プリキュアオールスターズ×仮面ライダー〜bの復活とsの暴走〜第三部 (鈴木遥)
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Brave of the Twin World

・世界が崩壊するとき、人が何を思うのか。

それを試みようとしたある仮面ライダーでさえ、その答えは分かりかねる。

ただ……。

 

この物語を目にする『あなた』にとっての終末の定義がもし、物理的な惑星の崩壊を指すのなら、それは確かに実現していた。

 

本来、光の名のもとに世界を守るべき、光の盟主の手によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万丈龍我は、見知らぬ街中で目を覚ました。

 

「どこだここ……!?」

 

すぐ隣には、仮面ライダーグリスこと猿渡一海も倒れている。

 

ただ見知らぬ景色というには、何かこう、景色に重厚さが無いというか、まるで絵の中にでも飛び込んだ様な感覚だった。

 

そういえば、仲間の一人、桐生戦兎が数日前、このような世界に迷い込んだという話を小耳に挟んだ気がする。

 

「なんだこりゃ、ユメか……?」

 

意識朦朧とした猿渡が目を覚まし、当りを見回す。

 

きらびやかではあるが、どこか寂しげで、人っ子一人いない。

 

「戦争中ったって、土日だぜ?なんで誰もいねーんだ?」

 

最もおかしな点に気付いたのは、猿渡だった。

 

「いよいよユメかもなァ、見ろよ……。」

 

「!?」

 

二人は顔を見合わせ、万丈は思わず呟いた。

 

「スカイウォールがねえ。」

 

「一体どうなってんのかわかったもんじゃねえが、とりあえず誰か人に会って、ここはどこなのか、なぜスカイウォールがねえのかを確認しないとな。」

 

「おお、冷静だな猿渡……。」

 

「あたりめーだバカ、 こんな時だからこそ、 俺が上手い事先導しねーと。何より……。」

 

「ん?」

 

「みーたんのいねぇ異世界なんぞ、何処だろうと願い下げだァァァァァァァァ!」

 

 

「わーったようるせーな……しかし、何処だここは。」

 

万丈もテンパってはいたものの、 以前エグゼイドの世界に入った経験から、こういうパターンでどうしたらいいのかはざっくりと理解していた。

 

とりあえず、 人のいる街中に……。

 

しばらく歩いていると 見かけない電波塔があった。

 

ところがもっと不可解なことに、そのすぐ正面にはスカイツリーがあったのだ。

 

「スカイウォールがないってだけで、 位置的には東都ってことか。」

 

万丈の記憶が確かなら、 しばらく歩くと飲食店街に出るはずだ。

ところが、いつの間にか二人は、 パレスチナの紛争地帯を思わせる スラム街のような場所に出ていた。

 

暖かい昼間だというのに外に出て遊ぶ子供は一人もおらず、死んだ目をした老人や女たちが、道行く者たちを睨んでいる。

 

万丈はますますわけがわからなくなった。

 

戦争中の東都ですら、ここまで治安の悪化は見られなかった。

見かけからして、心の荒みが際立っている住民たちに、どう話しかけるべきか万丈が迷っていた頃。

幸か不幸か、テントに住んでいた老人の方から話しかけてきた。

 

「おめぇら、見ねーカオだな。」

 

「ああ、色々あって……。」

 

老人に警戒していた万丈に変わり、 横から猿渡が質問した。

 

「なァ爺さんよ…… オレたちわけあって、こことは違う世界から来たんだが、 この世界、いやこの街で一体何が起きたか知ってるか?」

 

こんなどストレートな質問をぶつけると、 大概の異世界人は異世界という概念が無い為、訝しげな顔をするのだが、 老人は、情報提供の対価に、小銭とカップ酒を要求してきた。

 

「また異世界人か…… 本来てめえらと取引するやつは、この街煙たがられてるんだが、酒代が出るなら知ったことじゃねぇ。」

 

猿渡から受け取った千円札をポケットにしまいながら、 老人は辺りをはばかって話し出した。

 

「 異世界人とは言うが……てめえらの世界にも、化け物はいるのかい。」

 

老人の言う「化け物」の基準がどこからなのか分からないが、 二人は自らの世界で遭遇した、『スマッシュ』を思い浮かべた。

 

「ああ、いるぜ……それがどうした?」

 

「 この街が、戦争地帯みたいになっちまったのは、ほんのわずか数日前。

てめえらのなりを見る限り、それまでこの世界も、 その日暮らしするには困らない安全な世界だったよ。」

 

「何で 異世界の人間は鼻つまみ者なんだい?」

 

「この惨状を引き起こした張本人が、 異世界の化け物だからさ……。」

 

老人の話はだいたいこうだった。

数日前、 この世界の平和と秩序を守っていた 光の根源たる存在が、 邪悪なるものに宣戦布告。

 

その反動で、並行世界を分割する軸が、めちゃくちゃに壊れ、『闇の同盟』を名乗る怪物たちによる侵略宣言が発令。

 

初めのうちは、この世界の政府が自衛隊を出動させ抵抗。 しかし光の側の新勢力『輝ける帝国(シャイニーキングダム)』が無力化。

 

あっという間に闇と光の覇権戦争が開幕し、人類は蚊帳の外。怪人や、超人戦士たちが闊歩するようになっていった。

 

「ちなみにこの世界は光の側の支配下よ。盟主であるクイーンを悪く言ったりしようもんなら たちまち自警団が飛んでくるぜ。」

 

 

思った以上に壮絶な世界情勢に、思わず万丈と猿渡が絶句していた時。

テントの奥から 初老の男が出てきた。

 

「オジキ、てぇへんだ。 ショッカーの連中が……。」

 

「 今日は闇の側かよ。めんどくせーな、 とっととずらかるぞ。」

 

万丈は耳を疑った。

 

まだ、 逃げ切っていない女子供が大勢いるというのに、 テントに住んでいる男たちは我先に逃げようとしている。

 

「待てよ! ガキや女たち助けずに、自分達だけトンズラか?大した大人だなおい。」

 

先に老人を押し戻したのは、猿渡だった。

 

「 闇も光も人間を襲撃するのは日常茶飯時…… ガキだから?女だから?関係ねえよ。

奴らはもう、俺たちに生きる権利を与えちゃくれねぇ。 ウジ虫みてえに影の中を逃げ回るしかねえんだよ。それが人類に残された最後の生きる道だ。」

 

ショッカー怪人、ザンシオーに引き連れられ、 爆撃、略奪、暴虐の限りを尽くすショッカーたち。

だが今日の襲撃者は彼らだけではなかった。

 

『オシマイダァァァア!』

 

奇っ怪な雄叫びとともに、どこからか現れる、黒く巨大な怪物。

人の形をしてはいるものの、まるで黒い布を編んで作った歪な人形のようだった。

 

「何だありゃ!?」

 

驚く万丈に 老人が解説した。

 

「『 クライアス社』……最近になって勢力を拡大しだした闇企業。 あそこまで動いちまったんじゃ、逆らえば死ぬな。」

 

老人はただ恐れおののいていたわけではなく、最早諦めていたのだ。

生きること、 戦うことそのものから、本能的に逃げていたのだ。

 

「もういい…… 行くぜ猿渡。」

 

「言われるまでもねー。」

 

彼らに背中を向ける気など、毛頭なかった。

いたいけな少女が、ショッカーの人質にとられていたからだ。

 

「オイ……知らねーぞ!? こいつら2大勢力に逆らったやつは皆死……。」

 

「死んでんのは、アンタの魂さ。」

 

「!?」

 

「 この俺の力が必要とされる限り…… 今の俺は、負ける気がしねぇ!」

 

『Dragon/Robot JELLY!』

 

「「変身!!」」

 

ふたりは、それぞれのぜりアイテムを、『スクラッシュドライバー』にセット。

 

仮面ライダーグリスとクローズチャージに変身し、 迫り来るショッカー軍団に立ち向かう。

 

その背中を、誰も見送りはしない。ただ呆気に取られて見つめることしか出来なかったのだ。

この混沌とした世界に、再び平和を取り戻してくれるかもしれない、希望となり得る二つの背中を……。

 




・ 一週間遅れの第三部スタート。 大変お待たせいたしました。
どこまでやるのか鈴木遥(笑)
腹筋にも書いた通り、サイドストーリーの皆さんが参戦します。
どうぞお楽しみあれ。


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またいつか繋がる日の為に

・急襲したショッカーたちを相手に、果敢に挑むグリスとクローズチャージ。

 

「何匹いやがるんだこいつら!」

 

「焦んじゃねー!突き続けりゃいずれ崩れる!問題は……アレだ!」

 

猿渡の視線の先には、クライアス社なる謎の新勢力の産物、オシマイダーがいた。

 

二人の専用武器、『ツインブレイカー』による打撃、射撃をいくら叩き込んでも倒れない。

 

「何なんだアイツ……!」

 

「さぁな、オレらの攻撃が当たっても効いてねーらしい。」

 

『オシマイダァァァァァァァ!』

 

奇怪な雄たけびを上げながら、破壊の限りを尽くす怪物。行動からは、何の意思も垣間見えない。

 

 

「オイ、アレ!!!」

 

焦る万丈。オシマイダーの正面には、スラム街の少年がいた。

 

意思なく破壊に徹するオシマイダーにとって、これ以上恰好の標的はない。

 

 

「ヤベェ!!」

 

助けに走るが、距離を取り過ぎたせいで、到底間に合わない。

 

「くっそォ間に合わね……!」

 

猿渡が走り、オシマイダーの黒い拳が振り下ろされようとしたその時。

 

「「フレ!フレ!ハート・フェザー/スター!!」」

 

高い声と低い声の混合詠唱とともに、空から黄金の星屑と、青い羽根が降って来た。

 

 

「……!?」

 

羽根と星屑の旋風に巻かれ、オシマイダーは徐々に喧騒の表情を解かしていく。

 

そう、浄化されたのである。

 

『ヤメサセテモライマ~ス!』

 

緩やかな鳴き声(?)と共に、オシマイダーは完全に消滅した。

 

先ほどの少年は、腰まで伸びたポニーテールの少女に抱っこされていた。

 

「危ないって言ったでしょ?」

 

「うるせー!父ちゃんは同盟にやられたんだ!オレが仇を取ってやる!」

 

「百年早い。」

 

父の仇を取る!と意気込む少年に、黄髪の少女は容赦なく釘を刺す。

 

「ママが心配してるわ。避難所に戻ろう?」

 

水色アップ髪の少女に諭され、少年はしぶしぶ奥へと走っていった。

 

 

「なぁ万丈、確かあそこ……。」

 

「ああ、赤くてでけー電波塔があった。避難所ってどういう事だ?」

 

 

「ちょっとアンタたち。」

 

ひそひそ話をしていた万丈たちに、ポニーテールの少女が詰め寄る。

 

「……何その妖しいマスク?」

 

(ヤベェ!変身解くの忘れてた!)

 

 

遅ればせながら気づく万丈。そんな彼の気持ちを忖度してか、彼女は淡々と言った。

 

「あーなるほど、私らと同じ穴の狢か。」

 

「へ?」

 

訳が分からない万丈。彼女たちは、腰に下げたハート型のアイテムを変形させた。

 

二人の身体をあわい光が包み込み、彼女たちの『変身』が解除される。

 

急激な髪質やコスチュームの変化などに度肝を抜かれる万丈をよそに、彼女は呟いた。

 

「さっきの奴等、捌いてくれてありがとう。新顔ならアタシらの住処に案内するけど、どうする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎の少女、薬師寺さあやと輝木ほまれの誘いを受けた二人は、やはり芝公園に仮設されていた大規模な避難所に到着した。

 

避難所といっても、先程のスラム街と代わり映えしない様な、粗末なテントの集合体だった。

 

「すげぇな……なんつーか、 やればできるもんなんだなって……。」

 

その言い方が正しかったか否か、万丈にはわからない。

 

ただ、得体のしれない怪物に屈してなお、『生きる』事を諦めなかった人々の執念に似たものが、ここには集まっている様な気がした。

 

そんな万丈の気持ちを知ってか知らずか、ほまれは彼に、この世界で起きた事を話し始めた。

 

「 同盟とキングダムの襲撃で 都内の小中学校とか避難所になりよる体育館が全部崩壊しちゃってさ。

初めのうちは自衛隊とか、 超人的な組織を快く思わない他国の軍隊とかが介入してきたんだけど、 あいつらは超人的な能力で 反乱因子を殺さずに負かした。

おかげで国を取り仕切るような人たちはみんな どっちかにしっぽを振るようになった。

その結果がこれだよ。首都圏に残っているわずかな反乱分子も、もういつ全滅してもおかしくない。」

 

「そんな酷え話が……。」

 

「それが酷い話から当たり前に変わっても何日も経つ。

それを変えるために私たちがいるんだよ。」

 

「 あの力のことか……お嬢さん達一体何者だ?」

 

猿渡の問いに、二人はハート型の変身アイテムを出した。

 

「このアイテムを使わない『先輩』たちも居ますけど、

この世界の女戦士は、『プリキュア』と呼ばれてます。

……私達は、プリキュアになって日が浅いですが。」

 

「プリキュア……。」

 

感嘆する万丈に、ほまれが返した。

「二人は、『仮面ライダー』だよね?おたくの先輩に知り合いがいるから、案内するよ。」

 

 

タワーの真下には、ひときわ大きな白テントがある。

 

テントの中では二枚目風の男が、何やら香ばしい香りの漂う鍋をかき回している。

 

「アンタ、何を……。」

 

万丈が声をかけると、男は唇に人さし指を当てる。

 

「話しかけるな、サバ味噌の出来はタイミングで決まる。時期に出来る。しばらく待て。」

 

「オレは別にメシなんか……!」

 

反論しようとした側から、万丈の腹が鳴った。

 

「見ろ。腹は正直だ。」

 

「お前……足元見……!」

 

更に食って掛かろうとした万丈を、猿渡が止めた。

 

「初対面にケンカ売ってどうする?オレ達は先輩とやらに会いに来たんだろ?」

 

「その人も先輩だけどね、喧嘩ならしなくて正解。その人アンタより強いよ多分……。」

 

ほまれが告げたとき、鍋の中から取り出したサバ味噌を更に盛り付けた。

 

「いいぞほまれ。皆に声かけろ。」

 

「いい匂い……さすが天道さん。」

 

「お世辞は良い、速くしないと冷めるぞ。」

 

「ハイハイ。」

 

避難民たちのテントに向かって駆け出すほまれ。それと同時に、 白い大型テントの国から白衣の青年が現れる。

 

「永夢、味見を頼む。」

 

「おっー!喜んで!」

 

彼からサバ味噌の皿を受け取る仮面ライダーエグゼイドこと北条永夢。

 

彼を見た万丈は、 思わず目を見開いた。彼と面識があったからである。

 

今年の8月のこと、二つの異世界融合を目論む最上魁星と、その主力兵器『エニグマ』の阻止のため、共に戦っていたのだ。

 

 

「エグゼイドー!?」

 

「万丈さん!?」

 

 

 

 

白い大型テントの中に通された万丈と猿渡は、この世界情勢について、更に詳しく話を聞いていた。

 

 

「つまり…… こっちにもといた戦士たちは今バラバラに散ってるってことか?」

 

「その通りです猿渡さん。 遭難者の救出に向かったり、行方不明者の捜索に向かったり、あとは……。」

 

「裏切った連中の説得に向かったりな。」

 

永夢に代わり、飛彩がつぶやいた。

 

「飛彩さん、そんな言い方……。」

 

「どう言えば良い? 奴らがどんな状態だったにせよ、敵の甘言に乗ったのは事実。所詮は裏切者さ。」

 

永夢は頭を掻いた。

 

と、その時。テントの奥から、赤毛の青年がカオを出した。

白衣を着ている辺り、永夢と同じ医者だろうか。

 

「彼らにも、色んな事情があったと思う。けど…… キングダムの連日の攻撃を前に私達がこれじゃ……。」

 

 

「アンタも仮面ライダーかよ?」

 

「いや……私はプリキュア。」

 

「えぇ!?」

 

彼らが彼女を『青年』と思った理由は、単に見かけからの判断だろう。髪は短くまとめられ、ファッションセンスも男前そのものだ。

 

「よく驚かれるけどね……。」

 

剣城あきらが苦笑いしていると、奥から青い髪の女性が出て来た。

 

「あきらちゃん、次の診察お願いね。」

 

「かれんさん、今行きます。」

 

 

「彼女もプリキュア……その他にも、医療関係者が何人か、残ってるんです。」

 

「だが、 医療関係者以外のプリキュアは今、現役とアラモード組だけ。仮面ライダーは外にいた天道と桐生、天空寺、如月、それと小野寺ってヤツだけだ。」

 

「 この頭数じゃ、襲われればひとたまりもねえな。」

 

 

猿渡が言う。 数秒にも及ぶ沈黙の中で、結局その先の答えは出なかった。

 

 

 

夜になると、 夏も近いというのに妙に冷える。

 

万丈は、星空を見上げていた。天道が料理する間、 何もすることなどないが、何かしていないと落ち着かなかった。

 

話を聞いているとどうやら、戦兎は自分達に先んじて、この世界に来て戦っていたらしい。

 

しかし自分には、西都との戦争を止めるための代表戦が間近に控えていたのだ。

元の世界に帰らねばならないが、 この世界の住民 を放置して逃げることなどとてもできない。

 

「あ〜……どーすっかな。」

「迷ってるの?」

 

 

後ろから、落着いた声がした。

 

プリキュア医療チームのまとめ役、水無月かれんだ。

 

おそらく彼女は自分より若いだろうが、 自分より凛として決意の固まった目をしている。少しばかり、今の自分が情けなくなった。

 

「アンタはすげーな。オレと違って、この世界で出来る自分の役目を上手くこなしてる。」

 

「私も、自分に自信はないわ…… あきらちゃんや、六花ちゃん…… 仲間達がいなかったら何もできないお嬢様のままだった。」

 

「でも……決意は固まってんだろ?」

 

「正直今一つよ…… 私の恋人が行方が分からなくてね。

どうもクイーンの所にいるみたいなの。」

 

「……!?」

 

万丈の前だからか、無理に笑っているが、 その笑顔の裏に 何か語りがたい闇を抱えている事に、万丈は気づいていた。

 

「バカな()だわ。 私にこんなに心配かけて……でも、バカなのは私もそう。彼女が何を思い、気に病んでいたか、こうなるまで気づいてあげられなかったもの。」

 

「恋人って……女!?」

 

「しかも妖精、よくびっくりされるわ。」

 

 

万丈が思わず笑うと、かれんも釣られて笑いだした。

 

 

「おう万丈!メシ出来たぞ!」

 

猿渡の声を聞き、テントに戻る二人。

 

「あ〜、かれんさん遅い〜!」

 

宇佐美いちかに頭を下げながら、かれんは天道からスープを受け取る。

 

万丈も猿渡からピラフを受け取り、思い切り頬張る。

 

 

 

「では、春日野うらら!」

 

「立神あおい!」

 

「「歌いま〜す!」」

 

 

 

テントの人びとを元気づける為、キュアライダー達が歌や曲芸を披露する。

 

いちかのものまねや、天道のわさびロシアンルーレットなどを見ているうちに、万丈はいつの間にか笑い、共に歌っていた。

 

(何だ……コイツラも、元の世界の戦友(バカ)共と同じだな……。)

 

その時、万丈の中に浮かんだ答えは一つ。

 

(戦うか、この世界をかえるために……。)

 

 

 

 

 



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統合と分裂

宇宙 闇の同盟総本部

 

その空間が「どこ」にあるのか、数式的、また地学的に証明できる者は、おそらく地球上にはいないだろう。

「そこ」にあるのは単なる闇そのものだった。

 

闇のエネルギーで形作られた虚飾の城。

最奥にして頂上の会議室には、並行世界の激戦において未だ頭角を現していない7人の幹部たちが椅子に座り、互いに向かい合っていた。

 

「まさか、貴様が生き残るとはな。カイ……。」

 

「うるせー!シャドムンのおっさんだってフルボッコじゃねーか。」

 

「言い争っている時間はありませんぞ?ディケイド奴を殺し損ねたばかりか、シャイニーキングダムなどという新勢力まで……。」

 

ゴーヤーンが仲裁すると、燐席からジェネラルシャドウが挙手した。

 

「考えようによっては良い手だ、うまく利用すればその割り込み勢力により内乱が起こるかも知れん。」

 

「そう簡単な話じゃありませんよ、旦那衆……。」

 

会議室に入り込んだのは、二人のイマジンを連れ立った青年だった。

 

闇の幹部たちを前に、彼は微塵の緊張もプレッシャーもなく、ただ明るく笑っている。

むしろ逆説的に、幹部を威圧しているとも言えるかもしれない。

 

いや、下手をすればその表現すら間違っているだろう。

 

彼には、誰かを恐れる、与する感情、だけではなく、人が欠落していた。

 

遠い昔、どこかに落としてきてしまったのだ。

 

「貴様、どこから入った?」

 

「怒らないで下さいよ。シャドウムーンの旦那。ちゃんと入り口から入ったじゃないですか。」

 

「私が呼んだ。キングダムからの転職らしい。」

 

ジェネラルシャドウがせせら笑いながら言うと、カイがいきり立って立ち上がった。

 

「 何考えてんだジェネラルシャドウ!こんな奴 信用できるわけねーだろ!?ふざけんな!!俺、そういう顔してるだろ……?」

 

カイが取り出したライナーパスには、4ケタの時間表記全てにしゃせんの入った、記憶そのものを破綻させる魔のパスである。

 

「落ち着けカイ。お前の怒りは最も、だが、この男に力を与えたのは元を正せばお前の失態だ。其れにこ奴には、ドツクゾーンの魔女によって闇の刻印を施した。

裏切れば即死だ。」

 

ジェネラルシャドウに諭され、カイは舌打ちしながら着席した。

 

「旦那方、対策はオレに任せちゃくれませんか?」

 

「ずいぶんな自信ですな。考えがおありで?」

 

「そんな大層なもんじゃありませんよ、ゴーヤの旦那。半年前のキングダム急襲で被った痛手……オレも一因があると思ってね世界中に散ったキュアライダー達を、自前のネガデンライナーで駆逐して回るのがてっとりばやいかなーって」

 

「成功率は?」

 

「そーだね、少し控えめに見積もって『一人逃すが10%』。もしちゃんと全滅させられなかったら、何かしらで埋め合わせますよ。」

 

 

余裕綽々と言った具合で会議室を出る片桐。

 

その背中は、強靭勝かつ異端ながら、何処か空虚で寂しげだった。

 

 

「旦那方、オレは反対だぜ?あんな得体の知れないガキに同盟を左右されるなんざ!」

 

カイが頑なに片桐に噛み付くのは、単なる所見の悪印象ではなかった。

 

彼を一目見た時から、カイの頭がズキズキと傷んでいたのだ。

これまで感じたことのない異常を前に、カイの全身が彼を嫌悪していたのだ。

 

「カイよ、邪神継承権のプライドを案ずるもいいが、

組織を動かすことの大きさをいい加減覚えよ。 人格の人間性も問題にはならん。よりたくさん殺せるかどうか、それが問題だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、東京タワー直下避難所。

 

 

「まず、この戦いをより深く知る事から始めるべきだよね。」

 

相田マナ/キュアハートはホワイトボードを用意し、万丈と猿渡に、世界情勢を説明していた。

 

全ての始まりは、数ヶ月前。邪悪の神ブラックホールの復活予見した光のクイーンは、仮面ライダーディケイド/門矢士を始めとした異世界のキュアライダー達に招集をかけ、 彼の組織した闇の同盟の撃退を指示。

 

ところが、クイーンは秘密裏に、輝ける帝国(シャイニーキングダム)を組織。

 

キュアライダー達の目的とは異なる、『世界の統治』を目論んだ彼女は、自分の真の計画に不都合な戦士たちを次々と粛清。

 

更に独自に統制した軍団で、闇の同盟の総本部を攻撃。

 

これにより、両軍に多大な影響が出ただけではなく、各並行世界に歪みが生じ、 混乱に乗じたクイーンは 各並行世界に直接侵攻を開始。

初めのうちは、国連や民間の企業(鴻上ファウンデーションなど)が抵抗していたが、それも長くは持たず、事実上この避難所以外、地球上のほぼ100%が キングダムの統制下にあると言える。

 

「それだけじゃなく、キュアライダーとして数ヶ月前まで戦ってた仲間の中に、何人かキングダム側に入っちゃった人もいるんだ。」

 

「デカイ組織に蔵替えて、裏切ったってのか……。」

 

「それがそうでもなくてね……。」

 

キュアホワイト/雪白ほのかがタブレットを差し出した。

 

そこには、数カ月前、クイーンが本格的な侵略を開始した頃、 世界中に向けて発信した映像があった。

玉座に座るクイーンが、自分の理想とする世界を5分間語り続ける さして変わり映えない映像。

 

『ごきげんよう皆さん。私は光の力の権化にして、輝ける帝国(シャイニーキングダム)の首領、光のクイーン

……連日連夜止まぬ戦闘に混乱している事でしょう。

しかしこれは起こるべくして起こった災害 闇の力はもとより世界の根幹に内在していたのです。

その元凶たるは、この世界に住まうすべての人々の心の闇。

皆さんが本当に自分を見つめ直さない限り、災厄が止まることはありません。

このメッセージを聞いているこことは異なる世界の戦士たちへ、問いことがあります。

あなた達は今この世界に、自分の世界と違わぬ守る価値を見いだせますか?

この世界の住人にこの世界の命運を任せるべきだと本当に思いますか?

今の問いに、はっきり頷けない人がほとんどでしょう。なぜなら、今世界が行こうとしている道は間違っているのだから!

あなた達が、いくどとなく必死に戦い世界を守ったところで、この世界はあなたがたに溝を作り、冷たく当たるばかり……この様な事があって良い筈がない!

