないわけじゃないんだけど、にこちゃんが不機嫌になりそうだから。どうせ演出の癖とかでバレそうだけど。

 

 

一際強い風が吹いて、地面の木の葉が舞い上がる。それに混じってライブのビラが一枚飛んできた。キャッチしようと思ったらべしっと顔にへばりついた。かっこわる。

 

 

顔から剥がしてみてみると、手書きであろうビラが目に入った。なかなか可愛らしい絵だけど、誰が描いたのだろうか。なんとなく南さんな気がする。高坂さんではないだろう、あの子は確実に絵が下手だ。園田さんもちょっとイメージに合わない。んー、でも意外と高坂さんっていう線もある。まあ今気にすることではないか。

 

 

いつか彼女らのビラも描くことになるのかな。

 

 

…描いてみたい。この先何人になるかわかんないけど、彼女らの宣伝はしてみたくなる。不思議と応援したくなる。そんな魅力を感じた。人を惹きつけるというか、魅せるというか。案外スクールアイドルにぴったりな子たちなのかもしれない。

 

 

…なんで僕はにこちゃんに関係ないことまで考えてるんだ?

 

 

ふと我に帰ったら、演劇が終わるくらいの時間になっていた。ちょっとのんびりしすぎたかもしれない。ちょっと急ぎ目で管理室まで向かった。

 

 

 

 

 

 

「ああっ先輩!!助けてください!!」

「どーしたの一体」

 

 

管理室に入るなり、管理室に既にいたお手伝いガールズの1人が半泣きでヘルプを求めてきた。このタイミングでトラブルは困る、というか、君そこの機材の操作できるの。勝手に適当にいじったんじゃないでしょうね。

 

 

「機械の操作の仕方が全然わかんないんです!!」

「ああ、うん、」

 

 

だろうね。

 

 

「このままじゃ穂乃果たちのライブに間に合わない…」

「あーわかったわかった僕が動かすから泣かないの」

 

 

最近僕の周りで泣く子増えてないかな。僕は悪くないぞ。悪くないよね?

 

 

「ほとんど用意は終わってんだから心配しなくていいのに。えーっとプログラム呼び出して、起動準備はOK、カメラ初期位置問題なし」

 

 

なにさ、やることほぼないじゃん。まあ僕が後でわたわたしないように準備しといたんだけどさ。

 

 

「…っえ、もう終わったんですか?」

「そりゃ午前中に全部仕込んでおいたからね」

「よ、よかった…」

 

 

へたりこむ女の子。どんだけ心配性なんだ。

 

 

椅子に座ってどうしたものか考えてると、不意に管理室の扉がノックされた。このタイミングでここに人が来る予定はないんだけど…、何事だろう。てか誰だろう。

 

 

「どーぞー、鍵は開いてるよ」

「失礼します…って、波浜くん?」

「あれ、会長様だ」

「普通に呼んでくれないかしら」

 

 

扉を開けて礼儀正しく入ってきたのは我らが生徒会長、絢瀬さんだった。何しに来たんだろう。あんまりスクールアイドル活動に肯定的ではなかったはずだけど。まさかこっそり見るためにわざわざ管理室まで来たんだろうか。ありうる。

 

 

「どうかしたのかい」

「あの子たちのライブの映像をもらおうと思って」

「永久保存版かい。大ファンじゃないか」

「違うわ。ネットに上げて、反応見たいのよ」

「お嬢様、肖像権というものをご存知ですかな」

「うっ」

 

 

ネットに上げるといっても親切心ではないだろう。あんまり評価が良くないのを期待してるのか、袋叩きにされるのを望んでるのか、とにかく悪意で思いついたことだろう。でも本人の許可なく動画を載せるのは感心しないぞ会長。

 

 

「まあいいけど」

「あなたが許可出していいの?」

「僕が動画のセットアップしてるからいいでしょ多分。ライブ終わったら渡すから、せっかくだからここからライブ見ていきなよ」

 

 

一応制作陣の1人なわけだし、許可も出せるだろう。だめかな。まあいいや多分本人たち気にしないし。

 

 

「ライブ…できるかしら。誰もいないけど」

 

 

そう言って窓から講堂の中を見る絢瀬さん。もう開始まで数分というところなのに、講堂には人の気配は皆無だった。きっとどこかににこちゃんが潜んでるのだろうけど、ここからはさっぱり見えないし、にこちゃん以外は人っ子一人いない。

 

 

「まあそうだろうね」

「まあそうだろうねってあなた」

 

 

まあ予測してた事態だけどさ。

 

 

「そりゃできて1ヶ月もないスクールアイドルのライブなんて来ないでしょうよ。他の部活の体験もあるんだし」

「やけにあっさりしてるわね…」

「経験者なのでね」

 

 

経験者なめんなよ。

 

 

「先輩、もうすぐ時間です!」

「はいはい了解」

「え、あなたが操作するの?」

「他に誰がいるんだい」

「そこの子かと…」

「はっはっは、素人に操作できる機材に見えるかい」

「あなたが操作できるようにも見えないわよ…」

 

 

ブザーと緞帳の準備を始める僕に驚く絢瀬さん。そういえば彼女には僕の本職教えてなかったな。まあ教える意味もないけど。サウンドオブスカーレットを知ってれば、動画アップするときにクレジット見て気づくかもしれない。でも別に気づかなくていい。

 

 

「3、2、1…ブザーお願いします!」

「はーい」

 

 

ブザーのボタンをポチッと長押し、たっぷり5秒間ぶーっというよくあるブザー音を鳴らし、指を離すと当時に緞帳を開くボタンを押す。

 

 

誰もいない講堂の舞台の、幕が上がった。

 

 

 

 

 

『ごめんね、頑張ったんだけど…』

 

 

お手伝いガールズの声がスピーカー越しに聞こえる。衣装に身を包んだ舞台上の3人は講堂の様子を見て随分ショックを受けているようだった。無理もない、一念発起して臨んだライブで、まさか1人として客がいないとは思わなかっただろう(にこちゃんいるだろうけど)。

 

 

『ほのかちゃん…』

『穂乃果…』

 

 

南さんと園田さんの声が、限りなく弱々しい声が、辛うじて聞こえた。むしろよく声が出たものだ、絞り出すような声であっても精神力が及ばなければそこで崩れ落ちてもおかしくない。

 

 

『そっ、そりゃそうだ!…現実、そんなに、甘くない…!』

 

 

明らかに無理して明るい声で言う高坂さん。しかし、ここから見ても涙が止まらないのがすぐにわかった。あんだけ無駄に元気な子でも、こんな惨状の前では元気は品切れなようだ。

 

 

大きな挫折だろう。心が折れただろう。ここまで届く嗚咽が全てを物語る。

 

 

「ほら、見なさい。こんな結果になったじゃない」

 

 

意外にも悲しそうな、ん?辛そうな?よくわからない、とにかくネガティヴな表情で言う絢瀬さん。何か彼女にも思うところがあったのか。

 

 

僕は絢瀬さんの言葉には返事せず、椅子から立ち上がって扉へ向かう。

 

 

「あなたも諦めた?」

「まさか」

 

 

次の問いには答えた。扉の前で立ち止まり、絢瀬さんの方に振り返る。

 

 

確かに、客がいなくてショックで歌えないとなると、メンタル的にはアイドルとしては赤点だと僕は思う。にこちゃんは誰もいなくたって笑顔で歌って踊れる子なんだから。

 

 

でもさ。

 

 

なんだか、あんだけ頑張ってた子たちが、この学校のために慣れないことに手を出して身を削ってきた彼女らが、こんな結末で終わっちゃうのは。

 

 

 

 

「ただお客さんになってくるだけだよ」

 

 

 

 

なんか癪じゃない?

 

 

ここでお仕事してる場合じゃないでしょ。

 

 

だから、そう言って管理室の扉を、

 

 

 

 

バンッ!!と。

 

 

 

 

開けようとしたら、扉の音は講堂の方から聞こえた。

 

 

『あ、あれ?ライブは?あれ?あれぇー?』

 

 

さらにやけに可愛らしくて情けない声が聞こえてきた。とっさに窓に駆け寄って講堂の中を覗くと、端っこに茶髪が見えた。身を乗り出してよく見てみると、リボンの色からして1年生の眼鏡っ娘だ。

 

 

ここにきてまさかの遅刻勢。

 

 

…なんか僕、カッコつかないなあ。

 

 

「ふふ、ははは」

 

 

思わず笑ってしまった。なんだい、ちゃんと見てくれる人いるじゃないか。1人だけど、0とは天地の差だ。なんか笑っちゃった僕を絢瀬さんが変な目で見てくるけど気にしない気にしない。

 

 

『やろう!歌おう、全力で!』

 

 

高坂さんの威勢のいい声も聞こえてくる。舞台に目を向けると、さっきまで崩れそうだった新生スクールアイドルたちが、それはもう嬉しそうに立っていた。立ち直り早いね。

 

 

『だって、そのために今日まで頑張ってきたんだから!』

 

 

さらに声が続く。南さんと園田さんも俄然やる気が出たようだ。ライブを始めるために、それぞれ配置についていく眼鏡っ娘1年生は感動の嘆息をもらしながら講堂の中央付近まで降りていく。

 

 

これは楽しくなってきた。

 

 

「ふふっ、ふははは。どうだい、彼女ら、素晴らしいじゃないか。こんなに手に汗握る展開も、心躍る舞台も初めてだよ…!」

 

 

にこちゃんの前以外ではほぼ出ることのない、本気の笑顔で思わず口にする思い。ただにこちゃんの希望が息を吹き返したからだけじゃない、何か彼女らμ'sの重大な魅力を見つけたような気がして、笑わずにはいられなかった。こら絢瀬さんドン引きしない。お手伝いちゃんもドン引きしない。傷つくでしょう。

 

 

やめないけど。

 

 

「さあ、さあ、僕も腕を振るおうじゃないか。ちょっとオーバーワークで頑張ってあげるよ、君らがもっともっと相応しく映るように!」

 

 

音楽が始まるのを待つμ'sの3人を前に、お手伝いちゃんと絢瀬さんを機材の近くから押しのけて再生ボタンに手を伸ばす。何か言ってるけど聞こえない聞こえなーい。

 

 

「見せてくれ、魅せてくれ、君たちの輝きを!!」

 

 

そう叫んで、ボタンを押す。

 

 

彼女らの、μ'sの、音楽が始まる。

 

 





最後まで読んでいただきありがとうございました。

波浜ボーイをこんな天才野郎にしたのは、「素人にあんな照明操作は無理じゃね?」って思ってたからです。なのでプロの犯行にさせました。これからも照明やカメラワークはプロの犯行になります。ちなみに「茜→赤音」からサウンドオブスカーレットは出しました。かっこいい…かっこよくない?

波浜少年が心の中でめっちゃ喋ったりテンションぶち上げたりお忙しい回でした。彼もいろいろあったせいで情緒不安定なんですよ。多分。

次くらいにやっと他の男達が召喚されます。多分。



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ビラを見ると粗探ししちゃうのはだいたい職業病のせい



ご覧いただきありがとうございます。

ちょっと遅くなりました。ES書いたりしてて疲れたんですー!小説投稿してる場合じゃないじゃんね!!でも我慢できなかったから投稿!!お気に入り増えてたもん!!トトロ本当にいたんだもん!!

やっと原作に合流できそうです…。

というわけで、どうぞご覧ください。





 

 

どんな様子だったかは置いといて、とにかくライブは無事終了した。

 

 

「はぁ、はぁ、…っは、はぁ、死ぬ…」

「せ、先輩大丈夫ですか…?」

「あー、ちょっ、ちょっと、ハッスル、しすぎた、かも」

「いやあれはちょっとじゃないですよ」

 

 

そして僕は椅子に沈んで死にかけていた。そりゃあプログラムした照明効果に加えてオリジナルアレンジをつっこんであっちこっち手を動かてたからなあ。体力が人並み以下の僕には苦行だ。なぜやったし。絢瀬さんはどっかいっちゃうし。どうせμ'sに難癖付けに行ったんだろ、ほっとこ。

 

 

「あぅー、動画、へんっ、編集、しとかねば…」

「えええ、まだ働くんですか…」

「ふ、ふふふ、これが、しょく、職人って、もん、だから、ね」

 

 

ドン引きしてるお手伝いさん1号をほっといて、もぞもぞ手を動かしてパソコンを起動し、手早く動画の編纂に移る。あーよく撮れてるよかった、プログラムのおかげであんまりいじらなくても良さげだ。最後にクレジットいれて、ちょっと微調整してしゅーりょー。

 

 

『どうするつもり?』

 

 

画面を閉じると同時に講堂から絢瀬さんの冷たい声が聞こえた。初見の人はビビるだろうけど、あの子かき氷お嬢ちゃんだからなあ。あんまり怖くないよなあ。僕からしたら。

 

 

『続けます!』

 

 

答えるのは高坂さん。こっちは元気な感じに加えて力強さも感じる。壁を乗り越えられたようでなにより。

 

 

『なぜ?これ以上続けても意味はないと思うけど』

『やりたいからです!』

 

 

絢瀬さんの厳しい言葉にも高坂さんは即答して見せた。しかも、スクールアイドルをまだ続けたいって、やりたいって言ってくれている。うん、にこちゃんと一緒にやっていくにはそうでなくちゃ。

 

 

『今、私、もっともっと歌いたい、踊りたいって思ってます。きっと海未ちゃんも、ことりちゃんも』

 

 

高坂さんの言葉に頷く園田さんと南さん。高坂さんの独断ではなく、3人とも同じ気持ちなようだ。

 

 

『こんな気持ち、初めてなんです!やってよかったって本気で思えたんです!…今はこの気持ちを信じたい』

 

 

高坂さんはにこちゃんみたいに元気な子だけど、にこちゃんみたいに本心をしまいこんだりしないらしい。だからこそ、その言葉に偽りはなく、真っ直ぐ聴衆に届く。

 

 

ある意味、アイドルとして、他者を魅了するものとしての才能があるのかも。

 

 

『このまま誰も見向きもしてくれないかもしれない。応援なんて全然もらえないかもしれない。でも、一生懸命頑張って、私たちがとにかく頑張って届けたい!今、私たちがここにいる思いを!いつか、私たち必ず…ここを満員にしてみせます!」

 

 

なんか急にすごいこと言いだしたぞこの子。

 

 

講堂満員って結構キツいよ。

 

 

ここ500人くらい入るでしょ。

 

 

それはともかく、高坂さんは本気でスクールアイドル続けるようだ。絢瀬さんも何も言わず去ってしまったようだ。にこちゃんは椅子の上にちょっと顔を出して一部始終を見ていた。やっぱりいるんじゃない。眼鏡っ娘もまだいる…あれ、なんか1人増えてる。オレンジ髪短髪バージョンが増えてる。

 

 

ま、西木野さん含めても眼鏡っ娘が入ってくれれば5人に届く。そしたら彼女らも僕らのアイドル研究部に来るはず。にこちゃん待ってろ、君の希望が随分迫ってきたぞ。

 

 

 

 

で、翌日。

 

 

「μ'sのライブどうだった」

「行ってないって言ってるでしょ!」

「なんだい、感想聞きたかったのに」

「聴いてないのに感想なんてないわ。残念だったわね」

 

 

部室でお昼ご飯食べながら聞いてみたけど、案の定嘘つかれた。にこちゃんよ、いい加減僕には嘘つけないって学習しようぜ。

 

 

「でも結構いいダンスだったよ」

「あれのどこが…っは!」

「…にこちゃん、僕が言うのもなんだけど、ちょろいよ」

「うううううううう!!!!」

「わかったわかったわかったからパイプ椅子を振りかぶらないで」

 

 

雑に引っ掛けたら口を滑らせた。にこちゃんこういうところがあるから心配だ。でもパイプ椅子はダメ。死んじゃう。マジで死んじゃう。

 

 

「…でも、あれ茜の演出でしょ。あんたもやっぱり行ってたんじゃない」

「僕は別に行かないなんて言ってないよ」

「そうだけど!」

「一緒にいてほしかった?」

「そ……違う!!」

「最初なんて言いかk痛い痛い本を投げるんじゃない弁当が危ないし痛い」

 

 

暴力反対。あとやっぱりバレてたね。

 

 

「っていうか随分張り切ってたじゃない。無理しないでって言ってるのに、そんなにあの子達気に入ったの?」

「だから僕はにこちゃんのためならなんだってできるんだって。結構前に言ったような」

「そんな恥ずかしいこと何度も言わないで!」

 

 

照れてるにこちゃんかわいい。あーいや何時でもかわいいから「いつもより」かわいいだな。betterだbetter。

 

 

「だいたい私関係ないじゃない」

「あるんだなーこれが。まあそのうちわかるよ多分」

「隠さないでよ」

「サプライズだよサプライズ」

 

 

手をひらひらさせて誤魔化しておく。ここに彼女らが来てからのお楽しみ…いや来るかわかんないけど。

 

 

そーだ、一応言っといた方がいいのかな。

 

 

「まああの子たちが気に入らないなら絢瀬さんが協力してくれるでしょ。何か嫌いみたいだし」

「あー、何か文句言ってたわね」

「あのかき氷お嬢ちゃんがなあ」

「…かき氷お嬢ちゃんって何?」

 

 

にこちゃんには伝わらなかった。おかしいなあ、にこちゃんは絢瀬さんのポンコツモード見たことないのかな。

 

 

「絢瀬さんって氷の女王というよりはかき氷お嬢ちゃんだよねって話」

「そう?」

「だってたまにポンコツじゃないか」

「ポンコツってあんた」

 

 

にこちゃんが呆れ顔でこっちを見てくる。ポンコツ呼ばわりはダメなのかい。ダメか。

 

 

「ともかく、スクールアイドルの何がそんなに気にくわないかは知らないけど、にこちゃんがμ'sを相手取りたいなら強い味方だと思うけど」

「…まあ…」

「悩めるにこちゃんの選択やいかに」

「悩んでない!」

 

 

変なところでムキになって机をバンバンするにこちゃん。こんなに一緒にいても、にこちゃんの意地の張りどころはよくわからない。あと机を叩くのはやめなさいってば。

 

 

「まあ、僕はにこちゃんの味方だから安心して」

「余計安心できないわよ」

「死んでいいかな」

「冗談よ、ショック受けすぎ」

 

 

にこちゃんに拒否されたら死ねる自信はある。

 

 

結局にこちゃんがどうするかは聞けなかったけど、考える機会になっただけで十分だ。どうしたいか…だいたいわかってるけど、ちゃんと待ってあげよう。

 

 

 

 

 

最近は生徒会コンビが忙しいらしいので、勉強会はしばらくお休み。にこちゃんも今日はご兄妹の世話すると言って先に帰ってしまった。まあどうせ本当は1人で考え事したいだけだろうけど、先に帰ると言うなら止めない。が、僕はやることない。つまんない。

 

 

というわけで校舎内をうろうろしていると、掲示板にμ'sのビラが貼ってあるのに気づいた。「メンバー募集中!」らしいけど、あんまり人数増えても管理が大変な気がする。あと文字の色が薄いし余白が多い。カラーリング的にも文字に目がいかない…ってビラのダメ出ししてどうする。

 

 

ふと意識が途切れた瞬間に、視界の端になんか手帳みたいなものを捉えた。そっちを見てみると、誰かの生徒手帳が落ちている。拾って開いてみると西木野真姫と書いてある。西木野さんのかい。って躊躇なく開いてしまったけど普通に失礼かもしれない…いや持ち主特定のために必要なことだ、うん。

 

 

しかし、ここに落ちてたってことはμ'sのビラ見てたのかな。

 

 

「あっ…」

「ん?」

 

 

なんか声が聞こえたから横を向いてみると、茶髪で眼鏡な女の子がこっち見て固まってた。顔が赤いからなんか恥ずかしい思いをしてるのだろう。何故かは知らない。っていうかこの子ライブに来てた子じゃないか。この子もビラ見に来たのだろうか。

 

 

「やあこんにちは。μ'sのライブにいた子だよね」

「あ、え?は、はい、そうですけど…何で…」

 

 

後半は声が小さくて聞こえなかったが、多分何で知ってんだってことだろう。いかん、また初対面で警戒されてる。僕警戒されすぎじゃない?今回はどこで間違った?冗談は言ってないのに。

 

 

「あー、僕は照明演出でお手伝いしてたから窓から見てたんだよ」

「あ、なるほど…」

 

 

あっさり納得してくれた。この子も怪しい人に引っかからないか心配だ。

 

 

「ちなみに僕は波浜茜と言います。3年唯一の男子生徒…」

 

 

あれ。

 

 

そういえば1年生に男子生徒いるのかな。

 

 

2年生にはいないわけだし、1年生にもいなければ僕はめでたく学院唯一の男子生徒になる。全くめでたくない。

 

 

「…そういえば1年生に男子生徒っているの?」

「え?は、はい。1人だけ、滞嶺(たいれい)くんっていうすごく大きくて怖い男の子がいます」

「一瞬で不良のイメージが」

 

 

男子生徒いるらしい。よかった。よかったけど怖いらしい。よくない?いやいい。それでも性別は男だ。

 

 

「まあいるならいいや。3年唯一の男子生徒、波浜茜です。君は?」

「え、あの…こ、小泉花陽です。1年生です」

「1年生なのはリボンでわかるよ。だからさっき1年生のこと聞いたんだし」

 

 

ああなるほどみたいな顔をする小泉さん。声は小さいけど表情はよく変わる子だ。見てて飽きない。この子もμ's入ってくれないかなぁ。

 

 

っと、それよりも。

 

 

「そうだ、ちょうどいいところに来てくれた。これ西木野さんの生徒手帳なんだけど、ここに落ちてたんだよね。男性である僕が行くとそれはそれで警戒されそうだから、代わりに届けてくれないかな」

「あ、はい。でも私も西木野さんの家がどこかは…」

「生徒手帳に書いてあるんじゃない。なければ西木野総合病院で聞けばわかるかと」

 

 

院長の住所くらい調べりゃ出てくるだろう、多分。

 

 

「あ、生徒手帳に書いてありました」

「割と躊躇なく覗いたね君」

「え?あ、あの、えっと」

「ごめんきっと僕が悪かった」

 

 

思わずツッコんだら半泣きになってしまった。困った、にこちゃん以外の女性の取り扱いが全くわからん。

 

 

「あー、そうだ。君はμ'sに興味あるの?このビラ見に来たんでしょう。メンバー募集中らしいけど」

 

 

ごまかしついでに聞いてみたら返事が返ってこない。涙こらえるので精一杯感じかな?と思ったけど、覗き込んだら別に泣いてなかった。泣いてはないけど沈鬱な表情してる。また西木野さんパターンかな?

 

 

「スクールアイドルをやりたいわけではないのかな。応援する側か、それとも自信がないだけか、もっと特殊な事情があるのか」

「えぅ…」

 

 

謎の声を出して答えに窮する小泉さん。あー、これはやりたいけど踏み出せない系の子だ。幼い頃のにこちゃんタイプだ。そういえばいつからあの子はあんなに猪突猛進になったんだろう。可愛いからいいんだけど。

 

 

「まあなんでもいいんだけど、」

 

 

せっかくだしちょっと後押ししてあげよう。

 

 

「やってみたら案外なんとかなるもんだよ。やりたいならね」

「…」

 

 

返事はなかった。

 

 

でも、ちょっと目が輝いた気がする。

 

 

気がするだけ。

 

 

「まあ、なんにせよこれからもμ'sを応援してあげてね。頑張ってる子は、ちゃんと報われてほしいから」

 

 

それだけ言って、特にもう言うこともなかったので踵を返して昇降口へ向かう。これであの子がμ'sに入るかどうかはわからないけど、この後西木野さんのところに行くわけだし、何かしらスクールアイドルの話題が出てくれると嬉しい。

 

 

「あ、あの!」

「うん?」

 

 

小泉さんの割と大きい声が後ろから飛んできた。大きい声出るじゃん。振り向くと、何か口をぱくぱくさせてる小泉さんが見えた。金魚かな。

 

 

「あの…あの、ありがとうございました!」

「あー、うん、どういたしまして?」

 

 

何故感謝されたのか。西木野さんのときもそうだけど、これはさっぱりわからない。

 

 

 

 

 

翌日、にこちゃんが今日も知らぬ間に帰ってしまったのでどうしようか考えていたら、中庭の方から声が聞こえた。発声練習してるみたいだけど、うちの合唱部ってわざわざ中庭で練習してたっけ。あとこれ2人分の声しか聞こえない。

 

 

試しに中庭に向かってみると、その途中で西木野さんとオレンジ髪2号ちゃんが小泉さんを引きずっている場面に出くわした。オレンジ髪2号ちゃんは小泉さんの後にいつの間にかライブに来てた子だろう、いやそれはいいんだけどこれどういう状況。

 

 

「だ、誰か助けてぇ〜!!」

 

 

なんか叫んでるし。

 

 

これをスルーしろという方が無理がある。

 

 

「…ちょいちょい、これ今どういう状況なの君たち」

「ああっ先輩!助けてください!!」

「うぇえ、波浜先輩…」

「今度は変な人が来たにゃ…!」

「ちょい待て、西木野さん露骨に嫌な顔しないで。あと誰が変な人だ誰が」

 

 

西木野さんもオレンジ2号ちゃんも失礼極まる。小泉さんの必死な表情が見えんのか。っていうか止まりなさいよ、ナチュラルに僕の横を素通りするな。そっち階段だぞどこ行くんだ。

 

 

「待て待て階段上るならせめて立たせてあげなさいよ、腰がやられるよ」

「それもそうね…」

「かよちんが怪我するのはよくないにゃ」

「そんなことより止めてくださいよぅうう!!」

 

 

小泉さんごめんよ、僕には止められそうにない。

 

 

仕方ないのでこの3人についていくついでに事情を聞いた。要するに屋上で練習してるμ'sのところに行って、小泉さんを入れてもらおうと。小泉さんはそんな急に言われても無理と。何だこの子たち、仲良しかよ。ちなみにオレンジ2号ちゃんは星空凛さんと言うらしい。この子もえらく元気だけど、オレンジは元気という法則でもあるのだろうか。あと平時で「にゃ」とか言えるにこちゃんの上位互換性能持ちだ。つよい。

 

 

「で、止める間もなく屋上来ちゃったわけだけど」

「止める間はありましたよ?!」

「さあかよちん、早くしないと先輩たち帰っちゃうよ!」

「えっええ?!」

「ほら早く!どうせここにいてもそのうち先輩たちこっち来るわよ!」

「うええええ?!」

 

 

扉の前で小声でせっつく先導者2人とビビる張本人。これは埒があかない。

 

 

じゃあ僕が道を開いてやろう。

 

 

「はいどーん」

「わああああああ?!」

「うぇえ?!」

「にゃああ?!」

 

 

ばーん、と扉を盛大に開放してあげたら、3人全員にびっくりされた。というか帰る準備してたらしいμ'sの3人までびっくりしてた。え、何。僕が空気読めてないみたいじゃん。やめて。

 

 

「…えっと、波浜先輩?」

「私たちになにか…」

「あ!花陽ちゃん!それと真姫ちゃんと凛ちゃん!」

「高坂さんは平常運転みたいで何より」

 

 

目をぱちくりしてる南さんと園田さん、そして1年生3人組を見て瞳に夕日を全反射させる高坂さん。高坂さんには僕が見えないのかよ。てか瞳眩しい。

 

 

まあ今回彼女らに用があるのは僕じゃないので横にどいて日陰にイン。あんまり陽に当たりたくない…あれ、ニートみたいじゃん。やだやだ、なんか仕事しよ。してたわ。

 

 

「ほら、お三方ぼーっとしないで何しに来たんだっけ?入れてくださいって頼みに来たんでしょう」

「そ、そうなんです!かよちんがスクールアイドルやりたいって!」

 

 

僕の声に真っ先に反応したのは星空さん。こういう子は行動が早くて読みやすいので助かる。にこちゃんに近い部分があるからかな。

 

 

「…つまり、メンバーになるってこと?」

 

 

答えるのは南さん。μ'sの3人は真面目な顔して1年生ズを見て、西木野さんと星空さんも真剣な表情をしていて、小泉さんはぐったりしている。ちょいちょい、主役が瀕死なんだけどいいの。

 

 

「はい!かよちんはずっと前からアイドルやりたいって思ってたんです!」

「そんなことはどうでもよくて、この子は結構歌唱力あるんです!」

「どうでもいいってどういうこと?!」

「言葉通りの意味よ!」

 

 

いや本当に何しに来たんだ君ら。

 

 

「わ、私はまだ…」

「もう!いつまで迷ってるの!絶対やったほうがいいの!」

「それには賛成、やってみたい気持ちがあるならやってみた方がいいわ!」

 

 

小泉さんが尻込みしてると2人とも発破をかけにいく。君ら仲良いのか悪いのかどっちなんだ。

 

 

「さっきも言ったでしょう、声を出すなんて簡単。あなたなら出来るわ」

「凛は知ってるよ。かよちんがずっとずっと、アイドルになりたいって思ってたこと」

「凛ちゃん、西木野さん…」

 

 

2人の言葉に押されていく小泉さんの顔は最後にこっちに向いた。ん?なぜこっち向いた?僕も何か言わなきゃいけないやつか?言って欲しいやつか?

 

 

「…君が自分をどう思ってるか、そんなこと昨日会ったばかりの僕は知らないんだけどさ」

 

 

せっかくなので日陰から出てきながら言葉を紡ぐ。後押しに必要な言葉は何だろうと考えながら。

 

 

…不思議なもんだ。

 

 

にこちゃん以外の人のために頭使うなんていつ以来だろう。にこちゃん以外のために頑張るなんてこの先ずっと来ないかもしれないと思っていたのに、いつの間にこんなに彼女らに肩入れしてしまったんだろう。

 

 

まさに偶像。

 

 

彼女らは、存在するだけで信仰を集められるのかもしれない。

 

 

だとすれば、神話の名を冠するに相応しいと言えるだろう。

 

 

「やってみたら、案外何とかなるもんだ。自信があろうがなかろうがね。さあ言ってみな。君は、どうしたい?どうなりたい?」

「波浜先輩…私は…、」

「返事は僕に向けるもんじゃないよ。向けるべき相手はあっちだあっち」

 

 

何か答える前に僕はμ'sの3人の方を指差す。それを見た小泉さんが一瞬ためらって、しかし力強く振り向く。

 

 

「がんばって!ずっと凛がついててあげるから!」

「私も少しは応援してあげるって言ったでしょう?」

「えっと…私は…」

 

 

意を決しても声は出ないらしい。どうしたものかと思っていたら、星空さんと西木野さんが小泉さんの背中を押した。それで少し吹っ切れたらしい。あれが友情なのかな。小泉さん半泣きだけど。

 

 

「…私、小泉花陽と言います!1年生で、背も小さくて、声も小さくて、人見知りで、得意なものも何もないです。でも、アイドルへの思いは誰にも負けないつもりです!!だから…μ'sのメンバーにしてください!!」

 

 

遂に。

 

 

今まで聞いた中でもっとも大きな声で言い切った。涙はぼろぼろ流すし声は震えるしで聞いてられない見てられないと言えばまあそうなんだけど、なかなか心打たれる演説だった。

 

 

そして、返事はもちろん。

 

 

「こちらこそ、よろしくね!」

 

 

そう言って手を差し出す高坂さん。その手をとる小泉さん。ここに満願成就と相成ったわけだ。

 

 

「かよちん、偉いよー」

「何泣いてるのよ」

「だって…って、西木野さんも泣いてる?」

「誰が!泣いてなんかないわよ!」

 

 

何してんだこの子たちは。

 

 

「それで、2人はどうするの?」

「「え?どうするって…え?」」

 

 

南さんの言葉に戸惑う本泣きガールズ。南さんなかなか強いな、メンタルが。

 

 

「まだまだメンバー募集中ですよ!」

 

 

園田さんも続き、2人に手を伸ばす。すごい笑顔だけど、まだ1年生2人は戸惑いから抜け出せないご様子。

 

 

さ、もう一仕事かな。

 

 

何で僕こんなに働いてんだろう。

 

 

「…西木野さんさ、自分の音楽がどうのって言ってた割には曲作ったんだよね」

「えっ、えっと…そうだけど!」

 

 

否定はされなかったけどキレられた。何でさ。

 

 

「だったらあの時の答えは出たわけだ。今のこれはその延長線上だよ。だから今度こそ聞かせてほしい。君は…どうしたい」

「わ、私は…」

「それと星空さん」

「にゃっ?!」

 

 

今度はこっち。今日会った人に助言とかハイ難度すぎないか。

 

 

「君のことはよく知らないけどさ、西木野さんと同じことだよ。君の素質とかは抜きにして、君は一体どうしたい?」

 

 

それだけ言って一歩下がる。まあ初対面の人に言えることなんてこの程度だろ、むしろ頑張った方だと思う。頑張ったよね?

 

 

努力の甲斐あって(多分)、2人は笑顔で先輩方の手を取った。うんうんよきかなよきかな、やりたいことができるのは素晴らしいことだ。

 

 

あと、これで6人だから、彼女らがアイドル研究部にやってくるのも遠くない。

 

 

あとはにこちゃんをどう説得するかだな。

 

 

「先輩はどうするんですか?」

「うん?」

 

 

考え事してたら、6人全員が笑顔でこっち見てた。…ん?僕を誘う気か?正気か?男だぞ。

 

 

「僕はやんないよ、男だし」

「いや、先輩なら女装すれば…」

「冗談だろ」

 

 

高坂さんの思考回路はにこちゃん並みかよ。おっとにこちゃんが頭悪いみたいな言い方になってしまった。悪いけど。

 

 

「さすがに女装は冗談ですが、マネージャーとしてはどうでしょうか。ヒデコたちから、先日のライブの件も聞いています」

「ありがとうございました!それで、これからもお手伝いいただけたらいいなーって、私たち思ってたんです」

「言っちゃったんかいあの子たち」

 

 

園田さんと南さんが続いてそんなことを言ってきた。そう言えば口止めしてなかった気がする。まあいいか。

 

 

「あー、どういたしまして。何にせよ、僕はもう部活入ってるから無理だよ」

「えーっ兼部すればいいじゃないですか!」

「軽々しく言うもんじゃないぞ」

 

 

兼部大変なんだぞ。多分。

 

 

そもそも。

 

 

「大体、わざわざ兼部することもないよ」

「え?」

「そのうちわかるよ。次は、然るべき手順を踏んで、正規のルートで会いにきて。そしたら考える」

 

 

意味深な言い方をしといたら、高坂さんだけでなくみんな揃って頭にハテナを浮かべ出した。まあわからないように言ってるからね。

 

 

「ともあれメンバー増加おめでとう。活躍、楽しみにしてるよ」

 

 

それだけ言って屋上を去る。新生μ'sの6人はまだ首を捻っていたけどほっといた。

 

 

昇降口についたあたりで、部活申請忘れないように言っとくのを忘れてた。まあ忘れないよな…多分。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございました。

また長いこと書いてしまいましたが、ついに原作に乗ってきました。やー、原作沿いのお話にすると自分で読んでても楽しいですね。それだけ原作が面白いってことですね。そしてオリジナルの話がさほど面白くないってことですね。わーつらたん。

あと新キャラ登場ですね。名前だけ。滞嶺くんの活躍はもう少し先の話になります。大きくて怖い人がどうやって頑張るんでしょうか。



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にこちゃんカレーの隠し味は愛情



ご覧いただきありがとうございます。

またまたお気に入り増えてて幸せしています。もうすぐ100歳迎えられそうです。本当にありがとうございます。
ソロライブコレクションも出ましたね。超欲しいです。だれかお金ちょうだい…。

今回はR15が本気を出すのでセクシーにご注意ください。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

「…それで、デコピンかましてきたわけね」

「いいじゃない。腑抜けたスクールアイドルは居ても迷惑なの」

「羨ましいだけでしょうに」

「…」

「あれ、返事が来ない」

 

 

梅雨入りして雨が降る中、傘をさしての下校中ににこちゃんがμ'sの子たちに喧嘩売ってきたという旨の報告を聞いた。なぜ報告してきたんだ。共感してほしかったのか。さすがに初対面のアイドルにデコピンかますのは共感できないよにこちゃんや。

 

 

「…茜はさ、あの子たちどう思う」

「変な子たち」

「もうちょっとなんかないの」

「面白い子たち」

「それじゃ芸人じゃないの」

 

 

何が言いたいのかな。

 

 

「…茜は…、私があの子達とやっていけると思う?…前みたいに、みんな居なくなっちゃったりしないと思う?」

 

 

うーん。

 

 

やっぱりというか、そこが心配だったのか。変に挑発するのは、それで凹むようだったらその程度…っていう、にこちゃんなりの判断方法なのかもしれない。相変わらず不器用なことで。

 

 

「さあ?」

「さあってあんた」

「僕はあの子たちのこと全然知らないからそんなの分かんないよ。でもさ」

 

 

呆れ顔するにこちゃんに、一度言葉を切って本気の笑顔をにこちゃんに向ける。

 

 

「にこちゃんが羨ましいと思うほどの子たちが、並大抵のことで音をあげたりはしないと思うな」

「…ふーん」

「ふーんて」

 

 

ふいっと顔を背けて素っ気なく答えるにこちゃん。あんだけ真剣な表情で聞いといて反応が淡白だなと思ったら、顔は赤く染まっていた。なんだ恥ずかしがってるだけか。ほんとかわいいな。

 

 

「ふーんよ。別に羨ましいなんて思ってないし」

「ほんとに?」

「…ほんとよ。ちょっと、何よその目」

 

 

意地っ張りには優しい視線を向けておく。うーむジト目もかわいい。眼福だ。

 

 

恥ずかしがって濡れたローファで蹴りを入れてくるにこちゃんを避けていると、不意ににこちゃんが立ち止まって前を見つめる。何事かと思ったら、μ'sの面々がファーストフード店に入っていくのが見えた。あれを見ていたのか。

 

 

「…追うわよ!」

「なんでさ。てか変装早いな」

 

 

一瞬でサングラスをして髪をまとめるにこちゃん。…いや、何その髪。ピンクのソフトクリームヘアー。どうやったの。ツッコミが追いつかないんだけど。何その髪。帽子?帽子か。流石に色まで変えれないよね。

 

 

僕はツッコミは諦めて自分の変装に取り掛かる。にこちゃんに強制されてもう何年も経つから慣れたもんだ。久しぶりだけど。カツラかぶって、サングラスして、おしまい。十分変装になる。見慣れてなければ。うん、多分大丈夫。きっと。

 

 

で、何食わぬ顔で店内に入ると、6人が丁度席に着くところだった。僕とにこちゃんは隣の席に陣取り、とりあえず席はにこちゃんに任せて適当にポテトでも買っておく。

 

 

「あー!うんちうんち!」

「うっさいわね!」

 

 

…。

 

 

お子様や、言ってやるな。

 

 

ともあれポテトを買って席に戻ると、仕切りの隣から「雨なんで止まないの!」って高坂さんが叫んでた。いやなんでって言われてもねえ。

 

 

っていうかさ。

 

 

(にこちゃん何してん)

(いっいや…ちょっとお腹がすいて…)

(だからって人のもん取ったら窃盗でしょうよ)

 

 

にこちゃんは仕切りの隙間からお隣さんのポテトを窃盗していた。窃盗だよな?程度が低いけどダメだよな?

 

 

「穂乃果ちゃん、さっき予報見たら明日も雨だって」

「えー!…はあ…」

 

 

バレてないからいいものを…ってまだ食うか。やめなさい。僕のあげるから。

 

 

「…なくなった」

 

 

バレたじゃん。

 

 

「海未ちゃん食べたでしょ!」

 

 

バレてなかった。にこちゃん器用だな。でも更に罪を重ねるのはやめなさい。ってか今度はどこからとってんだ。やめなさいって。

 

 

「自分の食べた分も忘れたんですか?まったく…っは?!」

 

 

園田さんの分か。高坂さんはともかく園田さんにはバレるでしょ。

 

 

「穂乃果こそ!」

「私は食べてないよ!」

 

 

…バレないね。にこちゃん隠密スキル高すぎないか。

 

 

「そんなことより練習場所でしょ。教室とか借りられないの?」

 

 

そのまま話題を戻しにかかるのは恐らく西木野さん。にこちゃんこのままバレない可能性が…ってポテトはもう手の届くところにはないかも。

 

 

「うん、前に先生に頼んだんだけど、ちゃんとした部活じゃないと許可できないって」

「ちゃんとした部活にするにはどうしたらいいんですか?」

「部員が5人いるんだって。5人いればちゃんとした部の申請をして部活にできるんだけど…」

「5人…」

「5人なら…」

 

 

 

 

「あっそうだ!忘れてた!部活申請すればいいじゃん!」

 

 

 

 

「「忘れてたんかーい!!」」

 

 

思わずにこちゃんが立ち上がって、僕はその場で机に拳を叩きつけてツッコんでしまった。マジでか。マジで忘れてたのか。高坂さん大丈夫か。

 

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

 

速攻2人で身を伏せる。

 

 

(ちょっにこちゃん!何やってんの!)

(なっ茜もツッコんでたでしょ!私のせいにしないで!)

(君立ち上がっただろ?!顔見られたらどうする!!)

(へ…変装してるから大丈夫よ!)

(な訳あるか!あとその手を止めなさい!)

 

 

小声で罪をなすりつけあいつつ、にこちゃんはまた仕切りの向こうに手を伸ばしていた。やめなさいってば。

 

 

「はー、ほっとしたらお腹すいてきちゃった。さーて…」

 

 

声が途切れる。

 

 

にこちゃん。これは間違いなくばれたぞ。今手を戻しても遅いぞ。ってか何を盗るつもりだったんだい。

 

 

「ちょっと!」

 

 

ついに高坂さんににこちゃんの腕が掴まれる。その腕にはがっつりハンバーガーが掴まれていた。大胆にもほどがあるでしょ。しかもにこちゃんの謎変装が白日の元に晒された…いやもともと晒しまくりではあったけど。僕は顔を見られないように注意。

 

 

「解散しなさいって言ったでしょ!」

「解散?!」

 

 

そんなこと言ったんかい。それは聞いてないぞにこちゃん。デコピンは聞いたけど。

 

 

「そんなことよりポテト返して!」

「…そっち?」

 

 

つい素で返してしまった。解散がどうのに反応しなさいよ高坂さん。優先順位おかしいよ。

 

 

「あーん」

 

 

にこちゃんはにこちゃんで口開けて挑発してる。やめなさいみっともない。

 

 

「買って返してよ!」

 

 

まあそれが妥当だよね。ごめんね高坂さん。あと園田さん。

 

 

「あんたたち、歌もダンスも全然なってない!プロ意識が足りないわ!!」

 

 

スルーしないであげてにこちゃん。確実に非があるのはにこちゃんの方だよ。あとほっぺた引っ張られながら言ってもあんまり説得力ないよ。僕もにこちゃんのほっぺた引っ張りたいげふんげふん。

 

 

「いい?あんたたちがやってることはアイドルへの冒涜!恥よ!とっとと辞めることね!」

 

 

そんだけ言い切ったにこちゃんはダッシュで店から出て行ってしまった。またお子様にうんちうんち言われてるけど気にしたら負けだろう。それよりも早く追いかけなければ。

 

 

「…あれ、もしかして波浜先輩…わっ?!」

 

 

高坂さんが気づきそうだったので、ポテト2人分のお金を押し付けて逃げた。雨なのに。そしてあんまり走るとヤバいんだけど、それどころではないか。

 

 

 

 

 

 

「…ごめん」

「い、いや、にこちゃん、いいんだ、にこ、ちゃんが、謝ることは、一切、ない」

 

 

ものすっごい走って辿り着いたにこちゃん宅で僕は死にかけていた。家まで動く元気もない。体力もない。ほんとに死ぬ。

 

 

「そんなことない、私が走って逃げなければ、茜も走る必要はなかったのに」

「っは、過保護、じゃない?…走っちゃだめ、じゃあ、生きていくには、厳しすぎる」

「でもっ…!」

「あー、ストップ。っはぁ、ただでさえ、余計、体力落ちてんだもん。…たまには、走んないと」

 

 

息も絶え絶えながら、にこちゃんから目を逸らさないようにすることで反論の一切を封じる。にこちゃんも無事口を噤んでくれた。

 

 

しばらく休んでると随分良くなった。しかもその間ににこちゃんが夕飯を作ってくれたらしく、妹ちゃんズと弟くんと、珍しくいるにこちゃんのお母さんと一緒に夕飯をご馳走になることになった。急に人が増えたせいかカレーだ。にこちゃんは料理上手だからレトルトだろうがなんだろうが、何かしら手を加えて美味しくしてるだろう。素敵だ。

 

 

「美味しいです!さすがお姉様!」

「おかわり!」

「おかわりー」

「ここあちゃんと虎太朗くん早ない?」

「はいはいまだあるから急がないの」

 

 

こころちゃんは年齢不相応に上品に食事し、ここあちゃんと虎太朗くんは随分早食いだった。よく噛んで食べなさいよ。

 

 

「茜くん、今日はごめんなさいね。にこちゃんが走らせちゃったみたいで」

「いいんですよ。直ぐ回復しましたし」

「30分はすぐって言わないのよ」

「30分ならすぐだよ」

 

 

にこちゃん母は僕が幼い頃から良くしてもらっているので、いろいろ気にかけてくださる。とてもありがたい。自分のお仕事も大変だろうに、頭が上がらない。本当にありがとうございます。

 

 

「そんなこと言ってないで早く食べなさい。香辛料には気管拡張効果があるとか言ってたでしょ」

「まさかそれでカレーにしてくれたのか」

「そうよ。他のスパイス効いた料理でもよかったけど、やっぱりカレーが1番手軽だし。あんたのだけ少し唐辛子粉末入れたから辛いかもしれないけど」

「にこちゃんじゃないんだし唐辛子粉末くらいでどうにもならないよ。それよりも、気遣いありがとね」

「いつものことよ」

 

 

にこちゃんのナイス気配りに素直に感心してお礼を言ったら、恥ずかしがって顔を背けてしまった。んー、可愛い。香辛料が効いてきたのか、こっちも温かくなってきた。でもおいしいから食べる。ぱく。

 

 

「ほらにこちゃん、茜くんに迷惑かけたんだから、あーんくらいしてあげたら?」

「ん゛んっ」

「ぶっふぅ?!まっっママ何を言って?!」

 

 

軽くむせた。嘘だわ軽くじゃないわ。

 

 

「いいじゃないの、あーんくらい。青春よ」

「いやいやいやいや!!もうご飯作ってあげたんだから十分よ!!」

「そんなことないわよ。あ、もしかして口移しの方がよかったかしら。にこちゃんだいたーん」

「ごふっ」

「ちょおおおおお!!茜むせてる!ママが変なこと言うから!」

「あら、ごめんなさい。でもむせてたらご飯食べるの大変ね、にこちゃんここはやっぱり口移ししか」

「お母さんちょっと黙っていただけますか」

 

 

これ以上心臓に悪いことされるとまた酸欠になる。にこちゃんママは僕らが高校に入ったくらいからこういったちょっかいを頻繁にかけてくる。お世話になってるぶん無下にはできないが、今回は命に関わる。

 

 

「そういえば、お姉様と茜様はちゅーはまだなのですか?」

「にこちゃん、飛び火したぞどうにかして」

「こころ、食べ終わったならお風呂入ってきなさい」

「茜様と入りたいです」

「それは僕が捕まるから勘弁して」

「やっぱり茜様はお姉様と」

「やめなさい」

 

 

こころちゃんが随分強くなってる。主に精神的に。やばい。確実に母上の血を引いてらっしゃる。

 

 

「ほら早くお風呂いきなさい」

「うー」

 

 

にこちゃんに追い出されるこころちゃん。ついでにここあちゃんと虎太朗くんも追い出して、居間に3人残る。

 

 

「茜、ほんとに大丈夫?さっきむせてたし、無理してない?」

「大丈夫だって。さすがにむせたくらいで倒れないよ」

「さっきまで倒れてたんだから、むせただけでも危ないかもしれなかったわよ?」

「仰る通りですね、お母さん。ただしむせた原因はあなたです」

「うぐっ」

 

 

結局話題は僕のことになる。まあ急な来訪の原因は大体いつも僕が家まで辿り着けなかったときだから、当たり前っちゃ当たり前。

 

 

「この前検診受けたときは少し再生してるって言われたんですけどねえ」

「それでも無理したらまた悪化するじゃない」

「まあね」

 

 

少しずつ運動するべき、とは言われてるけど、本職の都合もあってそうも言ってられない。前に軽く腹筋してみたら息切れするわ腹筋痛いわで死にそうになったからもうやらない。

 

 

「今日は泊まっていっていいから、ゆっくり休んでね」

「毎度毎度ありがとうございます」

 

 

お泊り許可が出たので遠慮なく泊めていただく。ラブコメ展開などではなく、今日みたいに僕の体力が限界きてるときとか、にこちゃんのご兄弟が会いたがってるときとか、年末年始とか、とにかくよく泊めてくださっている。着替えも歯ブラシも置いてあるくらいだ。

 

 

「お姉様、お風呂上がりました」

「ん、ありがと」

「それ以前に下着姿で男性の前に出てこないようにねこころちゃん」

「うあー」

「こたろーまてー!」

「あっちのお二人に関しては下着すら身につけてないじゃないか。ってか濡れっぱなしはよくないぞ床がカビる腐る」

 

 

追い出された3人が風呂から上がったようで、続いてにこちゃんが風呂場へ向かい、僕は虎太朗くんをキャッチして脱衣所に放り投げる。あとはにこちゃんが世話してくれるだろう。ここあちゃんも脱衣所に戻り、こころちゃんは未だに下着姿である。早く服着なさい。逮捕される。僕が。

 

 

「こころ、早く服着なさい。風邪ひくわよ」

「はい」

 

 

にこちゃんママが言うと素直に従う。そそくさと部屋に入ってくれた。

 

 

「そろそろ恥じらいを持ってくれないと困るんですがね」

「もうすぐおっぱい出てくる歳だものねえ」

「せめて胸が膨らむとか言ってくれませんかね」

 

 

恥ずかしいでしょ。

 

 

「胸といえば、うちのにこちゃんは少し控えめだけど、茜くんは気にしないタイプ?」

「そりゃにこちゃんですから気にしませんけど、自分の娘の胸が控えめとか言ってやらないでくださいよ」

「揉めば大きくなるかも」

「黙りましょうか」

 

 

セクハラはよくないですよ母君。

 

 

にこちゃんママから恥ずかしい詰問をされていると、

 

 

「ひいいいいいいいいい?!」

 

 

風呂場からにこちゃんの悲鳴が聞こえた。何か考える前に体が動き、走るのはまずいと知りながら全速力で脱衣所に突入する。

 

 

「どうしたっ?!」

「く、く、蜘蛛があ!!」

 

 

蜘蛛かよ。

 

 

一瞬で酸欠気味になった体が一気に脱力する。倒れないように踏ん張って、にこちゃんを見ないように目をそらして風呂場に失礼し、蜘蛛は手で追い込んで窓から退散していただく。ふう。

 

「っはあ、はあ、全く、蜘蛛くらいで叫ばなくても…」

「こっち見んな!」

「理不尽だ」

 

 

振り向こうとしたらにこちゃんの手が僕の顔を固定してきた。ちょっと、後ろ歩きで出ろと。あと顔濡れる。濡れてる。

 

 

「今服着てないのよ!」

「知ってるよ、風呂なんだし。さっきちょっと見えたし」

「見たの?!」

「嘘だよ痛い痛い嘘だから安心して痛いって」

 

 

冗談言ったら頭を締め付けられた。だいぶ痛い。

 

 

「あんたの嘘が1番信用ならないのよっ!」

「わかったわかった悪かったから離し

 

 

ズルっ、と。

 

 

頭の締め付けから逃れようと身を捩ったせいで足が滑った。そりゃ風呂だもんね、滑るよね。しかも後ろに滑ったせいでごんっという鈍い音を響かせて頭を打った。超痛い。一瞬意識飛んだ。

 

 

「ぃ、痛い…」

「ちょ、大丈夫…」

 

 

目を開けたら、心配そうなにこちゃんが上から覗いていた。

 

 

ただし。

 

 

僕の頭は今、ちょうどにこちゃんの足の間に位置していた。

 

 

現実は湯気が局部を隠してくれるわけもなく、いろいろ丸見えだ。胸はにこちゃんタオルで律儀に隠していたが、下半身はどうにもならん。にこちゃんも少ししてから気づいたらしく、一気に顔を真っ赤にして湯船に飛び込んだ。あつっ、湯がかかった。服濡れるじゃないか。既に濡れてたわ。

 

 

「…あ、茜、み、みみ、見た?」

「えーと、ちゃんと毛が隠してくれたよ」

「死ねっっっっっ!!!!!!」

「んごっ」

 

 

洗面器が顔面にクリーンヒットして、そのまま意識は吹っ飛んだ。

 

 

正直、生えてないかもと心配してたから安心した。

 

 






最期まで読んでいただきありがとうございました。

バスタイム突撃型スケベイベントでした。ただし茜は逝く。

UAが500を突破しました。いつも読んでくださる方々、本当にありがとうございます。1000とかいったら記念話とか作りたくなりますね。行くかなぁ。



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女の子7人に囲まれてもハーレムとは言わない



ご覧いただきありがとうございます。

またお気に入り増えて嬉しい限りです。本当にありがとうございます。UAももりっと増えましたし。スケベか?!君たちやっぱりスケベが見たいんか?!残念ながらスケベは私の専門外だわっはっはっh

スクフェス5周年までに全員揃えられるかなぁ。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

登校中、というか起きた瞬間からにこちゃんはすこぶる不機嫌だった。うん、昨日は悪かったよ、いや実際に悪かったのが僕かどうかは置いといて、結果としては僕が悪かったよ。だからそっぽ向かないで心折れる。

 

 

「にーこちゃん、そろそろ機嫌を直して欲しいよ」

「…」

「無言はやめなさい。ちゅーするぞ」

「…」

「…ちゅーするぞ?」

 

 

実際にする気はないのだけど、ここまでだんまりを決めこまれるとむっとなってしまう。そっぽ向いてるにこちゃんの顔に手を伸ばし、頬に両の手のひらをあてがって強制的にこっちを向かせる。

 

 

「んむ…」

「…」

 

 

そこには、顔を赤くして、頬を押さえられてるせいでちょっと押し潰された形の唇をこちらに向ける、若干目が潤んだにこちゃんがいた。しかもあろうことか目を閉じた。ちょい、ちょっと待って、これいわゆるキス顔ってやつじゃない。マジでやっちゃっていいのか。可愛すぎて禿げるんだけど。

 

 

 

 

しかしまあ、にこちゃん抵抗しないしやっちゃっていいかと思ってにこちゃんに顔を近づけ、

 

 

 

 

「だあああっ!!!!」

「ぎゃっ」

 

 

 

 

全力で引き剥がした。

 

 

バカか。

 

 

にこちゃんとキスだと。

 

 

できるか。

 

 

恥ずかしすぎて禿げるわ。

 

 

「にこちゃんそんな顔してたら色々危ないでしょうよ!!」

「…へたれ」

「ああん?!」

「茜って焦るとキャラ変わるわよねー」

 

 

はあ、となぜかため息をついて先を行くにこちゃん。何故だ、ため息はこっちが吐く番だと思うんだぞ。あんな可愛い艶かしいにこちゃんを目の前にしたら、もう、なあ。

 

 

「はああああああぁぁぁぁぁ」

「置いてくわよ」

 

 

猛烈に熱くなった顔を両手で押さえて盛大にため息を吐いてると、にこちゃんの平常心を装った、なんか若干がっかりした声が飛んできた。ご無体な。

 

 

なんだかなあ、にこちゃんも言ってたけど、これ僕のキャラじゃないだろ。

 

 

 

 

 

にこちゃんは昼には機嫌を取り戻し、僕も平常心になったので昼食はいつも通りダラダラ過ごすだけだった。今日はにこちゃんママがお弁当作ってくれたので2人とも内容は同じで…はなく、だいたい僕の弁当箱ににこちゃんの好きなものが入ってた。逆もまた然りなのでこれは弁当箱を間違えた疑惑あり。意図的にやってる可能性もあるけど。

 

 

会話の内容もまあくだらないもので、いつも通りにこちゃんいじりをして教科書を投げられただけだった。教科書投げが日常なのはもう諦めよう。いやだめだ、本は武器じゃない。本が傷む。

 

 

それで、放課後。

 

 

「まったく、なんで盛大に寝てんのよ」

「昨日疲れちゃったからね。どうせ授業聞いてないから同じことだよ」

「私が起こしに行くの恥ずかしいでしょ」

「絢瀬さんと東條さんの反応が面白いよね」

「うぐぐ、もっとアイドル的な目立ち方がしたいのに…!」

「アイドル的な目立ち方ってなにさ」

 

 

そんなことを言いながら部室へ向かう。他愛もない話をしながら頭の片隅でμ'sのみんながいつ来るかを考えていた。放課後に申請に行ってたら僕らが部室にいる間にくるだろうが、昼休みに行ってたら、何ならもう部室前に待機してるかもしれない。

 

 

 

 

とか思ってたら、

 

 

 

 

「あ!」

「うっ」

「おや」

 

 

部室前で鉢合わせた。

 

 

「…じゃあ、あなたがアイドル研究部の部長?!」

 

 

高坂さんが驚いている。「じゃあ」って何がじゃあなんだ、というのはとりあえず保留にして、まあそうだろう、あろうことかデコピンまでしてきた解散を叫ぶ怪女がアイドル研究部の部長だとは…おっと怪女はよろしくないか。魔女?

 

 

「うにゃああああああああ!!!」

「?!」

「おっかわいい」

 

 

にこちゃんは両手を振り上げて猫のような可愛らしい声を上げて威嚇した後、μ'sの面々が怯んでる隙に部室に飛び込んで鍵をかけた。

 

 

いや鍵かけないでよ。

 

 

「茜!そいつら絶対入れないで!!」

「はいはい」

 

 

門番を頼まれたので扉の前に仁王立ちさせていただく。仁王立ちといってもこの身長じゃあ様にならないけど。涙出ちゃう。

 

 

「…というわけで、部長様のお達しだからここは通せないよ」

「波浜先輩もアイドル研究部だったんですか?!」

「そだよー、マネージャーやってます以後よろしく」

「波浜先輩、開けてください!」

「部長様のご要望にそぐわないからできないな」

 

 

全員見知った顔ゆえに一様に驚いている。このままどこかへ連れ出してしまえばにこちゃんの望みは達成されるわけだが、女の子6人とお出かけしました何て言ったらにこちゃんに殺されそう。どうしようかな。

 

 

「外からいくにゃ!」

「えっ」

 

 

星空さんが飛び出していった。え、外?嘘でしょ。ここ二階よ。一階じゃないんだよ。無理あるよ。窓から入る気なの。でもあの子猫っぽいし万が一にもやりかねない。

 

 

「っに、にこちゃん!窓閉めて!外から来る!」

「きゃあああああああ?!」

「にゃああああああああ!!」

 

 

…遅かった。いや早くない?

 

 

 

 

 

ちょっとして部室の扉が開いたら、にこちゃんの鼻には絆創膏が貼られていた。あー、これはこれで可愛い。

 

 

不法侵入によって解放された部室に結局μ'sのみなさんは全員入り、部室内を見回している。にこちゃんコレクションに度肝を抜かれてるらしい。すごいっしょ。僕が威張ることじゃないないわ。

 

 

「A-RISEのポスターにゃ」

「こっちは福岡のスクールアイドルね」

「校内にこんな場所があったなんて…」

「…勝手に見ないでくれる?」

 

 

そして不機嫌なにこちゃん。まあそりゃあそうだよね。大事なコレクションだもんね。それ以前に不法侵入されたしね。

 

 

「こ、これは…!!」

 

 

なんかやたら興奮してる子がいたから目を向けると、小泉さんがDVDボックスを持ってわなわなしていた。何だっけあれ、カタツムリみたいな略称の。

 

 

「伝説のアイドル伝説DVD全巻ボックス…!!」

 

 

ああ、そうそう。伝伝伝とかいうやつだ。にこちゃんがよく家で見てるやつ。観賞用は自室に、保存用と布教用はここに置いてるんだった。どっからその金が出てきたかはわからんが、結構な人気だったDVDボックスを3つも占領するのを見た時は慄いた。ん?伝伝伝で合ってるか?伝の字多くない?

 

 

「持ってる人に初めて会いました!!」

「そ、そう?」

「すごいです!!」

「ま、まあね…」

 

 

にこちゃんが引くほど熱烈に感動してる。小泉さん、もうちょっとおとなしい子じゃなかったか?眼鏡も無くなったし、キャラチェンジしたのか。

 

 

「へえー、そんなにすごいんだ」

「知らない んですか?!」

「わお」

 

 

高坂さんが何の気なしに呟いたらすごい勢いで食いついた。入れ食いフィーバーじゃないか。どんだけ好きなんだ。にこちゃんかよ。

 

 

小泉さんは(勝手に)部室のパソコンを立ち上げて操作し始める。めっちゃ慣れてる。まあ大人しい系あるあるでネットに強いのはわかるけども、すっごい慣れてるな。あとコンタクトでそんなに画面凝視してると乾くよ。張り付くよ。あとそれうちの備品だからね。サウンドオブスカーレットとしてのデータも入ってるんだから気をつけてね。

 

 

「伝説のアイドル伝説とは、各プロダクションや事務所、学校などが限定生産を条件に歩み寄り、古今東西の素晴らしいと思われるアイドルを集めたDVDボックスで、その希少性から伝説の伝説の伝説、略して伝伝伝と呼ばれる、アイドル好きなら誰でも知ってるDVDボックスです!!」

「超しゃべるね」

「は、花陽ちゃんキャラ変わってない…?」

 

 

この子こんなに流暢にしゃべったっけ。前は声が小さくて聞き取りにくいくらいだったはずなんだけどなあ。何が起きたし。

 

 

てか伝説の伝説の伝説ってなんだよ。どれだけ伝説なんだよ。

 

 

「通販でも瞬殺だったのに2セットも持ってるなんて…尊敬…!」

 

 

そんなことで尊敬しちゃっていいのかい。

 

 

「家にもう1セットあるけどね」

「ホントですか!!」

 

 

にこちゃんも追い打ちかけるんじゃない。

 

 

「じゃあみんなで見ようよ!」

「ダメよ、それ保存用だから」

「くぅうう、伝伝伝…!」

 

 

そんなに見たいのかい。どれだけ希少性高いんだ伝伝伝。でんでんむしむし…おっとにこちゃんに怒られる。いけないいけない。

 

 

「 かよちんがいつになく落ち込んでるにゃ」

 

 

だからって部室のパソコンのキーボードにほっぺた押し付けないでね。キー壊れる。

 

 

「…あぁ、気がついた?」

「え、いや、そのぉ…」

 

 

にこちゃんと南さんが何かに反応したので目線を移すと、その先にはミナリンスキーのサインがあった。なんでも伝説のメイドさんらしいが、僕としてはにこちゃんに敵うはずもないと知ってるため大層興味がない。

 

 

「アキバのカリスマメイド、ミナリンスキーさんのサインよ。まあ、ネットで手に入れたものだから本人は見たことないんだけどね」

「自分で行きなさいよ」

「嫌よ、メイド喫茶に女子1人でなんて」

「僕も連れてけばいいじゃないか」

「…あんたメイドとか好きなの?」

「言ってないでしょうそんなこと」

 

 

何故か飛び火した。なんでさ。

 

 

「と、とにかく、この人、すごい!!」

 

 

小泉さん語彙力が行方不明になってるよ。

 

 

「それで、何しにきたの?」

 

 

そうだ、そういえば本題がまだだった。だいたいわかってるけど。…にこちゃん、にやけ顔を直しなさいな。すごいって言われてうれしいのはわかるけど。

 

 

真っ先に口を開いたのは高坂さんだ。やっぱりこの子が発起人でリーダーなんだろうな。

 

 

「アイドル研究部さん!」

「にこよ」

「僕ら2人に言ってるのかもしれないぞ」

「にこ先輩!」

「なんでもなかった続けて」

 

 

恥ずかしくなった。

 

 

「実は私たち、スクールアイドルをやっていまして」

「知ってるわ」

「どうせ東條さんに話をつけてこい、とか言われたんでしょ」

「おお、話が早い!」

「まあ、いずれそうなるんじゃないかとは思ってたからね」

「思ってたんだ」

 

 

てっきり何も考えてないものかと思ってた。だから僕がこっそりお手伝いしてたのだけど、にこちゃん自身に考えがあるとちょっと不都合が生まれるかもしれない。

 

 

「なら、」

「お断りよ」

 

 

だよねぇ。

 

 

改めてμ'sの子らを見渡すその目はとても冷たい。意思は断固として曲げんと主張するかの如く。どうしても意地っ張りは治らないらしい。

 

 

にこちゃんだって一緒にやりたいとは思ってるだろうに。

 

 

「…え?」

「お断りって言ってるの」

「いや、あの、」

「私達はμ'sとして活動できる場所が必要なだけです。なので、ここを廃部にしてほしいとかではなく、」

「お断りって言ってるの!言ったでしょ、あんた達はアイドルを汚してるの!!」

 

 

断固拒否するにこちゃんに戸惑うμ'sのメンバーたち。そりゃあそうだろう、一応場所を借りたいとそこそこ厚かましい話をしに来たとはいえ、ここまで全力で拒否られたらビビるだろう。というか想定していてもそこそこビビる。

 

 

「でも、ずっと練習してきたから、歌もダンスも…」

「 そういうことじゃないの。あんた達…」

 

 

彼女らとしてはにこちゃんが何を求めているかを知り、達成する必要があるのだろう。にこちゃんの許しを得られなければ、場所を借りるにも、僕が望むとおりにこちゃんを仲間に引き入れることも叶わない。

 

 

して、にこちゃんの望みは。

 

 

 

 

 

「…あんたたち、ちゃんとキャラづくりしてんの?」

 

 

 

 

 

………おや?

 

 

 

 

 

「…そこなの?」

「何よ茜文句ある?」

「ございません」

 

 

ツッコんじゃいけないのか。ネタじゃないのか。マジで言ってるのか。にこちゃん、確かに君キャラづくり完璧だけどさ、そこか。そこなのか。

 

 

「…キャラ?」

「そう!お客さんがアイドルに求めるものは、楽しい夢のような時間でしょ?だったらそれに相応しいキャラってもんがあるの」

 

 

μ'sの面々、ついていけない様子。頭に疑問符を浮かべ…いや、小泉さんだけ異様に熱心に聞いてる。ちょっと気合いの入れどころが違うんじゃないかな。いや勉強熱心なのはいいことなんだけどさ。

 

 

「ったく、しょうがないわね。例えば…」

 

 

にこちゃんが不意に後ろを向く。何やら準備をしているようだが、大体わかる。アレやるんだろう。長らく見てなかったから久しぶりだ。

 

 

ただなあ。

 

 

僕は好きなんだけどさ。

 

 

 

 

 

「にっこにっこにー!あなたのハートににこにこにー、笑顔届ける矢澤にこにこ!にこにーって覚えて、ラブにこ!」

 

 

 

 

 

「うっ…」

「これは…」

「キャラというか…」

「私無理」

「ちょっと寒くないかにゃー?」

 

 

初見受け悪いんだよなあ。

 

 

でも無理とか寒いは酷いんじゃないかい。

 

 

「ふむふむ…」

 

 

いや、1人だけイレギュラーがいた。小泉さん、流石にメモしてまで参考にすることではないよ。あれはにこちゃんの特権だから。

 

 

「そこのあんた、今寒いって言ったでしょ」

「いっ、いや!すっごい可愛かったです!さいっこうです!」

「あ、でも、こういうのもいいかも!」

「そ、そうですね!お客さんを楽しませる努力は大事です!」

「素晴らしい!さすがにこ先輩!」

 

 

にこちゃんの一言に対して必死に取り繕うみなさん。いやいや流石に誤魔化せないよ、いくらにこちゃんがチョロいとはいえ。約1名本気の子がいるけど。

 

 

「よーし!そのくらい私だって!」

「出てって」

「え」

「とにかく話は終わりよ。とっとと出てって!」

 

 

そう叫んで、にこちゃんはμ'sの6人を1人残らず追い出してしまった。そのまま部室の扉を閉めて鍵までかける。しばらく喧騒が聞こえたが、やがて足音とともに遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 

「…はぁ」

「いいのかい、にこちゃん」

 

 

扉を背にずるずるとへたりこむにこちゃん。きっと、さっきの出来事の諸々を整理して、反芻して、また意地はっちゃって後悔してるんだろう。

 

 

「…いいのよ」

「そんな顔には見えないな」

「いいのよ!」

 

 

若干大きい声を出して勢いよく立ち上がるにこちゃん。そのままいつもの窓際特等席に座って、腕の中に顔を埋めた。明らかに落ち込んでる。

 

 

「…いいのよ。アイドルがなんたるかわかってないような子たちとは、私は一緒にやれないわ」

「本心かい?」

「………そうよ」

 

 

はあ。

 

 

僕は立ち上がってパイプ椅子を持ち、にこちゃんの隣まで移動させてそこに座る。そのまま顔を上げないにこちゃんの頭を撫でると、一瞬ビクッとしたけど抵抗せずになでられていた。

 

 

「にこちゃん、僕がにこちゃんの本心も見切れないと思うか?」

「思うわよ」

「あれっ即答なの」

 

 

ちょっとショック。

 

 

「…ま、まあ、とにかく今は本心じゃないってことくらい僕にもわかるよ」

「なんでそう思うのよ」

「楽しそうだったじゃないか」

 

 

そう。

 

 

にこちゃんがいろんな言葉に反応してわちゃわちゃする光景なんて、今までほとんど見たことはなかった。別にお客さんでもない人ににっこにっこにーしてるのも初めてみた。あと部室にあれだけ人がいたのも初めてだ。

 

 

楽しくないわけがない。

 

 

「…楽しくなんて、」

「久しぶりににっこにっこにーしてくれたよね」

「…」

「久しぶりに僕以外にでかい声出してたね」

「…」

 

 

にこちゃんは答えない。

 

 

「楽しそうだったよ、にこちゃん。僕もあんなに賑やかなのは初めてで結構楽しかった。にこちゃんは笑わなかったけど、不機嫌顔だったけど、やっぱりいつもより楽しそうだった」

「そんなこと、」

「にこちゃん」

 

 

席を立ってにこちゃんの背後に回り、そっと抱きしめる。ちっさい割には柔らかい感触とにこちゃんの少し甘い香り、そしてわずかに震えていることを確かに感じた。

 

 

きっとこの子は、また同じ失敗をするんじゃないかって心配しているんだろう。また1人で突っ走ってしまわないだろうか、周りを顧みず進んでしまわないだろうか、そして、また1人になってしまうんじゃないかって。こう見えてお姉ちゃんであるにこちゃんは、他人のことに対してすこぶる敏感なのだ。

 

 

だから、安心させてあげなきゃいけない。

 

 

「大丈夫だよ。あの子達、自分が楽しいからやりたいって言ってたじゃない。気まぐれや打算でやってるんじゃない。始めた理由がなんであれ、自分たちで立ち上げて、自分たちで努力して、自分が楽しいから続けてる。それに、」

 

 

1度言葉を切って、より強く抱きしめて、にこちゃんの耳元に口を寄せて囁く。

 

 

「仮にダメでも、ずっと僕がいるから」

 

 

それだけ言ってにこちゃんの返事を待つ。しばらく返事はなかったが、震えは止まっていた。

 

 

やがてにこちゃんはポツリとつぶやいた。

 

 

「あんたさ、」

「ん?」

「…今すっごい恥ずかしいことしてるのわかってる?」

 

 

んん?

