桔梗の芽吹く頃 (ふま)
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1、とある、春

 

 

_________第4次忍界大戦が終わり、木の葉にも平和が訪れて暫く・・・。

 

気がつけば季節は春になっていた。桜が舞い散る河川敷の暖かい日差しに目を細める。

カップルらは肩を寄せ合い、子供達の笑い声がどこからともなく聞こえてくる穏やかな午後。

長いサラサラの髪を風に遊ばせ、ライラックの春らしい色のアオザイを着た君の幻を見ていた。

こんな素敵な風景に君を重ねられないのを・・・どうやら俺は毎年の様に淋しいと思ってる。

 

「六代目・・・!」

 

その声に足を止めた途端、ポケットに入れていた腕の輪に強引に手が通された。

元気いっぱいに飛び込んで来た女性は、まるでぶら下がるかに腕を取って笑顔で見上げてる。

歳の頃は20前半、クセっ毛風のふんわりとした肩までの髪、良く笑う・・・経理の女の子だ。

 

「つっっかまえた~♪ 」

「柚乃《ユノ》・・・捕まえたって・・・。」

「も~! お花見始まってるんですよ!アオバさんもヤマトさんも待ってるんだから!早く!」

「はいはい・・・;」

 

そう云えば、その場所に向かっている筈だった。つい、君を思い出すとウッカリ忘れて・・・。

柚乃が現れなければずっと俺はボンヤリと、君の事想いながら歩き続けてたんじゃないか?

 

「お~!カカシィ!遅いぞ!」

「先輩!こっちこっち・・・!」

 

大きな桜の樹の下、ガイとヤマトはとっくに出来上がってる; 

アオバも特上の奴らと酒を酌み交わし、既にヘベレケ状態だ。

そんな中、たった一人まだシラフでいる男が俺をジロリとみてる。

 

「___おい、柚乃・・・六代目にあんま慣れ慣れしくすんじゃねェぞ。」

「ゲンマさん___ナニ怒ってんの? やっと捕まえて来たのにィ!」

「俺はお前のダチじゃねェんだ、言葉使いに気をつけやがれ・・・!」

「あー!ハイハイ!そこまで!今日は無礼講なんだし!」

 

ライドウが慌ててゲンマと柚乃の間に割って笑顔でその場を取り成した。

きっと彼を此処に引き止めたのはそのライドウなんだろうな。

恐らく、ゲンマは知っている___何故かを。

だからずっと彼は苛立つ様に今日まで俺を見ていたんだろうと察する。

 

「まーまーw 先輩、いえ六代目もどうぞ・・・!」

「あ・・・ありがと。」

 

ヤマトは酔っておぼつかない手で俺に酌をしてくれた。

俺はどうして此処に来たんだろうな・・・口をつけながら長居は無用だな___と思う。

そんな時だった。

子供らが、声を荒げるのが聞こえた。

 

「回り込め___!」

「おう・・・!」

 

宴会中の大人達はおのずとその声に目をやる。数人の子らが1人の少年を追いかけて来た。

追われてる少年は俺達に気遣う様に手前で逃げるのを止め、振り返る。

 

「なんだ___?」

「ガキ同士のケンカだろ。」

「・・・び、美少年だわっ・・・!」

 

柚乃がそう云った少年はワンレングスの長い、艶やかな銀髪を一つに束ねた少年は

特に構えもせず、自分より年上であろう少年らと向き合っている。

 

「アカデミーに通ってもないクセに女子にキャーキャー言われてムカつくんだよ!」

「今日こそカッコ悪いトコを晒してやる・・・!」

「・・・・・・・・。」

 

あー・・・要はネタミなワケね;

何時の時代にも、キャーキャー言われちゃうサスケみたいな子がいるんだなぁ。

でも、アカデミー生でもないなら勝ち目はなさそうだ。適当な所で止めてやらないといけないね。

 

「覚悟しろ・・・・・!」

 

号令と共に、少年は一斉に襲い掛かられた。その一瞬に、ガイが声に成らぬ声をあげる。

俺には彼が何を云わんとしていたが解る___意外な、少年の見切りの速さだ。

 

「やるね______」

「うむ・・・。」

 

防御しか見せないが、組み手としては異質な・・・どこかで見た動きである。

少年は彼らの体の隙間にさっと入り、柔らかな動きで背中や肩をパン!パン!一撃ずつ掌打した。

バランスを崩した彼らの死角を利用し、急所への攻撃をギリギリの寸でで止めていなしている。

手加減されている___流石に力量の差を感じたか年上の少年らは少々たじろいでいた。

 

「勝負あり・・・!」

「ほ・・・・! 火影様・・・!?」

「・・・わ、わ!」

 

「やぁ」と声を上げれば、今気付いたか全員が直立し並んで頭を下げ始めた。

 

「ハイ、ソッチももうお終い!お花見客の皆さんに迷惑だよ?」

「 「 「 「 すみませんでした・・・! 」 」 」

 

逃げた彼らに拍子抜けしたか、少年は俺にまた軽く頭を下げ、自分も去ろうとした。

 

「君____見掛けないコだけど、名前を聞いてもいいかい?」

 

彼は呼び止めにギクリと体を揺らして振り返った。

容姿以外は、大きめのパーカーにシーンズと、いたって普通なカンジだが___空気が違う。

俺がシートの上、三角座りのまま彼に向き直ると少年は指で頬をカリカリ搔いて目を逸らしてる。

躊躇った様に呼吸を一つ吐いて、小さな声を発した。

 

「伽舟《カフネ》・・・です。」

「ふ~ん・・・!良い名だね・・・!」

「じゃ・・・失礼します。」

「あ・・・。」

 

少年は自分の名があまり好きじゃないらしい。それだけ答えるとさっさと行ってしまった。

 

「____ステキな名前・・・お母様のセンスかしら・・・。」

 

”愛する人の髪に・・・そっと指を通して撫でる仕草、そうして落ち着かせる行為”・・・。

 

確かそんな意味だったか____

あの子はきっと、名前の通り親御さんに溺愛されているんだろうな。

 

 

 

 

「______相変わらずか・・・。」

 

用事を思い出したと、花見を切り上げて向かった先は此処にあった筈の彼女の家だ。

草木で覆われた小さな森の中に今は埋もれてしまって、家があるなんて事すらもう解らない。

まして人の気配などは感じられはしない。

何度か試みたんだが___獣道さえ見つからない所をまた搔き分けて入ってみる。

方向的に、この辺りに格子戸があった筈・・・。

 

「・・・・・。」

 

結局また、思ってもみない可笑しな方向に出てくる; まるで迷路なのだ。

何の陰陽術だか一体、どう云う仕掛けになっているんだろう・・・。

本気になれば俺は立場を利用して、”道路整備の為”とかってこの小さな樹海を何とかする事も

できるのだろうが。

思い出を____そんな乱暴に刈り取りたくはないんだ。

 

(君は・・・今、どうしているんだ___?)

 

その夜、シャワーを浴び終えた俺は以前より一つ増えた写真たてを手に取って眺めてる。

微笑まぬ美少女は俺の隣で一生懸命、大きな目を細めて写っている___愛おしい過去。

もし、会えたら___俺はまた抱きしめて、謝るだろう。

君に、酷い事をしたと・・・。

けれど御館様の危篤で自の国へ里帰りして以来___紫紺ともども君は戻らなかった。

そして3年の月日が経ったのだ・・・。

女々しくも別れたツモリがないのは、きっと俺だけなんだろう。

解っているさ____自業自得だってのに、戻るはずのない君を待つ俺は愚者であると。

 

「会いたいな・・・。」

 

今の君を想像するんだ、きっと大人っぽく・・・もっと綺麗になっているんだろう。

ベッドに潜ると、俺のその下に布団を敷いて寝ていた少女を思い浮かべている。

昔の良い思い出は睡眠薬の代わりになり____俺を、すんなり眠りに導いてくれた・・・。

 

 

 

 

 

「9時からは鉄道の開会式、そして10時からは結界班による新たな結界の___聞いてます?」

「あぁ___聞いてるよ・・・・;;」

 

朝も早くからシズネに報される今日のビッシリな予定に火影室の机に、ふっ潰していた。

チョット前に、此処が他里のゲリラみたいな奴らから襲撃されたせいで結界班が結界の張り直しを申し出て来ていたんだ。俺は火影としてそれに立ち会わなければならない。

 

「ところでシズネ___コーヒーいれてくんないかな。調子でなくてさ。」

「・・・・? ええ・・・。」

 

夕べはぐっすり眠ったツモリだったんだけど。朝方、夢を見てたせいで目覚めが悪かったんだ。

覚えてはいないんだけど・・・あまり良い夢じゃなかったかな。

 

「そして午後から砂影様と会合___」

「あぁ・・・我愛羅くんが来てるんだっけ・・・いつものお供は?」

「カンクロウさんが。今回はご子息らを同伴の様です。」

 

養子をとったと聞いていたが、社会見学かな___全然構わないけど。

スケジュールを聞き終わり、今日も長い一日になりそうだと観念した。

 

(はぁ・・・・眠い。)

 

鉄道の開会式を終えた後、今度は仰々しい結界班の行事に付き合うことになる。

ぼんやりした眼で儀式みたいなソレをぼんやり眺めていた時だ。

陣を成す中、やたら小さい子が居る事に気付いた___結界班の装束だが・・・。

 

「彼は・・・!?」

「あぁ・・・最年少の千條伽舟クンですね。なんでも陰陽師になる為、天の国に留学していた

っていう話です。彼らの噂じゃ___100年に1人の逸材らしいですよ。」

「____天の国か・・・・・。」

 

なるほど、だからアカデミーにも通っていなかった訳だ。

そしてあの羽織の家紋。桔梗の真ん中に白抜きの小さな星__見覚えがある。

 

「ん___? そういえば千條って名前、どこかで・・・。」

「シズネ、過去の土地売買の記録って___あったよね・・・・?」

 

伽舟少年はまさかの___自の国の出身か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後になり、ランチを取りに来た客らが俺と同じ方へ向かって歩いて行く。

見ればやはり先にテーブルに着いていた我愛羅は俺に気づき、軽く頭を下げた。

 

「おや、お子さん達は?」

「ああ・・・こう云う場所は苦手な様なので隣のエリアで食事を取らせている。」

 

風影は少し呆れたかに静かに笑う。

まぁまだ子供だし、ファーストフードの方が口に合うのかな?