今こそ立ち上がりましょう!私と……輝ける帝国(シャイニーキングダム)と共に!』

 

 

 

 

「…… この茶番演説がなんだって?」

 

「そう思うわよね。 けれど恥ずかしい事に、何人かこの言葉に乗せられて、輝ける帝国《シャイニーキングダム》に与してしまったの……おかげで今、かなり不利な状況に……。」

 

キュアテンダー/氷川まりあが、少しうつむいて言った。

 

 

「 このままではキングダム開いてたとかっても多勢に無勢……頼みの綱の仮面ライダーも、一人行方不明に。

時期にここも落とされる。」

 

「酷え話だな。」

 

「そうでもなくてね。」

 

テントの奥から、茶髪の美青年が現れる。

 

パルミエ王国王子、ココだ。

 

「妖精たちのまとめ役なんて言われているけど、僕とて所詮ひ弱な妖精さ。 プリキュアがいなければ、闇の使徒にすぐにでも殺される。

ところが何人から『例外』がいてね。

その一人に 最終兵器を持たせた。

向こうに不本位でさらわれた連中を取り戻したら、すぐにでも戦いを仕掛ける。」

 

「例外……?」

 

「初めてプリキュア以外の戦士に完全覚醒した、光の王子ポルンだよ。」

 

 

 

荒廃したクウガの世界

 

 

その世界は、猿渡たちのいるディケイドの世界以上の惨状だった。

 

ポルンはあてもなく瓦礫の山の中をゆっくりと歩いていた。

はたして、生きている人間が、この世界にいるのかどうかそれさえも定かではない。

 

彼の背負った粗末な、リュックサックの中には パルミエ王国の王子から渡された秘密兵器と、小さな妖精ハーティエルの姿に変貌したシャイニールミナスを閉じ込めた結晶が入っている。

 

シャイニーキングダム首領の正体が判明し、彼が宮殿から逃亡してから何日経ったか、もう片手で数えられなくなっていた。

それは、恐らく今度の旅に出てから、ココとの間に交わした約束を破った数に比例するだろう。

 

「あと……少しだ。もう、少し……。」

 

度重なる連戦で、ポルンはとうに満身創痍だった。

 

されど、そんな傷は問題にもならない。

 

ココに、門矢に初めて反抗し、かれら中立派を離反宣言したのち、彼に味方と呼べる者は居なかった。

 

己の唯一の目的、ルミナスを護るという事に、もう誰も、賛同してはくれないのだから……。

 

「もう少し、だから、死ぬなよ……ルミナス!!」

 

明日の希望も、勝利も見えぬ暗闇の中、青年は独り、荒野を駆ける。

 

 

 

 

 



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受け継がれるもの 絶たれるもの

・ 加賀美新が zect の頭取を引き継いで数年。

 

闇の同盟とシャイニーキングダムの衝突による影響を引き起こしたのは、何も根幹となるディケイドの世界の組織だけではない。

 

「ではこれより、鴻上ファウンデーションの仮面ライダー支援組織緊急会議を始めます。」

 

鴻上ファウンデーション会長鴻上光生の秘書、里中が、 モニター越しの一条薫(警視庁グロンギ班)、加賀美新(ゼクト)、橘征二郎(猛士)、呉島貴虎(ユグドラシルコーポレーション)、日向京太郎(CR)の五名を映し出す。

 

「グッドモーニング!!ライダー支援組織代表諸君!」

 

鴻上光生は、シャイニーキングダムの盗聴を防止できる特殊カメラを使用し、異世界の代表者たちと通話していた。

 

「 俺には理由がわからない!何が起こってるんですかこの世界で!」

 

「 落ち着きたまえミスター新! 君の親友ミスター天道!

彼がディケイドの世界に赴き、 東京タワーにて奮闘していた時…事はすでに起こっていたのだよ!」

 

「 ダンスコンテスト会場を襲撃した連中…… 弟の話を聞く限り、我がコーポレーションだけではどうにもできない相手のようですが?」

 

「 CR の北条が言うには、 異世界全てで起こっている異変をある一つの組織が引き起こしているとか…… 昨日鴻上会長に頂いたお手紙……世界の話もいまいち飲み込めていない。お恥ずかしい限りです。」

 

貴虎と日向が呟くと、 鴻上は『ノープロブレム!』と 指を鳴らした。

 

「 異世界が存在する……その事実すら私も飲み込めたのはつい最近だ。

私の世界にも、同盟に所属していると思しき怪人が生息していました。そしてミスター呉島の言うとおり、1組織で相手にできるほど生易しい相手ではない。

そこで……。」

 

鴻上は言葉を切り、机上に3 D ホログラムを表示した。

 

それはプリンセスプリキュア組が変身時に使用する鍵に似ていた。

 

「 仮面ライダーディエンドとキュアスカーレットにご協力いただき、半ば強引に各位世界を繋げることに成功した。

おかげで絶望的だった戦いに、徐々に光が差し込んだ、と思われていたのだが……。」

 

「まだ何かあったと?」

 

一条が訝しげに問うと、鴻上は悔しそうに頷いた。

 

「 現在『敵対勢力』として認識しているシャイニーキングダム……あれは当初闇の同盟の討伐 その全ての発案者だった光のクイーンの裏切りによる新組織なのだ!」

 

画面の向こうの一条と立花が、驚いてボールペンを床に落とした。

 

「 いったいなぜそのような……。」

 

「 彼女の目的はわかり得ないが、『仮面ライダー』や、『プリキュア』達と違い世界の統治という思想を持っているらしい…… 裏切りが発覚した時、主力のキュアライダー達は何人かヘッドハンティングされ、 どういうわけかシャイニールミナスの身柄を保護した妖精が一人 妖精のまとめ役の指示を破って逃走、 中でも最悪なのが……。」

 

鴻上は唇を噛み締めるようにした後、机の向こうにいる「誰か」に 目で確認を取り、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「 シャイニーキングダムは本格的に、敵対者の粛清にあたっているそれもただの引き抜きではなく洗脳された仮面ライダーオーズこと火野映司君を使ってね……!」

 

加賀美は絶句した ワールドキーによって異世界が繋がった時 彼は既に 彼は既にシャイニーキングダム代表の演説を聞いていたのだ。

 

輝く未来と正義を語る光の集団。 しかしてその実態は 己の思想のために他者を馬車馬のように利用するテロ組織ではないか。

 

鴻上の提案であるキングダム討伐に、一瞬でも心を揺らがせた自分に怒りを覚えた。

 

「 色々分からないところもありますか、事態がすこぶる最悪であると分かりました。」

 

「 本当かねミスター呉島!」

 

「ええ…… 協力しましょう。 闇の同盟とシャイニーキングダム討伐、並びに 異世界支配の阻止と救済を。

賛同される方は、席を立たれることをお勧めします!」

 

その場の5名全員が立席し、 対闇の同盟シャイニーキングダムに向けた壮大な計画が、動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

ポルンは、 瓦礫の山の中でルミナスを見守りながら、 数時間おきに浅い眠りにつき、目を覚ましては彼女にエネルギーを分け与える技を使い、廃墟と化した都市に落ちていた水や食料でなんとか命を繋いでいた。

 

彼が目指していたのは、 第4の勢力が根付いていると言う秘密基地だった。

 

仮面ライダーアマゾンズやギャバンなど 通常の仮面ライダーとは似て非なる戦士たちの 新組織。

 

自分がなぜ逃亡を図り門を叩いたのか、 その全てを知ってなお、自分をかくまってくれるなどと期待はしていないが、 彼らとて間違いなく、ルミナスの身柄を乱暴にはしないはずである。

 

ルミナスを誰かに託した後は、懲罰を覚悟で門矢一派に戻ればいい。

そう思っていた。

 

ところが何日経っても、その秘密基地が見つからないばかりか、 シャイニーキングダムの白いゼクトルーパーや 闇の同盟の怪人たちが日増しに増えていく気がする 。

 

「彼らももう、どちらかの組織にやられちまったのか?」

 

嫌な予感が頭によぎったが、自分の頬を思い切り叩いた。

 

「何弱気になってんだ!ココやナッツと喧嘩別れしちまった今、コイツを守れんのはオレだけなんだぞ!」

 

ルミナスが入った晶石を抱え 再び水と食料を探して歩き出すポルン。

 

「『リンクコンテンツ』まだ使ってねーな。 もう少し待ってくれルミナス!」

 

 

 

その時、目の前にあったのは最悪の光景だった。ポルンはとあることわざを思い出した。

 

 

 

 

 

 

災難は忘れた頃にやってくる

 

 

 

 

 

 

目の前にいたのは 元ドツクゾーン幹部サーキュラス。

 

「久しぶりだな。光の王子!」

 

「 ふざけやがって……!どんなタイミングだ!?」

 

「 闇の同盟で対話できる幹部に会ったのは久しぶりかな? 見たところ弱っているようだが…… そのハーティエル化したシャイニールミナスさえ渡せば、おとなしく引き下がってやらんこともないぞ?」

 

「同盟にキングダムに……なんでこうついてないかなァ俺は!」

 

「 さあどうする、そう時間はないぞ!?」

 

慌てるな、冷静になれ!

 

ポルンは 自分にそう言い聞かせた。

 

こいつらは自分を一妖精と舐め腐っている。隙を突けば勝機はある。

 

腕輪に『変身』のコンテンツカードをかざそうとしたその時。

 

ドスッ!

 

背後から、何かがポルンの身体を貫いた。

 

「ッ……!!?」

 

「誰も、オレが一人だとは言っていないさ。光の王子……。」

 

背後に立っていたのは、スコーピオン・ゾディアーツ。

ポルンを刺したのは、背中に生えた毒針だ。

 

 

 

「何、心配はない。 3時間近くにわたって嘔吐、発熱、麻痺、幻覚作用に苦しむだけだ。

おとなしくしていれば命は助かる。以前、如月弦太朗に投与したのよりよほど優しいだろう?」

 

「クソ!ふざけんな!」

 

「怒るなよ。そこから動かなきゃいい、ただそれだけ(・・・・)さ。フフ……フハハハハハ!」

 

サーキュラスの薄気味悪い高笑いが響く。

 

悔しく、腹ただしく、弱い自分や、目の前の敵、この世の全てが憎かった。

 

(畜生……畜生……!!結局ここで終わんのかよ!世界も、夢も……オレの戦いも!)

 

「残念だったなァ光の王子ィ!主君に裏切られ、同志に切り捨てられ、孤独にさまようキサマには、所詮誰にも護れはせんよ!」

 

着々と瓦礫をかき分け、中に隠したルミナスを探しているのだろう。

 

見つかるのも時間の問題、捕まれば彼女はある計画に利用され、生きる道はなくなる。

それは、相手がシャイニーキングダムでも同じ事。

 

だからこそ王子ココは、彼女の『シャイニールミナス』としての「能力」を完全に破棄することを提案。

だが、目が覚めたルミナスが力を失ったことに絶望するのを恐れたポルンは、ルミナスを連れ門矢一派から離反。

 

(その結果が、コレかよ……!)

 

「スコーピオン!いたぜ!可愛い妖精さんがよォ!」

 

ここまでか。

 

自分を恨み、選択を恨みながら、全てを諦め、ゆっくりと目を閉じようとしたその時。

 

 

 

 

 

 

「オイオイ若ェの!しゃんとしろや!」

 

 

 

怒号と共に、サーキュラスとスコーピオンを『焼き切った』その「鬼」。

ポルンはその姿をごく最近見かけていた。

 

「戦……鬼!?」

 

「戦場キサマァ!!クイーンの使いかァ!?」

 

「それは違う、だが、拳は仕舞うな。殺す理由がなくなるだろ?」

 

ハーティエル・ルミナスが密閉された水晶をちらつかせ、不敵に笑う戦鬼。

 

懐にあった水晶をスられ、憤慨するサーキュラス。

 

 

「いつの間に……なめた真似を!」

 

 

「生きて帰れると思うな戦場ァァァァァァァァ!」

 

怒り狂い、襲い来る二人に、戦場は顔色一つ変えない。

 

 

「帰る場所なんざねえよ。この空が、大地がオレの住処さ。オレの敵はそれらを壊すキングダム(テメエら)さ。」

 

「だからどうした!!ブラックホール様に逆らうものは、クイーンも、門矢も、そこのガキも、根こそぎ粛清する!!」

 

「良かった。」

 

「!?」

 

『煉獄の鬼神 八咫烏たちの宴で盛大なる怒号を鳴らせ』

 

「二重詠唱!?馬鹿め!この距離では貴様とてひとたまりも……。」

 

ザンッッ!!

 

サーキュラスが何か言おうとした時、二人はすでに焼き切られ、後方に吹き飛ばされた。

 

『音撃斬・煉獄七日道!!』

 

「不意打ち失礼いたしやすが、こちらもこちらとて危機的状況、お宅らの名前は、この心にしかとお刻み申し上げやす。」

 

「戦士としての」礼を全うした戦場は、気を失った二人に、威風堂々と呟いた。

 

「外道のお二方……お控えなすって!!」

 

 

 



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離れても たえぬ思いを表すと 泣けどかなでど それは届かず

・ ポルンは薪の前で目を覚ました。

 

おそらくクウガの世界はとうに抜けたかもしれない。とある森の中だった。

 

薪を囲んでいるいくつもの影は、彼がよく知っている仮面ライダー達。如月弦太朗、左翔太郎、フィリップ、

ヒビキこと、日高仁志である。

 

「あれ…オレ……?」

 

「目ェ覚めたかよ、心配かけやがって。」

 

ヒビキが 背中を向けたまま呟いた。その声には、若干の怒りが混じっている。

 

「そうだ!!ルミナス!!?」

 

慌てて上体を起こそうとした時、背中に激痛が走った。

 

「 動けるわけねーだろ? 何日飲まず食わずで歩いてたんだか知らねえが、ここに六花ちゃんがいてよかった。

ついさっき俺たちが森の中で キャンプ場を建ててたら、 誰かがお前をここに捨てて行ったんだよ。

解毒したばかりだから当分は動けねぇ。」

 

戦場(アイツ)が!?」

 

「 誰に運ばれてきたのか知らねえが、反対意見があるにしてももう少しましな行動しろ!

妖精のまとめ役に心配かけんじゃねーよ!」

 

「ヒビキさん、もうその辺に……。」

 

ヒビキの怒りを鎮めようと、フィリップの隣に座っていたキュアダイヤモンドこと菱川六花が フォローに入った。

 

「 そうだ、六花ちゃんにも礼を言え。 致死性はないにしろ、解毒しなかったらお前はどうなってたかわからねえからな。」

 

「……ありがとう。」

 

「ううん。 医療チームとしてここに残ったプリキュアが最善を尽くすのは、当然のことだから。」

 

「それで、戦況は……?」

 

翔太郎のリアクションから、状況は芳しくないとポルンは悟った。

言葉の出ない翔太郎に代わり フィリップが本を閉じてポルンに向かい合った。

 

 

「 君がいない間にシャイニーキ キングダムの 敵粛清はますます加速した。」

 

「 最悪な事に、 洗脳された俺らのダチ公を使ってな。」

 

弦太郎は、重いため息をついた。

 

「 キュアライダーたちは単なる洗脳というより、思考そのものを塗り替えられている気がする。」

 

「 どういうことだよ。」

 

立花が答えようとした時、フィリップが立ち上がった。

 

「星の本棚で調べた結果だ。行方不明になったキュアライダー達が、 明らかにその行動を『正しい』と認知して シャイニー キングダムの指示のもと破壊活動を行ってる。これまでの味方が操られていた例とは、明らかに状況が違う。」

 

「強行突破は無理ってことよね。」

 

ログハウスの奥から、キュアソード/剣崎真琴と キュアマーメイド 海堂みなみが現れた。

 

「 これからどうする?」

 

真琴の問いに、フィリップが冷静に返した。

 

「 最新の情報が集まっているのは 芝公園。東京タワーの砦だ。 ポルンの処分について相談することも含めて、 まずはココ王子たちと合流しよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時の狭間 デンライナー内

 

「おいオッサン!何なんだアイツら!」

 

時の砂漠を走る列車、デンライナーは、 巨大イマジンギガンテスと、それらを操る謎の仮面ライダーの襲撃を受けていた。

 

「なるほど……『彼』は今、己が意思のみで 各世界の戦士を狩っているようですね。片桐慶。」

 

「 もう攻撃していいよね?答えは聞いてない!」

 

「待ってリュウタ! 良太郎が東京タワーの援助に出てる今、僕ら変身できなきゃ個々のデンライナーは操れないよ!」

 

「とにかく今は……逃げるのみやな!」

 

「 さあ行くのだ!時の列車よ!」

 

迫り来る怪物たちを前に、どこか余裕を感じさせるデンライナーの一行。

 

食堂車には、 青木れいか、十六夜リコ、宇佐美いちかの三人が乗りこんでいた。

 

「奴らの攻撃がどんどん激しくなってるわ!」

 

「ここは、攻撃したほうがよろしいのでは!?オーナーさん!」

 

リコとひめが焦っているがオーナーは首を振った。

「行けません。」

 

「しょんな〜!」

 

「 我々はたった今、これから何をすべきかを門屋くんに指示していただいた。 キュアハート達に乗車していただくまで、反撃はできません。」

 

 

列車の外ではギガンテスハデスたちが デンライナーを攻撃し、 ハデスの頭頂部では、零電王に変身した片桐慶が狂気の高笑いを浮かべている。

 

「おい慶、ジジイどもの依頼はオーナーの生け捕りだ!

下手するとデンライナーごと吹き飛ばしちまうぜ!?」

 

「平気さヴォルテ。 あそこにはプリキュアが乗ってる。そう簡単にやられるほどやわじゃないよ。それに、ここまで行って全く反撃してこないのが不気味だ。

必ず尻尾をえぐり出してやるよ……!」

 

狂気の笑み……されどそれは、己が『正義』のためであった。

 

 

 

光の宮殿

 

光のクイーンは、 洗脳済みの仮面ライダーやプリキュア達、そしてそれ以前から自分に与していた戦士たちの統率を完了し、 いつでも戦争に陥る準備をしていた。

 

にも関わらず、何人か士気を挙げきれていない者たちがいる。 美々野くるみ/ミルキィローズもその一人。

 

「 美々野さん、大丈夫ですか?」

 

背後から仮面ライダーキバ/紅渡が話しかけた。

 

彼も今でこそ洗脳状態ではあるが、クイーンに与した動機は、極めてまっとうなもの。

 

いつの日か行ってくる、ファンガイアと人間の共存。

 

兄、大我の尽力にも関わらず、 紅渡二世の時代になってなお、 共存の社会は実現しない。

 

いや、厳密に言うと、人間がファンガイアを少数派として迫害しているのだ。

 

人間側の横暴が反発を産み、強悪性が悪化したネオファンガイアなるものが増殖を始め、 人間とファンガイア間の溝はますます 深くなっていく。

 

闇の同盟はもちろんのこと、門矢士一派についていくことすら断念した彼は、 シャイニー キングダムへの入団を決意したのだ。

 

「渡さん……何でもない。ただ、『誰か』の事を忘れてる気がして。」

 

ばかばかしい、 笑いとかされるのを覚悟していた。

 

クイーンの思想が全て、彼女についていけば、世界は絶対に救われる。

 

その思想はもはや、彼らにとって当たり前だった。

 

 

 

「僕も。」

 

「え?」

 

「 誰か大事な女性を忘れてる気がするんです。 一体誰だったのか思い出せないけど……。」

 

「奇遇ね。 私も……。 顔も名前も思い出せない。なぜこんなに焦がれているのかも……ただ。」

 

「何でこんなに、悲しいのかな……!?」

 

ミルキィローズの姿のまま 夜のテラスで彼女は泣いていた。理由はわからない。ただその涙は本物であり

現実だ。 それは事実であり、真実のぬくもりだ。

 

「 女の涙を乾かすには 音楽が一番だ。」

 

仮面ライダーサソード/神代剣 が、バイオリンを弾き始めた。

彼もまた、闇の同盟に兵器として復活させられ、クイーンの思想に賛同していたのだ。

 

彼の音色をもってしても、 くるみの涙は乾かせないだろう。

ここで戦士として戦っている限り、彼女が本当の幸せをつかむことはできないのだから。



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奇怪再会地下世界

ゴーストの世界。

 

大天空寺にはこの混乱の最中に、一人の珍客があった。

 

「これはこれは。 まさかもう一度生きてアンタに会えるとはな……。」

 

デェムシュは、 初めてこの寺に足を運んだ。

 

鎧武の世界で斬月に敗北した後、 各並行世界をさまよっている最中に、ふと生前の記憶を思い出し、 ヘルヘイムへの入り口を探し、超空間ゲートを歩き回っていた。

 

寺の地下室と思しき場所には 仙人のような長いひげを蓄えた先客がいた。

 

様変わりしていたが、彼が老人と会うのは初めてではなかった。

 

「 でかく……いや、さらに真っ赤になったなァ。デェムシュ。」

 

「様変わりはお互い様だろ。あんたこそどうした?その仙人髭……。」

 

「 いろいろあってな。フェムシンムでお前を置き去りにした後、 親友が世界を一つ崩壊させたもんで、 さらに色々面倒を抱え込んでたんだよ。」

 

デェムシュに、次に何を言うべきか分からないイーディス。それもそのハズ。 幼少期に入ってフェムシンムの 裏町に置き去りにして以降、 ずっと己の行いを 後悔して生きてきた。

 

デェムシュは、彼は、自分を恨んでいて当然なのだから……。

 

「デェムシュ、数年前の件、 何と言えばいいか……。」

 

イーディスには、殴られる覚悟も、罵られる覚悟もできていた。

 

だが……。

 

「ありがとう。」

 

「!?……デェムシュ、ワシはお前に恨まれて然るべきだというのに……なぜ!」

 

「 確かにスラム時代は死ぬ思いをしたさ。 そのおかげでロミやラピスやロシュオに出会えた。その点では、アンタに感謝してる。」

 

感涙していた。と言うか、言葉にもならなかった。

 

数年前トランプ王国で預かった、第二王女の息子。

 

その優しさすらも、自分は見くびっていたのだ。

 

「言葉もないわ……!!わしゃあ……わしゃあお前を……お前を……!」

 

「 ほらほら泣いてる場合かよ。 やべー奴らが動いてる。

俺が何で生き返ったのか分からないけど、 あんたがここに来たのはそのためだろ?」

 

「そうじゃったな、。ん!?」

 

不意に得体の知れぬ闇のエネルギーを感じ 大天空の外に出るイーディスと デェムシュ。

 

街の空には、巨大な黒い穴が空いていた。

 

「何なのさ、アレ……!?」

 

「シャイニーキングダムが頭角を現し二ヶ月……我らの『脅威』は何も、彼奴らのみではない。

…奴等ついにおっぱじめおった。邪悪の神復活を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時空の狭間

 

 

桐生戦兎は、 終わることなき悠久の時間の具象物である砂漠に座り込み、流れ行く砂粒を延々と眺めていた。

 

キュアエールこと野々はながここに来たのは、 偶然と言うと半分正解で半分嘘になる。

 

はぐっとプリキュアの世界、はぐくみ市を襲撃した闇の同盟とシャイニーキングダムの両組織。

ようやくビルドの世界からやってきた3人と合流できたかと思えば、 突如、根幹世界である ディケイドの世界と彼らの世界が隔絶され、およそ2ヶ月もの間、作戦が停滞してしまっていたのだ。

 

「戦兎さん……?」

 

「……キュアエールか。何でここに……。」

 

「こっちのセリフですよー!ポルン君は消える!映司さんは捕られる!その他みんなは揃わなくなる〜〜!

