東方軍器伝 (RYUやん)
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序章~Encounter with the Forgotten world
とある少年の幻想入り


どうもRYUと言う少年です!あらすじで書きましたが初めて小説を書いたのでとてつもなく読みづらいと思いますが、宜しくお願いします!


「ハァハァ…ふざけんな!何で俺がこんな目に!」

 そんな荒い息をしながら中学生くらいの少年・神川 仁《かみがわ じん》は森の中で少なくとも彼の中では知らない動物に追われながら叫んだ。

「クソッ!何だよあれ!」

 その彼を追ってる動物は見た目は狼で灰色の体毛をしていたが大きさが彼の知っている狼の倍以上の大きさで、何故か頭部の一部分が血のような赤色の模様をしている。…いや、もしかするとそれは本当に血なのかも知れない、現にその狼は目の前の少年のことを大きな口を開けナイフのような歯で食ってやるとばかりに噛み付こうとしていて、その歯が少年には届いたあかつきには狼の頭部の赤色の模様は増えることだろう。

 

「うぉッ危ねぇ!」

 間一髪で狼の口から逃れながら彼の頭の中ではこんなことになる前の事の記憶が走馬灯のように流れてた。

 

 

 ~一時間前~

「早く帰りたい…」

 そう呟くと彼は10月の少し肌寒さ感じ始めてきた街を見回す。彼は四ヶ月もすれば高校の受験を控える中学三年生だ。

「受験近いからって言ってもやっぱり勉強よりも、今は授業の内申か……」

 緊張感が高まるこの時期で、もちろん少年も受験先の決定に受験勉強などがある。しかし、少年は街中の時計を見て、

(ッ!ヤバい!早く帰らないとゲームという唯一の楽しみをする時間が無くなる!)

と、心の中で呟いた。

 そう、神川ㅤ仁という人間は受験という下手すれば人生に多大な影響をもたらすビッグイベントを控える受験生でありながら“ゲーマー”だからゲームをするという自分の信念に忠実なバカな人間でもある。

 

 

 

 

 ~現在~

 

 

(クソ駄目だ全力疾走で家に向かって走り出した事までしか思い出せn、おっと危なっ!?)

 狼の爪による攻撃を避けつつ、彼は何故少なからずビルが立ち並ぶ故郷の準都会から、この久しぶりに見る森林地帯に来てしまったのかと、ここ数時間の記憶を遡っていた。

 

(そうだ…確か走り出してすぐに何かに落ちたんだ…!)

 チキショォォオ!と彼は気付いたら一人大声で叫んでいた。いきなり落とされて気付いたら知らない森の中で、何処だ此処と周囲を見回したら現実に存在しないはずの巨大狼が涎を垂しながらこっちを見ていたのだから不幸の中でもとびきりの不幸だろう。

 そして、彼はそんなことよりも自分を食おうとしてるこの狼をどうにかしなければ十分も経たないうちに疲労で止まった所をガブッとされると想像し顔を真っ青にする。

 

(どうにかしてあの狼をどうにかしないと…!まずは石を…駄目だ逆に起こらせちまう…そうか此処は森だからそれなりの武器になる枝は落ちてるはず!)

 すると30メートル先の地面に1メートルぐらいの大きさの巨大な枝が落ちているのが見えた。

 

「あれだ!!」

 

 と、仁はそのまま一直線に枝がある方角に向けてスピードを上げた。

 

(今だ!)

 

 仁はスピードを止めることなくガシッと木の枝を掴み、そして近くに見えた木が無いひらけた場所に体を向けた。

 

(よし。枝は思ったよりも少し軽いが足止め位は出来るか…?)

 

 そして仁はそのひらけた場所の真ん中でザッと音をたてて止まると、そのまま追いかけてくる狼の方向へと体を向けた。すると巨大狼は仁の目の前、約10メートル程の位置で止まった。

 

「グルルルル…」

 と、狼は苛立ちを感じさせるような唸り声を発した。

 

 

「ハア……ハァ…俺は、お前の晩飯になる気はないんだ」

 

 と仁は言うと、木の枝を槍のように持ち直してダッと狼を倒すために駆け出した。

 

「ウオォォォ!!」

 

 だが狼もそのまま突っ立ってる訳もなく、仁に向かって走り出した。

「喰らえ!」

 と仁は狼の腹に向けて枝を突き刺す。

しかし、狼に向けた木の棒は狼の腹を貫くことなくバキィ!と音をたてながら真っ二つに折れた。

 

「っ!嘘!?」

 

 確かに木の枝は軽く扱いやすく先端も皮膚を貫ける程度には尖っていた。だが、この狼はやはり彼自身が知っている狼では無くそんな者程度では貫く事は出来ない皮膚を持っていた。そう目の前にいるのは彼が知っているのは外見のみで中身は全く別の生物だった。

 

(クソッ!これだと、石なんか投げても意味なしか…)

 

「バウッ!」

 ガッ!と狼はそんなことにはお構い無く前足でなぎはらうように仁に向けて攻撃してきたしてきた、仁は反応が出来ずもろにその攻撃を喰らってしまい約5メートル先の木の幹に背中を向けながら吹き飛ばされた。

 

「がはッ!」

 

 仁は背中を木の幹にぶつけた衝撃で倒れてしまったがもろに攻撃を喰らった腹部は痛々しい傷は無く、かすり傷だけしかなかった、理由としてはバケモノ狼が前足で攻撃してきた際に運良く前足の爪ではなく、比較的ダメージを和らげられる部位の肉球に当たって飛ばされた為である。

 しかし、それでも木にぶつかった際のダメージは決して少なくなく、肺の中の空気は全て外に吐き出され、全力疾走で何十分と走るという普段なら考えられない出来事による疲労もある。だから、奇跡的にそこまでの怪我は無いものの一時的に動くことが困難になってしまった。

 

(クソっ…視界が安定しない…)

 

 フラフラと立ち上がりながらもう走る事が出来ない体に無理やり動かそうとしていた。

 そして勝利を確信した狼が仁の目の前へゆっくりと近ずいていく。

 

(止めろ…来るな……)

 

 今の彼と狼の頭の距離は残り1メートルも無かった、もういつ噛みついて来てもおかしくない距離で狼はゆっくりと口を開けた。

 

(ッ!!)

 

 狼が噛みつこうとして仁がその少ない力で身構えた時

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、開けた場所の上からある一人の少女の声が響いた。

 

「霊符『夢想封印』!!」

 

 というその声と共に、上からいくつもの巨大な光の弾が、噛みつこうとしていた狼目掛けて降り注いだ

周囲にはその光の弾が当たった際の衝撃波で土煙が舞っている。

 

「キャイン!?」

 

 と、あの巨大な狼から出たとは思えない間の抜けた鳴き声がしたあとバタッと音がした。

土煙が消えそこには光の弾を喰らっていた狼が白目を剥いて倒れていた。

 そして立つだけで体力を消費していた仁は遂に力尽きて、その場で糸が切れる様に倒れた。

その薄れゆく意識の中で、彼が最後に見たのは空から降りてくるお祓い棒を持った紅白の少女だった。




次の次に仁君のプロフィールを書こうかと思いますさてもう分かってしまうでしょうが最後に気絶してしまった仁君はどうなるのか?誤字脱字があったらご報告お願い致します(-_-;)
※プロフィールは、オリキャラが全員登場したら出す事にしたのでもう少し先となります。スンマセン


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ある神社にて・その壱

ちょっと長めです、後少し書き方を変えてみました読みくかったらゴメンナサイ!


(……知らない天井だ)

 少年は頭の中で呟く。気がつけば彼は、うっそうとした森の中から、文明的な建物内の布団の中にいた。

(何処だ此処は?)

 と、彼は起き上がると周囲を見回す。現在、彼がいる部屋は、日本のどこにでもあるような、床が畳のごく普通の和室の様だった。そして隣の部屋とは障子で仕切っていて気絶した時からあまり時間が経ってないのか、障子の外から夕方の赤い光が差し込んでいる。

 少年が一通り部屋を見回すと、突然、障子がスーと音を発てて開いた。

「あら、起きてたの」

 頭の向きを変え、障子戸の方を見てみれば、そこには、頭には巨大なリボンを付け紅と白が特徴的な脇の部分が空いている巫女服? を着ている少女が、そこにいた。

「……誰だ?」

「失礼ね。妖怪から助けてあげた恩人に対して、お礼の一つもないのかしら?」

「妖怪? ちょっと待て、何を言ってんだ? ここは日本だろ……」

 そこで、彼の言葉が途絶える。考えてみれば、アレは夢だったのかもしれない。御伽噺(おとぎ話)にでも、出てくるような、化け物オオカミに追われるなんて事、普通ならありえない。それこそ、悪夢でもなければ納得出来ない。

「その様子だと、あなた外来人ね。服装もそれっぽいし」

「ガイライジン?」

 紅白の少女の口から出てくる、聞きなれない単語に仁は困惑していた。

「つーか俺、酸欠で気絶してんじゃねぇか!! 病院行かなくて大丈夫かよ!?」

「それだけ元気に叫べるなら大丈夫よ」

 と、半場呆れながら紅白の少女は言う。

「まぁ、今から色々と教えるからこっちへ来なさい」

 紅白の少女はそう言うとくるりと体を先ほど来た部屋の方に向けた。

 

 

 

 

 

 

 ~??? の居間~

 

 紅白の少女が仁に案内し連れてきた部屋は全体的に和風で洋の要素が皆無だった。部屋の中央には大きなテーブルが置かれていて、その上にはお茶が入っている湯呑み茶碗が二人分、乗っている。

「それで、あんたの名前は?」

 少女が座ると、仁に聞いた。

「唐突だな……」

「良いでしょ別に。いいから早く、じゃないと話が進まないでしょ」

 そう言うと霊夢は湯呑みを両手で持ちながらお茶を飲み始めた。

「ハイハイ……俺の名前は神川仁だ、君の名前は?」

「私の名前は“博麗 霊夢(はくれい れいむ)”。この楽園の素敵な巫女よ」

 と、霊夢は微笑みながら言った。

「楽園? そういえば此処は何処なんだ?」

「此処は"幻想郷”。忘れられた者たちが集まる理想郷」

「幻想……郷?」

「そうよ」

 そして仁は今いる居間の縁側の方を見た。

 視線の先、恐らくは幻想郷と呼ばれると思われる、その地は彼が今までに見たことのあるような日本の情景

「ねぇちょっと感動するのも良いけど話の続きをするわよ」

「わ、悪い」

「次に此処には人は勿論妖怪や妖精あと見たことないけど神様も居るわ」

「…………」

「どうしたのいきなり黙りこんで? もしかして話に付いていけない?」

「いや此処は色々な奴らがいてさっき俺を襲ったのが妖怪ってのも大体想像がついた……けれど霊夢はさっき幻想郷は忘れ去られた者が集まる場所って言ったけどじゃあ俺が此処にいるってことは……」

 そう言うと仁はそのまま俯いてしまった。

「確かにそう言ったわ。幻想郷にはあんたの他にも何人も外来人は居る……でも安心して、仁が幻想郷に来たのは多分私の知り合いのせいだから」

 と、霊夢は先程から持ってた湯飲みを机に置き、溜め息をはきながら言った。

「知り合い? と、とにかく俺は誰からも忘れられて無いんだな……」

 仁は安堵して、肺の中に溜めていた空気を吐き出す。

「それで俺を幻想郷に連れてきた奴はどんな奴なんだ?」

「そうね……まず、そいつは妖怪ね」

「っ!?」

「安心して。そいつはさっきのような狼見たいなのじゃなくて人の姿をしていて、人間は食べないわ」

 恐らくね、と霊夢は湯呑みをまた持ってズズズとお茶をすすった。

「なんだよそれなら先に言ってくれよ……」

「後そいつの能力は……紫居るんでしょさっさと出てきなさい」

 と霊夢は誰もいないはずの、仁が座っている横の空間を睨みながら言った。

「あら、もうバレちゃったの」

 いきなり仁の横の何もない空間から声がしたと思えば、その空間が目を開く様に縦にひらきその中から霊夢や仁よりも見た目は年上の女性が出てきた。

「うぉ!?」

 急に目の前に現れた女性に驚き、そのまま仁は後ろに転んだ。昔のコントで見るような、尻もちをついている仁の姿を見下ろしながら女性は言う。

「あらあら、驚かせちゃったかしら?」

 紫と呼ばれて出てきた女性は、白と薄紫色のゴスロリと表現できるようなドレスを身につけ、頭にはドアノブの様な白い帽子を被り、左手でドレスと同じ色の畳まれた日傘をさしている、もう片方の手には紫色の扇子を持っておりその扇子で口元を隠しながら喋っている。

「れ、霊夢この人がさっき言ってた知り合いか?」

 腰を抜かしてしまい、仁はそのゴスロリの女性を見上げるように言う。

「そうよ、こいつがさっき言ってた奴。あと、人じゃなくて妖怪」

「私の名前は八雲紫(やくも ゆかり)

 と、金髪の女性? は扇子から覗くニヤニヤとした口を見せながらこっちを見て言った。

「……あんたが俺を此処に?」

「ええ、私が君を連れて来たのよ。君のことはよく知ってるのよ、神川 仁君」

 どこか胡散臭さが漂う、その女性は扇子で隠れていても分かるような、ニヤリとした顔で言った。

「何で俺の名前を……?」

「何? と言われても貴方の事を調べたからよ。例えば貴方の身長や体重、通っている中学校そして貴方の家族も勿論、貴方に関すること全て」

 紫は仁の情報を何から何まで調べたようだった、その何よりの証拠は紫が次々と口にする仁の家族構成や住所や電話番号まで、何もかもだ。

「……じゃあ、何で俺を幻想郷に?」

 若干の疑問は残っている、けれど今は何故中学校の帰りにいきなり落とされ先程の様になったのかを知る事を、少年は優先した。

「気に入ったから。なんて、いつもは言うけれど、今回はちょっと違うのよ」

「何時もなら? じゃあ、どういう理由なんだ?」

「それは貴方に"ある事”を頼むため、ね」

「ある事って?」

「それを説明すると貴方はきっと何を言ってるか分からないでしょう? だから、その"ある事”を説明する前に一つ話をして良いかしら?」

「……分かった」

 そう仁が一言だけ返すと紫は、先程から話に入らずにお茶と煎餅を頬張っている霊夢の横に座った。

「まず、この幻想郷がどういう場所かさっき霊夢に聞いたわね?」

「確か幻想郷は忘れ去られた者が集まる場所だろ?」

「確かに此処は忘れ去られた者が集まる場所、それは人は勿論物品や妖怪の様な人ならざる存在も集まってくるわ。そう、幻想郷は全てを受け入れるの、そう分け隔てなく、何もかも、それはそれは残酷な事にね……」

 その時、紫は一瞬だけ悲しそうな表情をした、ように仁は見えた。

「けれど妖怪の様な人を襲う存在全てが此処にいる訳ではないの」

「ちょ、ちょっと待て一つ良いか?」

「何かしら?」

「此処は忘れられた者が集まるんだろ? じゃあその忘れられた物とかは何処から来るんだ?」

「だから、今から言おうとしているのよ」

 そう言うと紫はいつの間にか用意されてたお茶を少し口に含むと、少し間をおくと再び喋り出す。

「この幻想郷は貴方の住んでる国━━━日本の中に有るわ」

 この紫の発言は仁にとって強烈なものだった。何せ彼がいつもやってるゲームの中に居るような狼に襲われ、オマケに話を聞くと妖精や神様までいるという。まるでゲームの舞台の様なこの楽園が、日本という身近も身近な世界の中にあるというのが、彼にとっては信じきれていない。

「じゃあ、何でここは外から見つからないんだ?」

「それはね、外の世界と此処は『博麗大結界』という、今はそこの霊夢……というより各代の『博麗の巫女』という役職が管理をしている、見ることも、入る事も出来ない幻想郷を認識からも守っている見えない壁の様な物よ」

 と紫は仁に説明するが。仁にとって

「けれども、その『博麗大結界』が出来る以前、すなわち幻想郷が出来る前にその時現存するほとんどの妖怪に幻想郷に来るかと呼び掛けたの。まぁ、ほとんどの妖怪は最初から此処に住み着いていたから呼び掛けはそれほど大変では無かったのよ。けれど、その時の全体の妖怪の約2割が幻想郷に来ることを拒んだ、そして今も外の世界で暮らしている」

「それでその残りの6割の妖怪の数はどの位の数なんだ?」

「その時はざっと500、ぐらい。そしてその中には人間を襲わないのもいたけど、勿論人間を食料にする輩も居るわよ」

「あんなのがまだ日本に居るって言うのか?」

 正直な所、自分の様な体験をした人がいるかもしれないという事が容易に想像出来てしまう。仁には、それが恐ろしく思える。そんな人間は、居て欲しくないし、見たくもない。

「ええ、それも今となってはやつれてしまい人間を殺し喰う事しか能がなくなった妖怪の成れの果ても、ね……」

 と、紫はより一層悲しげな表情をする。そして、口元を隠していた扇子を閉じ、その先っぽを仁に向けると、彼女は告げる。

「そしてね、神川 仁。貴方に、このやつれてしまった妖怪達の退治を任せるために私は此処に連れてきたのよ」




今回は仁君が幻想郷に来た理由が明かされました、そして次回は仁君の能力についての回です、この小説名で既に察しがつくと思いますが宜しくお願いします!
後次回以降は週に一度の投稿にしたいと思います。
それではこんな小説を読んで頂きありがとうございました。(-_-)

誤字や脱字があったら報告お願いします!

追伸・(2019/05/13)全体的に書き直しました。


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とある神社にて・その弐

 すいません、もう一度おっしゃってください?」

 紫の発言に仁は混乱して、おかしな言語で答える。

「だから外で暴れている妖怪を駆逐してきてってことよ」

 と、彼女は仁に分かりやすく言ったつもりなのだろうが、それが余計に少年を混乱させた。

「違う違う!! 何で、さっきの妖怪さえ倒せない俺なんかに頼むんだよ!?」

 声を上げながら、仁は続ける。

「第一に、俺みたいな中学生よりも強い人間なんて世の中には幾らでも居るだろ!?」

 仁は人間だ。ただの一般人が、

「だって貴方には霊力の量が他の人の何倍有るのだもの」

「霊力?」

 仁は聞き慣れない単語にキョトンとした。厳密には、画面の中だけでしか聞き覚えのない単語が、現実の、そして大真面目な会話の時にあたかも知ってて当たり前と言わんばかりに出してくるからである。

「霊力っていうのは、人の体に流れているエネルギーの様なもの」

 と、紫の代わりに横にいた霊夢が答えた。

「な、なるほど」

 やはり、科学の世界の住人の彼には理解が出来なかった。単語自体は、ゲームなどのサブカルチャーで聞いたことはあるが、その言葉の意味自体は知らないのだ。

「そして、もうひとつの理由は貴方の中に宿る能力」

「能力? 俺は超能力者でもあるまいし、あるわけないだろ?」

 何度も言うが神川 仁は普通の生活を送るただの一般人だ。そんな、ヒーロー物の映画であるような能力なんて持てるはずがない。

「そんなことはないのよ。いい? 此処に来た外来人のほとんどが此処に来た瞬間に何かしらの能力が覚醒するのよ。それと幻想郷の能力は非科学的なオカルトのようなもの、それ故に何で能力が元々無い外来人に付く理由は誰にも分からないの。だって、理解ができる不思議(オカルト)なんて、この世にはないのだから」

 そしてね、と紫は数秒ほど間をおいてまた喋りだした。

「そして能力が覚醒した外来人の能力はその外来人の経験や特技。それにその外来人が大切にしていた物から影響を受けるわ、それらの事から自身の能力が決まる」

 そして紫は何故か残念そうな顔をしてしばらく目を閉じる。

 

 

 

 

「要するにね、仁君、貴方の能力は今の時点では全く分からないわ」

「そこまで話しといて分からねーのかよ?!」

 何かを期待していた仁は落胆した。ほんの一瞬でも、期待していた自分が馬鹿だったと言わんばかりに。

「それなら、幻想郷に来てから自分で能力と呼べる能力を使ったのかしら?」

「そ、それは……」

 確かに仁は幻想郷に来てからその仁に有ると言われる能力は微塵も使っていなかった。

「そうでしょ? だから今から能力を特定するために外に行って調べようかと思ったけど……ご覧の通り、今はもう夜よ。それに貴方は酸欠を起こすほどの運動をしたらしいわね。だから明日彼女(霊夢)と一緒に調べるつもりよ」

 霊夢が何で私までと言っていたが、紫は特に気にせずにテーブルから離れ立ち上がった。

「ちょっと待て! 今、明日って言わなかったか!?」

「ええ、そうよ。何か問題でも?」

 そう言いながら、紫は手に持つ扇子を閉じ、その扇子で空間を縦に割くような動作をする。

「大有りだ!! それって、ここ(幻想郷)で寝泊まりしろってことだよな!?」

「だから、何か問題が有るかしら?」

 あからさまに苛つきながら、紫は言う。

「俺はこれでも受験生だぞ!! もう少しで高校に送る通知表ができるって言うのに授業受けないってのは自殺に等しい行為なんだぞ!」

 外の世界を知っているなら分かるだろ、と仁は来るときに使ってたあの謎空間を作っている紫に言った。

 それに対して、紫は、

「もしかして貴方今日金曜日ってこと忘れているの?」

「あ……」

「それに貴方さっきの帰り道で、帰ったらゲームするとか言っていた気がするけどどうなのかしら?」

「な」

「貴方にとっては余裕でも。高校受験は気を抜いてはいけないわよ」

 と、紫は言う。その言い方はまるで、悪い事をした子供を叱る母親そのもの。

「わ、分かりました」

 仁は先程からの言動から焦りが出ているのが直ぐに分かる。

「なあ紫、じゃあ俺はどこで寝泊まりすれば良いんだ? 野宿して妖怪には喰われたくないぞ」

「それなら。霊夢。あなた一晩仁を泊めてあげてちょうだい」

「いやいやいや流石に年頃の女の子の家に泊まr「別に良いわよ」良いのかよ?!」

 と仁は予想外の答えに困惑する。少年とて年頃のヲトコノコだ、同年代の少女と同じ屋根の下で過ごすというのは、少々刺激が強い。

「これでも此処に来た外来人の面倒を少し見ていたから平気よ」

「そ、そうなのか……?」

「それに変な気でも起こしたら弾幕でボッコボコにしてあげるから、大丈夫よ」

 と、霊夢は割と物騒な事を笑顔で言う。若干、背中に寒気を感じたと思うと、仁は何かに気付いたように、

「そうだ霊夢、弾幕って一体何なんだ?」

 霊夢は何かを喋ろうとしたが、その前に紫が、

「弾幕についても明日説明するつもりよ。あと今日はしっかりと休みを取りなさい」

 と、紫は謎の空間に片足をいれながら言った。

「それじゃあ明日また会いましょう」

 それだけ言って、彼女は自身の能力で作り出した空間の中に消えていった。

「……行っちまったか」

「それじゃあ仁ちょっと夕飯の準備を手伝って。さすがにタダで泊める分けにもいかないわ。しっかり働いてちょうだい」

「あ、悪い。今行く」

 そう言うと、仁は霊夢の居る台所に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、霊夢は巫女なんだよな?」

 仁は台所でトントンと手際よく野菜を切りながら、横で同じ作業をしている霊夢に聞いた。

「それが何?」

「って、ことはこの建物は神社、なんだよな?」

「そうよ」

 と、霊夢は素っ気なく返す。

「じゃあこの神社に他に人は居るのか?」

「いいえ、この神社に居るのは私一人よ」

「……」

 意外な答えだった。彼はとある事情により一年の内、数ヶ月を一人で生活する事がある。しかし、それは彼の近くに住む祖父が支えてくれていたから成り立つものだ。

 そんな彼と同年代に見える少女が、一人で暮らしているということが、彼にとっては衝撃だった。

「母親が居たけど五年ほど前に古い付き合いの母親の友達と一緒に行方不明になったわ」

「……それで居なくなった理由は分かったのか?」

 彼は不謹慎と分かっていながらも聞いた。

「全く、よ。けれど行方不明になる前に私が母さんから『博麗の巫女』を受け継ぐ儀式の数日後だったから、もしかしたらそれが関係してるかも知れないけどね」

「……そうか色々聞いといてなんだけど……その……悪かった……」

「別に良いわよ。だって、まだ死んだって決まったわけじゃ無いんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~幻想郷・??? ~

 

 

 何者にも知られていない地にある屋敷の居間に、自称妖怪の賢者こと八雲紫とその"式神”八雲 藍《やくも らん》は居た。

 

「そういえば、紫様が何故あの外来人(神川 仁)を連れてきた理由をまだ聞いておりませんでした」

 紫の式神(従者)の八雲 藍は聞く。

 彼女は狐の耳のような尖りが2つある帽子に、中華風の長袖のロングスカートに青い掛け軸のような布を被せてある服を身につけている。そして、彼女一番の特徴は腰から伸びている9つの扇状に広がっている金色の尻尾だった。

「そうね」

「紫様……?」

「ごめんなさいね、藍。……それで何で私があの外来人を連れてきたか、だったわね。……その前に藍、貴女は霊力、妖力、魔力の3つの力は勿論知ってるわよね?」

「はい、紫様。ですが、何故今更そんな事を?」

「じゃあ、それ以外の力がそこら辺に居そうな一般人から感じ取れたら?」

「その3つ以外の力って、まさか……?」

「そう、彼からは“神力”が感じ取れたのよ。落ち着いて藍、正直私だって驚いてるのよ」

「で、ですが紫様。只の一般人から神力なんて放出される筈がありません!」

「確かに、その通りよ。彼は、例え強大な力を持ったとしても、それを悪事に利用する事は絶対に無い。断言するわ」

「で、ではその根拠は?」

 さぞかし、立派な答えが返ってくるのだと思っていた。

 だが

「彼、ヘタレだもの」

 これ以上ないほど、あっさりと言い放った。

「は、はぁ……。紫様がそう仰るなら良いのですが……彼の能力については何か?」

「残念だけど、情報は何も無いわね」

「それなら、神力の原因は一体……?」

「だから今、眠たいなかで私が働いてるじゃないの」

 今度は冗談交じりに、そして軽い口調で言う。

「そう、ですね。……では、私は食事の片付けを」

「ええ、頼むわよ」

 そして藍は八雲邸の台所へと向かっていった。

(……でも、()から感じた神力の原因は結局は分からず仕舞い……また、調べ事が増えたわね)

 紫はそう頭の中で呟き、そして自身の寝室の方へと向かっていった。




今回もちょくちょくと書き方を変えていますRYUです………今回は仁君が幻想郷に連れてこられた理由などを書いてみました。そして紫と藍様との会話では二人のしゃべり方をよーく考えて書いたつもりですけどまだまだ修行が足りませんね………そして二人の会話で出てきた仁の中から感じる神力…理由はもう少しで判明するのでそれまでは考察してみてください(~µ~)
後、次の回はとある東方のキャラを出したいと思います。
誤字や脱字におかしな文があったらご報告していただけると幸いです!
それではこんな小説を読んでくれてありがとうございました!

2019/06/22
全体的に書き直しました。


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授かりものの"付け焼き刃(能力)

今回はきずいたら4500文字超えていたので何とも歯切れの悪い終わりかたです(-_-;)スイマセン……


 幻想入り一日目夜~

 

 

 携帯の時計で七時半を迎えた頃、辺りは既に真っ暗になっていた。

 夕食等を終えた仁は博麗神社にて霊夢に自分は誰か、何処から来たのか、などを話していた。話、と言うよりは紅白の巫女━━霊夢による事情聴取に近かったが。

「ふーん、ということはあんた自体に幻想郷に来る意思はなかった、と」

 と、興味が無さそうに霊夢は自身の中の結論を言った。

「そう言うこと」

 そう話をしているが、やはり彼女の雰囲気がドラマでみる事情聴取中の刑事のソレだ。

 それだけ、仁を連れてきた"紫”という人物? は信用されていないのだろうか? 同様に少年のこともこの様子だとあまり信用されていないのか、今の少年には検討がつかない。

「それと仁、あんたが首に付けているそれは何?」

 霊夢が仁の首にあるネックレスを指さして言った。そのネックレスには中央に赤い小さな丸い宝石が嵌め込まれていて、ロケットのように中に写真を入れられるようになっている。

「これは俺の爺ちゃんから貰った物なんだ」

 仁は首はロケットを手に取りカパっと音を発てながら開けた。そこには幼い子供を抱きながら微笑む老人の写真が入っていた。

「それが仁のお爺さん?」

 霊夢は仁の横に移動してロケットを除きこむように見ながら言う。

「ああ。爺ちゃんは考古学者やってたんだよ、このロケットの宝石はもう必要が無いって渡されたのをロケットに加工したものらしい」

「こうこがくしゃ?」

 霊夢は小首をかしげて言った。この世界(幻想郷)では喋る言葉やら多少の文化は同じでも、根本的な事は違う。だから、多少の相違があってもおかしくない。

「考古学者ってのは簡単に言うと、昔何処で何が有ったかを調べる仕事」

「そうなの。……それお爺さんからもらったって言ってたけれど、貴方のお爺さんってまさか……」

 

 

 

 

「いや、まだ生きてるよ。元気に老後を趣味に費やしてるよ」

「まだ生きてるの?! 今の流れで?!」

 と、霊夢は軽く絶叫した。

「六十超えても元気過ぎて両親が困ってるぐらいだからな」

 ははは、と笑ってはいるものの、なぜか目は笑っていない。地雷でも踏んだのだろうか? と不安になった紅白の少女は話を変えて、

「じゃあ、何でその形見みたいに持ってるのよ?」

 と、仁に聞いた。

「別に形見って訳でもないだけど……まぁ、小さい時に爺ちゃんに仕事の事を色々聞いていたら、そういう仕事に憧れちゃって、将来爺ちゃんみたいな考古学者になりたいって言ったんだよ」

「そしたら、それを?」

「ああ。そん時に俺を安心させるためかな? こいつはお前を守るお守りだ、だから大切にしろ。もしもの時があったら必ず守ってくれる筈だぞ、って言って、そしたらこのロケットを渡してきたんだ」

「仁のお爺さんって優しいのね」

「ああ。俺が一番尊敬している人だよ」

 そして仁はロケットをギュッと握る。その時、霊夢にはロケットの中央の宝石が光っているように見えたが彼女は、気のせいね、と呟くと立ち上がった。

「さーてと、仁もうそろそろ寝るわよ。私が向こうだから仁はここで寝てちょうだい」

「分かった。それで布団とかは何処だ?」

「こっちの襖の中に入ってるわ」

「ありがとう」

 

 

 そして少年の幻想郷での一日目が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~幻想入り・二日目・朝・博麗神社~

 

 

 仁と霊夢は朝食を済ませると、紫が来るのを待つために博麗神社の住居部分の横にある庭のような場所に居た。だが今は朝と言っても仁が持ってきたスマートフォン内の時間で10時を表示しており、太陽は既に頭上を過ぎようとしている。

「……さすがに遅すぎないか?」

「そうね……そうだ! すっかりあの事忘れていたわ!」

 霊夢は何かを思い出したように片手を頭に乗せた。

「忘れていたって、何を?」

「実はねあいつ()冬眠するのよ……」

「は?」

 驚愕の事事を知り、仁は呆然とした。紫は姿こそは人間だが、れっきとした妖怪だという。生活サイクルも人間と違っても何らおかしくない。

 ……もしかすると、実は紫はクマの妖怪だったり、などという事も有り得そうで怖い。

「冬眠って、熊とかがするあれか?」

「似てるけど、違うらしいわね。確か、紫の式神……簡単に言うと召し使いのようなもの。その式神に聞いた話なんだけれど、あいつは一度寝るとずうっと眠り続けるらしいわよ。起こさない限り」

 霊夢は呆れたようにため息をつくと居住スペースにある縁側に腰を落とす。

「まさか、ただ単に眠いから寝るみたいな感じか?」

 子供か、と仁は心の中で呟く。

「そうみたいね。けど、紫は時々起きて色々とやるのよね、ちょうど昨日みたいに」

 最近会ってなかったから忘れてた、と彼女は項垂れる。

「それじゃあ俺の能力を調べるには?」

「私達だけでやんなきゃいけないのよ」

「まあ良いか……それで具体的に何をすれば良いんだ?」

「とりあえず、頭の中で何かしらのイメージをしてみて。例えば私の能力の『空を飛ぶ程度の能力』はそんな単純じゃないけど。幻想郷の中には『水を操る程度の能力』とかが有るから、まずはイメージからやってみるのも良いかもしれないわ」

「分かった、ちょっとやってみる」

 と仁は目を閉じ色々なモノをイメージしてみた、地面を浮き上がらせるようなイメージや天候を操ってるイメージや、苦し紛れに少し厨二病とも評されるような入ってるイメージもしたが、何も変わらず何も起こらなかった。

「何も起きないわね、やっぱり難しいかしら?」

「うるさい!! べ、別に他に色々とイメージ出来るから大丈夫だ!」

 と、仁は焦りを顔に出したまま、再び頭の中でイメージを始めた。

 

 

 ~30分後~

 

 

「どう?」

 と霊夢は縁側でお茶をすすりながら言った。

 その相手の少年は膝をつき両手の手のひらを地面につけており、その姿には如何にも残念な感じが伝わってくる。

「駄目だ……なんも出来ない」

 その言葉が、(彼の中では)切羽詰まった状況を表している。

 半場、涙目になりながらも仁は頭の中で自分が考えつく限りのイメージをまだ考えていた。

「やっぱり紫が来るのを待ったほうが良いと……仁! 今すぐそこを退いて!!」

 突然、空を見上げたと思うと霊夢はものすごーくマズイという顔をして部屋の奥に逃げるように駆けていった。

 その霊夢が最後に見ていた方向にはこの真昼にも関わらず光る星のようなモノが見えていた。そしてその星のようなモノは心無しか段々光が増し……というよりはこちらに向けて迫ってきてるように見える。

「仁! 早くそこから逃げて!!」

 へ? と仁が顔を上げた瞬間、その星……というより彗星は博麗神社の先ほどまで霊夢が居た場所にドォォォン!! という凄まじい音を発てて衝突した。

 周囲には土煙が舞い、仁はその衝撃により数メートル吹き飛ばされる。仁はフラフラと立ち上がると、恐らく悲惨な事に成っているだろう博麗神社の方を見た。

「何だ!?」

 その神社をよーく見てみると衝突したのは縁側でなく手前の庭の方らしい。その証拠に縁側の前には半径約1メートルのクレーターが出来ているが、建物の方は無事だった。今の衝撃でも無傷の建物もおかしいのだが、それよりも仁はその土煙の中に居る人影の方に目が行った。

「あぶないあぶない。神社壊してたらまーた霊夢に治されるから面倒なんだよなー」

 土煙の中で服に着いた土を払いながら、その人影は少し男口調が混じった少女の声で喋る。

「魔理沙!! 危ないじゃないの!」

 と霊夢が土煙の中の人影に向かって怒鳴った。

「悪い、ちょっとスペルの練習してたら、意外とスピードが出ちまって」

 仁は聞いたことの無い単語を聞いたがそれよりも目の前の滞空時間の長い土煙が段々と晴れていき、そこからその声の主が現れる。

「ま、魔女!?」

 そこに居たのは黒い大きな帽子を被り白と黒の服を身につけ、片手には箒を持つ霊夢と同い年ほどの金髪の少女だった。

 初めて見た感想は、魔女。

「ん? お前外来人か、また紫連れて来たんだな……っと、それよりも悪いな騒がせちまって」

 と、魔女のような少女は言って仁に箒を持っていない右手を差し出した。

「宜しく、私の名前は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ」

 仁は白黒の魔法使い━━魔理沙と握手をして自己紹介をした。

「俺の名前は神川仁。あー……ただの外来人? だ」

「それで魔理沙、今日は一体何の用?」

 いつの間にか、神社から外に出てきた霊夢が言った。

「暇だから、来たんだぜ」

 ニンマリと笑顔を浮かべながら白黒の魔女は言う。

「来たんだぜ、じゃないでしょ」

 ハァーと溜め息を吐きながら霊夢が言った。

「別に良いだろ。それで二人は何してたんだ?」

「そこに居る仁の能力を調べてたのよ。けれどそれらしい事が起きないからどうしよう、と思ってたらあんたが突撃してきたのよ」

「だから悪かったって……。で、仁? だっけか、どうすんだ」

 魔理沙は仁の方を見ると、鋭い目つきで話す

「……どうするって何を?」

「だからお前は諦めるのか? それともまだ続けるのかどっちにすんだ? 遠くからだけど私にはしっかり見えてたぜ」

「……」

 と、仁は庭の横にある森の方に体をむけとある言葉を思い出す。

(紫は確か外来人の能力はその外来人が思い入れがあるモノや体験って……ちょっと待てよ、それって自分が好きなものでも例外じゃないってことだよな? でも俺にとって思いでのあるものって言うと……特に、なし。なんか悲しいなぁ)

 そう考え込んでいる仁を縁側でとなり同士で座りながら霊夢と魔理沙は見ていた。

「なぁ霊夢、あいつは幻想郷にいつ来たんだ?」

「昨日の夕方位だと思う。私が来る前には、酸欠起こして倒れるほどの運動をしていたみたいだし、もしかしたらもっと前かも知れないわね」

「そんなに動くって、まさか何か追われてたのか?」

 冗談交じりに魔理沙は言うが、

「デカイ狼型の妖怪に追いかけられてた」

 まあ私が退治したけどね、と霊夢は言うと、再び手に持つ湯呑みに口をつける。

「そ、そいつはエライ目にあったな。それでも怪我なしか、外来人にしちゃ生きてるだけでも珍しいのに」

「でも私が仁が居るところに着いた時に妖怪に殴りかかられていて、結構吹き飛ばされてたけど無傷だったのよ。仁が言うには、妖怪の攻撃が攻撃が。まあ、結構不器用な妖怪だったようだし」

「なんかもう運が良いんだか悪いのやら……」

 

 

 少女二人が談笑してる間、そういう仁は未だ考え事をしていた。

(いやまさか……そんなことがある訳ないよな……でもそれ位しか考え付かないし……やってみなきゃ分かんねーしな……)

 仁は両手を前に出し手のひらを上に向け、何かを受けとるような格好になった。

 そして仁はとあるイメージをした。すると仁の手周囲に光の粒のような物が出てきて仁の両手の平に集まってきた

「ん? ……おい、霊夢起きろ!」

 魔理沙は眠りそうになっていた霊夢を起こすと目の前で起こっている現象を見せた。

「何あれ?」

「分かんない、急に仁の周りから光が出てきたと思ったらこうなってた」

 そして仁の手のひらに集まった光の粒子は手のひらで何かの形を作るように集まったと思うと、弾けるように消えた。

(なんだ……今の?)

 何故か重量を感じる自分の手のひらを仁は恐る恐る見る。

 

 

 

 

「嘘だろ……成功した」

 その仁の手の中に有ったのは世界で最も有名な銃の一つ“M1911”とサバイバルナイフだった。

「「何があったの(か)?!」」

 と魔理沙と霊夢が仁の方に向かって来た。

「やった……俺はやったよ」

 仁は持っていた2つの武器を持ちながら言った。

「で、それは一体何だ?」

 魔理沙が通称『コルト・ガバメント』と呼ばれるそれを指をさして聞いた。

「これは外の世界で銃って呼ばれる武器の一つなんだ」

 そう言うと仁はガバメントを構えて見せた。

「それでその"ジュウ”? はどんな武器なのよ?」

「これは飛び道具の一つで弓矢よりも遥かに強いんだ……って、うおっ!」

 仁の言葉が途中で途切れたのは調子に乗って銃をくるくるとジャグリングのように回そうとして、案の定地面に銃が落ちそうになったからである。

(あぶねえ、何とか地面に落ちる前に止められ……ん?)

 仁は一瞬自分が銃をキャッチしたのかと錯覚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが現実は仁は銃をキャッチするのではなく手を伸ばしたままの格好で銃を宙に浮かせていた。

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

「……なぁ霊夢、これって」

「ええ、どう見ても能力の2つ持ちね。そんな珍しいことでもないでしょ」

「はぁ!?」

 予想外のことに、彼は動揺した。

「ねえ仁、試しにそこら辺に転がっている石を見てなんかやってみて」

「なんかって何だよ、なんかって……。まぁ、やってみるけどさ……」

 そして仁は銃とナイフを地面に置き、そこらにある石を見たまま脳内で色々なイメージをしてみた。

 すると対象の石は、仁が思ったように浮いた。

「なっ!?」

「んー……とりあえずこっちの方の能力は『触れずに、物を動かせる程度の能力』ってことこかしらね」

「要するにサイコキネシスか……」

「? なんの事かよく分からないけど、とりあえずもうひとつの方も調べないと」

「それでそっちのは何なんだぜ?」

「まぁとりあえず先にやるか……。えーと、これは銃っていってな弓矢なんかよりも何千倍も強い武器なんだよ」

 仁は銃を見たことない少女達に分かるように言った。

「それじゃあ弾幕よりも?」

「……弾幕?」

 そう、仁は知らなかった。この幻想郷には下手をすれば銃よりも有能な物があることを。

「そうだったわね、紫が明日説明する、とか言ってたから仁は弾幕の事知らなかったのね」

「なあ霊夢、弾幕って一体何なんだ?」

 と、仁は昨日から気になっていた単語について聞いてみる。恐らくだが、自分の知っている制圧射撃をする際の弾幕、とは意味が違うのだろう。

「教えてあげるから、とりあえず神社の中に入りましょう。ほら魔理沙も来なさい」

「それじゃお邪魔するぜ!」

 一人の少年と二人の少女は神社の中に入っていく。




仁君の能力がどういう力を持つかとか名前とかは次回出す予定です。それまで色々とどんな名前かを想像してみて下さい。(-_-;)因みにこの能力はナイフが出てきたように銃限定では無いです。

2019/03/08
主人公のプロフィールを出すと言ったな。
あれは嘘だ。
冗談はさておき、一度オリキャラ達がある程度出たところでもう一度投稿します。
作ったのを見直すと、なかなか、アレだったので。そうさせていただきます。スンマセン

2019/06/22

全体的に修正しました。
誤字はあるかもなので、その時は報告お願いします!


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能力、そして帰還

自分「よ~し書き終わった~。えーと今回の文字数h……6000超え!?」


 ~幻想郷・博麗神社~

 

「それじゃあ最初に弾幕は弾幕ごっこの略よ」

 霊夢は神社の居間でまるで説明をする気が無い魔理沙と一緒に仁に説明していた。

 

「弾幕ごっこはスペルカードルールに基づいた『人間でも神様と同等の強さを発揮できる』決闘の事ね」

 

「確かスペルカードルールは霊夢と霊夢のお母さんて作ったんだっけ?」

 と魔理沙は隣に座っている霊夢に聞いた。

 

「そうよ、あの吸血鬼達が来たときに作ったのよ。まあ、とりあえずスペルカードルールについては後で話すけれど最初に弾幕は3つの種類の力を使うわ」

 

「その力って、俺の中にある“霊力”とかか?」

 

「そう。それと他の力には魔力と妖力が有るわね」

 

「それは何が違うんだ?」

 

「簡単に言えば霊力も妖力も魔力もぶっちゃけ全部同じよ」

 

「え?て言うことは使う人によって名前が違うとか?」

 

「まぁそう言うことね。けれど神様が使う“神力”だけは違うみたいだけど…、私はあまり知らないわ」

 そう言うと霊夢はテーブルの上のお茶を持った。

 

「そ、そうなのか」

 

「本題に戻るけれど弾幕は当たると痣が出来る位だけど勿論辺りどころが悪いと死ぬわ」

 

「……弾幕ごっこ(・・・)なのにか?」

 仁はこの時何故か一種の狂気のようなモノを感じた。遊びで人が死んでしまう辺りには仁は無邪気は時に凶器になるという事を感じていた。

 

「そうね……けれども滅多に死ぬことなんて無いわ。」

 そんな事になるなら私と母さんが直ぐに取り消していたわ。と言いお茶をすすった。

 

「それじゃあスペルカードルールって何だ?」

 

「スペルカードルールっていうのは弾幕ごっこの文字通りのルールよ」

 

「それで?」

 

「そのスペルカードルールは………

 

 ~30分後~

 

「まあ、こんぐらいかしら。どう仁、弾幕ごっこのルールは分かった?」

 隣で机に伏せながら寝ている魔理沙を無視して霊夢は聞いた。

 

「あ、ああ。大体の事は分かった…けれど一つ忘れていた事が有るんだけど良いか?」

 

「良いけど。忘れていた事なんて有ったかしら?」

 と霊夢は首を傾げていた。

 

 

「俺のあの武器を出す能力の名前ってどうすれば良い?」

 仁にとっては弾幕ごっこの説明も重要だったがそれよりも彼の中では先ほどから優先順位がそちらに行ってしまっていた。

 

「名前をどうすれば良いかって言われても、その能力がその銃って武器をだすだけじゃないと思うし何回かその能力を試してみたら?」

 

「能力は俺の予想通りだと……こうか!」

 そう言うと仁は立ち上がり先程の様に手のひらを上に向ける格好で能力を使った。

 

「……これは日本刀…だよな?」

 その仁の手の平にはゲーム内でよくみるモノよりも少し刀身が長く柄に鳥が描かれてる日本刀が現れた。

 

「刀もでるのね」

 

「そうみたいだな、んじゃ次は、っと!」

 次に仁はアサルトライフル系統の銃を持つ構えをした。そして仁はゲーム内でのお気に入りの銃の想像をした。

 するとやはり光が現れその構えに合うように銃の形を作り終えたら弾けて消えた。

 

「何だそれ?さっきの銃と全然違うな」

 と、いつの間にか起きていた魔理沙が言った。

 

 出てきたのはドイツ製のアサルトライフル【G36】と呼ばれる銃だった。

 

 そして仁は先程出た武器達に全て触れるように手を置いたそして頭の中で仁は消えろと言ったすると仁が触っていた武器は光の粒子となって消えた。

 

「よしっ!この調子でどんどん出すぞ!」

 

 

 ~10分後~

 

 その後、仁は中世に使われるような剣を出したり手榴弾などの爆発物や更には暗視装置のような装備品そして武器のアタッチメント等を作り出していた。そしてそれらの武器を扱うとき仁は初めて触ったのにも関わらずその武器の扱い方を見に覚えが無いのに知っている事にも気が付いていた。

 

「……改めて見ると貴方の能力って凄いわね」

 

「自分で言うのもなんだが確かにな…」

 

「あとその銃を使うとどうなるの?」

 と霊夢が仁の横にある消さずに置いてあるG36を指差しながら言った。

 

「いやちょっと待っててくれ」

 そう言うと仁はG36を持ちマガジンを抜いて中身を確認した。

 

「……やっぱりか」

 分かりきってはいたがやはりマガジンの中身は実弾だった。

 

「悪い霊夢、こいつは弾幕と違って確実に人を殺すモノで、下手に使うことが出来ないんだ……」

 さすがに仁にはそんなものをバカみたいに撃つことは出来ないのだった。

 

「なあ仁、その銃ってやつで弾幕出すことは出来ないのか?」

 唐突に魔理沙が仁にそんなアイデアを出した。

 

「……え?」

 

「いや、だからその銃って武器で弾幕出すことは無理なのか?」

 

「確かに、そのアイデアは良いわね。この前の永遠亭の医者の弓矢とかあの半人半霊の庭師が刀でも弾幕を出していたから、不可能では無いと思うわ」

 

「いや弓矢は分かるけど、刀ってなんだよ…でもそれをどうやって銃で?」

 刀と弓矢の事が気になったがそれよりも先にその疑問を優先した。

 

「さっきみたいに作る事は出来ないの?」

 

「一応やってみるよ……」

 そう言うと仁は立ち上がり、能力を使う前に頭の中で多少のイメージをした。

 

(弾幕か…さっき霊夢は弾幕には霊力を使うって言ってたから、マガジンの役割は霊力を溜めておく場所ってとこかな……)

 この時点で彼は霊力の使い方を全く知らないので、この弾幕を撃てる銃を作るのは、ほぼ賭けのようなモノだった。

 

「よしっ!イメージは出来たから次は作ってみるか」

 そして仁は銃を構える様な格好をした。すると光の粒子が銃の形を作り出し、先程と同じように弾けるように消えそこに有ったのはさっきと同じ銃ー【G36】だった。次に仁は博麗神社の外に出て庭から50m離れた木に狙いを付けた。

 

「霊夢!魔理沙!もしもの時に備えて耳塞いでてくれ!」

 と仁はろくに自分の対策もせずに言った。

 

「「分かったわ(ぜ)!」」

 何で耳を塞ぐのか分からなかった二人の少女は言われるがままに耳を両手で押さえた。

 

 そして仁はゆっくりとG36のトリガーに指を架けた。

 

(頼む、上手くいってくれ!)

 そして仁は銃のトリガーを引いた。

 

 するとG36はタン!!というモデルガンのような音を出し銃口から薄い赤色の光弾を撃ち出した。その時仁はまるでモデルガンの様な音にも関わらず反動を感じていた。

 

「仁!やったぜ!成功した!」

 と博麗神社の居間に居る魔理沙が大喜びしながら叫んだ。

 

「やったぞ!魔理沙!」

 当然仁も喜んでいたが格好はそのままにして首だけを博麗神社の方に向けて叫んだ。

 

「良いじゃない仁!」

 霊夢は何故かまだ耳を押さえながら言った。

 

「霊夢もう耳は大丈夫だぞ!とりあえず俺はもう少しやりたい事が有るから!」

 そう言うと仁はまたG36を構えて木に狙いを付けて撃った。するとG36は本来の装弾数の30発(今は一発撃ったので29発)撃つとG36はカチっと音を発てて光弾を出さなくなった。

 

(なるほど装弾数は元々の銃と一緒になるのか、って事は拡張マガジンとか付けたら弾数増えるのかな?)

 そう言うと仁は右手でマガジンを取り外し、それを消したあと新しいマガジンを作りだしG36に装填した。そして同じように木に向かってトリガーを引くとG36はタタタンという音を出しながら光弾を撃ち出した。

 

(よし、これも成功と)

 次に仁は的にしていた木の近くに行き弾幕が当たった箇所を確認した。弾幕が当たっていた所には幾つもの弾痕が出来ていたがどれも見た感じ殺傷力があまり高そうではなかった。

 

「これぐらいなら大丈夫かな…」

 そう仁はその木に触りながら呟いた。

 

「おーい仁!霊夢がお前の能力の名前を考えたぞ!」

 と魔理沙が神社の縁側から叫んだ。

 

「分かった!直ぐに行くよ!」

 そう言うと仁はG36を消し神社の方に向けて駆け出した。

 

 

「それじゃあ仁、今から私が決めた貴方の能力の名前を発表するわ」

 

「あ、ああ頼む」

 

「仁、貴方の能力は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありとあらゆる武器を作りだしそれを操る程度の能力』よ」

 

「……長くね?」

 

「しょうがないでしょ、貴方の能力を見ているとそうとしか言え無いんだもの」

 そういうと霊夢はお茶を飲み始めた。

 

「ありがとうね霊夢。これで私が動く手間が無くなったわ」

 と、仁の横から大人の女性の声が聞こえた。

 

「うおっ!紫いつの間に!」

 仁の横には紫のゴスロリドレスを着た女性が座っていた。そして前に居る少女達はやはり慣れているのか特に驚く様子が無く、くつろいでいた。

 

「あんたねぇ、寝坊しておいてそれは無いわよ……」

 と、霊夢がジト目で紫に言った。

 

「ごめんなさいね、この時期はどうしても起きるのが難しいのよ」

 

(子供か!)

 仁はあえて心の中で紫にツッコんだ

 

「そういや紫の能力は何なんだ?」

 と唐突に仁が言った。

 

「そう言えば、言ってなかったわね……私の能力は『境界を操る程度の能力』よ」

 

「境界?」

 

「簡単に言うと壁みたいなものよ」

 そう言うと紫は自身の横に昨日使っていた例の謎空間を作り出した。

 

「これは『スキマ』と言って私の能力で作られたモノよ。このスキマは移動や収納や罠にも使える便利なモノよ」

 と最後におかしな単語がまじっていた気がするが仁はとりあえず無視して聞いた。

 

「それよりも紫、俺はちゃんと家には帰れるのか?」

 もう少し紫の能力について仁は聞きたかったがやはりこの事について聞いておきたかった。

 

「安心なさい、もう少ししたらちゃんと帰すわ」

 

「それじゃあ此処に来るときはどうすれば良いんだ?」

 多少忘れかけていたが仁には妖怪退治をするという仕事があるのでその件でも幻想橋に訪れる事が有るかも知れないのでこの事についても知っておきたかったのだ。

 

「実はさっき貴方の部屋に行って、そこから幻想郷に通じる扉を作っておいたわ」

 

「そうなんだありがとう…じゃねぇよ!!何してくれてんだお前!!見つかったらなに勝手にドア付けとんじゃワレェ!って怒られるの俺なんだぞ!」

 仁は興奮しながらこの年(もう少しで終わるけど)で一番のツッコミをした。

 

「大丈夫、私がその扉に細工をして他の人には見えない様にしてあるから」

 

「それなら良いけが。あとその扉は何処に繋がるんだ?」

 扉を開けたら女性の着替え中という体験談をある友達から聞いていた仁はそう言うことにならないように対策をしたのであった。

 

「それなら貴方の後ろの壁に取り付けてあるわ」

 と、仁の後ろの壁に指を指しながら紫は言った。

 

「はえーよ仕事が……」

 

「いつの間に付けていたのよ!で、その扉は何処に有るの?」

 確かに仁には後ろにある名前は分からないが明るい色をした木材で作られた洋式のドアが見えるのに霊夢にはまるで見えていないような反応だった。

 

「なあ紫、これがさっき言ってた細工ってやつか?」

 壁をペタペタと見えない扉をさわろうとしている霊夢とそれを見ている魔理沙を見ながら仁は紫に聞いた。

 

「そうよ。それで今のところこの扉が見えるのは私と貴方だけね」

 

「まあとにかく、これで何時でも家に帰れるってことか」

 

「そう言うことね。あと仁、貴方の能力で刀は作れるのよね?」

 

「ああ、使えるけどせいぜい初心者に毛が生えた程度でしか扱えないんだよ」

 とそう言うと仁は特に意味もなく刀を作りだして紫に見せた。

 

「それじゃあ丁度良いわ。貴方来週の土曜日に幻想郷に来て頂戴」

 

「えっ!何で?」

 

「ちょっと貴方に会わせたい人達が居るのよ」

 

「ま、まあ良いけど」

 

「それで良いわ。じゃあ私はこれで」

 そう言うと紫は立ち上がり扇子を取り出した。

 

「じゃあ俺も行くよ」

 

「ええ、それじゃあまた会いましょう仁。あっ、そうだ仁貴方の荷物そこにあるから持っていきなさい」

 

「じゃあな仁、また今度な!」

 と霊夢と魔理沙は言った。

 

「ありがとう!んじゃまたな!!」

 と、仁は自分と紫にしか認識出来ない扉を開けて中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 扉を開けるとそこは仁の部屋ではなく紫の『スキマ』のような空間になっておりその空間の奥に入る時と同じような木の扉が置いてあった。

 

「……俺の部屋だ」

 その扉を開けると仁が住んでる家の仁の部屋だった。

 

「まあ紫が言っていたし、ここに着くのは当たり前か…」

 すると仁の携帯のメッセージアプリの通知音が鳴った。

 

「誰だろ……って紫かよ!?」

 そこには確かに紫の顔を模したような首だけのキャラクターのアイコンで名前に『ゆかりん☆』とついておりメッセージ欄には『ここからも指示したりするからよろしくね』とあった。

 

「ったく、いつの間にやったんだよ」

 ハァーと溜め息をつくと仁はその扉の横にある勉強机に向かった。

 

(にしても俺、トンでもない所に行ったな…夢みたいな時間だったな。何か懐かしい感じがしたのはなんでだろうな…)

 

「……そうか、父さんと母さんは2日・3日家空けてるんだったな」

 

「ま、とりあえず勉強しねーとな。さすがに慢心は駄目だしな」

 只今の時間、午前11時で勉強を初める時間には少し遅いが受験生である『普通の高校生』になる予定の仁は時間なんぞ気にせずに勉強を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~六時間後~

 

 

 仁は食事や休憩を挟みつつも慣れない勉強を約六時間もやっていたため、彼は某ボクシング漫画の主人公のように真っ白になりそうなオーラを放っていた。

 

 

 

「いや、さすがに頭が持たねえよ……」

 と、机に伏せながら仁は呟いた。するとプルルル!という一階にある家に備え付けられている電話が鳴り出した。

 

「ん?誰だろう」

 そう言い仁は机から離れ電話の番号を見ずに受話器を取った。

 

「もしもし神川です」

 

『もしもし仁、私だよ。』

 その相手の声はとてもダンディーな老人の声だった。

 

「あっ!爺ちゃん!どうしたの?」

 その声の主は仁の祖父の神川 謙二《かみかわ けんじ》だった。

 

『いや、少し様子が気になったもんでね。どうだ勉強の方は?』

 

「も、勿論大丈夫だよ」

 

『本当は?』

 

「数学が壊滅的です…」

 

『ハハハ!そんなことだろうと思ったよ、そうだ仁、近いうちに夢美の所に行ってきたらどうだ?アイツなら教授だからな、教えるのも上手いだろ…多分な』

 先程のようなシリアスな口調とはうってかわり謙二は陽気な口調に変わった。

 

「分かったよ、来週の金曜ぐらいに行ってくる」

 

『じゃあ夢美に会ったらよろしくいってくれ』

 

「あ、そうだ爺ちゃん。一つ良い?」

 

『ああ、なんだ?』

 

「そういえば爺ちゃんと教授はどういう関係?」

 

『……夢美は私が考古学者をやっている時の助手をやってもらっていてね。私の助手を始めた時は彼女は20歳だったのだが、その年齢で助教授を取れると言われていてね始めて聞いた時、私はとても驚いたよ、だがそれと同時に彼女に私の助手をやってもらいたくてね。それで頼んだら『喜んで助手を勤めますね!』って言って私の助手を引退まで勤めて貰ったのだよ』

 

「それで爺ちゃんのインディージョーンズみたいな訳の分からない調査に付き合わされたのか……」

 

『し、仕方が無いだろう、遺跡の中の洞窟に入ったら、そこが罠だらけの古代の人が造った宝物庫とは知らなかったんだから!』

 

「それは入る前に、爺ちゃんがしっかり調べなかったんだから悪いだろ…」

 

『と、とりあえず、私から一つだけ言うことがある…と言いたかったがあまりいい言葉が見付かんなかったから簡潔に済ます!』

 若干話を反らしつつ謙二は話を続けた。

 

「何?」

 

『仁お前なら大丈夫だ!元学者の私が言うんだ安心しろ!』

 と少々声を上げながら謙二は仁に精一杯のエールを送った。

 

「…ありがとう爺ちゃん、」

 

『とにかくネガティブには絶対になるなよ仁』

 

「ああ、俺頑張るよ!」

 

『良いぞ、そのいきだぞ!』

 

「それじゃあ爺ちゃん、またね」

 

『ああそうだ仁、夢美に宜しく言っといてくれ』

 

「さっき聞いたから大丈夫だよ」

 

『そうだったかな?まあ良いか。それじゃあまたな仁』

 

「うん、じゃあな爺ちゃん」

 と仁はカチャと受話器を置いた。

 

「んじゃ、もう一息頑張りますか」

 そう言うと仁は再び勉強机に向かった。




今回はえらく長めで内容がとてつもなく詰め込んでいる気がします(-_-;)
それと次回から小説内で登場する武器の説明を後書きに入れたいと思います
(今回は本編が長かったので次回に書きますお許しを!)

誤字・脱字・変な文が有ったらご指摘をしていただければ幸いです

それではこんな小説を読んで頂きありがとうございました(^.^)


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岡崎教授

前回で予想が付くと思いますが今回は旧作の例のキャラが登場します


 ~次の水曜日・とある中学校にて~

 とある中学校のある教室にて二人の中学生が俗に言う『帰りの会』が始まる前の時間で、午後の授業の文句を言っていた。

「さすがにおかしい……体育の次に国語とか……なんだ、俺らにとっての罰? 俺ら何かしたっけ……?」

 そのうちの一人の“神川仁”は教室の窓際の席で溜め息混じりに言った。彼が言うように、

「おまけに国語の先生の喋り方が念仏みてえだから余計にだ……」

 そう言ったもう一人の中学生は仁の前に座っている“新井幸太”(あらい こうた)。

「なあ幸太、お前受験勉強はどうだ?」

「完璧、と言うと思ったか? この俺のバカは何やっても直りませんよ……」

 そう言うと幸太はハァーと溜め息をついた。

「まぁ、俺ら一緒の高校だから一緒に頑張ろうぜ」

「そうだな……そうだ仁、今日勉強会しようぜ! お前の方が頭良いし、俺に教えるのをメインに!」

「聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたんだが……まあ、今日知り合いの教授の所に勉強教えてもらいに行く予定だけど、付いてくるか?」

「何で、大学の教授と知り合いなんだよ!?」

「爺ちゃんの助手やってた人で、面倒見てもらっていた事があるから、たまにその人のところで勉強教えてもらってるんだ」

「それは良いな……」

「で? どうする、来るのか?」

「勿論付いていかせてもらいたい!」

「じゃあ、帰ったら直ぐに俺の家に来てくれ」

「了解!!」

「ほら、帰りの会始めるぞ!」

 そして仁達の担任の声がしてホームルームが始まった。

 

 

 

 ~30分後・仁の家~

 仁の家の前には私服姿の幸太が立っていた。

「おーい仁、居るか?」

 そう、インターホンを押しながら幸太は言った。

「おー、悪い悪い。待たせたな」

 ガチャっと扉が開き、中から同じく私服姿の仁が出てきた

「んじゃ行くか……って何で行くか考えてないぞ、どうする?」

 と仁が部屋の鍵を掛けながら言った

「どうするか? ま、とりあえずバスで行こうぜ」

「そうだな、早く着けばそれだけ勉強出来るし!」

 ハハハと二人は笑いながらその教授の居る大学に向かうべく、最寄りの電車の駅のロータリーに向かった。

 ここで一つ言いたいことがある、この二人は基本バカである。これのせいで二人は後々不幸……と言うか只の不注意のせいで痛い目にあう事になるのをまだ彼らは知らない。

 

 

 ~20分後・とある大学~

 

「ここが仁の知り合いの教授が居る大学?」

 と、大学内の廊下を歩きながら幸太は仁に聞いた。

「当たり前だろ。なんで、んな事聞くんだよ」

「いや、この大学ちょっと大きすぎないか?」

 幸太がそう言ったのにも訳がある。今の彼らは受験生といっても、受けるのは高校受験だ。高校のワンステップ先の大学のことなんて、テレビなどでしか知らないのだ。だから、初めて間近に見る大学は彼にとっては未知の世界だった。

「そうか? こんぐらい、普通だと思うけどな」

 そう言うと二人は三階にある仁の知り合いの教授の研究室に向かうべく大学のホールの右側にある階段を登り始める。

「そういえば仁、その教授はどんな人なんだ?」

 階段を登りながら幸太は少し前に居る仁に聞いた。

「まあ明るい人だよ、それとバカみたいに赤い……かな」

「赤い?」

 この時、幸太は仁の言ってる『赤い』が熱血などの精神的な物だと思っていた。もし男性だとしたら、ソチを雪不足にした熱い人物ような教授なのだろう。

 そして二人は三階まで階段を登ると右の通路を進んだ。

「この研究室に知り合いの教授が居るんだ」

 そう言うと仁は至って普通のガラスの扉の前で止まった。

「こんにちは! 教授! 居ますか?」

 と、言いながら仁は扉を開けた。

「赤……い、赤い!?」

 幸太の視線は研究室のテーブルの横にある椅子に座り白衣を着た―恐らくは仁の言っていた教授と思われる三十代前半の女性を捉えていたが、その人物の外観を見たまま絶句していた。その女性を白衣を身につけていたが、問題なのはその下だ。白衣の下の服は赤く派手な色合いで、赤毛……と言うのは無理があるほどの鮮やかな赤色の髪を三つ編みにしている。そして何故か目も赤く、ホントに肌と白衣以外が全てが赤に染まっている文字通り“赤い”女性を見たからだ。

 入口にいる二人に気づいたのか、"教授”は視線を二人に移すと、

「あら、いらっしゃい仁。あら、その子はお友達?」

 優しく、そして

「お邪魔しています。で、こいt……っておい幸太、大丈夫か!?」

 と仁は横で口を開けたまま硬直している幸太に言った。

「はっ! 俺は何を!?」

「フフフ、何故か私を見ると皆そういう反応をするのよね」

「いやそれは教授がそんな格好だからですって……」

 二人はそんな会話を続けてはいる。内容からして、以前からその奇抜な見た目に驚く人物も少なくはないのだろう。

「は、はぁ、とりあえず。初めまして、新井幸太と言います」

 と、若干緊張気味の幸太だったがとりあえず自己紹介を済ませる。

「初めまして幸太君、私の名前は岡崎夢美《おかざき ゆめみ》。この大学で主に歴史と物理系にについて教えてるけど、今は歴史ばっかりだけね」

 そう言うと赤い女性―夢美は、少年二人を研究室側面に配置されたテーブルへと案内する。

「で、今日は何しに来たの?」

「今日はちょっと勉強を教わりたくて」

「別に良いわよ。丁度、論文が進まなくなってきてたから息抜きにちょうど良いしね」

 そう言うと夢美は二人の少年を研究室の側面に配置された会議用テーブルに案内する。

「そういえば夢美教授、質問良いですか?」

 と持ってきた教材を出しつつ、幸太は言った。

「良いけど何?」

「何で教授はそんなに赤い格好を?」

 物凄くストレートで、ある意味地雷ともとれる。

「し、趣味よ趣味!」

 と、何故か夢美は照れながら言った。

「な、なるほど」

「そういえば君達はここまでどうやって来たの?」

 と夢美が仁と幸太に聞いた。

「バスで来ましたよ」

 と仁がノートから顔を逸らしながら言った。

 

 

 

 

 

「だとすると君達、どうやって帰るの?」

「それは勿論バスで……あっ」

 仁は何かに気付いたように言葉を失った。

「あっ、て、どうかしたのかじn……あっ」

 と仁と同じ事を気付いた幸太が言った。

「もしかして忘れてた?」

 そして追い討ちをかけるように夢美が言った。

「「大道芸ワールドカップ!!」」

 そして二人の少年は仲良く絶叫した。

 なんで10月に大道芸ワールドカップ? と思うかも知れない。本来、大道芸ワールドカップは11月初旬に開催されるのだが、11月だと寒さのピークがやって来たり、外国人の人達にも日本の秋を味わってほしいとのことで最近1ヶ月早まり10月に変更されたのである。

 なぜ二人が叫んでいるかって? 理由は単純、今日は開催期間の準備などもあり世界中から人が集まるのだが、問題はの運営のボランティアの方たちである、早めに静岡に来てそのまま一夜を過ごして、翌日の早朝から活動するというボランティアの方々が多くいるため、仕事が終わり少し休んでから行くかと出発する人がバスや自家用車で来るもので夜の道路は大変にぎやかな事になるのだ。

「全く、貴方達ニュースや広告で見なかったの?」

 と夢美は呆れるように、目の前で項垂れたまま静止している少年二人に言う。

「まぁいいわ……それじゃあ貴方達帰るときは私の車に乗りなさい」

「「えっ! 良いんですか?」」

 またもや仲良くハモりながら二人の少年は顔を上げる。

「その代わり8時まで勉強詰めよ。分かった?」

「「分かりましたぁ!!」」

「よろしい。それじゃあ分からない所が有ったらどんどん聞いてね」

 そして勉強会が始まった。

 

 

 

 ~約三時間後~

 

「はいっ! 三時間お疲れ様!!」

 と夢美が自身の真っ赤な腕時計を見ながら言った。

「やっぱり英語は……無理」

「まぁ受験までにはなんとかしねーとな……」

「それじゃあ、私に付いてきなさい、送ってあげるから」

 そう言うと夢美は研究室の壁のハンガーに白衣を掛け代わりに赤のコートを着る。より一層、派手な見た目となった、夢美の背中を二人は追いかけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~とある大学・駐車場~

 

 そして仁達は大学の駐車場に居たが意外な事にまだ大学では研究室で研究に没頭している教授が居たり8時が過ぎてもサークルの活動をしている大学生が居たりと意外と賑やかだった。

「この車よ」

「まぁ、そうだよな……」

 そう言う幸太の目の前にはこれまた真っ赤なスポーツカーが駐車されていた。

「席は自由にして良いわよ」

「んじゃ、俺は前に乗ろーと」

 と仁は助手席に。

「じゃあ俺は後ろか」

 幸太は後ろの席に。

「それじゃあ行くわよ」

 そう言うと夢美は車のエンジンをかけて出発した。

 

 

 

 現在、仁たちは渋滞を避けるために住宅街を進んでいた。

 

「ねぇ仁、ちょっと良い?」

 突然、運転席の夢美が声を掛けた。

「何ですか?」

「仁って最近、何か良いことでも有った?」

「確かに何時もよりもお前、顔が緩んでるんじゃないか?」

 と、幸太が後部座席から顔を覗かせて言った。

「い、いや特になんにも……というか何だよ緩んでるって」

「あら、ホントに? 今日の仁は何か何時もよりも明るい気がしたのだけど?」

 口元を緩めて、ニヤリとしながら夢美は言った。

「気のせいです!」

「っと、ここかしら?」

 と、真っ赤なスポーツカーはまず幸太が住む家の前に止まった。

「そ。じゃあ、ありがとうございました教授!」

 そう言うと、幸太はシートベルトを外し助手席から降りた。

「じゃ、また来週」

「おう、またな!」

 その二人の言葉を聞くと夢美は車を発進させた。

 

 

 

「そういえば先生は今もあのデカイお屋敷に住んでる?」

 また、しばらくすると夢美が口を開く。先生、というのは仁の祖父のことだ。

「相変わらず、あの屋敷に籠ってる」

「相変わらず、か―……まぁそんな気がしたわ。最近会いに行けてないからそろそろ行かないとなぁ……っと、着いたわよ仁」

 神川家の前に車が着くと、仁は助手席から降りて車の前をまわって運転席の横に来ると、

「それじゃ教授、ありがとうございました。多分また行くんでそんときもお願いします」

「任せなさい。それじゃあ今日も(・・・)しっかりと休んでね」

 と、夢美は運転席の窓から顔を出しながら言い、仁の返事を聞くこともなく去ってしまった。

 

 そして仁と幸太にとっての何気ない、いつもの1日が終わった。




……夢美教授のしゃべり方合ってますかね?
それと大道芸ワールドカップの開催期間は独自設定ですのであしからず。
と、とりあえず前回言った武器紹介をしようかと思います。
今回だけは前回の武器を紹介をしますが、次回からはその話に登場した武器を紹介したいと思ってます。

あっ、文字数が大変な事になるので簡易的デス。(ゴメンナサイ!)
 