 

「カンクロウが着いているので心配は」

 

彼がそう言い掛けた時である。その隣のエリアから女性の悲鳴が上がったのだ。

 

「お客様、申し訳ありません!」

「なにとぞ、お気を鎮めて・・・・わぁあああ!!」

 

俺達は顔を見合わせると思わず慌しく席を立った。

他の客も腰を抜かして逃げ出してる___その先には。

 

「席で待てと云ったな・・・?それで、この始末か・・・!?」

「申し訳御座いません・・・!ワザとじゃないんです・・・!」

 

風影は状況は把握しようと目を見開いてる。シンキと言う少年はコーラを頭から引っかぶり

背後に砂鉄を渦巻いて怒りを露に、震えて動けない店員の女性にジリと近寄ってる。

無言の我愛羅は、制止する為の砂を飛ばしたのを寸でて止めなければならなくなった。

 

「!? 止さないか!シンキ・・・!」

 

視界を遮る者がいた。

異教徒の様な目以外、全て小豆色の衣装で隠れている女?がシンキの目前に現れたからだ。

ば!!とその女性にも牙を剥こうとしたが手を翳したまま彼は硬直している・・・?

 

「くッ」

 

苦痛の顔の歪みの後、シンキが体を揺らしドサリとイスに尻を打ち付けたかに座った。

 

「オイ!なんの騒ぎだ・・・!!」

「お前、トイレに行ってたのか・・・・;」

 

近づいた我愛羅は手を拭きながら現れたカンクロウと彼らを見て説教を始めたが、俺は____

去って行ったさっきの女性?後を追っていた・・・もう居ないだって・・・!?

 

「すまなかった____さっきのは・・・。」

「え?」

「何かの瞳術を使ったか・・・動きを封じられた上に___」

 

戻って来た我愛羅がチラリと振り返ったシンキの顔は青ざめ、酷く呼吸を荒げていた。

 

”男なら許してやる事だ”

 

「そう云われて目を見た途端、息が出来なくなったそうだ___何者だ・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 



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2、六代目と少年

「あの屋敷の土地を3代目から買い取ったのは御館様・・・千條正義ですよ。」

「やっぱりか____」

 

どこかで聞いた名前だと思ったんだ。火影室に戻った俺は頬杖を着いたまま溜息をこぼす。

土地を買った人物は覚えていたが、名前で呼ぶ事が無い為、本名を忘れてたんだ。

すると彼の母親は御館様の養女になった”兎”の1人か。両親の名前が両方記載されていない。

まさかもう・・・?

 

「で___彼の住まいは?」

「あぁ、それが単身用の寮に在籍の様で___」

 

嘗ての暗部時代の俺と同じってか。推測とは少し違った訳だ。

陰陽術が使えるならてっきり、あの場所を借りて棲んでるかと___チョット期待したのに。

 

(まー・・・俺の想像通りに行くワケナイか・・・。)

 

その夜、軽めの食事を求め9時には業務を終えてコンビニに寄った。

野菜とタマゴのサンドイッチを手にレジまで歩いていく___

夜のコンビニは意外と客も少なく静かだったせいか、会話がすぐ耳に入った。

 

「あと1両ですね」

「あ___、ハイ」

 

レジで店員にそう云われ、ポケットを探る少年がいた。偶然にも・・・例の伽舟クンだ。

俺はそっと後ろから手を出し、店員さんに受け取って貰う。

 

「ハイ、これで。」

「え、あ・・・・!」

「いーから、いーからw」

「すみません・・・・。」

 

俺は彼の肩を叩き、首を傾げて笑った。

店を出て、彼と並んで夜道を歩く___ちらっと俺を見上げてはまた目を逸らしてる。

 

「そう云えば__御館様はお元気なの?」

「あ__ええ、一時危なかったのですが今ではスッカリ持ち直したと云う事です。」

「そっか・・・・・。」

 

なら____何故、君は戻って来ないんだ? もう、会いたくないって事なのか・・・?

俺はぼんやりとそんな事を思う。平和が戻った今こそ・・・君に此処に居て欲しいのに。

 

「伽舟クンは何でまたこの土地に?」

「・・・・修行です。他里の陰陽術も勉強のうちだと。そして5代目様からも推薦もあり、

私はこちらへの移住を許され未熟ながらも今のお仕事にも就けたのでとても感謝しております。」

「_____綱手様が・・・・。」

 

聞いてなかったな___! 一言も。個人的に自の国と交流していたなんて。

どうやらアノ人は俺達の事情を知って、後で申し訳なく思ったのか。

 

「そっか___この前の小競り合いを見て、君みたいな子がなんでアカデミーに通ってないのか

不思議だったんだ。これで謎が解けたよ。」

「不思議?」

「だって君は”裏の衆”そっくりな体術を会得してるしさ?」

「ご存知でしたか____・・・”兎”であった母からみっちり鍛えられたもので・・・。」

 

なるほど。一兎も養子になり、いまや跡取りだ。

裏方を16で引退した彼女らも、自の国の婚期とやらでもう、母になっていると言う事か。

時代の早い流れを感じずにはいられないな。何だか感慨深い::

 

「しかし、その歳で単身でなんて・・・エライな。」

「___母も独りです。淋しいのは私だけではないはず・・・。」

「え___じゃぁ、ご両親は・・・。」

「はい、母は御館様のお世話をしており、父は・・・私が産まれる前に亡くなったそうです。」

「そうだったの・・・・・・。」

 

どうりでしっかりしている。まだまだ母が恋しい年頃だろうに。

俺がシンミリしちゃったせいか、伽船は少し慌てた様に早口に話し出した。

 

「でも、私が一人前になれば、また母とも一緒に暮らせるので・・・!」

「そか___そうだね。」

 

気遣いがなんだか可愛らしく思えてツイ頭をポンポンしてしまう。

あぁ___俺達の間にも、こんな良い子が居たらどんなに良かっただろう・・・。

 

「君なら知ってるかもしんないな___」

「え・・・・?」

 

俺は迷う。裏方の衆の長であった、彼女の事を・・・この少年が知らない筈はないのだ。

恐らく天の国に留学の道を作ったのも誰あろう彼女だ。

しかし_____今、彼女は24歳・・・、本国の婚期はとっくに過ぎており。。。

もし、少年のクチから

 

『あぁ!〇×△のご子息と御結婚をされ___』

 

とか、聞いた日にゃ____俺は当分の間、立ち直れないだろうし。

失恋の傷も癒えていない、心の準備も出来ていない小心者の俺は、あえて聞くのを控えたんだ。

 

「いや____いいんだ。じゃね、俺は此処で。」

「ハイ・・・有難う御座いました・・・・。」

 

腰を折る小さな影に手を振った。彼女にもし子が持てたなら___

馬鹿だな___俺は今日、考えてもしょうがない事ばかり考えている。

そういえば彼女が去ったこの時期は何かと感傷的になってるっけ・・・。

 

(ホント重症だわ; ・・・・・?)

 

バサリ・・・!と背中越しに衣が翻る音を微かに聞いた。

振り向けば暗闇に吸い込まれるかに消えていく、その小豆色に目を見開く。

 

(アイツは_____!)

 

まさか伽舟の後を? 俺は咄嗟にその後を追う。

肌寒い春の嵐の夜、小豆色の衣装を身に纏う者は樹の上、彼の部屋の明かりが着くのを待ってる。

見事だ・・・うっかりしているとヤツはそこに鎮座するのに樹と同化するかに気配を殺していた。

だが、数分で帰宅したらしい部屋の明かりにもまだ動かない?