ぎりぎりだったんですよ!?東京タワー護るのも!!」

はなの声には、冗談半分、怒り半分と言った具合だ。

 

「悪かった。」

 

戦兎の心底後悔した態度に、はなはそれ以上何も言わなかった。

 

責めることも、咎めることもできなかったのだ。

灰クグツ共に倒した時の彼とは違い、まるで何かに打ちのめされたかのように憔悴しきっていたのだから……。

 

代わりにはなは、彼の隣に座り込んだ。

 

時の砂は、まるで羽毛の様に柔らかい。

 

座るなら心地よいが、掴もうとすると手から溢れ落ち、手のひらを開く頃には、一粒たりとも残らない。

 

時間と同じ。 自分が停滞すれば、あっという間に置いていかれる。

 

至極当然な自然の摂理だというのに、どこかせつなく、どこか冷たくて、なぜか寂しい。

 

「ポルン君の居場所がようやくわかったんだ。響鬼さん達と合流したら、反撃に出るんだって門矢さんが。

万丈さん達もてっきり一緒なのかと思ったけど いずれ揃うよね?」

 

「 あいつは戻らない。」

 

「……え……!?」

 

「猿渡は無事かもしれない。けど、万丈はしばらく、こっちに戻れない。」

 

「どういう……事!?」

 

戦兎は、この2ヶ月の間に起こった全てを説明した。

 

 

ついこの前にいちご坂を襲った 、闇の同盟の取引先、ファウストの権化、ブラッドスタークの正体が、親のように慕っていた石動惣一であったこと。

 

しかしながら石動は、 太古の火星文明を滅ぼした 地球外生命体エボルトに憑依されていたことが、美空の腕輪に振り込まれていた火星の王女 ヴェルナージュによって明かされた。

それだけに飽き足らず、エボルトは 衰弱しきった石動の体を乗り捨て、 万丈龍牙の体を乗っ取り変えたのだ。

 

「そんな事が……!」

 

「乗っ取った万丈の身体で好き放題、戦争を誘発するわ、パンドラの塔を建てるわ、気が付きゃ八方塞がりで……もうどうすりゃいいか……!!」

 

戦兎は完全に憔悴していた。

 

無理もない。本来の戦兎は、生半可なことで憔悴するような男ではない。

 

だが、今度の場合はあまりに逸脱している。

 

親友を奪われ、祖国の戦争を目の当たりにしたかと思えば、今度はディケイドの世界に飛ばされ、惨状を見た。

 

プリキュア達でさえ、一時は戦意を喪失した。彼が参るのも無理はない。

 

何を言っていいかわからないはなが、か細い言の葉を絞り出そうとした時。

 

 

「無様だな。」

 

背後から、冷たく突き刺さる声がした。

 

がタイのいい男は、どこかの扉から、『ライナーパス』を携えて砂漠に立っていた。

 

はねっ気の黒髪で、黒いサングラスは嘲笑する様な顔の男の、何とも言えぬプレッシャーを具象化したかの様。

 

「無様って……何てこと言うんですか!」

 

微動だにしない戦兎に代わり、はなが短く抗議するが、男は意にも介さない。

 

うつむいた戦兎の前に立つと、突然蹴り上げた。

 

 

「……!!?」

 

「ちょっとアンタ!一体何を……。」

 

はなを無視したまま、男は戦兎を見下ろしている。

 

額から出血した戦兎は、訳も分からず男を睨んでいる。

 

「……立て。」

 

「は?」

 

「立てと言ってる。早くしろ。」

 

戦兎が立ち上がる前に、男は右手の付け根を掴み、信じがたい事に手首を外したのだ。

 

「うえェ……!!?」

 

「……!!」

 

どこから取り出したのか、男の腕程大きなドリルを取り出し、無い右手に填めた。

 

 

ドリルは噴煙し、完全に彼の肉体であり武装となった。

 

 

「賭けをしよう。お前がさっさと起き上がるが早いか、それとも……。」

 

ドリルを上下に振り回した後、先端を戦兎に向けた。

 

「オレがお前を殺すが早いか……。」

 

「!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーズの世界

 

りん/キュアルージュは、交際者であるブンビーと共に地下数千メートルの地底へと向かっていた。

 

「いやしかし、このライドベンダーってのは便利だねエ、りんちゃん。」

 

「気を抜かないでブンちゃん。ただでさえ危険な地底に、ヤバいアレの存在の真偽を確認しに行くんだから。」

 

そこはつい最近、闇の同盟によって仮面ライダーコアが復活した、史上最悪の魔法石の在り処……なのだが。

 

「確か王子の話では、さらに地下深くから強大なエネルギーを感じるとか。」

 

「強大なんて生易しいもんじゃないわ。」

 

「え?どういう事?」

 

「問題は、最初にそれに気付いたのがメップル達、MH(マックスハート)組四人。震えてたらしいわ。」

 

「ほう、あの気丈な四人が……ん!?ちょっと待ってくれ!?それってまさか!?」

 

「そう。あの子達がそこまでビビる相手は、この世に一人。」

 

ブンビーは背筋が寒くなった。

 

いくらハチ怪人に変身しているとはいえ、「そいつ」にルージュと二人がかりでは勝ち目はほぼ0。

 

「なあ、りんちゃん。やはりいったん戻って……。」

 

時すでに遅く、ライドベンダーは目的の区域で自動ブレーキをかけていた。

 

「しょんな~!!」

 

「何いちかちゃんのモノマネしてんの。大丈夫、死ぬも生きるも二人一緒なら恐くない、でしょ?」

 

「ま、まあな……。」

 

「ヤバくなってから逃げようよ。とりあえず様子を……。」

 

ルージュは、突然足を止めた。

 

「どうした?りんちゃん。」

 

ルージュは返答しない。目の前にあるそれに、あっけにとられていたのだ。

 

「一体何が……ぬあッ!?」

 

正面を向いたブンビーは、腰を抜かした。

 

あり得ない。それは、そこにあってはいけないものだったのだ。

 

それは、大きな正方形の水槽。ただの水槽ではなく、『中身』を保存するためのものだったのだ。

 

中身は、二人ともよく知っているもの。

 

二人は、そろって「彼女」を呼んだ。

 

「「キュアドリーム/のぞみ!?」」



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悪魔の指標

・ビルドの世界において、『パンドラの塔』建設まで計画(フェーズ)を進行したエボルト(フェイズ3:ラビット)は、次なるフェイズに移った。

 

各世界における、至ってシンプルな破壊活動である。

 

「面白ェ……テメエは正義のライダーじゃなかったのか?片桐慶。」

 

「エボルトのオッサン、オレは正義のライダーさ。己の正義に従って動いてる。」

 

まだ集落を残していたクウガの世界を殲滅しにかかって来たエボルトの前に、立ちはだかる零電王。

 

彼の目的は、エボルトによって人質にとられている少女の救出ではなかった。

 

されど 闇の同盟の傀儡である、彼の思惑通りに事が進むのは、彼にとっても好ましくない 事態であった。

 

「 正義!? 怖い怖い宇宙の大魔王から、 いたいけな少女を見捨てることがか!?とんだ正義の味方がいたもんだなァ。」

 

驚愕しながらも、エボルトはどこか、面白がっているように見えた。

 

「そこどきなよオッサン、 俺は今クイーンの部下だ。

まんまと裏切られ、 ブラックホールと、そのご機嫌を取り損ねた、『第一級邪神継承権』どもはお怒りだろうけど、 こう見えて俺もかなりブチギレてるからね。

ガキの人質一匹なんてことない。」

 

「 だってよお嬢さん。どうする!?怖〜いおじさんに、殺されちまうぜ!?」

 

小さな子供をたしなめるように しかしあまりにも不気味に少女に詰め寄るエボルト。

 

彼女の足は、まるで生まれたての子鹿のように、ガタガタ震えている。恐怖と不安が、芋虫のように、全身を這い回っているのだろう。

 

「そこどけって……言っただろ!!」

 

「どかす自信があるなら……通ってみな!」

 

エボルトが自身の首筋から猛毒のパイプを出し、少女の首筋に着き建てようとしたその時。

 

ドォン!!

 

真横から光の弾丸がエボルトを襲い、 彼は真横に吹き飛んだ。

 

「ぐぁあ!!」

 

次の瞬間、少女の前には 仮面ライダーと思しき黒い戦士が立ちはだかっていた。

 

「誰だァァ!?」

「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

 

「G4…一条薫か!!」

 

G 4/一条薫は、まず少女の無事を確認し、片桐に向き直った。

 

「片桐……お前、オレがここに戻ってくると知ってて、エボルトを挑発しやがったな!? 間に合ったから良かったものの!」

 

「 何のことかな?そんな怖い顔しないでよ。 俺の発言に全て嘘はないんだから。

それに、お巡りさんが来たんじゃ、俺のようなバンビーやテロリストにもう用はないよね?」

 

零電王は、 チケットを天空にかざし、ネガデンライナーを招集。

 

二人のイマジンと共に、時空の中へ逃走しようとする。

 

「待ちな!」

 

「……?」

 

一条に呼び止められた片桐は、少しイライラした感じて振り向いた。

 

「光に与して闇を裏切り、かと思えば、あの女の人に反して虐殺を働く、かと思えば、ガキを救うために俺が来るまでの時間を稼ぐ…… 目的がまるで見えねえ。

今お前が引き起こしてる戦いは、一体、その先に 何を見てる?」

 

「あいにく、詳しく話してる時間も義務もないんでね。

でもあえて教えておくとしたら……。」

 

「!?」

 

その瞬間、一条の背筋が凍りついた。

 

片桐は、一条がこれまで見たこともないほどの、狂気を帯びた笑みをしていたのだ。

 

 

 

「殺すことですよ。俺の過去をめちゃくちゃにした実の父親(・・・・)をね。」

 

 



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決別と試練とライダーの真髄

・時の狭間 桐生戦兎VS結城丈二

 

『ラビット・ラビット!!』

 

完全に変身しきれていない結城丈二を相手に、現在最強フォームのラビットラビットフォームを持ってしても、桐生戦兎は苦戦を強いられていた。

「うぉらぁぁ!」

 

「どうした。終いか?」

 

「くっ……まだまだァ!!」

 

『プリキュア』と『仮面ライダー』との間に、絶対的な戦力差はない。

 

ただ、これまで出くわしたどの場面とも違い、レベルも様子も、異質な戦いを、はなは固唾を飲んで見守るしかなかった。

二人の異様な接近戦の凄まじさもそうだが、何かこう、二人の間に渦巻く感情の塊のようなものが、見えた気がしたのだ。

 

戦兎は、やり場のない怒りと絶望、恐怖を、全力で結城にぶつけている。

 

当の結城は、まるで遥か高みから戦兎を見下ろす様に、余裕をキープしている。

 

「この程度でへし折れる男に……仮面ライダーが務まるか。」

 

「アンタに何が分かる!?」

 

「何も知らん。お前の事情など……さりとて仮面ライダーを名乗るなら、その魂には責任が伴う。

戦いの場において、修羅になれなければ死ぬのはお前だ……知らんワケではあるまい。」

 

「……!!」

 

「お前は、なぜ仮面ライダーになった?」

 

「え……!?」

 

「答えろ。何のために仮面ライダーになった?」

 

 

記憶を必死に辿り、答えを探す。

 

葛城巧としてビルドを生み出し、桐生戦兎に生まれ変わり、「彼」はその先に、何を見ているのだろう。

 

「例え孤独でも、命ある限り戦う……それが、仮面ライダーだろ?

………それさえも見いだせん様では、お前の未来に先はない。」

 

結城の右腕のドリルが煙を噴き、ビルドの胴部にクリティカルヒットした。

 

成す術なく変身解除され、倒れるビルド。

 

結城が腕を下ろす音と、駆け寄るはなの、心配する声が徐々に遠ざかる……。

 

「戦兎さァァァァん!」

 

 

 

桐生戦兎の精神世界

 

 

「答えを、探しに来たのかい?」

 

戦兎に語りかけるのは、エボルトによってカオを変えられる前の、葛城巧だった。

 

「……オレは、なんで戦ってたんだっけ。」

 

「理由は、僕にももうわからない。」

 

「え……?」

 

「世界を進化と平和に導くハズが、悪魔の科学者と呼ばれ、不条理な犠牲を出し、ファウスト抗争の原因を作り……『君』を傷つけた。」

 

葛城は、どこか自重するように言った。

 

「もう、いいよ……。」

 

「?」

 

「『君』は、戦わなくていい。 この世界はとても平穏とは言えないけれど、佐藤太郎として、 せめて自分を大切に 生きてくれ。 ドライバーは門矢士たちに預ければ、きっと、有効に使ってくれる。」

 

何と言う、願ってもない好条件だろうか。

これで楽になれる、何も考えなくてすんだ。

 

プリキュアも仮面ライダーも、あんなにたくさんいるんだから、 自分がいなくてもきっと彼らが世界を救ってくれる。

 

 

そんな淡い期待とは裏腹に、先程から彼の中で、声が響いていた。よく知っている少女の声だった。

 

『……願い……お願い……戻って来て……戦兎さん!』

 

「!?ウッ!」

 

「どうしたんだ?早くベルトを……。」

 

『お願い……まだ負けてない!立ち上がれるよ!私も立ち上がれた!仲間が……大切な人がいるから!』

 

「ァァ!」

 

『だって私達は……。』

 

「そうだ、俺達は……。」

 

「『キュアライダーなんだから!!』」

 

二人の声がリンクしたその時。葛城の姿が、水に溶かした絵の具のように 歪み始めた。

 

「よく言ったな……。」

 

姿が元に戻った葛城は、彼に新たなボトルを手渡した。

 

「 君がもしも僕にベルトを渡していたら、僕が君にとって変わり、ビルドとして戦うつもりだった。

ところが間違いだったな。君には必要とされている仲間がいる。 親も仲間も何もかも捨てて歩いてきた僕とは違う。

君にはビルドを平和に利用する事ができる。

君なら僕とは違う答えが出せる。

君の手で きっとこの世界を……。」

 

葛城が光となって消えると共に、彼は大きなボトルを手にとっていた。

 

 

 

 

時の狭間

 

「もう少し骨のある男かと思っていたがな……門矢士に 謝らなければな……野乃はな、お前も戻ってこい。」

 

「待て!」

 

「……ん……!?」

 

結城の前には 桐生戦兎が立ちはだかっていた。 見覚えのない、大きなフルボトルを手に持って……。

 

「驚いたな。『あれ』を食らって生き延びるとは……だが!」

 

結城がドリルを構えるとともに、戦兎はボトルをドライバーにセット。

 

「変身……。」

 

「その清々しいカオを待っていた……『合格』だ。」

 

桐生戦兎という男の、新たなる決意を込め、今彼の手に渡った究極のボトル……その名は。

 

『ジーニアス!!』

 

 

 

 

 

 

 



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光の王子、帰還

・エボルト(ブラックホール)は、 時空の乱れを感じていた。

 

『本来の彼』は、あれから桐生戦兎を乗っ取る形でフェイズ3へ、更に石動博士を解放し、 肉体を完全に解放することでフェイズ4へ進化する『はずだった』。

 

ところが、ここまで来るのに『彼』は何ら 計画を遂行しきれていない。

 

ビルドの世界の運営権を闇の同盟に引き渡し、 ブラックホールの駒として戦ってると、あり余る程のエネルギーを受け取って、ここまで来てしまったのだ。

 

それも、まだ万丈龍我の肉体を乗っ取ったばかり、フェイズ2に止まっている段階で。

 

(『本来俺が観測できないはずの俺』だ。 確かに好都合ではあるが……何か引っかかるなァ。)

 

物思いにふけっていた時。突如彼の中にいた万丈龍牙が暴れだした。

 

「ぐぁ…… 拘束力は上がっているはずだが、どういう事だ!?

戦兎が ジーニアスに進化したのに呼応したかァ!?」

 

肉体の定着が不安定になりゆく中、エボルトは次の行動に移る。

 

 

「仕方ねぇ、 蘇らせたばかりだが……お前さんが行け。猿渡ィ……!!」

 

 

 

 

 

時の狭間

 

 

 

「……なんで、アナタが?」

 

唖然とするはな。無理もない。

 

目の前には 猿渡達から『敵』と聞かされていた氷室幻徳が立っていたのだ。『斬鬼組』と書かれた珍妙な白装束を来て。

 

戸惑う彼女に、結城が説明した。

 

「自分のせいで親父さんが死んじまったとかで、 せめてもの贖罪に世界を守る力が欲しいらしい。

門谷に頼まれてコイツも修行をつけてた。」

 

「うそ……だよね?」

 

「まことだ。生まれ変わった。」

 

いかにも高尚な顔で呟く玄徳。

 

とても数ヶ月前まで、冷徹な顔で戦兎達とやりあっていた男とは思えない。

 

「オヤジの件も…… この一件すべては俺の責任だ。到底償いきれるとは思っていない。

悪党には悪党なりの、世界の守り方をしようと思う。」

 

「なんか……泣けてくる!」

 

「 男子三日会わざれば刮目して見よってやつか。」

 

「刮目どころか目が潤んできたよ〜!」

 

 

ビルドの世界チームは格段に力を上げ続け、残るは万丈を奪還するのみとなった。

 

 

 

中央テント

 

ココ王子が妖精の取りまとめ役となったのは、クイーンが並行世界に向けて宣戦布告したすぐ後のことだった。

 

「本当なのか?」

 

ココが訝しげに 尋ねると、 小野寺ユウスケは苦々しい顔で頷いた。

 

「ヒビキさんが、近くまで送ったらしい。じきに戻ってくるだろう。」

 

「そうか……。」

 

ココは、安堵とも落胆ともつかない顔でため息をついた。

 

シャイニールミナスの力を、九条ひかりから剥奪する。

 

かなり強行的な計画ではあったが、クイーンにとってもジョーカーである彼女を護りきれない様な事があれば、 まずこちらに勝機はない。

 

まして、闇の同盟の実験体になどになれば、まず命の保証はない。

 

彼なりに、最善の策を練ったつもりだった。

 

 

『アイツから力を奪ったら、 守れる人を守れない苦しみを味わうことになるんだぞ!!?』

 

9年前のフュージョンとの戦いで初めて会って以来、一度も自分に逆らわなかったポルンが、 初めて自分に対して怒鳴った言葉だった。

 

あの時もっと冷静に話ができていれば…… 彼が出て行ったあの日から、夜の数だけ後悔した。

 

 

「闇の同盟をビッグバンが出し抜けた最大の理由は、結束力の無さだそうじゃない?」

 

 

いつのまにかココの隣にいた火野明美が、ココにホットコーヒーを持ってきてくれた。

 

「ありがとうございます。」

 

「……大丈夫。アナタが力を剥奪しようとしたのも、激しく追い立てたのも、本当はアナタやひかりちゃんを思っての事だって、ポルン君はちゃんと分かってるわ。」

 

「そうでしょうか。」

 

「だって、私のような毒母でも、映司は許してくれた。

ちゃんと助けてあげられなかった。 こんな不器用なやり方しかできなかった愚かな母親を、あの子は受け入れてくれた。……私、知らず知らずのうちに、あの子とポルン君を重ねていたんだわ。バカね……。」

 

気丈に振る舞ってはいるが、映司がいなくなってからの彼女がどれほど心を痛めていたか、 ずっと隣で見ていたココは知っている。

 

最愛の息子の仮面ライダーとしての能力に目をつけたシャイニーキングダムに拉致、挙句洗脳され、破壊工作のための尖兵に仕立て上げられているのだから。

 

彼女の精神的ダメージは、もはや誰にも分かりかねるだろう。

 

それでも、それでもココは、彼女に 希望を持って欲しかった。

 

「なら、映司もちゃんと戻ってきますよ。」

 

「……え?」

 

「明美さんが今言ったように、 僕たちとキュアライダーズは確かな絆で結ばれてる。

どんなに心が遠くても、どんなに距離が離れても、映司も、ポルンも、 魂が帰る場所を覚えている。

明美さんと僕らが帰りを待ち続ける限り……キングダムにいる仲間たちは、みんなきっと……。」

ココは、話の途中で前方に視線を映した。

 

明美もそれを追うと、その先にはポルンがいた。

 

右腕、右足、頭部を包帯で固定し、左目には眼帯が尽き、 足取りもフラフラとしているが、眩く光る瞳は、間違いなくこちらを捉えている。

 

目は光を失っていないものの、その表情は険しかった。

 

かろうじて動く左手で、 あれだけ大事に守ってきたルミナスの水晶を持っている辺り、 少なからず覚悟を決めてきた現れだろう。

 

ある程度二人に距離が近づくと、ポルンは 水晶をポケットにしまった。

 

「怒ってるよな?ココ……。」

 

ココは答えない。ただまっすぐ、ポルンと同じ険しい顔つきで彼を見ている。

 

「 ルミナスの件だろ?オレの意見は変わらねー。

ひかりがなぎさ達と戦う事で得られたモノを、 お前に奪う権利があるわけねーだろ。」

 

「ルミナスは? 目覚めたのか?」

 

「 響鬼さんのテント出る前に一回。 でも、その後、また水晶に戻っちまった。」

 

ココは、数秒黙ってから呟く。

 

「僕のことは別にいい。 だが明美さんはどうだ?

君が出ていった後も話を聞いてやるようにと僕をなだめ続け、常に君の味方でいてくれた…… 明美さんに対して何か言うことがあるだろう。」

 

ポルン は視点を明美に移した。

 

そこで逆らうのが得策かどうかわからないほど、彼も愚かではない。

 

「ごめん……心配かけ……」

 

ポルンが言い終わる前に、明美は彼の元に駆け寄り、壊れそうな程抱きしめた。

 

「……すぐに駆けつけてあげられなくて、ごめんね。

もういいの、あなたのしたことは間違ってないし、無駄じゃない。

一人で背負わなくていいのよ。ひかりちゃんのこと、皆で一緒に考えよう?」

 

「なんだよ……なんでアンタが謝っ……。」

 

自分の耳元ですすり泣く明美。

小さな体を包んでくれる、細い清らかな腕のぬくもり。

単純明快にして偉大な、癒しをくれる言葉たち。

己のために流してくれた 温かい涙。

 

何かを言葉にしたいのに、感極まって言葉にならない。

 

「おかえりなさい……。」

 

それでもポルンは、泣きながら囁いた。その時、彼はもう妖精に戻っていた。

 

「ただいま……ポポ……!」

 

 

 

 

時の砂漠 デンライナー車内

 

「片桐の次は、昆虫野郎かよ!」

 

デンライナーの車窓から、オーナーに対して怒鳴るモモタロス。

 

第4勢力ブレイブセイバーズの 勧誘を任されたプリキュアたちを下車させ、 響鬼の世界の屋久島から東京タワー避難所へ戻るところだったのだ。

 

行く手を阻んだのは、元ZECT、ネイティブの根岸。

 

闇のエネルギーの影響を受けてか、そのサナギ体は真っ黒に染まっていた。

 

「脱線してもらいますよォ!?デンライナーの皆さん!」

「彼……『説得』の通じる相手じゃなさそうだね。」

 

ところが、頼みの綱である特異点、野上良太郎は、度重なる連戦でもはや限界。

デンライナーで、つかの間の休息をとっている最中だった。

 

 

「オーナー、やっぱり僕も戦います……!」

 

「いけませんよ良太郎くん、君は勘違いしているようですが、本当の戦いはこれからです。 キングダム、そして闇の同盟の重鎮達が頭角を現す落としている今、悪戯に兵力を削る訳には……。」

 

「んな事言ってもよォおっさん!」

 

車内に侵入してきたワームやインベス、ロストスマッシュなど各々の武器で抑えるイマジンたち。

 

「 このままやと、じきにデンライナーもお釈迦やで!」

 

「もー!何なのコイツら!」

 

「オーナーさん、大量の犠牲が出る前に、降伏をお勧めしますよ!?」

 

根岸の再三の忠告にも、オーナーは応じない。

 

それどころか、『何かを待っている』ようだった。

 

「今少し、今少しです。」

 

「何がだ? 私には視界の隅から隅まで、汚らしい怪人どもが見えるがな。」

 

戦闘をよそに紅茶をすすりながら、ジークがダメ出しをする その時、オーナーが思いっきり行目を見開いた。

 

「来ましたよ。ピンチヒッターが!」

 

 

列車の外では、突如入った横槍に、根岸が手を焼いていた。

 

「そこをどけ!」

 

「そりゃ無理な相談だ。」

 

「貴様ァ…… 蛮野天十郎率いる新生科学技術班の兵器ではなかったのか!?」

 

「そうだったらしい……が、 アンタらクオリティにこだわりすぎだ。

ばっちり再現してくれたなァ。俺の信条、『ラブアンドピース』まで。」

 

根岸の視線の先には、先日ビルドの世界で散ったはずの仮面ライダーがいた。

 

「おかげでズルズル前世の未練引きずって、地獄から舞い戻ってきちまった。みーたんに 格好つかねーじゃねーかよ。」

 

「貴様ァ!名乗れ!」

 

「聞かれて名乗るもおこがましいぜ!覚悟しな、闇の同盟。

お前ら全員、 心火を燃やしてぶっ潰す!」

 

悠久の時を経て、死の淵に瀕して尚、不屈の闘志で舞い戻った、一人のライダー。

 

 

その名は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グリスブリザード!ガキガキガキガキガッキーン!』

 

 



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また一つ、強くなった

・門矢一派に反目し、単独行動によって多大な被害をもたらした光の王子ポルン。

妖精連合が彼に下した最終決定は、禁錮3日。

 

とは言っても、ただ軟禁されるだけではない。

 

それは『箱』。

 

試練の箱と呼ばれる禁断の魔法道具だった。

 

日焼けマシーンの様な、円柱形の箱の中に入った者は、 内部にいる『大いなる存在』によって試練を課される。

 

クリアできれば解放、できなければ成長なく退出させられるか、 箱の中でさまよったり、 最悪死ぬこともある。

 

しかしこれは、ポルン自身の希望であった。

 

「本当に良いんだな? ここ数年無事に戻ったものはいないぞ。」

 

士の再三にわたる忠告も、ポルンは恐るるに足らず。

 

「やってくれ、頼む。」

 

士の合図でココが箱を開くと、 凄まじい引力かポルンの体を襲う。

 

「ぐぁ……あァァ!!」

 

「ポルン!」

 

「心配すんなよココ!!必ず強くなって、戻ってくるからさァ!!」

 

小さな箱の中に彼が完全に吸い込まれた時、避難所を再び、静寂が包んだ。

 

(どうか無事で……!ポルン君……!!)

 

暁美の願いは届くか否か、全ては、ポルンの勇気と実力に託されるー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試練の箱 内部

 

 

 

そこは畳20畳ほどの、石造りの部屋に、 二つの松明の弱々しい光があるだけの、不気味な場所であった。

扉も窓もなく呼吸の音が、遥か虚空に響き渡る。

まるで洞窟の中に放り込まれたようだ。

 

四方を囲む赤いレンガの壁が、 どことなく、牢獄の中を連想させる。

 

本人たちの大きな背中に、息を飲んでいたこともあり、 ポルンは一瞬身構えた。

 

【これなるは、試練の箱……。】

 

上から野太い声がした。確かに上から聞こえてくるのに、まるで地の底から唸っているような、よく響く声だった。

 

【試練に挑む者よ、 汝の名を述べよ。】

 

「ポルン。光の王子だ。」

 

【光の王子〜? またけったいなのが来たわね。】

 

今度は右隅から、若い女の声がした。

 

【 強い奴なら、 誰の挑戦でも僕ちんは受けるよ〜?】

 

左の隅から若い男の声がした。

 

【来る者は拒まず。それがわたくし達の使命です。】

 

下から、しわがれた女の声がした。

 

【では、光の王子よ!!ここへ来たからには、汝の求めるものがあろう!それを述べよ!】

 

天井からさっきの男の声がした。

 

ポルンは、落ち着いて返答した。

 

「 とにかく強くなりてえんだ。」

 

【では、次より選べ!!】

 

突然床がガラスのように透け、その下にある紫の松明が光り出した。

 

【知恵か……?】

 

続いて左の隅から緑の松明が光る。

 

【技か……?】

 

続いて右の隅から青い松明が光る。

 

 

【瞬足か……?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【はたまた力か……?】

 

最後に天井で赤い松明が光り、ポルンの四方に石の巨像が現れる。

 

それは、『仮面ライダークウガ』によく似ていた。

 

それぞれがロッドやボウガン、剣などを持っている。中央のみ、マイティフォームの姿で武器を持っていない。

 

 

「なるほどな、要はアンタらを一人ずつぶちのめせば、各要素でパワーアップ出来るってわけか。」

 

【察しがいいな、その通りだ。さあどうする?光の王子……。】

 

「全部だ。」

 

【何だと!?】

 

「オレには時間がねえ。妥協する余裕もねえ。キュアライダー達よりずっと強くならなきゃいけない。

だから、まとめて相手してくれ。」

 

【冗談でしょ!?】

 

【死んでも知らねーyo!】

 

【若さとは、恐ろしいものです。】

 

【!!……クハハハハハ……ハハハハハ!!以前の氷室玄徳といい、近代の戦士たちはうつけばかりか!!?】

 

「玄さんが何しでかしたか知らねえが、 俺はあの人さえ超えなきゃいけねぇんだ。いいからまとめてかかってこいよ。」

 

【 ドラゴン、ペガサス、タイタン。お前ら、これほどのウツケを見たことがあるか!?

いいだろう。 世の理を知らぬ若造に洗礼をくれてやる!

かかってくるがいい、光の王子!!