【H&K G36】

種別 アサルトライフル

全長 999mm 重量 3.830g

口径 5.56mm

装弾数 30発

製造国 ドイツ (H&K社)

この銃の外見最も特徴的なのは持ち歩き用のアーチ型の取っ手デス、この取っ手にはスコープが内蔵されているそうです。そしてこの銃はとにかく頑丈でH&K社のデモンストレーションではG36を土に埋め、それを掘り出して軽く土を払った程度で射撃を行ったり、(限定的だが)水に浸けても射撃時の支障が無いなど、過激な状況でも動作性能が良く、おまけに制度も高いという、こんな最強(言い過ぎかな?)と言っても過言ではないG36だが実はこの銃には致命的な欠陥が存在するのだ。実はこの銃、熱が伝わりやすい設計になっており射撃時にフルオートで撃ちすぎるとこの銃の売りの一つのポリマーフレームが熱で変形してしまい、命中精度が大幅に落ちてしまうということ……それにこの銃は政治的にもうんたらかんたら色々とあり、現在G36を使用しているドイツ軍ではあまり評価は宜しくないそうです、けれどゲームやドラマでもよく登場しており非常に人気がある銃となってますね。 


誤字脱字が有ったらご指摘していただくと幸いです。それではこんな小説を読んで頂きありがとうございました。

(2019/06/10)
全体的に、修正しました


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第一章~幻想に住む者と幻想に誘われた者
白玉楼にて


最近学校で忙しくて小説書く時間が無くなりつつ有ります(~_~;)








頑張んなきゃ(ボソッ


 ~土曜日・仁の自宅~

 

 自分の部室で神川仁は先週、幻想郷で八雲紫に幻想郷に来いと言われたので、仁は幻想郷に行くための準備をしていた。

 

「とりあえず必要そうな物は一通りバックに押し込んだが……一体、紫は俺を誰に会わせたいんだ?」

 そう言う仁の前にはリュックサックが置いてあり、リュックの中には水筒や懐中電灯に上下の黒い服、そして何故か非常食などが入っていた。

 意外に心配性の仁は荷物を整え終わり。仁は次に紫に来いとは言われたが時間という待ち合わせに結構重要な事を聞かされていないのを思い出した

 

「それにどこに来いとも言わなかったしなかったしな、ひとまずメールは…案の定、質問の既読は付いてないか…と言うかまだ8時か……ま、とりあえず9時に出発しようかn

 

 

 仁はスッと部屋の床に出来た『スキマ』の中に悲鳴を上げる猶予さえ無いままリュックごと吸い込まれる様に落ちていく。

 

 

 

 

「うおっ!痛てっ!?」

 ドスっと仁は土の地面に尻餅を突くように落ちた。

 

「まったく、来るのが遅いから、この方法を使っちゃったじゃない」

 落ちた先には紫が立っており。そう言いながら仁の事を見下ろしている。

 

 

「『使っちゃった』じゃねえよ!下手すりゃ俺の腰壊れるだろ!」

 仁は立ち上がり服に着いた土を払いながら周囲を見渡す。

 

「って何だここ?」

 仁の目の前には木造で平屋の屋敷があった、そして周囲にはまだ昼なのに白い色をした光の塊のようなモノが沢山浮かんでいた。

 

「それじゃあ仁、行くわよ」

 紫はその屋敷の中に入っていった。

 

「あっ、ちょっと待ってくれ!」

 と、仁も着いていった。

 

 

 

 

「広っ!っというかここは何処なんだ紫?」

 仁は屋敷の長い廊下を歩きながら聞く。

 

「ここは私の友人の屋敷で、『白玉楼』と言うのよ」

 そう言うと紫は廊下の横にある障子を開けた。

 

「あら、紫来てたのね」

 障子の先の部屋に居たのは青色のゴスロリ風の浴衣を着ていて、頭には服と同じ色で紫に似たような帽子を被っていた。、その帽子の上から三角の布を着けた桃色の髪の少女だった。

 

「この子が、この前連れてきた外来人よ」

 

「それじゃあ、貴方が仁くんね、紫に話は聞いてるわ。私は西行寺 幽々子《さいぎょうじ ゆゆこ》。この白玉楼の主よ」

 宜しくね。と幽々子は立ち上がり仁に握手を求めた。

 

「は、はい。宜しくお願いします…」

 若干照れながら仁は握手に応じた。

 

「それで紫、今日はどうしたの?」

 

「今日は、妖夢と仁で模擬戦をしてもらいたくて、来たのよ」

 

「妖夢って人は一体?」

 

「待ってて、今呼ぶから」

 と幽々子は廊下に出て何処かに行ってしまった。

 

「と言うか紫、何で模擬戦をやるんだ?」

 

「…察しが悪いわね、とにかく今の貴方だと私が言った妖怪退治は貴方には無理って事は、貴方自身が一番分かるわよね?」

 

「そ、それは……」

 仁は能力を得たと言っても、それに仁は今のところ妖怪に傷の一つすら付けることが出来ない弱い人間なのだ。

 

「だから貴方を、戦闘に慣れさせるのと同時に武器を上手く使ってほしいから、模擬戦をやってもらうのよ」

 

「それは分かったけど、あんたが言ってた妖夢って誰なんだ?」

 

「その内分かるわ。…ほら来たわよ」

 廊下からドタドタと足音が聞こえ、その足音は仁達の居る部屋の障子扉の前で止まった。

 

「何ですか、幽々子様!いきなり連れてきて!」

 と扉の向こうから少女の声がしたと思ったら障子が開き、そこから幽々子ともう一人の少女が入ってきた。

 

「この人が妖夢と手合わせをする、神川仁くんよ」

 その妖夢と呼ばれた少女は白いシャツに青緑色のベスト、そしてスカートを履いており胸元には黒い蝶ネクタイ、髪の毛は銀色のボブカットでリボンを付けている。そして特徴的なのは背中に背負った長い刀と短い刀、そして傍らにいる半透明の白い物体だった。

 

「貴方が仁さんですか、紫様からは聞いています。私はこの白玉楼の庭師兼幽々子様の警護役の魂魄 妖夢《こんぱく ようむ》です、よろしくお願いします」

 

「ああ、宜しく」

 と二人は軽く挨拶を交わした。

 

「それで幽々子様、一体なんで私と仁さんで手合わせを?」

 

「妖夢には仁に剣術を教えて貰いたいのよ」

 

「わ、私はまだまだ未熟です!人に教える程の技量なんて私には……」

 

「大丈夫よ、貴女の『剣術を扱う程度の能力』はそこらの刀を使う人間よりも何百倍も良いわ」

 と紫は妖夢の刀を扇子で指しながら言った。

 

「……分かりました、それでは私に出来るところまで教えます、……でも仁さんあまり期待はしないでくださいね」

 

「大丈夫ですよ、それに教えてくれるだけでありがたいです」

 と珍しく丁寧な口調で仁は言った。

 

「それでは始めますか。仁さん、まずはそこから外に出てください」

 妖夢は仁達の居る部屋の縁側を指差しながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの能力は紫様から聞いているので、最初は手合わせなので、どんな武器を使っても構いませんよ」

 と妖夢は長い方の刀を構えながら言った。

 

「それじゃあ、遠慮なく」

 仁はそう言うと両手に一丁ずつ『Vz 61』通称『スコーピオン』と呼ばれる小型のサブマシンガンを作り出した。

 

「では……行きます!」

 ダンッ!と妖夢は仁の居る方向に駆け出した。

 

「早い……!」

 そして仁は両手に持ってる『スコーピオン』を妖夢に向け、一気に撃った。

 

「っ!何ですかそれは!?」

 妖夢は秒速317mの弾幕をかわしながら(!?)言った。

 そして、両手のスコーピオンを撃ち続けるが、10秒も経たずにスコーピオンから弾幕は放たれなくなった。

「弾切れ!?やっぱ二丁はダメかよッ…!」

 両手の『スコーピオン』を地面に落としながらに消すと仁の手の中に同じ種類のサブマシンガンを作った。

 この行動は二丁持ちのデメリットの一つであるリロードのしずらさを解消するためである。

 

「遅いです!」

 そして妖夢はその一瞬の内に仁の懐に入り込み、仁の両手にある『スコーピオン』を器用に刀で弾き、仁の手から銃を離した。

 妖夢は仁に刀を突き付けながら言った。

 

「一本ありです」

 

「まだまだぁ!」

 仁はそう叫ぶと切れ味の無い日本刀(安全の為)を右手に作り出し、妖夢の刀を弾き切っ先を自分から反らした。

 

「確かに刀はある程度使える様ですが。まだまだです。それに刀の扱いが雑すぎます」

 と静かに言うと妖夢は先程と同じようにに仁の手中の刀を弾く、次に妖夢は仁の背後にサッと回り込み、膝カックンのように刀の峰で叩き仁を前に倒した。

 

「……仁さん、模擬戦だからといっても、殺す気でなければ勝てませんよ」

 半ば呆れながら妖夢は仁に言った。

 

「何か……すいません」

 

「仁さん」

 

「はい……」

 

「練習しましょうか刀の」

 妖夢は満面の笑みで言った。

 

「お願いします、先生……」

 

 それから仁は午前中のほとんどを妖夢に一から剣術を教えて貰うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~30分後~

 

「ダメです!仁さん、だからもう少し優しく扱わないと刀が可哀想です!」

 

「す、すいません!」

 

 

 

 

 

 

 ~そのまた30分後~

 

「そんな無駄な動作は直ぐに止めてください!二度も同じ事を言わせないで下さい!」

 

「わ、分かりました!」

 

 

 

 

 と意外と妖夢は厳しく、ある程度、刀の使い方が分かる筈の仁でさえもこの有り様であった…。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ今日はここまでにしましょう」

 背中に背負ってある刀の鞘に刀を戻しながら妖夢は仁に言った。

 

「ありがとうございました……」

 と情けなく地面に倒れてる仁は言った。

 

「まあ今は時間が時間ですし、ここで昼食はどうですか?」

 

「えっ、良いのか?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

「あ、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

「あの……。妖夢、一つ良いか……?」

 と片手にお茶碗を持ちながら仁は正面に座っている妖夢に聞いた。

 

「何ですか?」

 

「いつもあの人(幽々子)はあんな感じなのか?」

 仁の見る方向にはどう考えても人間の1日の食事量を優に超えてる量の料理を食べている桃色の髪の少女がいた……。

 

「はい、いつもあんな感じです……」

 

「そ、そうですか」

 

 

 この時、仁は頭の中で(ピンク……よく食う……あれ?どっかのピンクの悪魔とキャラ被ってる?)とか考えていた。

 

「そう言えば仁さんの首のヤツは何なんですか?さっきからずっと気になってたんですよ」

 と妖夢は仁の首を指差しながら言った。

 

「ああ、これは俺のじいちゃんから貰ったお守りみたいなもんだよ」

 仁は首からロケットをとり、中身を開けながら妖夢に見せた。

 

「そうなんですか…、実は私が今使ってる刀も私のおじいちゃんから貰った物なんですよ、まぁそのおじいちゃんは霊夢と魔理沙のお母さんが消えたときと同じ年に居なくなってしまったんですけどね……」

 

「何かごめん…」

 

「大丈夫ですよ。それに多分今も元気で過ごしてると思いますしね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして昼食を終えた仁と紫は帰るために玄関に移動していた。

 

 

「それじゃあ、妖夢、今日はありがとう」

 

「また剣術を教えますので、定期的に来てくださいよ」

 

「りょ、了解……」

 と若干圧が掛かった言い方に仁はたじろいだ。

 

「それじゃあ、また何か用事が出来たら来るわね」

 

「そんな事言わずにいつでもいらっしゃい」

 

「それじゃあ。ありがとうな!」

 そう言うと仁と紫の二人は白玉楼を後にした。

 

 

 

 

 

 そして二人は白玉楼から少し離れている所にあるとても長い階段の手前に居た。

 

「そうだ仁、言い忘れていけど貴方の部屋のドアに仕掛けをしたわ」

 

「今度は何を?」

 なんとなく仁は予想がついていたが一応聞いた。

 

「正確にはドアノブにだけど、ドアノブをいじると博麗神社とこの白玉楼に繋げられるようにしたわ」

 

「何故!?」

 

「さっき妖夢が言っていたでしょう、仁には定期的に来て妖夢と鍛練をして貰わないと」

 

「了解です……」

 

「死なれてしまってはこっちが困るわ」

 

「分かってるよ…」

 仁の目は地面を見ており、何かに怯えているような印象があった。

 

「大丈夫よ、サボらなければ命は助かるわ」

 そして紫はスキマを2つ作り出した。

 

「ん?何で2つなんだ?」

 

「私は用事が有って、貴方には博麗神社経由で帰ってほしいのよ。だからこっちのスキマに入って行って」

 と紫は右のスキマを指差しながら言った。

 

「ああ、分かった」

 そして仁がスキマに入ると紫がこう言った。

 

「それじゃあ仁、また会いましょう」

 仁が答えるまもなく紫はスキマを閉じた。

 

 

 

 そのスキマの中は一方通行で出口らしき場所には博麗神社が見えていた。

 

(折角だし霊夢に顔出しとくか)

 仁がそう考えて出口に向かうと神社の方から何か声が聞こえてきた。

 

「決めたわ!私あのエセ巫女のところ行って一言、言って来てやるわ!」

 

「お、落ち着けって霊夢、あんなのほっとけば良いだろ?」

 

「いいえ、あんな事言われちゃ私の巫女として顔がたたないわ!」

 ドタドタと足音が聞こえ博麗神社の縁側に霊夢が出てきた。

 

「それじゃ先行ってるわよ!」

 そして霊夢は空に向かって猛スピードで飛んでいった。様子からしてスキマから出てきた仁には気付いていない様子だった。

 

「待てって言ったのによ……ん?なんだ仁来てたのか」

 

「なぁ魔理沙何が有ったんだ?」

 

「あぁ、これは霊夢に聞いた話なんだが。博麗神社に見慣れない人間が来たみたいで。そいつは霊夢に神社を『譲り渡せ』って言ったらしいんだ……」

 

「なるほど、だから霊夢はあんなに怒っていた、と」

 

「とりあえず私は霊夢を追いかけるけど、お前はどうするんだ?」

 

「俺も気になるし、付いてっても良いか?」

 

「分かったぜ、と言うか仁、そもそもお前、飛べるのか?」

 

「飛び方知らないので飛べません」

 もう泣きそうな顔で、仁は魔理沙に告げた…。

 

「しゃあない。ほら、私の箒に乗ってけ」

 

「…………え?」

 

「だってお前飛べないんだろ?」

 と箒に跨がりながら魔理沙は言う。

 

「イヤイヤ、違うそうじゃなくて!俺、男、だぞ!」

 

「私はそういうの気にしないから大丈夫だぜ、早くしないと置いてくぞ」

 

「ああ!分かったよ!乗りゃ良いんだろ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「でで、霊夢はどの方角にい、行ったんだ?」

 

「ははぁ。さては、お前高い所がダメだな?」

 

「う、うるさい!前見ててくれ!ああ、落ちる!落ちる!」

 と箒にまたがり、バイクの二人乗りの様に魔理沙の腰に手を回している仁が叫ぶ。

 

「ったく、あんだけ言ってたによ……っと、こっちの方向って妖怪の山か…霊夢め、ホントに面倒な事に巻き込まれてるのかよ」

 

「よ、妖怪の山って何だよ?」

 

「妖怪の山はな、まぁそのまんまの意味だな」

 

「て事は、妖怪がわんさか居んのか?」

 

「まぁ、そう言うことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、それって結構ヤバくね?」

 

「確かに天狗らに見つかるのはチョイと不味いな」

 

「何だよ天狗って!?」

 

「ん?あれって、河童か?」

 さらっと仁を無視した魔理沙の視線の先には川を仰向けになりながら流れている少女らしき影があった。

 

「てっ!おい助けないと!溺れちまうぞ!」

 

「河童は溺れないから、大丈夫大丈夫………なぁ仁、あの川の先にあるの滝だよな?」

 

「そうだな……ちょっと待て、それじゃあ余計ヤバイじゃねぇか!」

 

「んじゃ、行くか。仁ちょっと掴まってろよ!」

 

「おい!優しめで頼m…だああああ!?」

 と仁の必死の訴えは自身の悲鳴によって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ここは?」

 

「おっ、気付いたか」

 今三人が居るのは魔理沙に『河童』と呼ばれていた少女が流れていた川の横にある木陰だった。

 そしてそこには件の少女が寄りかかるように座らせられていた。

 

「うわっ!人間!!」

 その少女は仁達を見るなりクワッと目を見開いた。

 

「落ち着けって、俺達は何も危害は加えないよ」

 

「ほ、本当かい?」

 

「あぁ、そうだぜ!それに私達はお前を助けたんだからな」

 と魔理沙は自信満々に胸を張りながら言った。

 

「え?私達河童は溺ることは無いんだよ?」

 

「不思議に思うんなら、あれを見ろ」

 魔理沙は川の先を指差した。

 

「うへぇ…あれは滝かい…危ない危ない、いくら河童でも滝から落ちたらひとたまりないからね…」

 

 そう言うとその少女は立ち上がり服に付いた土を払いながらこう言った

 

「ありがとう盟友!私の名前は河城にとり《かわしろ にとり》宜しく!」

 そう自己紹介をした少女は白のブラウスにポケットが沢山付いた青の上着に同じくポケットが沢山付いたスカート、それらのポケットからは工具が顔を覗かせていた。

 

「宜しく。俺は神川 仁」

 

「私は霧雨 魔理沙だ、宜しくな!」

 

 三人が自己紹介を終えると、とある疑問について仁は聞いた。

 

「なぁにとり、何で君は川から流れてきたんだ?」

 

「実は、さっき紅白の巫女と戦って負けたんだ…」

 

「「霊夢!!」」

 

「ん?君達の知り合いかい?」

 

「あぁ、今俺達はその紅白の巫女を探してんだ」

 

「なるほど…先に言っておくけどこの山の奥には行かない方が良いよ…」

 

「何故?」

 

「この山の上の神社には私達妖怪にも手に追えないほどのヤツが居る…」

 

「何なんだ、そのヤツって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神だよ、この山に最近来た神社に外から来た神が居るんだ………」




今回は「東方風神録」に入りました!ちょっとスペルカードの表現や戦闘描写が心配ですが頑張って書いていきたいです!


さて今回紹介する銃は『vz 61』です!

種類 短機関銃

製造国 チェコスロバキア

口径 7.65mm

装弾数 10 20 30発(マガジンによる)

全長 270mm

別名スコーピオン


この銃の最大の特徴はなんといってもその短さと重量の軽さです。
そしてこの銃は自衛・護身用のサブマシンガンとして設計されました。
スコーピオンの別名の由来は銃のストックを折り畳む様子がサソリの姿を連想されたからだそうですね。そして今では主にKGBやスペツナズなどで使われており、それに警察やさらにはスパイにも使われているみたいです。(何故か自分はテロリストが使ってるイメージが有ったんですけどね(^_^;))

そして仁くんがこれを二丁持ちにした理由は

・相手は刀でなるべく近寄らせたくないためにレートの早い銃が必要だったため

・そしてそのレートの早い銃を使い弾幕を張ったとしても標準がぶれれば意味がないため

これらの理由から自分は軽くレートが早いスコーピオンを登場させました。(^.^)


さてと今回はこれで終わりにしますが銃の紹介ががばがばですが、宜しくです!

そして土曜日更新が出来なくなるかも知れないです・・・。(T_T)


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土着神

何だかんだ言っても高校生活は楽しいですねぇ~。(^^)


「神……?」

 確かに紫に幻想郷には神が居ると聞いた、だがそのような存在と実際に対峙

 するかもしれないという事にいまいちパッとしなかった。

 

「そう、正真正銘の神様がこの山の一部を占領して神社を作ったんだ…」

 

「そいつは酷ぇな…なぁ仁、まさか霊夢はそこに向かったんじゃ無いだろうな?」

 

「ありえる、十分ありえるぞ……!」

 もう頭痛がしてくんじゃねえかと言うほどの謎のストレスに襲われた仁は両手で頭を抱えた。

 

「ねぇ君達はあの神社に行くのかい?」

 

「あぁ。そのつもりだけどな」

 

「じゃあ君達がどうしてもって言うなら私が案内するよ…」

 

「本当か!でも良いのか?」

 

「うん、そもそも君達に助けてもらったお礼も兼ねてね」

 

「それじゃあ頼んだぜ、にとり!」

 そう言うと魔理沙は箒にまたがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~妖怪の山・??神社~

 

 

 妖怪の山に突如現れた謎の神社、その神社の中で二人の女性が室内で話し合いをしていた。

 

「それで幻想郷で唯一の神社には行ってきたか?」

 その声は大人の女性の声だったが言い方など、どこか威厳を感じさせるしゃべり方だった。

 

「はい、行って神社を空け渡すように言ったんですけど。やっぱり彼女にその意思は無いそうです」

 もう一人は少女の声でもう一人の女性の部下のような立ち位置で話していた。

 

「そうか……恐らく直にあの巫女はこの守矢神社にやってくるだろう。その時は早苗、お前に相手は任せたぞ」

 

「分かりました神奈子様……けれどここに来たばかりの私達があの巫女に勝てるのでしょうか?」

 

「問題ない、だってお前は現人神(あらひとがみ)なのだからな」

 

『ねぇ!居るんでしょこのエセ巫女!さっさと顔出しなさい!』

 

「なんだ、もう来たのか。それじゃあ早苗、後は頼んだ」

 神奈子と呼ばれていた女性はそれだけ言うと神社の奥に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~守矢神社の近くの森~

 

 

 

 

 

「この近くに神社があるよ」

 とにとりは神社があると思われる方角を指差しながら言った。

 

「ありがとうにとり。それでお前は、このあとどうするんだ?」

 と箒から降りた仁は多少ふらつきながら聞いた。

 

「私はここで別れるよ。面倒事には巻き込まれるのはごめんだからね」

 

「そんじゃ、ありがとうな~にとり」

 

「うん、君たちも気をつけて」

 

 大きく手を振りながら魔理沙と仁は川に飛び込んでいくにとりを見送った。

 

「で?どうする?」

 とにとりに教えられた方向に歩きながら仁は聞いた。

 

「どうするって何を?」

 

「だから、その例の神社に行ったらどうするんだ?」

 

「んー……まあにとりに聞いた感じ、その神社の奴等はあんまり社交的じゃあ無いな、とりあえず霊夢が弾幕ごっこをしてたら私達も加勢すれば良いと思うぜ」

 

「んな無茶苦茶な……」

 そう言いつつも仁は戦闘に備え拳銃『G18』を作り出しズボンの後ろに入れた。そして次にショットガン『M860』とアサルトライフル『G36』を作り出し一緒に銃を持ち運ぶための紐を銃のアタッチメントに取り付け、その二丁を背中に背負う。

 そして今回は恐らく仁にとって初めての弾幕ごっこになる。それに相手は神と来た、下手をすると一生自分の家に帰れなくなるかもしれない。だから仁は色んな状況に対応出来るようにこんなにも種類がバラバラの銃を作り出したのだ。

 

「おっ、見えた見えた……ってもうやってんのかよ…」

 そう言う魔理沙の視線の先には博麗神社よりも広く石畳などがきちんと整備されたこの幻想郷では比較的新しい神社だった。

 だがその神社よりも仁は目の前で繰り広げられている二人の少女の戦闘に目が行った。そして一番最初に出た感想は。

 

「なんだありゃ……?」

 の一言だった。無理も無いだろう…何せ星形の光弾を撃ちまくってる、霊夢と同じような脇の空いた巫女服を着た緑髪の少女と霊夢が空を飛びながら弾幕ごっこをしていたからだった。

 なんかもう常識人の仁には理解出来る範囲を軽く超えていた…。

 

「なぁ仁、やっぱり先にあの神社を調べてみようぜ」

 そう魔理沙は草むらに隠れながら同じく草むらに隠れている仁に言った。

 

「確かに下手に霊夢の邪魔するとヤバそうだし、敵地の偵察も重要だしな」

 

「そうと決まれば、いっちょやってやるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調べてみようとは言ったが…なにすりゃ良いんだ?」

 

「って言いながら物色する手は止めないんだな…」

 

 仁と魔理沙はその神社のリビングらしき和室で偵察?をしていた。

 

「ったく、ここが神社って事しか分からないぜ…」

 

「だから物色しながら言うなって」

 

 その時仁達がいる部屋の隣の部屋から足音が聞こえてきた。

 

「っ!誰だ!」

 仁が顔の見えない来訪者に向かって言った。

 

「それはこっちのセリフだ……!」

 

 その瞬間二人の脇腹からドン!という音が聞こえた。

 そして二人は何が起きたか分からないまま、いきなり外に放り出された……というよりは押し出されたという言い方が正しいかもしれない、理由はその声がした方向から電柱のようなモノが飛び出してきて、仁と魔理沙の腹部に当たり神社の縁側に向かって押し出したのだ。

 

「っぐは!?」

 

「うぐっ!?」

 

 バタンと二人は約三秒間の低空飛行の旅を終え地面に落ちた。

 

「どうしましたか神奈子様!?」

 外で戦闘をしていた緑髪の少女も反応するほどのモーションだった。

 

「いや、ネズミが二匹、うちの神社を漁っていただけだ」

 縁側の日が当たる場所に出てきた女性とおぼしき襲撃者は数十メートル離れた早苗と呼ばれた少女に向かい言った。

 

 その出てきた女性は仁が見てきた中ではトップクラスの奇抜な格好だった。

 起き上がった仁が見た女性の服装は上着は赤色の半袖でその下に長袖を着ており、下は黒色のような色のスカートで裾は赤に別れており梅の花のような模様が描かれていた。

 これらはまだ普通だが異常なのはその付属品だった。

 セミロングの青の髪には冠のように注連縄(しめなわ)を付けており、注連縄の右側には赤と黄色の葉の飾りが付いている、身体中にも同じように小さな注連縄を巻き付けており。胸の中心には鏡が付いており、背中には複数の紙垂が付いた大きな注連縄を装着していて、オマケに先ほど二人を押し出したと思われる電柱のような、そっちの関係では御柱(おんばしら)と呼ばれる長い棒をまるでロボットアニメに出てくるロボットのビットのように何本も浮かせていた。

 

「お前は……?」

 腹を押さえながら立ち上がる魔理沙は神奈子と呼ばれたその奇抜な人物に向かって言った。

 

「私か?私はこの神社の祭神の一柱。八坂 神奈子(やさか かなこ)だ。お前たちは?」

 

「俺は神川仁だ…」

 

「私は霧雨魔理沙だぜ」

 

「それで何故お前たちはここに来た?」

 

「それはあそこに居る俺達の知り合いの所に来た奴はどんな奴らなのかってのを知りたくてな」

 と仁は霊夢を指差しながら、霊夢を追いかけるという目的とは別の理由を話した。

 

「それで他には?」

 

「それじゃあ一つ良いか…?」

 

「ん?なんだ?」

 

「お前たちは何で博麗神社を手に入れようとしたんだ?」

 

「……私達の神社に不法侵入した輩に言う筋合いは無いのだが…まぁ良いだろう」

 さらりと本音を出しつつ神奈子は縁側から外に出てくるとこう言った。

 

「私達は外の世界から信仰を求めてやって来た。博麗神社が欲しかったのはこの幻想郷でただ一つの神社を潰せば私達に信仰が集まると思ったのでね」

 

「何も潰すことは無ぇんじゃねえか…?」

 

「手っ取り早く信仰を得るためにはその方法が一番だと思ってね」

 

「成る程ね…だから私の神社が欲しかったのね」

 いつの間にか戦闘を終えていた霊夢が仁たちのすぐ横に降りた。

 

「……早苗はやられたか」

 と先ほどまで霊夢と早苗が戦闘していた所を見ると緑髪の巫女が大の字で倒れていた。

 

「あんまり強くなかったわよあの巫女」

 

「いや、お前が強いだけなんだよ!」

 すかさず仁が突っ込みを入れる。

 

「まぁ良いわ。ねえあなた私の神社が欲しいのよね?」

 

「そうだ。だけどそれがどうした?」

 

「じゃあ私達と弾幕ごっこをしましょう。貴女達が勝ったらしょうがないわ神社をあげるわ。けれど私達が勝ったら素直に私の神社を諦める事ね」

 

「……良いだろう。だが1対3と言うのは少し卑怯じゃないか?」

 確かに相手は神と言えどさすがに3対1と言うのはキツイだろう。

 

「誰か連れてきても良いわよ。まあ見た感じ居ないみたいだけどね」

 

「本当は私がお前(博麗の巫女)にやられたときの予備戦力だったのだが……しょうがないな。おい!諏訪子出番みたいだぞ!」

 すると先ほど神奈子が出てきた部屋から少女の声が聞こえてきた。

 

「全くもうちょっとラスボス的な登場を期待したかったんだけどな~」

 

 出てきたのは先ほど霊夢と戦闘をしていた早苗と呼ばれた少女よりも少し背が高い少女だった。

 そしてその格好は案の定奇抜だが神奈子ほどの奇抜さは無かった。上半身の格好は白い袖の部分がブカブカの服の上に青色の上着、そして上着と同じ色のミニスカート。

 服の各種には鳥獣戯画の蛙が描かれていた。

 そして金髪のショートボブの頭には何故か2つの目玉が付いた大きな帽子がとても印象的だった。

 

「それに初対面の人間が居るからってちょっと偉そうじゃないか?」

 

「べ、別に良いだろう。それよりも霊夢と言ったか?」

 

「そうよ」

 

「それじゃあ霊夢。一つ提案が有るのだが良いか?」

 

「別に良いわよ」

 

「なぁあそこに居る仁はここに来たばかりだな?」

 

「そうだけど。それがどうしたの?」

 

「それではこんなのはどうだろう。まず私とお前で一対一、そして諏訪子とそこにいる二人で二対一で戦いどちらかが勝ったらさっき霊夢が言ったように従うというのはどうだろうか?」

 

「別に良いわ。けれど引き分けの場合はどうすんのよ」

 

「その時はその時だ、それに私達は神だぞ。そう簡単にやられはしない」

 

「まぁ良いわ。やってやろうじゃないの」

 

「ああ、上等だぜ!仁も良いだろ?」

 

「大丈夫だが…俺で大丈夫か?」

 やはり初めての弾幕ごっこでおまけに相手が神と、これで逆に不安や緊張をしない方がおかしかった。

 

「大丈夫だぜ!もしもの時は私が守ってやるからよ!」

 この時不覚にも仁は魔理沙にときめいていた。

 

「それじゃ決まりね。さあ始めましょうか」

 

「そうだ言い忘れてたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私も守矢神社の神の一柱の片割れだから。そこらへんよろしくね」

 そう口角をあげ微笑みながら言う少女からは人の形をしたものから発せられるとは思えないオーラを放っていた。

 

 かくして双方の神社の未来を賭けた2つの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




学校で多忙のため来週はもしかしたら投稿出来ないかも知れないのでよろしくお願いします。(-_-;)
あと銃紹介は次回の戦闘回にまとめて書くのでよろしくお願いします。m(__)m


んー。(-_-;)高校の部活は意外と辛いですね……。足捻ったりしたのでちょっとした療養中ですが頑張りたいですね。(T_T)


誤字や脱字、それにおかしな文が有ったら教えてくれると幸いです(^_^;)
それではこんな小説を読んでくれてありがとう御座いました。(^_^)


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神遊び

注意・以下の要素がこの小説には含まれているので閲覧時は注意してください。

・長文(約7000文字)

・初めての戦闘描写

・急展開

・妄想の産物

以下の要素がOKというかたは引き続き『東方銃器伝』をお読みください_(._.)_


 ~守矢神社・裏の湖~

 

「へー。こんなとこに湖なんて有ったのね。まぁ少し雰囲気が普通じゃないけど」

 

 霊夢と神奈子は今、守矢神社の裏にある結構な大きさがある、何故か神奈子が使う御柱の超巨大版が突き刺さっている湖の空に浮かんでいた。

 

「この湖は私達がここ(幻想郷)に来たときに一緒に持ってきたんだよ」

 

「…さらっとトンでもない事してるわねアンタ達……」

 

 霊夢はお祓い棒を手に持ち10メートル先にいる背中に御柱を携えている、どこかガ○キャノンを連想させる姿の神奈子と睨みあいをしていた。

 

「それでルールはとりあえず相手が気絶するまでで良いの?」

 

「ああ、構わない」

 

「それじゃあ遠慮なくいかせてもらうわね!!」

 不意討ちのように霊夢は一瞬で自分の周りを囲むように弾幕を作り神奈子に放つ。

 

「っ!」

 

 弾幕を撃ち続けている霊夢から逃げるように神奈子は後ろ向きになりながら水上を滑るように飛んでいく。

 そして霊夢は神奈子を追いかけていく。

 

「遅いわよ!」

 

 湖に突き刺さっている巨大な御柱の間を縫うように二人は高速で飛んでおり端から見ればぶつかりそうでヒヤヒヤさせられる光景だった。

 

「ちょっと間合いを詰めすぎたな博麗の巫女」

 ニヤリと笑うと神奈子はとある宣言をした。

 

「神祭『エクスパンデッドオンバシラ』!!」

 そして霊夢に向かってどこからともなく御柱が左右から挟むように次々飛んでくる。

 

(マズイ!)

 と霊夢は本能的に逃げようとするが無情にもその飛んでくる御柱の間から神奈子が青色の弾幕を飛ばしてくる。

 恐らく神奈子の放つ弾幕も合わせてのスペルカードだろう。

 

「どうした博麗の巫女。さっきまでの威勢はどうした?」

 弾幕を飛ばしながら神奈子は煽るように霊夢に言う。

 

「うっさいわね!」

 

 霊夢は神奈子のスペルが切れるまで避け続けた。そして時間が切れると霊夢は体勢を立て直して神奈子に向かい宣言した。

 

「喰らいなさい!夢符『封魔陣』!!」

 

 霊夢を中心に五方向に札状の弾幕が放たれる。

 

「これは密度の低い弾幕を…!」

 

「さっさとくたばりなさい!!」

 

 絶え間なく霊夢は弾幕を飛ばしているが、神奈子の方はスペルカードの使用時間が切れてしまってるため、先ほどの霊夢と逆の立場となっていた。

 

(クソっ!このままじゃジリ貧になるか……!)

 

 神奈子は背中の御柱の先をスペルカードの時間が切れた霊夢に向けた。

 

「っ何!?」

 困惑してる霊夢を他所に神奈子は御柱から(!?)弾幕をバラまいた。

 もう完全にアニメのロボである。

 

「ホント何でもありよねアンタ!」

 

 実は弾幕は他の弾幕を当てると打ち消す事も出来きたりする。

 そんな弾幕の特性を活かしながら霊夢は神奈子の弾幕を潜り抜けてた。

 

「倒れろ博麗の巫女!!奇祭『目処梃子乱舞』!」

 

「お断りよ!!」

 

 神奈子のスペルは先ほどのスペルと構図は同じだったが。恐らくは上位互換だろう、このスペルは先ほどよりも御柱の速度は速く弾幕は密度が高く速くそして多かった。オマケにどこから湧いて出てきたのか赤色の弾幕も霊夢を背中から当てんとばかり後ろから飛んできた。

 

(動きを制限される!?)

 

 霊夢は弾幕に段々と挟まれるように前に追い込まれていった。

 

(仕方ないわ、こうなったら一か八かで!)

 

「霊符『夢想封印』!!」

 そして霊夢の周りにはいくつもの色とりどりの直径1m位の弾幕が出現した。

 

「っ何!?」

 

「ウオォォォォォォ!!」

 

 雄叫び(?)を発しながら霊夢はその大きい弾幕を放ちながら神奈子に向かい突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~同時刻・守谷神社~

 

 

 守谷神社の境内では三人の男女が居た。(木陰で伸びている緑髪の少女を入れれば四人なのだが)

 

「おっと、向こうはもうはじめてるみたいだね」

 

 一人は守谷神社の祭神の一柱である、目の付いた帽子が特徴の『洩矢 諏訪子』

 

「そうだな、ちゃっちゃと終わらせようぜ」

 

 もう一人は自称普通の魔法使いの『霧雨 魔理沙』

 

「そうか。それで仁だっけ?君は準備は終わったのかい?」

 

「ああ、準備は終わった、いつでも戦えるぞ」

 三人目は外から来た中学生『神川 仁』。

 そして仁はリュックの中に入っていた黒色の長袖Tシャツに同じく黒色のズボンに能力で作り出した防弾チョッキ(この時点で仁の能力の名前が怪しくなっているが気にしてはいけない)をTシャツの上から着ており背中にはリュックと一丁だけM870(ショットガン)が掛けてあった。見た目は警察などの特殊部隊にいそうな感じである。

 

「まぁルールは向こうと同じ気絶でいいね?」

 

「良いぜ。けど本当に二対一でいいのか?」

 

「別に良いよ。それに相手の心配よりも自分達の心配をした方が良いよ」

 頭の後ろで腕を組みながら見た目は自分達と同じ位の少女は言った

 

「?まぁ良いか。んじゃ、仁行こうぜ」

 

「了解!」

 

 魔理沙はポケットからいくつか瓶を取りだし、それらを空中に放り投げると瓶が弾け、中から星形の弾幕が出てきて、諏訪子に向かって飛んで行った。

 仁はG36を当てやすいように単発でタッ・タッとリズム良く諏訪子の胴体を狙いながら撃っていた。

 

「……全くもう少し本気出しても良いのに」

 

 そして諏訪子目掛け飛んできた弾幕は全て彼女の目と鼻の先に急に出てきた土の壁に打ち消されてしまった。

 

「何だよ今の!?」

 仁はリロードをしながら叫んだ。

 

「そうそう、私の能力『(こん)を創造する程度の能力』、まぁ坤ってのは『地』の事だからそこら辺よろしくね」

 ドッ!と土の壁は地面に引き込まれてるように無くなった。

 

 そして固まっている二人を見て諏訪子は

「あれ?もう終わりかい?それじゃあ私のターンだよ」

 

 諏訪子は二人目掛け容赦なく札型の弾幕を周囲にばらまくように撃った。

 

「おい仁来るぞ!」

 我に返った魔理沙は隣に居る固まったまま動かない、見た目だけやる気のある少年に言った。

 

「っ!わ、悪い魔理沙!」

 仁は自分に高速で飛んできた札型弾幕を一生懸命避けだす。

 

(防弾チョッキが地味に重い!魔理沙は空飛んでんのかよ!?クソォォォ!俺が空飛べたらこんな苦労しなくても済んだのに!)

 と余計な事を考えている仁だが、意外と今の被弾数はゼロであった。

 

「ああもう!思ったように動けないぜ!」

 魔理沙の場合は弾幕を避けながら諏訪子の周りを箒にまたがり飛んでいた。

 

 恐らくは次の攻撃の準備だろうか、諏訪子の弾幕の数が減ると魔理沙は一瞬の隙を突きスペルカードを宣言した。

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』!』

 大きめの星形の弾幕をこれでもかと大量にばらまいた。

 

「だから。そんなんで本気なの?」

 

 案の定魔理沙の弾幕はまた土の壁により打ち消された、今回は数が数なので壁に当たると周囲に土煙が舞う。

 そしてその土煙の中から諏訪子が空を飛んでいる魔理沙目掛け飛び出してきた。

 

「よいしょっと」

 諏訪子は重い荷物を持ち上げるような感覚で言った。

 だがこの神がやったのは空を飛んでいる魔理沙の頭上に来ると踵落としのように蹴り落とした。

 

 ドゴォッ!!と盛大な音が周囲に鳴り響いた。

 

「ッ!!魔理沙!!」

 

「くっ…これは効くぜ…」

 墜落時の土煙が微かに晴れてくるとと中から少女の声が聞こえ仁は安心をしたが、それはつかの間の安心だった。

 出てきた魔理沙は落下時に怪我をしたのか腕を押さえており、押さえている手の間からは赤色の液体が見えていた。

 あの攻撃でこれだけで済んだ魔理沙もおかしいのだが仁は魔理沙に近づくと。

「大丈夫か!」

 

「大丈夫だぜ、腕を怪我しただけだ……うっ!」

 

 仁は魔理沙の元に駆けつけると怪我している魔理沙の左手を確認した。

 

「なあ諏訪子!ちょっと時間をくれ!」

 

「ん、別に良いよ」

 

「幸い深くは無いみたいだ、とりあえずちょっとしみるけど我慢してくれ」

 

「えっ、仁何だよそれ……痛っ!?しみるしみる!止めてくれ!!」

 分かりやすいリアクションをとる魔理沙の腕にかけられたのは仁が持ってきていた消毒液だった。

 そして消毒液で傷口を洗い流すとガーゼで傷口を覆いその上から包帯を巻いた。

 仁の独り暮らしで学んだスキルはこういうときにも役にたつ。(仁などの一部の人間のみ)

 

「よしっ。これで応急措置は済ませた、とりあえず今は向こうで休んでいてくれ」

 

「大丈夫だぜ、私はまだ戦える…痛ッ!」

 グッと魔理沙は腕を押さえ座り込んでしまった。

 

「ほら、言わんこっちゃない。腕が二度と使えなくなるかもしれないんだから、安静にしてくれ頼むから…」

 

「けど仁が……」

 

「俺は大丈夫だよ、なんとかするさ」

 

「……分かった…無事で居るんだぜ仁…」

 それだけ言うと魔理沙はゆっくりと近くにある木のもとへ歩いていった。

 

「…さて、悪いな待たせちまって」

 仁は空を飛んでいる諏訪子に向かって言った。

 魔理沙が早々に退場してしまったがそれでも諦めずに戦う。

 

「大丈夫だよ。けどそういう状況の時って物語とかじゃ、目の前の敵を倒してから行くもんじゃないの?」

 

「いいや、そんなの関係無い。俺は只、目の前に苦しんでいる奴が居たから助けただけだよ」

 

「そうか…やっぱり人間って面白いね」

 飛ぶのを止め地面に着地した諏訪子はちょっと引っ掛かるセリフを口にした。

 仁はさほど気にせずに言う。

 

「そんじゃ、また始めますか」

 背中に掛けてあったショットガンを取ると仁は何故かショットガンを消すという暴挙に出た。

 

 そして仁は地面に手をつき5丁のドラムマガジン付きのG36を作り出した。

 

「今から、俺の考えた初めてのスペルカードを見せてやる」

 次に長らく忘れていた念動力(サイコキネシス)を使い五つの銃を浮かべた。

 G36は横に並んでおり銃口は全て諏訪子に向けられていた。

 

「銃符『ガンズ・ヴァルズ』!」

 

 銃は仁のもとを離れ諏訪子を囲むように展開した。

 

(っ!予想と違うだって!?)

 そう諏訪子はてっきりあの銃口が全て同じ方向で向けられていた時にその状態のまま撃つだろうと、正直仁のことを舐めきっていた。

 その為前面にだけ作ろうとしていた土の壁も五方向となると防ぎようがなかった。

 彼女にとっては不意討ちも良いところである。

 

「喰らえぇぇぇぇ!!」

 仁が両手を前に突きだすと銃は諏訪子の回りを回転し始め。その状態で銃弾型の弾幕を撃ち始めた。

 

(チっ!)

 諏訪子は心の中で舌打ちをするとそのまま弾幕の嵐に飲まれていった。

 弾幕はバラけることなく一発一発正確に諏訪子の体に叩き込まれていった。

 諏訪子に放たれた弾幕は当たると小さな光の爆発を起こし徐々に諏訪子の体を赤色の光で包んでいった。

 

(どうだ……!)

 

 G36のドラムマガジン内の霊力が無くなるまでその容赦の無い攻撃は続いた。

 霊力が切れ、弾幕を撃たなくなった銃は回転を止め、仁のスペルカードの時間は切れた。

 そして仁の予想では目の前の爆発による煙の向こうで倒れている筈の『神』の様子がおかしい事に気付いた。

 

「君にとっては精一杯やったと思うんだけど、こんくらいじゃ私は倒せないよ」

 白い煙から出てきたのは服装こそ土で汚れているが、ほぼ無傷の洩矢 諏訪子だった……。

 

「嘘……だろ…?」

 

「嘘じゃないんだよね。ま、そろそろ飽きてきたから決着つけるよー」

 そんな軽いノリで諏訪子は片手を上げ、スペルカードの宣言をする。

 

「蛙狩『蛙は口ゆえ蛇に呑まるる』」

 上げた方の手の先から緑色の巨大な光弾を作りだした。光弾は仁や諏訪子の周りを飛び始めた。その時に光弾は決して少なくない量の弾幕を飛び散らせていた。

 

「ぶほっ!」

 仁は先ほどと同じように避けるが密度の低い弾幕を全て避けることは出来ず何発か喰らってしまった。

 防弾チョッキは確かに爆発や銃弾などから身を守る道具だが衝撃だけは自分の体に通してしまうため、モロに喰らわなくとも結局は当たるとゲームオーバーだ。

 

「ほらほら、どうしたのもっと逃げてみなよ」

 笑みを浮かべながら諏訪子は次に青色の光弾を緑色の時の反対に飛ばした。

 

(弾幕って結構ダメージ喰らうな…例えるなら幸太といるときによく絡まれる不良のパンチ位かな…?)

 仁はタフだったりする訳もなく、こう考えてるときも次々と自分に当たる弾幕に必死で耐えていた。

 

「結構耐えるね…しょうがないや」

 弾幕が消え諏訪子は地面に降りるとそう言った。

 

「っ何を…!!」

 仁の言葉が途切れたのは目の前に一瞬の内に移動してきたからである。

 

「まぁ近接で決めた方が手っ取り早いよね。神具『洩矢の鉄の輪』」

 どこから取り出したのか外側が刃になっているフラフープのような武器を手に持った。

 どこで持っているの!?と突っ込みたくなるが諏訪子はお構い無しに仁に斬りかかってくる。

 

「危な!!」

 仁は咄嗟に刀を作り出して金属製フラフープによる攻撃を防いだ。

 

 ギギギと火花が散るほどの押し合いに仁は早々に力負けしそうでもう押されつつあった。

 

「ウオォォォ!!」

 

「……」

 

 仁の必死の抵抗は(むな)しく諏訪子の無言キックにより無駄になった。

 

 

「がぁっ!」

 おかしな声を出しながら仁は約10メートル飛ばされ地面に転がった。手にしていた刀は飛ばされ度重なるダメージにより咄嗟の行動も制限されてしまっていた。

 

「っ仁!」

 木陰に居る魔理沙も大声を出し心配するが直ぐに傷口が開きそうになったのか腕を押さえ座り込んだ。

 

「ったくホント、容赦ねえな……」

 片方の膝を地面に付かせながら立ち上がろうとする仁の口からは血が出ていた。

 

「それが弾幕ごっこってヤツなんだから仕方ないよ」

 ゆっくりと諏訪子は鉄のフラフープ片手に近づいて来る。

 

「もうスペルカードは必要ないね、それだとオーバーキルになるから」

 遠回しにお前はいたぶって倒すと宣言した諏訪子は自身の周りにゴルフボールほどの緑色の弾幕を無数に作り出し、その全てを仁に向けて撃った。

 

「……!」

 無数の弾幕が仁を襲う。

 

 身体中に弾幕を受け、仁の視界はボヤけ意識も朦朧(もうろう)としており、もうマトモに動くことは出来なくなっていた。

 

 立ちながらフラフラと揺れている仁を見て諏訪子は

「まぁ、ここまで耐えられただけでも上出来だったよ」

 

「クソっ!…やっぱりダメだったか……!」

 もう何も喋らない仁を見て魔理沙は言った。

 

 そして静かに仁の意識は途切れ膝を折り地面に倒れ…るかと思われたが仁は膝を折ったままの状態で固まった。

 

「そんじゃ二人とも戦闘は出来ないしこの勝負は私の勝ちだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いんや、まだ()が残ってる』

 とどこからともなく仁の声ではない一人称が青年の声に合わない声が聞こえてきた。

 

「っ!誰だ、どこにいる!」

 信じられないといった様子で諏訪子は血眼になりながら、その声の主の姿を探すがどこにも見えなかった。

 

『ここだよ、ここ』

 

「だからどこにいるんだよ……ってまさか…!」

 

 その声は明らかに仁の方から聞こえてくる。

 具体的には首に掛かってるロケットの赤い宝石からだ。

 

『やっと色々(……)と出来るようになったのに、こいつがこの有り様だとなぁちょっと黙ってられんな』

 

 よく見ると声が聞こえる度にロケットの宝石が赤く点滅をしていた。

 

『てな訳で、仁ちょっと身体借りるぞ』

 

 その瞬間仁の周り円を描くように炎が飛び出し、瞬く間に仁を包んでいった。

 

「何だよあれ……?」

 

 炎は地面に吸い込まれるように消え、その中にいた仁の姿は先ほどとうって変わって左足と右足に白と赤の近代的?な鎧を身に付け、手には柄が長いハンマーを持っていた。

 

「安心してくれ、()は仁の身体を借りてるだけだ、後でちゃんと戻る」

 その仁の身体を借りている人物は手に持っているハンマーの頭の先を諏訪子に向けると。

「そんじゃ第二試合を始めようぜ、日本の神さんよ」

 

「その前にお前は一体誰なんだ?」

 

「ん?()か?俺はただのギリシャの大家族の一人だよ、まぁ名前は“バル”とでも呼んでくれ」

 それだけ言うとソレ(・・・)は決して軽そうには見えないハンマー片手に諏訪子に向かい猛ダッシュで駆け出した。

 

「君がさっきから見てたって言うなら、仁のやっていた事と何ら変わりない気がするのは気のせい?」

 

「………」

 

 諏訪子は自身をバルと呼んだ人物が目の前まで来ると金属製フラフープを脳天に叩き込もうとする、がフラフープは横からのハンマーによる衝撃で弾き飛ばされてしまった。

 

「……え?」

 

 ドゴォッ!とフラフープを弾いた時の回転を利用して諏訪子の腹部に両手に持ち直したハンマーを叩き込み先ほどの仁の仇だと言わんばかりに吹き飛ばす。

 

 

「げほっ、げほっ!…当たり前だけど君、人間じゃないよね」

 吹き飛ばされて木に激突した諏訪子は咳き込みながら、言った。

 そしてその体には傷がつけられていて、所々血が出ていた。

 

「そりゃそうさ、だってさ宝石の中から出てくる人間ってまず居ないよ」

 ハンマーを肩に担ぎつつ歩いてくるソレの雰囲気は確かに人間の物ではなかった。

 

「どうだ調子は?」

 

「おかげさまでね…!」

 

 諏訪子はサッと立ち上がりバルに向かってフラフープの乱舞をかました。

 だがそれらの攻撃は全て弾かれるか避けられるかで全て効果無しだった。

 

「っ!何で!効かないの!?」

 

 一旦諏訪子は下がりぜぇぜえと荒い呼吸をしながら次のスペルを宣言した。

 

「祟符『ミシャグジさま』!!」

 と諏訪子を中心に緑の弾幕を円状に飛ばし始めた、この弾幕はひとつの円には右と左に回転する弾幕が重なって高速で回転しているため、避けることはもは不可能と言われても無理のない弾幕だった。

 

 バルは避けようとする動作もせずに突っ立っていた。

 だが直ぐにとあるスペルを宣言した。

 

「盾符『女神を守りし無敵の盾(イージス)』」

 

 無駄に厨二くさいスペル名だった。

 

 するとバルの目の前に伝説上のメデューサと呼ばれる怪物の頭の模様が彫られた青銅製の盾が出現し、バルを中心になるようにドーム状のバリアを作り出した。

 

 そして、弾幕がバルの周りのバリアに当たると当たった弾幕は消えていく

 

 双方のスペルの効果時間が終わると諏訪子はバルの方を見て怯えるように言った。

 

「ちょ、ちょっと待って、君のスペルの名前と言い。さっきの炎と言い、それに『ギリシャの大家族の一人』っていう言葉、おまけにそのハンマー……で、でもここは日本だよ?そんな事があるわけない…!」

 

「お、やっと気づいた?まぁ多分君の考えてるが俺の正体で合ってるよ」

 

「で、でも何で日本に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんでオリンポス十二神の一人のヘパイストスがここに?」




今回は初めて長めの戦闘描写を書いてみたのですがどうでしょうか?自分でもあんまり自信が無いのでもっと他の方の小説を読ませてもらって成長したいです!

そういえば前にその回に出てきた銃を紹介すると言ったな?








あれは嘘だ。
ウワァァァァァァァ!!

と言うもの色々な事情で時間がなく、折角考えたシナリオを書きたいのでこの判断をしたので。次からは使用した銃に限り紹介させていただきます。
誤字や脱字におかしな文などがあったらご報告頂けると幸いです。(^.^)
それではこのような小説を読んでいただきありがとうございました。


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話をしようか?

まず先に…高校生活が意外と多忙で投稿が間違いなく遅れるのでご了承願います…。(T_T)

それとほぼ深夜に書いているので文章が暴走してる時が時々ありますのでその時はご報告願います。(T_T)


「何でオリンポス12神のヘパイストスがここに……?」

 そう言う諏訪子の目は得たいの知れない物による恐怖から動揺と驚きに変わっていた。

 無理もない、洩矢諏訪子と言う者は太古の昔から居る種族『神』。そして諏訪子は『土着神』と言うもの種別で、神話上の世界に名の知れ渡る有名な神様ではなく只の一国の王として信仰を得ると言う神である。

 だがギリシャ神話のオリンポス12神となると話は違う、彼らのような存在は基本的には諏訪子と同じ『神』なのだが、神話系の神は信仰を得る事が無くともその力を万全に保つことが出来たり、ギリシャ神話ではギリシャという国の歴史にも関わったりして影響力が強い。その中でもヘパイストスという神は『オリンポス12神』という会社で例えると幹部などの上層部らへんで、国で考えると一国を担う王族の一人となる。

 史実上ヘパイストスは知恵の女神アテナの盾を(イージス)を作り、太陽神アポロンと狩猟の女神アルテミスに特別な弓を送り、ギリシャ神話の名だたる英雄達のための防具や武器を作り出した。

 そんな神様が目の前にいて小さな島国の神様・諏訪子は動揺を隠しきれていないほどの表情でヘパイストスの顔を見ていた。

 

「んー……何でここに居るって聞かれても。今はこいつ(神川・仁)の守護神っつうのかな?まあそんなのをやってるんだよ」

 

 世界中に知られている有名な神話の神様だからもっとこう『○○であるぞ』みたいな堅苦しいしゃべり方と思っていたら、中高生の男子のようなしゃべり方で諏訪子は拍子抜けしていた。

 

「何か緊張していたのがバカみたいだね……」

 

「言うなよ。結構気にしてるんだからよ」

 

 二人の間には先ほどまでの緊張は無かった。

 

「まー、一応闘いなんだし、決着つけねえと」

 

「そうだね、こうしてるのもアレだし」

 諏訪子は内心(戦っても戦っても、何で途中で途切れてるンだろうね)と若干イライラしていた。

 

 

 

 

 かくして二人(神) の自称・弾幕ごっこ(肉弾戦込み)が再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ結果としては諏訪子の完全敗北だったわけだが。

 もう一発ハンマーで殴られて終了だなんて一体、誰が思ったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぜ幻想郷に来るとこうなるんだ?」

 仁が目覚めたのは恐らくは守谷神社の中だった。

 恐らくというのは、先ほどの戦闘でズタボロにやられ気絶したところで記憶が途切れているため、ここはどこかどうやってここに来たか、と言うことさえも分からなかったのである。

 辺りを見回すと自分が居る部屋には仁だけでなく霊夢と戦っていた仁達と同い年くらいのあの緑髪の少女も寝ていた。

 

「痛てて…何か身体中を痛めるような事はしてないんだけどな……」

 仁は今、筋肉痛に似た軽度の痛みを感じていた。

 

『悪ィ、チョイと無茶やっちまってな』

 と、何処からか声が聞こえた。

 

 

 

「………………………………

 ………………………………

 ………………………………

 ………………………………

 ………………………………

 ……おい待て誰かは知らねえが、今どっから声出した?

 

『えっ、お前の首の宝石からだけど』

 

 

 

 

 

 

 

 

「キィィエエエエエ!!!シャベッタァァァ!!!」

 

『待て!落ち着け!驚かせたのは悪かったから!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで…俺の首の宝石には古代ギリシャの鍛冶屋の神様がいて、ソイツが俺の体で人が真似できない挙動をして俺の体は悲鳴を上げていると……」

 先程から仁は自分の首にいる神様というイメージからかけ離れた奴のせいでヘパイストスに対する敬語やそれ相応の態度をするのは諦めていた。

 

「そーだよー、全くギリシャの神が遥々日本まで来たのか不思議でしょうがなかったよ。まさか私がたったの二発でやられるとはね…」

 

 今、仁たちが居るのは先ほど侵入していた守矢神社の居間だった。

 そこには守矢神社の二柱と霊夢と魔理沙に仁がいた。時間としとは仁が気絶してから30分後だ。

 

『いやー悪い悪い。久しぶりに力入っちまって』

 

「ふざけんな!俺の体を何だと思ってやがる!?」

 今更だが二柱には怪我というものが全くもって見えなかった。多分、神様の“ふしぎぱわー”で治したのだろう。

 

「でもまぁ、よく自分の首のアクセサリーに神様がいたことに気づかなかったわね」

 と、テーブルの位置的に仁の左前に座っている霊夢が言った。

 

「いや、俺もただのロケットかと思っていたんだよ」

 

『まぁ、仁には(・・・)内緒っつうか、そもそも知らせることが出来なかったもんでよ。知らなくても無理が無いな』

 

「なら良いのか…?そうだ、それはそうとして何でお前はそんな宝石の中に?それにギリシャの他の神様達はどうなんだ?」

 

『まず最初に、この姿になったのは自分の意思だ。それに何でこうなったのかってのはそれはそれは長い話になるもんでな…。それと他の神についてか…結論から言うと、()と同じようにこの世界に居る神はいる。だがほとんどの神エリュシオン(英雄達の理想郷)に行っちまってよ、例に及ばず()の家族も何人かそっちに移ったんだ』

 

「じゃあ、他にお前みたいになってる神って分かるのか?」

 

『実を言うと把握はしていない。だがその疑いがある奴らなら……いやこれはまだ言わない方が良いか…』

 

「あ?」

 

『いや、こっちの話だ気にするな』

 

「そうか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく…。ん?そういえば霊夢と神奈子の勝負はどうなったんだ?」

 

「私なら勝ったわよ」

 

「素で神様に勝つってどんだけだよ……」

 

「実力よ実力」

 

「ホントかよ……」

 

「なあ霊夢、負けた私達が言うのは図々しいかもしれないが一つ良いか?」

 と諏訪子の横にいた神奈子が口を開いた。

 

「良いわよ」

 

「感謝する…それで一つの提案なんだが、霊夢の博麗神社に私達の守矢神社の分社を建てるのはどうだろうか?」

 

 唐突だった。

 

「……まぁ良いわよ。どちらにせよ私の神社には人は滅多に来ないけどね」

 

「本当か!?ありがとう…感謝しかない……!」

 もう泣いてしまうのではないかと思うほどの表情で神奈子は言った。

 

「ってことは和解成立か?」

 

「そう言うことになるわね」

 

「よし!それなら今夜は宴会にしようぜ!なあ霊夢?」

 

「良いわね!それじゃあ今から準備しないとね。あっ、勿論会場はここね」

 “宴会”というワードに少し引っ掛かったが要するにお祝いだろうと解釈をして仁は深く考えるのを止めた。

 

「そういえば魔理沙の怪我は大丈夫なのかい?怪我させた本人が言うのもアレだけど」

 

「大丈夫大丈夫、ほっとけばその内治るって」

 確かに見た感じ魔理沙は元気そうだが、先ほど仁が応急処置をしたときは一度病院で見てもらったほうが良いだろうと思っていたぐらいの怪我であった。

 

「ダメだ、その怪我は一度医者に見てもらったほうが良い」

 

「だから大丈夫だz「チョンと」痛ってぇぇ!?」

 少々乱暴な確認で仁が魔理沙の怪我をつつくと案の定魔理沙は悶絶した。

 

「ほら言わんこっちゃない、大人しく医者に見せよ……ってちょっとまて。幻想郷に病院なんてあるのか?」

 

「あるわよ。確か人里と『迷いの竹林』にあるわよ」

 

「あるなら良いんだけどな…。何だよ『迷いの竹林』って怪しさ全開じゃねえか!」

 

「まぁ、あそこはそういう所だからしょうがないわ。それとそこの『永遠亭』には腕が良い医者が居るから、そっちの方が良いわよ。それに『永遠亭』のあいつ等にも宴会の事を伝えて貰いたいしね」

 

「ったく分かったよ。行きゃ良いんだろ、行けば」

 ついに諦めたのか魔理沙は言った。

 

「じゃあ、俺が一応付いていくよ」

 

「何で仁が!?」

 

「そうして頂戴、私も心配だけど準備もあるし…」

 

「ちょっ、霊夢までぇ!」

 

 

 

 

 

 

 かくして、仁と魔理沙は『永遠亭』がある迷いの竹林に向かって出発したわけだがここで一つ問題が発生した。

 その問題が発覚したのは守矢神社のある場所を階段で降りた場所だった。

 

「で、どうやって迷いの竹林に行こうかな」

 

「別に私の箒で大丈夫だぜ」

 と言いながら箒にまたがろうとする魔理沙を全力で仁は止めた。

 

「止めろ!お前は怪我をしている、おまけにもう飛ぶのは勘弁なんだよぉぉ!!」

 

「分かったから、揺さぶるのは止めてくれ!」

 グワングワンと魔理沙は揺らされていたが、唐突の鶴の一声により止められる。

 

『しょうがねえな。あんまり使えないこの能力で自転車ぐらい創ってやるよ』

 

「ホントか!というかなんでそんな便利な能力有るのに使わなかったんだよ」

 

『忘れたか?()は最近まで力が使えなかったのにいきなり、あれ作れ、これ作れは無理なんだよ』

 まぁ簡単に言えばゲームのスタミナみたいになってるから連続使用は無理って事よ。とヘパイストスは付け足した。

 

「確かにそんなチート染みたことは無理だよな…」

 

 そして仁の目の前に一台の自転車が創られた。

 その自転車は何故か仁の好みの一つであるカーキ色で塗装されていて、サドルの後ろにあるバックなどをくくりつける場所には粋な計らいでクッションが付けられていた。

 

「そんじゃ魔理沙箒みたいに、後ろに座ってくれ」

 

「分かったぜ」

 

 と、今度こそ二人は迷いの竹林に向かって出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷いの竹林には魔理沙が方角を知っていたので道順は問題なかった。それに筋肉痛もいたって軽かったらしく、約4キロ程ある道もそれほどキツくはなかった。

 現在地は魔理沙の家があるという『魔法の森』と呼ばれるちょっと興味が沸くような地名だった。

 そして、その森の近くの道で仁達は自転車を運転していた。

 

「ところでさ、何でお前は自分で“バル”って呼べって言ったんだ?」

 

『何でかって?まぁ知っての通り()はギリシャ神話の神様“ヘパイストス”ってのはご存知だろ?』

 

「知ってるよ…だけどそれがどうした?」

 ギリシャの神様の事だからきっと自分が知らない伝説から取ってきたと仁は思っていたが……

『ギリシャ神話っつうのは世界中で知られてるもんで色んな国で色んな名前で呼ばれてんだよ。例えばイタリアじゃぁ“ウゥルカーヌス”っていうよくわからん名前で呼ばれたり、ここ日本ではヘパイストスとヘファイストスってのが有名だな。そんでバルってのはな()がイタリアで呼ばれてるウゥルカーヌスを英語読みにしたのがヴァルカンでな、そこから持ってきて短いし良いと思ってな』

 特に深い意味は無かった。

 

「あー、なるほどー。それでさ俺の能力って、どうせお前がなんか関わってんだろ?」

 

『その聞いといて()に対する無関心さはどうなんだと言いたいが……いいやこの話は後でな。そんでお前の能力は確かに()が関わってる、というかお前にその能力を与えたのは()だ』

 

「……大体予想はついてた。そんで何で俺にこの能力を?」

 

『決まってんだろ。仁、お前を守る為だよ』

 

「はぁ!?」

 そんな声を出す仁に少しうとうとしていた魔理沙はビクっ!と声もなく驚いていた。

 

『何で驚く?とにかく()達が幻想入りしたときに、お前はピンチになったよな?』

 

「あったな……て事はこの能力って結構最近得たばっかって事か?」

 

『正解。細かく言えばお前が、あのクソ狼に追いかけられてた時に急ピッチでやったんだよ』

 

「ちょっと待て、と言うことはお前はごく普通の一般人に神様の“ふしぎぱわー”を使ったのかよ!?やっぱりお前、人の身体何だと思ってやがる!」

 

『落ち着けって!確かに()もそれは心配したが。長い間()の近くにいたせいでお前の体質が少し変化してて大丈夫だった。まぁそれでも能力が使えるまでちょっと時間が掛かっちまったけどな』

 

「ホント俺が無事なのが嘘みてぇだよ、全く……」

 

 因みに今は『人里』と呼ばれる幻想郷で一番人が集まってる場所の近くだった。

 

「仁、もうちょっと進めば迷いの竹林が見えてくるから着いたら教えてくれ……」

 そう言うと魔理沙はまたうとうとし始めてしまった。

 

「ってオイ!…もう寝たのかよ、というか自転車乗りながら寝るって相当器用だな……」

 

『下手に起こすと何が起こるか分からんからな、大人しく到着したら起こすとするか』

 

「ハイハイ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~20分後~

 

 

 竹林と、竹林の奥へと続く道と看板が見え、仁は自転車を止める

 

「意外と遠かったな」

 仁は竹林の入り口の近くに自転車を止めた。

 

「魔理沙着いたぞー」

 

「う……あと五分……」

 

「お前は小学生か。ったく早くしないと置いてくぞ」

 

「分かった分かった、起きりゃ良いんだろ……」

 

 魔理沙が自転車から降りると仁も降り、元の能力は同じだからなのか仁は自転車を武器と同じように消すことが出来た。

 

「さぁてと。それらしい看板を見つけて止まってみたけど、こりゃ入るのに結構勇気要るな……」

 

 仁の前に広がっていたのはうっそうとした竹林だった。

 

 本当はジャングルのような森の表現に使われる『うっそうとした』という言葉だがその表現はまさしく今、目の前にある竹林に合う言葉だろう。

 仁の目の前にある竹林はまさしくジャングルの如く夕方近いからもあるかもしれないが薄暗く、少しばかり霧がかかっていた。

 

「まあ行くか……」

 

「あっ、待ってくれよ!」

 と眠そうに竹に背中を預けていた魔理沙がそう言い、着いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸いにも竹林には人の手が加えられているようで道が有ったが、一つ問題がある。

 

「……なあ魔理沙、俺ら本当にこの道であってんのか?」

 

「奇遇だな、私もそう思ってた所だぜ…」

 

 現在二人は竹林の中で迷っていた。

 

「だってほら、あそこの石の配置さっき見た気がする!!まさか本当に『迷いの竹林』って、名前そのまんまなのかよ…!てっきり俺は昔の言い伝えかと思っていたのに…!!」

 

 そう、この竹林には霧がかかっていたり、同じような光景が永遠と続くため、視覚が乱されてしまい、自然と進む道をぐるっと回ってしまいもと居た位置に戻ってきてしまうのだ。

 

『確かにこれ程のは、噂に聞くミノタウロスの迷宮みたいだな…』

 

「詳しくは知らんけど、ありゃミノタウロス自身の迷宮じゃないんだっけかな?オマケにこの竹林には迷宮みたいな壁がねえからあの悲惨な事にはなんねぇよ」

 

『何十世紀も前の事だから覚えとらんのぅ』

 

「いきなりジジイになんな…!」

 そんな事を話していた仁とバルと側に居た魔理沙は竹林の奥から漂う気配を感じ取った。

 

「なぁ仁。あれ、何だと思う?」

 と、少し身構えながら魔理沙は言った。

 

「とりあえず、普通のナニかじゃねえ事は大体分かる」

 恐らくは生物だろうか。かさっかさっ、と枯れた竹の葉を踏む音が段々と霧の向こうから近づいてくる。

 

「…魔理沙は下がっててくれ」

 ソッと仁は後ろにいる魔理沙に言った。

 

「嫌だぜ。最低限の事はやるぜ」

 

「……分かったよ。けれど、絶対に俺の前に居ないでくれ」

 そう言うと仁はアサルトライフルなどの大きさの銃を構えるような姿勢をとった。

 そして光が仁の手元に集まり銃の形を形成していく。

 

『おっ、AA-12か。確かにこういう場所だと無闇に弾幕張っても竹に当たるのがオチだな。そのチョイスは良いぞ』

 今回仁が作り出したのは、俗に言う“アサルトショットガン”と言う種類の一つである、物にもよるがこの“アサルトショットガン”はポンプアクション式とは違い連続で撃つことが出来るため、接近戦に非常に有利な武器である。

 

「っ!来る…!」

 そう仁が再び銃を構え直す。

 

 

「ニンゲン……ヒサシブリ…ニ…クウ…!!」

 驚く事に“ソレ”は喋り、姿を見せた。

 

 その姿は猿に似ているが手の部分がニホンザルなどの猿と違い、大きく筋肉質に発達していた。どちらかというと猿と言うよりはその風貌はゴリラに似ていた。

 だが大きさはそのままのため、見た感じ速さと腕力が取り柄のような見た目だった。

 案の定、見た目が猿というので次々に仲間と思われる妖怪が七、八匹位が最初の一匹に付いてくるように出てきた。

 

「アァァァァ!!」

 と、それまで理性が有るように思えた妖怪は急に獣のように叫びだし仁達に向かって突進してきた。

 

 バァンバァン!!と連続でAA-12で妖怪を仁は撃ち抜こうとするが妖怪はその俊敏さを活かして仁が照準を合わせる前に避けられてしまう。

 

「駄目だ、速すぎる……!」

 

 仁の横で星形弾幕を撃っていた魔理沙はいつの間にか仁と背中合わせになるような形になっていた。

 

「囲まれてる…?おい仁、周りに気を付けろ!」

 

「クソッ…!」

 

 妖怪の群れは半分ずつ二人を挟むように進みそれぞれ、時計回りと半時計回りで囲むように走りだし二人を包囲した。

 

「悪い、魔理沙カバー頼む!」

 

「分かったぜ!」

 

 恐らく弾装交換(リロード)の意味は分からなそうなので、仁はカバーという言葉を使い魔理沙は周りを任せ、AA-12のマガジンを替えた。

 

「アガァァァァ!!」

 

 それまで仁には、何故妖怪達が自分達を囲んでいるのかという考えが無かった。

 理由としては主に自分達が囲まれた事による“焦り”。そして“妖怪”という存在に対する“恐怖心”。それらが仁に考える暇を与えなかった。

 

 だが。この瞬間、仁は妖怪達が何のために自分達を囲んでいるのかがハッキリと分かった。

 そう奴らは二人の周りを囲み、二人を翻弄してから出来る一瞬の隙を狙い、恐らく共倒れ防止の為、群れの中の一匹がその内の一人に飛びかかり相手の喉を自身の爪で掻っ切るというモノだった。

 

(あっ……)

 もう既に妖怪は目と鼻の先だった。

 この時、仁にはこの光景がスローモーションに見えていた、が反応することが出来ずに殺られるのを待つしかない状況になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが妖怪が腕を振ろうとした瞬間、妖怪は仁の右側の竹林の方から飛んできたに炎により焼かれた。

 妖怪達はその様子を見て、仲間と同じ末路を辿りたくなかったのか、蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていった。

 

「全く……最近の妖怪はこんなにも頭が良いもんなのか?」

 そう言い出てきたのは、上は白のカッターシャツ、下は何故か護符が大量に貼られている赤色のもんぺを同じく赤色のサスペンダーで吊っている。そして銀髪のロングヘアーには霊夢のと同じ大きさの赤と白の大きなリボンを着けており、その髪の先にも同色の小さなリボンを複数着けている。中性的なしゃべり方をする少女だった。

 

「あっ、妹紅!」

 

「よぉ魔理沙、妖怪共が騒いでると思って来たらお前さんだったか」

 

「君は……?」

 

「ん?見たことない武器に見慣れない服装、もしやお前は外来人か?」

 

「ああ、俺は神川 仁、最近幻想郷に来たばかりなんだ」

 

「へぇ、それはそれはご苦労なこった…」

 

 そして妹紅は燃えて動かなくなった妖怪を見てから言った。

 

「私は藤原 妹紅(ふじわらの もこう)、只の健康マニアの焼き鳥屋だよ。っと、それよりお前達は何でここ(迷いの竹林)に?」

 

「永遠亭に行こうとしていたんだけど、今の妖怪共が襲いかかって来たもんでな…。ありがとうな、助けてくれて」

 

「礼なんていいさ。それよりも永遠邸まで案内するか?どうも迷ってるみたいだしな」

 

「良いのか?」

 

「ああ、これは私の仕事みたいなもんだから気にすんな」

 

「じゃあ、お願い出来るか?」

 

「頼まれた。じゃあ止まってても仕方ねぇし、さっさと出発するか」

 

 かくして三人は竹林の奥、『永遠亭』に向かって出発したが。

少年が、数歩も進まないうちに彼は、

「ナゼェェェェェ!?」

 と、叫ぶのであった。

 

 




今回はもこたんが登場したんですが…しゃべり方が合っているかが心配です(T_T)
何かアドバイスが有ったら宜しくお願いします!


