YUMIYA~ある弓道部員の物語~ (伊藤ネルソン)
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変わりの始まり

弓道好きで歴史(主に近代海戦史)好きな女子工業高校生伊藤遥は今日も普段通りの日常を過ごし家に帰ろうとしていた。しかし変化は突然始まった。
『この小説を読んで下さった皆様こんにちは、作者の西井西坂の守です。』
『どーも、高橋涼太です。』
『今回の小説、私の初めての小説ですので文法や文字の作り方等、中途半端なとこが多いと思いますがどうかよろしくお願いします。』
『あのー作者さん、いくつか聞きたい事が有るんですが....』
『ナニナニー?』
『まず、なんで僕こんなとこに出てるんですか?小説とは関係ないですよね?』
『それは....君達が好きだから。』
『.........あの~作者がそういう趣味を持つのは別にいいんですけど.....』
『誤解だ!!誤解してるよ涼太君、一時期そういう疑惑かけられた事あったけど』
『そんな誤解かけられるとは、あなたやはり.....』
『あーもう!!、ねえほかの聞きたい事って何?』
『(もう!!、作者をいじれる良いチャンスでしたのに)あなた初投稿って言いましたよね?』
『うん(ギクッ)』
『この前、一年ぶりにピクシブに続編投稿したって言いませんでしたか?』
『(やはり)あれは~....その小説って出来が中途半端な感じだったので....』
『だからといって初めてって嘘付く必要無いじゃないですか?』
『すいません....』
『こんな頼りない作者ですがよろしくお願いします』
『それでは本編へどうぞ』






20XX年

『ふー、今日も頑張るぞー』

 

某工業高校に通う女子生徒伊藤遥(はるか)は部活道である弓道をするために弓道場にスキップをしながら向かっていた。

傍から見たら少々大袈裟な行動であり、人によっては敵を作りかねない行動ではあったが彼女の雰囲気には皆もう既に慣れており特に意に介さずに皆通り過ぎて行った。

ある一人を覗いては

 

『先輩、何はしゃいでるんですか?ハイジにでもなったつもりですか?』

我が弓道部の後輩、高橋涼太は呆れたような顔で突っ込んだ。

 

『テヘヘ、気をつけまーす。』

彼は私が二年生になった時に初めて仲良くなった後輩君だ。彼は他の子達よりも少々毒舌で時々心にグサッとくることもあるんだが

 

『まったく、気をつけてくださいね?』

優しいし彼は信頼出来る子だと思っている。それに

 

『頑張りまーす。あっ!そういえば艦〇れ冬イベどこまで進んだ?』

『まだ、最初のとこ攻略したとこで終わってますね。』

『そっかぁ、まぁ今回難しいしね、頑張りなよ』

何より趣味が通じる所がありがたい

 

『はい!!それじゃ僕着替えてきますね』

 

『行っといで』

彼の元気なとこを見てると安心する。彼は一時期スランプですごく落ち込んでてとてもじゃないが見てられないような状況になった事があった。

その時に私はなんとかするためにカラオケに誘ったり、サイクリングに誘ったりしたんだが私力では何もする事が出来なかった。そんな時に彼を救ったのは

 

『オーイ遥?着替えたらこれ教えてくれるか?』

 

弓道部部長の掛井龍之介である。彼はちょっと癖がある子で時々変な下ネタとか話したりするんだけど、人一倍周りの事を気遣っており、スランプに陥った涼太君を救ったのは彼である。しかしその独特なキャラの裏には弓道に対する人一倍強い情熱を持っており、弓道部を少しでも良い部活にしようといろいろな政策を行ってきた。しかし、弓道部での政策はやや急進的な物であったためか彼に対する批判は多く発生しており、今では部長派と反部長派で対立関係が出来てしまっている。

 

『ちょっと待ってて~』 

私は弓道が好きだから当然部長派ではあるんだが反部長派の気持ちも分からなくは無いためなんとかお互いが和解するチャンスは無いものか日々探っている。

 

弓道をするための準備は少々時間がかかる。まず私が今している着替えもそうだが(主に袴の構造がややこしくって昔は良く苦労した)、安土(的を立てるとこにある衝撃吸収用の土)の整備、的立て、弓の弦の長さ調整等様々な作業をしなければ始められない。また、弓道は手につけるかけを初めとする弓具を買わなければやれずかなりの金が飛ぶのだが、それはそれで面白い。

あぁ考えれば考えるほど頭がどんどん変になっていく。

 

『オーイ遥?まだかー』

部長がさっきよりも困ったような感じの声で急かす。

『はいはーいただいま。』

袴も着たことだし質問を答えにいくとしよう。

 

『そういえばさあーなんで遥って弓道部に来るときそんな嬉しそうなの?周りの奴らなんて皆端っこでゲーム大会開いてるって言うのに。』

質問にある程度答えてから彼は聞いてきた

 

『それはさあ純粋に弓道が楽しいからだよ』

そうだ私は純粋に楽しいのだ。弓道をしてるときだけは現実から逃れられる。

『まあお前教室じゃ死んだ魚みたいな目えしてるからな。見てるこっちとしちゃ悲しくなってくる』

『ハハハ言ってくれるじゃないか』

 

正直言って教室の中の人間関係は全然悪くは無い、ただなんか変な気を遣ってしまうだけだ。ただ周りにそんなふうに見られてたとは、今度から気をつけるようにしよう。

 

『よーし、皆始めるぞー』

部長の合図と共に皆ぞろぞろと集まりだした。

そして

 

『姿勢正して!礼!!』

 

部長のキリッとした声が射場に響き渡った。

 

『よーし今日も引くぞー』

『今日は負けねえぞ』

『あーあ、さっさと終わらせてゲームしたい』

 

皆の色んな気持ちのこもった声と共に練習が始まった。

 

ー3時間後ー

『あーすっきりした』

練習を終えて私は歩いて帰っている途中であった。左手には市内の弓道場で師範に教えてもらいに行くために弓が握られていた。

師範とは私に弓道のイロハを一から教えて下さった先生で、違う学校の先生ではあるんだがひょんなことから彼に毎週末教えてもらうのが習慣になっていた。 

『あ~私ってなんでこうも弓道が好きになったんだろう?』

時々そう思うことがある。私は中学の時は水泳部に入ってはいたがここまで積極的には取り組めていなかった。

 

『もしかして弓道に恋してるのかなぁ?』

私はその言葉を言った途端頬の周りが暖かくなってきてそれと共になんとも言えない恥ずかしさが込み上げてきた。

『あーバカらしい!!変なこと考えちゃった』 

私は今さっき考えてた事を忘れようと歩くペースを早めた。

 

その時だ

 

道路の真ん中を横切るボールのような物が見えた、そしてそれを追うかのように

『待って~』

ちっちゃい4、5歳くらいの少年の姿が見えた

『またかぁ』

私はボソッと呟いた。この当たりには公園が有り時々ボールが飛んで来るのだ。しかし道路はあまり車は通らないため注意するだけにしている。

そして私が注意しようとした時、

 

 

向こうの方からトラックが来るような音が聞こえた

 

とてもじゃないがこのスピードだと運転手が気づいてブレーキをかけても間に合わない、かといってもろに男の子にぶつかればそれこそ鉄道自殺を図った人のようにバラバラになってしまう。

そう判断した私は男の子を救うために咄嗟に動いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後に起こることをなにも考えずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イタッ』男の子からそんな声が聞こえた気がした。私が視線を送るとその男の子は私が投げ飛ばした時にどこか打ったのか泣いていたが無事であった。

しかし、安心するのもつかの間、私の意識は激しい衝撃と共にとだえた。

 

 




『こんな感じで良いでしょうか?』
『まあピクシブに投稿した奴に比べたらいくらかマシになったんじゃないですか?』
『ハハハ、ありがとう』
『まあピクシブみたいに一年ぶりとかって事だけはしないようにしてくださいね』
『まあ全力を尽くしますわ』
『それではこれからもよろしくお願いします』


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ここはどこ?

子供を救おうと、なにも考えずに飛び出してトラックに轢かれた遥はどこか分からない不思議な空間にいた。
『さて、みなさんこんにちは涼太です。』
『作者です。まず皆さんに謝らないといけない事があります。
 次話の投稿がこんなに後になってしまって申し訳ありません。』
『ホントになんですか、一話中途半端な状態で投稿したと思ったらさっそく失踪しかけて.......』
『いやーこれには色んな訳が有りまして.......』
『こんな大人になっても言い訳するつもりですか(カチャッ)』
『ホントにすいませんでしたー!!(ダッシュ)』
『あっこら待ちなさい!!
 全く......すいません。さて弓矢第2話始まります。どうかこれからもよろしくお願いします。』



『あれ~ここどこだろう?』

私こと伊藤遥はぼやけた目を擦りながら不思議な感覚に襲われていた。

『あれ~なんで私こんなとこにいるんだろう........?あっそうか!!男の子を救おうとして』

 

 

               撥ねられた

 

 

『あぁ、私もしかして死んじゃったのかなぁ~、死ぬってこんなんなんだぁ』

自分が発してる言葉とは裏腹にボケーとした口調で話していた。

『まぁ悔いは無かったかなぁ~、高校生活満足出来たし........』

 

そう言いつつも今日までの人生を振り返っていたら急に目から水が出ててきた。

うん、水だ決して涙なんかじゃないはず。だって悔いなんて無かった筈だし。

 

(まだだよ、あなたのすべき事はまだ終わっていない)

 

『誰!!』

どこからか聞き慣れた声が聞こえて来たが、どうもさきほど頭を打ったせいか名前が思い出せない。

周りを見回してみても誰も見えない。

そしたら不意に意識がボーっとしてきた。そして途切れる瞬間!!

 

『誰?』

 

何者かのしかし、どこかでみた事がある顔が表れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1786年 フランス ヴェルサイユ、プチトリアノン

『ここは落ち着いていて最高だわ。』

この小さな農村の主、マリーアントワネットは庭園の中を散策しながらつぶやいた。

ここプチトリアノンは彼女が最も気に入っている場所の一つであった。

美しい池、落ち着いた農村、綺麗に整えられた道、どれを取っても最高の庭園であると彼女は思っていた。

 

『それに引き換え宮廷は......』

彼女はため息と共に昨今の事情を思い出していた。

この頃のフランスはとても複雑な状態だった。夫ルイ16世はアメリカ独立戦争に加担し、アメリカを独立させる事に成功したが、今日まで続く慢性的な財政難は更に悪化し、国民の生活を圧拍していた。それゆえ彼は税を特権階級の人々にも課そうと考えていた。

 

『旦那様は凄い優しいんだけど.......ちょっと優柔不断何だよねぇ』

そう言いながら誰か支えてくれるような人がいないか考えていた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

『さて、帰りましょう。』

彼女は一通り村の散策を終えて彼女の館に帰ろうとしていた。

 

その時

 

『誰かしら?』

近くの木の下に変わった服装をした若い女の子が倒れているのが目に入った。

 

『あなた、大丈夫!?』

近くに行き肩を叩いたが返事がない。

心配になって彼女の首筋に手を当て、顔を近づけ、呼吸と脈拍を確かめたが特に異常は無かった。

どうも彼女は気を失っているようだ。

 

『一先ず、人を呼ばないと。』

彼女は近くの建物に手助けしてもらうための人を呼ぼうと思ったが、ここでふと疑問に思った。

 

『なんでこの子こんなところにいるんだろう?........!?』

彼女が疑問に思って振り返ると不思議な長い棒と筒のような物が見えた。

 

『なにかしら...........これは!!』

長い棒のカバーみたいな物を剥がすと黒い木の棒が、筒を開くと矢のような物が見えた。

 

『まさか......この子!!』

一瞬彼女を殺しに来た刺客かと思い警戒したが、

 

『いや、それはないか、殺すのならこんな長い弓なんか使わずにナイフか拳銃でサクッとやった方が確実だし。』

再び警戒を緩め、彼女の方を向き

 

『まぁ目覚ましたら一度彼女に聞いてみましょう。』

と一言つぶやいて再び人を呼びに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これよりヨーロッパ、いや世界の運命は大きく変わって行く事となる




『最後までお読みいただきありがとうこざいました。』
『毎回毎回、非常にゆっくりな投稿ですが、次回以降も宜しくお願いします。』
悲劇の王妃、マリーアントワネットが見つけた子は天使の使いか、悪魔の刺客か、次回歴史が動き出す。


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夢なのかな?

トラックに轢かれ、不思議な空間に居た彼女はついに、ある場所で目を覚まし歴史を変えて行く、それは世界に取っての毒となるか薬となるかはまだ誰にもわからない。
『さて、皆さんこんにちは、西井西坂の守です。』 
『アシスタントの涼太です。
 やっと世界が動き出しましたね。』
『やっとって.......まだ三話ですよ。』
『私が話してるのは話数ではありません。投稿するまでの時間の話です。』
『だけど~二話と三話の時間は短く無かったですか?』
『一話と二話は?』 
『うっ、痛い!!』
『この小説が続く限り忘れませんよ』
『トホホ........それでは第三話始まります』


1786年 プチトリアノン宮殿

 

 

『う~ん』

私こと伊藤遥は何かの甘い匂いにつられて目を覚ました。

最初はボヤけていた視界が徐々に定まるにつれ、自分の周りの環境を見て唖然とした。

 

そこには、普段のビンボー生活とは正反対のとても華やかな、しかし落ち着いた雰囲気を残した部屋が広がっていた。

 

周囲を見回すと一人の女の子がちょこんと椅子に座りながら紅茶を飲んでいた。彼女は私の姿を確認すると、

 

『あっ、起きた!!おはよー、今お母さんよんで来るね』

そう言いながら彼女は紅茶のカップを机に置くと走って行った。

 

その時私は、机の上に甘そうなお菓子とティーカップが置かれてる事に気がついた。私はこの匂いのおかげで目を覚ましたのだという事を思い、少し恥ずかしくなった。

 

 

 

 

 

『お母さん連れて来たよー。』

少しして、さっきの女の子がお母さん(?)を連れてきた。

 

『ありがとう』

とりあえず私はお礼を言った。それからその子はさっき座ってた椅子と似た感じの(どちらも凄い高そう)椅子を持ってきて、彼女はさっき座ってた椅子に座った。

 

『入りますね?』

扉の向こうから落ち着いた感じの声が聞こえた。

 

『どうぞ。』 

私は一呼吸置いてから答えた。

 

『体調いかがですか?』

彼女は心配そうな声で私に尋ねた。彼女こと女の子のお母さんは今女の子が準備した椅子に座っている。

 

『はい、やや頭がクラクラしますが、特には大丈夫です。』

多分、寝起きでクラクラしてるだけだから時間が経てば気にならなくなるだろう。それを聞いた彼女はホッと胸を撫で下ろし、

 

 

『よかったです。それじゃまず自己紹介から始めましょうか?(さきほど迄の様子を見るに私が誰か気づいてないわね。)』

 

『はい、まず私から

 〇〇県〇〇市△×工業高校出身の伊藤遥です、よろしくお願いします。』

 

 

 

それを聞いた彼女は頭に?の文字を浮かべたがすぐに元に戻り、自身の紹介をした。

 

『フランス国王ルイ16世妃マリー=アントワネット=ジョゼフ=ジャンヌと申します、御機嫌よう。』

 

 

 

 

 

 

それを聞いた私はつい正気を失いそうになった。なぜならフランス革命で断頭台の露と消えた歴史上の人物が自分の目の前にいて、それだけに留まらず私を介抱してくださったと言うのだから。つい叫びたくなる衝動をギリギリの所で押さえながら彼女を見つめた。その様子を見た彼女は

『お互い聞きたい事がたくさんあると思いますが、まず私から質問しても言いですか?』

 

『はい、どうぞ』

私も気になる事はたくさんあるが、まずは彼女の質間に答える事にした。

 

 

『それでは.........まず、』

 

 

 

 

 

 

 

 

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それから私は、彼女の気になっていた事、私の出身地、祖国、高校、そして私が弓道部に入っている事を話した。

そしたら彼女は何か納得したのか、口調が徐々にルーズになっていった。

彼女の話によると、私が持っていた弓具を見て彼女を殺しに来た、刺客じゃないかと考えていたため、完全に気を抜く事は出来なかったのである。ここで、自分のあらぬ疑いが晴れた所で私は未来から来たと話した。

最初、驚きはしたけど私の持ち物や様子を見てそれを納得していた。

 

それから私は彼女にいくつかの事を質問した。

まず、私がどこに倒れていたかと言うことと、その時の様子はどうだったか、ここはどんな場所かを質問した。

 

また、私は歴史が好きであるため、ある程度分かってることだが、今のこの世界の情勢についても質問した。

その時、彼女はやや俯きながら悲しそうに話した。

 

娘さんのテレーズちゃんはその様子をみながら、

『国民は皆、我が儘ばっかり!!お父さんとお母さんを悲しませる事しか出来ない!!』

 

と半分泣きながら叫んだ。

 

その時私は決意した。私は彼女達を支えるために、あの悲劇を繰り返さないために全力を尽くすと。

 

 

 

 

 

一通り話が終わり、一段落付いた頃。

 

 

 

 

 

『日本かぁ、私達も行ってみたいわ。』

 

彼女は遠い地球の反対側にある国を思い浮かべながらつぶやいた。

 

『せめて、幕府が鎖国政策をとる前に、国交を結べたらよかったんですけれど。』

私は苦笑いをしながら答えた。

 

『こればかりは私も御先祖様を恨むわ........ところであなたこれからどうするの?』

彼女も苦笑いをしながら答えたが、しばらくしてからやや表情を変えて聞いてきた。

 

『どうしましょう?...........今戻ってもウチの人は知らん人ばかりだし』

 

そもそも、鎖国政策をしてる以上、下手に日本へ行くと死罪になりかねない。

それに、私の御先祖様はもうこの時代にいるらしいが、私自身との関わりは今は無に等しい。

何とかする術が無く、困っていると、

 

彼女がとんでも無いことを提案してきた。

 

 

『あなた、私達の家で一緒に暮らして私達の養女にならない?』

 

 

 

(なるほど、さっき彼女がややにやけた表情になったのはそれでかぁ~?

 

 

?................?............よ.....う.......じ...ょ?

    

         養女!?

 

えっ、私がフランスとブルボン朝と何の関係も無い私が、ブルボン家の娘になる!?

 

嘘っ、嘘なら覚めて.......間違えた夢なら覚めて~

 

あぁもう、また意識飛びそう。)

 

 

『あなた、大丈夫?』

そんな私を心配してくれたのか彼女は、私に声をかけてくれた。それによりまた正気を失いそうになっていた私は気を取り戻した。

 

そして、冷静に考えてみる。

 

(ウ~ン、考えてみれば、彼女ら国王夫妻が生んだ子供達は皆早死にしてしまい、心配だったのだろう。そう考えれば私に養女になって欲しいと頼むのはおかしな話じゃない。ただホントにいいんだろうか)

 

 

 

『すいません、大丈夫です。ちょっとびっくりしちゃって。ただ本当にいいんですか?』 

 

ちょっとまだ不安が残る私は彼女に聞いた。 

 

『いいよ、いいよ、むしろ私達の方がうれしいよ。今まで生んだ子供達は皆病弱で正直将来が不安だし、あなたも居場所がなくて困ってるんでしょ?』

 

 

彼女はさっきよりも明るい顔で話した。なら、彼女達が本当に私みたいな外の者を家族の一員にしてくれるなら、有りがたい。

『わかりました。私はまだこの世界に来たばかりで出来る事は少ないけど皆さんのためになるよう、全力で支えて行きます。』

私は強い決意を込めて話した。

 

 

『ありがとうね、はるちゃん』

 

『アントワネットさん、テレーズちゃんこれからもよろしくお願いします。』 

 

私が決意と挨拶を話したら、彼女が怪訝な顔をした。

『はるちゃん、これからは私達は家族家族なんだから、アントワネットさんじゃ変よね~』

 

それを言われて私はちょっと恥ずかしくなりながらも別の言い方をした

 

 

 

『お、お母さん?』 

 

 

 

 

その様子を見てテレーズちゃんはお母さんと目を合わせて

 

『そうでなくっちゃ!!よろしく、お姉ちゃん!!』

 

お姉ちゃんと呼ばれて更に赤みが増した頬は、今にも蒸気が出そうであった。

 

 

その様子をみたお母さんはフフッと微笑んだ後

 

『よし、それじゃ話も終わった事だし皆で一緒にお茶を飲みましょうか。』

 

『しましょ、しましょ。』

 

テレーズちゃんも嬉しそうにはしゃいでる。さっき飲んでたけど、やっぱり皆で飲む紅茶は美味しいものである。

 

 

 

 

『はい、喜んで』

 

 

 

 

それから私達はさっきは出来なかった、弓道の話や祖国の事、未来の事を話した。ただ彼女達の未来に関しては何も触れずにしておいた。

     

   なぜなら、私がここにいる限りそんな話はいずれでたらめになるから。

 

 

          いや私がでたらめにするから。

 

 

こうして、この世界での初日は更けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれ~、なんで私フランス語話せるんだろ~?まぁいっか、別に損なんて無いし。)




『第三話終わりました。』
『何とか今日は少しは早く出来たかな.........?』
『まぁ、まだまだ未熟ですね。』
『うぅ.......』
『ガンバレ★』
『まぁ次回もよろしくお願いします。』
(そういや、どうやって弓道要素出そう?)

目を覚ました主人公遥はマリーアントワネットの養女として暮らす事になった。まだ彼女は国の国政には関われないが、どうやって過ごして行くか?彼女は何を考えているのか?
次回、お べ ん き ょ う ★


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陛下と学校と元帥閣下

私こと伊藤遥はトラックに轢かれ、そのまま人生を終えるはずだった。しかし彼女は生前の強い望み(?)からまだ日本が侍中心の時代だったフランスにタイムスリップしてしまった。しかもタイムスリップしてしまった彼女を助けてくれたのは革命の犠牲者、マリーアントワネットであり、あろうこと彼女の配慮によって私はブルボン家の養女となってしまった。そんな彼女の生活の第一歩が今始まる。
「どーも涼太です。皆さんこんにちは。」
「作者の西井西坂の守です。」
「いやー前回は驚きましたね。マリーアントワネットを出したと思ったらその養子にしてしまうなんて。」
「私もいくつか候補はあったんですよ。」
「具体的には」
「たとえばイギリスのビクトリア女王の子供になってドイツとイギリスの仲を取り合い第一次世界大戦を防ぐとか
、大坂夏の陣の真っ只中にタイムスリップして、徳川を倒すとか、ピザンツ帝国をオスマンから守り、現代につなげるとかね。」
「結構色々な案が思いついてたのになんでフランス革命を題材にしたんですか?」
「いくつか要因はあるけど一番は歴史漫画の影響だね。」
「歴史漫画?」
「案を決めた時にたまたま近くにあったのがフランス革命の本だったんだ」 
「そんな簡単に決めたんですか!?」
「これでも結構悩んでたよ!?」
「これだから作者はどんな歴史上の敗者より優柔不断って言われるんです。」 
「テヘヘ、すいません」
「全く…さて、第4話始まります。」
「それでは本編へどうぞ」


翌日、私はお母さんから美しい衣装を渡され、それを着てヴェルサイユ宮殿にいらっしゃる国王陛下の元に参内した。

 

そもそもこのプチトリアノン自体ベルサイユ宮殿の中にあるのだが、国王陛下は別の建物に暮らしており、宮殿内は広大で歩きだと

 

時間がかかるため昨日は行かなかったようだ。

 

私は母から立派なドレスを頂き、短い髪を再び結なおしてから向かった。

 

ベルサイユ宮殿には馬車に乗って向かった。

 

初めて乗る馬車は電車のように石畳を踏むごとにカコン、カコンと音をたて、とても気持ちの良い揺れがあった。

 

「そんなに気持ち良いかしら?」

 

お義母さんが私の気の抜けた表情をみて、クススと笑いながら聞いてきた。

 

だけど、本当に気持ちが良いのだ。普段乗ってた車と違って周期的に伝わってくる振動は電車に乗ってる時の様な感覚になる。

 

しばらくぼんやりと緑豊かな庭を見ていると遠くに立派な建物が見えてきた。あれが国王ルイ16世陛下が暮らしてらっしゃる宮殿だ。

 

宮殿の前の広い通りの面している所に着いた時に馬車はガタンと音を立てながら止まった。

 

 

 

「どうも着いたようね?」

 

 

お義母さんは私に微笑みながら伝えた。

 

「カシラ〜中!!」

 

通りにズラッと並んだ近衛兵の儀仗隊が指揮官の合図と共に顔を私達の方に向け各兵なりの敬礼(兵は捧げ筒、士官は投げ刀)をしてきた。

 

私はそれに対して挙手の敬礼で返した。

 

私は昔から歴史が好きで、良く西洋の軍隊について調べたりしていたが、

 

その中で儀仗隊による栄誉礼は一生に一度でも良いから見てみたいと思っていた。

 

だが、まさか自分がそれを特等席で見ることが出来るとは思っていなかった。

 

今私は周りからみたら落ち着いているが正直今にも顔が崩れそうでハラハラしていた。

 

そんな私をみてお義母さんはまたクスリと笑った。

 

 

 

私達は大通りを時々すれ違う貴族達に挨拶をしながら宮殿へと向かった。

 

 

 

ベルサイユ宮殿は良く漫画であるような立派なお屋敷のように部屋がいくつもあり、

 

とてもじゃないが国王陛下の部屋に向かうルートを覚える事はできなかった。

 

 

しかしお義母さんは道を間違える素振りを見せる事なくまっすぐ陛下の部屋へと向かった。

 

何度も通ってるうちになれたのだろう、変な素振りを見せることなくノックした。

 

「陛下、入りますよ。」

 

そう一言申して中から返事があったのを確認し、ドアを開けた。

 

 

 

私は緊張でいっぱいであった。

 

 

 

思えば昨日トラックに轢かれたと思ったら何処とも知らない場所にいて、

 

私を介抱してくれた人が歴史の教科書に乗ってる憧れの人で、

 

この世界の事を実感する間もなく、今日ここに来た。

 

この扉の向こうには教科書に乗ってた国王、ルイ16世陛下が待っていらっしゃる。

 

今まで余り実感の湧かなかった歴史の重みが一気に私の両肩にのしかかってきた。

 

私は緊張で凝り固まった両手を無理やり動かし、先程の儀仗隊のように一糸乱れぬ動きで国王陛下の元に参内した。

 

 

 

その様子をみて、国王陛下は顔の表情を緩めて、

 

「そう固まらなくても良いぞ、君は朕の娘なんだから」

 

 

 

国王陛下の声を聞いた途端に私を縛っていた糸の様な物が解けた。

 

私は歴史という重みに自身が潰されかけていたが、国王陛下のお声掛けはその糸をも解いて下さった。

 

やはりロイヤルタッチというのは実在するのかも知れない。

 

私は国王陛下に促されて、近くの椅子に座った。

 

この一連の様子をみてたテレーズちゃんは

 

 

 

「ハルちゃん、お人形さんみたい」

 

 

 

椅子に座って女中の用意してくれたお茶を飲みながら笑っていた。

 

 

 

「ハハハ、まぁ言ってやるなテレーズ。さて君が我が家の養女になったハルカ君かね?」

 

 

 

国王陛下は私の固まった表情をみて優しくテレーズちゃんに忠告してから私に聞いてきた。

 

 

 

「はい、昨日お義母さまに拾っていただいた伊藤遥です。」

 

私は立ち上がり陛下に礼をした。

 

 

 

「そうか、私の名はルイ フェルディナン ド フランス 、 ルイ16世である、よろしく頼む。さて、」

 

 

 

陛下は改めて自己紹介をしてから昨日お義母さんに話した事をお聞きになられた。

 

 

 

 

 

フランス国王であり、私のお父さんでもある、ルイ16世陛下は最初私の事を聞いて驚いた様子だったが、話してるうちにとても仲良くなれた。

 

最初に感じた陛下の印象はとても親切で、周りから優柔不断と言われるのもわかるくらい優しかったが、

 

私達と話してる時にも、大臣達の相談に乗り、常に国の事、国民の事を考え続けてる印象があった。

 

彼と会うまでのイメージはフランス革命のかわいそうな犠牲者であり、

 

国民の意見をうまく反映しきれなかった人と言うイメージだったが、実際は常に国民の事を考え、

 

いかに貴族とのバランスをとるかに苦心された方みたいだった。

 

その様子を見て、私に出来る事は少ないにしろ支えて行きたいと思った。

 

 

 

 

最後に私は、まだ学生だと言うことを伝えると、ある学校に行って勉強をしてきて欲しいといわれた。

 

てっきり私は王族と言うことで家庭教師でも雇うのかと思っていたが、違った。

 

やはり、学校という場所で勉強するだけでなくこの国の国民とも親しい関係を築いてほしいと思ったのだろう。

 

 

 

そしてこの話を最後に私達は再びプチトリアノンへと帰った。

 

 

 

 

 

 

しばらく後に私は近くの教会で洗礼を受け新たな名前をもらった。

 

 

ハルカ ルイ ヨゼフ イトウ

 

 

これが新たな私の洗礼名だ。普段は伊藤遥を使うが公式の場ではこの名前が私の本名となる。また、今回の洗礼を経て私は

 

正式にブルボン家の娘となった。私は新たな名前と新たな家族と共に暮らす生活に希望を見出していた。

 

 

 

そして数日後ー

 

 

 

 

 

 

「ここが国王陛下のおっしゃられた学校かぁ。」

 

 

私は学校の校門前に立っていた。

 

フランス王国にはパリ大学などの古くからある大学や陸、海軍の士官学校、幼年学校等様々な学校があり、とても教育に熱心ではあったが、貴族から庶民

 

まで自由に入れる場所は陸海軍関係の学校ぐらいで、他はほとんどが貴族が占めており、庶民の識字率はやや低かった。

 

このことも少なからず革命の要因の一つとなった。

 

 

「だけど、本来私の記憶では無かった筈の学校なんだけどなぁ」

 

この頃のフランスは借金でいっぱいでとてもじゃないが新たに学校を作る余裕なんてなく、

 

本格的に学制が発展したのはナポレオンの天下になってからだった。

 

「まぁ、良いや多分そのうち分かるさ。」

 

私は一瞬頭をよぎった疑問を振り払い校門の警備員に生徒証を見せた。

 

この学校は陛下の話によると、服装は自由で貴族であろうと平民であろうと関係なく誰でも入れる所らしい。

 

故に私は高校時代の制服を直して貰って来ていた。

 

警備員の人は私の服装と髪型を見て少し驚いていたが、私が生徒証を見せたら

 

「あっ、転入生の方でしたか、ようこそ本学園へ」

 

温かい笑顔とともに門を開いてくれた。

 

「ありがとうございまーす。」

 

 

 

警備員の人に感謝を述べてから学校に入った。

 

一目見た学校の印象はこの時代特有のロココ様式の建物を中心に校舎らしい石造りの建物が何棟も並んでいるような雰囲気だった。

 

まだ、皆登校してきていない朝早い時間(6時頃)に登校したためまだ誰もいなかったが、先生方はもう教務室にいるようだった。

 

私は私のいた世界の忘れ形見である自動巻きの腕時計をチラッと見てから真ん中の大きな建物に入った。

 

 

 

 

 

「わぁ!ここもすごいなぁ!!」

 

私が学校の中に入って気づいた事はベルサイユ宮殿同様至るところに装飾が施されており、

 

まず豪華さだけなら日本のどこの私立高校にも退けを取らない雰囲気であった。

 

 

ただその中でまずこの時代に無いような物があった。

 

 

「あれ?なんで電話機があるんだろう?しかもベルが発明したやつ見たい....」

 

そう電話機である。電話機は本来1876年にグラハムベルによって発明されるはずのものであったが、

 

何故か装飾が施された立派な机の上に置かれていた。

 

よーく周りを見渡してみると電話機だけでなく、白熱電球がシャンデリアにロウソクの代わりに付けられていた。

 

このシュールな光景に私は呆然と立ち尽くすまでだった。

 

 

 

そんなとき、

 

 

 

 

「おや、来たようだね。」

 

 

後ろからひげを生やした初老にさしかった雰囲気のおじさんが声をかけてきた。

 

 

「君がハルカ王女かね?」

 

「はい、本日こちらの学校に転入致しました。伊藤遥と申します。」

 

急に声をかけられ少しびっくりしたがなんとか気持ちを落ち着けて、お義母さんに習った方法でお辞儀をした。

 

「この学校の校長をしている者で、フィリップペタンと申します。よろしく。」

 

私の挨拶を見て、彼も紳士的に自己紹介をしてきた。

 

フィリップペタンって言う名前らしい。

 

綺麗に整えられた髭にピッタリの良いフランス人らしい名前だと思った。

 

彼が先生なら私も楽しい学校生活を送れるだろうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん?

 

 

 

 

 

 

 

 

フィリップペタン?

 

 

 

 

 

 

ペタン?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペタン元帥!?!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は昨日トラックに轢かれた時の痛みが体をよぎり再びその場に倒れた。

 




「第4話終わりました。」
「さて、ついにごく普通の高校生君は正式にブルボン朝の娘になりましたね」
「それと同時に昨日までの暮らしが再び訪れます。」
「一気に進みましたね。」
「今回は悩みましたからね、家庭教師にするか、高卒にしちゃうか、学校に送るか。」
「通りでこの頃ボーとしてたんですかねぇ?」
「分かりません☆」 
「コラwさて第5話どんな感じになるか想像を膨らます様な状態で今回は終わりにします。」
「今までお読みいただきありがとうございました。」

国王陛下の提案で再び学校生活を始めた私は、その学校で驚きの事実を知るのであった。
次回、学校生活(予定)


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夢とヴェルダンの英雄とヴィシーフランス

私こと伊藤遥は学園で倒れてからうなされていた。しかし、その経験は私の心をより強くするものであった。また、なぜヴェルダンの英雄がここにいて、こんな学校が作られたのか、今明らかになる。
「どうもこんにちは作者です。」
「アシスタントの涼太です。」
「皆さん、大雨大丈夫ですか?」
「まさか、台風一つがこんな被害をもたらすとは、」
「私の親戚の家でも大雨で避難勧告が出されたらしいですし」
「最近の日本の気象は異常ですね。」
「確かに、台風はどうせ翌日にはやんでる物と思ってましたが、」
「とんでも無く長くなりましたね。」
「今私にできる事は皆さんのご家族の安全を祈ることぐらいしかできませんが」
「もし、余裕があったらこの小説も読んでください」
「では、第5話はじまります。」


part1

 

私こと伊藤遥は今、頭を抱えている。

昨日、この学校に来てからすぐに倒れてしまったからだろう。

目が覚めたら、私の寮とは別の近くの建物の部屋に運び込まれていた。

全く、昨日からずっと何なんだろう…。

過去にタイムスリップしたと思ったら、フランス王家の養子になって、学校に通うことになったので登校してみると、世界大戦の偉人が学校の先生になっている。

そして、学校には時代的にありえない、近代的な機器や設備がある。

こんな状況、夢としか考えられないし、歴史が好きな人じゃなきゃ、耐えられないでしょうね。

まあ、私は歴史が好きだからまだ良いけど…。

ほんとに何なの!?

…学校でワイワイ騒いでた時が懐かしいわ…。

あの時みたいに、また友達とバカやりたいなぁ。

なんか疲れてきた…。

もう一回寝ちゃおうかな。

元の世界に帰りたいよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだよ、あなたはあなたのすべきことを成し遂げていないもの。」

 

――――――――――――――――

 

突然、目の前が真っ白になり、モヤモヤした雲の中から女性(?)が現れたと思ったら話しかけられた。

正直すごく驚いた…。

人って雲から出てこれるんだ…。

「いえ、普通は出てこないわよ?」

何でか心読まれてるし。

それに、この声どこかで聞き覚えが…。

そこで、ある人が思い浮かんだ私はとっさに叫んだ。

「あ!この前の人!」(注、第2話参照)

「そうそう、大正解ー。

ちなみに、何故あなたはブルボン家の人間になったの?」

それに対して私は昨日からの状況に対する疲れから、イライラしていたため、つい、

「なりたくて、なったんじゃ無いわよ…」

とつぶやいた。

その発言を聞いた彼女は、呆れと怒りの混じった表情で、

「あら、ならフランスは史実通り、このままギロチン国家になるのよ?」

それに対して私は自暴自棄に、

「それの何が悪いの?歴史を作る上での当然の犠牲じゃないの!」 

と答えた。

その言葉を聞いた彼女はついに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キレた。

 

「何を馬鹿な事言っているの!あなたがギロチンに送られる事は、あなたは微塵も辛く感じていないでしょうけれど、あなただけじゃなくて、お義母さんやお義父さん、そして革命に巻き込まれた市民までギロチン送りになるのよ!

それをわかって言ってるの!?」

彼女は鬼の形相で必死に訴えかけてきた。

その思いは、少なからず私の心に響いた。

「このまま終わるとは思わないことよ。

あなたの時代に遺してきた家族が、友人や後輩が悲しむことになるわよ。

少なくとも、何かすれば、今のあなたなら悲劇を遠ざける力をもっているのに、それを使わないなんて、傲慢に他ならないわ!」

その彼女の一言で、私の目の前を覆っていた負の雑念は消し飛んだ。

あたかも、矢が放たれて、的の中心に当たった時のように、なんともいえない、すっきりとした気持ちになった。

そして、私は我に返った。

なんのためにここに来たのか、それも大事な事だろう。

しかし、それ以上に、今、私にできる事をすべきではなかったのだろうか。

「あなたが前世でやってきたことを思い出して?」

 

――――――――――――――

 

「はい、相手ボール!」

「何でボーッと突っ立ってるの!?

あんたに今ボール渡したでしょ!

なんであんな取りやすいボールも取れないの!?」

私は今、体育の授業でバスケットボールをしている。

私のチームは前半、バスケ部の子が中心になってボールをパスしあって、うまく相手が離れたタイミングでバスケ部の誰かがスリーポイントを決める作戦で、試合を有利に進めていた。

私もできる限り活躍しようと、味方の邪魔になるのを覚悟で必死にボールを取ろうとしていた。

文字通り、ボールしか見えていなかったけれど。

だから、相手のフェイントに振り回されてばかりで、なかなかボールが取れず、私がグイグイ行く事で、逆に味方の行動を制限してしまうこともあったのだ。

そして、後半始まってすぐ、私はバスケ部の子の近くで、相手をスクリーンしていた。

そこに、

「ハルカ、頼んだ!!」

別の相手にスクリーンされたバスケ部の子は、私に希望を託し、私が取りやすい位置に向かってボールを投げた。

しかし、相手をスクリーンするのに夢中になってた私は、ボールに反応するのが遅れ、その相手にボールを取られてしまった。

そして、素早い動きで私を抜いた後、一気にゴール下まで走り、そのままシュートを入れた。

相手のチームは奇跡のシュートに喜びあっていたが、私達のチームには今までに無い焦りが漂い始めた。

そして、それからのプレーは一方的だった。

前半での勢いはどこへやら、相手に次から次へとゴール下からシュートを決められ、

「Aチーム対Bチーム戦はBチームの勝ち」

圧倒的な差で私達のチームは完敗してしまった。

それから私達のチームでは陰口が絶えなかった。

それに対して私は反論ができなかった。

そう、長くなったが、私は中学は水泳部、高校は弓道部という運動部に入っていたが、運動が得意では無かった。

そして、入学した学校が工業高校であるため、機械工作が得意なように見えるけれど、

「あ、しまった!」

その時は旋盤実習の時であった。

担当の先生が私のことを心配して駆け付けて来てくれて、

「どうした!?」

と、訊ねてきた。

「ドリルを使って中心に穴を空けていたら、ドリルが材料に噛んで、ドリルごと回りだしました。」

その様子を見て先生は、

「ハハハ、また噛んだか、お疲れ様」

と、励ましながら旋盤を逆回転させて、噛んだ刃を抜いてくれた。

その様子に私は、

「いっつもすみません…」

と答えるしかなかった。

その先生は優しい先生であるため、

「気にすることは無いよ、よくあることだから。」

と、また励ましてくれた。

 

私は幼い時から工作が好きで、プラモデルを真似て、木材で同じものを作ってみたり、様々な物を木材で自作したりしていた。

そのため、工業高校なら活躍できると思い、胸を張って入学したのだが、自分の思っていた以上に工業高校の実習は、とてもレベルの高いものであった。

私は昔から上がり症で、立派な機械を前に、プラモデルを作るときの様な余裕は出せず、バスケのとき同様、目の前の作業をするだけで精一杯だった。

そのため、私は体育でも、実習でも活躍できず、いつしか自分自身の事を無能、私が生きてる事は罪であると考えるようになっていった。

しかし、そんな私でも唯一自信を持てる物がある。

それは、弓道と、歴史に関する事。

私は昔から歴史が好きだ。

だけど、年齢によって好きな時代は違い、今は近代のヨーロッパだけど、小学生の時は鎌倉、室町時代が好きだった。

だから、武士の文化にも興味を持っていて、当然武士道の一つの弓道にも興味があって、部活動は是非とも弓道部に入りたいと思っていた。

しかし、今まで続けて来た水泳もやめることはできず、中学は水泳、高校は弓道部に入る事にした。

私は、さっきも話した通り、運動が苦手だ。

けれど、嫌いでは無かった。

時々開催される、市のマラソン大会に参加するぐらいには運動が好きだった。

しかし、私は筋トレが嫌いなのだ。

そのため、本格的な選手と共に活動するとついていけず、それは私がやりたいと思って始めた弓道にも、少なくない影響を与えた。

筋力が無いから、重い弓が引けないのだ。

今年で17歳になったけど、引いてる弓の重さは一年生の子たちよりも軽い物。

しかし、私はこの軽い弓でも、全力で、楽しみつつ、弓を引いていた。

その結果、弓道は部活以上の、生活の一環とも言えるものとなっていった。

歴史に関してはさっきの理由で、(工業のテストが簡単だというのもあるが)毎回ほぼほぼ100点に近い点数が取れ、他の教科以上に得意であり、好きだった。

だけど、この得意な事は、工業高校ではあまり活かしきれていなかった。

しかし、それらは今までに無い楽しみを感じ、どんな辛いことでも忘れられた。

――――――――――――――

そしてある日、私は部活を終えて家に帰ろうとしていた。

今日も体育でろくな結果を残せず、モヤモヤした気分だった。

けれど、今日の部活を終えて、そんなことも吹っ切れていた。

それを表すように今日の夕焼けは、今までにないくらい綺麗な夕焼けだった。

そして、普段私は部長と共に帰るため、彼を待ってると不意に夕焼けの中から、人影が現れた。

その人が誰か気になって目を凝らしてみると、なんと、同じチームのボールを渡してくれた、バスケ部の子であった。  

彼女は私に気がつくと笑顔で手を振って近づいてきた。

私は、この前の事や、今日の事があり、逆にその笑顔が怖かったが、私も無理矢理、笑顔を作って返した。

私はそれから彼女の機嫌を伺いながら、部長が来るまで待っていた。

「ごめん、二人共待たせね。」

部長は看的場から頭を掻きながらやってきた。

私はその様子をみて、頬を膨らませて、

「遅いよー。」

と言った。

彼は苦笑しながら、

「すまんすまん、的紙を張り替えてたら、ちょっと時間かかった。」

「それは後輩の仕事でしょー。」

「だってー。

後輩に任せると、当たったときの音がショボいじゃんかさー。

こう、当たった気がしなくて、すっきりしないんだよー。」

「じゃあ、後輩を育てなさい!」

「えー。」

普段はボケ役である私も、この時ばかりはツッコミ役に回った。

その様子を見て、部長とバスケ部の子は笑っていた。

「よかったよー。

最近、遥ちゃん、クラスで笑ってなかったからさ。」

「え、そうかな。

まあ、この前、体育でみんなに迷惑かけたから、気まずくて…。」

「うん、そうだろうと思って、今日、ここに来てみたんだ。

遥ちゃんとお話ししたくて。」

そして私達は共に帰っていった。

最初は他愛もない会話だった。

そのうちに、バスケ部の子に対する壁が徐々に切り崩されていった。

そしてそれは彼女も望んでいた事であったが、流石に体育の話になると興奮は冷めて、逆に罪悪感が再びわき上がって来た。

しかし、そんな私と彼女の間にあったはずの壁はなくなり、徐々に口調は激しくなり、ついに私は、

「私は、私はどうすればいいのよ…」

と、泣き崩れてしまった。

しかし、彼女にとってはその時を待っていたようで、

「なら、あなたのできる事をやればいい。

今あなたにとってできる事。」

と、私に対してやさしく語りかけてくれた。

「何も、本番で活躍することが試合の目的じゃない、目的を達成することが目的なのよ。」

やや矛盾を含んだ表現であったが、私は彼女の言葉をなんとか理解できた。

「そっか、分かったよ!

この前の試合はごめんね、だけど見てて、今度の試合は、なんとか頑張ってみるから!」

「うん、私もごめんね、ついあんな暴言吐いて…。

期待してるよ!」

「うん!」

私と彼女は、お互いに謝り、そして笑顔で約束した。

その様子を見てた部長は、ほっとした顔になり、

「よし、お前ら今日は俺の奢りでラーメンだ!」

と、突然叫び、近くの店に私たち二人を連れこんだ。

そして、私達は夜遅くまでラーメン屋で喋ってから解散した。

翌日から、私は目の前を覆っていた雲が晴れた様な気分で過ごす事が出来た。

そしてバスケの時、私は裏方に回り、今できるリバウンドを取ることなどに専念しているうちに、チームの成績も良くなり、陰口も無くなっていった。 

そしてその時は突然訪れた。

前、失敗した時と同じ状況が訪れたのだ。

今度の私はボールだけでなく、味方の動きにも注目していたため、なんとかボールを取ることが出来た。

そして、私はバスケットの遥かに遠い位置からシュートした。

そのボールはさながら迫撃砲の砲弾のように綺麗な放物線を描き、何と、リングに触れずに、そのままゴールに入った。

その様子を信じられずに突っ立ってた私は周りの空気を把握するのに遅れていた。

そして気づいたときには胴上げが始まっていた。

私はその時になって、ようやく状況を理解した。

そして、この時の経験から私は、今できる事をやる大切さを学んだ。

――――――――――――――――

そうだ、いろんな事があって忘れかけていたけど、やれる事をやる。

これが一番大切な事だったのに、なんで気づかなかったのだろう。

バスケ部の友達、部長が気づかせてくれた事がなんで出来なかったのだろう。

私は急に色んな事がこみ上げてきて泣きそうになった。

そして神は告げた。

「フランスを救うんじゃなかったの?

お義母さんを助けるんじゃなかったの?

飢えに苦しむ国民を救うんじゃなかったの?」

そんな言葉を残して彼女は消えたが、私の中にある何かに火がついた。

そうだ、絶対に忘れちゃいけないことを忘れてた。

私は死ぬわけには行かない、ヘタばるわけには行かない。

輝しきフランスの光を見るまでは。

そして、胸を張ってやりきったと言えるときまでは。

 

 

「ハッ…!?」

 

私は目を覚ました。

気づけば、元いた立派な個室のベットで寝ていたのだ。

近くには、先程見たベルの電話と共に、私の荷物が置かれていた。

私はこの高校に入学するにあたって、この高校の寮に入ることになったため、着替えや、元いた世界から持ってきた弓矢等が、所狭しと置かれていた。

私が体を起こして、周りを見渡すと、

「おっ、起きたか。」

倒れる前に出会った先生(?)であるペタン元帥が入ってきた。

手には何冊か本を持っている。

どんな内容なのか気になるところだけど、それもすぐに分かることだろう。

「すいません、あんな所で倒れてしまって…。」

私は感謝の思いも込めて謝罪した。

私が倒れた場所は入口で、部屋の窓から見ても、大分離れた場所だったから。

しかし彼は、さも当然と言うように、

「いや、謝ることじゃないよ。

私も事前に宮殿に参上して、説明しとくべきだったしね。」

私のフォローをすると共に自らの誤りを話した。

やはり彼は評判通り(もちろん歴史上)の立派な人であった。

「そんなことより、調子は大丈夫かね?」

彼は私に心配そうに声をかけた。

「おかげで助かりました。」

この世界に来たとき同様、少し頭はクラクラするがそれ以外に気になる点はなく、むしろぐっすり眠れたことにより、スッキリしていた。

「そうか、なら良かった。

さてそれじゃ本題に入ろうか。」

「はい、お願いします。」

「それじゃあまずは、私の事について話そう。」

彼はフランスのユー島で亡くなってから今日までの事を話した。

 

 




「思った以上に長くなりましたね。」
「..........」
「どうしました?」
「あっ、すいません、少々訳のわからない表現があったので翻訳してました。」
「ハハハ(グサリッ)すいませんねぇ」
「全くもう、長い文章でおんなじ事のくりかえし、遠回しすぎる表現.......読者に迷惑だと思いません?」
「ごもっともです。」
「次回以降気をつけてくださいね」
「はい。」

元帥との長い長い会話を終えて、翌日になった転入、不安と期待に胸を膨らませながら久しぶりの学校生活が始まる   
        次回(こそ) 学校生活

 12月21日 追記

 友達に修整分割を含めた大規模な校閲をやってもらいました。
 これで、少しは見やすくなったかな?


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ペタン元帥と穏やかな革命家達

 12月21日
 基本前回まで一緒になってた奴を分割しただけなため、内容はあまり変わりません。


1951年 7月23日

 

彼は監獄であるユー島の要塞で長い波乱の人生を終えようとしていた。

ユー島はドゴールが用意した、彼のための監獄ではあるが、監獄と言うには比較的自由が効いていて、ドゴール並の元上官に対する配慮が至るところに見られた。

彼はここ最近、年齢による影響もあり、往時の元気もすでに失せていた。

そんな中、彼は昔のアルバムのようなものを読んでいた。 

「振り返ってみると、色んなことがあった人生だったな。」

1914年までの第33連隊長時代、私の事を評価してくれたジョフル将軍による、第一次世界対戦と共に開かれた昇進への道。

地獄の血液ポンプ、ヴェルダンでの悲しき栄光。

第一次世界大戦末期の、全軍総司令官としての責務。

陸軍最高顧問時代のマジノ線建設。

「思えば、この頃から、

私の人生は狂いはじめていたんだろうな…。」

そして、ナチスによるフランス侵攻。

役に立たなかった私の防衛論とマジノ線。 

抵抗虚しく、開城せざるをえなかったパリの明け渡しと、首都遷都。

そして復讐とばかりに、先の大戦でドイツが味わった屈辱と同じ屈辱を味合わされた、降伏文書調印。

それに伴う私の主席就任。

それからはラヴァルに任せたお飾りのフランス政府。

文句を言わずに渡さざるをえなかった南部仏印。

勝手に作られた大西洋の壁。

下さざるをえなかった元部下、ドゴールに対する死刑判決。

「この頃が一番悔しかったなぁ…。」

そして連合軍によるノルマンディー上陸作戦とパリ開放。

私は正直喜んだが、政府の明け渡しを拒否された悲しさ。

そしてフランス帰国後の逮捕と裁判。

私に変わって死刑判決を受けたラヴァルとその最期。

私の元部下であり、私が死刑判決を下したドゴールの、助命嘆願による私の死刑回避。

そしてここユー島での比較的自由の効いた囚人生活。

思えばほんとに色んな事があった人生であった。

しかし、私はフランスを救うことができなかった。

昔の様な美しきフランスを維持することができなかった。

そう思うとすごい悔しく、こんな所で生き恥を晒すぐらいならいっそラヴァルと共に銃殺されていればと思うことすらある。

せめて、フランスをあの帝国時代、いや、フランス革命前の状態からやり直す事ができたら…。

まぁ無理な話ではあるが。

あぁ、昔の事を考えていたら疲れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1951年7月23日

 

フランス国元主席

フィリップペタン

 

永眠 

 

 

ここで彼の長い波乱に満ちた人生は終わるはずだった。

 

しかし――

――――――――――――――

1781年 フランス ヴィシー

 

「こんな所で、貴方に会えるとは。」

私ことジョルジュダントンは、フランスの田舎町ヴィシーで湧いた温泉に浸かっていた。

というのも、弁護士の仕事でたまたまここに立ち寄ったら、このような温泉があるという噂を聞きいたからだ。

そして気づいたら、アメリカ独立戦争の英雄、ラファイエットも温泉に入っていた。

「私も驚きましたよ。

次々と難案件な雇い主の要件を果たしてみえる方が、目の前にいらっしゃるのだから。」

「いやー、そんな大した事じゃないですよ。」

彼も私の事を知っているようだが、そんなに大した事ではない。

今回の件も、貴族同士の情けないお家騒動の仲介をするために来ただけであり、なんとか解決はしたが、やや禍根の残る物となってしまった。

最近は貴族の中での存続を巡る騒動が増えているが、そんな金があるなら、少しくらい市民に寄付してやってほしいものだ。

それに対し彼は、イギリスの圧制から新大陸の同志を開放するために、自ら戦場に赴き活躍したらしい。

他の貴族達にも彼を見習ってもらいたいものだ。

「あなたは本日どういったご要件でこちらに?」

「お家騒動の仲介ですね、全く、あなたを見習ってもらいたいもんですね。

最近多いんですよ。

こういう事が…。」

「ハハハ、困った方たちですね…。

ハッ!」

突然彼は風呂から上がった。

「どうされました?」

私は彼の突然の行動に驚き、訊ねたところ、彼は窓から見える林を指差して、

「あそこに人が倒れています!!」

と言った。

私は彼の指差す方向を見ると確かに林の草むらに、初老と見られる男性が倒れていた。

私は彼と共に風呂から上がり、着替えてから医者を呼びに行った。

その間に彼は、温泉のそばの休憩所に、倒れていた人を運び、看病していた。

 

 

私ことペタンは夢を見ていた。

第一次世界大戦の将軍三人と私達が駆け巡った古戦場を巡る夢や、ラヴァル達、第二次世界大戦中の政府首班と共にヴィシーの政府役人と宴会をする夢等、たくさんの夢を見ていた。

それはあたかも、死を目の前にした人がみる走馬灯のようだったが、徐々に感覚が薄れていった。

そして―

 

 

「……………」

彼は目を覚ました。

しかしそこは、先程までいた部屋とも違い、死人が行くという地獄とも違う雰囲気の場所だった。

なら、ここはどこだろうと思って起き上がろうとした時、

「おっ、目を覚ましたか。」

近くに座ってた二人の若い青年が私のことを覗きこんだ。

私は彼らを見たときに思った。

何処かで見たことがある顔だと。

「ここは…?」

目の前の二人に聞いた。

「ここはヴィシーだが?」

彼らはキョトンとした表情で答えたが、それ以上に驚いたのは私だ。

ここヴィシーは、私が主席として治めたフランス国の首都であり、思い出深い土地である。

ただ、見た感じ規模が違うため、私の暮らした場所ではない事が分かった。 

私の知るヴィシーはもう少し温泉街として発展していたためだ。

うん?