この試練を乗り越えた時、貴様はかつてのリントの英雄をも超える力を手に入れていよう!】

 

 

 

 

 

 

その頃。フレッシュプリキュアチームが管理している、西エリアのテント内では……。

 

「なぁアンタ、 本当に何も覚えてないのか?」

 

「ええ、ごめんなさい……。」

 

「 無理することはねえ。けど何者かわからねーんじゃ、家族が心配してるかもしれないし……。」

 

「本当に、何も覚えてないの……。」

 

北那由多を名乗り、 ゴミ処理場付近で倒れていたところを澤裕喜に助けられ、一時的にフレッシュプリキュアの管理テント区域で保護されていた。

 

「もし、家族がいたんだとしたら、それすら忘れるなんて……ひどい人間だわ、私……。」

 

「今は未曽有の大戦争の真っただ中だぜ?記憶を失って保護される事も、珍しくない。

大事な誰かが探してるんなら、時期に情報が届くさ。今できる事は、せめて体調を万全にしておく事だろ?」

 

「ありがとう。優しいのね……。」

 

少し寂しげながら優しく微笑まれ、顔が真っ赤になる裕喜。

 

「っ……んな事ねーよ!! ちょっと飲み物取ってくるから、安静にしてなよ?」

 

 

 

逃げるようにテントから出る裕喜。と、 タイミングよくドーナツ屋のカオルちゃんが現れた。

 

「おう、どうした青年……。」

 

「いや、ちょっとな…… 悪いけど、テントの中で寝てる女に、ドーナツ持ってってやってくれよ。」

 

「OKOK、 おじさんねェ、可愛い子のだめだったら気合い入れて作っちゃうから。」

 

伊達男によく似合うサングラスを怪しく光らせ、 カオルちゃんは顔を近づけた。

 

「おう。」

 

「とりあえず、 このテントの分を中に置いてきちゃうからさ……。」

 

数分後に出てきたカオルちゃんは、 いかにも怪しげな笑みを浮かべていた。

 

「恋……だな?」

 

「ちっげーし!!」

 

「美希ちゃんにフラレて寂しがってんのを、慰めてやろうと思って来てみたら、もうあんな美女とよろしくやってんじゃないの。 心配して損した。」

 

「ちげーって!余計なこと勘繰るなよな!」

 

真っ赤になって反論する裕喜だが、その腹の中はバレバレだった

 

「風邪ひかねーようにな。」

 

「ありがとよ!」

 

ニヤニヤと笑いながら立ち去っていくカオルちゃんを、裕喜は追い払うように見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃一方、中央テントでは……。

 

ジャアクキングらしき気配を追って、 無謀にも『ライドベンダー』一騎だけで地下へ潜入したキュアルージュ/夏木りんとブンビー。

 

彼らが持ち帰ったものは、雪城ほのか達門谷一派の科学班を驚かせる代物だった。

 

三つ並んだ木箱の上に、毛布と担架を乗せた簡素なベッドの上に乗せられていたそれは、キュアドリームによく似た少女だった。

 

どちらにしろ、闇の同盟やシャイニーキングダムも往来する地下に、 いたいけな少女を放置していくわけにはいかない。

 

 

 

「身体検査の結果 、ダークドリームさん達と同じ、5チームのクローンであることがわかりました。」

 

ほのかがボードを見ながら説明した。

 

「ただ 一つ気になる点が……。キリヤくん。」

 

ほのかに目線で指示されたキリヤは、 ホワイトボードに 彼女の体内図のようなものを映し出す。

 

 

 

「ご覧のように、全く闇のエネルギーを感じないんです。 つまり、人為的に作られた人ではあっても、闇の同盟の技術ではないという可能性が高い。 シャイニーキングダムである可能性も否めないかと。

ただそうなると、なぜ私たちのパートナーがジャアクキングらしき気配を感じたのか…… 疑問が残ります。」

 

専門用語や複雑な憶測が飛びかい、 頭がフットーしそうになるりん。

 

「 そりゃあ、ほのかさんとかかれんさんみたいに、理系で 頭のいい人達なら、百歩譲って分からなくもないけど…… よりにもよって何でのぞみをモデルに兵隊を作り出すの?」

 

「ああ見えてお前たちのリーダーは、とてつもない力を秘めてるからな。

どちらかの組織に目をつけられても、さして不思議はない。」

 

天道が言うと、りんは渋々ながら頷いた。

 

「……で、これからどうしようかしら?」

 

明美が言うと、ココが返答した。

 

「 いくら闇の同盟の兵器だからって、敵意が確認できないものをその辺に捨てておくわけにはいきませんよ。

当面この避難所で保護ということで。」

 

「結論は出たな?炊き出しの時間だ……解散。」

 

天道が手を叩くと同時に、 少女を寝かせたままで、一同はテントから出た。

 

一番最後に出た明美は、一瞬寝かされている彼女の指がピクッと動いたような気がした。

 

もう一度彼女をよくみたが、別段変化は見られない。

 

(気のせいかしら……?)

 

外へ出てすぐ ボロを着た老人が明美に話しかけた。

 

「 平和会議は、順調かな?」

 

よく響く声だった。確かに年相応の嗄れを感じるが、現役の戦士たちにも劣らない重厚感がある。

艶のある黒い髭も髪も、きっちり切りそろえられ、 着ているもの以外は風格さえも漂わせる。

 

「えぇ…… まだまだ課題は尽きませんが、たくさんの組織と連携して平和に向けて邁進しております。

ですから、貴方もどうか、まだまだしっかり生き延び……。」

 

そこで明美は言葉に詰まり、老人に見入ってしまった。 彼の老人らしからぬ鋭い眼光にたじろいだのもあるが、 何より、どこかで彼に会ったような気がしたのだ。

どこであったかは思い出せない。

本来人から警戒されるであろう、鋭い眼差しに、明美は懐かしさすら感じていた。

 

「 それを聞いて安心したよ。 本来男の腕ならば前線に立つべきだが、こんな老体になってはな……。

やはり未来の事は、若い衆に任せるに限るな。では、失礼するよ。」

 

「あの……ちょっとお待ちを!」

 

早々に立ち去ろうとする老人を、 明美は必死で呼び止めた。

 

なぜだかわからないが、この状況で無性に彼を頼りたくなったのだ。

 

「何か?」

 

この世界情勢について、善良な市民の一人にすぎない彼に知恵を借りるなど、 愚策もいいところだ。

 

ただ本当に無意識に、彼と話さなければならない気がしてしまっていた。

 

「どこかで…… お会いしませんでしたか?」

 

老人は、少し皮肉そうに笑った。

 

「 いくらボケが来てるとはいえ、あなたのような美人に会ったら、忘れるはずはないと思うがね……。」

 

「……失礼しました。」

 

「 いやいや。しばらくしたらまた、話を聞かせてもらいにくるよ……。」

 

以前にどこかで会ったことは否定されてしまった。

 

それでも明美自身、彼に感じた懐かしさを、自分の心から拭うことがどうしてもできなかった。

 

 

 

「ゥウ!ァアァ!」

 

フレッシュプリキュア管轄テント内の中で、那由多は 何かに怯え、頭を押さえて唸っていた。

 

(ドクン……ドクン……!!)

 

無人になった中央テントの中で、ドリームによく似た少女の鼓動が戻りつつあった。

 

それに反応するように、遠方から見つめるのは、黒いボディに黄色い模様が入っ た、蛇のような生物兵器に乗る 一人の仮面ライダーの影。

 

「 なるほど……ミラーワールドの鏡を使って、場所を隠していたか。」

 

男は、右手首にはめたブレスレット型の探知機で隠された避難所の場所を特定していた

 

「神崎め……まんまとうばわれてくれたな。

とはいえ バカ息子共がいないのは、好都合だ。

今そこにいる連中は少数精鋭だ。落とすのもワケはない。 士気を上げろ貴様ら!

明朝、門矢士並びに妖精、キュアライダー共を一網打尽にする! 逆らうなら市民も殺せ! 同盟に仇なす体制に容赦はするなよ!」

 

 

不気味な動向を夜の闇に響かせる怪物たち。

 

数分後、未曾有の対戦は勃発する。

 



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襲来!闇の同盟

・秋の夜風と虫の音は、対戦の真っただ中にある芝公園避難所にも、分け隔てなく、心地よく響く。

避難テントの周りの、草むらが風になびいていい音を立てている。

 

こんなご時世だからこそ、心を和ませてくれる良い清涼剤だ

 

「いい風ね……。」

 

水無月かれんが青い髪をなびかせ、眠ったままの九条ひかりにささやく。

 

彼女のパートナー妖精である『光の王子』ポルンが、『試練の箱』に突入して間もなく3時間。

 

依然として、彼は静観する気配を見せない。

 

「大丈夫よ。きっとすぐ戻ってくるわ。」

 

眠っているひかりの手を握り、彼女に、そして自分にいい聞かせるようにつぶやき、もう片手でキュアモを握りしめる。

 

ゼクトルーパー隊、および、結界の見張りをしている氷室玄徳と猿渡一海からは、今のところ、異常事態の報告はない。久しぶりに、ぐっすり眠れる夜が来る。

誰もがそう思った。

少なくとも、かれんはそう思いたいはずなのに……。

 

明かりのつかなくなった、深夜の東京タワーを眺めながら、 うまく説明できない、言い知れぬ不安を覚えていた。

 

(一体何だというの……この胸騒ぎは……。)

 

 

 

 

その頃 試練の箱内部では。

 

洞窟だった場所は、いつの間にか草原に変わっていた。

箱の中は、神々の任意によって景色を自在に変えられるらしい。

 

 

 

 

古代リントの力を宿す3人の神々が、休む間もなくポルンに攻撃をしかけていた。 サイズは人間ほどになり 肌色と赤、青、緑、紫のタトゥーに彩られた姿に変異した。

 

「むぅん!」

 

「ぐぁっ!」

 

現状は ポルンが圧倒的に不利である。

 

真正面から強烈な格闘技を繰り出してくる、赤いタトゥーの神、マイティ。

 

「ホァー!ハイ!ハイ!」

「ごぁあ!!」

 

細身の身体でしなやかな棒術を繰り出し、 圧倒的なリーチの差をつけてくる青いタトゥーの女神、ドラゴニア。

 

「ora Ora!余所見すんなyO!」

 

「くっ……!」

 

遠距離から光線を放ち、ポルンの逃げ場を奪い続ける、緑のタトゥーの神、 ペガザン。

 

「にがしませんよ……ふん!」

 

華奢なカラダに似合わぬ大剣をぶんぶん振り回し、 圧倒的な意欲と振り幅でポルンを追い詰める、 紫のタトゥーの女神、タイタニア。

 

( 分かっちゃいたが、楽じゃねーな! てゆーか……下手すりゃ死ぬぞこれ!中でも、あの赤いヤツ……。)

 

ポルンが最も警戒していたのは、 マイティだった。

 

他の3人と比べ目立った武器はないものの、新体能力がずば抜けて高い。

さらに厄介なのは、まるで彼の動きを読んででもいるかのように、打撃の一撃一撃を、まるで躱せないのだ。

 

「どうした!? 先ほどまでの勢いが消えているぞ!!」

まるで指導するような言い草だが、その拳は殺す気満々である。

 

「わーってら!くっそォ……!」

 

やむなく『SWORD』のカードを解除し、拳での戦闘に移行。

 

だが、その場合リーチのある攻撃を剣でさばく事が出来なくなる。

「スキあり!」

 

「ガラ空きだyO!」

 

「仕舞いです……。」

 

ドォォン!!!

 

三方向からの強烈な一撃を受け、ついに倒れるポルン。

 

「ポポ……まだ……ポポ……!!」

 

「妖精……だと!?」

 

久しぶりに変身解除され、 ダメージのあまり人間の姿を保てなくなってしまった。

 

「休憩だ。 その体で挑戦を受けても面白みはない。」

 

「そんな時間はないポポ! こうしてる間にも、みんなが危ない目にあって、必死に戦ってるポポ!」

 

「妖精の身空でここまでやるやつはお前が初めてだ。

じっくり鍛えた方が、より良い成長に期待できる。」

 

「でも……。」

 

「 焦っても得することはないyo!

You は今成長過程にあるんだからsa!

じっくり鍛え上げて、心技体の極意を極めれば、第一級邪神継承権にだって勝てるyO」

 

「 逆に言えば、今のアンタの実力で、外に出るのは自殺行為……より強大な兵力に、ぶちのめされて終わりってこと……。」

 

「ポポ……!?」

 

「見た所あなたには予知能力があるようですね。

あなたが焦りだしたタイミングで、外の世界に妙な気配を我々も察知しました。

けれど心配は無用。こちらでは外の世界より早く時間が流れます……もうあと1日、一週間鍛えても、

向こうでは一日経っていないでしょう。」

 

「要はそれまでに強くなり、力を得ればいい。ただそれだけの話だ。」

 

マイティに説得されたポルンは、仕方なく休息をとることにした。

 

 

「お前、 なぜ戦うんだ?」

 

「今更何?」

 

これまで、特に事情を聞かないままで滅多打ちにされたこともあって、ポルンは無愛想に聞いた。

 

マイティと彼が囲んでいる焚き火には、どこから持ってきたのか、 巨大な獣の肉が串刺しになって焼かれている。

 

「これ食っていいの……?」

 

「 食ってはいけないものを目の前に並べると思うか ?

その辺で拾った。 気にせず食え。」

 

「それ 食っちゃダメな奴じゃねーかァァァァァァ!?

その日ってどの辺だよ!?

けものなんかどこにいたんだよ!!」

 

「うるさい奴め…… この空間は確かに幻惑だ。ただし、質量を伴うな…… 獣の肉があるのも、何一つ不思議じゃない。」

 

今一つ納得できないが、一番重要なのはそこではない。

 

肉にかじりつきながら、 ポルンは一人思案していた。

 

 

ここに来てから一体、向こうではどれくらい時間が経ったんだろう。

 

あくまで幻らしいが、時感覚を狂わせないために陽が沈んだ。最低でも、6時間ほど経っているはずだ。

 

(あいつら、無事だろうな……。)

 

「仲間が心配か?」

 

「まぁな。 料理の上手いライダー、下手なライダー、

戦闘で活躍するプリキュア、誰も殺さないことに徹するプリキュア……色々いるよ。」

 

数々のキュアライダー達の顔を思い浮かべる。

 

思い返してみれば、彼らはみんな笑っている。

どんな逆境においても、どんな絶望的な戦いに陥っても、 絶対に希望を捨てない。

 

 

闇の同盟との圧倒的な違いは、孤独な奴らがいないということだろうか?

 

……いや、その中に『例外』が何人もいる。

だから、シャイニーキングダムみたいなのが出来上がっちまったんだよな。

 

己を戒めつつ、 ポルンは誓った。

 

( オレたちの仲間は絶対に取り戻す!どのみちいつまでも、闇の同盟の思うとおりには転ばねー。

なんたって、キュアライダーズ(あいつら)を敵に回したんだからな。ひかり……お前の事も、必ず……!!)

 

「女だな。」

 

肉をかじっていたマイティがポツリと言った。

 

「な……な……何言ってんだ!?」

 

シャイニールミナス/九条ひかりの顔を思い浮かべ、図星であったポルンの顔は真っ赤になった。

 

「バレバレだよ。 なるほど合点がいったぜ。」

 

どこまでも冷静なマイティに、ポルンは隠し通すことを諦めた。

 

「別にそれだけじゃねーよ。わ、笑いたきゃ笑えよ!」

 

「なぜオレが笑う? ロマンじゃねぇか。 いい女に勝る 宝物はこのようにねーもんなァ。」

 

「アンタも…… 恋人とかいんのかよ?」

 

「遠い昔にいた気もするが、もう覚えちゃいねえな。」

 

やけに素直な答えに、深掘りしようとした自分が悪いような気がしてきた。

 

突然夜空を見上げたマイティは、怪訝な顔をして言った。

 

「 雲行きが変わってきやがった……!」

 

「!?……やばい奴が来てるって言うのかよ!」

 

「さぁな。 今のお前がそれを知ってもどうにもできん。

仲間の様子を知りたきゃ……わかるな?」

 

「 皆まで言うなよ。一刻も早く強くなれって事だろ?」

 

「わかってんじゃねーか。なら要望通り、休憩はここまでにしてやる。

こっからスパルタになるぞ……ふんどし締め直せ!」

 

「元より其のつもりさ…… 行くぜ、神様ァァ!!」

 

立ち上がり、武器を取る両者。

 

 

 

 

『試練の箱』での修行は、ここから佳境へと入っていく。

 

 

 

 

避難生活が長引くことにより生じる問題は、衛生面や生活環境だけではない。娯楽の不足である。

 

夢原のぞみや花咲つぼみたちリーダーキュアを始め、

子供の扱いに長けているプリキュアたちが協議し、 避難所の子供たちをいくつものレクリエーションで ストレスから救ってきた。

 

明日のレクリエーションを仕切るのは、キュアミント/秋元こまちの担当であった。

 

交際者の夏ことナッツ王子と、夜なべをし明日のプログラムをうんうん唸りながら考案していた。

 

「 こまち、紙芝居はできたか……?」

 

「う〜ん、 いいのはいっぱい浮かんでいるんだけれど、 いろんな年齢の子どもたちがいるでしょう?

みんなに平等に楽しんでもらうために、どんなのがいいかな〜って 。」

 

「スイプリチームの合奏も、ハートキャッチガーデンも、子供達は すごく楽しそうにしていた。

作っている人たちの思いがこもってるから それは自然と伝わるんだよ。

こまちもそうだ。頑張ったことはきっと思いが伝わる 。だから、もっと自信を持っていい。」

 

「 ありがとう。 私は大丈夫。 でも、かれん……。」

 

彼女は心配そうに、 奥の部屋でカルテを見つめる親友の背中を見る。

 

水無月かれんの恋人、美々野くるみ/ミルキィーローズは、 何を思ったのかシャイニーキングダムのスカウトに応じてしまった。

 

彼女の思うところが如何なものか、はたまたクイーンに心から賛同していたのか、どちらにしても、皆に、そしてかれんにすら気づけなかった『心の闇』をがあった事だけは間違いない。

 

「あいつは俺やココよりずっと多感な年頃だ。

将来に不安を覚えていたのか、何かを成し遂げようとしていたのか……気づけなかったオレたちの過失だ。どちらにしても、かれんの心中は計り知れない。」

 

「無理もないわ。だってかれんはあんなに、くるみさんを愛していたんだもの。」

 

 

 

こまちの思った通りか、あるいは、今夜の妙な胸騒ぎのせいか、かれんの背中はどこか、小さく細くなって見えた。

 

 

 

 

5gogoチームのテントを少し離れた、MAX HEART チームのテント内では、雪城ほのかが夜更けまで、ドライバー片手に設計図と睨み合っていた。

 

机の上には、天道総司と加賀美新からメンテナンスを依頼されていたカブトゼクターとガタックゼクター、

そして、ビルドの世界の『スクラッシュドライバー』に装填する変身アイテム、『スクラッシュゼリー』が二つ置かれていた。

 

「ほのかさん……。」

 

ほのかの交際相手キリヤが アイスコーヒーを持ってやってきた。

 

「まぁ。ありがと、キリヤくん。」

 

「ほのかさんは連日働きづめなのに、俺が休んでるわけにはいきませんよ。」

「ホントにコーヒー淹れるの上手ね。キリヤくんは。」

 

幸せそうにマグカップを仰ぐほのかを見て、彼女の緊張が解けたように見えて、少し安堵していた。

 

 

 

長いこと生き別れていたキリヤとほのか。

 

10年弱の歳月の間に、本来ならば彼は、どれだけの事をほのかにしてやれただろう。

 

その歳月を取り戻したくて、彼はなるべくほのかのそばにいることにしていた。

 

そうでなくても彼女は、誰かのために自分を犠牲にすることを全く厭わないタイプの人間なのだから。

 

闇の同盟に物言わぬ人形兵にされていた、自分を救いに来た時もそうだった。

 

最後まで振り回しただけだった。

危険な目にあわせただけだった。

 

にもかかわらずほのかは、ただ自分との再会に涙を流したのだ。

 

プリキュアや仮面ライダーほど強くなどない。だが、いや……だからこそ、彼女だけは、絶対に守ってみせる。 キリヤは心に固く誓っていた。

 

「あまり、無理しないでくださいね。」

 

「大丈夫よ。 プリキュアの仮面ライダーも私一人じゃないんだし、 皆がいれば、すぐに世界は元に戻るから。」

 

「……ならいいですけど、どうしても辛くてきついって時は、ちゃんと俺を頼ってくださいね。」

 

「ありがとう。じゃあ、早速……。」

 

突然ふっと息を吐いてマグカップを置いたかと思うと、 椅子から立ち上がってキリヤを抱きしめた。

 

「え、ちょっ……ほのかさん!?」

 

「1分……。」

 

「!?」

 

「あと1分、このままでいい?」

 

これが、彼女なりの甘え方なのだと察知したキリヤは、ぶっきらぼうに返した。

 

「……5分でも10分でも、何なら1時間でも……お好きにどうぞ。」

 

「ありがとう。」

 

秋の静かな風の中で、まるで永遠のような1分が、少しずつ過ぎていく。

 

彼の心臓は徐々に落ち着きを失い、顔はすでに真っ赤になっている。

 

一方でほのかは、心音こそ聞こえるが、キリヤほど不安定になってはいない。

 

(くそ……落ち着け!落ち着くんだオレ! ほのかさんはもうか、か……彼女なんだし、 何を慌てることがあるって言うんだ!いくら胸が当たっ……当たっ……。)

 

とうとう思考にも落ち着きがなくなりつつあった。

だがその時、彼は妙なことに気付いた。

 

ほのかの顔が当たっている右肩が急に重くなったのだ。

 

(え……ちょっ……。)

 

「すぅ……すぅ……。」

 

よりにもよって、よりかかったままほのかは眠っていたのだ。

 

(ウソオオオオオオオオオオオオん!?ちょっ……コレどーしよーコレェェェェェ!!)

 

いや起こせよ。と、冷静なツッコミを入れたい作者であった。

 

1分などとうに経過しているが、早くこの状況を何とかしたい気持ちと、いつまでもほのかの寝顔を見ていたい気持ちの板挟みにされ、彼は動けないままでいた。

 

「ほのかさん……ほのかさ……。」

 

「んにゃ……あ、ゴメンキリヤくん……。」

 

「大丈夫ですか!? やっぱり少し寝た方が……。」

 

「オイ、もういいか?」

 

テントの外からしたクールな声に、ふたりはビクッとなった。

 

仮面ライダーカブト/天道総司が、タイミングを見計らったかの様に、テントの壁に寄りかかって立っていた。

 

「お楽しみの所、邪魔するぞ。」

 

「いかがわしい言い方しないで!」

 

「何だ違うのか。 心配して損した。」

 

キュアホワイトなのに、真っ赤になっているほのかに対し、 天道は全くもってクールな姿勢を崩さない。

 

「オレと加賀美のぜクターはどうだ?」

 

「メンテナンスは終わったわ。 ベルトを巻けばすぐ飛んでくるはずよ。」

 

「例を言う。 そっちの二つは?」

 

「これは NEW スクラッシュゼリー。『グリスブリザード』と『レッドブル』で、猿渡さんと氷室さんに頼まれてるの。」

 

「オレも あの二人に負けてられんな。あいつら今日は夜非番だから、もう寝ているが?」

 

「元々 明日取りに来る約束だったから大丈夫。」

 

「そうか、オレも休ませてもらうとしよう。」

 

去っていく天道の背中を恨めしげに睨むキリヤ。

 

 

 

と、その時……。

 

ドォォォォン!!

 

避難所全域を 体になれない謎の振動が襲った。

 

遠くから、 パルミエの王子二人の、揃った叫び声が聞こえた。

 

「「何か出たぞ!!」」

 

 

 

 

一分前。

 

芝公園の入り口辺り、 避難所の門番がいるあたりで、 最初の異変は静かに起こっていた。

その日の門番は、キュアブラック/美墨なぎさ。

 

門番とは言っても、周辺は カンドロイドやメモリガジェット、ディスクアニマル達が巡回している。

 

なぎさのやる事といえば、周囲を視覚的に監視する事、 そして、メカ達に異常があった時にほのかに報告することである。

 

ヤグラに乗って数時間。

 

体が丈夫な方ではあるが、そろそろあくびが出てくる。

 

「ふぁ……もう何も来ないんじゃない……?」

 

だが……

 

パァん!

 

ジジ……バン!

 

 

 

何かが破裂するような音、壊れるような音が数回響いたと思ったら、 何かの影が地面の中を動いてるように見える。

 

何かが通過した後にはその上を飛んでいたタカカンドロイドやディスクアニマル達が地面に 落下している。

 

大気汚染により命を奪われた動物たちのようだ。

 

と、電子望遠鏡が突然お釈迦になり、 無線からもザーザーと奇妙な音がしている。

 

「コレ……ヤバいかも!!」

 

やぐらを降りようとしたその時。

 

すぐ近くの噴水広場で、爆発が起こった。

その正体が、地面を移動していた何かが衝突したものであると、なぎさはすぐには理解できなかった。

 

すぐそこにはハートキャッチガーデンがあり、真っ先に駆けつけたのは 花咲つぼみの妹、ふたばだった。

 

「お花……お花が!ウッ……!!」

 

 

土埃の中から現れた、黄色と黒の模様の手に ふたばは突然首元を掴まれる。

 

「 まったくふざけた連中だ。夜中に遠征した客に茶も出せんとはな。」

 

後ろからすぐに駆けつけ地面に放り出されたふたばを受け止めるゆり/キュアムーンライト。

 

「 あなた……何者!?」

 

「そう睨むな。 いずれ貴様らを支配する宿敵以外、誰がこんな強行突破をする?」

 

「まさか……。」

 

土埃が晴れると同時に闇の戦士の姿が明らかになる。

 

姿は仮面ライダードライブに似ているが、色が黒と黄色、更に、溢れんばかりの闇のエネルギーから、どう見ても泊の変身するそれとは違う。

 

「 我が名はゴルドドライブ!闇の同盟、『第二級邪神継承権』也! 邪悪の神の御名において、たった今よりここを占拠する!」

 

「ふざけたことを……。」

 

仮面ライダー ブレイブ/鏡飛彩が睨みつけた時。

 

突然ゴルドドライブの足下がせり上がり、 巨大な蛇の化け物が現れた。

バケモノの上には3人の仮面ライダーが載っているが、全員もれなく闇のエネルギーを放っている。

 

「抗ってみても一向に構わんぞ? ブラックホール様のお達しはひとつ、『抵抗したものを皆殺し』。それだけだ!!」



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集結と帰還と伝説の覚醒

・「さぁ、存分に暴れろ!第二、三級邪神継承権共!」

 

ゴルドドライブ/蛮野天十郎の支持を受け、黄色いジェノサイダーに乗っていた、いわゆるダークライダー達や、 彼が空中に手をかざすと共に現れた各世界の怪人たちが解き放たれ、 続々と芝公園避難所に散開していく。

 

「 女子供も構わん!皆殺しにしろ!」

 

運の悪い事に、グリスとローグが警備している西の避難所入り口ではなく、なぎさが警備している東入口から攻撃された。

こちらには一般市民が多く集中しており、 キュアライダーたちのいるエリアから随分と離れている。

 

「 見せしめに殺し放題、人質は取り放題、 スタートダッシュをくじかれたってわけか!」

 

仮面ライダーディケイド/門矢士が怒りに任せて机を叩く。

 

「でも、何かしら…… どうも違和感が……。」

 

キュアダイヤモンド/菱川六花が、 避難所内の図面を見て首を傾げた。

 

「六花、違和感って?」

 

キュアルージュ/夏木りん が尋ねると、六花は地図の結界の当たりを指差した。

 

「ココが今、猿渡さんたちが警備してた入り口。

Splash Star のお二人の能力で、この避難所は四方に精霊の光を放ってるんだけど…… 結界が弱まってるのはこっちなんだよね。

もっと言うと、今後の戦いに重要なアイテムなんかを保存してるのもこっち。 今彼らは 向こうの結界から侵入してこちらに向かって進軍してるらしいけど……

だとしたらなぜ最初からこちら側を攻めなかったのか、って……。」

 

「住民を人質にとれば、俺達はなすすべなく道を開けるしかなくなる……兵力を極力減らしたくなかった、ってことか?」

 

左翔太郎が訝しげに言った。

 

「 わかんないことを考えたって仕方ないわ!とにかく迎え打たなきゃ!」

 

りんの提案に頷いた士は、 そばにいたゼクトルーパーに指示を出した。

 

「 一般市民の避難誘導を最優先に、 敵の進路を全力で妨害しろ!