AA-12

種別 軍用散弾銃(アサルトショットガン)

口径 12ゲージ

銃身長 457mm

全長 966mm

装弾数 ボックスマガジン(8発)
    ドラムマガジン(36発)
  (本編で使っていたのはドラムマガジンの方)


AA-12は本編でも紹介した通りアサルトショットガンというフルオート射撃が可能な散弾銃であり、発射速度は毎分300発というショットガンの中では驚きのレートだが、この銃特有のガスシステムにより反動を80%抑え、更に反動抑制バネという物で10%、結果的に体感で感じる反動は10%というショットガンの粋を超えてしまいそうな武器である。
そしてこの銃は大量のステンレスで作られておりメンテナンスは1万発撃った後で構わないというパワーワードを設計者は残すほどメンテナンス性は良い(自分は何故ステンレスが材料なのかは分からない)
余談ですけど自分はこの銃のイメージとしてはエクスペンダブルズ2のトレンチ(演・アーノルド シュワルツネッガー)の“でっかい武器”として頭に残ってますね(^_^;)
終盤でシュワちゃんが空港でこれ片手に戦うのはカッコいいですよ。

誤字や脱字におかしな文章が有ったらご報告していただけると幸いです!
それではこんな小説を読んで頂きありがとうございました!





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“因幡の兎”と“竹林の住人”

部活……テスト……ゴフッ(吐血)


「ハァ……ハァ…」

荒い息を吐きながら仁はAA-12 という銃を片手に竹林の中を疾走していた。

 

どことなく見たことあるような光景なのだが…

「ハァ…おい……待て!!」

前と決定的に違うのは、仁は追いかけられる側ではなく“追いかける側”ということ。

そして、この前のように妖怪に追いかけられたことによるなんちゃって“火事場の馬鹿力”による疲労の軽減なんぞあるわけがなく、仁は絶賛、持久走orシャトルランの途中の「やべぇ、ちょっと疲れてきた」状態になっている。

 

「バカだね~。待てって言われて止まる奴はこの世には居ないんだよ~!」

 

仁が追いかけてるのは霧により姿はシルエットしか分からないが声からして少女でとてつもなく面倒臭そうな性格だという事は容易に想像がつく。

シルエットしか見えないという事もあり、完全に声と足音頼りに追いかけていて、いつ見失うか分からないという状態だった。

 

「クソッ…どこ行きやがった…!!」

 

案の定、見失った。

 

 

一方、魔理沙と妹紅の二人は絶賛鬼ごっこ中の仁を探していた。

 

「ったく、いきなり走り出してはぐれちまうなんて、お前の連れは何なんだ?バカなのか?」

 

「私の知る限り、仁は只の外来人だよ(多分)」

 

「そうか……そんであいつはどっちに行t『居たぞ!居たぞおぉぉぉ!!』(ドドドド!!)……向こうだな」

 

なんでこんな状況になっているかを知るためには約10分程時間を遡らなければいけない。

 

 

 

 

~10分前・迷いの竹林~

 

仁一行は『永遠亭』へ妹紅の案内のもと出発したが……

 

「ナゼェェェェェ!?」

 

「あー。こりゃ、また派手に落ちたな」

 

「そうか、私達は空飛んでたからすっかり忘れてたぜ…」

 

仁は今、縦一メートル半程の穴に尻餅を着くようにドスン!と落ちた。

そう、仁が落ちたのは典型的なブービートラップ(マヌケの罠)……すなわち“落とし穴”だ。

 

『おいおい、なんだ今のは完全に地面と同化してて判別がつかんかったぞ…』

 

「………」

仁は無言で落とし穴から這い出るとこんな声が周囲に響いた。

 

「やーい、かかったかかった!!やっぱり見た目通りのバカな奴ウサね!」

その声は幼い少女の声で霧や竹でこちらからは姿は見えない。

そして、どう考えても煽ってるとしか思えないその発言を聞き、仁の中でプツンと何かが切れた。

 

「……なぁ魔理沙、ちょっと行って来る……」

そして先の戦闘の後、消していたAA-12を再び作り出すと声がした方向へ銃口を向けた。

 

「そこかぁぁぁぁぁ!!!」

ドドドド!!とフルオートのショットガンを罠を仕掛けた犯人の方へと撃ちまくる。

そう、今更だが仁が作る銃には基本的に弾幕を撃つため、銃声というものが基本存在しない。だが仁が「やっぱり、銃声したほうが気分でるな~」と思い、銃声を少しばかり出るようにしたのだ。例えるならば、FPSをプレイしてる時のゲーム内の抑えられた銃声といったところだろう。

 

「ちょっ!仁どうしたんだ!?」

と言うが、さすがに至近距離で急に発砲されるとなると、たとえ抑えられた銃声といえど耳に響くのだ。

 

「うわ、ヤバっ!」

カサカサと犯人が竹林の奥へと逃げていく。

 

「マァァテェェェェ!!!」

 

 

 

と、多少カオスな状況になって、今に至る。

 

 

 

 

~現在~

 

「クソッ…追いかけても追いかけても、追い付く気がしねぇ……!」

 

その時、走っている仁の足元からプツッと何かが千切れる音がした。

 

「なに…って!危ねぇぇぇぇ!?」

空気を切る音と共に登場しやがったのはどこに吊るしてあったのか、丸太が仁目掛けて降り下げられてきた。

間一髪で避けるものの、その手に持つAA-12という“でっかい武器”の重さで正直、仁はめちゃくちゃ疲れていた。

 

「ハァハァ……。やっぱ重い…変えよう」

 

『その方が良い。第一、七キロ以上ある武器を持って走ろうとすんのがバカだ』

 

「うるせぇ…」

 

そして仁はAA-12を消すと、次に“M16A4”という三点バースト撃ちの銃を作り出した。

 

『…お前、戦争映画の観すぎだ…』

 

「大丈夫、状況は似てるけど此所は竹林。あそこ(ベトナム)じゃない」

 

『頼むから。暴れすぎんなよ…』

 

 

 

その後……

 

 

「あぁぁぁ!!竹槍ぃぃ!?」

 

時に竹槍が降り注ぎ。

 

 

 

 

「またかよぉぉぉぉ!!」

 

どう考えても殺す気満々の丸太が再び降り下ろされ…。

 

 

 

 

「危ねぇ!」

 

竹槍が設置されている殺人落とし穴を間一髪で避けたり…。

 

 

 

 

 

 

「もう……やだ…俺、帰る」

只今、仁は罠を仕掛けた犯人を見失い、いくつもの罠にかかりぼろぼろの状態で竹林の中を放浪していた。

 

『本当に言ってるとしたら、お前は本当にどうかしてる…』

 

「え…?って、おい嘘だろ?」

 

『嘘じゃねえし、そもそも自業自得だから嘆いても仕方ねえぞ……』

 

「ちくしょぉぉぉぉ!迷ったぁぁぁぁ!!!」

 

やっと案内人に出会い安全に『永遠亭』に辿り着けると思っていた矢先、放っておけば良い事にわざわざ突っ込んでいく辺り流石である。

 

『ホントにどうしようも無ぇやt……ん?おい仁、右斜めの方向見えるか?』

 

「…え、こんな所に建造物?」

 

そう、仁が見ている方向には木造の平屋の屋敷が建っていた。

 

よくよく見るとその建物の入り口の扉の横には、『永遠亭』と筆で書かれた表札が掛けてある。

 

「ここ…か…?」

 

『みたいだな。だが魔理沙と妹紅が来てないけど良いのか?』

 

「んー……まっ、妹紅っていう案内人が着いてくれてるから大丈夫だr「あ~、疲れた。全く、最近の人間ってあんなに血の気が多かっt」」

 

…………………………………………

…………………………………………

…………………………………………

…………………………………………

…………………………………………

…………………………………………

…………………………………………

………………………………………あ。

 

竹林から出てきたのは、ピンクのワンピースを着た何故かウサ耳をはやした少女だった。

もしかしなくとも、今の言葉から声から先ほどの声の主はこいつであることが分かる、そして仁を罠にかけた奴でもある。

 

「待てぇぇぇ!!!」

 

「嘘!撒いた筈なのに!?」

 

ダダダと『永遠亭』の方に駆けていく二人。この時、ウサ耳少女はともかく、仁は『永遠亭』に突っ込んだあとの事など考えても無かった。

 

そしてウサ耳少女は永遠亭の裏にある大きな庭を囲む塀まで行き、その小さな体から出来るとは思えない軽快な動きで塀をよじ登った。

 

「人が疲れてるってのを知ってんのかよ……!!」

仁は体力も僅かでろくに映画の主人公などではないので塀に登って追いかけようとはしなかった。

 

『知ってる分けねえだろ。ほら、とっとと諦めて迷惑になんねぇように玄関から入るぞ』

 

「…分かったよ」

 

『それで良い』

 

 

 

 

「すいませーん、誰か居ますか?」

と、仁は永遠亭の玄関からスライド式の日本古来の扉を開けて言った。

見たところ永遠亭は霊夢が言ってた通り病院のような所らしく、玄関のすぐ先には和の雰囲気漂う待合室と思われる少し大きめの部屋がある。

 

「おっ、仁!今まで何処に居たんだ?」

そこには永遠亭の関係者ではなく、先ほどまで一緒に行動していた魔理沙が待合室らしき場所の長椅子に腰かけていた。

 

「てことは、あの人が魔理沙さんの待ち人ですか?」

そして長椅子に座る魔理沙の横には、一人の少女が立っていた。

 

「そうだぜ、こいつがさっき言ってた仁だぜ」

 

「こんにちは待ってまし……って、なんですかその怪我は!?」

そう今、仁はあウサ耳少女の罠のせいで擦り傷だらけ、土まみれの姿なのである。

 

その少女は、なんと先ほどのウサ耳少女と同じようなウサ耳だった。だが先ほどの奴と違い、よれよれになっていた。

そしてその少女は仁がいる外の世界で15歳から18歳までの少女によく見られるこの幻想郷では絶対に見ることが無いだろうと思っている服装をしていた。

その格好は、白のブラウスに赤いネクタイ、ブラウスの上からは紺色のブレザー、下は白色のミニスカート。

すなわち、仁が住む“外の世界の女子高生”の格好をしていたのである。

極めつけに赤い目とウサギの尻尾という特徴的すぎる姿だった。

 

「そ、外でちょっとな」

少々、この幻想郷とのギャップを感じつつも仁は話しに答える。

 

よく見ればウサ耳女子高生の薄桃色のロングヘアーの頭から伸びるよれよれのウサ耳の根本にはボタンが着いていた。

もしかして付け耳だろうか?

 

「まさか……。ねえ仁さん、あなたさっき罠にかかったり私と同じ耳を持った、ちっこい奴見かけませんでした?」

 

「それって、ピンクのワンピースを着た奴か?」

 

「……すいません、ちょっとお待ちを…」

そう言うとウサ耳女子高生は待合室から離れ、永遠亭の奥へと行ってしまった。

 

「えっと、どこへ?」

 

「ちょっと野暮用を」

と、にこりと笑みを浮かべて彼女は言った。

だがその笑みにはどことなく狂気と言うのだろうか、そんな得体の知れないオーラを放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして待合室から離れ、永遠亭の奥へと行ったとウサ耳女子高生のいると思われる方向からこんな声が聞こえてきた。

 

「てゐ?居るんでしょ出てきなさい!」

ガラッと障子の戸を開ける音が聞こえる。

 

「あっ、鈴仙。どうしたの?そんな目を真っ赤にさせちゃってさ~?」

そしてその障子戸の奥からは先ほどのウサ耳少女の声が聞こえてきた。

 

「ねぇ、あんた。また竹林に罠仕掛けたでしょ。結局、師匠に怒られるの私なんだから!」

 

「え、なにそれ。誰だろうねーそんなことする奴って」

 

「とぼけないで、どうせまたあんたがやったんでしょう?」

 

「ははは、冗談キツいよ鈴仙…おっと、用事を思い出し…「逃がさないわよ」」

 

その瞬間、奥からは少女の悲鳴、そして弾幕が当たった時のドドド!という音が聞こえてきた。

 

 

 

 




最近、小説の質が落ちている気がします…RYUです…。
今回はだいぶ間を空けての投稿となりました(この小説を読んでくださっている数少ない読者さん、本当にすいません(;_;))
ですが今回は久しぶりに文字数がトンでもないことになっています。
まぁ部活のおかげで時間ないから、どこで区切りつければ良かったか分かんなかっただけなんですけどね!

と、まぁ身の上話はここまでにして。
本編では『東方永夜沙』の舞台の一つである、永遠亭に主人公・仁は到着(遭難?)しましたが。心配なのはやはり口調……うどんげの口調とかが原作設定を見ているととっても表現が難しいんですよね…。
まぁ次回には永遠亭と言えばこの人達!という東方のキャラクターを出します。(^_^;)


誤字や脱字におかしな文などがあったらご報告していただけると幸いです。
それではこんな小説を読んでくださりありがとうございました!


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永遠亭にて

投稿オクレテスイマセン……
ブカツイソガシイ……

まぁ、バカはこれぐらいにして今回は短めです。


 あれから数分後、“鈴仙”と呼ばれていた少女は仁と魔理沙が居る待合室へと戻ってきた。

 

「すいません、待たせてしまって…」

 という、言葉とは裏腹に鈴仙はどこかスッキリした表情をしていた。

「向こうで凄い音がしたけど、何かあったのか?」

「え、いやちょっとですね…あっ、そう言えば怪我を見せてもらって良いですか?」

 少々強引に話を変えたように思えるが、確かに仁の今の格好は土まみれ、擦り傷だらけ、というとても良いとは言えない状態だから、仁はなにも言えなかった。

「別に良いんだけど。そんな大きな怪我でもないから大丈夫だぞ」

「ダ・メ・で・す。どんなに小さな傷でも油断していたらそれこそ命取りになりますよ」

 そしてウサ耳女子高生は仁の手を引っ張ると。

「来てください。せめて手当てをさせてください」

そして仁は、椅子で寝ている魔理沙を置いて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、大人しく手当てを受けることになった仁は診察室とおぼしき部屋のベッドの上に座っていた。

「そう言えば、お前が言っていた“師匠”って人は居ないのか?」

 と、仁は“鈴仙・優曇華院・イナバ”という長く、そして変わった名前を名乗ってくれたウサ耳女子高生に聞いた

「師匠ですか…。多分、姫様のところに居るんだと思います」

「ひめ?」

「はい、今頃…(ドォォォォン!)…あ、もう戦い始めてんですか…」

 と、鈴仙の言葉を遮るように、永遠亭の裏の方から謎の地響きが聞こえてきた。

「なんだよ。戦ってるって!?」

「それじゃあ、後で行きますか」

「ナンデ!?」

 

 

 

 

 と、言うもの最終的には好奇心が勝ち、鈴仙に着いていく形で、仁は先程の地響きが聞こえた永遠亭の裏へと向かった。

 

 

 

 その地響きが聞こえた永遠亭の裏庭では、

「今度こそ…死ねぇぇぇ!!」

 炎を身に纏い、空を飛びながら弾幕を撒き散らす妹紅と、

「ふふふ、いつもいつも同じ事言ってて飽きないのかしら?」

 空を飛びながら余裕の表情で妹紅の相手をする、ピンク色の昔の貴族が着るような和の服装をした少女がいた。

 だが、胸元には大きなリボンがあしらわれており。更に全体的に和装かと思われたが、下の格好をよく見るとそれは着物などではなく、赤い生地に月、桜、竹、紅葉、梅と日本情緒を連想させるスカートだった。おまけに何枚も重ねているように見え、現在は空を飛んでいるが恐らく地面に立つと、地面に着きながらも横に広がりそうな長いスカートだった。

 そして、その少女を見た仁の第一声は、

「……姫?」

「そう、あの人が私達の主“蓬莱山 輝夜(ほうらいさん かぐや)”です」

 と、鈴仙は落ち着いているが、目の前で繰り広げられているのは今日、何回も見た弾幕ごっこのような生やさしいモノではなく。ハッキリ言ってそれは“殺し合い”のそれだった。

「おい!止めなくていいのかよ!!」

 仁は裏庭へと近づこうとするが、横から現れた一本の手によって遮られた。

「大丈夫、彼女たちは死なないわ」

 手の方を見るとそこには1人の女性がいた。

 それも赤と紺のツートンカラーのナース服のような服を身に付け、三つ編みの銀髪の頭に同じく赤と紺の真ん中に赤十字マークが付いたナース帽を被っている女性が。

「あっ、師匠!」

 と、鈴仙がその女性に向かって言った。

「師匠?」

「うどんげ。この子は?」

「この人は患者さんですよ」

「あら、ごめんなさいね。私が居なくて大変だったでしょう?」

「だ、大丈夫ですよ。師匠」

 そして“師匠”と呼ばれていた女性は仁の居る方向へと体を向けると。

「初めまして。私は“八意 永琳(やごころ えいりん)”。この永遠亭の薬師よ」

「俺は神川 仁。最近、幻想郷に来た外来人です」

「そう、外来人ね…。それであなたは何をしに永遠亭に?」

「魔理沙の治療と、霊夢に頼まれて宴会の誘いに」

「なるほどね」

 そして八意永琳と名乗った女性はまた輝夜と妹紅の戦いを見始めた。

「それはそうと、さっきあんたは『彼女たちは死なないわ』って言ってたけど。どういう事なんだ?」

「そのままの意味よ。姫様と私、それに妹紅は死ぬことも老いることも出来ない“蓬莱人”よ」

「?どういうことだ…?」

 その時、庭の方で繰り広げられていた“殺し合い”では輝夜がそれはそれは多くの弾幕を放ち、妹紅に喰らわせた。

 そして弾幕が当たった妹紅は全身から血を流し、そのまま膝を折り倒れてしまった。

「っ!!おい!!助けなくて良いのかよ!!」

 と、仁は動揺する様子もない二人を見て言った。

「だから、大丈夫と言ったでしょう」

 ほら、見てみなさい。と、永琳は妹紅を指差しながら言った。

「え……何がどうなって?」

 仁が見たのは、体中に出来た傷が瞬く間に塞がり傷ひとつ無くなった倒れている妹紅だった。

「あれが蓬莱人よ」

 すると、妹紅が立ち上がり

「ったく。しょうがねえ今日はここまでにしてやるよ!!」

 と、子悪党染みたセリフを吐き捨てると竹林の方へと走り去っていった。

「ふう、やっと終わった…。あら?貴方は誰かしら?」

 と、輝夜は地上に降ると仁の存在に気付き、言った。

「俺は神川仁です。霊夢に頼まれて宴会の誘いに来ました」

「姫様、彼は最近、幻想郷にやって来た外来人ですよ」

「宴会ね…、まあ考えとくわ」

 そう言うと輝夜は永遠亭の奥へと歩いていった。

「そんじゃ、魔理沙の治療も霊夢からのお使いも終わったから。俺はもう行きますね」

「それじゃあ、妹紅程ではないけど一応、私が竹林の外まで案内しますね」

 

 

 そして仁と、(寝ていたせいで)完全に忘れられていた魔理沙は永遠亭を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~日本・???・午前?時~

 

 

 ここは日本のとある森の中。既に日は落ち、月の光が昼と同じような明るさをもたらしており。昼までとはいかないがそれなりの明るさがある。

 そして月の光で明るい森の中で、あら三人の男が騒いでいた。

「まさか、こんな夜中に登山者がいるとはな。腹が減ってたから助かったぜ」

「贅沢は言えねえが、もう少し喰えねないもんかな」

「しょうがねえだろ、俺たちのせいで近くの街やネットで噂になっちまって人が来なくなったんだからよ」

 そう、彼らはヒトではない。れっきとした人を喰らう“幻想の存在”、すなわち“妖怪”である。

 証拠に彼らが囲んでいるのは、バラバラにされた人間の遺体が転がっている。

「なんなら獣でも狩って来るk……」

「いやその必要はねえみてえだ、なんか来るぜ」

 カサカサと草を踏む音が聞こえ、妖怪の三匹は音がする方へと顔を向け、その草むらから来る"何か”を襲える距離まで来るのを、今か今かと待っていた。

 そして月の光が近づいてきた"何か”を照らし、その顔が見えた。

 出てきたのはとても山登りに来たとは思えないコート姿の老人だった。

「なんだキサマ、何しに来た?」

 と、妖怪の一匹は当たり前の質問を聞いた。

「人喰いか…やはり、お前らは“操る”方か」

「待て、今なんつった?」

「だから、お前らは“操る“方だろう?」

 コート姿の老人は三匹の真ん中にいる妖怪に言った。

「…目的を言え」

 低い声でリーダー格と思われる真ん中の妖怪が言った。

「率直に言おう。お前たちの“頭”はどこにいる」

 

 

 

 

「ギャッハハハ!!!何を言うかと思えば、そんなことか!」

「おい、どうするこいつ喰っちまうか?」

「それが良い!殺っちまうか!!」

 ガバッ!と横にいた二匹の妖怪がコートの老人に飛びかかった。

「まったく……なるべく全員から聞こうと思ったのだが仕方ない」

 その瞬間、パシュッ!という音が聞こえ、老人に飛びかかった二匹は頭から鮮血を飛び散らせながら倒れた。

「こんなときの為にこいつを持ってきて正解だったな」

 老人の両手には、ロシア製のサプレッサーが付けられるリボルバー“S1895”があった。

「お、おいお前らどうしたんだよ?」

「ほら、貴様もさっさと言わんとコイツらみたい…無駄か」

 そしてリーダー格の妖怪は仲間を殺した老人に襲いかかってきた。

 だが、老人は両手に持つリボルバーを妖怪に向けると。片方三発ずつ、それぞれ膝、肩、腕の関節へ撃ち込んだ。

 四肢のそれぞれ動きを奪われた妖怪は血を飛び散らせながら前のめりになりながら倒れた。

 そして四肢が機能しなくなった妖怪は大量の血を流しながらというのに瀕死という傾向をまったく見せなかった。耐久力は流石妖怪と、言ったところだろう。

「あぁぁぁ!痛ぇ!痛ぇよ!!」

 と、無様な姿で泣き叫ぶ妖怪に老人は片手のリボルバーを容赦なく近づける。

「分かった!言うから、言うからから撃たないで!!」

「早く言え」

「“あの方”は俺みてえな下っ端には居場所すら教えないし、幹部の顔さえも見たことが無…(パシュッ

 躊躇なく老人は”役立たず“と判断すると、妖怪の眉間に銃弾を撃ち込む。

 そして老人はリボルバーをしまうとポケットの中の携帯電話を取り出し、電話をかけ始めた。

「もしもし。私だ、仕事は終わった。ああ、奴らは下っ端だった、“頭”の事は何も知らなかった」

 そう言うと老人は妖怪の服のポケットを探り始めた。

「見つけた。例の札だ(・・・・)、使われた形跡は無いが、一応、死体の供養を終わらせたら近隣住民に“狂化妖怪”の目撃情報が無いか聞いておく」

 老人が手にしているのは五枚程の墨で文字が書かれた“札”だった。

「そういえば、あの子はどうだ?………ハハハ!本当か?それは良かった。いやあれの中(・・・・)に居るのは前から知っていたが。まさか、こんな風に出てくるとはな」

 死体の近くに来ると膝を曲げながら合掌をし、そして静かに立ち上がった。

「それで、次の目標はどうするんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “紫”?」

 

 




体調不良や部活等で忙しかったため投稿が遅れました……本当に申し訳ない。


そして今回、最後らへんに出てきたリボルバーS1895の紹介なんですが特徴だけ書くことにします。(T_T)



簡単に言えばこのリボルバーは(恐らく)リボルバーの中で唯一サイレンサー(消音器)を付けられるリボルバーです。今回の話では山といえど近くに街があるという事で銃声が聞こえるとアレという事で、とある老人は使っていました。

そうそう、皆さんはサイレンサーの本来の使い方って知ってますか?
自分はこの前まで知りませんでした。(T_T)
これって隠密行動に使うんじゃなくて、聴覚保護みたいですね。結構、知って1人驚いておりました……。

誤字や脱字におかしな文、などがあったらご報告頂けると幸いです。

それではこんな小説を読んで頂きありがとうございました!!


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歓迎の宴と多少の混沌《カオス》

 と、言うわけで、仁と魔理沙は再び守矢神社へと戻ってきた。訳なのだが………

「おーい、霊夢居るかー!」

 と、仁は守矢神社に戻ってきたのは良いものの、霊夢やあの二柱の姿が見えずに魔理沙と共に右往左往としていた。

「やっぱ、居ないか……」

 すると、仁とは他を探していた魔理沙が出てきた。

「オーイ仁!そっち居たか?」

「呼んでも誰も出てこなかった。そっちは?」

「こっちもだぜ。多分、買い出しか何かだと思う」

「なら勝手に上がってもいいよな?」

「そうだな、中で待ってりゃ来るだろ」

 

 

 てな訳で二人は守矢神社にて霊夢らを待つことになったのだが……

 

 

「だーーー暇だぁぁぁ―ーーーー」

「一体、あいつら何しに行ってんだよ……」

 ゴロゴロと寝っ転がりながら寝返りを繰り返している魔理沙と、縁側で外を見ている仁の二人はいくら待っても帰ってこない巫女と二柱に若干イラついていた。

「確か、霊夢とあの二柱は買い出しかもしれないって言ったよな?」

「そうだぜ。だけど、それがどうしたんだ?」

「いや、何となく霊夢があいつらと一緒に行動はしなさそうだなー、って」

「そうだな。もしかしたら別件かも知れない」

 

 

 

 

『そういや仁、お前、体の調子は大丈夫か?』

 と、首からバルが喋り出した。(因みに魔理沙は暇潰しと言ってどこかに飛んでいった)

「ん、何だよいきなり?」

『良いから、早く』

「まあ、さっきの自転車移動で筋肉痛の箇所が少し増えたぐらいかな?」

『なんだ、そんだけか…』

「なんだ、そんだけか。じゃなくて、どうして今頃、俺の体調なんぞ心配すんだ?」

『いや、さっき“憑依”しただろ?お前はさっき大丈夫だっつったけど、念のためにな』

「憑依?」

『そういや言ってなかったな。近いうち(・・・・)に必要になるかも知れんから、よーく聞いとけ』

「なんだそりゃ…ま、とりあえず聞いとく」

『やっぱりお前は適当過ぎる気が……ま、いいや、そんで最初に“憑依”ってのは文字通りお前に“取り憑く”事だ。簡単に説明すると、お前の体が何かの器だとする、そして神川 仁の意識っつう飲み物が入ってる、そこに()っつう存在がお前の意識の代わりにお前の器に注がれる。するとほら、有るだろ?熱いお湯とか入れるとコップの柄が変わるって奴』

「ってことは、お前が俺に取り憑いて俺の体が“なんちゃって神様”モードになったってことか?」

『そう言うことだ。だが、この“憑依”は普通の人間には出来ないしやったところで器が壊れちまうんだよ』

「はい?」

『まあ落ち着けって。今回、成功したのは()が長い間お前の近くに居たことによる体質の変化のおかげだ。これに関しては、お前は元は普通のコップだったけど、俺の神性に当たり続けたせいで、普通のコップから柄が変わるコップに出世したわけだ』

 と、軽い調子で言うが、コイツ何気にとんでもないことを言っているのだ。

 そして、そんなことを言った仁の反応は……

 

 

 

「…そんで、他には?」

『いや、軽くね!?ほら、あるだろ?嘘だろ!とか、俺は普通じゃねえのかよ!とか?』

「ハァ……良いか?イチイチこんなことで騒いだりしてたらここで(幻想郷)生きてけねえぞ?」

 それに俺のメンタルが持たん。と、若干開き直っているような気もする。

『と、とりあえず、話つづけるぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまあ、かれこれ一時間程の長話(バルの無駄話付き)が終わったわけだがここで思わぬ相手がやって来た。

 

「あっ、あなた誰ですか!?」

 と、恐らく先程まで仁が寝ていた部屋に居たであろう、あの緑髪の女の子がそこにいた。

「君は確か霊夢と戦ってた……」

「あれ?と言うことはもしかして、貴方霊夢さんの知り合いですか?」

 キョトンとしている仁に向かって緑髪の女の子は言った。

「ああ、そうだ。けど、それが?」

「という事は貴方が霊夢さんが言ってた外来人の方ですか?」

「多分、そうだな」

「そうなんですね!!私は"東風谷 早苗(こちや さなえ)”。あなたと同じ外の世界から来た者です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら、この早苗という女の子は守矢神社で巫女(厳密には巫女ではなく風祝という役職みたいだが)をやっているらしく、仁や霊夢らと同い年らしく、やっていた事の割にはある程度の常識人だったのだが……。

「という事は、仁さんの能力でビームとか出せる武器とか作れませんか!?」

「いやいやいや。無理!作れないから!今、言わなかったか?現世にあるものしか作れないって!!」

 と、まあこんな感じで東風谷早苗という少女はちょっとばかし外の世界の女の子とは少しズレていた。

 だが、仁にはかえってその性格が丁度良いらしく、仁にしては珍しく自分と趣味が合いそうな少女だなと思っていた。

 それもそのはず何せ、彼女はロボットやゲームが好きなオタク傾向のある女の子だったのだ。

「でも、良かったよ。まさかこの幻想郷で元・外の世界(・・・・・・)の奴に会えるなんてな」

「それなんですが仁さん、霊夢さんが言っていたのですが、幻想郷には私たちの他にも外から人が居るって本当なんですか?」

「みたい、だな。だけど俺はさっき言ったが、幻想郷と外を行き来してて、こっちの方(幻想郷)には今回含めて二回目ぐらいだもんでよ」

「そうですか……あわよくば幻想郷の他の外来人に会えるといいんですけどね」

「そうだな……」

 という風に早く打ち解けていた二人は趣味について話をしていた。

 

 

 

「あ、仁居たのね」

 と、霊夢が神社の縁側から入ってきた。

「おっ、霊夢」

「なんだ、帰ってたの……て、あんた起きてたの」

「ええ、先程はどうも」

「別に良いわよ。そういえば魔理沙は?」

「『暇潰して来るぜ』って言ってどっか行ったよ……」

「そう、じゃあ大丈夫そうね」

「じゃあ、って何だよ!?本当に大丈夫なんだろうな?」

「大丈夫よ。あの子、そう言う性格だから」

「なら、良いの…か?」

「そういえば、神奈子様と諏訪子様はどこに…?」

「あいつら?ええと…あっ、そうそう。あいつら、何か“天狗”の所に行ってくる、って言ってたわね」

「天狗ぅ?魔理沙も言ってたけど、なんなんだ?」

「ただの妖怪よ。人間みたいな社会を作ってる、ただの妖怪よ」

「ハァ!?」

「別に、悪さをしなけれ良いんじゃない?」

「そ、そういうもんか?」

 そして、三人は雑談をしながら宴会の参加者を待つとともに宴会の準備の方も始めた。

 

 

 だが、その後の状況は神川仁という人間にとっては最悪、と言っても過言では無かった。

 

 

「ハァ―………」

 まだ中学生の仁は中年の営業マンが出すような重い溜め息を吐いていた。

 仁が居るのは先程と変わらず守矢神社の縁側だった。

 しかし、仁の傍らにはちょっとした食べ物が乗ってる皿と麦茶が入ったコップ、後ろの部屋の障子は閉じられており、部屋からはギャアギャア騒ぐ少女達の声が絶えず聞こえてくる。

「宴会って聞いたときに気付いとけば良かった……!」

 ここで彼に何があったかを説明しよう。

 まず、仁らは宴会の準備を終え参加者達が揃うと大きな瓶を霊夢が沢山持ってきたのだ。

 そう、言わずもがなこの大きな瓶の中身は“酒”である。

 参加者はほぼ全員と言っていいほど、大きな酒瓶を持参しており。

 案の定、少女らはこれでもか、と言うほどの酒を飲みだした。

 外の世界では二十歳以下の人は酒は基本的には飲んではいけない。

 無論、少年は混乱した。同時に女性だらけのこの場に男一人という場違い感で、仁はここに居てはいけないと即座に判断した。

 だが、一刻も早くこの場から離れようとする少年を更に苦しめたのは……

「何だってぇ~?私の酒が呑めないっていうのかァ?」

「い、いや、だから俺は酒が呑めないって言ったろ?」

「知らないわよ。ほら、飲みなさいよ!」

 そう、酔っ払いのオヤジよろしく酒が飲めない仁に絡んできたのだ。それも、霊夢だけでなく魔理沙などの仁と面識のある少女全員からだ。

 という訳で仁はたまらず逃げてきたのだ。

「なんか、見た事ない人らもいたから霊夢も色んな人さそったんだな……」

『なんだろう、ギリシャでも似た光景を見た気がする』

「神話の世界の事だからロクなことなさそう」

『でも、なんだありゃ?なんかコウモリの翼が生えた幼女もいた気がするんだけど、どういう事だ?』

「……目でもイカレてんのか?」

『いやいやいや、確かに俺は見たぞ!』

 と、子供の駄々をこねるように言うバルに仁は少し呆れていたのだが……。

「ねえ、あなたが霊夢が言ってた外来人かしら」

 後ろから幼い女の子の声が聞こえた。

「そうだ……ってお前は誰だ?」

 仁が振り向くとそこには恐らく噂のコウモリの翼を持った青い髪の幼女と、その幼女に付き添うようにいる銀髪のメイドがいた。

 幼女の方はピンクのドレスの様なものを身に付けており、銀色の髪の上にはナイトキャップで、従者らしいメイドは丈の短いスカート。という和の雰囲気が大きい幻想郷には似合わない“洋”の雰囲気を醸し出していた。

「私は"レミリア・スカーレット”誇り高き吸血鬼よ」

 と、(無い)胸を張りながら言う幼女。

 オマケにその顔は酔っぱらっているのか、赤みがかっている。

「……あのー、この子大丈夫なんですか?吸血鬼とか言ってるけども」

 特に相手にせず仁は自らを“吸血鬼”と名乗った幼女の隣に佇んでいるメイドに言った。

 その時だった、いきなり仁の座っている感覚が無くなり尻餅を着くようにして仰向けに倒れたのは。

「何も言わないであげてください……。お嬢様は“500歳”を越えている正真正銘の吸血鬼なんですから」

 何故か仁の横には幼女の隣に居たはずのメイドが倒れた仁の肩に手を置きしゃがんでいた。

「えっ?は、えぇ?」

 混乱するのも仕方がないだろう。

 なにせ急に縁側から瞬間移動の如く移動したのだから。

「何がどうなっ……て?」

「安心してください。能力で時間を止めて移動させただけですから」

「何だって……????」

「とにかく、お嬢様はそう言うの意外と(・・・・)気にしているので……」

「聞こえてるわよ、咲夜ァ!!」

 と、両手を上げながら叫ぶ“おぜうさま”。

「わ、分かりました」

「すいません……」

 それだけ言うと咲夜と呼ばれたメイドの少女はそのレミリアと名乗った幼女の元へと戻ってった。

「で、俺に何の用が?」

「別に。どんな顔をしているのかが気になっただけよ」

「はぁ?」

「だけど、あなたに興味が湧いてきたわ…ねえ、あなた名前は?」

「神川仁。ただの外の世界の人間だ」

「貴方がただの人間?嘘ね、霊夢から聞いたわ。貴方、神を宿してるんだって?」

『なんだ、バレてんのか。じゃ、別に黙ってなくても良さそうだな』

 実のところ、仁にバルが居ることが他に知られると無駄な混乱を招く可能性がある。その為、下手に話はしないことにしているのだ。

「……で、何が目的なんだ?そこまで知っておいて興味がある(・・・・・)だけな訳がないだろ?」

「別に悪いことなんて考えてないわ」

「じゃあ何なんだ?」

「だから無いわよ。ま、一つだけ提案が出てきただけよ」

「あるじゃねえかよ……」

「お嬢様、と言うことは彼を“アレの参加者”の一人に?」

「ええ、別に問題はないわ。それに戦闘力もそれなりに有りそうだし」

「何だって????」

「ねえ、貴方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “月旅行”に興味は無い?」




多分、誤字や変な文が多いと思います……。
すいません……夏休みに入り課題に追われているRYUです( 。∀ ゚)
今回はタイトルのカオスさをモット出したかったです……。とまぁ結局は宴パートと言うよりもキャラクター達との交流メインになっております。ここでの独自設定としては早苗のゲーム好きと言うものです、なんか書いてたらこんな女性と出会いたいと思ってしまった(T_T)
それでは今回はこれで。
誤字や脱字に変な文を見つけたら報告して頂けると大変助かります!!
こんな小説を読んで頂きホントありがとうございました!!



それとですがオススメの銃や武器があったら教えてください!!ストーリーで使える物があったら書いてみたいので!!



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第二章〜(うつつ)幻想(まぼろし)
人里にて


~とある海の側にある、切り立った崖~

そこには紅と白が特徴的な、巫女服を着たものすごくガタイの良い人物と一人の少年がいた。
だが、紅白の人物はその少年の片足を持っていて、少年は宙吊りにされていた。
「お前は最後に投稿日数を戻すと言っていたな?」
と、紅白。
「そうだ霊夢……た、助けて」
「あれは嘘だったな」
パッ、と紅白は手を離し少年を崖の下へと落とした。
「ウワアアアアアアアア!!!」





すいませんネタです、許してください。(白目)


 ~幻想郷・???~

 

 道の両側面は森で、道の上からしか空が見えないという道を、頭に一輪の花を飾り付けている和装の一二、三歳ほどの少女が息を切らしながら走っていた。

 理由は単純、ひとつ目の巨大な妖怪に追われているからである。

「お願い……来ないで…!」

 そう、少女は言った。だが妖怪は聞く耳を持たず、継続して少女を追う。

 体力も限界だった。額には汗が滴り、目も虚ろでどこを見ているかが分からない。

 そんな少女は不幸にも彼女は石に躓き、バタンと転んだ。

「あぁ………」

 尻餅を着いたような格好で少女は後退りをする。

 言葉にならない声とその目に涙を浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

「こっちを見て、耳を押さえて!!」

 と、背後から叫び声とも言える声が聞こえた。

「え……?」

 その声に反応した少女は背後を見た。

 そこには妖怪に“円筒形の何か”を投げようとしている薄い赤の髪の少年が居た。

 少女は咄嗟に両手で耳を塞ぎ、本能的に目も閉じた。

 

 

 

 

 

 ~少し前の事~

 

 仁は一人?で博麗神社から“人里”という幻想郷で一番人が集まるという場所へ続く道を歩いていた。

『それで、一週間経ったが“月旅行”どうするんだ?』

 と、言うのは自称“仁の守護神”こと“バル”だ

「逝きたくない」

 即答である。

『漢字が変な気がするんだが?』

「だってさ、こんなファンタジーな場所(幻想郷)で自分を吸血鬼って名乗る幼女が何をどう捻ったら科学の域に入る月旅行に行こうだ?冗談じゃない。爆発か空中分解がオチだ…」

『案外そうでもねえかもな。ほら魔法とかで…「余計、心配だわ!」

『でも、何かしら言っとかねえと。何されるか分からん』

「それも、そうだな……」

『それに完成間近って言ってるし、何かしらの注意をした方が良さそうだ』

 

 ~一週間前~

 

「貴方、月旅行に興味は無い?」

 月、それは時に神として信仰され、時に畏怖の象徴として、時に美の具現化として地球という惑星の隣人として太古の昔から存在する。

 それに月は昔の人々にとっては手が届きそうで届かず、近そうで遠い。そんな存在だった。

 そんな、所に旅行しに行こうと誘うのは吸血鬼のお嬢様?であるレミリア・スカーレットだ。

「ごめんなさい、何を言ってるか分かんない」

「だから、“月旅行”よ。ほら、あそこに浮かんでいる月へロケットで飛んでいくのよ」

 と、レミリアは自身から見て正面に浮かぶ月を指差した。

「冗談……だよな?」

「いいえ、本気よ。設計から素材集めは勿論。建造ももう直ぐに終わるわ」

「……」

 仁はどういう反応をすれば良いか分からなかった。

 何せ、ギャップが凄い。

 ギャップが凄いのだ。

 幻想(ファンタジー)科学(SF)を持ってこられても混乱する。

「で、どうなの?まあ、無理やり連れていくつもりだけどね」

「おい、待て」

「何か文句でも?」

「さすがに時間をくれ、さすがに考える時間がないとフェアじゃない」

 一時も考えることなく、レミリアは仁にこう言った。

「それじゃあ、“一週間”よ一週間あげる。その間に覚悟を決めて、どうせ強制だから」

 人外の象徴とでも言える異様に尖った犬歯を見せながらレミリアはニヤリと笑った。

 

 

 ~現在~

 

『で、どうする?多分、行かないと殺られるぞ』

 偏見かもしれないがあの吸血鬼幼女なら平気で危険な事をしかねない気がする。

「そうだよなぁ……。でも今日中だから、べつに今すぐじゃなくても良いだろう」

 と、夏休みの宿題は最後にやる派の少年は言う。

『後でやろうはバカ野郎……か』

「何だって?」

『なんでもない』

 

 

 

 その時だった

「おい、何か聞こえないか?」

 耳をすませると近くの森から草木を掻き分けるバサッバキッと聞こえてきた。

『大丈夫だ、この姿でも聴力は落ちてない。けっこうデカイのが来るぞ……!』

 

 そして仁から三十メートル離れた森から三メートルぐらいの大男が飛び出してきた。

 遠くで見にくいが大男の顔には二つあるはずの眼はなく、代わりに大きな眼球が一つ額の中心にある、見た目からしてどう考えても“人”じゃない“妖怪”だ。

 おまけに一つ目の妖怪の前にはこちらに走ってくる和装の少女が。

「まずい!」

 こちらに向かってくる妖怪に追われてる少女は何かに躓いたようで転んでしまった。

『あのサイズの奴はマトモに相手にすんな!!』

「分かってる!」

 仁はまず円筒形の小さなダンベルのような物を作り出した。

 そして、仁は少女に向かってこう叫ぶ。

「こっちを見て、耳を押さえて!!」と。

 幸運にも少女は気付いたようでは振り向いて耳を押さえた。更には目も閉じている。

 仁がやろうとする事にはとっては最高の状況だった。

 

 

 まず、手に持つ円筒形の物体の先についてるピンを抜き、腕を思いっ切り振り手の中の物体を投擲した。

 物体は少女を追いかけてる妖怪の顔に当たった。そんな不意討ちに妖怪は少し顔を押さえるようにして止まり、少女に近づくのを止め、地面に落ちた自身の顔面に当たった物体をしゃがむようにして見た。

 そして、円筒形の物体は周囲に閃光と強烈な耳にクる爆音を出して爆発した。

「アァァァァーー!!!」

 と、もはや悲鳴と言うよりも断末魔の叫びと変わらない野太い声を上げながら口から泡を吹き、白目を剥いて倒れてしまった。

 そう、仁が投げたのは“M84”、別名を“スタングレネード(非致死性兵器)”と呼ばれる一種の爆弾だ。

「うっ……」

 このぐらいの音となると耳を押さえていても多少のお釣りがくる。

少女はうめき声のような声を漏らしてへ垂れ込んでしまった。

「大丈夫か?」

「え、えぇ…」

 仁は少女に駆け寄ると落ち着かせるために背中を揺すりながら、ケガ等がないか確認をした。

「良かった怪我はない…」

 だが、依然として少女はぐったりとしていて立ち上がることは出来なさそうだった。

「貴方が…私を…?」

 少女は時々言葉を詰まらせながら喋った。恐らく、まだ妖怪に追い掛けられた事によるショックが残っているのだろう。

「ああ。でも君は何でこの道を?危なくはないのか?」

「実は霊夢さんに…博麗神社に…」

「だから、この道か」

 しかしだ、見たところ目の前にいる少女はどう見ても幻想郷の住人だ。外の世界からきた仁のように危険な場所など何も知らない、下手すると五分足らずで妖怪の餌になる人間とは違い。ここが危ない、あそこが危ないをしっかりと叩き込まれている筈の少女が一人で妖怪の巣のような“森の近く”にいるのは自殺行為に等しい。

「君、ここまで一人で?」

「いえ…」

「て、言うことは大人の人とか。でも、その一緒にきた人は?」

「一緒にいた人は用事を思い出したっていって、私に先に戻ると言って人里のほうに戻りました…」

 言葉が続いている。だんだんと落ち着いてきたようだ。

「それで後を追おうとしてたら襲われた。と……」

 こう話したりしているが、ちょっとばかり気絶してのびている妖怪の方も気になってきていた。

「コイツが起きたら色々とまずい、移動したほうがいいな…。どうだ、立てるか?」

 と、少女に聞くが本人は僅かに震えていたりして、どう見ても歩ける状態ではない。

「……すいません」

「そうか…仕方ねえ。んっ、よいしょっ、と」

「きゃっ、え?あっ?」

 仁は右腕で少女の背中を左腕で膝を持ち、少女を持ち上げた。

 何をしてるか分からない?

 簡単に言おう。

 “お姫様だっこ”だ。

「や、止めてください!」

「でも、こうでもしないと運べn「背負って下さい!!恥ずかしいです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に人里で良いのか?」

「はい」

 二人は人里に向かっていた。だけど、この前のように自転車には乗らずに、だ。理由としては「危なそうだけど、幻想郷を歩いて回りたい」と命知らずにも程があるんじゃないかと思わせられる。

「でも神社に用があるって…」

「今回は止めにしときます…。今すぐにって用事じゃないので今度、魔理沙さんとかと一緒に行きますよ」

「魔理沙と知り合いなんだ」

「はい、顔見知り程度ですけど…。と言うよりあなたも魔理沙さんとお知り合いなんですね」

「ああ、神社でちょっとな。ま、魔理沙なら頼りがいがあるから大丈夫そうだな!」

「そうですね」

 

 

 

「そういや、お前さん名前は?」

「私ですか?えーと……」

「俺は神川 仁。最近、幻想郷にやってきた、ただの外来人」

「では……こんな格好からですが、改めまして神川仁さん先ほどは助けて頂き誠にありがとうございました。私は“稗田 阿求(ひえだの あきゅう)”と申します」

「おう、宜しくな阿求」

 と、少女は丁寧な言葉使いで話した。

「はい、よろしくお願いします」

 こんな和やかな場面にも空気が読めない妖怪さんも世の中にはいるわけで。今はその時ではないが、念のためと言うことでズボンのポケットには連射可能な拳銃“G18”をしのばせる。

「そういえば、仁さんは人里に行くのは初めてなんですよね?」

「ああ。この前、一度近くを通ったきりだもんで、一度行っておきたくて」

「なら、人里に何があるかとかは分からないんですね?」

「そうなんだよ…どこかお勧めの場所とかないか?」

「そうですね……心当たりは

 

 

 

 

 

 

 

 

 無いです。ぶっちゃけ何にもありません(ニコッ)」

「ねえのかよ!!」

「あはは、と言ってもないことは無いんですが、特にこれ!って所がないんですよね……」

「しゃあない…そんじゃ今か…「でもですね、私がオススメというか一度行ってみたい所があってですね……」

「行ってみたいところ?」

「厳密には人里ではなく人里の近くにあるんですが…」

 「お前はそこに行ってみいのか?」

 「はい、資料と実際に見るのとではだいぶ違いますからね」

 「?」

 

 

 

 

 

 ~約20分後~

 

「なんだ…こりゃ?」

 仁は勘違いしていた。人里の周りを覆う壁の近くにある少女“稗田阿求”が行ってみたいと言った場所は仁が思い描いていた場所とは程遠い場所だった。

 そこには阿求ぐらいの年の少女が興味ありそうな店ではなく。いろんな物が溢れかえっている、店先に“香霖堂”と書かれた森のはずれに佇む古道具屋だった。

「な、なあ。ホントにここなのか?」

「ええ。ここには一度、自分の目で視てみたくて」

 と、阿求は言うとスタスタとその古道具屋の中に入っていった。ちなみに彼女はもう大丈夫、と言って先程からこう歩いている。

「おお、珍しいなここに人が来るなんて。やあ、いらっしゃい」

 と、店主らしき奇抜な青を基調とした格好の男性が、おそらく先程まで読んでいたであろう分厚そうな本を片手に座っていた。

「こんにちは、あなたがここの店主の“森近霖之助”さんですね」

 阿求はその奇抜な男性に向かって言った。

「確かに僕が店主の…って君、どこかで会ったことないかな?」

「気のせいじゃないですか?」

 キッパリと答え、阿求は「実はちょっとお話が聞きたくて……」と言って話を始めてしまった。

(資料とか行ってみたいとか言ってたけど、もしかして新聞記者的な何かかな?)

そして、3秒ほど考えると。

「商品を見てても大丈夫ですか?」

 と、仁は店主の森近霖之介に聞いた。

「もちろん。あ、だけど気に入った物を見つけたら一度言ってくれ、この中には僕のコレクションが多くあるからね」

「分かりました」

 

 

 

 

 

「なんで向こうでも絶滅した物品がこうゴロゴロと……」

 と、仁が見ているのはかなーり昔にテレビで見たような炭を入れて使うアイロンだ。

 店主に聞いたところ幻想郷には時々、外の世界から色々な物が流れ着く(・・・・)だと言う。

『紫いわく、幻想郷は忘れ去られたモノが流れ着くんだっけな。こんな"骨董品”を見た感じ、確かに紫の言ってたことは間違いないみたいだ』

「そりゃまあ、そうだろな」

『なんだその適当な返事は』

「そりゃ、そうと向こうでも(・・・・・)見たことない道具もあるな…」

 次に手に取ったのはブレスレット?の様なものだった。

『もしかしなくても、こりゃ幻想郷産のだな』

「わかんのか?」

『ったりめえだろ()を誰だと思ってる?』

「ハイハイ、ギリシャの鍛冶の神様でしたっけねー」

『お前、絶対バカにしてるよな!?』

 と、バカやっていると仁は布を被せられ埃まみれになった木製の箱を見つけた。

「?なんだこれ」

 仁はブレスレットを置くと木箱を手に取り、埃を掃き始めた。

『気をつけろよ。ミミックみてえにガブッてされるぞ?』

「やめてくれ、マジでありそうで怖いから………って、これって」

 中に入っていたのは古めかしい回転式の拳銃(リボルバー)だった。

『こりゃ、“SAA(シングル・アクション・アーミー)”だな。でも何で幻想郷に?本来なら日本とは関係ない筈なんだが…』

「シングルアクションアーミーか……よっと」

 仁はSAAを箱から取り出すとくるくると回し始めた。

『ありゃ?お前さんってガンプレイ出来たのか?』

「いいや、単にやってみたくなって……」

『はァ?』

 

 

 

 

 

 

 

『で、そんなの手に入れたって結局は扱えるかどうか分かんないが良いのか?』

 仁らは店から出て、阿求を人里の門の前まで送ったあと、今日の幻想郷探索止めて博麗神社へと向かっていた。

「いや、何だか持っといても損はないし、幻想郷にいた外来人の所有物って言うし。なんかこう…ロマンあると思わないか?」

『確かにロマンは感じる…!!だが向こう(外の世界)に持っていっても下手すりゃ警察のお世話になるだけだぞ?』

 「ま、なんか考えとっか」

『駄目だこいつ…早く何とかしないと…』

 「そのネタは止めろ」

『いいだろ別に、覚えたてホヤホヤのネタぐらい使わせろォ』

 「うわ、めんどくせぇ……」

 

 

 

 

 

 

 ~10分前~

 

 「あの、これって……?」

 仁はこれ(SAA)について詳しく話を聞くため、店主である霖之助に聞いてみることにした。

 「これかい?これは銃って武器で…「そういう事じゃなくて、これの入手経路とかです。俺、外の世界の人間なんで……」

 「なんだ、君は外来人なのか。そういう事は先に言ってくれれば良いのに。それで、入手経路か…えーと、確か…」

 霖之助は少し考えている素振りを見せ、急に思い出したように言った。

 「そうだ、これは昔…2、30年前に幻想入りした外来人から貰ったものだ」

 「外来人から貰ったって言うけど2、30年前って言うと、店主さんは生まれて無いのでは?」

 確かに霖之助の年齢は見た目だととても若く見える、この銃を貰ったのが2、30年前だとすると子供の時かそれ以前の話となってしまう。

 「その事なら、僕は半人半妖(・・・・)だ。年齢については人よりも何倍も長く生きる。だからこういう見た目でね」

 「な、なるほど?」

 「それでだ、その銃の元々の持ち主の外来人は当時の"博麗の巫女”達と一緒に数々の異変を解決していた」

 「なるほど…」

 「その外来人はいく度か異変を"博麗の巫女”と共に解決すると僕にこれ(SAA)を渡すとどこかに消えてしまった」

 「消えた?」

 「そう、綺麗さっぱり幻想郷から姿を消してしまったんだよ」

 

 

 〜現在〜

 

「って、あの店主は消えたって言ってたけど。その外来人って外の世界に戻ったってことかになるのか…?」

『いや、もしかしたら物理的に…「止めろ、地味に怖い」

 まあ、さすがに"消された”って事はないにしろ、その外来人は普通の人間じゃないな』

「と、言うと?」

『だって、考えてみろ。俺もお前も"幻想郷での異変"の意味は分からないが、恐らく事件とか異常事態とかの事って前提とすると、ここは怪異蔓延る異世界だ、マトモな人間がこの地で生き残る、ましてや危険な事象を解決したなんて、有り得ない筈だ…』

 「確かに、俺はお前が手を貸してくれなかったら今頃はあの(・・)妖怪の腹の中だったしな。それにこれを見てみてくれ」

 そう言うと仁は手に持っていたSAAの弾倉をいじってみせた。

 すると、SAAの弾倉は横にズレた。

スイングアウト(振出式)!?いや、ピースキーパーはソリッドフレーム(固定式)だぞ…』

 スイングアウト(振出式)というのは映画などでよく見かけるシリンダー(弾倉)を横に振り出しリロードをする機構だ。対してソリッドフレーム(固定式)というのは振出式のようにシリンダーを動かす事は出来ない。その為、リロードの際には1回1回空薬莢を捨てて、一発づつ弾を込めるというとても多くの時間を消耗してしまうが代わりに頑丈でマグナム弾を初めとした強装弾を使用出来る。

 「SAAに何をどうしたらそうしようって発想になるんだか…。それに少なくともこんな"魔改造”出来るって事は銃の知識も相当だな…」

『それもそうだが、これを『僕には必要ないし置いておいてもアレだ』って言ってこの銃を譲った店主も店主だな…』

 「確かに」

 そして二人?は博麗神社への階段が見えてきた道を進む。

 

 

 

 

 

 

 20分ほど歩き神社の階段が見えてきたその時だった、仁らの上空近くを何か(・・)が猛スピードで通過した。

 

 

 

 そして、上にある神社から、何かが衝突したような音木材が折れた時のバキバキという音が聞こえた。

 「なんだ今の!?」

『分からん、とにかく神社の方で異常が起きたってのは分かるだろ?分かったなら走れ!』

 

仁は何も考えることなく一心不乱で神社への階段を登った。

 

「ハァ…ハァ」

疲れも出てきてしまっているがそんな事なんてどうでも良い、今はともかく上の様子を確認したかった。

妖怪程度なら容易に対処出来そうな霊夢でも彗星の如く突っ込んできた"謎の物体”の対処なんて出来るのだろうか?

などと考えながらも仁は走る。

 

 

 

「っ!!」

案の定、あの"謎の物体”は神社に衝突したらしい。

階段を上がりきった仁が見た光景が今の神社の状況を教えてくれた。

“謎の物体”は居住区の縁側のある部屋に衝突したらしく、障子戸は吹き飛んでいたりバラバラになって飛び散ったいた。

居間の方は詳しくは見えないが同じく悲惨な事になってるだろう。

「クソっ…何がどうなってんだ!!」

仁はズボンのポケットから“G18”を抜き、ゆっくりと構えながら博麗神社へと近づいた。

 

そして彼は神社の縁側まで来ると拳銃を構え直し、縁側の側から覗き込むように室内を見た、

「……っ!?」

 

そこには何かが焦げたような臭いが

そこには霊夢と魔理沙が“なにか”を見て固まっていた。

そして二人の視線の先には

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにはレミリア・スカーレット(・・・・・・・・・・)という吸血鬼が全身に火傷を負って倒れていた。

 

 

 

 




まずは、本当に遅れてすいません……。
理由はですって?
そりゃ、勿論ゲ(グシャッ
冗談はさておき、本当は一、二週間前に投稿しようかと思ったんですが。
何を考えてたのか、エベレストなんて可愛いレベルの“課題”っていう山をほったらかしていて……


そして見事に地獄を見ました。ハハハハハ(°Α°)




と言うわけで、今回はこれで…誤字や脱字におかしな文章があったらご報告して頂けると幸いです!!それではこんな小説を読んで頂きありがとうございました!!




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異変

やったー、剣ディルだー(白目)


 異様だった。

 何が?

 今までに嗅いだことないような焦げた臭いが辺りに充満してるから?

 たった一週間前に会った、見た目が幼女の吸血鬼が全身に火傷を負って目の前で倒れているから?

 今までに感じたことの無い寒気を感じたから?

 これら全てだ。

 いや、もしかする他にもあるかもしれない。だが、今の彼にはそれらしか思いつかなかった。

 「何だよ……何だよこれ…!!」

 無論、少年は混乱した。

 「あ…仁」

 と、魔理沙が目を見開いたまま、こちらを見て言った。

 「レミリアが急に突っ込んで来たの…。なんで日に焼かれるのを承知で来たのかしら…」

 霊夢がレミリアを見ながら言った。

 「ど、どういうことだ?」

 「吸血鬼は日光の下じゃ生きられないのよ」

 「じゃあ、なんで……」

 「分からないわ。とにかく、レミリアを運んでちょうだい応急処置くらいしないと本当に死ぬわよ」

 「分かった…」

 

 

 そして、3人はレミリアを治療するため比較的損傷の無い部屋へと移動させた

 幸いにも火傷を負った箇所は殆どが足や手などの露出した部位のみだったが吸血鬼という妖怪の性質なのか、日光を浴びたレミリアの意識はハッキリしていない。

 

 

 

 

 

  そんな時だ。

 仁がレミリアが大事そうに持っていたメモ用紙ぐらいの紙を見つけたのは。

 「っ!?霊夢、これ!!」

 彼はメモ用紙ぐらいの紙をレミリアの手から離し、包帯等を用意していた霊夢に見せた。

 「なにそれ?」

 「レミリアの手の中に…」

 ぐちゃぐちゃになって所々赤黒い"何か”が着いている紙には乱雑な字でこう書かれていた。

 

 

 

 たすけて ふらんが こうまかんのみんなが しぬ

 

 

 

 と。

 

 

 

 「………」

 「おい…この"ふらん”って?それに"こうまかん”って……?」

 「……紅魔館(こうまかん)って言うのはこいつの"家”よ。フランっていうのはこいつの妹…」

 と、白のシーツの上に乗せられたレミリアに目をやりながら言った。

 「だけど、なんで死ぬ(・・)なんて物騒な単語が……」

 「その事だけど、私達は今から紅魔館へ何が起きているか確認しに行くわ」

 霊夢はレミリアの腕に包帯を巻きながら、その作業を手伝っている仁に言った。

 「…俺も行っても良いか?」

 「構わないわよ。けど死ぬかもしれないのよ?」

 「関係ない」

 と、仁は迷うことなく言った。 

 「良いの?この前の神なんて比にならないぐらい危険よ」

 「問題ないよ。どの道、俺は外で妖怪と戦うんだ。多少の危険なんて構ってられない…」

 「じゃあ、仁は私の箒に乗るのか?」

 「ああ、頼んだ魔理沙」

 「分かったぜ」

 

 

 

 レミリアの治療(と言うよりは応急処置)を終え、3人はそれぞれの”戦闘準備"を始めた。

 

 仁は能力で作った防弾チョッキ、ハーネスを装備し。拳銃(ベレッタM9)、アサルトライフル(G36)をそれぞれ拳銃はハーネスのポケット、アサルトライフルはスリング(紐)を取りつけ背中に掛けた。

 ハーネスには持てるだけの代えの弾倉を入れた。

 それに必要ないかもしれないがナイフも装備した。

 

 

 霊夢は神社の部屋にある棚から普段から使っていると思われる、お祓い棒に普通の針よりも長さが何倍もある針をいくつも取り出し、用途不明の"御札”も何枚か取り出した。

 

 魔理沙の場合、彼女は何やら六角形の何かを弄くり回していた。一瞬、その六角形の何かを仁は見掛けた気がするのだが、思い出す事もなく特に気にもとめなかった。

 

 そして、霊夢と魔理沙そして仁は神社の庭へ出て紅魔館へと出発しようとしていた。(その内2人は箒に乗っている)

 「準備は良い?」

 と、紅白の巫女。

 「万端だぜ」

 と、白黒の魔法使い。

 「問題ないよ」

 と、赤一割黒九割の少年。

 

 かくして、少年1人と少女2人は異変解決の為、"紅魔館”へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「なあ、魔理沙。フランってどういうヤツなんだ…?」

 と、仁が猛スピードで飛ぶ魔理沙の箒の上から聞いた。

 「フランか…」

 「レミリアの持っていた紙にそのフランが危険(・・)って感じだったけど」

 「あんまり、詳しくは話せないが。フランは自分自身の性格のせいで時々、〘狂気〙に支配されかけてたんだ」

 「狂気…支配…?」

 「ああ、簡単に言うと2つ目の人格、まあ、二重人格みたいなものだぜ」

 「それと今回の件は関係はあるのか?」

 「分かんない…。けれど、ある時レミリアが起こした異変解決しに行った時にフランと私達が会ってそれからは狂気でおかしくなる事は無くなった…って聞いてたんだ」

 「だから、今回の件は何かがおかしいと?」

 「そうだぜ。だけど、今回の異変はいつものとは違うと思う」

 「なんで?」

 「なあ仁、お前はレミリアに初めて会った時に"咲夜”って言うメイドに会ったろ?」

  「ああ、ずっとレミリアに寄り添ってた銀髪の人だろ?」

 「で、そいつの能力は知ってるか?」

 「確か、時間を操る能力だったっけ?」

 「そうだぜ。それで何でレミリアは神社に来た?」

 「霊夢に助けを求め……あれ?ちょっと待て…」

 「そう、"咲夜”という能力を使えば一瞬で伝言なんて直ぐに伝えられるのにも関わらず、何でレミリアは自分を犠牲にするのを承知で神社にやって来たんだと思う?」

 「……咲夜が居なかったから?」

 「いや、そんな事なら咲夜は直ぐに異変に気づいて動くだろうぜ」

 「じゃあ、何で……」

 「簡単だぜ、それは咲夜が何かが原因で行動不能(・・・・)になっていたからだと、私は思うぜ」

 「で、でも咲夜は時を操るんだろ?そんなに簡単にやられるとは…」

 「それだけ相手が危険だってことだぜ。なあ、仁。お前、本当に行くのか?」

 「もちろん、行かないで後悔するぐらいなら行って後悔したい」

  「……そうか、なら私は止めないぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おっと、見えてきた…っ!?」

 そう言うと魔理沙は前方を見たまま固まった。

 恐らく、仁らの進行方向上にある大きな庭がついてる血のような真っ赤で大きな館が魔理沙や霊夢の言ってた"紅魔館”だろう。

 だが、その館はもはや本当に人?がいるのか分からない、廃墟のようになっていた。

 何故か極端に少ない窓は割れ、壁には大小様々な穴が空いている。

 しかし、外の庭にはまるで損傷を受けてないように見え

 る。

 「美鈴がいない…?」

 と、霊夢が仁が知らない人名を紅魔館の門を見ながら言った。

 「やっぱり、なんかあったのか…」

 「もういいわ、魔理沙!このまま、中へ突っ込むわよ!」

 と、霊夢が顔を仁らに向けて言った。

 「分かった!だけど、どこに行くんだ?」

 「とりあえず図書室に。あそこならあの⦅魔法使い⦆がいると思うし」

(魔法使い?なんだなんだ、吸血鬼やら魔法使いがいる紅魔館ってどんなダンジョンだよ……)

 仁がそんな事を考えてたら、魔理沙と霊夢は紅魔館に空いている一番大きな穴へと突入した。

 突入した所は紅魔館の廊下であろう所だった。

 確かに、ただでさえ外観からして広そうな感じはしたのだが。その廊下の長さと奥行きはそれでも外見に不釣り合いな広さだった。

 「…見えてきた!」

 と、霊夢が指さした先には大きな木製の扉があった。

 扉は少し開いていて、その隙間から黒い服を着た赤い髪の少女がこちらに向かって手を振っていた。

 

 

 

 

 

 「小悪魔、何があったの?」

 扉の前に3人は降りて、霊夢が小悪魔と呼んだ黒を基調とした服の赤いロングの少女に聞いた。

 その少女は白いシャツに黒褐色のベスト、ベストと同色のロングスカートでネクタイを着けている。

 そして、少女にはまるで悪魔が持つような羽が背中にあった、頭にも小さめなサイズの羽がある。

  「説明は中でパチュリー様が説明します。とりあえず外は今、危険なので中へ」

 そして、3人はその大きな扉の中へ悪魔のような羽を持つ少女についていった。

 

 

 

 扉の奥は壮大な光景が広がっていた。

 確かに、霊夢の言っていた通りそこは図書室だった。

 だが、少年が知ってるような小狭い図書室や市営図書館等とはまるで比べ物にはならないほどの大きさだった。

 壁は全て本で埋まっており、壁紙という物が見えない。それに今、少年らがいるのはその部屋(・・)の1番上のフロアらしい、よく見ると真ん中は吹き抜けとなっておりそこから4フロアが下にあるのが見える。

 

 

 最下層には本棚の他にもテーブルに椅子、それに紙のような物が散乱していた。

 

 

 「で、その男の人は誰なんですか?」

 不意に小悪魔と呼ばれていた少女が口を開いた。

 「連れよ」

 「なんで連れてきたんですか?ここに居ると普通の人間なら直ぐに死にますよ」

 「大丈夫、こいつは少なくとも自分の身は(・・・・・)は守れるわよ。守矢神社でのことって言ったら分かるかしら?」

 「え?えぇ、確かにパチュリー様に聞いたことだけですが、外来人が守矢の1柱を倒したんでしたよね?」

 「その、外来人よ仁は」

 「なるほど…それなら、大丈夫そうですが…」

 

 

 

 「なあ、小悪魔」

 「何ですか魔理沙さん?」

 「フランの奴はいつからそういう(・・・・)状況になったんだ?」

 「……正確には分かりません」

 「そうか…」

 「ですが、最低でも3、4時間前というのは分かってます」

 仁らは現在、図書館の階段を降りていた。恐らく、小悪魔が言っていた"パチュリー”という人物がいると思われる最下層に向かっているのだろう。

 まず、最下層に着いて仁らが見たのは軽く、30人?匹?程いる恐らくは"妖精”だろう、その妖精らがメイド服を着て、それぞれ右へ行ったり左へ行ったりと落ち着きがなかいように見えたが、よく見ると全員、同じ所に行っては移動をしていた。

 「こっちへ」

 と、小悪魔がその"妖精メイド”達が移動していた所の中心へと進んで行った。

 

 

 「これはどうですか?」

 「ダメ、あの子が気がおかしくなる薬なんて触れる筈がないし、第一に私達がさせないわ。もっと他のを見てみて、なるべくなら魔法関連のものを」

 「分かりました」

 小悪魔に連れられてきたのは、上から見た所で言う大きなテーブルの所だった。

 そこには小悪魔を小さくしたような少女と紫色のローブと言うのだろうか、そんなゆったりとした服を着て三日月形のブローチを付けたドアノブのような帽子をかぶった肌が真っ白で病弱そうな少女がいた。

 「パチュリー様、霊夢さん達が…」

 「あ、霊夢に魔理沙…遅かったじゃないの」

 と、その病弱そうな少女はこちらを見て言った。

 だが、彼女の声は今にでも倒れてしまいそうな疲れきったような声だった。

 「あれ、貴方は噂の外来人ね?何でここにいるのか聞きたいけど、今は猫の手でも借りたい時だから、何も聞かないでおくわ」

 「…俺は神川 仁、君は?」

 「わたしはパチュリー・ノーレッジよ」

 と、自身の名前だけ言うとパチュリーは霊夢の方へ向き直った。

 「パチュリー、紅魔館で何があったのか1から順に教えて貰える?」

 「…そうよね、何も言わないとこうなってしまうわよね…。分かったわ。けど、事態が事態だから手短に話すわよ」

 

 

 

 「事の始まりは、4時間ほど前の事よ。まず、私達は変な物音が聞こえたから、咲夜に様子を見に行ってもらったのよ、そして帰ってきたのは全身血まみれになった咲夜だったの…。それで彼女に、何があったの?って聞いたら、一言だけ「逃げて」だったわ…。それで、フランの様子がおかしい事が分かって、彼女(咲夜)の代わりに美鈴がフランを止めに行ったけど、結果は惨敗。今は私が紅魔館に仕掛けてある"結界”で何とか外に出させてないし」

 「じゃあ、何でレミリアが神社に?あんた達なら、絶対に止めると思うんだけども」

 「……止めなかったわ。それだけじゃないわ、私たちからレミィに頼んだのよ」

 「どういうこと?」

「美鈴も昨夜もいなくて、紅魔館には…癪だけど戦力が足りなかった。私なら、足止めくらいにはなるかもしれない、けどレミィはすっかり戦意を無くして駄目になってたわ…。それに吸血鬼は天狗よりも速く飛べる、伝達にはもってこいよ」

 その時、仁の横にいた魔理沙がいきなりパチュリーの胸ぐらを掴み上げた。

 「っ!お前はそれで良かったのかよ!!アイツは…レミリアは親友なんだろ!例え、咲夜や美鈴がいなくても小悪魔とかがいるのに何で!?アイツが強い妖怪である前にお前の親友なんだろ?じゃあ、何でレミリアの命を削るようなマネをさせた!」

 「仕方ないじゃない!私達だって…いいえ、()だって平気でそんな事させるとでも思ったの!?」

 そう言うパチュリーの目には涙があった。

 「ごめんなさい、少し取り乱したわ…。でも、今の状況はそれだけということなの、少々強引かもしれないけど理解してちょうだい…」

 パチュリーは落ち着いた様子で言った。

 「それで、結局私達に何をしてほしいの?」

 と、霊夢が言った。

「ええ、それのことなんだけど………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「ねえ、レミリア様は無事なの?」

  「ん。ああ、今は博麗神社で安静にさせてるよ」

 「なら良かった」

 仁は紅魔館内の窓が少ない少し薄暗い廊下を歩いていた。

 傍らに妖精メイド数名を連れながら。

 状況としては、仁の横に1人、前に浮遊しながらはしゃぐのが3人だ。

 「……お前ら、怖くないのか?」

 「「「別に」」」

 と、妖精メイドらはどう考えてもこの雰囲気に合わない陽気な返事をした。

 「…あと、弾幕ごっこしたことはあるよな?」

 「「「ないよ」」」

 「………」

 「ごめんね、緊張感がなくて」

 「いや、大丈夫。かえって気が楽だよ…」

 仁は若干、溜め息混じりに呆れたような感じで言った。

 「ホントに大丈夫かなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜10分前〜

 

 「まずは、フランを止めて欲しいの。けれども、フランが分身出来るのは知ってるわね?」

 いや、知らんがな。と仁は心の中で言った。

 「まあ、外来人のあなたにとってはなんの事だか分からないでしょうけど。とりあえず、吸血鬼特有の能力だと思ってくれれば良いわ。それで、フランは分身をする可能性があるの。分身したら彼女は4人になってしまう、今のまま分身をされると厄介よ。だから、それを防止するため、もし止めるのが遅かった場合にすぐに対応出来るようにあなた達にはバラバラに行動してもらいたいの。……頼めるかしら?」

 ひととおり話し終えたパチュリーは霊夢と魔理沙と仁に向かって言った。

 「もちろんよ」

 と、霊夢が。

 ああ。と魔理沙。

 仁はただ頷いた。

  「けど、あんたはどうするの?」

 「私はこあ達とここで"あれ”を守るわ。"あれ”が壊されてしまったら、私達の努力は水の泡。だから、何がなんでも守りきらなければダメよ」

 「そう、分かったわ。で、フランはどこにいるの?」

 「…分からない。けれど、彼女の通ったあとには何かしらの破壊の痕跡がある筈。それを辿るか近くを探せばいるかもしれないわ」

 「じゃあ、行ってくるわね」

 「私も行ってくるぜ」

2人はそれだけ言うと飛び上がって先程の廊下の方へと飛んで行った。

 そして2人は図書館の出口へと向かっていった

 「じゃあ、俺も…「待って」

 と、2人のあとを追おうとしていた仁をパチュリーが止めた。

 「さすがに戦闘慣れしていない、外来人の貴方1人に任せるのは心配よ」

 そして、パチュリーはそこら辺にいた妖精メイドを4人ほど呼んだ。

 「貴方は彼女たちと一緒に行動してちょうだい。大丈夫よ、しっかりと役に立ってくれるわ」

 「「「「よろしくお願いします!」」」」

 と、小柄な妖精メイド達は仁に向かって言った。

 「分かった。よろしく頼む」

 と、仁は妖精メイドに向かって会釈をしながら言った。

 そして、テーブルに座り先程の小さい方の小悪魔が持ってきた分厚い本を食い入るように読み始めた。

 そんなパチュリーに向かって仁は言った

 「なあ、さっきの"あれ”って月旅行に関係することだろ?」

 「……もしかして。いえ、もしかしなくてもその話レミィから聞いたのね。そう、あれって言うのは"月ロケット”の事よ」

 パチュリーは一瞬、驚いた顔をしたがすぐにいつも通りになって言った。

 「なるほど…」

 「月ロケットの完成を誰よりも喜んだのはレミィだったわ。子供のようにはしゃいでいたわ…。ねえ、お願い彼女の為にもこの異変を解決してくれるかしら…?」

 「もちろん、期待通りに出来るか分からないけど、とりあえずやってみる」

 「ええ、頼んだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜現在〜

 

 

 「で、疑問なんだが。なんでお前はずっと黙ってたんだ?普通なら質問とかしそうだけど」

と、仁が宝石内の神様に聞いた。

『ん…ああ。ちょっとな』

 「悪巧みか?」

『ンなわけねえだろ。役に立ちそうな、武器を考えてんだよ』

 「やくにたつ?」

『ホントなら、今度人目のないところで試作を試してみたかったんだが…。今回、使えるように頭ん中で設計してるんよ』

 「それで、その武器は?」

『なるべく、フランってのと戦う前までには創れる(・・・)ようにしとく』

 「了解した」

 

 

 

 

 「ここら辺、通ってきた所よりも荒れてんな…」

そう言う、仁の周りには地面が抉れていたり、壁にヒビが入っていたりと荒れ放題だ。

『警戒を怠らないようにしろよ』

 「分かってる分かってる」

 他にも周囲には元々は天井か壁の1部だったであろう瓦礫が、至る所に落ちている。

 「みんなー、気をつけてえー」

 と、妖精メイドの1人が手に持つ小さな剣を持ちながら言った。

 

 

 

 「ん…。ちょっと待っててくれ」

 と、仁が妖精メイドを止まるように言い。

 1人で正面右の部屋へと繋がる入口へとG36を構えながら進んで行った。

 そして、仁は入り口の横へ来て部屋の中を銃を構えながら覗いた。

 「ん?」

 案の定、部屋の中は瓦礫が散乱していた。

 部屋には軽く、15メートルはありそうな長いテーブルが、ある。恐らく、この部屋は食堂だろう。

 「危ないな…」

 そして、仁が見ていたのは1人ポツンといる赤い服を着た幼い少女だった。

 「おーい、君。ここ、危ない…」

 そう言おうとして、近づいた仁は先程別れ際にパチュリーから聞いたある"言葉”を思い出した。

 

 

 

 

『それと、フランの見た目のことなんだけど。あの娘の羽は木の枝に宝石がぶら下がっているようなもので帽子はレミィとお揃いのものだから、すぐに見つかると思うわ』

 

 

 

 

そして、その少女はどんな見た目をしている?