 

 

今僕はにこちゃんを抱きしめている。

 

 

おお、やばいな。

 

 

「にこちゃん柔らかい…」

「死ね変態!」

「んぎゃ」

 

 

投げられた。机に激突してどんがらがっしゃんと結構な音を立てる。痛え。

 

 

「…わかってるわよ、あんたがずっと側にいてくれることくらい」

 

 

衝撃で未だ立てない僕には目を向けないでつぶやくにこちゃん。嬉しいな、嬉しいけどまず起こして。

 

 

「わかってるわよ。あの子達が羨ましいなんて」

 

 

やっとこっちを向いて、にこちゃんが手を引いてくれる。ついでに「ごめん」と言ってきた。まだ意気消沈しているようで、わざわざハグした甲斐もない。力及ばずで悔しい限りだ。

 

 

「でも…もうちょっと待って。自分の気持ちも整理したいし」

 

 

そう言って鞄をとり、帰る準備をするにこちゃん。なんだ帰るのか。

 

 

「…わかったよ」

 

 

それなら僕も帰ろう。開きっぱなしの窓に近づいて閉めようとすると、また雨が降り出していた。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございました。

波浜さんのキャラがブレブレですわ。甘い!急に甘いラブコメ風味に!!砂糖吐きそう!!!
でもちゃんと不安定にしようと思ってしてるので大丈夫です。決して私がポンコツなんじゃありません。多分。おそらく。きっと。


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予定通りじゃなくてもハッピーエンドは飾れるから



ご覧いただきありがとうございます。

7話の閲覧数が6話より多いんですが、絶対皆様スケベ目当てでしょ!!ふっふっふっ残念ながらスケベ路線は控えめなんですよ!!え?R-15タグついてる?あーあー聞こえない。

スクフェス5周年のために絵も描いてたらするので投稿忘れそうになりますよ…危ない危ない。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

翌日もにこちゃんはちょっと元気なかった。雨も止まないし、僕もテンションが上がらない。いつも別に高くないけど。

 

 

にこちゃんは、結局自分がどうしたいのか決めきれずにいるのだろう。生来の性格なのか、アイドル根性なのかはわからないけど、彼女らに頭を下げるのはプライドが許さないようだ。いかにもにこちゃんらしいが、僕がせっつくわけにもいかない。それで変に傾いたら後で困る。にこちゃんが自ら望んで手を伸ばさなければいけない。

 

 

「…なんか、静かに感じるわね」

「昨日が賑やかだったからね」

 

 

いつも通り部室で昼食中の僕ら。今日はなぜかにこちゃんが直々に弁当作ってきてくれて驚いたが、中身がもやし炒めとかで妙に質素で困った。そこまで節制しなくてもよかろうに。

 

 

「…やっぱり、茜は賑やかな方がいい?」

 

 

どうにも弱気になってるらしいにこちゃんが弱々しい声で僕には聞いてきた。いつもなら即断即決でガンガン行っちゃうのにね。

 

 

「僕がどうとかより、にこちゃんが望むべきだろ。決めるのはにこちゃんだ」

「…むぅ」

 

 

ふてくされしにこちゃん。流石にそこはね。にこちゃんの意思で決めてほしいから。

 

 

「私は、あんたにも決めてほしい」

「へえ」

 

 

ふてくされながらもやし炒めを口に突っ込むにこちゃんがそう言う。ちゃんと飲み込んでからしゃべるあたりは流石お姉ちゃん。高校生なら普通かもしれないけどさ。マナー的に。

 

 

「なんでさ?」

「だって…あんたはうちの、アイドル研究部のマネージャーなんだし。あの子達に部屋を渡すなら、あんたの許可だって必要なはずよ。部長はそんな強権じゃないの」

「そうかな」

「そうよ」

 

 

僕も僕で弁当を平らげてから返事をする。弁当箱を片付けながらにこちゃんを見てみると、結構真剣な目でこっちを見ていた。僕に縋るんじゃなく、本当に僕の意見を尊重しようとしてるんだろう。こういうときしっかりしてるから困る。ギャップ萌えというやつだ。多分。

 

 

「そうだね…。僕は確かに賑やかな方がいいかもしれない。にこちゃんが笑顔になるからね」

「そんな理由なの?」

「そんな理由って酷くないかい」

 

 

眉をひそめて苦言を呈するにこちゃん。失礼な、僕にとっては大事な理由だぞ。

 

 

「にこちゃんの笑顔はね、見てるとこっちも笑顔になれるんだ。僕はもっともっと多くの人に君の笑顔を見てほしい」

「…そこは独り占めしたいって言いなさいよ」

「なんでさ」

 

 

にこちゃんからよくわからない返事が返ってきた。ツッコミはしておくけど、まだ話は続きがあるから続ける。

 

 

「にこちゃん、にっこにっこにーしてるときとか、踊ってる時とかはちゃんと本気で笑顔になれるけど、なかなか心から笑わないもの。昨日にこちゃん楽しそうだったから、あの子たちと一緒にいればにこちゃんも心から笑顔になってくれるかなってさ」

 

 

そう言ってにこちゃんに笑顔を向けると、にこちゃんも笑顔で返してくれた。いつもの大輪のひまわりみたいな笑顔じゃなくて、もっと静かで可憐な笑顔だった。たまに見る、落ち込んだ後に見られる元気が出たサイン。とても可愛い。禿げる。僕禿げすぎじゃない?やばいね。

 

 

「…そうかもね」

「いい笑顔だよにこちゃん、可愛い」

「どんだけ可愛いって言えば気がすむのよ」

「いつまでも言うよ」

 

 

呆れつつ、にこちゃんは嬉しそうだった。

 

 

「…でも、やっぱり私はそんなにすぐに割り切れないわよ」

「だろうね」

「だろうねってあんたね」

 

 

にこちゃんの意地っ張りがすぐ治るならもう治してるよ。

 

 

「でも、にこちゃんが決めたことなら僕はどこまでもついてくからさ」

 

 

結局はそういうことだ。

 

 

「ほんとに恥ずかしいわねあんた」

「そんなにかい」

 

 

いつの間にやら弁当箱を片付けたにこちゃんがこっちに歩いて来ながら言う。僕は恥ずかしくないぞ、だって事実だもの。にこちゃんは可愛い。事実を主張するのになんのてらいも有りはしない。

 

 

「私が恥ずかしいのよ」

「そうは見えないぞ」

 

 

僕の横で仁王立ちするにこちゃん。僕も座ったままにこちゃんに向き合う。普通に真顔で恥ずかしがってる気配はない…いや顔がちょっと赤い。やっぱり恥ずかしがってる。流石にこちゃん、アイドルは表情詐欺が完璧だ。ごめん詐欺は言いすぎた。

 

 

「だから」

 

 

急ににこちゃんははにかんで、一歩近づいて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

額に唇をつけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

…………………………………………ん?

 

 

 

「………んん?んんん?!?!」

「恥ずかしいのお返しよ。じゃ、私はもう行くから」

 

 

待て。待ってくれ。事象に認識が追いつかない。にこちゃんはさっさと出て行ってしまったが、僕はパイプ椅子に縛り付けられたが如く動けない。ちょい、にこちゃんが、んん?!

 

 

意識もはっきりしないまま立ち上がろうとして、盛大にこけた。ついでに机に顎を打って視界が明滅する。散々だ。まったくまったく散々だ。

 

 

痛いやら恥ずかしいやらで悶絶してたら、授業に30分遅れた。

 

 

 

 

 

 

授業後にはにこちゃんもいつもの感じに戻っていた。僕も忘れることにした。なかったことにした。それがきっと正しい。正しいって言ってお願い。

 

 

にこちゃんの教室前で合流して、職員室に部室の鍵を取りに行って、二人並んで部室に向かう。その間二人とも言葉はない。なんだかんだ言って、昨日の喧騒が恋しくなってるんだとは自分でも理解できる。きっとにこちゃんも同じ気持ちだ。

 

 

だから、にこちゃんの気持ちは、きっと彼女たちとともに歩む方向に進んでくれるはずだ。にこちゃんも心の奥でそれを望んでるはずだから。

 

 

今しばらく時間をおけば、きっと。

 

 

「ねえ、帰りどっか寄ってかない?」

「いいね!部員のみんなも誘っていこ!」

 

 

そんな言葉が横を過ぎる。にこちゃんも反応したようで、部室の扉の前で一瞬固まった。

 

 

「…入ろうか」

「うん」

 

 

僕が促して、にこちゃんは扉を開ける。

 

 

 

 

 

何故か電気がついた。

 

 

…ここ自動点灯だったか?

 

 

 

 

 

 

「「「「「「お疲れ様でーす!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

「なっ」

「えっ」

 

 

 

 

 

μ'sの皆様がそこきちんと着席していらっしゃった。

 

 

 

 

………

 

 

……………んんん???

 

 

 

「お茶です部長!」

「ぶ、部長?!」

 

 

さっとお茶を出す高坂さん。え。…え?なんで君たちいんの?どうやって入ったの?

 

 

「今年の予算案になります、マネージャーさん!」

「あ、どうもご丁寧に…」

 

 

僕に紙束を渡してくる南さん。いや何受け取ってんだ僕。他に聞くことあるでしょう。

 

 

「ちょいちょい、君たち」

「部長!ここにあったグッズ邪魔だったんで棚に移動しておきました!」

「こらっ勝手にっ」

「さ、参考にちょっと貸して、部長のオススメの曲」

「おーいみなさまー」

「なら迷わずこれを…!」

「ああっだからそれは…!」

「聞いて」

 

 

聞いてよ。勝手にもの動かしちゃダメでしょ星空さん。あと小泉さん伝伝伝ってDVDじゃなかったっけ。ライブDVDなんだっけ。あとそれ保存用らしいからダメよ。

 

 

「ところで、次の曲の相談をしたいのですが部長!」

「やはり次はさらにアイドルを意識した方がいいと思いまして」

「それと振り付けもいいのがあったらお願いします!」

「歌のパート分けもお願いします!」

 

 

投げすぎじゃない?

 

 

というかほんとに何なのだろう。まさか昨日追い出されたからってゴリ押ししにきたのだろうか。にこちゃんそんなにちょろくないぞ。でこちゅーしてくるくらいだからな。あー待ったこれは思い出しちゃいけないやつだった今のナシ。

 

 

「いやいやいやいや君たち」

「…こんなことで押し切れると思ってるの?」

 

 

にこちゃんも同じ考えのようだ。どういう経緯でどういう思いがあってゴリ押しを敢行したのかはわからないが、そんな力技に負けるようなヤワな精神はしていない。僕も、もちろんにこちゃんも。アイドルなんて力技ではやっていけないし、力技に押されるようでもやっていけないのだ。

 

 

 

「押し切る?」

 

 

 

やっていけないのだ。

 

 

 

「私はただ相談しているだけですよ」

 

 

 

…やっていけないのだ。

 

 

 

 

「音ノ木坂アイドル研究部所属の、μ'sの"7人"が歌う次の曲を」

 

 

 

 

…………、

 

 

「…7人?」

 

 

…これは。

 

 

力技じゃないのか。

 

 

「…そうか。君たち…」

「何よ、どういうことなのよ茜」

 

 

驚き、戸惑い、不安や恐怖まで見て取れるにこちゃんの顔。目の前で起きる怪現象にどう反応したらいいかわからないといったようなその表情に、僕は優しく笑顔を返した。

 

 

「ふふ、簡単なことだよ。彼女たち、"音ノ木坂アイドル研究部所属の"って言ったんだよ?」

「それが何よ」

「部員、僕らしかいないはずなんだ。じゃあなぜ7人なのか。」

 

 

 

 

君はもう、ひとりじゃない。

 

 

 

 

「この子たちがアイドル研究部に入ったからだよ」

 

 

 

 

今度は自分ができる最高の笑顔をにこちゃんに送った。

 

 

 

 

「アイドル研究部所属のスクールアイドルがμ'sなら…にこちゃんも、μ'sのメンバー。だろ?だって、にこちゃんもスクールアイドルなんだから」

 

 

 

 

にこちゃんの心が決まるまで待つつもりだったけど。

 

 

周りはそんな悠長に待つつもりなんてなくて。

 

 

それでいて、より良い手を打ってきた。

 

 

にこちゃんがスクールアイドルをやりたいと思ってることが前提だから、にこちゃんが以前スクールアイドルをやっていたと知らないと思いつきそうにない作戦だけど…どうせ東條さんあたりが教えたんだろう。

 

 

まあ、何にせよ。

 

 

にこちゃんは無事押し切られてしまったわけだ。知らぬ間に。

 

 

でも、返事しないで僕を見つめるにこちゃんは、理解が追いついてきたのか、戸惑いながらも嬉しそうだった。

 

 

やがてにこちゃんは真剣な表情に戻ってμ'sの仲間たちに目を向ける。

 

 

「…厳しいわよ」

「分かってます、アイドルへの道が厳しいことくらい!」

「分かってない!」

 

 

デカい声で、でも割と嬉しそうに声を張るにこちゃんはやる気に満ちていた。ポジティブなにこちゃんを学校で見るのは久しぶりだ。

 

 

「あんたも甘々!あんたも、あんたも!あんた達も!!」

 

 

μ'sの仲間達一人一人を見据えて容赦なく言い放つにこちゃんは、アイドルという意味では間違いなく先導者であった。

 

 

「ついでに茜も!」

「僕関係なくない?」

「いーや!あんたは部員が8人になった重大さがわかってない!」

「あっはい」

 

 

おっしゃる通りですお嬢様。

 

 

っていうかそうじゃん7人じゃなくて8人じゃん。いやμ'sは7人か。なんか寂しい。

 

 

「いい?アイドルっていうのは笑顔を見せる仕事じゃない。…笑顔にさせる仕事なの!そのことをよーーく覚えておきなさい!!」

「「「「「「はい!」」」」」」

 

 

まあ、何はともあれ。

 

 

無事ににこちゃんがスクールアイドルに復帰してくれた。本懐は果たしたけど、本番はここからだろう。

 

 

にこちゃんの笑顔を世界中に振りまく、お手伝いをしなければ。

 

 

「じゃあ、にこちゃんも加わったことだし…練習する?」

 

 

そう言って窓を開け放ち、7人となったμ'sへ振り向く。開かれた窓の向こうは、いつの間にか雨は上がっていて、わずかながら青空まで見えていた。

 

 

 

 

 

で、屋上。

 

 

「にっこにっこにー!」

「「「「「「にっこにっこにー!」」」」」」

「…それやんの?」

 

 

なぜかみんなでにっこにっこにーしてた。あれにこちゃんの専売特許じゃないの。いいの。

 

 

「釣り目のあんた気合入れなさい!」

「真姫よ!」

「名前は覚えてあげて部長さん」

「茜うるさい」

「扱いがひどい」

 

 

今のは正論でしょ。セイロンティーでしょ。ごめん今の無し。

 

 

その後もわちゃわちゃやりながらひたすらにっこにっこにーしてたけど、時折にこちゃんが背を向けて涙を拭ってるのを見て嬉しくなった。きっと、やっと一緒にやっていける仲間を得られて感涙してるんだろう。今夜はハンバーグ作ってあげようかと、練習を眺めながら考えていた。

 

 

空は、雨が降ってたのが嘘みたいに快晴になっていた。

 

 






最後まで読んで読んでいただきありがとうございました。

若干短めでしたが、ついににこちゃん加入です。ここからが本番、やっと原作に合流です。ラブコメっぽいこともしてましたが、この先減るのでラブコメタグをつけるべきか否か。

あと次回はオリジナル展開、遂に男が本格的に増えます。せっかく原作に合流したのにね!!



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後日談



ご覧いただきありがとうございます。

おかげさまでついにお気に入りが10人に達しました。私の寿命も100年が保証されました。本当にありがとうございます。自己満全開ですが頑張ります。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

「とまあ、そんな経緯でにこちゃんは無事スクールアイドルに復帰したわけだよ」

 

 

とある喫茶店で、嬉しそうに語るのは波浜茜。音ノ木坂学院の3年生であり、圧倒的頭脳と抜群の芸術センス、そして脆弱な体と小さな身長を持つデザイナー界の神童である。

 

 

そして。

 

 

「…なあ、仕事の打ち合わせに来てんのにお前、2時間くらい矢澤の話しかしてねぇぞ」

「いいじゃないか。にこちゃんのことだぞ」

「いいわけあるか。暇じゃねえんだ」

「嘘つけ」

「ぶん殴るぞ」

 

 

波浜の対面に座っているのは、細身で背が高く、手足が長くてぼっさぼさの黒髪を頭に乗せた眠そうな顔の青年。その実態は波浜が作ったステージ演出等請負グループ「A-Phy(えーさい)」の一員であり、ペンネームはサクラ、音楽担当の別名"音楽界の神童"。

 

 

名を、水橋桜と言う。

 

 

「桜、暴力は何も生まないよ」

「そうだな、何もないところから暴力を生むことはできるがな」

「だから人は争いを止めないんだね」

「煽るやつがいるせいでな」

「乗ってくるから悪い」

「まず煽んな」

 

 

設立メンバーなので仲はいいのだが、ノリはこんな感じである。

 

 

「まあとにかく、次の舞台はアキバドームらしいし気合入れないとね」

「じゃあ矢澤の話してる場合じゃねえだろ」

「そうそうにこちゃんといえば」

「黙ってろ」

「あふん」

 

 

どうしてもにこちゃんの話をしたいらしい波浜の額に水橋の拳が刺さった。身体能力が壊滅的な波浜はそれだけで軽く意識を持って行かれる。

 

 

「ああ…にこちゃんが僕を呼んでる…」

「もう帰れよお前」

「冗談だってば」

 

 

冗談と言う割には焦点が定まってないが、冗談ということにしておく水橋。というか、下手に加害を肯定すると賠償金とか取られそうで怖い。

 

 

「ったく。…アキバドームほど広い場所だと照明装置の設置調整だけで一苦労だぞ、前日のライブの撤去、当日の機材搬入の時間も考えると相当厳しいぜ」

「適当なタイミングで現場入りして、下見してプログラムをあらかじめ組んでおけばだいぶ余裕できるよ」

「普通は出ねえ発想だっつーの」

「どうせ音響設備もそんな感じでしょ」

「そりゃあな」

「じゃあ同じことだ」

 

 

2人とも神童と言われるだけあって並みの感覚ではない。圧倒的なセンスと仕事の早さがその有名さの秘密でもあった。

 

 

「じゃ、とりあえずいつも通り図面から仮想で配置を組むか」

「りょーかい」

 

 

そう言って喫茶店の机にドームの見取り図を広げて、彼らにしかわからない打ち合わせが今日も始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ出発です!!」

「出発にゃー!」

「なんで私まで…」

 

 

秋葉原にて声を上げる3人の女子高生は、小泉花陽、星空凛、西木野真姫。音ノ木坂学院の1年生であり、スクールアイドルである。今日は久しぶりに練習が休みなので、「スクールアイドルショップに行きます!!」と花陽が鼻息荒く宣言し、それに凛が真姫を連行して同行したところである。要するに真姫は巻き込み事故なのだが、だいぶまんざらでもなさそうだった。

 

 

「そんなこと言って真姫ちゃん嬉しそうにゃ」

「そっそんなことないわよ!」

 

 

凛に絡まれながら、ふんすふんす言って先を行く花陽についていく。なんでも、どこかのスクールアイドルの新曲の発売日らしい。聞いたら目をキラキラさせて語ってくれた。アイドルのことになるとキャラが変わるのが小泉花陽である。

 

 

スクールアイドルショップは駅からそう遠くないため、大した時間もかからず到着した。

 

 

「…あれ?」

 

 

テンションMAXな花陽やなんだかんだ舞い上がってる真姫は気づいていないが、凛は確かに見た。

 

 

自分たちが目指すスクールアイドルショップに、ものすごくデカくて屈強な男性が身を屈めて入っていくのを。

 

 

(あの人どこかで見たような…)

「凛、置いてくわよ」

「わわわ、待ってー!」

 

 

まあいいやと思い直して2人についていく凛。そんなに細かいところまで頭の回らない凛であった。

 

 

店内はそれほど広くないが、壁にも棚にも所狭しとスクールアイドルグッズが並べられていた。それはもう天井から床までびっしり。そのせいで彼女ら程度の身長では脚立や踏み台を借りないと天井近くの品は手が届かなかったりする。彼女らに限らず、だいたいの人がそうだが。

 

 

「すごいわね…」

「すごいよねー」

「すごいです!!」

 

 

真姫は初めての光景に圧倒され、凛は慣れたもんだとばかりに眺め、花陽はまたライナップが変わってることにテンションを上げていた。どうにも共通点が少ない1年生ズである。

 

 

花陽の目当ての品はすぐに見つかった。新発売ということで見やすく取りやすい場所にあったのでそう困らなかったのだが、

 

 

「あ…!あれは!」

 

 

そう言って見上げた先に、今人気上昇中のスクールアイドルのキーホルダーがあった。花陽は前々から欲しいと思っていたのだが、なかなか見つからないと思ったらあんなところにあったのか。

 

 

「うう…あんな高いところに…」

「かよちんどうしたのー?」

「あれが欲しいんだけど…脚立ないと届かないなぁ…」

「持ってこればいいじゃない」

 

 

そう言って真姫が脚立を探しに行こうとした時である。

 

 

後ろからぬっとどでかい人影がやってきて、花陽が欲しがっていたキーホルダーをスッと手に取り、

 

 

「…これか」

 

 

花陽に差し出してきた。

 

 

「ぅえ?あ、ありがとうございます…」

 

 

突然の出来事に変な声を出しながら見上げた先にいたのは、2mはあろうかという巨体に、細身ながら屈強な体、オールバックにした銀髪、そしてサングラス越しのものすごく鋭い眼光。

 

 

音ノ木坂1年生唯一の男子生徒である、滞嶺(たいれい)創一郎だった。

 

 

もちろん、風貌が怖いので3人とも話したことはない。というかほとんど1年生全員が話したことない。

 

 

「えっ」

「にゃっ」

「うぇえっ」

「…なんだ」

 

 

3人揃って変な声が出た。そして当の滞嶺には不審そうな顔をされた。

 

 

「…滞嶺くん、スクールアイドル好きにゃ?」

「そうだが」

「似合わな…」

「まっ真姫ちゃん!!」

 

 

真姫が余計なことを口走ったので花陽が止めにかかるが時すでに遅し。バッチリ聞こえたはずだ。

 

 

「自覚はある」

「えっ」

 

 

気にも留めてなかった。

 

 

というか自覚していた。

 

 

「なんだ、滞嶺くん怖い人かと思ってたのに急に怖くなくなったにゃ」

「そんなに怖いか」

「そりゃあいつも仏頂面で無言で机に足乗せてたら怖いわよ」

「仕方ないだろう。話すこともないんだ」

 

 

1年生の間ではただただ凄まじい存在感とプレッシャーを与えていた滞嶺だが、別に本人はプレッシャーかける気などまっっったくなく、むしろ「何故みんな俺の周りを避けるんだ」と軽くしょげていたくらいである。真相はただ怖かっただけだった。

 

 

「あ、滞嶺くんもそのCD買うんですか?」

「ん?ああ、そりゃ新発売なら買うだろ。今注目のスクールアイドルの初シングルだ、買わない手はない」

 

 

あれ。

 

 

結構ガチファンなんじゃなかろうか。凛と真姫はそんな予感がして、花陽は確信した。

 

 

「た、滞嶺くん、今度スクールアイドルについて語りませんか?!」

「?お、おう、つーか何であんた敬語なんだ」

「かよちん、滞嶺くん引いてるにゃ」

「花陽アイドルのことになると怖いものなしね」

 

 

目を輝かせて滞嶺に詰め寄る花陽と、若干引く滞嶺。滞嶺も、こんな見た目ながら隠しもせずドルオタをしている結構な重症患者だが、それこそ見た目に似合わず冷静である。それに、今までドルオタ仲間がいなかったのもあって花陽のテンションについていけない。

 

 

「…わかったから早く買ってこい」

「…っは!そうでした!凛ちゃん、真姫ちゃん、それと滞嶺くん、外で待っててください!」

「だからなんで敬語」

「滞嶺くんが怖いからじゃないかにゃ?」

 

 

そんなに怖いか、と若干落ち込む滞嶺。以外とメンタルが脆いらしい。

 

 

「でも、あなたスクールアイドル好きなのに私達のこと知らないの?」

「真姫ちゃん、凛たちはまだ1回もライブ出てないにゃ」

「あ、確かに」

「…なんだ、お前らスクールアイドルやってたのか。μ'sは高坂穂乃果、園田海未、南ことりの3人だと思っていたが」

 

 

自分の高校ながら、まだ知名度の低いスクールアイドルも名前まで完璧に把握しているあたりだいぶ詳しい。さすがに公表されていない内容までは知らないようだが。

 

 

「今は凛たち3人とにこ先輩が入って7人になったにゃ」

「7人。多いな」

「多いの?」

「そうだな、ほとんどのスクールアイドルは2〜5人だからな」

 

 

へえ、と感心する凛と真姫。花陽なら知っているだろうが、この2人は調べたとはいえまだまだ素人である。

 

 

「お待たせしました!さあ行きましょう!」

「いくにゃー」

「ああ、じゃあな」

「えっ滞嶺くん帰っちゃうんですか?!」

「なんで帰らねえと思ったんだよ」

 

 

やっと出てきた花陽が号令を出すと同時に自然と撤退を始める滞嶺。何故か花陽に驚かれたが、こっちはこっちで用がある上に今日初めて話した相手とお出かけするほどコミュ力は高くない。

 

 

「俺は俺で用があるんだよ」

「そうですか…」

「ショックにゃ…」

「なんでそんなにショック受けてるのよ」

 

 

冷静なのは真姫だけであった。しかしいくら悲しい顔をされても用があるのは事実。また学校で話すと(仕方なく)約束して帰路に着いた。

 

 

(…まあ、初めての友人と思えばいいか)

 

 

こんな見た目でも、彼は高1である。

 

 

友達ができて嬉しくないわけがない。

 

 

 

 

 

「…ったく、もう日が沈みかけじゃねぇかよ。最初の脱線がなければもうちょい早く終わったろうが…」

 

 

水橋桜はブツクサ言いながら帰路についていた。6月で午後6時はもう日は地平線近い。街灯も疎らにつき始める中、1人寂しく歩いている。波浜は「にこちゃん家行くから」とか言ってさっさと帰ってしまった。毎度思うが、通い妻かよ。

 

 

暗くなり行く道をのそのそ歩いていると、ふと一軒の店が目に入った。

 

 

饅頭屋「穂むら」。

 

 

水橋が好物とする、和菓子の店である。

 

 

「…夕飯とはいかねえが、流石に腹減ったからな」

 

 

誰に言うわけでもなくつぶやいて穂むらに向かう。結局は穂むら名物「ほむまん」が食べたいだけである。財布の中身を確かめ、10個入りでいいかと決めて店に入る。

 

 

「いらっしゃいませ…あ!桜さん!」

「10個で」

「素っ気ない?!」

 

 

店番は長女の穂乃果がしていた。元気でいいことだが割とおっちょこちょいで、割とアホだ。波浜が手伝いをしているμ'sの発起人でもある。

 

 

「あ、桜さん、μ'sまたメンバー増えて7人になったんですよ!」

「ああ、茜から散々聞いたよ」

「えっ桜さん波浜先輩と知り合いなんですか?」

「言ってなかったか?」

「はい、初めて聞きました」

 

 

割といらんことまで話してしまった記憶があるのだが、波浜のことは話していなかったようだ。まあ、いちいち会話の仔細を覚えてる奴の方が少ないかと特に気にも留めないことにする。

 

 

「なんつーか、ちょっとした縁でな。そんなことよりほむまん早く」

「相変わらずせっかちですね」

「余計な御世話だ」

 

 

はいどーぞ、と差し出されるほむまん(10個入り)。基本的に表情筋が死んでいる水橋も、これを見ると無意識に表情が緩んでしまう。穂乃果はいつもこっそりそれを観察するのを楽しみにしていた。

 

 

「ありがとうございました!」

「ん。新曲、楽しみにしてる」

 

 

それだけ言ってさっさと店を後にする。わざわざ言わないが、当然早くほむまんを食べたいからである。

 

 

(スクールアイドルねえ…)

 

 

帰り道、すっかり暗くなった道を歩きながら考える。

 

 

(俺も高校行ってたら…いや、考えるな。無理な話だ)

 

 

嫌な方向に思考が向かいかけたので頭を振ってリセットする。幸せな学生生活や青春なんてものは、自分で潰してしまったのだから、今更取り返せるはずもない。

 

 

街頭に照らされた夜の道を、ふらふらと不安定な足取りで歩いていく。誰もいない住宅街は不自然なほど孤独を感じさせた。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございました。

新しく出てきた2人、またキャラの濃そうなやつらですね。誰が考えたんだ!!私か!!

実は今まで出てきた3人は、この話を書こうと考えた最初期からいたメンバーです。他の男たちは名前や中身がコロコロ変わっているのですが、彼ら3人はほぼ変化なし。なので作品全体としては彼ら3人が最も活躍する予定です。いい意味でも、悪い意味でも。



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どうでもいいことを素晴らしい作品にするのが本物のプロ



ご覧いただきありがとうございます。

またまたお気に入り登録してくださってありがとうございます。私の寿命もうなぎ登りです。感想もくださってより一層長生きできそうです。仙人でも目指そうかな!!頑張ります!!

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

なんだかんだあった割には日常はフツーに過ぎていくもので。

 

 

今日も元気に勉強会である。まあ結構久しぶりなんだけどさ。

 

 

「とりあえず絢瀬さん、機嫌治さないと頭まわんないよ」

「別に機嫌悪くなんて」

「にこちゃん起きな」

「聞いてない…!」

 

 

今日は絢瀬さんが朝からご機嫌斜めだった。いつもは氷の女王で、たまにかき氷お嬢ちゃんなのが、今日は極低温エンプレスだった。ネーミングセンス酷いな僕。

 

まあどうせ、不機嫌の理由はμ'sだろう。何故だかわからないけど毛嫌いしてるのに、順調にメンバーを増やして今や7人、無事部室も確保した。そりゃ目の上のたんこぶというか、とにかく腹たつだろう。

 

 

僕としてはそんなのどうでもいいので、絢瀬さんの相手は早々に切り上げてただいまにこちゃん起床チャレンジ中である。

 

 

「んんー、あと5分…」

「それは布団の中で言うセリフだよにこちゃん」

「にこっち起きる気配もないね」

「いつものことだよ」

「いつものことでいいのかしら」

 

 

いいわけない。どうせテスト直前で泣きついてくるんだから早めに勉強していただきたい。泣きついてくること自体は役得なんだけど、赤点取るか取らないかの瀬戸際でハラハラするのはいかんせん心臓に悪い。

 

 

「にーこーちゃーん」

「うー」

「波浜くん、うちに任しとき」

 

 

いくら揺さぶっても起きないのを見て、東條さんが立ち上がった。何事かわからないけど策があるんだろうか。そのままにこちゃんの背後に回る。

 

 

「にこっちー、起きないと…」

「起きないと?」

「わしわしマックスや!!」

 

 

瞬間。

 

 

東條さんの両手が、机に伏すにこちゃんの脇に向かった。くすぐる気かと思ったら、更にその先の胸に向かった。

 

 

「ひゃう?!」

「覚悟しぃ!」

 

 

咄嗟に目を瞑って顔を机に押し付け耳を塞いだ。ゴンっていったしとても痛いがそんな場合じゃない。これは見ても聞いてもいけないやつだ。しかしここまでしてもにこちゃんのアカン声が微妙に聞こえてくるので頭の中で必死に別のことを考えることにする。何考えようかな桃太郎朗読でもするか昔々あるところにおじいさんとおばあさんが以下略。

 

 

「波浜くん、にこっち起きたよ」

「どうも…」

「何で波浜くんが1番疲れてるのよ…」

「にこちゃんの悩ましボイスをシャットアウトするのにどれだけ頑張ったと思ってんの」

「な、悩ましボイスとか、言うんじゃないわよぉ…」

「にこちゃんストップ落ち着いてから喋って」

 

 

まだ艶の残るにこちゃんの声を聞いてるといろいろマズい。煩悩で溢れる。顔も見れない。どうせ火照って艶かしい表情してるんだろう。

 

 

「波浜くん、いつもにこっちを好き好きゆってる割には純情なんやね」

「純情とかそういうレベルかい今の」

「あ、茜は、ヘタレだもん…」

「だからにこちゃんストップ頼むからほんとに」

「焦ってる波浜くんは初めて見るわね」

「いつもヘラヘラしてるもんね」

「そっちが本来だよ」

 

 

顔は上げれないがどうせ東條さんも絢瀬さんもにやにやしてるんだろう。やめてくれ。いつも通りの裏が読めない系男子をさせてくれ。

 

 

何か突破する案がないかと思っていたら、東條さんが別の話題を振ってきた。

 

 

「そう言えば、生徒会で今、部活動紹介のビデオ撮ってるんやけど、アイドル研究部も撮る?」

「ビデオだって」

「なんか急に元気になったわね」

 

 

ビデオと聞いて飛び起きる。映像作品となれば僕の本業だ。

 

 

「機材はどんなもんだい?撮影時間と撮影場所は。時間帯と演出の有無は」

「え、えっと…」

「茜、引いてるわよ」

 

 

おっとしまった。復活したらしいにこちゃんに窘められて一旦落ち着く。

 

 

「おっと、失礼。取り乱したようで」

「そう言えば波浜くんって有名なデザイナーさんらしいわね」

「有名かどうかは知らないけどね」

 

 

絢瀬さんはおそらくμ'sのライブ映像に仕込んでおいた(というか載せざるを得なかった)クレジットを見て気づいたのだろう。まあバレるのは想定内だから別にいい。言いふらされると困るけど。

 

 

「プロの血が騒いだってことね」

「えりち、うちを置いて話進めんといてよぉ」

 

 

珍しく不機嫌顔の東條さん。なんだかんだいってこの子も疎外感は食らいたくないタイプなのだろう。口止めも含めて僕の本職の説明をしておいた。

 

 

「ふぇえ〜、波浜くんがSoSさんやったんやね…」

「あら、希はそのサウンドなんとかって知ってたの?」

「うちはどっちかって言うと裏方に目が向いちゃうから。舞台とか、映画の後援とかによく名前が載ってるんをよく知ってるんや」

「映画もなの?」

「たまにね」

 

 

感心されているけど、こういう反応は慣れている。あんまり顔出ししないし、作品の幅広さは随一だから。桜は音楽作品で、天童さんは脚本で有名だけど、僕は舞台演出、照明演出、グラフィックデザインウェブデザイン服飾デザインなどなど分野の広さがウリだ。何だったら音楽も脚本もできる。他2人ほどじゃないけど。

 

 

「波浜くん以外だと、BGMにサクラって人とか、脚本にNo.1って人とかよく一緒に見るよ」

「めっちゃ詳しいね」

 

 

驚いた。サクラは言わずもがなA-Phyの音楽担当である水橋桜、No.1はこちらもA-Phyメンバーで脚本担当の天童一位のことである。A-Phyとして3人で活動してるときもそれぞれ名前をちゃんと出しているとはいえ、全員覚えてるとはね。

 

 

「私は3人とも会ったことあるわよ。茜はここにいるし、たまに水橋くんも天童さんも茜と一緒にいるから」

「にこちゃん、本名出しちゃダメよ」

「あっ」

 

 

にこちゃん、今更口押さえても遅いよ。可愛いけど。お二人には念のためもう一度黙っておくように頼んでおいた。

 

 

「それにしても、波浜くんって友達いたのね」

「どういうことかな」

「意外よねぇ」

「にこちゃん勘弁して」

 

 

ひどいことを言ってくる。にこちゃんが追い打ちしてくるのは、以前「友達いたんだ」とか言っちゃったからだろう。ごめんって。

 

 

このままだと弄られるので話題転換。

 

 

「とにかく、部活動紹介ビデオ撮るんでしょ。メンバーにも確認とっとかないと」

「撮るわよ」

「今部長の独断で決まりました」

「…そんなんでいいの?」

「どうせ言ったら言ったでどこかの園田さんとか小泉さんとかが嫌がるし」

 

 

鶴の一声で撮影決定。絢瀬さんが呆れてたが、恥ずかしがり屋が反対するとめんどくさいのでこっちの方が都合がいい。というわけで連絡したら案の定恥ずかしがり屋お二人がテンパってた。

 

 

「早速やけど、明日でいい?」

「いいわよ。まだ新曲もできてないみたいだし」

「遅いねー」

「茜は水橋…サクラさんのスピードに慣れてるからそう思うのよ」

「一理あるね」

 

 

桜は2,3時間で一曲作るからね。

 

 

その後また絢瀬さんが若干不機嫌モードだったが、ほっといて勉強に励んだ。僕はラフ描いてるだけだけど。

 

 

 

 

 

 

「た、たすけて…」

 

 

で、翌日の放課後。

 

 

東條さんが構えるビデオカメラの先で、小泉さんが助けを求めていた。何に対してのたすけてなのだろうか。

 

 

っていうか。

 

 

「何で撮らせてくれないの」

「撮るのは生徒会役員って決まってるんよ」

「あとどうせあんたが撮ったら時間食いすぎるわよ」

「精々4,5時間で終わらせるよ」

「長いわよ」

 

 

やる気満々で来たのに僕はカメラマンですらなかった。そりゃないだろう。カメラを目の前にして何もできないなんて。

 

 

…、いや?

 

 

「そうじゃん、自分で撮ればいいじゃないか」

 

 

というわけで、早速自分のカバンから自前のビデオカメラを取り出す。結構なお値段のいいやつだ。仕事でも使うわけだしね。

 

 

「はぁ、茜が本気出した…」

「何で嫌そうな顔すんのさ。ほら笑って笑って」

「腕がいいのは知ってるけど、熱入りすぎて無理するから嫌なのよ」

「にこちゃんが心配してくれてる…」

「心配くらいするわよ」

 

 

塩対応が多いから心配されてないかと思った。

 

 

少し離れたところでは小泉さんが未だに撮ってた。星空さんに励まされているらしい小泉さんは東條さんに任せて、僕はこっちだ。

 

 

「はい西木野さんこっち向いてー」

「あなた何でそんないいビデオカメラ持ってるのよ…っていうか勝手に撮らないで」

「何をいう、撮影タイムにじっとしてられるほど僕は人間できていない」

「なんでそんなに自慢げなのよ」

 

 

創作意欲が湧くというやつだ。決して悪いことではない。多分。

 

 

「ほら、一応インタビューって形式なんだから意気込みとかどうぞ」

「…」

「…」

「…」

「…彼女は西木野真姫、寡黙で冷静な見た目と鋭い眼差しの裏に、音楽への熱い情熱を秘めた多感にして繊細なる15歳の少女…」

「何勝手にナレーション入れてるのよ!!っていうかなんか大仰!!」

「かっこいいじゃん」

「かっこよくない!」

 

 

喋らないから適当にナレーション入れたら怒られた。なんでさ。役者の不足を自ら補うから一流なんだ。

 

 

「茜、真姫ちゃんはツンデレだからしょうがないわよ。代わりに私を撮りなさい」

「誰がツンデレよ!」

「にこちゃんもツンデレじゃないか」

「違う!」

 

 

ツンデレガールズが元気に吠える。うむ、この2人仲良くなれそう。

 

 

その後もいくらか映像を撮ったが、印象としては女子高生が遊んでるだけだ。僕の映像の方はちょっといじれば日常ドキュメンタリーとかいけそうだが、東條さんが撮った方は流石にそうはいかない。

 

 

「まあ、スクールアイドルの本領といえばライブで、そのための練習でしょ。それ撮ればいい」

「せやね。元々練習する予定だったみたいやし」

 

 

というわけで、屋上へ向かう運びとなった。

 

 

 

 

 

 

「1,2,3,4,5,6,7,8…」

 

 

僕の手拍子に合わせてステップを踏むμ'sの皆様。元々は園田さんがやってたらしいのだが、全員踊らせてあげたいのと、僕のリズム感が随一であること、そして全体観察力が常人の比ではないということでこういう全員でやる練習の指揮は僕が取っている。

 

 

「小泉さん、若干遅れてる。手の振りが遅いのかな」

「は、はい!」

「星空さん逆に早い。腕を振り切ってない、もっと大きく動かして」

「はいにゃ!」

「高坂さん疲れた?足が乱れたよ、無理しないように」

「まだまだ!」

「西木野さん顔硬い。笑顔笑顔にっこにっこにー」

「わかってるわよ!」

「それ私の…!」

「にこちゃんそこ足違う」

「うぐっ」

「南さん、位置がズレてきた。重心ぶれてるよ」

「はい!」

 

 

全員に指示出しするのも疲れる。当然足りないので、毎回ビデオ撮りながら練習して後で見直すのだ。いつもは安いカメラだが、今日は撮影で使ったいいやつで撮ってる。ぶっちゃけ見直し程度なら大差ない。

 

 

「はいじゃーラスト」

 

 

ぱん、と手を鳴らすと同時に全員でポーズを決める。んー…

 

 

「高坂さんよし、南さんよし。園田さん顔もっとこっち向けて、西木野さん10cm左にずれてる。星空さんと小泉さん寄りすぎ…星空さんが下がりすぎなのか。もう15cm前、小泉さんはポーズもっと大きく。にこちゃん可愛いけど前すぎ。7cm後ろ」

「「「「「「はい!」」」」」」

「私だけ細かくない?!」

「にこちゃんならやれると信じてる」

 

 

ほんとはただのたまたまです。ごめんねにこちゃん。

 

 

「じゃー休憩しましょ。スポドリ取りにきなさいな」

 

 

そう言って、扉横に設置した机を指差す。机の上には紙コップとクーラーボックスがあり、クーラーボックスの中にはスポドリが入っている。ぶっちゃけあれ持ってくるだけで体力が限界を迎えるため、学校まではキャスターで転がしながら、ここまでは時間をかけて数本ずつ持ってくる。そのせいで夜明け前から学校来る羽目になってるが、にこちゃんのためなら頑張れる。余裕である。いやほんと余裕なんだって。

 

 

「というわけで東條さんもどうぞ。暑いっしょ」

「ん、ありがと」

 

 

紙コップにスポドリを注いで東條さんに手渡す。まだ春とはいえ、日差し直撃の屋上では結構暑くなる。

 

 

「…それにしても、練習の指揮って本来リーダーがやるもんやない?」

「そう?まあ誰がやってもいいと思うけど…」

 

 

一応発起人の高坂さんがリーダーなんだが、歌詞は園田さんだし衣装は南さんだし作曲は西木野さんだし、

 

 

 

 

おや?

 

 

 

 

「そういえば高坂さん何もしてないね」

 

 

まあリーダーだからなんかするってわけでもないだろうけど、みんなの士気的にそれでいいのかはちょっとわからない。

 

 

人も増えてきたし、1度しっかりと協議してもいいかもしれない。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

前回ひっそり出ていた天童さんが名前だけまた登場。彼はまだ出て来ません。名前しか出ないなんて不遇…!!

もうすぐUAが1,000に到達するので何かおまけを書こうかなと思ったのですが、まだ全員揃ってないし何も思いつかないし…って感じです。特別編って何を書けばいいんですかね?



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カラオケは運動だって古事記にも書いてあるから



ご覧いただきありがとうございます。

そしてスクフェス5周年おめでとうございます!!5年ですよ5年!!何も特別編とか用意できませんでしたけど!!なんだか漲りますね!!何がというわけでもありませんけど!!

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

「リーダーに誰が相応しいか…。大体、私が部長についた時点で一度考え直すべきだったのよ」

 

 

そんなわけで部室に全員集まり、リーダー決め会議勃発。にこちゃんは自分がなる気満々みたいだけど、さあ果たして。

 

 

「リーダーね」

「わたしは穂乃果ちゃんでいいと思うけど…」

「だめよ。今回の取材でわかったでしょ、この子はまるでリーダーに向いてないの」

「まるで向いてないとまでいうかな」

 

 

まあ部の運営に関わってる部分はゼロだけど。というか実際の資金繰りとかは全部僕がこっそりやってるので誰も関わってないっちゃ関わってない。彼女らは元気にスクールアイドルをしているだけである。

 

 

「それもそうね」

「まあ、PVも撮らなきゃいけないし、変えるなら早めにしないとね」

「PV?」

 

 

園田さんが疑問系で投げてくる。もしかしてご存知ない?さすがにそんなわけないか。おおよそ、PVとリーダーにどういった関係があるのかっていう疑問だろう。

 

 

「リーダーが変わると必然的にセンターも変わるでしょ。次のPVは新リーダーがセンター」

「そうね」

「でも、誰が?」

「それを今から決めるんでしょ」

 

 

目的忘れちゃだめよ皆様。

 

 

そんなことを言っていると、にこちゃんが立ち上がってホワイトボードをひっくり返す。そこには「リーダーとは」と書かれていた。昼に何か書いてると思ったらそれかい。

 

 

「リーダーとは!まず第一に、誰よりも熱い情熱を持ってみんなを引っ張っていけること!次に、精神的支柱となれるだけの懐の大きさを持っていること!そしてなにより、メンバーから尊敬される存在であること!この条件をすべて備えたメンバーとなると…」

「海未先輩かにゃ?」

「なんでやねーーーん!」

「おお、ナイスツッコミ」

 

 

素晴らしい流れで漫才を決めるにこちゃん。それはそうと、その条件でいくとにこちゃんは懐の大きさが微妙だから向かないよ、リーダー。そこも可愛いけど。

 

 

「私が?!」

「そうだよ!海未ちゃん向いてるかも、リーダー!」

「君が言うか」

 

 

高坂さんも同意の声を上げる…いや君が現リーダーなんだからね。なんでそんなノリノリなの。自分の立場追われるよ。

 

 

「そうですよ。それでいいのですか?」

「え?なんで?」

「だって、リーダーの座を奪われようとしているのですよ?」

「え?それが?」

 

 

それがって。

 

 

「…何も感じないのですか?」

「だって、みんなでμ'sやってくってのは一緒でしょ?」

「でも、センターじゃなくなるかもですよ?!」

 

 

園田さんの言及に続いて小泉さんも声を上げる。だからアイドルごとになると元気になるのは何なの。にこちゃんじゃないんだから。

 

 

「おお、そうか!…うーん、まあいいか!」

「「「「「「ええええ?!」」」」」」

「えぇ…」

 

 

軽い。すこぶる軽い。リーダーやる気満々だったにこちゃんでさえびっくりしてるし、僕も思わずえぇって言ってしまった。いやさ、リーダーに拘らないのはいいんだけど、もうちょっと躊躇いを見せてほしいな?数秒しか迷わなかったでしょ君。

 

 

まあ、しかし。

 

 

彼女にとって、自分が率いることよりもμ'sのメンバーでスクールアイドルをやることの方が重要なんだろう。

 

 

それがいいのか悪いのかわかんないけど。

 

 

「そんなことでいいのですか?!」

「じゃあリーダーは海未ちゃんということにして、」

「ま、待ってください!無理です、恥ずかしいです…!」

「…面倒な人」

「こら西木野さん」

「いたっ」

 

 

口の悪い西木野さんにはチョップを食らわせておく。園田さんが辞退することは想定済みだ。恥ずかしがり屋だし。リーダーとして最前線に立つのは、素質云々の前に性格的に難があるだろう。

 

 

「じゃあ、ことり先輩は?」

「わたし?」

「副リーダーって感じにゃ」

 

 

南さんも自己主張が少ないという意味では表方は向いてなさそうだ。一部自己主張が激しい部分もあるけど…おっとにこちゃんの視線が痛い。

 

 

「でも、一年生でリーダーっていう訳にもいかないし…」

「仕方ないわねー」

「やっぱり穂乃果ちゃんがいいと思うけど…」

「仕方ないわねー!」

「わたしは海未先輩を説得した方がいいと思うけど」

「仕方ないわねー!!」

「と、投票がいいんじゃないかと…」

「しーかーたーなーいーわーねー!!!」

「にこちゃんどこからメガホン持ってきたの」

「で、どうするにゃ?」

「どうしよう…」

「君たちも、もうちょっとにこちゃんを気にしてあげて」

 

 

混迷する議論に全力で自己主張していくにこちゃんだが、メガホンまで使ってもみんなの意識はにこちゃんへは向かわなかった。いやみんなスルースキル高すぎでしょ。

 

 

「まったく…話し合っても埒があかないね。別の手で決めよう」

「私にいい考えがあるわ!!」

 

 

意気揚々も宣言するにこちゃん。…にこちゃん、それは一般に負けフラグと言われる流れだぞ。

 

 

 

 

 

 

「こうなったら歌とダンスで決着をつけようじゃない!」

 

 

で、カラオケなう。要するに、にこちゃん的には歌とダンスが最も上手い人がリーダーってことだろう。まあにこちゃんのことだから負けないように細工しているだろうけど。

 

 

「決着?」

「みんなで得点を競うつもりかにゃ?」

「その通り!一番歌とダンスが上手い人がセンター!どう、それなら文句ないでしょ」

 

 

文句は出ないだろうけど、それ僕いらないじゃん。

 

 

「でも、私カラオケは…」

「私も特に歌う気はしないわ」

 

 

そして乗り気じゃない子が若干2名。園田さんは恥ずかしがり屋だし、西木野さんはノリ悪いし。小泉さんも反対するかと思ったら星空さんと楽しそうに曲選びしていた。

 

 

「なら歌わなくて結構!リーダーの権利が消失するだけだから!…ふふふ、こんなこともあろうかと、高得点の出やすい曲のピックアップは既に完了している…!これでリーダーの座は確実に…」

「にこちゃん声に出てる声に出てる」

「…っは!に、にっこにっこにー」

「誤魔化すにしても無理ないかい」

 

 

本音ダダ漏れのにこちゃん。別にそんな小細工しなくても上手だと思うんだけどねえ。他のメンバーが上手かどうかが不明だけど。

 

 

「さあ、始めるわよ!」

「カラオケ久しぶりだねー」

「何歌おうかなー」

「にこちゃん、既にただのカラオケ会になってる」

「あんたら緊張感なさ過ぎー!!」

 

 

にこちゃんが意気揚々と開始を宣言する頃には、みんな思い思いに行動していた。フリーダム極まる。

 

 

 

 

 

 

「は、恥ずかしかった…」

「とか言って93点とか出すんだね」

 

 

最終的に結局園田さんも西木野さんも歌うことになり、なんだかんだみんな90点オーバーだった。にこちゃんは狙って出してるからそりゃそうだが、その他も結構な実力者だったらしい。

 

 

「これでみんな90点台だよ!みんな毎日レッスンしてるもんね」

「ま、真姫ちゃんが苦手なところ、ちゃんとアドバイスしてくれるし…」

 

 

西木野さんのアドバイスのおかげ…らしいが、それにしても見事なもんだ。もともと上手かったのか、指摘が的確だったのかは不明だけど、まあ結果が出るなら同じだろう。

 

 

「こいつら化け物か…!」

「化け物はひどいんじゃない」

「うるさい化け物筆頭」

「僕歌ってないんだけど」

 

 

にこちゃんも戦慄している。別ににこちゃんが負けてるわけでは決してないんだけど、勝ってるとも言い難いわけだし。あと僕関係ない。

 

 

「そうだ。波浜先輩は歌わないんですか?」

「念のため言っとくと、君たちのリーダー決めのために来てるんだからね」

「そんな堅いこと言わずに!」

「この緊張感のなさよ」

 

 

高坂さんに謎のゴリ押しを受ける。ほんとにただカラオケしに来ただけになってる。

 

 

「穂乃果、やめときなさい。いろんな意味で後悔するわよ」

「え?」

「そう言われると俄然やる気出るけど」

「激しい曲はダメよ」

「ちぇ」

「えっえっどういうことですか?」

「聞けばわかるわよ」

 

 

お許しが出たので早速曲を入れることにする。カラオケなんてにこちゃんに止められるから随分久しぶりだ。何歌おうかな。

 

 

 

 

 

 

「きゅ…」

「「「「98点………」」」」

「…言ったでしょ。後悔するって」

 

 

こんなもんである。

 

 

ぶっちゃけ運動以外で隙はないのだ。

 

 

では、カラオケは運動であるか?

 

 

「…っふ、に、にこちゃ、僕、もう、」

「はいはい。こうなるってわかってたんだから、やめとけばよかったのに」

 

 

答え。

 

 

運動である。

 

 

よって僕は今死にかけてる。

 

 

運動というよりは肺活量的な問題だけど。まあ何にしても死にかけてにこちゃんに膝枕してもらっていることに変わりはない。あれ、これご褒美じゃない?

 

 

「えっと…あの、ごめんなさい…」

「ほらね。いろんな意味で後悔するでしょ」

「いやいや、高坂さ、そんな謝rごふっ」

「そんな息も絶え絶えで喋るんじゃないわよ」

 

 

なんか僕のせいで空気が沈鬱になってしまったけど、弁明する体力もない。こういう時にはボケるのが正解なはずだ。

 

 

「に、にこちゃ」

「はいはいなーに」

「太もも柔らか」

「ふんっ!!」

「んごっ」

 

 

セクハラしたらヘッドロックを極められた。あ、やばい、今それやられるとマジで死ぬ…と抵抗する前に、意識は持ってかれた。

 

 

 

 

 

 

僕の意識が持ってかれてる間にそこそこ騒いだようだけど、今はもう元気だ。元気になったところで退散することになった。ちょうど時間だったらしい。

 

 

みんなで部屋を出たところで。

 

 

「ん?茜か」

「うわ桜」

「うわってなんだてめえコラ」

 

 

桜がいた。カラオケで出会いたくない人ナンバーワンだ。こんな音楽の才能の塊みたいなやつはカラオケで会うと悲しい気分になる。

 

 

「あ!桜さん!こんにちは!」

「ん?穂乃果…ああ、μ'sで来てたのか。矢澤もいるな」

「うわぁ…」

「何であんたまで嫌そうな顔してんだ」

 

 

にこちゃんも僕と同じ気持ちらしく、アイドルがする顔じゃない顔してる。

 

 

…あれ?

 

 

「え、高坂さん、桜知ってんの?」

「はい。よく店に来てくれます!」

「…店?」

「穂むらって和菓子屋があんだよ。そこの娘さん。よく手伝いしてるしな」

「へぇ…そうだったの」

 

 

高坂さんの家、和菓子屋だったのか。知らなかった。

 

 

(穂乃果、この人は一体誰ですか?)

(目が怖い…)

「海未ちゃんもことりちゃんも怖がらなくて大丈夫!桜さんいい人だから!」

「説得力に欠けるわね」

「波浜先輩もにこ先輩も嫌そうな顔してるにゃ」

「や、やっぱり目が怖いです…」

 

 

高坂さん以外みんな警戒してる。まあ桜、目つき悪いからねえ。怖いよね。

 

 

「何で俺は初対面でこんなボロクソ言われなきゃならんのだ?」

「目が怖いんだよ目が」

「余計な御世話だクソッタレ」

「あと口が悪いのよ」

「余計な御世話だクソッタレ」

 

 

聞く耳は持たない模様。

 

 

「てゆーか何しにきてたの」

「作曲だよ。今度は歌唱曲を依頼されたからな、自分で歌ってみてんだ」

「桜さんって作曲出来るんですか?!」

「それで稼いでんだよ近寄んな鬱陶しい」

 

 

めっちゃ桜に詰め寄る高坂さん。他のメンバーは萎縮してるのに…この子のメンタルはどうなってるんだ。あと警戒心もどうなってるんだ。

 

 

「まあ、作曲してるって言ってるのに邪魔しちゃ悪いわ。早く行くわよ、次はダンスで勝負するんだから」

「勝負?」

 

 

引っ付いてくる高坂さんをぐぐぐっと引き剥がしながら、にこちゃんの言葉に疑問符を浮かべる桜。まあ何言ってるかわかんないよねぇ。というわけで僕が軽く経緯を説明すると、桜は心底面倒くさそうな顔になった。いや僕だって面倒だよぶっちゃけ。でも出た議論を放り投げてはおけないじゃない。

 

 

「またアホくさいことしてんなあ…。穂乃果にやらせておけばいいだろうに」

「ダメよ、穂乃果はリーダーに向いてないって昨日わかったの」

「向いてないって…ああ、そうか…それがわかってねーからこんな事態になってんのか…」

「どういうこったい」

 

 

顔に手を当てて天を拝む桜。彼には何かしら、高坂さんが適任だと感じる理由があるらしいけど…こっちはさっぱり思い当たらない。μ'sの面々も同様、高坂さん自身も同様。

 

 

「いや、何でもねえよ。そのうちわかるだろ…。それより茜、新曲聞いてけよ」

「だからμ'sの活動があってだね」

「あ!私桜さんの曲聴きたい!」

「だから次はダンスで勝負って言ってんでしょ!!早く行くわよ!!」

「ええ〜!!」

 

 

するっとはぐらかして僕を仕事に拉致しようとしてきたが、乗ってきたのは高坂さんの方だった。しかも高坂さんはにこちゃんに連行された。

 

 

「…ほんと元気だなあいつ」

「どうでもいいけど、何で桜は高坂さんを名前呼びなの?」

「穂乃果の家族全員高坂だろうが。名字で読んでたら店で呼ぶときややこしい」

「なんだ深い事情があるんじゃなかったのか」

「何で残念そうなんだてめえ」

 

 

桜が高坂さんを穂乃果って呼ぶからそういう関係なのかと思ったら違った。つまらん。まあ、桜だし、そんな青春くさいことはしないとはちょっと思ってたけども。

 

 

「ほら茜も行くわよ!」

 

 

いつの間にかμ'sのメンバーたちは受付まで移動して僕を待っていた。これでは置いていかれる。困る。

 

 

「まあ、そういうわけだから。また今度聴かせて」

「チッ」

「舌打ちよくない」

 

 

露骨に嫌そうな顔をしながらも引き止めはしない桜に内心感謝しつつ、受付でまつμ'sの方に足を向けた。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

スクフェス5周年は嬉しいんですが、曜ちゃん限定勧誘が来るのは予期していなかったので石が足りませぬ。課金か…!!



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曰く、みんな違ってみんないい



ご覧いただきありがとうございます。

曜ちゃん誕生日おめでとう!そして明日は真姫ちゃん誕生日おめでとう!たまたまながら間の日に投稿になりました。真姫ちゃん誕生日特別編とか書きたいですが、それは彼女のお相手が見つかってからにします。来年ですね!来年まで書いてるかな!!自己満なので多分書いてます。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

カラオケを後にして、次にやってきたのはゲーセンだ。よくあるダンスゲームで勝負するらしい。僕はやらないぞ、カラオケどころじゃなく死ねる。

 

 

「次はダンス!今度は歌の時みたいに甘くないわよ!!」

「にこちゃん、そういうセリフはフラグになるから避けた方がいいよ」

「ファンタジーじゃないんだから、そんなフラグなんてないわよ」

 

 

いや、僕が言いたいのはカラオケみたいな結果になった時に恥ずかしいよって話なんだけど。まあいいか。

 

 

それよりも。

 

 

「みんなクレーンゲームやってるけど」

「やった!ぬいぐるみ取れた!」

「穂乃果ちゃんすごい!」

「あぅ、落ちちゃった…」

「かよちん、凛に任せて!」

「だから緊張感持てって言ってんでしょ!」

 

 

にこちゃんがおこである。そりゃそうだ。あと園田さんと西木野さんどこ行った。

 

 

「凛は運動は得意だけどダンスは苦手だからなぁ…」

「これ、どうやるんだろう…」

「そりゃあ踊るんでしょ」

 

 

星空さんと小泉さんは結構自信無さそうだ。とは言ってもどちらも普通に踊れてると思うけど、やればわかるんだからわざわざ言わない。

 

 

「経験ゼロの素人が挑んでまともな点数が出るわけないわ。くくく、カラオケの時は焦ったけどこれなら…!」

「にこちゃんにこちゃん声に出てる。あといつの間にこんなゲームやってたの」

「たまに茜が先に帰っちゃう時に…」

 

 

わざわざ少ないお小遣いを消費してこれやってたのかい。努力の一環なのかもしれないけど。

 

 

「別に一緒に来てもよかったのに」

「だって茜は一緒にできないじゃない。流石に申し訳ないわ」

「今更そんなことに気を使うかい。そこらへんで格ゲーとかやってるから気にしなくていいのに」

「何よ、見ててくれないの?」

「僕の行き場が無いぞ」

 

 

にこちゃん観察日記が捗るだけじゃないか。

 

 

そんなことを話していたら。

 

 

「すごーい!」

「な、何?!」

「どうかしたのかな」

 

 

ダンスゲームの方から歓声が聞こえた。星空さんがプレイしていたようで、なかなか高得点だったらしい。そうだとは思ったけど。

 

 

「何かできちゃったにゃ」

「やるじゃん」

「波浜先輩が褒めてくれた…?!」

「そりゃ褒める時は褒めるよ。あとにこちゃん目が怖い」

 

 

星空さんを褒めたらにこちゃんが殺意を向けてきた。なぜだ。

 

 

「一体何の騒ぎよ?」

「何かあったのですか?」

 

 

騒ぎに乗じて西木野さんと園田さんがひょっこり出てきた。

 

 

「どこ行ってたの君たち」

「お手洗いよ」

「そりゃ失礼。なかなか来ない場所だろうから迷子になったものかと」

「そっそんなわけないじゃないですか!」

「そ、そうよ!私たちがゲームセンターで迷うなんて…!」

「わかったわかった」

 

 

適当に言ったらまさかの図星だったようで、2人ともわたわたし始めた。うん、なんかごめん。悪気はなかったんだ。

 

 

その後もにこちゃん含めみんなでダンスゲームをやった。カラオケ同様みんな高得点で困った。しかもカラオケで点が低めの子に限ってダンスで点が高い。困った。しまった二回も困ったって言っちゃった。

 

 

 

 

 

 

「歌と踊りで決着がつかなかった以上、最後はオーラで決めるわ!」

「オーラ」

「…オーラ?」

 

 

ゲーセンを後にして更に移動した先は、秋葉原の路上。そしてみんなの手にはたくさんのチラシ。無論僕が作った。作らされた。にこちゃんに。

 

 

でもなんで僕も持ってんだ。

 

 

「アイドルとして一番必要と言っても過言ではないものよ!歌も下手、ダンスもイマイチ、でも何故か人を惹きつけるアイドルがいる!…それはすなわちオーラ!人を惹きつけてやまない何かを持っているのよ!!」

「わかります!なぜか放っておけないんです!」

「それオーラじゃなくてカリスマじゃない?」

「茜うるさい」

「ひどい」

 

 

ツッコミ入れたら一蹴された。訴訟も辞さない。

 

 

「…で、それをはかるためのこのチラシなわけだ」

「そう。オーラがあれば黙っていても人が寄ってくるもの。1時間で一番チラシを配ることができた者が、一番オーラがあるってことよ」

「今回はちょっと強引なような…」

「全部強引だったと思うけど」

「でも、面白そうだからやろうよ!」

 

 

面白そうって。まあμ'sの宣伝にもなるからいいんだけど、僕がチラシ持ってるのは何故なんだ。補充係か。

 

 

「茜は手本ね」

「そっちか」

「茜のチラシ配りはすごいから」

「うれしくない…」

 

 

そんなにすごいことしたことないし、なんか嬉しくない。ごめんねにこちゃん。

 

 

そんなわけで始まったチラシ配り。園田さんあたりが非常に困っているが、ちょっとお手伝いできない。

 

 

「ちょっとそこ行くおにーさん、スクールアイドルの耳より情報ですよ」

 

 

適当に道行く人に声をかける。捕まれば僥倖、捕まらないのがデフォルト。でも今回はすぐヒットした。3人組のお兄さん方がこっちに注目してくれた。秋葉というフィールドがいいんだろう。

 

 

「最近できたスクールアイドルのチラシですよー。初ライブ配信から僅か一週間で5万再生突破、期待の新人ですよ」

「μ's…?聞いたことないな」

「それなら1度聞いてみるべきですよ。チラシにQRコードありますんで是非。初ライブは照明監修をSound of Scarletが請け負った超豪華版ですし。ああそこのお嬢さんもどうです1枚」

 

 

大通りでチラシを配るには、まずは視界に入ってもらわなければならない。そして人の視線が向きやすい場所といえば?

 

 

僕の答えは、「人だかり」。

 

 

人が一箇所に集まっていれば、野次馬本能でちょっと寄ってくる。そこにチラシを渡していけばいい。

 

 

だから、まず行うべきは人だかりを作ることだ。できるだけ多くの人を、僕の周囲に留まらせることで、「そこにある何か」に道行く人々の意識を誘導できる。

 

 

「お嬢さんお嬢さん、チラシどうですか。ああそっちのお父さんも。お兄さんはどうですか」

 

 

知らぬ間に、僕の周りは結構な人だかりができていた。後は勝手に人が集まるから片っ端からチラシを渡していけば終わる。

 

 

「…あら、なくなっちゃった。チラシ欲しい方がいらっしゃったら、あっちでご本人たちが配ってるのでどうぞー」

 

 

というかものの数十分で無くなった。

 

 

「「「「「「はやっ?!」」」」」」

「呆れるわよねぇ…」

「どうだいにこちゃん褒めろ」

「あーすごいわねー」

「なんでそんな塩対応なの」

 

 

にこちゃんに褒めてもらおうと思ったら軽くあしらわれた。酷くないか。君の言うオーラが溢れる働きをしたじゃないか。違うの?

 

 

その後も引き続き各々がチラシ配りを続けた。僕は疲れたので日陰でくつろいでいた。数十分チラシ配りしただけでこのザマである。つらい。

 

 

園田さん以外なら誰が最速でもおかしくなかったけど、結果として一番早くチラシを完売したのは南さんだった。なんか手慣れてた気がする。おかしいな、この子たちチラシ配りの経験なんてあったのか?いやあったら園田さんもうちょいマシな対応できるよなあ。

 

 

「おかしい…、時代が変わったの?!」

「現実は非情である」

「慰めなさいよ!!」

「さっき褒めてくれなかったしなぁ」

 

 

にこちゃんが嘆いていたけど、塩対応の仕返しをしておいた。これでプラマイゼロ。

 

 

 

 

 

 

結局、誰かが特に秀でているなんてことはなかった。

 

 

高坂さんは、歌は綺麗で伸びやかであり、ダンスも動きは悪くないが、どちらも我流が過ぎる。セルフアレンジはソロ曲作る時にね。ビラまきは結構はける。元気だし、威勢がいいもんね。

 

 

園田さんは、歌は特筆するところもなく普通に上手いが、ダンスが特に上手い。なんでも日本舞踊の宗家だとか。踊りの類はお手の物ってところかな。その分ビラまきは残念。ほんとに残念。

 

 

南さんは、歌は音程の支えが足りていなくて特に語尾がブレる。単純な声質で言えば結構ファンが付きそうな声ではあるけど。ダンスは動きが柔らかくていい感じ。ビラまきが最速。

 

 

小泉さんは、歌うと結構いい声が出て、音の調子もいい。幼い頃からアイドル目指してたらしいし、にこちゃんみたいに自然と上手くなったのだろう。ダンスはちょっと硬いが悪くない。ビラまきも案外普通。

 

 

星空さんは、これがまた意外と歌が上手い。いつものにゃーにゃーボイスとは全然違う声が出る。ダンスも硬いところはあるものの点数は上位であり、ビラまきは成果はそこそこだが頑張っていた。来年もスクールアイドル続けるようであれば、おそらくこの子がリーダーだろう。でも総合で見たらみんなと大差ない。

 

 

西木野さんは、唯一カラオケで97点を叩き出した。とにかく音程の安定感が凄まじい。ピアノ奏者とはいえ、なかなかこうはいかないだろう。その分ダンスは動きが遅れ気味で、ビラまきも芳しくなかった。ツンデレだし、結構人見知りだしね。

 

 

にこちゃんは…結果として見ればほとんど平均ど真ん中だった。他のメンバーが長所短所が結構強く出るのに対して、にこちゃんは軒並み平均を叩き出す。ある意味隙のない出来であり、にこちゃんが目指したものでもあるのだろう。その分他を圧倒することは叶わなかったが。

 

 

「まあそんなところかなあ」

 

 

と、星空さんの有望性意外は包み隠さず伝えた。とにかく点数をつけたらほぼ同点だ。逆にすごい。仲良いね。

 

 

「ぐぬぬ…納得いかないわ…」

「そう言われてもね」

 

 

にこちゃんは悔しそうだけど、他のメンバーの練習時間を加味すると相当な実力だと思う。

 

 

「…で、結局どうすんの。これじゃ誰がリーダーかって一概には言えないよ」

 

 

というわけで、実は今回のメインテーマはリーダー決めだ。こんなに僅差では決めるに決められない(来年の展望はできたが)。ぶっちゃけ遊んで宣伝してきただけだ。

 

 

「ふぁー、結局みんな同じだ」

「見事にバランス取れちゃってる」

「にこ先輩もさすがです!みんなより全然練習してないのに同じ点数なんて!」

「あ、当たり前でしょ…」

「にこちゃん声が震えてるよ」

「ふんっ」

「あぼん」

 

 

星空さんに褒められて、しかし思惑通りにいかなかった故に素直に喜べないにこちゃんにツッコミ入れたら裏拳が飛んできた。痛い。

 

 

「でもどうするの?茜も言ってたけど、これじゃ決められないわよ」

「で、でも、やっぱりリーダーは上級生の方が…」

「仕方ないわねー!」

「にこちゃん立ち直り早いね」

 

 

小泉さんの視線に意気揚々と答えるにこちゃん。ついにスルースキルを打ち破ったか。

 

 

「凛もそう思うにゃ」

「私はそもそもやる気無いし」

「…あんたたちブレないわね」

「まったくだ」

 

 

やはりスルーされた。にこちゃんかわいそう。

 

 

 

 

 

「じゃあ、いいんじゃないかな。なくても」

 

 

 

 

 

え。

 

 

「「「「「「「ええ?!」」」」」」」

 

 

みんなして絶句してしまった。初めてみんなと一緒に声出した気がする。

 

 

「なくても?!」

「うん、リーダーなしでも全然平気だと思うよ。みんなそれで練習してきて、歌も歌ってきたんだし」

「しかし…!」

「そうよ、リーダーなしのグループなんて聞いたことないわよ!」

 

 

次々と噴出する異論。そうだ、流石にリーダーなし、なんていう訳にはいかない。何かの折に前面に立つ人物が必ず必要だ。

 

 

さらに。

 

 

「それだと、次の曲のセンターはどうする気だい」

 

 

センターも今回のリーダー決めの主題だったはずだ。結局センターが決まらないことには、次の曲は作れないしPVも撮れない。μ'sの活動が足踏みしてしまうわけだ。

 

 

しかし。

 

 

「それなんですけど…私、考えてみたんです。皆で歌うのはどうかなって」

「…み、みんなぁ?」

 

 

どういうこと?