武器倉庫かルージュたちが拾った謎の生物兵器……どちらかが奴らの狙いであることは間違いない。

試練の箱とシャイニールミナスの防衛も怠るな。」

 

『了解!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テントから、日向みのりをかばって逃げる霧生薫。

 

しかし、ロストスマッシュの弾丸を肩にかすり、地面に倒れる。

 

「薫お姉さん!」

 

ロストスマッシュだけでなく、怪人集団がすぐそこまで迫っている。フープが妖精会議テントにいる為、今の自分はキュアウィンディにはなれない。

 

「私は大丈夫だから、行って、みのりちゃん!」

 

最優先すべきは、みのりの安全と判断した。だが……。

 

「イヤ!薫お姉さんを置いていけない!」

 

「早く逃げて!!!あなたまでアイツらに……。」

 

「ヴァーカ!! どの道全員殺すんだよ!!

てめえの次はそっちのチビ女だ!!」

 

仮面ライダー王蛇/『第三級継承権』浅倉が罵るが、薫はその目から光を消さない。

 

「この娘に手を出したら只じゃ……!!」

 

と、その時。

 

「ウォラァッ!!!」

 

薫の背後から豪快に飛び蹴りを放つものがある。

 

こげ茶色のダウンコートと 若干くたびれたジーパンをまとい、くしゃくしゃの黒髪を 南風になびかせる。

 

「なァ玄さんよ、 LOVE & PEACE をぶち壊して、女子供に手をあげるクソ野郎がいるぜ?どーするよ。」

 

すると背後から、 赤色のスカジャンをまとった男が現れる。

黒髪オールバックで纏め、上品な口髭が印象的なダンディ。 背中には『正義』と大きな文字で書かれており、その後ろ姿は紛う事なき正義そのものに見えた。

 

「許す訳にはいかんな、カズミン……。」

 

「気色悪い。二度とそう呼ぶな。」

 

「お前だって玄さんて呼んだろ!?」

 

「如何にも玄さんて顔だろーがオメーは!!」

 

痴話喧嘩をしている二人のところに、 焦った様子でほのかが現れた。

 

「何やってるの二人共!!」

 

「あァすまんほのほの……コイツがな!」

 

「違うほのほの!かずみんが!」

 

「どっちもほのほの言わない!!」

 

ガンッ!と 思いっきりほのかの拳骨をくらい、でかいたんこぶができた二人。

 

これがキュアブラック/なぎさだったらと思うと、冷や汗が出る。

 

「はい!強化アイテム!」

 

ほのかが二つのスクラッシュゼリーを手渡すと、 簡単に作戦を説明した。

 

「門矢さんからの作戦は、 とにかくこれ以上一般居住区域に敵を侵入させないこと!

あの展望台が、敵を食い止める境界に指定されてるわ。

頼んだわよ!」

視界の左端にある展望台を指差した。

 

「試してみるかィ……新兵器!」

 

「 これ以上、かよわき命に手出しはさせん!」

 

 

腰に巻いてあった『スクラッシュドライバ』 ーに、猿渡は『グリスブリザード』ジェリーを、玄徳は『ジャスティスレッドブル』ジェリーを装填。

 

『グリスブリザード!!』

 

『ジャスティスレッドブル!!』

 

「「変身!!」」

 

『ガキガキガキガキガッキーーン!』

 

『正義の突撃!ドッゴーーーン!』

 

 

 

一海は、ダイヤモンドを彷彿とさせる、荘厳な『グリスブリザード』に。

玄徳は、頭部に闘牛を思わせる鋭利な角が生えた、赤いボディの『レッドブルローグ』に変身した。

 

「大復活!心火を燃やしてぶっ潰す!」

 

「正義の為の……礎となれ!」

 

生まれ変わった二人の仮面ライダーの快進撃が、今始まる。

 

 

 

 

男は荒野を迷走していた。

 

相棒も、夢も、生きる意味も見失った今、彼を結び付けているのは、たった一通の手紙。

 

『兄貴、俺たちの光の道が閉ざされようとしてる。

守ってやってくれないか?東京タワーの住人達を。』

 

たった一人の相棒と放浪していた時。

 

雨風をしのぐために何度か立ち寄った河川敷で、たった2行程の文が書かれたメモが置かれていた。

 

この世界に来る前、彼の相棒は、ネイティブと呼ばれる存在に騙され 人間ではなくなってしまったのだ。

最終的には 彼とともに征くため、 彼によって葬られることを望んだ。

まるでその後起こる闇の同盟との抗争をも、彼は予言していたようだった。

 

「相棒…… 心底ロクでなしだお前は。

地獄の果てに行っても俺を振り回しやがって。」

 

彼の遺体は 根岸、三島没落の知らせを受けるとともに、 とある海辺の教会に葬られた。

 

その後彼はたった一人、混沌とする世界のあちこちをいったりきたりしていた。目的も生きがいもない、明日の自分がどこへ行くのか、そもそも自分が何者なのかも、わからないままに……。

 

遠くで巨大なドーム型のバリアが、攻撃されている音がする。

こちらも荒地とかしてはいるが、一応東京都内。

 

知ってか知らずか、弟分に『守ってくれ』と遺言されていた、東京タワーの避難所まで近づいているのだ。

 

「皮肉なもんだなァ、 俺ァあの場所が嫌いだってのに、てめーのせいで無意識に、こんな所まで来ちまったよ。相棒……。」

 

ほぼ全てを失った自分のことなどよそに、ワームから平和を勝ち取った人類の塔。

彼はあの場所が大嫌いだった。

弟分は相棒はもういないのだ。誰が救われようと知ったことではない。だが……。

 

「あの連中をブチのめせば、見えるかもなァ……。

暗闇を超えた暗闇も。」

 

どこからか、ショウリョウバッタの形をした小型メカが現れる。ホッパーゼクターだ。

 

男は腰のベルトの蓋を外し、ホッパーゼクターを装着。

 

「変身……。」

 

『ヘンシン!Change!Kick・HOPPEAR!』

 

 

 

数秒後、仮面ライダーキックホッパーへと変身した。

 

「さァ数年ぶりの再会だ、楽しくやろうぜ?天道……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻『はぐっとプリキュア』管轄エリアテント

 

こちらには第三級邪神継承権、 ラッキークローバーの面々が侵攻していた。

 

影山冴子が アークオルフェノクに固執しブラックホールへの服従を拒否。

その代行を草加雅人仮面ライダーカイザが行なっているが、統率力は皆無。

戦力的にはどう見てもこちらが有利なのだが……。

 

「ねーたくまくん、 こいつらみんな殺していいんでしょ?」

 

「オイ!やり過ぎじゃ……!」

 

「 待て北崎!ゼクトルーパーは構わんが、市民は連れ帰って労働させろとの指令だ!」

 

草加に止められてた北崎は 慌てて首根っこを掴んでいた女性を宙に投げ飛ばした。

 

 

「やめなさい!」

 

投げ捨てられた女性は、空中でキュアアンジュ/薬師寺さあやにキャッチされ着地。どうにか逃げ伸びた。

 

「アンタたち、いい加減にして!」

 

キュアエトワールが合流し、ラッキークローバー4名と睨み合いになる。

 

「へー! 君たちがプリキュアって言うんだ〜!? すごいな〜!殺しがありそうだ〜! J もそう思うでしょ!?」

 

「……。」

 

「あそっか〜! J は化学班の村上サンの意向に逆らったから、ボコボコにされて魂抜かれたんだよね〜!!」

 

「くっ……。」

 

「な〜に〜たくまくん、 怖い顔してるけど〜、まさか文句があるわけじゃないよね〜?」

 

「いや……。」

 

「言える訳ないか〜! J みたいに哀れな人形にさせたくないもんね〜!」

 

 

「御託はいいから……かかってきなよ!」

 

「ここを征服したいなら、私達を倒してからよ!」

 

「ちょっと待って! 面白そうだから僕も混ぜてよ!」

 

すぐそこのテントの上から、甲高い声がした。

 

小柄な白髪の少年と、黒いコートの女性が並んで立っていた。

プリキュア達は少年の方に、ラッキークローバーは女性の方に 警戒の目を向けた。

 

「ビシン……!!」

 

「影山ァ!!どのツラ下げて現れやがったァ!!!このコウモリ女!」

 

「冴子おねーさんは君達が気に入らないって。僕はね、キュアエトワール、君が憎くて仕方無い。

だからさ、同盟結んだんだ。

手始めに君たちを一匹残らず狩りつくす!」

 

「上等だァ!かかってこいクソガキ!」

 

 

テントの上で、ビシンの上着が風になびく。

 

腰には、何やら奇っ怪なベルトが巻かれている。

 

(あれって……!?)

 

アンジュには、見覚えがあった。

 

門矢士とともに、新たにキュアライダーチームの仲間となった戦士、水澤悠の装着していたそれによく似ている。

 

『ALBINO‼』

 

「アマゾン……。」

 

ベルトの効果音に続き、ポツリと一言、ビシンが呟くと、ビシンの身体を灰色の煙が覆う。

 

全員が顔を手で覆い 煙が腫れた頃 ……。

そこにいたのは、白濁色のボディを持った、アマゾン系の疑似ライダーだった。

 

「さァ遊ぼうか……お兄さんお姉さん……!」



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進化のとき

・ 光の王子の命の火が、今まさに消えかけていた。

 

意識が闇の中に落ち、体の感覚がなくなっていく。

 

(オレは……一体。)

 

※※※※※

 

ポルンが箱の中に入ってから、箱の外ではまだ二時間程度、 箱の中での時間は、おおよそ半年に至っていた。

 

精神衛生のためマイティが時間を操作し、 日が沈んで月が見えるように景色を変えた。

 

とはいえ、昼夜問わず続く戦闘訓練。

 

寝て食って、それ以外は全て戦いにまわしていた。

 

仲間たちが守り、最愛の女が眠っている キュアライダー達と人類最後の砦、 避難所がいつ、同盟やキングダムに襲われるか分からない。

 

焦ったからといって新たな力が得られるわけでもなければ、 今焦ることは訓練の妨げになる事も分かっている。

 

とはいえ、ルミナスのことが気がかりで仕方なかった。

 

『 強くなる事、それより大事な事。無事に戻ってくることを頼むよ。』

 

ココの言葉が脳裏に響く。

 

そうは言っても、 光のクイーンを裏切り、 力の源である 彼女の元から去った今、剣を振る理由は、九条ひかりを守るために他ならなかった。

 

いやが応にも手元が焦るが、 魔神達は的確に、ポルンの今の長所と短所、 どこをどうすれば伸びるか、戦いの時に何を意識しどこに重点を置くべきか、どういう精神を鍛えるかなど…… たくさんのことを教えてくれた。

 

「アンタは硬い! 一生懸命なのもいいけどもう少し柔軟さを取り持ちなさい。

そこに強さが宿ることだってあるんだからね?」

 

「 がっつく姿勢はなかなかCOOL!but、 いろんなものを一人で背負いすぎだyo‼

ただ一点を見つめ、 今最善のものを勝ち取るんだyo!」

 

「 恐れず進みなさい。 逃げないだけでなく、時に労わるのです。愛と勇気を持って進めば、成せぬ事はこの世にありません。」

 

魔神達に様々なことを教わりながら、 戦闘訓練を繰り返し繰り返し、 一日一歩づつ、確実に強くなるポルン。

 

そこからさらに半年が経った頃、 マイティーが突然魔神達とポルンを集めた。

 

「ここから先は、俺とコイツの一対一で戦闘訓練を行う。」

 

「サシ!? なめんなよな!今なら4対1だって……」

 

「 分からんのか?『これからは本気で行く』と言ったんだ……。」

 

「 今まで手抜いてたのかよ!」

 

「殺す気ではいたさ。 要は『生き残れるかどうか』の訓練から、 力を得られるか否かの訓練になる。

まあ、いずれにせよ殺す気で行くがな……」

 

魔神達も快く首を縦に振り、修行は最終局面へ。

 

景色を操作すると魔神達が消え失せ、 あたりは雪原に変化した。

 

建物はおろか岩石や樹木一つない。

 

空は白く染まり、 あちこちで吹雪が舞っている。

 

「 フィールドチェンジか…… 気分の出る演出だな。」

 

「 確かにここ数日、精神衛生のために景色は操作した。が…… ここからはこの何もない大地が適正なのだ。

距離感と2、3種類の色彩が判断できれば何でもいい。」

 

「 なるほど……」

 

「 余裕をこいてないでかかってこい。」

 

マイティの体が発火し、彼の足元だけ雪が溶け出した。

 

炎が横に燃え広がって胴体を覆い尽くし、 鎧のような形になってから火が収まる。

クウガのアルティメットフォームを思わせる黒い鎧。

 

体を売っていたはずの炎はマイティによって完全に制御できるようになったらしく、 右手のひらに炎が治っている。

 

「ただの……フォルムチェンジじゃねーよな。」

 

魔神達とはもう何度も戦ったが、 彼らの力が 小さく見えるほどの魔力の増大。

頬を伝う汗は興奮ではなく恐怖。

剣を握る手の震えは 武者震いではなく 危機感。

 

どちらも、ポルンには残念な結果だ。

 

「来い……」

 

ここ数ヶ月で教わった全てを懸ける。

 

そのくらいの意気込みがなければ、彼には勝てない。 理屈ではなく、直感で分かっていた。

 

『あなたのコンテンツには、まだ上の段階があります』

 

タイタンから教わった言葉だ。

 

『上の段階って?』

 

『 光の力とはもっと強大かつ、強固です。

その気になれば時空すら歪める、光とはそういうものです。』

 

『どうすりゃその段階に行けるんだ?』

 

『あなたは、怒り、焦り、恐怖や悲しみから、一つ一つの技に磨きをかける機会がこれまでなかった。

コンテンツカードを信じ、 呪文に意思を乗せ、 心で繋がる仲間と共に戦うのです。』

 

その教えを100%理解できるかと言われると、 そうではない。

ただ、タイタンのこの教えを意識するようになってから、 自分が成長したのを実感できた気がしたのだ。

 

( 俺のコンテンツには使いどころがある。 俺はクイーンから受け継いだ力で、俺が高めるべき力だ。信じてやらなきゃ意味がねーのもその通り。)

 

上から首元に、剣で切りつける。

 

かなり強い勢いで振り下ろしたつもりだったが、 首に接触するとピタリと止まり、動かなくなった。

 

(!?)

 

「甘い……!」

 

マイティは首にかかった刃をつかみ、そのままポルンごと投げ飛ばした。

 

「うわ!」

 

「スキだらけだ……!」

 

自然発火能力で右手に炎を宿し、槍を形作る。

 

急いでカードを引き、腕輪にハメられたスマホ画面にかざす。

 

『シールド・コンテンツ!!』

 

丸い盾の結界ができるが、熱で溶け出し粉々に砕けた。

 

「ぐぁ……!!」

 

すんでの所で真横に飛び退くが、 右頬に切り傷を作り、火傷を負った。

 

「クソ……!」

 

「 お前は一体何を学んだ? コンテンツを乱発していれば 下手な鉄砲がそのうち当たると?

100年早い。」

 

『スクラッチ・コンテンツ!!』

 

光のつけ爪が展開し、 ポルンは再び飛びかかる。

 

「 接近戦ならばもう少し有利に運ぶ ……か?それが甘いというんだ!!」

カードをただの『戦略』に変えるな。武器をただの道具と思うな。戦う理由をないがしろにするな。

 

すべてと共に戦うのだ。

 

何かが彼の頭の中で叫んでいたが、その解釈をポルン自信が理解できなければ、この状況を脱することはできない。

 

「 ただの戦略にあらず! ただの武器にあらず!

戦う理由を曖昧にすべからず!」

 

声に出して叫んでみるが、結局その意図も意味もわからない。

初めから理解などしていなかったのかもしれない。

 

確かにこの半年の体感時間で、身体能力は確実に上がった。上がっていなければおかしいのだ。

 

だが、それではこのアルティメットの魔神に勝つことはできない。

 

身体能力を上げ、技を磨き、コンテンツを使うタイミングを見極めた。

では後は何を学ばなければならないか。

 

その答えを出すがために、あのフォームになった。だとすると、その答えとは何だ。

 

(ちくしょう! こうしてる間にも闇の同盟がこのままじゃ何も……)

 

「何も守れない、何も救えない、か?」

 

心の中で思っていたことを読み取られ、表情が固まるポルン。

 

「お前はいつもそれだ。 誰かを守りたい、世界を守りたい、愛する女を守りたい。そのために強くなりたい。

自分が強くならなければいけない。

何を犠牲にしてもいけない。

犠牲にしていいのが自分の身だけ……」

 

嘲笑するようなマイティの声色。

 

自分を訓練していた相手に対し、ポルンは初めて、怒りにも似た悔しさを覚える。

 

「 何か間違ってるってのかよ……!仲間の……ルミナスのために戦うってことが」

 

「 ああ間違っている!」

 

全面的に否定された事に怒りを覚え、『Bomber』のカードを翳して燃える拳を突き出すも、 やはりマイティには届かない。

 

「 俺は別にないがしろになんかしてねーよ! 本気で全部守るために強くなりてえんだ! 何が間違ってんだ!」

 

「 俺が否定したのは守るという意思そのものではない、手段だ。」

 

「!?」

 

「 修行の過程で、お前の記憶が伝わってきたぞ……?確か、光のクイーンはお前に言ったな。

自分を敵と見定めながら一人でのこのこ乗り込んでくることを愚かと思わなかったのかと。

俺も同意見だ。

あの場でルミナスのことを お前一人で守れると?

思い上がりも甚だしい。」

 

「 じゃあどうすりゃ良かったんだよ!!」

 

爆ぜる拳で数発叩き込むが、煙を上げるマイティの体は ダメージをかけらも感じていないらしい。

 

「 あの場でクイーンの正体に気付いていたのは俺だけ! もうルミナスの身柄は 宮殿に持ってかれてた!」

 

「 援軍を呼ぶこともできたはずだ!」

 

「 戻ってる間にあいつが兵器にされちまってたかもしれねえ !」

 

「 そしてテントに戻れば力を剥奪すると言われ、それに反対し一人で守れる、と。」

 

「 あいつは力を奪われて、一人安全な場所に待機することで守られることなんて望んでねー!

仲間に腫れ物扱いされて守られるくらいなら、 危険を犯して一緒に戦うことを望んだはずだ。」

 

「 若い、青い、無鉄砲で無責任。

お前は何もわかっていない。」

 

「何をだよ!!!!」

 

彼の怒りは最大に達し、エネルギーを最大級に込めた斬撃を放つ。

ようやく鎧にヒビが入ったがマイティーは顔色ひとつ変えない。

 

「 そうしてプリキュアとしての彼女を守り、お前はどうなるというのだ!」

 

「 言っただろう! あいつを守れるなら俺は死んだってかまわねー!」

 

「 それが間違っているというのがわからんのかァ!!!」

 

今度は先ほどのポルン以上の渾身の怒りを込めて、マイティが 右拳でナックルを放つ。

 

右ほほにクリーンヒットしたパンチは、これまでのどの攻撃より痛かった。

ドラマで怒り狂う父親にげんこつを食らう時のシーンがあった。

 

親と呼べる存在がクイーンしかおらず、げんこつを食らった経験などもないポルンにとって、 それは実に貴重な経験だった。

 

「 すべてをやり尽くしお前が死ねば丸く収まるだと!?

ふざけるのも大概にしろよ!!

お前がし命を賭して守りたいと思う彼女は、お前が死んでも悲しみはしないのか!?

妖精のまとめ役のココ王子は!?

Max Heart の他の二人のプリキュアは!?

お前耳をずっと案じていた火野明美は!?

 

記憶を読み取っただけの俺ですらこれほど思い浮かぶのに、 お前が誰一人浮かばないとは言わせんぞ!!

 

お前はわかっていなかったんじゃない!!!ずっと目を背けていたんだ!!!

 

甘えるなよ!

 

そんな逃げてばかりの軟弱者が、誰一人守ることなど、まして世界を守ることなどできはしない!!」

 

畳み掛けるようなマイティの言葉が、次々と心に突き刺さる。

ようやくわかった。

コンテンツカードが自分の体にフィットしていないように感じたのは、 成長段階の初期不良などではない。

 

単にポルン自身が理解していなかったのだ。

世界を救う ということの真の意味を。

 

自分が、どういう環境で戦っていたのか。何を守るべきだったのか。

 

全てを救うと口にしていたものの、何を守らなければいけなかったのか、具体的なビジョンが全く見えていなかった。

 

故にコンテンツカードは真の力を発揮できず、不調が続いていたのだ。

 

「 久々に骨のあるやつが入ってきたと思ったら……全く残念極まりない。」

 

マイティのため息には、はっきりした怒りがこもっていた。

 

「 弱卒の相手をするほど暇じゃないんでな。 次の一撃で決めさせてもらう!」

 

マイティは両腕に力を込める。

 

天高く掲げた拳に、 赤い炎と稲妻両方のエネルギーが宿っていく。

 

「 これを受け切り!なおかつ次の一撃で俺を倒せなければ、どちらにしろお前の運命に先はない!

よくよく思い出してみるんだな !一体お前の周りに、前に、後ろに、隣に誰がいたのか!

お前ごときが本当に一人で戦うにふさわしい人間だったのか!

見極められんというのなら、本当にここで死ね!!」

 

一面雪に覆われた銀世界を、あまりにまばゆい炎と稲妻の光が満たしていく。あれを食らっては本当に命がないだろう。

 

目を閉じて、ゆっくりと考える。

誰の声が聞こえるだろう。

 

「 ね、ポルン。明日のテストの問題とか……分かる?」

 

悪知恵を働かせるなぎさの声。

 

「 未来を予知するなんて……どんな仕組みが働いてるのかしら……!!」

 

自分の能力に対し、妙なスイッチが入るほのかの声。

 

「 ポルンならきっと、立派な光の王子になれるココ。」

 

度重なるオールスターズ決戦の時に、先輩妖精であるココがくれた言葉。

 

「 もう一人で悩まなくていいんだよ。ひかりちゃんのこと一緒に考えよう……?」

 

勝手に基地を出て行った自分を、温かく出迎えてくれた明美の言葉。

 

「大丈夫!みんな……同じ空の下にいるんだから!」

 

強大な敵を前にしても怖気付かない。

 

強く明るく前向きなのぞみの、嘘偽りない言葉。

 

「 みんなの笑顔のために、 それと…… 君や、つかさやプリキュアたち。

大事な仲間たちの笑顔のために。」

 

姿を消した五代に代わり、クウガとして奮闘していた、小野寺ユウスケの言葉。

 

「 これからも旅は続くさ。 俺達が続けようと願う限り。 生きること、そして戦うことの旅は、

ディケイドと、キュアライダー達の旅は終わらない。」

 

世界の破壊者と邪険にされ、 全てのライダーを敵に回してなお、 運命と戦うためにその足を止めなかった仮面ライダーディケイド/門矢士の言葉。

 

そして……。

 

「ポルン……。」

 

いつも自分を選んでくれた優しい声。

愛と温かさに満ちた、彼女の、シャイニールミナス/九条ひかりの声。

 

「ポルン!」

 

そうだったんだ。俺、こんなにたくさんの人に。

 

本当は気付いていた。なのに、どうしても素直になれなかった。そして、今……!!

 

『COMPLETE・コンテンツ!!』

 

目を開いたポルンは、赤と金色に光るマイティの光線を 光の実態なき剣で受け流した。

 

ふぶきがやんで晴れ上がった真っ白な大地。

 

パリィン!!