もしかすると…。

「すいません、今年って何年ですか?」

「1781年だが?」

彼らはまたも顔を見合わせて答えた。

やはり、私の嫌な予感はあたっていたか。

いや、嫌な予感ではないか。

これは神が私に与えてくれた最後のチャンスだ。

ここで引いたら、また、フランスは敗北の憂き目に遭う。

フランスを救うためにも、全ての始まり、フランス革命の結末を変えなければ。

それをしなければ私を育ててくれたジョフル将軍に申し訳ないし、私を許してくれたドゴールに申し訳ない。

それ故、私は決めた、今この時をもってフランスの歴史を変えるのだと…。

――――――――――――――

 それから私は私自身の事とフランスの事、彼らの末路について話した。

私が未来から来た、フランスを敗北に導いた将軍だと聞いて、彼らは驚いていたが、まだ若い為か、すぐに信じてくれた。

それから私は、これからのフランスと、彼ら革命家達の末路について話した。

彼らは驚きと悲しみをもって、その話を受け入れた。

これより8年後に起こる、バスティーユ監獄襲撃事件から始まるフランス革命は、ラファイエットのような革命派貴族や、ダントンなどのジャコバン穏健派の想像以上の力を市民は発揮し、どんどん革命を推し進めていった。

それは、彼らに火を焚き付けた革命家も制御出来ない程のものになってしまい、彼らの母国フランスは、ハンマーで叩かれた雷管が発火するように、圧制に苦しんだ市民は爆発し、各地で吊るし上げを始めた。

その火花は徐々に拡大し、立憲君主制への移行を宣言するも時すでに遅く、ブォレンヌ逃亡事件をもとにして、ロベスピエールらジャコバン派に火がついてしまった。

それからのフランスは、国王と言う生贄を始めとして、マリーアントワネット、デュバリー夫人、そして同じ革命を推進したジロンド派、ラボアジェ等の科学者、そして同じジャコバン派の中でも比較的穏健であったダントン、そして、この恐怖政治を進めたロベスピエールら公安委員会のメンバーをも、ギロチンの露としていった。

その後、ナポレオンによってある程度落ち着いたが、革命を経て、帝政と王政と共和政とで政権を取り合い、やっと落ち着きが見えたのは、第二次世界大戦後であった。

このような混乱の連続の歴史の要因はこの頃にあり、この頃の影響が今にも続いている事を話した。

そして私の第一次世界大戦、第二次世界大戦、ヴィシー政権での話を話し、今からすべき事についても話した。

その中で私達は、王政をどうするかについて話したが、私の考えは当然決まっており、彼らも私の話を聞いて、王政は立憲君主制で残すと言うことで一致していた。

国王の存在は彼ら革命家にとっては邪魔な存在であった。

国王は彼らにとって市民の生活を圧迫する悪魔でしか無く、邪魔な存在でもあり、彼らの正義を示すためにも、排除すべき存在であった。

しかし、革命が発生して国王を処刑してから、彼らは空虚な喪失感に襲われた。

彼らにとって国王は敵であったが、同時に良き理解者でもあったのだ。

そして市民にとっては勢いで国王を殺してしまったが、彼らにとっては国王は忠誠の対象であり、崇拝の対象でもあったのだ。

その存在は、ナポレオンが皇帝として就任することで補える筈であったが、彼は戦に敗れ、流されてしまった。

それから彼ら市民は、元王族を国王に据えたり、私のような将軍を主席においたりして、昔の様な、強く、美しきフランスを長続きさせようとしたが、結局、革命や戦争の嵐が吹き荒れるだけであった。

その点では今のブルボン王朝の国王は貴族からは嫌われており、また頼りの無い国王であったが、常に市民により沿い市民のための政策をしていた。

それ故に彼(ルイ16世)は市民に慕われており、立憲君主制の国王にはピッタリであると判断したからだ。

私は彼らの支持を得て、ルイ16世陛下に謁見し、男爵位を頂き、ヴィシー周辺の土地を治めることとなった。

――――――――――――――

それから私はヴィシーの温泉の近くの林を切り開いて、研究所を作った。

そこでは、陸軍の装備品である、小銃、大砲の開発をしていた。

また、蒸気機関を用いた物、主に蒸気機関車や実験段階である、キョニーの砲車を作る事になった。

主にそこで生産したのは、

●ミニエー弾の開発とそれに伴う施錠銃の開発。

●雷管の開発と金属薬莢の開発

●後送式小銃の開発、ドライセからジャスポーへの発展

●これら銃器の量産化、旋盤、ボール盤、フライス盤用のモーター、電源の開発

●上記工作機器の使用と小銃のさらなる量産化、製品の統一化

●小銃の配備と、実用訓練、それに伴う戦術、戦略の転換

 

銃器は以上であり、まだジャスポー銃の配備は近衛部隊等の一部の部隊であり、他の部隊はほとんどがフリントロック式小銃に施錠したミニエー銃が主力であった。(1786年の段階で)

●パドル炉を用いた錬鉄の生産による、大砲の鋼製化

●転炉を用いた鋼鉄の大量生産による、鋼鉄製大砲の量産、蒸気機関の小型化

●先程の旋盤を用いた、軽砲の施錠と椎型の実弾の制作(4斤山砲)

●雷管を用いた砲用信管の開発と榴弾のさらなる実用化

●一部施錠軽砲の後送化(アームストロング砲もどき)

●後送式施錠軽砲の量産化、遅延信管の開発

●大型施錠式後送艦砲の開発

 

以上が大砲の開発である。

大砲も同じく量産に成功したのはアームストロング砲までで、これもまだ100門ほどしか作られていない。

そのため、砲は施錠を施した青銅砲が中心である。

また、砲弾はヴィシー以外の工廠にも発注したため余るほど作る事に成功した。

しかし、艦砲は尾栓の開発及び砲塔のシステムの開発に手間取り、量産どころか、試作品を作るにとどまっている。

しばらくは施錠式先込め砲で辛抱してもらうしかない。

これら銃器の制作に伴い、蒸気機関車も開発したが、まだ工場内での開発段階であり、実用化には至っていない。

しかし、キョニーの砲車に関してはある程度開発には成功し、後の世の自走砲らしいものが出来上がっている。

これら新型砲車はキョニーの頭文字をとってk1と呼ばれる事になった。

この砲は後の戦争で大きな役割を担うこととなる。

そして、これら武器システムの開発に伴い、革命を防ぐための優れた人材をつくり、また、工場での工員、戦場での優秀な参謀を作るため、これら武器の開発により、余剰となった武器の海外への輸出で儲かった金と、国王及び、ラファイエットの支出により、総合学校が作られることになった。

それがここヴィシー総合学園である。

この学園は今年開校したばかりで、入試をえて、陸海軍の士官学校の卒業生、各工場の工員、政治家の息子、物好きな市民の息子が入学していた。

――――――――――――――

学園の評判は、最初ヴィシーだけであったが、徐々にひろがり、海外からも生徒を受け入れるようになっていった。

学校の雰囲気としては至るところに、この時代に無いような20世紀に発明されるはずの物があり、生徒の生活を豊かにすると共に、より広い考え方ができるようにしてあった。

また、ヴィシーはパリからは遠いため、校内には寮があった。

また、この学校はこれから先に起こるであろう革命の中で生きていけるように、生徒全員に小銃を渡し、校内で軍事教練を行っていた。

その内容は今から見ても厳しい物であったが、これくらいしないと混乱の中で生き残れないという配慮の上であった。

 

 

「まぁ、こんなところかな。

校舎の説明は、また明日以降にするよ。」

「ありがとうございます。

大変でしたね…。」

私はペタン元帥からこの学校の校長になるまでの話を聞いていた。

彼は見た目だけなら、第一次世界大戦の時のペタン元帥だけど、それ以上に長い人生をこの時代と、前の時代で過ごしたからか、知識もとても豊富だった。

そのせいで悩むこともあったらしいが、彼は前の時代での経験より、本気でこの国を救いたいと思っていた。

その思いを、私は彼の表情と口調、何より、私の中の知識から強く感じていた。

それ故に私は彼を国王陛下同様支えていきたいと思った。

「あぁ、長く辛い人生であったが、この時代にこれて良かったと思っている。

…さて、次は君の人生を聞かせてもらおうか?」

「私の向こうでの人生は語れるほど長くはありませんが、

それでよろしいなら。」

「もちろん、十分だとも。」

私は、私が生まれてから、ここに来るまでの経験を話した。特に、弓道に関しては熱く話した。

弓道にはスポーツとしての側面と共に、精神修練の側面もあるため、革命を軟着陸させるのに使えるのでは無いかと思ったからである。

それから彼が亡くなってからのフランスを中心にした、現代までの歴史を話した。

彼はフランスがある程度安定したことに安心していたが、それと同時に、

「まさか大国間の戦争ではなく、宗教がもとになる新たな形態の戦争が起こってしまうとはな…。」

彼は私が話した某新聞社襲撃事件及び、テロ国家についての話を聞いて、彼は再び沈痛な表情を浮かべたが、

「歴史は繰り返すか…。

しかし、今から変える。」

と、決意を新たにした。

私は最初は生徒として、卒業してからは、弟子として彼を支えていきたいと思った。

それに、ペタン元帥は軍人だ。

これから起こるだろう大戦争では、主将として戦場を駆け巡る事になるだろう。

そんな彼を戦場で、後方で支えて行く事ができたらとも思った。

一通り話を終えてから私は彼に感謝を伝え、それから握手を求めてみた。

「今日はありがとうございました。」

その様子をみて彼は少し驚いていたが、手を差し伸べ、

「こちらこそ、今日は楽しかった。

これからみっちりシゴイていくよ。」

彼は笑顔で物騒な事を言い、私は苦笑で返した。

そして固く手を握り、お互いにこれからのフランスを支えて行くことを誓った。 

その様子はさながら結婚式の神への誓いのようだったが、彼らは今、それに近い興奮でいっぱいであった。

それからしばらく後、ある程度互いの興奮が冷めた時に、私はふと窓の外をみた。

朝早くにここに来た筈であったが、もう真っ暗であった。

私達は昼飯や夕飯を食べずに、興奮に任せてなんと丸一日、話し続けていたのである。

その様子に元帥も苦笑を浮かべ、

「今日から授業を受けさせる予定だったが仕方ない、明日から授業を受けなさい。」

と言った。

私は元帥と同じく苦笑を浮かべると共に、

「はい」

と、短く答えた。

そして私達はこの部屋で、召使いの運んで来た軽食を食べた後に、ペタン元帥は自室に戻り、私一人になった。

この部屋は、元帥の話によると、寮に使われている部屋ではないため、今日だけの宿泊になる。

そのため私は私の荷物の確認をすると共に、ある程度まとめておいた。

明日はいよいよ転入である。

私は期待と不安に胸を膨らませて再びベットに入った。

その顔は様子を見に来た元帥の話によると悔いのない、スッキリした顔であったという。

 

 




次回、学校生活?
 予定


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新たな生活の幕開け

 私伊藤遥はペタン元帥より話を聞き、この学園についての知識と良き支援者を得ることが出来た。そして、楽しき学園生活も始まるはずであったが、もう日はくれており、翌日に至る事になった。そして今日に至る。
 「皆さんこんにちは、司会役の涼太です。」
「こんにちは、作者です。」
「最近、弓道の審査があって受けてきたんですけど」
「どうでした?」
「........落ちました。」
「お疲れ様です。ちなみに何段ですか?」
「.......初段です。」
 「プッ...頑張ってください」
「今吹いた!?吹いたよね!?」
「だって、もう引退してだいぶたってますよね、なのにまだ初段だなんて、ププッ!!」
「不器用なんだから仕方ないじゃないか!!」
「ハハハ、冗談です。まぁ頑張ってください。」
「もう、それでは始まります。」
「ゆっくりしていってください。」


フランス ブィシー学園 正殿客室

 

「んん〜」

 

 私こと伊藤遥は目を覚ました。前日、この部屋に運び込まれてから

 

まる一日がたっていた。

 

 昨日はペタン先生との会話で一日を終えてしまったため、本来昨日が

 

入学の予定であったが、一日ズレてしまった。

 

 しかし、私としてはこの国の現状やこの学校のことなど

 

とても興味深い事を聞けたため良き一日であったと言える。

 

しかし、いつまでも寝てるわけにはいかないため、私は今だに寝る事を

 

望んでいる体をベットから起こし、部屋の奥にある洗面所にいった。

 

 この時代には私達の知ってるようなプラスチックの歯ブラシが無かった為、

 

最初は苦労したが、何とかそれっぽい物を枝を使って

 

作る事に成功したため、それを使用している。

 

プラスチックの歯ブラシと比べると少々頼りない感じがするが、

 

私の口の口臭を防ぐにはこれしか無いため、辛抱している。

 

 それから私はサッと髪を整え、昨日同様この時代にしては

 

非常にシンプルであるが髪を後に束ねて下げておいた。

 

わかりやすい例でいうと平安鎌倉時代の貴族の女性のような髪型である。

 

 今までの生活では基本的にこのような髪型で過ごしてきたが、

 

フランスの宮廷に入ってからは後ろで束ねておだんごを作るような髪型が

 

中心となっていた。そのため、この髪型は久しぶりであるが、

 

鏡を見てこの髪型こそが私であると改めて認識した。

 

 それから私は寝間着から学校生活に適した服、すなわち制服に着替えた。

 

 私はこれから学校生活を始めるため、制服は当然であり、

 

この学校の指定の制服であるかと思われたが、そもそもこの学校には

 

制服と言うものがないのである。

 

しいて言うなら士官学校から転入してきた生徒が軍服を着ているぐらいで、

 

皆バラバラであった。それ故この制服はある意味無いはずのものなのである。

 

 

 

その制服の正体とは

 

 

「この服もきれいになったねぇ、高校で使ってたときとは大違いだよ。」

 

 

 そう、私が通っていた高校の忘れ形見でもある制服である。

 

 

 私がここに来たときにも着ていたが、トラックに轢かれた為か

 

だいぶボロボロであり、もう使えないかと思われた。

 

しかし、お義母さんが陛下を通して国中の仕立て屋を集め、

 

私の服を元通り、いや元以上にきれいになおしてくれた。

 

そのため今日着てみたときにもどこにもシワがなく、

 

前までついていたシミなどもキレイさっぱりなくなっていた。

 

彼ら仕立て屋には感謝の言葉しか思いつかない。

 

 しかし、この制服は現代(18世紀)には無いような構造の服であり、

 

スカートの丈もこの時代の足がすっぽり隠れるような物とは違った

 

膝あたりまでのスカートであったため、これを穿いてる時の周りの視線は

 

皆変なものでも見たかのような冷たい目であった。

 

また、ブレザー等の上着もこの時代の人からすると男の服であり、

 

キリスト教的にも微妙な代物であった。

 

 

しかし、この学校では比較的服装に関しては制限が無いため、

 

ある意味これからの生活における可能性を秘めた物でもあった。

 

そのため、私は少々恥ずかしながらこれを着ることにした。

 

 

 そして制服に着替えてからチラッと腕時計を見るとまだ朝食の時間には早く、

 

かといってすることも無かった為学園内を少し散歩することにした。

 

 

.............................

 

 

.............

 

 

 昨日は雨が夜降っていたようで植物の葉の雫が登ったばかりの

 

朝日に照らされ光り輝いていた。

 

その幻想的な風景の中、私はのんびりと石畳の上を歩いていた。

 

 この学園の庭はとても広く、近くにはアリエ川が流れる眺めも良い場所である。

 

もともとこの学園のあった場所は温泉の近くの林であり、

 

今も学園内に林の一部が残っているが、その林の木々もキレイに整えられており、

 

ヴェルサイユ宮殿にも引けを取らない豪華さである。

 

 しかもパリ以上に衛生面には気を使い、

 

噴水や花壇から臭い糞尿の匂いがしない様にオルガ川に直接流れる構造の

 

下水道が掘られ、きちんとした水洗トイレまで設置されている。

 

 

 未来から来た人にとっては糞尿の匂いはとてもじゃないが耐えられるものではなく、

 

コレラ等の伝染病のもとになるため、ペタン先生が中心となって整備したのだという。

 

私にとっては正直とてもありがたい話である。

 

 しばらく庭を眺めながら歩いていると東屋らしき建物についた。

 

そこで私は一息つくことにした。天井裏には鳥の巣があるらしく

 

時々鳴き声が聞こえてくる。その東屋からは近くに学生の寮と思われる建物が見え、

 

朝のランニングをするのか比較的薄着の生徒が何人か出てきて道に従って走っていった。

 

 その様子をぼんやりと眺めていると

 

 「おはよう!!....おや?あまり見慣れない顔ね!?」

 

 突然後ろから私とおんなじ位の女の子が声をかけてきた。

 

私は突然の事に少し驚いたがなんとか返事をした。

 

 「昨日この学園に転入した、伊藤遥と申します。

 

今日から共に授業を受けさせていただけます」

 

 その様子に彼女も一瞬目を丸くしたが先程のような明るい笑顔で自己紹介をした。

 

「そっか、あなたが噂の陛下の新たなお嬢様ね、私の名前は、マリー・カリーネ、

 

ダンケルクから来たわ。わざわざ敬語じゃなくてもいいわよ、

 

この学園へようこそ、そしてよろしく。」

 

「そっかぁなら改めてよろしくカリーネ!!」

 

 私も負けない位の笑顔で返した。それから私達はその東屋で宮廷での生活、

 

この学園での生活等、日常生活の話題に花を咲かせた。それはしばしば時間

 

の存在を忘れさせた。

 

 そして一時間ほど経った時

 

「あら、もうこんな時間!?」

 

 彼女は時計塔を見て呟いた。私も自身の腕時計を見て時間を確かめた。

 

確かにもうすぐ朝食の時間であった。

 

正直もう少し話したかったが続きは教室ですることにした。

 

 「それじゃ御機嫌よう、教室で待ってるわ」

 

 「今日こそは来るからね。それじゃ」

 

 最後にお互い笑顔で約束をして、元来た道を戻っていった。

 

 これが彼女との長く不思議な関係の始まりであった。

 

...................................

 

 

..................

 

 

 朝食後、私は身の回りの荷物のうち、これからの授業に必要なものだけ持って、

 

生徒のクラスのある棟に向かった。

 

残った着替えなどの荷物は後から別の先生が私の寮の部屋に持っていってくれた。

 

 

   そして今、

 

 

 「それじゃ、これから朝のショートホームルーム始めるぞ。まず......」

 

 私はクラスの前の廊下に立っている。

 

先に入ったペタン先生がショートホームルームを始め、今日の予定等を話始めた。

 

今私の心臓はとても大きく拍動している。今までに無いくらいの勢い

 

で脳に血液を送っているのが分かるが、

 

それがまるで意味の無いことの様に今私の頭は緊張と不安が入り混じり、混乱していた。

 

 どうにか穴があるなら入りたいという思いが溢れてきたが、

 

無情にも時間は過ぎてゆく、

 

まさしくそれはいい加減覚悟を決めよと言われているように感じた。

 

 そして、そうこうしているうちに

 

 「諸連絡のある人はいるか?無いなら最後に.....」

 

 その声を聞いた途端私の心臓は今までに無いくらいの音を立てて拍動した。

 

ついに、緊張の、その瞬間がやってくる。

 

 「噂には聞いてるだろうが、新たにこのクラスに転入してきた子を紹介するぞ、はいれ。」

 

 よし、やるっきゃない

 

 私は今までのモヤモヤとした気持ちをかき消すべく、

 

いつもの審査の時の様に深呼吸をし、

 

無理矢理にでも固まったその顔を笑顔につくりかえて、扉を開けた。

 

 「失礼します。」

 

 私は面接の時のように静かに扉を開け、クラスにはいり、生徒に向かい礼をした。

 

それに対して、生徒達も困惑しながら礼を返した。

 

 それから私は静かに教台の横まで歩き、ある程度落ち着いた口調で、

 

 「ベルサイユより参りました、伊藤遥と申します。よろしくお願いします。」

 

 自己紹介をした。先程の緊張とは打って変わった落ち着いた気持ちに

 

内心自分も驚きながら話した。

 

 ただ、生徒の反応はというと、先程の礼に今だに困惑しているものもいれば、

 

何やら私のスカートを不思議そうに見ているものもおり、反応はまちまちであった。

 

 しかし、冷ややかな目線を送ってくるものはおらず、

 

自己紹介の場面にしては比較的上出来だったと思う。

 

 「彼女はベルサイユからこのビィシーに来たばかりであり、

 

まだ右も左も分からない状態だから彼女の面倒をきちんと見てあげるように。」

 

 「まだまだ分からない事だらけですがよろしくお願いします。」

 

 私は再び挨拶をしてから礼をした。その様子を見た生徒達からなぜか拍手が上がった。

 

正直少し恥ずかしかったが、悪くは無い気分であった。

 

 「よし、それじゃお前はあの席に座りなさい。」

 

 「はい、今までありがとうございました。」

 

 「よし、これでショートホームルームは終了、解散!!」

 

 私は、先生に一言お礼を言ってから、先生が指す方を向いた。

 

 そこを見て私と、その隣の席の人はお互いに驚いた。なぜなら

 

 そこには先程話した女の子、カリーネが座っていたからである。

 

 彼女もその事実に少し驚いた様子だったが、

 

再び先程のような明るい笑顔を向けてきた。

 

 私もその笑顔につられ、無理矢理作ってた笑顔を本物の笑顔に変えられた。

 

 そして、自分の席のとこに行き

 

 「これからもよろしく!!」

 「こちらこそ、よろしく!!」

 

 再び朝のような挨拶を交わし、二人の一日が始まった。

 




「そうですかぁ、まだ初段なんですねぇ。」
「今までの審査が危険物等の資格試験や学校行事と被っていて、なかなか受ける機会が作れなかったのも要因ですが、」
「ですが?」
「何より、私自身の技量不足な点が一番大きいのでもっと練習時間を増やし、内容を工夫して、ちゃんとした体配、射形を手に入れられるよう努力していきたいです。」
「もう引退したというのによくやりますね」
「私にとっての引退は死ぬときですから、八段目指して努力していきたいです!!」
「次の審査はどうします?」
「危険物と被っていますが、当然受けます。次こそは取りたいので。」
「そうですか........(ハハハ、後輩が可愛そうだなぁ(^_^;))」
「まだまだ弓道について語るような資格のないものですが、少しでもその資格を得られるよう頑張ります。」
「頑張ってください。」
「はい!!それでは皆さん、」
「「さようなら」」
無事学校生活を友と共にスタートすることが出来た私は新たな友と新たな授業を受けていく。
次回、学校生活(学園の一日)!?


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学校生活

クラスでの自己紹介を終えた遥はカリーネ達新たな友と共に久方ぶりの授業を受ける。フランス王国の授業とはいかがなものか?そして、戦前のある特別授業とは?

「皆さんこんにちは、作者です。」
「涼太です。」
「涼太さん......今日は穏やかですね。」
「?私はいつも穏やかですよ?(何かしなければ)」
「いや、そうじゃなくて、投稿だいぶ......」
「あぁそれでしたかぁ、今回は仕方ない事ですし、別に咎めませんよ。」
「(あぁ、涼太君珍しい)ありがとうございます。」
「(今、ちょっと失礼な事考えたな。)まずは、将来を決める大事な事を優先しましょ?」
「ありがとう」
「さて、弓矢第7巻始まります。」
「ついに始まりました、ちょっと不思議な学校生活」
「新キャラ?もたくさん出てきます。」
「それでは」
「「ゆっくりしていってね!!」」


ブィシー学園

 

 私はしばらくカリーネと話してから1限目の持ち物の用意をした。

 

 1限目は数学の授業であり、筆記用具の他に定規やコンパス等を用意して挑んだ。

 

 今から受ける授業はこの時代までにわかっている数学であるため、

 

簡単な事のように思えた。

 

 しかし、

 

 「この方程式は、この式から導きだされまして..............」

 

 ????

 

 ナニコレ??

 

 正直なかなかついていく事が出来なかった。私が通ってた高校が

 

工業高校であったため、数学等の5教科はレベルが低かったのもあるが、

 

 何より

 

 私は昔から数学が苦手であった。

 

 そのため、

 

(この式を変形させるとこうなって?そうすると..............)

 

 完全についていけずパンクしていた。

 

 しかし、授業は止まる様子を見せず、戸惑う私を置いていき

 

 「さて、この式はどうやって解くでしょう?誰にしようかな............」

 

 さっそく先生は誰かに答えさせようとジロジロ見ていた。

 

 私も必至で解きながら、当たらないように下を見ていると

 

 「よーし!!決めた!!今日の転入生!!」

 

 教卓の上から楽しそうな死刑宣告が聞こえてきた。

 

 私は途端に頭が真っ白になったがなんとか起立し

 

 「えーと、この式がこうなって.........」

 

 自分の分かることをできる限り遠回しに決戦を避ける主力艦隊のように曖昧

 

にして説明した。しかし、嫌でも答えを言わなければいけない時が近づき、

 

私は(この授業での)死を覚悟した。

 

 

 

 しかし、

 

 

 

 

 

 「この式の答えはありません。」

 

 近くから凛としたハリのある声が聞こえた。

 

 誰だろうと思い、その声のした方を向くとそこにはさっきとは

 

違った真剣な表情のカリーネが立っていた。その様子に私も先生も驚いていたが、

 

よく見ると彼女の瞳には先程と同じ、いやそれ以上に輝いた瞳が見て取れた。

 

その時私は確信した。

 

 この子は数学が好きなんだと

 

 その様子を見ていた先生は面白い物を見るような目になり、質問した。

 

「そうですかぁ、ならなぜその答えになるか説明してください」

 

 「はい!!」

 

 彼女はそう答えると説明を始めた。彼女の説明は先程の先生の教えた内容をもとにより

 

噛み砕いた表現で説明した。そのため、私でもよく理解出来た。

 

 一通り説明を終えて座ると先生が驚いた様子でだけどどこか嬉しそうに

 

 「ありがとうございました。貴女の説明にはいつも驚かされます。先生も楽しいです。」

 

 と、感想を述べた後、苦笑いを浮かべつつ私の方を向いた。

 

 「今日はすいませんね、初めてだというのに試すような事をしてしまい。

 

次回からはもう少し、ゆっくり説明するので付いてきてくださいね」

 

 と彼女は述べた。私は恥ずかしくてうつむきながら返事をして席に座った。

 

 その様子を遠く窓際から見ている生徒がいた。

 

 彼のノートには先程の問題を既に解き終えたらしく、次の問題が既に書かれていた。

 

 

 

 2限目は化学であった。

 

 私は中学の時理科が得意であった。中学の理科は複雑な計算式が少なく、文系の私

 

でも実験を通してよく理解する事が出来た。しかし高校に入ってからは複雑な計算が

 

必要になり、苦手な数学と変わらない内容であった。しかも中学の時のような実験も

 

無くなり、点取り教科から一気に減点教科へと変化してしまった。

 

 しかし

 

      ボォー

 

 この学園では実験、実習を中心とした授業を行っており、まだこの時代には無いような

 

実験器具も開発し、非常に幅の広い実験が行えた。

 

 今やっているのは、塩水を電気分解し水素を発生させ、それを風船に封入し、

 

浮かせるという、所詮水素気球を作る実験である。

 

 この実験には電気分解させるための電源が必要であり、本来この実験はこの

 

時代には出来ないことなのだが、どうも前の実験で鉛蓄電池を作ってそれを使ってるらしい。

 

 忘れかけていたが、ここにいる生徒はフランス中(一部留学生あり)から集められてきた

 

優秀な生徒達であり、私なんか足元にも及ばない存在なのではと思った。

 

 そうこうしているうちに気球が上がり実験は成功した。

 

周りには歓喜の声が溢れたが、しばらくしてからある生徒がイタズラ半分でこっそり

 

気球にランプを近づけた。 

 

 周りの生徒は気付かず風船に近づいていたため、私がその生徒に気づき

 

 「危ない!!」

 

と叫んだが時既に遅く、ランプの熱により表面がとけ中の水素の圧力に耐えきれなくなった

 

気球が爆発した。

 

 しかし、気球の大きさは小さく中の水素の量が少なかったため、パンッといった音は

 

大きかったが被害は無く、皆残念そうに片付けを始めていた。

 

 ちなみに気球に火を近づけた生徒は後でこっぴどく叱られ廊下で雑巾がけ100周

 

を命じられたそうな。

 

 3限目は歴史であった。

 

 歴史は私の得意科目であり、前の世界での唯一の点取り教科であった。

 

 そのため、私はその授業をワクワクした気持ちで取り組んでいたが

 

 「スー、スー」

 

 「むにゃむにゃ」

 

 完全に教室が寝室と化していた。

 

 その時起きていたのは、自分とさっきからジロジロ見てくる、男の子

 

(どっかで見たことがある?)ぐらいであり、

 

 隣のカリーネちゃんも気持ち良さそうに毛布らしき布を被って寝ていた。

 

 私はその様子を暖かい目で眺めて、デコピンをして起こした。

 

 「痛たたッ、はるちゃん痛いよ!!」

 

 「まだ、授業中だよ?カリーネちゃん。」

 

 「私にとっちゃこれは寝ることが授業なのよ」

 

  といって再び寝てしまった。私は「ハハッ......」と乾いた笑い声を上げてから

 

周りは見ず私の世界、授業に集中することにした。

 

うん、彼女は理系なんだろうから仕方ない。

 

 

 やがて、

 

 「カーン、カーン」

 

 3限の終了を告げる鐘がなった。

 

 その音を合図に皆目を覚まし、皆昼食を食べる準備を始めた。

 

 この学園では、皆食堂に集まって食べる形式が取られており、

 

皆ぞろぞろと外に出始めた。

 

 私は始めての食堂での昼ごはんに胸を踊らせ、カリーネと共に向かった

 

  と、その時

 

 ドンッ「痛っ」

 

 廊下に出た途端ちょうど曲がり角を曲がったばかりの人にぶつかってしまった。

 

「いてて......ごめんなさい?大丈夫?」

 

 私は何とか起き上がり訊ねた。見たところこの学園は女子の比率が大きいため、

 

よく出会うが、今まで見てきた人よりも東洋的な人であった。

 

 「こちらこそ、ごめんね.......大丈夫?」

 

 彼女も私の助けを得て、起き上がった。その時後ろからカリーネの聞き慣れた、

 

 廊下から誰かの初めて聞く声が聞こえ

 

 「大丈夫、はるちゃん?」「危ないよシレーヌちゃん!!」

 

 「「大丈夫(ちょっとクラクラするけど)!!」」

 

 お互いに、お互いの友に笑顔で語りかけた、ホントそっくりである。

 

彼女達もまた同じように呆れていたが、二人の友はどうも認識があるらしく、

 

 「「カリーネ(ソバール)ちゃん」」

 

 お互い私達の横を通り過ぎ手を繋ぎあった。

 

 私はその姿に疑問を浮かべたが、

 

 「彼女達は幼いときからの友達だったのさ。」

 

 シレーヌちゃんは私の顔を見て、優しい顔で話した。

 

 「彼女達はね昔ダンケルクで暮らしていたんだけど、昨今のねアメリカ独立戦争の

 

 関係でね、カリーネはパリにソバールはアメリカに行く事になってねしばらく別れた

 

 まんまだったんだよね。」

 

 「そうだったんだぁ」

 

 私は正直驚いた。アメリカ独立戦争が起こったのはだいぶ前であり、幼い彼女達には辛い

 

 別れであるが、文句をいわずにお互いの新しい土地に行ったのである。私だったらとても

 

 じゃないが我慢できる物では無い。

 

 「それでな、私は親が貿易関係の仕事をしてたからカリーネとソバール

 

どっちにも面識があって私は、独立戦争の終焉が見えてきて、帰国した時に、

 

この学園を薦めたんだ。結局、クラスが違ったせいで今日まで会えなかったけど.......」

 

 私はシレーヌの顔を見つめた。その顔には暗い影のようなものが映っていたがやがて、

 

「こんなところで話してたら邪魔だし、早く行こう!!」

 

 と彼女達を急かした。確かに廊下のど真ん中で突っ立っていたら邪魔ではある。

 

 その様子を察して彼女達は食堂に向かい始め、私達も動き出した。

 

 

 

   食堂

 

 

  「主、願わくはわれらを祝し、また主の御恵みによりてわれらの食せんとする

 

この賜物を祝し給え。われらの主キリストによりて願い奉る。アーメン」

 

 「アーメン」

 

 皆、好きな所に座った生徒達は、学校牧師の食前の祈りの後に各自出される食事から食べ

 

始めた。料理自体は典型的なコース料理であるため、美味しいが宮廷以上のテーブルマナー

 

があり、普段よりもゆっくりになる。そのため昼食の時間は長めに取られている。

 

 私は、カリーネとソバールとシレーヌの4人で並んで食べることにした。

 

 「もぐもぐ、そういえば、まだ自己紹介してなかったよね!!」

 

 「シレーヌちゃん汚いよ、飲み込んでからにしようよ。」

 

 シレーヌは口にパンを含ませながら喋り、その様子にソバールが注意する。

 

 「ごめんごめん、ソバール..........ゴックン!!........私の名前は美樹..ジョセフィーヌ ド   

 

シレーヌって言うんだ。よろしく!!」

 

 彼女は笑顔で自己紹介をし、握手を求めたそれに対し、私は握り返すと共に

 

 「ヴェルサイユ宮殿から参りました、伊藤遥です。よろしく!!」

 

 私も負けないくらいの笑顔で自己紹介をして、残った一人も自己紹介した。

 

 「最近、新大陸から帰ってきました、フランソワ マリー ソバールと申します。

 

よろしくお願いします。」

 

 自己紹介を一通り終えてからシレーヌは驚いたように聞いてきた。

 

 「そっかぁ、ヴェルサイユ?貴族か何か?!」

 

 それに対し私は私はどう答えるべきか迷った。そこへソバールが

 

 「シレーヌちゃん?もしかしたら昨日来るって言ってた例の.......」

 

 「例の?.......!!もしかして、国王陛下のお嬢様って貴女の事!?」

 

 シレーヌが輝いた目で聞いてきた。正直ちょっと恥ずかしかったが何とか説明した。

 

 「いやぁ///....お嬢様ってほどじゃないけど///、お義母さんに庭で拾われて........」

 

 私は別の世界から来たことを伏せつつ説明した。正直曖昧な感じがしたが彼女達は納得

 

 したらしく

 

 「王妃様ってあまり良い噂気聞かなかったけど、すごい優しいお方なんだね」

 

 「うん、お義母さんがいなかったら今の私はなかったもん。」

 

 私は純粋に感じた事を話した。お義母さんにはお世辞では無く本当に感謝している。

 

 彼女の存在が無かったら、私は野垂れ死んでパリの下水道に流されるか、盗みを働き

 

 ギロチンにかけられていたかもしれない。あっ、まだギロチン無いか?

 

 少ししんみりとした空気が漂ったが、再びシレーヌの目に輝きが生まれ

 

 「ところで!!宮廷ってどんな感じ!?毎日何処ぞの貴族様と踊ったり、

 

優雅な風習とかありそう.....」

 

 「流石に毎日踊るような事はないけど.....」

 

 私は宮廷での生活を話した。その話に初めて話を聞くシレーヌは当然、

 

カリーネまでもが羨ましそうに聞いており、いつか皆を招待してやりたいと思った。

 

 しばらくそのような話を続けた後に私達は食事を終え、再び各自の

 

教室に向かおうとしていた。

 

 その時カリーネが「皆さん放課後またどこかに集まらない?」

 

と提案し、私達のクラスの前に集まる事になった。まだまだ話足りない事もあり、

 

この時に話すことにした。

 

 私とカリーネは二人が彼女達の教室に向かうのを見送ってから私達は、教室に入り4.5.6限

 

(午後全部)の準備を始めた。

 

.......................

 

 

........

 

 

 この学園では、近く来るフランス革命に始まる波乱の時代を乗り切れる人材を育成し

 

心身共に誘惑に負けないような人を作り上げるのを目標に軍事教練が課せられている。

 

 

 

軍事教練というと、前の時代の日本では太平洋戦争の経験により、あまり良きイメージは

 

無く、学校教育に軍国主義的な要素を含ませるのは問題だとされた。

 

また、日本は戦後直接は戦争に携わる事も無くなり、

 

銃の扱い方や軍隊での風習を習わす必要自体がなくなっていた。

 

 

 

 しかし、軍事教練の際の競歩や集団行動などは生徒の規律性、

 

基礎的な体力づくりには向いているため、体育の授業や運動会等のイベント

 

という形に変えて残ってはいる。

 

 

 しかし、現世のフランスは既に経済的にも赤字であり、かつ世界的な飢饉も起こりつつ

 

ためにすでにフランス革命の導火線は出来上がりつつあるのである。

 

 そのため、フランス革命は防ぐ事ができなくても、彼らの力で暴走を止め、それがならず

 

とも彼ら自身が彼らの力で生き抜いて行けるようにこの学園では設定されている。

 

.........................

 

..........

 

 

 「さて、だいぶ近代的な服装だなぁ」

 

 私は、渡された軍事教練用の作業服を眺めた。この服はこの時代の軍服と違い

 

すでにカーキ色の土に紛れ込めるような物となっており、またコートもこの時代の華やかな

 

物では無く、動きやすく締まりのあるしようとなっている。そのため見た目だけでは

 

第一次世界大戦のイギリス軍の軍服に近い物となっている。

 

 しかし、この服はあくまで作業服であり、軍事教練だけでなく、工業実習でも使用する。

 

 また、ブーツとピケ帽も渡されており、とても動きやすい格好となっている。

 

 私は、渡された単発式ボルトアクション小銃、グラースを持ち、弾を何発か胴乱にいれ

 

グランドに並んだ

 

 

 金属薬莢式の単発ボルトアクション小銃、グラース銃は

 

フランスがシャスポー銃の次に採用した小銃である。

 

シャスポーもグラースもボルト先端部にゴムのパッキンを利用しており、

 

ガス漏れを防げるため、ドイツのドライゼライフルと比べて射程、精度共に向上している。

 

(そもそもボルトアクション式小銃自体まだフランス国内にしか流通していないが)

 

 しかし、ゴムの木自体貴重品のため、ゴム自体が貴重品であったがここビィシーは温泉街

 

である。そのため発生する蒸気を用いて温室をつくり、ゴムの木の量産に成功した。

 

 そのため、この学園からはたくさんのシャスポー、グラース銃が製造されていった。

 

 ちなみにこのグラース銃は生徒の物となるらしい。現代日本からすると随分物騒である。

 

 「気を付け!!」

 

 私達は教官である、ペタン先生の指示のもとクラスごとに横一列に並んだ。

 

 今日の教練は塹壕での戦闘の仕方並びにグラース銃の射撃練習である。

 

あえてやってる内容が100年先なのは突っ込まないとこう。

 

 まず、一列に整列した私達は、渡されたスコップを用いて

 

深さ2メートル程の塹壕を作り、それを既存の練習用塹壕につなげた。

 

それから中に入った私達は、耳を塞いで口を空け、防御の姿勢をとった。

 

こうする事によって爆風で肺が潰れる事を防ぎかつ鼓膜が破れるのを防ぐ事ができるのだ。

 

私達が全員この姿勢を取ったのを確認したペタン先生はスイッチを押した。

 

 

 途端、大地が割れんばかりの爆音と閃光が周期的に現れ大地に

 

いくつものクレーターが出来た。

 

 

 私達生徒がまだ体験したことのない衝撃に各所で悲鳴が上がっていたが、

 

私達は必死に身を屈め終わるのを待った。

 

時折一際大きい爆発も繰り返しながら仕掛けられたモノは爆発していく。

 

 

 

 これら爆発仕掛けはペタン先生が第一次世界大戦で経験した攻撃前の事前砲撃を

 

再現したもので、各種手榴弾から新型の艦砲用大型榴弾まで

 

たくさんの爆発物を埋めて作られた。

 

 

 

 各種爆発物の信管はペタン先生のスイッチに繋がっており、

 

予め設定された順序で爆発するように作られていた。

 

 最後に一際大きな爆発があった後に妙な静寂が現れ、敵襲を知らせるラッパがなった。

 

 それを合図に私達は必死に屈んでいた姿勢を起こし、

 

胴乱から出した弾をグラース銃に込めて塹壕から銃口が出るように並べた。

 

そして私達は、遠くに見える藁人形に狙いを定め、待機。

 

 その間時折、迫撃砲の飛翔音が響き次から次へと藁人形を倒していった。

 

その度に私達は狙いを変える必要に迫られた。

 

 手に汗握る、始めての銃を用いた射撃。

 

前の世界ではライフルのエアガンを使ったことはあっても実銃を使う機会なんて無かった。

 

 しかし、それが今実現しようとしている。私は興奮して震える手を抑えつつ合図を待った。

 

 その時は無限に長いように思われた。

 

 そして

 

 「撃て(フー)!!」

 

 「パッパッパン!!」

 

 教師が号令と共に剣を振り下ろしたのを合図に全生徒が一斉に射撃を開始した。

 

 その様子に私は圧巻され、しばらく固まってしまった。

 

 グラース銃は発射薬に黒色火薬を使用しているために轟音もさることながら煙の量が凄く

 

あたり一面煙に包まれた。

 

 私達はその煙に咳き込みつつ、ボルトを引き、煙がまだ出ている薬莢を出し、新たな弾を

 

込め、各個に射撃を開始した。

 

 私は、衝動にかられて禄に狙いも揃えずに、ただただ闇雲に打ち続けた。

 

弓道で言うならば、早けのような状態であった。

 

 そして、皆が何発か撃ったのを確かめた先生は、

 

撃ち方やめの指令と共に着剣の指示をした。

 

 私はなれない動作で脇のベルトから銃剣を取り出し銃口に付けた。

 

 

 

そして

 

 

 

 

 「ピー!!ピー!!」

 

 突撃の開始を告げる笛が鳴り響いた。

 

 私達は「ワァー!!」と腹のそこから大声を出し、塹壕から一斉に飛び出した。

 

 そして爆発で穴だらけになっているグランドを小走りで駆け抜け、先程の砲撃と銃撃で

 

ボロボロになった藁人形を銃剣で刺し、その先にある塹壕を飛び越え教室の前

 

の塹壕まで走った。そして全員が入ったのを確認した先生は

 

 

「皆さん、お疲れ様でした。今日の教練は終わりです。

 

今日は先生が皆さんにご褒美を準備しておいたので、

 

各自教室で受け取っておいてください。」

 

 

 と話した。案の定、塹壕の中から一斉に歓声があがり、皆教室に駆け込んだ。

 

皆これが目当てでどんな過酷な教練でもやり遂げるのである。

 

ペタン先生はまだまだだと話すがまだ17歳の少年少女にはやや過酷すぎる教練を

 

成し遂げているだけでも十分だと思った。

 

 私は、息をゼェゼェ吐きながらカリーネに引かれて更衣室で着替え、教室へと急いだ。

 

.......................

 

 

..........

 

 

 生徒達が慌てて教室に向かうのを尻目に教師達は予め準備された砂を

 

グランドに出来た穴に埋め、グラウンドの復旧作業をしていた。

 

こういった大規模な作業が必要なため、ここまで大規模な教練は滅多に実施されず

 

やったとしても射撃練習ぐらいである。

 

しかし、今日は新たな転校生(遥)になれてもらうためにやることになったのである。

 

 作業を行っていた先生は何度目かのため息を吐いた。

 




「皆さんお疲れ様でした。」
「作者さん、あの人達誰ですか?」
「誰と言われても、学園の生徒?」
「いやいや、名前は違っても分かりますよ?」
「ほんとなんの話です(汗)?」
「作者、最近、まどマギにハマりましたよね?」
「(ギクリ)はい.......」
「だからと言って、今の状態でさえ色々時代錯誤が起きてる本小説に
魔法少女要素なんて混ぜたら............」
「ハハハ.........なんのことだかさっぱり」
「シレーヌって名前も日本名にして考えればあるキャラにつながるし、
美樹って言っちゃってるし」
「ハハハ、バレましたか。」
「バレましたか。じゃないですよ!!どうやってストーリーのバランス取ってくんですか?」
「まぁなるようになります。」
「わけがわからないよ?しょうもないもの作ったらギロチン送りにしますからね。」
「ハハハ!気を付けます(汗)」
「さて、タグどうします?」
「まどマギですか?もう少し、要素が増えたら付け加えます。」
「分かりました。」
「それでは皆さん、」
「「ありがとうございました。」」

 無事授業と教練を終えて長い一日を終えた遥。次回、ペタン先生の夢がまた一歩前進する
次回  近代戦艦の夜明け


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近代戦艦の夜明け

私こと伊藤遥の学校生活が始まったのと同じ頃、国王陛下がお作りになられた港ではある船が
作られていた。その船の正体とは

「皆さんこんにちは作者です。」
「同じく涼太です。」
「最近台風すごいですよね」
「うん、今年は雨もだけど風がすごかったよ」
「作者の家すごいキシキシ言ってましたもんね。」
「うん、飛ばされるかと思ったよ」
「皆さんは大丈夫でしたか?」 
「この機会に台風含めた防災対策を見直していきましょう」 
「それでは第8話始まります。」
「ゆっくりしていってね」


?年?月?日  ルイ15世広場

 

 「おい、裏切り国王が来るぞ!!」

 

 「オーストリア女に味方して国を売った売国王め......」

 

 なんだ? オーストリア女?

 

 売国王?

 

 なんの話をしているのだ?

 

  

 

 私、ルイ16世は気づいたら樽?らしきものに座っていた。

 

すぐそばに悪臭漂う大きな川がある

 

私の記憶が正しければセーヌ川のようだ。なぜ、こんな所に私はいる?

 

そんな疑問が頭をよぎる。私はパリでは無く、ヴェルサイユにいたはずなのに?

 

 私の周りには普段いるはずの家族や衛兵達の姿は見えず、

 

かわりに、パリの市民達が集まっていた。

 

 私は情報収集がてら彼らに質問することにした。

 

 「売国王?とは誰の事だ?」

 

 私は悪気もなく、思ったことを聞いた。

 

 「おっさんそんなことも知らないのか?」

 

 彼は呆れたように聞いてきた。しかし、本当に知らないのだ、誰のことなのか。

 

 彼はそんな私の様子を見て困ったように

 

 「元国王、ルイカペーを知らないのか?」

 

 はて、そんな人いただろうか?私は頭の中を隅々まで掻き回して考えるが 

 

 誰も思い浮かばない。そんな私の様子に仕方ないというふうに

 

 「ほんとに何も知らないのか.......まぁ良い、今日は奴の命日さ!!」

 

 タン、タン、タン、タン、タン

 

 

 その言葉とともに遠くから太鼓の音が聞こえてきた。命日と言うことは今日彼は処刑

 

 されるのか?

 

 私はすぐにでもその様子を見たいと思い立ち上がったが、周りの観衆が邪魔で

 

 何も見えない。

 

 その様子を察して、彼は手招きをしながら、

 

 「そこからじゃ見づらいもんな、私の家に来るか?特等席だぞ。」

 

  私は、彼について近くの建物に入った。確かに2回からは周りの風景がよく見えた。

 

 そして、この場所がどこであるかも理解した。

 

 しかし、その広場の中心にある処刑器具らしきものは見たことがない。

 

  見た目、イギリスのスコッチメイデンのようだが、我が国は

 

 採用していなかったはずだ。

 

  そんな事を考えている中、先程の馬車が衛兵?達に護衛されながら処刑台の前に到着

 

 した。そして、中から出てきた人の顔を見て、我が目を疑った。  

 

  なんと、中から出てきたのは

 

 

 

  私自身であった。

 

 私はおかしいと思い何度も目を拭ったが、景色は変わらず、ついには彼は後ろ手に

 

 縛られてしまった。

 

 そして、一瞬、本当に一瞬だが目があった。

 

  私はその時、全てを理解した。これこそが、ペタン元帥の話していた

 

 革命の結末であり、未来であると

 

 私は、必死になって叫んだ。無駄だとわかっていても叫んだ

 

 しかし、それは声にならず、ただ嗚咽しているだけに見えた。

 

 そして、彼は死刑執行人(ムシュドパリ)の支えの元階段を登った

 

  そして登りきった時、彼は突如、国民の方を向き叫んだ

 

 「私は、無実のうちに死ぬ。私は私の死を作り出した者を許す。

 

 私の血が二度とフランスに落ちることのないように神に祈りたい」

 

  私はなぜか私に対して感動した。私は私の世界で死ぬときにこのような最後を

 

 迎えられるのだろうか?と思った。しかし、時は進む

 

  突如、護衛の将校が剣を振った。

 

 その途端、

 

 トントントントントントントントントントントントントン

 

 

  死刑の執行を告げるドラミロールが始まった。

 

 後ろに控える死刑執行人も実は王党派であったのだろう、涙を流していたがドラムロール

 

 の音に小さく舌打ちした後、彼を処刑器具の方に促した。

 

 その時彼は私の方を向き、今までのやつれた顔を私自身今までに作ったことも

 

 無いような笑顔を見せてくれた。

 

  その様子だけではとても今から死に行く人の顔には見えず、むしろそのことが

 

 余計儚く思え、抑えていた感情が再びこみ上げてきた。 

 

  しかし、そんな私をおいて時間は進む。

 

 彼は体をベルトで板に縛られ、処刑器具の刃の下に首が来るように倒された。

 

  彼はその時に神父より最後の祈りを受け時を待った。

 

 私にはその時が無限に長いように思われた。

 

  そして、

 

 

 

 

 

 

 刃が一瞬ギラリと輝いたと思うと、彼の首の上に落ちてきた。

 

 

 

 

 「ーッ!!」 

 

 私は声にならない叫びを上げ

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました。

 

   

 

 

 

 私ルイ16世は最近このような夢ばかり見る。内容からして'本来の'未来の姿なのだろう。

 

(私自身、自らの力だけで、国を牽引していくのには無理があったのかもしれない。

 

 しかし、今の私にはたくさんの友がいる。その友を信頼するしかない。

 

信頼することこそが、未来を変える原動力になるのだから)

 

 

 私は、鏡の前でぼやけた顔を叩き、気合を込めた。

 

そして、その未来への第一歩を踏み出した。

 

..............................

 

 

..............

 

 1886年 シェルブール

 

 カタカタ

 

 「もうすぐですよ」

 

 「うむ、やはり海はいつ見ても気持ちが良い」

 

 私は、馬車より見える美しい大西洋を眺めていた。それを見ていると

 

朝の夢も忘れられるようで気持ちが良い

 

 私は今シェルブールに向かっている。

 

 シェルブールは昔からある港町だが、私の指示により、開発が進み

 

以前とは比べ物にならないくらい発展した。

 

 それは、地元の漁師だけでなく、海軍にとっても重要な港湾要塞に

 

変化するほどであった。

 

 ドーン、ドーン

 

 ふと、山の上の方から腹のそこに響くような発砲音がした。

 

 私は、気になって視線を山の方にずらし、望遠鏡を向けると

 

祝砲と共に皆、揃って敬礼をしていた。

 

 私は、そこに敬礼を返し、目的地が近づいた事を実感した。

 

 そして、しばらく町中を進んだ後に目的の場所に到着した。

 

 そこは、街のハズレの新たに作られたドックであり、

 

規模は今までで一番大きな物であった。

 

 私は馬車より、降りて、造船所の関係者の人達に挨拶をしながら

 

ある場所に向った。

 

 

 そこには、すでにペタン、ラファイエットといった将軍達や 

 

ダントンなどの弁護士等、これから始まる式典の主役達が集まっていた。

 

 そして、私は彼らにも挨拶をした後に、予め準備された場所

 

ー船をつないでる一本のロープの前ー

 

に座った。

 

 そして、私達が全員座ったのを確認するとペタン元帥が司会となり、式典ーーー

 

進水式が始まった。

 

 今日進水する船は軍艦だが、今までとは一線を画した軍艦であった。

 

 船の見た目こそ、どこにでもいるフリゲートのようだが、この船には最新鋭の技術と

 

 ペタン元帥達未来の人間の技術が多分に含まれている。

 

それ故、フリゲートなのに建造に四年の月日を費やしてしまったが、それにみあう

 

世界の海軍の常識を変えてしまうような要素を多分に含んでいる。

 

 とりわけ、驚異的なのは動力と火器であろう

 

フリゲート艦なのに、それに見合わないほど強力な榴弾砲(20センチ前装砲)と最新式の

 

後ろから弾を込めるタイプの速射砲(10、7.5センチライフル砲)がたくさんの 

 

載せられ、しかもどちらのタイプ(榴弾砲、速射砲)共に内側にライフリングが刻まれて

 

おり、今までのようにピストルの射程圏内でなくとも有効な射撃を行うことが

 

できるようになっている。しかも、どの大砲にも信管付の榴弾が使用されており、

 

今までのように鉄の弾丸を飛ばすことよりも、より壊滅的な打撃を

 

敵の戦列艦に与えることが出来るのだ。しかも、その信管非常に信頼性が高く、

 

今まで危なくて、ボムケッチしか使えなかった榴弾もたくさん詰め込めることが出来た。

 

 

 しかも、船体には一部鋼鉄で出来た装甲があり、敵の鉄球程度なら十分無力化出来るのだ。

 

 ある意味、ここだけでもすごい事だが、一番は動力にある。

 

 

 なんと、動力は蒸気機関なのである。 

 

 この時代、蒸気船はまだまだ実験段階に入り始めたばかりであり、

 

とても実用的なものでなかった。しかし、ペタン元帥より未来の技術

 

(といっても、陸軍の軍人が知ってるほどの簡易な事)をもとにして改良を重ねた

 

この時代にしてはなかなか優秀なものであった。

 

しかも、この蒸気機関を推進力に変える装置には外輪では無く、この時代、発想すらない

 

スクリューが使用されている。

 

 当然海軍全体で反対が出たたため私自身身をはってスクリュー推進の

 

実験船に何度も乗船した。

 

今思えば、考え過ぎなのかもしれないがいつ水が隙間から漏れてくるか気が気でなかった。

 

 しかし、このスクリュー推進のおかげで13ノットという後のスクーナーほどじゃないに

 

しろ、かなりの高速を実現することが出来、なおかつ自然に影響されない航海が可能になった。

 

 

 

 これらの点で今目の前に有る船はまさしく、後年のドレッドノートと同じような可能性を

 

秘めていた、まさしく100年先を行く船である。

 

 私はそんな船を眺めつつ時間を待った。

 

 そして

 

 工場長の婦人らしき方が正装に見を包み、船体に登った。そして紙を広げ

 

 「本艦をティグル(タイガー(虎))と命名します。」

 

 と宣言した。

 

 会場からは一斉に拍手が湧き上がり、新たな戦力の誕生を喜んだ。

 

 そして、頃合いをみて元帥は私の方を向き

 

 「では、陛下お願いします。」

 

 と支縄切断用の斧を渡してきた。

 

 私は、それを受取、構えようとするが、想像以上の重さで少しふらついた。

 

 「手伝いましょうか?」

 

 「ありがとう、だけどいいよ」

 

 元帥はそれをみて不安そうに尋ねたが、私はそれを断り縄の前に構えた。

 

 刃が太陽の光を受けてギラリと輝く

 

 そして

 

 

 パン!!パリンガラガラ〜

 

 私は勢いよく縄を切断した。と同時に繋がれたシャンパンが舳先にあたり割れる。

 

そして少しずつ船は傾いた船台を滑り、勢いよく進水した。

 

 話は聞いていたが想像以上のもので体中ビショビショになってしまった。

 

 しかし、船はきれいに海に浮かんでいる。

 

 一応は成功したみたいだ。周りからも拍手と共に国王陛下バンザイの声やフランス王国

 

バンザイの掛け声が聞こえてくる。

 

 今はまだ艤装工事が進んでおらず、少々頼りない見た目だがいずれ出来上がった時には

 

我が国を英国から救う救世主となるであろう。

 

 そこで我が海軍はこの軍艦のために新たにフリゲート(巡防艦)によく似た巡洋艦

 

という艦種を作ることにし、同型艦で5隻の精鋭艦隊、巡洋艦隊を作った。

 

 この艦隊は、来る英国との大戦争に備えてここ、シェルブールに全艦配備される。

 

 全艦各造船所で同時に作っていたため、ティグルが戦力化された時には、

 

艦隊も一斉に揃うことになる。

 

 また、将軍達の話によるとまだ竜骨を作り上げてる途中だか

 

本格的な砲塔式の装甲艦も製作しているようだ。

 

 こちらが出来上がるときには国中の大型の戦列艦に変わる新たな海戦の主力となるであろう。

 

 まだまだスクリューどころか外輪船さえ試作段階の今であれば有事の優位は我々にある。

 

 「まぁ一番良いのはそんな大戦争が起きないことだけど」

 

 私は一言ボソッとつぶやいて、だけど期待しつつ熱が冷めやまぬ会場を後にした。

 

 

 しかし、この時私は気づいていなかった。

 

 近代戦艦のもたらすリスクについて。

  

 

 

 

 

 〈装甲巡洋艦ティグル〉

 

 排水量3000トン

 装甲 主砲弾薬庫120ミリ 副砲弾薬庫90ミリ 司令塔100ミリ 舷側50ミリ

 速力 13ノット

 武装 20センチ前装ライフル砲一門、10センチ後装ライフル砲12門、

7.5センチ後装ライフル砲4問 

 同型艦 セル シュバァル コック シアン 以上5隻

 

 

【挿絵表示】

 

 

 フランス海軍初の巡洋艦。装甲巡洋艦という名前がつくぐらいバイタルパートに対しては

 

ある程度頑丈な装甲が施されている。しかし、まだまだ船体そのものはオーク材で出来ており

 

強度としてはやや不安が残る。

 

しかし、速力の13ノットは帆船と比べると高速であり、巡洋艦の名の通り、偵察、護衛

 

牽制と様々な役目に使うことが出来る便利屋である。

 

 しかも、この船の砲は皆ライフリングが刻まれており、戦列艦の射程圏外より、一方

 

的に砲撃することが出来る。

 

 ある意味、攻守共にバランスの取れた最強の船であるが、建造にはたくさんの錬鉄を

 

必要とするため、まだまだ大量生産はできなさそうである。

 

 

 




「うーんなんか締めが無いなぁ」
「どうしました?」
「いやーなんか終わり方がしっくり来なくてねぇ」
「リスクでしたっけ?なんのことですか?」
「それはまだ言えないなぁ、ただヒントをいうと」
「ヒント?」
「大戦争を招く一つの大国が滅びる遠因となった。あることが問題でね。」
「さて、どこの国だかさっぱり」
「まぁ見てなさい、いずれ分かるよ」
「はぁ、まぁ言ったからにはちゃんと失踪しないで作ってくださいよ。」
「大丈夫です。」
「不安だなぁ」
「ハハハ」
「まぁ、いいや、それでは皆さん」
「「ありがとうございました。」」

 話は再び教練を終えた学校に戻る。放課後彼女らは部活動を始めるために先生のもとに集まっていた。そんな彼女がみた部活動は、そして彼女は何部に入るのか
次回      部活動再開


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本業再開

 私、伊藤遥は色々あった忙しい学校生活を終え、他の生徒何人かと先生のもとに集まって
いた。そして私はそこで学生の偉大なる副業に足を戻した。
 「こんにちは皆さん作者です。」
「同じく涼太です。」
「最近、忙しい時期を終えた反動で毎週のようにカラオケに通っています。」
「カラオケって........作者70ばかりしか取れないくせに」
「それは言っちゃだめ!!」
「恥ずかしいことバラされたましたね」
「この前84取ったもん」
「そんだけで自慢されてもねぇ、せめて90は常連で取れるようにしましょ。」
「厳しいなぁ、だけどそんぐらいは取りたいね」
「まぁまずはリズムゲームでもやってリズム感でもつけましょ」
「分かりました」
「それでは第9巻始まります。」
「よろしくお願いします。」



 

 ヴィシー学園 放課後

 

 私はカリーネと共に校舎の玄関前に集まっていた。

 

 もうすでに日は暮れ時々吹く夜風に私達は体を震わせながら待っていた。そこへ

 

 「ハルさん〜」

 

 校舎の中から声が聞こえ、ソバールがやってきた。

 

 「どうしたの?」

 

 私はなんでこんなとこにソバールちゃんがやってきたのか気になり質問した。

 

 「ちょっと用事があって帰るのが遅れちゃってね、

 

こんな時間に帰ることになっちゃったんだ」

 

 「そうだったんだ、ソバールちゃんも大変だね。」

 

 「いやいや、そんなこと無いよ。」

 

 彼女は恥ずかしそうに言った。

 

 彼女はクラスの今でいう学級委員のような仕事をしており、

 

その用事で外せなかったのだろう。

 

 正直学級委員を任さられてる事自体すごいと思った。

 

 「そういうあなた達はどうしたの?」

 

 「ちょっと先生にここで待ってるように言われてね。多分もうそろそろ来ると思うけど」

 

 私はカリーネの方を向いた。彼女はもともと私についてきたのであり、先生から

 

 呼ばれているわけでは無いのだ。

 

 私としては関係のない彼女を待たせたくは無かったが、寮の部屋が隣であるため、

 

 一緒にいることにしたらしい。(ちなみに寮は豪華な事に個人寮である。)

 

 そんな話をしていると

 

 「ハルカさーん」

 

 校庭の方からまだ若い女性の先生が手を振りながら近付いて来た。

 

 私はふと彼女の顔にお義父さんの面影を感じた。どこか彼女の柔らかな表情

 

 がお義父さんの笑ったときの表情にそっくりだと思った。

 

 その予感は間もなく正しいことが実証される。

 

  「こんにちは〜」 

 

 私は手を振り返してから挨拶をした。

 

 「さっそく失礼でしたがお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 先生方に関しては、ペタン先生よりある程度は教えていただいたが、まだ入りたて

 

で誰が誰なのかイマイチ分かってはいない。

 

 その様子を見て、彼女は思い出したかのように自己紹介をした。

 

 「あ~、そういえば自己紹介がまだでしたわね。私、エリザベート・フィリッピーヌ・

 

ド・フランスと申します。兄より話は聞いていると思うけど、

 

今はここで先生をやっているのよ。ちなみに担当教科は農業実習と宗教理念ね。

 

よろしくね!!」

 

 まさか、こんなとこで身内に会うとは.............

 

 確かに言われてみれば私達の家族(フランスブルボン家)で唯一彼女だけベルサイユには

 

 いなかった。だけどこんな形で対面するとは思っていなかったからかなり驚いた。

 

 だけど彼女の方は特に焦った様子も無くキスをしてきた。フランス式の挨拶らしい。

 

 この習慣に最初、私は焦ったが今ではすでに慣れキスを返した。

 

 そして私は、日本(ふるさと)流の挨拶握手を彼女に求めた。

 

 「よろしくお願いします。叔母さん」

 

 彼女はそんな私の様子に驚いたようだが、戸惑いつつも笑顔で握り返した。

 

 「この年でオバさんって言われると悲しいなぁ......なんてね!!まぁ固くならずに

 

 楽しい学校生活を送って行きましょう」

 

 「はい」

 

 それから、彼女は私の周りを見渡してから不思議そうな顔をして話した。

 

 「あれ、あなた達どうしたの?SHRからだいぶ時間がたっていると思うけど」

 

 「私達は、ハルちゃんについて来たくて今ここにいるだけですよ?」

 

 そうカリーネが答えたのを聞いて、エリザベートはクスッと笑い

 

 「クスッ♪..........ハルちゃんだって!!優しい友達に恵まれて良かったわね!!

 

 それじゃ皆さんで行きましょうか」

 

 優しい笑顔で手を差し伸べてきた。私はそれを握り、そこでふと湧いた疑問を質問した。

 

 「そういえば、用事ってなんですか?」

 

 「今から行く場所に行けばわかるわよ。それじゃ行きましょうか」

 

 「はい」

 

 私達は引かれるままに彼女についていった。

 

 .............................

 

 ...............

 

 「ここは.....どこでしょうか?」

 

 叔母さんに連れられて来た場所にはとても大きな、教会の様な見た目の建物が立っていた。

 

 彼女はその建物を背景に説明した。

 

 「この学園では、生徒の自主性と共に'来たるべき'混乱期に対応出来る協調性を

 

身につけるのを目的として、他の官営学校以上に課外活動に重点を置いているわ。

 

その一環としてここで行われているのがクラブ活動。放課後等に生徒がやりたいと思ったこと

 

を仲間と共に行う活動よ。」

 

 「はぇー、ここでもそんなことやってたんですね。」

 

 クラブ活動、おそらく前の世界でやってきた部活動と同じ活動であろう。

 

 ヨーロッパでもやっていると言うことは聞かなかったが、おそらくペタン先生の

 

 発案であろう。そして彼女は再び前を向き

 

 「それじゃ立ち話もなんだし中に入ってみましょう」

 

 私達は引かれるままに建物の中に入った。

 

 ........................