 

「______!!」

「!?」

 

声がした。俺の視線の先のヤツはダミーだ・・・!とっくに気付いていたか、

やるな。俺と同じ事を考えてたとは___影分身は彼の部屋に踏み込んだ。

部屋の中では幻かと思う異形な化け物が4体、姿を消していくのが見えた。

伽舟はその真ん中で目を瞑り、2本指を立てたまま大きく息を吐き出している。

とても落ち着いた様子で目を開けるとポカンと口を開いた。

 

「火影様_____?」

「あぁ、君の後を着ける者がいたもんで心配になっちゃって。ところで、今のは?」

「時々、訪れる式ですよ。私が精進を怠っていないか、抜き打ちテストってトコですね。」

「一体誰が;」

「たぶん・・・師匠であるスガシロ様かな?」

 

まだ生きてるのか、あのバーサン・・・。ていうか「かな?」って。いいのか、そんなんで;

弟子を取るあたり、いまや木の葉と大蛇丸の様な関係になっているのだろう。

指を顎に当てて考えた後、ふふッと彼が笑い出したんだ。

 

「私なら大丈夫___お疲れでしょうに、お気遣い、有難う御座いました。」

 

少しノンキだけど・・・良い子だ。ペコリとお辞儀をして俺を送り出してくれた。

自分の部屋に戻って書類に目を通しながら、素っ気無い食事を取る。

しかし気になるな・・・遠方過ぎて式など届かないだろうと思われるが。

昔、彼女に「相当な使い手」と云わしめたあの婆さんなら可能なのか。

それとも、ソレが不可能な為__あの”小豆色”は婆さんの使いか・・・。

後者かな。シンキにアア云ったんだ。ヤツは明らかに自分の意思を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「写真に撮れなかっただって?」

 

暗部からの報告で例の”小豆色”を捜索させていたんだが、目撃するも写真は全て光の屈折により、画像がグニャリと歪んでいるのだ。

 

「サイを呼んで。だいたいのイメージ図がないと、他の者もピンとこないだろうからね;」

 

シズネにそう云うと火影室にやって来たサイに小豆色の特徴を云い伝え筆を取らせた。

 

「宗教的ですね・・・というか。」

「ん?」

「僕、昨日このヒトを一楽で見たかも・・・・。」

「何!?」

 

お腹も減ってたし、俺はサイの書いた絵を持って自ら一楽を訪ねたんだ。

親父さんが言うには、「塩ラーメン」を指さし、マスクを片手で浮かせて器用に食べていたとの事。目も網状に覆われて居たためハッキリとは解らないが___

 

「女のヒトだと思いますネェ・・・指とか、細かったし!」

「やはり女性か・・・・。」

 

一切の言葉も発しなかったが、俺が見た所も肩の線からして女性だとは思った。

ま___何か悪さをした訳でもない。俺も何がそんなに引っかかるのか・・・。

 

「_____ええッ!凄~~~いッ、当たってる・・・!」

 

帰り道、橋のほとりの占い師と、はしゃぐ女性客を通り過ぎる___あ~、手相占いね。

ピンク色の髪をした女の子が見て貰って・・・え? アレ、サクラ???

てか____オイ。こんな所でなに営業してんの!? ”小豆色”!!

そりゃ、その怪しい風貌からして占い師に当てはまってるケドさ;

 

「本当に_____? 良かった・・・エーン!」

 

女の声は聞こえないが、何を云われたかサクラは泣き出してるじゃないか。

マジ、的中させてんの? アノ人、ホントにソレが本業なワケ!??

 

「俺も見て貰おうかなー・・・っと、あーッッッ!?」

「カカシ先生!? 」

 

サクラの肩に手を置き、声を発した途端、ボワン!? エ、煙玉!?

 

「き、消えた・・・・。」

「まだ、お金払ってないのに・・・!」

「ちょっと!カカシ先生!?次アタシだったのよ!?」

「いのまで・・・!? サクラ、落ち着いて、一体なんて云われたの;」

「云えるわけないでしょ!?? それ、個人情報だから!」

「んもぉ~;どーしてくれるんですかァ!滅多に捕まらないのよ?あの占い師さん!」

「えッ・・・、なんか、俺が悪いみたいになってる・・・?」

「 「 悪い!!! 」 」

「えェ・・・・・・;;ナンカスミマセン」

 

兎に角、二人には滅茶苦茶怒られた。

”小豆色”は近頃、木の葉に現れた良く当たると評判の手相占い師だそうだ。

占い好きの女子達の間で密かな噂になっているんだとか。

 

(占いか・・・すると、やはり天の国からの使者か___)

 

伽舟の監視役?彼もアア云っていたし、ヤツから殺気は感じ取れなかったし・・・。

任務上、秘密裏に動かなきゃいけないって事か?それにしても緊張感もなけりゃ、どちらかと云えばおちょくられてる感も否めないぐらだ。

時々、ああやって出没しては占い師やってるなんて普段は余ほどヒマを持て余してるんだろうな;

 

「カカシ様、当分ソレは暗部に任せて業務を優先して下さいねッ。」

「だから;サマは止めようよ;;」

 

戻った俺はシズネに大量の案件やら認可やらの、業務に追われるハメに。

要領は良い方だから、難なくまた夜を迎える頃には終わらせたんだけど。

 

「ふぅ・・・・。」

 

とりあえず仕事を終え、火影室を出るとそのドアノブの重さに気が付いた。

コンビニの、お弁当用の袋に入った__お弁当?

 

(まだ___少し、暖かい・・・。)

 

中を覗くと、ソレはおおよそコンビニなんかでは売ってない地味な容器で。

お花見に持っていく様な、木製のプリント、裏は銀色のヤツね。

 

「あら____終わられましたか。」

「シズネ、これは?」

「え?なんでしょうか?ソレ___」

「君じゃないんだ?」

「いえ___ちょっと見せてください。___少し離れていて下さいよ?」

 

俺の様子を見に戻ったシズネはその袋に耳を立てたり、異臭がしないか確かめている。

そして弁当の底から一枚の紙を見つけて、それ本体を俺に預けたんだ。

 

「ひッ・・・・! こ、これは・・・!」

 

フタツ折のソレを見た瞬間、ぱっと見、「誘拐したよ?」とか「これ爆発するよ?」とか書かれていると誤解しそうな、新聞や雑誌なんかの切り抜き文字。

 

『 あ た た か い う ち に め し あ が レ 』

 

どうも最後の「れ」のひらがなが見つけられなかったらしい。

すごいムダな労力だなぁ・・・;と思いつつ、箱からの懐かしい香りが鼻を擽る。

 

(この匂い!?___もしや・・・!!)

 

青い香りと言うか、疲れた体にはとても良い匂いだった・・・。

本来、火影と言う立場であるなら、けして口にしてはいけないものなのだろう。

 

「カカシ様、危険過ぎます。分析班に今すぐ回しましょう。」

「どぁから!サマは止めてっていっでるでひょ? ムグムグ」

「あぁぁぁぁああああああ!?なんで食べてるんですか!?死ぬ!死んじゃいますよ!!!」

 

両手で頭を抱えて騒ぎまくるシズネを横目に、湯飲みのお茶を一口飲むと「大丈夫」と笑った。

 

「毒入りにするのにさ__こんなに手の掛かる、見た目、ちょっと地味なものは作らないかな。」

「えッ・・・。」

「俺ならその辺で買ってきた焼肉とかハンバーグとか美味しそうに見える物に盛るね。」

「じゃ・・・それって・・・。」

「鮎飯だよ。手間掛かるんだよね、これ・・・。」

 

俺は・・・その時、全て解った様な気がしていたんだ____

 

 

 

 

 

 

 

 



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3、確かに其処に存在する黒き者

 

 

「___珍しいじゃないか・・・! 何かあったのか?」

 

木の葉の里をでた歓楽街の飲み屋で、先代である五代目とテーブルを挟んで座った。

馴染みの店か、昼間だと言うのに俺が席につくなり付き出しの小鉢とお猪口が運ばれてきた。

暇な時間帯で構う者は俺達だけか。五代目は「あと適当に頼む」と店員を適当にあしらった。

 

「貴方なら・・・八香の今をご存知かと。」

「大巫女か?・・・あぁ、知らなくはない。」

 

そう云うと僅かに溜息が混じっている。俺にもお猪口を遣し、注ぎながら唇をまた開く。

 

「率直に言ってやろう。まだ・・・独身を通しているよ___」

「・・・・・・!」

 

シマッタ・・・!俺が思わず身を乗り出した事で綱手様はニヤリと口角を上げている。

もしや俺が現れた時点でまず何を知りたいかお見通しだったのではないか?

 

「農村を助けながら、隠居生活を送っている。御館様は反対なさったが

”尼になるのと、どっちがよろしいか?”と云われて渋々に別荘地を建てられたそうだ。」

 

そりゃ彼女のお陰で国は持ち直したんだしな;その位してもいいかなとは思う。

自の国は今や果物王国、数々のブランド・フルーツを産出し世に送り出していた。

たった2,3年で、それも彼女の助力無しでは成しえなかった筈。

 

「勿体無い話だ___まだ燻る人材ではないと云うにな。」

「綱手様。もしや____彼女は今、木の葉に来ているのではないですか?」

「何?そんな話は聞いていないが・・・。」

 

本当に知らない様子である___隠しても仕方ない。俺が此処に赴いた経緯を話した。

 

「伽舟・・・あぁ、元・兎の子か。言うなれば御館様にとってはもう孫なわけだ。

”陰陽師になりたい”と願ったあのコに、八香もその才能に目に掛けている様だったからな。」

 

綱手様曰く、八香は持って生まれた家系の血と、鬼の血を併せ持つだけの”陰陽師モドキ”だからと

弟子を取る事を拒んだのだ。「基礎から学ぶ方が良い」とスガシロに託したと云う。

 

(じゃぁ___あの鮎飯は・・・いや、味付けといいアレを作ったのは彼女には違いない)

 

何より・・・他里とは少し違う、木の葉の旬のものを君に教えたのは俺だ。

この時期に君が決まって作ってくれた物を忘れる筈がない。

 

「悪かったと思ってる____」

「・・・・え?」

「お前に”これで最後だから”と云って、色任務を任せた事だ・・・。」

「昔の事ですよ・・・・。」

 

綱手様が俺に負い目を感じているとは思ってはいた。

俺も、君にちゃんと謝らなければいけない。そして許しを乞うだろう。

あの日___俺の手をふいに握り、全てを知ってしまった君へ・・・・。

 