 

ガラスが割れるような音と共に、マイティの鎧が砕き割れた。

 

「ようやくか……!」

 

「これが……!!」

 

「そう、 それがお前の新たなる力。

信頼と繋がり、絆を確かめ、 強さを見極めた者のみがたどり着ける力だ。

今のお前ならどんな闇も討ち払えよう。」

 

全身から満ち溢れる光のエネルギー。

この涙はなんだろう。

この高揚感は何だろう。

そんなことは、後で確かめればいい。

 

ひとまずマイティから告げられた事実のみが、 光の公爵と化したポルンに刻みつけられた。

 

「 最終試練・合格だ。」



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杓天の騎士と力のプリキュア

・戦いは激化の一途をたどり、収まる気配を見せない。

 

月影ゆり、夏木りん率いるサブプリキュアチームは、 とめどなく溢れる 怪人集団と、とあるきっかけからこちらに流れた、ドクタートラウムが闇の同盟に残していった猛オシマイダーに手を焼き、苦戦を強いられていた。

 

避難民を一時、逆のブロックに移したものの、 敵の猛攻は激しく避難民を目の前に戦闘となるのも時間の問題といったところだろうか。

 

唯一の救いは、幹部級のダークライダー三名を、 グリスとローグがうまく止めてくれていたことだ。

 

「おのれェ……! 俺は鏡の中の幻ではない!」

 

「 ザコのくせに、イライラするんだよ。お前ら……。」

 

二人のダークライダーはテントの前に飛ばされる。

 

「うるせえ!四の五の言わずにかかってきやがれ!」

 

「これ以上、この平和の砦で暴れる事は俺が許さん!」

 

元変身者の記憶をもとに闇の同盟科学班によって作られた生き人形。

仮面ライダーリュウガと王蛇を前に、 ほのかが苦心して作ったパワーアップアイテムの成果もあり、 蛮野天十郎と同格の仮面ライダー達を相手に、見事互格に立ち回っていた。

 

「何を手間取ってやがる。もういい。オレが出る。」

 

見るに見かねた第二級、仮面ライダーガオウが出陣。

 

キュアルージュ、サニー、ジェラートを相手に、 互角以上の立ち回りを見せる。

 

「 こいつ、強いで……」

 

「 一筋縄じゃ行かないってわけね……!」

 

「 いちか達もまだ全員揃ってないのに、ここで負けるわけにはいかないよ……!」

 

「 そんなに暴れたきゃ、今わからせてやるよ。『勇気』と『無謀』の違いをな……!」

 

『FULL・CHARGE!!』

 

ガオウベルトにマスターパスを セット&タッチ。

 

『プリキュア!サニーファイアー!』

 

『プリキュア!ファイアーストライク!』

 

『プリキュア!ジェラートシェイク!』

 

襲い来る 飛行する刃を三つの技で受け止めようとするが さすがは神の路線を司るマスターパスの力。

呆気なく弾き返されてしまった。

 

「つまらん…… お前ら腹の足しにもならんな。」

 

「待ちなさいよ!」

 

他のブロックへ移動しようとするガオウを、ルージュが呼び止めた。

 

「 勝負はまだ……終わってないでしょうか!』

 

フルーレにプリンセスキャンドル、キャンディロッドを武器に、 それぞれ強化形態にチェンジして立ち上がる。

そのあまりの忍耐力と根気に、さすがのガオウもため息が出る。

 

「キュアライダーってのはみんなこうなのか?いいぜ、

そんなに食われたきゃ、全力で食いつくしてやるよ。」

 

※※※※

 

東ゲート付近 アンジュ&エトワールVSラッキークローバー vs ビシン& ロブスターオルフェノク。

 

「キリがない!」

 

「 やばい……ちょっと息上がってきたかも!」

 

「 お姉ちゃん達もうおしまい!?ホラ、さっきまでの勢いを見せてよ!」

 

容赦なく挑発を仕掛けてくるビシン。が、それに受け答えする体力すらもあまり残っていない。

 

「戦兎さんとはなは!?」

 

「 戻ってこないわね……ハリーも……!」

 

後ろのゲートと 試練の箱を見つめながら 暗い声で答えるアンジュ 実際劣勢を極めているこの戦闘においてどちらが先に倒れてもおかしくはなかった。

 

グリスとローグは、ルミナスの救護テントの防衛に手一杯。

ラッキークローバーは、ビシンと影山に妨害されたからも着々とこちらを攻撃してくる。

 

(ここまで……なの!?)

 

疲労困憊となったエトワールが、エトワールフルートを地面に落とした。

 

「スキ有りだ……」

 

村上/ローズオルフェノクが、体勢を崩したエトワールにとどめを刺そうとしたその時。

 

ガゥン!

 

鈍い音がするとともに背後から赤い斬撃が飛び、 ローズオルフェノクを切りつけた。

 

「ぐぁっ!……チィ!何者だ!」

 

「何モン……やて?」

 

彼は閉じたままだった試練の箱の蓋を開け、箱の中からゆっくりと起き上がってきた。

ほまれが心待ちにしていた赤髪の青年は、進化のための試練を乗り越え、光の王子より一足早く、前線へ戻ってきたのだ。

 

「 そらこっちのセリフや、お前らこそ、どこのどいつやねん。」

 

西洋の赤い騎士の甲冑を着たハリハム・ハリーが、 鋭くも透き通った青い瞳をしてそこに立っていた。

 

「貴様……!」

 

「 試練の箱の 試練に打ち勝ち 悲鳴を聞きつけ即参上。

灼天の騎士ハリハムハリーや。以後、宜しゅう!」

 

以前キュアエールが召喚した剣に似た赤い剣をその手に持ち、刃からは炎が溢れている。

 

「 ふざけ戦士がいたものだな……ジェイ!殺せ!」

 

襲いかかる一人のアンデッドを、ハリーはたった一撃、 目にも留まらぬ速さで切り下した。

 

ジェイの身体からは蒼い炎が吹き上がり、そのまま灰と化した。

 

「 馬鹿な!我らラッキークローバーを一撃で……!?」

 

「 一つ……聞いてええか?」

 

「!?」

 

「 お前ら『俺のほまれ』に……何手出してんねん!!」

 

怒りに満ちたハリーの怒号。

また一つ、予定外の進化を遂げた 戦士が一人。

彼の登場が彼のたどる道がこの世界に何をもたらすのか分からない。

ひとつだけわかることは、 彼は予定より早く支援の箱をクリアしたことにより、門矢一派の形勢逆転は、確実なものとなった。



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解放・覚醒・天恵

「ハリー……!!なんでそいつの味方を!!!」

 

突然現れた予想外のピンチヒッターに、 動揺と怒りを隠せないビシン/アマゾンシグマ。

 

「ビシン……!」

 

「消えちゃえよ……そいつも、ハリーも……光に属するもの皆消え失せろ!!!」

 

闇の波動を体から溢れさせるアマゾンシグマ。

 

その時。

 

「止め給え。君ではどうにもならんよ…… 彼女達の力は本物だ。」

 

ビシンの背後から響く 野太い声 。

 

「アンタは……!」

 

あまりに予想外の、新手の刺客の登場に、エトワールは驚きを隠せない。

 

「うそ……なんで……!?」

 

そこにいたのは、プリキュア達にも見慣れた、仮面ライダービルドラビットタンクフォームの姿。

「 困るんだがね。君のような裏切り者に、作戦の完了地点を動かれては。」

 

「 だったら僕のことも消していけば?影山おねーさんのことも相手にすることになるけどね。」

 

「まぁそう急くな。 キュアライダー達の抵抗力は予想以上だ。 元老たちから言われた所定の時間を、もう20分以上オーバーしている。」

 

「 あんたらを妨害してるゴミ虫の中には、あんたの息子の桐生戦兎も混ざってるじゃないか!」

 

「息子……!?戦兎さんが!?」

 

 

 

努めて冷静な葛城巧(桐生戦兎)の父、葛城忍。 その存在と所属を思わぬ形で知ることになった二人は、動揺を隠せない。

 

「 10分やろう。私が『別の任務』を片付ける間に、君は彼女たちを始末したまえ。」

 

有無を言わせずに言い残し立ち去る葛城忍。ビシンはどこか、退路を断たれて、むしろスッキリしたような表情だ。

 

「そういう訳で……お姉さん達!」

 

図らずも数分間、体を休めることに成功したプリキュアたち。

 

「こっから……本気で行くよ!」

 

戦士となったハリーが加勢したことで、まだまだ形成逆転のチャンスは増えたと言える。マスクからでも分かるビシンの殺意に負けじと、 対峙する戦士達は今一度、呼吸を整えなおした。

 

 

 

一方。

 

※※※※※

 

『FINAL VENT』

 

『EXCEED CHARGE!』

 

『CRACK OUT

FINISH!!

BLIZZARD 』

 

黒いドラグレッダーが空中を旋回し カイザからは黄色のエネルギーが足に集中している。

 

グリスとローグはドライバーのハンドルを捻り、こちらも必殺技の用意を整える。

 

「終わりにしてやるよ……!」

 

「そいつァこっちのセリフよ……行くぜ髭ェェェ!」

 

「玄さんと呼べェェェェェェェェェ!!」

 

リュウガとカイザ、グリスブリザードとレッドブルローグが、互いに放つダブルライダーキックが、空中にて相殺。

 

「ウオオオオオオオオオオオオラァ!!」

 

爆煙が晴れた時、地面に堂々と立っていたのは、グリスとローグの二人であった。

 

「ほのほのんトコ行くぜ……髭!」

 

「ああ……カズミン!」

 

※※※※※

 

門矢士/仮面ライダーディケイドと、初代プリキュアのふたりは、 芝公園避難所の中央広場付近で、今回の指揮者と思しき ゴルドドライブ/蛮野天十郎と、ドツクゾーンの参謀の一人、サーキュラスと対峙していた。

 

「 門矢士よ、我々とてこれ以上の戦闘は無益。

どうだ 貴様らがこの土地を明け渡すならば元老院に俺達でかけ合ってやらんこともない。」

 

「 願ってもない好条件だなァ。実のところ、俺もさっさと帰って寝たかった……が!」

 

士の視線は、不満そうに彼を睨む プリキュア2人に向けられていた。

 

「見ろこの顔。何を言っても引き下がらない顔だ。」

 

「当たり前よ!さぁ……闇の力のしもべたちよ!」

 

「とっととおウチに帰りなさい!」

 

久しぶりの宣戦布告に、不安と武者震いの両方を感じ取るサーキュラス。

彼女らと対面するのが初めてのゴルドドライブは、まるで 意にも介さない。

 

「そういうワケだ…… 悪いがこの子達はお前らには渡せない。手始めに……!」

 

コートの内側のポケットからディケイドのカードを取り出す士。

 

「お前らを倒す!変身!」

 

『カメンライド!ディケイド!』

 

ネオディケイドライバーにカードがセットされると、 彼の周囲をアーマーが覆い、 空中に出現したバーコードが頭部に刺さる。

 

仮面ライダーディケイドへの変身完了まで、十数秒とかからなかった。

 

「ほう……!君があの……!」

 

余裕綽々で興味深げな ゴルドドライブに対し サーキュラスは警戒を怠らない。

 

「 貴様のデータも取らせてもらうぞ……。お手並み拝見といこうか!」

 

※※※※※

 

シャイニールミナスを保護している中央テントの前に、

葛城忍はすでに侵入していた。

 

第一級の元老たちからも一目置かれている彼が、 自分に課せられた単独のミッションをしくじるハズはなく、 忍者とコミックの力をもってして通常のビルドドライバーの力を遺憾なく発揮。

 

シャイニールミナス確保の任務などと大仰に掲げられてはいるが 所詮箱の中に厳重に管理された水晶を持ちさればいいだけのこと。

ボックスを破壊してしまえば一番楽なのだが、 中にあるという水晶が傷ついては面倒だ。

 

実際葛城は箱の中身について知らず、興味もなかったがここで元老の機嫌を損ねるのは困る。

 

(これか…… 金属の箱に入れれば満足するとはな……。 巧もそうだが、最近の詰めが甘い……)

 

ゆっくりと手を伸ばす葛城。

 

彼のここまでの計画に、たった一つ、誤りがあったとすれば、 ルミナスの水晶の周りに注意が行き届いていなかったことだろう。

 

それも彼の真後ろには、彼にとって厄介なものがあったのだ。

 

ドゥン!

 

鈍い音が鳴ると同時に、 背後にある真っ黒く大きな箱の蓋が開く。

 

中から出てきたのは、短く整えた水色の髪が印象的な、白い甲冑を着た青年だった。

 

「何だ……キングダムか?」

 

『 《輝く命》と共にあり!気高き栄光の証・プリンス・ポルン。』

 

青年を無視して箱を持ち去ろうとする葛城だが、不意打ちと言えるほど激しい拳が真横から飛んできた。

 

「!?」

 

ガシャァァあん!!

 

奥のテントに突っ込む葛城。

 

想定外に強力な伏兵が紛れ込んでいたと、慌てて体を起こす。

 

『RABBIT!TANK!』

 

即座にフォームチェンジし、剣を構える葛城。

 

ポルンは呆けた顔をし、てんで警戒心が見られない。

 

「 思ったよりパワーアップしてやんな。 これなら、お前一人何とかなりそうだ。」

 

「ッ……!!」

 

「 それからも一つ言っとくぜ?あんたの息子、もうすぐ戻ってくる。」

 

「何ッ……!!」

 

身構える葛城。ポルンの背後に、『世界を分かつ壁』が出現し、中からフルボトルの効果音が鳴る。

 

『ジーニアス!!』

 

その名のとおり、仮面ライダービルド・ジーニアスフォームが、堂々たる凱旋帰還を果たした。

 

「ポルン……この場はオレに、譲ってくれるか。」

 

「OK。取り敢えずオレは…… 姫君に目覚めのキスでもしてくるぜ。」

 

テントの中の、結晶化したルミナスの前に立ち、 懐から長い杖を取り出す。

ベルトについているスマートフォンを杖に合体させ、 手元のバックルから、3枚のカードを出してかざす。

 

「待たせたな……ルミナス……!!」

 

解放(リベレーション)』、『覚醒(ウェイクアップ)』『天恵(ゴッドブレイズ)』の三枚。

 

リベレーションにより結晶が徐々に拡大し、 中のルミナスが元の大きさ程になるまでに。

ウェイクアップにより、結晶に鍵穴が開き、 ポルンがそこに 星を突き刺すことでカチャっと音がする。

 

「お目覚めの時間だ……輝く命よ……!」

 

まばゆい光があたりを満たし、二人のビルドが、そばにいたロストスマッシュが、眩しさに顔を手で覆ったその時。

 

視界が開けたその場所には、ポルンが心待ちにしていた彼女の姿があった。

 

『輝く命・シャイニールミナス!光の心と光の意思!!すべてを一つにするために!!』

 

クイーンの分身であり、光のエネルギーの塊に過ぎなかった彼女は、 パートナーの妖精の必死の戦いの数々により、 完全に力を取り戻し、 同時に一人の人間となったのだ。

 

「ココ! あんたの言い分は尤もだ! プリキュア内においても、こいつの力は絶大!敵に奪われれば、こっちの勝利は一気に絶望的になる!」

 

ポルンの声は 裏手のテントにいる、二人の王子に届いていた。

 

「 だから僕はお前の意見を突っぱねた。 けれど、今の強くなったお前を見ていると、何か別の可能性を感じる!

それを信じてもいいのか?」

 

「今それを言おうと思ってた。とりあえずあんたがこれまで持ってきたこの避難所、 絶対こいつらごときには潰させねー!

ルミナスもしっかり守って 俺がこいつらに勝つから…… そしたらこいつを一人の戦士と見てやってほしい!」

 

向こうのテントから返事が来たのは、数秒たってからだった。

 

「彼女をその結晶から解放したのはお前だ! かなりひどいことも言ったが、それを承知で言う。

ルミナスを守ってくれ!頼む!」

 

「了解。」

 

ゴッドフレイズのカードをかざすと、再び世界を分かつ壁が出現。

 

中から現れたのはキュアエール。

 

「めちょっく! あれなんで私ここにいるんだっけ!?」

 

「オレの能力(カード)さ! 西テントの端の方にあんたの仲間がいる!加勢に行きな!」

 

「あ、ポルン君戻ったのね!あ、了解!!」

 

それだけではなく 避難所内にいた光の戦士たちの力を ゴッドブレイズのカードが 強化。

誰の目にも明らかな形勢逆転だが、それで撤退するほど闇の同盟も甘くない。

 

「攻めろ!攻めて攻めて攻め落とせ!」

 

ディケイド との戦闘中にも関わらず、部下に命令を下す余裕を見せるゴルドドライブ。

 

そして……。

 

異変は、フレッシュプリキュア管轄のテントでも起こっていた。

 

「那由多さん……!?」

 

「そんな女、端から存在しないわ。 私はノーザ。元管理国家ラビリンス幹部。

メビウス様の忠実なる下僕。今はブラックホール様の名のもとに、第二級邪神継承権を務めているわ。」

 

祐喜にとって、その残酷な宣告は、どんな攻撃以上のダメージを生み出した。

 

「 そ、……そんな……嘘ですよね?だって、那由多さんは……」

 

腰を抜かした裕喜を見かねたノーザは、 赤銅色の光線を放つ。

 

「 記憶を失っている間、お世話になったわね。あなたはもう用済み…… 短い間だったけれど、楽しかったわ。」

 

冷たい笑みを浮かべるノーザ。

 

体の震えと悪寒、死への恐怖。

闇の中へと引きずり込まれるような予感。これを地獄に落ちるというのだろうか。

 

裕喜は 目に涙を滲ませこそしたが、 一瞬ゆっくりと深呼吸したかと思えば、精一杯 笑顔を作った。

 

「なんだ…… 俺が騙されてただけだったんですね。なら、もういいや……。」

 

目を閉じて、笑いながら、呼吸をし続ける。最後の一瞬まで、 自分が生きていた証をこの世に止めるようにと、縋るように、食らいつくように、人生の 思い出を振り返る。

 

走馬灯、という現象を実体験したのは、彼自身、これが初めてだ。

 

「幸せに、なって下さいよ?」

その時だった。

 

ノーザの 頭に激痛が走り、攻撃を中止。必死に頭を押さえるが、痛みは消えてなくならない。

 

「なに……何なの!?あなたは……お前は一体……私の……!」

 

「時間切れだ!」

 

背後に立っていたのは、マックスハート組とぶつかっていたはずのサーキュラス。

 

「あ……なた……!!」

 

「 化学班め、いい加減な施術をしやがって。 お前の記憶にもバグが発生している。」

 

「い……や……!!」

 

「暴れるな。」

 

サーキュラスは右腕でノーザの腹部に拳を当てる。

 

力なくへたり込んだノーザは、 サーキュラスの肩に担がれて闇の彼方へと消えていった。

 

「那由多さん!!」

 

必死に駆け寄るが、そこにも彼女の姿はない。

代わりにキツネの魔化魍達が彼を襲いにかかるが、そこへ……。

 

「タァッ!!」

 

「!?」

 

「 大丈夫か少年、よくここまで持ったな!」

 

「響鬼さん!」

 

西テントでも。

 

『プリキュア!トリニティ……コンサート!!』

 

3人揃ったHUGっと組の必殺技に、さすがのラッキークローバーも押し負け、 ローズオルフェノクを筆頭とした現ラッキークローバーは、一人残らずリタイヤを強いられた。

 

「あ〜あ…… 全員消されちゃったよ。葛城おじさんも戻ってこないし、どうしようか?影山のお姉さん!」

 

「ビシン様、 今の一撃で彼女達は虫の息です。

国は我々で駆逐して帰るのが得策かと。」

 

「ちょっと待ったァ!」

 

ゴッドブレイズの恩恵はまだ残っていた。

 

時空間の穴が開きそこからの路線が出現。

 

「あれは……!!」

 

安堵の表情に変わる、アンジュとエトワール。

 

現れた時の列車からは、何やら戸惑いの声がする。

 

「これ、どうするのですか!?」

 

「とびおりんだよ!当たりメーだろが!」

 

「 落ちたら死んでしまうのです!」

 

「心配無用ですえみる。 私が支えていますので負傷する確率は 0.1%未満です。」

 

「ええええええええ!?」

 

瞬時に記憶に影が舞い、落下してきたのは、一人の仮面ライダーとふたりのプリキュア。

 

「「 輝く未来を〜〜っ!抱きしめて!!みんな大好き・愛のプリキュア!」」

 

「キュアアムール!」

 

「キュアマシェリ!」

 

「オレ、参上!!」

 

「うそ……えみる……!?」

 

「ルールーも……!?」

 

「 クライアス社から抜けてきた ルールーを、バッチリ迎えに行ったのです!」

 

「 その節はご迷惑おかけしました!」

 

「良かったぁ……皆そろって。」

 

続いて声をかけたのは、はなだった。

 

「おかえり、ルールー!!」

 

「はい……戻りました!!」

 

「 挨拶が済んだらぶちかますぜ!言っとくが俺は、最初から最後までクライマックスだからよ!」

 

着々と揃いつつあるキュアライダー達。闇の同盟襲撃作戦、いよいよ終盤へ。



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忘れたものと 忘れざる者

・西ブロック

『ビルド(桐生戦兎)VSビルド(葛城忍)』

 

「はっ……!」

 

「たぁ!」

 

ラッシュの撃ち合いに陥っているビルド親子対決。

 

データ上ではジーニアスフォームをも凌駕する、初期型ビルドドライバーのラビットタンク。

 

「 起動性……基礎体力ともに、私がデータを取っていた頃より上昇しているだと……どういうわけだ!?何をした戦兎ォ!」

 

「 時の狭間でみっちり鍛えられたからな!

結城丈二の意思も、俺を呼び戻してくれたはなちゃんの意思も、何一つ無駄にはしない!」

 

ジーニアスフォームの強烈な一撃が、 ラビットタンクの頭部を直撃。

後ろに飛びのいて若干衝撃を減らすが、さすがの葛城も怯んだ。

 

「根岸ィ!ルミナスを奪え!東ブロックの奥にいる!」

 

「何……!」

 

ビルド最強フォームであっても、クロックアップには視覚的に追いつくことができない。

 

何かが横を通り過ぎたのを感じたが、そちらは現在東ブロックで戦っているキュアライダーたちに託すことにした。

 

少なくとも葛城忍のビルドを止められるのは、この戦場で自分だけだと察知したからだ。

 

「葛城氏の英断ですね・・・これで邪魔なルミナスを・・・!」

 

「待てよ。お前、地獄に落ちたろ?」

 

背後を振り向いた時、根岸の頭部には回し下痢がさく裂していた。

 

「ぐァあッッ!」

 

攻撃の主は、利き足にアンカージャッキの付いた、緑のバッタ型ライダー。

 

「貴ッ様ァ・・・!!矢車!」

 

「ほぼ初対面だったか?根岸サンよォ・・・。」

 

「そうでもない。ゼクトで何度かな・・・。」

 

「なら話が早えよなァ。相棒の件、ようやく苛立ちが晴れそうだ。」

 

かつて己が野望をことごとく阻んだ加賀美陸の伏兵が、以前と同じ姿で現れたのだ。面白かろうはずもない。

 

「私の苛立ちも、晴らさせてもらう!」

 

根岸の黒い蛹が、体内からの放熱によって剥がれ、黒光りするオオクワガタの装甲を持った成虫態のネイティブに変態した。

 

キングスタッグワーム。

 

ネイティブではあるものの、後のゼクトによる監査報告ではそう呼称されたという。

 

「さア、身体の何処を毟り摂ってやろうかァ!!?矢車ァァァァァァァ!!」

 

成虫態になった途端、高ぶる感情をむき出しにして突進する根岸。

 

事実、その実力は三島正人の成れの果てであるグリラスワームを優に超えていた。

 

「ぐァッッ!!」

 

ショウリョウバッタの装甲を、アッパーカットの一撃で砕かれ、ツメの追撃に苦しめられる。

 

「相棒……こりゃ約束を守る前に、そっちに行けそうだァ!」

 

「何をごちゃごちゃと……ムッ!!」

 

精霊の力と思しき光弾が、根岸の体に浴びせられる。

 

避難の用意を済ませたブルームとイーグレットが、仮面ライダーたちの加勢にやって来たのだ。

 

「大地と空の精霊の力!」

 

「少しは効いたかしら!」

 

ところが、シュウシュウと煙を立てる皮膚甲の上には、黒い結界のようなものがはられてある。

 

「残念・・・!!」

 

「そんな・・・!!」

 

焦るイーグレットに対し、不敵に笑う根岸。

 

そのまま、苦悶に倒れる矢車に鋭い爪を振り下ろす。

 

それを抑え込んだのは、パーフェクトゼクターを手に駆け付けた天道総司/仮面ライダーカブト(ハイパーフォーム)。

ハイパーゼクターの刃先で、グリラスワームにも劣らぬ強靭なキングスタッグワームの爪を抑え込んでいる。

 

「立て矢車、お前が……ここでやられるタマか!」

 

「こいてろ天道ォ!そのまま抑えてろよ!」

 

キングスタッグワームの爪と、パーフェクトゼクターの刃の競り合いの最中、真後ろから迫るトライアルⅮと、ネイティブのサナギ態。

構える暇のない矢車を、ブルームとイーグレットが守ろうとするも、トライアルⅮお不意打ちを受け、まともに動けなくなってしまう。

 

『ライダーカッティング!!!』

 

すんでのところで避難誘導を終えた加賀美が加勢し、サナギ態を瞬殺。

 

さく裂したライダーカッティングのエネルギーの余りを、トライアルⅮに直に注ぎ込み、一時的ながら無力化に成功。

 

『KABUTO!ZABBY!DLAKE!SASWORD!ALL ZEKTER COME BODY!』

 

真の完成形となったパーフェクトゼクターを片手に、キングスタッグワームに斬りかかるハイパーカブト。

 

だが、キングスタッグワームは膝蹴りで反撃。グリラスワームを凌ぐ驚異的な反発を見せ、あっさり圧し折られるパーフェクトゼクター。

 

「あなたの負けです!!!!!!!カァブトぉオぉオぉオォォ!!」

 

「どうかな?」

 

「!?」

 

カブトは、抑え込んだキングスタッグワームの手足を掴んだまま、決して離さない。

 

「お前のバリアとやらは、一点集中型だろ?」

 

「!!?まさか……!?」

 

『『RIDER KICK!!』』

 

『プリキュア・マーチシュート!!』

 

『サニーファイヤー!!』

嫌な予感を覚えて、根岸が上を向いた時。

 

ガタックのライダーキックと、風と炎を纏ったキュアマーチ、キュアサニーのとび蹴りが炸裂。

だが根岸はこれを抑え、2人の両足を掴んで後ろへ跳ね飛ばす。

 

「ォぅらぁ!!!」

 

「ぐぁっ……」

 

「きゃあっ……!!」

 

満身創痍の二人。その時、突如として立ち上がった矢車が、ホッパーゼクターの拡張をプッシュ。

 

「 相棒ォ……ちょっとでいいから力貸せよ!!!」

 

死に体だった矢車の右腕に、本来キックホッパーにはついていないアンカージャッキが どこからともなく出現。

 

バリアを張る余力の残っていないキングスタックワームに、 必殺技を叩き込む。

 

『ライダーパンチ!!』

 

「ぐぉわああああ!!』

 