 

 ...........

 

 中は長い廊下を挟んで両側に大小様々な部屋が広がっていた。私達はその長い廊下を

 

一通り見回した。そしてその後に私達は一番手前の部屋から順々に奥へと向かっていった。

 

 ............................

 

 .................

 

 一部屋目の部屋にはたくさんの防具と細長い剣が並べてあり、真ん中のカーペットの

 

 ところで二人の剣士が防具を身に着け戦っていた。

 

 所謂フェンシングである。

 

 そのため、彼ら(彼女ら)が使う剣は当然切れないようになっている。

 

 私達は彼らの放つ威勢に押され一言も発せずに見ているだけで精一杯であった。

 

 相手の弱点を互いに探り、隙きあらば鋭い一撃を発するも躱され鍔迫り合いに

 

 戻る。

 

 その様子はスポーツを超えた美しい一つの芸術のように思えた。

 

 

 突如、審判が旗を上げ、止めを宣言する。

 

 どうも決着がついたようだ。

 

 互いに剣を戻し礼をする。

 

 そして端に戻った途端、私達の事に気がついたようで、勝った方の剣士ーシレーヌは私達の

 

近くによった。

 

 「アンタたちどうしたの?」

 

 「いやちょっと先生に連れられて部活見学に来たんだよ。」

 

 私は思った。 

 

 彼女ならフェンシングのような激しいスポーツにも似合いそうだと。

 

 そんなことを考えていると彼女は苦笑いをしながら話した。

 

 「ハハハ、やめときなよ、フェンシングなんて痛いし防具重いし辛いだけだよ。」

 

 確かにフェンシングの用具は見るからに重そうでそれを支えながらするとなると

 

かなりの労力を費やすであろう。しかし

 

「それでもシレーヌちゃんカッコ良かったよ。」

 

 純粋にカッコよさなら私がやっていた弓道にも負けないであろうし、そういった辛さが

 

楽しいのであろう。

 

 それを聞いた彼女は照れながら

 

 「まぁゆっくり見てって」と言ってから私達と別れ再び練習に戻った。 

 

 私達は暫く彼らの練習の様子を見学した後に部屋を後にした。

 

 フェンシングもなかなか楽しそうだと思った。

 

 .............................

 

 ............

 

  

 私達は他にもいくつかのクラブを見学した。

 

 一般的なものでは、テニスやサッカーなどの球技や、チェスやビリヤードなどの屋内

 

遊戯。新聞や洋画、陶芸など様々なものがあり、中には写真や柔道等(柔道はww2前から

 

フランスで流行したためペタンも知っていたか?)等現代のクラブ活動も多々含まれていた。

 

 また、珍しい所では士官学校より来た生徒や町工場から来た生徒達が中心となって作られた

 

新兵器(現代兵器)の開発、生産を行う軍事系のクラブ活動もいくつかあり、そこで得られた

 

技術や財産がこの学園の価値と有事の時(かくめいぼっぱつじ)の防衛力を高めて行った。

 

 私達は一通り気になった所を見学した後に、ある部屋の前に来た。

 

 その部屋は一番奥の部屋で裏の勝手口のすぐそばであった。

 

 そこで叔母さんは私達の方に振り返り話した。

 

 「皆さんお疲れ様。これで本校のクラブ紹介は終了よ。今日はこれで解散と言いたいとこ

 

 だけど...........」

 

 ここまで話した所で彼女は私のスッと私のそばに近寄り話した。

 

 「兄から聞いたけど貴女、昔クラブ活動で弓やってたらしいね」

 

 何事かと思い少し身構えたが、そんな対した事でなかったためコクッと頷いた。

 

 それをみた彼女はニヤッとし

 

 「昔やってた弓........ジャポンではキュウドウって言うんだっけ?」

 

 ジャポン 

  

 フランス語の日本であるが本来まだ日本は江戸時代、田沼意次が失脚した年であり

 

(1786年)当然まだ鎖国中であり、日本の情報なんて無いはずだ。

 

 私が不思議に思い首を傾げていると

 

 「あぁごめん、驚かせちゃったわね! 兄から聞いたのもあるけど、ちょっとジャポン

 

に興味があってね、オランダから本を買ったりして調べてたのよ。」

 

 「そうなんですか。でもその情報古くないですか?」

 

 日本が本格的に鎖国に入ったのは3代将軍家光の頃、寛永16年(1639年)。それ以来

 

147年間日本は閉じこもったまんまであり、出されている本も江戸時代初期の本がほとんど

 

の筈だ。しかし

 

 「大丈夫、出島からでもかなり多くの情報が手に入るし、最近は田沼とやらが政治

 

を取り仕切るようになってからだいぶルーズになってきてるからね。ロシアなんかはもう

 

ちょいで通商条約結びそうな勢いらしいわよ。」

 

 そうかぁ田沼意次といえば賄賂話ばかり目立って政策までには関心が無かったが、

 

 確かに長崎貿易を奨励したり、蝦夷地の事を通して、ロシアと条約結びかけたりと

 

 結構改革的な政策を行っていた。

 

 やはり、世界史で見る日本史は面白い。そんなことを考えていると

 

 「私達フランスも負けてられないわよ。さて......それじゃ話を戻して、そのキュウドウと

 

やら、もし再び続けられるならば再開したい?」

 

 「はい!!是非ともさせてください!」

 

 私は戸惑わずに即座に返事を返した。その返事を聞いて彼女はニコリと微笑み

 

 「よし、そんだけやる気があれば十分だわ!!じゃあこの部屋に入ってみましょう」

 

 彼女は目の前の部屋の扉を一気に開いた。そして私達を中に入れ、明かりを付けた。

 

 そこは他の部屋よりも高めの天井で長さも建物の半分以上を占める広い部屋であった。

 

 「ここが、あなたのために兄と学園が用意したキャドー(プレゼント)よ。」

 

 彼女は自慢するように話した。

 

 確かにまだ安土も看的も無いが、高さはもちろん、広さも5人立ちが回せそうなくらい

 

はあり、十分だといえた。

 

 私は、そんな弓道場予定部屋を見て呆然としていたが

 

 「気に入ってくれた?まだ、的も弓矢も準備できていないけど......」

 

 「はい、大丈夫です。これから揃えていけば良いだけだから。」

 

 「なら、良かった。それじゃ.......これからよろしくね!!」

 

 彼女は私の返事を確認すると、ポケットから名刺のようなモノを取り出し見せた。 

 

 そこには「弓道クラブ 顧問 エリザベート・フィリッピーヌ・ド・フランス」

 

 と書いてあった。

 

 「これで私は、ここのクラブの顧問だね。一緒に頑張ろうね!!」

 

 もう、私には驚く事に対する耐性が出来てしまったのだろう。特に驚くことなく

 

受け止められた。そんな私を見て、クスッ笑った彼女は視線を私の後ろに戻した。

 

 「あなた達はどうする?」

 

 「私達ですか?」

 

 カリーネとソバールはキョトンとした様子で聞いた。そりゃそうだろう?彼らにもクラブ

 

はある筈だから

 

 「あなた達、クラブには入ってなかったでしょう?」

 

 「ちょっと待ってください!!少し相談させてください」

 

 彼女達はコソコソ話始めた。まだクラブに入ってない事が不思議だったがそれ以上に

 

彼女達二人の声のトーンがやや高めなのが気になった。

 

 実際に見学したフェンシングとかならまだしも、クラブすら出来たばかりの弓道

 

クラブに入ろうとしている事が不思議であった。

 

 ただ、私としては共にやってくれる友が増えることはとても有り難く感じた。

 

確かに弓道は個人種目であるが、仲間と共にすることで得られることはたくさん

 

あるはずだ。

 

 そうこうしているうちに彼女達は話を終え振り向いた。そして同時に答えを話した。

 

 「「やらせてください!!」」

 

 彼女達の目には光が灯っていた。そんな彼女達をみて叔母さんは笑顔で

 

 「良し!!ハルさんは?」

 

 「当然良いですよ。よろしくね!!」

 

 私に確認をとった叔母さんは、今までで一番の笑顔になり、皆の手をつないだ。そして

 

 「まだまだしないといけない事は多いけど、皆で頑張ってより良いクラブにしていこう!!」

 

 「「「「オー!!」」」」

 私達は円陣を組み、叫んだ。

 

 その後、私達は次集まる日を決め、各寮に帰って行った。

 

 

 

 その帰路で私は志した。

 

 まだまだしなければいけない事は多いが皆と共に頑張ろう。

 

 そして、フランスで弓道と共に和の精神を広め革命を防いでいこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「第9話終わりました。」
「ついに弓道要素出て来ましたね。」
「実はもうちょい後に出す予定だったけど流石に遅いからね」
「このままじゃやるやる詐欺になるとこでしたからね」
「まぁ私は交代するように車校に行きだして弓道やれてないけど。」
「この小説は現実とリンクしてるんですかね?」
「分かりません。」
「さて、次回はまだ未定ですが、どこかのタイミングで解説回と番外編を挟んで行きたいと
思います。」
「この小説作者の一人走りがひどくて、色々混ざってますからね。」
「そのため、やれそうなタイミングでやっていこうと思うので」
「これからもどうぞ」
「「よろしくお願いします。」」

 次回 説明会?(予定)


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番外編 解説回① 登場人物

「皆さんこんにちは作者です。」
「同じく涼太です。」
「今回から暫く解説回をしていこうと思います。」
「ちなみに見なくても本編には一切関係ありません。」
「本小説はフランス革命のものと言っときながらww2の軍人や本来関わりがないはずの
日本人や歴史関係ないアニメのキャラクターも出そうな勢いです。」
「そこで、一度この小説の世界や登場人物について整理する意味もこめて作りました。」
「第一回の今日は現段階での登場人物についてかんたんなエピソードを踏まえながら
紹介していきたいと思います。」
「作者の偏見が特に現れるとは思いますが」
「少しでもわかりやすく、詳しく紹介するのでお願いします。」




 

 〜現代日本人〜

 

 伊藤遥(ハルカ ルイ ヨゼフ イトウ)

【挿絵表示】

 

 

年齢 17歳

趣味 弓道 歴史研究(主に近代海戦史) 水泳

得意な教科 歴史(世界史日本史共に)

苦手な教科 数学

 

 本小説の主人公、もともとは自由奔放な娘であったが、歴史と弓道に出会い

少しずつ落ち着いていった。学校生活では趣味である弓道を中心に生活し家では

某宇宙戦艦アニメの影響で好きになった海戦とそれに関係する歴史を気の向くままに

調べている。

 フランス革命についてはもともとあまり興味が無かったが歴史漫画を見ているうちに

気になり海戦同様調べている。

 本作ではフランスにタイムスリップしてから今まで学んだ知識を活かし、彼女を助けた

フランスブルボン家の人々を救うべく、本来だったら革命推進派であったダントン達とも協力している。

 ちなみにフランスでつけてもらった洗礼名もあるが基本日本で使っていた名前を使っている。

 

 高橋涼太

 

年齢 16歳

趣味 弓道 ゲーム(艦◯れ等)

得意な教科 日本史 物理

苦手な教科 英語 

 

 本作の第一話で登場した弓道部の後輩。主人公遥に対して時々きつい言葉で突っ込んだり

するややSっ気が強い子であるが、その言葉に反して遥の事は信頼しており、何かあると

すぐに駆けつけてくれる。遥が弓道部の中では昔の自由奔放な時の性格がでるため

きつい言葉が出るが本来は優しい心を持った後輩である。

 弓の腕前も遥に負けず劣らず次期部長候補とも言われている。

 ちなみに好きな教科の歴史は遥の勧めによって始めたゲームの影響で、世界史はまだまだ

だが日本史に関してはかなり高い点数を取っている。

 

 掛井龍之介

 

年齢 17歳(もうすぐ18歳)

趣味 弓道 剣道 

得意な教科 数学 物理

苦手な教科 国語 英語

 

 上と同じく第一話で登場した弓道部の部長。今まで乱れていた弓道部の風紀を一新し、念願であった全国大会への出場を目標に努力している。

しかしその急進すぎる政策ゆえ反対派も多く、内外敵だらけの状況となってしまっている。

 そんな状況でも彼は部活のためにと日々精進している。

 彼は弓道に対する考え方は若干遥と違うもののお互いに信頼し辛いときには支え合い

部全体を引っ張っている。

 また、涼太と同じく部だけでなく、個人的な関係もあり、遥とは仲が良かった。

 

 謎の女性

 

年齢 ?

趣味 ?

特徴 辛いときには夢に出てきて話しかけてくる

 

 この小説イチの不明人物。夢の中だけに登場し事あるごとに話しかけてくる。

どうやら遥の記憶ではどこかで見たことがあるらしいが、はっきりとは思い出せていない。

 遥が辛いときにはいつも出てきて導いてくれる存在であるが、彼女の存在は遥が

フランスにいることにも深く関係する怪しい存在でもある。

 物語が進むにあたって後々詳しくわかってくるであろう。

 

 〜18世紀フランス人〜

 

 

 ルイ16世(ルイ フェルディナン ド フランス)(ルイオーギャスト)

【挿絵表示】

 

 

生没年 1754〜1793

職業 フランス国王 王朝 フランスブルボン王朝

派閥 王党派(というか本人が国王)

趣味 錠前づくり 狩猟

 

 歴史を習った人なら聞いたことはあるであろう革命の犠牲者、ルイ16世。彼は本来国王にならなかったはずなのだが、相次ぐ王位継承者の死により父ルイフェルディナンの跡を継ぎ王太子と

なる。そして彼は国王として国民の飢餓解消のため、忌避されていたじゃがいもを栽培したり、シュプールの港を整備したりと今までの国王以上に政治に力を入れた。

 またアメリカに対して義勇軍を送り込んで独立を支援したりしたため、現代のアメリカ

での評判は良かった。

 しかし、それら対外政策や先王達の派手な生活が災いになり国家財政が悪化

それを改善すべく行動したが、貴族達の反発にあい失敗。

 それがもとになりフランス革命が勃発し彼はフランスの敵としてギロチンにかけられた。

 

 以上が本来の歴史だがこの世界ではペタン元帥の指示をうけ、ティルゴーを再び財務総監

に任命、高等法院を廃止したまま貴族に課税することには成功している。

 そのため、本来であれば危険な度合であった国家財政は改善し完全にではないにしろ

ある程度の余裕を生むことには成功した。

 また、軍政改革にも着手しており、銃や大砲などの武器を近代化しまずはできる所から

近代軍の創設に取り掛かっている。

 また彼は錠前づくりを趣味にしており、そこでの経験を元に後の世でドライゼ銃と呼ばれる銃を製作し、ペタン元帥を逆に驚かせたこともあった。

 

 マリーアントワネット(マリー=アントワネット=ジョゼフ=ジャンヌ)

 

【挿絵表示】

 

生没年 1755〜1793

職業 フランス王妃 王朝 フランスブルボン王朝

派閥 王党派

趣味 ハープ 狩猟 錠前づくり 仮面舞踏会 等様々

 

 悲劇のフランス王妃、マリーアントワネット。彼女はマリア・テレジアの11女として

生まれ、ハープやオペラなどの芸術に勤しんみ、ある時、モーツァルトに求婚された

こともあった。

 1770年、オーストリアの外交革命の一環でフランス王太子ルイオーギャスト(後のルイ16世)と結婚。しかし、なかなか子が出来ない状況だったため夜に仮面舞踏会に出たり

賭博なんかにも手を出したなんて噂が流れた。(大部分は反対派によって捏造されたりしたものが多く真偽は不明である。)しかし、第一子マリー=テレーズシャルロットが生まれてからは母親らしく非常に落ち着いた生活を送るようになった。

 しかし、政治面で夫の政治に口出しをすることも多く、それによって市民の評判は良くなかった。しかし、それは夫の事を思っての行動であると考えると難しいものである。

 そして革命後は反革命勢力の先鋒として行動し、オーストリアとも秘密裏に交渉した。

そのため、ヴォレンヌ逃亡事件が起こり、夫が処刑された後に彼女もギロチン台の露と消えた。

 

 しかし、この世界ではペタン元帥より聞いた話を信じ、あまり政治に口出しすることは無くなった。そして彼女の信頼を一気に下げることになる首飾り事件も発覚する前に防ぎ、宮廷での評判も少しであるが回復することに成功した。普段は極力夫の邪魔にならないようにプチトリアノンで穏やかに暮らしている。

 夫と家族の事を心から大切にしており、学園にいった遥とエリザベートに対しても定期的に手紙を送っている。

 また、ペタン元帥の策略により革命前にダントンとラファイエットと面会した彼女は徐々に彼らの啓蒙思想に感化されていき、また彼女の後ろ盾を得た彼らは革命前から活躍することとなる。

 

 マリー=テレーズ

【挿絵表示】

 

 

生没年 1778〜1851

派閥 超王党派(現段階ではまだ?)

趣味 スイーツ 編み物(本小説の段階での趣味)

 

 フランス待望の王女で、ナポレオンにブルボン家唯一の男性と言わしめた王女。小さい頃からプライドが高く、社交の場にも出ていた。そのため、3部会等で父や母が民衆やオルレアン公に馬鹿にされているのも聞き、民衆の運動に対してはあまり良いイメージを持っていなかった。

 そして革命が勃発し、タンプル塔に閉じ込められてからはマリーアントワネットやエリザベートらからいろんな事を習っていた。

 しかし、彼らと別れさらに弟ルイシャルルとも離された彼女は言葉を話さなくなった。

 しかし、テルミドールのクーデター以降待遇は改善していき、徐々に発声も治っていった。

 1795年、神聖ローマ帝国との捕虜交換で釈放された彼女はオーストリア、ロシア、イギリスと数多くの国を転々としつつ機会を待った。

 しかし、ナポレオンの天下となったフランスは王政を求めず、ナポレオンが失脚し

エルバ島に流される1814年まで待たないといけなく、またそこで手に入れた平穏も

 再びナポレオンが代頭したことにより、さらにセントヘレナ島に流されるまで

待たないといけなかった。

 ここでようやく平穏な生活を手に入れられると思った彼女だったが、今までの深刻な人生がもとである程度自由主義者との歩み寄りをしていた、ルイ18世以上に過激な政策を行い、シャルル10世同様過激な超王党派となってしまった。

 それ故、7月革命で再び亡命することとなり本当の平穏は母の母国、オーストリアじゃないと得られなかった。

 そして、旦那と叔父の死を看取った後、自らも長く波乱に満ちた人生を終えた。

ルイ16世とマリーアントワネットの子女の中で唯一天寿を全うすることが出来た。

 

 この小説ではまだ幼い頃で民衆の蜂起などが起こっておらず、非常に落ち着いた生活を送ることが出来ており、民衆達に対する偏見なども無い。

 遥とエリザベートの事を慕っており、時々ベルサイユに帰ったときにはたくさんのお菓子を用意して迎えてくれる。

 彼女は遥の日本の話を聞いてすごく興味を持っており、遥と同じ年になったらヴィシー学園

に行く気でいる。

 彼女の将来は楽しみである。

 

 エリザベート内親王(エリザベート・フィリッピーヌ・マリー・エレーヌ・ド・フランス)

【挿絵表示】

 

 

生没年 1764〜1794 

職業 学校教諭 フランス王族

派閥 王党派 

趣味 農業 乗馬 音楽 日本研究等

 

 フランス前王太子ルイフェルディナンの娘にして、ルイ16世の妹、エリザベート内親王はまだまだ小さい頃に両親を無くした彼女は孤児としてマルサン伯爵夫人マリールイーズに育てられた。

 その影響で修道女の如く祈りに多くの時間を費やす慈悲深い性格となった。

彼女は彼女の兄達家族を大切にし、その優しい性格故たくさん申し込まれた縁談も兄の元に残るために全て断った。

 それ故、マリー=テレーズ達王族の子供たちも彼女の影響を強く受けた。

 しかし、そんな彼女も革命の流れには逆らえず、ルイ18世やシャルル10世らが

逃亡するなか彼女は国王一家と共に行動し、タンプル塔に幽閉された。

 そして、兄とその妻が殺された後に彼女も革命裁判所に引き立てられた。

 しかし、彼女には処刑する罪状は無く、民衆達にも人気のあった彼女は無実の近親相姦

の罪を被せられ、他の囚人と共にギロチンの露と消えた。

 

 しかし、この小説ではペタン元帥の提案で婚約をしない代わりにあらたにヴィシーに

作られる学校の先生としてヴェルサイユを離れた。しかし、国内であるため、好きな

ときに帰ることもでき、彼女の希望にそったものであった。

 そして学園でたまたま見かけた、日本の事が書かれた本の影響で日本の研究をするよう

になり、稼いだ金で定期的にオランダから日本の書物を買っている。

 ヴィシー学園では新たに新設された弓道クラブの顧問となり、遥達の活動

を支援している。

 

 ラファイエット(ラファイエット侯爵マリー=ジョゼフ・ポール・イヴ・ロシュ・ジルベール・デュ・モティエ)

【挿絵表示】

 

 

生没年 1757〜1834

職業 国民軍司令官 学校教諭

派閥 王党派 フイヤン派 立憲君主主義(本作ではヴィシー派)

趣味 軍事研究

 

 両大陸の英雄、国民軍司令官ラファイエットは代々戦死者が多い裕福な侯爵の家に 

生まれた。

 アメリカ独立戦争が勃発すると支援を求め来仏したベンジャミン・フランクリンの

考えに感激し、義勇軍として自費で船を買いアメリカに渡る。

 大陸ではジョージワシントンと共に行動し、アメリカの独立を決定的にした、

ヨークタウンの戦いで重要な役割を果たした。

 翌年、フランスに帰国すると新大陸の英雄として讃えられた。

 ラファイエットは3部会にも第2身分として選出されたが、彼は絶対王政を

立憲君主制に帰るべきだという考えを持っており、第一身分の味方をした。

 そして、新たにバスティーユ牢獄襲撃の後に新設された国民衛兵の司令官に

任命され人権宣言を起草した。 

 しかし、その後度々不手際を起こし、人気は下がり、彼の理想以上に

過激な考えを持つジャコバン派の代頭を許し、彼が操っていた革命の

手綱は暴走を始めた。

 そして、シャン・ド・マルスの広場で市民に対し発砲した彼は批判の

矢面に立たされ国民衛兵司令官の地位を追われた。

 そして、革命戦争が勃発すると方面軍の司令官に任命されるも王権が停止

されたのを機会に逮捕される可能性の出た彼は敵であるオーストリア軍に

亡命した。しかし、あくまで彼の扱いは戦争捕虜であり、国王を救うどころか

 自らの身すら危うい状況てあった。

その後、ナポレオンの天下になったときにようやく開放され、フランスに

帰国するも軍属にはつけず、隠棲した。

 1830年、7月革命の後に年老いた彼は再び国民軍司令官に任命されるも

翌年には解任され、その3年後に死去した。

 

 この小説では帰国してすぐにダントン、ペタン元帥に出会い、

そこで未来の話を聞いた彼はペタン達と協力することを決め、独立戦争を通して

知り合った、国王の側近にペタンの事を紹介し、国王と面会。

そこで、ペタン元帥を男爵に叙してもらい、国王の後ろ盾を得ることに成功した。

 そして、ペタン達と共に国王の代わりに手となり足となり、国王が出来ない事を

次から次へと成し遂げていった。

 そのため、彼は民衆や啓蒙思想家たちより、尊敬されるようになり、後の革命家に

なる人物達を彼の派閥に誘い込むことに成功した。

 普段はペタン元帥達と共に学校の教諭をしており、他の教諭以上に厳しい授業に

音を上げる生徒も多いがその熱き想いにより、生徒達からも信頼されている。

 

 ジョルジュ ジャック ダントン

【挿絵表示】

 

 

生没年 1759〜1794

職業 弁護士 学校教諭 司法大臣等政府要職

派閥 モンターニュ右派(ジャコバン穏健派)(本作ではヴィシー派)

趣味 政治

 

 革命の人であり、寛容の男ダントンはシャンパーニュ地方で生まれた。

 成長してからパリに出て法律を学びそこで百科全書派の影響を受け、後に彼が革命

に共感するもととなる。

 1787年、王室顧問会付き弁護士となるが革命が勃発すると、共感を受け、

国民衛兵に参加、ジャコバンクラブに入る。

 仲間のロベスピエールやデムーランらと共に行動し、持ち前の雄弁を活かし

人々の人気を得てコルドリエ地区の議長に選ばれた。

 ババイ達穏健派を攻撃し、マラー達と共にコルドリエクラブを作った。

しかし、シャン・ド・マルスの虐殺を機に圧力をかけられ一時ロンドンに亡命する。

 パリに帰国した後は、パリコミューンの助役に任命される。

この頃から、ジャコバンクラブから脱退した、ブルジョア派のグループ

との協調を図るようになり、ジャコバン派の権力が衰えた後に、ジロンド派

の内閣で司法大臣に任命された。

 後に革命戦争が勃発、ヴェルダンが陥落して、パリに敗戦の危機が迫ると

民衆は暴動を起こした。

 しかし、彼は何も出来ず、ジロンド派からは非難が殺到した。

 しかし、民衆の人気は根強く、その巧みな演説テクニックを用いて、パリの

民衆の心を動かす事に成功し、軍事的危機を回避するのに成功した。

 その後に、国王裁判が起こると、処刑に賛成、ジャコバンクラブも絶頂期を

迎える。

 そして、彼は再びジロンド派と協調する路線を取ろうとするも失敗し、

ジロンド派は粛正され、彼らに変わって彼は革命の落としどころを探し、恐怖政治

を終わらせようと思案する。

 そして、ロベスピエールと協力し、極左派のエベール派を真逆の王党派に加担した

として、逮捕、勢力を削ぐ事に成功した。

 しかし彼自身も数多くの汚職等が発覚し、逮捕、処刑された。

 処刑前、荷馬車でロベスピエールの家の前を通り過ぎた時「ロベスピエール、

次はお前の番だ!!」と叫んだと言われるが、ロベスピエールは彼の処刑に最後まで

反対していたと言われる。

 彼は、寛容の人といわれ、革命を始めたのも民衆を救うためであった。しかし、

それだけで収まらず、時代は国王の血を求め、彼も賛成したが、その裏で最後まで

他国と交渉し、なんとか国王を救おうとした。また、力が無くなったジロンド派を

支え、最後まで協調できる道がないか探っていた。しかし、そんな姿勢が最終的に

彼の命も奪うことになった。歴史の皮肉である。

 

 この世界では、仲があまり良くなかったフイヤン派の代表、ラファイエットと革命前に会い、互いに目指している方針が一致していた彼らは仲を深めていく。

 そして、たまたま訪れた温泉街、ヴィシーでペタン元帥から話を聞き、互いに革命

の過激化を防ぐ方針で活動していく。

 そして、ラファイエットを通して、国王の協力も得ることに成功し、大量の資金と

人材を元手に活動し、学園を作った。

 普段は、もともとの職業弁護士をしているが、時々学園に来て生徒に講義していたりする。

 

 マリー=カリーネ

【挿絵表示】

 

 

年齢 17歳

趣味 朝の散歩 (遙の影響で弓道)

好きな教科 数学

嫌いな教科 歴史

 

 ヴィシー学園で一番最初に出会った散歩好きの女の子カリーネ。

港町ダンケルクからこの学園にやってきた。

 彼女の両親は昔から続く卸問屋の家柄で港で取れた魚をパリ等都市に塩漬けにして

送る事で今まで儲かってきた。

 しかし、アメリカ独立戦争が勃発したのを機に沿岸をイギリス海軍に砲撃される

危険性が出てきたため、パリに疎開してきた。

 そして、パリでこの学園の噂を聞き、両親は彼女を学園に入れることにした。

 遙と学園であってからずっと付き添って行動するようになり、遙がやっていた

弓道もするようになった。

遙の良き親友である。

 

 ジョセフィーヌ ド シレーヌ

【挿絵表示】

 

 

年齢17歳

趣味 フェンシング

好きな教科 音楽、体育

嫌いな教科 数学

 

 男勝りな性格でクラブ活動でも本来この時代であれば禁忌である男装をし、

フェンシングをやっている。(ヴィシー学園内部は基本治外法権

みたいなものであるため、フランス国内にまだない習慣等が普通にある。)

 カリーネ達とはダンケルクからの親友であり、カリーネがこの学園にいると聞いて

転入した。

 彼女は男勝りな性格ではあるが、遥やカリーネ達の相談にいつも乗ったりと非常に、

優しい性格も持っている。

 そんな彼女が目指している進路はフランス軍の女性将軍になることである。

 

 フランソワ マリー ソバール

【挿絵表示】

 

 

年齢17歳

趣味 作陶 弓道

好きな教科 外国語(英語) 国語

嫌いな教科 体育 数学

 

 いつもシレーヌと一緒に行動しており、両親の仕事の関係上アメリカに渡ることに

なってからも手紙を通してシレーヌとやり取りをしていた。しかし、カリーネとは

連絡が取れず心配していた。

 アメリカが独立したのを機に帰国すると、シレーヌの案内でヴィシー学園に入学

し、連絡の取れなかったカリーネと再開を果たす。

 その時にたまたま出会った遥とはカリーネ同様仲を深めており、まど◯同様弓の

道を歩むことになる。

 普段彼女はシレーヌのツッコミ役としての役目も果たしており、本人は自覚して

いないが少々Sっ気があったりする。

 親の仕事が陶器商であったため、彼女は趣味として陶芸もやっていたりする。

 

 

 〜20世紀フランス人〜

 

 アンリ・フィリップ・ベノニ・オメル・ジョゼフ・ペタン

【挿絵表示】

 

 

生没年 1856〜1951

1856年にパ=ド=カレー県コシ=ア=ラ=トゥールで生まれた。

1887年にサン・シール陸軍士官学校を卒業し、1901-1907年、陸軍士官学校・陸軍大学で歩兵学を講義した。彼の出世は決して早いものではなかった。

第一次世界大戦が勃発した1914年、彼は既に58歳であったが、階級は大佐で、第33歩兵連隊の連隊長にすぎなかった。

 しかし、彼の戦略をみたフランス陸軍総司令官ジョフルは彼を次から次へと昇進

させ、1915年には第二軍の司令官にまで昇進することが出来た。

 以降、アントンの戦いやシャンパーニュの戦いで活躍し、名声を得て、

特に1916年の血液ポンプと言われたヴェルダン要塞をめぐる戦いでは

 ヴェルダンと後方を繋ぐ街道を有効に使い、大量の物資を派遣し、ドイツ軍が

ブルシロフ攻勢で侵攻を諦めるときまで持たせることに成功した。

 そういった実績や名声もあり、ニヴェルの次にフランス軍総司令官に

なり、最終的に元帥にまで昇進することが出来た。

 まさしく、戦争が彼の道を開けたのであろう。

 しかし、以降、彼は防衛に重点を置くようになり、マジノ線など塹壕戦の拡大を

した戦術に凝り固まるようになってしまった。

 しかし、彼らの製作した、マジノ線は第二次世界大戦では迂回され

効果を発揮せず、ドイツ軍に侵攻されるに至った。

 84歳のペタンはレノー内閣の副首相に任命された。この際、レノーはペタンが権力掌握のため自ら会見に臨んだと主張しているが、ペタン支持者は責任をペタンになすりつけるための行動であったと非難している。

ペタンはウェイガン陸軍総司令官とともに対独講和を主張し、主戦派のレノーを圧迫した。6月16日にレノー内閣が倒れると、ペタンは後任の首相に任命された。6月21日、ペタン率いるフランス政府はドイツに休戦を申し込み、翌6月22日に独仏休戦協定が成立した。

 休戦によって首都パリを含むフランス北部と東部はドイツの占領下に置かれ、フランス政府はフランス南部のヴィシーに移った。

 そして新たな憲法がつくられそれによってペタンは国家主席となり、強大な権力を有した

が政治は基本部下のラヴァルに任せており、また、政府といってもドイツの言いなりでは

あった。

 しかし、彼の功績とフランス国内に漂う厭戦気分により支持は高く

ペタンの事を国家の父として崇拝している人が多かった。

 しかし、その体制も枢軸国側の大勢の悪化により、徐々に権限をドイツに奪われ、

ノルマンディー上陸作戦を機に上陸して来たドゴール率いる自由フランス政府に政権

を譲り、亡命した。

 その後帰還したペタンは逮捕され、裁判にかけられる。

死刑を宣告されるもラヴァルとは違い執行されず、元部下であり、政府首班であった

ドゴールの要望により、高齢を理由で無期禁錮に減刑、ユー島に流された。

 そして1951年長く戦争に翻弄された人生を終わらせた。

しかし、大統領となったドゴールは第一次世界大戦の勝利に貢献したとして彼の墓に

花輪を贈った。

 

 そんな彼は亡くなってから神の導き(?)に従い、かつて自分が治めていた土地

ヴィシーにタイムスリップし、ラファイエットらと協力しフランスを2度の世界大戦から

救うべく、立憲君主制を残す方針で協力する。

 その過程で国王の協力を得られた彼は男爵に叙せられルイ16世の側近として、

ヴィシー学園の校長として活躍していく。

 

 

 




「あー長かった。」
「ペタン元帥に至ってはほとんどWikipedia丸パクリでしたね。」
「本が無かったからね。自分なりに変えたけど」
「まぁ、いつものことなのでいいですけど」
「こんな感じで解説編は載せていこうと思うので」
「どうかこれからも」
「よろしくお願いします」


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番外編 解説回② 兵器 戦術等(陸上編)

「皆さんこんにちは作者です。」
「同じく涼太です。」
「前回に引き続き解説編としました。」
「今回はフランス革命当時の兵器と戦術並びにペタン元帥が来てから開発に成功した兵器並びに戦術について紹介したいと思います。」
「これに関しては登場人物以上にぶっ飛んだ内容にはなりませんが」
「ライフルとマスケット銃が混在したいわば南北戦争の時のような状況にはなります。」
「そのため、兵器に関しては50年から100年は先を行くと思って下さって構いません。」
「以上の事を念頭において読んでくださると幸いです。」


 〜フランス革命期〜

 

〜兵器〜

 

 フリントロック式マスケット銃

 

射程 約100〜150メートル

弾丸 球形弾 (ライフリングが無いため散弾も発射出来た。)

施条 なし 

装填方式 先込め

発射速度 毎分2〜3発

 

 主に滑腔式の先込め銃で発射方式にフリントロック(火打ち石)を用いるマスケット銃

マッチロック式(火縄銃)と比べて火縄の管理の必要が無く、雨が降っていても発射

が可能なため集団での戦術(戦列歩兵等)で使いやすく採用された。

 

しかし、欠点として、フリントが打ち金に当たる際に大きな振動が生じ、それに

より、狙いがぶれたり、またマッチロック式と違い火種が無いため、不発が生じ

安いという点があった。(欠点のうち前者の理由で日本では、流行らなかった。)

 

 またフリントロック式だけで無くマスケット銃全体に言えることとして先込め式の

ため、発射に時間がかかる事や手順が複雑な事、(火薬が発射薬と点火薬両方

こめねばならず不便な事)ライフリングが無いため、命中制度が悪いと言った点が

あった。

 

これらの解決はミニエー弾の開発とドライゼ銃の開発まで待たなければ

ならなかった。

 

 有名な物としてフランスのシャルルヴィル、イギリスのブラウンベス等がある。

 

 ライフル・ド・マスケット

 

弾丸 球形弾

施条 あり

装填方式 先込め

 

 プロイセン等で作られ始めたライフリングが刻まれたマスケット銃。丸い口径と

ほぼおなじサイズの弾丸を押し込み発射する。命中制度が良いためスナイパー等が

使うぶんには向いてるが戦列歩兵が使うとなると、装填にとても時間がかかってしまう

ためミニエー弾が開発されるまでは主流にはならなかった。

 ちなみに普及しなかった理由として宗教上の理由もある。

 某黄色い魔法少女が使ってるのもこれである。

 

アメリカ独立戦争では民兵が使用し、散兵戦術(ゲリラ戦術)も相まって大活躍した。

 有名な物としてアメリカの民兵達が使ったケンタッキーライフル等がある。

 

 大砲

 

射程 球形弾で900、キャニスターで500メートル(12ポンドグリボーバル砲)

弾丸 球形 キャニスター ぶどう弾等様々

施条 なし

装填方式 基本先込め

発射速度 毎分1〜2発

 

 フランス革命期辺りまでの大砲は基本的にマスケット銃と同じ、先込め式の

滑腔砲であった。しかし、フリントロック式マスケット銃との違いはこの頃でも

まだマッチロック式が主流であり、ガンロック(フリントロック式)の物は少なかった。

 また、大砲の治金技術の影響で近代のそれと比べて装薬の量が少なく、また

耐久性を高めるために太く作られたために持ち運びに不便であった。

 また榴弾も開発されたが、その当時の物は暴発を起こしやすく、陸で使うぶんには

まだしも、戦列艦に積んで使うには危険な代物であった。

 

 これらの問題を改善したのがグリボーバルシステムである。

フランス王国の砲兵士官であったグリボーバルはいくつもの種類があった大砲を

規格ごとに分類し、大砲の均一化を図ると共に製造方法も変更することによって

射程を犠牲にせず、軽くて均一な大砲を作ることに成功した。 

 その成果はアメリカ独立戦争やナポレオン戦争で発揮され、ペクサン砲が開発

されるまでフランス陸軍の主流となった。

 

 コンクリーブロケット

 

射程 約3キロ

弾頭 鉄製 約1〜10キログラムの黒色火薬入り

発射方式 金属の台または木製の台より発射

 

 

 現代のミサイルの始祖とも言えるロケット兵器

マイソール戦争でマイソール王国が使ってた物を真似てイギリスで作られた。

形状としては中国で使われていた火箭にそっくりで違いと言ったら弾頭が鉄で出来てる点

ぐらいである。

 命中精度は火箭同様良くないがその炸薬と時間あたりの投射量で持って面を制圧

するのに向いている。

 しかし、大砲の発達により、命中精度だけで無く、投射量でも劣ってしまった

ロケット兵器は第二次世界大戦前夜再び光が当たるまでしばらく主力からは離れて

しまう。

 ちなみに米英戦争中イギリスはこれを用いてアメリカ本土を攻撃し、その時の印象

はアメリカ国歌にも歌われている。

 

 星型要塞(ヴォーバン式要塞)

 

時代 15〜18世紀

発祥 イタリア

 

 15世紀頃イタリアより広がった要塞の方式で、フランスの軍人ヴォーバンによって大成

された方式の要塞。それまで球形の大砲の砲弾を弾くために円を何個も重ねたような形状

の要塞が作れていたが、その方法では死角が生じ、火力の偏りがあるような問題が生じた

 そこで、丸くなっていた要塞の端を尖らせ死角を減らし、火力を均等に発揮出来るよう

にした。そしてこのような要塞は要塞の価値が無くなるまで続き、ヨーロッパのみならず

日本の五稜郭等幕末の城にも使われた。

 そして、日露戦争や第一次世界大戦でもこの星型要塞より発展して多角形の堡塁となり

活躍、敵に出血を強いることに成功した。

 

 

 

〜戦術〜

 

 戦列歩兵

 

 マスケット銃がこの時代の基本の兵器なら戦列歩兵はこの時代の基本の戦術。

古代のファランクスやスペインのテルシオ等と同じ重装歩兵の系列の戦術で、

マスケット銃はまさしく彼らが使っていた槍の進化系(長い槍)

とも言える。

 彼らは3列程の横隊で行進し、太鼓の合図で行動する。50メートル程の地点に到達したら一斉に筒先を敵に向け、太鼓の合図で斉射する。

 そして一段目が終わったら二段目、三段目と交代で射撃する。

敵が混乱し始めたら銃剣を付け

 敵の陣形が崩れ出したところで突撃、敵を刺殺す。

この戦列歩兵は練度が低くてもある程度訓練すれば陣を組めることから

専門的な傭兵だけで無く、犯罪者で構成された懲罰部隊もこのような戦術が取られた。

 そのため逃亡したり死んだふりをしたりしない様に逃げたら士官がサーベル

で斬り殺したりした。

 彼らは見分けやすくするために華やかな服装をしており、纏まった陣形と相まって

見ているぶんには華やかだが、実際に戦っている部隊にとっては地獄であった。

 戦列歩兵は、一見騎兵部隊に弱そうに思われるが、キチンと纏まった陣形を

突き破るのは難しく定期的に飛んでくる銃弾の雨にズタボロにされるのが

落ちであった。

 しかしそんな戦列歩兵もライフル銃の発明や砲術の発展、機関銃の発明などにより、

密集体型で行軍すると的にしかならなくなり、散兵戦術に変わっていった。

 

 

 散兵

 

 その名の通り密集体型を組まずにバラバラに散らばって攻撃する戦術。

戦列歩兵の様に纏まっていないため各個撃破される危険が高いが、バラバラゆえに

敵を撹乱したりするのには優れている。ゲリラ戦術向け

 ライフルドマスケットが開発されると、彼らはそれを装備して

遠距離より狙撃したりした。

 アメリカは独立戦争の時にこの戦術を用いて英国軍を撹乱し、勝利に

貢献した。(彼ら民兵はミニットマンと呼ばれ、後の世の弾道ミサイルの名前にもなった。)

 この散兵戦術は後送式ライフルの発明と大砲の発達と共に戦列歩兵を駆逐して

散兵線を構成した主力戦術となっていく。

 (そして、第一次世界大戦の塹壕戦術につながっていく。)

 

 騎兵

 

 戦場においてその機動力を活かし、偵察、追撃等速度が必要になる戦術に

おいては欠かせない戦術。

 古代より世界中で行われ、モンゴル帝国の騎馬隊やポーランドのウーラン等が有名である。

 フリードリヒ大王らが活躍した18世紀中頃、当時の成熟した近代軍制において、

騎兵は一般に以下の3種に専門分化した。

 

重騎兵

大型の馬に乗り、騎馬突撃で敵歩兵の隊列を粉砕するエリート騎兵。防御用の胸当てを付けたものは胸甲騎兵などとも言われる。銃器の発達により軽騎兵に吸収される形で次第に衰退した。第一次世界大戦までは存在したが、その後は完全に見られなくなった。

軽騎兵

小型のアラブ馬に乗る軽武装の騎兵。偵察や奇襲、追撃に使われた。ハンガリー騎兵をモデルにサーベルを装備したユサールが代表的であるが、ポーランド騎兵(ウーラン)をモデルに槍で武装した槍騎兵や、猟騎兵と呼ばれるものもあった。

竜騎兵

古くは馬で移動し下馬して戦う乗馬歩兵を指したが、後に中型の騎兵全般を指すようになる。国により軽騎兵に属したり、重騎兵に属したりした。

 

 彼らは戦場において花形とされ、貴族達がこぞって騎兵を志望していったが、

しだいに戦列歩兵同様歴史の流れに取り残されていき、

第一次世界大戦で機関銃を前に騎兵突撃をした部隊は全滅した。

 そして第二次世界大戦でポーランド騎兵が侵攻してきたドイツ戦車部隊に

負けてからは戦車などの装甲車両やヘリコプター部隊等に機動戦の主力の座を

譲った。

 

 砲兵

 

 戦場において他の部隊を掩護する、火力担当。

18世紀の砲兵の砲は丸い球形の弾が主流であり、地面に跳ね返るような角度で

発射する事で敵の歩兵をなぎ倒すのを主流とした。

 攻城戦ではそれまでのバリスタ等よりはるかに威力の高い武器として城壁を

破壊し、シンデレラ城の様な高い塔と切り立った壁で構成されていた城を

比較的なだらかだが、死角の少なく砲撃に強い要塞に変化させていった。 

 また、至近距離用にぶどう弾やキャニスター等の散弾等も施条が無いため

自由に使えた。

 しかし、榴弾はまだまだ威力が低く、榴散弾を用いた曳火射撃が基本であった。

またこの頃の野砲は重く移動にも時間がかかり且つ大砲一門あたりの単価が高かった

ため、数を揃えられず、装填速度の遅さも相まって機動力は無かった。

 また射程距離も短く直接射撃をしていたため、敵の部隊に近距離まで接近されると

全滅するリスクもあった。

 そのためこの時代にはまだまだ戦場の主力とは言えなかった。

そんな彼らが活躍するのはナポレオン戦争の時まで待たなければいけなかった。

 

 擲弾兵

 

 英語でグレナディアーズと呼ばれるこの部隊は擲弾(手榴弾)を運用する部隊で

軍隊の中の特殊部隊とも言えた。

 この部隊をヨーロッパで一番最初に編成したのはルイ14世で特に屈強な

大男を集めて編成された。

 しかし、戦列歩兵の発達により、投擲点まで到達出来なくなり、射程距離を伸ばす

ために擲弾筒(グレネードランチャー)等が作られたが、徐々に廃れていった。

しかし、屈強な大男を集めて作った精鋭部隊である、擲弾兵部隊は名誉称号

としてのこり、擲弾を運用しなくても服装は擲弾兵の格好をした部隊が主に

王宮の警護等重要な役目を負った。

 今でもイギリスでは王宮衛兵として擲弾兵部隊を見る事ができる。

 

 塹壕戦

 

 第一次世界大戦で戦争の形態を総力戦と変貌させることになった戦術、塹壕戦は

すでに18世紀の段階で何度か発生していた。

 しかしその用途は第一次世界大戦の様な野戦で用いるのではなく、要塞を攻める

ために使われた。

 その方法としては

要塞を包囲した後に、要塞の城壁に平行な壕を掘り、それを基幹に何本も壕を掘り、

要塞に接近するといったものであった。

 このように塹壕は攻城戦で使われるものであり、夜戦では使われなかった。

 しかし、時代が下り、火器がさらに強力になってくると身を隠すために伏せる

ようになり、膠着した戦場では長い塹壕が掘られるようになった。

(南北戦争や日露戦争等)

 

 

 改変後18世紀

 

〜兵器〜

 

 銃砲編

 

 ミニエー弾

 

 1849年にミニエー大尉により発明された弾丸で、それまで扱いが難しく普及

しなかったライフル銃を一般化することに成功した弾丸。

 この弾丸が発明されたことにより、戦場は様相を大きく変えていく。

この弾丸は口径よりもやや小さい大きさの椎の実弾をコルクと一緒に銃身に込め、

 発射される際にコルクがガスにより弾の後部を膨張させ、弾丸の周囲に刻まれた

溝がライフリングに噛み合いガスがもれずに回転が与えられる。

 この弾はたちまちヨーロッパ中に普及し、マスケット銃にはどんどんライフリング

が刻まれていった。

 そしてこの弾を用いることにより、精度と共に一気に射程も伸びてミニエー銃を

用いて戦列歩兵を組んだ南北戦争では以上な程の戦死者が出た。

 そしてこの銃は日本にもわたり、幕府も薩長も運用したことで、戦国時代から

続く火縄銃を駆逐した。

 

 本小説ではペタン元帥が雷管と共に一番最初に開発した物で、途端にフランス

中に伝わり、フランス国内だけで無く、ライバルであるイギリスにも普及し

ヨーロッパは早くもライフル銃が主流となった。

 この事に驚いた彼は情報の秘匿と共にさらに優秀な弾丸、雷管と一体化した薬莢

の開発に専念することになる。

 ちなみに、まだミニエー銃を用いた実戦を経験していないこの世界では

戦列歩兵がまだ主流であり、後に手痛い損害を被ることになる。

 

 パーカッションキャップ

 

 1806年頃に発明された、点火用のキャップ。

 雷丞を用いて発火するため、当初は暴発のリスクが高く危険な物であったが改良

を重ねるうちに安全に扱えるようになり、天候に左右されず不発のリスクも 

フリントロック式と比べて低いため、ミニエー同様フリントロックの機関部を改造

して取り付けられていった。

 キャップを発火させるのにはフリントロック程の衝撃はいらず、また機構も

単純にできることから連発式のリボルバー拳銃を作るのにも貢献した。

 後にミニエー弾と合わさり実包となり、後送式ライフル並びに機関銃を作る

原動力となった。

 

 本小説ではミニエー弾と共に一番最初に開発され、科学者ラボアジェ

等との関係を持つもとにもなった。

 こちらもヨーロッパ中に普及したが雷丞の開発に手間取り、ミニエー弾ほどは

普及していない。

 

 リボルバー拳銃

 

 パーカッションキャップの開発により、実用化に成功した連発式の拳銃。

パーカッションキャップが開発されるよりも前にもフリントロック式のリボルバー等

はあったが機構が複雑で暴発しやすい物であったため、あまり流行らなかった。

 しかし、パーカッションキャップが開発されたことによって、機構の簡略化に

成功し、扱いが難しかった連発銃を実用化することに成功した。

 初期の回転式拳銃(パーカッションレボルバー)は薬莢を用いて居らず、

薬室に直接装薬と弾丸をはめ込み、パーカッションキャップをはめていたため

 違う薬室の装薬に誘爆をするリスクがあったため、グリースを塗る必要があった。

 (ドラグーンリボルバー等)

 しかし、S&Wが開発した、S&W2型拳銃はコルト社がまだ採用していなかった

薬莢を採用したことにより、以前は装填に時間を要していた作業が一瞬で出来る

ようになった。 

 そのため、世界中で人気が出て、パーカッションリボルバーに変わり主流となった。

(ちなみに高杉晋作から坂本龍馬に渡った拳銃も新式のこれである。)

 

 この小説では一通りライフル銃の生産が軌道に乗った後にペタン元帥が所持

していた拳銃を元に生産が始まり、特殊部隊や王宮の衛兵達、ヴィシー学園の教師等に

配備された。

 最初はフリントロック式のを元にドラグーンリボルバーの様なパーカッション 

リボルバーが作られていたが、徐々に紙薬莢、金属薬莢と進化していった。

 この拳銃は浸透戦術の訓練をする際に短機銃の代わりに使われる事となる。

 

 ドライゼ銃

 

 射程 250〜600メートル

 弾丸 椎の実弾

 施条 あり 4条

 装填方式 後送単発式

 発射速度 毎分12発

 

 ドイツを統一に導いた世界最初のボルトアクション式小銃。

 銃工ドライゼによって開発されたこの銃は今までに開発されたパーカッションやミニエー弾等の新技術を組み合わせて作られた、画期的な銃であった。

 この銃の元ドイツは諸国民の春を乗り切り、デンマーク、オーストリアそしてフランスに

勝っていった。

 普墺戦争では、オーストリア(先込め式)が一発打つ間に7発の弾を打て、普仏戦争では

同じボルトアクション式のジャスポーとの直接対決に勝った。

 このようにドイツの発達を支えた銃であった。

 この銃の構造としては銃後部の長い撃針がスプリングの力で勢いよく押し出され

薬室にセットされた紙製薬莢の雷管を叩き、弾丸が発射されると言う仕組みで現代

のライフル銃とそこまで変わらない仕組みとなっている。

 ただ、後送式のため、射程距離は先込め式のライフル銃に劣り、ガスが漏れて

しまっている。その点を改良したのがライバルフランスのジャスポー銃である。

 長い撃針を使う為、ニードル(針)銃とも呼ばれる。

 この銃の登場依頼、兵は伏せて弾を込める事が可能になり、戦列歩兵が無くなり

代わりに、散兵を一定間隔に配置し散兵線を形成しての散兵戦術が基本となった。

 

 この小説ではペタン元帥が未来の銃についてルイ16世に話したのをきっかけに

ルイ16世自身が狩猟用に自分の趣味の知識(鍵職人)を生かして作ったのを

始まりとして生産が始まった。

 ルイ16世自身鍵を作る技能に優れていたため、すぐに模倣出来たのだと思う。

 そしてその新型のライフルは王宮の近衛部隊と精鋭の騎兵連隊に配備され

  改良型のジャスポーが配備されるまでの間、戦力の強化に貢献した。

 ルイ16世が作ったためこの銃はロワイヤルフュジ(王の銃)と呼ばれている。

 どうも彼自身は狩に使っている様であり、非常に気に入っている。

 

 ジャスポー、グラース銃

 

 射程 1200メートル

 弾丸 椎の実弾 (ジャスポーは紙製薬莢、グラースは金属薬莢)

 施条 あり

 装填方式 後送単発式(グラースは後の改良でマガジンを設置)

 発射速度 毎分12発

 

 ドイツがドライゼ銃を配備したのを受けて急遽生産された、フランス

自慢のボルトアクション式小銃。ナポレオン三世による第2次帝国の時に発明された、

優秀なライフル銃で基本的な構造はドライゼと変わらないが、ドライゼがガス漏れを

おこし、射程が先込め式ライフルに負けていたのに対し、この銃はゴムパッキンを

使用することによってガス漏れを無くし、ドライゼ銃の2倍の射程距離を実現した。

 しかし、いざ実戦ではドイツ軍の鉄道や電信を駆使した巧みな戦術により、

ナポレオン三世はセダンで捕まり、帝国の崩壊を防ぐ事は出来なかった。

 このジャスポー銃が一番活躍したのは不名誉ながら、パリに立て籠もった

コミューン達の鎮圧、処刑であり、あまり評判はよろしくない。

 また、この頃の紙薬莢は雷管の精度の問題もあって、湿気に影響されやすく

また、銃本体も白みがき(銃身を黒錆で保護しない)であったため、植民地の

ベトナムなどで使うには不便であり、中国軍との戦闘で火縄銃を持った部隊に

負けることもあった。

 そのため、これらの問題を改善し、能力的に限界であった紙製薬莢を腐食

にも強く、燃えカスが残らない金属薬莢に変えた銃、グラースが作られた。

 このグラースは非常に優秀で連発式の小銃が主流になった後にも改造され

使われた。

 そして、この小銃はフランス本国で使用されなくなってからもゲリラの手に渡り

AK47の用に、独立運動や反乱運動の主役として2度の世界大戦でも使われた。

 また、日本にもいくつか輸出され、十三年式村田単発銃が作られるもととなった。

村田小銃は日本初の国産実用ライフルである。

 

 この世界ではミニエー弾と雷管が開発されてすぐに開発が始まった小銃であり、

初のボルトアクション式小銃として、何度も試行錯誤(ボルトが煤で固まり、

引けなかったり、撃針が折れたりした。)を繰り返した後に、ドライゼに遅れつつも

実用化に漕げつけた。

 しばらくは紙製薬莢を使用する、ジャスポーが主流であるが、金属薬莢を生産

可能な工作機械が整ったところもふえつつあるため、徐々にグラースに更新され

つつある。

 ちなみに、ヴィシー学園ではペタン元帥の配慮のもと特別にグラースが提供され

ており、生徒に配布され軍事教練などで使用されている。

 

 4斤山砲

 

 射程2600メートル

 弾丸 椎の実弾(榴散弾、榴弾)

 施条 あり 

 装填方式 先込め式

 

 フランス第2帝国で生産されたライフリングが刻まれた優秀な山砲。青銅製である。 

 

 フランス第2帝国では、オーストリア相手の戦争で活躍し、優秀な成果を納めたが、

その反面、普仏戦争でもこの砲に頼っていたため、後送式のクルップ砲を装備した

プロイセン軍に負ける原因の一つにもなってしまった。 

 この砲はフランス本国での活躍もさることながら、輸出先の日本での活躍も非常に

大きい。

 幕末、幕府陸軍を始めとして、薩摩などの諸藩の有する大砲の旧式化が問題として

挙げられた。そこで、彼らは外国より輸入したこれらライフル砲をコピー生産し、洋式

野戦砲として、配備した。

 中でも、4斤山砲は日本の地形にあった大砲であり、日本中の藩が生産した。

まだまだ、ライフリングが甘かったり、問題点も多かったが、戊辰戦争で活躍し、

西南戦争や日清戦争でも使われたのがあった。

 そして、主流が後送式の砲になるとともに引退していった。

 

 この世界では今までに作られてきた砲にライフリングを掘り、4斤山砲が揃うまで

ライフル砲の数を揃えてきた。

 そして、小銃の開発が一段落ついたところで4斤山砲の量産に入った。

 4斤山砲はドライゼやジャスポーの用に、今までに無いものの組み合わせではなく、

基本は山砲にライフリングを掘っただけの代物であったため、すぐに普及し、国内の

部隊はほとんどがこの砲を持つこととなった。

 しかし、まだまだ大砲のライフリングを刻む技術は未熟なため、幕末の諸藩の

物のように工廠ごとに多少のばらつきは出てしまっている。

 

 6.5サンチ施条後送砲(架空砲)

 

 射程 2600メートル

 弾丸 椎の実弾(榴弾、榴散弾)

 施条 あり

 装填方式 後送螺旋式&垂直鎖栓式

 

 青銅であり、先込め式である4斤山砲等先込めライフル砲を代替する目的で

作られた軽砲。

 4斤山砲は構造的に先込め滑腔砲とあまり変わらないため、ペタン達傘下の

工場だけで無く、国中の工廠で作られたため、やや供給過剰気味になってし

まっていた。

 そこで、作られたのが本砲である。

 本砲は4斤山砲で得られた大砲に対する、施条技術を活かし、ライフル弾を

速い発射速度で発射するため、後送式にした大砲である。

 後送式の大砲はフランキ砲等随分昔からあるにはあったがガス漏れが

激しく、射程距離という点でも問題となっており、あまり流行らなかった。

 しかし、本砲は後にアームストロング式と言われる閉鎖方式(垂直鎖栓式)

を採用し、ライフル砲の後送化と共に、今まで問題となっていたガス漏れも

何割かは改善され、そして発射速度も先込め式の10倍近い速度で発射できるように 

なり面を制圧するにはもってこいの兵器となった。

 しかし、垂直鎖栓式は尾栓がもろく、爆風に耐えられずに暴発するリスク

があった。そのため、後期に量産されたものには螺旋式の尾栓も付属し、後に

垂直鎖栓では無く、螺旋式の尾栓が主流となっていった。

 ちなみに、本砲は口径の小ささもあり、軽量化に成功しており、後に生産

されるk1などの自走砲にも搭載され、威力を発揮した。

 

 7.5サンチ速射砲

 

 射程 4500メートル

 弾丸 榴弾 榴散弾 対物鋼芯徹甲弾

 施条 あり

 装填方式 段隔螺旋式

 発射速度 毎分8~10発

 

 6.5サンチ後送施条砲を生産する上で問題となった点を元に改良された砲。

 6.5サンチ砲では威力不足と共に、今までにあまり量産していない口径の砲 

となってしまったために、口径が約一サンチほど上げられた大砲である。

 本来の予定ではそれだけの予定であったが、当初の予定以上に新技術の開発

がスムーズに進んだため、そこで開発された物をふんだんに取り込んだ。

その結果、後のM189775ミリ野砲に近い優秀な性能の大砲として出来上がった。

 特に優秀な点としては、閉鎖方式に段隔螺式を採用した事と、駐退機を用いる

ようになったことである。

 段隔螺式はアームストロング方式にも用いられていた螺旋式の尾栓を発展

させたもので、6分の1ほど回す事で開閉が出来た。

 駐退機(駐退復座機)とはその名の通り、砲撃時、発射の衝撃を逃すために、

砲身だけを後ろに後退させ、バネや油圧の力で元の位置に戻す装置である。本

砲はバネ式を用いており、これにより、発射後にいちいち狙いを付け直す必要が

無くなり、精度も発射速度も向上した。

 これらの新技術により、今までの大砲ではまだまだ実現できずにいた、弾幕の

ような濃い射撃を出来るようになり、また閉鎖機の性能も向上しガス漏れのリス

クも無くなったことで、強装薬による射程向上が実現できた。

 その結果、相手の射程圏外から一方的に鉄の暴風を降らすことが出来、この

砲の存在は陸上兵器のドレッドノートとも言われた。(主にペタン元帥より)