 

 

 

 

そして、その少女は静かに、そしてゆっくりと顔をこちらに向けた。

 

 

 

 

そして、その少女の目には"光”がなかった。

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その少女の背中に魔法陣のようなものが出てきたと思ったと思った瞬間。

 

少年の意識が飛んだ。

 




まずは、投稿遅れました……すいません(;一_一)
今回は特になにもないのでこれにて…
誤字や脱字におかしな文章があったら報告して頂けると幸いです!
それではこんな小説を読んでくれてありがとうございました!!


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対吸血鬼戦

 少年には何が起きたかが全く分からなかった。

 ただ、一瞬のうちに周囲が瓦礫だらけになったことだけが分かった。

「クソっ……!」

 確かに一瞬だけ意識は飛んだ。

 それは衝撃波によるものだと言うのもすぐに分かった、そしてそれがあの吸血鬼(・・・・・)の少女を中心にして放たれたというのもだ。

『おいおい。大丈夫か?』

「多分、大丈夫……だと思う」

 転がっていた仁は立ち上がりながら言った

『なら、銃を構えた方がいい。多分、アイツがフランだ』

 そう、仁が振り向いた先の約10メートル程離れた部屋の中心にはレミリアの妹のフランだと思われる人物? がいた。

 確かに、パチュリーに聞いた通りの赤い服に白いレミリアと同じドアノブのような帽子、そして木の枝に宝石がぶら下がっているようなおかしな羽のような物、と仁の知っている吸血鬼とは似ても似つかない幼女だった。

 しかし、その目の前にいる幼女にはパチュリーからは何も聞いてない事が何ヶ所かあった。

 それは全ての動作がぎこちなく、まるであやつり人形のような動きをしており。穴でも空いているんじゃないかと思うほど黒く染った眼球。そして背中には、壊れた電光掲示板のように点滅を繰り返している紅い魔法陣が横になって浮かんでいる。仁が幻想郷では初めてみる異様なほどの不気味さだ。

「なんなんだよ、一体……」

『分からねえ。だけど、倒さないとどうにもできなさそうだ』

「どういうことだ?」

『ほら、見ろよ。この部屋に通じる全部の入り口が瓦礫で閉じちまってる、それにアイツはほっとくと面倒通り越して更に酷いことになりそうだ。なに、安心しろ。俺が全力でサポートする』

「……分かった」

 そう言うと、仁は身体に掛けてあったG36を構え、銃口を前方の吸血鬼へと向けた。

「ごめんっ……!」

 と、仁はフランに向かってフルオート射撃をした。

 なるべく胴体を狙い、倒そうと(気絶させようと)した。

 だが、フルオートというのは軍人でさえも全弾を全て目標に当てるのは至難の業だ。そのため、仁が撃った弾幕は半分以上が命中しなかった。

 もちろんフルオートの為、弾幕の弾はすぐに無くなり、仁はG36の替えのマガジンをハーネスから取り出し、それを装填した。

 だが、

『ダメだ、効いてる気がしない』

 そう、仁が撃ってる弾幕は確かにフランに当たってる。

 しかし、少なくとも5発は当たったハズなのにも関わらず傷どころか、かすり傷さえ(・・・・・)ついていなかった。

「分かってる! けど、他に方法が見つからない」

 

 その時だ。

『ッ! 仁、避けろ!!』

「え?」

 

 

 

 そして、ドカアアアン! という爆音が仁の背後の壁から聞こえた。

「なんだ!?」

 間一髪の所で横に転がり、その突進してきた何か(・・)から避けた。

 仁は、何かが当たったと思われる背後の壁を見た。

 壁には|何かがぶつかってできたと思われる、大きな穴が空いていた。

 

「うっ……」

 その壁に空いた穴の向こうに、いた"ソレ"を見て仁は思わず、そこから全力で逃げたくなった。

 

 そこには相変わらずあやつり人形のような、ぎこちない動きをしている"フラン”がいた。

 だが、その顔には先程にはない、口が裂けるんじゃないかと思うほど歪んだ笑顔をしていた。

『今更だし、当たり前だけど、ありゃ正気じゃないな』

「もう、無理ッスよ、神さま。SAN値直葬モノですネ、ハイ」

『おいおい、こんな時にだけ神扱いかよ』

 と、色々とおかしくなった笑顔の仁君だった。

 

 だが、そんな彼にもフラン? は容赦ないようで、背中の魔法陣の周りに小さな魔法陣が作り出され、そこから弾幕もとい光弾を放ってきた。

「うおっ!!」

 幸いにも弾速は遅かったため、避けるのは簡単だった。

 だが、失速して地面に当たった弾幕は爆発した。

 それも結構な威力で。

『どうする? このまま、弾幕を撃ってもジリ貧にしかなんねえぞ』

「分かってる。けど、他に案が思いつかない……!」

 そんな中でもフランは弾幕を撃ち続けている。

 確かに、今のように弾幕から逃げ続けながら、効きもしない弾幕を撃ちまくるのはよろしくない。

(せめて、何か弱点でもあれば……)

 仁は一瞬だけ立ち止まりフランに向かって、今度はセミオートでフランに正確に当たるように撃った。

 しかし、やはり胴体に当たった筈なのにも関わらずフランはピクリとも動かずに弾幕を放ってきた。

 弾幕を全て避け、仁はお返しと言わんばかりの弾幕を撃つが……

「やっぱダメかよ……!」

 やはり、当たった全ての弾幕は微塵もフランには効いてるようには見えなかった。

 

 

 

 

 この状況の打開策がまるで思いつかないまま、仁はフランから逃げるようにちょうど仁の体を隠す大きさがある瓦礫を背にして座った。

「……クソッ。やっぱり実弾を使わなきゃダメか……」

 と、アサルトライフルを地面に下ろした仁が言った。

『いや、そこまでする必要は無さそうだ』

「? どういうことだ?」

『いや、さっきからあの吸血鬼の嬢ちゃんから変な感じがする』

「変な感じ? なんだそれ?」

『んー……なんというかどう言うか……。とりあえず、あの嬢ちゃんに似合わない変な力が嬢ちゃんから感じるってことだ』

「でも、それがどうしたんだ?」

『それがもしかしたら、あの嬢ちゃんの弱点もしくは、あの嬢ちゃんがああいう風に(・・・・・・)なった原因でもあるんじゃねえかな、ってよ』

「だけど、その弱点があったとしてもどこにあるんだ?」

『接近戦して、見つけるってのはどうよ?』

「俺に、死ねってか」

『いや、そうじゃなくて……いや、そうか』

「おいコラ」

『別に悪意はないんだってーの。ま、とにかく何を使う?』

「とりあえず、弱点を見つけたい」

『具体的には?』

「耐久戦して。走り回りながらどうにかしたい」

『と、すると長物は重くて疲れるし、邪魔になるな』

「それじゃあ、ハンドガンか?」

『そうなるな。俺としては、そいつ(M9)よりも……こいつ、だな』

 その時、仁の前に一丁の全体的に四角いフォルムのハンドガンが"創られた”。

「なんだこれ……? グロック?」

『そう、《GLOCK18C》。軍用のフルオートモデルだ』

 

「……ドットサイトに拡張マガジン。お前、このカスタムって……」

 と、仁はハンドガンを手に持ち、見回しながら言った。

『何も、言うな』

「あ、ハイ」

 

 

 

 

 

 

 そして仁は今いる、瓦礫の横からフランを隠れるように見た。

「ん? 気のせいか? あいつの動きが自然になってるような気がする……」

 そう、今のフランはさっきよりも"普通の動き”をしていた。オマケに先程は持ってなかったグネグネした黒い棒のようなものも持っていた。

『……嫌な予感がする。仁、なるべく早めに終わらせよう』

「了解」

 

「最悪の場合、近距離がダメなら、いっその事、白兵戦に持ち込んだ方が良いのかね……?」

最悪の場合(・・・・・)には、な。割と冗談抜きで』

「……了解」

 

 

 

(とは言っても、弱点って、見えるもの(・・・・・)なのか? それとも見えないもの(・・・・・・)かハッキリしてないと攻撃のしようが……)

 そう、弱点というのは大まかに分けて2つある。

 それは本人にとってのトラウマや自身にとって不十分な部分などを精神面としての弱点、即ち"見えない弱点”。

 もう1つは、そこを叩かれると歩けなくなる。または、動けなくなるような、物理面としての弱点、即ち見える"弱点”。

 後者ならともかく、対人戦での重要な要素の1つである相互の見えない弱点(・・・・・・)を突き合う精神戦は、今のような状態のフランには確実に効果は無い。

 

「考えるだけ、無駄……か」

『ん? どうかしたか?』

「いや、何でもない」

『そうか……。あ、そうそうコイツを持ってけ』

 と、首元にいる神様が言うと、仁の横に一本の棒のようなものが壁に立てかけられるように創られた。

「これは……刀?」

『ああ、そうだ。どうせナイフだけじゃ物足りんだろ?』

「う……違くはないんだけど……なんか違うような」

『つべこべ言わずに、ほら、背中に掛けろ』

「ハイハイ……」

 と、仁は渋々刀を背中に掛けた。

 

「……あいっかわらず、不気味だな」

『確かにそうだ。あと何度も言うようで悪いが、アレは早く倒した方がいい』

「分かってる」

 そして、仁はハンドガンを構えると、1度大きな深呼吸をすると。

「よし……行こう」

 

 

 

 

 

 まず少年は、瓦礫の影から飛び出すとすぐ側まで来ていた、フランの頭に迷いなく3発、そしてフランの背後へと回り込もうとするが、すぐさまフランから弾幕が放たれて仁はフランから離れるようにして弾幕を避けた。

 オマケにその弾幕は、明らかに先程よりも早く放たれている。それは例えるならば、マシンガンの如き連射力に加え着弾すれば爆発する、という凶悪さだ。

 しかし、その弾幕は真っ直ぐ放たれている。

 フランが向いてる方向に弾幕は放たれるので避けるのは簡単だった。

(どこだ……どこにある……)

 仁はフランに目を凝らし、”弱点”を探すがそれらしい物は見つけられなかった。

「ああああああああぁぁぁ!!!!」

 と、急にフランが叫び出した。

「なんだ!?」

『クソっ!!』

 

 

 

 

 次の瞬間、仁の右脇で爆発が起きた。

 

 仁は声を上げることも許されないまま横に飛ばされた。

 だが、少年は見ていた。

 爆発が起きる直前、醜い笑顔を浮かべながらこちらに猛スピードで飛んできたフランを。

 

『おい仁、大丈夫か!?』

 と、心配した様子でバルは聞くが、少年からの返事は声ではなく、うめき声で返ってきた。

『起きろ、すぐそこまでヤツが来てるぞ……!』

「分かってる……」

 フラフラと立ち上がった仁は、爆心地の方を見ると、案の定地面にあのぐにゃぐにゃした鉄の棒を突き刺しているフランがいた。

(どう……する……?)

 少年には、今何をどうすれば良いか分からなかった。

「うおおおおぉ!!!!」

 ただ、がむしゃらに少年は手に持つ拳銃の弾を全て、フラン(化け物)に撃った。

 しかし、案の定弾幕は当たれども効き目はないように見える。

 と、思っていた。

「あ……え……?」

 仁が放った弾幕による攻撃は、確かにフランには効いていた。

 だが、その肌に傷はなかった。正確には、全て一瞬で治っていた。

 それは、目の前にいるのが人間ではなく人知を超えた怪物である"吸血鬼”だということを仁に思い知らせた。

「あ……あ……」

『おい、しっかりしろ!!』

 目が見開いたまま動かなくなった仁にバルが言った。

「ああ、もう! どうすりゃ良いんだよ!!」

 そして、仁は背中に掛けてある刀を取り、鞘から刀を抜いた。

「これは……もう最悪の事態……だよな……」

『この場合、仕方がない。今出来る事を全力でやれ』

 無言で仁は頷くと、刀を構えた。

「俺だって遊んでいた訳じゃないんだ。大丈夫だ」

 

 

 

 

 それだけ言うと仁は、ゆっくりと近づいてくるフランに向かって突撃した。

 捨て身とも受け取れるその戦法に、少年は全てを賭けた。

「喰らえええええ!!!!」

 そして、地面からグネグネした棒を抜いたフランに刀を左から右に振った。

「ハア……ハア……」

 仁はフランから5メートル程離れた所で止まった。

 正直、仁は勝つつもりなんて無かった。

 ただ、もし、霊夢達が今の状況を知ってくれればどうにかなるかもしれない、それまで自分は耐えてみせろ、と自分自身に仁はそう言い聞かせた。

 

 

 

 

 だが、現実は甘くなかった

 

 

 

 

 

「あ……え、何……で?」

 振り返った少年が見たのは痛みによって顔を歪めている幼女でも少しでも痛がっている様子を見せるフランでもなく。

 

 

 

 

 

 歪んだ笑顔でさっきまで少年がいた場所を見つめる"吸血鬼”がそこにいた。

 

 

 

 

 

「どうして……? 確かに……確かに切った筈だ……ぞ?」

 遂に、訳の分からない不気味さに震えだしてきた少年は、本当は見間違いじゃないか? と確認の為、自分が刀で攻撃した箇所を見た、しかしそこには何も無かった。

 さっきの弾幕でさえ多少の出血をしていたのにも関わらず、今回は血も攻撃した痕跡も何も無かった。

 しかし、明らかな違和感があった。

 1つは、フランが抜いたばかりのあのグネグネした棒がこれでもかというほど、赤くなっていた。

 2つ目は、先程まで感じていたはずの、刀の重量が無くなっていた。

 正確に言うと、まるで刀の柄しか(・・・・・)持っていないような感覚……

「なっ……!?」

 

 だが、それは、何も間違っていなかった。

 

 確かに、さっきまであったはずの刃の部分が柄の先から無くなっていた。

 そして少年はまさかと思い、フランの足元を見た。

「……嘘だろ」

 嫌な予感は的中していた。

 刀の刃の部分はフランの足元に。

 その刃の部分の折れている所は真っ赤になって、まるで火にでも炙られたようだった。

『ダメだ、逃げろ。コイツは今のお前にどうこうなる相手じゃ無さそうだ!!』

「分かってる!! けど、どうやって逃げる!? 出入口は瓦礫で塞がってるぞ!」

『クソっ! じゃあ、グレネードでもC4でも何でも使って無理やりでも逃げ道を作れ! じゃなけりゃ死ぬぞ!!』

 チッ、と舌打ちをしながら仁は瓦礫で塞がれた正面の出口へと走った。

 だが、それがいけなかった。

 

 

 

 

 ドスッ!! と、そんな音が仁の腹部から聞こえた。

「な……に……が?」

 目の前はいつ移動したのか、フランがいた。

 仁の腹部に拳を当てながら。

「ゴハッ……!」

 フランは、吐血し膝を付いた仁に今度は回し蹴りをした

 そして、仁は人外の力で蹴られたおかげで凄い勢いで吹っ飛ばされた。

 大きな柱に衝突して、やっとその勢いは止まったがフランが折れた刀の刃の部分を片手に近づいてきた。

(あぁ……そういえばこんな状況、あったっけな……)

 と、幻想郷に初めて来た時の事を思い出している少年にバルは言った。

『……しょうがない。仁! ()を投げろ!!』

「な……んで?」

『つべこべ言わずに早くしろ!!』

 そして、仁は首のロケットを力無き腕で外すと自身から右側、約3メートル先へと投げた。

(もう知らん……俺はもうダメそうだ)

 ゆっくりと目を閉じた少年にフランは刀の刃の振りかざさしトドメを刺そうと刃を持っている右手を大きく振りかざさした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調子に乗んじゃ……ねえぞぉぉおおお!!!!」

 

 

 

 急に眩い閃光が焚かれたかと思ったら、フランの体が無くなっていた。

 いや、厳密には飛び蹴りを受けて、先程の仁のように吹き飛ばされていった。

 そして、フランの代わりに赤黒いフードを被った"何か”がいた。

 その"何か”は仁に近づくと。

「よし話は聞けるな。今から言うことをしっかり聞け」

 その"何か”は仁の頬を両手で挟み、無理やり目線を合わせた。

「お前は……お……れ……?」

 その時、フードの中が見えた。

 

 

 

 そこには、仁と瓜二つの少年の顔があった。

 それによく考えると、"何かの”声も仁の声と同じだった。

「違う。俺だ、俺、ほらこれ見ろ」

 "何か”は仁の頬から両手を離すと、どこから出したのか手の中にあるロケットを見せてきた。

 それは紛れもなく仁の首に掛かっていた、"鍛治神ヘパイストス”が入っているはずのロケットだった。

「そういう事だ。悪いが素体(モデル)が思いつかなかったもんでよ、見た目借りてるぜ」

 そう言う"バル? ”はニッ、と笑った。

「で、本題だ。詳しい事は長くなるから止めるが、今から俺はアイツを足止めに行く。俺がアイツを止めている隙にお前はコイツをヤツにぶち込んで"拘束”してやってくれ」

 と、ペラペラ喋っている"バル? ”はその右手の中に一発の弾丸を持っていた。

 その弾丸は全体が銀のような素材で作られているように見え、全体に青色の網目模様のような彫刻が施されていた。

「お前がやれよ、って目をされても。俺はアイツを止めるので精一杯そうなんでね」

 その時、左の方向から爆発音が聞こえた。

「あーあ、もう起き上がったか……。悪い、後は任せる」

 とだけ言うとバルは、いつの間にか持っていた無駄に装飾が施された斧を片手に音の方向へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 程なくして始まった激闘は、如何に仁が"フラン? ”に弄ばれていたのかがよく分かった。

 まるで、戦闘の様子はドラゴンでボールな某アニメに出てくるスーパーなサイヤな民族同士の戦いを一般人が見たらこうなるのだろう、と思わせられるような感じだった。

 そして、仁はフラフラと柱に背中を預けながらフラフラと立ち上がった。

 右手にあの銀の弾薬を握りしめながら。

(弾丸貰ったって……本体がないってのは酷くねえか……)

 と、何時ものように手元に銃を作ろうとした。

 だが。

(クソっ、どういうことだ……? 何で武器が出ない……!?)

 確かに、何時もと同じようにやっているが、銃が作られるどころか光の粒子が出る事も無かった。

「ハアハア……どうすれば良いんだよ……?」

 少年はそれだけ言うと、目の前に広がる人外同士の戦闘を前に体を柱に預け俯いたしまった。

 だが、その時、さっきまで激痛によって忘れたいた腰の部分にある違和感を感じた。

「これ……」

 そう言って、違和感があった所に手を伸ばした。

 ズボンのポケットに入っていたその違和感の正体を少年は取り出した。

「……やっぱり、コイツか」

 左手に持っていたのはつい先程、古道具屋"香霖堂”にて譲り受けた、魔改造されたシングルアクションアーミー(SAA)だった。

「ん……まさか」

 と、仁は徐にSAAの弾倉を開き、中に例の一発の弾丸を装填し、弾倉を閉じた。

(マジで口径が合うなんて……)

 そして、ハンマー(撃鉄)を起こし、銃口を戦闘中のフランに向けたが、人外の戦闘はまず人の目には捉えられず、今は無理だと判断した。そこで仁はブラつく腕でバルがフランを止めるまでじっくりと待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、フランとバルは、文字通り火花を散らしていた。

 片方の青年は装飾が付いた大振りの斧をフランに向けて振り下ろし。それをフランは例のぐにゃぐにゃした棒で、その斧の攻撃を止めたり、時に弾いたりしていた。

 だが、フランも受けてばかりではなく、斧を振り下ろされた瞬間に横腹に蹴りを入れたりと、やっていたが。

 恐ろしいのが、これが人の目が追いつかない速度で行われている事だ。

「くっ……!」

 実は実際の所、バルは吸血鬼の力に押されていた。

(早くしねえと……俺の力が……!)

 その時、フランがバルの斧を持つ右手を掴んだ。そして、肘から先の関節を逆にねじ切るようにして引きちぎった。

「痛ってえぇぇ!? …………なーんちゃって」

 と、バルはニヤリと笑うと千切れた筈の右手を見せた。

 そこには人間なら赤い血が流れている筈の千切れた断面には、血の一滴もなく。代わりに青白い電気がバチバチとなり、筋肉の代わりにケーブル、そして骨の代わりに金属のフレームが見えた。

「悪いが、()()()()なんてとっくの昔に捨ててるもんでな」

 そう、バルが言った瞬間、フランが持っていたバルの腕が爆発した。

 少しだけふらついたフランに向かって、バルが隠し持っていたナイフを持って突っ込み、そしてバルはナイフをフランの肩に突き刺した。

「■■■■■■■!!!!」

 もはや、悲鳴かどうかさえ判別のつかなくなったその叫びはバル達がいる部屋を震えさえた。

「今だ! 仁、撃て!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルのそんな叫びは仁の耳に入った瞬間、SAAを握り直し標準をフランに合わせ、撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀の弾丸は射出され、フランの体の中心に命中した。

 

 

 

 

 

 

 

(やった……のか……?)

 そう、仁は思いながらフランの方を見ていた。

 

 

 だが、フランには何の変化も無かった。

 それどころかフランは肩に刺さったナイフを自身の身が引き裂かれるのにも関わらず、勢いよく引き抜いた。

 傷口からはまるで噴水のように血が吹き出したが、やはり傷口は直ぐに塞がったが噴水の如く吹き出した血はそのままで、フランの体、そして周囲は赤黒く染まってしまった。

 そして、フランは自身の血が滴るナイフを片手にバルの方を向いた。

(まさか不発か……クソっ1度くらいどっかで試しときゃ良かった……)

 フランは視線を1度、柱の方で突っ立っている仁に移し、またバルの方に戻した。

「……まさか、おい!! 止めろ!!」

 バルが飛びかかろうとしたが、フランは仁の方に体を向け、ナイフを持った手を思い切り振り、ナイフを仁に投げつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ 痛い

 

 

 

 

 

 

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 

 

 

 少年の頭の中には、それしか無かった。

 その、腹部に刺さったナイフは少年に、今までに1度も無い痛みを与えた。

「あ……あ……あぁ」

 悲鳴さえも上げられぬまま仁は目を見開いたまま、仁は後ろの柱に背中を向けながらへ垂れ込んだ。

 

「うあああああああああああぁぁぁ!!!!」

 バルは叫びながらにフランに突進する。

 フランはサッと避けた、そして1秒も経たないうちにバルの周りを鉄格子のように集まった弾幕が取り囲んだ。

「クソっ……

 ドドド!! と連続した一方的な暴力がバルを襲った。

 そして、攻撃が止むとそこには元は人型の"何か”だったろう部品が散らばっていた。

 散らばった部品には目もくれずに、フランは仁の側へと歩いていく。

 仁にはまだ息も意識もあり、手は腹部のナイフに伸びていた。

「ハア……ハァ……」

 まだ分からないが、腹部のナイフは臓器には傷を付けていないんだろう。そうでもなければ、今頃なら少年の命はとっくに消えている。

 そして、フランは手を仁に伸ばそうとした時。

 ガラガラガラ!! という金属音が聞こえた。

 その音がしたのと同時に、まるで月明かりのような青色の光がフランの足元から出てきた。そして、次の瞬間、その光の中からさっきの弾丸と同じ青色の網目が彫られた、銀の鎖が何本も飛び出し、フランの体に巻き付き"拘束”した。

(な……んだ?)

 仁は腹部にナイフが刺さったまま、フラフラと立ち上がりフランに近づいて行った。

 鎖で巻かれたフランは鎖を引きちぎろうとしているが、鎖は千切れるどころか、逆に鎖の締め付ける力が強くなっているような感じもする。

 その時、どこからともなく声が聞こえてきた。

『じ……背……だ! う……ろに……れ!!』

 この途切れ途切れになっている声の主はバルだろう。

 途切れているのは恐らく、仁の意識がしっかり保ててないからだろう。

(まさか……背中に何かあんのか?)

 そして、仁はその危なっかしい歩きでフランの背中へと回って行った。

 

 

 

 

 

 

(これ……は……?)

 回り込んだ先、フランの背中にあったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この場に不釣り合いな、黒い字で書かれたフランの背中に()を張った"札”だった。

 根は赤く、まるで血管のようなものだった。

 仁は背中に手を伸ばして、札に触った。見た目にそぐわず、札は力を入れなくても直ぐに剥がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして聞こえたのは、体中の骨が折れていくバキバキと言う音と手元から聞こえたドオン! という爆発音だった。

 

 

 

 

 

 




どうも、最近になってアーマード・コアの魅力に取り憑かれた人です。
すいません、遅れました(・_・、)
理由は、まあ、はい、ゲー(殴
冗談はさておき、10、11月で部活動として短編を書いてたりしてなかなか書く時間がありませんでした…。
とにかく、来月には確実に投稿するのでよろしくお願いします!!
(ちなみに、短編は投稿するかどうか悩み中です)
それでは、今回はこれで終わりにします。
誤字や脱字、おかしな文があったらご報告して頂けると幸いです!
では、こんな小説を読んでいただきありがどうございました!!


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第三章〜自分が成すべき事
目覚め


明けましておめでとうございます!!


 キーンコーンカーンコーン、というありふれたチャイムが午後の学校に響いていた。

 その学校の中では、ある者は帰り支度、ある者は放課後の部活の準備をと、数多くの生徒がそれぞれの時間を過ごしている。

 そんな中、一人の少年だけは他の生徒とは別に、一人机に伏せていた。

 そんな少年に、もう1人のニヤニヤしている少年が近づいてきた。

「どうしたんだ?最近元気が無さそうだが」

「……いや、何でも」

 机の少年の名前は神川 仁。

 「そうか?見た感じ、そうとも思えないなあ。それに髪の毛も落ち着いてるようにオレは思うけど」

 「………」

 片方の少年は仁の友達の一人である"新井 幸太”だ。彼はどこかふざけた口調で、

 「まさか、また両親が仕事で家に数ヶ月いなくなってるのか?」

 「……それもある」

 仁は机に伏せながら言った。

 「それ"も”ってのが気になるが…まあ、とりあえず相談なら何でも聞くぜ?体ん中に溜め込む程体には悪ぃからな」

 「ありがとよ…だけど別に言うもんじゃないし、また今度にするわ」

 「あ、ハイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜数日前〜

 

 

 

 幻想郷内にある竹林、幻想郷の住民からは"迷いの竹林”と呼ばれるその竹林の奥にある一軒の大きな平屋の屋敷。

そこでは、

 「両手の骨折、肋骨三本にひび、脇腹の刺傷、それによる出血。そして爆発の衝撃による頭部の打撲…」

 と、手に持つカルテに書かれた文字を淡々と読み上げているのは、この永遠亭の住民の一人である鈴仙と呼ばれていた薄紫色の長い髪と兎の耳、そしてまるで外の世界の女子高生のような格好が特徴的な少女だ。

 そして、鈴仙の前のベッドで寝ているのは目と口と鼻の部分以外を包帯でぐるぐる巻きにされたミイラ男の仁である。

 「はぁ…貴方、本当に幸運ですよ。あの吸血鬼と生身で戦って腕も足が両方とも欠けてないなんて。本当に人間ですか?」

 まあ、ほぼ師匠の腕と薬のおかげでもありますが…と、呆れ果てたように言う鈴仙に。

 「一応…人間だ。それよりも、だ!なあ、あのレミリアとフランっていう吸血鬼?はどうなったんだ」

 そう、仁が聞く。

彼自身は覚えていないが、門番と言われていた人(?)も怪我を負っていたと聞いている。あのフランという吸血鬼による攻撃なら、軽傷で済むとは考えづらい。

 「あの吸血鬼のお二人と、その従者の方と門番の方の2人も無事ですよ」

 まあ、吸血鬼は妖怪ですから心配なんて要らないんですがね、と鈴仙は付け足す。

 「そう…か。なら、良かった…」

 と、仁は安堵した様子で上半身をベッドに落とす。

 「あ、そう言えばパチュリーさんに、目が覚めたら話がしたい、って言ってましたよ。ちょうどここにいるので呼んできますね」

 「頼む…」

 実の所、仁はついさっき目が覚めたばかりで、頭がパッとしていない。家に家族は居らず、学校の方も今日も明日も休みだ。だから、自分の周りのことについて心配することはないと思う。

…しかし、自分が一日の四分の一を昏睡状態で過ごしていた、その事実はあまり実感が湧かない。

 そして、仁はベッドの左横にあった古臭い木製の机の上にあった自身が肌身離さず持ち歩いていたロケットを見つける。それを手に持つと、

 「なあ、バル。聞こえるか?ちょっと聞きたい事が……」

 仁はロケットに向かって話しかける…だが。

 「どうしたんだよ…?」

 ロケットからは、何も聞こえなかった。

 それどころか、本来なら真っ赤な色をした宝石が黒く変色していた。

 「何がどうなってるんだ…」

 仁が困惑していた、その時。

 「一体誰と話しているの?」

 仁から見て正面の障子戸を開けて誰かが入ってきた。

 「い、いや何でも」

 と、声の主は戸を開けて入ってきたのはパチュリーだった。

 「?まあ、いいわ。とりあえず、無事そうね」

 そう言うとパチュリーは仁の寝ているベッドの傍にあった椅子に座った。

 「いや、無事……か?」

 パチュリーは仁の言葉を無視し、話を続けた。

 「それよりも、フランに何があったのか教えてちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 そして、仁はパチュリーに全てを話した。

 レミリアと姉妹、すなわち同じ種族の筈であるフランの様子が、まるで別種の怪物の様になっていたこと。

 フランの動きがまるで操り人形みたいだったこと。

 そして、操り人形のような動きからだんだんと自然になっていったこと。

 

 「…なるほどね」

 と、パチュリーが頷きながら言う。

 「何か分かるか?」

 「いえ、何が原因かまでは分からないけど…」

 「けど?」

 「今は、フランは何かに操られていた(・・・・・・・・・)って考えてるわ」

 「操られていた?」

 「そうよ。貴方、フランの体に何か変なモノが着いていたか分かるかしら?」

 「変な…モノ…ねぇ…」

 仁は、思い出した。

 鎖で縛られていたフランの背中にはいかにも禍々しい札が貼られていたのを。

 あの時、意識は朦朧としてたものの、何故かその時の光景だけははっきりと覚えていた。背中に根を張った(・・・・・)謎の札、その札はフランの暴走状態に関係しているのは間違いないことは明白だろう。

 「あった、確かにフランの背中には変な紙が貼られてた」

 「やっぱり。貴方が倒れていた近くにこんなのが散らばってたのよ」

 パチュリーはローブのポケットから何かを取り出すと仁に見せた。

 彼女の手の中には破られてボロボロになった紙片があった。

 ボロボロではあるが、その紙が確かにフランの背中に貼られていた札の一部という事が、紙片に書かれている特徴的な字で仁は一目で分かった。

 「恐らくだけど、フランはこの札のせいで操られてたんでしょう」

「何だって?」

「あの状態を説明するには、彼女が操られていたという」

 「けど、誰がそんな事を?」

 「それを今考えてるの。ただ分かるのは、フランを操ったのは呪術(・・)を使える、って事くらいよ」

と、溜息をつきながらパチュリーは言う。

 「呪術?」

 「もっと言えば"古来の日本で発達した魔術の一種”としての、ね」

  「じゃあ、なんでフランを狙うんだ?まさか、吸血鬼が怖いからとか…?」

 「さあ?今の所は何も言えないけど。吸血鬼が怖いっていうのは、あながち間違ってないかもしれないかもしれないわ」

 「一応、冗談のつもりだったんだけどなぁ……」

 パチュリーは仁の言葉を無視して、話を続ける。

 「私が思うに、吸血鬼が怖い、というのは吸血鬼の力を知っている。だから、自分の脅威あるいは何らかの計画の障害になる。じゃあもし、貴方がその”誰か"だったらどうする?」

 「って、いきなり…!?」

 「早くしてちょうだい」

 「あ、じゃ、じゃあ!……フランが脅威にならないように避けるように計画を練る、とか?」

 「確かにそれも良い考えよ。…けど、こんなのはどう思う?」

 「?」

 「自分の持つ能力、具体的には操作系ね、それを使って、脅威を味方にして攻撃する」

 「あ…」

 「それともう一つ。貴方には言ってなかったけれど、霊夢、それと魔理沙はね貴方と同じようにフランと戦っていたのよ」

 「え……?」

  「フランは吸血鬼よ、分身なんかも使えるわ。それに貴方、相当運が悪かったみたいね。話を聞いてると、どうも貴方が戦ってたのは本体らしいわよ」

 ここまで来ると、もはや運がいいのか悪いのかよく分からなくなってきていないか、と少年は思う。

 「というと俺は、貧乏クジを引いちまったって事か…。けど何で、本体って分かるんだ?」

 「貴方は、戦ってたフランの後ろに魔法陣が浮かんでるって言ってたわよね?それが本体である証拠。それに霊夢と魔理沙が戦ってたフランが急に消えたって言ってたのよ、これも本体がやられると消えてしまうから当たり前ね」

 「なるほど……。で、結局、この事件は何だったんだ?」

 「正直に言ってしまえば、分からない、よ。だって、犯人も不明、目的も不明。シャーロック・ホームズじゃなければ分かりそうもないわ」

 「そうか……って、シャーロック・ホームズ分かるのか?」

 異世界である筈のここ"幻想郷”に外の世界の書物があるとは、この時の少年には考えづらかった。

 「そこら辺の時代の本なら、私の図書館に全部揃ってるわよ。多分…(ボソッ」

 最後に何か言ったような気もするが、仁が訪れていた紅魔館のあの図書館なら、確かに有り得るかもしれない。

 「そ、そうか」

 「じゃあ、私はこれで失礼するわ。また、何かあったら教えてちょうだい、」

 とだけ言うと、パチュリーは椅子から立ち上がった。そのまま後ろを向き、扉を開けようとした手をパチュリーは、急に何かを思い出したような様子でクルっと振り返り、仁が寝ている横に戻ってきた。

 「忘れるところだった。これ、レミィから」

 パチュリーがポケットから取り出したのは、レトロな、としか表現が出来ない一通の手紙だった。

 「何だこれ?」

 と、仁は手紙を受け取ると言った。

 「招待状よ。貴方、私達が月に行くためのロケットを作ってるのは知っているでしょう?」

 「……言っとくが、俺はロケットには乗らんぞ」

「別に、そういう事じゃないわよ。レミィがお礼(・・)をしたいんだって」

「…なるほど」

 「詳しい事は言わないわ。知りたかったら、手紙に書いてある日程通りに来れば良い。好意は素直に受け取った方が良いわよ」

 色々とツッコミたい所があったが、これ以上は無駄と思ったのか、仁は招待状については何も聞かない事にした。

 「なあ、"レミィ”ってレミリアの事か?」

 と、少年は手元にある招待状を見ながら聞いた。

 「そうよ」

 「……分かった。行けるようにはしとくよ」

 「なら、彼女たちにいい知らせが出来るわね」

 「?」

 「それじゃあ、今度こそ。また会いましょう」

 仁に別れを告げると、パチュリーは障子戸を開けて出ていった。

その後、霊夢や魔理沙がお見舞いに仁の元を訪れた。

そして、二人は揃って「昨日は大変だったわね(な)」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいまー…って、居ないんだっけ」

 ガチャ、と扉を開けた学校帰りの仁は扉を開けるや否やそう呟いた。

夕空の光に照らされた家の中に、他に人がいるようには思えない程、静かだ。

 実は、ここ最近は彼一人で生活している状態だ。理由としては彼の両親が不在だからなのだが、彼としては「いつもの事だし」で片付けている。

 仁の両親は約一年周期で約三ヶ月ほど家を空けることがある。その時は大抵、仁の家のテーブルの上に〘仕事で遠出するけど、すぐに帰ります〙と置き手紙がある。手紙自体は、彼が白玉楼に行く前から置かれている。このように、彼の両親が家を空けることは少なくなく。仁も当初は両親が不在の間は祖父の家に行っていたりして過ごしていたが、今では一人で家事はある程度出来るまでになった、というよりなってしまったのでこうやって一人で生活している。 

 仁は、玄関からそのまま前にある階段を上り自室に向かって行った。

 「……お前、どうしたんだよ」

 仁は扉を開くや否や、学ランの右ポケットから、普段ならいつも首に掛けてある筈のロケットを取り出した。

 あの日(・・・)から、バル(神さま)は変わっていない。あいからわず、宝石の色は真っ黒だ。そして、薄い赤の髪も同じように黒くなっていた。

 そして、仁はベッドに倒れた。

 「あーあ……ったく、何なんだよ…」

 彼はボヤくがロケットからは何も聞こえてこない。

 と、その時。

 ブーブーブー…

 という、音が机の上の携帯から聞こえてきた。

 「…誰だ?」

 仁はベッドから起き上がると机の上の携帯を手に取ると、耳に当てる前に画面上に出てる文字を見た。

 「紫…?…もしもし」

『もしもし、私よ』

 それは、自称"幻想郷の賢者”の八雲 紫だった。

 「知ってる、で、用件は何だ?」

『用件…用件ねぇ。そんな事よりも、この前の件、感謝するわ』

…やはり、というか彼女は何を考えているか全く分からない。ハッキリ言って、第一印象である胡散臭いという印象がそのまま彼女の印象として定着している。

 「そりゃどーも」

『それでよ。いつかの話を覚えてるかしら?妖怪退治のこと』

「あ、ああ。あれって、いつになるんだ?完全に忘れていたけど」

『それの事だけど…。私から言わせてもらうけど、今の状態で"依頼”を受けさせられないわ』

あっさりと、そうあっさりと、そんな言葉が仁に掛けられた。

「どういう事だ…?」

仁は聞いた。

「確かに、紅魔館の吸血鬼を倒したことは認めるわ。けれど、それは本当に(・・・)貴方の力で倒したのかしら?」

「っ………」

そう、確かに彼ら(・・)は吸血鬼を倒した。だが、その片割れの少年は何も出来ず、ただただ逃げ回っていた。

『そういえば、貴方の"神さま”の調子はどう?』

「…霊夢から聞いたのか?」

『そうよ。それで、貴方の動かなくなってしまった(・・・・・・・・・・・)神さまはどうなったのかしら?』

知っていた、そう、紫は少年が今では完全な無力(・・・・・)になってしまった事を。

「何も、まだ、あいつは喋ら………ない」

少年は、そう俯きながら言った。

『そう…なら、依頼なんて受けたら、死ぬわね』

何の躊躇いもなく、声色も変えることもなく淡々と少年に告げた。

「…………」

仁は何も言えなかった。今では彼には持ち前だった武器を作る能力も使えていない。彼の、幻想郷に訪れてから手に入れた"強み”はもう無いのだ。

『もし"死にたい”というのなら、私に連絡をしてちょうだい。依頼なら幾らでもあるから…。それじゃあね』

そう言うと、紫は一方的に電話を切っていった。

「ちょ……」

と、仁が電話に向かって喋るが、だが紫の声の代わりに返ってくるのはツーツーツーという電子音だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はボリュームが少なめですが…早めに投稿出来ました( ◜ω◝ )

今回も特に無いのでこれで…

誤字や脱字におかしな文章があったら報告して頂けると幸いです。
それではこんな小説を読んでいただきありがとうございました!

それと今更ですがお気に入り登録して頂きありがとうございます!!


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月旅行

 例の戦いから二週間後、世間ではもう冬の足音が近づいてきており吹いている風も段々とその冷たさも増しており、そろそろ秋の終わり、そして年の終りも目前に迫っている、ある土曜日の話である。

 

 先の戦い、とある吸血鬼との一方的な攻撃によって心身共に疲れ果てていたとある少年がいた。

 そんな少年は現在

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 椅子に縛り付けられていた

 

 

 

 

 

 そう、現在、仁はとても高そうな家具が並び、紅い壁紙が目立つ部屋にいる。

何者かによって昏倒させられ、恐らくその何者かによって椅子に縛り付けられたと思われるが、いまいち見当がついていない。

 「……………?」

 目が覚めると、この状況。

 「あれー?俺って、招待されたから来たんだよなあ…?」

  なんもしてないよなー?とハイライトのない目でブツブツつぶやく少年

 

 

 つまるところ、誰がどう見ても少年は監禁されていた

 

 

 

 

 

 

 

 〜前日〜

 

 

 

 「仮装…仮装…?」

  少年・仁は、自分の部屋にて落ち着かない様子でウロウロしていた。

 先日、パチュリーから渡された"手紙”、もとい"招待状”には独特なフォントで、簡潔に言えば〘仮装パーティーを開く〙と書かれていた。

 ということで、仁は仮装パーティーの為に仮装もといコスプレを何にするか考えていたからである。

 「……ダメだ…ろくなのが思いつかねえ…」

 思いつくのは、吸血鬼やゾンビに最近流行ったアメコミ映画の主人公。吸血鬼に関しては実物(・・)向こう(幻想郷)にいるため、下手なクオリティで挑めば、バカにしてんのかワレェ的な感じでサクッと殺られかねない。ゾンビに関しては仁は、少なくともこっち(外の世界)でも向こう(幻想郷)でも見ていないが、仁は確信している。

 

 

 幻想郷には絶対にいる、と。

 

 

 

 無論、アメコミの映画の主人公は却下である

 「んー……どうしたもんかなー…」

(珍しく)フル回転されている、少年の頭には色々な案が出てきた。

 しかし、それらは仁の脳内で、微妙、の一言で済まされていた。

 それに彼の脳内には余計な思考も入り交じっているせいで中々、結論が出なかった。

 インパクトに欠ける

 恥ずかしい

 そもそも、どうやって調達をするのか不明

 etc.....

 

 

 だが、ここで一つの結論に少年は至った。

 「そうだ、スーツだスーツ!!」

 物珍しさで目を引く事はあっても、それ程は目立たないのでは?程度の考えで思いついたのが、スーツという結論だった。

  「あー…でもどうやって調達するっかな…」

  結局はこれである。

  彼の家にスーツがあるという確信もないし、かと言って仮にあったとしても無断で使うのもマズイ。

  「……やるだけ、やってみるか」

 そう言うと、仁は両手を前に出して、頭の中でスーツを想像した。

 この前まで、使えた能力が使えるとは到底思えず。

 どうせ何も起きない、そう仁が思っていた。その時。

 

 

 

 

 

 

 「はっ?え、…はい!?」

 仁が両手を向けた先、ベッドの上には。

 

 社会人が着るような真っ黒のスーツが置かれていた。

 「何で、今更…?」

 今まで、銃も作れていなかった筈なのに、急に能力を使えたのだ。

 呆気に取られていたが、今は驚くしかなかった。

「ど、どういう…事だ?」

 仁は、ベッドに置かれていたスーツを手に取った。

 やはりと言うか、スーツは埃やシワ一つない、まるで今仕立てられたかのようだった。

「深くは考えない方が良い気がしてきたな…」

 しょうねんはかんがえることをやめた

 現状、恐らくは少年にどうこう出来る問題ではない。今は、素直に能力を使えた事を喜ぶのが一番だろう。

 

 

 

 

 そして、翌日

 

 彼は招待状に書かれていた日時に、紅魔舘へと向かって歩いていた。

 以前に、紅魔舘へと行った時には魔理沙の箒に乗せて貰っていた為、短時間で到着したが今回ばかりは徒歩で、そして一人で、という幻想入りしたての外来人にはちょっとばかしツラかろう。そして、彼は覚えていた事が一つある。

 それは、魔法の森の中(上)を通り抜ければ、紅魔館への近道になるということを。

 目の前には、怪しげな色をした霧がかかっており、明らかに入った瞬間どうなるか分かったもんじゃない、

「魔法の森…か。どうせ名前だけだろ」

 

 

 

 そう思ったのが、運の尽きだった。

 

 

 

 

 仁は魔法の森の中に入った瞬間……

 

 

 

 

 「ウア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?」

 

 そして、少年は今まで発したことのない悲鳴をあげて、森の奥へと消えていった

 

 

 

 後に彼は、魔法の森にそれはそれは大きなトラウマを持つこととなった。

 

 

 

 

 

 

 ボサっ!!というボサ音を立ててスーツ姿の仁が森の中から飛び出してきた。

 「…ハア、ハア」

 森から飛び出ると、数歩ふらつくように歩き膝に手を置いた。

 荒い呼吸を整えると、仁は周りを見回した。

 目の前には湖があった。しかし、湖の周囲を覆う薄い霧のせいで大きさが分からなかった。

 「これが、"霧の湖”ってのか?」

 霧の湖とは、少年が目指す紅魔館の横にある湖の事だ。

 湖の名前については魔理沙から聞いたものだ。

 「あ、そうだスーツ…は、って、こりゃどうなってんだ…?」

 あんなことやこんなことがあったのにも関わらず、スーツには綻びどころか、汚れさえも着いていなかった。

 「……って、早くしねえと時間が!」

 と、言うと仁は紅魔館の方向、仁から見て右側の方へと走って行こうとした。その時

 「うおっ!?」

 彼の左足に変なモノを蹴った時のような、変な感触がした。石と言うには柔らかく、土の山を蹴ったにしては感覚が違いすぎたソレは。

 仁の目の前で回転していた。

 と、思ったら止まった。

 何だ何だ、と仁がその何か(・・)に近づいてみた。

 最初は霧でよく見えなかったが、近づいて見ると、ソレが長方形というのが分かる。

 そして、中身が透明だということにも気がついた。

 

 しかしだ、問題なのは。

 

 

 

 

 

 

 ソレの中にカエルがいる事だ

 

 

 

 

 

 

 触れば直ぐに分かったことだが、この長方形は氷だった。

 そう、カエルが凍らされていたのだ。

 何故かは分からないが、よく見ると湖の畔の道には冷凍カエルがゴロゴロと転がっていた。

 不思議というか不気味というか、何とも形容しがたい光景だった。

 オマケに、霧で見えない道の先から

 「うおおおおぉ!!カエルなんて、こうしてやるうう!ふう、やっぱりアタイったら最強ね(エッヘン」

 と、とてもとても元気()良さ()そうな女児の声と。

 「止めなよチルノちゃん!カエルが可哀想だよ…」

 その女児を(なだ)めるように話す大人しそうな、少女の声が霧の向こうから聞こえてきた。

 そして、少年の脳内にある警告が発令された。

 

 近づいたら絶対に面倒な事になるなと。

 

 そんな事を考えていたのもつかの間。

 「そこのおまええ!アタイと勝負しろ!!」

 「…………」

 無言のまま、少年は声が聞こえた方向から反対方向に体を向け、全力で走ろうとしたが、遅かった。

 

 「ふはははは!逃げようとしてもむだだ!!」

 そんな声がしたと思えば、仁の後ろから青いちっこいのが弾丸の如く突っ込んできた。

 気づけば、仁の前を青い髪に青い服、そして背中には六本の氷の棒の様なものが羽のように背中に浮いているという、完全に氷の妖精ですよと言わんばかりの小学生低学年ぐらいの少女が仁の前を通せんぼしていた。

 「…………見逃してくれないか?」

 仁が面倒くさそうに言うと、通せんぼしている少女が腕組みをしながら

 「ダーメ!!」

 と、恐らくは"チルノ”という名前の妖精が言い、続けざまに人差し指を仁に向けると言った。

 「おい、人間!アタイとしょうぶしろ!」

 「ご遠慮させていただくよ。俺、忙しいもんで……

 そう、仁が言った瞬間。

 問答無用で、弾幕が飛んできた。

 「何すんだおめえ!?」

 チルノは仁の言葉が耳に入っていないようで。

 「ふはははは!!どうだ人間、アタイは最強ね!!」

 「聞けってーの!!」

 幸いなことに、頭があまり良くないらしく、氷のような水色の弾幕は仁の左右に撒かれていて、仁がいる正面には全く飛んでこなかった。

 「クソっ…!」

 仁は悪態をつくと、弾幕の密度が薄い正面からチルノに突撃した。

 「え、あ?来るな来るなあ!!」

そして、間合いをつめてチルノの前に立つと思い切り右足を上げ、焦るチルノに容赦なく仁は、踵落としを食らわせた。

 この際、見た目が少女だからとか関係なかった。

 「成・敗…」

 何だかとてもとてもやりきったような清々しい顔で仁は、倒れて目を回しているチルノを無視して紅魔館の方向へと向かっていった。

 

 その途中、チルノと一緒にいたと思われる大人しそうな印象の緑髪の妖精が前から飛んできた。

 その妖精は、仁に気付くと止まり、「あわわわ!ご、ごめんなさい、チルノちゃんが迷惑掛けて…」

 ペコりと頭を下げて、その落ち着きがない妖精はそう言うと、倒れて目を回しているチルノに向かって飛んで行った。

 「はぁ……何だったんだ全く…」

 今日何回目になるだろうため息をつきながら多少の罪悪感と共に仁は紅魔舘へと走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく走ったら、直ぐに紅魔館へと到着した。

 「あのー、もしもし…?」

 現在、仁は紅魔館前の、もっと言えば紅魔館の敷地内へと入る為の門の前にいた。

 そして、仁の目の前には、恐らくは門番だろう女性が門の横にいた。

 しかし、女性の格好が緑のチャイナドレスに、同じく緑のベレー帽のような帽子を赤い髪の上に被っていて、印象としては中華風な格好で、西洋風の館である紅魔館に合わないような格好だった。

 オマケに、その中華風な女性は壁に背中をあずけ、口から涎を垂らしながら寝ていた。

 そんな女性を見て仁は、本当に紅魔館の門番なのか?という疑問が浮かび始めてきていた。

 招待されたとしても、無断で敷地内に入るのもアレなので、何とかして起こそうとしていた。

 そして少年は肩でも叩けば起きるんじゃないかと思い、その中華風な女性に近付こうとした、その時。

 女性は急に目を見開き、仁の方向に体を向けるとまるでカンフーの構えのような格好をとった。

 そして女性は今の今まで寝ていたと思えないハキハキとした声で

 「貴方は?」

 と、警戒しながら睨むような目でその中華風な女性は少年に聞いた。

 それに対し少年は。

 「あ、これを」

 と、言いながら仁はポケットに入れていたパチュリーから渡された奇跡的にしわくちゃになっていない招待状を見せた。

 「これ…ということは貴方が、神川 仁さんですか?」

 「そうですよ」

 と、仁が頷くと中華風の女性は警戒を解いたようで、構えを解いた。

 「それなら、どうぞ」

 そう言うと、中華風の女性は門を開けて少年に中に入るように促した。

 「どうも」

 と、少年は女性に言ったが、その時、少年の気のせいかもしれないが女性が哀れみの目で見てきているような気がした。

 

 その後、直ぐだった。

 一瞬、首の後ろから痛みが走ったと思うと視界がブラックアウトしたのは。

 

 

 

 

 

 

 〜現在〜

 

 

 「クソっ!!(ほど)けよ!!」

 と、椅子に縛り付けられた仁は、体を使って椅子をガタンガタンと揺らして縄を解こうとしていたが、当たり前だが縄は解けていない。

 そして、仁が息を切らしていると。

 カタッ、という音と共に仁の前に、天井から階段が降りてきた。

 仁が呆気にとられていると。

 「今晩は」

 階段からレミリアが降りてきた。そして、レミリアの後ろには紅魔館のメイドの咲夜がいた。

 咲夜の方は、まだ怪我が治り切ってないのか、腕などの数箇所に包帯を巻いていて、仁とは違い一週間経っても治らない程の怪我を負った事が分かる。

 「この間の事、感謝するわ」

 そう、レミリアが仁の前に立つと言った。

 「そりゃ、どうも…じゃなくて!!」

 そう言うと仁は再び、椅子に縛り付けられたまま暴れ始めた。

 「何だよ、これ!?オレは招待されたから、来たはずだ!!」

 「仕方ないじゃない。こうでもしないと、貴方来ないでしょう?」

 「は!?」

 少年は混乱していた、何せ、「こうでもしないと来ないでしょう」というのは招待されていたパーティーの事かと思っていたにも関わらず縛り付けられているのか、と思っているのだから。

 「まだ、分からないの?」

 「当たり前だ!」

 「なら、言い換えるわ」

 そして、レミリアは仁に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こうでもしないと、貴方、月旅行に来ないでしょう?」

 この時、少年の頭の中にはこんな言葉が浮かんでいた。

 「謀ったな…お前……!」

 「ふん、何とでも言うといいわ。まあ、今更何を言おうとておくれだけど」

 そう、レミリアが言った瞬間。

 ゴゴゴゴゴ!!という地鳴りが鳴り響いてきた、そして仁らがいる床も揺れ始めた。

 すると、レミリアの隣にいた咲夜が

 「お嬢様、そろそろ上がった方が宜しいかと」

 と、中腰になりながら、レミリアの耳元で言った。

 「そうね。では、神川 仁、月旅行を存分に楽しみなさい」

 レミリアがニタリと笑いながら言うと、二人は再び階段を上がっていった。

 

 こうして、一人残された仁は…

 「やめろおおおおお!!オレは…オレはまだ…まだ……」

 それはそれは弱々しい声で仁は俯きながら言った。

 ゴゴゴゴゴ!という音と共に、仁が居る部屋はエレベーター内に居る時の浮遊感の様な感覚が生じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「死にたくなあああああああああああぁぁ……

 

 ロケットは少年の悲痛な叫びと共に空に打ち上がって行った。

 

 

 

 




ドーモ、ドクシャ=サン、ヒッシャデス。
いやー最近小説に対するモチベが物凄く上がっていて。
このシリーズだけでなく、SCPモノの小説(SCP-2217関係のロマンしかないようなお話)とか、友人と共に東方の二次創作小説も進めているので公開したら、そっちの方もよろしければ読んでみて下さい(._.)_
それでは、自分はこれで……
誤字や脱字におかしな文があったらご報告していただくと幸いです。
では、こんな小説を読んでいただきありがとうございました!


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月にて

 

 時に、神川 仁という少年は不幸な人間である。

 

 

 

 

 別に、道を歩けば犬に追いかけられたりとか、トラックに轢かれそうになるとかの様な命に関わる系な感じではなく。

 家の中を歩けば家具の角に小指をぶつけ、店に行けばピンポイントに欲しかった商品が品切れになっていたり、ゲーム機のコントローラーの特定のボタンだけ何故か機能しなくなっていたり、と割と地味に嫌なやつが多い。だが、ここ最近は幻想入りした影響かどうかわ分からないが、その不幸のレベルが少年にとって上がっている気がしていた。

 例えば、会ったばかりの吸血鬼の少女?の為に暴走した彼女の妹を止める為、ちっぽけな勇気を出して退治に向かうが、吸血鬼の館にてほぼ手も足も出ずにボコボコにされたりと、割と本気で命に関わるような事がつい最近あったばかりであるが今回の件も、少年は本気でツイてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はっ!俺は何処!?ここは誰!?」

 訳の分からない事を叫びながら、ボコ!!という音を立てて瓦礫の山から飛び出てきたのはいつもの少年ー神川 仁である。

 レミリアが主犯と思われる少年誘拐事件にて、仁はロケットと思われる物体に乗せられて、空へと旅立って行ったのだ。

 とりあえず、深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、少年は立ち上がり、そして周囲を見回した。

 周りには広葉樹の森が広がっていて、そこだけ(・・・・)見れば幻想郷と変わらないように思えたが。

 しかし、上を見上げればあるはずの青い空(・・・)がなかった。そして、青の代わりにあるのは、まるで夜のような黒い空、それも不思議な事に月も星も見えない。

 それなのにもかかわらず周囲は、明るかった。

 そう、まるで真昼のような明るさ。

 常人には理解しがたいこの光景に、少年は唖然としていた。

 「……ちょっと落ち着こうか」

 そういえば少年が飛ばされる前、レミリアは何を言っていた?

 「あ、ああ…!!」

 考えてみれば、少年の疑問はいとも簡単に解ける。

 レミリアと初めて会った時も、紅魔館に救援に向かった時に図書館で見たのは?そして、椅子に縛られていた時に言われたのは?

 「月かよぉぉおお……」

 そう、恐らく少年がいる場所は、月だ。

 考えてみれば、アポロ計画の月面着陸の時の写真とか見れば、森は無けれど、似たような光景だったはずだ。

 でも、それでは何故息が出来るのか、何で木々が生えているのかも分からない。本当にここが月なのかどうかも怪しいが、

 「クソっ!アイツら(レミリア)どこ行きやがった……!」

 少年は悪態を着くと、近くにあるロケットだったと思われる瓦礫に腰掛けた。

 味方も居なければ、場所の把握もついていない。

 この時、少年はある事に気付いていた。

 それは自分の周りの瓦礫の量が少ない事に。

 どう見ても瓦礫の量は少年が先程いた、ロケットの一室分しかないように見え、レミリア達が居たと思われる上段の部屋の瓦礫は無いように思えた。

 「探した方が良いのかね…」

 と少年は言った、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そっちはどうだ?見つけたか?」

 と、不意に近くから少女の声が聞こえた。

 声は少年から見て、背中の方から瓦礫越しに聞こえてきた。声は少女だったが、残念ながら少年の知っている幻想郷の人物の声ではなかった。

 おまけに、その少女の口調はどこか近視感があった。

 

 

 「それほど遠くには行ってない筈だ!!」

 「「了解」」

 と、先程の少女の声とあと二人程の少女の声も聞こえた。そして、この言葉で少年は確信した。

 あ、コイツら兵士か。と。

 命令口調のリーダー格の少女、そして統率がとれた返事。

 遊びでは真似出来ないような口調で、彼女らはもしかしたら本物の兵士の様な存在だと少年は思った。

 何故、兵士が?なんで少女?というか、ここどこ?という疑問が頭を駆け巡っているが、確実に自分を探してるんだろうな、という結論に至った少年は

(あー…訳の分かんない土地で、訳の分からない連中に追いかけ回されるのかー)

 と言うが、実際、少年はめちゃくちゃビビっている。

 心の中ではあっけらかんとしているが、めちゃくちゃビビっている、ついでに足もガタガタ震えてる、

 もし見付かったら何されるか分からないし、逃げようとしても今立ち上がると見つかる危険性もある。

 そういう事で、少年は瓦礫の陰で見つからないように縮こまる事を余儀なくされた。

 どうか、こっちに来ませんように。という少年の願いは

 「良いか!瓦礫のひっくり返してでも見つけろ!!」

 という、可愛らしい声と似ても似つかない(少年にとっては)恐ろしい事を言い、少年の願いと精神はガラスの如く砕け散った。

 それよりも、どうも声が段々大きくなっている気がした。

 と言うより、近づいている。

 何が?だって?

 そう、声の主が。

 

 

 

 

 バクンバクン!!という心臓の鼓動の音が聞こえる程の恐怖で、少年は思い切り叫びたくなっていたが、肝心の舌が動かなかった。

 そして、足音が刻一刻と迫り、遂に足音が真横まで来た時。

 少年は大人しく顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔を上げると、少年の目の前には銃口が向けられていた。

 ついでに、おっかない顔をして銃を向けてる少女の姿もだ。

 「ひっ」

 という情けない声を出して仁は後退りをした。

 「止まれ」

 少女は仁に言うと、今度は銃口を仁の額にピタと突きつけた。

 仁が、パクパクと口を動かして何か言おうとするが、やはり舌が動かなかった。

 この時仁は気づかなかったが、よく見れば、少女は白いヘルメットをしていて、その上に兎の耳のようなものがあった。

 「お前が、神川 仁だな?」

 少女が言うと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……せ…ろせ」

 と、小さな声で

 「なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いっそ…殺せぇぇぇぇ!」

 「きゃぁぁぁぁ!?」

 その名状しがたい迫力に少女は、絶叫すると、少年を銃のストックで殴りつけた。

 そして、仁の意識は後頭部の痛みと共に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた仁が最初に見たのは、銃口だった。

 今回ばかりは叫ぶ元気がないのか、静かに震える仁だった。

 周りを見れば3人程のウサ耳兵士が仁の周りを取り囲んでいる。

 ウサ耳兵士達は全員同じ格好をしており、白のYシャツに紺のジャケットに白のヘルメット。

 そして、彼女達の表情がどうもおかしかった。

 警戒しているような感じではなく、どちらかというと。

 怯えてた。

 理由は言わずもがな、先程の仁のアレだろう。

 「た、隊長!」

 と、正面にいたウサ耳兵士が叫んだ。

 すると、叫んだウサ耳兵士の後ろから、恐らくは隊長格と思われるウサ耳兵士が現れた。

 「もう良い、下ろせ」

 隊長格のウサ耳兵士がそう言うと、仁の周りにいたウサ耳兵士達は手に持つ銃を下ろした。

 そして、隊長格のウサ耳兵士は仁に近づくと。

 「私の部下が迷惑をかけたな。部下の代わりに謝罪する」

 と、隊長格の兵士が言うと右手を差し出してきた。

 「あ、ああ…」

 仁は、その手を右手で握ると、隊長格のウサ耳兵士が思い切り仁の手を引っ張り、仁を立たせた。

 「もう一度確認する。お前が神川 仁だな?」

 どうやら敵ではないと判断したのか、そう言う隊長格のウサ耳兵士は穏やかな表情を浮かべて言った。

 「ああ、そうだけど。お前らは何なんだ?」

 「私達の事は、道中で話す。今は兎に角ここから離れる事を第一優先で考えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロケット墜落現場を足早に立ち去った仁と総勢五人のウサ耳兵士達は森の中にある道を走っていた。

 そして、隊長ウサ耳は自分達が、この先にいるレミリアや何故かいる霊夢や魔理沙達から頼まれて仁を探しに来たのだという事を仁に話していた。

 どう考えても、月には存在しない人間らしき彼女達は、"玉兎”と呼ばれる月の兎で、自分たちは月の都を守る警備隊のような存在なのだという事もだ。

 「とりあえず、レミリア達に俺を探すように頼まれたってのは分かった」

 「理解が早くて、助かるよ」

 と、走る仁の横で走っている隊長ウサ耳が言った。

 「けど、ここは何処なんだ?それに何で走ってんのさ!?」

 「落ち着け。良いか?君を狙う阿呆がいるという情報があるんだ。私達の任務は、君の捜索と護衛だ」

 「誰だよ、阿呆って?」

 「ちょっとした、言うなればテロリストだよ」

 「テロリスト!?」

 「だから落ち着け。私達がいる限り危険な目には合わせないから」

 「……分かった」

 今の所、道の先にはウサ耳兵士達が言うような"街”は見当たらず、心配になった仁は。

 「なあ、ホントに月に街なんてあるのか?」

 と、黒い空を見上げて仁は言った。

 「勿論」

 「そうか」

 どうも、まだ信用しきれてない仁は、半信半疑のまま彼女達に従い、また森の中を走って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く進んだ後、仁の視界には森の木々の間から中華風の建物群が見えてきた。

 「あそこが"都”」

 と、隊長ウサ耳が建物群を指差して言った。

 「あそこにレミリア達が?」

 「ええ。それに、もうそろそろ"対談”も終わりそう」

 「対談?確か、レミリア達は月旅行の為に、ここに来たんだろ?んな、小難しい事なんてする必要なんてあるのか?」

 「知らないわ。詳しい事は、本人達に聞いて」

 隊長ウサ耳が言う。

 そして、突如、仁の右にいたウサ耳兵士が。

 「隊長!!敵で…」

 そう言いかけた、ウサ耳兵士は後ろから聞こえた破裂音と共に倒れた。

 「敵襲!!」

 隊長ウサ耳の合図で、それぞれ他3人のウサ耳兵士と仁はそれぞれ、近くにあった木や岩の塊の陰に隠れた。

 「おい!敵襲って何だよ!?」

 と、岩の陰にいる仁は、同じ岩に隠れた隊長ウサ耳に聞いた。

 「多分、例のテロリストだ」

 先程の破裂音は銃声なのだろう。ちょうど今も、仁がいる岩を光弾が掠っていった。

 そう、見た事ある光弾が、だ

 「なあ、アイツらが使ってる弾丸って、弾幕か?」

 仁が聞くと、隊長ウサ耳は、

 「そうよ」

 と、素っ気なく返した。

 「でも、何でだ?」

 「何で、って何がだ?」

 「俺達を殺すつもりなんだろ?じゃあ、何で実弾を使わない?」

 弾幕は、確かに相手を傷つける事は可能だ。しかし、弾幕とは遊びの為の、言わばモデルガンなどで撃つBB弾の様なもの、当たり所が悪いならまだしも、それでは到底、人の命を奪うには難しいだろう。

 せいぜい気絶がやっとだ。

 「実弾?何だそれは?というよりも、そもそも、奴ららは私達を殺す気はないんだよ」

 「どういうことだ?」

 「長々と説明してやりたいが、生憎説明している暇もないもので!!」

 そう言いながら、隊長ウサ耳は立ち上がり、クルリと後ろを向くと手にしていた、形はM1カービンに似た銃を2、3発撃つと、しゃがんだ。

 ウサ耳達が持つ、M1カービンに似た銃からは弾幕が放たれていたが、その銃が鳴らす銃声は、少年が撃っていた銃が鳴らすオモチャの様な銃声とは打って変わり、本物と呼ぶに相応しい重々しい銃声だった。

 「敵の数は?」

 と、仁が聞いた。

 「見えたのは3人、銃声から考えたら6人」

 隊長ウサ耳が言うと仁が、

 「なあ、ちょっと手伝ってくれ」

 「何だって?」

 「ちょっと、あいつをコッチに連れてこよう。気絶してるんだろ?」

 と、仁は今いる石から右の方向にいる、倒れたウサ耳兵士を指差して言った。

 「……分かった。では、私が援護する。その間に連れてこい」

 少年の返事を待たずに隊長ウサ耳が言い、大きく深呼吸すると、

 「みんな聞いたか!合図で制圧射撃!」

 「「「了解!!」」」

 と、顔も姿も見えないウサ耳兵士達から返事が聞こえた。

 「3・2・1、射撃開始!!」

 隊長ウサ耳の合図でウサ耳兵士達はそれぞれが手に持つ、小銃でテロリスト達がいる方向へと弾幕を張る。

 ウサ耳兵士達が持つ銃は見た目はM1カービンだが、どうやらセミオートだけでなくフルオートも可能らしく、弾幕だから出来ることなのか分からないが、その銃はLMG(ライトマシンガン)等の分隊支援火器の役割をしっかりと果たしていた。

 「今だ、早く!!」

 「分かった!」

 隊長ウサ耳がそう仁に言うと、仁は急いで倒れたウサ耳兵士の元に行き、腕を持ちそのままウサ耳兵士を担ぎ上げると、そのまま先程までいた岩にウサ耳兵士を担いで戻った。

 「気絶してるみたいだ、怪我もない」

 と、ウサ耳兵士を下ろすと仁は、隣で弾幕を張っている隊長ウサ耳へ言った。

 そして、仁の言葉を聞くやいなや、隊長ウサ耳は、

 「全員、撃ち方止め!!」

 と、他のウサ耳兵士に呼びかけた。

 「どうする?」

 仁が隊長ウサ耳に聞く。

 「"都”が近いから、逃げる事は考えられない。都に被害が及ぶのは全力で避けたいからな。一応、救援は呼んではいるが、期待はしない方がいい」

 「救援の意味あんのか?」

 「質より量と言うだろう」

 「なる…ほど?」

 そんな事を言っている間にも、銃弾は仁達がいる岩のすぐ側を掠っていく。

 「じゃあ、俺に何か出来ることはあるのか?」

 仁がそう言うと。

 「無い」

 と、隊長ウサ耳は素っ気なく返した。

 そして、

 「何でだよ?」

 「まず、足でまといにしかならない。それに忘れたのか?私達の任務は、君の捜索、そして護衛。護衛対象を危険な目には遭わせられないの」

 「それは……」

 言い返せなかった。

 少年は今、無力だ。

 今まで2度も助けてくれた神様は今、居ない。

 彼の能力である【ありとあらゆる武器を作りだし、それを操る程度の能力】も使えない。昨日、仁がスーツを作り出した後から、また使えなくなってしまっている。

 そして、2つ目の能力の【物に触れずに動かす程度の能力】に関しては、正直に言ってしまえば使い慣れていない為、使っても意味が無い(・・・・・・・・・)というのが現実なのだ。

 「きゃっ!」

 と、近くにいるウサ耳兵士の悲鳴が聞こえた。

 「大丈夫か!!」

 隊長ウサ耳が言うと、

 「すいません、腕が動かなく…」

 と、ウサ耳兵士の弱々しい声が返ってきた。

 「分かった…」

 そして、隊長ウサ耳が呟くと。

 「すまない、ちょっと待っててくれ」

 隊長ウサ耳は、仁にそう言った。

 「何だっ…うぉ!!」

 と、仁の言葉は、隊長ウサ耳の方から来た風圧により遮られた。

 「って、どこに行った…ん…だ?」

 そして、仁は風圧を感じた方向を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、彼の横にいたはずの隊長ウサ耳は消えていなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




段々と、文字数はアレですが、投稿数を目標に今年はやっていきたいと思います。
それでは今回も、特にはないので、次回もよろしくお願いします!!
なるべく2週間以内を目安に投稿するので宜しくです、
では、誤字や脱字、そしておかしな文があったらご報告して頂けると幸いです。
それでは、こんな小説を読んでいただきありがとうございました!!!!