 

 

「家でアイドルの動画を見て思ったんです。何か、みんなで順番で歌えたら素敵だなって。そんな曲作れないかなって!」

「な、何という…」

 

 

ものすごい斜め上の発想だ。セオリーも何もない奇策。よく思いついたね。ってかちゃんと考えてたんだね。何にも考えてないと思ってたごめん。

 

 

「順番に?」

「そう!無理かな?」

 

 

奇想天外な奇策なんだけど、

 

 

「まあ、歌は作れなくもないですが…」

「そういう歌、なくはないわね」

「ダンスはそういうの無理ですか?」

 

 

園田さんと西木野さんは乗り気なようだ。そして高坂さんの目は僕に向く。ちなみに、僕がマネージャーを始めてからは、大方の振り付けを考えるのは僕の役になっている。そういう舞台上の動きとか考えるのは慣れてるしね。

 

 

まあそれはともかく。

 

 

大変にはなるだろう。各個人にソロがあるようなものだし、各々の実力がモロに出る。おまけに一人一人を目立たせるために全員の配慮と動きの精密さが要求される。はっきり言って難度がヤバい。

 

 

でも。

 

 

「…君らならできるんじゃないかな」

 

 

そう、思ってしまった。

 

 

「じゃあ、それがいいよ!みんなが歌って、みんながセンター!」

 

 

そう言う高坂さんはとても楽しそうで、あれだけリーダーに拘ってたにこちゃんすら反論しなかった。

 

 

「仕方ないわね。ただし私のパートはかっこよくしなさいよ、茜」

「はいはい」

「よおし、そうと決まったら早速練習しよう!」

 

 

にこちゃんもむしろ楽しそうだった。でも、きっと僕も笑ってるんだろう。

 

 

次々と屋上へ向かうμ'sのメンバーを見送りつつ、一人部室で飲み物を用意しながら考える。

 

 

『またアホくさいことしてんなあ…。穂乃果にやらせておけばいいだろうに』

『ダメよ、穂乃果はリーダーに向いてないって昨日わかったの』

『向いてないって…ああ、そうか…それがわかってねーからこんな事態になってんのか…』

 

 

カラオケでの桜の言葉が脳内で蘇る。何でかわからないけど、彼にはわかっていたのだろう。

 

 

リーダー無しなんてとんでもない。

 

 

「やっぱりリーダーやるのは、高坂さんが一番ってことなのか…」

 

 

あの子が最もリーダーだったんだ。

 

 

練習指揮もできないし、練習計画も立てられないし、歌詞も作れないし、衣装も作れないし、曲も作れないし、振り付けもだいたい人任せ。

 

 

でも、真っ直ぐ好きなことに向かって邁進できるという点では、にこちゃんすら凌ぐほどの情熱の持ち主なのだ。

 

 

好きなことのためなら、そもそも自分が先導する必要だってない。みんなで歌えるなら、別の誰かがリーダーで構わない。にこちゃんはアイドルへの憧憬が先行しすぎてしまって独走してしまっていたけど、高坂さんは「みんなで」やるのが前提だからそれもない。

 

 

うん。

 

 

やっぱりμ'sのリーダーは、高坂さんだな。

 

 

とか思っていたら、廊下からダダダダっと駆ける音がして、部室の扉がバンッと開いてにこちゃんが現れた。どうしたの。

 

 

「茜遅い!」

「振り付け考えてたんだよ」

 

 

ただ煽りに来ただけらしい。僕も準備した飲み物を持…とうとしたらにこちゃんに横取りされた。しょぼん。しかしどうせそんなに一気に持てないので結末は同じだったかもしれない。

 

 

「そんなすぐ振り付け思いつかないでしょ」

「いや、もう思いついたよ。PVの構成も」

「はやっ!」

 

 

考え事してはいたけど、本当に振り付けやPVも考えてたよ?

 

 

せっかく高坂さんがリーダーだと再認識したんだし、振り付けは差別なく作るにしてもPVは高坂さんの希望に沿うようにしたかったのだ。確かμ'sが発足した理由は音ノ木坂の廃校阻止だったはずだ。

 

 

なら、この学校をアピールできる構成にするのがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうですか、桜さん!新曲の感想は!」

「下手だな」

「えー!!」

 

 

新曲、「これからのSomeday」のPVが公開されて数日後。

 

 

いつも通り薄手のコートとTシャツジーパン姿の水橋は、「穂むら」で穂乃果の話し相手をしていた。穂むらには座敷スペースがあり、買ってすぐ和菓子を頂けるようになっている。常連である水橋は時折ここで作曲を進めさせてもらっており、そうすると穂乃果が机の対面に寄ってくるのだ。

 

 

「あんなに練習したのに…カラオケもみんな90点以上だったのにぃ…」

「…ん?カラオケって100点以外出るのか?」

「えっ」

 

 

沈黙。

 

 

「…もしかして桜さん、100点以外取ったことないってことですか?」

「ああ。てっきり機嫌取り用の演出だと思っていた」

 

 

なるほど、と穂乃果は内心理解した。波浜先輩とにこ先輩がカラオケであったときに嫌そうな顔をしていたのは、彼が化け物じみた才能を持っているからだと。

 

 

そりゃ98点取ってもうれしくない。

 

 

「そんな人からしたらそりゃ下手ですよぅ…」

「泣くなよ鬱陶しい」

 

 

よよよ、と机に伏す穂乃果を水橋は一蹴。感情豊かな穂乃果に振り回されないレベルで水橋は冷静だった。

 

 

「っていうか、結局リーダーになったらしいじゃねえか」

「そう!そうなんですよ!」

「立ち直りはえーなオイ」

 

 

水橋が話題を切り替えると、穂乃果はすぐさま起き上がって机をバンバン叩いて叫んだ。水橋も思わずツッコミを入れてしまう。

 

 

「別にリーダーいなくてもやっていけるのになぁ…」

「そういうわけにもいかねーだろ。マスコットでもなんでも、結局は誰かを最前線に立てておかないと不便が多い」

「でもなんで私なのかなあ」

「…知らなくてもいいだろ」

「えー、気になりますー」

 

 

結局満場一致で穂乃果がリーダーとなったというのに、何故か納得いっていない様子の穂乃果。水橋からすれば当然の結果なわけだが、やはりというかなんというか、彼女自身は自覚がないようだ。自覚がない方がいいかもしれないが。

 

 

「まあ、リーダーがどうのこうのよりも、次のこと考えな。活動はまだ続くんだろ。新しい曲作るなりPV撮るなりライブするなりしないと人気は落ちていくぞ」

「うぅ…それは確かに…」

 

 

リーダー向きでない、と言われる理由としてこういう計画力の無さが少なからずある。結局は頭使うのが苦手な子なのだ。

 

 

アドバイスするつもりはさらさらないが、内心今後のμ'sの成長に期待する水橋としてはこのままでは困る…そう思っていると、ジーパンの左のポケットに突っ込んであるスマホに着信があった。

 

 

画面に出た名前は、「天童一位」。

 

 

水橋、波浜とともに働くA-phy(えいさい)の仲間だ。

 

 

穂乃果はほっといて電話に出る。穂乃果も不満全開の顔ではあるが黙った。

 

 

「…何の用ですか」

『第一声が「何の用ですか」は傷つくな?!』

「用が無いなら切りますけど」

『だあああああ!待てい待てい!!用件も聞かずに切るんじゃねえ!!』

 

 

はあ、と盛大にため息をつく水橋。正直このテンションは苦手だ。

 

 

『12月に大阪でやる舞台の脚本書いてんだけどな。BGMに丁度いいのが見当たらなくてよ。ちょっくら作ってくれねーか?』

「報酬は?」

『30万でどうだ。それと制作協力に名前載せるネームバリューと、サウンドトラックの印税の7割渡しちゃるわ』

「40万なら受ける」

『ぐっ…しゃあないか、他にアテもありはしないしな。よっしゃ、40万で手を打ったろやないかい』

「まいどあり。じゃあ脚本とBGMのイメージを文字に起こして送ってくれ。作っておく」

『おお!サンキュー!やっぱ持つべきものは友だな!任したぜ!!』

 

 

依頼を承諾すると大喜びで一方的に電話を切ってきた。無駄に高いテンションとか、とにかく本当に何なんだ。

 

 

「…なんなんだ」

「うー、目の前で電話だなんて!」

「悪いかよ」

「私が暇!」

「知るかよ」

 

 

電話の後は別の面倒が目の前にある。人生は多難だ。そもそも水橋は曲作りをしに来たのに、穂乃果の相手とか電話のせいで全然はかどらない。

 

 

「桜さんいつもパソコンいじっててつまんない」

「仕事してんだよ。むしろ邪魔すんな黙ってろ」

「あ!もしかしてそれ曲を作ってるんですか?」

「あーそうだ。そうだから黙ってろ」

「私桜さんの曲聴きたい!!」

「黙ってろっつってんだろ」

 

 

穂むらに仕事を持ち込み始めてから結構経つのだが、穂乃果は今まで何やってるかわかってなかったらしい。実際、画面を見たところでよくわからない上に本人は絶対に口を割らないため知らなくても仕方がない。

 

 

「きーきーたーいー」

「ネットで探せ」

「その手があった!!」

「思いついてすらいなかったのかよ」

 

 

ノートパソコンの画面からは視線を動かさず、しかし盛大にため息をついて辟易する水橋。その後も閉店ギリギリまで仕事を邪魔され続けるのだった。

 

 

それでもこの店で作業するのをやめない理由は、水橋にはまだわからない。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

穂むらの座敷スペースは勝手に作りました。聖地巡礼してないので実物はわかりません…巡礼したい…。

メンバーそれぞれの評価は独断と偏見で書きました。異論は認めます。しかしどう足掻いてもみんな可愛いです。異論は認めません。

そしてすごくどうでもいいですが、8,000文字ぴったりでした。



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ノックは3回らしいけど、ノックする前に開いちゃったらどうしたらいいの



ご覧いただきありがとうございます。

実は5月には誕生日の子がいないんですよね。なので真姫ちゃん生誕祭を終えるとのん誕祭まではちょっとテンションが上がりませんね。早く6月来ないかなあ。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

 

ここ最近、勉強会はしていない。

 

 

その理由は他でもない…絢瀬さん。μ'sの活動が結構表立ってきて、ランキングも上位に入り、人気急上昇中のピックアップアイドルとしても選ばれていた。何でか知らないけどμ'sを敵視してる絢瀬さんからしたら、μ's構成員である僕アンドにこちゃんと仲良く勉強会…というのはちょっと無理があるだろう。仕方ない。

 

 

で。

 

 

「もうすぐ期末試験だけどにこちゃん大丈夫かい」

「あっ当たり前よ!」

「はいダウト」

「ちょっと!少しくらい信用しなさいよ!」

「じゃあ三角関数もバッチリだね」

「えっ」

「微分積分も問題ないね」

「ちょっ」

「ベクトルもやったっけ」

「わああああ!!私が悪かったわよおおおおお!!」

 

 

メンバーが増えても依然二人きりの部室でにこちゃんいじり。嘘は良くない。勉強会してる感じでも、にこちゃんがダメダメなのはバレバレだ。そもそもにこちゃんが試験で大丈夫だった試しがない。

 

 

「赤点とってライブ出れません、とかなったら笑えないからね」

「な…無いわよそんなこと。…………多分」

「そもそも赤点取らなければいいんだけどね」

 

 

にこちゃんは一年生の時に一度だけ赤点を取っており、それで割と懲りたため試験前は毎回泣きついてくる。泣きついてくること自体はいいんだけど、勉強はちゃんとしようね。

 

 

「僕がいなかったらにこちゃん赤点の嵐なんだからね」

「ぐぬぬ…反論できない…」

「願わくば反論して欲しかった」

 

 

もう一度言うけど、勉強はちゃんとしようね。

 

 

弁当をさっさと食べてしまったにこちゃんは、弁当を片付けてだらーっと机に伏す。今考えると、南さんとか高坂さんだと苦しそうな体勢だ。主に胸が。

 

 

「…どこ見てんのよ」

「にこちゃん」

「私のどこ見てんのかを聞いてんのよ!」

「気にしないで、大きさが全てじゃない」

「滅びろ」

「ぶべっ」

 

 

直接言わなかったのに弁当箱が飛んできた。痛い。

 

 

「別にどことは言ってないのに」

「じゃあどこなのよ」

「胸」

「ふんっ」

「ぐぇ」

 

 

今度は高坂さんが置いていったお菓子の空箱が飛んできた。さっきほど痛く無い。でもちゃんとゴミは捨ててね高坂さん、にこちゃんの武器が増える。

 

 

「他のメンバーに言ったらセクハラで訴えられるわよ」

「つまりにこちゃんには言っていいんだね」

「ていっ」

「あぼん」

 

 

さらにペットボトルが飛んできた。頭にヒットして、ばこん、とそこそこな音を立てて激突。僕はノックアウト。

 

 

マジでノックアウトされたため、目が覚めたら授業始まってた。にこちゃん共々遅刻した。なんだかんだ起きるまで居てくれたにこちゃんマジ天使。

 

 

 

 

 

 

授業後の一年生の教室。

 

 

ここでは、最近謎の現象が見られるようになっていた。

 

 

「それでですね!最近注目の3人組スクールアイドル、『FREE'S!』はですね、名前の通り自由なアイドルをコンセプトとして、自ら演奏しつつ踊るという今までに無いスタイルでライブを行っているんです!最新曲の『ファイターズ』では、3人ともボクシングジムに通ってまでボクシングをイメージとしたPVを撮影しているんです!」

 

 

いつもはおどおどしていて声も小さく、おっとり系という言葉が似合うような可憐な少女・小泉花陽が、もうこれ以上ないほどハイテンションでスクールアイドルについて捲し立て。

 

 

「甘いな。彼女らの注目すべき点はそこじゃない。あんな激しい動きを数分間絶えずし続ける無尽蔵のスタミナと、その中でブレずに歌い切る安定感だ。過去最も長い曲は『パーフェクトドライブ』の7分42秒、その時間全てで3人ともノンストップで踊り続けている。リーダーは陸上部、他二人も水泳部とバスケ部を経験しているからこその所業と言えるだろう」

 

 

現在進行形で机に足を乗せ、椅子の背にもたれかかり、オールバックの銀髪をギラギラ光らせてサングラスの奥から射抜くような視線を放つ、身長2m越えの一年生唯一の男子生徒、滞嶺(たいれい)創一郎が、驚くほど饒舌に返事をし。

 

 

「花陽も滞嶺くんも、スクールアイドルのことになると止まらないわね…」

「凛はこっちのかよちんも好きにゃあ」

 

 

それを星空凛と西木野真姫が横から眺めるという現象。

 

 

「さ、さすが滞嶺くん、目の付け所が違います…!」

「そうだ、最近注目と言えばな…」

「花陽、そろそろ切り上げないと練習遅れるわよ」

「っは!もうこんな時間!」

 

 

それが真姫が止めるまで続く。クラスメイトからは不思議な現象扱いをされていることに、本人たちは気づかない。

 

 

「ああ、そういえばμ'sの新作見たぞ。素晴らしい曲だ」

「ほんと?!」

「ぅおあ、星空、近い」

「上手くできたって自信はあったけど、実際に褒めて貰えると嬉しいにゃー!」

「ぐ、ぬおおお、やめろ、頭を擦り付けるな!!」

 

 

滞嶺がμ'sを褒めると、凛は滞嶺に飛びついて頭をぐりぐりと滞嶺の胸板に擦り付けだした。女性耐性があまりないらしい滞嶺は真っ赤な顔で凛の頭を巨大な手で引っつかんで容易くひきはがす。

 

 

「んにゃあ」

「な、なんだこの猫は…」

「凛にゃ!」

「やってらんない」

 

 

結局話が収束しない様子に呆れた真姫は、もうほっといて先に部室に向かおうと教室の外に足を向けた。

 

 

その時だ。

 

 

「あ、メール…」

「ん?」

 

 

花陽と滞嶺に同時にメールが来た。花陽は両手でスマホを操作して、滞嶺は凛の頭を掴んでぶら下げたまま片手で携帯を操作する。

 

 

そして。

 

 

「っこ、ここここれはッッッ!!!!」

「…!!てめえらさっさとメンバーに伝えてこい!」

「んにゃあああああああああ?!?!」

「え?……え、きゃあああああああああ?!」

 

 

花陽が叫び。

 

 

滞嶺は教室の扉に向かって凛をぶん投げた。射線上にいた真姫は咄嗟にしゃがんで凛弾を避け、当の凛は猫の如く謎の華麗な着地を見せた。

 

 

「真姫ちゃん、凛ちゃん!は、早く部室に行きましょう!」

「な、何が…って花陽、待ちなさいよ!」

「今日のかよちんはいつになく早いにゃ…!一体何が…!」

 

 

花陽は部室へ猛ダッシュし、真姫は事態が飲み込めず呆然。凛は謎の実況を開始した。

 

 

そして、疑問に答える声は、凄まじい音量で発せられる。

 

 

「『ラブライブ』だ!世界最大のスクールアイドルの祭典の開催が決定した!!」

 

 

 

 

 

 

「はあ…にこちゃんってこういう時に限って時間かかる掃除に当たるよねえ」

「だから急いで終わらせてきたでしょ!早く行くわよ!」

「走ればいいじゃないかい」

「あんたを置いていけないでしょ」

「僕も走るよ?」

「バカ言わないで」

 

 

授業後にラブライブ開催のメールが届いて、早くメンバーに聞かせて驚かせようと息巻いていたにこちゃんだったが、そういう時に障害物が道を遮るのがにこちゃんだ。

 

 

走らずともそこそこ急いで屋上にたどり着いたにこちゃんは間髪入れず屋上の扉を開け放つ。

 

 

「みんな、聞きなさい!重大ニュースよ!」

「それより、少し遅れてごめんね」

 

 

屋上では他のメンバーが既にストレッチを行っていた。よくよく考えたら小泉さんあたりもしっかり情報を仕入れていそうだ。

 

 

「ふっふっふ…聞いておどろくんじゃないわよ。今年の夏、遂に開かれることになったのよ…スクールアイドルの祭典!」

「『ラブライブ』ですか?」

「…知ってんの」

 

 

一瞬でにこちゃんのテンションが極小になった。やはり情報は既に出回っていたらしい…にこちゃん元気出して。

 

 

「ラブライブ、出るのかな?」

「もちろんです!」

「高坂さん近い近い」

 

 

一応聞いてみたら、高坂さんが凄い勢いで突っ込んできた。怖いよ。主に君の元気が怖いよ。

 

 

「ラブライブ出場には学校の許可がいるらしいから、まず許可もらいに行かないと。練習始める前にささっと行ってこようよ」

「そうだったのですか…。それならまずは許可をもらいに行くのが先決ですね」

「でも、許可って誰にもらえばいいんですか?」

 

 

怖くない方の2年二人が返事をくれた。そして誰に許可をもらうって、そんなの決まってるでしょう。

 

 

「そりゃあ生徒会でしょう」

 

 

そして止まる時間。どうしたかと思ったら、そうか、絢瀬さんはμ's嫌いっぽいんだった。そりゃあ許可とるのも一苦労だ。

 

 

「…どう考えても結果は見えてるけど」

「だよねえ」

「学校の許可ぁ?認められないわぁ」

「星空さん、それ絶対本人の前でやんないでね」

 

 

冷静に返事する西木野さんと、謎のモノマネを披露する星空さん。似てるかどうかの前にバカにしてる感が溢れてるからやめてね。似てる?似てるかなあ。

 

 

「でも、今度は間違いなく生徒を集められると思うんだけど…」

「そんなの、『あの生徒会長』には関係ないでしょ。私らのこと目の敵にしてるんだから」

 

 

わざわざ絢瀬さんを生徒会長呼ばわりするにこちゃん。自身が避けられてることに何かしら思うところがあるのかもしれない。

 

 

「どうして私たちばかり…」

「それは…、っ!もしかして、学校内での人気を私に奪われるのが怖いから?!」

「それはないわ」

「そだねえ」

「ツッコミはやっ!茜まで!」

 

 

だいたい君がμ'sに入る前からなんか嫌ってたじゃない。

 

 

「もう許可なんて取らずに勝手にエントリーしたらいいんじゃない?」

「それはできないよ。要項に学校側の承認が必要ってあるから、非公認のスクールアイドルが勝手に出ることはできないんだ」

 

 

西木野さんの主張は正当に蹴らせていただく。そういえば許可とってないから非公認だね僕ら。すごく今更だけど。

 

 

すると、西木野さんは続いて凄い提案をしてきた。

 

 

「じゃあ直接理事長に頼んでみるとか」

「よくも思いついたねそんな手段…。原則生徒会を通すとは記載されても、直談判できないとは確かに言ってないけどさ」

 

 

発想が恐ろしいよ西木野さん。いや実は僕直談判すること結構あるんだけどさ。

 

 

「でしょ?なんとかなるわよ。親族もいることだし」

「…親族?」

「ふぇ?」

「聞いてませんでしたか。音ノ木坂の理事長は、ことりのお母さんなんです」

「なんですと」

 

 

知らんかった。μ'sのメンバーって、親が理事長だったら医者だったり、結構後光さしてるなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、生徒会室は華麗にスルーして理事長室へ。相変わらずここだけ扉が豪華だ。

 

 

「生徒会室より入りにくい緊張感が…!」

 

 

まあ最高権力者だしねえ。慣れたけど。

 

 

それでも勇気を出してノックの構えをとる高坂さん。しかし、ノックしようとしたら先に扉が開いた。ここ自動ドアだっけ。

 

 

「あら?お揃いでどうしたん?」

「あれ、東條さん」

 

 

なぜか現れたのは東條さん。生徒会の用事かな。

 

 

ってことは。

 

 

「うわっ生徒会長!」

「うわって高坂さん」

「タイミング悪…」

「こらにこちゃん」

「いたっ」

 

 

案の定、絢瀬さんがいた。いてもいいんだけど、高坂さんとにこちゃんのリアクションが失礼極まる。やめて差し上げて。

 

 

「…何の用ですか?」

「理事長にお話があって来ました」

「各部の理事長への申請は生徒会を通す決まりよ」

「申請とは言ってないわ。ただ話があるの」

「こら西木n」

「真姫ちゃん、上級生だよ」

「ああ、うん」

 

 

果敢に西木野さんが抗議するもあえなく粉砕。ついでに敬語使うように言おうと思ったら高坂さんに先を越されて僕もあえなく粉砕。出番プリーズ。

 

 

まあ出番はともかく、結局絢瀬さんと対峙することになってしまった。どう突破するつもりか眺めていると、さらに登場人物が追加された。

 

 

「どうしたの?」

 

 

南さんのお母上こと、理事長さんである。

 

 

 

 

 

 

大勢でぞろぞろ理事長室に入るのも迷惑千万なので、一年生はお外で待機命令。一応メインの二年生が中心に話すということで、僕とにこちゃんは少し後ろで待機。絢瀬さんと東城さんもお隣にいらっしゃるが、絢瀬さんはすこぶる不機嫌な表情だ。東條さんも心配そうな顔をしている。

 

 

「へえ。ラブライブねぇ」

 

 

そしてお偉いさん机の向こうのお偉いさん椅子に鎮座する理事長さん。確かに髪型とか髪色とか南さんに似てる。トサカとかさ。あれは理事長さんセンスだったのか。

 

 

「はい。ネットで全国的に中継されることになっています」

「もし出場できれば、学校の名前をみんなに知ってもらえることになると思うの!」

「私は反対です。理事長は学校のために学校生活を犠牲にするようなことはするべきではないと仰いました。であれば…」

 

 

ラブライブ出場のメリットを説く二年生、デメリットを責める絢瀬さん。どちらも必死だ。

 

 

そして、理事長さんの意見は。

 

 

「そうねえ。でもいいんじゃないかしら、エントリーするくらいなら」

「あれ。思ったよりあっさり風味」

 

 

なんだか拍子抜けするほど物分りがいい。やっぱり親族効果だろうか。理事長がそれでいいのだろうか。よくないんじゃない。

 

 

「なっ…!ちょっと待ってください!どうして彼女たちの肩を持つんです?!」

「別にそんなつもりはないけど」

「だったら、生徒会も学校を存続させるために活動させてください!」

「んー…それはだめ」

「………意味が、わかりません…!!」

「そう?簡単なことよ?」

 

 

予想外の反応だったのか、氷の女王も裸足で逃げ出す必死さで理事長さんに詰め寄る絢瀬さん。対する理事長さんは全然まったく動じない。これが大人の貫禄…貫禄とか言うとお年を召して聞こえそう。大丈夫、理事長さんお若いよ。誰に弁明してんだろう僕。

 

 

「っ…失礼します…!」

「えりち…」

 

 

絢瀬さんは苦悶の表情で踵を返し、大股で理事長室の扉へ向かい外へ出て行った。東條さんも小走りでついていく。それを見て一年生たちも扉から顔を出した。

 

 

「…」

 

 

にこちゃんは、絢瀬さんの横顔を見つめて黙って見送っていた。友人として何か思うところがあるのだろう、それは僕も同じだ。いやにこちゃんのことじゃないしあんまり思う所ないわ。

 

 

「…ただし、条件があります」

「うん?」

 

 

理事長さんは今度は僕らに向かって言葉を投げた。なんだろう、奉仕活動でもせよと言うのだろうか。

 

 

「勉強が疎かになってはいけません。今度の期末試験で1人でも赤点をとるような事があったら、ラブライブへのエントリーは認めません。いいですね?」

 

 

まあ…当然だよね。

 

 

当然であり、

 

 

「…あぁ」

「…はは」

「…うぅ」

「また一波乱だねぇ」

 

 

にこちゃんには厳しい条件だ。…あとなぜか高坂さんと星空さんも瀕死だけど、これも僕が処理する案件だろうか。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

にことのぞえりを元から友達設定に変えたので、原作と微妙に展開が違います。内面くらいですが。でもそういう細かな変化も大事かなぁと。

あと滞嶺君再登場。ふつうに仲良くなってますね。



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高校数学ってガウス積分とかできたっけ



ご覧いただきありがとうございます。

またまたお気に入りしてくださった方がいて喜びの舞を踊っております。ありがとうございます!!さらに寿命が伸びました!!
本日のお昼からぷちぐる配信ですね。楽しみで楽しみで震えます。スクスタも早くリリースしないかなー。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

「大変申し訳ありません!」

「ません!」

 

 

部室に戻ってきて、みんなに頭をさげるオレンジ髪ガールズ。オレンジは勉強できないカラーなんだろうか。

 

 

「小学校の頃から知ってはいましたが、穂乃果…」

「数学だけだよ!ほら、小学校の頃から算数苦手だったでしょ?!」

「算数」

 

 

そこからかい。

 

 

「7×4は?」

「…………2……6………?」

「嘘だろ」

 

 

圧倒的に手遅れな気がする。園田さん、南さん、幼馴染ならどうにかできなかったの。この子和菓子屋の子なんじゃないの。だいたいなんでこの子両手使って数えてるの。両手じゃ届かないよ。二進数か。二進数なのか。

 

 

「凛ちゃんは?」

「凛は英語!英語だけは肌に合わなくて!」

「肌に合わない」

 

 

こっちはこっちで生理的な問題にし始めた。

 

 

「た、確かに英語は難しいもんね…」

「そうだよ!だいたい凛たちは日本人なのに、どーして外国の言葉を勉強しなきゃいけないの?!」

「屁理屈はいいの!」

「真姫ちゃん怖いにゃあ〜」

 

 

よく言うけど、英語はできないと大変だよ。海外旅行がしんどくなるのが殊更に辛い。個人的な理由じゃないかまったく。

 

 

「これでテストの点が悪くてエントリーできなかったら恥ずかしすぎるわよ!せっかく生徒会長も突破したのに」

「ま、ままま全くその通りよ!ああああ赤点なんてとるんじゃないわよ!」

「にこちゃん人のこと言えない」

「うっ」

「あとにこちゃん、教科書逆さだぜ」

「うううっ!」

 

 

にこちゃんはまあいつも通りアウトなので、いつも通り僕が面倒見ることになるだろう。

 

 

「とにかく、試験までは私とことりが穂乃果の、花陽と真姫は凛の、波浜先輩はにこ先輩の勉強を見て弱点教科をなんとか底上げしていくことにします」

「まあ、それがいいだろうねえ」

 

 

園田さんの提案に僕は全面的に賛成。赤点リーチガールズ以外もそれで同意した。赤点リーチガールズには人権はない。

 

 

のだけど。

 

 

「それよりも、うちがにこっちの勉強を見て、全体の総監督を波浜くんにお願いする方がええと思うよ?」

 

 

急に扉を開けて発言したのは東條さん。聞いてたんかい。盗み聞きはよくないよ。そして僕からにこちゃんを奪うのはもっとよくないよ。

 

 

「にこちゃんの面倒は僕が見るし、他の子の面倒は見る気ないよ」

「相変わらずぶれへんなあ…。じゃあうちと波浜くんの役割を交代する?」

「総監督とかいる?」

「いるいる。だってにこっち、ふざけるときあるやん?そういうときに…」

「ひぃっ!」

 

 

東條さんはにこちゃんの後ろに回り、凄まじい速度と正確さで背後からにこちゃんの胸を鷲掴みにした。速攻で目を背けた。

 

 

「お仕置きが必要やん?」

「ひ、ま、真面目にやるからぁ…」

「…うん、それは勘弁してあげて」

「ほーら波浜くんこっち見て」

「悪魔か」

「ご褒美やん」

「いやいや…いや、なんか揉むと大きくなるとかいう都市伝説があるからなんだかんだにこちゃんにとってはご褒美では」

「死ね!」

「あふん」

 

 

天才的発想を伝えたら、にこちゃんは胸をつかまれているというのにペットボトルを投げてきた。中身入ってなくて良かった。痛いけど。目を背けてるから避けれなかったよ。見てても避けれないけど。

 

 

「そういえば、波浜先輩って成績はいいんですか?」

「まあ、そこそこ?」

 

 

南さんに尋ねられたけど、適当に返事しておく。能ある鷹は爪を隠すとかいうでしょ。正確には注目を集めたくないだけですはい。っていうかにこちゃんからの暴虐はスルーなのね。リーダー決めの時から思ってたけどスルースキル高いね君ら。

 

 

「試験はいっつも一位よ。二位が絵里で、三位が希」

「えええ?!」

「全然そこそこじゃないです?!」

「意外…」

「誰だい意外って言った子」

 

 

なんで言っちゃうのにこちゃん。なんでそんなに驚いてんのみなさん。そんなに僕頭悪く見えるかい。意外って言っちゃう正直な子はどうせ西木野さんだろ。知ってる。知ってるのに誰だって聞いちゃうのよくないね。

 

 

「僕の頭よりも、赤点回避の方が大事でしょ。ほらやるよ、練習よりも勉強だ」

「えー!練習したい!」

「したいにゃー!」

「君ら自分の状況理解してる?」

 

 

息抜き程度の運動は構わないけど、勉強しないと如何に練習しても本番ではステージに上がれないのだ。頼むから勉強して。日頃から。

 

 

 

 

 

 

「えーっと、試験範囲どこだっけ。ガウス積分?」

「何よそれ」

「なんでガウス積分ピンポイントなん?」

 

 

そういえば授業さっぱり聞いてないからテスト範囲とか知らない。知らなくてもどうせ解ける。

 

 

「まあどうせ微分積分はやるでしょ。とりあえず微分やろう微分」

「微分って聞くだけで頭痛くなる…」

「んじゃあ間違えた分だけバストサイズ増強ということで東條さんよろしくね」

「まかしとき」

「鬼!悪魔!」

 

 

誰が悪魔だ誰が。善良な一市民に対して言うことじゃない。僕、善良だろ?

 

 

「とりあえず微分のやり方を覚えてるか確認しようか。はいどうぞ」

「そのくらい覚えて…るわよ」

「…」

「…」

「東條さんステンバーイ」

「ラジャー」

「待って待って待って!い、いいい今できそうだから!!」

 

 

どうも簡単な微分すらできないようだ。まあそれくらいは許容範囲で予測圏内。冗談でスタンバイさせた東條さんにはキャンセルを入れておいて、しっかり教えていこう。

 

 

「できないのに無理しない、意地張らない。ほら、やり方教えるから」

「ううう……」

「にこちゃん、萌えちゃうから涙目禁止」

「萌えちゃうからって」

 

 

にこちゃんが半泣きで睨んできたので不覚にもきゅんきゅんしてしまった。あー可愛い。東條さんにジト目で見られたけど気にしない。

 

 

にこちゃんに微分を教えながら横目で後輩たちを見てみると、星空さんは小泉さんにフェイントを入れて西木野さんに怒られており、高坂さんは南さんを目の前にして寝ようとしていた。園田さんはそんな様子を見て辟易しつつ、弓道部に向かったようだ。

 

 

うん、これ大丈夫かな。

 

 

 

 

 

 

そんで翌日。にこちゃんを呼びに行ったら既に教室には居らず、部室に向かったら赤点リーチガールズは1人もいなかった。どこいったんだろう…と一瞬思ったけど、どうせこっそり練習しに行ったんだろう。連れ戻さねば。

 

 

というわけで屋上の扉を開くと、何故か床でびくんびくん痙攣している赤点リーチガールズと、外を神妙な面持ちで眺める東條さんがいた。大体察したので一旦扉を閉めた。深呼吸して、もう一度ゆっくり扉を開く。何度見ても、にこちゃんの色々やばい表情に変化はなかった。

 

 

うん。

 

 

戻ろう。

 

 

あの場に僕は居られない。

 

 

というわけで僕は部室にとんぼ返りした。戻ったら残りの面子は揃っていた。とりあえず予測される現状を伝えていたら4人とも帰ってきた。あーにこちゃんその顔でこっち見ないで僕死んじゃう。

 

 

「今日のノルマはこれね!」

 

 

バァン!と大量の本を机に叩きつける東條さん。立派に総監督していらっしゃる。もう全部君でいいんじゃないか。

 

 

「「「鬼……」」」

「あれぇ?まだわしわしが足りてない子がおるん…?」

「「「まっさかぁ!!」」」

「勘弁して」

「波浜くんがダメージ受けるのは予想外やったなぁ」

「そっそうよ!茜がいるんだから、あ、あ、あんなお仕置きはやるべきじゃないわ!!」

「そうですそうです!お嫁にいけなくなっちゃいます!!」

「っていうか既にギリギリアウトくらいにゃ!!」

 

 

大量の怨敵を目の前にして戦慄する3人に追い打ちをかける東條さん。そして僕の呟きを拾って反撃する3人。いいぞがんばれ。ただし星空さん、残念ながらギリギリでもなんでもなくあれはアウトだと思う。

 

 

「じゃあ次サボろうとしたら波浜くんの目の前でわしわしするね」

「待って」

「悪魔だわ…!!」

「赤点回避にお嫁さんがかかってるなんて…」

「逃げ場がないにゃ…」

「待って」

「じゃあノルマ、頑張ってね」

「「「はーい…」」」

「異議申し立ての隙すらくれないのか」

 

 

悪いこと何もしてないのに僕に災いが降りかかる罰を提案され、自然な流れで実行される感じになっていた。待って。僕は悪くない。ほんと待って。もうこれ御三方が逃亡しないように頑張るしかないのか。

 

 

「ことり、穂乃果の勉強をお願いします」

「え?うん…」

 

 

こっちで最悪の事態を回避すべく頭をフル回転させていたら、園田さんが何故かさっさと退避してしまった。破廉恥禁止病が発動したのだろうか。

僕も逃げていい?

 

 

「ごめんね、うちも少しだけ出てくるわ」

「マジで」

 

 

東條さんもログアウトしてしまった。そしてここぞとばかりに逃げ出そうとする御三方。

 

 

仕方ないので積まれた本をバシンと叩いて、真顔で睨んで威嚇。絶対確実に何があっても僕の目の前でわしわしMAXなんていう事態は避けなければならない。絶対本当に何が何でもいやマジで。

 

 

「えっと…波浜、先輩?」

「目が…目が怖いにゃ…」

「ま、待って茜、ちゃんと勉強するから、」

「よし君ら」

「「「はいっ!」」」

 

 

低音ボイスで声出したら大いにビビってくれた。低音便利。

 

 

「一瞬でも逃げ出す素振りを見せてみろ」

「み、見せたら…?」

 

 

おそらく条件反射で罰則を聞いてくる高坂さん。にこちゃんは小声で「聞かない方がいいわよ」って言ってるけど気にしない。

 

 

「僕は優しいから選択肢を3つ提案しよう」

「嫌な予感しかしないにゃ…!」

「絶対優しくない…」

 

 

何か言ってるけど気にしない。

 

 

「一つ目。マイクロビキニ姿で一曲分PV撮ってもらう。曲も衣装も振り付けも僕が直々に考える」

「わしわしよりよっぽどお嫁にいけなくなりますよ?!」

「知るか。二つ目、下着姿かつ全力で恥ずかしいポーズでグラビア撮影をさせていただく」

「えげつないにも程があるにゃ!!」

「うるさい。三つ目、君らが主役のエロ同人を描かせてもらう」

「どれ一つ救われない!!」

「何で救いがあると思ったの」

 

 

とりあえず思いついた恥ずかしい限りの罰則を提案したら3人とも、というか全員引いていた。外野関係ないでしょう。

 

 

「さあ気張れ、痴態を晒したくなければね」

 

 

もう一度本の山に手のひらを叩きつけ。

 

 

今ここに、主に僕の心を守る戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。あの後戻ってきた園田さんが高坂さんの家に泊まり込み勉強するとか言い出したので、対抗して僕はにこちゃんの家に単身乗り込んでいた。対抗する意味?ないよ。

 

 

「じゃがいもこのくらいの大きさでいいかい」

「ん、ありがと。あとにんじんもお願いね」

「あいさ。終わったらコーンスープの準備しとくね」

 

 

それで何をしてるのかと言われれば、見ての通り、料理だ。今日はシチューだそうなので勝手に追加させていただいたコーンスープと共に作るのをお手伝い中である。ついでにフランスパンも買ってきたので虎太朗くんがフランスパンで遊んでる。食べ物で遊んじゃだめよ。

 

 

「にんじん完了。ここ置いとくね」

「ありがと。コーンスープの前に虎太朗からフランスパン取り上げてきて」

「容赦ないね」

「食べ物で遊んじゃダメなのよ」

 

 

流石お姉ちゃんだ。そういうわけなのでフランスパンは没収させていただいた。虎太朗くんは悲しそうに「うあー」って言ってたけどこれは返せない。ごめんよ。

 

 

そんなこんなで矢澤家の食卓は完成。本日はにこちゃんママはいないが、実際いる方が珍しいので気にしないし気にならない。それよりもにこちゃんがシチューwithフランスパンを美味しそうに食べてるのが眼福だ。今死んでもいい。嘘嘘今死んだらにこちゃんの未来が見れない。

 

 

ご飯を食べて、お風呂を済ませたらにこちゃんお勉強タイム開始である。お子様たちはすでに寝かせた。

 

 

「基本的に過ナントカって名前の化合物は酸化力が高いから覚えとくといいよ。過マンガン酸カリウムとか過塩素酸とか」

「そもそも名前を覚えられないのよ…」

「じゃあ雰囲気で」

「何でそこ適当なのよ」

 

 

にこちゃんはなんだかんだ言いつつ文系教科はそれなりにできる。特に国語。でも理系が悲惨なので数学やら化学やらは集中的にやんないとにこちゃん死んじゃう。

 

 

「酸化還元が試験に出ないなんてことはないと思うからちゃんと覚えないとね。しかしどうやって覚えようか」

「茜はどうやって覚えたのよ」

「僕は苦労しなくても覚えられたから困ってるんだ」

「あーいいわねー頭良くてー」

「馬鹿言うな。僕は歴史は苦手なんだぞ。覚えられない用語は300回書いて頑張って覚えたんだ」

「ゲシュタルト崩壊しないのそれ」

 

 

実際、一部ゲシュタルト崩壊しかけたから途中でやめた。墾田永年私財法とか。指痛くなるわ。

 

 

「とにかく、頭に入らないなら気合いで体に叩き込むのも大事だよ」

「体に…」

「何でそこに注視したの」

「いや…わしわしの恐怖が」

「なんかごめん」

 

 

僕は悪くないのにココロが痛くなった。くそう、東條さんめ。

 

 

…何も返事が来ないのでにこちゃんの顔を見ると、何だか真剣なような、悲しそうなような、よくわかんない顔で机を、いや虚空を見つめていた。どうしたの急に。

 

 

「にこちゃん、どうかした?」

「…」

「…にこちゃん?」

 

 

返事がない。何故だろう、何か悪いこと言ったかな。わしわしMAXってそんなに精神ダメージを食らうものなのかな。怖いわー。

 

 

「…ねえ、茜」

「なーに」

 

 

やたらと真剣な声色だった。なんというか、推理ドラマで事件の真相に気づいてしまった一般人Aみたいな。伝わらないか。ていうかそれ死亡フラグだよね。とにかく、何か重大なことに気づいたみたいな、それを伝えようとしてるみたいな。そんな声。

 

 

「…ううん、何でもない。それよりもう寝ていいかしら。そろそろ日付超えるわよ」

「ノルマ終わらせないとわしわしMAXが待ってるけど」

「ううう、逃げ場がない…!」

 

 

先の真剣さはどこいったと言わんばかりにいつもの調子になった。まあ、にこちゃんが何でもないと言うなら何でもないんだろう。それよりもノルマ終わらせようね。あと少しなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

そして、試験返却日。

 

 

相変わらず満点だらけの答案を即刻鞄にしまったところでにこちゃんが教室に飛び込んできた。走っちゃだめよ。ぶつかるよ。

 

 

「茜、見なさい茜!全部平均点以上だったわよ茜!!ちょっと聞いてんの茜!!!」

「聞いてる聞いてる聞いてるから落ち着いて。そんなに注目浴びたくないよ僕は」

「早く部室行くわよ、これで凛とか穂乃果が赤点取ってたら話にならないし!!」

「僕の話は聞いてくれないのね」

 

 

反応する間も無く腕をガッチリ掴まれて連行される。絢瀬さんは鞄を持ったままため息ついてるし東條さんは困ったような笑顔で見てくる。助けてよ。

 

 

部室には僕らが一番乗りだったため、にこちゃんは早速特等席でふんぞり返っていた。ご丁寧に答案を机に並べて。まあ全部平均越えはいいことなんだけど、君の周りの同級生はトップ3だってこと忘れないようにね。

 

 

程なくして1年生組が部室に入ってきた。西木野さんの心配は元よりしていないし、小泉さんも大丈夫だとは思っていた。本人は安堵の表情だけど。

 

 

で、肝心の星空さん。

 

 

「ふっふっふー!にこ先輩どうでした?」

 

 

…もうちょっとポーカーフェイスを身につけるといいんじゃないかな。赤点が無かったのが丸わかりだ。対するにこちゃんは余計ふんぞり返った。倒れるよ。後ろに。

 

 

「ふふん、この答案を見なさい!なんと全部平均越えよ!」

「えええ?!」

「すごいです!」

「そうかしら」

「西木野さん、そういうのは言っちゃダメよ」

 

 

驚く星空さん、感心する小泉さん、そして平常運転西木野さん。平均越えは統計上は全体の半分の人しか取れないんだから馬鹿にしちゃいけないよ。

 

 

「とりあえず、その様子だと星空さんもセーフだったみたいだね」

「なんだか素直に喜べないにゃあ〜…」

「どーゆーことよ!」

「にこちゃん落ち着きな」

 

 

赤点取る取らないのレベルで喧嘩しないの。っていうかにこちゃん煽り耐性なさすぎよ。昔からだけど。

 

 

にこちゃんをなだめていると、南さんと園田さんがやってきた。この2人も心配はない。多分。南さん凡ミス多そうだけど、勉強はきっちりやってそうだし。

 

 

そして、少し遅れてやってきた高坂さん。

 

 

「どうだったかな」

「凛は大丈夫だったよ!」

「あんた私たちの努力を水の泡にするんじゃないでしょうね!」

「穂乃果ちゃん!」

 

 

いろいろ言われながら扉の前に立つ高坂さんは、どうやら後手に答案を隠しているようだった。

 

 

「…もうちょっといい点だったらよかったんだけど…」

 

 

そう言ってみんなに見せつけた答案の点は、53点。

 

 

半分以上取って赤点なんてあるわけない。

 

 

「じゃーん!!」

「わざわざ不安を煽るような言い方しないでよ」

「あはは…ごめんなさい」

 

 

まあ、後手に答案隠していた時点で無事なのはわかっていた。だってアウトだったら見せたくないでしょ、答案。見せる準備をしていたってことは見せてもいい点数だったってことに他ならない。

 

 

「よーし、早速練習だぁ!!」

「うん、それはいいんだけど着替えるのは僕が外に出てからにして」

「わあああ!波浜先輩のえっち!!」

「理不尽が過ぎないかい」

 

 

元気満タンの高坂さんにマッチポンプ的冤罪を吹っかけられながら、先に屋上に出向…こうとして、まずは理事長さんに報告すべきかと思い直して足を理事長室に向ける。のんびり歩いていたら後ろから高坂さんが鼻歌スキップで追いついてきた。着替え早いね。南さんと園田さんも一緒だ。自力で報告する気だったらしい。それにしてもゴキゲンだなぁ。

 

 

しかし。

 

 

「あれ?」

「どうしたの」

「中から生徒会長の声がして…」

「絢瀬さんの…?何か用事あったのかな」

 

 

そういえば、絢瀬さんはにこちゃんが突撃してきた時点で既に鞄を持っていて、外出準備完了してた気がする。理事長さんに呼ばれてたのだろう。

 

 

がちゃっと高坂さんが扉を薄く開けると、中から声が聞こえてきた。いやノックしなさいよ。理事長室は本来ノックするべきところでしょうよ。前回来た時もノックは…あ、してないか。東條さんが開けちゃったから。

 

 

そして、その瞬間、絢瀬さんの叫びが飛んできた。

 

 

「そんな…?!説明してください!!」

 

 

いったいどうした。いくらかき氷お嬢ちゃんでも、こんな悲痛な焦り方しないだろ。

 

 

そう思った矢先の、続く理事長さんの言葉は。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。でも、これは決定事項なの。音ノ木坂学院は、来年より生徒の募集を止め、廃校とします」

 

 

 

 

 

 

淡々と告げられ。

 

 

この場の全員を釘付けにした。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

さあ早くのぞえりを加入させたいところですが、あんまり急いで描写が疎かになるのもよろしくないと思うので…
まあ既に30話以上書けてるですがね()



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普段連絡してこない人から連絡来ると何事?って思う



ご覧いただきありがとうございます。

このタイミングで秋葉原にちょっと行ってきました。神田明神とか色々。時間がなくて絵馬が書けなかったのが残念です。また今度は沢山時間を作ってから行こう…。
そしてぷちぐるが楽しくて一生ぷちぷちしてられます。

というわけで、どうぞご覧ください。





 

 

 

「今の話、本当ですか?!」

 

 

高坂さんの叫びで時間が動き出した。そうだ、理事長さんが絢瀬さんに、音ノ木坂の廃校を告げたんだ。…なぜ?このタイミングで?急すぎるとも思ったけど、経営者側の動きはどう頑張ってもこちらからは見えないのだし、向こうは散々協議した結果なのかもしれない。

 

 

だからって納得もできないけど。

 

 

「っ…あなた………」

「本当に廃校になっちゃうんですか?!」

「…本当よ」

「お母さん、そんなの全然聞いてないよ!」

 

 

ああ、そういえば君のお母さんだったね理事長さん…ってそんな場合じゃない。

 

 

「お願いです、もうちょっとだけ待ってください!あと一週間、いや、あと2日でなんとかしますから!!」

「待って待って落ち着いて。一週間やそこらで何する気なの」

 

 

何よりパニクってる二年生ズをどうにかしなければ。でもどうしたらいいの。助けてにこちゃん。

 

 

「…とりあえず詳しい経緯を聞かせていただけますか?」

「そうね。とは言ってもそんなに長い話でもないわ。廃校にするというのは、オープンキャンパスの結果が悪かったらという話なの」

「…オープンキャンパス?」

「去年もやったでしょうに」

 

 

ともかく、即座に廃校って流れではないらしい。つまり、まだ抵抗の余地はある。それよりもオープンキャンパスという単語に疑問符を浮かべている高坂さんが心配だ。ほんとにこの子大丈夫か。

 

 

聞いた話を纏めると、オープンキャンパスで中学生たちにアンケートをとり、その結果如何で廃校を決めるというわけだ。オープンキャンパスは二週間後の日曜日。それがリミット。正真正銘の王手である。

 

 

そして、生徒会長たる絢瀬さんは、自身が、生徒会が、オープンキャンパスを内容を取り仕切ると押し切って出て行った。うーん、また波乱の香りがするぞ。またっていうかいっつも波乱に満ちてるけどね。ちくしょう。

 

 

 

 

 

ここで、何かに取り憑かれたかのように独走を続ける絢瀬さんを思う。何が彼女をここまで駆り立てるのか。何故ここまで僕らを認めようとしないのか。異常とも呼べるほど頑固に突き進む、その理由がどうしようもなく気になった。

 

 

…が。

 

 

それを知ること、彼女を助けることは、今、にこちゃんの居場所に関係のないことのはずだ。僕の目的はにこちゃんの笑顔を取り戻すこと。それをみんなに広めること。些事にかまけている暇は、きっとない。

 

 

まっすぐ、次の問題を、にこちゃんにとってよりよい方向に動くように、確実に放逐しなければならない。

 

 

全部にこちゃんのために。

 

 

そのために、余計な心配事は無理矢理深層まで仕舞い込んだ。

 

 

 

 

 

 

「そんな…」

「じゃあ、凛たちやっぱり下級生がいない高校生活?!」

「そうなるわね」

「ま、私はその方が気楽でいいけど」

「そうならないために頑張ってるというのに君は」

 

 

残りの面子に先ほどの話を伝えると、やっぱりというか案の定というかかなり落ち込んでしまった。西木野さんは口では平気そうにしているが、表情は哀しげである。意地っ張りめ。

 

 

「とにかく、オープンキャンパスでライブをやろう!それで入学希望者を少しでも増やすしかないよ!」

 

 

高坂さんはこういう時でも元気だ。強気なのかアホなのかはわからないけど、前進するぶんにはありがたい動力だ。

 

 

「まあ、その前に生徒会を僕らがライブできるように説得しなきゃならないだろうけどね。その前に今日の練習しなきゃね」

「あ、あの…その前にアルパカの餌と水の入れ替えに行ってきてもいいですか?」

「アルパカ」

 

 

急に小泉さんがアルパカを気にしだしたと思ったら、彼女、飼育委員らしい。知らなかった。っていうかあのアルパカ生徒が世話してたのね。荷が重くないか。有蹄類だぞ。うさぎとか鶏ちゃうんだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

「1,2,3,4,5,6,7,8…」

 

 

小泉さんが戻ってきたところで、練習を始める。何故か今日は園田さんも僕と一緒に指導側にいるけど、まあ別に問題ないからいい。ちなみに手拍子は僕で掛け声は高坂さん。高坂さん踊りながら掛け声かけれるのか。いつの間にそんな体力ついた。

 

 

「…よし!おお、みんな完璧!」

「うん、ずいぶん合ってきたね。完璧かどうかは知らないけど」

 

 

実際ふざけた勢いで上達している。当然素人からしたら、って話なので悪いところは悪いのだけど、始めて数ヶ月の子らにプロ級の要求を通すのは酷だろう。まあそもそも舞台上の役者については僕も素人なので、彼女らが思ってるほど助言することもない。ど素人よりはマシだと思うけど。

 

 

「これならオープンキャンパスに間に合いそうだね!」

「でも本当にライブなんてできるの?生徒会長に止められるんじゃない?」

「最初にそう言ったよね僕」

 

 

僕の話は聞かない主義か西木野さん。泣くぞ。

 

 

「それは大丈夫!部活動紹介の時間は必ずあるはずだから」

「ああ、確かに。いかに権力者でも僕らだけ省けないよな」

「そうです!だからそこで歌を披露すれば………」

「まだです…」

 

 

突然、園田さんが暗い声と表情で割って入ってきた。何がまだなの。確かにオープンキャンパスはまだ先のことだけど。

 

 

「まだタイミングがズレています」

「海未ちゃん…。分かった、もう一回やろう!」

「えぇ…」

 

 

そりゃズレてはいるんだけど、今この瞬間に直すところではないと思うのだけど。というかいつの間にそんなに「見える」ようになったの君。

 

 

そんなわけでワンモアダンス。

 

 

さっきと同じように僕の手拍子に合わせて高坂さんが掛け声をかけ、みんなが踊る。園田さんはじっと見てる。何か問題があるなら口を出せばいいのに、特に何を言うわけでもなかった。険しい顔で見てるだけ。一体何を考えてるのやら。

 

 

「はあ、はあ…完璧!」

「そうね」

「やっとみんなにこのレベルに追いついたわねえ」

「前から大差なかったよ」

「うるさい」

「はい」

 

 

ものの見事により上手に踊ってみせるμ'sのみなさま。何度も言うが、完璧なわけではないので悪しからず。

 

 

「まだダメです…」

 

 

それでもまだ首を縦に振らない園田さん。

 

 

「これ以上うまくなりようがないにゃあー」

「ダメです。それでは全然…」

「何が気に入らないのよ!ハッキリ言って!」

 

 

遂に西木野さんが声を荒げる。これといったダメだしもなく、ただ「ダメです」では誰も納得できない。そりゃそうだ。流石にここまでくると、園田さんの態度は不思議極まる。

 

 

「感動できないんです」

「え…」

「今のままでは…」

 

 

感動。

 

 

何故そこに着目できたのかは不明だけど、園田さんのわだかまりの中心はそこにあるようだ。とは言っても、彼女自身、どうしたら感動できる踊りになるかは恐らくわかっていない。僕もわかんない。だって僕は演出マンで、舞台上の役者についてはさっぱりだ。

 

 

そして、とりあえず。

 

 

「何がなんだかわかんないけど、何がなんだかわかんないまま練習しても埒があかないね。今日は終いにしようか」

 

 

そう伝えると、意外と誰も反論してこなかった。みんな重い雰囲気にやられたのかもしれない。

 

 

それと園田さんの内心も気にはなったが、まあ自己解決に任せよう。にこちゃんには直接関係しないし。

 

 

 

 

 

 

そんで帰り道。いつも通りにこちゃんと歩いていると、にこちゃんが不意に口を開いた。

 

 

「茜」

「ん?」

「家に着いたら、海未に電話してあげて」

 

 

不思議な提案を受けて思わずにこちゃんを見ると、若干悲壮感が漂う真剣な顔をしていた。この前にこちゃんの家で勉強してるときにも見た顔だ。

 

 

一体何を思ってその表情なんだ。

 

 

「えぇ…。何でさ」

「気になってるんでしょ」

「…………そんなことないよ」

「その間は何よ」

「何でもないよ」

「嘘ね」

 

 

今日のにこちゃん、何だか、こう、強い。雰囲気が、というか、有無を言わさない感じだ。何となく語気にやられてしまう。けど、負けてるわけにもいかない。にこちゃんのためにならない行動は極力控えたい。にこちゃんに悪影響が出ては困る。超困る。

 

 

「どうせ私に直接関係ないからとか思ってんでしょ」

「エスパーなの?」

 

 

ずばり言い当ててきたのでちょっとふざけて答えたら、何故か余計悲しそうな顔になった。何でさ。そんなに面白くなかったか。

 

 

「あんたいっつもそればっかり言ってるからわかるわよ。でもあんた、私がしてほしいって言ってるのにそれも私のためにならないと思ってるの?」

「そういう事例もあるでしょ」

「今はそういう事例じゃないわ」

 

 

どうあっても園田さんに連絡を取ってほしいらしい。何故だ。

 

 

「連絡取るならにこちゃんがやればよかろうに」

「何よあんたマネージャーでしょ。団員の管理くらいしなさいよ」

「それ言われると困っちゃうな」

 

 

いくらにこちゃんのために頑張ると言っても、流石に職務放棄と言われるのは厳しいところだ。非難や批判は行動の自由を狭めるから極力受けたくない。

 

 

「たまには練習の外でもマネージャーらしくしなさい。あんた練習のとき以外あの子たちのこと考えてないでしょ」

「そりゃ頭の中はにこちゃんでいっぱいだからね」

 

 

こう言っておけばにこちゃんは照れちゃって反撃が薄くなる。とてもかわいい。

 

 

のだけど。

 

 

今日は照れずに、右手を額に当てて俯くだけだった。

 

 

「そう…そう、よね」

「待ってなんで急に納得してんの」

 

 

おかしい。何かが決定的におかしい。ここまでにこちゃんの言動が読めないのも始めてかもしれない。

 

 

「…とにかく。せっかくμ'sっていうスクールアイドルをやれたのに、あんたの職務怠慢で潰れちゃったらどうすんの」

「そんなに深刻かなあ」

「深刻よ。元々廃校を阻止するために始めたのよ?廃校が決まったらもう頑張る必要もないじゃない」

 

 

それでやる気を失っちゃうような子たちじゃないと思うけども…、にこちゃんがそういうならそんな可能性もあるのかもしれない。大人しく従っておくのが吉かな。

 

 

「はあ、わかったよ。にこちゃん家着いたら電話するよ」

「うん…ってなんで私の家なのよ」

「ダメなの?」

「ダメじゃないけど!」

 

 

でも、対価としてにこちゃんと一緒にいる時間を増やしていただこう。

 

 

 

 

 

 

さて。にこちゃんがお風呂入ってるうちに電話してしまおう。何となく聞かれたくない。にこちゃんはお風呂長いから、電話中に出てくることは多分ないだろう。

 

 

…にこちゃんが望むから。そう、にこちゃんがそうしてほしいと望むから、わざわざ電話するんだ。する必要もない言い訳を自分にしているのは何故だろう。とにかく、内心とは違って意外と躊躇なく通話ボタンを押せた。

 

 

数回のコールの後、園田さんは電話に出てくれた。

 

 

「あ、もしもし。波浜ですよ」

『も、もしもし…えっと、どうかなさいましたか?』

 

 

何故か凄く警戒したご様子の園田さん。なんでさ。僕なんかしたっけか。

 

 

「…なんでそんな警戒してるの?」

『え?い、いえ、波浜先輩から電話をいただくなんて全く想像していなかったので…』

「一応僕マネージャーなんだけど」

『波浜先輩はにこ先輩のことばかり話しているので』

「否定できないね」

 

 

どうやら園田さんにも僕のにこちゃんラブはばっちり認識されているようだ。だからって他の子を見てないわけじゃないのよ。そんなに見てないけど。

 

 

「まあそれは置いといて。今日の話なんだけどさ」

『…』

「今日のあの様子だと、何か君の認識をひっくり返す出来事があったはずなんだ。みんなの踊りを、今まで特に疑問も持たずに見てきた踊りを、感動できないと一蹴してしまえるような何かが」

 

 

今日の園田さんは明らかに様子がおかしかった。いやもう少し前から変だった気もするけどこの際それはどーでもいい。問題は、彼女の身に何が起きたのか。彼女は何を訴えようとしているのか。今回の問題を潰すにはそれを知らねばなるまい。

 

 

『…生徒会長の、踊りを見たんです』

「絢瀬さんの?ってかあの子踊れるんだね」

『幼い頃からバレエをしていたそうです。とても上手で…感動しました。あんなに踊れる人からしたら、私たちなんてただの三流にしか見えないのもわかります』

「へえ」

 

 

通話しつつ、手元のタブレットで動画検索をする。二台持ちだぜどやぁ。…とにかく、あの子昔はロシアに住んでたらしいし、10年くらい前の、ロシアのバレエコンクールあたりを探せば見つかるだろう。

 

 

そう思って探してたら案外さっくり見つかったので見てみる。

 

 

なるほど、美しい踊りだ。舞台の演出はプロでも役者そのものには詳しくないので大したことは言えないが、少なくとも僕には文句がつけられないくらいの上手さ。そりゃμ'sの子たちがど素人にも見えるというものだ。

 

 

「確かにこりゃすごいねえ」

『え、もう見てるのですか…?』

「タブレットあるからね」

『…先輩、そういえば何気なく有能でしたね…』

「何気なくって何」

 

 

無能に見えるのだろうか。泣きそう。

 

 

『いえ、気にしないでください。とにかく、私たちはそんな生徒会長を納得させられなければ、オープンキャンパスへの参加は絶望的だと思うのです』

「そりゃそうだろうねえ」

『…先輩、他人事だと思ってません?』

「まさか。ここでμ's終わっちゃったらにこちゃんに顔向けできないし」

『やっぱりにこ先輩が中心なんですね』

「そりゃそうだ」

 

 

にこちゃんは僕の存在理由といっても過言ではないからね。にこちゃん居ないと死んじゃうから。うん。

 

 

『…先輩はどうしたらいいと思いますか?』

 

 

不安そうな声がスマホ越しに聞こえる。きっと、これ以上なく真剣に悩んでいるのだろう。ここがμ's存続の分岐点みたいなものだし、深刻に捉えて然るべきではある。

 

 

ていうか、僕に聞いちゃうあたり相当参ってる。僕なんかスルーされることの方が多いのに。なんかつらい。

 

 

「君はどうしたい?」

『え?』

「君の意見。μ'sという大衆じゃなくて、個人の主張。どうしたらいいと思ってるの?」

 

 

真面目に答えちゃっていいのだろうか…と思うより前に言葉が出た。案外僕は自分をコントロールできてないっぽい。

 

 

対する園田さんからの返事は、すぐには来なかった。呼吸音さえ聞こえないため、きっと息が詰まるほど真剣に考えているのだろう。

 

 

『私は…』

 

 

何分経ったか、数秒だったかもしれないが、ともかく園田さんが重い口を開く。

 

 

『私だったら…せっかく上手な方がいらっしゃるのですから、教えていただく、というのが一番だと思いますが…みんなからは反対されると思います。言い方は悪いですが、今は生徒会長は敵なのですから』

「いいんじゃない」

『…へ?』

「いいんじゃない、教えてもらうの。大変だとは思うけど」

『…やけにあっさりしてますね?』

「そりゃ僕も同じ意見だったからだよ」

 

 

結構考えてた割には、僕と同じことを考えてただけらしい。もちろん相手は絢瀬さんなわけだし、一筋縄ではいかない上に引き受けてくれた上でこっちを崩そうとしてくることも考えられる。やだ危険満載。

 

 

でも、やっぱり上達への近道だ。今後ラブライブに出場していくことも考えれば、上達の手段を惜しんでる場合じゃない。

 

 

『…にこ先輩が反対しても、あなたはそう言いますか?』

「さあ?」

『えぇ…』

「わかんないけど、僕がどうこうよりも、君は君がいいと思う手段を貫くのがいいんじゃない」

『しかし、それで意見が割れてしまえば…』

「…ん、そこを説得するのが議論だろう。さ、僕の出番はここまでだよ。後は君たちで話し合うといい。そんじゃねー」

『え?!あ、ちょっと!』

 

 

通話終了。お疲れ様でした。

 

 

なんかいらんこといっぱい言っちゃった気がする。

 

 

「…早かったね、お風呂」

「悪いけど、いつも通りよ。あんたの電話が長かったのよ」

「そんなにかな」

「そんなによ。ってこらこっち向くな!まだ下着だけで服着てないのよ!!」

「なんで脱衣所に持っていかないの」

 

 

何故急いで電話を切ったかと言えば、にこちゃんの気配がしたからだ。我ながら気持ち悪い。背後のにこちゃんを察知してしまうとは。

 

 

「あんたが心配だったから服着る前に様子見に来たのよ」

「服着る程度のタイムラグなんて誤差じゃないの」

「うるさい」

「ぐえ」

 

 

早くも服を着たにこちゃんの拳骨が降ってきた。痛い。やっぱり服着るくらいでそんなに時間食わないじゃないの。

 

 

頭をさすりながら振り向くと、最近よく見る深妙な表情のにこちゃんが真後ろに立っていた。なんなんだろうねこの顔。

 

 

「…ちゃんと電話できたみたいね」

「僕は電話さえまともにできない子供なのかい」

「できない以前にしないでしょ」

「しないね」

 

 

確かに電話はほとんどしない。メールすらしない。桜とか天童さんみたいなごく一部の人に業務連絡するときくらいだ。いや今回もよくよく考えたら業務連絡じゃないか。

 

 

「…やっぱり…」

「ん、何か言ったか、にこちゃん」

「………ううん。何でもない」

 

 

何かボソッと呟いたにこちゃんは、その内容は教えてくれなかった。まあにこちゃんが言いたくないなら聞かない。

 

 

「そっか…うん?」

 

 

とりあえずにこちゃんを愛でる会でもしようかと思ったら、スマホに着信がきた。にこちゃんもスマホを取り出したのを見ると、にこちゃんにもかかってきたようだ。となると…案の定、μ'sのグループ通話だ。

 

 

発信主は、園田さん。

 

 

…僕、今すぐみんなに聞いてみろとか言ったっけ。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

なんだか微妙に不穏がやってきました。伏線ちゃんと回収できるんでしょうか私←



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条件反射はお身体に障りますよ



ご覧いただきありがとうございます。

スクフェス5周年記念でTwitterでやってる懸賞的なアレで、果南ちゃんのメッセージカードが当たりました。やばいですね。近日中に死ぬかもしれません。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

 

『『『ええ?!生徒会長に?!』』』

『うん。海未ちゃんがダンス教わろうって』

『はい。あの人のバレエを見て思ったんです、私たちはまだまだだって…』

『話があるってそんなこと?』

 

 

グループ通話が始まってすぐに1年生ズの叫びが耳を貫く。息ぴったりだね、的確に僕を殺しにきてる。やめて。

 

 

ともかく内容はやはりさっき電話で話した内容だった。どうやら2年生ズは全員高坂さん宅にお邪魔していたようで、通話に参加しているのは園田さんだけなのに他2人の声もばっちり聞こえる。これ電話の内容高坂さんと南さんにも聞かれたんじゃなかろうか。やだなあ。

 

 

ちなみに僕もにこちゃんのスマホで参加している。自分のは使ってない。何でかって?なんか共同作業っぽいじゃん。気持ち悪いね。知ってる。

 

 

『でも、生徒会長って私たちのこと…』

『嫌ってるよね、絶対!!』

 

 

小泉さんと星空さんは案の定否定的…というか、単純に綾瀬さんご本人が不満なようだ。そりゃあれだけ邪魔してきたら嫌んなるよね。

 

 

でも、園田さんは簡単には提案を棄却しなかった。

 

 

『私もそう思っていました。…でも、あんなに踊れる人が私たちを見たら、素人みたいなものだって言う気持ちもわかるんです』

『そんなにすごいんだ…』

「自前のスマホとかパソコンが手元にあるなら見てみるといいよ。偏見抜きですごいもんだ」

『わわ?!波浜先輩いたんですか?!』

「にこちゃんの隣にいるよ」

『こんな時間にですか?!』

「幼馴染で家も近いんだから変でもなんでもないわよ」

 

 

口を挟んだらビビられた。しょぼん。まあ夜結構遅い時間だし、女の子宅に男子がいるのはビビるかもしれない。でもその理論だと2年生ズも帰り道危ないよ。

 

 

『私は反対。潰されかねないわ』

 

 

これは西木野さんの言。こういう時は素直だと立場が明白でありがたい。怖いこと言ってるけど。

 

 

『生徒会長、ちょっとこわい…』

『凛も楽しいのがいいなー!』

 

 

そして小泉さんと星空さんも同じく反対票。そうなるとは思ってたけど、意外と明確に嫌って言いよる。そんなに嫌か。

 

 

そして、きっとにこちゃんも反対派なのだ。

 

 

「そうね、3年生はにこが居れば十分だし」

「そんな理由なのにこちゃん」

 

 

理由が雑じゃないかいにこちゃん。

 

 

「…でも、」

 

 

ん?