 しかし、反面技術に生産能力が追いついておらず、まだまだ生産数は100にも

満たない数である。それ故、配備される場所は分散され、まだまだ主力は6.5サンチ

砲である。

 ちなみに、対物鋼芯徹甲弾とは装甲で防備された弾薬庫や司令部などの施設を

砲撃するために作られた貫通専用の弾で、内側に硬い鋼鉄、外側に柔らかい軽金属

で構成されている。この弾は後に戦車などの装甲車両が登場した場合に対抗する

意味も含めて開発されたが、現状装甲化された施設は少なく、また生産に非常に

手間がかかることからあまりたくさん生産されていない。

 

  7.5サンチ迫撃砲

 

 射程 500メートル 

 弾丸 榴弾 榴散弾 照明弾

 施条 なし

 装填方式 先込め

 発射速度 10〜15発

 

 7.5サンチ速射砲と同じ口径の滑腔曲者砲。7.5サンチ砲弾との互換性を向上

させるためにこの口径にされたが、迫撃砲弾はロケット砲弾のように発射薬が

付属しており、改造が必要なため、あまり意味は無い。しかし、工廠で生産する

際には便利である。

 仕組みは花火に非常に似ており、砲口から弾を滑り込ませて、底にある撃針に

雷管が当たることによって発火、発射される。

 その簡単な構造上、速射しやすく、またとても軽く作れるため、持ち運びに

便利である。

 ゆえに、大量生産され歩兵部隊に配備されている。

 ヴィシー学園でも軍事教練の選択でこの砲の使用方法を習い、実際に使用され

ることもある。

 ちなみに、照明弾にはマグネシウム等燃焼時に光を発する部室が必要なため

別途試行錯誤を得て、完成された。夜間襲撃などには欠かせない存在であり、

量産された。

 

 

 その他

 

 k1自走砲

 

 最高速度 時速20キロメートル

 駆動方式 前輪駆動 蒸気式

 搭載砲 6.5サンチ砲または7.5サンチ速射砲

 

  世界初の交通事故を起こした事で有名なキョニーの砲車を改良して作られた車両。

前輪側に設置された蒸気機関で動輪を回し、また前輪で旋回などもするというように

やや複雑な構造で扱いが難しい。

 しかし、この自走砲は蒸気機関の改良により10キロ以下までしか出せなかった砲車を

20キロまで出せるようにした。

 それにより、機動性が向上するとともに、より重量のある大砲や大量の砲弾を積むこと

が出来るようになった。

 まだまだ生産は進んでいないが、速度が大事になる騎兵連隊等に配備され、支援

攻撃に効果を発揮することとなる。

 また、本車両は数が揃ったら騎兵連隊より切り離され、本車両のみで構成された

部隊での運用も想定されている。

 そのため、未来がある車両でもある。

 

 軍用気球

 

 ルイ16世の協力のもと、飛行に成功した熱気球はガス気球とともにすぐに軍事に

利用された。ペタン元帥は熱気球とガス気球を比較し、熱気球では無く、ガス気球

の方を軍用として利用することとなった。

 本来、気球部隊が出来るのは革命戦争中であり、本来はまだないはずだが、彼の

おかげで10年以上早く実戦部隊に配備されることとなった。

 まだまだ技術が足りないため、自由気球を作ることはできず、索によって固定され

た係留気球が中心となっている。

 こういった航空兵器が作られたため、高仰角を取ることができる対空砲も作られた。

 

 電信 発光信号

 

 ペタン元帥の指導のもと、狼煙に変わって普及した、電気を用いる信号。

本来電信は19世紀になってから普及するものであり、腕木信号もまだ登場していない

当時としては画期的な物であった。

 本来、モールスがモールス符号を作ってから本格的に普及するのだが、ペタン

元帥は、少しでも早く情報を伝達することこそが、戦争を勝利に導くと考えて

おり、ライフル銃同様優先して整備した。

 しかし、フランス国内の貴族達の反発にあい、配線できたのはヴェルサイユ、

ヴィシー間の街道沿いの道と国境の見張り台との間のみである。

 

 〜戦術〜

 

 散兵

 

 ミニエー弾やボルトアクション式小銃の存在は、戦列歩兵を単なる的に変えた。

 そこで陸軍は考えた

   「集まったらやられるのなら散らばればいいじゃない!!」 

 そんな考え方で主流となっていったのがこの戦術である。

 ボルトアクション式の小銃は銃を立てずに装填することができ、銃を伏せて

撃つことが可能となった。

 そこで、敵の前でバラバラと散開し、一定間隔に伏せ、ジリジリと匍匐前進

しながら、接近する戦術である。

 そのため、銃自体も数を撃つことよりも、射程距離を向上させるのに重点が置かれ

列強は互いにこれを少しでも長くすることに全力を尽くした。

 

 塹壕戦術

 

 それまで塹壕戦は攻城戦の一環として行われる戦闘であり、野戦で行われる事は

無かった。しかし、雨あられと砲弾を降らす速射砲の存在と、敵を一斉に薙ぎ払う

事ができる機関銃(まだこの世界には登場していない。)の存在は兵を安全な

地下に潜らせた。

 一度塹壕戦に入ってしまうと敵も味方も突破するのは難しく、たった数メートル 

進むだけでも苦労する、地獄の戦場となる。

 しかし、本格的に塹壕戦に入る前に終らす方法も第一次世界大戦中に研究され

ており、それら突破戦術の集大成とも言えるのが電撃戦である。

 またこの世界ではまだまだ速射砲は普及しておらず、主に配備されている国は

ペタン元帥の協力のもと7.5サンチ砲の開発に成功したフランスぐらいである。

 そのため、フランスからしたら、一時的な防御目的に塹壕を掘って待ち構えて

置くのも有効な戦術になると言える。

 そのため、ヴィシー学園では軍事教練の一環として塹壕戦での戦い方と突破

方法としての浸透戦術を教えており、もし革命が勃発してしまった場合には

学園で、暴走する市民の攻撃を食い止められるようにしてある。

 

 浸透戦術

 

 第一次世界大戦中、塹壕を突破するために研究され実際に実行された戦術。

 当時、この泥沼の戦場を突破するために、塹壕戦を戦っている国の中で

様々な検討が行われ、実際に試された。

 その中でも、1916年に行われたロシア軍によるブルシーロフ攻勢は凄まじく

一気に東部戦線を推し進め、オーストリアに致命的な一撃を与えることに成功した。

 これを見たドイツ軍は精鋭部隊をもってして敵の弱点を突き、攻撃出来ない頑丈

に防御されたトーチカ等を避けて司令部を攻撃するといった、水が出っ張りを避け

て流れるような戦術、浸透戦術を編み出した。

 それにおいて重要なのは短時間に集中的な準備砲撃をすることと他の部隊との

連携を密にひたすら前に進むことである。

 それをすることにより、敵を混乱させ、相手が対処する隙を作らせずに

突破出来た。

 しかし、突撃部隊は突破に成功はしたものの、兵站が追いつかず、突破した

先で攻勢限界を迎えるのがほとんどであった。

 そのため、他の部隊との連携は非常に大切である。

 こういった浸透戦術での勝利が戦略的な勝利に繋がるのは突撃部隊と支援砲を

戦車と爆撃機に代替した電撃戦まで待たなければ行けなかった。

 また、浸透戦術はドイツのカイザー攻勢にも、ロシアのブルシーロフ攻勢にも

いえるが非常に国の負担が大きく、成功すれば良いが失敗した場合、国が滅びる

ことになる非常にハイリスクな戦術でもある。

 (実際、攻勢後にロシアではロシア革命、ドイツではドイツ革命が起き

国が崩壊した。)

 ヴィシー学園では塹壕戦での戦い方とともに突破方として教えており、戦闘

が行き詰まった際には使えるようにしている。

 




「いやぁ、長かった。」
「作者の予想じゃ、数千で終わると思ってましたからね。」
「僕自身、最初は南北戦争ぐらいの感じで良いかと思ってたけど、ペタン元帥が来たんだったらね、ww1ww2の戦術も混ぜないとまずいと思ってね」
「だけど、だいぶ無理しましたよね。機関銃の代わりに速射砲を量産して塹壕戦に持ち込むとか........」
「まあ、だいぶキツイとは思うけど、カンベンしてください(汗)」
「あと、陸上編は出て来ましたけど海上編はどうします?」
「ひとまず、本編の方を勧めたいのでもうしばらくお待ちください。」
「まあ、海は作者の好きな分野ですからね(作者じー)」
「.......まぁ期待せずにお待ちください。」
「さて、次回以降本編に戻ります。」
「解説編でだいぶ長いこと間が空いたので忘れられてる方も多いと思いますが」
「私達も少しでも読者の方々が楽しめるよう努力いたしますので」
「これからもどうぞ」
「「よろしくお願いいたします!!」」


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弓道場竣工

「みなさんお久しぶりです、作者です。」
「同じく涼太です。」
「3月も末、もうすぐ新しい年度が始まりますね。」
「作者はこの1年間あまり成長してないように感じましたが」
「いやいや、成長してるよ、この前初段とったし」
「ようやくですか.....初段如きに3回も挑戦して...」
「だって難しいんだもの」
「だとしても時間かかりすぎです。この小説も」
「ギクッ」
「12月に作り始めて出来たのが3月って....」
「いろいろ忙しくて.....」
「言い訳言うんじゃありません!!」
「すいませんでした。」
「さて、弓矢第10巻始まります」
「ようやく弓道らしくなってきました。」
「それでは」
「宜しくお願いします」


 ヴィシー学園

 

 数日後

 

 「うーん、よく寝たわ〜!!」

 

 私、伊藤遥はこの学園に来て初めての週末を迎えた。

 先日私はカリーネ達と供に弓道クラブを立ち上げた。それ以来しばらく活動は

無かったが、今日私達の弓道場を作るべく集まる予定を立てていた。

 

 私は、窓を開け、気持ちの良い空気を取り込んでから髪を整え、階下の食堂に

向かった。下では既にカリーネ達が待っていた。

 

 ここヴィシー学園では寮ごとに食堂があり、朝食と夕食はここで食べられるのだ。

 

 「おはよーハルカ!!」

 「おはよう、ハルちゃん」

 

 「おはよー、みんな早いね!」

 シレーヌを始めとしていつもの面々が私に挨拶をしてきたため、私は返事をしてから

いつも座ってる場所に座った。ソバールはちょっと眠そうである。

 

 今日の朝食はパンとちょっとしたサラダのようである。

 この時代に来てからは、常に洋食であったが、フランス料理が美味しいのかなかなか

飽きる事は無かった。

 

 皆が一通り食事に手を付け始めたところでシレーヌが聞いた。

 

 「今日ってアンタたちクラブの整備するんでしょ?」

  「そだけど.......どしたの急に?」

 

 突然彼女の口からそんな言葉が出てきたため、少しびっくりした。確か、まだその

件については話していないのだが..........

 

 そんな私を見て彼女は苦笑いをしながら

 

 「いや、この前ソバールに聞いてね。アンタたちキュウドウとかっていう

スポーツするんだって!?」

 

 私達の間では、弓道場ができるまでは内緒にしとく予定だったんだが.....

 三人の視線がソバールに集まる。

 するとソバールはバツが悪そうに俯きながら目線をシレーヌに向け

 

 「だってシレーヌちゃんがどうしてもって言うから.......」

 

 再び視線がシレーヌに集まる。

 

 「どったの?みんな呆れたような目をして?」

 

 シレーヌはシレーヌで状況を理解していない様だ。頭に?を浮かべている。

 

 そんな様子を見て、カリーネはハァ〜とため息を吐いてから説明した。

 

 ........................

 

 .........

 

 「そうだったんだ!!それはごめんね」

 

 理由を聞いたシレーヌはテヘヘと頭を掻きながら謝った。

 

 「もぅ!!次こんなことしたら許さないからね!!」

 

 「私達にも隠してる意味があったから隠してたわけで、それを聞かれたらサプライズ 

の意味が無くなるじゃない......」

 

 「アハハ....以降気を付けます」 

 

 彼女は周りからの集中攻撃に苦笑いで返した。そして一段落ついてから

遠くの方を見ながらしみじみとつぶやいた。

 

 「そうかぁ、黄金の国(ジパング)の弓、キュウドウねぇ..........私にゃ

どんなスポーツか想像がつかないけど、話聞いてるとなんかフェンシングで

教え込まれた騎士道に似たところが有りそうねぇ.......」

 

 それから彼女はしばらくそのままボーッとしていたが、突然私達の方に振り向き

 

 頼んだ。

 

 「私にもそのキュウドウとやらの準備、手伝わせて!!」

 

 私達はその提案に驚き、しばらく呆然していたが、準備をするに当たり

ちょうど人手が欲しかった所なのですぐに許可を出した。

 

 するとソバールは残っていたパンを一気に口に放り込み、満面の笑顔で

 

 「ありがとう!」

 

 と述べてから全力疾走で部屋に戻っていった。よほど弓道の事が気になって 

いたのであろう。

 

 私達もそれから残りの朝食を食べ、各自準備のために部屋に戻っていった。

 

 ..............

 

 .......

 

 私達は作業着に着替えてから、クラブ棟に向かった。

 

 弓道クラブには既に叔母さんが待っており、部屋には工具と供に木材が大量に置かれていた。

  

 私達が揃ったのを確認した先生は、シレーヌを見て驚いた後に、今日する作業について説明した。

 

 「さて、それじゃ今日はハルちゃんに言われたとおり、必要な材料を集めてきたけど、弓道については私よりも

 

 ハルちゃんの方が詳しいから細かい事はハルちゃんに聞いてね!!

 

 さて、まずは弓道場の弓を射るスペース射場とやらを作ってみよか、それじゃまず地上27サンチのとこに印を打って........」

 

 私達は木材を加工するグループと組み立てるグループに分かれて作業を始めた。

 

 私とカリーネは加工を担当し、ソバールとシレーヌは組み立てを担当した。

 

 まずは射場の製作である。天井はあるため、床面だけ木材を組んで的の高さに合わせる。

 

 私とカリーネは木材を何本か運び、印にそって切断した。

  

 室内は広く、当初の予定よりも多くの木材を使用することになったため、時間がかかったが何とか昼前には終わらす事が出来た。

 

 私達の横でソバールたちが釘を叩く音が聞こえる。こちらも作業が順調に進んでいるようだ。

 

 作業が終わった私達はしばらく休んでいたが、組み立て作業を手伝った。

 

 また、近くの河原から川砂を運んできて、大鋸屑と混ぜて安土も制作した。

 

 途中、バケツをひっくり返して泥まみれにもなったが、楽しかった。

 ..............................

 

 ..............

 

  一ヶ月後

 

 

 「はぁ〜、ようやくできた!!」

 

 シレーヌはロココ風の建物の中にある、和風の建物を見てつぶやいた。

 

 射場の広さとしては日本のものと比べて狭いが、奥行きがあり、

射礼をするのには十分である。

 

 また、的場に関しても、安土だけでなく、きちんと看的所まで設置されており、ギリギリだが広さだけなら5人立ちが回せそうである。

 

天井は屋内のため無いが、審査席もあるため、審査等にも使える。

(そもそもまだ審査員となる先生方自体フランスにはいないため、意味は無い。)

 

 ちなみに神棚はカトリック圏のフランスに合わせてカトリック式の祭壇が置かれている。

 

 叔母さんは出来たばかりの祭壇を使い、祈りを上げていた。

 

  私達はしばらく思い思いにはしゃいでいたが、ふとカリーネが私の方を見ながら質問した。

 

 「あれ、弓道場ができたのは良いけど、肝心の弓はどうするの?」

 

 私はハッとなって私の弓しかない弓立てを見た。

 

 「あっ、そういえば私のはあるけど.......」

 

 ここに来て、1番の問題が発生してしまった。いくら施設が立派でも用具が無ければ元も子も無い。私は天井に目をやって考えた。

 

 「どうするの〜ハルちゃん!?廃クラブの危機だよ!!」

 

 ソバールがいつも以上にまどまどしながら聞いてきた。彼女も焦っているのだろうが、それ以上に私の方が焦っていた。文字通り廃クラブの危機である。

 

 と、そこへシレーヌがやってきて提案した。

 

 「弓なら古いけど倉庫に行けばあるんじゃない?」

 

 私達はシレーヌの案内の元、倉庫に行った。

 

 ..................

 

 .........

 

 私は倉庫にあった古い弓?をみてつぶやいた。

 

 「弓は弓だけど.....」 

 

 その弓にはハンドルがついており、予め巻き上げておいて放つ機械式の弓、弩弓いわゆるクロスボウであった。

 

 フランスでは銃が発明される前、こういったクロスボウが使われていた。

 クロスボウは予め巻き上げてから放つため、射手の技量はあまり重要では無く、銃のように錬成しやすいことからフランス国内では流行った。しかし、装填に時間がかかるため(それこそ、マスケット銃と同じくらい)100年戦争中のクレシーの戦いでロングボウ部隊を有したイギリス軍に敗北した。

 

 以来、銃の発明もあって使われなくなったが、地元住民の手により大切に保管されてきたのだ。そのため、この機会に使ってもらおうと紹介してくれたのであろう。しかし

 

 「ちょっと、これはね........」

 

 このクラブが弓道じゃなくてアーチェリークラブか射撃クラブだったら良かったかもしれないが、流石に弓道で機械式の弓は無理がある。機械では無く、自分の力で引くことが大切なのである。その点、イギリスのロングボウだったらまだ救いがあったかもしれない。

 

 しばらくは私の弓を回して使うか、私以外のメンバーはゴム弓を使ってもらうしか無い。せめて、日本と連絡が付きさえすれば買うこともできるだろう。

 

 私達が困り果ていたその時

 

 ガラガラ〜

 

 「みんなこんなとこにいたの?」

 

 一人ずっと祭壇で祈りを捧げていた叔母さんがやってきた。走ってきたようで未だに肩が上下している。

 

 「どうしました?」

 

 「ヴェルサイユから贈り物が届いたわよ!!」

 

 ヴェルサイユから?私宛にだろうか?

 

 「宛先は誰になってました?」

 

 「弓道クラブ殿だって!!」

 

 何と弓道クラブに対する贈り物であった。私達はそれが何か気になり我先にとクラブに戻っていった。

 

 .............................

 

 ..............

 

 「おぉ、これは.......!?」

 

 私達が射場で見つけたのは絹の布に包まれた弓具一式であった。

 

 「弓10本に矢60本、弓懸10個に弦30張り、道着一式10枚+胸当て10個......もう充分だね」

 

 ここに来て一気に問題が解決したのである。ちょっと贅沢いうとギリ粉やイカ粉もほしいところだが、ひとまず弓を引く分には困らないであろう。

 

 ふと、布の奥の方を見てみると私宛に手紙が届いていた。 

 

 ハルちゃんへ

 

  お元気ですか?

 この手紙が届く頃には学校生活にもなれてきた頃と思います。ペタン元帥を通してあなたの

 最近の姿を聞いていると、あなたの笑顔が思い浮かびます。同封の弓具一式は母のちょっと

したプレゼントです。オランダを通して日本から直接輸入したものだから大切に使いなさいね。

 またあなたに会える日を楽しみにしています。

 

                            マリーアントワネットより

 

 よく見ると弓には柴田勘十郎の銘があった。京都の御弓師柴田勘十郎の弓は現代でも非常に優秀な弓であり、全国に数ある竹弓のブランドの中でも特に人気があり、多くの先生方が愛用されている。

 

 私は静かに一つ一つ布巾で拭い、弓立てに立てた。それが終わると静かに皆の方に向いた。

 

 皆はただ静かに私の事を見ている。

 

 私は瞳に涙をうっすらと浮かべながら叫んだ。

 

 「頑張ろう、みんな !!」

 

 「王妃様のためにもやろう!!弓道万歳!!」

 

 カリーネが答えるように叫んだ。

 

 「弓道万歳!!」「弓道万歳!!」

 

 ソバールも弓道部でないシレーヌもそれにつられて叫んだ。

 

 私もそれにつられて万歳をしだし、弓道場全体が熱を帯びていた。

 

 私達はしばらく熱に浮かされて万歳を唱えていたが、十分も経つとみな疲れて果てて、そのまま射場の床に寝てしまった。

 

 「あらあら、風邪引いちゃうわよ」

 

 その様子を端から見守っていた叔母さんは苦笑いをしながら

 

 一人一人に毛布を掛けて回った。

 

 そして、起こさぬよう静かに射場を後にした。

 

 ..................

 

 翌日

 

 私達は射場で目を覚ました後に風呂で汗を流し、軽食をとってから授業を受けた。

 

 そして、放課後 シレーヌとソバールのクラス

 

 「フゥー......今日も一日終わったかぁ、さて今日は久し振りに剣を振るいますか!!」

 

 今日シレーヌは本業であるフェンシングをすることにした

 

 「私もついて言っていい?」

 

 ソバールは荷物を纏めながら聞いた。ソバールは弓道クラブに入っているがフェンシングにも興味があり時々フェンシングを見に来る。

 

 「いや、だけど今日、ハルカが儀式するって言ってたよ?」

 

 「儀式?何の?」

 

 彼女はどうも覚えていないらしい。

 

 「何でも、弓道を始めるのに必要な事らしい。」

 

 彼女はそれを聞いて、ハッとなった。思い出したらしい。

 

 「しまった、放課後できる限りすぐに来てって言われてたんだったー!!」

 

 彼女は急いで荷物をまとめて出ていった。

 

 「大丈夫かなぁ.....」

 

 シレーヌはその様子を心配そうに見ていた。しかし

 

 「まぁ、カリーネ達がいれば何とかなるでしょう!!さて、アタシは今日も頑張りますか!!」

 

 すぐに気持ちを切り替えて剣を振るう仕草をしながらクラブへと向かった。

 

 ...............

 

 弓道クラブ

 

 ガラガラ

 

 「ごめーん、遅れちゃった?」

 

 ソバールが息を切らしながら射場の中へと入ってきた。彼女の様子からするに忘れていたのであろう。

 

 「大丈夫、まだ始まってないよ」

 

 私は肩をたたきながら席を示した。彼女達は今日の観客である。 

 

 「ちょっと準備してくるから待っていてね」

 

  私は全員揃ったのを確かめ、射場脇の控室に入った。既に的は私の手で付けられている。

 

 控室で私は久し振りに道着に袖を通し、袴を穿いた。近くの鏡に映る自分の姿が非常に懐かしく感じる。出来ることならお義母さん達にも見せたかった。

 

 そして、弓の末筈を弓張に押し付け弦を張り、弓懸をつけて矢を持ちすぐにでも入場できるように準備する。

 

 いよいよである。 

 

 私は扉を開くと執弓の姿勢を取り、呼吸に合わせて入場した。とたん騒がしかった射場が静かになり、厳かな雰囲気を作り出した。

 

 私は、ボンヤリと斜め下を見ながら一歩一歩進んでゆく。そして、中まで来たところで静かに跪坐し、揖をした。

 

 この時さらに空気が締まるように感じられた。非常に気持ちが良い。

 

 揖をしたときの空気の余韻をたなびかせつつ、私は立ち上がり、

 

静かに射位へと向かい矢を番えて再び静かに立つ。

 

 馴染みの射法八節に従い、ゆっくり確実に一つ一つの動作をこなしてゆく

 

 そして、そのボンヤリとした目のまま的の方を向き煙のようにふんわりと打ち起こして行き、額を超えたあたりで引き分け始めて大三をとる。

 

 その後、胸を開くように、ゆっくり大きく引き分けて行き、会の形をとる。

 

 この時、焦る気持ちが腹の底から湧いてくるが、決して離れてはいけない。早けになってしまうからだ。

 

 弓に身を任せ、傍からみると引いていないように感じるぐらいのバランスでゆっくりと押し開く。そして、体と弓が一体化し、進退極まるとこに達した時......

 

 トンッ!! パーンッ!!

 

 まさしく、空気を引き裂くように矢が放たれる。

 

 あぁ、気持ちが良い。この瞬間が1番気持ちが良いのだ。

 

 それから、再度座って番えなおし、2本目も同じように引いた。そして、静かな表情のまま、退場した。

 

 

 そして控室まで行き弓をおいて射場に再び入った時、私は全員の拍手を受けた。

 

 正直、普段通りに引いただけなのだが、拍手を受けるというのはいつでも気持ちが良い。

 

 「やっぱ、生で見るのは違うわ!!」

 

 「空気が違ったよ!!」

 

 「私も早く引きたい!!」

 

 拍手の後にさっそく三人から質問攻めにあった。まだまだ彼女達に弓を握らせるわけには行かないが、興味を持ってくれたなら幸いである。

 

 私は丁寧に一人づつ質問に答え、その日のクラブは終わった。

 

 まだまだ弓道クラブは始まったばかりだ!!

 




「10巻終わりました」
「ひとまず、約一年で進んだのが10巻でしたが、ある程度方向は固まりましたね」
「まぁ、しばらくはこの弓道関係の話しで進めていく予定です。」
「弓道やってる間に19世紀になっちゃったら悲しいですね」
「いや、ある意味それが1番幸せじゃないかな?」 
「なんでです?」 
「本来ならこの後、革命の嵐が来るんですから.......」
「確かに......多分作者のことだからひどい展開に持っていきそうですけど」
「まぁしばらくは落ち着いていると思いますよ?」
 
  弓道場の出来たクラブは遥を中心として本格的に練習をはじめる
 次回 射法八節


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射 法 八 節 ~当たりとは 基礎を糧にし 育ちたり~

「皆さんこんにちは作者です。」
「同じく涼太です。」
「先日10話を投稿した勢いで一気に書き上げました。」
「普段もこれくらいの頻度で出してくれたら良いんですけどね。」
「まぁ、善処します。」
「さて、皆さん花粉は大丈夫ですか?」
「作者、外に出ると花粉が止まらないので引きこもってます。」 
「今年は去年と比べても規模が全然違う気がします。」
「皆さんもお気をつけてお過ごし下さい。」
「さて、11巻始まります。」
「今回もどうか」
「「宜しくお願いします」」


 

 ヴィシー学園 弓道場

 

 「さて、今日から本格的に活動をしはじめることになったけど......」

 

 私は竣工したばかりの射場の中で話し始めた。皆先日の射礼のせいか、はよ引かせてくれと催促ばかりしてくるようになった。しかし、最初から弓を握らせるわけには行かない。

 

 「まぁまずは基礎能力を高める練習をしていこうか?」

 

 皆の表情をみると一様に落胆しているように見える。しかし、仕方が無いのだ。今きちんと練習しないと後々に響くし、何より、形も力も無い為、弓を引くことは出来ない。

 

 (ちなみにお義母さんが日本より購入してくれた弓は14キロで私のと同じである。しかし、この時代の弓は5人張り、3人張りなんて強弓があるため、それと比べてしまうと情けない感じになってしまうが、現状のままではそれすら引けないであろう)

 

 「まぁ、きちんと皆基礎が出来て、ある程度筋力もついてきたら引かせてあげるから、腐らんでね。」

 

 それでも、皆の表情は変わらない。まぁ私も弓道始めたばかりの時は同じような事を思っていたからしょうがない。つい「クスス」っと笑ってしまった。その様子にカリーネは不思議そうに顔を傾けた。

 

 「ごめん、ちょっと昔の事を思い出しちゃってね。それじゃまずは筋力トレーニングから始めようか?ちょっとカリーネ手伝って」

 

 そういうと私は道着に着替えてから、クラブ脇の庭に出た。弓道クラブの皆も並んで見ている。

 

  私はそこで倒立をするかのように逆さまになった。それからカリーネの方に近づき、両足を支えてもらいながらゆっくり両手を使って前にすすみ出した。。この状態で正直辛かったが私は絞り出すようにして、説明した。

 

 「これは手押し車って言うんだけど、これをすると弓道に必要な筋力がつくのよ。まぁ、結構辛いけどね。」

 

 そういうと私はカリーネに足をおろしてもらい立ち上がった。

 一瞬立ちくらみを起こしかけたが何とか踏ん張って説明を続けた。

 

 「それじゃ、これをクラブの正面玄関から勝手口まで各自30往復しようか」

 

 「ハルちゃん、こんなのおかしいよ!!」

 その事を伝えると、みなの顔から血の気が失せて行くような感じた。クラブ棟の全長は約200メートルあり、それを30往復すると6キロになる。

 ソバールなんかは、その事を聞くと必死の形相で訴えかけてきた。

 

 まぁそんな距離冗談何だがw

 

 「ハハ!!冗談、冗談。実際は各自5往復のつもりだよ。」 

 

  流石に初日からそんな厳しい事したら、筋力がつくどころか溶けてしまう。実際なんかの番組で筋トレをやりすぎて筋肉が筋肉痛を通り越して溶けてしまったなんていう話もあるぐらいだ。ただ、皆の状態を見つつ、徐々に増やしていくつもりである。

 

 「さて、それじゃ始めようか?みんな適当にペア作ってね!!」

 

 私は指示を出した後にカリーネとペアを組んだ。

 ソバールは叔母さんと組んだみたい。

 

 「よーいドン!!」

 

 私の合図を始まりに手押し車が始まった。私は前の世界で何度もやってきたため、なれていると思っていたが、全距離の真ん中あたりまで行ったところで腕が震えだした。

 やはり長いこと運動やってないと厳しいみたい。

 

 ソバールはというと......

 「うぅ.....もうだめだよ、あんまりだよ...」

 

 1周したあたりのところでガクガク震えていた。今にもその細い腕が折れそうな勢いで進んでいるが、今日はまだ初日だし一応止まっていないだけ良しとしよう。

 

 一通り全員練習したところで一度休憩を取った。皆、持久走の後のように死にそうな表情をしている。手押し車はするのもつらいが運ぶ方もかなりつらいため、運びながら休憩と言うわけには行かないのだ。

 

 次にクラブ前のグラウンドを使いランニングを始めた。

 ランニングは一見弓道には関係ないように思えるが持久力も無いととてもじゃ無いけど続かないため、することにしたのだ。

 距離は2キロである。

 

 私は最初、先頭を走れていたが、徐々に失速してゆき、カリーネに追い抜かれた。

 

 最後、走りきった時に私とソバールはヘトヘトだったが、カリーネは余裕そうな表情で到着していた。伊達に朝走っているだけあるなと私は実感した。

 

 (ちなみに、後々シレーヌに同じメニューをやらせると軽々と6キロ手押しした後に、10キロを走っていた。本当に彼女は化け物か何かなんじゃないかと感じた。)

 

 私はソバール達の様子を見て、こりゃゴ厶弓も早いかも知れないな、と思い私は徒手練習から始めることとした。

 徒手練習とは何も手に持たずにする練習であり、負荷が全くかからないため、形を覚えやすい。しかし、負荷が全く無い為、手先だけの動きになる恐れがあり、注意が必要である。

 

 私が居た高校の弓道部では試合が近いこともあり徒手をせずに直接ゴム弓に入っていたが、ここにはそもそもまだ試合自体が無いため、じっくり徒手からやることとした。

 

 皆の表情にある程度色が戻ってきたのを確認して私は呼びかけた。

 

 

 「みんな~おつかれ~今日やったようなメニューを明日も最初にしよか。さて、それじゃ次の練習に移るよ」

 

 私は皆に呼びかけるとともにかばんの中から人数分の冊子を取り出して皆に渡した。

 そこには裸体の人が弓を一通り引いている絵が書いてあった。いわゆる射法八節図解である。

 

 「それはね、射法八節図解っていって日本の人が書いた物なんだけど、それを参考に弓を引いていくからね。」

 

 渡されるなり、皆じっくりと見たが皆首をかしげていた。どうしたのかとおもっていると、叔母さんが苦笑いをしながら指摘した

 

 「ハルちゃん、この冊子はすごい分かり易くていいんだけど、この中じゃ日本語私と貴方しか分からないわよ?」

 

 私はそれを言われてハッとなった。この冊子はこの時代に来る前に高校でもらったものであるため、日本語(しかも漢字多用)で書いてあるのだ。そのため、絵はわかってもその動作が何なのかは分からない状態となっている。

 

 「まぁ、今日は貴方と私が通訳しながら話せば良いけど、また今度翻訳した冊子ちょうだいね」 

 

 「すいません、叔母さん。」

 

 「いいのよ、絵はわかりやすくて助かってるわ」

 

 叔母さんは笑顔でウィンクした。私はもう一度心の中で感謝しつつ説明を始めた。

 

 「さて、それじゃ説明を始めるわね。カリーネ、弓道をする上で1番大事な事は何か分かる?」

 

 私はカリーネに質問した。突然の質問とはいえ、カリーネなら分かるだろう。

 

 カリーネは当てられた事に一瞬驚いたがすぐに気を取り直して答えた。

 

 「いつも、貴方が言ってることからすると形かしら?」

 

 「正解ね、どんだけ的中があっても形が崩れてると長持ちしないし、体を支える幹が出来ない。それに当たりが出てきても飽きてくるし、何より傍から見てて見苦しい。

 

 逆に形が整ってだと安定して当たるようになるし、姿勢も良くなって逆にリラックスできる。それに筋力の無駄も減って軽い力で引けるようになるし、なにより弓道を通して自らの精神を磨くことが出来るわ。」

 

 私は射場に設けられた黒板に形が整っていることによる利点と整っていない事による損失を書いていった。

 

 「だから、まずは皆には形を覚えてもらうわよ。まず、弓道において基本になってくるのは冊子にある射法八節って言う動作なのよ。射法八節は弓を構えてから引くまでの一通りの動作を8つの動きに分けて個別で練習できるようになっているのよ。それじゃまず、1番基本になる形、執弓の姿勢について説明するわ。」

 

 私は弓と矢を持ち、両拳を腰の横に置いて、両足をつけた状態を作った。これが執弓の姿勢である。周りをみると、私の姿を参考に皆、見様見真似でやっている。

 

 「この時、弓と矢の延長線が体の中心に来るようにし、弓の先っちょ、末筈が床から10センチ浮くようにしてね。後、矢がバラバラにならないようにまとめて持って、肘も軽く貼るようにしてね。後、余裕があったら目は3メートル先の床面を見るようにしてね。」

 

 皆、だいたい執弓の姿勢は取れている。まぁ基本中の基本だからね。ただ、他の動作をするようになると、これがおろそかになり、形が崩れる元となるため、きちんと練習することが大切である。今話した内容を一通り黒板に書いておいた。

 

 「次は足踏みをするよ」

 

 私は体の正面に対して左側、的の方をみてから左足を半歩踏み開き、右足を左足によせてから右へ扇子を開くように一足で踏み開いた。最後に視線を正面にもどした。

 

 「これは単純な動作のようで、結構重要な動きなのよ。執弓の姿勢を崩さずに重心に注意しながら、足を引き付け、約60度になるように踏み開く。このとき幅は自己の矢束つまり、自分の矢より若干短いぐらいの長さで両足の親指の先が的の中心と一直線になるようにしてね。単なる足開きにはならないようにね。」

 

 皆の様子をみると、足を踏み開くのは出来ているが、執弓以上に個性が出だした。

 カリーネはサッサっと流れるように行っているが、足の角度、幅が中途半端で、ソバールは角度、幅はほぼ理想的だが、上体が崩れてしまっている。叔母さんは比較的安定している。

 私はメモ帳を取り出し、皆の形の特徴を書いといた。

 

 「次は胴造りね。この動きの中に矢番えがあるけど省略するよ。」

 

 私は矢を床に置き、本筈を足の膝の上においた。単純な動作に思えるが、実際には矢番えもあり、大変である。

 

 「この時、重心が体の中心に来るように足の爪先当たりと、丹田...そうねぇへそのちょっとした当たりに力を込めて置くことね。そうすると後ろから押されてもびくともしないわ」

 

 私はひょいひょいと手招きしてソバールを呼んで後ろから押してもらった。

 

 しかし、びくともしなかった。

 

 「ほらね。こんな感じに保てるようになると安定して引けるから頑張ってね」

 

 皆やっているが、なかなか上手く行かないようだ。しかし、これからのトレーニングを続けて行けばいずれできるようになるであろう。

 

 「後、胴造りの時には3重十文字っていって両足のラインと腰、両肩を結ぶ線が平行になるようにしないといけないから注意してね。

 後、弓道には反屈懸退っていって必要に応じて傾いたり退いたりした姿勢を取るんだけど、近的、つまりこの射場と同じような長さの射場の場合、真ん中の中胴の構えでいいからきちんとした形を作るようにしてね」

 

 実際弓を持ち出すと頑張って引こうとして、出尻鳩胸になる人が多いため一層の注意が必要である。

 

 「次は弓構えね」

 

 私は弓をやや右に寄せて、馬手を肘を張ったその形のまま、持ってきて弦にかけた。そして、ゆっくりと体の正面からみて左、的の方へ視線を送った。

 

 「この時、弓の上成節.....つっても竹弓じゃないからわからないだろうけどまぁだいたい弓が曲がり始めるあたりの場所が体の中央に来るようにして馬手、右手をつるにかける。

 

 この時、人によって違ってくるけど親指は伸ばしたまま中指で抑えて人差指を添えるようにする。

 この動作を取懸けっていうんだよ。そのときに懸け口十文字っていってつると懸け帽子、懸けの先っちょが弦と十文字になるようにしてね。

 

 それが終わったら弓手、左手の皮を弓と手のひらの間に挟み込んで鵜の首みたいになるようにして整えてみて」

 

 彼らは取懸けの動作をした後に鵜の首がどんなものか分からず困っているようだった。

 

 「あぁごめん鵜の首っても分からんよね、まぁ卵を弓と、手のひらの間に挟むような感じで柔らかく握ってみて」

 

 この表現に変えても正直難しいと思うが皆だいたい出来ていた。

 

 

 「次はいよいよ打ち起こしね。ここから射に移るから注意してね」

 

 ここからの動きが和弓と洋弓を分ける最たるものであり、斜面と正面の違いが顕著になってくる部分である。

 

 私はゆっくりと顔を的の方に向けて、弓構えで作った円相(大木を抱くようなふんわりとした構え)を維持しつつゆっくりと額の上までうち起こしていった。

 

 「打ち起こす時は弓構えで作った形を維持したまま、煙が空に登るかのようなゆっくりとしたスピードで打ち起こすようにしてね。後、額のやや上の高さまでは持ってこようか。

 それから打ち起こしの時に顔が上向いたり、下向いたりしないように丁寧に顔を向けてね。」

 

 顔についても詳しく言われて皆、恐る恐る向けてゆく。しかし、まだ向きが不十分だったりとバラバラなため、これにも練習が必要だ。

 それからゆっくりとゆっくりと額の高さまで打ち起こしてゆく。

 

 「次に引き分けをやっていくよ。引き分けは文字通り弓を引いていく動作を表しているんだけど、押大目引3分の1、通称大三の形を取るために自分の矢束の3分の1あたりまではほぼほぼ平行に引いていこうか。」

 

 私は打ち起こした位置からゆっくりと矢が床面と水平となるように左右均等に引き分ける。

 

 「この時馬手は弦に引かれるままにし、矢は両肩と平行になるように引き分けてゆくようにしてね。手首が変な風に曲がったりしないようにしてね。後、弓手は槍で天を突く、馬手の甲は空を流れる雲と平行になるイメージでやってみよう。」

 

 弓道の動作としてはある意味この動作が1番難しく、射に響いてくる。そのため今日はあまり詳しくは言わず後日、練習をしながら教えることにした。

 皆をみると、手首が変な風に曲がっていたり、大三が低くてアーチェリーみたいになってたり、某陸上選手のように左手を上にたかだかと上げながらおろしていたりと、皆バラバラである。

 ただ、逆に言えば、ここが綺麗ならば離れも綺麗になるため、皆には頑張ってもらいたい。

 

 「....まぁ練習すれば、なんとかなるかな?さて、次は会ね。」

 

 私は大三の位置からゆっくりと口割までおろしてゆきそこから胸を開きつつ形を維持した。

 

 「これが会ね。なかなかこの形を維持するのは難しく、離れるのが早すぎたり、おそすぎたり、手が弓に負けて戻ったりするんだけど、頑張って7秒は持てるようにしてね。それが普通にできるようになれば、詰め合い、伸び合いの意味が分かるだろうから。」

 

 「はーい!!ハルちゃん先生質問です。」

 

 カリーネが手を上げて聞いてきた。

 

 「はい、どうぞ。」

 

 「会を持つのが難しいと行ったけど、そんなに難しいの?後、持つためのコツを教えて下さーい。」

 彼女は会について、疑問を持ったみたいだ。私も弓道始めたばかりの時は同じような事を思ったが、実際してみると、心の焦りの為か持たなくなり、早気に苦しんだ。

 

 「いや、いざ的を前にすると気持ちが焦って離れちゃうのよ。銃なんかの比じゃないわよ。」

 

 「そうなんだー!?まぁやってみないとわからないけど、ハルちゃんでも難しいなら多分相当なんだろうね。」

 

 彼女は納得したようだった。私はそれを見て説明を続けた。

 

 「まぁ、会を持つコツとしてはキチンと唇の真ん中、口割まで持ってきて頬付けをちゃんとすることと胸弦っていって弦が胸に付く位置まで持ってくることね。後、引く時のコツとしては肩をおろして胸を開くように引く事ね。」

 

 皆、それを聞いて自分なりにやっている。まだ彼らは負荷が無い為引きすぎてたりする人もいるが、弓を引くようになると辛さが分かるだろう。

 

 「次が離れね。離れは文字通り矢を離す動作だけど、極力離すんじゃなくて、自然に離れるようになるといいわね。その時はやごろっていって体と弓が一体となるタイミングなんだよね。

 ただ、何本か引いてると体が早い段階で離したくなるようになってくるけどそれはやごろじゃないからね。そこで離してあたっても早気になっちゃうから注意してね。」

 

 私は弓をゴム弓に持ち替えた。ソバールが何やらソワソワしている。

 

 「ソバールどうしたの?」

 「ハルちゃん、その棒キレ何?」

 

 私はまだゴム弓について説明してなかった事を思い出した。

 

 「あぁ、ごめん説明してなかったね。これはゴム弓っていって弓を引く練習をするための道具だよ。」

 

 私はそういうと一通り射法八節をしてみせた。

 

 ソバールは一通りその動きをみると目をキラキラさせながら頼んできた。

 

 「ハルちゃん、貸して!!それで練習させて!!」

 

 ソバールは、おもちゃを見つけた子供のようにねだってきた。しかし、形が整っていない今、引かせるわけには行かないのだ。

 

 「ごめん、ソバール。まだこれ私のしかないし、形が整っていない状態じゃ引かせられないよ。」

 

 「そんなぁ..」

 「まぁだけど形のテストに受かったら引かせてあげるから、それまで頑張って!!」

 

 私はソバールがショボんだのを見て慌ててフォローした。 

 

 それを聞いてソバールは少し元気を取り戻したようだ。

 

 私は一息ついてからもう一度射法八節を通して離れてみせた。

 

 皆も真似てやっているが、どうしても洋弓のクセが出て、完全には離れずに中途半端なところで止まっている人が多かった。まぁ、ゴム弓使うようになれば多分解決するであろう。

 

 「最後に残心を取ること。これはどの武道にも言えるわ。戦の最中、敵を射倒してから気を抜いて相手がむっくり起き上がってきたら怖いでしょ?だからキチンと最後まで離れた形を維持すること。弓道においてはこの残心に今までの射が現れるから、自分の射を振り返る意味でもキチンと持つようにね。」

 

 ここまで説明したところで叔母さんがつぶやいた。

 

 「確か、日本のケンジュツとやらにも残心はあったけど、そういう意味だったのね。」

 

 驚いた。この方、弓道だけじゃなくて、剣術まで調べてた。ある意味この時代の武道に関しては彼女の方が詳しいかもしれない。

 

 「それで次が射法八節では残心の中に含む動作だけど、弓倒し、面戻しって言うのをやるよ。」

 

 私は再び弓を持ち、残心を取った後に両拳を腰のところに戻し、打ち起こし以来的を向いていた視線を脇正面に戻した。そして、右足、左足の順で足を戻し、執弓の姿勢に戻った。

 

 全ての動作の説明を終えてから私は深呼吸をして話した。

 

 「以上が射法八節ね。まぁ私の説明だけじゃ多分わからないところもあるだろうからいつでも聞いてね。」 

 

 私は説明を終えてから繰り返し、一つ一つの動作を口で言いながら、皆の練習に付き合った。

 今はまだ出来ていないが将来が期待出来る。そんな一日であった。

 

 (ちなみに、シレーヌもこの後叔母さんに兼部届を出して、フェンシングクラブと兼部するようになった。)

 




「皆さん、どうでした?私なりに射法八節をまとめてみました。」
「まぁ纏めたにしてはだいぶ分かりにくい表現が有りましたがねぇ」
「まぁまだ私自身弓道に関しては理解しきれてない箇所もありますからね」
「変な表現等ありましたらご指摘くださいますと有り難いです。」
「さて、初段とってからしばらく大会に参加していないと弓を引きたくなってきました。」
「作者もう学生じゃないでしょ?」
「まぁそれでも懐かしくはなるものです。」
「市の大会で我慢しなさい。(まだ一度も出てないみたいだけど)」
「まぁ、また今度出てみます。」
 次回、弓道クラブは毎日地獄のような練習を繰り返す。
 次回 月月火水木金金(嘘)


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宮廷謀議

 ヴィシー学園で遥達が学生生活を満喫していた頃、宮廷では何やら不穏な空気が流れていた。 
「皆さんお久しぶりです、作者です」
「同じく涼太です」
「昨今物騒な事故や事件が多く心配です」
「特に交通事故が多い気がしてます」
「皆さんも気をつけてくださいね」
「さてそれでは弓矢12話始まります。」
「学校生活ばかりであったこの話も一度宮廷に目を向けてみましょう」
「世界がちょっとずつ動き出します。」
「それでは」
「「よろしくお願いします!」」


 1786年 6月

 

 この日ヴェルサイユには多数の政治家、軍人が集まっていた。

 彼らは皆ヴィシー派に属するものであり、昨今のフランス政治の主役である。

 

 やがて、側近に付き添われて国王、ルイ16世がやってきた。

 彼が椅子に座ると同時に話合いが始まった。

 

 1786年、日本でいうと天明6年。

 世界中を騒がせた異常気象による寒波をなんとか乗り切ることが出来たフランスは次なる問題に直面していた。

 

 それは宮廷を追放されたオルレアン派の貴族たちである。

 

 彼らは突如現れたヴィシー派の政策に不満を抱き、王妃マリーアントワネットを煽動しクーデターを起こそうと画策していたがアントワネットの報告により、国王に発覚し追放されていたのだ。

 

 しかし、彼らはパリロワイヤルで何やら怪しい動きを見せており、いつ動き出すか分からないでいた。

 

 我々は軍制改革により、武装蜂起を鎮圧するのに十分な力を手に入れる事ができているが、下手に動けば民衆を刺激しかねず、何もできずにいた。

 

 「.....1万丁のジャスポーや2万丁のロワイヤルよりもパリの民衆ほど有用な武器は無い」

 

 ヴィシー派の将軍、ラファイエットは呟いた。

 

 「パレロワイヤルを没収しなかったのは失敗でしたな」

 

  同じくヴィシー派の弁護士、ダントンも同様の事を考えていた。

 

 「まぁ、失敗を悔いていても始まらぬ。まずは有事の際如何にヴェルサイユを防衛し、またパリを奪い返すかだ。ペタン殿頼む」

 

 玉座に座る国王は話をすすめるべく切り出した。ペタン元帥は地図を広げた

 

 「はい、陛下まずここヴェルサイユの位置から考えましょう。ここはもともと狩猟の舘として建てらてたため、周りに森があり私達が防衛戦を行うとしたら、そこが主防衛線となります。」

 

 「うむ」

 

 国王は頷きながら聞いている。この森は普段狩猟の際に用いるような場所のため、彼にとっては庭先のような場所である。

 

 ペタンとしては森全体を要塞化してヴェルサイユを囲むマジノ線のようにしたかったが、そこまでするには時間と金が無いためすることが出来ない。

 

 そこで彼はラファイエットと相談した上でゲリラ戦をメインとした防衛戦をすることにした。

 

 「森の中心を通るいくつかの街道沿いにトーチカを何機か設置し、また森と森とを繋ぐように隠蔽された砲台を設置し迎撃出来るようにしていく予定です。」

 

 「さらにもし追加で費用と時間を下されば本格的な連絡壕も作れますが......」

 

 ペタンは森のさらなる強化を希望するが

 

 「森の強化をすすめたいのは山々だがパリを奪還するための戦力も整備しなければならない。故に今は辛抱してもらえるか?」

 

 「分かりました。」

 

 ペタンは渋々といった様子で引き下がった。

 

 「次に奪還用の戦力について説明いたします。」

 

 ペタンに変わって次にラファイエットが説明を始めた。

 

 「今ヴェルサイユには約20台のK1砲車を擁する軽砲連隊2個連隊と近衛騎兵連隊が常駐しており機動戦力に関しては非常に充実していると言えます。」

 

 もともとはスイスの傭兵部隊がメインであったが即応部隊を置くことによりとっさの作戦にも対応出来るようにしたのだ。

 

 しかし、

 

 「注意していただきたいのはこれら砲車はあくまで軽砲を牽引するためのものであり、発射までに若干の時間がかかります。また、砲の口径も小型のため打撃力に劣るものであります。

 そのため今牽引していた砲を搭載し、また口径も6.5サンチから7.5サンチに引き上げたk1'自走砲'を制作、試験をしておりますが、既存の部隊だけでは即応能力に不備があると思われます。」

 

 あくまで既存の砲車は牽引車であり砲は先込め滑腔砲である。故に今後、後送ライフル砲を載せた自走砲、k1自走砲を開発中であるがまだまだ試験の域を出ていない。

 

 「そこで、ヴェルサイユの側のセーヌ川岸に小規模な港をつくり、そこに河川砲艦を何隻か待機させておいて戦時には砲車と騎兵連隊をパリまで送り出し、上陸後支援砲撃を出来るようにしたいと思います。」

 

 「その港とやらはどこに作るのだ?」

 

 話を聞いた国王は疑問に思いながら聞いた。

 

 「ヴェルサイユにある程度近いセーヌ川湖畔の街、リュエイユのマルメゾン城辺りがいいでしょう。」

 

 ラファイエットは地図を指しながら説明した。

 

 マルメゾン城は後にナポレオンの妻、ジョゼフィーヌが買って整備した事で有名になる城館だが、この頃は荒れ果て小さな屋敷がぽつんと立っているだけであった。

 

 「この城の敷地内に入り江を作り、セーヌ川と繋げて秘匿港とするのです。そうすればオルレアン派にも気付かれずに戦力の充実ができるはずです。」

 

 「それと港だけでなく城館もきちんと整備してヴェルサイユにいる部隊のうち、約半数をそこに配備し、有事には即座に対応できるようします。また、小さな造船所も整備して海側から分解して輸送した砲艦をそこで組み立てられるようにします。」

 

 ここまで話をしたところでラファイエットは説明を止めたが、国王はうーんどうなりながら答えた。

 

 「計画としては確かに素晴らしいが、先程も話した通り予算がなぁ.....一応、特権階級から税金を集められるようになった事で多少余裕は出来たが、そこまでの戦力を充実させる余裕は無いのだよ。」

 

 「そこでです!!」

 

 ペタンはある資料を示した。

 

 そこには兵器の量と倉庫の空きについて書いてあった。

 

 「ここには各部隊の兵器の配備状況と倉庫の空きについて書いてありますが、現在軍はジャスポーやロワイヤル等新式小銃の配備を進めていったことにより、元よりあったシャルルビル等のマスケットが余ってしまっています。一部はジャスポーやロワイヤルに改造して使用しておりますが、このままだと倉庫の空きが無くってしまいます。」

 

 ここまで説明したところでペタンに代わりラファイエットが説明を始めた。

 

 「銃は持っているだけでも整備等保守作業に金がかかります。また、現状倉庫の足りない分は官庁等の倉庫を用いて保管しておりますが、軍施設ほど警備が厳重では無いため、暴動や蜂起が起きた際に叛徒に武器が渡る恐れがあります。」

 

 「確かに、それは大変だな」  

 

 国王は頷きながら聞いた。実際、バスティーユ牢獄襲撃の際にも、警備の比較的ゆるい廃兵院より武器弾薬が獲られている。

 

 「そこで、予算のためにも暴動を防ぐ意味でも旧式化した武器を廃棄または、譲渡して大規模な軍縮を行うべきです。」

 

 「廃棄はわかるとして、譲渡はどこにするのだ?.....ヨーロッパ中の国は比較的余裕があるから需要は無いぞ?......まさか!?」

 

 国王は気づいたようだ。

 

 「そうです。武器弾薬に余裕がない国...最近出来たばかりの国なんかよろしいでしょうな」

 

 そう、後の世界の警察、アメリカ合衆国のことである。

 

 独立戦争時、民兵主体の大陸軍があったが、戦争が終わるに従い、解体された。

 

 そのため、後の時代とは違い、国防にはやや不安が残る状態であった。

 

 実際、米英戦争時には首都ワシントンを英軍に占領されてしまっている。

 

 「かの国は出来たばかり故にイギリス辺りがまだ再度の植民地化を狙っていますし、先住民(ネイティブアメリカン)達としょっちゅう内戦している状態ですから、軍が不要と叫んではいても心の中では藁をも掴む様な思いでしょう。」

 

 「実際、ワシントン将軍も苦労されていました。」

 

 ラファイエットは自らが新大陸で経験した事を話した。彼はワシントン将軍の元、数々の戦闘で活躍しており、アメリカの実情をよく理解していた。

 

 「そこでこの機会に一斉に古い装備を売却しちゃいましょう。海軍についても同様です。今はまだ陸軍ほど旧式化が進んでいないとはいえ、ティゲル等鋼鉄の蒸気軍艦が登場した今、スピードは風任せで射程も短い戦列艦は飾り物にしか過ぎなくなってしまいます。」

 

 しかし、国王は再び指摘した。 

 

 「しかし、陸軍はよいとしても海軍は陸軍と違い装備更新....艦隊再編にはとてつもない時間がかかる。私が即位した頃から始めてようやく英国に対抗できるまで再建出来た海軍だ。それを潰すのはもったいないと思うが.....」

 

 「しかし、やれる時にやらないといつか追いつけないまでに戦力差が広がってしまいます。私が若いときのフランスもそうでした。」

 

 ペタンは第一次世界大戦前、英国で完成したある戦艦について思い出していた。

 

 「ある大戦争の前に英国で前例の無いとても強力な軍艦が登場しました。その船はあまりにも強力であったがゆえに今建造中の船すら旧式化させてしまうような存在でした。

 とある国はその情報を比較的初期の段階で手に入れ、思い切って建造中の船を再度設計変更することで難を乗り切りましたが、我が国はそれに気づきつつも対応するのが遅れ、今まで英国の後を追っていたはずが、そのとある国に抜かれてしまいました。

 

 ゆえに、艦隊の再編もやるべきと思った時にするべきなのです。」

 

 

 国王はそれを聞いて、しばらく考えた後、決断を下した。

 

 「分かった.....陸軍に関してはそちらのしたいようにすれば良い。旧式化した戦列艦とフリゲートに関しては売却しても良いが蒸気機関を積んだ5隻の新鋭戦列艦に関しては売却は認めん。艦隊再編がなるまでは戦列に残してもらう。後、売却するのも今建造中の4隻の航洋装甲艦が完成してからにすること。これが条件だが良いか?」

 

 「ご聖断、感謝いたします。軍備に関しては以上です。」

 

 「次にオルレアン派の内情について説明いたします。」

 

 今まで説明していたラファイエット達軍人にかわり、政治家たるダントンが説明を始めた。

 

 「オルレアン派には最初、私達パリの政治クラブの者がたくさん属しておりましたが、私達の工作により、大半を引き剥がすことに成功しました。しかし.....私達にかわり同じく宮廷を追われた貴族達が彼に近づいており、その中には旧王家の者も含まれて非常に危険な状態です。」

 

 「うーむ....オルレアン公に近づいた者達の名前はわかるか?」

 

 国王は困ったような顔をしつつ聞いた。

 

 「探りを入れてみたところ、私達のクラブからはエベールだけですがロアン枢機卿をはじめとする聖職者のグループ、アルトワ伯やコンデ公と言った王族達とその近辺の法服貴族が出入りしているようです。」

 

 そこまで聞いた途端国王は呆れた様な顔をしながら笑った。

 

 「ハハッ.....第三身分を助けた途端特権階級が皆、敵となったか、これは面白い」

 

 「何が面白いですか...国の一大事ですぞ!!」

 

 近くにいたティルゴーは堪らず声を上げたが

 

 国王は一通り笑い終えた後、落ち着いた表情で話した。

 

 「何も恐れることはない。我が王朝は成立過程から特権階級を目の敵にしてきたのだ、敵の数が増えようと屁でもない.....ティルゴーよ貴殿が改革を始めた時、味方はいたか?」

 

 「......いえ、おりませんでした。」

 

 「だろ、だが最終的には目的を達成して民の暮らしを楽にすることが出来た。」

 

 「我々は今その始めの状態に立っているのだ。今は先が見えずとも臆することなく足を踏み出せばいずれ成果を出すことが出来る。だから気にする必要は無い、全力で事に当たれ!!良いな!?」

 

 「はっ!!」

 

 その姿は王になったばかりの頃と別人の様にティルゴーの目に写った。

 

 ティルゴーはこの御方なら国を救ってくださるであろうと改めて実感した。

 

 「さて、話を戻しまして、先程のメンバーの中にはプロイセンやイギリスの者も含まれているようでして..... 」

 

 ダントンが話の続きを始めた。

 

 「やはりな....いくら国中に土地を持つオルレアン公といえど彼だけで事を成すのは難しいであろうな。よし、ひとまず今まで通り探りを入れつつこちらに引き込めそうな奴は引込め。そして英普の動きについても今まで以上に探りを入れよ!今日はこれを持って解散!!」

 

 国王が席を立つと共に集まっていた者達は帰り始めた。

 

 ラファイエット達学園の教師である者達も帰ろうとするが、そこへ父親の様な笑みを浮かべた国王がやってきた。

 

 「おっと、そういえばハルカは元気にやっとるか?」

 

 「はい、弓道場が出来てからというもの、弓道を教えるのに夢中なようで、楽しんでおられます。」

 

 それを聞くと国王はさらに笑顔を浮かべて

 

 「そうかぁ... いつか見に行ってみるか!!」

 

 「いつでも歓迎いたします。」

 

 「ハハッ、今日はありがとう、いい話が聞けた。」

 

 国王はそう言うと去って行った。

 

 

 

 ......

 

 

 

 後日、新たに就役した航洋装甲艦パリ級4隻の編入と共に、(旧式だが)大量の武器を搭載した戦列艦艦隊がほぼ全てアメリカ沿岸警備隊に移籍された。

 

 これにより一時的に米国の防衛力が格段に強まると共にフランス海軍の戦力に空白が生じたが、それもすぐに収まる事となる。

 

 また、アメリカ沿岸警備隊は戦列艦を有したものの使いみちが無く、フリゲートのみ哨戒任務に用いたようだ。(彼女達戦列艦が現役に復帰するのは海軍が設立されてからとなる。)

 

 

 

 

 ・航洋装甲艦パリ級

 

 就役 1886年

 

 同形艦 パリ リヨン ナント ルーアン

 

 速力 9ノット

 

 排水量 8000トン

 

 装甲

 舷側 305mm

 甲板 25~76mm

 主砲塔 220~330mm

 司令塔 150~200mm

 

 武装

 305ミリ後送ライフル連装砲2基4門

 15センチ後送ライフル砲4門

 10.5センチ後送ライフル砲14門

 7.5センチ速射砲4門

  

 注、モデルはイギリス海軍の砲塔艦ネプチューン

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

  ティゲル級装甲巡洋艦とセットで作られた、航洋装甲艦。ティゲル級では先込め砲と後送砲が混じった配置であったがこの艦では後送砲に統一するとともにティゲルよりも一回り大型の305ミリ砲を搭載している。その砲と装甲の厚さからこれを以て戦艦の始まりとも言える。しかし、この艦は305ミリ砲を乗せるために主砲が一段低いところにあり、荒天時、そこから浸水して沈没するリスクがあったりする。(実際似たような配置をしたキャプテンは嵐の中沈没した。)また、この艦は主砲を中央に纏めてあり、装甲もその周りに集中して施されている。

 

 




「さて、12話終わりました。」
「最初はあくまで内政だけのつもりが徐々に海軍の話に移って行ってましたねぇ」
「なんででしょうねぇ....自分でもちょっと気になります。」
「しまいにはブレストワークモニター飛ばして中央砲塔艦出してましたし....」
「社会人になってから文章もですけど、色々な所が下手になってきた気がしてきました。」
「まぁセミナーでも受けて頑張って治してください。」
「......できる限り善処いたします。」

 その頃、射法八節を徹底して習得したメンバー達は次の段階に移ろうとしていた
 次回 巻藁テスト!?