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歓迎

 とある森の中、フードのように頭から布切れを被り、仮面を身に付けた⒌6人程の人間がそれぞれ何かを叫んでいた。

 1人は「クソっ!どうする!?このまんまだと収拾がつかないんだぞ!!」

 と、周りに怒鳴り散らす若い男。

 もう1人は「兎なんぞに当てやがって!!依姫様にどう説明するつもりだ!」と同じように怒鳴り散らし。

 そんな男に対し、また別の男が「仕方ないだろ!あの距離で地上人を撃てなんて、ましてや拳銃で狙うなんて無茶苦茶にも程がある!!」

 と、言い返す。

 そして、最後にリーダーらしき男が、

 「黙れ!!こうなった以上、ヤツは捕まえる。無論、生け捕りでだ。依姫様が何を考えているかは知らないが、穢れ(・・)は絶対に"月”に入れてはならん!我らが、月を守るためにだ、忘れるな!!」

 その男の言葉を最後に、彼らは言い争いを止めた。

 そう、彼らはウサ耳兵士、そして仁を襲撃したテロリストだ。

 彼らは、テロリストと言うよりは過激派と言った方が正しいだろう。月に住む彼ら━━月人はとある理由(・・・・・)により地上に住む人間を嫌悪に近い感情を抱いている。しかし、月に住む月人の殆どは地上に住む者に対しては嫌悪感は示すものの、それ以外の干渉はせずに"隔離”をするのみ。だが、そんな月人の中でも、少なからず、地上に住む生命に対する嫌悪感を超えた、憎悪を燃やす者らがいる。それが今仁らを襲撃した彼らだ。彼らの目的は仁を拉致し、適当な事件を"都”で自作自演し、そしてその罪を地上人である仁に着せ、そして"犯人”として晒すこと。それが成功してしまうと、仁は犯罪者のレッテルを貼られるだろう。そうなれば、自分達と同じような者が増えるだろう、と彼らは考えている。

 その為には丁度良い餌が必要だ。そして選ばれたのが神川 仁なのだ。

 だが、そんな彼らの計画も暗雲が立ち込め始めている。

 それは、仁の捜索の失敗から始まり、果ては仁に撃ち込むはずの弾幕を誤射し、玉兎に当ててしまっていたりしているのだ。

 「で、どうする?」

 と、隊長格の男の隣にいた男が聞いた。

 「一気に近付くつもりだ。今の反撃(・・)から、音沙汰なしだしな。詰めるなら今だ」

 隊長格の男はそう返すと、聞いた男は、

 「了解」

 とだけ返事をすると、他の仮面の月人に合図をした。

 合図を受けた月人達は、それぞれが持つ玉兎が持つライフルと同じライフルを構えながら、森の奥━━━仁らがいる、都の方向へと進んで行こうとした。

 

 

 その時

 

 

 

 「ああああああああぁぁぁ!!」

 という絶叫が響いた。

 絶叫は、仮面月人の隊長格の男から1番遠くにいた月人から発せられていた。

 「どうした!」

 隊長格の男は絶叫した月人に言うが、

 「来るな!!来るなああぁ!!」

 と、隊長格の男の言葉が届いていないのか、止める事無く叫び続けている。そう、まるで耳が聞こえない(・・・・・・・)かのように。

 そして、叫び続けていた男は銃を乱射し始めた。それはまるで目が見えない(・・・・・・)かのような狙いをつけない滅茶苦茶な撃ち方だ、

 放たれた弾幕はたちまち、近くにいた3人ほどの月人を撃ち倒した。

 撃たれた3人は、もうピクリとも動かなくなった。彼らが持つ銃の特性上死ぬ事はないが、戦力が削られるのは大きな痛手だ。

 「何をしてる!?」

 隊長格の男がそう叫ぶが、やはり声は届いていないのか、男は叫ぶのを止めない。

 隊長格の男と、先程他の月人に合図を出していた隊長格の男の側近の男はそれぞれ、木の後ろに身を隠した。

 「どうしますか?」

 側近の男は、隣の木にいる隊長格の男に聞いた。

 「…まさか」

 「はい?」

 「い、いや何でもない。とり、りあえず、す、進もう」

 隊長格の男は唇を震わせて、うわずった声で答えた。

 「大丈夫ですか?」

 と、側近の男は聞く。

 「大丈夫だ!!」

 隊長格の男は、声を荒げて言った。その言葉には、先程の様な冷静さは最早残ってなどいなかった。

  「い、行くぞ。ほ、ほら早くしろ!!」

 「あ、待ってください!!」

 半ば狂乱に陥っている隊長格の男は側近の男を待たずに、一人、木陰から飛び出して行った。

 しかし、隊長格の男は6メートルほど進んだ後、

 「ひぃぃぃぃぃい!?」

 という体格に合わない情けない声を出して、頭を抱え体を丸めながら(うずく)ってしまった。

 側近の男は、木陰に隠れたまま、その声を聞いた。

 「クソっ!どうなってんだよ……」

 側近の男は悪態をつくと、もう一度隊長格の男の方を見ようとして、木陰から顔を出した。

 「なん…!?」

 男が見たのは、倒れた隊長格の男の頭に同じく隊長格の男から奪ったと思われる銃を突きつける、目が紅く光る眼をした、一匹の玉兎だった。

 

 

 

 

 

 

 「……ッ!!」

 どうやら、側近の男の出現は予想していなかったのか、その玉兎は側近の男の姿を見るやいなや驚いた様子で見てきた。

 「その人から離れろ!!」

 と、側近の男は叫ぶ。

 側近の男の言う通りに、玉兎は男から離れたが。

 その代わりに、側近の男の方へと猛スピードで近付いてきた。

 「クソッタレがぁあ!!」

 側近の男は悪態をつくと、銃を猛スピードで近付いてくる玉兎に向けた。

 しかし、指がトリガーを引く直前に、玉兎は側近の男の銃の銃身を掴むと、そのまま側近の男の腕から引き抜いた。

 側近の男は、銃が取られたのを認知するやいなや、距離にして1メートルも離れていない玉兎に、拳をその顔向けて振った。

 だが、その玉兎はヒョイと身を屈めてパンチを回避すると、元々手にしていた銃を捨て、玉兎は側近の男の腹へ回し蹴りをした。

 「ガっ…!?」

 側近の男は、回し蹴りによる攻撃により後退ると。

 次に、玉兎は殴った銃を側近の男の顔に向けると言った。

 「動けば、撃つ」

 そして、その玉兎は側近の男に、

 「他に仲間は?」

 と、聞いた。

 「(とぼ)けんな、お前がやったんだろ?アイツがおかしくなったのもお前のせいだろ?」

 そう言う、側近の男が言う言葉には、静かな怒りがこもっているように思える。

 「だから何だ?もう一度言う、お前の仲間と同じ目に会いたくなければ、答えろ」

 「殺傷力が無い銃で脅されても、全く怖くは無いんだが?」

 と、側近の男は言うと。

 「お前は勘違いしてるよ」

 そう、玉兎は笑いながら言った。

 「何だって?」

 「考えてみろ。私が、お前達に向けて一回でも撃ったか?私は別に、こいつ()をお前に撃つなんて一言も言ってないんだが?」

 そう、その玉兎はまだ一度も発砲していない。仮面の月人達は、一人が急におかしく(・・・・)━━━

 「まさか……!」

 「吐く気になったか?」

 「いいや、ちょっと聞いたことがあるもんでな。玉兎の中に、珍しく"兵士”として真っ当な性格を持つ玉兎がいたって話」

  「…………」

 「そいつらは二人居るらしいな。そんで…ああ、 そう言えば」

 側近の男は、まるで挑発するかのような口調で話す。

 「………」

 玉兎は、その言葉を聞くと男を睨めつけた。

 男は気付いてないのか、それとも単純に肝が据わってるだけなのかは分からないが、変わらぬ口調で、

 「片方は、昔、地上人共が攻めてくると勘違いして、逃げだしたらしいな!!」

 わざとらしく、側近の男は笑いだす。

 「だから、なんだと言うの?」

 「いや…やっぱりお前、あの裏切り者(・・・・)の相棒だったとかいう兎なんだr…」

 そう何かを側近の男は言いかけたが、玉兎が男の顔を思い切り銃で殴ったせいで、男の言葉は途絶えた。

 その玉兎は、力無く震える両手で男を殴った銃を持ちながら。

 「ハァ…ハァ……あの娘の…あの娘の話は止めて…」

 と、玉兎は、気を失って動かなくなった側近の男を見下ろしながら呟く。

 「…思い出して……また、寂しくなっちゃうじゃない」

 そして、その玉兎━━━隊長格のウサ耳兵士はそう、どこか懐かしげに言うと。再び、他の玉兎や、この月にやって来た一人の人間の元へ戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、やっと戻って来た」

 と、玉兎達と、地上人の少年の元へと帰ってきた隊長格のウサ耳を見て、仁はそう言った。

 そして、仁は木を背にして座らせられている一匹の玉兎を手当てをしている。

 「うっ……隊長、すみません…」

 よく見れば、手当てされているのは先程、仮面の月人達の銃弾(非殺傷)を受けて気絶し、倒れていた玉兎だった。

 「問題ない。それよりも大丈夫か?」

 と、どこか疲れている様子の隊長格のウサ耳が聞くと。

 「脇腹が少し痛むだけで、大丈夫です」

 そう、その玉兎は傷んでいるであろう脇腹を片手で抑えながら言った。

 「隊長こそ、お怪我は?」

 「無い。奇襲が上手くいった、反撃される前に全滅させた」

 「本当に、何者だよオマエ……」

 と、仁は次に腕を負傷していた玉兎に包帯を巻いていた。

 「何で仁さんは、その…そんな量の薬や包帯を?」

 不意に手当中の玉兎が聞いてきた。

 「…………」

 聞かれた仁は、何故か俯き、手当てしている手を止めた。

 そして、少年の脳裏に浮かんできたのは、スタジオジ○リの映画に出てきそうな大きな狼との命懸けの鬼ごっこ、そしてガチな神と戦りあい気絶したこと、暴走状態の吸血鬼との初戦闘。そして、最後には必ず見る見知らぬ天井と、包帯でぐるぐるに巻かれたミイラ状態の自分の姿。

 そんな碌でもない、記憶。

 「色々…あったんだよ」

 ゆっくりと顔を上げて言う仁の目には、光は宿っていない。

 「な、なるほどです」

 手当てを終え、玉兎達+地上の少年は再び"都”へと足を向かわせた。

 

 

 

 その道中のこと。

 「ところで、俺達を襲ってきたヤツらは放って置いて良いのか?」

 と、仁が横を歩く隊長ウサ耳に聞いた。

 現在、彼らは先程の様な緊張感、というよりは警戒心を解いている様に思える。先程は、慌ただしく走っていたのが、今ではのんびりと歩いているのがその証拠だ。

 「他の部隊が向かってる。次に奴らの目が覚める時には、鉄格子の部屋の中だろう」

 「そうか」

 仁らはもう、既に"月の都”と呼ばれてた中華風の巨大な都市の城門らしき門の近くまで来ていた。

 赤い巨大な門には門番の様な人物は居らず、ただ仁らが近付くとゆっくりと、その門は開いた。

 門が開くと、中の"都”の様子が見える。外から見えていた様に、赤を基調とした中華風の建築、そして老若男女、年齢も性別もバラバラのごく一般的に見える人間?がいた。

 彼らは、一人として同じ服を着ている者がいないように思える程、様々な洋服を着ている。だが、そんな彼らには一つの共通点があった。

 住民らの全員の頭にウサ耳が着いているのだ。

 子供から、老人までの、全員にだ。

 それは月人という種族としての文化なのか、それとも生物としての特徴なのかは不明だが、どちらにせよ、そんな特徴が彼らにはあった。

 「なあ、ところで一つ良いか?」

 門の中へ入る一歩手前、仁は再び隣にいる隊長ウサ耳に聞いた。

 「ええ」

 「君は、何て名前だ?」

 「私?」

 「いや、言いたくないなら別に…

 少年が言いかけた時、隊長格のウサ耳がポツリと

 「鈴華」

 と、呟いた。

 「え?」

 「だから、私の名前は"鈴華(すずか)”」

 「…そうか、ありがとうな鈴華。さっきは助けてもらって」

 「お礼は要らないわ。それが任務だから」

 そう言う、鈴華の頬は少しだけ赤くなっていた。だが、少年はそんな事に気付くことは無かった。

 そして、仁と鈴華率いるウサ耳部隊が城門の中へ入ろうとした。

 その時、仁の姿が一瞬にして消えた。

 「えっ…!?」

 鈴華が慌てて、仁が居た筈の場所に向かうと。

 仁が居た筈の地面には、まるで亀裂の様なモノが走っており、亀裂の端にはリボンの様なものが、そして中には多数の目のようなナニカが見えていた。

 消えた仁は恐らく、突如開いた、この"亀裂”の中へ消えていったのだろう。

 「何…これ?」

 鈴華は、その"亀裂”の中を覗き込もうと近付くが。

 近付いた瞬間、その"亀裂”はまるで人の口が閉じる様に閉じてしまった。

 そして、少女はただ、消えた少年がいた場所で呆然と立ち尽くすのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うおおおおぉ!?痛っ!」

 ドスンという音をたて、少年は"スキマ”の中から落ちた。

 そして、少年から見て正面。そこには、紫色のドレスを着て、白の傘を差している幻想郷の大妖怪こと八雲 紫がそこに居た。

 「って、紫!?」

 と、痛めた腰に手を当てている仁は言った。

 「今日(こんにち)は、仁」

 紫は、いつもの様に胡散臭いニヤニヤとした表情で仁を見ている。

 周囲には、先程と同じような森が広がっているが。

 紫の後ろの景色、仁から見て正面には、大きな湖が広がっていた。

 本当にここは月なのか?という疑問を吹っ飛ばして仁は、

 「何でここに?」

 と、紫に聞いた

 「そんな事、貴方には関係ないわ」

 「……質問を変える。何で、俺をここに?」

 「勿論、貴方をここから帰す為よ」

 「何で?レミリア達のロケットでだろ?なのに、何で紫が?」

 「あら、聞いていないの?彼女達のロケット、今じゃ木っ端微塵よ。それくらい、貴方も身をもって知っている筈でしょうに」

 「……そうか」

 そもそも仁は、この月に着いて初めの記憶に、ロケットの残骸(・・・・・・・)から身を起こした、というのがある。

 そう、その時点でロケットは既に万全な状態ではなかったのだ。彼女達━━レミリアや霊夢達は無事という話があるだけ良かったが、帰る為のロケットがないと言うなら、彼女達も幻想郷へ帰ることが出来ないという事だ。

 「ところで、霊夢達は?」

 仁は立ち上がると、そう紫に聞いた。

 紫は正面に広がる、大きな湖を見たまま、

 「あの娘達なら、先に帰らせたわ。霊夢を除いて(・・・・・・)全員ね」

 と、仁を見ずに言った。

 「どういうことだ?」

 「そのまんまの意味、霊夢には幻想郷からの…そうね、"大使”になってもらっているのよ」

 「大使?」

 「ええ、そうよ。けれど、あの娘もちゃんと帰すわよ。心配は要らないわ」

 「そうか…なら、良かった」

 そして、数秒仁は間を置くと。

 「で、どうやって帰るんだ?」

 「勿論、私のスキマでよ」

 と、紫は言うと傘を持つてとは反対の右手、何も無い空間にかざすように降ると、いつものスキマが開いた。

 「ほら、入りなさい」

 「ハイハイ」

 そして、仁がスキマの中に入った時。

 「そういや、何で紫はここに?」

 「だから、貴方には関係ないと言ったはずよ。……でも、まあ少しぐらい教えてあげましょうか」

 「私が、ここに来たのは。ちょっとした、"取り立て”よ」

 「取り立てって、借金とかの?」

 「……さあ、どうでしょうね」

 紫がそう言った瞬間、スキマは閉じた。

 「ちょっ…」

 仁が何か言おうとしていたが、既にスキマは閉じた後だった。

 

 

 そして、紫が一人になると。

 「……まあ、少なくとも月の民が貴方にやった事に対する、"慰謝料”はしっかり頂くわ」

 と、ポツリと呟いたのであった。

 




2週間以内に投稿出出来たので、もう満足です。
内容は昔から考えていたので、すんなりといけました。(´∀`)
とりあえず、次回は自分的に1番書きたかった話なので、多分次回も同じように早めに投稿する予定です。
それでは、今回もこんな小説読んでいただきありがとうございます!!
誤字や脱字、おかしな文がありましたらご報告して頂けると幸いです。
それでは、次回もよろしくお願いします!


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月兎

  カーテンの隙間から覗く朝日に照らされて、パジャマ姿の少年━━神川 仁は机の上にある目覚まし時計の騒音で目を覚ました。

 机の上で、騒音を鳴り響かせる目覚まし時計を止めようと、仁が立ち上がろうとした瞬間、ある違和感に気づいた。

 「………ん?」

 部屋にはベッドがあるのだが。少年はベッドの上ではなく、ベッドの横、つまりは床にいた。

 べッドから落ちた記憶は無く、かと言って就寝時から床にいた記憶もない。

 そもそも、家に帰ってからベッドに入るまでの記憶が曖昧で、そんな事があったかどうかさえ思い出せない。

 昨日、少年は月にて、墜落し、襲撃され、落とされ、月"旅行”とは名ばかりの、壮絶な体験をした後。

 紫のおかげで月からは帰れたのだが。

 スキマの先、幻想郷と少年の家を繋ぐドアがある場所である博麗神社。

 その地で、自分を『文々。新聞』という新聞の記者を名乗る、背中に黒いカラスの様な羽を持った少女が、突然博麗神社に現れ、仁に取材(・・)を申し込んできたのだ。

 インタビュー、もとい尋問を受けて、解放されたのは2時間後。

 すっかり疲れ果てた少年は、家の、もっといえば自分の部屋につくなり、ベッドに倒れ込むように寝たのだ。

 「深くは…考えない方が良いか」

 そして、少年は立ち上り、窓のカーテンを開け、ベッドの上に取り残された毛布を畳もうとベッドに近付くと。

 モゾリ、と、ベッドの上、毛布の下でナニカ(・・・)が動いた。

 「ひっ!?」

 少年は間の抜けた声を出し、飛び上がった。

そして、少年の頭の中で数多くの考察が飛び合う。

 虫だろうか?いや、虫はこんな毛布を動かす程の力はないし、かと言って毛布を動かせる程の数がいるとも思えない。

 猫だろうか?だが、そもそも仁の家では猫は飼っていない。野良猫にしても、戸締りだけはしっかりしていたから可能性は低い。

 そして、またモゾモゾと毛布が動く。

 考えられる可能性は他にあるとすれば。

 人、だろうか。

 「……………」

 怖い

 純粋に、少年は心の中でそう思う。

 何せ、少年はそんな類の話が大の苦手なのだから。

 世界では、屋根裏部屋に潜み、家主が寝静まった頃に食料を漁るような"同居人”の話は、テレビでも良く紹介されている。

(いや、待てよ。俺の知り合いに他人のベッドに潜り込むような変人はいない……うん、いないと思いたい!)

 そして少年は覚悟を決め、毛布を手で掴むと。

 バサッ!と取払った。

 毛布の下、モゾモゾと蠢いていモノの正体は

 

 

 

 一人のショートヘアの少女だった。

 

 

 

 くうくうと寝息をたてながら、仰向けとなって寝ている少女は白のパーカーを着ていたが、よく見るとそのパーカーは仁の物だった。そして、その少女はパーカーしか着ているようにしか見えず、ダボダボとなったパーカーが足のももの辺りまで覆っていた。

 「???」

 少年は、まずこの少女に見覚えが無いかと顔を見た。

 その顔は昨日、月にて仁と共に行動していた、あのウサ耳兵士の"鈴華”だった。その頭から生えたヨレヨレのウサ耳がそれを確証させた。

 

 「は?え、え?」

 動揺する仁を横目に、ベッドの上の鈴華が、

 「何…?」

 と、言いながら起き上がった。

 眠たそうな目をこすりながら、仁の方を見ている鈴華は、

 「あ、仁君。おはよぉう…」

 と、今度は大きな欠伸をしながら言った。くせっ毛だらけの髪の毛や、ダボダボのパーカーのせいで本当に彼女が昨日会った、"あの”鈴華なのか疑問に思う。

 「おま…な、なん、で?」

 「あれ?ボクの事、紫さんから聞いてないの?」

 ツッコミたい所が四、五箇所程あるが、仁はとりあえず。

 「紫!?紫っつったか!!???」

 仁はその名前を聞いた瞬間、ベッドの上に充電されながら置いてある携帯電話に飛びついた。

 そして、携帯の電話帳にあった紫の名を見つけると直ぐに電話をかけた。

 だが…

 「…って、繋がんない!?」

 耳に当てた携帯からは、ツーツーという機械音、そして次に『おかけになった電話番号は……』から始まる合成音声が聞こえた。

 「あんの野郎、何考えてやがる……」

 そう呟くと、携帯電話を机の上に置く。

 「じゃあ、お前は何か知ってるのか?」

 今度は、ベッドの上で足を組んで手を伸ばす鈴華に聞いた。

 「うん、でも…」

 「でも?」

 そして、鈴華は少し俯くと。

 「その前にご飯、頂いても良いですか?」

 そう、申し訳なさそうに言う、少女の頬は赤く染っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で、何で、お前は、俺ん家に、いるんだ?」

 そう、仁が言う。

 仁と鈴華は、仁の家のリビングでそれぞれ朝食をとっていた。

 無論、用意したのは仁である。

 そして、トーストにした食パンをバクバクと、そうパクパクなんて上品な咀嚼音ではなく、バクバクと擬音がつきそうな勢いで食べる鈴華が、

 「紫さんから、今日からあなたの住む所よ、って言われて」

 と、あまり似てない紫のモノマネで語る鈴華に。

 「ふざけんなっ!俺に何の説明も無し、でか!?」

 「だって、紫さんが、私から話はつけとくわよ、って言ったから…」

 はぁ…と仁は溜息をつくと、目の前で二枚目の食パンに齧り付く鈴華を見て。

 「なあ、お前さん本当に鈴華だよな?」

 「そうだよー」

 「昨日会った、兵士のだよな?」

 「そうそう」

 「あの、襲撃してきたヤツらを全滅させた?」

 「合ってるよ」

 そして、仁は一度間を空けると。

 「……そんな性格じゃなかったよな?昨日のお前」

 「そりゃそうでしょ、誰にだって仕事のスイッチON・OFF出来なきゃ疲れるよ」

 「確かにそうだけど…そのスイッチの出力、イカれてんじゃねえのか?」

 「失敬な。兵士たるもの、自分に悪影響が出ること前にしっかりと体調管理するものだ」

 と、余りない様に見える胸を張りながら鈴華は言う。

 ひとまずは鈴華自身の性格については分かったが。謎はまだ残る。何故、仁の元へと連れてこられたのか?そして、何故ボクっ娘なのか。

 後者はともかく、仁は鈴華と行動さえ共にしていたが、そこまで親しくしていたつもりもない、だから仁には、何故ここまでフレンドリーに接してくるのかが分からなかった。

 「で、だ!本当に、何で俺ん所に?お前さんなら、月で兵士やってたはずだろ?」

 そして、鈴華が何故か観念したように、

 「分かった分かった、言うって…」

 と言う。

 そして、何かを話したくて、うずうずしている子供の様なかおで。

 「ボクがここに来た理由、それは……」

 「そ、それは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ボクが、君の相棒に任命されたからさ」

 「………はい?」

 呆然と、ただ呆然と少年はポカーンと口を開けたまま、静止した。

 そんな、少年をよそに目の前のウサ耳少女は残りの朝食を食べるが、仁の様子がおかしい事に気付いたようで。

 「もしもーし。生きてる?」

 「あー…生きてる…じゃなくて、今何て言った?」

 「だから、ボクは君の相棒として、紫さんから送られたんだよ」

 「おかしい…絶対におかしい…!!」

 「えっと…おかしいって何が?」

 「全部!!そう、全部ですよ!」

 「と、とりあえず落ち着いたらどう?」

 若干引き気味の鈴華が、半狂乱状態の仁に言うが。

 「落ち着けるか!?」

 と、仁はどんどん変な(危ない)方向に向かっていっている。

 鈴華が、仁への対応に困り果ててた、その時。

 ブーブーと、仁のズボンのポケットから聞こえてきた。

 「あ?誰だ…って」

 と、スマートフォンの液晶画面を見て言うと。

 「もしもし、ちょっと2つ3つぐらい聞きたいことが有るんだけどよ。勿論、1から10まで説明してくれるよな?紫さんよぉ」

『あら、私はてっきり感謝されるものかと思ったのだけど』

 そして、聞こえたきたのは紫の声だった。

 「いや、本気で教えてくれ。これは一体どういう事なんだ?」

『これ、ってどの事かしら?』

 「何で月にいるはずの鈴華がここに居るんだ?いつかの俺みたいに誘拐したんじゃねえんだろうな?」

『誘拐なんて人聞きの悪い…。彼女は、貴方宛の"慰謝料”よ』

 「慰謝料?」

『そう、慰謝料よ。貴方、昨日月の民の件で色々あったんでしょう?』

 「ああ、確かテロリストに襲われた…ってそれと関係が?」

『ええ、あの一件のことが向こう()でも、こっち(幻想郷)でも広まってしまえば何が起こるか分からないの。それで、月の"お姫様”とお話したのよ』

 「お姫様?」

『鈴華の"元”上司よ』

 「なるほど?」

『それで、話し合った結果。他言はしないしさせない、けどそちらでの有能な兵士を一人寄越すこと、という事になったの』

 「そんで、その有能な兵士が、コイツだと?」

 と、一瞬仁は、目の前で座る鈴華に目をやる。

『彼女は優秀よ、そんな(・・・)感じでも腕は確かよ』

 「紫さーん、聞こえてますよー」

 と、ピクピクと耳を動かせながら鈴華は口を挟む。

 「経緯は分かった。じゃあ、何で俺の所に鈴華を?」

『彼女から聞いたでしょう?』

 「聞いた聞いた…で?相棒って、どういう事だ?」

『そのままよ。良い?現状、貴方に"依頼”を任せるのには、あまりにもリスクが大きすぎる。そのための彼女よ』

 「でも、人材があっても。装備がないだろ?鈴華はともかく、俺は武器がないと何にもなんないだろ?バルがあの状態だと、物資のアテが無い」

 彼が相手してきた相手━━━妖怪などには、銃をもってして、やっとのこと対等に相手が出来たようなもの。武器がなければ、彼は戦うことも出来ないし、場合によっては抵抗さえも出来ないだろう。

『それに関しては問題ないわ。でも、そんな事よりも私は貴方に聞きたい事がある』

 「聞きたいこと?」

『貴方の意思よ』

 急に、スマートフォンの向こうから聞こえてくる紫の声の雰囲気が重くなるのが感じた。

 先ほどの軽い口調とは違い、今度は重く、言うなればシリアスな声色で紫は、

『貴方は、本当に"妖怪退治”をしたいの?私の依頼を受けたいの?』

 「それは……」

『貴方自身も分かるでしょう?この件に関われば貴方自身、無事では済まないことも』

 「………」

 少年にとって、そんな事はもうとっくに分かりきっていた。幻想郷の各地での体験で、それは嫌というほど味わされているのだから。

『だから、貴方の真意を聞きたくて。理由もないのに、ここまでする必要もないのよ?』

 「分かってる…けど」

『けど?』

 そして、仁は2、3秒ほど黙り込み。

 やがておもむろに口を開くと、

 「ここまで来たんだ、やるしかないだろ?」

 そう言う仁の顔は、決意がみなぎっている。

『それを聞いて、安心したわ。正直、あそこまで痛めつけられて、そんな事を言うなんて思ってもいなかったわ、流石よ貴方』

 と、紫はさっきの様なシリアスな口調から、最初の胡散臭い喋り方に戻る。

 「そうか」

 そんな紫に仁は素っ気なく返す。

『それでは、早速』

 そう紫が言った瞬間、

 ピロリンと仁のスマートフォンから音が鳴る。

『後は、メールに書いてあるわ。それじゃあ、また会いましょう』

 「あっ、ちょっ待て……よ」

 仁が言い終わる前に、紫は一方的に切っていった。

 「ねえ、仁君。その、紫さんが言ってたメールには何て書いてあるの?」

 と、今までずっと大人しくしていた鈴華が聞いた。

 「その前に、お前は何でさっきから話してた内容が分かるんだ?別にスピーカーにはしてないんだぞ?」

 そう、仁が聞き返す。

 「何って勿論、ボクは玉兎だよ?。この耳は飾りじゃないんだって」

 と、鈴華は言うとさっきと同じように、自身のウサ耳をピクピクと動かす。

 「……やっぱ、お前って見た目だけ人間なんだな」

 「何を今更」

 そうか、と仁は言うと手に持っていたスマートフォンを、テーブルの中央に置いた。

 画面には、スマートフォン内のメッセージアプリが開かれており、そこに紫から送られてきたメッセージが書いてあった。

 内容は、

 

 

 次の連休前の木曜日までに、指定の場所に集合せよ

 

 

 そして、このメッセージの下には仁の家からさほど遠くない場所の住所と集合時間が書かれている。

 「あれ?この住所どこかで見たような……」

 仁が送られた住所を見て言う。少年はどちらかと言えば、住所などは覚えない人間だ。だから、行ったことある場所でも、道だけで覚えてしまう。

 「知ってる場所?」

 「多分な。けど、どこだったかな」

 「まあ、そのうち分かるんじゃない?」

 「だと、良いけどな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人は朝食の片付けの後、仁の部屋に移動した。

 仁は椅子に、鈴華はベッドにと、それぞれ座っている。

 「お前って、月?から来たんだよな?」

 と、仁が口を開く。

 「さっきから、そうだって言ってるでしょ?」

 「それじゃ、こっち(外の世界)のことは前から知ってたのか?俺としちゃ、お前が日本に憧れてやって来た外国人みたいなリアクションをするかと思ってたんだが」

 「確かにこっち(外の世界)に興味は持っていたさ。けど向こうで資料は何度か見てるからね。だから今は、地上に来ての驚きというよりも、どっちかと言えば楽しんでる、の方が正しいかもね」

 「なるほど。で、楽しいのか?こっちは」

 「うん、まあまあ」

 「何だ、まあまあって」

 「だって、ボクはまだ地上の文化には触れてない。これじゃ楽しもうにも楽しめないよ」

彼女が見た地上の世界というのは、まだ仁の家の中というひどく限定された場所のみだ。そう思うのも無理はないだろう。

 「そりゃ確かに」

 「でも、さっき食べたパンとかも初めてなんだ。月じゃ同じもんしか食べれなかったし、結構新鮮な体験だった」

 満足気な顔をしながら喋る鈴華に仁は、

 「そんなら、良かったな」

 と、笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 「そういえば紫さんから伝言があったんだっけ」

 「伝言?何で、さっき言わなかったんだ?」

 「さあね。それはともかく、『あの、スーツは気に入ったかしら?世界にふたつもない貴重品だから、大切にね』だって」

 「………なるほど、そういうこと」

 「何だって?」

 「いいや、ナンデモネーヨ」

 

 




という訳で、登場しましたこの小説で、細かい人も入れると4人目のオリキャラの鈴華です。
前回の話でも伏線を書きましたが、回収されるのは結構後になると思ってください。
今回はこれで。
誤字や脱字、おかしな文があったら報告して頂けると幸いです!
それでは、今回もこんな小説を読んでいただきありがとうございました!!



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ある晴れた日にて

 〜数週間後〜

 

  住宅街の中、空は雲ひとつ無い快晴。

  人々の肌に触れる空気は冷たく、それは二週間もすれば年が明けるということを人々に感じさせている。

  そんな中、住宅街の中を二人の少年が歩いていた。いや、正確には少年とそれっぽい少女なのだが。

  片方の中肉中背の少年━━神川 仁はジャケットにカーゴパンツ。それに対し、もう片方の少年…ではなく少女━━鈴華はミリタリージャケットにジーンズという格好をしている。

  仁はともかく、ショートカットの鈴華に対しては"男装”とも受け取れるような格好で、傍から見れば2人が歩く姿は同年代の男子中学生が並んで歩いているように見える。

 「はぁ…」

 仁が溜息をつく。

 そんな仁に対し、

 「どしたの、溜息なんてついてさ?」

 と、隣を歩く鈴華が聞く。

 「いや、最近なんか疲れててな…」

 実の所、最近の少年は多忙だった。

 …まあ、理由は多々あれど、ほとんどが鈴華の相手をしていたせいなのだが。

 そんな少年の苦労などつゆ知らずに鈴華は、

 「休める時は休んどでおくのだぞ、少年よ」

 と、そんな冗談か本気なのかよく分からない言葉を投げかける。

  そんな彼女に「……誰のせいだと思ってやがる」と、仁はポツリと呟くのであった。

  しかし、そんな仁の努力は決して無駄ではなく、その努力のおかげで鈴華が地上の生活に慣れてきているので、結果オーライだろう。

  元々いた月で地上の資料を散々見てきた、と彼女は言っている。事実、彼女は地上の生活に慣れるまで時間はかからっていないように仁は見えた。事実、彼女は地上での振る舞いや、"ルール”などは熟知しているように仁は見えた。

  しかし、彼女にとって盲点だったのが、地上での過ごし方、だった。

 例えば、海外へ移住する際に、その国の言語、治安、法律、文化等は事前に勉強しておくのが筋だろう。

 しかし、自分の国で娯楽として楽しんでいた文化も、その国では存在しない。

 簡単に言えば、"楽しみ”がない。

 月からの移住者である鈴華も同様に、当初は『暇だー』と延々と嘆いていた。

 そこで、仁の出番だ。

 彼はまず、自分の趣味を鈴華に勧めた。

 それは、ゲームから始まり、映画、海外ドラマからライトノベルまで、ありとあらゆるものを勧めた。

 幸いにも、鈴華はこれらの創作物(・・・)が気に入ったようで、数日もすれば、仁の部屋の壁一面の本棚にある本やDVDにゲームソフトは全て制覇していた。

 さすがに仁は、これ程になるとは思っていなかったようで、そのハマりっぷりにただただ翻弄されるばかりだった。

 

 

 

 

 「仁君、一つ良い?」

 と、鈴華が仁に聞く。

 「何だ藪から棒に…で、どうした」

 「そういえば、君の能力を聞いてなかったね」

 「………知ってて、聞いてるのか?」

 「いやいや、違うって。ボクが聞いてるのは、君の"もう一つ”の方だって。紫さんから、君が二つの能力持ちってことを聞いて、"武器を作る方”の説明は受けたけど、もう片方のことは何にも教えてくれなかったしね」

 「…あー、ね」

 もう片方の能力

 それは、神川 仁に与えられた、二つの能力の一つである。

 物に手を触れずに操る程度の能力、それは創作の中では念動力、もしくはサイコキネシスと呼ばれる能力だ。

 名前から分かるように、手を触れずに物を浮かせたり出来る"だけ”の能力だ。

 特段、変身出来たり、怪力を得るとか、そういうものでは無い至って地味な能力。

 仁は能力の名前、効果を鈴華に伝える。

 それを聞いた鈴華は、数秒ほど考える仕草をすると。

 「やっぱり、それが本命(・・)なんじゃないかな?」

 「何だって?」

 「そのもう片方の方が、君の能力じゃないかってこと」

 そう、鈴華がいつにもなく真剣な顔で言う。

 「だって武器を作る方は、その……鍛冶神のバルだっけ?」

 「自称、な」

 「な、なるほど」

 そして、鈴華は仕切り直して言う。

 「それで、そのバルが"機能停止”した時から、武器を作る方は使えなくなったんでしょ?だったら、彼が君に能力を"貸してた”って考えられないかな?」

 それは、約2ヶ月前の幻想郷内の吸血鬼の舘で起きた、"例の事件”。

 仁が霊夢から説明された"異変”とは違う、別の何か。

 その事件の最中に起きた戦いで、仁は下手すれば後遺症が残りかねない程の重症を負い。バルは機能が停止したように物言わぬ石となった。

 そして考えてみれば、以前バルは能力を与えた(・・・)と言っていたが。

 それは本当に、与えたのだろうか、と仁は考えた。

 「で、それがどうしたんだ。今話したところでどうにかなるようなもんでもない気がするけど」

 「分からないじゃないか。もしかしたら、ちょっとした拍子で戻るかもよ?」

 「……だと、良いけどよ」

 「でも、確かに湿っぽくなっちゃったね。ごめんごめん」

 あはは、と笑いながら言う鈴華に、

 「誰のせいだと思ってやがる…!

 「あれー?どうして、ボクのほっぺを摘む……やめて、いひゃい!いひゃい!ほっへひゃらへをはなひてっ!?」

 無言のまま仁が、その鈴華伸びた頬から手を離す。

 「地上の環境に慣れてない、乾燥肌のボクに…ひどい」

 わざとらしく悲しむ演技をする鈴華に対し、仁が、

 「自業自得だろ」

 と、答えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、急に何かを思い出したように仁は、

 「そういや鈴華、お前の能力は何なんだ?」

 と、鈴華に聞く。

 「今更?」

 「悪いな、聞き忘れてて…で、その様子だとあるんだろ?」

 「ああ、そうだよ。持ってる」

 「なら、早く教え…」

 「だったら、当ててみなぁ少年よ!!」

 いきなり訳の分からない事を言い出した鈴華に、仁は困惑した。

 「……何だって?」

 怪訝な顔をして、仁が聞く。

 「だから、当ててみてよ。普通に教えても面白くないでしょ?」

 ふふふ、と微笑みながら喋る鈴華に仁は、

 「言いたくないなら、良いよ。どうせ後に分かるし」

 と言うと、急に鈴華が慌てだす。

 「あー!言うって、言うから!」

 「そうか」

 仁が素っ気ない返事で返すと、鈴華が続ける。

 「私の能力は、"五感を操る程度の能力”。名前のまんま、触覚、味覚、聴覚、視覚を操るのよ」

 「おい、今"私”って…」

 「はいはーい、説明するの面倒だから、直接味わってみてね」

 何かを言いかけた仁を遮って、鈴華は仁の額に人差し指を当てる。

 そして、その瞬間。

 少年の視界が、失われた。

(ッ!?)

 その一瞬にして、見えるもの全てが暗色に染まった。

 鈴華に、何をした、と聞こうとするが"喋っている感覚”が無い。それに仁は、絶え間なく吹いているはずの冬の冷たい風の音が聞こえない事にも気付いた。

 挙句の果てには、額に当たっているはずの鈴華の指の感触もない。

  見えない 聞こえない、感じない

 それが、仁の中に芽生えた恐怖を煽る。

 何なんだよ。と、そう喋っている筈なのに口が開いている感覚もないし、自分の声も聞こえない。

 そんな時だ

 「どう、仁君?」

 どこからか、鈴華の声が聞こえたと思うと、少年の感覚が再び戻ってくる。

 「ねえ、どうだった?怖かった?」

 仁の目には色鮮やかな風景が蘇り、目の前にはニヤニヤしながら仁の顔を見ている鈴華がいた。

 「……これが、お前の能力なんだな」

 「その通り。ボクの能力は五感を鋭くすることも出来るし、その逆もまた然りだよ」

 「なるほど、そりゃ便利だな。じゃあ、今みたいに耳がないのは、その能力のおかげって事か?」

 と、仁は鈴華の頭を指さして言った。

 その鈴華の頭には、この前のようなウサ耳は無かった。

どうせ、能力かなんかで隠しているんだろうなと、仁は思った。

だが、

 「これは違うよ、単純に髪の中に隠してるだけ」

 そう言うと鈴華の髪の毛の中から、ピョコンとウサ耳が飛び出した。

 「こんぐらい、造作もないんだぜ。どう?見直した?」

 と、自慢げに言う鈴華に、仁は静かに言い放つ。

 「………とりあえずお前、今日の夕飯抜きな」

 仁の言葉には明確な怒りが込められていた。

 「申し訳ございませんでしたあああぁぁぁあ!!」

 その時、鈴華が目にも止まらぬ速度で頭を下げたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんやかんなあって、何とか二人は紫から送られてきた住所の場所に着いた。

 だが

 道中の近視感を覚えていた仁は、薄々嫌な予感はしていた。

 まさか本当に的中するとは思ってはいなかったが。

 「……おい待て、どういう事だ」

 それが仁にとって、その目的地にあった建物を見ての第一声だった。

 「へぇー、ここが紫さんの言ってた所かー。さっきの住宅街(?)とはまた違った建物だね」

 と、呑気に言う鈴華。

 二人の見ている方向には

 

 

 

仁の祖父母が住む、西洋風の屋敷があった。

 

 

 

 仁は目を白黒させながら、屋敷の方を見るが、その屋敷は仁が昔から行き慣れてる祖父母の家で間違いはなかった。

 その屋敷は全体的にこれと言った特徴もなく、あるとすれば屋敷全体が黒に近い色のレンガで作られていることぐらいだろうか。

 「住所間違ってんじゃねえのか…?」

 「え、どれ見せてみ?」

 と、仁が鈴華にスマートフォンの画面を見せるが。

 「いや、間違ってない。ここが目的地で合ってるよ」

キッパリと答えた鈴華の目に嘘偽り、イタズラ心の様なモノは感じられない。

 「嘘だ……いや、なんかの間違いだ。そうだ、じいちゃんに聞いてみるか」

 それだけ言うと、仁はそのまま屋敷の方へとスタスタと歩いて行く。

 「あっ、待って」

 そんな、彼の背中を鈴華は忙しなく追いかけていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書くことがないです。
以上(´°д°`)
それでは、今回はこれで…。
誤字や脱字に、おかしな文があったらご報告して頂けると幸いです。
それでは、こんな小説を読んでいただきありがとうございました!!


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四章〜新たな日常の始まり
理由


 屋敷の入口の巨大な2枚扉を開けると、最初に見えたのは玄関から見て正面にある2階へと続く、途中から左右に枝分かれするタイプの階段だった。

 「留守…じゃないよな、鍵かかってなかったし」

 仁が屋敷内を見回しながら言う。

 左右両方の廊下の向こうには部屋があったが、どちらも人が居るようには見えない。

 「ねえ、ここって仁君のお爺さんとお婆さんの2人が住んでるんでしょ?」

 同じように周囲をキョロキョロと見回す鈴華が聞いてきた。

 「そうだけど、それがどうかしたか?」

 「いや二人で住むには、ちと広すぎやしないかと思って。他に人はいなさそうだし」

 確かに、二人で住むには少々広い気がするが、屋敷内には大勢の人がいるような雰囲気でもない。

 「…確かに。考えたこと無かった」

 「君、だいぶ昔から来てるとか言ってたよね?」

 

 その時

 

 「あぁ、早かったな。なんなら、遅れてくるかと思ったよ」

 と、階段の方から一人の老人の声がした。

 仁と鈴華の二人は、声のした階段の中心の踊り場の方を見る。

 そこには、オールバックに四角い眼鏡が特徴的な初老の男性が二人を歓迎するかのように佇んでいた。

 「じいちゃん!」

 「いらっしゃい、仁」

 落ち着いた渋い声で言う、その男性━━━仁の祖父である"神川 謙二(かみがわ けんじ)”がそこに居た。

 そして、謙二は階段を降りると、二人の前に立ち。

 「キミが、鈴華…君だね?」

 と、鈴華を方を見て言った。

 「あっ、ええはい」

 鈴華は緊張しているらしく、彼女らしくない様子で返した。

 「初めまして、私は神川 謙二。聞いてると思うが、コイツの祖父だ」

 そう言うと謙二は右手を差し出した。鈴華はその手を取り、二人は握手を交わす。

 「じいちゃん、どういう事なんだ?」

 この時、訪問することは伝えていないのにも関わらず、まるで来ることが分かりきっていたような対応。そもそも、鈴華のことは誰にも話していないはずだ。友人どころか身内に紹介なんてしたつもりもない。だが、謙二は知っていた。

 この件に、謙二が明らかに関与しているのは間違いはないだろう。

 「なら、着いてきなさい。一から十まで、ちゃんと説明する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷の一室、一般的には書斎と呼ばれるだろう本棚に囲まれた部屋に、仁、鈴華、そして謙二がそれぞれ部屋の中央にあるテーブルを囲むように配置されたイージーチェアと呼ばれる大きな椅子に座っている。

 「さて…と、どこから話そうか」

 謙二が口を開く。

 「全部。じいちゃんが知ってること全てを話してくれ。じゃなけりゃ、納得できない」

 テーブルを挟んで反対側で座る仁が言う。

 「そう…だな」

 と、謙二はに声を沈めて言う。

 「紫は"妖怪退治”をするように頼んだのだろう?」

 「ああ、確か俺の中の霊力が多いからとかだかなんだかで、俺にやって欲しいとか言ってた…って、それとじいちゃんと何か関係があるのか?」

 妖怪退治。

 「関係、か…確かに、私はこの件に関係している。いや、むしろ黒幕かな(・・・・)

 「……え?」

 その言葉に、仁は唖然とした。

 黒幕というのは、大体は悪事を働くというのが普通だろう。そんな役に、自分の祖父はなっていたのだという事に、仁はショックを隠せなかった。

 だが、そんな仁を見て、祖父である謙二も何故か急に焦りだし、

 「いや、別に悪事を働いたとかじゃないんだ。単に、裏で君を幻想郷に連れてくる原因を作ったってだけなんだよ」

 と、自分の孫に必死に弁解をするが、

 「な、なんだ驚かせ…って、それでも変わんないじゃん」

 と、結局はコソコソ何かしていた、という事を逆に認識させるだけだった。

 「でも、何でそんな回りくどい事をしたんだよ?直接言ってくれれば良かったんじゃないのか?」

 「だって君、急にそんなこと言われて信じるかい?」

 と、謙二はいつかのような口調になって言う。

 「それは…そうだけど」

 確かに、急に"お前、妖怪退治しろ”なんて言われても、余程の人間ではなければ、怪訝な顔をして終わるだろう。

 「そうだろう?……それに、この方が雰囲気があるかと思って」

 「何だって?」

 「何でもないヨ」

 「というかそもそも、じいちゃん無理してキャラ作らなくても良いから。胡散臭いから。どこぞの妖怪()を思い出すから」

 「そ、そこまで言わなくても良いだろう?」

 「それに、雰囲気雰囲気って、映画の見過ぎ。下手なサスペンスでもこんな事やらないぞ」

 「非道いな、それでもこの私の孫かね!?」

 「そうです!」

 と、ギャーギャーと騒ぎ出した二人を横目に鈴華は一人、部屋の壁一面にある本棚に目を輝かせていた。

 この様子を見るに、彼女は先程からの会話が耳に入ってない、もしくは興味がなかったのだろう。

 そして、そんな彼女を見て謙二が、

 「…ここの本が気になるのかい?」

 と、聞くと。

 「はい!読んでも大丈夫ですか?」

 鈴華がまるで、そう言ってくれるのを待ってたかのように答えた。

 「ああ、構わないよ」

 その返事を聞くや否や、パァーと笑顔を浮かべて彼女は本棚に駆け寄り数冊を手に取って戻ってきた。

 そして熱心に読み出した鈴華の様子を見て、再び謙二が、今度は仁に、

 「……鈴華君は、確か月から来た玉兎なんだろう?」

 と、仁の耳元で声を潜めて言う。

 「そうだけど、それが何かあるのか?」

 仁も同じように声量を下げて、鈴華に聞こえないように話す。

 「いや…まあ、会ったことがある玉兎と似ているところがあったものでね」

 「なるほ……ちょっと待て、玉兎に会ったことがあるってどういう事だ」

 と、叫びたい衝動を堪えながら仁は言う。

 「いや、…それは、また今度話そう。今は本題に戻そう」

 「あー…分かったから、早く教えて」

 謙二は何か言いたそうにしていたが、直ぐに諦めたようで続けて、

 「まず最初に、お前には私からちょっとした役目を与えたいと思う」

 「与えるって…それが妖怪退治だってことか?」

 「妖怪"退治”というのは語弊があるな。まあ…正確には、妖怪の監視、だな」

 「監視?」

 「そうだ。紫から、こっちの方(外の世界)には幻想郷に入ることを拒んだ妖怪達がいると聞いたろ?」

 幻想郷に仁が訪れた最初の日。その日、仕事をするにつれて最低限の事について、多少なりとも仁は紫から説明は聞いていた。

 まず、幻想郷は忘れられた者達が集まる場所、ということ。者とは言ったが、生き物は勿論、物品等も例外ではない。そして、幻想郷には妖怪を初めとした人ならざるもの達も多く集まっている。

 楽園、と表現していた少女(霊夢)がいた。

 仁はその言葉の意味は、今でも分からない。しかし、楽園と評される幻想郷に招かれても、それを拒んだ妖怪達がいるという。

 その数は500。数はどうあれ、中には人を好き好んで襲うという妖怪もいると聞いた。

 「そいつらを監視すると?」

 仁が聞く。

 すると、謙二は首を振りながら、

 「いや、細かくいえば違う」

 「違う?」

 「では、一つ聞こうか。仁、お前が出会った妖怪達はどんな姿(・・・・)をしていた?」

 「どんな姿って……」

 仁は思い出す。巨大な狼に噛み殺されそうになったこと、一つ目の大男のような妖怪から少女を守ったこと、半人半妖の青年に会ったこと、河童の少女を助けたこと、自分よりも自分よりも年下に見える、自分を吸血鬼と呼ぶ姉妹に会ったこと。

 似ている(・・・・)

 仁の中で妖怪は、総じて醜く、分け隔てなく人間を襲う、というイメージがあった。

 狼や一つ目の妖怪、そして竹林の猿妖怪は確かに恐ろしい怪異の一種だろう。だが、それらは犬、人、猿という既存のイメージと結びつく。

 全く知らない生物、ではなかった。

 そして、河童の少女━━にとりと名乗ったその少女は、緑色の肌に亀のような甲羅を持つ、文献通りの河童の姿をしていたか?

 違う

 にとりは人の姿をしていた。彼女は一つ目の大男と違い、人と変わらない言葉を喋り、無邪気な笑顔を見せていた。

 それに、古道具屋の店主の森近霖之助は、自分のことを半人半妖と説明し、人の数倍を生きていられる、と言っていた。だが、そんな特性を持っていても、彼の姿も人間だった。

 吸血鬼の姉妹も、人が持たない翼を持っていても、どんなに恐ろしい力を持っていても、その姿は幼い人間の少女だった。

 もしかしたら、その姿は仮染めかもしれない。でも、出会ったときの彼らは、間違いなく人の姿をしていた。

 「人…?」

 それに気付いた仁は、言葉を漏らす。

 「分かっただろう?彼らは、私たちの知る"形”をしている。それは即ち、この世界に馴染むことが簡単なんだよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤ 人と同じ姿をしている

 

 

 

 

 

 例えば、人の姿をした妖怪が、人と同じ仕事をして、人と同じものを食べて、人と同じ娯楽を楽しむとする。

 そうなれば、その妖怪は"人”として認識さてれしまう。

 そうなってしまえば、人と妖怪の境目が分からなくなる。

 もし、妖怪が騒動を起こしても、人々は妖怪という存在を知らない。妖怪はその特異な能力で、混乱を招くかもしれない。

 と、一通り説明をした謙二は続けて、

 「でもな、仁。そんな悪さをするような奴らは少ないんだ」

 そう言う彼の目は、その言葉が嘘偽りのない本当だとということを物語っている。

 「それに彼らは、必死に"今”に馴染もうとしている。体が動物なら、獣として生きる。体が人なら、人として生きる。それが今の彼らの生き方なんだよ」

 「でも、妖怪は人を喰うんだろ?それじゃあ、妖怪にメリットがないんじゃねえか?」

 と、仁が怪訝な顔をして聞く。

 「それもそうだな。だけど、彼らが何を考えているかは分からんが」

 「それでいいのか…?」

 「まあ、少なくとも人に危害を加えるような輩は少ない」

 「少ないって、被害出てるじゃねえか」

 「だから、そんな輩を監視するのが私達の役目なんだ。忘れるな」

 そして、仁は黙り込む。

 そんな彼を心配してか、

 「なぁに、そんなに気が重くなるような話じゃないさ」

 と、謙二が一変した笑みを浮かべて言う。

 「…じゃあ、信じて良いんだよな?」

 そんな謙二の言葉を聞いて、俯いていた頭を上げて仁が聞いた。

 「ああ、勿論」

 「分かった、信じる」

 「こっちはそう言ってくれるのを信じてたよ」

 そして二人の間で笑いが起きる。そして相も変わらず鈴華は真面目に本を読んでいる。

 「ていう事は、まとめると。こっち側(外の世界)にいる妖怪達は、何故か人間に馴染もうとしている。だけど、少なからず変な気を起こす妖怪もいるから、そいつらを監視する役をじいちゃんがしていて、俺たちもその仕事を請け負うと」

 「そうだ」

  そう言うと謙二は、立ち上がると数ある本棚の一つの側まで歩く。

 「だが、最近、そんな変な気を起こす妖怪が増えているんだ。原因は不明。表沙汰になってないだけで、被害自体が増えてしまっている。前までは温厚だった者が、急に獣の如きの暴れっぷりだ」

 本棚の側まで寄ると、

 「そう言えば、仁。君は今、(武器)が欲しいんじゃないか?そこの(バル)程ではないが力を貸そう」

 「でも、どうやって?そこら辺から素材集めて作る(クラフト)する訳じゃないだろ?ここは日本だろ、銃なんて……」

 手に入る訳が無い、と言おうとした時。

 謙二が、本棚の数ある本の中の一つを取り出そうとする。

 しかし、本は引っ張り出されることなく、半分ほどが出てきた時にカチッという音がしたまま止まった。

 その時

 ゴオオンという低い唸り声のような音がしたと思うと。まるで忍者屋敷のように部屋中の本棚が一斉に回転(・・)し始めた。

 回転し終えると、本棚はなくなり、代わりに銃が立てかけられた棚が現れた。

 棚には拳銃から狙撃銃、はては西部劇で使われるような古臭いリボルバーまで古今東西、ありとあらゆる銃がある。

 「これならイギリスの仕立て屋もビックリだろう」

 「じいちゃん、これって…?」

 仁が、キョトンとした表情で聞く。

 「私の仕事道具だよ。もっとも集めたのはいいが、使う時がなくてね」

 と、言いながら壁にかかる銃の一つを取る。

 謙二が手に取ったのは、ロシア製のリボルバー──ナガンM1895だ。銃は綺麗に磨かれており、整備が怠れていないことが見てとれる。

 「私にはコイツしか合わなくてね」

 そう言いながら、謙二はリボルバーを構える。

 「て、ていう事は…私達、これを使って良いんですか?」

 と、本を片手に鈴華が聞く。

 そんな数多くの銃器で彩られた棚を見る彼女の目は…例えるなら、木に留まるカブトムシを見つけた時の男子小学生のソレだった。

 「構わないよ。……それで、だ。話は聞いてたな?」

 「もちろん。でも…」

 「"そんな事、自分に出来るか分からない”。とか、言うんだろ?」

 そう言って、謙二が仁の言葉を遮る。まるで、そう言うのが分かりきっていたかのような言い方。

 「あ、いや、…その」

 その反応を見るに、図星のようだ。

 「安心しろ。勝てるように、最低限死なないように、私が扱いてやる」

 ニヤリと笑いながら謙二は言う。

 笑ってるとは言うが、目は笑ってない。

 「またまた、ご冗談を」

 「いいや、本気だ。聞けば何だ、せっかく紫から紹介された稽古先に行ってないんだってな?ああ、いい度胸していらっしゃる。さあ、表に出ろ、たっぷり可愛がってやる」

 その言葉を聞いた仁は直後、背筋を伸通る原因不明の悪寒に襲われるのであった。




新年度にて、新しいクラスで頑張って頑張っております。RYUです。
気がつけば一年経ってましたね。いや、一年たったのは良いんですが、果たして自分の小説を書く腕は上がったのだろうか…。
ま、まあ、今日もここら辺で……
誤字や脱字、おかしな文があったらご報告して頂けると幸いです!それではこんな小説を読んでいただきありがとうございました!!


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兎と少年の訓練風景

 〜10分後〜

 たったの一時間程度しか時は経っていないのにも関わらず、空の色は気持ちの良い青から、今すぐにでも降り出しそうな灰色の空へと姿を変えていた。

 そして、とある山道を一人、少年━━神川 仁は逃げるように走っていた。

 「はぁはぁ…」

 荒い息をたてながら全力で、だ。仁はTシャツとジャージのズボンを履いており、まるで部活のトレーニングでもしてるかのようだ。まあ、彼は半年ほど前に部活の方は引退しているのだが…。

 そして、彼は別に逃げているわけではない。だってここは、平凡で静かな山の中だ。妖精も、妖怪も、神様もいない。

 そして目の前には、彼をここまでして走らせる動機(・・)がいた。

 「あれ?もう疲れたのぉ?」

 目の前には、ニヤニヤとした笑顔を浮かべて仁を見ながら鈴華が同じように走っていた。彼女は、Tシャツに短パンに身を包んでいる。そして仁とは違い、その足取りは軽く、まるでランニング気分で楽しんでいるような様子だ。

 「うるさい。こちとら部活引退してから、まともな運動してないんだぞ!」

 どうして2人が山の中を走っているか、それを知るには約三十分前に遡ることになる。

 

 

『まずは、基礎体力をつける。なに、単純に裏にある山を一周するだけで良い。……いや、それだとつまらんな。そうだ、こうしよう。二人で競走して、負けた方はペナルティーね』

『ペナルティーって何を?』

『何を?』

『秘密』

 

 

 そういう訳で、二人は真昼の山の中で競走している。

 当初は意気揚々と挑んでいた仁だったが、コースが中盤くらいに差し掛かると二点ほどの問題が出てきた。

 一つは、自身の体力不足。数々の戦いに末に、多少はついているだろうと思っていた体力は思っていたほど…いや、全くついておらず、数十分たてば息は切れ、足の疲れや痛みが出てくるなどの救いようのない悲惨さだ。

 二つ目は、競走相手が強すぎるということ。何せ、鍛え上げられたスポーツマンでさえも疲労するだろうこの山中のコースを、彼女は汗の一滴も流さず、呼吸さえも乱さず、それどころか余裕しゃくしゃくの顔で、先程から仁をからかい続けている始末。

 だが、よく考えてみれば、彼女は元?軍人だった。そりゃ、それなりの体力があるのは当たり前だろう。(そもそも彼女が人間ではないからかもしれないが)

 「鈴華…」

 と、仁が聞く。そう言う言葉にも疲労が現れており、今にも倒れそうなほど、弱々しい声になっている。

 「ん?どうしたの?」

 「残り…どんくらいか分かるか?」

 時間にして一時間、体感的には小学校高学年の遠足並みの距離は走っただろうとは思っている。ここは郊外の近くの山だ、そんな山奥じゃあるまいし距離はそんなにないだろうと仁は思う。そして仁的には、走り続ければ残り十分もしない内に終わるだろうと━━━━━━

 

 

 

 「半周ぐらい走ったから。このペースだと、あと四十分ぐらいかな?」

 「………」

 うん、だろうと思った、と仁は心の中で呟く。それ以前に、今喋ったら肺の痛みが増しそうだからか。

 「大丈夫?休もうか?」

 鈴華が先程のような挑発するようなニヤニヤとした顔から心配するような表情に変え、腰に携えていた水筒を仁に渡そうとしながら言うが、

 「いい。このまま…走る…」

 と、仁は強がりを見せるが、鈴華にはもうお見通しのようで、今度は水筒を仁に押し付ける様に突き出すと、

 「ダメ。こんな所で脱水症状になって死ぬようじゃ、この先ボクが不安になる」

 「お前が不安になるんかい。……あー分かったよ、分かったから、休みゃ良いんだろ?」

 観念したように両手を上げて、仁は立ち止まる。そう、別に時間内にゴールしろとか、ではない。単純に競走しろ、とだけ言われたのだ。もう負けが決まったようなものだ、こうやって休もうが、問題はないだろう。

 「鈴華はキツくないのか?」

 木に背中を預けて、鈴華から渡された水筒片手に仁が聞く。

 「別に何ともないよ。だって、あの時に比べりゃ…」

 「あの時?」

 「……いや何でもない」

 そして、鈴華は「それよりも…」と、話題を変え、

 「キミの方は大丈夫?」

 「大丈夫…じゃない。正直に言うと、もう立ちたくない」

 すると急に、鈴華が両手を合わせて、

 「ゴメン!!調子に乗っで走り過ぎ…」

 「バカ」

 鈴華の言葉を遮ると、仁は持ってた水筒で、頭を下げている鈴華を小突く。

 「あいたっ」

 「真剣勝負の時に、そういうことは言わないの。こういう勝負とかで謝るなんて以外と傷つくんだぜ、人間は」

 人間とは、だいたいの勝負の時、手加減や謝罪などの勝負の相手を気遣うような行為は、人にもよるが大抵、自分の事を貶されたと思ってしまう。

 「うぅん…。分かった。勉強になった」

 「なら、よろしい」

 そして仁は、水筒を鈴華に投げ渡すとよろめきながら立ち上がる。

 「どうせなら、歩いていくか?ゆっくり見たいんだろ、こっちの森」

 と仁が聞くが、鈴華は首を横に降って、

 「いいよ別に。それに、キミが走るのが嫌なだけじゃないの?」

 「可愛げのねえヤツ。間違っちゃいないけど」

 「でしょ?…まあ、良いよ。歩いてこう。謙二さんには怒られそうだけど

 そう言う彼女の顔には、再びニヤニヤとした笑顔が戻っていた。

 「違いない」

 と、仁は笑いながら答える。

 「さて、行こうか」

 「了解。次はお手柔らかに頼む」

 「……ごめん、やっぱり無理そう」

 そう鈴華は、空を見上げて言う。仁も同じように空を見上げると、

 ポツン

 と、仁の鼻頭に何かが当たった。そのちょっぴりと冷たいソレは頬、額と続けざまに降り注ぐ。

 「…残り、どんくらいかかりそうだっけ」

 「一時間だね。認めたくないけど」

 「うん、急ぐか」

 「すぐ止むかな」

 「分からん」

 

 

 そして二人は、全力で走りだした。

 二人は降り注ぐ雨で全身を濡らしても、水溜まりに引っかかっても、泥で足が取られようとも、その足を止めることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後、屋敷の玄関にて待機していた健二の前に現れたのは、泥と擦り傷まみれの仁と、泥まみれとなっている鈴華だった。

 二人とも、雨水により全身がずぶ濡れだ。

 「どうしたんだね、君たち!?」

 健二が聞くと、はぁーと鈴華が溜息とともに吐き出すように、

 「仁君が、雷の音に驚いて森の中で転んじゃってねぇ」

 「すんません…」

 「茂みの中で動けなくなった仁君を助けたのは誰だっけかな?そんで、また滑って転んで誰を巻き込んだのかな?…」

 「ほんと…ほんっとに、すんません」

 そして最後にもう一度大きな溜息をつくと、そのまま膝から崩れて座り込んで一言、

 「あぁもう疲れたぁ…」

 走ってた時には疲れてそうに見えなかったのに、という野暮な疑問を喉の奥に押し戻すと、仁は聞く。

 「で、次はどうすれば良いのさ?」

 「時間も時間だ。まずは風呂にでも行って、心と体を休めると良い」

 健二は、廊下の向こうのドアを指差しながら言った。

 すると、鈴華がガバッと顔を上げて、

 「ボクが最初で!!」

 と、言って。靴を脱ぎ捨てると、廊下の向こうにあるドアの方向へと駆けて行った。

 「カーペットに泥が……あぁ、また母さんに怒られる」

 健二は虚しく、そう呟いた。ここで、健二が言っていた"母さん”というのは仁の祖母のことだろう。

 「そういや、ばあちゃんはどこ?」

 「…あぁ、今はお前の父母らといる」

 「何で、父さんと母さんと一緒にいんだよ…」

 そう現在、仁の両親は仕事(・・)の為、仁の元を離れている。理由はどうあれ、彼の祖母がいるのはおかしいだろう。

 「さぁ、どうだかな」

 現在、時刻は午後五時をまわったところ。外では、天候が雨と、季節が冬だからとあって窓の外は真っ暗になっている。

 仁らがいるこの屋敷は、幻想郷にある紅魔館とは違い窓は多くあるが、今は外から来る雷の青白い光と、窓に打ち付ける雨の音のせいで、同じ洋館である紅魔館よりも不気味な…そう、まるでゾンビでも出てきそうな雰囲気だ。

 「はぁ…。で、じいちゃんは妖怪を監視するのが、俺たちの役目って言ってたけど、じいちゃん一人でどうにかなんないの?」

 「無理だ。この老いぼれが、役に立てるとも思えん」

 「なるほど…」

 外では、変わらず雨粒が窓に打ち付けられ、空では雷鳴が絶え間なく鳴っている。

 「あぁ、そうだ」

 と、急に健二が何かを思い出したように言った。

 「どうかしたのか、じいちゃん?」

 「君たち、どっちが先にゴールしたのかね?」

 「さあ?鈴華に肩借りながら来たから覚えてない」

 「じゃあ仁、お前がペナルティーだな」

 「んな、理不尽な…」

 「つべこべ言わずに早くしろ。鈴華君に迷惑掛けたのはお前だからな。終わらすまで風呂は入れんぞ」

 「クソっ…不幸じゃねえか!」

 と、仁は決して狭くはないこの玄関で腕立て×100、腹筋×50のセットを、戻ってきた鈴華に止められるまで延々と続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜幻想郷〜

 

 

 

 同時刻、幻想郷の博麗神社では二人の少女が話をしていた。一人は博麗霊夢、この博麗神社の家主でもある自称"楽園の素敵な巫女”。もう一人は霧雨魔理沙、霊夢の友にして魔法使いの少女。

 二人は、最近起きた"とある異変”について話し合っている。

 「はぁ、最近は異変異変って休ませてくれる暇さえないわね…」

 と、霊夢がテーブルについた手に頬を置きながら言う。

 「そう言うなって。むしろ私としては退屈しないから良いんだけどな」

 「あのねぇ、異変のせいで二回も神社を壊されたこっちの身にもなってみなさいよ」

 「あはは、悪い悪い」

 博麗神社の柱を見れば、それが新築された様に真新しい木材で建てられているのが分かる。

 「ねぇ、魔理沙。あんた最近、変な妖怪(・・・・)なんて見なかった?」

 と、霊夢が聞いた。

 「ソイツって、頻繁に人間を襲って、見たことない姿で、弾幕が効かないようなヤツのことか?」

 「やっぱり、魔理沙も見たのね」

 「まぁな。……で、その様子だと相当痛めつけられたらしいな」

 そう言う魔理沙の視線の先、霊夢の腕には包帯が巻かれている。そして彼女は知っている、霊夢には並の妖怪程度が挑んでも傷一つ付けられないことを。そして、包帯が巻かれる程の傷を彼女が一度も負ったことが無いことも。

 「まさかラストスペルまで使わせられるとは思わなかったわ…。あんた的にはどう思う?」

 「どう思うって聞かれてもな…。まぁ、危険だと思うな。私のマスパでしかダメージが入らないとなると本格的にマズい」

 「そうね。…まさかとは思うけど、そんな得体の知れない妖怪に何度も戦いに行ったんじゃないでしょうね?」

 「なんだ、バレてたか」

 そう言うと、魔理沙は白黒の大きな帽子を頭から外した。帽子の下では、彼女の金色をした髪の上から、生々しい血が滲んだ包帯が乱暴に巻かれている。

 「どうしたのよ、それ!?」

 「いや、ちょっと頭を打ってな。大丈夫だ、あとで永遠亭に行くつもりだから」

 と、魔理沙は平気そうな表情を浮かべようとしているが、その口元のヒクついているのを見れば必死に苦痛を堪えようとしているのが見て取れる、、

 「そういう問題じゃないでしょうが…」

 呆れたように言う霊夢。

 「まぁ、良いだろ。…そうだ、思い出した」

 「思い出した、って何を、?」

 「その変な妖怪、何か似た感じがすると思ったら…フランだ。あの妖怪、いつかの時のフランと様子がまるっきり一緒だ」

 いつかの、とは紅魔館であった紅霧異変のことではない。それは、異変とは違う何かが原因だった例の事件のこと。

 「やっぱり魔理沙も思った?」

 「あぁ。てことは、霊夢も感じてたか?」

 「当たり前よ、あんな異様な妖気は今までで二回しか感じたことはないもの」

 「そんで、どうする?紫にでも相談してみるか?」

 「そうしたい所だけど、紫から来てくれないとどうにもならないのよ」

 紫は神出鬼没だ。それ故に、彼女がどこから来るのか、どこへ現れるかなんて誰にも分からない。そして、彼女の住む場所も、同じく誰も知らない。

 「今は、情報を集めるしかなさそうね」

 「そうだな」

 「アンタはまず、その怪我を治してからにして」

 「分かってるって」

 

 

 彼女達は知らない。これから先、彼女らが遊びとして片付けることが出来ない"異変”が起こることを。




平成最後の、小説投稿となります。
べ、別に、GWで浮かれて投稿するのをわ、忘れていたわけじゃな、ないですよ。
…すいません、夢の国行ってました。
まあ、今週中に出来たら投稿しようかと思うので大目に見ていただけると嬉しいです。
では、今回はこれで…。
誤字や脱字、おかしな文があったらご報告やアドバイスをいただける幸いです!!
それでは、こんな小説を読んで頂きありがとうございました!!