 

 

 

 

「茜は賛成みたいだし、考えてみてもいいかも」

『『『『『ええ?!』』』』』

 

 

 

 

ちょい。

 

 

「待ってにこちゃん、僕そんなこと言ってない」

「でも賛成なんでしょ」

「えーっと」

「らしいわよ」

「待って待って」

 

 

シンキングタイムプリーズ。

 

あれ?何でにこちゃんに看破されたの?電話聞いてたのかな?それとも顔に出てた?ああもうとにかく、想定してたにこちゃんの動きと違う。にこちゃんの希望に沿うような行動を用意していたのに。もちろん賛成派だった時の想定もしてあるけど、こんなに肯定的なのは流石に予想外だ。

 

 

『私もいいと思うけどなあ』

「うおい」

『波浜先輩が焦るなんて珍しいにゃあ』

「焦ってない」

 

 

高坂さんも肯定派だった。それは予想範囲内なんだけど、にこちゃんが予定外すぎてそれどころじゃありません。行き当たりばったり作戦しかないのか。

 

 

『だって、ダンスが上手い人が近くにいて、もっと上手になりたいから教わろうって話でしょ?』

「そりゃそうなんだけど、色々過程すっ飛ばしてない君」

『だったら私は賛成!』

「聞いてる?」

 

 

出発点と終着点は合ってるけど、その道のりでの困難をさっぱりスルーしてしまった高坂さん。黒部ダムでも作る気かい。あれは完成して便利になったからいいけども。いやあれも別に行き当たりバッタリではないか。

 

 

『穂乃果ちゃん…』

『頼むだけ頼んでみようよ!』

「ちゃんとそこから先も考えなよ?」

『確かに、絵里先輩のダンスはちょっと見てみたいかも!』

『あ、それは私も…!』

「お願いだから聞いて」

 

 

みんな僕のこと嫌いなんですかね。いいよもう僕にはにこちゃんがいるからつーん。

 

 

『よぅし、じゃあ明日さっそくいってみよう!』

「でも、嫌な予感はするわよ。どうなっても知らないわよ」

「だからそこの対策考えてんだから聞いてくれって皆様」

 

 

解散の流れになるのを何とかして引き止めつつ、思いつく分だけ対策しておこう。

 

 

「とりあえず、綾瀬さんのことだから頼んだら了承してくれると思う」

『ちょろいってこと?』

「もうちょいマシな言い方なかったのかい」

 

 

いやちょろいって言えばちょろいんだけど。そういう意味じゃないの。

 

 

「諦めさせるには、突破不可能な壁を作ってやるのが一番早いって多分あの子は知ってるよ。そうじゃなきゃ今もバレエやってるだろうし」

『確かに…!何か挫折があったから今はやっていない、というのが自然です!』

「小泉さんは誰かと違って理解が早くて助かるよ」

「誰のことよ」

「にこちゃんじゃないよ」

 

 

あんだけ上手なバレエを今はもうやっていないのだから、きっと何か大きな壁にぶち当たってしまったというのは想像に難くない。それなら、自分の知る「挫折の手段」を再現してくる可能性は高い。あとにこちゃん飛び火しないで。にこちゃんも理解力高いとは言えないけどさ。

 

 

「とにかく、向こうがとってくる手段として最も考えられるのは『非常に厳しい練習』になると思う。対抗策はーーーー」

『へこたれない…ってことですね!』

「うん…うん?」

 

 

高坂さんが先回りして答えてきたから反射で「うん」って言っちゃった。いや合ってるけどさ。合ってるんだけどさ。

 

 

『えっ違うんですか?』

「いや合ってるけどさ。そんな軽く言うことじゃなくない?」

『え?上手くなるための練習なんですから、厳しいのは当たり前ですよね』

「うん…うーん?普通もうちょっと忌避感情出ない?」

『…きひかんじょうって何ですか?』

「あー…何でもない」

 

 

何だか拍子抜けしてしまった。あれ?困難に立ち向かうって意外と大変だと思うんだけどな?違うの?違うんですかにこちゃん。

 

 

「…ま、穂乃果はそういう子だから」

「君はお母さnおぶふっ」

 

 

お母さんかって言おうとしたら右ストレートがおでこにキマった。痛いです。

 

 

『よくわかんないけど、明日頼みに行くよ!』

 

 

高坂さんは結局よくわかんないで流してしまった。いいのか。いいのかこれ。ほんとに大丈夫か。

 

 

 

 

 

 

翌日、高坂さんらは本当に綾瀬さんに頼みに行ったらしく、スポドリを持って屋上に来たら綾瀬さんもいた。やっぱり結局引き受けたんだね。

 

 

ともかく、まずは一度今までの練習成果を見てもらおうということになったようだ。それならまずダンスを見てもらうのが一番。早速練習に取り掛かる。

 

 

「うわっと、どわわわああああ!」

「凛ちゃん?!」

「痛いにゃあー」

 

 

そんで星空さんがすっ転んだ。また間の悪い時に失敗する子だね。大丈夫かい。

 

 

「全然ダメじゃない!よくここまで来られたわね!」

「厳しいねえ」

 

 

綾瀬さんの厳しい言葉が屋上に響く。μ'sの皆さんも若干萎縮している部分はあるだろうが、最終的には人前で披露するものだし、緊張した状態でもパフォーマンスの質を下げてはならないだろう。全然ダメかどうかは知らないけど、良くはない。

 

 

「昨日はバッチリだったのにーっ!」

「基礎ができてないからムラが出るのよ。…足開いて」

「ん、サービスカットかな」

「茜」

「はい」

 

 

にこちゃんからすごい重厚なプレッシャーが飛んできた。ごめんて。ゆるして。

 

 

「こう?」

 

 

で、素直に座ったまま開脚を行う星空の背中を、綾瀬さんはぐっと結構なパワーで押した。

 

 

「んぎゃっ!痛いにゃああ?!」

「綾瀬さん、折れちゃうよ」

「折れないわよ。少なくとも足を開いた状態で床にお腹がつくようにならないと」

「ええー?!」

「それもはや180度じゃないか」

「そうよ。柔軟性をあげることは全てに繋がるわ、まずはこれを全員できるようにして。このままだと本番は一か八かの勝負になるわよ!」

 

 

そんなに柔軟大事かなあとも思ったけど、そういえばバレエやってる人ってすんごい体柔らかいイメージがある。そういうものなのかもしれない。やっぱり専門でやってる人は肝心要な部分を理解していらっしゃる。

 

 

「…嫌な予感的中」

「まったくだね」

 

 

にこちゃんも言ってるが、やっぱりキツい練習を用意してきた。予測はしてたけど、実際見てみると確かに厳しい。開脚でお腹を床につけるなんて中国のなんたら雑技団みたいなとこみたいだ。

 

「…ふっ!」

「おお!ことりちゃんすごい!」

「まじか」

「えへへ」

 

 

雑技団員がいらっしゃった。南さんがバッチリお腹を床につけている。お腹より出張ってる胸は床についていないからあの状態で上体も起こしてるわけだ。骨大丈夫なのあれ。あとにこちゃん目が怖い。大丈夫だよ貧乳はステータスだって言うじゃないかぐへぁ。

 

 

「何で殴ったにこちゃん」

「別に」

「酷くない」

 

 

にこちゃんの拳が左頰に刺さった。これはキリスト様的には右頰も差し出すべきなのだろうか。にこちゃんなら殴られてもいい…いややっぱやだ。

 

 

「感心してる場合じゃないわよ!みんなできるの?!ダンスで人を魅了したいんでしょ!このくらいできて当たり前!」

 

 

左頰をさすっていると綾瀬さんの声が飛んできた。なんか熱血顧問みたいになってるよ。見てる分には面白いわ。

 

 

「波浜くんはやらないの?」

「僕マネージャーなんだけど」

「マネージャーも部員のサポート役なんだから、練習の消耗具合も管理すべきだと思うわ」

「そういうならやってもいいけど、僕死ぬよ」

「…大げさじゃないかしら」

「大げさじゃないんだなーこれが」

 

 

引き続き柔軟に悲鳴をあげる部員たちを見ていると、綾瀬さんからお声がかかった。僕は運動すると死にかけるので絶対やだ。にこちゃんの為でもないのに命削りたくない。

 

 

「…やらないなら、練習メニューの見直しでもしてあげなさい」

「やってるよ」

 

 

膝に乗せたタブレットを弄りながら答える。μ'sの練習関連は全てここに突っ込んである。今も綾瀬さんの言葉を聞きながらベストな計画を考えているところだ。

 

 

色々考えながら見ている間に、片足バランスだったり筋トレだったり、練習は進んでいく。…いつぞや、桜が「音楽なんて基礎練習さえできれば上手くなるんだよ」とか言っていたのを思い出した。綾瀬さんもダンスの練習はほぼせず、基礎トレーニングばかりしている。何をやるにしても基礎が一番大切なのは変わらないのだろう。そういえば僕も昔はデッサンばっかやってた気がする。あれすごく大事らしいね。

 

 

「ラストもう1セット!」

 

 

同じ練習を何度も繰り返して、ついにラスト。運動神経のいい星空さん、弓道部やってる園田さん、そして過去から今に至るまでずっと練習してきたにこちゃんまでみんなキツそうな顔している。汗もすごい。

 

 

そして。

 

 

 

 

グラっと。

 

 

 

 

小泉さんのバランスが、崩れた。

 

 

「かよちん?!」

「ふんぬ」

 

 

気がついたら小泉さんを抱えていた。…重い。いやきっと僕の腕力がないだけなんだろうけど。ゆっくり降ろして僕も倒れる。反射的に走ったらしく、息がもう、だめ。

 

 

「かよちん大丈夫?!」

「う、うん…それよりも波浜先輩が…」

「い、いや、大丈、夫。短距離、だったし?」

「全然大丈夫じゃないでしょ馬鹿!!」

「誰が馬鹿さ」

 

 

じつはあんまり大丈夫じゃないけど。さすがにこちゃん。

 

 

「…もういいわ。今日はここまで」

 

 

そして降ってくる綾瀬さんの声。近年稀に見る愛想尽かした人の声だった。

 

 

「ちょっなにそれ!」

「そんな言い方ないんじゃ?!」

「私は冷静に判断しただけよ。これで自分たちの実力がわかったでしょ」

 

 

反論も意に介さず冷たく言い放つ綾瀬さん。今は立派に氷の女王だ。今は。

 

 

「今度のオープンキャンパスには学校の存続がかかっているの。…もしできないっていうなら早めに言って。時間が勿体無いから」

 

 

徹頭徹尾辛辣にして怜悧、やはり彼女はμ'sを捻じ伏せるつもりでいるようだ。練習は厳しいし、コーチも厳しいし、やる気が削がれることこの上ない。

 

 

…でもそんなの、上を目指すならば当然だろう。

 

 

「…待ちな、綾瀬さん」

 

 

足早に去ろうとする綾瀬さんを呼び止めると、随分訝しげな顔をされた。何だいその顔。

 

 

足元はふらつくけど、やらねばならないことがある。練習が厳しくて、コーチも厳しくて、でもそれは当たり前。もちろん僕らは強豪じゃないし、コーチである綾瀬さんだって同じ学生で、そもそもアイドル研究部には縁もゆかりもないはずなのだ。

 

 

だから僕はふらつきながら、スポドリと新しいタオルをひったくり、綾瀬さんに突きつける。別に悪気があるわけじゃなく、制動が効かないから動きが大雑把になってしまうだけだ。悪気はないんだ。いやほんとに。信じて。

 

 

「今日は、ありがとね。お疲れ様」

「………波浜くん、いったい何をしているの?」

「労ってんだけど」

「…」

「こんなあっついのに、わざわざ、屋上で練習見てくれたんだしゲホッ」

 

 

わざわざ来てくれた彼女には敬意を示さなきゃ失礼じゃん。しかしむせた。かっこ悪い。

 

 

そう思って綾瀬さんにスポドリとタオルを押し付けている間に、μ'sのみんなは整列していた。

 

 

「ありがとうございました!!」

「……………え」

「明日もよろしくお願いします!!」

「「「「「「お願いします!!」」」」」」

 

 

その言葉に何を受けたのか。それはさっぱりわからないけど、心底驚いたような表情をした後、さっと振りかえって無言で出て行ってしまった。スポドリとタオルは受け取らないまま。受け取ってよ。余計かっこ悪いじゃない。

 

 

「じゃあ、今日はここまでにしよっか!」

「そうですね。…波浜先輩もあの様子では私たちを見ていられないでしょうし」

「まったく無茶して!」

「にこちゃ、酸素缶」

「はいはい」

 

 

にこちゃんは僕がいつもこっそり持ってきている酸素缶を僕の荷物から取り出して僕に渡してくれた。すぐさま口にあてがってしゅーしゅーする。そしてむせる。

 

 

「何やってんのもう!」

「死にそう」

 

 

むせた反動でやっぱりぶっ倒れた僕をにこちゃんが優しく介抱してくれる。今死んでもいい。

 

 

瀕死の僕が復帰したタイミングでみんな解散することに。また明日、綾瀬さんに教わることには誰も文句を言わなかった。にこちゃんでさえ。

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

屋上で準備していると、にこちゃんと2年生ズがまずやってきた。

 

 

「にこちゃん遅かったね」

「いやあんたが早いんでしょ。私6時に起きたのよ」

「その頃にはもうここにいたね」

「あんたは…もう」

「はいはいそんなことより。綾瀬さんが来るまでに柔軟くらいしておきな」

「はーい!!」

「何でこの子超元気なの」

 

 

早起きに関してはスルーするけど、それよりも高坂さんがやたら元気だ。元からか。

 

 

「にゃんにゃにゃーん!!」

「ちょ、ちょっと!」

 

 

突然屋上の扉が開いたと思ったら、星空さんが綾瀬さんを伴って突入してきた。何事。

 

 

「おはようございます!」

「まずは柔軟からですよね!」

 

 

高坂さんと南さんが元気に挨拶。なんか楽しそうだ。そして対する綾瀬さんはこれまた驚いた表情だ。

 

 

「…辛くないの?」

「何がさ」

「昨日あんなにやって、今日また同じことをするのよ。第一上手くなるのかわからないのに」

 

 

呟かれたのは疑問。ああいう練習で身の程を知らせることで心を叩き折ろうとしたのに、なぜむしろ元気になってるのか。そりゃ疑問に思うわ。僕もびっくりだわ。ていうか上手くなるかわかんないのかよ。

 

 

そして、返事は至極単純だった。

 

 

「やりたいからです!」

「…っ!」

「確かに練習はすごくキツいです。身体中痛いです!でも、廃校を阻止したいという気持ちは生徒会長にも負けません!だから今日もよろしくお願いします!!」

「「「「「「お願いします!!」」」」」」

 

 

答える高坂さんに続いて、他のみんなも頭をさげる。にこちゃんまで。にこちゃんが誰かに頭を下げるなんていつ以来だろう。なんだったら僕にも頭下げたことなんてない気がする。あれ、なぜか羨ましい。

 

 

当の綾瀬さんはよほど衝撃を受けたようで、形容しがたい複雑な表情で踵を返し、無言で出て行ってしまった。急いで追いかけようと出口へ足を向け

 

 

 

 

 

(…あれ?)

 

 

 

 

 

 

足を止める。

 

 

…何で追いかけようとしてんだ??

 

 

このままみんなに彼女の指導通りの練習をさせて、見てあげればいいじゃないか。

 

 

彼女が居なくてもできることはあるだろ。

 

 

ていうかにこちゃんに関係ない。

 

 

そう思って、とっさに出口に向いてしまった足をみんなの方に戻そうとして、

 

 

「行ってきなさい」

「へ」

「行ってきなさい。絵里が心配なんでしょ」

「…え」

「そうですよ、にこ先輩の言う通りです。追いかけてあげてください!私たちも柔軟終わったら追いかけますから!」

「いやそうじゃなく」

 

 

にこちゃんが行ってこいと言ってきた。困惑してたら高坂さんも乗ってきた。待ちなさい君たち、僕そんなこと言ってない。

 

 

だいたいなぜ綾瀬さんを心配せねばならないのか。あれか、にこちゃんに仲良くしてあげてって頼まれたからか。ああそうかそういうことだな。にこちゃんの頼みなら仕方ない。

 

 

「さ、早く」

「うん、ごめん」

 

 

そうにこちゃんに答えて、出口へ向かう。思ったより迷いなく足は動いた。

 

 

 

 

 

 

 

「…あの、にこ先輩。なぜ波浜先輩を行かせたのですか?」

 

 

海未がおずおずといった様子で聞いてきた。確かに、私が茜を何処かへ寄越したことなんて今までなかったかもしれない。

 

 

「…あいつは、元々そういうやつなのよ」

「え?」

「どういうことですか?」

 

 

私の答えを理解できない様子の海未と花陽。他のみんなも訝しげな表情でこっちを見ていた。

 

 

「あんたたちと関わるまで考えもしなかったけど」

 

 

茜は「あの日」から、ほとんど私以外と、私が関わらない人と接触しなくなった。

 

 

中学も、高校も、頭いいくせにわざわざ私と同じ学校を選んでまで側にいてくれた。私はそれが嬉しかったし、茜も当然のように喜んでいた。いつも私のためにって言って私のわがままを聞いてくれて、部活作るのも手伝ってくれた。

 

 

それは、全部「()()()」から。

 

 

それが、茜と穂乃果たちが関わり始めてから変わりだしていた。

 

 

少しだけ、本当に少しだけだけど、「あの日」以前の茜に。

 

 

「…茜があんなに歪んじゃったのは、私のせいなのよ」

 

 

きっと「あの日」が。

 

 

私たちを変えてしまったんだ。

 

 

 

 

「…何だかよくわかりませんけど、」

 

 

しばらくの無言の後、穂乃果が口を開いた。

 

 

「波浜先輩はいい人ですよね?」

「初ライブの時も照明やってくれたんだよね!」

「練習も彼のできる範囲で協力してくれますし」

「…悔しいけど、背中押してくれたし」

「私たちの体調管理もしてくださってるし」

「なんだかんだいって優しいにゃ!」

 

 

穂乃果に続いてみんながそれぞれ茜のいいとこをあげていく。何よ、茜のいいとこは私が一番…げふん。

 

 

とにかく、みんな本来の茜を無意識に感じているようだ。今までの茜なら、私以外に優しくしたりはしなかったはずなのに。

 

 

この子たちとなら、元の茜を取り戻せるかもしれない。

 

 

「…そうね。茜はいいやつよ。それより早く柔軟やって茜を追いかけましょ」

 

 

 

 

 

茜は、私の本気の笑顔が見たいって言ってくれた。

 

 

でもね。

 

 

それは私も一緒よ。

 

 

私も、あんたの心からの笑顔が見たいのよ。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

シリアス感出てきました。いやシリアスするならシリアスな場面に合わせようかと…。波浜少年に何があったかはアニメ一期終盤くらいに公開予定です。9人も話作らなきゃいけないので波浜君の救済はかなり早め。



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笑顔の魔法を叶えたい


ご覧いただきありがとうございます。

お気に入りも感想もぐいっと増えてほんとに嬉しいです。嬉しすぎて寿命伸びるどころか死に近づいた感さえあります。タイトル回収したしいいんじゃない??
まあまだ続きますがね!!

というわけで、どうぞご覧ください。


なお、今回一万字超えてしまったので読むの時間かかるかもしれません。




 

 

 

走らない程度に急いで絢瀬さんを追いかける。姿は見えないから足音だけが頼りだ。その足音も弱々しく、ずいぶんメンタルブレイクしている模様。歩みが遅いのはありがたいけど、足音が聞き取りにくいのは困る。ここ右かな?

 

 

「うちな」

「希…」

 

 

角を曲がろうとしたところで、東條さんと絢瀬さんの声が聞こえた。足を止めて成り行きを見守る…いや聞き守ることにする。聞き守るってなんだよ。

 

 

「えりちと友達になって生徒会やってきて、ずーっと思ってたことがあるんや。…えりちは本当は何がしたんやろって」

 

 

そういえば長らく東條さんと関わる機会がなかったから忘れていたが、この2人は教室でも生徒会でもいつも一緒にいる無二の親友だ。そんな彼女は絢瀬さんが廃校阻止のために孤軍奮闘している間、何をしていたのだろう。こうして彼女が揺らぐ瞬間を待っていたのだろうか。

 

 

「ずっと一緒にいると、わかるんよ。えりちが頑張るのはいつも誰かのためばっかりで、だからいつも何かを我慢してるようで…全然自分のことは考えてなくて!」

「…!」

 

 

だんだん声に力がこもってくる。いつもの余裕綽々な言動もなりを潜め、ただ必死に親友に言葉を投げる。きっとこれが東條さんの本心で、ずっと綾瀬さんに伝えたかったことなんだ。だったら僕の出る幕じゃない。

 

 

「学校を存続させようっていうのも生徒会長としての義務感やろ!だから理事長はえりちのこと、認めなかったんと違う?!」

 

 

そういえば、理事長さんも絢瀬さんの活動を結構認めなかった。彼女は気づいてたってことか。綾瀬さんは義務感で、僕らはやりたいから。理事長として、学生である僕らにとって許可すべきはμ'sの方だと判断したのだろう。

 

 

「えりちの…えりちの本当にやりたいことは?!」

 

 

涙声だった。今の今までの、親友であるが故に気付けた本心、そして親友であるが故に言えなかった本心。東條さんの中で溢れる想いが器を超えたのだろう。最近本当に泣き声を聞く機会が増えてしまった。全然嬉しくない。

 

 

2人は無言だった。僕も当然無言で、廊下は静まり返っていた。といっても実際は朝練やってる運動部とか吹奏楽部とかの音はそれなりに聞こえている。もちろん屋上で練習してるμ'sの声も。

 

 

その一切が完全に途切れた一瞬。いい加減出て行こうかと思った矢先、遂に沈黙が破られた。

 

 

「何よ…。なんとかしなくちゃいけないんだからしょうがないじゃない!!」

 

 

またもう1人分。

 

 

泣き声が増えた。

 

 

「私だって!好きなことだけやって、それだけで何とかなるんだったらそうしたいわよ!」

 

 

堰を切って溢れ出した本心は、いっそ銃声よりも激しく聞こえるほどだった。誰かのために身を削り続けた氷の女王の、生身の部分の慟哭だった。

 

 

「自分が不器用なのはわかってる!でも!…今更アイドルを始めようなんて、私が言えると思う…?」

 

 

全部吐き出して、走り去る足音。追いかける足音は聞こえなかった。そろそろ出番か。

 

 

「…聞くつもりはなかったんだけどね」

「…」

「追ってみたら全部聞こえてしまったよ。ごめんね」

「…」

「…えーっと東條さん?」

 

 

後ろから話しかけても無言である。ガン無視ですか?傷つくなあ。まあ僕にはにこちゃんがいるからいいや。そう思って横を過ぎようとすると、俯いて泣いている東條さんの横顔が目に入った。彼女より背が低くてよかった、素通りするところだった。ん?よかったのか?

 

 

「…うちじゃ、助けられんかった」

「誰を?」

「えりち」

 

 

鼻をすんすん言わせながら、震えながら話す東條さん。そのままへたり込みそうなほど悔しそうだ。悔しそうで、哀しそうだ。

 

 

「えりち、いつも誰かのために、みんなのためにって、頑張ってた、から、うちが、うちだけでも、えりちのためにって、」

「はいはい落ち着きなさい。まだ授業始まってもいないのに泣かないの」

 

 

せめて放課後にして。タイミングの問題じゃないって?そんなこと言わずにさ。

 

 

「でも」

「でももだってもないの。人ひとりが出来ることなんてたかがしれてるってこと、君も綾瀬さんも学ばなきゃね」

「じゃあ、どうしたらいいって言うん?波浜くんなら何とか出来るって言うつもりなん?」

 

 

涙目でこっちを睨む東條さん。そんな顔も出来るのね。怖いわー。超怖いわー。

 

 

「今ひとりで出来ることなんてたかがしれてるって言ったばっかで、そう言っちゃうのは馬鹿っぽいでしょ。単純な話、ひとりじゃなければいいんでしょ」

 

 

それだけで伝えて東條の横を過ぎる。足音の方向と距離からして、生徒会室には向かってない。それ以外で絢瀬さんが行きそうなのは…教室かな?

 

 

「そんな、そんな簡単にっ…!」

「簡単だよ。だって今から僕が行くし、僕にはにこちゃんがついてるし、にこちゃんにはμ'sのみんながいる。総勢9人、単純計算なら9倍効率。僕らが君ほど活躍できなくても、2倍くらいにはしてやる」

「…」

「東條さん、そんなに自分を責めないで。君が役に立たなかったんじゃない、絢瀬さんが思ったより頑固でぶきっちょだっただけ。君の過失じゃない」

「でも、えりちは…!」

「君の親友。そうだね、きっとそうだと思う」

 

 

絢瀬さんも東條さんも、結局優しすぎたんだろう。絢瀬さんがどうのこうの言ってるけど、東條さんがやってることも結局自分度外視の自己犠牲だもの。「自分よりみんなのために」、「自分よりえりちのために」。行動の仕方が違うだけで理念は同じ、結局はお互いのサポート範囲である自身を軽視してしまったが故に起きた誤算。

 

 

だったら、彼女らをまとめてフォローできる子を放り込めば万事解決だ。

 

 

「でも僕だって友達のつもりで、にこちゃんも一緒に友達なんだ。親友だからって自惚れるな、相手の全てがわかるなんて、全てが救えるなんてとんだ傲慢だ。僕ですらにこちゃんの全部は知らないし、にこちゃんひとり未だに救えないんだぞ」

 

 

実際それは僕ではなく、にこちゃんでもないと思う。

 

 

でも、それが出来そうな人に心当たりはある。

 

 

「…でも」

「あーはいはいわかったわかった。それでも救いたいなら、後から来る女神さんたちと合流してから追ってきなさい。僕は先に行って時間稼ぎしてるから」

「ま、待って…」

「待たない」

 

 

振り向かずにガンガン歩いていく。東條さんはなんだかんだ足が動かないらしかった。頭の処理が追いついてないんだろう。仕方ない、ため息をついて一度立ち止まり、少し振り向いて言葉を発する。

 

 

「一旦頭を冷やしな。行き当たりばったりじゃ救えるものも救えない」

 

 

少し厳しめなことをいったら微妙に気まずくなってしまったから、また前を向いてさっさと歩き出した。きっと僕は悪くない悪くないよ。

 

 

理由はわからないけど、にこちゃんのためになるかどうかはこの時頭に浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

「さて、話をしようか」

「…っ、波浜くん…」

 

 

案の定教室にいた。教室の扉を開けると同時に声をかけると、絢瀬さんは半泣きかつ驚いた様子でこちらを向いた。今日は表情筋が忙しいね。

 

 

「…何よ、今日は練習を見る気分じゃ

「さっき東條さんと話してるとこ聞いてしまったからさ」

「…!」

 

 

不機嫌そうな表情が明らかに引きつった。そりゃそうか、親友に非難をぶちまけるのを聞かれたらそりゃ嫌だ。

 

 

「…だったら何なのよ。説教でもしにきたの?」

「うん」

「それなら…え?」

 

 

苛立ち募る中、僕の答えが予想外だったらしく呆気にとられた様子の絢瀬さん。何しにきたと思ったんだ。

 

 

「うん、説教しにきた」

「え…え?あの、」

「ちなみに反論は受け付けない」

「えっ」

 

 

とりあえずぼけっとしている間に畳み掛けよう。

 

 

「全く、氷の女王とはよく言ったもんだ。自分一人で何が救えると思ったんだ君は。傲慢も極まるね」

「…生徒会長だもの。私が学院を救わなくて誰が救うって言うのよ」

「そこが傲慢だって言ってるのに」

「どこがよ!それなら君なら廃校を止められるって言うの?!」

「そんなわけあるか。そもそも主語がおかしいんだよ君」

「…何を言って、」

「『僕が』『私が』じゃないだろう。…『みんなで』救うんだろ、音ノ木坂を」

 

 

息を飲む音がした。まるで盲点だったと言わんばかりに。そういうところが思い上がりだと言っているのにもう。

 

 

「普通に考えなさいよ。廃校を阻止したいのは君だけじゃなかったでしょう?東條さんだったり、にこちゃんだったり、高坂さんだったり、きっと生徒会の皆様も。他にも探せばいっぱい居たと思うけど、それらに目を向けずに勝手に突っ走ったのは、君でしょう?」

「…それは、」

「君はみんなの意見をちゃんと聞いたか?アンケートとか取ったか?聞いた上で、気に入らないからとか不合理だからって君の主観で切り捨てなかったか?全部聞けとはさすがに言えないけど、多くの意見から最善を引っ張り出すとかいうのは考えなかった?」

「…」

 

 

返事はない。図星だったんだろう。

 

 

「μ'sは気に入らなかったかい?行き当たりばったりでやってるスクールアイドルなんか当てにできなかったかい?残念だけども、あの子たちは君のやり方よりはるかに注目を集めているよ。何故だろうねぇ、君はあんなダンスじゃ響かないっていうのに」

「…それは…」

 

 

何かを答えようとする絢瀬さん。意外にも、何か心当たりがあるようだった。

 

 

「亜里沙が…妹が言ってたわ。μ'sのライブを見てると胸が熱くなるって。一生懸命で、目一杯楽しそうで…元気が、もらえるって」

 

 

君妹いたんかい。何ともいいこと言う妹さんだ。オープンキャンパス来るだろうか。いやそんなことより、絢瀬さんもことの本質は薄々わかっていたようだ。

 

 

「何でだろうね?」

「何でって…」

「さあ、初ライブで高坂さんが何て言ったか思い出そうか。さっき屋上で何て言ったか思い出そうか。…東條さんの言葉を、思い返そうか」

 

 

何故だろうか、別に歌とか踊りが上手でもないのに、応援したくなる人がいる。一流じゃないけど、頑張れって言いたくなる人がいる。いつぞやにこちゃんが「オーラ」とか呼んでいた代物を持つ人。

 

 

そういう人は、例えば高坂さんのように、決まってこう言うのだ。

 

 

「『()()()()()()』。きっと自分がやりたくてしょうがないし、楽しくて仕方ないし、それだけで元気いっぱいになれるから。そんな人を見ていると、こっちも楽しくなるし、頑張らなきゃって思える。にこちゃんもそうだったよ。本当に楽しそうで、嬉しそうで、最高の笑顔だった。それを見れば周りの人たちもみんな笑顔になれるくらいだったよ。で、東條さんは何て言ってたっけ?」

「…希は、私のやりたいことはって…」

「嫌々やってることに心なんて動かない。気持ちなんか揺るがない。東條さんはそういうことを言ってたんだろう。やりたくないことやっても気合は入らないし、人の心なんて動かせるわけもないからね」

 

 

結局はそういう話。

 

 

みんなのためにではなく、自分のためにでもなく。その両方のために頑張れる原動力は、やっぱり「やりたい」ということ。何がどうだか何て関係ない、一切合切合理論はすっ飛ばして、好きだからやりたいからの一心で貫けるなら、それはきっと万人の心を動かすのだ。

 

 

「まあ、君が何をしたいか何て僕は知らないわけだけど。君さっき何て言ってたっけ。好きなことだけやって、それだけで何とかなるんだったらそうしたい、だったかな」

「…ええ、そう、言ったわ」

「そうすればいいじゃないか」

「簡単に言ってくれるわね」

「簡単だからね。君みたいに頑固かつ不器用でなければ」

 

 

明らかにムッとした様子の絢瀬さん。随分かき氷お嬢ちゃんに戻ってきた。いいね、その方が話しやすい。

 

 

そう思って満足げにしていると、不意に扉が開いた。その先にいるのは、高坂さん筆頭のμ'sの面々+東條さん。ちゃっかり涙の跡は消してある。流石だ。っていうかみんな早かったね。

 

 

「…さて、本命も到着したし、あとはお任せするかな」

「え、さっきまでしていた話は…?」

 

 

さっさと皆様の後ろに引っ込む僕に戸惑う絢瀬さん。そりゃそうだ、急に会話切っちゃったもんね。ごめんね。

 

 

「僕のお話はおしまい。時間稼ぎでしかなかったし。ここからクライマックスなんだから、演出側の人間は舞台にいるわけにはいかないの」

 

 

そんだけ言って、後はお任せ。何か合図とかする必要もなく、高坂さんが絢瀬さんの目の前に躍り出る。続いて他の面子も。

 

 

「あなたたち…」

「生徒会長…いえ、絵里先輩!お願いがあります!」

「練習?それなら昨日言った課題を…」

「絵里先輩、μ'sに入って下さい!」

「…!!」

 

 

驚いた様子の絢瀬さん。僕も予想していたし、その他大勢も笑顔である。こうなることは前もって知らされていたか、みんなこうなると思っていたのだろう。なんか適応してきちゃったなあ。

 

 

「一緒にμ'sで歌って欲しいんです!スクールアイドルとして!!」

「…何を言ってるの?私がそんなことするわけ

「するんだよ」

「ない…え?」

「そうよ。やりたいなら素直に言いなさいよ、絵里」

「にこちゃんが言うかい」

「何よ」

 

 

未だ強情にも拒否しようとする絢瀬さんの言葉を遮り、にこちゃんが追い打ちをかけた。ただし台詞はブーメランになってるよにこちゃん。

 

 

「ちょ、ちょっと待って、別にやりたいなんて…大体私がアイドルなんておかしいでしょ?!」

「なんかおかしいかな」

「おかしくないわね」

「やってみればええやん。特に理由なんて必要ない。やりたいからやってみる。…本当にやりたいことって、そんな感じで始まるんやない?」

 

 

よくわからない主張を3年生仲間で捻じ伏せる。これには絢瀬さんも困惑だ。困惑しつつも、少しずつ嬉しそうな表情になる絢瀬さん。そこに高坂さんが手を差し出した。

 

 

「…いいの?あんなに、邪魔したり、嫌がらせしたりしたのに…」

「自覚はあったんだね」

「むぅっ」

 

 

揚げ足をとるとムッとされた。ごめんて。

 

 

「いいんです!私たちだって、絵里先輩とスクールアイドルをやりたいんですから!」

 

 

元気よく答える高坂さん。この子器大きいねえ。流石リーダー。こういうところはきちんとリーダーだね。いや、こういうところでしっかりしてるからリーダーなのか。

 

 

高坂さんの返事を聞いた絢瀬さんは遂に笑顔になり、真っ直ぐ高坂さんの手を取った。やっと、意地っ張りな生徒会長が、絢瀬絵里としてやりたいことを掴んだのだ。

 

 

「絵里先輩…!」

「これで8人!」

「僕入れて9人ね」

「…あっ」

 

 

南さん酷くないかい。まあ僕はマネージャーだけどさ。

 

 

まあそれよりも。もう一つやりたいことがあるんだけど…にこちゃん最優先をいい加減遵守しないと、って思ってたらにこちゃんと目が合った。にこちゃんは真摯な目で頷いて見せた。やれってか。にこちゃん僕が何を思ってたかわかったのか。何それ照れる。

 

 

とりあえずGOサイン出たので、やる。

 

 

「…で、どうするの東條さん」

「…どうするって?」

「にやにやしてるってことは察してるでしょうに。君はμ'sに入るのかって」

 

 

以前から思ってはいたのだ。やたら肩入れする割にはμ'sに入ろうとしないな、とは。その原因が絢瀬さんだとしたら、もう障害はないはずなのだ。

 

 

「…ふふ。にこっちのことばっかり考えてるかと思ったら、結構よく見てるんやね」

「いや僕はにこちゃんのことしか考えてないよ」

「ふんっ」

「んぎゃ」

 

 

肘が脇腹に刺さった。痛い。にこちゃん手加減プリーズ。

 

 

「…占いで出てたんや。このグループは9人になった時、未来が開けるって。…だからつけたん。9人の歌の女神…μ'sって」

「ええ?!」

「じゃあ、あの名前をつけてくれたのって希先輩だったんですか?」

「うふふっ」

「薄々そんな気はしてたけどねえ…。神話の女神なんて如何にも君が好きそうなジャンルだし」

 

 

よく占いがどうとかカードがどうとか言ってるもんね。タロットを持ってるのもよく見かけるし、そういう類の話には詳しいと思っていた。

 

 

「あと、うちらを照らす太陽さんと、うちらを守る騎士さんもね」

「流石に僕に二役は厳しいんだけど」

「せやね。だからあと一人。マネージャーが必要かもしれへんね」

 

 

心当たりはまったくないんだけどね。みんな頑張ってさがして。

 

 

「まったく、希ったら…」

 

 

呆れたように微笑んだ絢瀬さんは立ち上がって扉へ向かう。

 

 

「絵里先輩、どこへ?」

 

 

園田さんが問いかけると、さっきまで半泣きだったくせにすっごい笑顔で振り向いてこう言い放つのだ。

 

 

「決まってるでしょ。練習よ!!」

 

 

 

 

 

 

その日の放課後。授業後の練習に行く前に生徒会の仕事があるため、希と一緒に生徒会室に向かっているときだった。

 

 

「…えりち、波浜くんのこと…どう思った?」

「え?波浜くん?」

 

 

希が急に問いかけてきた。波浜くんといえば、にこのことばかり考えている、かなり意地の悪い男子だけど…どういう意味で聞いてきたのかしら。

 

 

「今朝の波浜くん、いつもと違ったと思わへん?」

「いつもと…?」

 

 

確かに説教くさかったけど、いつも通りだったと思う。

 

 

「いつもの波浜くんは、にこっちの側にいつもいて、行動の中心が全部にこっちなんよ。…今朝みたいに、自分から動くのは珍しいと思う」

「そうかしら?μ'sの初ライブの時とかも一人で行動してたと思うけど」

「そうなんよ。彼、μ'sと関わり始めてから、一人で行動することが増えてるん。1年生のときも、2年生のときも、男の子一人しか居らへんかったからよく見てたんよ。その頃はにこっちにべったりで、長時間離れるのは見たことない」

「うーん…」

 

 

そうだったかしら。…恥ずかしながら、今まで学校のためにってことでいっぱいいっぱいで、波浜くんのことは試験の成績上でしか見なかったからあまり記憶にない。

 

 

「それでね。なんとなくだけど、今朝の波浜くんの方が…いつもよりよく喋るな、とも思ったんよ」

「あ、それは私も思ったわ。すごく口が回ってた」

 

 

ついでに自分のことを棚に上げすぎとも思ったけど。あなただってにこのことしか考えてないじゃない、って。でも大人気ないのでそれはナイショ。

 

 

「いつもとは別人みたいに心配して、周りを見て…全体を見て行動してた。にこっち中心じゃなくて、波浜くん本人を中心に。うちらの悪いところもちゃんと叱ってくれて、たまに口調も変わって…でも、いつもみたいな芝居がかった感じじゃなくて、とても自然な話し方だったと思う。だから、うち思ったんよ」

 

 

珍しく真剣な顔の希は、真っ直ぐ私を見てこう言った。

 

 

「もしかして、波浜くんって本当は———」

 

 

 

 

 

 

 

さて、オープンキャンパス前日なわけですが。

 

 

「…困った」

 

 

うん、困った。

 

 

何がって、会場が芝の上の特設ステージなのだ。いやそれの何が困るのかって話かもしれないが、芝の上にトラックやらフォークリフトが乗り込むわけにはいかないのだ。傷むから。特設ステージの骨組みだって接地面を目一杯減らしたものを選んできた。

 

 

選んだはいいが、設置する場所まで運ぶ手段が、手運びしかない。

 

 

新メンバー追加による仕事の増加もあるし、絢瀬さん考案の練習スケジュールに手を加えたりしてたら会場がどこか確認するのをすっかり忘れていた。照明演出失格である。引退しよかな。

 

 

一応ヒフミのお嬢さんらが頑張ってくれてるが、所詮一般の、しかも女の子である。骨組みもアルミ合金とは言えそこそこ重い。だいたい僕には持てない。このペースだと今日中に終わらないというか、夜が明けても終わんない。やばい。照明器具の設置もしなきゃいけないし。やばい。とても。

 

 

「むー、いっそ設営業者に無理言って派遣してもらうか?いや今から頼んでもすぐには来れないだろうし…むむむ」

「…おい」

「人脈が狭いからなあ…。桜か天童さんか…あいつら?ダメだ、パワーが足りるビジョンが浮かばないわ。台車とかでどうにかするしかないのか…」

「おい」

「しかし照明器具はどうするよ。振動に弱いのも無くはない。あんまり負荷かけたくないんだよな…あーくっそどうするかなぁぐぇ」

「聞いてんのかコラ」

 

 

首根っこをつかまれてぶら下げられる。気分は首を咥えられた子猫だ。嬉しくない。っていうか、僕が軽いとはいえ片手でぶら下げるって何事。

 

 

僕を引っつかんだ何者かは、そのまま僕は自身の目の前に持ち上げた。…デカい。すっごくデカい。2mあるんじゃなかろうか。射抜くような三白眼をサングラスで隠し、銀髪をオールバックでまとめていてなんかヤのつく一族みたいだ。あと筋肉やばい。とにかくやばい。

 

 

「何さ、僕は忙しいんだけど」

「状況の割には冷静だなオイ…。忙しいのはわかってる、というか忙しそうだから声をかけてるんだ」

「はあ。嫌がらせかな」

「違ぇよボケ」

「口が悪いね」

 

 

礼儀がなってないね。そもそもいきなり人の首を引っ掴むようでは礼儀もクソもないか。

 

 

「手伝うぞ」

「はいはいだから…んん?」

「だから手伝うぞ」

 

 

んんん?

 

 

どうしてそうなった。

 

 

「えーっと…ありがたいけど、何で?」

「何でってお前…μ'sのライブなんだろ?」

「うん、いやそうなんだけど理由になってないよね」

「μ'sのファンだ」

「うん」

「…それ以上なんか要るか」

「………いや、うん、わかったよ」

 

 

まったく脈絡がないけど、まあパワーありそうな人が手伝ってくれるならありがたい。ここはお言葉に甘えようか。

 

 

「じゃあまずは…」

 

 

 

 

 

 

 

やばい。

 

 

彼、なんか、こう、強い。

 

 

「おいこの骨どこだ」

「向かって右の奥の方。番号書いてあるからその通りに」

「了解」

 

 

…何で片手で2本も骨持ってるんだろう。女の子たち見なよ。両手で1本でしょ。君は両手で4本だよ。おかしいよね。いや片手で僕を持ち上げれるんだからまだ余裕あるのか。なんだ彼。強い。

 

 

「さらに僕を肩車する理由がわかんない」

「あ?指示が聞きやすいだろ」

「そんだけの理由でウエイトを増やすのか」

 

 

筋肉ダルマめ。

 

 

「おらコレどこだ」

「ステージの角だよ。うん、そこ」

 

 

筋肉ダルマのくせに察しがいいのだ。しかも仕事は丁寧、照明器具も慎重に持ってくれる。なんだ彼、強い。

 

 

「この鉄骨はなんだよ」

「あー、後ろのアーチ用のトラスだね。裏側だよ」

 

 

彼が指さしたのはアーチ状のアルミ合金製鉄骨群。個々のサイズは大きいけど見た目よりは軽い。彼なら楽々持てるだろう。十数本あるから何度か往復が必要だけど。

 

 

「これ縛ってあんのか?」

「そうそう。その紐っぽいやつは切っちゃっていいからね」

「ああ、そうする…後でな」

「は?」

 

 

筋肉マン君はおもむろに積んであるアーチの最下段をむんずと掴むと、あろうことか全部一気に持ち上げた。パラパラと土が落ちる。何これ世紀末?頭上に鉄骨が浮いてるんだけど。

 

 

「…何してんの?」

「この方が早いだろ。つーか軽いなこれ」

「嘘だろ」

 

 

予想以上に脳筋だった。脳筋すぎるだろ。

 

 

でも、そのおかげで予想外に早く準備が進み、照明の仕込みまで終わらせられてしまった。屋上でリハーサルしてるにこちゃんとは一緒に帰れないかと思ったらいい感じに間に合いそうだ。

 

 

「…いや、本当に助かった。ありがとね」

「おう」

 

 

短く返事する筋肉マン君。下から見上げると威圧感恐ろしいんだけど。ヤンキーも裸足で逃げ出す勢い。いやマジで。

 

 

「明日も聞きにくるでしょ。名前は?」

「…滞嶺、創一郎」

「滞嶺君ね。覚えた」

 

 

滞嶺…そういえば以前、小泉さんが1年生に滞嶺っていう男子いるって言ってたな。君か。いや校内に制服でいる男子なんだから消去法で彼しかいなかったわ。

 

 

「あー!波浜先輩!お疲れ様です!…って、わああ?!」

「準備はもう終わっ…ぴぃ?!」

「穂乃果、ことり、どうしまし…ひっ?!」

 

 

自己紹介を終えたところで、ちょうどμ'sのみんなが校舎から出てきた。出てきたはいいけど、2年生の皆様が滞嶺君におビビり申し上げてる。失礼でしょ、と言いたいところなんだけど、何というかしょうがない。見てくれの恐さが半端ないもん。3年生ズも警戒してる。滞嶺君は気にしてなさそう…いや、しょげてる。グラサンの向こうの目が悲しそうになってる。意外と豆腐メンタルなのか。

 

 

「あっ滞嶺くんにゃ」

「こんな時間にどうしたんですか?」

「授業は午前中で終わったじゃない。早く帰りなさいよ」

 

 

おや。1年生ズは恐がってない。むしろめっちゃフレンドリー。仲良いの?意外。

 

 

「…野暮用だ」

「彼、設営手伝ってくれたんだよ」

「おい」

「そうなの?!ありがとう!」

「ん、お、おう」

 

 

何故かはぐらかそうとしていたので暴露した。怒られそうになったけど星空さんが先手を打ってくれた。ありがとう。

 

 

「あのー、凛ちゃん…知り合い?」

「同じクラスの滞嶺創一郎くんにゃ」

「い、1年生?!」

 

 

高坂さんと園田さんが仰天している。まあ1年生には見えないよねえ。でかいし。恐いし。…でかいし。

 

 

「お、大きいわね…」

「208cmだ」

「にこちゃんに50cm足しても届かないね」

「茜もでしょ」

 

 

でかすぎない?

 

 

しかし、そんな巨人に対してもまったく物怖じしない子もいる。特に星空さんはさっきからひたすら滞嶺君の手を引っ張っている。

 

 

「一緒に帰ろーよー!」

「帰らねえよ…つか押すな」

「んぐぐぐぐ…重いにゃ!」

「145kgだからな」

「ひゃくっ…?!」

「重戦車かよ」

 

 

なんだこの怪物。そして何故そんなに懐かれているのか。

 

 

「そんなこと言わずに、せっかくなのでスクールアイドルについて話を…!」

「受けて立とう」

「にゃー!凛とも遊んで!」

「片手間にな」

「何やってんのよもう」

「理解が追いつかない」

「安心して波浜くん、私もよ」

 

 

何故か鼻息荒い小泉さんの提案にノリノリな滞嶺君。ご不満な様子の星空さん。呆れる西木野さん。うん、意味がわからん。

 

 

まあ、とりあえず彼がいい人ってことだけはわかった。そうじゃなければ、星空さんはともかく小泉さんが仲良くしない。そもそも僕を手伝ってくれたしね。今度バイト代払おう。

 

 

 

 

 

 

そして、オープンキャンパスでのライブは。

 

 

「皆さん、こんにちは!私たちは、音ノ木坂学院スクールアイドル、μ'sです!」

 

 

たくさんの人が来てくれて。

 

 

「私たちは、この学校が大好きです。この学校だからこのメンバーに出会えて、この9人が揃ったんだと思います」

 

 

多くの人が目を輝かせ。

 

 

「これからやる曲は、私たちが9人になってはじめてできた曲です。私たちの、スタートの曲です!!」

 

 

何より。

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「聞いてください!『僕らのLIVE 君とのLIFE』!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

みんなの、にこちゃんの笑顔が。

 

 

 

とっても輝いていた。

 

 

 

 

ここからまた始まる。にこちゃんの笑顔の魔法を、世界に広めるのだ。

 

 

 





最後まで読んでいただきありがとうございます。

タイトルは無事回収できましたが、まだまだお話は続きますよ。むしろここから本番ですね。だんだん他の男たちも出てきます。


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幕間:まだ見ぬ者たち



ご覧いただきありがとうございます。

今回もお気に入りしてくださった方がいらっしゃいました。ありがとうございます。また寿命が伸びました。え?このノリいい加減飽きた?なんと言われようと私はお気に入りしてくださった方への敬意を怠らない!!
あと17話が16話のUA超えてるのは何故でしょうか。鬼鮫先生の名言効果でしょうか。お身体に触りますよ()

今回はオリジナル回、残る男たち総出演です。9人も覚えていられるか!!って言われそう。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

 

俺こと天童一位は、今日は喫茶店にて舞台の打ち合わせに来ている。舞台のモデルとなって頂いた天才文学者・松下明(ペンネームは柳新一郎)と、天才俳優・御影大地の2人が今、俺の目の前に座っている。

 

 

松下先生(18歳)は、茜ほどではないが背も低く線も細いメガネ系男子だが、俺と同期であるにも関わらず単身イギリスに留学して博士号を取得し、既に准教授の地位にいるスーパーアクティブバケモン野郎だ。まあかく言う俺も天才劇作家なわけだから人のことは言えない。齢18で年収700万なら凄いもんだろう。脚本作りに伴う著作権料とか印税とかが格が違うんだよ格が。

 

 

大地も同じく18歳で、背は高いわ体格いいわ顔はいいわ声はいいわで人生勝ち組野郎だ。しかも努力家で謙虚という人生のチーターだ。背後から刺されても不思議じゃない。俺も負けてないけどな。身長178cm、体重75kg、握力は42kg。あれ、割と普通じゃね?大地死すべし。

 

 

「ちくしょうこれだから人生はっ!!!!!!」

「…突然何言ってんの天童」

「お店の中ですから、あまり騒がないように」

 

 

ダァン!!!と喫茶店の机に拳を叩きつけると、大地からも松下先生からも冷やかな視線とお言葉を頂いた。ちくしょう人生勝ち組野郎どもめ、脚本家なめんな。全然モテないんだぞ。涙出てきた。

 

 

「俺は今人生の理不尽さに必死に抵抗してんだよ」

「あー、病院行く?」

「病院で治るでしょうか」

「しばくぞ」

 

 

今すぐその可哀想なモノを見る目を止めるんだ。泣くぞ。

 

 

「天童、今日は舞台の打ち合わせに来たんだろう?よくわからないリアクションしてる場合じゃないよ」

「ド正論過ぎてぐうの音も出ねぇ」

 

 

大地の諭すような言葉で我に帰る。そうだ絶望してる場合じゃねえ。

 

 

「まあ今日は大地に松下先生のパーソナリティを掴んでもらうための会食だ。ただ飲んで食ってしてればいいぜ」

 

 

実在する人物をモデルにする場合は、できるだけ本人に近い言動を心がけたい。その方がリアリティが出るし、見ている人もわざとらしさを感じにくい。それは脚本家の自分だけでなく、演じる側である俳優にも頼んでいることだ。大地は良く出演してもらっているからそこら辺の勝手はわかってくれているだろう。

 

 

「僕のことは先生なんて呼ばなくていいですよ、同い年なんですし」

「そうか?じゃあそっちも敬語じゃなくていいぜ、明」

「じゃあお言葉に甘えて。でもある程度の敬語は癖なので許してくださいね」

 

 

とりあえず向こうも堅苦しいのは避けたいようで好都合。やっぱり縁のあった人とは仲良くしたい。

 

 

「にしてもいきなり名前呼びかい?なかなか大胆だな」

「大地もそろそろ俺を名前で呼んでいいんだぜ?」

「やだよ、君の名前『一位』じゃないか。人の名前って感じがしない」

「失礼極まる」

 

 

仲良くしたいって言ってんだろ人の名前をバカにすんなちくしょう。

 

 

「僕はいい名前だと思いますよ。名前負けしてる感は否めないけど」

「あんたも大概失礼だなおい」

 

 

味方はいなかった。帰りたい。

 

 

「天童は置いといて。松下先生…おっと、松下君でいいのかな?」

「呼び捨てで構わないよ、御影君」

「天童じゃあるまいし、流石にいきなり呼び捨ては厳しいよ。松下君は文学者らしいけど、実際何してるの?」

「主に文献の解釈かな。時代は古代から現代まで、世界各国の文学作品を評価している」

「へえ…なんか想像も及ばないな」

 

 

本当に置いてかれた。

 

 

「あれ、でもペンネームの柳新一郎って小説家だよね?小説も書いてるの?」

「ええ。それに小説だけではなく詩も書いていますよ。学んだ文学の叡智を形にしてみたくて始めたんだけど、意外と好評で」

「おうおう、今回の舞台も柳新一郎の詩集、『未来の花』が題材だぜ。小説は結構有名だが、詩集はなかなか手を出す人が少ないからな。俺の舞台で広めようかと思ってよ」

「急に復活したね」

 

 

何を隠そう今回の舞台、この俺が詩集「未来の花」に感銘を受けて、せっかくだから世に広めようと思って作った劇なのだ。柳新一郎という名は小説の分野では有名なのだが、詩集となるとそれほど出回っていない。そもそも詩集を買い求める人が減ったというのもあるだろうが、お蔵入りにするにはとても勿体ない。なに?詩集読んでるなんて意外だって?脚本家であり劇作家なんだからそこら辺の人の数倍本読んでるわなめんなばーか。

 

 

「これでも結構柳新一郎の作品は読んでるんだぜ。意外かもしれねーがな」

「意外だね」

「ノータイムで答えたなお前」

 

 

そんなに意外か。泣くぞ。

 

 

「普段どんな扱いを受けてるかが如実に現れてますね」

「泣きたい」

「まあ天童なんてそんなもんだよ」

「キレそう」

 

 

いい加減キレていいか?

 

 

「他人との関わり方が明らかというのは、人となりが把握しやすいという意味では非常に良いと思いますよ。今日はそういう会なんでしょう?」

「俺がわかりやすくてもなー」

「監督が親しみやすい人だとわかったら安心すると思うよ」

「大地、お前ほんとにそう思ってんのか」

「心外だな、思ってるよ」

「…そうか、それはすまん」

「まあ大体いじりやすいからいじってるだけだけど」

「ようし歯を食いしばれ」

 

 

一瞬反省した俺を殴りたい。いやその前に大地を殴る。許さん。

 

 

「喫茶店で暴れないでくださいよ、追い出されますよ」

「何も言えん」

「あはは、なんだかんだで僕らいいトリオかもね。いじり役いじられ役諌め役って」

「俺の役回りが損しかねぇ」

「愛されてるじゃないか」

「こんな愛いらねえ」

 

 

イジりを愛と形容する文化はどこから来たんだ。オラこんな愛嫌だ。許さん。今日俺誰も許してねぇな。

 

 

「そんないじられ役の天童君は最近のトレンドとか知りませんか?」

「ツッコまんぞ、おおツッコまんぞ。最近のトレンドっつったらあれだろ、スクールアイドル」

「天童、高校生に手を出すのはどうかと」

「出さねえよ。つか最大でも3歳しか変わんねえじゃねか」

「いや天童が女子高生と付き合ってるって言われたらちょっと警察呼んじゃう」

 

 

不本意だが字面だけ見ると確かに結構ヤバイ香りがする。実際手を出す気なんてさらさらないわけだが。ないぞ?何疑いの目を向けてんだ。

 

 

「別に手を出そうなんて考えてねえ。SoSの野郎がよく話してるから興味が出ただけだ」

 

 

SoSは、サウンドオブスカーレット(Sound of Scarlet)…つまり茜のことだ。基本的にA-phy(えいさい)の3人で俺意外の2人(茜と桜)は外部への露出をめっちゃ嫌うため、極力本名は出さないようにしているのだ。面倒なやつらめ。

 

 

「SoS…グラフィックデザイナーだよね。アイドル好きなの?」

「いや、幼馴染がスクールアイドルやってるから話題に上るだけだと思うぞ」

「スクールアイドルといえば、μ'sの作詞の方が以前、僕の詩を引用したいと申し出がありましたね」

「マジで」

 

 

大地はともかく、明はアイドルなど興味ないとか思っていたのだが、まさかまさかのμ'sに関わりがあった。世間狭し。

 

 

「アイドルが僕の詩を読んでいるなんて想像もしませんでしたよ」

「だろうね」

「教養の深いヤツもいるもんだな」

 

 

にこちゃんもだいたいオツムは弱い子だし、リーダーの子もあんなんだし、類友というヤツでそんな子ばっかりかと思ってた。

 

 

「そもそも谷川俊太郎先生や宮沢賢治先生、寺山修司先生の詩をそのまま歌にしているスクールアイドルもいるそうですからね」

「合唱曲かよ」

「…ごめん、寺山修司ってどなたかな」

「…なんですって?」

「お前…寺山修司知らんのか…」

「あー、うん…えっなにこれ、地雷踏んだ?」

 

 

詩人に詳しい教養人たちの前で有名な詩人を知らぬと答えるとは浅はかなり、大地。

 

 

この後の喫茶店会議は、本気を出した明と俺が閉店まで大地に詩人講習を行って終わってしまった。…まあ、これで大地も明がどういう人物かわかっただろ、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

「以上が手術の概要だ。波浜の方は成功率63%、雪村は83%」

「低いよ」

「贅沢を言うな…肺の手術だぞ」

「だって失敗したら死ぬやつじゃん。ゆっきーとは違うんだ」

「俺だって失敗していいとは微塵も思ってないんだがな」

 

 

僕は今日は小さな病院に来ている。べつに病気になったわけではなく、とある縁で知り合った2人の天才と話をしに来たのだ。

 

 

「私の右手と高性能な人工肺でもあれば成功率は格段に上がるんだがな、左手一本かつ臓器移植、しかも患者の体力が最底辺だとこれくらいが限界だ」

「十分化け物だと思うよ」

 

 

今、僕の前でホワイトボードに僕の肺機能再生手術案を書いているのは、18歳にして医師免許と医学部の博士号を持つ天才もとい化け物、藤牧蓮慈。右腕と右目を失っているため白衣の袖に右腕は入っていないしいつも眼帯をしているけど、不思議と違和感は感じない。そんなことより、ぶっちゃけ目が死んでることの方が心配だ。

 

 

「俺は今の義足と車椅子で十分だ。そもそも足の移植なんて聞いたことがない」

「前例がないわけじゃないから安心するといい」

「そういう問題かな」

 

 

そして、僕の隣で足の移植手術案の説明を受けているのが今話題沸騰中の天才ファッションデザイナー、雪村瑞貴。彼は両足を失っているため基本的には車椅子生活であり、今日も車椅子で病院に来ている。彼は別に目は死んでいないが、だいたいいつも半目なので気怠げに見える。でも車椅子には裁縫道具が大量に搭載されてるし、そんなのが病院に入っちゃっていいのだろうか。

 

 

今日の話し相手はこんな脱力系天才2人だ。僕も割と脱力系だから多分第三者から見たらきっととてもユルい。

 

 

「俺は足を使うこと自体が少ないからな、高い金を払ってまで足を手に入れようとは思わない」

「僕だってにこちゃんに会えなくなるリスクは払いたくないよ」

「またにこちゃんか」

「またにこちゃんだよ」

 

 

僕の人生はにこちゃんでできてるんだってば。

 

 

「その矢澤嬢とより快適に過ごせるようになるはずなんだがな」

「それで命失うわけにはいかないよ」

「難儀なやつだ」

「命は投げ捨てるものではないんだよ」

 

 

藤牧(まっきー)は医者なはずなのに命を軽視しすぎじゃないだろうか。

 

 

にこちゃんの話題を出すと、雪村(ゆっきー)が思い出したように口を開いた。

 

 

「そう、矢澤さんといえば、μ'sのメンバーだったよな」

「そうだね。ゆっきーがμ'sに興味あるなんて意外だね」

「ああ、アイドル自体は毛ほども興味無いんだが」

「それはそれで悲しいね」

 

 

真顔でアイドル全否定されるとにこちゃんラバーとしては悲しくなってくる。毛ほどは興味持ちなさいよ。いや毛ほどの興味でも無いと同義か。

 

 

「μ'sの衣装がよくできていると思ってな」

「ああ、南さんか。上手だよね、僕より」

「お前の専門は絵だろうが」

「演出も得意だよ」

 

 

グラフィックデザイナーだけど一芸特化じゃ一流とは言えないもんね。なんかの漫画で似たようなセリフ聞いたな。

 

 

「そりゃ服くらい作れるだろう」

「「お前は黙れ」」

「私が何をしたというんだ」

 

 

どうせ何でもできるバケモンは口を挟まないでください。

 

 

「とにかく一度会ってみたいものだ。まだまだ改良の余地もあるしな」

「という口実でナンパするんだね」

「お前は俺を何だと思っている」

「そんなやつだとは思わなかった」

「轢くぞ」

「誠に悪うござんした」

 

 

からかってたら真顔で脅された。ゆっきーはいつも真顔だから冗談なのかマジなのかわかんない。困る。

 

 

「μ'sに会いに行くなら私も呼んでくれ。西木野先生の娘さんに挨拶しておかなければ」

「面識あったのかい」

「そもそも私たちが入院していたのは西木野総合病院だろう。私と波浜は特に危篤だったからか、お嬢がよく病室に来ていたよ」

「覚えて無いんだけど」

「肺が潰れて意識不明だった患者が覚えてるわけないだろう」

「確かに」

 

 

意識不明なら外の様子がわからなくてもしかたないね。

 

 

僕ら3人は偶然同じバスに乗り合わせ、偶然交通事故に遭い、まっきーは右半身を、ゆっきーは下半身を、そして僕は胸をそれぞれ破壊されていた。僕は言うまでもなく、まっきーは顔まで被害が及んでいたしゆっきーの出血も尋常じゃなかったはずだけど、命が助かったのは単に西木野先生の手腕のおかげだろう。今も定期検診ではお世話になってるし。西木野さんのことは今の今まで知らなかったけど。

 

 

ちなみに、事故の生存者は4人しかいない。この集まりは事故生存者の会みたいなものなのだ。

 

 

「そういうことならちゃんと挨拶しに行かなきゃね」

「しかし私もお嬢に会うのは10年ぶりくらいだから、向こうは覚えてないかもしれないな」

「覚えてないだろ、当時向こうは5歳だぞ」

「5歳なら覚えてるかもしれない」

「お前、全人類がお前と同等に記憶残せると思うなよ」

 

 

まっきーは天才すぎて思考回路が僕らと合わない。5歳のときのことなんてそうそう覚えてないよ。僕もにこちゃんしか覚えてない。いや流石にそんなことないか。

 

 

「まあ予定が合いそうな日があれば連絡するよ。彼女らをここに連れてくる方が楽かな」

「私のスケジュール的にはそれがありがたいな…そろそろ時間だ」

 

 

そう言うと同時に、ノックとともに「先生、診察のお時間です」と看護師さんの声が聞こえた。看護師さんも恐らく立派に医学部看護学科とか出てるだろうに、未成年を先生呼ばわりしなきゃいけないとはちょっと切ない。強く生きて。

 

 

「そういうわけだ。また後日」

「うん。さあ僕らも帰ろうか、ゆっきー押してくよ」

「やめろ。虚弱体質に車椅子押されたら逆に心臓に悪い」

 

 

無視して車椅子を押しながら部屋を出る。今日も、というか今回も被害者の会は他愛もない話で終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ぴんぽーん、と軽い音が鳴る。

 

 

それと同時に目の前の扉が勝手に開きました。入ってよいということです。

 

 

私…小泉花陽がこの家を訪れるのは一ヶ月ぶりくらいになります。最近μ'sに入ったこともあって忙しく、なかなか来れなかったんです。長らく顔を見せてなかったので門前払いを食らうかも…と内心不安だったのですが、杞憂だったようです。

 

 

扉をくぐって靴を脱ぎ、きちんと揃えてから廊下を進む。途中にある居間や和室は生活感がなく、人が住んでいるとはとても思えません。一瞬ほんとうに誰もいないのか心配になりましたが、お風呂やキッチンは少し使われた形跡があったので一安心です。でも、逆に一ヶ月ぶりで少ししか使われた形跡がなかったということに気づいてやっぱり心配になりました。

 

廊下の突き当たりには金属製の扉と、壁にボタンがついています。ボタンを押すと扉は滑らかに開き、中にお手洗いより少し広いくらいの空間が現れました。

 

 

そう、エレベーターです。

 

 

さっきまで見えていた民家とは明らかにマッチしない設備を使って、私は地下に降りていきます。

 

 

数十秒ほどかけて降下した後、チーンという高い音とともに再び扉が開くと、そこには白色の、アキバドームを超えるんじゃないかと思うほど広大な地下施設がありました。嫌な匂いもなく、音も微かに聞こえる機械音だけ。そんな空間を一人で歩いていると足音さえひどく大きく聞こえてしまいます。

 

 

しばらく歩くと、白衣を着た男の子が見えてきました。沢山のモニターの前に座り、何やら入力していたようですが、私が近づくとおもむろに立ち上がってこちらを振り向きました。

 

 

「…もう来ないかと思ったんだがね」

 

 

目元の隠れたボサボサの髪、痩せた体、硬い表情、高い身長。ぱっと見は不健康な科学者みたいな男の子。

 

 

「ごめんね。μ'sの活動が忙しくて」

 

 

湯川照真。

 

 

凛ちゃんにも秘密の、世界に秘密の私の幼馴染。

 

 

「来てくれと頼んだ覚えもない。わざわざ謝る必要はない。…茶でも飲んでいけ、折角きたんだし」

 

 

抑揚のない声でお茶を進める照真くん。表情が変わらないため分かりにくいですけど、彼はいつも人のことを気にかけている優しい人なんです。

 

 

「あ、ありがとう。…今は何を…」

「依頼があったから義手を作っていた。肩から先がないクライアントは初めてだな」

 

 

自分のお茶も注いだ照真くんはモニターの一つを顎で指す。そのモニターには沢山の線で描かれた腕のような機械が写っていました。なんだか想像していた義手と違います。映画のロボットみたいです。

 

 

「肩から受け取った信号をどれだけ早く正確に伝達し、人工筋肉に伝えられるかが肝だな。普通依頼されるものは肘から先ばかりだったが、今回は肘や肩まで動かさねばならん…。筋電義手の手法じゃ手詰まりかもしれん、肩に直接電極をつっこみたいところだが、それだと風呂とかでの劣化とそれによる疾病が心配だしな…」

 

 

よくわかんないことをぶつぶつ言いながらふらふら歩く照真くん。明らかに真っ直ぐ立っていられない状態です。

 

 

「…あ、あの…照真くん、ご飯ちゃんと食べてる…?」

「飯は…最後いつ食ったかな…」

「うう…やっぱり…!」

 

 

私は急いでエレベーターへ戻り、地上に戻ります。やっぱりというかなんというか、昔から集中するとご飯もまともに食べない人だったのでなんとなく予想してましたけど…!

 

 

地上についてからキッチンにお邪魔すると、冷蔵庫の中身を確認。案の定ほとんど何もは入っていなかったので急いで靴を履いて玄関から飛び出します。時間も惜しいので近くのスーパーでレトルト食品を多めに買ってすぐ帰宅。今度は靴も揃えずキッチンに向かい、レトルト食品をレンジで温めてエレベーターを降ります。とりあえず炒飯にしました。お野菜も入ってますし。

 

 

「はあ、はあ…こ、これ、食べて…!」

「…早くなったな」

「そんなこと言ってないで食べてください!」

「んぐっ」

 

 

他人事のようにぼーっとしている照真くんの口に、焦っていた私は炒飯をすくったスプーンを突っ込んじゃいました。

 

 

「あっちぃ?!」

「あっ!ごっごごごごめんなさい!」

 

 

出来立てなのを忘れていました。

 

 

「おっ、おまっ」

「あわわ、だ、誰か助けてぇー!」

「落ち着け、ここには僕と君しかいない。…火傷したかもしれないが平気だ、ゆっくり食えば問題ない」

 

 

しゅんとする私を尻目に、炒飯に息をふーふーして冷ましながら食べる照真くん。多分火傷しているのですが、それでも彼は文句は言いません。何度私がドジしても、一度としてそれを諌めたことはありません。

 

 

誰も知りませんが、本当に優しい人なんです。

 

 

「…うん、美味い。久しぶりに飯食うとやたら美味く感じるな」

「ほんとにいつから食べてなかったの…」

 

 

呆れる私を見て目を細くする照真くん。ほとんど表情は変わっていませんが、これが彼の精一杯の笑顔であることを私は知っています。

 

 

彼はサヴァン症候群だそうです。

 

 

普通の人の脳とは構造が異なる現象。その多くが凄まじい記憶力などの天才的才能をもたらし、その代償のように対人関係や言語能力に異常をきたすと聞きます。

 

 

照真くんは天才と呼ぶことすら憚られるほど卓越した科学・工学の知識と能力を持ち、数々の機械や理論を独自に作り上げたにも関わらず、感情表現ができず、一部以外の人間と直接コミュニケーションを取ることができないため、世にその技術が広まることはありませんでした。

 

 

彼のご両親は飛行機事故で亡くなられたそうです。それは小学校2年生のときのことで、それから彼が学校に来ることは無くなりました。そのときに心配になって、幼馴染ということもあって時々様子を見に来るようになって、今に至ります。

 

 

彼は「外」には出ないため、一般常識が欠けているところがあるので、ある意味引きこもっていた方がトラブルは少なそうですが。

 

 

「…ご馳走さま。助かった」

「ううん、どういたしまして」

 

 

お礼に対して笑顔で返事をすると、照真くんも目を細め返してくれました。

 

 

「あ、そうだ。μ'sね、またメンバーが増えて9人になったんだよ」

「ああ、この前のライブの動画を見たから知っている」

「あ、そうなん…って照真くんネット使えたの?!」

「そりゃ使えるだろ…近い」

 

 

びっくりして大きな声を出してしまいました。だって照真くんがネット使ってる姿なんて想像できないもん…!