赤と緑の稲妻を纏う渾身のライダーパンチは、あのキングスタックワームの硬い装甲をたやすく突き破り、根岸は断末魔をあげて爆発四散した。

 

「矢車さん……!!」

 

以前のミッションで矢車に出会っていた緑川なお。

一度は闇の同盟に与していた彼に、なおなりに共感する部分はあったかもしれない。

 

「昔俺の相棒が言ってたよ…… 日向の下で遊ぶ犬みたいに、人に褒められたいってな…… 俺は、あいつを褒めてやれなかった。」

 

「 影山さんの再生体を倒したのは私……!」

 

「 俺はそれを恨んじゃいない、むしろ感謝してるさ。」

 

振り向いた矢車のすがすがしい笑顔は、 決して紛い物ではなかった。

 

「なお……家族を大事にな。いい女になれよ。」

 

闇の同盟を裏切った今、その存在を長いこと維持できない彼を、 涙をこらえて見送るなお。

 

「矢車さん……!!!」

 

「なお。 あの人、笑っとったで」

 

なおの肩に手を置くあかね。

たまらず涙が溢れてきた。

 

「しっかり繋いで行かなアカンな……この世界の、ウチらの未来を!」

 

「うん……!!うん!!」

 

※※※※※

 

門矢士一派『センターエリア』: 仮面ライダーディケイド対ダークディケイド

 

「終わりか……?」

 

「 冗談はよせ、まだまだこれからだよ!!」

 

カメンライドやフォームライドを駆使し、壮大な闇の力に対抗するディケイドだが、 相手は一歩上回った能力をいくつも保持しているらしい。

 

「 模造品のくせに生意気な……!」

 

「 果たしてそうかな?門矢士よ。お前が私の模造品ではないと、なぜ言い切れる?」

 

「 お前はブラックホールの良い飼い犬だろ?俺は違う! これまでの旅の軌跡が俺を俺として形作り、俺が俺たる証明になっている!」

 

「 大した自信だ。ならば……。」

 

バックルに仮面ライダークロノスのロゴマークが書かれたカードをセット。

 

『ATTACK RIDE PAUSE!!』

 

時間停止の中、ひたすらにライドブッカーでディケイドを切りつけるダークディケイド。

 

『RESTART』

 

「ぐあぁっ!!!」

 

「 たかが模造品相手とはいえ、この実力差ではなァ。

よく知っているだろ門矢士…… 世界の運命を決められるのは、勝者のみだということを!!」

 

『 FINAL ATTACK RIDE DARK DECADE!!』

 

ガンモードに変えたライドブッカーの砲口が、つかさの心臓をまっすぐに 狙っている。

 

「くそっ……ここまでか!!」

 

「死ね!!」

 

弾丸が衝突するかと思われたその時。

 

空を切る弾丸を何者かが斬った(・・・)

 

「よぉ……待たせちまったな!!」

 

晴れ渡った爆炎の中には、全国津々浦々に散っていたキュアライダー達の姿があった。

 

「お前……!!」

 

「俺達……参上!!」

 

門矢士一派のキュアライダー総戦力が、今ここに集結した。



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密偵と焦燥

・ 闇の同盟にとって全くの想定外であった、電王たちや他オールスターズたちの帰還。

頭数だけいえば完全に形勢逆転され、 さらに有力だった幹部たちは 仮面ライダー達に敗北を喫している。

 

 

 

 

彼女はようやく目を覚ました。

長きにわたる眠りから彼女の目を覚ましたのが闇の同盟であったか、はたまたシャイニーキングダムであったか、最早覚えていない。

 

そんなことはどうでもよかった。

 

「レッド様……今、私が貴男の夢を……。」

 

結晶から変出、ゆっくり立ち上がり、瞳孔を開く。

夢原のぞみの髪によく似た……いや、カモフラージュのために見せてあった髪が、徐々に緋色に変わる。 

 

トワイライト時代の紅城トワに似た、リボン型のヘアスタイルに変わる。

 

「プリキュア……仮面ライダー……私が全て倒す!」

 

彼女は突風と共に姿を消した。

一瞬にして救護テントから戦場へ赴いたのだ。

ーーーーーーーーーー

 

愛乃めぐみは、 オールスターズ終結後も緊張の糸を解かなかった。

『その存在』に気付いていたのは全員ではない。

視覚的にとらえていないのだから当然だし、 それ自体がありえない場所から現れている。 

 

この気配を、 彼女はよく知っていた。厳密に言うと、彼女の覚えがあるそれとは少し違うのだが、 それに限りなく類似する存在が、それも、このエリアの内側に入ること自体、 以上という他なかった。 

 

とりあえず救護テントの無事を確認……。

 

エリア内を疾走する彼女の前に、それは突然現れた。

 

「見つけたぞ……!!キュアラブリー!!」

 

「!?」

 

自分によく似た輪郭の、闇の気配をまとうプリキュア。

 

「あなたは……!?」

 

「 私はレッド様の意志を継ぐ者。 貴様の細胞をもとに闇の同盟に複製された。

皮肉な話だ。私にとって母と呼ぶべき存在が、最大の敵なのだからな!」

 

「敵……!?」

 

意味が分からなかった。 レッドの思惑をくじいたのは確かにめぐみなのだが、 レッドと別れた時、彼に憎しみは残っていなかったはず。

 

「待って!話がよく……!」

 

「とぼけるならそれでも構わん。 どのみち話など聞く気はないからな……!」

 

いつのまにか腰に刺してあった、赤い光の剣を取る。

振りかぶった剣を ラブリーソードで慌てて抑え込む。

 

激しい打ち合いになるが、ラブリーはあと一歩で押し負ける。とどめとダークラブリーが斬り下ろす寸前に、 氷の剣がそれを押し止める。

 

「ビューティー!!」

 

返事は返さず、振り返ってニコリと笑うビューティー。

 

「ニ対一か……構わんぞ。 ちょうどこの女一人では退屈していたところだ!」  

 

「 誰が2対1って言った!?」

 

続いてキュアベリーも参戦。 『エスポワールシャワーフレッシュ』で一瞬敵のバランスを崩す。

 

「 完璧なタイミングみたいね……さすが私っ。」

 

電王、響鬼、ダブルも参戦し、 6対1の軽い大戦に。

音撃棒烈火 フルチャージ、 サイクロンメダルのマキシマムドライブ、 ビューティブリザードアロー。

 

四つの攻撃を一斉に放射。

だが、 右腕に突然マキシマムスロット召喚するとそこにユニコーンメモリを装填。

 

サイクロンメタルのスロットに拳を一撃を喰らわせる。

続いて どこからか巨大なディスクアニマルを召喚し、それを変形させないまま 縦にする。

これによって音撃棒の威力はほぼ無効化。

 

ソードフォームによる俺の必殺技パート1は、 ダークラブリー渾身の居合い斬りで真正面から受け止めるが、 事もあろうにデンガッシャーをへし折られてしまう。

 

「なに……コイツ……強すぎ!!」

 

ベリーが珍しく弱音を吐いた。 異世界での緊急ミッション帰りということもあるが、 どこで出会ってきたどの敵とも違う異質な強さを前に、体が追いついていなかったのかもしれない。

 

「終わりだ……!!」

 

闇のエネルギー出てきているはずの赤い剣に、なぜかメモリスロットが出現。

 

『テラー!!マキシマムドライブ!!』

 

「テラーだと!?」 

 

その体質ゆえに散々自分を苦しめてきたガイアメモリ。

それが目の前にあると知るや、マスク越しでも分かるほど翔太郎が青ざめる。

 

「 危険だ翔太郎!!退くんだ!」

 

フィリップこと園咲来人が危惧しているとおり、 赤いブレードからは 人間の恐怖を煽る青い『波』が溢れ出ている。

 

逃げ場はないと判断したフィリップは エクストリームのガイアメモリを呼び出す。

 

「みんな!イチカバチカだ! 彼女が攻撃を放つ瞬間、最強の一撃を叩き込む!!」

 

「よっしゃあ!!」

 

響鬼は響鬼装甲に変化。 

モモタロスはケータッチを取り出し、 残る四人のイマジンを憑依させる超クライマックスフォームに変身。

 

ビューティーはプリンセスフォーム、ベリーはキュアエンジェルへ。

 

「行くぜ行くぜ行くぜ行くぜェ!!」

 

「エクストリーム!!フルバースト!!」

 

虹色のライダーキック二つを、思い切り投げつける。 それに続いて全員が渾身の一発を放つが、 数秒後にそこに立っていたのは ダークラブリーだった。

 

「くそ……何だコイツ!!強ェ!」

 

驚き苦悶する翔太郎。

 

「闇の魔力で強制的に地球の力を引き出している辺り、異様としか言えない。」

 

フィリップも次の対策が浮かばないらしい。

 

「 よく聞け人間どもよ!!並行世界の覇権を握るのは我々同盟と、ブラックホール様だ!」

 

彼女は自身の背中に発生した、赤紫色のオーラを爆発させ、その場から姿を消した。

 

「何だったんだ、ありゃ……」

 

「凄まじい闇を感じました。」

 

モモタロスとれいかが、それぞれ疲れきって感想を述べている。

 

「 完璧にしてやられたわね。ていうかあれって、 のぞみのクローンじゃなかったの?ねぇ、めぐ……。」

 

めぐみに声を掛けようとした美希は、 慌てて口をつぐんだ。

彼女の顔に、他のメンバーとは違う、明らかな"絶望"が浮かんでいたからだ。

 

ーーーーー

 

『フルチャージ!!』

 

『セル・バースト!!』

 

『トライアル!マキシマムドライブ!!』

 

ゼロノス・ゼロフォーム、 バース(ブレストキャノン)、 アクセルトライアルの3人の必殺技を受け、 ゴルドジェノサイダーが全壊。

 

「おのれ無能共ォ!! よくも私の愛馬を!」

 

アクセルトライアルの背中を狙ったゴルドドライブ。 そこへ、 何者かのライダーキックが直撃。

 

『 Wake up Fever!!』

 

「どわぁっ!!」

 

避難エリアのはずれの大木に叩きつけられたゴルドドライブは、攻撃者が高くジャンプすると同時に爆発四散。

マントを翻し、 こちらにゆっくりと歩いてくる。

 

「あらら、懐かしい顔じゃねぇのよ……!」

 

伊達バースが指差すと、彼はゆっくりと変身を解く。

ファンガイアのキングの衣装の黒い部分が、 白と紫に変化した衣装。

 

久方ぶりに見る紅渡は、少し顔色が悪くなっていた。

 

「どうよ。 クイーンの居城での生活は。」

 

「 伊達さんやめてください!」

 

後から来た後藤が伊達を止めに入る。

 

代わりに前に出たのは桜井侑斗だった。

 

「 紅……お前どういうつもりだ? クイーンに降り世界を支配するなど…… 野上も一度戦った身として心配していたぞ!」

 

渡は面倒くさそうに侑斗を見つめる。

 

「 別に彼女の目的に興味はありません。もちろん世界支配にも……。僕には僕のやりたいことがある。彼女の元にいればそれを叶えられるから手を貸した。それだけの話ですよ。」

 

「 甘ったれたこと言ってんじゃねーぞ!! その目的のためにあの女が、いったいこの世界に何を引き起こすかわからねーんだぞ! 仮にも仮面ライダーの名前を知ってるお前が……!!」

 

伊達が怒りに任せて叫ぶが、やはり後藤が止めに入る。

 

そんな彼らを置いて異世界を隔てるオーラに逃亡しようとする渡。

 

「 皆さんも早いところシャイニーキングダムに降ってください。 僕としては、あまり乱暴はしたくないので。」

 

「待て。」  

 

努めて冷静に後ろから声をかける侑斗。

 

これまで以上に面倒くさそうな顔で渡は振り向いた。

 

「これだけ答えろ。 お前の世界にもいる仲間たちや、 お前の兄…… それら全て裏切ってまで叶えたい願いって、一体何だ?」

 

「すみませんが、これで失礼します。」

 

そう言い残すと、渡はオーラの向こうに消えた。

変身を解き、デネビックバスターを宙に投げる侑斗。

戻ってきたバスターは、イマジン・デネブの姿に戻っていた。

 

「侑斗…… 説得、失敗したなぁ……!」

 

「 何か思いつめた顔をしてた。 ああいう時は何言っても無駄なんだ。俺がそうだったみたいにな。」

 

「 俺は渡君が心配だ。すごぉく心配だ……!」

 

「バカ、 渡だけじゃないさ。 俺たち、みんなみんなが仲間たちを心配してる……。」

 

侑斗の視線の先には、疲れ切ったライダーたちがいた。

 

ーーーーーーーーー

 

葛城、影山、ビシン、ラッキークローバー他、 キュアライダー避難エリアを襲撃していた同名の戦士たちに、 撤退命令が下ったのはそれから間もなくなった。

 

プリキュアオールスターズに仮面ライダー、 最高幹部達が危険視していた戦士たちが、続々と集結したのだ。むしろ英断と言える。

 

ビシンはやはり恨み節を残して消えたが、 影山/ロブスターオルフェノクに抑え込まれて離脱。

二人はなぜか闇の同盟の指示に従っており、 今後も混乱が予想される事態だ。

 

地球の地下から回収されたあの謎の戦士は、結局単独で姿を消してしまった。

とは言え戻ってきたポルンが根岸を倒したことや、 キングダムの横槍があったとはいえ、大多数の同盟幹部を倒したこと。

 

「少なくとも……僕等の勝ちと言えるんじゃないかい?士。」

 

「この戦闘は、な? かろうじて犠牲者は最小限に抑えられたが、 二つの組織に、もうこの場所は割れてる。 本番はここからだぞ……。」

 

今日も夕日が沈む。

闇と光の混じり合ったカオス。

赤紫と白と黒が溶け合った、 絵の具をごちゃごちゃに混ざったかのようなグラデーション。

 

まるで明日の世界の混乱を予見しているかの様だった。



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処刑

・ 救護テントの行列がひとまず治ったのは、時計が天辺を周り、 看護にあたっていたプリキュアや仮面ライダー達の疲労がピークに達した頃だ。

 

と同時に、 かろうじて生きている並行世界のインターネット上に、 シャイニーキングダムからの報告動画が入った。

 

なんとこともあろうに、闇の同盟との一時的な協定を結ぶというのだ。

門矢士の指示でフィリップがスタッグフォンを起動。

 

士もダークディケイド/灰クグツとの戦いで負傷し、 ようやく身体を起こしたところであった。

 

「士君!無理しないで下さい。」

 

「うるさい夏みかん!! くそ!あいつ今度会ったら、ただじゃおかん!!」

 

光夏海が止めるのも聞かず、 包帯だらけの体を引きずって起きてきた。

身体の痛みもそうだが、自分とスペックの全く同じ戦士にここまでボコボコにやられたことが、 どうにも我慢ならなかったらしい。

 

それは桐生戦兎も同じだった。

正規版ビルドドライバーのスペックを大きく上回る、ジーニアスフルボトルの力だが、 彼はそれを本来あり得なかった世界線で手に入れてしまった。その代償は大きく、使用制限時間を大幅に少なくしてしまうものであった。

 

「オイ戦兔! 無理すんじゃねえって!」

 

久方ぶりに戦兎と合流した万丈龍我。

彼が新たなる力を手に入れていたこともそうだが、 父との確執やその焦り、 世界に起きている異変などについて頭がついていけてない部分もあった。

 

「 でも、クイーンが報告していることって……本当なんでしょうか?」

 

九条ひかりが不安そうにお茶を並べる。 湯のみをあおいだ夢原のぞみは、ゆっくりと立ち上がる。

 

「 どっちにしても、 クイーンが公開した映像を見てみるしかないと思うな。」

 

「あの…… 僕も賛成です。クイーンの思惑については得体が知れない。こっちのペースをいつも崩されかねませんから。」

 

野上良太郎がゆっくりと手をあげる。彼の傍では、桜井侑斗とモモタロスがうんうんと頷いている。

 

「 フィリップ、つなげてくれ。」

 

翔太郎の言葉に頷くと、フィリップはスタックメモリを装填。

 

画面に映し出されたのは、 ポルンが先日戦った光の宮殿の玉座の間。

頬杖をつき玉座に座ったクイーンの姿は、 神秘的で美しいが何より高圧的で少なくとも美墨なぎさたちの味方であった頃の彼女とは大きく違った。

 

「 アンク、お前はどう思う?」

 

鴻上ファウンデーションのネットワークを使い電波を傍受していた後藤と伊達は、アンクと二人、同じ映像を見ていた。

 

「どうって?」

 

「クイーンの話だよ。つい先日、 お前も接触しただろう。いや確か先兵にコアメダルを取られたはずだ。」

 

後藤が詰め寄ったのには理由があった。

オーズとして戦っていた映司のそばで、 彼はいつも作戦を練る役だった。

先の戦いでは、門矢士たちとともに根幹世界であるこのテントの付近で戦い、 あまつさえクイーンに接触している。

 

怪人の復活は闇の同盟の18番。

もし彼が何か目をつけられているとしたら……あるいは人格を切り替えられてスパイされているという可能性もなくはない。

 

「 火野が連れさらわれた瞬間、お前は何も見てないんだな?」

 

「 あっという間に消えてた、何度も言ったろ。」

 

「 クイーンが急にこんな発表を始めたことといい……お前どちらかの組織と繋がってるんじゃ! そもそもお前どうやって戻ってきたんだ!?」

 

「知るか。 どっちについても聞きたいのは俺の方だ」

 

「お前……!」

 

「 やめろ後藤ちゃん! 今そんな話ししてたって火野は戻っちゃこねえだろ!」

 

こういうやりとりの時はアンクに厳しい言葉を浴びせる伊達が、 珍しく後藤を厳しく叱った。

あるいは、飲み物を置きに来た火野明美に配慮してのことだったのかもしれない。

 

「ご……ごめんなさいね! 大事なお話ししてる途中だったかなと思って……その……」

 

明美は目を上に下に泳がせ、 伊達も後藤もどう言ったらいいかわからない。

 

「映司のこと……よね?」

 

「 すみません!!俺がちゃんとしてないばっかりに」

 

「 そんなことを言わないで後藤君。 あなた達には何度も助けられたって……映司も言ってたわ。」

 

二人に粉末ココアが入ったマグカップを渡し、最後にアンクの前に立つ明美。

 

「はい!」

 

アンクにはマグカップではなく、アイスキャンディーを渡す。

 

「 これ、好きなんでしょ?」

 

少し驚いたような顔をして明美と目を合わせたアンクは、 乱暴にそれをひったくると袋をあげてからもう一度彼女を見た。

 

「映司は俺のこと、どんだけ悪く言ってた?」

 

「そうね…… 乱暴でわがままで口が悪くて自分勝手。 何度言っても命を軽んじて自分のためにメダル集めるし振り回されてばっかり。 アンクに使われてたら、命がいくつあっても足りな〜い、って、 大声で嘆いてたわ。」

 

フン!と鼻を鳴らすアンクだが、その後に明美はこう続けた。

 

「 とびっきりの笑顔でね!」

 

アンクはバツの悪そうな顔でアイスを頬張ると、 本来の姿になった右手で、目から流れてくる液体を拭った。

 

ーーーーーーーーーーー

 

仮面ライダーフォーゼ/如月弦太朗が やり取りしていたのは魔法使いプリキュアの 二人だった。

彼女たちのチームの同士・キュアフェリーチェ/花海ことはが、フェムシンムのような右腕になって帰ってきたことから、 彼女たちはその解決法を探して四苦八苦していたのだが、 弦太郎の質問はそこではなかった。

 

クイーンが超能力により発足宣言を世界中に流出してから 世界中の人々の脳内には直接クイーンが 演説をしている映像が流し込まれた。

 

直後インターネット上でも公開されたその映像の中には行方不明になっていた仮面ライダーウィザード/相馬晴人や、 他姿をくらました プリキュア・仮面ライダー達がいた。

 

現在のところ 闇の同盟にヘッドハンティングされたとされる仮面ライダーオーズ/ 火野映司以外 ほぼ全員の行方不明者の居所はシャイニーキングダムということになるが、 直接の後輩でありかつて一緒に戦った操真晴人の存在が 弦太朗としても気がかりだった。

 

「 それじゃああんたたちも、晴人が消えた理由はわからずじまいってことか……。」  

 

「ごめんなさい……」

 

キュアマジカル/十六夜リコが頭を下げるが、弦太朗はその頭をわしゃわしゃとした。

 

「 謝ることじゃねえ。確認したかっただけなんだ。 あいつがキングダムに行ったのにも、何か理由があると思う。 世話になった映司のことも俺が何とかしてやりてえんだ!」

 

「 弦太朗さんは……二人のことが大好きなんだね!」

 

ことはが目を輝かせると、 弦太朗は大きく頷いた。

 

「 おうよ!ダチだからな!」

 

「ダチ!なんだか……わくわくもんだぁ!」

 

みらいお決まりの決め台詞が出ると、 弦太郎は拳を突き出した。

 

「 友達になったやつとは……誓いをやるんだよ。」

 

「 私たち……もう友達なの?」

 

「 あたりめーだろ!同盟とキングダムから一緒にダチを取り返すんだ! 俺たちもダチじゃねえか!」

 

遠慮がちだったリコも自信満々に 拳を突き出す。

男女四人で拳を交わし必ずやキュアライダー達の奪還を誓った夜のことであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

以下は、同日明朝に公開された、 シャイニーキングダム首領・光のクイーンの演説映像である。

 

『 これをご覧になっている、並行世界の皆さん。

おはようございます。光のクイーンです。

私の理想に反する悪しき者たちの抵抗は激しく、 世界の崩壊までも予断を許さない状況です。

しかし私は皆が笑って対等に過ごすことのできる、平和な世界の実現のため、 この力ある限り戦う所存です。

その第一歩として、

 

 

 

 

闇の同盟と協定を結ぶことにしました。

 

驚かれる方も多いでしょう。

確かに同盟の理念は一部、私の目指す世界に違う項目があります。 しかしながら今排除すべきは同盟ではなく、 門矢士・仮面ライダーディケイド

そして彼に感化され、我が道を見失っている哀れな人間、プリキュア、仮面ライダー達であると判断いたしました。

彼らの救済のためであれば 一時同盟と協定を結ぶことも、 必ずしもリスクだけではないと判断し、 その第一歩として 我々はキングダムに反乱していた 妖精の王国を陥落これを拠点とし キングダムに仇なす者を排除していく所存です。

 

つきましては今から7日後これに該当する国家の代表を処刑します。

 

お菓子の国スイート女王。

 

処刑人を務めますは闇の同盟からの使者

 

仮面ライダーオーズ/火野映司殿です。」



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奪還作戦

・ 根幹世界の芝公園避難テントエリアでその演説を傍聴していた者たち。

取り分けキュアライダー達は、泡を食うことになった。

 

「今…… 何て言ったこの女?」

 

「スイート女王を……?!!」

 

「映司に……殺させるですって!?」

 

仮面ライダーオーズが、お菓子の国の逆賊・スイート女王の死刑執行を務める。

 

そのたった一文は、世界の最後の砦として一日を戦い通しのキュアライダー達をさらに疲弊させるに十分すぎる効果を発揮した。

 

「門矢さん……私、助けに……!!」

 

「無茶を言うな!のぞみ、お前一人で行ってどうなる!?ケーキの城にたどり着くまでもなく、同盟とキングダムに捕まる。人質を増やすだけだ!!」

 

「でも……!!」

 

「のぞみちゃん、今は士さんの言う通りだよ。」

 

キュアブラック/美墨なぎさがのぞみを嗜めるが、のぞみの表情は暗いままだ。

 

「……でも、解せないことだらけですね。」

 

北条永夢が、眉間にしわを寄せる。光のクイーンにとって邪魔なのは、キュアライダー達より能力も規模も厄介で、彼女の天敵と呼ぶにそん色ない闇の同盟のハズだ。

彼女はそこを潰すどころか、あまつさえあれだけ煙たがっていた同盟と手を結んだ。

 

多くのキュアライダー達が離反したタイミングについては、ポルンの行動が斜め上を言った事による事故とも取れる、が……。

 

「なぜ今ここで同盟と……?」

 

フィリップも本を閉じ、頭を抱える。結局、誰一人これといった結論が出せないまま、時間だけが過ぎ、刻々と処刑時刻が迫る。

敵の動きが読めないまま、むやみに出撃するのは危険だ。

 

だが、キュアドリーム/夢原のぞみにとって、あの国はプリキュアのチーム全員で世話になった、とても思い入れのある国だ。

のぞみだって、いや、恐らくここにいる全員が、黙って見ているのは辛いに決まっている。

 

そんな時。

 

「天道さん!キッチン借りるね!」

 

「あたしも!マナちゃん手伝ってくる!」

 

立ち上がったのは北条響と相田マナだった。 他の戦士たちがあっけにとられている間に、 二人は人数ぶんのオムライスを完成させた。

 

「これは、一体……!」

 

ポロリと口から出た天道に、答えを返したのは四葉ありすと南野奏だった。

 

「ちょっと突飛かもしれないけどね……いつもこうなのよ。」

 

「マナちゃんが動く時というのは、決まって誰かを助けるときですわ。」

 

今この状況下において、料理が誰を救うというのか。

普通の人ならばそう尋ねたところだろうが、天道はその答えをよく知っていた。

 

今ここにいる、全ての人々である。

 

避難民たちにジュースとオムライスを配り終えた後は、 本部テント内の戦士たちの宴が始まる。

 

「乾杯〜〜〜!!」

 

緊迫していたテントの中の空気は、あっという間に明るさを取り戻した。

人々は飲み、歌い、少ない物資の中でやりくりしながらも、今日を必死に生きたトロフィーとして笑っている。

 

「さすがだな、キュアハート。」

 

「え?」

 

カレーオムライスのスプーンえているマナに、天道が話しかけた。

 

「あの緊迫した状況で全員の心をどうほぐすか、あの短時間で考えついた君には、 すごい才能がある。」

 

珍しく素直に人を褒めた天道に、マナは少し恥ずかしげな顔をした。

 

「 本当言うとね……何も思いついてなかったんだ。」

 

「……?」

 

「今はSブロックに避難してるけど、私の家レストランでね。ぶたのしっぽ亭……って言うんだ。

お父さんとお母さんが美味しいもの作ってくれる度に、 私はすごく幸せになれた。

皆が幸せになるためにどうしたらいいのかなって、今の仕事に就いてからずっと考えてたけど、同盟のことも、キングダムのことも、仮面ライダーの皆に任せてて、私には難しくてよくわからない。