……Twitterで、投稿報告ってしたほうがいいんでしょうかね?


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戦闘準備

とにかく、遅れました。
嘘吐きました、すんません(꒪⌓꒪)



 地獄とも捉えられる罰ゲームを終えて、腕がパンパンになった仁は、バスルームで体についた汚れを落とすと、用意されていた服に着替えた。因みに用意されていた服は、黒のTシャツと迷彩柄のズボンだ。

 何でこんな服を用意したんだ、と考えながら仁は、二人がいる書斎へと移動する。

 仁が書斎前のドアを開くと。

「なんだ、それ?」

 彼の視線の先、書斎中央には部屋の雰囲気に不似合いな会議用テーブルが鎮座していた。テーブルの近くには健二と、仁と同じ格好をした鈴華がいる。

 そして、そのテーブルの上には銃やら小さな機材のようなものが置かれていて、それが余計に場の異様さを際立たせている。銃は拳銃やアサルトライフル等の見覚えのあるようなものから、見たことのない大型のリボルバーのようなものまで置かれている。機材の方に関しては見覚えのないものばかりで、かろうじて分かるのは、スマートフォンの様な長方形の分厚い端末ぐらいしかない。

「お、上がったか。こっちに来てみろ」

 健二に促されるまま、仁はテーブルの方へと近づいて行った。

「じいちゃん、これは?」

「お前達の装備。そろそろ、見せておこうと思ってな」

 と言いながら、健二はテーブルの上の銃を手に取る。

「お前は確か、幻想郷だとコイツを使ってたんだってな」

 見れば、健二が持っているのは、仁が使っていたドイツ製のアサルトライフル"G36”。

 それを仁に渡すと、

「どうだ、構えてみろ。違和感はないか?」

 そう言われると、仁はG36を構えてみる。(勿論銃口の先は、人がいない方向だ)

「別に問題ないよ。けど、このストックのモデルは見たことないけど、新型?」

 仁が手に持つG36を見ればストックがいつも使っている型であるG36Kや、G36Cなどの骨組みのようなものでなく、代わりに伸縮可能なストックに取り替えられている。勿論、そんな型は存在しない。

 あったとしても、それは個人単位で改造したものぐらいだ。

 それは即ち、

「私がカスタムした。ふむ、フォアグリップも合ってるな。じゃあ、次は……」

 と、言いながら、次に健二は銃身が短いリボルバーを取る。

「なら、こっちはどうだ?」

「これは……タウルスのリボルバー?」

 

 それはリボルバーにしては異様な長さのシリンダーを持ち。

 

 それをサイドアーム(副武装)と呼ぶには強力過ぎる品。

 

 ブラジル製のリボルバー"ジャッジ”はそんな銃だ。前述した、異様な長さのシリンダーには、この銃を特異たらしめる理由がある。それは、この銃が拳銃というジャンルに属していながらも、散弾(・・)を撃てるという点だ。

 勿論通常のリボルバー弾である.45ロングコルト弾も使える。

「何でこんなもんを……? というか、どこで手に入れた?」

 当たり前だがこのような銃の日本での所持は違法だ。日本では、狩猟用という名目でしか銃は所持できない、それもショットガンや単発式のライフルなどの一部だけだ。それでは、何故拳銃やアサルトライフルでは狩猟用としての許可が降りないのか? 

 答えは簡単

 単純に必要性がないからだ(・・・・・・・・・)

 例えば、アサルトライフルに使われる5.56mmNATO弾などは、一発当たった程度では人は死なない。さすがに急所に当たれば即死もあるだろうが、基本的に一発程度では殺せない。

 それは山に住む狩猟対象である、クマや鹿などの生物にも当てはまる。

 鹿ならば、二発目を撃つ前にその自慢の足で俊敏に駆け回るだろう、それも銃の標準を定めさせない程の速さで。

 熊ならば、一発目の時点で、その臆病な性格とは見違えるほどの狂暴な性格に変わる。そして、自分を攻撃した対象を文字通りすり潰しに掛かるだろう。

 5.56mm程度では、鹿の逞しい足を破壊できず、熊の分厚い皮膚と脂肪の前では無力に等しい。

 つまりは威力不足。だからこそ、単発威力の高いライフル、多少の狙いが外れても致命傷が与えられるショットガン。二回目など考えることなどは無駄だ。弱肉強食の世界では二回目(・・・)はない。

「我々が相手するのは一種の"ケモノ”だ。そんな相手に対して、そんな生半可な気持ちと武器じゃ、どうにも出来ん 」

「……」

 仁は言葉を失った。

 考えてみれば、その通りだ。

 彼にとって、妖怪とはそんな存在。

 危険で、不気味な、畏怖の存在。

「って言ってもな、そんな化け物みたいなのはこっちにはそう居ないから安心しろ」

「居るには居るんだな……。で、どうせコイツにも改造、してるんだろ?」

「鋭いな」

「それで、コイツはどんな風に改造を?」

 仁が聞くと、健二はリボルバーのシリンダーを開けるように言った。

 指示通りにシリンダーを開けると、中には七発の銃弾が込められている。その時、仁は気付いた、装填された銃弾が全て色々な色に塗られていることに。

 カラフルなそれを見て、仁が一言。

「オモチャ?」

「そんな訳あるか。それは特殊弾だ」

「特殊弾んん……?」

「あぁ、本体にはカスタムはしてない。弾薬をいじっただけだ」

 もう一度、シリンダー内を見てみる。

 七発の銃弾はそれぞれ、赤×3、水色×2、黄×1、そして黒と黄色の縞模様のどう見ても危なそうなのが一発。

「赤は散弾、水色はゴム弾、黄色は照明弾……」

「この口径で照明弾?」

 仁が怪訝な顔をしながら、口を挟んだ。

 照明弾というのは本来、専用の信号拳銃等で使用されるのが普通だ。最新のモデルでは12ゲージサイズの照明弾を使えるとは言うが、同じ散弾の弾薬のカテゴリとはいえ、"タウルス・ジャッジ”が使用する410ゲージは散弾というカテゴリの散弾では最小の口径だ。とてもじゃないが、照明弾が撃てるようなサイズではない。

「そうだ、私が作った。まぁ、あれだ、小さくなった分発光時間が短いがな」

「どんくらい?」

「3秒」

「短っ」

「仕方がないだろ。それで、次だ」

 次に健二が渡してきたのは拳銃だ。けれど、今回は大きなリボルバーではなく、至って普通の拳銃だ。

「M1911━━"コルト・ガバメント”。世界一の老兵だ。コイツには拡張マガジンとマズルブレーキを付けてみた」

「サイドアームが二丁……?」

「アレをサイドアーム(副武装)とは呼ばん。どっちかと言えば、ガジェット(支援兵器)の1つだと思えばいい」

 と、健二が"タウルス・ジャッジ”を指さして言った。

「なるほど……。そんで、そこの目をキラキラさせてる兎っ娘にも同じ銃を?」

 仁が見る先、そこには銃が置かれたテーブルを前に目を輝かせている鈴華がいた。

 実は彼女、仁の元へ来た時からずっとミリタリー関係の本やゲームばかり触っていたが、それが元軍人という職業に携わっていたからなのか、それとも単にミリオタに目覚めたかのどれかだろうが、仁としては前者であって欲しいと切に願うばかりだ。

「彼女には、これを渡した」

 そう言って健二がテーブルの上から取ったのは、長い銃身と、その上に乗せられた大きなスコープが特徴的なアサルトライフルのような銃だった。

「鈴華君には後方を担当してもらおうと思っている。それで選んだのが"M110 SASS”。ARー15をベースにしたSRー25をさらにベースにして開発されたセミオート式スナイパーライフル。メイン以外は、お前と一緒だ」

「おい待て、鈴華が後方担当っつうことは……」

 M110は、マークスマンライフルという種別にも入る銃だ。マークスマンライフルとは簡単に言えば、精度を重視したボルトアクションライフルでは近すぎて、アサルトライフルでは遠すぎる━━━そんな、目標を相手にするために考案された銃。

 要するに、前線にいながら共にいる兵士をサポートしながら戦う為の銃。

 そして、それは前線で戦う人間がいなければ成り立たない。

 では、この場合、前線担当は誰になるのだろうか? 

「俺が前線で戦うのかよ!?」

「当たり前だ。じゃあ聞くが、お前は鈴華君と一緒に戦えるか? 戦いのプロの邪魔にならないように立ち回れるのか?」

 そう、鈴華は軍人だ。彼女は能力を使ったとは言え、六人を瞬時に全滅させるほどの実力は持ち合わせている。

 それに比べて、仁はただ銃を扱えるだけ。結果は目に見えている。

「無理……。でも、それなら鈴華が前線に出れば良いんじゃないか?」

 仁は愚痴を零すように言った。

「そういう訳にもいかないんだ。良いか、お前は仮にも吸血鬼と戦っている。さすがに、鈴華君でも吸血鬼や神とも戦ったことがないんだ。その経験は、君を強くする。けれど、まずは実戦で自分を磨くんだ。宝石も、原石を磨かなければ、ただの色の着いた石っころなんだから」

 すると、鈴華が、

「そうだよ。ボクがサポートするから、君は安心して強くなってくれて構わないよ。任せといて、腕には自信しかないから」と、やはり少ない胸を張りながら言う。

「自分で言う奴がいるか。……あぁそうだよな、実戦こそ最高の訓練って言うもんな」

 そして仁は、二人に告げる。

「分かった、やればいいんだろ」

そんな言葉と裏腹に、彼は笑っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通りの装備を紹介し終わると、今度はその装備を二人に身につけるように健二は言った。

「どうだ、BDU(戦闘服)の着心地は?」

 そして健二が、戦闘服姿の仁に聞く。

「重い」

 と、自分の服装を見ながら仁は言う。

 戦闘服とは言っても、ベストや銃などの他の装備品も身につけているため、総重量は合計7kgを超える。しかし、それでも本来なら単品だけでも10kgを超える軍用ベストを、警察などで使われる約2kg程の防刃ベストに変えたり。本来の軍人が携帯するような装備(医療品などのサバイバルをする為の生活用品)は無いため、これでも大幅に軽量されたと思われる。

「我慢しろ、どうせ慣れる」

 そして、健二は鈴華の方を見る。

「地上の戦闘服はやっぱり着にくいか?」

「いいえ、全く。この銃も、服も、何よりこの帽子が最高です!」

 そう彼女は興奮気味の様子で言う。彼女の被っている帽子はブーニーハットと呼ばれるスナイパー等が被るような、つばが360度ある丸い帽子。ちなみに仁は、黒いキャップを被っている。

 なぜヘルメットでは無いかと言うと、単純に重いからである。

 命を守るための道具なのに外しても大丈夫なのか? という疑問が出てくると思うが、問題はない。先程の装備を見ても、二人が身につけている物は軽量を意識している。軽量化されれば、当然動きが素早くなる、

 動きが素早くなれば、攻撃を避けやすくなる。そんなモノだ。

「それで、何でこんな格好をさせたんだ? まさかとは思うけど、出撃予定日が近いからなんて事はないよな?」

「お、分かってるじゃないか」

「嘘だろ……?」

「嘘じゃないんだな、それが」

 そして健二は、本棚の傍にある引き出しから3枚の紙を取り出した。

 健二は、その紙を読みながら、

「場所は、市内の総合運動公園。依頼内容は公園内にいると思われる妖怪の捕獲。分かってると思うが、場所が場所だ、一般人への被害が出るのを何がなんでも防がなければならん」

「……なるほど、だからゴム弾か」

 ゴム弾とは、本来ライオットガンと呼ばれる暴徒鎮圧用の銃に使われる非殺傷の銃弾。

 つまりは殺す為ではない、生かす為の銃弾。

「まぁな。だが、肝心なその妖怪の情報が全くもって無い。ただ分かるのは、公園に妖怪がいるってことだけだ」

「やっぱり、その……危険、なんだよな?」

「だから、早急に対処せねばならん」

 そして、何も無くなったテーブルの上に持っていた3枚のうちの一枚を置く。

「ブリーフィングの時間だ。ほら、もっと近くへ来い」

 

 

 その後、二人は作戦地域である総合運動公園の地図の確認や、妖怪の予測位置、鈴華の狙撃ポイント。

 そうして彼らは備える、来たるべき戦いに向けて。

 

 




今回は、銃などの装備について、今までで一番力を入れた気がします。
次回は、戦闘回になります。約半年ぶりの戦闘描写。前よりは成長したと思っているので、どうか次もよろしくお願いします!!
では、今日はこれで…
誤字や脱字、おかしな文があったらご報告していただけると幸いです!
それでは、こんな小説を読んでいただきありがとうございました!!



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妖怪退治

星空の下。郊外の住宅街の中を一台の車が走っていた。

 運転席には、一人の老人。そして、後部座席には二人の男女が座っている。老人はコートに身を包んでいるが、後ろの男女の姿は黒色の戦闘服でどう考えてもこの場には不釣り合いな格好だ。

「……最後にもう一度、確認するぞ」

 運転席の健二が口を開く。

「今回の依頼は、あくまでも捕獲というの分かってる筈だ。でも、万が一、やむを得ない状況になったら……ベストの一番端に入れてあるマガジンを使うんだ。分かってるな?」

 健二の言葉に対して、後部座席の仁が「分かってる」と、答える。

「でも大丈夫なのか? 例え弾幕弾でも、音はあるんだろ。なら周りに気付かれるんじゃないか?」

「問題ない。お前達を下ろしたあと、私がちょっとした細工をしてくる」

「じゃあ、心配しなくて良いんだな」

 

 

 

 彼らが乗った車は住宅街を抜けて、柵と木に囲まれた場所へと近づく。

「もう直ぐ到着だ。マガジンの確認は済んだか?」

 その言葉を聞くと、仁は腰のホルスターから"タウルス・ジャッジ”を引く抜き、シリンダーを開けて中身を確認する。赤、青、黄などと色彩豊かな銃弾が入ってることを確認するとシリンダーを閉じ、腰のホルスターへと戻した。

「大丈夫。"ジャッジ”の方は問題なし」

「分かった。……あとその寝坊助(ねぼすけ)も起こしてやれ」

 仁が右を見れば、そこには寝息をたてながら目を閉じている鈴華がいた。仁が頭を少し小突くと直ぐに目を開けて彼女は一言。

「あれ、もう到着……?」

「もう、じゃないだろ。出発してから何分経ってると思ってやがる」

 まるで緊張感のない二人を乗せた車は、総合運動公園の入り口へと着いた。

「到着だ。……それと、気をつけろよ」

 後部座席の方を見ながら健二が言う。

「了解」「分かりました」

 そして、二人は車を降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 総合運動公園は、入り口から見ただけでも相当な広さだというのが分かる。見えたものだけでも、野球場からサッカー場に、中部最大の大きさを誇る室内競技場。

「それじゃ、予定通り二手に別れよう」

 さすがに、二人だけでこの広さの敷地内をしらみつぶしに探すのは至難の業だ。だから、二手に別れて捜索するのだ。捜索、と言っても、実際は公園の中央にある陸上競技場の室内にある、高さ10メートル以上の高さにある室内トレーニング場から鈴華が偵察して、妖怪を見つけたら地上にいる仁が現場に向かうというものだ。

「了解。何かあったら、無線で」

 黒の戦闘服に身を包んだ鈴華は、いつものような快活な性格とは違い、月にいた時の隊長兎のような雰囲気を醸し出している。

「分かってるって」

 仁が前へ進もうとして、右足を前に出した時。

「……待って」

 不意に鈴華が仁を呼び止めた。

「どうした?」

 首を傾げながら聞く仁に、鈴華が言う。

「健二さんからも言われたけど、その……気を付けてね」

 それに対し仁は、二っと口角を上げて、

「大丈夫。ありがとな、お前さんも気を付けろよ」

 陳腐な言葉だが、彼にはこれ以上の言葉が思いつかない。それでも、彼にとって一番の気遣いの言葉だ。

 そして、それだけ言うと仁は、足早にその場を去っていった。

 そして、一人残された鈴華は「ありがと」と呟くと、運動公園中央の陸上競技場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜数十分後〜

 

 

 

 鈴華と別れた仁は現在、野球場近くの広場にいた。

 周囲は夜と言っても、公園中にある街頭のおかげで決して暗くはない。

 そして、この野球場で3ヶ所目。中央の陸上競技場から見てても、施設の周辺を片っ端から見て回っているのだ。

 結論として、目標である妖怪どころか、人っ子ひとりいない状態だ。いや、こんな時に一般人が紛れ込んできても困るだけなのだが……。現時刻は11時を過ぎたところだ、こんな時間に人がいないのも納得はできる。

 一通り、野球場周辺を捜索し終わると、仁は肩につけた無線機に喋りかける。

「もしもし、こちら仁。そっちの様子はどうだ?」

『ちょうど、こっちも連絡しようとしてたとこ』

「何かあったか?」

『変な人影が見えた。場所的には……あれは野球場の近くかな。そこら辺の、ちょっとした森みたいになってるところ』

「分かった。すぐ向かう」

 

 

 

 

 鈴華に言われたとおりに野球場近くの林へと向かうと。

「おっと……」

 確かに鈴華が言っていた通り、そこには人がいた。

 しかし、その様子がおかしかった(・・・・・・)。見た感じだと、髪が長かったり、着ている服からして女性だというのは分かるのだが。その歩き方はぎこちなく、街頭に照らされた服はボロボロで、靴も履いていない。当然、彼女が普通の人間ではないというのは、見て分かる。

「……鈴華、見つけた」

『どっち? 妖怪? それとも、変な人影のほう?』

「後者の方。だけど、様子が変だ。妖怪にでも襲われたかもしれない」

『じゃあ、保護する?』

「もちろん、ほっとくわけにもいかないだろ」

『それなら、私のとこに連れてきてくれれば面倒は見るけど』

「そっちの邪魔にならないか?」

『それぐらい、どうともないよ』

 それじゃ待ってるよ、とだけ言っても鈴華は通信を切った。

 そして、仁は少し離れた位置にいるその女性を見てみるが、五秒も経たない内に彼女は街頭にすがり付くように倒れた。

「っ!! おい、大丈夫か!」

 仁が倒れた女性に駆け寄る。

 近づけば、彼女が年端もいかない少女なのが分かる。仁と年はさほど変わらなそうな少女が、何故こんなところにいるのか、それを考えるよりも先に少年は、

「何があった?」

 少女を助けることを優先した。

「ぁ……に……て……」

 蚊の鳴くような、弱々しい声で彼女は答える。そして、異様なことに彼女の顔も、腕も、服にも、まるで何かに引っ掻かれたような切り傷が全身に刻まれていた。

「何だこりゃ……。クソっ。鈴華、今からそっちに行く、カバーを頼む」

『分かった、なるべく急いで』

「……悪い」

 仁は少女を背中におぶると、走早にその場に離れようとする。

 しかし、突然、

「に……て……げて、わた、し……から」

 今度は途切れ途切れだが、鮮明に聞き取れる声で少女が喋った。

「どうし……」

 仁が立ち止まって少女に問おうとすると、少女は仁の背中を突き飛ばすようにして、自分の身を落とした。

「何してんだよ!?」

 地面に落ちた少女はその細い腕で地面を掴みながら、必死になりながら少年の元から逃げよう(・・・・)とする。

「やめ、て……ちか……づかないで」

仁を見る彼女の目は、体の震えと共に揺れており、その瞳には恐怖とも怒りともとれない感情が込められていた。

そして、不意に彼女は呻き声を上げてうずくまる。

「……っ!?」

その瞬間、仁はまるまった彼女の背中を見て察した。服の模様かと思っていたその赤い線は、彼女の背中から広がっている。

「う…ぐぁ……あ"あ"あ"あ"あぁアァ!!!」

彼女は空を見上げながら人とは思えない叫びを発する。例えがあるなら、それはケモノの咆哮。

その叫びと同時に、彼女の体から、黒い霧のようなモノが沸く。

「…鈴華。お前、俺がいる位置、見えるか?」

黒い霧は、そのまま彼女の体を隠すようにして、全身を覆いはじめる。

『見えないけど、それがどうしたの?』

「いや、ちょっとな━━━━」

全身を黒い霧に覆われた少女は、もはや人の形をしていない。

代わりにそこにいるのは、ケモノの形をした"なに”か。

「━━━━━ちょいと、面倒なことになりそうだ」

 

 

彼の前に佇むのは、"妖怪”だった。

 

 




次の週に、今年度最初の中間テストがあることを忘れていたので、急遽、二回に分けて投稿する事にしました。
なにぶん、どうせ戦闘パートは三千は優に超えそうなので、なるべく早めにと…。
とりあえず、今回はこの辺で。
誤字や脱字、おかしな文があったらご報告して頂けると幸いです!
それでは、こんな小説を読んでいただきありがとうございました!!


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前哨戦

『ちょっと待って、どういうこと!?』

 仁の耳のイヤホンから、鈴華の声が聞こえてくる。

「妖怪だ! 女の子が妖怪に変身しやがった!!」

 と、仁が目の前にいる妖怪を見て後退りながら言う。しかし、それでもスリングで掛けてある銃には手を触れもしない。

 仁を見たまま動かない妖怪は、まるでイタチのような細長い体に、馬ほどの大きさの体高と体長。そして顔にあたるだろう部分には横に裂けたような口に、赤く光る爪痕のような形の眼孔。どう考えても、"異様な姿”。まだ、ここが幻想郷だったら、その姿は少しは許容できただろう。しかし、ここは、全てが人間によって形作られた街の中。それが何よりも異常に見える。

「今から、そっちから見える位置に移動する。着いたら直ぐに援護してくれ!!」

『分かったから、急いで!』

「クソっ!!」

 仁は悪態をつくと、サッと身を翻して妖怪に背を向けて駆けだした。

少し振り返ってみれば、妖怪がこちらに向かって駆け出しているのが見えた。

(あぁ、どっちだ……どっち(・・・)なんだよ!)

 どっち、という言葉には、彼がなぜ先ほど銃に手を触れなずにいたかも関係している。それは、背後から猛スピードで迫ってくる妖怪が、はたして"少女が妖怪になった”のか、それとも"妖怪が少女になっていた”のか。

 どちらにせよ、背後から追いかけてくるソレが危害を加えてくるなら全力で抵抗しなければならない。だが、もし彼女が普通の少女だとしたら、と考えてしまう。それが少年の銃を握る手に力を入れさせなかった。

 

 そんなことを考えてるうちに、気づけば、彼は公園中央の大広場に辿り着いていた。周りを見回せば、円形の広場を囲むように木が植えられており、ベンチや街頭、それに噴水などが広場にはある。見晴らしが良く、これといって、遮蔽物はない。つまり、逃げることも隠れることも出来ない。

(やるしかない……やらなきゃ、こっちが殺られる!!)

 そう頭の中で呟くと仁は振り返り、手にしたG36を妖怪に向け連射する。

 放たれた銃弾は丸く、そして鮮やかな赤色だ。もし、外の世界にあったら、間違いなく非殺傷兵器として活用されるだろう、その鮮やかな"弾幕”は仁を追いかけていた妖怪の体に吸い込まれるようにして命中した。

 妖怪は、弾幕をその身に受けるとよろめき、そして止まった。

「効いてるの……か?」

 と、仁が呟いた直後。

「■■■■■■■■!!!」

 イタチ型の妖怪が、遠吠えのように天を仰ぎながら叫びを上げた。その動作や、叫びには明確な怒りが込められているように、仁は思えた。

 直後、妖怪が跳び上がる。

「まずい!?」

 仁は右に走って逃げようと体の向きを変えるが、遅かった。

 ドンッ! と仁の体に衝撃が来た。そして少年の体は、そのままバランスを崩して横に倒される。

 突然の衝撃によって湧いた痛みに閉じていたじていた目を、開けると、

 妖怪の顔が、仁の顔を覗いていた。

「っ!?」

 必死に立ち上がろうとするが、仰向けになった体は一向に動かない。胴も足も力を入れれば動くのに、何故か腕にだけ力を入れても動かない。

 見れば、妖怪の前足が腕を押さえつけている。もがいてももがいても、仁の腕から妖怪が離れることはない。

「どけってーの!!」

 妖怪は、まるで仁を"観察”するかのように見つめる。しばらくすると、唸り声のような声を発した。そして、妖怪は頭を下ろし、歪な形ばかりの歯が並ぶ口を広げながら、少年の顔に近づける。

(そろそろだろ……早くしてくれ!)

 そう心の中で願った、直後。

 

『移動完了。動かないで!』

 

 ガンッ!! という音と共に妖怪が横に吹き飛ぶ。

「ナイスショット!」

『軽口叩く暇あるなら、早く退いて!!』

 すぐさま仁がその場から離れると、左方にある陸上競技場の方から青色の弾幕が続けて三発飛んでくる。

 弾幕は、ふらふらとしている立ち上がったばかりの妖怪を襲う。しかし、今度はその体躯ではありえないほど軽々しい身のこなしで、次々と弾幕を避けてしまう。

 仁はそのまま、妖怪から隠れるようにベンチの裏へと逃げ込む。

『どうする? 全く、効いてないけど』

「考えはある。だけど……」

『けど?』

「確証がないんだ。だから、ちょっと手伝ってくれ」

 仁は体を隠しながら、ベンチの陰から顔だけを出して妖怪がいる方向を見る。

『分かった。で、何をすればいい?』

「アイツの動きを止めてくれ、そっから先は……」

 と、言葉を言葉を続けようとした仁は、不意に妖怪を見ながら、急な違和感を感じて言葉を絶たせる。そして"嫌な予感”が的中した。妖怪が、

 

 

 

 自分自身の顔や喉を引き裂かんとばかりに、前足で掻きむしり始めたのだ。

『何……あれ?』

 上からでもしっかりとその光景が見えるのだろう。不気味がるように鈴華が言う。

「分からない。けど、動いてないなら……!!」

 と、仁が呟くとベンチの陰から、勢い良く飛び出した。

『待って、今飛び出すのは危険!』

 戦場において、一番怖いものは銃や爆弾や戦車でもなく、何をするか分からない相手(・・・・・・・・・・・・)、だと元兵士の少女は思う。

 例えば、待ち伏せという戦術がある。待ち伏せ、というのはあらかじめ自らが相手にとって有利な立ち位置に陣取り、近づいてきた敵に奇襲を仕掛けること。だが、その戦術は敵が目の前に現れることを前提としている。故に、その前提が崩されてしまうことに対して、戦う人間は非常に脆い。敵が自分たちに気づかずにやってくるかと思えば、逆に背後から奇襲をかけられたりすると、咄嗟の判断で対応出来る者はごく少数だろう。皆が皆、機転の利く性格では無いのだから。右に進むか左に進むか、という質問に対して、壁を壊して真っ直ぐ突き進む、なんて訳の分からないことを言う者は少ないだろう。だからこそ、そんな人物はいないだろう、と思ってしまう。だからといって、そんな人物がいない訳ではない。行動が分からない相手と、いつ爆発するか分からない時限爆弾と一緒だ。

 そして、そんな時限爆弾に少年は向かおうとしている。

 鈴華としては、全力で止めたい。次に、会う時にはズタズタにされた死体としては絶対に会いたくはないのだから。

 

 

 

「ああ、もう馬鹿!」

 やれることは二つ。

 一つは、その馬鹿を呼び止めること。だが、最初の警告に耳を貸さなかった少年がそう簡単に止まることはないだろう。もう一つは、先程の例を用いるなら、爆弾を爆発する前に無効化すること。つまりは妖怪が事を起こす前に、倒してしまうということ。ただ、それは少々リスキーだ。そして、それは散々危ないと思っていた少年の行為に加担することにもなる。

 時間はない。

 もちろん、迷っている暇も。

 息を吐き、息を大きく吸い、そしてスコープ内の十字に走るレティクルの中央を妖怪に合わせ、

 

 

 

 少女は引き金を引く。

 

 

 

 

 少年は、腰のホルスターから"レイジング・ジャッジ”を抜く。そして、シリンダーを回転させる。

 少年は首にG36をかけて、近距離用にレイジング・ジャッジとガバメントを両手に持つ。

 少年の推測では、目の前の妖怪は"背中”が弱点なのだろう。なぜなら、彼が知っている他の"異様な程の不気味な存在”とあまりに共通点があり過ぎている。だからこそ、彼はその"異様な程の不気味な存在”が、そうなった(・・・・・)原因でもあった弱点が背中にあったため、それと同じように狙おうとしている。

 あと、十数メートル。

 覚悟を決め、右手のジャッジを構えようとすると、

 突如、夜空を青色の弾幕が横切った。弾幕はそのまま、いまだ自傷行為に及んでいる妖怪の後ろの右足を吹き飛ばす。支えを失った妖怪は横に倒れる。

『援護するから、早く!』

「悪い……!」

 そして、今度こそ右手のジャッジを構える。

 そして、その銃口の先は妖怪に。

 そして、引き金に指をかける。

 妖怪までの距離はもう5メートルもない。だが、足りない(・・・・)。たった一発の"銀の弾丸”を最も効果的に撃ち込むには、まだ遠い。

 足が吹き飛んだはずの妖怪は、平然と立ち上がる。見れば、後ろ足が元通りになっている。

 今回も、攻撃しても無駄(・・・・・・・)

 体力無限チート、というものがある。それはゲームの中で使われる"ズル”の一つ。無限、とはいっても正確には自身が受けたダメージを一瞬で回復するだけ。それでも、無敵には変わりない。それなら戦わなくて良いんじゃないか? と思うかもしれないが、大抵のチーター(インチキプレイヤー)は単体だけでなく、全ての障害物が無駄になる壁抜きチート(ウォールハック)、そして使えば台所の黒い悪魔の如き素早さを手に入れる加速チート(スピードハック)などと共に併用することが多い。だからこそ、彼らは無敵で。だからこそ、害悪以外の何物でもない。努力を武器に戦うプレイヤーにとって、ズルして勝つなんて最低な行為、というのが普通だ。

 だが、この妖怪には体力無限チートしかないと見える。回復時間も長く、動きは見た目こそ素早さが取り柄のイタチだが、この妖怪はそのイタチと比べれば鈍足だ。妖怪としての力も今のところは(・・・・・・)、仁が出会ってきた妖怪達と比べれば断然、弱い。

 そして、体力無限チートにはひとつの弱点がある。

 それは、一撃でHPを全て削りきること。

 詳しい説明は省くが、なんでもいいから爆発やヘッドショットなどの一撃死などが、体力無限チーターをキルする唯一無二の方法。

 だからこそ、この一発で決めなければならない。

「鈴華、もう一度足を撃ってくれ!!」

 返事の代わりに飛んできたのは、四発の青色の弾幕。今度の弾幕は、足の再生を終えたばかりの妖怪の左後ろ足だけでなく、その四肢全てを吹き飛ばす。

 巨躯を支える足を奪われ、妖怪は右に倒れる。

 その直前。仁は左方向から、妖怪の下部に向かって滑り込む。

 妖怪の腹の下をくぐり抜けると、素早く後ろを振り返る。

 そして、手に持つジャッジの狙いを、自身の方に倒れてくる妖怪の背中の"中心”につけ、引き金を引く。

 その銃から放たれたのは、弾幕でも銃弾でもない。

 

 

 

 銃口からは、強烈な閃光と共に赤色の炎が吹き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 




前編後編に分けると言ったな。
あれは嘘だ。
中編です、ハイ。
まぁ、今更言うのもアレですが、戦闘シーンは次です。
グダグダになってる気がしなくもないですが、多分大丈夫でしょう。

それでは今回はこれで…。
誤字や脱字に、おかしな文があったらご報告して頂けると幸いです!では、こんな小説を読んで頂きありがとうございました!!


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打開策

 〜二日前〜

 

 

『それでこの、いかにも危険です、って感じのカラーリングの弾丸はなに?』

 仁はシリンダーから取り出されてテーブルの上に乗せられたジャッジに装填される弾薬のうち、まだ説明されていない黄色と黒の縞模様の俗に言う"警告色”をした弾薬を指さして言った。

『そいつか? それはな……いや、先にコイツを見た方が早いかな?』

 そう言って健二はスマートフォンの画面を見せてきた。画面には、アメリカ人と思しき男性が射撃場でポンプ式ショットガンを構えていて、男性が構えるショットガンの銃口は斜め上を向いている。そして、健二が画面中央の矢印をタップすると動画が再生される。

 動画が再生された瞬間、男性が持つショットガンから炎が吹き出した。炎、と言ってもガスバーナーや火炎放射器のようなのではなく、どちらかと言えばそれは打ち上げ花火に近い。

『なんっじゃこれ!?』

 そんな動画を見て、仁は驚いたように声を出した。

『これは"ドラゴン・ブレス”。あるアメリカ人が自作したショットガン用の焼夷弾。まぁ、見ての通り違法一歩手前の品だな』

 ドラゴン・ブレス弾。

 それは、あるアメリカ人が作り出した狂気の産物。マグネシウムの小さな塊を撃ちだし、発砲時の火花によって着火される、一種の焼夷弾。

 とはいっても、結局はそれだけ。燃える小さな塊を打ち出しているだけに過ぎない、だからこの弾薬は非致死性の弾薬として娯楽用に使われることが多く、この弾薬を使う軍隊や警察組織は一つもない。

『そりゃそうだろ……。で、まさかとは思うけど、そいつを小型化したのがコレとか言わないよな?』

『ご名答。だが、ただ小型化したわけじゃない。このままだと威力不足で使い物にならん』

 自信満々に、そして少々興奮気味に健二は続ける。

『マグネシウムの塊と火炎放射器用の燃料を少量と発砲時に噴射される可燃性ガスを組み合わせた。そして完成したのが、この"ワイバーン・ブレス”弾』

 要するに、マグネシウムの塊と燃料を可燃性のガスで燃やしながら吹き飛ばす、というもの。

 当たり前だが、正気の沙汰ではない

『頭おかしいんじゃねえのか!?』

 ごもっともである。この世界のどこに、そんな意味の分からないモノを作る人間がいるのだろうか。

『心外だな。こっちはお前の身を案じてやっているのに……』

『そんなら、もっと使用者に優しいものを作ってください!』

 そして、しばらくすると健二が、

『真面目に言うとだな、その銃で使える弾ん中で一番瞬間火力が良いのが焼夷弾、って結論になってだな』

『結局は火力、ってか? 文字通り』

『まあ、そういうことだな。どんなに強力な生き物でも、火が効くなら倒せるだろ』

『じゃあ、もし火が効かなかったら?』

『全力で逃げろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パァン! という破裂音と共に、銃口からは炎が飛び出す。最高温度が約1000°を超える炎が目の前の妖怪の体を包み込む。

 炎を纏った妖怪は金切り声のような悲鳴を撒き散らしながら、四肢のない体を無理矢理のたうち回らせる。

 そしてついでに、

「熱っつぇ!?」

 当然、至近距離にいた少年もダメージを負う。しかし、手袋をしているため火傷はせずに済んだ。

 目の前の妖怪は動かない。周りに炎が広がっていないのを確認すると、妖怪の体を見てみる。思った通り、妖怪の肌は"霧”で出来ていた。というよりは霧に似た由来不明の気体で、だ。

『手応えは……ありそう?』

 無線から聞こえてきた鈴華の声に、痛む指を気にしながら仁は応える。

「回復してないし……はぁ……それに、動かない」

 極度の緊張により、疲労はピーク。頭に被った帽子から汗が溢れ出て、額をつたう。

 終わったのか? 

 その答えは、直ぐに分かった。

「……?」

 風が吹いた。さっきまでは無風だったのに、今では季節特有の冷たい風が吹いている。

 それだけなら普通の筈なのに、どうもおかしい。具体的には徐々に風が強くなっている。

『仁君、何かおかしい。一回、そこから離れて』

 鈴華が警告し、嫌な予感がした仁はその場から一心不乱に逃げようとする。

 しかし、風速10メートルをゆうに超えていた風は少年が動くことを許さなかった。仁は飛んでくる木の葉や枝から身を守るため、顔を腕で覆う。

 その時、腕の隙間から見えたのは所々が欠けた体を起こそうとする妖怪の姿。

『━━━━!!』

 無線機から何か聞こえるが、空気を切り裂く風で何を言ってるかは聞き取れない。

 妖怪が仁の方向を向く。片方が欠けたその赤い目に、黒目はないが、もしあったとすれば間違いなく、仁のことを睨んでいるだろう。

 突然、風が止んだ。嘘みたいに強かった風は、もう見る影もない。

 

 

 

 そして、空気が膨張した。

 

 

 

 妖怪を中心に、まるで爆発時の衝撃波のような突風が仁を襲う。単なる風と思ったが、体を打ち付けるのが風、とは言い難いまるで殴打されているようか感覚と、その感覚がした箇所を伝う生温かい液体を感じて、それが間違いだと気づく。

「が、ああぁあ!?」

 近くの街頭から聞こえたのは金属と何かがぶつかる、ガン! という音。音だけで仁は気づいていなかったが、その時街頭からは赤い火花が散っていた。

 すると次には、木の葉などに混じって木の枝までもが飛んできた。

 そして、彼自身の体も木の枝のように吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一部始終を見ていた少女は、言葉を失っていた。

 最初は、単なる害獣駆除(・・・・・・・)かと思っていた。彼女とて、ヴァン・ヘルシング教授のような怪物ハンターではない。単なる、一端の兵士だ。

 撃てば、倒れる。一発でも当たれば、それは致命傷になるはず、それなのに、

 それなのに、"アレ”は倒れない。

 頭を撃ち抜いた。なのに、倒れない。

 足を撃った。なのに、平然と立ち上がる。

 相方が炎で攻撃した。火で炙られて無事な生き物なんてこの世にはいない、なのに、生きてる、動いてる、攻撃してきた。

 それに考えてみれば、変な話だ。

 

 

 

 なんで、最初からアレは攻撃して来なかったのだろうか

 

 

 

 捕食する生物なら、狩れると思ったら問答無用で命を奪う。捕食される側なら、自身の命の危険を感じれば、その命が削れる事も意図わずに反撃をする。

 それなのに、アレは攻撃をしてこない。

 まるで、自分達よりも強大で負けることなど有り得ない。そう、言っているかのように。

 そうか、アレは生物(・・)じゃない。

 自分が……いや、自分達()が散々見下してきた、妖怪(・・)じゃないか。

 昔の話では、月に攻めてきた妖怪達は、月と自分達との圧倒的な力の差を味わされて退散したという。

 なのに、自分一人で立ち向かうと、こんなにも恐ろしい存在なのか、この妖怪というモノは。

 妖怪が、こちらを向いた。

「っ!!」

 少女は、ただがむしゃらに引き金を引いた。狙撃に限らず、狙って撃つという行為に集中力は付き物。しかし、今の彼女に冷静さは無い。

 放たれた弾幕は、何故か妖怪に辿り着く前に破裂する。

 無駄と分かっていても、彼女は引き金を引き続ける。

 "M110 SASS”の弾を撃ち尽くすと"M1911”を腰から引き抜き、既に足元まで来ていた妖怪に向かって撃つ。

 しかし、やはり弾幕は妖怪に届かない。やがて、視界から妖怪は消える。

 困惑しながらも、少しずつ落ち着きを取り戻す。そして、手に持つM1911の弾倉を取り換える。

 手すりから、覗き込むように10メートルほど離れた地上を見ようとするが、

「どこに……っ!?」

 覗き込む前に、妖怪が現れた。

 跳躍したのか、壁をよじ登ったのかは分からないが、とにかく少女を目的にやってきたことは明確だろう。

 

 

 そして、風が吹いた。

 

 

 先程の、相方を襲ったものと同じ"風”が彼女を襲う。先程は効果範囲外だったらしいのか少女の元には届かなかったが、今回は違う。

「きゃ、っ……!」

 今度は一瞬だけだったが、確かに感触はあった。まるで拳で殴られたような感覚、それか刃物で叩き切られるような、どちらにせよ風によって作り出される感覚ではない。

 だが、その一瞬で肺の中の空気は全て排出され、彼女の華奢な体は背後の壁に叩き付けられる。

 だが、彼女はすぐに起き上がった。立ち上がった直後に感じたのは、全身から感じる痛み。そして、口内には鉄の味。

 それらを気にせずに、先程まで自身がいた手すりの方へと視線を固定したまま、胸ポケットに差し込まれたナイフを抜き、構えを取る。

 妖怪は既に練習用の室内トラックの上に降り立っていた。

 当たり前だが室内トレーニング場に明かりはない。背後の月明かりだけが、妖怪と彼女を照らしている。

 ナイフを構え、少女が走り出した。少女は1m程助走をつけると、跳躍する。そして、ナイフを逆手に持ち落下時の勢いで妖怪の頭に突き立てようと狙いを定める、が、

 ガギンッ!! という音と共に、火花を撒き散らしながらナイフは勢いよく弾かれた。

 弾かれた際の衝撃からナイフは手から離れ、空中の鈴華の体もバランスを崩し地面に墜ちる。

 地面に墜ちた彼女の体を、今度は妖怪の前足が襲う。人に例えるならば、それは蹴りと同じ。

 今度は、腹の中心に。耐刃ベストによって裂傷の類の怪我は軽減される。しかし、どれだけ防具が硬かろうが、攻撃時に発生する"衝撃”はどんな防具をも貫く。

 内臓を揺さぶられ、喉の奥から吐き気が込み上げ、彼女は登ってくるそれを我慢しようとするが、

「ゲホッ……ゲホ……!!」

 口から吐き出されたのは吐瀉物ではなく、血の塊だった。

 もはや、戦意などない。そして、逃げる気力すら存在しない。閉じる瞼と、共に感じる意識が遠のく感覚。

 それに抗おうともせずに身を任せていた、その時。

「うおおおおぉぁぁぁ!!」

 何者かの叫びが聞こえたと思うと、妖怪の体が横に揺さぶられた。

 そして、妖怪の体は横に倒れる。彼女は知っている。コイツ(妖怪)は幾ら倒れようと、何度でも何度でも起き上がってくる。こんな事しても無駄なんだ、と。

 薄れゆく意識の中、彼女が考えていると、

「大丈夫か! おい、しっかりしろよ!!」

 そんな声が聞こえた途端、仰向けに倒れている彼女の上半身が何者かに持ち上げられた。僅かに開けられた視線の先、そして彼女の顔から10センチも離れていない所に。

 神川 仁の顔があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ……」

 仁は悪態をつくと、目を開けることがない彼女の体をそっと地面に置いた。

 死亡した、という訳ではないだろうが。血を吐いていたあたり、早く医者などに見せた方がいいだろう。

 しかし、その前にやることが一つだけある。

 倒れた妖怪のいる方向を見る。

 相も変わらず妖怪は立ち上がろうと体を動かしている。それらしいダメージを受けたような雰囲気もない。だが、先程と比べて明らかに違うものがあった。

 それは、

(足が欠けてる? そこまで、俺のキックは威力はないはず……)

 倒れた妖怪には、前足がなかった。銃から放たれた弾幕が当たった訳でもない、さらに言えば少年のキックは妖怪の体に向けたものであり、欠けた前足に向かってではない。

 そう言えば、"ワイバーン・ブレス弾”を受けた直後も、妖怪の体は直ぐに再生されていなかった。

 ということは、

(まさか……弱ってるのか?)

 少年は、ナイフを抜き、もう片方の手には"M1911”を。

(だったら、まだ可能性はある!!)

 前方の妖怪に向けて、少年が走り出す。

 まずは、弱点の背中へとM1911で狙いをつけて一発。すると撃たれた妖怪は痙攣するが、それでも立ち上がろうとする。

 そして、もう二発。次に痙攣する妖怪へとナイフを向ける。妖怪の霧のような体の中に彼はナイフを入れるが、触った感触も刺した感触さえない。でも、引き抜こうとしてもナイフは抜けなかった。まるで空間に固定されているかのように。

『お前だけは生かしておいてやったのに。なぜ、こんなことをする?』

「誰だっ!!」

 突如、声が聞こえた。

 しゃがれた男の声だったが、どこか人が発する声ではないと思える。もっと言えば、その声は耳からではなく頭の中に直接入ってきているかのようだ。

『それに、お前が刃を向ける相手。間違っているんじゃないか?』

 少年は周りを見回して気付いた。妖怪の頭がこちらを向いていた。

 そして、少年は気付いた。妖怪が、理性のない獣のように振舞っていた妖怪が、喋っているのだと。

「何を言ってる?」

 驚きを隠せないまま、仁が言った。

『こういうことだ』

 と、妖怪の顔が変形した。まるで、花のつぼみが開花するように八方に広がった霧の中心には、黒髪の少女がいた。

 それは先程、少年に警告をしたまま黒の霧に飲まれた少女だった。ここで、一つの結論が彼の中で出る。

 妖怪が少女の姿をしていたのでは無い、少女が妖怪になったのだと。

 しかし、疑問が一つ減って、一つ増えただけ。

 新たな疑問、それは、目の前の妖怪は誰になるのか? ということ。

「っ!?」

 仁は慌てて手を伸ばすが、その手が届く前に少女は霧に覆われる。

『勘違いしているらしいが、俺はこの小娘の力を借りてるに過ぎん』

 だが、一つの結論が出ただけで疑問が増えただけ。

「てめぇ、どういうつもりだ!」

 声を低くして、仁が言った。

『どういうつもり? はっ! 面白い、あぁ、面白い……ははは!!』

 まるで狂ったように笑い始めた妖怪は、急に立ち上がると、いつの間に再生していた前足で仁を壁に押し付ける。

 手にしていた銃もナイフも地面に落ちる。

『やっぱり!! お前達にはもう、俺達に恐怖心すらなくってる! ちょいと癪だが、あのジジイの言ってることが本当なんだなぁ!』

 突然、紳士的だった口調が横暴なものへと変わる。その紳士的な口調は、まるで芝居だったかのように。

「離っせよ!!!」

 外側の支柱へと体を押し付けられたまま、妖怪の腹部に蹴りを入れるが、足は妖怪の体を突き抜け空を切る。

『止めろ止めろ。今回はサービスだ。あの雌兎よりも、まぁ、苦しまないように早めに殺してやる』

 まるで、仁……いや、人間を嘲笑うように妖怪は言う。

 苦しまないように、とは何だったのだろうか、刃こぼれした包丁のようなギザギザした歯が並ぶ顔を近づける。今度は、"観察”するようにではない。明らかな殺意が込められている。

 手足は拘束され、為す術もない。

(ちくしょう……どうする)

 銃も、ナイフもない。頼れる武器は何一つない。二つとも、とてもじゃないが手が届く距離ではない()

(それだ!!)

 仁は目を閉じる。そして、足元に落ちているナイフにまるで"念力”をかけるかのように集中する。

 次の瞬間には、少年は解放されていた。

 少年を掴んでいたはずの妖怪の腕は霧散し、妖怪の下部から少年は逃れたため、その口の刃は空を切る。

『な、……に?』

 少年は妖怪から5m程距離を置くと、妖怪が自身の方向を向くよりも早く、何も持っていないはずの右手を振り下ろす。

 すると、今度は妖怪がバランスを崩しかけるが何とか持ち直す。

『なんだ、手品か? 面白い、だが』

 妖怪が言うと、再び失われていた前足が再生する。

『何をしようが、この通り』

「知ってる。だから、時間稼いでるんだよ」

 今度は、振り下ろした手を逆に上に上げた。

「手品? んな、胡散臭いモン使ってるわけねえだろ。俺は、"手で触らずに物動かしてる程度”だっつうの‼」

 手が消え、体に異常をきたし、次に妖怪を襲ったのは"体が崩れる”感覚。

 今度は、部分的ではない。体全体が崩れる感覚。

 気づけば、四肢が動かないことに気づく。

 だが、幸いにも喋るだけの行動は出来る。

 だから、彼は最後に、

『貴様ァ! なにをしたァああ!!!』

 と叫び、それと共に消えていった。霧が無くなると、そこには全身切り傷だらけの、黒色のワンピースを着た少女が現れ、気を失っているからかそのまま前のめりに倒れた。

 そして、霧を纏っていた少女がいた場所には、1本のナイフが宙に浮いていた。切っ先には赤い木の根のようなものが生えた"札”がぶら下がっていた。

「何って、てめぇを倒しただけだよ!!」

 溜まっていた鬱憤を晴らすように叫ぶと、先程まで自分が拘束されていた柱へと体を預ける。同時に、空中を浮いていたナイフが地面に落ちる。

 一か八か、でやった事だがこうまでして上手く行くものなのか、と少年は思う。

 あの時、自身の能力"触れずに物を動かせる程度の能力”を使って、ナイフを使わなければ窮地は脱せなかったろう。

 戦闘には使えない、と思っていた……いや、思い込んでいた。実際、守矢神社での弾幕ごっこの時にこの能力は使っていたが、あの時はほとんど曲芸のようなものだった。初の実戦使用で、こんなに上手くいくとは、見方は変えてみるもんだ、と少年は思う。

 そう言えば、同じく守矢神社の緑髪の少女がこんなことを言っていた、

『幻想郷では常識に囚われてはいけないのです』と、緑髪の少女が何故か嬉しそうに語っていたのを思い出す。

(ほんっと、その通りだぜ……まぁ、ここは幻想郷じゃねえけどな)

 うっすらと、口元に笑みを含めた仁は肩の無線機に手をかける。

「こちら、仁。妖怪は退治した。迎えに来てくれ」

 ただし、返事は返ってこない。

 さっきの戦闘で壊れたか? と、もう一度呼びかけると、

『どうした?』

 と、今度はしっかりと健二の声が返ってきた。

 だが、その声量はとても小さく、まるで声を潜めているような印象がある。

「妖怪は倒した。けど、負傷者が出てる。早く迎えに来てほしい」

 仁の視線の先には、血を吐いたまま倒れている鈴華と倒した妖怪の中から出てきた全身切り傷だらけの少女。

 二名とも意識を失っていて、なるべくなら早めに医者に見せた方が良いだろう。

『……すまないが、私は迎えに行けん。代わりを送ったから、後はそいつに聞いてくれ』

「代わり? じいちゃん、何かあった?」

『……ちょっと、面倒事がな』

 それだけ言うと、健二は5秒ほど黙り込む。その間に、何故か金属がぶつかるような音が聞こえた。

『そういう事だ、また後で屋敷で会おう』

 それを最後に、健二からの通信は一方的に切られた。

「代わり……まさか、紫か?」

 なんて事を考えても、足元にスキマが開くことはなかった。あの雑な運ばれ方はいつまでたっても慣れない。

 感覚的に言えば、落とし穴に落とされるのと一緒なのだから。

 そして仁は一人、迎えを待つことになった。

 

 




ちょっと今回は、長いですが読みにくくは無かったですか?
現在、他のサイトのある大会に出るためにオリジナル小説と並行して書いているので、ちょっとばかり間が空くかもしれないのであしからず。
では、今回はこれで…。
誤字や脱字、おかしな文があったらご報告して頂けると幸いです‼
それでは、こんな小説を読んで頂きありがとうございました‼


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思わぬ支援者

「まさか、あなたが来るとは思いませんでしたよ」

 神川 仁は、祖父である健二の代わりに来た迎えの車の中にいた。

 彼は助手席に座っており、手に持つ消毒液の付いたガーゼで顔につくられた傷を消毒している。

「そう? 私は、勘づかれてると思ったけどなー」

 運転席でハンドルを握っているのは赤い髪、赤い服に赤い瞳、肌の色以外が全て赤色で統一された一人の女性。

「流石に教授が来るとは予想外です」

 そこには、岡崎夢美の姿があった。

 夢美は、少し残念そうな顔をすると、

「自分で言うのもアレだけど、こんな変な人いたら怪しまない?」

「生まれた時から、そんな変な人たちに囲まれて育ったんで分かりません」

「そっかー……」

 仁は顔にできた傷の消毒を終えると、今度は腕の方に消毒を移行する。

 傷口にガーゼが触れる度に、彼の顔が苦痛に歪む。

 一通り、消毒作業を終えると腕に包帯を巻く。それら一連の作業を終えると、

「……それでアイツらどうするんですか?」

 疲れきった目で、仁はルームミラーを見る。そこには、後部座席でぐたりとしている二人の少女が座っていた。

 片や切り傷だらけの黒のワンピースを着た十代前半の少女、片や口の端から血を流している黒い戦闘服を着た少女。

「どうするもこうするも、彼女らをこっちの病院に連れて行く訳にも行かないでしょ。この程度の傷なら私が治せるわ」

 まるで、転んで怪我をした子供を治療するとでも言ってるかのように夢美は言う。

「教授、治せるの?」

「当たり前よ。どれだけ、先生と冒険してたと思ってるの……」

「マジでインディージョーンズしてんのかよ」

 あの映画はフィクションであって、そう易々と石製の大玉に追いかけられたり、古代の超文明を探検したりなんてことはないはずだ。しかし、幻想郷という未開も未開な謎地帯を少年は知っている。だからこそ、有り得そうだから怖い。

「で、教授はどこまで知ってるんです?」

 車が赤信号で止まると、仁が夢美に聞いた。

「さあ? 私は幻想郷とか、貴方達がやってる事ぐらいしか知らない」

「ほとんど全部じゃないですか」

「詳しいことは全く。だから、今のところ君に教えられることは少ないよ?」

「……なら、どういうことなら教えられるんです?」

「例えば、後ろの彼女の正体とか」

 そう言って夢美は、左手をハンドルから離し、人差し指で後ろで眠っている黒のワンピースを着た少女を指差す。

「彼女、割と問題人物よ。多分だけどね」

 赤から青へと信号機の色が変わり、車が発進した。

 夜中の道路を走っているのは赤いスポーツカーが1台だけだ。

「問題? 特撮モノみたいに、怪人に変身するとかですか」

「冗談抜きで、よ。じゃあ、聞くけれど、君は彼女がどういう人物だと思うの?」

「どういうって……」

 そこで少年の声が詰まった。確かに、仁は後部座席に座る黒の少女について知っていることは限りなく少ない。

 分かるのは、彼女が黒い霧の化け物に変身したこと、そして、その変身が恐らく不本意なものであろうこと。

 ただ、それだけ。

「何も知らなくて、君はどうするつもりだったの?」

 黙ったままの仁に彼女は言った。

「知ってる? 外国ではね、難民っていうのがあるの。難民ってのは、国を無くした可哀想な人達」

「……」

「難民は助けてくれと隣の国の国境線を跨ごうとするのよ。けど、どの国も彼らを自分の国へと入れようとしないの。何故か分かる?」

「……国民が多すぎて、難民を入れる余地がないとか?」

「んー、それもまた一つの理由かもね。だけど、的は得ているね。的の端っこだけど」

「教授、何が言いたいんですか?」

 ボソリと呟いた仁の言葉を無視して、夢美は続ける。

「彼らが運んでくるのは、なにも人だけじゃないのよ。他国とは全く違う文化や独特……いえ、自分の国とは違う思想に未知の病気。それらを持ち込む難民は、得体の知れないモンスターと同格。そのモンスターが自分たちに懐くような存在か、それとも破滅をもたらす最厄か分かったもんじゃない」

 それから、数秒ほど言葉を途切らせると。

「分かりやすく言うなら、君は道端とかで捨て犬を拾ってきたことは無い?」

「ある訳ないじゃいですか。今どき、捨て犬、捨て猫なんて貴重ですって」

「じゃあ、もし拾ってきたとする。その時にお父さん、お母さんからなんて言われそう?」

「俺の母さんならともかく…漫画とかなら、『世話が出来ないなら、返してきなさい‼』って言われるかも」

「そ、要はそう言うこと。拾ってきたのは良いけど、保護したあとにそれを怪物に変えるのか、それとも自分のグループの仲間にするかを決めるのは、拾ってきた本人」

「つまり……?」

「責任もって保護しろよ、ってこと」

「……分かりました。けど、どうすれば良いんですか? 保護っていっても素性が分からないんじゃ、どうしようも……」

「さあね。あの娘が半人半妖(・・・・)ってことしか分からないんだし、下手に保護するのもアレだからなぁ……」

 その時、仁は夢美が発した1つの単語に反応した。

「教授、今なんて?」

「? だから、下手に保護することも……」

「もっと前です‼」

「ええと……彼女が半人半妖ってことしか分からないってとこ?」

「あの子、人間じゃないんですか!?」

 そう言って、仁は再び後部座席の方を覗いた。

 後部座席のシートに頭を預けて寝ているのは、どこからどう見ても彼女は、十代前半の少女だ。コウモリのような翼も、鬼のような角も、兎のような耳も彼女には備わっていない。

 少年が見てきた妖怪とは、まるで何もかもが一致しない。

「そんなに信じられないなら、これ」

 そう言うと、夢美が自身のネックレスを外して渡してきた。ネックレス、と言っても大きな白の十字架に糸が通っているだけの品だが。

 仁がネックレスを手に取ったのを確認した夢美が、

「それを彼女に近づけてみ」

 そう言われて仁は、その十字架を黒の少女へとかざす。

 すると、その十字架は赤みがかった紫に輝きはじめた。

「っ!?」

 呆気に取られている仁を横目に、

「霊力と妖力とかって、幻想郷で聞かなかったかな?」

 と、夢美が言った。

 仁は振り返ると、

「聞きました。確か、人間が霊力、妖怪が妖力でしたよね?」

 それを聞いて、夢美はニヤリと笑うと、

「なんだ、知ってんじゃん。なら話は早いわね、その十字架は霊力を感じ取ると赤色に、妖怪だと青色に光るシロモノ」

「待ってください。それだと……」

 そう言って、少女にかざした十字架を見る。紫とは、赤と青が交わって出来る色。

 つまりは、そういう事なのだろう。

「その十字架は他にも、力が強ければそれだけ強く光る機能があるの。彼女のは赤が強いから、どちらかと言えば妖怪よりも人間よりの存在」

 そして、気づけば真っ赤なスポーツカーは見慣れた屋敷の前へと辿り着いていた。

「さてと、二人のお嬢さん方を降ろすわよ」

 と、夢美はシートベルトを外しながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、何があればこんな事になるんだ?」

 そう少年は、目の前で横たわる黒の少女に生々しく刻まれている数多の切り傷を見て言った。

 少年は現在、拠点である彼の祖父の屋敷の部屋の一角にいた。

 彼女の傷口を見ていると、それが刃物のような物で出来たものだとは分かる。そしてその数は多く、命に関わるような首や手首などの箇所にも切り傷はあるため、自傷行為によってつけられたものかもしれない。

 だが、本人が目を覚まさない限りはなんとも言えないのが現状だった。

「どう、黒子ちゃんの様子は?」

 と、仁の背後にあるドアから夢美が入ってきた。黒子、というのは彼女の真っ黒な服を比喩して言ったものだろう。

「何も変化なし。というか、本当に生きてるんですかね?」

 仁は黒の少女の顔を見ながら言った。

「そりゃ生きてるでしょ。ほら、呼吸もしてるし」

 そう言うと、夢美は黒の少女に近づくと、

「数えきれないぐらいの切り傷ねぇ……だけど、出血量は少ない、か」

 次に、夢美は黒の少女の服を掴むと、それを脱がし始めた。

 若干ボーッとしていた仁の頭は、その光景を前に覚醒し、勢いよくその頭は後方に向いた。

「教授!?」

 そして、顔を真っ赤に染めた仁が叫んだ。

「なに、狼狽(うろた)えてんの。ただの医療活動でしょう?」

「嘘だ! 絶対教授面白がってんでしょ‼」

「ふふ、なんの事やら」

 服を脱がせると、再び夢美は黒の少女の体を見る。その衣服の下も、やはり切り傷があった。しかし、他の傷のような刃物で切りつけられたようなものでなく、まるで掻きむしったような荒い傷だった。

「仁、ちょっとそこら辺に赤十字マーク着いた箱置いてあるはずだから、取ってくれない?」

 要は、救急箱を取れ、と夢美が言う。

 言われた通り、仁は周辺を見回すがそれらしきものはない。

「無いですよ?」

「じゃあ、書斎の方にあるかな……、取ってきてくれる? あと、次いでに兎ちゃんの様子も見てきてちょーだい。彼女、だいぶ落ち込んでるから、励ますか慰めてやってやりなよ」

 そう言われて、仁は思い出した。彼女は妖怪に気を失うまで、一方的に(なぶ)られていた。気を落とすのも無理もないだろう。

「分かりました。というか、鈴華は起きてたんですか」

 と、仁が夢美に背中を向けたまま言った。

「ここに着いてすぐにね」

「それなら、鈴華の怪我は軽かったんですね」

「いいえ、重かったわよ」

 さらり、と何の緊張感もなく夢美が言った。

「はい!?」

 驚きのあまり振り返りそうになったが、その先に裸の少女がいることを思い出して止まる。

「あの子の種族柄なのかな? とにかく、自然治癒力が強いのなんの。擦りむいた程度の傷なら、みるみるうちに塞がってたもんでビックリよ」

 鈴華という少女は人間ではない。見た目が人でも、彼女は"玉兎”という、妖怪のうちの一つの種族だ。そんな驚異的な回復能力があっても何らおかしくは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しまーす……」

 仁は、恐る恐る書斎の扉を開けた。正直に言って、今の彼女━━鈴華に会うのは避けたい。 彼とて、慰めの言葉の一つかけられなくはないのだが、さすがに命懸けの戦いに負けた彼女にどんな気持ちで接すれば良いかが分からないだけなのだ。

 とりあえず、会ってみれば何かに変わるかもと思ったのだが肝心の彼女が見回した限りでは、どこにも見えない。

(居ない、のか? とりあえず、救急箱救急箱……)

 そして、いつだか健二から銃器と装備の説明をされた時に使った、洋風の書斎には全くそぐわない折りたたみ式のテーブル。その上に目的の長方形の物体を見つけた。

 仁はテーブルに近づき、救急箱を取ろうとする。

 その時、

「誰?」

 近くのソファから声がした。

 ソファの方を見ると、そこには鈴華が寝そべっていた。彼女は不機嫌そうな目を仁に向けながら。

「なんだ、仁か。起こさないでよ」

 と言うと、寝返りを打った。

「なるべく、足音を消してたつもりだけどな……」

 見れば、鈴華の頭には兎の耳が出ていた。彼女曰く、普段は隠しているという耳。それがメトロノームのように左右に揺れている。機嫌でもわるいのだろうか? 

 心配になった仁は、

「なぁ、大丈夫か?」

 と、聞いた。

 だが、彼女は振り返らず、後頭部を彼に向けながら、

「何が」

 と、素っ気なく言った。

「怪我してたんだろ? もう、大丈夫なのか?」

 仁は今度は、彼女のそばに近づいて言った。

「この通り、元気ですよ」

 ……拗ねてんのか。

 ことを察した少年は、なるべく刺激しないよう言葉を慎重に選びながら、

「なら、良かった。それと、ありがとうな。援護射撃、良かったよ」

 口から出る言葉が途切れ途切れなのは緊張のような、恐怖のような得体の知れない感情が彼に襲いかかっているからだ。

 そんな彼に、再び寝返りを打って顔を見せた彼女は、

「無理に言わなくてもいいから」

「じゃあ、どうしたんだよ?」

「……悔しいから」

「悔しい?」

 すると、鈴華は頷いて、

「あの妖怪に弄ばれたこと。屈辱だよ、ボクのことを適当にあしらって雑魚扱いして……」

 数秒ほど、間をあけて、

「殺すなら、殺せってんだ……」

 あなた、女の子でしょそんな言葉使っちゃいけません、などの冗談は当たり前だが口には出なかった。否、出せなかった。

 ついでに、あの妖怪は鈴華のことを殺していた気になっていた事も刺激しないように言わなかった。

「夢美さんから聞いたけど、君、アレに勝ったんだね」

「勝ったかどうか微妙だけどな」

「どういうこと?」」

「あの妖怪の中にいた女の子がいたんだ。多分だけど、あの霧の化け物と、あの女の子は別だと思うんだ」

「? あの子が、アレに変身したんじゃないの?」

「多分な。それに途中、アレが自分で自分を傷付け初めてたろ? あれって、あの子が反抗してたんじゃないかな。自分を操る、"何か”に向かってさ」

「それなら、あの子は宿主にされてたってことかぁ……って、それ、かなりやばくない?」

 そう言って、鈴華はソファから起き上がった。

「まぁな、その"黒幕”に目をつけられたかもしれないしな。それに、同じようなやつが出てくるかも……」

 そこで、彼は思い出した。つい、数週間前、幻想郷で起こった一つの事件。

 紅魔館と呼ばれる屋敷の主人の妹、フランドール・スカーレットが突如暴走を起こし、多数の負傷者を出した、未だ謎が多い事件。そして、フランと呼ばれていたその吸血鬼の少女と、今回の半人半妖の少女とは少なくとも三点、共通点があった。

 ひとつ目は、時間経過で徐々に強くなっていったこと。

 ふたつ目は、周囲を見境なく攻撃したこと。

 最後に、彼女らの背中には同じ札が貼り付けられていた。

 とてもじゃないが偶然とは思えない一致。

 外の世界と幻想郷、決して繋がりのないこの二つの世界で一体なにが起こっているのだろうか。

「おーい、仁くん大丈夫かー?」

「……あ、いや何でもない」

 そして、とっくに忘れていた救急箱を手に持つと。

「なぁ、鈴華」

今から何をすればいいか、彼には分からなかった。

「何だい?」

けど、この事態を解決しなければいけないのは理解している。

「近いうちに幻想郷に行こうかと思うんだけど、鈴華はどうする?」

━━━まずは手がかりを見つけなければ。

 




夏休みに入り、2本目の投稿。ペースは普通だと思いたい。今まで、FGOやらSCPやらの小説を書いてるとは言ってましたが投稿できても一話ぐらいのボリュームしかなく悩むところです。
次回は、9月中旬ぐらいにはなりそうなので宜しくお願いします。
では、今回はこれで……。
誤字や脱字、おかしな文があったらご報告して頂けると幸いです!
それでは、こんな小説を読んで頂きありがとうございました!!