「まさか、任務上で抱いた女の思念が俺の体に残っているとは・・・。

なのに一言も責めなかった・・・フツウなら激怒してもおかしくないのに___」

 

そして君は、俺から離れようとした。____自分は”要らなくなったのだ”と・・・。

君しか愛していないって事を解って欲しくて・・・距離をとろうとする君の腕を取ったあの夜。

俺は二つ目の過ちを犯してしまったんだ・・・。

 

「それで・・・伽舟が自分の子ではないかと疑ったワケだな?」

「恥ずかしながら、その通りです。しかしそれはもう解りました。後は」

「アイツが此処に来ているかどうか・・・だがカカシ、会ってどうする。」

「俺にも、彼女にいろいろと話したい事がありますから・・・。」

 

兎に角、会いたいんだ__とは云える筈も無く俺は瞼を閉ざした。

今現在の事は結局、解らなかった。五代目も、何かあれば知らせると云ってくれた。

 

(俺の中に居続ける君とサヨナラする切っ掛けになるかも知れない・・・。)

 

木の葉への帰り道、フイに見る幻は何時も君の香りを伴って現れる。いつか一緒に歩いた桜並木。

サラリと吹く風に柔らかな眩しい髪を遊ばせて、剥がれ落ちてくる花びらを片手の手の平に掬い

目を細めていた。俺は後ろでそれを眺めているとどこからとも無く幾つかの溜息が同時にしてさ。

 

”え__? あ!? ん!??”

 

通りを擦れ違う男達が君に見惚れているのに気がついて慌てて手を引いて先を行ったもんだった。

桃や、柳の木の精がいるのだから桜の精がいても不思議じゃないって思わせる程、君はキレイで。

 

(思い出さずにいようだなんて、俺にとっては何よりの苦行になる・・・・。)

 

・・・今日は、貴重な休日だ。俺は山中いのの花屋で花を買い求め久々に墓地へ出向いた。

夕暮れ時、通りを走ってきた子供たちの笑いはしゃぐ声が擦れ違いに後ろへと流れていく。

心の中独り思う、正直__君を思い出さない日は一日もないんだよな・・・。

 

 

「・・・・・・・・・・。」

 

墓地に着くと、そこで更に俺の予想は正しかったのだと確信したんだ。

先生と俺のチームの墓前に、桔梗とラベンダーの線香と白桃が供えられている。

溜息を吐かずには居られない。ネジの所にも同じものがあった、君を連想させるものばかりだ。

もっと確信にしたくて三代目の墓へ____墓前に誰か居る。あれは・・・。

 

「・・・・・柚乃?」

「あ、六代目・・・。」

「君がどうして三代目を?」

 

俺達とは世代が違う様に思えたから。

拝んでいた所を慌てたかに立ち上がり、刈った雑草を入れたコンビニ袋をさっと手繰り寄せてる。

それが、草と土にしては少し重たそうに揺れているのが僅かに気になった。

 

「両親が随分お世話になったと聞いています。なのでヒマがあれば来て雑草抜きなど。」

「そっか・・・エライねー。」

 

”あの柚乃って女。俺、あまりスキじゃないっス。”

 

頭の隅っこで、シカマルが以前そう云ったのを思い出していた。

仕事はちゃんとしてるし、俺の前ではイイコなんだけど___他の評判は違った。

可愛らしいせいなのか、女性からは何故か酷く嫌われているらしい事も知っている。

 

「私これからお友達と約束があるので___これで。」

「あぁ。どうも有難うね。じゃ。」

 

手の平を挙げれば頭を下げ、ぶらんぶらんと揺れてるコンビニ袋を片手に去って行った。

友達と約束ある前に、イマドキの若いコが墓の草むしり・・・って違和感しかない。

墓前に残る、清々しいハーブの香り。だが今燻っているのは立てたばかりの普通の線香だ。

設置されてたゴミ箱に投げ入れられたらしいコンビニ袋。やはり丸い膨らみが露になっている。

彼女の黒い一面を見た気がする。一体、何が気に食わなかったのだろうか?

 

(柚乃・・・・君、まさか・・・・!?)

 

今は事務職であるが元はくノ一だ。

いや、その根深そうな過去は後回しでいい。

俺は過去にあった此処での忌まわしい事件を思い出しつつ、不安にもなった。

八香がこの里にいると気付いた人間が少なくとも俺の他、1人はいるって事に・・・。

 

 

 

「カカシ先生~!今日は休みなんだって~!?」

「・・・ナルト・・・!」

 

墓地から出てしばらく、俺が居ると思って報告に行ってたナルトが駆け寄って来た。

思えば、彼も八香の事を良く知る1人である。

そもそも、彼女が戦争孤児の為にあのモーニング・サービスをやろうと思った切っ掛けだ。

_____当時の事を俺は思い出していた。

 

『アレでは栄養が偏る・・・そう思い、明朝ウチに来る様に云いました。』

 

八香が釣り場にしていた場所にナルトが現れ、炊き出ししていた所に出くわしたのだ。

野菜の一片もない鍋の中を見て、彼女らしくゾっとしたんだと思う。

俺の栄養管理にも一切手を抜かないコだ、破天荒なナルトの食生活なら尚更である。

 

「ラーメンはまた今度にして、たまには焼き鳥でも食べない?」

「おお!オゴリ!?俺じゃぁ、鶏丼だってばよ!!」

 

久々に一緒に飯を食べる事にしてその店に向かった。

店内に入り席に着くと、今回の任務の事を話すナルトに微笑みながらも俺はどこか上の空で。

 

「カカシ先生・・・、もしかして、八香のネェちゃんの事が気になってんのか?」

「エッ・・・!?」

「さっき、シズネのネェちゃんがソレを心配してたってばよ・・・!」

「おかしいな・・・何でだ!?」

 

俺は首を捻って、”小豆色”が現れた頃からの自分の発言を思い起してた。

記憶が確かならばシズネの前で彼女の名を一度も出していない筈なのになぁ・・・?

「女のカンってヤツじゃねーの?」と、考えまくってる俺を乾いた視線で見て彼が呟いた。

箸を置いたナルトは肩から大きな溜息を吐き出してから呆れた様に目を上へと向けてる。

両腕の肘を掴み上げ、自分の頭を囲う様に後ろへ背伸びをしながら静かに云ったんだ。

 

「大体____何で、とっととプロポーズしとかなかったんだってばよ・・・。」

「・・・・・・・大人の事情ってヤツだよ。しそびれちゃってね。」

 

笑ってそこは誤魔化しておく。俺としては避けたい話題だったからだ。

里に亡命してきた八香の生い立ちや、あの痣の事は機密扱いになっている。

知るのは数名の上忍、そして火影達、覚えているかどうかの、大名たちだ。

 

「で? ネェちゃんとはその後どうなって」

「カカシ様_____________! 大変です・・・!」

「 「  ・・・・・!? 」 」

 

ナルトの言葉を遮り、トントンを連れたシズネが飛び込んで来て息切れで胸を押さえてる。

嫌な予感と供に、彼女は”その方向”を正確に指差したのだ。

 

「第五避難口付近に・・・・化け物が出たと・・・!」

「・・・・!」

「アッ、カカシ先生!?」

 

俺は思わず店を飛びだした。何故今日はこんなにも君に関連づいた事が起きるんだ!?

”第五避難口”とは___御館様が三代目から買った・・・今や樹海の、君の家のすぐ傍だ。

 

(一体・・・何事だ・・・!)

 

急いで現場近くまで来れば人々の悲鳴が聞こえてくる。

屋根の上から見下ろす、逃げ惑う人々に俺は九尾事件を思い出していた。

 

(妙だ___化け物って姿が何処にも・・・。)

 

「うわぁあぁ!グロぃヤツだってばよ・・・!」

「確かに・・・化け物だわ!」

「え!?何処?ドコ見て云ってんの、二人共!?」

「ソコ・・・うわわ!危ない!」 「 え!?見えないんですか!?危ないッ!! 」

 

俺は追いついてきたナルトとシズネに同時に引っ張られ、別の屋根に飛び移された。

さっきまで居た屋根の瓦が何かによって激しく叩きつけられてる。

おかしい・・・二人に見えて、俺には全く姿が見えないなんて。ハッ…まさか…そうか!

 

「とうとうきたか・・・俺にも・・・!これが”老眼”・・・!?」

「 「  違うわァ!!!! 」 」

 

激しく二人に否定されながら”見えない俺”は一応安全な所までシズネと置かれ、

”見えるナルト”はソレに向かって一人飛び出して行った。

 

「火影様・・・!この生き物に我々の攻撃が通用いたしません・・・!」

「それどころか、暗部の中には敵の姿が見えないという者も・・・。」

 

俺の元に暗部2人がそう報告に来た。俺だけじゃないらしく内心、凄~くホッとしてる。

我々が此処に来るよりも先に馳せ参じた彼らも、どうやら困惑する事態になっているらしい。

 

「どーもコイツは・・・口寄せされたモンじゃないらしいな。シズネ、結界班に連絡」

 

「_________ダメだ!!!!!!」

 

「な・・・・・!?」

「誰だってばよ、アイツ・・・!」

「伽舟クン!?」

 

下で、少年が大きな声を上げた。逃げ惑う人々の隙間にその子は上を見上げて立っている。

冷静に見れば、銀髪というよりプラチナ・ブロンドの少年。

見開く瞳は黒と薄紫を足してできた様な露草色をしている。

今や小さな森と化した、屋敷の上空を見上げてギリリと歯を食いしばった。

 

「させない・・・・!!」

 

そう叫び、俺の見えない敵を見据えて片手に二本指を立ててブツブツとなにか唱え始めた。

だが______ゾワリと、何かが背中を冷やした感覚を覚えて俺は思わず印を結ぶ。

くそ・・・間に合うか・・・!?