 

 

「俺謹製のマザーコンピュータがあればネットくらい繋げる。…ほら」

 

 

そう言って照真くんが真顔で手を横に振ると、沢山あるモニターの一つに動画サイトが映し出されました。なんだか他の画面に映る様々な設計図や理論、プログラムと並べると凄く浮きます。あと動画サイトの開き方がいちいちカッコいいです。近未来です。

 

 

「ちゃんと今までの花陽の活躍も見てる。…とは言ってもまだ2曲しか出てないか」

「うぅ…」

「…何恥ずかしがってんだ」

「恥ずかしいですよっ!!」

 

 

男の子に「ちゃんと見てる」なんて言われると、いくら幼馴染といえども少しくらいドキドキします。

 

 

「まあ、ここから応援しているから無理に来なくてもいいんだぞ」

「…でも、そうしたら照真くんご飯食べないよね?」

「……………………そんなことはない」

「目を見て言ってください」

 

 

視線を思いっきり逸らす照真くん。やっぱりたまには会いに来ないと心配です…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザグッ

 

 

 

 

ドスッ

 

 

 

 

 

布を裂く音と樹脂を貫く音が鈍く響く。足を動かすと今度はギャリギャリと金属が擦れる音がした。

 

 

足元に散らばるのは、ハサミ、カッターナイフ、剪定鋏、サバイバルナイフ、包丁、メスなど入手が楽なものから困難な物まで様々。それらを息を切らして眺める。震える手に握られているのは果物ナイフで、暗い室内でも刃に光が反射するほど鋭く研がれている。

 

 

目の前のマネキンはズタボロになっていて、いい加減新調しなければならなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

狙った位置に付く傷はだいぶ増えたが、完全じゃない。反射的に動いて出来てしまった傷も少なくない。

 

 

 

 

 

違う、こうじゃない。

 

 

 

 

 

自身に言い聞かせるように呟いて、また果物ナイフを振るう。

 

 

 

狙う場所は—————————。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

裏の情報が出たり、ラスト不穏だったり忙しい回になってしまいました。最後誰なんでしょうね。

波浜茜、水橋桜、滞嶺創一郎、天童一位、藤牧蓮慈、雪村瑞貴、松下明、御影大地、湯川照真。
この9人が全オリキャラになります。テンション低いやつが多いのは私の趣味です。ツンデレがいいんです(?)。天童さんがテンション高すぎて浮くわ浮くわ…笑。

どこかでまとめた方が良さそうですが、どうやってまとめるべきかわがんにゃいので思いついたらまとめます。



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異性がみんな同じ考え方してるわけがない



ご覧いただきありがとうございます。

この次のお話あたりから週一投稿にしようかなあと思っています。何故かって?下書きに追いつきそうで怖いんですよ!!!(ゆーて今書いてる下書きは39話)
ストックは無いと怖いんです。

あと今回もオリジナル回です。

というわけで、どうぞご覧ください。

今回も一万字注意報です(というか18,000あったので二つにわけました)


 

 

μ'sのライブを手伝ってきた。

 

 

狙ってやったわけじゃない。たまたまμ'sのライブ会場予定地で、簡易ステージの骨組みの前でうんうん唸ってるちっこいやつがいたから、恐らくμ'sのステージ設営に困っているのだろうと思って手を貸しただけだ。そのせいで…いや、そのおかげでμ'sのメンバー全員と顔見知りになれたのは僥倖だった。ただでさえ小泉、西木野、星空の3人と仲良くなれたのに、さらに面識が増えてスクールアイドルファンとしては願ったり叶ったりだ。

 

 

だが、ちっこい先輩のように彼女らの支援を真っ当にすることは難しいだろう。

 

 

なぜなら。

 

 

「兄さん、手伝うよ」

「先に全員呼んでこい」

「わかったよ。…おーい!ご飯だぞー!!」

 

 

弟の銀二郎がデカい声で呼ぶと、どたどたと数人が駆けてくる音が聞こえた。すぐさま居間に飛び込んできたのは四男の当四郎、次に末っ子の大五郎。最後に三男の迅三郎がのそのそ歩いてきた。

 

 

「テメェら飯だ!自分の飯は自分で運べ!」

「「はーい!」」

「うぁ〜い」

「兄さん、ぼくの出番が…」

「味噌汁注いどけ」

 

 

俺はこの5人兄弟の長男であり。

 

 

親は、いない。

 

 

死んだわけじゃない。いや、むしろ死んでいてくれた方がありがたいくらいだ。両親はどちらも遊び呆けて5年前に俺たち全員を捨てて出て行きやがった。当時俺はまだ10歳、それでも弟達を養わなければならなかった。幸い、クソ両親どもはロクに家事もしなかったため、代わりに家事をしていた俺が弟達を養うのは難しくなかった。

 

 

問題は金だ。

 

 

クソみたいな両親にまともに親族がいるわけなく、当時保護団体みたいなモノも知るわけなかったため、あらゆる手段でせめて飯くらいは確保してきた。これまた幸い、クソ親父からの遺伝で体格はかなりよく、10歳のクセに170cm近く身長があったためザルなバイトなら高校生で通じた。環境は良くなかったが金は稼げた。当然それでも足りないから、そこら辺のカツアゲ万引きをするような不良どもから金を巻き上げた。最初はボコボコにされたが、体を鍛えて鍛えて、より強く、より堅く、より強靭に鍛えあげたら車に撥ねられても無傷でいられるようになった。食事量は増えたが、その分金回りのいい力仕事もできるようになったし、不良が5人いようが10人いようが負けなくなったから金はギリギリ足りた。

 

 

「今日は煮魚と…インゲンかなこれ」

「ああ、サバ煮とインゲンの胡麻和え、白米、味噌汁。サバ安かったからな」

「えー、魚嫌いー」

「じゃあ食うな」

「やだー!」

「迅三郎、無言でこっちに寄越すな食え」

「うー」

 

 

魚が苦手な大五郎と迅三郎が嫌そうな顔をしているが、こっちも栄養に気を使って飯を作っている。嫌なら食わなくていい、他に食うものもないが。

 

 

金が足りたといっても、生活ギリギリの範囲。弟達も学校に行くようになると、当然俺の進学するための金額は足りるわけない。だから元々は中卒で働きに出るつもりだった。

 

 

予定が変わったのは、中3の夏だったか。

 

 

いつも通り授業が終わってから家に直帰し、荷物を置いて着替えてから町の路地裏に繰り出して不良どもの「狩り」に出ていたときのこと。

 

 

路地裏の中でも特に人目につかない袋小路から男性の小さい悲鳴と若い男の笑い声、そして殴打音が聞こえてきた。男性の悲鳴は少しでも気を抜いていたら聞こえなかったかもしれないほど小さく、おそらくかなり深刻な状態だと思った。鍛え抜いた足で一気に駆け抜け目的地にたどり着くと、薄汚い高校生か大学生くらいの不良10人ほどが、汚れた白いスーツを着たおっさんを取り囲んで、殴り、蹴り、場合によっては鉄パイプなんかでも殴打を繰り返していた。

 

 

そこから先はうろ覚えだ。

 

 

覚えてるのは、あまりの惨状にブチギレたこと、最初に数人を突き飛ばして轢き潰したこと、鉄パイプで殴られてもさほど痛くなかったこと、死者こそ出なかったが全員の意識を刈り取ったこと。

 

 

そして、瀕死のおっさんが泣きながら感謝していたこと。

 

 

俺は急いでおっさんを抱えて大通りまで走り、携帯なんて持ってなかったからそこらへんの通行人を脅して救急車を呼ばせた。待ってる間はおっさんの看病をしていた。なぜか俺の名前をやたら知りたがったから教えといた。救急車には乗るとスペースを使いすぎるから乗らず、そこでおっさんとは別れた。

 

 

「大兄貴!おかわり!」

「自分でとってこい。今日は2回までだ」

「わかった!!」

「…迅三郎、食わないならそれでいいが、代わりに食うもんはないぞ」

「うー」

「兄さん、ぬか漬けってあれもう食べれる?」

「食えなくはないが、まだ味はしみてないと思うぞ」

「じゃあまだ我慢しよう。僕もおかわり」

 

 

自分含めて、この兄弟は大概大食らいだ。おかわり回数を制限しないと喧嘩になる。特に白米。

 

 

おっさんを助けて1週間かそこらたった頃、身なりのいい女性とガタイのいいスーツ野郎がうちに来た。金持ちそうな人に面識はないが、女性は重々しく口を開き、あのおっさんが先日亡くなったことを俺に告げた。

 

 

それ自体は特に不思議でもなかった。まともな人間があれだけ暴行を受けたら内出血かなんかで死ねるとは思う。しかし、わからないのは何故それを俺に伝えにきたかということだ。あとどうやって住所を割り出したか。今でも不安なんだが、怪しい方法使ってねえだろうな。

 

 

なんでも、おっさんが死ぬ間際に書いた遺書に、財産の一部を俺に相続すると書かれていたらしいのだ。

 

 

全く意味がわからず、最初は断固反対していたのだが、女性(おっさんの奥さんらしい)が全く引き下がらなかったため渋々承諾した。後になっておっさんが俺の名前を聞いてきたのはこのためか、と思い至った。

 

 

金持ちそうには見えたが、相続なんて相続税が引かれるし大した額も残らないだろう…と思ったら物凄い金額が渡された(流石に当時も今も口座なんて持ってないので現ナマだった)。ドン引きした。後で聞いたところではほんとに有数の富豪さんだったらしい。すげぇ人助けてしまった。

 

 

『見ず知らずのおじさんを、危険を顧みず助けてくれた勇気ある少年に』。

 

 

遺言にはそう書かれていたそうだ。

 

 

おじさんっつーかおっさんだし、危険と思わなかったし、負けるなどとは微塵も思わなかった故に勇気があったというわけでもないから若干罪悪感が拭いきれないが、これは有意義に使わなければ、と思った。

 

 

弟達のために使おうかと思ったが、流石に大金すぎて何に使うか思いつかなかったから弟達に直接聞いてみた。そうしたら、口を揃えて「兄貴が高校行け」と言ってきた。銀二郎曰く、高卒の方が金の入りがいいだろうから、らしいが、本音は俺への恩返しのつもりだったのだろう。小生意気なことしやがってとは思ったが、愛すべき家族の訴えくらい甘んじて受け入れるべきだとも思った。

 

 

こう見えて勉強は問題ないのだ。むしろかなり成績は良い。弟達に教えなければならなかったこともあって勉強は真面目にしていた。だからおよそどこの学校にも行けたが、家から一番近いところを選んだら音ノ木坂になった。女子ばっかとか知らん。

 

 

「当四郎、悪いが風呂の準備してきてくれ。迅三郎が残さないか見張らなければならんからな」

「オッケーでありますよ大兄貴!!」

「兄さん、大五郎がいつのまにかいないけど」

「探してこい」

「たべてるー」

「食べてるアピールは一切れでも食ってから言え」

 

 

そして今に至る。今は部活も何もしていないから夕飯にも間に合うし、朝も全員の弁当作るくらいの余裕はある。

 

 

…前置きが随分と長くなってしまったが、俺は兄弟の世話をしなければならない以上、恒常的にμ'sの手伝いをする暇はない。既に寝る間も削るほどなのだ、雑事に追われている場合じゃない。

 

 

「兄さん、大五郎連れてきたよ」

「やぁーだーさかなたべたくないぃーー!」

「なら食わなくていいぞ」

「ほんと?!」

「まあ魚も肉の一種だし、今後魚類も肉類も大五郎には出せなくなるが仕方ないな」

「え」

「副菜がないと白米と味噌汁と…なんだ?サラダか?あとぬか漬け?くらいしか食わせられないが、本人が嫌と言うなら仕方ない」

「えっえっやだやだ」

「まあ好き嫌いは誰にでもあるもんな」

「やだー!お肉食べたい!」

「じゃあ魚も食え」

「やだ」

「ほう」

 

 

大五郎が駄々をこねて鬱陶しいから、口をこじ開けて煮魚の切れ端をぶち込んだ。吐かせないように口を手でロックしておく。空いてる手で逃げようとしていた迅三郎を捕捉。大五郎の絶叫が響く、我が家の日常は今日も滞りなく進む。

 

 

 

 

 

 

「滞嶺くん!」

「断る」

「まだ何も言ってないにゃ?!」

 

 

翌日の放課後、教室で席に座ってぼーっとしていたら星空が話しかけてきた。内容は分かりきっていたから即刻お断りした。これには星空の両サイドにいる西木野と小泉も苦笑い。

 

 

「凛、もう諦めなさいよ。1週間ずっとこの調子じゃない」

「嫌!凛は滞嶺くんに手伝って欲しいの!」

「た、滞嶺くん、どうしても…だめ、ですか?」

「ダメだ。μ'sのマネージャーなんかできるか」

 

 

そういうことだ。

 

 

この前のライブで手伝ってからやたらと勧誘されるようになった。朝も放課後もよく練習しているのは知っている、しかしそれを手伝う余裕はない。

 

 

「じゃあなんでオープンキャンパスのときは手伝ったのよ…」

「時間があったからな」

「今日は?!」

「ない」

「にゃあ〜」

 

 

残念そうにする星空。それほどまでに俺の手が必要だろうか。

 

 

「波浜先輩の代わりに飲み物持ってくれる人がほしいのに…」

「雑用じゃねえかよ」

 

 

安請け合いしなくてよかった…と思ったが、続く西木野の説明からするとそう単純な話でもないようだ。

 

 

「違うわよ。波浜先輩…小さい男子の先輩、理由は知らないけど信じられないほど体力と筋力がないのよ。おかげでマネージャーの仕事のうち、飲み物運んだり練習道具運んだりするのが凄く時間がかかって、そのせいで先輩ものすごく早起きしてくれてるみたいなの」

「この前は朝5時には来てたって言ってましたから、もう1人マネージャーさんがいたら負担が減るかなって思ってたんだけど…」

「本当に人間かあいつ」

「あいつって、先輩よ」

「真姫ちゃんもたまに敬語抜けてるからおあいこにゃ」

「うぇえ?!」

 

 

飲み物もロクに運べない男子なんて有史以来いただろうか。いたかもしれないが想像も及ばん。そういえば確かに、ステージ設営も自分は働いてなかったな。そういう理由か。

 

 

しかし、結局時間がないことに変わりはない。

 

 

「まあどんな理由があろうと無理なものは無理だ…他をあたれ」

「でも滞嶺くん、μ'sのファンだって聞いたにゃ」

「……知らん」

「今一瞬迷ったにゃ」

「迷ってねぇ」

「部室に伝伝伝もありますよ!!」

「なん…い、いや、時間は削れん」

「なんで一瞬揺らぐのよ…」

 

 

伝伝伝につられそうになったが、流石に弟達を捨て置くことはできない。μ'sの手伝いだってしたいのだが、兄弟を養う義務からは逃れられない。

 

 

「…ダメだ。どうしてもダメな理由がある。無理だ」

 

 

これは俺の家族の問題だ。そこにスクールアイドルをやってるような忙しい奴らを巻き込むわけにはいかないだろう。

 

 

 

 

 

 

「でも、理由があるってことは、それを解決すれば大丈夫ってことだよね!!」

 

 

 

 

 

「あぁ…あぁ?」

 

 

変な声が出た。

 

 

「だったらみんなで解決すればいいにゃ!みんなに相談しよ!!」

「…何勝手なこと言ってんだ」

「そうよ。そんな簡単な問題じゃないかもしれないじゃないの」

「ご、ご家庭の事情とかかもしれないし…」

「よーっし行っくにゃーー!」

「聞けよ」

 

 

狼狽えていたら強行突破された。なんて話を聞かないやつだ。これは波浜先輩も苦労していることだろう、そもそも西木野と小泉が既に辟易している様子だ。

 

 

「滞嶺くん早く早く!!」

「誰も行くっつってねーだろ」

「うにゃにゃにゃにゃ」

「押しても動かないのは確認しただろ。学習能力ねえのか」

「んぐぐぐぐ…今度は動くかもしれないじゃん!!」

「動かねえよ」

 

 

俺の体重を押すには一般の女子では筋力が圧倒的に足りない。無理がある。

 

 

「うう…どうやったら部室まで連れていけるの…」

「無理だ諦めろ」

 

 

ひたすら俺を押し続ける星空。この程度の障害は毛ほども効かない。そのまま立ち上がり、引き止めようと腰にしがみついてにゃーにゃー言う星空を引き摺りながら昇降口まで突き進む。最終的には練習に遅れるからといって西木野に連行されてどっか行った。嵐のようなやつだ。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、滞嶺君を連れて来たいから僕に相談に来たのね。何故僕に来たのかさっぱり不明だけど」

「だって男の子同士にゃ」

「男の子は同じ生物の一群じゃないんだよ」

 

 

放課後、練習前の部室にやってきた星空さんが僕に相談してきた。滞嶺君を連れてきたいのに来てくれないと。知るかよ。僕はにこちゃんと蜜月の時を過ごしてたんだぞ。ごめん蜜月は言いすぎたわ。

 

 

「なんか事情があるなら無理に引き止めてはいけないでしょ。複雑なご家庭かもしれないじゃないか」

「なんとかならないの?」

「何をなんとかするんだよ」

 

 

無理に引き止めるなと言っているじゃないか。

 

 

「だいたい僕は平気だって言ってるのに」

「どこが平気なのよ。今日も朝5時くらいに来てたんでしょ」

「なんか変かな」

「早起きすぎるでしょ!」

 

 

そんな早起きじゃないよ。家帰ってご飯食べてお風呂入って絵描いて12時には寝る。4時に起きて朝ごはん食べて出発して5時着。ほら4時間も寝てる。いや、最近はこっそりμ'sのグッズのデザイン作ってたからもっと寝るのは遅いか。仕方ないよ、依頼が来たんだもん。ご本人たちにはまだ内緒だけど。

 

 

「…これは本格的に滞嶺君を勧誘しなければいけませんね」

「そうね…そんなに早くからいるなんて知らなかったわ」

「というかにこっちじゃない限り気づけんなぁ」

 

 

なぜか哀れみの視線を向けてくる女神さんたち。なんでさ。にこちゃんのためなら無休で一生働けるよ。

 

 

「とにかく滞嶺くんの話を聞く場を準備しないと…」

「それなら簡単だよ!!」

 

 

急に高坂さんがでかい声で宣言してきた。さっきまで静かだったのに。いやうるさかったけど僕の耳に入ってなかっただけか。にこちゃんの声しか聞こえないもんな。

 

 

「あんな筋肉達磨は力ずくじゃ連れて来れないよ?」

「筋肉達磨って」

「うん、だから力ずくで連れていかなければいいんだよ!!」

「うん、何言ってるかわかんない」

 

 

彼女の中では理論が繋がってるのかもしれないが、僕にはさっぱり伝わらん。にこちゃんや絢瀬さん勧誘作戦のときも案外こんな感じだったのかもしれない。みんな察しがよい…いやみんなも首を捻ってる。やっぱりわかるように言いなさいよ。

 

 

そう要請したところ、高坂さんによる滞嶺君勧誘作戦の概要が伝えられた。まあ、なんというか、ゴリ押しだ。でもまあにこちゃんのときも絢瀬さんのときもゴリ押しだったし、ゴリ押しって実は結構いい手なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

いつも通り授業を受け、μ'sの一年生達と飯を食い、今日もさっさと帰る。帰って飯の準備だ。食料自体はまだあったはずだから、スーパーに寄る必要もないだろう。

 

 

「お邪魔します!!」

 

 

と思っていたのだが。

 

 

「滞嶺君はいますか!!」

 

 

なんか来た。

 

 

なんかというか、紛れもなくμ's御一行様だ。マネージャーも含む。

 

 

「…なんだ?」

「滞嶺君!μ'sのマネージャーをやってくれませんか?!」

「断る」

「即答じゃないか」

「何で?」

「…わざわざ言う必要もないな」

 

 

わざわざ全員で説得しに来たか。無駄な話だ、家族は犠牲にできん。

 

 

「そっか…じゃあ仕方ないね」

「ああ、先輩には悪いが…」

「仕方ないから滞嶺くんについていくね!!」

「悪いが諦め…はあ??」

 

 

 

 

何言ってんだこの人。

 

 

「滞嶺くんが授業終わったらすぐ帰っちゃうのは知ってるにゃ。だからこの後、滞嶺くんにとって大事なことがあるに違いないにゃ!」

「それ高坂さんが言ったことだよね」

「だから凛たちは、放課後の滞嶺くんに直接ついていくことにしたの!」

「それも高坂さんが言ったことだよね」

「そうすれば、滞嶺くんが何に困ってるかわかるし、何か手伝えるかもしれないにゃ」

「全部高坂さんの言だね」

 

 

星空が何やら嘯き、波浜先輩が横槍を入れる。しかし星空は聞こえないが如くスルー。この先輩マジで大変そうだ。

 

 

「にこちゃん、もう僕は必要ないんじゃないかな」

「安心しなさい。あんたいなくなったら会場の予約とかライブの演出とか諸々できなくなるわ」

「にこちゃん愛してる」

「ふんっ」

「あふん」

 

 

微妙に傷ついたらしい波浜先輩が矢澤先輩にちょっかいをかけて肘鉄を食らっている。そういえばこの2人、幼馴染だそうだ。なるほど仲がいい。

 

 

…そんなことより。

 

 

「気安く人のことに首突っ込むんじゃねえ。あんた達になんとかできる案件でもねえし」

「そんなのわかんないじゃん!」

「わかります。俺の家族の問題だ…あんた達にできることはない」

 

 

無理なものは無理だ。まさかこの人達に弟の世話とか家事とか任せるわけにはいかない。そういうのは金払って雇うものだし、そんな金はない。

 

 

だから追及を逃れるためにキツめに断ったのだが、波浜先輩が「家族」というワードに一瞬反応した気がした。

 

 

「家族…?」

「ああ、家族だ。そう簡単に首突っ込んでいい案件じゃないのはわかるだろ」

「それは…」

 

 

μ'sのメンバーは全員返答に困っていた。病気で倒れた母がいるとか、そんなのを想像しているのかもしれないが、あいにくそんなことは全くない。しかし萎縮してくれるならそれでいい、俺の事情に巻き込むわけにはいかない。

 

 

「…それは余計なんとかしなきゃいけないな」

「は?」

「「「「「「「「え??」」」」」」」」

 

 

なんとか切り抜けられそうだと思ったところで、波浜先輩が謎発言を繰り出した。

 

 

「はぁ…そう言うと思ったけど」

「にこちゃん何でため息」

「うっさい。それよりいいの?普通に考えてめちゃくちゃプライベートな問題よ?」

「プライベートだからって一人で解決しなきゃいけないわけじゃない。ぽっと出の僕らの役割かどうかはわかんないけど、適度に人が多いのは悪いことじゃないはずだよ」

 

 

なぜかいつもは眠そうな目をギラつかせて語る波浜先輩。この人こんなんだったか?

 

 

つか家庭の事情に首突っ込むか普通。

 

 

「でも、あまりご家庭のことに他人が口を出すべきじゃないと思うわ」

「そうやで、見られたくないこと、言いたくないこともあるかもしれへんやん?」

「知ったことか」

 

 

絢瀬先輩、東條先輩の苦言も一蹴。何か家族に対して思う所でもあるのだろうか。

 

 

「家族のために何かが犠牲になるのは仕方ないかもしれないけどさ、家族のために自分を犠牲にするのは、残された家族にとっては降りかかる不幸意外の何者でもない」

「俺は別に自分を犠牲にはしてねえぞ」

「君、μ'sのファンだと言ったよね」

「…まあ」

 

 

本人達の前で言うかそれ。ほら見ろ星空が若干嬉しそうな顔をしているじゃないか。いやよく見たら全員満更でもなさそうな顔をしてやがる。クソが。

 

 

「なら、一緒に活動できるチャンスをフイにしてるわけだよ」

「だからなんだ」

「だから自分を犠牲にしてるでしょ」

「してねえよ」

「おかしいな、日本語が通じてない」

 

 

意地を張る俺との問答に辟易した様子の先輩。早めに諦めてほしい。

 

 

ん?

 

 

よくよく考えたら、わざわざ相手してやる必要もねぇ。このまま力ずくでトンズラしたっていいじゃねぇか。

 

 

走れば乗用車程度の速さは出せるし。

 

 

「…問答の時間も惜しい、俺は帰る」

「えー!」

 

 

高坂先輩が抗議の声を上げるが、無視して教室を出て昇降口まで行く。…意外と誰も追い縋って来ない。いや期待したわけではないが、予測はしていた分拍子抜けだ。

 

 

まあそれはそれで走る必要はなくなったのでいいんだが

 

 

 

 

「滞嶺くん遅いよー!」

「早く行くにゃ!」

 

 

 

 

…なぜ先回りしている??

 

 

「先に靴と脚立用意しておいたんだ」

「…準備がいいですね」

 

 

波浜先輩、意外と…いや思った通り食えない先輩だ。つーかどこに2階まで届く脚立があったんだ。

 

 

まあ…それならそれで、当初の予定通り走るだけだ。

 

 

「悪いですが…ここは一人で帰らせて頂きます。…それでは、お先に」

 

 

一瞬腰を落として、ドンッ!!という音を残して彼女らの頭上を飛び越える。一瞬誰かの手が服に掛かったような気がしたが、振り返る暇はない。着地とともに、跳んだ速度を殺さず走り出し、階段を一足で一気に全て飛び降りて道路を突っ走る。あとは車道をひたすら走るだけだ。車と同速で走れば文句も言われん。

 

 

ひとしきり走ったら家に着いてしまった。だいたい5分くらいだろうか。走ったお陰で時間もあるし、少し手の込んだ料理を

 

 

 

 

 

 

「にゃ〜、やっと止まったにゃあ…」

 

 

 

 

 

 

…ん?

 

 

 

「っ?!?!」

「にゃああああ?!」

 

 

あっ。

 

 

いつのまにか腰にへばりついていた星空を反射的に真上にぶん投げてしまった。そうか、腰になんか当たったものと思っていたが、星空が飛びついてきていたのか。我ながら何故気づかんかった。…その前に結構な威力で投げてしまった星空を回収する。上に放り投げたから落ちてきた星空を衝撃を与えないようにキャッチ。ここら辺は大五郎を高い高いしていたときに慣れた。しかし星空が落ちてくるとは、字に起こすと恐ろしいな。

 

 

「んにゃっ」

「…おどかすな、反射的に投げちまったじゃねえか」

「反射的に人を数メートル投げ飛ばせる方がびっくりだにゃ」

「そんなにおかしいか?」

「人を投げ飛ばせる時点でびっくり人間にゃ」

 

 

そうだろうか…恒常的に弟達をぶん投げてるからよくわからん。というか走っている俺にひっついてきた星空は乗用車にしがみついて5分ほど耐え抜くのと同義であり、それはそれでびっくり人間だろう。

 

 

それよりも、こいつどう処理すべきだろうか。とりあえず地面に降ろすと「ありがとう!」と元気よく返ってきた。

 

 

「とりあえずお邪魔しんぎゃっ?!」

「何勝手に人の家に入ろうとしてやがる」

 

 

不法侵入されそうだったから首根っこ捕まえて引き戻す。こうすると首をくわえられた子猫に見えなくもない。

 

 

「何するにゃ!!」

「こっちのセリフだアホ」

「せっかく家まで来てあげたのに!!」

「勝手に来ておいて恐ろしい言いがかりだなおい」

 

 

フリーダムすぎるだろこいつ。

 

 

と、星空がでかい声を出すもんだから。

 

 

「兄さん、帰ったなら早く入りな…よ??」

 

 

ガラッと。

 

 

玄関の戸を開けて銀二郎が出てきた。

 

 

そして、俺と、俺が首根っこを掴んでる星空を交互にしばらく見比べて、

 

 

「…にっ兄さんがスクールアイドルを拉致してきた…?!」

「銀二郎てめえ死にてえのか」

「いやだって、兄さん…えっ…え??兄さん?マジで?」

「お前の語彙力は虫並みか?」

 

 

失礼な誤解をしてきやがった。こいつ兄をなんだと思ってんだ。顔面蒼白の顔をする銀二郎と、それを見て首をかしげる星空。なんだこれ。

 

 

「とりあえず凛は入っていい?」

「いいわけねーだろ」

「事態は飲み込めないけど、せっかく来ていただいたのに放り出すのは忍びなくないか兄さん?」

「お前は黙ってろ」

「あ、もしもし凛だよー」

「てめえ何電話なんてしてやがる」

「うん、かよちんのスマホで凛の場所わかるからそこまで来て!」

「何呼んでんだコラ」

 

 

他のμ'sのメンバーに連絡をしだした星空からスマホを没収する。腕も押さえておくべきだったか?

 

 

「みんな来るって!」

「来るって!じゃねえよ」

「本当ですか?!」

「銀、てめえは黙ってろ」

 

 

満面の笑みでよろこぶ銀二郎は牽制しておく。何だかんだ言って俺の影響で兄弟みんなスクールアイドルファンなのだ。だからここで舞い上がられるとこいつらの侵入を許してしまう。

 

 

「でも…」

「銀、うちに余計な人を招く余裕はねえ。自分らの食いぶちだけで精一杯なんだ、大したもてなしも出来ないのにスクールアイドルを家に上げるか?」

「う…」

 

 

星空を一旦下ろしてから銀二郎の両肩を掴んで、諭すように言い聞かせる。実際余裕はないので間違いない。礼儀の上でも軽率に人を入れるわけにはいかない。

 

 

しばらく不味そうな顔をしていた銀二郎は、やがて諦めたように星空の方へ顔を向ける。

 

 

「…星空凛さん、申し訳ありませんが…」

 

 

 

 

 

「ご飯なら心配なさるな、僕が買ってきた」

「持ってるのは穂乃果たちだけどね!」

「大人数でお家に向かうなら、私たちも何かしなくちゃって思って!」

「滞嶺君は沢山食べそうですから沢山買ってきましたし!」

「栄養バランスも考えて買ってきましたよ」

「私がバランス考えたんだから、文句は言わせないわよ」

「それに、こんな大人数でご飯なんてわくわくするやん?」

「勝手にお邪魔するんだし、これくらいはしないと」

「宇宙ナンバーワンアイドルの手料理を食べられるんだから泣いて喜びなさい!」

「にこちゃん、一人だけなんか毛色が違う」

「うっさい!」

 

 

 

 

 

…なんか来た。

 

 

高坂先輩と南先輩、そして小泉がでかい買い物袋を提げている。自分らの分+αといったところか…、白米がやたら多いのは見なかったことにする。

 

 

しかしまあ…なんというか、凄いことにするやつらだ。

 

 

「…いくらだよこれ」

「気にしなさんな、僕お金持ちだから」

「半分は私が払ったじゃないの!」

「君が勝手に払ったんじゃないか」

 

 

値段を気にしたらはぐらかされたが、どうやら、なぜか金持ちらしい波浜先輩と医者の娘西木野による富豪作戦らしい。強行突破すぎるだろ。

 

 

「そんなわけだから入れて」

「…いや、」

「兄さん、流石にあれだけご飯があるというのに断るというのは納得いかない」

「銀、お前詐欺には気をつけろよ」

 

 

弟に疑心がなさすぎて心配だ。

 

 

しかしまあ、実際あれだけ食材を用意されて追い返すというのも申し訳ない。…結局向こうの作戦勝ちか。

 

 

「…わかったよ、入ればいい。ただし飯は手伝わん」

「もとからそのつもりよ。それより勝手に決めてしまってごめんなさい」

「今更謝られてもな」

「っていうかほんとにいいの?ご家族とかに何の了承も貰ってないけど」

「まさかそれを気にしていらっしゃる方がしるとは」

「言っとくけど穂乃果が勝手に決めたことだからね?」

「お得意の強行突破ってやつだ」

「ちょっとー!穂乃果のせいにしないでください!」

「他に何と言えと言うんだい」

 

 

誰が言い出そうと強行突破の事実は変わらない。とりあえず仲は良いようでなによりだ。俺には迷惑だが。

 

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

重々しい設定第1号は滞嶺君でした。重いくせにざっくり。だって悲しい話書きたく無いですもん!!(じゃあ何で考えた)

とりあえずはあと1話、滞嶺君のお話にお付き合いください。



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カレーって冷めてもおいしいよね


ご覧いただきありがとうございます。

今回もまたお気に入りしていただきました。ありがとうございます!もうすぐ寿命が200年に届きそうでわくわくしてます。今後増えるかどうかはわかんないですけどね!!

というわけで、どうぞご覧ください。


 

「わぁー!μ'sだ!!」

「うああ」

「おおお?!サインサイン!!あれっ色紙あったかな?!」

「邪魔だチビ」

「ささささささサインなんて書けませんよ?!」

「海未ちゃん落ち着いて…」

「ふふーん、私ならサインあるわよ!!宇宙ナンバーワンアイドルにこにーのサインをもらえるなんて幸運ね!!」

「にこにーのはいいや」

「ぬぁんですって?!」

「にこちゃん落ち着いて」

「なんであんたらまで騒いでんだ邪魔だ」

 

 

家に上げたら弟どもが群がってきた。そしてそれに律儀に反応するμ's。廊下そんなに広くないから、そんなことしたら渋滞が起きる。

 

 

「兄さん、いつも通り押し退ければいいのに」

「女性もいるのにそんなことできるか。大体今日は飯を作るのは俺じゃねえから急ぐ必要もない」

「じゃあ私たちは頑張ってキッチンまで行かないといけないわね」

「でもなかなか言うこと聞かへんよ?」

「しゃーねぇな、どいてな先輩方」

 

 

いつもは邪魔でも力づくで押し通るのだが、今はそれをやっても後続が続けないしμ'sの方々も巻き込みそうだ。だから別の手段で強行突破する。

 

 

μ'sの方々の前に割って入り、1番前にいた大五郎と当四郎の首裏を引っ掴む。

 

 

そして、ブォン!!と。

 

 

廊下の奥に放り投げた。

 

 

廊下の奥にはちゃんとマットが敷き詰めてあるので死にはしない。多分。

 

 

ボッ!!というなかなかすごい音と2人分の悲鳴が重なった。

 

 

「んぎゃあ?!」

「ぐぅえっ!!」

「…兄さん、それは強引過ぎるよ…」

「何のためのマットだと思っている」

「そう言う問題じゃないんだけどなあ…」

 

 

何やら遠い目をしている銀二郎。後ろを振り返るとμ'sの皆様も困惑していた。そんな顔すんなよ、日常だ。

 

 

「滞嶺くん、やっぱり見た目通りの人だったにゃ」

「人間って投げ飛ばせるんやね…」

「普通は投げ飛ばせないと思うよ」

「何言ってんだ、投げないと大人しくならねぇんだからしょうがねぇだろ」

「論点が違うんだよね」

「やめときなさい茜、あれは住んでる世界が違うタイプよ」

「桜タイプか」

「失礼な、どう見ても普通の人間だろうが」

「どこを見たら普通なんだろうか」

「あ?」

 

 

ちょっとでかいだけだろ。

 

 

「それより早く飯作ってくれよ」

「そういやそんな契約だったね。誰が作る?」

「そりゃもう宇宙ナンバーワンアイド「にこちゃんは弟くんたちの相手してあげて」言わせなさいよ!!」

 

漫才しつつ、「おっきいねー!」なんて雑談もしつつ、μ'sの方々が家にわらわら上がってくる。居間に全員入るだろうか。家自体はそこそこでかいから多分大丈夫か。

 

 

 

 

 

 

「希、にんじんも切れたわよ」

「ありがとエリチ。後は食材とルーを入れるだけやね」

「お米炊けたよー!」

「お米多くないかい」

 

 

滞嶺宅にお邪魔した僕ら。ご飯は東條さんと絢瀬さんと小泉さんが担当し、にこちゃんと高坂さんと星空さんが子供の相手をし、残りはお手伝い。しかし炊飯器満タンのお米を見るのは初めてだ、こんなに炊けるんだね。

 

 

「お母さんとお父さんはお仕事?」

「いませんよ、親なんて」

「えっ」

「…心配なさらずとも、死んだわけじゃありませんよ。多分」

「多分…?」

 

 

南さんがいらぬことを聞いてしまったようだ。まあ予期してなければ聞いちゃうよね。

 

 

でも、なんでいないのかねぇ。

 

 

「うちの親は離婚しまして、2人とも出て行きやがったので。奴らの生死は知りません」

 

 

そういう話なのね。重いね。重いとは思ってたけど、重いね。話を聞いていた南さんと園田さんは黙ってしまった。西木野さん?なんか先程からぷりぷりしながらお掃除始めたよ。汚部屋が気に入らなかったご様子。でも君掃除できたんだね。家政婦任せだと思ってた。

 

 

「なかなか人生ハードモードだね」

「…反応軽いですね」

「そうかな」

 

 

そこそこ重い話は想定してたからね。

 

 

「とにかく、あなたたちを手伝えない理由はこれです。弟たちの世話をしなければならんので」

「そっか…それは…」

「流石に仕方ないかもしれませんね…」

 

 

思った以上に大変な事態だったのか、南さんも園田さんもこれ以上強く言えないようだ。まあそうだよね、ご家族を養う大変さは僕らにはわからないもの。

 

 

「カレーできたよー」

「「食べる!!」」

「手を洗ってきなさい!」

「えー、いつも洗ってないよー」

「ないよー」

「洗ってねえのかお前ら」

「「あっ」」

 

 

カレーに過剰反応したちびっ子2人がボロを出したらしい。滞嶺君に連行されて手を洗いに(洗わされに)行ってしまった。なかなか面倒見がよい。流石長男、にこちゃんと同じものを感じる。

 

 

「ふぅー楽しかった…あれ、うみちゃんことりちゃん、どうしたの?」

「それより何で君の方が堪能してるんだい」

「楽しかったにゃ!!」

「失敬、君『達』だね」

「ほんっとに、なんなのよ…」

「…うん、お疲れ様」

 

 

ほくほくした顔の高坂さんと星空さん。にこちゃんは疲れ切ってるからきっとこの2人はちびっ子と一緒に走り回っていたんだろう。にこちゃん頑張れ。

 

 

暗い顔の園田さんと南さんの顔を見て頭にハテナを召喚する高坂さん。それに対して僕が軽く滞嶺君の事情を説明した。ついでにカレーを持ってきた絢瀬さん、東條さん、小泉さんにも説明した。何故2回も説明せねばならんのだ。

 

 

話を聞いたみんなは深妙な顔をしてしまった。これからご飯なんだから辛気臭い顔をするんじゃないよまったく。高坂さんは深妙というよりは真剣な顔をしているけど。

 

 

「カレー!」

「食べる!!」

「かれー」

「こんなに具がたくさん入っているなんて…!!」

「…なんで葬式会場みてぇな面してんですか」

「なんでだろうねえ」

「逆にあんたは冷静すぎやしませんかね」

 

 

戻ってきた滞嶺君にドン引きされた。暗い顔してない僕までドン引きされた。なんでさ。

 

 

「さっき聞いたことを話しただけだよ」

「そんなに深刻な顔しなくてもいいだろうよ…今から飯ですよ先輩方」

「はい…」

「うん…」

 

 

なかなか要領を得ない歌姫たち。まあご飯だからって復帰できるほど元気はないか。

 

 

と思ったけど。

 

 

「ねぇ…滞嶺くん」

「なんすか高坂先輩」

 

 

何人か別の顔をしていた。具体的には高坂さんと絢瀬さんとにこちゃんがどうやら怒ってらっしゃるようだ。兄妹いる勢だね。何かしら思うことがあるのだろうか。

 

 

「滞嶺くんは、スクールアイドルが好きなのは弟のみんなも知ってる?」

「あぁ?…まあ、全員まとめてスクールアイドル好きですから…」

「それじゃあ、私たちにマネージャーがいるのもみんな知ってる?」

「今度は絢瀬先輩か…当然知ってますよ」

「…あんたさ、自分がマネージャーやりたいって兄弟に言ったことある?」

「何なんですか矢澤先輩まで…」

「にこよ」

「…にこ先輩まで。言うわけないでしょう、そんなこといちいち言ってる暇はない」

 

 

3人で質問を投げていく。3人とも考えが同じなのかいちいち口は挟まない。空気的にも挟めない。でもにこちゃん、名前の訂正はいらないと思うよ。いつも訂正してるけど名字嫌いなの。

 

 

「滞嶺くん」

 

 

すっ、と、高坂さんが立ち上がる。続いて絢瀬さんとにこちゃんも立ち上がった。どうしたんだい、にこちゃんの背が低いのがモロバレしちゃうよ。

 

 

「…何で弟くん達と相談して決めないの?」

「弟に余計な気を使わせたくないんで」

 

 

滞嶺君が答えると、高坂さんが滞嶺君に近づいて、

 

 

パシィ、と。

 

 

ビンタした。

 

 

うそん。

 

 

「…?」

 

 

当の滞嶺君も何が何だかわかっていない模様。ただし痛くなさそうだ。しかしご兄弟は黙っていなかった。血相を変えたご兄弟達が全員凄まじいスピードで立ち上がって、滞嶺くんの前に立ち塞がったのだ。めっちゃ早かった。血筋か。

 

 

「なっ何をするんです穂乃果さん?!」

「うー」

「大兄貴を殴ったな?!許さねー!!」

「許さねー!!」

「…どけアホ、ビンタ程度で何とかなるかよ」

「でも…!」

「どけ」

 

 

ただし滞嶺君が強かった。弟達を一喝して押し退け、再び高坂さんの前に立つ。今度は絢瀬さんとにこちゃんも高坂さんの両サイドにいる。なにこれ。何が起きるんだ。

 

 

「…何のつもりだ」

「あなた、兄弟をなんだと思ってるの」

「兄弟だろ」

「兄弟には何の相談もしなくていいの?」

「したさ、高校入るときに。たまたまデカい金が入って、その使い道は相談した。だから親がいない俺でも高校に行けている。それだけでもこいつらに負担かけてんのに、これ以上余計なことできるかよ」

 

 

滞嶺君はもはや敬語も抜けて、ものすごい威圧感を放ってこちらを見下ろしている。しかし御三方は全く引かない。ほかのメンツは震え上がっていて、東條さんなんかしきりに絢瀬さんの袖を引っ張って小声で「えりち…」って呼んでいる。子供かな?

 

 

「余計なこと?本当にそうかしら。あなたの思いを弟くんたちに話したらきっと

 

 

 

 

 

「うるせぇ!!!!」

 

 

 

 

 

家が震えた。

 

 

鼓膜がヤバかった。

 

 

そのぐらいの怒声だ。命の危機を感じるくらい。いやほんとに。

 

 

「余計なことを口走るな…俺はこの家の長だ!!支えなきゃならねえ!!大黒柱が余暇に割く暇も時間もあるわけねぇだろうが!!!」

 

 

忿怒の形相で、視線だけで鬼も殺しそうな滞嶺君の声が轟く。普通なら気絶してる人もいたかもしれない。

 

 

しかしこの子達は格別の子らだ。

 

 

みんなむしろ、より決意に満ちた表情になって立ち上がった。僕も立った。流れ的に。

 

 

「…私たちには、一家の大黒柱の大変さなんてわかんないよ。そりゃそうだよ、お父さんもお母さんもいるんだもん、お小遣いに困ることはあるけど、お家のお金の心配なんてしたことないもん」

「だったら余計なこと」

「でもさ!…でもさ、私はお父さんが自分のために時間やお金を使ったことないなんて…そうは思わないよ」

「…だから何だ、俺は俺だ」

「そうかもしれないけどさ!!…でもさ」

 

 

高坂さんがその思いを伝える。僕は対して思うところもないが、他のみんなは心が1つなようだ。やだ僕仲間外れじゃん。別に平気だわ。いやでもにこちゃんと同じ気持ちじゃないのはつらい。

 

 

「でもさ…お父さんが全く遊んだり趣味に時間使ったりしなかったらさ、多分心配するよ」

「だから何だ」

「そうだよね…お兄ちゃんが、μ'sの手伝いをする機会があるのに、手伝いがしたいのに、それを我慢してるって聞いたら…君たちはどう思うの?!」

 

 

高坂さんの言葉の、方向が変わった。滞嶺君の弟たちに向けて言った。末っ子はよくわかってないっぽいけど、特に2番目の子は俯いてしまっている。

 

 

家族とは、みんなでいるから家族なんだと。

 

 

にこちゃん一家を見ていれば、僕だってわかるさ。

 

 

稼ぎ頭だろうが大黒柱だろうが、一人で全部背負いこむのは…身内としては、きっと面白くない。

 

 

「…俺の家のことに、よくもそこまで…」

「兄さん」

「あ?」

 

 

半ギレの滞嶺君が一歩踏み出そうとしたところで、次男君が声をかけて引き止めた。彼の顔は僕からでもよく見えない。

 

 

「…兄さん、また一人で我慢してたのか?」

「お前らの生活費を削ってまで高校に通わせてもらってんだぞ、我慢することなんざ腐るほどある」

「また俺たちにはなんの相談もしないで我慢してたのか?」

「相談したら反対するだろ」

「…反対されるのはわかってたのか」

「何だ銀、鬱陶しいぞ」

 

 

次男君の声は震え、滞嶺君は露骨にイラついてきた。さっきまで威勢がよかった高坂さんもちょっとびびって引いている。僕はぼさっと眺めてる。

 

 

と、瞬きの瞬間には次男君は滞嶺君に殴りかかっていた。滞嶺君はまるで動じず受け止めたが、次男君の形相に戸惑っているようだ。何しろ半ギレどころかマジギレなんだから。鬼か阿修羅かそんな感じだ。阿修羅は別に顔怖くないか。怖い顔もあったかな?

 

 

「あんたは!!俺たちが何を思ってあんたを高校に送り出したと思ってんだ!!」

「お前が高卒の方が給与がいいからっつったからだろーが」

「それだけなわけがないだろ!言っただろ!『兄さんの好きに過ごしてくれよ』って!!今まで一人で金を拾ってきて!飯も作って!掃除も洗濯も家事の一切!食事のバランスから俺らの健康管理まで全部一手で担って!!だから、あれだけ金が入ったなら、そろそろ兄さんに好きに生きて欲しいと思って高校に行かせたのに!!まだ俺たちに遠慮してるのか!!!」

 

 

滞嶺君もびっくりな大声だ。家が震えてる気がする。殴りかかって止められた姿勢のままで、しかし恐ろしい形相で滞嶺君に詰め寄る次男君。滞嶺君はひどく困惑しているようだ。

 

 

「お前な…俺がいなかったら生活もままならんだろ…」

「舐めるなよ、兄さんほどじゃないが俺だって料理できる。迅三郎も洗濯くらいできる。当四郎も大五郎も自分の部屋の片づけくらいできるんだ。何でも自分がいなきゃ成り立たないと思うな」

「いや…だがな…」

 

 

滞嶺君は体格や単純な力では圧倒的に勝っているはずなのに、気迫で次男君に押されている。そりゃ今まで人生かけて守ってきた家族に噛みつかれたら困惑はするかもしれない。

 

 

彼のやってきたことは、とても正しく家族の柱であり、しかし確かに弟君たちに劣等感や罪悪感を植え付けてきたのだろう。

 

 

 

 

 

「いい加減にしてくれ!!何でもかんでもあんたが片付けてしまったら、俺らは何もできないままだろうが!!そんなの…ペットか家畜みたいなもんじゃないか!!」

 

 

 

 

 

 

確かに。

 

 

超然としていた滞嶺君の顔が大きく歪んだ。

 

 

怒りなどではなく、明らかな悲哀と後悔の表情だった。

 

 

「…おい、そんなつもりは」

「創にーさん、つもりとかじゃないよう」

「…迅」

「創にーさんが、ぼくらのために頑張ってくれてるのはしってるよー。でもさ、ぼくらもその恩返しくらいしたいよ」

「恩返しなんて、」

「見返りを求めないなんて、銀にーさんも言ってたけど、そんなのペットだよー。ささえて、ささえられて、それが家族だよー」

「…」

「細かいことはわかんないけど、大兄貴に無理してほしくないぞ!!」

「ないぞ!!」

「…お前ら…」

 

 

弟軍団の総攻撃に、腕を下ろして、気の抜けた顔をしてしまう滞嶺君。なんだかとても小さく見えた。

 

 

最後は次男君が締めにいく。

 

 

「俺たちはもう十分兄さんに助けられたよ。今度は俺たちが支える番だ。料理不味いかもしれないし、洗濯も掃除もそんなにうまくできないかもしれないけどさ…兄さんが帰ってくる場所は、ちゃんと守るから」

 

 

すっかり覇気のなくなってしまった滞嶺君はそのまま俯いてしまった。今までのことを思い出して後悔してるのかなんなのかはわかんないけど、ちゃんと弟君たちの思いが通じたようでなによりだ。

 

 

「うう…いい話だね…」

「にゃあ…」

「ぐすっ」

「…何で泣いてんの君ら」

 

 

μ'sのみんなはなんか泣いてた。にこちゃんも泣いてた。許さん。うそうそ、悲しい涙じゃないからこれはセーフ。

 

 

「…しかし部費がな…」

「ああ、それなんだけどね」

 

 

まだ抵抗してくる滞嶺君に、バッチリカウンターを決めておく。これは事前の作戦にもあったことだから問題ない、メンバー全員把握していることだ。

 

 

「僕ってグラフィックデザイナーとかやってんだけどね」

「…働いてたのかよ」

「働いてるよ。でも壁画みたいな大きい作品とかさ、描いても運べないんだよね。パワーなくて」

「まあそうでしょうね」

「君、敬語使えるのか使えないのかどっちなんだい。…とにかく、だから僕は君を雇おうと思うんだ」

「は?」

「バイトバイト」

「は?」

「何でそんな攻撃的なの」

 

 

理解不能といった表情の滞嶺君。だからってそんなキツい物言いじゃなくてもいいと思うんだ。泣くよ?嘘嘘泣かない。

 

 

「そうそう、これこの前のお手伝いの謝礼ね。バイト代」

「…」

「はい」

「…」

「いや受け取ってよ」

 

 

それなりの額が出るよって教えるために、この前のライブのお手伝いの謝礼は封筒に入れて用意しておいた。いや元々渡すつもりだったけど、更なる付加価値が出たもんだからその面も主張しておきたかったの。でも受け取ってくれない。虫なんて入ってないよ?

 

 

「何のつもりだ」

「謝礼だって言ってるのに」

 

 

物も言葉も素直に受け取りなさいよ。

 

 

渋々ながら受け取った滞嶺君はすぐに封筒を開ける。失礼だからねそれ。

 

 

「…何でこんなに入ってんだ」

「諸々の事情で」

 

 

諸々の事情というか、バイト代の相場がわかんなかったから多めにいれただけ。少ないって文句言われるよりマシだろう。多分。

 

 

「で、バイトしてくれれば毎月その2倍くらいは入ると思うけど。どうする?部費なんて余裕でお釣りが出るけど」

「やろう」

「決断早いね」

 

 

即答だった。

 

 

お金は大事らしい。

 

 

「お仕事の内容にμ'sのマネージャーも含まれるからサボらないでね」

「…聞いてませんが」

「言ってないからね。よし、これで晴れて滞嶺君も仲間入りだね」

「「「「「「「「「やったー!!」」」」」」」」」

「鼓膜が」

 

 

鼓膜がパーンなるところだったよ。びっくりしたよ。うるさいよ君たち。にこちゃんは許す。

 

 

「これで波浜先輩の負担も減るね!」

「その分練習も増やせますね」

「ボディーガードにもなるにゃ!」

「滞嶺くん、大きいもんね…」

「一緒に伝伝伝も見れます…!!」

「だからあれは保存用だってば!!」

 

 

大いに盛り上がりを見せるμ'sの皆様…あれ、全員が盛り上がってないな。

 

 

 

「あのー…」

「盛り上がってるとこ悪いんやけど…」

 

 

みんなが怪訝な顔で声の方を向くと、そこにいたのは申し訳なさそうな顔の絢瀬さんと東條さん、そして呆れ顔の西木野さんが食卓の前で立っていた。

 

 

「…カレー、冷めてるわよ」

 

 

あっ。

 

 

ご飯前なのをすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「美味しい!」

「うん、冷めても美味しいっすよ!!」

「でも兄さんのカレーの方が好きだな」

「ご家庭の味ってやつかしら」

「嵩増し用の小細工のせいだろ。ルーを少なくしか使えないから、ケチャップとかソースで味を濃くしてるからな」

「道理でこんなにルーが粘り気がある…」

「普通こんなもんだと思うけど」

 

 

結局十数人で食卓を囲んで冷めたカレーを食す。当然俺の作った味誤魔化しほぼスープカレーより上出来なのだが、やはり隠し味などの諸々は弄っていないようだった。素のカレーの味…俺も初めて食った気がする。

 

 

というか。

 

 

誰かが作った飯を食うのも10年ぶりくらいだろう。

 

 

「滞嶺くん泣いてる?」

「泣く要素が無ぇ」

「でも目がうるうるしてるにゃ」

「気のせいだ」

「えー?」

「うるせぇな…」

 

 

…誰かが俺に、俺たちに作ってくれた料理。

 

 

別に特別な工夫がしてあるわけじゃないが。

 

 

 

 

「…飯くらい味わって食わせろよ」

 

 

 

 

…美味いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーてそれじゃあ設営開始だね」

「もう全部持ってきたぞ」

「なんで全部持てたの」

 

 

翌日朝、早速来てくれた滞嶺君。敬語は面倒だから無しという方向にした。そんなことより、机や9人分の飲み物やその他必要なものは彼一人で全部持ってくれた。おかしいね。

 

 

「つーかμ's本隊は何してんだ」

「階段ダッシュでしょ。神田明神でいつもやってるから」

「…じゃあ俺らも行くべきだろ」

「いつも時間なかったから」

 

 

基本的には彼女らが階段ダッシュをしている間に屋上の設営をして、彼女らの到着を待つスタイルでやっていた。しかしこうも早く設営が終わるなら、もう少し早く来て彼女らに合流するのもアリかもしれない。

 

 

「とはいっても今日ももう間に合わないし」

「走れば間に合うだろ」

「僕走れないんだよ」

「乗れよ」

「うそだろ」

 

 

もう滞嶺君は僕を背負って突っ走るモードだ。星空さんの証言では自動車より早かったらしいのに、そこに剥き身でしがみつけと。無理だよ。無理すぎだよ。

 

 

「君にしがみつけるのなんて星空さんくらいだよ」

「それもそうか」

 

 

諦めてこちらを向く滞れ…いや違う。不意に抱え上げられた。

 

 

「待とうよ」

「時間が惜しい」

「惜しいけん゛に゛ゃ」

 

 

ドンッ!!!と。

 

 

すごい音を立てて飛んだ。

 

 

音ノ木坂の屋上から。

 

 

4階建てなんですが。死ぬよ?変な声出たよ??

 

 

地面は見えないのでいつ死ぬのかなーと思ってたけど、思いのほかふわっと着地して、しかし、ゴウッと音がするくらいのすごいスピードのまま走り出した。風圧で息がやばい。

 

 

そのまま走り抜けて、ものの数分で神田明神までたどり着いてしまった。なんという脚力。

 

 

「あれっ?!滞嶺くんと波浜先輩?!」

「わざわざここまで来てくれたんですか?」

「っていうか茜生きてる?!」

「あぶふう」

「…大丈夫かしら?」

 

 

ただし僕は逝く。

 

 

新しい仲間が増えたはいいけど、こうして僕の命が削られる日課が増えたのであった。

 

 

本気で死にそう。

 

 





最後まで読んでいただきありがとうございました。

割と無理矢理理論で滞嶺君をぶっこんでしまった感はあります。が、よかれと思って…ってことが裏目に出ることはよくある気がします。まだまだ未熟者ですね私!!

ともあれ、これでこのお話でのアイドル研究部員は勢揃いとなります。残りの方々は後方支援です。

というわけで、前回お伝えしたように次話は来週となります。お待たせすることになって申し訳ありません。でも自己満作品なので後悔はしません。だって私の作品なんだもーん!!!()



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良きに計らえっていつの時代に使ってた言葉なんだろう



ご覧いただきありがとうございます。

週一投稿にしたお陰で…こんな感じのサンシャインバージョンの下書きも始まりました。毛色は違うけど同じシステムの作品の予定です。20話分くらい書けたら投稿すると思います。遠いなー!!

というわけで、どうぞご覧ください。


 

 

 

「オープンキャンパスのアンケートの結果、廃校の決定はもう少し様子を見てからとなったそうです!」

「それって…!」

「見に来てくれた子が興味を持ってくれたってことだよね!!」

 

 

オープンキャンパス終わって滞嶺君が入って、やっと出たアンケートの結果は上々だった。まだ延命でしかないけど、延命できただけでも儲けものだ。よく頑張った。

 

 

「しかも〜、いいことはこれだけじゃないんだよね〜」

「なんでいいことを発表するのにそんな悪い顔ができるんだい」

「わけわからん先輩だな」

「ひどい?!」

 

 

何故か悪い顔をする高坂さん。僕と滞嶺君のダブルアタックによって撃沈。だいたい、僕は「いいこと」の内容を知っている。だって僕が教えたんだもん。マネージャーだから最初に情報仕入れたのは僕だもん。

 

 

「じゃじゃーん!部室が広くなりました!!」

「「おお!!」」

「そういえばここ使ったことなかったね」

「だって私たちの部室じゃなかったじゃない」

「そうだったね」

 

 

今まで使ってた部屋の奥の扉を開けたその先。そこにある、教室半面くらいの広さの部屋がアイドル研究部の部室に加わったのだ。なお、これは廃校延期のご褒美に理事長さんがくれたものであって、絢瀬さんが権力を振りかざしたわけでは決してない。今彼女がさして驚いていないのは僕が事前に教室で教えたからだ。にこちゃんには当然言った。即言った。

 

 

まあ、雨の日にもストレッチと筋トレくらいできるようにはなったか。数人でなら踊れなくもない。…なんで僕らが1年のころは使えなかったんだろう。多分申請してなかったからか。抜かった。

 

 

「安心してる場合じゃないわよ」

「絵里先輩!」

「生徒がたくさん入ってこない限り、廃校の可能性はまだあるんだから頑張らないと」

「そうだねえ、まだまだ危機には変わりないし」

 

 

さっきも言ったけど、延命は延命なのでまだ寿命がすぐそこな事には変わりない。死にたくなければ根本から解決しなければならないのだ。

 

 

「…ぐすっ」

「…ん?」

「嬉しいです…!やっとまともなことを言ってくれる人が入ってくれました…!!」

「それって凛たちがまともじゃないみたいなんだけど」

「まあまともじゃないよね」

「まともの意味を広辞苑で調べてこい」

「さっきから波浜先輩と滞嶺くんが厳しいにゃ!」

 

 

まあ確かに、絢瀬さん以外まともかどうかは疑わしい。小泉さんと南さんは比較的まともだけど、小泉さんはアイドルのことになるとフォルムチェンジするし、南さんは頭がゆるい。僕はこんなんだし、滞嶺君もこんなんだし。

 

 

眼下の女神様たちを見渡してみると、やはり絢瀬さんが最もまともであるのは明白だろう。にこちゃん?にこちゃんはまともとかそういう尺度じゃ測れないから。

 

 

「ほな、練習はじめよか」

 

 

東條さんが声をかけて、早速練習開始。まとめ役が増えて嬉しい限りだ。

 

 

「あっ…ごめんなさい、私ちょっと…今日はこれで…」

 

 

と思っていたら南さんがそそくさと帰ってしまった。割と急いでるらしい。

 

 

「どうしたんだろ?ことりちゃん、最近早く帰るよね?」

「まあ用事くらいあるでしょ。今まで忙しかったし、用事が溜まっててもおかしくはないよ」

「案外彼氏でもできたのかもしれんぞ」

「恋人ができたからって練習サボるような子かなあ」

 

 

みんな首を捻っているが、まあ用事は用事なんだろう、あんまり首を突っ込むものでもないと思う。

 

 

「…さっきからツッコむタイミングを失ってたのだけど」

「ん?」

 

 

絢瀬さんがこっちを見上げて怪訝な顔をしている。

 

 

「…なんで波浜くんは滞嶺くんに肩車されてるの?」

「そりゃあ僕がブレインで、」

「俺がボディだからっすよ」

「一心同体ってやつだね」

「いつの間にそんなに仲良くなったのよ」

「男の子なら仲良くしてもにこちゃん怒らないし」

「いつも怒らないわよ!!」

 

 

そう、僕は絶賛肩車中である。これなら僕は体動かさなくていいし、滞嶺君は体が鍛えられる。一石二鳥だ。一石二鳥でいいのかな?憤慨するにこちゃんは微笑ましく眺めておこう。手はここまで届かないし。

 

 

 

 

 

 

「うわぁ〜!50位!何これすごい!!」

「事実、驚異の人気上昇率っすよ」

「夢みたいです…!」

 

 

屋上についてから僕らの順位を確認したらすっごい上がってた。なにこれびびる。にこちゃんは顔がふやけてる。うーんかわいい。

 

 

「20位にだいぶ近づきました!」

「凄いじゃない!」

「絵里先輩が加わったことで女性ファンもついたみたいです」

「確かに背も高いし、足も長いし、美人だし、何より大人っぽい!さすが3年生!!」

「や、やめてよ…」

「らしいですけどどう思われますにこちゃんごっ」

「なによ!」

「悪かったけどペットボトルシュートは痛いよ」

「避けろよ」

「無茶言うなよ」

 

 

絢瀬さんの日本人離れした美貌は女性からの人気も高いようだ。にこちゃんは日本人男性からの人気はきっと高いよ、日本てロリコン文化だし。だから空とはいえペットボトル投げるのはやめて。痛い。極めて痛い。あと僕がロリコンってわけではない。

 

 

「でもおっちょこちょいな所もあるんよ。この前もおもちゃのチョコレートを本物と思って食べようとしたり」

「の、希…!!」

「何を言うんだい、うちのにこちゃんだってこの前僕が描いたケーキの絵にヨダレたらしてんがっ」

「茜っ!!!」

「わかったからペットボトルシュートはやめてってば」

「避けろよ」

「撃ち落としてよ」

 

 

絢瀬さんは生徒会長という立場に縛られなくなってから、μ'sのみんなにもかき氷お嬢ちゃんな部分も見せるようになってきた。キツいイメージが払拭されたようで何より。しかしにこちゃんの方がおっちょこちょいだぞ負けないぞ、にこちゃんは否定してくるけど。

 

 

「でも本当に綺麗…よし!ダイエットだ!!」

「聞き飽きたにゃ」

「大体筋トレとかやってんですから自然と痩せますよ」

 

 

女性の口癖第1位に輝きそうなセリフを高坂さんが吐き、肥満とは縁のなさそうな星空さんが冷めたことを言い、滞嶺君がマジレスを返す。うーん、μ'sもだいぶシュールな集団になってきた。大丈夫かな。

 

 

と、そんな時。

 

 

「おーい!穂乃果ー!!」

「頑張ってねー!」

「ファイトー!μ's応援してるよー!!」

「ありがとー!!」

 

 

下からヒフミのお嬢さん達が声援をくれた。彼女らも結構声出るね。返事した高坂さんの声の方が大きいけど。

 

 

「知り合い?」

「はい!ファーストライブの時から応援してくれているんです!」

「てゆーかそのうち1人はあのとき管理室にいたんだけどね」

「うっ」

 

 

絢瀬さんの顔が歪む。弄りがいのある子だ。楽しい。

 

 

 

 

とか思ってたら。

 

 

 

 

ズバァン!!!!と。

 

 

すごい音が近くで鳴った。

 

 

あとなんか水が僕に降りかかった。降りかかった?下から来たから降ってはないな。とりあえず濡れた。

 

 

音源を見てみると、僕を肩車している滞嶺君が手に持っていたペットボトルを握り潰していた。それ中身満タンだったよね。なんで握りつぶせるんだろうね。てかつまりこの水スポドリか。べとべとになるじゃん。

 

 

「…俺は今…声援を受けるほどの新進気鋭のスクールアイドルのマネージャーをしているのか…!!」

「なんで急に燃えだしたの」

 

 

沸点がわからない。

 

 

「さあ、こんなところで気を抜いてる場合じゃねーです」

「そうね、ここからが大変よ」

「上に行けば行くほどファンもたくさんいる」

「それを超えていかなきゃいけないね」

「そうだよね…20位かあ」

 

 

下位層は団子になっていても、上位層は各チームで人気に大きな差がある…というのは割とあることだろう。固定ファンなんかも多いだろうからより一層人気獲得に力を入れる必要がある。…それよりこのジャージどうしようか。制服じゃなくてよかった。

 

 

「滞嶺君、着替えてくるから降ろして」

「何故着替えるんだ」

「さっきの君のスポドリでべとべとになったからだよ」

「避けろよ」

「無茶が過ぎる」

 

 

肩車していた僕を降ろしながら滞嶺君が凄いことを言う。避けろて。てか君も着替えなよ。

 

 

「今から短期間で順位を上げようとするなら、何か思い切った手が必要ね」

 

 

さっと着替えて戻ってきて、順位上げの手段を考える。もう猶予は言うほど多くないのだ。

 

 

「その前に、しなきゃいけないことがあるんじゃない?」

「何かあったっけにこちゃん」

「茜は察しなさいよ!」

「にこちゃんのことだからどうせしょーもな

「ふんっ」

「うばう」

 

 

どうせしょーもないことを考えているであろうにこちゃんに隠さず本音を伝えたら回し蹴りが飛んできた。しまった、今は地上にいるんだった。しかし、にこちゃんが機嫌よく何か思いついたときは、どうせアイドルモードにこちゃんになるか不審者全開のにこちゃんを演じるかどっちかだ。どっちもかわいいから許す。

 

 

「とにかく、まずは移動するわよ!!」

「うばふう」

 

 

確信した。

 

 

後者だ。

 

 

しかし僕はダメージで動けない。みんながんばれ。

 

 

 

 

 

 

 

「あの…すごく暑いんですが…!」

 

 

だろうね。

 

 

μ'sのみんなはにこちゃん変装スタイル(サングラス、マフラー、マスク、コート着用)で秋葉のど真ん中にいた。僕と滞嶺君は着てない。僕はこの季節にあんな真冬仕様は死ぬ。滞嶺君はサイズ的に無理。だから僕と滞嶺君は微妙に女性陣から距離を置いてる。そりゃね。

 

 

ちなみに、今は滞嶺君からは降りてる。「にこ先輩になじられるといい」とか言われた。何それ嬉しい。嬉しくない?

 

 

「我慢しなさい!これがアイドルとして生きる者の道よ!有名人なら有名人らしく、町に紛れる格好っていうものがあるの!!」

「でもこれは…」

「逆に目立ってるかと…」

「あーもうっバカバカしい!!」

 

 

うん、にこちゃん的発想もわかるんだけどね。過剰だよね。いつものことだけど。しかしバカバカしいはどうなんだい西木野さん。

 

 

「にこちゃん、いつも言ってるけど、かわいいけど目立つか目立たないかの指標で答えるなら目立つよ」

「うっさいわね!」

「いつも言われてる上でこの格好なのね…」

「多分有名人っぽいことしたいだけなんやろうなぁ」

「あーあーうるさーい!!」

「大声出すと余計目立つよ」

 

 

実際有名人(というかアイドル)っぽいことをしたいだけというのは事実だろう。にこちゃんだし。

 

 

てゆーか人気沸騰中のスクールアイドルのこんな姿を見て大ファンの滞嶺君は絶望してないだろうか…ん?いない。さっきまでお隣にいたのに。

 

 

「凄いにゃー!!」

 

 

なんか遠方から星空さんの声がしたからそっちを見てみると、星空さん、小泉さん、滞嶺君がスクールアイドルショップに特攻していた。早いな。しかも変装はいつのまにか解いてる。早いな。

 

 

「うわぁ…!!」

「かよちん、これA-RISEの!!」

「こんなにいっぱいあるなんて…!!」

「上位ランカーからマイナーまでかなり広く揃えているな…まだ名が上がったばかりのグループまで並んでんじゃねぇか」

「あぁ…あれも欲しいこれも欲しい!!」

 

 

大興奮の小泉さん。滞嶺君もいつもより多めに喋っております。そんな2人を見つけた他のメンバー(変装解除済み)と一緒にスクールアイドルショップに向かう。にこちゃんも何気に変装解除してんじゃないか。暑かったんでしょ?

 

 

「何ここ?」

「近くに住んでるのに知らないの?最近オープンしたスクールアイドル専門ショップよ」

「僕も知らなかったけど」

「あんたは家と学校とスーパーしか行かないじゃないの」

「にこちゃん家にも行くよ」

「言わんでいい」

「あふん」

 

 

こういう専門性の高いお店は、いくら近所でもできたばかりでは通しか知らないもんだろう。僕も知らなかったし。いらんこと言ったらにこちゃんにチョップされるし。僕は悪くない。悪くなくない?

 

 

お店に入ってみると、スクールアイドルのグッズが所狭しと並べられていた。流石に天井まで品を並べたりはしていないけど、通路がそこそこ狭い。しかし人気のスクールアイドルはTシャツとかまであるんだね。この前入稿したやつは流石に衣類はなかった。うちわとかタオルはあったけど。そのうちタオル振り回す曲も作るのかな?

 

 

狭い店内をみんなでのそのそ歩いていると、奥から星空さんが走ってきた。危ないよ。

 

 

「みてみて!この缶バッジの子かわいいよ!まるでかよちん!そっくりだにゃー!!」

 

 

手になんか持ってると思ったら、小サイズの缶バッジだった。1人の女の子がプリントされている…っていうか、

 

 

「というかそれ…!」

「花陽ちゃんだよ!!」

「ええーっ?!」

 

 

何故気づかないのさ。

 

 

「星空!それどこにあった!!」

「こっちにゃ!」

「騒がないの」

 

 

どこからか滞嶺君がやってきて、星空さんとともにどたどた走っていった。だから道狭いんだって。危ないって。てゆーか滞嶺君、あの巨体でよくぶつからずに走れるね。

 

 

2人についていくと、そこにはなんとなんとμ'sのコーナーがあるではありませんか。品をデザインしたの僕だけど、店頭に並ぶの早いね。最近は生産が早くて何よりだ。しかし「人気爆発中!!」とか書かれてるとほんとに素で外歩いてていいのか心配になるね。にこちゃんの心配もあながち間違いではないのかもしれない。

 

 

「ううう海未ちゃん!ここここれ私たちだよ?!」

「おおお落ち着きなさい!ここここれは何かの間違いです!!」

「みみみμ'sって書いてあるよ!石鹸売ってるのかな?!」

「ななな何でアイドルショップで石鹸売らないといけないのです!!」

「動揺してても漫才できるんだね君ら」

 

 

衝撃で漫才を始める幼馴染のお二人。仲良いね。それにしても石鹸はありかもしれない。シャンプーかな。にこちゃんイメージで…桃の香りかな??にこちゃんって言ったらピンクだもんね。

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

この光景を目の当たりにして1番緊迫するのは。

 

 

 

 

 

「どきなさーーーい!!」

 

 

 

 

 

間違いなく、にこちゃんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?!私のグッズがない!どういうこと?!」

「入荷されてないんじゃないかにゃー?」

「まさか。あと、ぱっと見見当たらないという意味では星空さんもだよ」

「んにゃ?!」

 

 

いらんこと言う星空さんには釘をさしておく。

 

 

「何で?!なんでよ!!」

「にこちゃん落ち着いて。一緒に探すから」

「うう、茜ぇ…!!」

「よしよし」

 

 

半泣きモードのにこちゃんをあやしながら僕もにこちゃんグッズを探す。メンバーのイメージカラーは勝手に決めてしまったけど、にこちゃんはピンクで間違いない。他の子のもまた考えてもらわなきゃな。

 

 

ピンクを探していると、視界の端にピンクのうちわを捉えた。近くに缶バッジもタオルもちゃんとある。クリアファイルとかも作るべきかな?

 

 

「にこちゃん、こっちにあったよ」

「ほんと?!ああっあった!!あったわよ茜!!」

「うん、ちゃんと見たよ」

「茜…ついに私の…私のグッズが!!」

「うん、よく頑張ったね」

 

 

感極まって抱きついてきたにこちゃんを抱きかえして頭を撫でる。

 

 

ずっと夢みてたんだもんね。

 

 

ずっと追いかけて来たんだもんね。

 

 

夢への第一歩でしかないけど、やっと進んだ一歩なんだ。

 

 

泣いても仕方ないよね。

 

 

やばい僕も泣きそうだ。

 

 

「うう…茜ぇ…」

「泣くのは我慢するのに鼻水は出すんかい」

「だっでぇ…」

 

 

涙引っ込んだ。服に鼻水つくところだった。いやにこちゃんの鼻水なら歓迎だ。いや流石に微妙だな。

 

 

「波浜くんってあんな優しい顔できるのね…」

「基本的に調子こいた顔してますしね」

「やっぱりにこっちには優しいんやねー」

「ほんと極端」

「聞こえてんぞ外野ー」

 

 

そりゃにこちゃんには優しくするでしょ。

 

 

「しかし、こうやって注目されているのがわかると勇気づけられますね…!」

「ええ!」

「園田さん最初ミニスカすら嫌がってなかったかな」

「よっ余計なお世話です!!」

 

 

まあ、これだけ注目集めてるんだから頑張らなきゃって思うよね。にこちゃんももっと上を目指さなきゃだし。

 

 

「そういうことだから高坂さ————あれ?高坂さんどこいったの?」

 

 

激励しようかと思ったら高坂さん不在。さっきまで園田さんと漫才してたのに。すこし見回したらなんかを凝視している高坂さんを発見した。何見てんだろうと思った矢先だ。

 

 

 

 

 

 

「すみません!」

 

 

 

 

 

 

なんか聞いたことある声が聞こえた。店の外かな?

 

 

「あの、ここに写真が…私の生写真があるって聞いて…あれはダメなんです!今すぐなくしてください!!」

 

 

あれ、何故かメイド服を着た南さんが。

 

 

「…ことりちゃん??」

「ぴぃ?!」

 

 

凄い声出たね。

 

 

「ことり…何してるんですか?」

 

 

みんなでメイド版南さんの元へ合流してみると、園田さんの問いかけにも答えず背を向ける南さんがいた。うん、紛れもなく南さんだね。主にトサカが。

 

 

「…コトリ?ホワッツ?ドゥナータデスカー?」

「どーゆー誤魔化し方だい」

「わぁっ外国人?!」

「うそん」

「こいつの頭には期待しない方がいいぞ」

「もとから期待してないけどさ」

 

 

ガチャガチャの蓋を目に当てて謎の片言を発動した南さん。誰が騙されるのかと思ったら星空さんが引っかかってた。うそやん。純真無垢かよ。この間の試験の時点で頭脳に期待できないのはわかってたけど、余計期待できなくなった。

 

 

「…ことりちゃん、だよ————」

「チガイマァス!」

「頑なだね」

「ソレデハ、ゴキゲンヨーウ…ヨキニハカラエ〜、ミナノシュ〜…」

「何てコメントしたら正解なのさ」

「俺にはツッコミきれん」

 

 

片言のまま誤魔化し続け、謎のフラフラウォーキングで僕らから離れていく南さん。どこからつっこんだらいいのかなこれ。とりあえず良きに計らえにはつっこむべき?

 

 

「…サラバ!」

「あっ逃げた」

 

 

メイド服のスカートを持ち上げて走り出した南さん。メイド服なのに走るとは思わなかった。ってか結構早いね。それを見て追いかけ出す高坂さんと園田さん。追いつけるのかな。

 

 

「任せろ」

「待って待って、君が往来で南さんを確保する様子を見たら誰だって警察にお電話しちゃうよ」

「…」

「そんな顔されても」

 

 

サングラス越しに悲しそうな顔をする滞嶺君。事実だから仕方ない。だって君、でかいし顔怖いしだもん。何もしてなくても通報されそうな勢いだもん。

 

 

「…ここで待てと?」

「メイド服着てたんだから多分メイド喫茶でしょ。この辺り一帯のメイド喫茶を当たれば最悪見つかるさ」

 

 

というわけでスマホでメイド喫茶を検索…しようと思ったら、東條さんから南さん確保の連絡が来た。早いね。ってかいつの間に追いかけてたの。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

波浜少年がべとべとに…()
さて、ワンダーゾーン編です。μ'sのグッズは原作では知らない間に作られてましたが、普通に考えたら肖像権とかヤバない?って思ったので波浜少年に作らせました。
あとは感動すべきにこちゃん。原作よりオーバーに喜んでもらいました。これには波浜少年も慈愛の笑顔。愛ですね!