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テスト

 「皆さんこんにちは涼太です」
 「同じく作者です」
 「最近寒くなってきましたねぇ」
 「私も部屋の窓開けっ放しにして寝てたら寒くて夜起きちゃいましたよ」
 「それは自業自得です」
 「相変わらず手厳しいね」
 「別に普通ですよ?まぁみなさんも気をつけてくださいね」
 「さて、13話始まります、今回は学園の話です」
 「宮廷とヴィシー学園行ったり来たりで混乱しませんか?」
 「両立させようとするとどうしてもそうなってしまうんですよねぇ」
 「まぁなるべく読者のみなさんの立場に立って作るようにしてくださいね」
 「気をつけてます」
 「それでは13話」
 「「よろしくお願いします!」」

 

 
 


 

 1786年 ヴィシー学園

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 「ふぅ....今日も終わった〜」

 

 私、伊藤遥はチャイムと同時に息を吐き出した。

  

 「お疲れ様〜ハルちゃん大丈夫?」

 

 「何とか.....」

 

 

 隣に座るカリーネが苦笑いをしながら聞いてきた。

 

 今日はたまたま数学が2時間授業があった。

 

 そのため、数学嫌いの私にとっては地獄であり、ノートに数式写すだけで精一杯であった。

 

 それに対してカリーネはなんとも涼しそうな表情である。

 

 「....その頭脳少し分けてください」

 

 「なんか言った?」

 

 「...いや何でもない」

 

 私はカリーネを恨めしそうに見ながら教科書をかばんに突っ込んだ。

 

  学園では昨日まで中間考査があった。私は得意な歴史等の科目については満点が取れたが逆に苦手な数学では欠点+10点程のギリギリの点数をとってしまった。

 

 そのため、昨日の放課後数学のテストで100点取れるまで居残りになっていたのだ。

 

 当然、テスト期間中はクラブも停止である。

 

 「あっ!!そういえばハルちゃん先生!!今日の活動は何ですか?」

 

 カリーネは帰り支度をしながら聞いてきた。

 

 私が射法八節を教えてから1月程経ったが皆みるみる腕を上げていき、まだ紐を使った練習とは言え、十分キレイに引けるようにはなっていた。

 

 「うーんとね、そろそろテストに移ろうと思うの」

 

 「テスト....自分が情けなかったからって八つ当たりは駄目だよ。」

 

 「いやいや、そっちのテストじゃないから!!ていうか、貴女も私と合計じゃ変わらなかったでしょ!!」

 

 「たはは〜♪バレたw」

 

 「ぅんも〜!!バカにしないでよ」

 

 実は彼女は数学で満点を取った代わりに歴史が欠点ギリギリだったのだ、お互いさまである。

 

 「まぁ冗談はこの辺にしておいて....テストって紐の?」

 

 「なによ、わかってるじゃない!」

 

 「ちょっと試しただけよ♪さぁ行きましょう!?」

 

 彼女は私の肩を引っ張って駆け出した。

 

 「もう!!下手くそだったら承知しないからね!!」

 

 私は教科書を鞄にしまいつつついて行った。

 

 ...........

 

 弓道クラブ

 

 「さて、紐のテストだけど....」

 

 私は準備を済ませた後審査員席に座りノートを広げていた。

 

 「そのノートは....?」

 

 ソバールが不安そうに震えながら聞いてきた。

 

 「ううん、そう大したものじゃないから安心して、単なるメモ帳だから.....それよりも今日のテストについて説明するね。」

 

 私はそう言うと黒板にテキトーに手順を書いて示した。

 

 「正直、私が審査でやっていたように体配に則って入場退場からきちんとやりたいとこだけど.....まだ教えてないからその代わりに、受験者はそっちの控室から一人づつ出てきてもらって」

 

 私はそう言うと射位と書かれた札をおいた。

 

 「この札のとこまで歩いてきて自分の良いと思ったタイミングで引き始めて、終わったらクラブの出口から出て廊下で待っててね。」

 

 「ハルちゃん先生!!質問です。」

 

 「何ですか?」

 

 シレーヌが手を上げた。フェンシングクラブが休みの為今日はシレーヌも参加する。

 

 「制限時間とかはあるんですか?」

 

 それを聞かれて、私は少し考えた後答えた。

 

 「うーん....欲しい?」

 

 「遠慮します。」

 

 「だよね。まぁゆっくりのびのびと引いてもらって良いよ、焦らんで良いから。」

 

 それを聞いて安心したのか皆胸を撫でおろしている。 

 

 「一応順番はくじで決めるからね!!」

  

 私はそう言うと番号が書かれた棒を番号を見えないようにして示した。

 

 「それじゃアルファベット順に引いてってね。」

 

 各自棒に書かれた数字を見て様々な表情をしている。

 

 私は皆の順番を黒板に書いた。

 

 「それじゃ、カリーネ、シレーヌ、ソバール、叔母さんの順で入ってきてね。」

 

 私はそう言うと、審査員席に座り直し、彼女達に控室へ行くよう促した。

 

 ..........

 

 ソバールside

 

 私は今すごく緊張していまず。今日のためにテスト期間中寮でシレーヌと一緒にやってきたけど不安でいっぱいだよぉ

 

 シーン

 

 あぁ、シレーヌ終わっちゃった。次私の番だよぉ〜

 

 心臓すごいドクドクしてるよ〜

 

  「次どうぞー」

 

  「ひゃっ!!ひゃい!!」

 

 ザッザッ

 

 足踏みはこれくらいで良いかなぁ

 

 弓構え大丈夫かな、肘貼ってるかな

 

 顔向け良いかな〜?偏ってないかなぁ

 

 パッ

 

 よし、終わったぁ〜....あれ?ノートになんか書かれてる

 

 なんだろう.....

 

 .......

 

 遥side

 

 スッスッスッ

 

 「......」

 

 叔母さんがクラブの外へと退場していった。

 

 以上で試験は終わりである。私はハッーと息を吐いてから皆を中に入れた。

 

 「みんな〜、入ってきていいよ」

 

 皆がゾロゾロと入ってきた。皆、やり切った表情と不安な表情が入り混じった複雑な顔をしている。

 

 私はそれを見るとニカッと笑い

 

 「ハハハッ、もう終わったで力抜いてもらっていいよ。結果はまだ言わないけど... 」 

 

 当然皆の表情は変わらない。

 

 ちょっと意地悪だが結果後回しにしないと皆、結果に夢中になって注意点について聞けなくなってしまうから仕方ない。

 

 「まぁひとまず、お疲れ様〜みんな最初の時と比べてすごい上手くなったね。」

 

 「正直緊張で肩凝っちゃったわ」

 

 「まぁ、この後、ゆっくりしてもらうとして、まず一人ひとりの評価を話すね。まずはカリーネ!」

 

 「どうだった。」

 

 「やっぱりカリーネらしいというかすごく滑らかに引けていたよ。緊張してる中でもそこまできれいに引ければ多分どんな場面でも上手くできるよ。ただちょっとフラフラしてるとこがあったからそこだけ気をつけてね。次にシレーヌ!」

 

 「どう?私の射は?」

 

 「やっぱりフェンシングやってるからなのかすごく力強く引けてる感じがしたね。射にキレがあるというか....離れもキレイだったよ。ただ、ちょっと全体的に雑になってきてる感じがあるから一本一本丁寧に引いてね。次にソバール」

 

 「はい!」

 

 「まず良く頑張ったね。シレーヌから聞いたよ。いつも帰ってからやってたんだって?テストもあったのに良く頑張ったよ。射としては全体的にキレイに引けてたで良かったけど、ちょっと肩に力が入ってたから首の後ろ伸ばしてみて!肩がストンと落ちるからね。最後に叔母さん」

 

 「どうかしら?」

 

 「叔母さん....皆の中で一番キレイでした。どこかで習いました?」

 

 「ちょっとオランダから輸入した本を見ただけよ」

 

 「それでも読んだ情報を簡単に体現できるあたり流石です。」

 

 「ありがとう」

 

 「さて、これで全員の評価が終わったけど、結果は全員合格ね!!」

 

 皆、不意打ちだったためかポカンとした表情をしていたがそれは徐々に喜びへと変わっていった。

 

 「おめでとう、よく頑張っよ。ただ、これが終わりじゃなくて始まりだからね。」

 

 私はそう言うと人数分の弓を持ってきて、各自に渡した。

 

 「早速、今日から弓を引かせてあげるけど.....」

 

 私は弓を壁に当て、張ってみせた。

 

 「弓はこんな感じに壁にある溝に弓を当てて張るんだけどできそう?」

 

 皆、言われた通りにやろうとするが上手く力が伝わらず弓が張れない。

 

 「あっ、シレーヌ一旦待って!!」

 

 シバールあたりは無理やり曲げようとしているが、そのうち弓が唸りそうだったため止めた。

 

 「ごめん、説明が足りんかったね。まず弓は皆が思ってる向きと反対向きに弦を張るからその面を上にして溝に当てて.....」

 

 皆が向きを揃えたのを見てから説明を再開する。

 

 「姿勢を低くして弓を太ももの上に乗せ、弓の握りを押しつつ弦輪をかけるって感じ」

 

 見るとシレーヌあたりはうまくできているが、ソバールは後ちょっとのとこでかけられないようだ。

 

 「まぁ無理やりはめようとせず、もう少し腰を落としてみるといいよ。」

 

 「うーん!!.....出来た!!」

 

 ようやくはまったようだ。

 

 「案外、出来るようになると簡単でしょ?....さて次は素引きだけど....最初皆に素引きさせた時の注意点覚えてる?」

 

 「うーんと、確か...離したら駄目だったんだよね?」

 

 「そうそう、下手に離すと弓壊れるし怪我もするから絶対に素引きで離したらいけないよ、後、取り掛けの時の形で引かずにグーで引くようにね。」

 

 「こんな感じ?」

 

 カリーネが引いてみせた。弓に若干負けてはいるが十分である。

 

 「そうそう、そんな感じ♪だけどカリーネ.....弓最初と比べてどう?」

 

 カリーネは弓を戻してから頭を傾げた後答えた。

 

 「だいぶ軽く引ける気がするわ」

 

 「だよね、これは皆がキチンと筋トレを続けてきたこともあるけど、今までの紐を使った正直つまらないと思う練習にも腐らず続けてきた結果だからね。自身を持って誇ってもらっていいよ。さぁー他の皆も引いてみて。」

 

 各自渡された弓を、思い思いに引き感動していた。

 

 私はその様子を一通り眺めてから

 

 「さて、下準備はこんくらいにして本題に移ろうか?」

 

 私は手招きをして皆を巻藁の前まで連れてきた。

 

 「それじゃ今日のメイン、巻藁稽古について教えるね。」 

 

 私は弓と矢を持ち巻藁の前に立った。

 

 「今までは弓だけに注意すれば良かったけど、今日からは矢も使うから執弓の姿勢がすごく大切になるの。」

 

 巻藁のそばにおいた鏡を見ながら自らの姿勢を確認しつつ説明する。

 

 「まず、弓と矢の延長線が体の真ん中のラインのとこで交わり、なおかつ床から10センチ離した高さを保つことね。この時正面からは二等辺三角形、横からは弓と矢が平行に見えるように注意してね。あっ、シレーヌ腕張ってね」

 

 

 皆言われるままにやろうとするが上手くいかない人がほとんどである。新たに覚えた事をしようとするあまり、出来ていた事が出来なくなっているようである。

 

 「まぁ、なかなか直ぐには出来ないだろうけど、基本の形やで、出来るようになっても疎かにしないようにね。次に巻藁するときの注意点について話すね。まず、

 

 隣が打ち起こし入ったら矢を取らないこと

 矢は取れなかったら3回に分けて抜くこと

 巻藁と射手の距離は弓を左手で水平に引き上げ、末弭が丁度巻藁にあたるくらいの距離

 

 まぁこの3つは特に気をつけてね。後、絶対に巻藁の裏側に回らないようにね、射られたらまずいからね。それじゃ一人づつ巻藁のやり方についてつきっきりで教えるからちょっと並んで。」

 

 私は巻藁の前に皆を並ばせた。最初はカリーネである。

 

 「まぁ、基本は紐の時と同じだからね」

 「ok〜♪」

 

 カリーネは会までは比較的スムーズに出来たが、離れの段階になって

 

 「駄目よ!!離せない!?」

 

 カリーネはそう言うと弓を戻してしまった。

 

 私も最初は離すのが怖くて頭を避けてしまったから無理はない。

 

 私はカリーネの肩を支えると引くのを手伝った。

 

 会の段にいたり震えだしたが、先程と比べても表情は落ち着いている

 

 トンッ

 

 カリーネは震えが収まるとともに離れ残心をとり、行射を終えた。

 

 「ハルちゃん先生ありがとう。助かったわ」

 

 「どういたしまして。離れてみてどう?」

 

 「最初怖くてたまらなかったけど、いざ離してみるとすごいスッキリしたわ。巻藁でこれなら的前が楽しみね。」

 

 「それは良かった。ガンバ」 

 

 以降、私は弓懸の使い方も同様に教えてから一人ひとりつきっきりで指導した。

 

 「まぁ、基本はこんな感じだから頑張って練習してね。」

 

 一通り見終わった後に私は久しぶりに的前に立ち練習した。

 

 彼らの指導やテストのため練習出来なかった分今日思いっきり引いた。

 

 まだまだ道は遠いかもしれないが、今は彼らの努力に期待するとしよう。

  

 

 

 

 




「さて13話も終わりました。」
「ちょっと今回は短めでしたね」
「まぁ、いつも長くなりがちなのでできる限り短くしました。」
「内容はいつも通り微妙ですけどね」
「ハハッ....」
「.....まぁいいです。ひとまず巻藁まで行きましたが、学園の方はこれから先どうしていくんですか?」
「どうしていくとは?」
「今は設定上1786年となっていますが、この感じだと卒業してすぐに革命の時代が来ると思いますが?」
「まぁそこが見どころみたいなとこですのでご理解ください。」
「まぁどうなるのか分かりませんが、期待せずに待っております。」
「そこは期待してほしかったです。」

 次回 学園の日常?


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ぶらり温泉ヴィシー旅

 「みなさんこんにちは、作者です」
 「同じく涼太です」
 「ついに念願の巻藁買えました!」
 「良かったですね...ってまだ弓道やってたんですか?」 
 「弓道は生涯スポーツ、辞めるときは死ぬときですよ」
 「それを先々月休み続けていた貴方に伝えたいです」
 「ギクッ、まぁちょっと仕事もあったし^^;」
 「それでもせめて土曜は行きましょう?」
 「なるべく努力します」
 「まぁ審査まではまだ時間があるのでその時までに射を戻しといてくださいね」
 「2月ですからね。まぁ期待せずお待ちください」
 「ハァ...まぁ良いや、弓矢14話始まります。」
 「ちょっと日常回が少なかったのでちょっと観光させてみました」
 「観光は日常と言わないですけどね」
 「まぁ一度は首都にも選ばれた町、ヴィシーの紹介も兼ねているので是非参考にしてください」
 「大半はオリジナルですけどね...」
 「そこは言わない約束でしょ!」
 「まぁいいじゃないですかw事実だし」
 「グスン、ひどい...」
 「さぁそれでは」
 「14話」
 「「よろしくお願いします」」

 


 ヴィシー学園クラブ棟弓道場

 

 キーンコーン

 

 「さぁ〜てと、今日はこの辺にしとこか?」

 

 「おけ!」

 

 私は時計を確認し、片付けを始めた。

 

 今日は週末であるため、部活は午前終わりなのである。

 

 私が弓に張られた弦を外し、道場の清掃をしている間に他の生徒は的と安土の整備をして、少しでも作業が早く終わるよう分担して片付けをしている。

 

 ちなみに、まだ私以外的前に立っていないが、筋トレも兼ねて他の生徒の担当にしている。

 

 

 「ハルちゃん先生!!全員揃ったよ。」

 

 

 カリーネが人数を数えて報告した。

 

 私がぼーっとしているうちに皆片付けが終わったようである。

 

 私達は射場に並び座った。

 

  私は全員が静かになったのを確認してから

 

 

 「拝礼します、礼!」

 

 

 神棚(ここでは祭殿)に向かって拝礼した。

 

 

 「「ありがとうございました!!」」

 

 

 これで今日のクラブ活動は終わりである。

 

 私がこれから何しようか悩んでいると

 

 

 「ハルちゃ〜ん!!ちょっと温泉行こ?」

 

 「良いよ〜、何処に行く?」

 

  

 温泉セットを持ったカリーネが誘ってきた。

 

 私はロッカーに仕舞っておいた予備の着替えを鞄に詰めた。

 

 

 「ハルちゃん、そこは歩きながら決めよ〜?何件もあるんだから」

 

 「おけ、あ~お金足りるかな?」

 

 

 私が財布の心配をしていると

 

 

 「ハルちゃんあんまし自覚無いようだけど、一応王女だからお金の心配は無いと思うわよ」

 

 「忘れてた♪(テヘッ)」

 

 「ハルちゃん殿下に財相はお任せ出来ませんわね」

 

 「ひどい!!」

 

 「ハハハッ冗談よ、冗談w」

 

 「もう!!(プイッ)」

 

 

 ここのところカリーネに話の主導権を握られ放しである。ちょっと悔しい。

 

 私がちょっといじけてるのをみたカリーネは私の手を引っ張ってきた。

 

 

 「いじけてても何も始まらないわよ!さぁ行きましょ!」

 

 

 私はカリーネに引っ張られるままに校門を出た。

 

 ......

 

 ヴィシー、そこはいくつもの温泉が並ぶ温泉街である。

 

 史実では紀元前より利用され、ナポレオン三世の治世には都市改造が行われ国内最大級のスパやカジノが出来た。

 

 そういった施設があるからこそ、フランス降伏後、フランス国の臨時首都として利用された。

 

 この世界ではヴィシー学園や陸軍工廠が作られたこともあり、史実以上に発展し、また国内唯一の鉄道がヴェルサイユから通っているため、1大観光地として発展した。

 

 そのためか、本来ナポレオン三世の頃に作られた様な劇場やカジノが既にあり、非常に賑わっている。

 

 さて、話を戻して私達はというと

 

 

 「ハルちゃ〜ん、これ美味しいね!!」

 

 「うん、サイコー♪」

 

 

 温泉で茹でた卵、温泉卵を味わっていた。

 

 本来、海外にはない文化だが何故か広まっていた。

 

 口の中に広がる味ととろけるような食感は堪らない。

 

 

 「お嬢さん達可愛いからついでにこれも持ってって!」

 

 「わぁ!!ありがとうおばあさん!!」

 

 

 もう一個ずつサービスしてくれた。

 

 ホント美味しくて堪らない!!

 

 

 「おばあさん、ごちそうさま!!」

 

 「カリーネ、次何処に行こう?」

 

 「うーん、それじゃついてきて!」

 

 

 私はカリーネの後を追って石畳の上を走った。

 

 

 「....やっぱりいつ見ても立派だね」 

 

 「何が?別に普通じゃない?」

 

 

 カリーネからすると見慣れた風景だが、私からすると憧れの風景である。

 

 

 「いや何でも無いこっちの話」

 

 「...変なの〜」

 

 

 そう言うとカリーネは再び走り出した。

 

 多分、カリーネが日本に来たら私からするとどうでも良い風景でも宝石のように映るであろう。私はそう思うと、プッと吹き出した。

 

 

 「どしたの?ハルちゃん」

 

 「いや、ちょっと変な事考えてただけよ」

 

 「ふ〜ん?....まぁ良いや」

 

 

 そんな他愛もない会話をしながらしばらく走ると立派なホールの様な建物が見えてきた。

 

 

 「ついたわよ」

 

 「ここは?」

 

 「温泉ホールって言ってね。飲泉ができる場所なんだよ。」

 

 

 飲泉とは文字通り温泉を飲むという入浴方法で日本じゃあまり見ないがヨーロッパでは流行っているらしい。

 

 カリーネはコップを2つかばんから出すと一つを私に渡した。

 

 

 「ありがとう」

 

 「好きなとこの蛇口を捻って飲んでね。オススメはあそこ!」

 

 

 カリーネはそう言うと一つの蛇口を指差した。

 

 

 「ちょっと酸っぱいけど体が温まるわよ!」

 

 

 私はまずカリーネオススメのお湯から飲んだ。

 

 確かに酸味と独特の匂いがあったが、飲んでみると体がポカポカしてきた。

 

 ちょっと違うかもしれないが、ほっとレモンに近いものを感じた。

 

 次に近くの炭酸泉を飲んでみた。

 

 コップに注ぐとプクプクと泡が登っているのがみえる。

 

 飲んでみると、なるほど温かい炭酸水のように感じた。

 

 カリーネも私に続いて飲んだ。プハーッとおっさんのような声を出して飲みきった彼女はカバンの中から何かを取り出し私のコップに入れた。

 

 

 「何これ?」

 

 「うーんと、飴玉だよ。多分美味しくなるかなって思って」

 

 「....自分のでやらないのね」

 

 「ハルちゃんが美味しいって言ったらやってみる!!」

 

 「って!私は毒味かい!?」

 

 「テヘヘ、多分美味しいからやってみて」

 

 

 私はハァーとため息をつきつつも自らの好奇心には勝てず蛇口を捻った。

 

 ゴクゴクッ

 

 

 「美味しいわッ!!」

 

 「やっぱり〜?私もやってみよ」

 

 

 飲んでみて感じた事は昔飲んだサイダーの様な爽やかな味を感じた。

 

 どうも飴はハッカのようである。温かい湯温によりすぐに溶けたそれはまさしく日本のサイダーを思い出す味であった。

 

 甘い炭酸の泡が喉の奥で砕ける感覚は気持ちが良い。

 

 

 「プハーッ!!何これ美味しいわね!?」

 

 

 カリーネも同じように味わっている。

 

 

 「今度来たとき色んな飴で試してみよっと」

 

 

 カリーネは口直しに比較的普通の温泉を飲んでからコップを仕舞った。

 

 

 「次はどこ行く?」

 

 「そろそろ本題のお風呂入ろっか?」

 

 「おけ、コップありがとう」

 

 

 私はコップをカリーネに渡した。カリーネは一通り片付けを終えてから歩き出した。

 

 .......

 

 

 「広いねぇ!」

 

 「そりゃ、そうよ。この辺で一番大きい場所なんだからね」

 

 

 私は浴場を見渡してつぶやいた。

 

 私がいた時代のようにジャクジーや電気風呂のような特殊な施設はないが、風呂としての大きさは目をみはるものであり、またたくさんの種類の温泉を楽しめるようになっていた。

 

 私は体を洗ってから湯に入ろうとしたが湯に足をつけた瞬間....

 

 

 「熱っ!?」

 

 

 私は魚のように跳ね上がった。

 

 

 「ハルちゃん....ここの湯の温度分かる?」

 

 私は温度計(当然液式だが)を見てびっくりした。なんと45℃に達していたのだ。

 

 

 「ゆっくり入らないとやけどするわよ?」

 

 

 そういうカリーネも顔を真っ赤にして痩せ我慢しているようである。

 

 

 「....なんか私たち釜茹でにされてるみたいね」

 

 「そりゃ、そうよここの名前'鍋'だもの」

 

 

 私は冗談かと思ったがプレートを見るとそう書いてある。

 

 熱いお湯により体の凝りを解かしてリラックスすることが出来るそうだが、まるで自分達が麺のように料理されるかのように感じた。

 

 私はゆっくりと足をつけ、次に腰、胸の順番で使った。

 

 最初は熱くて堪らなかったが、なれて来るとなるほど、体中の筋肉が解れて来るように感じた。

 

 

 「あぁ~、確かに気持ちいいわねぇ」

 

 「でしょ、最初は辛いけど慣れればこっちのもんよ♪」 

 

 「カリーネはここ何回か来たことあるの?」

 

 「毎週クラブ後に通ってたわ。」

 

 

 どうりで慣れている訳だ。クラブ後にすぐ居なくなると思ったらこんなとこに来ていたらしい。

 

 

 「ここは私の秘密基地よ!」

 

 

 カリーネが胸を張りながら自慢する。

 

 

 「....秘密にしては人多いけどね。」

 

 「それいっちゃおしまいよ」

 

 「「ハハハハ!!」」

 

 

 私たちは一通り笑いあった後、カリーネが聞いてきた。

 

 

 「ハルちゃん、クラブ楽しめてる?」

 

 「急にどしたの?」

 

 

 私はキョトンとなって返した。

 

 

 「いや、私達の指導でいっぱいでハルちゃんあまり引けてなかったから....」

 

 「別に合間の時間縫って引けてるから大丈夫だよ。」

 

 

 むしろ道場貸し切り状態のため前よりも引けてるぐらいである。

 

 

 「ならよかったけど....ハルちゃん寂しくない?」

 

 「....何が?」

 

 「前の時代に戻れなくて」

 

 「まあー、確かに寂しくなるときもあるけど....」

 

 

 私はそういってカリーネに背を向けた。

 

 

 「ハルちゃん....」

 

 

 カリーネが心配そうにつぶやいた。

 

 

 「だけど!」

 

 

 私は振り向きカリーネの目をじっと見つめながら話した。

 

 

 「今はカリーネ達みんながいるから大丈夫!!」

 

 「ありがと、ハルちゃん」

 

 「それよりも....今は自分の事に集中しよ、早く一緒に引く人が欲しいわ。」

 

 「まぁ....なるべく頑張るわ」

 

 「もう、頼むわよ」

 

 私たちはその後しばらく談笑しながら、のんびりとした時間を過ごした。

 

 ....

 

 「ぷっは~!」

 

 カリーネが名産品、ヴィシー水を飲んでいる。

 

 私たちは風呂から上がった後にすぐ側の休憩室に来ていた。

 

 たくさんのソファーがある空間はのんびりするのに最適だが、現代のテレビやマッサージチェアのある休憩所を知っている私にとっては何か物足りなく感じた。

 

 「せめて....畳やマッサージチェアがあったらくつろげるんだけどねぇ」

 

 「タタミとやらは、知らないけど私マッサージは得意よ」

 

 カリーネ胸を張って自慢してきた。

 

 「....なんか変な事しない?」

 

 「あったり前よ!さあそこに伏せて」

 

 ちょっと嫌な予感がしたけど、私は言われるがままに近くのソファーに寝転んだ。

 

 「行くわよ~♪」

 

 カリーネが指をクネクネさせている。ちょっと気持ちが悪い

 

 「....お手柔らかにね」

 

 そっと指が肩に伸びる。

 

 彼女は何かを探るように肩から肩甲骨、背骨を通って腰まで手を伸ばした。

 

 「うーん...やっぱり、だいぶ凝ってるねぇ、まぁ私に任せて♪」

 

 そう言うと彼女は肩を揉み始めた。

 

 初めは柔らかく、徐々に力を込めて私の凝りを取っていく。

 

 最初は緊張して固まっていたが、それも解れてだいぶリラックス出来るようになってきた。

 

 「ハルちゃん、こんなんになるまで我慢してたら行けないわよ〜」

 

 「まさか、カリーネがこんなに巧いとは思ってもなかったもん」

 

 「まぁ、また今度肩凝った時はいつでも呼んでよね」

 

 「ありがと...」

 

 そのまま意識を飛ばしかけた私だったが

 

 グギッ!!グギギ!!

 

 「痛っ!?カリーネちょっと痛いよ!?」

 

 私は背中に骨と骨を擦るような鈍い痛みを起き上がった。

 

 「ダメダメ!ハルちゃん今背骨のズレ取ってるところだから寝てて!」

 

 「てっ!そんなとこずれて..イタタタタッ!?」

 

 「今すぐに楽になるから待ってて」

 

 「ーーー!?」

 

 私は声にならない叫びを上げながら意識を手放した。

 

 楽になるって死ぬって事かと本気で疑った瞬間であった。

 

 ...しばらくたってから私は眠い目をこすりながら目を覚ました。

 

 確かに体中の凝りが無くなった気はするが未だに痛みが残っている。

 

 しばらくボーっとしていると、私の様子に気づいたのかカリーネが水を持ってきた。

 

 「おはようハルちゃん、私のマッサージどうだった?」

 

 「いや〜、死ぬほど気持ちよかったよ〜」

 

 「そこまで言ってくれるの!ありがとう〜」

 

 私は若干皮肉を含めていったが彼女はヘラっとしながら喜んだ。

 

 まぁ実際気持ちよかったのは確かなのだが、もう少しお手柔らかにお頼み願いたい。

 

 私は水を一気に飲み干してから周りの身支度を整えた。

 

 「さて、次はどこに行こか?」

 

 「どうしようねぇ、また街周る?」

 

 「うーん、それでも良いけど...あっ、そうだ!」

 

 「ハルちゃんどしたの?」

 

 私は地図を眺めてひらめいた。

 

 「お腹も減ってきたし、夕ごはんにしようか」

 

 ....

 

 「わぁー!!凄いわ。こんな眺めのいい場所があったなんて」

 

 カリーネが欄干から身を乗り出し叫んでいる。

 

 ここは、王家の別荘ヴィシー館。

 

 ヴィシーを開発するに当たって官吏を置く建物として作られたが、そういった機能は学園の方に集約されたため建物だけ残ってしまったのだ。

 

 そこで国王はこの建物を別荘として改装し、普段はレストランとして営業することになったのだ。

 

 宮廷一の料理人の作る料理を味わえることもさることながら、市内を一望出来る素晴らしい眺めを楽しみながら食事ができるため市内でも人気が高い。

 

 「ここからの眺めは最高よ。お義父さんもまだ来たことは無いけど、この地を選んだセンスは抜群ね」

 

 私も横に並び一緒に眺めた。

 

 よく見ると市内の至る所から湯気が登っている。

 

 日本でもよく見た温泉地ならではの風景だ。

 

 「殿下、お食事の準備が出来ました。」

 

 給仕の一人が恭しくテーブルを指す。

 

 「ありがとうございます。」

 

 ちょうど夕日が沈むところである。夕食にはもってこいのタイミングだ。

 

 「殿下、当店へようこそおいでくださいました。せめて事前の連絡等をして下さったら貸し切りにも出来たのですが...」

 

 給仕にかわり料理長が挨拶に来た。

 

 「いえ、そこまでは結構です。こちらは市民にも人気があるのでしょう?」

 

 「ハハァー、さすが民衆に人気のあるお方ですね、お心遣い恐縮です。」

 

 「こちらこそ、急な来店に対応して下さりありがとうございます」 

 

 「勿体ないお言葉に御座います。では私はお料理の方をお作りいたしますので失礼いたします。」

 

 最後に頭を下げてから料理長は厨房へと戻っていった。

 

 その様子を黙ってみていたカリーネは

 

 「なんか、凄いね。普段の生活じゃハルちゃんあまり王女様って感じじゃないけどさっきはオーラ出てたわ。」

 

 「ちょっと恥ずかしいけど大切なことよ///」

 

 私達はその後夜景を見ながら運ばれてきた料理を楽しんだ。

 

 「カリーネ、今日はどうだった?」

 

 「凄い楽しかったわ、って誘ったの私なんだけどね」

 

 「なら良かった」

 

 そう言うと私は紅茶を飲んでいた手を置き、空を見つめた。

 

 「ホントにここはきれいだねぇ」

 

 「そう?いつも通りの空だけど...」

 

 カリーネはキョトンとしながら同じく空を見つめる。

 

 「私のいた時代はね、凄い文明が発達してて、夜もいつも賑やかだったけどさ、その明かりに隠れて今まで見えてた自然の輝きが見えなくなっちゃったんだよね。」

 

 「...ふーん、だけどそれは進化の過程上どうしようも無いことじゃない?」 

 

 カリーネは特に考えることなくそう答えた。

 

 現代であれば、色々と悩むところなのかもしれないが、この時代の人間にとっては進歩こそが主であり、環境は従なのである。ある意味カリーネの答えは当然の答えなのかもしれない。

 

 「確かにそうかもしれないけど、進化を求めるあまり足元を疎かにしていると大切なものを無くしちゃうかもしれないよ。あの夜空の輝きのようにね?」

 

 それを聞いたカリーネは少し考える素振りを見せた後口を開いた。 

 

 「まぁ私にゃ未来のことは何もわからないけど、今ハルちゃんと一緒にいられるこの時間は楽しいわよ、今はそれで良いんじゃないかな?」

 

 「カリーネ...」

 

 そう言い切るカリーネは自信に満ちた表情をしていた。

 

 思わず見惚れていると、カリーネは私の様子が気になったのか聞いてきた。

 

 「...ハルちゃんダイジョブ?」

 

 「あっ、えっ、うん大丈夫だよ?」

 

 「ホントに〜?実は私に惚れたんじゃ無いのw」

 

 図星である。

 

 「そんなこと無いよ!馬鹿なこと言わないでよ!もぉ!///」

 

 私は顔を真っ赤にしながら反論した。

 

 「やっぱハルちゃん可愛いねぇw」

 

 「もう!バカバカ!///」

 

 私はポコポコとカリーネを叩く。さっきのオーラとやらはどこに消えたのであろうか? 

 

 その様子をカリーネは微笑ましく見ていた。一通り騒いだ後にカリーネが口を開いた。

 

 「まぁ、だけど今日はありがとう!」

 

 「こちらこそ楽しめたわ」

 

 「これからもよろしくね」

 

 「こちらこそよろしく!!それじゃ帰ろっか」

 

 その後も私達は美しい夜空を眺めながら寮へと帰った。

 

 こうして短くも楽しい休日は終わった。

 

  




 「さて、14話も終わりました」
 「あぁ、温泉の話してたら僕も行きたくなりました!」
 「行けば良いじゃないですか?市内温泉たくさんあるし」
 「ただ、お金と時間が足りなくて行けないのが現状でして...」
 「有給取ればいいのに」
 「まだ使いたくないです!」
 「どこで使うんです?」
 「未定!」
 「なら良いじゃないですか」
 「だけど風引いた時が怖いので残しときます」
 「なら仕方ないですね」
 「皆さんも休める時に適度に休んでくださいね」
 「それでは」
 「さようなら」

 次回 未定!(多分学園回)


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弓と剣

「皆さんこんにちは作者です。」
「同じく涼太です」
「私は若干早けなのですが無理矢理10数えてから話したら当たりが戻ってきました」
「むしろ今まで早けなのに数えてなかったんですか?」
「数える前に離してしまうのが大半で、数えるとビクビク震え出すんですよね」
「その調子だから高校時代苦労したんですね」
「恥ずかしながら...」
「早けを直せば道は開けると思うので頑張ってください」
「もし読者の中にも早けで苦労されている方がいたらお互い頑張りましょう」
「さて15話始まります」
「今回は前回のカリーネに続き、シレーヌの話になります。」
「ソバールや叔母さんもするのかって?」
「わかりません、今のところは未定です」
「さて、今回は弓を離れて剣の話となりますが、作者は剣道の経験が体育以外ありません」
「一応刀に関してはちょろっと研究しましたが、体育の授業では散々でした」
「そんな状態であるため、フェンシング等西洋剣術に関しては、そういった物があると言うことしか知りません」
「そのため、中途半端な表現が多発すると思いますが、どうかご容赦下さい(今後のためにもご指摘歓迎いたします)」
「それでもよろしいと言う方は」
「「よろしくお願いします」」


 ヴィシー学園

 

 キリキリー!.......トンッ! パンッ!

 

 

 「相変わらず順調よね〜」

 「いや、ちょっと自己流が出つつあるから直さないと...」

 

 

 シレーヌは羨ましそうに見るが私は自分の手を見つめながら呟いた。

 

 今までシレーヌ達の事をずっと教えてきたため、曖昧な所を自分なりに解釈してしまった所があった。そこが射に響いてきたのであろう。

 

 

 「私にゃ、分からないけどなぁ...」

 

 「シレーヌだってあるでしょう?剣振ってるときになんかしっくりこない感じ」

 

 「まぁ確かにあるけど...あんまし深く考えすぎない方が良いわよ」

 

 「うーん...困ったなぁ」

 

 

 そうはいっても弓道はちょっとした甘えが早けやびく等の難癖につながるため、嫌でも気にしてしまう。 

 

 それを見るとシレーヌは呆れたように息を吐きながら

 

 

 「ハァ...ちょっとこっち来て」

 

 

 私の手を引っ張り射場を飛び出した。

 

 

 「ちょっと!どこ行くの!?」

 

 「すぐそこよ!」

 

 

 シレーヌはあるクラブの扉を開け、中に入った。

 

 フェンシングクラブ、シレーヌの所属するもう一つのクラブである。

 

 

 「今日は休みで誰もいないから自由に使えるわ!」

 

 「そうはいっても叔母さんの許可取れたの?」

 

 

 私達はクラブ中に飛び出したのだ、優先すべきは弓道の方である。

 

 

 「飛び出す瞬間に合図送ったら、楽しんでおいでだって」

 

 「なら良いけど...何するの?」

 

 「何って稽古以外に何があるの?」

 

 

 シレーヌは何を聞いているのかと言った表情をしていた。

 

 

 「あのね、シレーヌ、私フェンシング未経験何だけど...」

 

 

 

 剣道は前の世界の体育の授業でちょろっとやったが、フェンシングに関しては完全に未経験である。

 

 

 「何もクラブとしてやる訳じゃないからやり方ぐらい何でも良いわ!適当にかかってきなさい...とはいえ、安全対策に防具はキチンとつけてね」

 

  

 シレーヌはポイッと防具と剣を渡してきた。

 

 私はそれをそのまま道着の上から付けて準備をした。まるで剣道をするようなファッションになったが、するのは一応フェンシングである。

 

 

 「一応ルールとしちゃフェンシングと同様としたいとこだろうけど、フェンシングやったこと無いと分からないと思うからハルちゃんの剣が私の体...まぁ、胴体ならどこでも良いよに当たったら終わりね。」

 

 「終わり!?勝ちじゃなくて!?」

 

 「多分、ハルちゃんじゃ私に勝つのは無理だろうで、当てられるまで終わりませーん、て事にしました」

 

 

 シレーヌのようなベテランであれば確かにポイントで勝つのは無理であろう、しかし終わらないと言うのも先が全く見えない

 

 

 「クラブの終了時間までに終われたらまた今度ご飯奢るわね!」

 

 

 逆に言うとクラブの時間を超えてもするつもりなのであろう。

 

 私はハァーとため息を吐いてから構えた。

 

 それを見てシレーヌも構えた。

 

 

 「準備は良い?」

 

 「うん」

 

 

 二人の間にはピリピリとした空気が流れる

 

 私達はしばらく間合いを保っていたが、ピリピリとした雰囲気にやられた私は...

 

 

 「ヤッー!!」

 

 

 突きを出してしまった。明らかに早けである。

 

 それをみたシレーヌはひょいと横を向いたと思うと、スルッと私の脇の下に剣を当ててきた。

 

 何事でもないような顔をしたシレーヌは剣を離し、構え直した。

 

 

 「焦ったね、ハルちゃん」

 

 「ちょっと雰囲気に飲まれたわ」

 

 

 私もすぐに剣を構えた。あまりにもあっさりやられたためちょっと拍子抜けたが、いい準備運動にはなった。

 

 次こそは機を違えぬよう、深呼吸をする。

 

 

 「それじゃ、始めるよ」

 

 

 私は気持ちを落ち着かしてからまっすぐ前を見つめた。

 

 次こそは確実にやる、そんな気持ちで小さく頷いた...と思ったら次の瞬間!!

 

 私の剣は空を飛んでいた。

 

 シレーヌの剣もぴったり体に触れている。

 

 何が起こったのか分からず唖然とする私にシレーヌはこう言い放った。

 

 

 「私がハルちゃんの考えてることわからないと思った?残念丸わかりでした〜」

 

 

 そもそもかんがえる前に速攻を決められたのだが

 

 

 「本来の私はこういった速攻が得意だから今日はもうしないけど、次対決することになったら注意してね!」

 

 

 今のは彼女にとって宣伝のつもりだったのか。

 

 私はそこまで余裕のあるシレーヌが羨ましく思えた。

 

 

 「まぁ、せめて普通のスピードには付いてけるようになってもらわないとね」

 

 

 シレーヌはそういって剣を再び構える。

 

 前クラブ見学をしたときにシレーヌの剣捌きを見たが、今日はその時以上にキレが入っているように感じた。

  

 私はそこまで考えたらところでふと疑問が湧いてきた。

 

 

 「そういえばシレーヌって剣こんなに巧いのになんで弓道もしようと思ったの?」

 

 

 普通に考えてここまでフェンシングに力を入れていれば弓道までする余裕は無いはずだ。

 

 それを聞くとシレーヌは少し考えた素振りを見せた後に答えた。 

 

 

 「まぁ純粋にハルちゃん達の影響っていうのもあるのかも知れないけど、それ以上になんかしっくりくるんだ」

 

 「うん?しっくり来るってどゆこと?」 

 

 「ちょっと長くなるけど...ハルちゃん達がクラブ見に来てくれた時あるでしょう?」

 

 「うん」

 

 「その時ね、勝ちはしてたんだけどなんか自分の中でスッキリしない感じだったんだ。」

 

 

 シレーヌは天井を見つめながら話した。

 

 

 「で、ある日を境にめっきり勝てなくなっちゃってね」

 

 

 たはは、と苦笑いをするシレーヌからはなんか寂しさを感じた。

 

 

 「スランプみたいな感じ?」

 

 「多分そうだと思う。ただモヤモヤっとしたものは相変わらず残っててね。もう困っちゃったよ」

 

 「大変だったんだね」

 

 「こんな経験久しぶりだったからね。もうがむしゃらになってやってたけど、ある時ふと鏡を見たらね、もう酷い顔だったわ。普段は自分でも憎たらしいほど自身ありげな顔してるのにね」

 

 

 彼女は笑いながら側の鏡を見た。

 

 私は今日の彼女は普通に落ち着いた表情であると思った。

 

 

 「その時よ、貴女達が弓道やってるって聞いてね!」 

 

 

 あぁ、ソバールが道場建設を漏らしたときの事であろう。

 

 

 「最初は単なる興味に引かれた気分転換のつもりだったのよ」 

 

 

 にしてはグイグイ来ていたようなきがする。

 

 

 「だけどね、ハルちゃんの射を見てるとね、不思議な事に落ち着いてね。実際自分がゴム弓引いてみたときもなんかザワザワっとしたものが収まった感じがしたんだよね」

 

 「そうだったんだ。」

 

 

 確かに弓道は立ち禅と言われるように精神の安定を常に求めるものである。ゴム弓でそれを出来たこともすごいが、そのことに早くも気付けた事はすごい。

 

 おそらくフェンシングで身につけた武人の勘と云うものであろう。

 

 

 「それでね、この時の気持ちでフェンシングをしたらね、妙に落ち着いてね、しっくり来たんだよね。それで練習を重ねたら...」

 

 「あんだけ早く動けるようになったんだね」

 

 「そそ。友達も驚いてたよ、だけどそれ以上に私自信弓道の秘める力に驚いてね。すっかり虜になっちゃった。」

 

 「そうだったんだね...だけど両立出来てる?」

 

 

 私はちょっと心配になり聞いたが、シレーヌはごく当然のように答えた。

 

 

 「出来てなかったら、こんな速く剣を振れないよ」

 

 

 シレーヌは剣をくるくると振ってみせた。簡単に凄い事をするから羨ましい。

 

 

 「なら良いけど...」

 

 「さあ、話はこの辺にしといて再開しよか?」

 

 「うん」

 

 

 私とシレーヌは再び剣を構えた。

 

 心なしか私の気分も落ち着いているように感じた。

 

 私は一度目を閉じて剣を握り直した後、適当な場所に突きを行った。

 

 当然それは回避され私の腹に剣が近づくのだが、私はさらに手を繰り出し、シレーヌの背中をとった。それにより、シレーヌの剣は回避することが出来たが、すぐにシレーヌも体を翻し、剣で防いだ。

 

 お互い一進一退の鍔迫り合いとなった。

 

 シレーヌはさっき同様落ち着いているが、若干表情に焦りがみえる。

 

 ギリギリとお互い押し合いながら心に余裕が出来たシレーヌは私に話しかけた。

 

 

 「ちょっと腕を磨いたね。」

 

 「そりゃどうも」

 

 

 これなら行けるかも、と油断したその時!

 

 

 「でも甘い!!」

 

 

 シレーヌは突然剣を引くと、前によろけかけた私の背中を叩こうと、剣を振り上げた。

 

 私はとっさの事に対応できず、ただ剣を上に上げる事しかできなかった。

 

 パチンッと腹に衝撃が走った。

 

 あとちょっとであっただけ悔しい。

 

 シレーヌは剣を戻すと胸を張って自慢げに話した。 

 

 

 「ハルちゃん、奇襲は良かったけどそっから先の建て直しができないと私には通じないよ!」

 

 「ちょっと悔しいけど仕方ないわ...うん、次こそは勝つわ!」

 

 「良し!そのいきよ!ハルちゃん」

 

 

 私は剣を構えた。何度も剣を振ってきたため、疲労も溜まってきたが、興奮しているためか、逆に力が湧いてきた。

 

 シレーヌもゆっくりと剣を構え直す。

 

 

 「準備は良い?」

 

 「良いわ」

 

 

 私は答え、お互いに間合いをとった。

 

 私はさっき同様突く素振りを見せたが、すぐに手元に引いた。それでシレーヌが突っかかるのを狙ったが、それは無いようだ。

 

 それからまたお互い間合いを取り、ジリジリと相手の様子を探りあった。

 

 お互い動かない。

 

 

 「ハルちゃん、突っ込んできても良いんだよ」

 

 「いや、その策には乗らないよ」

 

 「そっかぁ...なら!」

 

 

 そう言うとシレーヌは剣を体の中心に持ってきて、体ごと突っ込んできた。

 

 私はそれを躱すがシレーヌは待ってましたとばかりに振り向きざまにもう一度突く。

 

 私はそれをギリギリのとこで剣で防いだ。

 

 

 「スキも減ったわね」

 

 「お陰様で!」

 

 

 そう言うと私は剣を払い、間合いをとった後、一気に詰め寄りつつ、妨害しようと剣を近づけたシレーヌを無視し通り抜けた。そして助走をつけ、ジャンプし、着地すると同時に胴目掛けて剣を振った。

 

 これで決まるかと思ったが、シレーヌはギリギリのところで回避し、逆に私の背中目掛けて剣を振り下ろした。

 

 私はなんとか回避することが出来たが、汗がダラダラと出てきている。

 

 おそらく次あたりが最後の打突となるであろう。

 

 見るとシレーヌも汗を掻いているようである。

 

 

 「次でラストにするよ」

 

 「それはどうかな?」

 

 「いざ勝負!」

 

 

 私は呼吸を落ち着けてからシレーヌと距離をとり、離れた場所から一気に突っ込んだ。

 

 シレーヌも同様である。

 

 私は剣に渾身の力を込めて振り上げた。

 

 そして、剣と剣が交差した後、僅かながら切っ先がシレーヌの体に触れる感覚がした。

 

 お互い元居た位置の反対側の位置でピタッと止まる。

 

 

 「...」

 

 

 部屋に静かな空気が流れた。

 

 しばらくお互い静止した状態を保った後、シレーヌが参ったように手を上げた。

 

 

 「ハハハ、お疲れ様、今の一打は確かに私に触れてたわ」

 

 「ホントッ!?良かった!!」

 

 「やっぱりこういう一騎打ちはハルちゃん強いね」

 

 「ここぞという精神は弓道が教えてくれたので...」

 

 「今度やるときは本気出しちゃおっかな」

 

 「えっ!?今の本気じゃなかったの!?」

 

 

 私はその言葉に驚いた。

 

 

 「だって、速攻今日一回しか使わなかったし、第一わざわざ一騎打ちなんてことしたんだもんだいぶハルちゃんにハンデはあったよ?」

 

 

 確かに勝つのが目的であればわざわざ一騎打ちなんてせずに、一気に速攻で決めればよいのである。私はちょっと落胆した。

 

 

 「まぁそれでも私に当てれたのは事実だし、良くがんばったわね」

 

 「ありがとう」

 

 「ハルちゃん今日は楽しめた?」

 

 「うん!ちょっと疲れたけど、楽しかったわよ」

 

 

 心なしかクラブのときのモヤモヤとした気持ちも飛んでいったような気がした。

 

 

 「なら、良かった。」 

 

 

 キーンコーンカーンコーン 

 

 ちょうどクラブ終わりのチャイムが鳴った。 

 

 

 「よし、お互い汗も掻いたし、シャワー浴びて帰ろっか」

 

 

 シレーヌは道具をしまいながら話した。

 

 私もビショビショになった道着を洗濯袋に入れて帰り支度を進めていたが、ここで何かを忘れているような感覚を覚えた。

 

 

 「シレーヌ、何か忘れてない?」

 

 「なんのこと?」

 

 「何か重要な...あっ!そうだ!ご飯!」

 

 「げっ!そうだった、忘れてた...」

 

 

 試合前に時間内に終わったらご飯奢る事を約束していたのである。

 

 シレーヌ残念、あと少し思い出すのが遅れていたらチャラになったのに

 

 私達はこの後街に繰り出し、温泉街の露天を回った。当然シレーヌの財布である。

 

 シレーヌは私の想像以上の食べっぷりに頭を抱えていたが、キチンと払ってくれた。

 

 そんなシレーヌを見て、流石にちょっとやりすぎたと思ったたむ、どこかの機会にお返ししよう思った。

 

 ......

 

 翌日

 

 キリキリー!.......トンッ! パンッ!

 

 

 「調子はどう?」

 

 「お陰様で!」

 

 

 私はシレーヌの方を向き答えた。

 

 昨日感じた違和感はどこへ消えたのかスッキリとした気持ちで引くことが出来ていた。

 

 

 「昨日はありがとう」

 

 「楽しめたのなら良かったわ、さて私も巻藁引こ」

 

 

 弓と剣、どこか通じるところがあるのかもしれない。

 

 そう実感した出来事であった。

 

 

 




「さて15話終わりました」
「そういえば僕たちいっこうに登場する機会が訪れないのですが、いつ再登板できるのですか?」
「一応決めてはいるのですが、もう少し後になります」
「良かった。一応生きてはいるんですね」
「勝手に殺しはしませんよ」
「ちょっと信用出来ないので(エター作見せながら)」
「(ギクッ!)まぁ...努力します」
「まぁ出るって言葉が聞けただけ良しとしましょう」
「最初だけのモブにはしないつもりですのでご期待下さい」
「待ってますよ〜」

 次回 巻藁、的前、私の明日はどっち?巻藁テスト


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 巻藁テスト

「皆さんこんにちは作者です」
「同じく涼太です」
「最近放置してた巡洋戦艦フッドのプラモ再開しました」
「ホコリかぶって廃艦みたいになってた奴ですか?」
「まだ半年も経ってないはずなんですけどねぇ」
「キチンと掃除してあげてくださいね」
「善処いたします」
「さて、16話始まります」
「今回を以てして巻藁は終わり、いよいよ的前での練習となります」
「弓道始めたばかりの頃、的前立つようになるまではすごく長く感じるらしいですが」
「的前に立つとゴム弓、巻藁の期間がすごく短く感じるようになります」
「この小説もそれくらい続けて下さいね」
「もちろんです!」
「それでは」
「「よろしくお願いします!」」




 ヴィシー学園

 

 「さぁーてと、それじゃそろそろする?」

 

 「良いよー」

 

 「準備OK!」

 

 私は弓を一通り引き終わると皆に聞いた。

 

 今日は巻藁テストの日である。現代日本ではゴム弓や巻藁のテストだけで何日も費やすのが普通だが、私は一通り皆の射を見て、良いと思ってからテストをするようにした。

 

 そのため、実質既に受かっているようなものだが、テスト本番の緊張は試合の時と同じため練習の意味も兼ねてテストを行っている。

 

 当然この事は皆は知らないため、皆緊張した面持ちである。

 

 私は皆が練習する巻藁スペースに移動した後、巻藁の確認をした。

 

 それからテストでの注意点を話した

 

 「まず、前回同様くじで順番を決めて、それから一人づつ巻藁で引いていってね。タイミングは貴女達の引きたいタイミングでいいからね。他の人達は周りで様子を見て自分達の参考にしてね。それじゃくじ引こか」

 

 私はくじを順々に引かせた。

 

 今回はカリーネさん、叔母さん、シレーヌ、ソバールとなった。

 

 「さぁ、それじゃカリーネからね、皆は周りで見てて」

 

 カリーネは弓を持ち巻藁の前に立った。

 

 「準備は良い?」

 

 「うん、良いわ」

 

 「それじゃ、どうぞ」

 

 私はノートを手に一歩下がった場所で審査した。周りにはクラブの皆が並んでいる。

 

少し緊張するかもしれないが、試合に近い条件を作るためにあえてこういう状態を作った。

 

 カリーネは足踏みをした後に、ゆっくりと矢を番えひと呼吸を置いてから、巻藁に顔を向けた。

 

 そして、下から掬い上げるようにうち起こすと、大三をとり、ゆっくりと引き分けた。

 

 その後、会でゆっくりと伸び合い、ピタリと、頬付け、胸弦がつく。

 

 弓の力と引く力がちょうどよい事を示すように、ギリリッーとぎり粉が擦れる音が暫く聞こえた。

 

 ...

 

 静かな時が流れる

 

 実際は僅か10秒にも満たない時間なのだが、無限に長い時間のように感じられた。

 

 パンッ

 

 静寂を切り裂く弦音が辺り一帯に響く。

 

 カリーネはそのまま、残心をとった後弓倒し、面を戻して、矢を引き抜いて一歩下がった。

 

 彼女の試験は以上で終わりである。

 

 私は所見をノートに記し、次の叔母さんを促した。

 

 .......

 

 パンッ

 

 

 ソバールはゆっくりと足を閉じた。

 

 私はソバールの射が終わったのを確認するとノートを閉じた。

 

 「皆、お疲れ様、以上で試験は終わりね。巻藁仕舞っとくから射場で皆はゆっくりしててね」

 

 

 私は巻藁の周りの藁くずを掃除しながら話した。

 

 皆の様子を見ると、安心したのか、一気に疲れが出たのか眠そうな表情をしている。

 

 昨日、テスト前の自主練と言うことで許可を取って夜遅くまで練習したことも響いているのであろう。

 

 ホントに皆良く頑張ったと思う。

 

 私は一通り掃除した後に、ノートに書いた事を纏めて、射場へと向かった。

 

 射場には既に皆が正座して待っている。

 

 最初は正座することすら辛かった面々が今では普通に出来てることに感慨を覚えつつ、私は皆に正対するように座った。

 

 「さて、まず皆お疲れ様、良く頑張ったね。正直指摘出来る事も減ってきてちょっと困ったよ。さて、それじゃ講評に入るわね」

 

 

 私は黒板を近くによせた。

 

 「まず、カリーネ。前はちょっとフラフラしてたけど今日はゆったりと引いていたお陰か落ち着いてるように見えたわ。ただちょっと離れが緩んでたから注意してね」

 

 「分かったわ」

 

 カリーネは言われた事を早速メモした。

 

 彼女、抜けてるように見えてマメなとこがある。

 

 「次に、叔母さん。前回同様落ち着いてらっしゃいますね。正直指摘出来る所が分からないくらいです。」

 

 「フフフ、そうかしら?」

 

 叔母さんは嬉しそうに微笑んだ。彼女自信顧問であるため、生徒の範となるべく努力しているようだが、正直私より叔母さんの方が巧い気がした。

 

 「えぇ、ただ若干力んでる所があったので、もう少しリラックスされた方が良いと思います。」

 

 「そぅ、ありがとう」

 

 「次にシレーヌ。前よりも一つ一つの動作を丁寧に出来ていて、良かったわよ。ただ、会が皆より若干短くなってたから、早けにならないよう気をつけてね。まぁ今の時点じゃ問題は無いかも知れないけど...」

 

 「はーい」

 

 「最後にソバールね。ソバールも良く頑張ったね、前と違って肩も落ちてたし、自然に引けてたよ。ただ、ちょっと弓手が緩んでたから注意してね、下手にやると弓ずり落とすからね。」

 

 実際私も弓返りさせる事に夢中になり、弓返しになった挙げ句、弓を離れと同時に離す癖が付き随分と苦労したものだ。

 

 ソバールは自分の手をぎゅっと握った後

 

 「ハイッ!」

 

 と力強く答えた。彼女は一見ひ弱そうに見えるが根は座っている。

 

 多分私のように苦労することはないであろう。

 

 一通り講評を終えた後に私は結果を話した。

 

 「まぁ、そんな感じで皆合格ね。ただ、ここがゴールじゃなくてスタートだから終わったからといって気は抜かないでね。」

 

 実際気を抜いてはいないのだろうが、皆巻藁を終え、的前に立つと的に当てようとするあまり、射が崩れる。まぁ、その崩れた射を元に戻していくのが弓道の醍醐味なのかもしれないが、一応言っておいた。

 

 皆の様子をみるとホッとして胸を撫で下ろす人、お互いに喜びあう人と様々である。

 

 私は一通り皆が落ち着いてから話した。

 

 「それじゃ、これからは的前での射となるけど、手本を見せるから見てて」

 

 私は弓と矢を一手持って本座に立った。

 

 「まず、ここ、本座に立って執弓の姿勢をとり、準備が出来たら揖をして射位に進むわよ」

 

 私は執弓の姿勢を取ったのを普段以上に丁寧に確認すると揖をして、射位へと進んだ。

 

 「射位に進む時は左足より3歩で射位まで進み、着いたら足踏みをして射法八節に則って弓を引いてね。」

 

 私は一射引いた後、ふとある事を思い出して話した。

 

 「そういえば、まだ2本持ちの時のやり方を教えてなかったわね。基本的前は2本一組で一手になるからちょっと注意してね。ひとまず終わったら説明するわね」

 

 私はそう言った後、もう一射引き、一手引き皆の前に戻った。

 

 「まぁひとまず今は試合とか審査とか無いから立射(しかも入退場無し)だけだけど、また時間があったら座射についてもするから、それまでにこの体配は基本だから覚えといてね」

 

 私は黒板に今話した事の順番について書いたが、ふと皆の様子を見ると皆困惑したような表情をしている。 

 

 「ちょっと色々詰め込み過ぎたね。」

 

 「もう、聞いてメモするだけで精一杯だったわよ」

 

 シレーヌが頬を膨らませながら答えた。道理で静かだった訳だ。

 

 他の皆も頷いている。ちょっと夢中になって話し過ぎたみたいだ。

 

 「まぁ、こっから一人ひとり教えてくから心配せんでね」

 

 私は弓矢を置き、かけを外した。

 

 「じゃ、一番最初に引いてみたい人~」

 

 「「...」」

 

 怖いのか誰も名乗り出ようとしなかった。

 

 仕方が無いから適当に指名しようと思った時、

 

 「ハルちゃん先生、私やるわ!」

 

 カリーネが弓矢を持って前へ出た。

 

 「おっ、やる?」

 

 「うん!」

 

 そうはっきりと答えたカリーネだがよく見ると足がブルブル震えている。

 

 「大丈夫?無理しなくても良いわよ?」

 

 「ちょっと怖いけど、今引かなくても、いずれ引くことになるから頑張るわ」 

 

 「よっしゃ、ならここに立って」

 

 私は覚悟を決めたカリーネを讃えつつ、本座を指す。

 

 大事なのは勇気である。

 

 カリーネは近くの鏡で執弓の姿勢を確かめた後、本座に進んだ。

 

 「え〜と、こっから揖をした後に3歩で射位に行くのよね?」

 

 「そうそう、左足から3歩で射位に進んで、そっからは普段通りね」

 

 「OK〜」

 

 カリーネは揖をした後にすっすっと射位まで進んだ。

 

 「それじゃ、初めだし狙いだけ見るから良いよって言うまで離さないでね。」

 

 「分かったわ」

 

 そう言うとカリーネは普段よりも慎重に弓を引いた。

 

 会まで達したのを確認した私は、カリーネの右に立ち、狙いを見た。

 

 「...ちょい前!」

 

 カリーネは指示の通り、前へずらしたが今度は前へ行き過ぎたようだ。 

 

 「ちょい...戻して...」

 

 カリーネが戻す、私はさらに修正しようとしたがカリーネが辛そうだったため離させることにした。

 

 「OK、良いよ」

 

 パンッ!