 

「土遁・土流壁!!」

「くッ!!!」

 

瞬身で飛んだ少年の下、阻んだはずの土流壁を透ける大きな鬼の手を見た。

スローモーションの様だった、飛び散る血と紫の布・・・そして何かの香りを感じた。

俺より先に少年を庇った小豆色の衣装が切裂かれる瞬間を俺は見たのだ・・・!

 

「”小豆色”・・・・・・!?」

 

 

 

 

 



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4、女が嘘を吐く理由、真実を言わせぬ理由

 

「・・・・・・・・!!」

 

伽舟を守り、崩れていく”小豆色”ごと俺は腕に抱いた____その時だ。

僅かに開いた、女の薄い唇・・・・。

 

”________”

 

(君は・・・・・!?)

 

「カカシ様!!!」

「先生ッ!!」

 

声が重なったと同時に、俺は殺気を感じ3人ごとシズネがいる方へ移動したんだ。

するとナルトが相手を凝視しながら声を上げた。

 

「おかしいってばよ・・・! アイツ、何処行くんだ・・・!?」

「・・・・あ!?」

 

シズネが目で追う。彼女の視線の先を見れば怪物が逆方向に行ってしまった様子である。

ほっとした次の瞬間、”見えてる者”らの小さな驚きの声が聞こえた。

 

「く、崩れた・・・!」

「消えたぞ・・・・!!」

 

嘘の様に___猛威を振るった化け物はまるで空気に溶けるかに姿を消したと云う。

俺ははっとなり、腕の中の伽舟と傷ついた小豆色に向き直る。

フード部分をそっと降ろせば・・・その顔が露になった。

意識を取り戻した伽舟はワナワナとその彼女を見て震えている。

 

「モズメさん_________!!?」

 

赤い、レンガ色したショートカットの女性・・・・首後ろもスッキリしており

八香で無い事は確かであった。だがガックリしてる場合でもない。

少年の知り合いらしく、彼女の体を動揺して揺らしているのだ。

 

「大丈夫____心配しなくていいよ。着いておいで。」

「木の葉の医療を信じて、伽舟クン。一緒に行きましょう。」

 

モズメと呼ばれた女を、そのまま抱き上げて病院に運び込んだ。

急ぎ、シズネを含む医療班数人で診立てて貰い、手当てをして貰った。

出血はさほど酷くはないのに、意識がない。ベッド際で伽舟が云ったんだ。

 

「きっと・・・私にはまだ太刀打ちできる相手ではないと判断されたんです。

生み出した者の霊位が高いほど生き霊は強く、受けるダメージも大きくなる・・・。」

「_____生き霊だって?」

「それも厄介な・・・あれは、結合体・・・・。」

「モズメさん・・・・・!」

 

呟くようにそう云い、ゆっくり此方を向いた少女。一度、シーツの中で右手が浮く。

動かせなかったのか諦めてそのまま小さく息を零しつつ、少年に頼りない笑みを見せた。

 

「ご迷惑をお掛けしました___」

「幸い死人も出ていない。問題ないよ。それより、君は?」

「私は伽舟様の___侍女で御座います。」

 

チラ、と彼を横目に見遣る。俺は徐にナースコールのボタンを押しシズネに報せた。

その時、良いタイミングでナルトが戻って来ると隣に居た伽舟の頭をポンポンする。

 

「モズメさんは暫く安静にしてなきゃならないから、遅いし君ももう帰りなさい?」

「でも・・・・。」

「明日、またお見舞いに来てあげて? 今日は彼女も疲れてるだろうし・・・ね!」

 

少年は赤面顔をハッとさせると慌てて頭を下げるんだ。まだ子供だもん、仕方ないよね;

 

「そうですよね;ごめんなさい・・・モズメさん、ゆっくり休んでくださいね。」

「ふふ、伽舟様も心配なさらないで良く眠って下さいませ。では、・・・また。」

「ナルト、悪いけど彼を送ってやって。」

「あぁ、いいってばよ?」

 

快く、そう云ってくれたナルトは名残惜しそうな彼を伴い病室を出て行った。

ほっとした表情が隠しきれてない”小豆色”=モズメに俺は向き直る。

 

「君は___さっきのアレの正体を知っている様だ。」

「ある程度は・・・。」

「伽舟を此処で預かる以上、言って貰わないと困るんだ。解ってくれるね?」

「・・・・・・・アレは、互いの利害、そして同じ者に恨みの念を持つ者が共鳴して

生まれた生き霊。今宵は満月、そして時刻的にも力を得やすい条件にあった・・・。」

「!? まさか・・・伽舟が?」

「今夜このタイミングでおびき寄せられるかも知れないと・・・警戒しておりました。」

「_____誰が、ソレを君に知らせた!?」

「いえ、私も陰陽師の端くれなので・・・・。」

「では___最終的にアレを、一体誰が・・・退治したんだい?」

「ここの、結界班では・・・・?」

 

最後の一つ、彼女は嘘を吐いた。

 

「悪いけど・・・知っているんだ。君はあの時、八香の名を呼んだ事____」

 

”八香様”と唇が動いた。あの時モズメは俺と同様に、彼女の気配を察していたのだ。

図星なのかモズメは瞼を閉じ、心を読ませない様に口元も微動にさせてはいない。

 

「それは_____八香様が今・・・行方知れずだと解っているせい・・・・。」

「え!?」

「実を申しますと、私は伽舟様の守り手として此処へ派遣された身。八香様に、あのお方を

必ずお守り致しますと・・・お約束致しました。留守中に何かあっては申し訳が立ちません。」

 

約束通り、彼を身を持って守った・・・それで、そう呟いたのか。

だけど危険だな____彼女モズメもまた、八香に心酔している部下の1人なのだろう。

理解はしているツモリだ。それは恐らく八香が命令した訳ではない。

あの”兎”達を見れば解る、同じ現象が他にも起こっているのだと。

解りやすく云うならそれは”カリスマ性”と云うヤツで。

彼女さえ本気になればの話、最高位の陰陽師なのではないかと噂されるほどの存在である。

妬まれると言うなら、幼い伽舟などではない。八香であるはずだと思えた。

 

(これだけ平和になると・・・裏方の初代・頭であった八香も今や鳴りを潜めるって事か)

 

需要があるとすればやはり、そっちの方面___もしや彼女は農業に逃げたのではないか?

嘗て俺に、「”陰陽師の真似事”など・・・」その力にはどちらかと言えば否定的だったから。

 

「ところで・・・彼女の行き先の見当は?」

「もし___木の葉にあのお方が現れたら連絡する様にと仰せつかってはおります。」

「御館様か・・・・。」

 

今頃あの人、泣き暮らしてんじゃないの? ゲッソリやつれたご老体が目に浮かぶ様だ;

 

 

 

 

 

 

 

_____時はは少し、遡り・・・小国・自の国の城中での出来事。

 

「御館様_____! 姉様が!!」

「なんじゃ、朝から騒がしい。八香がどうした???」

 

ご老体が鷲達にエサを与えていた、家臣らが言う所の”八香・メモリーズルーム”に

自の国の現・巫女である皐月が紙1枚を手にドタバタと乱入してきたのだ。

「これを」と手渡された紙、それは八香の品のある文字で。

今朝になって、八香のまともな方の下女が血相を変えて届けに来たそうな。

 

”スガシロ様のヤバイ日が近づいておるようです。看取りお見舞いに出掛けます”

 

「・・・・・;」

 

あの村の別荘地に雇った、軽気な若い下女の影響があからさまに出ている文面であった。

看取りって! 棒線引っ張っても書いちゃってる時点で心の声がダダ漏れである。

友好を結んではいるが、八香にとってはライバル的な存在。まして伽舟を弟子入りさせた事で 

本人でさえ理解できぬ感情を、あの婆には持ち合わせているのだろうと察せられた。

ご老体がそうアレコレ考えている時に、遠くなった耳から皐月の声が聞こえて我に帰っている。

 

「私は、あの天の国が今だ信用できませぬ___一度は姉様をさらった者どもです・・・!」

「しかし皐月よ。今や利益の面、互いに交流もある。そう神経質になるでない、大丈夫だ。」

 

ご老体は置手紙をつき返すと額に手をやる。皐月が渋々と部屋を後にした足音を聞きながら。

 

(あやつめ___わしに挨拶も無しに行きおったか・・・。)

 

何時もの事とは言え、諦めも着いていた。火の国に一度は亡命した身であるのだから。

溜息も出よう___何故、彼女がそうしたか。大よその見当は着いていたのだ。

 

(皐月も二十歳を過ぎた___精進せねばならんのだ。わしももう、子離れせねばな・・・。)

 

「と云う訳だ。零兎、今すぐ火の国へ行き彼奴の動向を探って参れ。コレ、皐月には内密な!」

「_________」

 

天井裏からコン!と小さな音がした。ウンザリしながらも返事を返した男の心情を彼は知らない。

ツイデに云うならその男、《”八香・依存症”こそが、ご老体の抱える大病なのだ》と呆れている。

 

(また始まった・・・;大体、知ってンじゃねぇか!あの方が木の葉に向かった事を。)

 