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リスクとリターンがわからない人に限って大物



ご覧いただきありがとうございます。

いろんな作品の二次創作案は出てくるのですが、そんな全部同時進行できないしどうしよっかなー!状態です。好きにしろよって?仰る通りでございます()

というわけで、どうぞご覧ください。、


 

 

 

 

「こ、ことり先輩が、この秋葉で伝説のメイド「ミナリンスキー」だったんですか?!」

「そうです…」

「そういえば部室のサインにも反応してたね」

 

 

場所は変わって某メイド喫茶。…初めて入ったけど以外と普通な見た目だね。もっとこう、ピンクでギラギラしてるイメージがあったけど。店員がメイド服なこと以外は普通だ。あとメニューが恥ずかしいくらい。

 

 

「酷いよことりちゃん!そういうことは教えてよ!!」

「うぅ…ごめんなさい〜…」

 

 

幼馴染である高坂さんや園田さんも知らなかったようで、高坂さんが憤慨している。そんなに怒らなくてもいいだろうに。

 

 

「言ってくれれば遊びに来て、ジュースとかご馳走になったのに!!」

「そっちかい!!」

「なんてセコい発想だ」

 

 

怒ってるベクトルがおかしかった。

 

 

「じゃあ、この写真は?」

「店内のイベントで歌わされて…撮影、禁止だったのに…」

 

 

俯いて答える南さん。僕らに内緒にしていたバイトがバレたこと自体だけでなく、禁止されていた上で隠し撮りされていたのもダメージが来ているんだろう。週刊誌じゃないんだから隠し撮りなんてしなくてもよかろうに。週刊誌もしないであげてほしいけど。

 

 

「なぁんだ、じゃあアイドルってわけじゃないんだね」

「それはもちろん!」

「でも何故です?」

 

 

何故って何でメイドなんかしてるのかってことだろう。いやバイトくらい自由にさせてあげなさいよ。僕なんて働いてるよ。滞嶺君も僕のもとでバイトしてるよ。てか滞嶺君さっきから静かだな。目を閉じて瞑想してるな。女の子耐性ないのかな。

 

 

「…ちょうど3人でμ'sを始めた頃、帰りにアルバイトのスカウトされちゃって…」

「いまどきスカウターなんているのだね」

 

 

スカウトされる南さんもびっくりだがスカウトする方もびっくりだ。しかもメイド喫茶だし。普通に考えたら怪しいことこの上ない。南さんも警戒なさいよ。しかも話の内容的にはメイド服にテンション上がっちゃったからみたいな感じらしい。警戒なさいよ。

 

 

「自分を変えたいなって思って…私、穂乃果ちゃんや海未ちゃんと違って、何もないから…」

「何もない?」

「穂乃果ちゃんみたいにみんなを引っ張っていくこともできないし、海未ちゃんみたいにしっかりもしてない…」

「にこちゃんより持ってるじゃなうぼぁ」

「セクハラよ」

 

 

何もないと言うからにこちゃんより胸があるよと伝えようとしたら拳が飛んで来た。なんかキレが増してる気がする。痛い。しかし胸の話ってよくわかったねにこちゃん。

 

 

「そんなことないよ!歌もダンスもことりちゃん上手だよ!」

「衣装だってことりが作ってくれているじゃありませんか」

「少なくとも2年生の中では一番まともね」

 

 

色々フォローが飛んでくるが、南さんの表情は暗いままだ。

 

 

「ううん…私はただ、2人についていってるだけだよ…」

 

 

それだけ言って、後は何も語らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「何も頼まずに出てきてしまったけどいいのかな」

「仕方ないですよ、滞嶺くんが限界みたいですから」

「あんな空間に居られるか」

「結局店内で一言も話さなかったもんね」

「ヘタレにゃ」

「なんだと」

「にゃにゃにゃ」

 

 

あの後すぐに南さんはバイトに戻り、僕らは店を後にした。滞嶺君のメンタルが限界だったため何も食べたりすることなく。そんなにいたたまれなかったかな。その割には星空さんと仲良くじゃれてるけど。じゃれてるっていうか頭掴んでぐりぐりしてるけど。

 

 

「まあ今日はここまでかな。練習する時間もなくなっちゃったし、各自ランキング上げの作戦でも考えようか」

「茜は何か策はあるの?」

「ないね」

「なによ、あるかと思ってたのに」

「待ってな、今すぐ思いつく」

「ないならないでいいわよ!!」

 

 

とりあえずは時間も時間なので帰ることにする。他のメンバーとは別れた後、にこちゃんの家に寄るか寄らないかを考えていた時。

 

 

「茜、ことりのことどう思う?」

「にこちゃんには及ばないけど可愛いと思うよ」

「そうじゃなくて!!」

「んべっ」

 

 

正直に答えたら鞄が飛んで来た。痛い…あれっあんまり痛くない。さては置き勉してるなにこちゃん。

 

 

「どうしたら解決できるかって話よ!!」

「それ僕が考えるんかい」

「考えなさいよ」

「えー」

 

 

正直僕がなんとかしなくても幼馴染のお二人がなんとかしてくれると思うよ。あとにこちゃんのことじゃないし。

 

 

「あんたマネージャーでしょ」

「にこちゃんそう言って全部僕に押し付ける気じゃないだろうね」

「んなわけないでしょ。同じ部の仲間なんだからちゃんと考えてあげなさいよ」

 

 

仲間。

 

 

今まで長いこと僕らのもとに居なかった存在。

 

 

確かに大事にすべきかもしれない。

 

 

結果的ににこちゃんにつながる…かもしれないし。それなら少しは気にかけてあげようかなぁ。

 

 

「しかし、そうは言っても言葉でなんとかなるものじゃなさそうだけどなぁ」

「だからどうしたらいいと思うかって聞いてんのよ」

「そんなこと言われても」

 

 

僕困っちゃう。

 

 

「結局は穂乃果と海未への劣等感を感じてるわけよね?」

「そうだと思うけど、だからって自分の優勢に拘るタイプでもないじゃないか」

 

 

要はそこがややこしい。

 

 

優れていたいと思うわけでもないのに劣等感に苛まれたり、過剰に自身を卑下したりする子へのフォローはなかなか難しい。だいたい何を言っても否定しちゃうからだ。

 

 

いわゆるメンヘラに多い気がする。

 

 

ああいや南さんはメンヘラではないと思うよ。多分。

 

 

「だからそれを何とかしなさいよ」

「無茶言わないでよ」

 

 

というかにこちゃんも考えなさいよ。

 

 

そのままにこちゃんの家まで考えていたけど、解決案は思い浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日である。

 

 

「秋葉でライブよ!!」

 

 

絢瀬さんがなんか言い出した。

 

 

「頭打ったのかい」

「何でそんな反応になるの?」

 

 

急すぎるし。絢瀬さんが言うとは思わなかったし。理由がわかんないし。急だし。

 

 

「え?そ、それって…」

「路上ライブ?」

「ええ」

 

 

高坂さんや南さんも疑問形だ。そりゃそうだ。ていうか路上ライブってスクールアイドルがやるものだろうか。バンドとかじゃないだろうか。スペース的に。

 

 

「秋葉といえば、A-RISEのお膝元よ?!」

「それだけに面白いやん!」

「でも、随分大胆ね?」

「秋葉はアイドルファンの聖地。だからこそ、あそこで認められるパフォーマンスができれば、大きなアピールになる」

 

 

まあそうなんだけどリスクを考えると結構な博打じゃないかな。いや、博打でもしないとラブライブには出れないのか。

 

 

「良いと思います!」

「楽しそう!」

「怖いもの無しだね君ら」

「リスク計算とかしてねえんだろ」

「だろうね」

 

 

一部の子らがリスク計算なんてできないことは知ってたけど。

 

 

「しかし…凄い人では…」

「人が居なかったらやる意味ないでしょ」

「そ、それはそうですが…」

「こっちはこっちでリスクのベクトルがおかしいね」

「ほんとにまともな人いねえな」

「君が言うか」

 

 

園田さんは死ぬほど恥ずかしがってるし。問題はそこじゃないでしょうに。あと滞嶺君、君もおかしいからね。あと君はファンなんだからもうちょい優しくしてあげて。

 

 

「一応言っておくけど、逆にあの場で認められないようならむしろ人気は落ちると思うけど大事かい」

「認められればいいんですよね!」

「元気でよろしいけど、君そんなんだから数学できないんだと思うよ」

 

 

高坂さん絶対途中計算とかしない子でしょ。

 

 

「まあ、リーダーがいいって言うならいいんじゃないっすか」

「じゃあ決まりね」

「じゃあ早速日程を…」

「その前に」

 

 

なんだかゴリ押しなまま参加が決定した。いいのかな。しかもさらに絢瀬さんがなんか被せてくる。だんだん考えるのが面倒になってきた。

 

 

「今回の作詞はいつもと違って、秋葉のことをよく知っている人に書いてもらうべきだと思うの。…ことりさん、どう?」

「えっ、私?」

「ええ。あの街でずっとアルバイトしていたのでしょ?きっとあそこで歌うのにふさわしい歌詞を書いてくれると思うの」

「秋葉ならにこちゃんも詳しいけど」

「働いてる人には敵わないわよ」

「にこちゃんが素直だと」

「何が不満なのよっ」

「んがっ」

 

 

作詞者も変えるときた。しかし秋葉がどうとかなら、にこちゃんも秋葉には入り浸ってる気がする。しかしにこちゃんは素直に引き下がった。意外だ。驚いたらにこちゃんの裏拳が鼻に刺さった。痛い。

 

 

「それいい!すごくいいよ!」

「やった方がいいです!ことりなら秋葉にふさわしい良い歌詞が書けますよ!」

「凛はことり先輩の甘々な歌詞で歌いたいにゃ!!」

「それは俺も聞きたいです」

「ノリノリだね」

 

 

皆さまが絢瀬さんの提案に賛同して南さんを応援する。しかし滞嶺君急に鼻息荒くなったね。確かに南さんならかわいらしい歌詞になりそうだけどさ。

 

 

「そ、そう?」

「ちゃんといい歌詞作りなさいよ?」

「期待してるわ」

「頑張ってね!」

「…う、うん。が、頑張ってみるね!」

 

 

かくして作詞担当になった南さん。

 

 

歌詞ってそんな簡単に作れるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、案の定難航してるわけか」

「案の定じゃないよ!!」

「俺からしたら案の定だ。そんな簡単に歌詞作れるかよ」

 

 

穂乃果の幼馴染である南ことりが何の流れか知らんが歌詞担当になって数日後、穂むらに寄ったときにそんな話をされた。ちなみに今日は園田と南が2人とも同席している。一応この2人は面識がある。というか穂むらに入り浸っているのに幼馴染に遭遇しない方が難しい。

 

 

南はなかなかにしんどそうな顔をしていた。なかなかプレッシャー食らってるようだ。

 

 

「うう…ごめんなさい…」

「あんたが謝ることじゃないだろう。負担を考えないで押し付けたやつらが悪い」

「穂乃果が悪いの?!」

「お前らみんながな?」

「う…確かに、ことりの負担を考えていませんでした…」

「園田は素直で助かる」

「穂乃果は?!」

「犬」

「人ですらない?!」

 

 

単純にプレッシャーが大きいということもあるだろうが、劣等感がどうのって話があった矢先らしいし、気合いが空回りしてるところもあるだろう。健気でいいことだが不憫だ。

 

 

「ちょっとくらいアイディアくらい出してやれよ」

「いえ…私たちも考えてはいるのですが、やはり秋葉にふさわしい歌詞と言われるとなかなか思いつかなくて…」

「ほんとに作詞担当かよ」

「うっ」

「ちょっと桜さん!海未ちゃんまで凹んじゃったじゃん!」

「あ、ああ…すまん、穂乃果と同じノリで話してしまった」

「私の扱いがひどいよぅ!!」

 

 

凹みガールがもう1人増えてしまった。仕方ねーだろ、穂乃果は多少罵倒してもへこたれないんだし。茜も天童さんもそうだし。そんなノリでしか喋ったことねーんだよ。

 

 

まったく埒もあかないので、元気の出る曲でも流してやることにする。手元のノーパソにスピーカーをつないで、音量抑えめで曲を再生。一般に出回っていない試作品を特別に流してやる。ほんとはこれに歌が入るんだが、まあなくてもいい曲だ。

 

 

「…この曲は?」

「気にすんな」

「桜さんが作った曲?」

「…それを公言すんなって散々言ったはずなんだがな…」

 

 

疑問を呈してきた園田をはぐらかそうとしたら穂乃果が口を滑らせよった。俺がサウンドクリエイターのサクラであることはあまり知られたくないし、作曲してることさえ知らないでいてほしい。

 

 

…とは、穂乃果にはいつも言ってるんだがな??

 

 

「…あっ」

「え?水橋さんは作曲できるんですか?」

「これも水橋さんの曲なんですか?」

「…あー、まあそうだ。他言無用だぞ、秘密の趣味だ」

「波浜先輩にもですか?」

「…あいつは知ってるからいい。が、あんまり外で話題にしてほしくねーな」

「わかりました…しかし穂乃果…」

「だ、だって話し相手は桜さんだったもん!!」

「言い訳すんな」

 

 

園田が穂乃果をジト目で諌めるが、まあ知られてしまったものは仕方ない。言いふらさないでいてもらうだけだ。園田や南ならそう心配いらないだろう…多分。いっそμ's全体に伝えておくのもありだが…いや、やっぱり穴は少ない方がいいな。

 

 

「それで、この曲はなんていう曲なんですか?」

「まだ名前はつけてないし、歌詞もないし、誰が歌うかも決めてない。完全な試作品だ」

 

 

本当に何も決まっていない。インスピレーションが湧いたから書いただけだ。強いて言うなら太陽みたいな曲ってくらいだろう。眩しい日に書いた気がする。

 

 

「じゃあ私歌いたい!」

「何言ってんだお前」

「だって誰が歌うか決めてないんでしょ?」

「まあそうだが…そもそも世間に公表するかどうかもわかんねー曲だぞ」

「いいじゃんー歌いたいよー!!」

「穂乃果、わがまま言うんじゃありません!」

「でも、私も水橋さんの曲歌ってみたいなあ…」

「ことりまで…!」

 

 

なぜか穂乃果が立候補してきた。別に構わないんだが、こいつのために一曲こしらえたと思うと若干悔しい。あとこいつらの腕で曲のイメージを発揮しきれるか怪しい。

 

 

だがまぁ…。

 

 

「あー、じゃあ…歌詞とタイトルを用意してきたらお前ら用に一曲用意してやる」

「ほんと?!」

 

 

腕前はともかく、こいつらが俺の曲を歌うところは…ちょっと聞いてみたい。

 

 

「本当にいいんですか?」

「ああ、まあ曲はここにある試作品から選んでもらうけどな。一から作るのは面倒だし」

「穂乃果やことりのためにそこまで…」

「…君も選ぶんだぞ?」

「え?」

「お前ら用に作るって言っただろ。3人それぞれに作ってやる。不公平だからな」

「い、いえ、私は…」

「海未ちゃんもやろうよ!ソロだよソロ!」

「それが嫌なんです!!恥ずかしいじゃないですか!!」

「…投げキッスしてる子が恥ずかしいとか言うか?」

「なっなんで知ってるんですか?!」

「PV見たからに決まってんだろ」

 

 

せっかく曲を提供しようかと思ったのに、約一名が拒否反応を示した。嫌なら嫌で構わないが、恥ずかしいっていう理由はアイドル的にはどうなんだ。

 

 

「まったく、俺が無償で曲を提供してやるなんて相当稀だぞ?それを蹴るとはなかなか豪胆だなおい」

「そ、そうなのですか…?」

「この前電話で40万とか言ってたもんねー」

「いらんことばっか覚えてやがるなお前」

 

 

確かに天童さんにそんくらいふっかけた記憶はある。まあ、例え天童さんじゃなくても、仕事は結構割高で請け負ってるのも事実。むしろ向こうが金を積んでくる。

 

 

それくらい価値があるってことだな。

 

 

「海未ちゃんも、こんな曲も歌ってみたいよね?」

「う…そ、それは…確かにそうですが…」

「ね?一緒に歌おう?」

「…そ、そこまで言うなら…」

 

 

南の後押しもあって園田も承諾した。これで公平だな。…しかし、一緒に歌おうって言っておいてソロしか用意しないのも釈だから、南と園田のデュオも考えておくか。

 

 

…なんで俺はこんなノリノリなんだ?

 

 

「桜さん、早く曲聴かせてよー!」

「やかましいほの犬」

「犬じゃないよ!!」

 

 

犬がうるさいので早速試作品を流してやる。ノリで作って結局お蔵入り…というのは割と頻繁にあるから何だかんだ言って助かる。作られた曲も、活躍の場ができて喜んでることだろう。

 

 

とりあえず一通り聴かせてやった。どの曲も真剣に聴いていて、穂乃果さえ(表情はうるさかったが)静かに聴いていた。ここまで真摯に聞いてくれるとやはり嬉しいもんだ。

 

 

「すごいですね…」

「すてき…」

「ふわぁ…」

 

 

全部終わったら、3人ともため息をついて一言だけ感想を述べた。感想というか、嘆息というか。穂乃果は単語ですらないし。

 

 

まあ、よくあることか。音楽の前じゃ言葉では語れない感動もある。最高の演奏の後は拍手すら躊躇われることすらあるんだしな。

 

 

「本当に…よく思いつきますね、こんな素晴らしい曲が…」

「あー、つってもそこら辺うろつきながら感じたことを曲にしてるだけなんだがな…」

 

 

うろつくにしても、散歩もあれば海外渡航もある。とにかく目にしたもの聞いたもの感じたものを全部音に込めるだけだ。場合によっては依頼主と一緒に出歩いて感想を聞いたり…

 

 

 

 

「…あ」

「どうかしたの?」

 

 

いいこと思いついた。

 

 

歌詞もそうだった。結局は、その場で感じたことを言葉に変えてるんだったな。

 

 

それなら、秋葉でメイドやってる南の手伝いをするというなら…。

 

 

 

 

 

 

「お前ら、メイドやってこい」

「「…え?」」

 

 

 

 

 

 

自分たちもその場の感覚を共有するのが一番だ。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

ソロは桜に作らせることにしました。真姫ちゃんに全部曲作らせるには荷が重すぎるでしょ…?そうじゃない?


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会いたくない時に限って知り合いに会う



ご覧いただきありがとうございます。

またお気に入りしてくださった方がいました。ありがとうございます!もうすぐ20人です!寿命が200年伸びます!!
自己満作品ではありますが、読んでくださる皆様のためにも気合入れて書かなきゃって思います。頑張ります。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

 

「…なんで僕らはまたメイド喫茶に来てるんだろね」

「猛烈に帰りてえ」

 

 

なぜか僕らは南さんの働くメイド喫茶に集合していた。なぜかと言われたら、昨夜高坂さんから「メイドやるからみんな来てね!」とかいうメールが届いたからだ。何してんの。しかも桜に言ったら「ああ、すまん、俺の提案だ」とか言ってきた。あいつそんな趣味があったのか。

 

 

「にゃー、遊びにきたよ!」

「えへへ」

「秋葉で歌う曲なら秋葉で考えるってことね」

「帰らせろ」

「しつこいね」

 

 

元気に扉を開けて突入する1年生。そしてあくまでも帰りたい滞嶺君。なんだかんだ言って帰らないあたりは責任感の強い彼らしい。

 

 

「ではでは早速取材を…」

「やめてください!」

「映像技術なら負けないよ」

「張り合わないでください!!」

 

 

続いて入ってきた東條さんが園田さんにビデオカメラを向ける。そういうことなら僕も参加しよう。バッチリにこちゃんを映してやる。

 

 

「なんで私を撮ってんのよ」

「そりゃにこちゃん撮るでしょ」

 

 

被写体はにこちゃんに決まってる。だってにこちゃんだもの。最高のモデルだ。うん、最高。

 

 

「はぁ…それよりはやく接客しなさいよ」

 

 

にこちゃんが何故かでかい態度で2年生たちに注文する。まあ多分なんだかんだいって遊びでやらせる気もないんだろう。バイトしてるからにはちゃんと働かせようという話。だと思う。だよね?

 

 

「いらっしゃいませ。お客様、3名様でよろしいでしょうか?」

「は、はいにゃ」

「それでは、ご案内致します」

 

 

バッチリだった。

 

 

バッチリメイドな南さんがいた。

 

 

プロかよ。

 

 

「…3名様だと僕らは含まれないわけね」

「ちっこい組だろ」

「誰がちっこい組よ!」

「残念ながら身長ワースト3なんだよにこりんぱなは」

「何よにこりんぱなって」

「君ら3人組の名前を今つけた」

 

 

にこちゃん、星空さん、小泉さんでにこりんぱな。我ながらなかなかのセンスだと思う。

 

 

しかしまあ、南さんの本気には驚いた。ありゃ伝説のメイドとか言われても納得だ。もうここに就職すればいいんじゃないかい。

 

 

 

 

とか思って感心して眺めていたら、視界の端に車椅子を捉えた。ただの車椅子なら気にも止めないのだが、あの裁縫道具満載の重戦車と、その後ろで待機する隻腕の青年を見たら確信した。

 

 

「ゆ、ゆっきーとまっきーがいる…?!」

 

 

ビデオカメラ落としそうになった。首からストラップかけておいてよかった。

 

 

何を隠そう、僕の数少ない友人であるゆっきーこと天才ファッションデザイナー…雪村瑞貴とまっきーこと天災級の天才医師…藤牧蓮慈が、店の隅っこで店長らしき人と話をしていたのだ。

 

 

「やっと気付いたようだぞ瑞貴」

「ほんと矢澤さんが絡むと周り見えないな、あいつ」

「波浜くん、知り合い?」

「…うん、まあ友達だね」

「波浜くん友達いたんやね」

「男ならにこちゃん怒らないからね」

 

 

向こうは事前に気付いていたらしい。まあまっきーがいたら隠れるなんて不可能なわけだけど。

 

 

「しかしまあこんなところで何してんの」

「服の製作依頼に決まってるだろ。今後女性層の獲得に向けて執事服を作って欲しいと頼まれてな」

「男装させるのか」

「一応男性も雇うらしいが」

「一応なのね」

 

 

まあ男装させてもいいんだけどさ。悪くはないと思うけどさ。そういう趣味の方もいるみたいだし。

 

 

「作るのは構わないが、客寄せになるかは別の話だから一度試させるのがよいか、と言う話をしていたところだ」

「やらせるのかい」

「それが一番効果が目に見えるだろう」

 

 

基本的に服飾については惜しみなく提供する派のゆっきーは、男装だろうがなんだろうが作るものは作るみたいだ。

 

 

「しかし急にメイド服から執事服にチェンジしろと言われても困りそうだけど」

「そこは店側でなんとかしてもらうしかないな」

「私たちが関わることでもなかろう」

「ってかまっきーに関しては全般的に関係ないよね」

 

 

まっきーは病院行きなさいよ。てか病院どうしたの。さぼるんじゃないよ。

 

 

呆れていると、ぐいっと後ろからつまみ上げられた。見ずともわかる、というかそんなことできる人間は1人しか知らない。滞嶺君だ。一応振り向いて見ると気まずそうな顔の滞嶺君がいた。サングラスでよくわからないけど。

 

 

「おい、俺をあの空間においてくんじゃねえ」

「頑張りなよ」

「無理がある」

 

 

そんなことだろうと思ったよ。

 

 

「茜が言っていたマネージャー君かな?なるほど、なかなか完成された肉体じゃないか」

「…でかくないか?」

「なんだてめぇら」

「何で君はそんな攻撃的なの」

 

 

見るなり品定めするまっきー、慄くゆっきー、威嚇する滞嶺君。なんだ君ら。いやゆっきーは割と正しい反応か。

 

 

「…五体満足な男性が2人…」

「ゆっきー不穏なこと考えてない?」

「案ずるな茜。私たちにしてみれば五体満足は非常に羨ましいものだ」

「そりゃそうだろうけど絶対その意図じゃないよね」

 

 

正しい反応じゃなかった。

 

 

ゆっきーは両足がないし、まっきーは右腕と右目が無いのは百も承知。僕はともかく滞嶺君のような身体能力の化身みたいなのが羨ましいのも間違いないだろう。いやどうだろう、筋肉ダルマは願い下げかもしれない。

 

 

でも今ゆっきーが考えているのはいかにして僕らに執事服を着せるかだと思う。

 

 

それは困る。

 

 

僕はコスプレ趣味はない。

 

 

どうにかして論破を試みよう。

 

 

「ゆっきー、僕らじゃ平均身長からかけ離れていてあんまりいいサンプルとは言えないんじゃないかな」

「身長関係あるか?」

「無いのかよ」

 

 

ダメだった。

 

 

身長差50cmオーバーの2人組ならいける気がしたけど気のせいだった。

 

 

「ふざけんな、俺が執事服なんか着るものかよ」

 

 

今度は滞嶺君がすこぶる不機嫌顔で言う。そうだ、彼の威圧感ならゆっきーも突破できるかもしれない。

 

 

「何故だ?」

「無意味だ。どうしても着せたいなら金を積め金を」

「10万出そう」

「よし早く着るぞ」

「ポンコツめ」

 

 

ダメだった。

 

 

むしろノリノリになった。首根っこ掴まれて引きずられる。どんだけ金に弱いんだ。いやゆっきーも出し過ぎだろ。コスプレするだけで10万ってなんだ。プレミアかよ。

 

 

 

 

 

 

「…なんでサイズがぴったりなんだろうね」

「…全くキツくねえ」

「俺が作ったからな」

「サイズが無いからって数分であつらえられるものじゃないよね」

「すげー動きやすい」

「数十分で精密模写しやがる奴に言われたくないな」

「何も言えないね」

「快適だ」

「滞嶺君腕振り回さないで怖い」

 

 

早速着せられた。当然僕らのサイズの執事服はなかったので、急遽作った。服は急遽作れるものじゃ無いと思う。あと滞嶺君、そんなに腕ブンブン振ると怖い。当たると即死しそう。トラップかよ。

 

 

「はっはっは、よく似合うじゃないか。早く矢澤嬢の接待をしてくるといい」

「この格好で接待するのは抵抗があるよ」

 

 

まっきーが他人事のように言ってくるが、にこちゃんのお世話は日常の中でこそするものであってこんな格好でするものじゃない。てか笑われそう。

 

 

「…滞嶺、少し屈め」

「何でだ」

「怖くなくしてやる。早く屈め」

「余計なお世話だ」

「とかいいつつ屈むんだね」

「素直だな」

 

 

ゆっきーが滞嶺君の圧倒的ヤのつく人感に流石に何かしら思ったのか、その顔をどうにかしようとし始めた。今はサングラスにオールバックだが、何とかなるのかなこれ。

 

 

しばらく髪をもしゃもしゃした後、そっとサングラスを外した。

 

 

「こんなもんだろう」

「わあ」

「流石は瑞貴、人のデザインは一流か」

「変なことしてねーだろうな」

「君に変なことしたら死にそうだ」

「まあ殺すな」

「物騒な」

 

 

髪は完璧にときほぐされ、綺麗に真っ直ぐ整えられている。それでサングラス外すだけでなんか仏頂面のSPみたいになった。誰これ。

 

 

「わあ!波浜先輩が執事になってる!」

「ついに見つかった」

「…」

「にこちゃん無言で写メるのやめなさい」

 

 

高坂さんが大声で宣告するもんだから視線が集まった。にこちゃん後でその写真は消しなさい。

 

 

「…となりにいるのは、まさか滞嶺くん…??」

「まさかで悪かったな」

「…かっこいい…」

「あ?」

「なっなんでもないにゃ!!」

 

 

1年生は滞嶺君の変貌に見とれている。まああの威圧感が消えたら普通にかっこいいだろうしね。でかいし。でかいのは関係ないか。

 

 

「あ、波浜くんこっち向いてー」

「何撮ってんの東條さん」

「だってせっかくやし?」

「せっかくだし?」

「絢瀬さんも便乗して撮らない」

 

 

3年生こぞって僕を撮るのやめなさい。にこちゃん顔がマジだから怖いよ。可愛いけど。今度はにこちゃんがメイド服着なさいよ写真撮りまくってやる。

 

 

もう諦めて執事するしかないか。知り合いが来ないことを祈ろう。

 

 

 

 

「あっ桜さん!!」

 

 

 

 

死んだ。

 

 

「ちょっ波浜くんどうしたの?!」

「知り合いが来たからショックで死んだのよ」

「にこ、軽いわね…」

「茜は恥ずかしいと死ぬのよ」

「にこちゃん僕はもう疲れたよ」

「はいはい」

「ひどい」

 

 

膝から崩れ落ちたら心配された。いやにこちゃんは心配してくれなかった。いやきっと心配してくれてるはずだ多分。塩対応なのも照れ隠しだと信じてる。信じてる。

 

 

「あっ、お姉ちゃん!」

「あ、亜里沙?!どうしたのよ、こんなところに!」

 

 

にこちゃんにしなだれかかっていたら、桜の後ろから金髪少女がひょっこり現れた。まさか桜が道端の金髪少女を拾ってくるわけないが…いやわからん。桜だし。

 

 

「お知り合いかな」

「私の妹よ」

「なるほど、よく似ている」

 

 

妹さんだった。しかし絢瀬さんに似ているが、さっきから動きがオーバーなので中身は全然似てないと見える。

 

 

「雪穂から、穂乃果さんたちが働いてるって聞いて一緒に来たの!」

「カラオケで一回見かけたか?改めて、水橋桜だ。穂乃果の店の常連で、今日のことの発案者だ。こっちの金髪の子は雪穂の引率のついでに着いて来た」

「す、すみません…」

 

 

桜が改めて自己紹介した瞬間に不満そうな顔をし、絢瀬さんが謝る。桜はコミュ障だもんね。当の絢瀬さんの妹さんは頭にハテナを浮かべてる。天然ちゃんであらせられたか。

 

 

「あっ雪穂!」

「お姉ちゃん!…似合わないね」

「ちょっと!!」

「似合わなくはねえが…」

「ほんとですか?!」

「今の無し」

 

 

亜里沙ちゃんの後ろから更にもう一人召喚された。高坂さんの妹さんらしい。桜から話は聞いたことあるけど見るのは初めてだ。…こっちも中身は似てないなあ。

 

 

「今混んでるから相席でもいい?」

「あー、俺は後で案内してくれ。さっきから気になりすぎることがあるからな」

「?…わかりました!」

 

 

桜は妹たちを先に案内させると、僕の方に向き直った。だろうね。予想はしてた。当たって欲しくなかった。

 

 

「…お前何してんだ??」

「僕が聞きたいね」

 

 

ほんとに僕が聞きたい。

 

 

「実際何してんだ」

「執事服着せられてウエイターさんだね」

「それは見ればわかる。何でそんなことしてんだ」

「やらされたんだよ」

「全く理解が追いつかねえぞ」

「全くだよ」

 

 

僕も理解が追いついてない。隣にいる滞嶺君はノリノリで…

 

 

「…あれっ滞嶺君どこ行った?」

 

 

隣にいない。

 

 

「誰だ滞嶺って」

「新しいマネージャーだよ。すごくでかい男」

「なんだその雑な紹介は。…だが、でかい男ならあそこにいるぞ」

 

 

桜が僕の後ろを指差す。振り返ってみると…

 

 

「あっあのっ、チェキお願いしてもいいですか?!」

「…チェキって何だよ」

「これです!」

「インスタントカメラかよ…俺が撮ればいいのか?」

「ち、違いますっ!あの、い、一緒に写って欲しいなって…」

「わ、私も!」

「私も次お願いします!」

「あ、ああ??」

 

 

なんか女の子に囲まれてた。

 

 

「何あれ」

「俺が聞きたい」

 

 

何あれ。

 

 

「…お前はウエイターしなくていいのかよ」

「僕がトレイを持てると思うかい」

「無理だな」

 

 

さくらがつっこんできたが、残念ながら僕はこの手の仕事がとんと向いていない。力無さすぎて。

 

 

まあその分楽できる。

 

 

「あ、あの」

「ん?何用ですかな」

「チェ、チェキ、お願いできますか…??」

 

 

楽できなかった。

 

 

予想外だった。

 

 

今日予想外の出来事多くない?

 

 

こら桜、ほくそ笑むな。どこ行くのさ。置いて行かないで。マジで。

 

 

「あの…」

「………承りました、お嬢さん」

 

 

ちくしょう。お仕事だし、これ断るわけにもいかないだろ。

 

 

なんでにこちゃん以外の女の子に媚を売らねばならんのだ。

 

 

 

 

 

 

 

面白いことになってる茜を置いて相席に案内されたら、矢澤と他μ'sの子2人、そしてさっき連れてきた雪穂とそのお友達の席だった。およそ南あたりが知り合い同士座れるように気を利かせたのだろう。しかし天然金髪少女の相手をまたしなければならんのか。

 

 

「とりあえず矢澤、殺気をしまえ」

「殺気なんて出してないわよ」

「視線で人殺せそうな目してるにゃ」

「してない!!」

「視線で人が死んじゃうんですか?!」

「比喩だ比喩」

「ハラショー…日本語って難しいですね」

 

 

しかし矢澤が茜に群がる女子を射殺さんばかりの視線を投げているのはいただけない。亜里沙というらしい雪穂のお友達が変な誤解してるだろうが。ハラショーって何だ。

 

 

「…そうか、ロシアから来たって行ってたな。ハラショーもロシア語か」

「そうみたいなんですけど、私も意味はよくわからなくて…」

 

 

そういえば道すがら素性は聞いていた。絢瀬絵里の妹でロシアから来たクォーターガールだと。クォーターなのにこんなロシア感満載の顔立ちになるものか?遺伝はよく知らん。

 

 

ロシアンガールだったりアサシン矢澤だったり、猫少女だったりひたすら米食ってる少女だったり個性が強すぎて辟易していると、今度は机の隣に車椅子の男と片腕の男がやってきた。

 

 

誰だこいつら。

 

 

「失礼…そちら3人がμ'sの子だな?」

「えっは、はい…」

「話は良く茜から聞いているよ。まあ、だいたい矢澤嬢の話だが。私は藤牧蓮慈、医者をやっている。こっちの車椅子は雪村瑞貴、ファッションデザイナー。ともに波浜茜氏の友人…といったところか」

「は、はぁ…どうも…」

「突然すまないな。茜が気にかけている矢澤さんがどんな人か気になったし、μ's自体も気になったし」

「茜の知り合いらしき男性も始めて見たしな」

「俺も、茜に友人がいるとは思わなかったな。水橋桜、茜の仕事仲間だ」

 

 

急に来たから警戒したが、どうやら茜の知り合いのようだった。あいつ友達とかいたんだな。

 

 

「仕事仲間ね…。なんだかんだ言ってやはり知り合いは多いのだな」

「そりゃそうだろう。元来の性質をそうそう無視できないさ」

「私が天才であるようにな」

「ほんとウザいなお前」

 

 

藤牧と雪村は俺の挨拶に対して勝手に2人で話し始めてしまった。コミュ障か?俺が言えることではないが。

 

 

「お医者さんってことは真姫ちゃんのご両親とおんなじにゃ」

「ああ、西木野嬢とは既に話してきた。以前にも会ったことがあるのだが…覚えてはいなかったな…」

「10年前のことなんて普通覚えてねぇよ、向こうは5歳だぞ。…あなたは星空凛さんかな?お隣が小泉花陽さん、さらにその隣が矢澤にこさんか」

「はっはい!」

「…私はあんたたちのこと知らないんだけど」

 

 

俺は矢澤と2年生しか把握してなかったが、雪村はバッチリ把握しているようだった。矢澤の機嫌が悪そうだが、おそらく「茜の知人に知らない人がいる」のが気に入らないんだろう。

 

 

「それはそうだろう、私たちは貴女に関係ないからな。逆に水橋氏は仕事という側面で、貴女の財政に関わるから存在を伝えられている。彼の中心は常に貴女であるし、逆に言えば彼はそれ以外のことを一切考慮しないからな」

「…そうだとは思うけど」

 

 

藤牧がやたら自慢げに解説するのを聞いて、矢澤の顔が曇る。

 

 

 

…何か不自然な反応だ。

 

 

 

藤牧の説明はなるほど確かに奴の特性を言い当てているが、それでも自分に伝えられなかったことに納得いかないと言うことだってできる。しかしそうじゃない、矢澤は「自分の知らない茜の知人」がいること自体にはなんの抵抗もなく納得し、しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな感じだ。

 

 

そんな矢澤の反応は藤牧と雪村にも奇怪に映ったようだった。

 

 

「…ん?そうだとは思うのか?あれほど矢澤さんに固執するのは当事者であろうと不自然かと思えそうだが」

「まさか…いや、それはないか。…そうか、μ'sだな?μ'sとの関わりが…ふむ…」

「…あのなぁ蓮慈、勝手に解決されても何も伝わって来ねえんだって」

「ああ、すまない。だがわざわざ言うことでもないだろう」

 

 

不自然と言った。

 

 

茜の矢澤好きはやはり不自然なのか。あまり人との関わりが多くないからそこまで気にならなかったが、あれほど固執するのは異常なのか。

 

 

まあしかし、それは納得だ。

 

 

あいつの家やばいしな。

 

 

「あ、あの…」

 

 

茜について考えを巡らせていると、大量のライスをいつのまにか完食した小泉がおずおずと声をかけてきた。あまり自分から発言するタイプには見えないが…何事だろうか。星空も不思議そうな顔をしている。

 

 

「何かな、小泉嬢」

「あの、…いえ、やっぱり何でも…」

「ああ、()()()()()()()()()。事故で失った」

「えっ」

「…せっかく配慮して言うのをやめてくれたのに看破するやつがあるか…」

「何かまずかったかな?」

「空気読めないってやつね」

「KYにゃ」

「けーわい?」

「思いやりが足りてないってこと」

「ハラショー…」

 

 

小泉が遠慮して聞かないでおいたことに、どうやってか知らないが問われなかった問いに見事答えてみせる藤牧。そして総スカンを食らう藤牧。頭を抱える雪村。亜里沙は相変わらず天然。カオス空間だ。

 

 

「しかし、私の右腕がどうかしましたかな?」

「その話題拾うのかよ」

「なにかマズかったか?」

 

 

自称天才の藤牧は致命的に空気が読めないらしい。

 

 

まあ空気読めないのは俺も茜も同じことだろうが。

 

 

「ほ、ほんとになんでもないんです!」

「いやしかし

「蓮慈、店長に執事の需要を報告しに行くぞ。押してくれ」

「会話を遮るのは失礼だと思わないか?」

「お前の方がよっぽど失礼だ。早く行くぞ。…いろいろ申し訳なかった。勝手ながら失礼する」

「は、はあ…」

 

 

遠慮なく話を進めようとする藤牧を、雪村がファインプレーで撤退させた。

 

 

「何だったのかしら」

 

 

2人が店の奥に消えてから矢澤が口を開いた。

 

 

「俺が聞きたい。そもそも何者なのかもよくわかんねぇよ。矢澤はなんか知らないのかよ」

「私だって初めて会ったわよ」

 

 

俺も矢澤も知らない茜の友人なんているとは思わなかった。あいつ交流のほとんどを矢澤で完結させてるしな。

 

 

6人で呆然としていると、ヘロヘロな茜が近づいてきた。死にそうな顔をしていて笑える。

 

 

「に、にこちゃん、助けて…あんなの無理ぃ…」

「何よ、情けないわね」

「にこ先輩顔が緩んでるにゃ」

「緩んでない!!」

「緩んでるの?」

「緩んでないって言ってんでしょ!!」

「ぶぎゃ」

 

 

早速矢澤に縋り付いた茜。そしてにやける矢澤。照れ隠しにヘッドロックを極められる茜。相変わらず不憫だ。

 

 

「なあ茜、藤牧と雪村とかいうやつらが来たんだが、何者だ?」

「ゔぇ…あー、彼ら君達のところにも来たんだね。友達だよ」

「私も知らなかったんだけど」

「そりゃにこちゃんの人生に関係ないもん」

 

 

さも当然の如く言う茜。いくらなんでも矢澤中心主義が過ぎるだろ。

 

 

「あ!マネージャーの波浜さんですよね!チェキお願いしてもいいですか?!」

「まじ?」

「ダメですか…?」

「…ダメじゃないです」

 

 

そして亜里沙ちゃんからの突然の死刑宣告に死ぬ茜。今のは可哀想すぎた。なんたってチェキ地獄から逃れるために矢澤の元に来たのに、死角から一撃食らわされたのだ。そりゃ辛い。だが面白い。

 

 

結局枯れた笑顔で満面の笑みの亜里沙ちゃんと並び、矢澤にチェキを取られていた。あんな瀕死の茜は初めて見たかもしれん。

 

 

よくわからんことばっか起きたが、まあ最後はレアものを見たということで良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はみんな来てくれてありがとうね!」

「いいわよ、それくらい」

「そうだよ、僕らなんて働いたからね」

「死にてぇ」

「…波浜先輩と滞嶺くんは一体何があったんですか?」

 

 

業務が終わってから、南さんがお礼を言いに来た。うん、ほんとに疲れた。滞嶺君はもう目が死んでる。あんなに人気出るとは。

 

 

「何もかもこいつのせいだよこいつ」

「…だから悪かったって。あれほど人気が出るとは思いもしなかったんだ」

「私は思っていたがな」

「「「じゃあ言えよ」」」

 

 

ゆっきーを非難したらまっきーが酷いこと言ってきよった。男三人の心が一つになった。この天災め。

 

 

「それより、アイディアは出たんでしょうね?」

「うん!おかげで作詞が進みそうだよ!」

「よかった!桜さんのおかげだね!」

「俺は提案しただけだ。行動したのはお前らだろ」

「それでも、桜さんの助言があったから掴めたんです。ありがとうございます!」

「あー、おう、そうか」

「桜さん照れてる?」

「照れてねえ」

 

 

被害甚大ではあるけど、当初の目論見通り作詞の手がかりは掴めたらしい。そうか、そういえば作詞のためだったか。結局僕ら関係無いじゃん。執事なんてやらなくてよかったじゃん。

 

 

「それじゃあ今度の日曜日、秋葉でライブをしましょう!」

「日曜日?!」

「絢瀬さん、練習時間とかまるで無いんだけど」

「ここじゃあまりスペースはとれないし、パフォーマンスは最小限にしましょ。あと衣装はメイド服で!」

 

 

絢瀬さん、なんかむちゃぶりが加速してない?大丈夫?お兄さん心配なんだけど。主に心労が。てかお兄さんじゃないわ同級生だわ。

 

 

「あ…服は流石に全員分はないかも…」

「ないなら俺が作ろう。寸分違わずつくってみせるぞ」

「そんなことできるんですか?」

「そこのでかい奴の執事服も俺が作ったんだから間違いない」

「そうだったんですか?すごいですね…!」

 

 

そりゃゆっきーは世界的なファッションデザイナーだもんね。南さんは知らないのかな?ああ、そういえば顔出ししてないな彼も。

 

 

「てか滞嶺君いつまでそれ着てるの」

「腹立つくらい快適だ」

「そりゃ俺が作ったんだからな」

 

 

滞嶺君は未だに執事服着ていた。でかいから今までサイズが合う服がなかったんだろう。あと怖がられないのも大きいかもしれない。僕はすぐ着替えた。即刻着替えた。

 

 

「…でも私たちの衣装を寸分違わず作るって…」

「にこちゃん、深く考えたらだめよ」

 

 

世の中知らなくていいこともある。知らない方がいいこともある。うん。

 

 

 

 

 

ゆっきーは一目でスリーサイズ含め体型に関するステータスを看破できるとか、多分知らない方がいい。

 

 

 

 

 

 

 

ライブ当日。

 

 

ゆっきーはほんとに全員分、お店のものと全く同じデザインのメイド服をほんとに寸分違わず作ってきた。みんな感動していたけど、にこちゃんは怪訝な顔をしてるし、南さんと東條さんは顔が赤くなってる。東條さんほんと意外と初心だな。

 

 

「で、なんで僕らは執事服なんだろうね」

「俺は私服だ」

「君はいつから執事服がデフォルトになったのさ」

 

 

なぜか僕らも執事服を着せられた。滞嶺君は自ら着てきた。何、気に入ったの。

 

 

 

 

 

曲名は「Wonder zone」。

 

 

 

 

 

たしかに、秋葉らしい曲だった気がする。

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回は登場人物多目です。そして被害者波浜少年。まあこの話をしたら男性陣は執事になるしかないですよね!!



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純粋培養乙女大量発生中



ご覧いただきありがとうございます。

のんたん誕生日おめでとうございます!!のん誕ではありますが、特別編とかではありません…。ひいっごめんなさい!まだのんたん主役にするには話が進んでなさすぎるので…!来年はできたらいいなあ。

前回は感想もいただきました。感想も寿命伸びますね!!ありがとうございます!!頑張ります!!

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

「…あつい」

「そだねぇ…」

「死ぬ…」

 

 

夏真っ盛りのある日のこと。

 

 

僕は瀕死だった。

 

 

体力おばけの高坂さんまでバテてるんだ、ネガティヴ側体力おばけの僕が生きていられるわけない。溶ける。マジで。

 

 

「っていうかバカじゃないの?!この暑さの中で練習とか!茜死ぬわよ?!」

「溶ける」

「そんなこと言ってないで早く練習するわよ。波浜くんは日陰にいるといいわ」

 

 

にこちゃんが抗議するが、絢瀬さんには効かなかった。なんであなたはそんな元気なの。ロシアンガールじゃないのかよ。暑いのダメじゃないのかよ。

 

 

「日陰あんまりないんだけど」

「俺の影があるだろ」

「君は君自身の熱がすごいんだよ」

 

 

滞嶺君は見事にタンクトップに短パンであった。見事にムキムキだ。ムキムキすぎて代謝が凄いのか、彼なんか体温高い。暑い。

 

 

というか滞嶺君の後ろにはすでに小泉さんが隠れている。何してんの。

 

 

「花陽、これからは先輩も後輩もないんだから。ね?」

「は、はい…」

 

 

絢瀬さんが優しく言っても若干縮こまる小泉さん。未だに微妙に苦手らしい。まあ一時期怖かったしね。暑い。

 

 

「そうだ!合宿行こうよ!!」

「はあ?急に何言い出すのよ」

「思考の方向性が全くわからないね」

 

 

高坂さんがなんか言い出した。ほんとに急だね。何がどうなって合宿が出てきたんだ。まっきータイプか。過程すっ飛ばして結論が出てくるタイプか。前もそんなことあったな。

 

 

「あーなんでこんないいこと早く思いつかなかったんだろう!!」

「何の話だよ」

「僕が聞きたいよ」

 

 

高坂さんの思考に追いつけない。

 

 

「合宿かぁ、面白そうにゃ!」

「そうやね、こう連日炎天下だと体もキツいし」

「君ら順応早いね」

 

 

星空さんと東條さんはノリノリだった。よくそんなすぐ納得できたね。

 

 

「でも、どこに?」

「そりゃあ海だよ!夏だし!」

 

 

疑問を投げた小泉さんに対していかにも当然というように答える高坂さん。何がそりゃあなんだ。

 

 

「高坂さん、簡単に言うけど場所やら費用やら当てはあるの?」

「えっ?えーっと、それはぁ…」

 

 

言ってみたら戸惑った。これは何も考えてなかったな?いや考えてないと思ってたけどさ。

 

 

「…ことりちゃん、次のバイト代いつ入る?」

「え、えぇっ?」

「ことりをあてにするつもりだったのですか…」

「他人の金をむしり取るんじゃないよ」

 

 

まさかの他力本願。

 

 

「あっ、波浜先輩ならお金持ってますよね!!」

「今僕他人から金を取るなと言ったところなんだけど」

「うう…あっ!そうだ!真姫ちゃん家なら別荘とかあるんじゃない?!」

「別荘なんてあるわけねーですよ」

「あるけど」

「あるのかよ」

「ブルジョワだね」

 

 

人を当てにし続けた結果謎の大当たりを引いた。てか別荘あるんかい。金持ちの極みじゃないか。さすが医者の娘。滞嶺君も思わずツッコんだ。

 

 

「ほんと?!真姫ちゃん!お願い!!」

「いやいや個人宅をそう簡単に借りていいわけないでしょ」

「仕方ないわね…聞いてみるわ」

「いいのかよ」

「実は満更でもねーだろお前」

「なによ!!」

 

 

高坂さんが頼んだらあっさり承諾した。マジかよ。君らノリ軽すぎるだろ。

 

 

「本当?!」

「やったにゃー!」

「俺にくっつくな」

「汗でべっとりしてるにゃ」

「殺すぞ」

「やめなさい」

 

 

まさかの臨海別荘使用許可(予定)が出てよろこぶ皆様。滞嶺君に飛びつく星空さん。そして惨劇未遂。僕は血なんて見たくないよ。あと東條さんと絢瀬さんは何をこそこそ相談してるの。まあいいや。

 

 

「合宿行くのは勝手だけど、僕らはどうしたらいいのさ」

「行かねえぞ。弟達を置いて合宿なんて」

「本音は?」

「女子だらけの空間に寝泊まりなんてできるか」

「右に同じだね」

 

 

とりあえず、合宿と言われても最も困るのは僕らだ。僕はにこちゃん以外興味ないからいいんだけど、滞嶺君は大変だろう。色々危ない。うん、色々。

 

 

「何か問題かにゃ?」

「問題ないよ!」

「嘘だろ」

「この子達の未来がすこぶる心配だ」

 

 

無警戒極まる星空さんと高坂さん。おたくの性教育とかどうなってんの。暮らしてきた環境が気になるわ。嘘だわ気にならないわ。

 

 

「いいじゃない。信頼してるってことよ」

「僕はにこちゃん以外興味ないからいいんだけどさ」

「ふん」

「ぐえ」

「俺の苦労も考えてください」

「大丈夫よ、負担はかけないわ」

「そうじゃねぇ」

 

 

にこちゃんの肘鉄に悶絶してる間に滞嶺君が危機に陥っていた。あかん、絢瀬さんも性教育がなってないタイプだ。説得が効きそうな東條さんもにやけてるしこれは詰んだ。

 

 

…まあ、海に行くそうだし、せっかくなので新曲のPVでも撮っておけばいいかもしれない。他に人居ないだろうし都合がいい。

 

 

 

 

 

 

「というわけで合宿行ってきます!」

「あー行ってらっしゃい」

「桜さんも来ましょう!!」

「何でだよ」

 

 

穂むらに寄ったら穂乃果が合宿行くとか言い出した。勝手に行けばいいが、茜も巻き込まれるらしい。先日の滞嶺とかいうデカいのも巻き込まれるらしい。こいつら蹂躙されないだろうか。性的な意味で。

 

 

「はじめてのフルPVを撮るんです」

「そりゃよかったな」

「なのでアドバイスがほしいんです!」

「断る」

「何でですかー!!」

 

 

机をバンバン叩いて抗議する穂乃果。やめんか、パソコンが落ちる。

 

 

だいたい俺が行ったら他のメンバービビるだろ。何だあいつってなるだろ。いや全員に顔割れてんのか、だからって一緒に海行こうとはならんだろ。

 

 

「みんなにはもう言いましたし!!」

「先に俺の予定を聞けよ。あと何で反対意見が出なかった」

「『桜さんは大丈夫そう』ってみんな言ってました」

「てめーらは俺の何を知ってるんだ」

 

 

ポンコツか女子ども。

 

 

全員漏れなく純粋培養乙女か。

 

 

「だいたい俺に意見貰ってどーすんだ」

「桜さん歌上手らしいですし、参考になるかなって」

「アバウトすぎんだろ」

「いいじゃないですかー行きましょうよー」

「引っ張んな」

「ううううう」

「引っ張んな」

 

 

唸りながら袖を引っ張る穂乃果を振りほどいてチョップを入れる。「あうっ」と言って頭を抑える穂乃果。…意見をやるのはいいんだが、俺の要求についてこれるとは思わないんだが。

 

 

だが、まあ。

 

 

無碍にするのも気がひける。

 

 

「…謝礼はもらうぞ」

「………えっ」

「そこをちゃんとメンバーと協議したら行ってやる」

「やったあああああああああ!!!!」

「うるせえ」

 

 

何だかんだ承諾してしまった。つーか本当に謝礼の件はちゃんと相談するんだろうか。しないだろうな。

 

 

心配だが、ちょっと楽しみではある。

 

 

 

 

 

 

「本当に来たんだね」

「悪いかよ」

「答えかねる」

 

 

合宿当日。

 

 

駅でにこちゃんと一緒にみんなを待ってたら、高坂さんに連れられて桜が来た。呼ぶとは言ってたけど本当に来るとは思わなかった。だって桜だし。

 

 

ちなみに滞嶺君はまた執事服だった。どんだけ気に入ってるんだ。

 

 

「桜さん、よろしくお願いします」

「あー…おう」

「桜、コミュ障してる場合じゃないよ」

「黙ってろ」

「よ、よろしくお願いします!」

「お、おう」

「もっと気の利いた返事しなさいよ」

「黙れっつーの」

 

 

園田さんや小泉さんが挨拶したら、桜は明らかに慣れてない返事をした。まあ慣れてないよね。でも君メイド喫茶で会ったんじゃなかったっけ。にこちゃんですらつっこんでるよ。

 

 

「さて…みんな集まったところでやっておきたいことがあるの」

 

 

バカやってると、絢瀬さんから声がかかった。なんだろう。合宿するって決めたときにコソコソ言ってたやつか。

 

 

「それは…先輩禁止よ!!」

「ええっ?!先輩禁止?!」

「声でけえよ」

「いつものことだよ」

「周りの視線が腹立つ」

「滞嶺君は殺気を振りまかないの」

 

 

絢瀬さんが宣言したところ、高坂さんが驚きの声をあげた。声が大きいのはまあ確かに。視線が痛いのも確かに。でも君らはもう少し世界に優しくなろう?

 

 

「前からちょっと気になっていたの。先輩後輩はもちろん大事だけど、踊っているときにそういうこと気にしちゃダメだから」

「そうですね、私も三年生に合わせてしまうところがありますし…」

「そんな気遣いまったく感じないんだけど」

「まったくだね」

 

 

僕とにこちゃんに関してはさしたる敬意を感じないのは何でだろう。

 

 

「それはにこ先輩や波浜先輩が上級生って感じがしないからにゃー」

「誠に遺憾だね」

「上級生じゃないならなんなのよ!」

「うーん…後輩?」

「ていうか子供?」

「マスコットとかと思ってたけど」

「飾りだろ」

「うおい」

 

 

君らは僕らをなんだと思ってんだ。

 

 

「じゃあ早速今から始めるわよ、穂乃果」

「僕らの扱いについてはノーコメントなのね」

「はい!良いと思います!え…ふう、…絵里ちゃん!!」

「うん!」

「ふうー、なんか緊張!」

「僕のツッコミにもノーコメントなわけね」

「茜、強く生きなさい」

「生きる」

 

 

僕らの絶望はことごとくスルーして早速敬語撤廃を始める絢瀬さん。とりあえず僕らをスルーしないで。でもにこちゃんに励まされたから生きる。

 

 

「っていうか僕と滞嶺君はすでに敬語撤廃してるわけだけど」

「あなたたちの関係を見ていて思いついたことだもの。でも、そうね…あなたたちも名前で呼ぶとかどうかしら」

「名前ね。創一郎だっけ」

「ああ、お前は茜だったな」

「ついにお前呼ばわりに」

 

 

僕と滞れ…創一郎は名前で呼び合うことになった。余計敬意が感じられなくなった気がする。

 

 

「じゃあ凛もー!…ふう、ことりちゃん!!」

「はい!よろしくね、凛ちゃん!」

 

 

星空さんも乗っかり、南さんが返事する。まあ高坂さんや星空さんはむしろ敬語ない方が楽なのかもしれない。

 

 

「それに真姫ちゃんも!」

「えっ?」

 

 

南さんが促すと、西木野さんは戸惑いの声をあげた。君は咄嗟に敬語出ない子なんだからうろたえることもないでしょうが。

 

 

「べっ別に今わざわざ呼んだりするもんじゃないでしょ!!」

「照れてんな」

「敬語出ないくせにね」

「うるさいわね!!」

 

 

にこちゃんに次ぐツンデレガールは今日もツンデレらしい。ブレないね。

 

 

「それに…茜くん、創一郎くん。あなたたちにも名前で呼んでほしいの」

「えっ嫌だけど」

「えっ」

「名前呼びはにこちゃん特権だもの」

 

 

急に話を振られたと思ったら僕らも巻き添え計画だったらしい。でも僕はにこちゃん以外名前で呼ぶ気はない。にこちゃんファーストだもの。絢瀬さんショック受けてるけど気にしない。

 

 

「いや、茜…名前呼ぶくらいいいじゃない」

「やだよ、にこちゃんに言われたって嫌だよ」

 

 

最近にこちゃんファーストが破れてきてる気がするからたまには断固死守しなければね。

 

 

「じゃあ創一郎くん!」

「名前で呼ぶな」

「照れてるにゃ」

「照れてねぇ」

「でも創一郎くんって呼びにくいから創ちゃんって呼ぶにゃ!!」

「やめろ」

「創ちゃん…いいね!!」

「マジでやめてください」

「創ちゃん、敬語禁止だよ?」

「ああ??」

 

 

僕が断固拒否している間に創一郎がひどい目に遭ってた。可哀想に。一応一年生だからね彼。

 

 

「名前くらい呼んでやってもいいじゃねーかよ」

「桜は関係ないじゃないか」

「まあ関係ねーけどよ」

 

 

巻き込まれ大魔王の桜が他人事のように言う。実際他人事か。

 

 

「そうだ!桜さんにも敬語無くしていいですか!!」

「何でだよ」

「ほんと何でさ」

 

 

巻き込まれ大魔王、またもや巻き込まれる。可哀想に。μ'sの決め事なのにμ'sに関係ない桜まで巻き込む意味ないでしょうに。

 

 

「桜さんも今日はみんなと仲良くして欲しいですし、桜さんも先輩禁止になれば茜くんもやってくれそうだし!」

「茜くんって言われるとなんかぞわぞわする」

「慣れろ、俺はやらん」

「僕もやる気ないんだけど」

 

 

慣れない呼ばれ方するとぞわっとする。

 

 

「うー!!やりましょうよー!!」

「だから俺関係ねーだろ…」

「勝手にやればええやん!」

「なるほど!」

「やるなアホ」

 

 

桜も強行突破寸前である。頑張れ桜。

 

 

「まぁ、これから合宿で慣れていけばいいわよ」

「絶対慣れねぇ」

「俺関係ねぇ」

「なんだいこの悲劇的状況」

「さて、改めて。これより合宿に出発します」

「無視かい」

 

 

3人の怨嗟の声は届かず。男性陣に人権をください。

 

 

「部長の矢澤さんから一言!」

「ええ?!にこ?!」

「頑張れにこちゃん」

「助けなさいよ!!」

 

 

絢瀬さんの無茶振りにうろたえるにこちゃん。助けろと言われても。どう助けりゃいいの。応援するしか僕にはできない。

 

 

 

 

「え、えーっと…しゅ、しゅっぱーつ!!」

 

 

 

 

…。

 

 

 

「それだけ?」

「考えてなかったのよ!」

「お前の嫁だろ、助けてやれよ」

「一体どうしろと」

「誰が嫁よ!!」

 

 

なんか場が静まってしまった。桜も助けろとか言うけど具体的にどうしろと。でもにこちゃんは僕の嫁だよ。将来的には。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、唐突に始まった夏合宿が始まった。

 

 

…大丈夫かなあ。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

巻き込まれ大魔王の桜。今後もきっと巻き込まれていきます。不憫…笑。


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鯨が水面に飛び出てくるアレってなんていうんだっけ



ご覧いただきありがとうございます。

鞠莉、誕生日おめでとうございました。のん誕鞠莉誕とこんなに近いとウキウキが止まりませんね!!
そして前回!なんと☆10評価をいただきました!!ありがとうございます!!!私が!!!最高評価!!!すっごく嬉しいです!!!
感激で死にそうなので茜君を生贄に捧げます。「解せぬ」

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

「なんだこれは」

「別荘でしょ」

「凄いよ真姫ちゃん!!」

「さすがお金持ちにゃー!!」

「金持ちだからってこんな規模の家が建つか…?」

 

 

結構長い時間電車に揺られてたどり着いた西木野家の別荘。とても大きい。何するためにこんなに大きいんだろう。パーティーでもするのかな。

 

 

「そう?普通でしょ」

「お前俺の家と比べてどう思う」

「…」

「なんか言えや」

 

 

これを普通とおっしゃる謎神経。創一郎が比較対象を並べたら黙った。まあ創一郎の家も広さで言ったら結構なもんだったけどね。

 

 

 

 

 

 

「「「わぁー…!!」」」

「寝室までご立派…しかも部屋数もかなりのもの…本当に何のための別荘なの」

 

 

創一郎と桜とは別行動を取り、とりあえず僕は寝室の確保に向かった。そしたら開けてびっくり、めちゃんこ豪華なお部屋が。しかも数が多い。誰を呼ぶんだこれ。

 

 

「こことーった!!」

「凛はここ!!」

「何してんの君ら」

「波浜先輩も海未先輩も早くとった方が…あ!!」

「…やり直しですね」

「いや僕は別室だよねそうだよね」

 

子供の夢であるベッドダイブを敢行する高坂さんと星空さん。やはり中身が幼い。あとうっかり苗字呼びをしたのを指摘しても、僕は名前呼びしないからね。あと男性陣は隔離されて然るべきだよね。隔離してよ。

 

 

「…うん!海未ちゃん!穂乃果ちゃん!茜くん!!」

「ほんとぞわぞわする」

「慣れてください」

「慣れないよ」

 

 

ほんとに名前呼びされるの変な感じする。

 

 

「って寝てる?!」

「フリーダムすぎないかい」

 

 

高坂さんは秒で寝てた。なんなの。

 

 

 

 

 

 

 

「りょ、料理人?!」

 

 

台所の様子を西木野…あー、真姫、ことり、にこと見にきたら、真姫が家に料理人がいるとか言い出した。なんだ料理人って。料理くらいしやがれ。

 

 

しかしまあ…ここは一家の料理をするような場所じゃねえな。台所っつーか厨房だ。尋常じゃなく広いし、各装備も一家の一食を作るスケールじゃねぇ。波…茜も言ってたが、パーティー会場かなんかなのかここは?

 

 

「そんなに驚くこと?」

「驚くよ!そんな人が家にいるなんて…凄いよね!!」

「うちによこせ」

「嫌よ」

 

 

料理人なんていたら弟達の負担が減る。最高じゃねえか。よこせ。

 

 

「…へっ、へえ~、ま、真姫ちゃん家もそうだったんだぁ~!にこん家も専属の料理人いるのよねぇ~!だからにこぉ、ぜ~んぜん料理なんかやった事なくてぇ~」

「猫かぶり具合がクソ怪しいな」

「あ、怪しくないわよ!」

「へぇー!にこ先輩もそうだったなんて!」

「信じるのかよ」

「にこにーでしょ」

「えっ?」

「にこ先輩じゃなくて、にこにー!」

「あっ…、うん!」

「にこにーなのかよ」

「何よ」

 

 

絶妙に怪しいことを猫かぶりボイスで言い始めるにこ。絶対いねーだろ料理人。普通いねーだろ。つーか名前の訂正は「にこにー」なのかよ。

 

 

…俺もにこにーと呼ぶべきなのか??

 

 

 

 

 

 

 

「ここなら練習もできそうね」

「そうやね」

「スタインウェイのグランドピアノ…しかもかなり上等だな。こんなものが居間にあるとは…」

 

 

居間で練習の相談を聞いてやっているのだが、もう居間で十分練習できる環境だ。恐ろしく広い。三管編成のフルオケを突っ込んでも客席を確保できるレベルだ。…マジでやってそうだな。

 

 

「でもせっかくなんやし、外の方がええんやない?」

「海に来たとはいえ、あまり大きな音を出すのも迷惑でしょ?」

「まあ、本当ならどこで練習しても恥ずかしくない演奏をしてほしいもんだが…そういうわけにもいかんだろ」

「流石にそこまでの境地は遠いわね…。でも、それくらいの意気じゃないとね!」

「やる気やね!」

 

 

見たところそんなに民家があるようには見えないが、遮蔽物も少ないしどれだけ音が届くかも予測しにくい。声を漏らしたくないというのなら室内でやるべきだろう。

 

 

「…で、小泉はなんでそんな隅っこで縮こまってんだ」

「な、なんか…広いと落ち着かなくて…」

「まあ無駄に広いのは否定しないがな…」

 

 

だったらキッチンにでも行けばよかったじゃねーかよ。

 

 

「あの…そういえば、桜さんって何歳なのかしら?茜やにこが敬語使ってないから勝手に同い年だと思ってたけど」

「言ってなかったか?17だ、あんたらと同い年で間違いない。しかしなんでだ?どうせ年上だろうが敬語使う気ねぇんだろ」

「穂乃果じゃないんだからあなたまで巻き込まないわよ?」

「え?」

「え?」

「認識に齟齬があるようだぞ」

 

 

そりゃ俺と茜のやりとりがタメ口なんだから同い年だろ。どっちかがよほど無礼でない限り。

 

 

あと巻き込むな。

 

 

「でもさっきえりち、「桜くん」って呼んだやん」

「あっ」

「もう何と呼ぼうが気にしねえよ…」

 

 

いい加減気づいた。いちいち意識する方がめんどくせえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが合宿での練習メニューになります!!」

「おー!」

「凄い、こんなにびっしり…」

「びっしりすぎないかい」

 

 

みんな外に出て、園田さんから練習メニューの説明を聞いていた。まあ、今回何故かやたらと練習メニュー作りたがってたから作らせてあげたんだけど。

 

 

ていうか、にこちゃんと高坂さんと星空さんは既に水着で待機中なんだけどそれはいいのかな。

 

 

「って…海は?!」

「…私、ですが?」

「そっちじゃないよ、向こうに見える海だよ」

「そう!海未ちゃんじゃない方の海だよ!海水浴は?!」

 

 

何天然でややこしいボケを発動してるの君は。まさかの高坂さんがツッコミだよ。前代未聞世紀末だよ。世紀末モード突入だよ。

 

 

「ああ…それならほら!」

「え、遠泳10km?!」

「その後ランニング10km…?!」

「死ぬだろ」

「死ぬね」

「余裕だろ」

「君は黙ってなさい」

 

 

なんか凄まじい練習内容が書いてある。僕じゃなくても死ぬじゃん?創一郎は黙ってなさい、君は人間の領域にいないから。

 

 

「最近、基礎体力をつける練習が減っています。せっかくの合宿ですし、ここでみっちりやっておいた方がいいかと!!」

「みっちり?」

「みっちりっつーか拷問の域なんだがな」

「それは重要だけど、みんな持つかしら…」

 

 

平常運転ならまとも側の園田さんがなんか変な方向に振り切ってる。どうするのさこれ。絢瀬さんまで困惑してるよ。

 

 

「大丈夫です!!アツいハートがあればッ!!」

「馬鹿なの?」

「馬鹿だろ」

 

 

この子こんな熱血だっけ。

 

 

「ちょっと茜、なんで海未に作らせたのよ!!」

「いやぁ、やたらやる気だったもんだから…」

 

 

にこちゃんに怒られた。しょぼん。でもこんなの予測できなくない?無理じゃない?誰が遠泳ランニング10kmしようなんて言うと思うの。デュアスロンなの?

 

 

「こうなったら…凛ちゃん!!」

「わかったにゃ!!」

 

 

ここで星空さんが何か仕掛けるつもりらしい。おもむろに園田さんの腕を引っ張り、

 

 

「あー!海未ちゃんあそこ!!」

「えっなんですか?!」

 

 

何その低レベル視線誘導。

 

 

「今だっ!!」

「いっけー!!」

「うわーお!!」

「ああっあなた達ちょっと!!」

 

 

効くのかよ。

 

 

にこちゃん、高坂さん、星空さんは言わずもがな、南さんも割と元気に飛び出し、小泉さんは星空さんに連行された。元気かよ。

 

 

「まぁ…仕方ないわね」

「え…いいんですか、絵里先輩…あっ」

「禁止って言ったでしょ?」

「…すみません」

「μ'sはこれまで部活の側面も強かったから、こんな風に遊んで先輩後輩の垣根を取るのも重要なことよ」

 

 

相変わらず敬語が取れない園田さん。絢瀬さんはこう言ってるけど僕は先輩だからね。先輩でいくからね。誰がなんと言おうとにこちゃん以外は名前で呼ばない。

 

 

「おーい!海未ちゃーん、絵里ちゃーん!」

 

 

遠くから小泉さんが呼んでいる。あちらも頑張って敬語つけないようにしているようだ、「ちゃん」の前に一瞬間があった。

 

 

「創ちゃんも早く来るにゃー!」

「創一郎も呼ぶのかい」

「…」

 

 

創一郎も星空さんに呼ばれてた。こっちはまるで抵抗なく呼んでいる。逆にすごい。

 

 

で、当の創一郎は黙って上を見上げてなんか呟いている。背が高すぎて表情はわかんない。だが、3回くらい呼ばれたあたりでバッ!!と勢いよく前を向き、

 

 

「千載一遇の…海ッ!!!」

「いや千載一遇ってことはなあっ?!」

 

 

ズバンッ!という音を残して海に向かって走り出した。

 

 

おかげでツッコミ入れようとして風圧で遮られた。かっこ悪い。

 

 

「…なんなの」

「今後海に来る機会なんて無いかもしれないってことだろ」

 

 

たとえそうだとしても、砂浜を抉る勢いで突入することはないと思うんだ。っていうか下に履いてたズボンは水着だったのか。それとも水着じゃないけど突入したのか。後者な気がする。

 

 

「仕方ない…僕らも行くか」

「お前泳げねーだろうが」

「泳がないけど近くには行くんだよ。にこちゃん今水着なんだぞ」

「そーかいそーかい。俺は引きこもる」

 

 

にこちゃんの水着を見逃す手はない。大丈夫、ビデオカメラも持ってきたしパラソルがあるのも確認済み。戯れるみんなの映像をPVに挿入するのもありかもしれない。

 

 

「…?」

「どしたの」

 

 

即刻室内にとんぼ返りしようとしていた桜が玄関前で立ち往生している。ドアノブをガチャガチャしているっぽい。

 

 

「…いつの間にか鍵を…?」

「残念だったね」

「冗談じゃねえ…裏口とかねえのかよ…っ?!」

 

 

すこぶる不機嫌顔で侵入手段を探す桜の左腕を、誰がガッ!と掴んだ。桜は咄嗟に上着の内側に手を突っ込んで振り向いたが、そこにいたのは水着姿の高坂さん。既に海にダイブしたらしく全身濡れているがその顔はもう、超笑顔だ。

 

 

「桜さんも早く!!」

「いや俺は音楽監督として呼ばれたわけであってお前らの交流には一切関係な…」

「行きましょう!!」

「おい話聞けよ!!頼むから!!水着なんて持ってきてるわけねーだろ!!」

「じゃあ砂のお城作りましょう!」

「冗談じゃねえ…!!」

 

 

桜も高坂さんの謎パワーに引きずられて海に連れていかれた。頑張って高坂さんから目をそらす桜はなかなか新鮮だった。

 

 

さて、僕も行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

海の中ではμ'sの面々が水鉄砲戦争をしていた。東條さんだけやたら武器がでかい気がするんですけど。

 

 

まあいいや、これはこれで撮っておく。絵としてはベタだけど、使い所も多そうだし。

 

 

とか思ってあちこち撮ってたんだけど。

 

 

ザッバァーン!!と。

 

 

急に何かが沖の方から飛び上がった。

 

 

「わああ?!なっ何?!」

「クジラ?!」

「こんな近海にクジラがいるわけないでしょう!!」

 

 

うん、園田さんの言う通り鯨ではないと思う。鯨にしては小さいし。

 

 

そのままこっちに飛んできてズドンと着地したのは創一郎。やっぱり君か。何してんの。

 

 

「楽っっっっっっっっしい!!!!!」

「何がだい」

 

 

目がキラキラしてらっしゃった。何があったの。水中から飛び出すのがそんなに楽しかったの。てかタンクトップ脱ぎなさいよ。ベタベタになるよ?

 

 

「創ちゃんが見たことないくらい輝いてるにゃ」

「子供みたいだね…」

 

 

もはや軽く引いちゃってる星空さんと小泉さん。まったくだよ。めっちゃ楽しそうじゃん。

 

 

「よーっし!私も潜るぞー!」

「いいだろうッ!勝負だッ!!」

「負けないよ!!」

「勝てるわけねーだろ」

「無理だよね」

 

 

さらにテンション上げてく高坂さんと、ノリノリな創一郎。流石に創一郎に勝てる競技なんてないと思うけど。

 

 

呆れているうちにザブンと潜る高坂さん、砂浜からひとっ飛びで沖に飛び込む創一郎。何故か便乗して潜る星空さん。いや星空さんもかよ。さっき引いてたじゃん。

 

 

「あっちは拉致があかないからパラソル組撮ろう」

「西木野は水着な割には泳がねーのか」

「何よ、悪い?」

 

 

一旦創一郎たちはほっといて移動すると、少し離れたところで西木野さんがパラソルの下で椅子に座って本を読んでた。サングラスも相まってなんかセレブな感じだ。てか泳がないのね。

 

 

「別に絶対泳がなきゃいけないわけじゃないでしょ?」

「まあそうだけど、だったら何で水着着たのさ」

「べっ、別にいいじゃない!」

「いやいいんだけどさ」

「まさか泳げねーんじゃねーだろうな」

「そんなわけないじゃない!!」

 

 

この子もいじると楽しいよね。

 

 

「まあ好きにさせてあげなよ。映像は撮れたし」

「何で撮ってるのよ!」

「PVに使えると思ったからだけど…」

 

 

急に文句言われても困っちゃう。ていうかPVのためにビデオ撮るよって言わなかったっけ。言わなかったかも。まあいいや。

 

 

ぷんすこしている西木野さんが読書に戻ったところで、にこちゃんが謎のモンローウォークをしながらこっち来た。あれだろう、西木野さんを見てセレブしたくなったんだろう。それは構わないけど、「私を撮りなさいよ」的な視線向けないでよ。言われなくても撮るよ。超撮るよ。

 

 

「隣…いいかしらぁ?」

「…いいけど」

「失礼」

 

 

なんかよくわからないタメを入れた言い方で話すにこちゃんが西木野さんの隣の椅子に座る…寝転ぶ?あの椅子って座ってるのか寝てるのかわかんないよね。プールとかでよく見る平べったい椅子。

 

 

「…矢澤、なんだその気持ち悪い言い方」

「気持ち悪いって何よ!」

「可愛いよにこちゃん」

「茜は息をするように可愛いって言うな!!」

 

 

だってにこちゃん可愛いもん。決して気持ち悪くないよ。ないよ?