 

 辺りに弦音が響く。

 

 矢の当たりどころをみると安土の近くの矢道に刺さっていた。

 

 その様子にカリーネは少しがっかりしていたようだが、最初は矢道は当たり前である。

 

 それよりも

 

 「良いところに飛んでったじゃないの!」

 

 「...これのどこが?」

 

 「矢の位置よ、的までは届いてないけど、ほぼ的心じゃない!」

 

 「...確かに言われて見ればそうね」

 

 これの意味することは安土まで届けば、的に中たると言うことである。

 

 修正する必要は無かったようだ。

 

 「じゃあ、後は狙いをもう少し上にして同じようにやってみよか」

 

 「分かったわ」

 

 カリーネはそう言うと、もう一本番えて引いた。

 

 まだ、的には中たらないが安土には達していた。

 

 多分、これならすぐに中たりに達するであろう。

 

 私はしばらくカリーネの射を見た後、他の皆の指導も行った。

 

 皆、最初引く前は怖がっていたが、いざ引く時は狙いを合わせるのに夢中で恐怖感は無くなっていたようだ。

 

 パンッ、トンッ

 

 「やったッー!!」

 

 「おっ、中った?」

 

 近くより歓声が聞こえてくる。一番乗りはシレーヌのようだ。

 

 的を見ると一本だけ中っている。

 

 「おめでとう、シレーヌ」

 

 「ありがとう、ハルちゃん。中ると気持ちいいわね!」

 

 そう言うシレーヌはスッキリとした表情をしている。

 

 「そりゃ、そうよ。皆中出来た時なんかサイコーよ」

 

 「ハルちゃん、ほぼ毎回皆中じゃん」

 

 「それ言っちゃ終わりよ」

 

 「ハハハ、それもそうねw...よし!、おしゃべりはこの辺にしといて頑張るわ。」

 

 「精進なさい」

 

 そう言うとシレーヌは矢をもう一手準備して射位に進んだ。

 

 道場であまり大声で喋るのは良くない事だが、今は多めに見ても良いだろう。

 

 それだけ最初の一中は印象に残るものなのだから。

 

 私は暫くボォーっと皆の様子を眺めた後、再び弓矢を取り、引き始めた。

 

 私も負けていられない。

 

 皆に教える分もっと精進せねば。

 

 そう思った一日であった。

 

 

  




「さて、16話終わりました」
「今回だいぶ少なめですね」
「テストと引き始めに絞ったのもありますが、一番は...」
「ネタが切れましたか...」
「いや、ネタはいくらでもあるんですが」
「でしたら何故?」
「巻藁のネタが切れました」
「結局切れたんじゃないですか!」
「いや、弓道自体のネタはありますよ」
「それは?」
「次回以降載せたいです」
「載せるでは無く、載せたいですかぁ」
「都合等で変わるかも知れないので」
「まぁ...頑張って下さいね(ジトー)」
「(その目やめて)善処いたします」
「それに、作者さん、弓道小説書くのはいいですけど、この小説の舞台消えてません?」
「確かに...地名こそヴィシーであるけど、もう現代高校生の話になっちゃってますね」
「いい加減政治も進めてかないと、皆さん歴史小説だってこと忘れちゃいますよ?」
「まぁ、みな的前に立ったことですし、弓道は一段落ついたこのタイミングがちょうどよいかもしれませんね」
「じゃ、次回は」

 未定!?(その時ヴェルサイユでは!?)


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世界政策

「皆さん新年あけましておめでとうございます、作者です」
「あけましておめでとうございます、涼太です」
「去年2019年を振り返って皆さんはどう思いましたか?」
「作者は高校を卒業し就職しましたが、未だに高校生気分が抜けきれておりません」
「(ギクッ)ま、まだ慣れてないだけですよー」
「いつなれるんでしょうねぇ?」
「ハハハ、いつかですよ、い、つ、か!」
「そのまま社会のゴミにだけはならないで下さいねぇ」
「...善処いたします。」
「さて、弓矢17話始まります」
「今回は久しぶりに政治編となります」
「正直今回もネタが思いつかず短くなったようですが」
「是非とも見ていって下さい」
「それでは」 
「「よろしくお願いします」」




 

 1786年 6月 

 

 ブレスト港

 

 遥達が弓道を楽しんでいた頃、私ルイ16世は再び港へと足を運んでいた。

 

 最近、艦隊の改新がすすんでいるため、そちらの用事で来ていると皆は考えるだろうが、今日は違う。外交を進める上で重要な事をするために足を運んだ。

 

 目の前には最新鋭の蒸気フリゲート、イロンデルとモワーノが停泊していた。

 

 どちらも武装は少ないものの足が速く、また積載量も多いため今回の旅に選ばれた。

 

 私は暫く船を眺めていたが、そこへ

 

 「これは、これは国王陛下。良くおいでくださいました。」

 

 初老に差し掛かるであろう海軍軍人がやってきた。

 

 「ブーガンブィルよ、今度も頼むぞ」

 

 「はい、もう昔と比べて体力は衰えましたが、全力でご期待に答えさせていただきます。」

 

 彼の名はブーガンブィル、約10年程前にフランス人として初めて世界一周をした探検家である。今はラペルーズら後輩達の指導や助言をしている。

 先の独立戦争でも艦隊を率いて活躍した。

 

 「今度は前回と違い東アジアが目的地のため珍しい動物とかは少ないかも知れないが、長年閉ざされた関係を開く絶好の機会なのだ、頼むぞ。」

 

 「はい、今回は動物の変わりに将軍のサインを取ってきます」

 

 そう、目的地は極東、鎖国を続けてきた日本である。

 

 何故このようになったのか、事の始まりは1781年 

 

 ペタン元帥がやってきたばかりの頃

 

 ......

 

 ヴェルサイユ宮殿

 

 

 「ほぉ、これからの世界、アメリカが中心となってくるのか」

 

 「はい、世界中を巻き込んだ大戦争(ww1)の後に疲弊したヨーロッパに変わり、かの国が世界を牛耳るようになるのです」

 

 

 私は今ペタン元帥より未来の世界情勢について聞いている。

 

 

 「やはり時代は王族による支配よりも民衆による支配を望むのだな」

 

 

 私は自ら独立戦争を支援したのもあって民衆の力は良く理解している。

 

 しかし、世界をリードするほどになるとは思ってもいなかった。

 

 

 「ただ、今のような小さな東海岸だけの国のままじゃ無理だったのかもしれません。やはり、北アメリカの大半の土地を有するほど拡大できたのも大きいと思われます」

 

 「同じ大国でも脳筋(人海戦術)のロシアとは大違いだな」

 

 「まぁ、その人海戦術も縦陣突破となり昇華するのですが...その話は置いといて、そのアメリカと同じ頃、ライバルとして世界の列強として成り上がった島国が太平洋挟んだ対岸にありまして...」

 

 「うん?清国あたりか?」

 

 私は地図を見ながら考える今の力関係的に考えると清国あたりだろう。

 

 「残念ながら眠れる獅子はそのまま永眠なされました。」

 

 「となると、ここしか可能性がありそうな場所は無いが...」

 

 私は地図にある島国を指差した。そこにはジャポネと書かれていた。

 

 「そうです。日本です。」

 

 「だが、かの国は200年程前より鎖国をしていたと聞いているが...」

 

 日本に限らず清国も海禁政策をとってはいるが広州に関しては一応開港している。

 

 「はい、確かに長きに渡り鎖国を維持しておりましたが、最近はロシアともサハリンを通じて関係を築きつつあり、他の列強とも後80年後には通商を開始します。」

 

 まあ、今の時代、いつまでも国を閉ざし続けるのには無理がある。当然のことであろう。

 

 「その後、内戦といくつかの対外戦争を経た、彼の国は我々ヨーロッパ諸国と並ぶまでに成長しました。その成長には彼の国自身の力もあるやもしれませんが、ある国が支援をし続けた結果でもあります。」

 

 「ほぉ、どこの国だ?」

 

 「我がライバル、イギリスです。イギリスは南下を続けるロシアを封じる防波堤としての魅力をかの国に感じ取り、支援をし続けました。その結果、弱体化した清国を分割する際に日露で揉め、戦争に発展、しかし勝利したことにより、イギリス本国には何ら影響を受けることなく、封じる事に成功したのです。」

 

 まあ、いかにもイギリスらしい手段であるが、我が国の発展に参考になる話でもあろう。

 

 「そこでです、我が国は七年戦争以来新大陸のみならず、アジアにおいても勢いを削がれております。今はそれにより長引く不況が続いておりますが、これから先工業化の進んだ近代国家において必要なのはアメリカの農作物よりアジア、アフリカの資源にあります。我が国の荒廃はこの地域との交易にかかっていると言えるのです。そこでイギリスが日本では無く中国に夢中になっている今のうちに日本と国交を樹立しアジア貿易の要とするべきと存じます」

 

 「ふーむ、一理あるな、ひとまずオランダ経由で交易が出来ないか聞いてみるとしよう」

 

 こうして、日本との通商を開始する計画がスタートしたのであった。

 

 しかし、最初はオランダ以外との交易を一切受け入れる様子が無く、オランダを介さない貿易はなかなか許可が降りなかった。

 

 この様子に私も頭を悩ませていたが

 

 そこへ

 

 「信じるのが無理と言われるかも知れませんが、私未来からきました!」

 

 日本の未来人、ハルカがやってきた。彼女は恥ずかしそうに話していたが、私にとっては渡りに船である。

 

 しかも、武道を修めていたため、日本の文化の広め役にも慣れる存在であった。

 

 私は再度日本側に文化の交流が目的で国交を築けないか、打診した。

 

 

 そしたら思いの他あっさり許可が下った。

 

 後で分かった事だが、日本の将軍の側近が変わったため国としての方針もコロッと変わったようだ。そのためか、逆に日本側から長崎での貿易が出来ないか打診された。

 

 そして、今日に至る。

 

 

 1786年 ブレスト港

 

 ボォーッ!!

 

 「おっとそろそろ時間のようだね」

 

 「作用ですな、まだまだゆっくりしていたい気分ではありますが、ここらで失礼いたします」

 

 「おぅ、達者での」

 

 ブーガンブィルは出港準備の汽笛と伴に船に乗り込んだ。

 

 私は見送りの列に混じって眺めていた。

 

 

 船内よりラッパの音が聞こえる。どうやら準備は整ったようだ。

 

 一段と大きな汽笛を鳴らした後、船は曳船に引かれて岸壁を離れた。

 

 次にここに戻ってくるのは約一年後である。

 

 私は未来の関係に期待を残しつつブレスト港を去った。

 




「17話終わりました。」
「いや、ほんとに短かったですね」
「最初はスムーズに書き出せたのですが、間が空いた途端ネタを忘れてしまい、その結果がこれとなってしまいました。」
「時間は開けるものじゃないですね」
「次こそは長く実のある内容となるよう善処いたします。」
「さて、作者さん新年の抱負は?」
「弓道で二段とッ(フゴっ!?)」
「弓道もですが、まずは小説の抱負を話しましょう」
「....すんません、ひとまず一ヶ月一本定期投稿5000文字以上、これを普通にできるように頑張ります」
「こんな作者ですが、暖かく見守って下さると幸いです」
「皆さんも新年の抱負は出来ましたか?」
「お互い健康に気をつけて一年を過ごしましょう」
「それでは皆さん」
「「さようなら」」

次回 番外編 遥の日常(21世紀)


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遥の日常 20XX

「皆さんこんにちは、作者です」
「同じく涼太です。早速ですが、作者さん、今年の抱負は何でしたか?」
「(ギクッ!)うん?弐段取ることでしょ?」
「弓道の事は聞いてません!」
「うーん、何だったっけ?(汗)」
「本気で行ってます?(ギロリ)」
「.....一月、一本5000文字以上でしたよね?」
「あれ?そだったっけ?(^^;)」
「ちゃ~ンっとこの耳で聞いてましたよ?」
「あっそう、だけど今回5000行ってるよね?(相変わらず駄文だけど)」
「......先月分、どうしたんですか?」
「先月は、色々ありましてぇ〜.....」
「言い訳しない!出来なかった事には違いないですよね?」
「ははぁ、おっしゃるとおりにございます」
「全くもう、まだ3月ですよ?そんなんで12月までに習慣づけられますかね」
「ぜ、善処いたします。」
「さて、弓矢18話始まります。」
「今回は番外編で主人公のもう一つの趣味に焦点を当てた物となっております。」
「現代での生活を振り返った内容となっております。」
「正直このところ落ちの無い話ばかりですが、もう少し結末をつけた内容を考えられるよう精進して参りますので、これからも」
「「よろしくお願いいたします。」」






 

 

 20XX年 日本

 

 

 「フヒヒ、ようやく出来たわ」

 

 

 私は薄暗い部屋の中、組み上がったある物を見つめて呟いた。

 

 一晩不眠不休で作ったもの、

 

 それは

 

 

 「.....巡洋戦艦フッドの出来上がりだ!!」

 

 

 英国海軍1の秀麗艦、巡洋戦艦フッド、のプラモである。

 

 そう、彼女伊藤遥の趣味は弓道だけでなく、海軍史の研究でもあった。

 

 その一つの体現がこのプラモづくりである。

 

 

 これはそんな彼女のちょっと変わった日常を綴った物語である。

 

 

 ..............

 

 

 前日

 

 

 [以上がビスマルクの戦果である!!]

 

 「....うーん、やっぱ英独海軍サイコーね!!」

 

 

 私はユー○ューブに上がっているデンマーク海峡海戦の動画を見て感慨にふけていた。

 

 

 「太平洋方面とは違った熱い殴り合いのような物があるわね...」

 

 

 最近の私の興味は日米海軍よりも英独海軍へと向いていた。

 そのため、プラモの棚も英独艦隊が中心である。

 

 

 「ちょっとー!!遥、時間大丈夫!?」

 

 「あっいけない、もうこんな時間?」

 

 

 

 親が心配そうに部屋に入ってきた。

 

 時計をみると7時30分を過ぎている。

 

 そう、今日は平日である、当然学校もある。

 

 

 「じゃ、行ってきまーす」

 

 

 私は急いで準備をしつつ、学校帰りにプラモ屋に行くことを決意し登校した。

 

 ....

 

 

 「あっ、遥オハヨー!」

 

 「おはよー」

 

 時たますれ違う友達と挨拶を交わしながら登校する。

 

 通っている道はいつもと同じ道だが、今日はなんか清々しいような気分だ。

 

 しばらく走っていると

 

 「おっ、遥、今日も朝練するか?ちょっと遅めだが」

 

 「おはよー、龍くん!やろっか」

 

 彼は弓道部部長の掛井龍之介、通学路が一緒のため、時たま遭遇した時には一緒に朝練をしている。

 

 今日も朝からラジオ体操代わりの弓道をしていくことにした。

 

 

 ......

 

 

 「よっこいしょっと」

 

 ガラガラガラ〜

 

 射場よりシャッターの開く音が聞こえる。

 

 一足早く着替えを済ませた私は安土の整備と的の設置をして、龍くんは射場で着替えてから開いてもらうことになっていた。

 

 シャッターが開いたと言う事は準備ができたのであろう。

 

 「的どうですかー?」

 

 私は脇にずれ、的の位置を見てもらう。今朝は二人のみのため2つしか設置していない。

 

 「....ありがとうございました〜」

 

 私は袴に付いた土を簡単に払って道場へと上がった。

 

 .....

 

 キリキリ!ー.....トン、パンッ!

 

 「ふうっ...」

 

 私は何本か弓を引いた後、一息ついた。

 

 今日は当たりとしては五分五分であるが、気分は良い。

 

 龍くんも見たところ落ち着いて引けている。

 

 「今日のお前、妙に落ち着いてるな」

 

 龍くんが話しかけてきた。

 

 「普段やったら外した途端所作や表情に気持ちがよく現れとるけど、今日は全然そういうの無かったぞ?」

 

 「あら、そう?何があったんでしょうねー?」

 

 

 自分では薄々気づいているがちょっととぼけたように答えた。

 

 「まぁ、なんでも良いけど遥は出来るのならずっとそのペースだとありがたいなw」

 

 「ははは、善処いたします」

 

 キーンコーンカーンコ〜ン

 

 近くの小学校のチャイムがなったのを聞いた彼は時計を見た。

 

 予鈴15分前である。

 

 「よし、いい時間になったし終わるか?」

 

 「オッケー、的片付けてくるね」

 

 こうして短い朝練は終わりを告げ、今日が始まった。

 

 ..........

 

 キーンコーンカーンコ〜ン

 

 「よーし、ホームルーム始めるぞ〜、勉強道具仕舞えよ」

 

 先生が教壇の上より呼びかける。

 

 私は漢字のテキストを机の中に片付けた。

 

 しかし、後ろの方をみるとまだ何かやっているようだ。

 

 今日は実習のレポート提出日である。そのため、最後の努力とばかりに皆この時間に仕上げるのだ。

 

 当然、その様子も先生は見ており、名簿にチェックを入れながら

 

 「はい、今書いてる奴もう一枚提出な」

 

 と、冷酷な宣告を下した。

 

 当然私は昨日のうちに終わらせたため、今書くようなことにはならなかったが、どうやら隣の人はほぼ出来上がりかけていたようだ。

 

 ちょっとしょんぼりとした表情をしている。

 

 私はため息をついた後

 

 「はい、これ貸すから書き上げなさいね?」

 

 私は余分に書いたレポートを一枚彼に渡した。

 

 「あくまで、参考にすること!丸写しはだめよ!?」

 

 「うん、ありがとう!」

 

 彼はパァーっと顔を明るくしながらホームルーム後さっそく作業にかかり始めた。

 

 この分なら多分昼までには終わるであろう。

 

 (まぁ、私もこれじゃなかったら朝までかかってただろうけどね)

 

 私はちらっと彼に渡さなかった方のレポートを見た

 

 そこには弓の絵で解説された引張荷重についての詳細な説明が書かれていた。

 

 「ほんと、弓道やっといてよかった。ネタには尽きないわ」

 

 

 ..........

 

 

 キーンコーンカーンコ〜ン

 

 時は移って夕方

 

 「起立!気を付け!礼!」

 

 「「ありがとうございました〜」」

 

 「フー、終わった、終わった〜」

 

 私は放課後の委員会を終え、一息ついていた。

 

 「流石に、火矢キャンプファイヤーは無理か.....」

 

 「そんなの通ったら逆に怖いですよ」

 

 近くよりツッコミが聞こえてくる

 

 「あっ、涼太くん!」

 

 彼は弓道部の後輩、高橋涼太くんである。部活だけでなく委員会も同じ文化委員である。

 

 今日は文化祭に向けて各クラス、各部活動での出し物を提案するために集まった。

 

 そこで私は弓道の魅力をもっと理解してもらうため火矢を使ったキャンプファイヤーの提案をしたのだが、却下されてしまった。

 

 「第一そんな危ないことどこでするんです?」

 

 「グラウンド?」 

 

 「無理です、駐車場になってますよ」

 

 「あら....」

 

 「あら、じゃない!そんな状態なら通らなくて正解でしたよ」

 

 「プスー、涼太くんの意地悪ー!」

 

 「自業自得でしょ...でもまぁ、弓道体験教室だけでも通って良かったですね」

 

 弓道体験教室とは火矢を却下された遥がとっさに思いついた代替案で、いつも文化祭の時、スペースの余ってる弓道場を使って初心者向けの講座を開くといったものだ。

 

 「まあね、正直私達弓道部は文化祭の出店自体が初だからこれくらいが良かったのかも知れないわね。」

 

 「そうですよ、まずは皆さんに弓道の事を知ってもらうことから始めましょう?」

 

 「ならまあ、それならそれで頑張りますか!」

 

 「はい!!」

 

 「さぁてと、今日もたくさん引くぞー!」

 

 「....先輩、時計見てください?」

 

 「どしたの.....ってもうこんな時間!?」

 

 時計の針は既に部活の時刻を過ぎていた。

 

 「しゃあない、プラモ買って帰りますか!」

 

 「今度は何を作るんです?」

 

 「とある国の巡洋戦艦よ」

 

 「いや、とある国じゃわかりませんよ....(ある程度絞れはするけど)」

 

 「詳細はナイショ♡」

 

 「はいはい....出来たら写真送ってくださいね〜」

 

 「期待して待っててねー」

 

 この後、お互い教室を後にした。

 

 ....

 

 ここはとある家電量販店、パソコンから洗濯機までなんでも揃っている。

 

 しかし、私が買うのは家電では無い。

 

 

 「うーん、やっぱウォーターラインばかりかぁ」

 

 そう、プラモもである。

 

 一度商店街の模型屋に行ったものの閉まっていたため、家電量販店に来たのだが、あるのはどれも洋上の姿を再現しているウォーターラインモデルばかりなのである。

 

 確かに、プラモであればそれで十分なのかもしれない、駆逐艦達と合わせればより一層映えるであろう。

 

 しかし、私の目的はプラモを作るだけでなく、走らせることにある。そのためにはキチンと吃水線下のあるフルハルモデルでなければならない。

 

 正直、この走らせることのために無駄に苦労してることもあると思うが、これは私にとっての譲れないこだわりである。

 

 「うーん、ビスマルク、ティルピッツならあるんだけどなぁ」

 

 高いところにある350分の1シリーズを眺める。どちらも既に完成させ、試運転まで済ませている。

 

 私の望むフッドもこの350分の1で有るのをネットで知った。

 

 しかし、海外のモデルのため、中々見つからない。

 

 「うーん、しゃあない。帰ってアマ○ンで買いますか。」

 

 ホント最近これに頼ってばかりである。店頭に並んでいれば早いのだが、無い以上仕方がない。

 

 私は諦めて帰ろうとしたが、ふとプラモとプラモの隙間にもう一つ箱が見えた。

 

 何だろうと思いどけてみると......

 

 「やったッ!フッドだ!」

 

 何と、無いかと思っていたフッドの350分の1プラモであった。

 

 私は喜びのあまりぴょんぴょん飛び跳ねていたが、ふと、箱に書かれていた値札を見て、冷汗をかいた。

 

 「2万超え....」

 

 そう、2万を軽く超えるくらいの金額となっていたのである。

 

 350分の1シリーズは700分の1シリーズと比べてやや金額が高くなる傾向にあるが、それでもここまでするとは思ってもいなかった。

 

 「2万といえば、お小遣い4ヶ月分...ラジコン機器を含めてこれくらいになるかと思っていたけど.....うーん....」

 

 高校生の私にとっても痛い出費である。

 

 買おうか凄く悩んだが....

 

 「今買わないとこんなマイナーなモデルはいつ無くなるか分からんし....よし!買おう!」

 

 私は、ぷるぷる震えながらレジで会計を済ませ、自転車に箱をくくりつけた。

 

 しばらくは倹約生活になるだろうが仕方ない

 

 私はちょっと後悔しつつもこれから出来上がるであろうフッドの姿に興奮しつつ、自転車を進めた。

 

 ......

 

 「フゥーっと」

 

 風呂を済ませ、寝る準備を済ませた私はさっそく、キットを広げた。

 

 「うーん、上下分割式かぁ.....」

 

 中を見ると船体のスペースとキットのスペースが分けられており、普段の癖で適当に船体のみを取り出しはめ込んでみたが、案の定吃水線上と下が吃水線で分けられて作られていたのだ。

 

 模型として見た時、フルハルモデルとウォーターラインの選択が出来るといった利点もあるが、上と下で反っていたりすると隙等が出来、それを埋めることに成功しても今度は甲板が膨れ上がったりと結構苦労することがある。

 

 しかし、模型ならば無理やり接着剤で固めて仕舞えば多少の歪みは気にならないかもしれないが、ラジコンはそういうわけにはいかない、甲板は完全接着させてしまうとメンテナンスができなくなるため、開けておかねばならない。そのため、甲板が船体にハマらないとそもそも話にならないのである。

 

 「参ったなぁ...まぁしゃあない、これ使うしかないかな」

 

 私は、コンロに行き、やかんの水を沸騰させた。

 

 そして上下を接着した船体をやかんの口のとこに当てて....

 

 「アッチッチ!」

 

 無理やり船体を曲げた。力技ではあるが、今できる事はこれしかない。

 

 一回ですめば楽ではあるが、中々素直には矯正出来ない。

 

 かといって、思いっきり曲げれば今度は船体が割れる。

 

 かなりの神経と体力を使う作業なのである。

 

 「フゥー、やっと、ちょっとはマシになったかな。」

 

 明らかに歪んでいた場所は甲板が収まるぐらいには矯正されていた。

 

 「さて、じゃ本題に入りますか」

 

 甲板が収まったのを確認した私は、やかんを片付け、代わりにドリルとパテを準備した。

 

 次の作業はラジコン機器の設置である。

 

 モーター、サーボ、レシーバー、ESC、等必要な物を船体に仮止めし、だいたいの位置を決める。

 

 ちなみにこれらラジコン機器は一つ一つが高く、最初期はトイラジコンを分解して使っていた。

 

 それじゃないととてもじゃないが、高校生のお小遣いで作れるものではない。

 

 本気でやるととても金が飛ぶ趣味なのである。

 

 ラジコン機器を組むときは位置が大事であり、少しでもずれると進水式が浸水式になりかねない。

 

 私は何度か風呂場で確認しながら位置を決め、仮止めした。

 

 そして最後に吃水線の位置を重りを使って合わせ上下も揃えた。

 

 「よしじゃあ行くよー!」

 

 バランス調整を終えた私はキールラインに合わせて、スクリュー軸が入る所に印をし、一気にドリルで穴を開けた。

 

 これが案外難しく、ちょっとでもミスると曲がってしまう。

 

 そうするともう修正が利かない。

 

 私は恐る恐る、パイプを穴に通す。

 

 「....よし」

 

 何とか真っ直ぐ穴は通っていたようだ。

 

 その後同じように舵の部位にも穴を空け、穴開けを終えた。

 

 何故一軸推進なのかって?そりゃめんどくさいからだよ

 

 私にはまだ2軸推進を作れる技術も気力も無い。

 

 その後、船体外部の形を彫刻刀や小刀で整えスクリューに干渉するものが無いようにした。

 

 2軸推進が出来ればわざわざこんなことしなくても、もとからあるスクリュー軸を使えるから楽だし見た目もきれいだが、この際仕方がない。

 

 スタンチューブを通した後、穴の周りをパテで整え、動力系の作業は終わった。

 

 試しに風呂場で試験走行をさせてみたが、特に問題は無かった。

 

 次は本題、船体の組み立てである。

 

 予め、取説を全部目を通し、組み立て易い順番で組んでいく。

 

 作っても作っても、先が見えない作業に魔が差して来る事もあるが、省略したりせず、最後まで組んでいく。  

 

 その際、塗装のしやすさを考慮して、機銃や高角砲、艦橋等は別で組んでおく。船体に取り付けた方が充実感はあるかもしれないが、後で苦労するので分けておく。

 

 「まだ、このキットはエッチングパーツが少ない分作りやすいわ」

 

 エッチングパーツが多いと、よりリアル仕上げることも出来るが、制作に非常に手間取る事もあるのだ。この前、作ったザイドリッツも手すりのみならず、艦橋を全てエッチングパーツにしてみた結果、途中でやる気が無くなり、しばらく放置するはめになったのだ。

 

 こうして組み上がったパーツを一つ一つ、スプレー&筆で塗装していき、最後に船体に組み付け、ようやく完成した。

 

 時計を見ると既に朝6時を回っていた。

 

 「遥〜時間よ〜...って!何よ、この匂い!!」

 

 母が怒鳴りながら部屋に乱入してきた。

 

 「あっ、お母さんおはよ〜」

 

 「おはようじゃないわよ!何時までやってるのよ」 

 

 「えっ、一晩だけだけど....」

 

 「一晩だけって.....もう、換気はしっかりしなさいよ」

 

 「はーい」

 

 そういうと母は呆れて帰っていった。

 

 「.....さてと、私も行くとしますか!」

 

 「はよ、呉で走らせたいな〜」

 

 私は居並ぶラジコン艦隊の勇姿を想像しつつ身支度を整え、階下に降りた。

 

 

 今日もこうしてなにげない一日が始まる。

 

 




「さて、18話終わりました」
「そういえば作者さん、どうしてこんな話書こうと思ったんです? 」
「まぁ、純粋に主人公の海分が少ないと思ったのと、○独のグルメや某キャンプ漫画のように趣味を紹介するような漫画を書きたくなったからですね」
「最近、キャンプ漫画流行ってますもんね」
「はい、ただ何故か不思議な事に船の事ばっか書いてると弓道の事も書きたくなってくるんですよね」
「ただ単に気が散ってるだけでは?」
「まぁ、それもそうかもしれませんが、おそらく次巻は弓道の内容となると思われます。」
「次こそは落ちのある展開をお願いします」
「まぁ、精進します。後、先程はスルーいたしましたが、弐段通りました!!」
「珍しいですね、初段あんだけ苦労したのに、一回で通るなんて」
「まぁ学生弓道と社会人じゃ受かりやすさが違うなんて噂されていますが、正直自分でもびっくりしました。」
「今回二本とも外してしまったようですが、三段はそれじゃ通りませんからね」 
「次からは半矢的中が条件についてきますからね....まぁまずは弐段にふさわしい射、体配を身に着けられるよう努力いたします。」
「まあ練習期間の5ヶ月を大切に頑張ってくださいね」
「はい、それでは皆さん」
「次回も」
「「よろしくお願いいたします!!」」


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百射会

「皆さん、こんにちは作者です」
「同じく涼太です」
「コロナの自粛期間、皆さんどのようにお過ごしですか?」
「作者は週末の楽しみがなくなり、半ば発狂気味ですが、より弓道を楽しんでるようです。」
「やっぱ、こういうとき巻藁あると便利ですね」
「ほんと、ある意味普段以上に弓道に熱が入ってる気がしますが」
「だってすること無いんですもの」 
「なら、この小説....」
「あっ、今回も...」
「2ヶ月(というかほぼ3ヶ月)空いてましたよ」
「うーん、難しいですね〜、時間はあるはずなのに」
「....もういいです」
「ほんと読者の皆さんすいません、多分この感じだと毎月はちょっと厳しいかもしれません」
「なるべく早く投稿は出来るよう努力してまいりますので」
「どうかこれからもよろしくお願いします」
「さて、弓矢19話始まります」
「今回は100射会を取り上げてみました。」
「作者の母校では一年の時しかやらなかったようでしたが.....」
「弓道マンガ等を見てると結構盛り上がっていたのでやってみましたw」
「妄想の要素が非常に多いですが」
「それでも構わないという方は」
「「ゆっくりしていってね!!」」


 1786年 ヴィシー学園

 

 キリキリッ.....パンッ トン

 

 

 射場に心地の良い音が響く

 

 

 「当たるようになってきたね」

 

 「いやいや、ハルちゃんには負けるわよ」

 

 

 今のはシレーヌのようだ。的中もさることながら、彼女は力強く引くことができている。

 

 

 キリーッキリーッ....トンッ パン

 

 

 ソバールも負けじと当てていく。彼女の見た目と裏腹に矢勢はとても鋭い。

 

 

 キリーッキリーッ......カンッ トン

 

 

 カリーネは他の人たちと違い、すごくふんわりと弓を引いている。しかし、良く伸びあっているため、当たりは確実なものとなる。

 

 皆、巻藁テストの時と比べて見違えるほど上手になっている。

 

 最初は皆弓に引かれていたような状態であったが、今は良く体に馴染んでいるように感じた。

 

 一通り立ちを終えて、休憩の時間に入った。

 

 「みんな、お疲れ様〜」

 

 私は紅茶を淹れ、皆に配った。

 

 「うん、やっぱり、ハルちゃんの紅茶はうまい!!疲れた体に染みるわ〜」

 

 「えへへ、ありがとう」

 

 味に関しては、王室お墨付きである。

 

 普段は顧問たるおばさんが配るのだが、今日は仕事が立て込んでるためか、部活に顔を見せていないため、私が配っている。

 

 弓道に休憩は必要である。あまり激しく運動しないため、あまり取る必要の無いように感じるが、それ故についついやり過ぎて射形を崩したりすることもある。そのため、このクラブでは立ちが終わったら休憩を取るようにしている。

 

 「うーん、6中かぁ、中々難しいなぁ」

 

 シレーヌが悔しそうに記録を見る。

 

 「あの最後一本づつが当たっていたら全皆中できたんだけどな」

 

 「ホント最後一本難しいよね、ちょっとでも考えると外しちゃう」

 

 シルーヌとソバールが頭を捻らせている。

 

 弓道に於いて、最後の一本というのはとてつもない負荷がかかる。それはまさしく同じ的のはずなのにまるで金的を狙っているような感覚である。

 

 「ハルちゃん、普通に皆中してるけど、何かコツとかある?」

 

 「まぁ、そりゃ昔からイロイロ言われてるけどやっぱり一番は......」

 

 「一番は?」

 

 「まぁ、経験だね!」

 

 皆、期待していた答えと違ったのか肩を落とす。

 

 「いやぁ、そりゃね、当てようとしないとか、ボッーと引くとか言われてるけど、どれが一番良いかなんて本人にしか分からないし、精神力つける意味でも自分を知る意味でも場数を踏むのが一番良いかもね。」

 

 「うーん、参ったなぁ」

 

 皆の困った様子を見て、私はふとある事を思いついた。

 

 「とはいってもずっと同じように立ち組んで競射するだけじゃ飽きてくるだろうし.....よし、それじゃ今週末、道場に泊まってある練習をしよう!」

 

 「ある練習?」

 

 「そそ、どんな練習かは、当日のお楽しみ!.....あっ、ただ体力は必要だから前の日にはじっくり体休ませといてね。」

 

 「体力の必要って.....ちょっと怖いな」

 

 「フフ、どんな練習でしょうね」

 

 その後も普段通りに立ちを通して、その日の練習は終えた。

 

 

 

 そして迎えた週末

 

 

 「よーし、みんな集まったね。」

 

 私は皆が集まったのを確認し、説明を始めた。

 

 「今日は百射会をやっていこうと思うわ!」

 

 「百射会?まさか...百本も弓引くの?」  

 

 ソバールが顔を青ざめながら聞いてきた。

 

 「そのとおり、今日一日で100本....は辛いだろうで今日明日の2日に分けて100本引いてみようと思うわ」

 

 普段の練習ではせいぜい立ち4回プラス自由練習といったところのため、せいぜい30か40本ぐらいしか引いていないが、今回はまる2日かけて100本引くのである、驚くのも無理もない。

 

 「そんなたくさん引いて肩故障したりしない?」

 

 カリーネが心配そうに聞いてくる。正直私が居た時代では学生弓道では一日100本くらいゆうに練習してるとこも多かったが、無理してやってはいけない

 

 「一応、休憩時間も十分取りつつやるけど、もし辛かった無理せず伝えてね。あと準備運動、今日はこれを徹底してやろっか」

 

 わたしは皆に指示を出し、二人一組で柔軟体操を行った。

 

 「...ハルちゃん、これ柔軟だけで息上がっちゃうよ!」

 

 「そりゃ、普段よりキツめの柔軟だからね、ただ効果は大だよ」

 

 ソバールを始め皆、若干息が上がっているが、まぁこれくらいなら大丈夫だろう。(シレーヌは平常運転のようだが)

 

 「よーし、じゃ5分間だけ休憩して始めよっか!」

 

 一応皆のためにも少し休憩を取ることにした。

 

 私も軽く腕を伸ばしたりして、リラックスしておいた。

 

 この射場は5人立ちのため、今のクラブ人数なら同時に進めて行くことが出来る。(かわりに看的は自分立ちで見に行くしかないが)そのため、円滑に事を進められる代わりに休むタイミングは意図的に取らなければならない。

 

 私はその事を意識しながら百射会に望むのであった。

 

 「さて、それじゃ、始めよっか。立ち順はシレーヌ、ソバール、カリーネ、私の順番で」

 

 「はーい」

 

 こうして、私達の百射会が始まった。

 

 

 2時間後...... 

 

 

 「これ結構しんどいわね」

 

 カリーネが汗を拭いながらつぶやく。まだ4分の1の25本しか引いていないが、皆疲れが見え始めている。

 

 「そりゃ休憩取りつつとはいっても、ぶっ続けで引き続けているわけだからね。普段とは体力の消耗量が違うよ。」

 

 「これ、100本も持つかなぁ..... 」

 

 「たぶん休憩無しじゃ今の自分達の体力じゃ無理だと思う。だからこそ半々に分けてやったのだけど.....」

 

 ちょっと50本まですら持つか不安になってきた。そんな私の気分を察してか、比較的体力のあるシレーヌが皆に呼びかけた。

 

 「皆、ここからが正念場よ!諦めずに頑張っていこう!」

 

 「そうだね、ここまでならいつも引いてる本数と変わんないし、むしろここからが本番よね、よし頑張るわ!」

 

 「私も、頑張るわ!」

 

 

 ちょっとバテ気味だったカリーネとソバールにも元気が戻ってきたようであった。

 

 シレーヌには本当に感謝したい。

 

 私も再度気を引き締めて、打ち起こした。

 

 ちなみに今での的中はバテ気味のソバールとカリーネは若干普段の的中率よりも、落ちつつあったが、何とか盛り返し、半矢前後をキープしているのに対し、シレーヌは順調なようで8割を維持し続けている。(さすがフェンシングバカは違う)

 

 

 

 キリー......キリー...トンッ パンッ! 

 

 「...ふぅ〜、よし、それじゃ休憩挟もっか、今回は長めね」

 

 30射ほど引いたところでちょっと長めの休憩を挟むことにした。

 

 私もこっちに来てからせいぜい50本/日ぐらいしか引いていないため、ちょっと早く疲れがでてきた。

 

 カリーネは、気分転換がてら走り込みに、シレーヌは柔軟をして使った筋肉を解している。

 

 二人とも普段からスポーツをやっているため、体を休ませる際にも気を使っているのであろう。

 

 私はというと、道場の床に大の字に寝転がった。

 

 場所によっては叱られるが、これが一番リフレッシュできるのである。

 

 ぼんやりと天井を見ながら、今日の射を振り返った。

 

 「前半はまだ良かったけど後半がなぁ.....やっぱり体力つけないといかんかぁ」

 

 「どしたのハルちゃん?」

 

 ソバールが私を覗き込みながら聞く。彼女は私同様大の字に寝転がりながら、本を読んでいる。

 

 「いやぁ、ちょっとね、後半、力んで当て射に走っちゃってね.....まだまだ未熟だわ〜」

 

 私はタハハと苦笑いをする。

 

 本数を稼いでいたり、緊張が度を過ぎたりすると、何かしら違和感があったとしても短絡的に考え、’まあいっか'と'当たればよい'と考えて行射をしてしまうときがある。

 

 確かに、案外それでも良く当たるかも知れないが、それになれると早けや緩みなどの病にかかったりするし、何より美しい射にはならず、射の本懐に反することとなる。

 

 それ故極力出さないようにしないといけないのだが、それが中々難しい。

 

 「いや、ハルちゃん、それは贅沢な悩みだよ」

 

 「どうして?」

 

 「私なんか、半分ぐらいしかあたってないのにハルちゃん、ほとんど中ってる、正直それで十分満足できるものだと思うよ」

 

 ソバールは羨ましそうにつぶやく。

 

 「まあねぇ、昔だったらそれで喜べたんだけどね....今となっては何か満足出来なくなっちゃった。」

 

 始めたばかりの頃はちょっとよく中っただけで舞い上がっていたが、今は中っても何も感じなくなってしまった。だが

 

 「だけどね、やっぱり的中で一喜一憂していたら、その先にあるものに達することが出来ない、射を進化させていくことが出来ないとも思うんだよね」 

 

 「確かにそれもそうだけど....うーん、何か難しいね、ハルちゃんちょっと考えすぎじゃない?」

 

 「ハハハ、よく言われるわ」

 

 「あんまし深く考え過ぎずに、今は弓道を楽しもう?」

 

 「まあねぇ、うん....ありがとう、ちょっと迷いが晴れたわ」

 

 ソバールのおかげでちょっと気を楽にすることができた。

 

 「だけどなぁ、どうすりゃ、ハルちゃんみたいな悩みを持てるんだろう、ある意味私にとって目標だよ?」

 

 ソバールは羨ましそうにつぶやく。

 

 「まぁ、無理やり持とうとしなくても、鍛錬を重ねていくと自然に湧いてくると思うよ」

 

 「うーん、まだまだ道は遠そうだなぁ」

 

 「いや、案外近いかもよ?」

 

 「どしてよ?」

 

 「いままでソバールみたいな子で上手くなっていった子何人も見てきたから」

 

 私は、前の世での記憶を振り返る。最初、運動もしたこともないヒョロヒョロな子や、自信なさそうに引いてる子でもちゃんと続けていれば、他の皆よりも上手くなっていた。

 

 「だから自信をもって、自分の射を魅せていこう!」

 

 「てへへ、ありがとう......私、頑張るわ」

 

 ソバールは照れそうにしながら答えた。

 

 

 

 そこへ

 

 

 

 「おっ、二人ともラブラブかw」

 

 柔軟を終え、カリーネとともに走り込みに行っていたシレーヌが戻ってきた。

 

 そんで、戻ってくるなり放った一言がこれである。

 

 「ばっ、そんなんじゃないし///、だだ話していただけだよ!」

 

 「そうだよ、誤解だよ!!」

 

 当然のことながら、私とソバールは反発する。

 

 しかし、それをみたシレーヌはさらに調子に乗って聞いてきた。

 

 「ぐふふw、私に隠してそんな関係になっていたなんてw、ソバールも隅に置けないねぇw、それで?二人はどこまでいっちゃったのw?」

 

 シレーヌは顔をぐいっと近づけ、迫ってくる。

 

 「ちょっと、調子に乗るんじゃないわよ.....顔近いって!」

 

 「またまた〜、シレーヌには全てお見通しなんだからw〜全て吐いちゃった方が楽だよー」

 

 「だから、誤解だって言ってるでしょう!」

 

 その時

 

 ガラガラー

 

 「ふぅー、スッキリした〜、シレーヌ飛ばしすぎよ〜、ちょっとは私のペースも考え..........」

 

 ランニングから帰ってきたカリーネが私達の姿を見て一瞬固まった後、

 

 「....お邪魔しましたー」

 

 ガラガラー

 

 扉をしめ、何事も無かったかのように去っていった。

 

 「ちょっとカリーネ!?誤解なんだって!!カリーネ!」

 

 射場内に私の悲鳴がこだました。

 

 .......

 

 「....ちょっと調子に乗りました、すいませんでした」

 

 目の前には頭にタンコブを作ったシレーヌが頭を下げている。

 

 あの後、何とかカリーネを追いかけ、誤解を解き、戻ってきたのだが、見ると大分時間を無駄にしてしまっていたのだ。

 

 「全く.....本来だったらもう、今日の練習は終わっているはずだったのに.....シレーヌは罰として今日は居残りで百本引ききること!!」

 

 シレーヌの顔から血の気が引いていく。いくら体力のあるシレーヌとはいえ、普段3.40本しか引いていないのに突然百本も引けるわけがない。

 

 「ちょっと、流石にさっきはやりすぎたけど、一日でそれは無理だよ!」

 

 「いーや、あんな事する体力が残ってるなら、出来るはず。私は見張ってるからやりきりなさい!」

 

 私は有無を言わさず迫る

 

 「まぁまぁ、シレーヌも反省してるんだし良いんじゃない?」

 

 「いーや、だめだね、(やるなら徹底的に仕返ししないとw)私はやるといったら曲げないわよ?」

 

 ソバールが仲裁しようとするが、押し切る

 

 「まぁ、シレーヌは自業自得だからしゃあないとして、自分達も後20本残っているんだからさっさと引ききるわよ」

 

 「そんなぁ、カリーネまで....」

 

 カリーネが他人事のように皆に促した。カリーネの援護を期待していたのか、シレーヌは肩を落とす。

 

 「まぁ、それもそうだね、こうして喋ってる時間が無駄だし、さっさと引いちゃお」

 

 私達は、再び弓矢を手に取り、射位へと進んだ。

 

 ........

 

 「ふぅ、引ききった〜」

 

 私達は今日のノルマを終え、片付けを始めていた。

 

 私は普段通り引けてはいたが後半に行くにつれ、やや中て射気味になってしまった。

 

 カリーネとソバールは中盤バテてきて的中率が落ちてしまったが、休憩後何とか巻き返すことができていた。

 

 しかし、シレーヌは休憩後からちょっとずつ的中率が下がっているように感じた。

 

 今のところ私が50射43中、カリーネが50射28中、ソバール50射26中、シレーヌ50射38中

 

 といった結果となった。

 

 「「「そんじゃ、さよなら〜」」」

 

 カリーネ達はひとまず片付けを終え帰りだした。

 

 「ちょっと、シレーヌ、あんたはまだよ」

 

 私はカリーネ達に混ざって帰ろうとしたシレーヌの肩を、叩いた。

 

 「いや、ちょっと花を摘みに......」

 

 「はいはい、テンプレ的な言い訳は良いですよー」

 

 さらっと逃げようとするシレーヌを中に戻し、弓を持たせた。

 

 「参ったなぁ、正直肩回らなくなってきてるのに.....」

 

 「はよ、やらんと日跨ぐよ」

 

 時間はすでに16時である。ヨーロッパであるため日本よりも日の沈みは遅いが、油断していると簡単に真っ暗になるであろう。

 

 渋々ながらシレーヌも残り50本を引き始めた。

 

 .......

 

 スーッ..パンッ、ブスッ、スーッ、ダンッ、ブスッ

 

 「はぁ....なんで...なんで当たらないのよ!」ドンッ

 

 シレーヌは息を切らしながら弓で床を叩いた。

 

 「物に当たるでない!」

 

 「ねぇ、何でなの、なんでこんなにも...」

 

 シレーヌは嗚咽しながら顔を抑え込む

 

 既に80射以上引き100射までもう少しといったところまできたが、本数をかけるにつれ、徐々に射が崩れだし、的中も会バツだらけと行った状態になってしまった。

 

 弓道は時に残酷である。どれほど努力しても我を失った者には容赦なく破滅を与える。

 

 本来だったら普段引いてる本数から考えても50射くらいで止めさせるべきであったが、私はそれを許さなかった。

 

 「ハルちゃんもハルちゃんだよ!何もここまで酷い仕返しすること無いんじゃない!?」

 

 シレーヌからの一言に私の胸がチクリと痛む。

 

 つい、顔を崩しそうになったが、そのままの表情で答えた。

 

 「これは仕返しでも何でもないよ、今の現状はアンタの出した結果に過ぎないわ」

 

 「バカッ!」パンッ

 

 顔を真っ赤にしたシレーヌが平手打ちをしてきた。

 

 「じゃ、どうすれば良いのよ!さっきからずっとこんな調子...これじゃたとえ百射引けたとしても意味はないわよ!」

 

 「.....」

 

 「もう....もう帰らせて...」

 

 シレーヌは泣きながら懇願する。普段の私ならこれで許したであろう。しかし

 

 「だめよ、100本引ききるまで許さないわ」

 

 「....ハルちゃんの意地悪...」

 

 もはや聞くのを諦めたのか、シレーヌは力無く弓矢を持ち射位へと向かった。

 

 そこで

 

 

 「シレーヌ、本座の位置はわかる?」

 

 私は、直接射位へと向かったシレーヌに聞いた。

 

 「いや、そこでしょ、それくらいわかるわよ」

 

 シレーヌは本座の位置を指差してからその位置に戻って揖をしてから射位へと向かい引き始めた。

 

 「それじゃ矢を番えるとき、どうやって送る?」

 

 「どうやってって.....あれ、三回に分けるんだっけ、一回で送るんだっけ?」

 

 シレーヌは困惑したように私の方を見た。

 

 「私が教えたのは一回で送るって方法だよね?(読者の皆さんすいません、正直3回で送るのも昔は主流だったようで、どちらとも言えます。)、他にもシレーヌ、体配結構雑になってきてるけど自分で気づいてた?」

 

 「いや、気づかんかったわ.....」

 

 シレーヌは顔を伏せながら答える。

 

 「弓道はね、全部が大事なの!一つでも適当にやったら中らないし、たとえそれで中っても、それは崩れた形が丁度いいくらいに噛み合った結果なだけだし、次に待つのは破滅だよ!」

 

 「...うん」

 

 「今言ったことは私がなんども言ってることだけど、多分アンタはそんな事言われんでもわかってると思う。なのに今できなかったのは......」

 

 「完全に周りが見えていなかった、ただただ弓を引くことにしか気が行っていなかった。」

 

 「そう、自分でもわかってるじゃない...弓道はね、自分が弓と一体になるような境地を得ることを目指すのだけど、一歩間違えると今のアンタみたいに弓に取り込まれて、弓に引かれるようになってしまう、だからそうならないためにも体配にも気が配れるくらいの余裕をもって引かないといけないよ。当然100射会でもね」

 

 「...うん」

 

 「私がね、アンタだけ今日残って引かせたのはね、なにも仕返しなんかが目的じゃない、シレーヌあんたならできると思ってのことよ」

 

 「...私が?」

 

 「そうよ、シレーヌ手ぇ見せなさい」

 

 「ん?」

 

 シレーヌの手は分厚い皮膚の上にさらに新たなマメが何個もできていた。

 

 「あんたはね、ソバール達と違って剣もやってるのもあって元から体力があったのもあるけど、それは分厚い皮膚とマメが語ってるように最初から有ったんじゃない、人よりもたくさんの努力によって得られたものなのよ」

 

 「いやぁ、それほどでも無いよ///」

 

 シレーヌは謙遜しているが、私は知っている。夜な夜な剣の風切り音に混じって弓のツルネが聞こえてきていることを。

 

 

 

 「だからね、あんたならどんな苦境に陥っても戻ってこれる」

 

 「ハルちゃん...」

 

 二人の間に静かな空気が流れた。

 

 「....あ~あ、結局私もソバールと一緒かぁ....」

 

 「えっ?」

 

 突然ソバールが出てきた事に私は驚いた。

 

 「だって今の出来事で今日のソバールの気持ちが分かった気がするもん」

 

 「えっ、えっ?なんの事?」

 

 「本当、ハルちゃん鈍感やね〜、もういいや、何でもない」

 

 「....一体何だったのかしら?」

 

 シレーヌはそう言うと再び射位へと向かった。今度はきちんと体配に気を配りつつである。

 

 「....ホント、ハルちゃん男だったら良かったのに...」

 

 物見を向けた、シレーヌの口から聞こえた一言に、私は顔を真っ赤にした。

 

 「何なのよ!もう///」

 

 私は相変わらず訳が分からず混乱している。

 

 「ふふ、まぁありがとう、ちょっと気が楽になったわ」

 

 「なら良かったけど...最後にシレーヌ、もう大丈夫だとは思うけど一言補足しておくね」

 

 「ん?」

 

 「これからの射は当てようとはせず伸び伸びと、伸びる事に力を入れて大きく引いてみて」

 

 「分かった、やってみるわ」

 

 

 

 シレーヌside

 

 

 

 (伸び伸びと、なーんにも考えることは無いよ、ただ伸び伸びと)

 

 シレーヌはそんな事を頭の中で唱えながら、行射を始めた。

 

 (肩が凄く軽い!何か気持ちがいいなぁ♪)

 

 引き分け、大三、会と行くにつれ、普段以上に周りの景色がぼんやりと、しかし確実に見えてきた。

 

 (そうかぁ、今日は満月だったんだなぁ)

 

 空には既に月が登っている。さっきまでだったら的しか見えていなかったが、今なら外の月すらも視界に入れることが出来る。

 

 会で伸びあうにつれ、腹の下に息が自然に降りてくる。

 

 引いている。されど引いていないような、絶妙な感覚が体を襲う。

 

 

 

 キリー.キリー......トンッ、パンッ

 

 

 気持ちよく離れた一本の矢は、正鵠を射ていた。

 

 

 .........

 

 

 翌日

 

 遥side

 

 「ふぅー、今日も頑張るぞー♪」

 

 私、伊藤遥は背を伸ばしていた。

 

 昨日のシレーヌの居残り射会は、イロイロあったものの最後には自分を取り戻し、ここ一番の射をすることができていた。

 

 シレーヌだからこそ、やりきれたのである。

 

 ちなみに的中は後半落ちてしまったため、勿体ないが、100射68中であった。

 

 初めてにしては良くやったほうだと思う。 

 

 「ハルちゃん、おはよー」

 

 「おはよー」

 

 カリーネとソバールが、射場へとやってきた。

 

 シレーヌは昨日100本引ききったため今日は、フェンシングの練習である。

 

 非常に熱心である。

 

 「二人とも、調子はいい?」

 

 「ちょっと肩が凝ってるけど大丈夫だよ」

 

 「右に同じく」

 

 「よーし、なら今日も全力で引き切ろう!」 

 

 「「おー!!」」

 

 こうして、100射会2日目が始まった。

 

 

 

 キリキリー、キリキリー......トンッ! パンッ!

 

 カリーネが中てた。 

 

 二人とも、昨日と打って変わって非常に順調である。逆に順調すぎて調子に乗らないか不安であるが、多分彼女達なら大丈夫であろう。

 

 「うーん、なんか今日よく中るなぁ」

 

 「うん、私も...普段じゃこれの半分しか中らないのに....」

 

 二人とも自らの的中に驚いているようであった。

 

 「多分、長いこと練習を続けた事で体に射が染み付いて来たんだろうね」

 

 「染付く?」

 

 「うん、普段じゃ100も引かないけど、2日間丁寧に引き続けた結果、体が覚えてきたんだろうね、中るきれいな射をね。」

 

 休憩なく、適当に100本も引いたら逆に射が崩れるため良くないが、今回は、

きちんと休憩をとり体に無理をさせることなく、100本引いている。

 

 そのため、無理なく引けるきれいな射が体に身についたのだろう。

 

 

.....

 

 

 その後も、比較的順調なまま引き続け、結果としては

 

 私が100射85中、カリーネが74中、ソバールが68中となった。

 

 「ふぅ、皆お疲れ様〜、今日は普段以上にたくさん疲れも溜まってるだろうで、充分休んでね〜」

 

 そう言い、私は道具を片付け、温泉街へと向かった。

 

 たくさん引いてからのお風呂は別格である。

 

 今回何かしら皆成長することができた。そう感じられた百射会であった。

 

 




「さて、19話終わりました。なんか書いてる途中で無情に百射会したくなりました」
「開放されたら市の先生方に提案してみたらどです?」
「多分、今100も引いたらシレーヌみたいになるので止めときます。」
「やらんのかい!」
「だって、この前巻藁で50本引いたら酷いことになりましたから」
「普段から体力つけてないからこんなことになるのです、この際ランニングでもはじめてみては?」
「ランニングだけでは、なく居合も始めてみました!」
「えっ!?そんなやるとイロイロぶれますよ?」
「まぁ、試しです。居合に関しちゃ自粛のせいで道具しか買えてません」
「....道具買ったんですか」
「まぁ、素振りだけでもはじめてみました。」
「さて、作者は上手く両立できるでしょうか?」
「分かりませんが、やるだけやってみます」
「まぁ、朗報期待しています。」
次回 未定!?(いい加減歴史進めていかないと!)


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フィリップエガリテ立つ!?

「皆さん、こんばんは作者です」
「同じく涼太です」
「この前、市の道場使えるようになったので引いてみたらすごい上に飛びました」
「やはり巻藁だけだと射はきれいになっても中りはぶれますね」
「皆さんももし、道場が使えるようになったら慎重に引いてくださいね」
「作者みたいに幕内ぎりぎりになったりするかも知れないので.....」
「さて、弓矢20話始まります」
「今回は早いですね」
「まぁ、勢いで書いちゃいましたからね、歴史の針そろそろ進めないとって思って」
「明らかに弓道小説になってましたもんね」
「ただ今回からは流れが速くなりすぎて読者の皆さんがついて来れなくなるかもしれませんが」
「極力細く描くようにはするので」
「「よろしくお願いします」」


 

 1786年

 

 「それは本当か!?」

 

 「はい、先程パリより連絡がありました。」

 

 「容態はどうじゃ?」

 

 「応急処置を施したため、命に別状は無いようです」

 

 「....してやられたわ、余ではなくラファイエット侯爵を狙うとは」

 

 私ルイ16世は、頭を抱えた。

 

 報告書には、ラファイエット侯爵パリにて狙撃さる、と書かれていた。 

 

 

 

 ことの始まりは半年前......

 

 

 

 

 「どういうことです!我々貴族の特権たる徴税権を没収するとは!」

 

 目の前に座る貴族の代表者は勅令が書かれた紙をクシャクシャにしながら見せつけた。

 

 「どうもこうも、その紙に書いた通り我が国の財政危機ゆえのこと、仕方の無いことではないか?だが、キチンと余の方から禄を与えてやると言っておろう?」

 

 「そういうことでは無いのです!我々が先祖代々受け継いできた権利を陛下は勝手に剥奪すると申されてるのですよ!?」

 

 「ならば、貴殿らのいう権利とやらは領民にもあるのではないか?労働の対価を等しく受ける権利というものが」

 

 「陛下は!...陛下は農民共の肩を持つと言うのですか!?」

 

 「なにも、農民に限った話ではない、貴殿ら貴族達だってキチンと領地運営を行い貴族としてすべきことを行っておれば、余だって支援するし、要職にもつかせてやる」

 

 「なら、私どもはちゃんと領地運営を行っておるはずですから免税特権を奪うことはないのでは無いでしょうか?」

 

 「本当にそうか?」

 

 私は、そばに控える者にある報告書を持ってこさせた。

 

 「ここには、貴殿からの国に渡された収入額について書かれている。だがな、独自に調査した貴殿の領地の収入はここに書かれている収入額より遥かに多く有るみたいだが....」

 

「それは...」

 

 貴族は顔を歪めながら、つぶやく

 

「何も今回の徴税権の没収は貴殿ら領地持ちの貴族に限った話ではない、皆同じ苦労をしておるのだ、余だって節約しておる。だから貴殿だってキチンとした運営を行えば禄を増やしてやることも考えよう!」

 

 「... そんなもの焼け石に水です、失礼します」

 

 貴族はそんな懐柔策には乗らぬと、最後に毒を吐き去っていった。

 

 「ふぅー、流石に疲れたのぉ」

 

 私は自室に帰ると椅子に体を沈めた

 

 「お疲れ様です」

 

 執事が紅茶を運んでくる。

 

 「今ので何人目だ?」

 

 「...10人目になります」

 

 「参ったの、ちょっとは覚悟していたとはいえこうも抵抗が激しいとは....」

 

 ペタン元帥率いるヴィシー派による改革は進み、財政も以前と比べてほぼ黒字と変わらないほどよい状態にまで改善したが、まだまだ完璧とは言えなかった。

 

 そこで虎穴とも言える貴族の特権に手を出すことにした。

 

 この王国内では貴族の領地で得られた税収は、全て貴族のものとすることができる。

 

 国としては赤字に苦しんでいても、貴族達は、裕福な暮らしをつづけており、ここから税を取れれば一気に財政を黒字にすることができると思われた。

 

 そこで、当初は課税のみを実施しようとしたが、ペタン元帥より

 

 「税は貴族に集めさせていてはいずれ戻されますし、管理もしていく事が出来ません、また中央集権化のためにも、ここは一気に徴税権を取られたほうが良いと思われます!」

 

 との提案が上がった。

 

 この案はヴィシー派でも意見が二分したが、最終的には収入に合わせ禄を与えることで補う事とした。

 

 しかし、実際の反発は激しく、収入監査を拒否するものまで現れた。

 

 

 「貴族たるもの国により叙されているのであれば、国の危機に協力すべきであるのに....」

 

 「流石に特権に手を出すのは早かったかのう...」

 

 しかし、これによって渋々ながらも指示にキチンと従うもの、逆らうものがはっきりと別れたため、後々、取締をしやすくなったのも事実である。

 

 ペタン元帥がつくりあげた軍はこの時に逆らうものを強制的に従わせるのにも使えるが.....