屋根から屋根へ移動しながらその男、零兎は思い出していた。最後に八香と会った日のことだ。

こじんまりした屋敷を訪ねると彼女は離れにいると云われ、そちらへ赴いた。

木戸を開けると、男はその様子に懐かしい感覚を覚えている。

 

『_____マタギ姫。今度はイノシシっすか?』

『零兎か___その名で呼ぶな。こやつ等、畑を荒らしよるのでな。成敗してやった。』

 

既にイノシシの解体を終え、ビニールのエプロンを外している所であった。

その頭部は10を越えている。彼女らしく、部位ごとに綺麗に分けてあった。

 

『ぼたん鍋を目当てに来たワケではあるまい。何用か。』

『ミソ味なら悪くない、それより単刀直入に聞くが___何で隠居を決め込んじまったんだ。』

『今時、ミソ味だと!? バカを申せ。あと、果実を育てるのは楽しいものだ。国益にもなる。

零兎よ、私はもう先代でしかないのだぞ。皐月も頑張っているではないか。』

『え!?じゃ、何味!?? い、いや!皐月様の仕事の成果を、あんたも聞いて』

『フォンド・ヴォーじゃ・・! 零兎。貴様、それ以上云うなら食わせぬぞ・・・・・!!?』

『じゃ、その件はまた後日と云う事で。』

『よろしい_____では、馳走してやろう。』

 

アッサリ食い物で釣られた自分に悔いは無しなのだが、それっきりになった事を後悔している。

そして。

 

(あの甘酒の風味、柔らかい肉のうまみ、ゴボウがあそこまで美味いとは・・・!)

 

トマトベースの出汁に絡んだアノ味を思い出してウットリしていた・・・・;

男にとって八香は元・裏方の頭、先代でもある。嘗ての自分を救ってくれた恩人だ。

熊被害のある左門様の領地に独り赴き、熊退治のついでに彼を追っ手から逃してくれた。

 

『たんと食って精をつけるがいい、私は肉は食わぬからエンリョはいらん。あと、タダでよい。』

 

保護された熊小屋で体が温まるからと、熊鍋を馳走になった事がある。

彼は、あの時の恩をけして忘れられないでいる___熊鍋の味の良さも。

 

(火の国に向かわれたは___あの男を頼るわけでない。あんたも人の子だって事だ・・・。)

 

 

 

 

 

 



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5、人を呪わば穴二つ




視点はカカシ→紫紺目線で。


 

 

 

「切裂かれた痕に・・・ヤケドの症状?」

「ええ___熱も下がりませんし、妙な事ばかりで・・・。」

 

念の為、暗部にモズメの病室を見張らせておき、シズネのいる診察室に来ていた。

スクリーンに張り出されたモズメの背中の写真を拡大すると確かにそれらしいものが確認できる。

爪痕に添う、赤い腫れ。火の性質か・・・俺はつい別の事件を思い出してしまう。

 

「あの化け物を倒した者がいるとしたら、傷を負っているかもしれませんね。」

「・・・・・。」

「けど・・・伽舟クンだけでも無事で良かった・・・。」

 

伽舟は・・・騒ぎに駆け着け、モズメの云う通り誘き出されたのだろうか。

何故、狙われるのか? 恐らくその理由も彼女は知っている筈だ。

 

(そしてモズメは”行方不明”だと云いながら実はその八香と連絡を取り合ってる。)

 

そう考えた俺はパックンを呼ぶ。事件現場で、嘗ての彼女の残香の有無を調べて貰おうと。

すると彼はいかにも不機嫌そうに俺をじろりと睨むのだ。

 

「カカシ、人間___時には諦めも大事だと思うぞ?」

「エ!?」

「この前の弁当のフタといい・・・あの少年の付近といい。八香の匂いは無いと云うたろうが。」

「カカシ様、やはり八香さんを・・・・。」

「ちょ・・・今、それ此処で言う? 何もそーいうワケじゃナイヨ?今回は念の為だから!!」

「仕方が無いのぅ・・・行って来る;」

 

任務なのは勿論なのだが、パックンはそれ以上に俺の気持ちを察しているかに思えた。

未練がましく、彼女の影を追い求めるなと___そう云いたいのだ。

此処でこう思ってもいいのか、”俺のカンは良い方に当たるんだから!”なんて・・・・。

 

「では最初から八香さんが関わっていると?」

「・・・今回の事件の鍵を握ってる人物かもしれないって可能性だけね。」

 

シズネにはそう云ったが、彼女が傷を負ってる可能性があるとか放って置ける筈も無い。

あの子はいつだって”痛み”を口にする事も、自ら助けを求める事だってしないのだから。

 

「何かあったんだろうとは思う。八香がここまで姿を消したままなんてさ・・・・。」

 

零兎らしき影が現れたのも報告で知っている。一体・・・自の国で何があったのか。

その時、なんとなく耳に入って来た忙しい足音にドアのほうを向いた。

 

「火影様___!」

 

ドアのノックの後、矢次早に医療班の者が飛び込んできたのだ。

 

 

 

 

「申し訳御座いません___」

 

(これだけの警備の中、誰か忍びこんで来たとは・・・・。)

 

廊下や部屋の前に居た見張りが一斉に頭を下げるのに頷き、警備室に入っていく。

俺は監視カメラの再生を命じ、画面に食い入る様に見ていていた。

おかしい・・・何処にも・・・侵入者は写ってはいない______!?

 

「今の所、巻き戻して。」

 

はらりと・・・何か落ちてきたのが見えたんだ。「拡大を」と云えば、そうしてくれた。

 

(柊の葉・・・・・・・!)

 

何ごとも無かった様な様子の映像、よく見れば時刻が止まっているのである。

時計の故障ではない、写っている警備の暗部も誰一人、動いてはいないからだ。

 

「カメラも警備も__一時、氷ついたか・・・。」

「え!?」

「モズメを助けに来たんだ・・・式を使ってね。」

 

病室で眠るモズメを診ればそれは明らかであった。

熱は下がり、ヤケドの痕もろともなくなっている___そろりと見たシズネが絶句していた。

彼女を苦しめるものが誰かの悪い念であるならば・・・それを知り、解いた者は1人しかいない。

 

(随分と頑なだな・・・・君も・・・。)

 

 

 

 

 

 

ベージュ色した薄手なマント姿の女は、小さな湖の辺に咲く山桜の下に座り込んでいた。

疲れてもたれているのか、小さな顔に被さった大きめのフードから僅かな白い息が見える。

しばらくすると湖の方に顔を上げ、ふらりと立ち上がりだした。

 

(・・・・・・そこまで?)

 

マントを細い体からスルリと落とす後姿。月光がモノクロに見せたりするのは雲のせいだ。

次の瞬間にはすっかり・・・一糸纏わぬ、いや・・・右手の包帯を外しながら湖へと入って行く。

妖しげに映し出されるツタ模様の痣には紛れも無い、ザクロの蕾模様___間違いない。

スーイ、と移動する波紋、鏡月に照らされ、くるりと仰向けになると全身の力を抜いて浮いた。

 

「・・・・・・・・。」

 

女が月を見上げれば、雲が抜けその光が彼女の蒼白な顔を照らしている。

静かな波音、右手が水面より浮いた。その手首は垂れて、ダメージを負っているかに思えた。

くっきり浮き上がる肢体はまるで人形の様に動かなくなり___見ている方の心臓を揺るがす。

 

「・・・・・!」

 

動揺した私はガサリと小音を立ててしまった。

 

「___今しばらく、このままで居させておくれ・・・。」

 

この言い草は・・・その気配が誰であるか察しているのだろう。この風が私の匂いを運んだか。

緩い風が体に纏わり着く。まるで、彼女の思うままにさせてやれと云うかの様に・・・。

随分経っただろうか・・・やっと彼女は沖に戻って来た。だが、その足はまだフラフラで。

 

「______しっかり・・・!」

 

グラりと倒れそうになる冷たい裸体を支えた。その時だ。遠くで風の切れる音を察知したのは。

 

「何故・・・追って来た・・・・。」

「シィ____話は後で。此処を離れますよ・・・!」

 

怪物騒ぎの後だ、六代目はたけカカシも八香様の存在に気付いた事だろう。

恐らく追っ手は”保護”を目的とした捜索隊かもしれない。

そう云うと頼りなく頷いた彼女を背負い、証拠を残さぬ様に衣服を拾い集めた。

 

「帰りましょう。ただし、結界はまた張り直しですよ?」

「そうだな・・・・・。」

「着くまで・・・休んでて下さい、お頭。」

 

何故追って来たとか愚問でしょ・・・。私は貴方のお世話役であった者。

そしてまだ解雇通告など貰っていない、今だ私、紫紺は___貴方の助手なんですから。

 

 

「八香様が戻られた!嬉や・・・!」

 

朝が来た____

八香様が屋敷に戻られた事で庭で育っていた桃の精、夏風が涙を流して喜びの舞を見せている。

紫紺は二の次か!と思われた方も居るかもしれないが実は私、度々内密に此処を訪れていまして。

この小さな森に隠されたこのお屋敷をずっと、管理してきていたのです。

 

「夏風、何か変わった事は?」

「そうでございますねェ・・・時々、近所の子供たちが私の甘い実をもぎ取って行くぐらいで。」

「ふふ___お頭様らしいな。」

 

ベッドの八香様を見下ろしながら思わず笑う。彼の地の子供らに、些細な楽しみを残したのだ。

特殊なルールを持つ結界を、このお人は張ったのだろう。

 