 

 

「うるさい…」

「だから遊んでこいよ」

「泳げないんじゃないの?」

「泳げるわよ!」

「みんなと楽しく遊べるか自信ないんだよ、察してあげなよ桜」

「ちっ違うわよ!」

「察しやすい女しか知り合いにいなくてな」

「穂乃果はわかりやすいわよねぇ」

「聞きなさいよっ!!」

 

 

急に周りが騒がしくなって苦言を呈する西木野さん。そこからみんなにいじられる西木野さん。かわいそうに。いや僕も主犯だわ。

 

 

「そういえば桜って穂乃果のブッ?!」

「ごめーん、にこちゃーん!」

 

 

にこちゃんが桜になんか言おうとしたら、当の高坂さんからのバレーボールシュートが顔面にクリーンヒットした。ああっにこちゃんのお顔が。

 

 

てかいつの間にビーチバレーに切り替わってたの。創一郎はどうしたの。居たわ、すっごい沖を泳いでる。どこまで行くんだよ。

 

 

「もっと遠くでやりなさいよ!」

「にこちゃんもやろうよ!」

「そんな子供の遊びやるわけないでしょ!」

「あんなこと言ってほんとは苦手なんだにゃ」

「ぬぁんですって?!見てなさい、ラブにこアタックをお見舞いしてやるわ!!」

「ちょろいよにこちゃん」

 

 

星空さんのやっすい挑発に乗って駆け出すにこちゃん。ちょろいね。すこぶるちょろいね。

 

 

「桜さんも!」

「行かねえよ引っ張んな」

「水の中じゃないから水着じゃなくても大丈夫ですよ!!」

「そういう問題じゃねえんだよいててて力強いなお前?!」

 

 

桜も連れて行かれた。高坂さん恐るべし。

 

 

 

 

 

 

 

…目の前で桜が瀕死になってる。

 

 

「…あっ、あンの馬鹿野郎…、年中引きこもって作曲してるようなやつが!毎日ダンスの練習してるような奴らと!同等に運動できるわけねーだろ!!」

「どんまい」

 

 

高坂さんと組んでにこちゃんと星空さんチームと対戦していた桜だったが、砂浜に足を取られて転んだり顔面セーブしたりで散々だった模様。すぐに体力を使い果たして今に至る。

 

 

ちなみにビーチバレーは、桜のあとに創一郎が参戦し、バレーボールを粉砕してしまったことで終了した。意味がわからない。そして今はスイカ割りの準備中。創一郎は波打ち際でしょげてる。彼意外と繊細だね。

 

 

「スイカ割りならできるんじゃないの。得意分野でしょ」

「俺がいつそんなこと言ったんだよ…」

「キャベツの千切りとか得意じゃん」

「それならせめてスイカ「切り」のときに呼んでくれ」

「何その物騒な競技」

 

 

怖い競技を思いつくんじゃないよサイコパスめ。

 

 

「茜!準備できたから撮りなさい!」

「らじゃー」

 

 

にこちゃんから号令が来たので早速ビデオカメラを構えて撮影開始、桜は置いて行く。強く生きろ。

 

 

トップバッターは小泉さんだ。周りの指示に従って慎重に動いていく。わたわたしてるから撮ってて面白い。「誰か助けてぇー」って言ってるけどみんな助けてるからね。大丈夫、世界は優しい。

 

 

たっぷり時間をかけてかなりいい位置に移動した小泉さん。あとは上手く振り降ろせればばっちり当たるだろう。割れるかどうかは知らない。

 

 

で、小泉さんが大きく振りかぶって振り下ろす瞬間。

 

 

にこちゃんが華麗な動きでスイカを掻っ攫っていった。

 

 

結果見事に空振り。

 

 

「…いやにこちゃん何してんの」

「ふふん、甘いわね!」

「ドヤ顔するところじゃないよね」

 

 

映像的には面白いから許すけど。許すけど遊び的にはどうなのそれ。

 

 

「にこちゃん何するの!」

「ふーん!横槍が入らないと思う方が悪いのよ!」

「普通入らねーよ」

「危ないよ」

 

 

狙い外れてにこちゃんに当たったらどうすんの。死んじゃうよ。小泉さんは残念そうにするんじゃなくて怒っていいからね。

 

 

「次は誰がやるー?」

「切り替え早くない?」

「そりゃ穂乃果だしな」

「どゆこと」

 

 

早速次弾装填済みの高坂さん。皆様別に違和感はないらしい。適応早くないかい。いや何だかんだで何ヶ月も一緒なのか。

 

 

「それなら創ちゃん呼んでくるにゃ」

「それは色々大丈夫かい」

「大丈夫!スイカなら割るものだし!」

「粉々になりそうなんだよなあ」

「バレーボールも相当力入れないと破裂なんてしないものねぇ」

 

 

星空さんはさっさと創一郎を呼びに行ってしまったが、僕と絢瀬さんは不安一色だ。砂浜に真っ赤な花が咲きましたとか嫌だよ僕。真っ赤って言ってもスイカの中身だけどさ。血じゃないよ?

 

 

遠巻きに様子を見ていると、星空さんは高速ダッシュで創一郎に飛びつき、背中に抱きついたり腕にしがみついたりと好き勝手していた。あの子自分が女の子だってわかってないんじゃないかな。

 

 

当の創一郎本人は大いに動揺している様子で、捕まえようとするもどこを掴めばいいかわからないといった具合にわたわたしていたが、しばらくして星空さんの頭を引っ掴んで海に向かって放り投げた。マジか。しかしそのまま座ろうとした創一郎に向かって星空さんが水中から奇襲、あろうことか顔面に飛びついた。それはいけない。色々いけない。

 

 

『わかった!行く!行くからそこを退けええええええええ!!!!!!』

『にゃぁぁぁぁああああああ?!?!」

「ぬおお?!」

「マジか」

「茜こっち!」

「ぐえ」

 

 

遠くから遠雷の如き大声が飛んできて、同時に星空さんも飛んで来た。当たるやん。死を覚悟したらにこちゃんに首を引っ張られて命は救われた。にこちゃん大好き。桜は自力で緊急回避した。

 

 

投げられたらしい星空さんは自力で見事に着地。すごいな。猫かよ。

 

 

「何するにゃ!!」

「それはこっちの台詞だッ!!!」

「男性陣としてはちょっと星空さんは擁護できない」

「園田か東條あたり教育してやってくれ」

「えー?!ちゃんと創ちゃん呼んできたのにー!!」

「論点が違う」

 

 

頼むから女の子だと自覚して。

 

 

園田さん、東條さん、小泉さんに星空さんを連行してもらって、創一郎には目隠しをし、スイカをセット。

 

 

「準備できたわよ!」

「創ちゃん頑張れー!」

「創ちゃーん!」

「創ちゃんやめろ」

 

 

あちこちから「創ちゃん」と呼ばれる創一郎。全員が呼んでるわけじゃないけど、別に気に入ったわけじゃないらしい。いや違うこれ恥ずかしいだけだ。顔赤い。

 

 

「あと指示はいらない」

「へ?」

「自力で見つける」

「何いってんの」

「私に聞かないでよ」

 

 

創一郎がなんか言い始めた。自力で見つけるって何。目は見えないでしょ。

 

 

そのまましばらく棒立ちのままだった創一郎は、数分後に突如スイカに向かって一歩で踏み込み、手に持つ棒をスイカに一閃。何故か見事に真っ二つに割れた。何。どういうこと。スイカまで数mはあったと思うんだけど。縮地?君縮地できるの?

 

 

「わぁ〜!!すごい!!」

「本当に指示なしで割っちゃった…」

「しかも綺麗に真っ二つです…」

「逆にリアクションに困るんだけども」

「バケモンかあいつ」

 

 

バケモンだね。まっきーと合わせたら万能超人が生まれるわ。

 

 

丁度そこで戻ってきた星空さん説教組はみんな揃って顔赤くしてた。何を話したの君たち。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございました。

巻き込まれ大魔王の水橋桜君は今日も絶好調です。でも今回は滞嶺君の方が被害は大きいかもしれません。だいたい凛ちゃんのせい。
あと勝手に別荘広くしました。流石にフルオケが入る家とか無いですね。無いですよね?

あと、私今日のAqoursの大阪ライブに行ってまいります。初ですよライブ行けるの!!うわぁ!!最高!!



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男も料理ができる時代ですから



ご覧いただきありがとうございます。

Aqoursの3rdライブ大阪公演に行ってきました。もう…あれですよ。あれ。最高でした。語彙力が追いつきません!!死にそうになりました!!感動で!!
さらにお気に入りも増えてついに20人です!!寿命が200年に到達しました!!ありがとうございます!これからも頑張ります!!

というわけで、どうぞご覧ください。



 

 

 

 

「買い出し?」

「なんかスーパーが結構遠いらしくて」

「まあぱっと見何もなかったもんね」

 

 

遊び終わっていい感じの時間になったから晩飯にする…というところだったが、どうやら食材はないらしい。そりゃそうか、痛むか。総計12人分の食材運ぶとなると、まさに俺の出番だろう。

 

 

「別に私1人で行ってくるからいいわよ」

「え?真姫ちゃんが?」

「私以外お店の場所わからないでしょ?」

 

 

確かに場所は知らんが、1人で行くこともないだろう。どうやって運ぶ気だ。

 

 

「じゃあうちもお供する!」

「え?」

「俺も行かせてもらおう」

「創一郎も?」

「荷物持ちとしては最大戦力だろう。遠慮はいらん、何でも持つ」

「本当になんでも持てそうだから怖いよね」

 

 

乗用車くらいなら持てるから強ち間違いではないな。

 

 

「そうそう、創ちゃんに持ち物は任せられるし。それにたまにはいいやろ?こういう組み合わせも」

「創ちゃんはやめろ」

「い〜や☆」

「誰かなんとかしろ」

「頑張れ創ちゃん!」

「創ちゃんファイトだよ!!」

「やめろっつってんだよ」

 

 

創ちゃんは本気で恥ずかしいからマジでやめろ。

 

 

 

 

 

 

 

「お〜、綺麗な夕日やね!」

「素晴らしいな、これほどの景色が見られるとは」

 

 

時刻は夕刻、丁度夕日が海に沈もうとしているところだった。一切の遮蔽がなく、ダイレクトに夕日が臨める。こういう立地も加味して別荘建てたのだろうがな。

 

 

「…どういうつもり?」

 

 

さっきまで黙っていた真姫がようやく口を開いた。視線の先には希。何故わざわざ付いてきたのか、ということだろう。実際、荷物持ちならそれこそ俺がいれば事足りるのだ。

 

 

「…別に?真姫ちゃんは面倒なタイプだなーって。ほんとはみんなと仲良くしたいのに、なかなか素直になれない」

「…私はふつうにしてるだけで、」

「そうそう。そうやって素直になれないのよね」

 

 

面倒とストレートに言うあたり流石は希。こういった言論は希に任せてしまおう。口を挟む隙がない。つーかなんか違和感あったが何だ?

 

 

「っていうかどうして私に絡むの?!」

「んー…ほっとけないのよ。知ってるから、あなたに似たタイプ」

 

 

ああ、そうか。

 

 

()()()西()()()()()()()()

 

 

素で関西弁なのかと思っていたが、本当は関西圏出身じゃないのだろうか?とにかく、今まで関西弁のおちゃらけたイメージがあったせいか、標準語で話すとひどく真剣に聞こえる。実際真剣なんだろう。

 

 

「まっ、たまには無茶してみるのもいいと思うよ?合宿やしっ!」

 

 

と思ったらまた関西弁に戻り、さっさと先に行ってしまった。なんだったんだよ。

 

 

「…何なのよ、もう」

 

 

同感だ。

 

 

って希がいなくなったら俺がフォローしなきゃならねぇじゃねぇか。そういうのは茜に任せたいんだが。

 

 

…しかしほっとくわけにもいかねえな。やるだけやるか。

 

 

「…俺も何が何だかわからねぇけどよ」

「?」

「まあ…多分、みんないいヤツだって言いたいんじゃねぇのか」

「…」

「…」

「…要約しすぎじゃない?」

「うるせえ」

 

 

ダメだ。女子を励ますとか無理が過ぎる。希何とかしろ。つーか道わかんねぇんじゃなかったのかよ。

 

 

 

 

 

 

 

さて、買い出し組も帰ってきたし、お料理の時間だね。

 

 

「さて、始めようか」

「任せなさい」

「準備万端だぜ」

「万端にして万全だ」

 

 

メンバーは男性陣+にこちゃん。全員料理が得意なメンツである。男連中がみんな料理できるってなかなか面白いね。

 

 

「大人数にはカレーだろ」

「妥当だね」

「具はじゃがいも、人参、玉ねぎ、ほうれん草に何と牛肉だ」

「何でわざわざ牛肉買ってきたんだよ」

「真姫が勝手に買った」

「ブルジョワならではの思考だね」

「いいじゃない、何肉だろうと美味しく作るわよ」

 

 

まさかのビーフカレーだった。豪華だね。腕がなるね。

 

 

「俺と矢澤で材料を切る。煮るのは人数のせいで力もいるだろうから滞嶺」

「僕は」

「下処理とサラダ」

「何か地味なんだけど」

「適材適所だ」

 

 

絶望的に影薄くないか僕。

 

 

「そうだ、隠し味のハチミツとトマトは買ってきたよね」

「勿論だ」

「チーズがあるといいと思うが」

「無論用意してある」

「何であるのよ」

「隠し味は家庭の基本だろうが」

 

 

バッチリ隠し味も用意してくれたようだ。これなら安心。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「おおー!!」」」」」」」」

 

 

歓声が上がった。まあまあ上手くできたと思うよ。みんな手際がよかったからね。

 

 

「花陽、白米だ」

「わあ…!ありがとう!」

「…何で花陽だけお茶碗にご飯なの?」

「気にしないでください!」

「そういう人種もいる」

 

 

小泉さんだけ白米別盛りになってた。しかも山盛り。いくら白米好きだっていってもそんなに食べれるのかい。

 

 

「創ちゃんも凄いことになってるにゃ」

「鍋が空いてたからな」

「鍋は食器じゃねーんだぞ」

「食器みたいなもんだろ」

「そんなわけないじゃない…」

 

 

創一郎は鍋にご飯とカレーを注いでいた。何人分あるのそれ。自分の体重の何割なの。

 

 

「にこちゃん料理上手だったんだね!」

「ふっふーん!」

 

 

そりゃほぼ毎日ご飯作ってるからね。

 

 

「あれ?でも昼に料理したことないって言ってなかった?」

「言ってたわよ。いつも料理人が作ってくれるって」

 

 

ん?

 

 

にこちゃんが知らないうちに見栄張ってる。

 

 

「やあん、にここんなに重いもの持てな〜い」

「い、いくらなんでもそれは無理があり過ぎる気が…」

「僕でも持てるわ」

「それは胸を張って主張することかしら」

「でも可愛いから許す」

「ちょろいね」

 

 

にこちゃんが急にスプーン重いとか言い出した。流石にそれはやばいよ。でも可愛いのでよし。

 

 

「これからのアイドルは料理の一つや二つできないと生き残れないのよ!!」

「開き直った?!」

「にこちゃんは僕が養うんだから料理できなくてもいいじゃん」

「ふんっ」

「んぐぇ」

 

 

スプーンが飛んできた。痛いよ。金属はまずいよ。あと食器を武器にするのもどうかと思うよ。

 

 

「いつも通りだなこいつは」

「いつも通りなんですね…」

「逆に安心したわ」

 

 

どういうことよ。てか助けてよ。スプーンがおでこにクリティカルヒットだよ。痛いよ。

 

 

 

 

 

 

 

「はー、食べた食べた!」

「穂乃果…食べてすぐ横になると牛になりますよ」

「もー、海未ちゃんお母さんみたいなこと言わないでよ!」

「牛になるとは言わねえが、デブるのは間違いねーな」

「えっデブ?!?!」

 

 

早速だらけ始めた高坂さんに桜の痛恨の一撃が決まった。勢いよく飛び起きた。でも女の子に向かってデブはダメじゃないかい。未来形だとしても。

 

 

「よーし、じゃあ花火をするにゃ!」

「その前にご飯の後片付けをしなきゃダメだよ」

 

 

早速遊びに行く気満々の星空さん。ご飯前まで散々遊んだじゃん。

 

 

「あ、それなら私がやっとくから、行ってきていいよ!」

「南、流石にそれはよくねーんじゃねーか」

「そうよ、そういう不公平はよくないわ。みんなも自分の食器は自分で片付けて」

 

 

そりゃそうだわね。

 

 

「それより、花火より練習です!」

 

 

それはそうじゃないね。

 

 

ご飯食べた後運動するとお腹痛くなるんだよ。知らないの園田さん。

 

 

「えぇっこれから?」

「当たり前です。昼間あれだけ遊んでしまったんですから…」

「でもそんな空気じゃないっていうか…」

「とりあえず穂乃果をご覧あれ」

「雪穂ー!お茶ー!」

「家ですか!」

 

 

高坂さんは完全に脱力モードである。机に伏してだらーっと。だいたい妹ちゃんは今その場にいないんだけどね。呼んでも来ないからね。

 

 

「じゃあ、これ片付けたら私は寝るわね」

「えー?!真姫ちゃんも一緒にやろうよ花火!」

「いえ、それよりも練習です!」

「どんだけ練習したいんだよ」

「やる気に満ちてるね」

 

 

ほんとにこの子たちフリーダムだな。

 

 

「そうにゃ。今日はみんなで花火やろ!」

「そういうわけにはいきません!」

「かよちんはどうしたい?!」

「え、えっと…私はお風呂に…」

「第三の意見出してどうするのよ」

「じゃあ僕はにこちゃんを愛でる」

「ていっ」

「んげっ」

「収拾つかねーにも程があるだろ」

 

 

白熱する議論に投下される新提案。便乗してもう一個提案したらにこちゃんの右ストレートが決まった。痛いよにこちゃん。

 

 

「じゃあ、もう今日はみんな寝よっか」

「それがいいだろう。初日から疲労を残すのは愚策だな」

「うんうん、いっぱい遊んだしね。練習は明日の早朝、花火は明日の夜にすることにして」

「そっかあ!それでもいいにゃ!」

「確かに、その方が効率がいいかもしれませんね」

「おい、ナチュラルに俺も早起きを強いられてねーか」

「そりゃそうでしょ」

 

 

まとめてくれてのは東條さん。流石だね。ほぼ異論のない結論にたどり着いた。ほぼね。桜意外と早起き苦手だもんなあ。

 

 

「じゃあ決定やね」

「俺の都合は非考慮かよ」

「仕方ないよ、彼女らの合宿だし。それより食器片付けたらお風呂だけど、どうするの?僕ら先?」

「そうね…私たちは長くなるだろうし、男性に先入ってもらおうかしら」

「おーけー。じゃあ全員出たら呼ぶから、今後の予定でも細かく決めておきな」

 

 

そんなわけでレッツお風呂。まあそんなに時間かけないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん…無駄に大きいねぇ」

「大衆浴場かよ」

「…」

「何でそんな嬉しそうなの創一郎」

 

 

早速3人でお風呂に来たら、それはもうびっくりするほど大きい。旅館だよねもはや。露天風呂もあるのあれ。何がどうなったら個人宅に露天風呂ができるの。あと何で創一郎はそんなにやけてんの。大きいお風呂は初めてか。

 

 

「まあいっか、大きいぶんには困らないし」

「シャワーの数が大きさに見合ってねーんだよな…」

「でも3人分はあるんだから、創一郎はわざわざ湯船のお湯使わなくてもいいんだよ」

「節水だ」

「この設備見て節水の必要があると思うかい」

「…確かに」

 

 

シャワー自体は数台しかないけど、ちゃんと数足りるよ。創一郎は癖か。いつもの癖なのか。

 

 

というわけで並んで座る3人。僕が真ん中、右が桜、左が創一郎。僕が1番小さいから2人が洗った水の流れ弾が飛んでくるのは納得いかない。

 

 

「滞嶺、お前古傷が凄いことになってんな」

「ほんとだねえ」

 

 

腕も若干傷跡があるのは知ってたけど、背中とか胸とかお腹は特に多い。歴戦の戦士みたいなことになってる。恐ろしいわー。

 

 

「力入れると痛むんだよな、広がって」

「どんだけ筋肉膨張してんだよ」

「やっぱり人間じゃないよね」

 

 

イビルジョーみたいだね。

 

 

「つーか茜もすげぇことになってんじゃねぇか」

「あー、事故被害者だからね」

 

 

創一郎が指したのは僕の胸と背中、陥没して明らかに繋ぎなおしたようなケロイド状の痕。事故で怪我した部分だ。

 

 

そういえばにこちゃん以外の人に見せたことなかったな。

 

 

「それで体力ねぇのか」

「いや体力ないのは元からなんだけどさ」

「元からかよ」

「でもはるかに悪化したのは否定できないね」

 

 

そりゃ肺持ってかれたからね。

 

 

「桜は綺麗なもんだねえ」

「普通はこうなんだよ」

「白すぎるな」

「引きこもりなんだからしゃーねーだろ」

「引きこもりなのか」

「外に出る用事がねーんだよ」

 

 

桜は目立った外傷はない。外傷がない方がマイナーってひどいメンツだ。

 

 

身体や頭を洗い終わって湯船にみんなで入る。湯船っていっても温泉並みだからすごく無駄使い感ある。創一郎ですら余裕だ。ほんとに誰を呼ぶための施設なんだ。

 

 

「あ〜いい湯」

「おっさんかよ」

「広い…!」

「滞嶺ははしゃぐなガキか」

 

 

くつろぐ僕とはしゃぐ創一郎。ツッコミは桜。桜のストレスがマッハだね。どんまい。僕は助けない。

 

 

「つーか、結局茜はμ'sのやつらを名前で呼ばねーのかよ」

「だからにこちゃんしか呼ばないんだって」

「極端だな」

「僕はにこちゃんのために生きてるんだもん」

「矢澤が死んだらどーすんだよ」

「死ぬね」

「潔すぎだろ」

 

 

そりゃにこちゃんのために生きてるから。にこちゃんがいなかったら生きていけない。なんて儚い。

 

 

 

 

あれ、創一郎どこだ。

 

 

 

 

「…おい、滞嶺はどこ行ったんだ?」

「僕も思ったところだよ。露天風呂かな」

「外出て行くの見たか?」

「わかんない」

 

 

そんなこと気にしてないし。

 

 

と思ってたら、近くの水面が爆発した。

 

 

「っっっっっはあッ!!!」

「ぶわっ?!何してんだお前は!!」

「潜っていた」

「風呂で潜るな!!」

「全身温めるためには潜るしかないだろ」

「くっそバカしかいねーな…!!茜…くそっ茜どこ行った!!」

「へい」

「何でそんな遠くいるんだ!逃げんな!!」

「流されたんだよ」

 

 

爆発したというか、創一郎が急浮上してきた。衝撃で流された。溺れたらどうすんのさ。あれで僕は溺れるよ。溺れなくてよかった。

 

 

「ったく…!風呂ぐらい静かに入れよ…」

 

 

自分の懐をわさわさしながらぶつくさ文句を言う桜。僕悪くないじゃん。被害者じゃん。てか何やってんの。

 

 

「何自分の脇腹をわさわさしてんだ」

「あーうっせぇ、癖だ!今服着てねーんだったな畜生…」

 

 

どういう癖だよ。でもそういえば高坂さんに急に腕掴まれたときも上着の内側に手を突っ込んでたな。飴でも入ってんのかな。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございました。

枕投げかと思った?残念!次回でした!!
次回は枕投げます。
家庭的お料理男子、相変わらずテンションの高い滞嶺君、相変わらず巻き込まれ大魔王の水橋君。すっかりネタ勢に成り下がってきてます。誰のせいでしょう(すっとぼけ)



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実は男女混合で雑魚寝しても何事も起きない



ご覧いただきありがとうございます。

なんとなんと、また☆10評価をいただきました!お気に入りも増えました!!寿命が爆上がりです!!いつも感想を下さる方もいてもう私頑張りますの極みです!!今なら雷に打たれても無傷でいられる!!!気がする!!!(うるさい)

今回はお待ちかね、枕投げ回です。前座を挟みますが。R18な出来事は起きないってタイトルでネタバレしてますがね!!!

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

 

風呂から上がって、穂乃果たちと入れ替わりでリビングに戻ってきたら、なぜか布団が敷いてあった。

 

 

しかも12人分。

 

 

「バカじゃねーのか」

「馬鹿だろ」

「ストレートすぎるよ」

 

 

いやバカだろ。何で一緒に寝る気満々な感じになってんだよ。寝るわけねーだろ、二階に腐るほど部屋あるだろ。

 

 

今のうちに片付けるか。

 

 

「滞嶺、やるぞ」

「おう」

「頑張れー」

 

 

というわけで即撤去。茜はどうせ布団など持てないから待機。

 

 

「片付けたらさっさと上階に行って閉じこもるか…」

「サーチしてきそうだけどね」

「休まる場所がねぇな」

「何の罰ゲームだ?」

 

 

女の子の隣で寝させられるとかご褒美じゃねーからな。むしろ苦行なんだよ。奴らが何を考えてんのかはわからんが、親睦を深める要因にはならん。無理がある。

 

 

というわけでさっさと二階に向かう俺たち。せっかくだから一人一部屋使うことにした。せっかく部屋あるんだからな。

 

 

適当な部屋に入ったら、何故かピアノが置いてあった。…リビングにもあったよな?何台あるんだ。

 

 

せっかくだからちょっと触ってみる。流石にしばらく使ってないからか調律は合っていないようなので勝手に少しいじる。本当は弾く曲によって調律は変えたいんだが、流石に面倒だからやらない。

 

 

何を弾こうか若干考えたが、月もよく見える綺麗な夜空だしゆったりした曲を即興で弾くことにしよう。なんかのヒントになるかもしれないからこういう時に録音は欠かさない。スマホを脇の机に置いて、静かに弾き始める。

 

 

しばらく適当な曲を弾いていたが、せっかくμ'sもいることだしあいつらをイメージした曲にしようかと考える。どんなイメージかと言われると困るが、まあ和気藹々としている感じなら何だっていいだろう。その上でゆったりした曲となると難しいが…なんとかなるか。

 

 

歌詞はないので鼻歌だ。当たり前だそんな速攻で歌詞を思いつけるか。曲を作るのは早いが歌詞は別物だ。だからμ's2年生には歌詞を持ってくるように言ったんだ。そういえばあれから誰も持ってこないんだがいいのだろうか。いや期待しているわけじゃねーが、

 

 

 

 

『あれ?ピアノの音がするよ?』

『本当ですね。一体どこから…』

 

 

 

 

速攻でピアノから離れた。

 

 

なんだ意外と風呂時間かからねーな?!と思って時計見たら1時間経っていた。1時間もピアノ弾いてたのかよ、なんか恥ずかしいなおい。スマホ置いてたのに時間は確認してなかったな。おっとスマホ忘れるところだった。

 

 

『桜さんかな?茜くんとか創ちゃんがピアノ弾ける気がしないし!』

『茜はピアノ弾けるわよ。それよりわざわざ連れてこなくてもいいじゃないの』

『嫌!桜さんも茜くんも創ちゃんも一緒に寝たい!!』

『せっかくの合宿だもん!!』

 

 

恐ろしい会話が聞こえる。本当にバカじゃねーのか。いや穂乃果はバカだわ。

 

 

『うーん、この部屋にもいないなぁ…』

『もしかしてこっそり帰っちゃったとか…』

 

 

…その手があったか。帰ればよかったな。

 

 

『靴があるのは確認したじゃない。もう…早く寝ましょ、無理に連れてくることもないわ』

 

 

おお、西木野その調子だ。ぜひともさっさと寝てくれ。寝ろ。頼むから寝ろ。

 

 

『この部屋にもいない…』

『聞いてるの?!』

『あー!創ちゃんみっけ!!』

『ほんと?!』

 

 

…、

 

 

今がチャンスか?

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…まさか全部屋探し回ってんじゃねぇだろうな?!」

「ふっふっふ…そのまさかにゃ!!」

「何でそんな自信満々なんだテメェは…!」

 

 

男3人で別々の部屋に入ってから、どこからか聞こえるピアノを聴きながらしばらく筋トレしていたのだが…予想外にも、いや予想通りか。風呂上がりどもが俺たちを探しに来た。咄嗟に隠れたが、隠れるには体がデカすぎるか。奇襲とか性に合わねぇからな、隠れるなんて経験はほとんどない。覚えねぇとな。

 

 

「観念して一緒に寝るにゃ」

「断る」

「えっ」

「…何でそんな半泣きなんだ」

 

 

女と一緒に寝れるわけねぇだろ。しかもお前らスクールアイドルなんだぞ。身を守れ。泣くな。

 

 

「でも、せっかくの合宿だし…もっと仲良くなりたいな」

「私はどっちでもいいけど」

「お前らなぁ…」

 

 

花陽と真姫まで同意してくる。正確には真姫は同意していないが、髪の毛をくるくるしてソワソワしているあたり実は期待しているだろう。ほんとに素直じゃねぇな。

 

 

つか他のメンツはどこ行った。

 

 

「…お前ら、茜ならともかく、俺は誰が抵抗しようが勝ち目がない相手だってのは理解してるか?」

「でも、そうやって注意してくれるってことはそんな気は無いんだよね?」

「…」

 

 

花陽はちゃんと理解した上で「俺なら大丈夫」というわけだ。思わず頭を抱えそうになる。いや事実抱えた。この純粋培養どもめ。

 

 

「だいたい、創ちゃんが犯罪起こしたら弟くん達が生きていけなくなっちゃうにゃ」

「!!!」

 

 

確かに。

 

 

下手を起こしたら、あいつらの生活が余計厳しくなってしまう。

 

 

それはまずい。意地でも理性を保たねばならん。…いや意地になるほど発情しているわけではないが。

 

「さ、わかったら早く行きましょ。眠いわ」

「…真姫もノリノリじゃねぇか」

「のっノリノリじゃないわよ!!」

「創ちゃん、凛の隣で寝るー?」

「馬鹿め、寝返りに潰されるぞ」

「突然のマジレスにゃ」

「ふふっ、創ちゃんもμ'sに馴染んできたね」

「花陽…お前まで創ちゃんと呼ぶのか」

 

 

創ちゃんはやめろと言っている。

 

 

反論材料が無くなってしまった以上、もう反撃はできない。大人しくついていくしか無さそうだ。しかし、こいつらが純粋なのは逆に助かったのかもしれない。変に意識されるよりはこちらも気が楽だ。おそらく。

 

 

つーか凛も何が危ないかちゃんと理解してるっぽかったな。ちゃんと教育してくれたのか…っと、昼に水着でくっつかれたのを思い出してきた。まずいまずい。要らぬ考えは頭を振って吹っ飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ茜、覚悟しなさい!!」

「というわけでにこちゃんだけ貰っていくね」

「あれっ?!」

「自然な流れで攫う側にチェンジしたわね」

「流石やね」

「ちょっ助けなさいよ!!」

 

 

にこちゃん達が部屋を捜索して僕らを捕らえようとしてきた。ので、逆ににこちゃんを捕まえた。やったね。

 

 

「ふふふ、別にみんなで寝るのは一向に構わないんだけど、にこちゃんと2人で寝られるなら断然そっちを推すよ」

「何言ってんのよあんた」

「照れてるね」

「照れてない!!」

 

 

にこちゃん顔赤いよ。相変わらずかわいい。

 

 

僕自身はにこちゃんにしか興味ないのでみんなで寝ようが平気だし、仮に誰かを襲ってしまってもパワー的な問題で誰にも勝てない。わー泣ける。

 

 

「しかしこの場に3年生しかいないのはどういうことだい」

「1年生は創一郎を拉致しに行ったし、2年生は桜さんを追っかけてるわよ」

「なるほど。お悔やみ申し上げなきゃ」

「殺さないであげて?」

 

 

創一郎は多分落とされるだろう。なんだかんだ言ってお人好しだし女の子に弱そうだし。桜は見つかったら負けだな、高坂さん足早いし。桜そんなに運動神経良くないし。昼のビーチバレーでも判明してることだね。

 

 

「そもそも何でみんなで寝ることになったのさ」

「せっかくの合宿だもの。それに元々は先輩後輩の垣根をとるためのものだし、たくさん交流したいのよ」

「僕は関与しないと言ってるのに。というか警戒しなさいよ色んな意味で」

「みーんないい人やから心配いらんよって話になったんよ」

「重い信頼というやつ」

 

 

僕はともかく、桜と創一郎が可哀想だ。

 

 

「いいじゃないの。茜ももっと仲良くしなさいよ」

「仲良くしてるよそれなりに」

「それなりでいいわけないでしょマネージャーなのに」

 

 

それなり以上にどうしろと。

 

 

「とりあえず茜くんは連れて行くのに苦労はしないから楽やね」

「ちなみに抵抗したらどうすんの」

「にこっちがお願いする」

「全面降伏だね」

 

 

にこちゃんにお願いされたら死ねと言われても受け入れるわ。これは勝ち目がないね。

 

 

と、その時。

 

 

『あー!桜さんいた!!』

 

 

桜の死刑宣告が聞こえた。

 

 

がんばれ桜。

 

 

 

 

 

 

やたらでかい別荘に感謝することがあるとすれば、それは逃げるスペースが存分にあることだろう。ああ、普通は感謝するところじゃないのは重々承知だ。

 

 

だが…

 

 

「桜さーーん!!逃がしませんよーーー!!!」

「うるせーバーカこっち来んな!!」

 

 

今は感謝しかない。身体能力だけでは確実に勝てん。遮蔽やスペースを存分に活かして逃げるしかない。見つかっても、距離が開いていればまだ何とかなる。隙をつけば逃げ切れる。

 

 

が、焦ると言動がバカっぽくなるのはちょっと悲しい。

 

 

この建物、何も二階建てではない。まだ上の階があるのだ。1階には他のメンツが集っている可能性もあるため上に逃げるしかない。恐らく追ってきているのは穂乃果だけだし、先で待ち伏せとかもないだろう。個室でやり過ごすという手だってある。そう、手段なら無くはない。

 

 

「うおおおお!!待て待てええええ!!」

「待て待て何であいつはあんなに早いんだ?!」

 

 

…穂乃果がバカみたいに早くなければな。

 

 

なんだあいつは、スプリンターか?

 

 

一瞬視界から外れた隙に部屋に飛び込む。扉の裏に隠れ、穂乃果が飛び込んできた隙に入れ違いで外に出るつもりだ。その場しのぎにしかならんし、2度は使えん手段だが。

 

 

「追い込んだ!!」

「ぶげっ?!」

 

 

…そういう予定だったんだが。

 

 

まさか開いている扉をわざわざ更に押し開くとはな。おかげで壁と扉の間に潰された。くっそ痛え。

 

 

「あれ?桜さんどこだろ」

(まさかのバレてない)

 

 

そこそこの音量の奇声を発してしまったはずなんだが、自身の声のせいなのかバカなのかはわからないがこっちには気づいていない模様。ベッドの下を覗いている間に脱出し、痛みを堪えて足音を立てないように階段を降りる。

 

 

後ろからついてくる音は聞こえない。

 

 

急場は凌いだ。

 

 

「はぁ…あとはどこに潜伏するかだな。何で部屋に鍵ついてねーんだよ…まあホテルじゃねーんだから普通ついてないかもしれんがよ」

「そうやねー、大きいっていっても真姫ちゃん家の別荘やもんね」

「そうだよなー…ってんん?!」

 

 

独り言に返事が来たから普通に返したら、いつの間にやら後ろに東條が控えていた。嘘だろ、いつの間に。ジャパニーズニンジャかよ。

 

 

「…何でいるんだよ。茜を連行してるかと思ってたが」

「茜くんはにこっちに任せればすぐやし?」

「全く妥当だな」

 

 

既に茜の扱い方を会得していた。高性能だなこいつ。

 

 

「じゃあお前は何しに来たんだよ」

「うちは穂乃果ちゃんのお手伝いや」

「勘弁してくれ」

 

 

お前ら俺に何の恨みがあるんだよ。

 

 

「ほら行くでー」

「お断りだ…引っ張んな上着脱げる」

「何で夏でパジャマなのに上着着てるん??」

「俺の勝手だろ」

 

 

いいだろう、別に寝巻きに上着でも。

 

 

「…桜くんのことはうちはよく知らんけど、穂乃果ちゃんが懐いてるし、悪い人じゃないっていうことはμ'sのみんながわかってるよ」

「そういう問題じゃねーんだがな」

「ううん、そういう問題。みんなあなたと仲良くなりたいのよ。たった数日しか関わりがなかったとしても」

 

 

急に標準語になった東條の本気の目線のせいで何も言えなくなってしまった。

 

 

そうまでして俺と仲良くしたいか?変な奴らだな。お前らのマネージャーの友人ってだけだぞ。

 

 

だが…。

 

 

そりゃ俺だって仲良くしたいさ。

 

 

「…はー、めんどくせえ奴らだな」

「桜くんも素直じゃないよね」

「悪かったな」

 

 

自覚はあるさ。

 

 

「あー!桜さんみっけ!」

「かくれんぼしてんじゃねーんだぞ」

 

 

突然上から穂乃果のでかい声が降ってきた。四六時中元気だなこいつ。そのままダダダダッと階段を駆け下りて飛びついてきた。

 

 

「なんっ、何で飛びついてくる?!」

「だって捕まえないと逃げちゃうじゃん!」

「もう逃げねーよ…」

「それより希ちゃんと何してたの?!」

「話してただけだ」

「どうせ希ちゃんのおっぱい見てたんでしょ!!」

「おいコラでかい声でふざけたこと言うんじゃねー誤解を招くだろ」

「や〜ん桜くんのえっち〜」

「ぶっ殺すぞ」

 

 

マジで何なんだお前ら。

 

 

 

 

 

 

 

「結局全員揃うわけね」

「せっかく片付けたのにな」

「諦めが肝心」

 

 

結局全員1階に連行されてしまった。創一郎が片付けた布団はいつの間にやら再召喚されていた。用意いいね。

 

 

桜は上着を脱いでハンガーにかけ、近くのハンガーラックにかけてから戻ってきた。桜が上着を脱ぐとか珍しい。

 

 

「じゃ、寝る場所を決めましょ」

「私ここー!」

「えーっそこはにこでしょ!」

「凛はかよちんのとーなりっ!」

「元気だね」

「今から寝るんだよな?」

 

 

寝る前なのに超元気だ。いや、こういう子に限って寝るときは一瞬なものだ。知ってる。ここあちゃんのおかげで知ってる。にこちゃんもすぐ寝るし。

 

 

「俺らは端っこだからな」

「えっ僕はにこちゃんの隣がいい」

「何なんだよお前は」

「じゃあ創ちゃんも凛の隣に来るにゃ」

「断固端っこだ」

「桜さん!」

「断る」

「まだ何も言ってないのに!!」

 

 

…波乱万丈だ。

 

 

結局男は端っこに寄せられることになった。僕はにこちゃんの隣が良かったのに。ぐすん。

 

 

「それじゃ、電気消すぞ」

「はーい」

 

 

寝たくてしょうがない桜がさっさと電気を消す。一瞬誰かの悲鳴が聞こえた気がするけど…気のせいか。

 

 

まあにこちゃんも隣にいないし、さっさと寝てしまおう。

 

 

……。

 

 

「…ねえ、ことりちゃん」

「…なに?」

「なんだか眠れなくて…」

「そう言ってるといつまで経っても眠れないわよ」

「ごっごめんなさい…」

「何度も言うけど、遊びに来てるわけじゃないのよ。明日はしっかり練習するんだから早く寝なさい」

「はーい」

 

 

寝なさいよ。

 

 

枕変わると寝れない派なの。場所変わると寝れない派なの。てかあんだけ遊んだら疲れるでしょ、早く寝なさいよ。

 

 

…。

 

 

 

 

……なんかパリポリいってる。

 

 

 

 

「え、ちょ、何の音?!」

「私じゃないよ!」

「凛でもないよ!」

「いや暗くてわからないし」

「もう!誰か明かりつけて!!」

「…せめて平和に寝かせて欲しいんだがな…」

 

 

正体不明のパリポリ音にビビってついに再度電気をつけることに。何事なの。っていうか、何だかんだ言いつつ動いてあげる桜はツンデレ属性持ちなのかな?いやー笑うわ。

 

 

そして電気をつけると。

 

 

「………何やってんだ穂乃果」

「いやー、何か食べたら寝れるかなって…」

「アホだろ」

「アホじゃないもん!」

 

 

とりあえず虫歯が心配だね。

 

 

「もーっうるさいわね!」

「にこちゃんそれまたやってたの」

「何よ」

 

 

ついににこちゃんも飛び起きる。しかしその顔には顔パックの上に輪切りのきゅうりという出で立ち。よくやってるけど効果あるのそれ。

 

 

「な、なによそれは」

「美容法だけど?」

「ハラショー…」

「何だその顔面きゅうりおばけ」

「誰がきゅうりおばけよ!」

 

 

うーん、否定できない。きゅうりおばけだわ。可愛いから許す。

 

 

「いいから早く寝るわ…ぶふっ?!」

「異次元からの枕シュート」

「真姫ちゃんなにするのー?」

「えっ何言ってるの?!」

「いや今東條が投げ…うおっ?!」

「いくらうるさいからってそんなことしたらだめ…やん!」

 

 

次々と投擲を繰り返す東條さん。桜の言から、一投目も東條さんなのだろう。二投目は桜の脇腹を擦り、三投目は星空さんがキャッチ。

 

 

「何する…にゃ!!」

「うわっ!…よーし、えい!」

「わっ?!」

「投げ返さないの?」

「あなたね…ぶっ?!」

「うふふ」

「…いいわよ!やってやろうじゃないの!!」

 

 

何このカオス。

 

 

何故か始まった枕投げ大会、すやすや眠っている園田さんと創一郎以外のほとんどが参加していた。僕は掛け布団ガードしてる。桜は逃げてる。にこちゃんは当たってる。にこちゃんマジ不遇。

 

 

「ちょっ、てめーら何してんだ?!寝ろよ!いや寝させてくれ!頼むからよお!!」

「桜さんくらえ!!」

「ぬおお?!」

「隙ありー!」

「ぐあっ!南貴様ぁ…!!」

 

 

まさかの南さんに直撃弾をもらった桜がついに枕を掴んだ。桜って運動できたっけ。できないよね。でもやるのね。

 

 

桜は大きく振りかぶって、

 

 

「ぶっ殺す!!」

「ぐえ」

「しまった」

 

 

すごいノーコン弾がこっち来た。やっぱり桜も運動できないマンだったか。ちくしょうやりおったな。

 

 

「桜覚悟」

「覚悟ってお前、」

「ていっ」

 

 

ぽいっと。

 

 

投げた枕は数十cm先にぽてっと落ちた。

 

 

全力で投げたんだけどなあ。

 

 

「…まあ、そうなるな」

「ぐぬぬ」

 

 

こうなるとは思ったけどさ。

 

 

「…隙あり!」

「ぶへっ?!」

「ああにこちゃん…」

 

 

一瞬僕に気を取られたにこちゃんが真姫ちゃんの直撃弾をもらってた。ああっごめんよにこちゃん、そんな予定じゃなかったの。

 

 

「はっはっは貴様ら全員葬ってやるわ!!」

「うわわっ!」

「桜超ノリノリじゃん」

 

 

桜が超笑顔だ。初めてみた。悪い笑顔だけど。ノーコンだけど。

 

 

…と、そんな感じの枕投げ戦争の途中。

 

 

「……ぶっ」

「あっ」

 

盛り上がってるところに、誰かの流れ弾が眠っている園田さんに直撃した。わお、これは悲劇の予感。

 

 

「……何事ですか…?」

「ひっ!」

 

 

なんか最早魔人のごとくなんか…オーラが出てる。ヤバいんじゃないのこれ。命が。っていうか寝起き悪いね。血圧低いのかな。

 

 

「どういうことですか」

「ちがっ…狙ってやったわけじゃ!」

「そっそうだよ!そんなつもりは全然!」

「…明日は朝から練習すると言いましたよね…?」

「…う、うん」

「それをこんな夜中に…ふふっうふふふ」

「おいおいなんかやべーことになってんぞどーすんだこれ」

「私に言われても!」

「とりあえずその枕をっだああ?!」

「へぶっ!!」

「ああにこちゃん!!」

 

 

魔人モードと化した園田さんの豪速球が桜の後ろにいたにこちゃんにヒットし、にこちゃんが吹っ飛んだ。マジで。何事。どゆこと。にこちゃん大丈夫かな。

 

 

「そもそも何で茜くんと桜さんまで一緒になって遊んでるんですか…?」

「あっああ?いやまあ、止めようとした、流れ?つーの?」

「僕はほぼ何もしてないんだけど」

 

 

こっちまで飛び火するの怖いんですけど。僕あれ食らったら死ぬんじゃない?死ぬね?

 

 

「うふふふふふ、覚悟はできていますよね…?」

「ごめん海未…ぶわっ?!」

「絵里ちゃん?!」

「容赦ねぇ…!」

「悪鬼羅薩だよもう」

 

 

あれはどうしたらいいのさ。

 

 

「と、とりあえず離れなきゃ…うわ!」

 

 

逃げようとした星空さんが何かに躓いて転んだ。迫る園田さん、立ち上がる影。

 

 

 

 

 

 

…立ち上がる影??

 

 

 

 

 

 

「にゃ、にゃにゃにゃ…!」

「おいコラなんてモノ起こしてくれたんだ」

「あーもうめちゃくちゃだよ」

 

 

 

 

 

 

何に躓いたかと問われれば。

 

 

 

 

 

 

それは創一郎であったと。

 

 

そういう話。

 

 

「…」

「あっあのっ」

 

 

全員動きが止まった。悪鬼羅薩モードの園田さんさえ止まった。オーラは消えないけど。でも創一郎のオーラの方がやばい。あれだよ、走馬灯見える感じのやつ。

 

 

「………」

「はっ早く布団に戻ろう!電気消して!!」

「え?!ま、待って急に電気消さないで!!」

 

 

無言で威圧感を放つ創一郎に怯えて逃走を開始する皆様。それで逃げ切れるんだろうか。無理じゃない?

 

 

 

 

 

だってほら。

 

 

 

 

一歩で数mは移動できる男だし。

 

 

 

 

 

ズバンッ!!という凄まじい音。いつのまにか放たれた枕。「ぐぇっ」という微かな悲鳴。倒れ臥すにこちゃん。…何でにこちゃんばっかり。

 

 

「に゛ゃっ」

「きゃっ」

「ぎゃっ」

 

 

星空さん、小泉さん、高坂さんが連続被弾。何だあの超兵器。

 

 

「おっおい?!冗談じゃねーぞこれ?!」

「死ぬわ」

「海未もまだ…あれっいつのまにか撃破されてる?!」

「……これはあかんのやない…??」

 

 

残されし17歳組(にこちゃん除く)+西木野さん。あれ、南さんどこ行った?と思ったら自前の枕を大事に抱えてインザオフトゥンしていた。いやあれは撃破されたやつだ。創一郎がご丁寧に掛け布団かけてるんだ。何こっそり優しさみせてんの?

 

 

「………」

「せめて何か言えよ…!!」

「死ね」

「怖えわ!!」

「もうちょっとなんかなかったの」

 

 

怒り心頭なのだろうか。マジで悪かったって。ほんとに。マジで。

 

 

「っ真姫ちゃん!!」

「え?!あっ希!!」

 

 

西木野さんに向かって放たれた創一郎のスーパーノーモーション枕ショットを東條さんがかろうじて防ぐ…が、吹っ飛んだ。マジかぁ。振りかぶることすらせずにその威力なのおかしくない?

 

 

「希!大丈夫?!」

「…ふふ、名前、自然に呼べるようになったやん?」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

「何急に感動秘話垂れ流してんがっ」

「桜お疲れ」

 

 

何故か今際の際みたいなセリフを流す東條さん、それにツッコミ入れようとして意識を刈り取られた桜。うーん、枕が意識を刈り取る形をしているように見えてきた。怖いわー。

 

 

「さてどーすっかなー…?」

 

 

なんか静かだと思ったら、知らぬ間に西木野さんと絢瀬さんも撃破されていた。うそん。悲鳴すら聞こえなかったんだけど。

 

 

「………」

「あー…うん、おやすみ」

 

 

まあ、避けれないよね。

 

 

死ぬよね。

 

 

わかってる。

 

 

わかってたから、顔には衝撃を受けても驚かなかった。

 

 

正確には驚くも何も意識を持っていかれた。

 

 

 

 

でもなんで顔狙ったし。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

巻き込まれ大魔王水橋氏、今回も無事ノルマ達成。ついに謎のテンションになりました。深夜テンションなのか素なのかどっちなんでしょう。でも楽しそうなので問題ないですね!

そして枕投げ戦争、勝者は滞嶺君。きっとこの後電気消して寝ました。流石です。



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筋肉は嘘つかないとかいう謎理論



ご覧いただきありがとうございます。

前回またお気に入りしてくださった方が増えました!!ありがとうございます!!湿気と低気圧でもりもり元気が奪われますが頑張ります!!!
雨すっごいですが、3rdライブ福岡に行く方々はお気をつけて。私は行けませんので…行きたい…せめてライブビューイング…

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

 

 

起きた。

 

 

「…なんでこんな散らばってんだこいつら」

 

 

起きてみたら、何故か全員不自然な場所で寝ていた。布団がちゃんと掛かっているのが不思議なくらいだ。真姫と希は密着しているし、大概意味がわからん。

 

 

まあいい、早起きしたから飯でも作るか…いや、全員分一人で作るのは流石にキツい。せめて水橋さんと茜が起きてくるまで筋トレでもしていよう。幸い日の出前の涼しい時間帯だし、砂浜で足腰鍛えるのがいいだろう。

 

 

裸足で外へ出て、砂浜を歩く。足に伝わる砂の冷たさ、細かな粒子、夏でも涼しい朝の潮風。こんなところでトレーニングできるなんてそうそう無いだろうし、存分に活用せねばな。

 

 

早速軽くストレッチをしてから、ランニングを始める。砂で足を取られるため意外と負荷がかかる。これはいい。

 

 

しばらく走っていたら私有地の端まで来てしまったため、今度は波打ち際でダッシュ。波が来ると足にかかる抵抗がかなり大きくなるため、かなり足に負担がかかる。最高だ。本当はもっと深く足を沈めたいが、あいにく昨日のように濡れて海水でベタベタになるわけにはいかないから諦める。

 

 

と、走って元の位置に戻ってきたら、いつのまにか希と真姫がいた。

 

 

「何してんだこんな時間に」

「あ、創ちゃんも来たやん」

「創ちゃんはやめろ」

「えー、かわいくていいと思うけどなー」

 

 

いかにも残念といった顔をする希。何が良いんだよ。俺がかわいい必要あるか?真逆だろ。

 

 

「ま、そんなことより。早起きは三文の徳、お日様からたーっぷりパワー貰おうか」

「希の謎パワーの源は太陽なのか?」

「うちのパワーは神様みんなのものやで。それを言うなら、創ちゃんのパワーはどこからくるん?」

「無論筋肉だ」

「…わあ」

「何だよ」

 

 

引かれた。何故だ。筋肉は嘘をつかないとはよく言うだろ。

 

 

「…どういうつもり?」

 

 

真姫が昨日と同じことを聞く。また知らぬ間に希がお節介を仕掛けたのだろう。

 

 

「んー?何のこと?」

「…しらばっくれ、」

「別に真姫ちゃんのためじゃないんよ」

 

 

うむ、何がなんだかわからんから黙って聞いておく。

 

 

「海はいいよねー!見ているだけで大きいと思っていた悩み事が小さく見えてきたりする。創ちゃんですら小さく見える」

 

 

俺の例えいらねぇだろ。あと創ちゃんをやめろ。

 

 

「…ねぇ、真姫ちゃん。うちな、μ'sのメンバーのことが大好きなん。うちはμ'sの誰にも欠けてほしくないの。…たしかにμ'sを作ったのは穂乃果ちゃん達だけど、うちはずっと見てきた。何かあるごとにアドバイスしてきたつもり。それだけ、思い入れがある」

 

 

希がμ'sに対して何してきたかとかは、俺はあまり知らない。俺がマネージャーとして入ったときには既に全員揃っていたからだ。

 

 

だが、今まで見てきただけでも。…こいつは、全体の動きを見て、不足しているところにお節介してきたんだろう。ああ、きっとそうしている。細やかな気配りができるやつだから。

 

 

そうしないと、気が済まないやつだから。

 

 

「ちょっと話しすぎちゃったかも。みんなには内緒ね?」

「…めんどくさい人ね、希」

 

 

めんどくさいといいつつ、しかし真姫は笑っていた。珍しく、笑っていた。きっと何か吹っ切れたのだろう。俺が活躍する場面がねぇ…いや活躍したいわけでも活躍できるわけでもないんだが、何か癪だ。

 

 

「あ、言われちゃった」

 

 

希も笑っていた。ああ、お前らは笑ってる方が似合うだろう。スクールアイドルなんだからな。

 

 

「…」

「…」

「…創ちゃんは言うことないの?」

「創ちゃんやめろ」

 

 

ここで?ここで来るか?無理がある。無茶振りだ。

 

 

「…あー、なんだ」

「…」

「…」

 

 

二人して期待して耳を傾けるのやめろよ。

 

 

「…二人ともめんどくせぇな」

「「はぁ?!」」

「シンクロすんな」

「いやそれはないわ創ちゃん…」

「もっと気の利いたこと言えないの?」

「お前らは俺に何を期待してんだ?」

 

 

無茶振りしといて返す反応じゃねぇだろそれは。落ち込むだろうが。俺が気の利いたことを言えるように見えんのか。見えねぇだろ。自分で言ってて悲しくなってきた。

 

 

「あのなあ、いちいちそんなあれこれ考えてねぇでやりたいようにやればいいだろうがよ。何事か我慢してやるのは…こう、心にくるんだよ、辛いだけだ」

「…初めからそれを言いなさいよ」

「創ちゃんも不器用やなあ」

「だから創ちゃんをやめろっつってんだろおい」

 

 

言ったら言ったで非難されるんじゃねえか。なんなんだお前ら。

 

 

「真姫ちゃーん!希ちゃーん!創ちゃーん!おーーーい!!!」

「創ちゃんと呼ぶなッ!!!!!!」

 

 

あっちもこっちも創ちゃん創ちゃんと…!!気持ち悪いだろうが!!

 

 

「あれ?桜くんは?」

「意地でも起きないって」

「彼朝弱いからねえ」

 

 

水橋さんがいないが、まあ仕方ない。

 

 

μ'sのメンバーたちが集まって海に向かい、一列になって手を繋ぐ。随分と一体感が増したようだ。

 

 

「ねぇ、絵里…」

「ん?」

「…ありがと」

「…ハラショー!!」

 

 

真姫も、素直に感謝を口にできるようになったようだ。かなり照れ臭そうではあるが、それでも確かに素直になったのだ。

 

 

それぞれ何かしら成長があったということだろう。

 

 

…だが返事がハラショーなのは合ってるのだろうか。ハラショーってどういう意味だ。マジで。

 

 

「…茜は何で写真撮ってんだ」

「この構図いいなと思って」

「茜も創一郎も早く来なさい!日が昇るわよ!!」

「はーい」

「はーいじゃねぇよ何で俺まで」

 

 

茜は平常運転か。あと俺は並ばんぞ。並んだら手を繋ぐ流れだろ。無理だ。

 

 

「創ちゃん早く!!」

「やめろっつってんだろ」

 

 

全員から非難の視線が向けられた。わかったわかった行けばいいんだろ行けば。

 

 

「ん!」

「あ?」

「手!!」

「いや、」

「早く!!」

 

 

凛の隣に並んだら、無理やり手を繋がされた。こっそり手を繋がずにいるという選択肢は無かったらしい。ちくしょうめ。

 

 

 

 

…凛の手小さいな。

 

 

 

 

「よーし!ラブライブに向けて、μ's頑張るぞー!!!」

「「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」」

 

 

まあ、ここからあと約1ヶ月だ。

 

 

更なる研鑽を重ねていこうじゃねぇか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合宿も終わり、やっと帰ってきたところで2年生組と共に穂むらに直行。久しぶりにほむまんを食わねばならん。時刻は昼過ぎでまだクソ暑く蝉もうるさいが、別段煩わしくは感じなかった。

 

 

「ただいまー!」

「「お邪魔します」」

「ほむまん10個入りお願いします」

「あら穂乃果おかえり。海未ちゃんとことりちゃんもいらっしゃい。桜くんも来ると思ってたから用意してあるわよ」

「ありがとうございます」

 

 

早速ほむまんをいただき、イートインスペースに行ってパソコンを開く。合宿中は仕事は進まないだろうとは思っていたが、本当に見事に全く進まなかった。さっさと進めなければ。

 

 

「桜さん!歌詞できましたよ!!」

「ああ、まあ仕事が進まねーとは思ったよちくしょうめ」

「ご、ごめんなさい…合宿にも時間使っていただいたのに…」

 

 

空気読まない系女子である穂乃果は俺の都合はまるで頭にないご様子。南が謝ってくれたが、どうせ君も歌詞できてんだろ。そう思っていたら申し訳なさそうに渡してきた。やっぱりな。

 

 

「…園田はねーのか?」

「わ…私は、詩を引用したいと思っているので、作者様に許可をいただかないと…」

「律儀なやつだな…まあ本来そうすべきだが」

 

 

昨今でわざわざ詩の利用許可もらってるやついるのだろうか。無許可で使って後で怒られるパターンがやたら多い気がする。

 

 

まあまだだと言うならいい。まず穂乃果の歌詞を読ませてもらう。

 

 

曲名は、「愛は太陽じゃない?」だとよ。

 

穂乃果らしいっちゃ穂乃果らしい。元気で、みんなの幸せを願う歌になるだろう。

 

 

「…しかし歌詞にするには単調すぎるな」

「えー!!」

「お前各パートで文字数同じならいいと思ってんだろ」

「ダメなの?」

「園田お前何とか言わなかったのかよ」

「すみません…言ったのですが…」

 

 

本当にポンコツだなこいつ。

 

 

「ちょっと弄るが文句言うなよ」

「えー」

「殴るぞ」

 

 

まともな歌詞作ってから文句言え。

 

 

一応イメージの湧きやすい曲ではあるから、やかましい穂乃果はほっといて南の歌詞を見ることにする。

 

 

…。

 

 

「スピカ…テリブル?」

「は、はい」

「曲名が既に後ろ暗そうなんだが大丈夫か」

「え、えへへ…」

 

 

terribleはまずいだろ。

 

 

スピカは…乙女座の恒星だったか?絶対失恋するだろこれ。

 

 

実際読んでみてまさにそんなんだった。「言えないよ、でも消せないから、扉を叩いて」…なるほど…。

 

 

「なんというか…お前怖いな…」

「ええっ」

「桜さんひどい!ことりちゃんこんなに可愛いのに!!」

「中身の話だ」

「見た目が可愛いことは否定しないんですね…」

「…やかましい」

 

 

南の見た目はともかく、微妙に裏に狂気を感じてしまう。普通に「好きって言えない」的なストーリーにすればいいじゃねーか。「まだ見ぬ夢が醒めぬようにと怯えてる」って何を表した比喩だ。あと扉の比喩が怪しいぞ。アレじゃねーのかこれ。

 

 

なんか怨讐でもあるのかこいつ。

 

 

「何でこんな…昼ドラっぽいというか…後ろ暗い湿った感じの歌詞なんだ」

「えっと…穂乃果ちゃんも海未ちゃんもこういう歌詞は書きそうになかったから…」

「まあ書かねーだろうな」

 

 

メイド喫茶事件までは「他の2人がやらないこと」をする、なんて考えはなかっただろうからそこは素直に賞賛すべきなんだろうが、状況が状況なだけあって微妙に褒めにくい。

 

 

「…まあ、一回歌詞作ったことある分、出来はいい。このまま使わせてもらう」

「はい、お願いします!」

「私のは?!」

「ちょっと弄るっつっただろ離れろ邪魔くさい」

「あだっ」

 

 

身を乗り出して抗議してくる穂乃果にチョップを食らわせて撃退。額を押さえている間に園田にも話を振っておく。

 

 

「で、園田はまだだっけか。引用するっつっても誰の詩だよ」

「柳進一郎先生です。最近文学作品で有名な」

「あー、名前はよく聞くな。顔も知らないし作品も知らねーが、小説家だったか?」

「文学作品全般で活躍していらっしゃるので、小説家と呼ぶのが正しいかはわかりませんが…そうとも言えますね」

 

 

柳進一郎…俺らと同じく、顔出しNG系の作家だったはずだ。なんか天童さんが気に入ってた気もする。天童さんは存在がふざけてるくせに意外と本の虫だから、彼が気に入るとなると良作品なのかもしれない。

 

 

「詩も出してるってことか。今度見せてみろよ」

「はい…これです」

「今あるのかよ」

 

園田が鞄から取り出したのは「未来の花」と題された詩集。つーか合宿から穂むらに直行したのに何で持ってんだ。わざわざ合宿に持って行ったのか。

 

 

…つーか未来の花って。

 

 

「…これ、なんか天童さんが今度舞台でやるって言ってたやつじゃね?」

「え?!」

「急にでかい声出すなびびったじゃねーか」

 

 

突然園田が元気になった。

 

 

「す、すみません…しかし本当ですか?柳先生の詩集が舞台に?」

「仕事仲間がそんなこと言ってた気がする。が、まあまだ未発表だろうから他言無用だぞ」

「うん!」

「穂乃果は信用ならん」

「なんで?!」

 

 

天童さんもまだ製作段階だろうからあまり口外するのはマズいだろう。穂乃果は信用ならんがどうせ忘れる。

 

 

「桜さんや茜は交友範囲が広いのですね…」

「いや、俺はそんなことはない。仕事仲間の茜ともう1人くらいしかまともに会わねーよ。だいたいメールで連絡が済んじまうからな」

「えー、私たちとも会うじゃん!!」

「まともには会わねーだろ」

「一緒に寝たのに!」

「語弊がある言い方すんなよご両親に聞かれたらどうすんだバカ」

 

 

穂乃果がいらんこと言うもんだから焦る。声をひそめてご両親の方を窺うと、幸いお父さんは聞いてらっしゃらなかったようだが、お母さんはサムズアップしていた。なんなんだあんた。

 

 

「間違いではないですが、他に表現も思いつきませんね…」

「誤解を招くくらいなら秘匿していればいいんだよ」

「みんなで一緒に寝るのがそんなに悪いことなの?!」

「俺らにとっちゃ大問題だ声がでかいわアホ」

「ひどい?!」

 

 

穂乃果には黙ってていただきたい。

 

 

「そもそも俺が合宿に同行すること自体がおかしいんだよ」

「桜さんノリノリだったじゃん」

「ノリノリではねーよ」

「それでも来ていただいて本当にありがとうございました。とてもためになりました」

「普通に感謝されるのもなんか受け取りにくいな」

「何故ですか…」

 

 

周りに素直に感謝するやつらがいねーんだよ。穂乃果だろ、茜だろ、矢澤だろ、あと天童さん。まともなヤツがいねぇ。そういう意味では園田は随分まともだ。たまに狂うが。

 

 

「…桜さん照れてるの?」

「照れてねーよ」

「嘘だー、私と話すときそんな顔しないもん!!」

「どんな顔だよ」

「照れてる顔!!」

「どんな顔だよ」

 

 

何故か不服そうな顔で抗議してくる穂乃果。お前こそ何を思って膨れっ面なんだよ。

 

 

「桜さん…いつも穂乃果の相手をしてくださってありがとうございます」

「ほんとだよまったく」

「なんか私がバカみたいじゃん!」

「バカなんだよ」

 

 

園田が謝ってくるあたりこれが穂乃果の平常運転なんだろう。俺にだけこんなノリなのも困るが、俺以外にもこんなノリを押し付けているとなるとそれはそれでヤバい気がする。

 

 

 

 

 

この後も穂乃果がぶつくさ言っているのに園田が謝るというわけのわからん展開が続いた。

 

 

 

 

 

穂乃果の相手で手一杯ではあったからかもしれない。

 

 

 

 

 

途中から南が黙り込んでいたことには意識が向かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…瑞貴に電話とは珍しいな」

「フランスの美大からだ。南ことりの留学について、本人の是非がなかなか来ないと」

「彼女も迷っているのだろう、そう急くものではないとでも言っておけ」

「何でお前が偉そうなんだ。しかしそう簡単に決められるとは思わないしな、似たような台詞は伝えた」

「しかし何故瑞貴にわざわざ電話するのだろうな」

「特に意味はないだろう。彼はよく目的もなく愚痴ってくるからな」

「鬱陶しい嫁のようだな」

「他に言い方は無かったのか?」

「この私に他の可能性を示すとはなかなかのものだな。私は特に適切な言葉を選んだぞ」

「なんで天才ってこうも腹立つんだ」

「そんなに褒めるでないぞ」

「ほんとに腹立つな」

「しかし…南ことり嬢については、留学には行かないと思うぞ」

「…彼女の才能からしたら、行くべきだと俺は思うがな」

「人心はそれほど単純ではない。瑞貴にはわからんかな」

「わかるさ、お前よりはな。そもそも俺も行かないとは思う。

 

 

 

 

だが…

 

 

 

 

高坂穂乃果が、どれだけ周りに目が向いているか。南ことりに目が向いているか。そこが心配だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲劇の足音は。

 

 

 

 

きっと片鱗はあったのだろうけど。

 

 

 

 

ほとんどが聞き逃し、ちゃんと聞こえた人も気に留めなかったんだろう。

 

 

 

 

だからこそ、引き起こされる。

 

 

 

 

幕が上がる。

 

 

 

 

笑顔を踏み潰す、惨劇の幕が。

 

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

枕投げ戦争は無意識の産物だった模様。さすが筋肉兵器。滞嶺君もメンタルなどでこっそり成長中ですね。

あとはおまけのソロ曲。スピカテリブルのせいでことりちゃんのヤンデレ化が止まらない…!!!そんなことない?


また、一つお知らせです。

次回からしばらく投稿ペースが…

超加速します。

具体的にはアニメ一期終了まで加速します。
理由は、諸々の事情で「ある日」までにアニメ一期を終わらせたいからです。大丈夫、ストックはたくさんあるので!!
1日に2話投稿したりはしませんが、毎日投稿とかもするかもしれません。だいたい2日に1話くらいになると思います。

よろしくお願いします。


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外で演奏すると響かないし風がやばいしで大変



ご覧いただきありがとうございます。

早速次話投下です。大丈夫です!!随分先まで下書きは済んでますので!!
さて、合宿が終わって文化祭編です。名前は「文化祭編」でいいんでしょうか。まあいいや私の好きにしますね!!!

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

 

合宿も終わり、にこちゃんセンターの新曲も動画サイトでもりもり再生数を伸ばしていて今日もμ'sは絶好調だ。いやほんとに絶好調だな。すっごい伸びてるな。なにこれ。

 

 

しかも。

 

 

「19位だってにこちゃん」

「19位!!!!!」

「オーケーわかったからボリューム落とそう」

「19位よ!!!このまま行けばラブライブに出れるのよ!わかる?!私が!!ラブライブに!!出る!!のよ!!!」

「わかったってば」

 

 

スクールアイドルランキング、μ'sは現在19位。

 

 

ラブライブ出場条件は、20位以内。

 

 

ついに射程圏に入ったわけだ。

 

 

それを確認した昼の部室で、相変わらず二人で弁当食べた後ににこちゃんはテンションマックスになってしまったわけだ。

 

 

「ついに…ついに私が夢の大舞台に!!」

「僕も一緒に喜びたいところなんだけど、まずは鼻水拭いてね」

 

 

感涙しちゃってるにこちゃんもかわいいけど、それだけ喜んでいるにこちゃんと一緒に喜びたいけど、鼻水だらだらで抱き合うほど反射神経で過ごしてない。流石に鼻水はごめんね。制服カピカピになる。

 

 

ティッシュを渡して鼻をかんでもらった後、改めて向かい合う。超笑顔だった。やばい好き。超好き。

 

 

「ううん、まだここからよ!絶対ラブライブ出場を逃すわけにはいかないわ!!」

「でもにこちゃん超笑顔だよ」

「笑顔じゃない!!」

「かわいいがオーバーフローしてる」

「何言ってんの」

 

 

にこちゃんには理解が及ばなかったらしい。残念。しかしにこちゃんのかわいさが限界突破してるのは事実だ。鼻血出そう。

 

 

「さあ、絵里と希にも早く伝えに行くわよ!!さあ!!」

「わかったよにこちゃんストップ引っ張らないで」

 

 

めっちゃ元気に僕を連れて部室を飛び出そうとするにこちゃん。残念ながら僕にはにこちゃんについていく身体能力はないよ。死ぬよ。

 

 

 

 

 

 

 

「7日間連続ライブ?」

「そんなに?!」

「よくそんなことできるよねぇ」

 

 

放課後、にこちゃん、絢瀬さん、東條さんと部室に向かい、ほかのメンバーにA-LISEのライブのことを伝えた。にこちゃんが飛び出していった後に4人で情報集めをしていたら見つけたものだ。1週間ぶっ続けって意味がわからないね。でも創一郎ならできそう。

 

 

「ラブライブ出場チームは2週間後の時点で20位以内に入ったグループ。どのスクールアイドルも最後の追い上げに必死なん」

「20位以下に落ちたグループだってまだ諦めてはいないだろうし、今から追い上げて何とか出場を勝ち取ろうとするスクールアイドルもたくさんいる…」

「つまり、ここからが本番だ」

「ストレートに言えばそういうこと。喜んでいる暇はないわ」

「出場枠の中で言えば下層スレスレだもんねえ」

 

 

μ'sは一気に人気をぶち上げたスクールアイドル。ちゃんと勢いを維持しないと他のスクールアイドルにさらっと抜かれてしまうこともあるだろう。

 

 

「よーし、もっと頑張らないと!」

「とはいえ、今から特別なことをやっても仕方ないわ。まずは目の前にある学園祭で、精一杯いいステージを見せること。それが目標よ」

「意外と地に足ついてるね」

「意外とって何よ?」

 

 

いやだって君、一人で廃校防ごうとしてたじゃない。無謀も極まる子だったじゃない。

 

 

「よし!そうとなったらまずはこの部長に仕事をちょうだい!!」

「急に部長感出してきたねぶぎゃる」

「何よ」

「痛いよにこちゃん」

 

 

やる気満々のにこちゃんにつっこんだら拳が右頬に入ってきた。痛いよ。これは左頬も差し出さなきゃいけないやつかな。このノリ前もやった気がする。

 

 

「じゃあにこ、うってつけの仕事があるわよ」

「何?」

「そう都合よく仕事あるものか?」

「あるみたいだけど」

 

 

まさかのお仕事あり。しかしこのタイミングで部長に何か仕事来るかな?ロクでもない予感がするよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で講堂の使用権がくじなんだ」

「昔からの伝統らしくて…」

「迷惑な伝統だね」

 

 

つまりにこちゃんの出番はくじ引きというわけだ。しかし何故くじ引き。講堂は引く手数多なのかな。それにしてももっとやりようがある気がする。でも確かに楽ではある。

 

 

「では、続いてアイドル研究部の…わあ?!」

「見てなさい…!」

「にこちゃん落ち着いて」

 

 

そんな殺気放っちゃだめよ。生徒会の人引いてるよ。引いてるというかビビってるよ。

 

 

「にこちゃん、頼んだよ!!」

「講堂が使えるかどうかでライブのアピール度は大きく変わるわ!!」

「つっても確率論じゃねぇか」

「ほんとに意外と理性的だね創一郎」

「意外とってなんだ」

「でもツッコミに対して胸倉掴みあげるのは理性的じゃないなぐえ」

 

 

にこちゃんに降りかかるプレッシャーと僕に降りかかる暴力。苦しい。しかしこの苦しみでにこちゃんがくじ運発揮してくれれば幸せだ。

 

 

「「あぁっ…」」

 

 

…発揮してくれればね。

 

 

にこちゃん相変わらずフラグ回収能力高いね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしよー!!」

 

 

皆さま一様に落ち込んでいた。まあそうだよね。肝心の講堂が使えないのは大いに痛い。ライブといえば講堂やらホールやらが定番というか、環境的にも最適なのだ。

 

 

「だってしょうがないじゃない!!くじ引きで決まるなんて知らなかったんだから!!」

「あー!開き直ったにゃ!!」

「うるさい!」

「なんで外れちゃったのぉ…」

「阿鼻叫喚って感じだね」

「くじに文句言っても仕方ねぇだろ」

「ま、予想されたオチね」

「オチで片付く案件ではないけどね」

 

 

あっちこっちで悲嘆と絶望が振りまかれる。僕はまあそんなこともあるだろうと思ってたし、創一郎や西木野さんもそう思ってたみたいだから割と平気そう。平気ではないんだけどさ。

 

 

「気持ちを切り替えましょう。講堂が使えない以上、他のところでやるしかないわ。」

「その通りだな。使えないものに悲嘆に暮れても仕方ない、今できる最善を尽くすしかない」

「とはいってもどこ使おうね」

 

 

実際落ち込んでいてもしょうがないわけだけど、他に使えるところを探すのもなかなか大変だ。体育館やグラウンドは軒並み運動部が押さえてしまっているし、正面玄関でライブやるわけにもいかない。他のスペースは狭すぎて無理。割と八方塞がりだ。

 

 

「体育館とか終日埋まってるのかな。空いてる時間があればお邪魔させてもらう手もあるけど」

「それは無理よ。部の入れ替わりや片付け、準備の時間も考えるとほとんど余裕がないもの」

「だよねぇ」

 

 

やっぱり八方塞がりだ。詰んだかな?