 

 「極力血は流さずにやりたいものだ」

 

 私は何か嫌な予感を感じ身震いをした。

 

 ........

 

 

 その夜

 

 とある貴族の馬車にて 

 

 「なーにが万人平等な課税だ!結局は我々の特権を勝手に剥奪してるにすぎん!」

 

 先程、王に問い詰めた貴族は愚痴を履きながら領地へと戻っていた。

 

 彼の領地はそれなりに広く、それ故税収も常に黒字で今まで金を思っきり使いたい放題使っていた。

 

 それが今回の徴税権没収で一気に使える量が減ってしまった。

 

 「禄も与えられるというがあんな量では何にも使えん!」

 

 彼はワナワナと震えながら紙を丸めて投げた。

 

 「あぁ、あの方なら、あの方ならこの難関打開してくださるだろう」

 

 彼の言うあの方とは、オルレアン公ルイ・フィリップ二世のことである。

 

 彼は、オルレアン公のすることに期待を込め、領地へと帰った。

 

 .....

 

 パレロワイヤル

 

 「ほお、課税をすっ飛ばして、徴税権を奪いおったか....」

 

 玉座に座るこの館の主、ルイ・フィリップはホホホっと笑いながら報告を聞いていた。

 

 彼は若い頃酒と女に溺れ、だらしない日々を送っていた。オルレアン公爵位を継いでからは多少マシになっていたが、彼の野心は衰えず、むしろより強くなっていた。

 

 彼は革命の際、第三身分を支持したり、フィリップエガリテと名乗ってジャコバン派に参加したりしたことから一見民衆派の貴族のように思われがちだが、実態としてはルイ16世に代わって自分が玉座に座ることを常に画策している。そのためたまたま革命の時は民衆に味方したが、貴族の側に味方する可能性もあり得た。

 

 こういった姿勢から彼は日和味主義者とも言われる。

 

 「まぁ、今は何もせず、指示に従うとしよう。あれと直接対決は避けたい。」

 

 彼の言うあれとはペタン元帥の軍隊である。ルイ16世が期待したとおり、抑止力としても機能していた。

 

 「だが、見ておれよ、貴様のその椅子は俺のものだ!」

 

  彼は密かに計画を練り始めた。

 

 .......

 

 

 2週間後

 

 ヴェルサイユ宮殿

 

 「うーん、ひとまず黒字には出来たようだな」

 

 この二週間で得られた税収を見て、安心した。

 

 約半数程の貴族からしか集められなかったが、それでも赤字であった財政を黒字に転換することができた。

 

 それだけ貴族達は、溜め込んでいたのである。

 

 「まぁ、まずはここからだな」

 

 私は紅茶を飲み一息ついていた。

 

 そこへ

 

 「陛下〜、大変ですわ!彼らまた碌でもない事考えているようですわ!」

 

 妻、アントワネットが血相を変えて飛び込んできた。

 

 「どうしたのだ?一度落ち着きなさい」

 

 「はい.....今朝方徴税反対派の貴族の方々がいらして私を担ぎこもうとしていたのですが、その時に言われたのが、陛下の幕僚....ヴィシー派の方々を陛下の巡幸の折に害し、陛下を退位させ、代わりにルイ・フィリップ殿を摂政としてプロヴァンス伯を国王に据えるというものでしたわ。」

  

 また、とんでもない事を考えたものだと思ったがそこでふと疑問が生じた。

 

 「あれ、だとすると何で彼らはアントワネットに相談したのだ?アントワネットはこちら側であろう?」 

 

 「それは恥ずかしながら、昔、ティルゴー殿を追放したことがあったでしょう?多分その時のように私を丸め込めると思ったのでしょう。」

 

 「あぁ、だとしたら彼らも大分目が落ちたな...今は昔と違ってアントワネットも賛成してくれているのに....」

 

 「全くですわ!私を何だと思ってるのでしょう?」

 

 「あぁ、たしかにな...ありがとう、アントワネットお前のおかげで助かったよ!」

 

 「いえいえ、そちらこそあまり無理をなされてはいけませんよ」

 

 「ははは、気をつけるね」

 

 「それじゃ失礼しますわ」

 

 アントワネットは去っていった。

 

 「ふぅー、さてどうする元帥?」

 

 私は傍らに座るペタン元帥に聞いた。

 

 「ひとまず、王妃様に接触していたものを捕らえ、洗いざらい関係を吐いてもらいましょう」

 

 「そうだな、だが、弟まで計画に参加していたとは....」

 

 いつも生意気な事ばかり言ってくる弟プロヴァンス伯だが、流石に王位につこうとしてるとは思っていなかった。

 

 「まぁ、多分どなたかに担ぎだされてるか、勝手に反対派が言ってるだけかも知れませんよ」

 

 「あの弱腰の弟だ、大方そんな感じだと思うがな....よし、じゃ捜査の方頼んだ」

 

 「はっ!」

 

 捜査の結果、今回の騒動は若手貴族達や金で爵位を買った法服貴族達が中心となって起こしたようで、反対派の中でもごく一部の勢力が動いたのみであった

 

 また私の想像通りプロヴァンス伯は寝耳に水であったらしく、反対派が勝手に計画していただけのようであった。    

 

 彼ら反対派グループはことごとく、財産没収の上、処刑あるいは流刑となった。 

 

 しかし、一番私が関係性を疑ったオルレアン公に関しては、動いた形跡もなく、処罰することが出来なかったが、普段より彼ら反対派グループに近寄っていた事でヴェルサイユ宮殿に登城禁止となった。(これが12話におけるオルレアン派の追放である)

 

 この後、しばらく改革に反対する勢力は鳴りを潜めることとなる。

 

 ...... 

 

 パレロワイヤル

 

 「ちっ、あいつら...動くの早すぎるわ、今動いても一掃されるだけなんて前からわかっていたことであろう」

 

 俺、ルイ・フィリップ二世は今日捕縛されていった貴族連中に苛立っていた。

 

 彼らにはあくまで'ヒント'を与えたに過ぎないのだが、血気に流行る彼らは、言われるなりさっそく行動を始めた。

 

 たが、それ以上に気に食わなかったのは彼らが王妃たるアントワネットを担ぎだそうとしていたことである。彼にとって彼女は政敵であり、また今の状況でなびくとは到底考えられなかったからだ。

 

 「その結果がこれかよ、全く笑わせるんじゃねえ!」

 

 彼によって蹴られた壺がガシャンっと音を立て割れる。

 

 破片によって血がにじみ出た靴を眺めながら彼は誓った。

 

 「待っていろ、オーギュスト!いずれ貴様を蹴落としてやる!我が国に光をもたらすのはこの俺様だ!」

 

 彼はその後自分の中で練っていた計画を実行に移した。

 

 それは後の日本での明治維新を彷彿とさせるものであった。

 

 

 ........

 

 

 そして、半年後の今

 

 私、ルイ16世は至急パリへと向かっていた。ラファイエット侯爵は腹に銃弾を受けたようだが

幸い急所は外れ肋骨を折るだけで済んだようである。

 

 「あれから化膿しておらねば良いが」

 

 即座に医療スタッフが派遣され処置が施されたため、大事には至らずに済んだが彼は我が王国にとって欠かせない存在である。ここで失う訳には行かない。

 

 私はソワソワした気分でパリへと向った。

 

 ....

 

 「おぉ、大丈夫か!ラファイエットよ!」

 

 私は病室に着くなりラファイエットの元に駆け寄った。

 

 急所を外したとはいえ、腹部を包帯に包まれたラファイエットは苦しそうであった。

 

 「私は、大丈夫です。それより、犯人は見つかりました?」

 

 ラファイエットは自分の怪我よりも犯人が誰なのかを気にしているようであった。

 

 「パリ市内に戒厳令を発し探っておるが、まだ見つかってはおらぬ。だが、狙撃の際に使われたと思われるライフルに関しては見つかってな。それがグラースに望遠レンズをつけた代物だったそうじゃ。」

 

 「.....グラースに望遠レンズですか」

 

 比較的配備の進んでいる紙薬莢を使うロワイヤルフィジ(ドライゼ銃)やジャスポーならまだ分かるが、グラースはまだまだ精鋭部隊にしか配備されていない金属薬莢を使うライフルである。

 

 「......となると犯人は身近な人物の可能性があるんでしょうか?」

 

 「余もそれを疑ったのだがな....よーくライフルを見比べてみると明らかに我が工廠で作られてるのと違うのじゃよ。」

 

 私は細部を移した写真とグラース銃の写真を見比べさせた。

 

 (こういった捜査の際、ペタン元帥が持ち込んだカメラは役に立つ。)

 

 「たしかに、紋章やら、細かなデザインが変ですね。」

 

 「故に恐らくは....我が改革に反対する者どもが独自に生産したのであろう、そこまでの事をできるのは....」

 

 「オルレアン公のみでしょう」

 

 「あぁ、彼ならその財力と広大な領地で誰にも感づかれず生産することも可能である。よって先程、憲兵隊にオルレアン公に詰問するように申し付けているが.....」

 

 その時、憲兵隊長が汗を掻きながら入ってきた。

 

 「申し上げます!先程パレロワイヤルに突入するも、中には浮浪者しかおらず、オルレアン公はおろか、扇動家達の姿は一切見当たりませんでした!」

 

 「何!それは本当か?!」

 

 私とラファイエット侯爵は顔を見合わせた。

 

 「はい!既に書類等も焼き払われておりました!」

 

 「そうかぁ、報告ご苦労」

 

 「はいっ、失礼します!」

 

 憲兵隊長は廊下に出るとすぐさま指示を飛ばしながら駆けていった。

 

 「してやられましたな....」

 

 「.......ああ、せめて内通者を残しておくべきであった」

 

 私は窓の外を眺めながらつぶやく。

 

 街は普段の賑わいは失せ、代わりに物々しい雰囲気が漂っていた。

 

 「まぁ、今後悔しても仕方無いです。対策を考えましょう?」

 

 「そうだな、ひとまずオルレアン公を.....!!」

 

 そこまで言った所で私の背中に悪寒が走った。

 

 (うん?彼らの狙いはホントにラファイエット侯爵だけなのか?もしや......)

 

 「ペタン元帥が危ない!おい!!憲兵隊長!」

 

 私は、廊下に出て先程報告に来ていた憲兵隊長を呼び出した。

 

 

 「どうされたんですか、そんなに慌てて?」

 

 ラファイエット侯爵が怪訝な顔をして質問する。

 

 「半年前の計画、誰が対象だったか分かるか?」

 

 「えーと、たしか私達ヴィシー派の幕僚たちでしたが....」

 

 「あぁ、そして今ペタン元帥とダントン氏はヴェルサイユから授業のためヴィシーへと向かっている、護衛なしの列車でだ!」

 

 「!!」

 

 ラファイエット侯爵もようやく気づいたようだ。

 

 「憲兵隊長、急ぎ鉄道路線沿いに兵を派遣してくれ!そして一刻でも早くペタン元帥達の様子を伝えてくれ!」

 

 「分かりました!」

 

 憲兵隊長は先程と同じく、だが血相を変えて指示を飛ばしながら出ていった。

 

 

 しかし

 

 程なくして、真っ青な顔をした憲兵隊長が帰ってきた。

 

 「ヴェルサイユ鉄道局より連絡があり、ヴィシー、パリの中間地点ムーランを過ぎた当たりで鉄道爆破事件があり、ペタン元帥の列車は巻き込まれた模様、ペタン、ダントン両氏の生死は不明です!」

 

 「遅かったか....」

 

 

 ラファイエット氏が頭を抱える。

 

 そこへさらに、追加の通信を憲兵が持ってきた。それを見るなりさらに憲兵隊長の血の気が失せた。 

 

 「申し上げます、何者かによりパリより外へ通ずる道が全て塞がれ、またセーヌ川にかかる橋が落とされました!」

 

 「何!それは本当か!?」

 

 私は憲兵隊長の肩を揺さぶった。

 

 この情報の意味することは、パリより動けない、いや、我々がパリに閉じ込められたということだ。

 

 「はい、私も先程報告を受けたため真意の程はわかりませぬが.....」

 

 そう言って、彼は窓の外を指差した。

 

 たしかに、セーヌ川に掛かる橋が全て落とされているのが伺えた。

 

 衝撃の大きさにしばらく固まってしまったが

 

 いつまでもこうしちゃいられない。

 

 「...陛下」

 

 「あぁ、すぐに市内にいる幕僚を呼んでくれ、ここを臨時の大本営とする!」

 

 「ハハッ」

 

 再度憲兵隊長は駆けていった。

 

 できることは限られる、でも最大限もがいてみせよう!

 

 私はこの小さな病室でそう決心した。

 

 オルレアン公以下、反対派貴族挙兵の知らせが入ったのはこのあとすぐであった。

 




「皆さんお疲れ様です」
「今回だいぶ詰め込みましたね」
「正直今回の話はもっと経緯を丁寧に書きたかったのですが、書くと埒があかないのでまとめちゃいました」
「まぁ、作者にとって、こっから先が目的みたいな感じでしたからね」
「単なるミリオタですからね、どうしても戦闘シーンに力が入っちゃいまして....」
「だけどこれと弓道、学園をどう絡めていくのですか?」
「それはこれからのお楽しみってことで」
「まぁ期待せずに待っております」
「ははは、さてコロナの危機が去ってまた一難。第二波がせまりつつあります」
「空襲も第一波より第2波が激しいといいます」
「皆さんも健康にはいっそうお気をつけてお過ごしください」
「それでは」
「「御機嫌よう!!」」

 次回 未定!?(学園攻防戦?)


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フランスの一番長い日①ヴィシー攻囲戦

「皆さんこんにちは、作者です」
「同じく、涼太です」
「突然ですが、登場人物達のイラスト書いてみました。」
「突然ですねぇ、なんで書こうと思ったんです」
「いや、何か小説じゃ画像がなくて何か寂しく感じたんですよ」
「はぁ、それなら漫画にすればいいんじゃないですか?」 
「一番はそれなんですがね、だけど何からやれば良いか分からなかったので....」
「それでイラスト書いて見たんですか」
「まぁ、もし漫画化出来たら恐らくピクシブに載せると思うのであまり期待せずお待ちください。」
「はぁ、まぁ作者じゃ多分やる前にやる気を失せてしまいそうですけどね」
「はは、そうならんよう頑張ります。さて、弓矢21話始まります」
「今回はいよいよ、ヴィシー派とオルレアン派がぶつかります」
「その最初の舞台は学校」
「奇襲となった彼らはどう対応するのか」
「詳しくは」
「「ゆっくりお読みください!」」


 

 1786年 ヴィシー学園

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 「ふぅ、ようやく午前終わったぁ」

 

 私、伊藤遥は机の上の教科書やノートをどけ、伸び伸びと背伸びをしていた。

 

 今日は普段以上に頭を使った気がした。

 

 「今日、理数系ばかりだったもんね。まあ、私しゃ逆に天国だけど...」

 

 私の思ってることを察したのか、隣のカリーネが答える。

 

 「ほんと、何がなんやらちんぷんかんぷんだったわよ」

 

 複雑な公式は何を示しているのか、考えるだけで頭が痛くなる

  

 「ハハッ、お疲れ様〜、さてそれじゃ昼行こか」

 

 「うん、行こ行こ♪」

 

 私達は勉強道具をしまい、食堂へと向かおうとしたその時

 

 「皆さん、ちょっと教室で待機していてください」

 

 突然、先生が教室へと入ってきて食堂へ向かおうとする生徒らを制止した。

 

 「何が、あったんですか?」

 

 「ちょっと今はお伝えできませんが、非常事態が発生しました。」

 

 非常事態という言葉に教室中がざわめきだす。

 

 いよいよ、昼は遠くなってしまった。

 

 「うーん、腹減ったなぁ」ぐぅ〜

 

 丁度待機状態にあった腹が鳴り出す。

 

 「非常事態だというのにハルちゃんは相変わらず能天気ね」

 

 カリーネが私の腹の音を聞いてクスクスと笑う。

 

 それに私は頬を膨らませながら

 

 「だって、見知らぬ非常事態の前に今感じてる空腹の方が深刻なんだもの....」

 

 そう答えた直後、

 

 「伊藤遥さん、ちょっと用事があるので来てください」

 

 先生より呼ばれた。

 

 「非常事態が身近になったわね」

 

 カリーネが笑いながら話した。

 

 「あんまり笑えないことだろうけどね」  

 

 「まぁ、頑張れ」

 

 カリーネが親指を立てて見送る。それに私も手を振って答えた。

 

 ......

 

 職員室につくと、ラボアジエ博士や叔母さん等、この学校に勤務中の全先生が集まっていた。

 

 それだけで事態の重大さが分かる。

 

 「さて、今日皆さんに集まってもらったのは他でもありません.....つい先程、鉄道局よりヴィシー、ヴェルサイユの中間地点でペタン、ダントン両先生の乗車する列車が爆破されたとの連絡が入りました。」

 

 そう校長代理の教頭先生が伝えると、室内がざわつく

 

 「ペタン校長は...ダントン先生は無事なんですか!?」

 

 「残念ながら生死については不明ですが.....それよりも重大なこととして連絡後、ヴィシー駐屯軍が事故現場の調査に向かおうとした所、オルレアン派の軍勢に襲撃され、退却したようです。そして、退却時、市街へ抜ける道を偵察した所どの道もその軍勢に封鎖されておりました。」

 

 私は、あまりの展開に頭が追いついていなかった。

 

 つまりは

 

 鉄道が爆破、ペタン、ダントン両氏行方不明

 

 フィリップエガリテ反乱、軍勢ヴィシーへ、駐屯軍が退却するほどの大軍

 

 といったところであろうか。

 

 私は考えていくにつれ、顔から血の気が引き出した。

 

 「軍勢は!....どれほどなのです!?」

 

 普段は冷静な数学の先生も声を荒げて質問する。

 

 「正確に伝えることは出来ないと思われますが、鉄道沿いに展開する正面兵力だけでもおよそ、25000!」

 

 「対するこちらは....」

 

 「我々は....駐屯軍のみで5000です」

 

 室内に暗い空気が流れる。

 

 約5倍もの兵力差はいかんともし難い。

 

 しかし、そこで私はふとあることに疑問を感じ質問した。

 

 「あれ、先生!私達が負けることは分かりましたが.....私が呼ばれたのって、ただそれを伝えるためですか?」

 

 わざわざそれだけのために呼ぶことはないだろう。

 

 「はい、貴女をお呼びしたのは.....先程オルレアン派の軍勢より軍使がやってきて、ある条件を飲めば、封鎖を解き、飲めなければ......」

 

 ここで、教頭先生は息をつまらせる。なんとなく察しはつくが

 

 「飲めければ?」

 

 「返答のない場合、午後16時を以て本校に総攻撃を仕掛けるとの話です。」

 

 「......それでその条件と言うのは」

 

 私は、場の空気を察し聞いた。

 

 「1に、本校の武器弾薬を引き渡すこと、2に、教師にオルレアン派の者を雇うこと、3に、本校の生徒を反乱軍に参加させる事....4に....貴方達王族方の引き渡しとありました。」

 

  「....」

 

 やはり、想像通りの答えではあった。

 

 正直、私が行けばそれで済むのであれば行ったであろう。

 

 しかし、我々は王族である、故に味方にとって錦の御旗でもある。

 

 そのため、簡単に結論を出すわけには行かない。

 

 また、今は近世であり、戦力差も圧倒的である。故に約束を反故にされる恐れが高い。

 

 私は、悩みに悩んでいたが

 

 「教頭!生徒を逃がす方法は無いんですか?」

 

 叔母さんが質問する。普段は落ち着いた叔母さんも、今日は必死の表情をしていた。

 

 「ひとまず、学校外に出られる抜け道はどこも空いておりましたが、市外へと通ずる道はどれも駄目なようで、万が一戦闘になった場合、市内も火の海となるでしょう」

 

 「そうですか.....」

 

 叔母さんは落胆したような表情をしたが、すぐ決心をしたようで

 

 「分かりました!ハルちゃん、私と一緒に行こ!」

 

 叔母さんは私の手を取った。

 

 当然ながら周囲は猛反発する。

 

 「お止めください!先生の御身に何かあったらどうするんですか!」

 

 「そうですよ、私達には貴方方をお護りする義務があります」

 

 その声を聞き、叔母さんは困ったような表情をしたものの、すぐにキリッとした顔をして

 

 「ならば私達、王族にも'高貴なる義務'があります。臣民の安全を護るのも私達の宿命です」 

 

 こう言われると、皆何も言えない。

 

 その様子を見た叔母さんは、顔を崩し...

 

 「ふふ、皆さん、心配してありがとうございます。でも、大丈夫です。彼らも同じ臣民なら私達王族を存外には扱わないでしょう」

 

 「.....」

 

 静かな職員室の中、彼女は私申し訳なさそうに語りかけた。

 

 「ハルちゃん、ごめんね、本来は関係ないはずなんだけど....」

 

 「いえ、大丈夫です。養子にしていただいた時点で覚悟はしておりましたから」

 

 「そっかぁ.....ハルちゃんは強いなぁ」

 

 叔母さんはしみじみという。

 

 「いや、啖呵切ってみせた叔母さんには遠く及びませんよ....」

 

 「オホホ、ちょっと元気が出たわ.....さて、行きましょうか」

 

 「はい」

 

 私は彼女に連れられるがまま、職員室を出ようでした、その途端

 

 「「待ってください!!!!!」」 

 

 扉から多数の生徒が入ってきた。

 

 「なんだね!、君たちは、教室で待機するように行っておいたはずだろ!?」

 

 先生達が狼狽えながら注意する。

 

 「すいません、つい気になって聞いちゃいました!だけど.....全て聞いた上で、行かないで下さい!」

 

 代表とおもしき生徒が私達に訴える。

 

 「ごめんね、だけど私達が行かないと皆を助けられないのよ?」

 

 叔母さんが苦笑いをしながら答える。

 

 「僕たちは大丈夫です。叔母さんもハルちゃんも大切な仲間なんだから...仲間を見捨てることなんて出来ません!」

 

 「だけどね.....」

 

 「じゃ、逆に聞きます!僕たちはなんの為に軍事教練なんて受けたんですか!?」

 

 「そりゃ、来る時に自分の身と皆の身を護るために決まってるじゃない?」

 

 「今はその来る時じゃないのですか?」

 

 「うっ......」

 

 叔母さんは、返答に窮した。

 

 確かに、日頃の訓練の成果を生かすとしたら今をおいて他にない。

 

 「僕たちが貴女方をお護りします。だから行かないで下さい!」

 

 「.......」

 

 「さぁ、エリザベート先生、皆もこう言ってるのですし、大船に乗った気分でいて下さい」

 

 教頭先生が叔母さんの肩をさすりながら語りかける。

 

 「皆......ごめんね....」

 

 それから叔母さんは肩を揺らしながら、たくさんの涙を零して泣いた。

 

 普段はあまり感じなかったが、王族としての重圧を常に抱えていたのだろう。

 

 「ハルカさんはどうします?」

 

 クラスメイトが一応とばかりに聞いてきた。

 

 「どうするも何も、残るしか選択肢は無いよね、こんな空気じゃ」

 

 「ハハハッ、それもそうですね」

 

 重くどんやりとした空気が若干晴れたような気がした。

 

 「さて、ひとまず、結論は出ましたが、この後どうします?」

 

 今まで無言を貫いていたラボアジエ博士が皆に質問した。

 

 「防御体制を敷くとともに、街の人々を本校に避難させなければなりません。タイムリミットは4時間です。戦時校内規則に則って急ぎ行動しましょう!」

 

 「「はい!」」

 

 教頭先生の指示を合図に先生達は準備に取り掛かった。

 

 戦時校内規則とは、大規模な内乱や革命等に備えられた、この学校独特の臨時規則であり、

軍事教練などもこれを元に行っている。いわば緊急対応マニュアルである。

 ペタン元帥の提唱でもしもの時に皆の身を護れるよう制定された。

 

 私は忙しくなった職員室を後にし、教室へと戻った。

 

 .......

 

 教室では既に皆が作業着に着替え、装備を身に着け待機していた。

 

 私も急ぎ、着替えを済ませ、席に着席する。

 

 私が座ったのを確認した先生は、真っ先に頭を皆に下げた。

 

 「皆さん、すみません、出来ればこんな事に付き合わせたくなかったのですが、止むを得ずこんな事態になってしまいました。本当に申し訳ございません。」

 

 先生の言葉に一瞬教室がざわつくもすぐに静かになる。

 

 「皆さんには、裏山の10.5サンチ砲3門をグループごとに役割を分けて運用してもらいます。指示は適宜私の方から行うので、その指示に従い行動してください!」

 

 その後、私達は保管庫より機材、弾薬を持ち運び、裏山へと移動した。

 

 この学校はヴィシー駐屯軍の施設も隣接しているため、非常に広く、また有事の際の防衛拠点としても用いれるよう、予め陣地が構築されている場所がある。普段は、土に埋もれて、城跡や廃墟のようにしか見えないが、少し手を加えれば充分要塞として機能する場所である。

 その陣地類が最もよく集まった場所こそが、ここ裏山である。ここには10.5サンチ砲3門を始めとして、6.5サンチ砲多数やトーチカ等も設置されており、また、いくつかの陣地は地下壕で繋がれてある。その様は後の硫黄島の摺鉢山を彷彿とさせるものであった。

 

 私は、そこに付き、弾薬を並べると一発装填し、拉縄を握った。

 

 照準器より先を覗いても、間接射撃のため、盛り土しか見えないが、周りを見るとどんどん作業が進んでいるようだ。来たばかりのときよりも、塹壕がたくさん掘られ、土嚢も高く積まれている。

 

 「ハルちゃん、ちょっと暇だね」

 

 「そだね、準備といったら土嚢積みぐらいしか無いし....」

 

 となりで砲弾を抱えるカリーネがあくびをする。最初こそ緊張でガチガチだったが、しばらくすると現状にも慣れてきた。

 

 私は、土嚢を積みながらチラと時計を見る。まだ時間まで2時間ほど残っているようであった。

 

 「カリーネ、ちょっと山頂から偵察しよ?」

 

 「OKー、ちょっと待ってて」

 

 私とカリーネは土嚢を積んだ後、許可を経て、裏山の山頂に登った。

 

 

 私は、そこで双眼鏡を覗き、そこからの光景を見て息を飲んだ。

【挿絵表示】

 

 

 「ハルちゃん、どう?」

 

 「.....いや、なんというか、大阪夏の陣とかスターリングラードとかこんな感じだったのかな?」

 

 「?........ッ!!何これ!?」

 

 カリーネは私の答えに困惑したが、私の双眼鏡を覗くと彼女は私同様に驚いた。

 

 報告ではまだ街の外にいた敵軍だが、既に市街へと侵攻し、学校をぐるりと取り囲むように包囲していた。我々の駐屯軍は少しでも遠くで食い止められるよう、ぎりぎりのところまで塹壕を掘り、待機しているが、この軍勢であれば突破られるのも時間の問題であろう。

 

 「ここまでとはね.....」

 

 「......正直、援軍が来ないと無理だよね」

 

 私達はへなへなと座り込んだ。事態はあまりにも絶望的である。

 

 正直私一人が捕虜になったほうが良かったのかもしれない。

 

 「ハルちゃん、これ」

 

 カリーネが自らの首に下げていたペンダントを外し、私の首にかけた。

 

 真ん中にはルビーとおもしき宝石が輝いている

 

 「これは....?」

 

 「私がちっちゃい時にもらったお守り。なんでも厄を取り除いてくれるらしいのよ....」

 

 カリーネが空を眺めながら話す。その肩はどこか切なく感じた。

 

 「だけどそんな大切なものなんで私に?」

 

 「もし、私に何かあった時の形見.....ハルちゃん大切にしてね」

 

 「形見だなんて.....」

 

 私は胸が締め付けられたように感じた。カリーネたちと出会って約半年、短い期間とはいえ、とても楽しい毎日であった。それがまさかこんな形で終焉を迎えるかもしれないと思うと悲しくて堪らなかった。

 

 「じゃあ、カリーネ私からもこれ!」

 

 私は、普段使っている愛用の弓懸を渡した。

 

 「えっ....これって....」  

 

 「そう、私のゆがけよ」

 

 さすがのカリーネも驚いた。まさか自分の普段使いの道具をもらうとは思ってなかったであろう

 

 「でも、これ私が、もらっちゃったらハルちゃん.....」

 

 弓を引くのにはかけがえの無いもの、つまり

 

 「そうよ、弓が引けなくなる。だから無事この戦闘が終わったら返しなさい。私もペンダント返すから....」

 

 「それじゃ、形見分けの意味無いよね?」

 

 カリーネが、苦笑いをしながら聞いてきた。

 

 「だからよ....お互い大切な物を返すためにも生きるのよ!」

 

 「ハルちゃん....そうよね、弱気になってても始まらないわよね!」

 

 カリーネが頷きながら答える。

 

 「そうよ、大丈夫!私達なら大丈夫よ!お互い生きて、凱旋しましょう!」

 

 「うん!」

 

 私達はその後砲台へと戻っていった。

 

 ........

 

 午後3時50分

 

 前線において、白旗を掲げ私達王族を待っていた、使者が陣地内へと戻っていく。

 

 そして

 

 午後4時

 

 ガーン、ゴーンと教会の鐘が不気味に鳴り響く。

 

 と次の瞬間!!

 

 ドーンッ!!ドーン!!    ヒュルヒュルヒュル〜

 

 多数の咆哮と共に砲弾が飛翔音を立てながら山なりに飛んできた。

 

 「衝撃に備えー!!」

 

 先生がそう叫ぶ前に私達は塹壕の床に屈みこんだ。

 

 パーンという破裂音、衝撃と共にあたり一帯の土がえぐられ、木が倒される。

 

 幸い、塹壕の中のため、中に落ちない限り影響はほとんど無いが、何度も訪れる振動に、気がおかしくなりそうになる。

 

 砲撃が一段落ついた所で私は、そっと顔を出し、外の様子を眺めた。

 

 こちらに落ちてきた砲弾は榴弾のようで至るところで小火災が起こり、カモフラージュとなっていた木々も皆なぎ倒されている。

 

 肝心の砲に関しては窪地の内側にあるため、敵からはどこが陣地か分からなくなっているが、

 

私達の退避壕は外からすると丸見えであろう。

 

 私達はこの隙に、先程の砲撃の届いていなかった更に奥の退避壕へと撤退した。

 

チラと学校を見ると、立派な校舎には見るも無残にチーズのように至るところに穴が空き、廃墟のような様相を晒していた。多分こちらは普通の砲丸で砲撃されたのであろう。

 

 それでも崩れてはいないところに設計者の意地を感じる。

 

 私達が後ろの退避壕に撤退した後、砲撃の主眼は裏山陣地から学校前の塹壕群へと移っていった。

 

 いよいよ、敵の侵攻が始まるのであろう。

 

 まばらに聞こえる砲撃を聞きながら、私達は各砲の配置についた。

 

 「念の為、異常が無いか点検するように」

 

 先生がそう皆に伝える。

 

 私は、一通り、いじってみたが、先程の砲撃で、多少土埃をかぶっているもののどこにも異常は無く、問題なく使えた。

 

 私は、拉縄を握り次の指示を待った。

 

 .......

 

 しばらくすると、校門の方より鼓笛隊の演奏が聞こえてきて、その後ゆっくりと丘を登ってくるように敵の大軍が姿を表した。

 

 全方位より侵攻しているようだが主攻は校門であろう、びっしりと隙間なく侵攻している。

 

 正面から当たったら我々は一溜りもない。

 

 だが、我々にとって幸運な事に、彼ら反乱軍は貴族の集合体であり、統一された軍集団ではない。そのため、武器もマスケットからボルトアクションまで様々であり、服装も近代戦向けの地味な服装よりきらびやかな服装の連隊が多かった。

 

 また、そんな状態のためボルトアクションを使いつつも、戦列歩兵形式で陣形を組みつつ進軍していた。

 

 私達はその状況に一縷の希望を込めた。

 

 前線に張り付く駐屯軍の部隊は皆銃口を敵に向けつつ、塹壕の中に屈んでいた。敵の斉射を避けるためである。

 

 私達も万全の体制で指示を待った。

 

 500メートル、400メートル、350メートル.....ザッ、ザッと軍靴を響かせながら敵は進軍する。

 

 とっくにライフルも、砲も有効射程に入っているが、まだ射撃はしない。

  

 300、200、100メートル....まで進んだところで敵の進軍は止まった。正直マスケットの有効射程にはまだまだ遠い。しかし、我々の設置した鉄条網が50メートル地点にあるため、これ以上戦列を維持したまま侵攻するのは困難であると判断したようだ。

 

 ここまで進んでから、引き返すわけにも行かず、指揮官はやれやれといった表情で指示をした。

 

 すると軍勢の中ほどより白旗を掲げた軍使が出てきて、我々に問いかけた。

 

 「これは最後の機会である!今王族共を引渡せば、それ以上侵攻しない。しかし、それを拒めば貴様らには徹底した破滅が訪れるであろう!さぁ、どうする!」

 

 こう宣言をする様は、ある意味現代にはない誠実さとでもいうべきか、敵ながら現代のテロリストにも見習ってもらいたいものだ。

 

 しかし、当然返答はなく、あたりに静寂が訪れた。

 

 しばらく待っても答えのない状況を見た軍使は

 

 「バカめ」

 

 と捨て台詞を吐き、戻っていった。

 

 「Position!」

 

 指揮官が剣を抜き指示を出す。と同時に前列の兵が一斉に銃口を向けた。

 

 いよいよである。

 

 「feu!」

 

 パッ、パッ、パッ、パンッ!

 

 剣が振り下ろされると同時にあたり一帯に銃声が響き塹壕のあたりに大きな土煙が立った。

 

 だが、中に隠れているため恐らく駐屯軍の兵達に損害は無いであろう。

 

 「2列目〜Position!.....feu!」

 

 すぐに2列、3列目も射撃を進める。だが相変わらず状況は分からない。

 

 「なんだって、地面に射撃せにゃならんのじゃ、全体!着剣!」

 

 損害を与えられない状況に、指揮官は痺れを切らしたのか突撃準備を命じようとした。

 

 その時

 

 「feu!(撃てー!!)」

 

 射撃開始が下令され、私は拉縄を思いっきり引っ張った。

 

 ドーンッ!ガラガラ〜

 

 反乱軍に照準を向けていた、全銃砲が射撃を開始する。

 

 私達の周りはさることながら敵軍も煙で覆われた。

 

 中の状況は伺えなかったが、私達は観測をすることなく、急ぎ次弾を装填し射撃を継続する。

 

 時折、煙の中から炸裂音にまじり、叫び声等も聞こえたが、私達はそんな事には構わず射撃を続ける。

 

 何人か煙を抜け出し塹壕へと向かうものもいたが、手前の鉄条網に足を止められた兵たちは次々にライフルの餌食になっていく。

 

 そのうち、前へ向う者は途絶え、逃げようとするものが増えた。だが、それも徐々に少なくなっていく。

 

 敵軍に動きが見られなくなった後、射撃中止が下令された。

 

 それとほぼ同じくして風が吹き戦場を覆っていた雲が晴れ、全容が明らかになった。

 

 ...........

 

 史実ではこれより後、南北戦争でライフルを持った戦列歩兵同士の衝突が度々起こったが、マスケットよりも、遙かに命中精度の良いそれは部隊に全滅という言葉をもたらした。

 

 煙が晴れて現れた光景はまさしく全滅いや、虐殺といっても過剰ではない状態であった。

 

 砲撃により耕された地面には、誰のものとも分からぬ足や腕が転がり、指揮官は既に死に、皆敗走したようだが、逃げ切れずあまり距離をおかずして死体の山が積み上がっている。

 

 「.....うっぷ!!」  

 

 「大丈夫!?」

 

 隣でカリーネが吐いた。流石にこの光景は我々にとって衝撃がありすぎた。 

 

 「うん....ちょっと水もらっていい?」  

 

 私は、カリーネの肩をさすりながら、水筒を彼女に渡した。

 

 彼女は極力外を見ないようにしながら水を飲んだ。

 

 逆に私はちょっと気になったため、少し顔を出す。

 

 見ると他の前線でも食い止めるのに成功したらしく、また敵部隊も予想外の損害に驚いたのか、兵を引いていた。

 

 「ひとまず、第一波は食い止めたようね。」

 

 「うん、だけど何かあまり気持ちの良いものじゃないけどね。」

 

 カリーネが、口の周りを拭いながら答える。

 

 興奮が落ち着くと共に死体のツーンとした匂いがしてきた。

 

 これでも裏山陣地から前線まで結構距離があるはずなのだが、よほど強烈なものなのであろう。

 

 私は一通り周りの様子を見渡してから、ふとあることに疑問を感じ先生に質問した。

 

「あのう、これなんで前線を押し戻さないんです?ある意味今チャンスですよね?」

 

 敵が背中を向けている今、反撃をすれば恐らく敵に大損害を与えることができるであろう。

だが、どの前線も相変わらず皆塹壕にこもったままである。

 

 「恐らく弾の余裕がないのでしょう。先程の砲撃で私達も備蓄の半分ほどを消耗しましたから.....」

 

 「ああ、そういうことですか......」

 

 私は苦笑いをしながら答えた。

 

 19世紀、敵に全滅という答えを出させた近代戦は、味方にとっても弾薬の大量消費という予想外の事態をもたらした。そして、それは第一次大戦で実際の戦闘より、どちらの国の体力が先に力尽きるかという総力戦という形に変化し、敗者だけで無く、勝者にも地獄をもたらした。

 

 この戦闘の後、敵方も塹壕を囲むように掘り、兵糧攻めをすることにし、味方も弾薬を気にして攻勢はかけず、ただひたすら迎撃に徹した。

 

 結果、戦線は膠着した。

 




「皆さん、お疲れ様でした」
「今回はちょっと長くなりましたね」
「まぁ一番長い日ですからね」
「まだまだ、ヴェルサイユとパリでの戦闘が残ってますが、もし一つにしたら....」
「凄まじい量になるかもしれませんね」
「まぁ、どうなるかは知りませんが、漫画、期待してますよ」
「はは、描けたら描きますわ。」
「それでは皆さん」
「「御機嫌よう〜」」


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フランスの一番長い日②パリは燃えているか

「皆さんこんにちは、作者です」
「同じく、涼太です」
「唐突ですが、ついにもう一本弓買っちゃいました!」
「.....また無駄な買い物を....何買ったんです?」
「特作粋の16を!」
「これまた高いものを...作者貯金大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫また月末には入るから」
「....(こりゃギャンブル中毒と変わらんな)」
「これで今までよりもよー当たるぞ!」
「多分、2キロも上げたんですから、射形崩して早けに逆戻りが落ちですよ」
「まぁ、しばらくは巻藁でのみ使ってならします」
「無理なみっともない射は見せんでくださいね」
「頑張ります」
「さて、弓矢22話始まります」
「ビィシーにて遥達が弾に物言わせて反乱軍をなぎ払っていた頃」
「花の都(笑)パリでは市街戦が始まります」
「今回は、前回と逆で国王側はせいぜい警察に毛が生えた程度のもの」
「この状況、どう乗り切るか」 
「途中より敵軍指揮官の立場に立って進めていきます」
「それでは」
「「ゆっくりしていってね」」


 

 1786年

 

 ヴィシーが包囲され始めた頃、パリでは作戦会議が開かれていた。

 

「敵軍は、セーヌ川を挟んで対岸に陣取り、またあちらも河川用砲艦を用意していたようで、マルメイユより出港した砲艦隊と戦闘しております。」

 

 パリ駐屯軍の参謀が地図にならぶ船と陣地の形をした駒を指し示した。

 

 「戦況としてはどうなのじゃ」

 

 「やはり戦前の想定が功をそうしたのか、海戦は有利に進んでおります、しかし逆に敵側の沈没艦により川が遮られつつあり、浮揚、撤去作業を行いながら向かっておるためパリ到着はまだまだ先になりそうです」

 

 「うーん、流石に沈船が問題になるとは思いもしませんでしたな」

 

 ラファイエット候爵が頭を抱えながらつぶやく

 

 「そのまま、輸送船を着岸させて、歩いて進軍させたらどうなのじゃ?」

 

 私は地図をみながら思ったことをつぶやいた

 

 「それも試みたのですが、川岸はどこも防御が固く、砲艦隊との戦闘は有利に運べてもまだ上陸できるほどの状況には至っておりません」

 

 「となると、頼みの援軍は今は期待できないのじゃな」

 

 「はい.....残念ながら」

 

 参謀は悔しそうに答えた

 

 「となると、現有戦力で対処するしかないのか.....まぁ仕方ない、司令官、駐屯軍の兵力はどれくらい居る?」

 

 「はっ、およそ1500人ほとが駐留しておりますが、あくまで治安維持が目的のため、大半は憲兵隊が占めております。また武装に関しても必要最小限の物しか無く、砲に至っては皆旧式の先込め滑空砲となっております。」

 

 パリ市駐屯軍司令官が答える 

 

 「それでは、せいぜい民衆の蜂起の対処しか出来んでないか!」

 

 ラファイエット候爵が司令官の胸倉をつかんで怒鳴りつけた。

 

 「候爵、司令を責めても仕方が無い、この街を警備するだけならそれで良かったのじゃ」

 

 「それは.....そうですね、無様な姿をお見せして申し訳ございません、司令殿、わしの方こそ、対策が甘かった、申し訳ない」

 

 ラファイエット候爵は私に指摘され、司令官に謝った。

 

 「いやいや、候爵殿が頭を下げられることではないですよ」

 

 司令官が困った表情をしながら頭を振る

 

 私は両者が落ち着いたのを確認し、会議を再開した。

 

 「さて、お互いわだかまりも解けたところで再開するぞ、憲兵隊長、パリ市民の様子はどうじゃ、避難の方は完了したか?」

 

 「はい、少々時間がかかりましたが。パリ市民は皆安全な戦線より後方の町に避難させました。」

 

 「そうかぁ、避難計画をちゃんと練っておいたのは良かった、関係の無い市民を巻き込むのだけは避けたかったからな」

 

 私は胸を撫でおろした。市民の安全を一番に考えるのは革命を防ぐ上でも大切だし、何より私は国王である、極力犠牲は避けられるのであれば避けねばならない。

 

 

 「一応聞いておくが、ヴェルサイユ方面に通じる道は本当に全部封鎖されとるのか?」

 

 「はい、どこも厳重な構えであり、突破は困難です、仮に市街のセーヌ川に掛かる橋が残っていても、そこに至る道は皆封鎖されております。」

 

 

 「そうかぁ....」

 

 私含む参加者は皆頭を抱えた。分かっていたことではあるが、こうなると最早ヴェルサイユに戻るのは無理であろう。既存の兵力でパリを守り切るしかない。

 

 「さて、それを踏まえてどのように防衛するか聞かせてもらえるか」

 

 私はパリ駐屯軍の参謀に質問した

 

 

 「はい、まず第一段階として、陛下以下皆さんには後方の町に撤退してもらいます」

 

 「うむ、それから?」

 

 「それから.......」

 

 

 ........

 

 

 その夜

 

 

 「そこ、急げ!日が昇っちまうぞ!」

 

 「はいぃ!!ただいまー!!」

 

 私達政府要人が去るのと同時にパリ市内では翌日に備え、兵が忙しそうに動いていた。

 

 川岸では既に砲撃合戦が始まっており、恐らく日が昇った後に大軍が押し寄せてくるであろう。

 

 正直、この少ない時間でできることは無いに等しいが、やれるだけのことをこなしていった。

 

 ...........

 

 そして翌日

 

 「よーし、時間じゃ、渡河準備!」

 

 前日より砲撃合戦をつづけていた反乱軍は未明になるに連れ、反撃が少なくなってきたのを確認し、いよいよパリ市内へと侵攻しようとしていた。

 

 「参謀!船はどのくらいやられた!」

 

 参謀は報告書を見比べ答える

 

 「はっ、半数ほど砲撃で吹き飛びました!」

 

 「そうかぁ.....こちらの船もだいぶやられたが、それはあちらも同じはず、今を除いて機会は無いぞ」

 

 そう言うと反乱軍の指揮官も船に飛び乗り、真っ先に渡河し始めた。

 

 「指揮官に続けー!!」

 

 それを見た兵たちも我先にと乗り込みオールを漕ぐ。

 

 ドーン、バッシャーン!

 

 「おい、大丈夫か!おい!」

 

 当然砲撃は渡河するボートに集中し、鮮血が辺り一帯に飛び散る。

 

 それでも兵達はオールを漕ぎ続け、なんとか対岸まで辿り着く。

 

 船が対岸につく頃には、何故か砲撃も止み、スムーズに上陸出来た。

  

 おかしなことに上陸中は一切攻撃がされ無かった。

 

 「ははっ、敵さんも我々の軍勢に恐れを成したか」

 

 「国王といえど兵が居らねば単なる飾りにしか過ぎぬのお!」

 

 無事に上陸出来たことに安心したのか、至るところから軽口が出る。

 

 「馬鹿か!!貴様ら、無事に上陸出来たからって気を緩めるで無いぞ!.....むしろ、反撃がないのか不気味なぐらいじゃ」

 

 指揮官より怒号が飛ぶが、その怒鳴り声の後にぼそっと聞こえた言葉の方が兵の肝を冷やしたようだ。

 

 「良いか、最初うまく行く場合、たいてい後に何かあるんだ!だから気を緩めるでないぞ!」

 

 「はっ!」

 

 その後、その部隊の兵からは軽口が聞こえることは無くなったが、それ以外の部隊からはまだまだ聞こえる。

 

 「杞憂であれば良いのだがなぁ.....」

 

 指揮官は一人頭を抱えながら侵攻を始めた。

 

 ............

 

 町にいつもの喧騒は無くひっそりとしていたが、進むに連れ、兵は店舗の中に商品、食材がそのまま残っているのに気がついた。

 

 「おっ、これうちの年収でも飲めねえ、ワインだぞ!」

 

 「これなんか、輸入品の珍味じゃねえか!」

 

 兵たちは最初のうちは辛抱していたようだが、徐々に我慢が出来なくなったのか、列を離れて略奪を始めた。

 

 「あっ、こら、勝手に列を離れるでない!」

 

 指揮官はサーベルを抜き、列を離れた者を戻らせようとするが、部隊単位で略奪を始めたため終始がつかなくなっていた。

 

 「これでは、パレロワイヤルの奪還はだいぶ遅れるぞ」

 

 指揮官は顔を青ざめる。パレロワイヤルを奪還し、パリにおける拠点とするのが今日の目標である。

 

 「まぁ、仕方ありませんよ、昨日までずっと進軍を秘匿させていて疲労も溜まっていたのですから、息抜きも必要ですよ」

 

 参謀が苦笑いをしながらフォローする。古今東西略奪は軍隊の補給の基本である。現地調達出ないととてもじゃないが、軍隊を支えることは不可能である。

 

 「うーむ、しかしだなぁ......」

 

 それでも指揮官は腕を抱えて悩んでいるようであった。

 

 そこへ

 

 「連絡です!もうまもなく、パリ占領軍全軍渡河完了するとの話です!」

 

 「そうか、分かった」

 

 連絡を聞いた参謀は指揮官の方を向き提案した。

 

 「どうです?渡河が終わるまで小休止としては?」

 

 「仕方ない、終わるまでじゃぞ」

 

 指揮官は渋々ながら許可を下したのであった。

 

 

 

 しばらく後、

 

 

 「渡河完了しました!」

 

 「よし、ようやくか!全軍進撃を再開する!持ち場に戻......!」

 

 指揮官がやれやれといった表情で指示を飛ばそうとしたその時!

 

 

 ドンッドンッドンッ!!

 

 後方より爆音が聞こえてきた。

 

 「何事だ!」

 

 「はっ!渡河地点付近で建物が一斉に爆破されました!」

 

 「なんと.....それは退路を断たれたということか......」

 

 参謀がたじろぐ。そこへ

 

 「申し上げます!渡河に使用したボート、全て破壊されました!」

 

 「何!......司令官、これは.....」

 

 参謀は青ざめながら指揮官の方へと顔を向けたが、指揮官はというとさも当然のことのような顔をしながら指示をした。

 

 「あぁ、我々は最初から敵の掌で踊らされていたということだ。まぁ.....そんでも今となっちゃ行くしかない、全軍、今を良い機会に一層気を引き締めて周囲の警戒を怠らず進軍を再開せよ!」

 

 

 「はいっ!.....ッ!!.危ない!!」パーン!

 

 異変に気づいた参謀が咄嗟に指揮官を倒した。

 

 と同時に建物に銃弾がのめり込む。

 

 「イタタっ」

 

 「大丈夫か?」 

 

 指揮官は無事のようだが、参謀の肩より鮮血がにじみ出ている

 

 「はいっちょっと掠っただけのようです、それよりも早くあちらに!」

 

 「あぁ」

 

 指揮官と参謀は急ぎ物陰へと隠れた。

 

 「ちょっとまっておれよ」

 

 指揮官はポーチより包帯を出し、参謀の肩へ巻きつける。こうしている今にもどこからか銃弾が飛んできて隠れ遅れた兵の命を刈取る。

 

 「ありがとうございます。ただこりゃ隊列を維持しての進軍は無理ですね」

 

 参謀は舌を噛み悔しそうな顔をしながら話した。

 

 「あぁ、恐らく、通り沿いの建物にはかなりの狙撃兵が潜んでいるであろう....ちょっとライフルかしてくれるか?」

 

 「はぁ、何をなさるのです?」

 

 参謀は頭を傾げながらライフルを渡した。

 

 「ちょっとした探索さ」

 

 ライフルを受け取ると、自らの帽子を銃剣の先に置き、物陰よりそっと出し、すぐに引っ込めた、途端近くの地面に砂埃が立つ。

 

 「ふむ、君のライフルはよく整備されてるようだね」

 

 「何をされたんです?」

 

 「銃剣を鏡にして狙撃手の位置を割り出したのさ、一人目はあの建物の3階にいる」

 

 そう言って指揮官の指差す所を自らのサーベルでみると

 

 「なるほど、よく分かりましたな」

 

 確かに、ちらと建物の窓に人影が写っていた。

 

 「ちょっと父より習った技でな.....ちらとカルカも見えたから彼らは恐らく先込め式の旧式ライフルを使っている、対する我々はグラース、装填時間の差は活かせるはずじゃ」

 

 「申し上げます!表通りを避けつつパレロワイヤルまで到達可能な裏道を見つけました!」

 

 銃弾を飛び交う中走ってきた伝令より、裏道の存在が伝えられる。

 

「よし、では....」

 

 「うむ、隊を2隊に分ける!、1隊は建物を虱潰しに制圧し、本隊の安全なルートを確保し、もう1隊は我について裏道より、パレロワイヤルを目指すぞ!」

 

 

 「「はっ!」」

 

 弾丸飛び交う中、部隊はそれぞれ制圧部隊と攻略部隊に別れ、行動を開始した。

 

 

 ......

 

 指揮官以下、裏道攻略隊は慎重に細い路地を進んでいた。

 

 パンッパンッ!! 

 

 建物の方で乾いた音が響く。狙撃兵を発見したようだ。

 

 比較的制圧部隊の方はスムーズに行けているようである。指揮官もその様子に胸を撫でおろしながら前へと進む。だが

 

 「危ない!!」

 「ッ!!」

 

 今戦闘の案内兵が、通ろうとした所には、釣り糸が張られていた。

 

 恐らく地雷か何かにつながっているものであろう。

 

 よくみると奥の方まで一定間隔で張られていた。

 

 「危なかったな....総員絶対に踏まぬよう慎重に進め.....」

 

 そこまで言った所で参謀により命令は遮られた。

 

 「いや、大丈夫です。」

 

 参謀は少し後方に下がり銃を構えた。

 

 「何をするというのかね?」

 

 「ちょっと下って見ててくださいね」

 

 慎重に、狙いを定めながら参謀は引き金を引く。

 

 と同時に手前から奥にかけて、糸が切れる音が響き、次の瞬間

 

 ドッドッドッドッン

 

 一斉に建物の脇が爆発した。

 

 恐らくこれでトラップの類は消えたであろう。

 

 その様子を確認した参謀はふぅっと額の汗を拭いながら報告した。

 

 「処理完了いたしました」

 

 「君!よく糸の交差部分に当てたね!」

 

 指揮官は驚いた様子で褒めた。

 

 「いやぁ、射撃の腕には自身があるんですよ!」

 

 参謀は照れながら話した。

 

 「そうだったのかぁ....なら、いっそ制圧部隊に混ぜた方が良かったな」  

 

 「まぁ、それもそうかも知れませんが、私は司令官に助言いたすのが仕事ゆえ....」

 

 「あぁ、そうであったな、ならば仕方ない、これからも頼むぞ」

 

 「はいっ!」

 

 彼らは今しがた安全が確保された道を足早に過ぎていった。

 

 ......

 

 「よし、後はここを曲がれば.....」

 

 攻略部隊はその後は比較的安全に進軍出来、もうパレロワイヤルが建物の影より見える場所まで到達していた。

 

 「お待ち下さい!そっちに曲がってはなりませぬ!」

 

 「どうしたのじゃ?」

 

 「そちらには軽砲がズラッとこちらに狙いを合わせて待機しております!ゆえに、こちらへお願いいたします!」

 

 案内の兵は建物の扉を指差していた。

 

 「建物の中より迂回しながら目指すのか....多少遠回りになるが仕方ない、入るぞ」

 

 彼らは建物の中、砲兵に気づかれることなく、迂回し裏へと回った。しかし!!

 

 「ぬわ!!してやられたわ!」

 

 裏より見た砲兵隊は藁づくりの人形達であった。

 

 彼らは確認するべく、人形達に近寄った。ここで参謀が異変に気づく。

 

 「何か匂いませんか」   

  

 参謀の言うとおりあたり一帯には、ワインの香りが漂っていた。

 

 そして指揮官が人形に触ってみると

 

 「濡れている...もしかして.....ッ!、離れろ!」 

 

 指揮官がそういうや否や、藁人形に火がつき、一瞬で燃え上がると同時に、目の前の壁に見えた板が倒され、本当の砲兵隊が姿を表した。

 

 その数10門、この部隊の対応だけならお釣りが出るほどである。

 

 「feu!」

 

 号令と伴に一斉に火を吹いた大砲は、向かい側の建物をぶどう弾で、チーズのように穴ボコだらけにした。当然間にいた兵たちは悲惨な姿になっていた。

 

 「ゲホゲホッ、下がるぞ!」

 

 「ハッ!」

 

 うまく破壊範囲より逃げることが出来た指揮官参謀以下数名の兵達は、煙の中、咳き込みながら、元きたルートを引き返しつつあった。

 

 歩兵による追撃を撒いた所で指揮官は一度確認を取った。

 

 「.....ついて来れたのは何人だ!?」

 

 「ハッ私含め4名のみです。」

 

 指揮官に続くものは大半がさっきの砲撃でやられたようであった。彼は天を仰ぎながら

 

 「我としたことが......これでは攻略などできっこない....作戦変更!急ぎ制圧部隊に合流し、本隊の安全を確保する事とする!」

 

 「ハッ!」

 

 その時

 

 ドーン!!グラグラ....グッシャン!!

 

 「なんだ、何事だ!」

 

 どこからか崩壊音が聞こえてきた。

 

 「指揮官!あれを見て下さい!」

 

 「何じゃ?.....うわ!なんと!.....」

 

 参謀の指差す先には、崩れつつある建物群があった。そこには今から合流する予定の制圧部隊が突入している。

 

 「急げ、急ぎ戻るのじゃ!」

 

 彼らは急ぎ来た道を戻り、分隊地点までやってきた。

 

 だが、時すでに遅く、突入済みの建物は全て崩れきり、生存者も見当たらなかった。

 

 文字通りの全滅である。

 

 途方にくれていると、川の方からボロボロの兵が、2、3人歩いてきた。

 

 皆、疲れ果てているのか目の焦点があっていない。

 

 「どうしたのだ?本隊はどこだ?」

 

 指揮官は彼らの肩を揺らして問いただした。

 

 「はい.....上陸後、進軍を開始しようとしたとき、上流より敵がやってきて、不意を打たれた我が隊はチリヂリになりました....」

 

 「なぬ!それは本当か!?」

 

 参謀も目を見開いて問いただす。

 恐らく、交戦中の敵艦隊が我が方の防衛線を突破し、パリに到達したのであろう。

 

 「はい......襲撃を受けた多くの隊はすでに降伏しております.....さぁ、指揮官殿も降伏いたしましょう」

 

 「そうか、分かった。......降伏したけりゃ、そちの好きなようにすりゃいいが、わしはまだ諦めんぞ」

 

 「ははぁ.....ご武運をお祈りします」

 

 そういうと兵たちはそのまま、幽霊のように過ぎ去っていった。

 

 兵たちが過ぎたのを確認した指揮官は頭を抱えてしゃがみこんだ。

 

 「本隊もやられたか.....さっきはああ言ったが、我々もそろそろ腹を括るべきなのかもしれんな......」

 

 「......我々は指揮官の判断に従います」

 

 参謀は指揮官の手を握り、答えた。

 

 「不甲斐ない、指揮官ですまんな....」

 

 「いえいえ、なにもこの戦況、指揮官のせいではございません......敵が強すぎただけです.....さぁ、降伏するなら........!」

 

 「「!」」

 

 その時、ふと近くの広場に見覚えのある人の姿が見えた。

 

 「あれは....うん!間違いない!.....陛下だ!」

 

 他より高い身長、見覚えのある顔、威厳のある立ち居振る舞い。それはまさしく我が国王であるルイ16世陛下、そしてその後ろからは....