「紫紺様、お医者様に診て貰わなくて大丈夫なのですか?」

「治す薬もないだろうねぇ・・・・。」

 

呪詛返しで体にダメージを受けられたのだ、病院に行ったとしても治りはしない。

オマケにモズメを祓う力もお使いになった___ここまで弱られたのそのせいかもしれない。

 

「取りあえず薬膳粥でも作りま、」

「食事は要らぬ・・・。あと夏風、当分私には近づくでない___離れていろ。」

「え____!?」

「夏風、そうなさい。・・・・・・では今日一日、断たれますか?」

 

目覚めた第一声がソレだ。そして頷くと、窓の外を見上げ太陽の位置を確認した様だ。

体調の優れぬ時、プチ・断食をされる事が昔、何度かあったのを覚えている。

 

「それと、裏庭に厚めの敷物を敷いて__出来るだけ、鈴蘭水仙に囲まれる場所へ。」

「は、はい。」

 

いろいろ言われた後、私には其処へ自分を運ぶよう仰った。

和室側から見える庭には鈴蘭水仙の群生が白く淡く、風に揺れていて。

 

「・・・残念だが、今日が見納めになるな_____許しておくれ。」

 

それは明らかに花に向けて云った言葉だった。曲がり間違っても私に云うセリフではない;

こうして敷物の上、ゴロリと仰向けになり鼻から息を抜く。立てた2本指を胸に当てだした。

屋敷を覆う木々がゆっくりをその枝を縮め、やがてぽっかり空いた空間から青空が覗き出す。

きっと眩しくなるだろうと、清潔な手拭いを目に掛けて差し上げればこう呟いた。

 

「まだ・・・墓穴など要らぬ___ひとつもな・・・・。」

「・・・・・お頭?」

「お前も見ないほうが良い。もうお下がり。」

 

相変わらず素っ気無いお言葉。30分後に様子を見に来いと言う。

まったく____何故、今になって霊力に磨きが掛かってしまったのやら・・・。

 

”その名を知っておるぞ____(ぬし)は・・・”

 

あの時・・・物陰に立つ八香様を私は人知れず見ていた。

左手の指を立て、静かにそう云った後___突風が吹いたのだ。

マントが勢い良く後ろへとはためき、フードが取れる中、暴風にぐらつきもせず

前を見据え、右手の2本の指を何かを唱えていた己の口元に当てると勢い良くそれを振り払った。

見えぬ獣の雄叫びに耳を疑う。そうしているうちに暗部らの声が上がってハッとなった。

僅かな隙に其処に居た筈のあのお方は消えており、私は慌てて耳を澄ます。

布が翻る音を頼りに___やっと確保する事ができたのである。

 

(怪物は言わせなかったのか、それとも私に聞こえなかっただけなのか・・・。)

 

ああ云ったんだ____八香様はアレの本当の正体を知っておられる。

私にも覚えがあります。はたけ殿だってきっとそれを思いだしたに違いない。

生き霊を飛ばす程、お頭様を恨んでいる人物・・・だが可笑しな話だ。

あのお方はもう何年も此処に戻ってはいなかったのに___何故恨みが再燃したのだろう。

 

(墓穴か・・・、”あの言葉”は元々、陰陽道から来た言葉。まさかお頭は・・・・?)

 

ん_____あれ?雲ってきた・・・? 縁側に戻ってくると暗く感じて上を見上げた。

それが何か認識した途端、脇汗がどっと噴出してしまうのだ。

 

「あれは___三代目様お孫、モガッ」

「シズカニ!」

 

今まで木に覆われていた部分には結界の膜しかない。向こうからは屋敷ごと見えない筈だ。

顔を近づけたり、耳を当てたり、コンコンとノックをしてみたり。

ビクリと夏風の体が揺れ、不安そうにしながら口を塞いでいた私に思わず身を寄せている。

そのうち諦めるだろうか?二人して下から見ていたが、不味い事に空いた空間に寝転び出した。

 

「オマエ、ジャマデゴザイマスヨ。イッパツ、凍ッテミルカ?」

 

ちょっ・・・雪羽、微妙にガラ悪ッ。てか、いつの間に!?

以前のまま幼く可愛い幼女がそんな事云っちゃダメ!ソレ絶対、お頭のヤクザうつったよね!?

小声なら何云ってもいいってコトじゃないよ!?後で叱ってやんないと___あ!コラ!

物騒な事を言う雪羽がスイと前に出て両手を伸ばそうとしたもんだから慌ててソレも回収した。

 

(まだ10分経っていない・・・。)

 

ちらり時計を見た、その時だ____

 

「うわ!なんだ!? やめろってば、コレ・・・!」

「・・・・!?」

 

視線を戻せば影が更に影を呼び、慌てた木ノ葉丸を埋め尽くそうとしているのだ。

 

(羽音・・・!? あれはまさか________?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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6、ドルイダス、心の内側


視点はモズメ→零兎さんで。


 

 

(侵入者か____何とか排除できた様だ・・・。)

 

病院のベッドの中、布団に隠れて百舌鳥どもに念を送っていた。

火影サイドにも送り込みたいところだが、この弱った体では分散はできない・・・。

大巫女様は・・・私より更に弱っておられる筈だった。

右手から何もかも吸収され___心の臓にも負担が掛かり過ぎていると心配していた。

だが昨日の夕飯時。ぽっちゃり系のおばさん給仕さんが病室に食事を運び込んだ何気ない時。

トレイをサイドテーブルに置く、ゆっくりとした動作の途中に。

 

『お頭様は何とかご無事だ、化け物屋敷で療養していなさる。』

『_______!』

『後は俺達が。お前は療養せよ。』

 

あの口調・・・恐らく変化した零兎さんだ。監視カメラに映り込まないよう浅く頷いておいた。

とは言われるものの、何もせずに居られる訳が無い。せめて回復の邪魔立てを排除せねば。

 

(私の方も回復せねば伽舟様もお守りすることも叶わぬとの、ご配慮だろう。)

 

新生・御頭となった零兎さんは、他国出身でありながら八香様の為なら命も投げ出す忠義者だ。

紫紺様に負けじと、先代であるあのお方を本当に良く知り、サポートをなさっている。

 

(ただ・・・やはり女は女同士。本音は吐かれますまい・・・・。)

 

______コンコン! ドアのノック音にはっとなる。

返事をするかどうか迷っている間にドアは遠慮がちに開けられた。

 

「あ・・・・。」

「やぁ、起きてたか。どうかな、具合は?」

 

入って来たのはニッコリと笑う、此処の火影様・・・。

このお方と・・・八香様が昔、恋仲だったとは___少し信じがたい。

 

「まだ・・・体に力が入らず頼りないですが、痛みは無いです。」

「そか・・・。安心したよ。俺はあまり陰陽道に詳しくないし心得も持ち合わせていない。

守る事が出来なくてすまなかった。それでひとつ教えて欲しいんだ。相手は一体誰だい___?」

「・・・・・・・・・!」

 

穏やかだった黒目が、僅かに鋭く光を放った。同時に私の脳にもキラリ、霊感が走る。

この人は、今もあのお方を想っていらっしゃる様だ。恐らくはその根源を辿る気でおられる。

私は溜息を吐く。八香様・・・本当によろしいので? 躊躇いも致しますよ、こんな眼をみれば。

 

「私は・・・今回、こうなってしまった程度の者。あのお方の真意まで計り知れませぬ。」

「つまり、君にも八香は詳しい事を言っていないと?」

「ええ___巻き込む事も配慮されたかと思われます。私の仕事はあくまで伽舟様の護衛のみ。」

 

結局、また嘘を吐く事となる。

けれどそれが___今大事なのだ。八香様の心の内側が知れてはならない・・・。

 

「ただヒトツここの結界は生き霊と云う輩にとうに破られており、失礼ながら保護は無意味かと。

天の国で修行なさった伽舟様でさえ飲み込む強力な力です。対抗できうるはただお1人・・・。」

「八香のみか・・・・。」

 

マスクの下では小さな溜息が零れた。

 

「で___今、あのコは大丈夫なのかな。もしそれだけでも知っていたら教えて欲しい。」

「・・・・恐らくは今、どこかで治癒に専念されておられる筈。」

「やはりダメージを・・・。治癒ってのは?」

「これは昔、捨てられる前の八香様の素性をお調べになったお館様から聞いた話・・・元々、

あのお方は自然を司る民の末裔。こういった時、悪い物を出し良い物を吸収できる力がある。」

 

お許しを・・・この程度の事、教えてやらねば火影様も夜も眠れない筈;

マスク超しの人相や、ちらりと見える掌の手相。霊感で感じる、このお方の真意など___

占いを得意とする私には、このお方の・・・貴方様への本気度が見えすぎて困惑してしまう程だ。

 

「できるだけ___今は、聖域で安静にして頂かなくては・・・。」

 

ここまでヒントを与えたのだ、後は察して退いて頂かねば私のした事が無駄になってしまうな。

 

 

 

 

 

 

(さて__そろそろ御館様の任務もこなさねぇとな。要訳すりゃぁこう言う事だ。助けてやれと。

ノンキを装ってはいるが、ジィさんも気付いてンのさ・・・八香様の異変に。)

 

俺は化け物屋敷を目指しつつ考えていた。アンタが隠居と銘打って住居を移した本当の理由だ。

あの時は、こうなる事も予測してなかったから___濁されても俺ァ、別に良かったんだ。

聞いた所によると陰陽道の基本なんだって?アンタの取った対処法は。それで確信したんだ。

 

(いつものこった___どうせ本音など・・・云いはしないだろうけどな・・・。)

 

「____!?」

 

あの屋敷を目前に木の上で足を止めた。何やらいつもと雰囲気が違うらしい。

その下を見遣れば此処の忍か、少年が気を失い大勢の鳥が飛び立っていく所だった。

 

(あれは百舌鳥!? ・・・あいつめ、侵入者に分身を放ったか・・・、____!?)