だからね?私には、私のできる戦い方をしようと思ったんだ。」

 

キュアハートとして戦うことも可能な彼女は、 その類まれなるリーダーシップとカリスマ性を買われ、本部テントの参謀的な役割を担っていた。

 

だが実際のところ、 彼女には今この世界をどうすれば救えるか。 もう二度と誰かの涙を見ないため、自分に何ができるか。

 

考えても考えても答えが出ない日々に、 自分の無力さを思い知らされていた。

 

「ここに来てすごく戦ってる気がするんだ!垣根もエリアも超えて……みんな一緒に!!」

 

「・・・・・・。」

 

「ゴメンね天道さん!!退屈な話で……。」

 

「いや…………(オムライス)に合う、いい(はなし)だったよ。」

 

 

一方、本部テントではいよいよ、活動を始めたシャイニーキングダムに対する対抗策を錬る会議が始まっていた。最初にして最大の意見具申者は、映司を最後に目撃したプリキュアの一人、キュアブロッサム/花咲つぼみだった。

 

「もう一刻の猶予もありません!映司さんを取り返すんです!皆で行きましょう!!お菓子の王国に!!」

 

 



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強行突破

・ マナが調理した、彼女の父直伝の特製オムライスによって活気を取り戻した門矢士一派。

腹が膨れた戦士達に待っているのは、束の間の休息の後の作戦会議。

 

状況は芳しくなく、いつどの集団が動いても対応できるようにしなければならない。

そのため、キュアライダー全戦力の半分以上はこの避難所を動くわけにはいかない。

 

現在早急に解決すべきは、占拠されたお菓子の国の解放および、人質に取られている火野映司の奪還の二極だ。

 

「 今お菓子の国には、キングダムと同盟、両方の戦力があると思っていい。全面戦争を避けるためにも、オレ達の世界のマスクドライダーたちをむかわせて、 オーズの奪還に努めるべきだ!」

 

「 洗脳ではないにしろ、今のオーズは向こうの連中の操り人形だ。無抵抗でついてきてくれるとは思えない上、 あの『闇のコアメダル』とやらの力も未知数だぞ。」

 

加賀美新が発言すると、天道総司が静かに制した。

悔しそうに着席する加賀美。

 

次に席を立ったのは、 キュアソード/剣崎真琴。

 

「 やっぱり、映司だけを奪還して即退散というのは難しいと思うわ。 多少なり、向こうの連中とぶつかる覚悟でないと。」

 

「 私も真琴ちゃんに賛成。」

 

着席したまま手をあげたのはキュアマカロン/琴爪ゆかりだった。

 

「 私もです。 今後同盟とキングダムが、どんな攻撃を仕掛けてくるか分からない以上……これを機に、少しでも敵の戦力を削いでおくべきかと!」

 

気合を入れた弁舌を述べたのはキュアビューティー/青木れいかだ。

 

「だが……奴らはおそらくすでに、他にも行動を開始しているはずだ。俺達がお菓子の国に全部の戦力を注いでいる間に、もし別のエリアで何かがあったら……。」

 

仮面ライダードライブ/泊進ノ介が頭を抱える。

 

現場仮面ライダー陣営では、 アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、キバ、ウィザード、ゴーストと、 半数弱がシャイニーキングダムの元に下ってしまっている。

 

キュアライダーチームを離反したのには、彼らなりの理由があったはずだ。

少なくともそこを責める者は誰一人としていないが、 その状況が戦力の半減につながっていることも確かである。

 

プリキュア陣営においても 五十数名のプリキュアのうち、 10%弱がシャイニーキングダムに下っているが、事実確認が取れている物のみ。

いつどこで情報がリークされるか、まだ確実な状況把握ができていない。

 

早い話、『いつ』、『どこから』裏切り者が出てもおかしくはないのだ。

 

「 せめて今、国の内部がどうなってるか分かればな……相棒、 本棚で調べられねーのか?」

 

円卓の隅の方で、紅茶を仰いでいた翔太郎が、ちらりとフィリップを見た。

 

しばらく目を閉じて、何やら頭を抱えていたフィリップだが、やがてパッと目を見開いた。

彼は一つ溜息をつくと持っていた分厚い本を まるで読むことを拒絶するようにパタリと閉じた。

 

「ダメだったよ翔太郎。ジャミングがかけられてた。」

 

「ジャミング?」

 

翔太郎が提案する少し前から、フィリップはお菓子の国の内部を探る為、『地球の本棚』のキーワードを絞り込んでいた。

 

地球の記憶そのものである、情報の集積地。

 

時間にも空間にもとらわれることなく、星が所有している情報を閲覧する事が可能。

最強形態であるゴールデンエクストリームの力を得てからは、並行世界ーすなわち別世界の地球ーに蓄積された情報を閲覧することも可能となっていた。

 

だが……

 

「 棚から出した本は、すべて闇のエネルギーに染まっていた。迂闊に触れると、あれらは僕を飲み込もうとしたよ。」

 

「 妨害されてるってことか……。」

 

フィリップの声には恐れこそなかったが、それにしてもだいぶ参っている様子だった。

地球の本棚のジャミング、ハッキング、 あるいは汚染ともとれる、史上類を見ない敵側の妨害行為。

 

「もう、情報の優位性はあてに出来ないってことね。」

 

月影ゆりが重苦しいため息をつき、美墨なぎさは知恵熱で頭をくしゃくしゃかき混ぜる。

悪い情報はこれで終わりではなかった。

 

「 みんな大変なんだ!!ちょっと来てくれ!」

 

会議中だったテントの中に、ココ/小々田コージが飛び込んできた。

 

プリキュア5が管轄しているテントのある一角。

彼曰く、夢原のぞみが寝ていた場所だったそこは、 まるでジグソーパズルのパーツを無作為に抜き取ったかのようにガランと空いていた。

 

「 一体こんな時にどこへ……!?」

 

葛葉紘汰が尋ねると、ココはようやく冷や汗を吹き出しながら重い口を開いた。

 

「さっき、妖精たちのテントを見に行ったら、シロップもいなくなってた。考えたくはないが……!」

 

「 一人で助けに行ったってのか!!無茶だ!」

 

「そういう人なんだのぞみは!!だけど……だけど……!」

 

軽く言い争いになる紘汰とココ。

 

紘汰は彼の肩に手を置き、『今は行動すべき時だ』、と一言告げた。

 

「こうなった以上、オレたちに選択の余地は残っていない。敵陣に乗り込み、占拠されたお菓子の国を救うぞ」

 

 

かくして、キュアライダーズの意向は『交戦』で一つ固まることとなった。

 

「私に……作戦があります!!」

 

挙手したのは、花咲つぼみだった。

 



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挟み撃ち

・同日未明午前0時。

夢原のぞみと花咲つぼみたちプリキュア先行部隊は、町外れのチョコ屋敷の地下に避難しているスイート女王の娘ショコラと、それを保護するべく先に国内へ潜入していた夏木りん、ブンビーの二人と合流。

 

その場にいた仮面ライダーは、小野寺ユウスケとパラドクス、野上良太郎が別行動のため単独のモモタロスと、門矢士の頼みで同行していた海東大樹だった。

 

「テント中から、動けるキュアライダーズをかき集めてこの人数か……。」

 

旧式のランプに照らされたホールケーキの白の図面を見ながらブンビーがため息を漏らした。

 

実お菓子の国の兵隊は今やシャイニーキングダムの……否、もっと深い話をすれば闇の同盟の私兵と化しているのだ。

 

「本当にこの人数で大丈夫なのか?」

 

パラドが同じく不安な顔をして机を叩いた。

 

後ほどアランと深海マコト、詩島剛合流することになっている。

プリキュアと仮面ライダー、累計30名以上という、だいぶ豪華な顔ぶれだ。とはいえ、それらを含めても、果たして国家戦力レベルの兵力に対抗できるかどうか。

お菓子の国の兵隊たちに、シャイニーキングダムの半数前後の兵力、そして、キングダムと癒着しているであろう闇の同盟の兵力。

 

これはまだ分析の段階だが、数だけ見れば圧倒的にこちらが不利だ。

 

 

「へっ、ボヤボヤしてたってしょうがねえ。オーズと女王を取り返すために、邪魔な奴はぶった切るだけだ」

 

モモタロスが自慢の武器を布でときながら勇んだ。

 

花咲つぼみの作戦に則り、シャルモンの城乃内と凰蓮ピエールアルフォンゾが城内の厨房に潜入している。

加えて、市街地周辺の偵察を終えたチェイスも戻ってきた。

 

「夜の0時とは言え、あまりに閑散とすぎている。チョコレートの歓楽街も軒並み店を閉めていた」

 

気持ち悪いものでも見てきたかのように、チェイスが呟いた。

事実町の至る所にシャイニーキングダムの旗がおり、統治者スイート女王ではなく光のクイーン。

 

非常事態と言うか、もはや異様な光景であった。

 

侵略直下の王国に潜入するのは皆初めての面持ちで、やはり敵陣の占領下の中心だと思うと眠れぬ夜を過ごすことは不可避である。

 

とその時。

 

「足音だ。」

 

チェイスが短く言い捨てると、全員が身を低くかがめ、

それぞれのライダーシステムやプリキュアツール、武器の用意を瞬く間に済ませた。

 

集団の足音は市街地の中心部からきているようだった。

使い捨てのアジト内に緊張が走る。

 

アジトの真上にある屋敷は、元スイート城の家臣だったビターとドライのコンビが宿舎にしている。

無論彼らの名前がある以上、敵から疑いの目を向けられることはあまりない。

 

今回のスイート女王処刑への対抗作戦も、一見キングダムに下ったかに見えた、彼らのリークがなければ実現しなかったのだ。

 

城の図面を提供したのは、紛れもない彼らなのだから。

 

足音はゆっくり遠ざかっていく。

万一に備え剣を構えたモモタロスがいましも飛び出せる準備をしていた頃。

 

アジトは、まるで戦士たちをからかうかのように静寂を取り戻した。

あ、か、らき

「行ったようだね。」

 

音の主が敵だったのか、味方だったのか。何故あれだけの人数を引き連れて、ここまでやってきたのかはわからない。

 

とにかく目先の難を逃れることに成功し、海東大樹は安堵のため息を漏らした

 

「と、と、とにかく皆さん!落ち着いて朝を待ちましょう!!」

 

「つぼみちゃんの言う通り。ここはもう敵地なんだからね」

 

りんが諭すと、交代交替に出入り口の見張り番を決め1時眠りにつくこととなった。

 

満月がお菓子の国の不穏な夜を照らす中、ショコラは屋根の上に登り、それを眺める。

 

「おい」

 

背後から野太い声がした。ドキリとして振り向くと、そこには赤鬼の顔があった。モモタロスだ。

 

「赤鬼さん!?」

 

ガタガタと震えながら、柱に隠れようとするショコラ。

 

「おいバカ鬼じゃねー!これが人を襲う顔か?」

 

町外れのアジトとはいえ、周囲の巡回に警戒しながらツッコミを入れるモモタロス。

どう見ても人を襲う顔である。

 

「どう見てもそういう顔ですわ」

 

「ぬぁっ!」

 

やっぱり。

 

どちらも何一つ言葉を発さぬまま、ゆっくりと夜は更けていく。

 

モモタロスともその場を通していいか考えあぐねていたところに、やがてショコラが口を切った。

 

「……不安なのです」

 

「あ?なにがだよ」

 

「明日の朝起きたら、闇の同盟に国が支配されて、お母様も……」

 

「知らねーよそんなもん!未来のことなんて、イマジンにも分からねーんだからな」

 

「……」

 

「あー……けど、一個だけわかることがある」

 

「なんですの?」

 

屋根からよっこらせと、少し重たそうな腰を上げ、月に、あるいはショコラに向かって呟いた。

 

「キュアライダーズは負けねえよ。何たって俺がいるんだからな」

 

ぶっきらぼうに放たれたその一言に、ショコラは途轍もない安堵感を覚えた。

 

「……はい!」

 

翌朝は花咲つぼみが到着すると同時に、簡易的な作戦の説明が行われた。

モモタロス達 A班は、地下通路を通ってホールケーキ城裏側へ突入。

パラドックス達B班は、オレンジジュースの滝から渡し船を経由して、陽動として処刑場の兵力を半減させる。

 

ケーキ屋シャルモン、並びに率先して作戦に協力してくれることになったプリキュア達(通称映司lovers)は、

軍隊と戦闘する他の班に先駆けて城内へ潜入。

最悪の場合を想定し、全ての兵力が揃うまで処刑の時間を稼ぐ。

 

そしてキュアブロッサムたちD班は、各班の合図があると同時に処刑場に突入。

映司並びに女王を奪還の後、スイーツ王国軍(現シャイニーキングダム)に反撃の狼煙を上げる。

 

「今作戦のメインはあくまでお二人の奪還です!身柄を保護したら、状況を見て皆さんは撤退してください!」

 

「つまらねぇなぁ!」

 

つぼみの作戦に意義を唱えたのはモモタロスだった。

 

「つまりはシャイニーキングダムも、ブラックホールの野郎と同じ穴の狢だろ?だったら全員ブッ倒しゃ、世界平和への道が開けるってもんじゃねえか!」

 

「そのことだけど……」

 

丁度良くアジトに戻ってきた、キュアドリームとキュアルージュ。

モモタロスの意義に対して反論したのがルージュだった。

 

「例えば今此処で総力戦になっても、今日のうちにクイーンを倒すことはできないの」

 

「どういう意味だよ」

 

「クイーンは今光の宮殿に居る。そして……」

 

そこで口を噤んだルージュ。

つまり、言いにくいことを脳裏に浮かべているらしかった。

 

「ポルン達のチームが、クイーンを説得に向かっているのよ」

 

「説得だと……?」

 

クイーンの恐ろしさを、割とよく聞き及んでいた深海マコトだが、やはりその知らせには難色を示した。

"説得"などというお題目は立っているが、事態がここまで及んだからには、戦闘は避けられないだろう。

 

第一、ポルンの心持ちがどうであれ、今のクイーンが彼らの説得に応じるはずがなかった。

 

「どっちにしても、一番強い奴を倒さねーとしょうがねー、こっちをさっさと片付けて、連中の手伝いに行ってやりゃいいじゃねーか」

 

疑うことのないモモタロス自身の強さ。

そこからくる強気な発言は、いくらかキュアライダー達の、気持ちの切り替えに役立った。

 

「作戦決行は12時!皆さん、なるべくバラバラになりすぎないようにお願いします」

 

「応!!」

 

つぼみの号令と共に、いよいよスイート城奪還作戦が間近に迫っていた。



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攻城戦

・作戦当日の、シャイニーキングダム全体会議。

闇の同盟からの使者や、形骸化した各国政府の重鎮達が招かれ、キングダムによる盤石な新世界へと向けた、"話し合い"が行われる。

 

形上の同盟や連携は取られているものの、両組織は常に一触即発。

緊張感の漂う会合の中で、本日のメインイベントはどちらの組織にも与しなかった、スイート女王の処刑という異例の盛り上がり。

 

処刑を執行される15時。

それを遂行するため、またそれを見届けるためにこの地に集結した悪の大部隊。

 

その中心部には、闇のエネルギーによって心を支配されている、仮面ライダーオーズ/火野映司の姿もあった。

 

あるいはそれを押しのけて、女王と王国を奪還戦とする若き戦士たち。

 

15時を過ぎた後、この国と世界の勢力図がどうなっているか、一切誰にも予想できない状態だった。

 

「何、考えてた?」

 

仲間たちに先んじて城へ攻め込む算段を整えていたキュアドリーム/夢原のぞみと、運び屋の妖精シロップは、プリンの山の頂上から、香りの漂う風に吹かれていた。

 

「うまく言えないけど、この先の世界がどう変わっていくのか……私がそれを守りきれるのか……かな」

 

"それ"がすべてではないことを、1年もの間一緒に戦ってきたシロップはよく知っている。

そこにはあえて言及しなかった。

 

今の気持ち戦っている自分の原動力やその意味について生理がついていないのは彼も一緒だったからだ。

 

ごく最近のことである。

プリキュア達と協力して戦った、秘密組織エターナルの館長。

彼がコアメダルを研究していた錬金術師の一人であり、シロップの父親であったことが、思わぬ形で発覚してしまった。

 

自分とは何なのか。

何のために生まれて、今ここにいるのか。

 

答えのない問いに苦悩した彼を救ったのは、やはりプリキュアであり、シロップの愛する女性だった。

 

「やるしかねぇんだろ、俺たちみんなで」

 

少なくとも、今ここにいる理由としては充分すぎる回答であった。

にもかかわらず二人が別行動をとったのには、理由があった。

 

誰一人気づいた様子はなかったが、禍々しい闇の同盟においても搔き消える事の無い"異質゛な気配があった。

それはまるで、闇に堕ちたプリキュアのようで、のぞみを呼んでいるようにも感じた。

 

(つぼみちゃんの作戦には、三方からお城に攻め込むところしか含まれてない……だから)

 

先回りをし、気配の正体を探るだけでも出来れば……。

逆に言うと、その尖兵である自分がどうなろうとかまわない。

そういう戦士だったのだ。夢原のぞみとは。

 

意を決してホールケーキ城への潜入を開始する2人。

スイート女王の処刑時刻である15時まで、残り時間は9時間を切った。

 

一方、モモタロスたち本陣組や、別行動を取ったのぞみとシロップとは別に、遠方からホールケーキ城の様子を伺う人影があった。

 

「凰蓮さん、本当に大丈夫なんですかね.......」

 

「静かになさい、坊や、あーたここまで来て何をビクついてるってのよ」

 

「だって.......いよいよシャイニーキングダムとの決戦が始まるんでしょ.......俺たち、今度こそ無事に帰れるかどうか……」

 

城之内秀保と凰蓮・ピエール・アルフォンソ等、チームシャルモンの二人の仮面ライダーは、市街地で待機する本隊に先駆け、偵察に来ていた。

 

火野映司によるスイート女王の処刑。

 

闇の同盟や、シャイニーキングダムの一時的な連結。

否が応でも、この作戦の結果が今後の世界を左右することは明白だった。

城之内が怯えを隠せないのも無理はない。

キングダムも、同盟も、この歴史的瞬間において一切乗って抜かりを許すまいと避ける限りの全力を投じてきている。

両軍を敵に回すとなると、その危険度はこれまでとは一線を画するものとなる。

メガネを押し上げる指先は、まるで凍えるように震えていた。

 

「信じなさい坊や。花咲つぼみの作戦を」

 

凰蓮は、ゴツゴツした手のひらで愛弟子の肩を叩いた。彼とて、本作戦の発案者である花咲つぼみをよく知っている訳ではなかった。

 

とはいえ、年端も行かない彼女たちプリキュアが、最前線で悩み、苦しみながらも、世界を救うために努力しているのだ。大人の自分が迷ってどうする。

 

トルーパーズで未開の星から戻ったばかりの葛葉紘汰に会った時、彼はプリキュアたちを頼むといった。

スイート女王の処刑阻止作戦への参加を買って出たのは、紘汰の言葉による影響が大きい。

 

彼もまた、若い身空で過酷な運命に従うことを強いられた、偉大な戦士の一人だ。

彼は全てを救うために自分1人を犠牲にした。

始まりの女の存在があったのが、彼にとってせめてもの救いだったかもしれない。

それすらもなければ、彼はもしかして求道苦界のような存在になっていたかもしれない。

後から思い起こせば、彼を怪物にしてしまったのは、シンプルにして悠久の孤独だ。

誰もがそれに染め上げられて、正気を失ってしまう。

その危険をはらんでいるのが人としてのジレンマであり、それがあるからこそ、生きることとは尊いのだ。

 

そこまで考えて、凰蓮はふと思った。

キングダムに寝返った戦士たちは、程度の個人差こそあれ、もしかすると苦界に似た闇を孤独に抱え込んでいたのではないだろうか。

 

キュアライダーズには、今や百や二百を軽く超える構成員がいる。

結果として、門矢士とその一派だけでは彼らを制御しきれなかったことになるが、彼らは意外と自分に身近な闇に付け込まれてクイーンの誘いに乗ってしまったのかもしれない。

いや、もしかするとそのクイーンですらも……。

 

「凰蓮さん!!」

 

弟子に呼びかけられ、凰蓮は我に返った。

双眼鏡をのぞき込んでいた城之内の顔色が変わった。

事態が動いたらしい。

 

「坊や、どうしたのよ」

 

信じがたいという表情で、彼の視線は城の上空に釘付けだった。闇の同盟近世のグンダリが空を巡回している。

……だけではなかった。

大きくてのろまなグンダリが気づかない間に、その群れの間を俊足でくぐり抜けていく大きな影。

城乃内はつい最近彼に会ったことがあった。

 

「シロップ……?」

 

「だけじゃないわ!背中に乗っているのは、ドリームのお嬢ちゃんじゃなくて?」

 

城乃内から双眼鏡をひったくった凰蓮もまた、信じられないという声を出した。

当然だ。

 

シロップの背に乗ったキュアドリームが単独で城を目指している。そんなことは作戦にないのだから。

 

「こちら宣言偵察部隊チームシャルモン。作戦隊長に代わって下さるかしら」

 

いつになく早口で無線に声をかける凰蓮。

冷静で予備動作のないその表情から、事態の緊迫度合いが見て取れた。

 

 

闇の同盟から派遣された戦士達にも、動きはあった。

情報が漏洩したのだった。

市街地の外れにある空き家に門矢士一派のキュアライダー達が潜伏しているというもの。

 

幸いなことに、チームシャルモンや夢原のぞみの動きはまだ気取られていなかったが、今回は同盟の動きが迅速だった。

 

キュアライダーズを城の裏口から先導する予定だった、側近のビターとドライ。

彼らはバイオレンスドーパントの拷問にかけられ、さらには女王の処刑を2時間早めるとの脅しをかけられた。

二人はやむなく情報を渡し、キュアライダー達の隠れ宿にはモールイマジンの大群が押し寄せていた。

 

指揮を執っているのは、ファイズの世界からやってきたクイーンの側近。

サガとオーガ。

それにアルビノレオイマジンと、錚々たるメンバーだった。

 

「待機命令……?」

 

根幹世界である、ディケイドの世界の、芝公園で待機していたココは、つぼみを経由しての凰蓮の報告に目を見開いた。

 

『僕としても心苦しいけど、みんなが出て行く前に話した通り、のぞみはそういう子なんだ。事態が動くまでは、様子を見るしかない作戦をかき乱すわけにはいかないからね』

 

「でも……!!」

 

「お前の大事な女ではないのか」

 

会話に割って入ったのはチェイスだった。

 

「見捨てても構わないと?」

 

『そんなハズないだろ!!僕だって心配でたまらないよ!!けれど……』

 

ココの言い分はもっともだった。

スイート王国は今立派な敵陣である上、その戦力も全くもって未知数だ。今ある戦力を、のぞみとの合流に割り当てる余裕がなかった。

 

『僕も急ぎ合流するから、作戦は一旦中断してみんな』

 

そこでガチャリと電話を切ったのはモモタロスだった。

 

「悪ぃな、こちとらまどろっこしい話は嫌ぇなんだよ」

 

「ちょっとモモ!!」

 

諌めるりんに、モモタロスは眉一つ動かさない。

 

「俺たちの作戦隊長は今つぼみだ!つぼみが、時間も作戦も決めたなら、俺達の意見は変えねえ!」

 

隠れ宿が戸惑いザワつく中、手を挙げたのは火野明美だった。

 

「自分の息子が絡んでるからって言うわけじゃないけど、私もモモタロスくんに賛成」

 

「明美さん」

 

心配そうな顔をするりんに、明美は続けた。

 

「敵の戦力も判らない上に、処刑時刻は刻一刻と迫ってる。つぼみちゃんの作戦をすぐにでも発動しないといつ何が起きてもおかしくない状況になってる。それに私たちが待機してたとして、ココくんは多分自分ひとりでのぞみちゃんを助けに行くでしょう?人質が増えることになるわ」

「でも、第二班との合流もまだで……」

 

「多少不利な方が燃えてくるじゃねーか、最初からクライマックスってな」

 

不安そうな顔をするスイート女王の娘、ショコラ。

母親の処刑が迫っているばかりか、彼女はキュアドリームとも浅からぬ縁があった。

 

不安はダブルパンチで襲ってきているはずだ。

 

第二班に合流する予定の4人の仮面ライダーと、火野映司に対して想いを抱いていたプリキュアたち。

彼らの合流なくしては困難を極めると思われた作戦だが、敵にこの場所での潜入がバレた以上、こちらから攻めるのが最も安パイなのは変わりなかった。

 

「善は急げってやつだな!」

 

気合いを入れる小野寺ユウスケ。

 

そこに来てキバーラが騒ぎ立てた。

 

「大変どうしましょう!建物の外に、怪人がいっぱい!!」

 

「来ると思ってたよ」

 

海東大樹は冷静な顔をして、ディエンドライバーをくるくる回している。

彼のポケットからは一枚のカードと、いくつかのダンデライオン、スイカ、ローズロックシードがあった。

 

「人数分ある。開戦と行こうか」

 

 

「おいどうなってんだよ、戦士どもが出てこねぇじゃねえか」

 

アルビノレオイマジンは苛立っていた。

第二級邪神継承権を数多の怪人たちと争っていた彼にとっては、この作戦での武功が千載一遇のチャンスだった。

 

迫る処刑時間。

敵がホールケーキ城に入るまでもなく自分に仕留められ、全滅したと知ったら、元締めであるカイは一体どんな褒美をくれるだろう?

 

だが現場に来てみれば、伝説の戦士どころか、ひとっ子ひとり気配すらしない。部下に連れていたモールイマジン達は痺れを切らし、彼もまた念入りに研いだ爪がうなっていた。

 

事態が動いたのは、ほどなくしてたった。

 

噴火のように地下から浴びせられる無数の弾丸。

舞い上がる土埃の中から自分達の頭上を越えて発信する無数のビークルたち。

 

「構えろ!!」

 

大声で叫んだ時にはもう遅かった。

突撃隊として構えていたイマジンは半数近くがやられ、二人のライダーもバランスを崩して倒れている。

 

「やってくれたな……!!」

 

そんなアルビノレオイマジンの恨み事など意に介さず、バラの形を模したバイクの上から電王ソードフォームが、高らかに叫んだ。

 

「行くぜ行くぜ行くぜェ!!攻城戦開始だァ!!」



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