実はFGOで40連ほど爆死中だったりします。


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五章〜残したモノと残されたモノ
傭兵二人と少女剣士(庭師)


「はぁ……」

 仁は、中学校からの帰り道の途中で大きなため息をついた。

 あの日から、一週間後。現場にいた二人の兵士はいつもとは変わらない日常を過ごしていた。

 妖怪を撃退した少年は、来たるべき高校受験に向けて勉学に励み、彼の相棒である玉兎の少女は"探検”と称して今日も町のどこかを放浪していた。

 そして、例の黒の少女は健二の屋敷で保護することとなっていた。あの家なら、窮屈はしないだろうと、家主の孫は思っている。目が覚めた少女はとても無口で、彼らの応答にも頷くか首を振るかのどちらかだった。でも、あの時彼女はハッキリと彼に言ったはずだ"私から逃げて”、と。それが彼女なりに精一杯の一言だったのかは分からない。健二によれば、彼女は鎌鼬という妖怪と人間のハーフらしい。だからあの時、妖怪は目に見えない斬撃を飛ばしていたんだと、仁は勝手に解釈していた。

 幻想郷には、明日向かうことになっている。

(行くとは言ったけど、何を調べればいいんだか)

 手がかりは、今のところ限りなく少ない。しかし、無いわけではない。その手がかりを調べているうちに、自然と次への手がかりは見つかるのだから、心配は不要だろう。

(フランドール・スカーレット、ねえ……)

 ただ、気がかりなのは"フラン”と呼ばれていた吸血鬼の少女のことについてだ。彼女についてある程度の知識がある自称"普通の魔法使い”によれば、数ヶ月前までフランは一種の狂気……言い換えれば情緒不安定だったという。それと今回の出来事と何か関係があるのか、それを調べるのも今回の幻想郷訪問の目的のひとつとなるだろう。

「お、仁じゃん」

 不意に、背後からそんな声が聞こえた。

 声のした方へと視線を向けると、そこには鈴華がいた。

「偶然だね」

「街の中ならまだしも、ここ家の前だろ、何言ってんだ」

 彼の言う通り、そこはもう見慣れた家だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は午後八時をまわり、仁は夕飯を食べ終わりリビングでくつろいでいた。

 そこへ、鈴華か風呂から上がったばかりなのかタオルで頭を拭きながらリビングへとやってきた。

「次、どぞー」

「あいよー。……って、そういやお前、明日の準備はしたのか?」

 と、ソファから起き上がりながら仁は聞いた。鈴華は、自信満々に、

「もちろん。水筒でしょ、タオルにメモ用紙やら色々と入れといた」

 そう言って、ソファまで近づくとそこにあった肩掛け用のバッグを持つと、それを仁に見せた。

「じゃあ、銃は?」

「それも用意済み。健二さんに頼んで、こんなのを」

 と、今度はバッグと同じ所に置いてあったのか、ホルスター付きのベルトを見せつけてきた。

 ホルスターに入っていたのはH&K"USP”。サイズが少し大きめなので、恐らくは45口径仕様のモノだろう。

「替えの弾倉はバッグに五個。あとは、ベルトに二個入れてある」

「完璧だな」

「当たり前でしょ。それで君は?」

「俺も準備はしてある。あとは、向こうに行くだけ」

 残る疑問も、幻想郷に行けば解決する。彼は、そう信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後の確認だ」

 翌日、少年と兎の少女は、その少年の部屋にいた。

 二人とも外の世界では一般的とされている格好をしていた。だが、二人ともその腰に黒色のベルトを装着していて、ベルトに着いたホルスターには拳銃が収められている。

「拳銃」

 と、仁が言うと、彼と鈴華はホルスターから拳銃を抜き、一度弾倉を抜き取り中身を確認すると、再び弾倉を装填してホルスターに戻す。

「OKだな」

「よし! なら、行こう!」

 彼女の言葉を皮切りに、仁が扉を開けた。

 扉を開けた先、そこには和の雰囲気が漂う幻想郷の玄関━━博麗神社が、

「って、どこだここ!?」

 その扉の先には、博麗神社ではない、白いモヤと薄暗い雰囲気が特徴的な和風の平屋の屋敷だった。

「ここが博麗神社なの?」

 キョロキョロと周りを見回しながら鈴華が言った。勿論だが、こんな所が博麗神社の訳が無い。

「違う。本気で、どこなん……」

 そこで彼は言葉を止めた。なぜなら、約二ヶ月ほど前にこの場所を訪れていたことを思い出したからだ。

 あの時は半日程しか滞在していなかったのだが、一分一秒鮮明にその時のことを彼は覚えている。

 なぜなら、その時は……

「あれ、仁さん来てたんですか」

 右の廊下から少女の声がした。その声に少年は聞き覚えがある。しかし、彼にとってはこんな穏やかな声としてでは無くもっと大きな声で、そして厳しさが混じっているバージョンの方が聞き慣れている。

 仁が恐る恐る、右の方を見てみると、

「ど、どうも妖夢」

 やはりそこには、銀髪の少女剣士、魂魄妖夢がいた。

 そして、少年は一つ確信した。この和風の屋敷は、やはり"白玉楼”だということに。

 彼女は何やら嬉しそうな表情を浮かべると、

「来てるなら、来てるって言ってくださいよ。準備しておいたのに……」

「い、いや妖夢、今日はちょっと予定があ、あるんだ」

「ここに来る用事ですよね?」

 有無を言わせないこの圧は一体何なのだろう。などと少年が考える暇さえ与えず、妖夢は彼の手をとってどこかへ連れていこうとする。

「ちょ、ちょっとキミ、彼をどこに連れてくのさ?」

 鈴華は妖夢を止めようとして、そう言った。

「どこって、庭ですよ。稽古をつけるんですから当たり前じゃないですか。というか、貴女誰ですか?」

「ボクは、彼の同行人」

「そうですか。なら、すみませんが彼は少し借りていきますよ。ちょっと、いやだいぶお灸を据えなければいけませんからね」

 すると、手を掴まれてる、否、拘束されている仁から視線を送られていることに鈴華は気づいた。彼の目には涙が浮かんでおり、よほどその稽古()とやらが嫌で嫌で仕方がないらしい様子だ。しかし、そんな視線を送られても彼女は助けるつもりは無い。彼女は元々は月の兵士なのだ。今の彼女は、兵士としての訓練を受けたからこそ存在している。だから、彼には可哀想だが強くなるために頑張ってもらうことにした。

 彼女にできるのは、彼にとっての良薬がただ苦いだけでなく、きちんと彼の身に染みるように、そしてその良薬が劇薬にならないようにと祈るだけだ。

「何があったのかは知りませんが、よろしく頼みますよ」

 その言葉は、意外に初対面の人には敬語なんだー、と感心していた彼を絶望させた。その時の顔は、俺に救いはないんですか、とでも言いたそうだった。

「分かりました。……ところで、あなたの名前は?」

 既にどこかへと歩き始めた妖夢は、横を歩く鈴華に聞いた。

「鈴に難しいほうの"はな”で鈴華」

 止めてくれ、と泣きそうな声で呟き続けている仁を横目に、

「鈴華さんですね。私は魂魄 妖夢と言います。気軽に下の名前で呼んでください」

彼女達は笑顔のままだ。

「なら、よろしく妖夢」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数ヶ月前のこと、ある少年はスキマ妖怪こと八雲 紫からの紹介で一人の剣士から、刀の稽古をつけてもらっていた。

 何故、基本銃で戦うスタイルの彼に刀の稽古をつけさせたのかは未だ謎だが、その時の経験が間違いなく無駄ではなかった。

 ……なのだが、はっきり言って神川 仁はその稽古が苦手だった。理由はと言えば、稽古をつけてくれる"先生”が少々、いや、かなり怖いから。自分と同年代の少女に怖がってどうするんだ、と言うかもしれないが、考えてみてほしい、剣を持った少女が物凄い剣幕で指導しているのを。

「たった一ヶ月前のことなのに、もう忘れたんですか? あんなに、刀を雑に扱わないでと言ったはずですよ!」

「はいいぃっ!」

 と、仁は叫びながら刀を振った。

 しかし、その渾身の振りも完璧には程遠いらしく、またも妖夢から雷を食らっていた。

 そんな彼らの様子を、屋敷の縁側に座っていた鈴華は見ていた。彼らの稽古風景を見ていると鈴華は、何年も昔、まだ彼女が兵士になりたての頃のことを思い出す。

 その時の彼女も目の前で怒られている彼のように未熟で、そして彼とは違って弱かった。しかし、そんな彼女を一人の女性が拾ったのだ。

 その女性の名前は綿月(わたつきの) 依姫(よりひめ)。彼女は鈴華が所属していた()、月の使者という部隊のリーダーの一人の務めていた。リーダーの一人、というのは月の使者にはリーダーが二人いるからであり、一人は綿月 依姫、もう一人は綿月 豊姫という依姫の姉だ。その二人に彼女は育てられたと言っても過言ではない。

 と、仁と妖夢の稽古の様子を見ていた鈴華は、自身が受けていた厳しい訓練を思い出してため息を吐いた、

「はぁ……」

 しかし、それは人間でいうと数十年も昔の話。 弾幕の一つさえろくに放つことが出来なかった玉兎は、今では月の使者の一分隊を指揮する隊長へと成長していた。

 勿論、彼女を育ててくれた二人のリーダーには感謝しているのだが。

 ……なのだが、

(そういえば、辞表を出すだけ出して、依姫様達になんも言ってないや。次会った時、なんて言われるかな……)

 彼女はそう思ってはいるが、実は何も心配はなかったりする。

 もとより、彼女の立場は月と地上とのちょっとした争いによる月側からの慰謝料(、、、)というもの。そこら辺のことに関しては、例のスキマ妖怪が彼女の元上司と話を付けているため彼女が心配することは何も無いのだ。

「あいたっ!?」

 と、仁の頭に刀の峰が振り落とされた。

「ほら、もう一度! 立ち上がって」

 どうやら、刀の扱いに関しては合格したらしく、今度は実際に刀を交えた実戦練習をしていた。最も、方や木刀、方や峰打ちで戦っているため怪我の心配はないだろう。

 だが、

(……つまらない)

 スポーツは見る方が好きか、それとも実際にやるのが好きかと聞かれれば、彼女は迷いなく実際にやる方を選ぶ。そんな彼女にただでさえ彩りのない稽古の風景を見せられても、楽しくも、そして感じることは何もない。

 そして、彼女は一つ決心した。

(━━━けど、丁度いいや)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後、鈴華という玉兎は幻想郷内にある人里の近くにある森の近くを歩いていた。"白玉楼”という建物のが幻想郷のどこにあるかは分からないが、晴れた空を眺めるために空中にある穴から出なければいけなかったのを考えると、白玉楼がある場所は幻想郷とはまた別の空間なのだろうか。

そんな疑問も捨て去り、彼女は幻想郷を見物しながら歩いていた。

 道中で出会ったのは、氷のような羽をもったいやに好戦的な妖精や謎の空飛ぶ黒い球体などなど。事前情報とは、少し違うがそれでも彼女なりに楽しんでいた。

 そんな時、

「ん?」

 一応の目的地として設定していた人里が、木々を挟んだ向こうに見えた。

 地理的な事はあまり知らず。知っているのは人里という場所が幻想郷のだいたい中央にあるということだけ。なのに、こうもスムーズに着いたことに鈴華は幸福感を感じた。

 そして、彼女は人里の方へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れた……」

 約1時間ぶっ通しの稽古で疲れ果てた仁は、白玉楼の縁側へと倒れるようにして寝転ぶ。

季節は冬、夏のような熱気はないため汗はあまりかかないが、息は切れるため疲労は溜まる。

「お疲れ様です」

 そう言って、隣に座っている妖夢はタオルを差し出す。

 少しだけ額に浮かんだ汗を拭いながら、彼はふとした違和感を感じた。

「ありがとう……って、鈴華は?」

「私たちが稽古を初めてすぐにどこかに行ってしまいましたよ」

「何してんだ、あの野郎」

「まぁまぁ、良いじゃないですか」

「良くないの。あいつとは一緒に幻想郷を回る予定なんだ、一人でどっかに行かれちまうと探す手間がかかるのによ……」

「……それなら、私も鈴華を探すのをお手伝いしましょうか?」

「良いのか?」

「ええ、今日なら幽々子様も一日不在ですし。外来人のあなたを一人で幻想郷内を歩かせるのは少々危険ですから。(……それに、せっかく出来た弟子を失う訳にもいけませんからね)」

 何か聞こえた気がするが、特に気にせずに、

「助かる!」

 と、ここで彼はある重要なことに気がついた。

 それは、

(って、今更だけど妖怪相手に拳銃一丁だけで良いのか……?)

 そこで彼は先程まで稽古で使っていた木刀を手に取ると、

「妖夢、これ借りていいか?」

「何に使うんです?」

「守ってばかりは嫌だからな、俺も武器を持った方が……」

「そんなもの、戦闘では何の役にも立ちませんよ!」

 すると、妖夢は立ち上がるとスタスタと白玉楼の奥へと消えていった。

 数分後、戻ってきた彼女は一本の刀を手に持っていた。

「これ、使って下さい」

 妖夢は、その手に持っていた刀をタオルで顔を拭っていた仁に渡した。

 ありがとう、と仁がタオルを置いて、代わりに刀を手に取る。刀が想像していた重量とは違ったため、グラりと体が傾く。

 そして、体勢を整えると仁は彼女に確認を取った。

「本当に良いのか?」

「ええ、倉庫にあったなまくら同然のものですが妖怪を切る分には十分でしょう」

 少年は刀の方へと目をやる。刃の長さは70センチほどで、重さも刀自体が鉄の塊というのもあってそれなりの重さがあった。

 試しに刀を鞘から抜いてみると、その刃はなまくら同然とは思えないほどの鋭さを持っていた。人の肌程度なら容易く切り裂けるだろう。家にある包丁よりもよく切れるのではないか? と彼は思う。これがなまくら同然と言うなら、妖夢が携える二本の刀、"楼観剣”と"白楼剣”はどれほどの切れ味なのだろうか。

「一緒に行動するつもりだったのなら、鈴華さんが行くところに心当たりはあるんですよね?」

 そして、仁は刀を腰に携える。これによって彼の服装は外の世界の服に、腰には刀が収まった鞘と拳銃が収められたホルスターと幻想郷でも、そして外の世界でも奇怪なものとなった。

「ああ。無いわけじゃない……けど」

「何か問題でもあるんですか?」

「行く場所は決めてたんだ。……だけど、どの順番から回るか話してなくてな」

「じゃあ、どこから探すんですか? 場合によっては入れ違いがあるかも知れませんよ?」

「うぅん……あっ!」

 突然、仁は何かを思い出したように顔を上げた。

「そういや、ずっと行きたかった場所のことを鈴華に言ってたからもしかすると……」

 彼が、幻想郷に来てから絶対に訪れたかった場所。そこは彼にとっては忘れようとも忘れられない出来事があった場所。

 この場所での出来事が、彼にとっての一種のターニングポイントとなったのだ。忘れていいものか。

「行きたかった場所? それって、どこです?」

 そこは幻想郷の中でも有数の実力者が住まう紅い館。

 幼い見た目をした主がおさめる、その館の名は━━━

 

 

 

 

 

 

「━━紅魔館、俺はあそこに行かなきゃいけないんだ」

 

 




また、投稿間隔が1ヶ月になってきています、どうも筆者のRYUです。そろそろ、東方の二次創作らしく幻想郷での話へと移ります。前に出てきた妖怪のようなモンスターに関しては後々分かると思って下さい。
あとは、GGOとウルトラマンの二次創作の一話をそれぞれ書いたので、添削やらを終わらせて投稿するので宜しければそちらも見ていただけると嬉しいです。
それでは、今回はこれで…、
誤字や脱字、それにおかしな文を見つけたら報告していただけると幸いです!
では、こんな小説を読んで頂きありがとうございました!




…ちなみに、最後の文ってコピーじゃなくて毎回最初から書いてたりします。(だから、たまに違ってたりする)
どーでもいいっすけどね(・ω<)


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新しい日常

 その頃、外の世界では神川 仁の祖父、神川 健二が書類作成に追われていた。別に、どこかの会社に勤めている訳でもないので、彼が作っているのは依頼主に提出するための報告書だ。

何故、当の本人達がやらないかというと、健二から見て二人に任せるのは不安も不安だから。…厳密に言えば、彼らに任せると"報告書”という名前の怪文書が出来上がるのは目に見えているからだ。

「……」

 実の所、そんな健二はとある悩みの種を抱えていた。

 それは、

「君、何か用かな?」

 書斎にある彼の机の横には、ちょこんと一人の少女が立っていた。特に喋ることも無く、本当にただそこにいるだけのように思える。

「ここじゃなくても遊ぶところなら沢山あるだろう?」

 彼はもう一度言うが、少女は固く口を閉じたままジーと健二の方を見たまま動かない。

(全く、なんなんだ)

 この少女は、先週保護した子供だ。保護した当時は、ボロボロの服を纏い、体中が切り傷まみれという身の成りだったが、今では新品の服を身につけ、体中の傷は全て塞がっていて、その当時の見る影はない。

 ちなみに彼女の服と治療は健二の助手である夢見に全て任せていたため苦労はしなかった。最も、彼は医療技術と服のセンスは皆無に等しいので、任せる他なかったのだが。

 そして、報告書では今後の彼女の扱いをどうするかを記そうとしていた。

「なぁ、君。親はいるのか?」

 ダメ元で聞いてみたので、答えが返ってこなくてもそんなに気にしないつもりだったのだが。

 彼女は首を横に降った。ゆっくりと、だ。

「いないのか? どうして」

 しかし、今度は何も返してこなかった。

 数日間、彼女を屋敷に置いているが、分かったことよりも分からない事の方が多く、彼女の謎は深まるばかりだ。辛うじて分かっているのは、彼女が妖怪と人間のハーフということだ。それも妖怪モードだった時の様子を聞いてのこと、それに夢見のマジックアイテムのおかげで分かったことだ。

 しかし、妖怪のハーフ自体は珍しくもない。現に、健二が幻想郷にいた時にも、コレクター気質の古道具屋の店主や人里で寺子屋を開いている教師なども人間に混じって生活していた。しかし、前者が先天性であるのに対し、後者は何ならかの要因で人ならざるものへと変化した存在。

 果たして、目の前にいるこの少女はどちらなのだろうか? 

 その時だった。

 ブー、ブーと携帯の着信音が鳴った。

 健二は携帯を取るとろくに画面を見ずに電話に出た。何故なら、このタイミングで電話をよこすような人物は、彼の知る限りでは一人しかいないから。

「何の用だ」

『あら、冷たいわね。せっかく、私が調べたことについて教えてあげようとしているのに』

 電話の相手は八雲 紫だった。彼女はいつもと変わらず、感情が読みとれないような言動だった。

「調べたこと?」

『ええ、今あなたのそばに居る、その子についてよ』

「何でそばにいるのが分かる?」

『貴方の近くにいるその子、寂しがり屋だからよ』

「……? で、調べたことってのは何だ?」

『その子の身の上話』

「身の上話?」

『そう、謎に満ちた少女の……』

「そんな事はどうでも良い。早く、教えてくれ」

『せっかちねぇ。それじゃあ、まずは彼女の両親について』

「ああ、俺もそのことを……」

『二人とも行方不明届けが出され、現在では死亡扱い』

「…………」

 健二は頭を抱えた。そう来たか、と。

 まだ、彼女の両親が虐待を行っていて、そのせいで彼女があのような事になったんだったらことは速やかに解決されただろう。

 しかし、第三者()の介入があったのだとすれば、そう簡単にはこの件の解決は済まなそうだと、健二は思う。

「他に肉親は?」

『居ないそうよ。あと、彼女自身も父方の親族から行方不明届けが出されているらしいわ』

「……というと、一家全員が例のヤツらに連れ去られたったって解釈で良さそうだな」

『妥当ね。それと、彼女の名前は粲綱 祥(いいづな さち)。いつまでも、お前呼びは辞めてあげてね』

「分かったよ。にしても、いいづな(イタチ)……か。そうなると、彼女の親のどちらかは鎌鼬か」

『怪しいのは母親かしら。性も、母方の方から取られてるみたいよ』

「なら、確定だな。だが、なぜ人間の父親も連れていく必要がある?」

前にはこんなことなかったぞ、と健二は付け足す。

『途中で食糧にでもするつもりでしょう』

 躊躇うことなく、彼女は言った。人間だって腹は空く。妖怪だって、それは変わらない。ただ、人間とは食べるものが違うだけだ。

「……なるほど。そりゃ、死体も見つからない訳だ」

 そこで健二は気付いた。こんな話、当人の前でするものじゃない、と。

 しかし、横を見ればそこにいたはずの少女━━祥がいなくなっていた。書斎を見回してみれば、彼女はソファに横になって本を読んでいる。幸いな事に、彼女はこちらのことを気にする素振りは見せていない。

『どうかしたの?』

「いや、なんでもない。それで、他に何かあるのか?」

『最後に一つだけ。彼女の父親と母親の私達は死亡と判断して、粲綱 祥を保護するつもりだけど、それで良いわね?』

 健二にとっては、もとよりそのつもりだったので特に反応はしなかった。しかし、それよりも気になったのが、

「それはいいんだが、この子ぐらいの歳だと友達と元気に学校に通っていてもいいはずだ。そこら辺はどうするつもりだ?」

 祥の見た目は、小学生高学年、もしくは中学一年生ほど。どちらにせよ、今の彼女はまだ義務教育を終了していないだろう。元々通っていた学校がどこかは知らないが、そこから、彼女の家となる屋敷近くの学校に転校する手続きも必要になるはずだ。

しかし、彼女は、

『手続きも含めて、全部終わらせておいたわ。必要な物も近いうちに送るつもりよ』

「本当か? どうした、今回はいつにもなく仕事に熱心だな」

『何を言ってるのか分からないわね。私は、いつも熱心よ?』

 ふふふ、とスピーカーの向こうから微笑むような声が聞こえてきた。何十年も仕事を共にしていた健二でさえも、彼女の考えていることは分からない。

「……それで最後だな。なら、もう切るぞ」

 結局、紫の言葉を無視して健二は言った。

『いつになっても、貴方はつまんない人ね。分かったわ、それじゃあ報告書、待ってるわよ』

「はいはい、分かってるよ。……そういえば、何でわざわざ紙に書かせるんだ? 別にメールでも良いだ……って、切りやがったか」

 大きなため息をついた。何だか、今日はやけに頭痛がする日だと彼は思う。

 そして、画面が暗転したスマートフォンを机に置くと、再び卓上の面倒事を片付けることにした。

 

 




今回まで短め、しかし内容は濃いめにしてみました。
あと、今年の残りは少し忙しくなるかもしれないので、投稿感覚が空くかもしれないのであしからず…。
では特に言うこともないので、今回はこの辺で。


誤字や脱字、それにおかしな文があったらご報告して頂けると幸いです!!
それでは、今回もこんな小説を読んで頂きありがとうございました!!


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報告

 一時間後、神川 仁は紅魔館の中にいた。

 幻想郷の住民は空を飛べるのだが、空の飛び方を知らない少年は白玉楼から延々と続く長い階段を降り、トラウマの魔法の森近くを歩いて紅魔館へと向かったのだ。幸いにも、白玉楼と紅魔館の距離は割と短く、今回は心強い同行者がいたため、いつかとは違ってストレス無く無事に辿り着けたのだ。

 ……ただし、それは道中にて判明した事実を知ってしまったことを抜いての話。その事実というのは、白玉楼というのが"冥界”と呼ばれる場所にあるということ。それは長い長い階段を降りた先で、幻想郷に向かうために空に浮かぶ大きな穴から出てきたことによって湧いてでてきた疑問によって判明した。

 つまりは、ファンタジーにでも出てきそうだった空飛ぶ青白い炎のようなモノは、冥界にていづれ転生する手はずの、一般的には"魂”、極端に言ってしまえば幽霊と呼ばれるものだったということ。

 神川 仁という少年は、よく分からない存在が苦手だ。都市伝説や未確認生物に未確認飛行物体、そして幽霊が彼の基準でいう"よく分からないもの”となる。因みに、妖怪は実在する生き物の一種という考えを持つことで、少年は取り乱すことなく何とか平静でいられているのだ。

 そんな訳で、悲鳴を上げ続けたせいで声がガラガラになっている仁と妖夢は、門の横で居眠りしている門番の横を素通りし、大きな庭を通って紅魔館の中へと入った。

 最初に彼は、こんな風に紅魔館へと訪れるのは初めてじゃないかと思った。今回も含めれば、ここには三回訪れた事がある。最初に関しては、とてもじゃないがゆっくりと屋敷を見回す暇などなかった。二回目に関しては……そもそも、館内に入った時の記憶がない。

 だから、こうやってゆっくりと館内を見回すことは初めてなのだ。極端に少ない窓、紅色が目立つ内装。現在二人がいるのは、中学校の体育館程の広さがあるエントランスホール。どのくらい広いかと聞かれれば、その場所がそのまま戦闘の舞台となっても何も問題は無さそうなくらい。

「それで、紅魔館に来たのは良いのですが、何をする為に来たんですか?」

 エントランスホールの中央に立つ妖夢が、横にいるぐったりとしている仁に聞いた。

 すると、彼は顔を上げると本を読む仕草をする。

「えー……と、あ! もしかして、図書館ですか?」

 彼女の問に、仁は首を縦に振る。

「……というより、まだ声治ってないんですか?」

 今度は、すこぶる残念そうな顔をしながら頭を上下に動かす。

「相当、酷かったですもんね……、私にはどうにも出来ないので、なるべく喋らないようにしてください」

「わ"か"った"」

「だから、喋らないで下さいって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 図書館。そこは、窓の少ない紅魔館の中でも珍しい、窓が全くない部屋。部屋、というよりは空間といった方が正しいのかもしれない。

 幾万の書籍の数々、そしてそれを収める巨大な本棚。更に、本棚を置くための空間。その空間が何層も積み重なって、紅魔館の大図書館は存在している。

 入口の大きな扉を開けて、二人は図書館へと入る。鼻にかびの臭い、それに混じるように独特な古書の臭いが入り込む。別に、不快な気持ちにはならない、それどころか、どこか一種の心地良ささえ感じさせるような不思議な感じだ。

 何層も積み重なった階層、いくつもの階段を降りた先その最下層に"動かない大図書館”ことパチュリー・ノーレッジは居た。

 最下層へと辿り着いた仁は、前回訪れた時よりも若干静かになっていると感じた。それもそのはず、前回訪れた時は大勢の妖精メイドがバタバタとしていたため、とても騒がしかったが、今はほとぼりが冷めためか、今のところ図書館内にいるのは最下層の中心にあるテーブルで本を読んでいる例の魔法使いぐらいだからだろう。

 そんな彼女は、階段を降りてくる二人に気づくと、

「あら、珍しい客人ね。半霊の剣士に、外来人なんて」

 と、読みかけの本にしおりを挟みながら言った。

「迷惑た"った"か"?」

「ちょっと待って、その声はどうしたの?」

「色々あ"った"ん"た"」

「良いから、ちょっとこっちに来なさい」

 パチュリーは、手招きをして仁を近づけると、目を瞑って右手を仁に向ける。すると彼女は何やら、小声で何かを呟くと、なんと少年の周囲が光りだした。

 数秒もすれば光は収まり、今起きた出来事について、仁は目の前にいる彼女に聞こうとして口を開いた。

 すると、

「何だ、今の……って、治ってる!?」

「あんな状態じゃ会話なんて出来たもんじゃないでしょ。だから、あなたの喉治しておいたわ」

「マジか、助かる!」

「お礼なんて要らないわよ。それよりも、何であなた達がここにいるのか教えてちょうだい。答えによっては、客人ではなく侵入者として扱うけど良いかしら」

 割と物騒なことを言うパチュリー。その様子からすれば、過去にも同じような事でもあったのだろうか? 

「んな、後ろめたいことなんてある訳ないだろ。俺がここに来たのは……」

 そう言って、仁は腰のカバンの中をゴソゴソと探ると、

「こいつを見せる為にきたんだよ。どうせ、俺達だけじゃ何も分からないし」

 中から出したのは、透明な袋に入った一枚の札だった。

 所々に赤い根っこのような物がついたソレは、先週の戦いによる戦利品ともとれる品。

 パチュリーが目を凝らして、それを見る。直ぐに、それが前に紅魔館で起きた事件で見たことがある品にとても似た物だと言うのが分かった。

「これは……確か、フランに貼られていたのと同じ……いえ、前とは違う完全な状態の?」

「そう。この前ちょっとあってな、そん時に手に入れたんだ」

「この前?」

 怪訝な顔をして、首を傾げながら彼女は聞いた。

「……フランと似たようなのと戦ったんだ。いや、別にソイツは吸血鬼じゃなかったし、そもそも人型でもなかったんだ……けど」

 確かに、あの時の"アレ”はまるでイタチのような獣の姿をしていた、吸血鬼とは呼ばれるが人の姿をしているフランとは違う別の物だった。だけど━━━━

「そいつは、フランと同じだった。なんというか、その、感じが似ていたんだ……悪い、上手く伝えられない」

 馬鹿馬鹿しい、と一蹴されるかと思っていたが、予想に反して彼女は表情も変えることなく、

「大丈夫よ、何となく分かったから。要するに、貴方はこの前のフランと同じ"妖力”を、その似たようなのから感じ取ったんでしょう」

「何で分かるんだ?」

「貴方が持ってきてくれたその札とあの札。両方から、同じ妖力が出てるの」

 あの札、というのはフランに貼られていた方の事だろう。既にバラバラになってしまってるが、彼女はそこから出ている"残滓”が、彼の持ってきた札から感じるものと同じだと言っているのだ。

「というと、怪しいのはやっぱり札か」

「そうね。どうやって、フランに貼ったのか。どうやって、フランをあの状態にしたのか。どちらにせよ、高度なオカルトの技術を使ったに違いないわ」

 それに、と彼女は続けて、

「これは完全に、悪意のある攻撃ってことにも違いない」

「……悪意のある攻撃、か」

 なんの為に彼女達を操り、このような事をしたのかは分からないが、少なくなくとも善意でやっている事ではないのは確定した。

「それと、貴方が持ってきてくれた札から分かったわ。この、"悪意のある存在"が外の世界にも何かしらの悪事をしていることもね」

 しかし、理由は未だに考察することが出来ない。なんの為に幻想郷でフランを操ったのか? なんの為に外の世界であの少女をあんな風に(、、、、、)にしたのか。

 自分の存在をアピールするなら、幻想郷だけで十分なはずだ。なぜなら、この幻想郷にはそのような不可思議怪奇な能力の価値が分かる人物が大勢居るからだ。霧雨魔理沙や目の前にいるパチュリー・ノーレッジを初めとした魔法使いには、その所業がどれほどの物か分かる知識がある。恐らくだが、妖精や妖怪と言った単語が飛び交うこの幻想郷において、魔法という言葉自体もそれほど縁遠いものではないだろう。だから、幻想郷に住む他の人間もその所業の恐ろしさが分かるはずだ。

 ……しかし、だ。

 何故、そのような物が浸透していない外の世界でそのような行動を起こす必要があるのだろうか? 

 今の社会、魔法などのような単語は、口に出しただけでも異端扱いされる。 ほとんど全てのオカルトチックな存在は、全てニセモノという扱いをされている。占い、運勢、超能力に幽霊。それらは偶然、もしくはトリックを使ったニセモノとされている。

 もし、そのような物が浸透していたならば、外の世界は、車の代わりに箒で通学し、呪文の一つで今日の運命が決まり、そこらの土からは黄金が作られているだろう。

 しかし、現実は違う。人間は翼ではなく飛行機で空を飛び、占いのランキングで決まるのは今日の気分、そこらの(土地)から生まれるのは人間同士の争い。

 犯人が外の世界で何かことを起こして、その存在が認知されても良くて都市伝説、悪ければペテン師という扱いをされるはずだ。

 そう考えれば、外の世界と幻想郷は対極の存在なのだろう。

 でも、そう考えてしまうとますます犯人の目的が分からなくなってしまう。

「というか、何で分かるんだ? ただ、触っただけで分かるものなのか?」

「そういうものよ。人間だって、触っただけで金属製か木材製かぐらい分かるでしょう?」

「そういうもんか……」

「まぁ、同じ妖力だったから直ぐに分かったのだけれど……」

「って、待て待て。妖力って、妖怪なら全員持ってるんだろ。なら、同じでも何もおかしくないじゃないのか?」

「ちょっと違うわね。いい? 確かに、妖怪は妖力を持っているわ。でも、皆が皆同じではないのよ。妖力や魔力、それに霊力は、例えるなら、生き物全てが持っている血液だと考えてみて。血液だって、A型、B型、O型、AB型、それに赤色、青色、無色透明。更に言えば、個人個人のDNA。この世界に全く同じ血が流れる他人が居ないのと同じ、妖力だって、同じものはないのよ」

「というと、あの札からは妖怪○○のB型の妖力が流れてるって感じか?」

「そもそも、妖怪かどうかさえ分からないけど、まぁ、そういう解釈で良いわよ」

「……そういうことなら、これってやっぱり誰かが意図的に起こした事件なのか」

「だから、それ以外に考えられないのよ」

 外の世界と幻想郷。決して交わることの無い二つの世界で起きた事件。そして、明らかに敵意のある行動。偶然の一言で済まされるようなことでは決して無いだろう。

「なら、その妖力から犯人を探せないのか? ほら、逆探知的なヤツで」

 刑事ドラマ等でよく見る、誘拐犯からの電話を逆探知して、誘拐犯の居場所を見つけ出すというものがある。もし、犯人が妖力を使って遠隔からフランとあの少女を操っていたのならそれを辿ることも出来るだろうか? 

「そういう魔法や術はあるけど、見つけたところでどうこうなる物ではないわよ」

「どうしてだよ? もし、犯人が外の世界にいても俺がどうにかす……」

「悪いけど、いくらあのフランを止めた貴方だとしても、博麗大結界の外から攻撃を仕掛けられるほど強力な相手に勝機があるとは思えない」

 聞けば、博麗大結界というのは外の世界と幻想郷を隔てる壁のようなものだという。物理的な事に加え、概念的(、、)なものまでも、外の世界から遮断しているのだとか。並の実力では、その壁を壊すどころか越えることさえ出来ないだろう。

 だから、それを越える力を持つ八雲 紫が連れてくる外来人、そして稀も稀な大結界側のミスにより入り込んで来る"外来人”というのは、幻想郷側からすれば奇特な存在なのだ。

「ひ、ひどいな……確かにその通りだけどさ」

 落ち込む仁をよそに、パチュリーは傍にある分厚い本の山の頂から数冊を取って重ね始める。

「とは言っても本当は逆探知なんて不可能なのよ」

 椅子から立ち上がりながら、パチュリーは言う。そして、縦に重ねた数冊の本を手に持ちながら、

「あの札からは操ってた本人の妖力は感じるけど、その本人に繋がるパイプは確認できなかったの」

「それじゃ、結局は犯人の場所は分からずじまいか……」

「相手を探すことは出来ないけど、どういう素性をしているかぐらいは分かるかもしれないわ。ほら、外の世界にもあるでしょう、えーと……確か、DM……そうじゃなくて、DNA鑑定」

「それで分かるのか? 犯人の正体が 」

「正体までとはいかないけど、それなりの結果は出すつもりよ。でないと、私の気も収まりそうにないもの。あと、レミィのもね」

 そう言って彼女が一歩踏み出しそうとした、その時。

「ケホッ……ケホッ……」

 急にパチュリーは咳き込んだと思うと、手にしていた本をバタンバタンと、床に本を散らばせる。

 ひゅーひゅー、という呼吸音から鑑みるに、彼女は喘息持ちなのだろうか? 

「おい、大丈夫か?」

「だ、大丈夫ですか?」

 仁と妖夢の二人は、彼女の元へ駆け寄るや否や言った。

「大丈夫……」

 とは、言うものの彼女の咳が止まることはない。

「その本はどこに持っていくつもりだったんだ?」

 仁が聞くと、彼女はゼェゼェと息を吐きながら、

「ここから見て四階、そこに持っていくつもりだったのだけど……それが、どうしたの?」

「俺が持っていくよ。パチュリーは休んでいた方がいい」

 と言って、彼は床に散らばった本を集め始める。

「別に良いわよ、こんなのしょっちゅうだから……」

「だったら、本の片付けは俺に任せてくれよ。こういう力仕事は、男の専売特許なんだ」

 それは、昔から健二に教わっていた『紳士になれ』という言葉から来た行動だった。それを言う時、それを教える時、その時だけ祖父の顔が菩薩から鬼へと変化する光景はいつまでも仁の脳裏に刻み込まれている。

 すると、彼女は諦めたのか深いため息と共に言う。

「……分かったわ。それじゃ、それはあなた達に任せたわよ。向こうに行けば分かるけど、同じような本が並んでいると思うから、そこら辺に入れておいてちょうだい」

「分かった。それで、他にもあるのか?」

「ええ、もちろん」

 と、彼女が指指す先、そこには分厚い本の山が連なっていた。そして、その大きさは世界で一番有名な学園ファンタジー小説の数倍はある。

「な、なるほど。これは骨が折れそうだ……」

「いつもなら、私の使い魔にやらせているんだけど、今は他の仕事をさせているから自分でやるしかなかったわ」

「使い魔? 確か、小悪魔だっけか?」

 一回目の訪問の際、大図書館の入口で霊夢と魔理沙、そして仁を出迎えたのが小悪魔だった。赤い髪に、背中から生えた悪魔のような真っ黒の羽。彼女の姿は、外来人である仁にとっては衝撃的だったのでよく覚えている。

「そうよ、あの娘は分身が出来るのだけれど、それをすると本を運べないほど力が落ちちゃうから、今は居ないわ」

「なら、尚更だな。そんじゃ、俺はこれで」

 どっこいしょ、と7、8冊の本を抱えて仁は階段の方へと向かっていく。

 そして、その後を妖夢が着いて行く。

 二人の姿が見えなくなると、一人残ったパチュリーは呟いた。

「……そう言えば、あの娘は大丈夫かしら」

 その視線は、壁際にある鉄で出来た重厚な両扉の方を向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、RYUです。
最近、初めてホラー映画というものを初めから最後までしっかりと見ました。『来る。』という映画なんですがね、初めてそういうジャンルを見たので何とも言えませんが良い映画だなとは思いましたね。そっから、妖怪の設定的なのも考えられたのでこの小説シリーズに無関係ではなかったりします。
めちゃくちゃビビりましたが、すごく印象に残る映画でしたよ。(^∇^)
…それが、遠足に行く(、、)時のバスで見たことを除いてですが。
まぁ、ともかく今回のお話では黒幕のお話が出ましたが、色々とインスパイアを受けたので、ホラー映画のような設定になるかもですので、よろしくお願いします。
それでは、今回はこれで。
誤字や脱字、おかしな文を見つけたら報告して頂けると幸いです!!
それでは、こんな小説を読んでいただきありがとうございました!


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悩む二人の少女と少年

 昼過ぎの竹林の中を一人の現代風の装いの少女が歩いていた。

 季節は冬。首元の露出した部位に、冬という季節特有の冷たい風が叩きつけられる。幻想郷では雪が降るらしいのだが空は青空、雲一つない。

 手袋を忘れてしまったせいで冷える手を擦りながら、彼女は竹林の中を進む。

(ここが迷いの竹林……)

 彼女はこの竹林のことを人里の人間から教わり、ここへ来た。本来なら、相方である少年と共に行動するはずだったのだが理由があって、今は別行動をしている。

 目的は、かつての戦友にしてパートナー。そして旧友でもある、とある少女を訪れる為だ。

(ごめんね、こうするしか無かったんだ。どうしても知りたかったから)

 彼に黙っていたことに対する罪悪感はある。しかし、この行動が間違っているとは思わない。だって、彼女にはこの方法しか思いつかないのだから。

 旧友のもとを訪れるには理由がある。一つは、単純に再開を喜ぶ為。人間の時間にして数十年前にその友は彼女の前から去ってしまった。……正確には、逃げだした。

 彼女自身はそれを咎めようとはしない。する権利さえもないと思っている。

 何故なら、彼女も同じように"彼”の元から逃げだしたのだから。

 二つ目は、その彼の事を知るために(、、、、、、、、、、)

 彼女は怖かった。話に聞けば、彼は何度も何度も傷ついている。しかし、どんな傷を負おうとも恐れを抱くことはなかった。正確には恐れているような姿を見せなかった。

 どんな傷を負うかも分からない、それどころか死んでしまうかもしれないような案件にも、彼は挑んだ。

 恐れを見せず、拒否しても仕方のないような事だったのに、彼は挑んだ。

 生物とは元来、死というものから自然と避けたがるものだ。

 なのに、彼は平然と死へと向かっていく。

 それが彼女を恐怖させた。

 何を考えているかが全く分からない。その何ともない顔の裏には、幾度も傷ついたせいで発狂し正常ではなくなった狂気が存在するかもしれない。

 しかし。

 流石にそんな事はないだろう、と彼女は心の中で呟いた。

 数週間共に過ごしてきたが、そんな狂気のようなものは微塵も感じさせなかった。そして、それと同時に少しだが彼のことを知ることが出来た。彼は神川 仁という自分を大事にしていた。誰からも染まらず、自分を貫くという意味でだ。

 ……恐らくだが、発狂していたならとうの昔に殺されているはずだ。

 正直、そんな彼を彼女は気に入っていた。

 兵士として天寿を全うしなければいけない不自由だった彼女は、そんな彼に憧れのようなモノを抱いていたのかもしれない。

 だが、それでも彼女は最後まで彼を信用することは出来なかった。彼が本当に発狂していないという証拠はない、それに本当に善意で行動しているのかという疑問もしかしてもある。

 なるべくなら、こんな事━━逃げるような真似はしたくなかった。なるべくなら、離れたくなかった。

 望むなら、彼が狂気ではなく別の理由で恐怖を抑えていてくれることを。

 だから、彼女は真実を知りたかった。しかし彼に直接聞くのは気が引ける。

 なら、どうすれば真実を知れるだろうか? 

 考え抜いた結果、その旧友に協力を得ることになった。そうすれば、直接会うことがなくとも彼の真実を知ることが出来る、はずだ。

 彼女は竹林の中を歩き続ける。

 しばらくすれば、一軒の建物が見えてきた。

 和風の造りで、外見には特にこれと言った特徴もない。強いて言うならば、この竹林の中で一軒"だけ”が佇んでいることだろうか。

 建物からは何やら騒がしい声が聞こえてくる。

 その建物の入口に来ると、急に扉が開かれて中から何やら白い物体が飛び出して行った。それは一人の少女だった。もう後ろ姿しか見えないが、その頭からは兎のような耳が生えていた。

 飛び出して行った白い物体に目を奪われていると、入口から声がすることに気がつく。

「ちょ、てゐ! 待ち、なさ……い」

 声の主は、永遠亭の入口に佇む少女を見て声を詰まらせた。

 入口にいる少女は、ゆっくりと後ろを振り返る。短い髪に赤い目、そして頭から飛び出た垂れた兎の耳。

 その姿を見た途端、鈴仙は何も言うことなく彼女に近づくと、その体を抱きしめた。

 彼女と同じ赤い目から涙を流して。

「……久しぶり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっこいしょ。で。この本は……っと」

「仁さーん、こっちは終わりましたよー」

「悪いな、妖夢にも手伝わしちまって」

「別に良いですよ。というか、私は貴方よりも体は強いつもりですから」

「うぅ、部活引退してからの運動不足気味返す言葉もねえや…… 」

 仁と妖夢の二人は紅魔館内の大図書館の中で本を本棚に戻す作業をしていた。戻すだけとは言っても、その本の大きさは最低でも世界で一番有名なファンタジー学園小説ぐらいある為、一冊を戻すのにかかる労力は半端では無い。当初は仁一人でやっていたのだが、徐々にゼェゼェと荒い息を吐きはじめた少年に、見ていられなくなった妖夢はその作業を手伝うことにしたのだ。

「……そういや、結局鈴華は居なかったな」

「パチュリーさんも知らないと言ってましたし、やっぱり他の所じゃないですか?」

「そんな気がするなぁ。でも、ほんとどこ行ったんだかなぁ」

「とりあえず、この作業を終わらせてからにしましょう」

「だな」

 気がつけば仁の腕には残り数冊となった特大サイズの本が収まっている。

「よし、後は数冊だけだな」

「あれ? これと同じシリーズの本ってさっきありませんでした?」

「んな馬鹿な、……嘘だろ」

「なら、私はこっちを戻してくるので、仁さんは先に行ってください」

 そう言って、妖夢は戻し損ねた特大サイズの本を仁の腕の中から取る。

「ありがとう、頼んだ」

「任せてください」

 そして、妖夢はとことこと走っていった。

 ……その時、彼女は気づいていなかった。彼女の姿を、赤い赤い瞳で見ている小さな影があることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、彼女は遊び相手を探していた。

 たまに来る、遊び相手の生きた人間も今日は居ないし、自分の姉に遊ぼうと言っても忙しいと突っぱねられた。

 相手になるように寄越された使い魔なら、直ぐに壊れた(、、)。どうせまた直ぐに復活するだろうが、それではつまらない。同じ玩具(オモチャ)を何度も何度も遊び(壊し)続ければ、飽きてしまう。

 もっと、退屈しない壊れない玩具(オモチャ)が欲しい。

「なら……仁……ん、は先に……」

 と、彼女の耳に聞きなれない声が飛び込んできた。

 本棚の陰から覗いてみると、そこにはやはり見慣れない人間が二人。

 片方の白い髪の女からは人から感じる霊力と通常の人間からは感じないはずの妖力も感じ取れる。ということは、その白い髪の女はただの人間ではないだろう。

 見つけた(、、、、)

 男の方は、見ただけでは彼女が口にする食料の人間と何も変わらないように思えたし、そうとしか感じられない。どうせ、あれは直ぐに壊れる。だったら、面白そうで退屈しなさそうな白いから先に遊ぼう。

「よし、これは……ここか!」

 小さな吸血鬼は、妖夢へと近づく。

 そして、その存在に彼女が気がつく。

 だが、その時にはもう遅かった。

「ねえ、あなた」

「? 誰ですか?」

「私と遊んでくれないかしら?」

 そう、その時にはもう遅かった。

 刀を抜く暇さえなく、彼女の華奢な体は吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発のような音が聞こえた。突然の出来事に、仁は思わず手にしていた最後の一冊を地面に落としてしまう。

「なんだ!?」

 音のする方へと顔を向けると、直ぐに彼の目に飛び込んできたのは、

「……妖夢?」

 そこから、飛んできたのは妖夢だった。飛んできた、と言うよりは吹き飛ばされてきたという表現の方が正しい。

 彼女は宙を飛ぶ自分の体を、図書館の床に刀を突き立てる事で無理やり着地する。意図してはいなかっただろうが、そこは仁の横だった。

「仁さん、逃げてください。今すぐに」

 少年の方を見ずに、彼女は自身が飛ばされてきた方向を見ながら言った。その声は低く、まるで怯えてるような━━━━━━

「何を……言って……?」

 思わず、妖夢と同じ方向を見てしまった。

 そこには、一人の少女……いや少女と呼ぶには幼過ぎる。どこかで見たような赤い服、それに枯れ枝のようなものに七色の結晶がぶら下がっている特徴的な形の翼。そして、その手にはぐにゃぐにゃした黒色の棒が握られている。

「フラ……ン?」

 それは二ヶ月程前に、この館で会ったことのある吸血鬼だった。

 最初に感じたのは、違和感。彼女に貼られていた札は剥がれた、いや剥がした筈だ。

 なのに、彼女から感じる異様な威圧感のようなものはあの時と変わらない、あのような幼い彼女が発するものとは到底思えない。

 ……そう言えば、あの普通の魔法使いは言っていた。以前の彼女は狂気に支配されていた、と。

 もし、それが発作のように時々発症するならば……。

 少年は、腰のホルスターに手をまわし、そこに収められた拳銃━━M17を抜いた。

 M9に代わる、米軍の拳銃であるM17。未だ、健二がどこから調達しているか不明だが、このM17はカービン化カスタムがされている。ボタンを押すだけで瞬時に展開するストック、小型のレッドドットサイト、そしてグリップ代わりにもなる予備マガジンが取り付けられている。

 少々、取り回しは悪くなってしまうがこのカスタムによって拳銃はサブウェポンからメインウェポンへと生まれ変わる。

「何があった?」

 銃口をフランに向けたまま、仁は妖夢に聞いた。彼女は床に突き刺さっていた刀を引き抜きながら、

「分かりません。ただ、弾幕ごっこをしよう、とだけ」

 弾幕ごっこ。それを聞いてあまりいい思い出は出てこない。

 守矢神社での洩矢諏訪子との戦闘も名目上は弾幕ごっこだった。

 あの時は彼の守り神(バル)が代わりに戦ってくれなければ勝つことは難しかっただろう。

 なら、今はどうだ? 

 様々な戦いを経て、彼の経験値は貯まった。

 実質的な二戦目となる今回の戦いなら前回よりも勝機はある。

「……!」

 妖夢が刀を構えて、フランに向かって走り出す。

 フランは特に動じることも無く、自身の背面に紅色の魔法陣を展開する。魔法陣からは彼女の頭程はある同色の紅色の弾幕が放たれる。

 そして、妖夢の眼前にまで迫った弾幕に、彼女は右手に持つ刀━━白楼剣を振りかざした。

 弾幕は両断され、消える。しかし、弾幕は魔法陣から止まることなく生まれ襲いかかってくる。

 次々とやってくる弾幕に、彼女の刀を振るう腕も止まない。

 弾幕を切りながらも、彼女はフランの目の前に辿り着く。

 彼女の目に映るのは、ぐにゃりとした笑顔を浮かべるフランの顔。

 やがて、妖夢は弾幕が止んだことに気づく。

「あなた、中々やるね!」

 フランが言う。

 これは弾幕ごっこ。幻想郷で最も有名な遊び。

 しかし、遊びではあっても決して安全ではない。

 怪我もするし、時には死んでしまうこともある。

 だから、絶対に気を抜いてはならない。

 しかし━━

「六道剣『一念無量劫』!!」

 妖夢がスペルカードを宣言した。すると、彼女の前に八芒星と呼ばれるような形の光が現れたかと思えば、そこから白色の弾幕が発生した。

 少なくなくとも、少年にはそう見えていた。

 だが、実際はその八芒星は高速で放たれた斬撃によって形作られたとは思ってもいないだろう。

 やがて、二人を光が覆った。

「何が……!?」

 未だ、何も出来ないでいた少年はその光景を見て絶句した。

 今妖夢の援護に向かってしまえば、逆に足を引っ張ってしまう。良くても、戦況をかき乱すのがオチだ。

 悪ければ、二人まとめてフランにやられてしまうだろう。

 光が晴れる。

 そして、そこには二人がいた。

 片方はボロボロだった。当たり前だ。

 だが、違和感があった。

 それと少年には、幻覚が見えているらしい。どうして、攻撃をしたはずの妖夢がボロボロになっているのだろうか? 

「なん、で?」

 片膝を着いた妖夢が言った。

 妖夢のスペルカードが発動した瞬間、フランも一瞬だけ攻撃を与えていたのだ。

 問題なのは、スペルカードではなく通常の攻撃(ショット)だということ。

 きっと、妖夢は少しでも思ってしまったのだろう。

 相手は子供なんだと。

 これだけやれば、事足りる。あれ以上はやりすぎだ。

 なんて思ったのが悪かった。

「あれ? もう、お終い?」

 フランが言った。確かに、その言葉は子供のような純粋さを感じる。

 そして、その直後に浮かべた笑顔も子供のようだった。

「なら━━」

 しかし、その次にとった行動は彼女が吸血鬼と呼ばれる人間とは別種族であることを認識させられるような、残酷なものだった。

 

 

「━━もう、壊れて」

 

 

 彼女は右手を前に出す。その手のひらには、生き物の"目”のような物が浮かんでいた。眼球のような物でなく、例えるなら生き物の顔から、目の部分だけを切り取れば近いものになる。

 彼女はその目を潰すように手をゆっくりと握り始める。

 直後、妖夢に異変が起こった。

「あ、あああああぁぁぁ!!!」

 突然、胸を抑えたかと思えば彼女はうずくまる。その目は見開かれ、口からは嗚咽のような悲鳴が絶えず出てくる。

「妖夢!」

 徐々に彼女の悲鳴が大きくなる。恐らく、あの目が握りつぶされた時、妖夢は……。

「クソっ!!」

 少年が走り出す。銃の代わりに近距離用の刀に持ち替えながら。

 怪我はさせたくはない、だから彼は鞘に収まったままの刀を、苦しむ妖夢に夢中のフランに振るう。

 カキンッ! という金属音が響く。

 フランの体に届く前に、彼女の手にあるぐにゃぐにゃとした棒が刀を止めたのだ。それに彼女は片手でそれを受け止めている。

 なのに、度々鞘に付いた金属製の装飾とぐにゃぐにゃした棒の間から火花が散る。彼女の腕力は、見た目にそぐわずパワフルな様だ。

「お兄さんも、私と遊びたいの?」

 背筋に寒気が走った。小首を傾げながら言う彼女は幼い少女そのものだ。しかし、その目は人間の物ではない。

「これでも、喰らえ!」

 少年は右手を突き出す。すると、フランの体が浮かび上がりそして図書館の奥へと吹き飛ばされた。

 手を触れずに物を動かす程度の能力。それが彼の能力の名前。文字通り、ある程度の距離が離れた物でも動かすことが出来る。

 最近、少年はこの能力を徐々に使えるようになってきた。初心的な物を動かすことから、攻撃用の技を作れるまで。

 今やったフランを飛ばしたのも、その技の一つだ。

 ……だが、同時にそれを使うことにより引き起こされる副作用も同時に知ることとなった。

 小物程度なら大丈夫だが、人やそれと同じような大きさの物を動かすと頭痛が生じるようになるのだ。段々と重くなるにつれ、それは酷くなり最終的には意識を失う程ことになる。

「痛っつ……」

 つい頭を押さえてしまう。今すぐ、妖夢の容態を確認しなければいけないのに。

 そう思い出し、彼は妖夢に駆け寄る。

「おい、大丈夫か?」

「え、ええ……」

 そう言って立ち上がるのだが、未だに彼女の調子は優れていなさそうだ。

 フラフラと立ち上がる彼女に肩を貸しながら、少年はフランの方向を見る。

「…………」

 やはり、立ち上がっていた。

 前回の戦いの時、フランに傷を付けることは叶わなかった。……いや、傷つけることは出来たのだ。しかし、彼女の吸血鬼としての能力なのか、例え傷が出来たとしても瞬時に塞がってしまうのだ。

 比喩表現でも何でもない、文字通りの事だ。

「どうする……?」

 恐らくだが、真っ向勝負で仁が勝てる確率は限りなく低い。純粋な高い火力と耐久力、これらに勝つための力は生憎と彼は持ち合わせていない。それこそ、回復が間に合わない程の火力をぶつければ何とかなるかもしれないが、あるいは。……何故、あの白黒の魔法使いがフランに勝てていたのかが分かった気がする。

 そもそも、根本から何かが違う気がする。

 そういえば彼女は遊んでいるのだ、必死で戦おうとしている少年とは違う。

 どうにか倒したとしても、彼女の頭を冷やさせることは難しいだろう。そもそも、彼女は人間と同じ価値観を持っているかどうかも定かではない。そんな一度倒しただけで、"遊び”を辞めさせることは出来ないかもしれない。

 だったら、殺してしまえば楽に解決出来る。余計な被害も出すことも、自分自信が傷つくこともない。

 しかし、少年はそんな逃げるようなマネはしたくない。そんなのでは、ただ考えることを放棄した"楽”を選んだに過ぎない。他に道があるのに考えもしない行動だけは、絶対にしたくない。

 ……でも、他に道なんてあるのだろうか。

「……? ちょっと待てよ」

 そこで彼は何かに気づいた。そう言えば、フランは弾幕ごっこをしよう、と言っていたのだ。

(そうだ、そうだよ。あいつは遊びたがってるだけじゃねえか。なのに俺たちは……)

 少年は心の中で舌打ちをする。

 恐らく、彼女に勝つためには、彼女と同じ目線にならなければならないのかもしれない。これを戦いではなく、一種の遊びと思うこと、それが少年が勝つための道だ。

 そして、彼は持っていた刀の先をフランに向ける。

 彼とフランの距離が10メートル程離れていた時のことだ。

「なあ、はじめまして(、、、、、、)だな!」

 突然響いた少年の声を聞いたフランは、小首を傾げ怪訝な顔をする。

「お兄さん、普通の人間じゃないの?」

「まあな! なぁ、お前は何て名前なんだ? 俺は、神川 仁って言うんだ」

 それを聞いたフランは、怪訝な顔からパーッとした笑顔へと変わる。

「私? 私はフランドール・スカーレット!」

「そうか! それじゃあ、フラン。

 

 

 

 

 俺と遊ばないか?」

「本当? ええ、それなら遊びましょうよ!」

 そう言ったのは良いが、結局やろうとしているのはドッチボールのボールが銃弾になって飛んでくるような状況で、いかに上手く自分の身を守りながら相手を満足さられるか、ということ。

 無論、一発でも攻撃が当たれば無事では済まない。

(言ったのは良いけどな……、こんなに怖ぇなんてな)

 あんなことを言っていたが、それは彼に襲いかかる恐怖を隠すための虚勢を張っただけだ。

 それでも、言ったことは取り消せない。

 もう、後戻りは出来ない。

 出来るのは、覚悟を決めることだけだ。

「……やるしか、ないよな」

 刀を鞘から抜き、鞘を腰に戻すと、もう片方の手でM17を持つ。

 M17のストックは伸ばさずに片手で撃てるようにした。もう片方の刀は防御用も兼ねる大事な代物。

「よし、行くぞ!!」

 そして、彼は走り出した。




今回は特に言うことは何も無いです。
強いて言うなら、とあるアメリカのメーカーが出したキットでカービン化されたM17が滅茶苦茶にカッコよかったので登場させたことぐらいです。
サブウェポンにしちゃデカいやら、それならPDW持ってきゃ良いやら言われてましたが、カッコ良ければ全て良しです。
それでは、今回もこれで…
誤字や脱字に、日本語が変な部分があったらご報告して頂けると幸いです!!
では、こんな小説を読んでいただきありがとうございました!!


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再戦、吸血鬼

「禁弾『カタディオプトリック』!」

 現在、少年はおびただしい数の弾幕に襲われていた。今のところは、刀一本でどうにかなっているが、それが通じなくなるのも時間の問題のようだ。

 現在まで、フランが宣言したスペルカードは計4つ。

 禁忌「クランベリートラップ」

 禁忌「レーヴァテイン」

 禁忌「カゴメカゴメ」

 そして、現在発動している禁弾「カタディオプトリック」。どれもこれも避けるのが難関なくせ者ばかりだ。

「うっ……」

 弾幕を受け止めた際の衝撃が、刀を伝って体に響く。両手で持てばどうにかなるかもしれないが、生憎と左手は拳銃で塞がっている。

 弾幕が薄くなった一瞬の隙に拳銃でフランを撃つ。

 銃弾型の弾幕が、宙を飛びながら弾幕を放っているフランに命中する。彼女は一瞬だけ怯み弾幕の密度が下がる。

 しかし、彼女はすぐに体勢を整えると、

「お兄さんも、中々やるね!」

 と、無邪気な、そして心の底からの笑みを浮かべて言う。そして、再びあの弾幕が襲いかかってくる。

「そりゃ、どうも……!!」

 さっきよりは密度は下がれども、攻撃の苛烈さは変わらない。やはり、このままではジリ貧だ。

 それにしても、素人の中の素人であるはずの仁が弾幕を斬れる程にまで成長したとは、彼自身思いもしなかった。フランの放つ弾幕は銃弾型の弾幕に比べれば速度は遅い方だが、それでも時速20キロ程はあるはず。それなのに彼がこうして五体満足で居られているのは、彼が避けることよりも弾幕を斬ることに重点を置いているからだろう。

 彼がやっているのは、妖夢のように弾幕を斬りに行くのではなく、弾幕が来る位置に刀を置いているだけだ。そうすれば自然と近づいてきた弾幕は斬れる。

 それらを教えてくれた妖夢は、相当の腕なのかもしれない。……もしくは、少年の頭の中に残るあの時の名残かもしれないが。

 どちらにせよ、後で『ありがとう』と伝えなれけばならないのは確かだ。

「にしても、いつまで続ける気だよ!」

 つい叫んでしまったが、無理もない。何故なら、弾幕ごっこを始めてからはや30分。正直に言って、彼の体力は限界に近い。重い刀で弾幕を凌ぎ、どうしても凌ぎきれないのは避けて、密度が濃い弾幕の間に弾幕を撃ち込む、などとやっていれば自然と体力は消耗してくる。

「……でも"そろそろ”だな」

 そして、彼はフランに背を向けて走り出した。

 突然のことにフランはキョトンとする。だが、直ぐにぐにゃりとした笑顔へと戻る。

「どこへ行くの? まだ遊びましょうよ!」

 その言葉に耳を傾けずに少年は走り続ける。やがて、彼は横にある大きな本棚に挟まれた通路へと入り込む。

 その後をフランが追いかける。しかし、通路を曲がった先に少年の姿は無かった。

「あれ?」

 少年の意図が掴めないままフランは通路へと入り込む。その際に彼女は地面へと着地する。

 この紅魔館にある図書館というのは、地球上にある図書館の中でも上位にあるであろう広さを誇る。少なくとも、外の世界の人間は地下4階にまで及ぶ図書館なんて見たことは無いはずだ。

 だから、このフロア一階でも相当の広さがあるのだ。構造としては、中央にある吹き抜けを囲むようにドーナツ状に存在している。そして奥行もかなりあったり、本棚も高さ自体は結構あるのだが長さは短いため、それらが置かれて作り出されるのは、まるで迷路のような複雑で広い空間だ。

 そんな中に少年は入り込んだのだ。当然、そこで繰り広げられる鬼ごっこでの鬼の立場はあまり良くはない。鬼、であるフランはとりあえず、その迷路を(しらみ)(つぶ)しに探すことにした。

 しかし、

「どこ?」

 見つからない。

「どこに行ったの?」

 見つからない。

「分かった、ここね! ……あれ?」

 見つからない。

 どこを見ても、どこを探しても、居ない、見えない、見つからない。

 あれだけ積極的にフランと相対していたはずの少年の姿は、どこにも無かった。

 フランは少年に対する怒りよりも先に、何故こんなことをしたのかという疑問が湧いた。

 と、その時。

 バタン! 

 何かが落ちる音が聞こえた。何か、というかそもそも此処には本しかないため、本以外のものはあまり考えられないのだが。

 音が聞こえた方向に、フランは猛スピードで向かう。

 そこへたどり着いて、あったのは地面に落ちた本だけだった。あの少年がやったのだろうか? 

 考えるよりも先に、再びバタンという物音が聞こえた。

 今度は先ほどよりも近い位置から聞こえた。

 再びフランは、音が聞こえた場所へと向かう。

 しかし、そこにも本しかなかった。

 また、音が聞こえた。フランは向かう。

しかし、そこにも本しかない。

 今度こそ、フランの中には怒りの感情が湧いてでてきた。

 さっきまでは、私が遊んでいたのに。これではまるで私が遊ばれている(・・・・・・)ではないか。

 恐らく、これは物音によって彼女を誘導しているのだろう。それになんの意味があるのかは分からないが、フランにとってはそれは屈辱以外の何物でもないのは確かだ。

 その時だ。

「どうだ、そろそろ疲れてきたか?」

 と、正面の通路の角から仁が現れた。

 彼の顔には穏やかな笑みが浮かんでいる。

 それが更に、フランを怒りに油を注いだ。

 馬鹿にしているのか。

 言葉にならない叫びと共にフランが、少年に飛びかかる。

 彼女は右腕を振りかざす。その手に持つレーヴァテインは火を纏う、それによりぐにゃぐにゃした棒は炎の刀身をもつ剣へと変わった。

 その剣は見覚えのあるものだった。少年の攻撃を武器ごと砕いた、あの時のトラウマが蘇る。

 そして、火を纏った剣が彼を襲う。

 フランはレーヴァテインを横に払った。少年は身を屈んでそれを回避するが、若干避けきれていなかったのか髪の毛が焦げる臭いが鼻に届く。

 その際に生じた隙を少年は見逃さなかった。

 怒りにより仁を殺すことしか彼女は考えていない、ならば、それ以外の事━━自分が反撃されるということも考えられなくなる。だから、わざわざこんなリスクを負ってまでこんな作戦を行ったのだ。

 刀を両手で持ち、油断しきっていた彼女の華奢な体にぶつける。刀とは鉄の塊、そんな物で殴られればたとえ吸血鬼でも無事では済まない。

 ドン!! という重い音が響く。フランは一瞬だけ固まったと思えば、手にしていたレーヴァテインは炎が消えてただのぐにゃぐにゃときた棒へと戻り。彼女自身の体もゆっくりと床へ倒れる。

 そこにあるのは弾幕ごっこ特有の、美しい弾幕は無く。あるのは無情な一撃だけだった。

「あっ……?」

 フランの口からそんな声が漏れた。彼女は徐々に閉ざされつつある視界に仁を収めると、

「やっぱり……あなた、どこ……か……で……?」

 とだけ言うと、彼女は気を失って少年へと伸ばしていた腕が床へとパタンと落とす。

 そんな彼女を見ながら、仁は抜いていた刀を鞘に収める。前回とは違い、今回は上手くいったらしい。

 彼女の、"フラン”という人格だったから勝てたようなものかもしれない。もしこれが"誰か”に操られていて、気を失うことさえ許されない状態だったら少年に勝機は無かっただろう。

 ……そういえば、これはまだ遊びの範疇なのだろうか。少年は思った。

 弾幕ごっこの勝敗に関しては詳しくないのだが、ほとんど闇討ちのような攻撃で倒すことは卑怯ではないのか? それにフランが目覚めた後、自身が騙し討ちされたことを知ってどう思うのだろうか。

 どちらにせよ、結果的に少年は生きている。これだけでも奇跡だと少年は思うことにした。

 と、その時。

「あら、フランを倒したのね」

 背後から声が聞こえた。

 声は幼い少女のものだったが、その声からは想像もつかない貫禄のようなものを少年は感じとる。

 振り返れば、そこにはレミリア・スカーレットが立っていた。

 月の一件以来の顔合わせだ。

 紅魔館の当主であり、今のところ仁が一番文句を言ってやりたい人物でもある。

「何の用だ」

 仁はM17カービンカスタムのストックを伸ばして肩につける。そして、その銃口をレミリアに向ける。

 しかし。

「っ!?」

 突然、構えていた拳銃が消えた()

「そんな物騒なもの向けないでちょうだい」

 見ればレミリアの横には、銀髪のメイド服の女性が立っていた。その手に分解されたM17を持って。

 確か、メイド服の女性━━十六夜 咲夜は時間を止めることが出来る能力を持っていたはずだ。もしかしなくても、彼女が時を止めて少年の拳銃を奪ったのだろう。

「ずっと見てたのか?」

 少年はレミリアに尋ねた。

「いいえ、今来たばかりよ」

「そうか。でも、姉なら暴れてる妹を止めるもんじゃないのか?」

「まさか。私は貴方が勝つと分かっていたわ」

「ふざけんな! お前、俺を何だと思ってやがる!!」

「……何ですって?」

「何が、勝つと分かっていた、だよ。俺は人間だ。殺されるかもしれなかったのに」

 急に憤りを見せた少年に、レミリアはただ黙るだけ。

「……」

「それになんだ、いきなり俺を月に連れて行っておいて、……ごめんの一つもないのかよ。こっちは殺されかけたんだぞ!」

「……それ……は」

「もういい! 俺は帰る」

 そう言って、少年は近くにあった上へとつながる階段を上って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仁さん、本当に良かったんですか?」

 少年が図書館の最上階に来ると、そこには魂魄妖夢がいた。彼女は仁をみるなり、心配そうな声で言った。

「ああ。他人任せに戦うのは嫌だからな。これで俺が一人で戦えるって分かっただろ?」

「そうですが……、怪我は大丈夫なんですか?」

「髪の毛が少し焦げたぐらい」

「ほぼ無傷じゃないですか」

 呆れた妖夢が言う。

「ほとんど防御にまわってたからな。攻撃したのは一回だけ」

「それじゃあ、私が教えたことは出来たんですね」

「まぁな、というかあれが出来なきゃ死んでた」

 二人が言っているのは、刀を使って弾幕から身を守るという技のこと。どんな大きさの弾幕でも、その技さえ出来れば凌ぐことが出来る。

「なら、もっと鍛練しましょう。貴方ならもっと強くなれるはずですから」

「では今後ともよろしくお願いしますよ、師匠(・・)

 と、そこで彼は何かを思い出したかのようにハッと後ろを振り返る。

「どうかしましたか?」

「いや、ちょっとな。もうそろそろボロが出るんじゃないかってな」

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 図書館にある丸いテーブルとセットのアンティークな椅子に、レミリア・スカーレットは腰を掛けていた。

 そんな彼女は深刻そうな面持ちで頭を抱えていた。

「……ねぇ、咲夜」

 と、彼女は横に立っているメイドの十六夜咲夜に言った

 。彼女は、はいとだけ言うと、

「私、何が間違ってたのかしら」

「全て、です。あの少年が怒るのも当然かと」

「そう、よね……。やっぱりもう少し、あのスキマ妖怪に似せた方が良かったかしら」

 それは絶っ対に間違っているかと、そんな言葉が出てきそうになり咄嗟に喉の奥に押し込む。

 そう、彼女は彼女で悩みを抱えていた。八雲紫が連れてきたという、あの外来人のことについてだ。

 レミリア・スカーレットは守矢神社で開かれた宴会の時から彼のことは気にはなっていた。それは、何故ただの人間が守矢の一柱を倒したのかという興味があっての事。

 宴会の時は、ちょっとからかってやろう程度で月に連れていこうと言っていた。しかし、その後に起きた紅魔館での彼女の妹━━フランドール・スカーレットが暴走に似た何かを起こした日。

 あの日、少年が妹を倒したと聞いた時、レミリア・スカーレットは久方ぶりに焦りを見せた。

 彼は強いのだろう。ならば、外来人で強力な人間をこの紅魔館に引きいれれば、彼女達の幻想郷でのカーストは上位になるのではなかろうか? 

 そして、周りも同じような事を考えているかもしれないという考えも同時に思い付いた。

 彼女は月に行くという計画を建てていた。

 そこへあの外来人を連れていけばどうだろう。彼は空に浮かぶあの月へ行き、そして自らのカリスマに惹かれて自然と彼は近づいて来るのではないか。

 彼女はそう思っていた。

 だが、現実はそんな幻想には程遠かった。

 月に向かっていたロケットは途中で崩壊し、乗っていた少年は月の大地に落ちていった。

 その後、彼が無事に帰れたとは聞いた瞬間に安堵はしたもののまた別の問題が彼女の中に生まれた。

 実の所、彼女はあまり人間と長らく話すことはなかった。会うことはあっても、それは生きている人間ではなく食料として加工されたものとだけ。生きている人間、ましてや普段なら真っ先に殺されるはずの外来人となれば尚更。

 接し方なんて分からないし、扱いも分からない。

 そんなわけで、不器用なお嬢様"レミリア・スカーレット”は悩んでいる。

「それほど、あの少年のことが気になるのならもう一度話してみてはどうです?」

 やや投げやり気味に咲夜が言った。

「無理よ……」

 彼女は珍しく弱気な声で答える。

「どうしてです?」

「だって、あの様子だと怒っているじゃない」

「なら、謝ればよろしいのでは?」

「それは嫌よ! そんなことしたら、私の……威厳が無くなるじゃない!」

 そんなことを言うから無くなるんです、再び喉の奥からそんな言葉が飛び出ようとした。

 目の前では尽くすべきお嬢様が、やれカリスマやら威厳やら、と騒いでいる。

「そんなに言うなら、もう彼の事は諦めた方がよろしいのでは?」

「それはそれで嫌!」

 彼女は吸血鬼だ。長い悠久の時を生きており、その体は500年を過ぎているというのに幼い少女のままだ。

 ……そして、たまに見た目相応の幼さを見せる彼女は、こうやって周りを振り回すこともあるのだ。

 と、その時。

「ふぅん、そうゆーこと」

 どこかから、あの少年の声が聞こえた。

 振り返ると本棚の横から神川 仁の顔が覗いていた。

「誰かに似てんなって思ったら、そうか紫か」

「ち、違っ……」

 らしくない言葉を発したレミリアの顔は真っ赤に染まっている。

「だいたい、何かおかしいと思ったんだよな。喋り方がいちいちセリフ臭いし、妙に棒読みみたいだし……って、まさか練習してたりするのか?」

「違う!」

 完全で瀟洒なメイド長は見ていた、カリスマ溢れる吸血鬼であるレミリア・スカーレットが寝る前に、メモに書かれた台詞を一生懸命音読していた所を。

「それに、一つ言うけどよ」

「な、何よ!」

「紫の真似は辞めた方がいいぜ、あんなのカリスマ云々の前に胡散臭すぎて誰も近寄りたくなくなるぞ」

 あ、それ言っちゃいけない。

「……ふふ」

 俯いたレミリアは、不意にそんな笑い声を上げた。

 それは決して愉快だからという訳ではなく、単純に怒りが限界を突破していたからである。

「ただの人間風情が言ってくれるじゃない……」

 彼女のこめかみには青筋がたっていた。

 完全にブチ切れている。

 レミリアは、自身の右手に赤色の槍を出現させるとそれを少年な方向へと投げつける。

「うおっ!?」

 少年は避けるが、赤色の槍は彼の後ろの本棚に当たると赤い光と共に爆発を起こした。

「…………」

 ゆっくりと、少年は振り返る。

 あのフランの攻撃にも耐えていた、恐らく魔術が掛けられて高い耐久性を得ていた本や本棚が、クレーター状に抉れていた。

 徐々に少年の顔が青白くなり、血の気が引いていく。

 不味い、からかい過ぎた。

「もういい、お前はここで殺してやる。安心しなさい、お前の死体はフランのディナーにでもしてやるから」

 再び、レミリアの手に赤色の槍が握られる。

 次に少年がとった行動は、全力で出口に向かって猛ダッシュ。

 後ろから赤い槍やら弾幕やらに加えて怒号が飛んでくるが、後ろを振り返るor立ち止まるなどの行動をした途端、彼の短い人生は終わりを迎えることとなるため、気に留めず、無我夢中で走ることにした。

 かくして、途中で拾った妖夢を巻き込んで紅魔館を舞台とした壮大な鬼ごっこが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……あれ、咲夜?」

 フランドールが目が覚めて最初に見たのは、彼女が住む紅魔館のメイド長だった。

 そして、いつの間にか図書館から自分の部屋へと戻っていたことも知った。

 彼女はベッドから起き上がると、

「あの人間はどこ?」

 と、キョロキョロと周りを見回しながらベッドの横に立つ咲夜へと聞いた。

「あの人間?」

「ほら、半人半霊と一緒にいた」

「あの外来人のことですか。彼なら先ほどお帰りになりましたよ」

「そう、なんだ」

 彼女は残念そうに俯く。それはどこか寂しそうでもあった。

「ねぇ、聞いてよ咲夜」

「何ですか、妹様?」

「アイツったら非道いのよ。私と遊んでいたのに、急にどこかへ行っちゃったの」

 彼女はふんすと頬を膨らませながら、

「だから私は怒ったのだけれど……でも、その先は覚えてなくて」

「きっと、お疲れなのですよ。今日の妹様はまだ日が高いうちから起きていましたから。まだ、夜までは時間があるのでそれまでゆっくりとお眠りになっては如何ですか?」

「そうする」

 そう言うと、フランドールはベットに寝転がる。

「……ねぇ、咲夜。あの人間って前にも会ったことあったっけ?」

 少女は天井を見据えながら、言った。

「…………」

「咲夜?」

「……一度だけ、妹様がお眠り(・・・)になっておられる時にお会いしましたよ」

「そうなの?」

「ええ」

「もしかして、その日って私がなんにも覚えてない日のこと?」

「……はい」

 そんな彼女を見てフランドールは小首を傾げ、疑問に思った。

 今日の咲夜はどこか様子がおかしい。そう思った彼女は言う。

「咲夜、私に何か隠しごとしてる?」

「いいえ、滅相もございません」

「例えば、この前のこととか。……私が知らないうちにみんな怪我してて……、私が寝ている()時なにがあったの?」

「私から、言えることは何もございません」

「…………」

 答えることも無く、フランドールは寝返りを打って咲夜に背を向ける。

「あの日のこと、私は覚えてないの。……でも、すごく怖かった」

「きっと悪い夢を見ていたのですよ」

「でも、怖いだけじゃなかった。まるで……私が私じゃなくなるって思ったの。何かに塗りつぶされるみたいに」

 一度言葉を切り、鼻をすする音が聞こえると再び話し始める。

「もし、あれが悪夢だったのなら。私を起こしてくれたのは誰なの?」

「分かりません。もしかしたら、その方は素敵な方かもしれませんよ」

「魔理沙みたいな人間かな?」

「そうですね。そのような方かもしれません。では、私は用事がございますので。……おやすみなさい、妹様」

「……うん、おやすみ咲夜」

 そうして咲夜は、フランドールに背を向けて彼女の部屋の分厚い鉄の扉から出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ということで、フラン戦二回目です。
前回のとは違い今回は理性がまだある状態での戦闘でしたので、個人的には暴走した時より描きやすかった印象でした。
…まぁ、前回書いてた時は自分の力不足感も否めなかったんですが。
それと一応補足しますが、基本的に仁くんはスペカを使うことは出来ません。弾幕を自力で作れず、かと言って作れたとしてもバリエーションが少なすぎるので、今はまだ無理なんです。
まぁ、その話はまたいつか…
誤字や脱字、それに変な日本語があったらご報告していただけると幸いです!
それでは、今回もこんな小説をよんでいたありがとうございました!!