 

喉元に冷たさを感じた、それは着きつけられたクナイ__俺の背後を取るとは・・・何者だ。

一応両手を挙げ、今更ながら一般市民ぶろうと努力する。

 

「オイオイ、一体俺が何したって云うんだ・・・?」

「_____自の国の者じゃないな・・・? 答えろ・・・!」

 

自の国に、忍はいないという事を知っている男の質問だ。実際、俺は元・忍だからな。

捕らえた俺の体の、僅かな鎖帷子の音を聞いたんだろうよ。だが面は被っちゃいねェ様だ。

 

「礼儀がなっちゃいねぇな___そう聞くならまずてめェから名乗ろうぜ?」

「不審者に名乗る名前なんかあるか___」

「前髪で目が隠れてるって見た目でソンしちゃってるンだけなんだぜ?俺なんて・・・よッ!」

「・・・変わり身!? チッ・・・!」

 

距離を取った途端に咥えてやがった千本を吹き飛ばしてくる___弾いたがなかなか重い。

 

「・・・霜遁・・・!」

「___火遁____!」

「 「 ・・・!?? 」 」

 

どっちが先に結んだか、印を組んだその時だ。凄まじい吹雪が俺を___いや、俺達を襲った。

どうやらあの人は、俺が来るのを見越してあの憎き冬の化生の子を見張りに置いたのか!?

勢いよく渦巻く雪混じりの竜巻に吸い寄せられたかと思うと、ドサリ!地に弾き落とされた。

 

「ッテェ____何しやがる・・・モノノケめ!」

「雪羽___お前ェの仕業か・・・・! イテテ」

「ゲンマさまも若年寄も、モメている場合ではございませぬぞ・・・!」

「若年寄じゃねーよ!?俺、意外と若いンだって!!何度云ったら解ってもらえンのォ!?」

 

その体は受身を取れない筈、互いの術を発動させぬ様に上半身だけ薄ら凍らされていて。

気が着けば二人共が屋敷の庭へと引き込まれ、仁王立ちする幼女の前に腰を打ち付けていた。

男は一旦諦めたかに溜息を吐いて完全な仰向けになると、軽々弾みをつけ立ち上がった。

同じ様に俺も立ち上がったが、氷に直接触れてる手の辺りが冷た過ぎて思わず顔を顰めてしまう。

 

「おい雪羽、早く解かねーとお仕置きしてやんぞ!」

「ワーン!紫紺さまー!此処に”悪いロリコン”がおりまする~!」

「ヤメロ!泣きマネ!誰がロリコンだ!?」

 

というか。俺より化生のガキと親しげだと__!? 一体コイツは・・・。

 

「どちらの”悪いロリコン”と思いきや、ゲンマ様ではないですか___一体、今日は何事です?」

「お前もヤメロそれ! んな事より早くコレを解くように云えってんだよ・・・!」

「も~。ウチの雪羽がスミマセ~ン。後でよ~く叱っておきますから~。ホラ、さっさと解いて!」

「 「 今、ココで叱れ。 」 」

 

ヤツとハモっちまったじゃねーか。紫紺がムクレる幼女の背中をポンと叩けば

ようやく氷が俺達の体から溶け落ちてゆき、男は新たな千本をまた口にしながら辺りを見た。

 

「やっぱり居たな、紫紺。アイツに何があった・・・?」

「アイツって誰のことだい___大体、テメエこそ誰だ。」

「まぁまぁ零兎さん、落ち着いて。この方は不知火ゲンマ様。八香様のご友人ですよ。

そしてゲンマ様、こっちの”むさ苦しい男”は裏方の衆の2代目・御頭様でございます。」

「前から思ってたンだけど___お前、ちっとも俺の事、敬ってなくない!?」

 

紫紺はいつになく落ち着かない。気になって腕時計を見ている。俺の質問もスルーだ。

 

「今はちょっと。後でゆっくり・・・___!?」

「  「 ____!? 」  」

「夏風!?」

 

黄色い女の悲鳴が上がったのだ。

その声の主であるらしい古風な中華風の姿をした美女が「お助けを!」と此方に逃げてきた。

ワシャワシャワシャ!と、まるで紙を丸めたかの音が近くなって来て俺達は身構えてる。

下だ・・・!娘の足元を追いかけるかに、草花が茶色く変化していっている?紫紺が声を上げた。

 

「いけない・・・雪羽!あれをせき止めて!」

「あいッ・・・!!」

 

ピキピキピキ・・・・!

物が凍りつく小気味いい音がした、気が着けばあの男、素早く女を抱き掬って戻ってきてやがる。

 

「ゲンマ様・・・!御久しゅう御座います・・・♡」

「あ、ぁぁ・・・・;」

 

あんな可愛いコに首に抱きつかれて顔にスリスリされたって、ゼンゼン羨ましいとか思わねーし!

つか、オマエももっと嬉しそうにしろや!クール気取りやがって、カンジ悪ぅううう!←(妬)

 

「あれでもまだ足りなかったか____」

「おい、一体この事態こそなんだ・・・・?」

 

ゲンマと云う男は娘を降ろしてやると、凍りついた枯葉を足で叩いて観察してる。

この裏庭は中庭へと、壁と家の隙間の通路で繋がっているらしい。ずっと枯葉は奥に続いてた。

 

「紫紺_____時間はどの位経ってる?」

「え。もうそろそろですが・・・零兎さん、ご存知で?」

「話には聞いている、そう云う治療が必要な場合があるってな。」

 

俺は懐から布に包んだ粗塩をその場に巻いて、両足で踏みつけるよう男連中に云う。

チビと美女には紫紺がキツク云ってその場に留まらせた。

3人だけでサクサクと枯れた葉が踏み壊れる音をさせながら中庭へと歩いていく。

特殊な臭いがした___花が腐った様な、草が異様に青臭さを放った様な・・・。

 

「八香様____________」

「・・・・・・・・!」

「そう云う訳でしたか・・・・・。」

 

俺には予想がたっていたが、紫紺やゲンマには異様な光景でしかなかったんだろう。

ワッと広がる、輝きを失いガサガサに枯れた草花の絨毯の上、アンタは両手を広げて眠っていた。

近づけば、酷い汗を額に浮かべている。

 

「呪詛で溜め込んだ毒気を気で流し・・・、地と草花に吸わせ___回復してたのさ。」

 

吸収させるにも思いのほか、それが足りずにコチラ側まで及んだと云うワケだ。

「よほど苦しんだ様だな」とゲンマは呟き、広がった両手を畳んで腹の上に置いてやってた。

 

「右手のアレはキレイに消えている様だ___無事に駆除したか、安心したぜ・・・・。」

「駆除・・・・・!?」

 

俺は心配していた右腕をとって裏表を確認した。あの時、紫紺には見えてなかったらしい。

もしもコレが消えておらず、何かしら残っていた時の為、モズメに意見を求めようと思っていた。

化け物と化したあの生き霊を散らせた時、白い腕に現れた___醜い幾つもの腫れ物の事だ。

 

「俺にはアレが見えた。まるで人面瘡だった・・・腫れ物がそれぞれ悲鳴を上げていてな。

まるでこの人のチャクラを食い散らかすかに、口だけはバクバク動いてやがった・・・。」

 

そう・・・悪しき者が体に寄生したと悟り、彼女はあの場所へと向かったんだろう。

月の恩恵に預かれ、それなりに透明度が高く、死人の魂が近づけない、あの湖へ___

 

「あんなに弱っていたのはそのせいで・・・零兎さん!?鼻血が溢れ出てますけど!?」

「なァに、昨日バナナを食べすぎた。気にするな。」

「いや・・・ソレ、もはや噴出してんじゃねーか。気になんだろ・・・!」

 

(紫紺・・・、お前どっか悪いんじゃねェか? あの様子を見ててナンも反応しないとか。

エロかったンだ・・・不謹慎ながらも、成長なさった___後姿が、あまりにエロ過ぎた!!!)

 

チロリとヤツの顔を見ながら自主的にティッシュを鼻の穴サイズにして突っ込んどいた。

俺なんて某・キューシンが要るレベルで動悸、息切れ、ムスコ・ヤバイ状態だったんだからな!?

 

「よく考えてみろ__ただでさえ・・・。」

「右側には負担が掛かる・・・。」

「・・・・?」

 

普通の造りではない体の構造、想像以上に弱る事をモズメも心配したはず・・・。

会話の途中、溜息を吐くゲンマは己の両手を横たわる体に差し入れ、抱え上げると向きを変えた。

今度は俺がヤツの首根にクナイを押し付ける番になった。ヤツの体はそれ故に静止してる。

 

「部屋はそっちじゃねぇ・・・てめェ、どんな命を受けてきた。」

「・・・・この”頑固者の保護”だ。お前たちこそ、この土地で一体何をコソコソしてやがる。」

「お待ち下さい、ゲンマ様___これはお頭の意思なのです。」

 

八香様の、木の葉への特別な思い入れ。それを知る上で紫紺は躊躇い、言葉を捜し尽くしてる。

難しい作業だぜ___紫紺、どう説明するツモリだ・・・・?

 

 

 

 

 

 

 



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