 

 「逆賊、ラファイエット.....」

 

 オルレアン派にとって君側の奸たる、ラファイエット候爵が姿を表した。

 

 「前言撤回だな.....」

 

 皆で顔を見合わせて頷きあった後、指揮官は改めて指示を下した。

 

 「我々はまだ、降伏などせぬ!目指すは、ラファイエットの首唯一!!」

 

 指揮官はサーベルを抜くと、天高く振り上げた。

 

 「者ども!かかれー!」

 

 「「ワァー!!」」

 

 号令一下、銃を持つものは銃を、剣を持つものは剣を構えて、表通りへと飛び出た。

 

 それから脇目もふらず、ラファイエット候爵目指して、一目散に駆けてゆく。

 

 「なんじゃ、何事だ!」

 

 「敵襲です!」

 

 戦勝気分が漂っていたパレロワイヤル前の広場に集う国王派の兵たちは突然の襲撃に対処が取れなくなっていた。

 

 「急げ、急ぎ撃退するのじゃ!」

 

 準備の出来たものより配置に付き、撃ち始めるが、いかんせん旧式のマスケットである、装填時間の長さは致命的であった。

 

 対する、反乱軍側は4人だけとはいえ、後送連発式のグラースであり、うち1名は射撃の名人である。迎撃体制の整っていない、国王派の兵を次から次へと討ち取っていった。

 

 (あと、70.60.50メートル!!)

 

 (このまま、走りきればもしかすると.....)

 

 だが、反乱軍側の勢いも長くは続かなかった。

 

 距離が近づくにつれ、弾も集中しだした。

 

 そして

 

 「あっ!....」バタッ!

 

 「ウッ!!」ドサッ!

 

 味方の兵が、二人ともやられてしまった。

 

 そして 

 

 パーン!! カチカチ!

 

 「あれ!?」ガチャガチャ! 

 

 「よし、今だ!!突撃ー!」

 

 参謀の持つライフルの弾が切れたのを機に、指揮官と参謀は兵達に取り押さえられてしまった。

 

 「むぐむぐ!」

 

 彼らはもがくがとても脱出できる状態では無かった。

 

 しばらくそうしていると.....

 

 「......二人を離してやれ」

 

 その号令により、二人を押さえていた兵達は離れていった。

 

 指揮官は立ち上がり、見ると遠くより、将校とおもしき人物が歩いてきた。

 

 その人こそ.....

 

 「ラファイエット候爵!」

 

 そう、彼ら二人が死にものぐるいで求めたラファイエット候爵が歩いてきたのだ。

 

 彼らは武器を構えようと腰の辺りを探った。 

 

 だが、先程の攻防で取られたのか、何も無かった。

 

 実質捕虜になりかけている身である、仕方が無い。

 

 それに気づいたラファイエット候爵は.....

 

 「ああ、すみませんね。ちょっとサーベルとライフルは回収させてもらいました」

 

 彼はタハハと頭を掻きながら話した。

 

 「いえ、お気遣いくださらなくとも大丈夫です」

 

 「今ここで降伏すると答えてくれれば、すぐにでもお返しいたしますが......」

 

 ラファイエット候爵はちらと上目遣いで呟く。

 

 この状況、ほぼ選択肢は限られているであろう

 

 「はい、分かりました.....と言いたいところじゃが、生憎私頑固なものでしてな、貴方方に下るぐらいなら、参謀とともに組み合ってでも貴方を倒し、その後舌を噛み切って自害するじゃろう」

 

 指揮官はキリッとした表情答えた。

 

 「貴様ぁ!」

 

 「この状況でまだそんな戯けた事を.....」

 

 兵達の銃口が頭に当てられる。

 

 「まぁまぁ、離してやれ....」

 

 ラファイエット候爵の指示でいやいやながらも兵達は離れた。

 

 「その意気、見事です!しかし、私もむざむざやられたくは無いですから......ここは、一つ勝負をいたしましょう!ここへ......」

 

 ラファイエット候爵は副官に日本の剣を持ってこさせ、片方を指揮官に渡す。

 

 よくみると、剣には刃が付いていない。

 

 「これは.....」

 

 「これは私の学校で使ってる剣でしてな、安全に剣の修行が出来るのですよ。これを使ってもし、貴方が勝ったなら、武器をお返しした上で解放いたしましょう。逆に私が勝ったら.....」

 

 「大人しく軍門に下れと.....?」

 

 「理解が早くて助かります。その条件で一つやってみませんか?」

 

 ラファイエット候爵は少年のような笑顔で剣をくるくる回しながら話す。

 

 

 指揮官も少し考えた後、

 

 「良いだろう....」

 

 提案に乗ることにし、ラファイエット候爵と間合いを取った。

 

 「ありがとうございます、では私も本気でやらせてもらいます。」

 

 周りの人々も蜘蛛の子を散らすように広がり、ラファイエット候爵は舘を背に剣を構えた。

 

 場に静寂に包まれた。

 

 お互い隙を探り合っているようで、互いに動かない。ようでよくみると剣先や目が僅かに揺れ動いているのが見える。

 

 「いやぁ、今回はやられましたわ、まさか砲艦隊がほぼ無力化されるなんて.....」

 

 「ありゃ、たまたまですわ.....それよりも貴方方の戦略の方が凄まじい、旧式の武器で我々を追い返すとは」

 

 お互い笑顔で互いの戦略を褒めだした。だが、ピリピリとした雰囲気は変わらない

 

 

 「お宅が使ってらっしゃったグラース?どうやって手に入れたんですか?」

 

 「それは今はお答え出来ぬ」

 

 「じゃ、それも私の勝った時の条件に追加ということで......」

 

 「うーん、中々目ざといのぉ」

 

 「今は全体としては劣勢なのでね!」

 

 そういうや、ラファイエット候爵は剣を突き出した。

 

 指揮官の胴に剣が近づく

 

 と彼は胴をひねりつつ相手の剣を払い、その勢いで一気に近づき

 

 鍔迫り合いとなる。

 

 「少なくとも、我々に、とってここは負けてるかもしれぬが.....」

 

 ぎりぎりと、お互いの剣がしなる。

 

 「貴方方に反発するほぼすべての兵力が参加しているため、我々の攻勢はまだまだ続くであろう!」

 

 そういうと、ぱっとお互い離れ、再び間合いを取った。

 

 「そりゃ、参りましたなぁ.....だけど、我々そんな嫌われることしましたっけ?」

 

 「度重なる特権の廃止、そして今回の徴税権の剥奪、ありゃ我々のような弱小貴族には首を締められたようなものじゃ。あれのせいで私の友人たちも何人も首を釣って死におった....」

 

 「それは.....だけど!我々も禄は提供したため生活に困ることは無いはずと思われますが....」

 

 「そりゃ、規模のデカい伯爵様とかは問題ないかもしれぬが、元より収入の少なかった者は与えられる禄も当然減ってて、使用人に回す金すら無いらしいわ」

 

 「あれ!おかしいな」

 

 その話を聞いたラファイエット候爵は顎を抑え考え込む。

 

 「戦闘中に下をむくとは!なめられたもんだな」

 

 ここぞチャンスと見た、指揮官は再び間合いをつめ、突き出した。

 

 「いや、ちょっと待って下さい!今、使用人に回す金すら無いと言いました?」

 

 ラファイエット候爵は慌てて剣を払った後、タンマとばかりに両手を挙げた。

 

 「ああ、そう申したが.....」

 

 指揮官は剣先をラファイエット候爵に向けたまま答える。

 

 それを聞いたラファイエット候爵は先程よりも混乱した表情で話した。

 

 「どうもおかしいです!」

 

 「何がだ!!」

 

 「我々は禄を配布するにあたり、収入だけでなく、その家の支出も考慮して配布しました。当然、使用人への給与も含めてです」

 

 「そんなの出鱈目では無いか?実際私の禄もそんなに無かったぞ!」

 

 そこへ

 

 「いや、この紙にはちゃんとそれ相応の金額が払われたと書かれているぞ」

 

 「陛下!?」

 

 国王ルイ16世が書類を持って現れた。

 

 突然のことに指揮官も慌てて、剣を下ろす。

 

 「陛下!?まだここは、危のうございますぞ!後方へお下がりください!」

 

 ラファイエット候爵は陛下に注意するも

 

 「いや、この町においてもう大勢は決したであろう.....それよりも」

 

 陛下は指揮官に直接紙を見せ渡した。

 

 指揮官は畏みながら紙を受け取ると、目を大きく見開いた。

 

 「な、なんと....」 

 

 そこには受け取ったよりも遥に多い金額が書かれていた。

 

 「そちのもとに届いたのはいくらであったのだ?」 

 

 陛下は優しく語りかけるように質問した。

 

 指揮官は手をぷるぷる震わせながら

 

 「この半分もありませんでした......」

 

 と答えた。

 

 「うむ......そういえばそちの領地は西部の方じゃったな」

 

 「はぁ、よくご存知で......」

 

 「一度会ったものの事を余は忘れぬのでな!となると、貴領への街道はオルレアンを通るのか?」

 

 「確かに通りますが.....!もしや!」

 

 指揮官と陛下、ラファイエット候爵は顔を見合わせた。

 

 「オルレアンで何かされたのかもしれぬな!ラファイエット候爵!今すぐ捕虜にした反乱軍の貴族達に聞いてきてくれ!」

 

 「ハッ!」

 

 そう言うと、ラファイエット候爵は去っていった。

 

 彼が去ったのを見届けた後、陛下は指揮官へ頭を下げた。

 

 「すまなかった!」

 

 「どうか頭をお上げください!陛下が謝られることではないです!」

 

 「いや、国民を守るといいながら、貴方方貴族の事を守ることが出来なかった!すべての責はわしにある!...そこの君!指揮官にサーベルをお返ししなさい!」

 

 サーベルを預かっていた兵は慌てて指揮官に返した。

 

 「さぁ、この首、貴方に授ける!思いのままに切り落とせ!」

 

 「陛下!?」

 

 「陛下!?お気を確かに!」

 

 周りの兵たちが慌てて制止に入るも

 

 「だまらっしゃい!」

 

 陛下の一喝で皆離れた。

 

 その様子を見届けた指揮官は静かに

 

 「陛下.....私は色々誤解しておりました。私の方こそ申し訳ございません」

 

 陛下の元に跪き、頭を下げた。

 

 そして、サーベルを抜き、捧げ持ち懇願した。

 

 「そして、もしお許しくださるのであれば、陛下の軍勢の末席に加えさせてもらえませんでしょうか」

 

 「もちろん、こんな情けない君主の元で良ければ.....」

 

 陛下は頭を上げると、指揮官の首筋に当て、柄に口づけをした。

 

 いわゆる、刀礼である。

 

 「これより、アラン子爵陛下とともに参ります。」

 

 「うむ!期待しておるぞ!」

 

 これを以てパリ市街戦は終わりを迎えた。

 

 その後、ラファイエット候爵が明かしたオルレアン公による禄横領が敵方にも伝わり、敵は瓦解したように見えた。

 

 しかし、

 

 「英国、我が王国に宣戦布告!」

 

 自体はより一層深刻になった。

 




「弓矢22話終わりました」
「今回珍しく長引きましたね」
「やっぱり戦闘はいやでも長くなっちゃいますね」
「ですが、結局指揮官殺さなかったんですね」
「なんでしょうね、最初はモブキャラとして適当なとこで退場していただくつもりだったのですが......」
「愛着が湧いてしまったと......」
「まぁそゆことです」
「にしては名前がモブですね」
「いやぁ、思いつかなかったもので....」
「まぁ作者の脳みそじゃそんだけしか想像つきませんよね(ボソッ)」
「今なんと?」
「なんでもないです」
「コホンっ!まぁいいです」
「コロナですか?」
「違います!さっさと終わりますよ」
「はーい」
「それでは」
「「ありがとうございました!」」

 次回

 「右砲戦!目標敵先頭艦!前方より分火!」
 
 フレンチ装甲艦隊vsロイヤルネイビー本国艦隊


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フランスの一番長い日③ブレスト沖海戦

「皆さんお久しぶりです作者です」
「同じく涼太です」
「つい最近まで凄く暑かったのに一気に涼しくなってきましたね」
「やっぱ雨が降ってから一気に涼しくなるもんですね」
「なかなか晴れ間が見えないのは梅雨時同様気になりますが夜の練習が涼しくなるので助かります」
「コロナで少なかった道場にも少しずつ人が戻ってきてますもんね」
「皆さんも適度に対策をしつつ、涼しいこの季節を楽しみましょう」
「さて、弓矢23話始まります」
「ついに英国も参戦した内乱、フランスの未来は誰の手に収まるのか」
「まずは海からその様子をご覧あれ」


 

 パリで市街戦が始まった頃

 

 シェルブール海軍基地

 

 「何!?ポーツマスに英艦隊がいない!?」

 

 海軍司令官は報告を聞き、驚いた。

 

 フランスに備え常にドーバー海峡を抑えるべくポーツマスに集まっていた英艦隊が消えたのだ。

 

 「はっ、前日より出港準備を進めていたため、恐らく夜のうちに出港したのでしょう」

 

 「そうかぁ、まあいい、各地哨戒中のフリゲート艦に警戒を厳と成せと伝えておけ...あと、主力艦隊、巡洋艦隊も出港準備急ぎ進めておけ」

 

 「はいっ」

 

 そう言うと、通信士は部屋より退出した。

 

 海軍は国王に対する信頼があつく、一部オルレアン派の私有船を除き、皆反乱軍には加わらず、比較的秩序が保たれていた。これも、海軍に力を注いだお陰であろう。

 

 本当の所、海軍としては陸戦隊を組織して支援したかったが、英国の動きも警戒しなければならず、苛立っていた。

 

 そこへ、今の連絡である。

 

 これで当分英国の相手をしなくてはならないであろう。

 

 「ふぅ、チャッチャッと始末しちゃいたいところだがな....」

 

 彼はタバコを吸いながらソファに深く腰掛けた。

 

 窓からはシェルブールの港が見える。

 

 「待ってろよ....今すぐにでも漁礁にしてやるからな」

 

 艦隊からはモクモクと黒い煙が立ち始めていた。

 

 

 ブレスト西方100キロ海上

 

 

 「まもなく、回頭点!」

 

 「よーし、面舵いっぱーい!」

 

 ガラガラと音を立てながら操舵輪が回り、ゆっくりと船体が曲がってゆく。

 

 「通信士!無電はあったか?」

 

 つい先日、ヴィシー学園にて研究中であった無線(いわゆるマルコニー式無線機)はようやく実用化出来、各哨戒艦艇に配備されていた。

 

 「はっ、特に新たな連絡等は入っておりません」

 

 「そうか.....下がって結構」

 

 

 

 フリゲート艦の艦長はタバコをゆったりと吹かしながら、遠く英国の方を見た。

 

 ブレスト軍港より出港して2週間、ようやく一時寄港できるタイミングで飛び込んできた報告がオルレアン派の反乱であり、それに伴う哨戒の延長であった。

 

 帰港モードが漂っていた船内の空気が一気にどんよりとしたものに変わったのは言うまでもない。

 

 皆、グチグチ文句をいいながら哨戒をつづけていた。

 

 モクモクとタバコの煙が目の前に上がる。

 

 「上質なタバコ何だがな、だいぶ湿気ってしまった」

 

 「全くですね、私もはよ故郷の蛆虫のいないパンを食べたいですよ」

 

 「はは、それもそうだ。......ちょっと灰皿よこせ」

 

 「ハッ」

 

 艦長は、航海士より差し出された灰皿にタバコを押し付け、航海士は双眼鏡を覗き込む

 

 しかし

 

 「艦長中々、このタバコしぶといですな」

 

 航海士の眼鏡からはまだ煙が登っているように見えた。

 

 だが

 

 「君、タバコの煙はとっくに途絶えているが.....」

 

 肉眼で見るととっくにタバコの火は消えている。

 

 「あれ、おかしいな、私の見間違いでしょうか」

 

 「かもな、ちょっとつかれたのであろう...........」

 

 そう言い、艦長も望遠鏡を除くと.....

 

 「おかしいな、私も疲れているようだ.....!いや、あれは!!」

 

 よーく見ると、煙は水平線から上がっている。

 

 恐らく船の煙であろうが、ここは、海上交通路からはやや外れている。

 

 そして、その煙も一本のみならず、二本、3本と増えていった。

 

 「怪しいな....シーレーンから外れたこの海域で船団、航海士、念の為臨検隊の準備をしておいて」

 

 そう言いかけた瞬間!マストが水平線より現れるとともに、その船の旗が日に照らされた。

 

 それは

 

 「ホワイトエンサイン!!総員!持ち場につけ、戦闘配備!」

 

 英国海軍旗を確認した艦長は指示を急ぎ飛ばした。

 

 「航海士、忙しくなるぞ....」

 

 「ハッ!どこまでもお付きします!」

 

 「フッ、休暇はしばらく取り消しだな」

 

 「しゃあないです。戦勝後特別報酬頂いてたっぷり豪遊しましょう」

 

 「貴様らしい.....よし、取舵いっぱい、船を英艦隊に近づけろ!」

 

 「はっ、とぉーりかーじいっぱい!」

 

 明かりを完全に消し、幽霊船のようになったフリゲート艦は気づかれぬようゆっくりと敵艦隊に近づく。

 

 「ほお、蒸気戦列艦に蒸気フリゲートか、あちらさんもなかなかようやっとるようだな....」

 

 「船の数だけなら我々よりも多そうですな」

 

 「そりゃ、アメさんに売ったからな.....だが性能はこちらの方が上のはずだ」

 

 フリゲート艦は奥の方まで見える位置に達し、偵察活動を始めていた。

 

 「いいか、射程内に入っても、決して発砲するなよ....あくまで我々の任務は偵察であり、ましてまだ英国は宣戦布告をしていない、あくまで尾行するだけに徹するぞ.......」

 

 「ハッ!......艦長、戦闘旗はどうしますか.....」

 

 「まだ戦時ではないため'戦闘'旗ではないが.....一応メインマストに掲げとけ!」

 

 「アイサー!!」

 

 「通信士、司令部へ報告! 英国主力艦隊発見、蒸気、帆走戦列艦20隻、蒸気フリゲート10隻帆走フリゲート4隻見ユ。地点ブレスト沖100キロ」

 

 「ハッ!」

 

 「多分、無線を傍受されることは無いだろうが....それよりもキチンと届くかどうかが不安やな.....」

 

 「まぁそこは神に祈りましょう」

 

 「そうだな....よし、機関停止、帆を張れ!帆走にて追跡するぞ」

 

 「アイサ!」

 

 英艦隊との距離を詰めたフリゲート艦は排煙で気づかれぬよう帆走で追跡することにした。

 

 

 ...........

 

 

 シェルブール海軍基地

 

 「何!見つかったか!」

 

 「はい、ブレスト沖合いで発見したようです」

 

 「そうかぁ、まあ良い、準備でき次第出港!指示は追って連絡する!」

 

 「ハッ!」

 

 「それから参謀達を集めよ!作戦会議じゃ!」

 

 彼らは海図を盤上に広げた。

 

 「集めた情報によると奴らの艦隊は恐らく、夜間にポーツマスを出港、分散しつつブリストル沖で集合し、我が国への方へ航行したのだと思われます」

 

 「そうか、分散しているときに各個撃破できたのであればよかったのだがな....まあ良い、英艦隊の進路、目的地は分かるか?」

 

 「ビスケー湾方面へ向かっておるため、恐らく我が本土に対する艦砲射撃もしくは上陸作戦が目的でしょう...まぁ、もっとも宣戦布告無しで行動するかは分かりかねますが」

 

 「そうか、よし主力が到着するまでは哨戒中の全フリゲートである程度距離を保ち、警戒しつつも決して攻撃するな、ただ上陸しようとしたり、砲撃を受けたりしたら発砲するのを許可する。私から指示できることは以上だ、後は現場司令官に任せる」

 

 「ハッ!」

 

 

 短い会議であったが、その頃には港の艦は皆出港していた。

 

 

 ..........

 

 

 英仏海峡 巡洋、戦列艦隊

 

 装甲艦よりも一足先に出港した巡洋艦、戦列艦は哨戒中のフリゲート艦と合流しつつビスケー湾目指して航行していた。

 

 陣容としては

 

 装甲巡洋艦 ティゲル セル シュバァル コック 4隻 (シアンは地中海にて警戒中)

 

 蒸気戦列艦(74門艦改造) テメレール オダシュー フグー シューペルブ ボーレ 5隻

 

 蒸気フリゲート16隻

 

 以上26隻である。

 

 英国の34隻に比べれば少ないが、装甲巡洋艦を含む高火力、高防御の艦隊である。

 

 「尾行中のフリゲート艦視認!まもなく英艦隊見えます」

 

 「あいわかった!」

 

 ティゲル艦橋からは、マストに帆を掲げたフリゲート艦とその後方に何本もの排煙が見えた。

 

 「いよいよですな」

 

 「あぁ、フリゲート艦隊を先頭に単縦陣を構成せよ!奴らと距離を取りつつ、同航する!....それと警戒中のフリゲート艦へ我がフリゲート艦隊の末尾に付くよう連絡せよ」

 

 「ハッ!」

 

 命令を受けたフリゲート艦が再び煙をモクモク上げながら艦隊に加わるとともに、装甲巡洋艦達を護衛していたフリゲート艦隊は一本の槍のように単縦陣を構成した。

 

 「英艦隊視認!距離1万!」

 

 英艦のマストがゆっくりと姿を表す。

 

 「よーし、その距離を保ったまま、同航するぞ、弾の当たらね距離とはいえ油断するな!」

 

 「ハッ!」

 

 その後フランス艦隊はピッタリとひっついて航行した。

 

 ........

 

 

 英海峡艦隊旗艦 旗艦 蒸気戦列艦ロイヤルサブリン

 

 「東方に排煙多数視認!恐らくフランスの蒸気艦隊と思われます」

 

 「いよいよ、来たか......」

 

 そう言いながら、海峡艦隊司令長官ハウ提督は双眼鏡に眼を当てる。

 

 哨戒中のフリゲート艦に発見されてから常に付きまとわれており、(フランス人達はまだ気づかれていないと思っているようだが)やってくるのも時間の問題だと思っていたが

 

 「やはり早いな....これが蒸気軍艦の戦いか.....こりゃ、わしみたいな古臭い軍人よりも若手のやつらに任せた方が良いかもな」

 

 予想よりも早いフランス艦隊の到着に驚いていた。(実は蒸気機関の影響以上に無線の影響が響いていたのだが)

 

 「いやいや、提督にはまだまだ私ども及びませぬゆえ、お願いします」

 

 ロイヤルサブリン艦長は手を振りながら苦笑いする。

 

 ハウ提督はジャコバイトの反乱の時より戦場で活躍した老指揮官であり、少し前までは海軍大臣も努めていたような人物である。(史実と違いこの海戦の前にロドニー提督に海軍大臣の座を譲って今は現場に戻っている)

 

 「艦長ならすぐにわしの後任になれるさ.......さて、じゃそろそろ準備をしよか」

 

 「ハッ!では」

 

 「あぁ、厳封命令を開封しその指示に従い行動するとしよう....恐らく開戦通知しか書いてないだろうがな」

 

 ハウ提督と艦長は幕僚を集め、時間を確認した。

 

 「午前6時!では開封します.....命令!海峡艦隊は午前6時を以て戦闘行動を開始し、敵艦隊を誘引、近海にて砲台群と共同しつつ其れを撃滅せよ! 以上です!」

 

 「まぁ難しい事は書いてない、敵を誘ってボコボコにすりゃいいだけじゃ、皆肩の力を抜いて頼むよ!」

 

 「ハッ!」

 

 「よし、じゃ始めるぞ!全艦隊、右一斉回頭!敵を釣るぞい」

 

 

 命令一下、英艦隊は前後を変え、引返し始めた。

 

 その様子は距離を離して追跡していたフランス艦隊にも伺えた。

 

 「英艦隊一斉回頭〜こちらに向かってきます!」

 

 「何!全艦回避せよ」

 

 迫る英艦隊を避けるように仏艦隊は二手に別れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 回頭前

 

 

 

                               ↑英国本土

 ←進行方向

 

 

 イ旗イ戦列艦以下20隻英フリゲート14隻 仏フリゲート16隻仏旗仏装甲巡洋艦仏戦列艦 

 

                         

                     

                               ↓フランス本土

 

 

 

 

 

 

  回頭後

 

 

 

                              ↑英国本土

 

                        

 

 

                ←フランス艦隊

 

 

                  英国艦隊→      ↑↓フランス艦隊

                 

 

 

               ←フランス艦隊     

 

                             

 

 

                              ↓フランス本土

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よし、今だ!全門斉射!凪払え!」

 

 ズドドドドッーン!

 

 

 ちょうど仏艦隊が英艦隊を挟むように二分したタイミングで英艦隊は一斉に火を吹いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 戦闘のフリゲートより最後尾の戦列艦に至るまで全艦から放たれた榴弾は、仏艦のチーク材の舷側を貫き、火災を生じさせ、装甲巡洋艦以外の艦艇の戦闘力を奪った。

 

 そう、放たれたのは単なる砲丸では無く、榴弾である。英国海軍もフランス海軍の影響を受け、安全な信管を開発、運用していたのだ。

 

 

 「ゴホゴホッ.....大丈夫か!?」

 

 激しい衝撃により発生した砂埃に咳き込みながら仏司令官は副官に問う。

 

 「ハッ!本艦は厚い装甲板のお陰で一部木甲板が剥がれた程度で済みましたが.....艦隊は....」

 

 そう言うと副官は各艦より伝わってきた情報を纏め、顔を青ざめさせた。

 

 「フリゲート艦隊は発砲直前に距離を取ったため、多少ボヤが生じた程度でしたが、逃げ遅れた戦列艦艦隊はテメレールを残し全艦大破、大火災を生じさせております。」

 

 「何!」

 

 みると後方戦列艦艦隊のいるあたりが煙に包まれている。

 

 若干船体が見えたが、艦底部にも損傷を受けたのか傾きつつもあった。

 

 司令官は帽子を深くかぶりつつ指示をした。

 

 「......テメレールとフリゲート艦2隻は現場に、残り救助活動をせよ。残りの隊で英艦隊を追う!総員に告ぐ!今我々が見ている光景を忘れるな!卑怯にも我らを罠に嵌めた奴らに同じ光景を見せてやれ!」

 

 「「オー!」」

 

 「申し上げます!」

 

 

 「なんだ?」

 場が司令官の激励により盛り上がったところに急報が飛び込んできた。

 

 「海軍司令部より連絡です。本日午後6時英国は我が国に宣戦布告!繰り返します!英国は我が国に宣戦布告いたしました!」

 

 「そうかぁ.....艦長、英艦隊の発砲時刻は何時であったか?」

 

 「確かに6時2分でありました。」

 

 「うーむ、一本取られたな。だが、ここからは我々も全力で行動できる。先手はもう過ぎたのじゃ。」

 

 

 「はっ、では....」

 

 「あぁ、正式に発砲を許可する。正当防衛の範疇は考慮せず全力で叩け。」

 

 司令官は拳を振り下ろしながら答えた。

 

 ここに、王党派対オルレアン派の内乱は英国を交えての国際戦争へと発展した。

 

 

 

 英艦隊旗艦ロイヤルサブリン

 

 「おっ、旗がメインマストに上がったか。どうやら向こうもやる気になったようだ」

 

 望遠鏡よりフランス艦隊の動向を伺っていたハウ提督はニヤつきながらつぶやいた。

 

 メインマストに戦闘旗(日本だと軍艦旗)が上がるという事は今が戦闘行動中であるということも示す。

 

 「まぁそれだけでなく、砲門は皆開かれ、砲塔は皆こちらを向いてますからね。」

 

 艦長もそれに答えながら指示を飛ばす。

 

 「艦長!提督!、この機会にフランス艦隊を包囲殲滅してしまいましょう!今なら数の利は圧倒的です!」

 

 「そうです!もはやフランス艦隊は死に体です!今が好機にございます!」

 

 戦列艦4隻撃沈確実との報に参謀達は皆浮足立っている。

 

 それもそうであろう。これで実質フランス艦隊はこの当時の戦艦たる戦列艦を失ったのだ。もう勝利は目に見えている。

 

 「そうしたいのがやまやまであるがな.....」

 

 「相手が今までの艦隊ならそれでも良いがな、ほれ!そこの装甲巡洋艦とやらを見てみよ!」

 

 ハウ提督は一番近くに位置してる装甲巡洋艦に指を指した。

 

 「あの船はな、恐らくそこで燃えておる蒸気戦列艦共より遥かに多くの打撃を加えたはずなのだが、火災は愚か外観にすら異常は全く見えぬ。」

 

 彼の指指した船は恐らくフランス艦隊で最もたくさん砲撃を食らったはずなのだが外観からは一切異常が見られない。(実際には装甲板が歪んだり、ビスが外れて装甲板が剥がれ落ちてしまったとこもあったのだが)

 

 

 皆その様子に顔を青ざめさせていた。

 

 「故に我々では奴らをこれ以上どうすることも出来ない。だからどうにか出来るところまで誘い込むのだ」

 

 「本艦隊の役目はあくまで誘引、それを忘れるな、わかったらさっさと動け」

 

 ハウ提督の言葉に付け足すように艦長が指示を飛ばす。

 

 「さて、泥棒は最初うまくいっても、逃げるのが怖いものだ」

 

 彼の言葉が終わると同時にフランス艦隊は発砲しだした。

 

 ........

 

 数時間後

 

 英国艦隊はフリゲート艦を2、3隻ほど失いつつも、プリマスの港へと逃げ込んだ。

 

 そしてそこにはやってきたフランス艦隊に睨みを利かすように強力な要塞砲が配備されていた。

 

 「うーむ、出来るならば、逃げこまれる前に包囲したかったが.....」

 

 「この艦隊の規模だと逆に包囲されなかったのが不思議なくらいですよ」

 

 「まぁ、先程の砲戦で装甲艦の堅さを思い知ったのであろう」

 

 仏司令官とティゲル艦長は港の奥を見つめつつ話す。

 

 榴弾は戦列艦等木造の艦には圧倒的な強みを発揮するが装甲艦艇に対しては無力であり、(速射砲やより強力なピクリン酸を利用した榴弾等が開発されると装甲ある無しに関わらず火だるまになるが)徹甲弾が無ければ有効弾を与えられない。

 

 そのため、フランス艦隊は例え数の劣勢と言えども容易に逆転しうる状況であったのだ。

 

 「まぁ、こちらも切り札が揃った事だし、すぐにでも殲滅できるとは思うがな」

 

 そう言いながら、後方へと目をやった。

 

 そこには、最新鋭の装甲艦パリ級航洋装甲艦が4隻並んでいた。

 

 巨砲を収めた砲塔を前後に2基4門収めたその姿は、さながら後の戦艦と言えるようなものであった。

 

 「これがあれば、どんなに頑強な陣地でも一発ですね。」

 

 「あぁ、だがなちとコイツには問題があってな」

 

 「問題ですか?」

 

 「あぁ、コイツの砲だと仰角があまりかけられないから丘の上の砲台に狙いを付けられないのだよ」

 

 後の戦艦であれば、ある程度は問題無いかもしれないが、この船は主砲塔を船体の甲板下に収めてるため、仰角はあまりかけられないのだ。

 

 「うーん、参りましたな」

 

 「せめて、逃げこまれる前に間に合って居れば活躍も出来たであろうがな」

 

 「強行突破いたします?」

 

 「いや、それはいくら装甲艦とはいえ無傷では済まないよ」

 

 昔から、要塞と艦隊が戦ったら要塞が有利なのは知れているが、それは装甲艦になっても同様である。揺れ動く船体で照準を合わせることすら困難な船と陸地に固定され、地中に隠す事も可能な要塞砲では勝負は見えている。実際に近代においても旅順に対する砲撃やダーダネルス海峡突破戦で艦隊側の被害が目立つ結果が出ている。

 

 戦艦が陸上砲撃において優位に立つのは陸上砲の射程圏外だったり飛行場だったりといった、反撃の恐れの少ない場所である。

 

 「故に秘策を用意していた」

 

 「秘策ですか?」

 

 艦長が首を傾げたとき、後方のフリゲート艦より何やら白い雲のような物体がふわふわと上昇していた。

 

 「提督!!ありゃなんです!?」

 

 艦長はそれを見るなり、びっくりしてひっくり返った。

 

 「ハハハ、驚いたか、何でもヴィシーの奴らが開発したものでな、なんでも水素で浮く飛行船って言うものらしい」

 

 「水素ですか!いや、それで空に本当に浮き上がるとは驚きですね」

 

 司令官はこういう自体も想定して、研究隊より4隻程飛行船を借りてきたのだ。

 

 モンゴルフィエ兄弟が、熱気球を開発したのはちょうどこの時代であったのだが、その裏では水素気球も発明され、フランス革命戦争では実用化に至っていた。(あいにく、部隊が壊滅しその後しばらく話題にはならなかったが)その気球をヴィシーの研究家達は改造し、自転車のようなペダルとプロペラを付け、自走できるようにした。そうそれがこの初期型飛行船である。

 

 「これで、敵の砲台の頭上に爆弾でも落としてやろうと思ってな」

 

 あまり積載量は稼げないため、手榴弾ぐらいしか載せられないが、脅しくらいにはなるであろう。

 

 「それに高度が稼げれば、臼砲の観測もしやすくなりますもんね」

 

 艦長が後方、パリ級に並ぶ位置に居座る旧式砲艦、ボムケッチを眺めた。

 

 臼砲を搭載し、榴弾を以てして目標を火の海にするボムケッチは、艦砲射撃に必須の存在であったが、榴弾が一般的になるに連れ廃れ、徐々に数を減らしていた。しかし、こういった目的にはまだまだ使えるため、予備に何隻か保管されており、今回急遽再就役し、ここまでやってきたのだ。

 

 数分後、爆弾や観測機器等の積載が終わった飛行船が空へと登ってゆく。

 

 風は今吹いていないため、流されることなく砲台上空へと移動し、爆撃&着弾観測を開始した。

 

 

 イギリス側も迎撃すべく、銃を空に向けるも、弾丸は飛行船に到達する前に失速して落ちてゆく。その時を振り返ったある兵士は「まるで、雷雲にでも銃撃しているかのようであった」と証言した。

 

 飛行船側からの爆撃は後世のような照準装置の無いような状態で行われたため、大半は地面の埃を舞わせるだけであったが、飛行船誘導の元行われたボムケッチよりの砲撃は有効であったらしく、砲台と主しき場所は徐々に鉄くず置き場へと変化していった。

 

 「ここまでやれば艦隊は無事港内に侵入できるであろう」

 

 「では、」 

 

 「あぁ、全艦隊に下令......」

 

 戦果を確認した司令官が湾内突入の指示を下そうとしたその時

 

 「申し上げます!英艦隊がマルセイユに来襲、地上部隊が我が国に上陸いたしました!」

 

 脇の通信室より少尉が急ぎ飛び出して報告してきた

 

 「なぬ、それは本当か?」

 

 幕僚達の顔より血の気がスゥーと引いてゆく。

 

 「はっ、あくまで確証は持てませぬが、マルセイユ方面軍よりの連絡を傍受いたしまして....緊急性の高い要件として報告いたしました」

 

 「それは偽電では無いのでは?」 

 

 極力都合の良い情報が聞きたい参謀が疑うが

 

 「いやいや、そもそも我が国の最高機密とも言えるものを英側が普通に使っているはずが無かろう」

 

 艦長は現実的にありえないと語った。

 

 そこにさらに

 

 「申し上げます!海軍司令部より命令!本艦隊は反転し、地中海の上陸艦隊を撃滅せよとのことです。」

 

 「.....そうか、わかった」 

 

 司令官は帽子を深くかぶり直すと、命令を下した。

 

 「全艦、反転じゃ!急ぎ地中海艦隊を討つ!」

 

 「はっ」

 

 先程まで砲撃をしていたボムケッチや飛行船達も急遽引き返し、艦隊とともにマルセイユ目指して反転していった。

 

 

 その頃、地中海では

 

 「ふーん、フランスご自慢の装甲巡洋艦とやらも案外脆いんだな」

 

 そう語る人物の目の前には、浜に乗り上げた船らしき形をした鉄くずがあった、そう地中海に派遣されていた装甲巡洋艦シアンである。

 

 フリゲート艦一隻を引き連れ唯一地中海に睨みを聞かせていたかの船は、旧式戦列艦何隻かを屠ることに成功するも、平時の体制であったため弾、石炭共に早々に無くなり、逃げ回っていたところ暗礁に乗り上げ、停止、そこを榴弾で徹底的に砲撃された結果、日露のバルチック艦隊のような姿となってしまったのだ。

 

 「とはいえ、我々も2隻失ったのです!油断なりませね」

 

 「そう心配するでない、フランスの主力艦隊は本国に貼り付き、装甲巡洋艦も葬った我々を誰が邪魔すると言うのかね?」

 

 「それは」

 

 「確かに、戦列艦2隻は大きい、本国の連中も騒ぎ立てるであろう。だが、たかが旧式艦2隻失ったところで我々は痛くも痒くもない。それよりも」

 

 「時間を失うことのほうがもったいないですね」

 

 「きみ、良く分かってるじゃないか、それならさっそく行動するとしよう」

 

 「はっ、では」

 

 「あぁ、総員準備は良いか、ボートを降ろせ、フランス王国の玄関を突き破るぞ!」

 

 そう言いながらその人物、ホレイショ=ネルソン提督は、剣を抜くなり、自ら戦闘に立ち、敵地へと飛び込んでいった。

 

 

 こうして、英軍の上陸を許してしまったフランスはますます境地に立たされることとなる。

 

  

 

 




「23話終わりました」
「お疲れ様でした」
「いやぁ、構想は前から立てていたのにいざ文にして書くとこうも時間がかかるとは....」
「作者は思ったことを一気に書くタイプですからね、スイッチが切れると文が状況報告みたいになりがちですからちょっと読みづらいです」
「今更ながら中学高校で勉強した文の作り方を復習したい気分ですわ」
「それはそれとして作者弓届いたそうですね?」
「はい、特作粋ようやく出来上がりました!」
「使ってみた感想は?」
「いやぁ、いいですね、本当に反動が少なく感じられ、引いていてすごく楽です。ただ弓を重くしたためか、射が縮こまったり手の内が崩れ気味なのが今の課題ではありますね。それでもキチンと思ったように引けるとびっくりするくらい矢どころが集中するのでちょっと楽しいです」
「早くなれるように頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
「さて、それでは」
「「ありがとうございました」」

 次回 ヴィシー包囲戦2?


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フランスの一番長い日④ヴィシー包囲戦② 

「皆さん、本当にお久しぶりです。作者です」
「同じく涼太です。」
「皆さん、コロナ渦の今どうお過ごしですか?」
「作者の道場でもついに感染者が出てしまったみたいです」
「わたしも、何だかんだ落ち着いたときには色々ハメを外してしまったので少々心配です」
「いや、少々どころじゃないでしょ、弓道合宿行ったり、車で毎週のように山岳ドライブしたり」
「ぎく、いや、その辺夏だったし」
「そんなことやってる暇があるんだったら弓の稽古するか、この小説書いてください」
「ぜ、善処いたします」
「さて、弓矢24話始まります」
「舞台は再び学校に戻ります」
「籠城戦を続けている学校、そろそろ余裕がなくなってきた今、どうゆう手を取るのか」
「そして、迫りくる英軍」
「弓道クラブの奮闘とくとご覧あれ」


 1786年 ヴィシー学園

 

 ヒュルヒュルヒュルヒュル〜、トンッ!バーン!

 

 「キャッ〜!」

 

 悲鳴と共に、近くの防壁が弾け飛ぶ

 

 初日の大攻勢以来、大規模な攻勢は無くなったが、散発的ながら弾は時たま飛んできている。

 

 最初見当違いな所にばっか当たっていた砲撃も、徐々に正確になってきている。

 

 さっきの砲撃で何人か吹き飛んだのであろう。血肉があたり一体に飛び散っている

 

 最初こそ、学校の被害はほぼ無かったが日数とともに被害も増えてきて、犠牲者も増えてきた。

 

 私は、チラとそちらの方を見つめてからすぐに視線を元に戻した。  

 

 ポケットより、乾パンを取り出し口に入れる。

 

 こんな状況でも食事が出来るほどには、この恐ろしい光景にも既に慣れつつある。

 

 「またかぁ」

 

 カリーネがため息を履きつつ、ぼやく。そう言う彼女の目に光は灯っていない。

 

 長きに渡った戦闘に皆疲れ切っている。当然私もカリーネもである。

 

 カリーネは、担架を抱え立ち上がった。

 

 私もそれに付き添い、向かい側を持ち、着弾地点の砲台へと向かう。

 

 砲台があった場所は跡形も無く消し飛び、

 

 「一人...二人...三人...あぁ、全員だわ」

 

 隊員は全員顔を背けたくなるような状態で、亡くなっていた。  

 

 直撃である。

 

 「担架よりも袋が欲しかったかしら」

 

 体はバラバラに飛び散っているため、担架で運ぶよりは袋の方が運びやすいものと思われた。

 

 「そうだね、彼女達運んだら先生からもらおっか」

 

 「了解」

 

 私達は、何でも無いように会話をする。最初こそ、視界に収める事も出来なかったこの作業も流れ作業の様にできるようになっていた。

 

 私達は、一通り運んで整地をした後、持ち場の砲台に戻り一息ついた。

 

 「ねね、ハルちゃん、この戦争、いつになったら終わると思う?」

 

 諦めがちな表情をしながらカリーネが質問する。

 

 「私にはもう何にも分からないや」

 

 私は、両手を広げ、参ったと言うような表情で答えた。

 

 包囲されてから1ヶ月、対した戦闘こそないものの、補給も連絡も無い我々は、士気も兵糧も減りつつあった。

 

 「そっかぁ、やっぱハルちゃんにも分からないかぁ」

 

 カリーネは最初っからその答えが分かっていたかのようにつぶやく。

 

 「ごめんね、私のせいなのにね」

 

 私は、自身の責任に俯く。

 

 「そんなことないよ!ハルちゃんは何も悪くないよ......」

 

 カリーネはフォローしようとするが、自信を持ってフォローできず最後がボソッとしたものとなる。自分ではわかっていても、辛いものは辛いのだ

 

 「......」

 

 場に沈黙が広がる。

 

 そこへ

 

 「何暗い顔してんのよ!」

 

 シレーヌがやってきた。

 

 「....」

 

 皆の暗い様子を見て、シレーヌはしょうがないなぁと言った表情をしながら話しかける。

 

 「いつ終わるかなんて、そんなのわかるわけないじゃない」

 

 「.....」

 

 「ちょっとでもはよ終わらすには行動するしかないでしょ」 

 

 「そりゃ、そうだけど....」

 

 弾が無い!それは言わずともわかることである。

 

 

 「大丈夫、弾に関してはなんとか備蓄量溜まったから」

 

 反撃はせず貯蓄に努めた成果が確かに出てきたのだ。

 

 

 「それはホント?」

 

 カリーネが怪訝な顔をしながら、シレーヌをみつめる。

 

 「もちろん、私もちゃんと見てきたよ」  

 

 隣にいる女生徒が答える。どうやら司令部も本気のようだ。

 

 「いよいよ反撃よ!各クラスより人員を募って奇襲攻撃を仕掛けるわ」

 

 

 「ハルちゃんどする?」

 

 シレーヌは私の方を見つめ質問する。

 

 「カリーネ.....」

 

 私は上を向き考える。空は先程の爆炎で曇っていた。

 

 「.....」

 

 「...よし行こう!」

 

 私は決断した。このまま何もせず、配置についていても戦局は良くならない。いづれ先程の砲台の様に吹き飛ばされるのが落ちだ。それぐらいならば...

 

 私とカリーネ達応募人員は、予備の待機要員に声をかけると装備一式を背負い、シレーヌについていった。

 

 「シレーヌ入りまーす」

 

 司令部の部屋の前についた私達はシレーヌの案内で入室した。

 

 そこは普段地下倉庫として使っている空間なのだが、吹きさらしの砲台と比べると幾分か安心できた。

 

 「おぉ、ハルちゃん、カリーネ君たちも来てくれたんだね」

 

 「はい、先生!」

 

 教頭先生が頭を撫でつつ言う。普段と比べて多少窶れた表情をした彼であったが孫が来たかのように喜んでくれた。

 

 「さて、作戦説明をいたします。」

 

 切りのついたタイミングでフランス軍将校の服装をした男性が話し始めた。

 

 だがそこで私はあることに気がついた。

 

 「あれ君、確か同じクラスの....」

 

 「ナポレオーネ、プオナパルテだ、よろしくな」

 

 「こちらこそよろしく、プオナパルテくん」

 

 ナポレオーネ・プオナパルテ、フランス語名ナポレオン・ポナパルト、フランス革命の頃に欧州を席巻したこの人物も士官学校卒業後、ここへ入学していた。

 

 クラスの後ろの方の席に座っていたため、関わりは無かったが、彼も私のクラスメイトである。

 

 「あっ」

 

 カリーネはその様子をただぼんやりと見ていたが、何かに気づいたかのように声を上げた。

 

 「どうしたのカリーネ?」

 「貴方、この前の授業の時、ずっとハルちゃんのこと見てたでしょ?」

 「あっ、それは遥殿下が歴史に興味津々だったのを見て、ちょっと話が合いそうだなって思っただけで.....」

 

 プオナパルテくんはバツが悪いように俯きつつぼやく。

 

 その様子を見て、シレーヌは悪戯を思いついたのか、ニヤけながらプオナパルテくんをつつく。

 

 「そんなこと言って、ハルちゃんのこと気になったんじゃないの?」

 

 「いやいや、そんなことは無いぞ!?」

 

 「実は....?」

 

 そう言ってシレーヌは顔を近づける。

 

 「実もない!!」

 

 そう言うと、プオナパルテくんは顔を隠すように明後日の方を向いた。 

 

 「まぁまぁ、シレーヌそのへんにしてあげて」

 

 「ちぇー」

 

 私はプオナパルテくんとシレーヌの間に割って入る。流石にプオナパルテくんが可愛そうであったためだ。

 

 「プオナパルテくんも、また戦が終わったらたくさん歴史のお話しようね」

 

 「あぁ!」

 

 彼はキラキラとした目で答える。

 

 彼はアレクサンダー大王やユリウスカエサル等歴史上の英雄に憧れ、後にエジプト遠征の際に、たくさんの宝物を保護した。(略奪したとも言えるが)

 故に私とは気が合うかもしれない。 

 

 「まぁ、それはいいとしてだ。では作戦の説明に入ります」

 

 彼は先生及び駐屯軍幕僚達の顔色を見た後、説明に入った。

 

 「まず、今回の作戦の目的は敵部隊に対し夜間の闇に紛れて遊撃し、敵の物資、司令部を襲撃し士気を削ぐことにあります。そこで」

 

 そう言うと彼は地図の丸がかかれた場所のうち2箇所を指した。

 

 「この丸で書かれた場所が気球偵察等で把握した敵の部隊の物資集積所であり、この二箇所を本日襲撃したいと思います。それから」

 

 次に彼は駒が置かれた場所を指した。

 

 「ここが、敵の総司令部と思しき場所であります。故に我々はここも襲撃し、混乱に拍車をかけるのを目的といたします」

 

 「はいっ、質問いい?」

 

 シレーヌが手を上げ、質問する。

 

 「どうぞ」

 

 「攻める場所はわかったけどさぁ、こんだけ厚い包囲網どうやって突破するの?」

 

 「今まで敵陣地の下へ向け何本か穴を掘ってきましたがそのうちの一つを利用いたします。ただ、直接陣地に通じる穴を使うと穴が発覚する恐れがあるため、少し距離のある場所より襲撃していただきます」

 

 「ふーん、おっけ」

 

 シレーヌが納得した様子を確認した彼は説明をつづける。

 

 「それでは説明を再開させていただきます。襲撃にあたり銃砲は音や閃光が目立つため、より状況を混乱したものとするためにも、使用は最小限とし、弓、剣を用いた攻撃を行ってもらいます。」

 

 「それで私達にもお呼びが掛かったのね」

 

 カリーネがそう言うが、一応我々弓道クラブ員はそう言う役目にピッタシと判断したのであろう。

 

 「そゆことです。そして、襲撃後はなるべく長居はせず、即座に撤退してください。連日に渡りくり返し襲撃いたしますので、我々の損害は最小限に抑えるためです。襲撃は明日午前1時より実施いたしますので、日が沈み次第、準備を整え移動しておいて下さい。説明は以上です。何か質問は?」

 

 「....」

 

 「大丈夫ですね、では解散!」

 

 その後、私達は部屋を後にし、準備に取り掛かった。

 

 ...

 

 

 夕刻 午後7時

 

 準備を整えた私達は校舎前に集まっていた。

 

 皆、自分の得意とする武器、武具を持参し担いでいるが、服装は作業着のままのため、少し不自然である。

 

 

 そう言う私も弓を弓手に、背中に矢筒と言った形でまるで、現代の高校弓士のようである。

 

 「正直、和弓使うんだったら、直垂来て参加したかったな」

 

 

 「いや、ハルちゃんのその格好似合ってるよ」

 

 

 そう言う、シレーヌは白コートに花のたくさんついた三角帽をかぶっている。

 

 まるで、一昔前のフランス王国陸軍 (史実では恐らくまだこのままだが)のようである。

 

 正直ちょっとシレーヌが輝いて見えた反面、ありゃいい的になるんじゃないかと感じた。

 

 

 「もう、二人ともコスプレ大会じゃないんだから、服装なんてどうでも良いのよ」

 

 

 カリーネは私達の様子を見て呆れたようにつぶやいた。

 

 彼女は概ね私と同じような姿だが、はちまきを頭に巻いている。

 

 ちょっと彼女も気合?が入っているかのように見えた。

 

 他の人達も皆、自分の私服で着ているようで、その様はまるで戦場では無く、コスプレ大会にでも迷い込んだかのようであった。

 

 

 

 「おっ、みんな似合ってるね」

 

 そう笑いながらやってきたプオナパルテくんはらさっきと同じフランス陸軍の軍服姿であった。

 

 「もう、皆浮かれすぎよ....」

 

 カリーネが再び溜息を突きながらつぶやく。

 

 「まぁいいじゃないか、嫌でもこれからは気が張るんだし、今ぐらい多めに見てやろうじゃないか」

 

 「......プオナパルテくんも甘いわね」

 

 「最近よく言われるよ...さて、それじゃ諸君!敵地に向かうとしよう」

 

 「「オッー!」」

 

 私達はプオナパルテくんの先導で手掘りのトンネルを抜け、密かに敵陣地の裏に忍び寄った。

 

 

 ......

 

 

 

 近くで話し声が聞こえてくる。

 

 恐らく見張りの兵たちの声であろう。

  

 「あれ、可笑しいなぁ」 

 

 さっきまでは何とも無かったのに、手がブルブルと震え出した。  

 

 話し声を実際に聞いたせいなのだろうか。

 

 自分の中の奥深くで既に忘れ去ったと思っていた感情が溢れ出した。

 

 怖いという感情。

 

 敵兵の姿はいつも見ている、銃弾は目の前を掠め、爆風に煽られかけた事も何度もあった。

 

 

 それなのに

 

 

 敵が怖い

 

 弓が重い

 

 息がキツイ

 

 私はどんどん深みへと堕ちていくかのような感覚におそわれた。

 

 

 スッ

 

 

 「カリーネ?」

 

  

 ふと、カリーネが震える私の手を覆った。

 

 「全く....だから遊びじゃないって言ったのに...」

 

 「すんません....色々抜けとりました」

 

 カリーネはやれやれと言ったような口調でぼやく。

 

 「ハルちゃん、私が言うのも何だけど、いくらこんな地獄のような日々がつづいてるからって、気を抜いてたら今みたいな時、大変だよ」

 

 「ごもっともです」

 

 「まぁ、気を抜くのは悪くはないんだけどさ、気を抜いてて、突然怖くなってそれを隠そうとすると余計辛いだけだからさ、任務には全力で挑んで、怖くなったときには私に頼ってね」

 

 「うん、ごめんね」

 

 ちょっとカリーネと話をしたら気が楽になった気がした。

 

 これなら多少は任務に集中できるだろうか

 

 「分かればよろしい」

 

 私が謝ると、カリーネは誇らしげに胸を張った。

 

 

 

 「さーて、皆準備は出来たね」

 

 

 プオナパルテくんが時計をみつつ、皆に質問する。

 

 まもなく時間だ。

 

 私は、(カリーネに一時的に返してもらった)ゆがけにぎり粉代わりの松脂をのせ、擦った。

 

 ギリギリー

 

 (せめて、諸手がけとかあったら剣も振りやすいんだけどなぁ...)

 

 そんな事を想像しながら確認も行い、万端の状態になったのを確かめた上で矢を番え、プオナパルテくんの方に合図を送った。

 

 それを確認した彼は、剣を抜き、天高く振り上げる。打ち起こしせよとの指示だ。

 

 私達は皆一斉にそっと弓を打ち起こし、引き分け会で待機した。

 

 皆が一斉に打ち起こす様は圧巻である。(まぁ暗闇で見えないが)

  

 恐らく一度放てば、もういちいち高々と打ち起こしなんてしている余裕は無いだろう。

 

 そう考え私はなおいっそ丁寧に行った。

 

 ギリギリとかけの先で、ぎり粉がこすれる音のみが響く。

 

 ザッ

 

 トン、ズバッ

 

 剣が振り下ろされると共に、皆一斉に矢を発す。

 

 一拍の間をおいて、役150メートルの距離を飛翔した矢は次々と敵陣地に到達した。

 

 曲射で放たれた矢は何処に到達したのか正直分からないが、陣地より呻き声や悲鳴が聞こえてきた。

 

 ヒュー  

 

 私達の後ろより流れ星が空を翔けた。その光はスゥーっと敵陣地に吸い込まれてゆき、ボッと

一気に火の手が上がった。

 

 私達の後ろのクロスボウ部隊(第二派)の攻撃だ。

 

 彼らは、私達以上の射程を有するゆえに火矢を用いて、第二派として攻撃することとなっている。

 

 「プオナパルテくん、そろそろじゃないかしら?」

 

 燃え盛る敵陣地を見ながらシレーヌがプオナパルテくんに提案する。

 

 

 「そうだな、斬込み隊、抜剣、我に続け〜!」

 

 プオナパルテくんは頷くと、ギラリと輝く剣を空に掲げ、一気に飛び出した。

 

 シレーヌ以下、斬込み隊は我先にと次から次へと敵陣へと飛び込む。

 

 突然の襲撃のためか、敵陣地からの発砲音はあまり聞こえず、代わりにグサッといった何かが刺さる音や断末魔に苦しむ叫び声がたくさん聞こえてきた。

 

 恐らく、あそこは今地獄絵図なのであろう。

 

 心底斬り込み隊なんかにならなくてよかったと胸を撫でおろした。

 

 しばらくして、敵陣地より、ぞろぞろと人影が何人か飛び出してきた。

 

 恐らく、この惨状を脱しようと逃げてきた敵兵であろう、我々も弓を構えるが、哀れかな後ろより、斬りかかってきた斬り込み隊の面々に無残にも切り捨てられていた。

 

 「流石にちょっと見てらんないわね」

 

 「はるちゃん、これが戦争だよ」

 

 「まぁね、そうだけど...」

 

 私は一旦は引いた吐き気がまた、出てきかけた。

 

 だが、本格化する前に

 

 「撤収!」

 

 ぞろぞろと陣地の襲撃に行っていた人達が戻ってきた。

 

 敵方の混乱が落ち着きつつあり、このまま続けても損害が増えるだけと判断したのであろう。まぁ、今回の目的はあくまで敵を眠らせないことにあるから、これで充分である。

 

 ふと、戻ってきた人達の中の一人が私達の方によってきた。

 

 血だらけで、足も結構フラフラしてて、遠目では誰か分からない。

 

 「うぅ、ようやくついた」

 

 「シレーヌ?!」

 

 「大丈夫?」

 

 倒れ込むように、私達の元へやってきたのはシレーヌであった。

 

 正直、この格好だからどこか怪我しているのかと思ったが、外見から見当たらない。

 

 「大丈夫!、怪我は無いから。だけど流石に実際に人斬るのは疲れるね。」

 

 筋肉的な疲れもあるだろうが、やっぱり、精神的な負担は相当なものであろう。

 

 ぐったりとしたまま、彼女は私の胸の中で眠ってしまった。

 

 「シレーヌ!」

 

 「やめとこ...今は寝かせたげて」

 

 「まぁ、それもそだね」

 

 これから学校まで行かないといけないため、起こそうとしたが

 

 ソバールにいわれて、そのまま、背負って学校まで帰ることとした。

 

 「敵砲台発砲」

 

 「遅いわ」

 

 皆学校に撤収完了した頃、ようやく敵が私達のいた場所に砲撃し始めた。恐らく、混乱の中、私達の残していった藁人気を見つけ、それを頼りに砲撃したのであろう。

 

 だが、そこはもぬけの殻である。

 

 この無駄な砲撃は翌朝日が昇り、ことが発覚するまで続いた。

 

 勿論、朝日と共に彼らの頭に血が登ったのは言うまでもない。

 

 

 ......

 

 

 この後も、周期をバラバラに時間も変えて、襲撃を行った。

 

 最初こそ、我らの斬り込みに恐れをなして、襲撃するときに逃げていたが、何度か繰り返すたびに彼らも学習し、常に万全の体制で警戒するようになった。

 

 そのため、斬り込み戦術は必ずしも有効とは言えなくなってしまったが、これこそが真の目的である。

 

 24時間臨戦体制で警戒させることにより、敵方の体力を消耗させ、またいつ襲ってくるか分からないと疑心暗鬼にさせる事で、学校に向いていた砲撃を何もない、窪地等に向けさせることに成功したのだ。

 

 これにより、いくら学校より戦力が大きいとはいっても、徐々に余裕が無くなっていった。

 

 しかし、その状況も長くは続かなかった。

 

 「教頭、あっ、あれは!?」

 

 教師が覗く、双眼鏡の先には明らかに数の増えた敵陣地があった。

 

 「ユニオンジャックに、レッドコート...そうか、英軍までやってきたのか...」

 

 余裕が無くなったぶんを埋め戻すかのように、英国の部隊が展開していた。

 

 恐らく、これからは斬り込みが出来ないどころか、もりもり息を吹き替えしてくるであろう。

 

 「知らぬ間に....全く、海軍の連中は何をやっとるか」

 

 

 陸軍の代表がぼやくが、正直打開策がない。チェックメイトだ。

 

 最早、降伏止むなしとの考えが多数を占めてきたその時、

 

 「あっ、待ってください!敵陣地のさらに奥、鉄道線沿いにこちらに向かってくる部隊がおります!」

 

 英陣地のさらに奥、鉄道線にそって、砂埃がゾーッとこちらに向かってきているのが確認でき、よーく見ると人の顔も見える。

 

 「うむ、敵の増援かそれとも.....」

 

 「いや、あれは.....恐らく味方です!英部隊と交戦中の模様!」

 

 砂埃の立つところでは激しく発砲炎が上がり、また英陣地側からの反撃も確認された。

 

 よーく見ると、砂埃の中の人達に、白地にゆりの旗が翻っているのが確認できた。  

 

 その後ろには英軍を上回る数の大軍が続いている。

 

 「教頭、では」

 

 「あぁ、私達の持てうる限りの力で彼らの進路を開きましょう。」

 

 「分かりました。急ぎ配置転換、英陣地方面に火力集中せよ」

 

 陸軍の指揮官のもと、急ぎ配置転換が行われ、文字通り備蓄の限りを尽くす勢いで砲撃が開始された。

 

 だが、砂埃が迫るにあたり、それよりも遥かに効率的な方法で彼の軍勢は道を切り開いていた。その光景に敵も味方も皆開いた口が開かなかった。

 

 その方法とは

 

 ズハババ〜

 

 「汚物は消毒ダー!ヒャッハー!」

 

 




「皆さん、お疲れ様でした」
「結局夜襲の所で長い時間使ってしまって、援軍との合流は次回に持ち越しになってしまいましたね」
「ホントは今回で合流までするつもりだったんですけどね、何分投稿が遅れてるので、次回に回させていただきました」
「彼らの軍勢の正体は何か」
「次回お楽しみ下さい。」

 次回 電撃戦もどき?と経緯


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