それと、仁くんの髪はアップバング的なのを想像しといてください。


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予期せぬ刺客

明けましておめでとうございます(^ω^)


 紅魔館でのリアル(吸血)鬼ごっこは、神川 仁がレミリアにフラッシュバンを投げ渡したことで終わった。

 吸血鬼は日光に弱い。それは博麗神社での火傷まみれのレミリアを見たため、その事は重々承知している。

 そのため、吸血鬼に閃光手榴弾というのはめっぽう効果的なのは明らかだった。とは言え、やはり人工的な光というのは太陽の光とは違うようで、その閃光を浴びたレミリアはこの前のように火傷が出来ることなく、単純に目を回して倒れただけだった。

 そして、無事に生きて紅魔館から出ることが出来た仁は妖夢とここで別れる事となった。

 理由としては、彼女の主━━西行寺 幽々子がもうそろそろ外出から帰ってくるかもしれないとのことらしい。

 見れば、太陽は段々と西に傾きつつある。どうやら、自分も家に帰らなければならない時間らしい。

 割と紅魔館に滞在していた時間は長かったみたいだ。だが、得られた情報も経験も多く、その時間は決して無駄ではなかったのも事実だ。

 しかし、一つだけ問題が残っている。

「……あんのヤロー、本当にどこに居るんだ?」

 それは、彼の元に突然やって来て勢いのまま、共に仕事をしている月の兎である"鈴華”のことだ。

 紅魔館へと来たのも、そんな彼女を探すためだった。だが、彼女はそこには居なかった。

 他に宛があるとするなら、人が多く集まる人里ぐらいなのだが、買い物のため人里に出向いたという紅魔館のメイド長が言うにはそんな人物を見てはいないらしい。

 外の世界の服装に身を包んだ鈴華が人里で目立たない筈がない。それか、それほど長い間滞在していなかったかのどちらかだろう。

 どちらにせよ、彼女が見つかるまで外の世界へ帰ることは出来ない。

 と、その時。

 トントン

 霧の湖のほとりを歩いていた少年の肩に小さな手の感触がした。

 振り返って見ると、そこには兎の耳があった。なんだこりゃ、と視線を下に移すと。

 いつだかのイタズラ兎がそこにいた。

 薄いピンクのワンピースに人参のネックレス。以前、少年を罠にはめ、彼と竹林で鬼ごっこを繰り広げた少女がそこにいた。

「お前、確か……」

 あん時のウサ公、という言葉が口から飛び出る前に彼の意識は彼女が持っていた一通の手紙に向けられた。

「はいこれ」

 それを彼女は差し出してきた。

 困惑する少年はひとまずその手紙を受け取ってみる。

貰ったのは、手紙…と言うよりはメモを半分に折っただけの簡素な物だった。

 幻想郷で貰った手紙のほとんどは蝋で封がされたステレオタイプのものだったので、逆に新鮮に感じる。

そんなこんなで、これには何が書かれているか気になってしょうがなかった。

 だが、手紙を開くと━━━

『お前の相棒を預かっている。返して欲しくば、迷いの竹林へと来い』

 と、殴り書かれたような乱雑な時で書かれていた。

少年の呼吸が凍りつき、思考が止まる。

ハッと我に返った少年は咄嗟に口を開いた。

「おいこれ、どういうこ……と……だ?」

 兎の少女は、いつの間にか彼の前から居なくなっていた。

「……どうなってやがる」

 急な出来事に未だ困惑していた少年は、ひとまず竹林へと向かうことにした。今の今まで途方に暮れていた少年にとってはチャンスなのだろう。

 ……しかし、少年にとっては何かが引っかかるのだ。まるで誘導されているかのような、そんな感覚が湧いて出てくる。

 とにかく、今は竹林に向かわなければ何も始まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷いの竹林。

 名前の通りその竹林を訪れた人間は方向感覚が狂い帰り道が分からず迷ってしまうのだという。それが科学的要因なのか、妖怪などによるオカルトチックな要因なのかは分からないが、どの道この竹林に入り込んだ者は、よほどその竹林を熟知していなければ脱出することは叶わない。

 前にこの竹林に仁が訪れた時は、途中で迷いはしたものの幸運にも偶然目的地である永遠亭へ辿り着くことが出来た。

 今回はそう上手くはいかないと思っていた。しかし、竹林に入ること数十分、仁の目の前には何度か見たことのある一軒の和風の建築物があった。

 そして、永遠亭の前には見た事のある一人の少女が立っていた。その少女は兎のような耳が生え、まるで外の世界の女子学生の服装をしている。

「なぁ、あんたが俺を呼んだのか?」

 少年は鈴仙に向かって言った。

「ええ、そうよ」

 返ってきたのは、それ以上は必要のないかのような機械的な感情のこもっていない返事。

 予想だにしていなかった彼女の反応に少年はビクリと驚いてしまう。

 少年は薄々と感じていた。彼の相棒である鈴華と、永遠亭で何度もお世話になった鈴仙には共通点があることに。そして、それになんの関係があるのかという疑問も。

 兎の耳はもちろん、思い出してみれば初めて鈴華と出会った時、彼女の着ていた服は目の前にいる鈴仙と同じものだった。

 そうなると、何故月にいるはずの玉兎が地上にいるのかという疑問が残る。

 すると、鈴仙はおもむろに口を開いた。

「……さっきね、あの娘と話したのよ。久しぶりに面と向かってね」

「って言うことは、やっぱりあんたと鈴華は知り合いなのか?」

「戦友よ。それであの娘の話を聞いてたらね、一つ思ったのよ」

 そこで初めて少年は気付いた。鈴仙から、ただ寄らぬ気配がすることに。それに感情のこもっていないと思い込んでいた彼女の言葉からうっすらと感じるのは一種の怒りのようなモノ。

 そして、彼女は言った。

 

 

「あなた、一体何が目的で今の仕事をやってるの?」

 

 

「何の……目的……?」

 困惑している少年の反応を気にもとめずに鈴仙は続ける。

「聞いてみれば、危険な仕事ばかりしているって言うじゃない。私達みたいな兵士ならまだしも、あんたみたいな子供がそんな危険なことに自分から首突っ込むなんて有り得ないわ。そんな事したがるのは危険を危険って思ってない未熟者か真性のマゾヒスト、それか自殺志願者ぐらいよ」

 そう言って鈴仙は腰に手を回すと黒い物体を取り出した。

「それは……!?」

 鈴華が持っていたはずのUSP、と少年は言おうとしたが鈴仙がUSPの銃口を向けたことによって黙ってしまった。

「それがね、怖いのよ。あなたみたいなのが幻想郷にいると何をしでかすか分からないから」

「……」

「良い? 私はあんたを殺す。昔から危険因子は早めに潰せ、って習ってたから。だから恨むなら、自分を恨んで」

 突然、竹林の隙間から差し込む夕日に照らされた鈴仙の目が赤く光った。同時に彼女の体がぶれた(・・・)。少なくとも少年の目にはそう見えた。

 姿がぶれたかと思えば、彼女の体は三つに分身する。

 今見えているのが現実なのか目を疑いたくなる光景に、訳の分からないまま少年は背中へと手を伸ばし刀を抜いた。

 三人の鈴仙が拳銃のトリガーに指をかけて、引いた。

 それぞれの銃口から放たれた3発の銃弾型の弾幕は散弾のように何発にも分裂する。

(なんだよ、それ!?)

 一発や二発程度なら刀を使えばどうにかなる。だが、何十発にも分裂してしまったとなれば避ける他ない。

 そして、少年は左側へと避けて、そのまま地面へと突っ伏す。

 弾幕の散弾は少年の右肩を掠ると、背後の竹に吸い込まれていった。すると、竹はメキメキと嫌な音を立てながら倒れてきた。

 今度は、倒れてくる竹から逃れるために横になっている体を転がす。

「逃げてばっかりじゃない。まさか、本当に被虐願望でもあるの?」

 気付けば、一人になっていた鈴仙が言う。

「言っとけ……!!」

 鈴仙の煽りに、少年は素早く起き上がると刀で斬り掛かる。彼女は避ける動作もせず、降りかかる刃を受け入れた。……ように見えた。

 そして、刃が触れた瞬間彼女の姿が消えた。

「どうしたの? 狐にでも化かされたような顔をして」

 背後から声がし振り返ってみれば、そこには斬ったはずの鈴仙が立っていた。

「狐、ってよりはマジシャンだな。まぁ、手品師にしちゃ持ってるもんが物騒すぎる、そんなもんよりステッキ持った方が百倍似合うぞ」

 若干苦虫を噛み潰したような顔をしながら、仁は皮肉を吐き出す。

 ここでやっと、少年の中で決心がついた。

 これは戦い。殺す気でいかなければ、こちらが殺られる。

 なぜ、彼女が自分を攻撃するかは分からないが、そんなこと彼女を倒してから考えれば良い。

「私が手品師、ね。ならこのマジックのタネを明かしてみなさい!」

 そう言うと彼女の目が再び赤色に光る。

「幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)!」

 鈴仙が言う。そして、彼女を中心に赤色の弾丸型の弾幕が発生し、広がった。

 その多くの弾幕は先程と同じように分裂を繰り返し、再び少年に襲いかかってくる。彼女の髪と同じ色をした弾幕は、既に少年が刀を使って捌けるような数では無くなっていた。

 それなら、また隙の大きな回避をしなくてはいけない。回避をすれば、彼女には"敵は、攻撃をすれば必ず回避をする。そして、回避すれば大きな隙が出来る”と感ずかれてしまうという危険性もある。

 だから、なるべく回避以外にあの攻撃をどうにかする方法は無いか。と、少年が迫り来る弾幕の壁を前に考えていた、その時。

 目の前の弾幕の壁が消えた。

「なんだ……?」

 これが彼女の言っていたマジック、なのだろうか。しかし、殺害予告をした少年に向かってこんな無意味な事をして何になるのか。少年が疑問に思っていると、突然。

 彼の体に、激痛が走る。そして同時に少年の視界は光に埋めつくされる。

「がっあぁあ!?」

 何があったのか分からないまま、少年は地面へと倒される。そして、理解した。

 弾幕が再び現れたのだ。

 消えたはずの弾幕が出現して、彼を襲ったのだ。

「クソっ……なんだ、なにが……?」

 手にしていた刀はどこかに飛んでいき、手元にあるのはホルスター内のM17のみとなっていた。だが、それだけではどうにもならないのは分かっている。楽観的に、ここはあるだけマシ、と少年は思うことにした。

「所詮、それぐらいか。……もういいわ、手っ取り早く殺してやる」

 今度こそ、少年の息を止めようと彼女が近付いてくる。彼女はその際に手にしているUSPのマガジンを変えていた。その時、一瞬だがそのマガジン内部が夕日を反射して光っているように見えた。

 それは、実弾のようにも見えた。

 普通の弾幕弾なら、弾切れを起こした際はマガジンを一度抜いてからもう一度入れ直すだけで装填される。いちいち、マガジンを変えるという動作は必要ない。しかし、弾種を変えるというならば話は別だ。

「一応、聞いておくけど遺言はどうする」

 右手でUSPを構えた鈴仙が、地面に転がっている仁に言う。

「遺言?」

「ええ、5秒の間に済ませて。敵に情が移るのは嫌なのよ」

「ふざけんな!」

 そう言うと、少年は腰のベルトに装備されていたフラッシュバンを鈴仙に向かって投げた。ベルトから外すと同時にピンを抜いたため、投げてから一瞬で炸裂する。

 その瞬間に少年は目を閉じ、両手で耳を覆う。

 投げてから3秒ほど経って、ようやく少年は目を開いた。

 鈴仙は今頃目を回して倒れているだろう、という少年の予想は裏切られることとなる。

 少年の視線の先に、赤い目をした少女はいなかった、

(消えた!?)

 恐らく、少女が幻覚を使ってきたのだろう。そう思っていた矢先に、仁の右肩に痛みが()()()()

 混乱した少年は、左の肩の方を見ると。何かに切りつけらてたかのように、皮膚が服諸共切り裂かれていて、彼の肩部分は赤く染まっていた。

「舐めてもらっちゃ困るわ。これでも、何十年て訓練を受けた身なのよ」

 鈴仙の声がした。痛みに悶えていた少年が、辛うじて目を開けて見ると。そこには、うっすらと煙を上げているUSPを持った鈴仙が少年から1mもないほどの至近距離にまで近づいていた。

 少年は、分かった。いや、分かってしまった。

 恐らく、鈴仙はUSPで少年が投げたフラッシュバンを撃ち抜いたのだ。オマケにフラッシュバンを撃ち抜いた弾が、そのまま少年の肩を切り裂くというのも考えながら。

 そして、鈴仙はその華奢な腕で少年を持ち上げると、そのまま彼の背後にあった竹へと押し付ける。

「離せ……っよ!!!」

 少年は渾身の膝蹴りを鈴仙の腹へと入れる。幸いにも、鈴仙は怯んで少年を離して、後ずさった。

 少年は、その瞬間をチャンスと見て、痛む肩を気にしないようにM17を引き抜いて構えた。

 しかし、それと同時に体勢を整えた鈴仙が一瞬のうちに少年の懐へと飛び込む。そして、右足で拳銃を蹴り落とすと、呆気に取られていた少年の伸びたままの腕を掴み、強引に腕の可動範囲外に曲げた。

「あっ、あぁぁぁぁぁあああ!!?!???!」

 感じた事のない痛みに、少年はただ叫ぶことしか出来なかった。

 再び、少年を竹へと押し付けると鈴仙は言った。

「……本当、不思議でしょうがないわ。何で、あの娘があなたと一緒に戦おうとしたのか」

 嗚咽ばかり漏らす少年に向かって鈴仙は続ける。

「ねえ、教えてよ。何であの娘を傷つけるようとするの?」

 ━━━それは彼女の、心の奥に秘められていた本音だった。これは、あの娘のためなのは分かっているのに、つい本音を漏らしてしまう。

 変わらず、嗚咽を漏らす少年に今度は、

「教えてよ!!」

 と、怒鳴り付ける。

 すると、言葉にならない声を上げていた少年から、

「━━━━」

 言葉のようなものが彼の口から出てきたが、鈴仙は聞き取れなかった。

「え?」

 

 瞬間、彼女の体が後方に吹き飛んだ。

 

「……っせえよ」

 解放された少年は、膝を着くことなく立っていた。ブラブラと揺れる骨折した右腕を抑えながら、少年は言う。

「うっせえよ……少しは人の話を聞いたらどうなんだよ!」

 その時、周囲から木を伐採する時のような独特な音がなった。音は一定の感覚を空けながら、コン、コン、と響いている。

「お前が、俺のことをどう思おうが勝手だ。だけどな……!」

 音が止んだと思えば、異変はすぐにやってきた。

 少年の背後の竹が五本ほど、宙に浮かんだのだ。根元を見れば、竹は斜めに切断されたことが分かる。

「俺が鈴華を傷つけようとする?」

 竹は宙に浮いたまま、斜めに切断された根元の方を鈴仙に向く。

「ふざけんじゃねえよ! アイツは、俺の背中を任せることが出来る相棒なんだ。そんな事出来るわけねえだろ……!!」

 痛みを堪えるため噛み締めていた彼の唇は裂けて、口の端から血が垂れはじめる。

「ついでに言っておく、俺がなんでこんな事してるか知りたいんだろ?」

「……!」

「そんなに知りたいなら、言っておく。俺が、なんでこんな事してるかだって? そんなの決まってるだろ、俺の為にだ」

「何を馬鹿なことを!」

「馬鹿なんかじゃねえ!!」

 少年の声とともに、彼の周りに浮いていた竹の槍が一本が鈴仙の顔目掛けて飛んで行った。彼女は、人間離れした身のこなしで竹槍を避ける。

「俺は、俺は目の前で助けを欲しがってるヤツを見殺しにはしたくねえんだよ。なのに、俺の力だと手を差し伸べた時には、もう手遅れになっているんだ。悔しいさ、ああ、悔しかったよ。だけど、今は違う。新しい能力がある、今までなかった知識もある、一緒に手を差し伸べてくれる相棒もいる。これ以上ないぐらいの、状況なんだ。俺の、誰かを、助けを欲しがっている誰かが痛みを知る前に助けだすって目標のための!!」

 彼は、今までに二人の存在を救ったことがある。

 しかしその存在を助けようとした時には、二人とも、あるいはその周囲の人物が酷く傷ついてしまっていた。一人目は、自身の大事な”家族"を意識がないままに傷つけてしまった。彼女の恐らくはただ一人の同じ血が流れる姉が、己を犠牲にしてまで助けようとしたのだ。そこまでしてくれる存在が大切でない訳がない。彼女達が人間ではなくとも、そんな行動を起こせる程の強い気持ちがあるのなら、同じことが言えるはずだ。

 しかし、彼女が大切な存在を無意識とはいえ傷つけたという事実は、何をどうしても消えることは無い。彼女自身は何も悪くはない、ただ誰かも知らぬ人物に呪いの札を貼られておかしくなってしまっただけの被害者だ。彼が彼女を助けても、それは無実の囚人を監獄から救うのと同じこと。監獄から出られたとしても、その無実の囚人が前と同じ生活を送ることが出来るのか、いいや、出来ない。たとえ、元の世界へ戻れたとしても、監獄へ入っていたというレッテルは一生付きまとうことになるのだから。

 それは少年が助け出した、二人目の存在にも言えること。いつもと同じ日常を送ることが不可能となった、という点では無実の囚人と同じことが言えるのだろう。

 二人目は幻想郷ではなく、その外にある世界で少年が助け出した少女。少年が少女に初めて会った時、彼女は切り傷だらけの顔に苦しそうな表情を浮かべながら『私から、逃げて』と言っていた。それは、自分の体(・・・・)が何をしたかを知っているということだ。あとから聞いた話によれば、彼女は中学生になったばかりの歳だったという。そんな彼女が、あれほどの苦しそうな表情をしていた。その苦しみがどれほどなのかは仁には想像は出来ない。分かるのは、彼女はあの幼さで生き地獄を体験してしまったことぐらいだろう。

 彼女は助けだされた後、言葉を発することはなくなってしまった。少年が聞いた警告が最初で最後の、彼女の言葉だったのだろう。それに、彼女は家に帰ることが出来ない。家がない訳ではないが、そこに家庭はない。両親は行方不明になってしまった以上、彼女はいつもと変わらぬ家庭に戻ることは不可能なのだ。

「……つまり、ヒーローの真似事をしたい、って言うの」

 多少意地悪に言ったはずなのに、痛みでそれどころではない筈なのに、少年は笑った。

「こんな事して、ヒーロー扱いされるなら本望だ」

 そして、鈴仙に残りの四本の竹槍が飛んでいく。

「怪我をするのは嫌だ。けど、それ以上の苦しみを知ってしまうかもしれないヤツらがいる。そいつらの事考えたら、自然と痛むことなんてどうだって良くなっちまう!」

 鈴仙は、ただ立っていた。

 そんな彼女の顔に、恐れはなく、怒りもなく、悲しみもなく、あるのは安堵したような目だけだった。それは、目の前にいる少年には分からないだろう。自分のやらなければならない事に夢中で、見えてる光景を理解することは難しいのだから。

 そして、鈴仙の中で一つの区切りがついた。

 ようやく、あの娘が知りたかった事を聞けた。

 それに彼女が求めていそうな、最高の答えだった。

 あとは彼がどうするか、それだけを見届けるだけ。

 鈴仙の耳元を竹槍が掠めていく。

「━━━それで、どうするの?」

「お前を倒す!!」

 残りの三本の竹槍が、彼女に向けて飛んでくる。三本とも全て、今度は命中するコースを辿っている。

 一本目は、顔に。二本目は、脚に。三本目は、体に。

 それぞれを躱し、蹴り、掴み上げて投げ返す。

 投げ返された竹槍は、少年の足元に突き刺さる。

 その竹の槍を見ようともせずに、少年は叫ぶ。

「こんな所で、負けたくはねえんだよ!!」

 少年の叫びと共に、彼の背後から一本の刀が飛んでゆく。恐らくは、竹を槍へと加工したそれは一直線に鈴仙の顔へ向け飛んでゆく。

 彼女は頭を横に傾けるだけでそれを避ける。

「子供騙しね、もう少しマシな……」

 その時、バン!! という音が竹林に響いた。その音は火薬の破裂音とは違う、別の何かの様な……。

(ま、さか……?)

 鈴仙はその音が響いたのと同時に、腹部に痛みを覚えた。

 そして、察した。

 刀が飛んできた方とは真逆の方向。つまり、鈴仙の背後に音の源があることに。

 そこには、一丁の銃が浮かんでいた。

 少年が持っていた拳銃━━━M17だ。

 拳銃に目が向いた瞬間、再びM17は発砲した。一発、二発、三発、四発━━マガジン内にあった全ての弾幕弾を鈴仙の体に正確に撃ち込んでいく。

「あ、……?」

 やがて、鈴仙の体は力が抜けたように倒れた。その際にやはり、どこか安堵したような表情をしていたが少年の目には映らなかった。何故なら、彼の目からは血が流れていたからだ。まるで涙を流すかのように鮮血が彼の目から流れているのだ。

 少年の能力は物に触れずに動かすという在り来りのもの。

 しかし、それには欠点があった。

 それは、生き物には使えないというもの。使えば頭痛が生じ、たちまち戦闘所ではなくなってしまう。……そして、

 もう1つ。

 二つ目の欠点、正確には最近になってから出来てしまった弱点。それは同時に二つ以上の物体は動かせないというもの。

 "程度の能力”がどういう原理か分からないが、頭を使うというのは確かだ。

 それは物理的にも、精神的にも。

 ただ、その物理的な面が欠点に繋がってしまったのだ。

 普通の人間がこの未知の能力を扱うには、脳に負担が大きすぎたらしい。

 操るのが一つだけならまだしも、二つとなると脳が高負担に耐えられなくなってしまうようだ。

 いい意味でも、悪い意味でも神川 仁は人間だ。

 だから、未知の能力で脳に大きな負担がかかった少年は、頭部の血管が破裂し、脳の機能が低下し、五感は失われることになってしまった。

 もはや、言葉も発することが出来なくなった少年は静かに目を閉じて今度こそ膝をついて倒れる。

 これは初めて幻想郷に来た時のような感覚だった。

 あの時も、狼の前足の軌道を無理矢理能力で変えたため、無意識にも初めて能力を使った少年は気を失った。

 ……恐らくだが、最近まで問題ではなかったのは、それまで彼の身にバルが宿っていたからであろう。

 使いにくい能力だが、少年にはこれしかない。

「あ、あ……」

 少年の口から発せられたのは、言語にもなっていない()

 それが後悔なのか、喜びなのか、それとも今から死ぬという恐怖なのかは、もはや知りようもない。

 

 そして、少年は目を閉じたまま動くことはなかった。

 




やりたいことが一区切り着きました…。
というわけで、筆者です。
もう少しで、この小説も二年目になるらしいです。やっぱり、昔のを読み返していると成長したな、とはうっすらと感じます。ですが、まだまだ腕と文章力は磨かなければと思ったのも事実です。
今年こそは、他の作品も出したいなと思っています。でないと、完全に詐欺ですもんね、アレ。出す出す詐欺ですよ。
というわけで、今回はこれで、
誤字や脱字、おかしな文があったらご報告して頂けると幸いです!
では、今回もこんな小説を読んでいただきありがとうございました!!


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反省会

 迷いの竹林にある一件の屋敷━━永遠亭。

 その一室に臆病な玉兎"鈴華”はいた。

「…………」

 今にも泣きそうな彼女の顔の先には、ベッドに横たわる一人の少年。

 満身創痍の状態で、かれこれ一日ほど目を開けていない。

 目立つような外傷こそなけれど、

 彼の内部はズタズタだった。それはこの屋敷に住む、……関係性といえば、外の世界での自らが勤める会社を辞めた社長職か会長職に相当する人物が言っていた。彼女が言うのだ、間違いはない。

 それに彼女が治療してくれなければ少年はとっくに死んでいた。彼を襲っていたのは"クモ膜下出血”という病気らしい。極端な話、彼の頭の中で出血が起きた、ということみたいだ。

 地上の人間の病気故、彼女にはよく分からなかったが少なくとも薬で治るような病気ではないことは、昨晩、六時間に及ぶ手術が行われたことから分かる。

 その手術により、彼の頭の中は元通り、後遺症も残らないとのこと。相変わらず物凄い技術だと彼女は思う。外の世界で名前が伝わっていれば、医療の神様として信仰されていたかもしれない。

 しかし、それはあくまでももしもの話。

 何故、彼女達がこの永遠亭という外界から隔離された時間の経過を許さない場所に住んでいるのかを考えれば、その可能性は絶対に有り得ないのだから。

「…………」

 少女は両手で握っていた少年の左手をもう一度強く握る。

 早く起きて、お願いだから。

 早く起きて、謝らせて欲しい。

 早く起きて、許してほしい。

 いいや、許してくれなくても構わない、ただ謝らせてくれ。

 こんな臆病で人に頼ってばかりの自分ができるのは、それだけなのだから、と。

「ご、めんな……さい」

 少年の左手に、一粒の涙が落とされた。

 後悔が混じった懺悔の涙。流したところで何かが変わるわけではない。しかし、自然と溢れてしまう。止めようとしても出来ないのだ。

「何、泣いてんのよ」

 扉の方から声がした。

 腕で涙を拭って鼻をすすってから首を動かす。そこには、鈴仙が立っていた。怪我をした様子はないが、その代わりに酷く疲労しきった顔をしていた。まるで悪夢にでもうなされたかのようだ。

「……レイセン」

 腫れた目のまま戦友のほうを見て、彼女の過去の名を言った。

「やめてよ。今の私はその名前じゃない」

 彼女は眠そうな目をこすりながら、

「過程はどうあれ、貴方が知りたかったことが知れたから良いじゃない」

「でも、彼が!」

つい、大声で言い放ってしまう。

「分かってる。だけど、こんな状況じゃないと喋る気にならなかったんじゃないの?」

「そうだけど……」

 確かに、目の前で眠っている少年なら、あんな質問をされても適当にはぐらかすだろう。それか無理矢理話を変えて、意地でも本心は言わないはずだ。

「それにさ、あんな状況で、死にかけの時に言ったのよ。あれなら、嘘偽りない本心だって確信できるでしょ?」

「……うん」

「それとさ、一応聞いとくけど……満足した?」

「……当たり前よ」

 鈴華がそう言うと、鈴仙はいきなり柱に背中を押し付けて座り込んだ。

「え、何? どうしたの!?」

 友人の異変に、鈴華は慌てふためく。そんな鈴仙は隈が出来た目を鈴華に向けながら言う。

「なら、良かった」

 ホッとしたように鈴仙は息を吐く。

「あと、もうこんな事頼まないでよ、あんな恥ずかしいこと二度と言いたくないから」

「分かってるよ! 私だって恥ずかしかったんだから!!」

「なんでアンタまで恥ずかしがってんのよ」

 そして、顔を見合せた2人の間に笑いが起こる。

 こうして直接顔を合わせたのは何年ぶりなのだろうか。少なくとも、30年は経っているのは確かだ。

 そんな事を考えながら、鈴華は言う。

「ねえ、そういえば言ってなかったけどさ」

「なに?」

「地上、って案外楽しいとこだね」

「……私は外の事(・・・)は良く知らないけど……アンタが言うなら、そうなのかもね。……でも、人間は?」

「へ?」

「外の人間は、どんな感じだったの?」

「難しいこと聞くね、キミ。外の世界の人間はどんな感じって……そりゃ、いい意味でも悪い意味でも十人十色だったさ」

「……ふぅん」

 彼女の素っ気ない返事を聞いて、鈴華は察した。

「まさか、まだ信用できないの? (・・・・・・・・)

「まあ、ね」

「キミ、地上に来て何年? 一度や二度くらいは人間と会わなかったの?」

「うん。色々あってさ。なんなら、最近までこの竹林から出たことないかも」

「嘘でしょ?」

「本当」

 彼女が言うなら嘘ではないのだろうが。にわかに信じられない話だ。

 それに、この屋敷に鈴仙が逃げてきた(・・・・・)のは約三十年ほど前のこと。つまり、それ以前から永遠亭はこの地にあったということにもなる。彼女が聞いた話によればこの屋敷は、平安時代からあったという。その平安時代というのが鈴華には分からなかったが、最近、地上で身につけた知識によってそれが1300年前のことだと知った

 つまり、約1300年の間、この屋敷は時間の経過という変化を拒絶してきたのだ。人間にせよ、玉兎にせよ、妖怪にせよ、1300年という時間はあまりにも長すぎる。この屋敷の主が、1300年間という長い時で何を思って過ごしたのだろう。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 考えなければならないのは目の前のことだ。

 と、その時。目を閉じていた鈴仙が急に目を開けると、ボソリと呟くように言った。

「……ねえ、鈴華」

「なに?」

「さっきさ、過程がどうとか、こんな状況じゃないとー、とか言ってたけどさ」

「うん」

「正直、やりすぎた」

「今更ぁ?」

「今思うと、一番痛いヤツかましちゃったし、ちょっとボコボコにしすぎたかな。……いや、ほんと悪いことしたわぁ」

「それを言うなら、直接言ってあげなさいよ」

 若干、呆れ気味に鈴華は言う。しかし、鈴仙の意識はもう既にどこかに飛んでいて、話を聞いているかどうかさえ怪しい。

「というか、どうしたの?」

「何がぁ?」

「なんでそんなに眠そうなのよ?」

「ちょっとね……昨日のあの後、お師匠様に怒られちゃってさ。そのあと、手術の手伝いして。今日は一睡もしてない」

 まぁ、自業自得だけどさ。と、言うと鈴仙は背中を柱に預けたまま、遂に眠ってしまった。

 この様子だと相当、疲労が溜まっていた様子だ。

 鈴華がそう思っていると、不意に欠伸が口から出てきた。

(そういえば、私も寝てないや……)

 思えば彼女自身もこの日は一睡もしていなかった。

 手術が終わった後もずっと祈るように少年の手を握りしめながら、延々と涙を流していたため寝ることなんて出来なかった。後悔と罪悪感が彼女を眠ることを許さなかったのだ。

 ━━━しかし、そこで寝ている友と話したことで何かが楽になったのだろう。彼女はゆっくりと瞼を閉じていく。そして、体が少年の体の上に落ちると、やがて少女の意識は暗闇の中へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 永遠亭の玄関先に神川 仁と鈴華は立っていた。

「ホント、永琳先生はすげぇや……」

 そう言う少年の腕はギプスで固定されている。この二日間の間で、少年の怪我は骨折以外は完治していたのだ。

 クモ膜下出血も、細かい擦り傷さえも全てだ。

 しかし、骨折だけは治っていない。ギプスが巻かれた左腕がその証拠だった。

 彼はクモ膜下出血を治すために手術を受けたが、それ以外は治療は治療でも投薬治療が殆どだったのだ。その治療の際に使った薬の量は尋常ではなく、それ以上投薬すれば少年の体は治るどころか逆に壊れてしまう程だった。なので、安全のため骨折は最低限の処置だけ行い、後は時間と彼自身の肉体に任せることにしたのだ。

「そりゃ、そうよ。あの方は月でも超がつくほどの天才だったの。治せない病気なんて何も無いし、作れない薬もないのよ」

「なら若返りの薬なんてつくっててもおかしくないのか」

「…………」

「? どした?」

「何でもない」

「そうか。……というか、永琳先生って月にいたのかよ。ん? 待てよ。なら、何で地上に居るんだ?」

「色々と事情があるのよ。ま、貴方みたいな、ちんちくりんには一生分かりっこないよ」

 ニヤニヤと笑顔を浮かべながら鈴華は言う。

「んだと!」

 ギャーギャーと騒ぐ二人は竹林の中を歩いていた。

 相も変わらず十二月の風の冷たさは肌に優しくないが、この日の天気は晴れていた。暖かい日差しが二人の照らしている。

「にしても、まさか鈴仙とお前が友達だとは思わなかったぜ」

「ボクも君と彼女が知り合いだとは思ってもなかったよ。にしても……、今回は迷惑かけてごめんね」

「ん? なんで、お前が謝るんだ?」

 そして、なんともバツの悪そうな顔をすると言った。

「今回迷惑かけたのは、俺なのによ(・・・・・)

「……え?」

「だってさ、俺がお前に色々話してなかったせいで鈴仙がお前のこと心配して、あんなことしたんだろ? 確かに、何考えてるか分からないヤツと一緒にいるのは嫌だもんな」

 あはは、と薄笑いを浮かべながら言う少年。……その表情にどこか物悲しさを感じるのは気の所為だろうか? 

 それよりも、何故彼が謝るのだろう。

 彼が何も話してくれなかったのは、確かに腹が立った。しかし、それはほんのわずかだ。すぐに怒りは収まるほど、僅かなものだったのに。

 なのに、自分達は強引に聞き出して、少年に大きな傷を追わせてしまった。

 どちらが悪いかと問われれば、確実に自分たちが悪いのに。

 と、その時。

「やべ、向こうに携帯忘れた! 悪い、先行っててくれ。後で追いつくから」

 そう言って、踵をかえすと少年は来た道を逆に進み始めた。

「あ、ちょ待っ、て……」

 鈴華が止めようとした時にはもう彼の姿は竹の陰に隠れて見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年が永遠亭へと戻ると、玄関の前に居たのは鈴仙だった。

「で、なんで俺を呼んだんだ? 話すことなら、あらかた話したつもりだぞ」

 少年が言うと、鈴仙はその赤い目で少年を睨みながら答える。

「最後に一つだけ聞きたかったことがあるのよ。確かに、あの時は悪かったわ。謝罪する。けど、それだけよ。貴方があの娘に傷を負わせたのを許したわけじゃない」

「……分かってる。俺の力不足で、あいつが怪我しちまったんだからな」

 それはあの運動公園で行った妖怪退治の時の話。

 あの時、少年が無茶をしたことにより本来なら危害が及ぶ可能性が少なかった少女が血を吐いて倒れたのだ。

 少年の力量不足、精神の未熟さ。それがこの結果を招いた。

「分かっているなら、いいわ。で、よ。最後に聞きたいのはあの娘のことよ」

 鈴仙は、一息だけ深く息を吸うと、

「絶対にあの娘を守るって誓える?」

「ああ、当たり前だ。二度と傷なんてつかせない」

「……分かった」

 鈴仙が言うと、彼女は睨むのを止めて口元に笑みを浮かばせる。

「なら、合格」

「何だよ、急に。怖いぞ」

「失礼ね。……ま、良いわ。ほら、これ忘れ物」

 彼女はそう言って、少年に向かって黒い物体を投げる。

「別に忘れ物なんてしたつもりないんだけどな……って、これは?」

 黒い物体の正体は、鈴華が幻想郷に持ち込んでいた拳銃"USP”だった。

「貴方の、ってよりあの娘のね。にしても地上の銃なんて初めて触ったけど、中身は古臭いのに見た目は良いのね」

「一言余計だ」

 少年は拳銃をポケットに仕舞いながら言った。そして、再び鈴仙の方に向くと、

「……で、アンタは来なくていいのか?」

「私? 行くわけないでしょ」

「何でだよ、昨日、あんなに仲良かったのにさ」

「昨日って……貴方、起きてたのね」

「まあな。でも、あの場で目を開けるのは気が引けてたから、静かにしてたんだ」

「あ、そう。……で、なんであんなに仲良いのに、って? 確かに、私はあの娘が大事よ。だけど、今はあの娘にはあの娘の居場所があるし、私には絶対に離れられない居場所がある。だから私は一緒に行けない」

「そう、か」

「ま、そういうこと。というか、あの娘を置いて来てるんだから早く行きなさい。また悲しませたら、今度こそ殺すから」

「わ、分かってるよ!」

 言うと、少年は後ろを向いて走り出した。が、数歩ほどで足を止める。そして、振り向くことなく口だけを動かして、

「ありがとうな。お前のおかげでなんか吹っ切れたわ」

 そう言って、少年は足早にその場を去り、相棒の元へと向かって行くのだった。

 残された鈴仙は、その背中を見届けながら呟く。

「……なんか、寂しくなるなぁ。前に戻っただけなのに」

 呟く少女の赤い瞳には、前へ前へ、そして竹林の外へと走る少年が映っていた。




今回は鈴華視点です。
こういった描写は初めてだったのですが、自分的には満足のいく結果なったので万々歳です。
少しだけ今回の補足というか、ちょっとした説明を1つ。
前話で仁くんの能力で、物をうんたらかんたら、と言いましたが実際には物を二つ以上能力で動かしても頭はオーバーヒートしません。というのも、頭がオーバーヒートをする条件は、能力を第四、五以下省略…の腕として使うことです。なにを言っているか分からねえと思うが、自分でも何を言っているか分からねえんです。
頑張って説明します。まず、この能力━━手で触れずに物を動かす程度の能力というのは汎用性が高く、様々な使い方が出来ます。物を上下左右に動かすことは勿論、物体の向きを変えたり、衝撃波のように無差別に物を吹き飛ばすことも可能です。
しかし、仁は、物を動かす、という固定概念に囚われているせいで、()()()()()()しか出来ません。ようは彼の中でこの能力は、手が届かない物を自由自在に動かす、程度にしか考えていないのです。見方を変えれば、色々な使い方ができるのですが…。
それはともかく、彼的には能力を使用する時は、透明な手で物を掴んで動かす、とイメージしています。実を言うと、ここには彼の性格が現れています。本来であれば、この能力は頭の中で"動け”と念じるだけで発動するんです。しかし、彼の場合、そんな雑に使うことは出来ないだろう、と勝手に思い込んでいるため、わざわざ、能力で空間に手を形作ってから物を掴む、という回りくどい事をしているのです。その分、精度は良いのですが、代わりに脳への負担が大きいという弱点を作り出すことにもなります。なので、二つ目の"腕”を作り、それを操る、となると脳への負担は限界突破することになります。
だから、この弱点を無くすには彼の中の能力のイメージが、「腕が物を動かす」から「物自体を動かす」に変わならければいけません。
それが今後どうなるかも含めて、このお話を楽しんで頂けると幸いです。
それでは、今回はこれで。
誤字や脱字、おかしな日本語や文があれば報告をお願いします!!



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新たな始まり

 翌年、四月のことだった。

 いつものように、部屋主のベッドの上で本を読んでいた鈴華の耳に飛び込んで来たのは、扉の開閉音と憂鬱そうな少年の声だった。

「……突然ですが、山に行くことになりました」

「なにゆえ?」

「じいちゃんから連絡があったんだよ」

 ほら、と少年は手に持っていた携帯の画面を見せる。

 そこにはいつものように、ここに行ってくれ、とだけ書かれたメッセージと目的地の座標がメッセージアプリに送られていた。

 メッセージと目的地の座標だけなのは、いつもの事だった。しかし、問題はその座標の場所だった。

「……思いっきり、山の中じゃん」

「だから、山に行くって言っただろ? スマホの方に交通費も送られてるはずだから……今回は自力で行けってことだ」

 そう言われて、鈴華は最近手に入れた自分の携帯を見てみる。ちょうど"保護者”からお小遣いとしてデジタルマネーが送られてきたところだった。

「……やだ」

「何だって?」

「行きたくない!」

「わがまま言わないの。じゃないと、今日の夜ご飯は抜きですよー」

「それは嫌だけど! でも、山でしょ? ボクの中の山に関する記憶に、1度も良い記憶は無いんだけど!!」

「大丈夫だ。今回は山は山だけど、ちゃんと建物がある所らしいぞ」

「建物? それ、バレちゃうんじゃないの?」

「問題ない。なにせ、その建物が俺たちの目的地らしくてさ。写真でこの座標の場所見たら、他の建物も無いみたいだし」

「なる、ほど?」

 と、その時。

 ピロリン

 という電子音が少年の携帯から鳴った。

「ん? じいちゃんからだ」

 少年が送られてきたメッセージを読むのを、鈴華も横から画面を覗き込む。

 内容は、『住職に会ったら、私の名前を言うのを忘れないように』

 少年は、少々怪訝な顔をする。

「住職ぅ……?」

 何故だか、猛烈に嫌な予感がする。

 住職、というのだから十中八九、目的地の建物というのは寺なのだろう。

 だから、決して悪い要素など無いはずなのに。

 この胸騒ぎはなんなのだろう? 

「とにかく、準備をしよう。出発は……明日の朝の八時ぐらいかな」

「了解。あ、武器とかどうする?」

「今回は拳銃メインで。じいちゃんが送ってくれるならアサルトライフルとかショットガン辺りが持ってけたんだけどな、バスとかで移動するなら目立たない方がいいかと思ってさ」

「サブマシンガンは? あれなら、持っていけそうだけど」

「あれ以外とデカいし、弾も持ってくなら結構重くなるだろ。スコーピオン辺りなら持ってけそうだけど、連射速度(レート)高いの無理だろ?」

「まぁね。じゃあ、ボクはいつもの45口径を持ってく」

「なら、俺は9mm辺り持ってくかな……妖怪相手に使えるかは分かんねえけど」

「頭か目に当てれば変わんないでしょ」

 そう言うと鈴華は、部屋の押し入れの戸を開ける。

 押し入れの壁には様々な種類の銃火器が掛けられていて、何も知らなければそれはサバイバルゲームをやっている人間の部屋を連想させるだろう。

 だが、その全ての銃火器は本物だった。

 そして押し入れを上下ふたつに別ける台には軍隊が使うような弾薬箱が並べられている。弾薬箱の中身には実弾がギッシリと詰め込まれている。

「……もうちょっとマシな置き場所なかったのか?」

「分かるけど、これなら、わざわざ健二さんのとこに行かなくても済むでしょ?」

「そーだけどよ……このまんまだと、家に誰も呼べなくなるな」

 そんな愚痴をもらしながら、二人はそれぞれの装備を押し入れから取り出す。

 バッグに弾薬を詰め込み、上着の下に着けるベストにも換えの弾倉やフラッシュバンやスモークグレネードを装備する。

 肝心の銃は、そのベストにあるホルスターに入れている。

「そういやさ、鈴華」

「なに?」

「最近、じいちゃん家行った?」

「行ったけど。それがどうかしたの?」

「いや、……ちょっとな」

 仁はこの数ヶ月、多忙も多忙な生活を送っていた。受験に卒業、妖怪退治や高校への入学。そのため、幻想郷に行くことも彼の祖父の家にも行くことが難しくなっていた。

「大丈夫。祥なら、元気だったよ。最近はちょっとだけだけど喋るようになってきてるみたい」

 祥、というのは去年の十二月に少年が助け出した少女の名前だ。

 彼女も、年度が変わったのと同時に近くの中学校に入学している。

 しかし、少年には一つの心配なことがあった。少年が会う時の彼女は表情は豊かであるのものの何故か言葉を一言も発していなかったのだ。

 だが、鈴華が言うには最近は徐々に言葉を話すことが多くなっているらしい。

 体が悪かったのか、心が悪かったのかは分からないが、どちらにせよ、今の彼女が元気にしているのは確かなようだ。

 そして、新しい生活を楽しんでいる事も。

「そうか。じゃ、俺の心配は要らなそうだな」

「ダメ。あの子はまだ、大丈夫とは言えない。問題が全部解決した訳じゃないのよ。だから、私達が見守って、心配して、ちゃんと成長を助けけてあげないと、何のために助けたのか分からなくなるよ」

「それも、そうだな……って」

 と、仁が隣にいる少女の目を覗くと、

「そういやお前も何か変わったよな。なんというか、その……人間みたいになってきたっていうか……」

 そういうと、鈴華は頬を膨らませて、

「それはどういう意味? まさか、ボクが人でなし(・・・・)だったとでも言いたいの?」

「違う違う! そういう意味じゃなくてな……」

「……分かってるよ。ちょっとからかっただけ。確かに、自分でも変わってきたと思う。趣味(マンガ)とか趣味(ゲーム)とか……」

「うん、俺が言いたいことと違うよね。それって変わったってより、沼にハマってるだけだよな!?」

 少年の言葉に、あははと笑う鈴華。

 そして、彼女はねじれた腹を戻すように息をつく。

「……はぁ、で今回は刀は持ってかないの?」

「そのつもり。だって、刀デカいじゃん。あからさまに怪しいじゃん」

「そうだけど、ホントに拳銃だけで足りるの? なんなら、アサルトライフルを分解すれば……」

「分解するのは良いけどよ、俺たち組み立てること出来ねえだろ」

「分かってる。一応、言ってみただけ」

 と、鈴華は多くの銃が飾られている押し入れの壁に見慣れない銃があることに気づいた。

 それは、他の銃よりも飛び抜けて古臭く、傷が目立つリボルバーだった。

「あれ? こんなんあったっけ」

 そう言って、リボルバーを手に取ってまじまじと見てみる。

 シリンダーはスイング式で装弾数は六発。ダブルアクションのリボルバー。まるで、西部劇に出てきそうなそれを見ていると、

「あれ、どうした? そんな銃はてっきり触らないもんかと思ってたけど」

 仁が横から覗いてくる。

「これ、君の?」

「ああ。そいつは幻想郷の方で見つけてきたヤツでさ、なんでもSAAのカスタム品らしくて」

「待った」

 そう続けようとした少年を、鈴華は静止させる。

「これがSAA? 嘘よ、嘘」

「え、? だって、見た目が……」

「そもそも、これはSAAじゃない。M1877よ、……分からないなら”サンダラー”って名前なら知ってるかも。……にしても、こいつ、グリップもバレルも丸々交換されてるから、見分けがつかないのも当たり前だよ。それにこれ……バレルにはコンペンセイターが取り付けられてるし、サイトなんてゴーストサイトに改造されてる。バレルにはピカニティーレール、塗装も黒に染め直されてる。触られてないのは機構ぐらい……ごめん、訂正する。何よ、このシリンダー!? なんで、この時代の銃にスイングできるようなシリンダー付けてるの!? ここまで、こんな古い銃を改造するなんて、やった人間はきっと変態ね」

「そこまで言うか……。曲がりなりにも、そいつは俺の命を救ってくれたんだぜ?」

「言うよ。こんな古い銃の何が良いんだか、ボクには分からないね。大人しく新しい世代の銃を使えば良いのに」

「じゃあ、レイジング・ジャッジはどうなんだよ。あいつだって、新しい世代のやつだぜ? なのに、最近使ってないじゃんか」

「アレは使い方が根本的に間違ってる」

「……ですよねー」

 思い出されるのは、散弾や照明弾に焼夷弾が装填されていたリボルバー。思い返せば、あの銃、ドラゴンブレス弾ぐらいしか、まともに使えなかった気がする。

 散弾は飛び散る弾が少なすぎて散弾の意味が無くなっていたり、照明弾は小さすぎてライトで照らした方が明るいたり……ゴム弾なんてものもあった気がするがあんなBB弾の事は知らない、思い出したくない。

 だったら、ドラゴンブレス弾だけ使えば良いだろうが、生憎とあれはコストが多すぎるためそんなバカスカ撃てるものではなかった。

 よって、ジャッジにはしばらく倉庫番を任せることとなった。

 それが最善の策だった。

 と、仁が考え事にふけている横で、再び少女がその手の中にあるリボルバーをマジマジと見つめていた。

(命を救われた……かぁ。……ふぅん、そういうこと)

 そして、彼女は少年に気づかれないようにリボルバーをバッグの中に詰め込んだ。




お久しぶりです、どうも筆者です。
約五ヶ月間ぶりとなりますが、決して失踪ではなく、他サイトの方でオリジナルの小説を投稿していたので、なかなかこっちに手がつかなかっただけです。(´Д`;)ヾ 
では、本編のお話ですが、前回から約五ヶ月ほど時が経っております。何故、その間を書かないかと言われるとあれですが、理由としてはこの話の大筋とは全く関係のない出来事ばかりになるからです。仁君は雑用ばっかやってたんです。まぁ、例えるなら、ゲームの周回を五ヶ月間ほどやっていたようなものです。経験値は貯めていたけど、ストーリーは全く進めない、もしくは進めていない、そんな状態だと思っていてください。
とまあ、今回はこのぐらいで…、
誤字や脱字、おかしな文があったらご報告して頂けと幸いです。
では、こんな小説を読んでいただきありがとうございました!!



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山奥にある寺にて

 

 

二日後

 

 二人はバスを乗り継ぎ、目的地である寺の近くへとやってきていた。

 周囲のどこを見ても生い茂った木々が目に入り、鳥の鳴き声が聞こえてくるようなのどかな場所だった。

「案外、平和そうな場所だな」

「だねぇ」

 二人はそんなことを言いながら、山沿いの道を歩く。

 彼らの格好は若干季節外れな、登山をするための格好で厚着をしている。いかにカモフラージュの為とはいえ、この季節にウィンドブレーカーは暑い。

 と、当初は思っていたのだが、この場所は標高が高いからなのか春の初めにも関わらず、十二月中旬ほどの温度だったので、案外、この格好は合っていたのかもしれない。

 そして、見えてきたのは高い杉の木に囲まれた石畳の道路だった。この先に目的地の寺があるのだろう。

 三百メートル続く石畳の先に、一件の建造物が見えてきた。

 その建物はいつの時代からあるか分からないが、見た目から相当昔の時代からこの土地にあったようだ。

 重要文化財に指定されてもおかしくはなさそうな雰囲気の寺。

 だが、そこの様子がおかしかった。

 荒れていたのだ。

 門には無数の切られたような跡、壁は所々穴が空いておいる、障子戸も破損していたり、そもそも無かったり、まるで廃墟のようだ 。森の中にある荒れ果てた寺。それだけだと、まるでホラー映画の舞台のようだ。

 そして、少年は気付く。

 ここら辺一帯が異様な空気に包まれていることに。

 人の気配がしないのは普通だ。こんな山の奥にある名の聞いたことの無い寺にわざわざ出向く物好きなんて、そうそう居ないはずだ。

 では、この誰かに見られているような感覚はなんなのだろう? 

「……鈴華」

「分かってる。背中は任せる」

 そう言って、彼女は静かに上着の中に着ているベストから拳銃を抜くと、側面の木々の間へと銃を構える。

 今回、鈴華が持ち込んできたのはUSPの45口径仕様。45口径信者の彼女らしいチョイス。

「……今度は何だよ」

 少年も同じようにベストから拳銃を抜く。

 少年が持つのは、イタリア製のベレッタM93r。バレル下のレールには小さなグリップが付けられ、銃口には長方形のコンペンセイターと、特異な見た目をした特殊部隊ようの拳銃。

 その時、風もないのに、周囲の草木が揺れる

「来るか……!」

 少年の予想は的中する。

 草むらから、二匹の犬のような奇怪な生物が飛び出してきた。

 所々毛が剥がれ、白目を剥き、まるでゾンビのような風貌のライオン程の大きさの犬の化け物だった。

 飛びかかれる前に、少年はM93rで妖犬に発砲する。

 パンッ!! という乾いた音と共に、銃口から9x19mmパラベラム弾が撃ち出される。

 放たれた弾丸は吸い込まれるように、犬の頭部に命中した。

 ゾンビのような風貌とは裏腹に耐久力はないようで、頭を撃ち抜かれた妖犬はバランスを崩して三回ほど転がると動かなくなる。

 続いてもう一匹の脚を撃つ。まるで、ダルメシアンのような黒と白の模様の妖犬は少しバランスを崩すだけで、止まることなく少年に向かってくる。その開いた口に並ぶ歯は鋸のようにギザギザとしていて、こんな生物が存在していいのかと思わせられるほど気味の悪い光景だった。

 少年はすかさず、飛びかかってきた妖犬の口の中に三発をバーストで撃ち込む。

 周囲に、赤黒い血が飛び散る。その血は少年の頬にもかかる。

「数が多い!」

 鈴華の叫びに、少年は振り返る。

 見れば、彼女の腕に妖犬が噛み付こうとする瞬間だった。

 考える事より先に手が動いた。

 ナイフホルダーからナイフを抜き、逆手で持つと思いきり妖犬の頭部を突き刺す。

 恐らくはその白濁した目を刺したのだろう、感じたことのない感触と共にナイフが頭部の奥へと刺さる。

 きゃいん、と妖犬が情けない声を出して絶命する。

 少年はナイフを抜くと、残りの四匹の内で鈴華にいちばん近い個体に向かって投げる。ナイフは見事に三匹の内で一番鈴華に近かった個体の脳天へと突き刺さる。犬は倒れると、数秒ほど暴れて絶命した。

 他の二匹は鈴華のUSPの射撃で倒れる。

 と、その時。

「仁くん、後ろ!」

 少女が叫ぶ。少年が体の向きを変え、振り返る。

 そして、少年の目に映ったのは眼前まで迫っていた妖犬の姿だった。不意打ちだ。

 引き金を引こうとするが、間一髪間に合わないと悟ってしまう。

 どうしようも出来ない、とその瞬間、少年と鈴華の間に一本の長い棒のようなものが入れられた。

 棒の先には刃が付けられている━━それは"薙刀”だった。

 二人の間を通った薙刀の刃は、妖犬の腹へと突き刺さる。

「危なかったな、少年」

 突然、男の声が二人の耳に飛び込んできた。

 声がした方を向くと、そこには禿頭の中年の僧侶が立っていた。

 僧侶が薙刀を引くと、妖犬に刺さっていた刃が抜ける。支えが無くなった妖犬の体は、力なく地面に落ちる。

「あなた、は?」

 急な出来事に困惑している少年は、僧侶に向かって言う。

「俺か? 見た通りの、お坊さんだよ。あの寺のな」

 そう言って、僧侶は荒れた寺の方を見る。

 妖犬への対応が常人のソレとは違った。そもそも、この時代で薙刀を純粋な武器として使うこと自体異常である。それが、この僧侶が只者では無いことを思わせられる。

「まぁいい。どうせ、お参りに来たわけじゃないんだろ? 寺に来い。色々話もあるだろうしな」

 僧侶は、目の前の子供たちが持つ銃を見ながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 外観は荒れていた寺だったが、内部はそれほど目立った損害もなく、そのうち少年達がいる居間は障子戸が破れていること以外は快適とも言ってよかった。

 そして、少年は僧侶に、自分たちが健二によって送られてきたことを話していた。

「なるほど、アイツがお前たちを……。て事は、自分たちが何のために此処に来たか分からないだろ?」

「え? ま、まぁ確かにじいちゃんからは此処に行けとしか言われなかったので……」

 少年が返すと、僧侶はため息を吐く。

「ったく、やっぱりか。ホント、アイツは変わんねえや」

「昔から? もしかして、昔のじいちゃんを知ってるんですか?」

「まぁな。健二とは昔っから一緒に戦ってた仲かな」

「じいちゃんと、戦ってた?」

「昔の話だ。今は違う」

 数秒ほど間を空けると、僧侶は言う。

 さて、と僧侶が言う通り、

「とにかく、自己紹介だな。俺は……"明練”。名字とかはない。ただ、明練和尚とだけ呼ばれていた男だよ」

「」

「まぁ、自己紹介はしたが俺のことは何とでも呼べばいい。名前なんてもん、俺にとっちゃどうでも良いからな」

 ワハハと僧侶には似合わない笑い声を上げる和尚。きっと、感情の起伏が激しい人なのだろう。

「……にしても、あの健二が引退か」

と、今度は落ち着いて和尚は呟く。

「引退って、じいちゃんはまだまだ現役ですよ」

 少年が怪訝な顔で聞く。

「いや。自分の代わりに、お前たちを行かせるんだ。俺もそうだがアイツも中々歳をとったってことだろうさ。……ま、跡取りがお前たちなら心配もないだろう」

「心配ないって……。俺はそうは思えません」

「お前がそう言っても、俺にはそう見えたんだ。もっと、胸を張れよ。じゃねえと、舐められちまうぞ」

「……分かりました。ありがとうございます」

「礼なんて言うもんじゃねえよ。……さて、この話は終わりだ。本題に入ろう」

 そう言って、僧侶は障子戸の方を見る。

 障子戸の向こうの庭は、先程の妖犬の襲撃によるものなのかだいぶ荒らされている。

「さっきの犬、覚えてるか?」

「はい。あの、とても……」

 思い出されるのは、白濁した黒がない目、毛が剥がれた体、おぞましい口の中。あれではまるで━━━

「生きているようには見えなかった、だろ?」

「ええ」

「そう思うのも仕方ねえな。何故って、奴らは死んでいる(・・・・・)らしいからな」

「でも、アレは確かに動いてました。俺にはとても死んでいるようには……」

 徐々に声を小さくしながら少年は言った。正直、こんな話がこっちの世界で聞くとは思いもしなかったのだ。

「なら、少し言い方を変えるか。なぁ、仁」

 僧侶は声を低くしながら、続ける。

「式神、って知ってるか?」

「式神……それって、陰陽師の?」

「ああ、その式神だ。まぁ、式神っつっても存在の仕組みが似てるだけなんだけどな、奴らは」

 式神とは、大昔の陰陽師と呼ばれる存在が使役する、位の低い神や妖怪の霊のこと。

 だが、本来なら、人が決めた正しい行いの為に使役されるはずの式神が、何故あのようなおぞましい姿となって少年らを襲ったのだろうか? 

 再び、僧侶が口を開く。

「使役することにゃ変わりねえが、あれに関しちゃ使役ってよりは操作だ。式神化の術を使えるヤツがそこら辺の野良犬かなんかを無理矢理式神にしたのが、アイツらの正体だろうさ。まあま、あれは式神というよりかは傀儡だな」

 つまり、先程の化け物は式神モドキにされた野良犬ということらしい。あの見た目も、無理矢理式神にされたことで起こった変化なのだろう。

 だが━━━

「……あの、そもそも式神が……」

 少年は、この世界での式神というものを理解していなかった。

 映画やゲームとかではよく見るが、それとこれとは訳が違うのは明確だ。だから、彼の中での式神という認識は陰陽師が扱う不思議な力という認識でしかない。

 だから、イマイチこの僧侶の言っていることが分からないのだ。

「なんだ、お前のじいちゃん、そこら辺の事は教えてくれなかったのか?」

「はい、全く」

「……」

 即答だった。

 僧侶は深くため息をつくと、

「……分かった。簡単にだが、説明はしてやる」

「すいません」

 良いってことよ、と僧侶が言うと、

「まずは、だ。少年。仁、お前、ゲームは分かるよな?」

 僧侶の問に少年は頷く。

「なら、ゲームをする時に必要な物はなんだ?」

「必要な物?」

 しばらく、考えていると脳裏に思い浮かんだのは、

「ゲーム機本体……とか?」

「で、他には?」

「……カセット?」

「そうだ。どれだけ、本体(ハード)の性能が良くても、ソフトが無けりゃ何も出来ないだろ? それと一緒だよ、式神ってのは。式神は、本体と式って術で成り立ってる。そんで、本体に使われるのは大抵妖怪になりかけた動物とかだ。それに"式”っつうソフトをダウンロードする。そうやって式神は出来るもんだ」

 説明されて、浮かんだのは式神も使い手がいなければ何も意味が無いのでは? という、考えだった。

 ゲームだって、本体にソフトが入っていても使い手(プレイヤー)がいなければ、それは精密機械という以前にただの鉄の塊となってしまう。

 式神というのも、使い手となる"誰か”が居てこそ成立する

「…なんだか、良い感じはしない仕組みだ」

「ん? どうしてだ?」

「だって、生き物を道具みたいに使うなんて、俺には出来ない」

 一瞬、キョトンとしていた僧侶は数秒程すると、急に大声で笑いだした。

「え?」

「それは違うぞ、仁。確かに式神ってのは使うもんだ。だけどな、式神にだって感情はある。機械なんかと一緒にしちゃいけん。自分で考えるし、行動もする。道具なんかじゃねえ、式神ってのは"仲間”だ」

「ならさっきの犬は? アイツらも式神なんだろ?」

「言ったろ、アイツらは式神に似てはいるが根本的には違うってよ。言うなら、普通の式神が万能AI、さっきの犬がそれこそ工場の機械みてえなもんだ。きっと、入力する"式”が普通のとは違うんだろうよ」

「なら、なんであの犬達はそんな"機械”にされたんですか?」

「単純に扱いやすいからだろうさ。自分で考えて動くよりも、ボタンだけ押せば勝手に動いてくれるロボットの方が都合がいいんだろう。……それだけ、入力する命令が非道えってことだ」

「なら、あの式神を作ったのは誰なんです?」

「さあな。まぁ、俺のことが好きじゃないヤツの仕業だろうさ。とにかく、重要なのはその式神と、式神を送り込んでくるヤツからこの寺の宝を守らなきゃならねえ、ってことだ。分かったか?」

 僧侶の問いに、仁は頷くと、

「分かりました」

 と、だけ答えた。

「なら、宜しく頼むぞ神川 仁。今、この寺にはお前たちが必要なんだ」

 覚悟を決めたように、僧侶は言った。

 その真っ直ぐな瞳に嘘はない。

 そして、

「……まぁ、さっきからこはずかしい事ばっか言ったのは良いが……」

 チラリと、僧侶が横を見ると。

「ふふーん♪」

 寝転がり、足をパタパタとさせながらどこからかやってきた黒猫相手に遊んでいる鈴華がそこにいた。

「……そっちの嬢ちゃんは大丈夫なのか?」

「あ、大丈夫で、……

「大丈夫。ちゃんと、全部聞いてたよ」

 と、仁の言葉を遮るように鈴華が口を挟む。

 声こそ二人の方に向けてはいるが、その顔は猫の方に向いている。

「なにせ、こんな耳をしているものですから」

 そう言って、彼女は右の手の人差し指を頭に向ける。

 すると、頭部に兎の耳が現れた。

「こいつは驚いた……まさか、お前玉兎ってやつか」

 ピクピクと動く兎の耳を見ながら僧侶は言う。まるで、珍しい生き物に釘付けになっているような目で彼は少女の耳を見続ける。

「その通り。けど、なんでボク達のことを? 外の世界の人間には、ボク達のことは知られていないはずだけど……」

「健二から聞いてるんだよ。向こうの月には、餅をつく兎がいるってな」

 それを聞いた鈴華が、苦い顔をする。まるで嫌な事を思いだしたかのように。

「それは……、うーん、間違っちゃ居ないけど……」

 今度は頭を抱えだす兎を横目に少年は言った。

「で、具体的には俺たちは何をすれば良いんです?」

「お前たちにはな…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボロボロの壁、穴が空いた障子、そしてそこから入り込む冷たい風。

 電気などのライフラインは通っているのか、暗い部屋を蛍光灯の明かりだけが照らしている。

 そこに、仁と鈴華はいた。

 二人はそれぞれの武器を手入れしている。

 一度、拳銃を分解して再び組み立てる。

 その際に汚れている部品を念入りに掃除をする。

 そういった作業をしながら、少年の頭の中では和尚の説明が繰り返されていた。

『お前たちにやってもらいたいのは、この寺にある……まぁ、宝物ってやつを守ることだ』

 どうやら、この寺には"宝物”があるらしい。

 それが何かは教えて貰えなかったが、明練和尚が言うには"命にかえても守り抜きたいもの”らしい。

『実は、あの式神もどき共は日に日に数を増やしているんだ。それもネズミみてぇに、倍々になってな。初日は五匹、次は十匹。四十匹までなら、大丈夫だったんだが……。数が三桁言ったあたりから、キツくなってきてな。助け? 欲しかったが、電話線はとっくに切られてたよ。こんな山奥だと電波も来ねえからな、携帯も使いもんにならなかった』

 組み立てた拳銃を構える。銃口を戸の方に向けて空撃ちする。カチン、という音とともにハンマーが撃針を打つ。

『それに、色々あってここの宝物は外には持ち出せなくてよ。だから、逃げたくても逃げれねえもんでな。まぁ、そもそもこちとら逃げるつもりなんて毛頭ねえが』

 スライドを引いて、装填した弾薬を確認する。蛍光灯の白い光が弾丸を薄らと照らす。

『話が逸れたな。結局の話、今夜お前たちが相手にするのは数百は超えるあのバケモン共だ』

 腕や脚に気持ち程度のプロテクターを着ける。さっきまで着ていた登山用の服は脱いで、シャツとベストとズボンだけの軽い服装の上にだ。なぜ、この軽装かと言われれば、彼らが相手するのは一撃が重い相手ばかり。だから、無理に受け止めるよりも避けた方が良いというのだ。

『最後に聞くが、やれるのか?』

 やれるに決まっている。いや、やらなければならない。

 守らなければならない宝物とやらがどんな価値を持っているのかは知らないが、一人の男が自らの命を削ってまで守るような物だ。価値が無いわけがない。

「ねえ、仁くん」

 唐突に鈴華が声を上げた。

 見れば、彼女は小さなアタッシュケースを開けようとしている所だった。

「どうした?」

「これ、見て」

 アタッシュケースが開かれる。中には狩猟用のライフルに使われるような大きなスコープと、いやに長いバレル、そして機構が剥き出しの拳銃のような物が入っていた。

「こいつは?」

「タンフォリオ・ラプター。M1911を改造した、狩猟用の拳銃」

 彼女はタンフォリオ・ラプターを手に取ると、銃身の方を握って少年に渡す。

「使用弾薬は7.62mm。装填数は一発。その分威力は抜群」

「なんでこんなモンを……」

「犬達以外にも他の動物の式神がいたって、和尚さんが言ってたの」

 そう言って、彼女はケースに入っていた弾丸を取り出すと、

「7.62mmなら、クマでも殺せるから」

 コイントスのように弾丸を指で弾く。

 弾かれた弾丸は少年の方へと飛んでいく。仁は弾丸をキャッチすると、

「なるほど。困った相手にだけ使え、ってか」

 装弾数からして、文字通りの最後の手段になるのは確定のようだった。

 一応、予備弾薬を貰ったが、波のように妖犬が押し寄せる状況で、もう一丁の銃と合わせて使うとなれば、リロードをするというのはあまり現実的ではなさそうだった。

「で、お前はどうする? 同じヤツらを相手にするんだぜ? お前んとこにも来るだろ」

「その心配はいらないよ。ボクには、コイツがついてるから」

 そう言って、腰のホルダーから抜いたのはゴツゴツとした黒いリボルバーだった。

「S&W M29。ご存知、44マグナム」

「待て、その銃どっかで見たことあるぞ……何だっけな……」

 悩む仁に対し、鈴華はM29を床に置いて、何も持っていない右手の指でピストルを作ると、人差し指の先を少年に向けて、

「コイツはマグナム44っつって世界一強力な拳銃だ。ヤツらのどたまなんて一発で吹き飛ぶぜ。楽にあの世まで行けるんだ。運が良ければ、な」

 その台詞を聞いて、少年は思い出した。

「キャラハン刑事か」

「そ。さすがに映画みたいな火力は出せないけど、元々コイツも狩猟用に作られた銃だから充分役に立つと思うからさ」

 恐らく、この銃も健二から送られたものだろう。あのじいさんの事だから、彼女の言う映画みたいな火力が出せるほどの改造を施しそうなものだが、そこら辺はどうなのだろう? 

(ま、爺ちゃんの事だし、良っか)

 そう割り切って仁は考えることを諦めると、目の前で体に巻き付ける予定だろう弾帯に弾丸を一発づつ込める鈴華にある物を投げ渡した。

「M29の反動はだいぶキツいんだろ? だったら、そいつでも着けとけ。擦りむかないようにさ」

 彼女が受け取ったのは黒色の手袋━━━━━いわゆる、タクティカルグローブというものだった。

「ありがと。って、キミは良いの? ラプターもそれなりに反動はあるよ?」

「俺のことは気にすんな。いいから、黙って着けとけ」

「……分かった」

 鈴華は納得がいかないといった表情で、渋々と手袋をつける。

「で、時間は大丈夫なの?」

「まだ、……いや、どうだろう。アイツらが来るのは単に日が暮れたら、来るらしいけど……」

 そう言って仁は、障子戸の外を見る。赤い夕陽も沈んで、徐々に日は暮れつつあるものの、夜という雰囲気ではない。

「微妙だね」

「まぁな。だからってゆっくり出来る訳でもないだろうし、早く終わらせて和尚のとこに行こう」

「りょーかい。って、言ってもボクは君待ちだけどね」

「……まじ?」

「まじ」

「そういうことで……、ボクはこの子と遊んでるから」

 何を言っているんだ、と言おうと彼女の方に視線を送ると、胡座をかく彼女の足の上に黒い猫がちょこんと座っているのが目に入った。

 その猫はさきほども、彼女のもとにいた猫と同じだった。

「ん……?」

 普通の黒猫……のようには見える。

 しかし、どこか違和感を感じる。仕草も毛並みも、普通の猫の筈……。なら、この違和感は何なのだろうか。視覚では分からない、……また別の感覚から感じる違和感。

「……まぁ、良いか」

 そう割り切ると、再び、仁は銃をカチャカチャといじり始めた。

 

 

 




お久しぶりです。筆者です。
受験も終わり、ゆっくり出来るようになったので投稿しました。
久しぶりに投稿ということで、前の作品を振り返ると、やはり二次創作と言えど原作から離れすぎだと思い、三話ぐらい先から幻想郷の方面での話になる予定です。東方ロストワードをやっていたら幾つかやってみたいネタが見つかったので、楽しみにしていて下さい。
では、話すネタもないので今回はここら辺で。

誤字や脱字、おかしな文があったらご報告して頂けると幸いです。
それでは、今回も読んでいただきありがとうございました!!


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