 

 

「じゃあ、ここ!!」

「どこさ」

「ここ!!」

 

 

ここ?どこ?

 

 

「屋外ステージ?」

 

 

まさかのここ…屋上である。外かよ。

 

 

「ここは私たちにとってすごく大事な場所…。ライブをやるのにふさわしいと思うんだ!」

「野外ライブ…かっこいいにゃー!」

「いやねぇ君たち、屋上だよ?誰がどうやって舞台設営しに来るっていうのさ」

「俺だな」

「ごめん何も問題ないわ」

 

 

トラスとかどうやって持って来るんだと思ったけど、そういえばうちには怪物さんがいたんだった。創一郎なら余裕だね。何だったら1階から飛んで来るね。やばいね。

 

 

「まあ舞台はなんとかなるとして、人をどうやって呼ぶかだよね」

「確かに…。ここならたまたま通りかかるということもないですし…」

「下手すると1人も来なかったりして」

「えぇっそれはちょっと…」

 

 

場所がマイナー極まるせいでこんな問題も出てくる。そもそも屋上への道はどっちだってなりかねない。ああ、それは僕が誘導するのか。僕の仕事か。多分そうだよなあ。

 

 

「じゃあ、おっきな声で歌おうよ!」

「はあ?そんな簡単なことで解決できるわけ

「校舎の中や、外を歩いてるお客さんにも聞こえるような声で歌おう!そうしたら、きっとみんな興味をもって見に来てくれるよ!!」

「喋ってるのを遮らないであげて」

 

 

高坂さんの主張に対してのにこちゃんの反撃は、高坂さんのパワープレイで握りつぶされた。なんてこった。にこちゃんの不憫が加速する。

 

 

でもまあ、高坂さんのパワープレイは割と効果あるからね。

 

 

「ふふっ、穂乃果らしいわね」

「…だめ?」

「いつもそうやって、ここまで来たんだものね。μ'sっていうグループは」

「無鉄砲の極みみたいなのになんか上手くいくもんねえ」

「絵里ちゃん…茜くん…!!」

「ううっぞわぞわする」

「まだ慣れねぇのかよ」

 

 

この11人が揃ったのも力技のおかげみたいなところはあるからね。でも名前で呼ぶのはみんなやめないかなほんとにぞわぞわする。

 

 

「決まりよ!ライブはこの屋上にステージを作って行いましょう!!」

「確かに、それが一番μ'sらしいかもね!」

「優秀なステージ設営係もいるし!」

「俺はステージ設営係じゃねぇぞ」

「でもやってくれるんでしょ?」

「やるけどよ」

 

 

割と満場一致な感じで、この屋上でライブをすることになった。創一郎もなんだかんだでノリノリだ。でも雨降ったら過酷って忘れてない君たち。

 

 

「よぉーし、創ちゃんに負けないように、凛も大声で歌うにゃー!!」

「創ちゃんはやめろ」

「じゃあ各自、歌いたい曲の候補を出してくること。もちろん創ちゃんも茜もね?…それじゃあ、練習始めるわよ!!」

「やめろって」

「君こそ慣れたらどうだい」

 

 

創一郎も創ちゃん呼びに慣れてないじゃないか。人のこと言えないじゃん。てか絢瀬さんまで創ちゃんって呼び出したね。蔓延してるね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新曲を学園祭で使う?」

「うん!真姫ちゃんの新曲を聴いたらやっぱりよくて、これを1番最初にやったら盛り上がるんじゃないかなって!!」

「そりゃ盛り上がるだろうけどさ。練習時間相当ないよこれ」

 

 

翌日、高坂さんがすごいこと言い出した。まあすごいこと言うのはもういつも通りなんだけどさ。

 

 

しかし、まだ曲ができただけで歌詞も振り付けもできちゃいない。実質練習時間は1週間あるか無いかくらいの勢いだ。流石に大変じゃないの君たち。しかもこの曲、かなりハードだ。ゆるいダンスで収められる気がしない。

 

 

「頑張ればなんとかなると思う!」

「なんとアバウトな」

「でも他の曲のおさらいもありますし…」

「私、自信ないな…」

 

 

高坂さんの論はゴリ押しだし、不安も大きいし、あまり推奨しないのだけど。

 

 

「μ'sの集大成になるライブにしなきゃ!ラブライブ出場がかかってるんだよ?!ラブライブは今の私たちの目標だよ!そのためにここまで来たんだもん!!このまま順位を落とさなければ本当に出場できるんだよ!たくさんのお客さんの前で歌えるんだよ!!私頑張りたい、そのためにやれることは全部やりたい!!ダメかな?!」

 

 

なんかゴリ押し凄まじくないかい。いつもパワフルな高坂さんがさらにパワフルになってる。どうしたらいいのこれ。まあ言ってることに一理はあるんだけど。

 

 

「だが、お前センターじゃねぇか。曲も今までにないくらい激しい曲だ。他の奴らの倍はキツいぞ?」

「うん!全力で頑張る!!」

「気合いがあるのは結構なんだがな」

「いいじゃない。穂乃果がやるって言っているんだし、やってみましょ」

「振付師のお仕事が増えたぞ」

「うちも手伝うよ」

「そりゃどーも」

 

 

もうほとんど暴走機関だけど、まあやるって言ってるならいいや。頑張れ。僕の仕事が増えたことについては恨む。嘘嘘恨まないよ安心して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ〜…今日も疲れた…」

「…最近やけに疲れているな」

 

 

最近よく、俺の元に花陽が来ている。スクールアイドルの練習が相当厳しいようだ。調べた情報からすると、ラブライブ出場に向けて最後の追い込みをしているのだろう。もともとそれほど体力のある方ではない花陽の体が持つか心配だ。

 

 

「練習が大変だから…。あ、ご飯炊けたよ」

「…ああ、ご飯炊けたか、ありがとう。しかし無理はよくないぞ」

「うん、ありがとう照真くん。でもこういう時に頑張らないとね」

 

 

疲れた表情ながら笑顔は明るい。楽しいのだろう。それなら何も言うことはない。

 

 

「照真くんは今何をしてるの?」

「今か?義手が2件、大型プラント設計が1件、超高解像SEMの開発協力が1件、XRDの解析ソフト開発が1件、人工肺培養が1件、3D細胞培養液の改良が1件…まあそこそこ忙しい」

「えっと…大変そうだね?」

 

 

直接接触などはしないが、人から依頼を受けることは多い。両親がいない俺は、そうでもしなければ生活できないからだ。自作のサイトに要求を書き込めるようにしてある。サイトの存在自体を相当コアな立場の人たちでない限り知らないためそれほど依頼は来ないが、多い時は多い。

 

 

花陽が炊いてくれた白米と、作ってくれた味噌汁、サラダ、回鍋肉を無言で食べ終わる。相変わらず料理がうまい。しかし俺にはそれを表現する方法はない。

 

 

「美味しかった?」

「…ああ、美味しかった」

「ふふ、ありがとう。さ、片付けよ?」

「いや、俺が片付ける。花陽は休んでいるといい」

「え、いいよ!自分の分は片付けるよ!」

「自分の分は片付けるか?そうか…わかった」

 

 

せめて休ませてやりたいところだが、彼女はどうしても人任せにできない。優しすぎる子だ。俺には彼女を休ませることができない。どうするべきかわからない。

 

 

食器も片付け終わり、地下の施設に向かう。花陽はもう帰ると言った。

 

 

「明日も朝から練習だから…」

「…明日も朝から練習か。大変だな」

「うん。私は大丈夫だけど、穂乃果ちゃんが心配だなぁ…」

「…そのホノカチャンはわからないが、倒れないようにな」

「うん、ありがとう」

 

 

じゃあね、と言って家を出る花陽。その後1人で地下まで降り、ほぼ完成した依頼品の調整を行う。

 

 

「…」

 

 

花陽が無理しなければいいのだが。

 

 

「…」

 

 

それはそうと、こんな義手は初めてだ。一般的な肘から先を模したものではなく、肩に接続するタイプ。しかも造形は全く腕には見えず、数十にも別れた細い触腕でできている。そう依頼されたから、そう作った。

 

 

『一般的な用途ではなく、私専用の手術用義手、というか義腕を作っていただきたい。現代が誇る最新医療機器「ダ・ヴィンチ」に対抗して、「ミケランジェロ」とでも名付けようか?とにかく、この天才を以ってしても完成には至らなかったから、貴方に託そうと思う』

 

 

そんな大仰な文と共に送られてきた設計図を元に作ったのだが、本当にまともな用途に使うのだろうか。というか使えるのだろうか。

 

 

「…」

 

 

そして人工肺。

 

 

義腕の依頼主と同じ人物から、凍結された細胞が送られてきて、『肺を作ってくれ』と言われたから作ったが、本当にまともな用途に使うのだろうか。

 

 

しかし、俺にはそれを言及する術がない。

 

 

花陽が「多分大丈夫だよ」って言ったからやっている。

 

 

花陽がいないとまともに生きてもいけない俺は、なんと惨めなものだろうか。

 

 

せめて花陽は幸せに生きて欲しいと切に願う。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

導入で既にエンジン全開モードの穂乃果ちゃん。大丈夫でしょうか。
そして久しぶりに登場の湯川照真くん。湯川くん主観は初めてですね。何やら物騒なものをあっさり作ってしまうあたりが規格外です。
たまに本筋に関係ない男性陣も出しておかないと忘れられそうで怖いですね!!笑



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無銘の少女の末路



ご覧いただきありがとうございます。

またお気に入りしてくださった方がいらっしゃいました!!ありがとうございます!!連続投下中ですが頑張ります!!大丈夫ですストックはいっぱいあるので!!!前回と同じこと言ってる!!
さて、いきなり不穏なタイトルになってますが多分気のせいです。たぶん。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

 

「どう?昨日徹夜で考えてたんだ!!」

「どうと言われましてもね」

「つか寝ろよ」

「絶対こっちの方が盛り上がるよ!昨日思いついたとき、これだ!って思ったんだ!!」

 

 

朝から眠そうな高坂さんが急に踊り出したかと思ったら、なんと振り付けを変えたいとおっしゃる。僕の振り付けがご不満かね。つらい。

 

 

「今から変えるのさらにキツいと思うんだけどねぇ」

「えぇーっこれは絶対いけるよ!」

「本番でいけるかじゃなくて、練習する時間が無いって意味なんだけどね」

 

 

高坂さんはなんとしても振り付けを変えたいご様子。また覚え直しは厳しいと思うけど。

 

 

「…いいんじゃないかな」

「南さんマジかい」

「ことり、本気か?」

「だよねだよね!ほら、ことりちゃんはいいって言ってるよ!!」

 

 

南さんは賛成のご様子。君そんな高坂さんの言うこと全部受け入れなくてもいいんだよ。君そんなにイエスマンだっけ。

 

 

「いや、それでも俺は反対だ。あと1週間もねぇんだぞ、余計なことをするより今のままで完成度を上げる方が建設的だ」

「建設的とかそういうのよりも、もっとよくなるようにしたいの!他のスクールアイドルの人たちだってやってるはずだもん、もっともーーっといいステージにしなきゃ!!」

「それは…そうなんだがよ」

「ラブライブ出場をかけた大事な時期だよ?!ちょっとくらい大変でも、できることは全部やらなきゃ!!そうじゃないとラブライブ出場なんてできないもん!そうでしょ?!」

「…言っておくが、センターのお前が一番キツいぞ。他のやつらの数倍は厳しいと思え。いいのか?」

「大丈夫!!できるよ!!」

「…なら文句は言わねぇ。好きにやれ」

 

 

やったーー!と叫ぶ高坂さんと、警戒するような視線の創一郎。明らかに振り付け変更を歓迎していない様子だ。

 

 

「…茜、あれはやべぇぞ」

「そう言われましてもね」

 

 

小声で耳打ちしてくる創一郎の意見には賛成なんだけどね。どうもできないよね。いいよ僕はにこちゃんが怪我しなきゃなんでも。

 

 

そんなわけで、このタイミングで振り付けが一部変更となった。大丈夫かなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、学園祭前日。

 

 

「もう足が動かないよ…!!」

「にこちゃん大丈夫かい」

「まだダメだよ!もう一回!!」

「えーっ?!また?!」

「いいからやるの!まだまだできる!!」

 

 

前日にしてこんなんである。死ぬよ君たち。明日に疲れを残すべきではないよきっと。たぶん。

 

 

「流石にもうやめときな。てゆーか一番激しく動いている高坂さんが一番元気って何事なの」

「私、燃えてるから!!」

「うん意味がわからない」

 

 

まさか気合いで乗り越える気じゃないだろうね。体痛めるよ。多分。

 

 

「ことりからも言ってやってください!」

「私は…穂乃果ちゃんがやりたいようにするのが一番だと思う」

「ほら!ことりちゃんもこう言ってるよ!!」

 

 

そして南さんが役に立たないことが判明した。君そんなイエスマンだっけ。あれっ前も同じこと言った気がする。

 

 

しかし、力技への対抗策は奥の手がいる。

 

 

「…だめだ、許さない」

「えー?!なんで?!」

「これ以上詰めても疲労が残るだけだ。明日に響く」

「でもっ

「うるせぇ、さっさと帰って寝ろ。嫌と言うなら担いで家まで連れて行く」

「うう…わかったよ…」

 

 

そう、創一郎だ。創一郎に力技で勝てる人間はいないだろう。いるとすれば吉田沙保里さんくらいだ。以前は言論に押されたが、物理的な力を加えれば一瞬で勝てる。そうやすやすと力を振りかざすわけにはいけないだろうけどね。

 

 

とりあえず練習を切り上げることに成功。そのままにこちゃんと帰路につく。

 

 

「さてにこちゃん、明日は本番だから今日の夕飯はハンバーグ作るよ」

「ほんと?!…んん、ま、まあ虎太朗も喜ぶわね」

「にこちゃんも喜んでよ」

「わーうれしー」

「何でよくわかんない意地張るのさ」

 

 

ハンバーグ美味しいじゃん。子供っぽいとか思ってるのだろうか。その発想が子供っぽいよにこちゃん。言わないけど。

 

 

「…茜」

「何?」

 

 

にこちゃんが立ち止まり、僕が振り向いて向き合う。にこちゃんはすっごい笑顔だった。眩しい。

 

 

「明日は…ちゃんと見てなさいよ」

「もちろんだよ」

 

 

いつも見てるけどね。でもにこちゃんがさらにいい笑顔になったから見惚れてしまった。にこちゃんマジギルティ。

 

 

「ふふーん、私の大舞台への第一歩を見られるんだから感謝しなさいよ!!」

「第一歩どころか最初から全部見てますが」

「うっさい!!」

 

 

テンション高いにこちゃんがくるくる踊りながら僕の前を行く。絶好調なようで何より。明日が楽しみ…ん?

 

 

「あ、雨降ってきた」

「ええっ?!」

「相変わらず肝心な時についてないよね」

「相変わらずって何よ!!」

 

 

ポツポツと雨が降ってきた。明日は止んでるといいけど、止んでなかったら雨中ライブになるなぁ。大変だ。

 

 

「…あと、穂乃果が無茶してないといいけど」

「にこちゃんが言うとフラグになっちゃうよ」

「そんなことないわよ!」

 

 

にこちゃんフラグメイカーじゃないか。

 

 

「でも、あの子が倒れたら大変だし、笑い事じゃないわね」

「大丈夫じゃないの。元気だし」

「あんたはもうちょっと他の人を気にかけなさいよね…」

 

 

にこちゃんに呆れられたけど、にこちゃんファーストは変えられないし。てか変えないし。

 

 

雨は止む気配もなく、むしろ強くなってきたのでにこちゃん宅で傘を借りて帰った。雨、止むかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…結局未だ決めかねているのか」

『…はい』

 

 

自宅の自室、車椅子に座って片手間に裁縫しながら電話をする相手は、南ことり。μ'sの衣装製作担当だ。

 

 

何故連絡先など知っているかと聞かれれば、以前メイド喫茶で会った時に押し付けられたからだ。一応名の通ったファッションデザイナーだ…顔は出していないが、茜などと違って本名で活動していたため名を告げた時に即刻バレたようだ。デザイナー志望としてはそんな縁を逃すわけにはいかなかったのだろう。こちらとしても彼女の才能には眼を見張るものがあったし、好都合ではあったが。

 

 

何度か衣装の相談にものってあげていたが、最近はとある話題が占めている。

 

 

「…行くのはフランスだ。そう簡単に行って戻って、とできる場所じゃない。早めに決めなければならないし、行くなら友人たちにも別れを告げる暇が必要だろうよ」

『…そう、ですけど…、今はみんな、ラブライブに集中してるので…』

 

 

そう、彼女には留学の話が来ている。向こうの入学に合わせて秋学期からの留学だが、手続きや住居なんかの諸々の準備が必要であるため悠長には待っていられない。

 

 

どうせラブライブ本戦までは待てないだろう。

 

 

「…明日が学園祭だったか。せめてその後にでも話を通すべきだろう」

『はい…』

 

 

その後、留学手続きについての説明を少ししてから電話を切り、手に持つスマホの画面を眺めた。

 

 

彼女は優しすぎる。

 

 

あまりにも周りに余計な気を回しすぎだ。他人の邪魔をしてはならないと、迷惑をかけてはいけないと、必要以上に気を遣う。

 

 

それが悪いかどうかは一概には言えないが…今回は恐らく悪手に働くだろう。ただ徒らに決断を先延ばしにしているだけなのだから。

 

 

「さて、俺はどうすべきか…」

 

 

それを前提に、俺は俺としてやることがある。フランス側とて連絡のないまま放置するわけにもいかないのだ。本来は彼女の親がすべきことだろうが、何しろ相手はフランス人。フランス語を習熟した日本人が何人いるかという話だ。一応英語も通じるだろうが、彼らは母国語を重んじるしな。

 

 

そして、問題は何と伝えるか。

 

 

向こうとて受け入れ準備は大変だ。来そうか、来なさそうか、どちらかわからないままよりは憶測はつけて見切りでも準備しておきたいところだろう。

 

 

南ことりとしては千載一遇のチャンスだ。

 

 

しかし彼女にはμ'sがある。

 

 

蓮慈も恐らくは断るとは言っていた。だがあいつは基本的に人のことをわかっていないためあまり当てにならない。

 

 

彼女はチャンスを蹴ってまでμ'sに残りたがるだろうか。

 

 

しばらく考えて…結論は出した。

 

 

早速スマホを操作して、電話をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やまないねぇ」

 

 

で、当日。

 

 

バッチリ雨降ってた。

 

 

むしろ昨日より強くない?

 

 

「ステージは組み上がった。風が強くないのが幸いだろう、これなら崩れたりはしないはずだ」

「天幕もバッチリ張ってくれたんだね。一応ある程度ステージ上は守れるか」

「ああ。だが、やはり完全には防げん。滑って転ばないようには気をつけさせないとな」

 

 

高さ3メートルほどの特設ステージにはすでに濡れた跡が見られる。まあ仕方ないよね。雨を完全に防ぐには室内しかないな。

 

 

「靴底ってゴム製だったっけ」

「ああ。如何なる時も滑る危険はあるからな、不測の事態への対処は万全だ」

「ならいいか」

「それでも滑るときは滑る、特に濡れた地面だとな。だから開始前には軽く拭いておかなければ」

「そういうものなんだね」

 

 

雨の日に激しく動いたことない…というか激しく動くこと自体が少ない。だからどうしたら転ぶとかそんなのはさっぱりわかんない。そこらへんは創一郎に頼んだ。

 

 

「後は照明機材か。外に置かざるを得ないヤツはどうするべきだ?感電したりしねぇだろうな」

「電線剥き出しじゃない限りそうはならないよ。でも接続部の隙間は埋めないとショートしかねないかな、ビニールテープで巻いとこう」

「一応即席で屋根は作ったが」

「機材自体は防水だから大丈夫だけど、あると安心だね。ありがとう」

 

 

屋外ステージ用の防水型照明はちゃんとある。大半借り物だけど、点検は済ませてあるから不良が起きたりは多分しないだろう。起きたらごめんね。

 

 

「とすると、防水準備が終われば完了か。ビラ配り組の先輩方に合流するか、控えてるメンバーの元に行くか…」

「まあビラ配りは雨のせいで配れる場所が限られるでしょ。校内の案内表示は僕が作っておいたし、そこまで心配無いと思うよ」

「なるほど。じゃあ俺らは…」

「戻るだけだね」

 

 

とりあえず設備に不良はない。それは今までの創一郎の働きを見れば明白だ。彼自身意外と頭が切れる方だし、意外と器用だし、何より手を抜かない。弟たちを纏める過程で身についたのか、観察眼もかなりのものだし非常に目ざとい。だから大丈夫。僕自身も見て回った。

 

 

だから、何か起こるとしたらμ'sのみんなだろう。

 

 

風邪引いたりしてないといいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、もう準備万端」

「当たり前でしょ?本番なんだから」

「そりゃそうだね」

 

 

帰ってきたらみんな着替え終わってなんかもう出発直前だった。早いね。いや点検することがいっぱいあったから時間かかったのはこっちか。

 

 

「よーし、いくぞー!!」

「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」

「おー」

「おぅ」

 

 

早速出発してしまった。時計見たら開場30分前だった。わあギリギリ。

 

 

「…なあ、穂乃果の声掠れてなかったか?」

「え?そうだったかな」

 

 

そうだった気もするけどにこちゃんに気を取られて気づかなかったな。

 

 

「風邪引いてねぇだろうな…」

「大丈夫じゃない?馬鹿は風邪引かないっていうじゃん」

「あれは風邪に気づかないって意味だから余計心配なんだよ」

 

 

そうだったのあれ。知らなかったよ。たしかににこちゃんも風邪引いても元気だけど。あーいやにこちゃんは馬鹿ってわけではなくはないな馬鹿か馬鹿じゃないかって言われたら馬鹿だわ。

 

 

ともかく僕らも向かわねばなるまい。彼女らに続いて屋上へ向かい、舞台袖に案内したら僕は特設の照明管理室へ。室って言っても野ざらしだけど。寒いよ。横幕があっても寒いよ。今夏だけど。

 

 

「おう、そんな寒そうなところにいて大丈夫なのかお前」

「やあ桜、高坂さんに逢いにきたのかい」

「穂乃果は関係ねーよ。μ'sのライブを見にきたんだ」

「珍しいじゃないか、君がライブに直々に足を運ぶなんて」

「珍しくねーよ、年に数回あるわ」

「十分珍しいよ」

 

 

いつも通り夏なのに薄手のコート着てる桜が傘をさしながら僕の前に来た。いつも思うけど暑くないのそれ。聞くと「気にすんな」としか返ってこないから聞かないけど。

 

 

「ん?水橋さんも来たのか」

「…あぁ、滞嶺か」

「桜、コミュ障だからってそんな愛想悪くしなくていいんだよ」

「喧嘩売ってんのか」

 

 

桜は交友範囲が狭いから超コミュ障だ。それでも合宿を共に過ごした創一郎にまでそんな態度しなくてもいいと思う。

 

 

「水橋さんもμ'sに興味が湧いたか」

「湧くも何も、興味なかったら合宿なんかに付き合わねーよ」

「おっ桜がデレたおっふ」

「殺すぞ」

「拳を繰り出した後の台詞じゃないよね」

 

 

煽ったら額に左ストレートが入った。痛いよ。痛いけどわざわざ利き手じゃない方で殴るあたりやはりツンデレ。あれ、桜右利きだよね?

 

 

「まあ生憎の天気だが、楽しんでいってくれ」

「お前厳ついのにいいやつだよな」

「褒めてんのか?」

「敬語はできねーのか」

「落ち着いていれば使えますよ」

「沸点低くねーか」

 

 

低温系ヤクザの2人が何かし始めた。やめなよ、見た目不良と中身不良がいがみ合わないでよ。怖いよ。

 

 

「あっ、桜さん!」

「桜さんお久しぶりです!」

「ん?…ああ、雪穂と…亜里沙だっけ」

「はい!桜さんもμ'sのライブを見に来たんですね!」

「ああ…まあ、な」

「桜がまたコミュ障発揮してる」

「黙れよ」

 

 

妹ガールズもいらした模様。そりゃ来るわね。雨の中お疲れ様。天童さんも知り合い連れて行くぜ!!って言ってたし、まっきーも来る気満々だったけどどこだろう。

 

 

「私をお探しかな?」

「もう少し俺の意思も汲んで移動してくれないか?」

「おお、まっきーにゆっきー。…ゆっきーも来たんだね」

「連行されたようなもんだな」

 

 

ちゃんといた。何故かゆっきーを連れて。どうせ病院行ったら強制連行されたんだろう。ご愁傷様。

 

 

「この前の片腕野郎と車椅子野郎か…」

「流石に失礼極まりない呼び方だな…。身体欠損を指摘するのはあまり感心できることじゃないな。もう一度伝えると、俺は雪村瑞貴だ。こっちのうざいのは藤牧蓮慈」

「この天才に向かってうざいとはなんだ」

「改めて、水橋桜だ」

「滞嶺創一郎だ。いい服をありがとう」

「ああ…あれそんなに着る機会あるか?」

「普段着で着させていただいている」

「執事服を普段着で着るってなんつーメンタルしてんだ?」

 

 

創一郎は執事服じゃないと怖くなるからね。そういう意味では最も普段着かもしれない。でも普通に考えたらおかしいね。

 

 

「そこの水橋君にも執事服を作ってあげたらどうだ?」

「ぜひ頼むよ」

「ふざけんな失せろ」

「口悪いのどうにかしなよ」

「うるせえ」

 

 

まっきーの言葉にキレる桜。大丈夫冗談だよ。多分冗談だと思う。まっきーは本気か冗談かいまいちわかんないから怖い。

 

 

「お嬢さん方もお久しぶりだね。覚えているかな?」

「はい、メイド喫茶で会った方ですよね!」

「…なんか響きに敗北感があるな」

「はっはっは、私が言葉の響きなどに負けるわけないだろう」

「おーおー羨ましい限りだ」

「藤牧さんは強い人なんですか?」

「ああ、誰にも負けない強い人だ」

「ハラショー…!!」

「おお、ロシアンガールだったか。ロシア語で話した方がよかったかな」

「ツッコミが追いつかなくなるからやめて」

 

 

いつも通りまっきーが腹立つ。なんで自信満々に誰にも負けないとか言えるんだ。実際負けないだろうけどさ。あとロシア語話せるのか。話せるだろうけどさ。まっきーだし。

 

 

「そういえばさっき有名人がいたぞ。脚本家の」

「ああ、天童さんかな」

「そう、天童一位。知り合いか?」

「うん。桜と同じく同業者で、僕らの顔だよ」

 

 

やはり天童さんもいた。天童さんは僕や桜と違って顔出しオーケー本名丸出しなので非常に世間的には顔が広い。さすがコミュ力の塊。どこにいるのかなと思ったけど、遠目に人だかりが出来ているのが見えるから多分あそこだろう。おそろしい。

 

 

「ってもう始まるじゃん。ほらどいてどいて」

「おう。ほら、散れ散れ」

 

 

気づいたらもう開演数分前だった。ちゃんとお仕事せねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブは始まる。

 

 

雨の中でも結構盛況で、μ'sのみんなもやる気満々だった。

 

 

最初の曲は新曲「No brand girls」。かなり動きも歌も激しい曲で練習時間もなかったけど、何とか形になっている。すごいね。

 

 

 

 

 

 

けど、なんか高坂さんが微妙にふらついてるような…?

 

 

 

 

 

 

そして、曲が終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果ッ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高坂さんが、倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

 

 

何が起きたの?

 

 

 

 

 

 

「おい!穂乃果、大丈夫か!くそっなんて熱だ…舞台袖に連れて行く!どけアホぼーっとしてんじゃねえ!!!」

「毛布とタオルと冷水を持ってくる。穂乃果を頼んだ」

「わかった早くしろ!穂乃果、穂乃果!!」

「退きな水橋君、たまたま医者が居合わせたのだから私に任せるといい」

「やかましい!引っ込んでろ!!」

「あまり患者の側で大声を出すんじゃない」

「水橋さん、あまり動かすもんじゃない。毛布と冷やしたタオル、冷水を持ってきた。応急だが野ざらしよりはマシだろう」

「先に濡れた体を拭いてあげるといい。水の蒸発熱で体温が奪われる、できるだけ軽減してあげなさい」

「誰だあんた」

「メイド喫茶で挨拶したと思うんだが…藤牧蓮慈、医者だ」

「医者か、早く治せ」

「君たち医者に敬意はないんだな」

 

 

 

 

 

高坂さんが地面に倒れる前にステージに駆け上がって受け止めた桜、的確に必要なものを持ってくる創一郎、医者として支援するまっきー…ゆっきーや天童さん、その他知らない人も観客の誘導とか色々やっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕だけ、何もできずに、座ったまま動けなかった。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

ついに始まりました、アニメ一期いちばん辛いとこ。私自身書いてるだけで非常に辛かったです。はやくハッピーエンド迎えて。
ライブでは、天童さんが御影さんや松下さんを連れて来てるので何気に湯川君以外勢揃いしています。誰が誰だったかわからなくなりそう!どこかにまとめておいた方がいいんでしょうか。

とにかく、ここからが本番です。



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悲劇の幕まであと一歩



ご覧いただきありがとうございます。

またお気に入りしてくださった方がいました!!ありがとうございます!!毎投稿ハッピーですよ私!!!死にそう!!!生きる!!!!(うるさい)
そして善子誕生日おめでとう!連投してるおかげで誕生日ジャストに祝えましたよ!!あなたも祝いましょう!レッツ黒魔術!!

まあタイトルが前書きのテンションと落差ありすぎなんですけどね。毎回タイトルは遊んでますが、しばらくはそんなテンションじゃなくなりそうです。

というわけで、どうぞご覧ください。




 

 

 

 

「待って、待って…待ってよ、何もラブライブ出場を諦める必要はないじゃないか!!」

「いいえ…その必要があるのよ。穂乃果が倒れたのは私たちの責任でもあるもの。誰か1人でも穂乃果を止めていれば、ああはならなかった…」

「嫌だ…嫌だ!!失敗は次に活かすものだろ?!ここで辞めてしまったらもう二度と!こんなチャンス来ないじゃないか!!」

「だからこそ、よ。目先の目標のために身を削っていては本末転倒よ」

 

 

穂乃果が倒れた翌日、全員で集まって、ラブライブ出場を辞退しようという運びになった。反対者が出るかもしれないとは思ったが、まさか茜がこれほど強烈に反発するとは思わなかった。一種鬼気迫るものを感じるほどの苛烈さで絵里に食ってかかっている。

 

 

「だめだ…そんなの、せっかく…」

「いいのよ、茜」

「…にこちゃん」

「私だって、メンバーを潰してまでラブライブに出ようなんて思わないわよ。これが一番いいの」

「いいわけない…いいわけない!!だってにこちゃんは!!」

「いいのよ!!!」

 

 

ガンッ!!と椅子を蹴って立ち上がるにこ。悔しそうに唇を噛みながら、しかしまっすぐ茜を見据えて。

 

 

「私だって悔しいわよ!!スクールアイドルの頂点を目指したいわよ!!でも、でも!!穂乃果を犠牲にしてまで辿り着いて、それが心から喜べるとも思わないわ!!」

「に、にこちゃん…」

「…」

「…わかったよ。にこちゃんが、そこまで言うなら…」

 

 

にこの慟哭を聞いて、茜も覚悟を決めたようだった。震える手ではあるが、目の前のパソコンを操作し…

 

 

 

 

スクールアイドルランキングから。

 

 

μ'sの名を。

 

 

…消した。

 

 

 

 

「…これでいいかい」

「…うん」

「…ごめんなさい。私たちがもっと穂乃果のことを気にかけていれば…」

「…いい、いいよ。それ以上…何も言わないで…」

 

 

いつもの飄々とした態度は鳴りを潜め、すっかり意気消沈してしまっている茜は弱々しく立ち上がり、自分の鞄を持ってフラフラと出て行ってしまった。

 

 

「茜があれほど反対するとはな…」

「きっとにこの夢が叶いそうだったからよ。彼の中心はいつもにこだから」

「…そうね」

「にこにも、悪いことしちゃったわね…」

「いいわよ…。私も帰るわ。茜が心配だし」

「そうやね…今日はもう解散にしよっか」

 

 

希の提案で今日のところはお開きということになった。どうせ今の状態で練習などしても身に入らないだろうし、そうすべきだろう。

 

 

海未とことりは先に帰り、絵里と希は生徒会の仕事があるそうで残っていった。だから今帰路につくのは一年生の4人だ。

 

 

「残念だったけど…これでよかったんだよね」

「よかったかどうかで聞かれれば、全体を通してまったく良くはないが…悪くはないと信じている」

「にこちゃんも茜くんも…なんだか可哀想にゃ」

「仕方ねぇよ、俺たち全員が背負うべき罪だ」

「そうよね…」

 

 

案の定意気消沈している3人。花陽もアイドル好きとしては辛い選択になっただろう。

 

 

しかし…このまま暗い顔させ続けるわけにもいかない。

 

 

「…よし、お前ら、うちの弟どもと遊んでいけ」

「「「え?」」」

「遊んでいけ。動けば少しぐらい気も紛れるだろ」

 

 

そう言って振り返ると、キョトンとした顔でお互い顔を見合わせた後、こっちに笑顔を見せてきた。何笑ってんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果が倒れた日から数日経った。

 

 

あの日はとにかく必死に穂乃果を回復させようとして病院に連れて行くまで全部ついていった。結局風邪をこじらせただけで命に別状もなく、数日寝ていれば回復するとのことだった。

 

 

とはいっても心配だったから毎日見舞いに行っていたのだが…。

 

 

「あーん」

「…」

「…桜さーん?早くー」

「そろそろ自分で食えよ…」

 

 

なぜか俺が餌付け役をやらされた。

 

 

しかも割と元気だ。

 

 

心配してソンした気分になる。

 

 

「もう粥でもねーんだし、自力で食えるだろ…」

「えー、でも咳はでるよ!」

「熱は引いただろ」

「咳はでるよ!!」

「ゴリ押しすんな」

 

 

意地でも食わせてほしいらしい。なんなんだ。

 

 

しかも今食わせてるのはおやつのプリンだ。おやつにまで俺を使うんじゃねえ。

 

 

「あーーーーーーーん」

「わかったわかったもうはよ食え」

「あむっ…んーっ美味しい!」

「あーあーよかったなはよ食え」

「まだ食べてる!!」

「うるせえはよ食え」

「桜さんもしかして照れてる?」

「照れてねえはよ食え」

 

 

誰がてめーなんかに照れるか。マジで心配して損した。

 

 

「あー」

「ったく何で俺がこんなこと…」

「お邪魔しま…す…?」

「げっ」

「あむっ…あ、海未ちゃん!ことりちゃん!」

 

 

ちょうど餌付けしているタイミングでμ'sの奴らが来た。全員ではない、2,3年の女子どもだけだ。茜はいねーのかよ。いなくてよかった。

 

 

「よかったぁ、起きられるようになったんだ!」

 

 

華麗にスルーしてくれた。ありがてえ。

 

 

「うん!風邪だからプリン3個食べてもいいって!」

「食わせねーからな?」

「何で?!」

「どう考えても食いすぎだ」

「心配して損したわ…」

「奇遇だな絢瀬、俺も毎日思ってるわ」

「ひどい?!」

 

 

確かにそんなこと言ってた気がするが、そんな大食いさせるわけねーだろ。

 

 

「それで、足の方はどうなの?」

「ああ、うん。軽く挫いただけだったし処置も早かったから、腫れが引いたら大丈夫だって」

「藤牧さんにもお礼を言いに行かなければなりませんね」

 

 

穂乃果は倒れた時に足を挫いたらしく、右足には包帯が巻かれていた。俺は熱に気を取られてまったく気がつかなかったが、藤牧が即座に気づいて患部の冷却やら固定やらを迅速にやってくれた。感謝しかねぇ。

 

 

「…本当に今回はごめんね。せっかく最高のライブになりそうだったのに…」

「穂乃果のせいじゃないわ。私たちのせい…」

「でも、

「はい」

 

 

穂乃果の言葉を遮って絢瀬が差し出したのは、数枚のCD。手書きで表面に曲名が書かれている。有名どころからマイナーまで、ゆったり系ピアノ曲が目白押しだった。その選曲センス嫌いじゃない。

 

 

「真姫がピアノでリラックスできる曲を弾いてくれたわ。これ聴いてゆっくり休んで」

「わぁ…!!」

 

 

弾いたのか、この曲数。やるなあの赤髪ツリ目。

 

 

とか感心していたら、穂乃果がおもむろに窓をバッと開け、

 

 

「真姫ちゃん!!ありがとーーー!!!」

「何やってんだ?!」

「アンタ風邪引いてんのよ?!」

「うわ!ごほっげほっ」

 

 

叫び出した。

 

 

恐らくは外にいる西木野に。

 

 

馬鹿だな。

 

 

「ほら、病み上がりなんですから無理しないでください」

「ありがとう。でも明日には学校行けると思うんだ」

「ほんと?」

 

 

これは本当だ。熱が引いたのは一昨日、足の腫れもほぼ引いたし、咳も相当収まった。もう平気だろう。

 

 

「うん。…だからね、短いのでいいから、もう一度ライブできないかなって!ほら、ラブライブ出場まであと少しあるでしょ?何ていうか、埋め合わせっていうか…何かできないかなって!!」

「お前病み上がりでライブやってまた倒れたらどうすんだよ」

「今度は無理しない!短くてあんまり激しくない曲をやるから!」

「そういう意味じゃねーんだがな」

 

 

穂乃果も罪悪感は感じているようで、そんなことを今いるメンツに相談した。まあ、あと少しっつーかもう3日しかないようだが、間に合うか?

 

 

…というか。

 

 

なぜ当のメンバーたちは黙っている?

 

 

「…みんな、どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果…ラブライブには、出場しないわ」

 

 

 

 

 

 

 

「…え」

 

 

俺も。

 

 

今初めて聞いた。

 

 

…当たり前か。それでも茜が伝えてくれるかと思っていたが。

 

 

「理事長にも言われたの。無理しすぎたんじゃないかって、こういう結果に招くためにアイドル活動をしていたのかって。それでみんなと話し合って…エントリーをやめた。もう、ランキングに…μ'sの名前は、ないの」

「そんな…」

「私達が悪いんです。穂乃果に無理をさせたから…」

「ううん、違う。私が調子に乗って、」

「誰が悪いなんて話してもしゃーねーだろ。…もうやっちまったことだ」

「桜さんの言う通り、あれは全員の責任よ。体調管理を怠って無理をした穂乃果も悪いけど、それに気付かなかった私達も悪い…」

「えりちの言う通りやね」

 

 

μ'sっつーのは誰も彼もが優しく、一人で責任を背負いこもうとする。そうではない、みんなで責任を背負わねば。つーか矢澤がやたら静かだと思ったが、これが原因か。茜も、矢澤のことだから言い出せなかったのかもしれない。

 

 

つーか最近あいつと連絡とってねーな。

 

 

「…じゃあ、私たちはもう行くわね」

「うん…ありがとね」

「桜さん、穂乃果をお願いします」

「俺がいつも暇だと思ってねーか?」

「そうよ、桜さんも学校あるはずだし」

「あっ…そ、そうですよね。ごめんなさい」

「…いや、いいさ」

 

 

…ダメージは受けたが、それは園田のせいじゃない。むしろ、絢瀬の言葉だ。

 

 

全員が出て行ったあと、穂乃果は重々しく口を開いた。

 

 

「…桜さん、ラブライブ…だめだって」

「…ああ、残念だな」

 

 

ベッドの端に腰掛け、身を起こす穂乃果を見つめる。何でもなさそうな顔をしながら、瞳は大きく揺れていた。さっき俺もダメージ負ったからだろうか、なんだか愛おしく思えてきた。

 

 

ああ、きっと状況のせいだ。

 

 

俺が穂乃果なんか好きになるわけねー。

 

 

 

 

 

だけど、

 

 

 

 

 

「わっ」

「…泣きたい時は泣いておけ。我慢するのは、辛いだろ」

「…うん」

 

 

 

 

 

こんな心身が衰弱した女の子を、放っておくのは。

 

 

俺にはできないから。

 

 

今だけ、今だけは、ちょっとくらい抱きしめてやってもいいだろ。

 

 

 

 

 

穂乃果は俺の胸に顔を埋めて、意外にも静かに泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、高坂穂乃果には伝えられないまま決めてしまったんだな」

『…仕方ないんです。穂乃果ちゃん、ずっとラブライブに夢中だったので…』

「まあ、決めてしまったものはどうしようもない。発つ前に伝えな、せめてな」

『はい…』

「では、俺は先方に連絡しておく。君も早く準備するといい」

『…はい。ありがとうございます』

 

 

そこで通話は切れた。南ことりもこれからフランス渡航の準備を行うのだろう。

 

 

「さあ、どうだ?俺のシナリオ通りだったろ?」

「…まさしくな。あんた一体何者だ?」

 

 

今いるのは誰もいない劇場の控え室。俺が座る車椅子の後ろには、いつもの蓮慈ではなく、見慣れない長身の男がいた。

 

 

天童一位。

 

 

世界最高と名高い脚本家だ。

 

 

「言っただろ?ただの茜の友達だぜ」

「怪しいことこの上ないな」

「わーお何この信頼感の低さ」

 

 

…しかし、なんというか、おちゃらけているというか。茜や水橋桜氏のようなオーラがさっぱり感じられない。ただのいじられ役だ。

 

 

「そんな態度だから信用ならないんだ」

「つっても、今のところシナリオ通りだろ」

「それは否定しないが」

「だろ?」

「…蓮慈や茜とはまた違った方向で鬱陶しいなあんた」

「ひどくなーい?わたくしそんなに悪行を成したつもりないんですけどー?」

 

 

本当になんか腹立つやつだ。

 

 

しかし、彼の言う通り、現状は彼の描いたシナリオ通りの展開が続いている。初めて会ったのはこの間のライブのときだが、そこから彼のシナリオだったらしい。

 

 

彼のシナリオの始まりは高坂穂乃果が倒れたことをきっかけに描き出されたそうだ。

 

 

その後、翌日の夜にはスクールアイドルランキングからμ'sの名が消えていた。

 

 

以降、茜から連絡が来なくなった。

 

 

音ノ木坂の入学案内がネット上に掲載された。

 

 

そして。

 

 

「今、南ことりがフランス行きを決めたのも…シナリオ通り」

「おーい一人で喋ってんじゃねーぞー、泣くぞー」

「おい、このままシナリオ通り行くと…」

「おお、急に話しかけてきたな。そうだな、

 

 

 

 

 

数日以内に、穂乃果ちゃんはμ'sを抜ける」

 

 

彼は、たとえ現実であっても、今後起こりうるシナリオを読むことができるのだろうか。そんなの、蓮慈でもできない未来予知の類だ。

 

 

「はっはっは、もしかして未来予知できるとか思ってる?いやーわかっちゃう?俺ってば天才だからなー!!」

「本当にうざいな」

「だからもうちょいソフトにさあ?!」

 

 

本当に所作が腹立つやつだ。

 

 

「…まあ、冗談は置いといて。未来予知してんじゃねぇよ。俺は人の行動をちょっと先読みするだけ。それもできるだけ多くな。そうすると、取れる行動がだんだん絞られていく。ある人とある人の関わりがまた別の行動を阻害する…そんな一連の流れを読むだけ」

「十分化け物の所業だ」

「そうかもな」

 

 

今度はふざけた返事をしなかった。

 

 

「まあ人となりがわかればさらに精度が増す。だから茜や桜はお手の物よ。…そして、ここからが俺の本領」

 

 

今の本領じゃなかったのか。

 

 

「俺も悲劇作家じゃないんでね、できれば予測した悲劇は未然に防ぎたい。だから、俺自身が物語に介入して、少しだけレールを切り替えてやる。…それを繰り返して、一つの悲劇から起こる最悪の悲劇を回避する。それが俺が作れる最高傑作だ」

「そんなことが…」

「可能さ。ちょうどいいからあんたにも介入してもらう、いや介入してもらわなきゃハッピーエンドは飾れねぇ。あんたが今までにとった行動も全部巻き込んで、利用して、みんな笑えるエンドを取りに行くぜ」

 

 

なんとも荒唐無稽。

 

 

ふざけたことを言っているとしか思えない。

 

 

…だが、このまま南ことりを孤独で送り出すのも癪ではある。

 

 

「…具体的に、どうする気だ?」

 

 

信用ならなくても、何もしないのは気に入らない。

 

 

「まあぶっちゃけ穂乃果ちゃん離脱までは防げねぇ案件だ。だからそこから先の改変をする。第1目標は穂乃果ちゃんの復帰、ことりちゃんの離脱阻止、茜の回復の3点。他にも問題点は山積みだが、まずはこれさえ押さえればいい。他の結果はオマケだ」

「…待て、茜がどうしたっていうんだ」

 

 

 

「あいつこのままだと死ぬからな」

「は?」

 

 

さらっと恐ろしいことを言いやがった。

 

 

「だから、命を救うついでに性根を叩き直す。あいつの異常性を回復するまたとないチャンスだからな」

「はあ…」

 

 

さっきから異様に饒舌だが、こういう人なのだろうか。

 

 

しかし、茜の「異常性」とは…一体なんだ??

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

巻き込まれ大魔王の水橋氏、ついにデレる。さあ想像したまえ、水橋君の胸でさめざめと泣く穂乃果ちゃんをッ!私が泣いちゃう!!
波浜君と滞嶺君も心が辛そうですが、今後どうなるやらですね。
そして水面下で動くは天童さんと雪村君。あんまり活躍してこなかった天童さんが本気出し始めました。
「こんなネタキャラで大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」


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救った未来、救えなかった未来



ご覧いただきありがとうございます。

前回もまたお気に入りしてくださった方がいらっしゃいました!!ありがとうございます!!毎回これを言えるのすごく嬉しいですね!!連投の影響で普段投稿しない曜日にも投稿してるせいでしょうか?まあ嬉しいからなんでも良いです!!

というわけで、どうぞご覧ください。





 

 

 

 

 

穂乃果の家まで見舞いに行った翌日、俺はいつも通りμ's一年生ズと共に部室へと向かっていた。

 

 

「穂乃果ちゃん、元気になってるといいけど…」

「まあ…元気じゃなかったら希がなんとかするだろ…」

 

 

今朝方、復活した穂乃果にも会ったが、やはりラブライブへの未練があるようだった。それはそうだろうとは思う。しかし、それも乗り越えて次に活かさなければならない。…希のわしわしマックスを見たくないというのもあるが。

 

 

「うん…あれはもうこりごりにゃ…」

「お前食らったことあんのかよ」

「…その目はなに?」

「いやお前…うおっ何だ急に飛びかかってきやがって」

「なんか聞きたくないセリフの予感がしたにゃ!!」

「別に貧乳が悪いとは言ってねぇぞ」

「フシャーーー!!!」

「うおっ」

「…何やってんのよ」

 

 

正直に言ったら猫みたいに飛びかかってきた。引っ掻かれたり抓られたりするがさほど痛くは無い。そんなヤワな肌では無い。真姫も花陽も呆れた顔をしているし、さっさとどいてほしい。あと一般モブの視線が痛い。

 

 

「にゃ?!」

「急にでかい声出すなアホ」

「創ちゃんこれ見てこれ!!」

「創ちゃんはやめろ」

「見て!!」

「聞けよ」

 

 

背中にしがみついた凛が後ろを振り返らせようと頭を両手でひっつかんで叫ぶ。うるせえよ、耳悪くなるだろ。

 

 

仕方なく振り向くと、一枚の張り紙が目に入った。別に目を引くような煌びやかさあるわけでもなく、なんの変哲も無いただの白い紙に印字してあるだけだ。

 

 

しかし、内容は。

 

 

 

 

「来年度…」

「入学者…」

「受付の…」

 

 

「「「「お知らせ?!?!」」」」

 

 

 

 

まさか!!

 

 

「早くみんなに伝えなきゃ!!」

「あっ凛ちゃん!待ってぇ!!」

「え?ま、待ちなさいよ!!」

「おいコラ置いてくな」

 

 

一気に駆け出す三人娘。待て、置いていくな。どうせすぐ追いつけるが。

 

 

速攻で3人捕らえて屋上に運び、扉をバンッ!と開け放ち3人を放り投げる。

 

 

「お前ら!!!!」

「大変にゃ!!」

「た、助けて…」

「何してんの君ら」

「大変にゃ!!」

「うん、ちゃんと聞こえてるから大丈夫だよ」

 

 

既に他のメンバーは勢揃いしており、茜も日陰でぐったりしてはいるがいつもの調子だった。そこはまあ安心して、しかし言葉で説明するのもなんか気にくわない。

 

 

「いいから来い!!」

「一体何がぐえ」

 

 

とりあえず茜をひっつかんで掲示板の元へ戻る。茜は死にかけたが、後からちゃんと他の面子もついてきた。茜は死にかけたが。

 

 

「…来年度、入学者受付のお知らせ?」

「これって?!」

「中学生の希望校アンケートの結果が出たんだけど…」

「…どうやら、去年よりはるかに多かったそうだよ…。だから、音ノ木坂は存続。来年も新たな一年生が入ってくるってこったね」

「再来年はどうなるかわからないけどね」

「じゃあ後輩できる?!」

「うん!」

「やったにゃー!!」

 

 

絵里や茜の解説に喜ぶ一同。これは喜ぶしかないだろう、何しろμ'sは音ノ木坂存続をかけて作られたスクールアイドルだ。多くの苦難を乗り越えて、これほどのことを成し遂げた。

 

 

音ノ木坂を救った…!!!

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」

「うわっ?!」

「創ちゃんどうしたの?!」

「お前らっ!これが叫ばずにいられるか!!!」

「元気だね」

 

 

俺が頑張ったわけでもないのだが、無性に達成感がこみ上げてきて、つい叫んでしまった。みんなの鼓膜は無事だろうか。

 

 

「よし、こういう時はどうすればいい!今なら4tトラックも持ち上げれられるぞ!!」

「何言ってんの」

 

 

喜びを言葉で表現したら茜に引かれた。しかし今は本当にそんな気分なのだ。何だってできる、そんな気分だ。

 

 

しかし肝心の「何すべきか」は全くわからん!!

 

 

「落ち着きなさいよ。…でもせっかくだし、明日お祝いパーティーするわよ!お菓子買ってきなさい!」

「了解ッ!!」

「待ってお金どうすんぶぇ」

「来い財布!!」

 

 

にこの提案を受けて即出発。金は後で集めるとして、とりあえず茜を財布代わりに連れて行く。財布役なら瀕死でも構わん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではとりあえず…にっこにっこにー!」

「開幕はそれ安定なんだね」

「うるさい」

「はい」

 

 

そして翌日、大量のお菓子とメンバーたちによる料理を部室の奥の部屋に並べてパーティーが開催された。飾り付けなんかもしてなかなか豪華になっている。片付けが面倒かもしれないが、今そんなことを気にするのは野暮だろう。

 

 

「みんなー!グラスは持ったかなー?」

 

 

そして、一応部長であるにこが場を取り仕切っている。まあおそらく仕切り役としては最後まで保たないだろうが。

 

 

「とりあえず学校存続が決まったということで…部長のにこにーから一言!挨拶させていただきたいと思います!!」

「おおー!」

「にこちゃんがんばれー」

 

 

意気揚々と演説を始めるにこ。今回は挨拶を準備したんだろう。しかし茜が微妙に疲れたテンションなのが心配だ。海未とことりも何故か喜ばしいとは言えない顔をしている。

 

 

「思えばこのμ'sが結成され、私が部長に選ばれた時からどれくらいの月日が流れただほうか…!!」

「あっこれ長いやつだ」

「たった二人のアイドル研究部で耐えに耐え抜き、今こうしてメンバーの前で思いを

「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」

「ちょっと待ちなさーい!!!」

「そんな気はしてたよ」

「どう考えても長ぇよ」

 

 

大方の予想通り、フリーダムなμ'sたちは話が長いと見るや否や乾杯してしまった。にこの制止も振り切ってお菓子や料理に手を伸ばす女子達。何でもありだなこいつら。

 

 

「お腹すいたー。にこちゃん、早くしないと無くなるよ!」

「…卑しいわね…」

「みんなー!ご飯炊けたよー!」

「何でご飯があるんだ寄越せ」

 

 

俺は俺で白米をいただく。結局俺もフリーダムだな。

 

 

ご飯を山盛りにして少し離れると、絵里と希が保護者さながら優しくメンバーを見守っていた。

 

 

「ホッとしたようやね、えりちも」

「まあね…肩の荷が降りたっていうか」

「何だ、そんなに肩肘張ってたのかお前」

「生徒会長だもの。責任を感じるところではあるわよ」

 

 

そういえば、花陽が以前の絵里は怖かったとか言っていた気がする。合宿前までは実際に怖がっていたくらいだしな、色々気苦労があったのだろう。

 

 

「μ's、やってよかったでしょ?」

「…どうかしらね。正直、私が入らなくても同じ結果だったと思うけど…」

「そんなことないよ。μ'sは9人、マネージャーが2人。それ以上でも以下でもダメやってカードは言うてるよ」

「ああ、きっとお前ら9人でなければ俺も手伝わなかったと思う。絵里が不要だった、なんてことは絶対無ぇ」

「…そうかしら」

 

 

誰かが居なくなったら成り立たない。それがμ'sだと俺は思う。名前も9人の女神なんだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい…みんなにちょっと話があるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突然ですが、ことりが留学することになりました」

 

 

 

 

 

 

 

突然の話に、頭がついていかなかった。

 

 

 

 

 

 

「2週間後に日本を発ちます」

 

 

ことりが?留学?突然、このタイミングで?

 

 

「…は?」

「ちょっと…どういうこと?」

「前から服飾の勉強をしたいと思ってて…そしたらお母さんの知り合いの学校の人が来てみないかって…。ごめんね、もっと早く話そうと思ってたんだけど…」

 

 

誰も彼もが困惑していた。信じられなかった。ここまで一緒にやってきて、廃校を乗り越えて、ここからまた始まると思った矢先。

 

 

「学園祭でまとまっている時に言うのはよくないと…ことりは、気を遣っていたのです」

「それで最近…」

「行ったっきり…戻ってこないのね?」

「うん…高校を卒業するまでは…」

 

 

高校を、卒業するまでは帰ってこない。

 

 

それはつまり、彼女が音ノ木坂に帰ってくることはないということ…。

 

 

 

 

 

 

 

「…どうして、言ってくれなかったの…?」

 

 

 

 

 

穂乃果は震える声で呟きながら立ち上がった。そう、そうだ。今最も不自然なのは、彼女が留学のことを知らなかったこと。海未は知っていて、穂乃果は知らない。一番の幼馴染であるはずなのに。

 

 

「だから…学園祭があったから…」

「…海未ちゃんは知ってたんだ」

「それは…」

「…どうして言ってくれなかったの?ライブがあったからっていうのもわかるよ。でも…私と海未ちゃんとことりちゃんはずっと…!」

「穂乃果…」

「…ことりちゃんの言うこともわかってあげな

 

 

 

 

 

 

 

「分からないよッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

叫び声が炸裂した。

 

 

今まで聞いたことのないような…そう、多くの修羅場や阿鼻叫喚の地を渡り歩いた俺も聞いたことのないような、怒り、悲しみ、嘆き、戸惑い…様々な負を全部投げ込んだような、叶うなら死ぬまで聞きたくなかった、恐ろしい叫びだ。

 

 

「だって!いなくなっちゃうんだよ?!ずっと一緒だったのに!離れ離れになっちゃうんだよ?!それなのに…!!」

「…何度も言おうとしたよ?」

「………え?」

 

 

多くを叫んで糾弾する声を、ことりが止めた。今にも泣きそうな声で、表情で。

 

 

「でも、穂乃果ちゃんライブに夢中で、ラブライブに夢中で…だから、ライブが終わったらすぐ言おうと思ってた。でも…あんなことになっちゃって…。聞いて欲しかったよ!穂乃果ちゃんには!!一番に相談したかった!!だって!…穂乃果ちゃんは初めて出来た友達だよ?!ずっと側にいた友達だよ?!!」

 

 

ことりも抑えきれない涙を流して、堰を切ったように言葉を投げ出した。ああ、きっとそうだったのだろう。彼女は優しかった。友人の邪魔をしたくなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

だから。

 

 

 

 

 

 

「そんなの…そんなの!当たり前だよっ!!」

 

 

 

 

 

全てタイミングを、逃してしまった。

 

 

 

 

 

「ことりちゃん!!!」

 

 

叫んで飛び出していってしまったことりを、追いかけられる者はいなかった。俺も動けなかった。ここで彼女を捕らえる勇気がなかった。連れ帰ってきてどうしたらいいかなんて、何も思いつかなかった。

 

 

こんな状況では、これだけ鍛えた筋肉も全く役に立たないな…。

 

 

「ずっと…行くかどうか迷っていたみたいです。いえ、むしろ行きたくなかったようにも見えました。ずっと穂乃果を気にしていて、穂乃果に相談したらなんて言うかとそればかり…。黙っているつもりはなかったんです。本当にライブが終わったらすぐ相談するつもりでいたんです…分かってあげてください」

 

 

海未の弁明は主に穂乃果に向けたものだろう。穂乃果も放心してはいるが、聞こえてはいるようだ。他のメンバーもうなだれて、人によっては涙を浮かべて黙っている。

 

 

「…もう、今日は帰ろうか」

 

 

一人、全くの無表情を貫く茜が言った。決して何も感じていないわけではない。奴は真顔が緩い笑顔みたいなやつだ、無表情になんてほとんどならない。

 

 

あいつもどこか、ダメージを受けているのだろう。

 

 

…茜の言葉に反論する者はなく、静かに片付けて、みんな無言で去っていった。

 

 

俺はみんなが去った後、屋上に行った。屋上の真ん中で膝をつき、両手も地面についた。こんな体勢をとるのはいつ以来だろうか、負けたときくらいしかこんな無様な格好はしなかった。

 

 

…何も出来なかったのが悔しかった。

 

 

きっとできることは無かったが、それでも…無力な自分に腹が立った。

 

 

 

 

 

 

「—————————————————————————————ッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

音に表現できないほど叫んだ。

 

 

上体を逸らして天を仰ぎ、地球の裏まで届けと、太陽まで届けと言わんばかりに叫んだ。

 

 

張り裂けるほど。

 

 

…壊れそうなほど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おい、あんたの指示通り動いているが…本当に大丈夫なんだろうな?」

「まーた心配性だな。大丈夫だって言ってんだろ?何も問題ないって!あと俺一歳だけ年上だからね?!」

 

 

今日も俺と天童一位は劇場の空室で裏工作をしていた。劇場なんか勝手に使っていいのかと思ったが、彼がこの劇場の責任者なんだそうだ。何者だこいつ。

 

 

「敬語は使う気になれないな。全く事態が見えないし好転しているようにも思えない、これで信用を得られると本気で思ってるなら無理があるぞ」

「ねぇそんなに俺のこと嫌いなの?泣くよ?泣いちゃうよ俺?」

 

 

南ことりが留学を決めてから数日、俺は天童一位の指示通りの行動を起こしていた。今していることが本当に役に立っているのか…というか読みが外れたら恐ろしいことになる。恐ろしい胆力と自信だ。

 

 

「責任取れるんだろうな…」

「さあなー。あーもしもし?オレオレ。あー待てっ詐欺じゃねー!天童!天下一品天童さんですぅー!!てめっ聞いた上で切ろうとすんな!ああ?!嘘つくな!!見える、私にも見えるぞ!!」

「…マジでなんなんだ?」

 

 

…急に電話しだす天童一位。動きが読めないにも程がある。

 

 

「いやさぁ桜、お前茜の家行ったことあるだろ?なんか変なもんなかったかなーって。あ?いいじゃねーかネタになるだろ?あいつもそろそろ舞台化していいと思うんだよ。………ほう、そんなんあるのか。気持ち悪いなあいつ。…何だとコラ、俺は気持ち悪くないぞ。今世紀最大の気持ち良さを放ってあー待て待て俺が悪かったーッ!!!」

「…」

 

 

会話の内容が気になりすぎる。

 

 

そういえば、俺も蓮慈も茜の家には入ったことがないな。まあ、お互い相手の家に入ろうなんて思わないんだが。

 

 

何が勘に触るかわからない地雷源みたいなもんだしな、自宅なんて。

 

 

「あ?直接聞いたところであいつは変とは思ってねーだろ?第三者の意見が大事なんだよ。……だーかーらー仕事!俺、仕事では真面目だろ?!違うの?嘘?もうマジ無理マリカしよ…」

 

 

本当に仕事の話なのか、今回の作戦の話なのか判断に困る。

 

 

「あー、お前もか?やっぱ怪しいよなー、ここに来て引きこもるとか。一回にこちゃんに聞いてみるかな。……ん?ああ、大丈夫だ。俺も面識ある。お前は穂乃果ちゃんの心配してろ…おっと口が滑ったわ。はっはっはもう用は済んだから切るぞーお達者でー!!」

「…」

「よーし、俺もちょっと行動に移すかなー!カリスマムーブ見せちゃうぞー!!」

「…本当にうざいな」

「ねぇみんな俺に冷たいのはなんで?死にたくなるじゃん?」

 

 

今回うざいと形容したのは電話後の言動のことではない(うざいのは否定しないが)。

 

 

電話の最後の言葉。…口が滑ったとか言ったが、あれはわざと滑らせたのだろう。水橋桜の意識を高坂穂乃果に向けるための布石。一体どれほどの経験があればあんなに自然に布石を打てるのか。

 

 

…まさか俺も?

 

 

「さて、俺もそろそろ出番だな…」

「あんた自身も動くのか?」

「当然よ。予定通りなら明後日かなー、ちょっと前後するかもしれねーけど」

 

 

そう言って、「んじゃまたなー」と軽い挨拶をして出て行く天童一位。その背中はただの軽い男にしか見えないが、得体の知れない風格も纏っていた。

 

 

彼が考えていることは、今でもわからない。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回は情緒不安定な滞嶺君。感激で叫んだり辛くて叫んだり忙しい子です。なんだかんだ言って彼も高校一年生ですから。半年前くらいまでは中学生だったんです。精神的にも不安定にもなります。
あとは今日も元気に裏工作、天童さんと雪村君。何してるんでしょうね!!!

ちなみに、最近波浜君視点が少ないのは意図的にやってます。



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結局は、全て僕の勝手だった



ご覧いただきありがとうございます。

今回もお気に入りしてくださった方がいました!!ありがとうございます!!!沢山の人に読んでいただけると元気も出ますし頑張れます!!これからもよろしくお願いします!!
…まあ内容はブラックなんですけどね!!!

今回は空白多めなので読み辛かったらごめんなさい。

それでは、どうぞご覧ください。




 

 

 

 

 

「ライブ?」

「そう。みんなで話したの、ことりがいなくなる前にみんなでライブをしようって」

「…俺は聞いてないんだが」

「だって創ちゃんスマホ持ってないにゃ」

「金がねぇ。あといい加減創ちゃんやめろ」

 

 

翌日、絵里からライブの話を聞いた。昨日はこの屋上で全力で叫んだためなんか気恥ずかしかったが、当然そんなことはこいつらは知るわけない。平常心だ平常心。

 

 

しかし俺だけ話が通ってないのは微妙に悲しい。仕方ないが。

 

 

「来たらことりちゃんにも言うつもりよ」

「思いっきり賑やかなのにして、門出を祝うにゃ!!」

「はしゃぎすぎないの!」

「にこちゃん何するの?!」

「手加減してやったわよ!」

「にこちゃん手加減なんてできたの」

「ふんっ」

「あぼん」

 

 

みんななかなかはしゃいでいる。無理にやってるのか素なのかはわからないが、暗いよりはいいだろう。

 

 

 

 

だが、まだ顔が暗い奴がいる。

 

 

穂乃果だ。

 

 

「…まだ落ち込んでいるのですか?」

「明るくいきましょう?これが、9人での最後のライブになるんだから」

 

 

海未と絵里が声をかけるが、穂乃果は顔を上げない。余程メンタルにきてるんだろう。

 

 

「そうだ、μ'sの顔であるお前が暗い顔してちゃ、笑顔になれるもんもなれねぇよ」

 

 

今度は俺も役に立ちたい。何かしら励ましを入れてやるべきだろう。…得意ではないんだがな。

 

 

しかし。

 

 

いや、やはりと言うべきか。

 

 

「…私が、もう少し周りを見ていればこんなことにはならなかった」

 

 

俺の言葉は彼女に、届かない。

 

 

「そ、そんなに自分を責めなくても…」

「私が何もしなければこんなことにはならなかった…!」

「あんたねぇ…!!」

「そうやって全部自分のせいにするのは傲慢よ?」

「でも!!」

「…それをここで言って何になるの?何も始まらないし、誰もいい思いをしない」

「ラブライブだってまだ次があるわ」

「そう!次こそは出場するんだから、落ち込んでる暇なんてないわよ!」

「仮に今すぐ元気になれなくても、過ぎたことで悩むのは意味がないだろ。前向いて生きようぜ」

「創ちゃんが妙に優しい…」

「うるせえ。とにかく次のラブライブのために

 

 

 

 

 

 

 

 

「…出場してどうするの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

…なに?」

 

 

何故。

 

 

何で。

 

 

そんなことを言うんだ…?

 

 

「もう学校は存続できたんだから、出たってしょうがないよ」

「穂乃果ちゃん…」

 

 

そんなことはない。

 

 

花陽や凛から聞いているぞ。講堂でライブをした日、「やりたいから」って言ってスクールアイドルを続けたって。学校を救った後でも、新たな目標のために邁進するんじゃないのか。やりたいんだろ?そうだろ?

 

 

…そう思っても、声が出ない。

 

 

「それに無理だよ。A-RISEみたいになんて…いくら練習したってなれっこない」

「あんた…それ本気で言ってる…?本気だったら許さないわよ」

 

 

そうだ、無理なんてことはない。これだけ短期間で実力を上げてきたんだ、伸びしろも感じる。A-RISEも射程圏内だ。

 

 

そう思いはするが。やはり、声に出ない。

 

 

俺は、何をしているんだ。

 

 

「許さないって言ってるでしょ!!!」

「だめぇ!!」

「放しなさいよ!」

 

 

穂乃果に摑みかかる勢いで飛び出したにこを真姫が抑える。ああ、その役も本来なら俺のはずだ。何故俺の体は動かないんだ。

 

 

「にこはね!あんたが本気だと思ったから!本気でアイドルやりたいと思ってたからμ'sに入ったのよ!ここに賭けようって思ったのよ!!それをこんなことぐらいで諦めるの?!こんなことぐらいでやる気を無くすの?!」

 

 

ああ、そうだ。あんたは誰よりもスクールアイドルを愛して、目指して、憧れた。だから穂乃果を許せない。わかるさ、俺だって許せない。穂乃果の胸倉を掴み上げて吊り上げてやりたい。

 

 

しかし、やはり体は動かない。声も出ない。

 

 

穂乃果も、俯いたまま答えない。

 

 

「…じゃあ、穂乃果はどうすればいいと思うの?どうしたいの?」

 

 

絵里の催促にも無言を貫く穂乃果。今彼女は何を思っている?聞かなければならない。しかし、同時に聞いてはならない予感もした。

 

 

「答えて」

 

 

もう一度、絵里が言う。

 

 

穂乃果も、ついに口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………なんだと?

 

 

 

 

 

「私…スクールアイドル、やめます」

 

 

 

 

 

誰もが息を飲んだ。

 

 

驚愕、怒り、戸惑い…誰が何を感じているのかはわからない。しかし、誰も予想しなかった答えを。

 

 

穂乃果は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………何を言ってるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かの声がした。

 

 

女性の高い声ではないが、一般的な男性ほど低くもない声。

 

 

…今まで一言も喋らなかった、茜だ。

 

 

「君は何を言ってるんだ。引責辞任か?君が始めたこのグループを、自分が悪いからってやめてしまうのか?君が作り上げたμ'sは、そんな簡単に放り捨てていいものなのか?!なあ!!ここはもう君一人のものじゃないんだぞ!!」

「…じゃあ、誰のものなの」

「そんなものμ'sのみんなの

 

 

 

 

「…にこちゃんでしょ」

「っ?!?!」

 

 

 

 

茜が、初めて見せる憤怒の表情で穂乃果に詰め寄る。穂乃果の制服を掴んで、本気で怒っていた。にこも口を挟めないほどに。

 

 

しかし。

 

 

彼の本音を、穂乃果は恐ろしく的確に貫いてしまう。

 

 

「にこちゃんのため。そうでしょ?茜くんいつもそうだもん。…あなたにとっては、μ'sは私たちの居場所とかじゃなくて、にこちゃんの居場所なんでしょ?」

「…それは…!!」

 

 

実際そうなんだろう。茜の思考は常ににこ中心、他のことは後回しな節がある。

 

 

だが、今それを。

 

 

糾弾してはいけない気がした。

 

 

 

 

したが、止められない。

 

 

 

 

 

 

「…茜くんの都合に、私を巻き込まないでよ」

 

 

 

 

 

 

「…あ、」

 

 

 

 

 

 

茜は。

 

 

穂乃果の制服を手放し。

 

 

その目は、表情は、生きている人間とは思えないほど生気が抜けていた。

 

 

そのまま動かなくなった茜を置いて、屋上から去ろうとする穂乃果。にこがキレるかと思ったが、にこもかつてないほどの絶望感を纏っていた。

 

 

誰も動けなかったが。

 

 

唯一、海未が穂乃果に近づき、

 

 

 

 

 

バシィッ!!!と。

 

 

穂乃果にビンタを食らわせた。

 

 

 

 

 

 

「…あなたがそんな人だとは思いませんでした。最低です…あなたは最低ですッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、みんな帰ってしまった。茜はにこに連れられて、穂乃果と海未はバラバラに。多くのものが崩れていく感覚があった。喪失感とも言うのだろうか。

 

 

「…創ちゃん、凛たちも帰ろ?」

「……ああ」

 

 

凛に促されて、俺も歩き出す…が、数歩で止まってしまう。

 

 

「大丈夫…?」

「…ごめんな」

「え?」

「何もできなかった…お前らを支える立場にありながら、穂乃果を止めることもできなかった…!!」

 

 

思わず拳を握る。昨日あれだけ叫んだのに、まだ叫び足りない。自分が許せない。あの場で動けなくなってしまった自分が。

 

 

「…ううん、創ちゃんはあれでよかったんだよ」

 

 

…え?

 

 

凛は良かったと言う。何が良かったんだ、何も出来なかったし、何も救えなかったのに。

 

 

しかし、花陽と真姫も寄ってきて言葉を続ける。

 

 

「そうだよ。創ちゃん、きっと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()